1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和十年一月二十九日(火曜日)
午後一時二十八分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第七號
昭和十年一月二十九日
午後一時開議
第一 臨時利得税法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 日本銀行納付金法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 國際文化事業に關する經費支辨に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第四 造幣局の廳舍、工場其の他の用に供する建物及其の附屬設備の新營費に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第五 東京高等農林學校及函館高等水産學校の創設に伴ふ帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會計の關渉に關する法律案(政府提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━
一 國務大臣の演説に對する質疑 (前會の續)
━━━━━━━━━━━━━
〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一議員より提出せられたる議案左の如し
産師法案
提出者
土屋清三郎君 青木亮貫君
斯波貞吉君 一松定吉君
(以上一月二十六日提出)
度量衡法中改正法律案
提出者
東武君 山口義一君
八田宗吉君 福井甚三君
度量衡法中改正法律案
提出者
荒川五郎君 牧山耕藏君
川淵洽馬君 内藤正剛君
本田彌市郎君 山本厚三君
佐藤與一君 福田關次郎君
一松定吉君 松田竹千代君
青木亮貫君 斯波貞吉君
藤井啓一君 高田耘平君
度量衡法中改正法律案
提出者
山道襄一君 岸衞君
戸田由美君
(以上一月二十八日提出)
一去二十六日岡田内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
大藏書記官 大矢半次郎
大藏書記官 木内四郎
大藏書記官 入江昂
第六十七囘帝國議會大藏省所管事務政府委員被仰付
一去二十六日辭任したる常任委員左の如し
第七部選出建議委員 平川松太郎君
一去二十六日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第九部選出豫算委員 森峰一君
一去二十六日議長に於て選定したる委員左の如し
昭和十年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出)外一件委員
岡田忠彦君 田邊七六君
松村光三君 廣瀬爲久君
山田又司君 小笠原三九郎君
堀川美哉君 大口喜六君
太田正孝君 鷲野米太郎君
上田孝吉君 玉置吉之亟君
大山斐瑳麿君 森昇三郎君
森田福市君 綾部健太郎君
金光庸夫君 岡田喜久治君
山本厚三君 後藤亮一君
前田房之助君 小川郷太郎君
矢野庄太郎君 重松重治君
中村繼男君 伊豆富人君
亀井貫一郎君
一昨二十八日岡田内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
外務省通商局長 來栖三郎
外務省文化事業部長 岡田兼一
第六十七囘帝國議會外務省所管事務政府委員被仰付
一昨二十八日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を左の通變更せり
一五七 鈴木辰三郎君
一七二 三善信房君
一八四 野田俊作君
二三四 則井萬壽雄君
二三五 神奈川縣第三區選出議員
一昨二十八日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第七部選出
建議委員 眞鍋儀十君(平川松太郎君補闕)
第九部選出
豫算委員 由谷義治君(森峰一君補闕)
一昨二十八日委員長及理事互選の結果左の如し
昭和十年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出)外一件委員
委員長 岡田忠彦君
理事
松村光三君 鷲野米太郎君
岡田喜久治君 中村繼男君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=0
-
001・濱田國松
○議長(濱田國松君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リ致スコトガアリマス、松岡俊三
君病氣ニ付一月二十九日ヨリ二月七日マデ
請暇ノ申出ガアリマシタ、之ヲ許可スルニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=1
-
002・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ許可スルニ決シマシタ
此機會ニ於キマシテ、去ル二十二日工藤
鐵男君ヨリ議長ニ對シマシテ、議長ハ黨籍
ヲ離脫スルノ意思アリヤ否ヤト云フコトノ
御尋ガアリマシタ、今日之ニ對シテ御答ヲ
申上ゲタイト存ジマス、議長ハ工藤君ノ御
引用ニ相成リマシタ去ル五十議會ニ於キマ
シテ、正副議長ニ對シテ黨籍ヲ離脫スルコ
トヲ希望ストノ希望決議案ノ行ハレマシタ
當時ノ特殊ナル院內事情、之ヲ考察ヲ致シ
マシテ、第二ニハ議長自身ガ有ッテ居リマ
スル議會政治、卽チ政黨政治ニ關スル自己
ノ信念ニ於キマシテ、議長ハ黨籍ヲ離脫ス
ルノ必要ナシト決心ヲ致シマシタ(拍手)此
段御含ミヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=2
-
003・工藤鐵男
○工藤鐵男君 議長議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=3
-
004・濱田國松
○議長(濱田國松君) 工藤君、如何ナル種
類ノ御發言ノ御要求デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=4
-
005・工藤鐵男
○工藤鐵男君 只今ノ議長ノ信念竝ニ院內
事情ニ付テ重ネテ希望ガアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=5
-
006・濱田國松
○議長(濱田國松君) 議事ノ進行ニ非ザル
限リハ、適當ノ御發言ノ御要求トハ存ジマ
セヌガ、ドウ云フ手續デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=6
-
007・工藤鐵男
○工藤鐵男君 重要ナル議長ノ職責ニ關ス
ルコトデアリ、議事進行ニ取ッテハ極メテ重
大ナル點デアリマスカラ、之ヲ確メタイノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=7
-
008・濱田國松
○議長(濱田國松君) 議事進行トアラバ許
可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=8
-
009・工藤鐵男
○工藤鐵男君 當席ヨリ發言ヲ致サセテ戴
キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=9
-
010・濱田國松
○議長(濱田國松君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=10
-
011・工藤鐵男
○工藤鐵男君 議事ハ院內ノ當時ノ事情ト
今日ノ事情ト異ルモノアリト云フコトノ御
見解ノヤウデアリマス、勿論アノヤウナ事態
ヲ今日マデ繼續スルコトガ嫌デアリマスカ
ラ、前議長秋田〓君ノ發議ニ依ッテ、議會振
肅委員會ヲ拵ヘタノデアリマス、當時ノ事
情ト今日ト違フコトハ、確ニ前議長ガ議會
振肅ノ提案ヲ致シテ、委員會ニ於ケル所ノ
決定ハ出來ルダケ速ニ實行シヨウ、又實
行シタモノモアッタカラ、今日吾々ガ各自
反省ヲシテ玆ニ至ッタト云フコトハ私ハ承
認致シマス、然ラバ私ハ、敢テ議長ニ問
ヒマス、アナタハ絕對多數黨ノ有力者トシテ、
其黨ヲ代表シテ振肅委員會ニ席ヲ有シテ、
振肅委員會ノ決議ニ對シマシテハ、之ヲ實
現スル所ノ義務ヲ有シテ居リマス、振肅委
員會ハ何ト決定シテ居リマスカ、御忘レニ
ナッタコトヲ喚起ス爲ニ私ハ玆ニ朗讀致シ
マス、第一ニハ議長ノ權限ヲ擴大スルコト、
議長ノ權限ヲ擴大スル爲ニハ、議長其人ハ
眞ニ神ノ如キ心ヲ以テ議長ノ席ニ坐ラナケ
レバナリマセヌ、若シ其權限ヲ徒ニ擴大シ
テ、不公平ナル處置、不公平ト見ラレルヤ
ウナコトガアッテハ、議長ノ權限ハ暴君ノ如
キモノトナルノデアリマス、故ニ議長ノ權
限ヲ擴大スルコトモ決議致シマシタガ、同
時ニ議長ニ對シテノ要求モアルノデアリマ
ス、卽チ己レノ所屬黨派ヲ脫シマシテ、眞
ニ公平ト獨立ノ地位ニ立ッテ職務ヲ行ハシ
ムルト云フコトデアリマス、隨テ議長副議
長ノ地位ヲ高ムルト云フコトモ、第二ノ案
件トナッテ決議サレテ居リマス、宮中ニ於ケ
ル席次-總理大臣モ居リマスルカラ、此
點ハ篤ト御聽キヲ願ヒマス、議會政治ヲ尊
重スルト云フ現內閣ニ於テ、此議長ノ地位
ハ一地方長官ノ地位ニ及バザルコトガアル
ノデアリマス、故ニ吾々ハ立憲政治ノ有終
ノ美ヲ濟サンガ爲ニ、斯樣ナ點ニ注目ヲ致
シ、此議長ノ地位ヲ高ムル爲ニハ何人ニモ
讓ラナイノデアリマスカラ、宮中其他ニ於
テ一地方長官ニ及バザルガ如キ議長ノ地位
ト云フモノハ、議會ノ神聖、議會ノ權能ヲ
大ナラシムル所以デハナイト考ヘマスルガ
故ニ、斯樣ニ要求スルノデアリマス、宮中
ノ席次バカリデハナイノデアリマス、卽チ
選擧區ニ於テハ、議長ヲシテ選擧ヲ爭フ場
合ニ於テ、無競爭ノ地位ニ立タシメタイト
云フノモ其一ツデアリマス、又議長退職後ト
雖モ、優遇ノ途ヲ開クト云フノモ其一ツデ
アリマス、最後ニ議長副議長ノ就任シタ場
合ニ於キマシテハ、玆ニ其言葉ヲ其儘朗讀
致シマス、是ハ議會振肅要綱、濱田議長ガ
其委員トナッテ、最モ熱烈ニ主張シタ一ツデ
アリマス「議長副議長ハ次囘ノ總選擧ニ選擧
ヲ用ヰズシテ當選セシムルコトヽシ、且退
職後ニ在リテハ相當優遇ノ方法ヲ講スルト
共ニ、議長副議長ハ黨籍ヨリ離脫シ獨立公正
ヲ保持セシメムトス」ト云フノデアリマス、
アナタハ三十年間憲政ニ貢獻シタリト新聞
デ發表シテ、最後ノ御奉公ニ衆議院議長ト
シテアナタノ總決算ヲスルト言ウテ居リマ
ス、此黨籍ヲ離脫シテ議會ノ神聖ト、議長
ノ地位ヲ獨立公平ノ地位ニ置クト云フコト
ニ御考ニナラヌト云フコトハ、アナタノ立
憲政治ニ對スル信念ニ於テ私ハ疑ガアルノ
デアリマス(拍手)斯樣ナ點カラ考ヘマシテ、
過去ハ過去ト致シマシテ、アナタガ議長ニ
ナッテ、振肅委員會ノ席ニ列シマシテ、アナ
タノ御考ヲ以テ實行シ得ルモノスラモ、ア
ナタハ實行ナサラヌト云フコトデアルナラ
バ、何人カ議長ノ信念ニ對シテ疑ヲ挾マザ
ル者ガアリマセウカ、大ニアルノデアリマ
ス、私ハ二十二日以來、具サニアナタノ行
動ヲ見テ居リマス、一擧一動見テ居ルノデ
アリマス、頰杖ヲ突イテ發言者ニ忠告ヲ與ヘ
ル如キハ、議長ノ尊嚴ヲ害スルモノデアリ
マス(「ノー〓〓」「ヒヤ〓〓」)又先般議長ガ
私ニ注意ヲ喚起スルニ對シ、靑森縣何區選
出工藤鐵男君ト呼ンデ吳レタノデアリマス、
歐羅巴ノ例ニ於テハ、名譽アル場合ニ於テ
ハ選擧區ヲ紹介シマス、併ナガラ議長ノ職
權ヲ行フニ、斯ク吾輩ニ對シテスラ左樣ナ
コトヲ言フナラバ、恐ラク所屬黨派ノ人々
ニ對シテハ、左樣ナルコトガアルデアラウ
ト期待シテ居リマシタ、然ルニ先日ノ外務
大臣ノ發言ニ對シ、アナタノ所屬黨派ノ
幹部ハ恚キリ立ッテ、顏ヲ赤クシテ數分間
國務大臣ノ權能ヲ妨ゲタ事實ガアルノデ
アリマス、其時私ハ議席ヨリアナタニ
注意ヲ喚起シタノデアリマス、當時ノ
アナタノ形ハドウデアリマシタカ、頰
杖ヲ突イテ、政友會ノ議席ヲ見テ見ヌ振リ
ヲシテ、聞イテ聞カザル振リヲシテ、コッ
チノ方ニ顏ヲ向ケテ居ッタノデアリマスガ、
其時議長ハ正面ヲ向イテ議場ニ「靜肅ニ」、何
タル言葉デアリマスカ、サウ言ッタデセウ、
若シ吾輩ヲ議場ニ選擧區ヲ紹介シタナラバ、
福島縣何ノ誰、長崎縣何ノ誰ト云フコトヲ、
私ノ目ノ前ニ於テ御指示ナサルガ宜イ、黨
派ヲ離脫セザル感情ガ、アナタヲシテ不公
平ナル處置ヲ執ラシメタ、是ハ此一週間ノ
間ニ現ハレタ光景デアリマスカラ、斷ジテ
議長ノ信念ニ對シマシテハ承服出來ナイ、
卽チ振肅委員會ノ決議ニ對シマシテモ斯樣
ニ考ヘテ居リマスカラ、重ネテ議長ハ立憲
政治ノ爲ニ適當ナル考慮ヲ合セ考ヘラレン
コトヲ、特ニ注意ヲ喚起致シマス
(「答辯ノ要ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=11
-
012・濱田國松
○議長(濱田國松君) 是ヨリ日程ニ入リマ
ス、日程第一、臨時利得稅法案ノ第一讀會、
前會ノ續ヲ開キ、質疑ヲ繼續致シマス、通〓
順ニ依ッテ發言ヲ許シマス-中島彌團次君
第二臨時利得稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=12
-
013・中島彌團次
○中島彌團次君 私ハ只今提案サレマシタ
所ノ臨時利得稅ニ付キマシテ、總理大臣、
大藏大臣、商工大臣及陸軍大臣ニ向ッテ質
間致シテ見タイト考ヘル次第デアリマス、
此日本ノ今日ノ稅制ノ制度カラ考ヘテ見マ
シタナラバ、不勞利得ニ對シテ課稅スル所
ノ制度ハ極メテ貧弱デアリマシテ、僅カ相
續稅ト法人ノ超過所得稅ト、二ツアルバカ
シデアリマス、而シテ大正七年ヨリ實施サ
レマシタ所ノ戰時利得稅ガアリマシタケレ
ドモ、是ハ現在ノ超過所得稅ニ變形サレマ
シテ、此中ニ織込マレテ來マシタカラ、此
二ツノミガ不勞利得ニ對スル所ノ、日本ノ
現在ノ課稅制度デアリマス、顧ミテ見マス
ナラバ、現在ノ日本ノ國ニ在リマシテハ、
御承知ノ通リ資本主義經濟組織デアリマシ
テ、富メル者ハ益〓富、貧シキ者ハ益〓貧
シクナルト云フヤウナ狀態デアリマシテ、
殊ニ昨年ノ災害ガアッテ以來、農村ト都會
ニ於ケル所ノ富ノ權衡ハ、著シク破壞サレ
マシテ、一方ニ於キマシテハ軍需景氣、爲
替安ニ依ル所ノ輸出貿易ニ依ッテ利得ヲ得
タ所ノ人々、其外金山其他ノ鑛業ノ發展ニ
伴フヤウナ、斯ノ如キ所ノ景氣ニ依リマシ
テ、非常ニ利得ヲ得テ居ル者ガ他ノ一方ニ
アリマス、他ノ一方ニ於キマシテハ、其日
ノ生活ニ困ルヤウナ狀態デアリマシテ、斯
ノ如キ社會狀態ト云フモノハ、之ヲ革命的
手段ニ依ッテ是正スルト云フナラバ、別問
題デアリマスルケレドモ、立法的ノ手段ニ
依ルト云フコトニ致シマスナラバ、租稅制
度ニ依ッテ之ヲ、富ノ分配ノ平均ヲシテ行
クト云フコト、不公平ヲ直シテ行クト云フ
コトガ、私ハ最モ時宜ニ適スル所ノ手段デ
アルト云フコトヲ考ヘル次第デアリマス、
(拍手)加之是等ノ問題ニ付キマシテハ、啻
ニ現在ノ日本ノ國ニ於キマシテ、稅制ノ要
求バカシデハナク、卽チ稅制ニ依ッテ富ノ
分配ト云フコトヲ、公平ニシテ行クト云フ
コトノ理由バカシデモナク、一方ニ於キマ
シテハ赤字ガ益〓澤山出テ參リマシテ、此
議場ニ於キマシテモ屢、論ゼラレマシタ如ク
ニ、如何ニシテ公債ノ增發ヲ止メテ行クカ、
或ハ財源ヲ得テ行クカト云フコトハ、又公
債ノ將來ガドウ云フヤウニナッテ行クカト
云フコトニ付キマシテハ、屢〓此議場ニ於テ
モ論ゼラレマシタ所デアリマス、斯ノ如ク
歲入多々益〓辨ズル時ニ當リマシテ、本臨
時利得稅ヲ起スト云フコトニ付キマシテハ、
私共ハ雙手ヲ擧ゲテ贊成スル所ノ一人デ
アリマス、而シテ贊成スルト云フ所ノ理由
ハ何處ニ在ルカ、贊成スルニ致シマシテモ、政
府ガドウ云フ考ニ依ッテ之ヲ作ラレタノデアル
カ、又此稅率ノ盛リ方其他ノ點ニ付キマシテ、
政府ノヤリ方ガドンナ考ヲ有ットルカト云
フコトニ付キマシテハ、十分私共ハ質問ヲ
シテ行ッテ見タイ
今日ノ景氣ヲ考ヘテ見マスルト云フト、
屢〓中サレマシク如クニ、跛行的景氣デアリ
マス、卽チ軍需品、軍需工業ノ景氣、爲替
安ノ景氣、是等ノ景氣ガ主タルモノニナッテ
居リマスルガ、ドノ程度ニ於テ景氣ガ起ッテ
來テ居ルカ、ソコニ又ドレダケノ點ニ於テ
利得ガアルカト云フコトニ付テハ、是ハ詳
シク〓究シテ見ナケレバナラナイ、景氣ヲ
測定致シマスル所ノ係數カラ考ヘテ見マス
レバ、金利ノ點カラモ論ゼラレマス、通貨
ノ點カラモ論ゼラレマス、會社ノ資本ノ新
設增設計畫カラモ論ゼラレマス、東京取
引所ニ於ケル所ノ株式ノ取引高ニ依ッテモ
亦論ゼラレマス、手形交換高ニ依ッテモ論ゼ
ラレマス、爲替ノ點ニ於テモ論ゼラレマス、
是等ノ七點若クハ八點ニ互ル所ノ經濟界ノ
景氣ノ趨勢カラ達觀致シテ見マスナラバ、
昭和九年ノ景氣ハ何年前ニ於ケル所ノ景氣
ニ當ッテ居ルカト云フコトヲ考ヘテ見マシ
タナラバ、數字ノ上カラ見テ見マシタナラ
バ、大正六年ノ景氣ヨリモ餘程宜シクッテ、
大正七年ノ景氣ニ對シテハ少シ足ラナイト
云フヤウナ數字ノ點ニ落付イテ居ルノデア
リマス、併ナガラ是等ノ細カシイ點ニ付キ
マシテ申上ゲルト云フコトハ煩雜デアルカ
ラ、私ハ申上ゲマセヌガ、今申上ゲマシタ通
貨トカ、新設、增設、貿易、株式取引高、
手形交換高ト云フヤウナ是等ノ點カラ觀察
シテ見マスルト云フト、相當ニ昭和九年ノ
景氣ハ出テ參ッテ居リマス、殊ニ法人ノ所得
ニ至リマシテハ、昭和八年ハ十億ニ達セン
ト云フヤウナ狀態デアリマシテ、昭和七年
ノ八億ヨリモ更ニ二億ダケ多イヤウナ狀態
デアリマス、サウシテ一方カラ申上ゲマス
ナラバ、製造工業家ガドレ位ノ利得ヲ得テ
居ルカト申シマスナラバ、昭和五年及六年
ニ於キマシテハ、資本ニ對スル所ノ利〓ガ
僅ニ四分乃至五分ト云フヤウナ程度デアリ
マシタガ、昭和九年ノ下半期ノ統計ヲ見テ
見マスナラバ、此統計ハ或ル大手筋カラ手
ニ入レマシタ極メテ正確ナル統計デアリマ
スルガ、製造工業デハ資本ニ對スル利益率
ガ、約一割五分ニナッテ居リマス、全產業ヲ
平均致シマスナラバ、一割七厘ト云フヤウ
ナ程度ニナッテ居リマシテ、本稅ヲ課ケラレ
ル所ノ核心ガ何處ニアルカト言ッタナラバ、
此製造工業デアリマスト、製造工業ハ一割
五分ノ資本ニ對スル收益率デアリマスルカ
ラ、昭和五年若クハ六年ニ對シマシテハ、
約三倍ダケノ收益率ガアルト言ウテ宜シ
イ、果シテ然ラバ玆ニ三倍ニ相當スル所ノ
不勞利得ガアルト言ウテ宜シイ、固ヨリ是
ハ勞セズシテ取ッタ所ノ利得バカシデハア
リマセヌ、實業家ガ努力奮闘シテ得タル所
ノ利得ニハ相違アリマセヌガ、時局ノ好影
響卽チ政府ノ政策及世界的ノ色々ナル變
動、其他ノ原因ニ依リマシテ、此利得ガ生
ジタト申シマスナラバ、不勞利得ノ分子ガ
之ニ加ハッテ居ルト云フコトハ、是ハ當然ノ
結果デアルト言ウテ私ハ宜シイト考ヘマ
ス、此意味カラ致シマスナラバ、之ニ向ッテ
課稅ヲスルト云フコトハ、是ハ當然ノコト
デアリマシテ、政府ガ今日之ヲ提出スルコ
トガ遲イト言ウテモ、私共ハ宜イヤウナ狀
況デアルト考ヘル、前ノ齋藤內閣ニ於テモ
之ヲヤルベキデアッタト私共ハ考ヘマス、然
ルニ拘ラズ第六十五議會ニ於キマシテ、我
黨ノ川崎克君カラ、軍需景氣ニ依ッテ金ヲ儲
ケタ人ガアッタナラバ、其點ニ付テ課稅シタ
ナラバ宜シイデハナイカト云フ所ノ質問ガ
アリマシタニ對シマシテ、高橋大藏大臣ハ、
儲ケタ時ニ課ケルナラバ、損ヲ致シタ時ニ
ハ減稅ヲシテヤラニヤナラヌト云フコトノ
御答辯ガアッタ、此點ニ關シマシテ、本案ハ
固ヨリ高橋大藏大臣ノ立案デハアリマセ
ヌ、前藤井大藏大臣ノ立案デアリマスルガ、
責任ヲ以テ此議會ニ提出サレタ以上ハ、高
橋大藏大臣ハ之ニ贊成致シ、之ヲ遂行スル
所ノ義務ガアル、尙且ツ藤井前藏相ハ、所
謂高橋財政ヲ繼グト云フ點ニ於キマシテ、
高橋サンノ精神ヲ承ケテヤラレタト考ヘマ
ス、果シテ然ラバ、高橋大藏大臣ハ、第六
十五議會ニ於ケル我黨ノ川崎克君ノ質問ニ
對スル所ノ答辯ニ付キマシテ、其時ノ心
境ト今日ハ御變リニナッタノデアリマセ
ウカ、此點ニ付キマシテ高橋大藏大臣ノ
明快ナル御答辯ヲ煩ス次第デアリマス
更ニ斯ノ如ク致シマシテ本稅ハ不勞利得
ガ玆ニ生ジテ居ル、兎モ角モ昭和五年、六
年ニ對シテ儲ガアルト致シマスナラバ、之
ニ課稅スルコトガ當然ノ結果デアルト云フ
コトヲ私共ハ考ヘルノデアリマスガ、本稅
ハ政府ニ於キマシテハ、斯ノ如ク不勞利得
ニ課スルト云フ意味ヲ以テ立案シタノデア
ルカ、不勞利得ニ課スルト云フ意味以外ニ、
更ニ歲入ノ必要ニ依ッテ之ヲ課セントスル
モノデアルカ、此點ニ付キマシテモ十分ナ
ル御答辯ヲ戴キタイ、而シテ前大藏大臣ハ、
公債漸減ノ方策ヲ執ラレテ居ッタノデアリ
マス、本稅ハ三千万圓若クハ四千万圓ト云
フ所ノ少額デアリマスルケレドモ、公債漸
減ノ方針ノ一端トシテ之ヲ課スル御考デ
アルカ、更ニ前大藏大臣ハ財政審議會ト云
フモノヲ作リマシテ、豫算ニ見積ッテアリ
マシタ、今ハ削除シテアリマスルガ、更に
是カラ財政、行政、殊ニ稅制ノ根本的整理
ヲ行ハントスル其端〓ト致シテ、第一步ト
致シテ、本稅ヲ立案シタモノデアリマセウ
カ、高橋大藏大臣モ亦之ニ從ッテ、其方針
デ將來稅制ノ整理ヲ行フト云フ御考デアリ
マセウカ、此點ニ付キマシテモ、國民ノ一
部ニ於キマシテハ疑ッテ居ル次第デアリマ
ス、總理大臣ハ嘗テ增稅ヲシナイト言ウテ
置イテ、增稅ヲ計畫シタト云フコトヲ、政友
會ノ人々カラ咎メラレタコトガアリマス、
此壇上ニ於キマシテ、松村君及其他ノ人々
カラモ論ゼラレタノデアリマスルガ、總理
大臣ハ此點ニ付キマシテ、內政審議會ナル
モノヲ設ケラレテ、此審議會ニ於キマシテ、
第一ニ增稅ヲスルト云フ事ニ付テ審議スル
ヤ否ヤ、稅制整理ノ點ニ付キマシテモ亦其
問題ト爲スヤ否ヤト云フコトニ付キマシテ、
此壇上ニ於テ明言セラレンコトヲ希望致シ
マス
而シテ此案ガ昨年十一月發表サレマシタ
時ニ於キマシテハ、非常ニ世間ニ不人氣デ
アッタノデアリマス、其不人氣デアッタ理由
ハ何デアルカト申シマシタナラバ、此案自
體ガ惡カッタノデハナクシテ、大藏當局ガ
此取扱ヲ誤ッタノデアル、總理大臣ハ增稅ヲ
シナイト云フ所ノ明言ガアッテ、而シテ此增稅
ガ現レタト云フコトノ結果ガアッタ、世間ハ
之ヲ評シテ總理大臣ガ食言ヲシタト言ウテ
居ル、併ナガラ總理大臣ノ答辯ニ依リマス
ルト、昨年ノ風水害ガアッタカラ、已ムヲ
得ズ斯ノ如キ增稅ヲシナケレバナラナカッ
タト、斯ウ言ハレタ、是等ノ點カラ致シマ
シテ、增稅シナイト云フコトヲ言ウテ置イ
テ、後カラ增稅スルコトニナッタカラ、世間
ガ非常ニ驚イタノト、モウ一ツハ大藏當局
ガ斯ノ如キ增稅案ヲ提案スルト致シマシタ
ナラバ、先ヅ輿論ニ訴ヘル必要ガアッタト
私ハ考ヘル、卽チ突如トシテ、豫算閣議ノ
始マラントスル前ニ於テ、昨年十一月頃ニ
發表スルヨリモ、九月カ十月頃ニ發表致シ
マシテ、世間ニ訴ヘテ置イタナラバ、斯ノ
如キ非難ハナカッタト考ヘマス、實業家ニ
於キマシテハ、斯ノ如キ少額ノ稅額ナラバ、
課ケラレテモ構ハヌト云フ決心ヲシテ居ル
コトハ、私共各地ヲ調査シテ參リマシテ承ッ
タ所ニ依リマスト、十分ニ其決心ガ付イテ
居ルノデ、是ダケノ稅金ナラバ、決シテ現
在ノ產業ノ發達ヲ障碍スルモノデアルトカ、
或ハ產業ノ將ニ芽生エントスル點ヲ摘取ス
ルモノデアルトカ云フヤウナ非難ハ當ラ
ヌモノデアルト考ヘル、寧ロ私共ハ此稅ガ
輕キニ失シハセヌカト云フコトヲ考ヘル次
第デアリマス、此點ニ付キマシテ、數項ニ
亙ッテ政府ニ向ッテ質問ヲシテ見タイノデア
リマス
第一、本稅ハ世間一般ニ於キマシテハ之
ヲ誤解シテ居ル人ガアル、昭和五年、六年
ト云フヤウナ世界的不景氣ニ遭ウタ其時ノ、
少シモ利得ノナイ零ト、サウシテ現在ノヤ
ウナ一割五分モ二割モ利得ノアルヤウナ狀
態トヲ比較シテ、サウシテ其利得ニ課ケル
ノデアルカラ酷デアルト云フノデアリマス
ガ、零ニ對スル所ノ一割五分若クハ二割、
三割ト云フヤウナ比較デハナイ、七分ト云
フモノガ根本トナッテ居リマシテ、昭和五年、
六年ニ於キマスル所ノ法人ノ利得ニ對シマ
シテハ、七分以下デアッテモ七分ト見テア
ル、一口ニ申上ゲマスナラバ七分ガ標準デ
アル、サウシテ是カラ將來取ルベキ所ノ利
得、ソレガ一割ナラ、一割ト七分ヲ比較シ、
二割ナラバ二割ト七分ヲ比較スルノデアリ
マシテ、餘程寛大ニ是ハ見積ッテ居ルト私
ハ考ヘル、三分若クハ四分カ五分シカ取レ
ナカッタモノヲ、七分ノ儲ガアルト見テアル
ノデアリマスカラ、此間ニ二三分ノ餘裕ヲ
見テアル點カラ云ヒマシテモ、餘程寛大ニ
私ハ取扱ッテ居ルト考ヘマス、殊ニ彼ノ戰
時利得稅ニ於キマシテハ、大正六年
ニ立案サレ、七年ニ施行サレタノデ
アリマスルガ、此時ニ於キマシテハ、
僅ニ九分シカ利得ガナカッタモノ迄
モ一割ノ利得ニ見テアリマシテ、一分シカ
開キヲ見テナイ、今度ハ四五分ノモノヲ七
分ニ見テアリマスカラ、二三分ノ開キヲ多
ク見テアル點カラ考ヘマシタナラバ、戰時
利得稅ニ較ベマシテ、今度ノ臨時利得稅ト
云フモノハ、餘程寛大ニ取扱ハレテ居ルト
言ウテ宜シイノデアリマス、斯ノ如ク實際
ニ於テノ法文ノ形式ニ於キマシテハ、昭和
五年六年ノ事業成績ト、昭和十年、ソレ以
降ノ事業成績トノ比較デアリマスケレド
モ、適用ニ於キマシテハ七分ヲ基礎ト致シ
マシテ、此七分ニ適用スルト同ジコトニナッ
テ居ル、斯ウ申シ參リマスルナラバ、第
ニ、松村君モ申サレマシタガ、超過所得稅
ト是ガ重複スル所ノ虞ナキヤ否ヤ、日本ノ
所得稅法ノ中ニハ超過所得稅ガアリマシテ、
御承知ノ通リ法人ノ資本ニ對シマシテ一割
以上ノ儲ガアリマシタナラバ、四分乃至二
割迄ノ累進稅率ヲ課ケルコトヽナッテ居リ
マス、七分ト云フ點ヲ標準トシテ參リマス
ト云フト、此法人ノ超過所得稅ト重複シテ
參リマスルガ、此點ハ政府ハドウ云フヤウ
ニ御考ニナッテ居ルノデアリマセウカ、超過
所得稅ハ法人ダケデアリマスルカラ、個人
ニハナイデハナイカト云フ議論モ立ッテ來
そう、然ラバ超過所得稅ノ稅率ヲ改正ヲ致
シ、サウシテ個人ニ於ケル所ノ營業收益六
千圓以上ノ者ニ對シテ、此稅ト同ジヤウナ
稅率ヲ課ケルコトニ致シマシタナラバ、卽
チ個人ノ營業收益稅ト法人ノ超過所得稅ノ
改正ニ依ッテ、此臨時利得稅ト同ジヤウナ
目的ガ、達セラレルノヂヤナイカト私共ハ
考ヘル、觀念上ニ於テモ重複スル點ガアリ
マスルガ、其點ハ政府ハドウ云フヤウニ御
考ニナッテ居ルノデアリマセウカ、此點ヲ明
確ニシテ戴キタイ
第二ノ點ト致シマシテハ、臨時利得稅ト
戰時利得稅ト云フモノヲ比較〓究致シマシ
タナラバ、本案ノ內容ガ能ク浮ンデ參リマ
シテ、私共ノ疑問トスル點ガ澤山アルノデ
アリマス、第一ニ臨時利得稅ニ於キマシテ
ハ戰時利得稅ト異リマシテ、法人及個人ニ
付テ利得ノ意義及範圍ガ違ッテ居ルノデア
リマス、戰時利得稅ニアリマシテハ、法人
ニ於テハ、法人ノ利得稅ト云フ點ニ付テハ、
臨時利得稅ト同ジヤウナ意義ヲ有ッテ居リ
マスルガ、個人ニ於キマシテハ、所得稅ヲ
課スベキ第三種ノ所得中、勤勞所得ガ除ケ
ラレタ利得ガ戰時利得稅ニ於キマシテハ課
セラレテ居ルノデアリマシテ、船舶又ハ鑛
山ニ關スル權利、若クハ設備ノ賣却ニ關ス
ル點モ亦戰時利得稅ニハアリマスルガ、本
利得稅ニハナイ、本稅ニハアリマセヌデ、
本稅ニ於キマシテハ、唯法人モ個人モ共ニ
營業ノ利得ダケニ限ッテ居ル、隨テ茲ニ除
ケラレテ來ルモノハ配當ノ所得デアリマス、
配當ノ所得ノ如キハ、本臨時利得稅ニ付キ
マシテハ、課稅ノ範圍外ニナッテ居ルノデア
リマスルガ、御承知ノ通リニ昭和五年六年
ニ較ベテ、昭和十年ニ於ケル所ノ、若クハ昭
和九年ニ於キマシテモ、有ユル配當ガ非常
ニ增加シテ居ルコトハ、是ハ確カデアリマ
ス、配當ノ所得ヲ何故ニ此課稅ノ範圍カラ
除イタノデアルカ、營利卽チ營業稅ニ課セ
ラルベキ營利利得ノミニ之ヲ限ッタノデア
ルカ、此點ニ付テ吾々ハ頗ル疑問トシテ居
リマス、固ヨリ配當所得ト政シマシテハ、
株ハ轉換性ガアッテ、之ヲ調査スルノハ課稅
技術上カラ困難デアルト云フコトモ一ツノ
理由デアリマス、又一方カラ考ヘマシタナ
ラバ、配當ハ一旦法人ノ利益トシテ課セラ
レテ居リマスカラ、課スル必要ガナイト云
フ理由ガ立ッテ參リマセウケレドモ、吾々ハ
一方ニ於キマシテ、非常ニ儲ケテ、配當デ
利得ヲ得テ居ル者ガアルニモ拘ラズ、他ノ
方面ニ於キマシテハ、生活ニ困難シ、農村
ノ救濟ガ叫バレテ居ルト云フ今日ニ於キマ
シテ、配當金ヲ除外スルガ如キハ社會通念上、
私ハ許スベカラザルコトデアルト云フコトヲ
考ヘル(拍手)單ニ之ヲ以テ課稅技術上ノ點
カラ困難デアルト云フヤウナ理山ノ下ニ、配
當利得ヲ本稅カラ除外スルト云フコトハ、私共
ハ斷ジテ承服ガ出來ナイ所ノ一點デアリマス
更ニ第二ノ點ニ於キマシテハ、稅率ノ點
デアリマスルガ、稅率ニ付キマシテ、戰時
利得稅ニアッテハ法人ニ對シテ二割、個人ニ
對シマシテハ一割、本利得稅ニアリマシテ
ハ、法人個人共ニ稅率ガ一割宛ニナッテ居
リマスルガ、何故ニ法人ト個人トヲ稅率ヲ
同ジヤウニシタカト云フコトガ私共ハ分ラ
ナイ、戰時利得稅ノ方ガ此立法カラ行キマ
シタナラバ、臨時利得稅ヨリモ私ハ進ンデ
居ルト考ヘル、法人ガ個人ヨリモ經濟力ガ
强クテ、擔稅力ガ旺盛デアッテ、而シテ危險
ニ對スル所ノ負擔能力ガ强イト云フコトモ、
不景氣ノ時ニ於ケル對抗力ガ强イト云フコ
トモ、亦是ハ明デアリマスルカラ、戰時利
得稅ノ方ニ於キマシテハ、法人ガ二割ニナッ
テ、個人ガ一割ノ稅率ニナッテ居ルノデア
リマス、本稅ニ於キマシテハ法人モ個人モ
共ニ一割ニシテアル、其點ニ付テ何故ニ法
人ト個人トノ稅率ヲ區別シナカッタカ、少ク
トモ個人ヲ一割ニスレバ法人ハ一割五分
ト云フ程度ニスベキガ私ハ當然デハナイカ
ト考ヘマス、殊ニ同ジ法人デアリマシテモ、
今度ハ凸凹景氣デアリマシテ、儲ケテナイ
法人モ多イ、一方ニ於テハ非常ニ利得ヲ得
テ居ル法人ガアル、其點ニ付キマシテモ何等
ノ參酌ヲシテ居ナイ、是ハ課稅技術上非常
ニ困難デアリマセウカラ、全體ノ法人ヲ一
律一體ニ同ジ稅率ヲ盛ルト云フコトモ、是
ハ已ムヲ得ナイデアリマセウガ、少クトモ
個人トハ別ノ稅率ニ致シ、個人ノ倍ニスル
カ、少クトモ五割增位ノ程度ニ法人ノ稅率
ヲ多クスルト云フコトガ、當然デナイカト
私共ハ考ヘルノデアリマス、而シテ超過所
得稅ニ對シマシテハ、累進稅率ヲ盛ッテアリ
マスルガ、本稅ニ對シテハ比例稅ニナッテ、
一律一體ニ一割ノ稅ヲ課スルコトニナッテ
居リマス、獨逸ノ戰時利得稅ノ立法ヲ繙イ
テ見マスルニ、斯ノ如キ超過利得稅若クハ
戰時利得稅的ノモノニ於キマシテハ、累進
稅率ヲ盛ッテアルノデアリマスルガ、是ハ小
ナル法人ト大ナル法人ト、卽チ資本ノ大キ
イ法人ト、資本ノ小サイ法人トニ付キマシ
テハ、負擔能力ガ違ヒ、經濟能力ガ違フト
云フ點カラ見マシテ、累進稅率ニナッテ居リ
マス、此點ニ於キマシテモ、法人ニ付テ資
本ノ大キナ法人ト、資本ノ小ナル法人トニ
付テ、累進稅率ヲ設ケタラ如何デアルカ、
或ハ稅率ヲ異ニシタラ如何デアルカト云フ
コトニ付キマシテ、外國ノ立法例カラ參酌
致シマシテモ、非常ニ是ハ意義ガアルコト
デアリマスルガ、是等ノ點ニ付テ政府ハ如
何ニ御考ニナルノデアリマセウカ、最近ニ
於キマシテ資本課稅ノ觀念ガ入ッテ參リマ
シテ、亞米利加ニ於キマシテハ「エヌ·アー
ル·エー運動ノ資本金ヲ得ンガ爲ニ、政府
ハ昨年一箇年ニ限ッテ法人ノ資本ノ千分ノ
一ヲ其資本ニ對シテ課稅ヲシテ居ルノデア
リマス、資本課稅ノ觀念ガ今日ノ立法、卽
チ租稅立法ノ精神ノ中ニ餘程入ッテ來テ居
ルヤウナ時勢ト致シマシタナラバ、小ナル
資本ノ法人ト、大ナル資本ノ法人トニ付キ
マシテハ、是等ノ點ニ付テ十分ニ區別シ、
參酌スルト云フコトガ當然デナイカト私共
ハ考ヘルノデアリマス
更ニ其次ニ於キマシテハ免稅點ノ點ニ付
キマシテ、質問ヲ致シテ見タイ、此法律案
ニ於キマシテハ、個人モ法人モ共ニ二千圓
ダケガ、免稅點ニナッテ居ルノデアリマス、
二千圓ダケヲ個人モ法人モ控除スルコトニ
ナッテ居リマス、戰時利得稅ニ於キマシテハ
平時所得ノ二割ヲ控除スルト云フコトニナッ
テ居リマシテ、換言致シマスナラバ、戰時
利得稅ニ於キマシテハ、定率控除主義ヲ採ッ
テ居ル、本稅ニ於キマシテハ、定額控除主
義ヲ探ッテ居ル、戰時利得稅ガ定率控除主義
ヲ採ッテ居ルニモ拘ラズ、何故ニ本稅ニ於キ
マシテハ定額控除主義ヲ採ッタノデアルカ、
此點ニ付テ大藏大臣ヨリ明確ナル答辯ヲ戴
キタイ、二千圓ヲ控除スルト云フ點ニ付キ
マシテハ、洵ニ私共ハ一律一體ニ一一千圓ヲ
控除スルト云フコトハ、無意義ナヤウニ考
ヘマス、何故ナレバ百万圓ノ利得ガアッタ者
ニ對シテモ二千圓ヲ引クト云フコトハ、是
ハ無意義ダ、六千圓ノ利得ガアッタ者ニ對シ
テ二千圓ヲ引クト云フコトハ、是ハ非常ニ有
意義ダ、此點ニ鑑ミマシテ、一万圓以上ノ所
得ガアッタ者ニ對シテハ二千圓ヲ引キマシテ、
一万圓以下ノ者ニ對シテ二千圓ヲ引カヌト云
フヤウナ工合ニ、卽チ大ナル者ヲ多ク取リ、
小ナル者ヲ保護スルト云フ、比較的小所得
者ヲ保護スル意味カラ致シマシテ、一番
體ニ二千圓ヲ引クト云フコトハ、是ハ殆ド
意味ヲ成サナイト私共ハ考ヘマスルガ、此點
ニ付テ如何ニ御考ニナッテ居ルノデアリマ
セウカ、サウシテ戰時利得稅ハ一一割引クト
ナッテ居リマス、百万圓儲ケタラ二割、卽チ
二十万圓引カレル、一万圓儲ケタラ二千圓
ヲ引カレルコトニナッテ、定率主義デ行ッテ
居リマシタガ、今度ハ百万圓儲ケタ者デモ二
千圓引キ、而シテ六千圓儲ケタ者デモ二千
圓引ク、其二千圓ノ百万圓ニ對スル所ノ限
界效用ト、二千圓ノ一万圓ニ對スル限界效
用トハ、非常ナ私ハ違ヒヲ有ッテ居ルト考
ヘル、何故ニ定額主義ト云フモノヲ採ッテ
定率主義ト云フモノニ反對シタノデアルカ、
此點ヲ明ニシテ戴キタイ
更ニ法人ノ控除額ニ付キマシテ、非常ニ
戰時利得稅ト違ッテ居ル所ガアリマス、戰
時利得稅ハ一割ヲ引クコトニナッテ居リマ
ス、サウシテ今度ノ利得稅ニ付キマシテハ、
七分ヲ引クト云フコトニナッテ居リマス、是
亦此間ニ大ナル差異ガアリマスルガ、兎モ
角モ戰時利得稅當時ニ於キマシテハ非常ニ
儲ケガ多カッタ、今度ヨリズット儲ケガ多カッ
タカラ一割引ク、今度ハ儲ケガ少イカラ七
分引クト云フコトデアルカモ知レマセヌガ、
此七分ト云フ意味ニ付キマシテ、何處ヲ標
準トシテ七分ト算定シタノデアルカ、先ニ
申シマシタ如クニ、昭和五年、六年ニ於ケ
ル所ノ法人ノ平均ノ營業利得ト云フモノハ、
是ハ五分デアリマス、大體五分デアリマ
ス、私ハ此處ニ約千以上ノ法人ニ付テ計算
ヲシタ所ノ利益ヲ持ッテ居リマスルガ、資本
ニ對シテ大體四分乃至五分ト見タラ宜シイ、
其四分乃至五分ニ對シマシテ二分ダケノ卽
ナ二三分ノ「マージン」ヲ見テアル、サウシ
テ一方ニ於キマシテハ戰時利得稅ノ時ニハ
九分ノ儲ケガアッタモノヲ、平均之ヲ一割ノ
儲ケニ見テ居ル、此間一分ホカ開キヲ見テ
居ナイ、戰時利得稅ノ時程今日ハ景氣ガ出
テ居ナイカラ「マージン」ヲ餘計見ナケレバ
ナラヌト云フ理由ナラ、七分ニシタ理由ガ
立派ニ立チマスガ、ソコニ於テ問題トナリ
マスル點ハドノ點デアルカト申シマシタナ
ラバ、同ジヤウニ非常ニ儲ケタ法人ト儲ケ
ナイ法人ガアル、試ニ擧ゲテ見マスルナラ
バ、硝子製造工業ノ如キハ三割九分ノ平均
ノ儲ケヲ有ッテ居リマス、サウシテ其他ニ於
キマシテモ、一割七分カラ二割五六分カラ
ノモノモアレバ、九分カラ七八分ノモノモ
アル、甚シイモノハ四割以上ニ上ッテ居ル
モノモアルノデアリマス、是等ノ點ヲ一律
一體ニ七分控除スルト云フコトニ付キマシ
テハ、私ハ意味ヲ成サヌト考ヘル、此點ニ
付キマシテハ少クトモ大ナル資本ノ法人ニ
付テハ五分ダケヲ控除シ、小ナル資本ノ法
人ニ付テハ七分ダケヲ控除スルト云フガ如
クニ、是亦資本課稅ノ觀念ヲ入レマシテ、
玆ニ控除率ニ付テ差異ヲ設ケルト云フコト
ガ、立法上適當デナイカト私ハ考ヘル、ソレ
カラ個人ニ付キマシテハ三千圓ヲ控除スル
ト云フコトニナッテ居リマスルガ、其個人ノ
控除ノ三千圓ハ、是亦戰時利得稅ニ對シマ
シテ非常ニ違ッタ點デアリマス、戰時利得稅
ハ二分ノ一ヲ控除スルト云フコトニナッテ
居リマス、是カラ考ヘテ見マスルナラバ、
此稅ト云フモノハ何時モ定額主義ヲ採ッテ
居リマシテ、戰時利得稅ハ定率主義ヲ採ッ
テ居リマス、定率主義ト定額主義トノ利害
得失如何、何故ニ本稅ニ限ッテ定額主義ヲ
終始一貫御採リニナッタノデアルカ、定率主
義ヲ排斥サレタノデアルカト云フ點ニ付キ
マシテ御答辯ヲ戴キタイ、此個人ニ付テ三千
圓ヲ控除スルト云フ所ノ理由如何、個人ノ
營業收益稅ヲ、課セラルベキ所得ガ大體平
均致シマシテ、二千五百圓乃至三千圓位ニ
ナッテ居ルト云フ點ヲ御採リニナッタカモ知
レマセヌガ、三千圓ノ根據ハ私共解スルニ
苦ミマス、此點ニ付キマシテモ御答辯ヲ戴
キタイ
更ニ免稅點ノ件デアリマスガ、戰時利得
稅ニ付キマシテハ、免稅點ガ三千圓ニナッ
テ居ルノデアリマス、卽チ個人ノ利得ノ戰
時利得ト平時利得トノ差引殘額ガ三千圓ナ
ル時ニハ、戰時利得稅ニ於テハ稅金ヲ課ケ
ナイコトニナッテ居リマス、本稅ニ於キマシ
テハ個人ノ利得ガ六千圓ヲ以テ免稅點トシ
テ居リマシテ、六千圓以上ノ利得ノナイモ
ノハ、絕對ニ是ハ課ケナイ方針デアル、六
千圓以上ノモノニ向ヒマシテ此稅金ヲ課ス
ルコトニナッテ居リマスルガ、戰時利得稅ノ
時ト建前ガ違ッテ居ル、戰時利得稅ノ時ニハ
戰時利得カラ平時利得ヲ差引イタ殘ッタモノ
ガ足ラナケレバ、之ニ稅金ヲ課ケナイト云フ
方針ニナッテ居リマスルガ、本稅ハ頭カラ六
千圓以下ノモノハ、之ニ稅金ヲ課ケナイト
云フ所ノ方針ニナッテ居リマスルガ、何故ニ
六千圓ヲ標準トシタカ、此六千圓ハ非常ニ
意味ガアリマス、恩給法ニ於キマシテモ六
千圓ヲ以テ一ツノ限界ト爲シテ居ル、更ノ
所得稅法第十五條ニ於キマシテモ、六千圓
以下ノ所得ノ時ニハ、勤勞所得ニアッテハ二
割ヲ差引クト云フコトニシテ居リマシテ、
六千圓ト云フ點ニ付テハ立法上先例ガ多イ
ノデアリマス、斯ウ云フ先例ヲ追ッテ作ッタ
ノデアルカ、又中商工業者ノ所得ノ上カラ
如何ニ見タノデアルカト云フコトヲ私共聽
キタイ、中商工業ノ一般ノ利得ヲ、政府ハ
六千圓ト見タモノデアルカ、若シ六千圓ト
見タモノナラバ、六千圓ニ課スルト云フ
コトハ、是ハ中商工業ノ私ノ壓迫トナルト思
フガ、サウデナクテ三千圓若クハ二千圓
位ノ程度ノモノヲ中小工業ト見マシタナラ
バ此六千圓ハ高キニ失シテ、免稅點ガ五
千圓デモ宜ケレバ、四千圓デモ宜イカモ知
レマセヌ、之ニ付テ中商工業ニ付テノ利得
如何、其利得ノ標準ヲナンボニ見タカト云
フコトニ付キマシテ、中商工業者ニ對スル
保護政策ヲ、政府ハドウ云フヤウニ考ヘテ
居ルカト云フ所ノコトヲ、私ハ明ニサレタ
イト考ヘマス、六千圓ヲ以テ中商工業トス
ルノデアルカ、ソレ以下ヲ以テ中商工業ト
取扱ッタノデアルカ、ソレ以上ヲ以テ中商工
業トシテ、其點ヲ以テ境目トジタノデアル
カ、此點ニ付キマシテ政府ハ中商工業者ニ
對スル利得ノ最高限度ヲ、ドウ云フヤウニ
見タカト云フコトニ付テ伺ッテ見タイ
更ニ其次ニ於キマシテハ是等ノ點カラ觀
察致シマスルト云フト、本稅ノ歲入ノ見込
デス、此歲入ノ見込ニ付テハ私共ノ算盤ヲ
以テ歲入ノ見込ヲ致シマスナラバ、此歲入
ノ見込ヲ平年度ニ於ケル所ノ四千万圓、十
年度三千万圓ト云フノハ是ハ此歲入見込
ト云フモノガ私ハ少額ニ失シハシマイカト
考ヘル、少ナ過ギル、取リ方ニ依リマシタ
ナラバ、何千万圓ト云フ、金額ハ私ハ申シ
マセヌ、又ソレハ想像ニ當リ、推算ニナル
ノデアリマシテ、私ノ算盤シタ事ハ不正確
カ知レマセヌガ、色々ノ點カラ之ヲ立論致
シマシタナラバ、初年度三千万圓、平年度
四千万圓ト云フコトハ、少シク低イ、何故
低イカト申シマシタナラバ、前ニ申シマシ
タヤウナ工合ニ、本年、昭和九年ノ景氣ト
云フモノハ、大正六年ノ下半期カラ大正七
年ノ下半期ノ景氣ト同ジ數字ガ出テ居ル、
同ジ數字ガ出テ居ルカラ、同ジ景氣ト云フ
譯ニモ參リマスマイ、景氣不景氣ニ付キマ
シテハ、此數字ノ外ニ感ジト云フモノガア
リマス、大正元年、二年カラ、ドカット出タ
彼ノ大正七年八年ノ景氣ト云フモノハ、國
民ガ痛烈ナ大キナ景氣ニ遭ッタヤウニ考ヘ
ク、併ナガラ昭和五年六年カラ段々景氣ガ
出テ來テ、本年度ノ景氣ニナッタコトニ付
キマシテハ、餘程景氣ハ出テ居ルケレド
モ、國民ハ左程感ジナイ、ソレハ七年八年
九年ト、ジク〓〓起ッテ來タ景氣デアルカラ
デ、前ニ申上ゲマシタヤウニ通貨ノ膨脹、
會社ノ新設、株式取引高、手形交換高ト云
フ、是等ノ經濟界ノ推定ノ「バロメーター」
ノ點カラ較ベテ見マシタナラバ、餘程出テ
居ルノデアリマス、相當ノ景氣ハ出ルベキ
方面ニハ出テ居ル殊ニ金利ガ安イト云フ
コトハ不景氣ヲ意味スル、金利ガ高イ時ハ
景氣ガ好イ、併ナガラ金利ガ低クテ、而モ
是ダケノ利得ガアルト云フコトハ、安イ金
利ヲ使ッテ儲ケル人ハ非常ニ儲ケテ居ルト
云フ意味デアル、一般ノ金利ノ低イト云フ
コトハ卽チ此景氣ガ惡イト云フコトノ推
定デアリマスケレドモ、個人々々ヲ考ヘテ
見レバ金利ガ安クテ儲ケテ居ルト云フコト
ハ、金利ノ高カッタ時ノ備ヨリ多イト云ッテ
宜シイノデアリマス、物價ノ點ニ付キマシ
テハ、大正五年六年ノ平均シタモノガ現在
ト大體同樣ノ物價ニナッテ居リマス、物價ハ
餘リ騰ッテ居リマセヌ、卽チ外國カラ輸入シ
タモノハ騰ッテ居リマスケレドモ、平均シタ
モノハ非常ニ騰リ方ガ少イ、隨テ貨幣價値
ノ變動ハ一割ソコ〓〓シカ變動シナイ、大
シタ變動ハシテ居ナイ、是等ノ點カラ考ヘ
テ、此歲入見積ガ多イカ少イカト言ッタナラ
バ、非常ニ少イ、歲入ハ是ヨリモズット取
レルト考ヘル、何故カト云フト、第一ニ戰時
利得稅ガ起ッタ時ニ於キマシテハ、政府ノ見
積ハ初年度ニ於テタッタ千八百万圓デアッ
ク、驚イタデス、提出ノ豫算ガ大正六年ニ
於キマシテハ、タッタ千八百万圓、ソレガ決
算ニ於テドレ位取レタカト云フト、八千百
万圓取レテ居ル、是程見込ガ違フ、斯ウ云
フ歲入ノ見積方モ恐ラク例ガナカラウト考
ヘルノデアリマス、當時ノ大藏當局ハ誰デ
アッタカ私ハ忘レマシタガ、八千百万圓取レ
テ居ルモノヲ、千八百万圓シカ見積ッテ居ナ
イ、此點カラ考ヘマスルト驚クベキ數字ノ
見込違デアル、更ニ大正八年ガ五千二百万
圓ノ豫算デアッタモノガ、驚ク勿レ一億六千
二百万圓取レテ居ル、五千二百万圓ニ對シ
テ一億六千二百万圓デアルカラ、三倍以上
ノ收入ガ取レテ居リマス、ソレハ大正九年
ニ於キマシテモ、二千八百万圓見積ッタモノ
ガ、三千四百万圓取レテ居ル、サウシテ大
正十年ニ戰時利得稅ハ廢止サレマシタガ、
十年ニ廢止サレテ以來、十二年ニ至リマス
やっ、十年ガ五百万圓、十一年ガ九百万圓、
十二年モ十三万四千圓ト云フ工合ニ、合計
致シマスト、二億四百万圓ノ豫算ニ對シマ
シテ二億八千七百万圓取レテ居ル、七割以
上餘計取レテ居ル、七割ダケ大キク取レテ
居ルヤウナ狀況デアリマシテ、甚シキ時ニ
至リマシテハ三倍モ取レテ居ル年モアル、
是カラ考ヘマスルナラバ此本稅ガ三、四
千万圓デハ納マリハシナイ、是ハ少クトモ
平年度ニ於キマシテ六千万圓、ウッカリスル
ト七千万圓マデ行クカモ知レナイ、私ハ斷
言致シマセスガ、ソコニ一ツノ、昨年度カ
ラ今年度ヘ掛ケマシテ、大藏當局ガ歲入見
積ニ付テ寛大デアッテ、而モ相當ニ是ガ增加
スベキ根據ノアル數字ヲ私ハ持ッテ居リマ
ス、卽チ此超過所得稅ニ付キマシテモ、六
百万圓程昭和五年ニ取レタモノガ、昭和八
年ニナリマシタナラバ、一千一百万圓超過
所得稅ガ取レテ居ル、此程度カラ、此上リ
工合カラ見テ見ルナラバ、本稅ト同ジヤウ
ナ主義、性質ヲ有ッタ超過所得稅ト云フモノ
ガ、六百万圓取レタモノガ、現今ハ一千一
百万圓、殆ド二倍取レテ居ル、是カラ考ヘ
マスト、先々ノ歲入見積カラ考ヘテモ、本
稅ノ實績ハモット大キクナッテ來ルノデハナ
イカト考ヘル、更ニ法人ノ所得カラ考ヘテ
論ジテ見ルナラバ、法人ノ所得ガ昭和六年
ニ於キマシテハ七億デアリマス、昭和六年
ガ七億デアッテ、昭和八年ハ十億デアッテ、
昭和九年ハ何ボカ、私共ノ推算デハ恐ラク
十二億トナリマス、假令十億ト致シマシタ
所ガ、昭和六年ノ七億ト、昭和八年ノ十億
ト差引イタラ、三億アルカラ、其三億ノ一
割取ッタラ三千万圓ト云フ見當ガ政府ノ見
積リダラウト私ハ考ヘマスルガ、十年ニ於
キマシテハ、恐ラク十一一億圓位ニ上ッテ來ル
ノデハナイカト考ヘル假ニ十二億ト致シ
マシタナラバ昭和六年ノ七億ト差引致シ
マスト、五億ダケ法人ノ所得ガ多クナッテ來
ルノデス、其一割ヲ取ッタラ五千万圓ハ、是
ハ取レテ來ルト云フコトニナッテ居ル、少ク
トモ三四千万圓以上ト云フコトハ是ハ確カ
デアリマス、更ニモウ一ツハ課稅技術ト云
フモノガ非常ニ發達シマシテ、御承知ノ通
リニ大正七年、八年ノ頃ノ課稅技術ヨリ非
常ニ發達致シマシテ、苛歛誅求、巧妙ヲ極
メルヤウニナッテ居ル、是カラ考ヘテ見マシ
タナラバ、本稅ノ見積ノ平年度四千万圓、
初年度三千万圓ト云フモノハ、是ハ低キニ
失スルノデアッテ、此點カラ考ヘテ見マス
ト、本稅ハ少クトモ平年度六七千万圓、初
年度四五千万圓ニ行クノデハナイカト云フ
所ノ私共ハ觀察ヲ下ス次第デアリマス、尙
ホ此點ニ付キマシテハ、詳細ナル數字ノ根
據ヲ持ッテ居リマスルガ、此處ニ發表スルコ
トノ出來ナイノヲ遺憾トスル次第デアリマ
ス
而シテ其次ニ於キマシテハ、本稅ノ一ツ
ノ功績ト云フベキハ何デアルカト申シマス
ルナラバ、製鐵業ノ如キ莫大ナル利益ヲ貪ッ
テ、此景氣ノ中ノ最モ好イ景氣ノ會社ニ數
ヘラレテ居ル所ノ製鐵業ニ對シマシテ、今
迄ハ營業收益稅及所得稅ガ免ゼラレテ居リ
マスルガ、本稅ニ限ッテ之ニ課スルコトニ
ナッタト云フコトハ、寔ニ結構ナコトデアリ
ママ、更ニ公債ノ利子ニ付キマシテモ、本
稅ニ付キマシテハ控除シナイ、金融資本家
ニ對シテ媚ビ謟ハナイト云フ所ノ、斷乎ト
シテ之ヲ彈壓スル大藏當局ノ意氣ハ此點ニ
於テ私ハ買ッテヤラナケレバナラナイト考
ヘル、此二ツノ點ハ此本稅ノ大出來デアル
ト考ヘル
町田商工大臣ニ御尋申上ゲマスルガ、現
在ニ於キマシテ製鐵業ハ非常ニ盛ニナリ、
銑鐵ハ御承知ノ通リニースチールーニ對シテ
半分ト云フノガ普通ノ値段デアリマスル
ガ、世界的軍需景氣ノ旺盛ナルニ伴ヒ
マシテ、大變ニ此一スチールーノ方ガ騰貴
シテ居リマシテ、銑鐵ニ對スル所ノ倍ト
云フノガ是ガ普通ノ採算デアリマスガ、
ソレ以上ニ騰貴致シ、銑鐵ト云フモ
ノヽ需要ガ非常ニ多クナッテ、製鐵業ノ
利得ト云フモノガ、一割五分カラ二割以上
ニ達スルヤウナ會社モアルヤウナ狀態ニ
ナッテ居リマス、此狀態ニ對シマシテ、從來
之ニ對シテ製鐵奬勵法ヲ拵ヘ、營業收益稅
ト所得稅ヲ免除シテアリマシタガ、此營業
收益稅、所得稅ヲ免除セズニ課稅スル所ノ、
所謂製鐵奬勵法ニ付テ免除規定ヲ廢止スル
所ノ御意見アリヤ否ヤ
更ニ鉄鐵ノ不足ハ大變ナモノデアリマシ
テ、今日之ニ付キマシテノ數字ハ煩雜ニ亙
リマスカラ止メマスガ、關稅改正ノ意思ア
リヤ否ヤ、卽チ關稅ヲ引下ゲル所ノ意思ア
リヤ否ヤ、此點ニ付キマシテ町田商工大臣
ニ御尋スル次第デアリマス
更ニ本稅ノ施行期ノ問題デアリマスル
ガ、施行ノ期間ニ付テハ本法ハ明記シテナ
イ、戰時利得稅ニアリマシテハ、講和條約
締結ノ時限リトアリマシテ、講和條約ガ締
結サレマシタナラバ、直チニ本稅ハ廢止サ
レルコトニナッテ居リマシタガ、此稅ニ付キ
マシテハ臨時利得稅ト書イテアル位ダカ
ラ、全體ノ法文ヲ讀ンデ見マシタナラバ、
臨時ト云フコトガ明確デアリマセヌ、隨テ臨
時ト云フモノハ二年續クカ、三年續クカ、
四年續クカ分ラナイ、此點ニ付キマシテ政
府當局ハ凡ソ何箇年間ヲ豫定シテ居ルノデ
アルカ、臨時ト云フ意味ハ、次ノ財政經濟
及、殊ニ稅制ノ整理ノ時マデヲ意味シテ居
ルノデアルカ、或ハ今日ノ政策、卽チ「イ
ンフレ」政策、殊ニ軍需景氣、此點ニ付テ
陸海軍ノ豫算ガ現在ノ程度ヲ維持シ、而シ
テ爲替ガ現在ノ程度若クハ是ヨリ暴落シテ、
輸出貿易ト云フモノガ阻害サレズニ順調ニ
發達シテ行クト云フコト、是等ノ點ニ付キ
マシテ、現在ノ政策ト現在ノ經濟狀態ト云
フモノヲ豫想シテ、是ガ續ク限リヤラレル
ノデアルヤ否ヤ、此點ニ付キマシテ施行期
間ニ付テ凡ソドレ位ノ所ヲ著眼セラレテ居
ルノデアルカ
更ニ臨時デアリマスルカラ、經常的ノモ
ノデアリマセヌ、是ガ廢止サレタ時ニ於キ
マシテハ、超過所得稅ノ中ニ再ビ織込マレ
テ、而シテ超過所得稅ノ稅率ヲ增加シ、或
ハ個人ノ場合ハ營業收益稅ニ付キマシテ、
營業收益稅ノ累進的稅率ノモノヽ中ニデモ
之ヲ織込ンデ行クノデアルカ、法人ノ場合
ハ超過所得稅ノ中ニ織込ンデ行クノデアル
カ、卽チ戰時利得稅ガ超過所得稅ニ織込マ
レテ行ッタ如キ運命ヲ本稅ガ辿ルノデアル
カ否ヤ、此點ニ付キマシテノ政府ノ御觀測
ヲ承リタイ
而シテ本稅ノ施行區域ノ問題デアリマス
ルガ、是ハ內地ハ固ヨリ臺灣、關東州及朝
鮮ニ於テ施行サレルコトニナッテ居リマス、
朝鮮ニ於キマシテハ法人ノ場合ニ於テ施行
致シ、個人ノ場合ニ於テハ施行ガナイ、其
理由ハ朝鮮ニ於テハ個人ノ所得稅及營業收
益稅ガ昭和五、六年ニナカッタカラ、標準ガナ
イト云フ理由デアリマスルガ、何等カ玆ニ
標準ヲ設ケテ課スル所ノ必要ガアラウト思
ヒマスガ、朝鮮ニ於キマスル是等ノ點ニ付
テ如何ニ御考ニナルカ、玆ニ南洋ニ於キマ
シテハ此稅ガ施行サレヌコトニナッテ居リ
マス、隨テ此時局ノ莫大ナル利益ヲ得タ所
ノ南洋興發株式會社ト云フモノガ本稅カラ
除外サレルコトニナリマス、是等ノ點ニ付
キマシテモ、一會社ノ問題デアリマスルケ
レドモ、兔ニ角大ナル儲ノアル會社ガ除外
サレルト云フコトハ、是ハ所謂他ノ會社ニ
對スル公平ノ上カラ考ヘマシテモ、南洋ニ
對シテ何等カノ方法ヲ以テ本稅施行ノ方法
ヲ講ズルノ意思アリヤ否ヤ、是等ノ點ニ付
テ御答シテ戴キタイ
更ニ最後ニ陸軍大臣ニ質問致シタイノデ
アリマス、陸軍ノ豫算ヲ見テ見マスルニ、
作戰資材、卽チ國防充備費ノ昭和十年度ニ
於キマスル所ノ豫算ガ、一億一千六百万圓
ト云フ所ノ莫大ナ豫算ヲ計上サレテ居リマ
ス、更ニソレガ昭和十一年度ニ於キマシテ
ハ、僅ニ一千七百万圓、一億一千六百万圓
ガ一千七百万圓ニ減少スルヤウナコトニ
ナッテ居リマス、僅カ一割ソコ〓〓ト云フヤ
ウナコトニナッテ居リマスルガ、一億一千
六百万圓ガ一千七百万圓ニ減少サレマシタ
時ニ當リマシテ、本稅ニ謂ユル利益ヲ得ル
所ノ會社ハ何デアルカト云ッタナラバ、大部
分軍需工業ノ會社デアリマス、此豫算ヲ以
テ致シマスナレバ、卽チ一億一千六百万圓
ガ一千七百万圓ニ下ッタトスルナラバ、軍
需工業ノ大動搖トナリ、而シテ軍需工業界
ニ於ケル所ノ利得ノ減少トナッテ、本稅ノ
豫期スル所ノ利得ハ得ラレナイカモ知レナ
イ、斯ル點ニ付キマシテ陸軍大臣ハ民間工
業能力ノ維持發達ノ點ニ付テ、而シテ本稅
トノ關係ニ付テ如何ナル政策、如何ナル
考ヲ有スルヤ、此點ニ付キマシテ陸軍大臣
ノ明快ナル答辯ヲ要求スル次第デアリマス
最後ニ此本稅ハ御承知ノ通リ此內閣ガ出
サレマシタ唯一ノ重大ナル政策デアリマシ
テ、之ヲ契機ト致シマシテ、稅制整理ガ行
ハレルカ、增稅ガ行ハレルカト云フ所ノ重
大ナル問題ノ是ハ出發點デアリマス、此意
味カラ考ヘマシテ、此法案ト云フモノハ本
議會ニ於テハ重大ナル意義ヲ有ッテ居リマ
ス、而シテ此法案ガ若シ握リ潰サレルカ、
或ハ否決サレマシタ時ニ於キマシテハ政
府ハ如何ナル態度ヲ採ルカ、換言スレバ衆
議院ヲ解散致シ、斷乎トシテ國民ニ問フ所
ノ意思アリヤ否ヤ、之ヲ總理大臣ニ對シテ
質問致シタイノデアリマス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=13
-
014・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 中島君ノ御質問
ニ御答致シマス、私ハ國民負擔ノ均衡ヲ得
セシメル爲メ稅制整理ヲ致シタイト考ヘテ
居リマス、稅制整理ヲ致ス場合ニハ、此臨
時利得稅ハ同時ニ考ヘナケレバナラヌ問題
ト考ヘテ居リマス、只今一般的增稅ヲ爲ス
意思ハ有ッテ居リマセヌ、又此臨時利得稅
法案ハ必ズ御協贊ヲ得ルコトガ出來ルモノ
ト固ク信ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=14
-
015・濱田國松
○議長(濱田國松君) 大藏大臣ハ只今用便
中デアリマスガ、商工大臣、此場合御答ニ
ナリマスカ、如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=15
-
016・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 大藏大臣ノ答辯
ニ關聯シテ居リマスカラ、大藏大臣ニ先ニ
願ヒマス
〔「大藏大臣ハドウシタ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=16
-
017・濱田國松
○議長(濱田國松君) 今直キニ大藏大臣ハ
見エマス
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=17
-
018・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 中島君カラ數箇
條ニ亙ッテノ御質疑デアリマス、之ニ對シ
テ一應御答ヲ致シマス、最初ニ私ガ嘗テ六
十五議會ノ豫算委員會ニ於テ、川崎君ノ御
尋ニ對シテ御答ヲ致シタコトガアル、其答
辯ヲ引イテ、今日ハ私ノ考ガ變ッタノカト
云フ御尋デアリマスガ、其當時ハ不景氣ガ
段々直リ掛ッテ、慥カアノ時ノ例ニ取リマ
シタノハ鋼管會社ノ事ダト記憶シテ居マス
ガ、此會社ハ嘗テ鋼鐵業ニ付テ國策ヲ立テ
ントシテ〓究ヲシタ當時カラ、此製鐵事業
ニハ大關係ノアル會社ト見テ居ッタ一ツデ
アリマシタ、然ルニ段々打擊ヲ受ケテ、
般經濟界ノ不景氣ニ連レテ、或ハ減資ヲシ
タリ、サウシテ相當ナ有價證劵トシテ、多
クノ人ガ安心シテ持ッテ居ッタモノガ、殆ド
無價値同樣ニマデ下ッタト云フコトヲ、其
時分ニ記憶シテ居リマシテ、斯樣ナ場合ニ
於テ、是ハ國家トシテ有益ナ產業デアルカ
ラシテ、國ガ何カ補助デモスルトカ云フコ
トデモスレバ、ソレガ囘復シタ時ニ、直チ
ニ課稅スルモ宜カラウケレドモ、隨分其事
業ニ關係シテ居ッタ株主ト云フモノハ、損
ニ損ヲ重ネテ來テ、漸ク此一年バカリ稍〓見こ
直サンカトスル所ニ來テ居ルノニ、ソレニ
直チニ稅ヲ課スルト云フノハ、如何ニモ慘
イ話デ、且ツ折角伸ビントスルモノヲ沮喪
サセルヤウナコトニナルカラシテ、是ハ直
チニ今直グ課稅スルト云フ考ハ有ッテ居ラ
又、特別ノ課稅ヲ今直グニスルト云フコト
ハ、餘程考モノデアルト考ヘテ、其積リデ
御答ヲシテ居ッタノデアリマス、然ルニ今
日デハ其以來益、繁昌シテ、今日ノ姿ニナッ
テ居ルノデアリマスルカラシテ、此六十五
議會ニ於テ御答辯ヲシタ當時ト今日トハ、
大層有樣ガ變ッテ居ルト云フコトデアリマ
スノデ、今日デハ私ハ特別ノ稅ヲ課スルト
云フコトニ付テ、何等異存ハ有タヌノデス
ソレダケヲ御答シテ置キマス
ソレカラ不勞所得ト云フヤウナコトマデ色
色論ジラレマシタガ、申ス迄モナク此度ノ臨
時利得稅ハ、一般ノ稅制ヲ是カラ整理スルト
云フ、其第一步トシテ踏出シタモノデハナ
イノデアリマス、ソレ故ニ之ニ續行シテ稅
制整理ノ考ガアルカト云フ御尋デアッタヤ
ウデスガ、稅制整理ノ一般的ノ改正バ、是
ハ屢〓申シテ居ル通リ、其時機來レバ宜シキ
方法ヲ選ンデヤラネバナラヌト云フコトハ
屢〓申シテ居ル、今日未ダ其時機ニ到ラズト
云フコトモ申シテ居ルノデアリマス、此臨
時利得稅ガ、卽チ今謂フ所ノ一般的稅制整
理ニ一步ヲ踏出シタモノダト、斯ウ御了解
ナサレルノハ、此稅ヲ設ケタ政府ノ考トハ
少シ違ヒマス、稅制整理ト云フモノハ、時
ガ來タナラバ然ルベキ方法ニ依ッテ一般的
ニスルト云フコトハ、屢、政府ノ聲明シテ
居ル通リデアリマス
ソレデ今度ノ臨時利得稅ヲ創設シタ所ノ
理由ニ付テ申上ゲマスルガ、此理由ハ、今
時局ノ好影響ヲ受ケマシテ一部ノ產業ガ活
況ヲ呈シテ居ルノデアリマス、而シテ其利
益モ隨分多ク擧ゲテ居ルヤウデアリマス、
ソレ故ニ其特別ナ事情ノ下ニ惠マレテ、今
日利益ヲ擧ゲテ居ル者ノ、其利益ノ一部ヲ
納稅セシメテ、サウシテ之ヲ國庫ノ收入ニ
シヨウ、斯ウ云フ考ニ外ナラヌノデアリマ
ス、又財政ノ健全ナルト云フコトハ、是尺
何人モ希望スル所デアル、是ハ屢〓私モ明言
シテ居ル問題デアリマス、ソレ故ニ此臨時
利得稅モ、幾ラカ其國庫ノ收入ヲ殖ヤスニハ
違ヒナイ、ケレドモ內外ノ今日ノ情勢ニ
依ッテ、此財政上ノ收支ノ均衡、卽チ平衡ヲ
速ニ實現セントスルコトハ、極メテ困難ナ
問題デアリマス、故ニ此利得稅ヲ以テ此困
難ナル問題ヲ解決スルト云フ目的デ起シタ
モノデハナイ、故ニ健全財政ノ策ヲ立ツル
ノ第一步ナリト御覽下サルト云フト、私共
ノ考トハソコニ相違ガ起ツテ來ルノデアリ
マス
ソレカラ其次ニハ、法人ニ付テハ、寧ロ
現ニ行ハレテ居ル所ノ超過所得稅ノ改正ヲ
シタ方ガ宜クハナイカト云フ御尋デアリマ
ス、法人ノ超過所得稅ハ、何業ニ拘ラズ法
人ノ利益ガ一定ノ資本ノ利廻ヲ超エタル場
合ニ、一般的ニ是ハ課稅スルモノデアリマ
スルガ、本稅卽チ此一時ノ利得稅ハ、時局
ノ影響ニ依リマシテ、增加シタル、其利益
ニ課稅スルモノデアリマシテ、課稅ノ根本
觀念ガ違ッテ居ルノデアリマス、卽チ超過所
得稅ノ納稅者ノ中ニハ、時局ニ依ル所ノ增
益ヲ受ケル者モアリマセウシ、又受ケナイ
者モアル、或ハ利益ノ却テ減ッテ居ル者モ
アリマセウ、斯ウ云フ者ニ對シテ一般的ニ
超過所得稅ノ增徵ヲ爲スト云フコトハ、ド
ウモ適當デナイノデアリマス、畢竟稅ノ本
質ヲ異ニシテ居ルノデアリマスルカラ、決
シテ是ガ重複課稅トハナラヌノデアリマス
第四ニハ、何故個人ノ配當所得ヲ除外シ
タカト云フ御尋デアル、個人ノ配當所得ハ
時局ノ影響ニ依ッテ增加シタノモアリマ
セウ、併ナガラ此個人ノ配當所得稅ヲ、本
稅ノ課稅ノ對象ト致シマスルト、負擔ノ實
情ニ副ハザルモノガ起ッテ來ルノデアリマ
ス、且ツ是等ノ所得ハ、法人ノ利益トシテ
課稅ヲ受クルガ故ニ、法人、個人ヲ通ジテ
之ヲ見マスレバ、相當ノ負擔トナルベク、
ソレ故ニ之ヲ除外スルト云フコトヲ、最モ
適當ト認メタノデアリマス、戰時利得稅ノ
例ヲ御引キニナリマスルガ、戰時利得稅ノ
當時ニ於キマシテハ、所得稅ニ於テ其配當
ヲ個人ニ綜合課稅スルト云フコトニハナッテ
居ラナカッタ、其當時ニ於テモ、個人ニハ課稅
ヲ戰時利得稅ニ於テハシナカッタノデアリマス
第五ニハ、法人ハ個人ニ較ベレバ擔稅力
ニ富ンデ居ルニモ拘ラズ、法人、個人ニ稅
率ヲ同ジヤウニシタト云フノハドウ云フ譯
カ、法人ニ付テモ矢張大資本ニ重ク稅ヲ課
スルノガ適當ヂヤナイカ、斯ウ云フ御趣意
ノヤウデス、併シ法人ハ個人ニ較ベテ擔稅
力ガ必シモ大ナリト云フ譯ニモ行カナイ、
而シテ此性質ガ臨時稅デアル、此本稅ニ於
テ特ニ此法人、個人、兩者ノ稅率ヲ區分ス
ルト云フ必要ヲ認メナイノデアリマス、又
法人ニ對シマス累進稅率ノ適用ニ付キマシ
テハ、現在旣ニ超過所得ニ對シテ累進稅率
ヲ適用シテ居リマス、ソレ故ニ其負擔ヲモ
考ヘマシテ、本稅ノ臨時稅タル性質ニ鑑ミ
テ之ヲ課ケナイノデアリマス
第六ハ、控除額ヲ法人、個人共ニ區別ナ
ク二千圓トシタノハドウ云フ譯カ、大利得
者ニ對シテモ二千圓ヲ控除スルハ、雅正
味ヲ爲サヌヂヤナイカト云フヤウナ御考デ
アリマス、此二千圓ヲ控除致シマスルノ
ハ主トシテ少額利得者ノ負擔ヲ緩和スル
ト云フ其自的ニ出テ居ル、モウ一ツハ臨時
稅ノコトデアリマスカラシテ、稅務ノ實際
上ニ於テ、官民相互ノ煩瑣ヲ避ケルト云フ
ノモ一ツノ考デアリマス、ソレ故法人ニ付
テモ一樣ニ之ヲ二千圓ダケヲ控除スルト云
フコトニ致シタノデアリマス、元々小利得
者ノ爲ニ設ケラレタモノデアリマスガ、併
ナガラソレガ爲ニ大利得者ニハ之ヲ引カナ
イデ宜イト云フ譯ニハ行キマセヌカラ、矢
張之ヲ除外セズニ差引クコトニ致シタノデ
アリマス
第七ニハ、昭和五年、六年、此平均利率
ガ標準ニナッテ居リマス、對象物ニナッテ居
リマス、是ハ昭和五年、六年ノ平均利益ト
云フモノハ、少額ニ過ギルノデアリマス、
不景氣ノ時デアリマシタカラ、ケレドモ法
人ニ對シマシテ其金額ヲ基準トシテ課稅利
得ヲ算出致シマスルト、如何ニモ負擔ガ過
重ニナルノデアリマス、其惧ガアルノデア
リマス、ソレ故ニ資本金額ノ一定割合ヲ平
均利益ト看做スコトヽシタノデアリマス、
卽チ其資本ハ積立金一切、サウ云フモノヲ
含ンダ資本、而シテ其當時事業界ノ平均利
率ハ御話ノ通リ先ヅ大抵五分位デアッタラ
ウ、四五分デアッタラウ、ソレデハ甚ダ少イ
利益デアリマスカラ、ソレヲ參酌シマシテ
尙ホ當時ノ利益ハ好景氣ニナレバ、モウ少
シ利益ガアルベキ筈ノモノデアリマスカラ、
其負擔ニ於テ幾分ノ餘裕ヲ存セシメテ、大
體先ヅ七分ノ利益ガアルモノト假定シマシ
テ、サウシテ對象物トシタノデアリマス、
サウ云フ譯デアリマスカラ、資本ノ大小ニ
依ッテ差別ヲ付ケルト云フコトハ、ドウモ適
當デナイト考ヘマス
第八ノ御質問ハ、個人ニ付テ昭和六年以
前二箇年ノ平均利益ト看做シタル理由ヲ申
上ゲマスガ、不景氣ノ當時デアリマスルカ
ラ、若シ個人ノ平均利益ガ少イ場合ニ於テ
ハ、其金額ヲ基準トシテ課稅シマスルト云
フト、其負擔ガ非常ニ重クナルノデアリ
マス、ソレ故ニ其金額ハ大體先ヅ三千圓ト
云フモノヲ相當ト認メマシテ、サウシテ定
メタモノデアリマスルガ、其詳細ニ至リマ
シテハ又委員會ニ於テ、詳シク事務的ニ御
說明ヲ致ス機會ガアラウト思フノデアリマ
ス
又第九ニハ個人ノ免稅點ヲ六千圓ト爲シ
タルコトニ付テ、政府ハ中小商工業者ノ利
益ヲドウ見ルカト云フ御間ノヤウデス、個
人營業者ノ全部ヲ課稅ノ對象トスルコトハ、
本稅ノ趣旨ヨリ見マシテ適當デナイモノガ
アルノデアリマス、故ニ個人ノ營業者ノ中、
利益ノ大ナラザルモノニバ此稅ヲ課ケナイ
ソデアリマス、而シテ中小商工業者トハ、
ドノ程度マデヲ中小商工業者ト見ルカト云
ヒマスト、是ハ中々正確ニ數字ヲ以テ言フ
譯ニハ行カナイノデアリマス、ソレ故ニ先
ヅ凡ソ六千圓、其以下ノ者ニハ此稅ヲ課ケ
ナイト云フコトガ、穩當デアラウト認メタ
ノデアリマス、ソレカラ又臨時利得稅ノ收
入ノ見積ガ過小デアル、之ニ付テ段々ト戰
時利得稅ノ時ナドノ、增稅ノ初メテ行ハレ
タ時ノ收入ノ豫想ト、實收入トハ大變ナ違
ヒガアッテ、何時デモ實收入ガ多イト云フ御
說明デ御質問ニナリマシタガ、收入ノ見積
ヲ立テマスノハ、是ハ中々當局者トシマシ
テハ困難ナ問題デアリマシテ、殊ニ新稅ニ
付テハサウデアリマス、ソレデハドウシテ
此見積ヲ立テルカト申シマスト、先ヅ全國
ノ稅務署ヲシマシテ調査セシムルノデアリ
そう、其調査シタルモノニ依ッテ、尙ホ今後
經濟界ノ推移ヲ達觀シマシテ、幾分增加ヲ
見積ッテ、是ナラ宜カラウト云フ所デ積ッタ
モノデアリマシテ、唯漫然ト目當ナシニ積ッ
タモノデハアリマセヌ、決シテ殊更ニ收入
ヲ過小ニ見積ッタト云フ譯デハナイノデア
リマス、併シ今後ノ經濟界ノ盛衰如何ニ依ッ
テハ、固ヨリ先ヅ豫想ヨリハ多クナル方ニ
近カラウト思ッテ居リマス、ケレドモ何分此
增稅ニ依ッテ、收入ガ幾ラアルト云フコト
ヲ豫算ニハ積ッテ出サナケレバナリマセヌ
カラシテ、今日ニ於テハ出來得ルグケ最善
ノ方法ニ依ッテ認メタモノデアリマス、從來
稅ノ收入ノ見積ニ於テハ、必シモ何時デモ見
積ヨリ實收ガ多カッタトハ限ッテ居ラヌ、時
ニ依ルト云フト減ルコトモアルノデアリマ
ス、之ヲ又主管ノ省ニナッテ見マスト云フ
ト、見積ヲ見積ッテソレダケノ收入ガナカッ
タト云フト、是ハ申譯ナイト云フヤウナ觀
念ガ中々强イノデアリマス、故ニ多少用心
深イト云フコトモナイトハ申シ上ゲ兼ネル
ソレカラ第十一ニハ、臨時利得稅ヲ臨時稅
ト爲シタル理由、度々申ス通リ臨時利得稅
ハ、此時局ノ影響ニ依ッテ景氣好轉シツヽ
アル營業ニ對シテ、課稅セントスルモノデ
アリマス、要スルニ現在ノ經濟界ノ跛行的
情勢ニナッテ居ルコトハ免レヌノデアリマ
ス、ソレナラ跛行的ニナッテ居ルカラシテ、
之ヲ其均衡ヲ得ル爲ニヤッタノカト云フト、
決シテソレハサウデハナイノデアリマス、
故ニ將來ノ經濟界ノ情勢如何ニ依リマシテ
ハ、或ハ之ヲ多少形ヲ變ヘテ、永續スルコトノ
必要ガ起ルカモ知レマセヌ、或ハ臨時稅ト
シテ、他ノ一般稅制ヲ考ヘル時ニ於テ、是
ハ廢メルコトニナルカモ知レマセヌ、故
臨時稅トシテ唯當分之ヲ實行スルヲ適當ト
認メタノデアリマス、而シテ其當分ト云フ
コトハ、ドウ云フ意味カト云フヤウナ御尋
ガアッタヤウデアリマスガ、當分ト云フコト
ヲ年月ヲ限ッテ言フト云フコトハ、是ハ出
來ナイコトデアリマス、矢張當分ト御承知
ヲ願ヒタイ、又度々戰時利得稅ト本稅トヲ
比較シテ、色々御意見ガアリマシタケレドモ、
戰時利得稅ヲ課シタ時代ノ財界ノ狀態ト、
今日ノ經濟界トハ色々ナ點ニ於テ趣ヲ異ニ
シテ居ルノデアリマス、隨テ今日ノ經濟界
ノ景氣ノ好轉シタ其原因、又其金利、物價
ノ騰貴ノ程度等、サウ云フコトニ於テ餘程
違ガアルノデアリマス、隨テ戰時利得稅ト本
稅トハ一樣ニ行カヌ、趣ヲ異ニスルコトガ
アルト云フコトハ、是ハ當然ノコトデ、兩
者ヲ比較スルト云フコトハ、今日出來ナイコ
トデアラウト考ヘマス、併ナガラ色々ノ御
意見ハ、畢竟一般的稅制整理ノ御考カラシ
テ、縷〓御述べニナッタ中島君ノ御意見ハ、
一般的稅制整理ヲ考慮スル場合ニ於テハ、
非常ニ有益ナ「ヒント」ヲ與ヘラレタルコト
ト考ヘマス、左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手)
〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=18
-
019・兒玉秀雄
○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君) 臨時利得稅
ニ關係致シマシテ、特別會計デアル外地ニ、
如何ニ施行スルカト云フコトニ對シマスル、
中島君ノ御質問ニ對シテ御答申上ゲマス、
臨時利得稅ハ臺灣、樺太ニハ、法人、個人
トモ施行スル積リデアリマス、而シテ臺灣
ニ於キマシテハ律令ニ依リ、樺太ニ對シマ
シテハ法律ノ委任ニ依リマシテ、之ヲ施行
スル積リデアリマス、朝鮮ニ於キマシテハ、
法人ノミニ施行スル積リデ居リマス、而シ
テ朝鮮ニ於キマシテハ制令ニ依リマシテ之
ヲ施行スルコトニナリマス、南洋ニ付キマ
シテハ、今囘ハ之ヲ施行セザルコトニナツ
テ居リマス、而シテ南洋ニ施行セザル所以
ノモノハ、御承知ノ通リ帝國ガ委任統治ヲ
受ケマシテカラ、今日マデ僅ニ十二年デア
リマス、其產業開發ノ中途ニアルノデアリ
やく、保護助成ヲ要スベキ時代ニアルノデ
アリマス、隨ヒマシテ現在ニ於キマシテ、
營業ニ關シマスル課稅ノ制度モナク、又收
益ニ對スル所得稅ノ施行モナイノデアリマ
ス、斯ノ如キ理由ヲ以チマシテ、南洋ニハ
之ヲ施行セザルコトニ致スノデアリマス、
隨テ御尋ニナリマシタ南洋興發會社ニ對シ
テモ、此意味ノ課稅ハ受ケナイコトニ相成
ルノデアリマスルガ、御承知ノ通リニ、南洋
興發ノ南洋ニ於キマスル事業ノ最モ重要性
ヲ有ッテ居リマスル砂糖ニ對シテハ、可ナリ
大ナル負擔ヲ出港稅ト致シテ受ケテ居ルヤ
ウナコトニナッテ居リ、且ツ內地ニ於キマス
ル資產營業ニ付テハ、課稅サレルコトハ勿
論デアリマス、朝鮮ニ於キマシテ此臨時利
得稅ノ課稅ノ基礎デアリマスル昭和五六年
ニ於キマシテハ、個人ニ關スル所得稅ノ施
行ガナイノデアリマス、又營業稅ハゴザイ
マスルケレドモ、內地ノ營業收益稅トハ稍、
趣ヲ異ニシテ居ルヤウナ事情ニナッテ居
リマス、前年施行サレマシタル戰時利得稅
ニ於キマシテノ先例モアリマスルコトデ、
今回ハ法人ノミニ止メマシテ、個人ノ所得
ハ暫ク之ヲ見合ハスコトニ致シテ居リマス、
殊ニ朝鮮ニ於キマシテハ昨年、昭和九年ニ
於テ初メテ個人所得ヲ施行シタノデアリマ
ス、負擔ノ輕減ヲ圖リマスル爲ニ、昨年ニ
於キマシテハ其半額ヲ徵收スルコトニ致シ
マシテ、今年卽チ昭和十年度ニ於テ、初メ
テ全額ヲ負擔スルト云フ事態ニナッテ居ル
ノデアリマス、本年度ニ於キマシテ、初メ
テ個人所得ガ全額徵收サレル朝鮮ニ於キマ
シテ、之ニ直チニ臨時利得稅ヲ課スルト云
フ事柄ハ、如何ニモ朝鮮ノ事情ニ適シナイ
ト認メテ居ルノデアリマス、此理由ヲ以チ
マシテ差當リ朝鮮ニハ、個人ニ對スル臨時
利得稅ヲ施行セズト云フコトニ致シテ居ル
ノデアリマス、大體此說明デ御諒解ガ願ヘ
ルコトヽ思ッテ居リマス(拍手)
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=19
-
020・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 中島君ノ私ニ御
尋ニナリマシタ筒條ハ、二箇條アルト考ヘ
マス、昭和十年度ノ資材整備費ガ一億一千
万圓、十一年度ニナッテ一千七百万圓、資材
整備費ガ十一年度ニナッテ俄然トシテ少ク
ナルノハドウ云フ譯カ、ソレカラサウ云フ
風ニ少クナッタナラバ、軍需工業ガ俄ニ萎靡
スルヤウナコトハナイデアラウカ、其點ニ
付テドウ考ヘテ居ルカ、斯ウ云フ御尋ノヤ
ウニ考ヘマス、是ハ將來ノ軍費ト云フコト
ニ重大ナ關係ガアリマスノデ、少シク詳シ
ク說明ヲ中シタイト思ヒマス
此資材整備費ト云フノハ昭和七年、所謂
時局兵備改善案ヲ作リマシタ當時ニ、資材整
備ノ所要總額ト云アモノヲ決メタノデアリマ
シテ、是ハ大體當時御承知ノコトヽ思ヒマ
スガ、五億數千万圓ト云フ計數ヲ出シタノ
デアリマス、所デ其資材整備ヲ昭和八年度
以降、所謂八年、九年、十年ト云フ風ニ、旣
定繼續費デ三億數千万圓ト云フモノヲ逐次繰
上ゲテ使用シマシタ、詰リ其資材ノ缺陷ヲ
成タケ早ク或ル程度ニ整備セヨ、斯ウ云フ
思想カラ此繼續費ト云フモノヲ繰上ゲテ使
用シタ、ソコデ五億數千万圓ト云フ數ガ總
體ニ於テ資材ヲ整備スルノニ必要ダト云フ
中ニ、三億數千万圓ト云フモノハ出來マシ
タト云フコトニナリマスト、尙ホ玆ニ二億
ト云フモノガ殘ル、詰リ我國ノ資材ノ整備
ヲ或ル程度完全ニヤラウ、斯ウ考ヘマスト、
尙ホ玆ニ二億ノ資材整備費ヲ要スルト、斯
ウ云フコトニナル、併ナガラ其二億ヲ如何
ナル程度ニ於テ、如何ナル方法ニ於テ今後
充備シテ行クカト云フコトハ問題デアリマ
ス、隨テ十一年度以降ノ豫算ヲ編成スル場
合ニハ、此問題ヲ眼中ニ置カナケレバナラ
ヌ、詰リ資材ノ整備ヲソレニ於テ滿足スル
カ、其滿足出來ナイ狀態ヲドウ云フ風ニシ
テ咀嚼シテ行クカト云フコトハ、此十一年
度以降ノ豫算ヲ編成スル時ニ考ヘナケレバ
ナラヌ問題ト存ジテ居リマス、ソコデ此軍
需工業ガ、或ハ激減スルト云フコトガアル
カモ知レマセヌ、其點ニ付テハ此資材整備
ヲドウ云フ風ニヤルカト云フコトニ付テハ
只今中シタ通リニ其當時ニ於テ考ヘルノデ
アリマスガ、一面ニ於テ軍需工業ガ俄ニ萎
靡シテ行キ、經濟界ニ衝擊ヲ與ヘルト云フ
コトハ考ヘナケレバナラヌコトデアリマス
カラ、此點ニ付キマシテモ軍部ト致シマシ
テハ、設備ノ過大ナル擴張ヲ戒メル、或ハ
職工數ノ制限ヲ行フト云フヤウナ、相當ノ
對策ヲ講ジテ來テ居ルノデアリマス、又將
來ニ於キマシテモ急激ナル變化ヲ來サナイ
ヤウニ、目下〓究ヲシテ居ル次第デアリマ
シテ、御心配ノヤウナ、俄ニ作戰資材ノ要
求ガ激減シテ、ソレガ爲ニ軍需工業ガ非常
ナル萎靡ヲスルト云フヤウナコトハ、先ヅ
ナイト云フ考デ居リマス(拍手)
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=20
-
021・中島彌團次
○中島彌團次君 總理大臣初メ各大臣カラ、
殊ニ高橋大藏大臣ヨリ親切丁寧ナル所ノ答
辯ヲ戴キマシテ、本員ハ大體ニ於テ滿足ス
ル者デアリマスルガ、唯總理大臣ノ御答辯
ト、高橋大藏大臣ノ御答辯トガ、少シ喰違ウ
テ居ル所ガアルヤウニ思ヒマスカラ、其點
ニ付テ一言質シテ見タイノデアリマス
卽チ總理大臣ハ屢〓此議場ニ於テ說明サ
レマシタ如クニ、初ハ增稅シナイト云フ考
デアッテ、アト增稅スルヤウナ考ニ變ッテ來
タト云フコトハ、災害ガアッタガ爲メデアル
ト仰シヤイマシタナラバ、果シテ然ラバ臨
時利得稅ハ災害費ニ充テル所ノ御考ヲ有ッ
テ居ル、其意味デアルヤ否ヤ、此點ガ頗ル
私共ハ疑問ニ思ハレルノデス、災害ガアッタ
ガ爲ニ臨時利得稅ヲ起ストスルナラバ、是
ハ當然災害費ニ持ッテ行クト云フ所ノ結論
ニ到達スルヤウニ私共考ヘマスガ、如何ニ
御考ニナッテ居ルノデアリマセウカ、サウ
シマスルト、是ハ歲入ノ必要上カラ迫ラレ
タ所ノヤリ方デアリマシテ、卽チ公債ヲ三
千万ナリ四千万ナリ出シタイノダガ、出スノ
ガ厭デアル、卽チ前藤井藏相ハ健全財政ノ
第一步トシテヤラレントシタコトハ是ハ確
カデアリマス、當時ノ新聞紙ヲ御覽ニナラ
レマシテモ、亦財政審議會ナルモノヲ突如
トシテ發表シタコトニ依ッテ非常ナル問題
ガ起ッタノデアリマスガ、ソレガ內政審議
會ト變ッタト云フコトニナッタノデアリマス
ルカ、私ハ其消息ハ知リマセヌガ、兎
ニ角モ財政審議會ナル豫算ヲ見積ッテ
居るノ、サウナレバ此臨時利得稅ト云フモ
ノハ、所謂健全財政ノ第一步デアルト云フ
コトハ、前藏相ノ卽チ主義方針デアッタノデ
アルト私共ハ考ヘル、高橋藏相ハ前藏相ヲ繼
ガレタノデアリマスルガ、前藏相ハ又高橋藏
相ヲ繼ガレタト云フカラ、是ハ親子ノ關係
ミタイニ私共ハ立ッテ居ルト考ヘマス、サウ
シマスト今ノ高橋藏相ノ御說明ニ依リマス
ト、健全財政ノ第一步デナイ、卽チ收支均
衡ヲ得セシメンガ爲ノ第一步デハナイ、斯
ウ言ハレタ、更ニ又其次ニ來ルベキ增稅ト
云フモノニ對スル所ノ一ツノ計畫、卽チ稅
制整理ノ計畫ノ第一步デモナイ、斯ウ言ハ
レタ、是等ノ點、總理大臣ノ言ハレタ點ト、
高橋大藏大臣ノ言ハレタ點トヲ考ヘテ、頭
ノ中デ綜合シテ見マスナラバ、何ガ爲ニ三
四千万圓ノ金ヲ取ラントスルノデアルカ、
私共ニハ一寸提案ノ理由ガ分ラナクナッテ
來タ、殘ル問題ハ一方デハ農村ノ如キ不景
氣ニ苦シミ、生活ニ困ッテ居ル人ガアル、他
方ニ於テハ所謂軍需景氣其他ニ依ッテ鼓腹
擊攘シテ居ル所ノ所謂暴富ヲ來シテ居ル人
ガアル、此貧富ノ懸隔ヲ調和センガ爲ノ一
ツノ刺戟劑トシテノ、所謂社會正義ノ觀念
カラ、不勞利得ニ重課スル所ノ理由カラ
ヤッタト云フ所ノ、一ツノ〓凉劑的ナ、或ハ
一ツノ思想調和劑的ナ意味カラ、社會思想
ノ詭激ナルコトヲ矯正センガ爲ニヤッタ意
味デアルカ、サウ云フヤウナコトダケガ後
ヘ殘ッテ居ルヤウニ考ヘラレマシテ、歲入均
衡ノ爲ニシテハ政府ノ見積リガ正當トスレ
バ三四千万ト云フ金ハ非常ニ少額デアツ
テ、二十一億何千万ト云フ豫算ニ對シマシ
テハ、僅カナ一ツノ役割ヲ爲シテ居ルニ過
ギナイ、サウ考ヘテ見マスト、何ノ爲ニ本
稅ヲ提案シタノカ、藤井前大藏大臣ガ迭ッテ
今度ノ大藏大臣ニナラレマシテ、增稅禮讚
論者ガ增稅反對論者トナリマシタノデアリ
マスカラ、此法案其モノハ高橋サンノ頭ニ
於キマシテモ一種ノ繼子扱ヒ的ナ考ニナッ
テ居ルヤウニ私共ニハ感ゼラレル、立案者
ト提案者及之ヲ實施セントスル責任者ガ異
ル故ニ、其背景タル所ノ-提案理由タル
所ノ「イデオロギー」ガ頗ル茫漠トナッテ來
ルノデアリマス、是等ノ點ニ付キマシテ、
私共諒解ニ苦シム點ガアルノデアリマスル
カラ、今ノ點ニ付キマシテ大藏大臣及總理
大臣御二人ノ、明確添徹セル御答辯ヲ再ビ
煩ハサンコトヲ希望スル次第デアリマス
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=21
-
022・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 中島君ニ御答致
シマス、昨年各種ノ災害ガ相踵ギマシテ、
又四圍ノ情勢ヨリ見マシテ、相當多額ノ國
費ヲ要スルニ至リマシタ、然ルニ財界ハ跛
行ノ景氣ニナッテ居リマシテ、一方デハ相當
ノ利益ヲ得テ居ル者ガアリマスカラ、此方
カラ利益ノ一部ヲ割イテ貰フト云フコトヲ
考ヘタノデアリマス、勿論收入ノ一部ニ致
シタノデアリマス、唯國費ノ收入ニナルノ
デアリマスカラ、ソレガ何處へ使ハレルカ
ト云フコトハ、明確ニ御答スルコトハ甚ダ
困難ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=22
-
023・濱田國松
○議長(濱田國松君) 次ノ通〓者中村繼男
君
〔中村繼男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=23
-
024・中村繼男
○中村繼男君 只今議題トナッテ居リマス
臨時利得稅法案ニ關シテ、御尋ヲ致シタイ
ト思ヒマス、昨日來カラノ質問ヲ聽イテ居
リマスルト、其中ニハ私ノ問ハントスル事
柄ト或ハ交錯致シ、或ハ重複ヲ致シテ居ル
ヤウナ點ガナイデハアリマセヌ、併ナガラ
總理大臣及大藏大臣ノ之ニ對スル御答辯ヲ
聽イテ居リマスト、議場ニ徹底ヲ致シマセ
又、ソレバカリデナク、其要點ヲ摑ムニ骨
ガ折レルノデアリマス、隨テ私ノ質問中ニ或
ハ前者ノ質問ト交錯ヲ致シ、或ハ重複ヲ致
スヤウナ部分ガアリマシテモ、是ハモウ一
度丁寧ニ御答辯ヲ御顧致シタイト思ヒマス、私
共ハ從來カラ中央地方ヲ通ジタル所ノ根本的
ノ稅制整理ヲ、主張シテ參ッタ者デアリマス、
又非常時利得稅ヲ創設スベキモノデアルト
云フコトモ主張シテ參リマシタ、其非常
時利得稅創設ノ理由ト云フモノハ非常
時ニ際シテ儲ケタ者ガアル一方ニ非常時
被害者ガアル、此非常時被害者ニ對スル
應急的ノ施設ヲ講ズベキ財源ヲ得ヨウ
ト云フノガ、此非常利得稅提唱ノ私共
ノ主張デアッタノデアリマス、隨テ私共ハ
此觀念ニ立脚ヲ致シ、此意味ヲ有ッテ居ル非
常利得稅デアリマスナラバ、私共ハ決シテ
不贊成ヲ致スモノデハナイ、然ルニ今度ノ
利得稅法案ヲ見マスルト私共ノ考方ト
色々ノ點ニ於テ違ッテ居ルノデハナイカト
思ハレル點ガ少クナイノデアリマス
第一番ハ根本的ノ稅制整理ト飛放レテ是
ダケノ、チッポケナ增稅ダケヲヤラレテ居
ルノデアル、是ハ一體ドウ云フ譯カ、又增
稅ニ依テ得ラレタ所ノ此歲入金ノ使途ガ全
ク不明デアル、只今中島君ノ質問ニ對シテ、
總理大臣ヨリ御答ニナッタガ、唯收入ノ一部
ニ當テヽ居ルト云フダケノ話デアッテ、此臨
時ノ收入ヲ臨時ノ使途ニ充當スルト云フ、
大事ナ此增稅ノ目標ヲ外レテ居ルノデハナ
イカト思ハレルノデアリマス、又增稅ノ時
期方法等ガ、從來政府ガ唱ヘラレテ來テ居ッ
タ所ノ主張、或ハ租稅ノ根本原則デアル所
ノ負擔均衡論、斯ウ云フモノカラ見マシテ、
此臨時利得稅ト云フノモハ、吾々ノ主張シ
テ參リマシタ所ノ、所謂非常時利得稅ト其
內容性質ニ於キマシテ、甚シク違ッテ居ル
ノデハナイカト疑ハレル點ガ多イノデアリ
やく、隨テ私ハ本案ニ對スル吾々ノ贊否ヲ
決スル所ノ重大ナル參考ト致シマシテ、次
ノ諸點ヲ改メテ政府ノ當局ニ御質シヲシタ
イト思フノデアリマス
第一私ノ考ヲ以テスルナラバ、增稅ハ一
般的ノ行政整理ト竝行シテ之ヲ行フベキモ
ノデハナイカ、是ガ第一點ノ問題デアリマ
ス、高橋大藏大臣ハ齋藤内閣ノ當時カラ、
常ニ此增稅ニハ二ツノ前提要件ヲ必要トス
ルト云フコトヲ申シテ來テ居ラレテ居ルノ
デアリマス、其第一ハ所謂經濟界ガ增稅
ニ堪ヘ得ル時期デアルコト、是ガ一ツノ要
件第二ハ財政上ノ見透シガ付カナケレ
バイカヌド云フコト、是ガ第二點、此二ツ
ノ要件ヲ前提ト致サレマシテ、昨年ノ第六
十五議會當時ニ於テモ、增稅ノ時期デハナ
イ、隨テ十年度ヨリ增稅スル譯ニハ行カナ
イト云フコトヲ言明シテ來テ居ラレタノデ
アリマス、又岡田總理大臣及藤井前大藏大
臣モ、財政經濟策ニ付テハ高橋サント同一
ノ政策ヲ執ルト云フコトヲ聲明セラレテ居
ル、隨テ增稅ノ如キハ之ヲ行ハナイト云フ
コトハ、屢〓之ヲ中外ニ聲明シテ御出デニ
ナッタ、然ルニ昨年ノ十一月、豫算編成ノ酣
トナルヤ、突如トシテ臨時利得稅創設ノ意
ノアルコトヲ明ニセラレタ、サウシテ經濟
界ニ一大衝動ヲ起シタ、當時大藏省當局デ
ハ其增稅金額ガ非常ニ多クナイ、少シバカ
リダト云フヤウナコトデ、其經濟界ノ衝動
ノ擴大防止ニ努メテ御出デニナッタ、稅金ノ
多少ハ私ハ此處デ問フ者デハナイ、苟モ高
橋大藏大臣ノ政策其儘ヲ繼承實行スルト云
フコトヲ言ウテ來ラレタ所ノ岡田內閣乃至
ハ藤井前大藏大臣ガ、其前言ヲ飜シテ、此新
稅ヲ突如トシテ提出セラルヽト云フ事情ハ
分ラヌ、是ハ一體ドウ云フ譯デアルカ、新
シイ國策ノ遂行上巳ムヲ得ズ增稅セナケレ
バナラヌ必要ガアッタノデアルカ、若シ新シ
イ國策ノ遂行上增稅ノ已ムヲ得ナイモノガ
アッタトスルナラバ、其國策ハ何デアルカ、
今中島君ノ質問ニ對シマシテ、災害ガアッタ
カラ增稅シタ、斯ウ云ハレタ、ソレナラバ
災害ヲ救フ爲ノ增稅ナラバ、此增稅金額ト
云フモノハ歲出ノ方面ニ於テ眞先ニ之ヲ充
當シテ置カナケレバナラヌ筈デアル、併シ
唯收入ノ一部ニナッタト云フコトダケデアッ
テハ所謂國策遂行ノ爲ノ增稅デアルト云
フコトハ出來ナイデハナイカ、是ガ私ノ聽
カントスル所デアル、又若シ何等ノ定見ナ
クシテ、又計畫モナク漫然トシテ增稅セン
トスルト云フコトデアッタナラバ是ハ一
體增稅ト云フコトハ意義ヲ成サヌ、又大藏
大臣ノ高橋サンノ豫テノ持論カラ言ッテ、之
ヲ今日一部階級ノ者ガ儲ケテ居ルカラ、其
者カラ取ルノハ當リ前ダ、斯樣ナ御說デア
ルガ、斯ウ云フコトヽ、高橋サンガ今日マデ
主張シテオ出デニナッテ參ッタ所ノ、所謂二
大前提要件ト云フモノハ、此場合ドウナッテ
シマフカ、先程中島君ノ問ニ對シテ、大藏
大臣ハ段々景氣ガ好クナッテ來テ居ルカラ、
特別ノ者ニ所得稅ヲ取ルコトハ宜シイデハ
ナイカ、斯ウ云フ意味ノ答辯ニナッテ居ル、
此意味ハ段々九年十年ト景氣ガ好クナッテ
來テ居ルノデアルカラ、我國ノ經濟界ハ
增稅ノ負擔ニ堪ヘ得ルト云フ意味デ仰シ
ヤッテ居ルノデアルカドウカ、サウダト
スルナラバ、今日ハ增稅ノ時期デアルト云
フコトニナルノデアッテ、其次ニ言ハレタ所
ノ財政整理、或ハ一般的ノ稅制整理ト云フ
モノハ、後廻シニスルト云フ事柄ト少シ矛
盾スルノデハナイカ、此點ヲ一ツ御伺致シ
タイノデアリマス
又高橋サンノモウ一方ノ前提要件デアッ
タ所ノ財政ノ見透シ、是ハドウナッテ居ル、
財政ノ見透シト經濟界ガ負擔ニ堪ヘルト云
フコトガ、高橋サンノ所謂增稅ノ前提要件
デアルト致シマスナラバ、經濟界ハ好クナッ
タ、併シ財政ノ見透シガ付カヌト云フコト
デハ、矢張增稅ハ出來ヌデハナイカ、然ル
ニ今日茲ニ增稅案ヲ提ゲテ-茲ニ提案セ
ラレテ居ルト云フコトハドウ云フ譯ニナル
カ、片手落ノ是ハ提案デハナイカ、斯ウ云
フコトニナルデハナイカ、ソコデ經濟界ガ
增稅ニ適當デアルトスルナラバ、此際一般
的ノ稅制整理ト竝行シテ之ヲ實行スルノガ
當リ前デハナイカト思フ、此處デ高橋サン
ハ臨時利得稅ハ特別ノモノニダケ課稅ス
ル、所謂增稅ノ一小部分デアルカラ構ハナ
イ、斯ウ云フ意味デ先程ノ中島君ノ質問ニ
對シテ答ヘラレタノカモ知レナイ、併シソ
レハ量ノ問題-私ノ問ハントスル所ハ
財政經濟ノ諸事情ヲ綜合シテ質ノ間題ト致
シテ、今日ハ增稅ノ時期デアルカドウカト
云フコトヲ聽イテ居ル、卽チ量ノ問題デナ
クテ質ノ問題カラノ高橋大藏大臣ノ御意見
ヲ承リタイノデアリマス
又增稅ノ前提要件ノ一部デアル所謂財政
ノ見透シ問題ニ付テ、私ガ御尋ヲ致サナケ
レバナラヌト考ヘマスノハ、軍部豫算ノ見
透シノ問題、財政ノ見透シノ中デ最モ大切
ナルモノハ、軍部豫算ノ見透シデアルト云
フコトハ申ス迄モアリマセヌ、果シテ然ラ
バ現在ニ於テ大藏大臣ハ、軍部豫算ノ見透
シハドウ云フ風ニ御付ケニナッテ居ルノデ
アルカ、勿論國際情勢ノ變化ニ伴ヒマシテ、
軍部豫算ト云フモノモ亦變化スベキコトハ
當然デアリマス隨テ一〓ニ的確ナル軍部豫
算ノ見透シヲ付ケルト云フコトハ、是ハ何
人ト雖モ至難ノ事柄デアリマセウ、併ナガ
ラ軍部豫算ノ見透シガ付カナケレバ的確
ナル財政計畫ト云フモノハ出來得ナイヂヤ
ナイカト私ハ考ヘテ居ル、其的確ナル財政
計畫ガ出來ナケレバ、行財政ノ整理モ亦增
稅問題モ、其目標ヲ失ウテシマウデハナ
イカ、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘル、延イテ
ハ-軍部豫算ノ見透シガ付カヌト云フコ
トノ結果ハ、延イテハ產業對策或ハ農村對策
ト云フヤウナ國策モ、亦之ヲ確立スルコト
ガ頗ル困難ナ狀態ニ陷ッテ行クノデハナイ
カ、卽チ軍部豫算ノ見透シヲ付ケルト云フ
コトハ國策ノ源デアル、行財政ノ整理乃至
ハ增稅ヲ爲スヤ否ヤノ根本義デアルト、私
ハ考ヘテ居ルノデアリマスガ、此故ニ私ハ
臨時議會ノ時ニモ、大藏大臣及總理大臣ニ
此演壇ニ於テ申上ゲテ置イタ、卽チ軍部豫
算ノ見透シノ付クマデ、他ノ總テノ國策ハ
之ヲ抛擲シテ顧ミヌトアッテハ、國務大臣ト
シテノ職責ニ悖ルモノデアル、仍テ大藏大
臣ハ自ラ進ンデ國務大臣ノ一員トシテ、軍
部豫算ノ見透シヲ付ケベキデナイカ、斯ウ
云フコトヲ私ハ申上ゲテ來タノデアリマ
ス、卽チ此點ニ對シマシテ、現在總理大臣
及大藏大臣ハ、如何ナル御考ヲ御持チニナツ
テ居ルカ、同時ニ軍部大臣ハ此點ニ對シテ
如何ナル御覺悟ヲ御持チニナッテ居ルカ、之
ヲ御承リシタイノデアリマス
元來私ノ根本的ノ考方カラスルナラバ、
增稅或ハ稅制整理ト云フモノハ國策ノ樹
立ニ伴フ所ノ財政計畫ト相呼應シテ、之ヲ
實行シナケレバイカヌデハナイカ、斯ウ云
フ考ヲ私ハ持ッテ居ル、玆ニ申上ゲル所ノ國
策トハ、言フ迄モナク國際情勢及國內的時
局ノ現狀ヲ能ク認識ヲ致シテ、其禍根ヲ究
メテ、之ヲ排除スベキ所ノ內外不動ノ對策
ヲ指スノデアリマス、國防、軍備モ必要デ
アラウ、更ニ國內的ニハ危機ニ瀕シテ居ル
所ノ農漁山村乃至中小商工業者ノ窮狀ハ、私
ガ此處デ改メテ申ス迄モナイ、其對策ハ焦眉
ノ急務デアルト思フ、此內外ニ亙ル所ノ時難
ヲ克服スベキ所ノ國策ノ樹立ガ、正ニ今日ノ
內閣諸公ノ最モ大切ナル重大ナル眼目デナ
ケレバナラヌト私ハ考へテ居ル、此國策アッ
テコソ始メテ財政計畫アリ、玆ニ初メテ行
財政整理ノ問題モ生ジ、增稅乃至ハ稅制整
理ノ問題モ伴ウテ起ッテ來ルノデハナイカ、
斯樣ニ私ハ考ヘテ居ル、卽チ端的ニ之ヲ申
上グルナラバ增稅アッテ然ル後ニ國策ガ
アルト云フ譯デハナクシテ、國策ガ先ヅ出
來テ、然ル後ニ其目的遂行ノ手段トシテ、
增稅ガアルベキ筈ダト私ハ考ヘテ居ル拍
手)然ルニ臨時利得稅ノ設ケラレタル所謂
提案ノ理由、中島君ヲシテ言ハシムレバ
提案ノ理由ガ分ラヌ、斯ウ云フ風ニナル譯
ハ一體ドウ云フモノデアルカ、何モソコニ
國策ガナイ、私ノ見ル所デ言フナラバ國
策ヲ背景トセザル所ノ漫然タル增徵ダ、增
稅ト云フヨリハ是ハ增徵ダ、出タラ目ノ負
擔增加ニ過ギヌデハナイカ、斯ウ云フ風ナ
考ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマシテ、歲
出アッテ然ル後ニ歲入ヲ計ルト云フ、此財
政ノ根本觀念ヲ引繰返シテ居ラレルノデハ
ナイカ、斯ウ云フ風ナ感ジガセザルヲ得ナ
イノデアリマス、卽チ此增稅案ト云フモノ
ハ、單ニ十年度豫算ノ辻褄ヲ合センガ爲ニ、
又一ツハ藤井前藏相ノ所謂健全財政、公債
漸減、此健全財政ヲ裝ハンガ爲ニ、鐵道、
遞信、臺灣特別會計カラノ減債基金ノ繰入
額ノ增加ガ一千七百餘万圓アル、同ジク鐵
道樺太、朝鮮特別會計ヨリノ公債發行減
額ガ千五百八十万圓、所謂財源ヲ出セ、財源
ヲ出セト言ウテ、搾リ出シタ所ノ是等ノ金、
斯ウ云フモノト同樣ニ、十年度ノ豫算ノ辻
褄ヲ合センガ爲ニ、擬裝ニ充當セラレテシ
マッテ居ルノデハナイカ、斯ウ云フ結論ニ
ナッテ居ルノデアリマス(拍手)卽チ昭和十
年度豫算ノ官僚的擬裝費用ガ一金三千万圓
也トアリマシテハ、是デハ國民ハ浮バレヌ
ト言ハナケレバナリマセヌ(拍手)此點ニ關
シテ總理大臣及大藏大臣ノ御所見ヲ伺フノ
デアリマス
第二ハ臨時利得稅ハ暫定的ノモノカ、稅
制整理ノ前提デアルカト云フ問題デアリマ
ス、中島君モ臨時ノモノデアルカドウカト
云フ點ニ付テ御尋ガアリマシタ、併シ之ニ
對スル御答辯ハ頗ル不得要領デアッタ、總
理大臣ハ又島田君ノ本議場ニ於ケル質問ニ
答ヘラレテ、臨時利得稅ハ所謂臨時デアル、
卽チ一時的ノモノデアルト云フ風ニ御答辯
ニナッテ居ルノデアリマス、ソコデ臨時的
時的ノモノダトスルナラバ、其歲入ハ臨時
ノ歲出ニ充ツルノガ當リ前デハナイカ、是
ハ先程モ申シマシタカラ繰返シマセヌガ、
然ルニ臨時應急ノ費用ニ充テナイデ、所謂
普通ノ恆久財源ト同樣ニ、豫算ノ辻褄ヲ合
セル財源ニ充當サレテシマッテ居ル、是ハ
所謂臨時ト云フ性質ニ鑑ミテ、其歲出ノ仕
方ガ惡イノヂャナイカ、又ハ適用期間ノ點
ニ付キマシテハ、當分ハ當分デアッテ、當
分以上ニハ答ヘラレヌト云フ只今ノ大藏大
臣ノ御話デアリマシタガ、是トテモドウ云
フ時機ヲ見テ之ヲ改廢スルノデアルカ、ソ
レ等ノ御考ハナクテハナラヌ筈ダト思フ、
何デモ當分ハ當分デ通スト云フコトデハイ
カヌ、ドウ云フコトヲシタイト思フ、其時
ニハ是ハドウスルカト云フヤウナコトヲ見
セテ、國民ニ安心ヲ與ヘテ置クト云フコト
ハ、頗ル必要ナコトデハナイカト考ヘテ居
ルノデアリマス、又其適用ヲ廢止セラレタ
ル後ニ於ケル所ノ歲入ノ缺陷ハ、如何ニシ
テ補塡セントセラルヽカ、中島君モ此點ニ
付テ御尋ガアリマシタケレドモ、其事ニ對
シテハ、大藏大臣ハ明確ナル御答辯ヲサレ
テ居リマセヌ、私ハ斯樣ニ考ヘル、成程臨
時利得稅ト云フ名前ハ臨時ニハ違ヒナイ、
併ナガラ其因ッテ得タル所ノ歲入ト云フモ
ノハ、假令臨時利得稅ト云フ名前ハ廢サレ
マシテモ、其歲入額マデモ同時ニ失ッテシ
マウト云フコトハ、現下及將來ノ財政上ニ
鑑ミマシテ、到底是ハ不可能ナコトデハナ
イカト考ヘテ居ル、然ラバ何等カノ形デ歲
入ダケハ-其增徵額ダケハ之ヲ失ハザル
ヤウニ御努メニナルコトガ當然ダト思フ、
サウデアルナラバ臨時利得稅ト云フ名前ハ
コヽデ一時的デ御廢メニナリマシテモ、歲
入ノ點カラ考ヘテ來タ場合ニ於テハ、臨時
利得稅ハ所謂臨時ニ非ズシテ、恆久的ノ
租稅ニ變革サレテ行ク性質ヲ有ッテ居ルト
云フコトハ當然ト言ハナケレバナラス、此
點カラ見マス時ハ、臨時利得稅ト云フモノ
ハ所謂臨時デナクシテ、稅制整理ノ前驅
ヲ爲ス、前提ヲ爲ス、斯ウ云フ風ニナッテ來
ナケレバナラヌト私ハ思フ、然ルニ拘ラズ
政府ハ-是ハ當初カラ總理大臣モサウデ
アリマスガ、臨時的ダ、一時的ダト言ッテ、
而モ其金額モ三千万圓トカ、四千万圓トカ、
非常ニ小サクテ、而モ一時的デアルカノ如
ク、鉦太鼓デ宣傳セラレルト云フガ如キハ、
是ハ一種ノ國民ニ對スル欺瞞デハナイカト
私ハ考ヘル、隨テ利得稅ノ創設ハ、實質上
ノ稅制整理ノ前提デアルトスルナラバ、此
處デ私ハ中島君ノ議論ニ似テ居リマスケレ
ドモ、モウ一漏繰返シテ申上ゲナケレバナ
ラヌ、ソレハ所得稅法ノ改正デ行クノガ一
番宜カッタノデハナイカ、此點デアリマス
勿論所得稅ダケヲ改正シテ、他ノ租稅ハ其
儘ニ抛ッテ置クコトハイケナイデハナイカ
ト云フヤウナ御議論ハアリマセウ、併ナガ
ラ稅制改革ノ如キ、國民經濟ニ至大ノ影響
ヲ與ヘルモノニ付キマシテハ、之ヲ漸進的
ニ行フト云フコトハ、是ハ豫テ高橋大藏大
臣モ其御主張ノヤウデアルト思ウテ居リマ
ス、ソレハ結構デアル、卽チ斯ウ云フ國民
ニ至大ノ影響ヲ與ヘルモノニ付テハ、漸進
主義デ行ク、其爲カラスルナラバ、ドカリ
ト一遍ニ根本的ニ稅制ヲ引繰返スヨリ、段
段ト行クト云フ意味ニ於テモ、臨時的ナド
ト云フ胡魔化シノ言葉ヲ使ハナイデ、所得
稅ノ改正ト云フコトデ堂々ト行ッテ、所得稅
ノ目的ヲ達スルト云フコトガ悧巧デアリ、
都合ガ好カックデハナイカト、私ハ斯樣ニ考
ヘテ居ル(拍手)所謂臨時利得稅ト云フ單行
法ニシテシマッテ、而モ昭和五年、六年ヲ課稅
ノ基準ニ御採リニナッタ、玆ニ見遁スベカ
ラザル大缺點ガアルト云フコトヲ御諒解願
ハナケレバナラヌ、先程中島君ハ昭和五年
ヲ取ッタコトニ付テハ、半分ハ非常ニ宜シ
イヤウナ、又惡イヤウナ御話デ、ハッキリ聽
キ漏シマシタガ、私ノ見ル所ヲ以テ致シマ
スルト、此昭和五年六年ノ經濟界ノ最モ
惡イ絕頂ヲ取ッタ結果トシテ、負擔ノ均衡
ノ度合ニ許スベカラザル大缺陷ヲ生ジテ居
ルト云フコトヲ申上ゲナケレバナラヌ、勿
論昭和五年六年ヲ基準ニ採ッタ、隨テ昭和五
年六年ノ儲ケノ少ナカッタ其者ハ、直チニ大
キナ利得稅ヲ負擔シナケレバナラヌデハナ
イカト云フ、ソレニ對スル緩和規定トシテ、
法人ニ對シマシテハ七分ノ規定ガアルコト
ハ私モ承知シテ居リマス、卽チ昭和五年六
年平均利益ガ七分未滿デアッタ場合ニハソ
レハ七分トシテ緩和シテヤルト云フ此規定
ハアリマス、併ナガラ此七分規定ト云フモ
ノヲ設ケマシテモ、事業ノ種類性質ニ依ッ
テ、其負擔ニ大ナル相違ヲ生ジテ來ルノデ
アリマス、卽チ昭和五年六年ハ民政黨內閣
ノ「デフレーシヨン」政策ニ依ッテ、經濟界一
番惡イ時代デアッタ、其極惡ノ絕頂ノ所ヲ基
準トシテ、ソレカラ超過スルモノヲ取ラウ
ト云フ案デアリマスガ、ソレハ一律ニ何業
モ總テノ業態、種類ヲ問ハズ七分トシテ居
ルカラ、玆ニ非常ナ無理ガ生ジテ來ル(拍手)
卽チ現在同一ノ資本金デ同一ノ儲ケヲ擧ゲ
テ居リマシテモ、五年、六年ニ儲ケテ居ル
モノト、五年、六年ニ損ヲシテ居ル、或、
七分以下ノモノデアルモノトデハ、直チニ
負擔ガ違フ、現在カラ見テ、現在ハ同ジ資
本デ同ジ牧益ヲ擧ゲテ居ッテモ、負擔ガ違フ
ト云フ結果ガ玆ニ生レテ來ル、殊ニ其結果
ノ最モ顯著ニ現ハレテ參リマスモノハ、金
融資本ト商工資本トノ間ニ生ズル負擔ノ不
權衡問題デアリマス、金融資本ハ民政黨ノ
金解禁ト「デフレーシヨン」政策ノ爲ニ、物
價ハ下落シテ、圓價ハ騰ッタ、隨テ政治的ニ
ハ金融資本ト云フモノハ其當時ハ擁護セラ
レタト云フ結果ニナッテ居ルノデアリマ
ス、又金融業者ノ利益ト云フモノハ-
金輪出再禁止ト云フモノハアリマシ
タケレドモ、金融業者ノ利益ト云フモノハ
年ニ依ッテ非常ニ高下ガアルモノデハナイ、
大體ニ於テ其收益步合ト云フモノハ是ハ
政府ノ政策モ多少ハ影響致シマスケレド
モ、產業資本ノヤウニハ其影響ト云フモノ
ハ大キクナイ、其利益ト云フモノハ非常ナ
高下ガナクシテ不動デアル、一定ノ儲ケ步
合ハ平均的ニ儲ケテ來テ居ル、所ガ之ニ反
シテ商工業ハドウデアルカト申シマスト、
商工業ノ資本ト云フモノハ政府ノ政策ヤ
ラ、內外諸種ノ事情ニ依ッテ常ニ非常ニ是
ハ亂動セラレル、儲ケ步合ハ上ッタリ下ッタ
リ、端倪スベカラザル狀態ニナッテ行ク、卽
チ此點カラ申シマスレバ金融資本ト云フモ
ノハ其利益ヲ擧ゲルニ付テノ危險性ト云
フモノガ、非常ニ商工業ニ比シテ輕イト言
ハナケレバナラヌ、商賣ノ危險ガ少イ、商
工業ハ之ニ反シテ金融資本ニ比シテハ商賣
ヲシテ行ク上ニ於ケル危險率ハ非常ニ多イ
ト言ハナケレバナラヌ、ソコデ問題ハ唯ソ
レダケヲ考ヘテ來マシテモ、金融資本ノ方
ガ產業資本家ヨリモ負擔力ガアッテ〓シシ
デハナイカト云フ結論ニモナル、所ガ此利
得稅法案ニ依ッテ見テ行クトドウナルカト
云フト、昭和五年、六年、卽チ景氣ノ最モ惡
イ盛リノ絕頂ヲ取ッテ、ソレヨリ多カッタモ
ノニハ直チニ課稅スル、而モ七分ト云フモ
ノダケハ緩和スルガ、ソレハ各業全部ヲ通
ジテ七分シカナイノデアルカラゝ其時餘計
儲カッテ居ッタモノト、非常ニ儲カッテ居ラナ
イモノトノ間ニハ、非常ニ不權衡ヲ生ジテ
來ルト云フ結果ニナル、私ノ主張ヲハッキリ
致シマス爲ニ、商工省ノ統計ニ基キマシテ
其負擔力ノ割合ヲ見テ見マス、金融業、銀
行信託、貸金業等、是ハ商工省ガ取ッテ居
リマス統計ニ據ッタモノデアリマスカラ、其
積リデ御聽キヲ願ヒマス、會社數ガ千五
百、此金融業者ノ千五百ノ會社ニ付キマシ
テ、其儲ケ步合、五年、六年ノ儲ケノ割合
ヲ見テ見マスト、昭和五年ハ資本ニ對シテ
一割一分三厘、昭和六年ハズット減ッテー
ズット減ッタト雖モ六分六厘、平均致シマシ
テ、金融業者ノ收益率ト云フモノハ昭和五
年、六年ハ八分九厘デアリマス、約九分デ
アリマス、保險ハドウデアリマスカ、保險
ハ七十ノ會社ニ付テ統計ヲ取ッテアリマス
ガ、昭和五年ノ收益率ハ二割一分六厘、昭
和六年ガ二割五分四厘、平均致シマシテ保
險收益割合ト云フモノハ二割三分五厘ト
云フコトニナッテ居リマス、之ニ對シマシテ
商工業ハドウデアル、商工業ハ全國一万ノ
會社ニ付テノ統計ヲ取ッテアリマス、商工業
ノ昭和五年ノ收益率ハ四分一厘、昭和六年
ノ備ケ割合ハタッタ三分七厘、平均致シマシ
テ結局三分八厘ト云フコトニナッテ居リマ
ス、卽チ昭和五年、六年今ノ利得稅ガ
基本トナサウトシテ居ル所ノ昭和五年、六
年ノ各業態別ノ收益稅ヲ見テ見マスト、商
工業ハ僅ニ三分八厘、七分ニ滿タザルコト
遙ニ大デアル、保險ノ如キハ二割三分五
厘、金融業者ハ約九分デス、サアソコデ之
ニ對シテ同ジク七分ヲ超過スルモノニハド
ンドン稅金ヲ取ッテ行クト云フコトヲヤリ
マス結果トシテ、商工業ハ現在ノ收益ガ七
分以上ノモノニハ卽チ全部利得稅ガ課ッテ
行クト云フコトニナリマス、保險ノ如キハ
現在ノ收益ガ二割三分五厘以上デナケレバ
利得稅ハ課ラヌト云フ結果ニナル、商工業
ハ八分九厘、卽チ九分以上ノ利廻リデナケ
レバ利得稅ハ課ラヌト云フコトニナッテ來
ル、卽チ業態ノ種類ニ依ッテ斯ノ如キ不權衡
ヲ生ゼシメテ居ルト云フ所ニ、昭和五年、六
年ヲ取ッテ、而シテ單行法トシテ之ヲ制定
シタト云フ所ニ重大ナ禍根ガアルト言ハナ
ケレバナリマセヌ(拍手)又ソレバカリデハ
ナイ、同一ノ商工業ト雖モ昭和五年、六年
中ニ大ナル打擊ヲ受ケタルモノ程重稅ヲ課
セラレルト云フ結論ニナッテ來ルノデス、
實ニ矛盾シタ稅金デス、ドウ云フ譯カト申
シマスト、昭和五年、六年中ニ大打擊ヲ蒙
リマシタモノヽ中ニハ、資本金ヲ切捨テヽ
シマッテ、サウシテ所謂減資ノ方法ニ依ッテ
其缺損金ヲ補塡シテ居ルモノガアル、サウ
云フモノハ資本ヲ切下ゲテ缺損ヲ補塡シテ
居リマスカラ、現在ノ資本金ト云フモノハ
非常ニ、小サイ、其小サイ資本金ノ七分シカ
引イテヤラヌト云フコトニナルカラ、超過
利得、卽チ臨時利得金額ハ非常ニ上ッテ行ク
コトニナル、之ニ反シテ缺損ハアッタガ、滅
資ヲシテ補塡ヲスルコトモ出來ナイデ、其缺
損額ト云フモノヲ今日モ或ハ有價證劵ト云
フ勘定ノ中トカ、或ハ貸金ト云フ勘定ノ中
トカ云フヤウナ其資產勘定ノ中ニ大ナル缺
損ヲ繰込マシメテ、今日マデ繰越シテ持ッ
テ來テ居ルモノ是ハ將來ノ利益デ段々濟
崩シニ其缺損ヲ埋メテ行カウト云フヤリ方
デアル、其ヤリ方ヲヤルト、現在ノ大藏省
ノ方針デハ、ソレハ繰越缺損ノ銷却デアル
カラ、ソレハ損金卽チ經費ト認メル譯ニ行
カヌト云フコトニナッテ居ルカラ、其銷却
金ニマデモ利得稅ガ課ッテシマフト云フコ
トニナッテ、所謂昭和五年、六年ニ打擊ノ
多ケレバ多カッタ程、今日ニ於テハ利得稅
ガ多ク課ルト云フ結論ニナッテ居ル、此點
ガ所謂單行法ト致シ、而モ昭和五年、六年
ト云フモノヲ對象トシテ、ソレヲ根ッ子ニ
押ヘテ稅金ヲ取ラウトセラレテ居ル所カラ
生ジテ來テ居ル大缺點デアルト言ハナケレ
バナリマセヌ、ソコデ卽チ今申シマシタ通
リ、此利得稅法ニ依ッテ課稅ヲスルコトニ
ナリマスト、金融或ハ保險ト其他ノ商工業
トノ間ニ非常ナ負擔ニ不權衡ガアルト云フ
コトガ第一、ソレカラ同一ノ商工業ト雖モ
其事業經營ノ基礎ガ愈、鞏固デアッテ、昭和
五年、六年ニ於テモ何等ノ損害ヲ蒙ラナカツ
タモノニハ却テ輕クナッテ、其損害ノ大ナ
レバ大ナル程重課セラレルンデハナイカ、
所謂此負擔均衡ノ問題ハ根柢カラ打破ラレ
テ來マシテ、應能負擔ト云フコトガ租稅ノ
原則デアル、ソレガ利得稅法ニ依リマスト、
無能負擔ニ逆轉シテシマフト云フ結果ニナッ
テ行クンデハナイカ、此點ヲ一ツ御伺ヲ致
シタイ
ソコデ私ハ利得稅ヲ取ッテハナラヌト云
フ考方ハ持ッテ居ラヌ、初カラ申シマシタ
ヤウニ、吾々ハ戰時或ハ非常時利得稅ト云
フモノヲ大ニ取ラナケレバナラヌト云フコ
トヲ申シテ來タ者デアリマス、併シ斯ノ如
キ課稅方法ヲ以テシテ、果シテ財政或ハ經
濟上ニ何等ノ惡影響ヲ與フルモノニハアラ
ズト、政府ニ於テハ御明言ガ出來ルカ、或
ハ大藏大臣ハ言ハレルカモ知レマセヌ、先
程モ一寸中島君ノ質問ニ對シテサウ云フ意
味ノコトヲ言ハレテ居ル、斯ウ云フ風ニ言
ハレル、一體臨時利得稅ノ目的ハ、昭和五
年六年以後ニ於テ、昭和五年六年ヲ境トシ
テ其後ニ多額ノ儲ヲシタ者カラ取ラウト云
フノガ利得稅ノ目的ダカラ、君ノ言フヤウ
ニ負擔均衡バカリ言ッテ居ッテハチットモ
取ルコトガ出來ナイカラ、ソレデ宜イヂヤ
ナイカ、其後ニ於テ餘計儲ケタ者カラ餘計
取ラウト云フノダカラ、是デ宜イヂヤナイ
カト斯ウ云フ風ニ言ハレルカモ知レマセ
又、素人聞キニハ成程一寸サウ云フコトガ
肯カレルヤウデス、併ナガラ臨時利得稅ト
云フモノハ租稅デアルト云フコトヲ根本ニ
御考ヘ願ッテ置カネバナラヌ、是ハ寄附金
デハナイ、儲ケタ者カラ幾ラカブッタクレ
バ宜イト云フ、所謂ブッタクリ主義ト云フ
ヤウナ寄附金ヂヤナイ、利得稅デモ租税デ
アル、租稅デアレバ負擔均衡ハイツ何時デ
モ根本觀念デナケレバナラヌト私ハ考ヘテ
居ル(拍手)此點ニ付テ能ク御考ノ上御答辯
ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
次ニ資本金ヲ利益金額中ノ一要素トサレ
タ、是モ私ハ利得稅中ノ一ツノ缺陷デアル
ト思フ、現行第一種所得稅ニアリマシテハ、
資本金十万圓トカ二十万圓トカ云フヤウナ、
所謂資本金ノ非常ニ小サイ、個人會社ト、
同樣、個人會社ト云フヨリモ寧ロ個人ト同
樣ノヤウナモノニ對シマシテハ資本金ヲ
基準トシテ超過所得ヲ計算スルト云フコト
ガ不當デアル、負擔ノ權衡ガ合ハナイト云
フヤウナコトカラ致シマシテ、之ヲ改正セ
ラルヽ議ガアッタコトモ私ハ聞イテ居リマ
ス、卽チ此資本ヲ一方的ノ基準トシテ、其
資本ノ何割ヲ超過シタルモノハ稅金ヲ取ル
ノダト云フコトハ、理窟ハ宜イヤウデアル
ガ、所謂個人會社ト云フヤウナモノニ付テ
ハ、必シモ是ハ良クナイ、之ヲ改正シヨウ
ト考ヘラレタコトハ洵ニ適當デアルト考ヘ
テ居リマスガ、其缺點ヲソックリ其儘此臨
時利得稅ニ御移シニナッテ來テ居ルノデア
リマス、隨テ弱小資本ノ者ガ却テ負擔ガ重
クテ、資本金ガ大ナルモノ程却テ負擔ガ輕
クナル、斯ウ云フ風ナ結論ニナッテ居ルコト
ハ御承知ノ通リデアリマセウ、ソコデ私ハ言
フ、政府ハ單行法トシナイデ、所謂所得稅
法ヲ改正シ、法人ニ對シテハ現在ノ超過所
得ニ改廢ヲ加ヘマシテ、現在ノ超過所得計
算ノ基礎タル資本金ニ對スル一割制度ヲ改
メテ、之ヲ七分トカ八分トカニ低減スルト
同時ニ稅率ニ加減ヲ致シ、サウシテ一方資
本金ノ小サイ、個人ト同樣ナ所謂弱小資本
ノ者ニ對シマシテハ、之ヲ資本金以外ノ、
個人ト同樣ニスルト云フヤウナ、別個ノ課
稅ノ方法ヲ執ルト云フコトガ極メテ至當デ
ハナカッタカ、又本稅ノ性質ガ總理大臣ノ言
ハレタヤウナ、一時的ダ、臨時的ダトロデ
ハ言フケレドモ歲入ノ點カラ考ヘル場合、
財政上ノ點カラ考ヘル場合ニ於テハ是ハ
一ツノ恒久租稅ニナル、所謂稅制整理ノ前
提要件ヲ爲スト云フコトニナッテ來テ居ル
カラ、一時的臨時的ト云ッテ誤魔化スヨリモ、
所得稅法ノ改正ニ依ッテ行ッテ置イタ方ガ、
財政上モ經濟上モ極メテ至當デハナカッタ
カト考ヘテ居ルノデアリマスガ、此點ニ對
スル御所見ハ如何デアリマスカ
次ニ臨時利得稅法ノ缺陷トシテ擧グベキ點
ハ脫稅防止ノ規定ヲ缺イテ居ル點デアリマス、
臨時利得稅ハ、法人ニアリマシテハ資本金ニ對
スル一定割合ヲ超過スル者ニ課稅スルノデアリ
マスカラ、資本金ガ大デアレバ大デアル程
利得稅ノ負擔ハ輕減サレルコトニナルコト
ハ申ス迄モアリマセヌ、果シテサウデアッ
タナラバ、所謂大ナル資本力ヲ有スル者、
言葉ヲ換ヘテ言フナラバ富豪財閥、富豪財
閥ハ其厖大ナル資本力ヲ利用致シマシテ、
增資ニ次グニ增資ヲ以テシテ、竟ニ利得稅
ヲ負擔スルノ機會無キニ至ルノデハナイカ、
其結果ハ富豪ニハ利得稅ガ課カラヌ、然ラ
ザル者ダケガ利得稅ヲ負擔スルト云フ結果
ニナル筈デアル、近來此傾向ハ甚シク世ノ
中ニ盛ニナッテ來テ居ル、或者ハ增資ヲスル
ト云フコトハ目ニ立ッテイカヌカラト云フ
譯デ、事業ノ一部ヲ他ニ賣ッタ形ヲ採ッテ、
其處ノ株式ヲ所有スル、卽チ自分ノ持ッテ
居ル所ノ一部ノ事業ヲ新會社ニシテ殖シテ
行ク、斯ウ云フコトヲシテ實際上增資ヲ圖ッ
テ、超過所得乃至ハ利得稅ノ創設ニ備ヘン
ト致シテ居ル者ガ多イノデアリマス、是等
ハ所謂主トシテ富豪財閥ノ階級ニ屬スル者
デアルカラ、是等ヲ其儘ニシテ置クト云フ
コトデアレバ、利得稅ハ富豪財閥ニ課カラ
ズシテ、寧ロ其他ノ中產以下ノ所ニ利得稅
ガ課カッテ行クト云フヤウナ、飛ンデモナイ
結果ニナルト思フノデアリマス、此點ニ對
シテ所謂脫稅防止ノ規定ヲ存シテ居ラヌト
云フコトガ、大ナル一ツノ缺陷デハナイカ
ト考ヘルノデアリマスカラ、此點モ併セテ
御意見ヲ承リタイ
最後ニ歲入見込ニ付テ私モ申上ゲタイト
思ヒマス、先程中島君カラモ此點ニ付テ
ハ御話ガアリマシタガ、洵ニ私ハ同感ト
スル所ガ多イ、十年度ガ三千三十九万圓、
平年度ガ四千百万圓、是ハ非常ニ私ハ
少イト思フノデス、去年ノ丁度第六十五議
會ニ於キマシテ、昭和九年度ノ租稅ノ歲入
見積ニ關シテ、私ハ其見積ガ非常ニ少イト
云フコトヲ此壇上カラ申上ゲテ置イタ、其
當時政友會ノ太田君デシタカ、政友會ノ諸
君カラハ寧ロ昭和九年度ノ政府ノ租稅ノ
歲入ノ見積ハ過大ダト言ツテ、私ト全ク反對
ノ意見ヲ言ハレタ方モアッタ、然ルニ結果ハ
ドウデアッタカ、今日ノ實際ハドウデアル
カ、私ノ豫言ヲ致シマシタ通リ、私ノ推算
デ行クナラバ八千万圓ニ垂ントスル所ノ昭
和九年度ノ自然增收ガ得ラレテ居ルト思フ、
八千万圓ト云フガ如キ實ニ厖大ナ自然增收
デアル、是ハ言ヒ換ヘレバ政府ノ見込違デ
アルカ、然ラザレバ是ハ駈引ト言ハナケレ
バナリマセヌ、八千万圓モ違フト云フヤウ
ナコトニナッテ來タナラバ、サウ云フ見込違
ガアッタトスルナラバ、日疋ハ當局ノ怠慢デアッ
タト言ハナケレバナラヌ、又駈引ダトスル
ナラバ、容易ナラザル所ノ欺瞞政治ト言ハ
ナケレバナラヌ、何方ニ致シマシテモ、此
歲入見積ニ關シマシテ、斯ノ如ク巨額ノ相
違ガアルト云フコトハ、私ハ洵ニ遺憾千萬
ニ思フ(拍手)而シテ今又臨時利得稅ノ歲入
見込ニ關シマシテ、三千万圓ト言ヒ、或
ハ四千万圓ト云フガ如キ、極メテ消極的
ナ數字ヲ示シテ居ラルヽノデアリマス
サウシテ右ノ數字ハ私ノ知リ得タ所ニ依
リマスト是ハ昭和八年度下カラ、昭和
九年度ノ上半期マデノ稅務署デ決定シタル
金額ヲ根據トシテ居ラルヽノデハナイカト
私ハ思フ、昭和八年ノ下カラ九年度ノ上マ
デノ稅務署デ決定シタ分、ソレヲ基トシテ
三千万圓、四千万圓ト云フヤウニ見積ッテ
居ラルヽノデハナイカト思フ、所ガ若シサ
ウダトスレバ昭和八年ノ下カラ九年ノ上半
期マデノ、稅務署デ決定シタ其事業年度ト
云フモノハ何年ノ分カト云フト、大抵ハソ
レヲ七年下カラ八年上ノ分ヲ、卽チ七年下
及ビ八年上ノ景氣ヲ基準トシテ、今日ノ利
得稅額ヲ算出セラレテ居ルノデハナイカ、
サウ云フ結論ニナッテ來ルノデハナイカト
思フ、サウダトスレバ七年度下或ハ八年上
ノ景氣ト今日ノ景氣トガ非常ニ違ッテ居ル
コトハ、是ハモウ有ユル統計ノ示シテ居ル
通リ、私ガ敢テ餘計ナ言葉ヲ言ハナクテモ
宜シイ、卽チ七年度下ト八年上トヲ基準ト
シテ利得稅ノ根據ト致シ、之ニ多少ノ加減
ヲ加ヘラレタト云フコトデアッタナラバゾ
レハ少クナッテ居ルノガ當リ前、ソコデ結論
トシテ私ハ三千万圓乃至四千万圓ト云フ
コトハ甚シク是ハ過少ニ失スル(拍手)恐
ラク矢張六千万圓程度、或ハソレ以上ニ
行クノデハナイカト云フコトヲ考ヘテ居リ
マスガ、此點ニ對スル當局ノ御意見ハ如何
デアリマスカ、此點モ併セテ、以上ノ四ツ
ノ點ニ對シマシテ、ドウカ明確ナル御答辯
ヲ賜ランコトヲ御願ヒ致シマス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=24
-
025・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 中村君ニ御答致
シマス、私ハ昨年增稅ヲシナイト申シタコ
トハ、是ハ確ニ言ヒマシタ、私ノ考デハ
一般的增稅ノ意味デアッタノデアリマス、其
後多額ノ國費ヲ要スルコトガ起リマシタノ
デ、相當多額ノ利益ヲ得テ居ラルヽ方面カ
ラ、臨時利得稅ヲ徵スルコトニ致シタノデ
アリマス、只今是ハ恆久的ノモノデハナイ
カ、斯ウ云フ御質問デアリマスガ、是ハ此
名ノ如ク臨時利得稅デアリマス、臨時ノモ
ノデアリマス、又增稅ノ前驅デモアリマセ
又、一般的負擔均衡ノ前驅デモナイノデア
リマス、是ハ見樣ニ依リマシテハ一部
負擔均衡トモ見エルカモ知レマセヌ、又政
府ハ國民負擔均衡ノ爲ノ稅制整理ハヤリタ
イト思ッテ居リマス、併シ稅制整理ノ如キ、
時機ト方法ガアルノデアリマス、殊ニ增稅
ハ其時機ヲ擇バナカッタナラバ、國富ノ進展
ヲ阻害スルヤウナ悲シムベキ結果ヲ生ズル
ノデアリマス、何レ稅制整理ヲ考ヘマス時
三、臨時利得稅ノ問題モ同時ニ考ヘナケ
レバナラヌモノダト思ッテ居リマス、ソレカ
ラ國防費ノ見透シガ付カナケレバ國策ハ立
テラレヌデハナイカ、國防費ヲ如何ニ見
ルカ、斯ウ云フ御尋デアッタト思ヒマス、政府
ハ國防費ヲ少クシ、國民ノ負擔ヲ輕減スル
爲ニ、國際的ニハ協調平和ノ爲ニ努力ヲシ
テ居リマス、又海軍ノ軍備縮小、之ニ付キ
マシテハ一致シタル國論ノ支持ヲ得テ、公
正妥當ナル主張ヲ致シテ居ルノデアリマス
是ハ私ハ大キナ國策ダト思ヒマス、之ニ向ッ
テ政府ハ目下努力中デアリマス、併ナガラ
其結果ヲ玆ニ豫想シテ申上ゲルコトノ出來
ナイノハ甚ダ遺憾デアリマス(拍手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=25
-
026・高橋是清
○國務大臣(高橋是清君) 御答ヲ致シマス
ガ、大體ニ於テ只今總理大臣ヨリ御答ヲ致
シタノデ盡キテ居ルト田心ツテ居リマス、細カ
ナコトニナリマスト云フト、是ハ稅務ノ技
術ニモ大關係ヲ有ッテ居リマスカラシテ、委
員會ニ於テ政府委員ヨリ、サウ云フ點ニ付
テハ詳シク事務的ニ御說明ヲ致シタナラバ
御諒解下サルコトヽ考ヘテ居リマス、承ッテ
居ル中ニ少シク······抑此案ヲ出シマシタ精
神ニ於テ、前大藏大臣ハ健全財政ヲ主張シ
テ、ソレヲ早急ニ實現セント欲シテ、サウ
云フ理想ヲ有ッテ居ル、其理想ノ爲ニ斯ウ云
フモノヲ出シタノダラウト云フヤウナ、御
疑念ガアッタヤウデアリマスルガ、私モ此臨
時稅ニ付キマシテハ、能ク前藏相カラ其考
モ聽イテ居リマスケレドモ、是ハ其人ノ考
ニシテ、公ニ其人カラシナイモノヲ、內輪
デ聽イタ私ガ、此處デ公ニスルコトノ出來
ナイコトハ當然デアリマス、併ナガラ其話ヲ
聽キマスト、是ハ其當時ノコトヲ考ヘテ見マス
ト、隨分思想ノ上ニモ影響ヲ有ッタコトヽ考ヘ
ルノデアリマス、何分ニモ此軍需工業ト云
フモノハ莫大ナ利益ヲ得テ居ル、人ノ美望
ノ的トナッテ居ル、斯ウ云フモノニ稅ヲ課ケ
ヌノハドウ云フ譯カト云フ說ガ起ッテ居ッタ
ノデス、ソレ故ニ如何ニモー-事態ヲ見マス
ト云フト、一方ニハ非常ニマダ景氣囘復ニ浴
セナイ部類ガ多クアルノデアリマス、ソコ
ニ又改メテ災害ガ起ッテ來タノデアッテ、國
民中苦ム者、困難ヲ感ズル者ガ益、殖エテ
來タ、ソコヘ一方ニハ著シク目立ッテ、工業
ノ或ル部分ハ非常ナ利益ヲ擧ゲテ居ル、而
モソレハ何カト云フト、國ガ赤字公債ヲ出
シ、ソレヲ元トシテ事業ヲ起ス、其事業ヲ
興ス方ニ其資本ガ向イテ行ク、サウ云フ部
類ニ當ッタ者ハ非常ニ利益ヲ擧ゲテ行クト
云フヤウナコトガアッテ、サウ云フモノニ
向ッテ此際臨時ノ利得稅ヲ課スルト云フコ
トガ、正ニ此時勢ニ適シタ方法デハナイ
カ、デ此事ハ別ニ取離シテ、一般ノ稅制整
理ト取離シテ御考ヲ願ヒタイノデアリマ
ス、牛刻ノ御話ノ中ニ、收入ノ見積方ガ洵
ニ少イ、或ハ五千万圓、六千万圓ト云フヤ
ウナモノニナルダラウ、サウナッテ來ルト云
フト、是ハ臨時ニシテ何時ノ時カ之ヲ廢メ
ルト云フ譯ニハ行カナクナルト云フヤウナ
コトカラシテ、是ハ臨時ト云フモノデハナ
イト云フヤウナ御考ノヤウニ受取リマシタ
ガ、勿論一般ノ稅制整理ヲ爲ス時ニ於テ
ハ、納稅者ノ擔稅力ニ應ジテ不公平ノナイ
ヤウニ課セナケレバナラヌ、ソレニ、種々
地方ノ負擔ノコトモ考へテ改正ヲセニヤナ
ラヌノデアリマシテ、其場合ニ於テ獨リ此
今日御贊成ヲ願フ所ノ臨時利得稅ノ收入ヲ
減ラシテハナラヌト云フヤウナ、サウ云フ
小サナ所ニ拘泥シテハ一般的ノ稅制ノ整
理ハ出來ナイコトヽ私ハ考ヘテ居リマス、
ソレ故ニ其御懸念ニ及バナイヤウニ思ヒマ
ス、何レ稅制整理ヲスル時ニハ、其時ノ國
民ノ負擔力、サウ云フヤウナモノヲ考へ、
成ベク負擔ノ公平ヲ圖ルト云フコトデ、稅
制ヲ改正スルノデアリマス、而シテ此稅制
ノ改正ニ付テハ、先以テ軍部豫算ノ見透シ
ガ付カナケレバ增稅ノ時デナイト云フ說
ハ是ハ御尤デ、私ナドモサウ考ヘテ居ル
ノデス、凡ソ此國費ノ將來ニ付テ見透シガ
付カナケレバ、稅制ノ整理ヲ一般的ニ爲サ
ント欲シテモ出來ナイコトデアリマス、又
十分ニ國民ニ諒解サセルト云フ爲ニハ、凡
ソ今日最モ多ク豫算ノ上ニ現レテ居ル所ノ
國防豫算ノコトニ付テモ、先ヅ今後此位ト
云フ見透シガ付カヌトイカナイノデアリマ
ス、サウシテ又一方ニハ財界ノ繁榮ガ益〓繁
昌シテ來マスレバ、稅制ヲ整理スル時ニ於
テ、基準トスル所モ大ニ變ツテ來ルコトガ
アリマセウ、ダカラ此問題ヲ以テ、直チニ
此稅制整理、將來如何ニスルカトカ、何時
スルトカ、ソレトノ關係ハドウダトカ云フ
コトヲ詳シク御質問ニナリマシテモ、只今
申ス通リ、是ハ卽チ臨時ノモノデアリマシ
テ、此臨時ノモノヲ將來永ク此通リ續ケテ
行クカ、行カヌカト云フコトノ見透シハ付
カナイ、恐ラク之ニ拘泥シテ居ル必要ハナ
カラウト思フノデアリマス、又今日此臨時
利得稅ハ一時ノ利益ヲ擧ゲル者ニ對シテヤ
ルノデアリマスルカラ、假ニ只今ノヤウニ國
防費ト云フモノヲ餘計要セズ、隨テ軍需工
業ト言ハレテ居ルモノガ、ソレ程ノ仕事ガ
無クナルトナレバ、此臨時利得稅ヲ起シタ
對象物ガ無クナルヤウナモノニナルノデア
リマス、ソレ是レヲ考ヘテ見マスト云フ
ト、今日ノ時勢ノ推移ニ依ッテ、稅制ノコト
ハ十分ニ廣キニ亙ッテ考ヘニヤナラヌノデ
アリマスルカラシテ、適、此臨時利得稅法案
ガ出タカラト云ッテ、ソレニ一般的稅制整理
ノ問題ヲ擔込ンデ御質問ニナッテモ、十分ニ
御答ノ出來ナイコトモ多々アリマセウシ、
又政府ノ考ハ、決シテ是ハ他日行ハントス
ル稅制整理ノ前提トシテ設ケタモノデモナ
イノデアリマスルカラ、ドウカ左樣御諒承
ヲ願ヒマス(拍手)
〔國務大臣大角岑生君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=26
-
027・大角岑生
○國務大臣(大角岑生君) 御答ヲ致シマ
ス、現在ノ計畫-計畫デハアリマセヌ、旣
ニ御協賛ヲ經タモノデアリマスガ、其事業
ヲ繼續致シマシタト致シマシテモ、今年度
ヨリモ來年ハ若干殖エルト云フ趨勢ニアル
コトハ、此前櫻內君ノ御質問ニ對シテ御答
シテ置イタ通リデアリマス、語ヲ換ヘテ申
シマスレバ、此一兩年ハ削減ノ見込ハナイ
ト申サナケレバナラヌト思フノデアリマス、
ソレヨリ先ノコトニナリマスルト、結局軍
縮會議ノ結果ヲ見ナケレバナラヌノデアリ
マスルガ、是ハ今折角交涉中デアリマシテ、
其先ノ事マデ色々想像ヲシテ申上ゲルコト
ノ出來ナイコトヲ洵ニ遺憾ト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=27
-
028・中村繼男
○中村繼男君 只今ノ私ノ質問ニ對シテ總
理大臣、大藏大臣、軍部大臣等、ソレノ
御答辯ガアリマシタガ、其中ニハ了解致シ
タ事モアリマシタガ、マダ了解致サナイ部
分モアリマス、唯大藏大臣ノ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=28
-
029・濱田國松
○議長(濱田國松君) 簡單デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=29
-
030・中村繼男
○中村繼男君 簡單デアリマスカラ自席カ
ラ御願致シマス-臨時利得稅ノ創設ノ理
由ノ一ツトモ申シマスカ、軍需「インフレ」
等デ儲カッテ居ル者ニ對シテ稅金ヲ取ルト
云フコトハ、思想的ニモ必要デアルカノ如
キ御口吻ガゴザイマシタ、是ハ或ハサウ
云フ者モアルカト存ジマスガ、私ノ問ヒマ
シタ所ハ、思想的ニ必要ナ部分ガアッタカ
ドウカハ別ト致シマシテモ、斯ル稅法其モ
ノヽ組立方デハ、負擔ノ權衡ヲ得テ居ラヌ
デハナイカ、殊ニ同ジ商賣人ノ中デモ、基
礎ノ鞏固ナモノト、サウデナイモノトアル、
或ハ金融業者、商工業者、保險業者ト、斯
ウ云フモノガ根柢的ニ負擔均衡ノ原則ヲ守
ルト云フコトガ租稅ノ信條デアルノニ、之
ヲ打チ壞シテ居ルノデハナイカト、斯ウ云
フ御尋ヲ致シタノデアリマス、ソレニ對シ
テハ御答ガアリマセヌデシタコトハ洵ニ殘
念ダト思ヒマス、併シ何レ他ノ機會デ質問
スルコトモアラウト思ヒマスカラ、私ハ是
デ質疑ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=30
-
031・濱田國松
○議長(濱田國松君) 次ノ通〓者杉山元治
郞君
〔杉山元治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=31
-
032・杉山元治郎
○杉山元治郞君 私ハ只今議題ニナッテ居
リマスル臨時利得稅法ニ付キマシテ、總理
大臣、大藏大臣、商工大臣ニ質疑ヲ致シテ
見タイト考ヘルノデアリマス、最早四人ノ
同僚諸君ニ依ッテ、大體私ノ聽カントスル點
モ明ニサレタヤウデアリマスルガ、私ハ農
民大衆、勞働者大衆ノ立場カラ、尙ホ出來
ルダケ重複ヲ避ケテ御伺シテ見タイト思フ
點ガアリマスルノデ、尙ホ一二重複スル點
ガゴザイマシテモ、今申上ゲルヤウナ資格
ノ變ッタ立場カラデアルト云フコトヲ御諒
承戴キマシテ、尙ホ御苦勞ナガラ御答辯ヲ
煩シタイト存ズルノデアリマス
今日ノ經濟機構カラ致シマスルナラバ「オッ
ペン·ハイマー」ガ申シテ居リマスルヤウニ、
持テル者ハ益〓、多ク持チ、持タナイ者ハ益〓小
サクナルト云フヤウナ狀態デアリマシテ、
曩ニ齋藤內閣ガ自力更生ヲ叫ビ、現內閣ガ
自奮自勵ヲ中シテ居リマスケレドモ、今日
農村ノ或ル一人ノ人カラ一ツノ歌ヲ送ッテ
參リマシタガ、其歌ニ依リマスルト「働ケバ
働ク儘ニ困リ行ク逆シマノ世ヲ歎ク村人」ト
云フ歌ヲ送ッテ參リマシタガ、斯ウシタ實
情ハ申ス迄モナク今日ノ經濟機構ニ依ルコ
トハ明デアリマス、斯ウシタ意味合カラ致
シマシテ、此資本主義ノ餘弊ト云フモノヲ、
是正改革セナケレバナラヌト云フコトハ
私共ガ常ニ考ヘテ居ルバカリデナシニ、多
クノ政黨ノ方々モ叫ブヤウニナッテ居ル次
第デアリマス、此資本主義ノ餘弊ヲ是正改
革致シマスルノニ、最モ平和ナ手段ハ、先
ニ中島サンモ御話ニナッテ居ッタヤウニ、稅
制制度ニ依ルコトハ、是ハ平和デアリ、適
當デアルコトハ申スマデモゴザイマセヌ、
聞ク所ニ依リマスト云フト、世界ノ樂土デ
アルト言ハレテ居リマスル所ノ新西蘭ガ此
稅制ノ制度ニ依ッテ、卽チ持テル者ヨリ多ク
取ッテ、持タザル者ニ之ヲ與ヘテ行クト云
フ所カラ致シマシテ、其平和樂土ガ築カレ
テ居ルト云フコトヲ聞イテ居ルノデアリマ
ス、私共ハ斯ウシタ意味合カラ致シマシテ、
此臨時利得稅ト云フモノガ設ケラレタト
致シマスルナラバ、ソレニ贊成スルニ吝カ
デハナイノデアリマスルガ、今マデ同僚諸
君ノ質疑ニ對シマシテ色々ノ御答辯ガアリ
マシタケレドモ、尙ホ多少疑義ノ點モ存シ
マスガ故ニ、玆ニ尙ホ質疑ヲ重ネテ見タイ
ト考ヘル次第デアリマス
第一ニ伺ッテ見タイ點ハ、曩ニ總理大臣ヨ
リ此稅制ヲ設ケタコトハ、國民ノ負擔ノ均
衡ノ爲デアルト云フヤウナ御話ガアッタ、又
答辯ノ中ニハ、サウ云フノデアルケレドモ、
其收入ハ之ヲ明確ニ何レニ入レルト云フコ
ト、何レニ使用スルト云フコトハ申スコト
ハ出來ナイト云フ御話デゴザイマシタガ、
私ハ總理大臣ノ常ニ申サレテ居リマスル所
ノ言葉、政策ハ豫算ノ中ニ盛ラレテ居ルト
云フ所ノ其御言葉、若シ政策ガ豫算ノ中ニ
盛ラレテ居ルト云フ所ノ言葉ヲ考ヘ、尙ホ
國民負擔ノ均衡ヲ考ヘタ、斯ウ云フヤウナ
點カラ考ヘマスナラバ、此稅ハ卽チ窮乏致
シテ居リマスル所ノ農村ノ爲ニ、ドウシテ
モ振當テラレナケレバナラナイト考ヘテ居
ルノデアリマス、又政府カラ吾々ニ御出シ
ニナッタ所ノ昭和十年度ノ豫算綱要ニ依ッテ
拜見致シマスルト云フト、又今大藏大臣ガ
此臨時利得稅ヲ創設致シマシタ理由說明ニ
依リマシテモ、卽チ是等活況ヲ呈シツヽア
ル產業ニ對シ、新稅ヲ設ケタ云々ト云フ言
葉カラ、ハッキリト社會政策的ト云フ言葉ハ
現ハレテ居リマセヌケレドモ、ドウシテ見
テモ此文字ノ上カラ考ヘマスル時ニ、社會
政策的ナ意味ガ仄見ヘテ居リマスコトハ
疑フコトノ出來ナイ事實デアリマス、政府
自身ガ言明セラレルヤウニ、滿洲事變以來、
一部ノ產業資本家ガ好景氣ニ惠マレテ居リ
マス、ソレヲ測リマス所ノ其「バロメー
ター」トモ言フベキ、先ニ中島サンモ幾多擧
ゲマシタヤウニ、社債ノ增加或ハ新設擴張、
資本ノ增加ヲ見マシテモ、洵ニ著シイモノ
ガアルノデアリマス、昭和六年ハ四千六百
万圓、昭和七年ハ三千六百万圓、昭和八年
ハ九千五百万圓、昭和九年ハ上半期ダケデ
モ五億圓ヲ突破スルヤウナ模樣デアリマ
ス、然ルニ一方農村ノ方ヲ見マスルナラバ
御承知ノヤウニ恐慌ニ次グニ恐慌デアリマシ
テ、更ニ昨年ハ全體的ニ天災ニ見舞ハレマ
シテ、此爲ニ先般救濟ノ臨時議會スラモ開
カナケレバナラナカッタヤウナ次第デアリ
マン、斯ウ云フヤウニ我國ノ狀態ヲ見マス
ル時ニ、富ハ一方ニ集注致シマシテ、此爲
ニ社會不安ヲ招クト云フコトハ過去ノ事
實ニ於テ見マシテモ疑ナキ事實デアリマ
ス、故ニ儲ケテ居ル者カラ其一部ヲ稅金ト
致シマシテ徵收シ、ソレヲ惠マレナイ方面、
例ヘバ農村ノヤウナ困ッテ居ル方面ニ之ヲ
振當テルト云フコトハ、政府トシテモ當然
ニ爲スベキコトデアルト考ヘルノデアリマ
ス、吾々ハ豫算面ヲ見マシテ、是等ノ稅收
入ハ今總理大臣ノ說明ニ依ルト、何レニ這
入ッタカ分ラヌト申シマスケレドモ、全部ハ
軍事費ニ吸收サレタノデハナイカ、斯ウ云
フコトヲ恐レルノデアリマス、ソレデハ益と
軍需工業家ト云フ者ヲ潤スノミデアッテ、森
田氏ノ話デアリマシタカ、只空廻リヲスルニ
過ギナイノデアッテ、其目的趣旨、之ヲ創設
致シマシタ所ノ精神ニ相反スルノデハナイ
カト考ヘルノデアリマス、今中村氏ヨリ、
此稅ハマダ輕微デアルト云フヤウナ話モゴ
ザイマシタシ、大口氏ガ中央公論ニ述ベテ
居ル所ノ其樣子ヲ見マシテモ、私共モ此稅
ハ資本家ニ取ッテ、マダ輕微デアルト云フヤ
ウニモ考ヘルノデアリマス、兎ニモ角ニモ
今此臨時利得稅ノ收入ト云フモノハ、國費
ニ這入ッタノデアッテ、何處ニ這入ッタノカ明
ニ申スコトハ出來ナイト總理ノ御答デアリ
マシタケレドモ、私共ガ曩ニ申述べマスヤ
ウニ、政策ガ豫算ノ中ニ盛ラレテ居ルト云
フ所ノ言葉ヲ伺ヒ、又是ハ國民負擔ノ輕減
ノ立場カラ爲サレタト云フ點カラ考ヘマシ
テ、之ヲハッキリ申スコトハ出來ナイト云フ
言葉トノ間ニ、非常ニ矛盾ヲ感ズルノデゴ
ザイマスガ故ニ、ソレヲモウ一度御苦勞デ
アリマスケレドモ、斯ウ云フ費用ハ國民負
擔ノ輕減ト云フ立場、社會政策的ナ立場カ
ラデアルト致シマスルナラバ、困ッテ居ル所
ノ農村、負擔ノ苛重ニ惱ンデ居ル方面ノ輕
減ニ振當テルベキデハナカッタカ、左樣致サ
レタカ、致サレナカッタカト云フコトヲ、モ
ウ一度ハッキリト聽キタイト考ヘルノデア
リマス
第二ニ伺ッテ見タイ點ハ、此臨時利得稅ハ
最早公債發行ノ限度ニ達シテ來タカラ、所
謂增稅ノ尖端トシテ現レタモノデハナイカ
ドウカ、今總理大臣ハ一般的增稅ノ時期デ
ハナイ、又サウ云フヤウニスル考ハ有ッテ
居ラヌ、併シ一部ノ增稅ハ認メテ斯ウ云フ
ヤウニシタノデアルト云フ御言葉デゴザイ
マスルガ、齋藤內閣ガ昭和九年度ノ豫算編
成ノ方針ト致シマシテ、財政ノ内容ヲ强化
シ、成ベク速ニ收支ノ均衡囘復ノ素地ヲ作
リ、努メテ公債發行額ヲ減少セントス、斯
ク聲明シテ居ルノニ基キマシテ、齋藤内閣
ノ延長デアリマスル所ノ岡田內閣ニ於テ、
藤井前藏相ノ所謂健全財政トナッテ現レタ
ノデハアリマスマイカ、當時ノ新聞ノ報道
ニ依リマスルト云フト藤井前藏相ハ昭和
十年度豫算案ヲ立テルニ當リマシテ、歲出
總額ヲ二十億二千八百八十万圓ト見込ミ、
普通歲入總額ヲ十四億一千万圓、差引六億
一千八百八十万圓ノ不足ヲ見積ッテ、此不足
ノ中五億圓ヲ赤字公債ニ依リテ賄ヒ、殘リ
ノ一億餘万圓ヲ增稅ニ依ラウトセラレタヤ
ウデアリマス、卽チ臨時利得稅カラ三四千
万圓、郵便料引上カラ三千万圓、鐵道特別
會計カラノ繰入三千万圓、合計一億圓ヲ得
ヨウトセラレタヤウデアリマスルガ、伯々
閣議ニ於テ相當ノ論議ガアッテ後ニ、後ノ方
ノ二ツハ保留ニナッテ、唯臨時利得稅ダケガ
殘ッタヤウデアリマス、卽チ斯ウ云フヤウナ
經過ト云フモノヲ見マスルト云フト、岡田
首相ハ增稅ヲセナイ、一般的增稅ハヤラナ
イ、斯ウ申シテ居リマスルケレドモ是ハ
岡田内閣ノ增稅ノ尖端ト見ルベキモノデハ
アリマスマイカ、岡田首相ハ今申シマスル
ヤウニ、一般的ニハヤラヌト申サレマスル
ガ、然ラバ一般的ニハヤラナイト致シマシ
テモ、此臨時利得稅ト能ク似テ居リマスル
所ノ、不勞所得ニ對スル所ノ稅金、卽チ相
續稅ノ改正トカ、或ハ超過所得稅ノ改正ト
カ云フモノヲ行ッテ、是等ノ增稅ヲ行フ意思
ガアルカドウカ、斯ウ云フコトモ私ハ大藏
大臣ニ伺ッテ見タイト考ヘルノデアリマス
先程申述ベマシタヤウニ、齋藤內閣ハ公
債發行ノ減少ヲ期シ、恐ラク現内閣デモ同
樣デアラウト存ジマスルガ、併シ今日ノ社
會情勢、經濟情勢、財政情勢カラ考ヘテ見
マスルト、政府ガ赤字公債ノ增加ヲ好ムト
好マナイトニ拘リマセズ、益〓其發行ヲ餘儀
ナクサレテ居ルデアラウト考ヘルノデアリ
マイ、卽チ其第一ノ理由ハ軍事費ノ膨脹デ
アリマス、昭和六年滿洲事變ノ始マリマシ
タ當時ニ於キマシテハ、僅カ三億九千九百
万圓デアリマシタモノガ、十年度デハ十億
圓以上デアリマス、今日カラノ見透シデ參
リマスルナラバ、恐ラク十一年度、十二年
度トナッテモ十億圓ヲ下リマスマイト考ヘ
ルノデアリマス、本年度頃カラ平年化スルト
前荒木陸軍大臣ガ仰セニナリマシタ満洲事
變費モ、一向ニ減少スルヤウナ傾向ガ見エ
マセヌ、斯ウ云フヤウナ事情ヲ參酌致シマ
シテ考ヘテ見マスルト、コヽ暫ク、數年ノ
間ハ國際的危機ヲモ迎ヘテ、軍事費ガ現狀
ヲ維持スルデアラウト見ルノガ妥當デアラ
ウト考ヘルノデアリマス、是ハ軍部大臣ノ
見透シハドウデアルカ、是モ伺フコトガ出
來ルナラバ幸デアリマス
第二ノ理由ト致シマシテ、借金ト恩給ガ
年々增加致シテ居リマスル事デアリマス、
今日公債ハ旣ニ百億圓ト呼バレテ居リマス、
此元利拂ニ少クトモ年々五六億圓ハ要ルデ
アラウト考ヘマス、又恩給年金ハ年々一億
五千万圓位要スルデアラウト考ヘマス、此
軍事費、思給年金、此二ツヲ合セテ見マシ
テモ十六億圓乃至十七億圓ヲ要スルノデア
リマスルカラ、之ニ各省ノ豫算ヲ加へマス
ルナラバ、如何ニ切詰メテ見テモ、二十二
三億圓ニナルノデナイカト考ヘルノデアリ
マス、尙ホ農村ハ前述ノ通リデアリマシテ、
農村匡救豫算ハ、政府ガ打切ラウト致シテ
居リマシテモ、地方ノ要望ガ多クテ打切ル
コトノ出來ナイヤウナ狀態デアリマス、然ル
ニ一方歳入方面ヲ見マスルナラバ、此歲出ノ
增加ニ比例致シマシテ歲入ハ增加致シマセヌ、
卽チ昭和十年度ノ歲入豫算ヲ見マスルニ、經
常部ハ十三億三千五百五十八万七千八百四
十四圓、臨時部八億五千七百八十二万六千
四百四十五圓、普通歲入一億百十七万四千
七百六十五圓、公債金七億四千九百六十五
万千六百八十圓、斯ノ通リデアッテ昭和九年度
ノ經常收入十二億四千八百三十万圓ニ比較
致シマスルト、八千七百餘万圓ノ增加デア
リマスケレドモ、相變ラズ赤字公債ヲ七億
餘万圓發行セザルヲ得ナイ狀態デアリマシ
テ、斯ウシタ狀態ハ今後何時迄續クカ、殆
ド底止スル所ヲ知ラナイ狀態デアリマス
一方高橋藏相ハ、曾テ斯ウ云フコトヲ本議
場ニ於テモ申サレテ居リマス、國民ノ引受
餘力ヲ超エテ公債ヲ發行スレバ「インフ
レーシヨン」ノ危險ニ陷リ、紙幣ノ價値ノ暴
落購買力ノ減退、生產不振ノ過程ヲ辿ッ
テ、中堅階級ノ沒落、國民ノ貧困化ヲ起シ
易イ云々ト申サレテ居リマスルガ、百億圓
ノ公債ヲ發行シ、今後之ヲ續ケレバ數年ナ
ラズシテ百二十億或ハ百三十億ト云フヤウ
ニナルデアリマセウガ、先日中氏ガ公債發
行ノ限度ヲ尋ネラレマシタ時ニ、國民ノ公
債ノ消化力ヲ見テ發行スル云々ト申サレマ
シタガ、公債ノ消化力トハ如何ナル財政的
ナ基準ヲ指サレテ申スノデアルカ、若シ御
示シヲ戴クコトガ出來マスルナラバ幸デア
リマス、私ノ見マスル所デハ、最早今日ハ
增稅ニ轉ズベキ時期デハナイカ、曾テ英國
ガ千九百三十一年ニ「スノーデン」ガ增稅ニ
依ッテ赤字財政ヲ克服致シマシタ、首相ガ一
般的增稅ノ時期ニ非ズト申サレマスルケレ
ドモ、曩ニ申述ベマシタヤウニ、戰時利得
稅ト同一ナ狀況ニアリマスル所ノ相續稅或
ハ所得稅ト云フモノノ改正ヲ行ヒマシテ、
其他擔稅能力ノアル者ニ新稅ヲ起シマシテ
モ、相當ニ歲入ノ增加ヲ圖ルコトガ出來ル
ト信ジマスルガ、前述ノヤウニ、藤井前藏
相ガ增稅案ノ一ツトシテ此臨時利得稅ヲ採
ラレタモノデ、今後岡田内閣ハ之ヲ第一步
ト致シマシテ、曩ニ申述ベタヤウナ全般的
デハナクテモ、漸次特殊ノモノカラデモ增
稅ヲ爲サル御計畫デアルカ否ヤ、御所見ヲ
承ッテ見タイト思フノデアリマス
第三ニ伺ッテ見タイ點ハ、此法案ノ課稅
ノ方法デアリマス、此點ニモ既ニ同僚諸君
ガ觸レマシタガ、私モ尙ホ一言觸レサシテ
戴キタイト思ヒマス、昭和五年六年ノ最モ
財政的ニ惡イ時期ヲ基準トシタコト、或人
以前ノ戰時特別利得稅トノ相違、斯ウ云フ
ヤウナ點ニ付キマシテハ中島サンノ御質
問デ明ニナッテ居リマスカラ、重ネテ質問
ハ致サウト存ジマセヌガ、唯伺ッテ見タイ
コトノ一ツハ、何故ニ營業所得ノミニ此稅
金ヲ課ケタト云フ點デアリマス、軍需「イン
フレ」ノ好影響ヲ受ケマシタコトハ、單ニ營
業所得ノ增加ノミデハゴザイマセヌ、南口
資本價格ノ增大ノ方ガ著シイモノガアルト
考ヘルノデアリマス例ヘバ三菱經濟調査
所ノ發表ヲ見マシテモ、重要產業五十種ノ
相場指數ヲ見マスト云フト昭和六年一月
ニ五〇デアッタモノガ昭和七年一月ニナル
ト六三、昭和八年ノ一月ニハ九六、昭和九
年一月ニハ一〇七トナッテ居ルノデアリマ
ス、是等ノ產業會社ハ昭和五年六年當時カ
ラ見ルト、資產ガ倍以上トナッテ居ルノデア
リマス、私ハ單ナル營業所得ダケデハナク、
斯ル資本ノ增大ニ對シテモ課稅スベキデハ
ナカッタカト考ヘルノデアリマス、曩ニ中島
サンガ、米國ノ一エヌ·アール·エー」モ資本
課稅ヲシテ居ルト云フ御話ガゴザイマシタ
ガ、若シ營業所得ダケノ課稅デアリマスト
云フト、曩ニ中村サンノ御話モゴザイマシ
タヤウニ、增資々々ト云フヤウニ增資ヲ致
シマシテ、營業所得ト云フモノヽ減少ヲ圖ッ
テ脫稅ヲセナイカ、若シサウ云フヤウナ不
心得ナ資本家ガゴザイマスルナラバ、之二
對スル所ノ處置對策ハドウスルノデアル
カ、斯ウ云フコトノ爲ニ米國デ執ッテ居リマ
スル所ノ「キヤピタル·ストック·タックス」ノ
ヤウナ制度ヲ御設ケニナル必要ハナイカ、此
點ヲモ伺ッテ見タイノデアリマス、併シ或人ハ
斯ク申シマスナラバ言フカモ分リマセヌ、
斯クスルト云フト事業繁榮ノ芽ヲ摘ム、併
シ產業資本家ガ靜ニ國家全體ノコトヲ考ヘ
テ見マスルナラバ、儲ケテ居ル所ノ一部、
增大シテ居ル所ノ資本、是ハ自分自身ノ力
デナク社會全體ノ御蔭ヲ以テ來テ居ルト
云フコトヲ考ヘマスルナラバ、今申上ゲル
ヤウナ點ハ言ハレナイ筈デアル、更ニ私ハ
課稅方法ニ付テモ伺ヒタイノデアリマスル
ガ、是ハ中村サント重複スル點ガアリマス
カラ、此分ハ省イテ置キマス
第四ニ、最後ニ商工大臣ニ御伺致シテ置
キタイ點ハ、臨時所得稅ノ制定ノ爲ニ、產
業資本家達ハ其負擔ヲ勞働階級ニ轉嫁スル
コトハナイカドウカ、斯ウ云フコトデアリ
マス、從來ノ情勢カラ致シマスルト云フト
資本家達ハ利益ガ少シデモ減少致シマスル
ト、特ニ課稅ナドニ依リマスト云フト、利
益減少ヲ理由ト致シマシテ、或ル者ハ勞働
賃銀ノ低下ヲ、或者ハ勞働時間ノ延長ヲ要
求致シマシテ、此資本家ニ課ケラレタ所ノ
負擔ヲ勞働階級ニ轉嫁スルヤウナ狀態デア
リマス、今東洋經濟新報ノ調査ヲ見マスル
ト云フト、其一例トシテ紡績工ノ勞働狀態
ヲ見テモ、其一面ノ消息ハ窺ハレルト思フ
ノデアリマス、能率ノ方面カラ見マスルト、
大正十五年ニ十四梱ヲ拵ヘタモノガ、昭
和七年ニ二十二梱ヲ造ッテ居ルノデアリ
やく、ダカラ勞働者ノ生產增加割合ト申
シマスルモノハ五割七分ニ當ッテ居ル
ノデアリマスルガ、賃銀ハドウ云フ狀態
ニアルカト申シマスルト云フト、大正
十五年ニ男エガ一圓五十六錢デアッテ、女工
ガ一圓十錢デアッタモノガ、昭和八年上半期
ニナリマスルト云フト、男工ガ一圓四十錢
ニ下リ、女工ハ六十九錢ニ下落致シタノデ
アリマス、此下落割合ヲ見マスト云フト、男
工ノ賃銀ガ一〇%三、女工ハ三七%二、一
方ニ於テ生產ガ增大シテ居ルニ拘リマセ
ズ、賃銀ヲ尙ホ引下ゲテ居ルト云フヤウナ
狀態デアリマス、好景氣ノ場合ニ於テスラ
モ、斯ウ云フヤウナ狀態デアルト云フコト
ヲ考合セマスルナラバ、若シ政府ガ三千万
圓四千万圓ノ臨時利得稅ト云フモノヲ課
ケマスルト云フト、之ヲ口實ト致シマシ
テ、直接ニ勞働階級ニ其負擔ヲ轉嫁スルノ
デハナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘルノデ
アッテ、多クノ勞働階級ハ、此點ニ付テ非
常ニ心配ヲ致シテ居ルノデアリマス、デア
リマスガ故ニ、商工大臣カラサウ云フ心配
ハナイトカ、若シサウ云フヤウナ不心得ナ
資本家階級ガアルナラバ、商工省ハ斯ノ如
キ對策ヲ執ルトカ、斯ウ云フヤウニハッキ
リ、勞働階級ガ此利得稅ノ爲ニ不安ニ思ウ
テ居ル點ヲ、一掃シテ戴キマスルヤウニ、
明ニ御答辯ヲ願ヒマスナラバ幸デアリマ
ス、以上ヲ以テ私ノ質疑ヲ終リマス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=32
-
033・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 杉山君ニ御答致
シマス、杉山君ハ先程私ガ中村君ノ御質問
ニ御答シタノニ對シテ、此臨時利得稅ヲ負
擔ノ均衡ノ爲メノ稅ナリト私ガ申シタヤウ
ニ仰セニナリマシタガ、私ハ左樣ニハ申サ
ナカッタノデアリマス、此臨時利得稅ハ、見
樣ニ依ッテハ負擔ノ均衡ト云フ方ニ見ラレ
ルカモ知レヌガ、併ナガラ國民負擔ノ均衡
ヲ目的トスル稅制整理ノ前提デハナイ、斯
ウ申シタノデアリマス、此稅ハ國費多端ノ
折カラ一部ノ方面ニ多額ノ利益ヲ得テ居ル
者ガアリマスカラ、其利益ノ一部ヲ稅トシ
テ徴收スルノデアリマシテ、此稅ハ國防費
ニ皆入ッテ居ルノダラウ、斯ウ云フ御尋モ
アッタト思ヒマス、是ハ大分専門的ノコト
ニナリマスルノデ、或ハ私ガ御答ヘシテハ
不適當カモ知レマセヌガ、私ハ國防費ニ皆
入ッテ居ルトハ考ヘテ居リマセヌ、是ハ總
テノ費目ニ適當ニ按配セラレテ居ルト考ヘ
テ居リマス、又臨時利得稅ハ增稅ノ前提デ
ハナイカ、政府ハ更ニ他ノ增稅ヲ考ヘテ居
ルカ、斯ウ云フ御尋デアリマシタガ、臨時
利得稅ハ增稅ノ前提デハナイノデアリマ
ス、又政府ハ此外ニ增稅ヲスル考ヲ持ッテ
居リマセヌ(拍手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=33
-
034・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 杉山君ニ御答ヲ
致シマス、初ニ不勞所得ニ課稅シタラ宜カ
ラウト云フ御意見ガアリマシタ、卽チ相續
稅ナド、モット稅ヲ高クシタラ宜カラウト
云フ御意見デアル、不勞所得ト云フコト
ハ、是ハ中々矢張ムヅカシイ問題デ、例へ
バ公債證書ヲ持ッテ働カズニ、公債證書ノ
利息ヲ收入シテ生活ヲシテ居ル、其收入ハ
卽チ不勞所得ニナル、或ハ株劵ヲ持ッテ配當
ヲ受ケテ、其收入デ生活ヲシテ居ル、是モ
不勞所得トモ言ハレマセウ、而シテ勞働者、
職工、農家、農民、是等ガ何デ不勞所得者
ニナレナイカ、私ハ農民、職工總テノ者ガ
不勞所得ヲ得ルヤウニサセタイノデアル、
不勞所得ヲ憎ムノハ何故デアルカ、ソコヲ
私ハ諒解シ兼ネルノデアル、ソレカラ第二
ニハ、公債ノ消化力ノ基準ハドウデアルカ、
今日ハモウ公債ニ依ラズシテ、增稅ニ轉向
スル時デハナイカ、斯ウ云フ御質問デアル、
今日直チニ公債ノ發行ヲ止メテ、增稅ニ依ッ
テ國費ノ需要ヲ充タスト云フコトハマダ
其時機ニアラズト私ハ考ヘテ居リマス、然
ラバ漸次增稅ニ取掛ル考ハナイカト云フコ
トモ言ハレタ、是ハモウ每度申上ゲテ居ル
通リ、其時機ガ來レバ其方法ヲ選ンデ著手
スルコトハ當然ナコトデアル、ソレカラ是
ハ總理大臣カラ旣ニ御答ニナッテ居リマス
ルガ、此臨時利得稅ハ、農村ノ方ノ救濟ニ用
ユレバ宜イヂヤナイカ、之ヲ矢張國防費ナ
ドニ加ヘルコトハ不都合ダト云フヤウナ御
意見ノヤウニ拜聽シマシタ、御承知ノ通リ、
租稅ノ收入ハ、一々區別ヲ立テヽ使途ヲ定
メテ居ラヌノデアリマス、矢張是ハ總テ一
般歲入トスルモノデアリマスルカラシテ、
其使途ヲ限ラザル方ガ適正デアラウト考ヘ
やっ、ソコデ公債ノ消化力ノ限度如何ト云
フコトハ旣ニ度々是ハ申シタコトデ、今
此處デ以テ、此限度ノコトニ付テ繰返シテ
述ベマスト云フト、大分時間モ取リマスル
カラ、是ハ貴族院ノ本會議ニ於テモ詳シク
述ベテアリマス、此處ニハ別段詳シイコト
ハ申シマセヌ、ソレカラ第三ニハ、財產增
加稅ヲ施行スルノ意ナキカ是モ或ル機會
ニ私ガ申述ベタ通リ、愈、以テ廣汎ニ亙ッテ
我國ノ稅制ヲ整理スルト云フ場合ニ於テハ、
是ハマダ私一己ノ考デアリマスガ、先ヅ國
稅トシテハ所得稅ニ重キヲ置キ、所得稅ノ
ミデハ負擔ノ權衡ヲ保ツコトガ恐ラク出來
惡イカラシテ、之ニ加ヘルニ財產稅ヲ以テ
スルト云フコトハ述ベテアル、愈、本式ニ廣
汎ニ亙ッテ我國稅ヲ調整シ、制定スル場合
ニ於テハ必ズ此財產稅ノコトモ併セ考ヘ
ル必要ガアルト私ハ考ヘテ居リマス、併シ
サウ云フ場合デアリマスルカラ、今日ハソ
レヲ考ヘル機會ニナッテ居ラヌノデアル、大
抵是デ私ニ對シテノ御質疑ノ御答ハ盡キテ
居ルト思ヒマス(拍手)
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=34
-
035・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 杉山君ノ御質問
ニ簡單ナガラ御答致シマス、杉山君ハ臨時
利得稅ヲ設ケル結果、多數勞働階級等ニ轉
嫁サルヽ虞ガナイカト云フ御心配デアリマ
ス、併シ直接稅、就中純收入ヲ基礎トシタル
直接稅ニ於テハ、之ヲ轉嫁スルコトノナイト
云フノハ、私カラ申ス迄モナク租稅ノ大體ノ
見方デアリマス、殊ニ相當ナ限度ノ利益ヲ
バ除イテ、時局ニ依ッテ特ニ普通營業以外
ニ特別ニ利益ヲ得タモノニ其十分ノ一ヲ課
スルト云フ、極メテ緩和シタル臨時利得稅
デアリマスルガ故ニ、事情カラ申シマシテ
モ、租稅ノ理論カラ申シマシテモ、多數ノ
第三者ニ轉嫁シ得ラルヽ性質ノモノデナシ、
轉嫁スベキ事情ノ下ニアルモノデナイト、
斯樣ニ確信シテ居リマス(拍手)隨テ左樣ナ
場合ニハ私ニ對策ヲ講ゼヨ、如何ナル對策
ガアルカト云フ御尋デアリマスガ、私ハ斯
樣ニ考ヘテ居リマスルガ故ニ、左樣ナ場合
ノ對策ヲ今此處デ考ヘテ居リマセヌ、併シ
萬一社會ノ他ノ事情ニ依ッテ、此新ニ設ケマ
スル稅法ガ、勞働階級ニ惡影響ヲ及ボスガ
如キコトガ事實上アリトスレバ、相當ニ其
節ニハ考ヲ致スコトハ申ス迄モアリマセヌ
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=35
-
036・杉山元治郎
○杉山元治郞君 箇單デアリマスカラー
今大臣ノ御答辯ニ依ッテ大體諒承シタ點モ
アリ、尙ホ不審ノ點モゴザイマス、又今商
工大臣ノ御親切ナ答辯ガアリマシテ、私共
モ理論ハ其通リダト信ジテ居ルノデアリマ
スケレドモ事實サウデナイ場合ガ多イノ
デアリマスガ故ニ、是非商工大臣ニ此點ヲ
御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマス、何レ他ノ機
會ニ於テ質問致シタイト思ヒマスカラ是デ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=36
-
037・濱田國松
○議長(濱田國松君) 是ニテ質疑ハ終局致
シマシタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=37
-
038・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 本案ハ政府提出、昭和十
年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公債發
行ニ關スル法律案外一件委員ニ併セ付託セ
ラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=38
-
039・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=39
-
040・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=40
-
041・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 殘餘ノ日程ハ延期シ、本
日ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=41
-
042・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=42
-
043・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ議
事日程ハ公報ヲ以テ御通知申上ゲマス、本
日ハ是ニテ散會
午後五時十五分散會
衆議院議事速記錄第六號中正誤
頁段行誤正
八七四順化醇化
八七四二順化醇化
八七四八順化醇化
八七四九順化醇化
八七四七順化醇化
一〇二三二七議中議會中発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X00819350129&spkNum=43
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。