1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十年三月十二日(火曜日)
午後一時三十二分開議
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議事日程 第二十五號
昭和十年三月十二日
午後一時開議
質問
一 國體に關する質問(山本悌二郎君提出)
二 米穀政策竝砂糖關税及同附加税に關する質問(伊禮肇君提出)
三 大演習時の御警衞に關する質問(中山福藏君提出)
四 朝鮮に於ける司法權振肅に關する質問(風見章君提出)
五 外交國防及國策に關する質問(畑桃作君提出)
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第一 南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道買收の爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第二 昭和十年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 昭和七年法律第一號中改正法律案(滿洲事件に關する經費支辨の爲公債發行に關する件)(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 臨時利得税法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五 日本銀行納付金法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第六 家事調停法案(星島二郎君外四名提出) 第一讀會
第七 家事調停法案(中村三之丞君外二名提出) 第一讀會
第八 畜産組合法中改正法律案(高田耘平君外四名提出) 第一讀會
第九 公證人法中改正法律案(一松定吉君外八名提出) 第一讀會
第十 公證人法中改正法律案(野田文一郎君提出) 第一讀會
第十一 昭和八年法律第五十三號辯護士法中改正法律案(宮澤清作君外四名提出) 第一讀會
第十二 昭和六年法律第四十號廢止法律案(重要産業の統制に關する件)(森田福市君外一名提出) 第一讀會
第十三 國民保健施設充實に關する法律案(野田文一郎君外五名提出) 第一讀會
第十四 行政執行法中改正法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十五 營業收益税法中改正法律案(中谷貞頼君外二名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十六 司法保護法案(小林かなえ君外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十七 司法保護法案(手代木隆吉君外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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001・濱田國松
○議長(濱田國松君) 諸般ノ報〓ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一議員ノ異動左ノ如シ
山口縣第二區選出議員松岡洋右君澤本與
一君ノ補闕トシテ小河虎彥君國光五郞君
當選セラレタリ
一政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
衆議院議員伊禮肇君提出米穀政策竝砂糖
關稅及同附加稅ニ關スル質問ニ對スル答
辯書
衆議院議員風見章君提出朝鮮ニ於ケル司
法權振肅ニ關スル質問ニ對スル答辯書
(以上三月十一日受領)
米穀政策竝砂糖關稅及同附加稅ニ關ス
ル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十年二月二十二日
提出者伊禮肇
米穀政策竝砂糖關稅及同附加稅ニ關
スル質問主意書
最近東京製菓協會ヲ中心トシテ糖價引下
全國期成同盟會ヲ結成シ砂糖關稅竝同附
加稅ノ撤廢ヲ期シ各方面ニ陳情スル等猛
運動中ナリト仄聞ス今ヤ世界ヲ擧テ關稅
牆壁ヲ設ケテ各自國內ノ重要產業保護ニ
努力シツツアル秋ニ際シ我カ國ノ砂糖關
稅(同附加稅合算)ハ世界各國中最低位ニ
在ルノミナラス從價關稅トノ均衡上從量稅
品全部ニ對シテ設定セラレタル關稅附加
稅ヲ特ニ砂糖ニ限リ撤廢セラルヘキ理由
全然ナシ況ヤ糖價ハ現在他ノ一般物價ニ
比シテ寧ロ格安ニシテ決シテ高價ナラサ
ルニ於テオヤ殊ニ沖繩縣ハ甘蔗ニ代ルヘ
キ經濟的適作物ナキ爲糖業ヲ以テ主要產
業トシ今ヤ政府助成ノ下ニ甘蔗ノ品種改
良肥培管理ノ改善、製造技術ノ改良等
著々改善發達ノ途上ニ在ルノミナラス大
資本組織ニ依ル臺灣、南洋等ノ製糖業ト
異リ農民多數ハ依然トシテ數百年來ノ原
始的製糖法ノ域ヲ脫セサル結果現在ノ關
稅竝同附加稅ノ下ニ於テモ尙且原價割レ
ノ損失ヲ蒙リ居ル狀態ニ在リ政府ハ他府
縣農村ニ對シテハ米價ノ維持引上竝蠶絲
業ノ保護救濟等ニ巨額ノ國帑ヲ投シテ有
ラユル方策ヲ講シツツアルモ沖繩縣民ハ
何等是等ノ恩惠ニ浴セサルノミナラス反
テ外米ノ輸入禁止竝米價釣上政策ノ爲〓
糧米ノ買入ニ高價ヲ支拂フノ餘儀ナキ狀
態ニ在リ而モ沖繩縣ハ鹿兒島ヲ去ル二百
六十浬乃至五百五十二浬ノ洋上ニ散在ス
ル六十有餘ノ島嶼ヨリ成リ他府縣トノ交
通ハ勿論各島間ノ交通モ總テ船舶ノ便ヲ
藉ラサルヘカラサル結果沖繩縣ノ生產經
濟竝消費經濟ハ何レモ法外ナル高運賃ノ
影響ヲ受ケ縣民ノ困窮言語ニ絕スルモノ
アリ上述ノ如キ狀態ニ於テ沖繩縣唯一ノ
換金農產物タル砂糖ニ對シ其ノ關稅竝同
附加稅ヲ撤廢セラルルカ如キコトアラムカ
米蠶絲ヲ主業トスル他府縣農民ノ保護厚
キニ反シ糖業ヲ主トスル沖繩縣農民ハ國
策上何等ノ恩惠ニ浴セサルノミナラス却
テ產業經濟上多大ノ壓迫ヲ蒙ル結果ト爲
ルコト火ヲ睹ルヨリ明ナリ依テ政府ハ右
事情酌量ノ上糖價引下陳情ニ耳ヲ藉サス
砂糖關稅竝同附加稅ノ撤廢ニ反對セラレ
ムコトヲ要望ス政府ノ所見如何
更ニ以上述ヘタル通政府ノ米價維持引上
ノ諸政策實施ニ依リ何等ノ恩惠ヲ蒙ラサ
ルノミナラス却テ米價騰貴ニ依リテ生活
上多大ノ壓迫ヲ蒙レル沖繩縣民ノ爲ニ農
林當局ニ對シテハ政府貯藏米ノ廉價拂下
竝ニ一定量ノ外米輸入ノ許可ヲ內務當局
ニ對シテハ米穀對策諸法令實施ノ結果惡
影響ヲ受ケタル沖繩縣ノ爲ニ適當ナル社
會政策ヲ講シテ救濟シ以テ國家ノ公平ナ
ル恩惠ニ浴セシメラレムコトヲ要望ス政
府ノ所見如何
右及質問候也
昭和十年三月十二日
內閣總理大臣岡田啓介
衆議院議長濱田國松殿
衆議院議員伊禮肇君提出米穀政策竝砂糖
關稅及同附加稅ニ關スル質問ニ對シ別紙
答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員伊禮肇君提出米穀政策竝砂
糖關稅及同附加稅ニ關スル質問ニ對ス
ル答辯書
一內務省關係事項ニ關スル答辯
沖繩縣ニ於ケル生活困窮者ノ一部ハ現
ニ時局匡救事業ノ施行又ハ救護法ノ實
施等ニ依リ相當救濟ヲ受ケツツアル所
ナルモ今後ニ於テモ必要ニ應シ之カ保
護救濟ノ方途ヲ講スルノ要アリト思料
ス尙本縣ノ振興ニ關シテハ曩ニ之カ計
畫ヲ樹立シ目下銳意實行中ニ屬ス
二大藏省關係事項ニ關スル答辯
本邦精業ハ近時大體自給自足ノ狀態ニ
在リト雖各國ニ於ケル通商政策及國內、
國外ニ於ケル生產狀況等諸種ノ事情ニ
鑑ミ此ノ際本邦重要物產タル砂糖ノ關
稅改正ヲ爲スヘキヤ否ヤニ關シテハ愼
重考慮ヲ要スルモノアリ
(三)農林省關係事項ニ關スル答辯
イ砂糖輸入稅率ノ引下ハ糖業ヲ以テ主
要產業トスル沖繩縣及鹿兒島縣大島
ノ農民經濟ニ甚大ノ關係ヲ有シ、現
ニ黑糖ノ價格ノ如キハ生產費ニ比シ
特ニ高價ナリトハ認メ難キヲ以テ輸
入稅率ノ引下ニ關シテハ愼重考慮ノ
要アルモノト認ム
)沖繩縣ニ對スル米穀ノ供給ニ關シテ
(ロ
ハ從來同縣ノ特殊事情ニ鑑ミ政府所
有米ノ拂下ヲ爲ス等相當便宜ヲ圖リ
來レルガ今後ニ於テモ諸般ノ事情ヲ
考慮シ適當ナル措置ヲ講セントス
右及答辯候也
昭和十年三月十二日
大藏大臣高橋是〓
內務大臣後藤文夫
農林大臣山崎達之輔
朝鮮ニ於ケル司法權振肅ニ關スル質問
主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十年三月二日
提出者風見章
朝鮮ニ於ケル司法權振肅ニ關スル質
間主意書
朝鮮ニ於ケル司法權カ現在ニ於テハ朝鮮
總督ノ統理ニ屬シ內地ト全然分離シテ
作用スル結果內外地ノ間ニ統一連絡ヲ缺
キ一視同仁ノ施政ニ疑惑ヲ挾ム者ヲ生シ
ツツアルノミナラス近時其ノ運用適正ヲ
缺キ民衆ノ怨府トナルノ事例尠シトセス
斯ノ如キハ實ニ看過スヘカラサル國家ノ
不祥事ナリト信ス政府ハ其ノ事情ヲ精査
シ之ニ對シ適切ナル措置ヲ講スルノ要ア
リト認ム果シテ政府ハ左記各項ニ關シ如
何ナル所見ヲ有スルヤ其ノ對策ヲモ併セ
テ答辯アラムコトヲ望ム
第一項朝鮮ニ於ケル司法官ノ待遇ハ內
地ノ夫レニ比較シ菲薄ノ狀ニ在リ卽チ
判事ハ內地ト均シク身分ノ保障ヲ受ク
ルモ檢事ハ身分ノ保障ナク且判檢事ヲ
通シ其ノ官等俸給ニ付テ見ルモ內地ノ夫
レニ比シ頗ル遜色アリ斯ノ如キハ優良
ナル裁判官及檢察官ヲ得ル上ニ於テ支
障大ナルノミナラス朝鮮司法部ノ威信
ヲ重カラシムル所以ニ非スト思料セラ
ル之ニ對スル政府ノ所見及對策如何
第二項朝鮮ニ於ケル民事刑事ノ事件ハ
逐年激增ノ趨勢ヲ示セルニ拘ラス之ニ
伴フ施設ノ擴充ナク又必要ナル判檢事
書記等ノ增員ナキ爲執務上著シク過重
ナル負擔ヲ强フルノ現狀ナリ從テ當局
者カ晝夜兼行ノ努力ヲ爲シツツアルニ
拘ラス司法事務ノ澁滯ヲ來シ或ハ其ノ
取扱ノ粗漏杜撰トナレルノ實例ニ乏シカ
ラス斯シテ司法權ノ公明ヲ疑ハルルカ
如キハ朝鮮統治ノ爲ニ誠ニ遺憾ニ堪ヘサ
ル所ナリ之ニ對スル政府ノ所見如何
第三項現在朝鮮ニ於テハ裁判所構成法
施行セラレサルノ結果內地ノ大審院ト
朝鮮ノ高等法院トハ全ク別箇ノ存在ニ
屬シ民事及刑事事件ニ對スル判決ノ統
一ヲ缺キ民衆ヲシテ其ノ歸趨ニ迷ハシ
ムルモノ尠シトセス同一國籍ヲ有スル
日本人カ帝國內ニ於ケル居住地域ヲ異
ニスルニ由リ嚴正ナルヘキ司法權ノ發
動ニ於テ斯ノ如キ差別的ノ處遇ヲ受ク
ルカ如キハ不合理モ亦甚シト謂ハサル
ヘカラス政府ハ我カ國ノ司法制度ニ改
正ヲ加ヘ此ノ不公平ヲ一掃スルノ意思
ナキヤ
第四項朝鮮ニ於ケル司法權ノ運用ヲ見
ルニ檢査當局カ往々被疑者ノ人格ヲ無
視シ常軌ヲ逸脫シタル取調ヲ行ヒ所謂
人權蹂躪ト認メラルヘキ事例ニ乏シカ
ラス以下述フル所ノ昭和六年刑公第七
一五號、同第七一六號所載詐欺背任商
法違反被〓事件ノ如キハ其ノ最顯著ナ
ル一事例ナリ抑〓本件ハ朝鮮ニ於ケル三
大疑獄事件ノ一トシテ全鮮ノ耳目ヲ聳動
セシメタルモノニ屬ス〓其ノ內容ヲ要約
スレハ京城辯護士李某カ戶矢某北垣某
李某等ト通謀ノ上朝鮮產業株式會社ノ
所有ニ屬スル土地百万坪ノ無償囘收ノ手
段トシテ計畫セラレタルモノニシテ屢〓、
民事上ノ訴ヲ試ミタルニ拘ラス其ノ目
的ヲ達スルコト能ハサリシニ鑑ミ先ツ
同會社ノ首腦部ヲ告訴シ官憲ノ力ヲ藉
リ刑事上ノ有罪判決ヲ得テ之ヲ民事事
案ニ援用シ旣ニ再三敗訴セル民事判決
ヲ覆ヘサムト企圖シタルモ結局高等法
院ノ公明ナル判決ニ依リ彼等ノ企圖セ
ル計畫ハ不成功ニ終リタルモノナリ斯
ノ如ク其ノ出發點ニ於テ既ニ不純ナル
被〓事件タリシ本件ニ於テハ其ノ搜索取
調中不法不當ノ取扱ヲ敢行シ人權蹂躪
ト認メラルルノ事實枚擧ニ遑アラス其ノ
重大ナル一二ノ例ヲ摘出スレハ左ノ如シ
一昭和六年三月十八日ノ領置調書
記載ノ物件卽チ證第二九九號等ハ
當時朝鮮產業株式會社ニ存在セシ
モノニ非ス何トナレハ若シ同社ニ
存在セルモノナリシナラハ家宅搜
索ニ際シ斯ノ如キ犯罪事實ノ認定
ニ關シ重要ナル資料ヲ押收セスシ
テ放置スル筈ナク又假ニ當時同會
社內ニ存在シタリトスルモ被〓人
ノ爲ニ不利益ナル證據方法ヲ被告
人側ヨリ任意提出シテ領置處分ヲ
願フカ如キコトハ想像シ得サル所
ナリ加之當時會社ノ首腦部タリシ
堆浩、梁濟博等ハ西大門刑務所ニ
拘禁セラレ該物件ヲ提出スルノ術
ナカリシモノナルニ於テオヤ更ニ
兩名ノ家族ハ勿論同會社ノ社員等
ニ於テモ右證據物件ノ提出ヲ命セ
ラレタルコトナク又提出セルノ事
實モ絕對ニナカリシモノナリ然ル
ニ記錄ニ依レハ右書類ノ提出者ハ
朝鮮產業株式會社トノミ記入セラ
レ責任者ノ氏名ハ全然記載ナシ斯
ノ如キハ無辜ヲ罪セムカ爲檢察當
局カ故意ニ斷罪ノ資料ヲ作成シタ
ルモノト謂ハサルヘカラス以上ノ
事實ニ對スル當局ノ所見如何
二戶矢某ノ寺田檢事宛提出セル陳
述書及上申書竝黃道杰、金秉吉、
方尙祿外三名ノ〓訴狀添附ニ係ル
朝鮮產業株式會社關係書類ト稱ス
ルモノハ全部僞造セラレ或ハ竊取
セラレタルモノト認ムルノ外ナシ
何トナレハ此等ノ者ハ朝鮮產業株
式會社ノ株主ニ非ス又理事者ニモ
非サルカ故ニ會社ニ關係ヲ有セサ
ル者カ會社ノ機密書類ヲ所持スル
筈ナキヲ以テナリ然レハ之カ受理
ヲ爲シタル檢察當局トシテハ須ラ
ク之カ出所ヲ究明シ其ノ眞否ヲ確
メサルヘカラス然ルニ全然此ノ事
ナクシテ之ヲ信憑力アルモノトシ
斷罪ノ資料タラシメタルカ如キハ
檢察官タルノ職責ニ反スルハ勿論
被疑者ノ權利利益ヲ尊重スヘシト
スル刑事訴訟法ノ精神ニ反スルモ
ノナリ以上ノ事實ニ對スル當局ノ
所見如何
三凡ソ株式會社ノ設立無效ハ株主
又ハ取締役若ハ監査役カ訴ヲ以テ
ノミ之ヲ主張シ得ルモノナルコト
ハ商法ノ明示スル所ナリ然ルニ本
件ノ豫審判事ハ其ノ決定書ニ於テ
會社ノ設立ハ無效ナリト斷セラレ
タリ斯ノ如キハ法ノ解釋適用ノ任
ニ當ルヘキ判事トシテ甚シキ失態
タルノミナラス朝鮮司法官ノ威信
ヲ傷クルモノト信ス以上ノ事實ニ
對スル當局ノ所見如何
四勾留中ノ被〓人ニ對シ保釋ノ申
請アリタル場合ニ於テハ豫審終結
決定前ト雖被〓人逃亡ノ虞アルト
キ、罪證ヲ湮滅スル虞アルトキ等
ノ如キ場合ヲ除クノ外ハ努メテ之
ヲ許可スヘキモノナルコト刑事訴
訟法ノ原則ナリ然ルニ本件ハ昭和
五年十一月二十五日起訴セラレ昭
和六年六月十三日豫審終結決定シ
タルニ拘ラス被告人池邊竹次ニ對
シテハ同年八月三十一日ニ至ル迄、
被〓人堆浩、梁濟博ニ對シテハ同
十二月一日ニ至ル迄保釋ヲ許サス
引續キ拘禁シタル事實アリ斯ノ如
キハ不法ニ人民ノ自由ヲ蹂躪セル
モノト謂ハサルヲ得ス以上ノ事實
ニ對スル當局ノ所見如何
五刑事訴訟法第五十六條ニ依レハ
調書ハ書記ヲシテ之ヲ供述者ニ讀
聞カサシメ又ハ供述者ヲシテ之ヲ
閱覽セシメ其ノ記載ノ相違ナキカ
否ヲ問フヘキモノナリ然ルニ本件
ニ於テハ豫審判事ハ此ノ規定ヲ無
視シ供述者ヲシテ白紙ニ署名セシ
メ一度モ被〓人等ニ讀聞カスコト
ナク恣ニ訊問調書ヲ作成シタリ而
シテ斯ノ如キ事實ハ本件ノミニ止
マラス他ノ刑事事件ニ於テモ慣行
セラルル所ナリ以上ノ事實ニ對ス
ル當局ノ所見如何
右及質問候也
昭和十年三月十二日
內閣總理大臣岡田啓介
衆議院議長濱田國松殿
衆議院議員風見章君提出朝鮮ニ於ケル司
法權振肅ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書
差進候
〔別紙〕
衆議院議員風見章君提出朝鮮ニ於ケル
司法權振肅ニ關スル質問ニ對スル答辯
書
第一項朝鮮ノ檢事ニ付テハ明文上身分
保障ノ規定ナキモ實際ノ取扱ニ於テハ
內地同樣ノ取扱ヲ爲シ其ノ意ニ反シテ
免官スルガ如キコトナシ、之ガ規定ヲ
設クルコトニ付目下〓究中ナリ、尙判
檢事ヲ通ジ官等俸給ハ制度上差異ナク
實際上內地ニ比シ低キハ豫算計理上ノ
關係ニシテ朝鮮ニ於テハ單ニ司法官ニ
止マラズ一般文官ニ於テモ同樣ナリ
第二項朝鮮ニ於ケル民刑事々件逐年激
增シ裁判所職員ノ負擔重キハ事實ナル
ヲ以テ政府ニ於テハ必要ニ應ジ之ガ增
員ヲ爲シツヽアリ尙將來ニ於テモ財政
ノ許ス範圍ニ於テ考慮スベシ
第三項朝鮮ニ於テハ慣習等ニ於テ內地
ト異ル特殊事情アルヲ以テ朝鮮ノ事情
ニ通曉スル裁判官ヲシテ裁判ニ當ラシ
ムルノ必要上裁判所ノ構成ニ於テモ內
地ノ裁判所構成法ニ依ラズ朝鮮總督府
裁判所令ニ依リ規定ス、今直ニ裁判所
構成法ヲ朝鮮ニ施行スルノ意思ナシ
第四項朝鮮ノ檢察當局ニ人權蹂躪ノ事
實アリヤ否ヤニ付テハ目下詳細調査中
ニ付追テ答辯ス
右及答辯候也
昭和十年三月十一日
拓務大臣伯爵兒玉秀雄
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
臨時所得稅法案(政府提出)ニ對スル修正
案
提出者
野田文一郞君小山谷藏君
岸衞君伊禮肇君
高橋壽太郞君中村繼男君
(以上三月十一日提出)
國有林野所在市町村助成金ノ增額交付方
法ノ改善竝同府縣ヘノ範圍擴張ニ關スル
建議案
提出者八田宗吉君
米代川改修工事速成ニ關スル建議案
提出者
杉本國太郞君鈴木安孝君
奧羽本線ノ能代驛經由ニ關スル建議案
提出者
杉本國太郞君鈴木安孝君
鹿島神宮修築ニ關スル建議案
提出者飯村五郞君
函館市ニ海洋氣象臺設置ニ關スル建議案
提出者
大島寅吉君小池仁郞君
坂東幸太郞君手代木隆吉君
京都市內貫通國有鐵道高架改築ニ關スル
建議案
提出者
田中祐四郞君川橋豐治郞君
中村三之丞君福田虎龜君
愛國郵便切手發行ニ關スル建議案
提出者
內ケ崎作三郞君牧山耕藏君
村松久義君手代木隆吉君
磐梯山ヲ中心トスル國立公園指定ニ關ス
ル建議案
提出者林平馬君
野岩羽鐵道速成ニ關スル建議案
提出者林平馬君
紀勢東線始發驛變更ニ關スル建議案
提出者
後藤脩君伊坂秀五郞君
堀川美哉君
西都城驛宮崎驛間省營自動車運輸開始ニ
關スル建議案
提出者水久保甚作君
關東州及滿洲產苹果移輸入ニ關スル建議
案
提出者
仙波久良君岸田正記君
中野種一郞君
靑木川改修ニ關スル建議案
提出者加藤鯛一君
西大寺那波間海岸鐵道敷設ニ關スル建議
案
提出者
橫山泰造君田中武雄君
原惣兵衞君岡田忠彥君
難波〓人君久山知之君
大山斐瑳麿君〓瀨一郞君
京都府由良川筋省營自動車運輸開始ニ關
スル建議案
提出者水島彥一郞君
飛行場設置ニ關スル建議案
提出者
西岡竹次郞君佐保畢雄君
結核豫防撲滅ニ關スル建議案
提出者原口初太郞君
民法相續編中改正ニ關スル建議案
提出者
松木弘君鳩山秀夫君
三上英雄君
伊豆大島ニ中央氣象臺附屬測候所設置ニ
關スル建議案
提出者
三上英雄君牧野賤男君
帝國圖書館完成ニ關スル建議案
提出者
河上哲太君山下谷次君
能代船川間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
杉本國太郞君鈴木安孝君
能代郊外東雲原ニ航空隊設置ニ關スル建
議案
提出者
杉本國太郞君鈴木安孝君
地方自治團體ノ名譽職待遇ニ關スル建議
案
提出者
川島正次郞君野方次郞君
小高長三郞君
(以上三月九日提出)
八幡金山間省營自動車運輸開始ニ關スル
建議案
提出者匹田銳吉君
東海道線越美線直接連絡鐵道速成ニ關ス
ル建議案
提出者匹田銳吉君
須崎構原間省營自動車運輸開始ニ關スル
建議案
提出者
依光好秋君林讓治君
豐國神社昇格ニ關スル建議案
提出者
加藤鐐五郞君田中善立君
瀨川嘉助君小山松壽君
佐世保市ニ專賣局鹽倉庫設置ニ關スル建
議案
提出者佐保畢雄君
國立織物〓究所設立ニ關スル建議案
提出者鷲野米太郞君
唐津港ヲ第二種重要港灣指定ニ關スル建
議案
提出者藤生安太郞君
宮崎縣山手鐵道建設ニ關スル建議案
提出者田尻藤四郞君
中等農學校卒業生ノ獸醫師免許特典期間
延長ニ關スル建議案
提出者
平島敏夫君松尾孝之君
前橋宇都宮水戶間縣道國道編入ニ關スル
建議案
提出者
篠原義政君增田金作君
中島知久平君上野基三君
松村光三君船田中君
坪山德彌君山崎猛君
宮古啓三郞君佐藤洋之助君
葉梨新五郎君
關門連絡施設ノ完備ニ關スル建議案
提出者林田操君
北濃城端間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
土倉宗明君島田七郞右衞門君
牧野良三君
元屯田兵優遇ニ關スル建議案
提出者林路一君
鐵道踏切設備改善ニ關スル建議案
提出者林路一君
那賀川改修工事促進ニ關スル建議案
提出者紅露昭君
勝浦川改修ニ關スル建議案
提出者紅露昭君
海部川改修ニ關スル建議案
提出者紅露昭君
德島市ヨリ羽ノ浦町ヲ經テ甲浦町ニ至ル
縣道國道編入ニ關スル建議案
提出者紅露昭君
東北地方馬產振作ニ關スル建議案
提出者
八田宗吉君大石倫治君
穀類搗精取締法制定反對ニ關スル建議案
提出者
菅野善右衞門君壽原英太郞君
小島智善君
警察官國有鐵道無賃乘車竝半額劵交付復
活ニ關スル建議案
提出者野中徹也君
北洋材ノ需給調節ニ關スル建議案
提出者
竹田儀一君眞鍋儀十君
永田善三郞君
堤防築造ニ關スル建議案
提出者豐田豐吉君
馬鈴薯耕作及澱粉事業奬勵ニ關スル建議
案
提出者
坂東幸太郞君大島寅吉君
手代木隆吉君山本厚三君
小池仁郞君
甜菜耕作奬勵ニ關スル建議案
提出者
坂東幸太郞君手代木隆吉君
大島寅吉君山本厚三君
小池仁郞君
千島開發ニ關スル建議案
提出者
山本厚三君坂東幸太郞君
手代木隆吉君大島寅吉君
茨城縣北部冷害地救濟ニ關スル建議案
提出者中井川浩君
上野土浦間電化促進ニ關スル建議案
提出者中井川浩君
陶器原料保全ニ關スル建議案
提出者丹下茂十郞君
岡崎多治見間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
丹下茂十郞君小林錡君
平井信四郞君
伊豆七島ニ府縣制竝町村制施行ニ關スル
建議案
提出者
三上英雄君牧野賤男君
娼妓營業公認ニ關スル建議案
提出者
佐藤庄太郞君高橋熊次郞君
川島正次郞君倉元要一君
岡田伊太郞君門田新松君
磯部尙君山下谷次君
花城永渡君丹下茂十郞君
板野友造君向井倭雄君
森田政義君中野寅吉君
熊谷五右衞門君名川侃市君
三井德寶君小林錡君
松村光三君宮本雄一郞君
林路一君岩本武助君
竹下文隆君瀨川嘉助君
永田良吉君山本莊一郞君
本田義成君坂本一角君
久山知之君土倉宗明君
中井一夫君菅野善右衞門君
小高長三郞君三上英雄君
野方次郞君中野種一郞君
深澤豐太郞君藤生安太郞君
大石倫治君世耕弘一君
靑木雷三郞君吉田鞆明君
高橋金治郞君立川平君
松木弘君佐々木家壽治君
近藤壽市郞君大野伴睦君
佐保畢雄君蔭山貞吉君
水久保甚作君坪山德彌君
仙波久良君田尻藤四郞君
綾部健太郎君則井萬壽雄君
靑田勝晴君國枝拾次郞君
山本市英君勝又春一君
安藤正純君加藤久米四郞君
高田耘平君荒川五郞君
西村丹治郞君前田房之助君
吉川吉郞兵衞君平川松太郞君
松定吉君濱野徹太郞君
眞鍋儀十君川橋豐治郞君
福田關次郞君本田彌市郞君
靑木亮貫君林平馬君
戶田由美君中村繼男君
野中徹也君森峰一君
鷲澤與四二君由谷義治君
松谷與二郞君
議員選擧投票所增設ニ關スル建議案
提出者
手代木隆吉君眞鍋勝君
坂東幸太郞君小池仁郞君
大島寅吉君山本厚三君
仙臺古川間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
內ヶ崎作三郞君村松久義君
齋藤直橘君
古川一關間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
內ヶ崎作三郞君村松久義君
齋藤直橘君
長崎ステーションホテル建設ニ關スル建
議案
提出者
西岡竹次郞君佐保畢雄君
上海長崎間航路改善ニ關スル建議案
提出者
西岡竹次郞君佐保畢雄君
電信文鐵道驛名札國定〓科書ノカナ遣氏
名ノ文字地名ノ書方ノ改善ニ關スル建議
案
提出者
池田敬八君斯波貞吉君
土屋〓三郞君岡田喜久治君
增田義一君
(以上三月十一日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
大演習時ノ御警衞ニ關スル質問主意書
提出者中山福藏君
行政裁判所法案行政訴訟法案訴願法案權
限裁判法案及行政裁判官懲戒法案ニ關ス
ル質問主意書
提出者宮古啓三郞君
航空ニ關スル質問主意書
提出者永田良吉君
(以上三月九日提出)
國體ニ關スル質問主意書
提出者山本悌二郞君
(以上三月十一日提出)
一昨十一日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル
左ノ政府提出案ヲ可決シタル旨同院ヨリ
通牒ヲ受領セリ
(第一號)昭和九年度歲入歲出總豫算追加
案
(特第一號)昭和九年度各特別會計歲入歲
出豫算追加案
國際文化事業ニ關スル經費支辨ニ關スル
法律案
一去九日岡田內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令
アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
內務事務官相川勝六
第六十七囘帝國議會內務省所管事務政府
委員被仰付
一去九日辭任シタル常任委員左ノ如シ
第五部選出豫算委員江藤源九郞君
第八部選出豫算委員西岡竹次郞君
一去九日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如
シ
肥料業統制法案(政府提出)委員
加藤鐐五郞君門田新松君
岩瀨亮君船田中君
星廉平君中野寅吉君
石坂豐一君仁田大八郞君
森田政義君松山常次郞君
多木久米次郞君依光好秋君
石川又八君高橋保君
岸田正記君佐保畢雄君
西村丹治郞君枡谷寅吉君
多田滿長君中井川浩君
眞鍋勝君大島寅吉君
山田助作君深水〓君
野中徹也君杉山元治郞君
龜井貫一郞君
昭和八年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ
求ムル件)外六件委員
寺田市正君鈴木英雄君
高橋泰雄君八角三郞君
戶田虎雄君熊谷五右衞門君
勝又春一君三尾邦三君
上原平太郞君宮崎君
岸田正記君田島勝太郞君
駒井重次君〓寬君
川崎克君小川〓太郞君
高橋壽太郞君松谷與二郞君
一去九日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
倉庫業法案(政府提出)委員
辭任中田正輔君補闕栗原彥三郞君
米穀自治管理法案(政府提出)外二件委員
辭任中島彌團次君補闕眞鍋儀十君
營業收益稅法中改正法律案(中谷貞賴君
外二名提出)委員
辭任宮崎君補關大山斐瑳麿君
一昨十一日衆議院規則第十五條但書ニ依リ
議長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
四三〇兵庫縣第四
區選出議員
四三七岩手縣第二
區選出議員
一昨十一日補關當選セラレタル左記議員ノ
議席ヲ議長ニ於テ左ノ通指定セリ
四二小河虎彦君
二三四國光五郞君
一昨十一日常任委員補閱選擧ノ結果左ノ如
第五部選出
豫算委員小池四郞君(江藤源九郞
君補關)
第八部選出
豫算委員原口初太郞君(西岡竹次郞
君補闘)
一昨十一日委員長及理事互選ノ結果左ノ如
肥料業統制法案(政府提出)委員
委員長加藤鐐五郞君
理事
中野寅吉君石川又八君
仁田大八郞君多田滿長君
眞鍋勝君野中徹也君
昭和八年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ
求ムル件)外六件委員
委員長寺田市正君
理事
三尾邦三君高橋泰雄君
〓寬君
一昨十一日特別委員理事補關選擧ノ結果左
ノ如シ
營業收益稅法中改正法律案(中谷貞賴君
外二名提出)委員
理事小笠原三九郞君(理事小林錡君去
八日委員辭任ニ付其ノ補闕)
理事田尻生五君(理事竹下文隆君昨
十一日委員辭任ニ付其ノ補闕)
一昨十一日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如
シ
產繭處理統制法案(政府提出)外二件委員
辭任西村丹治郞君補闕高田耘平君
辭任鷲澤與四二君補關戶田由美君
肥料業統制法案(政府提出)委員
辭任深水〓君補關高橋壽太郞君
營業收益稅法中改正法律案(中谷貞賴君
外二名提出)委員
辭任竹下文隆君補闕小林絹治君
借地借家調停法中改正法律案(藤田若水
君外四名提出)外六件委員
辭任永田善三郞君補闕工藤鐵男君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=1
-
002・濱田國松
○議長(濱田國松君) 新ニ議席ニ著カレマ
シタ議員ヲ御紹介致シマス、第四十二番、
山口縣第二區選出議員小河虎彥君
〔小河虎彥君起立〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=2
-
003・濱田國松
○議長(濱田國松君) 第二百三十四番、山
口縣第二區選出議員國光五郞君
〔國光五郞君起立〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=3
-
004・濱田國松
○議長(濱田國松君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、本日ノ日程ニ揭ゲマシタ質問ノ第二及
質問ノ第四ハ政府ヨリ答辯書ヲ受領致シマ
シタ、仍テ日程ヨリ之ヲ省キマス、質問第
一、國體ニ關スル質問ヲ許可致シマス-提
出者山本悌二郞君
-國體ニ關スル質問(山本悌二郞君
提出)
國體ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十年三月十一日
提出者山本悌二郞
國體ニ關スル質問主意書
國體ニ關スル政府ノ所見如何
右及質問候也
(「内務大臣ハドウシタ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=4
-
005・濱田國松
○議長(濱田國松君) 內務大臣ハ、本日
皇后陛下多摩御陵御參拜ノ供奉ノ爲ニ、出
席致シ兼ネル旨ノ通知ガアリマシタ
〔山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=5
-
006・山本悌二郎
○山本悌二郞君 私ハ玆ニ我ガ帝國ノ國體
問題ニ關シマシテ、政府ニ質問スルノ已ム
ヲ得ザルヲ痛感致シマシテ、此演壇ニ立ッタ
次第デアリマスル、實ハ國體問題ヲ論議ス
レバ、勢ヒ畏クモ天皇又ハ天皇ノ御地位ト
云フコトニマデ論及致サナケレバナラヌノ
デアリマスカラ、斯樣ナ論議ヲ臣民トシテ
ハ絕對ニ愼ミタイモノト、平素ヨリ心掛ケテ
居タノデアリマスルケレドモ、偶〓本議會ニ於
キマシテ、所謂天皇機關說ナルモノガ問題トナ
リマシテ、烽火ハ先ヅ貴族院ニ於テ揚リ、次デ
衆議院ニ及ビマシタノデアリマスルカラシテ、
一般ノ國民ノ視聽ハ、今ヤ極度ノ緊張ヲ以
テ、此問題ニ集中シテ居ルノデアリマスル、
斯樣ナ次第デアリマスルカラ、之ニ對スル
政府ノ所信ヲ糺サナケレバナラヌト感ジタ
次第デアリマスル、事ハ天皇機關說ト云フ
學說ニ關スルノデアリマスルガ、是ハ二三
十年來、天皇主權說ト相對立シテ、學者間
抗爭ノ問題トナッテ居ッタノデアリマスル
ガ、學者間ノ論議ダケデ、餘リ今迄ハ一般
天下ノ問題トナラナカッタガ爲ニ、實ハ斯ク
申ス私初メ世間ノ多數ハ、此問題ニ關シマ
シテ全ク多クヲ知ラズ、又之ヲ知ルモ、多
クノ注意ヲ拂ハナカッタノデアリマスル、今
更此問題ノ重大性ニ想到致シマスレバ、公
人トシテノ自分等ノ不注意、不用意ヲ痛感
致ス次第デアリマスル、此問題ハ今ニシテ
考ヘマスレバ、極メテ重大ナ問題デアリマ
スル、苟モ我ガ國體ニ關スル問題デアリマ
スル、畏クモ、我ガ天皇ノ國家ニ於ケル御資
格、御位置ニ關スル問題デアリマスル、不
注意ヤ不用意ノ間ニ、天皇機關說ガ其儘看
過サレタル過去ハ兔モ角トシテ、旣ニ今日
一般公然ノ問題トナリ、焦點トナリマシタ
以上ハ、之ヲ此儘放任スベキモノデハ斷ジ
テナイト信ズル者デアリマス(拍手)政府モ、
政黨モ、學者モ、民衆モ、此問題ニ關スル
限リハ、總テノ利害感情ヲ離レテ、打ッテ一
團トナッテ解決シナケレバナラヌ案件ト確
信スルノデアリマス
私共ニ於キマシテハ、此機關說ヲ唱フル
所ノ美濃部君トカ、或ハ其支持者トカ云
フ、其人ニ關スル事柄ノ如キハ、勿論問題
デハナイノデアリマシテ、天皇機關說ト云
フ學說其モノガ問題デアルノデアリマス
ル、此意味ニ於テ質問ヲ致スノデアリマス
ル、ソレニハ先ヅ吾々國民ノ意識スル、否、
確信スル、一人モ異存ノナイ、渾然一致セ
ル所ノ、此吾等ノ國體觀念ト云フモノヲ規
準ト致シマシテ、天皇機關論ナルモノハ、
ドンナモノデアルカト云フコトヲ、此規準
ニ照シテ批判スルノ必要ヲ認メルノデアリ
マスル、帝國臣民ガ天皇ノ御位置、及天
皇ト吾々臣民トノ關係ニ付テ、信條的ニ確
信スル所ハ、極メテ簡單明瞭デアルノデア
リマスル、卽チ天皇ハ統治ノ大權ヲ皇祖皇
宗ヨリ繼承セラレマシテ、萬世一系帝國ニ
君臨シ給フ所ノ主權者デアラセラレ、同時
ニ我ガ帝國國家ノ主體デアラセラレルノデ
アリマスル、是ガ卽チ吾々ノ信ズル所ノ天
皇觀、國體觀デアリマスル、天皇ハ故ニ萬
代不易ノ統治主權者デアリマス、而シテ吾
吾臣民ハ過去ニ於ケルト同ジク、將來萬世
ニ涉リテ、子々孫々天皇統治ノ下ニ國家生
活ヲ繼續スルモノデアリマスル、隨テ天皇
ハ國家ノ主體デアラセラレ、吾々臣民ハ國
家ノ客體デアッテ、此主客兩體ハ堅ク相結ン
デ、分離スベカラザル關係ニ置カレテ居ル
ノデアリマスル、卽チ我ガ日本ノ國家ハ、
此主客兩體ノ絕對的不分不離ノ結合ニ依ッ
テ存在スルモノデアリマシテ、天皇ト申ス
主體ヲ別ニシテハ、日本ノ國家ハ絕對ニ考
ヘ得ラレナイノデアリマスル、世間通俗ニ
謂フ所ノ天皇卽國家トハ、卽チ之ヲ意味ス
ルノデアリマスル、恰モ彼ノ晃々タル天上
ノ太陽ヲ中心トシテ、月ヤ地球等ノ群星ガ
之ヲ繞ッテ、爰ニ太陽系ト云フ一大天文系ヲ
構成シツヽアルト同ジコトデアリマスル、
故ニ太陽ノ滅失スル時ハ、卽チ太陽系ノ崩
壞スル時デアルノデアリマスル、故ニ太陽
ガ此天文系ノ主體デアルト同時ニ、此主體
ナル太陽ヲ除イテハ、太陽系ノ存續ハ考ヘ
得ラレナイノデアリマスル、卽チ抽象的ニ
申セバ、太陽卽チ太陽系ト申シテモ、何ノ
差支ガナイノデアリマスル、斯ノ如キ關係
ヨリ致シマシテ、天皇ノ意思ハ國家ノ意思
デアリ、國家ノ利害休威ハ天皇ノ利害休戚
ト一致スルノデアリマシテ、天皇ト國家ハ
不分不離、不二一體、以テ國運ノ隆昌ニ力
ムル所ニ、我ガ國體ノ精華ヲ見ルノデアリ
マス(拍手)
之ヲ又歷史上ヨリ見マシテモ、我國ハ
天皇アッテノ國家デアルト云フコトハ、
極メテ明瞭デアリマス、遠キ建國ノ初メニ
遡ッテ、歷史上ノ事實ヲ見マスルニ、初メニ
國家アッテ、後カラ天皇ヲ戴イタノデハナク
シテ、其反對ニ皇祖皇宗ガ國ヲ肇メ給ウテ、玆
ニ始メテ國家ガ出來タノデアリ、外國ノ歷史ニ
見ルガ如キ、初メ一定ノ領土ヲ占有スル民族
ガアッテ、或ハ合意ノ契約、或ハ力ノ闘爭ニ依
テ、爰ニ君主ナルモノガ出來タノトハ全ク
相違致シマシテ、我國ニ於キマシテハ、領
土ハ初メヨリ皇祖皇宗ノ領土デアリ、民族
ハ、皇祖皇宗ヨリ血緣的ニ分派セル、吾々
大和民族ノ祖先デアッタノデアリマシテ、之
ニ皇祖皇宗ガ天皇トシテ自ラ君臨遊バサレ
タノデアリマス、隨テ領土モ人民モ、皆
其源ヲ皇祖皇宗ニ發シテ居ルノデアリマシ
テ、爾來天皇ヲ家長ト致シマシテ、主權者
ト致シマシタル、此一大家族的國家ガ擴大
發展シテ今日ヲ致シタノデアリマスルカラ、
此歷史的事實ヨリ見マシテモ、國家ト天皇
トハ、初ヨリ一體不可分ノモノタルヤ、極
メテ明瞭デアルノデアリマス(拍手)
今上陛下御卽位ニ際シマシテ渙發セラレ
マシタル勅語中ニ「皇祖皇宗國ヲ建テ民ニ臨
ムヤ國ヲ以テ家ト爲シ民ヲ視ルコト子ノ如
シ」ト仰セラレマシタ、又「上下感孚シ君民
體ヲ一ニス是レ我ガ國體ノ精華ニシテ當ニ
天地ト竝ヒ存スヘキ所ナリ」ト仰セラレマ
シタコトモ、等シク皆我ガ國體ニアリマシ
テハ天皇ト國家ガ一體デアッテ、分離スベカ
ラザル絕對關係ニアルト同時ニ、天皇ハ此
國家ノ主長デアラセラレテ、此民族ノ永久
ノ族長デアラセラレル御趣旨ヲ御示シ遊バ
サレタモノト拜スルノデアリマス、此國民
信念ト、此歷史ノ沿革ヨリ見マシテ、我ガ
日本帝國ト云フ國家ノ主體ハ天皇デアラセ
ラレ、統治ノ主權ハ天皇ニアルト云フコト
ハ、三千年來傳統的ノ吾々ノ國體觀念デア
リ、又動カスベカラザル歷史的事實デアリ
マシテ、同時ニ萬世將來ニ互ッテ渝ラザル鐵
則デアルノデアリマス、憲法發布ノ勅語ニ
「國家統治ノ大權ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ
之ヲ子孫ニ傳フル所ナリ」ト宣示遊バサレ、
更ニ憲法第一條ニ「大日本帝國ハ萬世一系
ノ天皇之ヲ統治ス」ト、斯樣ニ規定セラレ
タノハ、皆此國體ヨリ出發セル天皇主權ノ
觀念ト事實ヲ明白ニサレタノデアリマス
吾々國民ノ國體觀念ハ、以上述ベタルガ
如キモノデアリマス、然ルニ是ト全ク正反
對ノ意見ガ、卽チ一部法學者ニ依ッテ唱ヘ
ラレル所ノ、所謂天皇機關說ト云フモノデ
アリマス、私ハ此壇上ニ於テ、此學者輩ト
法理論ヲ鬭ハセヨウトハ、無論思ウテハ居
リマセヌガ、此吾々ノ國體觀念ト全ク氷炭
相容レザル、此學說ニ對シマシテ玆ニ質問
ヲスルノデアリマスルカラ、一應其吾々ト
觀念ヲ異ニシ、意見ヲ異ニスル要點ニ付テ、
批判ヲ加フルノ巳ムヲ得ザルヲ感ズルノデ
アリマス、此學說ヲ唱フル者ハ、必シモ一
人デハアリマセヌガ、其代表的ノモノトシ
テ、私ハ玆ニ過日貴族院ニ於テ美濃部達吉
君ガ述ベラレタ所ノ所說ヲ取リマシテ、申
述ベテ見タイト思フノデアリマス、美濃部
君ノ言フ所ヲ要約シテ申シマスレバ、統治
權ハ天皇御一身ニ屬スル私ノ權利デハナイ、
天皇ハ御一身ノ爲デナク、天下國家ノ爲ニ
統治サレルノデアルカラ、此統治ノ權利主
體ハ天皇ニ非ズシテ國家デアル、天皇ハ此國
家ノ權利ヲ行フ所ノ機關ニ過ギナイノデア
ルト云フコトデアリマス、卽チ其說明中ニ、
國家一切ノ權利ヲ總攬シ給フトカ、國家一
切ノ活動ハ總テ天皇ニ其最高ノ源ヲ發スル
トカ、形容詞ラシイ文句ヲ附加ヘテ說明サレ
テハ居リマスケレドモ、究極スル所、統治
ノ權利ハ何處々々マデモ國家ニ固有ノモノ
デアッテ、天皇ニ固有ノモノデハナイ、天皇
ハ國家ガ有スル所ノ統治權ヲ行フニ過ギナ
イ、卽チ天皇ハ機關デアルト云フコトニ歸
著スルノデアリマス、次ニ又斯樣ニ論斷シテ居
リマス、國家ヲ法人ト觀念シテ、天皇ハ此法人
ノ元首タル地位ニ在シマシテ、國家一切ノ權
利ヲ行ハセラレル、因テ天皇ガ憲法ニ從ウテ
行ハセラレル行爲ハ、國家ノ行爲トナルノ
デアル、此意味ニ於テ天皇ハ國家ノ機關ナ
リト言フノデアル、斯樣ニ美濃部君ハ說イ
テ居ルノデアリマス、美濃部君其他ノ天皇
機關論者ノ著書ヤ出版物ハ色々アリマスル
ガ、天皇機關論ノ要點骨子ハ右申述ベマシタ
ル美濃部君ノ申述ベラレタル所ニ盡クルト
思フノデアリマス、此學說ノ是非ヲ判斷スル
ノニハ、此美濃部君ガ貴族院ニ於テ述ベラレ
タル其材料ダケデ十分ト思フノデアリマス
偖テ之ヲ私ノ初メニ述べマシタル所ノ
吾々ノ國體觀、吾々ノ天皇觀ト對照致シテ
檢討致シマスルト、機關說ハ旣ニ其立論ノ
根柢ニ於テ、全然我ガ國體ト相容レザルモ
ノデアルコトヲ發見スルノデアリマス、卽
チ機關說ハ天皇ト國家ヲ別々ノモノト見テ
居ルノデアリマス、天皇ヲ御一身ノ天皇ト
見テ、國家ト對立セシムルノデアリマス、
斯ク別々ニ見レバコソ、玆ニ統治權ハ天皇
御一身ノ爲ニ行ハセラレルノデナクシテ、
國家ノ爲ニ行ハセラレルノデアルカラ、卽
チ統治權ノ主體ハ統治ノ目的ノ歸屬スル所
ノ國家ニアルノデアッテ、天皇ニハナイ、天
皇ハ唯其機關タル地位ニ在ラセラレルモノ
デアルト云フ、結論ニ到著セザルヲ得ナイ
ノデアリマス、而シテ國家ヲ法人トシ、天
皇ハ此法人ヲ代表シテ統治權ヲ行ハセラ
ルヽ機關デアルト云フコトモ、亦此天皇ト
國家ヲ別々ニ見ル所ニ根據ヲ有スルノデア
リマス、是ガ抑〓重大ナル錯誤、錯覺デアル
ノデアリマス、此區別觀念ハ全ク我ガ國體
ノ現實ト合致セザルモノデアリマス、否、
我ガ國體ヲ無視スルモノデアリマス、前一
モ申シマシタル通リ、我國ニ在リテハ三千
年來今ニ至ルマデ、而シテ將來永遠ニ亙
リ、天皇ト國家ハ不二一體デアルノデアリ
マス、天皇ナキ日本國家ハ斷ジテ考ヘ得ラレ
ナイノデアリマス、天皇ナケレバ我ガ國家
ハナイノデアリマス、天皇卽國家、國家卽
天皇ト申シマスルノハ、卽チ是デアリマ
ス、天皇ハ國家ノ權化デアリマス、國家ナ
ルモノハ素ヨリ抽象的無形ノ觀念デアリマ
スルガ、之ヲ實在化シテ見マスレバ、卽チ
天皇トナルノデアリマス、隨テ統治權ノ主體
ハ天皇デ在ラセラレルノデアリマス、天皇ト
國家ヲ區別スル考方ハ外國流ノ考方デアリ
マシテ、機關說ハ外國ヨリ輸入セル學說デ
アッテ、我國ニ當嵌ラナイト云フコトモ、卽
チ是ガ爲デアルノデアル、外國ノ君主國ニ
於キマシテハ、觀念上ヨリスルモ、血緣上
ヨリスルモ、亦歷史上ヨリ見ルモ、君主ト
國家ト云フモノハ全ク別々デアリマスルカ
ラ、彼等卽チ西洋諸國ニ於キマシテハ、主
權ノ所在ガ何處デアル、主權ガ何處ニアル
ト云フ、其主權ノ所在ヲ說明スルノニ、機
關說ガ最モ適當ナノデアリマスガ、併ナガ
ラ之ヲ君國一體ノ我國ニ持ッテ來テ、我國ノ
憲法ヲ說明シヨウトスルカラ、學說トシテ
モ木ニ竹ヲ接イダヤウナ議論ニナルバカリ
デアッテ、而モ國體觀念ヲ惑亂シ、危險思想
ヲ養成スルガ如キ、重大ナル結果ヲ來スノ
デアリマス、如何ニ斯樣ナ說ガ危險デアル
カヲ示ス爲ニ、美濃部君ガ貴族院ニ於テ演
說セラレタ國家法人說ヲ、モウ一遍此處ニ
讀上ゲルコトニ致シマス、美濃部君ハ貴族
院ニ於テ斯樣ニ申サレテ居ル、是ハ私ハ速
記錄カラ取入レタノデアリマス「卽チ法律
學上ノ言葉ヲ以テ申セバ、一ツノ法人ト觀
念イタシマシテ、天皇ハ此法人タル國家ノ
元首タル地位ニ在マシ、國家ヲ代表シテ國
家ノ一切ノ權利ヲ總攬シ給ヒ、天皇ガ憲法
ニ從ッテ行ハセラレマスル行爲ガ、卽チ國家
ノ行爲クル效力ヲ生ズル」試ニ此一節ノ文
章ヲ其儘ニシテ、唯天皇ト云フ文字ノ代リ
ニ社長ト云フ文字ヲ使ヒ、國家ト云フ文字
ノ代リニ會社ト云フ文字ヲ當嵌メ、憲法ト
云フ文字ノ代リニ定款ト云フ名詞ヲ置イテ
見タナラバ、斯ウナルノデス「社長ハ此法
人タル會社ノ元首タル地位ニアリ、會社ヲ
代表シテ會社ノ一切ノ權利ヲ總攬シ、社長ガ
定款ニ從ウテ行フ所ノ行爲ガ、卽チ會社ノ行
爲タル效力ヲ生ズル」、卽チ名詞ヲ置換ヘテ見
マスルト云フト、天皇機關說ノ說明ガ、ピッタリ
ト會社ノ社長ノ地位ノ說明ニナルノデハナ
イカ、卽チ天皇ノ御地位モ、會社ノ社長ノ地
位モ、其機關タルニ於テハ全然同一ノモノト
ナルデハアリマセヌカ、サア是デ天皇ノ尊
嚴ガ傷ケラレズ、是デ國民ノ傳統的觀念ガ
攪亂セラレズシテ止ミマセウカ、天皇機關
論者ノ極端ナノニナリマスト、モット思切ッ
タ暴論ヲシテ居ル、臺灣臺北高等商業學校
講師成宮嘉造ト云フ人ガ著シタ「日本憲法
〓論」ト云フ書物ガアリマス、是ガ卽チソ
レデアリマス、此憲法〓論ト云フ書物ニハ、
國家ノ機關ヲ獨任機關ト複成機關、主タル
機關ト補助機關ト云フモノニ區別致シマシ
テ、天皇、攝政、各省大臣、總督、知事ハ
獨任機關デアリ、同時ニ主タル機關デアル
ト、此中ニ說イテアルノデアリマス、卽チ
畏クモ天皇ヲ大臣、總督、果テハ知事等ト
同列ニ、國ノ機關ノ位置トシテ數ヘテ居ル
ノデアリマス、如何ニ法理上ノ推論ニ過ギ
ナイト申シナガラ、コヽマデ行ッテハ天皇機
關論ナルモノモ、言語道斷ト言ハナケレバ
ナラヌノデアリマス(拍手)殊ニソレガマダ
十分皇化ニ浴セザル新附ノ民ノ眞ン中デ、
代用〓科書トシテ用ヒラルヽニ至ッテハ、其
國民ノ心理ニ影響スル所、實ニ恐ルベキモ
ノガアルト信ズルノデアル(拍手)是ト申ス
モ機關論者ハ、我ガ萬國無比ノ國體ト、三千
年來天皇ノ固有セラレル絕對崇高ナル御地
位ニ付テ、何等ノ理會ナク天皇ヲ以テ畏クモ
外國ノ君主、卽チ革命前ノ露西亞ノ「ザー」
ヤ、獨逸ノ「カイゼル」ヤ、或ハ〓國ノ皇帝
ナドト同一視スルヤウナ議論ヲ致シマス
ルガ爲ニ、勢ヒ途方モナイ斯樣ナ結論ニ到
著シ、斯樣ナモノヲ產出スノデアリマス、
帷幄ノ大權ヲ干犯スルヤウナ憲法論モ、詔
勅ヲ批判スルモ勝手ダト云フヤウナ、不謹
愼ナル暴論モ、皆此誤レル根本觀念カラ出
發シテ來ルノデアリマス、殊ニ「日本國法學」
ト云フ美濃部君ノ著述ニ於キマシテ、軍人
ハ國家ノ爲ニ戰フノデアッテ、天皇ノ爲ニ戰
フノデハナイト、斯樣ニ說イテ憚ラザルニ
至ッテハ、軍人ニ下シ給ヘル明治大帝ノ御勅
諭ニモ、將又之ニ基イテ〓養ヲ重ネテ來ッタ
軍人精神モ、全然破壞シ盡サレル譯デアリ
マセヌカ(拍手)其我ガ海陸皇軍ニ及ボス所
ノ影響ニ想ヒ到リマシテハ、實ニ膚ニ粟ヲ
生ズルノ感ジヲ致スノデアリマス(拍手)是
レ皆我ガ國體ヲ知ラザル機關論ノ產ム所デ
アリマシテ、實ニ恐ルベク、又悲シムベキ
副產物ト言ハナケレバナラヌ、德富蘇峰君
ハ、先日日日新聞紙上ニ於キマシテ、機關
論ニ言及致シテ居リマス、其中ニ斯樣ナ事
ヲ申シテ居ル、「日本ノ國家ハ法制的ニ成立
セズシテ、倫理的ニ成立シテ居ル、雄略天
皇ノ聖詔ニ「義ハ乃チ君臣ニシテ情ハ父子
ヲ兼ヌ」トアルハ、實ニ恐レナガラ我ガ國
體ノ精義ヲ囊括アラセラレタル有難キ文句
デアル」斯樣ニ蘇峰君ハ申シテ居ル、寶い、
吾々幾千万國民ハ、此少數ノ機關論者ヲ除
イテハ、悉ク蘇峰君ト觀念ヲ同ジウスルノデ
アリマス「何事ノ在シマスカハ知ラネトモ
唯タ有難ク淚コホルヽ」是ガ卽チ我ガ國民
ノ天皇、皇室ニ對シ奉ル所ノ絕對的觀念、
絕對的信仰デアリマシテ、此觀念、此信仰
ノ上ニ、世界ニ卓越セル所ノ我ガ國體ガ築
キ上ゲラレテ居ルノデアリマス(拍手)而モ
此國體ヲ無視シテ掛ルト云フノガ、卽チ機
關論デアリマス、尤モ一部ノ機關論者ハ、
倫理的國體觀念ハ、憲法論トシテハ之ヲ採
入ルベキモノデハナイト言ウテ居ル、所ガ
何處迄モ倫理的ニ出來上ッテ居ル所ノ我ガ
國體ノ觀念ヲ除外シテ、一體ドウシテ我
ガ憲法ヲ解釋スルコトガ出來マセウカ、
此國體論ハ憲法ノ法律論ニ採入レル必要ガ
ナイ、採入レルモノデハナイト云フ此論者
ハ、憲法發布ノ御聖諭ヲ一體ドウ心得テ居
ルデセウ、「憲法義解」ノ一册モ精讀致シタ
ナラバ、我ガ憲法ハ我ガ國體ヲ骨髓トシ、
基本觀念トシテ組立テラレテ居ル位ノコト
ハ、第一ニ承知シテ居ラナケレバナラ
ヌ筈デアル、然ルニ拘ラズ、强テ之ヲ
無視シヨウ、强テ國體論ヲ憲法論カラ
排擊シテ除外シヨウト云フノハ、ソレハ
必ズ外ニ理由ガアルト信ズルノデアリ
マス、ソレハ何カト申シマスレバ、若シ
國體論ヲ採入レルト云フコトニナレバ、機
關論者ノ機關論ノ殿堂ト云フモノハ、根柢
カラ崩レテシマフト云フ虞ガアルノデアリ
マス
元來機關論ハ西洋ノ君主政體ヲ說明スル
ヤウニ出來テ居ルノデアリマスルカラシ
テ、此理論ヲ日本ヘ持込ンデ、サウシテ日
本ノ國體ト組合セヨウトシタ所ガ、ソレハ
中々辻褄ガ合フベキ所ノモノデハナイノデ
アリマス、仍テ之ヲ憲法論ヨリ除外スル、
卽チ國體論ヲ憲法論カラ除外スルカ、然ラ
ズンバ極メテ曖昧ナ繼合セヲシテ、理論ヲ
糊塗スルヨリ外ハ途ガナイノデアリマス、
サレバコソ美濃部君ノ如キモ、過日ノ貴族
院ノ演說ノ冒頭ニ於テハ、自分ハ君主主權
ヲ否定スル者デハナイ、統治ノ大權ガ天皇
ニ屬スルト云フコトハ、何人モ疑ハナイ所
デアル、斯樣ニ申シテ居ル、又斯ウ言ハザ
ルヲ得ナイノデアル、之ヲ聽クト、統治權
ノ主體ハ、天皇デアルカノヤウニ聞エルノ
デアル、ガ段々進ンデ美濃部君ハ說イテ行
ク中ニ、何時ノ間ニヤラ到頭統治權ノ主體
ハ、法人トシテノ國家デアル、天皇ハ國家
ヲ代表シテ、此權利ヲ行ハセラルヽ最高機
關デアル、斯ウ云フ風ニ結論シテ、立派ニ
機關論者ニナリ了ッテ居ルノデアル、サウシ
テ見ルト、初メノ美濃部君ガ君主主權ト
カ、ハ統治權ハ天皇ニ屬スルトカ言ウタ
コトハ、統治ノ主體ガ天皇ナリト言フノデ
ハナクシテ、單ニ天皇ガ統治權ヲ保有セラ
ルヽト云フダケノ意味ニ過ギナイコトニナ
リマシテ、隨テ其統治權ハ天皇固有ノモノ
ナリヤ、又他カラ委託サレタルモノナリヤ
ト云フコトハ、全然不明ニ付サレテ居ルノ
デアリマス、斯ウ云フ風ニ、初メハ天皇ガ
國家ノ主體デアルカノ如キ言〓シ方ヲシ
テ、終ニハ到頭國家ガ統治權ノ主體デアル
ト云フ所ニ落シテシマッテ居ル、斯樣ナ瞹昧
ナ事ヲ致サナケレバ、現在ノ日本ノ下ニ於
テ機關論ヲ高調スル譯ニ行カナイカラデア
ル、ダカラ此機關論ガ我ガ國體ノ現實ト全
然懸離レタヤウニ見エナイヤウニ、サウ見
掛ケラレナイヤウニ論理ヲ通メテ行クト云
フコトニ、非常ノ苦心ノ跡ガ現レテ居ルノ
デアリマス、然レドモ私共カラ見マスレ
バ、斯樣ニシテ一般人ヲ迷ハシムル所ニ、
實ハ此機關論ノ危險性ヲ益〓。メメルル得得
ナイノデアリマス(拍手)
以上述ベマシタル所デ、大體天皇機關說
ナルモノガ、我ガ國體トハ到底相容レザル
モノデアルコトガ明ニナッタト思ヒマス、仍
テ私ハ先ヅ是カラ致シテ、陸軍大臣、海軍
大臣ノ御二方ニ御尋致シタイノデアリマ
ス、陸海軍大臣ハ、本年二月二十六日、美
濃部達吉君ガ貴族院ニ於テ一身上ノ辯明中
申述ベタル所ノ、卽チ統治權ノ主體ハ國家
ニシテ天皇ニ非ズ、天皇ハ國家ノ機關ナ
リ、此學說ニ對シテ如何ナル御意見ヲ有セ
ラレルカ、又國家ヲ統治權ノ主體トスル所
ノ基本主義カラ出發致シマシテ、美濃部君
ハ其著シタル所ノ日本國法學ニ斯樣ナコト
ヲ申シテ居ル、軍人ガ戰鬪スルハ國家ノ爲
ニ戰フナリト說イテ居ルノデアル、卽チ天
皇ノ爲ニ戰フノデハナイト云フコトニナル
ノデアリマス、是ハ天皇機關說ヨリ分派ス
ル當然ノ結論デアリマスガ、斯ノ如キ結論
ニサヘ到著スル所ノ、此天皇機關說ニ對シ
テ、軍部大臣トシテ同意カ、反對カ、端的
明瞭ニ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス、次
ニ第二ト致シテ、軍部大臣ニ御伺致シタ
イ、斯ノ如キ危險ナル學說ガ世間ニ公然流
布サルヽノヲ、其儘ニ放任シテ置キマシテ
ハ、遂ニ皇軍ニマデ天皇ノ尊嚴ヲ輕視スル
ヤウナ思想ヲ傳播スルノ虞アリト私ハ信ズ
ルノデアリマス、果シテ然リト致シマスレ
バ、國法ヲ以テ其流布傳播ヲ防止スルト云
フ御考ハ、軍部大臣ニハナイノデアリマス
カ、之ヲ御伺致シタイ
次ハ私ハ文部大臣ニ對シテ御尋ヲスル、
文部大臣ハ、天皇機關說ニハ反對デアルト
度々明言サレテ居リマスガ、是ハ洵ニ欣
幸ニ存ズル次第デアリマス、現下ノ文部
大臣ト致シマシテハ、爾カアルベキモノ
トシテ、洵ニ敬意ヲ表スル者デアリマス、
件シ其反對ノ理由如何ニ依リテハ、文部
大臣トシテ此學說ノ取扱ヲドウスルカト
云フ問題モ起ルノデアリマスカラ、私ハ
文部大臣ガ天皇機關說ニ反對デアルト云フ、
其反對ノ理由ヲ伺ヒタイノデアリマス、ソ
レニ依ッテ更ニ御尋ヲ續ケル積リデアリマ
ス、次ニ內務大臣ニ御尋ヲ致シタイノデア
リマスケレドモ、今日御出席ガアリマセヌ
カラ、又他ノ機會ニ於テ伺フコトヽ致シマ
ス
最後ニ總理大臣ニ御尋ヲ致シマス、總理
大臣ハ二月十八日、本問題ニ關シテ、貴族
院ニ於ケル井上〓純男爵ニ御答ニナッタ所
ニ依リマスレバ、美濃部ノ著書ハ全體ヲ通
讀スレバ、國體ノ觀念ニ於テ誤リナイト思
フガ、唯用語ニ穩當ナラザル所ガアルヤウ
デスト、斯樣ニ申サレタヤウニ承知致シテ
居リマスガ、其後三室戶子爵ノ質問ニ對シ
マシテハ、天皇機關說ニハ贊成出來ナイト、
斯ウ言明サレテ居ルヤウニ承ッテ居リマス、
更ニ昨日治安維持法改正案委員會ニ於キマ
シテ、法制局長官ヲ通ジテ、今度ハ全部的
ニ天皇機關說ヲ否認スルガ如キ答辯ヲナ
サレタヤニ承知致シテ居リマス、私ハ前
後ヲ通ジテ總理大臣ノ、此天皇機關說ニ
對シテノ御意見ガ色々ニナッテ居リマスガ
爲ニ、ドレガ本當デアルカト云フコトニ甚
ダ疑ヲ懷イテ居ルノデアリマス、故ニ私ハ
玆ニ改メテ極メテ端的ニ御尋ヲ致シマス、
卽チ總理大臣ハ我ガ國體ノ上ヨリ見マシテ、
又我ガ日本憲法ヲ解釋スル上ヨリ致シマシ
テ、統治權ノ主體ハ天皇ナリト御考ニナリ
マスカ、是ガ要點ナノデアリマス、統治權
ノ主體ハ天皇ナリト御考ニナッテ居リマス
カ、又ハ天皇機關論者ノヤウニ統治權ノ主
體ハ、天皇デナクシテ國家デアル、斯樣ニ
御考ニナッテ居ルノデアリマスカ、之ヲ明白
ニ伺ヒタイノデアリマス、能ク委員會等ニ
於テノ貴族院竝ニ衆議院ノ質問應答ニ現レ
タル所ノ、政府ノ斯樣ナ問題ニ對スル所ノ
答辯ヲ見マスルト云フト「大日本帝國ハ萬
世一系ノ天皇之ヲ統治ス」ト云フ、アノ憲法
ノ第一條ヲ以テ御答ニナッテ居ルヤウデア
ル、此憲法ノ第一條ニ誰ガ疑ヲ插ム者ガア
リマスカ、誰ガ異存ヲ申ス者ガアリマスカ、
ソレヲ尋ネルノデハナイノデアル、此憲法
第一條ヲ解釋スルニ付テ、旣ニ機關論ト云
フモノガ生ジテ居ルノデアル、此憲法第一
條ニ申シテアル所ノ天皇ノ統治權ト云フモ
ノ、此統治權ノ主體ハ一體何處ニ在ルカト
云フコトガ、是ガ卽チ問題ニナッテ居ルノデ
アル、吾々ノ信ズル所、吾々ノ解釋スル所
ハ、固ヨリ統治權ノ主體ハ天皇デアル、斯
樣ニ私共ハ確信致シテ居ルノデアリマス、
之ニ對シ機關論者ハサウデハナイ、統治權
ノ主體ハ國家デアル、ソコデ天皇ハ機關デ
アルト云フ議論ガ出ルノデハアリマセヌカ、
岡田總理ハ機關說ニ反對、機關論ニ贊成シ
ナイト、斯ウ言ハレマスコトハ、卽チ此意
味デアルカドウカト云フコトヲ私ハ疑ヒマ
スルカラ、ソレ故ニ機關論ニ贊成デアルカ
ドウカト云フコトヲ、抽象的ニ御尋ハ致シ
マセヌ、端的ニ、統治權ノ主體ハ天皇デアル
ト御考ニナルカ、又ハ天皇機關論者ノ如ク
ニ、統治權ノ主體ハ天皇デナクシテ、國家
デアルト御考ニナッテ居ルノデアルカ、之ヲ
第一ニ伺ヒタイノデアリマス、次ニ今迄國
務大臣諸君ガ、種々ノ機會ニ於テ學說ハ學
者ニ委シテ置クヨリ仕方ガナイ、斯樣ニ申
シテ居ラレマスガ、總理モ亦左樣ニ御考ニ
ナッテ居リマスカ、ドウデアリマスカ、學說
ナラバ如何ニ有害ト認ムベキモノデモ、如何
ニ危險ナリト認ムベキモノデモ、學說ナラバ
放任シテ置イテ宜シイ、放任シテ置クヨリ
外、仕方ガナイ、斯樣ニ御考ニナッテ居リ
マスルカ、ソレトモ有害危險ノモノナラバ、
國法ヲ以テ之ニ臨マナケレバナラヌト云フ
御考デアリマスカ、特ニ此天皇機關論ノ場
合ニ於キマシテハ、吾々ノ信ズル所ヲ以テ
致シマスレバ、國體觀念ヲ惑亂致シテ金甌
無缺ノ此國祚ニ傷ヲ付ケルト云フコトノ危
險性ノアル此天皇機關論、之ニ對シテ總理
ハドウ御考ニナッテ居ルカ、有害デアルカ無
害デアルカ、危險ナラズト見ルカ、危險ナ
リト見ルカ、危險ナリト見タナラバ、有害
ナリト見タナラバ、如何ナル態度ヲ以テ政
府ハ之ニ臨ムノデアルカ、之ヲ御伺シタイ
ノデアリマス
終リニ臨ミマシテ私ハ特ニ總理ニ申シテ
置クノデアリマスルガ、今日ハ我ガ帝國ハ、
漸ク歐米心醉ノ迷夢カラ覺メマシテ、初メ
テ帝國固有ノ大精神ニ蘇ラントシツヽアル
秋デアリマス、斯樣ナ秋デアレバコソ、此
二三十年モ放ッタラカシテ置イタ天皇機關
論ナルモノガ問題ニナッテ居ルノデアリマ
ス、況ヤ此學說ニ對シテハ、駁擊ノ聲ガ澎
湃トシテ天下ニ漲ッテ居ルノデアリマス、之
ヲ此儘解決セズシテ、此儘ニ放ッテ置クト云
フコトデアッタナラバ、人心ノ激スル所、如
何ナル事態ヲ惹起スカモ分ラヌト、私ハ深
キ憂ヲ有ッテ此成行ヲ見テ居ルノデアリマ
ス、總理ハ其組閣ノ當初ニ於テ、國體ヲ明
徵ニスルト云フコトヲ聲明サレテ居リマ
ス、此所謂天皇機關論ナルモノガ善イカ惡
イカト云フコトハ、是ハ國體ノ上カラ判斷
スベキ問題デハアリマセヌ、之ヲ此儘ニ放
任シテ何等ノ之ニ對スル折目ヲ付ケナイ、
卽チ彼等ノ謂フ所ノ、天皇ハ機關ナリト云
フ斯ノ如キ說ヲ、之ヲ此儘ニ何等ノ決リヲ
付ケズシテ放ッテ置クト云フコトデアッタナ
ラバ、是ハ所謂アナタノ國體ヲ明徵ニスル
ト云フ、其御趣旨トハ決シテ相容レザルモ
ノデアルト思フノデアリマス(拍手)初メ政
綱ニ揭ゲラレタ所ノ國體ヲ明徵ニスルト云
フ其御聲明ガ空念佛デナイ限リハ、此場合
ニ於テ此問題ヲ必ズ折目ヲ付ケネバナラヌ
モノト私ハ確信致スノデアル(拍手)此問題
ハ無論政黨政派ノ別ノナイ問題デアリ、又
政府、議會ノ別ノナイ問題デアル、實ニ全
國ヲ擧ゲテ其解決、其善後處置ヲ執ラナケレ
バナラナイ所ノ、重大ナル問題ト私ハ考ヘ
マスルガ故ニ、決シテ唯言葉ノ先デ總理ヲ
追窮シヨウナドト云フ觀念ハ少シモ持ッテ
居リマセヌ、總理ニシテ眞ニ誠意ヲ以テ此
問題ヲ片付ケヨウト云フ御考デアルナラ
バ、又其ヤウニ私モ微力ナガラ共ニ力ヲ致
シテ、其解決ヲ致シタイト思フノデアリマ
スルカラ、斯樣ノ意味ニ於テ私ノ質問ニ對
シテ、誠意ヲ以テ御答辯アランコトヲ切望
致ス次第デアリマス(拍手)
〔國務大臣大角岑生君登摘)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=6
-
007・大角岑生
○國務大臣(大角岑生君) 山本君ノ御質疑
ニ御答ヲ致シマス、第一私ハ憲法ニ關シ法律
上ノ解釋ヲ御答致ス考ハアリマセヌ、極メ
テ常識的ニ軍人トシテノ信念ヲ申述ベタイ
ト存ジマス、我ガ國體ノ世界無比尊嚴ナル
コトハ、固ヨリ炳乎トシテ日月ノ如ク一切
ノ議論ヨリ超越シ、絕對無條件ニ其神聖ヲ
信ズル者デアリマス、軍人ガ戰場ニ於テ戰
死ノ直前ニ陛下ノ萬歲ヲ奉唱致シマス所以
ノモノモ、實ニ此崇高ナル國體觀念ノ發露
ニ外ナラナイノデアリマス(拍手)所謂古歌
ノ「海行カハ水ツク屍山行カハ草ムス屍大君
ノヘニコソ死ナメカヘリミハセシ」トノ大精
神コソ、古往今來易ラザル我等軍人ノ傳統
的信念デアリマス(拍手)故ニ此信念ニ反ス
ルガ如キ言論ハ、之ヲ承服スルコトハ出來
ナイノデアリマス(拍手)寧ロソレ等ノコト
ニ付テ彼此レ申スコトスラ、恐懼ノ至リニ
堪ヘナイ者デアリマス(拍手)是ハ議論ニア
ラズシテ信念デアリマス、第二ニ此問題ノ
處理ニ關シテノ御尋デアリマスルガ、事極
メテ重大デアリマスルカラ、愼重ニ考慮ノ
上善處致シタイト考ヘマス(拍手)
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=7
-
008・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 私ニ對スル山本
君ノ御尋ノ第一箇條ハ、天皇機關說ニ對ス
ル考ヲ御聞ニナッテ居リマス、第二ハ此說ガ
流布傳播スルト云フコトハ國家ニ害アルト
信ズル、果シテサウナラバ國法ヲ以テ之ヲ
防止スル考ナキヤ、此二問題ト考ヘマス、
第一ノ天皇機關說ニ對スル私ノ考ヲ申上ゲ
マス、私ハ吾々ノ信念トシマシテ、我ガ日
本ノ國體ハ世界ニ冠絕シ、所謂尊嚴無比デ
アルコトヲ絕對ニ信ジテ居ル者デアリマシ
テ、吾々ノ信念トシマシテハ、吾ガ國體ニ
於テハ忠君ト云フコトヽ愛國ト云フコト
ハ全ク完全ニ合一スベキモノデアル、斯ウ
確信シテ居ルノデアリマス(拍手)陸軍ト致
シマシテハ、萬邦無比ノ我ガ國體ニ對シマ
スル此信念ハ、一切ノ議論ヲ超越シテ始終
一貫變ラザルモノデアルト思ッテ居リマス、
隨テ此信念ト相容レザル所ノ御尋ニナリマ
シタヤウナ言說ニ付キマシテハ、斷ジテ承
服ハ出來ナイノデアリマス(拍手)次ニ第二
ノ問題ニ御答致シマス、私ハ天皇機關說ニ
付キマシテハ旣ニ申述べマシタ通リニ、之
ヲ承服シテ居ル者デハアリマセヌ、隨テ貴
族院ノ議場デモ申述ベマシタ通リニ、此種
私共ノ承服出來ナイ所ノ言說ガ、成ベク世
ノ中カラ姿ヲ消ス、無クナルト云フコトハ
吾々ノ希望スル所デ(拍手)吾々ノ承服シ得
ル所ノ言說ニ歸一シナケレバナラヌト云フ
コトハ、當然希望シテ居ル所デアリマス、
此點ハ明ニ私ハ申上ゲテ宜イト思ヒマス、
而シテ是等ノ言說ニ對スル處置トカ、取扱
ト云フコトニナリマスト、過日モ貴族院デ
申シマシタガ、ソレハ當局ノ大臣等ガ色々
〓究考慮サレテ居リマス(「ソンナコトデハ
手緩イ」ト呼フ者アリ)其點ニ付キマシテハ
閣僚ト共ニ善處シタイト考ヘテ居ル次第デ
アリマス(拍手)
〔國務大臣松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=8
-
009・松田源治
○國務大臣(松田源治君) 山本君ニ御答申
上ゲマス、私ガ美濃部君ノ機關說ニ反對ス
ル理由ハ、此處デ法律論ヲ鬪ハスノデハア
リマセヌケレドモ、憲法發布ノ上諭ニ國
家統治ノ大權ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ
子孫ニ傳フル所ナリ」ト云フコトガアリマ
ス、私ハ皇位ト國家ハ同一體ト考ヘテ居リ
マス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=9
-
010・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 山本君ニ御答致
シマス、私ハ法律ノコトニハ至ッテ不案内デ
アリマス、唯國體ニ關スル私ノ信念ハ、先
日モ此議場デ申述ベマシタル通リ、天壤無
窮ノ御神勅ニ明デアリマス、萬世一系ノ天
皇ガ統治セラレ、國民ハ赤子トシテ赤誠ヲ
捧ゲ奉ル、是ガ我ガ國體ダト思フノデアリ
マス、憲法第一條モ之ヲ述べテ居ルノダト
思ヒマス、是デ非常ニ明瞭ダト思ヒマス、
美濃部博士ノ機關說ニハ、私ハ贊成スル者
デハアリマセヌ、此機關說ガ社會ニ惡影響
ヲ及ボストシテ、何等カノ措置ヲ要スルヤ
否ヤニ付キマシテハ、特ニ愼重考慮ヲ致シ
タイト考ヘテ居リマス(拍手)
〔山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=10
-
011・山本悌二郎
○山本悌二郞君 只今總理大臣竝ニ諸大臣
ノ御答辯ヲ伺ヒマシタガ、皆態ト私ノ質問
ノ要點ヲ囘避シテ居ルヤウニ考ヘラレルノ
デアリマス、獨リ文部大臣ダケハ、其私ノ
尋ネマシタコトニ付テ、略〓要領ヲ得タ御
答辯ヲ爲サックコトニ對シテ敬意ヲ表シマ
ス、文部大臣ガ此機關論ニ反對スル理由
ハ文部大臣ノ信ズル所ニ依レバ、我國ニ
於テハ皇位ト國家ハ同一ノモノト考ヘル、
斯樣ニ申述ベテ居ル、是ハ此機關論ニ私共
ガ反對ヲスル、國民ガ反對ヲスル其理由ト
略こ相近イ所ヘ來テ居ルノデアリマス、私共
ハ天皇ト國家ガ分離スベカラザルモノデア
ル、一體ノモノデアルト云フ、此建前カラ
來テ居ルノデアリマス、之ヲ文部大臣ハ、
皇位ト國家ト言ウテ居リマスガ、私共ノ申
ス所モ、矢張皇位ニ在ラレル天皇ノコトヲ
申シテ居ルノデアリマス、卽チ私ノ意見ト
文部大臣ノ意見ハ、略〓一致シテ居ルカノヤ
ウニ私ハ考ヘマス、サウ致シマスルト、私
ハ文部大臣ニモウ一ツ御尋ヲシタイノデア
ル、斯樣ニ考ヘテ文部大臣ガ此機關論ニ反
對ヲ爲サル以上ハ、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ、
此機關論ナルモノハ我ガ國體ト合致シナイ
モノデアルト云フ此理由ナノデアル、我ガ
國體ト合致シナイモノデアルカラ反對ヲス
ル、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、此
國體ト背馳スル所ノ機關論、ソレヲ學說ナ
リトシテ其儘ニ放置スルト云フ譯ニハ行カ
ヌカノヤウニ思ヒマス、ソレデ文部大臣ト
シテハ、之ヲ文〓上カラ見テ如何ニ取扱ッ
テ宜シイノデアルカト云フ御考ガナクテハ
ナラヌ筈デアリマスルカラ、之ヲ重ネテ御
尋ヲ致シマス、又總理竝ニ特ニ海軍大臣、
此御二方ニモウ一應念ヲ押スノデアリマス、
海軍大臣ハ私ノ質問ノ要點ノ第一、卽チ統
治權ノ主體ハ天皇ニアラズシテ國家ニ在リ、
斯ウ云フ說ヲ肯定サルヽカ、ソレトモ統治
權ノ主體ハ天皇ナリト斯樣ニ信ズルノデア
ルガ、之ヲ御尋ネシタ、所ガ海軍大臣ハ學
說ハ私ノ關係スル所デハナイ、斯樣ニ申サ
レタノハ、此質問ニ對シテノ御答辯デアル
カノヤウニ私ハ承ッタ、是ハ學說デアルカ
ラ、ソレハドチラトモ自分ハ言フ譯ニ行カ
ヌト、斯樣ニ御答辯ニナッタヤウニ私ハ承ツ
ク、ソレハ實ニ以テノ外ノコトデアルト思
フ、アナタガ容認スルコトノ出來ナイト云
ス、卽チ軍人ハ、天皇ノ爲ニ戰フノデアル、
天皇陛下ノ馬前ニ討死ヲスルト云フノガ
軍人精神デアルト、斯樣ニ仰セラレマスガ、
所ガ美濃部君ハ、軍人ハ國家ノ爲ニ戰フノ
デアル、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ、天皇ノ爲
ニ戰フノデハナイト斯ウ言ウテ居ル、ソレ
ハ何處カラ-何處カラサウ云フコトガ結
論サレルカ、ドウ云フ理由ノ根柢ノ下ニサ
ウ云フ結論ガ出ルノデアルカト云フト、是
ハ卽チ天皇機關論カラ出ルノデアル、天皇
ハ機關デアル、國家ガ統治權ノ主體デアル、
斯ウ云フ所カラ出ルノデアル、國家ガ統治
權ノ主體デアルカラ、故ニ軍人ガ戰フノモ
卽チ國家ノ爲ニ戰フノデアル、斯ウ云フ結論
ニナルノデアル、然ラバアナタ方ガ最モ厭
ヤガル、又サウアルベキ、卽チ軍人ハ唯國
家ノ爲ニ戰フノデアッテ、天皇ノ爲ニ戰フノ
デハナイナゾト云フ、此最モアナタ方ガ嫌忌
サレル所ノ軍人精神ニ牴觸スル此結論ト云
フモノハ、是ハ機關說カラ出テ居ルノデア
リマス、ソレダカラ私ハ此機關說ニ對シテ、
軍部當局トシテモ相當ノ關心ヲ以テ、是ガ
是ナリヤ否ナリヤト云フコトヲ御決メニナ
ラナケレバナラヌ筈ト思フ、故ニ私ハ御尋ヲ
致シタノデアリマス、總理大臣ニ對シテモ亦
同ジコトヲ私ハ繰返サナケレバナラヌ、總
理大臣ハ、稍〓願ミテ他ヲ言フ、私ガ主權ノ
主體ハ國家デアルカ、若クハ天皇デアルカ、
之ヲ明瞭ニ御答ヲ願フト申シマシタケレド
モ、其御答ガナイノデアル、日本帝國ハ萬
世一系ノ天皇之ヲ統治スト云フコトハ、是
ハ固ヨリ何人モ異存ノナイ所デアリマス、
ケレドモ其統治權、此日本帝國ヲ統治スル
所ノ統治權ト云フモノヽ主體ガ、一體天皇
デアルノデアルカ、若クハ國家デアルノデ
アルカ、天皇デアルカ國家デアルカ、是ガ
問題ナンデアリマス、是ガドチラデアルカ
ト云フコトニ依ッテ、我ガ國體ト云フモノガ
ドウ云フモノデアルカト云フコトガ始メテ
確定サレルノデアル、重大ナ問題デアルノ
デアリマス、之ヲ避ケテ、之ニ御答ニナラ
ナイト云フコトハ、或ハ御答ニナリニクイ
ノデアルカトモ存ズルノデアリマス、併ナ
ガラモウ一應私ハ總理竝ニ海軍大臣ニ對シ
テ、此點ヲ明瞭ニ御答アランコトヲ切望致
シマス(拍手)
〔國務大臣松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=11
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012・松田源治
○國務大臣(松田源治君) 御答致シマス、
美濃部博士ノ機關論ハ、久シキニ於テ唱ヘ
ラレマシテ、法律學說トシテ幾多ノ議論モ
重ネラレテ居ルノデアリマス、故ニ文〓ニ
如何ナル影響ガアルカト云フコトハ、愼重
ニ考慮シナケレバナラヌ問題ト考ヘルノデ
アリマス、又〓科書ニハ、美濃部博士ノモ
ノハ使ッテ居リマセヌ、サウシテ國體ノ重嚴
ナルコトヲ〓科書ニハ生徒ニ〓ヘテ居ルノ
デアリマス、御答へ申シマス(拍手)
〔國務大臣大角岑生君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=12
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013・大角岑生
○國務大臣(大角岑生君) 御答ヲ致シマス、
先程私ノ述ベタル信念ニ依リ、天皇機關說
ニ反對デアルコトヲ御諒承下サッタコトヽ
考ヘマス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=13
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014・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 重ネテ御答致シ
マス、私ハ憲法第一條ヲ讀ンデ、アノ通リ
デアリマス、斯ウ考ヘテ居リマス、何等疑
ヲ挾ム所ハ之ニ少シモナイト、斯ウ考ヘテ
居リマス(拍手)
〔山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=14
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015・山本悌二郎
○山本悌二郞君 幾度御尋ヲシテモ-幾
タビ御尋ヲシテモ要領ヲ得ルコトガ出來ナ
イコトヲ遺憾ト致シマス、私ハ文部大臣ノ
御答ニモ實ハ滿足致スコトガ出來ヌノデ、
二十年、三十年此說ガ放置サレテ居ッタカ
ラ、之ヲドウ文〓ノ府ニ於テ取扱ハウカト
云フコトハ愼重ノ〓究ヲ要スル、斯樣ニ申
サレテ居リマシタガ、此問題ガ二三十年モ
此儘ニ放置サレテ論議サレタト云フコトハ、
要スルニ時代ガ然ラシメタノデアル、卽チ
總テ歐羅巴文明、外國文明ニ心醉シテ居ッ
タ、其當時何デモ彼デモ西洋デナクテハナ
ラヌト云フ其時代ニ、此學說ガ外國カラシ
テ輸入サレタ、ソレダカラシテ、其時代ニ
於テハ二十年モ三十年モ其儘ニ天下ニ行ハ
レタノデアリマスルケレドモ、私ガ最後ニ
申シマシタ通リ、今日我ガ帝國ハ、將ニ自
己ノ精神ニ甦ラントシツヽアル時デアリマ
スカラ、ソコデ是ガ問題ニナッタノデアリ
Rヾ、ソレデ之ヲ今日篤ト〓究ヲシナケレ
バナラナイト云フヤウナ問題デハナイノデ
アリマス、速ニ此說ノ文〓、〓育ノ上ニ及
ボス所ノ影響ヲ御考慮ニナッテ、相當ノ處置
ヲ執ルベキモノト信ズルノデアリマス、ケ
レドモ此以上御尋ヲシテモ、要スルニ要領
ヲ得ナイダラウト思ヒマスルカラ、私ハ此
以上申シマセヌ、而シテ總理大臣竝ニ海軍
大臣ニ對シテハ、私ハ海軍大臣ガ只今機閱
論ニ反對デアリマスト云フコトヲ最後ニ申
サレタコトハ諒ト致シマス、要スルニ機關
論ニ反對デアル、其理由ハ、唯信念ニ依ル
カノヤウニ海軍大臣ハ御說明ニナリマシタ
ガ、ソレハ信念デモ宜シイノデアル、要ス
ルニ之ニ反對デアレバ宜シイノデアル、反
對デアレバ、隨テ之ニ對スル所ノ相當ノ處
理ヲ御考ニナラナケレバナラヌノデアリマ
ス、ケレドモ是モ今海軍大臣ニ御尋ヲシマ
シテモ、恐ラクハ要領ヲ得マスマイト思ヒ
マス、又總理ニ於テハ、私ハ懇々ト能ク
御分リニナルヤウニ實ハ申シタ積リデアル、
日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス、是
ダケデハ、是ハ何モ異存ノナイ話ナノデア
ル、誰モ之ヲ彼此レ申スノデハナイノデア
ル、機關論者ト雖モ、是ハ決シテ否定スル
ノデハナイノデアル、此憲法第一條、之ヲ
以テ私ノ問ニ答ヘヨウトスルノハ、ソレハ
全ク的ヲ外レテ居ル、此憲法第一條ト云フ
モノヽ統治權、其統治權ノ所在ガ何處デア
ルカ、統治權ノ主體ガ天皇デアルカ、國家
デアルカト云フコトガ、是ガ問題ナノデア
ル、ソレヲ私ハ御尋シテ居ルノデアリマス
ルケレドモ、之ニ答フルニ、卽チ萬世一系
ノ天皇ハ日本帝國ヲ統治スルト云フ、憲法
第一條ヲ以テスルノミデハ、是ハ何時迄ヤッ
テモ禪問答デアル、故ニ此以上ハ私ハ御尋
ヲ致シマセヌガ、甚ダ私ノ質問ニ對スル政
府ノ答辯ニハ不滿デアリマス、不滿デアリ
マスルケレドモ、是レ以上如何ニ押シテモ、
音モ音モシサウデアリマセヌカラ、私ハ此
程度ニ止メテ、深キ政府ノ考慮ヲ促シテ置
キマシテ、又他日ノ機會ニ於テ、政府ガ若
シ之ニ對シテ相當ノ考ヲ決メテ、相當ノ折
目ヲ付ケナケレバ、其時ニ於テ吾々ハ又更
ニ政府ニ對シテ御尋モスルデアラウシ、又
他ノ吾々ノ權限ニ依ッテ爲サナケレバナラ
ヌコトガ生ズルカモ知レマセヌガ、此度ト
シテハ、質問ハ此程度デ止メテ、深キ考慮
ヲ政府ニ促シテ置キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=15
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016・濱田國松
○議長(濱田國松君) 質問第三、大演習時
ノ御警衞ニ關スル質問ヲ許可致シマス-
提出者中山福藏君
三大演習時ノ御警衞ニ關スル質問(中
山福藏君提出)
大演習時ノ御警衞ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十年三月九日
提出者中山福藏
大演習時ノ御警衞ニ關スル質問主意
書
大演習時ニ於ケル天皇陛下ノ御警衞ニ
關シ守則確立ノ必要ナキヤ陸軍大臣、海
軍大臣及內務大臣ノ所見如何
右及質問候也
〔中山福藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=16
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017・濱田國松
○議長(濱田國松君) 此場合申上ゲマス、
先刻後藤內務大臣ハ皇后陛下ノ行啓ニ扈
從セラレタル旨ヲ申上ゲマシタ、ソレハ
皇太后陛下ノ行啓ニ扈從セラレタルノ誤リ
デアリマスカラ、謹デ玆ニ御訂正ヲ申上ゲ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=17
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018・中山福藏
○中山福藏君 私ハ一昨々年ノ秋、關西ニ
於ケル特別大演習陪觀ノ光榮ニ浴シタ者デ
アリマスガ、畏クモ一天萬乘ノ天皇陛下
二、龍顏殊ノ外麗ハシク大阪ニ御安著在
ラセ給ヒ、大阪城内ノ大本營內ニ數日間御
駐輦遊バシマシタコトハ、諸君ノ御記憶ニ
尙ホ新ナル所デアラウト存ズルノデアリマ
ス、其際私ハ直チニ天機奉伺ノ爲メ大本
營ニ罷リ出タノデアリマスルガ、不可解ニ
モ陸海軍ノ准士官以上ノ軍服ヲ著用シタル
者ハ、其何人タルヲ問ハズ、何等査問點檢
ナクシテ、自由ニ奉伺者名簿備付ノ所マデ
參進シ得タノデアリマス、之ニ反シテ私共
九千万國民ノ代表者タル所ノ貴衆兩院議員
ハ、議員徽章ニ依リマシテ、其身分地位ヲ
表示セラレ居ルニ拘ラズ、悉ク門鑑ナキ者
ハ入門ヲ拒否セラレタノデアリマス、此場
合明確ニ申上ゲテ置カナケレバナラヌコト
ハ、私ハ決シテ入門ヲ拒絕セラレタカラ、
彼此レ申上ゲルノデハゴザイマセヌ、唯何
故ニ軍服ヲ著用セル者ノミガ、斯樣ナ特殊
ノ待遇ヲ受ケルカト云フコトヲ、諒解出來
ルヤウニ御釋明ヲ煩シタイノデアル(拍
手)
私ハ近畿大演習以來、此點ハ國民トシテ
忽諸ニ付スベカラザル所ノ重大問題トシ
テ、常ニ周到ナル注意ヲ拂ッテ居ッタノデア
リマスルガ、從來特別大演習ノ際ハ、殆ド
同一程度ノ入門者點檢ヲ行ヒツヽアルト云
フコトヲ發見シタノデアリマス、陸軍當局
ハ、大演習時ニ於ケル陛下ノ御警衞ハ、
之ヲ以テ十分ナリト思考セラレテ居ルヤ
否ヤ、尙ホ本問題ニ付キマシテ陸軍大臣同
樣海軍大臣ニ此質問ヲナスト云フノハ、
衞戍勤務令第二章衞戍司令官職務規定第十
項ニ「軍港、要港又ハ海軍部隊所在地ノ衞
戍司令官ハ職務ノ執行ニ關シ海軍ニ關聯ス
ル事柄ハ豫メ海軍官憲ト協議スヘシ」ト云
フ法的根據ニ基キマシテ、如上ノ地方ニ於
ケル所ノ大演習時ヲ想見シテ、特ニ本問題
ニ對スル海軍大臣ノ意嚮ヲ質シテ置ク必要
ガアルト思料スルカラデアリマス、陸海軍
大臣ハ陸海軍所定ノ軍服サヘ身ニ纏ウテ居
レバ、危險人物ハナイト思召スノデアリマ
セウカ、勿論衞戌地區管內ノ御警衞ニ當リ
マシテハ、勅令第二十六號衞戍條例、陸軍
軍令第三號衞戍勤務令等ニ依ル警備規定ガ
アリマスルカラ、大演習時ノ衞戍方針ハ、
其精神解釋ニ依リ近衞師圍長、當該地ノ衞
戍司令官、陸軍當局、竝ニ地方官憲御協議
ノ上ニ御決定ナサルモノト思考セラレルノ
デアリマスルガ、軍服著用ノ人間ヲ點檢査
問セズシテ、果シテ眞ノ御警衞ガ出來ルノ
デアリマセウカ、古來我ガ國民ハ質實剛
健忠孝義勇、一君萬民ノ大精神ニ則リ、
君國ニ對スル至高最大ノ御奉公ヲ致シテ居
ルノデアリマスルガ、近時思想ノ惡化、風
紀ノ頽廢、經濟界ノ混亂、國民生活ノ不
安、外交ノ不振、國防ノ不備等、複雜多岐
ナル原因ニ依リマシテ、社會各般ノ改造ヲ
卽時ニ斷行セントスル者アリ、甚シキニ至
リマシテハ、國體ノ變革ヲ企圖スル大逆不
逞ノ徒ガ存在スルト云フコトハ、閣員諸公
皆御承知ノ通リデアリマス、這般ノ事情ニ
鑑ミマシテ、如何ナル場合ニ於キマシテモ
陛下ノ御警衞ハ徹底的ニ完璧ヲ期セナケ
レバナラヌト私ハ信ズル者デアル、之ヲ要
スルニ大演習時ニ於ケル奉伺者ニシテ、軍
服ヲ著用セル者ニ限リ、無點檢デ以テ入門
許可ノ方法ニ出ヅルガ如キハ、不用意、不
謹愼、軍人ナルガ故ニ、忠節ニ缺クル處ナ
シト云フ獨斷的先入感ニ依リ、軍民ヲ差別
スルト云フ一證左ナリトモ謂ヒ得ルノデ
アッテ、御警衞上不備不完全ノ極ナリト謂ハ
ナケレバナラヌト私ハ思フノデアリマス
(拍手)申スモ畏キコトナガラ、萬一軍服ヲ
著用セル者ノ中ニ不逞ノ徒アリ、虎ノ門事
件ノ如キ大逆事件ヲ惹起スルヤウナコトガ
アリ、或ハ測近ノ大官ニ危害ヲ加ヘ、宸襟
ヲ惱マシ奉ルガ如キコトガアリマシタナラバ、
陸海軍大臣ハ上陛下ニ對シ奉リ、下國民
ニ對シ如何ナル申開キヲ爲サル積リデアリ
マセウカ(拍手)心境ノ變化又ハ恐懼戒心ノ
如キ遁辭ヲ以テシテハ、斷ジテ國民大衆ノ納得
ヲ得ルコトハ出來ナイノデアル(拍手)斯ク
言ヘバ中山ノ申スコトハ悉ク是レ荒唐無
積單ナル杞憂ニ過ギナイト仰セラレルカ
モ知レマセヌガ、難波大助ノ如キ大逆ノ徒
ガ、古著屋カラ軍服ヲ購入スルコト位ハ一
茶飯事デアルト謂ハナケレバナリマセヌ、
此處ニ私ハ軍人ニ非ズシテ軍服ヲ著用シ、
御玉體ニ近ヅキ奉リタル實例、及ビ軍人必
シモ絕對無限ノ忠節ヲ獨占スルモノニ非ザ
ル所以ヲ立證致シマシテ、私ノ論旨ニ誤リ
ナキヲ保シタイト考ヘル次第デアリマス
忘レモ致シマセヌ、昭和八年四月三日、
二十二年間在〓將校ナリト僭稱シテ居ッタ
者卽チ長谷部友厚ト云フ人間ガ、獻金費
消ノ結果下關ノ憲兵隊ノ手ニ依ッテ其假面ヲ
剝ガレタノデアリマスルガ、彼ハ下關ノ在
〓軍人會副分會長、東分會長ノ名譽職ニア
リ、陸軍騎兵中尉從七位動六等功五級ノ位
階動等ヲ有スト觸込ミマシテ、畏多クモ嘗
テハ九州大演習ノ砌、明治大帝ノ御行幸ヲ
拜スル爲ニ僞中尉トナリ、下關構內ニ立入
リマシテ、サウシテ拜觀ノ光榮ニ浴シタノ
ミナラズ、御大典ニモ二囘、御賜餐ノ光榮
アル場所ニ參列シ、在〓軍人功勞者トシテ
有功章ヲ拜受シテ居ル、昂々溪ニ於ケル鬼
將軍ト謳ハレマシタ長谷部將軍竝ニ陸軍省
ノ長谷部少佐及二大尉ハ、自己ノ子供或ハ
甥デアルト宣傳シテ居ッタノデアリマス、右
ハ非軍人ニシテ軍服ヲ著用ニ及ビタル者ニ
對スル御警衞粗漏ノ一事實デアルガ、軍人
ダカラト言ッテ決シテ油斷ハ出來マセヌ、卽
チ昭和八年三月二十九日ニハ、軍艦榛名乘
組員デアリマシタルノ所西氏恒次郞、軍艦
山城乘組員河田毅、軍艦長門乘組員吉原義
次是等ノ者ハ赤化思想ノ抱懷者トシテ、
軍法會議ニ附セラレテ居ルト云フ事實ガア
ル、何レニ致シマシテモ、軍服ヲ纏ヘル者
ヲ直ニ乃木式軍人ナリトシテ、陛下ノ奉
伺者ニ對シ、何等ノ査問點檢ナクシテ、御
座所近クマデ進マシムルト云フコトハ、洵
ニ危險千萬、過去ニ於ケル警衞上ノ一大失
態ナリト私ハ考ヘテ居ル者デアリマス、衞
戌勤務令第三章第二款第三十二項ニハ「衛
兵司令ハ門ノ出入若クハ倉庫ノ開扉等ヲ請
フ者アルトキハ自ラ之ヲ檢シ疑ナキコトヲ
確認スルニ非サレハ許スヘカラス但シ守警
若ハ守衞ニ於テ之ヲ檢スルノ規定アルモノ
ハ此限ニ在ラス」トナッテ居リマシテ、總テ
ノ者ノ出入ニ關スル點檢ヲ命ジテ居ルノデ
アリマス、併シ軍人ノミハ絕對ニ檢査ヲシ
ナイノデアリマスルガ、是デ以テ陛下御
警衞ノ任務ヲ盡シ得タリト存ゼラレルノデ
アリマセウカ、今試ミニ最近數年間ノ左右
兩翼ノ思想的背景ニ基ク犯罪ノ統計ヲ一瞥
センカ、洵ニ思半バニ過グルモノガアルノ
デアリマス
昭和五年度ヨリ九年度ニ至ル所ノ陸軍軍
人ノ中デ左翼思想ヲ抱懷シ、檢擧セラレマ
シタル者ガ六十三名、起訴處罰セラレマシ
タル者ガ各〓四十名、反亂罪トシテ檢擧起訴
處罰セラレタル者各〓十名昭和七年度ヨリ
九年度ニ至ル間ニ於テ、海軍軍人デアリマ
シテ檢擧セラレタル者ハ左翼ノ者ガ十三名
處罰セラレテ居ル者ガ八名、右翼關係ノ者
デアッテ檢擧處罰セラレタル者各ミ十名一般
民衆ニ於キマシテハ、昭和三年度カラ九年
度ニ至ル間ニ、治安維持法違反ト致シマシ
テ起訴セラレタル者四千五十九名、起訴猶
豫トナリマシタ者ガ三千八百六十九名、留
保處分トナリマシタル者ガ二千四百二十五
名合計一万三百五十三名デアリマス、更ニ
右翼〓體デアッテ、最近五箇年間ニ於ケル加
盟者ノ殺人傷害脅迫恐喝暴力行爲竝ニ爆發
物取締罰則違反銃砲火藥取締規則違反請
願令違反等ノ起訴人員數ガ合計二百四十
九名、內處罰セラレマシタル者ガ百八名
アルノデアリマス
是等ノ計數ニ顧ミ、如何ニ思想的背景ヲ
有スル者ノ跳梁跋扈セルカヲ思ヒマスル時
ニ、誰カ慄然トシテ膚ニ粟ヲ生ジナイ者ガ
アリマセウカ、私ハ敢テ申シマス、現在陸
海軍ノ緩漫ナル御警衞方針ハ、洵ニ職務怠
慢ノ極デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、
陸軍大臣ハ明治四十三年三月十八日、桂內
閣ノ當時ニ於キマシテ施行セラレタル衞戍
條例及衞戌勤務令ヲ以テ、遺憾ナシトセラ
ルヽノデアリマセウカ、又大演習時ニ於ケ
ル御警衞ニ關スル單行法ヲ御作リニナルト
云フ御考ハナイノデアリマセウカ、右二法
令ノ字句體裁ハ今日之ヲ見マスルト不備不
完全洵ニ甚シキモノデアリマシテ、是非ト
モ此際守則ヲ確立シテ置ク必要ガアルト思
フノデアリマスガ、此點ニ關スル陸軍大臣
ノ所存ハ如何デアリマセウカ、海軍大臣ニ
對シマシテハ衛戍勤務令第二章第十項ノ規
定ニ基キマシテ牽聯事項トシテ、是ハ御尋
シテ置クノデアリマスガ、陸軍ト共同御警
衞ノ場合ハ兔ニ角、今日海軍ニ於キマシテ
ハ御警衞ニ關スル單行法ガ存在シテ居ナイ、
是ハドウ云フ譯デアリマスカ、陸軍ノ衞戍
勤務令ニ相當スルモノハ鎭守府令、要港部
令軍港衞兵規則、軍港巡察特種規則、明治
四十五年達第六十二號陸上勤務居住規則、
艦船部隊上陸外出規則、是等ノモノガアル
ダケデアリマシテ、單行法ト云フモノハ何
處ヲ探シテモナイノデアリマス、斯樣ナ意
味合ニ於キマシテ、私ハ此際斯ウ云フコト
ハ、成程天皇機關說トカ色々ナ問題モ重大
デアリマセウガ、一番重大ナルコトハ、我
ガ國體ノ尊嚴ノ基本デアリマスル陛下ノ
御警衞ニアルト云フコトヲ、オ互ニ考ヘナ
ケレバナラヌト思ヒマス、此點ヲ粗漏ニシ
テ幾ラ論議シタ所ガ、一體何ノ價値ガアル
カ、私ハ斯樣ナ意味合ニ於キマシテ、內務
大臣ハ御見エデアリマセヌカラ、此牽聯事
項ハ後日ニ〓シマシテ、陸海軍大臣ニ今日
此點ヲ特ニ御尋スル光榮ヲ有シタ者デアリ
マス
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=18
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019・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ中山君ノ
御質問ニ御答致シマス、御警衞ノコトニ付
キマシテノ大體ノ御議論ハ、洵ニ當然ト考
ヘマス、私共モ此演習中ノ御警衞ニ付キマ
シテハ、關係各省、所謂軍部モ地方側モ、
相當ニ頭ヲ惱マシマシテ、此御警衞ノ擔任
區分デアルトカ、或ハ實行ノ方法デアルト
カ云フコトニ付キマシテハ、其時ノ狀況ニ
應ジ、地方ノ狀況等ニ應ジマシテ、所謂大
演習每ニ特殊ノ趣意書、或ハ法令ト云フヤ
ウナモノヲ作ッテ居リマス、ソレデ詳細ナル
規定ヲ致シマシテ、豫メ各關係當事者ニ於
テ十分之ヲ〓究シテ、御警衞ノ任ニ當ッテ居
ルノデアリマシテ、大體ニ於キマシテ違算
ノナカッタコトヽ考ヘテ居ルノデアリマス
ルガ、併シ尙ホ此點ニ付キマシテハ、御話
ノ通リ今日ノ時勢ニ應ジマシテ、今後益〓注
意ヲ加ヘテ、法規等ノ改變ニ關シテ〓究ヲ
スル必要アリト考ヘテ、ソレ〓〓著手ヲ致
シテ居ル次第デアリマス、之ヲ以テ御答ト
致シマス
〔國務大臣大角岑生君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=19
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020・大角岑生
○國務大臣(大角岑生君) 御答ヲ致シマス、
行幸ノ際ニ於ケル御警衞ノ重大ナルコトハ、
只今御述ニナリマシタ通リデアリマシテ、
之ニ關シマシテハ、所在最高指揮官ハ、終
始非常ナル注意ヲ拂ッテ居ルノデアリマス
ガ、成程法規等ノ不備ノ點ガアラウト思ヒ
マスルカラ、此點ニ關シテハ十分〓究ヲ致
シタイト考ヘマス、此大演習其他行幸ノア
リマスル際、例ヘバ鎮守府、要港部等ニ於
キマシテ、海軍港內以外ハ直接海軍ハ警衞ニ
當ッテ居リマセヌ、是ハ主トシテ地方警察、
警官等ガヤッテ居リマスルガ、海軍港內ハ是
ハ海軍ガ警衞ニ任ジテ居リマス、又海上ニ
於キマシテハ、海軍自ラノ兵力ヲ以テ御警
衞ニ任ジテ居ルコトハ御承知ノ通リデアリ
マス、只今縷々御述ニナリマシタコトハ、
私共洵ニ好個ノ資料ト致シマシテ、十分〓
究致シタイト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=20
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021・濱田國松
○議長(濱田國松君) 中山君、モウ宜シウ
ゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=21
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022・中山福藏
○中山福藏君 簡單デスカラ自席カラ發言
ヲ御許シ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=22
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023・濱田國松
○議長(濱田國松君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=23
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024・中山福藏
○中山福蔵君 私ハ只今ノ陸海軍兩大臣ノ
御答辯ヲ、洵ニ敬意ヲ以テ拜聽シタノデア
リマスガ、願クバ出來ルダケ早イ時期ニ於
テ、陸海共通ノ御警衞方針ニ關スル規定ノ
御作成アランコトヲ希望スルノデアリマス、
私ノ得マシタ資料ハ、憲兵隊本部竝ニ豫備
ノ海軍將官ノ方カラ、此大演習時ニ於ケル
所ノ御警衞ノ取締ニ付テ、逐一實例ヲ擧ゲ
テ御聽キシタノデアリマスルカラ、斷ジテ
誤リハナイト云フ確信ノ下ニ御質問ヲシタ
ノデアリマス、願クハ陸海兩大臣ハ、總理
大臣トモ御協議ニナリ、或ハ地方官憲ニ關
係アル所ハ、內務大臣トモ御協議ニナリマ
シテ、立派ナル御警衞方針ヲ樹立セラレン
コトヲ、此際希望致シマシテ質問ヲ打切リ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=24
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025・濱田國松
○議長(濱田國松君) 次ノ質問ニ入リマス、
此機會ニ念ノ爲メ申上ゲマス、質問ノ演說
時間ハ、院議ニ依リ二十分ヲ以テ制限トサ
レテ居リマス、議長ニ於キマシテ特別ノ事
情アリト認ムル時ニ限リ、特ニ三十分マデ
延長スルコトノ院議デアリマス、今後ノ質
問ノ方ハ、特ニ時間ニ御注意アランコトヲ希
望致シマス、質問第五、外交國防及國策ニ
關スル質問ヲ許可致シマス-提出者畑桃
作君
五外交國防及國策ニ關スル質問(畑
桃作君提出)
外交國防及國策ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十年三月七日
提出者畑桃作
外交國防及國策ニ關スル質問主意書
對支對米外交ノ刷新確立、經濟國防ノ充
實及國策ノ運用ニ關スル內閣總理大臣、
外務大臣、陸軍大臣、海軍大臣及大藏大
臣ノ所見如何
右及質問候也
〔畑桃作君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=25
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026・畑桃作
○畑桃作君 曩ニ帝國政府ガ滿洲國ノ承認、
國際聯盟脫退、華府條約ノ廢棄通〓ヲ斷行
致シマシタコトハ、東亞安定ノ爲ニ特別ナ
ル重責ヲ負擔スベキ我ガ帝國ノ臣民ト致シ
マシテ、最モ本懷トスル所デアリマス、而
シテ帝國ノ前途如何ト云フニ、畏多クモ一
昨日陸軍記念日ニ、九段ヘ行幸遊バサレマ
シタ至尊ノ御前ニ於テナサレマシタル、
閑院宮殿下ノ御式辭ノ一節ニ、漏レ承ル御
言葉デアル所ノ「今ヤ帝國内外ノ情勢ハ益、ミ
多事ニシテ眞ニ擧國奮起スヘキノ秋ナリ」
ト云フ御言葉ヲ以テ見ルモ明デアリマシテ、
非常時ノ解消セラレナイト云フコトハ、ハッ
キリシテ居ルト思フノデアリマス、此秋ニ
方リ我ガ國民ハ外交ノ成功ヲ羸チ得ンガ爲
二、我方ト相手國トノ間ニ存在スル諸般ノ
關係ニ付キマシテ、正シキ認識ヲ求メント
スルノハ當然デアリマス、又外交ヲ力强ク
支持スル爲ニ、玆ニ國防ヲ充實スル必要ノ
アルコトハ勿論デアリマス、而シテ國防ヲ
充實スル爲ニハ、兵農商工萬全ノ立場ニ於キ
マシテ、武力ト同樣ニ民力ノ涵養ト充實ヲ
圖ラネバナリマセヌ、而シテ民力ノ充實ヲ
圖ル爲ニハ、吾等ハ玆ニ現在ノ產業經濟ノ
機構ニ向ッテ、大革新ヲ斷行シナケレバナラ
ナイ、而シテ人心ノ緊張ト安定トヲ策シ、
國家有事ノ際ハ銃後ノ備ヘヲ全カラシメテ、
國民ヲシテ久シキニ堪ヘシムルノ途ヲ講ジ
ナケレバナリマセヌ、此重要ナル點ニ付テ
ハ、我黨ハ勿論、國民同盟ノ諸君モ、民政
黨ノ諸君モ、又陸軍ノ「パンフレット」モ、憂
ヲ共ニスルモノト思フノデアリマス、洵ニ
是レ自然ノ勢ト申シマスカ、天運ノ然ラシ
ムル所デアリマシテ、此時代ノ轉換ト政局
ノ推移トハ、何人モ阻止スルコトハ出來ナ
イノデアリマス、恐ラク此必至ノ趨勢ニ對
シテハ、元老重臣ハ勿論ノコト、彼ノ金融
資本王國ヲ誇ル財閥ノ人ト雖モ、遂ニ反抗
スルコトハ不可能デアリマセウ、此見地ニ
立チマシテ、私ハ次ノ質問ヲ致シ、非常時
ノ外交及國防ニ付テ見透シト認識トヲ、今
少シク明ニ致シマシテ、諸般ノ準備ノ資料
ト致シタイト思ヒマス、卽チ第一ニ新海軍
軍縮會議ニ對シ、最モ重要ナル點ヲ、玆
極メテ端的ニ御尋致シマス、新海軍軍縮會
議ニ對シ、日本ガ飽迄モ平等權ヲ主張スル
コトハ、總理大臣、外務大臣、海軍大臣ノ
確乎不拔ノ信念ト思ヒマスルケレドモ、ソ
レニ間違アリマセヌカ、若シ間違ガナ
イト致シマスルナラバ、其平等權ノ標準
ヲ何處ニ置クカト云フコトヲ御尋シタイ、
卽チ總噸數ノ上ニ置ク場合ニハ、最高度ノ
海軍國タル英米ノ保有量ヲ以テ平等ノ基準
ト爲スカ、又ハ日本ノ如キ最低度ノ海軍國
ノ保有量ヲ以テ其基準トスルカ、或ハ其中
間ヲ取ルカデス、其點ハ後日ノ爲ニ特ニ關
係大臣ノ明確ナル答辯ヲ御願ヲシテ置キマ
ス
ソレカラ若シ不幸ニシテ右協定ガ不成立
ニ終リ、無條約狀態ニ立至ル場合ニハ、雙
方ノ國民感情ノ上ニ及ボス影響ハ頗ル大デ
アル、延テ外交上經濟上ノ所謂危機ガ、結
果トシテ現レテ來ルコトハ明デアリマス
ガ、其事態ニ對スル我國ノ諸般ノ用意ノ中、
海陸軍ノ力ニ付テハ、私ハ聊カ安心ヲシテ
居ルガ、銃後ノ國防ニ付テハ、日本ノ現狀
トシテ遺憾ナガラ大ナル缺陷ガ多イノデア
リマス、是デ國防上ノ責任ガ軍部大臣ハ持
テマスカ、此點ヲ御答願ヒタイト思フ、而
シテ今日銃後ノ國防ヲ完成スルニ當リテ妨
ゲトナッテ居ル所ノモノハ何デアルカト言
ハハ此妨ゲハ金融資本家本位ノ財政經濟
政策シカ御持合セノナイ所ノ高橋財政其モ
ノガ、私ハ妨ゲデアルト思フノデアリマス、
此非常時ニ處スル國防ヲ完成スル爲ニハ、
高橋財政ハ私ハ極メテ不適任ト思フノデア
リマスガ、此點ニ付キマシテ陸海兩大臣ハ
如何ニ御思ヒニナリマスカ御答願ヒタイ、
ソレトモ陸海兩大臣ハ、表面非常時ヲ口ニ
シナガラ、內心ハ自分ノ所管ニ屬スル豫算
ダケ貰ヘバ、ソレデ銃後ノ國防ハ足レリト
シテ居ルノデアリマスカ、若シサウデナイ
トスレバ、軍部大臣ハ玆ニ職ヲ賭シテモ、
此內閣ニ列席シテ居ラレル以上ハ、自己ノ
所信ヲ强要シ、主張致シマシテ、サウシテ
銃後國防ノ完成ニ向ッテ力ヲ致サルベキデ
アルト思フノデアリマスガ、其御決心アリ
ヤ、御伺スルノデアリマス
ソレカラ此際此軍縮問題ニ關聯致シマシ
テ、更ニ一ツ御伺シタイト思フ、ソレハ對
英公債ノ償還期限ハ、故意カ偶然カ知リマ
セヌガ、何時モ軍縮會議ト或種ノ因緣ヲ以
テ來ッテ居ルヤウニ私ハ感ズルノデアリマ
ス、現ニ滿鐵社債六百万磅ノ償還ト云フモ
ノハ、明年ノ一月ニ迫ッテ居ル、又對米各社
債モ、軈テ其償還期限ガ來ルト思フノデア
リマスガ、其場合債權國カラ軍縮會議ノ駈
引ニ利用サレマシテ、報復的ニ此取立ヲ强
要サレルヤウナ虞ハナイデアリマセウカ、
此點ハ私ハ昭和五年倫敦ニ於テ、時ノ全權
若槻男爵ガ軍縮條約ノ締結ニ當ラレタ時ニ、
英國側カラ深刻ナル交涉ヲ受ケテ、日本側
ハ極メテ苦イ經驗ヲ有シテ居ルト云フコト
ヲ、私ハ傳聞シテ居ルノデアリマスカラ、
此軍縮會議ヲ控ヘマシテ、敢テ此點ヲ念ノ
爲ニ御尋シテ置キタイト思ヒマス、ソレカ
ラ私ハ銃後ノ我國ノ國防ヲ完成スル爲ニ
ハ、ドウシテモ滿洲國ノ力ヲ重要トスルノ
デアリマス、其意味ニ於テ滿洲國ヲ固メル
ト云フコトハ、實ニ私ハ日本ノ國防ノ完成
上、最モ重大意義ヲ有ッテ居ルト思フノデア
リマス、ソコデ此滿洲國ヲ固メル爲ニ、日
本ノ財政當局者ハドウ云フ御考ヲ有ッテ居
ルカト申シマスト、此滿洲國ハ今建設途上
ニアリマシテ、巨額ノ建設費ヲ必要トシテ
居ルノデアリマスケレドモ、同國ノ國際的
地位ハ、悲シイ哉日本ヲ除イテハ無援孤立
ノ狀態デアリマス、ソレデ自國建設資金ノ
援助ヲ日本以外ノ他國ニ依ッテ求メル場合
三、今ハ對手サヘナイノデアリマス、然
ルニ唯一ノ援助國デアル我ガ日本ニ於テハ
ドウデアルカ、大藏大臣高橋是〓君ハ、日
本財政ノ膨脹ト、赤字公債ノ增發ヲ忌避ス
ルノ餘リ、對滿投資ヲ深ク警メテ居ルノデ
アリマス、斯ウ云フヤウナ我ガ財政當局ノ
態度デハ、果シテ滿洲國ハ成育シテ行クカ
ドウカ、私ハ憂ヘザルヲ得ナイノデアリス、
此點ニ對シテ高橋大藏大臣ノ財政政策ト云
フモノハ、私ハ甚ダ不適當ナモノデアルト
思フノデアリマスガ、對滿事務局總裁トシ
テノ御答辯ヲ要求致シマス、ソレデ若モ我
國ガ滿洲ノ建設資金ノ必要ニ對シテ、ソレ
ヲ充スコトガ出來ナイナラバ、巳ムヲ得ズ
滿洲ハ、場合ニ依ッテハ亞米利加、又ハ佛蘭
西ヨリ所要ノ資金ヲ求メルノ餘儀ナキニ至
ルカモ知レナイ、其時ハ我ガ政府ニ於テ之
ヲ是認スル意思ガアルカドウカ、此點ヲ御
聽キシテ置キタイノデアリマス
其次ニハ支那問題ニ付テ御尋シタイ、先
日此議場デ私ガ申上ゲマシタ、列國ガ對支
九箇國條約ヲ曲解シ、又ハ惡用シテ、日支
親善ヲ妨害スルコトアリタル場合、政府ハ
之ヲ破棄スルノ御決心アリヤ否ヤ、此點ニ
付キマシテ總理大臣ノ御答ヲ願ヒタイト思
フノデアリマス、ソレカラ其次ニハ借款問
題デアリマス、日支ノ關係ヲ整調スル爲ニ
新借款、ソレカラ新條約ヲ考ヘルヨリ
モ-ソレモ必要デアリマスケレドモ、
私ハモット大切ナルコトガアルト思ヒマ
ス、ソレハ日本ノ旣得權デアル所ノ舊條約
ノ整理、ソレカラ元利會計十億圓ニ垂ント
シテ居ル舊借款ノ整理ヲ行フコトガ最モ
必要デアルト思ヒマス、是ハ列國竝ニ日本
ガ取扱ハレテハ因ル所ノ日支間ノ特別關係
ノ一ツデアリマス、此懸案ヲ解決スル爲ニ
ハ、若シ支那ニ於テ傳フルガ如キ誠意アル
ナラバ、支那ハ同國ノ外債ノ約六割ヲ有ス
ル債權國タル日本ニ對シマシテ、何等カノ
方法デ途ヲ立ツベキデアルト私ハ思ヒマ
ス、支那ガ誠實ニ途ヲ立テヨウト思フナレ
バ、現金ヲ以テ支拂フ所ノ方法モアリマス
ケレドモ、其以外ニモ多々私ハ方法ガアル
ト思ヒマス、此點ニ關シマシテ外務當
局-外務大臣ハ居リマセヌガ、總理大臣
ハドウ云フ御所存デアリマスカ、御答ヲ願
ヒタイ
其次ニ私ハ對露問題ニ付テ御尋ヲ致シマ
ス、昨今ノ新聞ニ依リマシテ、北鐵交涉ガ
先ヅ無事ニ成功ヲ〓ゲテ居リマスコトハ、本
員ノ洵ニ同慶ニ堪ヘザル所デアリマスガ、
ソレハ對露關係ノ一部デアリマス、全面的
ニ對露關係ヲ見マス時ニ、吾々ハ決シテ樂
觀ヲ許サナイ、ソコデ御尋ヲ致シマス、卽
チ昨年佛蘭西ト露西亞ノ兩國ノ間ニ、極祕
ノ裡ニ攻守同盟ト看做スベキ、新條約ガ綿
結サレタト云フコトヲ聞イテ居リマスケレ
ドモ、果シテ事實デアリマスカ、ドウデア
リマスカ、若シ事實ナリトスレバ、我ガ對
露關係ニ及ボス所ノ影響ハ甚大ナリト思料
スルモノデアリマスカラシテ、之ニ關係ア
ル所ノ軍部大臣ノ御答ヲ願ヒタイト思ヒマ
ス、殊ニ「ソ」聯邦ガ最近露滿國境ニ二十數
万ノ兵力ト、七百有餘臺ノ戰鬪用飛行機ヲ
集中シ、半永久的ノ築城ヲ爲シテ居ルコト
ハ御承知ノ通リデアリマス、ソレノミナラ
ズ「ソ」聯邦ハ、豫テヨリ蠶〓致シマシタ外
蒙工作ニ加フルニ、新疆省、甘肅省、四川
省ニ對シテ積極的行動ヲ執リツヽアルノデ
アリマス、殊ニ近時四川省ニ移動致シマシ
タ所ノ支那共產軍ト、密接ナル關係ヲ有ス
ルヤウニ傳ヘラレテ居ルノデアリマス、是
ト露佛攻守同盟トヲ想起スル時ニ、該同盟ノ
東洋ニ及ボス影響ト云フモノハ容易ナラザ
ルモノガアルト考ヘルノデアリマスガ、之
ニ對スル軍部大臣ノ御所見ヲ承リタイ、更
ニ玆ニ附加ヘテ申シマスレバ、只今申シマ
シク所ノ四川省ニ移動セル支那共產軍ト、
是ガ討伐ヲ行ヒツヽアル蔣介石氏ト、此關
係ガ極東ニ及ボス影響ニ付テ一寸御尋致シ
マス、卽チ蔣介石氏ハ、共產軍ガ江西、湖
南ニ在リシ間ハ、南昌ニ掃匪總司令部ヲ置
イテ、獨逸人ノ軍事顧問ノ考案シタル、土
ヲ以テ土ヲ制スト云フヤウナ新戰術ニ基キ
マシテ、武器、彈藥、鹽ハ勿論、兵糧攻メ
ヲヤリ、或ハ交通〓匪政策等ヲ用ヒテ、包
圍攻擊ヲシテ討伐ニ成功致シマシタガ、共
產軍ガ今日ノ如ク四川省ニ移動シテ赤露ト
連絡ヲ取ルニ及ンデハ、此討伐ハ今ヤ容易
ナラザルモノデアルト考ヘル者デアリマス、
而モ支那共產軍ノ行ク所ハ、御承知ノ通リ
人民ノ私有權ヲ破壞シ、家族制度ヲ破壞
シ、道德、人倫、文化ヲ破壞致シマシテ、
サウシテ共產軍ノ通ッタ跡ト云フモノハ、サ
ナガラ白蟻ノ大軍ガ食拔ケタヤウナ慘狀ヲ
呈シテ居ルノデアリマス、斯ノ如ク慘酷ナ
ル行動ニ出マス共產軍ハ、獨リ南京政府ノ
敵デアルバカリデナク、滿蒙ニ其影響ヲ及
ボス時ニハ、是ハ我ガ國家主義ノ敵デアル
ト思フノデアリマス、否是ハ「ソ」國ヲ除
ク世界ノ敵デアルカモ知レマセヌ、此意味
ニ於テ、私ハ討伐極メテ困難トセラルヽ四
川省ノ共產軍討伐ニ對シテハ、場合ニ依ッテ
ハ日本ハ蔣介石氏ト協力ヲ致シマシテ、廣
義ニ於ケル極東ノ治安ヲ維持スル爲ニ必要
ナル手段ヲ執ルト云フコトガ、此場合肝要
デアルト思フノデアリマスケレドモ、總理
大臣又軍事ニ關係アル陸軍大臣ノ御所存ハ
如何デアリマスカ
最後ニ申上ゲテ御答辯ヲ得タイノハ、齋
藤内閣時代ノ五相會議ニ於テ、外交第一主
義ガ强調セラレテ居リマシタガ、現內閣ハ
之ヲ繼承シテ居ルノデアリマスカ、之ヲ御
尋シタイ、然ラバ軍事豫算ハ非常時ヲ叫バ
レタ昭和七年度ニ於テハ七億圓、八年度ガ
八億五千万圓、九年度ガ九萬四千万圓、十年
度ガ約十萬圓ト、年ト共ニ激增シテ居リマス
ガ、外交費ハ之ニ伴ッテ殖エテ居ラナイ、八年
度ガ二千六百万圓、九年度ガ二千七百万圓、
十年度ガ二千九百万圓デアル、此非常時ニ對
シテ外務省ガ眞ニ我國ノ主張ヲ世界ニ徹底
セシムルノ熱意ガアルナラバ、外交費モ亦當然
增額スベキモノデアルト思ヒマスガ、外務
當局ハ現在ノ如キ貧弱ナル豫算ヲ以テ、此
複雜セル國際政局ニ處シテ、果シテ其任務
ヲ遂行スルノ能力アリヤ疑ハザルヲ得ナイ
ノデアリマス、南米伯剌西爾ノ排日ニ致シ
マシテモ、我國ハ伯剌西蘭ノ如キニデモ、
一年ニ一千万圓ノ金ヲ使ッテ居ル、其一千万
圓ノ金ノ一分ノ十万圓デモ宜イカラ、之ヲ
出シテ伯剌西爾ニ私設大使ヲ置イテ、民間
工作ヲ旨クヤラセル方ガ宜イト云フコト
ハ、識者ノ夙ニ考ヘテ居ッタ所デアリマス
ガ、ソレ等ノコトモ此非常時ニドウシテモ
出來ナイ、ソレガ爲ニ伯剌西爾ノ排日ノ移
民法ハ實行サレテ、今ヤ我國ハ一年ニ二千
八百人ノ者ヨリ送ルコトガ出來ナイ、斯ウ
云フ例ヲ擧ゲルナラバ、此非常時ニ際シテ
外務省ノ力ガ足リナイコト、此點ニ付テ金
ヲ出スコトヲ忌避スル大藏大臣高橋サンノ
爲ニ、如何ニ我ガ日本ノ外交ガ禍サレテ居
ルカト云フコトハ分リマス、デアリマスカ
ラ私ハ次ノ點ヲ御聽キ致シマス、外務大臣
ハ予ノ在任中ハ戰爭來ラズト云フヤウナ、
豫言者ノヤウナコトヲ申シマシタケレド
モ、此言ガ廣田外相一個ノ「ドグマ」ナラバ
宜イケレドモ、帝國ノ外務大臣ノ責任アル
言ト致シマシテハ、私ハ受取レナイ、若シ
本當ニソレヲ證明スル御意思ガアルナラ
バ、世界ノ諸情勢ハ勿論、東洋ノ諸情勢ニ
對シテ、予ノ在任中ハ戰爭來ラズトスル諸
情勢ヲ茲ニ明ニ述ベテ貰ヒタイ、此處ニ外
務大臣ハ居リマセヌガ、他日ノ機會ニ於テ
此點ニ付テ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス
ソレカラ特ニ此外交豫算ニ付テ大藏大臣
ノ御意見ヲ伺ッテ置キマス、此外交第一主義
ハ、軍部ヲ牽制スル爲ノ方便ニ、前內閣ニ
於テ高橋サンハ此言葉ヲ御使ヒニナッタノ
デアラウト私ハ思フ、所ガ實際ハドウデア
ルカト言ヘバ、外務豫算ガ之ニ伴ハナイ、
サウシテ外交ハ北鐵交涉ノ成功ヲ除イタナ
ラバ、空宣傳ト空廣告デ、事實ハ伴ッテ居ナ
イソレハ何故デアルカト言ヘバ、外交機
能ノ活動ト云フモノガ滑カデナク、又力ガ
伴ハナイカラデアルガ、ソレハドウシテモ
豫算關係デアルト思フ、細カイ豫算デ縛ッ
テ、ドウシテ此非常時ノ外交ガ出來マス
カ、デアリマスカラ廣田外務大臣ヲシテ、
外交第一主義ノ下ニ國防ヲ背景トシテ、ド
ンドン戰ハズシテ外交戰ニ勝ツト云フダケ
ノ仕事ヲヤラセヨウト思フナラバ、大藏大
臣ハモット〓〓外務省ノ請求豫算ニ對シテ、
私ハ同情ヲ有チ、應諾スルノ必要ガアルト思
フノデアリマス、是ダケヲ御答ヲ願ヒマス
〔國務大臣大角岑生君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=26
-
027・大角岑生
○國務大臣(大角岑生君) 畑君ヨリノ私ニ
對スル御質問ニ御答致シマス、先ヅ第一ニ
御尋ニナリマシタノハ、平等權ヲ恪守スル
ヤ否ヤト云フ御尋ト拜シマス、此軍縮會議
ニ對スル方針ニ付キマシテハ、機會ノアル度
每ニ中述ベマシタ通リ、國防ノ安全ヲ確保
シテ、國民負擔ノ輕減ヲ圖リ、國際平和ノ
增進ニ寄與セントスルモノナルコトハ、申
ス迄モナイ次第デアリマス、而シテ是ガ爲
ニハ各國ノ保有シ得ベキ最高限度ヲ設定ス
ルコトヲ要スルト云フコトヲ、始終申シテ
居ルノデアリマス、卽チ共通最高限度デア
リマスカラ、是ハ平等ニナルノデアリマ
ス、此主義ハ何處マデモ恪守スル考デアリ
マス、而シテ其程度如何ト云フコトニ關シ
マシテハ、目下豫備交涉中止ノ場合デア
リ、又遠カラズ本會議モ開カレルコトヽ思
ヒマスカラ、其程度ニ關シテハ遺憾ナガラ
申上ゲラレナイノデアリマスガ、吾々ハ軍
擴ヲ企圖スル者ニアラズ、軍縮ヲ主張スル
者デアル、卽チ高度軍備國ハヨリ大ナル犧
牲ヲ拂ヒ、各國共軍縮ノ精神ヲ發揮シナケ
レバナラヌト云フコトニ關シテハ、飽マデ
信念ヲ持ッテ居ルノデアリマス、又次ノ御尋
ハ、不成立ノ場合ノコトヲ御尋ニナッタト思
フノデアリマスガ、只今ノ現狀ニ於キマシ
テ、今ヨリ不成立ノコトヲ假想ニ想像致シ
マシテ、彼此レ議論スルコトハ憚リタイト
思ヒマス、吾々ハ吾々ノ主張ヲ飽マデモ熱
心ニ根氣强ク、今年ハ無論ノコトー-今年
若シ不成立デアルナラバ、來年、再來年
ト、結局吾々ノ意見ガ通ルヤウニ、飽マデ
主張ヲシタイト考ヘテ居ルノデアリマス、
第三ノ御尋ハ、此軍縮會議ガ何時モ外債借
換ノ機會ニ迫ッテ開カレルト云フ御尋デア
リマシタガ、此事ニ關シマシテハ、假令外
債ガドウアラウトモ、日本ノ主張ハ變更出
來ルモノデナイト思ヒマス、尙ホ公債ノ事
ニ付テ何カ御尋ガアリマシタナレド、是八
大藏大臣ヨリ御答ガアルカト思ヒマス、大
體私ニ對スル御質問ハ以上ノ點ト考ヘマ
ス(拍手)
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=27
-
028・林銑十郎
○國務大臣(林銃十郞君) 畑君ノ私ニ御尋
ニナリマシタ第一ノ問題ハ、銃後ノ國防ニ於
テ缺陷ガアルヤウニ思ハレル、將來此點ニ
付テドウ云フ考ヲ持ッテ居ルカト云フ御質
疑ト存ジマス、大體今日ノ國防狀態ニ於キ
マシテ、戰線ノ後方ニ於ケル國防ノ點ガ、
所謂現代ノ國防ノ樣式ニ十分備ッテ居ラナ
イト云フコトハ、私共モ痛感シテ居ル所デ
アリマス、從來ト雖モ屢〓機會アル每ニ其
點ヲ力說致シテ居リマスルガ、今後ニ於キ
マシテモ、是等ノ點ニ關シマシテハ各關係
大臣等トモ協議ヲ致シ、其完備センコトヲ
希望致シテ居リマス、第二ノ御質疑ハ、對
滿ノ投資ヲ大藏大臣ハ警メテ居ラレルヤウ
デアルガ、對滿事務局總裁トシテノ考ハド
ウカ、斯ウ云フコトニ拜シマシタ、大藏大
臣ノ御說モ、對滿ノ投資ヲ悉ク制限シテ居
ラレルノデハナクシテ、所謂放漫ナル投資
ヲ戒メテ居ラレルコトヽ私ハ考ヘテ居リマ
ス、隨テ將來滿洲ノ堅實ナル發達ニ資スル
堅實ナル投資ニ對シテハ、之ヲ止メルト云
フヤウナ意味ハナイモノト信ジテ居リマ
ス、次ニ外國ノ投資ニ付テ、ドウ云フ風ニ
考ヘテ居ルカト云フ御質疑デアリマスガ、
是モ外國ノ投資ニ付キマシテハ、必シモ之
ヲ拒ムトカ、拒否スルト云フ點ニマデハ何
モ考ヘテ居リマセヌ、サウ云フ問題ガ出タ
時ニ考ヘルベキコトダト信ジテ居リマス、
次ハ露佛ノ間ニ攻守同盟ノ條約ガ出來タ
ガ、之ニ對シテノ意見ハドウカト云フ御質
疑デアリマスガ、此事ニ付キマシテハ、マ
ダ外務大臣ヨリ話ヲ承知シテ居リマセヌノ
デ、果シテサウ云フ事ガアッタカドウカ、正
式ニハ私ハ存ジマセヌ、其次ハ支那ノ西部
及南部ニ向ッテ赤化運動ガ行ハレタ、其運動
ト此露佛同盟ノ間ヲ考ヘテ見ルト、重大ノ
ヤウニ考ヘルガ、ドウカト云フ御質疑ノヤ
ウデアリマス、支那ノ國ニ赤化ガ行ハレテ
居ルト云フコトハ、私モ承知ヲ致シテ居リ
マシテ、相當ニ其範圍モ擴ガッテ居ルト心得
テ居リマス、東洋ニ於ケル一ツノ重大ナル
現象ナリトシテ考ヘテハ居リマス、ソレカ
ラ其次ハ蔣介石氏ト共產軍ノ點ニ付キマシ
テ、此討伐等ガ容易デナイカラ、我國ト是
ト協力シテ、討滅スルノ必要ハナイカト云
フ御質疑ノヤウデアリマスルガ、是ハ事外
交上ニ關スル問題デアリマシテ、外務大臣
等ノ御答モアラウト思ヒマスルガ、差當リ
私トシテハ、マダサウ云フ點ニ考ガ及ンデ
居リマセヌ、又今日ノ我ガ軍部ノ狀態トシ
マシテハ、中々外ニ向ッテ手ヲ出スト言ッタ
ヤウナ餘力ハナク、自ラノ充實ニ日モ是レ
足ラヌト云フ狀況ダト考ヘテ居リマス、大
體之ヲ以テ御答ト致シマス(拍手)
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=28
-
029・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 畑君ニ御答致シ
マス、外交ノ事、殊ニ條約ヲ廢棄スルト云
フヤウナコトハ、非常ニ重大ナル問題デア
リマシテ、豫想ヲ設ケテ論議スベキモノデ
ナイト思ヒマス、唯私ハ日華兩國ハ親善ナ
ラザルベカラズト考ヘテ居ルノデアリマス、
幸ニ蔣介石氏モ日華親善ナラザルベカラズ
トノ考ヲ起シマシテ、ソレニ向ッテ努力ヲシ
テ居ルノデアリマス、唯此問題ハ兩國トモ
誠意ヲ以テヤラナケレバイケナイト考ヘテ
居リマス、又之ニ對シテ他ノ國カラ妨害ガ
起ラウトハ考ヘテ居リマセヌ、次ニ支那ノ
共產軍討伐ニ付テ、私ニモ御尋ガアリマシ
タガ、是モ蔣介石氏ノ努力ニ依リマシテ、
中央カラハ段々退ケテ居ルノデアリマス、
又支那ノ赤化ニ付キマシテハ、日本トシテハ
大ニ考慮スベキモノガアルト考ヘテ居リマ
ス(拍手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=29
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030・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 御答ヲ致シマス、
何ヲ答ヘテ宜イカ、御質問ノ要旨ガ分ラナカツ
タガ、私ハ外交ト云フモノハ金デ行クモノ
ヂヤナイ、外務省ノ豫算ガ少イカラト云フ
攻撃デアルガ、先ヅ第一ニ外交ノ事ニ付テ
ハ先ニ外務大臣ニ問ハレテ、ソレカラ若シ
金ガナイ爲ニ、斯ウ云フコトガ出來ヌト云
フヤウナ、必要ナ事ガ控ヘテ居ラレルト云
フヤウナコトガアルナラバ、ソレニ付テ御
尋ニナレバマダ宜イケレドモ、大體ニ於テ
豫算ノ上カラ見テ金ガ少イト言フ、ドノ點
ガ少イノカ、ソコガ分ラナイ、先ヅ外交ト
云フコトハ、今日國際間ニ於テ互ニ疑ヲ解
キ、理會ヲシテ、サウシテ平和ヲ進メルト
云フコトガ、第一ノ外交ノ方針デナケレバ
ナラヌ、金ヲ以テ外交ノ間ヲ巧クヤルナン
ト云フコトハ、是ハ今日ハ行ハレナイノデ
ス、ソレデ高橋財政ハイケナイト云フ質問
者ノ考ダガ、ソコハマア勝手ニ仰シヤルガ
宜シイ、第一其譯ガ分ラナイノダ、私ニ尋
ネラレタ譯ガ分ラナイ、金ガ少イカラ外交
ガ巧ク行カヌト言フ、今日ノ外交ノ有樣ヲ
御覽ナサッタラ、日ニ日ニ好轉シテ居ルノハ、
是ハ金ノ力ヂヤナイヂヤナイカ、今日世界
ノ外交官、政治家ノ最モ憂ヘル所ハ、ドウ
モ國々ニ依ッテハ、マダ經濟本位ノ外交ヲ主
トシテ居ルカラ、今日世界ノ平和ガ保テナ
イ、此狹量ナル經濟主義ノ外交ヲ排シテ行
カナケレバ、世界ノ平和ハ期待スルコトハ
出來ヌト云フノガ、今日ノ然ルベキ人達ノ
考デアル、是ヨリ外ニ私ハ御答スルコトハ
ナイ(拍手)
〔畑桃作君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=30
-
031・畑桃作
○畑桃作君 支那トノ關係ガ事實好轉シテ
居ル、或ハ條約ニ對スル御答辯、共匪其他
ニ對スル御答辯ヲ拜聽致シマシタガ、且応
意見ノ相違ノ點モアリマスノデ、此場合一
應諒トシテ置カナケレバナリマセヌ、唯此
處デ私ガ總理大臣及外交當局ニ、對支問題
ヲ取扱フ上ニ於テ、深ク考ヘテ戒メトシテ
戴キタイコトガアル、其點ヲ一ツ申上ゲテ
置キタイト思フノデアリマス、卽チ今囘支
那ガ親日ニ向ッテ轉向セル原因ト理由ハ、何
處ニ在ルカト云フコトヲ能ク考ヘテ戴カナ
ケレバナラヌ、此觀點如何ニ依ッテ、今後ノ
對支工作ノ成功モアルガ、又失敗モアルノ
デアリマス、私ノ見ル所ヲ以テスルナラバ、
此好轉ノ理由ノ一ツトシテハ、支那ノ內部
ニアル共匪討伐ニ伴フ財政ノ疲弊モ、其、
ツデアラウト思ハレルシ、先年ノ長江ノ大
水害ニ因ル疲弊、又日貨排斥ニ因ル物資ノ
缺乏、產業ノ衰微モ其一ツデアル、最近ノ
銀流出ニ因ル金融恐慌モ其一ツデアルガ、
是等ガ重ッテ、支那ガ日本ノ力ヲ認識シナ
ケレバナラナイ事態ニナッタト思フノデア
リマスガ、其中デモサウサセタ所ノ、最モ
重大ナ根本原因ハ何デアルカト言ヘバ、私
ハ帝國ノ態度ガ然ラシメタト思フノデアリ
さく、卽チ國際聯盟脫退ヨリ各條約廢棄通
貴、更ニ來ルベキ海軍軍縮會議ニ於ケル平
等權ノ要求ニ至ルマデ、我國ガ終始一貫シ
テ儼乎不拔、確乎不動ノ態度ヲ執ッタコト
ガ、今日ニ至ッテ漸ク支那ガ再認識セザル
ヲ得ナクナッタ理由デアルト私ハ思フ、隨テ
政府モ、國民モ、一時ノ外交辭令ヤ、空宣
傳位デ、何ダカ僥倖的好機デモ降ッテ來タト
云フヤウナ氣持デ、御祭騒ギヲスルト云フ
コトハ、私ハ深ク戒ムベキデアルト思フノ
デアリマス(拍手)堂々ト從來執リ來ッタ所
ノ確乎不拔ノ信念ニ加フルニ、外務、軍部
ヲ初メ內閣ノ一致シタ所ノ、實行具體案ト
云フモノヲ速ニ決定致シマシテ、サウシテ
斷乎トシテ臨ンデ貰ヒタイ、之ヲ私ハ希望
シテ置キマス、ソレカラ高橋大藏大臣ノ御
答辯デアリマスガ、高橋財政ト私トハ、是
ハ意見ノ相違デアル、私ノ見ル所ニ依レバ、
眞ノ國防ヲ完成スルニハ三ツノ要素ヲ必要
ト致シマス、一ツハ軍備ノ充實デアル、
ツハ銃前、銃後ヲ通ズル精神力ノ旺盛ヲ圖
ルト云フコトデアリマス、此點ニ關シテハ、
只今問題トナッテ居リマス天皇機關說ノ如
キ、吾々ノ信仰ヲ惑亂スルモノハ、速ニ政府
ハ禁止スルコトヲ必要トスルモノデアリマ
ス、又今一ツノ要素ハ何デアルカト言ヘバ、
先程モ申シマシタ、銃後ニ在ル國民生活ノ
全機能ト全活動力ヲ、滑カニ總動員スル所
ノ計畫デアリマス、然ラズンバ國力ハ久シ
キニ耐ヘルコトハ出來ナイ、我國ノ現狀ニ
於テハ此點ガ缺陷デアル、之ヲ私ハ高橋サ
ンニ申シタ所ガ、高橋サンハ、ソレヲヤル
ニハ金ガ要ル、金ハドウシテ出スカ、赤字
公債、其爲ニ財政ガ膨脹シテハ困ルト云フ、
小サイ意味ノ健全財政主義ヲ執ッテ居ルカ
ラ、是デヤ躍進時代ニ轉換シテ來タ日本ニ
於テハ、高橋サンノ財政政策ハ容レラレナ
イ、此日本ニ對シテハ高橋サンノ財政政策
ハ餘リニ狹過ギル、淺過ギルト云フコトヲ
私ハ指摘スルノデアリマス、殊ニ銃後ノ大
ナル勢力デアル所ノ農村ハドウデアリマス、
自力更生ト言ヒマスガ、自力更生ヲスル所
ノ力サヘモモウ今日ナイ、是ニハ色々ノ理
山ガアルガ、之ヲヤルニハ高橋財政デハ出
來ナイ、ソレカラ此金融資本家本位ノ產業
ノ合理化ニ依ッテ惱マサレツヽアル所ノ中小
商工業者トカ、或ハ此金融資本家獨裁ノ支配
下ニ在ッテ、其日ノ麵麭ヲ得ル以外ニ、何等
ノ前途ニ希望ヲ有ッテ居ラナイ所ノ勤勞階級
ノ人々ノ如キ、是等中產階級以下ノ國民ニ對
シテ、其力ヲドウシテモ培養シナケレバ、銃
後ノ國防ト云フモノハ出來ナイ、之ヲ言フノ
デアリマス、勿論此大衆ノ力ノ統一的運用ノ
上ニ妨ヲ爲ス所ノ機構-經濟機構、社會
機構ノ缺陷ノアル所ノモノハ是正セナケレ
バナラヌ、玆ニ產業經濟ノ大革新ヲ要シ、金
モ必要トスル、私ハ斯ウ高橋サンニ申上ゲテ
置キマス、デアリマスカラ必要ナ金ハ、赤
字公債ノ增減ニ拘ラズ、喜ンデ支出スルト
云フ覺悟ヲ先ヅ決メル、其結果財政ガ破綻
スル、財政ニ辻褄ガ合ハナケレバ仕樣ガナ
イヂヤナイカ、斯ウ言ハレル、所ガソレハ
高橋サンガ、最後ニハ貨幣法ノ改正ニ依ッテ決
濟スルト云フ所ノ肚サヘ決マレバ、是ハ全
部私ハ解決スルト思フ、此肚サヘ決マレバ、
日本ノ改革ノ如キハ、敢テ私ハ難事デナイ
ト思フノデアリマス、詰リ現代ニ立チ、此
所信ニ立ッテ、國策ヲ執行スル所ノ大藏大臣
トシテ、國策ノ執行ニ向ッテ諒解ノアル大藏
大臣ガ出ナイ限リハ、私ハ國策審議會ト云
フヤウナモノハ百造ラウト二百造ラウト、
無用ノ長物デアルト思フ、機能ヲ發揮シナ
イト思フ、是ダケ私ハ先程ノ答辯ニ對シテ
希望シテ置キマシテ、私ノ質問ヲ終リマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=31
-
032・濱田國松
○議長(濱田國松君) 質問ハ是ニテ終局致
シマシタ-是ヨリ日程ニ入リマス、日程
第一、南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道買收ノ
爲公債發行ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開
キマス-拓務大臣兒玉秀雄君
第南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道買
收ノ爲公債發行ニ關スル法律案(政
府提出)第一讀會
南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道買收ノ爲
公債發行ニ關スル法律案
政府ハ南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道買收
ノ爲之ニ必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發
行スルコトヲ得
〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=32
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033・兒玉秀雄
○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君) 只今議題ト
相成リマシタ南朝鮮鐵道株式會社所屬鐵道
買收ノ爲公債發行ニ關スル法律案提出ノ理
由ヲ說明致シマス、本件買收豫定ノ鐵道ハ、
朝鮮國有鐵道光州驛ヨリ南下致シマシテ、
麗水ニ至ルマデ約百哩ノ鐵道デアリマス
ガ、朝鮮國有慶北北部線ノ建設計畫ノ進捗
ニ伴ヒマシテ、朝鮮南部ニ於キマスル國有
鐵道ノ運輸系統ノ整備上、昭和十年度ニ於
キマシテ、本鐵道ヲ買收スルノ必要ガアル
ノデアリマス、仍テ是ガ買收代價ト致シマ
シテ交付スル爲メ、公債ヲ發行スル必要ガ
アルノデアリマシテ、本案ヲ提出シタル次
第デアルノデアリマス、何卒御審議ノ上御
協贊ヲ與ヘラレンコトヲ希望致シマス(拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=33
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034・濱田國松
○議長(濱田國松君) 本案ノ審査ヲ付託ス
ベキ委員ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=34
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035・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 本案ハ政府提出、朝鮮事
業公債法中改正法律案ノ委員ニ併セ付託セ
ラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=35
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036・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=36
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037・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第
二乃至第五ハ、同一委員ニ付託シタル議案
デアリマスルカラ、一括議題トナスニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=37
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038・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程第二、昭和十年度一般會計歲
出ノ財源ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法律
案、日程第三、昭和七年法律第一號中改正
法律案(滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲公
債發行ニ關スル件)、日程第四、臨時利得稅
法案、日程第五、日本銀行納付金法中改正
法律案、以上四案ヲ一括シテ第一讀會ノ續
ヲ開キマス、委員長ノ報〓ヲ求メマス-
委員長岡田忠彥君
第二昭和十年度一般會計歲出ノ財源
ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法律案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
第三昭和七年法律第一號中改正法律
案(滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲
公債發行ニ關スル件)(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
第四臨時利得稅法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
第五日本銀行納付金法中改正法律案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報牛ロ)
報〓書
一昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案(政府提
出
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十年三月十一日
委員長岡田忠彥
衆議院議長濱田國松殿
報告書
一昭和七年法律第一號中改正法律案{葯
洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲公債發行
ニ關スル件)(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長岡田忠彥
衆議院議長濱田國松殿
報告書
一臨時利得稅法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノ
ト議決致候此段及報告候也
昭和十年三月十一日
委員長岡田忠彥
衆議院議長濱田國松殿
〔別紙〕
(小字及-ハ委員會修正)
臨時利得稅法案中左ノ通修正ス
第四條法人ノ現事業年度ノ利益ガ旣往
事業年度ノ平均利益ヲ超過スル場合ニ
於テ其ノ超過額中年二千圓ヲ控除シタ
ル金額ヲ以テ法人ノ利得金額トス
前項利得金額計算ノ場合ニ於テ左記各
號ニ該當スルトキハ各其ノ定ムル所ニ
依リ既往事業年度ノ平均利益ヲ計算ス
一何レノ既往事業年度ニ於テモ利益
ナキトキ又ハ旣往事業年度ノ平均利
益ガ既往事業年度ノ平均資本金額ニ
對シ年百分ノ七未滿ナルトキハ旣往
事業年度ノ平均資本金額ニ對シ年百
分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタル金額
ヲ以テ旣往事業年度ノ平均利益トス
二法人ノ第一次ノ事業年度ガ昭和七
年一月一日以後ニ於テ終了シタルト
キハ現事業年度ノ資本金額ニ對シ年
百分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタル金
額ヲ以テ既往事業年度ノ平均利益ト
ス
三現事業年度ノ資本金額ガ旣往事業
年度ノ平均資本金額ニ對シ增減アル
トキハ既往事業年度ノ平均資本金額
ニ對スル平均利益ノ割合ヲ現事業年
度ノ資本金額ニ乘ジテ算出シタル金
額ヲ以テ旣往事業年度ノ平均利益ト
ス此ノ場合ニ於テ第一號ノ規定ノ適
用ニ付テハ現事業年度ノ資本金額ヲ
旣往事業年度ノ平均資本金額ト看做
ス
四現事業年度ノ期間ガ旣往事業年度
ノ期間ト異ルトキハ現事業年度ノ月
數ニ應ジ月割ヲ以テ旣往事業年度ノ
利益ヲ計算ス
本法施行後資本金額ニ增加アリタル場合ニ
於テ其ノ資本增加ガ臨時利得稅通脫ノ目的
ニ出デタルモノト認メラルルトキハ前項第
三號ノ規定ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ
其ノ增加シタル資本金額ニ付前項第二號ノ
規定ヲ準用シ其ノ平均利益ヲ計算ス
本法ニ於テ現事業年度ト稱スルハ昭和
十年一月一日以後ニ於テ終了スル各事
業年度ヲ謂ヒ既往事業年度ト稱スルハ
昭和六年十二月三十一日以前二年內ニ
終了シタル各事業年度ヲ謂フ
第六條法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ
各月末ニ於ケル拂込株式金額、出資金
額又ハ基金及積立金額ノ月割平均ヲ以
テ之ヲ計算ス
前項ニ於テ積立金額ト稱スルハ積立金
其ノ他名義ノ何タルヲ問ハズ法人ノ利
益中其ノ留保シタル金額ヲ謂フ
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ
有セザル法人ノ各事業年度ノ資本金額
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ計算ス
昭和七年一月一日以後本法施行ニ至ル迄ノ
間ニ資本金額ヲ減少シタル法人ノ各事業年
度ノ資本金額ハ第四條第二項第三號ノ規定
ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ減資前ノ資
本金額ニ依リ之ヲ計算ス
三
第九條個人ノ利益ガ昭和六年以前二年
ノ平均利益ヲ超過スル場合ニ於テ其ノ
起過額中二千圓ヲ控除シタル金額ヲ以
テ個人ノ利得金額トス
營業ヲ繼續シ又ハ營業繼續ト認ムベキ
事實アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ
前營業者ノ平均利益ヲ其ノ平均利益ト
看做ス
營業ノ期間ガ一年未滿ナル場合ニ於ケ
ル平均利益ノ計算ハ命令ノ定ムル所ニ
依ル
利得金額計算ノ場合ニ於テ昭和六年以
三
前二年ノ平均利益三千圓未滿ナルトキ
又ハ其ノ平均利益ナキトキハ三千圓ヲ
以テ平均利益トス
ハ左ノ稅率ニ依リ之
第十四條臨時利得稅ノ稅率ハ利得金額
ヲ賦課ス
百分ノ十トス
一法人ノ利得利得金額百分ノ十
二個人ノ利得利得金額百分ノ七·五
附則
本法ハ昭和十年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
但シ法人ニ付テハ昭和十年一月一日ヲ含
ム事業年度分ヨリ、個人ニ付テハ昭和十
年分ヨリ之ヲ適用ス
本法ニ依ル臨時利得稅ノ賦課ハ法人ニ付テハ
昭和十二年十二月三十一日ヲ含ム事業年度分
限リ、個人ニ付テハ昭和十二年分限リトス
第十六條ノ規定中三月十五日トアルハ昭
和十年ニ限リ四月二十五日トス
明治四十年法律第二十一號第一條第一項
ニ左ノ一號ヲ加フ
六臨時利得稅
附帶決議
政府ハ本法ノ施行ニ當リ產業ノ振展ヲ阻
害セザルコトニ留意スルト共ニ速ニ窮迫
セル地方財政補整ノ途ヲ講ズベシ
右決議ス
報告書
一日本銀行納付金法中改正法律案(政府
提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十年三月十一日
委員長岡田忠彥
衆議院議長濱田國松殿
〔岡田忠彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=38
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039・岡田忠彦
○岡田忠彥君 本委員會ハ、曩ニ御報告申
上ゲマシタ通リニ、一月二十六日第一囘ノ
會議ヲ起シマシテ、爾來昨三月十一日ニ至
ル迄、前後十九囘ノ會議ヲ重ネタ次第デア
リマスル、此委員會ニ付託サレタ案件ハ十
件デアリマシテ、其中六件ハ旣ニ御報告濟
デアリマス、只今御報告申上ゲルノハ殘リ
四件デアリマス、此委員會ノ審議ニ付テ、
世間或ハ審議ヲ遲延シテ居ルデハナイカト
云フ聲ヲ聞キマスガ、併ナガラ此案件ハ孰
レモ重要ナル案件デアリ、殊ニ利得稅ノ如
キハ、多數ノ質疑ノ點ガアリマシテ、且又
審議中ニ於ケル大臣ノ答辯ノ態度ニ付テ、
特ニ政府ニ警〓ヲ與ヘタコトモアリマス、
又材料ニ付テモ、其提出ガ甚ダ不滿デアッ
タノデアリマシテ、現ニ今日ニ於テモ、未
ダ災害豫算ニ關スル基礎的ノ材料ノ十分ナ
ルモノガ提出ナク、其又提出サレヌ理由ニ
付テモ、御辯明ガナイト云フ有樣デアリマ
ス、且又貴族院囘付後ニ於テハ、國務大臣
ノ出席ヲ求メルコトガ不便デアリマシテ、
其爲ニモ遲レテ居ッタノデアリマスガ、特ニ
審議ヲ通ジテ私ノ痛感致セシコトハ、一面
ニ政黨トノ關係ガ現內閣ノ如キモノデア
リ、他面ニ官場ノ祕密主義ヲ滿幅ニ漂ハシ
テ居ルコト、現內閣ノ如キモノニアリマシ
テハ、審議ノ遲延スルコトハ又當然デアリ
マス、卽チ吾々ハ法案提出ノ瞬間ニ於テ、
初メテ審議ヲ始メルモノデアリマシテ、平
素ニ於テ政府ガ何ヲ企ンデ居ルノカ、何ヲ
考ヘテ居ルノデアルカ、如何ナル材料ニ依
リテ、如何ナル〓究ヲ爲シテ居ルモノデア
ルカ、一切不明デアリマス、卽チ何等ノ豫
備的ノ連絡ガ政黨トノ間ニナイト云フコト
ガ、法案ノ審議ヲ遲ラス所ノ一大原因デア
ルト云フコトヲ痛感致シタノデアリマス
(拍手)斯ル狀態ノ下ニアリナガラ、本案ハ
別ト致シテモ、會期逼迫セル際ニ、ドシ〓〓
ト多數ノ重要法案ヲ、政府ハ大膽ニ出シテ
居ルヤウデアリマスガ、私ハ其政府ノ勇氣
ニ對シテ深ク感嘆ヲスルモノデアリマス、
併ナガラ本審議ノ遲レタル大半ノ理由ハ、
ヤハリ此點ニ存スルコトヲ特ニ御報告申上
ゲル次第デアリマス質問應答ノ詳細ハ、既ニ
速記錄ニ依リマシテ諸君ハ御承知ト存ジマ
ス、仍テ只今ハ御質問應答ノ要點ノミヲ揭ゲ
テ、御參考ニ供スル次第デアリマス、利得
稅ニ付キマシテハ、稅ノ目標、卽チ收入主
義ニ依ッタモノデアリマスカ、或ハ負擔ノ公
平ヲ期スル爲ニシタノデアルカ、卽チ政府
ノ收入ヲ補フト云フ點ニ重キヲ置キシヤ、
或ハ此時局ニ對スル利得ノ關係ガ不公平デ
アル、仍テ此稅目ニ依ッテ負擔ヲ公平ニス
ルト云フ趣旨デアルカト云フコトノ質問ガ、
第一ノ主ナル點デアリマス、就中軍需工業、
輸出工業ノミニ對シテ重キヲ課スルヤウデ
アルガ、一面ニ於テ時局ノ影響ノ爲ニ、株
式若クハ公債ノ値上リ、或ハ所謂弗買等ノ
關係ノ爲ニ巨利ヲ博シタ者ガアルガ、是等
トノ均衡ハ如何デアルカト云フ質問ガアッ
タノデアル、遂ニ政府ハ政治的ノ意味ヲ區
別スルコトガ、主ナル點デアルト云フ答辯
ニナッタノデアリマシテ、然ラバ政治的ニ見
テ、非常時局ノ爲ニ被害ヲ被ッテ居ル農村
其他ノ窮乏セル部分ニ對シテ、此稅ヲ向
ケルカト云フ質問ニ對シテハ、政府ハ明
確ナル答辯ハ致シマセヌ、次ニ利得
ノ控除基準ニ關スル質問、又基準年度ニ
關スル質問、資本增減ノ場合ノ取扱ガ
不公平デアルニ依ッテ、之ヲ如何ニ修正スル
カト云フ質問、個人、法人ノ間ニ同一ノ稅
率ヲ課スルコトハ甚ダ不當デハナイカト云
フ質問、又觀方ヲ變ヘテ、國家的ノ恩惠ニ
依ッテ居ルモノ、卽チ爲替安若クハ軍事豫算
ノ膨脹等ニ依ッテ利ヲ得タモノト、自己ノ腐
心ノ結果利益ヲ增セシモノトノ間ニ同一稅
率ヲ課スルノハ、甚ダ不公平デハナイカ、
例ヘバ所得稅ノ體系ヨリ見テ、累進課稅ノ
大原則ヲ破ッテ、本稅ニ限リ比例稅ヲ適用ス
ルコトハ、如何ナル趣旨デアルカ、更ニ
般稅制ノ整理ト、本稅施行期間トノ關係、
政府ノ收入見込ハ餘リ少イデハナイカト云
フ質問、又本稅ノ爲ニ新規ナル計畫ガ抑制
サレル、其爲ニ却テ自然增收ニ於テ減額ヲ
來スデハナイカト云フ質問、稅制整理ト軍
事費ノ見据トノ關係、又農村ノ關係ニ付テ
ハ先程一寸觸レタル通リニ、農村ハ非常景
氣ノ被害者デアル、旣ニ本法ガ精神的ノ根
據ノ下ニ立ッテ居ルナラバ、此方面ニ之ヲ差
向ケル、若クハ中小商工業ノ方ニ差向ケル
ノガ當然デハナイカト云フ質問、又官吏ノ
俸給ノミ徒ニ增シテ居リ、一方ニハ增稅ヲ
行ヒ、一方ニハ農村ニ對スル一億ニ垂ント
スル豫算ノ減ヲ十年度ニ於テ行ッテ居ル、是
ハ甚ダ均衡ヲ得ヌデハナイカト云フ質問、
是等ガ質問ノ主ナル點デアッタト存ジテ居
リマス
尙ホ特ニ附言致シタイコトハ、政友會ノ
小笠原委員ノ御質間デアリマシテ、是ハ法
文ニ關係ナイコトデアルカラシテ、特ニ御
報〓申スノデアリマス、卽チ政府ガ此稅法
ヲ行フニ付キマシテ、命令要綱ノ見込ヲ出
シテ居ル、其中ニ法文第七條ノ平均資本金
額及平均利益ヲ計算スルニ付テ、所謂數會
社ガ吸收合併ヲシテ、一ツノ古イ會社ガ殘ツ
テ居ル場合ト、總テガ新會社トナル二ツノ
場合ニ付キマシテ、此計算方ヲ異ニシテ居
ルノデアルガ、併ナガラ是ハ單ニ商法ノ手
續上ノ相違ニ過ギナイモノデアッテ、其內容
ニ於テ區別ハナイノデアル、然ラバ之ヲ同
一ニ扱ヒ、卽チ新會社ニ付テノ計算ト同樣
ニ爲スベキモノデハナイカト云フ小笠原君
ノ質問ニ對シテ、政府ハ御趣旨ハ尤デアル
ニ依ッテ、力メテ其御趣旨ニ副フヤウニ命令
要綱ヲ編成スルト云フ御返事ガアッタノデ
アリマス、是ハ特ニ申上ゲテ置ク、第二ノ
小笠原君ノ御質問ハ、所得稅、營業收益稅
ノ兩稅ノ附加稅ト云フモノガ、本法施行ノ
爲ニ減ズルデハナイカ、卽チ地方ノ財政ハ、
此爲ニ却テ減額ヲ來スデ.ハナイカ、其額凡
ソ三百五十万圓デアリマス、是ハ政府ハ如
何ニ思ッテ居ルカト云フ質問デアッタノデア
ルガ、政府ハ其事實ハ認メル、併ナガラ一
方ニハ自然增ガアルノデアリマスカラシテ、
是ハ致方ノナイコトデアル、斯樣ニ申シテ
居ル、卽チ地方ノ財政ニ對シテハ、相變ラ
ズ政府ハ冷淡デアルト云フコトヲ、玆ニ申
上ゲテ置ク譯デアリマス、第三ノ御質問ハ、
「ストライキ」ノアッタ場合ニ、會社ノ利益ガ
減ッテ居ル、ソレニ對シテハ課稅ノ場合ニ於
テ相當ノ斟酌ヲ加ヘテ欲シイト云フコト
デアリマシテ、政府モ其意ヲ諒トシ、法規
ノ許ス範圍ニ於テ、力メテ其緩和ヲ圖ルト
云フコトヲ答ヘテ居リマス、更ニ所謂赤字
公債ニ付テノ問答デアリマスガ、第一ニ國
際貸借ノ關係ガ主ナル間題トナッタ、卽チ十
年度ニ於テ海外拂ハ幾ラ程アル見込デア
リ、ソレガ如何ニ爲替ノ値段ニ影響スルノ
デアルカト云フコトデアル、第二ニハ電力
會社ノ外債ノ償還、之ニ對シテ政府ハ禁止
ヲ致スヤウナ意圖ガアルヤウデアルガ、併
ナガラ此禁止如何ト云フコトハ、曩ニ奬勵
ヲ加ヘテ外債ヲ募ラスト云フ程度ニ至ッテ
居ッタガ、今日政府ノ政策ノ下ニ損害ヲ蒙ル
コトハ甚ダ氣ノ毒デアル、會社ノ經濟ノ上ニ重
大影響ノアルコトデアルカラシテ、愼重ノ考慮ヲ
要スベシト云フ質問、又北滿鐵道ノ契約成立ノ
上、其支拂ト爲替相場トノ關係、是ガ主ナル應
答デアッタノデアリマス、更ニ國難ニ對スル
不安脅威ノ觀念ガ、公債ノ消化力ノ上ニ大
キナル關係ガアル、之ニ付テ政府ハ如何ナ
ル考デアルカ、次ニハ公債ノ低利借換ノ時
期ニ付テノ應答、發行餘力ニ付テノ應答、
減債基金ニ關スル問答、是ガ主ナル公債ニ
關スル問答デアリマス
更ニ一般的ノ質問トシテハ、滿洲國國防
費分擔金ノ本質論ガアッタノデアリマス、更
ニ滿洲國へ資本ノ誘致ヲ爲ス爲ニ、今日滿
洲國ニ行ハレテ居ル經濟統制ト云フモノハ、
甚ダ此豫算ノ誘致ニ妨ゲアルデハナイカト
云フ疑問的ノ御質問、滿洲事件費ト爲替相
場トノ關係、軍事費ト勞働賃銀、其他雇傭
條件改善ニ關スル政府ノ見込、是ガ主ナモ
ノデアリマス
斯ノ如ク致シマシテ昨日討論ニ入リマ
シタ、政友會ヲ代表シテ松村君ヨリ法文
ノ修正竝ニ附帶決議ノ提案ガアリマシ
タ、國民同盟ヲ代表シテ中村繼男君ヨリ
條文修正ノ動議ガ提出サレマシタ、第一
控室ノ龜井君ヨリハ原案贊成ノ御發議ガア
リマシタ、民政黨ハ前田君ヨリ、政友會ノ
修正點ニ付キ政府ノ意見ヲ御伺相成ッタノ
デアル、斯ノ如クシテ岡田君ヨリ本會議マ
デ意見ヲ留保スルト云フコトデ、何等ノ意
見ノ發表ハナカッタノデアリマス、採決ノ結
果、國民同盟ノ案ハ少數ヲ以テ敗レマシタ、
政友會ノ修正竝ニ決議案ハ成立致シタノデ
アリマスルガ、此決議案竝ニ修正ノ點ハ、
旣ニ諸君ノ御手許ニ配付シテアリマスカラ、
重ネテ玆ニ說クコトヲ省略致シマス、又國
民同盟ノ提案ニ付テハ、何レ代表的ノ御討
議ガアリマセウカラ、私ハ之ヲ省略シテ其
方ニ讓リタイト思フノデアリマス、其他修
正以外ノ條文ニ付テハ、民政黨ヲ除キ、滿
場ノ同意ヲ以テ成立致シタノデアリマス、
何卒委員會ノ決定通リ御協贊アランコトヲ
希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=39
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040・濱田國松
○議長(濱田國松君) 只今委員長ノ御報〓
ニナリマシタ中、昭和十年度一般會計歲出
ノ財源ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法律案、
昭和七年法律第一號中改正法律案、及日本
銀行納付金法中改正法律案ノ三案ハ、委員
長報告可決デアリマス、臨時利得稅法案ハ
修正デアリマス、仍テ先ヅ委員長報告可決
ノ三案ニ付テ審議ヲ進メ、次デ臨時利得稅
法案ノ審議ヲ致シタイト存ジマス、卽チ昭
和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公
債發行ニ關スル法律案、昭和七年法律第一
號中改正法律案、日本銀行納付金法中改正
法律案、以上三案ノ第二讀會ヲ開クニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=40
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041・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ右三案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=41
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042・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 直チニ三案ノ第二讀會ヲ
開キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=42
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043・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=43
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044・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
昭和十年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
第二讀會(確定議)
昭和七年法律第一號中改正法律案(滿
洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲公債發行
ニ關スル件)第二讀會(確定議)
日本銀行納付金法中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=44
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045・濱田國松
○議長(濱田國松君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、仍テ第三讀會ヲ省略シテ、三案トモ
委員長報告通リ可決確定致サレマシタ拍
手)-次ニ臨時利得稅法案ノ審議ニ入リ
やっ、本案ニ對シテハ野田文一郞君外五名
ヨリ成規ニ依リ修正案ガ提出サレテ居リマ
ス、討論ハ便宜上第二讀會ニ於テ之ヲ許ス
コトニ致シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クニ
御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=45
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046・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=46
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047・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ
開カレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=47
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048・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=48
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049・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
臨時利得稅法案第二讀會
臨時利得稅法案(政府提出)ニ對スル修
正案(野田文一郞君外五名提出)
臨時利得稅法案中左ノ通修正ス
第四條第二項第三號ヲ左ノ如ク改ム
三現事業年度ノ資本金額ガ旣往事業
年度ノ平均資本金額ニ對シ增減アル
トキハ旣往事業年度ノ平均資本金額
ニ對スル平均利益ノ割合ヲ現事業年
度ノ資本金額ニ乘ジテ算出シタル金
額ヲ以テ旣往事業年度ノ平均利益ト
ス但シ本法施行後ニ增加シタル資本
金額中法人ノ積立金ヲ以テシタル部
分ヲ除キタル金額ニ對スル平均利益
ハ年百分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタ
ル金額ニ依ルモノトス
右ノ場合ニ於テ第一號ノ規定ノ適用
ニ付テハ現事業年度ノ資本金額ヲ旣
往事業年度ノ平均資本金額ト看做ス
第十四條臨時利得稅ハ左ノ稅率ニ依リ
之ヲ賦課ス
甲法人ニ在リテハ
一旣往事業年度ノ平均利益ヲ年百
分ノ七ノ割合ヲ以テ算出シタル利
得金額ニ付テハ百分ノ七·五
二旣往事業年度ノ平均利益ヲ年百
分ノ七ヲ超エ百分ノ十以內ノ割合
ヲ以テ算出シタル利得金額ニ付テ
ハ百分ノ十
三旣往事業年度ノ平均利益ヲ年百
分ノ十ヲ超ユル割合ヲ以テ算出シ
タル利得金額ニ付テハ百分ノ十二
乙個人ニ在リテハ
一昭和六年以前二年ノ平均利益ガ
六千圓以下ノモノノ利得金額ニ付
テハ百分ノ七·五
二昭和六年以前二年ノ平均利益ガ
六千圓ヲ超エ一萬圓以下ノモノノ
利得金額ニ付テハ百分ノ十
三昭和六年以前二年ノ平均利益ガ
一萬圓ヲ超ユルモノノ利得金額ニ
付テハ百分ノ十二発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=49
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050・濱田國松
○議長(濱田國松君) 本案ニ對スル野田文
一郞君外五名ノ修正案ノ趣旨辯明ハ、提出
者ヨリ省略ノ申出ガアリマス、仍テ是ヨリ
討論ニ入リマス、通〓順ニ依ッテ發言ヲ許
シマス、委員長報告ニ反對通〓-矢野庄
太郞君
〔矢野庄太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=50
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051・矢野庄太郎
○矢野庄太郞君 私ハ先ヅ一般論ト致シマ
シテ、本法案ニ付テ政府原案ニ贊成致シマ
シテ、修正條項ニ反對ヲスル者デゴザイマ
スルガ、本法案ニ付テハ折角伸ビカケタ產
業ノ若芽ヲ摘取ルモノデハナイカ、斯ウ云
フヤウナ疑ガアリマス、又金融ヲ梗塞シテ
公債發行ヲ困難ニシハシナイカト云フ危惧
ノ念ガアルヤウデアリマス、其言フ所ヲ檢
討致シテ見マスルニ、本稅ヲ賦課スル結果
トシテ、保護助長ヲシナクテモ宜イ產業ヲ
保護スルコトニナリ、發達ノ途上ニアッテ、
幼稚ナ產業デアルカラ保護シナケレバナラ
ナイ產業ヲ保護セズシテ、ソレニ重キ稅ヲ
課スルコトニナルト、ソレハ不適切デア
リ、不公平デアル、斯ウ云フ風ニ論ズルノ
デアリマス、斯樣ナ反對論ノ出マス所以ヲ
考ヘテ見ルノニ、今囘ノ利得稅ハ、時局ノ
影響ヲヨリ多ク受ケル所ノ產業ニ對シテ、
ヨリ多クノ課稅ヲスルコトニナッテ居リマ
ス、例ヘバ紡績、瓦斯ト云フガ如キ老熟產
業獨占事業ニ對シテハ、時局ノ影響ガ割
合ニ少イノデアリマスルノデ、輕クナルノ
デアリマスルガ、鐵トカ、機械トカ、或ハ
造船トカ、鑛山トカ、肥料、染料、藥品、
人絹ノヤウナ重工業或ハ化學工業、方面ヲ
換ヘテ申スト、軍需工業、輸出工業ノ方ガ、
ヨリ多ク影響ヲ受ケテ居ルガ爲ニ、我國ニ
於テハ是等ノ重工業トカ、化學工業ガ幼稚
ナ發達途上ニアル產業デアッテ、前途果シ
テ海外ノ競爭ニ耐ヘテ、獨立セル產業トシ
テ育成スルコトガ出來ルカドウカト云フコ
トガ疑惧サレテ居ルカラ、斯ウ云フヤウナ
反對說ガ現レルノデアリマス、サウシテ斯
樣ナ未熟ナ產業ハ、從來我國ノ產業政策デ
ハ保護助長ヲ加ヘテ居ッタノデアルガ、今度
ノ利得稅案ノ爲ニ保護ガセラレナイト云フ
ト、從來ノ產業政策トハ矛盾シタ結果ニ陷
ルカラ、ソレデ不適切デアッテ、不公平デア
ルト言フノデアリマス
成程反對說ノヤウニ、反對稅ガ言フヤウ
ニ、紡績、砂糖ノ如キ老熟ノ域ニ達シテ居
リマスル所ノ產業、竝ニ瓦斯、電力、電鐵、
銀行、信託、保險ノ如キ獨占產業ニ較ベテ、
銑鐵、機械工作、或ハ造船、鑛山ノ如キ重
工業、染料、肥料、藥品等ノ化學工業、自
動車、人絹ノ如キ輸出工業、各種ノ軍需工
業ト較ベテ見マスルト、同ジク不況期ヲ通
過シテ參ッタトハ申シマシテモ、前者卽チ老
熟產業、獨占事業ハ、多年蓄積スル其實力
ト經驗トニ依リマシテ、基礎ガ鞏固デアリ
マシタカラ、不況ノ影響ヲ受クル程度ガ低
カッタノデアリマス、勿論將來政府ノ保護助
長ヲ必要トハ致シマセヌ、之ニ反シテ後者
卽チ重工業、化學工業、軍需工業、輸出工
業ニ於テハ、各社ガ一律デハナイノデス
ガ、押ナベテ事業ノ基礎ガ必シモ鞏固トハ
言ヘナカッタノデアリマス、隨テ是等ノ事業
ハ昭和五六年ニ於テ分ケテ波瀾重疊デアッタ
コトハ想像以上デアリマス、而モ中ニハ大
戰中ニ創業サレテ爾來十數年、利潤ト云フ
モノハ一囘モ見タコトガナイバカリカ、缺
損續キデ、惱ミ拔イタモノモ少クナイノデア
リマシテ、昨今ノ爲替「インフレ」、軍需「イ
ンフレ」デ漸ク蘇ッタカラトテ、何時マデ此
狀況ガ續クノカ、事業ノ經營者自身ニナッテ
見レバ、中々樂觀スル譯ニハ參リマセヌ
〔議長退席、副議長著席〕
利益ハ擧ガルコトハ擧ガルガ、何ダカ雲
ノヤウデアル、水ニ浮イテ居ルヤウデモア
リマス、基礎工事ガ出來上ッタ上ノ建築デ
アルカ、判斷ガ出來ナイ、今稅ヲ課ケラレ
テモ、直チニ明日カラ不況ニ轉落スルノデ
ハナイカ、實ニ劍呑ダ、納稅ドコロカ反對
ニ政府ノ保護ヲ受ケネバナラナイ、イヤ大
ニ助長シナケレバナラヌト云フノモ、應
ハ理窟ガアルト思ヒマス、又人情論トシテ
モ、苦悶シテ居ル間ハ懷ロ手デ傍觀シテ置
キナガラ、偶〓儲ケタカラトテ直チニ重課
スルハ餘リ苛酷ダ、儲ケタトテ、ソレハ非
常時局ノ爲デ、偶然ノ出來事ダ、先ハ闇黑
タ、ドウナルカ分ラヌ、斯ウ云フ所ニ反對
論ノ兆スノハ無理カラヌコトダラウト私ハ
思ヒマスガ、併ナガラ是ハ過去ヲ恐
ルヽノ結果、過去ニ囚レテ現實ヲ認識ス
ルコトノ出來ナイ議論デアルト私ハ思ヒ
マス(拍手)自信ニ乏シイ無定見ノ議論デア
ルト私ハ信ジマス、日本ノ經濟ハ變革時代
ニ遭遇シテ居リマス、轉換時期ニ入ッテ
居ルコトニ氣付カナイモノデアルト私
ハ思ヒマス、曾テ堂島ノ米相場ハ、財界ノ
羅針盤デアッタノデアリマスルガ、其時代ハ
疾クニ過去リマシタ、又續イテ東新ヤ大新
ガ堂島ノ米相場ト同ジヤウニ、羅針盤デア
ル時代ガ來タノデスガ、ソレモ將ニ去ラン
トシツヽアルノデアリマス、左樣ナ變革ヲ
知ラナイ所ノ論デアリマス、私ハ抽象的ノ
議論ハ出來マセヌノデ、ソレハ偖措キマシ
テ、果シテ轉換時代ニ入ッテ居ルカドウカ、
變革ノ兆候ハ何處ニ現レテ居ルカト云フコ
トヲ、具體的ノ例ニ採ッテ考察シテ見タイ
ト思ヒマス
今產金會社ノ前途ガ雲ノ如キモノデアル
カ、水ノヤウナモノデアルカ、ソレトモ前
途有望デ、靑年ノ如キモノデアルカト云フ
コトヲ見マスルノニ、兩三年前マデ御承知
ノ通リニ一匁ノ金ヲ掘ッテ引合フトカ引合
ハナイトカ言ッテ居ッタノデアリマスガ、將
來再ビ一匁五圓ダノ六圓ダノト云フ金ヲ見
ルコトガ出來ルデセウカ、餘程勇敢ナ人デ
ナイ限リハ、之ヲ肯定スルコトハ不可能デ
アラウト思ヒマス(拍手)否一匁ガ五圓六圓
ドコロカ、一匁十圓ノ金ト雖モ容易ニ考ヘ
ルコトハ出來ヌト私ハ思ヒマス、政府買上
ハ御承知ノ通リ昭和七年ニ一匁七圓臺カラ
始マリマシテ、先頃一月ニナリマシテ一匁
十一圓六錢デアッタノヲ、一匁五十二錢値上
ゲヲ致シマシテ、十一圓五十八錢ニナッテ
居ルノデアリマスルガ、倫敦ノ金塊相場
ハドウカト見ルナラバ、最近ニ至ッテハ躍進
ニ躍進ヲ續ケテ居リマス、固ヨリ其日ニ依ッ
テ動搖ハアリマスルケレドモ、異常ノ躍進ヲ
遂ゲテ居ルコトハ、新聞ニテ御承知ノ通リ
デゴザイマスルガ、昨今デハ一「オンス」七
磅八志臺ニナッテ居リマス、七磅八志臺ト云
フヤウナ金ノ一「オンス」ノ値段ハ、破格ナ値
段デアリマス、斯樣ナ破格ナ値段ヲ基準ニ
シテ考ヘルコトハ、或ハ突飛デアルカモ知
レマセヌガ、假ニ此破格ナ値段ヲ基準ニシ
テ考ヘテ見ルト、日英爲替一圓對一志二片
ノ爲替相場デ之ヲ換算スルト、實ニ金一匁
ハ十五圓何十錢カニナルノデアリマス、日
本銀行ノ買上値段ハ十一圓五十八錢デアリ
マスガ、ソレヲ拔クコトハ三圓餘以上デア
リマス、或ハ四圓近クニナルカモ分リマセ
ヌ、斯樣ナ昨今ノ破格ナ相場ハ偖テ措イテ、
先頃來ノ七磅二志三志臺ヲ取リマシテモ、
一圓對一志二片デ換算シテ一匁十四圓七八
十錢ニナリマス、又米國ハドウカト見ルト、
米國準備銀行ノ買上ハ一「オンス」三十五弗
デアリマス、之ヲ對米爲替百圓對二十八弗
八分ノ三ノ相場ハ、先頃來ノ高イ對米爲替
ノ値段デアリマスガ、ソレデ爲替相場ニテ
圓ニ換算シテモ一匁金ハ十四圓七八十錢ニ
ナリマス、最近ハ今申ス通リニ、磅ノ下落デ
金塊ガ上リマシタノデ、日米爲替ガ下落シ
テ二十八弗、或ハ二十七弗臺ニナリマシタ
カラ、矢張金一匁ハ米國ノ相場ニ致シマシ
テモ、倫敦ノ金塊相場ト同樣ニ十五圓ヲ拔
クノデアリマス、卽チ金ハ一匁十四圓カラ
十五圓以上ト云フノガ、昨年秋以來ノ當態
ノ相場デアリマスカラ、私ハ一匁十圓ノ値
段ハ容易ニ想像スルコトガ出來ヌト申ス所
以デアリマス、然ラバ一匁十圓ト云フヤウ
ナ金ハ、ドウ云フ經濟狀態ガ生レテ來タ場
合ニ、ソレヲ想像スルコトガ出來ルカト申
シマスト、ソレニハ金塊相場ノコトヲ考へ
ナケレバナリマセヌ、御承知ノ通リニ金塊
相場ハ、倫敦ト紐育デ立ツノデアリマス、
ソレデアリマスカラ弗或ハ磅ノ金ノ値段ト
云フコトヲ考ヘナケレバナラヌ、第二ニ爲
替相場ト云フコトヲ考へテ行カナケレバナ
ラヌノデアリマスガ、此爲替關係ダケヲ見
テ參リマスト、今申述ベタヤウニ米國準銀
ノ金買上値段ハ、一「オンス」三十五弗デア
リマス、一「オンス」ハ八匁二四九ニナルノ
デ、之ヲ日本ノ十匁ニスルト四十二弗デア
リマス、デスカラ對米爲替ガ百圓對四十二
弗ニ上ッタト假定致シマシタナラバ、其時初
メテ金一匁ガ十圓ニナル勘定デアリマス、
此處デ一言致シマスガ、吾々ハ長イ間言慣
ラサレテ來マシタ、ドウ云フコトニ言慣ラ
サレテ來タカト云ヘバ、對米爲替ト云ヘバ
百圓對四九弗八四六ガ平價ダト云フコトニ
言慣ラサレテ來タノデアリマスガ、米國ノ
新平價改訂デ百圓對約八十四弗ニ現在ハナッ
テ居ルノデアリマス、一「オンス」三十五弗、
卽チ十匁約四十二弗ノ買上値段ハ、此改
訂セラレタ米國ノ新平價ニ依ルノデアリマ
スガ、此新平價カラ見テ、金一匁ガ十圓ニ
ナル爲ニハ、對米爲替ガ四十二弗ニ上ラナ
ケレバナラヌコトハ今申上ゲル通リデス
ガ、私ハ昨今二十八弗或ハ二十八弗ヲ下ラン
トスル所ノ對米爲替ガ、四十二弗ニ上ルコ
トハ想像スルコトガ困難デアルト考ヘルノ
デアリマス、或ハ二十弗割レカラ段々ト上ッ
テ來テ、二十八弗ニナリ、三十弗ニナリ、
三十一弗ニナッタ爲替相場ダカラ、又恢復ヲ
シヤセヌカト云フヤウニ考ヘル人モアリマ
セウ、是ハ一應御尤ナ考方デアリマス、併
ナガラ二十八弗ト云フ現在ノ爲替相場ハ、
是ハ恢復シタ値段デハゴザイマセヌ、見
恢復シタ値段ノヤウニ見エマスケレドモ、
是ハ恢復シタ値段デハゴザイマセヌ、今申
ス通リ今日ノ平價カラ言ヘバ、對米爲替ハ
八十四弗デナケレバナラヌノデアリマスカ
ラ、半分以下、六割六分ダケ値下リヲシテ
居ルノデアリマスカラ、昔ノ百圓對四十九
弗何ガシカラ言フナラバ、對米爲替ハ十八
弗ニ下ッテ居ルト云フコトニナルノデアリ
マス、或ハ金「ブロック」ガ破壞サレタラ、對
米ノ爲替ハ四十弗ニモ、五十弗ニモナルノ
デハナカラウカト懸念スル人モアリマスケ
レドモ、金「ブロック」ハ維持ガ出來ルカド
ウカ、是ハ將來ノ事デアルカラ分リマセヌ
ケレドモ、金「ブロック」ガ破壞スルト云フコ
トハ、モウ三四年前カラ耳ニ胼胝ガ出來ル
程私共ハ聽カサレマシタ、最近ノ佛蘭西ノ
事情ハ分リマセヌガ、私ノ知レル限リデハ
〓ブロック」ハ破壞スルコトハナカラウト思
ヒマス、假ニ破壞セラレタト致シマシテモ、
サウ爲替ガ上ルモノデナイト云フコトハ、
米國ガ再禁止ヲシタ時ニ、旣ニ吾々ガ經驗
ヲ致シテ知ッテ居ル所デアリマス、故ニ爲替
ノ觀點カラハ、金一匁ガ十圓ニナルト云フ
コトハ容易デハアリマセヌ、金一匁十圓ニ
ナル時ノ爲替相場ハ四十一一弗デアルガ、日
銀買上値段相當ノ爲替相場ニナルノモ中々
ノコトデハアリマセヌ、日銀ノ買上相當ノ
爲替値段ニナル爲ニモ、對米爲替ガ三十六
弗餘ニ上ラナケレバナリマセヌ、卽チ現在
對米爲替ノ二十八弗ガ三十六弗ニ上リマシ
テモ、日銀ノ買上値段ハ時價相當ト云フコ
トニナル譯デアリマス、デアリマスルガ、
對米三十六弗ノ爲替相場デモ、中々容易ニ
ハ實現ハシナカラウト思ヒマス、又對米爲
替ガ百圓對二十八弗、現在ノ爲替相場デア
ル時ニ、百圓ヲ以テ金十匁、卽チ一匁十圓
ノ金ヲ買ハンニハ、米國ノ金ノ値段ガ幾何
弗ニ下落スレバ宜イカヲ見マスルニ、十匁
ガ二十八弗ノ金ヲ買ヘバ宜イ譯デアリマス
カラシテ、十匁二十八弗ナラ、一「オンス」
八匁二五ハ何弗カヲ計算スレバ宜イノデ
アッテ、ソレハ約二十三弗ニナルノデアリマ
ス、現在一「オンス」三十五弗ノ金塊ノ相場
ガ二十三弗ニ下落スルト云フコトハ、
私共ハ夢ニモ想像ガ出來ナイノデア
リマス、斯樣ニ考察スルト、日本ノ低爲
替ガ續クコトモ、亦金ノ値段ガ只今
日銀買上相場一匁十一圓五十八錢カラ上ル
トモ中々下ラナイト云フコトハ明カデアリ
さく、金ガ高値ヲ維持スル限リハ、產金會
社ガ儲カルコトモ自明ノ眞理トモ言ヒ得ル
ノデアリマス、低爲替卽チ爲替「インフレ」
ハ、日本經濟現象ノ常態トナッタコトガ是デ
分リマス、現在爲替「インフレ」デ利潤ヲ擧
ゲテ居ル會社ハ過去ハ卒ザ知ラズ、將來ハ
政府ノ保護助長ドコロカ、大ニ其利潤ヲ獻
金シテモ私ハ大丈夫デアルト考ヘマス、現
ニ先程一匁五十二錢ノ日銀買上値ノ値上リ
デ、或ル產金會社ハ一年百十万圓ノ利益增
トナリマスガ、此會社ノ本年ノ臨時利得稅
ハ約八十万圓デアリマス、先程ノ値上リデ
稅ヲ納メテ、尙ホ數十万圓殘ルコトニナッ
テ居リマス、其他大小ノ產金會社ハ、多ク
此例ニ漏レヌト思ヒマス、以上ハ產金會社
ニ付テ私ガ例ヲ取ッタノデアリマスガ、獨リ
產金會社ニ限リマセヌ、低爲替ノ爲ニ更生
シタ所ノ多數ノ日本ノ輸出工業ハ、皆低爲
替ガ續ク限リハ、大ニ儲カル譯デアリマシテ、
此低爲替ハ、先刻來詳シク述ベマシタ通リ、
一時ノ變調デハナクテ、恆久性ヲ帶ビルモ
ノデ、時代ノ大勢トモ申スベキ現象デアリ
マス、要スルニ日本經濟ハ變(革時代ニ入ッ
テ居リマス、低爲替ハ變革期ニ於ケル新機
構ノ一部ヲ爲スモノデアリマス、平タク申
スナラバ、時勢ハ變ッテ、明治維新ハ政治機
構カラ、昭和維新ハ經濟機構カラトモ言フ
ベキデアリマセウ、機構ニ變革ヲ來シテ、
ソレガ爲ニ新規ナ現象ガ現レタトスルナラ
バ、之ヲ捉ヘテ課稅スルコトハ當然デアッ
テ、ソレハ新シキ公平デアッテ、不公平デハ
アリマセヌ(拍手)
更ニ軍需工業ニ付テ申上ゲマスルト、鐵、
機械ト云フヤウナ會社ヲ見マスルニ、直接
間接ニ軍需ノ爲ニ好影響ヲ受ケテ居ルコト
ハ事實デアリマスケレドモ、其繁榮ノ原因
ガ、技術ノ躍進ニアルト云フコトハ、是仁
蔽フベカラザル所ノ事實デアリマシテ、獨
リ私ノ斷定バカリデハアリマセヌ、機械製
作上ノ技術ノ我國ニ於ケル進步ハ實ニ驚ク
ベキモノデアリマス、最近デハ人絹ノ機械
デモ、外國製ヨリモ良イモノガ出來マス、
自動車ハ、部分品ハ勿論トシテ、全體トシ
テ自動車ノ輸出モ致シテ居リマス、飛行機
ノ機械ト「工作機械」ノ一部ノモノハ、外國
製ニ劣リマスルケレドモ、大觀スルナラバ、
我國ノ機械工業ト云フモノハ、世界ニ將來
覇ヲ爲スト私ハ考ヘテ居リマス、一體軍艦
ヤ兵器ガ立派ニ出來ルコトカラ見テモ、機
械ノ技術ガ如何ニ進步シテ居ルカト云フコ
トガ想像ガ付キマス、機械ノ製作ガ斯樣ナ
發展振リデアリマスカラ、製鐵事業ノ將來
ト云フモノハ實ニ有望デアリマス、日本製
鐵會社ノ設備三億二千万圓ハ、二倍ニナッテ
モ恐ラク足ラヌト考へマス、若シ日支親善
ガ益〓濃密ニナルナラバ、支那大陸ニ輸出
スル所ノ銑鐵、或ハ鋼材、機械ハ餘程大量
ナモノトナルデセウ、最近鐵ガ不足シテ、
外國ノ輸入ヲ容易ニスル爲ニ、關稅引下ガ
問題ニナッテ居ルノモ、軍需ガ勿論其原因デ
アリマスルケレドモ、機械製作ノ需要ニ因
ルモノモ多大デアルト云フコトハ事實デア
リマス、斯ク檢討シテ參リマスト、假ニ將來
軍需ガ減少スル、軍費豫算ガ減少スルトシ
テモ、我國ノ重工業ハ急轉落下不振ニ陷ル
モノトハ思ヒマセヌ、況ヤ今日ノ國際情勢
ヤ、友邦滿洲國ヲ抱擁セル現日本ノ地位カ
ラ推斷シタナラバ、將來大變我國ノ軍需費
ガ減少スルト云フコトハ、ソレハ理想ニ過
ギナイモノデアルト申サナケレバナリマセ
又、要スルニ重工業ニシテモ、化學工業ニ
シテモ、低爲替ト云フコトヽ、技術ノ躍進
ト云フコトヽ、ソレカラ軍需ノ增大ト云フ、
此三要因ノ力デ、過去ノ面目ハ一新シテ居
ルノデアリマス、サウシテ三要因ノ何レヲ
取上ゲテ見マシテモ、一時的現象ト見ルコ
トハ出來マセヌ、恆久性ヲ有ツモノト言ハ
ナケレバナリマセヌ、ソレ故ニ重工業、化
學工業ニ比較的重課スル所ノ臨時利得稅
ハ、一時ノ現象ヲ捉ヘテ課稅ノ目的物トシ
テ居ル譯デハアリマセヌ、又生育途上ニ在
ル未熟ノ產業ニ、基礎ノ固マラヌ所ノ產業
ニ課稅スルモノデモアリマセヌ、ソレデス
カラ產業政策上何等矛盾スルモノデモアリ
マセヌ、寧ロ紡績トカ電鐵トカノ老成產業
ニ較ベルト、前途有爲有望ナ靑年產業、壯
年產業トモ見ルベキモノデアルカラ、多少
重課ニナッテモ已ムヲ得ナイト私ハ思ヒマ
ス
斯ク論ジ來リマスト、利得稅ハ折角伸ビ
掛ケタ產業ノ若芽ヲ摘取ルモノデアルト申
ス說ハ、是ハ「ユーモア」ナ魅力ニ富ンダ表
現方法デハアリマセスガ、事態ヲ見拔キ得
ナイ議論デアッテ、私ハソレニ首肯スルコト
ハ出來マセヌ(拍手)若シ同ジ比喩ヲ用ユル
トスルナラバ「インフレ」ノ若芽ハ既ニ枝ト
ナリ、幹トナッテ、開花シ結實セルモノモアリ
マスカラシテ、三千万圓ヤ五千万圓ハ摘ン
デ取ッテモ、本來ノ幹ニハ何ノ影響モナイト
云フコトヲ申スコトガ出來マセウ、サウシ
テ其幹、枝、其實トモ申スベキ軍需全
フレ」爲替「インフレ」ノ儲ケハ、大部分ガ銀
行預金トナッテ居眠ッテ居ル、此居眠ッテ居ル儲
ケノ中カラ、利得稅ヲ取立テル譯デアリマス
カラ、其稅金ハドウナルカト言ヘバ、言ハズ
シテ政府ノ手ニ依リテ民間ニバラ撒カレルノ
デアリマス、詰リ居眠ッテ居ル預金ガ新ナル
購買力ニ變ジテ働クコトニナルト思フノデ
アリマス、新ナル購買力ノ發動ガ、景氣上
昇ノ是ガ原因トナルコトハ申上ゲル迄モア
リマセヌ、ダカラ利得稅ガ不景氣ノ原因ト
ナリ、伸ビ掛ケタ若芽ヲ摘取ルト云フコト
ハ斷ジテアリマセヌ、ソレコソ杞憂ト言フ
ベキデアリマス、私ハ銀行預金ガ稅金トシ
テ引上ゲラレルト、預金ガ減少スルカラ金
融ガ逼迫シ、公債ノ消化力ガ減退シテ、赤
字公債ノ發行ガ困難ニナリハシナイカト云
フ懸念ヲスル者モアリマスルケレドモ、日
銀ノ公債ノ保有力ハ、マダ二億ヤ三億增シ
タトテ問題ニハナリマセヌ、安全保有量ノ
限度ハソレ以上デアリマス、私ハ銀行預金
ノ殘高ガ五千万圓ヤ八千万圓減少スルコト
ガアッテモ、公債ノ發行ガ困難ニナルトハ想
像スルコトハ出來ヌノデアリマス
私ハ以上述ベマシタ理由ニ依リマシテ、
今囘ノ增稅案ニ贊成ヲスル、原案ニ贊成ヲ
スル次第デアリマスガ、吾々ハ昭和七年赤
字公債ノ發行ヲ見ルニ至リマスルト、將來
增稅ノ必要ナル所以ヲ有ユル機會ニ於テ黨
ノ先輩カラ述ベテ居リマス、又非常利得稅
ト云フ名ノ下ニ、今囘ノ臨時利得稅ノ如キ
モノガ必要デアルト云フコトモ論述致シテ
來タノデアリマス、其度每ニ政友會ノ方ハ、
時期尙早デアル、增稅或ハ不可ト唱ヘラ
レタノデアリマスガ、今日此案ニ贊成セラ
レルコトハ、國家財政前途ノ爲ニ慶賀スベ
キコトヽ存ズルノデアリマス(拍手)
ソコデ以下修正點ニ付テ極ク簡單ニ私ノ
考ヘル所ヲ申上ゲマシテ賛否ヲ明ニシタイ
ト思ヒマス、政友會ノ修正點ノ第一點ハ、
增資取締ノ規定デアリマス、此增資取締ノ
規定ニ對シテハ、私共ハ反對ヲ致シマス、
其理由ハ、法人ノ所得稅ニ付テモ、御承知
ノ通リニ一割以上ノ所得ニ付テハ、超過所
得稅ヲ課ケテ居ルノデアリマス、故ニ超過
所得稅ヲ免カルヽ爲ニ增資ヲ行フト云フコ
トモ、想像ハ出來ルノデアリマスガ、今日マ
デ其實例ヲ聽カナイ、是ガ增資取締ノ規定
ニ反對スル一ツノ理由デアリマス、ソレカ
ラ增資取締ノ規定ハ、基準年度ニ於テ七分
以上ノモノニ適用セラレルノデアリマス
ガ、ソレハ極メテ實例ニ乏シカラウト思ヒ
マス、ソレガ第二ノ反對ノ理由デアリマス、
第三ハ、增資ガ脫稅ノ爲ナルカ否カハ實際ニ
於テハ判定ガ出來ヌト思フノデアリマス、
故ニ適用出來ナイコトニナルト思ヒ、言ハヾ
空文ニ終ル虞レガアルカラ反對デアリマ
ス、反對ノ理由ハ此三ツデアリマス、次ハ
基準年度ノ四、五、六年ニ變更スル修正案
デアリマスガ、掌ヲ返スヤウニ轉換シタト
云フ場合ニ、其轉換前ノ基準ヲ取ルト云フ
コトハ、無論理論上正當デアル、所ガ政府
ノ方デハ五年、六年ヲ基準ニ取ルト云フノ
デアリマスガ、其長短ニ付テハ餘程考慮ヲ
セネバナラヌ、六年ハ最モ惡カッタ時期デア
ル、故ニ其最モ惡カック時期ヲ加ヘルナラ
バ、世界恐慌ノ始マッタ所ノ四年ヲ加ヘテ
緩和スルト云フコトハ、必要デナイカ知ラ
ン、是ハ十分考慮ノ餘地ガアルト私共モ考
ヘマス、又法人個人併セテ納稅義務者ハ一
萬二千人カラアルノデアリマシテ、各〓事情
ガ異リマスカラシテ、ソレ等相互ノ權衡カ
ラ言ッテモ、四年ヲ加ヘルコトガ妥當トモ考
ヘルノデアリマス、吾々ハ此修正ハ相當考
慮ヲ致シマシタ、併シ之ニ依ル減收ガ百二
十万圓程アルト云フコトデアリマス、之h
相當スル增收ノ案ガナケレバナラナイ、ソ
レニハ法人個人共ニ二千圓ノ控除ヲ臨時利
得一万圓以下ノモノニ限ルト云フ修正案ヲ
考ヘタノデアリマス、是ハ社會政策カラ
モ、亦租稅ノ公正ト云フコトカラモ、合理
的ノ修正デアルト考ヘタノデアリマスル
ガ、豫算ガ通過シタ後ニ、豫算ノ金額ニ增
減ノアルガ如キ修正ハ、吾々ノ執ルベキ所
デナイト考ヘテ、之ニ反對スルノデアリマ
ス(拍手)、修正ノ第三點ハ減資ノ規定デア
リマス、ソレハ昭和七年一月一日以後ノ減
資ニ付テハ、減資セヌモノト看做スト云フ
ノデアリマスカラシテ、是ハ大分喜ブ會社
ガアルト思ヒマス、併ナガラ六年中ニ減資
ヲシタ者ニ付テハ適用ガアリマセヌカラシ
テ、其點デ不公平ニナルト思ヒマス、七年以
後ノ增資ハ極メテ少イ、或ハ多イカモ知レ
マセヌガ、多イトシテモサウ澤山ハナイト思
ヒマスルガ、ソレニ態々一箇條ヲ設ケテ公
平ガ保タレルナラバ、私共モ贊成スルニ吝
デナイノデアリマスルケレドモ、今申ス通
リ六年中ニ減資ヲシタモノニ付テハ、少ク
トモ公平ヲ缺クト思ヒマスルノデ、修正案
ニ反對ヲ致シマス、最後ニハ、修正點ハモ
ウ一點アリマスルケレドモ、是ハ基準年度
ニ關スル點デアリマスカラ論外ト致シテ、
法人一割、個人七分五厘ニ修正スルト云フ
稅率ノ修正デアリマスガ、此點ニ付テモ反
對ヲ致シマス、ソレハ本稅ハ超過所得稅ヲ
取ラレル所ノ法人ニ付テハ、本稅ハ其點ニ
重複ヲ致シテ居ルノデアリマス、ソレデ超
過所得稅ニ於テ累進率ヲ設ケテ、相當重イ
稅ヲ法人ニ課シテ居リマスルカラシテ、尤
モ其累進稅ハ個人ニハアリマセヌ、デアリ
マスルカラ、其點デ相當ニ法人ト個人トハ
開キガアルノデアリマスルカラシテ、此法
案デ殊更個人ト法人ニ開キヲ付ケル必要
ハナイト思ヒマス、ノミナラズ法人ニアッ
テハ、此個人ノヤウナ所得六千圓以下
ノ者ニ免稅ヲシテ居ルト云フヤウナ規
定ハナイノデアリマス、個人ニハ斯ウ云
フ特典ト申シマスカ、斯ウ云フ規定モア
ルノデアリマスルカラシテ、其以上個人
ヲ低クスルノハ理由ニ乏シイト思ヒマス、
政友會ノ委員ノ方カラ、法人ニハ臨時所得
ノ大小ヲ計算スルニ當ッテ、資本ト對比シテ
居ルガ、個人ニハ資本ヲ見テ居ラナイカラ、
自然重クナルト質問ヲサレマシタ、併ナガ
ラ個人ニ付テハ資本ヲ見ナイノハ本稅バカ
リデハナク、營業收益稅デモ、亦所得稅デ
モ皆同ジ建前デアッテ、日本ノ租稅組織ガ、
個人ノ場合ニハ資本ト云フモノヲ見ナイト
云フコトニナッテ居ルノデアリマスルカラ
シテ、其理由ノ下ニ私ハ修正スルト云フコ
トハ穩當デナイト思ヒマス、仍テ之ニハ反
對ヲ致シマス、最後ニハ施行期限ノ修正デ
アリマスガ、是ハ今申シタ通リニ、日本ノ
經濟機構ハ轉換時代ニ入ッテ居ル、ソレハ低
爲替ト技術ノ躍進-技術ノ躍進ニ付テハ
吾々民政黨ガ合理化ヲ叫ンダ、ソレガ非常
ニ效イテ居ルト信ジテ居リマスガ、兔ニ角
サウ云フヤウナ變革期ニ入ッテ居ルノデ、此
利得ト云フモノハ臨時的ノモノデハナイ、
大藏省ノ原案ニハ臨時ト云フ文字ヲ使ッテ
居リマスケレドモ、臨時的ノモノデハナク
シテ恆久性ヲ有ッテ居ルモノデアル、五年、八
年、十年ト續クベキ性質ノモノデアルカラ
シテ、隨テ此法律案ニ施行期限ヲ置クト云
フコトハ、私ノ立論上ト矛盾ヲスルコトニ
ナルノデ、之ニハ其理由デ反對ヲ致シマス、
但シ大稅制整理ヲ急グト云フ意味デ期限ヲ
附ケルノナラバ、ソレハ理由ニナリマスケ
レドモ、ソレナラバ三年ト云フヤウナ期限
ハ長イト思ヒマス、仍テ此施行期限ヲ附ケ
ル所ノ修正案ニハ同意ガ出來マセヌ
最後ニ國民同盟ノ中村君ガ、昨日委員會
ニ於テ說明セラレマシタ修正點ニ付テ一言
申上ゲマス、ソレハ稅率ノ方ハ極ク細カク
刻ンデアリマシテ、一見頗ル妥當デアルシ、
又非常ニ御考ヘニナッテ居ルコトニハ敬服
ヲ致シマスケレドモ、今申ス通リニ、過去
ニ囚ハレ過ギテ居ル修正案ト私ハ思ヒマス、
日本ノ財界ハ轉換期ニ入ッテ居ル、新時代ニ
入ッテ居ル、是ハ永久性ヲ有ッテ居ル、低爲
替ト云フコトヽ、今申ス技術ノ躍進ト云フ
コトガ基礎ニナルノデアッテ、全然樣替リデ
アッテ、一時的ノ現象デハナイデアルカラシ
テ、餘リ過去ニ囚ハレタ所ノ中村君ノ修正
意見ニハ、私ハ反對デアリマス、以上ヲ以
テ私ノ演說ヲ終リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=51
-
052・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 太田正孝君
〔太田正孝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=52
-
053・太田正孝
○太田正孝君 私ハ玆ニ討論ノ議題トナッ
テ居ル臨時利得稅ニ付キマシテ、岡田委員
長ノ報〓通リ、政友會ノ修正條項竝ニ附帶
決議ニ贊成セントスル者デアリマス、其理
由ヲ述べ、旁、只今民政黨ヲ代表シテ御述
ニナリマシタ矢野庄太郞君ノ論旨ニ對シテ
反駁ヲ加ヘテ行キタイト思ヒマス、併シ矢
野君ノ前半カト思ハルヽ部分ニ於テ御說キ
ニナッタ經濟論ニ付キマシテハ、此問題ニ關
スル限リニ於テハ觸レタイト思ヒマスルガ、
其大部分ハ私ノ解釋ガ誤リマスカ、餘リ此
稅法ト關係ガナイト信ジマスルノデ、其點
ニ觸レナイコトハ御許シヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス
臨時利得稅ハ臨時ニ儲ケタ者ニ課ケル、
負擔能力ノアル所カラ取ル、世間一般ノ常
識カラ申シマシテモ當リ前デハナイカト言
ハレテ居リマス、事改メテ言フマデモナク、
新シク稅ヲ起スニ付キマシテハ、之ニ對ス
ル用意ヲ整へ、其態度ガハッキリシテ居ナケ
レバナラナイト私ハ思フノデアリマス、然
ルニ政府當局者ニ於テ、本稅ヲ設クルニ付
テノ用意ヲ缺キ、其態度ガハッキリシテ居ナ
カッタト云フコトハ、私ハ先ヅ第一ニ不滿ヲ
感ゼザルヲ得ナイノデアリマス(拍手)何ヲ
以テ用意ヲ缺キ、何ヲ以テ態度ガハッキリシ
ナイト言フカ、今度ノ稅ト一般ノ租稅トノ
關係ガドウカ、政府ハ確乎タル認識ヲ有ッテ
居リマセヌ、又議員ノ各〓方カラ御質問ニナ
リマシタ通リ、組閣當時ニ於テハ增稅シナ
イト言ッテ、俄ニ增稅シタノハドウデアルカ
ト御尋致シマシタノニハ、一般的增稅ヲシ
ナイト云フヤウナ、堅白異同ノ辯ヲ以テサ
レテ居ルノデアリマス、ソレハ愚カ、稅制
整理ハドウカト御尋致シマスルト云フト、
本議會ニ於テ政府ガ御見出シニナリマシタ
唯一ノ隱レ場デアル、マダ出來モシナイ內
閣審議會ニ逃込ンデ居ル始末デアリマス、
其用意ノ足ラザルコト驚クノ外アリマセヌ、
更ニ苟モ稅ヲ起スニ當リマシテハ、殊ニ矢
野君ノ言ハレタヤウナ恆久性ヲ持ッテ居ル
ト假定致シマシタナラバ、臨時的デアルト、
恆久的デアルトヲ問ハズ、其額ノ多少ヲ問
ハハ、苟モ稅ヲ起スニ付テハ、歲出ニ對ス
ル十分ノ考察ヲ加ヘタ後ニスベキ問題デア
ルト私ハ思フノデアリマス(拍手)今矢野君
ノ御話ヲ承ッテ見マスルト、增稅論ヲ民政黨
ハ今マデ御主張ニナッテ居ッタ、今囘政友會
ガ增稅ニ贊成スルヤウニナッタト云フコト
ハ、國家財政ノ前途ノ爲メ悅バレルト云フ
御言葉デアリマシタ、ドウヤラ私共ガ今マ
デ御聽キ致シマシタ言葉デ言ヒマスト、健
全財政ノ一端デモアルカノヤウニ思ハレル
ノデアリマス、健全財政、恐ラク本案ヲ御
作リニナッタ前大藏大臣藤井真信氏ハ、之ヲ
公ニシタ如ク、其意味デアッタデアリマセ
ウ、併シ吾々ガ玆ニ此增稅案ニ贊成セント
スルノハ、健全財政ノ一端デアルト云フ意
味デナイト云フコトヲ、ハッキリシテ置キタ
イ(拍手)何トナレバ健全財政ト云フノハ、
不束ナル私ノ解釋スル所ニ依レバ、此稅ヲ
起セバ赤字ハ少クナル、赤字公債ノ發行高
モ減ッテ來ル、立派ナ財政計畫ヲ樹テヽ行ク
助ケニモナラウト云フ意味ニ於テ、健全財
政ト言ハレルデアラウト思ヒマス、併シ元
元此稅ガ如何ニシテ本院ニ上程セラレルニ
至ッタカノ經過ヲ御考ニナリマシタナラバ、
最初ノ豫算ノ査定ニ於キマシテ、大藏大臣
ガ出シマシタガ爲ニ、而モ後カラ來ル增額
要求ヲ拒絕スル爲ニ、之ヲ利用致シマシタ
ナラバ、或ハ健全財政ノ一端ニナッタデアリ
マセウ、然ルニ復活要求ニ對シテ、ドン〓〓
認メテ行キマシタガ爲ニ-其認メタコト
ノ良イカ惡イカハ別ト致シマシテ、金ノ殖
エルノヲ防グデナク、結果トシテハ、少ク
トモ歲出增額ノ道具ニナッタト云フ意味デ、
斷ジテ健全財政ノ一助トハナラヌト私ハ信
ズルノデアリマス(拍手)私共ノ考ハ、或
誤解シテ居ルカモ知レマセヌガ、前大藏大
臣ハ健全財政ノ一助デアルト言ッタ、又民政
黨ノ方々ハ增稅說ニ贊成セラレテ、吾々ガ
增稅ヲ贊成スルコトヲ、國家財政ノ前途ノ爲
ニ宜イト言ハレマスルガ、本案ヲ維持シナケ
レバナラナイ立場ニ置カレマシタ現大藏大
臣ハ、決シテ之ヲ以テ健全財政ノ一助デア
ルトハ申シテ居リマセヌ(拍手)申ス迄モナ
ク過去ニ於ケル一二囘ノ議會ニ於テ、高橋
大藏大臣ハ財政ノ見透シガ付クコト、國民
一般ニ增稅ニ耐ユル時ニ至ルマデハ、增稅
スルノハ早イト云フ尙早論ヲ唱ヘテ居ッタ
ノデアリマス、併シ心ナラズモ、本案ヲ維持
シナケレバナラヌ立場ニ御立チニナリマシ
テ、相當御苦ミニナッタト云フコトハ、速記
錄ニ歷々ト現レテ居ル、隱スコトノ出來ナ
イ事實デアリマス、而シテ御困リニナッタ結
果トシテ御發明ニナッタ言葉ハ、政治的增稅
ト云フ意味デアリマス、ヤハリハッキリ致シ
テ居リマセヌ、速記錄ノ前後ヲ拜讀シテ見
マスルト、ドウヤラ非常ニ儲ケタ者ガアル、
之ニ課ケナイノハ國民思想ノ爲ニモ宜クナ
イト云フヤウナ、私達ノ言葉ヲ以テスレバ、
社會正義ノ爲ニ此增稅ヲ認メタト云フヤウ
ニモ解サレルノデスガ、ハッキリ致シマセヌ、
世俗ニ、問題ガ紛糾シテ、分リニクヽナッテ
來マスト、理由ヲ示サズ解決スルノヲ、政
治的解決ト申シテ居リマス、丁度今囘ノ增
稅ガ御辯解ノ言葉ニ困ッテ、ソコデ政治的ト
云フ言葉ヲ御遣ヒニナッタノデハナイカト、
私ハ眞ニサウ信ズルノデアリマス
斯樣ニ本稅ヲ設クルニ付キマシテノ政府
ノ用意ガ十分デナク、態度ガハッキリシテ居
ナイ上ニ、此稅其モノニ於テ少カラザル不
備ヲ發見致シタノデアリマス、其第一ハ負
擔ノ公平ニ缺クル所ナキヤト云フ問題デア
リマス、申ス迄モナク此事ハ租稅ニ取ッテ
ノ生命問題デアリマス、第二ニハ、產業ノ
進展ヲ害スルコトナキヤト云フ點デアリマ
ス、產業立國ノ旗印ヲ揭ゲテ居ル私達ノ生
命トスル租稅ニ關シテ、特ニ注意ヲ拂ハナ
ケレバナラヌ問題デアリマス、念ノ爲ニ言
ヒマスルガ、若芽ヲ摘ムト云フ議論ト、今
ノ大キナ產業主義ト云フモノトハ、別箇ニ
御解釋ヲ願ヒタイト存ジマス、第三點ハ、
臨時的收入ハ臨時的支出ニ向ケベキモノニ
非ズヤト云フ考デアリマス、端的ニ申シマ
シタナラバ、臨時ニ儲ケタ金、臨時ノ利得
ハ、此時局ニ依ッテ被害ヲ受ケタト言ッテモ
差支ナイ、農村、中小商工業者其他ニ向ッテ
振向ケベキモノデハナイカト云フ意味デア
リマス、此三點、負擔ノ公平、產業主義、
臨時收入ニ立脚致シマシテ、私達ノ修正ト
附帶決議トガ生レタノデアリマス、徒ニ事
ヲ構ヘルノデハアリマセヌ、國民負擔ノ審
議ト云フ重大ナル、特ニ衆議院ニ課セラレ
タル使命ニ鑑ミマシテ、此修正、此附帶決
議ヲ以テセントスル、已ムヲ得ナイ所以ヲ
御承知ヲ願ヒタイ(拍手)
第一ハ政府ノ原案ノ儘デアリマシテハ、
負擔ノ公平ノ原則ニ反スル點ガアルデハナ
イカト思ヒマス、ソレハ此稅ガ何ニ課ケル
カト云フ課稅標準ノ問題ト、如何ナル割合
デ課ケルカト云フ、稅率ニ關スル問題トニナ
ルノデアリマス、本稅ハ時局ニ依ッテ得タル
儲ケヲ見出スニ付キマシテ、利益ノ比較差
增ト云フ方針ヲ執ッテ居ラレマスガ、一體時
局ニ因ル儲ケニ課稅セントスルニ當リマシ
テハ、國民同盟ノ中村繼男君ガ特ニ强ク言
ハレマシタ如ク、事業別ニ依ッテ區別シテ課
稅スルノガ正シイト存ジマス、併シ其事ガ
課稅ノ技術上困難デアルト致シマシタナラ
バ、次善ノ策トシテ、利益ヲ差增ヲ見出ス
ニ付キマシテ、正シキ標準ヲ以テ致サナケ
レバナリマセヌ、然ルニ政府ノ原案ニ於キ
マシテハ、現在ノ事業利益ト昭和五六兩年
ノ事業利益ノ平均ヲ比較シテ行カウト云フ
ノデアリマス、言フ迄モナク昭和五六兩年
ト云フノハ、金解禁ニ依リマシテ恐慌ノ打
擊ヲ受ケタ爲メ、事業界ハ不況ノドン底ニ
墮サレタト批評シ得ベキ年デアリマス、此
意味ニ於キマシテ、私達ハ其前年タル昭和
四年度ヲ加ヘントスルノデアリマス、矢野
君ノ御說明ニ依ルト、最モ惡カッタ年ヲ標
準ニスルノガ宜イデハナイカト云フヤウニ
私ニハ解釋サレマシタガ、ソレハ幾ラデモ
取ッテ宜イト云フ、若クハ言葉ガ行過ギマシ
タナラバ、底ト表面トノ比較デゴザイマス
カラ、底ガ深クナレバナル程、表面トノ差
ガ多クナリマシテ、餘計取ッテモ宜イト云フ
根性デアリマシタナラバ、矢野サンノ說ガ
正シイデアリマセウ、私達ノ考ハサウデハ
ナイ、アノ不景氣ノドン底ト今日ト較ベルト云
フコトハ行過ギデアル、玆ニ緩和スルト云フコ
トノ必要ハ、政府ノ政策ニ依ッテ、時局ノ
影響ニ依ッテ〓度ノ課稅ヲスルト云フナラバ、
何故當時ノ政策ニ依ッテ打擊ヲ受ケタ事業
界ニ、減稅ヲシナカッタノデアリマスカ(拍
手)私ハ其强イ議論ヲスル前ニ、假ニ減稅
ヲシナクトモ、今度儲ケタ者ニ課ケルニ當
リマシテモ、底ノドン底ヲ持ッテ來ルト云フ
コトハ苛酷ニ過グルト存ジマスルノデ、玆
ニ昭和四年ヲ以テ緩和シヨウトスルコトハ、
當然ノコトデアラウト存ジマス(拍手)此三
箇年平均ノ問題ハ、個人ニ付テモ同樣デア
リマス、念ノ爲ニ申シマスルガ、所得稅ヲ
課ケル遺方ノ問題カラ致シマシテ、實質的
ニハ個人ニ付キマシテハ、法人ノ四、五、
六ノ利益ヲ取ル場合ニ對シマシテ、三年、四
年、五年ト云フヤウニナリマスルカラ、法
人ニ對スルヨリモ、個人ニ對シテハ其恩惠
ガ强イト云フコトハ、後ニ述ブル稅率ヲ七
分五厘ニスルト相竝ンデ考ヘラレタ所デア
ルト、御承知ヲ願ヒタイト存ジマス、モウ
一ツノ負擔ノ公平ニ關スル問題ハ、稅率デ
アリマス、政府ノ原案ニ於キマシテハ、法
人モ個人モ一律ニ百分ノ十、卽チ一割課稅
ニナッテ居リマス、之ニ付キマシテハ法人ノ
方ガ個人ヨリモ優遇サレテ居ルデハナイカ
ト御聽キ致シマスルト、只今矢野君ガ申サ
レマシタ通リノ御言葉ヲ、政府御當局ノ方
カラモ申サレマシテ、法人ニハ超過所得稅
ガ課ッテ居ルカラト云フコトヲ申サレルノ
デアリマス、併シ此點ニ付キマシテハ、只
今矢野君モ指摘サレマシタル通リ、個人ニ
付キマシテハ、法人ノ場合ノ如ク資本金ノ
增加ヲ認メテ居リマセヌ、認メテ居ラナイ
ト云フコトニ付テノ矢野君ノ議論ハ、外ノ
營業收益稅、所得稅等ニ付テモ同樣デアル
カラト申サレマスルガ、比較的ニ稅法ヲ申
サレルナラバ、本稅ト最モ相似的ノ、能ク
似タ關係ニアル戰時利得說ヲ持ッテ行クベ
キモノデアルト私ハ思ヒマス、其戰時利得
稅ニ於テハ、法人ト個人トノ區別ヲシテ、
法人ハ二割、個人ハ一割五分トシテ居ルノ
デアリマス、此關係カラ見テモ、稅制ノ比
較カラ見マシテモ、私達ハ一方ニ個人ノ收
益ト云フモノヽ擔稅關係カラ考ヘマシテモ、
法人ニ對シテ低メルノガ正シイコトデアル
ト存ズルノデアリマス、問題トナリマスル
ノハ、斯業ナ負擔ノ公平ノ意味ヲ以テスル、
謂ハヽ減收ヲ來スヤウナ事柄ハ、豫算ヲ認
メタ立場ニ於テ、吾々ノ關係ハドウ云フ辯
明ヲスルカト云フコトデアリマス、或ハ斯
樣ナコトヲ致シマシタナラバ、租稅收入ニ
變化ヲ來シ、豫算ノ實行上故障ガアルデハ
ナイカト云フコトヲ考へナケレバナリマセ
又、理窟ヲ申シマシタナラバ、豫算ハ豫算、
法律ハ法律ト云フヤウナコトガアリマスガ、
私ハ斯樣ナコトヲ以テ答辯ト致シマセヌ、
親切ニ此問題ヲ考ヘテ見ナケレバナラヌト
思ヒマス、私達ハ端的ニ申シマスレバ、初
年度ニ於テ三千万圓、平年度ニ於テ四千万
圓ト御見積リニナッテ居ル政府御當局ノ御
見積リハ、寡少ニ過グルト思フノデアリマ
ス、私達政友會ノ同僚ノ御方々ノ議會ニ於
テ發表サレタル言葉ニ於テハ、原案ノ儘デ
アリマシテモ、六七千万圓ノ收入ハ得ラレ
ルノデハナイカト申シテ居ルノデアリマス、
民政黨ノ中島彌團次君ハ、本會議ニ於ケル
此問題ニ對スル質問ニ於キマシテ、五千万
圓見當ノ收入ガアルデハナイカト、ハッキリ
申サレテ居ルノデアリマス、國民同盟ノ中
村繼男君ノ御話ノ中ニモ、矢張六千万圓ト
云フ數字ヲ拜見致シタノデアリマス、其數
字ニ對シマシテ、私達ハ此修正ヲ致シマシ
テモ、昨日前田房之助君ニ依ッテ確メラレマ
シタ如ク、大體ノ見當トシテ、四、五、六
ノ平均ヲ取ルコトニ依ル減額、竝ニ稅率ヲ
動カスコトニ依ル減額ハ、合セテ二百五六
十万圓見當ト云フコトデゴザイマス、私共
ノ想像スル五千万圓ヲ標準ト致シマシテモ、
二百五六十万圓、縱シ三百万圓減ッテモ、尙
ホ豫算ノ數字ノ三千万圓ト云フ所ニハ相當
ノ開キガアルコトハ、說明ヲ俟タナイ事實
デアリマス、尙ホ此點ニ付キマシテハ、豫
算ノ見積ト云フコトガ、新シク稅ヲ起ス場
合ニハ非常ニ困難デアルト云フコトハ、私
モ政府ニ對シテ同情ヲ致シマス、併シ政府
ハ、都合ノ好イ時ニハ御引合ニ出シテ居ル
戰時利得稅ニ付キマシテ、收入ノ見積ニ付
テハ知ラヌ顏ヲサレテ居ルト云フノハ、不
屆千萬ト思フノデアリマス(拍手)焉ンゾ知
ラン、戰時利得稅ハ大正七年カラ大正十一
年ニ至ル間ニ於テ、豫算額ハ二億四百八十
万圓デアリマシタガ、實際ノ收入ハ二億八
千四百万圓、卽チ四割以上ノ增收ヲ見タト
云フコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ、況ン
ヤ中島君ノ指摘サレタル通リ、徵收技術ハ
非常ニ進ンデ參ッタノデアリマス、更ニ政府
當局ハ、大體本稅ニ付テノ御調ハ付テ居ル
ト言フニ拘ラズ、十年度豫算ヲ拜見致シテ
見マスルト、其中ニ徵稅費トシテ六十八万
二千餘圓ヲ見積ッテ居ルノデアリマス、攻道
具ハ揃ッデ居ルデハゴザイマセヌカ(拍手)
私ハ言葉尻ヲ捉ヘテ申スノデハアリマセヌ
ガ、松村光三君ガ、若シ此豫算以上ニ歲入
ガアッタ場合ニハドウスルカト云フコトヲ、
大藏大臣ニ御尋致シマシタ場合ニ於テ、公
債ノ減額ニ當テラレルト申サレマシタ、無
論假定的ノ問題ニ對スル假定ノ御答デゴザ
イマセウガ、私達ハサウ考ヘルカハ別問題
トシテ、ドウヤラ增稅ガアルト云フ御考ガ
仄見エルノデアリマス、私達ハ斯樣ナ意味
ニ於キマシテ、私達ノ狙ヒトスル豫算ノ見
積ニ對シテハ、此修正ヲ加ヘテモ、斷ジテ
豫算ノ實行ニ差支ノ起ルヤウナコトハナイ
ト主張シテ居ルノデス、然ルニ先程矢野君
ノ議論ヲ承ッテ見マスルト、減收ニナルト
云フ點ニ力ヲ入レラレテ居リマスルガ、ソ
レナラバ中島君ノ質問ニ對シテ確タル御確
メヲシタ後ニ、アノ結論ヲ御聞キ致シタ
カッタノデアリマス、中島君ハ五千万圓ニ
ナルヂヤナイカト言ハレタ、前田君ハ減額
ヲ質サレタノデアリマス、又現在ノ狀況デ
アッタナラバ、將來ドウナルカト云フ意味
ノ御質問モアリマシタ、ケレドモ民政黨ガ
自信ヲ持ッテ御考ニナリマシタ、大體見當
付ケラレタル五千万圓ト云フモノヲ、俄
政府見積ノ三千万圓ニ下ゲルト云フコト
ハ、餘リニ大膽デハナイカト私ハ考ヘルノ
デアリマス(拍手)況ヤ負擔ノ問題デス、國
民ニ課カル負擔ガ少クナレバ宜イト云フ意
味ニ於テ取ル場合ニ於テ、減額ノ論議ヲ進
メテ行クト云フノガ、衆議院ノ本能デハゴ
ザイマスマイカ(「ヒヤ〓〓」)念ノ爲ニ申
シマス、ソレナラバ何故政友會ハ、豫算ニ
揭ゲタ三千万圓ヲ認メタノデアルカ、此點
モハッキリ申上ゲナケレバナリマセヌ、私
達ハ先程來申シマシタヤウニ、豫算ノ見積
ハ寡少デアルト思ヒマス、併ナガラ之ヲ三
千万圓ヲ五千万圓、六千万圓ニスルト云フ
コトハ、衆議院ノ權能トシテ許サレタル事
デハゴザイマセヌ、故ニ用心深ク、島田
俊雄君ハ豫算總會ニ於テ、利得稅ノ數字ヲ
認メルト云フコトヽ利得稅ノ本質ニ付テ
原案ヲ認メルカ、修正スルカト云フコト
ハ、別箇ノ問題デアルト云フコトヲ申サレ
タ所以デアリマシテ、吾々ガ三千万圓ヲ認
メタト云フノハ、三千万圓以上ノ額ヲ削ル
コトガ出來ナイト云フ意味デ、何等此處ニ
出シタ修正論ト矛盾シタ點ハナイト云フコ
トヲ中上ゲテ置キタイノデアリマス
私達ノ不滿ハ、負擔ノ公平ニ關スル以外
二、產業上ノ見地カラ修正ト決議トヲ以テ
セントスルモノデアリマス、是ガ第二ノ論
點デアリマス、勿論產業主義ニ關スル問題
ハ、只今申述べマシタ負擔ノ公平ニ關スル
問題ト相關聯シタ點ガアリマスガ、基準年
度ヲ改メナケレバナラヌト云フヤウナ議論
ハ其一デアリマス、一體金融資本ニ對シ
テ、產業資本ガ不安定デアルト云フコト
ハ、我黨ノ森田君、大山君、松村君、小笠
原君ニ依ッテ主張サレ、國民同盟ノ中村繼
男君ニ依ッテ指摘サレタ通リデアリマス、
產業ノ進展ニ留意シ、金融偏重ノ弊ヲ防グ
ベキヲ事トスル私達ハ、此意味ニ於テ特ニ
產業主義ヲ强調致シタイノデアリマス、ケ
レドモ長ク御述ニナッタ矢野君ノ御說ノ、
若芽ヲ摘ムト云フ議論ト、修正案ノ此點
ニ亙ッテ居ル問題トハ、私達ノ考方モ違ッテ
居リマスルシ、討論ノ範圍ニモ屬シテ居リ
マセヌノデ、私ハ私達ノ主張ヲ第一ニ述べ
タイト思フノデアリマス
政府ノ原案ニ於キマシテハ、事業會社ニ
於キマシテ、不況時ニ際會シ、努メテ整理
ヲヤリマシテ、資本金ヲ減少シタモノニ對
シ、其然ラザルモノトノ區別ヲシテ居リマ
セヌ、折角整理シタ會社ハ、却テ高イ稅ヲ
課ケラレルト云フヤウナ理詰メニナルノデ
アリマス、不道理是ヨリ甚シキハナイト存
ジマス、隨テ斯樣ニ減資シタモノニ對シマ
シテハ、減資前ノ資本金ヲ以テ計算スルト
云フヤウニ改メクイト思フノデアリマス、
卽チ私達ノ主張ハ、產業ノ健全ナル發達デ
アリマシテ、水膨レ主義ヲ裏書シヨウト云
フヤウナ、產業保護ノ精神デハナイノデア
リマス、同樣ノ見地ニ立チマシテ、增資ニ
對シマシテモ、ソレガ脫稅ノ目的ヲ達スル
コトヲ恐レマシテ、玆ニ修正ヲ加ヘントス
ルノデアリマス、卽チ政府原案ニ於キマシ
テハ、資本金ヲ增シテ利益ヲ少クスレバ、
稅ノ課カルコトガ少クナリ、而モソレハ富
豪ナド所謂資本家ニ於テ行ヒ易イコトデア
ルニ拘ラズ、法文トスルコトノ困難ナルコ
トヲ唯一ノ理由トシテ規定サレテ居リマセ
又、隨テ私達ハ本法施行後ニ、本稅ヲ免レ
ル目的デ增資スルヤウナ會社ニ對シマシテ
ハ、新設會社ノ場合ト同樣ニ、百分ノ七ノ
控除ダケヲ認ムルコトニ改メタイト云フノ
デアリマス、此點ニ付キマシテ、先程來矢
野君ノ御說明ヲ承ッテ見マスルト、主タル
點ハ實例ニ乏シイ、或ハ結局空文ニナルデ
ハナイカト云フヤウナ御言葉デゴザイマシ
タガ、是ハ事實問題デアリマシテ、私達ハ
サウ云フ場合ノ起ルベキコトガ豫見サレル
カラ、而モ惡辣ナル富豪根性ト云フモノガ
考ヘラレマスルニ依ッテ、斯ルコトノ起ル
ベキ豫見ノ下ニ、此稅法ヲ用意ヲシテ置ク
ト云フコトハ、健全ナル產業主義ヲ旗印ト
スル私達ノ爲サナケレバナラナイコトデ
アルト思フノデアリマス、先程矢野君ノ經
濟論ノ中ニ於テ、現在ノ色々ナ事業ト云
フモノハ、相當ニ根ヲ張ッタ、恆久的性質
ガアルト云フコトヲ申サレマシテ、三千万
圓ヤ五千万圓ノ稅位ト云フコトヲ言ハレマ
シタガ、恐ラク是ハ私ガ言葉尻ヲ捉ヘルノ
ガ惡イカ、若クハ矢野君ノ言過ギデアッタ
カト存ジマス、何トナレバ現在ノ織物消費
稅ハ幾ラアリマスカ、三千三百万圓デアリ
マス、營業收益稅ト云フ一般的ノ稅ガ幾ラ
アリマスカ、五千万圓デアリマス、五千万圓ニ
對シテ三千万圓ガ誰ガ少イト言フノデゴザ
イマセウカ、三千万圓ヤ五千万圓ノ稅ヲ課ケ
テモ宜イト仰シヤル如キハ、私達ト血ノ一滴
マデ違ッテ居ルト言ハナケレバナラナイノデア
リマス(拍手)併シ問題ハ矢張收入ノ點ニ關聯
シテ來マス、此點ハ矢野君ハ申述べラレナ
カッタノデゴザイマスガ、減資ノ場合ヲ認
メ增資ノ場合ヲ認メルト致シマシタナラ
バ、ソコニ收入ニ響ガ來ルデハナイカト云
フコトモ考ヘナケレバナリマセヌ、此點ニ
付テハ大藏省當局ニ於テモ、確タル御計算
ガ無イトノコトデゴザイマス、私達ハ大マ
カニ見マシテ、トン〓〓ニ行クト思ヒマス
ルガ、併シ大體ニ於テハ增稅ヲ免レルコト
ニ依ル增資ガ相當ニ上ルデハナイカトモ考
ヘテ居ルノデアリマス、併シ減ズル場合ニ
於テノミ問題トナルノデゴザイマスカラ、
其點ハ深ク立入ッテ御說明申スニモ及ブマ
イト思フノデアリマス
斯樣ニ私ハ負擔ノ公平ト產業主義ノ見地
カラノ修正ニ續キマシテ申述ベタノデアリ
マスガ、第三點トシテ、本稅ノ臨時的收入
ナル見地カラスル論點ニ及バナケレバナリ
マセヌ、本稅ハ臨時稅デアリマス、然ルニ
政府ハ原案ニ見ル通リ、當分ノ內之ヲ行フ
コトヽナッテ居リマシテ施行期限ヲ限ッテ居
リマセヌ、サウシテ初年度ハ幾ラ、平年度
ハ幾ラト云フヤウナ歲入計畫ヲ樹テラレ
テ、何トナク相當長期ニ亙ッテ課ケラレル
ヤウナ感ジヲ與ヘルト云フコトハ、本稅ノ
本質ニ顧ミテ避クベキコトヽ思フノデアリ
さく、臨時的ノモノデアルト云フコトヲ、
ハッキリサスト云フコトハ、事業ニ關係スル
者ニ取ッテハ、特ニ必要ナコトデアルト存ジ
やく、又政府ト致シマシテモ、稅制整理ヲ
スルト云フ建前ノ下ニアル限リニ於テハ、
嚴格ナル意味ニ於テ施行年度ヲ限ルノガ當
然カト思ヒマス、況ヤ國民負擔ノ審議ニ當
ル衆議院ノ審議權ヲ尊重スル意味ニ於キマ
シテモ、之ヲ限定スルト云フコトハ、當然
過ギル程當然デアルト考ヘルノデアリマス、
併シ問題ハ其事ヨリモ臨時收入ナル點ニ付
テ、其使途ヲドウスルカト云フコトガ、私
達ノ特ニ注意ヲ拂ッタ點デアリマス、端的ニ
申シマスレバ、私ハ最初ニモ一言觸レテ申
シマシタル通リ、本稅ハ不本意ナガラ認メ
ルニ致シマシテモ、時局ノ影響デ儲ケタモ
ノハ、時局ニ因ル被害者、特ニ農村、中小商工
業者ヲ救フ爲ニ用フベキモノデアルト思フ
ノデアリマス(拍手)今ノ經濟界ヲ跛行經濟
デアルト言フ、而モ足ノ長イ方ノ榮エテ居
ル方面ハ、矢野君ニ依レバ恆久的ニ足ガ長
イノデアルト言ッテ居ル、縱シ其點ハ除ケテ
モ、長イ足ニ稅ヲ課ケルナラバ、ソレヲ以
テ短イ足、卽チ農村、中小商工業者ヲ救フ
ト云フノハ、當然ノ論理デハゴザイマスマ
イカ(拍手)私達ガ農村ノ現狀ヲ、唯事ナラ
ザルモノト見マシテ、是ガ更生救濟ヲ叫ン
ダノハ、過去二三議會ヲ通ジテ一貫セル精
神デアリマス、本年ノ豫算ノ審議ニ當ッテモ
之ヲ主張致シマシタ、僅ニ政府ガ私達ノ精
神ノ一端ヲ御容レニナリマシテ、玆ニ今迄
少シモ顧ミナカッタト言ッテ宜イ地方財政補
整ノ問題ヲ、內閣審議會ニ掛ケルト云フ所
マデ參リマシタコトハ、心機一轉、心境ノ
一大進化デアルト私ハ思ヒマス、併ナガ
ラ私達ノ信念ハ、政府ノ御考ニナルヤウ
ナ、内閣審議會ニ掛ケルト云フヤウナ理窟
ト、裕リノナイモノデアルト考ヘテ居ルノ
デアリマス、地方財政ヲ救フト云フコト
ハ、審議ヲ俟タズシテ明カト何故言フカト
云フト、例ヘバ問題トナル地方稅ヲ整理シ
ナケレバナラヌト云フノデゴザイマスガ、
整理シタナラバ公平ハ得ラレルカモ知レマ
セヌガ、元々收入ノナイ、稅ノナイ者ニ對
シテ、之ヲ一升ノ枡ニ二升ノ水ハ盛レナイ
ト同ジ理窟デ、ドウスルコトモ出來ナイノ
デアリマス、歲出ニ付テノ整理モ考慮シナ
ケレバナラヌト申シマスルガ、何ガ爲ニ地
方財政ガ膨脹シタカト云フ、重大ナル原因
ノ一ツハ、國家ガ地方ニ押付ケタ所謂委任
事務ガ、山ヲ成シテ來タカラデハゴザイマ
セヌカ(拍手)更ニ最近ノ事實トシテ、恐ル
ベキ、吾々ノ戒心シナケレバナラヌ問題
ハ、時局匡教費、災害事業ト言ッテ、國家ノ
名ニ於テ、不景氣ヲ凌ギ、或ハ災害ヲ直ス
ト言ッテヤリマシタガ、場合ニ依レバ半分
以上ノ負擔ヲ、地方財政ニ押付ケテ居ルト
云フコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ(拍手)
一言ニシテ言ヘバ、今日ノ地方財政ハ、
皮剝ケバ實ニ慘澹タル、見ルモ憐レナ、聞
クモ情ケナイ狀況ニアルト云フコトヲ考ヘ
ナケレバナリマセヌ(拍手)私達ガ審議ヲ待
チ得ザル事情ト云フノハ、斯ノ如キ關係ニ
アルカラデアリマス、念ノ爲ニ申シマス、
唯單純ニ地方財政ノ爲ニバラ撒クト言フノ
デハアリマセヌ、談合ヲヤルノデハアリマ
セヌ、ドウシテモ埋メラレナイ穴ヲ埋メヨ
ウト云フノガ此精神デアリマス、一步ヲ讓
リマス、內閣審議會ニ掛ケテ成案ヲ得ル、
ソレ迄ノ繫ギガアレバ宜イト云フコトノ御
說ヲ承リマス、併ナガラ其繫ギノ材料ノ
端トシテ御出シニナッテ居ル低利資金ニ付
キマシテハ、之ヲ借リラレナイヤウナ町ガ
アル、借リラレナイ村ガアルト云フコトヲ
考ヘナケレバナリマセヌ、イヤ借リラレナ
イ村ガアリ、町ガアルナラバ、借リルコトノ
出來ル府縣デ借リルヤウニシクナラバ宜イ
ト申サレマスガ、代ッテ借リラレナイ府縣ガ
アッタナラバ、之ヲ何トスルノデゴザイマセ
ウカ、私ノ考ヘル所ニシテ誤リガナイト致
シマシタナラバ、例ヘバ沖繩縣ノ如キ、鳥
取縣ノ如キ、或ハ高知縣ノ如キモ、此一部
ニ屬スルデハナイカト考ヘルノデアリマス、斯
樣ナ意味ニ於キマシテ、私ハ能ク世間デ言
ハレマシタ本稅ヲ以テ目的稅トスルノガ、
場合ニ依ッテハ然ルベキカトモ考ヘタノデ
アリマス、國稅トシテノ目的稅ハ、其例ガ
乏シイノデアリマスルガ、尙ホ明治三十七
年ノ非常特別稅法、或ハ少シク變態デハ
アリマスルガ、現行競馬法ノ如キニ、其例
ヲ求メルコトガ出來ルノデアリマス、ケレ
ドモ之ヲ目的稅化スルト云フコトハ、同時
ニ豫算ノ財源ヲ補充スル意味ニ於テ、赤字
公債法ヲ修正シナケレバナリマセヌ、尤モ豫
算以上ノ收入ガアリ、ソレガ三千万圓ヲ埋
メルトカ、或ハ更ニ地方財政補整ノ目的ノ
爲ニ出シ得ル餘地ガアルトシタナラバ、實
質上ニ於テハ、打遣ッテ宜イコトデゴザイ
マセウガ、形式上豫算トノ辻褄ヲ合ス關係
ニ於テハ、赤字公債法ノ修正ヲ要スルト思
フノデアリマス、併ナガラ赤字公債法ヲ修
正シ、本稅ヲ目的稅ト致シマシテモ、現實
ニ地方財政補整等ノ目的ノ爲ニ支出スルニ
當リマシテハ、中上ゲル迄モナク公債ヲ募
ルニ付テノ特別會計ニ、歲入歲出ヲ見積ラ
ナケレバナリマセヌ、其得タ歲入ヲ一般會
計ニ渡シテ、地方財政補整ノ目的ニ出ス場
合ニ於テハ、是亦一般會計ニ於ケル歲入歲
出ノ見積ヲ要スル譯デアリマス、端的ニ申
上ゲマシタナラバ、法律ヲ作リマシテモ、
豫算ガ無カッタナラバ實行シ得ラレナイ、凧
ハアッテモ絲ガナケレバ揚ラナイ道理デア
リマス、而モ其歲出豫算ノ提出權ハ政府ニ
ノミ與ヘラレタ所デアリマスカラ、私達ハ
玆ニ政治道德トシテ、又農村認識ノ此際ニ
於テ、政府ハ考ヘラレマシテ、此決議ノ案
ニアル如ク、速ニ窮迫セル地方財政補整ノ
途ヲ講ズベシト云フ附帶決議ヲ以テセント
スルノデアリマス
私ノ法文ノ修正竝ニ附帶決議ニ對シテノ
趣意ハ斯ノ如クデアリマシテ、甚ダ行キ過
ギタル批評ヲ矢野君ニ致シマシタカモ知レ
マセヌガ、大體ニ於テ論駁ヲ終ッタ積リデ
アリマス、私達ノ主張ハ、單ニ世間デ言ハ
レル如ク、單純ナ技術的修正デナイト信ジ
テ居リマス、殆ド體ヲ成シテ居ナイト思ハ
レル政府ノ原案ニ對シテ、生命ヲ吹キ込マ
ウトスルモノデゴザイマスカラ、ドウゾ此
意味ヲ御諒解ナスッテ、御贊成アランコト
ヲ偏ニ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=53
-
054・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 中村繼男君
〔中村繼男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=54
-
055・中村繼男
○中村繼男君 只今議題トナッテ居リマス
ル臨時利得稅ニ付キマシテ、私共ノ修正ノ
要點ヲ說明ヲ致シ、政友會ノ修正案ト吾々
ノ案トノ違フ所以ヲ、御說明ヲ致シタイト
思フノデアリマス
時局ノ影響ニ依ッテ特別ノ利益ヲ得タモ
ノニ對シマシテ、特別ノ負擔ヲ命ズルト云
フコトハ、負擔均衡ノ上カラ致シマシテ
モ、亦國民ノ思想上カラ致シマシテモ、極
メテ機宜ノ處置デアルト言ハナケレバナリ
マセヌ、隨テ私共ハ特ニ此利得稅ノ創設セ
ラレンコトヲ力說致シテ居ッタ者デアリマ
ス、本年ニナッテ初メテ實行スルガ如キハ、
寧ロ其遲キニ失スル憾ミガアルト考ヘル者
デアリマス、併ナガラ利得稅ト云フモノハ
稅金デアル、金ヲ儲ケタ人カラ寄附金ヲ募
ル問題トハ違フノデアリマシテ、所謂一ツ
ノ稅金デアリマス以上ハ、稅金ノ根本原則
デアル所ノ、負擔ノ均衡ヲ圖ルト云フコト
ニ付キマシテハ、是ハ最モ嚴肅ニ其原則ヲ
遵守致サナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス(拍手)然ルニ政府提出ノ原案ニ依リマス
ト云フト、其點ガ甚シク不十分デアル、負
擔ノ不權衡ヲ來スノハ勿論ノコト、之ヲ極
言致シマスルナラバ、應能負擔ト云フ原
則ヲ引ッ繰返シテ、無能負擔ニ逆轉セシメ
テ居ルカノ如キ感ガナイデハナイノデアリ
マス、ソレハドノ點デアルカ、先程太田君
モ餘程此點ニ付テ觸レタカッタデアラウト
私ハ考ヘテ居ッタガ、核心ニ行カナカッタ、
枝葉ノ點ヲ廻ッテ居ラレル、一番此稅法ノ癌
トスル所ハドノ點デアルカト云フト、所謂
基準年度ノ利益ト云フモノヲ目標ニ致シ、
今度施行セラレタル後ニ於ケル年度ノ利益
ト之ヲ對照致シマシテ、基準年度ノ利益ガ
多ケレバ多イ程、利得金額ハ少ク計算スル
ト云フコトニナッテ居ル、又基準年度ニ利
益ガ小デアレバ、利得金額ハ益〓大ニナル
ト云フ計算方法ニナッテ居ル、此點ガ此利
得稅ヲ通ジテノ一大癌デアルト言ハナケレ
バナラヌ、之ヲドウ直シテ行クカト云フコ
トガ、是ガ本利得稅案ニ對スル所ノ眞面目
ナ檢討デアリ、ソレガ眼目デハナクテハナ
ラヌト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)
御承知ノ如ク法人ニアリマシテハ、昭和五
年ト六年トヲ基準ト致シマシテ、其利廻ノ大
小ハ構ハナイ、三割儲カッテ居ラウガ、一割儲
カッテ居ラウガ、基準年度ノ其利廻ハ之ヲ構ハ
ナイデ、利得金額ダケ計算スル、詰リ儲ケタ
モノハ餘計引イテヤル、儲ケノ少イモノハ少
シシカ引イテヤラヌ、斯ウ云フコトニ依ッテ、
而モソレニ對スル所ノ稅率ハ、千篇一律ニ百
分ノ十トシテ計算シテアルノデアリマス、個
人ノ方ハ御承知ノ通リ昭和五年、六年ノ平均
利得金額ノ大小ハ最モ構ハヌ、此昭和五
年、六年兩年ノ平均所得ヲ基礎トシテ、利
得金額ヲ計算致シマシテ、稅率ハ矢張百分
ノ十デアルト云フコトニナッテ居ル、此昭
和五年、六年ヲ基準年度トスベキヤ否ヤト
云フ點ニ付キマシテハ、是ハ委員會ニ於テ
モ非常ナ議論ノアッタ點デアリマスルシ、只
今モ政友會カラ之ニ對シテ四年度ヲ加ヘ
テ、四年、五年、六年ト云フモノヲ基準ニ
シナケレバナラヌト云フ御說明ガアッタノ
デアリマス、成程四年ヲ加ヘタナラバ、モッ
ト公正ニ行クデアラウト云フヤウナコトニ
ナルカモ知レマセヌ、併ナガラ四年ヲ加ヘ
テ見マシテモ、四年、五年、六年ノ利益ノ
大小ニ應ジテ、其儘ヲ大キイモノハ大キク
引イテヤルト云フコトニナッテ來マスナラ
バ、四年ヲ加ヘタガ爲ニ、此臨時利得稅法ノ
癌ハ除カレタト云フコトハ出來ナイ(「ヒヤ
ヒヤ」)何年ヲ加ヘテ見テモ、此基準年度ノ
利廻ハ其儘引イテヤルト云フヤウニナッテ
居ッタナラバ、百年經ッテモ是ハ利得稅ノ癌
ハ除カレナイノデアリマシテ、只今太田君
ハ、此點ニ付テ非常ニ御利益ガアルヤウニ
御說明ガアッタノデアリマスガ、其御利益タ
ルヤ、唯僅ノ零レタ人間ヲ救フ位ノ效果ハ
アリマセウ、併ナガラ利得稅全體ヲ通ジテ
ノ、此制度ノ不完全ト云フコトヲ補ッテ行
クト云フコトニハ、是デハナラナイト私共
ハ言ハナケレバナラナイノデアリマス(拍
手卽チ何レノ年度ヲ採リマシテモ、二年
間ヲ採ッテモ、三年間ヲ採ッテモ、其基準年
度ニ多額ノ利益ガアルモノト、然ラザルモ
ノト、又ハ全然利益ノ無カッタモノトノ間ニ
ハ、負擔力ニ厚薄ノ差ヲ生ズルト云フコト
ハ、是ハ必然的ノコトデアル、然ルニ政府
案デハ、此負擔力ト云フコトニ何等考慮ヲ
拂ッテ居ラヌ、唯政府ノ最モ得意トシテ、之
ニ對シテ陳辯ヲ致サレマスル所ハ、此點ニ
關スル緩和規定トシテ、法文ノ上デ基準ノ
年度ニ於テ利益ガ無カッタモノ、又ハ利益ガ
非常ニ少クシテ、資本金額ニ對シテ七分以
下デアッタ場合ニハ、其平均利益ハ之ヲ七分
ト看做シテヤルト云フ規定ヲ申サレマス、
又個人ニアリマシテハ基準年度ノ平均利益
ガナイカ、又ハ平均利益ガ三千圓未滿デアッ
タ場合ニ於テハ、三千圓トシテ之ヲ計算シ
テヤルト云フノガ、大ニ之ニ依ッテ緩和スル
コトガ出來タノデアル、斯ウ主張サレテ居
リマス、併シソレダケデハ甚ダ不十分デア
ル、卽チ昭和五六年ニ於キマシテ、法人デ平
均資本ニ對シテハ、一割モ、一一割モ、乃至三割
モ儲カッテ居ル所ノ會社ガ相當多數ニアルコ
トハ、大藏省ガ發表シテ居ラレマス所ノ稅額
表ニ明ニ示サレテ居ル所デアリマス、然ル
ニ昭和五六年ニ於キマシテハ、一方ハ所謂
不況ノドン底デアル、其爲ニ一般商工業ニ
アッテハ利益ノ割合ガ七分以下デアルトカ、
或ハ又ハ缺損デアルト云フモノガ甚ダ多イ
ノデアリマス、卽チ昭和五六年ト云フモノ
ハ、經濟界ガ亂高下ノ狀態ニナッテ居ル、亂
高下ノ狀態ニナッテ居ルニモ拘ラズ、政府案
ニ依リマスレバ、七分ヲ以テ限界線トシテ
仕切ッテシマッタ、法人ニアッテハ昭和五六年
ニ於テ平均利益ガナイカ、又ハ利益ガ七分
以下デアッタモノハ七分ニ止メテシマフ、サ
ウシテ二割、三割ノ儲ケガアッタモノハ、其
儘二割、三割ノ儲ケヲ、現在ノ利益ヨリ控
除シテヤルト云フコトニセラレタノデアリ
マン、個人ニアッテハ矢張同樣ノ方法ヲ以
テ、昭和五年六年ニ利益ノ無カッタモノハ、
三千圓トシテ三千圓迄ハ引イテヤルト云
フ、緩和規定ヲ作ラレタノデアリマス、卽
チ此結果トシテ昭和五年六年ノ利益ガ大デ
アレバアル程、法人モ個人モ共ニ利得金額
ハ少クナッテ、負擔ハ輕減サレル、斯ウ云フ
コトニナル、是ニ於キマシテ考ヘナケレバ
ナリマセヌノハ、此基準年度ヲ變更サレル
事實、又ハ控除步合七分ヲ八分ニ直スト云
フヤウナコトノ變更デハ、此負擔ノ不權衡
ト云フコトヲ是正スルト云フコトハ困難デ
アル、何トナレバ法人ノ限定控除步合七分
ヲ八分ニ上ゲテ見マシテモ、昭和五年六年
ノ利益ガ八分未滿ノモノト、ソレヲ超スモ
ノトノ間ニ、此不權衡ハ矢張出テ來ル、又
個人ノ方ノ控除金額三千圓ト云フモノヲ四
千圓ニ上ゲタト假定致シマシテモ、矢張是
ハ五年六年ノ所得ガ四千圓以下ノモノト、
ソレ以上ノモノトノ間ニハ、同ジク不權衡
ガ生ジテ來ル、是ニ於キマシテ所謂同ジ利
得金額計算上生ジテ來ル所ノ此不權衡ト云
フモノハ、稅法其モノガ或ル一定ノ時期ヲ
目標ト致シ、ソレカラ儲カッタモノダケニ
付テ課稅ヲシヨウト云フ、此見地ニ立ッテ
居リマス以上ハ、是ハ已ムヲ得ナイト言ハ
ナケレバナラヌ、併ナガラ其負擔ノ力ガ違
フト云フコトハ、是ハ爭フベカラザルモノ
デアル、基礎ノ鞏固ナルモノト、サウデナ
イモノトガ、負擔力ノ違ヒガアルト云フコ
トハ、是ハ看遁スベカラザル事實デアリマ
スカラ、之ニ對シテ正當ナル匡救策ガアル
ト致シマスナラバ、卽チ其負擔能力ニ適應
セシムベキ適當ノ修正策ガアルトスルナラ
バ、是ハ所謂已ムヲ得ザル所ノ缺陷ヲ補正
シ得ルト云フコトニナルノデアリマシテ、
是ハ帝國議會トシテハ當然執ルベキ責任ダ
ト言ハナケレバナリマセヌ
是ニ於テ私共ハ斯ウ云フ修正案ヲ出シテ
居ル、卽チ法人モ個人モ共ニ昭和五年、六
年ノ平均利益ノ大小ニ應ジテ、其稅率ニ等差
ヲ設ケナケレバイカス、是ガ私共ノ修正ノ
第一點デアリマス、斯ク申シマスト云フト、
昭和五年、六年ノ利益ヲ基礎トシ、或ハ其
利廻ヲ基礎トシテ稅率ニ等差ヲ設クルト云
フト、直チニ多クノ人々ハ、ソレナラバ超
過累進稅ヲ取ルノカト、斯ウ云フ風ニ誤解
サレル、是ハハッキリ申シテ置カナケレバナ
ラヌ、私ノ此處デ主張ヲ致シテ居リマスル
所ノ、稅率ノ等差ヲ設クルト云フコトハ、
超過累進ノ稅率ニ非ズシテ、昭和五年、六
年ニ於ケル所ノ利益ノ狀態ヲ基礎ト致シテ、
ソレニ依ッテ稅率ヲ上ゲヨウト云フノデア
ル、現在ノ利得金額ノ大小ト云フモノハ、
私共ノ眼目デハナイノデアル、之ヲ例ヲ以
テ、簡單デアリマスカラ申上ゲマスルト云
フト、同ジ百万圓ノ會社ガ二ツアッタト假定
シマス、一方ハ昭和五六年ニ三割儲カッテ
居ッタ、一方ハ利益ガ無カッタ、斯ウ假定
シテ行キマスト云フト、利得ノ計算
ハドウナルカト言ヘバ、先ヅ甲ノ百万圓
ノ方ハ三十五万圓儲カッタト假定シマス、三
十五万圓儲カッタト假定致シマスルト、基準
年度ノ利廻ガ三割デアリマスカラ、百万圓
ノ三割、三十万圓ヲ控除シマスカラ、殘ル
所ハ僅ニ五万圓ト云フモノガ利得金額ニナ
ル、乙ノ會社ハ利廻ハ七分、資本金ハ同ジ
ク百万圓デアル、此場合ニ所得金額ハ二十
万圓アッタ、サウスルト二十万圓カラ控除ヲ
受クベキ金額ハ百万圓ノ七分デスカラ、七
万圓差引十三万圓ガ利得金額ト云フコトニ
ナル、卽チ同ジ資本金デ、一方ハ三十五万
圓儲カッテ居ルニモ拘ラズ、利得金額ハ五万
圓ニナッテシマフ、一方ハ同ジ資本金額デ二
十万圓シカ儲カッテ居ラヌ、十五万圓モ少イ
儲ケデアルニモ拘ラズ、利得金額ハ十三万
圓、卽チ甲ヨリモ八万圓モ多イ負擔ヲシナ
ケレバナラナイ、之ニ同一ノ稅率ヲ課スル
ト云フコトハ、適當デハナイデバナイカ(拍
手)是ガ私共ノ難點デアリマス、超過累進
デハナイ、超過累進ナラバ、十三万圓ノ利
得金額ノ方ニ重イ稅金ヲ課ケナケレバナラ
ヌト云フノデアルガ、ソレガ此場合ニ於テ
ハ寧ロ反對デアル、卽チ多クヲ引イテ、少
ク殘シタ所ノ利得金額ニ對シテハ高イ稅率
ヲ適用シロ、僅カバカリ控除シテ、多ク殘
シタ所ノ利得金額ニ對シテハ、低イ稅率ヲ
適用シテ行カナケレバナラヌト云フノガ、
是ガ私共ノ此稅法ノ核心ニ觸レタ所ノ修正
案デアルト考ヘル(拍手)之ヲヤラナイ以上
ハ、如何ナル方法ヲ以テ致シマシテモ、此
利得稅計算上ノ缺陷カラ生ジテ來ル所ノ負
擔ノ不公正ト云フモノハ、斷ジテ是ハ除去
スルコトハ出來ナイト言ハナケレバナリマ
セヌ(拍手)卽チ政府案ニ依リマスト、其擔
稅力ノ大小ヲ構ハナイデ、千篇一律ニ稅率
ヲ百分ノ十トシタ所ニ、卽チ二重ノ缺陷ガ
アルト言ハナケレバナラヌノデアリマス、
私共ハ此點カラ利得金額計算上ノ缺陷ハ、
稅法ノ性質上巳ムヲ得ナイ部分ハアルガ、
併ナガラ稅率ノ變更ニ依ッテ、是ガ舵ヲ取ッ
テ行カナケレバナラヌト云フコトヲ主張致
シマシテ、法人ニアリマシテハ基準年度ノ
利益ガ七分以下デアルカ、或ハ又利益ノ無
イモノニ對スル稅率ハ百分ノ七、五、同ジ
ク七分以上、卽チ基準年度ノ利益ガ七分カ
ラ一割マデノモノニ對シテハ、百分ノ十ノ
稅率ヲ適用シ、基準年度ノ利益ガ一割以上
ヲ超過スルモノ、卽チ基礎ノ最モ鞏固デア
ルト認メラレル所ノ法人ニ對シテハ百分ノ
十二ノ稅率ヲ適用致シ、個人ニ在ッテハ、其
基準年度ニ於ケル平均利益ガ無キ場合カ、
或ハ六千圓以下ノモノニ對シマシテハ、
番低イ百分ノ七·五ヲ適用シ、六千圓ヲ超エ
テ一万圓以下ノモノニハ百分ノ十ヲ適用ス
ル、五六年ノ平均利益ガ一万圓ヲ超エルモ
ノニ對シテハ、百分ノ十二ト致シ、各^擔稅
力ニ卽シタ所ノ課稅ヲ爲スト云フコトガ、
私共ノ修正ノ第一點デアリマス、政友會ハ
此點ニ付キマシテ、單ニ法人ヲ十ト致シ、
個人ヲ七·五トスルト云フ修正ノ意見ヲ御
出シニナッテ居ルノデアリマス、勿論法人ノ
負擔力ト個人ノ負擔力ニ多少ノ差ガアルト
云フヤウナコトハ、一ツノ理窟デハゴザイ
マセウ、併ナガラソレヨリモ此稅法ノ最モ
大ナル〓陷、癌トモ言フベキ點ヲ修正スル
ト云フコトガ修正ノ最大ノ眼目デナケレバ
ナラヌ(拍手)然ルニ政友會ノ諸君ガ、其最
モ大ナル癌デアル其點ニ、メス」ヲ入レラレ
ナカッタト云フコトハ、洵ニ私ハ返ス〓〓モ
殘念ニ堪ヘナイト考ヘテ居ルノデアリマス
(拍手)
次ニ新增加資本、卽チ脫稅等ニ利用セラ
ルヽ虞ノアル所ノ、新增加資本ニ對スル控
除金ヲ、如何ニスルカト云フ間題デゴザイ
マスガ、是ハ政府案ニ依リマスレバ、御承
知ノ通リ新ニ增加シタル資本金ニ對シマシ
テハ、之ヲ既設ノ法人ト新設ノ法人トニ御
分ケニナッテ居ル、旣設ノ會社ニ對シマシテ
ハ、其既設ノ會社ノ昭和五六年ノ利益ガ七
分以下デアリ、或ハ又利益ノ無カッタモノニ
付テハ七分シカ引イテヤラヌ、昭和五六年
ノ利益ガ二割モ三割モアッタモノハ、增加シ
タ資本、卽チ此增加資本ニ對シマシテモ、
矢張二割、三割ト云フモノヲ引イテヤルト
云フ、非常ニ有利ナル會社ニ對シテハ、尙
ホ有利ニナルヤウナ計算ノ方法ヲ御採リニ
ナッテ居ルノデアリマス、此點ガ負擔ノ均衡
ヲ二重ニ紊ス、此會社ノ二割モ三割モ利益
ノアルモノニ對シテ引イテヤル、然ルニ資
本ガ增加シテ、愈〓資本ガ多クナレバ、ソレ
ニ對シテ又二割三割ヲ引イテヤル、其處マ
デ此增加資本ニ對シテ餘計ナ引方ヲシテヤ
ル必要ガ一體何處ニアルカ、サウ云フコト
ヲヤル結果トシテ、二三割モ過去ニ於テ儲
カッテ居ッタ會社ハ、競ウテ資本增加ヲスル
ニ至ルベキハ當然デアリマセウ、之ヲ如何
ニシテ防グカ、此問題デゴザイマスガ、私
共ノ考方ト致シマシテハ、之ヲ七分ニ限定
シテシマフ、此新ニ增加スル資本ニ付テハ、
事ノ如何ヲ問ハズ、是ガ過去ニ於テ二割儲
ケテ居ラウガ、三割儲ケテ居ラウガ、サウ
云フコトニ拘泥シナイデ、七分ダケシカ引
イテヤラナイト云フコトニ限定シテシマフ
コトガ、一番妥當デアルト考ヘテ、其修正
案ヲ出シテ居ルノデアリマス、此點ニ關シ
マシテ政友會ノ修正案ヲ見マスト、御承知
(香「其資本增加ガ臨時利得稅通脫ノ目
的ニ出デタルト認メラルルトキハ」ト云フ
コトヲ御書キニナッテ居リマス、精神的ニ、
理論トシテ、用意周到ニ斯ノ如キ修正案ヲ
出サレタト云フ心持ニハ、私ハ贊成ヲ致シ
マス、併ナガラ此脫稅ノ目的ニ出デタカド
ウカト云フコトノ認定權、之ヲ稅務署ノ役
人ニ有タセテ置クト云フコトハ、甚シイ誤
リデアルト考ヘル者デアリマス、稅務署ノ
役人ガ、時ニ納稅者ノ意見ト異ッタ考方ヲ
前カ、其爲ニ所謂稅務ニ關スル所ノ官民
ノ意思ノ疏通ヲ缺クヤウナコトガ能クアル
コトハ、皆サン御承知ノ通リデアル、而モ
亦稅務署ノ役人ガ認定權ヲ無暗ニ持ッテ
居ルト云フコトニナリマシタ場合ニ於テハ、
甲ノ稅務署ト、乙ノ稅務署ト、丙ノ稅務署
トノ取扱ハ、甚ダ統一ヲ缺キ、亂雜ヲ來シ
テ、其歸一スル所ヲ知ラヌト云フ弊害ニ陷
ルコトモ御承知ノ通リデアル、況ヤ認定權
ヲ一ツノ役人、而モ判任官程度ノ者ガ持ツ
ト云フコトニナリマシタ場合ニ於テハ、所
謂噂ヲサレテ居ル所ノ納稅者ト役人トノ間
ニ生ズル種々ノ弊害、是ガ愈〓助長サレルト
云フ結果ニナルノデアリマスカラ、斯ノ如
キ重大ナル問題ノアル認定權ヲ、稅務官吏
ニ與ヘテ置クガ如キハ、成ベク之ヲ避ケテ
行カナケレバナラヌ筈デアル、然ルニ拘ラ
ズ、此處ニ其資本增加ガ臨時利得稅、通脫
ノ目的ニ出デタルトキト云フヤウナコトヲ
書イテ、其認定權ヲ稅務署ニ委セルバカリ
デハナク、而モ(「調査會ガアルデハナイ
カ」ト呼フ者アリ)個人ニ付テハ調査會ハア
リマセヌ、「認メラルルトキハ」ト云フヤウ
ナコトヲ書イテ、サウシテ此役人ニ斯ウ云
フ風ナ危險ナ、而モ不統一ニ終ルヤウナ事
柄ニ付テノ責任ヲ持タセルト云フヤウナコ
トニハ反對デアル、況ヤ又明ニ此臨時利得
稅脫稅ノ目的ト云フヤウナコトヲ書イテ、
國民ヲ頭カラ脫稅者扱ヒヲシテ居ルガ如キ
法文ノ作方ト云フモノハ、是ハ國民的思想
ニモ影響スル所デアッテ、餘程考慮シナケレ
バナラヌト考ヘルノデアリマシテ、私共ハ
斯ウ云フ廻リ諄イコトヲ言フヨリモ、總テ
ノ法人ニ付テ、是ガ脫稅ノ目的ニ出デタノ
デアルカ、或ハ又必要ニ應ジテ擴張資本ト
シテ投ジタカト云フ一切ヲ問ハズ、全部新
シイ會社ト同樣ニ、七分ヲ以テ限定シテ控
除シテヤルコトガ、一番大切デアリ、妥當
デアルト考ヘテ居ル者デアリマス(拍手)尙
ホ其他ニ昭和六年十二月一日以前三年間ト
云フヤウナコトモ、太田君滔々トシテ其所
以ヲ力說サレテ居リマシタ、併シ是ハ先程
モ一寸申シタヤウニ、三年ニ延バスト云フ
コトハ、私共ハ贊成ハ出來ナイノデアリマ
ス、所謂臨時利得稅ト云フモノハ臨時デア
ル、或ル一定ノ時期ヲ劃シテ、其後ニ儲ッタ
特殊ノモノニ課稅シヨウト云フ本質ニ鑑ミ
テ見マスナラバ、其儲ケノアッタ成ベク直前
ノ短カイ期間ヲ取ルト云フコトガ、是ガ利
得稅ノ本質ニ鑑ミテ然リデアルト言ハナケ
レバナリマセヌ(拍手)之ヲ延長致シマシテ
三年ニ致シ、四年ニ致シ、五年ニ致スト云フ
コトニナッタナラバ、臨時利得稅ノ臨時タル
所以ハナクナッテシマフ、サウ云フコトハ是
ハ程度問題デハゴザイマスケレドモ、五年、
六年ト云フモノ自體ヲ取ッテ置クコトデ妥
當デアラウ、四年マデ引張ッテ置イテ、或ル
一部分ノ特殊ノ人達ハ之ニ依ッテ利益ヲ得
ル人ガアルカモ知レマセヌケレドモ、利得
稅本來、全體トシテノ問題カラ言ウタ場合
ニ於テハ、二年間ヲ以テ適當デアラウト私
共ハ考ヘテ居ルノデアリマス
其修正ノ第三點デアリマスガ、昭和七年一
月一日以後本法施行ニ至ルマデノ間ニ資本
ノ減少ガアッタモノハ、減少シナイモノトシ
テ計算スルト云フコトデアリマスガ、此點
ハ稅法ヲ能ク御承知デアル太田君ガ、此問
題ヲ提ゲテ堂々ト本議場ニ於テ其修正案ノ
妥當ナル所以ヲ力說サレルニ至ッテハ、少
シ私ハ驚カザルヲ得ナイ、斯ウ云フコトヲ
ヤッテ昭和七年カラ九年マデ-九年カ十
年マデカ、施行サレル迄デアリマスガ、ソ
レマデノ間ニ資本金ヲ減少シタモノハ、是
ハ減少シナカッタ、殖エテ居ッタモノト看做
ス、斯ウ云フ案デアリマス、假定デアリマ
ス、實在デナイ、無イ資本ヲ有ルトシテヤ
ルト言フ、是ガ親切心、御親切ノ點ハ御尤
デアリマスケレドモ、反對ニ昭和七年ヨリ
昭和九年マデノ間ニ旣ニ脫稅ノ目的ヲ以テ
資本ノ增加ヲヤッテ居ルモノハ、何故之ヲ認
メナイト云フ規定ヲ此處ニ同ジク入レナイ
カ、此處マデ行クト云フコトデアッタナラバ、
昭和七年カラ九年マデノ間ニ減少シタモノ
ダケハ、有ルモノト見テヤルト云フナラバ、
脫稅ノ目的等ニ依ッテ增加ヲシタモノハ、無
イモノト見ナケレバ、當然是ハ理窟ガ釣合
ハヌ筈デアル、ソレヲ一方ダケ見テ、此減
少シタル資本ダケハ之ヲ有ルモノト見テヤ
ルケレドモ、一方ノ無イニ等シイ脫稅等ノ
目的ヲ以テ增資シタモノヲ其儘置クト云フ
コトデアッテハ、是ハ課稅ノ公正ヲ得タル所
以デアルトハ言ハレナイト考ヘマス、ソレ
ノミナラズ稅法ニ於テ-私ハ獨リ臨時利
得稅ノミニ付テ申スノデハゴザイマセヌガ、
總テ稅法ニ於テ、假定ト云フコトヲ基礎ニ
シテ租稅ヲ課スルト云フガ如キ觀念ハ、是
ハ一體稅法ノ上カラ驅逐シテ行カナケレバ
ナラヌ、又斯ウ云フ認定ヲ基礎トシテ負擔
ガ減ッタリ殖エタリスルト云フヤウナコ
トハ、當局者ノ扱ヒ方、考へ方如何ニ依ッ
テ、非常ニ負擔ニ過重或ハ輕減ヲ生ズルト
云フ結果ニナルノデアリマシテ、斯ウ云フ
モノハ成ベク實在ヲ基礎トシテ課稅シテ行
カナケレバナラヌト云フ租稅本來ノ見地カ
ラ致シマシテモ、無イ資本ヲ有ルヤウニ認
メテヤルトカ云フヤウナ事柄ハ、是レ
自身ガ租稅ノ體系ヲ紊シ、或ハ負擔ノ公正
ヲ打破スル所ノ惡イ修正デアルト私ハ信ジ
テ疑ハナイノデアリマス(拍手)其次ノ第四
ハ、是ハ第二項ト同ジデアリマスカラ、改
メテ申上ゲマセヌ、次ニ「第十四條ヲ左ノ
如ク修正ス」トシテ、法人ト個人トニ御分
ケニナリマシタ、是ハ私ガ先程申シマシタ
通リ、法人ト個人ダケ分ケルト云フコトハ
意義ヲ爲サヌ、卽チ基準年度ノ利益ノ如何
ニ依ッテ、法人モ個人モ各階級ニ分クルノガ
至當デアラウ、斯ウ云フ意見ヲ申上ゲテ置
ク次第デアリマス、尙ホ本法ノ施行期間ヲ
三年間ト限ラルヽト云フ點ニ付キマシテハ、
私共ハ敢テ反對ヲ致シマセヌ、卽チ政府ハ
成ベク速ニ稅制整理ヲ實行セラレナケレバ
ナラヌ、ソレニハ或ル程度ノ背水ノ陣ヲ布
イテ、或ハ軍部ノ見透シヲ付ケル必要ガアル
ダラウ、或ハ農村對策等ニ對スル所ノ根本的
國策ヲ御決メニナル必要モアルダラウト思
フ、是ハ同時ニ餘リ調査〓究ダケヤッテ居
ラレタノデハ、是ハ全ク國民ハヤリ切レナ
イト言ハナケレバナラヌ、此意味ニ於キマ
シテ、年限ヲ相當ニ切ッテ、此間ニ背水ノ
陣ヲ布イテ、國策乃至稅制ノ整理、之ヲ實
行セラレルト云フ點ニ付キマシテハ、〓
贊成デアル、又政友會ノ附帶決議デアリマ
ス所ノ、所謂「政府ハ本法ノ施行ニ當リ產
業ノ振展ヲ阻害セザルコトニ留意スルト共
ニ速ニ窮迫セル地方財政補整ノ途ヲ講ズベ
シ」ト云フ此附帶決議ニ對シマシテハ、是
ハ太田君ノ御說明ノ通リニ、私共ハ滿腔ノ
贊意ヲ表スルモノデゴザイマス(拍手)
只今申述ベマシタヤウナ次第デアリマシ
テ、私共ノ提案ト政友會ノ提案トガ、或ハ
或ル部分ニ於テハ一致シヨウト致シテ居ル
所モゴザイマスシ、其大眼目デアル所ノ所
謂利得稅計算ノ不均衡ヨリ生ズル負擔ノ不
權衡、之ニ對シテ政友會ガ何故熱ヲ入レラ
レナカッタカ、之ニ對シテハ非常ニ遠慮ナ
サッテ居ル、其點ヲ修正シナイデ、何故此
利得稅法ヲ活カスコトガ出來ルカ、斯ウ云
フ信念ヲ有ッテ居ッテ、私共ノ修正案ニ依ル
ニアラザレバ、本當ノ利得稅ノ修正ニナラ
ナイ、斯ウ云フコトヲ斷言シテ憚ラナイト
思フノデアリマス、ドウゾ此意味ニ於テ御
贊成アランコトヲ切ニ御願致シテ已マナイ
ノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=55
-
056・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 小笠原三九郞
君
〔小笠原三九郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=56
-
057・小笠原三九郎
○小笠原三九郞君 私ハ只今議題ニナッテ
居リマスル臨時利得稅法案ニ付キマシテ、
委員長報〓ノ通リ、卽チ政友會ノ修正竝ニ
決議案ニ贊成ヲシ、政府ノ原案竝ニ國民同
盟ノ修正案ニ反對ノ意ヲ表スル者デアリマ
ス、我黨ノ主張ニ付キマシテハ、旣ニ太田
君ヨリ詳細述ベラレテ居ルノデアリマスル
カラ、私ハ極メテ簡單ニ其理由ノ一端ヲ申
上ゲルコトニ致シタイト存ズルノデアリマ
ス、順序ト致シマシテ、先ヅ政府ノ原案ヲ
支持セラレル所ノ民政黨ノ御意見ニ付テ、
少シク申上ゲテ見タイト思フノデアリマ
ス、先刻矢野君ハ、政友會ノ修正案ニ對シ
テ色々御意見ヲ申述べラレマシタガ、大體
民政黨ノ方ハ、此委員會等ニモ御出席ガ少
ナカッタノデ、多クハ假定ノ上ニ色々議論
ヲ構成サレテ御述ニナッテ居ルノデアリマ
シテ、一々私共ハ論駁ヲ加ヘル必要ハナイ
ト思フノデアリマスルガ、在來ノ御考方ニ
付テハ、此際二三申上ゲテ置ク必要ガアル
ト思フノデアリマス、私共ハ此民政黨ノ
方々ガ國民負擔ノ此重大問題ニ對シテ、委
員會等ニ於テ碌々御質問モナク、單ニ本會
議ニ於キマスル所ノ中島彌團次君ノ御質問
ニ止マリマシタト云フコトハ、餘リニ此問
題ヲ扱フニ無雜作淡白ニ過ギルモノデアル
ト考ヘル者デアリマシテ(拍手)先刻ノ又御
演說、特ニ我黨ノ修正案ニ對スル御批評ナ
ドヲ伺ヒマスルト云フト、私共ハ一層其感
ヲ强クスルノデアリマス
民政黨ニ於テ政友會ノ修正ニ反對ナサレ
ル第一點ハ、之ヲ綜合シテ申シマスルト、
基準年度ト個人ノ課稅率トニ對スル點デア
リマス、基準年度ト個人ノ課稅率トガ約二
百五十万圓ノ歲入缺陷ヲ來スカラ、此點デ
豫算ニ支障ヲ來スデアラウト云フ點カラ反
對ヲサレテ居ルノデアリマス、此事ニ付キ
マシテハ、先刻太田君ガ中島君ノ本會議ニ
於ケル五千万圓ノコトヲ述ベマシタガ、今
私ガソレヲ讀ンデ見マシタ所、モット中島
君ハ大膽ニ申シテ居ルノデアリマス、中島
君ハ本稅ノ見積ノ平年度四千万圓、初年度
三千万圓ト云フノハ、是ハ低キニ過ギルノ
デアル、此點カラ考ヘマスト、本稅ハ少ク
トモ平年度六七千万圓、初年度四五千万圓
ニ達スルト云フコトハ、是ハ間違ナイ云々
ト言ヒマシテ、尙ホ此點ニ付キマシテハ、
詳細ナル數字ノ根據ヲ持合シテ居ルガ、此
處ニ發表スルコトノ出來ナイノヲ深ク遺憾
トスルモノデアリマス云々、斯ウ云フコト
ヲ述ベテ居ラレルノデアリマス(拍手)卽
チ民政黨ノ中島君ハ、本稅ハ平年度六七千
万圓、初年度四五千万圓ニ達スルト云フコ
トヲ主張セラレテ、而モ詳細ナル數字ノ根
據ヲ持合シテ居ルコトヲ强調サレテ居ルノ
デアリマス(「其通リ」ト呼フ者アリ)若シ
其通リデアリマスルナラバ、是ハ二百五十
万圓ノ歲入減ニ對シテ、彼此レ反對ヲナサ
ル所ノ御趣旨ガ、私共全ク分ラナイコトニ
ナルノデアリマス(拍手)尙ホ此機會ニ於
キマシテ、是ハ私ハ政府ニ一言申シマスル
ガ、政府ハ歲入減ヲ來ス虞アリ、斯ウ云フ
理由ノ下ニ私共ノ修正案ニ贊成ヲ躊躇シテ
居ラレルノデハナイカト考ヘルノデアリマ
ス、ケレドモ、政府ガ御提示ニナリマシタ
所ノ利得稅計算ノ根據ト云フモノハ、昭和
八年度ノ實績ニ對シマシテ、法人ニ對シテ
ハ三割、個人ニ對シテ五分ヲソレ〓〓增加
スルモノトシテ、是ヨリ控除額ヲ控除シテ
計算サレテ居ルニ過ギナイノデアリマスル
ガ、大體政府ノ此計算ト云フモノハ、甚ダ
內輪ニ失シテ居ッテ、却テ實際ニ遠キモノ
デアルト云フコトハ、財界經驗者ノ異口同
音殆ド一致セル定論ト言ッテ宜イノデア
リマス(拍手)世間デ本稅ガ恐レラレテ居
ルノハ、此少シク見積ッテ多ク取ラレルト
云フ點ニ存スルノデアリマスルカラ、固ヨ
リ我黨ノ修正ニ依リマシテ、豫定ノ歲入ニ
缺陷ヲ生ズルガ如キコトハ萬ナイノデアリ
マスルガ、私ハ政府當局ニ於カセラレテハ
快ク我心ヲ棄テヽ、我黨ノ修正案ニ同意セ
ラレンコトヲ切望シ、且ツ期待致ス者デア
リマス(拍手)
次ニ民政黨ニ於テ、幾ラカ其道理ノアル
コトハ認メテ居ルガ、併シ豫算ノ收入ニ影
響スルカラト云フコトデ御贊成ガナカッタ
點ハ、此基準年度ノ點デアリマス、私共ハ
四、五六トシテ四年ヲ加ヘマシテモ、何
等豫算收入ニ缺陷ヲ來スモノデナイト云フ
コトハ、只今私ガ申上ゲマシタ通リデアリ
マス、五、六兩年度ハ太田君モ申シマシタ
ガ如クニ、世間ニ謂フ所ノ金解禁恐慌ト呼
バルヽ財界ノ最不況期間デアルノデアリマ
スルカラ、是ノミヲ基準ニ致シマスルコト
ハ、如何ニモ穩當ヲ缺キ、且ツ苛酷ニ過ギ
ルト思フノデアリマス、是ハ世界財界變動
ノ時期デモアリマスルシ、又諸國ニ於キマ
シテモ、色々基礎ト爲シテ居ル千九百二十
九年、卽チ昭和四年ヲ加へマスルコトニ依ッ
テ餘程穩當トナリ、且ツ合理化サレテ參ル
ノデアリマス、特ニ日本ニ於キマシテハ昭
和四年七月ハ、濱口內閣ガ成立致シタ時デ
アリマシテ、金解禁政策ヲ中外ニ發表シ
テ、是ガ實行ニ著手スルト、對米爲替ノ例
デ申シマスルナラバ、三十八弗臺カラ四十
九弗臺マデ大幅ニ動イタ、財界動搖ノ啓端
期デモアリマスルシ、此昭和四年ヲ加ヘル
コトハ、一層本法ノ所期シテ居ル所ノ時局
ニ因ル好影響ヲ、反映鮮明ナラシムル點ヨ
リ致シマシテ、是非共此四年ヲ加フル必要
ガアルノデアリマシテ、若モ民政黨ニ於テ
原案ノ儘五、六兩年デ宜イト云フヤウナ工
合ニ御考ニナリマスルナラバ、此臨時利得
稅ノ納稅者ハ、本利得稅ノ存續スル限リ、
民政黨デハ今日モ尙ホ依然トシテ金解禁ノ
非ヲ悟ラズ、我ガ財界ノ最不況期間ノミヲ
基準トシテ、控除率ヲ最モ少キ時期ヲ選ン
デ國民ニ負擔ノ苛重ヲ强ヒントシタモノダ
ト、呪フコトニナルノデアラウト考ヘルノ
デアリマス(拍手)私ハ特ニ反對スル程ノ理
由モナイノニ、好ンデ我黨ノ修正ニ目ヲ鎻
シテ御反對ヲナサルノハ、是ハ反對センガ
爲ノ反對デアルトシカ說明スルコトハ出來
ナイト考ヘルノデアリマス(拍手)
更ニ民政黨ニ於キマシテハ、法人ト個人
トノ稅率ヲ區分シタル我黨ノ修正ニ反對ヲ
サレテ居リマスルガ、私ハ此點ニ付キマシ
テモ、本議場ニ於キマスル中島彌團次君ノ
演說ヲ、再ビ民政黨ノ方々ニ想起シテ戴キ
タイノデアリマス、中島君ヨリ此兩者ノ課
稅率ヲ區別シナケレバナラヌト云フコトヲ
强調サレマシテ、次ノ如クニ申シテ居ラレ
やっ、法人ガ個人ヨリモ經濟力ニ强クテ、
擔稅力ガ旺盛デ、而モ危險ニ對スル所ノ負
擔能力ガ强イト云フコトモ、不景氣ノ時ニ
於ケル對抗力ガ强イト云フコトモ、是ハ明
カデアリマスカラ、何故ニ法人ト個人トノ
稅率ヲ區別シナカッタカ、法人ノ課稅ハ個人
ノ倍ニスルカ、少クトモ五割增位ノ程度ニ
セラレルコトハ當然デアルト考ヘルノデア
リマス-民政黨ノ各位ハ此演說ヲ想起サ
レマシテ、君子豹變、我黨ノ修正案ニ贊成
サレンコトヲ望ムモノデアリマス、尙ホ私
ハ補足致シテ申上ゲマスガ、御承知ノ如ク
ニ、個人ニハ法人ノ如クニ增資ト云フコト
ハ認メラレテ居ナイコトハ、太田君ノ言ッタ
通リデアリマス、サウシテ個人ハ主トシテ
中小ノ商工業者デアリマスルカラ、其擔稅力
ガ十分デナイノデアリマス、又個人ガ自分
ノ店、工場デ働イテモ、其勞務竝ニ營業上ノ
諸經費ニ對スル控除取扱ト云フモノハ非常
ニ不十分デアリマスカラ、個人ヲ法人ニ比シ
マシテ、課稅上若干低率ニシナケレバナラヌ
コトハ、中島君ノ演說ヲ俟ツマデモナイ、理
ノ當然デアリマス、昨日龜井君デアッタカ、
討論ノ際、法人ニハ超過所得稅ガアルデハ
ナイカ云々ト言ッテ居ラレマシタガ、ソレナ
ラバ個人ニハ綜合累進所得稅ガアルノデア
リマシテ、サウ云フコトハ俗ニ謂フ五分五
分ト申サナケレバナラヌノデアリマス、私
ハ我黨ノ修正ガ特ニ中小商工業者ニ相當ノ
負擔緩和ヲ爲シ、是等國民ノ中堅階級ヲ爲
シテ居ル人々ニ對スル思想上、好影響ヲ與
ヘルモノデアルコトヲ確信シテ疑ハヌ者デ
アリマス(拍手)
尙ホ民政黨ニ於テ、政友會ノ修正ノ中ニ
ハ、理窟ノ上デハ贊成ガ出來ルヤウデアル
ガ、併シ政府ガ修正案ニ反對スルカラ、本
稅ガ成立シナクテハイカヌカラ反對スル外
ナイト云ッタヤウナ口吻モ見エルノデアリ
マスガ、是ハ御立場上私ハ御察シ申上ゲマ
スケレドモ、飜ッテ考ヘテ見マスト、立法府
タル議會ノ審議權ヲ抛棄スルノト同樣デア
リマシテ、單ニ政府案ヲ支持シテ、國民負
擔ノ重大問題ヲ疎カニスルモノト申サレテ
モ致シ方ガナカラウト考へルノデアリマス
(拍手)
次ニ國民同盟ノ修正案ト中村君ノ御主張
ニ對シマシテ一言致シマス、中村君ハ、稅
制ノ「エキスパート」デアラセラレマスガ、
大體ニ於キマシテ、擔稅力ニ重キヲ置イテ
居ッテ、臨時利得稅ノ性質ニ對シテ御理解
ガ足ラヌノデハナイカト考ヘルノデアリマ
ス、又納稅者ノ立場ヨリモ、課稅者ノ立場
ニナッテ物ヲ御考ニナルノデハナイカト考
ヘルノデアリマス(拍手)中村君ハ政友會ノ
修正案中、本稅施行後ノ增加資本金ノ取扱
ニ付キマシテ、政友會ノ修正ノ趣旨ニハ贊
成デアルガ、臨時利得稅逋脫ノ目的ニ出デ
タルモノト認メラレル時ハ云々ト書イテ
アッテ、司稅官ニ其通脫ノ目的カ否カノ
判定ヲ任セルコトハ、稅法上面白クナイ
ト言ハレマスガ、私共ト致シマシテハ、眞
ニ事業擴張上必要ナモノデアルカ、ソレト
モ脫稅ノ爲ニ增資ヲスルモノデアルカ、此
區別ヲスルコトハ極メテ必要デアリマシ
テ、眞ニ事業擴張ノ爲ニスル所ノ者ガ、資
金ノ充實ヲ必要トシテ增資ヲ致シマスル場
合ニ於テハ、其增加資本ニ對スル控除モ之
ヲ七分ニセントスルノハ、不合理デアルト
考ヘルノデアリマス、ノミナラズ近來ノ立
法ハ、或ル程度マデ法ノ運用ヲ、法ヲ取扱
フ者ニ任セテ居ルノデアリマシテ、此裁量
ニ一任スルコトニ依ッテ、現實ニ適應スルコ
トニナッテ參ルノデアリマスルカラ、此點ハ私
共ハ我黨ノ修正ガ是ナリト信ジテ疑ハザル
者デアリマス、又中村君ハ思想上是ハ云々
ト云フコトヲ申サレマシタガ、總テ罰則其
他ノコトハ、サウ云フ犯罪其他ノコトヲ豫
想シテ出來テ居ルノデアリマシテ、斯ノ如
クンバ總テノ罰則規定ハ作レヌヤウニナリ
マスカラシテ、是ハ何カ中村君ノ誤解デア
ラウト考ヘラレルノデアリマス(拍手)又昨
日デアリマシタカ、民政黨ノ方カラ是ハ脫
稅ノ目的ナリヤ否ヤト云フコトガ分ラヌデ
ハナイカト云フコトデ、特ニ判定ガ困難ダ
ト云フヤウニ言ハレタノデアリマスガ、私
共ハ是レ位ノ認定ガ出來ナイ司稅官デアル
ナラバ、ドウシテ各種ノ脫稅ヲ防止若クハ
發見スルコトガ出來ルカト反問セザルヲ得
ナイノデアリマス(拍手)老練ナ刑事ガ能ク
犯罪ヲ發見スル如クニ、心アル司稅官ナラ
バ是レ位ノコトヲ判定シ得ル所ノ十分ナル、
俗ニ謂フ勘ト云フモノヲ持合セテ居ルコト
ハ、是ハ私ガ申上ゲルマデモナイコトヽ存
ズルノデアリマス(拍手)又中村君ハ屢〓本
稅ガ業態別デナク、又過去ニ於テ成績ヲ擧
ゲテ儲ケタ者程負擔ガ少クナリ、損ヲシタ
利益ノ少カッタ者程、本利得稅ガ餘計課ケラ
レルノハ、洵ニ國民負擔ヲ不均衡ナラシム
ルモノデ、本利得稅ノ癌デアルト云フコト
ヲ申サレテ居ルノデアリマス、是ハ先刻私
ガ申シマシタ如クニ、中村君ガ課稅者ノ立
場ニ立タレルカラ、サウ云フコトニナルノ
デアリマシテ、又臨時利得稅ノ性質ニ對シ
テ、擔稅力一點張リデ御考ニナルカラサウ
云フコトニナルノデアリマス、私共ハ此臨
時利得稅ノ性質ニ鑑ミ
〔副議長退席、議長著席〕
卽チ時局ニ依ル影響デ儲ケタ者ニ課稅ヲス
ルト云フノデアリマスカラ、其利益金ノ絕
對額ガ多カラウガ少カラウガ、其時局ニ依
ル利益ノ大小ニ依ッテ、課稅ノ大小差等ガア
ルコトハ、是ハ當然デアルト考ヘルノデア
リマス、又業態別ニシマスルコトハ、是一
先刻太田君ガ申サレマシタ通リニ、是ハ事
實上殆ド不可能ヲ望ムモノデアリマス、左
樣ニ考ヘマスルト、癌ト言ヘバ癌デアリマ
スケレドモ、此種ノ癌ハ巳ムヲ得ザル癌ト
申ス外ハナイト存ズルノデアリマス(拍手)
又國民同盟ニ於キマシテ御主張ニナッテ居
ル所ノ異進稅率ト云フモノハ、是ハ洵ニ私
共一理窟アルコトヲ認メマスガ、是モ矢張
本稅ガ臨時ノモノデアルト云フ點ニ御著眼
ガナカッタカ、或ハ缺ケテ居ルノデハナイカ
ト思フノデアリマス、臨時利得稅ノ本質ニ
鑑ミ、私共ハ左樣ナル必要ガナイノミナラ
ズ、就中國民同盟ノ案ニ依リマスルト、個
人ノ場合ニ於キマシテ利益金一万圓以上ヲ
得タ者ノ如キハ、一割二分ト云フ重稅ヲ課
セラレルコトニナルノデアリマシテ、所得
稅、營業收益稅ニ加フルニ、此重壓ヲ與ヘ
ラレルコトハ、中位ノ商工業者ノ沒落過程
ニ導ク外、何モノデモナイト考へルノデア
リマス、若夫レ是ガ國庫歲入ニ影響ガアル
カラ、下ヲ少クスル代リニ、上ヲ重クスル
ノダト云フ御話デゴザイマスルナラバ、是
ハ旣ニ申上ゲマシタ通リニ、何等國庫ノ將
來ニ-是レ自身ガ收入減ヲ來スケレド
モ、豫定歲入ニ減少ヲ來シ、缺陷ヲ來ス譯
デゴザイマセヌカラ、此點ニ付キマシテハ
御安心ニナッテ、我黨ノ修正案ニ御贊成下サ
ランコ、トヲ御願致ス者デアリマス(拍手)中
村君ハ又我黨ノ昭和七年一月一日以後本法
施行マデニ、資本金ヲ減少シタルモノヽ救
濟規定ニ依ッテ、無イ資本ヲ有ルトシテ、ド
ウモ課稅標準ニスルト云フコトハ、面白ク
ナイデハナイカ云々ト申サレテ居ラレマス
ガ、是ハ先刻委員長モ報告セラレマシタ通
リ、誠實ニ減資整理ヲシタモノガ、其儘放
任シテ居ルモノヨリモ、稅法上虐待ヲ受ケ
ルト云フガ如キコトハ、我ガ日本國民ノ正
義觀念ノ許サナイ所デアルノデアリマシ
テ、此修正ハ洵ニ已ムヲ得ザルニ出ヅルモ
ノデアルト考ヘルノデアリマス
以上デ略〓我黨ノ修正案ニ對スル御批判ニ
對シテハ、御答ヲ致シタヤウニ考ヘルノデ
アリマスガ、申ス迄モナク、本利得稅法案
ガ昨年十一月藤井前藏相ニ依ッテ創案サレ
マシタ當時、アノ財界ノ非常ナ打擊ト-
其後ニ於テ高橋大藏大臣ガ、天下ノ輿望ヲ
擔ッテ御就任ニナッタニ拘ラズ、今尙ホ火ノ
消エタヤウナ情勢ガ一部ニ殘ッテ居リマス
事實ハ、本稅適用其他ニ當ッテ、特ニ心セラ
レナケレバナラヌト云フコトヲ、十分ニ物
語ッテ居ルノデアリマス、大部分ハ太田君
ニ依ッテ盡サレマシタカラ、私ハ最後ニ殘
サレタル一點ニ付テ申上ゲマス、本稅
ガ控除利率ヲ七分トシテ居ル事ハ、洵ニ
金利低下ノ折柄トハ申シナガラ、市場ニ
於ケル株式時價、利廻リ等ニ較ベマシテ、
低キニ過グルノデアリマシテ、爲ニ積
立金、準備金、繰越金等ヲ持ツニ至ラザル
所ノ新設會社、新興產業等ニ及ボス惡影響
ハ、想像ニ餘リアルモノガアルト憂慮セラ
レルノデアリマス、故ニ是等ニ對シマシテ
ハ銷却其他取扱上ニ十分手心ヲセラレテ、
是等產業ノ振興ヲ阻害セザルヤウ、格段ノ
御留意アランコトヲ熱望スル者デアリマス、
何卒我黨ノ意ノ存スル所ヲ諒トセラレマシ
テ、此理義ニ於テ正シク、實行ニ移シテ最
ヲ適當ナル我ガ政友會ノ修正案、竝ニ其決
議ニ御贊同アランコトヲ希望シテ、此討論
ヲ終ル者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=57
-
058・濱田國松
○議長(濱田國松君) 次ノ通〓者龜井貫一
郞君
〔龜井貫一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=58
-
059・亀井貫一郎
○龜井貫一郞君 只今議題トナッテ居リマ
ス臨時利得稅法案ノ委員會報〓ノ修正動議
ニ關シマシテ、時間モ遲クナリマシテ甚ダ
恐縮デゴザイマスガ、相當是ニモ議論ノア
ルコトデゴザイマスノデ、暫時意見ヲ述ブ
ルコトヲ許シテ戴キタイト思フノデアリマ
ス
政友會ノ御提案ノ趣旨ニ付キマシテハ、
太田君、小笠原君カラ縷述べラレマシタ、
固ヨリ非常ナル御苦心ノ跡ノ存スルコトモ
能ク諒解ヲ致シマス、極メテ純理ノ立場カ
ラ本修正案ヲ提案セラルヽニ至リマシタコ
トニ付キマシテハ、洵ニ議會政治ノ爲ニ慶
賀スベキコトヽ思フノデアリマスルガ、後
デ述ベマスル理由、殊ニ稅ノ性質ニ關シマ
シテ、私共ハ極メテ臨時ノ臨時ト見テ居リ
マスコトニ依リマシテ、遺憾ナガラ其修正
ニ贊成スルコトガ出來ナイノデアリマス、
國民同盟ノ修正案中村君ニ依ッテ述ベ
ラレタ說明ヲ拜聽致シマシタガ、其御趣意
ニ付キマシテハ、矢張十分諒トスル者デア
リマスルガ、是ハ先程既ニ小笠原君カラ仰
セラレマシタヤウニ、吾々ハ之ヲ極メテ臨
時ノ臨時ノモノト解シマスルガ故ニ、此點
ニ付キマシテモ、遺憾ナガラ贊意ヲ表スル
コトガ出來ナイノデアリマス、附帶決議ノ
點ニ關シマシテハ、是ハ後デ又申述ベマス、
但シ民政黨ガ修正案ニ御反對ニ相成リマシ
タ理由ト、私共ガ本修正案ニ反對ヲ致シマ
スル理由ハ違ッテ居ルノデアリマス、固ヨリ
政府原案ニ對シマシテハ、其趣旨ニ於テ不
明瞭ナルモノガアルバカリデナク、假ニ吾々
ガ考へ、想像致シテ居リマスル方向ニ向ツ
テ、政府ガ一步踏出シクモノト致シマシテ
モ、他ニ起スベキ新稅ガアッタト吾々ハ考
ヘマス、又之ヲオヤリニナルナラバ、更ニ
進ンデ根本的ナ稅制改革ニ御入リニナル途
モアッタト考ヘマス、更ニ本稅法ノ立法技術
ノ點ニ至リマシテモ、批判サレルベキコト
ハ固ヨリ多イノデアリマス、私共ハ修正ヲ
シタイノデアリマスルガ、遺憾ナガラ現狀
ニ於キマシテ、吾々ノ微力ナルヲ以テ修正
スルコトガ出來ナイ、隨ヒマシテ不滿足ナ
ガラ政府原案ヲ以テ、二箇ノ修正案ト對比
致サヾルヲ得ナイノデアリマス、此場合私
ハ幾多ノ論難スベキ點ハアリナガラ、假ニ
政府提案ノ趣旨ガ吾々ノ考フル所ニ向ッテ、
一步ヲ踏出シタモノデアルト考ヘ得ルトス
ルナラバ、寧ロ政府案ノ單純サヲ以テ、臨
時ノ臨時ノ稅タル所以ニ適フモノデハナイ
カト云フ其一點ニ於テ、原案ヲ通過スルコ
トヲ主張スル者デアルノデアリマス、隨ヒ
マシテ私ハ此場合此問題及現下ノ實情ニ顧
ミマシテ、政府案ノ無修正通過ヲ主張致ス
立場ニ置カルヽノデゴザイマスルガ、ソレ
ハ左樣ナル關係カラノコトヽ御諒承ヲ願ヒ
タイ、政府案ニ對シマシテ民政黨矢野君ガ
縷〓申述ベラレマシタガ、私ハドウモ政府
案ノ提案ノ趣旨ニ付キマシテハ、是ハ政友
會、國民同盟、御同樣甚ダ不鮮明ナルモノ
アリト考ヘテ居ルノデアル、大藏大臣ガ委
員會ニ於テ何ト御答辯ニ相成ッタカト申シ
マスルナラバ、臨時利得稅ヲ設ケタ趣旨ハ、
關係スル所カラ言ヘバ、ソレハ收入ヲ圖ル
點モアルダラウ、又負擔ノ公平ニ關スル點
モアルダラウ、ケレドモ是ハ一般歲入ノ不
足ヲ補フト云フ眼前ノ目的カラ起ッタモ
ノデハナイ、唯世ノ中ニ何トナク資本
家トカ有產家對無產家ノ間ニ爭ヲ生ジテ
來ルヤウナ風潮ガアッタ、ソコヘ持ッテ來
テ軍需工業ガ獨リ目立ッタ儲ケヲシテ居ル、
ダカラ其營業ガ荒レナイヤウナ極ク輕イ稅
ヲ設ケテ、一方ニ於テハ之ヲ美シガッテ僻ン
デ居ル人達ノ心ヲ、幾分カ之ニ依ッテ直スコ
トモ出來ルダラウト云フ風ナ趣旨デシタ、
モット突込ンダコトヲ言ヒタイノダガ、是ハ
森田君ノ御質問ニ對スル御答デアリマスガ、
前大藏大臣ノ言ハルヽノモ十分赤裸々ニ聽
イテハ居ルガ、斯ウ云フ公開ノ席上デ申上
グルベキ限リデハナイ、斯ウ言ッテ居ラレル
ノデアリマス、隨テ吾々ハ、大藏大臣ノ御
言葉ニ依リマシテハ、政府ノ御提案ノ趣旨
ガ奈邊ニアリヤ、甚ダ判斷ニ苦ムノデアリ
マス、是ハ收入ヲ目的ニシタノデモナケレ
バ、負擔ノ公平デモナケレバ、軍需工業ノ
統制デモナクテ、唯美ンデ居ル人達ノ心持
ヲ和ゲルノデアリマス、卽チ之ヲ政治的ナ
大所高所ノ達觀カラ出シタノダト云フコト
ニナルノデゴザイマスルガ、斯樣ナコトニ
ナリマシテハ本稅ヲ起ス理論的根據ハ、遺
憾ナガラ曖昧模稜デアルト言ハザルヲ得ヌ
ノデアリマス、隨ヒマシテ吾々ハ已ムヲ得
ズ本稅ノ案ガ起サレタル當時ノ事情ヲ考ヘ
テ、本稅ガ何故ニ提案セラレタカヲ推斷セ
ザルヲ得ナイノデゴザイマス、故藤井前藏
相ガ信念ヲ以テ國難ニ當ラント云フ盡忠至
誠ノ人格ニ至リマシテハ、天下之ヲ疑フ者
ハゴザイマスマイ、併ナガラ若夫レ其政策
ニ至リマシテハ、而モ其政策ガ今日吾々立
法府ノ眼ノ前ニ現ハレテ居ル場合ニ於キマ
シテハ、勢ヒ吾々ハ矢張其考カラ解剖ヲシ
テ置カナケレバナラナイト考ヘマス、本稅
法ノ案ガ起サレマシタル當時ノ政府ノ財政
政策ノ根幹ヲ指シテ、道途傳ヘテ之ヲ健全財
政主義、或ハ公債漸減主義ト申シテ居リマ
ス、固ヨリ財政ノ健全、公債ノ漸減ハ望マ
シイコトデアリマス、現下ノ非常時局ガ一
家ノ中デ多數ノ病人ガ出來テ、ソレデ非常
ニ家計ガ膨脹シタ、其病人ガ段々結局囘復
ヲスルノダカラ、病人ガ出テ居タ時代ノ放
漫財政ヲ少シ締括ッテ、破產ニナラナイヤウ
ニシテ行カウ、斯ウ云フ風ナ望カラ現在ノ
財政ヲ健全ナル常道ニ復スルト云フノナラ
バ、ソレハ望マシイコトデアリマスルガ、今
日ノ景氣ハ一旦惡クナッタガ、軈テ元ニ戾ル
ト云フ景氣デハナイト吾々ハ考ヘテ居ル、
其點ニ於テハ矢野君モ御同樣デアラウト思
ヒマス、デアリマスルカラ詰リ今ノ非常時
局ガ自由主義ノ經濟ノオ爺サンガ車屋ヲ
ヤッテ居ルノガ、是ガ參ッテ來タ、息子ガ自
動車屋ヲヤッテ居ッテ、是ガ新シク家督ヲ取
テ新シイ方法デ更生ヲヤルニ至ルト云フ其
過程ノ經過デ、卽チ自由經濟カラ社會的統
制經濟ニ移ルト云フ過程デアルトスルナラ
バ、一切ノ財政計畫ハソレヲ圓滑ニ進行セ
シメル總テノ方向ニ向ッテ行カナケレバナラ
ナイノデアリマス、然ルニ軍事費ハ增大シ、
公債ハ增加スル、放漫家計ヲ放任スレバ破
產ニナル、斯ル見地カラ前藤井藏相ハ家計
ヲ引締ムベシト考ヘ、軍事費ヲ引締メナケ
レバナラナイ、ソレニハ公債增發ノ結果ガ、
結局新稅ニ行カナケレバナラナイト云フコ
トヲ端的ニ示シテ、軍部ニ一ツノ壓力ヲ加
ヘル必要ヲ考ヘラレテ居ッタト思フ、サウナ
リマスレバ、本稅ハ所謂藤井前大藏大臣ノ
軍部ニ對シ、軍事費增加ニ對シマスル一ツ
ノ警告トシテ、案ヲ起サレタモノデゴザイ
マシテ、軍部ニ對スル一ツノ「ジエスチユア」
デアリ、一ツノ「デモンストレーシヨン」デア
ルト解シ得ルノデアリマス、ダカラ其公ニ發
表セラレマシタル理由ハ兔モ角ト致シマシ
テ、公債發行ノ限度ヲ示シ、豫算ニ於テ歲入
歲出ノ帳尻ヲ合シテ見セルト云フ建前ヲ執
ラレマスル以上之ヲ收入ヲ目的ニシタモノ
デナイト言ハレマシテモ、矢張一個ノ收入ヲ
目的ト致シタモノデアルト考ヘラレルノデ
アリマス、更ニ是モ一ツノ推斷デアリマスル
ガ、藤井前藏相ガ本稅ヲ起サレマシタル一ツ
ノ理由ハ、金融資本ニ對シマスル矢張一ツノ
「ジエスチユア」デアッタト私共ハ考ヘル、
御承知ノ通リ當時所謂健全財政、或ハ公債漸
減ト云フモノヽ議論ノ背景ニ存シテ居リマ
シタノハ「マーケット·オペレーシヨン」ニ依
リ「リフレーシヨン」ノ限度ガ來タト云フ議
論デアリマス、是ハ固ヨリ金融資本家ノ間ニ
唱ヘラレテ居タ所ナノデアリマス、非常時
財政經濟政策ト云フモノハ、昭和七年以來
系統的ニ一連ノ大飛躍ヲ致シテ居ルノデゴ
ザイマシテ、對外的ニハ資本逃避防止法、
或ハ外國爲替管理法、是ガ制定セラレマシ
テ、日本金融資本ハ外國ニ逃ゲテ行クコト
ガ出來ナイ、卽チ其國際性ト云フモノガ切
斷ヲセラレテ居ル、他方日本銀行ノ保證準
備擴張或ハ制限外發行稅ノ引下、日本銀行
ノ金買上法ガ追加セラレテ、更ニ不動產融
資及損失補償法、預金部ノ融資ニ依ル信用
膨脹ノ政策ガ採ラレテ、是等ノ基礎工作ノ
上ニ國債ノ發行ニ依ル通貨ノ增發ト、低金
利ノ誘導ノ二大政策ガ徹底的ニ遂行セラレ
タノデアリマシタ、是ハ非常ニ重大ナル意
味ト效果トヲ有ッテ居タト私ハ思ヒマス、卽
チ國民經濟ノ上ニ於キマシテ、國家ノ財政
政策及財政ノ機能ガ占メテ居リマシタル地
位ガ、一段ト躍進ヲシタコトデアリマス、
之ヲ裏カラ申シマスルナラバ、金融資本ガ
國民經濟ニ於テ自由主義時代ニ占メテ居リ
マシタル王座カラ辷リ落チマシテ、其獨裁
權力ヲ國家ニ讓ラナケレバナラナクナッタ
コトヲ意味スルノデアリマス、金融資本ガ
昔ノ地位ニ還ルコトヲ欲シテ居ルコトハ言
フマデモナイ、ソコニ復歸スルコトハリ
フレーシヨン」ノ限度論ヲ通ジ、健全財政
及公債漸減主義ヲ通ジテ、昔其支配下ニ在ッ
タ銀行ノ貸付資本、國民貯蓄高ト云フモノ
ヲ、再ビ其金融獨裁權ノ下ニ置クト云フ希
望ガ出ルノハ當然デアリマス、ソコニ藤井
サンノ御政策ト、金融資本ノ考方トノ一致
ヲ發見スルノデゴザイマス、固ヨリ本稅ハ
金融資本ガ持ッテ居リマス、或ハ銀行保險
資本ガ持ッテ居リマスル有價證劵、殊ニ軍需
工業有價證劵ノ値下リヲ通ジマシテ、金融
資本ニモ損害ガ來ルコトハ是ハ分ルコトデ
アリマスルガ、金融資本ニ對シテ、產業資
本バカリ儲ケサシテ置クノヂヤナイ、跛行
景氣ヲ平準化シ、軈テハ自由主義經濟ニ戾ル
ノデアルゾト云フ身構ヲ示スコトニ於テハ、
是ハ金融資本ニ對シテハ非常ニ有力ナル「ゼ
スチユア」デアリ「デモンストレーシヨンㄴ
デアルト思ヒマス、此點ヲ森田君ガ委員會及
本議場ニ於テ、十分糺明セラレタノデアル
ト思フノデアリマス、サウシテ一方ニ於テ
所謂社會政策的稅制ト云フヤウナコトデ大
衆ノ意ヲ迎へ、此三ツノ「ゼスチユア」ノ間カ
ラ本稅ガ生レテ來タノデゴザイマスルカラ、
軍部ト金融資本ト大衆ノ意ヲ迎ヘルト云フ
「デモンストレーシヨン」或ハ「ゼスチユア」
ソコカラ發展ヲシテ參リマシタル限リニ於
テ、本稅ハ固ヨリ收入ヲ目的トシ、景氣平
準化ノ意圖ヲ有チ、大衆ニ對スル一ノ氣構
ヲ示シタモノト言ヒ得ルノデアリマス、隨
ヒマシテ高橋大藏大臣ガ現內閣ノ當初ヨリ
御入閣デゴザイマシタナラバ、恐ラク本稅
法ハ吾々ノ前ニ現レテ來ナカッタト想像致
サレマス、景氣ノ平準化モ結構デアリマス
ガ、恐ラク高橋サンノ御考ニ從フナラバ、
軍需工業モ何モ惡イ事ヲシテ儲ケテ居ルノ
デハナイ、特ニ之ニ課稅スルト云フコトモ
シナイデ宜イコトデハナイカ、公債ノ發行
ノ限度モ、サウハッキリ決ッテ居ルモノデナ
クシテ、何モ銀行バカリ見ナクテモ、睡眠
シテ居ル國民貯蓄ト云フモノモアルノダト
云フコトデゴザイマスルカラ、甚ダ端的ニ
評言致シマスレバ、本稅法ハ藤井サンノ金
融資本的自由主義ノ鬼子ヲ、高橋サンノ產
業資本的自由主義ノ御家庭ニ、御養子ニ相
成ッタ所ノモノト考ヘルノデアリマス、デア
リスルカラ此處デ吾々ハ本稅法ニ對スル
御說明ガ、極メテ判然トシナイ理由ヲ發見
スルノデゴザイマス、併ナガラ高橋サンハ
洵ニ好イオ爺樣デアラセラレマスルカラ(笑
聲此御養子ヲ、世間體ハ成程養子デハア
ルガ、實子デアルト、溫情主義デ示サウト
シテ居ラレマスガ故ニ、玆ニ社會的正義上
カラ人ノ僻ミヲ直スト云フ一ノ社會的政治
的考慮ト、斯ウ云フ風ニ理由付ケラレテ居
ラレルノデアラウト、吾々ハ考ヘルノデア
リマス、斯ウ考ヘマスルト、大體本稅ニ對
シマスル政府ノ建前ト云フモノハ、先ヅ明
瞭ニ相成リマス、第一ハ時局ノ影響ニ依ッテ
增益ヲ見タル產業ガ存在スルコト、第二ハ
其增益ニ課稅ヲ致シマシテ、一ノ社會的正
義感ヲ示シテ、社會的不安ノ解消ニ資セン
ト云フコトデアリマス、第三ハ矢張歲入豫
算上相當有力ナル收入トシテ御考ニナッテ
居ラッシヤルト思ヒマス、私共ハ固ヨリ現
在ノ稅制ニ於キマシテ、甚ダ國民大衆ノ租
稅負擔ノ不公平ナコトヲ感ジテ居リマス、
現在ノ自由主義經濟ガ却テ不況ヲ生ンデ居
ルト考ヘテ居リマス、隨ヒマシテ現下政府
ノ景氣政策ハ、從來ト別個ノ經濟ノ體系ヘ
推移スル段階的ナルモノデアルト考ヘテ居
リマス、デアリマスルカラ政府ニ對シマシ
テハ、此際國民所得ノ各個ニ付キマシテ詳
細ナル〓究ヲ遂ゲラレ、根本的ナル稅制改
革ヲ行ヒ、併セテ是ト竝行シタ財政計畫ノ
立直シヲ要求致スノデアリマシテ、之ヲ今
日ノ社會的國家的正義ト考ヘテ居ルノデア
リマスルカラ、本稅ハ其點ニ於キマシテ
ハ、民政黨矢野君ノ御意見トハ異リマシ
テ、極メテ中途半端ナモノデアルト云フコ
トニ對シマシテハ、遺憾ノ意ヲ表セザルヲ
得ナイノデアリマス、併ナガラ本稅ノ成立
ニ至リマシタル經過ハ別ニ致シマシテ、其
建前ガ大體臨時的デ、社會正義的デ、資本
課稅的、斯ウ云フコトニ向ッテ參リマスル
ナラバ、大體稅法上ノ將來ノ大改革ヘ向ッテ
ノ一步デハナイ、半步デモアリマセヌガ、
ソッチノ方へ向イタト云フダケノ誠意ノ片
鱗ヲ認メルコトガ出來ルノデアリマス、ソ
コデ吾々ハ大體其建前ヲ一ツ建前トシテ、
時局ニ因ル臨時的ナ增益ノ課稅、社會的正
義感ニ依ル課稅、資本家ヘノ課稅、斯ウ云
フ課稅ノ建前カラ考ヘテ參リマスルナラ
バ、斯ウ云フ際ニハ、ハッキリト二ツノ行
キ方ガアルト思ヒマス、一ツハ資本ノ元本
ニ對シ、元本ニ手ヲ著ケテ、國家ノ統制ヲ
行フ所ノ方法デゴザイマシテ、換言致シマ
スレバ、國家資本ノ產業的總動員計晝デア
リマス、國民所得ヲ完全ニ根本的ニ把握致
シマシテ、其上ニ新シイ觀方ヲ以テ一般的
ノ稅制整理ヲ行フコトデゴザイマスガ、併
シ是ハ金利政策、公債政策、景氣政策ト一
ツノ脈絡ヲ持チ、世界景氣ニ對スル確乎タ
ル見透シノ上ニ行ハレナケレバナラナイコ
トハ勿論デアリマス、其方法ト致シマシ
テ、元本ノ價値ヲ下ゲル方法モソレハゴザ
イマセウ、併シ是ハ低金利政策ノ一層ノ徹
底ヲ必要ト致シマセウ、又一方ニハ財產
稅相續稅、物納等ヲ通ジテ、元本ノ一部
ノ國家歸屬ヲ促進致シマスル方法モゴザイ
マセウ、是ハ併ナガラ圓滑ナル遂行ヲ期シ
マスル爲ニハ、產業ノ經營ニ對スル統制ガ
必要デアリ、同時ニ賠償ヲ致サナケレバナ
リマセヌ、卽チ公債ノ發行、公債政策ヲ伴ッ
テ參ラナケレバナリマセヌ、例ヘバ軍需工
業ヲ國營ニ致シマストシマスレバ、公債ヲ
交付スル、サウスルト生產貨財トシテ其利潤
カラ又資本ヲ捻出シ得テ居リマシタ者ニ對シ
テ、公債ヲ交付シテ金利生活者ト致スノデア
リマスガ故ニ、强制的ニ生產貨財ヲ消費貨財
ト取替ヘルノデアリマスカラ、是ハ各般ノ大
改革ヲ必要トスルモノデアリマス、ソコデ
是等ハ現下ノ情勢ニ於テハ行ハレナイ、
又行フコトヲ必要トスル情勢ニモ參ッテ居
リマセヌ、斯ウ云フコトニナリマスレバ、
資本ノ元本ニ對シ、元本ニ手マデ著ケマス
ル方法ニ依ラズシテ、殘サレタル問題ハ、
臨時的ナモノニ對シテ繫ギトシテ、アッサリ
ト課ケテ行ク、斯ウ云フ方法ヲ執ッテ行クコ
トシカナイノデアリマス(「簡單々々」「アツ
サリ贊成シ給ヘ」ト呼フ者アリ、笑聲)臨時
的ニ、繫ギトシテ、アッサリ課ケテ行クコト
ニナリマスレバ、玆ニ臨時利得稅創設ノ意
義ガ初メテ活キテ來ルノデアリマス
併ナガラ此建前ニ於キマシテ私ハ決シテ
此稅種ヲ-臨時利得稅ヲ決シテ良イ稅ト
ハ思ッテ居ラヌノデアリマス、寧ロ賣上稅、
或ハ取引高稅ト云フ行キ方ノ方ガ適當デ
ナイカト思ハレルノデアリマス、是ハ松村
君ノ御議論ニモアッタノデアリマスガ、本稅
ニ於テハ人絹ト紡績ト負擔ガ公平ニナラヌ、
事實其通リデアリマス、是ハ稅率ヲ如何ニ
シテモ中々困難ナ事デアルノデアリマシテ、
寧ロ取引高稅ニ依リマシテ其公平ノ目的ヲ
達シ得ルト思フノデアリマス、一企業體ニ
統一サレマシタ利益ニ課ケルノデハナイ、
箇々ノ經濟行爲ニ課ケテ行ク、サウスルト
人絹ト紡績ガ明ニ區別サレルバカリデナ
ク、一ツノ企業體內デ、例ヘバ一ツノ軍需
工業會社ニ於キマシテモ、軍需品ノ生產費
ガ、工場生產單價ガ一圓デ、賣價ガ十圓、
一般ノ商品ハ五圓デ十圓、其筒々ノ利益ニ
對シテ、別ニ別簡ニ課ケテ行カレルノデア
リマスガ故ニ、寧ロ斯ル稅ノ方ガ適當デア
ルト思ヒマスケレドモ、政府ガ免ニ角臨時
利得稅デ行クトスルナラバ、ソレヲ大體吾
吾ノ考ヘテ居リマス取引高稅ノヤウニ、臨
時ノモノヽ繋ギトシテ、アッサリ課ケテ行ク
ト云フ、サウ云フ建前ニ於テ考ヘテ行ク外
ハアリマセヌ、サウ云フコトニ致シマスレ
バ玆ニ此稅ハドウ云フ性質ヲ持ッタラ宜
イカト云フコトニナリマス、卽チ其稅率ガ
極メテ單純デアッテ、却テ比例稅ノ方ガ宜イ
ト云フコトガ一ツ、ソレカラ此稅ソレ自體
ノ內部ニ於テハ、外形ヲ標準トシテ居リマ
ス結果、ソレハ政友會デ仰ッシヤルヤウニ、
必シモ不公平ナキヲ期シ難イノデアリマス
ガ、併ナガラ其不公平ハ寧ロー-先程小笠
原君ガ、私ガ超過所得ダケヲ申上ゲマシタ
カラ、ソレグケデ個人ト法人ガ釣合フヤウ
ニ御考ニナリマシタノハ、此方ノ言葉ガ足
リナカッタノデアリマス-寧ロ營業收益
稅所得稅等デ、下カラ元本ト利潤ヲ合セタ
建前デ、累進的綜合課稅ヲ行フコトニ公平
ノ主點ヲ置クコト、ソレカラ斯ル新稅ガ起
サレマシタ狀況ニ卽シテ、繫ギトシテ、稅
收入トシテノ寄與ノ上ニ、相當ノ效果ガア
ルコトヲ要スル、此三ツノ原則ガ-繫ギ
トシテ臨時的ノモノニアッサリ課ケテ行ク
ト云フ建前ナラバ-此三ツノ原則ガ出テ
來ルト思フノデアリマス、卽チ本稅ノ如キ
性質ノ稅ニ於キマシテハ、利潤ト、其因テ
來ル所ノ資本ノ根據乃至源泉力マデ立入ル
ベキ性質ノモノデハナイト思フ、此處ガ太
田サン、小笠原サント、私ノ此稅ニ對スル
見方ノ遠ヒデゴザイマス、違ヒデハゴザイ
マスルガ、違ッタ所モ一ツ御宏量ヲ以テ御聽
取ヲ願ヒタイノデアリマス、其利益ト云フ
ノハ、大體ニ於テ產業ノ內部ノ原因デ發生
シテ來タ利益デハナイノデアリマス、軍
國ノ必要ニ依ル政府ノ景氣政策、或ハ爲替
政策、或ハ外國ノ事情等、是等利益ノ發生
ノ原因ハ、寧ロ外部ニアッテ、且ツ產業自體
トシテハ偶然ニ與ヘラレタモノデアリマス、
デアリマスカラ、利潤ト、其源泉力タル資
本トノ綜合的ナモノニ擔稅力ガアルト見
ルベキモノデハナクシテ、增差額其モノ
ニ擔稅力ヲ認ムベキモノデアルト私共ハ
考ヘテ居リマス、隨ヒマシテ是ハ一ツノ
外形標準デゴザイマスカラ、比例稅デ
宜ク、稅率ハ單純デ差支ナイ、否單純ナ
方ガ却テ原則トシテ宜イ、ダカラ細部ニ
至ッテ多少不公平ハ生ズルデアリマセウガ、
併ナガラ增差額其モノヲ擔稅力ト見ルノ
デアリマスカラ、一ツノ企業全體トシテ
ノ擔稅力ハ、之ヲ他ハ稅制體系ニ求
ムベキモノデ、寧ロ本稅ノ範圍ニ於テ細部
ノ公平ヲ圖ルコトソレ自體ガ、本稅ノ起サ
レマシタル建前トハ副ハナイノデハナイカ
ト私共ハ考ヘルノデアリマス
更ニ又政友會ノ御修正ノ案ハ、大體二百
五十万圓ノ減收ヲ來ス結果ニナルノデゴザ
イマス、而シテ政府ハ三千三百万圓見當ノ
收入ヲ見テ居ラレマス、只今迄ノ御議論ニ
對シテ私ハ多少違フ見方ヲ有ッテ居リマス、
同僚諸君ノ御議論ハ、戰時利得稅ノ成績ヲ
御覽ニナリマシテ、本稅ガ政府ノ見積リ以
上ノ稅收入ヲ擧ゲ得ルヤニ御觀察相成ッテ
居ル向キガアルヤウニ考ヘマス、併ナガラ
私ハ實ハ別箇ノ見解ヲ有ッテ居ルノデゴザ
イマス、寧ロ本稅ハ辛ウジテ其收入ヲ擧ゲ
得ル程度ニ止マルノデハナイカトサヘ考ヘ
ルノデアリマス、其理由ハ景氣ニ對スル見
方ノ違ヒデアリマス、甚ダ淺學デゴザイマ
スカラ、此點ハ御〓ヲ乞ヒタイト思ヒマス
ルガ、私ハ寧ロ悲觀的ナ-政府ノ現在ノ
政策ガ其儘デ進行致シマスルナラバ、寧ロ
私ハ一ツノ悲觀的ナ見方ヲ有ッテ居ルノデ
アリマス、素ヨリ政府ガ昭和五六年以來色々
ノ御施設ヲナサイマシテ、景氣好轉ノ〓ニ就
イタコトハ、施政方針ノ御演說ニモ述ベラ
レテ居ル通リデゴザイマスルガ、貿易ノ趨
勢ハ、成程極端ナル入超ノ悲觀論ハ取ルニ
足ラヌト致シマシテモ、亦爲替「インフレㄴ
ガ到底所期ノ如キ效果ガ期待出來マセヌト
致シマシテモ、現在ノ位置其モノガ矢張景
氣ノ支柱トナリ得ルト致シマシテモ、兔ニ
角軍需工業ニ先ンジマシテ、爲替「インフ
レ」ノ刺戟ニ依ッテ好轉致シマシタル貿易關
係產業ノ上向運動ガ、一頓挫ヲシテ居ルコ
トハ、蔽ヒ難キ事實デアリマス、又各國ガ
執リツヽアリマスル所ノ財政均衡、或ハ輸
出入均衡ノ上カラノ求償協定貿易ノ傾向ハ、
是ハ御承知ノ通リ顯著デゴザイマシテ、廣
田外務大臣ガ輸入統制、或ハ求償協定貿易
ニ進ムトハ言ッテ居ラレマスガ、其效果ヲ發
生致シマス迄ニハ、相當ノ摩擦ト、時間ト、
忍耐ヲ要スルコトハ、是亦事實デアルト思
フノデアリマス、一方ニ於キマシテ國民ノ
貸付資本、所謂貯蓄高ノ大部分ガ、公債以
外ニ投資口ヲ見出スコトニナリマシテ、民
間ノ經濟ガ政府ノ消費ニ寄生シテ居ルト云
フヤウナ、自由主義經濟ニ於ケル所謂惡循
環ノ狀態ヲ除キ得ルカト言ヘバ、是モ相當
困難ナコトデアルト言ハナケレバナラヌト
思ヒマス、例ヘバ軍需工業會社ガ政府ニ軍
需品ヲ賣リマシテ、サウシテ紙幣デ代價ヲ
受取リマス、ソレヲ銀行ニ投込ミマスガ、
各銀行ニ殘ル所ハ其利潤ト固定資本ノ鎖却
ノ部分デアリマス、更ニ其軍需工業會社ニ
原料ヲ賣リマシタ會社ハ、軍需工業會社カ
ラ受取リマシタ代金ヲ銀行ニ投込ミマス、
併ナガラ軍需工業會社ガ政府ニ賣リマシタ
軍需品ハ、民間ノ流通過程カラ起サレマシ
タ需要ニ依ッテ造ラレタモノデハアリマセ
又、隨ヒマシテ是ハ流通圈外ニ排棄サレル
價値デアリマス、隨ヒマシテ經濟社會內部
ノ何處ニモ價値ノ增加ガ起キテ居リマセヌ
カラ、生產及流通ノ擴大ガ起キテ居ルノデ
ハナイノデアリマス、デアルカラ、斯ル銀
行ノ貸付資本ハ、民間ニ依然トシテ投資口
ヲ見出サズ、依然トシテ政府ノ公債ヲ待ッテ
居ル狀態ガ續クノデハナイカト思ハレルノ
デアリマス、ソコデ軍需工業ノ大部分ガ金
再禁止前マデハ衰弱最モ甚シイ產業デアリ
マシタカラ、政府ノ政策ハ之ヲ立直ラシメ
ク、立直ラシメタト云フコトハ、事業界均
衡化ノ一ノ意味ヲ有シテ居リマス、所ガ最
近デハ軍需工業ノ好況ハ斷然他ノ產業ヲ壓
シテ、玆ニ新シイ經濟ノ不均衡ガ出テ參リ
マシタ、ソコデ軍需工業ガ政府カラ公債デ
得タ紙幣ヲ受取ッテ銀行ニ入レル、サウシテ
又公債ニナルト云フ、此操作ダケデハ、私
共ハ一種ノ空廻リデアルト考ヘザルヲ得ナイ
ノデアリマス、ソコデ斯ウ云フ空廻リノ問題ノ
根柢ニ橫ッテ居リマス問題ハ何デアルカト申
シマスナラバ、是ハ旣ニ政友會ノ諸君ノ御指
摘ニナッテ居ル中小工業、農村ノ問題ハ固ヨ
リデゴザイマスガ、委員會ニ於テ松村君ガ御
指摘ニナリマシタ通リ、軍需「インフレ」ノ
其最中ニ於テ、軍需工業勞働者ガ得テ居リ
マス賃銀ハ、政府ノ統計ニ依リマシテモ、
定額賃金ハ減ッテ來テ居ル、固ヨリ休日勞
働或ハ殘業等ニ依リマスル實收賃金ハ、
稍〓殖エテ居リマスルガ、物價ニ依ッテ之ヲ
更ニ割リマシタル實質賃金ハ、減ッテ來テ居
ルノデゴザイマス、現在ノ機構ノ儘デハ、
如何ニ公債政策ト景氣政策ニ狂奔サレマシ
テモ、大衆ノ購買力ヲ增シ、之ヲ維持スル
特別ノ工作ナクシテハ、眞ノ持續的景氣ハ
出テ來ヌノデハナイカト吾々ハ考ヘマス、
此點ガ當面甚シク閑却セラレテ居ルノデゴ
ザイマス、ノミナラズ此民間ノ銀行ニゴザ
イマスル貸付資本ガ、昔ノ自由主義經濟ノ
ヤウニ、民間ニ投資口ヲ見付ケ難イト云フ
事情ハ、是ハ說明ヲ略シマスガ、例ヘバ今
日ノ肥料會社ノ肥料ノ生產費ガ區々デアル
ト云フ風ナ事情ハ、合成化學工業、或ハ精
密工業等ノ、新興工業ノ生產技術ガ極メテ
複雜デ、常ニ新發明ヲ要求シ常ニ〓究ヲ要
シ、〓究費ヲ要スルト云フ事情カラ、昔ノ
ヤウニ目論見書ダケデハ、金ガ中々流レテ
行カナイノデアリマス、一方ニ於テハ消極
的ニハ、委員會デ軍部大臣ノ御言葉ニ依レ
バ、將來トモ軍需品ト云フモノガ、常ニ其
貸付資本ヲ吸收スルト云フ狀態ニナッテ來
ルノデゴザイマスノデアリマスカラ、是カ
ラ本當ニ景氣ヲ繼續的ニ維持スル爲ニハ、
却テ强力ナル工作ニ依リマシテ、政府ハ今
後相當額ノ公債ヲ發行シ、之ヲ財源トシテ
事業ヲ行ヒ、且ツ之ニ購買力ノ發現ト維持
ノ工作ヲ附加シテ行カナケレバナラヌノゴ
ザイマス、然ラザル限リニ於キマシテハ、
臨時利得稅ハ其部門ニ於テ局限的デアリ、
永續的ナモノデハナイノデゴザイマス、ゴ
ザイマスルカラ、私共ノ考デハ跛行景氣ハ
是ハ續キマス、此跛行景氣ガ續クコトハ、
却テ全面的ナ景氣囘復ヲ阻害スル狀態ニナ
ルノデハナイカ、斯樣ナ狀態カラ考ヘテ來
ルナラバ、臨時利得稅ノ如キハ大ナル成績
ヲ擧ゲ得ナイノデハナイカト考ヘルノデア
リマス、政友會ノ中デ、法人ノ二千圓ヲ取ッ
テシマフ、個人ノ一萬圓以上ハ二千圓ヲ取ッ
テシマフ、斯ウ云フ修正案ガ御有リニナッタ
カト伺フノデアリマスルガ、不幸ニシテ本
議場デ伺フコトガ出來ナイノハ甚ダ遺憾デ
アリマス、斯ル修正案ガ出テ參リマシタナ
ラバ、此點ニ於テハ吾々ハ固ヨリ驥尾ニ附
シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス、遺憾
ナガラ左樣ナ修正案ガ出テ參リマセヌデ、
而シテ出テ參リマシタル修正案ノ要點ハ、
御承知ノ通リ第一ガ基準年度ト、第二ガ個
人ト法人ノ區別トー(發言スル者多シ)簡
單ニ申シマスカラ暫ク御〓聽ヲ願ヒマス、
モウ長イコトハアリマセヌ-法人ト個人
ノ區別ト、サウシテ第三ニ增減資ノ調節其
他ノ問題ニナッテ來テ居ルノデアリマス、〓括
的ニ申上ゲマスレバ、先程モ申上ゲマシタ如
ク、增差額其モノニ擔稅力ヲ認メルノデ、隨
テ單純ナル比例稅タルベキコト、負擔ノ公平
ハ他ノ租稅等トノ一體的、統一的見地デ圖ル
ベキモノナルコト、本稅ノ如キ稅デハ、其源泉力
ニマデ遡ルベキモノデハナイコト、サウシテ
成ベク收入ト云フコトニ付テハ、憂ナキコ
トヲ建前トスルコト、斯ウ云フヤウナ建前
カラ、〓括的ニ申上ゲマスレバ、政友會及
國民同盟ノ修正案ニ付キマシテハ、稅ノ性
質ノ考方カラ、遺憾ナガラ贊意ヲ表シ得ナ
イノデアリマス
政友會ノ修正案ノ第一ノ基準年度ヲ四、
五、六年ノ三年ニナサイマス事ニ付キマシ
テハ、昨日伺ッタ所デハ、不景氣ガ襲來シタ
ノハ昭和四年下半期カラデアル、ソコデ昭
和四年下半期ヲ取入レタイノデアルガ、課
稅技術上困難デアルカラ、四年ノ上半期ヲ
入レテ、四、五、六ノ三年ヲ以テ基準年度
トスルヤノ御意見デアッタノデアリマス、然
ルニ四年ヲ入レルコトニナリマスルト、實
際的ノ效果ハ何デアルカト申シマスルト、
一方ニ於テ百二三十万圓ノ減收トナリマス
コトノ外ハ何モナイ、卽チ四年ニ於テ高配
當ヲ致シマシタル會社ガ本稅カラ免レルト
云フノガ實際上ノ效果デアリマス、四年ニ
七分以下ノ配當ヲ致シマシタルモノニ付テ
ハ、理論的ニハ「マージン」ガ狹クナルダケ
ナノデアリマス、ソコデ先程モ太田サン
ガ、元來「スランプ」ノ底ヲ見ルノハイカ
又、斯ウ云フ立場ニ立ッテ居ラレルヤウデ
ゴザイマスルガ、當時ノ利廻リガ四五分ノ
所デアルノヲ、先ヅ七分ト見ルナラバ、大
體其處ニ緩和規定ヲ採ッテ居ルノデハナイ
カト考ヘラレル、卽チ七分ヲ八分ニナサイ
マスノナラバ、是ハ又別ノ御議論デゴザイ
マシテ、ソレナラバ立派ニ御議論ハ貫イテ
居ル、然ラザル限リニ於テハ、四年ニ於ケ
ル高配當會社ヲ殘シテ減收ヲ見ル結果ニナ
ルノガ、實際的ノ結果ニナルノデアリマ
ス、元來基準年度ハ經濟上ノ變化ノ直前ノ
時代ヲ取ルコトヽ、其間傾向ガ一定ヲシテ
居ル、一定期間ヲ取ルコトガ原則デハナイカ
ト思フ、サウスルナラバ矢張私ハ今日ノ景氣
ガ「リフレーシヨン」カラ出テ來テ居ルト考ヘ
ル限リニ於テハ「デフレーシヨン」時代ヲ取ッ
テ、其增差額ニ打ッ突ケテ行ク、是ガ所謂臨時
ノモノニ、繫ギニアッサリ課ケテ行クト云フ建
前カラ言ヘバ、極メテ單純ナ原則デハナイカ
ト思フノデアリマス
第二ニ法人ト個人ノ稅率ヲ別ニナサイマ
シテ、個人ヲ七分五厘トナサイマシタ事デ
ゴザイマスガ、其理由トシテ昨日拜承致シ
マシタ限リニ於キマシテハ、法人ハ增資ノ
場合ニ於テハ之ヲ緩和スル規定ガアルガ、
個人ハ自己資本デ生產設備ヲ擴大シ、自己
勘定ノ總量ヲ增加シタモノニ對シテハ緩和
ノ規定ガナイ、ソレカラ第二ニハ、個人ニ
付テハ勤勞所得ノ分子ガ多イ、第三ニハ、
個人ニハ法人ニ比シテ他ノ稅法上ノ控除サ
レル所ガ少イカラ、本稅ニ於テ公平上稅率
ヲ低クスルノダト云フ風ナ御議論ニ拜承致
シマシタ、是ハ公平論トシテハ、洵ニ一面
御尤ノ御議論ノヤウニ拜承致シマスルガ、
是モ矢張收入減ガ百二三十万圓出テ來ルト
致シマスルナラバ、合セテ二百五十万圓ノ
收入減ガ出ルノデアリマス、個人ト法人ノ
區別ニ付キマシテハ、吾々ガ能ク實際ニ就
テ考ヘテ見マスルナラバ、大體個人ガ必シ
モ勤勞所得ノ部分ガ多イ場合トノミニ限ッ
テ居ラナイヤウデアリマス、ノミナラズ課
稅技術ノ點カラ考ヘマシテ、個人ノ擔稅力
ガ低イノニ、個人ニ認メラレル控除ガ少ナ
過ギルト云フ御議論デハゴザイマスケレド
モ、個人ヲ法人ノ如ク扱フコトガ、今ノ稅
法ノ根本ノ建前デ可能デアルノナラバ、是
ハ洵ニ結構ナコトデゴザイマス、ケレド
モ、個人ノ資本勘定ノ算定ガ極メテ困難デ
アリ、況シテ法人ノヤウニ資本ノ量ヲ的確
ニ摑ムコトガ不可能ナ狀態デアルト考ヘラ
レマスル場合ニ於キマシテハ、之ヲ完全ニ致
シマスル爲ニハ、租稅體系ノ全體カラ掛ッテ
行カナケレバナラナイコトニナルノデアリ
マシテ、之ヲ本稅ノミニ於テ、本稅ノ內部
ニ於テ調節ヲ求メルコトハ、却テ他日根本
的ニ稅制改革ヲ行フ時ニ、公平上ノ支障ヲ
來ス虞ガアルノデハナイカトモ考ヘルノデ
アリマス
大體前段ニ申述ベマシタル如ク、本稅ハ
臨時的ナ增差額其モノヲ、獨立ナル擔稅力
ト見テ行ク行キ方デアリマス、增差益
ノ本タル資本、卽チ其源泉力マデ遡ッテ
公正ヲ求メルト云フコトハ、永久的ニ
課ケラルベキ營業收益稅、所得稅ニ於
テモ求ムベキコトデアリマス、卽チ本
稅ガ財產稅ノ如ク永久的ニ課ケラレルノナ
ラバ稅率ニ於テ、或ハ綜合累進ノ主義ニ
適ヒ、法人個人ノ區別ヲ設ケラルヽノハ、
是ハ至當ナコトデアリマス、併ナガラ臨時
ノ臨時ノモノデアルナラバ、增差益其モノ
ヲ擔稅力ト見テ行クナラバ、增差額ガ同ジ
デアルト云フコトハ、擔稅力ガ同ジト見ル
ト云フノガ、臨時稅法ノ建前デアリマス、
其增益ヲ全體ノ中ニ打込ンデ、全體トシテ
考ヘテ行ク建前デハナイノデアリマス、政
友會モ本稅ヲ以テ三年ト御限定ニ相成ッテ
居リマスル限リニ於テハ、臨時ノモノト御
考ニナッテ居ラセラレルコトヽ考ヘマス、サ
スレバ本稅ハ臨時的ナモノニ繫ギトシテ、
アツサリ課ケテ行ク性質ノモノト見テ居ラ
レルモノト拜察スルノデアリマス、サウス
ルト却テ玆ニ個人法人ノ區別ヲ設ケマスル
コトガ、却テ本稅ノ性質ニ反スルノデハナ
イカト考ヘルノデアリマス
第三ハ增減資ノ問題デアリマスルガ、是
ハ方法論トシテ勅令要綱デ、先ヅ時間ヲ決
メテ、サウシテ時期ノ前後ニ亙リ合併ヲ御
取扱ニナルト云フコトニナルノデアリマス
ルガ、申ス迄モナク大藏省ニ於テ地方銀行
ノ合同ハ其當否-善イカ惡イカ知リマセ
ヌガ、奬勵シテ居ラレル、商工省ニ於テハ
保險會社ノ合同ヲ奬勵シテ居ラレル、具尺
弱小產業ヲ鞏固ナル基礎ノ上ニ置クト云フ
建前デアルト拜察シテ居リマスルガ、合同
政策ノ當否ハ別トシテ、斯ウ云フ合同ヲヤッ
テ居ラレル今日ノ場合ニ於テ、玆ニ時期ヲ
決メルト云フト、斯ル合同會社ガ本稅ノ前
ニ現レテ來ル限リニ於テ、意味ナク二樣ノ
取扱ヲ受ケルコトニナリハシナイカト思フ
ノデアリマス、サウシテ時期ヲ決メテ、是
カラ後ハドレガ脫稅デ、ドレガ脫稅デナイ、
斯ウ說ンデ參リマスルコトニナリマス、例
ヘバ同族會社ガ現物出資ヲシ、或ハ自動車
會社ガ權利ヲ出資トシテ居ルヤウナ場合ニ
於テ、稅務當局ハソレガ架空ノモノデアル
ナラバ、之ヲ拂込トシテハ否認スルコトガ
出來ルノデゴザイマセウガ、定期預金ヲ振
込ンデ、一ツノ信託ノ形式ニシテ增資ヲ致
シマシタル場合ニ於テハ、是ハ中村君ノ仰
シヤイマシタヤウニ、中々判定ガ困難デハ
ナイカ、ノミナラズ私ハ先程小笠原サンガ
仰シヤイマシタト少シ意味ガ違フ理由カ
ラ、結局脫稅ノ認定ヲスルコトハ困難ダト
思フ、縱ンバ脫稅ガアルト大藏省ガ御分リ
ニナッタト致シマシテモ、河野一郞君ガ豫算
委員會デ、銀行局ガマダ六大銀行ノ檢査ヲ
シテ居ラヌト云フコトヲ難詰セラレタガ如
ク、或ハ決算委員會デ昭和七年上半期ノ決
算ニ於テ、永代橋稅務署管內デ三井銀行本店
ガ弗買利益一千万圓餘ノ祕密留保ヲシテ、所
得稅、營業收益稅ニ於テ百四十万圓ノ脫稅ヲ
行ッタ、幸ニシテ稅務官吏ガ之ヲ追徵致シマシ
タガ、併ナガラ矢張之ニ對シテハ査定中ニ
發見ヲサレタト云フコトデ、罰則ノ適用ハ
ナカッタ、斯ウ云フコトカラ考ヘマスルト、
脫稅ト云フコトガ分ッテモ、大資本大會社ニ
對シマシテハ、國家權力ノ發動ガ弱イコト
ガ有リ得ルト云フコトヲ吾々ハ考ヘザルヲ
得ナイノデアリマス、況ヤ今日ノ稅務機構
ト云フモノガ、親切ニ査定ヲ行フ程ニ大キ
ナル機構ニナッテハ居リマセヌ、今日徴稅費
ト云フモノガ豫算ニ上ッテ居リマスルガ、第
一ニマダ人數ガ-稅務官吏一人ノ負擔ガ
多ク見タ所デ千百十五人、少ク見テ八百
七十九人位デアリ、稅務官吏トシテハ中々
調ベガ屆カナイ、人ガ足リナイ、更ニ連絡
ガ足リナイ、サウシテ更ニ此稅務署ノ管轄
範圍ガ、例ヘバ湯河原ト湯河原ノ對岸ガ沼
津ト小田原ノ稅務署ニ分レテ居ル如ク、根
本的ニ一ツノ經濟範圍ト云フモノヲ目標ニ
シテ置イテナイノデアリマス、斯ウ云フヤ
ウナ點カラ考ヘマスルナラバ、ドウシテモ
脫稅ト云フヤウナコトヲ、親切ニ認定スル
ト云フコトハ、中々困難ナ事情ニアルノデ
ハナイカト思フノデアリマス、三年ト云フ
コトニ付キマシテハ、是ハ固ヨリ私共ハ贊
成デゴザイマス
附帶決議ノ前段ニ關シマシテハ、固ヨリ
各々ハ異存ハゴザイマセヌ、後段ニ關シマ
シテハ私共ハ此財政調整交付金ノ重大ナル
コトハ十分知ッテ居ルノミナラズ、此財政調
整交付金ト云フモノヲ永久ノ基礎ノ上ニ、
稅制體系ニ織込マネバナラヌト考ヘテ居リ
マスガ、是ハ本臨時利得稅ノ決議等ニ遊バ
サズニ、斯ノ如キ重大ナル問題ハ寧ロ政友
會ノ威力ヲ以テ、他ノ單獨ノ決議案ナリ其
他ヲ以テ十分御獲得ニ相成ルコトガ、眞ハ
大政黨ノ襟度ナリト吾々ハ信ズルノデアリ
マス(拍手)其外附加稅ノ問題或ハ「ストラ
イキクローズ」ノ問題ガゴザイマスルガ、
是ハ止メマス、要スルニ將來ノ稅制整理ト、
ソレニ伴ヒマスル新公債政策ト、ソレニ併
行シテ兵農兩全デナイ、一ツノ兵農一致ノ
統一的見地カラノ統制經濟ガ、三年後ニ當
然出テ來ルコトヲ條件ト致シマシテ、不滿
足ナガラ吾々ハ原案ノ方ガ、臨時的ノモノ、
繫ギトシテ、アッサリ課ケテ行クト云フ建前
カラ、其臨時ノ稅ノ性質ノ建前カラ、私ハ
政友會ノ修正案ニ反對ヲ致ス次第デゴザイ
そく、願クハ滿場ノ御贊成ヲ願ヒタイト考
ヘル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=59
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060・濱田國松
○議長(濱田國松君) 是ニテ討論ハ終局致
シマシタ、政府ヨリ發言ヲ求メラレテ居リ
マス、之ヲ許シマス-岡田內閣總理大臣
〔國務大臣岡田啓介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=60
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061・岡田啓介
○國務大臣(岡田啓介君) 臨時利得稅法案
ニ對スル修正案ハ、歲入ニ減少ヲ來スノミ
ナラズ、其修正條項ノ內容ニ付テモ首肯シ
難イ點ガアリマスノデ、政府ハ遺憾ナガラ
本修正案ニハ御同意致シ兼ネマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=61
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062・濱田國松
○議長(濱田國松君) 採決ニ入リマス、採
決ニ先チ其順序ニ付キ一言致シマス、先ヅ
野田文一郞君外五名提出ノ修正案ニ付採
決シ、次ニ委員長報〓ノ修正部分ヲ採決致
シマス、最後ニ原案中委員長報告ノ修正ヲ
除キタル其他ノ部分ニ付採決ヲ致シマ
ス-是ヨリ採決ニ入リマス、野田文一郞
君外五名提出ノ修正案ニ贊成ノ諸君ノ起立
ヲ求メマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=62
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063・濱田國松
○議長(濱田國松君) 起立少數、仍テ修正
案ハ否決サレマシタ、次ニ本案ノ委員長報
〓ノ修正ニ付採決ヲ致シマス、委員長報
告ノ修正ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=63
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064・濱田國松
○議長(濱田國松君) 起立多數(拍手)仍テ
委員長報告ノ修正ノ點ハ可決サレマシタ、
其他ハ原案ノ通リ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=64
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065・濱田國松
○讀長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ其他ハ原案ノ通リ決シマシタ、是
ニテ本案ノ第二讀會ハ終了致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=65
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066・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ
開カレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=66
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067・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=67
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068・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第三讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
臨時利得稅法案第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=68
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069・濱田國松
○議長(濱田國松君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、本案ハ第二讀會議決ノ通リ、卽チ委
員長報〓ノ通リ確定致シマシタ
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=69
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070・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本
日ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=70
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071・濱田國松
○議長(濱田國松君) 靑木君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=71
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072・濱田國松
○議長(濱田國松君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ議
事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ
是ニテ散會致シマス
午後七時十一分散會
衆議院議事速記錄第二十五號
中正誤
頁段行誤正
五三四三二一參ッタタノデ參ッタノデ
五三五四一二希室希望
五三八四二七出シタイノデ出シタノデ
五四三四二九本法業本法案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006713242X02619350312&spkNum=72
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