1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案（審査終了のものを除く）
民事訴訟法中改正法律案（政府提出）
陪審法中改正法律案（一松定吉君外四名提出）
司法代書人法中改正法律案（斯波貞吉君提出）
司法代書人法中改正法律案（立川平君外二名提出）
司法代書人法中改正法律案（野田文一郎君提出）
民事訴訟法中改正法律案（風見章君提出）
民事訴訟法中改正法律案（竹下文隆君提出）
民事訴訟法中改正法律案（牧野良三君外九名提出）
農家食糧差押禁止法案（杉山元治郎君提出）
小作法案（杉山元治郎君提出）
私生子の名稱に關する法律案（一松定吉君外六名提出）
家事調停法案（星島二郎君外四名提出）
家事調停法案（中村三之丞君外二名提出）
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會議
昭和十年三月十八日（月曜日）午後一時五十分開議
出席委員左の如し
委員長 原惣兵衞君
理事 米田規矩馬君 理事 高橋義次君
金井正夫君 立川平君
藤田若水君 一松定吉君
杉山元治郎君 風見章君
八並武治君
出席政府委員左の如し
大藏書記官 松隈秀雄君
司法政務次官 原夫次郎君
司法省民事局長 大森洪太君
農林省農務局長 小濱八彌君
本日の會議に上りたる議案左の如し
民事訴訟法中改正法律案（政府提出）発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=0
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001・原惣兵衞
○原委員長 ソレデハ是カラ開會致シマ
ス、民事訴訟法中改正法律案ヲ議題ト致シ
マス、一昨日カラノ引續イテノ質疑ニ移リ
マス-風見章君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=1
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002・風見章
○風見委員 此民事訴訟法中改正法律案ガ
此委員會ニ上程サレタ時ニ何ガ故ニ三箇月
ニ限定サレタカ、ソレヲ說明スル資料ニ關
シテ當局ニ要求シテ置イタノデアリマス
ガ、マダ手許ニハ參ッテ居リマセヌケレド
モ、政府委員カラモウ日ニチモ無イコトデ
アリマスカラ、別ニ玆ニ正式ニ書類ヲ作製
スル必要ハナイノデアリマス、出來ルダケ
明ニ其事情ヲ御說明願ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=2
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003・小濱八彌
○小濱政府委員 先日風見サンカラ、〓料
差押禁止ノ範圍ヲ三箇月ニ決メタコトニ付
テ、的確ナル根據ヲ示スベキ資料ノ提出ヲ
委員長ヲ通ジテ御要求ニナリマシタノデア
リマスガ、ソレニ的確ニ當ルモノトハ思ヒマ
セヌデシタガ、ソレノ御參考ノ一端ニモト
思ヒマシテ、昭和六年度ノ農家經濟調査書
ヲ御手許ニ差上ゲタ譯デゴザイマス、御承
知ノ通リ我國ノ農家ハ其經營ノ規模ガ洵ニ
小サイノデアリマス、主トシテ家族ノ勞働
ニ依ッテ農家ノ經營ガ維持サレテ居ル狀態
デゴザイマス、デ農業經營ノ實體ニ付テ之
ヲ見マスル時ニ、其規模ハ色々違ッテ居リマ
シテ、米麥作ノ單一經營ヲヤッテ居ル農家モ
相當ゴザイマス、サウ云フヤウナ米麥作ノ
單一經營ヲヤッテ居リマスル農家ニ於キマ
シテハ、收入ノ機會ガ年ニ一囘カ二囘カニ
限ラレルト云フコトニナルノデゴザイマス
ガ、サウ云フ經營ヲヤッテ居リマス農家ハ、
耕作ノ面積ガ多イトハ申シマセヌケレド
モ、他ノ農家ニ比較致シマシテ、比較的耕
作面積ヲ廣ク耕作致シテ居リマスルヤウナ
模樣デゴザイマシテ、我國ノ農家ノ中デハ
ソレハ相當ニ大キイ方ニ屬スル者カト思ハ
レルノデゴザイマス、其他ノ農家ニ於キマ
シテハ、資本ガ小サクテ、十分ノ經營、十
分ノ勞力ヲ使ヒマスルダケノ面積ヲ耕作
スルコトガ出來マセヌノデ、勢ヒ色々ナ副
業ヲ農業經營ノ中ニ採容レテ居ルノデゴザ
イマス、或ハ園藝デゴザイマストカ、養畜
デゴザイマストカ、其他色々ナ加工ノ副業
モゴザイマス、更ニ他ニ雇ハレマシテ勞
賃ヲ得ルト云フヤウナコトモコザイマス、
デ大正十年カラ農務局デ各府縣ノ農家ノ中
流ノ者ヲ狙ッテ、府縣農會ヲシテ、農家ニ收
支ノ計算ヲ記帳ヲサセマシテ、農家ノ經濟
ノ實體ヲ調ベタイト云フノデ調ベテ居リマ
スノガゴザイマス、其數ガ少イノデ、全國
ノ農家ヲ之ニ依ッテ律スルト云フ譯ニ參リ
マセヌガ、大體ノ見當ガ付キ得ルカト思ヒ
マス、ソレニ依ッテ見マシテモ、農家ノ中デ
小サイモノ程、收入ノ時期ガ年一囘二囘ト
云フ風ニ限ラレナイデ、色々ノ收入ガ隨時
ニアルト云フ風ナ狀態ニナッテ居ルノデゴ
ザイマス、デ民事訴訟法ノ改正ニ際シマシ
テ、色々考慮ヲ致シマシタノデゴザイマス
ガ、ソレヲ數字的ニ現ハスベキ的確ナルモ
ノハ-數字ノ上デハ之ヲ統計的ニ現ハス
ト云フ譯ニハ參リマセヌデシタケレドモ、
一ツ一ツノ農家ノ收支ヲ記帳シテ居リマス
ル表ヲ繰ッテ見マスルト、小サイモノ程、主
作物ニ依ッテノ收入ノ外ニ、副業的收入、勞
賃收入ト云フヤウナモノガ分散シテ收入ヲ
サレテ居ル狀況ニアルト考ヘラレルノデ
アリマス、ソレデ次ノ收穫マデト云フ風ニ
農家ノ持ッテ居リマスル食料ノ差押ヲ一箇
年分禁止ヲスルト云フコトヲ遣ラナクテモ
宜クハナイカト云フ風ニ考ヘタノデゴザイ
マス、然ラバ之ヲ三箇月トシタノハドウ云
フ譯カト云フコトニナルノデゴザイマス
ガ、農家ノ經濟ノ實體ヲ見マシテ、先ヅ大
體出來秋ニ債權者カラ差押ヲ受ケルト云フ
コトヲ豫想シテ考ヘテ見マシテ、三箇月
分位食料ヲ取ッテ置キマスレバ其間ニ色々
ノ副業的收入、勞賃ニ依ル收入ト云フ風ナ
モノデ大體ガ行ケルノデハナイカト云フ風
ナ見當ガ付イタノデゴザイマス、ソレデ今
囘ノ改正ニ當ッテ、先ヅ三箇月分ノ食料ヲ
差押得ナイト云フコトニシテ置ケバ、大體
宜クハナイダラウカ、併シ固ヨリ農家ノ經
濟ノ狀態ハ色々違ヒマスノデゴザイマスカ
ラ、必ズシモ是デ總テサウ云フ風ニ行クト
云フコトニハナラヌト思ヒマスガ、特殊ノ
狀態ニアリマスル農家ニ付キマシテハ、五
百七十條ノ二ノ規定ニ依リマシテ、其實體
ニ卽シテ其都度裁判所ノ方デ認定ヲシテ貰
フト云フコトニナレバ、先ヅ大體宜クハ
ナイダラウカト云フ風ニ考ヘマシタ譯デ
アリマス、數字的ニ現ハスベキ的確ナ材
料ハゴザイマセヌケレドモ、農家ノ經濟ノ
實體ヲ見マシテ、大體三箇月分位ノ食料ノ
禁止ヲヤッテ置クコトニ依ッテ農家ヲ著シク
困窮ノ狀態ニ陷ラセルト云フコトカラ救ヒ
得ルノデハナイカト云フ風ニ見當ヲ付ケマ
シタヤウナ譯デアリマス、以上御答致シマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=3
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004・風見章
○風見委員 大體政府當局ガ三箇月ト決定
シタル理由ニ關シテ、政府ノ考方ガドウデ
アルカト云フコトニ關シテハ能ク分リマシ
タ、政府ノ考方ハ其通リ分リマシタガ、玆
デ實ハ此委員會ニハ政友會ノ諸君カラ一年
間差押禁止ノ法案ガ出テ居リマスルシ、杉
山君カラモ出テ居ル、私共カラモ出シタ、
私共ハ何故サウ云フ風ナ案ヲ出シタカト云
フコトヲ明ニシテ置ク必要モアリマスル
シ、隨テ政府ノ今ノ考方ニ對シ、モット私
ハ突進ンデ考ヘテ置ク必要ガアルダラウト
思フノデアリマス、大體此法案ヲ政府ヲシ
テ提出セシムルニ至ッタ經緯ヲ考ヘテ見マ
スルト、此差押禁止ニ關スル法案ハ、私モ
關係シテ居ッタノデアリマスガ、昭和七年八
月開會ノ議會ニ初メテ提出サレ、其後議會
每ニ提出サレ、昨年ハ衆議院ハ多數デ可決
シタ、是ガ貴族院ノ方ニ〓ッテ、貴族院ノ方
デハ此審議ニ當ッテ委員會ガ設ケラレテ審
議シテ居ッタノデアリマスガ、審議中途ニシ
テ昨年三月二十五日貴族院ノ此法案審査ニ
當ッタ特別委員ノ諸君ガ率先者トナッテ、農
業者ノ窮狀緩和ニ關スル決議案ヲ貴族院ニ
提出シタ、此決議案ハ政府ハ次ノ議會ニ於
テ我ガ國農業者ノ窮狀ヲ緩和スル爲メ必要
ナル法律案ヲ提出スベシ、右決議スト斯ウ
云フ決議案デアリマスガ、此決議案ノ說明
ニ當ッタ渡邊千冬子爵ハ斯ウ說明シテ居リ
やく、大體其意味ヲ申シマスルト、衆議院
ヨリ〓付ノ此重大法案ノ審議ヲ熱心ニ續ケ
テ居ルガ、此法案ノ期待スル目的ニ共鳴ス
ル餘リ
〔原委員長退席、米田委員長代理著席〕
時機ヲ失センコトヲ惧レ、民事訴訟法ノ改
正法律案ノ特別委員一同ガ率先者トナリ此
決議案ヲ提出シタ、斯ウ云フコトニナッタ
ノデアリマス、貴族院ノ此決議ニ對シテ當
時齋藤內閣デアリマシタガ、貴族院ノ期待
ニ副フヤウニシテ、此次ニサウ云フ法案ヲ
提出シタイ、斯ウ云フコトニナッタ結果、今
期議會ニ本案ノ提出ヲ見ルニ至ッタノデア
リマスガ、大體政府當局ニ於テモ、此現在ノ
民事訴訟法ハ隨分古イ制定デアッテ軈テ大
改正ヲ行ハントスル考デアルシ、隨テ又必
ズ大改正ガ行ハルベキ時機ニ際會シテ居ル
ノダ、サウ云フ時ニ當ッテ此點ダケヲ特ニ
出サナケレバナラナカッタト云フコトハ、申
スマデモナク背後ニ非常ナ農村ノ窮迫ノ事
情ガ差迫ッテ來テ、此改正ヲ待ッテ居ラレナ
イ、斯ウ云フ情勢ガ此法案ヲ出サシムルニ
至ッタノダ、ソレヂヤ何故サウ云フヤウニ大
改正ヲ前ニシテ特ニ今日此改正ダケ出サナ
クチヤナラナイヤウナ情勢ニ差迫マラレタ
カト申シマスレバ、農民ガ負債ニ關シテ支
拂ガ出來ナイ、斯ウ云フ前途ニ對スル不安、
同時ニサウ云フヤウナ不安ガアリマスカラ、
農村ノ農業者ニ對スル債權者ノ壓力ガ自然
加ッテ來テ、非常ニ農業者ハ窮狀ニ陷ッタノダ、
斯ウ云フ經緯ガソコニアルノデアリマス、大
體此法案ハサウ云フヤウナ情勢ノ爲ニ、農
業者ガ非常ニ困ッテ來タ、ソコデ負債問題ニ
關シテ特ニ何トカシテ貰ハナケレバヤリ切
レナイ、斯ウ云フ情勢ノ壓力ニ依ッテ此法
案ハ遂ニサウ云フ大改正ヲ前ニシテ、特
此條文ダケデモ直サウト云フ決意ヲ政府ニ
ナサシメタ、大體此法案ニ依ッテ農民ノ窮狀
ヲ緩和スル、斯ウ云フコトデ問題ニナッテ來
タ、然ルニ今度ノ議會デ政府ハ農民其他、
斯ウ云フ譯デ其他マデモ含ンデ一ツノ民事
訴訟法改正法律案ヲ出シタ、農民ガ困ルノ
ダ、併シ又同ジヤウニ困ルモノガ他ニモア
ルノダ、農民ノ窮狀ヲ救フ以上ハ他ノモノ
ノ窮狀モ救ッテヤリタイ、是ハ當然ノコトデ
アッテ、此農民ノ要求ガ遂ニ當局ヲ動カシ
テ、農民ニ關スル法案バカリデナシニ、農
民以外ノ其他ノモノニ關シテモ之ヲ救フノ
途ヲ講ジヨウト云フコトニナッタ、是ハ惡イ
コトデハ無論ナイノデアッテ、決シテ其點ヲ
惡イト言フノデハナイノデアリマスケレド
モ、唯サウ云フ經緯ヲ以テ來タニ拘ラズ、
此際農業者其他ノモノ、斯ウ一束ニシテシ
マッタ、斯ウ考ヘテ來タ時ニ、私ハ此法案ニ
對スル大體現内閣ノ考方ガ非常ニ混同シテ
居ルノデハナイカ、何トナレバ農業者其他
ト斯ウ言フガ、農業者トソレカラ此法文ニ
依ッテ示サレル其他トハ果シテドウ云フ境
涯ドウ云フ經濟的地位ニ置カレルノデア
ルカ、斯ウ考ヘテ來タ時ニ、農業者ハ農業
者獨特ノ經濟的境遇ニ置カレテ居ルカラ、
已ムヲ得ズ斯ウ云フコトヲ政府ニ要求スル
ニ至ッタノダ、斯ウ考ヘテ來タ場合ニ私共ハ
農業者其他ト云ッテ均衡ヲ得ルト云フ考方
ハ、全ク違ッタ境涯ノモノヲ同ジ境涯トシテ
考ヘタト云フ錯誤ニ陷ッタ結果、サウ云フコ
トニナッテ來タノデハナイカ、ソコデサウ云
フ錯誤ノ結果三箇月ト云フコトヲ他ノモノ
トノ均衡ト云フコトデ考ヘテ來タノデハナ
イカ、均衡ヲ計ラルベキ一一ツノモノガアッテ、
其二ツノ間ニ均衡ヲ計ルト云フコトハ是ハ
勿論差支ナイノデアリマスケレドモ、全ク
違ッタ立場ノモノニ對シテ其二ツノ間ノ均
衡ヲ計ルト云フコトニナッテ來ルト、玆ニ吾
吾ハ色々ノ疑問ト又考方ノ間違ヲ疑ハザル
ヲ得ナイコトニナッテ來ルノダ、成程大體先
刻私共ガ聞カサレタヤウナ理由デ三箇月ニ
決定シタノダ、斯ウ言ヒマスケレドモ、ソ
コニ至ッテ或ル程度ノ數字的根據等ニ付テ
ハ、如何ニモ尤ラシク考ヘラレナイコトハ
ナイノデアリマスケレドモ、併シ假ニ米作
若クハ麥作ノ單一經營ノ農家ニ於テハドウ
デアルカ、是ガ一年間ノ食料ヲ差押へナイ
ゾト云フ安心ヲ與ヘルコトニ依ッテ、初メテ
安心ヲ持チ得ルカ、三箇月間デ是等ノモノ
ガ安心ヲ持チ得ルカト言ヘバ、申スマデモ
ナク生活ノ安定ハ、オ前ニハ玆ニ二年分ノ
食料ヲ用意シタカラ宜イヂヤナイカ、是ハ
安定デハナイノデアッテ、御互ニ生活ノ前途
ヲ考ヘタ時ニ、現在ノ三度ノ飯ヲ二度ニシ
テモ、若クハ此一年間ハ〓フヤ食ハズノ生
活ニ居ッテモ、將來ニ於テ前途ガ開ケ、妻子
ニ對シテモソレ程心配ヲ掛ケズニ置カレル
デアラウト云フコトガ、是ガ生活ノ安定デ
アッテ、決シテ物其物ガ眼ノ前ニアルカナイ
カト云フコトガ生活ノ安定ダケヂヤナイ、
斯ウ云フ風ニ考ヘテ來タ時分ニ、吾々ガ農
民ノ生活安定ト云フコトヲ考ヘル時分ニ、
三箇月間ダケシカ差押へラレナイノダ、斯
ウ云フコトヨリモ、最惡ノ場合ニ於テモ
年間ハ差押へラレナイカラ、其間ハ仕事ヲ
シテモ宜イノダ、斯ウ云フコトニ依ッテ初メ
テ生活ノ安定ト云フモノガ、ソコニ御互ノ
氣持ニ生レテ來ルノダ、或ハ一年間ト云フ
ヤウナコトニナレバ金融ノ途ガ止ッテシマ
フダラウ、或ハ金ヲ貸シ手ガナクナッテシマ
フダラウ、或ハ農民ガ拂フベキ金ヲ拂ハナ
イデ橫著シヤシナイカ、斯ウ云フヤウナ心
配ガアルカノ如ク、此法案ニ關シテハ屢〓世
間デ取沙汰サレタノデアリマスガ、斯ウ
云フ考方ハ貧シキ者ノ生活ニ關スル理解
ガナイカラサウ言フノデアッテ、貧乏人デア
レバアル程、其人ノ生活ハ信用以外ニ持ッテ
行ク途ハナイノダ、隨テ借リタ金ハ返サナ
イト云フコトニナレバ信用ガ破壞サレル、
信用ガ破壞サレヽバ縋ル所ガナイノデアリ
マスカラ、ソコデ無理ヲシテマデモ、娘ヲ
賣リ伜ヲ外ニ出シテマデモ借金ダケハ拂ッ
テ行カウ、斯ウ云フコトニナルノガ貧シキ
者ノ心理狀態デス、隨テ斯ウ云フ法案ガ生
レタカラト云ッテソコニ横著ナ氣持ガ起ル
トカ、或ハ借リタ金ハ返サナイヤウナ氣持
ニナルデアラウト云フヤウナ、ソンナ事ハ
ナイノデアリマスカラ、此法案ガ出タ所ガ
横著ナ氣持ニナル筈モナシ、同時ニ又金ヲ
返サナイ事ニナッテジマフダラウト云フ心配
モナイ、サウ云フヤウニ考ヘルノハ貧乏人、
貧シキ者ノ生活ガドウデアルカヲ知ラナイ
カラデアッテ、貧シキ者ハ借リレバ損ダ、損ダ
ト思ッテモ仕方ガナイカラ借リルノダ、サウ
シテ借リテ一遍返サナカッタナラバ再ビ借
リルコトガ出來ナイカラ返ス、無理ヲシテ
マデモ返ス、ソレヲ繰返スノガ貧乏人デス、
ソレヲ繰返シテ居ッテモ、是ガ平常ノ狀態ナ
ラバ別問題デアリマスケレドモ、此一九三
一世界恐慌ガ始ッテ以來、特ニ我國へ押寄セ
テ來タ農業恐慌、サウ云フヤウナコトノ爲
ニ農民ノ生活ガ甚シク壓迫サレテ、罷リ間
違ヘバ此曾テ背負ッタ債務ノ爲ニ一年間ノ
食料スラモ有ツコトガ出來ナイヤウナ事ニ
ナッテシマヤシナイカ、一番大切ナ信用ヲ破
壞スルヤウナ事ニナッテシマフノデハナイ
カ、ソコマデ押詰メラレタ時ニ、玆ニ一年
間ダケハ食ハシテヤル、差押ヘナイ、斯ウ
云フコトガアレバ其法律ニ依ッテ拂ハナイ
ト云フ氣持デハナイケレドモ、最惡ノ場合
ニ關スル國家ノ救濟ガソコニ見エルカラ、
ソコデ初メテ不安ナガラモ一道ノ安定ヲ求
メツヽ生キテ行ケルノダ、斯ウ云フ氣持デ
行ケル所ニ生活安定ヲ與へ、同時ニ生活ガ
安定シタト云フ氣持ニナルノデアルカラ、
斯ウ云フ氣持カラ考ヘレバ私ハ三箇月ト云
フ決定ヨリハ眞ニ農民ノコトヲ考ヘタナラ
バ一年間ト云フヤウニ規定シテ置クコト
ガ農民ノ爲ニ却テ親切デアリ、ソレガ農民
ノ要求スル所ニシックリ適合スルノダト思
ヒマス、先程ノ政府當局ノ說明デハ何ガ故
ニ此法案ガ斯ノ如ク重大性ヲ帶ビテ來タ
カ、隨テ最近ニ於ケル農業恐慌ノ經過ト、
經過ニ鑑ミタル農民生活ノ前途、斯ウ云フ
コトマデモ考慮シタトハドウシテモ思ハレ
ナイ、苟モ一ツノ法律ヲ作ル以上ハサウ云
フ大キイ立場カラ考ヘテ法案ヲ決定スルノ
ガ當然デアリ、サウ云フ考方カラ言ヘバ、
私共ハドウモ只今ノ政府ノ說明ニ於テハ納
得シ兼ネルノデアッテ寧ロ吾々ノ主張スル
如ク一年間ト決定スル方ガ當然デハナイ
カ、殊ニ負債問題ノ如キハ大體借リタ金ヲ
返サヌナント云フコトハ普通カラ言ヘバ勿
論宜シクナイコトデアルシ、借リタ方ノ者
ハ返ス爲ニ有ユル努力ヲスル、是ガ當然ナ
ノデアル、ソレガ當然デアルケレドモ其當
然ノコトヲ行ヒ得ナイ現在ノ情勢ガ如何ニ
深刻ナモノデアルカト云フコトハ、私五·一
五事件直後ノ臨時議會ニ於テ政府貸付金ノ
三箇年据置ニ關スル請願ヲ、當時衆議院ノ
請願委員會ニ提出シテ是ガ衆議院ニ於テ採
擇サレ、是ガ後ノ救農臨時議會ノ召集ニ
至ラシメル口火ヲナシタコトデアッタノ
デアリマスガ、當時ニ於テハ是ハ決シ
テ公ナル團體ノ要求デハナカッタ、一般
農民ノ間ニ漠然トシテ起ッタ一ツノ要求ガ
請願運動トナッテ起ッタノデアリマスガ、爾
來同ジ情勢ガ段々深刻化シツヽアルコト
ハ、今年ノ一月二十七日第二囘全國產業組
合長會議ニ於テ斯ウ云フ決議ヲシタ、「現下
經濟界ノ情勢ニ鑑ミ凶作風水害及窮乏養蠶
地方ニ於ケル產業組合ニ供給セラレタル各
種低利資金ノ中間据置(三箇年据置)ヲ認メ
ラルヽヤウ政府ニ要望ス」昭和七年度ニ於
テ農民カラ當時貸付金ニ關スル緩和ノ要求
ガ議會ニ反映サレタノデアリマスガ、其後
負債調停法ガ出來タリ、色々ナコトガアッ
テモ、而モ尙ホ一般ノ農民ノ間ニ負債ガ益〓
重壓トナリ、彼等ヲ脅カスト云フコトノ
實際ノ證據ハ、全國產業組合長會議ヲシテ
今年ノ春斯ノ如キ決議ヲ公ニ行ハシムルニ
至ッタ事情カラ見マシテモ、吾々ハ認メナケ
レバナラヌ、斯ウ云フヤウナ社會的背景ノ
下ニ今日ノ農村ガ置カレテ居ル時ニ、個々
ノ生活ノ狀態ガ斯ウデアッテ、其中ノ此邊ノ
部分ハ此位デアルカラ、此位デ宜イデハナ
イカト云フ理由ノミニ依ッテ、此法案ヲ特ニ
出スト云フコトデハ、ドウモ私ニハ三箇月
決定ノ理由ハ十分ニ呑込ミ得ナイ、寧ロ此
法案ノ如キハ、今ノヤウナ深刻化シ行ク農
業恐慌、此農業恐慌ニ依ッテ指示サルヽ經
濟情勢ノ變革ノ道程、斯ウ云フヤウナコト
ヲ考ヘテ來テ、斯ノ如キ情勢ノ下ニ置カル
ル農民ノ前途ニ對シテ彼等ニ安心ヲ與ヘ
ル、斯ウ云フ立場ニ於テ考ヘタ方法ハ斯ウ
斯ウダト云フナラバ納得出來ル、サウ云フ
點ニ於テ私共ニ政府當局ガ說明シテ吳レナ
イコトヲ私共ハ非常ニ遺憾ニ考ヘル、是ハ
農務局長ヤ民事局長ニ御伺シタノデハ少シ
筋違デ、御答辯ニ困ラレルカモ知レナイ
ガ
〔米田委員長代理退席、原委員長著席〕
政府當局ハ果シテ今ノ說明ノ外ニ此三箇月
ト云フコトヲ決定スルニ當ッテ、只今私ガ
申上ゲタ如ク、農業ヲ載セテ居ル所ノ現在
ノ情勢、其情勢ノ前途ニ對スル見透シ、斯
ウ云フ立場カラ此三箇月決定ニ至ッタカド
ウカ、サウ云フ點モ考慮シタカドウカト云
フコトヲ質問ヲシテ見タイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=4
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005・小濱八彌
○小濱政府委員 私カラ御答致シマシテ、
果シテ御滿足ヲ得ルカドウカ、多分御滿足
ヲ得ナイコトダラウト思ヒマスガ、農村ノ
經濟狀態ガ甚ダ窮迫シテ居ルコトニ付キマ
シテハ、農務當局ト致シマシテモ、認識致
シテ居ル積リデアリマス、差當ッテ農家ノ
生活ノ最小限度ニ於テ生活ノ安定ヲ期スル
方法トシテ、民事訴訟法ノ改正ニ據ラウト
云フ場合ニ、根本的ノ改正ヲ俟タズシテ差
當リ此程度ノモノヲ先ニヤルコトガ今日ノ
情勢ニ於テ必要デアリハシナイカト云フコ
トデ出シマシタヤウナ譯デ、農村ノ經濟ノ
實體ニ付テ根本的ニ窮迫シタル狀態ニアル
ト云フコトニ付テハ決シテ考ヘナイ譯デハ
アリマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=5
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006・風見章
○風見委員 是ハ無論農務局長トシテハ答
辯シ兼ルコトデアリマセウガ、農業政策ノ
樹立ニ當リ、勿論吾々ハ農業ノ前途、隨テ
現在進行シツヽアル恐慌ノ見透シ、サウ云
フコトニ關シテモ深ク考ヘナケレバナラヌ
コトデアル、併シ是等ノコトハ政策決定ノ
根本認識ニ關スルコトデアリ、恐ラク現内
閣ノ何人ヨリモ農務局長ノ方ガ其點ニ於テ
ハ正シイ認識ヲ有ッテ居ラレマセウガ、其認
識ヲ農務局長ヲシテ言ハシムルコトハ私ノ
方ガ無理デアルカラ、此點ニ關スル質問ハ
此程度デ打切ッテ置キマス、更ニ農務局長ハ
御忙シイサウデスカラ、ソレデハ宜シウゴ
ザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=6
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007・原惣兵衞
○原委員長 他ニ農務局長ニ質疑者ハアリ
マセヌカ
〔「アリマセヌ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=7
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008・風見章
○風見委員 私ハ玆ニ一寸注意ヲ促シテ置
キタイコトハ此間此法案ニ關シテ、債務者
ノ利益ヲ擁護スルト同時ニ、債權者ノ立場
モ擁護シナケレバナラナイ、斯ウ云フヤウ
ナコトハ司法大臣カ、或ハ大森局長カヾ言
ハレタヤウニ思フノデアリマスガ、此農民
ノ食糧問題ニ關スル法律案ノ提出ニ關スル
限リニ於テ、債權者ノ利益ヲ勿論考慮スル
コトハ惡イトハ私ハ言ヒマセヌケレドモ、
單ニ債權者ノ利益ヲ擁護シナケレバナラヌ
ト云フ法律技術論的ナ氣持ニ於テ、此法案
ヲ問題ニサレルナラバ、私ハソレハ非常ナ
間違ダト思フ、大體斯ウ云フヤウニ此法案
ヲ必要トスルニ至ッタ事情ハ、前刻モ申上ゲ
タ如ク、大正四年以來農產物價ガ非常ナ暴
落ヲ致シテ來タ、是ガ爲ニ金錢經濟タル今
日ノ狀態ニ於テハ、札ノ値ガ大變上ッテ來タ、
ソレガ爲ニ曾テソレガ低イ時ニ借リタ金モ
同ジ額面價デ拂ハナケレバナラヌト云フコ
トノ爲ニ、非常ナ困難ナ場合ニ立至ッテ來タ
ノデアリマス、債權者カラ申セバ、古イ借金
ヲ今日同ジ額面デ取ルト云フコトハ大變ナ
利益ニナルト思フ、法律的技術カラ言ヘバ、
ソンナコトハ考ヘテ居ラレヌ、ドウモサウ
云フコト迄致シテ居レバ切リハナイカラ、
唯規定サレタ法文ニ依ッテ其儘行フノダ、斯
ウ云フ考方ガアリ得ルカモ知レマセヌケレ
ドモ、實際一ツノ法案ヲ決定スル場合ニハ、
後ノ解釋ハ別問題トシテ、サウ云フヤウナ
氣持デ考ヘタンデハ、私ハ法律ヲシテ眞ニ
國民生活其モノタラシムルコトハ出來ナイ
ノダ、一ツノ法ヲ決定スル場合ニハ、サウ
云フヤウナ場合ニ於テ、今日舊イ債權ヲ要
求スル者ハ、非常ナ有利ナ地位ニ立ッテ居
ルノダ、隨テ此場合債務者ニ斯ク〓〓ノ
利益ヲ與ヘテモ、債權者ハサウ損シナイ、斯
樣ナ社會的見地カラモ法案ヲ考ヘテ出サナ
ケレバ非常ナ間違ヲ來シ、法其モノヲシテ
却テ實效ヲ失ハシムル、デアリマスカラ是
ハ注意ヲ促スノデアリマスガ、今日ノヤウ
ニ所謂激動ノ中ヲ行ク世界ノ情勢デアッテ、
如何ナル者モ自己ノ生活ニ關シ極メテ敏感
ニナッテ居ルシ、寧ロ神經質ニナッテ居ッテ、
隨テ又世ノ中ノ流レ、世ノ中ノ情勢ニ關シ
テモ、相當ナ注意ヲ拂フヤウニナッテ來タ
時ニ、一ツノ法案ヲ決定スルニ當リ、單二
債權者ノ利益、債務者ノ利益、兩方巧クス
ル、斯ウ云フヤウナ簡單ナ氣持デ一ツノ法
案ヲ決定スベキデハナク、斯ウ云フ世ノ中
ノ非常ナ變動期ニ際シ、債權者ガドレ程有
利ナ地位ニ置カレテ居ルカ、債務者ガ如何
ニ不利ナ地位ニ置カレテ居ルカ、其不利ナ
地位ニ置カレテ來レバコソ、斯ウ云フヤウ
ナ法案ヲ決定スルコトガ必要ナンデアリマ
スカラ、斯ウ云フ法ノ決定ヲ考ヘルニ當ッテ
干、債權者、債務者ヲ、唯簡單ニ二ツ竝ベ
テ其均衡ヲ、得ルヤウナ輕卒ナル考方ニ於
テ、此法案ヲ考ヘラレナイコトニ付テ、私
ハ一言注意ヲシテ置キマス、曾テ我國ノ議
會ニ於テ大正十年デアリマスカ、家產法案
ト云フモノガ衆議院ヲ通過シタモノデア
ル、是ハ一面カラ言ヘバ農業者財產保護
法案トモ謂フベキモノデアッテ、亞米利加邊
リデ曾テアッタ、「ホームステッド·ロー」邊リ
ヲ眞似タ、斯ウモ言ハレタノデアリマスガ、
私ハ實際ノ狀態ハ知リマセヌガ、斯ウ云フ
法案ガ曾テ衆議院ヲ通過シタコトガアル、
恐ラク今後此民事訴訟法中改正法律案ヲ提
出シナケレバナラナカッタ情勢、提出スルニ
至ッタ事情、竝ニ此法案ヲ提出セシメタル情
勢ノ將來ノ進展ト云フコトヲ考ヘテ行ッタ
場合ニ、農民ノ財產ヲ保護スル、詰リ農民世
襲財產法、斯ウ云ッタヤウナモノガ或ハ問題
ニナルコトガアリハシナイカト思フ、此第
四十五議會ニ今ノ家產法案ガ提出サレタ時
ニ、司法當局デハサウ云フコトモアリマス
カラ、海外ニ人ヲ派シテサウ云フ問題ニ關
シテモ折角〓究中デアル、斯ウ云フヤウナ
答辯ヲシタコトガアルノデアリマスガ、現
在司法當局ハ斯ウ云フヤウナ法案ニ關シ、
何カ考ヘテ居ルコトガアルカ、或ハ用意シ
タコトガアルカ、此點ヲ一寸司法當局ニ伺
ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=8
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009・大森洪太
○大森政府委員 只今ノ御發言ノ中、其前
段ノ適切ナル御注意ハ、有難ク諒承スルノ
デアリマス、唯敢テ辯解スル次第デハアリ
マセヌ、此法案ハ民事訴訟法ノ改正トシテ
提出ヲ致シタノデアリマス、民事訴訟法ノ
强制執行ニ關スル問題デアリマスルガ、債
務者竝ニ債權者ノ兩方ノ關係モ十分注意シ
ナケレバナラナイカト思フノデアリマス、サ
ウ云フ次第デ債權者側ノ點モ考慮シタコト
ハ確ニ事實デアリマス、而シテ是ハ一時的
ノ便法デハナイ積リデゴザイマシテ、永久法
ノ積リデアリマスカラ、矢張其關係ニ於テ
モ兩方面ノ考慮ヲ必要トスルモノデアルト
考ヘテ居タ次第デアリマス、尙ホ後段ノ家
產法ノ問題デアリマスルガ、此點ニ付キマ
シテハ、從來司法當局ト致シマシテモ、十
分ニ考慮ハ致シテ居ルノデアリマス、只今
御言及ニナリマシタ外國ノ事例調査等モ、
每年派遣サレマスル海外派遣員ヲシテ、調
査致サセテ居リマシテ、其實情モ多少ハ心
得テ居ル積リデアリマス、現ニ家產法制定
ト云フコトヲ決シテ斷念シタ次第デハアリ
マセヌケレドモ、家產法制定ト云フコトニ
付テハ、非常ナ考慮ヲ要スルノデアリマシ
テ、今日成案ヲ得テ居ル、或ハ得ツヽアル
ト云フコトノ程度ニハ達シテ居リマセヌ、
唯併シ只今申述ベラレマシタ趣旨ニ付テ、
家產法其モノノ制定ハ或ハ出來ナイト致シ
マシテモ、家產法的要素ト申シマスカ、其
考ヲ酌入シテ、切メテ此强制ノ差押禁止ノ
問題ヲ相當ニ緩和スルノガ適當デアラウト
云フ考ハ有ッテ居リマス、併シソレヲドノ程
度ニ緩和スルト云フコトハ此問題ヲ離レテ
ハマダ決定ヲ致シテ居リマセヌ、尙ホ先程
御發言中ニモ其事ヲ述べラレタノデアリマ
スルガ、强制執行法ノ全般ノ改正ト云フコ
トハ只今著々トシテ調査ヲシテ居ルノデア
リマス、唯其調査完了ヲ待ッテ居リマシテ
ハ、本問題ガ延ビマスル、又之ヲ延スコト
ヲ得ザル事情ハ先程來申述ベラレタ通リデ
アリマスルカラ、之ヲ先ヅ出シタノデアリ
マス、左樣ナ次第デアリマシテ强制執行ノ
改正ノコトニ付テハ家產法デナクトモ家產
法的色彩ヲ大ニ考慮斟酌シナケレバナラヌ
ト考ヘテ居ル次第デアリマス、是ダケ一應
御答ヲ申シテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=9
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010・風見章
○風見委員 時間モ非常ニ切迫致シテ居リ
マスカラ、大體質問ハ其程度ニシテ唯此處
デ一ツ伺ッテ置キタイコトハ、此法案中ニ何
ガ故ニ國稅徵收法中改正法律案ヲ出サズニ
後ヘクッ付ケタカ、此點ニ關シテ色々問題ガ
アルヤウデアリマスルカラ、其點ヲ伺ヒタ
イト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=10
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011・大森洪太
○大森政府委員 只今ノ御質問ニ對シテ、
或ハ筋違カモ分リマセヌガ、便宜上私カラ
御答ヲ致シタイト思ヒマス、御承知ノ通リ
ニ國稅徵收法ノ現行規定ノ第十六條ノ第二
號ニ差押フルコトヲ得ラレヌ物件トシテ
「滯納者及其ノ同居家族ニ必要ナル一箇月
間ノ食料及薪炭」斯樣ニ揭ゲラレテ居リマ
シテ、偶〓是ガ現行民事訴訟法第五百七十
條第一項第二號ト其實質ヲ同ジクシテ居ル
ノデアリマス、而シテ此民事訴訟法ノ方ヲ
本案ノ如ク改正致シマスルト、矢張權衡上
只今申述ベマシタ國稅徵收法第十六條第二
號モ一箇月ヲ三箇月ニスルト云フノガ相當
デアラウト思フノデアリマス、其實質ガ是
認セラレマスナラバ、次ニ來タル問題ハ是
ハ立法技術ト申シマスルカ、寧ロ體裁ノ問
題デアリマス、國稅徵收法ヲ單獨ニ別法律
トシテ改正ヲ致シマスルカ、或ハ此民事訴
訟法中改正法律案ノ附則ニ付ケルカ、此二
者何レカヲ撰ブト云フ問題ニ立至ルノデア
リマス、ソレデマア便法ト申シマスルカ、
關係省協議ノ上デ此民事訴訟法中改正法律
案ノ附則ニ之ヲクッ付ケルト云フコトニ致
シタノデアリマス、成程チヨイト考ヘテ見
マスルト體裁ハ甚ダ惡イノデアリマス、決
シテ望マシクナイ形式デアリマス、ケレド
モ斯樣ナ例ハ無クハナイノデアリマシテ、必
シモ適例トハ申サレナイカモ知レマセヌケ
レドモ、例ヘテ申シマスト破產法ノ附則ニ
商法ノ規定ヲ改正シタコトモアルノデアリ
マス、又和議法ノ附則ニ民法ノ規定ヲ改正
シタコトモアリマス、マア左様ナ先例モア
リマスルシ、實質ハドチラニ致シマツテモ
相違ノナイコトデアリマスルカラ、簡單ニ
一ツノ法律デ二ツノ事項ヲ解決ヲ致シタ次
第デアリマス、形式上甚ダ面白クナイ、望
マシクナイト言ハレヽバソレマデデアリマ
ス、私共モ決シテ模範的ナ適當ナ形ダトハ
考ヘテ居リマセヌ、偶〓事柄ガ同一事項デ
アリマスルカラ事ノ序ニ附則ニ挿入シタ、
斯ウ云フ次第デアリマス、其趣旨ニ御諒承
ヲ願フ次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=11
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012・松隈秀雄
○松隈政府委員 大藏省ト致シマシテハ、
只今司法省民事局長ノ御述ニナッタト同樣
ニ考ヘテ居リマス、左樣御承知置ヲ願ヒマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=12
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013・風見章
○風見委員 此點ニ關スル質問ハマア今ノ
大森局長ノ答辯ヲ承リマスガ、是ダケハ注
意ヲ促シテ置キマス、斯ノ如キ法ノ改正ヲ
附則トシテ致スガ如キコトハ大體マア少シ
大袈裟ニ言ヘバ、議會ノ審議權ヲ蔑ロニス
ル傾ガアル、斯ウ云フヤウナ非難ガアルコ
トヲ耳ニシマスカラ、此場合日ニチモナイ
コトデアリマスルシ、ソレハソレデ承ッテ置
キマスルケレドモ、將來ニ於テハ斯ウ云フ
コトヲナサラヌ方ガ宜イダラウ、斯ウ云フ
要求ガアッチコッチニ漲ッテ居ルコトダケハ政
府當局ニ注意ヲ促シテ置キマス、デ私質問
ヲ打切リマスガ、打切ルニ當ッテ一言附加
ヘテ置キタイコトハ、今モ大森局長カラ實
ハ今度此法ヲ條文ダケノ改正案ヲ出シタケ
レドモ、大體此條文ハ後ニ來ルベキ大改正
ノ場合ニ於テモ其儘ニ其中ニ入ッテ行クベ
キモノダ、永久的ナ性質ノモノダ、斯ウ云
フ話デアッタカラ、特ニ私此場合注意シテ置
キタイコトハ、最近ノ世界ノ情勢ハ、殊
司法省ニ居ッテモ各方面ノ知識ノ該博ヲ以
テ知ラレル大森局長デアリマスカラ、無論
私ガ指摘スル迄モアリマスマイガ、前刻申
シタ如ク所謂激動ノ中ヲ行クヤウナ世ノ中
デアッテ、變化ガ非常ニ急速デアル、昨年ニ
ハ今年ノ情勢ヲ豫測シ得ナカッタ程ニ變化
ハ急ダ、ソコデ農業問題ニ關スル限リニ於
テ見マシテモ、特ニ其問題カラ考ヘテ見ル
場合ニ、吾々ハ未來ノ見透シニ於テ今マデ
トハ全ク違ッタ角度カラ考ヘテ行カナケレバ
ナラナイヤウナ情勢ガ犇々ト差迫リツヽア
ル、例ヘバ米國ノ農業恐慌ヲ見マシテモ、
吾々ハ今度ノ農業恐慌ニ於テ簡單ナル過去
ニ繰返サレタル如キ農業恐慌ト解釋スベキ
デハナイ、マア大雜把ニ說明スレバ「トラ
クター」ヲヤル、若クハ「コンバイン」ノ發
明.之ノ使用範圍ノ擴大、之ニ依ル生產方
法ノ變化、寧ロ斯ウ云フ點カラ考ヘテ見マ
スルト、人類ノ世界農業初マッテ以來、未ダ
曾テ見ザル農業生產革命ガ米國ニ於テ進行
ヲ開始シタノダト、斯ウ私共ハ解釋スベキ
ダラウト思フ、此農業生產革命タルヤ十八
世紀末年カラ行ハレタル所謂產業革命ニモ
匹敵スベキ重大ナル變革ヲ世ノ中ニ持來タ
サウトスルノデアリマスルシ、歐米ニ於テ
モ勿論サウ云フ傾向ハ自ラ見得ルガ、亞細
亞殊ニ東洋、支那ヤ日本ノ如キ所ニ於テハ
所謂亞細亞式生產方法デアッテ、歐米ノソレ
トハ幾多生產ノ仕方ガ異ッテ居リマスルケ
レドモ、今日ノ如キ世界ノ情勢ノ下ニアッテ、
地球上ノ距離ハ甚シク短縮サレ、一層短縮
サレントスル傾向ガアル、隔地間ニ於ケル
經濟依存關係ハ、全ク過去ニ於テ見ラレザ
ル程度ニマデ色々ナ變化ヲ遂ゲツヽアル今
日、產業革命ガ嘗テ歐羅巴ノミデナシニ亞
細亞ニモ其波ヲ押寄セテ來タ如ク、此農業
生產革命トモ稱スベキ歐米ニ於ケル全ク新
シイ情勢ノ進展、此進展ハ其進度ガ非常ニ
早イノデアリマス、是モ亦究極ニ於キマシ
テ、此情勢ガ東洋日本ニ影響シナイトハ誰
カ言フコトガ出來ルカ、勿論種々ナル重大
ナ影響ヲ及シテ來ルニ相違ナイ、是等ノ變
化ガ日本乃至東洋ニ於テドウ云フ新シイ情
勢ヲ來スカニ關シテハ、今日未ダ容易ニ見
透シハ出來マセヌケレドモ、重大ナル影響
ガ必ズ來ルデアラウコトダケハ、想像ニ難
クナイ、ノミナラズ確定的ト言ッテ宜シイ、
サウ云フヤウナ情勢デアルノデアリマスカ
ラ、今日斯ウダト決メタコトガ來年ニ於テ
果シテ適當スルヤ否ヤハ斷言出來ナイ程ノ
變化ノ道程ニアルノデアリマス、隨テ民事
訴訟法ニ關シ軈テ大改正ヲ行フ場合ニ於テ
ハ、今日旣ニ之ヲ行ッタカラ此儘デ先ヅ當分
宜イデハナイカ、他ノ均衡ニ於テ斯ウダ、
斯ウ云フヤウナ考方デ將來ヲ推サルヽコト
ナシニ、農業ニ關スル部面ニ於テ、此部面
ニ於テコソ特ニ見ル生產革命ノ如キ重大ナ
ル歷史ノ流レガ新シク始マッタ、斯ウ云フコ
トヲ頭ニ置カレテ、農業者ハ農業者獨得ノ
經濟的地位ノ上ニ置カレ、經濟的境遇ノ中
ニ織込マレテ、而モ私ガ前日資料ヲ要求ス
ル際ニ申上ゲタ如ク、日本ノ農業竝ニ農業
者ノ現在ノ有樣ヲ仔細ニ分析解剖シテ到達
スベキ結論ハ、農業者ヲ他ノ商業者「サラ
リーマン」一般勞働者ト同一ノ型ニ置イテ
律スベキモノデモナシ、律セラルベキモノ
デモナイ、斯ウ云フ狀態ニ置カレテ居ルノ
デアリマスカラ、將來ニ對シ此法案ヲ軈テ
大改正ヲ行ヒ、法律トシテ決定サルベキ時
ニ於テモ、今日三箇月ニ決メタト云フコト
ニ囚ハレズニ、今後ニ於ケル農業獨特ノ世
界情勢ノ變化ニ應ジ、此變化ノ中ニアッテ
我國ノ農民ガ前途ニ對シ安心ヲ持チ得ルヤ
ウナ立法ヲナサレンコトヲ、特ニ私希望シ
テ質問ヲ終ルコトニ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=13
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014・大森洪太
○大森政府委員 御懇切ナ御注意ヲ感謝致
シマス、先程私ガ是ガ永久法ト申シマシタ
趣旨ハ、詰リ實施期間ヲ豫メ或ル何年間ト
極メテ、其以後ハ實施シナイト云フ法律デ
ハナイ、斯樣ナ意味デ申上ゲタノデアリマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=14
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015・金井正夫
○金井委員 此法律案ニ對シテハ、マア時
勢ニ適合シタ法律案ト思ッテ居リマス、寧ロ
其提案ノ遲カリシヲ遺憾トスル者デアリマ
スガ、唯茲ニ一言御伺ヲ致シタイト思フノデ
アリマス、ソレハ民事訴訟法六百十八條ノ
第二項ニアリマス三百圓云々ト云フ點デア
リマス、此民事訴訟法ハ明治二十三年ノ四
月カラ御制定ニナッテ居ルヤウデアリマス
ガ、此時代ト違ッテ今日ニ於テハ非常ニ物價
ガ騰貴致シテ、隨テ俸給者ニ於テモ其俸給
ガ非常ニ增加ヲ致シテ居ルノデアリマス、
恐ラク此民事訴訟法制定ノ當時ハ、三圓或
ハ五圓デ十分ニ生活ガ維持シテ行ケル時代
デハナカッタラウカト考ヘマスガ、御承知ノ
通リ今日ニ於テハ學生ヲ〓育スルノニ於テ
モ普通ナラバ四五十圓モナケレバ出來ナイ
ト云フ狀態ニナッテ居ルノデアリマス、此法
律御制定ノ趣旨ハ卽チ俸給者ノ家族ヲ路頭
ニ迷ハシテハイケナイト云フヤウナ御趣旨
ニ出テ居ルト思フノデアリマスガ、今ノヤ
ウナ唯三百圓ダケニ限定シテ、其以上ノモ
ノヲ半額宛ヲ差押ガ出來ルト云フコトニナ
リマスト、其俸給ガ多ケレバ多イ程今日ニ
於テハ非常ニ此條文ニ於テ極メテ不利益ヲ
受ケルト云フヤウナコトニナリハシナイ
カ、隨テ相當ナ俸給者ノ所謂體面或ハ家族
ヲ路頭ニ迷ハサナケレバナラヌト云フヤウ
ナコトニ相成リハシナイカト云フヤウニ考
ヘテ居ルノデアリマス、デアルカラシテ今
日ノ時勢ニ矢張適合スル意味ニ於テハ此點
モヤハリ多少考慮ヲ拂ハレテ、サウシテ金
額ノ增加ト云フコトニ致サレタラドウカト
思フノデアリマス、今ノ農家救濟ノ意味ニ
於テ農家食料差押禁止法案ニ對シテモ、杉
山君、風見君カラモ三箇月デハ非常ニ物足
リナイ、又一般今日農村ニ於テ要求シテ居
ルノハ少クトモ一箇年ノ食料差押禁止ヲ叫
ンデ居ルノデアリマス、デアリマスカラ、
今日俸給生活者ノ俸給ヲ三百圓以上、モウ
少シ增額シマスト共ニ、農家食料差押禁止
法ニ對シテモ、一年ソコ〓〓ニセラレルト
云フヤウナコトハ、最モ至當デハナイカト
思ヒマスノデ、特ニ六百十八條ニ對シテノ
政府當局ノ御意見ヲ承リタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=15
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016・大森洪太
○大森政府委員 第六百十八條第二項ニ關
スル御說ハ極メテ御尤ダト思フノデアリマ
ス、御承知ノ通リニ、此法律ハ明治二十四年
カラ實施サレタ法律デアリマシテ、今日ノ
情勢ニハ適シナイモノト云フコトニ付テハ
全ク御同感デアリマス、唯之ヲ改正致シマ
スルノハ、來ルベキ强制執行法一般ノ改正
ノ時ニ讓ッテ戴キタイノデアリマシテ、今日
ハ先程モ風見委員カラモ申サレマシタ通リ
ニ、現下窮迫ノ問題ヲ改正スルダケノ法律
案デアリマシテ、ソレ等ノ事項ニ直接關係
ノアリマスルコトニ付テハ、此際一般的改
正マデ待ッテ戴キタイト思フノデアリマス、
サウ致シマセヌト種々權衡上雜多ナ問題ガ
起リマシテ、此法案自身ノ提出困難ナル虞
モアリマスカラ、今日ハ其必要ナル限度ニ
止メタ、斯樣ニ御諒承ヲ願ヒタイノデアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=16
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017・金井正夫
○金井委員 政府ノ御所見御尤ダト思ヒマ
スガ、何卒此次ノ改正ニ當リマシテハ色々
ノ點ニ付テ御〓究ナリ、又他ノ振合モ御考
ニナッテ改正セラレンコトヲ玆ニ希望致ス
ノデアリマス
特ニ此機會ニ於テ私ハ和議法ノ改正ノ點
ニ付テ一點御伺ヲ致シタイト思ヒマス、此
和議法ノ改正ニ付テハ、去ル六十四議會ダ
ト記憶致シマスガ、長島民事局長ノ時代デ
アリマス、此時ニ私ハ政府ニ對シテ質問ヲ
致シテ居ルノデアリマスガ、其質問ニ對シ
テハ種々ノ點ニ亙ッテ御伺ヲ致シテ居リマ
ス、先ヅ第一其和議法實施後ノ此實績ヲド
ウ政府トシテハ見テ居ラレルカ、ソレカラ
和議法ノ改正ニ對シテ、政府トシテハ如何
ナル御考ヲ御有チニナッテ居ラレルカト云
フヤウナ點ヲ御尋致シタノデアリマス、ソ
レニ對シテ政府トシテハ、和議法ハ其實施
後ノ實績ニ於テハ餘リ良好デハナイト考ヘ
テ居ル、又改正ノ法ニ付テモ目下〓究中デ
アルト云フコトヲ御答辯ニナッテ居ルノデ
アリマス、此點ニ付テハ昨年ノ辯護士會長
竝ニ司法官合同會議ニ於テモ非常ニ論議セ
ラレテ、只今ノ破產法ガ非常ニ實施後成績
ガ擧ラナイト云フコトヲ、是ハ世間一般
ニ於テ、又吾々法曹界ニ於テモ認メラレ
テ居ルノデアリマス、所ガ其後未ダニ此
改正ニ對シテ何等議會ニ現レナイノヲ私
ハ遺憾トシテ居ルノデアリマス、別ニ私
カラ改正法案ニ對シテ提案致シタイトモ
思ヒマスガ、併シ政府ニ於テ之ニ對シテ十
分ノ御注意ヲ御有チニナッテ改正シテ行カ
ウト云フ御意思デアルナラバ、敢テ吾々カ
ラ出ス必要モナイト思ヒマシテ、實ハ其機
會ヲ待ッテ居ルヤウナ次第デアリマス、唯コ
コデ一言申上ゲタイノハ、和議ガ認可サレ
マシテ、其結果和議條件ニ於テ所定ノ通リ
履行セラレテナイ、殆ド和議法ガ一度認可
セラレルト債務者ハ恰モ債務ヲ切棄テタ、
放棄サレタヤウナ感ジヲ有チマシテ、此和
議ノ實施ニ對シテ熱心デナイ、是ガ抑モ今
日ノ和議法ノ不評判ヲ來シテ居ル原因デア
ルト思フノデアリマス、ソレト云フノハ、
和議ガ認可ニナリマスト、先ヅ第一吾々ノ
考トシテハ、裁判所ニ於テ其實施ニ付テ何
カ監督方法ヲ御設ケニナル、今ノヤウニ和
議認可ニナリマスト、債權者、債務者委セ
ニヤリッ放シテ居ル、是ガ今日ノ實績ノ擧
ラヌ第一點ダト思フノデアリマス、第二點
ハ一度和議ヲ認可シマスト、是ガ幾ラ債務
者ノ方ニ於テ返濟ヲセナカッタカラト云ウ
テ、取消ス方法ガ非常ニ至難デアリマス、
和議法ノ第六十四條、六十三條ニ於テ其規
定ヲ致シテ居リマス、是ハ破產法ニ於ケル
强制和議モ同樣デアリマスガ、和議法ニ付
テ之ヲ申シマスト、詐欺破產罪ニ該當スル
行爲ヲ爲シタト云フ場合、是ガ六十三條デ
アリマス、六十四條ハ屆出債權者ノ過半數
竝ニ其額ニ於テ四分ノ三ト云フ同意ヲ得タ
場合デナケレバ取消ガ出來ナイ、斯ウナッテ
居ルノデアリマス、此頭數ニ於テ過半數、
債權額ノ四分ノ三ノ同意ヲ得ルト云フコト
ニ付テハ和議ガ認可ニナル場合ニ於ケル條
件ト同一デアリマスガ、認可ノ場合ニ於テ
ハ債務者カラ各債權者ニ向ッテ四分ノ三ノ
同意ヲ得ルト云フコトハ、皆條文ノ相手方
ガ當事者間デアリマスカラ四分ノ三ノ同意
ヲ得ルト云フコトハ至難デアルト思ヒマ
ス、所ガ反對ニ債權者カラ同ジ債權者ノ四
分三ノ同意ヲ得テ其取消ヲ裁判所ニ申出ル
ト云フコトハ是ハ言ヒ易クシテ殆ド實際不
可能デアリマス、吾々ガ裁判所ニ於テ實際
ニ取扱ッテ見マシテモ、恐ラク斯ウ云フ事案
ハ殆ドナイ、唯一件アッタヤウデアリマス
ガ、是ハ非常ニ債務者ガ惡辣ナヤリ方ヲヤッ
タ爲ニ債權者ハ新聞ニ廣告ヲスルトカ色
色ノ手段ヲ講ジテ其四分ノ三ノ同意ヲ集メ
タト聽イテ居リマス、殆ド其一件以外ニハ
此條文ニ依ッテ和議ノ取消ガ成立シタ事件
ハ恐ラクアルマイト私ナドハ考ヘテ居ル次
第デアリマスカラ、斯ウ云フ今ノヤウナ和
議ガ認可セラレルト、絕對ニ和議ト云フモ
ノハ取消ニナラナイ、サウ云フヤウナ安全地
帶、詰リ避難所ニ追込マレテ居ルノダカラ
債務者ガ非常ニ好イ氣ニナッテ來テ、モウ其
債務ハ放棄シテ貰ッタノト同ジコトデアル、
辨濟スル必要ハナイ、斯ウ云フヤウナ惡イ
考ヲ有ッテ居リマス爲ニ、恐ラク和議法ナド
ノ實績ガ擧ラナイト考ヘテ居ルノデアリマ
スカラ、特ニ此點ヲ御注意ヲ下サレテ、今
度ノ改正ニ對シテハ是非トモ提案セラレ
ルヤウニ希望致シタイト思ヒマス、恐ラク
此叫ビハ裁判所內ハ勿論又辯護士間ニ於テ
モ亦債權者ニ於テモ同ジヤウナ考ヲ有ッテ
居ルコトヽ思ッテ居ルノデアリマス、所ガ最
近ノ例ヲ見マスルト、ドウモ和議ノ實績ガ
擧ラナイ、其爲ニ眞面目ナ債務者ガ和議ヲ
申立テヽモドウモ實績ガ擧ラナイカラシ
テ、折角和議ヲ認可サレテモ仕樣ナイヂヤ
ナイカト云フヤウナ考ガアルカラシテ、餘
リ之ヲ認可シナイヤウナ方針ヲ御執リナッ
テ居ルヤウナコトヲ聞イテ居リマスガ、ド
ウカソレ等ノ點ヲ御考ニナッテ、折角出來タ
和議法デアリマスカラ、圓滑ニ行クヤウニ
御努力アランコトヲ希望致シテ置キタイト
思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=17
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018・大森洪太
○大森政府委員 只今御話ニナリマシタ和
議法ニ不備ノ點ノ存スルコト、和議實施ノ
成績ガ甚ダ望マシクナイ、特ニ和議履行ノ
成績ニ付テ憂慮スベキコトガアル等、總テ
同感デアリマス、唯ソレガ爲ニ和議ノ認可
ヲ差控ヘテ居ルト云フコトニ付テハ、多少
御話ノ點ニ御同意ガ出來ナイカトモ思ヒマ
スルガ、其他ノ點ニ付テハ總テ吾々ト其感
ヲ一ニスルノデアリマス、隨テ私共ト致シ
マシテハ、和議法ノ改正ト云フコトハ、非
常ニ必要ナコトヽ考ヘテ居ルノデアリマ
ス、唯〓和議法ノ改正ヲ致スト致シマシテ
ハ、勢ヒ破產法ニモ手ヲ染メル必要ガアリ
マスシ、相當重要ナ問題デアリマス、併シ
如何ニ重要ナ、如何ニ困難ナ問題デアルト
致シマシテモ、決シテ差措ケナイ問題デア
ルト云フコトハ從來旣ニ考ヘテ居ッタノデ
アリマシテ、現ニ司法省內ニ於テ商法ノ總
則ト會社法ノ改正ノ準備ニ著手ヲ致シテ居
リマス、現ニ立案ヲ致シツヽアルノデアリ
マスガ、其際ニ和議法トノ牽聯ヲ考ヘテ見
マシテ、和議法ノ不備不完全ト云フコトヲ
痛切ニ考ヘタノデアリマス、隨テ是ハ出來
得ル限リ急速ニ改正ノ準備ヲシナケレバナ
ラナイト只今思ッテ居リマス、唯〓併ナガラ
直チニ改正ヌベキ法案、而モ現ニ改正ニ著
手シテ居リマスル相當重要ナル法案ガ二三
アリマスガ爲ニ、此次ノ議會ニ必ズ提出ス
ルト云フコトハ御約束ハ出來マセヌケレド
モ、急速ニ此改正ニ著手シタイト思ッテ居
リマスルコト、而シテ之ヲ成ベク早ク實現
致シマスルコト、是ダケハ明確ニ此處デ申
上ゲテ置イテ宜シイト思フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=18
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019・原惣兵衞
○原委員長 質疑ハモウアリマセヌカ-
ナケレバ質疑ヲ打切リマシテ宜シウゴザイ
マスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=19
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020・原惣兵衞
○原委員長 ソレデハ本案ニ對スル質疑ハ
終結致シマシタ、本案ノ討論ハ明日ノ午後
一時ト云フコトニ致シテ置キマシテ、本日
ハ是デ散會致シマス
午後三時二分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006711420X01619350318&spkNum=20
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