第67回帝国議会　衆議院　本会議　第24号　昭和10年3月7日

1. 会議録本文

本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。

• 000・会議録情報

  昭和十年三月七日（木曜日）
  　　　午後一時二十分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　議事日程　第二十三號
  　　昭和十年三月七日
  　　　午後一時開議
  　第一　（第一號）昭和九年度歳入歳出總豫算追加案
  　第二　（特第一號）昭和九年度各特別會計歳入歳出豫算追加案
  　第三　關税定率法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第四　大正十三年法律第二十四號中改正法律案（贅澤品等の輸入税に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第五　昭和七年法律第四號中改正法律案（輸入税の從量税率に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第六　關税法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第七　鐵の輸入税に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第八　治安維持法改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第九　不法團結等處罰に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十　公立學校職員年功加俸國庫補助法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十一　肥料業統制法案（政府提出）　第一讀會
  　第十二　昭和八年度第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和八年度特別會計第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和八年度特別會計豫備費支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和八年度滿洲事件第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和九年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和九年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第十二　昭和九年度特別會計豫備金外に於て豫算超過支出の件（承諾を求むる件）
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
  一議員より提出せられたる議案左の如し
  　昭和六年法律第四十號廢止法律案（重要産業の統制に關する件）
  　　提出者
  　　　　森田福市君　鷲野米太郎君
  　澱川低水工事繼續施行に關する建議案
  　　提出者
  　　　　田中祐四郎君　本田彌市郎君
  　　　　竹田儀一君　内藤正剛君
  　私立大學經費國庫補助に關する建議案
  　　提出者
  　　　　牧山耕藏君　一松定吉君
  　　　　坂東幸太郎君　荒川五郎君
  　　　　永田善三郎君　内藤正剛君
  　　　　濱野徹太郎君
  　私立大學總長學長及教職員優遇に關する建議案
  　　提出者
  　　　　牧山耕藏君　一松定吉君
  　　　　坂東幸太郎君　荒川五郎君
  　　　　永田善三郎君　内藤正剛君
  　　　　濱野徹太郎君
  　國有鐵道と島原鐵道竝島原三角間航路連帶運輸開始に關する建議案
  　　提出者
  　　　　中村不二男君　牧山耕藏君
  　島原鐵道買收に關する建議案
  　　提出者
  　　　　中村不二男君　牧山耕藏君
  　私立大學經費國庫補助に關する建議案
  　　提出者
  　　　　安藤正純君　板野友造君
  　　　　山村豐次郎君　水島彦一郎君
  　私立大學總長學長及教職員優遇に關する建議案
  　　提出者
  　　　　板野友造君　水島彦一郎君
  　　　　山村豐次郎君　安藤正純君
  　肢體不自由者救濟教育令制定に關する建議案
  　　提出者
  　　　　永井柳太郎君　安藤正純君
  　　　　岩崎幸治郎君　若宮貞夫君
  　　　　野田文一郎君　福田虎龜君
  　　　　松田竹千代君　牧山耕藏君
  　母子ホームに關する建議案
  　　提出者
  　　　　山本市英君　星島二郎君
  　　　　田子一民君　松尾孝之君
  　　　　篠原義政君
  　關門海底トンネル鐵道敷設速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　西岡竹次郎君　佐保畢雄君
  　　　　宮川一貫君　竹下文隆君
  　　　　綾部健太郎君　水久保甚作君
  　　　　藤生安太郎君　村田虎之助君
  　　　　永田良吉君
  　喜々津浦上間鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　西岡竹次郎君　佐保畢雄君
  　長崎市に鐵道運輸事務所及保線事務所新設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　西岡竹次郎君　佐保畢雄君
  　長崎中央電信局設置に關する建議案
  　　提出者
  　　　　西岡竹次郎君　佐保畢雄君
  　　　　　　　　　（以上三月六日提出）
  一昨日六日常任委員補闕選擧の結果左の如し
  　第四部選出決算委員
  　　　　江藤源九郎君（小池四郎君補闕）
  一昨六日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
  　府縣制中改正法律案（政府提出）外三件委員
  　　理事　船田中君（理事箸本太吉君昨日委員辭任に付其の補闕）
  一昨六日議長に於て選定したる委員左の如し
  　地方財政調整法案（富田幸次郎君外二十名提出）外一件委員
  　　　　熊谷直太君　出井兵吉君
  　　　　鈴木英雄君　八田宗吉君
  　　　　田邊熊一君　大野伴睦君
  　　　　清水銀藏君　小林絹治君
  　　　　西村茂生君　須之内品吉君
  　　　　上塚司君　田尻藤四郎君
  　　　　前田米藏君　加藤久米四郎君
  　　　　岡田喜久治君　小川郷太郎君
  　　　　前田房之助君　池田秀雄君
  　　　　齋藤直橘君　小山松壽君
  　　　　川淵洽馬君　末松偕一郎君
  　　　　加藤鯛一君　由谷義治君
  　　　　中村繼男君　戸田由美君
  　　　　飯村五郎君
  一昨六日に於ける特別委員の異動左の如し
  　政府貸付金處理に關する法律案（政府提出）委員
  　　辭任　大神田軍治君　補闕　平川松太郎君
  　營業收益税法中改正法律案（中谷貞頼君外二名提出）委員
  　　辭任　飯村五郎君　補闕　小池四郎君
  　府縣制中改正法律案（政府提出）外三件委員
  　　辭任　箸本太吉君　補闕　石坂豐一君
  　札幌軌道株式會社及矢作水力株式會社所屬軌道の經營廢止に對する補償の爲公債發行に關する法律案（政府提出）外一件委員
  　　辭任　平井信四郎君　補闕　佐竹直太郎君
  　　　　━━━━━━━━━━━━━

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=0

  ---

• 001・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　是ヨリ會議ヲ開キマ
  ス、日程第一及第二ハ豫算案デアリマスカ
  ラ、一括シテ議題トナスニ御異議アリマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=1

  ---

• 002・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ日程第一、昭和九年度歲入歳出總
  豫算追加案、日程第二、昭和九年度各特別
  會計歲入歲出豫算追加案、右兩案ヲ一括シ
  テ議題ト致シマス、豫算委員長ノ報〓ヲ求
  メマス
  〔「海軍大臣ガ居ラヌ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=2

  ---

• 003・砂田重政

  ○砂田重政君　海軍大臣ノ出席ヲ要求シテ
  アリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=3

  ---

• 004・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　今要求シテアリマス
  カラ、其中出席サレマス--砂田重政君
  第(第一號)昭和九年度歲入歲出總
  豫算追加案
  第二(特第一號)昭和九年度各特別會
  計歲入歲出豫算追加案
  報〓書
  一(第一號)昭和九年度歲入歲出總豫算追
  加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十年三月六日
  豫算委員長砂田重政
  衆議院議長濱田國松殿
  報〓書
  一(特第一號)昭和九年度各特別會計歲入
  歲出豫算追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十年三月六日
  豫算委員長砂田重政
  衆議院議長濱田國松殿
  〔砂田重政君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=4

  ---

• 005・砂田重政

  ○砂田重政君　只今議題ニ供サレテ居リマ
  スル昭和九年度一般會計追加豫算案、昭和
  九年度特別會計追加豫算案ノ、豫算委員會
  ノ經過竝結果ヲ御報告申上ゲタイト思ヒマ
  ス、豫算委員會ノ質問應答ハ多岐ニ亙リマ
  スルカラ、願クハ速記錄ニ依ッテ御諒承ヲ仰
  ギタイト思ヒマスルガ、大體一般會計ニ於
  キマシテハ、總額千二十餘万圓デアリマシ
  テ、其中大部分ハ義務費ニ屬スル各省ノ事
  務的經費デゴザリマスル、又特別會計ニ於
  キマシテハ、朝鮮總督府特別會計ニ於テ千
  五百餘万圓、臺灣總督府特別會計ニ於テ二
  百万圓前後ノ追加豫算デアリマスルガ、是
  亦悉ク事務的且ツ義務費ニ屬スル問題デア
  リマシテ、多クノ質問應答ハナカッタノデア
  リマス、其中ニ最モ新シク計上サレマシタ
  モノトシテハ、今春滿洲國皇帝陛下御來訪
  ニ付キマシテ、之ニ要スル御警衞ニ關スル
  諸費ガ三、四ノ省ニ亙リマシテ計上サレテ
  居ッタノデアリマス、此滿洲國皇帝ガ、我國
  ニ御來訪ニ相成リマスルト云フコトハ、吾
  吾滿洲國ノ獨立以來、最モ國ヲ擧ゲテ御歡
  迎申上グベキ時機デアルト云フコトニ付キ
  マシテハ、各黨各派ノ諸君ヨリ此事ヲ明瞭
  ニサレタノデアリマス、殊ニ此滿洲國皇帝
  陛下ノ御來朝ヲ機トシテ、御歡迎ヲ申上ゲ
  ルト云フ、此經費ハ昭和十年度ノ追加豫算
  ニ於テモ、更ニ要求ヲスル旨ノ總理大臣ノ
  言明ガアッタノデアリマス、是ニ於テ政友會
  ノ大口君等ヨリ、斯樣ナ經費ハ追加豫算ト
  シテ計上ヲスル場合ニ於テモ、我ガ國民ノ代
  表ノ府デアルベキ所ノ貴衆兩院ニ於キマシ
  テハ、斯樣ナ御歡迎ノ經費ノ如キモノハ、
  特ニ愼重ニ且ツ最モ熱意ヲ表明スル爲ニ、
  卽決可決ヲ要スベキモノデアル、然ルニ之
  ヲ一般ノ追加豫算ノ中ニ混同サレテ提案ヲ
  サレル結果、諸種ノ論議ノ後ニ於テ、此間
  題ヲ決スルガ如キコトヽナリ、吾々眞ニ滿
  洲國皇帝陛下ヲ御歡迎申上ゲル精神ニ副ハ
  ザル憾ミアルニ依リ、來ルベキ十年度ノ追
  加豫算ヲ計上サレル場合ニハ、一般普通ノ
  追加豫算ト切離シテ、此追加豫算ヲ提案セ
  ラレンコトヲ望ムト云フ、强キ意味ノ御希
  望ヲ申述ベラレタノデゴザリマス(拍手)是
  ハ此追加豫算會議中ニ於ケル最モ强イ意味
  ニ於テ、政府ニ於テモ御聽取ニナッタコトヽ
  考ヘラレタノデアリマス
  次ニ此追加豫算ノ審議ニ移リマシテ、議
  題ノ中心ニナリマシタ問題ハ、木村正義君
  ヨリ質問ニナリマシタ、今囘ノ昭和九年度
  ノ追加豫算ニ依リマスル、陸海軍兩省ノ精
  米及麥ノ買入價格ニ於テ、兩省ノ各目明細書
  ノ間ニ非常ナ差異ノアルコトヲ發見ヲ致シ
  タノデアリマス、殊ニ精白米ノ如キハ、殆ド
  同一品種ノ物ヲ給與ヲサレテ居リマスルニ
  拘ラズ、其價格ハ百瓩ニ付テ陸海軍兩省ノ間
  ニ六圓以上ノ差ノアルコトヲ發見サレマシ
  テ、之ヲ質問サレタノデアリマス、其結果
  段々ニ質問ハ深刻ニ、微ヲ穿チ細ニ亙ッテ御
  質問ニナリマシク結果、海軍大臣ハ、此各
  目明細書ノ中ニ記載サレタル單價ニ付テ
  ハ、實際ノ實情ニ副ハザルモノガアル、他
  ノ食料品ノ經費ヲ以テ流用スル意味ニ於
  テ、長イ間ノ習慣ニ依ッテ斯樣ニ記載シタコ
  トハ洵ニ遺憾デアルカラ、將來ハ各目明細
  ノ內容ノ記載ニ付テ、之ヲ改善シタイト云
  フ考ヲ有ッテ居ルト云フコトヲ明瞭ニサレ
  タノデアリマス、陸軍大臣モ、亦陸軍省買
  入數量其他ニ付テ種々ノ御質問ガ出マシタ
  結果、此各目明細ノ記載方ニ付テハ、將來
  改善ヲスル考ヲ有ツコトヲ明瞭ニサレタノ
  デアリマス、此事ハ木村君ガ委員會ニ於テ
  屢〓述べラレマシタ點デアリマスルガ、大體
  今日ノ日本ノ豫算ヲ審議スル議院ニ提案ヲ
  サレマスル各省ノ各目明細ハ、御承知ノ如
  ク非常ナ大部ナモノデアリマス、而モ衆議
  院ニ於テ、又貴族院ニ於テ、豫算ヲ審議致
  シマスル上ニ於ケル唯一ノ資料トシテ見ル
  ベキモノハ、此各目明細書ニ依ラナケレバ
  他ニ方法ハナイノデアリマス、併ナガラ此
  三万頁ニ餘ル各目明細、而モ非常ニ難解ナ
  ル豫算ノ明細書ニ依リ、且ツ此各目明細書
  ハ、各省每ニ各〓其内容ヲ異ニ致シテ、同一
  事項ニ對スル明細書ニ於テモ、非常ナ簡疎
  ノ別ガアルノデアリマス、斯樣ナモノヲ統
  一シテ出シテ貰ハナケレバ、眞ノ審議ハ出
  來ナイト云フコト、之ヲ此今回提案ヲサレ
  マシタ追加豫算ト云フ、小サナ一ツノ各目
  明細書ニ依ッテスラ、是ダケノ事實ガ出テ來
  ルノデアリマス、是ハ卽チ政府提案ノ各豫
  算全體ニ亙ル縮圖トシテ之ヲ見テモ、斯樣
  ナ非常ナ過チノアルコトヲ發見スル以上
  ハ、獨リ陸海軍省ニ止マラズ、各省ノ各目
  明細書ヲ今少シク理解シ易ク、又眞實ニ吻
  合シテ、議員全體ガ豫算ノ內容ヲ明瞭ニ知
  ルコトノ出來ルヤウニ、改革ヲ望望スル意
  味ノ旨ヲ述ベラレマシタ、又民政黨ノ中村
  三之丞君カラモ、同樣ノ事ヲ希望サレタノ
  デアリマス、政府ハ此趣旨ハ十分ニ體サレ
  タコトヽ吾々ハ解釋ヲ致シタノデゴザイマ
  ス
  尙ホ民政黨ノ中村君ヨリハ、今囘ノ豫算
  中百二十万圓ノ收入ヲ、刑務所收入トシテ
  計上サレ、更ニ之ニ對シテ百二十万圓ノ刑
  務所行刑費ノ追加要求ヲサレテ居ル、而シ
  テ是ノ計畫ハ、刑務所工業ノ投資デアルト
  云フ意味ニ於テ、刑務所工業ガ、安イ勞銀
  ト强制的ニ長イ勞働時間トヲ利用シテ、是
  ガ一般商工業者ニ多大ノ打擊ヲ與ヘルト云
  フ點ニ付テ、詳細ニ亙ッテ御質問ガアリマシ
  ク、政府ハ此點ニ付テハ、一般商工業者ヲ
  壓迫セザルコトニ最善ノ注意ヲ拂フト云フ
  コトノ答ガアリマシタ、斯樣ニシテ大體ニ
  於テ、此豫算全體ハ、討論ニ入リマシテ、
  致友會ヲ代表シテ〓瀨君ヨリ、民政黨ヲ代
  表シテ中村君ヨリ、贊成ノ御表明ガアリマ
  シタ、而シテ滿場一致ヲ以テ、此追加豫算
  ハ、認ムベキモノトシテ可決サレタ次第デ
  ゴザイマス
  此際委員長ハ一言前囘ノ豫算委員會ノ報
  告ニ付キマシテ、補足スルコトヲ御許ヲ得
  タイト思セマス、只今マデ私ガ申上ゲマシ
  タ此報〓ニ誤リガアリマスルナラバ、政府
  ハ直チニ此壇上ニ於テ、明瞭ニ其誤リノア
  ルコトヲ指摘シテ戴キタイ、前囘ノ、豫算委
  員長ガ報告ヲ致シマシタ報告ニ對シ、政府諸
  公ハ此席ニ御列席ニナッテ居リナガラ、此誤
  レルコトヲ一言モ反駁ヲサレタコトガナカッ
  タ、然ルニ翌日ノ新聞ヲ見マスルト、委員長
  ガ、滿洲國國防費分擔ノ問題ニ對スル質問
  ハ日本ノ士氣ニ影響ガアル虞ガアル意味
  ノ質問ノアリタルコトヲ御報告申上ゲマシ
  タニ對シ、軍部ノ名ヲ以テ全國ノ新聞紙ニ、
  當コスリヲ言ウテ卑怯千萬ダト云フ記事ヲ
  出サレテ居ル、又委員長ハ此委員會ノ經過
  竝ニ委員會ニ於ケル實情ヲ、其儘ニ御報〓
  申上ゲルコトガ責任ナリト考ヘテ居リマス
  (「ヒヤ〓〓」)之ヲ明瞭ニ此席ニ於テ御報告
  申上ゲルコトガ何ガ卑怯ナノデアリマセウ
  カ(拍手)若シ之ニ誤リガアルナラバ、堂々
  ト此壇上ニ立ッテ之ヲ攻擊サレナケレバナ
  ラヌ(拍手)玆ニ一言ノ發言モナサラズシ
  テ、翌日ニナッテ、新聞紙ヲ以テ卑怯千萬
  デアルト云フ蔭口ヲ叩カレルト云フコト
  ハ、何タル事デアルカ(拍手)若シ本日述べ
  マシタ私ノ報告ニ誤リガアルナラバ、此壇
  上ニ於テ御正シヲ願ヒタイ、委員長ハ出來
  得ル限リ豫算ノ審議ヲ滑カニ進メタイト云
  フノデ、最善ノ努力ヲシタ積リデゴザリマ
  ス、然ルニ此問題ハ滿洲國國防費分擔金ト
  云フ、此金ヲ受入レルノニハ適當ノ費目ガ
  アルデアラウ、斯樣ナ名前ノ費目ノ金ヲ入
  レルト云フコトハ陛下ノ軍人ヲ恰モ傭兵
  ノ如ク誤解サレル危險ガアルト云フ意味
  ヲ、簡單ニ御報告ヲ申上ゲテ、政府ノ反省
  ヲ促シタ積リデアッタ(拍手)之ヲ細カク申
  上ゲレバ國交ノ上ニモ、軍機ノ上ニモ、重
  大ナ關係ガアルト云フコトヲ考ヘマシタガ
  故ニ、極メテ簡單ナ言葉ヲ以テ政府ノ反省
  ヲ促ス意味ノ一言ヲ附加ヘタ、是ハ議場ニ
  於ケル光景ヲ其儘御報告申上ゲタ、此內容
  ニ深ク立入ッテ論議ヲ重ネマスナラバ、是ハ
  陛下ノ軍人-滿洲國ニ出テ居リマス此
  寒氣ト鬪ヒ、窮乏ト鬪ヒツヽアル陛下ノ
  軍人ヲ、恰モ傭兵ノ如ク誤解サレル危險ガ
  アルト云フコトハ、帝國軍人ノ爲ニ取ラザ
  ル所デアルト云フ老婆心デアルト云フコト
  ヲ御諒承願ヒタイ(拍手)委員長ハ此意味ニ
  於キマシテ御報告申上ゲタノデアル、私ヲ
  シテ言ハシムルナラバ、誤マレルモノナラ
  が、此壇上ニテ直チニ堂々ト反擊ヲ加ヘラ
  レ-政府ハ何時デモ發言ノ機會ガアルノ
  デアリマスカラ、此處ニ出テ反駁サレルノ
  ガ當然デナケレバナラヌ、ソレヲ翌日ニナッ
  テ新聞紙ニ斯樣ナ報道ヲ爲サルト云フコト
  ハ、是レ位卑怯未練ノヤリ方ハナイト私ハ
  信ズルノデアリマス(拍手)甚ダ貴重ナル時
  間ヲ委員長ノ報告ニ附加ヘマシタコトヲ恐
  縮ニ存ジマスガ、此點一言附加ヘマシテ、
  委員會ハ此九年度豫算ニ付テ全部贊成ト云
  フコトデ、滿場一致決議致シマシタカラ、
  玆ニ之ヲ御報告申上ゲマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=5

  ---

• 006・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　別ニ質疑竝ニ討論ノ
  通〓ハアリマセヌ、直チニ採決ニ入リマス、
  第一號、昭和九年度歲入歲出總豫算追加
  案特第一號、昭和九年度各特別會計歲入
  歲出豫算追加案、右兩案ノ委員長報告ニ贊
  成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
  〔總員起立〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=6

  ---

• 007・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　起立總員(拍手)兩案
  ハ何レモ委員長報告通リ可決サレマシ
  タ-日程第三乃至第七ハ、關聯セル議案
  デアリマスルカラ、一括議題トナスニ御異
  議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=7

  ---

• 008・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ日程第三、關稅定率法中改正法律
  案、日程第四、大正十三年法律第二十四號
  中改正法律案、日程第五、昭和七年法律第
  四號中改正法律案、日程第六、關稅法中改正
  法律案、日程第七、鐵ノ輸入稅ニ關スル法
  律案、以上五案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キ
  マス-高橋大藏大臣
  第三關稅定率法中改正法律案(政府
  提出)第一讀會
  第四大正十三年法律第二十四號中改
  正法律案(贅澤品等ノ輸入稅ニ關ス
  ル件)(政府提出)第一讀會
  第五昭和七年法律第四號中改正法律
  案(輸入稅ノ從量稅率ニ關スル件)
  (政府提出)第一讀會
  二二〇人造麝香
  一ムスクキシロール
  二其ノ他
  第二百九十九號第四項ヲ削リ第五項ヲ第四項トシ第六項ヲ第五項トス
  第四百十二號ヲ左ノ如ク改ム
  四一二貴石
  一機械用又ハ工業用ニ供スル爲形ツクリ
  タルモノ
  二其ノ他
  第四百六十三號ノ二中「マグネシウム」ヲ「マグネシウム及マグネシウム合金」
  ム
  第六百二十號ヲ左ノ如ク改ム
  六二〇白金、ヴァナヂウム又ハ其ノ化合物ヲ含ム觸
  媒
  第六百三十一號ヲ左ノ如ク改ム
  六三一ヴァルカナイズドファイバー
  類
  第六關稅法中改正法律案(政府提出)
  第一讀會
  第七鐵ノ輸入稅ニ關スル法律案(政
  府提出)第一讀會
  關稅定率法中改正法律案
  關稅定率法中左ノ通改正ス
  第九條第二項中「茶鉛、」ヲ「機械用若ハ工
  業用ニ供スル爲形ツクリタル貴石、茶鉛、」
  三九六
  別表輸入稅表中左ノ如ク改ム
  第二百二十號ヲ左ノ如ク改ム
  每百斤一二五·〇〇
  從價三割五分
  從價五分
  從價一割
  〓
  無稅
  笑板及管ノ
  每百斤二六·〇〇
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  大正十三年法律第二十四號中改正法律
  案
  大正十三年法律第二十四號中左ノ通改正
  ス
  第二項中「貴石若ハ」ヲ削ル
  別表輸入稅表番號第六十六號ノ項ヲ左ノ
  如ク改ム
  六六別號ニ揭ケサル酒類(燒酎類
  ヲ除ク)
  同第四百十二號ノ項ヲ削ル
  同第六百十二號ノ項一ヲ左ノ如ク改ム
  一單ニ切リ、挽キ又ハ割
  リタルモノ
  甲ノ二鐵刀木、紅木、
  紫檀及黑檀縞
  黑檀ヲ除ク)
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  昭和七年法律第四號中改正法律案
  昭和七年法律第四號中左ノ通改正ス
  別表輸入稅表番號第百七十六號ノ項ノ次
  ニ左ノ一項ヲ加フ
  二二〇人造麝香
  一ムスクキシロール
  同第四百六十三號ノ二ノ項ヲ左ノ如ク改
  ム
  四六三ノ二マグネシウム及マグネシウ
  ム合金
  同第六百十二號ノ項ノ次ニ左ノ一項ヲ加
  フ
  六三一ヴァルカナイズドファイ
  バー(竿、板及管ノ類)
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  關稅法中改正法律案
  關稅法中左ノ通改正ス
  第七十五條ニ左ノ但書ヲ加フ
  但シ犯罪ニ係ル貨物カ關稅定率法別表
  輸入稅表第四百十二號第二項ニ揭クル
  貴石ナルトキハ罰金又ハ科料ハ其ノ原
  價ノ三倍ニ相當スル金額トス
  第七十五條ノ二ニ左ノ但書ヲ加フ
  但シ犯罪ニ係ル貨物カ前條但書ニ揭ク
  ル貴石ナルトキハ罰金ハ五千圓以下ト
  シ其ノ原價カ五千圓ヲ超ユルトキハ原
  價ニ相當スル金額以下トス
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  鐵ノ輸入稅ニ關スル法律案
  關稅定率法別表輸入稅表第四百六十二號
  ニ揭グル物品ニシテ本法別表ニ揭グルモ
  ノノ輸入稅ハ本法施行ノ日ヨリ昭和十二
  年三月三十一日迄同輸入稅表ニ依ラズ本
  法別表ニ依ル
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  本法ヲ施行スル期間ハ政府特ニ必要アリ
  ト認ムルトキハ勅令ニ依リ之ヲ短縮スル
  コトヲ得
  (別表)
  品
  鐵(別號ニ揭ゲタル特殊鋼ヲ除ク)
  一塊及錠
  甲銑鐵
  丙其ノ他
  丙ノ一シートバー(ティンバーヲ含ム)
  丙ノ二其ノ他
  二條及竿(テー形、アングル形等ノ形狀ヲ有スルモ
  ノヲ含ム)
  三レール(フィッシュプレートヲ含ム)
  四ワイヤロッド(卷キタルモノ)
  五板
  甲金屬ヲ鍍セザルモノ
  甲ノ一厚〇·七ミリメートルヲ超エザルモノ
  ロ其ノ他
  甲ノ二厚三ミリメートルヲ超エザルモノ
  甲ノ三其ノ他
  十三筒及管(別號ニ揭ゲザルモノ)
  甲金屬ヲ鍍セザルモノ
  甲ノ二其ノ他
  ロ其ノ他
  ロノ一內徑百五十ミリメートルヲ超エザ
  ルモノ
  ロノ二其ノ他
  備考從量稅率ノ單位ハ圓トス
  〔國務大臣高橋是〓君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=8

  ---

• 009・高橋是清

  ○國務大臣(高橋是〓君)　只今議題トナリ
  マシタ關稅定率法中改正法律案外四件ヲ一
  括シテ、今囘ノ關稅改正ノ趣旨ヲ說明致シ
  マス、鐵ノ關稅ハ昭和七年ニ於キマシテ其
  稅率ノ引上ヲ行ッタノデアリマス、其後我國
  ノ製鐵業ハ順調ナ發達ヲ遂ゲテ參ッタノデ
  名
  アリマスガ、
  シマシテ、
  テ致シテハ、
  セヌ、
  やっ、
  單位
  每百斤
  每百
  價斤
  從
  每百斤
  每百斤
  每百斤
  每百
  每百斤斤斤
  每百
  從價
  從價
  最近鐵ノ需要ガ急激ニ增加致
  銑鐵ニ付テハ我國ノ生產額ヲ以
  到底之ニ應ズルコトガ出來マ
  又鋼材ニ付キマシテモ十分ニハ參ラ
  ヌト云フ狀態ニ相成ッテ來マシテ、而モ又之
  ニ伴ヒ價格モ一般的ニ騰貴致シタノデアリ
  ソレデ當面ノ處置ト致シテハ、
  稅率
  〇·一八
  〇·三四
  七分五厘
  〇·七四
  〇·六四
  〇·六五
  一·三二
  〇·九五
  〇·七四
  九分
  七分五厘
  銑錢
  及重要ナ鋼材ノ稅率ヲ低減シ、以テ供給ノ
  圓滑ヲ圖ルト共ニ、市價ノ適當ナル調節ヲ
  行フ必要ガアルト思ハレマス、而シテ稅率
  引下ノ程度ニ付キマシテハ、現在ノ關稅ヲ
  全廢スルト云フヤウナ急激ナ方法ハ避ケマ
  シテ、先ヅ之ヲ一律ニ半減スルト云フコト
  ガ適當デアルト考ヘマス、尙ホ右ノ關稅引
  下ハ、一時的ノ處置トシテ行フノデアリマ
  シテ、我國ニ於ケル生產設備ノ擴張計畫モ
  アリマスカラシテ、其期間ハ大體二年間ヲ
  最長限度トスルノガ妥當デアルト認メタ次
  第デアリマス、貴石ニ付キマシテハ、現在
  從價十割ノ關稅ヲ課シテ居ルノデアリマス
  ガ、何分ニモ容積極メテ小ニシテ、價格甚
  ダ高價ナル品物デアリマス、サウ云フ關係
  上、稅率ヲ從價一割ニ引下ゲマスト同時ニ、
  密輸入等ノ犯則者ニ對スル罰則ヲ重クスル
  コトニ致シタノデアリマス、其他人造麝香
  等數品ニ付キマシテモ、此際適當ニ稅率ヲ
  改正セントスル考デアリマス、政府ハ關稅
  率ノ點ニ關シマシテハ、曩ニ關稅調査委員
  會ニ諮問致シマシタノデアリマシテ、其答
  申ニ基キマシテ各法律案ヲ提出致シマシタ
  次第デアリマス、尙ホ詳細ナル點ニ關シマ
  シテハ、適當ナル機會ニ於テ御說明ヲ致ス
  考ヘデアリマス、何卒御審議ノ上速ニ御協
  贊ヲ與ヘラレンコトヲ希望致シマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=9

  ---

• 010・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　質疑ノ通告ガアリマ
  ス、通〓順ニ從ヒ順次之ヲ許シマス-蔭
  山貞吉君
  〔蔭山貞吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=10

  ---

• 011・蔭山貞吉

  ○蔭山貞吉君　私ハ只今上程セラレマシタ
  ル關程ニ關スル法律案中、特ニ鐵ノ輸入稅
  ニ關聯致シマシテ、製鐵國策ノ根本方針ノ
  二三ニ付テ、總理大臣、商工大臣、陸海軍大
  頁、大藏大臣、其他關係ノ諸大臣ニ質疑ヲ
  試ミタイノデアリマス
  製鐵國策ノ重要ナルコトハ申ス迄モア
  リマセヌ、鐵鋼ガ產業ノ進展ト、國防ノ整備
  充實ニ必須ナル材料ト云フコトハ、申ス迄
  モナイコトデアリマシテ、是ガ需要供給ノ
  圓滑ヲ圖ルコトハ、一日モ忽セニスベカラ
  ザルコトデアリマス、然ルニ最近ノ鐵鋼ノ
  需要供給ノ增加ハ洵ニ急激デアリマシテ、
  金額ニ致シマスト、旣ニ四億圓ヲ突破スル
  ト云フ狀況ニ在ル、從來政府ガ執リ來ッタ所
  ノ鐵鋼ノ自給策ハ、洵ニ現在ハ行詰リノ狀
  態ニナッテ居ル、今日此鐵ノ輸入稅ニ關スル
  單行法ヲ發布セラレタト云フコトハ、洵ニ政
  府ノ從來ノヤリ方ガ惡カッタガ爲ニ、斯樣ナ
  暫定的ノ法案ヲ出サナケレバナラヌト云フ
  コトニナッタ、卽チ其原因ハ種々アリマス
  ガ、第六十二議會ニ於テ製鐵國策、製鐵ノ
  合同國策ヲ定メラレマシタガ、中途半端デ
  アル、又其指導機關卽チ日本製鐵會社、或
  ハ傍系會社タル所ノ銑鐵共販會社、其監督
  ガ惡カッタ、殊ニ其監督ノ方ハ共販會社ニ任
  サレタヤウナ形デアリマシテ、過度ノ統制
  ヲ行ッタ反面、前途ノ見越ガ非常ニ惡カッタ、
  是ハ明ニ政府ノ執リタル方計ガ誤リデアル
  ト云フコトヲ證明スルノデアリマス、當時
  ノ政府ノ執リタル方針ハドウデアッタカト
  云フト、中島商工大臣ハ第六十二議會ニ於
  テドウ云フコトヲ申サレタカト云フト、銑
  鐵ノ市價ハ現在二十二圓乃至二十五圓デア
  ル、之ニ六圓ノ關稅ヲ掛ケナイト、製鐵業
  者ヲ保護スルコトガ出來ナイ、市價ガ上ッテ
  モ先ヅ二圓程度デアル、又中小工業ニモ影
  響セヌ、又需要ガ增加スルケレドモ、ソレ
  モ十五万瓲位ダラウ、斯ウ云フ風ニ仰セラレ
  タノデアリマルガ、銑鐵ノ二十五圓ノ市價ガ、
  現在ニ於テハ四十五圓近クニナリ、商工大臣
  ノ言明ノ十倍ニナッタ、又十五万瓲位ノ需要
  ト云フ豫想ガ七、八十万瓲ニナッタ、是ハ明ニ
  政府當局ガ如何ニモ無定見デアッタト云フコ
  トヲ想像スルニ餘リアルノデアリマス、
  本年ノ銑鐵ノ飢饉狀態ヲ茲ニ簡單ニ申上ゲ
  マスト、一月渡ノモノガ、二月ニ入ルモ手
  ニ入ラナイ、建値ヲ喧マシク申シテモ、ソ
  レガ定マラナイ、政府モ非常ニ努力ヲサレ
  タケレドモ、一箇月有餘掛ッテ、漸クニシテ
  其建値ガ決ッタ、當時新聞紙ニモ書イテアリ
  マシタガ、銑鐵ノ値上問題ハ全ク宙ニ迷
  フ、或ハ又商工當局ハ首鼠兩端ヲ持シテ居
  ル、鉄鐵ハ關稅ノ引下ヲ大藏省デ否定ヲシ
  テ居ル、斯ウ云フ風ニシテ、銑鐵ノ値下問
  題ニ關シマシテハ、非常ニ紛糾ヲシテ居ッタ
  ト云フコトヲ玆ニ證明出來ルノデアリマ
  ス、ソレガ爲ニ民間ノ中小工業者ハ非常ニ
  困リマシタ、小サナル鑄物屋或ハ機械屋、
  斯ウ云フモノハ原料ガ無イ、三日ノ原料モ
  無イ、斯ウ云フ狀態デアリマシテ、名古屋
  市ノ機械商ノ如キハ、海外ニ輸出スル小機
  械ノ原料ガ無イ、或ハ金澤市ノ如キハ銑鐵
  ノ材料ガ驛ニ著クト、號外ヲ發行スルト云
  フヤウナ、非常ナル飢饉狀態デアッタノデア
  リマス、是ハ中小工業ヲ指導スル上ニ於
  テ、由々シキ重大ナル問題デアリマス、私
  ハ此重大ナル銑鐵飢饉ニ關シマシテ、總理
  大臣ハ能ク其認識ヲシテ貰ヒタイ、又商工
  大臣、大藏大臣ハ、特ニ此點ヲ反省シテ戴
  キタイノデアリマス
  次ニ政府ガ怠慢ト認ムベキ件ガアリマ
  ス、ソレハ此銑鐵飢饉ヲ招來シテ居ル今日
  ニ於キマシテ、政府ニ銑鐵ヲ造ルベキ願ヲ
  出シテ居ル、例ヘバ日鐵ノ方ガ千瓲熔礦爐
  ノ新設ノ願ヲ出シテ居ルニ拘ラズ、昨年八
  月カラ今日ニ至ル迄、半年ノ間商工當局ハ
  ジット握ッテ居ル、大藏省ノ方モ亦調査ニ時
  日ヲ費シ、中々許可シナイ、漸ク此鐵ノ輸入
  關稅ニ關スル法律案ガ日程ニ上ッタ五日ノ日
  ニ、許可シタト云フコトガ、書イテアリマ
  シタガ、果シテサウデアルカドウカ、斯ウ
  云フヤウナ銑鐵ノ非常ナ飢饉デアル此際
  ニ、一日モ早ク之ヲ許サナイト云フコトハ
  イケナイ、熔礦爐ヲ許シタ所ガ直グ出來ル
  モノデナイ、斯樣ナコトヲ十分ニ認識シテ
  居ラヌト云フコトハ、是ハ商工當局及大藏
  省ノ方面ニ於キマシテモ、十分ニ注意シナ
  ケレバナラヌコトデアリマス、斯樣ナ狀態
  デアリマシテ、今日銑鐵ノ不足ト云フモノ
  くら、八十万瓲デアル、又豫備ノ若干ヲ加
  ヘルト云フト、百万瓲ニモ近イ、果シテ本
  年ノ需要ガ、商工當局ハ之ヲ幾ラデアルト見
  積ッテ居ラレルカ、或ハ又此躍進日本ノ今日
  ノ狀態カラ考ヘルト云フト、國防ノ充實ノ
  ミナラズ、產業ノ發展ニ伴ウテ、幾ラ程ノ
  鐵ガ要ルト云フ算定ヲセラレテ居ルカ、之
  ニ鑑ミマシテ政府ハ製鐵增產計畫ノ所見ハ
  ドウデアルカ、殊ニ熔鑛爐ヲ新設スル計畫
  ガアルト聞イテ居リマスガ、逐次許サレル
  ヤウナ形デアリマスガ、ドウ云フ風ナ順序
  ヲ以テ此增產計畫ヲスルカ
  次ニ關稅ノ引下ノ問題デアリマスガ、今
  囘關稅ヲ引下ゲテ、サウシテ市價ノ低落ヲ
  圖ッタト云フコトハ、是ハ先程申シマシタヤ
  ウニ、製鐵國策ノ誤レルコトヲ如實ニ示
  シ、今日已ムヲ得ザル處置ニナッタノデアリ
  そう、而シテ銑鐵ノ關稅ヲ三圓引下ゲテ、
  又一律ニ銑材迄全部引下ゲタノハ如何ナル
  理由デアルカ、是ハ特ニ大藏議臣ニ御何ス
  ルノデアリマス、又大藏省ハ銑鐵及鋼材ノ
  關稅收入見積ヲ幾ラニ見積ッテ居ルカ、續イ
  テ關稅ノ引下後ノ市價ノ調査デアリマス、
  政府ガ關稅ヲ引下ゲテ、而シテ其市價ハ幾
  ラヲ適當ト考ヘテ居ルカ、實際ニ於テ日鐵
  ノ生產原價ト云フモノハ三十三、四圓程度
  ト伺ッテ居ル、諸種ノ費用ヲ入レマシテモ、相
  當ノ安價デ供給シ得ルト思フ、此點ヲ商工當
  局ハ餘程能ク留意サレヌト云フト、幾ラ關稅
  ヲ引下ゲテモ亦飛上ルノデアル、殊ニ今囘ハ
  勅令ヲ以テ適當ナ時期ニ引下ゲルト云フノ
  デアリマスガ、是ハ生產業者又需要者ノ間
  ニ於キマシテ、非常ニ重大ナ問題デアリマ
  スカラ、其時期ハ中小工業及一般消費者ノ
  關係ヲ十分ニ考慮シテ貰ヒタイ
  次ニ申上ゲタイト思フノハ販賣機關ノ改
  善デアリマス、政府ハ現在ノ銑鐵共販會社
  ト日本製鐵會社ノ關係ヲ斷タシメテ、新ナ
  ル販賣機關ヲ設ケル考ハナイカ、共販會社
  ト云フモノハ、是ハ日鐵ガ出生前ニ生レタ
  モノデアル、殊ニドウ云フモノニ依ッテ成
  立ッテ居ルカト云フト、滿洲ニ在ル所謂特殊
  會社、滿鐵ト大倉組ノ本溪湖、及三菱ノ兼
  二浦、三井ノ釜石、之ニ日印通商ノ印度銑
  鐵ヲ一團トスル、所謂銑鐵ノ共販「トラス
  トレデアル、所ガ日鐵ハ此國家的使命ヲ忘
  却致シマシテ、此共販ニ追隨致シマシテ利
  益ヲ得ツヽアッタ、所謂暴利ヲ貪リツヽアッ
  ク、斯樣ナコトヲシテ居リマシテハ、製鐵
  國策ノ根本義ニ反スル、此機會ニ獨立シテ、
  獨立獨步、鐵鋼界ノ指導ニ任ズル所ノ覺悟
  ガ必要デアル、又此共販會社ハ、昭和七年
  ノ銑鐵關稅-丁度此議會ヲ通過シ、而シ
  テ實施サレルト、直グニ印度銑鐵ノ輸入防
  遏ノ目的デヤラレタ此關稅ノ引下、所ガ此
  引下デ市價ガ騰ガルト云フト、ソレヲ好イ
  コトニ致シマシテ、其市價デ矢張其自分ノ
  有ッテ居ル品物ノ價格ヲ上ゲテ居ル、印度銑
  鐵ト妥協シテ、十万瓲バカリノ輸入ノ特約
  ヲ每年行フヤウニシテ居ル、斯樣ニ致シマ
  シテ、洵ニ不合理ナル暴利ヲ貪リツヽアル
  ト云フコトハ、今日是ハ業界ニ明カデアリ
  マス、殊ニ此特殊會社ハ、大資本ヲ擁シテ
  居ル會社デアリマスガ、斯ウ云フコトハ資
  本家ノ橫暴ト云フ譏リヲ免レ得ナイノデア
  リマス、是ハ商工當局ノ監督宜シキヲ得ナ
  カッタト云フコトニナリマス、又共販會社ガ
  橫暴デアルト云フ實例ヲ示シマスト云フ
  ト需要者ニ對シマシテ使用量ヲ非常ニ制
  限スル、又販賣ヲ三箇月ニ限定ヲスル、或
  ハ古鐵ノ輸入ヲスルト云フヤウナ者ニハ申
  中渡サナイ、又中間ニ販賣機關ガアル、其
  販賣機關ヲ通スノデアルカラ、其販賣問屋
  ト云フモノガ、又非常ニ各方面ニ橫暴ヲ働
  ク、斯ウ云フヤウナ狀態デアリマス、此監
  督ニ付テハ、政府ハ十分ニ承知シテ居ルカ、
  斯ウ云フヤウナ狀態デアリマスカラ、今後
  日本製鐵ノ國家的運用ハドウスルカ、國策
  上鋼材其他鐵鋼業者ノ、此根本材料タル所
  ノ銃鐵ノ供給ヲ中心トシテ、サウシテ需要
  供給ヲ圓滑ニヤラセル方法ガナイカ
  次ニ製鐵奬勵法デアリマス、製鐵奬勵法
  ニ付テハ政府ハ確乎タル信念ガナイ、丁度商
  工大臣ハ此一月以來、色々言明サレテ居リマス
  ガ、一月ノ末頃ニハ製鐵奬勵法ノ提案ヲ中止ス
  ル、斯ウ云フ風ニ言明ヲシテ居ラレマスガ、
  ソレカラ又暫ク經ツト、議會ニ提案ヲスル、
  二月ニナルト提案ヲスルト言ハレテ居ル、
  サウスルト又更ニ今度ハ方針ガ變ッテ、又提
  案ガ出來ナイト云フヤウナコトヲ言ウテ居
  ラレル、製鐵國策ガ再ビ立直ルト云フコト
  ハ、商工大臣ガ一個ノ考デ仰シヤルコトハ、
  非常ニ重大ナ問題デアル、大藏省ニモ關係
  ガアル、國家全般ニ關係ガアル重大ナ問題
  デアリマス、此奬勵法ハ臨時利得稅、其他
  今囘ノ關稅ノ引下、色々ナコトニ關係ガア
  ルノデアリマスルガ、此種々ナル言明ヲナ
  サルコトハ、大ニ不安ヲ增ス所以デアル、
  ダカラ商工大臣ハ此際明瞭ニ、明年改メル
  ナラ改メル、斯ウ云フ風ニ、アッサリシタ
  聲明ヲサレタラドウデアルカ
  又製鐵合同問題、此合同問題ヲ持續スル
  カセヌカ、此問題モ非常ニ重大ナ問題デア
  リマス、只今ノ製鐵業者ハ、此合同ニハ五
  ○乃至五五%シカ加ハッテ居ラヌノデアル
  カラ、後ノ殘リヲドウスルノカ、何時ノ時
  期ニドウ云フヤウニヤルノカト云フコトヲ、
  此處デ明ニ申述ベテ戴キタイノデアリマス
  次ニ國防上ニ於ケル鐵鋼ノ自給自足ノ問
  題デアリマス、鐵鋼或ハ石炭、或ハ屑鐵、
  斯ウ云フモノハ有事ノ際ニ非常ニ必要ナモ
  ノデアリマス、勿論現在ノ日本製鐵或ハ昭
  和製鐵ハ、重要ナル任務ニ服スルノデアリ
  マセウガ、又商工大臣ト致シマシテハ色々
  ナ方寸モアリマセウガ、陸海軍大臣トシテ
  國防上、此有事ノ際鐵鋼ノ自給自足ノ問題
  ヲ如何ニ考ヘルカ、又平時ニ於ケル鐵鋼ノ
  使用量ヲドウ云フヤウニシテ居ルカ、
  今後數年間ハ勿論、此以前ノ數年間ノ
  使用量ハ如何デアルカ、又陸軍大臣ハ
  在滿事務局總裁ト致シマシテ、滿洲ニ於ケ
  ル鐵ノ製造高、此所謂生產高ハ現在ハドレ
  位カ、將來ハドレ位ノ見込デアルカ、殊
  滿洲國ト致シテ鐵道ヲ敷ク、或ハ軍備ヲス
  ル、ソレニ相當要リマス、其殘リヲコチラ
  ニ廻スト致シマシテモ、其關係ハドウナル
  カ、又鐵道大臣、遞信大臣ニ於キマシテハ、
  此鐵道船舶ニ非常ニ多量ノ鐵ガ要リマス、
  之ニ對シ平時戰時ニ於テ、其用意ハドウ云
  フヤウニシタラ宜イカ、拓務大臣ニ特ニ御
  伺シマスガ、拓務省ノ所管內ニ於テ、鐵鋼
  自給上ニ於テ貢獻シ得ル程度ハ如何、殊ニ
  朝鮮ノ茂山ニ鐵礦ガアルト云フコトヲ聞イ
  テ居ル、殊ニ昭和製鋼所ヲ設ケル際ニ、新
  義州ニ設ケルトカ、或ハ又滿洲ニ持ッテ行ク
  トカ、色々議論ガアッタト云フコトニ依ッテ、
  其間ノ消息ヲ明ニシ得ルト私ハ思フノデア
  リマスガ、此點如何デアリマセウカ、外務
  大臣ニ御伺シタイノハ、帝國ノ鐵鋼ニ乏シ
  キコトハ申ス迄モアリマセヌ、外務大臣ハ
  外交上ニ付テハ非常ニ御熱心デアリマスル
  ガ、併シ此鐵ノ問題ニ付テ、海外ノ鐵ヲ利
  用スル、資源ヲ利用スルト云フ方針ニ付テ
  ハ、如何ナル考ヲ有ッテ居ラレルカ、只今殊
  ニ中華民國、或ハ滿洲ニ向ッテ、或ハ露西亞
  ノ鐵、或ハ南洋ノ鐵、濠洲ノ鐵ト云フヤウ
  ニ、隨分各方面ニアリマスルガ、其資源ノ程
  度ハ如何デアルカ、又之ヲ利用シ得ル方法
  ハドウシタラ宜イカ、殊ニ有事ノ際ノ外交
  關係ト取引ノ關係ハドウナッテ居ルカ、最近
  ニ於キマシテハ印度ニ向ッテ四十二万瓲ノ
  銑鐵輸入ノ豫約ヲシテ居ル、或ハ露西亞ニ
  對シテ二十一万瓲、濠洲ニ一万瓲ノ豫約ヲ
  シテ居ルト云フコトヲ、共販會社ハ聲明シ
  テ居リマスルガ、斯ウ云フヤウナ問題ハ
  ドウナルカ、又製鐵品ノ輸出奬勵ニ關スル
  外務省ノ方針ハドウデアリマスカ、要スル
  ニ製鐵國策ハ產業ノ進展ト國防ノ充實上頗
  ル重要ナルモノデアリマス、然ルニ單ニ商
  工大臣或ハ大藏大臣ト云フヤウナ、一二ノ
  閣僚ニノミ之ヲ任セテ、從來抛擲シテアッタ
  ト云フコトハ、重大ナル過失デアリマス、
  總理大臣ハ斯樣ナ問題ヲ十分ニ認識ヲシ
  テ、サウシテ內閣ノ統一ヲ圖リ、各閣僚モ
  能ク鐵鋼國策ニ付キマシテ十分ナル考慮ヲ
  拂ッテ、今迄ノヤウニ鐵鋼國策ガ宙ニフラ〓〓
  浮クヤウナコトノナイヤウニシテ貰ヒタ
  イ、此點ニ付テ總理大臣ノ明瞭ナル御答辯
  ヲ伺ヒタイノデアリマス、之ヲ以テ第一ノ
  質問ヲ終リマス
  〔國務大臣町田忠治君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=11

  ---

• 012・町田忠治

  ○國務大臣(町田忠治君)　蔭山君ノ我國ノ
  鐵ノ國策ニ對スル各方面ニ亙ッテノ御質問ガ
  アリマシタ、御尋ノ事柄ハ、何レモ我國目下
  ノ鐵國策ノ根本ニ觸レタ重大ナ問題ト思ヒ
  マスルガ故ニ、暫時ノ時間ヲ拜借シテ、私ヨ
  リ商工省ノ關係シテ居ル方面ヲ申上ゲテ、
  或ハ更ニ大藏大臣其他ヨリ御答スルコトヽ
  致シマス、蔭山君ノ御尋ハ多方面ニ亙ッテ
  居リマシタノデ、順ヲ逐ウテ一々申上ゲタ
  方ガ宜カラウカ、或ハ大體ノ考ノ中ニ申上
  ゲテ御諒解ヲ得タ方ガ宜カラウカト、實ハ
  考ヘテ居リマシタガ、便宜上我國ノ鐵國策
  ノ根本ニ對スル御尋ヲ主ナルモノトシテ是
  ヨリ申上ゲマス、鐵國策ハ二年前皆サンノ
  御協賛ニ依ッテ製鐵合同法律ガ出來テ居ル
  デノアリマス、此目的ハ私カラ今更申上ゲ
  ル迄モナク、經營ヲ單純ニシ、組織ヲ改良
  シテ、出來ルダケ豐富ニ、最モ安イ値デ供給
  スルト云フ事柄ガ、御協賛ノ趣意デアッタヤ
  ウニ思ヒマス、爾來其合同ノ實行ニ取掛リ
  マシテ、昨年ノ初ニ日本製鐵合同會社ガ出
  來タノデアリマスガ、當初提案シタル當局
  者ガ豫期シタル如ク、十一會社全部合同ニ
  至ラズシテ、現在ハ六社ガ合同シテ、現在
  ノ日本製鐵會社ガ出來テ居ルノデアリマス、
  之ニ對シテ蔭山君ノ御尋ノ御心持ニモアッ
  タヤウデアリ、世ノ中デモ或ハ私ノ公開ノ
  席デ申述ベタコトヲ、相當强ク解釋セラレ
  テ、玆ニ多少ノ惑ヲ生ジテ居ルヤウニ見エ
  ルノハ蔭山君ガ御指摘ノ如ク遺憾デアリ
  マス、私ハ製鐵大合同ノ方針ニハ、今ノ法
  律ノ現存シテ居ル限リ、之ヲ追ウテ行ク考
  デアリマス、同時ニ當初十一會社ヲ全部合
  同スルト云フ、其大方針ノ實現ガ、今日ノ
  經濟界ニ於テ直チニ之ヲ現ハスコトハ容易
  デハナイ、或ハ當局者ガ此間ニ何等カノ工
  作ヲ加ヘテ、所謂「アウトサイダー」ヲ無理
  ヤリニ合同セシムルト云フ考ハ、私ハ有ッテ
  居ラヌ、今ノ合同法ハ、國家ノ力ヲ以テ强
  制的ニ合同セシムルト云フ趣意デハナイト
  解釋シテ居ル、故ニ將來ノ經濟界ノ變遷ニ
  依ッテ、更ニ是ガ一層合同スルト云フ氣運ガ
  來タ時ニハ、是ハ合同スルノガ當然デアル
  ガ、併シ無理ナ手段ヲ以テ、或ハ事務的ニ之
  ヲ强テ合同サセルト云フ考ハ、私ハ有ッテ居
  ラヌト同時ニ、經營ヲ單純ニシ、組織ヲ改良
  シテ、低廉ナル價格ニ依ッテ豐富ニ供給スル
  ト云フ、此方針ニハ何等私ハ異ッタ考ヲ有ッ
  テ居ラヌ、斯樣ナ趣意デアルト云フコトヲ
  中述ベテ置キマス、私ノ考ハ時々世間ニハ
  誤解サレテ居ルヤウデアリマスカラ、此處
  デ蔭山君其他諸君ノ御了解ヲ得テ置キマ
  ス、蔭山君ノ御話ノ如ク、昨年ノ春出來マ
  シタ製鐵合同法ニ依リマスト、日本ノ鐵ノ供
  給ガ豐富ニシテ且ツ低廉ニ參ルト云フ趣意
  ニ出來テ居ルノニ、今日ノ事情ハ左樣ニ參ッ
  テ居ラヌデハナイカ、是ハ當局者ガ處置ヲ
  怠リ、若クハ處置ヲ誤リ、若クハ又其處置
  ヲ執ルコトヲ躊躇シ、又ハ遲延シテ居ル結
  果デアルト云フ御非難デアリマス、此事ニ
  對シテハ、現レタル事實カラ申シマスト、當
  局者モ相當其責任ヲ負ハナケレバナラヌカ
  トモ思ヒマス、併シ實際ノ事情カラ考ヘマ
  スルト、一昨年ニ於キマシテ民間ノ意見ヲ
  問ヒ、當局者ガ立テマシタ鐵ノ-假ニ銑鐵
  ヲ以テ申シマスレバ、當時ノ事情ニ依ッテ推
  測シテ立テマシタ銑鐵ノ需要ハ、一般經濟
  界ノ好景氣、竝ニ軍需品ノ需要增加等ニ依
  リマシテ、當初立テマシタヨリ三十万瓲以
  外ニモ殖エテ居ッタ、一昨年ノ暮ニ於テ推算
  致シマシタ銑鐵ノ分量ガ、凡ソ是ダケノ手
  當デ宜カラウト、年ノ初メニ考ヘテ居ッタコ
  トガ、經濟界ノ好轉ノ結果、色々ナ方面デ
  銑鐵ノ需要ガ殖エタガ爲ニ、當初ノ豫定カ
  ラ見レバ五十万瓲殖エテ、是ガ爲メ此手當
  ヲスルコトニ相當困難ヲシタ、之ヲ當局者
  竝ニ當局者ト協議ヲシテ居ル民間ノ協會、
  其他共販會社、製鐵會社等ガ見込ヲ違ヘ
  ク、其責仕ガアルト仰セラレヽバ、私ハ之
  ヲ强テ避ケルトハ申シマセヌ、併シ實際經
  濟界ニ於テ需要スル分量ハ、豫メ是レ位ト
  想像シタ所ガ、意外ニ多カッタ爲ニ、手違ヲ
  生ジタト云フノハ事實デアリマス、唯此手
  違ガ生ジタ原因ハ、經濟界好轉ノ結果デア
  ルト云フコトニ考ヲ置キマスルト、私共ノ
  前任者ガ左樣ナ計畫ヲ立テヽ私ガ之ヲ襲ッ
  テ責任ヲ負ッテ居ル立場カラ見レバ、其責任
  ノ御咎メヲ蒙ルコトハ甘ンジテ受ケマス
  ガ、斯ル需要ノ增加ヲ來シタ經濟界好轉ノ
  點カラ見レバ、私ハ喜ンデ其責任ヲ受ケテ
  然ルベキデアルト、斯樣ナ考モ致スノデア
  リマス、ソコデ御尋ハ澤山アリマシタガ、
  斯樣ナ好轉ヲシテ、鐵ノ需要ガ增シテ居ル
  ニ拘ラズ、增產計畫ヲ怠ッテ居ルト云フヤ
  ウナ御咎デアリマス、是モ指導監督ノ責任
  ニアル私ノ立場トシテハ相濟マヌコトデア
  ルガ、結果カラ見マスレバ、指導監督奬勵
  ノ責任ヲ怠ッタト御咎ヲ下サッテモ已ムヲ得
  マセヌ、併シ前申シマス次第デ、此增加ノ
  趨勢ガ豫期以上デアッタ爲ニ、斯樣ニナッタ
  ノデアリマスガ、現ニ日本製鐵會社ニ千瓲
  爐ノ認可ヲ先日致シマシタノハ、何カ愈、鐵
  ノ需要ガ增加シテ、供給ガ之ニ伴ハナカッタ
  結果、巳ムヲ得ズ今日之ヲヤッタヤウニ、或
  ハ御認メデアルカモ知レマセヌガ、此計畫
  ハ昨年來現レタ計畫デ、事務當局ハ技術上
  ニ於キマシテモ愼重ニ考慮シテ、先日之ヲ
  許シタノデアリマス、併シ之ヲ許ス前ニ、
  旣ニ日本製鐵會社ハ、大抵許可ニ相成ルモ
  ノトノ考ノ下ニ、準備ヲ怠ラズヤッテ居リ
  マスガ故ニ、此許可ガアッテ初メテ增產計畫
  ノ準備ニ著手スルト云フ譯デナク、凡ソ其
  準備ハ今日出來テ居ルコトヽ思ヒマス、又
  「アウトサイダー」ニ於テモ相當澤山ノ計畫
  ガアリマス、之ニ對シテ一言申添エルコト
  ノ御許ヲ願ヒタイノハ「アウトサイダー」ガ
  恐クハ一昨年頃カラデアリマセウ、相當大キ
  ナ某會社ガ熔礦爐ヲ作ッテ、銑鐵カラ鋼材ヲ
  造ルマデノ一貫作業ヲスル計畫ヲ、商工省ニ申
  請サレテ居ッタガ、種々ナル技術的關係カラ、
  其調査ニ暇取リマシタ點モアリマセウガ、私ガ
  就任致シ、三代ノ大臣ニ此問題ガ懸ッテ居ッタ
  程ニ相當長イ時間ヲ要シタノデアリマス、
  若シ製鐵合同ト云フ當初ノ考カラ言ヘバ、
  或ハ之ヲ許サズシテ、合同シタ後ニ增產計
  畫ヲスルノモ一ツノ方法デアリマセウ、併
  シ私ハ製鐵合同ハ結構デアルガ、國家ガ强
  テ無理ニ之ヲ合同セシメルト云フ態度ハ面
  白クナイ、又諸君ガ製鐵合同法ニ贊成サレ
  タ趣意ハ、國家ノ力ニ依ッテ强制的ニ合同サ
  セルト云フ御趣意デハナカッタノデアリマ
  ス、故ニ經濟界ノ趨勢ニ依ッテ、他日適當ナ
  時ニハ合同スル機會ガマダアラウ、併シ各
  會社ガ經濟界ノ好景氣ニ際シテ、營業ガ盛
  ンニ行ハレテ、自ラ增產計畫ヲヤルト云フ
  ノデ、基礎鞏固ナル計畫ノ下ニ、技術的ニ
  モ遺憾ナイト云フコトデアルナラバ、之ヲ
  許スガ宜カラウト云フノガ私ノ考方デアリ
  マス、之ヲ許シタガ爲ニ、或者ハ現商工大
  臣ハ製鐵合同ノ方針ヲ變ヘタト非難スルノ
  デアリマス、批評ハ勝手デアリマスガ、私
  ハ方針ハ變ヘマセヌ、變ヘナイト同時ニ、
  當初ノ目的ハ十一社全部ヲ合同サセル趣意
  デアッタノガ、經濟界ノ變化ニ依ッテ、其合同
  ガ力ニ依ルニ非ザレバ行ハレヌト云フ時ニ、
  政府ガ、其力ナイモノガ、無理ニ力ヲ以テ
  ヤルトスレバ、玆ニ無理ガ生ジマス、其無
  理ハ私ハ避ケル、斯ウ云フ考方デ今日モ進
  ミツヽアルノデアリマス、蔭山君モドウゾ
  其趣意ヲ御諒承ヲ願ヒタイト思ヒマス、又
  私ノ此考ニ對シテ、當初此法律ニ御贊同セ
  ラレタ諸君ニシテ、私ノ考方ガ違ッテ居ルト
  云フコトナラバ、此席デモ、亦議會ガ終ッテ
  カラデモ、御厚情ヲ以テ御高見ヲ承ルコト
  ヲ切望シテ置キマス、又當年ハドンナ按排
  ニ增產計畫ガ成立ッテ居ルカト云フコトニ
  對シマシテハ、或ハ詳細ニ委員會デ申上ゲ
  マスガ、大體今日ノ所デハ、十年度ノ所要
  見込ハ銑鐵ガ三百十万瓲、其中輸入ハ六十
  万瓲ト云フ見込ヲ以テ其手當ヲ致シテ居リ
  やく、鋼材ノ方ハ三百九十万瓲デ、此中輸
  入ハ四十五万瓲、斯ウ云フ推測ノ下ニ手當
  ヲシツヽアルノデアリマス
  次ニ此法案ノ實體ニ係リマス銑鐵ノ關稅
  引下五割、鋼材モ亦均シク五割、此點ハ新
  聞等ヲ拜見致シマシテモ、相當御意見ノア
  ル方ガ多イヤウニ承ッテ居リマスガ故ニ、私
  共ハ出來ルナラバ委員會ニ於テ、私共ガ立
  テマシタ銑鐵五割ト鋼材五割ノ此點ニ對シ
  テ、御諒解ヲ得ルコトニ努メマスルガ、此
  席ニ於テ一言申上ゲタ方ガ御便利ト考ヘマ
  スノハ、銑鐵五割ニ對シテ鋼材ノ五割ト云
  フノハ、同ジ率ニ引下ゲタイト云フ、率、
  基礎ヲ置イテ鋼材ヲ五割ニ下ゲタノデハナ
  クシテ、實際市場ノ狀況カラ見マスレバ、銅
  材ニ對シテモ多クノモノニハ五割ノ引下ヲ
  致シテモ、今ノ製鐵鋼材會社等ノ、昨年
  カラ今日迄ノ値上リ、又今日ノ實際ノ市價
  ニ徵シマシテ、五割位ノ大體引下ヲ致シテ
  モ、今ノ鋼材製造會社ニ、彼等ガ豫期シテ
  居ッタ利益ヲ與ナイノダト云フ考デハナク
  テ、昨年ニ比ブレバ相當大キナ利益ガ鋼材
  會社ニアルモノトシテ、今後是レ以上ニ上
  レバ、一般消費階級ニ相當大キナ迷惑ヲ與
  ヘルト云フ、今後ノ暴騰、若クハ價格ノ著
  シキ變化ヲ防グコトヲ目的ト致シマシタノ
  デアッテ、今ノ價ヲ引下ゲルト云フ見地カラ
  致シマシタコトデナイト云フコトヲ一言申
  上ゲテ、委員會等ニ於テ詳シク申上ゲタイ
  ト思ヒマス
  ソレカラ甚ダ相濟マヌガモウ少シ-大
  變多岐ニ亙ッテ居リマシタカラ-モウ一ツ
  共販會社ノコトデアリマス、成程共販會社
  ハ製鐵合同ノ前ニハ、內地ノ數會社、朝鮮、
  滿洲ノ會社ノ主トシテ銑鐵ヲ造ルモノガ相
  寄ッテ、一ツノ組合見タヤウナモノヲ組織シ
  テ、內地ノ銑鐵ヲ賣捌クコトノ建値、及外
  國カラ印度銑鐵其他ヲ輸入スルコトニ對シ
  テ、一手ノ獨占ノ形ヲ成シテ居ッタコトハ事
  實デアリマス、先般新聞等ニ現レマシタ蔭
  山君ノ御批評モ、大體ニ於テ事實デアリマ
  ス、私ハ日本ノ鐵ノ需要供給、竝ニ出來ル
  ダケ市價ヲ低廉ニスルコトハ、殆ド內地ノ
  銑鐵ノ全部ヲ引受テ居リ、鋼材ノ半バ
  ヲ引受ケテ居ル日本製鐵會社ハ、日本全
  國ノ鐵ノ市價ヲバ統制スル力ハ十分アル
  ト斯樣ニ考ヘテ居リマス、唯此共販會社
  ガ、一種ノ所謂販賣會社トナッテ、「カル
  テル」ノヤウナ弊ガアリハセヌカト云フ
  御心配ノアル方モ相當アリマス、蔭山君モ
  其御一人ト考ヘマスガ、私ハ今ノ共販會社
  ヲ直チニ解散スルト云フ考ハ有ッテ居ラズ、
  之ヲ指導シ監督シテ當初ノ目的ニ副ハセル
  ヤウニ努メタイト、只今ハ考ヘテ居リマ
  ス、併シ從來ノ關係ガアッテ、此共販會社ガ
  一般民間ノ銑鐵ヲ買入レテ、鋼材ヲ造ル所
  ノ澤山ノ會社ガ、共販會社ノ一顰一笑ニ重
  キヲ置イテ居ルト云フ意味合ガアルト、時
  時鋼材會社ノ方々カラ、サウ云フヤウナ訴
  モ受ケマス、是ハ果シテ其非難、訴ガ事實
  ト致シマスレバ、是ハ一日モ早ク矯正シナ
  ケレバナリマセヌ、故ニ商工省トシテハ之
  ヲ適當ナル指導、奬勵、訓戒ヲ加ヘテ、尙
  ホ吾々ノ希望シテ居ルヤウナ理想的ナ働キ
  ガ出來ヌ時ニ、初メテ是ガ改造スルコトニ
  躊躇致サヌト、是ダケヲ申上ゲテ置キマ
  ス、ソレカラ御尋ノ中ニ、モウ一ツ合同問
  題ヲ繼續スルカ否カトノ言明ニ對シテハ、
  先刻申上ゲタコトデ大體ノ御諒解ヲ願ッテ
  置キマス
  最後ニ奬勵法ノコトデアリマス、是ハ私
  ハ蔭山君ノ御話ノ如ク、私ノ心持、私ノ信
  念カラ申シマスルト、此奬勵法ガ相當ニ改
  正スル時期ニ達シテ居ルト、私ハ斯樣ニ考
  ヘテ居リマス、議會ニ於テモ此質問ガアリ
  マシタガ、私ノ信念ハ左樣デアル、併シ今
  大藏事務當局ト商工事務當局トノ間ニ協議
  中デアルト、斯樣ニ申シテ置キマシタ、其
  事務當局ノ協議中ノ問題ハ、ドウ云フ問題
  デアルカト云フヤウナコトハ、稅ノ細カイ
  點ニモ關係致シテ居リマスルカラ、此席デ
  ハ省イテ委員會デ申シマス、唯御尋ノ最モ
  重大ナル點ハ、商工大臣ガ從來ノ言明ノ通
  リ、此議會ニ之ヲ提出スルカ否ヤト、是ガ
  ハッキリセヌト民間デモ相當ナ疑惑ヲ生ジ
  テ居ル、是ハ御尤ナ御尋ト私モ考ヘマス、
  私ノ信念ハ斯樣ナ信念デス、過當ナル保護
  ヲ致ス必要ハナイ、併シ製鐵業ト云フ重大
  ナル國策ニ屬スルモノニ對シテ、政府ガ從
  來奬勵ヲシテ居ッタモノヲ、直チニ之ヲ取ル
  ト云フ考デハナク、資本金、積立金ノ總體
  ニ對シテ一割ニ達セヌ間ハ、之ニ保護ヲ加
  ヘテ免稅ノ特點ヲ與ヘル、恐クハ他ニナイ
  程ノ是デ餘程大キナ特點ト考ヘテ居ルノ
  デ、殊ニ奬勵法始ッテ以來相當ナ長イ年數
  ガ經チマシテ、凡ソ基礎ガ鞏固ニナッタト見
  ラルヽ節ガ相當多イノデアリマスルカラ、
  一般產業ニ較ベテ、國策ト言ヒナガラ、國
  策ノ根本ヲ覆サヌダケノ適當ナ奬勵ハスル
  ガ、ソレ以上ノ奬勵ヲシテ、或ハ三割五分
  ノ純益トカ、四割ノ純益ト云フヤウナコト
  ガ、此奬勵法ノ結果トシテノミ現レタモノ
  デナイガ、世間カラ見マスレバ如何ニ國策
  トハ言ヒナガラ、旣ニ根本ガ成立シタモノ
  ニ向ッテ、何割ノ配當ヲスルト云フモノニ
  白う、今後又數十年ノ保護ヲスルト云フ
  ノハ、餘計過ギルト云フ考方モ相當アルノ
  デアリマス、此點ニ對シテ私ハ相當考慮ヲ
  致シマシタガ、玆ニ率直ニ申上ゲマスト、
  技術的ノ關係モアリマスルシ、種々ナル或
  ハ滿洲鐵ノ關係、色々ナ點カラ考慮致シマ
  シテ、之ヲ議會ニ提出シテ御協贊ヲ得ルコ
  トガ、或ハ困難デナイカト思ハルヽ節モア
  リマス、又此奬勵法ノ改正ヲ考ヘマシタ時
  ハ昨年ノ暮デアリマシテ、マダ銑鐵等ノ需
  要不足ガ斯ク迄ニ參ラズニ、共販會社ヲ通
  ジテ關稅ノ引下ヲ行ハズトモ、日本ノ需要
  供給ガ相當參ラウカト折角努力中デアリマ
  シタガ、ソレモ見込ガ立タズ、玆ニ關稅ノ
  引下ト云フ問題モ加ッタノデアリマス、臨時
  利得稅、關稅ノ引下、奬勵法ノ改正、此三
  ツ相重ナルコトハ如何デアラウト云フ、老
  巧ナル考モ閣僚中ニアルヤウデアリマスカ
  ラ、私ハ當年ノ議會ニ之ヲ提出スルコトハ
  困難ト思ヒマス、併シ私ノ考方ハ今ノヤウ
  ナ考ヲ有ッテ居ルガ、蔭山君ガ當年出スカト
  云フコトニ對シテハ、私ハ種々ナル事情カ
  ラ、私ノ考方ガ實際ニ今年行ハレヌノハ遺
  憾ト思ヒマスガ、之ヲ提出スルコトハ困難
  デアル、斯樣ニ率直ニ申上ゲテ置キマス(拍
  手)
  〔國務大臣大角岑生君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=12

  ---

• 013・大角岑生

  ○國務大臣(大角岑生君)　蔭山君カラノ海
  軍ニ對スル御質問ニ御答ヲ致シマス、戰時
  鐵ノ所要量ガ激增致シマスコトハ、是ハ申
  ス迄モナイコトデアリマシテ、是ガ對策ニ
  付キマシテハ、愼重ニ各方面ニ亙ッテ考慮
  シテ居ル次第デアリマス、唯此戰時ノ所要
  額ガ幾何デアルカ、斯ウ云フ御尋ニ對シマ
  シテハ遺憾ナガラ御答ヲ差控ヘタイト思ヒ
  やく、次ニ御尋ニナリマシタノハ、平時ノ
  所要量ハドウデアルカ、最近兩三年ノ所要
  量ヲ御尋ニナリマシタ、ソレニ對シテ御答
  ヲ致シマス、海軍カラ日鐵ヘ註文致シマシ
  タ分量ハ、昭和七年度約五万二千瓲、昭和
  八年度約五万九千瓲、昭和九年度約九万八
  千瓲ニナッテ居リマス、昭和十年度以後モ大
  體此計數ヲ續ケルコトヽ考ヘテ居リマス
  〔國務大臣岡田啓介君登壇]

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=13

  ---

• 014・岡田啓介

  ○國務大臣(岡田啓介君)　蔭山君ニ御答致
  シマス、私へノ御尋ノ第一點ハ、製鐵國策
  デアッタト思ヒマス、製鐵國策ハ自給自足ガ
  目標デアルト思ヒマス、歷代ノ政府之ニ向ッ
  テ努力シ來ッタノデアリマス、種々ナル情況
  ヨリ、近年鐵ノ需要ガ非常ニ激增シタノデ
  アリマスガ、是カラノ製鐵國策モ同ジク自
  給自足デアリ、此激增シタ需要ニ向ッテハ、
  政府ハ增產ノ計畫ニ向ッテ進マナケレバナ
  ラヌト考ヘテ居リマス、其次ハ有事ノ際ニ
  鐵礦ヲ何レニ求ムルカ、斯ウ云フ御質問デ
  アッタカト思ヒマス、是ハ非常ニ重要ナル問
  題デアリマシテ、此爲ニ滿洲及朝鮮ニ於ケ
  ル鐵礦ノ埋藏量及其品質ニ付テ一通リノ調
  査ハ致シタノデアリマス、私ノ承知シテ居
  リマ所デハ、富礦ハ餘リ多クナイノデアリ
  マス、但シ貧礦ハ相當ナ埋藏量ガアルノデ
  アリマス、此貧礦ヲ處理シテ製鐵ヲ致シマ
  スコトモ、一二ノ會社デハヤッテ居ルノデ
  アリマスガ、是ハ貧礦ト申シマシテモ、其
  質ノ良イ方デアリマスカラ、滿洲朝鮮竝ニ
  我國ニモ多數アリマス以下ノ貧礦デ、製鐵
  ヲスル方法ヲ〓究スルコトガ必要デアルト
  思ヒマス、又砂鐵カラ鐵及鋼ヲ拵ヘルコト
  ノ〓究モ必要デアルト思ヒマス、平時ニ於
  テハ、我國ニ近イ所カラ良質ノ礦石ヲ獲得
  スルコトモ、是亦努力セネバナラヌコトヽ
  思ヒマス、有事ノ際ニハ價格ノ高イコトス
  ラ忍ビマスレバ、相當ナ礦石ハ得ラレルコ
  トヽ思ヒマス、但シ價格モ高クナラヌヤウ
  ニ〓究ニ努力スベキモノデアルト考ヘテ居
  リマス(拍手)
  〔國務大臣林銑十郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=14

  ---

• 015・林銑十郎

  ○國務大臣(林銑十郞君)　只今蔭山君ヨリ
  陸軍大臣トシテ、又對滿事務局總裁トシテ
  御尋ニナリマシタコトハ、大體次ノ四箇條
  ト考ヘマス、第一ハ、陸軍ノ平戰兩時ニ於
  ケル鐵ノ需要ニ關スル狀態、第二ハ、平時
  ノ陸軍ニ於ケル鐵ノ使用量、第三ハ、滿洲
  國ノ鐵ノ生產額、現在ト將來ノ見込、第四
  ハ、滿洲國ノ鐵ノ使用量、陸軍ト致シマシ
  テハ、國內ノ需要ヲ圓滑ニナラシムルト共
  ニ、戰時ニ於キマシテモ、此鐵ノ供給ニ支
  障ナリ不安ノナイヤウナ爲ニ、種々ノ努力ヲ
  シテ居リマスルガ、此見地ニ於キマシテ、只
  今戰時ノ鐵供給ノ確保ニ關シマシテ、所謂
  貧礦ノ處理法デアルトカ、或ハ砂鐵ノ精練
  法デアルトカ、或ハ滿鮮ニ於キマスル探礦
  ノ實施デアルトカ、或ハ日本製鐵株式會社
  法第九條ニ基キマスル礦石ノ貯藏等ノ〓究
  準備ニ依リマシテ、只今ノ所國防上平戰兩
  時ヲ通ジマシテ、著シク不安ヲ感ジナイト
  云フ狀態ニアリマス、次ニ平時ニ於キマス
  ル鐵ノ使用量ハ、最近一年間約六万瓲內外
  デアリマシテ、戰時ニ於キマスル使用量ニ
  關シマシテハ、事機密ニ屬シマスルノデ、
  此席デハ明言ヲ憚リマス、昭和製鋼所ノ製
  鐵能力ハ、今年度ノ計畫ガ銑鐵四十五万瓲、
  鋼塊四十万瓲デアリマシテ、將來十年度ニ於
  キマシテハ、銑鐵ガ六十五万瓲、鋼塊五十八
  万瓲ノ豫定デアリマス、ソレカラ滿洲國ノ
  鐵ノ使用量狀態ヲ申シマスレバ、昭和八年
  ガ約二十六万瓲、昭和九年度ノ見込ガ約四
  十六万瓲、大體只今申シマシタ通リニ、十
  年度ノ計畫ニ依リマシテ、銑鐵ガ六十五万
  瓲昭和製鋼所デ出來マスガ、滿洲方面ノ使
  用量ハ約四十六万瓲ト御承知ヲ願ヒマス
  〔國務大臣廣田弘毅君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=15

  ---

• 016・廣田弘毅

  ○國務大臣(廣田弘毅君)　只今蔭山君ノ御
  質問ニ相成リマシタ、日本トシテ海外ノ鐵
  ノ利用ニ付テノ考ハドウデアルカト云フ點
  ニ御答致シタイト思ヒマス、日本ノ製鐵事
  業ノ發達ニ伴ヒマシテ、現在ノ日本ノ國內
  ノ情勢カラハ、最モ有利ナル外國ニ適當ノ礦
  石ガアレバ買入レルコトガ必要デアリマス
  ノデ、現在ノ所ハ新嘉坡方面ダケカラ礦石
  ヲ輸入致シテ居リマスガ、將來ハ更ニ適當
  ナ場所ガアリマスレバ、無論考慮スベキモ
  ノデアルト思フノデアリマス、此製鐵事業
  ノ發達ニ伴ヒマシテ、又我ガ鐵製品モ自然
  ニ增加シテ參リマス、ソレガ軈テ海外輸出
  方面ニモ相當增進スルコトデアラウト思フ
  ノデアリマス、現在ニ於キマシテモ、相當
  ノ鐵製品ハ輸出致シテ居リマスガ、元來此
  鐵事業ト云フモノハ、歐米ニ於テ最モ發達シ
  タル大キナ事業デアリマスノデ、ソレ等ト
  日本ノ製品ノ發達ニ伴ッテ軈テ又競爭ノ事
  態ガ來ル虞モアリハセナイカ、是ハ餘程注
  意致サナケレバナラヌト思フノデアリマス、
  併ナガラ我ガ製鐵ノ事業ト云フモノハ、國
  家ノ根本企業ノ一ツデアリマスノデ、假令
  相當ノ障碍ガ起リマシテモ、是ハ矢張紡績
  事業ノ發達ト相俟ッテ、將來ハ自然ニ發達セ
  シムベキモノデアルト私ハ考ヘテ居ルノデ
  アリマスルノデ、貿易上ハ出來ルダケ其販路
  ノ擴張ニモ努力致シタイト思フノデアリマ
  ス、又一朝有事ノ際ノ問題ニ付キマシテハ、
  根本ノ點ハ只今總理カラ御述ニナッタ通リ
  デアルト思ヒマスガ、ソレニ致シマシテモ、
  尙且ツ海外ニ其礦石ノ供給ヲ俟タナケレバ
  ナラヌト云フコトモ起ルデアラウト思フノ
  デアリマス、其點ニ付キマシテハ滿洲國ハ
  勿論ノコト、日本ノ隣國ニ於ケル鐵礦ノ狀
  況ニ付テモ十分ノ注意ヲ拂ッテ置イテ、一朝
  有事ノ際ハ之ヲ利用シ得ルヤウナ狀態ニ、
  外交ノ工作ヲ進メテ參ルベキモノデアルト
  思フノデアリマス、何レニ致シマシテモ、
  外務省ト致シマシテハ常業者竝ニ關係當局
  ノ趣旨ニ基キマシテ、適宜外交ノ工作ヲ進
  メテ參リタイト思フ次第デアリマス(拍手)
  (國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=16

  ---

• 017・兒玉秀雄

  ○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君)　朝鮮ノ鐵礦
  ニ付テノ御尋デゴザイマスルガ、朝鮮ノ鐵
  ノ產地ハ主ニ中部朝鮮以北デアルノデアリ
  マス、併シ最近ニ於キマシテハ、南鮮ニ於
  キマシテモ相踵イデ良好ナル鐵礦ガ發見サ
  レツヽアルノデアリマス、現ニ採掘サレツ
  ツアリマスル鐵礦ハ、褐鐵礦ト赤鐵礦デア
  リマシテ、何レモ相當優良種ニ屬シテ居ル
  ノデアリマス、其埋藏量ハ約二千万瓲ト數
  ヘラレテ居ルノデアリマス、而シテ今日尙
  ホ採掘セラレテ居ラヌモノデ、而モ重要ナ
  ル使命ヲ有ッテ居リマスルモノハ、只今蔭山
  君ノ御指摘ニナリマシタ咸鏡北道ノ茂山ノ
  磁鐵礦デアルノデアリマス、此成鏡北道茂
  山ノ鐵礦ハ極ク優良ノ鐵礦トハ申シ兼ネマ
  スガ、平均四〇%位ノ鑛量ヲ含ンデ居ルノデ
  アリマス、而シテ推定埋藏量ハ四億瓲ト言
  ハレテ居リマス、今日鞍山ニ於キマスル鐵
  礦ニ比シマシテ、其埋藏量ハ之ニ匹敵シ、
  而モ其品質ハ遙ニ優良ナリト認メラレテ居
  ルノデアリマス、御承知ノ通リニ今日ハ製
  鐵原料ガ大部分海外ヨリ其供給ヲ受ケテ居
  ルノデアリマスルガ、此茂山ノ鐵礦ハ、我
  ガ領域內ニアリマスル所ノ最モ大ナル資源
  デアリマスルノデ、一朝有事ノ日ニ於キマ
  シテハ、最モ重大ナル役割ヲ勤ムベキ所ノ
  モノト考ヘテ居ルノデアリマス、斯ノ如キ次
  第デアリマスルカラ、當局者ニ於キマシテ、
  一日モ早ク此茂山ノ鐵礦ヲ開發致シマシ
  テ、軍事上竝ニ產業上ニ適應スルヤウニ致
  シタイモノト考ヘテ居ル次第デアリマス
  (拍手)
  〔國務大臣高橋是〓君〓豆壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=17

  ---

• 018・高橋是清

  ○國務大臣(高橋是〓君)　蔭山君ノ大藏大
  臣ニ對スル御質疑ハ、多クハ主管大臣ノ御
  答辯ニ依ッテ十分ニ御答ガ出來テ居ル、唯大
  藏大臣ニ關スル點ニ於テハ、銑鐵鋼材ノ關
  稅引下ガ歲入ニドウ影響スルカト云フ點デ
  アラウト思フ、是ハ一方ニ於テハ關稅ヲ半
  減致シマスルガ、豫算ニ計上シテアルモノ
  ト今日ト數量ガ大分違ッテ居リマスルカラ
  シテ、先ヅ大藏事務ノ方ノ取調ニ於キマシ
  テハ歲入ニ格別ノ影響ハナイ、斯ウ云フコ
  トニナッテ居リマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=18

  ---

• 019・蔭山貞吉

  ○蔭山貞吉君　簡單デアリマスカラ、自席
  デ御許シヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=19

  ---

• 020・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　簡單ナレバ御許シ致
  シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=20

  ---

• 021・蔭山貞吉

  ○蔭山貞吉君　今關係各大臣ヨリ色々御
  答辯ガアリマシタガ、細部ニ亙リマシ
  テハ委員會ニ於テ更ニ御尋申上ゲタイト
  思ヒマス、唯一ツ落シマシタガ、滿洲ニ
  於ケル鐵ノ輸入ニ關シマシテ、洵ニ此關
  稅ノ問題ガ障碍ニナッテ、高イモノガ此方
  ニ入ルヤウニナッテ居リマス、此點ニ關シ
  マシテ對滿事務局總裁トシテ如何ナル考ヲ
  有ッテ居ラレルカ、又外務大臣ハ此關稅問
  題ニ關シマシテ、モウ少シ特惠關稅ノヤウ
  ナモノヲ設ケテ、眞ニ日滿協調ノ趣旨ニ合
  スルヤウニ何トカ出來ヌモノデアルカ、斯
  ウ云フコトハ鐵ノ問題ダケヂヤナイ、石炭
  ノ問題モアル、滿洲カラ高イ鐵ヤ石炭ヲ買
  ハナケレバナラヌト云フ現狀ガ私ハ少シク
  不滿ナノデアル、此點ニ付テ關係大臣ノ御
  答辯ヲ願ヒタイノデアリマス
  〔國務大臣林銑十郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=21

  ---

• 022・林銑十郎

  ○國務大臣(林銑十郞君)　只今ノ御尋ニ對
  シテ御答ヲ致シマス、陸軍トシマシテ銑鋼
  ノ供給ヲ圓滿ニシ、又價格ノ暴騰ヲ抑止シ
  マスコトハ、差支ナイ限リ希望スル所デア
  リマスルガ、銑ノ關稅中止ト云フヤウナコ
  トニ依ッテ、果シテ此目的ヲ達シマスルカド
  ウカ、ソレ等ノ點ニ付テハ十分全般ノ點カ
  ラ〓究ヲシテ居ル所デゴザイマス
  〔國務大臣廣田弘毅君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=22

  ---

• 023・廣田弘毅

  ○國務大臣(廣田弘毅君)　只今更ニ蔭山君
  カラ滿洲國ノ日本ニ輸出スル鐵ノ輸入稅ニ
  付テノ御質問ガアッタノデアリマスガ、是ハ
  重要ナ問題ノ一ツデアリマシテ、何レ滿洲
  國ト日本ノ製鐵業、其他ノ關係ヲ考慮致シ
  マシテ、適當ニ決定スベキモノデアルト思
  フノデアリマス、尙ホ鐵以外ノ一般ノ滿洲
  產品ノ日本ニ於ケル輸入稅ノ點ニ付キマシ
  テモ、特別ノ稅金ノ制度ヲ設クルカ、何等カ
  ノ方法ニ依ルコトガ適當デハナイカト云フ
  點モ、勿論目下〓究致シテ居ル點デアリマ
  スノデ、是ハ何レ日滿經濟連絡ヲ付ケマス
  ル組織ガ出來マシタナラバ、當然〓究スベ
  キ問題デアルト思ッテ居ル次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=23

  ---

• 024・蔭山貞吉

  ○蔭山貞吉君　私ノ質問ハ終リマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=24

  ---

• 025・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者加藤知正
  君
  〔加藤知正君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=25

  ---

• 026・加藤知正

  ○加藤知正君　私ハ只今上程セラレマシタ
  關稅定率改正法律案ニ關聯致シマシテ政府
  當局ニ對シ極メテ簡單ニ要領ヲ摘ンデ二三
  ノ質問ヲ致シタイト思フノデアリマス、先ヅ
  第一ニ政府當局ニ對シテ御尋申上ゲタイノ
  ハ、我國ノ貿易政策デアルノデアリマス、
  輓近我國ノ貿易ハ著シク進展致シマシテ、
  曾テハ、我國ノ輸出貿易ガ十三億圓臺ニ墜
  落致シタノデアリマスルガ、昨年ノ如キハ
  二十一億七千万圓ヲ算スルニ至ッタノデア
  リマス、斯樣ナ次第デアリマシテ、我國ノ
  貿易狀態ハ各國ノ美望ノ的ト相成ッテ居ル
  ノデアリマスガ、併ナガラ此喜ブベキ貿易
  ノ情勢ハ、果シテ今後長ク繼續シ得ルデア
  ラウカト云フコトヲ考ヘマスル時ニ於テ、
  吾々ハ多少不安ノ念ナキヲ得ヌノデアリマ
  ス、何トナレバ諸君御承知ノ如ク、世界
  各國トモ或ハ高率ノ關稅政策ニ依リ、或ハ
  輸入禁止政策ニ依リ、或ハ互惠求償主義ニ
  則リマシテ、貿易ノ均衡ヲ保タントシ、孜々
  汲々是レ努メテ居ルノデゴザイマス、然
  ルニ我國ノ貿易政策ヲ顧ミマスルト、如何
  ニモ微溫的ノ政策デアルノデアリマス、斯
  樣ナ微溫的ノ政策ノ下ニ、果シテ我ガ貿易
  ガ長ク今日ノ情勢ヲ持續シ得ルデゴザイマ
  セウカ、此點ニ於テ吾々ハ不安ヲ感ゼザル
  ヲ得ヌノデアリマス、寧ロ今日トナリマシ
  テハ、我國ニ於キマシテモ、所謂「ブロック」
  經濟ニ則リマシテ、或ハ高率ノ關稅ヲ課ケ
  ルナリ、或ハ禁止政策ヲ採ルナリ、或ハ互
  惠求償政策ヲ採ルナリ致シマシテ、以テ內
  地ニ於ケル我ガ生產業ヲ保護スルニアラザ
  レバ到底今日ノ我國ノ貿易ノ情勢ヲ保ッテ
  行クコトガ出來ナイ、朞年ナラズシテ今日
  ノ順調ノ貿易ハ逆調ノ貿易トナルノデハア
  ルマイカ、此點ニ於キマシテ政府當局ハ如
  何樣ニ御考デゴザイマセウカ、此點ヲ先以
  テ御伺申上ゲタイノデゴザイマス
  次ニ御尋致シタイノハ、伊太利政府ハ自
  國輸入品千五百品目ニ亙リマシテ、輸入特
  許制ヲ此三月三十一日カラ實施スルコトニ
  相成ッテ居ルノデアリマス、而シテ更ニ去ル
  二日此輸入統制ニ關シマシテ、最モ峻嚴ナ
  ル所ノ具體策ヲ決定致シマシテ、新政府令
  トシテ之ヲ發布致シタノデアリマス、今其
  輸入統制方法ナルモノヲ玆ニ搔摘ンデ申上
  ゲマスルナラバ、一、中央政府ニ輸入給制ヲ
  統一管掌スル一機關ヲ設置スルコト、二、
  輸入品各箇別ニ輸入割當ヲ決定シ、割當超
  過品ニ對シテハ嚴重ナル統制ヲ行フコト、
  三、各國トノ通商交涉ヲ開始シ、求償主義
  ニ基キ互惠通商貿易ノ徹底ヲ圖ルコト、
  四、輸入割當ハ其國ニ對スル伊太利品ノ
  輸入額ニ應ズルモノトシ、箇別的ノ貿易收
  支均衡ヲ圖ルコトヽ云フコトニナッテ居ル
  ノデアリマス、偖テソコデ廣田外相ニ御尋
  致シタイノハ、伊太利政府ハ我國ニ對シテ
  今日マデニ右ニ關シ何カ交涉ガアッタカド
  ウカ、最近伊太利政府ハ輸入統制ニ關スル
  新方針ニ基キ、先ヅ波蘭政府ト折衝シ、互惠
  求償主義ノ徹底實現ヲ圖リ、其他各國トモ
  順次折衝スルモノト見ラレテ居ルトノ報道
  ガ傳ヘラレテ居ルノデアリマス、左樣ナ次
  第デアルカラ、或ハマダ我國ニ對シマシテ
  ハ何等ノ交涉モナイカモ知レマセヌケレド
  モ、併ナガラ軈テハ其交涉ガアルモノト思
  ハナケレバナラヌノデアリマス、此時ニ於
  テ、我ガ政府當局ニ於テハ、如何ナル方針
  ヲ以テ是ガ折衝ニ當ル御考デアルカ、ソレ
  ヲ御尋致シタイノデアリマス、今我國ト伊
  太利トノ貿易ヲ見マスルト、一昨昭和八年
  度ニ於キマシテハ、日本ヨリ伊太利ニ輸出
  致シマシタ金額ハ六百十六万圓、伊太利カ
  ラ日本ヘ輸入致シマシタ金額ハ六百三万圓
  ニナッテ居ルノデ、殆ド兩國ノ貿易關係ハ、
  遣ラズ取ラズトン〓〓勘定ト云フ狀態デア
  リマシタノガ、昨昭和九年度ニ於キマシテ
  ハ、伊太利カラ日本へ輸入致シマシタ金額
  ガ三百四十六万圓ト云フ激減振リヲ示シテ
  居ルノニ反シ、日本カラ伊太利へ輸出シタ
  金額ガ九百五十七万圓ト云フ一躍倍額以上
  ノ輸出超過ニナッテ居ルノデアリマスカラ、
  伊太利政府トシテハ、必ズヤ互惠求償主義
  ニ基キ、我國ニ對シ交涉シ來ルニ相違ナイ
  ノデアリマス、此時ニ於テ廣田外相ハ、如
  何ナル考ヲ以テ之ニ應對折衝セラレントス
  ルノデアリマスカ、此點ヲ御尋致シタイノ
  デアリマス
  次ニ御尋申上ゲルノハ、伊太利ニ於ケル
  我國生絲ノ輸入禁止問題デアルノデアリマ
  ス、一昨年十一月十一日ニ、私ハ羅馬ニ於
  テ「ムッソリーニ」首相ト會見致シタノデア
  リマスガ、其際「ムッソリーニ」首相ハ、伊
  太利ノ蠶絲ト日本ノ蠶絲トガ相提携スルコ
  トガ出來ルナラバ、洵ニ仕合デアルト言ッタ
  ノデアリマス、彼ガ眞ニ斯樣ナ考ヲ有ッテ
  居ルト致シマスルナラバ、日本生絲ノ輸入
  禁止ナドハ爲シ得ナイ筈デアルト、私共ハ
  考ヘテ居ルノデアリマスガ、ソレニモ拘ラ
  ズ舌根未ダ乾カザルニ、昨年五月十四日
  ニ、早ヤ旣ニ日本生絲ノ輸入禁止ヲ致シテ
  居ルヤウナ次第デアリマシテ、其矛盾セル
  言動ニ對シマシテハ、吾々唯啞然タラザル
  ヲ得ヌノデアリマス、併シ我ガ外務當局
  ガ、伊太利政府ノ當局ト誠意ヲ以テ折衝致
  シマシタナラバ、之ヲ未然ニ防止スルコト
  ガ出來タデアラウト思フノデアリマスガ、
  何故ニ我ガ外務當局ハ、未然ニ之ヲ防止ス
  ルノ措置ニ出ラレナカッタカト云フコト
  ヲ、頗ル遺憾ニ思フノデアリマス、併シ未
  然ニ之ヲ防止スルコトガ出來ナイト致シマ
  シテモ、輸入禁止後ニ於テ之ヲ撤廢セシム
  ベク努力セラレタナラバ、敢テ之ヲ撤廢セ
  シムルコトモ、亦至難ノコトデモナカラウ
  ト思フノデアリマスガ、我ガ政府當局ハ是
  ガ折衝ニ付テ最善ノ努力ヲ拂ハレタカドウ
  デアルカト云フコトヲ御尋致シタイノデア
  リマス、此輸入禁止後ニ於テ、從來日本生絲
  ヲ常用シ來レル「クレープ」類ヤ組靴下製造
  業者ハ、自家營業上非常ナ支障ヲ來シタノ
  デ、伊太利政府ニ對シ、日本生絲ノ輸入ヲ
  全然禁止スル時ハ伊太利機業界ニ由々シ
  キ打擊ヲ與ヘルモノデアルカラ、若干ノ輸
  入ヲ認メラレタイト云フ陳情ヲシタノニ對
  シ、伊太利政府ハ、本年卽チ千九百三十四
  年度ハ、日本生絲ハ旣ニ多量ニ輸入セラレ
  テ居ルカラ、考慮ノ餘地ガナイ、ケレドモ
  明年度卽チ千九百三十五年度ヨリハ、割當
  制ヲ考慮スベシト囘答シタト云フコトヲ聞
  イテ居ルノデアリマスルガ、我ガ外務當局
  ハ、伊太利政府ニ此割當制ニ對シ何等カノ
  交涉ヲセラレタカドウカ、此點ヲ廣田外相
  ニ御尋致シタイノデアリマス、而シテ私ガ
  誠意ヲ披瀝シ、赤誠ヲ以テ交涉致シタナラ
  バ云々ト申上ゲタノハ、如何ナル意味デア
  ルカト申シマスレバ、卽チ私ハ此伊太利政府
  ガ嘗テ、我ガ日本ニ對シマシテ要望致シタ
  コトノアル、日本蠶絲ト伊太利蠶絲トノ提
  携問題ニ對シマシテ、我國ガ之ニ對シ、誠
  意ヲ披瀝シテ之ニ應ジタナラバ、彼必ズヤ
  割當制ドコロノ話デハナイ、直チニ我ガ輸
  入生絲ノ禁止ヲ解クデアラウト思フノデア
  リマス、私共ガ羅馬ニ於テ「ムッソリーニ」ニ
  會見致シマシタ其際ニ、彼ガ貴國ノ蠶絲ト
  我ガ伊太利ノ蠶絲トノ提携ガ出來ルナラバ
  云々ト申シマシタノハ、決シテ一片ノ外交
  辭令デハナイノデゴザイマス、多年伊太利
  國民ハ之ヲ要望致シテ居ルノデゴザイマス
  ルカラシテ、其事ヲ「ムッソリーニ」ガ吾々
  共ニ對シテ言ッタモノデアルト思フノデア
  リマス、故ニ若シ我國ニシテ、之ニ對シテ
  誠意ノアル所ヲ披瀝致シマスルナラバ喜
  ンデ彼ハ之ニ應ズルデアラウト思フノミナ
  ラズ、更ニ進ンデ我國ト致シマシテハ、日
  伊ノ蠶絲ノ提携、續イテハ日佛ノ蠶絲ノ提
  携、而シテ更ニ進ンデハ日支ノ蠶絲ノ提携
  ヲ致シ、所謂世界蠶絲ノ同盟ヲ作ッテ、以
  テ人造絹絲ニ對抗スルト云フコトモ、今日
  行詰レル所ノ我ガ蠶絲ヲ救濟スル所ノ一ツ
  ノ方法デハナカラウカト云フ議論モアルノ
  デアリマスルガ、之ニ對シテ岡田總理大
  臣、廣田外相、其他大藏大臣、町田商相等
  ノ御意見ノ存スル所ヲ御伺スルコトガ出來
  レバ、洵ニ結構ト存ズル次第デアリマ
  ス(拍手)
  更ニ御尋致シタイノハ、米國ヨリ來ル古
  靴下ノ問題デアリマス、久シキ以前ヨリ機
  械器具ノ摩擦動搖ヲ防グ爲ニ、絹檻褸靴下
  ヲ用ヒテ來マシタノヲ、更ニ內地ニ於テ之
  ヲ再製絹絲トシテ盛ニ使用セラルヽコトヽ
  相成リマシテ、特ニ此頃デハ檻褸靴下ヲ輸
  入スル者サヘ現レマシテ、其數量今ヤ七八
  千俵ヲ算スルニ至ッタノデアリマス、之ヲ此
  儘ニ致シテ置キマシタナラバ、將來其輸入
  ハ益〓盛トナリ、我ガ蠶絲業ノ發展ニ甚大
  ナル打撃ヲ與フルコトニナルモノトハ、
  般ニ考ヘラレテ居ル所デアリマスルガ、之
  ニ對シマシテ政府當局ハ如何樣ニ御考デア
  リマセウカ、私ハ內地蠶絲業保護ノ意味ニ
  於テ、一日モ速ニ是ガ輸入禁止ヲスルカ、
  然ラザレバ是ガ輸入ニ對シ高イ關稅ヲ課ケ
  ルノガ、當然過ギル程當然ノ處置デアルト
  考ヘテ居リマスルガ、大藏大臣ハ此點ニ付
  テ如何樣ニ御考デアリマスルカ、又町田商
  工大臣ハ、此點ニ付テ如何樣ニ御考デアリ
  マスルカ、大藏省ノ關稅委員會ニ於キマシ
  テハ、是ガ課稅問題ニ對シ贊否兩論ガアッ
  テ、容易ニ決定セヌト云フコトデアリマス
  ガ、何故ニ容易ニ決定セヌノデアリマセウ
  カ、昨年米國へ輸入セラレタ日本生絲ハ四
  十四万五千俵デアルガ、此中ノ六割以上ハ
  婦人用絹靴下トナルノデアリマス、此靴下
  ガドン〓〓內地ニ逆戾リスルヤウニナッタ
  ラ、我ガ蠶絲業ノ上ニ如何ナル結果ヲ招來
  スルカハ、多言ヲ要セザル所デアリマス、
  ソレヲ何故ニ愚圖々々シテ放任シテ置クノ
  デアリマセウカ、苛斂誅求ニ於テ最モ拔目
  ノナイ大藏省ノ役人ガ、斯樣ナ結構ナ財源
  ヲ見遁スト云フコトハ、日本七不思議ノ一
  ツデアルト言ハネバナラナイト思フノデア
  リマスルガ、之ニ關スル政府當局ノ御所見
  ノアル所ヲ御伺致シタイノデアリマス、尙
  ホ色々御尋申上ゲタイコトガアリマスルケ
  レドモ、私ノ質問ハ是デ打切ルコトニ致シ
  マス(拍手)
  〔國務大臣廣田弘毅君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=26

  ---

• 027・廣田弘毅

  ○國務大臣(廣田弘毅君)　只今加藤君ヨリ
  我ガ貿易ノ將來ニ付テ、政府ノ方針ノアル
  所ヲ御尋ニナッタノデアリマスルガ、私ノ關
  係ノ方面カラ申シマスレバ、日本ノ今日ノ
  產業ノ發展ニ伴ヒマシテ、海外トノ輸出入
  ガ非常ニ增進致シテ居リマス今日、又將來
  益、增進セントスル傾向ニアリマス今日、我
  ガ輸出入貿易ニ付テ、特ニ一定ノ一ツノ方
  針ヲ以テ當ッテ行クト云フコトハ如何カト
  思フノデアリマス、日本ノ貿易相手國ガ
  色々國情ヲ異ニ致シテ居リマスノデ、之二
  處スル方法ハ、ソレ〓〓國ニ依ッテ考ヲ變ヘ
  ナケレバナラヌ必要ガアリハセヌカト思ッテ
  居ル次第デアリマス、伊太利トノ關係ニ付
  キマシテハ、只今御述ニナリマシタヤウ
  ニ、現在ニ於キマシテハ、日本ノ輸出ガ伊
  太利ノ輸入ノ約三倍ニモ當ッテ居ルト云フ
  ヤウナ狀態デアリマスノデ、伊太利政府ト
  致シマシテモ、是ガ貿易ノ「バランス」ヲ取
  ルヤウナ風ニ進メタイト云フ考ハ無論アル
  デアラウト思フノデアリマスガ、サウ云フ
  根本ノ點ニ付キマシテハ、マダ交涉ヲ受ケ
  テハ居ナイノデアリマス、併ナガラ伊太利
  ニ於キマシテハ、御承知ノ通リ對日本關係
  ノミナラズ、世界各國トノ貿易狀況ガ非常
  ニ不權衡ニナッテ居リマスノデ、之ニ對ス
  ル必要上輸入禁止、輸入統制、又ハ最近ニ
  於キマシテハ特許制度ヲ設ケテ、貿易ノ「バ
  ランス」ヲ維持スルヤウニ努力致シテ居ル
  ノデアリマス、其中特ニ日本ニ關係致シマ
  シタ部分ト致シマシテハ、最近起リマシタ
  輸入禁止又ハ特許制ニ依ル大ナル制限ガア
  リマス、就中生絲ニ對スル輸入ノ制限ハ、
  日本ニ最モ大ナル影響ヲ及ボス問題デアッ
  タノデアリマス、隨ヒマシテ外務省ト致シ
  マシテハ、生絲ノ輸入禁止ト云フコトハ、
  非常ニ重大ナル問題デアルト認メマシテ、
  早速之ニ關スル交涉ヲ開キマシテ、出來ル
  コトナラバ、最近三年間ノ輸入量ヲ標準ト
  シテ許可割當ヲスルヤウニト云フ交涉ヲ致
  シタノデアリマスガ、伊太利政府ノ方モ、
  相當日本ノ要求ニ耳ヲ傾ケマシテ、結局
  ノ所千九百三十一年、二年及三年ノ平均輸
  入量ヲ日本ニ振當テスルヤウニ相成ッタノ
  デアリマス、其他ノ日本ノ輸出品ノ相當ノ
  價格ノ物ガアリマスノデ、ソレ等ニ付テモ
  矢張同ジヤウニ交涉ハ致シテ居ルノデアリ
  マス、曩ニ加藤君カラ、政府ガモウ少シ努
  力ヲスレバ、此禁止ヲ豫メ豫防スルコトヲ
  得タデハナイカト云フ御話モアリマシタ、
  其點ハ遺憾ナガラサウ云フ運ニ參ラナカッ
  タコトハ、私モ殘念ニ思フ次第デアリマス、
  實情ハ只今申上ゲマシタヤウナコトデアリ
  マスノデ、生絲ノ點ハ大體之ニ依ッテ御滿足
  ヲシテ戴クノ外ハナイカト存ジテ居ル次第
  デアリマス
  〔國務大臣高橋是〓君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=27

  ---

• 028・高橋是清

  ○國務大臣(高橋是清君)　加藤君ニ御答致
  シマス、私ヨリハ寧ロ商工大臣トカ、農林
  大臣ノ方カラ御答シタ方ガ宜イカトモ思ヒ
  マスケレドモ、大藏大臣ニ御質疑ノヤウデ
  シタカラ、一應御答致シマス、要ハ貿易關
  係ニ於テハ、今日ハ最早我國ノ國內產業ヲ
  盛ニスル爲ニハ、保護貿易制度ヲ用ヒテヤ
  ル政策ニ改メル時機ガ來タノデハナイカト
  云フヤウナコトカラ出發シテ、各國ニ行ハ
  レテ居ル輸入防遏ノ手段ヲ講ズルコトニ付
  テ、伊太利ノ例ニ及バレタノデアリマス、
  結局我國ノ貿易政策ト云フモノハ、今日ハ
  甚ダ微溫的デアル、寧ロ高率ノ關係政策ヲ
  採用シテ、國內ノ產業ヲ盛ニシナケレバ、
  前途甚ダ憂慮ニ堪ヘヌ、斯ウ云フ御意見ノ
  ヤウデアル、ソレハ豫テ覺悟シテ居ルノデ
  アル、今日ノ世界ノ通商狀態ト云フモノハ、
  少シモ油斷ガナラナイ、各國共ニ自給自足
  ノ政策ヲ採ッテ居リマスカラシテ、我國ノ輸
  出貿易ガ、何時ドノ國カラ妨ゲラルヽカト
  云フコトハ見透シガ付カナイ、始終變ッテ行
  クノデアル、ソレ故ニ昨年貿易ノ調節ヲ計
  リ、或ハ通商擁護ノ爲ニ必要ナル手段ヲ執
  ル爲ニ、關稅ニ關スル法律ノ制定ヲ見タ譯
  デアリマス、故ニ一朝其必要ヲ生ジタル場
  合ニハ、直チニ適當ナル手段ヲ執ルダケノ
  準備ハ旣ニ出來テ居ルノデアリマス、故
  今後ニ於テモ、海外ノ情勢ニ始終注意ヲ致
  シマシテ、必要ナ場合ニハ何時デモ關稅ノ
  政策ガ行ハレルコトニナッテ居リマス、併シ
  マダ今日總テノ國々ニ向ッテ同ジ政策ヲ執ッ
  テ、關稅ノ制度ヲ定メルト云フ譯ニハ行カ
  ヌノデアル、其點ニ付テハ今外務大臣カラ
  モ御話ガアッタヤウデアリマス、次ハ近頃外
  國カラ絹ノ靴下ノ古物ガ來ル、古物ガ入ッテ
  來テ、其爲ニ我國ノ生絲ニ惡影響ヲ及ボス
  憂ハナイカ、斯ウ云フコトデアリマス、是
  ハ農林省デモ、大藏省デモ旣ニ問題ニナッ
  テ〓究ヲシテ居ッタ、然ルニ此外國カラ入ッ
  テ來マス絹ノ古靴下ナルモノハ、是ガ又我
  國ニ於テ商品トシテ再製スル工夫ガ付キマ
  シテ、今日デハ農村ノ副業トシテ相當ノ勢
  力ヲ占メテ居ルノデアリマス、此古イ靴下
  ガ入ッテ來マシテ、ソレガ新タニ生絲ト交織
  ニサレテ使用セラルヽノダサウデアリマス、
  故ニ其方カラ言ヘバ、又生絲ノ需要ヲ增進
  スルトモ言ハレルノデアル、又外國ニ於テ
  人絹ノ靴下ヲ履ク者-我國カラ出ル生絲
  ヲ材料トシテ拵ヘタ靴下ヲ使フ、其使ヒ古
  シガ、生絲ノ靴下ハ再ビ輸出品トナルノデ
  アッテ、相當ノ價ヲ有ツ、古クナッテモ價ヲ
  有ツト云フコトニナルノデアリマスカラ、
  其方カラ言ッテモ、世人ハ人絹ヨリモ生絲ノ
  方ヲ好クノデアリマスカラ、生絲ノ需要ヲ
  妨ゲルト云フコトニハナルマイト思フ、要
  スルニ此靴下ノ古イモノヽ輸入ノ得失ニ付
  テハ、尙ホ調査スベキ點ガアルト考ヘルノ
  デアリマス、故ニ先ヅ暫ク其事情ノ推移ヲ
  見計ッテ決メテ宜シカラウト云フコトニ、
  大體農林省ノ大藏省トノ事務當局ノ間ニ相
  談ガ付イテ居ルヤウデアリマス、是ダケ御
  答致シテ置キマス(拍手)
  〔國務大臣岡田啓介君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=28

  ---

• 029・岡田啓介

  ○國務大臣(岡田啓介君)　加藤君ニ御答致
  シマス、私ハ伊太利、佛蘭西、支那ノ蠶絲
  業ニ付テハ何ノ知識モ有ッテ居リマセヌ、隨
  テ其製品ノ種類、用途、販路等ニ於テモ承
  知致シテ居リマセヌノデ、遺憾ナガラ、是
  等各國ノ蠶絲業者ガ提携スルト云フコトガ
  出來マシタナラバ、甚ダ結構デアラウト思
  フト云フ以外ニ御答ハ出來マセヌ(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=29

  ---

• 030・加藤知正

  ○加藤知正君　簡單デアリマスカラ此席カ
  ラ御許シヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=30

  ---

• 031・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=31

  ---

• 032・加藤知正

  ○加藤知正君　只今廣田外相ハ、此程度デ
  滿足シテ吳レト云フ御話デアリマシタガ、
  遺憾ナガラ廣田外相ノ御答辯デハ滿足ガ出
  來ナイノデアリマス、實ハ此事ニ付テ詳ク申
  上ゲテ見タイト思ヒマスケレドモ、何レ他
  ノ機會ニ於テ御質問中上ゲルコトニ致シ、
  唯1.一言此處デ申上ゲテ置キタイコトハ、世
  界中ニ於キマシテ日本生絲ニ課稅-輸入
  禁止ヲ致シテ居ル國ハ、伊太利唯〓一箇國ア
  ルノミデアリマス、從來無稅デ輸入致シテ
  居ッタ、其日本生絲ニ對シテ殆ド拔討的ニ輸
  入禁止ヲ致シタヤウニ吾々ハ考ヘテ居リマ
  スカラ、其點ニ於テ或ハ外務省トシテモ十
  分ノ手ヲ盡スコトガ出來ナカッタカモ知レ
  マセヌ、サリナガラ左樣ナ場合ニ於テ今少
  シク能ク向フノ事情ニ通ジテ居ラレマシタ
  ナラバ、假令拔討的ニヤリマシテモ、之一
  處スルノ途ハ自ラアッタデアラウト思フノ
  デアル、ソレハ卽チ外デハアリマセヌガ「ムッ
  ソリニー」首相ガ日本ノ蠶絲ト伊太利ノ蠶
  絲ノ提携說ヲ頻ニ主張致シテ居ル、一子
  會ッタ吾々ニサヘ主張シテ居ルノデアルカ
  ラ、伊太利ノ大使館ノ人達ニ對シマシテハ
  必ズヤ其事ヲ申シテ居ッタニ違ヒナイ、是等
  ノ點ニ對シマシテ、誠意ヲ披瀝シテ折衝致
  シテ居ラレマスルナラバ、斯樣ナル拔討的
  ノヤリ方ハセナカッタデアラウト思フノデ
  アリマス、此點ニ於キマシテ伊太利大使館
  ノ怠慢ハ、是ハドウシテモ免レルコトガ出
  來ナイト思フノデアリマスガ、併ナガラ今
  日ニ及ンデハ何トモ致シ方ハゴザイマセヌ
  ニ依ッテ、ドウカ今一段一ツ伊太利蠶絲業ノ
  事情、而シテ此生絲ノ輸入禁止ヲ致シマシ
  タ〓末ヲ十分ニ御調査ニ相成リマシテ、以
  テ一日モ速ニ是ガ撤廢セラルルヤウニ御努
  力アランコトヲ切望致シマス(拍手)而シテ
  更ニ高橋大藏大臣ノ答辯ニ對シ、尙ホ色々
  申上ゲテ見タイケレドモ、之レ亦他日ノ機
  會ニ讓ルコトニ致シマスガ、併シ絹靴下ニ
  付テノ御認識甚ダ失禮ナガラ高橋大藏
  大臣、ドウモアナタノ御認識ガ足ラナイト
  申上ゲタイノデアリマス、之ヲ要スルニ、
  屬僚ノ藏相ニ對シテ御話申上ゲルコトガ徹
  底セナイ結果或ハ左樣ニ認識不足ノコトヲ
  仰シヤルノデハナカラウカトモ思フノデア
  リマスルガ、只今ノ御話中ニ此絹靴下ノソ
  レハ農村ノ副業云々ト仰シヤッタガ、農村ト
  云フヨリモ、是ハ寧ロ都會ノ人達ガ主ニヤッ
  テ居ルノデアリマス、而シテ此組靴下其モ
  ノガ、生絲ト混ゼ織物等ニナッテ、却テ生絲
  ニ利益ヲ增進スルト云フガ如キ御話ガアリ
  マシタガ、是ハ大變ナ間違デアリマス、是
  ハ何ト言ヒマシテモ、此絹靴下ハ、下等ノ
  絹織物ニドン〓〓使用セラレルノデアリマ
  スカラ、ソレガ廣ク利用セラレルノデアリ
  マスル結果ト致シマシテハ、卽チ自然此屑
  絲玉絲或ハ輸出向デナイ、所謂內地用生絲ト
  云フヤウナモノハ、夥シク其影響ヲ受クル
  モノト吾々ハ考ヘテ居ルノデアリマス、勿
  論只今ハ其數量ハ極メテ僅カデアリマスル
  ケレドモ、之ヲ其儘ニ放任致シテ置キマシ
  タナラバ、ドン〓〓是ガ輸入セラレルニ違
  ヒナイ、輸入セラレル結果ハ、只今申上ゲマ
  シタ屑絲玉絲或ハ內地用生絲等ニ大ナル影
  響ヲ及ボスコトニ相成リマス、偖テ其時ニ
  於テ、ソラ關稅ダノ輸入禁止ダノト言ヒマ
  シテモ及バヌ、嫩葉ノ中ニ之ヲ千切ラナケ
  レバ、悔ユトモ及バザルコトヲ考ヘマスガ
  故ニ、敢テ此質問ヲ發シタノデアリマスル
  ガ、不幸ニシテ高橋大藏大臣ハ十分ニ此點
  ニ御認識ガナイヤウニ思ヒマス、此間私ハ
  段々聞イテ見マスルト云フト、大藏省ノ此
  關稅調査委員會ニ於キマシテハ先刻申上ゲ
  タヤウニ贊否兩論ガアルノデアル、其贊否
  兩論ト云フモノハ、要スルニ其調査ガ不十
  分ナ結果左樣ナコトニナルノデアラウ、又
  蠶絲業ニ對スル所ノ認識ガ不十分ノ結果左
  樣ナコトニナルノデアラウト吾々ハ考ヘル、
  由來大藏當局ニハドウ云フモノカ此蠶絲業
  ニ對スル所ノ認識ガ缺ケテ居ルヤウニ思ヒ
  マスルカラ、希クハ高橋大藏大臣ニハ十分屬
  僚ヲ御督勵アッテ、今少シク、其認識ヲ確カ
  メラレンコトヲ切ニ希望致シマシテ、私ノ
  質問ハ是デ打切ルコトニ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=32

  ---

• 033・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者畑桃作君
  〔畑桃作君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=33

  ---

• 034・畑桃作

  ○畑桃作君　私ハ本議場デ先日某議員カラ
  御注意ヲサレマシタガ、御覽ノ通リ病氣ヲ
  シテ居リマシテ、長イ間病氣ヲシテ、最近
  モ議會ヘ押シテ來テ居ルヤウナ譯デアリマ
  ス、隨テ咽喉ノ工合ガ惡ウゴザイマスカラ、
  徹底シナイ點ハ御同情ヲ願ヒタイト思ヒマ
  ス(拍手)此關稅問題ハ、世界ニ於ケル通商
  貿易、卽チ經濟戰爭ガ今日ノ如ク熾烈ナル
  時勢ニ於キマシテハ、武力ニ代ルベキ一種
  ノ武器デアルノデアリマス、其意味ニ於キ
  マシテ世界貿易戰ニ備ヘル爲メノ平和的武
  器ト云フコトニ於キマシテハ、此關稅ト云
  フモノガ唯一ツノモノデアルト私ハ思フノ
  デアリマス、今ヤ世界ハ此激甚ナル經濟戰
  ニ於テ、關稅ノ障壁ヲ堡壘トシテ、虎視耽々
  トシテヤッテ居ル、之ニ對シテ我ガ方モ、場
  合ニ依レバ攻ムル武器トシテ此關稅改正問
  題ヲ取扱ヒ、或ル場合ニハ守ルベキ武器ト
  シテ、此關稅問題ヲ取扱ハナケレバナラヌノ
  デアリマシテ、輕々ニヤルベキモノデハナ
  イト同時ニ、世界經濟戰爭ニ向ヒマシテ
  ハ、一國ニ取リマシテハ重大ナル切札ノ一
  ツデアリマスルニ依ッテ、私ハ此際此關稅ヲ
  取扱フ上ニ於キマスル政府ノ國内ニ對スル
  認識ト、更ニ相手國ニ對スル認識、及根本
  對策ニ付キマシテ政府ノ所見ヲ聽キタイノ
  デアリマス、隨テ總理大臣、大藏大臣、外
  務大臣ハ勿論ノコト、陸海軍大臣ノ出席モ
  私ハ希望シテ居ルノデアリマス、陸軍大臣
  ハ今居ラヌヤウデアリマスカラ、議長ハ速
  ニ書記ヲシテ陸軍大臣ヲ此處ニ呼ンデ來テ
  貰ヒタイ
  何故私ガ此關稅問題ニ力ヲ入レルカト申
  シマスルト、我ガ帝國ノ對外關係中、先ヅ
  最近ニ於キマシテモ日印會商ニ失敗ヲシテ
  居リマス、更ニ日蘭會商ニ於テモ失敗ヲシ
  テ居リマス、サウシテ我國ノ貿易モ、昔日
  ノ隆盛ノ俤ガ段々最近ニ於テハ消エテ行ク
  ヤウナ傾向ガアルノデアリマス、斯ウ云フ
  ヤウナ場合ニ直面致シマシテハ、此關稅問
  題ニ對スル政府ノ認識ト、之ヲ發動シテー
  通商貿易擁護法ト共ニ、此關稅問題ニ付キ
  マシテ適宜最モ效果的ニ之ヲ發動シテ、攻
  防宜シキヲ得ルコトガ必要デアラウト思フ
  ノデアリマス、就中對支問題、對米問題、
  對滿問題ニ付テ然リトスルノデアリマス、
  最近日支關係ガ好轉セリトカ、或ハ日米關
  係ガ好轉セリトカ新聞ニモ出テ居リマス
  シ、又外務大臣ノ先日ノ言葉ニ於テモ好轉
  シテ居ル、殊ニ日米關係ナドモ親和ノ度ヲ
  日々ニ增シテ居ルト云フコトヲ申シマスケ
  レドモ、遺憾ナガラ此新聞ノ報道ト、外務
  大臣ノ意見トハ、是ハ空宣傳デアリマシ
  テ、日支間ニ於テ、日米間ニ於テ-殊ニ
  日米間ニ於テ、親善ノ事實ガ何處ニ展開シ
  テ居リマスカ、事實ハ此處ニ申上ゲルマデ
  モナク、或ハ勢ノ赴ク所、重大ナル結果ヲ
  生ズルニ至ルヤモ知レナイト云フ程度マ
  デ、私ハ惡イ方ニ發展シテ居ルト思フノデ
  アリマス、對支問題ニ致シマシテモ、無條
  件ニ好轉ヲ言フ譯ニハ行カナイ、昨日ノ新
  聞ニ依リマシテモ、駐支英國大使ハ支那ノ要
  望ニ依ッテ二十万磅ノ對支「クレヂット」ノ設
  定ニ付テ計畫シテ居ルトカ、或ハ今朝ノ新
  聞ニ依ッテハ、之ヲ否定シテ居リマスガ、斯
  ウ云フヤウナ傾向ハ日支直接交涉ヲ妨害セ
  ントスル所ノ、又日支直接交涉ニ向ッテ
  種ノ嫉ミヲ持ッタ所ノ外國ガ、虎視耽々トシ
  テ、對支貿易ニ於テ優勝ノ地位ヲ得ントス
  ル所ノ前提デアルト私ハ思フノデアリマシ
  テ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=34

  ---

• 035・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　畑君、成タケ議題ニ
  觸レタ質問ヲ雜ヒタイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=35

  ---

• 036・畑桃作

  ○畑桃作君(續)　是カラ段々ヤリマス、是
  ハ簡單ニ傍觀シテ居ル譯ニハ參ラナイノデ
  アリマス、ソコデ私ハ日支懸案ノ解決ト云
  フモノハ、支那ノ自力更生ト云フコトヲ俟ッ
  テカラト云フノデナク、出來ル所カラ、ヤ
  リ良イ所カラドン〓〓片付ケテ行クノガ私
  ハ宜イト思フ、卽チ政治的ニ、經濟的ニ、
  地方政權タルト中央政權タルトヲ問ハ
  ズ、必要ニ應ジテ、出來ル所カラドンノ
  片付ケテ行クト云フ、此率直ナ遣リ方ガ私
  ハ宜イト思フノデアリマス、先日ノ外務大
  臣ノ所見ニ依リマシテモ、支那ノ自力更生
  ヲ俟ツト云フヤウナ意味ノコトヲ申サレマ
  シタケレドモ、支那ノ自力更生ナドト云フ
  コトガ、百年ヤ二百年經ッテ出來ルモノデ
  ハアリマセヌ、是ハ古イ頭ノ政治家ノ錯覺
  デアリマス、云高橋大藏大臣ハ農村ノ自力更
  生ヲ要望シテ居ル、自力更生ヲスルダケノ
  力ガアリサヘスルナラバ、コンナコトニハ
  ナラヌ、自力更生ヲスル所ノ力、立上ル所
  ノ力ガナイカラ、斯ウ云フコトニナッタ、其
  自力更生ヲスルニ必要ナル原動力ヲ與ヘヨ
  ウト云フノガ、吾々政治家ノ憂慮シテ居ル
  所デアル、對支問題デモ然リデアリマス、
  支那ニ自力更生ヲスル所ノ力ハ絕對ニ無イ、
  無イカラシテ、日支ノ地理的ナ特殊關係ニ
  アリマス所ノ日本トシテハ、支那ニ自力更
  生ヲ與ヘル所ノ原動力ヲ提供ヲスル、協力
  シテ自力更生ノ原動力ヲ培フト云フ所ニ、
  日本ハ特ニ力ヲ入レナケレバナラヌト同時
  二、其點ニ於キマシテ列國ヨリモ日本ガ特
  ニ重大ナル關係ヲ有ッテ居ルノデアリマス、
  極東ニ於ケル九箇國條約規定外ニ於キマシ
  テ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=36

  ---

• 037・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　畑君、再度ノ注意ヲ
  致シマス、成ベク議案ニ觸レタル質疑ノ範
  圍內ニ於テ述ベラレンコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=37

  ---

• 038・畑桃作

  ○畑桃作君(續)　是ガ關稅法ヲ適宜ニ使分
  ケヲ致シマスル前提デアリマスカラシテ、
  議長ニ於テモ特ニ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒ
  マス-極東ニ於ケル九箇國條約規定外ノ
  日本ノ任務ト云フコトヲ我ガ帝國ハ白覺シ、
  列國モ之ヲ自覺シナケレバナラナイノデア
  ル、卽チ日支ガ本當ニ協力ヲ致シマシテ、
  支那ノ中央政權ガ强化サレ、地方政權ガ强
  化サレ、農民ガ安定シ、財界ガ安定シ、治安
  ガ維持サレルニ於キマシテハ、支那四億ノ
  大衆ノ持ツ購買力ト云フモノハ非常ナモノ
  デアリマス、此購買力ニ向ッテ、我國ハ適當
  ニ關稅ヲ改正シテ、此購買力ヲ逃ガサナイ
  ヤウニシナケレバナラナイ、恐ラク日支ガ
  本當ニ協力致シマシテ、只今私ガ申シマシ
  タヤウニ、支那ノ安定狀態ガ出現スルニ於
  キマシテハ、此支那四億ノ大衆ノ購買力ガ、
  一人當リ一年ニ十圓ヅヽ世界ノ物ヲ買ヒマ
  シテモ、四十億圓ノ玆ニ購買力ガアル、斯
  ウ云フヤウナ事態ヲ造ルコトガ出來マスル
  ナラバ、日支間ノ幸福ハ無論ノコト、現
  行詰ッテ居ル世界經濟界ノ不況ヲ打開スル
  コトモ出來ルノデアリマス、此點ニ於テ吾
  吾ハ特ニ支那ニ力ヲ入レナケレバナラナイ
  (拍手)隨テ政府ハ此支那ニ向ッテ實際上如
  何ナル工作ヲ行フベキ具體的方法ヲ執ッテ
  居ルカ、殊ニ此關稅改正ニ於テ、日支間ニ
  如何ナル特殊ノ工作ヲ講ジテ居ルカ、而シ
  テ日本ニ無クテ支那ニ有ル所ノ物ハ、是ハ
  ドシ〓〓輸入ヲ奬勵スル所ノ關稅改正ニ出
  ナケレバナラヌ、又支那ニ無イ所ノ物ハ、
  日本ヨリ之ヲドシ〓〓支那ニ入レルベク、
  支那ノ關稅ノ改正、日本品ニ對スル關稅率
  ノ引下ヲ要求シナケレバナラナイ(「支那ノ
  議會ヂヤナイ」ト呼フ者アリ)卽チ此支那ノ
  關稅中日本品ニ對スル稅率ガ高イ、之ヲ引
  下グベク日本トシテハ外交交渉ヲ行フ必要
  ガアル、支那ノ議會デナイト申シマスケレ
  ドモ、冗談ヂヤナイ、支那ニ對スル認識ガ
  ナイ、何ダ參與官トモ云フベキ者ガ-支
  那ガ多年ノ間排日運動ヲ續ケテ居ル其結果、
  日貨ニ對スル關稅ヲ引上ゲテ、日貨ヲ排斥
  シテ居ル、此歴々タル事實ヲ御承知ナイノ
  デアリマスカ、是ニ於キマシテ私ハ外務大
  臣ニ御問ヲ致シマス、只今申シマシタ日支
  間ノ關稅問題ニ致シマシテモ、之ヲヤルニ
  ハドウシテモ日支直接交涉ヲ必要トスルノ
  デアリマス、所ガ日支直接交涉ヲシテ、日
  支間ノ幾多ノ懸案ヲ解決シ、更ニ支那ノ經
  濟市場開發ノ爲ニ、日本ガ努力ヲ致サウト
  致シマスルナラバ、必ズ其場合ニ於テハ
  列國ハ日本ノ眞意ヲ誤解ヲ致シマシテ、日
  本ノ行動ニ對シマシテ妨害的行動ヲ、今日
  マデ列國ハ執ッテ來タノデアリマス、現ニ英
  米ハ九箇國條約ト云フモノヲ極メ付ケテ、
  日支間ノ直接交涉ヲ妨ゲントシテ居ルデハ
  アリマセヌカ、此處ガ問題ナンデアル、日
  本ト支那トノ關係ハ、ソンナ簡單ナモノヂ
  ヤナイ、支那ノ災害ハ直チニ其隣國ノ日本
  ニ影響スル、ソレニモ拘ラズ九箇國條約ヲ
  以テ、列國ト御同樣ノ意味ニ於テ日本ヲ取
  扱ハレテ居ッタノデハ、是ハ日支ノ爲ニナラ
  ヌト思フ、日支間親善ノ爲ニナラヌト思フ、
  是ニ於テ私ハ日支直接交渉ニ依リマシテ東
  洋ノ平和ヲ保持シ、極東日支兩民族ノ繁榮
  ヲ希フニ必要ナル日支直接交涉ヲヤル上ニ
  付テ、妨害トナルベキ此九箇國條約ト云フモ
  ノハ、私ハ今日ノ場合、我ガ政府ニ於テハ廢
  棄スル方ガ適當デアルト思フノデアリマス、
  外務大臣ノ所見ハ如何デアリマスカ、吾々
  ガ「ゼネバ」ニ於テ擧國一致松岡全權ヲアノ
  當時援ケ、國際聯盟カラ脫退シタ、更ニ最
  近ニ於テ華府條約ヲ廢棄シタト云フコトハ、
  何ノ爲ニ致シタノデアルカ、卽チ國際聯盟
  ヲ脫退シタト云フノハ、日本ノ外交上ノ自
  由權、自主權ヲ獲得スル爲ニ脫退シタ、華府
  條約ヲ廢棄シタノハ何デアルカト云ヘバ
  日本ノ國防上ノ自主權、自由權ヲ確保スル
  爲ニ廢棄シタノデアル、之ヲ廢棄致シマシ
  タナラバ、之ヲ廢棄致スダケノ覺悟ガアリ、
  之ヲ實行致シマシタ政府ト致シマスルナラ
  バ、日支直接交涉ヲ妨害スル所ノ、而モ其
  條約ヲ日本ノ爲ニ、支那ノ爲ニ列國ハ曲解
  シ、惡用シテ居ル、サウ云フヤウナ障碍ト
  ナルベキ九箇國條約ハ、此際速ニ廢棄スル
  方ガ、將來ノ禍根ヲ胎サヌト云フコトニナ
  リマシテ、極東ハ朗カニナル前提デアルト
  思フ、ドウシテモ此九箇國條約ノ廢棄ハ必
  要デアルト思ヒマスガ、外務大臣ハ如何ニ
  御考デアリマスカ、殊ニ此九箇國條約ハ、
  支那ヲ不平等ノ立場ニ置イテ、他ノ八箇國
  ガ締結シタモノデアリマス、デアリマスカ
  ラシテ、支那ノ爲ニモ九箇國條約ヲ速ニ廢
  棄シテ、列國干涉カラ支那ヲ解放スルト云
  フコトニ向ッテ、日本ハ力添ヘヲシナケレバ
  ナラナイト思フ、此意味ニ於テ廢棄ハ必要
  デアル、當局ノ御考ハ如何デアルカ、更之
  私ハ當局ガ支那ノ內政ニ對シテドウ云フ風
  ニ見テ居ルカ、ソレニ對スル日本ノ-

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=38

  ---

• 039・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　畑君-畑君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=39

  ---

• 040・畑桃作

  ○畑桃作君(續)　此關稅貿易ノ··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=40

  ---

• 041・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　畑君-畑君、再度
  御注意申上ゲルトモ、議長ノ御注意ヲ御用
  ヒニナラヌ、アナタノ質疑ノ範圍ハ議題ノ
  範圍外トナッテ居リマス、故ニ先例ニ基キ發
  言ヲ中止シ、降壇ヲ命ジマス
  〔畑桃作君降壇〕
  〔「ソンナ酷イコトヲシナクテモ、時間
  ハアルヂヤナイカ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=41

  ---

• 042・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者伊禮肇君
  〔畑桃來君「外務大臣ノ答辯ヲ要求スル」
  ト呼フ〕
  (「答辯ハナイノデスカ」「答辯ハドウシ
  タ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=42

  ---

• 043・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　外務大臣ヨリ答辯ノ
  通〓ハ議長ニアリマセヌ
  〔伊禮肇君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=43

  ---

• 044・伊禮肇

  ○伊禮肇君　私ハ此機會ニ於キマシテ砂糖
  關稅竝ニ同附加稅ニ關シマシテ、大藏大臣
  竝ニ商工大臣ニ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマ
  ス、最近東京ノ製菓業組合ガ中心トナリマ
  シテ、全國ノ製菓業者ガ糖價引下ノ期成同
  盟會ヲ組織致シテ居リマス、而シテ此組合
  ハ各方面ニ對シマシテ、砂糖關稅竝ニ同附
  加稅ノ撤廢運動ヲ致シツヽアルノデアリマ
  ス、今日世界ノ各國ガ其國內ノ重要產業保
  護ノ爲ニ、關稅ノ障壁ヲ設ケテ居リマスコ
  トハ御承知ノ通リデアリマス、而シテ我國
  ノ砂糖關稅竝ニ此附加稅ガ、果シテ世界各
  國ノ中デ高率ニ失スルカドウカト云フコト
  ヲ檢討致シマスルト、決シテ高率デハナク
  シ六、寧ロ低位ニアルノデアリマス、卽チ
  粗糖ニ於キマシテハ、世界四十六箇國ノ中
  デ第三十八番目ニ位シ、精糖ニ付テ申シマ
  スレバ、世界四十八箇國中デ四十二番目デ
  アリマシテ、是亦最低位ニアルノデアリマ
  ス、而シテ從價關稅トノ均衡上、從量關稅品
  全部ニ對シマシテ設定セラレマシタ所ノ附
  加稅ヲ、特ニ砂糖ニ付テノミ撤廢スベキ理
  由ハナイト考ヘマス、然ラバ一般ノ物價ニ
  比較致シマシテ、砂糖ノ價格ハ果シテ高價
  デアルカ、而シテ國民生活ヲ壓迫スルカド
  ウカ、此點ヲ考ヘテ見マスルト云フト、是
  亦一般物價ニ比シテ決シテ高價デハアリマ
  セヌ、卽チ大正元年ヲ百ト致シマシテ、昭
  和三年カラ昭和九年ニ至ル七箇年間ノ代表
  的ノ物價ノ指數ヲ比較致シマスルト、各年
  別ノ比較ハ時間ノ節約上省略致シマスガ、
  昭和三年ヨリ同九年ニ至ル各物價ノ平均指
  數ヲ玆ニ對照致シマスルト、砂糖ノ百五ニ
  對シマシテ米ガ百十九、木材ガ百五十五、
  木炭ガ百七十三、綿絲ガ百二十三、小麥粉
  ガ百二十九、生絲ガ八十三、一般物價指數
  ガ百四十一トナッテ居リマシテ、生絲以
  外ノ各物價ニ對シマシテ、砂糖ハ寧ロ高
  價デナクシテ格安デアリマス、去ル二月二
  十四日ノ都下ノ各新聞紙ハ、中華民國ガ三
  月一日ヨリ砂糖關稅ノ引上ヲ斷行スルト云
  フコトヲ報ジテ居リマス、最近歐羅巴ノ金
  「ブロック」ノ危機ヲ傳ヘテ居リマス、是等
  ノ報道ハ總テ我ガ糖業者ニ對シテ非常ナル
  脅威ヲ與ヘテ居ル次第デアリマス、若モ和
  蘭ガ金ノ輸出ノ禁止ヲ致シマシタナラバ、
  我ガ糖業ハ非常ナル危機ニ陷ルコトハ申ス
  迄モナイコトデアリマス、斯ウ云フ際ニ當
  リマシテ、製菓業者ノ申シマスル如ク、砂
  糖ノ關稅竝ニ同附加稅ヲ撤廢致シマシタナ
  ラバ、次ニ申シマスルヤウナ、實ニ恐ルベ
  キ結果ヲ豫想シナケレバナラヌト考ヘマス、
  卽チ第一ハ、砂糖關稅同附加稅撤廢ノ結果、
  一度我國ノ糖業ノ根柢ニ動搖ヲ來シ、折角
  今日得マシタ所ノ自給自足ヲ毀シマシタナ
  ラバ、國民生活ニ必要ナル此砂糖ガ、一旦
  有事ノ際ニ缺乏ヲ來シマシテ、國民生活上
  非常ナル困難ニ陷ルト云フコトハ、大戰當
  時世界各國ガ齊シク嘗メタ所ノ苦イ經驗ニ
  依ッテ明カデアリマス、更ニ第二ニハ臺灣
  ニ於ケル米ノ生產費ハ、內地ノ米ノ生產費
  ニ比較致シマシテ頗ル低率デアリマス、其結
  果臺灣ニ於ケル米ノ產額ハ年々增加ノ傾向
  ヲ示シテ居リマス、大正十年ニ僅ニ七千石
  ニ過ギナカッタ米ノ生產額ガ、昭和八年ニハ
  實ニ八百餘万石トナリマシテ、中四百餘万石
  ハ內地ニ移出ヲ致シテ居リマス、砂糖關稅
  竝ニ同附加稅ニ依ル保護ノ結果、砂糖業者
  ガ相當ノ收益ガアル今日ニ於テサヘ、尙ホ
  臺灣ノ米ノ生產ハ年々增加致シテ居リマス、
  若シ一度關稅ヲ撤廢シ、或ハ關稅附加稅ヲ
  撤廢致シマシテ、製糖業者ニ動搖ヲ來シマ
  シタナラバ、今日砂糖原料ノ甘蔗作ニ從事
  シテ居リマスル所ノ多數ノ農民ハ、續々米
  作ニ轉向致シマシテ、米ノ洪水ヲ來シ、我
  國米穀政策上由々シキ問題ヲ惹起スコトヲ
  憂フル者デアリマス、更ニ第三ニハ關稅
  竝ニ同附加稅撤廢ノ結果ハ、我ガ貿易ニ影
  響スルト共ニ關稅收入ヲ減ジ、更ニ米ノ洪
  水ノ爲ニ過剩米調節ニ要スル費用ヲ增加シ、
  我國ノ財政ニモ更ニ重大ナ影響ヲ及ボスコ
  トヽ考ヘル次第デアリマス、今日臺灣ヤ南
  洋ノ如ク、栽培或ハ生產、或ハ販賣ニ至ル
  やど、一貫シテ合理化サレタ所ノ製糖業ニ
  於テスラ、尙ホ砂糖關稅ノ保護ヲ必要トス
  ルノデアリマス、沖繩縣ノ如キハ政府ノ助
  成ノ下ニ、今日品種ノ改良、肥培管理ノ改
  善、製造技術ノ改良等、漸ク改善發達ノ途
  中ニアルバカリデナク、其製糖法ニ至リマ
  シテハ、數百年來ノ全クノ原始狀態デアリ
  マシテ、其爲ニ生產費ハ高ク、今日關稅保
  護ノ下ニ於テスラ、尙ホ原價割レノ損失狀
  態デアリマス、若シ斯ウ云フ狀態ニ於キマ
  シテ、關稅竝ニ同附加稅ノ撤廢ヲ致シマシ
  タナラバ、臺灣ヤ南洋ノ製糖業者ガ被ル所
  ノ損害ノ外ニ、更ニ分蜜糖ト黑糖トノ値段
  ノ接近ヲ來シ、黑糖ノ特殊的地位ヲ失ヒマ
  シテ、其販路ハ閉塞セラレ、沖繩ノ糖業ハ殆
  ド全滅ニ瀕スルノデアリマス、隨テ沖繩縣
  ノ特殊產業トシテ他ニ之ニ代ルベキモノハ
  ゴザイマセヌ、臺灣ナラバ砂糖ガ安クナレ
  バ更ニ米ニ代ヘラレマス、併シ沖繩縣ノ現
  狀ト致シマシテハ、砂糖ヲ止メテ米ニ代ヘ
  ルト云フコトハ出來マセヌ、斯ノ如キ狀態
  ニ於テ、砂糖ノ關稅ノ撤廢竝ニ同附加稅ノ
  撤廢ト云フコトハ、單ニ砂糖ニ對スル重壓
  トナルノミナラズ、沖繩ノ產業經濟ニ非常
  ナル影響ヲ及ボスモノデアリマス
  以上申シマシタ通リ、我國重要產業保護
  ノ意味ニ於キマシテモ、更ニ又他ノ一般物
  價トノ比較對照カラ申シマシテモ、關稅竝
  ニ同附加稅ハ今日撤廢スベキモノニ非ズト
  私ハ確信致シマス、更ニ沖繩縣ノ如キ殆ド
  砂糖ヲ以テ換金作物、重要產業トシテ居リ
  マス所ノ立場カラ致シマスレバ、尙更此砂
  糖關稅ハ撤廢スベキモノデハナイ、左樣ニ
  考ヘル次第デアリマスガ、政府ハ之ニ對シ
  テ如何ナル御所見ヲ御有チデアリマセウカ、
  御伺致シタイト思フ次第デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=44

  ---

• 045・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　矢吹大藏政務次官
  〔政府委員男爵矢吹省三君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=45

  ---

• 046・矢吹省三

  ○政府委員(男爵矢吹省三君)　只今伊禮君
  ヨリ砂糖關稅竝ニ附加稅廢止ノ考ガ政府ニ
  アルカドウカ、今日ノ場合之ヲ廢止スベキ
  時デナイト思フガ、如何デアルカト云フ御
  質問デアリマシタ、砂糖ハ御承知ノヤウニ
  今日我國ニ於ケル重要ナル產業ノ一ツデア
  リマシテ、此關稅ヲ引下ゲルト云フヤウナ
  コトハ、餘程愼重ニ考ヘナケレバナラヌ事
  柄ト考ヘテ居リマス、伊禮君ハ殊ニ沖繩縣
  ニ對スル產業上ノ影響カラ、此問題ニ付テ
  深ク御心配デゴザイマシタガ、政府ニ於キ
  マシテ今日ノ所、砂糖關稅或ハ附加稅ヲ引
  下ゲル考ハ有ッテ居リマセヌ、其事ヲ御答申
  シテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=46

  ---

• 047・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　伊禮君、モウ御尋ハ
  アリマセヌカ-質疑ハ終局致シマシタ、
  各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ニ付テ
  御諮リヲ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=47

  ---

• 048・青木雷三郎

  ○靑木雷三郞君　日程第三乃至第七ノ五案
  ヲ一括シテ、中谷貞賴君外二名提出、營業
  收益稅法中改正法律案委員ニ併セ付託セラ
  レンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=48

  ---

• 049・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靑木君ノ動議ニ御異
  議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=49

  ---

• 050・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ動議ノ如ク決シマシター日日第
  八及第九ハ、便宜上一括議題トナスニ御異
  議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=50

  ---

• 051・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ日程第八、治安維持法改正法律
  案日程第九、不法團結等處罰ニ關スル法
  律案、右兩案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キマ
  ス-小原司法大臣
  第八治安維持法改正法律案(政府提
  也第一讀會
  第九不法團結等處罰ニ關スル法律案
  (政府提出)第一讀會
  治安維持法改正法律案
  治安維持法
  第一章通則
  第一條本法ノ罪ヲ犯シタル者ニ付テハ
  刑事手續其ノ他ニ關シ本法ニ別段ノ規
  定アル場合ヲ除クノ外一般ノ例ニ依ル
  第二條本法ハ何人ヲ問ハズ本法施行地
  域外ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適
  用ス
  第二章罪
  第三條國體ヲ變革スルコトヲ目的トシ
  テ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員
  其ノ他指導者タル任務ニ從事シタル者
  ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ
  處シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又
  ハ結社ノ目的遂行ノ爲ニスル行爲ヲ爲
  シタル者ハ三年以上ノ有期懲役ニ處ス
  第四條前條ノ結社ヲ支援スルコトヲ目
  的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社
  ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ從事シ
  タル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ處
  シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又ハ
  結社ノ目的遂行ノ爲ニスル行爲ヲ爲シ
  タル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
  第五條第三條ノ目的ヲ以テ其ノ目的タ
  ル事項ノ實行ニ關シ協議ヲ爲シ又ハ其
  ノ目的タル事項ノ實行ヲ煽動シタル者
  ハ一年以上七年以下ノ懲役ニ處ス
  第三條ノ目的ヲ以テ其ノ目的タル事項
  ヲ宣傳シタル者ハ六月以上五年以下ノ
  懲役ニ處ス
  第六條第三條ノ目的ヲ以テ騷擾、暴行
  其ノ他生命、身體又ハ財產ニ害ヲ加フ
  ベキ犯罪ヲ煽動シタル者ハ一年以上十
  年以下ノ懲役ニ處ス
  第七條前四條ノ罪ヲ犯サシムルコトヲ
  目的トシテ金品ヲ供與シ若ハ其ノ他ノ
  方法ヲ以テ便宜ヲ與ヘタル者又ハ情ヲ
  知リテ供與若ハ便宜ヲ受ケタル者ハ五
  年以下ノ懲役ニ處ス
  第八條私有財產制度ヲ否認スルコトヲ
  日的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ情
  ヲ知リテ結社ニ加入シタル者若ハ結社
  ノ目的遂行ノ爲ニスル行爲ヲ爲シタル
  者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁鋼ニ處ス
  第九條前條ノ目的ヲ以テ其ノ目的タル
  事項ノ實行ニ關シ協議ヲ爲シ又ハ其ノ
  目的タル事項ノ實行ヲ煽動シタル者ハ
  )五年以下ノ懲役又ハ禁鋼ニ處ス
  第十條第八條ノ目的ヲ以テ騒擾、暴行
  其ノ他生命、身體又ハ財產ニ害ヲ加フ
  ベキ犯罪ヲ煽動シタル者ハ七年以下ノ
  懲役又ハ禁錮ニ處ス
  第十一條前三條ノ罪ヲ犯サシムルコト
  ヲ目的トシテ金品ヲ供與シ若ハ其ノ他
  ノ方法ヲ以テ便宜ヲ與ヘタル者又ハ情
  ヲ知リテ供與若ハ便宜ヲ受ケタル者ハ
  三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
  第十二條第三條、第四條及第八條ノ未
  遂罪ハ之ヲ罰ス
  第十三條本章ノ罪ヲ犯シタル者自首シ
  タルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除ス
  第三章刑事手續
  第十四條第三條、第四條及第八條ノ罪
  ニ該ル被疑事件ニ付被疑者左ノ各號ノ
  ニ該當スル場合ニ於テ急速ヲ要シ判
  事ノ勾引狀ヲ求ムルコト能ハザルトキ
  ハ地方裁判所ノ檢事ハ被疑者ヲ勾引ス
  ルコトヲ得
  被疑者定リタル住居ヲ有セザルト
  キ
  二被疑者罪證ヲ湮滅スル虞アルトキ
  三被疑者逃亡シタルトキ又ハ逃亡ス
  ル虞アルトキ
  四被疑者變名又ハ僞名ヲ使用スル疑
  アルトキ
  第十五條前條ノ規定ニ依リ勾引シタル
  被疑者ハ指定ノ場所ニ引致シタル時ヨ
  リ四十八時間內ニ之ヲ訳問スベシ其ノ
  時間內ニ勾留狀ヲ發セザルトキハ被疑
  者ヲ釋放スベシ
  第十六條第十四條ノ規定ニ依リ被疑者
  ヲ勾引スルコトヲ得ベキ原由アル場合
  ニ於テ急速ヲ要シ判事ノ勾留狀ヲ求ム
  ルコト能ハザルトキハ地方裁判所ノ檢
  事ハ之ヲ勾留スルコトヲ得
  被疑者ノ勾留ハ前條ノ規定ニ依リ被疑
  者ヲ訊問シタル後ニ非ザレバ之ヲ爲ス
  コトヲ得ズ但シ被疑者逃亡シタル場合
  ハ此ノ限ニ在ラズ
  第十七條前條ノ規定ニ依リ勾留シタル
  被疑者ハ檢事特ニ必要アリト思料スル
  場合ニ限リ之ヲ訊問スルコトヲ得
  第十八條勾留ノ期間ハ二月トス特ニ繼
  續ノ必要アル場合ニ於テハ一囘限之ヲ
  更新スルコトヲ得
  第十九條勾留ノ原由消滅シ其ノ他勾留
  ヲ繼續スルノ必要ナシト思料スルトキ
  ハ速ニ被疑者ヲ釋放スベシ
  第二十條刑事訴訟法中被〓人ノ勾引及
  勾留ニ關スル規定ハ別段ノ規定アル場
  合ヲ除クノ外本法ノ勾引及勾留ニ付之
  ヲ準用ス但シ保釋、責付及執行停止ニ
  關スル規定ハ此ノ限ニ在ラズ
  第二十一條本法ノ罪ヲ犯シタル者ニ對
  スル被〓事件公判ニ付セラレタル場合
  ニ於テ檢事必要アリト認ムルトキハ事
  件ノ繋屬スル裁判所及移轉先裁判所ニ
  共通スル直近上級裁判所ニ管轄移轉ノ
  請求ヲ爲スコトヲ得但シ第一囘公判期
  日ノ指定アリタル後ハ此ノ限ニ在ラズ
  前項ノ請求アリタルトキハ決定アル迄
  訴訟手續ヲ停止スベシ
  第四章保護觀察
  第二十二條本法ノ罪ヲ犯シタル者ニ對
  シ刑ノ執行猶豫ノ言渡アリタル場合又
  ハ其ノ性格、年齡及境遇竝ニ犯罪ノ情
  狀及犯罪後ノ情況ニ因リ訴追ヲ必要ト
  セザルガ爲公訴ヲ提起セザル場合ニ於
  テ檢事必要アリト認ムルトキハ本人ヲ
  保護觀察ニ付スルコトヲ得本法ノ罪ヲ
  犯シ刑ニ處セラレタル者其ノ執行ヲ終
  リ又ハ假出獄ヲ許サレタル場合ニ於テ
  檢事必要アリト認ムルトキ亦同ジ
  第二十三條保護觀察ハ本人ヲ司法保護
  委員ノ觀察ニ付シ、保護者ニ引渡シ又
  ハ寺院、〓會、保護團體、病院若ハ適
  當ナル者ニ委託若ハ送致シテ之ヲ爲ス
  第二十四條保護觀察ヲ行フニハ本人ノ
  更ニ罪ヲ犯スノ危險ヲ防止シ且本人ヲ
  シテ正業ニ從事セシムルコトニ留意ス
  ベシ
  第二十五條司法保護委員及保護觀察ニ
  關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定
  ム
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前從前ノ規定ニ定メタル
  罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適用ス但シ改正
  規定ニ定ムル刑ガ從前ノ規定ニ定メタル
  刑ヨリ重キトキハ從前ノ規定ニ定メタル
  刑ニ依リ處斷ス
  本法中地方裁判所トアルハ朝鮮ニ於テハ
  地方法院トス
  不法團結等處罰ニ關スル法律案
  第一條人ノ生命ヲ害シ又ハ人ノ身體ニ
  傷害ヲ加ヘンガ爲相團結シテ其ノ實行
  ノ豫備ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲役
  又ハ禁錮ニ處ス
  治安ヲ紊ス目的ヲ以テ前項ノ罪ヲ犯シ
  タル者ハ七年以下ノ懲役又ハ禁鋼ニ處
  ス
  第二條前條第二項ノ目的ヲ以テ人ノ生
  命ヲ害シ又ハ人ノ身體ニ傷害ヲ加フル
  犯罪ヲ煽動シタル者ハ三年以下ノ懲役
  又ハ禁錮ニ處ス
  第三條前二條ノ罪ヲ犯サシムルコトヲ
  目的トシテ金品ヲ供與シ若ハ其ノ他ノ
  方法ヲ以テ便宜ヲ與ヘタル者又ハ情ヲ
  知リテ供與若ハ便宜ヲ受ケタル者ハ三
  年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
  第四條本法ノ罪ヲ犯シタル者自首シタ
  ルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除ス
  第五條本法ハ何人ヲ問ハズ帝國臣民ノ
  生命ヲ害シ又ハ其ノ身體ニ傷害ヲ加ヘ
  ンガ爲本法施行地域外ニ於テ罪ヲ犯シ
  タル者ニ亦之ヲ適用ス
  〔國務大臣小原直君登壇〕
  〔「內務大臣ガ居リマセヌ」ト呼フ者ア
  リ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=51

  ---

• 052・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　內務大臣ハ今迎ヘニ
  ヤリマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=52

  ---

• 053・小原直

  ○國務大臣(小原直君)　只今上程ニ相成リ
  マシタ治安維持法改正法律案及不法團結等
  處罰ニ關スル法律案ヲ提出スルニ至リマシ
  タ理由ヲ御說明申上ゲタイト存ジマス、先ヅ
  治安維持法改正法律案ニ付テ申上ゲマス
  御承知ノ通リ、治安維持法違反事件ニ付
  キマシテハ、政府ハ昭和三年以來銳意是ガ
  檢擧ヲ續行致シマシタニモ拘ラズ、共產主
  義者ノ運動ハ實ニ執拗ヲ極メマシテ、幾度
  カノ檢擧ニ依リ、其結社ノ組織ガ潰滅ニ至
  リマシタニモ拘ラズ、更ニ其再建ヲ企テツ
  ツアルノデアリマシテ、今日ニ至リマシテ
  モ、尙ホ之ヲ剿滅スルコトノ出來ナイ狀況
  ニアリマスコトハ、洵ニ遺憾ノ次第デアリ
  マスル、飜ッテ我ガ國情ヲ考ヘマスルニ、今
  ヤ內外實ニ重大ナル時局ニ際會シテ居ルノ
  デアリマス、隨ヒマシテ此際是等不逞兇惡
  ノ思想運動ヲ根絕致シマスルコトハ、現下
  ノ急務デアルト信ズルノデアリマス、而シ
  テ是ガ對策ト致シマシテハ、勿論〓育其他
  ノ方面ニ於ケル、新タナル施設計畫ヲ必要
  ト致スノデアリマシテ、啻ニ刑罰ノミヲ以
  テ是ガ根絕ヲ期スルコトハ、至難ノ業デア
  リマスルガ、苟モ國體ヲ變革シ、勞農階級
  ノ獨裁政治ヲ企畫スルガ如キ、兇惡極リナ
  キ思想運動者ガ、潜行的ニ活躍スル今日ニ
  アリマシテハ、先ヅ之ニ對シテ徹底的ニ彈
  壓ヲ加ヘ、彼等ヲシテ蠢動ノ餘地ナカラシ
  メナケレバナラヌト思フノデアリマス、然
  ルニ現行治安維持法ハ、其施行以來ノ實績
  ニ徵シマスルニ、如上ノ目的ヲ達スル上ニ
  於キマシテ、規定ニ不備ノ點ガ少カラズ
  存スルノデアリマス、殊ニ共產黨ノ所謂外
  郭團體ニ對スル取締ノ上ニ、多大ノ缺陷ア
  ルコトヲ發見シタノデアリマス、曩ニモ申
  シマシタ如ク、共產主義者ガ幾度カ黨ノ再
  建運動ヲ爲スニ至リマシタノモ、全ク是等
  外郭團體ガ存在致シテ居リマシテ、陰ニ陽
  ニ活躍致シタ爲デアリマス、隨テ政府ハ是
  等ノ者ニ對シ、特別ノ取締規定ヲ設クルノ
  必要ヲ認メタ次第デアリマス、次ニ治安維
  持法違反事件ハ、御承知ノ如ク組織的デア
  リマシテ、且ツ大衆的ノ犯罪デアリマス、此
  故ニ現行刑事訴訟法ニ依ル搜査手續ノ豫想
  セザリシ、犯罪現象ヲ呈シテ居ルノデアリ
  マスルカラ、其檢擧ヲ爲スニ當リマシテハ、
  手續上ノ特例ヲ設クルノ必要ヲ認メタノデ
  アリマス、隨ヒマシテ改正案ニ於キマシテ
  ハ、罪ト刑ヲ定ムル實體法ノ規定ノ外ニ、
  手續法規ヲモ之ニ加ヘタノデアリマス、更
  ニ犯罪者ノ實情ニ鑑ミマシテ、犯罪ノ豫防
  ヲ全カラシメンガ爲ニ、保護觀察ノ制度ヲ
  創設致シタ次第デアリマス、更ニ本改正案
  ノ主要ノ事項ニ付キマシテ、少シク具體的
  ニ御說明申上ゲタイト存ジマス、改正ノ第
  一、國體ヲ變革スルコトヲ目的トスル犯
  罪ト、私有財產制度ヲ否認スルコトヲ目的
  トスル犯罪トノ規定ヲ、全ク別條ニ規定致
  シタコトデアリマス、第二ハ、所謂外郭團
  體ニ對スル處罰規定ヲ設ケタコトデアリマ
  ス、第三ハ、國體變革ニ關シ宣傳行爲ヲ處
  罰スル規定ヲ設ケタコトデアリマス、第四
  ハ、本法ノ第三條、第四條及第八條ノ犯罪
  ニ限リマシテ、是ハ國體ノ變革及私有財產
  制度否認ノ爲ノ結社罪デアリマスガ、是等
  ノ罪ニ付キマシテハ、特別ノ場合ニ於キマ
  シテ、地方裁判所檢事ガ被疑者ニ對シテ勾
  引狀、勾留狀ヲ發シ得ベキ規定ヲ設ケタコ
  トデアリマス、次ニ本法ノ罪ヲ犯シマシタ
  被〓事件ノ第一審公判ノ審理ニ當リマシ
  テ、必要アル場合ニ於キマシテハ、管轄ヲ移
  轉スルコトノ出來ル規定ヲ設ケタコトデア
  リマス、第五ハ、檢事ガ不起訴ノ處分ヲ致シ
  マシタ者、又ハ刑ノ執行等ヲ受ケテ釋放セ
  ラレマシタ者ニ對シマシテ、本人ヲ保護觀察
  ニ付スル規定ヲ設ケタコト等デアリマス、詳細
  ハ委員會ニ於キマシテ御說明申上ゲル機會ガ
  アラウト思フノデアリマス
  次ニ不法團結等處罰ニ關スル法律案ニ付
  テ御說明申上ゲマス、今日內外多事、國民
  ガ協力一致以テ國運ノ進展ニ努力シナケレ
  バナラヌ時ニ當リマシテ、社會ノ不安ヲ一
  掃シ、人心ノ動搖ヲ防ヂ、國民ヲシテ各〓其
  堵ニ安ンゼシメマシテ、國內ノ秩序ヲ保持
  スルコトハ、最モ必要ナル事柄デアルト確
  信ヲ致スノデアリマス、然ルニ最近相團結
  シテ人ノ生命ヲ奪ヒ、身體ニ傷害ヲ加ヘ、
  又ハ或ル一定ノ目的ヲ達セントスルコトノ
  急ナル餘リ、兇暴ナル直接行動ヲ敢テ致シ
  マシテ、治安ヲ紊スガ如キ事案ノ起リマス
  コトハ、洵ニ寒心ニ堪ヘナイ次第デアリマ
  ス、斯ノ如キ事案ノ起リマスコトハ、獨リ
  法律ノ力ノミヲ以テ能ク之ヲ防遏スルモノ
  デナイコトハ申ス迄モナイコトデアリマス
  ガ、近時時局ノ影響ヲ受ケ、焦燥ノ氣ニ驅
  ラレル者ガ、往々ニシテ法ヲ輕ンジ、暴力
  ニ訴ヘントスル傾向ノ存スルコトハ、深ク
  遺憾トスル所デアリマス、殊ニ相團結シテ
  人ノ生命身體ニ害ヲ加ヘントスルガ如キ
  ハ、人心ノ安定ヲ圖リマス上カラ見マシテ
  モ、特ニ取締ヲ嚴重ニシ、遺漏ナキヲ期ス
  ル必要ガアルト存ズルノデアリマス、本案
  ハ此必要ニ應ゼンガ爲メ、現行法ノ是等事
  犯ニ對スル規定ヲ整備致シマシテ、取締上
  ノ完璧ヲ期センガ爲ニ外ナラヌノデアリ
  やく、何卒兩案共愼重御審議ノ上、御協贊
  アランコトヲ切望致ス次第デアリマス(税〓
  手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=53

  ---

• 054・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　質疑ノ通告ガアリマ
  ス、通〓順ニ從ヒ順次之ヲ許シマス-立
  川平君
  〔立川平君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=54

  ---

• 055・立川平

  ○立川平君　私ハ只今上程セラレマシタ治
  安維持法改正法律案、竝不法團結等處罰ニ
  關スル法律案ニ付キマシテ、簡單ニ一一二政
  府ノ所見ヲ質シ、司法、內務兩大臣ノ御答
  辯ヲ得タイト存ジマス、治安維持法改正法
  律案ハ、昨年第六十五議會ニ提出セラレマ
  シテ、最モ愼重ニ審議ヲ重ネラレタノデア
  リマス、而シテ今回御提出ニ相成リマシタ
  法文ヲ見マスルト、其大綱ニ於キマシテ、
  略ミ昨年吾々ガ修正致シマシタ通リニ相成ッ
  テ居ルノデアリマス、卽チ本改正案ノ原案
  ハ、旣ニ一年前カラ用意サレテアッタト申
  シテモ宜イノデアリマス、又不法團結等處
  罰ニ關スル法律案ニ付キマシテハ、昨年治
  安維持法ノ改正案ヲ議スルニ當リマシテ、
  吾々ガ現時ノ世相ニ鑑ミ、政府ハ宜シク朝
  憲ヲ紊亂セントスル暴力行爲ヲ嚴重ニ取締
  リ、且ツ之ニ關スル適當ノ制裁法規ヲ立案
  シテ、速ニ帝國議會ニ提出スベシト云フ希
  望條項ヲ附シマシタ所、政府ハ當時之ニ對
  シテ同意ヲ表シテ居ッタノデアリマス、卽
  チ今囘ノ此提案ハ、此希望條項ノ趣旨ニ
  依ッテナサレクモノト思フノデアリマス、
  隨テ此不法團結等處罰ニ關スル法律案モ、
  亦今日俄ニ其立法ニ迫ラレタ譯デハナイノ
  デアリマス、卽チ此二法律案ハ、共ニ第六
  十五議會ノ當時カラ、過去一年間宿題トシ
  テ課セラレテ居ッタ問題デアリマシテ、而
  モ其答案ハ旣ニ出來上ッテ居ルカ、或ハ又
  出來上ッテ居ラナケレバナラナカッタ筋合ノ
  モノデアルノデアリマス、然ルニ今議會ノ
  會期ハ、旣ニ餘ス所僅ニ二十日足ラズトナ
  リマシテ、其上吾々ノ眼前ニハ幾多ノ重要
  法律案、或ハ追加豫算案ナドガ山積シテ居
  リマスル今日ニ至リマスル迄、政府ハ何ガ
  故ニ之ヲ提出スルノ運ビニナラナカッタノ
  デアルカ、豫算ノ關係モ伴ハナイ、又民間
  ノ諸團體ニ答申ナドヲ求メテ居ラナカッタ
  本法律案ヲ、斯ノ如ク遲延セシメマシタノ
  ハ、全ク政府ノ怠慢以外ニ何物モナイト思
  フノデアリマス(拍手)此點ニ付テ若シ政府
  ニ辯解ノ辭ガアリマスルナラバ、是ハ總理
  大臣ヨリ承リタイト存ジマス、而シテ此間
  ノ消息ヲ私カニ伺ヒマスルニ、不法團結等
  處罰ニ關スル法律案ニ付テ、司法、內務兩省
  ノ間ニ意見ノ扞格ガアリマシテ、其事ガ此
  法案提出ノ遲延ノ原因ノ一ツデアッタト云
  フヤウニ仄聞スルノデアリマス、內務當局
  者ハ本來本法ノ制定ニ乘リ氣ガナカッタ、衷
  心ヨリ此法律ニ對シテハ贊意ヲ表シタモノ
  デナクテ、唯司法省ノ御付合ヲシタニ過ギ
  ナイト云フヤウニ見ラレル節ガアルノデア
  リマスガ、本法ニ對スル、卽チ不法團結等處
  罰ニ關スル法律ニ對スル、內務省ノ信念ハ
  如何デアルカ、內務大臣ノ御答辯ヲ煩シタ
  イト思ヒマス
  第六十五議會ニ於テ治安維持法ノ改正ヲ
  議スルニ當リマシテ、同法ノ中ニ、所謂右
  翼取締ノ條項ヲ插入セントスル議論ガ相當
  アッタノデアリマス、併ナガラ吾々ハソレニ
  同意ヲ致シ兼ネタノデアリマスルガ、ソレ
  ハ一ツハ、法律ノ體系ノ上ヨリ致シマシテ、
  共產黨ヲ對象トスル、共產思想ノ撲滅ヲ目
  的トシテ制定サレマシタ所ノ治安維持法ノ
  中ニ、一般的ノ暴力行爲ニ對スル取締條項
  ヲ混合スルト云フコトガ、法律ノ體系ノ上
  カラシテ相當デハナイト考ヘマシタノト、
  今一ツハ、立憲治下ニ於キマシテハ、原則
  トシテ常ニ出來ルダケ國民ヲ自由ナ立場ニ
  置イテ、思索シ、行動スルコトヲ許サナケ
  レバナラナイ、治安維持法ノ如キハ、全ク特
  殊ノ非常立法デアルノデアリマシテ、斯ノ
  如キモノハ少シデモ擴大スルコトヲ爲スベ
  キモノデナイト思ッタカラデアルノデアリ
  マス、併シ現下ノ我國ノ實情ヲ直視致シマ
  スル時ニ於テ、左樣ナル原則ヲ固持シテ、
  之ヲ漫然看過スベキ場合デハアリマセヌ、
  一面ニ於テ、共產黨ノ一部ハ尙ホ地下ニ潛
  入シテ蠢動ヲ致シテ居リマス、又一面ニ於
  テハ、徒ニ靑年血氣ニ逸ル者ガ、兔モスレ
  バ社會ノ秩序ヲ紊スノ行爲ニ出マス、殊
  又見遁スコトノ出來ナイノハ、國家主義ノ
  美名ノ下ニ愛國ノ假面ヲ冠リ、濫ニ驕激ナ
  ル言辭ヲ弄シテ、不穩ノ行動ヲ恣ニセント
  スル者ガ輩出シテ、社會各方面ノ不安ヲ釀
  成シテ居ル現狀デアリマシテ、此現狀ハ吾
  吾ニ取ッテ甚シダ不愉快、憂欝ナル現狀ト申
  サナケレバナラナイノデアリマス(拍手)
  此狀況ニ照シテ考ヘマスルノニ、政府ハ
  治安維持法ノ改正ト、不法團結等處罰ニ關
  スル法律ト、是等ト竝行シテ、尙ホ出版物
  ヲ取締ノ改正スル必要ガアルト思ヒマス、
  是モ昨年來ノ懸案デアリマシテ、政府ニハ
  其用意ガアルト伺ヒマスルケレドモ、果シ
  テ如何デアルカ、此點ニ付テ政府ノ言明ヲ
  得タイト存ジマス、言論文章ハ文明ノ利器
  デアルコトハ申ス迄モアリマセヌガ、其用
  ヒ方ニ依リマシテハ兇器ト變ジマス、之ヲ
  惡用スレバ、白刄ヲ擬シテ人ヲ殺傷スルヨ
  リモ、寧ロ其害惡恐ルベキモノガアルノデ
  アリマス、(「ヒヤ〓〓」)就中惡性出版物、
  殊ニ所謂怪文書程、人ヲ害シ世ヲ毒スルモ
  ノハアリマセヌ(拍手)〓論ハ自ラ隱シテ之
  ヲ爲スコトガ出來マセヌケレドモ、文書ニ
  於キマシテハ匿名シテ、自ラ煙幕ノ裡ニ隱
  レテ人ヲ狙擊スルモノガアルノデアリマス、
  斯ノ如キハ一般道德ノ上ヨリ致シマスルモ、
  殊ニ又我ガ武士道精神ヨリ致シマシテ、卑
  怯此上モナキ、罪重罰ニ値スルモノト信ズ
  ルノデアリマス、政府ノ所見如何デアリマ
  スカ、司法、內務兩大臣ノ御所見ヲ伺ヒマ
  ス
  斯ノ如ク今日ノ社會狀態ヨリ見マシテ、
  吾々ハ治安維持ノ爲ニ、新ナル色々ノ取締
  法規ノ制定デアルトカ、或ハ又旣存法律ノ
  改正ナドヲ要求スルノ、已ムナキ場合ニ迫
  マラレテ居ルノデアリマスルガ、併シ本來
  カラ申シマスルト云フト、取締官憲ノ方デ
  ハ、取締法令ガ網ノヤウニ張リ詰メラレテ
  居ルト云フコトハ、便利且ツ重寶ナコトニ
  違ヒアリマセヌケレドモ、取締マラレル
  吾々國民ノ側カラ見マスルナラバ、刑罰法
  規ノ氾濫ハ決シテ歡迎スベキコトデハナイ
  ノデアリマス、殊ニ官憲ガ實際ニ於テ、如何
  ニ是等ノ法令ヲ應用スルカト云フ點ニ付テ
  ハ、法ガ多ケレバ多イ程、法ガ嚴ナレバ嚴ナル
  程吾々ハ寧ロ多大ナル不安ヲ感ゼザルヲ得ナ
  イモノガアルノデアリマス、卽チ從來官憲
  ノヤリ方ヲ見マシテモ、果シテ公平ニ又適
  正ニ運用セラレタカドウカ、聊カ疑ナキヲ
  得マセヌ、私ハ今日ノ官憲ガ動モスレバ是
  等ノ取締法令ノ運用ニ當リマシテ、强者ニ
  怯懦デアッテ、弱者ニ酷デアッタト云フコト
  ノ事實ヲ看過スコトハ出來マセヌ、强者ト
  ハ何デアルカ、時勢ノ潮流ニ乘ル者ヲ言フ
  ノデアリマス、弱者トハ何デアルカ、時勢
  ニ逆行スル者ヲ言フノデアリマス、併ナガ
  ラ時勢ニ投スル者ガ必シモ正シイトハ言ヘ
  マセヌ、流行ニ逆行スル者必シモ誤ッテ居ル
  トハ申セナイノデアリマス、宜シク政府ハ
  嚴トシテ大所ヨリ達觀シテ、苟モ流行ニ迎
  合シ、俗論ニ阿諛セントスル如キ態度ヲ、
  斷ジテ執ルベキデハナイト信ズルノデアリ
  マス(拍手)此際本法ノ如キ取締法規ノ運用
  ニ付テ、總理、司法、內務ノ各大臣ヨリ、
  明確ナル方針ヲ表示セラルヽコトガ、必要
  デアラウト存ズルノデアリマス
  最後ニ私ハ治安維持法ニ付キマシテ司法當
  局ノ御所見ヲ伺ヒタイ一點ガアリマス、卽チ
  本改正案ヲ拜見致シマスルト、昨年御提出ニ
  ナッタモノト大體同ジデアリマスケレドモ、最
  モ重大ナル相違ハ豫防拘禁ト云フ條項ヲ削
  除シタ點デアルノデアリマス、豫防拘禁ハ、
  刑ノ滿了シタ後デ、裁判ノ手續ヲ經ズシテ、
  尙ホ身體ヲ拘束スルト云フ制度デアルノデ
  アリマシテ、昨年委員會ニ於キマシテモ、委
  員ノ多數ノ諸君ハ之ニ反對ノ意見ヲ持タレ
  テ居ッタノデアリマス、併シ司法當局ハ極力
  之ヲ維持センコトニ努メ、吾々ハ此治安維
  持法ナルモノハ、所謂非常立法デアリマシ
  テ、殊ニ豫防拘禁ニ付セラレル者ハ、本法
  第三條、第四條、卽チ我ガ國體ヲ否認セン
  トスル大逆不逞ノ徒輩ニ限ラレルト云フ點
  デアルコトニ鑑ミマシテ、遂ニ政府ニ向ッテ
  同意ヲ致シタノデアリマス、而シテ此改正
  案ガ後ニ兩院協議會ニ付セラレマシタ時ニ
  於テモ、是ハ最モ重大ナル爭點デアッタノデ
  アリマス、司法當局ハ其際議場ニ於ケル發
  言デハナカッタノデアリマスガ、此豫防拘禁
  ノ條項ヲ削除サレル位ナラバ、寧ロ本改正
  案ノ不成立ヲ希望スルトマデ極言致シタノ
  デアリマス、斯ノ如ク熱心ニ、執拗ニ、固
  執セラレタル此條項ヲ、本年ニ至リマシテ
  卒然トシテ之ヲ撤囘セラレマシタ司法當局
  ノ眞意ヲ伺ヒタイ、最近某事件ニ關シテ人
  權蹂躙ノ問題ガ起リマシテ、今日院ノ內外
  ニ喧シク論議セラレテ居リマス、而シテ有
  體ニ申シマスレバ、是マデ警察ヤ檢事局ニ
  於テ拷問、人權蹂躙ノ事實ガアッタコトハ、
  當局ガ如何ニ强辯シテ之ヲ否認シ、糊塗セ
  ラレマシテモ、世人ハ之ヲ信ジマセヌ(拍
  手)就中治安維持法關係ノ取調ニ於キマシ
  テハ、隨分忌ハシイ噂モ耳ニシテ居ッタノ
  デアリマス、世間ニハ人權尊重ト云フコト
  ニ付テ、餘リ關心ヲ有タナイ人ハアルカモ
  知レマセヌ、又犯罪ノ取調ハ、多少人權蹂
  躪デモシナケレバ出來ナイダラウト思ッテ
  居ル人モアルカモ知レマセヌ、或ハ又罪ヲ
  犯シタリ、少クトモ犯罪ノ嫌疑ヲ受ケタリ
  シタ以上ハ、多少ノ人權蹂躪ヲサレテモ仕
  方ガナイヂヤナイカト云フヤウナコトヲ思フ
  人モアルカモ知レマセヌ、併シ警察、檢事
  局ニ人權蹂躪ノ事實ナシト考ヘル人ハ、恐
  ラク天下一人モナイデアリマセウ、法治國
  ニ於キマシテハ、犯罪ノ取調ニハ自ラ法則
  ガアリマス、刑罰ハ自ラ法律ニ定ッテ居リマ
  ス、其犯狀ガ如何ニ憎ムベキモノガアリマ
  シテモ、之ヲ以テ人權ヲ蹂躙スル正當ナル
  理由トハナラナイノデアリマス、思フニ司
  法當局モ亦之ヲ悟ッタノデハアリマセヌカ、
  豫防拘禁ト云フヤウナ制度ヲ設ケテ置ケ
  バ、立法者ノ豫期シナカッタ人權蹂躪ガ起
  ルデアラウト云フコトヲ悟ッテ、今囘之ヲ削
  除サレタノデハアリマセヌカ、若シ然リト
  致シマスナラバ、甚ダ悅バシイコトデアリ
  マシテ、願クハ左樣ナル御考ヲ他ノ幾多ノ
  刑罰法令ノ立法、及運用ニモ思及ボシテ戴
  キタイノデアリマス、重ネテ申上ゲマス、
  私ハ豫防拘禁ノ削除サレタコトニ、決シテ
  異論ヲ挾ム意味デハアリマセヌ、唯司法當
  局ノ豹變ノ餘リニ甚シイコトニ不審ヲ持チ
  マシタガ故ニ、敢テ此質疑ヲナシテ司法大
  臣ノ所見ヲ伺ッタ次第デアリマス、以上申上
  ゲタ諸點ニ付テ、ソレ〓〓各大臣ヨリ御答
  辯ヲ得タイト存ジマス(拍手)
  〔國務大臣小原直君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=55

  ---

• 056・小原直

  ○國務大臣(小原直君)　本日提案ニナリマ
  シタ治安維持法改正法律案、竝ニ不法團結
  等處罰ニ關スル法律案ノ二案ノ提案ノ遲レ
  マシタニ付テ、立川君ヨリ特ニ總理大臣ニ
  御質疑ニナッタノデアリマスガ、主管大臣タ
  ル私カラ御答ヲ申上ゲタイト思ヒマス、御
  述ニナリマシタヤウニ、治安維持法改正法
  律案ハ、第六十五議會ニ提案セラレマシ
  テ、結局審議未了ニ終ッタノデアリマス、此
  度提案致シマシタ法律案ハ、昨年ノ案ノ中
  カラ豫防拘禁ニ關スル制度ヲ除キマシテ、
  多少ノ字句ノ修正ヲ致シタ儘、提案スルニ
  至ッタノデアリマス、ソレ故ニ此法案ノ準
  備ニ付キマシテハ、疾クニ出來テ居ルベキ
  筈デアルト云フ御說ハ御尤デアリマス、唯
  此法律案二ツノ提案ガ遲レマシタノハ、昨
  年ノ第六十五議會ノ際ノ衆議院竝ニ貴族
  院ニ於ケル御論議ニ鑑ミマシテ、殊ニ又當
  今ノ時勢ニ鑑ミマシテ、ドウシテモ此不法
  團結等處罰ニ關スル法律ヲ制定致シテ、同
  時ニ提案スルコトガ、最モ時宜ヲ得タモノ
  ト考ヘタノデアリマス、ソレ故ニ不法團結
  等處罰ニ關スル法律案ノ制定ニ當リマシ
  テ、内務省當局トモ協議ヲ致シテ居ッタノ
  デアリマスルガ、色々ノ點ニ於テ所見ノ異
  ルモノモアリマシテ、彼此レ論議ヲ盡スニ
  暇取ッテ、漸ク兩省ノ協議ガ出來テ、成案ヲ
  得マシテ、玆ニ提案ヲスルニ至ッタノデア
  リマス、其爲ニ提案ガ遲レマシテ、自然御
  審議ニ御差支ノ生ズルコトニ至リマシタ段
  ハ、當局トシテ洵ニ申譯ノナイコトニ考ヘ
  テ居ル次第デアリマス
  第二ニ、玆ニ提案シタ二ツノ法律案ノ外
  ニ、更ニ所謂怪文書等ノ出版物ヲ取締ル法
  律ヲ提出シテ、現下ノ社會不安ヲ除クコト
  ガ必要デハナイカト云フ御話デアリマシ
  タ、此點ニ付キマシテモ、司法省ト內務省
  ト協議ヲ致シテ居ルノデアリマシテ、何カ
  是等ニ關スル適當ノ法案ヲ作リマシタ上、
  若シ成案ヲ得マシタナラバ、速ニ此議會
  ニ提案ヲ致シタイト思ッテ、目下準備中デア
  リマス、次ニ御尋ニナリマシタ刑罰法ノ運
  用ニ付テハ、取締ラルヽ者ノ不安ヲ考ヘ
  テ、成ベク其運用ニ付テ愼重ニ注意ヲシナ
  ケレバナラヌデハナイカト云フ御尋デアリ
  ママ、洵ニ御尤ノコトデアルノデアリマシ
  テ、取締法殊ニ此刑罰法規ノ運用ヲ誤リマ
  シタナラバ、之ヲ受クル者ノ身體、自山、
  財產等ニ對スル不安ガ、著シイコトデアル
  ノデアリマスカラ、法ヲ執ル者ニ於キマシ
  テハ、苟モ誤リナキコトヲ期サナケレバナ
  ラヌト思フノデアリマス、政府ニ於キマ
  シテハ是等ノ點ニ付テ、常ニ深甚ノ注意
  ヲ致シテ居ルノデアリマスルガ、今後ト
  雖モ此度改正法案ノ制定ヲ得マシタ後ニ
  於キマシテハ、其運用ニ付テハ出來ルダ
  ケ注意ヲ致シマシテ、社會ノ不安ヲ除クコ
  トハ勿論必要デアリマスルガ、是ガ爲ニ取
  締ヲ受クル者ノ不安ヲ增大スルヤウナコト
  ノナイヤウニ、十分ナル注意ヲ致ス覺悟デ
  居ルノデアリマス、次ニ御尋ニナリマシタ
  點ハ、治安維持法改正法律案ノ中カラ、豫
  防拘禁ノ制度ヲ取除イタコトハ、頗ル贊成
  ヲスルノデアルガ、昨年之ヲ提案ヲシナガ
  ラ、今年此法案ノ中カラ此制度ヲ取除クト
  云フコトノ豹變振リハ、甚ダヲカシイデハ
  ナイカ、何故ニ急ニ斯ノ如キモノヲ取除イ
  タノデアルカト云フコトノ御尋デアリマ
  ス、治安維持法違反事件ノ被〓人、犯罪人
  等ヲ處罰致シマシテ、其改過遷善ヲ圖リマ
  スル爲ニハ、一面ニ於テ相當ノ刑期間之ヲ
  拘禁シテ、其思想ノ根本カラ正シテ直シテ
  行カナケレバナラヌノデアリマス、然ルニ
  こ偶〓刑ヲ受ケマシタ者ガ、刑務所ニ入ッテ居
  リマスル間ニ、當局トシテ色々手段ヲ盡シ
  テ、其改過遷善ニ努メマシテモ、尙ホ十分
  ナル效果ヲ擧ゲズシテ、遂ニ刑期ヲ終ッテ
  刑務所カラ出ナケレバナラヌヤウナ狀態ニ
  ナル者ガ若干アルノデアリマス、是等ノ者
  ヲ其儘社會ニ出シマシテ、再ビ同一ノ犯罪
  ヲ樂返スヤウナコトガアリマシテハ、社會
  ニ流ス害毒ガ甚シイノデアリマスルカラ、
  ソコデ昨年提案致シマシタ際ニハ、斯樣ナ
  者ニ對シテハ所謂豫防拘禁ノ制度ヲ設ケ
  テ、二年內行政處分ヲ以テ之ヲ拘禁スルコ
  トガ必要デアラウト云フコトデ、案ヲ定メ
  タノデアリマス、然ルニ衆議院ニ於キマシ
  テハ結局御同意下スッテ、原案ノ儘通過致シ
  マシタガ、貴族院ニ於テ修正ヲセラレ、結
  局兩院協議會ニナッテ、案ガ不成立ニナッタ
  ノデアリマス、其際ニ於ケル貴衆兩院ノ御
  論ノ在ル所等ヲモ司法省トシテハ十分拜察
  ヲ致シマシテ、本年治安維持法改正案ヲ議
  スルニ當リマシテハ、此豫防拘禁ノ制度ハ、
  當時モ議論ノアリマシタ之ヲ行政ノ處分ヲ
  以テ致スコトハ、甚ダ宜シクナイコトデア
  ル、固ヨリ裁判所ガ裁判ニ依ッテ、改過遷善
  致サズシテ釋放セラルヽ者ニ對シテ、一定
  期間豫防拘禁ヲ言渡スノデアレバ、ソレハ
  差支ナイト思ヒマスルガ、裁判ニ非ズシテ、
  行政ノ處分デ左樣ノ人身ノ拘束ヲスルト云
  フコトハ、假令法律ニ規定ヲ致シテヤルコ
  トニ致シテモ、好マシクナイコトデアルト
  云フコトニ考ヘ及ボシマシテ、今囘ハ特ニ
  此制度ヲ止メテ、本案ノ如キ提案ヲ致シタ
  理由デアリマス、要スルニ行政處分等ニ依ッ
  テ斯樣ナ拘束ヲ致シマスルコトハ、御說ノ
  如ク或ハ若シ間違ガアッテモ相成ラヌコト
  デアリマスル、謂ハヾ人身ノ保障ヲ重ンジ
  テ、斯ノ如キ制度ハ若シ立テルナラ、後日
  ニ於テ適當ナ案ヲ具シテ立テタラ宜カラウ
  ト云フコトデ、一先ヅ是ハ提案ヲ見合シタ
  次第デアリマス、以上御質疑ノ次第ヲ御答
  辯申上ゲマス
  〔國務大臣後藤文夫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=56

  ---

• 057・後藤文夫

  ○國務大臣(後藤文夫君)　只今立川君カラ
  御尋ノ諸點ニ關シマシテハ、司法大臣カラ
  大要御述ガアリマシタノデ、私ハ簡單ニ御
  答ヲ申上ゲテ見タイト存ジマス、不法團結
  等處罰ニ關スル法律案ノ立案、審議ニ當リ
  マシテ、內務司法兩省ノ間ニ篤ト協議ヲ遂
  ゲタ經過ハゴザイマス、併ナガラ内務當局
  ニ於キマシテモ、今日ノ時勢ニ顧ミマシテ、
  司法大臣ガ提案ノ理由トシテ述ベラレマシ
  タ通リノ趣旨ヲ以チマシテ、此法案ノ提案
  ヲ必要ト考ヘタノデアリマス、警察ノ實際
  ノ力ノ適正ナル運用ト相俟チマシテ、社會
  ノ不安ヲ不法ニ脅カサルヽ事態ヲ豫防シ、又
  之ヲ出來得ルナラバ一掃ヲ致シマシテ、人心
  ノ安定ヲ得ルヤウニ努メタイト考ヘテ居ル
  ノデアリマス、次ニ出版物ノ中、殊ニ怪文
  書等ノ取締ニ關スル法律ノ立案ノコトニ付
  キマシテハ、只今司法大臣カラ御述ニナッタ
  通リデアリマス、折角色々ト攻究ヲ致シテ
  居リマス、内務、司法兩省ノ間ニモ協議ヲ致
  シテ居リマスルガ、何分ニモ出版法、刑法、
  刑事訴訟法等、各般ニ亙リマシテ、餘程立
  案ニハ困難ナ點ガ澤山アリマスル、只今マ
  ダ成案ヲ得ルト云フ運ビニ至ッテ居ラナイ
  ノデアリマス、尙ホ是等ノ出版法ノ中ニ付
  キマシテハ、現在ノ法規ニ於キマシテ、取
  締ガ相當ナ程度ニハ出來得ルコトニナッテ
  居リマスルケレドモ、實際ノ取締トシテハ、
  頗ル實情ニ於テハ困難ヲ感ズル點ガ多イコ
  トヲ遺憾ト存ジテ居リマス、是ハ單ニ法規
  ヲ立案スルコトニ依ッテノミ、十分ニ取締ガ
  出來ルト云フ譯ニハ參リ兼ネルト思ヒマ
  ス、矢張警察ノ本當ノ働キガ能ク運用サレ
  ルト云フコトガ必要デアリマス、今日ノ時
  勢ニ於キマシテ、色々ナ出版物ガ色々ナ方
  面カラ出テ參リマス、吾々トシテモソレ等
  ノ點ニ苦心ヲ重ネテ居ルヤウナ次第デアリ
  マーリ次ニ取締ノ法規ガ澤山出來ルコト
  ハ、一面ニハ取締ラレル者ニ、又色々不都
  合ナ迷惑ヲ感ジサセルコトガアル、之ニ對
  シテ十分ナ用意ガナケレバイカヌデハナイ
  カト云フコトニ付キマシテハ、只今司法大
  臣カラ御述ニナリマシタ通リデアリマシ
  テ、特ニ申上ゲルコトモナイト思ヒマス、
  尙ホ更ニ一面ニ於テハ取締ノ法規ヲ用フル
  ノニ、極メテ嚴正デ公平ニ、一方ニ偏スル
  所ナク、之ヲ公正ニ、而モ强ク用ヒテ行カ
  ナケレバナラヌデハナイカト云フ御尋デア
  リマシタ、私モ洵ニ左樣ニアラネバナラヌ
  ト考ヘマス、大要以上ヲ以テ御答ト致シマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=57

  ---

• 058・立川平

  ○立川平君　簡單デアリマスカラ、此席ヨ
  リ御許シヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=58

  ---

• 059・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=59

  ---

• 060・立川平

  ○立川平君　私ノ質疑ニ對シマシテ總理大
  臣ヨリ御答辯ノナカッタコトハ、甚ダ遺憾ト
  ハ思ヒマスルガ、其席ニ在ッテ御聽キ下サッ
  タノデアリマスカラ、私ガ質疑中ニ申上ゲ
  タ事柄ニ付テハ、將來十分御注意アランコ
  トヲ望ミマス、出版物ノ取締ニ付テ、現在
  法令ガ旣ニ不完全ナルコトヲ認メラレマシ
  タ以上ハ、速ニ立案シテ議會ニ提出セラレ
  ンコトヲ希望致シマシテ、以上ハ他日ノ機
  會ニ讓ッテ、私ノ質疑ハ是デ打切リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=60

  ---

• 061・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者三上英雄
  君
  〔三上英雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=61

  ---

• 062・三上英雄

  ○三上英雄君　玆ニ政府ガ治安維持法ノ根
  本的改正案ヲ提出シテ、萬國ニ卓越致シテ
  居リマスル我ガ國體ノ尊嚴ヲ、維持發揚ス
  ルコトニ萬違算ナキヲ期セントセラレルト
  云フコトハ、私ノ最モ贊意ヲ表スル所デア
  リマス、而シテ私ハ此機會ニ於テ、治安維
  持ノ重責ニ當ッテ居ラレル所ノ內務大臣、竝
  ニ總理大臣ニ御尋申シ、且ツ閣僚諸公ノ御
  賢慮ヲ煩サナケレバナラヌ問題ガアルノデ
  アリマス、私ハ個人ト致シマシテハ、洵
  御氣ノ毒ニ感ズルノデアリマスケレドモ、
  公義ハ私情ヲ沒ス、我ガ國家ノ大義ヲ正ス
  ガ爲ニハ、忌憚ナク御質問申上ゲルノ巳ム
  ナキヲ御諒承願ヒタイノデアリマス、尙ホ
  私ノ熱誠ノ迸ル所、又野人禮ニ嫻ハザルガ
  爲ニ、用語ニ於テ不穩ナルモノガアルヤモ
  知レマセヌカラ、左樣ナル場合ニ於テハ、
  讀ンデ取消訂正致スコトヲ豫メ御諒解ヲ願ッ
  テ置キタイノデアリマス、君子ハ其人ヲ以
  テ其言ヲ廢テズト申シマス、私ハ議員生活
  最モ淺キ一人デアリマスルケレドモ、忠誠
  ノ赤心ヲ以テ、曩ニ質問セラレタ方ノ後ヲ
  承ケテ、內相ニ御尋致シ、以テ治安維持ノ
  綺督者タル內相ガ、我ガ皇室ヲ尊崇シ、我
  ガ國體ヲ擁護スルノ範ヲ自ラ示サレルノ實
  ニ付テ、其御決意アリヤ否ヤト云フコトヲ
  御間ヒシナケレバナラヌノデアリマス
  偖テ治安維持法案ガ最初ニ本院ニ現ハレ、
  其協贊ヲ求メラレマシタル第五十囘ノ帝國
  議會ニ於テ、時ノ若槻内務大臣ハ其提案理
  由ト致シマシテ、無政府主義者、共產主義
  煮其他各種ノ社會運動ニシテ過激ナル思
  想ヲ有スル者等ガ、帝國ノ治安ヲ紊ルノ目
  的ヲ以テ、不穩ナル行動ニ出ヅルノ傾向益〓
  增加スル云々、本法案ノ內容ハ萬世一系ノ
  皇室ヲ奉體シテ居ル帝國ノ國體ヲ變革シ
  云々、我ガ國家組織ノ大綱ヲ破壞セントス
  ルガ如キヲ戒メ、又豫防セントスルノガ本
  案ノ目的デアルト說明セラレタノデアリマ
  ス、之ニ依ッテ見マスト、政府當局ガ我ガ榮
  譽アル國體ヲ擁護センガ爲ニ、斯ノ如キ非
  常立法ヲ爲シ、今又玆ニ是ノ目的完成ノ爲
  ニ此修正案ヲ出サレルニ付テハ、固ヨリ其
  效力ヲ現ハスノ決意ト用意トガナクテハナ
  ラヌト信ズルノデアリマス、然ルニ若シ國
  務大臣ガ自ラ當然責任ヲ執ルベキモノアル
  ニ拘ラズ、何等其途ニ出デズ、恬然之ヲ抛
  擲スルニ於テハ、其事自體ガ、一般國民ノ
  思想上甚シキ惡影響ヲ來シ、本法ニ依ッテ尊
  崇擁護セントスル皇室、國體ニ對シテモ、
  遺憾ナガラ影響ヲ來スコトハ必然デアルト
  言ハザルヲ得ヌノデアリマス(拍手)首相、
  內相ニシテ治安維持法ヲ改正シ、其目的逹
  成ニ付キ完璧ニ近カラシメントシマスナラ
  バ、本院ニ協贊ヲ求メラルヽ前ニ、先ヅ國
  務大臣ノ責任、皇室ニ對スル忠誠、國體尊
  重ノ至誠ヲ自ラ國民ニ實踐躬行シテ、範ヲ
  示サレルコトガ最先ノ急務デアルト信ズル
  ノデアリマス(拍手)
  私ハ論ヲ進ムル上ニ、先ヅ首相ニ御質間
  申上ゲタイト思フノデアリマス、本法ハ國
  體ノ變革ヲ處罰スルコトヲ重要ナル目的ト
  シテ居ルモノデアリマスガ、我ガ國體ガ金
  甌無缺ノモノデアッテ、魚嚴窮リナキモノ
  デアルコトハ、國民ノ何人モ疑ハナイ所デ
  アリマス、隨テ國體ニ付テ言議ヲ用フルコ
  トハ全ク私ノ本意トセザル所デアリマス、
  併ナガラ國民ノ一部ニ於キマシテ、遺憾ナ
  ガラ無政府主義、共產主義ヲ信ジテ、不逞
  ヲ爲ス者ガアル爲ニ、此治安維持法ヲ必要
  トセラレルニ至ッタ理由、竝ニ最近貴族院ニ
  於ケル議政壇上ニ於テ、畏クモ天皇ノ御本
  質ニ付テ彼此レノ說ガ行ハルヽノ已ムナキ
  ニ至ッタ所ノ現象、尙ホ現內閣ハ十大政綱中
  ニ、國體觀念ヲ明徵ナラシムル必要ガアル
  ト聲明セラレテ居ル點等ニ鑑ミマシテ、此
  際國體ノ本質ニ付テ首相ノ御信念ヲ疑ハネ
  バナラヌノデアリマス、首相ハ貴族院ニ於
  テ此點ニ付キ所信ヲ述ベラレテ居ルノデア
  リマスガ、國民代表ノ府タル本議場ニ於テ
  ハ、未ダ拜聽スルノ機會ガナカッタト存ジテ
  居リマスカラ、特ニ此點ニ付キマシテ、國
  民ニ對シ明確ニセラレ、其嚮フ所ヲ示サレ
  ンコトヲ熱望申上ゲル次第デアリマス、是
  ヨリ私ガ進ンデ首相、內相ニ問ハントスル
  問題ハ、昨年十一月群馬、栃木、埼玉三
  縣ニ跨ル陸軍特別大演習ガ無事ニ終了セ
  ラレタ後ニ於テ、地方行幸ノ御警衞上未曾
  有ノ大失態ヲ惹起シタル鹵簿誤導事件デ
  アリマス、事ハ既ニ三箇月前ニ屬スル
  コトデアリマスケレドモ、未ダ國務大臣ノ
  責任ニシテ明ニセラレザル以上ハ、今尙ホ
  現實ノ憲法上ノ大問題ト言ハネバナラヌト
  考ヘルノデアリマス、先ヅ誤導事件ノ內容
  ヲ申上ゲマス、前橋行在所ニ御駐輦中ノ
  天皇陛下ニハ、畏多クモ十一月十六日、午
  前九時四十分桐生驛御著、機織天覽場デア
  リマスル西小學校、次デ桐生高等工業學校
  ニ成ラセラルヽ御豫定デ、鹵簿ハ桐生驛カ
  ラ御順路タル末廣町二丁目千八百五十七番
  地先ノ十字路ヨリ左折シ、西小學校ヘ向ハ
  セラレル御豫定ノ所、報〓員ノ乘用車ト先
  觸員ノ乘用車トノ二ツノ車ハ、御豫定ノ御
  順路通リニ通過シタノデアリマスガ、其後
  ニ續ク本多警部、見城警部ノ乘ッテ居ル警察
  官乘用ノ先驅自動車ハ後續セズ、末廣町カ
  ラ左折スベキヲ、郵便局前ヲ通リ、本町通
  リニ直行シタ爲ニ、畏多クモ聖上陛下ノ
  御車モ、其通リノ御道筋ヲ通御アラセラレ、
  其儘桐生高等工業學校ニ著御遊バサレタノ
  デアリマス、同校デハ御豫定ヨリ三十分モ早
  カッタノデ、二階デ休憩中ノ松田文相ハ、遂
  ニ玄關先ニ御出迎スルノ暇ナク、朝比奈文
  部書記官、田中事務官、西田校長ダケガ御
  出迎申上ゲタノデアリマス、元來本町カラ
  高等工業學校マデノ御順路ハ、同校ヨリ御
  歸リノ御順路デアル爲ニ、沿道奉迎ノ人々
  ハ、通御マデ一時間モ間ガアルト思ッテ居
  リマシタノデ、整理モ付カズ、ザハメイテ
  居タノハ、殊ニ畏多キコトデアッタノデア
  リマス、更ニ畏多キ極ミハ天皇陛下ニ於
  カセラレマシテハ、是ガ爲ニ桐生驛御發車
  ノ御豫定ヲ、十三分間モ遲レサセラレマシ
  タノデ、失態ハ益〓重大トナッタノデアリマ
  ス、斯ノ如ク鹵簿先驅ノ過失ニ依リ、畏ク
  モ御順路ヲ突如御變更ノ已ムナキニ立至リ、
  御途中ノ御警衞ヲ初メ、奉迎ノ高等工業學
  校ニ於テハ、突然ノ御變更ニ周章狼狽シタ
  ノデアリマス、斯ル重大過失ハ未曾有ノ事
  デアリマスルカラ、側近奉仕者一同ハ只管
  恐懼致シマシタノハ勿論デアリマスルガ、其
  爲メ陛下ニハ午前九時四十六分高工御著
  後、同校ニ於ケル御豫定時間ヲ二十分間モ
  多ク過サセラレタル後、西小學校ニ行幸、次
  デ消防組ヲ御親閱遊バサレ、御召列車桐生
  驛御發車ハ御豫定ヨリ十三四分間モ遲レテ、
  午前十一時二十九分ニ足利ニ向ハセラレタ
  ノデアリマス、此鹵簿誤導ノ爲メ、御歸途
  御通御ニ相成ルコトニナッテ居ック沿道約二
  十町ノ間ハ、通御相成ル御豫定時間ガ十一
  時過デアルニモ拘ラズ、早クモ九時四十六
  分ニハ通御濟ト相成リ、一時間餘モ俄ニ繰
  上ッタノデ、ソレガ爲メ沿道拜觀者ノ堵列ハ
  未ダ成ラズ、群衆中ニハ帽子ヲ冠リ、鉢卷
  ヲ爲シ、頰冠リヲシ、裾ヲマクリ、蹲踞ン
  ダリ、胡坐ヲカイタリ、後ロ向キニナッテ
  居ル者ガアル等、喧々囂々洵ニ不體裁ノ極
  ミヲ呈シタノデアリマス、警戒ノ巡查スラ
  休憩ノ姿デ足ヲ仲べ、煙草ヲ燻ラシテ居ッ
  タ者モアッタ程デ、固ヨリ嚴肅ニ氣ヲ付ケノ
  姿勢デ、拜觀者一同ガ最敬禮ノ爲シ樣ガナ
  カッタノデアリマス、唯アット云フ間ニ鹵簿
  ハ疾風ノ如ク通リ去ラレタノデ、醇朴ナル
  拜觀者ハ今ノガ鹵簿ダ、イヤソンナ筈ハナ
  イ、第一時間ガ違ヒ、ソレニ方向ガ遠ッタデ
  ハナイカナドヽ、取留メモナイ口爭ヒガ續
  ケラレタノデアリマス、洵ニ畏多キ次第デ
  アリマシタ
  次ニ鹵簿誤導ノ原因ヲ私ハ申上ゲタイト
  思ヒマス、然ラバ此鹵簿誤導ノ不祥事ハ如
  何ニシテ惹起サレタノデアルカ、其理由ヲ
  考ヘマスルニ、是ハ決シテ不可抗力ニ非ズ
  シテ、過失怠慢ニ因ルモノト言ハナクテハ
  ナラヌノデアリマス、世間動モスレバ鹵簿
  ノ誤導ハ、御案內申上グベキ順路ガ前後シ
  タノミデ、些ノ實害モ伴ッテ居ラナイ、唯勅
  裁ヲ仰イデ決定シタル御豫定ヲ、突然無斷
  デ變更セル一點ガ相濟マヌ次第デアルケレ
  ドモ、元來突發ノ過失ニ屬シ、致方ナシト
  爲ス者ガアリマスケレドモ、事件ノ經過眞
  相ヲ檢討スレバ、決シテサウデハアリマセ
  ヌ、私ハ桐生ニ參リマシテ、親シク現狀ヲ
  詳細視察シ、又市民ニ就キ種々實情ヲ調査
  シタノデアリマスルガ、如何ニモ重大ナル
  失態ト申スノ外ハナイノデアリマス、內務
  大臣ハ臨時議會竝ニ本議會ニ於ケル我黨代
  議士ノ質問ニ對シテ、種々言葉ヲ連ネ飾ッ
  テ居ラレマスケレドモ、仔細ニ考ヘマスル
  ト、之ヲ一片ノ過失トシテ看過スルコトハ
  固ヨリ出來ナイノデアリマス、玆ニ其理由
  ヲ簡單ニ申上ゲマスレバ、第一ニ前ノ二ツ
  ノ車ハ正シク進ンデ居ルノデアリマス、卽
  チ此日鹵薄ノ先頭ニ立ッタル報告員ノ乘用
  車ト先觸員ノ乘用車トハ、共ニ御豫定通リ
  ニ御順路ヲ通過シタノデアル、然ルニ其次
  デアリマスル所ノ本多、見城兩警部ノ乘込
  ム所ノ先驅自動車ガ、其後ヲ續カズシテ誤
  マレル道ニ進ンダト云フコトハ、此一點ニ
  於テ過失ト言ハンヨリモ、全ク申譯ノナイ
  怠慢ト言ハナケレバナラヌノデアリマス
  (「簡單」ト呼フ者アリ)尙ホ此機會ニ私ハ-
  簡單ニト云フコトデアリマスルケレドモ、
  此問題位私ハ重大ナル問題ハナイト考ヘル
  ノデアリマス(「其通リ」ト呼フ者アリ)殊ニ
  事ハ皇室ニ關シ、治安維持ト云フ國體ニ關
  聯致シテ居リマスルシ、尙ホ又私ハ斯ウ云
  フ點ヲ明ニスルト云フコトハ、本當ニ國民
  ノ代表者トシテ議政壇上ニ立ツ者ノ責任ヲ
  果ス所以デアルト考ヘルノデアリマス(拍
  手)第二ニ、本多警部ハ不適任デアッタノ
  デアリマス、此千載ノ一遇トモ言フベキ御
  先驅ノ光榮ヲ擔ハシメラレタル本多警部ハ、
  三四年前警官トシテ不適任ナルノ故ヲ以テ
  免官セラレテ居ッタ者デアリマス、ソレヲ久
  保田警察部長ガ更ニ復職セシメテ、衞生
  課ノ次席ニ勤務サセタノデアル、卽チ
  警官トシテ缺陷ガアルト言ハレルヤウ
  ナ人ヲ、此重要ナル先驅ノ任ニ當ラシ
  メタト云フ其點ニ於テ、大ナル責任ヲ生ジ
  テ來ルノデアリマス、第三ニ、豫行ニ加ハ
  ラナカッタ者ニ變更シテ居ルノデアリマス、
  桐生ニ於テ鹵簿ノ練習ヲシタ警官ヲ、其前
  夜急ニ變更シテ、全然豫行演習ニ加ハラザ
  リシ久保田警察部長ノ寵兒、本多警部ヲシ
  テ之ニ當ラシメタノデアル、是レ斯ル重大
  ナル任務ニ付キ、私恩ヲ賣リ、私情ニ因ッテ
  變更決定シタモノデアッテ、言語ニ絕スル輕
  擧不謹愼ノ行爲ト言ハナクテハナラヌノデ
  アリマス、第四ニ、知事ト部長トノ對立ガ
  此因ヲ成シテ居ルノデアリマス、金澤群馬
  縣知事ト久保田警察部長トハ、常ニ對立抗
  爭ノ狀態ニ在リ、警察部長ハ私心ヲ以テ職
  務上ニ於テモ行動シテ居ッタト云フ事實ガ
  アルノデアリマス、此御先導ノ役ノ任命變
  更ノ如キ、卽チ其現レノ一ツデアッテ、此悲
  ムベキ不祥事ノ生ズル間隙モ、玆ニ存スル
  ト言ハネバナラヌノデアリマス、第五ニ、
  不適任者ヲ簡拔シタコトニナルノデアリマ
  ス、若夫レ當日桐生市民ノ熱誠ヲ單メタル
  奉迎振リガ盛大華麗ヲ極メテ、本多警部等
  ハ爲ニ精神興奮シ、又緊張度ヲ失シテ、先
  行ノ自動車スラ之ヲ見忘レテ、順路ヲ誤ッタ
  モノトスレバ、態々斯ル人物ヲ簡拔シテ此
  重任ニ當ラシメタコトガ、是亦其人選宜シ
  キヲ失シタルモノデアッテ、縣當局ノ甚シ
  キ落度ト言ハナケレバナラヌノデアリマ
  ス、第六ニ、標示方法ヲ缺イテ居ルノデア
  リマス、本來斯ル不祥事ヲ發生セザルヤウ
  ニ鹵簿ノ左折セラルベキ所ヲ、十字路ノ正
  面、卽チ立派ナル五間道路ヲ一時寒グコト
  ガ、交通整理上當然デアルノデアリマス、
  卽チ末廣町先、郵便局手前ノ十字路ヲ左折
  シテ入ルベキ永樂町ハ三間道路デアッテ、其
  兩側ニハ鹵簿拜觀者ノ立竝ブコトヲ禁ジタ
  程ニ狹イ道路デアリマス、隨テ此十字路ヲ
  左折セシムル爲ニハ、正面道路ヲ一時警察
  官又ハ化粧繩デ假ニ塞ガネバナラナカッタ
  ノデアル、恰モ昨今貴衆兩院ノ周圍ニ樫俸
  携帶ノ巡査ヲ配置シテ居ルガ如キ、此程度
  ノ勞ヲ以テ足ッタノデアリマス、是等ノ遮
  斷方法ヲモ怠ッタ爲ニ、急ギノ場合右先驅
  自動車ガ左折セズシテ、正面ヲ突破スルニ
  至ッタノデアリマス、或ル意味ニ於テハ此
  怠慢ガ抑ミ誤導ノ第一原因トナッタノデアル
  ト謂ハナクテハナラヌノデアリマス、他ノ
  場合ニ於ケルガ如ク精一杯ノ警戒ヲ爲シ、
  尙且不慮ノ棒事ノ發生ヲ見タトハ、其性質
  責任ヲ異ニスルノデアリマス、第七ニ警察
  經驗者タル內相ノ責任ハ更ニ重イト云フコ
  トヲ、私ハ感ジテ居ルノデアリマス、群馬
  縣廳ノ監督者ハ內務大臣デアル、由來歷代
  ノ內務大臣ハ殆ド警察事務ノ經驗ガナイノ
  デアリマス、卽チ山本、一个、原、水野、
  後藤新平、床次、中橋、若槻、望月、濱口、
  安達ノ諸氏カラ更ニ遡ッテ平田、末松、西
  〓從道、板垣、芳川、野村、品川、山縣ノ
  諸公ニ至ルマデ何レモ然ラザルハナイノデ
  アリマス、其間獨リ異彩ヲ放ツ警察經驗者
  ハ、大浦氏ト後藤氏ノミデアリマス、後藤
  氏ハ靑森縣警察部長ヲ務メ、更ニ內務省警
  保局長ニ擧用セラレタ人デアル、今ヤ此後
  藤氏ハ內務大臣ノ現職ニ在リ、地方行幸ノ
  御路順ハ能ク眼ヲ通シテ然ル後ニ勅裁ヲ仰
  イダモノデアリマス、而モ此人ニシテ詰襟
  ノ扈從服ヲ著用シ、御召列車ニ陪乘シ、身
  自ラ到ル處ノ行幸地デ御警衞ノ總指揮官ヲ
  務メタノデアリマスカラ、我等臣民ハ絕大
  ナル信賴ヲ抱イタノデアリマス、恐ラクハ
  聖上陛下ニ於カセラレマシテモ御意ヲ安
  ンジ給ヒシコトヽ恐察シ奉ルノデアリマ
  ス、然ルニ何事デアリマセウカ、此人ノ總
  指揮ノ下ニ此失態ガ演ゼラレタノデアリマ
  ス、後藤氏ト相竝ブ警察經驗者デアル大浦
  氏ハ、警察事務ニ於テハ失敗シナカッタノ
  デアリマスルガ、獨リ壯年氣銳ノ後藤氏ニ
  シテ此大失態ヲ起スニ至ッタコトハ、何ヲ
  以テカ至尊ニ對シ奉ラントサレルノデア
  リマセウ
  次ニ鹵簿誤導ノ影響ヲ私ハ中上ゲタイノ
  デアリマス、斯ル未曾有ノ不祥事ヲ惹起シ
  タ爲ニ、次ニ申上ゲルガ如キ恐懼ニ堪ヘ
  ザル事態ヲ發生致シタノデアリマスル、第
  一ニ謹謝式ヲ行ッタノデアリマス、群馬縣
  ハ南朝ノ忠臣新田義貞、勤王ノ志士高山彥
  九郞ヲ出シタ由〓アル國デ、尊王ノ精神澎
  湃タル所デアリマス、今ヨリ四十二年前、
  卽チ明治二十六年陸軍大演習ノ砌、明治大
  帝ノ行幸アリシ以來久方振ノ行幸デアリマ
  スノデ、縣民ノ車駕ヲ渴仰申上奉ルノ念ハ
  言語ニ盡シ難イノデアリマス、然ルニ斯ル
  不用意亂雜ノ中ニ車駕ヲ奉迎申上ゲ、日頃
  欽慕シテ已マナカッタ龍顏ヲ拜スルコトガ
  出來ナカッタコトハ、千秋ノ恨事ナリシハ固
  ヨリ、此千載一遇ノ時、眞ニ不體裁ノ限リ
  ヲ御覽ニ入レテ、申スモ畏キ不敬ニ亙ッタ
  儀ハ恐懼慚愧措ク能ハザルコトヽシテ、
  週間後、市長發起ノ謹謝式ヲ開キ、桐生全
  市ノ總テノ動力ヲ止メテ、七万市民ハ畏ク
  モ九重ノ雲深キ所ニ向ッテ一分間默禱遙拜
  シ、謹ミ愼ンデ御詫申上ゲタ事實ガアルノ
  デアリマス、此事實ハ恐ラク總理大臣、内
  務大臣ハ知ラレヌコトハナイト思フノデア
  リマスルガ、如何ニ感ゼラレタノデアリマセ
  ウカ、第二ニ玉體ヲ危險狀態ニ曝シ奉ッタノ
  デアリマス、鹵簿誤導ノ爲ニ約二十町ノ地
  域ニ亙ル御警衞ガ未ダ其〓ニ著カズ······

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=62

  ---

• 063・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　三上君ニ御注意致シ
  やく、御止メハ致シマセヌ、質疑ニハ一定
  ノ範圍ガアリマス
  〔「根本間題ヂヤナイカ」ト呼ヒ其他發
  言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=63

  ---

• 064・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=64

  ---

• 065・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　只今議長ヨリ御注意ガ
  アリマシタケレドモ、此問題ハ曩ニ質問セ
  ラレテ居ルトハ言ヘ、ソレダケデハ要ヲ盡
  シマセヌ、大問題デアリマスガ爲ニ私ハド
  ウシテモ之ヲ詳細ニ述ベテ、其影響範圍ヲ
  述ベナクテハ結論ニ到達スルコトガ出來ナ
  イノデアリマスルカラ、御諒承ヲ願ヒタイ
  ノデアリマス(「其通リ」ト呼フ者アリ)堵列
  亦整ハズ、全ク弛緩セル危險地帶ニ鹵簿ヲ
  御誘ヒ申上ゲ、畏クモ一天萬乘ノ大君ノ玉
  體ヲバ、或ル時間中全然危險狀態ニ暴露シ
  奉ッタノデアリマス、幸ニ御稜威ト天佑ト
  ニ依リ御恙ナカリシハ眞ニ奉祝ノ極ミデア
  リマシタケレドモ、當局ハ此偶然ノ僥倖ヲ
  恃ンデ、絕大ノ過失ヲ糊塗スルコトハ赦サレ
  ナイノデアリマス、彼ノ決死隊ヲ送ッテ第
  一撃ヲ櫻田門外ニ加ヘ、第二擊トシテ戰勝
  祝賀中ナル上海公園ニ爆彈ヲ投ジテ、我ガ
  白川大將以下ヲ傷害シマシタ兇徒ノ一團
  ハ、今尙我ガ非常時混亂ニ乘ゼントシテ虎
  視眈々タルモノガアルノデアリマス、此無
  警戒地帶御誘導ノ一事ハ、其弛緩間隙ニ對
  シテ、是等兇徒ノ輩ヲシテ食指大ニ動カシ
  ムル原因トナルヤモ知ラヌト云フコトヲ惧
  レルノデアリマス、第三ニ松田文部大臣ノ
  缺禮ヲ見ルニ至ッタ遺憾ナルコトガアルノ
  デアリマス、鹵簿誤導ノ爲メ先ニ桐生高工
  ニ御直進遊バサレタノデ、同校著御ノ時刻
  ハ御豫定ヨリ約三十分早カッタノデアリマ
  ス、此不意ノ著御ノ爲ニ何人モ御車ニ御出
  迎申ス者モナク、畏クモ御附ノ人ノ御召車
  ノ「ドア」ヲ御開ケ申スコトヲ、暫クノ間御
  躊躇申上ゲタノデアリマス、斯クスル中ニ
  同校ニ居合セマシタ朝比奈文部書記官、田
  中事務官及西田校長ノ三人ダケガ倉皇トシ
  テ、辛ウジテ御出迎ヲ申上ゲタノミデ、肝
  腎ノ松田文相ハ同校二階ノ休憩室ニ於テ、
  暖ヲ取リナガラ話ヲサレツヽアリマシタ爲
  ニ、遂ニ御出迎申上ゲルコトガ出來ナカッ
  タノデアリマス、惟フニ地方ニ於テハ國務
  大臣ノ出張スラ珍シク、隨テ大臣滯在中ノ
  一擧一動ハ、巨細ヲ問ハズ地方人士ノ注目
  スル所デアリマス、松田文相ハ禮儀作法ヲ
  正シ、〓育勅語ヲ〓範トスル文〓ノ府ノ最
  高ノ長官デアリマス、當日校庭ニ集ッテ居ッ
  タ二万二千ノ學生生徒環視ノ中ニ於テ、文
  相ガ現神ナル陛下ニ咫尺シ奉リ、鞠躬如ト
  シテ御出迎奉仕スル情景コソ是等學生生
  徒ヲ初メ、地方人士ガ最モ關心凝視セント
  シタ所デアッテ、〓育竝ニ國民思想善導ノ爲
  ノ千言萬語ヨリモ、如何ニ效果ガアッタカ
  測リ知ルコトガ出來ナイノデアリマス(拍
  手)然ルニ文相ガ此缺禮ノ餘儀ナキニ至ッタ
  ノハ、洵ニ痛恨ノ極ミデアルト申サナケレバ
  ナラヌノデアリマス、第四ニ時刻遲延ノ影
  響ガ隨所ニ現ハレテ居ルノデアリマス、
  天皇陛下ハ桐生高工ニ於テ〓官ノ〓究品
  及生徒ノ實習等ヲ天覽遊バサレテ、校庭ノ
  奉拜所ニ臨御アラセラレタノデアリマス、
  陛下ノ御前デ朝マダキ午前三時頃ヨリ、
  續々トシテ集ッタ東上州ノ中、小學校〓員
  及兒童約二万二千人ガ整列シテ、龍顏ヲ拜
  シツヽ金澤群馬縣知事ノ發聲デ、陛下ノ萬
  歲ヲ三唱申上ゲタノデアリマス、併シ是等
  ノ若キ生徒兒童ノ多數ヲバ、定刻ヨリ三十
  分間早ク繰上ゲテ急遽整列セシムルコト
  ハ談決シテ容易デナイ、兔ヤ角ノ爲ニ畏
  多クモ陛下ノ鹵簿ハ、桐生高エデ御豫定
  ヨリモ二十分間長ク留マリ給ウタノデアリ
  やっ、其爲メ西小學校及新川「グラウンド」
  ノ消防親閲所ニ御立寄ノ時刻ハ全ク狂ッテ
  シマッタノデアリマス、斯クテ賜謁、天覽
  等ノ時刻ヲ端折ッテ、六分間切リ詰メタノデ
  アルガ、ソレデモ尙ホ御召列車ノ桐生驛發
  御ハ、正味十四分間遲レテシマッタノデア
  ル、眞ニ畏レ多キ事ト申サナケレバナラヌ
  ノデアリマス、元來此日ハ前橋ヨリ桐生、
  足利、太田ノ三箇所ニ行幸アリテ、四時二
  分前橋ニ還幸ノ御豫定デアッタ、然ルニ最初
  ノ桐生ニ於テ鹵簿誤導ノアリシ爲メ、驛ノ
  御出發時間ガ十四分間モ遲レタノデ、ソレ
  ガ次カラ次ヘト推シ及ンダノデアリマス、
  併シタ刻ノ四時二分ニ前橋驛ニ還幸アラセ
  ラレタ時ニハ、全ク時間ヲ取戾シテ御豫定
  通リニナッタノデアル、ソコデ如何ニシテ此
  時間ヲ取戾シタカト云フコトニナルノデア
  リマスガ、ソレハ外デモナイ、一ハ御召車
  ヲ急行ニシマシタ、卽チ桐生驛ヲ十一時十
  五分ニ發御アリテ、二十分後ノ十一時三十
  五分ニ足利驛ニ著御アラセラルベキ御豫定
  ナリシヲ改メテ、實際ハ十一時二十九分ニ
  桐生驛發御、十六分後ノ十一時四十五分足
  利驛著御トナッタノデアリマス、是レ例ヘバ
  二十時間ヲ要スル間隔ヲバ、十六時間ノ急行
  デ突破シタト同樣デアッテ、御召列車ノ御震動
  モサコソト思ハレマシテ何トモ恐懼ニ堪ヘ
  ヌノデアリマス、次ニハ到ル處ノ民草ガ四十二
  年振リニテ天皇陛下ヲ奉迎申上ゲル熱誠衷
  情ノ下ニ、作業其他ノ天覽ヲ仰グヲ以テ無上
  ノ光榮ト爲シ、隨所ノ官民ハ前以テ盛リ澤
  山ノ「プログラム」ヲ編成シテ勅裁ヲ仰ギ置
  キ、愈〓目ノアタリ天覽賜謁ヲ拜スルヤ、時
  ノ移ルヲ覺エズ、相成ベクハ此光榮ノ一分
  間ニテモ長カラン事ヲ熱望シテ居ッタノデ
  アル、然ルニ是等ニ對シテ御先導役ハ殆ド
  駈足同樣ニ、天覽ト賜謁トヲ御急ギ申上ゲ、
  以テ時間ヲ囘復スルノ餘儀ナキ狀態デアッ
  タノデアリマス、地方人士ノ失望ハ言フモ
  更ナリ、日頃產業、民情ノ御視察ニ深ク大
  御心ヲ注ガセ給フ聖上ノ御思召モ如何ニ
  ヤ、拜察スルダニ恐懼ノ極ミデアリマス、
  第五ニ警察官ノ引責自殺ヲ生ジマシタ、此
  點ニ付キマシテハ私ガ詳シク申上ゲルコト
  ヲ省略致シマシテ、皆樣新聞紙上ニ於テ御承
  知デアリマスルカラ申上ゲマセヌ、第六二、
  試ニ新聞紙上ノ重大記事ヲ見マス明治天
  皇及大正天皇ノ行幸ニ際シマシテ、稀ニ精神
  異常者ガ直訴ヲ圖ッテ、鹵簿ヲ冒シ奉ッタ事
  ガアリマシタ今上陛下攝政宮ニ在シマス御
  時ニ虎ノ門事件、櫻田門事件ガアッタコト
  ハ、九千万國民ノ恐懼措ク所ヲ知ラヌ所デ
  アリマス、然ルニ今地方無警戒ノ地ニ鹵簿
  ヲ誤導シテ、非常ナ危險ニ暴露シ奉リシガ
  如キハ、前代未聞ノ不祥事デアリマシテ、
  今後固ヨリ再ビアルベキ道理ハナイノデア
  リマス、サレバコソ此椿事起ルヤ、諸新聞
  ハ何レモ特筆大書シテ之ヲ特報シマシタ、
  蓋シ此不祥事ニ對シテ、國民純眞ノ感情ヲ
  率直ニ流露シタモノニ外ナラナイト言ハナ
  クテハナラナイノデアリマス、又責任者ノ
  處分ニ關スル記事ヲ見マシテモ、「內相辭表
  提出カ」「知事、警察部長、兩警部免官又ハ
  休職、內相モ責任ヲ執ラン」、「後藤內相進
  退考慮、內務當局ハ只管恐懼、調査ノ上責
  任者處罰」「內相知事恐懼、地方行幸御終了
  後ニ辭表或ハ進退伺」等ト大書シテ居ルノ
  デアリマス、以テ社會ノ木鐸、天下ノ報道
  機關ガ、椿事ニ對スル責任ノ容易ナラザル
  事ヲ認識シ、筆ヲ揃ヘテ當局ノ責任感ノ現
  レヲ豫測シタ事ガ窺ハレルノデアリマス
  次ニ私ハ關係官吏ノ處分ニ付テ申上ゲタ
  イノデアリマス、鹵簿誤導ノ椿事ニ付キ、
  金澤群馬縣知事、久保田警察部長、八木縣
  警務課長ハ恐懼戰慄、顏色蒼白トナリ、取
  敢ヘズ卽時進退伺ヲ內務大臣ニ差出シタノ
  ハ尤モノ次第デアリマス
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=65

  ---

• 066・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=66

  ---

• 067・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　民政黨ノ諸君ハ此問題
  ニ對シテ反對ヲサレマスガ、此問題ガ如何
  ニ國民ノ間ノ問題トナッテ居ルカヲ御承知
  ナイノカ··
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=67

  ---

• 068・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=68

  ---

• 069・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　若シ諸君ガ此ノ發言ヲ
  妨害サレタナラバ、必ズヤ諸君ハ國民ニ信
  ヲ失スルデアリマセウ
  〔發言スル者多シ〕
  〔議長三上英雄君ニ何事ヲカ注意ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=69

  ---

• 070・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　後藤內相ハ車駕ニ陪從
  歸京シタル十一月十八日午後、其室ニ大森
  政務次官、丹羽次官、挾間人事課長ヲ集メ、
  關係者唐澤警保局長、宮野警務課長ヲモ加
  ヘテ處分會議ヲ開キ、以テ文官懲戒令ニ依
  リ、文官高等懲戒委員會ヲ開イテ、譴責ニ
  處セントスル者以外ノ關係奏任官ノ處分ヲ
  審議セシムルコト、竝ニ處分標準ヲバ、大
  體後ニ申上ゲル所ニ見當ヲ置クコトニ內定
  シテ、直チニ此旨ヲ岡田總理大臣ニ報〓シ
  テ、岡田首相モ之ヲ納得セラレタノデアリ
  マス、斯クテ此內定ニ基キ、形式的ニ懲戒
  委員會ヲ開キ、審議ノ結果、最初ノ內務大
  臣室決定通リニ裁決セラレタ、更ニ勅任官
  タル唐澤局長、金澤知事ニ對スル譴責處分
  ヲ加ヘテ內務省原案ト爲シ、十二月十日午
  前ノ持廻リ閣議ニ依ッテ、之ヲ決定發表サレ
  タノデアリマス、卽チ唐澤警保局長、金澤
  知事、宮野內務省警務課長、狩野桐生警察
  署長ノ四名ヲ譴責ニ、久保田警察部長、八
  木群馬縣警務課長ノ二名ヲ、二箇月間年俸
  月額十分ノ一ノ減俸ニ處シタノデアリマ
  ス、此譴責ハ敢テ懲戒委員會ニ付議シタノ
  デハナイ、單ニ內務大臣ヨリ譴責スル旨ノ
  一片ノ通告ヲ爲シタルニ過ギナイノデアリ
  マス、惟フニ文官懲戒令第二條ニ依レバ、
  官吏ノ懲戒ヲ受クベキ場合ヲ、職務上ノ義
  務ニ違背シ、又ハ職務ヲ怠リタルトキ、職
  務ノ內外ヲ問ハズ、官職上ノ威嚴又ハ信用
  ヲ失フベキ所爲アリタルトキト規定シ、其
  第三條ニハ、懲戒ノ方法ヲ類別シテ、免官、
  減俸、譴責トシテアルノデアリマス、抑、該
  不祥事件ハ、實ニ前代未聞ニ屬シ、結果ノ
  重大亦言語ニ絕シテ居ルノデアリマス、是
  レ皆義務違背職務懈怠ノ致ス所デアルカ
  ラ、其處罰ハ固ヨリ重キニ從ッテ處斷セネバ
  ナラヌノデアル、然ルニ被懲戒者六名共何
  レモ輕微ナル減俸、譴責處分ヲ受ケタルノ
  ミデ濟ンデ居ルノデアル、實ニ立法ノ精神
  ヲ無視シ、責任ヲ輕ンズルモノト言ハネバ
  ナラヌノデアリマス、內相或ハ其懲戒ノ責
  任ヲ文官高等懲戒委員會ニ歸セシメントセ
  ラレルカモ知レナイガ、是亦國務大臣トシ
  テ輔弼ノ責任ヲ免レルコトヲ許サナイノデ
  アル、殊ニ此懲戒委員會ニ於ケル審判ノ材
  料トナシタル書類證據ハ、內相ノ監督ノ下
  ニ於テ調製提出シタルモノト解セラレルノ
  デアルカラ、其內容ニ付テ信賴ヲ抱キ難キ
  モノガアル、又行幸ノ前夜ニ至リテ、突如
  豫行演習ニ加ハラザリシ本多警部ヲ任命シ
  タノハ、金澤知事ノ反對アルニ拘ハラズ、其
  變更ヲ主張シタ久保田警察部長ノ說ヲ、御
  警衞監督ノ爲メ現地ニ出張シテ居ッタ警保
  局長ガ更迭サセルコトニ裁斷セラレタノデ
  アリマス、此重大ナル責任アル警保局長ハ
  內相ノ意思ニ依ッテ最モ輕キ譴責デ事濟ミ
  トナッテ居ルノデアリマス、文官懲戒令ノ第
  六條ニ依リマスト、勅任官ノ免官及減俸ハ、
  懲戒委員會ノ議決ヲ具シ、內閣總理大臣之
  ヲ奏請シ、御裁可ニ依ッテ之ヲ行フ、奏任官
  ノ免官ハ、懲戒委員會ノ議決ヲ具シ、內閣
  總理大臣ヲ經テ本屬長官、卽チ本件ニ於テ
  ハ內務大臣ガ之ヲ奏請シ、御裁可ニ依ッテ之
  ヲ行フ旨ヲ規定シテアルノデアリマス、之
  ニ依ッテ考ヘルト、若シ本件ノ唐澤局長、金
  澤知事以下ノ勅奏任官ヲ、懲戒委員會ノ議
  ニ懸ケテ、其決議ガ免官或ハ減俸トナッタ場
  合ニハ、畏多クモ御裁可ヲ得ナケレバナラ
  ヌ、斯クテハ事態重大トナッテ、自分等ノ責任
  ニ近ヅイテ來ルト云フノデ、首相、內相ハ
  局長、知事、宮野警務課長、狩野署長ヲ一
  存ニ依ッテ譴責ニ付シ、懲戒委員會ニ懸ケル
  こ
  〔此時議長三上君ニ何事ヲカ注意ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=70

  ---

• 071・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　私ハ冒頭ニ申上ゲマシ
  タ通リ、本件ハ治安維持法ニ非常ニ關係ガ
  深イ、私ノ申上ゲルコトヲ能ク御聽キニ
  ナッタナラバ疑ナイト考ヘマスガ、諸君ガ
  時間ヲ御急ギニナルナラバ、私ハ要點ヲ申
  述ベテ結論ニ進ミマス、私ノ此重大ナ問題
  ニ對シテ反對ヲセラレルコトニ付キマシテ
  ハ、十分ニ御考慮ヲ願ヒタイノデアリマス
  (發言スル者多シ)諸君ガ彌次レバ彌〓時間
  ヲ要スルコトニナリマス-其一存ニ依ッ
  テ譴責ニ付シ、懲戒委員會ニ懸ケルコトヲ
  避ケタノデアリマス、少クトモ今日迄ノ首
  相內相ノ處置ニ就テ考ヘタナラバ、斯ク信
  ゼザルヲ得ナイノデアリマス、是ニ於テ私
  ハ此懲戒手續ノ取運ビ方、及其懲戒處分ノ
  何レニモ、滿腔ノ不信不滿ヲ有スルモノデ
  アリマス、殊ニ內相ハ官僚ノ巨頭トシテ、
  禮儀三百威儀三千、野人ニ比シ率先挺身シ
  テ恐懼ノ實ヲ擧ゲ、國民ニ示サルベキデハ
  ナイカ、後藤內相御自身ハ、國務大臣ニ對
  スル文官懲戒ノ途ナキヲ奇貨トシテ居ル
  カ、或ハ下僚關係官吏ガ何レモ輕微ナル處
  分ヲ以テ濟ミ、殊ニ內相ノ直接下僚トモ云
  フベキ警保局長ガ、最モ輕キ譴責處分ヲ以テ
  終リタルヲ以テ、自己ノ利益ニ援用シタル
  爲メデアリマスカ、何等責ヲ負フ途ニ出テ
  居ラヌノデアリマス
  要スルニ鹵簿誤導ノ重大性ニ照シ、關係
  責任者ノ處分ハ餘リニ其當ヲ失シテ居ルノ
  ミナラズ、後藤內相自身ノ責任ニ付テハ、
  何等見ルベキモノガナイノデアリマス、玆
  ニ其片鱗ヲ知リ全貌ヲ推知スベキモノガア
  ル、ソレハ金澤知事ガ內務省ニ參リマシ
  テ、サウシテ歸リニ詰メ掛ケマシタ新聞記
  者ニ率直ニ打明ケテ曰ク「先驅誤導ノ重大
  ナル過失ヲ犯シ、責任者トシテ誠ニ恐懼ノ
  極ミデ、深ク責任ヲ痛感シテ居ル、併シ自
  分一身ヲ潔クスルコトノミヲ考ヘテ、他也
  迷惑ヲ及ボスコトハ、二重ノ罪ヲ犯スコ
  トヽモ考ヘラレルノデ、此點ニ付テハ熟慮
  中デ、今何トモ申上ゲル譯ニハ參リマセヌ」
  トアリマス、之ニ依ッテ見レバ金澤知事ハ
  當時潔ク辭職シテ、良心ノ煩悶ヲ緩和セン
  ト欲シ、極力內相ニ愬ヘタノデアッタガ、
  斯クテハ累ヲ內相及首相ニ及ボスノデ、暫
  ク踏留レト慰留サレテ退出シタト云フコト
  ガ分ルノデアリマス、此點カラ見マシテ
  モ、後藤內相ハ自分ノ身勝手、都合ニ依リ
  金澤知事以下ノ辭意ヲ握潰シタト言ハレテ
  モ、巳ムヲ得ヌト思フノデアリマス·····
  〔此時議長三上君ニ何事ヲカ注意ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=71

  ---

• 072・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　私ハ成ベク要點ヲ申上
  ゲルコトニ致シマスガ、折角私ハ順序ヲ立
  テヽ大臣ノ責任ヲ問ハントシテ居ルノデ
  アリマスルカラ、諸君ガ騒グト纏メル爲ニ
  益〓時間ヲ要スルコトニナルノデアリマス
  (「治安維持法ニ關係ハ無イ」「別ノ機會
  ニヤレ」ト呼ヒ、其他發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=72

  ---

• 073・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靜肅ニ-靜肅ニ願
  ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=73

  ---

• 074・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　次ニ此不祥事ニ對シテ
  岡田首相、後藤內相ハ、當時如何ナル處置
  ニ出デタノデアリマスカ、卽チ岡田首相ハ
  天機ヲ奉伺シ、後藤內相ハ御詑ヲ言上シテ
  居ルノデアリマスルガ、唯是ダケニ止ッテ
  居ルノデアリマス、ソコデ私ハ後藤內相ガ
  責任問題ニ付テ、今日迄如何ナル處置ヲ御
  執リニナッテ居ルカト云フコトヲ檢討シタ
  ノデアリマスガ、臨時議會竝ニ本會議ニ於
  ケル御答辯ハ、全ク要ヲ得テ居ラヌノデア
  リマス、ソコデ私ハ此責任ノ根據、何故ニ
  後藤內相ノ責任ヲ問フノデアルカト云フ要
  點ヲ申上ゲルノデアリマス、先ヅ岡田內閣
  ハ官紀肅正ノ聲明ヲナシ、又內務省ノ官吏
  ニ對シテ此旨ノ訓示ヲシテ居ルノデアリマ
  スガ、然ルニ其訓示ノ聲明ニ違反ヲシテ居
  ルノデアリマス、自ラ其訓示ヲ蹂躙サレテ
  居ルノデアル、是ハ內相自ラ全ク其聲明、
  訓示ヲ蹂躪スルモノデアッテ、此點ヲ何ト
  御考ニナッテ居ルカト云フコトヲ、私ハ聽
  キタイノデアリマス、ソレカラ次ニハ岡田
  內閣ハ自ラ民心作興ノ聲明ヲ發シテ居ル、
  卽チ「一ニ聖詔ノ御主旨ヲ奉體シ、國體觀念
  ヲ明徴ナラシメ、國民精神ノ基本ヲ涵養
  シ、不穩思想釀成ノ諸因ヲ芟除スル云々」
  ト言ッテ居ルノデアリマスガ、斯樣ナルコ
  トヲ放任致シテ置キマシテハ、全ク國體觀
  念ヲ明徵ニスルト云フコトニナラナイ、如
  何ニシテ國民精神ノ基本ヲ涵養シ、國體觀
  念ヲ明徵ニスルノデアルカ、吾々ハ廟堂ノ
  高キニ居ル人ガ斯樣ナル有樣デハ、洵ニ寒
  心ニ堪ヘザルモノガアルト思フノデアリマ
  ス(拍手)ソレカラ次ニハ首相ハ國民最高ノ
  師表タル重責ヲ有ッテ居ルノデアリマス、
  戌申詔書ニハ「惟レ信惟レ義」ト云フコトヲ
  書イテアル、又明治大帝ノ軍人勅諭中ニ
  ハ「軍人ハ信義ヲ重スヘシ」ト〓ヘテアリマ
  ス、軍人出身デアル所ノ岡田大將ハ、今ヤ
  總理トシテ此勅諭ヲ考へネバナラヌノデア
  ル、然ルニ此事ニ關シテハ、先輩ガ執ッタ
  所ノ相似タル先例ノ措置ヲ全然無視シテ居
  ル、此點カラ見マシテモ、私ハ首相ガ此間
  題ニ付キテ頰冠リ主義デ進ンデ居ラレルト
  云フコトヲ、殘念ニ思フ次第デアリマス
  (拍手)
  次ニ皇恩ノ盛大ナルニ鑑ミマシテ、此點
  ヲ吾々ハ追窮セネバナラヌノデアリマス
  ガ、此點ノ內容ハ時間ノ關係上省略致シマ
  ス、更ニ、今上陛下ノ御仁慈ト云フ點カ
  ラ見マシテ、歷代輔弼ノ大臣ハ我ガ國體ヲ
  尊敬スルト云フ點ニ付テハ、洵ニ關心ヲ
  作っ、造次ニモ〓沛ニモ疎カニシテ居ラ
  ヌノデアリマスル、洩レ承ル所ニ依リマス
  ルト、アノ虎ノ門事件ガアリマシテ、其時
  ニ宮中府中ノ大官ガ、當時攝政宮殿下デア
  リマシタ今上陛下ニ對シテ、或ル大官ヲ
  以テ、今後御成ノ儀ヲ少クシテ戴キタイ
  ト云フコトヲ奏上シタ所、當時攝政宮デ
  在シマシタ今上陛下ハ言下ニ、ソレデ
  ハ國民ヲ疑フコトニナリハセヌカト仰セ
  ラレタノデアリマス、斯樣ニ國民ヲ信ゼ
  ラレ、有司ヲ御賴リアラセラレテ居ル
  今上陛下ノ齒簿ニ對シマシテハ、殊更警
  護ヲ十分ニセネバナラヌノデアル、然ルニ
  斯樣ナル結果ヲ生ジタト云フコトハ、洵
  ニ痛憾ノ至リデアルト言ハナケレバナラ
  ヌノデアリマス、次ニ此群馬縣ノ大演習ニ
  於キマシテハ、縣ノ當局ハ屢〓、失態ヲ生ジテ
  居ルノデアリマスルガ、斯樣ナ失態ヲ生ジ
  テ居ル以上ハ、特ニ十分反省戒愼ヲシテ、
  再ビ其過チヲシナイヤウニシナクテハナラ
  又、然ルニ此不慣レナル所ノ本多警部ニ取
  換ヘテ、以テ誤導ノ失態ヲ惹起シタト云フ
  コトハ、洵ニ吾々ハ殘念デアル、內務大臣
  ハ國務大臣トシテモ責任ガアリマスルケレ
  ドモ、行政長官トシテモ亦、重大ナル監督
  ノ責任ガアルト言ハナクテハナラヌノデア
  リマス、更ニ鹵簿警衞ノ重要性カラ見マシ
  テモ、非常ニ重大ナル問題デアル、彼ノ明
  治二十四年ニ於ケル所ノ、露國皇太子殿下
  ガ大津ニ於テ遭難セラレタ時、又〓國講和
  使李鴻章ガ馬關ニ於テ小山六之助ニ傷害セ
  ラレタ時、是等ノ點カラ考ヘテ見マスルト、
  吾々ハ今囘ノ責任ノ取リ方ガ洵ニ不都合
  デアルト考ヘルノデアリマス(發言スル者
  多シ)モウ直キ濟ミマス、靜肅ニ聽イテ下
  サイ
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=74

  ---

• 075・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=75

  ---

• 076・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　更ニ鹵簿警護失態ノ先
  例ト性質的ニ比較致シマシテ
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=76

  ---

• 077・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　三上君ニ再度ノ御警
  告ヲ申上ゲマス、議案ニ直接スル質疑ノ範
  圍ニ、成ベク陳述ヲ御纏メアランコトヲ希
  望シマス、再度ノ御警告ヲ申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=77

  ---

• 078・三上英雄

  ○三上英雄君(續)　鹵簿警護失態ノ先例ト
  性質的ニ比較致シマシテ、此問題ハドウシ
  テモ此儘國務大臣トシテノ責任ヲ抛棄スル
  コトハ出來ヌノデアリマス、ソレカラ大臣
  ガ斯ル不祥事ノ場合ニ於テ、引責辭職致シ
  マシタ先例カラ考ヘテ見マシテモ、洵ニ此
  問題ハ輕クナイノデアリマス、事皇室ニ關
  スル重大問題ノ場合ニ於テ、國民ヲシテ疑
  ヲ生ゼシメ、其信任ヲ失シタト云フ場合ニ
  辭表ヲ出シ、或ハ責任ヲ引イテ居ルノデア
  リマス、然ルニ今囘ハ斯樣ナル問題ニ付テ
  モ責任ヲ待ツノ態度ニ出テ居ラレヌ、此點
  ガ最モ吾々ト致シマシテハ奇怪ニ堪ヘナイ
  ノデアリマス、尙ホ鹵簿ノ重要性ハ、皇室
  儀制令ヲ見マシテモ重大ナル問題デアル、
  殊ニ吾々ハ憲法ノ上ヨリ考ヘマシテ、此內
  務大臣ガ陛下ノ勅裁ヲ仰イデ決定シタル所
  ノモノヲ、勅裁通リニ行ハナイデ、之ヲ全
  然知ラザル風ヲシテ、責任ヲ瞞過サレント
  スルト云フコトハ、輔弼ノ責任上洵ニ私ハ
  殘念デアルト考ヘルノデアリマス、仍テ私
  ハ結論ニ參リマス、以上本件ノ鹵簿誤導事
  件ノ不祥事ニ對スル卑見ヲ開陳シマシテ、
  總理大臣竝ニ內務大臣ノ態度ハ天皇ノ尊
  嚴ニ鑑ミ、又我ガ國體ノ精華ニ照シテ、洵ニ
  殘念ナル事デアルト考へルノデアリマス
  ソコデ便宜上私ハ質問ノ要點ヲ申上ゲマ
  スルガ、內務大臣ニ御尋スル點ハ、第一ニ、
  御道筋十字路ヲ左折セシムル爲ニ、正面道
  路ヲ一時警察官又ハ然ルベキ方法ニ依ッテ
  塞グベキデアッタノヲ、之ヲ等閑ニ付シタ、
  之ヲ如何ニ御考ニナルカ、第二ニ、此鹵簿
  誤導ヲ爲シタル警察官ハ、先年馘首セラレ
  タル者デアルガ、斯ル人ヲ殊更ニ豫行演習
  ヲモ爲サヾルニ拘ラズ、何故ニ行幸前夜ニ
  至リ突如變更シテ此重責ヲ授ケラレタカ、
  此經緯理由ヲ聽クノデアリマス、第三ニハ、
  內務大臣ハ玉體鹵簿ニ御間違ガナケレバ、
  ソレデ宜イト考ヘテ居ルノデアルカドウカ、
  單ニ內相ノ常套語デアル恐懼ヲロニスルノ
  ミヲ以テ臣節ヲ竭シ、國務大臣竝ニ行政長
  官トシテノ職責ニ、何等缺クル所ナシト考
  ヘテ居ラレルノデアルカ、此點ヲ私ハ御聽
  キスルノデアリマス、要スルニ內務大臣ハ
  本件鹵簿誤導問題ハ、今日迄ノ經過ヲ以テ
  事濟ミト解釋シ、是レ以上何等ノ責任ヲ取ル
  ノ行爲ニ出デザル御考デアルカドウカ、是
  等ノ事ヲ御尋スルノデアリマス、ソレカラ
  岡田首相ニ御尋スル點ハ、冒頭ニ申上ゲマ
  シタ國體ノ本質ニ對スル御信念ト、竝ニ此
  十大政綱中ノ民心作興ノ中ニ、一ニ聖詔ノ
  御趣旨ヲ奉體シ、國體觀念ヲ明徵ナラシメ
  云々トアル、其聲明ニ鑑ミテ、斯樣ナル狀
  態デ尙ホ差支ナイト御考ニナッテ居ルノデ
  アルカドウカト云フコトヽ、ソレカラ今日
  迄後藤内相ガ本件ニ付テ執ッテ居ラレル行
  爲ハ、勿論首相ニ相談ヲセラレタコトヽ私
  ハ考ヘルガ、首相ハソレデ宜イト、之ニ同
  意ヲセラレタノデアルカ、內閣ノ官制第五
  條、第六條ニ依リマスルト、高等行政問題
  其他主管大臣ガ必要ト信ズル時ニ於テハ、
  總理大臣ハ閣議ヲ招集シ、主管大臣ハ閣議
  ノ開催ヲ請求スルコトニナッテ居ル、本件ニ
  付テ閣議ヲ開イテ愼重審議、以テ如何ナル
  責任ヲ取ッタラ宜イカト云フコトヲ、御〓究
  ニナッタカドウカ、之ヲ私ハ御伺シタイノデ
  アリマス、以上ノ點ニ付テ首相竝ニ內相ノ
  明快ナル御答辯ヲ御伺シタイノデアリマス、
  私ハ是等ノ點ヲ此議場ヲ通ジテ、九千万國
  民ニ闡明ニスルコトガ、岡田內閣施政百般
  ノ根本義デアル、先決問題デアルト信ズル
  ノデアリマス、若シ依然トシテ顧ミテ他ヲ
  言フガ如キ事ガアッタナラバ、折角治安維持
  法ヲ出シテ、サウシテ國體ノ變革ヲ企ツル
  者ヲ處罰セントシテモ、其效力ガナイ、其
  資格ガ無イト云フコトヲ申上ゲマシテ、私
  ノ質問ヲ終ル次第デアリマス(拍手)
  〔國務大臣岡田啓介君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=78

  ---

• 079・岡田啓介

  ○國務大臣(岡田啓介君)　三上君ハ只今私
  ノ國體ニ關スル信念ヲ御尋ニナリマシタ、
  私ハ先般貴族院ノ豫算總會ニ於テ申述ベマ
  シタル通リ、我ガ國體ハ較ベルモノナキ尊キ
  モノデアリマシテ、天壤無窮ノ御聖勅ニ明
  カナルガ如ク、萬世一系ノ天皇ノ御統治
  ノ下ニ、我ガ國民ハ御歷代ノ仁慈窮リナキ
  大御心ニ依リ、赤子トシテ愛撫セラレマシ
  タル臣民ノ子孫デアリマシテ、億兆心ヲ一
  ニシ世々忠誠ヲ捧ゲ、皇運ヲ扶翼シ奉リ、
  肇國ノ理想ニ向ッテ進展シ來ッタノデアリマ
  ス、我ガ國體ハ尊嚴其モノデアリマス、言
  葉ヲ以テ言現スコトノ出來ナイモノデアリ
  マス(「ヒヤ〓〓」)私ガ此處ニ斯ク申上グル
  サヘ恐懼ニ堪ヘナイノデアリマス(拍手)伊
  勢神宮ニ參拜致シマス者ガ年々其數ヲ增シ、
  此頃ハ每日數万人ヲ數へルト云フコトデア
  リマス、此多クノ人ガ神宮ノ大御前ニ額キ
  マシタ時ニ「何コトノ在シマスカハ知ラネ
  トモ」アノ歌ノ心ト同ジク、尊嚴其モノヲ
  目ノアタリニ見マシテ、心ヲ打タレヌ者ハ
  一人モナイト思ヒマス(拍手)生ヲ享ケテ我
  國ニ生レマシタ者ハ之ヲ矜リトシ、之ヲ喜ビ
  トシナイ者ハナイト考へマス(拍手)我ガ國
  民ノ全部ハ國體ニ關シテハ私ト同ジ考デア
  リマス、又皇室ニ對スル忠誠ノ念ニ燃エナ
  イ者ハ一人モナイト考へテ居リマス(拍手)
  只今鹵簿誤導ノ事件ニ付テ御尋デアリマシ
  タガ、是ハ私ハ總理大臣トシテ寔ニ恐懼ニ
  堪ヘマセヌ、唯責任者ノ處罰ニ付テ愼重ヲ
  缺キマシタリ、不當デアッタリシタトハ私ハ
  考ヘテ居リマセヌ(拍手)
  〔國務大臣後藤文夫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=79

  ---

• 080・後藤文夫

  ○國務大臣(後藤文夫君)　我ガ尊嚴ナル國
  體ニ於キマシテ陛下ニ對シ奉リ、吾々ガ誠
  忠至誠一意御奉公ヲ申上ゲナケレバナラヌ
  コトハ常ニ痛感ヲ致シテ居リマス、昨年秋
  桐生市ニ於キマシテ、鹵簿誤導ヲ申上ゲマ
  シタ畏多イ事件ノ起リマシタコトニ付キマ
  シテハ、深ク々々恐懼ヲ致シテ居ルノデゴ
  ザイマス、此場合ニソレ〓〓御警衞ノ衝ニ
  當リマシタ者ノ責任ヲ糺スコトニ付キマシ
  テハ、私ハ深ク考ヘマシテ、適正ナ處置ヲ
  誤ラザルコトニ一意留意致シタノデアリマ
  ス、私自ラト致シマシテモ洵ニ恐懼ニ堪ヘ
  ナイノデアリマス、深ク恐懼戒心ヲ致シマ
  シテ、今後斯ノ如キ事態ノ起ラナイコトニ、
  全力ヲ擧ゲタイト考ヘテ居ル譯デゴザイマ
  ス、之ヲ以テ御答辯ト致シマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=80

  ---

• 081・三上英雄

  ○三上英雄君　簡單デスカラ此席カラ發言
  ヲ御許シ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=81

  ---

• 082・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=82

  ---

• 083・三上英雄

  ○三上英雄君　只今首相竝ニ內相ノ御答辯
  ヲ承リマシタケレドモ、此恐懼スベキ不祥
  事ヲ出來シタコトニ付テノ首相竝ニ內相、
  殊ニ内相ガ如何ニシテ其責任ヲ明ニスルカ
  ト云フ點ニ付テハ、矢張問ヲ以テ問ニ答ヘ
  ル循環論法ニ終ッテ、毫モ我ガ日本ノ上下ニ
  對シテ、其責ヲ明ニシテ居ラレヌノデアリ
  マス、岡田首相ハ先般貴族院ニ於テ質問ニ
  答ヘテ曰ク「私初メ閣僚ガ身ヲ以テ範ヲ示
  シタイト心懸ケテ居リマス」ト云フコトヲ
  答辯サレテ居リマスルガ、左樣ナルコトデ
  ハ憲法、政治論ヲ超越スル此重大問題ニ
  付テ、全然身ヲ以テ範ヲ示スコトニナラヌ
  ト私ハ信ズルノデアリマス(拍手)併ナガラ
  旣ニ時間モ經過ヲ致シテ居リマスルカラ、
  此點ニ對スル所ノ責任ノ論究ハ他ノ機會ニ
  讓リマシテ、本日ハ之ヲ以テ質問ヲ一應終
  リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=83

  ---

• 084・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者比佐昌平
  君
  〔比佐昌平君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=84

  ---

• 085・比佐昌平

  ○比佐昌平君　諸君、私ハ出來ルダケ簡單
  ニ本法案ニ關シ、主ニ司法大臣ニ御伺ヲ致
  スノデアリマス、御承知ノ通リ治安維持
  法ハ、去ル五十議會ニ初メテ提案サレマシ
  テ、第一次改正案ガ五十五議會ニ提案サレ
  タノデアリマスルガ、審議未了トナリマシ
  テ、議會閉會後緊急勅令トシテ公布致サレ、
  五十六議會ニ事後承諾案トシテ提出サレタ
  ノデアリマス、更ニ昨年、六十五議會ニ第
  二次改正案ガ提出致サレマシタガ、是亦審
  議未了トナッタコトハ御承知ノ通リデアリ
  マス、今囘提案サレマシタ治安維持法改正
  案ニ付キマシテハ、昨年吾々ガ委員會ニ於
  テ、改正案ノ內容ニ付キマシテハ詳シク論
  議致シタノデアリマス、唯問題トナリマシ
  タ豫防拘禁ハ、今囘政府ヨリ削除致シテ參ッ
  タノデアリマス、更ニ右傾的行動ニ對スル
  取締ノ問題デアリマスルガ、由來、治安維
  持法ナルモノハ、無政府主義、共產主義ヲ
  取締ルノガ立法ノ精神デアリマス、故ニ右
  傾的思想ニ依ル直接行動ヲ主眼トシ、社會
  不安ヲ惹起セントスル團體行動ノ取締ヲ目
  的トスル不法團結等處罰ニ關スル法律案ハ、
  別ニ單行法トシテ今囘提案サレタコトハ、
  當然ト言ハナケレバナラヌノデアリマス、
  私ハ治安維持法ノ提案サレタ當時ヨリ、常
  ニ委員トシテ其審議ニ與ッタ一人デアリマ
  ス、故ニ案ノ內容及解釋等ニ付キマシテハ、
  相當理解ヲ有ッテ居ルト考ヘテ居リマス、併
  ナガラ第一回當時ノ政府、及其後ノ改正案提
  出ノ政府、卽チ歷代各政府當局者ハ、此法
  律ノ內容ノ解釋ニ付キマシテハ、各〓異ッタル
  意見ヲ有ッテ居リマシテ、所謂不統一ヲ極
  メ、一貫セル斷定的ノ解釋ハ未ダ無イト言
  ウテ宜イノデアリマス、故ニ私ハ未ダニ幾
  多ノ疑問ヲ有ッテ居ル一人デアリマス、此意
  味ニ於キマシテ、現小原司法大臣ハ、是等
  ノ解釋ニ對シテ如何ナル御意見ヲ有スル
  カ、是レ本改正案提出ニ際シマシテ、此際
  大臣ノ答辯ヲ求メテ置クノ必要アル所以デ
  アリマス
  第一國體ノ變革ノ問題ニ付テハ、私ヨリ
  今更申上ゲル必要ハアリマセヌ、我ガ日本
  ハ萬世一系ノ天皇ヲ戴キ、實ニ世界ニ類例
  ノナイ金甌無缺ノ國體デアリマス、卽チ憲
  法ノ第一條ニ依リ萬世一系ノ天皇ガ我國ヲ
  統治サレルト云フ此根本ノ國體ノ變革ニ
  向ッテハ、斷ジテ吾々ハ擁護シナケレバナラ
  ナイノデアリマス、要スルニ國體ノ變革ト
  ハ天皇ト統治關係ノ連絡ヲ斷絕スル事デア
  リマス、卽チ我ガ日本ノ天皇ト我國ノ統治
  權トノ關係ヲ破壞スル事ガ國體變革デアッ
  テ、斷ジテ是ハ赦ス能ハザルモノデアリマ
  シテ、之ニ臨ムニ極刑ヲ科スルコトハ當然
  ナリト言ハナケレバナリマセヌ、併ナガラ
  私ガ是ヨリ御伺致サントスルコトハ、此法
  律ノ解釋ノ範圍ノ問題デアリマス、天皇ハ
  統治權ヲ有セラレテ居リ、憲法ニ列記セラ
  レタル所ノ天皇ノ大權ガアリマス、憲法ノ
  改正ニ依ッテ天皇ノ大權ノ一部ヲ變更セン
  トスルガ如キ意見ニ對シテ、國體變革ト解
  釋ヲ致シテ本法ヲ適用スルヤ否ヤノ問題、
  是ガ第一點デアリマス、天皇ノ大權ヲ不合
  法ノ手段ニ依ッテ變更スルコトハ、是ハ斷ジ
  テ許スベキデナイコトハ勿論デアリマス、
  併シ若シ合法手段ニ依リマシテ大權ノ一部
  ヲ變更センコトヲ主張スルコトハ、國體變
  革ト解スルヤ否ヤト云フノガ、此法律ノ解
  釋ニ對シテハ重大問題ト思フノデアリマ
  ス、然ラバ合法手段トハ何デアルカ、勿論
  憲法改正ノ問題デアリマス、憲法自體ニ於
  テ、憲法七十三條ニ依リマシテ憲法改正ガ
  豫想セラレテ居ルノデアリマス、併シ憲法
  改正ノ發案ハ勅令ニ依ルノデアリマス、議
  院ニハ發案權ハナイノデアリマス、併シ議
  院ニハ上奏權ガアリマス、憲法改正ヲ希望
  スル上奏案ハ提出シ得ルノデアリマス、上
  奏其モノハ憲法改正其モノデハアリマセ
  又、憲法改正ヲ希望スルト云フ上奏手續ニ
  依ッテ、議會ヲ通ジテ合法的ニ憲法ノ改正ヲ
  要望スル意見ハ不合法デハアリマセヌ、例
  ヘバ憲法十三條ノ、條約ノ締結ハ天皇ノ大
  權デアリマシテ、今後若シ條約ノ締結ニ際
  シテハ、帝國議會ノ協贊ヲ要スルト云フコ
  トニ改正ヲ致サントスルナラバ、現在ノ大
  權ノ一部ヲ變更スルコトニナルノデアリマ
  ス、大權ノ内容ノ變更ハ國體變革ト解釋ヲ
  スルヤ否ヤ、之ニ對シテ司法大臣ノ明快ナ
  ル御答辯ヲ得タイノデアリマス
  諸君、從來之ニ對シテ歷代ノ政府ハ、二
  樣ノ見解ヲ有ッテ居ッタノデアリマス、抑第
  一囘ノ提案ニ際シマシテ、時ノ政府委員ハ
  斯ノ如キ意見ヲ有ッテ居ッタノデアリマス、
  當時ノ速記錄デアリマスルガ、此速記錄ニ
  依リマスルト云フト、政府委員ノ說明ニ曰
  ク、統治權ノ一ツノ內容ヲ變更スルコト「ソ
  レハ國體變革ト云フコトニハナラナイノデ
  アリマス、卽チ大權ノ縮小變更ト云フコト
  ニナルノデアリマス、大權ハ卽チ天皇親裁
  ノ權限デゴザイマス、天皇ガ親裁ニナル國
  務ト親裁ニナラナイ國務トガアルノデアリ
  マシテ、御親裁ノ件ヲ移シテ御親裁ニナラ
  ナイ部分ニ換ヘルト云フコトガ、憲法ノ變
  更ニ依ッテ行ハレタ場合ニ於テハ少シモ差
  支ナイコトデ、毫モ國體變更ニナラヌノ
  デアリマス、何故ナラバ親裁ヲ爲サラナイ
  所ノ國務ハ第一條ニ於ケル「天皇之ヲ統治
  ス」ト云フコトニ對シ間接統治ニナルノデ
  アリマス、第一條ニ少シモ影響ハナイノデ
  アリマス」ト答辯サレテ居ルノデアリマ
  ス、然ルニ之ニ對シテ正反對ノ意見ヲ有ッテ
  居ル政府委員ガアリマス、卽チ第一次改正
  案ノ當時ニ於ケル政府委員トシテ泉二博士
  ハ此問題ニ對シテ斯樣ナ答辯ヲ致シテ居
  ルノデアリマス、大權ノ縮小又ハ制限ハ國
  體變革ニ入ルヤ否ヤト云フ問題ニ對シマシ
  テ、泉二博士ハ「ソレハ矢張リ國體ノ變革
  或ハ方法ニ依リマシテハ內亂罪等ニ入ルダ
  ラウ、ト思ヒマス、只今オ話ニナッタヤウ
  ナコトハ總テ國體變革ト云フ中ニ入ルモノ
  ト廣ク是ハ解釋スルモノト信ジテ居ルノデ
  アリマス、君主政體ト云フコトニナッテ居
  リマシテモ、其名有ルモ實ナキモノニナッテ
  シマッタナラバ、是ハ矢張リ非常ナ國體ノ
  變革、日本ノ國體トシテハ天皇之ヲ統治セ
  ラレルト云フ名義ダケデナクシテ、實質ガ
  憲法ニ認メラレテ居ル、其實質ヲ變更シヨ
  ウト云フコトデアリマシタナラバ、矢張國
  體變革ノ中ニ入ルモノト思フノデアリマ
  ス」ト明ニ答辯サレテ居ルノデアリマシ
  テ、此兩者ノ政府委員ノ答辯ハ、相互ニ相
  反スル答辯ヲ致サレテ居ルノデアルガ、司
  法大臣ハ之ニ對シテ如何ナル御意見ヲ有ッ
  テ居ルカ、御伺ヒ致シタイノデアリマス、
  尙ホ御參考ノ爲ニ申上ゲテ置キマスガ、昨
  年吾々ガ、此治安維持法改正法律案ノ委員
  會ニ於テ、此問題ニ對シテ前小山司法大臣
  ハ、斯樣ニ御答ヲ致シテ居ルノデアリマス
  「大權ノ一部ヲ制限セントスル議論デアリ
  マスルガ、其立論ノ根據ガ統治權ノ總攬デ
  アル事實ヲ變更シヨウトスルノニアリマス
  點ハ、其場合ハ國體變革ヲ目的トスルト云
  フコトニナルト云フ場合ハアルト思ヒマ
  ス、併ナガラ政治上ノ見解カラシテ大權ノ
  一部ヲ御制限アラセラルベキガ相當ナリト
  云フヤウナ議論ヲスル場合ハ、是ハ別問題
  ダト思ッテ居リマス、詰リ憲法ノ規定ノ一部
  ヲ勅命ヲ以テ御變更遊バサレルヤウニ希望
  スルト云フ一ツノ意見デアリマスルト、先
  ヅ大體ニ於テ申スノデスガ、犯罪性ヲ帶ビ
  ルモノデハナイト思ヒマス」斯樣ニ小山前
  司法大臣ノ答辯ノ如キハ、其點ニ付テ洵ニ
  曖昧デアリマシテ、明確ナル解釋デハナイ
  ノデアリマス、以上ノ點ニ付テ小原司法大
  臣ノ明、快ナル御答辯ヲ受ケタイノデアリマ
  ス
  第二ハ私有財產制度否認ノ觀念ノ問題デ
  アリマス、治安維持法ニ對シテ未ダニ世間
  ノ一部ニ誤解ノ解ケナイノハ、私有財產制
  度ヲ否認スルト云フ此法律ノ內容ガ、明確
  ヲ缺クガ爲デアリマス、本法ガ施行セラレ
  テ今ヤ十年以上ヲ經過致シテ居リマス
  ルガ、大審院ノ判例其他ニ於キマシテ
  モ、此私有財產制度否認ニ對スル具體的
  ノ明確ナル確定義ト云フモノハ、未ダニ
  認メルコトハ出來ナイノデアリマス、
  或ハ私有財產否認トハ、私有財產制度ト
  相容レザル事項ヲ企畫スルコトナリト言
  ヒ、或ハ私有財產制度ヲ根本的ニ破壞スル
  思想ヲ名ケテ、私有財產制度否認ナリト言ツ
  テ居リマスケレドモ、是レ洵ニ空漢タルモ
  ノデアリマス、今日迄政府委員自身サヘ「私
  有財產制度ノ觀念ハ洵ニ人々ニ依ッテ皆見
  ル所ガ違フノデアッテ、實ニムヅカシイ問題
  デアリマス」ト、泉二博士ガ政府委員トシテ
  自ラ告白シテ答辯ヲ致シテ居リマス、又前
  小山司法大臣モ「私有財產制度ノ否認ノコト
  ハ、難カシイ觀念デアリマスカラシテ、各
  縣ノ裁判所ノ檢事ナリ判事ナリノ適用ガ區
  區ニナルト云フコトハ是ハアリサウナコト
  デ、誰モ考ヘテ居ルコトデス」ト委員會ニ
  於テ答辯ヲサレテ居ルノデアリマス、之二
  對シ私ハ明確ニ二三ノ點ニ付テ、司法大臣ノ
  御意見ヲ承リタイノデアリマス、第一私有
  財產制度ノ否認ト云フコトヽ所有權ノ否
  認トノ關係デアリマス、箇々ノ所有權ヲ否
  認スルコトヽ、私有財產制度ト云フ制度其
  モノヽ否認トハ、別箇ノ觀念デアルト思ヒ
  マスガ、司法大臣ハ如何ニ御考ニナリマス
  カ、勿論前小山司法大臣ハ、此法律ハ制度
  ト云フ方ニ立法ハ力ヲ入レテ居リマスト明
  言致シテ居リマス、故ニ根本的ニ私有財產
  制度ト云フモノヲ無クスルト云フコトハイ
  ケナイノデアリマスカラ、生產機關ノ一部、
  土地ノ一部ノ國有、或ハ鐵道ノ國有ト云フ議
  論迄絕對ニ禁止スル意味デハナイノデアリ
  マスト答辯サレテ居リマス、然ラバ制度ト
  ハ一體如何ナルモノヲ言フノデアルカ、卽
  チ國法ニ依ッテ保護サレテ、茲ニソレガ一ツ
  ノ纏ッタ觀念トナリシモノガ制度ト思フノ
  デアリマス、法律ニ依ッテ保護サレ、秩序ガ
  總括サレテ、初メテ制度ナルモノガ生ズル
  ノデアリマス、私有財產制度トハ民法其他
  ノ法律ニ依ッテ、廣ク國法ニ依ッテ保護サ
  k、統制サレタモノガ制度デナケレバナリ
  マセヌ、制度ハ國法ニ依ッテ保護サレタモノ
  トスルナラバ、法律ハ法合的ニ立法的手段ニ
  依乃 、常ニ變更改正又ハ廢止サレルノデ
  アリマス、故ニ一定不變ノ制度ト云フモ
  ノハアリマセヌ、隨テ私有財產制度ト云フ
  モノモ、絕對的ノモノデハアリマセヌ、卽
  チ私有財產制度ハ相對的ノモノデアリマス、
  民法第二百六條ノ所有權ハ法令ノ範圍內ニ
  於ケル使用、收益、處分ノ權利デアリマス、
  立法的手段ニ依ッテ制度ヲ變更スルト云フ
  コトハ、制度ガ如何ニ變革サレテモ畢竟制
  度ノ變更ニ外ナラナイノデアリマス、卽チ
  制度ノ否認トハナリマセヌ、卽チ本法ハ此
  制度ノ變更ニ對シテハ制裁ガ及ビマセヌ、
  唯單ニ制度ノ否認ノ場合ニ於テ、本法ノ對
  象トナラナケレバナリマセヌ、之ニ對スル
  司法大臣ノ御意見ヲ承リタイノデアリマス、
  例ヘバ憲法ノ二十七條ニ日本臣民ハ其ノ所
  有權ヲ侵サルヽコトナシ」トアリマスルガ、
  所有權制度ノ否認ト私有財產制度其モノヽ
  否認トハ、是レ明カニ別箇ノ觀念デアリマ
  スルガ故ニ、憲法二十七條ノ所有權ヲ否認
  スルト云フコトヽ所謂總括的ノ制度デア
  ル私有財產制度ノ否認トハ、同一觀念ナリ
  ヤ否ヤ、過去ノ五十議會及五十六議會ニ於
  ケル政府委員ハ、制度ト所有權ト云フモノ
  ヲ混同シテ居ッタコトハ事實デアリマス、私
  ハ私有財產制度ノ否認ト云フ問題ト、是等
  ノ問題トニ付テ、司法大臣ノ明確ナル御答
  ヲ受ケタイノデアリマス、例ヘバ所有權否
  認ハ直チニ私有財產制度ノ否認ト云フ結論
  ハ生ジマセヌ、土地其他生產手段ヲ國有ニ
  スルト云フ意見ニ對シテ、否認トナル場合
  ト、否認ニナラザル場合トヲ生ズルノデア
  リマス、例ヘバ所有權全部ヲ否認セバ、私
  有財產制度ノ餘地ガナクナッテシマフ、玆
  ニ於テ所謂否認ト云フ間題ガ起ルガ、其處
  ニ否認トナル場合ト否認トナラナイ二ツノ
  場合ノ、其限界ヲ明確ニ御答辯ヲ願ヒタイ
  ノデアリマス、第二ニ五十議會ニ於キマシ
  テ國務大臣ハ其答辯ニ於テ、所有權卽チ私
  有財產制度ヲ尊重シテ、所有權ニ對スル賠
  償ヲヤッテ、之ヲ公營ニスルト云フコトハ、
  是ハ一寸モ差支ナイ、所有權ヲ認メズニ、
  唯公營ニスルト云フコトニナレバ、卽チ所
  有權ノ否認ト云フコトニナルカラ、本法律
  ニ觸レルト答辯ヲ致シテ居ルノデアリマス、
  是レ明ニ所有權ト私有財產制度ヲ混同セル
  觀念ナリト思フノデアリマス、例ヘバ生產
  機關ノ公營デモ、所有權卽チ私有財產制度
  ヲ認メテ、之ニ相當ノ賠償ヲヤッテ公有=
  スルトカ、國有ニスルトカハ、是ハ少シモ
  差支ナイ、是ガ有名ナ其當時ノ小川司法大
  臣ノ賠償論デアリマス、賠償シテ土地ヲ國
  有ニスル、生產機關ヲ公有ニスル、根本ニ
  於テ私有財產制度ヲ認メテ、賠償ヲスレバ、
  私有財產制度否認ノ觀念ニハナラヌト、洵
  ニ單調ナル御意見ヲ持ッテ居ッタノデアリマ
  ス、賠償ヲスレバ否認ニナラヌトスルナラ
  バ、賠償ニ依ッテ土地其他ノ生產手段ヲ悉
  ク國有ニスルコトハ、合法的ナリト云フ結
  論ガ生ズルノデアリマス、司法大臣ハ此結
  論ニ御同意爲サルヤ否ヤ、賠償手段ニ依レ
  バ否認ニアラズト云フム柵ヲ以テスルナラバ、
  賠償ニ依ッテ土地其他總テノ生產機關ヲ公
  有ニスルト云フコトハ、不法デハナイノデア
  リマス、ソレヲ推進メマスト云フト、賠償
  ト云フ事實ガアレバ、有ユル大部分ノ私有
  財產ハ或ハ國有トナリ、或ハ公有トナリ得
  ルノデアリマス、隨テ私有財產ガ結論ニ於
  テハ無イヤウナ社會ガ現レルコトニナルノ
  デアリマス、然ラバ此法律ヲ極論スルナラ
  バ、其結果ハ結局私有財產ノ無イヤウナ社
  會ガ現レルコトヲ、取締ルコトガ出來ナイ
  ト云フ結論ニナルト思フノデアリマス、之
  ニ對シテ司法大臣ノ明確ナル御答辯ヲ受ケ
  タイノデアリマス、更ニ憲法二十七條ニ「公
  益ノ爲必要ナル處分ハ法律ノ定ムル所ニ依
  ル」トアリマス、此二十七條ノ第二項ハ、
  第一項ノ但書デハアリマセヌ、第一項第二
  項獨立シテ解釋スベキモノデアルト思フノ
  デアリマス、古キ時代、古キ學說ニ囚ハル
  ル者ハ卒ザ知ラズ、世ノ進運ト共ニ公益
  ナル文字ハ、廣義ニ解釋サルヽノハ當然デ
  アリマシテ、公益觀念ノ擴充ト共ニ、所有
  權ニ對スル制限ガ擴大サルヽノデアリマ
  ス、近代的趨勢ト致シマシテ、所有權ハ獨
  リ所有者デアル個人ノ爲ニノミ認メラレル
  モノニアラズト云フ見地カラ、所有權ノ社
  會的機能ガ高調セラレ、其制限ガ增大セラ
  レ、社會正義ノ上ヨリ所有權ハ制限セラル
  ルモノデアリマス、所有權觀念ガ個人本位
  ヨリ社會本位ヘ推移スルト云フコトハ、近
  代的ノ傾向デアリマス、公益觀念ノ擴充ト
  共ニ、所有權ノ縮小又ハ一部ノ否認、卽チ
  賠償無シニ沒收徵發、卽チ一部ノ否認ハ認
  メラルヽト言ハナケレバナリマセヌ、是近
  現在ノ法制其他ニ於テサヘモ、無賠償ノ事
  實ヲ明ニ事實トシテ現ハシテ居ルコトハ、
  御承知ノ通リト思フノデアリマス、故ニ賠
  償論必シモ所有權是認、又ハ否認ト云フ唯
  一ノ根據ニハナリマセヌ、之ニ對スル司法
  大臣ノ御意見ヲ承リタイノデアリマス
  最後ニ經濟組織改造意見ト本法ノ關係デ
  アリマス、資本主義經濟機構ノ改革ト云フ
  コトガ叫バレテ居リマス、又資本主義經濟
  組織ノ修正ト云フコトヲ言ハレテ居リマ
  ス、又ハ統制經濟ト云フコトヲ言ハレテ居
  リマスルガ、結局統制經濟論モ資本主義經
  濟組織ノ改革ト云フコトガ眼目デアリマ
  ス、又社會政策、是ハ漸進的ナルモノデアリ
  マスルケレドモ、社會政策モ窮極スル所ハ、
  矢張經濟組織ノ改革問題ニ到達スルノデア
  リマス、今後ノ政黨ハ斯ノ如キモノガ其重
  要ナル政策ノ一トナルノデアリマス、私有
  財產制度否認ト、是等改革意見トノ關係如
  何諸君、私ノ考ヲ以テスルナラバ、私有
  財產制度ト資本主義經濟機構トハ別箇ノ觀
  念デアリマス、之ヲ同一ノ觀念ト見ルコトハ
  誤リデアリマス、資本主義經濟機構ト云フ
  モノハ私有財產制度ヲ基礎トシテ、其上ニ
  出來上ッタル經濟上ノ一現象デアリマス、私
  有財產制度ヨリ產出サレタルモノガ、資本
  主義經濟機構デアッテ、此資本主議經濟機構
  ハ過去ノ社會ニ於キマシテハ、非常ニ社會
  進運ノ爲ニ寄與シタルコトハ事實デアリマ
  ス、併ナガラ其發達ト共ニ、同時ニ往々弊
  害ガ伴フト云フコトハ、必然ノ趨勢デアリ
  マス、卽チ富ノ集中、富ノ偏在、企業ノ獨
  点貧富ノ絕大ナル懸隔、混沌タル社會情
  勢ノ釀成サレルコト、斯樣ナ現象ガ現ハレ
  テ來ルノデアリマス、隨テ資本主義經濟機
  構ノ上ニ種々ナル改革ヲ加ヘ、或ハ改良ヲ
  加へ、或ハ修正ヲ加ヘナケレバナラヌト云
  フノガ、今ヤ現在ノ政治上ニ於ケル傾向デ
  アリマス、是等ヲ改革スルコトガ、學者政
  治家ノ考究スベキ重大ナル題目ト私ハ思ッ
  テ居ルノデアリマス、斯ルモノニ對シテ國
  家的見地ニ立脚致シテ、公正ニ眞劍ニ其解
  決ニ努力スベキガ政治ノ要諦デナケレバナ
  ラヌト考ヘテ居リマス、然ルニ之ニ對シテ
  政府委員ハ、委員會ニ於テ斯ウ云フコトヲ
  言ッテ居リマス、資本主義經濟機構ヲ改良ス
  ルトシテモ、其結果私有財產制度ヲ根柢カ
  ラ無クスルト云フコトハ、法ノ許サヌ所デ
  アル、資本主義經濟機構ノ修正若クハ統制
  經濟ト致シマシテモ、ソレ等ノ範圍ニ於テ
  資本主義經濟機構ニ一大修正ヲ加ヘマシテ
  モ、私有財產制度ヲ根本ヨリ破壞スルヤウ
  ナ結果ヲ招來シナケレバ差支アリマセヌ
  ト、答辯サレテ居ルノデアリマス、併シ資
  本主義經濟組織ニ大斧鐵ヲ加ヘルナラバ、
  私有財產制度ノ本質ヲ失フ場合アリト云フ
  コトハ、吾々豫想シナケレバナリマセヌ、
  然ラバ私有財產制度否認トナラザル經濟組
  織ノ改革ト云フモノハ、如何ナルモノヲ言
  フノデアルカ、卽チ資本主義經濟機構ノ改
  革問題ト、私有財產制度否認ノ問題ト、如
  何ナル點ニ於テ相齟齬スルノデアルカ、若
  シソレ等ニ對スル限度ガアレバ其限度ヲ明
  確ニ御示ヲ願ヒタイノデアリマス
  最後ニ簡單ニ御伺致シテ置キマス、今マ
  デノ政府委員ノ御說明ニ依ルト、我ガ日本
  ノ國體ト私有財產制度ハ、同一ノモノト答
  辯ヲサレテ居ルコトガアッタノデアリマス、
  國體ノ尊嚴ニシテ侵スベカラザルモノ、吾
  吾日本國民ハ斷ジテ我ガ世界ニ類例ノナイ
  國體ノ下ニ、此國體ヲ擁護スルノハ、我ガ
  日本帝國ノ精神デアリマス、併シ必シモ國
  體ト云フモノト、私有財產制度ナルモノハ
  離ルベカラザル觀急ナリヤ否ヤ、治安維持
  法ノ事犯ニ現ハレタ事件カラ申シマシテ
  モ、國體變革ト、私有財產制度否認ト、二
  ツノモノガアッタノハ事實デアリマス、國體變革
  ヲ目的トセズシテ、唯單ニ私有財產制度否認
  其モノヲ目的トシタモノガアッタコトハ事實デア
  リマス、私ハ必シモ此尊嚴ニシテ吾々ガ絕對ニ
  擁護シナケレバナラヌ國體ト、私有財產制
  度ヲ、必シモ離ルベカラザル觀念トシテ置
  クベキガ善イカ惡イカ、之ニ對スル司法大
  臣ノ御意見ヲ承リタイノデアリマス、例
  バ我ガ日本ノ歷史ヲ見マスレバ、大化ノ
  新政ノ如キハ大改革ヲ行ッテ、所謂土地國有
  ヲ行ッテ居リマス、御承知ノ通リ大化二年ニ
  於キマシテ、今ヨリ約千二百年前、此大化
  ノ新政ニ於テ第一ニ行ッタルモノハ、政治上
  ノ大改革デアリマスルガ、第一ノ要點ハ私
  有地ノ撤廢デアリマス、第二ハ班田收授ノ
  法ヲ行ックコトデアリマス、卽チソレニ依リ
  マスルト、人ガ生レテ六歲ニ至レバ、男女ノ
  差別ニ依ッテ田地ヲ賜ウタノデアリマス、
  定ノ土地ヲ貸與シタノデアリマス、サウシ
  テ六年每ニ所謂人口調査ヲ行ヒマシテ、實
  情ニ卽シテ、之ヲ收授スル、是ガ班田收授
  ノ法デアリマス、卽チ生活問題ノ基本タル
  土地國有ヲ斷行シテ、サウシテ班田收授ノ
  法ヲ行ッタ、此時ニ於テハ我ガ日本ノ歷史上
  有名ナル此當時ニ於テ、土地國有ハ斷行サ
  レテ居ッタノデアリマス、昔ノ言葉ヲ以テ言
  フナラバ、普天ノ下率土ノ濱王土王臣ニ非
  ザルハ莫シト云フ觀念デアッタノデアリマ
  ス、所謂民ヲシテ菜色ナカラシムルノガ政
  治ノ要諦トスルナラバ、其當時王道政治ハ
  行ハレテ居ッタト言ウテ宜シイノデアリマ
  ス、卽チ我ガ國體ト私有財產制度ト云フモ
  ノハ、離ルベカラザルモノデアルヤ否ヤ、
  之ニ付テ司法大臣ノ明確ナル御答辯ヲ求メ
  マシテ、之ヲ以テ私ノ質問ノ大要ト致ス次
  第デアリマス(拍手)
  〔國務大臣小原直君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=85

  ---

• 086・小原直

  ○國務大臣(小原直君)　比佐君ノ御質問ニ
  御答致シマス、第一ノ御尋ハ、我ガ帝國憲
  法ノ改正ニ依ッテ、憲法規定ノ大權ノ一部
  ヲ變更セントスルコトハ、果シテ國體ノ變
  革トナルカドウカト云フ御尋デアリマス、
  更ニ之ニ關聯シテ、憲法上許サレタル議會
  ノ權能ニ依ッテ、大權ノ一部ヲ變更スルヤ
  ウニ憲法ノ改正ヲ上奏スルコトガ、治安維
  持法ニ所謂國體ノ變革ニナルカト云フ御尋
  デアリマス、憲法ノ改正ハ申上ゲルマデモ
  ナク、勅命ニ依ッテ、憲法ニ定メラレタル
  手續ニ依ッテ行ハルヽノデアリマス、私ハ
  今日此壇上ニ於テ、勅命ニ依ッテ天皇ノ大
  權ノ一部ニ變更ヲ加ヘントスル、憲法改正
  ノ議ガ果シテアルベキモノナリヤ否ヤト云
  フコトヲ申上ゲルコトハ、甚ダ恐懼ニ堪ヘ
  ナイ所デアリマスルノデ、玆ニ其答辯ヲ差
  控ヘタイト存ジマス、隨テ之ニ關聯致シマ
  ス上奏權ノ問題ニ關シテモ、同樣ニ答辯ヲ
  差控ヘタイト存ジマス
  第二ハ、私有財產制度ノ否認ト云フコト
  ハ、如何ナルコトデアルカト云フ御尋デア
  リマス、是ハ第五十議會ニ治安維持法ガ議
  會ノ議ニ上リマシタル以來、議會ニ於テ
  度々論議セラレタル所デアリマスガ、歷代
  ノ政府當局ハ之ニ對シテ、私有財產制度ノ
  否認トハ、根本的ニ私有財產制度ヲ破壞ス
  ルコトヲ言フノデアルト、答辯ヲ致シテ居
  ルノデアリマス、今日治安維持法ノ解釋適
  用ニ於キマシテモ、亦此解釋ニ依ッテ法律
  ヲ運用致シテ居ルノデアリマシテ、此事ヲ
  詳シク申上ゲマスルト、一々色々ノ事例ニ
  付テ申上ゲナケレバナラヌ事ガアルノデア
  リマスルガ、根本ノ理論ハ、結局根本的ニ
  私有財產制限ヲ破壞スルコトガ、所謂私有
  財產制度ノ否認デアルト云フコトニナルノ
  デアリマス、現實ニ於キマシテ、色々ノ事
  實ヲ證據ニ依ッテ判斷致シマシテ、之ヲ此
  觀念ニ當嵌マルヤ否ヤニ依ッテ、時々ニ判斷
  シテ行クヨリ外仕方ガナイト思フノデアリ
  マス
  第三ハ、第五十議會ニ於テ、時ノ政府當局
  者ガ、所有權ニ對スル賠償ヲシテ、所有權
  ヲ國家ニ取上ゲル場合ニ於テハ、ソレハ私
  有財產制度ノ否認ニナラナイト云フコトヲ
  答辯シタノデアルガ、果シテ同樣ノ意見ヲ
  有ッテ居ルカト云フ御尋ニ歸著スルヤウデ
  アリマス、只今申上ゲマシタ如ク、私有財
  產制度ノ否認ハ、根本的ニ私有財產制度ヲ
  破壞スルコトヲ言フノデアリマスルノデ、
  賠償ノ有無ト云フコトハ、多少ノ關係ハア
  リマセウガ、是モ亦具體的ノ事實ニ依ッテ判
  斷センケレバナラヌコトヽ思フノデアリマ
  ス、若モ賠償ヲシテ所有權ノ大部分ヲ取上
  ゲテ、之ニ依ッテ私有財產制度ヲ根本的ニ
  否認スルト云フコトニナリマスレバ、賠償
  ヲシテモ矢張私有財產制度ノ否認ガアリ得
  ルト思フノデアリマス
  第四ハ、經濟組織ノ改造ト、治安維持法
  トノ關係ニ付テノ御尋デアリマス、資本主
  義經濟機構ヲ改革スルトカ、或ハ資本主義
  ノ修正ヲスルトカ、又ハ統制經濟ヲ唱ヘル
  ト云フヤウナコトハ、本法ニ所謂私有財產
  制度ノ否認ニナルカト云フ御尋デアリマ
  ス、所謂資本主義ト云フコトハ、私ガ御說
  明申上ゲルマデモナク、私有財產制度ヲ根
  本トシテノ建前カラ生ズル一ツノ集リタル
  制度ノ觀念デアリマス、所謂私有財產制度
  ハ營業、自由、企業、是等ノモノガ綜合シ
  テ玆ニ所謂資本主義ト云フモノガ出來ルト
  思フノデアリマスガ、此內容ノ一部ニ對シ
  テソレ〓〓〓造ヲ加へ、變更ヲ加ヘマシテ
  モ、是ガ全體ニ見テ私有財產制度ノ破壞ニ
  ナラナイ限リニ於テハ、其議論ハ私有財產
  制度ノ否認トハナラナイト解釋シテ居リマ
  ス(「ヒヤ〓〓」)
  第五ハ、從來ノ政府當局ノ中ニ、國體ト
  私有財產制度トハ同一デアルト云フヤウナ
  說明ガアッタガ、現政府ハ果シテ如何ニ考ヘ
  ルカト云フ御尋デアリマス、是ハモウ申上
  ゲルマデモナク、國體ト私有財產制度トハ
  別個ノモノデアリマス、全ク觀念ノ違フモ
  ノデアリマス、唯偶〓我國ニ於ケル共產主
  義者ガ、國體ノ變革ト、私有財產制度ノ否
  認トヲ其綱領ト致シマシテ、犯罪ヲ行ヒマ
  スル上ニ於テ、是ガ共ニ現ハレテ參リマス
  カラ、其結果トシテ我國ノ共產主義者ノ唱
  ヘル私有財產制度ノ否認ハ、同時ニ國體ノ
  變革ヲ來スト云フ場合ガ多クアルノデアリ
  マス、唯併ナガラ現ニ提案致シマシタ今度
  ノ改正案ニ、國體ノ變革ト私有財產制度ノ
  否認トハ、別條ニ之ヲ規定シテ居リマスル
  ガ如ク、觀念ハ全ク違フコトデアリマス、
  國體ノ變革ヲ企テナガラ、私有財產制度ノ
  否認ニナラナイ場合モアルカモ知レマセ
  ヌ、併シ反對ニ、又私有財產制度ヲ否認ス
  ル共產主義者ガ、國體ノ變革ヲ企テナイト
  云フ場合モアルカモ知レナイノデアリマ
  ス、是ハ矢張時々ノ犯罪ノ現ハレニ依ッテ
  決メルヨリ外ニ仕方ガナイト思フノデアリ
  マス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=86

  ---

• 087・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　比佐君、モウ御尋ハ
  アリマセヌカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=87

  ---

• 088・比佐昌平

  ○比佐昌平君　是レ以上ハ議論ニ亙ル場合
  モアリマスカラ、委員會ニ讓ルコトヽ致シ
  マシテ、本日ハ之ヲ以テ私ノ質疑ハ終リマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=88

  ---

• 089・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　次ノ通〓者中村不二
  男君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=89

  ---

• 090・中村不二男

  ○中村不二男君　私ハ只今ノ議場ノ有樣ニ鑑
  ミマシテ、私ノ質問ヲ他日ノ機會ニ讓リマ
  ス、但シ此機會ニ一言申上ゲテ置キタイノ
  ハ、議長ノ今日ノ取扱振リカラ申上ゲマス
  ルナラバ、將來私共ハ今日ノ程度ヲ慣例ト
  認メテ、有ユル機會ニ於テ私共ノ發言ヲ要
  求致シマス、願クハ今日ト異ッタル御取扱ノ
  ナイコトヲ期待シ、希望致シテ置キマ
  ス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=90

  ---

• 091・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　質疑ハ終局致シマシ
  ク、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ニ
  付テ御諮リ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=91

  ---

• 092・青木雷三郎

  ○靑木雷三郞君　日程第八、第九ノ兩案ハ
  一括シテ、議長指名二十七名ノ委員ニ付託
  セラレンコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=92

  ---

• 093・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靑木君ノ動議ニ御異
  議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=93

  ---

• 094・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第
  +、公立學校職員年功加俸國庫補助法中改
  正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス-文部大
  臣松田源治君
  第十公立學校職員年功加俸國庫補助
  法中改正法律案(政府提出)第一讀會
  公立學校職員年功加俸國庫補助法中改
  正法律案
  公立學校職員年功加俸國庫補助法中左ノ
  通改正ス
  第一條中「實業學校、」ノ下ニ「靑年學校、」
  ヲ加へ「實業補習學校〓員養成所」ヲ青青
  年學校〓員養成所」ニ改ム
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  〔國務大臣松田源治君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=94

  ---

• 095・松田源治

  ○國務大臣(松田源治君)　只今議題ニナリ
  マシタ公立學校職員年功加俸國庫補助法中
  改正法律案ノ提出ノ理由ヲ說明致シマス、
  今囘實業補習學校及靑年訓練所ノ兩靑年〓
  育機關ヲ統合シテ靑年學校トスルト共ニ、
  實業補習學校〓員養成所ヲ改メテ、靑年學
  校〓員養成所トスルコトニ相成ッタノデア
  リマス、仍テ公立學校職員年功加俸國庫補
  助法中、學校ノ名稱ヲ改メル必要ガアリマ
  スノデ、本案ヲ提出致シタ次第デアリマ
  ス、何卒御審議ノ上協贊アランコトヲ希望
  致シマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=95

  ---

• 096・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　別ニ質疑ノ通〓ハア
  リマセヌ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
  選擧ニ付テ御諮リヲ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=96

  ---

• 097・青木雷三郎

  ○青木雷三郞君　本案ハ政府提出、市町村
  立尋常小學校費臨時國庫補助法中改正法律
  案委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=97

  ---

• 098・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靑木君ノ動議ニ御異
  議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=98

  ---

• 099・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-此際林
  陸軍大臣ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマス、
  議院法第四十二條ニ依リ之ヲ許可致シマス
  〔國務大臣林銑十郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=99

  ---

• 100・林銑十郎

  ○國務大臣(林銑十郞君)　私ハ先程本議場
  ニ於キマシテ、砂田豫算委員長ノ追加豫算
  審査ノ經過報告中ニ、陸軍ニ關シテ述べラ
  レマシタコトニ付テ、此際一言致シタイト
  思ヒマス、其當時陸軍ノ態度ニ付キマシテ
  若干ノ御意見ガアリマシタガ、私ハ其新聞
  ノ記事ナルモノモ承知致シマセズ、其內容
  等モ能ク存ジナカック爲ニ、其當時發言ヲ致
  シマセヌデゴザイマシタガ、爾後調査致シ
  マシタ所ニ依ルト、軍ガ軍ノ名前ヲ以テ、
  申サレタヤウナ所見ヲ發表シタル事實ハア
  リマセヌ、或ハ二月十五日ノ電報通信、其
  他單ニ一二ノ新聞ノ記事ニ、サウ云フ意味ノ
  コトガアルヤウデアリマスガ、是等ヲ指サレ
  タモノカトモ考ヘマス、併ナガラ是ハ決シテ
  軍ガ指示シテ、サウ云フ記述ヲサセタ譯デア
  アリマセヌ、由來責任アル軍當局ノ發表シマスル
  意見以外ノコトガ、恰モ軍ノ意見デアルカ
  ノ如ク傳ヘラレテ、爲ニ幾多ノ誤解ヲ招
  キ、軍トシテ相當迷惑ヲ感ジテ居ルコトハ
  多數アリマス、軍ト致シマシテハ、軍ノ意
  見ヲ發表致シマス場合ニハ、通常陸軍省發
  表トカ、或ハ陸軍當局談トカ云フヤウナ形
  式ヲ以テ、相當多數ノ新聞ニ一齊ニ發表ス
  ルコトニナッテ居リマス、將來モ亦サウ云フ
  形式ヲ採ルノデゴザイマスルカラ、軍ノ意
  見トシテ論議セラルヽ場合ニ於キマシテ
  ハ此發表ノ形式ニ御注意アランコトヲ御
  願致シテ置キマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=100

  ---

• 101・青木雷三郎

  ○靑木雷三郞君　殘餘ノ日程ヲ延期シ、本
  日ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=101

  ---

• 102・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　靑木君ノ動議ニ御異
  議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=102

  ---

• 103・濱田國松

  ○議長(濱田國松君)　御異議ナシト認メマ
  ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ日
  程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是
  ニテ散會致シマス
  午後六時三十四分散會
  衆議院議事速記錄第二十三號
  中正誤
  頁段行誤正
  四七八四二五絲合意思綜合意思
  四七九四二四御異議ナシイト御異議ナシト

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02419350307&spkNum=103

4. 会議録のPDFを表示

この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。