1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十年三月十三日(水曜日)午前十時二十四分開議
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議事日程 第十六號
昭和十年三月十三日
午前十時開議
第一 請願委員長報告
第二 昭和十年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 昭和七年法律第一號中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 日本銀行納付金法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 臨時利得税法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 兵役法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第七 勞働者災害扶助法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 工場法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 鑛業法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十 議院法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十一 長崎縣日島郵便局に電信電話事務開始の請願 會議
第十二 北海道、北鮮間に國費補助命令定期航路開設の請願 會議
第十三 第二期林野治水計畫實現促進に關する請願 會議
第十四 財團法人日本少年指導會に對し國庫補助の請願 會議
第十五 森林火災保險國營の請願 會議
第十六 靜岡縣榛原郡下川根村に登記所設置の請願 會議
第十七 林道開設助成に關する請願 會議
第十八 林野整備促進に關する請願 會議
第十九 最上川改修に關する請願 會議
第二十 戰公傷病死者竝傷痍軍人の遺族扶助料に關する請願 會議
第二十一 紀勢鐵道速成に關する請願 會議
第二十二 地方財政調整交付金制度設定の請願 會議
第二十三 愛知縣南設樂郡海老町に區裁判所出張所設置の請願 會議
第二十四 矢島線鐵道速成の請願 會議
第二十五 北海道江差、瀬棚間鐵道敷設の請願 會議
第二十六 函館驛改築の請願 會議
第二十七 函館港修築に關する請願 會議
第二十八 臘虎、膃肭獸の獵獲解禁の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=0
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001・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ報〓ヲ致
サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
一昨十一日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府
提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆
議院ニ通知セリ
昭和九年度歲入歲出總豫算追加案(B-
號
昭和九年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(特第一號)
國際文化事業ニ關スル經費支辨ニ關スル
法律案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和八年度歲入歲出總決算、昭和八年度
各特別會計歲入歲出決算審査報告書
昭和八年度國有財產增減總計算書審査報
〓書
兵役法中改正法律案可決報〓書
勞働者災害扶助法中改正法律案可決報〓
書
工場法中改正法律案可決報〓書
鑛業法中改正法律案可決報告書
昨十二日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領
セリ
昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル
爲公債發行ニ關スル法律案
昭和七年法律第一號中改正法律案
日本銀行納付金法中改正法律案
臨時利得稅法案
同日酒造組合法中改正法律案特別委員會ニ
於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
委員長子爵大河內輝耕君
副委員長男爵高崎弓彥君
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付
ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第六十七囘帝國議會陸軍省所管事務政府
委員
陸軍省法務局長大山文雄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=1
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002・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ會議ヲ開
キマス、日程第一、請願委員長報〓、委員
長酒井伯爵
〔伯爵酒井忠克君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=2
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003・酒井忠克
○伯爵酒井忠克君 第二囘ノ御報告ヲ致シ
やく、第一囘ノ御報〓ヲ致シマシタル以後
ニ於テ、受領イタシマシタ請願ノ件數ガ三
百二十件ゴザリマスル、其連署人數ハ五十
五萬一千四百四十八名ゴザリマス、第一囘
報〓ノ際ニ、文書表ニ揭載セラレザリシモ
ノガ八件ゴザリマシタカラ、第一囘報〓後
ニ受領イタシマシタ三百二十件ト合シマス
ルト、合計三百二十八件ト相成リマス、右
ノ中請願文書表掲載件數ガ第五囘、第六囘、
第七囘ノ三囘ニ於キマシテ、二百三十七件、
此外ニ第一囘報〓ノ際ニ文書表ニ揭載イタ
シマシタモノノ中デ、審査未了ニ屬スルモ
ノガ百三件ゴザイマス、之ヲ合計イタシマ
スルト、三百四十件ト相成ル次第デゴザイ
やっ、而シテ請願文書表報告ハ第五囘、第
六囘、第七囘ノ三囘、請願委員會ノ特別報
告ハ第三號、第四號、第五號ノ三囘提出イ
タシテゴザイマス、請願委員會ハ二月十五
日、二月二十日······間違ヒマシタ、二月二
十二日、三月九日ノ三囘開會イタシマシテ、
其間ニ分科會ハ第一分科、第二分科、第三分
科、第四分科トモ四囘ヅツ開會イタシテ居
リマス、サウシテ委員會ニ於キマシテ、先程
申述ベマシク請願諸件ニ付キマシテ、愼重
審査イタシマシタル結果ト致シマシテ、院
議ニ付スベシト決シタモノガ六十二件、院
議ニ付スルヲ要セズト決シマシタモノガ十
九件ゴザイマス、右ノ十九件ハ第三十五號、
第三十七號、第五十一號、第五十四號、第五
十五號、第六十三號、第六十五號、第六十
六號、第六十七號、第六十八號、第八十八號、
第九十七號、第百二十八號、第百三十九號、
第百五十三號、第百六十五號、第百九十六
號第二百五十號、第二百六十六號、此中ニ
ハ同一趣旨ノ請願ガ八件ゴザイマス、以上
ノ審査ノ經過ニ付キマシテ詳細ノ事ハ、速
記錄ニ付テドウカ御覽ヲ願ヒタイト存ジマ
ス、審査未了ノモノガ二百五十九件、尙ホ
請願文書表ニ未揭載ノモノガ九十一件ゴザ
リマス、以上ハ昭和十年三月十一百午後四
時締切迄ノ御報〓デゴザリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=3
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004・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第二、昭和
十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公債
發行ニ關スル法律案、日程第三、昭和七年
法律第一號中改正法律案、第一讀會
昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十年三月十二日
衆議院議長濱田國松
貴族院議長公爵近衞文鷹殿
昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
第一條政府ハ昭和十年度一般會計歲出
ノ財源ニ充ツル爲他ノ法律ニ依リ起債
シ得ル金額ノ外五億六千五百九十萬圓
ヲ限リ公債ヲ發行シ又ハ借入金ヲ爲ス
コトヲ得
第二條政府ハ昭和十年度一般會計歲出
豫算翌年度繰越額ノ財源ニ充ツル爲他
ノ法律ニ依リ起債シ得ル金額ノ外昭和
十一年度ニ於テ公債ヲ發行シ又ハ借入
金ヲ爲スコトヲ得但シ前條ノ規定ニ依
ル公債又ハ借入金ト通ジテ前條ノ制限
額ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條前二條ノ規定ニ依ル公債ノ發行
價格差減額ヲ補塡スル爲必要アル場合
ニ於テハ前二條ノ制限以外ニ公債ヲ發
行シ又ハ借入金ヲ爲スコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
昭和七年法律第一號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十年三月十二日
衆議院議長濱田國松
貴族院議長公爵近衛文麿殿
昭和七年法律第一號中改正法律案
昭和七年法律第一號中左ノ通改正ス
「六億五千十萬圓」ヲ「八億二千六十萬圓」
三六人
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
參照
昭和七年法律第一號ハ滿洲事件ニ關ス
ル經費支辨ノ爲公債發行ニ關スル法律
ナリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=4
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005・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是等ノ兩案ハ、
之ヲ一括シテ議題トナスコトニ御異議ハゴ
ザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=5
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006・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、高橋大藏大臣
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=6
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007・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 只今議題トナリ
マシタ昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充
ツル爲公債發行ニ關スル法律案、提出ノ理
由ヲ說明イタシマス、昭和十年度一般會計
ニ於テ、旣ニ成立シテ居リマスル公債法ニ
依リ公債ヲ募集スル金額、竝ニ滿洲事件ニ
關スル經費支辨ノ爲メ發行スル公債金額ノ
外ニ、歲入ノ不足ヲ補塡スル爲メ五億六千
五百八十餘萬圓ノ公債發行ヲ必要トスルコ
トハ、曩ニ昭和十年度總豫算ノ大要ヲ說明
イタシマシタ際ニ申述べテ置イタノデアリ
マスガ、其發行ノ爲ニハ、新ニ起債ノ權能
ヲ得ルコトガ必要デアリマス、尙ホ昭和十
年度ノ歲出豫算ニ於キマシテモ、其中若干
ノ金額ハ、例年ノ如ク翌年度ニ繰越サルル
結果ニナルノデアラウト存ゼラレマスガ、
其繰越額ノ財源ハ、必シモ昭和十年度內ニ
起債スルコトヲ必要ト致シマセヌ爲メ、翌年
度ニ於テ募債シ得ルコトトナスヲ適當ト認
メマス、右ノ理由ニ依リ本法律案ヲ提出イ
タシタ次第デアリマス、日程第三ノ、昭和
七年法律第一號中改正法律案提出ノ理由ヲ
說明イタシマス、滿洲事件ニ關スル經費ニ
關シマシテハ、去ル第六十一囘、第六十二
囘、第六十四囘及第六十五囘帝國議會ノ協
贊ヲ經、其財源ニ充ツル爲メ公債ヲ發行ス
ルコトヲ得ル法律ノ成立ヲ見マシテ、之 三
依リ昭和九年度マデノ經費ヲ支辨シ得ル次
第デアリマスガ、昭和十年度分ノ經費トシ
テ、更ニ一億八千四百三十餘萬圓ヲ必要トス
ルノデアリマス、右ノ中特別會計ノ分ハ、全部
普通財源ヲ以テ支辨スルノデアリマスガ、一
般會計ノ分ハ滿洲國國防費分擔金受入等ニ
相當スル金額ヲ差引キタル一億七千四十餘
萬圓ハ、今日ノ財政情況竝ニ本經費ノ性質
ニ鑑ミマシテ、從來ノ如ク之ヲ公債財源
ニ依ルコトト致シマシタ爲メ、現行滿洲事
件ニ關スル經費支辨ノ爲公債發行ニ關スル
法律中ノ發行限度ヲ改正增加スルノ必要ガ
アリマスノデ、本法律案ヲ提出イタシタ次
第デアリマス、何卒右兩案ヲ御審議ノ上協
贊セラレムコトヲ希望スル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=7
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008・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 別ニ御質疑ガナ
ケレバ、兩案ハ之ヲ酒造組合法中改正法律
案外二件ノ特別委員ニ付託イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=8
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009・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第四、日本
銀行納付金法中改正法律案、第五、臨時利
得稅法案、第一讀會
日本銀行納付金法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十年三月十二日
衆議院議長濱田國松
貴族院議長公爵近衞文麿殿
日本銀行約付金法中改正法律案
日本銀行納付金法中左ノ通改正ス
第三項中「及營業收益稅法ニ依ル純益」ヲ
「、營業收益稅法ニ依ル純益及臨時利得稅
法ニ依ル利益」ニ改ム
附則
本法ハ日本銀行昭和十年前事業年度分ヨ
リ之ヲ適用ス
臨時利得稅法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十年三月十二日
衆議院議長濱田國松
貴族院議長公爵近衞文麿殿
(小字及-ハ衆議院ノ修正ナリ)
臨時利得稅法案
臨時利得稅法
第一條本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一
年以上居所ヲ有スル者ハ本法ニ依リ臨
時利得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條前條ノ規定ニ該當セザル者本法
施行地ニ資產又ハ營業ヲ有スルトキハ
其ノ利得ニ付テノミ臨時利得稅ヲ納ム
ル義務アルモノトス
第三條臨時利得稅ハ左ノ利得ニ付之ヲ
賦課ス
一法人ノ利得
二營業收益稅法第二條ニ揭グル營業
(鑛業又ハ砂鑛業ヲ含ム)ニ因ル個人
ノ利得
第四條法人ノ現事業年度ノ利益ガ旣往
事業年度ノ平均利益ヲ超過スル場合ニ
於テ其ノ超過額中年二千圓ヲ控除シタ
ル金額ヲ以テ法人ノ利得金額トス
前項利得金額計算ノ場合ニ於テ左記各
號ニ該當スルトキハ各其ノ定ムル所ニ
依リ既往事業年度ノ平均利益ヲ計算ス
一何レノ既往事業年度ニ於テモ利益
ナキトキ又ハ既往事業年度ノ平均利
益ガ旣往事業年度ノ平均資本金額ニ
對シ年百分ノ七未滿ナルトキハ旣往
事業年度ノ平均資本金額ニ對シ年百
分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタル金額
ヲ以テ既往事業年度ノ平均利益トス
二法人ノ第一次ノ事業年度ガ昭和七
年一月一日以後ニ於テ終了シタルト
キハ現事業年度ノ資本金額ニ對シ年
百分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタル金
額ヲ以テ既往事業年度ノ平均利益ト
ス
三現事業年度ノ資本金額ガ旣往事業
年度ノ平均資本金額ニ對シ增減アル
トキハ旣往事業年度ノ平均資本金額
ニ對スル平均利益ノ割合ヲ現事業年
度ノ資本金額ニ乘ジテ算出シタル金
額ヲ以テ旣往事業年度ノ平均利益ト
ス此ノ場合ニ於テ第一號ノ規定ノ適
用ニ付テハ現事業年度ノ資本金額ヲ
旣往事業年度ノ平均資本金額ト看做
ス
四現事業年度ノ期間ガ旣往事業年度
ノ期間ト異ルトキハ現事業年度ノ月
數ニ應ジ月割ヲ以テ既往事業年度ノ
利益ヲ計算ス
本法施行後資本金額ニ增加アリタル場合ニ
於テ其ノ資本增加ガ臨時利得稅通脫ノ目的
ニ出デタルモノト認メラルルトキハ前項第
三號ノ規定ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ
其ノ增加シタル資本金額ニ付前項第二號ノ
規定ヲ準用シ其ノ平均利益ヲ計算ス
本法ニ於テ現事業年度ト稱スルハ昭和
十年一月一日以後ニ於テ終了スル各事
業年度ヲ謂ヒ旣往事業年度ト稱スルハ
三
昭和六年十二月三十一日以前二年內ニ
終了シタル各事業年度ヲ謂フ
第五條法人ノ利益ハ各事業年度ノ總益
金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額ニ依ル
但シ保險會社ニ在リテハ各事業年度ノ
利益金又ハ剩餘金ニ依ル
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ
有セザル法人ノ利益ハ本法施行地ニ於
ケル資產又ハ營業ニ付前項ノ規定ニ準
ジ之ヲ計算ス
法人ガ事業年度中ニ解散シ又ハ合併ニ
因リテ消滅シタル場合ニ於テハ其ノ事
業年度ノ始ヨリ解散又ハ合併ニ至ル迄
ノ期間ヲ以テ一事業年度ト看做ス
第六條法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ
各月末ニ於ケル拂込株式金額、出資金
額又ハ基金及積立金額ノ月割平均ヲ以
テ之ヲ計算ス
前項ニ於テ積立金額ト稱スルハ積立金
其ノ他名義ノ何タルヲ問ハズ法人ノ利
益中其ノ留保シタル金額ヲ謂フ
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ
有セザル法人ノ各事業年度ノ資本金額
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ計算ス
昭和七年一月一日以後本法施行ニ至ル迄ノ
間ニ資本金額ヲ減少シタル法人ノ各事業年
度ノ資本金額ハ第四條第一一項第三號ノ規定
ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ減資前ノ資
本金額ニ依リ之ヲ計算ス
第七條法人合併ヲ爲シタル場合ニ於テ
合併後存續スル法人又ハ合併ニ因リテ
設立シタル法人ノ旣往事業年度ノ平均
資本金額及平均利益ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ之ヲ計算ス
第八條合併後存續スル法人又ハ合併ニ
因リテ設立シタル法人ハ合併ニ因リテ
消滅シタル法人ノ利得ニ付臨時利得稅
ヲ納ムル義務アルモノトス
三
第九條個人ノ利益ガ昭和六年以前二年
ノ平均利益ヲ超過スル場合ニ於テ其ノ
超過額中二千圓ヲ控除シタル金額ヲ以
テ個人ノ利得金額トス
營業ヲ繼續シ又ハ營業繼續ト認ムベキ
事實アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ
前營業者ノ平均利益ヲ其ノ平均利益ト
看做ス
營業ノ期間ガ一年未滿ナル場合ニ於ケ
ル平均利益ノ計算ハ命令ノ定ムル所ニ
依ル
利得金額計算ノ場合ニ於テ昭和六年以
前二年ノ平均利益三千圓未滿ナルトキ
又ハ其ノ平均利益ナキトキハ三千圓ヲ
以テ平均利益トス
第十條個人ノ利益ハ前年中ノ總收入金
額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタル金額ニ
依ル但シ前年一月一日ヨリ引續キ爲シ
タルニ非ザル營業ニ付テハ其ノ年ノ豫
算ニ依リ計算ス
相續シタル營業ニ付テハ相續人ガ引續
キ之ヲ爲シタルモノト看做シテ其ノ利
益ヲ計算ス
第十一條個人ノ利益ガ六千圓未滿ナル
トキハ臨時利得稅ヲ課セズ
第十二條營利ヲ目的トセザル法人ニシ
テ所得稅法其ノ他ノ法律ニ依リ所得稅
ヲ課セラレザル者ニハ臨時利得稅ヲ課
セズ
第十三條個人ノ自己ノ收穫シタル農產
物林產物、畜產物若ハ水產物ノ販賣
又ハ之ヲ原料トスル製造ノ利益ニ付テ
ハ本法ヲ適用セズ但シ特ニ營業場ヲ設
ケテ爲ス販賣又ハ製造ノ利益ハ此ノ限
ニ在ラズ
ハ左ノ稅率ニ依リ之
第十四條臨時利得稅ノ稅率ハ利得金額
ヲ賦課ス
百分ノ十トス
法人ノ利得利得金額百分ノ十
二個人ノ利得利得金額百分ノ七·五
第十五條納稅義務アル法人ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ利得金額ヲ政府ニ申〓ス
ベシ
第十六條納稅義務アル個人ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ每年三月十五日迄ニ利得
金額ヲ政府ニ申〓スベシ
第十七條法人ノ利得金額ハ第十五條ノ
申〓ニ依リ、申〓ナキトキ又ハ申〓ヲ
不相當ト認ムルトキハ政府ノ調査ニ依
リ政府ニ於テ之ヲ決定シ個人ノ利得金
額ハ所得稅法ノ所得調査委員會ノ調査
ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得調査委員會閉會後個人ノ利得金額
ノ決定ニ付脫漏アルコトヲ發見シタル
トキハ其ノ決定ヲ爲スベカリシ年ノ翌
年ニ於ケル所得調査委員會ノ調査ニ依
リ政府ニ於テ其ノ利得金額ヲ決定スル
コトヲ得
所得調査委員會閉會後個人ノ所得ニ付
納稅義務アルコトヲ申出デ又ハ利得金
額ノ增加アルコトヲ申出デタルトキハ
前二項ノ規定ニ拘ラズ政府ニ於テ其ノ
利得金額ヲ決定ス
第十八條稅務署長ハ每年個人ノ利得ニ
付納稅義務アリト認ムル者ノ利得金額
ヲ調査シ其ノ調査書ヲ所得調査委員會
ニ送付スベシ
前項ノ規定ハ前條第二項ノ場合ニ之ヲ
準用ス
第十九條所得稅法第五十條乃至第五十
二條ノ規定ハ利得金額ノ決議及決定ニ
付之ヲ準用ス
第二十條第十七條又ハ前條ノ規定ニ依
リ利得金額ヲ決定シタルトキハ政府ハ
之ヲ納稅義務者ニ通知スベシ
第二十一條納稅義務者前條ノ規定ニ依
リ政府ノ通知シタル利得金額ニ對シテ
異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ
二十日以內ニ不服ノ事由ヲ具ジ政府ニ
審査ノ請求ヲ爲スコトヲ得
前項ノ請求アリタル場合ト雖モ政府ハ
稅金ノ徵收ヲ猶豫セズ
第二十二條前條第一項ノ請求アリタル
トキハ所得稅法ノ所得審査委員會ノ決
議ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得稅法第五十二條及第六十一條第二
項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十三條利得ニ付納稅義務アル個人
ハ利得金額ニ減損アルトキハ命令ノ定
ムル所ニ依リ政府ニ利得金額ノ更訂ヲ
請求スルコトヲ得但シ利益二分ノ一以
上減損セザルトキハ此ノ限ニ在ラズ
利得金額決定後營業繼續ニ因リ利得金
額ノ減損シタル場合ハ前項ノ規定ヲ適
用セズ
第二十四條前條第一項ノ請求アリタル
トキハ政府ハ利益ヲ查覈シ二分ノ一以
上ノ減損アルトキハ利得金額ヲ更訂ス
第二十五條納稅義務者第二十二條ノ決
定又ハ前條ノ更訂處分ニ對シ不服アル
トキハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ
得
第二十六條法人ノ利得ニ付テハ事業年
度每ニ臨時利得稅ヲ徵收ス
個人ノ利得ニ付テハ臨時利得稅ノ年額
ヲ四分シ左ノ四期ニ於テ之ヲ徵收ス但
シ納稅義務者納稅管理人ノ申〓ヲ多サ
ズシテ本法施行地外ニ住所又ハ居所ヲ
移ストキハ直ニ其ノ臨時利得稅ヲ徵收
スルコトヲ得
第一期其ノ年七月一日ヨリ三十一日
限
第二期其ノ年十月一日ヨリ三十一日
限
第三期翌年一月一日ヨリ三十一日限
第四期翌年三月一日ヨリ三十一日限
第二十七條詐僞其ノ他不正ノ行爲ニ依
リ臨時利得稅ヲ通脫シタル者ハ其ノ通
脫シタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金又
ハ科料ニ處ス但シ自首シタル者又ハ稅
務署長ニ申出デタル者ハ其ノ罪ヲ問ハ
ズ
前項ノ場合ニ於テ個人ノ利得ニ付臨時
利得稅ヲ逋脫シタル者ノ利得金額ハ第
十七條第二項ノ規定ニ拘ラズ政府ニ於
テ之ヲ決定シ直ニ其ノ稅金ヲ徵收ス
第二十八條臨時利得稅ノ調査又ハ審査
ノ事務ニ從事シ又ハ從事シタル者其ノ
調査又ハ審査ニ關シ知得タル祕密ヲ正
當ノ事由ナクシテ漏洩シタルトキハ五
百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十九條本法ヲ犯シタル者ニハ刑法
第三十八條第三項但書、第三十九條第
二項、第四十條、第四十一條、第四十
八條第二項、第六十三條及第六十六條
ノ例ヲ用ヒズ但シ前條ノ罪ヲ犯シタル
者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十條所得稅法第五十七條、第五十
八條、第七十條及第七十二條乃至第七
十三條ノ二ノ規定ハ臨時利得稅ニ付之
ヲ準用ス
第三十一條大正九年法律第十二號第二
條及第三條ノ規定ハ臨時利得稅ニ付之
ヲ準用ス
臺灣又ハ樺太ニ住所ヲ有シ又ハ一年以
上居所ヲ有スル個人ノ利得ニ付テハ命
令ノ定ムル所ニ依リ臨時利得稅ヲ課セ
ズ
第三十二條大正十三年法律第六號ニ依
リ所得稅及營業收益稅ヲ免除セラルル
所得及純益ニ付テハ本法ヲ適用セズ
第三十三條北海道、府縣、市町村其ノ
他ノ公共團體ハ臨時利得稅ノ附加稅ヲ
課スルコトヲ得ズ
附則
本法ハ昭和十年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
但シ法人ニ付テハ昭和十年一月一日ヲ含
ム事業年度分ヨリ、個人ニ付テハ昭和十
年分ヨリ之ヲ適用ス
本法ニ依ル臨時利得稅ノ賦課ハ法人ニ付テハ
昭和十二年十二月三十一日ヲ含ム事業年度分
限リ、個人ニ付テハ昭和十二年分限リトス
第十六條ノ規定中三月十五日トアルハ昭
和十年ニ限リ四月二十五日トス
明治四十年法律第二十一號第一條第一項
ニ左ノ一號ヲ加フ
六臨時利得稅発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=9
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010・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是等ノ兩案ヲ一
括シテ議題トナスコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=10
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011・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、高橋大藏大臣
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=11
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012・高橋是清
○國務大臣(高橋是清君) 只今議題トナリ
マシタ日本銀行納付金法中改正法律案ニ付
キ說明ヲ致シマス、現行ノ日本銀行納付金
法ニ依リマスレバ、日本銀行ニ對シテ所得
稅及營業收益稅ヲ課スルニ當リマシテハ、
右納付金ハ之ヲ同行ノ損金トシテ取扱フコ
トニナッテ居ルノデアリマスルガ、今囘提案
イタシマシタル臨時利得稅法ニ依ル課稅ニ
付キマシテモ、右ト同樣ノ取扱ヲナス必要
ガアリマスノデ、之ガ爲ニ本改正案ヲ提出
イタシタ次第デアリマス、又日程第五、臨
時利得稅法案ニ付テ大要ヲ說明イタシマ
ス、本稅制定ノ趣旨ハ旣ニ申述ベマシタ如
〃、我國財政經濟ノ現狀ニ鑑ミマシテ、時
局ノ好影響ヲ受ケテ、活況ヲ呈シテ居ル產
業ニ對シ、臨時新稅ヲ設ケ、增加セル利益
ノ一部ヲ納付セシムルコトヲ適當ト認メタ
次第デアリマス、本法案ノ大體ノ骨子ヲ述
ベマスレバ、本稅ハ其趣旨ヨリシテ、課稅
ノ範圍ヲ營業ニ限ルコトニ致シ、大體營利
法人ノ利益ト、個人ノ營業ノ利益ニ對シテ
課稅スルノデアリマシテ、是等ノ利益ガ昭
和六年以前二年間ノ平均ノ利益ヲ超過スル
場合ニ於キマシテ、其超過額ニ對シテ百分
ノ十ノ稅率ヲ以テ賦課スルコトニ致シタノ
デアリマス、尙ホ經濟界ノ情況、營業者ノ
實體等ニ鑑ミマシテ、昭和五年、六年當時
ノ利益ガ少キ場合ニハ、本稅ニ付テハ資本
金額ノ年七分ニ相當スル金額ヲ、又個人ニ
付テハ三千圓ヲ當時ノ平均利益ト見テ課稅
スベキ超過額ヲ算出スルコトニ致シマシ
ク、又法人個人トモ超過額ヨリ年額二千圓
ヲ控除シテ、其殘額ニ課稅スルコトニ致シ、
且ツ個人ニ付テハ其年ノ利益六千圓未滿ノ
場合ニハ課稅セザルコト等ノ規定ヲ設ケマ
シテ、本稅施行ノ圓滑ヲ圖リマシタ次第デ
アリマス、本稅ハ當分ノ中施行スル見込デ
アリマシテ、其歲入ハ昭和十年度ニ於テ、
三千三十餘萬圓ノ豫定デアリマス、以上ハ
政府提出ニ係カル臨時利得稅法案ノ大體ノ
說明デアリマスガ、衆議院ニ於キマシテハ
之ニ對シマシテ、次ニ述ブル諸點ニ付キ修
正ヲ加ヘタノデアリマス、衆議院ノ修正ノ
第一點ハ、平均利益算出ノ期限ガ昭和六年
以前二年トナッテ居リマシタノヲ、昭和六年
以前三年ト致シマシタ、修正ノ第二點ハ
個人ノ稅率百分ノ十ヲ百分ノ七·五ト致シ、
修正ノ第三點ハ、法人ノ減資或ハ增資ニ從
ヒマシテ、特別ノ規定ヲ新ニ挿入イタシマ
シタ、修正ノ第四點ハ、本法施行ノ期間ニ關
スル規定ヲ新ニ設ケタノデアリマス、衆議
院ノ原案ニ對スル修正ニ付キマシテハ、政
府ハ同意致シテ居ラナイノデアリマス、以
上本法案ニ付キ、政府ノ原案竝ニ衆議院ニ
於ケル修正ニ關シ大體ノ說明ヲ致シマシタ
ガ、尙ホ其詳細ニ付キマシテハ、適當ノ機
會ニ於テ說明イタシタイト存ジマス、右兩
案何卒御審議ノ上、速ニ御協贊アラムコト
ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=12
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013・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 質疑ノ通告ガゴ
ザイマス、橋本辰二郞君
〔橋本辰二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=13
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014・橋本辰二郎
○橋本辰二郞君 私ハ只今上程セラレタル
二案ノ中、臨時利得稅ニ關シマシテ先ヅ總
理大臣ノ信念ヲ伺ヒ、而シテ後主管當局タ
ル大藏大臣ニ向ッテ質疑ヲ致シタイト思ッタ
ノデアリマス、總理大臣ハ今日ハ御差支デ
御出席ガナイト云フコトデアリマスルノ
デ、直ニ大藏大臣ニ御尋ヲ致シタイト思ヒ
せく、高橋大藏大臣ハ增稅ハ過去ニ於ケル
不景氣ノドン底ヲ脫出イタシマシテ、折角
立直リ掛ケテ居ル所ノ我生產業ノ芽ヲ摘ム
ヤウナモノデアッテ、增稅ハ卽チ產業ノ進展
ヲ阻止スルモノデアル、ソレ故ニ十年度ハ
增稅計畫ヲ立ツルノ時期デナイト云フコト
ヲ、機會ノアル每ニ幾度モ繰返サレタノデ
アッタノデアリマス、是ニハ私等モ全然御同
感デアッタノデアリマスルガ、御承知ノ通リ
我ガ產業界ナルモノハ多年ノ間ノ非常ナ
ル不況ヲ漸クニ蟬脫イタシマシテ、其創痍ハマ
ダ癒ヤス程度ニハ達シテ居リマセヌガ、漸次
好轉ヲ致シマシテ、將ニ產業ノ發展ニ依リマ
シテ富ノ蓄積ニ進マムトスル所ノ中途ニア
ルノデアリマス、然ルニ本稅ハ此富ノ造成
ノ中途ニアル所ノモノニ對シテ稅ヲカケル
ノデアリマシテ、高橋氏ノ言ハルル所ノ所謂
芽ヲ摘ムノニ相當スルモノデアルト私ハ信
ズルノデアリマス、高橋大藏大臣ハ左樣ニ
御考ニナラナイノデアリマセウカ、御見解
ヲ承リタイモノト思ヒマス、又高橋氏ハ昭
和六年末ニ、犬養內閣ニ大藏大臣トシテ御
入閣ニナリマスルヤ否ヤ、直ニ金ノ輸出ヲ
禁止セラレマシテ金本位ヲ停止シ、爲替相
場ヲ自然ノ成行ニ放任シテ一切ノ人爲策ヲ
避ケマシテ、併セテ時局ノ必要ニ應ジテ國
家ノ歲出ヲ思切ッテ膨脹サセタノデアリマ
シタ、而シテ八億以上ニモ上ボル赤字公債
迄モ氣前好ク發行セラレマシテ、國費ヲ辨
ズルト同時ニ、又大ニ我ガ經濟界ノ振興ヲ
促進セラレタノデアリマス、由テ以テ我ガ
產業ハ非常ニ立直リ、國民所得モ增進スル
結果ニ赴イタノデアリマス、此高橋氏ノ經
綸ノ見事ニ的中イタシマシテ、我ガ產業界
ガ順次時ヲ逐フテ囘復イタシマシテ、國民
ハ玆ニ深ク高橋氏ノ財政政策ヲ謳歌シタノ
デアッタノデアリマス、然ルニ高橋氏ハ自ラ
國民ヲ善導セラレマシテ、將ニ麗シキ果實
ヲ結ビ目的ヲ達セムトスル所ノ此中途ニ於
キマシテ、俄然トシテ豹變セラレマシテ、玆
ニ臨時利得稅ヲ提案セラレタト云フコトハ、
九仭ノ功ヲ一簣ニ虧クト云フヨリモ、寧ロ
自ラ播イタル種子ノ稔ルノヲ待タズ、蕾ノ
中ニ摘取ルヤウナモノデアッテ、全ク自家
撞著ト言ハナケレバナリマセヌ、若シ激シ
キ言葉ヲ以テ之ヲ評シマシタナラバ、所謂
自己叛逆デアリマス、加之增稅ハ不可ナリ
トセラレマシタル所ノ曩ノ聲明ヲ裏切ルモ
ノデアルト、私ハ確ク信ズルモノデアリマ
ス、敢テ大藏大臣ノ御明答ヲ第一ニ伺ヒタ
イノデアリマス、次ニ政府ハ本案ヲ臨時利
得稅ト稱シテ居ラレマシテ、單ニ當分トカ
云フコトヲ言ハレテ居リマスルガ、所謂一
時的ノ課稅ノ如クニ假裝セラレマシテ、若
モ其實蹟ガ良好ナル場合ニ於キマシテハ、
或ハ巧妙ナル文句ヲ撚リ出シマシテ臨時ノ
文字ニ代ヘ、以テ之ヲ恆久化セムトスルノ
底意ヲ有スルデハナカラウカト云フ疑ガ濃
厚デアルノデアリマス、ソレハ本案ノ改廢
ニ關シマスル所ノ明言ヲ、努メテ避ケテ居
ラレルノニ徵シテ明デアルト考ヘマス、尤
モ一般的稅制整理ガ出來レバ本稅ハ自然廢
止スルモノデアルト云フ聲明ヲセラレタル
コトアルヤニ仄聞ハ致シマスルガ、稅制ノ
整理ト云フコトハ、財政ノ見透シガ付カナ
ケレバ出來ルモノデハアリマセヌ、ノミナ
ラズ是ニハ行政ノ整理ガ又伴ハナケレバナ
リマセヌ、財政、行政ノ根本的整理ト云フ
モノハ、歷代ノ內閣ガ斷行セムト欲シテ幾
多手ヲ燒イテ居ル所ノモノデアリマス、
ナカ〓〓一朝一夕ニ是ハ爲シ遂ゲ得ラレル
モノデハアリマセヌ、況ヤ左程强力デモナイ
所ノ現内閣ガ之ヲ爲シ遂ゲムト試ミルコト
ハ私ハ其勇氣ト熱意ニハ敬意ヲ拂ヒマス
ルガ、其實現ハ先ヅ木ニ緣ッテ魚ヲ求ムルヤ
ウナモノデアルト見ナケレバナリマセヌ、
故ニ本法廢止ノ時期ト云フモノハ先ヅ不明
ナリト見テ差支ナイト思ヒマス、若シ政府
ニシテ本稅ヲ長ク施行セムト欲スルノ意思
ガアリマスルナラバ尙更デアリマスルガ、
然ラザルニモセヨ平年度所得ノ基準ヲ、不
況ノドン底デアッタ所ノ昭和五年六年ニ置
イタト云フコトハ如何ニシテモ宜シクナイ
ノデアリマス、此基準ナルモノハ長イ程ガ
宜シイノデアリマス、此點ニ於テ衆議院ノ
修正ハ政府案ニ優ッテ居ルノデアリマス、全
體世界經濟界ノ景氣ト云フモノハ、十年每
ニ一轉囘ヲ爲スト云フコトハ、是ハ長キ經
驗ニ基イタ所ノ學說デアリ、又原則デアル
ノデアリマス、又十年每ニ一囘轉ヲ爲ス所
ノ景氣ノ圓周率、卽チ英語ノ「サークル」ト
云フモノハ、其囘轉每ニ圓形ヲ擴大ナラシ
ムルモノデアリマス、是ハ言フ迄モナク世
界ノ富ノ量ガ年々歲々增加スルガ故ニ、當
然ノ歸結デアルノデアリマス、卽チ茲ニ前
ノ週期ト後ノ週期トノ間ニ大ナル差ガ生ズ
ルノデアリマス、而モ此「サークル」ノ差ハ
我國ノ如キ若キ新進國ニ於テ最モ大ナルモ
ノガアルノデアリマス、サウシテ此差額ト
云フモノハ、必シモ人ノ力ノミニ依ッテ生ジ
タモノデハナイノデアリマス、ソコデ其差
額ノ一部ヲ冥加金トシテ國家ニ提供セシム
ルト云フコトハ何等差支ナイノデアリマス、
是ガ卽チ稅制上本格的ノヤリ方デアルノデ
アリマス、政府ハ昭和五年六年ノ如キ不況
ノドン底ニ基準ヲ置キ、世間ヨリ幾多ノ非
難攻撃ヲ受クルガ如キ低劣ナル財政策ヲ抛
棄シテ、宜シク本格的ノ方法ヲ執ルベキデ
ハアルマイカト思ヒマス、然ラザレバ臨時稅
ナルモノハ臨時ノ費途ニ充當スルノ立前ヲ
以チマシテ、本稅ハ天災地方ノ匡救復舊ノ終
結ト同時ニ廢棄スベキモノデアリマス、强ヒテ
本稅ノ基準ヲ昭和五年六年度ニ置クコトヲ固
執セラルルナラバ、宜シク政府ハ其政府ノ
最大理由トセル所ノ、時局ノ好影響ヲ受ケ
テ活況ヲ呈シタル所ノ昭和七年度ヨリ課稅
シナケレバ、理窟ガ合ハナイノデアリマス、
サウシテ茲ニ蠻勇ヲ揮ッテ、法律ハ既往ニ遡
ラズト云フ原則ヲ打破シテ、七年度ニ遡及
シテ課稅スルノガ相當デナケレバナリマセ
又、何トナレバ政府ガ提案ノ理由トセル所
ノ時局ノ好影響ナルモノハ、今後ニノミ生
ズルベキモノデハナクシテ、確ニ是ハ昭和
七年度ヨリ芽ヲ吹イテ居ルノデアリマスル
カラシテ、必ズヤ此政府ノ說明通リトシマ
シタナラバ、昭和七年度ヨリカケルノガ當
然ト私ハ信ズルノデアリマス、政府ノ所
見果シテ如何デアリマスルカ、是ガ第二點
デアリマス、次ニ本稅ハ臨時利得稅ト云フ
ノデアリマスルガ、臨時ト云フ文字ノ意味
ハ一時限リ、又ハ一時ノ間ニ合セト云フコ
トデアリマス、例ヘバ何日ニハ何處ソコニ
緣日ガアル、又花見ガアルト云フ時ニ、能
ク臨時電車等ヲ出スノ廣〓ガ見ラレルノデ
アリマス、是ハ單ニ其緣日又ハ花見ノ時ニ
限ッテ發スルノデアリマシテ、平日ニ出スモ
ノデハアリマセヌ、同ジ理窟デ臨時利得稅
ト云フ以上ハ、或ル特定ノ臨時應急ノ費途
ニ充當スル爲ニ一時的ニ課稅スルモノデアッ
テ、臨時ノ費用ヲ要セヌコトニナリマシタ
ナラバ、直ニ之ヲ廢止スルト云フコトガ、
是ガ常識觀デアリマス、故ニ本稅ノ場合ニ
於キマシテモ亦、天災ニ依ッテ損害ヲ被ッタ
所ノ地方ノ匡救事業ガ一段落ヲ〓ゲルト同
時ニ、直ニ之ヲ廢止スルガ當然デナケレバ
ナリマスマイ、然ルニ政府ハ臨時ト稱シテ
置キナガラ、本稅廢止ノ時期ヲ明言セザル
ノミナラズ、之ヲ特殊ノ費途ニ充當セズシ
テ、而モ之ヲ永久化シ、一般歲入ニ繰入レ
ルト云フコトハ、假リニ財政上之ガ爲シ得
ザルモノデナイニモセヨ、常識的ニハ如何
ニモ平仄ノ合ハヌ所ノヤリ方デアルト思ハ
レマスルノデ、政府ハ全體臨時ト云フ意味
ヲ如何ニ考ヘラレテ居ルカト云フコトヲ伺
ヒタイト思ヒマス、次ニ本利得稅ニ關シマ
シテ、世間ニ於テ又ハ議會ニ於キマシテ、
戰時利得稅ト比較シテ論ズル者ガアルヤウ
ニ聞イテ居リマス、政府ハ果シテ戰時利得
稅ニ擬シテ本案ヲ制定セラレタノデアリマ
セウカ、成程本稅ハ戰時利得稅ニ做ッテ計
畫ヲ立テラレタモノト見ルノモ亦一種ノ見
方デアリマス、何トナレバ戰時利得稅ナル
モノハ、一般國民ノ納稅資格アル者ニ普ク
負擔サセルモノデハナクシテ、特ニ其戰爭
ノ爲ニ特殊ノ利益ヲ得タル者ノミニ課スル
ノ稅デアリマス、今本稅モ臨時利得稅トハ
僅バカリ其內容ヲ異ニ致シテ居ルノミデア
リマシテ、大體ニ於キマシテハ同一デアリ
マス、卽チ普ク一般國民ニ課スルノデアリ
マセズシテ、特ニ軍需「インフレ」ヤ若クハ
爲替ノ下落ヤ、貿易ノ發展ノ潮流ニ乘ジテ
利得ヲ獲得シタル者ニ限リテ課稅スルモノ
デアリマス、全然戰時利得稅ト其理由竝ニ
根據ヲ等シクスルモノト言ッテ可ナリト思
フノデアリマス、今ハ非常時ト呼ブ聲ガ高
イノデアリマス、併ナガラ非常時ト言ヒマ
シテモ只今ハ戰時デハアリマセヌ、非常時
ト云フ意味ニ付キマシテハ、各人各〓異ナリ
タル意見ヲ持ッテ居ルト思ヒマス、何レニモ
セヨ、少クトモ今ハ戰時デハナイノデアリ
やく、然ルニ戰時利得稅ト等シキ觀念ノ下
ニ本案ヲ提出セラレタリトシマシタナラバ、
是ハ實ニ不當ナリト言ハナケレバナリマセ
又、併ナガラ大藏大臣ハ定メテ言ハルル
デアリマセウ、戰時利得稅トハ全然無關係
デアルト、然ラバ宜シク戰時利得稅ト本稅
ト異ナル所ノ理由ト根據トヲ詳細ニ示サレ
ムコトヲ望ムノデアリマス、次ニ本稅ハ爲
替下落ヤ軍需「インフレ」ノ御蔭ヲ被ッテ、特
ニ利益ヲ得タ者ノミニ課稅スルト云フ立前
デアリトシマシタナラバ、今後モ特ニ儲ケ
タル者ニ對シマシテハ、其時々特別稅ヲ課
スルト云フ一種ノ原則、前例ヲ作ルノデハ
アリマスマイカ、大藏大臣ノ御考ハ如何デ
アリマスカ、果シテ左樣ナ例ヲ作ルモノト
致シマシタナラバ、例ヘバ金貨ヲ引揚ゲ
タモノヤラ、良好ナル鑛脈ヲ發見シタ
モノヤラ、相場デ儲ケタモノヤラ、不毛地
ガ俄然トシテ價値ヲ高メタルモノニ對シマ
シテモ、其時々課稅セナケレバナリマスマ
イ、其結果ト云フモノハ延イテハ所有權一
部ノ侵害トナリマス、他日恐ルベキ財產沒
收ノ価ヲ作リ、國民不安ヲ發生セシムルノ
虞ガ生ジナイカヲ非常ニ憂フルノデアリマ
ス、次ハ本稅ハ負擔ノ均衡ヲ破リ、不公平
ナル課稅ヲ强要スルノ憾ガアルノデアリマ
ス、元來事業ニハ色ミナ種類ガアリマス、
世間ニハ不景氣ノ影響ノ如キモノハ馬耳東
風ト見送リマシテ、何等ノ痛痒モ感ゼザル
所ノ所謂平和事業ト云フモノガアリマス、
此平和事業ナルモノハ、平時ニ於キマシテ
ハ突飛ナル收益ハ望ミ難イモノデアリマス
ルガ、危險性ガ比較的少イノデアリマス、
而シテ每年平均シタル所ノ利益ガ確保セラ
ルルノデアリマス、其中ニハ歐洲戰亂以來
非常ナル巨利ヲ博シタル者モ往々アルノデ
アリマス、之ニ反シテ一方ニハ激甚ナル競
爭ト、經營難ニ惱ム所ノ生產事業ガアリマ
ス、而シテ生產事業ハ悲境ニ喘グ時代ニ於
キマシテモ、平和事業ナルモノハ平然トシ
テ氣樂ニ相當ノ利潤ヲ收得シテ居ルノデア
リマス、斯ノ如ク不景氣ハ何處ヲ吹クカト
晏如タル態度デ居ル者モアリマスル、反對
ニ數箇年連續的ノ〓損ニ苦シミ、甚シキハ
十數年間悲境ノ底ニ沈淪イタシマシテ、減
資ニ次グニ減資ヲ以テシ、辛ウジテ會社ナ
リ、事業ノ內容ノ整理ヲ遂ゲ、サウシテ近
年ノ好景氣ニ惠マレマシテ、漸ク更生ノ曙
光ニ接シタ者モ多々アルノデアリマス、卽
チ此種ノ生產業者ハ、最モ其苦シカッタ所ノ
昭和五年、六年中ニ比べマスレバ、今日ニ
於キマシテハ其利益率ハ著シク增加シテ居
ルノデアリマス、併ナガラ此利益ト云フモ
ノハ是ハ擧ゲテ過去ノ缺損ノ補塡ヤ、又ハ
償却ノ不足ニ充テルトカ、若クハ他日ノ反
動ニ備ヘムガ爲ニ専ラ基礎ノ鞏固ニ充テナ
ケレバナラナイノデアリマス、然ルニ其償却
補塡ヤ、基礎鞏固ニ振向ケムトスル所ノ利
益金ニ對シマシテ、苛重ナル負擔ヲ强要ス
ルノガ卽チ本稅デアリマス、之ニ反シマシ
テ連年一割乃至三割近クノ利益ヲ引續キ收
得セル所ノ平和事業ハ、今日ト雖モ尙ホ昭
和五年、六年度ト其利益率ニハ大ナル逕庭
ガナイモノガ多クアリマス、故ニ是等平和
事業ノ經營者ハ、本稅ヲ負擔スルノ義務ヲ
免除セラルルコトニナリマス、又我國ノ大
事業會社中ニハ創立ガ最モ古ク且ツ其積
立金ノ如キモノハ、殆ド資本金ト同額ノ積
立金ヲ持チ、又償却モ十分ニナシテ居リマ
シテ、基礎モ非常ニ鞏固デアッテ、每期四割
以上ノ利益ヲ擧ゲテ居ル所ノ會社モアルノ
デアリマス、本稅ハ是等優良ナル會社ニハ
殆ド課稅スルコトガ出來ナイノデアリマ
ス、然ルニ先程モ度ミ述べマシタ通リ、辛
ウジテ過去ノ苦境ヲ逸脫シテ、玆ニ時勢ノ
順風ニ乘ジテ漸クニ更生セル所ノ生產業者
ハ、總テ本稅ノ苛酷ナル負擔ヲ受ケナケレバ
ナラナイノデアリマス、又長キ月日ニ亙リ
マシテ多額ノ利益ヲ連續的ニ收獲セル所ノ
金融業者、保險業者等モ亦大資本ヲ擁スル
古キ大會社ト同ジク、本稅ノ負擔ヲ免除セ
ラルルカ、若クハ假令本稅ヲ負擔ヲスルニ
致シマシテモ、其程度ハ誠ニ輕微デアリマ
ス、斯ノ如キ不權衡ナル稅法ト云フモノ
ハ、近來他ニ類例ガナイト私ハ思ヒマス、
卽チ本稅ハ負擔ノ均衡ヲ失セル所ノ不公平
極マル稅法ト言ッテモ私ハ差支ナイト思ヒ
マス、殊ニ近年收稅吏ノ徴稅技術ナルモノ
ガ非常ニ進步イタシマシテ、或人ハ收稅吏
ハ個人ノ懷中ノ金ノ在高マデモ知ッテ居ルト
言フ位デアリマス、併ナガラ是等ノ技術ノ
進步シタル所ノ收稅吏ト雖モ、大會社ニハ
其力ガナカ〓〓及バナイノデアリマス、小
サイ資本家ニ對シマシテハ重箱ノ隅ヲホ
ヂクルガヤウニ、所謂爬羅別扶至ラザ
ルナキト云フ手段ヲ執リマスガ、大資
本家殊ニ各地ニ支店、工場等ヲ有スル
所ノ大キナ會社ニ對シマシテハ、是等ノ
收稅吏モ調査ノ行屆カザル點ガ多々アリマ
ス、卽チ此處ニモ資本ノ大小ニ依リマシテ
本稅ノ負擔ニ不公平ヲ來スノ虞ガアルノデ
アリマス、租稅ハ擔稅力アル者ニカケルト
同時ニ、其負擔ノ公平、均衡ガ最モ必要條
件デアラネバナリマセヌ、然ルニ本稅ノ如
ク其均衡ヲ誤ルモノハ他ニ殆ド例ガナイノ
デアリマス、政府ハ如何ニシテ斯ノ如キ負
擔ノ不均衡、課稅ノ不公平ヲ是正セムトセ
ラルルカ、其所見ヲ承リタイト思ヒマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=14
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015・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 只今橋本君ヨリ
數箇條ニ亙ッテノ御質疑ガアリマシテ、大分色
色御意見モ加ハッテ居ルノデアリマシテ、或
ハ御質問ノ要點ヲ捉へ得ナカッタカモ知レ
マセヌ、一應御答スベキ點ト考ヘマシタ所
ニ付テ御答ヲ致シマス、第一ニ最初ニ御意
見ハ、今日ハマダ課稅スベキ時期デナイ、
漸ク金輸出ヲ禁ジ、赤字公債ヲ發行シテ、
僅ニ今日產業界ノ恢復ヲ見ムトシテ居ル際
ニ、之ニ向ッテ課稅スルト云フコトハ其芽ノ
出タ所ヲ摘ムヤウナモノデアル、嘗テ又大
藏大臣ハ、課稅ハ今日其時期ニ非ズト、ツ
イ此間マデ言明シテ居ッタヂヤナイカ、今囘
此臨時利得稅法案ヲ提出スルト云フコトハ、
全ク曩ノ聲明ヲ裏切ルモノデアル、斯ウ云
フ······裏切ルモノデアルト斯ウ御認メニナッ
テノ御尋ダカラシテ、詰リ之ヲ裏切ル譯ニ
ナリヤセヌカト云フ御尋ト私ハ考ヘル、是
ハ失禮ナガラ、此私ノ先年來增稅尙ホ時期
ニ非ズト申シタコトハ、御承知ノ通リ是ハ
赤字公債ニ代ヘルニ漸次增稅ノ手段ニ依ル
ト云フノデアッテ、一般的ノ增稅ノコトヲ
指シテ言フタノデアリマス、故ニ此提出シ
マシタル臨時利得稅トハ全ク別ノ問題デア
ル、故ニ曩ノ聲明ヲ裏切ルトハ私ハ考ヘテ
居ラヌノデアリマス、又臨時ト云フケレド
モ是ハ恆久的ノ性質ニナル、恆久的稅法ニ
ナルト云フ御懸念ガ深イヤウデアリマスケ
レドモ、臨時ハ何處マデモ臨時デアリマシ
テ、決シテ政府ハ之ヲ恆久ノ稅法トスル考
ハ今日持ッテ居ラヌノデアリマス、第四ノ御
尋ダト······アトハモウ第何ト云フ數ヲ御示
シニナリマセヌデシタカラ順序ハ分リマセ
ヌガ、第四番目ノ御尋トシテ、此基準ヲ昭
和五年、六年トシタノガ宜シクナイ、斯ウ
云フコトデアル、臨時利得稅ハ、度〓衆議
院ニ於テモ申シマシタル通リ、時局ノ好影
響ヲ受ケマシテ、ソレニ依ッテ增加シタル
利益ノ一部分ヲ納稅セシメルト云フ趣旨デ
アリマスノデス、故ニ其利益計算ノ基準ト
スル······基準タルベキ期間ハ、經濟界ニ今
日ノ如キ、現在ノ如キ情勢ノ生ジマスル其
以前ニ基準ヲ取ルコトヲ必要トスルノデア
ル、又此負擔ハ出來得ルダケ此經濟界ノ好
轉シテ來マシタ其直近ノ、其時ノ直キ前ノ
モノデナケレバナラヌノデアリマス、サウ
シマセヌト云フト、稅務ノ實際上ニ於キマ
シテ種々ノ困難ガ起ルノデアリマス、而シ
テ我國ノ經濟界ノ漸次恢復シテ參リマシタ
ノハ昭和七年以降ノコトデアリマス、其以
來此時局ニ對スル諸種ノ方策ノ實施等ニ併
セマシテ、此一部ノ產業界ハ今日ノ好況ヲ
呈シテ來タノデアリマスルカラ、昭和五年、
六年ヲ以テ基準ト致スコトヲ至當ナリト認
メタノデアリマス、併シ當時ノ事業界ハ
當時ト申シマスノハ卽チ七年以前ハ〓シテ
好況デナカッタノデアリマスルカラ、其點ヲ
考慮イタシマシテ、當時ノ實蹟ヲ其儘基準
トシテ用ヰタノデハナイノデアリマス、卽
チ法人ニ付キマシテハ色ミノ積立金等ヲ含
メタ其資本金額ノ、年七分ニ相當スル利益
ノアッタモノト見ルコトニ致シマシタ、又個
人ニ付キマシテハ三千圓ノ利益ガアッタモ
ノト見ルト云フコトニ致シマシタ、卽チ七
分ト云フコトハ相當ナ利廻デアルト考ヘマ
シテ、五年六年ヲ基準ト致シマシテモ實際
上ニ於テ當時業績ノ惡カッタモノハ皆是ハ
七分ノ適用ヲ受ケルコトトナッテ居ルノデ
アリマス、其爲ニ苛酷ノ結果トハナラヌ
ト考ヘテ居リマス、內容ガ卽チ均衡ノ原則
ニ反シテ居ルト云フ御意見デアリマスガ、
是ハ負擔公平ノ點ニ付キマシテハ、法
案ノ内容ニ於キマシテ色ミ工夫ヲ凝シテ居
ルノデアリマスルカラシテ、且ツ其事柄
ハ稍〓技術的ニ亙リマスルカラシテ、是疋
適當ノ機會ニ於テ詳細ノ說明ヲ致ス方ガ宜
カラウト考ヘマス、又戰時利得稅ニ依ッタ
ノカドウカト云フ御尋デアリマスルガ、同
一デハナイノデアリマス、戰時利得稅ヲ施
行イタシマシタル時トハ、其當時トハ今日
ハ經濟ノ事情ガ大ニ異ッテ居リマス、故ニ戰
時利得稅ト此法案トヲ同一ニ論ズル譯ニハ
行キマセヌ、是モ詳細委員會ニ於テ說明ヲ
致スコトニ致シタイト考ヘマス、能ク聽取
レマセヌデシタガ、中ニ昭和七年ニ遡ッテ課
稅ヲ施行スルノカト云フヤウナコトモアッタ
ヤウデスガ、此稅法ヲ過去數年ニ遡ッテ實行
スルト云フコトハ穩當デアリマセヌカラシ
テ、若シサウ云フ御尋デアリマシタラ、政
府ハサウ云フ意思ハナイト御答ヲ致シマス、
又本稅ハ優良ナル會社ニ對シテ緩ニシテ、
弱體ノ會社ニ對シテハ苛酷デアル、斯ウ云
フ御斷定ノ下ニ御質疑ニナッタノデアリマ
スルガ、是ハ今モ申ス通リ此時局ノ好影響
ヲ受ケテ、サウシテ營業ノ利益ノ增加シタ
ルモノニ對シテ、其增加シタ利益ニ對シテ
課稅スルノデアリマシテ、增加スル其利益
ガナイモノニ對シテハ、是ハ優良會社タル
ト弱體會社タルトヲ問ハズ課稅ヲシナイコ
トニナッテ居リマス、卽チ昭和五年、六年、
現在トノ利益率ノ同一ナル會社ニ對シテ
ハ時局ニ因リ增加セル利益ナキヲ以テ本
稅ノ課稅ハ受ケナイコトニナッテ居リマス、
又力ノ弱イ會社ニ苛酷デナイト云フノハ、
矢張リ是ガ昭和五年、六年ガ缺損デアル、
或ハ又利益率ガ少イト云フ會社ニ對シマシ
テハ、資本金額ニ年七分ヲ乘ジタルモノヲ
以テ平均利益ト看做スノデアリマス、ソコ
デサウ云フ風ニシテ負擔緩和ノ方法ヲ講ジ
テアルノデアリマスルカラシテ、敢テ苛酷
ナリト云フ心配ハナカラウト思ヒマス、又
本稅ノ創設ハ產業資本ヲ壓迫シテ、金融資
本ヲ擁護スルコトニナルノヂヤナイカト云
フヤウナ御問デアリマスルガ、本稅ハ生產
業タルト金融業タルトヲ問ハズ、卽チ產業
資本タルト金融資本タルトヲ問ハズ、苟モ
增加セル利益アレバ何レモ課稅スルモノデ
アリマシテ、產業資本ニ嚴ニシテ金融資本
ニ寛ナリトノ御非難ハ當ラナイモノト考ヘ
やっ、以上御答ヲ致シマス
〔橋本辰二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=15
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016・橋本辰二郎
○橋本辰二郞君 只今大藏大臣ノ御答辯ヲ
承リマシタ、幸ニ平生ノ低聲デナクシテ割
合ニ聲ガ高クシテ、私モ半分位ハ聽取ルコ
トヲ得タノデス、併ナガラ御說明ハ遺憾ナ
ガラ私ヲ滿足セシムルモノデハアリマセヌ、
殊ニ過去ニ於ケル所ノ聲明ト此臨時利得稅
トハ異ナルト云フガ如キハ、是ハ强辯モ甚
シキモノデアリマス、及課稅ハ好景氣ノ直
近ノモノニ付テカケナケレバナラヌト云フ
ノハ、是ハ一種ノ見方デアリマシテ、意見
ノ相違ト見テ宜カラウト思ヒマス、而シテ
戰時利得稅ト其理由、根據ヲ等シクセルト
云フ私ノ論難ニ對シマシテノ說明ハ、殆ド
成ッテ居マセヌ、又政府ハ時局ノ好影響ヲ受
ケタモノノ利益ノ一部ヲ、國庫ニ納メシム
ルト云フ立前デアルナラバ、七年度ニ遡及
シテ課稅スルノガ是ハ理窟デアルト云フコ
トヲ私ハ言ッタノデアリマス、カケナケレバ
ナラヌト言ッタ譯デハナイ、政府ノ說明通リ
トスレバサウ云フ理窟ニ歸著スルト云フコ
トヲ私ハ言ッタノデアリマス、元來前大藏大
臣藤井氏ハ、公債ノ消化力ハ國庫ノ前途ニ
重大ナル關係ヲ及ボスト云フコトヲ焦慮セ
ラレマシテ、七億五千萬圓以上ノ消化ハ到
底不可能ナリトノ立前ノ下ニ於キマシテ、
歲入ノ一部補塡ノ爲ニ本稅ヲ立案セラレタ
モノト思フノデアリマス、果シテサウデア
レバ是ハ一應肯ケルノデアリマス、併十分
ラ公債ノ消化力ハ、綽々トシテ餘裕アリト
スル所ノ高橋大藏大臣ノ處置ト致シマシテ
ハ、誠ニ其意ヲ得ザル所ノモノデアリマス、
高橋大藏大臣ハ何故ニ二十二億圓ト云フ此
總豫算ノ千分ノ十五ニモ過ギザル所ノ徵々
タル所ノ新稅ヲ創設セラレマシテ、國民ノ
非難ヲ受クルコトヲ甘受セラルルト云フコ
トハ、私ノ實ニ怪訝ニ堪ヘザル所デアリマ
ス、併ナガラ思ヒマスルニ高橋氏ノ御入閣
ニナリマシタノハ、豫算ハ既ニ確定後デアッ
テ、今更手ノ下シヤウモナイ、巳ムヲ得ズ
前任者ノ計畫ヲ踏襲セラレタモノト思ヒマ
スル、デ高橋氏カラ見マスレバ、自分ノ
素志ニ非ザル所ノ法案デハアルケレドモ、
已ムヲ得ズ今日提案者トナラナケレバ
ナラヌト云フコトニナッタト云フ點ヲ私ハ
察シマスレバ、實ニ御同情ニ堪ヘザル點モ
多々アルノデアリマス、由來藤井前大藏
大臣ハ健全財政論者デアリマシテ、公債ノ
消化力ト其漸減トニ專ラ考慮ヲ費サレマシ
テ、赤字公債ノ一部ノ補塡ト致シマシテ本
稅ヲ立案セラレタルモノニ相違ナイノデア
リマス、然ルニ之ヲ提案セラレタル所ノ高
橋大藏大臣ハ、公債ノ消化力ハ尙ホ綽々ト
餘裕アリ、增稅ハ其時期ニ非ズ、卽チ實ヲ
結ブ前ニ芽ヲ摘ムヤウナモノデアッテ、產業
界ニ非常ナ惡影響ヲ及ボスモノデアルト云
フ論者デアルノデアリマス、卽チ立案者ト
ハ全然意見ヲ異ニセラレテ居ラレルノデア
リマス、ソレ故ニ其說明ノ不徹底ニシテ曖
昧ナルモ亦當然ト思フノデアリマス、ソコ
デ此稅ハ恰モ木ニ竹ヲ接イダヤウナモノデ
アリマス、此處ニモ大ナル矛盾ト無理ガ存
シテ居ルノデアリマス、要スルニ大藏大臣
ノ御說明ハ、强辯ニ非ザレバ一時ノ遁辭ニ
過ギナイノデアリマス、決シテ國民ヲ納得
セシムルモノデハアリマセヌ、第一本稅ハ
時機ヲ得テ居ラナイ、第二、財政上ノ見地
ヲ異ニスル者ガ一ハ立案者トナリ一ハ提案
者トナッテ居リマス、第三ニ、臨時稅ト稱シ
ナガラ政府者ハ臨時ト云フ文字ノ意味スラ
知ラナイモノデアリマス、而シテ此期限ヲ
明言セズシテアハ好クバ之ヲ恆久稅タラシ
メヤウトスル、狡猾ナルコトハ見エ透イテ
居ルノデアリマス、第四、案ノ組立ガ戰時
利得稅ニ髣髴タルモノアルニモ拘ラズ、言
葉ヲ曖昧ニシテ說明スルコトガ出來マセ
又、第五、課稅ノ基準ガ當ヲ得ザルガ爲
ニ、課稅ノ原則タル所ノ負擔ノ公平ト均衡
トヲ缺イテ居リマス、本案ハ是ハ遣リ方次
第ニ依ッテハ決シテ惡稅デハナイ、併シナガ
ラ玆ニ提案セラレタル此臨時利得稅ナルモ
ノハ、無理ニ無理ヲ重ネタル所ノ、恰モ古
材木ヲ集メタル組建小屋ノヤウナモノデアッ
テ、而モ注文主ト居住者ガ違ッテ居ルト云フ
ヤウナ、近來稀ナル珍シイ稅ト稱シテ宜カラ
ウト思ヒマス、是レ以上政府ノ說明ヲ聽イ
タ所ガ到底國民ノ納得ハムツカシイト思ヒ
マス、唯新稅ノ創設ナルモノハ理論ト根據
ト、竝ニ其波及スル所ノ各方面ノ關係ヲ能
ク能ク考慮セラレ、周到精密ナル注意ヲ拂
フデナケレバ、能ク國民ヲシテ悅服セシム
ルコトガ出來ナイト云フコトヲ、私ハ玆ニ
指摘イタシマシテ質問ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=16
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017・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 森平兵衛君
〔森平兵衛君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=17
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018・森平兵衞
○森平兵衛君 會期ノ切迫シテ居リマスル
時デアリマスルノデ、本員モ臨時利得稅ニ
對シマシテ、詳細ナル質問ヲ試ミタイト存
ジテ居ッタノデアリマスルガ、旣ニ私ノ質問
セムトスル所ヲ前議員ノ御質問ニナッタ點
モアリマスルノデ、極ク簡單ニ私ノ質問ノ
要領ヲ政府ニ申上ゲ、政府モ成ルベク要領
ヲ得ラレマスルヤウニ御答辯アラムコトヲ
此機會ニ御願申ス次第デアリマス、本日ハ
總理大臣ニモ一點御質問ヲ申上ゲタイト思
フテ居ッタノデアリマスルガ、御出席ナイ爲
ニ、ソレハ他ノ機會ニ讓ルコトニ致シマシ
テ、專ラ高橋大藏大臣ニ御尋ヲ致シタイト
思フノデアリマス、第一點ハ此臨時利得
稅ノ制定ヲ爲スニ當ラレマシテ、政府ハ內
閣審議會ト云フモノヲ此議會ニ御提案ニナ
ルト云フコトデアリマスルニ拘ラズ、一年
延期シテ此內閣審議會ニ之ヲ付議シテ、愼
重ニ考究ヲセラレタ上デ何故御提出ナカッ
タカト私ハ思フノデアリマス、現內閣ニ於
カセラレマシテハ、國家ノ此重要政策ニ關
スル調査審議ノ機關ト致シマシテ、內閣ニ
内閣審議會ノ設置ヲ計畫セラレテ居ラレマ
スルコトハ、誠ニ機宜ヲ得タル處置ト私ハ
考ヘルノデアリマス、而シテ此重要政策ニ
關スル將來ノ方針、又國防ト財政トノ調
和行政機構ノ改革等ノ大問題ハ、總テ此
審議會ニ於テ愼重考究ヲ遂ゲテ善處スル御
考デアルコトヲ貴族院、衆議院、兩院ノ本
會議及各種ノ委員會ニ於テ、議員ノ質問ニ
對シテ政府ハ機會アル每ニ言明シテ居ラレ
ルノデアリマス、惟フニ是ハ單ナル私ハ責
任轉嫁ノ御言葉デナクシテ、眞ニ實行ノ
意思ヲ有セラルルモノト私ハ信ジテ居ルノ
デアリマス、果シテサウ云フコトデアルナ
ラバ、此稅制ノ整理改廢、新稅ノ創設ナド
ト云フ如キ重要案件ハ、必ズヤ此審議機關
ニ諮ッテ、其愼重審議ヲ俟ッテ決定スベキガ
當然デアルト考ヘルノデアリマス、蓋シ此
新稅ノ制度ハ國家財政上ニ重大關係ヲ有ス
ルコトハ勿論デアリマスノミナラズ、國民
負擔ノ公正均衡、竝ニ產業ノ盛衰隆替ニモ、
密接不離ノ關係ヲ有スルノデアリマス、
內閣審議會ハ正ニ斯カル重大國策ヲ審議ス
ル爲ノ私ハ機關デアルト思フノデアリマ
ス、斯ノ如キ重要問題ヲ此審議會ニ付議セ
ズシテ、審議機關ノ必要何處ニアルカト云
フコトモ議論ノ餘地ガアルノデアリマス、
政府ハ或ハ豫算編成上間ニ合ハナカッタト
云フヤウナ御考ト思フノデアリマスガ、併
ナガラ此臨時利得稅ノ金額ハ十年度ニ於キ
マシテモ三千三十餘萬圓、平年度ニ於テ四
千百萬圓デアリマス、之ヲ一箇年延期シタ
ト假定イタシマシテモ、三千萬圓位ノ減收
ニ過ギヌノデアリマス、歲計全額二十二億
ノ數字ニ對シマシテハ、甚ダ僅ノ金額デア
ル、是ダケノ增收デ國家財政、ノ基礎ガ鞏固
ヲ加ヘル譯デモナイト思フノデアリマス、
況ヤ此新稅ニハ幾多ノ缺陷ガアリ、又愼重
考究スベキモノガアルト考ヘルノデアリマ
ス、政府ニ於カレマシテ先ヅ內閣審議會ニ
付議セラレナカッタ、極メテ早急ノ中ニ之ヲ
制定セラレマシタ理由、竝ニ私ハ此十年度
一年延期スルト云フヤウナ御意思ノナイモ
ノカ、第一點ニ伺ヒタイト思フノデアリマ
ス、第二點ハ、確固タル財政計畫ヲ樹立セ
ズシテ、唯一部分ノ增稅ハ甚ダ不合理ト思
フノデアリマス、政府ハ何故財政整理、稅
制整理ト共ニ增稅ヲ行ハレナカッタノデア
ルカ、御所見ヲ承リタイト思ヒマス、赤字
公債ヲ漸減シテ財政ノ基礎ヲ鞏固ニスルコ
トハ、刻下最モ急務トスル所デアリマス、
之ガ爲ニ擔稅力アル方面ニ增稅ヲ圖ルコト
モ亦已ムヲ得ナイト思フノデアリマスルガ、
併ナガラ財政ノ基礎ノ鞏固ヲ圖ルニハ、先
ヅ歲入歲出ノ各方面ニ亙リマシテ、之ガ整
理ヲ行フコトガ必要デアルノデアリマス、
歲出ノ各要素ニ付キマシテモ整理スベキモ
ノハ整理シ、又合理化スベキモノハ合理化
シテ、歲入ノ方面ニ於テモ同樣ノ整理ト合
理化ガ最モ必要デアルト思フノデアリマ
ス、殊ニ稅制ニハソレ〓〓ノ體系ガアリマ
シテ、複雜ナル負擔ノ關聯ガ存スルノデア
リマスルカラ、全般ノ整理改廢ヲ考慮セズ
シテ、單ニ一稅種ノ變更又ハ創設ヲ行フト
云フコトハ、直ニ國民負擔ノ公正ト均衡ト
ヲ缺クニ至ル虞ガアルデナイカト思フノデ
アリマス、財政基礎ノ鞏固ヲ圖ル爲ニハ
擔稅力アル部分ニ增稅スルト云フコトハ又
已ムヲ得ナイト致シマシテモ、是ハ歲出歲
入各方面ノ整理計畫ヲ立テラレマシテ、且
ツ一般稅制ノ整理ヲ圖ラレ、尙且ツ歲入不
足ノ場合ニ於テ初メテ增稅計畫ヲ立テルベ
キモノデアルト信ズルノデアリマス、然ラ
ズシテ單ニ一ノ新稅ヲ設ケルコトハ、負擔
ノ均衡ノ關係ヲ害シ不公平ヲ來スノ半面ニ
於テ、眞ニ財政ヲ鞏固ナラシムルコトモ出
來ヌト云フ〓點ヲ伴フノデアリマス、政府
ハ少シモ斯カル財政整理、稅制整理ノ根本
計畫ニ觸レズシテ、〓卒ノ間ニ於テ此新稅
ヲ制定セラレムトスルコトハ、果シテドウ
云フ理由ニ基カレルモノデアルカ、殊ニ現
政府ノ十大政綱ノ中ニモ、歲計收支ノ均衡
囘復ニ努メ以テ財政ノ基礎確立ノ爲最善
ノ處置ヲ執ラムトスト、斯ノ如ク天下ニ聲
明サレテ居ルノデアリマス、此新稅ノミニ
依ッテ之ヲ實現シ得タモノトモ私ハ思ハレ
ナイノデアリマス、此點ニ對シテ大藏大臣
ノ御所見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマ
ス、第三ハ、高利公債ノ低利借換ハ、增稅
計畫ヨリ遙ニ合理的ト考ヘルノデアリマ
ス、政府ハ之ヲ斷行セラレル御意思ハナイ
ノデアリマスルカ御伺シタイノデアリマ
ス、低金利政策ノ決定セル現今ニ於キマシ
テ、政府ハ現存セル所ノ五分利公債ヲ低利
借換ヲモ爲サレズ、如何ナル理由ニ依ルモ
ノデアリマスカ、高橋大藏大臣ノ低金利政
策ハ、御承知ノ通リ先ヅ第一ニ庶民ノ貯蓄
ニ對スル利子ノ引下ゲニ始マリマシテ、郵
便貯金ノ利子四分二厘ヲ一躍三分ニ引下ゲ
ラレマシタ、然ルニ公債ノ利子ヲ見マスル
ニ、外貨債ニ於テハ六分半利附ノ公債ガマ
ダアルノデアリマス、內債ニ於テハ五分利
公債モ亦相當ノ額ニ上ボッテ居ルノデアリ
マス、外貨債ハ、金輸出禁止ノ場合デアリ
マスルカラ、之ヲ償還スルトカ、或ハ又借
換ヘルト云フコトハ、或ハ至難ト思フノデ
アリマスルガ、內債ノ五分利ニ至リマシテ
ハ、其借換ハ自由デアッテ、殊ニ期限ノ到來
セルモノガアルト聞及ビマス、國債ノ利子
ガ市中ノ金利ヨリ高率ニ廻ルト云フヤウナ
コトハ一等國ノ決シテ名譽デハナイト私
ハ思フノデアリマス、又合理的財政政策デ
モアリ得ナイト思ヒマス、我ミノ聞ク所ニ
依リマスルト、五分利公債ヲ假リニ四分利
ニ借換ヘタトスレバ、約四千萬圓バカリノ
利拂ガ減少スルノデアリマス、卽チ國庫負
擔ノ輕減トナルノデアリマス、現ニ地方債ニ
於キマシテハ、四分ノ借換ガ盛ンニ行ハレ
テ居リ、又私設會社ノ社債等ハ、四分二厘
乃至四分五厘ニ借換ヘ、又新規發行スルモ
ノモ、此位ノ利息デ行ハレテ居ルノデアリ
やっ、然ルニ國債ニ於キマシテハ何時迄
モ此五分利ト云フモノヲ其儘ニ据置クト云
フコトハ大イニ考慮ヲ要スルモノデナイ
カト思フノデアリマス、產業開發ニ障碍ヲ
及ボスト云フヤウナ、議論ノ餘地ノアル此
新稅ヲ創設シテ、三四千萬圓ノ增收ヲ圖ル
コトヲ爲サレナガラ、五分利公債ノ低利借
換ヲ何故ナサレヌノデアルカ、大ナル矛盾デ
アルト私ハ信ズルノデアリマス、政府ハ低
利公債ト借換ノ御意思ハナイモノデアリマ
スルカ、御尋ヲ致シマス、第四ハ、政府ハ
本法案ノ衆議院ノ修正ニ對シマシテ、前刻
高橋大藏大臣ハ不同意ノ意思ヲ言明セラレ
テ居ルノデアリマスルガ、是ハ全部御反對
デアリマスノデアリマスルカ、或ハ稅ノ國
庫ニ對スル收入ノ金額ニ於テ大ナル差違ヲ
生ジマセヌ限リ、所謂豫算上ノ關係モアリ
マスルノデ、之ガ假リニ二千萬ニナルトカ、
或ハ一千五百萬圓ニナルトカ云フコトニナ
リマスレバ非常ナ影響ヲ及ボスモノデア
リマスルガ、其金額ニ於テ多大ナル相違サ
ヘナケレバ、多少ノ修正ダケハ置イテモ宜
イト云フ御考デアルノデアリマスカ、御伺
ヲスルノデアリマス、私ハ衆議院ノ修正案
ガ妥當デアルカ、或ハ政府ノ原案ガ正シイ
モノデアルカト云フコトハ能ク是カラ愼
重ニ檢討シタ上デナイト言明スルコトハ出
來ヌノデアリマスガ、我ミト致シマシテハ
產業ノ恢復ガ漸ク其〓ニ就イテ居リマスル
ノニ一部ノ論者デハ矢張リ此產業ニ重壓
ヲ加ヘルト云フヤウナ經濟學者モアルノデ
アリマスカラ、又財界ニモ矢張リ此稅ガ「シ
ヨック」ヲ與ヘルト云フヤウナコトモ唱ヘテ
居ル論者モアリマスルカラ、此案ニ付テハ
餘程愼重ニ〓究センナリマセヌガ、衆議院
ノ修正ノ中ニモ我ニトシテハ妥當ト思フヤ
ウナ點モナキニシモアラズト思フノデアリ
マス、政府ハ此點ニ付テ徹頭徵尾御不贊成デ
モナイノデアリマスカ、御答ヲ得レバ誠ニ仕合
ト思フノデアリマス、是ハ或ハ前ノ議員ノ質
問ノ中ニモアッタノデアリマスルガ私トハ少
シク所見ヲ異ニシテ居リマスノデ、第五
點ハ重複ノ所モアリマスガ、短簡ニモウ一
點御質問ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、
此臨時利得稅ノ創設ハ、其時機ヲ得タモノ
デアルカナイカト云フコトガ、大イニ議論
ノ存シテ居ル所デアリマスガ、是ハ要スル
ニ此課稅基準ヲ昭和五年、六年ニ置イタコ
トト、モウ一ツハ個人ト法人トノ稅率ガ同
一デアルト云フコトガ餘程問題ニナッテ居
ルノデアリマス、最近此經濟財政ノ膨脹及
ビ此圓爲替低落ノ爲ニ、久シク不況裡ニ沈
淪シテ居リマシタ所ノ我國ノ產業界ガ、漸
ク恢復ノ曙光ヲ認メマシテ、就中此重工業
及ビ化學工業ナドハ此兩三年著シク活況
ヲ呈シテ居ッタコトハ明白ナル事實デアリ
そく、併ナガラ恢復ハ未ダ全般ニ及ボシテ
居ラヌ、殊ニ此農村山村漁村及ビ中小ノ商
工業者ノ如キハ尙ホ甚シイ窮境ニアルノ
デアリマス、全面的ニハマダ不景氣ノ域ヲ
脫シテ居ラヌト申シテモ過言デナイト思フ
ノデアリマス、唯經濟界ノ一部ニ政府ノ政
策ニ惠マシマシテ、幾ラカ大ナル利益ヲ收
メ、又ハ爲替低落ノ爲ニ其餘光ヲ被リテ居
ル者モアルノデアリマス、是等ニ課稅スル
コトハ社會公正ノ見地ヨリ當然ト論ズル者
ガアルノデアリマスガ、理論ハ其通リデア
リマス、其課稅ノ方法ニ付テハ十分ナル檢
討吟味ガ必要デアルト思フノデアリマス、
臨時利得稅ガ宜イカ、或ハ又他ノ課稅ヲ
シタガ宜イカト云フコトハ理論上、實際
上、愼重ナル考究ヲ要スル必要ガアルト思
フノデアリマス、高橋大藏大臣ハ前刻モ申
サレタ通リ、一般增稅ハ其時機デナイト云
フコトモ屢〓明言セラレタノデアリマスルガ、
私ハ其通リデアリマス、併シ折角此芽生エ
テ參リマシタ所ノ產業ヲ、此重壓ノ爲ニ幹
ヲ枯死サセル憂ガナイカト云フコトヲ、財
界ノ方デ心配シテ居ル人ガ多イノデアリマ
ス、私モ其事ヲ憂慮シテ居ル一人デアリマ
ス、併シ是ト比較イタシマシテ此稅ハ時局前
ニ於テ······所謂此非常時以前ニ於テ相當多
額ノ利益ヲ擧ゲテ居ルモノニ付テハ、多少ノ
犧牲ヲ拂ハスト云フコトモ社會正義ノ觀念
カラ見マスルト、至當デアルト云フ議論モ
アルノデアリマス、特別課稅ヲスルト云フ
コトモ是モ大イニ考ヘテ見ヌケレバナラヌ
ト思フノデアリマスルガ、唯此今囘ノ利得
稅ハ其事ハ少シモナイノデアリマシテ、前
ニ三割モ四割モ配當シテ居ルモノデアレ
バ·····昭和五年六年ニ於テ······今ハ矢張
リ三割五割配當シテモ課稅ヲ受ケナイト云
フ點ニ付テ非常ニ議論ガアルノデアリマス、
私ハサウ云フ點カラ見マシテ、矢張リ此超
過所得ト云フヤウナモノヲ御改正ニナルト
云フコトモ一ツノ方法デナイカト思フノデ
アリマス、殊ニ此個人······個人デ營業シテ
居リマスモノハ豫算課稅デアリマス法人
ハ業績課稅デアリマシテ、玆ニ多少ノ喰違
ガアルノデアリマスカルガ故ニ營業收益
稅法ニ致シマシテモ、所得稅法ニ致シマシ
テモ、個人ト法人トニ課稅ノ等差ガアルノ
デアリマス、然ルニ今囘ハ個人モ法人モ矢
張リ百分ノ十ト云フコトガ非常ニ負擔ノ公
正均衡ヲ缺クト云フ議論ガアルノデアリマ
ス、此點ニ付テ政府ハソレデモ公平デアル
ト云フコトヲ御考ニナッテ居リマスノデア
リマスカ、此五點ニ付テ大藏大臣ノ御答辯
ヲ煩シタイト思ヒマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=18
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019・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 森サンノ御尋ニ
付テ御答ヲシマスガ、矢張リ今日增稅ノ時
機ニ非ズ······此稅制整理ト云フ根本問題ニ
付テ立論サレルヤウニ私ニハ受取レルノデ、
先刻モ橋本君ノ御質疑ニ對シテ御答ヲ致シ
タル通リ、此臨時利得稅ハ一般租稅制度ノ
根本ニハ觸レテ居ラナイノデアリマス、從
來私ガ唱ヘマシタ所ノ此稅制整理ト云フコ
トハ一般ノ廣汎ニ亙ル租稅ノ制度ヲ改メ
ルト云フ趣意ヲ以テ唱ヘテ居ッタノデ、一般
的ノ稅嗣整理、卽チ增稅ノ考ヲ以テ稅制ヲ整
理スルト云フコトハ未ダ其時機ニ非ズト唱ヘ
來ッタノデアリマシテ、此稅制制度ノ根本ニ
觸レナイ臨時利得稅マデモ、其當時ハ考ヘ
テ居リマセヌデシタガ、斯ウ云フ性質ノモ
ノマデイカヌト、總テ稅ニ觸レルコトハイカ
ヌト云フ意味デ言フタ譯デハ決シテナイノ
デ、先ヅ私ガ其時機ニ非ズト······稅制整理
ノ時機ニ非ズト唱ヘタ時勢ニ如何ナル議論
ガ······意見ガ世ノ中ニ行ハレテ居リマシタ
カ
〔副議長伯爵松平頼壽君議長席ニ著ク〕
之ヲ追想セラレルナラバ尙ホ一層此臨時
利得稅ノ制定ニ付テ、其謂ハレ所以アリト
云フコトガ御了解ニナルダラウト思フ、私ガ
何故ニ增稅未ダ其時機ニ非ズト云フコトヲ
强ク唱ヘタカト云フノハ畢竟世ノ中ニ赤
字公債ヲ出スト云フコトハ宜シクナイ、我
國ノ財政ヲ破綻ニ導クモノデアル英國ガ
嘗テ採用シタヤウニ、歐洲大戰爭ノ始マル
ニ當ッテ採用シタヤウニ、先ヅ增稅ヲ以テ歲
入ノ不足ヲ補フヤウニスルガ宜イト云フ議
論ガナカ〓〓强カッタノデアリマス、而モ其
議論ノ波及スル所ハ遂ニ資本家ヲ譏リ、延
イテハ資本迄モ憎ムヤウニナッテ來テ居ル
有樣デアッタノデアリマス、アノ議論ト云
フモノガ國民ノ思想ノ上ニ如何ニ影響ヲ及
ボシツツアッタカト云フコトハ、諸君ア
ノ當時ノ時勢ヲ顧ミラレタナラバ御合點ノ
行ク所モアルダラウト思フ、今日ハソレト
反シテ增稅論ト云ラモノハ殆ド消エタノデ
アリマス、從テ此資本階級ヲ憎ミ、資本ニ
對シテ橫暴呼バハリヲスルト云フヤウナコ
トハ餘程私ハ薄ライデ來タト思ッテ私ハ
喜ンデ居ル、故ニ私ノ唱ヘタ增稅未ダ其時
機ニ非ズト言ッタ時ハ、其趣旨ハ全ク此今日
ノ臨時利得稅迄モ其中ニ含メテ、臨時ノモ
ノト雖モ決シテ增稅ハナラヌト云フ意味デ
言フタ譯デナイト云フコトハ御承知願ヒタ
イ、ソレカラ此公債ノ借換ヲ何故シナイカ、
低金利ノ政策ヲ執ッテサウシテ今日ハ先ヅ
不景氣ガ或方面ニ於テハ立直ッテ來タ、低金
利ヲ唱ヘテ今日ノ情況ニナッテ來タノダカ
ラシテ、一ツ公債ノ借換ヲ斷行シタナラバ
大イニ其財源ニナルヂヤナイカト云フ御考
デアル、卽チ五分利公債ヲ四分利ニ借換へ
ルノハ譯ナイト云フ御話デアリマス、私ハ
ドウシテ是ガ譯ナイト云フコトニナルカ
實際ニ付テ考ヘルト云フト、是ハ容易ナコ
トデナイノデアリマス、併ナガラ期限ノ到
來シタモノハ低利公債ニ借換ヘルト云フコ
トハ、是ハ屢〓私ハ聲明シテ居ル所デアリマ
ス、償還期限ノ來タモノハサウスル、未ダ
償還期限ノ來ナイモノノ五分利公債ヲ一時
ニ四分利ニ借換ヘルト云フノハ、ドウ云フ
手段ヲ以テスルノデアルカ、國民ニ向ッテ否
應ナシニ四分利ニ甘ンジロト云フ命令ヲ下
シテスルノデアルカ、ソレナラ理窟ニ於テ
ハ出來ルカモ知レヌ、併シサウ云フコトヲ
スルコトガ、今日我國ノ政治的、經濟的ニ
付テ、果シテソレガ良イモノデアルカナイ
カト云フコトヲ篤ト考ヘネバナラヌ、借換
ト云フコトハ能ク言ヒマス、歐米ニ於テモ
借換ト云フコトハ度ミアルケレドモ、償還
期限ノ來ナイモノヲ借換ヘル、低利ニ借換
ヘルト云フコトハ度ミ行ハレルコトデア
リマス、併ナガラソレヲ行フニ付テハ如何
ナル用意ヲ彼等ガシテ居ルカ、決シテ政府
ノ力ヲ以テ、國民ノ公債所有者ノ承諾シナ
イモノニマデ、强ヒテ低利ノ公債ヲ借換ヘ
ルト云フコトハ、決シテシナイノデアリマ
ス、又サウ云フコトハ出來ヤウ筈ガナイ、
五分利公債ヲ持ッテ居ルモノガ、償還据置期
限ノ過ギタルモノハ是ハ政府ハ何時デモ
現金償還ガ出來ルト云フコトニナッテ居ル、
故ニ之ヲ現金デ償還スル代リニ公債ヲ、低
利ナ公債ヲ發行スルカ、五分利ヲ低利ニ借
換ヘルカト云フコトハ、本人自身ノ希望デ、所
有主ノ希望ニ佐ッテ申出ヅルナラバ、ソレハ
借換ヘテ幾ラカ、百「ポンド」ナラ百「ポンドㄴ
ニ付テ一「ポンド」ノ增收ヲ與ヘテヤルト云フ
ヤウナ條件ノ下ニ行フノデアル、併ナガラ四
分利ハイヤダカラ、現金デ欲シイト云フモノ
ニハ現金デ返シテヤル、ソレダケノ現金償還ノ
用意ガナケレバ償還期日到來前ノモノヲ借
換ヘルト云フコトハ出來ナイ仕業デアル、
今日直面シテ居ル財政ニ於テ、赤字公債ガ
據ロナク出ル、其モノデスラ國民ハ心配シ
テ居ルノデアル、五分利公債三十何億ト云フ
モノヲ償還スル爲ニハソレダケノ現金ヲ
用意スルノニ何ヲ以テ用意ガ出來ルカ矢
張リ公債ヲ發行シテ、現金ヲ募ルヨリ外ニ
途ハナイノデアルサウ云フ餘裕ガ今日ハ
無イノデアル併シ御斷リシテ置クガ、償
還期限ノ到來スルモノハ、既ニサウ云フ風
ニ低利ノ公債ニ借換ヘルト云フ形ニ於テナツ
テ居ルノデス、ソレハ行ッテ居ル、ソレカラ
衆議院ノ修正ニハ絕對不同意デアルノカ、
或ハ金額ニ於テ豫算ニ計上シタルモノニ過
不足ノナイ、卽チ減收ノナイヤウナコトニ
ナレバ政府ハソレヲ、其修正ニハ同意ノ
ルカシナイカト云フヤウナ御尋デアリマス、
是ハ衆議院ノ豫算委員會ニ於テモ私ハ言フ
テ居ル、豫算ニ計上シテアル收入ノ減ルヤ
ウナコトガアッテハ、決シテ是ハ同意ハ出來
ナイ、唯金額ガ不足ガナイト云フバカリデ、
後ハドウデモ宜イト云フ意味デハナイ、徵
稅ノ方法又其技術上ノ方面ニ於テ差支ナイ
ト云フ程度ノモノデアルナラバ考慮スル、
斯ウ云フ次第デアリマス、故ニ今日ト雖モ
本案ノ修正ニシテ、歳入豫算ニ積ッテアル歲
入ノ、收入ノ金額ニ不足ヲ生ゼズ、又徵稅
ノ方法、法理上カラ言ッテモ、技術上カラ言ッ
テモ、寧ロ政府ノ原案ヨリハ優ルト云フモ
ノデアルナラバ、政府ハ是ハ考慮シテ然
ルベキモノト私ハ考ヘル、ソレカラ此臨
時利得稅ハ今折角振興セムトスル我工業、
生產業ニ重壓ヲ加ヘルモノデアル、或ハ一
般ノ所得稅ナドニ加ヘテ取ッタ方ガ宜クハ
ナイカト云フ風ナ、取方ニ付テノ御考モア
ラレルヤウデアリマスル、此臨時利得稅ニ
於テ比例稅ヲ用ヰマシタノハ是ハ他ノ所
得稅ニ合シテ之ヲ增稅ヲ行フナント云フコ
トハ到底今日ハ考ヘラレヌノデアリマシテ、
比例稅ヲ用ヰタ譯デアリマス、又產業上ニ
重壓ヲ加ヘルト云フ程ノ課稅デハナイト政
府ハ信ジテ居リマス、內容ヲ能ク御檢討下
サイマシタナラバ、其產業ノ發達ニ成ルベ
ク阻害ノナイヤウニ注意ハ十分ニ加ヘテ、
裕リヲ取ッテアル積リデアリマス、ドウカ其
邊ヲ然ルベク御檢討願ヒマス、尙ホ詳細ハ
他ノ機會ニ於テ御說明ヲ致スコトト致シタ
イト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=19
-
020・森平兵衞
○森平兵衛君 只今ノ高橋大藏大臣ノ御懇
切ナル御說明ヲ承ッタノデアリマスルガ、私ノ
要領ニ觸レテ居ラヌ點モ少クナイノデアリ
マスマダ岡田總理大臣ニ御質問ヲ申上ゲ
タイ點モアルノデアリマスルガ、是ハ他ノ
機會ニ御尋ヲスルコトニ致シマシテ、今日
ノ私ノ質問ハ是デ打切ルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=20
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021・池田政時
○子爵池田政時君 只今議題ト相成リマシ
タ日本銀行納付金法中改正法律案、臨時利
得稅法案ハ、極メテ重要ナル法案デアリマ
スルガ故ニ、其特別委員ノ數ヲ十八名トシ、其
指名ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=21
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022・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=22
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023・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 池田子爵ノ動
議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=23
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024・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、書記官ヲシテ特別委員ノ氏名ヲ
朗讀イタサセマス
〔近藤書記官朗讀〕
臨時利得稅法案外一件特別委員
侯爵中御門經恭君侯爵佐佐木行忠君
伯爵酒井忠正君子爵渡邊千冬君
子爵西尾忠方君子爵裏松友光君
男爵赤松範一君桑山鐵男君
男爵松平外與麿君男爵深尾隆太郞君
倉知鐵吉君菅原通敬君
西野元君馬場鍈一君
森平兵衛君松本眞平君
野村德七君澁澤金藏君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=24
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025・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第六、兵
役法中改正法律案、政府提出、第一讀會ノ
續、委員長報告、立見子爵ノ登壇ヲ望ミマス
兵役法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長子爵立見豐丸
貴族院議長公爵近衞文麿殿
〔子爵立見豐丸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=25
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026・立見豐丸
○子爵立見豐丸君 委員會ノ經過竝ニ結果
ヲ御報告申上ゲマス、委員會ハ三月六日、
十一日ノ兩囘ニ亙リマシテ、陸軍省、海軍
省文部省竝ニ法制局ノ政府委員ニ就キマ
シテ質疑ヲ致シマシタ、本法律案改正ノ主
ナル點ハ二點アリマシテ、第一ハ靑年學校
創立ニ伴フ兵役法第十一條ノ改正、第二ハ
徵兵適齡屆提出期日ヲ繰上ゲマス第二十四
條ノ修正デアリマス、其他第三十九條及第
五十一條ニ於テ改正ノ點ガアリマスルガ、
ソレハ法令改正自然ノ結果、若クハ只今マ
デ條文ノ解釋ニ依ッテ、擴張ヲシテ行ッテ居
リマシタ事項ヲ明ニ示シタダケデ大シタコ
トハアリマセヌ、第二ノ徵兵適齡屆ノ點
ハ、只今マデ檢査ヲ受クル年ノ一月末日マ
デニ適齡屆ヲ差出シマシタノヲ、前年ノ十
一月末日マデニ繰上ゲテ、市町村長ノ壯丁
名簿調製ノ資料タラシメヤウトスルノデア
リマシテ、之ニ付テハ大シタ質問モゴザイ
マセヌ、質問應答ニ主ニ第十一條ノ改正ニ
集リマシタ、只今其主ナルモノヲ申上ゲタ
イト思ヒマス、第一ニ靑年學校トハ如何ナ
ルモノナリヤト云フ質問ニ對シマシテ、靑
年學校ハ男女靑年ニ對シテ其心身ヲ鍛鍊
シ、德性ヲ涵養スルト共ニ、職業及實際生
活ニ樞要ナル知識技能ヲ授ケ、以テ國民タ
ルノ資質ヲ向上セシメルノヲ目的ト致シマ
シテ、普通科二年、本科五年ノ修業年限デ
アリマス、尙亦其他ニ〓究科及專修科ヲ置
クコトガ出來マス、普通科ハ尋常小學校卒
業者、本科ハ高等小學校卒業者ヲ入レルコ
トニナッテ居リマス、學科ノ配當ハ、主ニ男
子ニ付テ申上ゲマスガ、男子本科ノ低學年
ニ於キマシテハ每年二百十時ヲ下ラザル時
間ヲ之ニ費シマシテ、修身及公民科竝ニ普
通學科ニ約三分ノ一、職業科ニ約三分ノ
一〓練科ニ約三分ノ一ノ時間ヲ充當シマ
ス、高學年ハ一年百八十時間デアリマシ
テ、修身及公民科竝ニ〓練科ニ約半分、普
通學科及職業科ニ約半分ノ時間ヲ充當イタ
シマスト云フ答辯デアリマス、次ノ質問ハ
靑年學校令ハ何時公布サレルカ、竝ニ其豫
算ハドウ云フ風ニナッテ居ルカト云フ質問
ニ對シマシテ、靑年學校令ハ既ニ御裁可ヲ
得マシテ、本法律案ノ成立ト共ニ同時ニ公
布セラレル準備ガ出來テ居ルサウデアリマ
ス、豫算ニ付キマシテハ、本年度ノ豫算中
ニ靑年訓練費補助及實業補習〓育費補助ノ
費目ノ下ニ二百萬圓計上サレテアリマス
ガ、ソレヲ其儘靑年學校へ、其目的ノ爲ニ
使用サスコトニナッテ居リマス、尙ホ其他ニ
文部省ノ臨時部ニ靑年〓育施設費ト云フ所
ノ項目ノ下ニモ、靑年訓練費補助竝ニ實業
補習〓育費補助ノ費目ガ擧ッテ居リマスシ、
尙ホ其他ニ施設改善ノ爲ニ相當ノ金額ヲ請
求セラレルト云フ御話ガアッタヤウニ聞イ
テ居リマス、次ニ條令中ニ修得ノ程度ト云
フノガアルガ、修得ノ程度ト云フノハドウ
云フ程度カト云フ質問ニ對シマシテ、今日マ
デ靑年訓練所ハ每年二百時間、四箇年間ニ
八百時間ヲ費シテ居リマシテ、其中〓練ガ四
百時間、他ノ學課ガ四百時間アリマシタノ
ヲ、今囘ニ於キマシテハ靑年學校ヲ卒業シ
マセヌデモ、〓練三百五十時間、其他ノ時間
三百五十時間、合計七百時間ヲ修得シマス
レバ、此兵役法ノ特典ヲ受ケ得ル程度ト認
メルト云フコトニナルサウデアリマス、次
ニ靑年學校ヲ卒業シク者ト、今ノ最下限ノ
學習ヲシタ者トノ間ニ、兵役年限短縮ノ上
ニ付テ何カ差別ヲ設ケル必要ハナイカト云
フ問ニ對シマシテ、サウ云フ風ニ服役年限
ニ差別ヲ設ケルコトハ、取扱上非常ニ複雜
ニナリマシテ實行ハ不可能デアルガ、歸休
詮衡ノ際ニ有力ナル資料トスルコトハ出來
ルト云フ答辯デゴザイマス、次ニ此〓育ヲ
義務〓育トスル考ハナキカト云フコトニ對
シマシテ、今日マデ靑年訓練所、或ハ實業
補習學校ニ入リ得ナイ多數ノ靑年ガアリマ
ス、ソレニハソレ〓〓其處ニ入ッテ學習シ
得ザル事情ガアリマスルガ、ソレ等ノ事情
ヲ解消スルコトガ出來ナイ中ニ、之ヲ義務
〓育トスルコトモ出來マセヌシ、又費用ノ
點ニ於テモ困難ナ點ガアリマスルノデ、目
下直ニ之ヲ義務〓育トスル考ハナイガ、低
學年ノ若干年內デモ義務〓育ト云フコトニ
シタイト云フ考ヲ以チマシテ、目下政府ニ
於テ〓究中デアルサウデゴザイマス、次ニ
靑年學校令ハ外地ニモ適用セラレルカト云
フ質問ニ對シマシテ朝鮮、或ハ臺灣等ニ於キ
マシテハ、靑年訓練所、若クハ實業補習學
校ニ入リマスル生徒ノ素質ニ格段ノ差異ガ
アリマシテ、之ヲ合併〓育スルコトハ甚ダ
不便ナ點ガアリマスルノデ、外地ニ於キマ
シテハ其〓育令ヲ改正シマシテ、靑年訓練
所竝ニ實業補習學校ヲ其儘ニ存置スルコト
ニナルサウデアリマス、而シテ其靑年訓練
所卒業生ハ兵役年限短縮ノ特典ハ受ケ得ラ
レルノデアリマス、終リニ臺灣ニ於テ今囘
自治擴張ノ企ガアリマスルガ、完全ナル自
治ヲ與フル前ニ、兵役法ヲ外地ニ施行スル
考ハナイカト云フ質問ガアリマシタガ、是
ハ速記ヲ中止シマシテ懇談ヲ致シマシタ結
果、政府ニハ目下其意思ガナイト云フコト
ガ分リマシタ、以上ノ外、尙ホ若干ノ質問
モゴザイマシタ、大體右ノ通リノ質問應答
ヲ終リマシテ、討論ニ入リマシタガ、異議
ナク本法律案ハ可決スベキモノナリト決定
イタシマシタ、右御報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=26
-
027・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御質疑ガナケレ
バ本案ノ採決ヲ致シタイト存ジマス、本案ノ第
二讀會ヲ開クコトニ御異議ガゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=27
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028・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=28
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029・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=29
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030・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=30
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031・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=31
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032・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=32
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033・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀
會ヲ開キマス、御異議ナケレバ全部ヲ問題
ニ供シマス、本案全部、委員長ノ報告通リ
デ御異議ガゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=33
-
034・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
看做シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=34
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035・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=35
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036・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=36
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037・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=37
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038・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
看做シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=38
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039・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀
會ヲ開キマス、本案全部、第三讀會ノ決議
通リデ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=39
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040・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=40
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041・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第七、勞
働者災害扶助法中改正法律案、日程第八、
工場法中改正法律案、日程第九、鑛業法中
改正法律案、政府提出、第一讀會ノ續、委員
長報告、是等ノ三案ヲ一括シテ議題ニ致シ
タイト存ジマス、御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=41
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042・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
看做シマス、委員長島津公爵ノ登壇ヲ望ミ
マス
勞働者災害扶助法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長公爵島津忠承
貴族院議長公爵近衞文麿殿
工場法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長公爵島津忠承
貴族院議長公爵近衞文麿殿
鑛業法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長公爵島津忠承
貴族院議長公爵近衞文麿殿
〔公爵島津忠承君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=42
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043・島津忠承
○公爵島津忠承君 勞働者災害扶助法中改
正法律案外二件ノ委員會ニ於ケル經過竝ニ
其結果ヲ御報告申上ゲマス、委員會ニ於キマ
シテハ最初ニ政府當局ノ說明ヲ求メ、引續
イテ質問ニ移リマシタ、玆ニ其要旨ヲ御報
告イタシタイト存ジマス、勞働者災害扶助
法ノ改正ノ第一點ハ、適用範圍ノ擴張デア
リマシテ、鐵道、軌道ノ運輸事業及瓦斯、
電氣等ノ事業ヲ爲ス土木工事ニシテ、、請負ニ
出スモノデモ本法ヲ適用スルコトトスルノ
デアリマス、此點ニ關シマシテ從來此種工
事ニ於テ、勞働者ガ災害ヲ受ケタ場合、如
何ニ處理セラレテ居タカトノ質問ガゴザイ
マシタガ、政府委員ハ從來斯カル工事ニ於
テハ、勞働者ト雇主トノ人情的解決ニ依ル
ノ外ハナカッタト思ハレルトノ說明デゴザ
イマシタ、改正ノ第二點ハ、特殊ノ事業ニ
付テ雇主ノ外ニ第二次的扶助責任者ヲ設ケ
ムトスルノデアリマス、此點ニ關シ責任者
ノ二人以上存スルコトハ、扶助確保ニハ結
構デアリマスガ、實際問題トシテ扶助請求
ヲ複雜ニシ、且ツ勞働者ニ不便ヲ與ヘルコ
トハナイカトノ質問ニ對シマシテ、政府委
員ハ第一次扶助責任者ハ、直接勞働者ヲ使
用スル者デアリ、原則トシテ之ニ對シ請求
スルモノデアッテ、唯直接ノ雇主ガ扶助セザ
ル場合ニ事業注文者ニ請求スルノデアルカ
ラ、扶助請求ガ混亂スルコトハナイ旨ヲ答
ヘラレマシタ、次ニ改正ノ第三點ハ、扶助
ト損害賠償トノ重複ヲ避ケ、扶助ノ時效ハ
二年トシ、扶助ノ差押ヲ禁止スル等、扶助
ノ法律上ノ性質ヲ明ニシタモノデアリマ
ス、扶助ノ時效ヲ二年トシタル理由ニ關ス
ル質問ニ對シマシテ、政府ハ扶助ハ一面賃
銀ノ一種ト見ルベキモノデアリマスルガ、
他面ニ於テ扶助ハ一種ノ損害賠償ト見ルベ
キモノデアリマスカラ、民法ノ損害賠償請
求權ノ時效三年ト、賃銀請求權ノ時效一年
トノ中間ヲ取リマシテ一一年トシタモノデア
リ、又勞働者災害扶助責任保險法ニ依ル保
險金支拂ノ義務ノ時效ガ二年デアリマスカラ、
是ト步調ヲ一ニシタモノデアルトノ答辯デゴザ
イマシタ、工場法及鑛業法ノ改正ハ勞働者災
害扶助法ト同一趣旨ニ基クモノデアリマシテ、
別段ノ質疑モナク、三案ヲ一括シテ討論ニ入
リマシテ、一員ヨリ本改正案ハ現行法實施ノ
成績ニ鑑ミ、勞働者ノ保護ト共ニ事業者ノ
便宜ヲモ考へ、何レニモ偏シナイ改正デア
ルガ、尙ホ將來ニ於テモ災害扶助ニ付テハ
十分ナル考慮ヲ拂ヒ、其完璧ヲ期セラレム
コトヲ希望シテ、改正法案ニ贊成ノ旨ヲ表
明セラレマシタ、次イデ採決ニ移リマシテ、
全會一致政府原案通リ可決セラレタノデゴ
ザイマス、右御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=43
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044・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴嘉君) 別段御質疑モ
ゴザイマセヌケレバ、三案ノ採決ヲ致シマ
ス、三案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ハ
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=44
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045・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=45
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046・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ各案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=46
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047・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=47
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048・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=48
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049・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=49
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050・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 三案ノ第二讀
會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問
題ニ供シマス、三案全部、委員長ノ報告通
リデ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=50
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051・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=51
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052・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ各案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=52
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053・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=53
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054・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=54
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055・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=55
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056・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 三案ノ第三讀
會ヲ開キマス、三案全部、第二讀會決議通
リデ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=56
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057・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=57
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058・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第十、議
院法中改正法律案、衆議院提出、第一讀會
議院法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和十年三月六日
衆議院議長濱田國松
貴族院議長公爵近衞文麿殿
議院法中左ノ通改正ス
第一條中「四十日」ヲ「二十日」ニ改ム
第三條衆議院ノ議長副議長ハ其ノ院ニ於
テ各候補者ヲ選擧シ上奏勅裁ヲ請フヘ
シ
議長副議長ノ任命ハ親任式ヲ以テ之ヲ
行フ
議長副議長ノ親任セラルヽマテハ書記
官長議長ノ職務ヲ行フヘシ
第四條削除
第七條各議院ノ議長ハ一員副議長ハ二
員トス
第十二條中「常任委員會」ノ下「及」ヲ削リ
「特別委員會」ノ下ニ「及常置委員會」ヲ加フ
第十五條削除
第十九條第一項但書ヲ削リ第一項ノ次ニ
左ノ一項ヲ加フ
議長副議長及議員ニシテ召集ニ應セサ
ル者ハ歲費ヲ受クルコトヲ得ス但シ死
亡シタル者ハ當月マテノ歲費ヲ受ク
同條第三項中「官吏」ヲ「有給官吏」ニ改メ
第四項ヲ左ノ如ク改ム
常置委員ハ第一項歲費ノ外議院ノ定ム
ル所ニ依リ閉會中一日五圓ヨリ多カラ
サル手當ヲ受ク
第二十條各議院ノ委員ハ全院委員常任
委員特別委員及常置委員ノ四類トス
第二十條ノ二全院委員ハ議院ノ全員ヲ
以テ委員ト爲スモノトス
常任委員ハ事務ノ必要ニ依リ之ヲ數科ニ
分割シ負擔ノ事件ヲ審査スル爲ニ議院ニ
於テ選擧シ一會期中其ノ任ニ在ルモノト
ス
特別委員ハ一事件ヲ審査スル爲ニ議院
ノ選擧ヲ以テ特ニ付託ヲ又クルモノトス
第二十條ノ三常置委員ハ左ノ事件ヲ審査
スル爲ニ議院ニ於デ選擧シ次ノ常會ニ於テ
改選セラルヽマテ其ノ任ニ在ルモノトス
政府ヨリ閉會後引續キ審査ヲ要求
シタル議案
二議院ニ於テ閉會後引續キ審査ヲ要
スト議決シタル議案
三閉會中政府ヨリ審査ヲ要求シタル
事項
常置委員會ハ審査スヘキ事件ノ有無ニ
拘ラス政府ニ出席說明ヲ求ムルコトヲ得
第二十條ノ四政府ハ前條第一項第三號
ノ事項ニ付兩院各別ニ其ノ審査ヲ要求
スルコトヲ得
第二十一條第二項中「常任委員長」ノ下
「及」ヲ削リ「特別委員長」ノ下ニ「及常置
委員長」ヲ加フ
第二十二條中「常任委員會」ノ下「及」ヲ削
リ「特別委員會」ノ下ニ「及常置委員會」ヲ
加フ
第二十三條全院委員會ハ傍聽ヲ禁ス
常任委員會特別委員會及常置委員會ハ
議員ノ外傍聽ヲ禁ス但シ委員會ノ決議
ニ由リ議員ノ傍聽ヲ禁スルコトヲ得
第二十五條削除
第二十六條第二項中「政府ノ同意ヲ得タ
ルトキ」ノ下ニ「又ハ出席議員三分ノ二以
上ノ多數ヲ以テ可決シタルトキ」ヲ加フ
第二十八條中「政府ノ要求ニ由ルモノ」ノ
下ニ「又ハ常置委員ノ審査ヲ經タルモノ」
ヲタク
第三十條中「何時タリトモ」ヲ削リ左ノ但
書ヲ加フ
但シ兩議院ノ一ニ於テ議決ヲ經タルト
キハ其ノ院ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第三十五條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ常置委員ニ付託シタルモノハ此ノ
限ニ在ラス
第三十六條閉會ノ日ハ勅命ヲ以テ之ヲ定
メ兩議院合會ニ於テ閉院式ヲ行フヘシ
第三十八條中「議長ハ直ニ傍聽人ヲ退去
セシメ」ヲ削リ同條ニ左ノ一項ヲ如フ
前項ノ發議アリタル場合ニ於テ議長必
要ト認ムルトキハ直ニ傍聽人ヲ退去セ
シムルコトヲ得
第四十一條削除
第四十四條中「經由シテ」ノ下ニ「國務大
臣及」ヲ加フ
第四十五條削除
第四十六條中「常任委員會」ノ下「又ハ」ヲ
削リ「特別委員會」ノ下ニ「又ハ常置委員
會」ヲ加フ
第四十八條中「三十人」ヲ「二十人」ニ改
ム
第五十二條中「三十人」ヲ「二十人」ニ改
ム
第五十四條第一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
兩議院ノ一ニ於テ議決シタル政府ノ議
案ノ撤回ニ同意シタルトキハ之ヲ他ノ
議院ニ通知スヘシ
第六十四條第二項中「三十人」ヲ「二十人」
ニシティ
第六十五條中「政府ニ送付シ事宜ニ依リ
報告ヲ求ムルコトヲ得」ヲ「政府ニ送付ス
ヘシ」ニ改メ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
政府ハ請願處理ノ經過ヲ每年各議院ニ
報〓スヘシ
第六十八條中「哀願ノ體式ヲ用ウ」ヲ「相
當ノ敬禮ヲ守ル」ニ、「體式ニ違フ」ヲ「體
式ヲ守ラサル」ニ改ム
第八十五條中「開會中」ヲ削ル
第八十七條ノ二議長ヨリ議場外ニ退去
ヲ命セラレタル者其ノ命ニ服セサルト
キハ議長ハ登院停止ヲ命スルコトヲ得
前項ノ登院停止ノ期間ハ三日トス
第八十七條ノ三登院停止ヲ命セラレタ
ル者議院外ニ退去セス又ハ登院停止中
登院シタルトキハ會期中登院ヲ停止ス
第八十七條ノ四懲罰事犯ニ由リ登院停
止ニ處セラレタル者議院外ニ退去セス
又ハ登院停止中登院シタルトキハ前條
ノ例ニ依ル
第九十三條中「議院又ハ委員會」ヲ「議院
內」三六九
第九十五條第三項中「各委員會」ノ下「又
ハ各部」及「委員長」ノ下「又ハ部長」ヲ削ル
第九十六條第一項第三號ヲ左ノ如ク改
ム
三一定ノ期間登院ヲ停止ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=58
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059・池田政時
○子爵池田政時君 只今議題ニ相成リマシ
タ議院法中改正法律案ハ、重要ナ法案デア
リマスルガ故ニ、其特別委員ノ數ハ十五名
トシ其指名ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提
出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=59
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060・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=60
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061・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 池田子爵ノ動
議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=61
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062・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、書記官ヲシテ特別委員ノ氏名ヲ
朗讀イタサセマス
〔近藤書記官朗讀〕
議院法中改正法律案特別委員
侯爵西〓從德君侯爵松平康昌君
伯爵二荒芳德君子爵前田利定君
子爵大河內輝耕君子爵岡部長景君
織田萬君男爵東久世秀雄君
塚本〓治君男爵黑田長和君
黑崎定三君男爵德川喜翰君
古島一雄君三木與吉郞君
岩崎〓行君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=62
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063・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第十一ヨ
リ第二十八マデノ請弟、會議
意見書案
長崎縣日島郵便局ニ電信電話事務開始
ノ件
長崎縣南松浦郡日島村長松園末吉外
百二十一名呈出
右ノ請願ハ長崎縣南松浦郡日島村ハ五島
列島ノ中央部西端ニ位シ且漁船ノ出入頻
繁ナル等電信ノ敏速ヲ要スルコト切ナル
ニ拘ラス同村ニ在ル日島郵便局ニハ未電
信電話ノ施設ナキ爲住民ノ不利不便尠カ
ラサルニ依リ之カ事務ヲ開始セラレタシ
ト趣旨ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
北海道、朝鮮間ニ國費補助命令定期航
路開設ノ件
北海道函館市長坂本森一外四名呈出
右ノ請願ハ昭和六年來函館市ニ在リテハ
單獨克ク函館北鮮線指定航路ヲ開設シタ
ルモ昨春大火災ノ慘害ニ遭ヒ復興財政難
ノ折柄本線航路ヲ持續スルニ難ク他面
ニ對滿貿易ノ進展ニ資セムニハ此際須ラ
ク國費ニヨル遞信省命令線トシテ强固ナ
ル定期航路ヲ確立シ配船數竝運航度數ヲ
增加スルハ最緊急事ナルニ依リ速ニ之ヲ
開設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ册別及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
第二期林野治水計畫實現促進ニ關スル
件
群馬縣北甘樂郡丹生村大字上丹生二
千三百九十五番地農岡部榮信外十名
呈出
埼玉縣浦和市埼玉縣山林會長飯沼一
省外二百二十七名呈出
東京市赤坂區溜池町一番地全國山林
會聯合會會頭男爵小畑大太郎呈出
右ノ請願ハ洪水氾濫ノ主因ヲ爲ス荒廢林
野ニ對スル治水計畫ハ昭和九年度ヲ以テ第
一期事業終了ノ豫定ナルモ尙繼續急施ヲ
要スルモノ及新規施設ニ俟タサルヘカラサ
ルモノ尠カラサルニ依リ速ニ第二期治水事
業計畫ヲ樹立セラレ他面疲弊セル農山村
ノ經濟ニ寄與スルヤウ其ノ內容ヲ擴充シテ
實施セラレタシトノ趣旨ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衛文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
財國法人日本少年指導會ニ對シ國庫補
助ノ件
東京市杉並區和田本町八百七十二番
地財團法人日本少年指導會會長橋本
勝太郞外一名呈出
右ノ請願ハ財團法人日本少年指導會ハ專
ラ不良少年ノ保護感化ニ努メ其ノ幼少年
〓化〓究部ハ是等少年ノ狀態ヲ科學的ニ
〓究シ之ヲ指導スルヲ目的トスルヲ以テ
專門的特種ノ設備ヲ必要トスルニ拘ラス
經濟上所要ノ施設ヲ爲シ能ハサルハ甚遺
憾ナルニ依リ國庫ヨリ請願人等所案ノ如
ク〓化〓究費ヲ補助セラレタシトノ旨趣
ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
森林火災保險國營ノ件
三重縣北牟婁郡星鷲町林業土井八郞
兵衞外二十名呈出
東京市赤坂區溜池町一番地全國山林
會聯合會會頭男爵小畑大太郞呈出
右ノ請願ハ營利保險會社ノ兼營スル森林
火災保險ハ其ノ保險料高率ニシテ然モ造
林奬勸上最必要ナル幼齡林ヲ嫌忌スルハ
森林業ノ安全竝金融上甚遺憾ナルニ依リ
速ニ森林火災保險國營ノ制度ヲ確立セラ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院
法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
靜岡縣榛原郡下川根村ニ登記所設置ノ
件
靜岡縣榛原郡下川根村長諸田守一郞
外二十九名呈出
右ノ請願ハ靜岡縣榛原郡下川根村、志太
郡伊久身村大字身成、笹間渡及笹間村大
字笹間下ハ各其ノ管轄登記所トノ距離遠
ク住民ノ不利不便尠カラサルハ遺憾ナル
ニ依り經濟狀態、取引關係等ニ於テ相互
緊密ナル之等鄰接三地域ヲ管轄區域トス
ル登記所ヲ下川根村地内ニ設置セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衛文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
林道開設助成ニ關スル件
東京市赤坂區溜池町一番地全國山林
會聯合會會頭男爵小畑大太郞呈出
右ノ請願ハ林道ノ開設ハ森林開發上緊要
ノ對策トシテ既ニ政府ヨリ之カ助成費ノ
交付アルモ其ノ額僅少ニシテ未山村經濟
ノ仲暢ニ資スルヲ得ス斯クテハ其ノ更生
上道憾ナルニ依リ積極的助成策ヲ講シ以
テ繼續實施セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册
及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
林野整備促進ニ關スル件
東京市赤坂區溜池町一番地全國山林
會聯合會會頭男爵小畑大太郎呈出
右ノ請參ハ曩ニ林野整備ニ關スル諸穀ノ
準備對策ヲ完了セルニ拘ラス之カ實行ヲ
見サルハ甚遺憾ナルヲ以テ速ニ當初ノ方
針ニ準據シ其ノ實現ニ努メラレタシトノ
旨趣ニシテ貴族院ハ顧意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五
條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
最上川改修ニ關スル件
山形縣北村山郡大富村宇荷口一番地
農寒河江彥七外四百四十三名呈出
右ノ請願ハ山形縣北村山郡大富村ハ最上
川ノ右岸ニ位スル低地ニシテ往時ヨリ水
難相次キ殊ニ近年其ノ傾向著シク爲ニ村
民ノ困窮一方ナラサルハ畢竟同川ニ於ケ
ル碁點以南ノ堤防工事ノ完成ニ伴フ結果
ニ外ナラサルヲ以テ同郡小田島村ヨリ上
流ノ堤塘改修工事ヲ施行シ住民救濟ノ實
ヲ擧ケラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衛文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
戰公傷病死者竝傷痍軍人ノ遺族扶助料
ニ關スル件
石川縣金澤市玉川町三十九番地士族
葦名磐外三十五名呈出
名古屋市中區南鍛冶屋町三丁目十五
番地士族鈴木富吉外三百三十九名呈
出
秋田縣南秋田郡寺内町八橋字八橋農
石川聖一外二百二十七名呈出
北海道紋別郡瀧上村平民石立芳太郞
外三十名呈出
東京市澁谷區豐分町一番地無職國光
侃呈出
島根縣邑智郡市木村九百十三番地農
高木藤吉外十六名呈出
秋田縣雄勝郡横堀町寺澤字本〓百十
九番地商半田好松外十六名呈出
東京市淺草區藏前三丁目十四番地六
平民澤田新三郞呈出
右ノ請願ハ戰死者、公傷病死者及戰公傷
痍者ノ遺族ニシテ生活上窮境ニ陷レル者
アルハ國民思想涵養上甚遺憾ナルニ依リ
其ノ扶助料ヲ增額シ以テ其ノ生活ヲ安定
セシムルト共ニ恩給法實施以前死亡ノ戰
公傷者ニ對シ死亡當時同一戶籍內ニ在リ
タル寡婦ニモ亦扶助料ヲ支給セラレ且傷
病年金受給者竝戰地ニ於ケル公務傷病者
ヲ優遇セラルル等請願人等所案ノ如ク恩
給法ヲ改正セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册
及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
紀勢鐵道速成ニ關スル件
和歌山縣東牟婁郡宇久井村長字佐川
輝一外二十一名呈出
右ノ請願ハ紀勢線鐵道ヲ全通シ就中其ノ
中間線及西線ヲ速成セシムルハ沿線地方
ニ於ケル豐富ナル海陸資源ノ開發上須要
ナルニ拘ラス爾來之カ繰延ノ厄ニ遭フコ
ト一再ナラサルハ國防上妨觀光上亦遺憾
甚シキニ依リ速ニ其ノ實現ヲ圖ラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
地方財政調整交付金制度設定ノ件
福島縣雙葉郡上岡村長山田六郞外一
名呈出
石川縣鳳至郡大屋村長小家榮八郞呈
出
福島縣西白河郡白河町長關根庫三外
十三名呈出
靑森縣下北郡脇野澤村長川岸謙吉外
三名呈出
靜岡縣加茂郡松崎町長依田四郞呈出
群馬縣吾妻郡長野原町群馬縣町村長
會吾妻郡副支部長淺井國三郞外一名
呈出
福井縣足羽郡社村種池農業坪川信一
呈出
右ノ請願ハ地方財政ノ緩和ヲ圖リ國民負
擔ノ均衡ヲ保持スルハ當ニ刻下當面ノ喫
緊要務タルヲ確信スルヲ以テ地方自治體
ノ財政力ト稅源分布ノ實情ニ鑑ミ速ニ地
方財政調整交付金制度ヲ設定セラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衛文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
愛知縣南設樂郡海老町ニ區裁判所出張
所設置ノ件
愛知縣南設樂郡海老町長加藤耕一郞
外十一名呈出
右ノ請願ハ愛知縣南設樂郡海老町ハ同郡
ノ北端ニ位スル要衝ニシテ近時鐵道ノ開
通ニ伴ヒ登記事務激增セルニ拘ラス管轄
田日登記所ハ距離遠ク住民ノ不利不便尠
カラサルニ依リ同町、鳳來寺村、作手村
ノ一部及北設樂郡段嶺村ヲ管轄區域トス
ル區裁判所出張所ヲ同町ニ設置セラレタ
ク尙其ノ敷地竝廳舍ハ地元町ヨリ安價ニ
提供スヘシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
矢島線鐵道速成ノ件
秋田縣由利郡矢島町矢島二十三番地
士族土田正作外百二十三名呈出
右ノ請願ハ秋田縣由利郡東瀧澤村前〓ヨ
リ同郡矢島町ニ至ル未成線鐵道矢島線鐵
道ハ沿線地方ニ於ケル豐富ナル資源ヲ開
發スルノミナラス運輸交通上亦須要ノ線
路ナルニ依リ之カ建設起工ハ昭和十二年
度ノ豫定ヲ繰上ケ速ニ著手シ以テ同地方
ニ於ケル冷害凶作ノ救濟ニモ資セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
北海道江差、瀨棚間鐵道敷設ノ件
北海道久遠那久遠村大字湯尻村字湯
尻九番地漁業稻船權兵衞外千九百八
十名呈出
右ノ請願ハ未成線鐵道江差線鐵道ノ江差
町ヨリ瀨棚線鐵道瀨棚驛ニ至ル鐵道ハ沿線
地方ニ於ケル豐富ナル農產、林產及鑛產ノ
資源ヲ開發スルノミナラス殊ニ漁業ノ發展
ニ資スル所多ク且國防上亦重要ナルニ依
リ之ヲ鐵道敷設法別表ニ編入シ速ニ敷設
セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
內閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
函館驛改築ノ件
北海道函館市長坂本森一外四名呈出
右ノ請願ハ北海道函館驛ハ同道ニ於ケル
拓殖事業ト函館市トノ著シキ進展ニ伴ヒ
貨客ノ呑吐逐年激增セルニ拘ラス同驛ノ
設備不完全ニシテ四圍ノ情勢ニ順應セサ
ルハ產業竝運輸交通上甚遺憾ナルニ依リ
速ニ之カ增改築ヲ企圖セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別冊及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
函館港修築ニ關スル件
北海道函館市長坂本森一外四名呈出
右ノ請願ハ北海道函館港ハ貿易港トシテ
重要使命ヲ有スルノミナラス北洋開發ノ
策源地トシテ亦港勢頓ニ進展セルニ拘ラ
ス曩ニ著手セラレタル同道第二期拓殖計
畫ニ基ク同港ノ修築ハ爾來其ノ工程進捗
セス爲ニ出入船舶ノ不便尠カラサルハ產
業竝交易上甚遺憾ナルニ依リ速ニ之カ完成
ヲ期セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿
意見書案
臘虎〓肭獸ノ獵獲解禁ノ件
北海道函館市長坂本森一外四名呈出
右ノ請願ハ曩ニ四國協約ノ結果北洋ニ於
ケル獵虎、膃肭獸ノ海上獵獲ハ海驢、海
豹等ト共ニ禁止以來其ノ蕃殖ニ十分ナル
條約所定ノ期間ヲ滿了シ尙相當ノ日子ヲ
經過セルニ拘ラス未解禁セラレス爲ニ斯
業者ハ復職ノ機ヲ得ス加之海田ヲ之等海
獸ノ荒掠ニ委スルハ甚遺憾ナルニ依リ速
ニ之カ解禁ノ對策ヲ講セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別冊及送付候也
昭和十年月日
貴族院議長公爵近衞文麿
内閣總理大臣岡田啓介殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=63
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064・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 全部委員長ノ
報告通リ、採擇スルコトニ御異議ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=64
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065・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=65
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066・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程ハ是ニテ
終了イタシマシタ、次會ノ議事日程ハ決定
次第、彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日
ハ是ニテ散會イタシマス
午後零時三十三分散會
貴族院議事速記錄第十四號正誤
頁段行誤正
一四四三三〇海軍海運
〃〃三一-三二樂觀達觀
〃〃三四海軍海運
四七〃三〇海運海軍
〃〃三購求供給
〃一四二三借出
四八ー條件謬貸見出
一五〇一二六三種祭祀
五一四三臣等眞ノ
〃〃九方氣萬氣
一五二三一四-一五「スパルタカス」タックス」「スル
〃〃一九ヲ伴フニサン
〃〃二六宣傳人宣傳陣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006703242X01619350313&spkNum=66
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