第69回帝国議会　衆議院　本会議　第10号　昭和11年5月16日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  昭和十一年五月十六日（土曜日）
  　　　午後一時二十八分開議
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  　議事日程　第九號
  　　昭和十一年五月十六日
  　　　午後一時開議
  　第一　思想犯保護觀察法案（政府提出）　第一讀會
  　第二　職業紹介法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第三　總動員祕密保護法案（政府提出）　第一讀會
  　第四　退職積立金及退職手當法案（政府提出）　第一讀會
  　第五　農村負債整理組合法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第六　航空法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第七　昭和十一年勅令第十八號（一定の地域に戒嚴令中必要の規定を適用するの件）（承諾を求むる件）（貴族院送付）
  　第八　昭和十一年勅令第二十一號（東京陸軍軍法會議に關する件）（承諾を求むる件）（貴族院送付）
  　第九　昭和九年度第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　昭和九年度特別會計第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　昭和九年度特別會計豫備費支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　昭和九年度滿洲事件第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　自昭和十年四月至同年十二月昭和十年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　自昭和十年四月至同年十二月昭和十年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　第九　自昭和十年四月至同年十二月昭和十年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件（承諾を求むる件）
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  　　〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
  一議員より提出せられたる議案左の如し
  　衆議院議員選擧法中改正法律案
  　　提出者　　　　　　　　杉山元治郎君
  　下關港擴張改修に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　村岡吾一君
  　北海道に航空隊設置に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　坂東幸太郎君
  　人口問題に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　坂東幸太郎君
  　鑛業被害地復舊促進に關する建議案
  　　提出者
  　　　　山崎猛君　鈴木辰三郎君
  　　　　田島勝太郎君　田尻生五君
  　　　　石井徳久次君　亀井貫一郎君
  　　　　末松偕一郎君　勝正憲君
  　　　　片山秀太郎君　末次虎太郎君
  　　　　岡幸三郎君　沖藏君
  　　　　鶴惣市君　前田幸作君
  　　　　中野正剛君　山崎達之輔君
  　　　　松本次一郎君　比佐昌平君
  　久慈川改修竝水源地治水促進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　中井川浩君
  　上野土浦間電化速進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　中井川浩君
  　肝屬川治水工事急施に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　永田良吉君
  　湖南鐵道建設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　八田宗吉君
  　柳津野澤間坂下喜多方間及田島只見間鐵道建設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　八田宗吉君
  　水利組合に對し大藏省預金部資金貸付に關する建議案
  　　提出者
  　　　　宮本雄一郎君　加藤賢司君
  　　　　小林かなえ君　鈴木辰三郎君
  　　　　山田又司君　出井兵吉君
  　　　　松川昌藏君　佐々木家壽治君
  　　　　勝又春一君　林讓治君
  　大井川改修工事促進に關する建議案
  　　提出者
  　　　　宮本雄一郎君　山口忠五郎君
  　　　　深澤豐太郎君
  　國立公園地域擴張に關する建議案
  　　提出者
  　　　　宮本雄一郎君　深澤豐太郎君
  　　　　山口忠五郎君
  　沖繩縣航路國營に關する建議案
  　　提出者
  　　　　伊禮肇君　仲井間宗一君
  　聖旨奉體庶政一新に關する決議案
  　　提出者
  　　　　町田忠治君　永井柳太郎君
  　　　　俵孫一君　大麻唯男君
  　　　　西村丹治郎君　野村嘉六君
  　　　　一宮房治郎君　加藤鯛一君
  　　　　工藤鐵男君　八並武治君
  　　　　松村謙三君　木檜三四郎君
  　　　　櫻内幸雄君　齋藤隆夫君
  　　　　一松定吉君　太田信治郎君
  　　　　武知勇記君　田島勝太郎君
  　　　　松田竹千代君　小泉又次郎君
  　　　　小山松壽君　小山邦太郎君
  　　　　手代木隆吉君　青木亮貫君
  　　　　比佐昌平君　末松偕一郎君
  　　　　松野鶴平君　安藤正純君
  　　　　堀切善兵衞君　大口喜六君
  　　　　生田和平君　金光庸夫君
  　　　　東郷實君　森田政義君
  　　　　今井健彦君　山崎猛君
  　　　　東武君　西方利馬君
  　　　　石坂豐一君　牧野良三君
  　　　　岩本武助君　河上哲太君
  　　　　宮澤裕君　清瀬規矩雄君
  　　　　西岡竹次郎君　尾崎行雄君
  　　　　望月圭介君　山崎達之輔君
  　　　　内田信也君　安部磯雄君
  　　　　大竹貫一君
  　　　　　　　　（以上五月十四日提出）
  　決議案（臨時議會召集奏請の件）
  　　提出者
  　　　　田万清臣君　風見章君
  　　　　今井新造君
  　　　　　　　　（以上五月十五日提出）
  一去十四日廣田内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
  　　　　　　　　社會局部長　山崎巖
  　第六十九囘議會内務省所管事務政府委員被仰付
  　　　　　　　　社會局部長　赤松小寅
  　第六十九囘議會内務省所管事務政府委員被仰付
  一去十四日常任委員補闕選擧の結果左の如し
  　第一部選出
  　　請願委員　川俣清音君（松本次一君補闕）
  　第七部選出
  　　豫算委員　堀内良平君（小山谷藏君補闕）
  一去十四日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
  　重要肥料業統制法案（政府提出）委員
  　　理事　北原阿智之助君（理事村上國吉君去十四日理事辭任に付其の補闕）
  　東北興業株式會社法案（政府提出）外一件委員
  　　理事　鈴木辰三郎君（理事菅野善右衞門君去十四日委員辭任に付其の補闕）
  　昭和十一年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出）委員
  　　理事　池田清秋君（理事岡本實太郎君去十四日理事辭任に付其の補闕）
  一去十四日議長に於て選定したる委員左の如し
  　朝鮮事業公債法中改正法律案（政府提出）委員
  　　　　牧山耕藏君　小山倉之助君
  　　　　森下國雄君　小畑虎之助君
  　　　　喜多壯一郎君　岡田春夫君
  　　　　山森利一君　松尾四郎君
  　　　　岩瀬亮君　工藤十三雄君
  　　　　小谷節夫君　肥田琢司君
  　　　　西村茂生君　片山秀太郎君
  　　　　末次虎太郎君　三浦虎雄君
  　　　　綾川武治君　鈴木文治君
  　大正十二年法律第五十二號中改正法律案（司法官試補及辯護士の資格に關する件）（政府提出、貴族院送付）委員
  　　　　武富濟君　八並武治君
  　　　　池田清秋君　高松長三君
  　　　　原玉重君　西田郁平君
  　　　　内藤正剛君　森兼道君
  　　　　宮崎一君　藤井達二君
  　　　　松木弘君　小林かなえ君
  　　　　岩崎幸治郎君　久山知之君
  　　　　西岡竹次郎君　馬場元治君
  　　　　飯村五郎君　黒田寿男君
  　不穩文書等取締法案（政府提出）委員
  　　　　岡本實太郎君　村岡吾一君
  　　　　勝田永吉君　一宮房治郎君
  　　　　岡崎久次郎君　小柳牧衞君
  　　　　橋本祐幸君　鵜澤宇八君
  　　　　川崎末五郎君　齋藤直橘君
  　　　　田村秀吉君　原夫次郎君
  　　　　熊谷直太君　益谷秀次君
  　　　　犬養健君　牧野賤男君
  　　　　本多貞次郎君　宮澤清作君
  　　　　加藤鐐五郎君　宮澤裕君
  　　　　田尻生五君　渡邊泰邦君
  　　　　福田耕君　山口久吉君
  　　　　塚本重藏君　田万清臣君
  　　　　藏原敏捷君
  一去十四日に於ける特別委員の異動左の如し
  　東北興業株式會社法案（政府提出）外一件委員
  　　辭任　菅野善右衞門君　補闕　鈴木辰三郎君
  　産繭處理統制法案（政府提出）外二件委員
  　　辭任　鈴木辰三郎君　補闕　菅野善右衞門君
  　重要肥料業統制法案（政府提出）委員
  　　辭任　佐竹晴記君　補闕　三宅正一君
  　昭和六年法律第四十號中改正法律案（政府提出）委員
  　　辭任　松井郡治君　補闕　平野光雄君
  　昭和十一年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出）委員
  　　辭任　南雲正朔君　補闕　松田正一君
  　　辭任　豐田收君　補闕　綾川武治君
  　商工組合中央金庫法案（政府提出）委員
  　　辭任　菊池長右エ門君　補闕　玉置吉之亟君
  　　辭任　田中彌助君　補闕　倉元要一君
  　　辭任　高橋泰雄君　補闕　芦田均君
  　　辭任　中野治介君　補闕　木村作次郎君
  　　辭任　登坂良作君　補闕　西方利馬君
  　米穀自治管理法案（政府提出）外二件委員
  　　辭任　喜多壯一郎君　補闕　眞鍋儀十君
  一昨十五日委員長及理事互選の結果左の如し
  　朝鮮事業公債法中改正法律案（政府提出）委員
  　　委員長　牧山耕藏君
  　　　理事
  　　　　　　森下國雄君　喜多壯一郎君
  　　　　　　小谷節夫君
  　大正十二年法律第五十二號中改正法律案（司法官試補及辯護士の資格に關する件）（政府提出、貴族院送付）委員
  　　委員長　岩崎幸治郎君
  　　　理事
  　　　　　　西田郁平君　内藤正剛君
  　　　　　　小林かなえ君
  　不穩文書等取締法案（政府提出）委員
  　　委員長　熊谷直太君
  　　　理事
  　　　　　　小柳牧衞君　川崎末五郎君
  　　　　　　齋藤直橘君　益谷秀次君
  　　　　　　犬養健君
  一昨十五日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
  　重要肥料業統制法案（政府提出）委員
  　　理事　松田喜三郎君（理事北原阿智之助君昨日委員辭任に付其の補闕）
  　商工組合中央金庫法案（政府提出）委員
  　　理事　玉置吉之亟君（理事高橋泰雄君去十四日委員辭任に付其の補闕）
  一昨十五日に於ける特別委員の異動左の如し
  　米穀自治管理法案（政府提出）外二件委員
  　　辭任　池本甚四郎君　補闕　川橋豊治郎君
  　大正十二年法律第五十二號中改正法律案（政府提出、貴族院送付）委員
  　　辭任　八並武治君　補闕　松井郡治君
  　朝鮮事業公債法中改正法法律案（政府提出）委員
  　　辭任　鈴木文治君　補闕　川俣清音君
  　不穩文書等取締法案（政府提出）委員
  　　辭任　岡崎久次郎君　補闕　堀内良平君
  　　辭任　橋本祐幸君　補闕　中村又一君
  　商工組合中央金庫法案（政府提出）委員
  　　辭任　倉元要一君　補闕　宮本雄一郎君
  　重要肥料業統制法案（政府提出）委員
  　　辭任　北原阿智之助君　補闕　松田喜三郎君
  　　辭任　村上國吉君　補闕　土屋寛君
  　土地賃貸價格改訂法案（政府提出）委員
  　　辭任　西村金三郎君　補闕　土田莊助君
  　航路統制法案（政府提出）委員
  　　辭任　木村吉太郎君　補闕　池田清秋君
  　　辭任　片岡恒一君　補闕　朝倉毎人君
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• 001・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　會議ヲ開キマス、
  御諮リ致スコトガアリマス、產繭處理統制
  法案外二件、土地賃貸價格改訂法案、重要
  肥料業統制法案、航路統制法案及ビ不穩文
  書等取締法案ノ各委員長ヨリ、本日本會議
  中委員會ヲ開キタイトノ御申出ガアリマシ
  ク、之ヲ許可スルニ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 002・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  許可スルニ決シマシタ-日程第一、思想
  犯保護觀察法案ノ第一讀會ヲ開キマス-
  司法大臣林賴三郞君
  第思想犯保護觀察法案(政府提出)
  第一讀會
  思想犯保護觀察法案
  思想犯保護觀察法
  第一條治安維持法ノ罪ヲ犯シタル者ニ
  對シ刑ノ執行猶豫ノ言渡アリタル場合
  又ハ訴追ヲ必要トセザル爲公訴ヲ提起
  セザル場合ニ於テハ保護觀察審査會ノ
  決議ニ依リ本人ヲ保護觀察ニ付スルコ
  トヲ得本人刑ノ執行ヲ終リ又ハ假出獄
  ヲ許サレタル場合亦同ジ
  第二條保護觀察ニ於テハ本人ヲ保護シ
  テ更ニ罪ヲ犯スノ危險ヲ防止スル爲其
  ノ思想及行動ヲ觀察スルモノトス
  第三條保護觀察ハ本人ヲ保護觀察所ノ
  保護司ノ觀察ニ付シ又ハ保護者ニ引渡
  シ若ハ保護團體、寺院、〓會、病院其
  ノ他適當ナル者ニ委託シテ之ヲ爲ス
  第四條保護觀察ニ付セラレタル者ニ對
  シテハ居住、交友又ハ通信ノ制限其ノ
  他適當ナル條件ノ遵守ヲ命ズルコトヲ得
  第五條保護觀察ノ期間ハ二年トス特ニ
  繼續ノ必要アル場合ニ於テハ保護觀察
  審査會ノ決議ニ依リ之ヲ更新スルコト
  ヲ得
  第六條第一條ニ定ムル事由ノ生ジタル
  場合ニ於テ必要アルトキハ本人ニ對シ
  保護觀察審査會ノ決議前假ニ第三條ノ
  處分ヲ爲スコトヲ得
  第七條第三條又ハ第四條ノ處分ハ其ノ
  執行中何時ニテモ之ヲ取消シ又ハ變更
  スルコトヲ得前條ノ處分ニ付亦同ジ
  第八條保護觀察所ハ必要アルトキハ保
  護司ヲンテ本人ヲ同行セシムルコトヲ
  得
  第九條保護觀察所及保護司ハ其ノ職務
  ヲ行フニ付公務所又ハ公務員ニ對シ囑
  託ヲ爲シ其ノ他必要ナル補助ヲ求ムル
  コトヲ得
  第十條本人ヲ保護團體、寺院、〓會、
  病院又ハ適當ナル者ニ委託シタルトキ
  ハ委託ヲ受ケタル者ニ對シ之ニ因リテ
  生ジタル費用ノ全部又ハ一部ヲ給付ス
  ルコトヲ得
  第十一條前條ノ費用ハ保護觀察所ノ命
  令ニ依リ本人又ハ本人ヲ扶養スル義務
  アル者ヨリ其ノ全部又ハ一部ヲ徴收ス
  ルコトヲ得此ノ命令ニ付テハ非訟事件
  手續法第二百八條ノ規定ヲ準用ス
  前項ノ命令ニ不服アル者ハ命令ノ〓知
  ヲ受ケタル日ヨリ一月內ニ通常裁判所
  ニ出訴スルコトヲ得此ノ出訴ハ執行停
  止ノ效力ヲ有セズ
  第十二條少年ニシテ治安維持法ノ罪ヲ
  犯シタル者ニハ少年法ノ保護處分ニ關
  スル規定ヲ適用セズ
  第十三條本法ハ陸軍刑法第八條、第九
  條及海軍刑法第八條、第九條ニ揭グル
  者ニハ之ヲ適用セズ
  第十四條保護觀察所及保護觀察審査會
  ノ組織及權限竝ニ保護觀察ノ實行ニ關
  シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前ニ第一條ニ定ムル事由
  ノ生ジタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
  〔國務大臣林賴三郞君登壇〕

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• 003・林頼三郎

  ○國務大臣(林賴三郞君)　只今上程ニ相成
  リマシタ思想犯保護觀察法案ヲ提出スルニ
  至リマシタ理由ヲ說明致シマス、治安維持
  法違反事件ニ付キマシテハ、政府ハ昭和三
  年以來銳意是ガ檢擧ヲ續行致シ、流石執拗
  ヲ極メマシタ共產主義者ノ運動モ、漸次落
  潮ノ傾向ヲ辿ルニ至リマシタコトハ、旣
  御承知ノ通リデアリマス、飜ッテ昭和三年以
  來治安維持法違反ノ罪ニ依ッテ檢擧シマシ
  タ者ニ付テ考察シマスルノニ、其中ニハ起
  訴猶豫ノ處分若クハ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケ、
  又ハ刑ノ執行ヲ終リ若クハ假出獄ヲ許サ
  レタル者ガ、相當多數ニ達シテ居ルノデア
  リマスガ、是等ノ者ノ心情ハ極メテ區々デ
  アリマシテ、其中ニハ眞ニ轉向シタ者モア
  リマスガ、依然トシテ不逞思想ヲ懷抱シテ、
  熾烈ナル鬪爭意識ヲ表示スル者モアリ、又
  其態度極メテ曖味デアリマシテ、轉向ノ意思
  ノ存否ガ判明シナイ者モアリマス、或ハ轉
  向ノ意思ヲ表明シマシテモ、其志操ノ堅固
  ナラザル者ガアルノデアリマス、思フニ轉
  向セザル者ガ再ビ罪ヲ犯スノ危險アルコト
  ハ明白デアリマスガ、爾餘ノ者ニシマシテ
  モ、此儘之ヲ放置スルニ於テハ、其環境又
  ハ社會情勢ニ左右セラレマシテ、再ビ犯行
  ヲ累ヌルノ虞ノアル者ガ尠クナイノデアリ
  マス、然ルニ近時ニ至リマシテ、此治安維
  持法ノ違反者ニシテ、刑期ノ滿了ニ依ッテ出
  獄スル者ガ、漸次其數ヲ加ヘルコトニ相成
  リ、其中ニハ危險性ノ强イ者ガアリマスノデ、
  是等ノ者ノ出獄ガ他ノ危險性ノ弱イ釋放者
  及ビ一般社會ニ及ボス影響ニ付キマシテハ、
  思想犯ノ特性ニ鑑ミマシテ、深ク考慮スル
  ノ必要ガアルノデアリマス、是ト同時ニ最
  近ニ至リ執行猶豫期間ノ滿了スル者ノ數モ、
  著シク增加シテ參ッテ居リマスカラ、是等
  ノ者ヲシテ其期間ノ滿了後ニ於ケル行動ヲ
  誤ラシメザルヤウニ、特ニ警戒ヲ嚴ニスル
  ノ要ガアルモノト思料致スノデアリマス、
  而シテ之ヲ內外ノ諸情勢ト綜合シテ考察致
  シマスルト、今ニ於テ是等ノ思想犯人ニ對
  スル萬全ノ方策ヲ樹立シ、以テ再犯防止ノ
  擧ニ出ヅルコトハ、我國ニ於テ此種不逞兇
  惡ノ思想運動ヲ根絕致シマスル上ニ、喫緊
  ノ要務デアルト確信スルノデアリマス、隨
  テ政府ハ是等ノ者ノ思想及ビ行動ヲ觀察シ、
  非轉向者ニ對シテハ其轉向ヲ促進シ、併セ
  テ非違ヲ犯スコトナキノ途ヲ講ズルト共ニ、
  轉向者ニ對シテハ轉向ヲ確保スルノ方法ヲ
  採リマスル爲ニ、玆ニ思想犯保護觀察法ヲ
  制定スルノ必要ヲ認メタ次第デアリマス、
  本法案ニ關スル詳細ハ委員會ニ於テ御說明
  申上ゲル機會ガアラウト思フノデアリマス、
  何卒愼重御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラレンコ
  トヲ切望致シマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=3

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• 004・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　質疑ノ通〓ガアリ
  やく、之ヲ許可致シマス-小林錡君
  〔小林錡君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=4

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• 005・小林かなえ

  ○小林錡君　諸君、私ハ是マデ本院ニ數囘
  司法保護法案ヲ提出致シマシテ、本院ヲ通
  過サセマシクルコトガアリマスルノデ、只今
  上程ニナッテ居リマスル思想犯保護觀察法
  ニ付キマシテ、是等ノ關係上政府ニ二三點
  ノ質疑ヲ致シタイト思フノデアリマス
  先ヅ第一點ハ、政府ハ何ガ故ニ保護觀察
  ノ制度ヲ單ニ治安維持法違反、卽チ思想犯
  人ノミニ局限スルノデアルカ、此點デアリ
  マス、曩ニ私等ハ同志ト共ニ第六十五議會
  ニ於キマシテ、司法保護法案ヲ提出致シマ
  シタ、幸ニモ滿場一致ノ御贊同ヲ得マシテ、
  本院ハ通過致シマシタガ、貴族院ニ於テ審
  議未了ニ終ッタノデアリマス、次イデ第六十
  六議會ニハ、政民國同三黨ノ間ノ有志ノ共
  同提案ニ依リマシテ、同ジク同案ヲ提出致
  シマシテ、是亦本院ヲ通過致シマシタガ、
  審議未了ニ終リマシタ、次イデ第六十七議
  會ニハ、政友民政兩黨內ニ於ケル有志ノ共
  同提案トシテ提出致シマシテ、何レモ同樣
  一致ノ御贊同ヲ受ケマシタケレドモ、貴族
  院ニ於テ審議未了ニ終ッタノデアリマス、此
  吾等ガ提出致シマシタル法案ニ依リマスル
  ト保護觀察ノ客體ハ斯ル一部ノ思想犯人
  ノミニ限局サレタルモノデハナク、總テノ
  一般犯人ニ對シマシテ、一、刑ノ執行ヲ終リ
  又ハ刑ノ執行ノ免除ヲ受ケタル者、二、假
  釋放ヲ許サレタル者、三、刑ノ執行ヲ停止
  セラレタル者、四、刑ノ執行ヲ猶豫セラレ
  タル者、五、起訴猶豫又ハ微罪釋放ノ處分
  ヲ受ケタル者、六、其他刑事處分ヲ受ケタル
  者、是等ノ中必要アリト認ムル者ハ、之ヲ保
  護觀察ノ制度ニ付スルト云フ案デアリマシ
  テ、總テノ犯人ニ對スル保護觀察ノ制度ヲ
  完備サセヨウト致シタノデアリマス、諸君、
  凡ソ檢察、裁判、行刑ノ三ツノ要素ハ、司法事
  務ノ三大要素デアリマシテ、而モ保護ノ制
  度コソハ、此三作用ニ依ッテ行ハレル所ノ改
  善主義、刑罰ノ最後ノ仕上ゲヲ爲スベキ最
  モ重要ナルモノト言ハナケレバナラヌノデ
  アリマス、裁判モ行刑モ結局ハ此保護ノ役
  目ガ完全ニ果サレテ、彼等犯人ヲシテ社會復
  歸ニ至ル所ノ段階ヲ全ウサセルモノデアリ
  マス、隨テ一般ノ犯人ニ對シマシテ恩情ト
  嚴戒トニ依ル所ノ、目ニ見エザル絲ニ依ッテ、
  之ヲ改過遷善サセルト云フコトハ一方
  ニ於テ犯罪再犯ヲ防止スルト同時ニ、般
  ノ犯罪ノ誘致ヲ防グコトガ出來ルノデアリ
  マスルカラ、舊刑法時代ニ於ケルガ如キ、
  卽チ監視制度ノ弊害ニ陷ルコトナクシテ、
  能ク其作用ヲ全カラシメルコトガ出來ルナ
  ラバ、私ハ司法制度トシテ最モ重要ナル制
  度デナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、
  然ルニ政府ハ今囘此法律案ヲ提出致シマシ
  タル所ニ依レバ、單ニ思想犯人ニ限局シテ
  居ルノデアリマス、何ガ故ニ斯ル小範圍ニ
  限局シタノデアルカ、是ハ第一點トシテ、
  ドウシテモ御伺ヲシナケレバナラヌ點デア
  リマス、私ノ見ル所ニ依リマスレバ思想
  犯人、特ニ本法ノ保護ノ對象トスル所ノ左
  翼思想犯人、此多クハ所謂知識階級ニ屬ス
  ル人々デアリマス、所謂「インテリ」階級ノ
  人々デアリマシテ、他ノ犯罪人ノ如ク無智
  蒙昧ナル者ハ極メテ稀デアルト言ハナケレ
  バナリマセヌ、デ是等ノ犯人ヲ轉向サセ、
  其轉向ヲ徹底サセルト云フコトノ上ニ於テ
  ハ、十分ナル注意ヲシナケレバナリマセヌ、
  而モ保護觀察ハ動モスレバ是等ノ人々ニ相
  當ノ干涉ヲスルコトニナリマスルカラ、是
  等ノ知識階級ニ對シテハ、寧ロ保護觀察制
  度ハ其手ヲ緩メテ、一般ノ無智蒙昧ナル、
  放縱ニシテ遊隋ナル、一定ノ住所スラ持タ
  ナイ所ノ犯人ニ對スル方ガ、寧ロ喫緊ノ要
  事デハナイカト私ハ考ヘルノデアリマス、
  第六十六議會ニ於キマシテ、治安維持法改
  正法律案ガ審議サレタ當時、司法當局カラ
  承ル所ニ依リマスルト云フト、治安維持法違
  反ノ犯人ノ中デ轉向者五千人、其中ニ再ビ
  檢擧サレタ人員ト云フモノハ、三百十一人
  ニ過ギナイト云フコトヲ發表シテ居ラレタ
  ノデアリマス、又一方思想犯人ハ國家共同
  ノ敵ト致シマシテ、內務省ノ警察部ニ於テ
  ハ固ヨリ、又全國各地ノ檢事局ニ於キマシ
  テモ、是等ノ轉向者ノ行動ヲ仔細ニ觀察致
  シマシテ、サウシテ善良ナル民ニ復歸サセ
  ルヤウニ努力シテ居ルト云フコトハ、今日
  ノ實情デアリマス、故ニ私ハ今日ノ實際ニ
  於キマシテハ、寧ロ是等ノ人々ヨリモ、一
  般ノ犯罪人ニ對スル所ノ保護觀察制度コソ
  最モ重要デアリマシテ、若シ斯ノ如キ法律
  ヲ作ルナラバ、先ヅ一般犯人ニ對スル所ノ
  保護觀察制度ヲ作リマシテ、而シテ一般人
  ノ中ノ最モ改過遷善ノ實ノ舉ガラヌト云フ
  人間ニ力ヲ致シ、サウシテ又一方思想犯人
  ノ中ノ最モ矯激ナル者ニ此制度ヲ加ヘル方
  ガ、寧ロ今日ノ喫緊事デハナイカト考ヘル
  ノデアリマス、若夫レ豫算ノ關係ノ上カラ、
  斯ノ如ク保護ノ對象ヲ限局シタトスルナラ
  バ、此法律案ハ私ノ考ヲ以テスレバ、寧ロ
  之ヲ全面的ノ規定ト致シマシテ、其實施ヲ
  漸次ニ範圍ヲ擴メテ、對象ヲ一般受刑者、
  起訴猶豫者及ビ執行猶豫者ニ及ボスコトガ、
  當然デハナイカト考へルノデアリマス
  第二ハ、政府ハ極メテ喫緊ノ要ガアルガ
  故ニ、本案ヲ提出スルト云フコトヲ述ベテ
  居リマス、果シテ本案ヲ提出スルコトガ、
  ソレダケノ喫緊事デアルヤ否ヤ、此點ハ私
  ノ是非知リタイ點デアリマス、本案ハ旣ニ
  第六十七、第六十八ノ兩議會ニ提案サレマ
  シタル所ノ、治安維持法改正法律案ノ第四
  章保護觀察ト名ヲ附ケタ所ノ、卽チ第二十
  二條カラ第二十五條ノ數箇條ヲ抽出致シマ
  シテ、之ニ餘リ重要ナラザル所ノ數點ヲ附
  加シテ、以テ單行法規ニシタノニ過ギマセ
  又、法規ノ立前ニ於テ、又內容實質ニ於キ
  マシテ、些ノ變化モナケレバ、新シキ試ミ
  モ特色モ現レテ居ラナイノデアリマス、デ
  第六十七議會ニ於ケル、又第六十八議會ニ
  於ケル當時ノ司法大臣ハ固ヨリ、又齋藤、
  岡田兩首相カラモ、現行治安維持法ハ非常
  ナル缺陷ガアル、直チニ改正ヲシナケレバ
  左翼思想ノ蔓延ト、之ニ因スル所ノ犯行ノ勃
  發ガ甚シク、改正ガ速カデナケレバ國礎爲
  ニ危シトマデ極言シテ居ッタノニ拘ラズ、第
  六十七議會ニ於テハ、本院ハ通過致シマシ
  タケレドモ、貴族院ニ於テ豫防拘禁ノ制度
  創設ニ付テ、近代刑事政策上、又近代刑事
  思潮ノ上カラ激烈ナル反對ガアリマシテ、
  遂ニ成立ヲ見ナカッタノデアリマス、又第六
  十八議會ニハ、政府ハ豫防拘禁ノ一章ヲ削
  除致シマシテ再ビ之ヲ提出シ、本院ノ特別
  委員會ニ於テ愼重審議ノ結果、大部分ハ、
  否、殆ド全部ノ檢討審議ヲ終ヘタノデアリマ
  スガ、同法第三條ノ國體變革ノ解釋ニ付キ
  マシテ、偶〓當時天下ノ論議トナッテ居リマ
  シタ所ノ所謂機關說、卽チ美濃部學說ノ論
  議ニ關聯シマシテ、當時ノ司法、內務ノ兩
  大臣ハ、機關說ガ我ガ國體觀念ノ上ニ到底
  相容ルベカラザルモノデアルコトヲ進ンデ
  確言セズ、特ニ岡田首相ノ如キハ言ヲ左右
  ニ致シマシテ一時ヲ糊塗シ、其會期ノ終末
  ニ至リマシテモ、此特別委員會ニハ姿ヲ現
  ハサナイ、度々呼ビニ參リマシテモ、隣ノ
  請願委員會マデハ出テ來ルガ、此委員會ニ
  出テ來ナイ、斯ウ云フ風デアリマシテ、私
  ガ確知スル所ニ依リマスレバ、當時本院ヲ
  通過セシ米穀自治管理法案等ノ、農林省ノ
  重要法案ガ貴族院ニ囘付セラレテ居リマシ
  テ、若シ數日ノ會期延長ヲナセバ、通過ハ
  確實ノ見極メガ付イテ居リマシタノニ拘ラ
  ズ、又此延長ニ依ッテ治安維持法モ通過ガ容
  易デアッタノニ拘ラズ、首相ハ其委員會ニ於
  キマシテ機關說排擊ヲ明言スルコトヲ得ズ、
  其答辯ニ窮シマシタ餘リ、聞ク所ニ依レバ
  當時ノ閣僚ニスラ諮ラズニ、突如トシテ會
  期延長ヲ斷念シ、遂ニ是等重要法律案ノ不
  成立ヲ結果シタノデアルト云フコトハ、皆
  サンノ御承知ノ通リデアリマス、私ハ此前
  內閣ノ態度ニ對シテ、死屍ニ鞭ツコトヲ快
  シトスル者デハアリマセヌケレドモ、其後
  國體明徵ノ問題ニ付テ、二囘モ聲明ノヤリ
  直シヲスルト云フヤウナ醜態ヲ演ジタコト
  ハ、諸君ノ知ラルヽ通リデアリマシテ、當
  時ノ特別委員會ニ於テ、若シ岡田首相ガ其
  後ニ於ケル聲明ノ如キ態度ヲ執ラレタナラ
  バ治安維持法ハ何ナク本院ヲ通過シマシ
  テ、此保護觀察制度ノ如キハ、今日出サナク
  テモ濟ンダ譯デアルノデアリマス、當時齋
  藤岡田ノ兩首相ハ、若シ治安維持法ノ改
  正ガ出來ナイナラバ、共產主義ノ蔓延甚シ
  ク、國礎爲ニ危ク、到底國礎擁護ノ爲ニ堪
  ヘ難イ、斯ウ云フコトデ、各委員會ニ於テ
  モ非常ナル堪へ難キヲ堪ヘテ居ッタノニ拘
  ラズ、今日此特別議會ガ開カレルニ當リマ
  シテ、此治安維持法ヲ本院ニ提出スルコト
  ヲセズシテ、僅ニ其一章ヲ抽出シテ、單行
  法トシテ之ヲ實施スルト云フ、其眞意ガ那
  邊ニアルカ、私ハ解スルニ苦シムノデアリ
  マス、其治安維持法ノ提出ノナイノハ基
  本法規デアル所ノ治安維持法改正ノ要ナキ
  マデニ、左翼思想ガ衰退退却ヲシテ居ルノ
  デアラウカ、若シ果シテ然リトスルナラバ、
  吾々國民ノ喜ビハ之ニ過ギマセヌ、而シテ
  同時ニ思想犯ノ減少ガアル今日デアルトス
  ルナラバ、是マデ創設シナカッタ所ノ、思想
  犯ニノミ對スル保護制度ノ創設ガ、極メテ
  喫緊ノ要アリト爲ス所ノ理由ヲ解スルノニ
  苦シマザルヲ得ナイノデアリマス、又若シ
  會期ガ短クシテ、重要法案ガ堆積スルガ爲
  ニ、治安維持法ヲ出サヌト云フナラバ、而モ
  他面法制組織ノ上ニハ、二月二十六日事件
  ト申シテモ過言デナイ所ノ-「ヒトラーㄴ
  ノ强權刑法ノ流ヲ汲ンダ所ノ、又其適用
  ノ如何ニ依ッテハ、恐ロシク言論ト文章ノ
  自由ヲ抑壓シ、又今日見ル獨逸ノ新聞ノ如
  キ、殆ド官報的新聞ヲ生ミ出スモノデハナ
  イカト思ハレルヤウナ、不穩文書取締法ヲ
  提出シテ居ルデハアリマセヌカ、私ハ考ヘ
  マス、力ニ依ッテ行フ所ノ政治ハ力ニ依ッテ
  倒レル、法ニ依ッテノミ治メヨウトスル所ノ
  國家ハ法ニ依ッテ倒レルノデアリマス(「ヒ
  ヤ〓〓」)私ハ今日ノ政治家ハ德ヲ以テ治
  ムル、卽チ德治國ヲ顯現スルコトニ努
  力ヲシナケレバナラヌト考ヘルノデア
  リマス、而モ第六十八議會ニ於テハ、
  諸君御承知ノ如ク、極メテ未熟ナル不法團
  結等ノ取締法ヲ提出致シマシテ、本院ノ反
  對ニ遭ッテ不成立ニ終リマシタガ、今期議會
  ニハ之ヲ提出セズ、殆ド之ヲ忘レテ居ルノ
  デアリマス、而モ又一方ニハ今期議會ニ不
  穩文書等取締法ヲ出シテ居ル、或時ハ左ノ
  方ニ手ヲ出シテ握手ヲ求メ、直チニ之ヲ引
  込メテ、次ニハ右ノ方ニ手ヲ出シテ握手ヲ
  求メヨウトスル、今日ノ如キ不安ナ社會、
  國民悉ク焦躁ノ氣分ニ驅ラレテ居ル時ニハ、
  政府ガ同ジヤウニ慌テヽハナラヌノデアリ
  マス、愼重ナル態度ヲ執ッテ、太國民タル襟
  度ヲ持シテ行カナケレバナリマセヌ、政府
  ガ議會ニ提出スル所ノ法律案ヲ見マシテモ、
  如何ニモ確信ナク、口ニ言フ所ノ庶政刷新
  ノ意義ト態度ヲ見ルコトガ出來ナイノデア
  リマス、私ハ此法律案ノ提出ニ當ッテモ、之
  ヲ通ジテ政府ノ態度ト云フモノニ疑ヲ持タ
  ザルヲ得ナイノデアリマス、成程本法律案
  ハ司法、內務兩大臣ノ管轄デハアリマセウ
  ケレドモ、齋藤内閣以來今日マデ歷次ノ閣
  僚ニ列セラレタル所ノ廣田總理大臣ハ、此
  點ニ關スル所ノ其責ヲ明ニシ、サウシテ今
  日此法律案ヲ出シタ所ノ眞ノ意思ヲ發表ス
  ル所ノ必要ガアルト思フノデアリマス
  更ニ第三點トシテハ、保護司ハ如何ナル
  人物ヲ採用スルカ、收容ヲ委託セントスル
  所ノ寺院、〓會、保護團體等ニ關スル所ノ
  指定條件ハ如何、旣設保護團體ハ其指定保
  護團體ニ入ルヽカ否カ、其他幾多ノ質問ハ
  アリマスルケレドモ、事極メテ小デアリマ
  シテ、多クハ手續ニ關スル點デアリマスカ
  ラ、他ノ機會ニ讓ルコトニ致シマス、以上
  述ベマシタル所ノ數點ニ對シテ、速ニ其所
  見ヲ明ニサレンコトヲ望ム次第デアリマス
  (拍手)
  〔國務大臣林賴三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=5

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• 006・林頼三郎

  ○國務大臣(林賴三郞君)　只今御質問ノ點
  ニ付テ御答ヲ申上ゲマス、只今御質問中ノ
  御意見ニアリマシタヤウニ、今日ノ刑事政
  策ノ上ニ於キマシテ、保護事業ガ非常ニ重
  要ノ位置ヲ占メテ居ルト云フコトハ御示ノ
  通リデアリマス、吾々モ其方面ニ微力ヲ盡
  サウト考ヘテ居ルノデアリマス、隨テ保護
  觀察ノ問題ハ一般犯罪ニ付テ考フベキ事柄
  デアリマスノデ、此點ニ付テハ只今司法制
  度調査委員會ニ於テ篤ト〓究中デアリマス
  ノデ、何レ成案ヲ得マシタ上ハ御協贊ヲ願
  フコトニ相成ラウト存ズルノデアリマスガ、
  思想犯人ニ付キマシテハ、先程提案ノ理由
  ヲ說明シタ際ニ申上ゲマシタ通リ、最近ニ
  至リマシテ刑期ノ滿了ニ依ッテ出獄スル者
  ガ多數ニ相成リマスルシ、一面ニ於テハ、
  執行猶豫期間ノ滿了スル者モ相當ノ多數ニ
  ナッテ參リマシタノデ、之ヲ此儘ニ放任致シ
  マスト云フト、又復邪道ニ踏迷フ虞ガアリ
  マスノデ、何トカシテ之ヲ引止メテ、引戾
  シテ、サウシテ正道ニ導キタイト云フコト
  ヲ念願ト致シマシテ、此法案ヲ此特別議會
  ニ於テ提案シタ次第デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=6

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• 007・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　小林君、宜シイデ
  スカ·····今井新造君
  〔今井新造君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=7

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• 008・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　今井君ニ申シマス、
  今總理其他ノ大臣ハ豫算委員室ニ於テ答辯
  中デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=8

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• 009・今井新造

  ○今井新造君　私ハ極メテ簡潔ニ一二御尋
  致シタイト思フノデアリマス、唯甚ダ遺憾
  ノコトニ、私ノ御尋致シタイト思フ相手ノ
  總理大臣竝ニ陸軍大臣ガ、此席ニ御見エニ
  ナラヌノデアリマスガ、ドウゾ此處ニオ
  出デニナル國務大臣ハ、私ガ御尋致シマシ
  タコトヲ御傳ヘヲ願ッテ、適當ノ機會ニ私ニ
  對シテ御答辯ヲ煩ハスヤウニ御願致シタイ
  ノデアリマス、只今私ノ前ニ御尋ニナリマ
  シタ、何ト云フ方デアリマスカ-小林サ
  ンカラ御尋ニナリマシタ第一ノ、政府ハ何
  故ニ此議會ニ、此思想犯保護觀察法ノ寧ロ
  母體デアル治安維持法ノ改正案ヲ提出シナ
  イカト云フ質問ニ對シテ、司法大臣ハ何等
  ノ御答ガナイノデアリマス、私カラ申上ゲ
  ル迄モナク、只今御提案ニナッテアル法案
  ナルモノハ、再犯防止ノ法案デアリマシ
  テ、寧ロ其根本デアリ、其母體デアルモノ
  ハ治安維持法ナノデアリマス、只今モ小
  林君カラモ申サレタヤウニ、政府ハ緊急
  已ムベカラズトシテ、其必要ニ迫ラレマシ
  テ、前議會竝ニ前々議會ニ治安維持法ノ改
  正法案ヲ提出サレタ、其提出サレマシタ根
  本精神ハ何デアルカト言フナラバ、是ハ私
  ガ申述ベル迄モナク、國體ノ變革ト云フコ
  トト、私有財產制度ヲ否認スルト云フコト
  ハ、是ハ同一ニ取扱フベキ筋合ノモノデナ
  イ、斯ウ云フ精神ノ下ニ政府ハ御提出ニ
  ナッタコトト私ハ信ズルノデアリマス、昭和
  十年三月四日、政府ガ此治安維持法改正法
  案ヲ御提出ニナッタ理由書ニハ「治安維持法
  ハ治安ノ保持ニ付實際ノ必要ニ適應セザル
  所アルヲ以テ其ノ罰則ヲ整備スルト共ニ」
  云々トアルノデアリマス、果シテ然ラバ現
  在ノ內閣ハ、此治安維持法ノ改正法案ヲ必
  要トシナイカ、現在ノ社會情勢ニ於テ其必
  要ヲ認メナイノカ、私ハ之ヲ御尋致シタイ
  ノデアリマス、ソレカラ更ニ進ンデハ、現
  在ノ政府ハ國體ノ變革ト云フコトト、私有
  財產制度ノ否認ト云フコトヲ同一視スルノ
  デアルカ、之ニ付テ御明答ヲ願フト同時
  ニ、何故ニ前議會竝ニ前々議會ニ於テ、政
  府ガ力說セラレタル此治安維持法ノ改正法
  案ヲ、此議會ニ提出シナイカト云フコトニ
  付テ、明確ナル御答辯ヲ願ヒタイト思フノ
  デアリマス
  ソレカラ陸軍大臣ハ御見エニナリマセヌ
  ガ、陸軍ノ政府委員ノ方ガオ居デニナルナ
  ラバ承ッテ戴キタイノデアリマスガ、先日陸
  軍大臣ガ當議場デ、二·二六事件ノ御報告ヲ
  ナサッタ際、甚ダ遺憾ナコトニハ一部ノ軍
  ノ者ガ、軍以外ノ者ノ我ガ國體ト絕對ニ相
  容レナイ思想ニ左右セラレタト云フヤウナ
  御言葉ガアッタノデアリマスガ、其國體ト絕
  對ニ相容レナイト云フ思想、指導精神、根
  本精神ナルモノハ、此治安維持法ニ抵觸ス
  ルヤウナ國體ノ變革ヲ目的トスル思想ナリ
  ヤ否ヤ、此事ニ付テ私ハ伺ヒタイノデアリ
  マス、尙ホ私ハ陸軍大臣ノ國體ニ對スル觀
  念ニ付テ、此場合伺ヒタイノデアリマス
  ガ、其際陸軍大臣ハ今囘ノ二·二六事件ハ前
  古未曾有ノ不祥事件デアルト、斯ウ云フヤ
  ウニ御報告ニナッタノデアリマスガ、此言葉
  ヲ陸軍大臣カラ今日モ尙ホ其儘信ジテ居ラ
  レルカドウカ、私共ハ二·二六事件ニ於テ彼
  等靑年將校、彼等ガ執ッタ行動ト云フモノ
  ハ勿論言フマデモナク天人共ニ許サザル
  暴擧デアル、許スベカラザル行動デアルト
  云フコトハ私モ信ジマス、併ナガラ彼等ハ
  其思想ニ於テ、其根本精神ニ於テ天皇陛
  下ニ對シ奉ッテ、彼等靑年將校ガ二心アリ、
  逆心アッテヤッタコトトハ私ハ考ヘテ居ラ
  ヌ、彼等ガ考ヘタコトハ、ソレガ假令間違ッ
  テ居ルカ居ラヌカ分ラヌケレドモ、少クト
  モ彼等ガ斯ノ如キ手段ニ依ラナケレバ腐敗
  シタ政界モ改革出來ナイ、日本ニ於ケル積
  弊ノ根本的改造モ出來ナイ、斯ウ云フヤウ
  ニ彼等ハ考ヘテ、アノ事ヲ斷行シタコトダ
  ト私ハ思フ陸軍大臣ハ前古未曾有ノ不祥
  事件デアルト言ハレマシタケレドモ、飜ッテ
  我國ノ開闢以來ノ歷史ヲ繙イテ見タラドウ
  ダ、一天萬乘ノ帝位ヲ窺ッタヤウナ弓削道
  鏡ノ如キ者ガアル、足利尊氏ノ如キ者ガア
  リ、又北條ノ如キ下剋上ノ者ガアル、更ニ
  明治ニ至ッテハ幸德秋水ノ如キアリ、畏多ク
  モ至尊ニ對シ奉ッテ危害ヲ加ヘントシタ大
  逆難波大助ノ如キ者モアル、私ハ······發
  言スル者アリ)謹聽シナサイ、私ハ陸軍大
  臣ハ(發言スル者アリ)默ッテ謹聽シナサイ、
  陸軍大臣ハ是等ノ靑年將校ノヤッタコトヲ、
  是等ノ者ト比較シテ、尙且ツヨリ以上ノ不
  祥事件ナリトスルヤ否ヤ、私ハ敢テ陸軍大
  臣ノ言葉尻ヲ捉ヘテ責メル者デハナイケレ
  ドモ、凡ソ一國ノ國務大臣ナルモノハ言葉
  ヲ愼マナケレバナラヌ、私ハ陸軍大臣ガア
  ノ御報告ヲナサルニ當ッテハ、我國ノ軍隊ト
  シテハ前古未曾有ノ不祥事件デアルト、斯
  ウ云フヤウナ御話ガアレバ承服スルケレド
  モ、陸軍大臣ノ速記錄ヲ讀ンデモ分リマス
  ガ、陸軍大臣ノ言葉ノ中ニハソレガナイ、
  私ハ此陸軍大臣ノ吾々ニ對スル報告ニ對シ
  テハ、當然訂正若クハ取消ガアッテ然ルベ
  キダト私ハ思フ、之ニ對シテ私ハ陸軍大臣
  ノ明確ナル答辯ヲ飽マデ要求シテ巳マナイ
  者デアリマス、終リマス
  〔國務大臣林賴三郎君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=9

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• 010・林頼三郎

  ○國務大臣(林賴三郞君)　只今御尋ノ點ニ
  付テ御答致シマス、治安維持法ハ只今改正
  委員會ニ於テ調査〓究中デアリマス、ソレ
  ハ近來國內的、國際的ニ情勢ガ變リマシタ
  結果、思想運動ノ模樣モ前トハ非常ニ變ッテ
  參リマシタ、之ニ適應スベク改正スル必要
  ガアリマスノデ、其點ニ付テ篤ト考究中デ
  アリマス、又第二ニ御尋ニナリマシタ國體
  變革ト私有財產制度ノ問題トハ、輕重ノア
  ルコトハ勿論デアリマシテ、同日ニ論ズベ
  キモノデナイト考ヘテ居リマス
  〔今井新造君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=10

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• 011・今井新造

  ○今井新造君　只今司法大臣カラ御答辯ヲ
  願ッタノデアリマスガ、治安維持法ノ改正法
  案ハ目下調査〓究中デアル、斯ウ云フヤ
  ウナ御答辯デアッタノデアリマスガ、私ハ甚
  ダ誠意ノナイ御答辯デアルト思フノデアリ
  やく、問題ハ調査〓究ト云フコトニロヲ藉
  リテ居ル程、輕々ニ之ヲ看過スルコトノ出
  來ナイ重大法案デハナイカト思フ、假ニ此
  法案ヲ政府ガ提出ナサッテ、サウシテソレガ
  實際ニ適用セラレザル場合ニハ、更ニ政府
  ハ之ヲ改メテモ宜クハナイカ、斯ウ云フヤ
  ウニ私ハ考ヘルノデアリマス、一昨日デア
  リマシタカ、不穩文書取締ノ法案ヲ御提出
  ニナリマシタ時ニ、總理大臣モ、陸軍大臣
  モ、司法大臣モ、內務大臣モ、交〓此演壇
  ニ立タレマシテ、此法案ヲ通過シテ貰ハナ
  ケレバ、ドウシテモ不安ニ堪へラレナイ、
  國家ハサウ云フヤウナ實情ニ現在アルノデ
  アルカラト云フヤウナコトヲ述べラレテ、
  サウシテ不穩文書取締法案ノ通過ニ向ッテ
  叩頭百拜セラレタ事實ニ卽シマシテモ、此
  國體變革ト云フヤウナ重大問題ニ對スル法
  律案ヲ、調査〓究ト云フコトニ口ヲ藉リテ
  御提出ニナラナイ政府ノ態度ヲ、甚ダ憾ミ
  トスルモノデアリマス、若シ之ニ對シテ御
  考ガアレバ更ニ承リタイト思ヒマス
  (「答辯ノ必要ナシ」「答辯出來ヌダラ
  ウ」「答辯シテヤレ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=11

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• 012・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　司法大臣ノ答辯ガ
  アリマセヌ-加藤勘十君
  〔加藤勘十君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=12

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• 013・加藤勘十

  ○加藤勘十君　私ハ本法案ノ提案ノ理由ヲ
  司法大臣カラ御伺致シマシタ、竝ニ政友會
  ノ代表小林氏、第二控室ノ今井氏ノ質問ニ
  對スル大臣ノ答辯ヲ御伺致シマシタ、併ナ
  ガラ遺憾ニシテ大臣ノ說明竝ニ答辯ハ、私
  ヲシテ少シモ納得セシムルニ足ラナイノデ
  アリマス、故ニ私ハ次ノ數項ノ點ヲ擧ゲテ、
  御座ナリデハナク、明確ナル御答辯ヲ御願
  致シタイト思フノデアリマス
  其前ニ一言本法案ニ對スル質疑ト關聯シ
  テ申上ゲマスレバ、私ハ初メテ議會ニ出席
  スルニ至ッタ者デアリマス、隨テ議事ノ總テ
  ノ事柄ニ對シ不慣ナ點ガナイトハ言ハレマ
  セヌガ、先般來總理大臣ノ施政方針ノ演說、
  其他ノ大臣ノ同樣ナル演說、若クハ政府提
  案ノ議案ニ對スル各政黨政派ノ代表者諸
  君ノ演說ノ中ニハ、今マデ私共ガ議會政治
  ニ對シテ考ヘテ居ッタ點ニ對シ、極メテ顯著
  ナル一ツノ特徵ヲ見出スコトガ出來タノデ
  アリマス、ソレハ何デアルカ、議會ノ權能
  ニ依ッテ議會ノ品位ヲ高メ、議會政治ニ對ス
  ル國民ノ信賴ヲ博センガ爲ニ、各政黨政派
  ノ代表者ノ諸君ガ努力セラレルデアラウト
  云フ方向ノ仄ニ仄メイク點デアリマス、言葉
  ヲ換ヘテ申シマスレバ、國民ノ政治的自由、
  憲法ニ依ッテ保障セラレタル人民ノ權利ノ確
  保ノ爲ニ、官僚ノ增長ニ對シテ鬪ハントス
  ル傾向モ仄メイタト云フコトハ、私ハ喜バ
  ザルヲ得ナイノデアリマス(拍手)私ノ聞キ
  得マシタ限リニ於テ、民政黨ノ代表齋藤氏、
  政友會ノ代表者、一昨日ノ久山氏ノ言說ノ
  如キハ、明ニソレヲ物語ッタモノデアリマス、
  私ハ議會政治ノ品位ヲ高メ、議會政治ニ對
  スル國民ノ信賴ヲ增ス爲ニ、斯ウシタ傾向
  ヲ一層各政黨政派ノ議員諸君ガ增大セラレ
  ンコトヲ切望ニ堪ヘナイノデアリマス、一昨
  日ノ本議場ニ論議セラレマシク不穩文書等
  取締法案ノ如キハ、誰ガ何ト言ウテモ暴政
  ノ極致デアルト言ハナケレバナラヌ(「ヒヤ
  ヒヤ」)其暴政ノ極致デアルト言ハレル不穩
  文書等取締法案ト、同一ノ精神ニ基イテ立
  案セラレタモノガ、卽チ本法案デアルト言
  ハナケレバナラナイノデアリマス(拍手)是
  ハ議員諸君ガ與ヘラレタル權能ニ依ッテ、政
  策上ニ關スル政治上ノ意見ノ相違ハ別トシ
  テ、苟モ國民ノ政治的自由、憲法ニ依ッテ保障
  セラレタル人民ノ權利ノ確保ノ爲ニ、議會
  全體ガ一致トナッテ官僚勢力ト圖ハレンコ
  トヲ切望シテ已マナイ
  斯ウ云フ觀點カラ本法案ニ對スル質疑ノ
  要項ヲ示シマスレバ、第一ニ、何ガ故ニ斯
  ル法案ヲ提出セザルヲ得ナカッタカト云フ
  其理由デアリマス、第二ニハ、斯ル法案ノ
  提出ヲ必要トスルニ至ッタ社會的情勢ノ認
  識如何、第三ニハ、若シモ本法案ガ一箇ノ
  成案トナッテ、具體的ニ運用セラレルコト
  ニナリマスレバ言葉ハドノヤウナ言葉
  ガ用ヒラレテ居ラウトモ、實質的ニ見レ
  バ、憲法ニ依ッテ保障セラレタル國民ノ權利
  ハ、實質的ニ剝奪セラルヽニ至ルデアラウ
  ト思ハレル、其點ニ對スル政府當局ノ
  見解ハドウデアルカ、第四番目ニハ、本
  法案ニ規定セラレテ居リマスル保護觀察審
  査會ノ構成、又保護觀察ヲ委託スベキ保護
  團體、寺院、〓會、病院ト云フモノヲ、何
  ヲ標準トシテ選定スルニ至ルカ竝ニ第十四
  條ニ依リマスレバ、本法案ノ骨子トモ言フ
  ベキ重大ナル一切ノ點ヲ勅令ニ委任シテ居
  ル、勅令ニ依ッテ法律ノ運用ヲ全ウセントス
  ルガ如キハ、先般ノ衆議院議員選擧法ノ實
  例ニ見マシテモ明カデアル通リ、如何ニ議
  會ノ權能ヲ無視シ、官僚勢力ノ增大ヲ增長
  セシムルモノデアルカト言ハナケレバナラ
  ヌノデアリマス(拍手)苟モ國民ノ政治上ノ
  權利ニ關スル問題ニ對シ議會ノ立法ノ權能
  ヲ蹂躪スルガ如キ、勅令ニ依ッテ斯ノ如キモ
  ノヲ決定スルト云フコトハ、何ヲ根據トシ
  テサウシタ態度ヲ執ラザルヲ得ナカッタカ
  ト云フコトヲ、明瞭ニシテ貰ハナケレバナ
  ラナイ、第五ニハ、特ニ文部大臣ニ御伺ス
  ルノデアリマスルガ、學生生徒ノ中ニ少カ
  ラズ本法ノ適用ヲ受ケルデアラウ治安維持
  法違反事件ヲ惹起シテ居ル者ガアル、此學
  生生徒ノ治安維持法違反事件ガ、ドウシタ
  原因ニ依ッテ起ッテ居ルノデアルカ、玆ニ是
  ガ保護助成ノ施設ノ狀態ハドウナッテ居ル
  カ、第六番目ニハ、陸軍省關係ニ於テ、數
  ハ多クハナイト言ヒナガラ、ヤハリ治安維
  持法違反事件ヲ惹起シテ居ル者ガアル、何
  カシラ陸軍部內ニ於テモ若イ學生、生徒、
  兵隊ガ、治安維持法違反事件ヲ惹起サナケ
  レバナラナイヤウナ、事態ヲ生ミ出シタ原
  因ガアリハシナイカ、更ニ斯ウシタ軍人ニ
  シテ治安維持法違反事件ニ觸レタ者ニ對ス
  ル、何等カノ保護施設ガアルカナイカ、斯ウ
  シタ點デアリマス、以上述ベマシタ六項ニ
  對シ私ハ如何ナル質疑ノ趣旨ニ依ルモノデ
  アルカト云フコトヲ、明白ニ致シタイト思
  フノデアリマス
  第一ノ點デアリマスルガ、日本ノ-先
  般來モドナタカ御述べニナリマシタト思ヒ
  マスルガ、蜘蛛ノ巢ノ如クニ張リ廻ラサレ
  タル刑罰法規ノ數多キ中ニ於テ、思想犯ヲ罰
  スル治安維持法ホド、殘酷苛虐ヲ極メタル
  法律ハナイ(拍手)其最高ハ死刑ヲ以テ規定
  シテ居ル、此惡法ノ適用ヲ受ケテ居リマス
  ル思想犯人ガ、或ハ一定ノ定メラレタル刑
  期ヲ終了シ、若クハ執行猶豫ノ恩典ニ浴シ、
  或ハ起訴留保ノ處分ニ依ッテ、齊シク社會人
  トシテ更生シヨウト云フ場合ニ、更ニ之ヲ
  或ハ再ビ法律ヲ犯スカモ知レナイト云フヤ
  ウナ勝手ナ考ニ依ッテ、法律ニ依ッテ其一生
  ヲ縛ルト云フ如キハ、政府ノ考ヘテ居ル所
  トハ正反對ニ、却テ其人間ヲシテ、俺ノ一
  生ハ法律ニ依ッテ縛ラレテ居ル、是デハ何處
  ヘモ行クコトガ出來ナイ、是デハ絕望ノド
  ン底ニ追込マレル以外ニハ途ガナイト云
  フ、却テ失望ニ因ル自暴自棄ヲ與ヘル以外
  ニ途ハナイト思ハレルノデアリマス(拍手)
  殊ニ本法ノ直接適用ヲ受ケルト思ハレマス
  ル治安維持法違反事件ノ、政府ガ發表シマ
  スル統計ニ付テ、現在ノ狀態ヲ推測致シマ
  スルナラバ、昭和三年カラ昭和九月ニ至リ
  マスル間ニ、治安維持法違反被疑者ノ中デ、
  起訴猶豫ノ處分ニ處セラレタ者ガ總數三千
  八百六十九人ヲ數ヘマス、七年間ニ是ダケ
  ノ者ガサウシタ處分ニ處セラレテ居ル、其
  中再ビ檢擧ヲセラレ、起訴、起訴猶豫、留
  保處分ニ遭ヒマシタ數ガ二百十二名、七年
  間ニ僅カ二百十二名デアリマス、此中起訴
  サレタ者ノ數ハ僅ニ百一一十六名、七年間ニ
  百二十六名デアリマス、更ニ同ジ年度ニ轉
  向者トナッタ者ガ六千八百名、此六千八百名
  ノ轉向者ノ中、同樣ノ檢擧セラレテ處分ニ
  遭ヒマシタ者ガ四百二十八名、サウシテ此
  中起訴處分ニ遭ヒマシタ者ガ二百八十名、
  七年間ヲ通ジ、起訴猶豫處分者ノ中カラ起訴
  者ヲ出シタ者ハ百二十六名、轉向者カラ起
  訴者ヲ出シタ者ガ二百八十名、是ダケノ者
  ヲ何トカシナケレバナラナイト云フコトノ
  爲ニ、何ガ故ニ獨立ノ法律ヲ制定シ、是ダ
  ケヲ特殊ノ者トシテ扱ハナケレバナラナイ
  理由ガ一體何處ニアルカ(拍手)若シ刑事政
  策上斯ウシタ再犯ヲ防止スルコトガ必要デ
  アルナラバ、私ハソレヨリモ寧ロ國家ノ恩寵ニ狎
  レ、國法ヲ蹂躙シ、國憲ヲ紊シテ、自ラノ我慾ヲ
  張ラウトスルガ如キ、官吏ノ瀆職ノ事犯ヲコ
  ソ嚴罰ニ處シ、是ガ事犯ヲ絕滅スル意味ニ於
  テ、是ガ法律ヲ制定シテハドウカ(拍手)私ハ
  斯ク考ヘザルヲ得ナイノデアリマス、併シ
  是トテモ吾々ハ罪ヲ憎ンデ人ヲ憎マズ、法
  律ノ制縛ガ如何ニ其人間ノ伸ビントスル心
  持ヲ抑壓スルモノデアルカト云フコトハ、
  人ヲ支配シタ經驗シカ持ッテ居ナイ官僚ノ
  諸君ニハ分ラナイコトデアルカモ知レマセ
  ヌガ(拍手)私共ハ激力トハ言ヒナガラ、國
  家社會ノ下積トナリ、營々トシテ其日ヲ働
  クト雖モ、十分ニ生活ヲ味フコトノ出來ナ
  イ勞働者、農民、一般勤勞大衆ノ生活ノ防
  衞ノ爲ニ、或ハ政治的權利ノ擴張ノ爲ニ、
  二十年間鬪ッテ參リマシテ、支配サレル者ノ
  心持ハ、眞ニ支配サレルコトニ依ッテ、法律
  ノ苦痛ヲ嘗メタ者デナケレバ分ラナイ拍
  手サウシタ意味ニ於テ私ハ十分ニ政府當
  局ニ御考ヲ願ハナケレバナラヌト思フ、私
  ハ此處ニ日本ノ歷史ノ上ニ著名ナ人ガ暗殺
  サレタ年表ヲ持ッテ居リマス、遠クハ千二百
  五十三年ニ遡ル昔カラ、近クハ五·一五事件
  ノ犬養氏ノ遭難ニ至リマスマデ、數十名ノ
  人ヲ擧ゲテ居ル、此中ニハ勿論或ハ誤解カ
  ラ發シタモノモアルデアラウ、或ハ權力爭
  奪ノ犠牲ニ依ッテ命ヲ失ッタ人モアルデアラ
  ウ、併ナガラ此原因別ニ依ッテ見テモ明カデ
  アリマスル通リ、多クハ政治的事情ヲ原因
  トシテ發生シテ居リマス、私ハ是等ノ者ガ
  總テ惡法ノ結果デアルトハ斷ジマセヌケレ
  ドモ、惡政ガ、暴政ガ、暴壓ガ、斯ウ云フ事
  態ヲ惹起サナイト誰ガ斷言シ得ル者ガアル
  デアラウカ(拍手)私ハ之ヲ讀ムコトハ到底
  煩ニ堪ヘマセヌカラ、議長ノ御許ヲ得テ速
  記錄ノ末尾ニ附シテ置キタイト思ヒマス、
  尙ホ一昨日ノ議場ニ於テモ論議セラレタコ
  トデアリマスルガ、安政ノ大獄ノコトニ付
  テモ私ハ詳シイ、誰ガドウ云フコトヲヤッタ
  爲ニ、ドウ云フ結果ニ陷ッタカト云フ調ヲ
  持ッテ居リマス、ダガ是ハ一昨日ノ議場ノ論
  議ト重複スルガ故ニ省イテ置キマス、唯斯
  ウシタ歴史上ノ事實ヲ見ルニ付ケマシテモ、
  政府當局ハ一片ノ法律ヲ出スコトハ、自分
  達ノ事務執行ノ上ニ於テ便宜デアルカモ知
  レマセヌガ、其事ガドウ云フ政治的、社會
  的事態ヲ生ミ出スニ至ルカモ知レナイト云
  フコトニ對シテハ、十分ナル御考慮ヲ煩ハ
  サナケレバナラナイト思フノデアリマス、
  若シ此世ノ中ガ明ルク、ソシテ人々ガ自ラ
  ノ生活ヲ樂ミ得マスル時代ニ於テハ、決シ
  テ暗殺ナドト云フ忌ハシキ現象ハ起ルモノ
  デハアリマセヌ、サウ云フコトヲ考ヘマス
  ル場合、其反對ノ憂鬱ニシテ將來ニ望ミナ
  キ生活ノ淵ニ陷レラレタ者ガ、絕望ノ餘リ
  自分ノ平靜ナル常軌ヲ逸スル虞ナシトハ言
  ヒ得ナイノデアリマス、斯ウ云フ工合ニ見
  テ參リマスルナラバ、私ハ政府當局ガ十分
  ニ一切ノ社會現象ヲ總括的ニ考慮サレテ、
  ソシテ一條一句ノ上ニモ、苟モ國民ヲ惑ハ
  スガ如キ、或ハ人ヲシテ自由勝手ナル想像
  ヲ逞シウスルガ如キ事態ヲ無クセシメテ戴
  クヤウニ努メテ貰ヒタイト思フ、斯ウシタ
  點ニ對シ、私ハ先程モ御斷リ致シマシタル
  通リ、吾々ハ身ヲ以テ國民ノ政治的自由獲
  得ノ爲ニ鬪フ者デアル、故ニオ座ナリデハ
  ナイ、眞實ニ私共ヲシテ得心セシムルヤウ
  十、誠意アル御答辯ヲ御願致シタイ
  第二ノ點デアリマスルガ、第二ニドウ云フ
  必要ガアッテ本案ヲ提出セザルヲ得ナカッタ
  カト云フ、社會情勢ニ付テハッキリシタ見解
  ヲ承リタイノデアリマス、私共ハ此點ニ對シテ
  ハ、或ハ政府當局トモ、又多クノ議員諸君トモ
  見解ヲ異ニスルカモ知レマセヌ、併ナガラ
  見解ハ異ニシマシテモ、私共ガ具體的ナル
  實例ヲ擧ゲテ申上ゲマスルコトニ對シテハ、
  自ラノ對立物トシテ、サウ云フ見解モアル
  カト云フコトヲ御聽取ヲ願ヒタイ、卽チ現
  政府ハ其組閣ノ途中ニ於テ、組閣ノ當初ニ
  於テ、時局ノ重大、國民生活ノ安定ヲ高調
  シテ居ラレマス、吾々ハ時局ノ重大、國民
  生活ノ安定ト云フ、其言葉ニ關スル限リニ
  於テハ同感デアリマス、問題ハ、サウシタ
  時局ノ重大ハ何ヲ基本トシテ見ルカ、國民
  生活ノ安定ハ、ドウスレバ實際ニ行フコト
  ガ出來ルカト云フ、具體的ナ說明ガ爲サレナ
  ケレバナラナイ、サウシタ具體的ナモノヲ
  結果スル爲ニハ、今日ニ於テ國民生活
  ノ安定ヲ叫バザルヲ得ナイ社會情勢ヲ如
  何ニ見ルカト云フコトガ、先ヅ第一ノ
  前提デナケレバナラヌト存ジマス、是等ノ
  事柄ニ對シマシテハ、動モスレバ議論ニ
  涉ル虞モアリマスルガ故ニ、他ノ機會ニ讓
  リマシテ、私ハ唯一點、今日ノ社會情勢、
  時局ノ重大ヲ認識スル社會情勢ハ、一體政
  府ノ目ニハドウ云フ工合ニ映ッテ居ルカト
  云フダケハ御伺シナケレバナラヌ、私共ノ
  見ル所ニ依リマスレバ、今日ノ社會情勢、
  或ハ政治的ナ大キナ犯罪ヲ生ミ出シテ居ル、
  或ハ社會上ニ其日ノ飯ガ食ヘナイ爲ニ、親
  子心中ヲ見テ居ルヤウナ社會的悲劇モアル、
  又其他雜多ナ悲喜劇ガ演ゼラレテ居リマス
  ルガ、斯ウシタ一切ノ社會現象ハ、其因ッテ
  起ル所ノモノハ、今日ノ人々ノ社會生活ヲ
  支配シテ居ル、資本主義經濟組織ノ本質的
  ナル矛盾ノ發露デアルト言ハナケレバナラ
  ナイノデアリマス、此資本主義ノ本質的矛
  盾ガドウシテ起ルニ至ッタカ、此事ハ好ムト
  好マザルトニ拘ラズ、欲スルト欲セザルト
  ニ拘ラズ、歷史的ノ儼然タル事實デアリマ
  ス、此歷史的ナ所產トシテ、今日ノ資本主
  義經濟組織ノ本質的缺陷ヲ暴露スルニ至ッ
  タ、ソレ故ニ先ヅ總テノ一切ノ對症療法ヲ
  行フ前ニ、本質的ナ資本主義ノ缺陷ヲ、ド
  ウスレバ矯正スルコトガ出來ルカト云フコ
  トニ、著眼セラレナケレバナラナイ筈デア
  ルト思フ、此事コソハ今日ノ政府ガ、幾多
  ノ或ハ統制經濟ノ名ニ於テ、或ハ現實的ナ
  ル統制ノ政策ニ依ッテ、當面ヲ糊塗シヨウト
  スルノデアリマスケレドモ、私共政府ノ斯
  ウシタ政策ヲ見マスル場合ニ、ソレハ益〓資
  本主義ノ本質的缺陷ヲ助長增大セシメル結
  果ヲ見ル以外ノ何物デモナイト見ルノデア
  リマスルケレドモ、サウシタ點ニ對シテハ
  姑ク止メテ置キマシテ、此時代ノ變遷ガ生
  ミ出ス幾多ノ社會現象、勿論治安維持法違
  反事件、其中ニハ我國トシテハ相容レザル
  モノモアルデアリマセウ、ダガサウシタ政
  治的ナ見解ハ姑ク別ニ措キ、一切ノ時代ノ
  變轉ガ急激ニ變ラントスレバ變ラントスル
  程、激シク色々ナ形ニ依ッテ惹起サレルト云
  フコトハ免レナイ、私共ハ今日日本ノ國ニ
  於テ、若シ勤王ノ大義ヲ唱ヘタコトニ依ッ
  テ、或ハ死罪ニ處セラレ、或ハ遠島流罪ニ
  處セラレルト云フヤウナ事實ヲ想像ダニス
  ルコトガ出來マスルカ、而モ明治維新ヲ遡
  ルコト百年、山縣、竹內、是等ノ學者ハ勤
  王ノ大義ヲ唱ヘタコトニ依ッテ、或ハ死罪ト
  ナリ、或ハ遠島流罪トナッテ居ルノデアリマ
  ス、尙ホ德川幕府ハ如何ニシテ自分ノ權力
  ノ崩壞ヲ喰止メヤウトシテ努力シタカ知レ
  マセヌ、其彼等ノ一切ノ暴力ニ依ッテモ、是
  等ノ時代ノ變轉ヲドウスルコトモ出來ナカッ
  タノデアル、斯ウ云フコトヲ見マスル場合、
  私共ハ政府ノ正シキ時代認識ノ上ニ立テラ
  レタル政策デナケレバナラヌト思フ、然ルニ
  本法案ノ如キハ全ク時代ノ進展ヲ喰止メヤ
  ウトスル、俗ニ所謂大厦ノ覆ラントスルヤ
  一木ノ能ク支フル所ニアラズト言ハレテ居
  リマスガ、此法案ノ如キハ正シク時代ノ波
  ニ依ル大厦ノ覆ラントスルノヲ、一木ニ依ッ
  テ支ヘントスルノ愚ヲ演ズルモノデアルト
  言ハナケレバナリマセヌ、此點ニ對スル政
  府ノ明確ナル見解ヲ御伺致シタイ
  第三ニハ、日本ノ憲法ハ明ニ兵役納稅ノ
  義務ト共ニ、幾多ノ國民生活ノ上ニ必要ナ
  ル權利ヲ與ヘテ居リマス、勿論ソレハ法律
  ノ制限ニ依ッテハ居リマスルケレドモガ、兎
  モ角モ或ル程度ノ自由ノ權ヲ與ヘラレテ居
  ルニモ拘ラズ、本法案ガ成文トシテ適用サ
  ルヽニ至リマスレバ、憲法ニ依ッテ保障セラ
  レタル居住ノ自由、信書ノ自由、斯ウシタ
  モノハ殘ル隈ナク奪去ラレルノデアリマス、
  私ハ國民ガ法律ノ名ニ依ッテ、如何ニ其政治
  的自由ヲ奪ハレテ居ルカヲ擧ゲザルヲ得ナ
  イ、皆サンハ先般ノ選擧法ノ取締ノ勅令ニ
  依ル苛酷ナル制壓ヲ受ケタ經驗ヲ御持チデ
  セウ、其點カラ見マシテ、政府ガ統計トシ
  テ擧ゲテ居ルコトニ依リマスレバ、昭和四
  年カラ昭和八年ニ至ル五箇年間ノ間ニ、行
  政執行法、一官吏ガ治安ヲ紊ス虞アリト認
  定スルコトダケニ依ッテ檢束セラレテ居リ
  マスル者ノ數ガ、驚クナカレ三百十五万三
  千五百五十九人ヲ數ヘテ居リマス、更ニ所
  謂保護ヲ要スル者ノ數ヲ加ヘマスレバ此
  五年間ニ行政執行法ニ依ッテ、卽チ法律ノ名
  ニ依ッテ自由ヲ奪ハレク者ノ數ハ三百八
  十六万九千七百二十九名、此驚クベキ
  國民多數ノ政治上ノ權利ニ關スル問題
  ハ法律ノ名ニ依ッテ行ハレテ居ルノデ
  アリマス、更ニモット驚クベキコトハ、
  違警罪卽決例ニ依ル國民權利ノ蹂躪デ
  アリマス、同ジ年度ニ違警罪卽決例
  ニ依ッテ處分セラレマシタ者ノ數ガ三百九
  十五万八千二百二十六名、此中是等ノ勾留
  者ハ當然正式裁判ヲ起スベキ權利ヲ與ヘテ
  居ルニモ拘ラズ、實際ニハ正式裁判ノ權利
  ハ多ク與ヘラレテ居ナイノデアリマス、現
  ニ此期間ニ三百九十五万有餘ノ人ノ中デ、
  正式裁判ヲ受ケマシタ者ノ數ハ僅ニ七百七
  十九名、此事實ヲ皆サンハ何ト見マスカ、而
  モ此七百七十九名ノ中、二割五分ノ百九十
  八名ハ無罪デアリマス、卽チ正式裁判ヲ受
  ケタル者ノ數ノ二割五分ハ無罪デアリマス、
  隨テ三百九十何万、四百万ニ近イ人々ノ二
  割五分ハ無實ノ罪ニ依ッテ拘留、科料ノ處分
  ニ處セラレテ居ルト云フコトガ想像サレル
  ノデアル、斯ウ云フ事實ヲ見マスル場合、
  吾々ハ一片ノ法律ニ依ッテ、國民生活ヲ法律
  アルガ爲ニ却テ脅カスト云フ事實ヲ見ナイ
  譯ニハ參リマセヌ、政府ハ資本家ノ、財閥
  ノ利益ニナルヤウナ事柄ニ對シテハ汲々ト
  シテ法律ヲ制定スル、ダガ國民ノ政治的權
  利ニ關スル問題、勤勞大衆ノ生活擁護ノ爲
  ニ對シテハ、極メテ緩ヤカナル「テンポ」シ
  カ取ッテ居リマセヌ、退職手當積立法案ガ後
  ニ議題ニナルヤウデアリマスガ、ソレスラモ
  勞働者ノ實際ノ要求ハ僅ニシカ盛ラレテ居
  ナイ、斯ウ云フ事實ヲ見マスル場合、一體
  勤勞大衆ハ何ノ爲ニ今日將來ノ明ルサヲ望
  ンデ生活スルコトガ出來ルト云フコトガ言
  ハレマセウカ、私ハ斯ウ云フ點ニ對シ、政
  府ガドウ云フ物ノ觀方ヲシテ居ルカト云フ
  コトヲ、明ニシテ貰ハナケレバナラナイ、
  更ニ此法律ガ成文化サレマスレバ、疑モナ
  ク或ル特定ノ人々ハ法律ノ制縛ノ下ニ、自
  分ノ日常生活ヲ暗クシナケレバナラナイノ
  デアリマス、先程モ言ヒマスル通リ、何ガ
  故ニ斯ウシタ或ル特定ノ人々ダケガ法律ニ
  依ッテ縛ラレナケレバナラナイカ、斯ウ云フ
  點ニ付テモ私ハ十分ニ政府ノ考ヲ聽カナケ
  レバナラナイノデアリマス、斯ク言ヘバ或
  ハ政府當局ハ、憲法ガ國民ニ許シテ居ル權
  利ハ、法律ニ定ムル所ニ依ルノ一項ニ依。ツ
  テ、決シテ人權ヲ蹂躙スルモノデモナケレ
  バ又憲法ノ精神ヲ蹂躪スルモノデナイト
  言フカモ知レマセヌガ、ソレハ形式論トシ
  テハ成立ツデアラウ、三百代言式論トシテ
  ハ成立ツデアラウ、併シ現實ニ國民生活ヲ
  支配シテ居ル憲法上ノ權利ガ失ハレルト云
  フ事實ハ、如何トモスルコトガ出來ナイト
  思フ、吾々ハサウ云フ形式論ヲ聽クノデハ
  ナイ、三百代言的論議ヲ聽クノデハナイ、
  眞實ニ國民生活ヲドウスルカト云フコトヲ
  聽カナケレナラナイノデアリマス
  更ニ第四ノ點デアリマスガ、是ハ純粹ナ
  法律構成ノ上ノ形式論ニナルカモ知レマセ
  ヌシ、サウ云フ點ニ對シテ私共ハ全クノ素
  人デアリマス、其法律ノ條章ヲ規定スル上
  ニ、素人デアル私共ガ見テスラモ、尙且ツ
  此法文ノ上ニハ多クノ缺陷ヲ見出スコトガ
  出來マス、司法省ナリ、內務省ナリ、或ハ
  法制局ノ「エキスパート」ニ依ッテ立案セラ
  レタモノガ、吾々素人ノ目ニスラ尙ホ多ク
  ノ不備ヲ持ッテ居ルト云フコトヲ指摘シ得
  ラレルト云フコトハ、ソレ自體ガ如何ニ此
  法案ガ無理カラ起ッタモノデアルカト云フ
  コトヲ、立證スルモノト言ハナケレバナラ
  ナイノデアリマス、先程申シマシタヤウニ、
  一體人ノ自由ヲ一片ノ法律ニ依ッテ奪ハウ
  トスル觀察審査委員會ハ、其構成ハ第十四
  條ノ規定ニ依レバ勅令ニ讓ルコトニナッテ
  居ル、勅令トハ卽チ政府ガ勝手ニ立案シ得
  ラレル命令デアル、議會ハ一體何ノ爲ニ存
  在スルカ、若シ眞ニ法律ニ依ッテ國民生活ヲ
  規定シヨウトスルナラバ、勅令ニ依ルノデ
  ハナイ、法律ノ條文ノ上ニ當然サウシタ
  點ハ明記サレナケレバナラヌト私ハ信ジマ
  ス、ソレデナケレバ法律ハ一片ノ形式ニ過
  ギナイ、總テハ官僚專制ノ政治ニ還元スル
  ト云フコトヲ指摘セザルヲ得ナイノデアリ
  マス、更ニ少シク立入ッテ分析シマスレバ
  保護觀察ヲ委託スベキ保護團體、寺院、〓
  會病院、是ハ全國ニ無數ニアリマス、ソ
  レヲ甲ノ病院、甲ノ寺院ニハ委託スルガ、
  乙ノ病院、乙ノ〓會ニハ委託シナイト云フ
  コトニナルナラバ、同ジ〓會、同ジ病院ノ
  中ニ自ラ甲乙ノ差別ガ附イテ來ル、政
  府ハ自ラ法律命令ニ依ッテ、サウシタ社
  會施設ニ對シ、若クハ〓化ノ團體デア
  ル〓會、寺院ニ差別ヲ附ケテ宜イカド
  ウカ、斯ウシタ點モ私ハ十分ニ御考慮
  ヲ願ハナケレバナラナイト思フノデアリマ
  ス、私ハ政府ガ本法ノ適用ニ期待スル所ノ
  效果ヲ、眞實ニ-官僚的デハナイ、法律
  的デハナイ、眞實ニ處置シヨウト思フナラ
  バ、斯ノ如キ一片ノ形式的ナ法律ニ依ルノ
  デハナク、サウシタ事態ヲ發生セシムルニ
  至ルヤウナ社會的ナ病弊ヲ一掃スルコトニ
  コノ、全力ヲ注ガレナケレバナラヌト思
  フ、此點ニ對シテ立案者ハ一體ドウ云フ考
  ヲ持ッテ居ラレルカヲ承リタイ
  第五番目ニハ、先程御斷リシマシタヤウ
  ニ文部大臣ニ御伺致シマス、若シ文部大臣
  ガオ居デニナラナケレバ、文部省ノ政府委
  員ノ方デ宜シイカラ答辯シテ戴キタイ、私
  ハ今日ノ國民生活ノ上ニ高等學校、大學ヲ
  正規ノ順序ヲ履ンデ勉學シ得ラレル人々
  ハ、社會的ニハ惠マレタル生活ヲ持ッテ居
  ル人デアルト思フ、其社會的ニハ比較的ニ
  惠マレタル-多少ノ例外ハアリマセウ
  ガ、惠マレタル生活ヲ持ッテ居ル若キ學生生
  徒ガ、何故ニ斯ウシタ重キ刑罰ニ觸レナケ
  レバナラナイヤウナ事犯ヲ惹起スニ至ルノ
  デアラウカ、此點ニ對シテハ私ハオ互ガ冷
  靜ナル批判ノ上ニ立タナケレバナラナイト
  思ヒマスガ、直接ニ是等ノ靑年學生生徒ヲ
  シテ、斯ウシタ事犯ニ觸レルヤウナ事件ヲ
  惹起セシムルコトニ付テハ、〓育行政ノ上
  ニ、或ハ學校經營ノ上ニ、何カシラ缺ケタ
  所ガアリハシナイカト云フコトヲ感ゼシム
  ルノデアリマス、此點ニ對シ先般來ノ文部
  大臣ノ御答辯ニ依レバ、日本ノ〓育ハ物質
  方面ニ流レ過ギテ居ル、ソレ故精神的方面
  ノ〓育ニ力ヲ入レルト仰セラレテ居リマス
  ガ、單ナル一片ノ抽象的ナル精神〓化ニ
  依ッテ、其目的ヲ達スルコトハ出來ナイ、眞
  ニサウシタ效果ヲ期待シヨウトスルナラ
  バ、〓育行政ノ上ニ、學校經營ノ上ニ、間然
  スル所ナキ施設ガ行ハレナケレバナラナイ
  ト私ハ思ヒマス、同ジク此學生生徒ノ治安
  維持法違反事件ノ狀態ヲ、政府ガ發表シタ
  統計ニ就テ見マスレバ、昭和五年カラ昭和
  九年ニ至リマスル間ニ、學生ノ治安維持法
  違反事件トシテ檢擧セラレマシタ者ノ數
  ハ、大學、高等學校、專門學校、中等學
  校、其他ノ學校ヲ包含シテ、全體デ檢擧者
  ノ數ガ昭和五年ニハ九百五十名、六年ニハ
  增加シテ一千百十九名、七年ニハ更ニ增加
  シテ千百七十名、所ガ八年ニ至リマスル
  ヤ、俄然約其半數ノ六百七十名ニ減ジテ居
  ル、更ニ九年ニ至リマスレバ、僅ニ檢擧サ
  レタ者ノ數ハ二百十二ノ數ニ過ギナイ、其
  中起訴サレタ者ノ數ハ、昭和九年ノ十一月
  末日締切デアリマスガ、僅ニ二十五名、學
  生生徒ノ治安維持法違反事件ニ依ッテ起訴
  サレタ者ノ數ハ二十五名、而モ七年ヲ最高
  トシテ順次ニ減ッテ來テ居リマス、斯ウシテ
  先程讀ミマシタ一般治安維持法違反事件
  ヲ、七年ヲ限度トシテ低下シテ來タノデア
  リマス、學生生徒ノ減ッテ來タト云フ狀態
  ハ、若キ社會ノ汚毒ニ染ッテ居ナイ學生生
  徒若クハ一般靑年ガ、順次社會情勢ニ對
  スル認識ヲ高メテ、斯ウシタ事態ガ減少シ
  テ來ルト云フコトハ喜バシキ現象デアリマ
  スガ、特ニ學生生徒ノ狀態ニ見マスルナラ
  バ、其他ノ起訴、留保或ハ執行猶豫ノ狀態
  ガ、ドウ云フ狀態ニナッテ居ルカト云フコト
  ト、是等ノ學生生徒ノ保護助成ニ付テハ、
  國民精神文化〓究所ノアルコトヲ吾々ハ聞
  イテ居リマス、此國民精神文化〓究所ハ一
  體如何ナル仕事ヲヤリ、ドノヤウナ能率ヲ
  擧ゲテ居ルカト云フコトヲ、明瞭ニ示シテ
  貰ヒタイ
  更ニ第六ニハ、陸軍關係ニ於テ陸軍當局
  ニ御伺致シタイノデアリマス、若シ陸軍大
  臣ガオ居デニナラナケレバ、御答辯ハ後程
  御伺スルト云フコトヲ保留シテ置キマス、
  陸軍關係-寺內陸軍大臣ハ二·二六事件
  ノ發生ヲ契機トシテ大臣ノ職ニ就カレ、肅
  軍ノ爲ニ最善ノ努力ヲシテ居ラレルト云フ
  コトニ對シテハ、吾々ハ其努力ニ對シテ敬
  意ヲ表スルニ吝ナルモノデハナイ、併シ今
  日マデ此議場ニ現レタル陸軍當局ノ意圖
  ヲ以テスルナラバ、主トシテ陸軍部內ノ派閥
  ノ有無如何、或ハ主トシテ政治的ナ意見ノ現
  レニ對スル肅軍ノ意圖ノヤウデアリマスルケ
  レドモ、吾々ハ勿論斯ウシタ陸軍ニハ陸軍獨
  特ノ法規ガ存在スルデアラウ、其法規ノ限リニ
  於テ處置セラレルコトニ付テ異議アルモノデハ
  アリマセヌガ、私ガ茲ニ御尋シナケレバナ
  ラナイト云フコトハ、數ハ少數ト雖モ陸軍
  關係ニ於テ、ヤハリ治安維持法違犯事件ヲ
  惹起シテ居ルノデアリマス、數ハ非常ニ少
  イケレドモ、見逃スベカラザルコトハ、陸
  軍ノ學生生徒ノ中ニ、治安維持法違反事件
  ヲ惹起シテ居ルト云フ事實デアリマス、此
  陸軍學生生徒恐ラクハ將校若クハ下士
  ノ諸君デアラウ、此陸軍ノ中心トモ言フベ
  キ靑年將校若クハ下士ノ諸君ノ中カラ、治
  安維持法違反事件ヲ惹起スト云フコトハ、
  二·二六事件或ハ五·一五事件トハ別箇ノ意
  味ニ於テ、重大ナル關心ヲ吾々ハ喚起サザ
  ルヲ得マセヌ、私ハ陸軍當局ニ對シ、一體
  ドウシテアノ軍紀ノ嚴肅デアルベキ筈ノ陸
  軍部內ニ、治安維持法違反事件ノ被疑者ヲ、
  兵隊ノ中カラデハナイ、學生生徒ノ中カラ
  惹起スニ至ッタカト云フ原因ヲ御尋シタ
  イ、私共ハ此點ニ對シ陸軍ノ風紀ノ問題、
  先般新聞紙ノ傳ヘル所ニ依レバ、植村中
  將ハ待命ニナッテ
  居ル、又後藤工兵大佐ハ晴ノ滿洲カラノ
  凱旋ノ途上、大連ニ於テ部下ノ監督不行
  屆ト云フ點デ自殺ヲシテ居ラレル、是等
  ノ事柄ニ對シ吾々ハ其內容ヲ知ルコトガ
  出來マセヌ、斯ウシタ國民ニ對シ其內容ヲ
  今知ラシムルコトノ出來ナイヤウナ事柄ガ、
  若キ靑年學生ヲ驅ッテ斯ウシタ事犯ヲ誘起
  セシムルヤウナ原因若クハ動機ヲ成シテ居
  ルノデハナイカ、更ニ是ハ或ハ政友會諸君
  ニハ相濟マヌコトデアルカモ知レマセヌガ、
  吾々ハ疑ハ疑トシテ明瞭ニスル必要ガアル、
  是等ノ事態ハ或ハ二·二六事件ニ關スル問
  題ト言ヒ、或ハ色々ナコトガ傳へラレテ居
  リマスルガ、私ハ斯ウ云フ問題ニ對シ、卽
  チ陸軍風紀ニ關スル問題ニ對シテハ、機ヲ
  改メテ質問ヲシタイト思ッテ居リマスルケ
  レドモガ、斯ウ云フヤウナ事態ガ、若キ陸
  軍ノ靑年將校學生ヲシテ、屢〓治安維持法
  違反事件ヲ惹起サシムルヤウナ事態ヲ誘發
  セシメテ居ルノデナイカト云フコトヲ御伺
  シタイ
  之ヲ要スルニ以上六項ニ述ベマスル通リ、
  此法案ノ直接影響ヲ受ケルモノハ、吾々ニ
  ハ全然關係ノナイ、一部ノ治安維持法違反
  事件ノ被疑者バカリト限ラレテ居リマスル
  ケレドモガ、其立法ノ精神ニ於テハ、國民
  ノ生活自由ヲ奪ハウトスル專制政治ノ現レ
  デアル、官僚政治ノ毒素ノ現レデアルト云
  フコトヲ痛感セザルヲ得ナイ、斯ウ云フ意
  味ニ於テ、議員諸君ハ直接我身ニ降掛カル
  コトデナイト言ヒナガラ、國民生活ノ權利
  ヲ確保スル意味ニ於テ、議會ノ權能ヲ最大
  限ニ發揮スル意味ニ於テ、冷靜ナル批判ノ
  下ニ政府ノ秕政ヲ糺彈シ、暴政ヲ阻止シ、
  國民生活ノ安定ノ爲ニ、最大ノ努力ヲ盡サ
  レンコトヲ切望スルト共ニ、政府當局ガ斯
  ウ云フ總括的ナ點ニ對シテ、ドウ云フ考ヲ
  持ッテ居ラレルカト云フコトヲ、明確ニ御承
  リ致シタイト思ヒマス(拍手)
  〔國務大臣林賴三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=13

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• 014・林頼三郎

  ○國務大臣(林賴三郞君)　只今加藤君カラ
  御質問ニナリマシタ點ニ付テ御答致シマス、
  此法案ヲ提出シマシタ所以ハ、加藤君ノ御
  質問ニアッタヤウニ、力ヲ以テ是等ノ犯罪者
  ニ壓迫ヲ加ヘヨウト云フ意味ハ毛頭ナイノ
  デアリマス、法文ニモ明ニナッテ居リマス
  ル通リ、是等ノ者ヲシテ再ビ邪道ニ踏迷ハ
  ヌヤウニ保護ヲ加へ、サウシテ正道ニ引戾
  サンコトヲ期スル爲ニ、有ユル方法ヲ講ズ
  ルコトニナッテ居ルノデアリマシテ、本案ノ
  提案ノ趣意ハ、全ク御質問ノヤウナコトデ
  ナイト云フコトヲ、特ニ此場合ニ明ニシタ
  イノデアリマス、而シテ今日此法案ヲ提出
  シナケレバナラナイヤウニナッタ事情ハ、先
  程提案ノ際ニ申シタ通リデアリマス、而シ
  テ此法案ヲ實施シマスト云フト、實質的ニ
  ハ非常ニ權利ヲ剝奪サレルヤウナ御意見デ
  アリマシタガ、決シテ左樣ナコトニナッテ
  居リマセヌ、是等ノ犯人ハ其環境又ハ交友
  ノ關係ニ依リマシテ、折角轉向セント致シ
  マシタ者ガ、又元返リヲスルヤウナコトガ
  アルノデアリマスカラ、ソレ等ノコトヲ防
  グ爲ニ、居住、交友、通信等ニ付テ適當ノ
  制限ヲ附スルト云フコトハ、已ムヲ得ヌ次
  第デアルノデアリマシテ、是等ノコトノ公
  正ヲ期スル爲ニ、此法案ニ於キマシテハ、
  特ニ保護觀察審査會ヲ設ケマシテ、其決議
  ニ依ッテ保護觀察ニ付スルコトニナッテ居ル
  ノデアリマス、左樣ナ次第デアリマスカラ、
  不當ニ權利ヲ剝奪スルヤウナコトハ、絕對
  ニナイト信ジテ居ルノデアリマス、次ニ保
  護觀察委員會ノ構成ニ付テ御尋ガアリマシ
  タガ、是ハ事柄ノ性質上官制ニ依ルノガ適
  當デアリマスノデ、此法案ニ揭ゲナイノデ
  アリマシテ、其案ハ政府ニ於テハ出來テ居
  ルノデアリマス、要スルニ各方面カラ數名
  ノ人ヲ選ビマシテ、其會議ニ掛ケテ愼重ニ
  調査ノ上、決議ヲ經テ初メテ觀察ニ付スル
  ト云フ方針ニナッテ居ルノデアリマス、又保
  護觀察ニ付スベキ保護團體、〓會、寺院等
  ヲ選定スル標準ハ、ドウ云フコトニナッテ
  居ルカト云フ御尋ガアリマシタガ、是ハ精
  神的ノ仕事ヲスルノデアリマスカラ、形式
  的ノ標準ヲ設ケルコトハ困難デアリマシテ、
  之ニ付キマシテハ今日多數ノ民間ニ保護國
  體ガアル、サウシテ少年法ニ依リマシテ、
  是等ノ保護團體、寺院、〓會等ニ、ソレゾ
  レ少年保護ノ事業等ヲ委託致シマシテ、優
  良ナル團體、寺院、〓會ト、サウデナイモ
  ノハ、自ラ明ニナッテ居ルヤウナ次第デア
  リマシテ、特ニ優秀ナモノヲ選ビマシテ、
  ソレ等ノモノニ委託スル考デアリマス拍
  手)
  〔政府委員山本厚三君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=14

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• 015・山本厚三

  ○政府委員(山本厚三君)　只今加藤君ヨリ
  文部大臣ニ對シテノ御質問ニ對シテ御答申
  上ゲマス、只今御述ベニナリマシタ通リニ、
  我國ノ學生生徒ノ間ニ治安維持法ニ違反ス
  ル者ガ非常ニ澤山生ジタト云フコトハ、洵
  ニ遺憾至極デアリマス、御尋ノドウ云フ事
  ガ主ナル理由デアルカト云フコトデアリマ
  スガ、無論複雜シタ色々ノ原因ガアルコト
  ト存ジマス、其中主ナルモノハ、當時ノ社
  會情勢ノ影響ヲ受ケタト云フ點モアリマセ
  ウ、又當時ノ學問ノ傾向ト云フコトモ、其
  一ツノ原因デアラウト存ジマス、是等ノ色
  色ノ複雜シタ原因カラ、社會ノ改造ト云フ
  考ヲ起シタト云フコトガ、原因デハアルマ
  イカト思ヒマスルガ、尙ホ一ツ〓育上ノ組
  織制度等ニ對スル缺陷モ私ハアルノデハア
  ルマイカト考ヘマス、尙ホソレニ付テドウ
  云フ一體處置ヲスルカト云フ御尋デアリマ
  シタガ、勿論是等ノ學生ニ付テハ思想ノ幼
  稚ナ者デアリマスルカラ、改悛轉向ノ途ヲ
  講ジテ來タノデアリマスルガ、大體ニ於キ
  マシテ各大學ニ於テソレ/〓十分〓究ヲ致
  シテ是ガ轉向ヲ圖リマシタ、又御尋ノ國民
  精神文化〓究所ト云フモノニ收容致シマシ
  テ、此〓究所ニ於テ十分改悛ノ方法ヲ講ジ
  又現在講ジツヽアルノデアリマス、更ニ改
  悛ノ情ガ顯著デアッテ、思想ノ穩カニナッタ
  者ニ對シマシテハ、出來ルダケ便宜ヲ圖ッテ
  再入學ヲ許スト云フ途ヲ講ジマシテ、其實
  際ノ點ニ付キマシテモ、新聞等デ御覽ノ通
  リニ、再入學ヲ許シテ居ルノデアリマス、
  尙ホ最後ニ現在ノ國民精神文化〓究所ト云
  フモノガ、ドンナコトヲシテ居ルカト云フ
  御尋デアリマシタガ、無論組織ハ御承知ダ
  ラウト思ヒマスルガ、〓究部ト事業部ニ分
  レマシテ、〓究部ハ日本精神ヲ基調ト致シ
  テ居リマス所ノ各學科ノ〓究ヲ致シマシテ、
  之ヲ各大學、學校等ニ配ッテ居リマス、事業
  部ノ方デハ師範學校、中學校ノ〓員ノ再〓育
  ヲ致シ、又是等學生ノ指導ヲ致シテ轉向ヲ
  圖リ、改悛ヲ圖ッテ居リマス、現在是等ノ學
  生ガ二十名程居リマスガ、此處ヲ卒業ト申
  スカ、終了ヲ致シテ、ソレ〓〓ノ方面ニ向ッ
  タ者ガ五十人程ニ達シテ居ルノデアリマス、
  簡單デアリマスガ一應御答致シマス(拍手)
  〔政府委員大山文雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=15

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• 016・大山文雄

  ○政府委員(大山文雄君)　只今軍ノ中ノ學
  生生徒ノ間ニ於キマシテ、治安維持法違反
  事件ヲ出シタ理由ヲ御尋デゴザイマシタガ、
  御尋ノヤウナ學生生徒ノ間ニ於キマシテ、
  治安維持法違反事件ヲ惹起シテ、司法處分
  ニ付シタト云フ者ハ一人モゴザイマセヌ、
  但シ陸軍ニ於キマシテ、治安維持法違反事
  件ト致シマシテ司法處分ニ付シタル者ハ、
  年ニ依リマシテ數名ハゴザイマスルガ、是
  等ノ數名ハ何レモ入營前ニソレ等ノ事犯ニ
  觸レマシタ者デアリマシテ、ソレガ、入營
  後ニ於キマシテ、陸軍ノ司法部ニ於テ處置
  シタト云フコトハゴザイマス、以上御承知
  ヲ御願致シマス
  〔加藤勘十君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=16

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• 017・加藤勘十

  ○加藤勘十君　只今司法大臣カラノ御答辯
  ニ依リマスレバ、決シテ力ヲ以テ壓迫スル
  ノデハナイ、斯ウ云フコトヲ言ハレマシタ
  ガ、成程此思想觀察保護法案ニ依リマスレ
  バ、制裁規定ハ設ケテナイ、其點ニ於テ力
  ヲ以テ他ノ刑罰法規ノ如クニ壓迫干涉スル
  モノデナイト云フ、一應ノ理由ハ成立ツカ
  モ知レマセヌ、併ナガラ先程モ申シマス通
  リ、斯ウ云フ法律自體ニ依ッテ、縛ラレルト
  云フコトソレ自身ガ、非常ニ大キナル精神
  上ノ苦痛デアル、サウシタ精神上ノ苦痛ヲ
  與ヘルト云フコトガ、却テ政府所期ノ目的ヲ
  逆ニ展開セシムルモノデアルト云フコトヲ
  私ハ言ウテ居ルノデアリマス、サウ云フ點
  カラ行キマスナラバ、決シテ唯單ニ形式ノ
  上ニ力ヲ以テ壓迫スルモノデナイト云フ理
  由ダケデハ、私ハ得心スルコトガ出來ナイ
  ノデアリマス、更ニ信書、居住ノ自由ヲ或
  ル程度制限、スルコトハ巳ムヲ得ナイ事柄デ
  アルト言ハレテ居リマシタガ、此已ムヲ得
  ナイト云フヤウナ事柄ハ、私ハ今ノ說明ヲ
  聽イテ居リマシタダケデハ、少シモ已ムヲ
  得ナイト得心スルコトハ出來ナイノデス、
  尙ホ細カイ點ニ付テ私ハ質問ヲ持ッテ居リ
  マスガ、サウ云フ點ハ委員會ニ於テ改メテ
  御質問致シマスケレドモ、サウ云フ只今ノ
  御答辯デハ、吾々ハ少シモ得心スルコ
  トガ出來ナイト云フコトヲ明白ニ致シ
  テ置キマス、ソレカラ構成ハ成程特殊
  ナ才能德望ノアル十名ノ委員ヲ御選ビ
  ニナッテ構成サレル、サウシテソレハ
  勅令ニ依ルト云フコトデアリマスルケレド
  モ、是等ノ今日ノ社會生活ノ通念カラ見マ
  スルナラバ、檢事若クハ檢事ノ仕事ヲ輔
  佐スベキヤウナ立場ニ居ル人々ハ、決シテ
  社會ノ血ミドロノ生活ヲシテ居ルヤウナ苦
  痛ヲ經驗シナイ人々デアル、成程机ノ上ニ
  於テハ學問ハ優レテ居ルデアラウ、才能、
  識見、德望ハ備ヘテ居ラレルカモ知レマセ
  ヌガ、現實ノ生活ノ苦痛ヲ感ジタ經驗ノナ
  イ人ガ、ドウシテ眞ニ此法案ノ適用ヲ受ケ
  ルヤウナ人々ノ心持ヲ理解スルコトガ出來
  ルデアリマセウカ、法ノ適用ヲ受ケル人々
  ト之ヲ決定スル人々ノ間ニ、感情ノ上
  ニ、心持ノ上ニ大キナ隔リガ生ズルヤウナ
  法ノ適用ハ、決シテ正シキ法ノ適用デアル
  ト言ハレナイト私ハ思フ、斯ウ云フ點ニ對
  シテ更ニ御質問ヲ致シマス、ソレカラ委託
  スベキ〓會、寺院、保護團體、病院ト云フ
  モノハ、社會ニ多ク存在シテ居ッテ、其中ニ
  自ラ優秀ナルモノハ既定セラレテ居ルガ故
  ニ、其自ラ定マッテ居ル優秀ナルモノヲ選擇
  シテ、之ヲ託スト言ハレマシタガ、玆ニ私
  ハ同ジ寺院デアリ、同ジ〓會デアリ、同ジ
  病院デアリ、同ジ保護團體ノ中カラ、誰ガ
  一體之ヲ定メルカト云フコトコソガ、重大
  デアル、聞キマスト、先般ノ新聞ニモ出テ
  居リマスル通リニ、十分ナル法人團體トシ
  テ、世間カラ信用ヲ博シテ居ル保護團體ノ
  中ニ、大キナ瀆職事犯ヲ惹起シテ居ルデハ
  ナイカ、堂々タル大伽藍ヲ擁スル寺院
  ノ中ニ、刑事犯人ヲ出シテ居ルヤウナ寺院
  スラアルデハナイカ、田舍ノ小サナ茅屋ノ
  中ニモ、德望一世ニ高キ碩學ヲ以テ其寺ヲ
  經營シテ居ル人モアルデハナイカ、形式ノ
  如何、規模ノ大小ニ依ッテ、其優秀ト否トヲ
  決スルコトハ出來ナイ筈デアル、斯フ云フ
  點ニ對シテ一體何ヲ標準トセラレルノデア
  ルカ、ソレカラ山本文部政務次官ノ御答辯
  ニ對シマシテモ、私ハ國民精神文化〓究所
  ノ職員諸君ノ中ニ、自己ノ感情ガ-將來
  有爲ノ靑年ノ誤リヲ指導スベキ、大キナ貴
  イ任務ヲ持ッテ居ル人ノ中ニ、個人的ナ感情
  ガ加ッテ仕事ヲヤッテ居ラレル人ガアルノデ
  ハナイカト云フコトヲ、窃ニ憂ヘテ居ルノ
  デアリマス、斯フ云フ點ニ對シテハ委員會
  ニ於テ質問ヲ致シタイト思ヒマス、ソレカ
  ラ大山政府委員ノ御答辯ニ依リマスレバ、
  學生生徒ノ處罰セラレタル者ハ、入營前ノ
  出來事デアッテ、入營後ニ起ッタモノデナイ
  ト云フ御答辯デアリマシタガ、其點私事實
  ヲ能ク知リマセヌ、唯現レテ居ル政府發表
  ノ統計ニ依レバ、年々治安維持法違反事件
  ヲ學生生徒ノ中カラ出シテ居ルノデアリマ
  ス、ソレデ私ハ其點ヲ御伺シタノデアリマ
  スガ、今ノサウ云フコトニ依ッテ、陸軍自體
  ガ成程子飼ノ幼年學校、士官學校、其他專
  門學校ノ中カラ起ッタノデハナイト云フコ
  トナラバ、私ニハサウ云フコトハ分ラヌカ
  ラ、ソレデ宜シウゴザイマスガ、唯併シ
  (「分ラヌコトヲ聽ク奴ガアルカ」ト呼フ者
  アリ)分ラヌカラ聽クノデアル、少クトモ
  嚴肅ナル陸軍ノ軍人生活ノ上ニ、サウシタ
  縦ンバ入營シタ後ニ於テモ、學生生徒デア
  ル以上ハ、純粹ノ陸軍軍人生活ヲ一步カラ
  ヤッタ人デハナイ、或ル程度軍人生活ヲシタ
  後ニ學生生徒ニナッタモノデアラウト思フ、
  ソレナラバソレ等ノ人々ヲ刺戟スルヤウナ
  事態ガ陸軍部內ニナイト言ハレルノデアル
  カ、現ニ植村中將ハ待
  命ニナッテ居ル、後藤大佐ハ部下ノ監督不行
  屆ノ故ニ自殺ヲシテ居ル、其他尙ホ私ハ幾
  多ノ陸軍軍人ノ風紀ニ關スル問題ヲ聞イテ
  居リマス、サウ云フ點ハアルカナイカト云
  フコトヲ御伺シテ居ルノデス(「ソレヲ發表
  シタラ宜イヂヤナイカ」ト呼フ者アリ)ソレ
  ハ日ヲ改メテ質問シマス
  〔國務大臣林賴三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=17

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• 018・林頼三郎

  ○國務大臣(林賴三郞君)　先程御答ヲ致シ
  マシテ、大體御分リニナッテ居ル積リデア
  ルノデアリマスガ、此法案ノ精神トスル所
  ハ、先程申シマシクヤウニ、是等ノ犯人ニ
  對シテ力ヲ以テ壓迫ショウト云フ考ハ毛頭
  モ入ッテ居リマセヌ、慈父ノ如キ嚴ト、慈母
  ノ如キ愛ヲ以テ接シマシテ、過ッテ邪道ニ踏
  迷ック者ヲ正道ニ引戾サウト云フコトガ、此
  法案ノ精神デアリマス、其精神ニ則ッテ此法
  案ヲ實行致ス考デアリマス、其點特ニ申上
  ゲテ置キマス
  〔政府委員大山文雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=18

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• 019・大山文雄

  ○政府委員(大山文雄君)　只今御答致シマ
  シタ中ニ、御聽違ヒガアリハセヌカト存ジ
  マスカラ、其點ヲ申上ゲテ置キマス、ソレ
  ハ陸軍ノ學生生徒ノ中ニハ、治安維持法違反
  事件トシテ司法處分ニ付シタ者ハナイノデ
  アリマス、更ニ今申上ゲマシタノハ、ソレ
  以外ノ入營シタ兵ノ中ニ、年ニ依リマシテ
  數名ノ違反者ヲ出シタト云フコトモ申上ゲ
  タノデアリマス、次ニ今某中將或ハ某大佐
  ノ事件ノコトヲ御尋ニナリマシタガ、ソレ
  ハ治安維持法違反事件ノ關係ニハ何等ナッ
  テ居リマセヌ、ソレダケヲ御答致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=19

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• 020・加藤勘十

  ○加藤勘十君　簡單デアリマスカラ自席カ
  ラ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=20

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• 021・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=21

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• 022・加藤勘十

  ○加藤勘十君　今大山政府委員ハ、起訴處
  分ニシタ者ハナイト云フ御答デアリマシタ
  ケレドモ、原因發生ガ或ハ入營前、學生生
  徒ノ時代デアッタカ、ソレハ知リマセヌガ、
  少クトモ政府ノ發表シタ統計書ノ中ニ、昭
  和五年ニハ二名ノ檢擧者ヲ見テ居ル、サウ
  シテ起訴一名、處罰一名、昭和六年ニハ檢
  擧二名、起訴一名、處罰一名、昭和七年ニ
  ハ流石ニアリマセヌ、サウシテ右翼關係ガ
  十一名、昭和八年ニハ三名ノ檢擧ガアッテ、
  昭和九年ニハ四名、其中三名ガ起訴セラレ、
  三名ガ處罰セラレテ居ル、斯ウ云フヤウニ
  昭和五年カラ九年迄ノ間ニ、學生生徒ニシ
  テ檢擧セラレタ者ガ十一名、其中起訴サレ
  タ者ガ五名、處罰サレタ者ガ五名トナッテ居
  リマス、一體此數字ハ何處カラ出タモノデ
  アリマスカ、ソレヲ伺ヒタイ
  〔政府委員大山文雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=22

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• 023・大山文雄

  ○政府委員(大山文雄君)　只今學生生徒ノ
  統計ヲ御示ニナリマシタガ、ソレハ何カ御
  間違ヒヂヤナイカト思ヒマス、學生生徒ノ
  中ニハ、私ノ承知シテ居ル所デハ此數年間
  ナイノデアリマス、尙ホ十分ニ其點ハ私ノ
  方デモ調ベマスカラ、アナタノ方モモウ一
  度能ク御調ベニナッテ貰ヒタイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=23

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• 024・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　質疑ハ終局致シマ
  シタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧
  ニ付キ御諮リ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=24

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• 025・松永東

  ○松永東君　本案ハ政府提出、大正十二年
  法律第五十二號中改正法律案ノ委員ニ併セ
  付託セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=25

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• 026・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=26

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• 027・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  マン、仍テ動議ノ如ク決シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=27

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• 028・松永東

  ○松永東君　議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
  出致シマス、卽チ此際政府提出、產繭處理
  統制法案、蠶絲業組合法中改正法律案、蠶
  絲業法中改正法律案ノ三案ヲ一括議題トナ
  シ、委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進メラ
  レンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=28

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• 029・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=29

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• 030・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  やく、仍テ日程ハ變更セラレマシク、產繭
  處理統制法案、蠶絲業組合法中改正法律案、
  蠶絲業法中改正法律案、右三案ヲ一括シテ
  第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報〓ヲ
  求メマス-委員長百瀨渡君
  產繭處理統制法案(政府提出)
  第一讀會ノ續(委員長報告)
  蠶絲業組合法中改正法律案(政府提出)
  第一讀會ノ續(委員長報告)
  蠶絲業法中改正法律案(政府提出)
  第一讀會ノ續(委員長報告)
  報告書
  一產繭處理統制法案(政府提出)
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報告候也
  昭和十一年五月十六日
  委員長百瀨渡
  衆議院議長富田幸次郞殿
  附帶決議
  一政府ハ輸出生絲販賣統制ニ關スル具
  體案ヲ次期議會ニ提出スヘシ
  希望條項
  一政府ハ本法案實施ノ結果生繭賣買業
  者ニ及ホス影響ヲ考慮シ、適切ナル方
  策ヲ講スヘシ
  二政府ハ旣存乾繭組合及組合製絲組合
  ノ更生ヲ圖リテ供繭者ノ利益ヲ保護ス
  ン
  三政府ハ中小製絲業者ノ實情ニ鑑ミ適
  當ナル指導及助成ノ途ヲ講スヘシ
  四政府ハ速ニ繭價協定委員會ヲ完備シ、
  生產費ヲ基調トセル繭價ノ安定ヲ期ス
  ヘシ
  報〓書
  一蠶絲業組合法中改正法律案(政府提出)
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報告候也
  昭和十一年五月十六日
  委員長百瀨渡
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一蠶絲業法中改正法律案(政府提出)
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  委員長百瀨渡
  衆議院議長富田幸次郎殿
  〔百瀨渡君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=30

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• 031・百瀬渡

  ○百瀬渡君　本員ハ政府提出ノ產繭處理統
  制法案、竝ニ蠶絲業組合法中改正法律案、
  及ビ蠶絲業法中改正法律案、此三案ガ議題
  トナリマシタル此場合ニ於キマシテ、委員
  會ノ經過竝ニ結果ノ御報告ヲ申上ゲタイト
  存ジマス、委員會ハ去ル十一日以來本日ニ
  至ルマデ連日ニ亙リマシテ、各委員ヨリ極
  メテ熱心ニ、而モ眞摯ナル質疑ヲ爲シ、愼
  重審議ノ結果、本日午後討論ニ入リ、全會
  一致ヲ以テ本案ハ原案通リ可決致シマシタ
  次第デアリマス、今其内容ニ付キマシテ極
  メテ簡單ニ申上ゲタイト存ジマス、卽チ我
  國ノ生絲ガ重要輸出品トシテ、國際貿易上
  極メテ重要ナル所ノ使命ヲ有シテ居ルノミ
  ナラズ、其政策ノ如何ハ國民經濟上ニ至大ノ
  影響ヲ及ボス觀點カラ致シマシテ、蠶絲業
  ノ根源タル產繭處理ノ統制ヲ行ヒ、以テ產
  繭ノ合理的改善ヲ圖ル爲ニ、曩ニ昭和九年
  ノ第六十五議會ニ於キマシテハ、各派議員
  ノ共同提案ト致シマシテ、衆議院ヲ通過シ
  タノデアリマス、併ナガラ貴族院ニ於キマ
  シテハ、會期切迫ノ爲ニ不成立ニ終ッタノ
  デアリマス、更ニ昨年ノ第六十七議會ニハ、
  政府ノ提案トシテ現レマシテ、種々ナル論
  議ガ交換セラレマシタル結果、是亦會期切
  迫ノ爲ニ、遂ニ審議未了ノ儘今日ニ至ッタ
  沿革ヲ持ッテ居ルモノデアリマス、然ルニ今
  囘ノ提案ハ、前囘ノ提案ニ對シマシテ論議
  ノ重點ト相成リマシタル所ノ第一條乃至第
  五條ニ適當ナル修正ヲ加ヘマシテ、其指導
  精神ヲ明ニ致シタノデアリマスルカラ、昨
  年ノ案トハ其內容ニ於キマシテ大イニ緩和
  セラレタル點ガ少クナイノデアリマス、政
  府ガ本法實施ノ結果ト致シマシテ、養蠶家
  ハ勿論、生繭賣買業者及ビ中小生絲業者、
  竝ニ既設ノ乾繭組合、製絲組合等ニ及ボス
  影響ヲ考慮致シマシテ、之ニ對スル適切ナ
  ル方策ヲ講ジ、以テ繭價ノ安定ヲ期スルト
  共ニ、蠶絲業ノ根本政策トシテハ、原蠶種
  國家管理竝ニ產繭處理ノ外ニ、輸出生絲ノ
  販賣統制ヲ行フノデアリマセヌケレバ、斯
  業ノ不安ヲ除キ、絲價ノ安定ヲ期待スルコ
  トガ出來ナイノデアリマス、此故ニ委員會
  ニ於キマシテハ、各派共通ノ意見ト致シマ
  シテ、附帶決議竝ニ希望條件ヲ全會一致ヲ
  以テ可決致シタ次第デアリマス、今其附帶
  決議竝ニ希望條件ヲ朗讀致シマス
  附帶決議
  一政府ハ輸出生絲販賣統制ニ關スル具
  體案ヲ次期議會ニ提出スヘシ
  希望條項
  一政府ハ本法案實施ノ結果生繭賣買業
  者ニ及ホス影響ヲ考慮シ、適切ナル方
  策ヲ講スヘシ
  二政府ハ旣存乾繭組合及組合製絲組合
  ノ更生ヲ圖リテ供繭者ノ利益ヲ保護ス
  ヘシ
  三政府ハ中小製絲業者ノ安員情鑑ニ適
  當ナル指導及助成ノ途ヲ講スヘシ
  四政府ハ速ニ繭價協定委員會ヲ完備シ
  生產費ヲ基調トセル繭價ノ安定ヲ期ス
  ,ン
  以上、次ニ蠶絲業組合法中改正法律案デ
  アリマスルガ、本法改正案ハ蠶絲業組合法
  ノ制定ニ依リマシテ、蠶絲業者ノ綜合的、
  系統的團體制度ノ樹立ヲ見ルコトガ出來マシ
  タガ、最近蠶絲業ノ急激ナル狀態ノ變化ハ、
  蠶絲業團體ノ自治的統制ノ强化ニ俟ツコト
  ガ緊切ナルモノガアリマスカラ、養蠶業組
  合ノ更生其他ニ關シマシテ、團體制度ノ整
  備ヲ要スルモノガアリマスルカラ、委員會
  ト致シマシテハ、本案ハ最モ適切ナル提案
  ト致シマシテ、是亦全會一致ヲ以テ原案ヲ
  可決シタル次第デアリマス次ニ蠶絲業法中
  改正法律案デアリスルガ、本法案ハ中小蠶
  業者ノ事業ノ經營ヲ合理化スルト共ニ、各
  業者ノ事業ノ連絡統制ヲ圖リ、以テ製品ノ
  齊一向上、生產費ノ輕減及ビ製品處理ノ圓
  滑ヲ期スル爲ニ、蠶絲業者ヲシテ共同ノ施
  設ヲ行ハシムルニ適當ナル所ノ組合制度ヲ
  設クルコトハ、本邦蠶絲業ノ現狀ニ鑑ミマ
  シテ、最モ緊要トスル所デアリマスルカラ、
  隨ヒマシテ本法ノ改正ヲ爲サントスルモノ
  デ、是亦愼重審議ノ結果全會一致デ以テ可
  決シタル次第デアリマス、以上ヲ以チマシ
  テ委員會ノ報告ト致ス次第デアリマスル
  ガ、其質疑應答ノ內容ニ付キマシテハ、速
  記錄ニ依リマシテ御覽ヲ願フコトト致シ、
  終リニ臨ミマシテ滿場各位ノ何卒御贊成ヲ
  仰ギタイト存ズル次第デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=31

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• 032・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　三案ノ第二讀會ヲ
  開クニ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=32

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• 033・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  やく、仍テ三案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
  シタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=33

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• 034・松永東

  ○松永東君　直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、
  第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通リ可
  決セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=34

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• 035・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=35

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• 036・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  やく、仍テ直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、
  議案全部ヲ議題ト致シマス
  產繭處理統制法案第二讀會(確定議)
  蠶絲業組合法中改正法律案
  第二讀會(確定議)
  蠶絲業法中改正法律案
  第二讀會(確定議)
  〔「異議ナシト」呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=36

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• 037・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　別ニ御發議モアリ
  マセヌ、第三讀會ヲ省略シテ、三案トモ委
  員長ノ報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)
  日程第二、職業紹介法中改正法律案ノ第一
  讀會ヲ開キマス-內務大臣潮惠之輔君
  第二職業紹介法中改正法律案(政府
  提出)第一讀會
  職業紹介法中改正法律案
  職業紹介法中左ノ通改正ス
  第二條ニ左ノ一項ヲ加フ
  特別ノ必要アル場合ニ於テハ北海道府
  縣ハ職業紹介所ヲ設置スルコトヲ得
  第四條第二條ノ職業紹介所ハ之ヲ設置
  スル公共團體ヲ統轄スル行政廳之ヲ管
  理ス
  第五條北海道府縣市町村ニ非ザル者職
  業紹介所ヲ設置セントスルトキハ地方
  長官ノ許可ヲ受クベシ
  第七條職業紹介所ノ事業ノ聯絡統一ハ
  內務大臣及地方長官之ヲ管掌ス
  第九條第二條ノ職業紹介所ニ關スル經
  費ハ之ヲ設置スル公共團體ノ負擔トス
  第十條中「職業紹介所ニ關スル經費ノ支
  出ヲ爲ス市町村」ヲ「第二條ノ職業紹介
  所ニ關スル經費ノ支出ヲ爲ス公共團體」
  三六人
  第十二條中「職業紹介事務局ノ長」ヲ「地
  方長官」三八人
  第十三條ノ二命令ノ定ムル所ニ依リ多
  數ノ勞務者ヲ雇傭セントスル者ハ職業
  紹介上必要ナル事項ヲ地方長官ニ通報
  スベシ
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔國務大臣潮惠之輔君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=37

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• 038・潮惠之輔

  ○國務大臣(潮惠之輔君)　只今上程セラレ
  マシタ職業紹介法中改正法律案ノ提案ノ理
  由ニ付テ簡單ニ御說明申上ゲマス、現行ノ
  職業紹介法ハ大正十年七月ヨリ施行セラ
  レ、爾來約十五年ヲ經過致シタノデアリマ
  スガ、其間公益職業紹介事業ハ漸次發達ヲ
  遂ゲ、現在ニ於キマシテハ、失業者乃至未
  就職者ニ對スル授職機關トシテ活動スルノ
  ミニ止マラズ、產業ニ對スル所要勞働者ノ
  供給機關トシテノ職能ヲモ、漸次發揮スル
  ノ狀況ニ相成ッテ居リマス、併ナガラ法施行
  以來幾多ノ經驗ニ徵シマスルニ、職業紹介
  事業ノ一層ノ發展ヲ期センガ爲ニハ、現行
  法ニ相當ノ改正ヲ加ヘルノ必要ヲ認ムルニ
  至ッタノデアリマス、改正法律案ノ主ナル點
  ハ、職業紹介ニ關スル行政機構ノ改善デア
  リマス、卽チ現行法ニ於テハ、職業紹介所
  ノ事業ノ連絡統一竝ニ監督ノ事務ニ付キマ
  シテハ、內務大臣ノ下ニ中央及ビ地方職業
  紹介事務局ヲ設ケテ、之ヲ管掌セシメテ居
  ルノデアリマスガ、是等ノ職業紹介事務局
  ヲ廢止シ、其所管事務ハ之ヲ內務大臣及ビ
  地方長官ニ移管スルコトトシ、地方ニ於キ
  マシテハ、失業救濟事業、職業指導、授產
  竝ニ職業輔導事業、移民事業等、職業紹介
  事業ニ密接ナ關係ヲ有シマス各種ノ地方行
  政事務ト併セ、地方長官ノ下ニ綜合的ニ之
  ヲ管掌セシムルト共ニ、中央ニ於キマシテ
  ハ、直接內務大臣ニ於テ之ヲ管掌シ、以テ
  職業行政ノ進展ヲ期セントスルモノデアリ
  マス、次ニ現在職業紹介所ハ、原則トシテ
  市町村ヲ經營主體トスルノデアリマスガ、
  此原則ノミニ依ル時ニハ、是ガ十分ノ發達
  ト分布ノ適正ヲ期シ難イ點モアリマスノデ、
  特別ノ必要アル場合ニ於キマシテハ、市町
  村ノ外道府縣職業紹介所ヲ設置シ得ルコト
  ト致シマシタ、以上ハ何レモ職業紹介制度
  ノ擴充ヲ圖リ、勞務ノ需給調節ノ機能ヲ大
  ナラシメ、以テ職業行政ノ確立ヲ期セント
  スル趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、何卒御
  審議ノ上速ニ御協賛アランコトヲ切望致シ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=38

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• 039・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　質疑ノ通〓ガアリ
  やく、之ヲ許シマス-川村保太郞君
  〔川村保太郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=39

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• 040・川村保太郎

  ○川村保太郞君　私ハ後ノ議案ノ都合モゴ
  ザイマスノデ、極ク簡單ニ二三ノ點ニ付テ
  內務大臣ニ御尋致シタイト考ヘルノデアリ
  マス、一體我國デハ失業問題ノ對策ト云ヘ
  バ直グニ職業紹介所ヲイジクルト云フノ
  ガ、今日マデノ殆ド慣例ニナッテ居ルノデ
  ゴザイマスガ、私ハ此職業紹介所ノ管理經
  營ト云フ問題ニ對シテ、今マデ多クノ遺憾
  ナ點ヲ見出スコトガ出來ルノデアリマス、
  其一ツハ、今日マデ職業紹介所ヲ市町村ニ
  於テ經營シテ居ッタノデゴザイマスガ、
  體世間體ニ作ッタニ過ギナイヤウナ感ガア
  ルノデアリマス、例ヘバ市町村ニ於キマシ
  テ、自ラ職業紹介所ヲ經營シテ居リナガラ、
  人ヲ雇フ場合ニ、多クノ場合ハ此職業紹介
  所ヲ利用シテ居ラヌ、自分ノ方デ職業紹介
  所ヲ經營シテ居リナガラ、人ヲ入レル場合
  ニハ大抵市會議員トカ、或ハ部長トカ、課
  長トカ云フヤウナ人ノ手デ入レテ居ル、ノ
  ミナラズ日傭勞働者、例ヘバ市町村ニ於テ
  人夫ヲ雇フ、或ハ工夫ヲ雇フ、臨時的ニ雇
  フト云フ風ナ場合ニハ、甚ダ怪シカラヌコ
  トニハ、人夫請負業者、人夫供給ヲ請負ニ
  シテ居ル者ノ手ヲ通ジテ雇ッテ居ルノデア
  リマス、申ス迄モナクサウ云フ風ナ手ヲ通
  ジテヤルト云フ風ナコトニナリマスト、其
  人間ガ途中デ中間搾取ヲスルノデアリマス、
  雇フ方ハ餘計ナ給料ヲ拂ハナケレバナラヌ、
  貰フ者ハ少ク貰ハナケレバナラヌ、雙方ト
  モ損ヲシナケレバナラヌト云フ風ナコトニ
  ナルノデアリマス、是ガ一ツノ利權ニナッ
  テ居リマシテ、今日尙ホサウ云フ風ナコト
  ガ行ハレテ居ル、今囘サウ云フ風ニ職業紹
  介所法ノ一部ヲ御改正ニナッタノデアリマ
  スガ、之ヲ機會ニ直チニ總テノ雇主ニ對シ
  テ職業紹介所ノ利用ヲ强制スル譯ニ行クマ
  イト思ヒマスガ、少クトモ政府ノ監督下ニ
  アル所ノ市町村、或ハ政府ノ監督下ニアル
  所ノ事業官廳ニ於テハ、少クトモ此處カラ
  人ヲ雇フト云フ風ニナサル御考ハナイカド
  ウカ、是ハ行政的手段デ以テ十分ニ出來ル
  コトダト考ヘマスノデ、此點ニ付テ內務大
  臣ノ御決心ヲ伺ヒタイト私ハ考ヘマス
  モウ一ツハ臨時工ノ問題デアリマス、今
  日臨時職工ノ問題ガ、世間的ニモ相當重要
  ナ問題ニナッテ居リマスガ、實ハ職業紹介所
  ガ臨時工ノ問題ヲ益〓助長セシメルカノ如
  キ感ガアルノデアリマス、御承知ノ通リ最
  近デハ指名人夫ト云フモノガ出來テ居リマ
  シテ、色々ナ工場或ハ色々ナ作業ヲヤル所
  デ人夫ヲ雇フ、其場合ニ職業紹介所ノ人夫
  ヲ雇フノデアリマスガ、成ベク同ジ人間ヲ
  每日寄越シテ吳レト言ヘバ、同ジ人間ヲ每
  日派遣スルノデアル、是ハ職業紹介所カラ
  致シマスト、ソレハ一ツノ能率ヲ擧ゲルコ
  トニナリマスルカラ、喜ンデ供給シテ居ル
  ノデアリマスガ、實際問題ト致シマシテ
  ハ、熟練ヲシタ同ジ勞働者ヲ常傭ト同ジヤ
  ウナ條件デ、而モ安イ條件デ每日引續イテ
  使ッテ行クト云フ風ナコトガ助長サレテ居
  ル、是レ以外ノ臨時工ノ問題ニ付キマシテ
  モ、今日段々喧シイ問題ニナッテ居リマス、
  後ニ退職手當ノ問題ナドモ其爲ニ出ルノデ
  アリマスガ、斯ウ云フヤウニ職業紹介所ガ
  却テ雇主ニ利用サレテ、非常ナ勞働者ノ勞
  働條件ヲ低下セシメル働キヲ爲シテ居ルト
  云フコトハ、注目スベキ事實ダト私ハ考ヘ
  ル(拍手)是等ノ點ニ付キマシテ內務大臣
  ハ、何トカ之ヲ御改正ニナル御考ハナイカ
  ドウカ、例ヘバ半月以上、或ハ一月以上同
  ジ人間ヲ同ジ雇主ガ使フト云フヤウナ場合
  二、更ニソレヲ常傭ニセシムルト云フコ
  トヲ、職業紹介所ガ自ラ骨ヲ折ッテヤルト云
  フ位ナコトハ、ナサッテモ宜イノヂヤナイカ
  ト私ハ考ヘル
  後ノ問題モアリマスカラ極ク簡單ニ致シ
  マスガ、最後ニハ失業者ノ問題デアリマ
  ス、御承知ノ通リ多クノ失業者ハ職業紹介
  所ヲ訪ネル、每日ノヤウニ職業紹介所ヲ訪
  ネテモ、多クノ者ハ職ガ得ラレナイデ歸ッテ
  來ルノデアリマス、私ハ是等ノ人ノ問題ニ
  付テ、何カ特別ノ方策ヲ講ズル必要ガナイ
  カ、此點ニ付キマシテハ、內務大臣ハサウ
  云フ失業者ノ爲ニハ、或ハ失業救濟土木事
  業ヲヤッテ居ル、或ハ又後ニ提案サレル所
  ノ、例ヘバ退職積立金法案ノ如キモ、ソレ
  ニ對スル一ツノ對策ダト云フ風ニ御答ニナ
  ルカモ知レマセヌガ、御承知ノ通リ失業救
  濟土木事業ハ、都市ニ於テハ殆ド朝鮮人ノ
  救濟ニ終ッテ居ル、七割マデハ朝鮮人デア
  ル、ソレ以外ノ多クノ失業者ハ救ハレテ居
  ナイ、又是ハ無理ナ話ナノデアリマシテ、
  アヽ云フ風ナ荒仕事ノ土木工事ニ慣レテ居
  ナイ者ハ、無理ニソレヲヤレト言ッタ所デ出
  來ルモノヂヤナイ、無理ニ行ッテ其爲ニ病氣
  ヲ起ス者モ多イノデアル、是ハ殆ド救濟ニ
  ハナッテ居ナイ、又退職積立金ノコトモ、何
  レ後デ問題ニナリマスガ、是ナドニ致シマ
  シテモ、是ハ罷メル時ノ問題ナノデ、而モ
  ソレハ殆ド骨拔キニナッテ居ルト云フヤウ
  ナモノデアリマスカラ、之ヲ以テ私ハ答辯
  ノ材料ニハナラナイト思フ、申ス迄モアリ
  マセヌガ、失業者ハ懶ケ者デハナイ、彼等
  ハ每日口ニ糊スル爲ニ働カンコトヲ欲シテ
  居ル、サウシテ職業紹介所ヲ訪ネルノデア
  リマス、私ハ是等ノ人ニ仕事ヲ與ヘルコト
  ガ出來ナイト云フコトハ、是ハ國家社會ノ
  責任ナノダト思フ(「ヒヤ〓〓」拍手)是ハ決
  シテ本人ノ責任デハナイノデアル、然ルニ
  今日マデノ所デハ、是等ノ人ノ爲ニハ政
  府ハ何等ノ對策ヲ講ジテ居ナイ、私ハ此點
  ハ特ニ御注意ヲ喚起シタイト思ヒマスガ、
  今日ノ制度ノ下ニ於キマシテハ、所謂失業
  者ハ產業豫備軍デアッテ、今日事業ヲ經營ス
  ル一ツノ立場カラ致シマスルト、資本家ノ
  立場カラ致シマスナラバ、失業者ノ存在ガ
  必要ナノダ、而モ成ベク多クアルコトヲ要
  スルノデアル、何時デモ自由ニ使フコトノ
  出來ルヤウニ、何時デモ安イ賃銀デコキ使
  フコトノ出來ルヤウニ、雇主ノ立場カラ致
  シマスト、成ベク多クノ失業者ガ街頭ニ充
  滿シテ居ルコトガ必要ナノダ、而モ是等ノ失
  業者ニ對シテハ保護ヲ與ヘナイデ、飢餓線
  上ニ彷徨セシメテ置クコトガ資本家ノ爲ニ
  ハ利益ナノダ、私共ハ今日マデノ政治ガ斯
  ウシタ資本家ノ利害ト結託シテ、所謂失業
  煮勞働者ノ利益ヲ犠牲ニシテ來タト云フ
  所ニ、大キナ缺陷ガアルト考ヘル(拍手)斯
  ウ云フヤウナ事柄ガ、軈テ先日ノヤウナ不
  祥事件ヲ惹起スル根本ノ原因ニナルノデア
  ル(拍手)先日總理大臣ハ斯ウ云フヤウナ失
  業者ガ居ッテ、其爲ニ親子心中或ハ夫婦心
  中ト云フヤウナコトガ、頻々トシテ新聞紙
  ヲ賑ハシテ居ル、斯ウ云フヤウナコトガ或
  ハ原因デハナイカト考ヘルト云フヤウナ、
  御答辯ガアッタノデアリマスガ、若シサウ云
  フ風ニ御氣付ガアルナラバ、今日ノ社會不
  安ヲ解消スル爲ニハ、先ヅ何ヨリモ先ニ失
  業者ノ問題ヲ解決スルコトガ先決問題デハ
  ナイカト私ハ考ヘル(「ヒヤ〓〓」拍手)私ハ
  サウ云フ點カラ致シマシテ、是等ノ失業者
  ノ爲ニ何等カノ根本的ナ對策ヲ御考ヘニナッ
  テ居ルカドウカト云フコトヲ御尋シタイト
  考ヘマス(拍手)
  〔國務大臣潮惠之輔君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=40

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• 041・潮惠之輔

  ○國務大臣(潮惠之輔君)　御答致シマス、
  從來官廳或ハ公共團體等ニ於キマシテ仕事
  ヲ致ス場合ニ、兎角職業紹介機關ヲ通サズ
  シテ求メルト云フ御話デアリマスルガ、職
  業紹介所ノ利用ノ足リナイト云フコトハ
  私モ御同感ニ存ジマス、就キマシテハ今囘
  ノ改正ヲ機會ト致シマシテ、十分關係方面
  トモ連絡協調致シ、成ベク御趣意ノヤウニ、
  又私共ノ考ヘテ居リマスルヤウニ進ミタイ
  ト存ジテ居リマス、次ニハ勞働者ノ指定紹
  介ニ關スル御質問デアッタト思ヒマスガ、
  無論職業ヲ與ヘマスコトハ、出來ルダケ總
  テノ者ニ循環就勞ノ機會ヲ與ヘルコトガ主
  義デナケレバナリマセヌ、併シ或ル場合ニ
  於キマシテハ、全部之ヲ日ニ〓〓繰返シマ
  スルト、或ハ全部ノ勞働者ガ不慣レデアリ
  マシタリ、或ハ特殊ノ技能ヲ要スルヤウナ
  事モアリマシテ、是モマグ絕對トハ申スコ
  トガ出來ヌノデアリマス、唯今日ハヤハリ
  御趣意ノヤウニ、成ベク循環的ニ使ヒタイ
  ト申シマスノデ、先ヅ二三割位ノ所ハ、ド
  ウモ已ムヲ得ズ制限ヲサレテ居ルノデアリ
  やく、而モ同ジ事業ニ付キマシテハ、モウ
  其事業ダケデ打切ルト云フヤウナコトニ致
  シテ居リマス、併シ斯樣ナコトモ段々改メ
  マシテ、臨時雇ノ形ニナラナイヤウニ、成
  ベク皆ガ循環シテ、平等ニ就勞ノ機會ヲ得
  ルヤウニ盡力致シタイト存ジテ居リマス、
  最後ニ失業者ガ職ヲ求メニ行ッテモ職ガ無
  クシテ歸ッテ來ル、洵ニ御氣ノ毒ニ存ジマス、
  是ガ爲ニハ御指摘ニ相成リマシタヤウニ、
  或ハ失業應急土木事業デアルトカ、或ハ今
  囘御審議ヲ顧ヒマス退職手當ノ法案ナドモ、
  ヤハリ其一端デアリマスシ、又東京、名古
  屋、神戶邊リノ二三ノ都市ニ於キマシテハ、
  失業者ノ共濟制度ナドモ、小規模ナガラ行
  ハレテ居ルノデアリマシテ、斯樣ナコトモ
  追々擴充ヲ助ケテ行ク必要ガアラウト存ジ
  マス、其他根本的ナモノハ、適當ナル方法
  ガ〓究ノ結果得ラレマスルナラバ、是非左
  樣ナ方面ニ調査ナリ、〓究ナリノ步ヲ進メ
  テ參リタイト存ジマス、一應御答申上ゲテ
  置キマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=41

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• 042・川村保太郎

  ○川村保太郞君　極ク簡單デアリマスカラ
  此席カラ御質問致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=42

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• 043・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御許シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=43

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• 044・川村保太郎

  ○川村保太郞君　內務大臣ハ私ノ質問ヲ一
  部誤解シテオイデニナル所モアルヤウデア
  リマス、私ハ臨時雇ノ問題ニ付キマシテハ、
  同ジ人間ヲ每日引續イテ使フト云フコトガ
  惡イト云フノヂヤナシニ、雇主ガ利用シテ、
  人間ヲ每日職業紹介所ヲ通シテ使ッテ行ク
  ト云フ結果、常傭ニシテ宜イモノガ、何時
  マデモ臨時デ置カレルト云フ風ナコトニナ
  ルノデアリマス、斯ウ云フ風ナ向キニ對シ
  マシテハ、紹介所カラ交渉シテ常傭ニセシ
  メルト云フ風ナ御考ガナイカドウカト云フ
  コトヲ御尋シタノデアリマス、ソレカラモ
  ウ一ツ最後ノ御尋ハ、私ハ先日總理大臣モ
  斯ウ云フ悲慘ナ人間ノアルコトガ、社會不
  安ノ原因ヂヤナイカト思フト云フ風ニ御答
  ニナッテ居ルカラ、サウ云フ風ニ御氣付ニナッ
  テ居ラレルナラバ、何ヨリモ先ニ失業者保
  護ノ根本ノ對策ヲ立テル必要ガアルノデハ
  ナイカト云フコトヲ御尋シタ譯デアリマス、
  モウ一度御答辯ヲ願ヒタイ
  〔國務大臣潮惠之輔君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=44

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• 045・潮惠之輔

  ○國務大臣(潮惠之輔君)　臨時勞働者ノコ
  トニ付キマシテハ、私誤解シテ居ッタカ存ジ
  マセヌガ、是ハ工場ノ職工等ニ付キマシテ
  テモ、動モスレバ斯樣ナコトガアリマスノ
  デ、政府ト致シテハ成ベク事實常傭的ニ使
  フ者、又ハ使ハナケレバナラヌ者ハ、追々
  其方ニ改メサシテ、御示ノヤウナ勞働者ニ
  付キマシテモ、其方面ニ向ケテ行カナケレ
  バナラヌ、サウシテ均等ニ勤勞ノ恩惠ニ浴
  サシタイト考ヘテ居リマス、ソレカラ社會
  不安ノコトニ付テノ御說デアリマシタガ、
  全ク失業者ガアリ、働ケテ而モ職業ガナイ
  ト云フ者ノ多數存シマスルコトハ、社會上
  憂慮スベキ點デアルト思ッテ居リマス、之ニ
  付キマシテハ失業ノ對策ニ付キマシテ、或
  ハ內閣ノ調査局、或ハ內務省ノ社會局等ニ
  於キマシテ〓究ヲ致シテ居リマス、未ダ具
  體案ヲ以テ御目ニ掛ケル譯ニ參リマセヌガ、
  追々ト此問題ノ解決ニモ近付カウト存ジテ
  居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=45

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• 046・川村保太郎

  ○川村保太郞君　十分得心シタ譯ヂヤアリ
  マセヌガ、成ベク速ニ根本的ナ對策ノ御立
  テヲ願ヒタイ、斯ウ云フコトヲ申上ゲマシ
  テ私ノ質問ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=46

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• 047・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　質疑ハ終局致シマ
  シタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧
  ニ付テ御諮ヲ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=47

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• 048・松永東

  ○松永東君　本案ハ政府提出、不穩文書等
  取締法案委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望
  ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=48

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• 049・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=49

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• 050・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  やっ、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第
  三、總動員祕密保護法案ノ第一讀會ヲ開キ
  マス-法制局長官次田大三郞君
  第三總動員祕密保護法案(政府提出)
  第一讀會
  總動員祕密保護法案
  總動員祕密保護法
  第一條政府ハ國家總動員上祕密保護ノ
  必要アル區域ヲ指定スルコトヲ得
  前項ノ指定ハ之ヲ公示ス
  第二條政府ハ軍需工業、通信又ハ運輸
  ニ關スル施設其ノ他ノ資源ニ關シ國家
  總動員上祕密ト爲スベキモノヲ總動員
  機密トシテ指定スルコトヲ得
  前項ノ指定ハ之ヲ當該祕密保護ノ爲必
  要ナル措置ヲ爲サシムルニ相當ト認ム
  ル者ニ通知ス
  第三條政府前二條ノ指定ヲ爲サントス
  ルトキハ總動員祕密保護委員會ノ議ヲ
  經ベシ
  總動員祕密保護委員會ニ關スル規程ハ
  勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  第四條第二條ノ通知ヲ受ケタル者ハ命
  令ノ定ムル所ニ依リ國家總動員上ノ祕
  密保護ノ爲必要ナル措置ヲ爲スベシ
  第五條行政官廳ハ前條ノ措置ニ付報〓
  ヲ徵シ及當該官吏ヲシテ必要ナル場所
  ニ立入リ、檢査ヲ爲シ又ハ關係者ニ對
  シ質問ヲ爲サシムルコトヲ得
  當該官吏前項ノ規定ニ依リ立入、檢査
  又ハ質問ヲ爲ス場合ニハ其ノ身分ヲ示
  ス證票ヲ携帶スベシ
  第六條政府ハ第一條ノ區域ニ於ケル水
  陸ノ形狀又ハ建造物ノ位置若ハ狀況ニ
  付命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ測量、撮
  影、模寫、模造若ハ錄取又ハ其ノ複寫若
  ハ複製ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得
  第七條總動員機密ヲ知得シ又ハ所持ス
  ル者ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ
  外之ヲ他人ニ漏泄シ又ハ交付スルコト
  乙酸、
  第八條第六條ノ規定ニ依ル禁止又ハ制
  限ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又
  ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
  國防上ノ利益ヲ害スルノ目的ヲ以テ前
  項ノ行爲ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲
  役ニ處ス
  第九條第七條ノ規定ニ違反シタル者ハ
  五年以下ノ懲役又ハ三千圓以下ノ罰金
  三重入
  第十條總動員機密ヲ探知シ又ハ收集シ
  タル者ハ五年以下ノ懲役又ハ三千圓以
  下ノ罰金ニ處ス總動員機密タルコトヲ
  知ラザル者ト雖モ國防上ノ利益ヲ害ス
  ルノ目的ニ出デタルトキ亦同ジ
  第十一條戰時又ハ事變ニ際シ第八條第
  二項、第九條又ハ前條ノ罪ヲ犯シタル
  者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
  第十二條第八條乃至前條ノ未遂罪ハ之
  マヨ
  第十三條第八條乃至前條ノ規定ハ何人
  ヲ問ハズ本法施行地外ニ於テ其ノ罪ヲ
  犯シタル者ニ亦之ヲ適用ス
  第十四條第四條ノ規定ニ依ル命令又ハ
  之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタル者及
  第五條ノ規定ニ依ル報〓ヲ爲サズ、立
  入若ハ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又
  ハ質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虚僞ノ
  陳述ヲ爲シタル者ハ五百圓以下ノ罰金
  三段夫人
  第二條ノ通知ヲ受ケタル者ハ其ノ代理
  人、使用人其ノ他ノ從業者前項ノ行爲
  ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザ
  ルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ
  得ズ但シ相當ノ注意ヲ爲シタルトキハ
  此ノ限ニ在ラズ
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔政府委員次田大三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=50

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• 051・次田大三郎

  ○政府委員(次田大三郞君)　只今議題トナ
  リマシタ總動員祕密保護法案ニ付テ、其提
  案ノ趣旨ヲ說明申上ゲマス、本法案ハ一言ニ
  シテ申シマスレバ、間牒卽チ「スパイ」ニ對
  スル取締法案デアリマス、將來ノ戰爭ガ所
  謂國力戰ト相成ッタ當然ノ歸結ト致シマシ
  テ、單ニ軍事機密ノ保護ノミヲ以テ足レリ
  トセズ、廣ク國防資源ノ狀況竝ニ是ガ統制
  運用ニ關スル重要事項ニ付テモ、亦大イニ
  考慮ヲ拂ハネバナラヌヤウニナッテ參リマ
  シテ、近時內外ノ情勢ハ、益〓是等ノ祕密
  ヲ保護スルノ必要ヲ增大スルニ至ッテ居ル
  ノデアリマス、然ルニ現在之ニ關シ準據ス
  ベキ法規ガ備ハッテ居リマセヌ結果、此種事
  項ノ祕密保護ニ缺クル所ガアリマスノミナ
  ラズ、又平素之ニ關係致シマス國民ガ、祕
  密ト爲スベキモノノ範圍程度ニ付キ、確タ
  ル限度ヲ知ルコトガ出來ズ、無用ノ不安ヲ
  懷クコトモ亦尠クナイ狀況ニアルノデアリ
  やく、仍テ速ニ之ニ關シ準據スベキ法規ヲ
  制定致シマシテ、右ノ不便不安ヲ除去シマ
  スコトハ、洵ニ喫緊ノ要事ト認メマシテ、
  本案ヲ提出致シタ次第デアリマス、何卒御
  審議ノ上御協贊アランコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=51

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• 052・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　本案ノ審査ヲ付託
  スベキ委員ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=52

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• 053・松永東

  ○松永東君　本案ハ政府提出、不穩文書等
  取締法案委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望
  ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=53

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• 054・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=54

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• 055・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  そう、仍テ動議ノ如ク決シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=55

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• 056・松永東

  ○松永東君　議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
  出致シマス、卽チ此際第一號、昭和十一年度
  歲入歲出總豫算追加案、特第一號、昭和十
  一年度各特別會計歲入歲出豫算追加案、豫
  算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要
  スル件、第二號、昭和十一年度歲入歲出總
  豫算追加案、特第二號、昭和十一年度各特
  別會計歲入歲出豫算迫加案、追第一號、豫
  算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要
  スル件、第三號、昭和十一年度歲入歲出總
  豫算追加案ノ七案ヲ一括議題トナシ、委員
  長ノ報〓ヲ求メ、其審議ヲ進メラレンコト
  ヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=56

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• 057・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=57

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• 058・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  マス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、第
  號昭和十一年度歲入歳出總豫算追加案、
  特第一號、昭和十一年度各特別會計歲入歲
  出豫算追加案、豫算外國庫ノ負擔トナルベ
  キ契約ヲ爲スヲ要スル件、第二號、昭和十
  一年度歲入歲出總豫算追加案、特第二號、
  昭和十一年度各特別會計歲入歲出豫算追加
  案、追第一號、豫算外國庫ノ負擔トナルベ
  キ契約ヲ爲スヲ要スル件、第三號、昭和十
  一年度歲入歲出總豫算追加案、右七案ヲ一
  括シテ議題ト致シマス、豫算委員長ノ報告
  ヲ求メマス-川崎克君
  (第一號)昭和十一年度歲入歲出總豫算
  追加案
  (特第一號)昭和十一年度各特別會計歲
  入歲出豫算追加案
  豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
  スヲ要スル件
  (第二號)昭和十一年度歲入歲出總豫算
  追加案
  (特第二號)昭和十一年度各特別會計歲
  入歲出豫算追加案
  (追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルベ
  キ契約ヲ爲スヲ要スル件
  (第三號)昭和十一年度歲入歲出總豫算
  追加案
  報〓書
  一(第一號)昭和十一年度歲入歲出總豫
  算追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一(特第一號)昭和十一年度各特別會計歲
  入歲出豫算追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
  スヲ要スル件
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報〓書
  一(第二號)昭和十一年度歲入歲出總豫算
  追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一(特第二號)昭和十一年度各特別會計歲
  入歲出豫算追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一(追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルベ
  キ契約ヲ爲スヲ要スル件
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報〓候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  報告書
  一(第三號)昭和十一年度歲入歳出總豫算
  追加案
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
  候此段及報告候也
  昭和十一年五月十六日
  豫算委員長川崎克
  衆議院議長富田幸次郞殿
  (「議長大臣ガ揃ヒマセヌ」「總理大臣ガ
  居マセヌ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=58

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• 059・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　總理大臣ハ直グ參
  ルコトニナッテ居リマス
  (「休憩々々」ト呼ヒ其他發言スル者多
  シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=59

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• 060・松永東

  ○松永東君　暫時休憩セラレンコトヲ望ミ
  マス
  〔「贊成」ト呼ヒ其他發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=60

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• 061・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　豫算委員長ノ報告
  ヲ求メマス-委員長ノ報〓ヲ求メマ
  ス-川崎克君
  〔「動議ヲドウシタ」ト呼ヒ其他發言ス
  ル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=61

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• 062・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　委員長、御登壇ヲ
  望ミマス-委員長ノ登壇ヲ求メマス
  (「徹底シナイヂヤナイカ」ト呼ヒ其他
  發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=62

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• 063・松永東

  ○松永東君　暫時休憩セラレンコトヲ望ミ
  マス
  (「贊成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=63

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• 064・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」「反對」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=64

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• 065・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　暫時休憩致シマス
  午後四時十七分休憩
  午後五時二十二分開議

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=65

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• 066・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　休憩前ニ引續キ會
  議ヲ開キマス、議長ヨリ一言致シマス、本
  日豫算案緊急上程ノコトハ豫メ政府ニモ打
  合セテアリマシタ、然ルニ議長ニ於テ豫算
  委員長ノ報告ヲ求メマシタ際、總理大臣初
  メ多クノ國務大臣ノ出席ガアリマセヌノデ、
  暫ク其出席ヲ待ッテ居リマシタガ、遂ニ休憩
  スルノ已ムナキニ至ッタ次第デアリマス、議
  院ニ於テハ時局ニ鑑ミ、各案ノ進行ニ最善
  ノ努力ヲ致シテ居ル際デアリマス(拍手)仍
  テ會議ニ際シテハ遲滯ナク關係國務大臣ノ
  出席アルヤウ御注意ヲ致シテ置キマス拍
  手)此際内閣總理大臣ヨリ發言ヲ求メラレ
  テ居リマス-廣田總理大臣
  〔國務大臣廣田弘毅君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=66

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• 067・廣田弘毅

  ○國務大臣(廣田弘毅君)　只今議長ノ述べ
  ラレマシタル御注意ノ趣旨ハ諒承致シマシ
  ク將來ニ於キマシテハ連絡ヲ一層緊密ニ
  シ、議事ノ進行ニ關シテハ遺憾ナキヲ期シ
  タイト存ジマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=67

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• 068・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　豫算委員長ノ報告
  ヲ求メマス-川崎克君
  〔川崎克君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=68

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• 069・川崎克

  ○川崎克君　只今上程セラレマシタ豫算各
  案ニ付テノ豫算總會竝ニ分科會ノ經過竝ニ
  結果ヲ御報告ヲ申上ゲマス、豫算總會ハ去
  ル八日午前九時ヨリ開會ヲ致シマシテ、四
  日間審査ヲ致シ、ソレカラ分科會ニ移シマ
  シテ、分科ハ十三、十四ノ二日、尙ホ分科
  ノ質疑ノ餘リマシタモノハ、本日更ニ質疑
  ヲ繼續セラレタノデアリマス、此間最初豫
  定ヲ致シマシタ期間、四日間ノ間ニ二十三
  億ニ餘ル所ノ厖大ナ豫算ヲ審議致シマシタ
  譯デアリマシテ、之ヲ審議致シマスニ當リ
  マシテハ、從來ノ先例ヲ破リマシテ、午前九
  時カラ開會ヲ致シマシテ、委員諸君ノ御參
  集ヲ願ヒ、質疑ノ時間ヲモ豫メ御打合セノ
  上デ制限ヲ致シマシテ、議事ノ進捗ヲ圖リ
  マシタ結果ハ、大體豫算總會ニ於テ四十九
  名ノ質疑ヲ終ルコトガ出來タノデアリマス、
  此間ニアリマシテ小會派ノ諸君ハ、殆ド全
  部發言ノ機會ヲ得ラレタノデアリマス、斯
  ノ如ク極メテ短期間ニ、此重要ナ豫算案ヲ
  審議致シマス爲ニハ、委員各位ニハ非常ナ
  御勵精ヲ願ッテ、眞ニ非常時時局ニ獻替スル
  ノ心持ヲ以テ、其如何ニ今日ノ時局ヲ吾々
  ガ重大視シ、又議會政治ノ爲ニ、其涯分ヲ
  盡ス上ニ遺憾ナカリシカト云フコトヲ、私
  共ハ此機會ニ御報告ヲ申上ゲタイノデアリ
  マス(拍手)然ルニ拘ラズ先程日程ヲ變更シ
  テ、此議場ニ報〓スルニ當リマシテ、豫メ本
  日日程變更ニ依ッテ豫算案ガ上程セラレル
  コトハ、旣ニ政府ニ通ジテアルノデアリマ
  ス、而モ四日間ノ期間ニ委員各位ガ勵精セラ
  レテ審議ヲ終ラレタト云フガ如キハ、殆ド先
  例ノナイコトデアル、此先例ノナイ勵精振リ
  ヲ示シタト云フコトハ、一ニ國務ノ爲ニ議
  員ノ職責ヲ盡シタモノデアルケレドモ、又
  一面ニ於テハ、政府ノ要求ニ基イテ議事ノ
  進捗ヲ圖ッタト云フコトヲ、政府諸公ニ於テ
  深ク諒承セラレナケレバナラヌニ拘ラズ、豫
  算委員長ノ此重大ナル議案ノ報〓ニ當ッテ、
  總理以下閣僚ノ御出席ナカリシガ爲ニ、委
  員長ハ直チニ報〓ヲスルコトノ機會ヲ得ズ
  シテ、休憩ト相成リマシタコトハ、洵ニ遺
  憾千萬デアリマシテ(拍手)私共ノ心持ガ、
  强ヒテ議事ヲ遷延セシメンガ爲ニ、左樣ナ
  コトヲ致シタノデハナイ、此重要案ノ性質
  ニ鑑ミテ、政府自ラ反省セラルベキモノア
  リト考ヘマシテ、委員長ハ登壇ヲ差控ヘタ
  ノデアリマス
  偖テ玆ニ上程ヲセラレマシタ豫算案ニ付
  テ其大要ヲ御紹介ヲ致シテ置キタイト存ジ
  マス、今度ノ豫算ハ第一號、第二號、第三
  號案ヲ通ジマシテ、歲入ノ合計ガ三億六千
  四百五十有餘万圓ニナルノデアリマス、歲出
  豫算ノ方ハ三億六千六百四十有餘万圓デア
  リマシテ、之ヲ實行豫算ヲ合セテ追加豫算
  ト共ニ玆ニ計算ヲ致シマスルト、歲入ニ於
  テ二十三億五百五十有餘万圓トナリ、歲出
  ニ於テ二十三億千百五十有餘万圓トナリマ
  シテ、差引ニ於テ五百九十餘万圓ト云フモ
  ノハ、歲出ノ超過トナルノデアリマス、是
  ハドウ云フ譯デアルカト申シマスレバ、現
  内閣ガ成立ヲ致シマシテ、低金利政策ヲ實
  行シ、公債ノ低利借換ヲ行ヒマシタル結果
  トシテ、第一囘ノ分ハ歲出ノ減ガ出テ參ッ
  テ居リマスルカラ、實行豫算ノ中カラ之ヲ
  差引イタノデアリマス、併ナガラ第二囘ノ
  公債借換ノ分ハ、計算ノ中ニ入ッテ居リマセ
  ヌカラ、是ハ當然ノ不用額トナッテ、剩餘ガ
  出テ參リマスカラシテ、今日五百九十餘万
  圓ノ歲出ノ增加トナッテ居リマシテモ、愈く
  此決算ノ時ニナリマシテ、此豫算ハ辻褄ガ
  合ッテ、又多少ノ剩餘ノ出ルコトヽ思ヒマ
  ス、斯樣ナ數字ニナッテ居ル次第デアリマ
  ス、而シテ之ヲ前年度豫算ニ比較致シマス
  ルト、其全體ノ金額ニ於テ一億六千四百九
  十餘万圓ノ增加トナリ、公債ノ方面ニ於キ
  マシテハ、昨年ノ豫算ニ比較致シマシテ、
  六千七百八十餘万圓ノ減トナルノデアリマ
  ス、所謂公債漸減ガ行ハレテ居ル譯デアリ
  マス、是ガ只今上程セラレテ居リマスル所
  ノ豫算案ノ大要デアリマス
  豫算委員會ニ於キマシテノ質疑應答ノ結
  果ハ、大體速記錄ニ依ッテ御覽ヲ願ヒタイト
  存ジマスルガ、私ハ其大要ヲ御紹介ヲ致シ
  タイト存ジマス、本年度豫算ヲ議スルニ當
  リマシテ、誰人モ此豫算案議定ニ對シテ、
  其重點ヲ置イタ點ハ何處ニアルカト言ヘバ、
  昭和十二年度以降ノ財政計畫ガ如何ニナル
  カ、卽チ財政上ノ見透シガ如何ニナルカト
  云フコトガ、委員諸君ノ問ハント欲シ、又
  質疑應答ヲ重ネラレタ重點デアッタノデア
  リマス、十二年度以降ノ財政ノ見透シヲ付
  ケルニ當ッテ、必然的ニ膨脹性ヲ帶ビテ居リ
  マスル陸海軍豫算ノ全貌ガ明ニナラザル限
  リハ、昭和十二年度以降ノ豫算ノ見透シガ
  付イテ參ラナイノデアリマス、隨テ豫算委
  員會ニ於ケル質問ノ重點ハ此處ニ集中ヲサ
  レタノデアリマス、先ヅ海軍豫算ニ對シマ
  シテハ、種々質問應答ノ行ハレマシタ結果、
  又祕密會ヲモ要求ヲ致シマシテ審議ヲ致シ
  タノデアリマスルガ、祕密會ノ內容ハ此席
  上ニ於テ申上グル自由ヲ有シマセヌ、併シ
  祕密會以外ニ於テ海軍側ノ言明ヲセラレマ
  シタル點ハ、從來ノ華盛頓條約、倫敦條約
  ガ存續致シテ居ル場合、將來要スベカリシ
  豫算ト大體似寄ッタ數字ニナル積リデアル、
  併シ若干ハ增加スルカモ知レヌト云フ程度
  ノ言明ヲ得タノデアリマス、陸軍豫算ニ付
  キマシテハ、只今上程セラレテ居リマスル
  豫算ノ中ニモ、在滿ノ兵備ニ對シマスル經
  費トシテ、一億八千三百有餘万圓ヲ計上ヲ
  致シテ居リマスル外ニ、昭和十一年度カラ
  昭和十六年度ニ至ル迄、兵備改善費ガ七千
  二百万圓計上セラレテ居ルノデアリマ
  ス、又資財整備費、國防充備費ニ於キ
  マシテ、昭和十一年度ヨリ昭和十六年
  度マデ三億九千九百有餘万圓ト云フモ
  ノガ計上セラレテ居ルノデアリマス、此
  經費ハ十二年度以降ノ大體數字デアルカト
  云フト、サウデハナイ、之ニ對シマシテ陸
  軍大臣ハド云フ言明ヲ與ヘラレタカト申シ
  マスルト、只今提出シテ居ル所ノ此經費ハ
  基礎數字デアル、是ヨリ十二年度豫算ヲ編
  成スルニ當リマシテハ「ソビエト·ロシア」ノ
  極東ニ於ケル兵力ノ增加、世界列强ノ兵力
  ノ增加、是等ニ鑑ミテ最小限度ノ要求ヲセ
  ネバナラヌ爲ニハ、航空、防空、兵備改善
  費等ノ要求ガ十二年度以降-劃期的ト云
  フ言葉ヲ使ハレマシタ、劃期的ノ要求ヲ致
  サナケレバナラヌコトヲ、豫メ御承知ヲ願
  ヒタイト云フコトデアリマシテ、豫算ヲ議
  スベキ十二年度以降ノ數字ヲ示サレナカッ
  タノデアリマス、斯ノ如クシテ先ヅ十二年
  度以降ノ豫算ヲ見透ス所ノ一番大切ナ國防
  費ノ數字ハ、明確ニ豫算委員會ニ於テ知ル
  コトガ出來ナカッタノデアル
  併ナガラ之ヲ他ノ方面ヨリ觀察ヲ致シマ
  スト、大藏大臣ニ對シマスル財政計畫ノ方
  面カラ見マシテ、先ヅ馬場財政ハ本會議ノ
  議場ニ於テモ明言セラレマシタル如ク、現
  在ノ國民ニ現在ノ負擔ヲ任ゼシメテ、子孫
  ニ負擔セシムベキモノデナイト云フ立場カ
  ラ、暗ニ增稅ヲ意味スル所ノ歲入ヲ豫想セ
  ラレタノデアリマス、是ニ於テ若シ增稅ヲ
  行フトスルナラバ、如何ナル程度ノ增稅ガ
  行ハレルカト云フコトハ、吾々委員ノ聽カ
  ントシタ所デアリマス、之ニ對シマシテ馬
  場財政ハ、何ガ故ニ今度ノ豫算ヲ編成スル
  時モ、增稅計畫ヲ立テヽ來ナカッタカト云フ
  質問モアッタノデアリマス、併シ之ニ對シテ
  馬場藏相ハ、增稅計畫ヲ立ツルニ當ッテ、先ヅ
  其前提トシテ中央地方ノ負擔均衡ヲ正ス積
  リデアル、增稅ハ其負擔均衡ノ上ニ打立テ
  ル積リデアル、斯樣ニ答辯ヲセラレタノデ
  アリマス、然ラバ中央地方ノ負擔均衡ヲ行
  フト云フナラバ、地方ニ對シテ獨立ノ財源
  ヲ與フルノ意思アリヤ否ヤ、此質問ガ起ッタ
  ノデアリマス、之ニ對シテ馬場藏相ハ、地
  方ニ對シテ獨立ノ財源ヲ與ヘル考ハナイ、
  其譯ハ負擔ノ均衡ヲ正サントシテ地租及ビ
  營業收益ノ如キ、假ニ左樣ナ稅ヲ地方ニ與
  ヘルト致シマシテモ、其稅ハ主ニ中央ニアッ
  テ地方ニナイノデアリマスカラ、眞ニ地方
  ノ爲ニ負擔輕減ニナラナイト思ヒマスカ
  ラ、是ハ交付金又ハ交付金類似ノ方法ニ依ッ
  テ、地方負擔ヲ輕減スル積リデアルト云フ
  コトヲ言明セラレタノデアリマス、而シテ
  一般的ノ增稅ハ、然ラバ大衆課稅ニ及ブカ
  ト云フ質問ガ當然起ッタノデアリマス、之ニ
  對シテハ織物稅ノ如キ、或ハ醬油稅ノ如
  キ、或ハ交通稅ノ如キモノハ增稅ヲ行フ積
  リハナイ、賣藥稅ノ如キハ形ヲ變ヘテ、化
  粧品稅ト云フヤウナ意味デ、或ハ增稅ヲセ
  ラルヽカモ知レヌ、而シテ增稅ノ主トシテ
  ノ重點ハ、所得稅ニ於テ、個人所得ヨリモ
  之ヲ法人所得ニ重キヲ置クト云フコトヲ言
  明セラレタノデアリマス、是ニ於テ朧氣ナ
  ガラ增稅ノ大體ノ輪廓ガ分ッタノデアリマ
  ス
  更ニ公債ト金利政策ニ對シマシテハ、公
  債ハ低金利ニ依ッテ公債ノ借換ヲ行ハント
  シテ居ルガ、或ハ今日三分五厘ト唱ヘラレ
  テ居ルガ、他日三分ニ下ゲルノデハナイカ
  ト云フ質問ガ起リマシタニ對シテ、大體ノ
  金利水準ハ三分五厘ニ基準ヲ置イテ行ク積
  リデアル、他日或ハ下ゲル場合ガアルカモ
  知レヌガ、現在ニ於テハソレハ動カサヌ積
  リデアル、斯樣ニ言明ヲセラレタノデアリ
  マス、之ニ續イテ起ル問題ハ、公債消化力ノ
  問題デアリマス、公債ノ消化力ハ國民ノ貯
  蓄ヲ狙ッテ行カナケレバナラヌノデアルガ、
  國民ノ貯蓄ハ大體大マカニ勘定シテ十五億
  万圓、此十五億万圓ノ中デ產業資金ニ六億
  內外ヲ要スル、或ハ增稅ヲ行ヘバ又之ニモ
  取ラレル、馬場財政ハ大體十億ノ公債ヲ募
  ルガ如キ豫定デアルカノ如クデアルガ、現
  在ノ國民ノ貯蓄力ヲ引當ニシテノ公債ノ消
  化力ハ、是デハ賄ヒ切レヌデハナイカ、サ
  ウスレバ當然起ッテ來ルモノハ金融ノ統制
  デアル、或ハ銀行ノ國營デアル、斯樣ナコ
  トニナッテ參ルガ、之ニ對シテハ大藏大臣ハ
  如何ニ考ヘルカト云フコトニ對シマシテ、
  大藏大臣ハ吾々ノ考へル所、大藏省ノ考へ
  ル所ハ、大體十億見當ノ公債ヲ消化シ得ル
  能力アリト推算ヲシテ居ルト云フ答辯デア
  リ、銀行ノ國營ハ之ヲ行フノ考ハナイ、又
  金融統制ニ付テハ、之ヲ極端ナル金融統制
  ト云フガ如キコトハ行フ考ハナイ、唯貯蓄
  銀行ニ對シマシテ公債ヲ所持セシメルガ爲
  ニ、或種ノ法律ヲ出スコトガアルカモ知レ
  ヌ、斯ウ云フ答辯ヲセラレタノデアリマス、
  之ニ關聯ヲ致シマシテ質問トシテ起リマシ
  タ問題ハ、政府ハ金ノ買上ニ付テ買上値段
  ヲ上ゲタガ、斯樣ニ上ゲレバ必ズ通貨ノ膨
  脹、物價ノ騰貴ヲ招來スル虞ハナイカ、斯
  ウ云フ質問ガ起ッテ參リマシタ、之ニ對シテ
  大藏大臣ハ、金ノ買上値段ヲ上ゲタノニハ
  產金ノ奬勵ト金ノ逃避ノ防止ヲ狙ッテヤッタ
  モノデアッテ、此程度ノ買上ヲ行フコトニ
  依ッテ通貨ノ膨脹トナラズ、物價ノ騰貴ト
  ナラナイト考ヘテ居ルト云フ答辯ヲセラレ
  タノデアリマス、コヽデ大體國防ニ對シマ
  スル問題ニ關聯ヲ致シマシテ、財政上ノ見
  透シノ問題ノ一面ヲ終ルノデアリマス
  玆ニ重大ナル問題ノ質問トシテ起リマシ
  タモノハ十二年度以降ノ財政ノ見透シ
  ヲスルノニハ、單ニ國防ダケデハナイ、
  產業上ノ見透シヲシナケレバナラヌヂヤナ
  イカ、產業上ノ計畫ガナケレバナラヌヂヤ
  ナイカ、此論ハ民政黨ノ松村君、政友會ノ
  大口君等ニ依ッテ唱ヘラレタノデアリマス、
  而シテ之ニ對スル政府ノ答辯ハ、將來政府
  ノ增收ヲ得ントスレバ、產業ヲ盛ニシナケ
  レバナラヌ、貿易ヲ盛ニシナケレバナラヌ、
  是等ニ要スル經費ハ吝マズ支出スル積リデ
  アル、又農村ノ工業化ヲ行フ積リデアル、
  又農村ノ化學工業ヲ奬勵スル積リデアル、
  斯ノ如クニシテ收入ノ財源ヲ玆ニ得ルト同
  時ニ、產業ノ發達助長ヲスル爲ノ政策ヲ立
  テルノデアルト云フ答辯ヲセラレタノデア
  リマス、農村問題ニ付キマシテハ、負債整
  理ノ問題、信用組合ノ問題、農村ノ絕對數
  ノ減少ニ對スル對策ノ問題、或ハ災害ニ對
  スル處置ノ問題等、有力ナル質問ガ出タノ
  デアリマス
  更ニ玆ニ御紹介ヲ致シタイ問題ハ、經濟
  界ニ對スル所ノ重大問題ダト考ヘラレマス
  ル、所謂經濟機構ニ關スル問題、是ト關聯
  ヲ致シマシテ思想上ノ問題、現在ノ自由主
  義ヲ基調トスル所ノ文明、十九世紀ノ絢爛
  タル文明ノ時代ヲ經過シテ、今日日本ノ文
  明モ斯ノ如キ時代ヲ築イタノハ、全ク自山
  主義ノ働キニ依ル果實デアル、其自由主義
  ノ基礎ノ上ニ打建テラレタ經濟機構トシテ
  ハ資本主義制度デアル、成程資本主義制度
  ハ利潤ヲ目的トシ、營利ヲ目的トスルガ爲
  ニ、或點ニ於テ弊害モアルケレドモ、是
  アルガ爲ニ今日アルヲ致シテ居ル、此經濟
  界ニ對シテ、或ハ統制經濟デアルトカ、或
  ハ思想上ニ付テハ全體主義デアルトカ、其
  根本ヲ脅カスガ如キ說ガ流布セラレテ居ル
  ガ、之ニ對スル政府ノ所見ハ如何デアルカ、
  斯ウ云フ質問ガ二三ノ人々カラ放タレタノ
  デアリマス、之ニ對シテ政府ハ大體自由主
  義ヲ基調トシ、此資本主義ノ制度ヲ認メテ
  行クノデアッテ、國家ノ必要ナル場合ニ於テ
  ノミ、其統制ノ必要ヲ感ジテ居ルト云フ答辯
  デアッタノデアリマス、又國防上ノ見地カラ
  致シマシテ、資本主義經濟機構ノ下ニ於テ
  重工業ヲ行ハフトスルナラバ、營利ニ偏シ、
  利潤ノミヲ漁ル所ノ實業家、此機構ノ下ニ
  於テハ完全ナ所謂國防ヲ實行シテ行クコト
  ハ出來ナイカラシテ、ドウシテモ國家統制
  ノ必要ガアルデハナイカト云フ質問ガアッ
  タノデアリマス、之ニ對シテハ政府モ其點
  ハ大體ニ於テ首肯ヲセラレタヤウデアリマ
  ス
  更ニ御報告ヲ申上グベキコトハ、過日ノ
  事變ヲ契機ト致シマシテ、肅軍ノ問題ニ觸
  レテ二三ノ質問ガ行ハレタノデアリマス、
  其重點ハ兵士ノ命令服從ノ問題、軍人ノ政
  治干與ノ問題デアリマス、此問題ニ對シマ
  シテハ、陸軍大臣ハ命令ノ尊重、服從ノ絕
  對性ヲ言明セラレマシテ、又更ニ其違法ナ
  ル命令ハ、命令スベキ者ニ於テ考フベキモ
  ノデアッテ、軍トシテハ命令ノ絕對性ヲ認メ
  ナケレバナラヌト云フコトヲ、强ク言明セ
  ラレタノデアリマス、又軍人ノ政治干與ノ
  問題ニ付キマシテハ、法令ノ示ス所ガアッ
  テ、之ニ干與スルコトガ宜シクナイノデア
  ル、併ナガラ軍人ト雖モ政治ニ關心ヲ持ツ
  コトハ當然デアルト言フ言明ヲセラレタノ
  デアリマス、而シテ肅軍ノ問題ニ至リマシ
  テハ、陸海兩省共ニ至誠ヲ披瀝シテ、肅軍
  ノ實ヲ擧ゲルト云フコトヲ言明ヲセラレマ
  シテ、此點ニ付テハ全幅ノ信賴ヲ委員諸君
  ハ印象ニ置イタ譯デアリマス(拍手)
  最後ニ御報告ヲ申上ゲマスコトハ、人權蹂
  躪ニ關スル問題デアリマス、過日ノ選擧ニ
  於テ行ハレタル所ノ人權蹂躪ノ事實、此人
  權蹂躪ノ事實ヲ、武富君ニ依ッテ、事實ヲ指
  摘シテ、證據ヲ示シテ、而シテ司法省、內
  務省ノ選擧ニ對スル取締方針ノ不當違法ナ
  リシ點ヲ指摘セラレタノデアリマス、是ト
  同ジク砂田君ヨリモ、是ト類似ノ質問ヲセ
  ラレタノデアリマス、之ニ對シマシテ司法
  大臣ハ、司法部內ニ對シテハ人權ノ尊重ス
  ベキ趣旨ヲ强調シテ居ル、萬一蹂躪ノ事實
  アレバ、適當ノ處置ヲ執ルト云フコトヲ明
  言セラレタノデアリマス、內務大臣ハ、過
  般ノ選擧ニ於テ警察官ノ中ニ不心得ノコト
  ヲ行ウタ者ハナイトハ斷定シナイ、部下ヲ
  信用スルガ、不心得ヲ庇フ心ハナイト云フ、
  率直ナ言明ヲ得タノデアリマス、之ニ對シ
  テ分科會ニ於キマシテハ、內務、司法兩分
  科會ヲ通ジマシテ、右樣ノ意味ニ於ケル附
  帶決議トシテ
  近時檢察事務中動モスレバ妥當ヲ缺クモ
  ノアリ人權頻リニ蹂躪セラレ其ノ結果裁
  判ノ適正ヲスラ疑フモノアルニ至リ民衆
  怨嗟ノ聲ヲ聞ク政府ハ宜シク法制ヲ改メ
  其ノ運用ヲ愼ミ當該官吏ヲ指導督勵シ以
  テ此弊風ヲ一掃スベシ
  ト云フ決議ヲ致シタノデアリマス(拍手)
  其他外交問題、移民問題、吏道振肅ニ關ス
  ル問題、失業問題、國體明徴問題、電力問
  題、水平問題等有力ナル御質問ガ出タノデ
  アリマスルガ、是等ハ速記錄ニ依ッテ御覽ヲ
  願ヒタイノデアリマス
  ソレヨリ討論ニ入リマシテ、民政黨ヲ代
  表シテ〓水留三郞君ヨリ原案贊成ノ演說ガ
  アッタノデアリマス、其贊成ノ要旨ハ、今度
  提出セラレテ居ル所ノ豫算案ハ、現內閣ノ
  政策トシテ何等計上セラレテ居ルモノハ見
  當ラナイ、全ク前內閣時代ノ政策ヲ踏襲シ
  タノデアル、是等ハ組閣後僅ニ二箇月ノ
  今日デアルカラシテ、事情已ムヲ得ナイモ
  ノアリト致シテモ、洵ニ其點ハ遺憾デアル、
  將來ノ財政計畫ニ對シテハ、此際希望條項
  ヲ附シテ贊成ヲ致スト云フコトデアリマシ
  テ、其希望條項ハ
  一速ニ庶政一新ノ方針ヲ樹テ國防財政
  產業ノ整調ヲ圖リ社會不安ヲ除去スル
  ニ努ムヘシ
  二明年度豫算案ヲ編成スルニ當リ將來
  ニ亙ル歲入歲出ノ計畫ヲ樹テ財政ノ基
  礎ヲ鞏固ニシ以テ國民經濟ノ安定ヲ期
  スヘシ
  三中央地方ノ負擔均衡ヲ圖ル爲稅制ヲ
  整理シ且地方財政調整交付金制度ヲ確
  立スヘシ
  ト云フノデアリマス、此希望條項ニ對シマス
  ル理由ヲ申述ベラレマシテ、原案ニ贊成ヲセ
  ラレタノデアリマス、第二ニ政友會ノ船田
  君ヨリ是亦贊成ノ演說ガアリマシテ、其要
  旨ハ先程〓水君ノ述ベラレマシタルト同一
  ノ趣旨ノ外ニ、財政計畫ノ確立ヲシテ居ナ
  イコト、陸海軍ノ豫算ノ見透ノ付カナイコ
  ト、ソレカラ卽チ軍事豫算ノ全貌ヲ知ルコ
  トノ出來ナカッタコトハ洵ニ遺憾デアリ、馬
  場財政ハ國費增加ノ追隨豫算デハナイカト
  云フヤウナ意味ノ警告的演說ガアリマシテ、
  更ニ希望條項トシテ
  -財政計畫ヲ確立スルコト
  一國防產業ノ兩全ヲ圖ルコト
  負擔ノ均衡、犧牲ノ公平ニ則リ一般
  的稅制ノ改正ヲ行フコト
  地方財政補整制度ヲ擴充スルコト
  此望決議ヲ附シテ贊成セラレタノデアリマ
  ス、更ニ第二會派ヨリ畔田君ノ贊成、昭和會
  ヨリ森肇君ノ贊成ガアリマシテ、第一控室
  ヲ代表シテ杉山君ヨリ反對ノ御演說ガアッタ
  ノデアリマス、其要旨ハ、斯ノ如キ會期不
  十分ナルニ拘ラズ、厖大ナル豫算ヲ提出シ
  テ、鵜呑ヲ强フルコトハ甚ダ不都合デア
  ル、憲法上特別議會ハ、豫算案ノ審議ノ爲
  ニ二十一日ノ期間ヲ設クルコトガ當然デアッ
  テ、實行豫算ニ對スル質疑、檢討、應答ノ
  時間ノ餘裕モナイト云フガ如キハ甚ダ不都
  合デアル、又政府ノ豫算ハ動トモスレバ消
  費者ニ對スル增稅ヲ行フカノ如キ虞ガアル
  ト云フ理由ニ依ッテ、反對セラレタノデアリ
  マイ、最後ニ風見章君ヨリ反對ノ御演說ガ
  アリマシタ、其御演說ノ要旨ハ、內外ノ時
  局多難ノ場合ニ斯ノ如キ議會ヲ開イテ、サ
  ウシテ獨自ノ政策ハ何等持合セテ居ナイ、
  國防費、東北振興費、災害費等ノ如キハ計
  上致シテ居ルガ、是等ハ庶政一新ヲスル時
  ニ共ニヤルベキモノデアッテ、庶政一新ニ關
  スル所ノ具體的政策ヲ立テヽ臨時議會ヲ奏
  請スルコトガ當然デアルト云フノ反對ノ御
  議論デアリマシタノデアリマス、而シテ討
  論ヲ打切リマシテ、之ヲ採決ニ諮ヒマシタ
  結果、大多數ヲ以テ本案承認可決スルコト
  ニ決定致シマシタノデアリマス、此段御報
  告ヲ申上ゲマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=69

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• 070・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　質疑ノ通〓ガアリ
  や、、之ヲ許可致シマス-田川大吉郞君
  〔田川大吉郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=70

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• 071・田川大吉郎

  ○田川大吉郞君　只今豫算總會ノ經過竝ニ
  結果ニ對スル委員長ノ詳細ニシテ明晰ナル
  御報告ヲ得マシテ、略ミ要領ヲ知ルコトガ
  出來マシテ有難ク御禮申上ゲル、サリナガ
  ラ次ノ三點ニ關シテ委員長ニ御尋ヲ申上ゲ
  タイ
  第一ハ低金利ノコトデアリマス、政府
  ハ低金利ヲ唱道シテ居ラレルニ拘ラズ、最
  近ノ橫濱市債ニ關シマシテハ、新聞ノ傳フ
  ル所、四分利ニ於テノ新公債ノ發行計畫ハ
  成リカケテ居タヤウデアリマス、然ルニ尙
  ホ新聞ノ傳フル所ニ依リマスレバ、大藏省
  ノ干涉ニ依ッテ四分一厘、橫濱市ハ四分ニ
  依ッテ公債ノ發行ノ相談ガ出來ントシテ居
  ルノニ、大藏省ノ干涉ニ依ッテ四分一厘ノ
  高利ニ發行セシメラレタト云フコトヲ新聞
  ハ傳ヘテ居ル、如何ニモ意外ナコトデアル、
  尤モ私ハ新聞ノ記事ヲ其儘ニ信ジテ居ル者
  デハナイ、其記事ニ多大ノ疑ヲ存シテ居ル、
  事實ハ大藏省ハ直接ニソレニ干涉サレタノ
  デハナイデアラウ、サウシテ四分ノ利ニ
  於テノ發行ヲ希望シテオ居デニナラレルノ
  ダラウ、然ルニ金融業者ノ何處カニ其四分利
  ノ發行ニ反對スル者ガアッテ、到頭四分一厘
  利ノ發行ニ決定スルニ至ッタデアラウト私
  ハ推測致シマス、ケレドモ新聞ハ確ニ四分
  利ノ發行計畫ニ對シテ大藏省ガ干涉ヲ加ヘ
  テ、四分一厘ノ發行ニ至ラシメタト報道ヲ
  シテ居ルノデアリマス、此事實ハドウデア
  ルカ、其眞相ヲ承リタイ、其眞實ノ報〓ヲ
  承リタイ、ソレニ附加ヘマシテ政府ノ國債
  ノ五分利或ハ四分五厘ガ、段々ニ三分五厘
  ヲ標準トスル程度ニ引下ゲラレマシタコト
  ハ當局ノ御骨折トシテ感謝致スノデアリ
  マス、デスガ其三分五厘ハ實際ニ於テハ三
  分七厘ノ利廻ニ當ル、サウシテ只今申上ゲ
  マシタヤウナ橫濱市債ニ依ッテ現レタル、ソ
  レヲ標準ト致シマスレバ四分一厘ニナル、
  滿洲鐵道其他ノ成績ニ依ッテ考ヘマスレバ、
  四分三厘位ガ標準デアラウ、ソコデ國債ト
  シテハ三分五厘、三分七厘ノ低利ニ引下ゲ
  ラレルコトガ出來タト致シマシテモ、市債
  トシテ民間ノ企業家ノ利用シ得ル利潤ノ標
  準ト致シマシテハ、四分二三厘以下ニ下ル
  コトハ、今日ノ場合殆ド出來ナイコトデア
  ラウヤウニ思ハレル、サウスレバ政府ノ所
  謂低金利ナルモノハ、國債ノ場合ヲ除キマ
  シテ、民間ノ一般ノ企業家ガ利用致シマス
  場合ノ標準トシテハ四分二三厘、其程度ヲ
  目標トシテオ居デニナラレルノデアラウカ、
  サウスレバ低金利々々々ト申シマシテモ、
  其聲徒ニ大ニ過ギテ、實際ニ於テハソレ程
  利益ヲ齎サナイヤウニ考ヘラレルノデア
  リマスガドウデスカ、是ガ低金利ニ關シマ
  シテ此際ニ伺ッテ置キタイ點デアリマス、豫
  算委員會ニ於テハ、ソレハドウナッタデア
  リマセウ
  第二、北支那ノ密輸入ノ問題デアリマス、
  其事ハ日本ノ新聞ニハ多ク傳ヘラレマセヌ、
  割合ニ海外ノ新聞ニハ可ナリ盛ニ報道セラ
  レタ、其報道ニ依リマスレバ帝國ノ威信
  面目ニ關係スル所モ少クナイヤウデアリマ
  スルガ、其事實ハドウデアリマスカ、私共
  ハ何モ知リマセヌダケ、問ハレタ場合ニ囘
  答ニ窮スルノデアリマス、其事實ヲ御知ラ
  セ願ヒクイ、ソレハ豫算委員會ニ於テハド
  ウ御取扱ニナッテ居タデアラウ
  ソレカラ第三ハ、曩ニ御報告ノ中ニモア
  リマシタ(「簡單」「簡單」ト呼フ者アリ)御
  報〓ノ中ニモアリマシタ軍人ト政治ト
  ノ關係デアリマスガ、陸軍刑法ノ百三條
  ニハ「政治ニ關シ上書、建白其ノ他請願
  ヲ爲シ又ハ演說若クハ文章ヲ以テ意見
  ヲ公ニシタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處ス」
  ト明文ガアリマス、此事ヲ先般モ陸軍大
  臣ハ此議場デ仰セニナッタノデアリマスガ、
  私ノ此ノ場合ニ問ウテ置キタク思ヒマスコ
  トハ、此條文ハ今日迄ニ適用セラレタノデ
  アッタラウカ、適用セラレタ場合ガアッタノ
  デアリマセウカ、若シ適用セラレナンダト
  スレバ、適用セラルベキ事件ハ起ラナカッ
  タト云フ御考デアリマセウカ、其點ヲ御尋
  ヲシテ置キタイノデアリマス、若シ委員會
  デサウ云フ御話合ヒガ進ンデ居リマセンナ
  ンダナラバ、關係當局ノ御說明ヲ煩シタイ
  (拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=71

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• 072・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　川崎豫算委員長

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=72

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• 073・川崎克

  ○川崎克君　只今ノ御質問ニ對シマシテハ、
  第一問ハ畔田君カラ質問ガアッタト心得マ
  ス、ソレハ田川君ノ御手許ニ速記錄ガゴザ
  イマセウカラ、ソレヲ御覽ヲ願ヒマス、第
  二問ハ是亦十四日ノ委員會ニ於テ、有田外
  相カラ答辯ヲセラレテ居リマス、速記錄ヲ
  御覽ヲ願フ方ガ確カデアラウト思ヒマスカ
  ラ、御覽ヲ願ヒタイト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=73

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• 074・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　是ヨリ討論ニ入リ
  マス、通〓順ニ依リ發言ヲ許可致シマ
  ス-杉浦武雄君
  〔杉浦武雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=74

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• 075・杉浦武雄

  ○杉浦武雄君　私ハ只今ノ委員長ノ報〓ニ
  反對シ、豫算ノ編成替ヲセラルヽコトヲ政
  府ニ求メルモノデアリマス、其趣旨ヲ暫ク
  ノ間御聽取ヲ願ヒタイノデアリマス、私共
  齋藤內閣カラ岡田內閣、此內閣ニ至ルマ
  デ、政黨內閣ガ一寸脫線シタ形ニナッテ居
  リマスルノデ、ドウ云フ政治ガ行ハレルノ
  デアラウカト云フコトヲ、豫メ知ルコトガ
  出來ナイ、政黨政治ノ時代ニ於テハ、政黨ソレ
  ゾレガ各〓意見ヲ發表シテ居ル、政策ヲ發
  表シテ居ル、然ルニ官僚内閣ノ時代ニ於テ
  ハ、當然是ガナイノデアリマスルカラ、如
  何ナル政治ガ行ハレルノデアラウカト云フ
  コトハ見當ガ付カナイ、隨テ機會アル每ニ
  常ニ其發表ヲ希ウテ居ッタ者デアリマスル
  ガ、今度ノ本會議、豫算會議ニ於テ、色々
  質疑應答ハアリマシタケレドモ、是ガ政府
  ノ爲サントスル所デアルト云フコトハハッ
  キリシナカッタ(拍手)私ハ唯政府ノ爲サン
  トスル所ガハッキリシナイノミナラズ、一體
  將來ノ政治ハドウ云フ形ニ於テ動イテ行ク
  ノデアラウカト云フコトニ非常ナ疑問ヲ持
  ツ、凡ソ如何ナル權衡ヲ失シタ、不安定ナ
  形ニ見エルモノデアリマシテモ、極メテ
  短期間ニ於テハ是ハ安定シテ居ルノデアリ
  マス、今ノ内閣ガ官僚、政黨、軍、此合作
  ニ依ッテ出來テ居ルト云フコトハ私ハ認メ
  ル、併シ是ハ極メテ一時的ナコトデアッテ、
  間モナク政黨主義ノ內閣ニ立戾ルデアラウ
  カドウカ、此點ニ付テハ幾多ノ疑問ガアリ
  マス、私ハコヽ暫クノ間ハ可ナリ不安定ニ
  見エマシテモ、ヤハリ政黨、官僚、軍、此
  合作ニ依ッテ、日本ノ政治ガ行ハレテ行クデ
  アラウト、斯ウマア思ッテ居リマス、所デ此
  三ツノ合作ニ依ッテ政治ガ動イテ行ク時ニ、
  ドレガ一番主力トナッテ日本ノ實際政治ヲ
  動カシテ行クカ、斯ウ申シマスレバ當分ノ
  間ハ軍デアリマス、是ニ於テカ軍ハ如何ナ
  ル立場ヲ取ッテ、日本ノ實際政治ニ臨ンデ行
  クカト云フコトガ、是ガ重大ナル問題ニナッ
  テ參リマス、或人ハ軍ノ國家機構上ノ直接
  ノ責任ハ國防デアリマスカラ、國防擔任ト
  云フコトカラ、直グ軍ノ頭ニハ兵器彈藥、
  斯ウ云フ方面ニピント來ル、兵器彈藥ト云
  フコトガピント來レバ、直チニ重工業ノ助
  長發展、斯ウ云フ方ニ頭ガ動イテ行ク、今
  日ノ日本ノ重要工業ハ、或ル意味ニ於テハ
  極メテ能ク統制ガ取レテ居ル、隨テ若シ之
  ヲソックリ其儘維持シ、或ハ必要ナル範圍ニ
  於テ之ヲ助長シテ行クト云フコトガ、國防
  ヲ擔任シテ居リマス軍トシテハ極メテ冀フ
  所デアリ、誘惑ヲ感ズルコトデアラウト思フ
  ノデス、所ガ若シ軍ガ左樣ナ方面ニノミ重
  キヲ置イテ動イテ行クト云フコトデアリマ
  スナラバ、ソレハ當然今日ノ議會-本會議
  或ハ豫算會議ニ於テ議論セラレマシタ庶政
  新、斯ウ云フ方面ニ手拔カリガ來ル、斯
  ウ云フヤウニナリハシナイカト云フコトヲ
  私ハ感ズルモノデアリマス、之ニ對シテモ
  ウ一ツノ考ヘ方ハ、サウヂヤナイ、內閣ヲ
  組織シテ居ル三ツノ勢力ノ中デ、軍ガ其中
  心勢力ヲ爲シテ行クデアラウト云フコトハ
  當然認メルケレドモ、軍ノ立場ハ單ニ國防
  ノミヂヤナイ、最近ノ出來事、及ビ嘗テ五·一
  五事件ガ起キタ當時ニ於テモ、或ル程度ニ
  於テ明ニナッタコトデアルケレドモ、軍ノ中
  心基調ヲ爲ス所ノモノハ、日本ニ於テハ無
  論徵兵制度デ、其徵兵制度ノ完全ヲ圖ラン
  トスレバ、當然國民生活ノ安定、斯ウ云フ所
  マデ進ンデ行カナケレバナラナイ、國民生活
  ノ安定ト云フコトヲ一度考ヘマスルナラ
  バ重工業ニ偏シシ重キヲ置ク、重工業偏
  重ト云フヤウナ態度ト云フモノハ許サレナ
  イ、故ニ徵兵制度ニ根本ヲ置ク所ノ日本ノ
  軍ノ動キトシテハ、當然今度論議セラレマ
  シタル庶政一新ノ方ニ重キヲ置イテ、政治ヲ
  「リード」シテ行カナケレバナラヌ(拍手)斯
  樣ニ軍ハ當然考ヘナケレバナラナイ必然的
  ノ立場ニ置カレテ居ル、斯ウ云フ議論ヲ爲
  ス者ガアル、私ハ今日渾沌タル此政治ヲ見
  テ、大雜把ニ分ケテ只今申シマシタヤウナ
  二ツノ見方ガアルダラウト思フ、ソコデ私
  ハ大體カラ申シマシテ、今申シマシタ後ノ
  ヤウニ日本ノ軍ガ進ンデ行クト云フコトヲ
  希望シテ已マナイモノデアリマス、斯樣ナ
  考ヘ方ヲ致シテ居リマスル時ニ、突如トシテ
  二·二六事件ナルモノガ起ッタ、ソコデ我人
  共ニ驚イテ、其起リシ理由ヲ探究スルト云
  フコトニ於テハ、洵ニ熱誠深刻ヲ極メタモ
  ノデアッタノデアリマス、軍ハ或點ニ於キマ
  シテ庶政一新ノ政府ノ聲明ヲ肯定シテ居ル、
  自ラハ現狀打破、現狀打開ト云フコトヲ主
  張致シテ居ル、隨テ是等ノ狀況ヲ見マスレ
  バ、私ガ只今申シマシタヤウナ風ナ動キ方
  ヲシテ行クモノデアラウト想像ガセラレル、
  若シサウデナクテ、先ニ申述ベタヤウナ態
  度デ軍ガ進マレルノデアリマスルナラバ
  是ハ非常ニ危險ナコトデアル、斯樣ニ私ハ
  考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)斯樣ナ立前
  ニ立チマシテ、私ハ今度ノ豫算ヲ簡單ニ批
  評致シタイト思ヒマス、廣田內閣ハ其成立
  ノ當初ニ於テ一ツノ約束ヲ持ッテ居ル、誰ニ
  約束シタノデモナイケレドモガ、廣田內閣
  ハ斯ノ如キコトヲ爲サザルベカラズト云フ、
  當然ノ約束ヲ脊負ハサレテ出來テ居ルノデ
  アリマス、其約束ハ第一ハ、國體明徵問題
  ノ徹底デアリマス、第二ハ二·二六事件ノ跡
  始末デアリマス、是ハ小サク分チマスレバ、
  第一ハ肅軍ト、第二ハ庶政ノ一新、斯ウ云
  フコトニナリマス、ソレカラ大キク第三項
  ト致シマシテ、積極外交ノ確立デアリマス、
  更ニ是ハ小サク分ケマスレバ、滿洲國ニ向ッ
  テ更ニ一段ノ生氣ヲ加ヘルコト、對支外交
  ニ對シテノ熊度ヲハッキリ決メルコト、私共
  外交ノコトニ多クノ知識ヲ持タヌケレドモ
  ガ、日本ニ於ケル現狀維持派及ビ現狀打開
  派ノ爭ガ解決付カザルコトハ、直チニソレ
  ガ對支外交ニ影響ヲシテ、當然コチラ側デ
  アルベキ人達ノ腰ガフラ付ク、斯ウ云ッタヤ
  ウナ事情ニアルト云フコトヲ見逃ス譯ニ行
  カヌ(拍手)隨テサウ云フ點カラ言ッテモ、對
  支外交ニ對シテ確乎不動ノ立場ヲ執ッテ行
  カナケレバナラヌト思フ、是ダケノコトハ、
  廣田內閣ハ其成立ノ當時、一切ノ狀況カラ
  課サレテ居ル課題デアルノデアリマス、隨
  テ當然其問題ニ立入ッテ、ドシ〓〓物ヲ解
  決シテ行カナケレバナラナイ、然ルニソレ
  等ノ點ニ付テ幾多ノ質疑ガ重ネラレマスレ
  バ、組閣後僅カ五十日デアルカラ、サウ云ッタ
  ヤウナ所マデ手ガ屆カヌ、將來マダ色々
  ヤルノダト云ッタヤウナ答辯デアリマスル
  ケレドモ、政黨內閣カ何カナラ、先程申シ
  マシタヤウニ、普段政策ヲ發表シテ居リマ
  スルカラ、今申シタヤウナ遁辭ヲ許ス、官
  條內閣ハ左樣ナ政策ヲ發表シテ居ナイノデ
  アリマスルカラ、其組閣ノ當初ニ於テ先ヅ
  其大綱タケハ示サナケレバナラナイ(拍手)
  ソレヲ示セト云フコトハ、閣僚ニ迫ッテ居ル
  ノデアリマスルケレドモ、閣僚悉ク組閣後
  五十日ニシテ何モ言フコトハナイト、斯フ
  云フコトヲ言ウテ居ル、之ヲ怠慢ト言ハズ
  シテ何ゾヤ、當然約束セラレテ居ルコトデ
  アルカラ、其約束ヲ果セ、斯フ云フコトニ
  ナッテ居ルノデアリマスカラ、何等カ此處デ
  示サナケレバナラヌ筈デアリマス、然ルニ
  之ヲ果サナイ、故ニ廣田內閣ニ對シテハ、
  恐ラク議會ノ濟ンダ後、或ハ言論ニ於テ、
  文章ニ於テ、幾多ノ批判ガ爲サレナケレバ
  ナラヌ、其批判ナルモノハ致命的ナルモノ
  デナケレバナラヌ、廣田內閣ヲ抹殺シ終ル
  ガ如キモノデナケレバナラヌ筈』ニナッテ居
  ルノデアリマス(拍手)ソレカアラヌカ、此
  議會ニ突如トシテ不穩文書取締案ト云フモ
  ノガ出テ來テ居ル(拍手)是ハ內容ヲ語ルマ
  デモアリマセヌ、唯吾々ガ率然トシテ之ヲ
  讀ンダダケデモ、斯ノ如キモノガ出タナラ
  バ、眞ニ國家ヲ憂フルノ意見ト云フモノハ、
  遂ニ現レズニ濟ンデシマフダラウト、斯樣ニ
  感ジサセラレルヤウナノガ、卽チ不穩文書
  ノ取締法案デアル、先程委員會ニ於テ萱場
  局長ハ
  -斯ウ云フ答辯ヲ致シテ居ルノデアリマ
  ス、若シソコマデ考ヘテ、アノ不穩文書取締
  法案ヲ御出シニナリマスルナラバ、容易ナラ
  ザル事デアル、恐ラク言論ニ從事スル者、
  文書ニ依ッテ奉公セントスル者ハ、之ニ依ツ
  テ遂ニ奉公ノ誠ヲ效ス途ヲ塞ガレテシマフ
  ノデアリマセウ、斯ノ如キ事ガアリマスル
  ナラバ、愈〓以テ不穩文書ハ世ノ中ニ橫行ス
  ルト云フコトニナッテ來ル(拍手)是ハ必シ
  モ萱場局長ノ失言デハナイ、脫線デハナイ、
  恐ラク官僚意識ト云フモノハ、此處ニ在ル
  ノダラウト私ハ思ッテ居ル(「ヒヤ〓〓」拍
  手)隨テ此法案ノ活カスベキ所ヲ活シテ以
  テ通過サセヨウト云フヤウナ、生溫イ態度
  ヲ執リマスレバ、恐ラク是ハ容易ナラザル
  結果ヲ國家ノ將來ニ貽ス、斯ウ思ヒマス、
  洵ニ自ラ爲スベキ事ヲ爲サズシテ、ソレニ
  對シテ批判ヲ加ヘントスル其口ヲ先ヅ塞グ、
  斯ウ云フ態度ヲ執ルガ如キハ、卑怯千萬デア
  ルト申サナケレバナリマセヌ(「ヒヤノ
  拍手)
  又大藏大臣ナドノ言フ所ヲ聽イテ見マス
  レバ、成程高橋前大藏大臣ノ公債政策ヲ變
  更シテ、將來ハ必要ニ應ジテ或ル程度マデ
  ノ公債ヲ出シテ行ク、斯ウ云フ風ニ決心ヲ
  セラレタト云フコトハ、私共之ニ贊成ヲス
  ルモノデアリマス、併シ其半面ニ當ッテ增稅
  ノ問題ニ付テ質問ヲセラレタ時ニ、彼ハ忌
  憚ナク斯樣ニ答辯ヲシテ居ル、大衆課稅ヲ
  シナイカドウカ、斯ウ云フ質問ニ對シテ、
  大衆ノ消費シテ居ル品物デアリマシテモ、
  大衆ノ生活ニ關係ノナイモノニ對シテハ、
  增稅ヲスル場合ガアルヤウナコトヲ言ウテ
  居ル、斯ウ云ッタヤウナ考ヘ方ハ、軈テ增稅
  ヲ爲ス場合ニ於テ、大衆課稅當然現レ來ル
  ト云フコトヲ私共ニ豫感セシメル(拍手)ソ
  レカラ私ハマダ國策上幾多ノ當然爲サルベ
  キ事ガアルヤウニ考へテ居ル、或ハ電力ノ
  國營デアルトカ、或ハ保險ノ國營デアルト
  カ、色々ナ意味ニ於テ當然爲サルベキモノ
  デアリ、是ハ既ニ或ル程度マデ論議ガ盡サ
  V、ソレ〓〓ノ官廳ニ於テハ參考書類マデ
  モ整ッテ居ル筈ノモノナンデアル、是等ノモ
  ノガ通過スルコトニ依リマシテ、或ル程度
  ノ社會施設等ヲ行フコトガ出來ル、斯ウ云ッ
  タヤウナ立場ニモアル、然ルニ所管大臣サ
  ウ云フ點ニ付テノ質問ガアリマスレバ、マ
  ダ調査中ト云フヤウナ譯デ、之ニ對シテ答
  辯ヲシナイ、斯ウ云フヤウナ狀態ニ在ルノ
  デアリマス
  私ハ二·二六事件ノ跡始末ニ付テ、最モ重
  大ナル關係ヲ持ッテ居ラレルノハ、固ヨリ陸
  軍大臣ダト思フ、其陸軍大臣ガ恰モ其肅軍
  問題ヲ一手ニ引受ケタルガ如キ態度ヲ執ッ
  テ、サウシテ精勵シテ居ラレル態度、同情
  ニ吝ナラザルモノガアリマス、併シ陸軍大
  臣ニ依ッテ爲サルベキ事ニハ自ラ範圍ガア
  ル、此間起リマシタル事件ノ跡始末、法律
  的跡始末、ソレニ大臣ノ意思ガドコマデ作
  用シ得ルカドウカ、司法權ノ問題トシテ、
  私ニハハッキリ致シマセヌガ、或ル程度マデ
  大臣ノ意思ガ作用シ得ルト致シマスレバ、
  其問題ニ對シテハ成程陸軍大臣ハ責任ガ負
  ノノケレドモ肅軍ノ根柢ハ庶政一新ノ方
  ガ本ニナル(拍手)庶政一新ガセラレマスレ
  バ、自ラ肅軍ヲ叫バナケレバナラナイヤウナ
  問題ハ世ノ中ニ起ラナクナッテ來ル、此點ハ
  陸軍大臣ガ單獨ニ一氣ニ引受ケテ、ソコマ
  デ私ガヤッテ退ケルトマデ行ケナイ點ナン
  デアル、併シ行カウトスルノハ敬意ヲ表シ
  テモ宜シイ、私共ハ此〓軍ヲ考ヘル時ニ簡
  單ニ斯ウ云フ風ナ感ジガスルノデアリマス、
  五·一五事件ノ起リマスル以前ニ於テ、何ダ
  カ世ノ中ガ喧マシクッテ、今ニ何事カ起キハ
  シナイカト云フヤウナ氣持ガ世ノ中ニ漲ツ
  テ居ッタ、俄然トシテ五·一五事件ガ起キタ
  ノデアリマス、隨テ五·一五事件ノ後始末
  ナルモノハ、其起ル以前ニ於テ世ノ中ニ漲ツ
  テ居リマシタル、何カ起キハシナイカト云
  フヤウナ空氣ヲ、芟除スルコトニアッタ譯ナ
  ノデアリマス(拍手)然ルニ其點ガ閑却セラ
  レタノデアリマス、成程其事件後ニ於テ幾
  多ノ時局匡救費ト云フヤウナモノガ出テ參
  リマシテ、割合ニヤッタト云フ感ジハアリマ
  シタケレドモガ、マダ政治ヲ擔任シテ居ル
  人々ノ中ニハ、事件ノ原因ガソレ程深キモ
  ノデアルト云フコトハ、ハッキリシナカッタ
  ト見エテ、思ウテ及バザル所アリ、爲シ
  テ爲サザル所ガアッタ、是ガ五·一五事件
  ノ起ッタ譯ナノデアリマセウ、今度ノ事
  件ガ起キマスル時ニモ同ジコトナンデス、
  何トナク世ノ中ニ陰慘ナ氣持ガ漲ッテ居ル
  何カ起キハシナイカト云フヤウナコトヲ皆
  ガ言フ、突然トシテソレガ今度ノ事件トナッ
  テ現レテ來テ居ル、隨テ今度ノ事件ノ解決
  モ、ヤハリ其事件ノ以前ニ於テ漲ッテ居リマ
  シタル一ツノ空氣、其空氣ノ背後ニ潜ム所
  ノ事實、國民ノ要求、之ヲ解決シテ行クコ
  トデナケレバナラヌ筈ナノデアル、陸軍大
  臣ガ若シ眞ニ自分ノ直接ノ擔任デモナイ所
  ノ國政一新マデ、拍車ヲ掛ケテ踏込ンデ行
  カウト致サレマスナラバ、深ク此處マデ思
  ヒヲ致サレナケレバナラヌ、然ルニ今度ノ
  豫算ヲ見マスレバ、陸軍ノ關係ニ於テ、大體
  前內閣ガ要求シタモノデハアリマスケレド
  モガ、相當大キナ要求ガナサレテ居ルト云
  フコトヲ私共ハ發見スル、併ナガラ陸軍大
  臣ノ要求ニ依ッテ是レノ〓ノ庶政一新ノ基
  礎タルベキ豫算ガ盛ラルヽニ至ッタト云フ
  コトヲ、私共ハ認メルコトガ出來ナイ、是
  ガ陸軍大臣ニ對シテ甚ダ遺憾ヲ感ズル點ナ
  ノデアリマス、隨テ前ニ戾リマシテ、陸軍
  ノ態度ハ第一、第二ト二ツニ考ヘラレル、
  私共ハ好意ニ考ヘテ、陸軍ハ其力ヲ以テ庶
  政一新ト云フ方面ニ向ッテ行クコト、是ガ徵
  兵制度ノ基礎ヲ鞏固ニスル所以デアルト云
  フ風ニ考ヘテ參リマシタガ、一寸誤ルト、
  ソコノ間違ヲ惹起シテ、第一ニ申シマスヤ
  ウナ、國家資本主義ノ如キ立場ニ立チ、
  面ニ於テハ大資本家ト提携シ、他ノ一面ニ
  於テハ官僚、政黨ヲ率ヰテ政治ニ當ルト云
  フ風ニ、脫線シハセヌカト云フコトヲ虞レ
  ル(拍手)其他內務大臣デアルトカ、幾多ノ
  大臣ニ付テ私ハ申述ベタイコトガアリマス
  ケレドモ、之ヲ要スルニ、組閣當時ニ於テ
  ハ何トナキ空氣ニ動カサレテ、相當ノコト
  ハヤル積リデアッタト私共ハ拜察シタ、然ル
  ニ僅カ五十日ニシテ、何トナク氣心ニ緩ミ
  ガ來タ、今日ニ於テハ大シタ事ハ爲サナク
  トモ、マアソコ〓〓ニ納マッテ行クノヂヤ
  アルマイカト云ッタヤウナ氣持サヘナスッテ
  居ラッシヤルノデハナイカト思フ、若シサウ
  デアリマスナラバ、是ハ非常ナ誤リデアリ
  マス、衆議院ニ於テハ勅語ヲ賜ッタリ、衆議
  院ハ恐懼シテ、他日庶政一新ノ決議ヲシヨ
  ウトシテ居ル、政府モ亦非常ナ決意ヲ持ッテ
  居ル、斯ウ云フ風ニ言ハレテ居ル、若シ此
  意氣込、掛聲ニ拘ラズ、相當ナ事ガ爲サレ
  ルコトナク、他日此間ノヤウナ事件ガ、モ
  ウ一遍持上ルト云フヤウナコトデモアリマ
  シタナラバ、何人ガ此責任ヲ負フカ(拍手)
  私ハ政府ニ對シテ篤ト此點ニ付テ御考ヘヲ
  願ヒタイ點ナノデアリマス、私ハ政府ノ一
  般ヲ見ルコト以上ノヤウデアリマスケレド
  モガ、特ニ今日ノ狀況ニ於キマシテハ政黨
  ト軍部ト官僚トノ合作デ行ッテ居ルガ、之ヲ
  導イテ居ルモノハ軍部、故ニ其軍部ガ特ニ
  力ヲ入レテ庶政一新ノ實ヲ擧ゲナケレバナ
  ラヌ、斯ウ云フ風ニ結論シテ居ルノデアリ
  や、、然ルニソレガ此豫算ニ現ハレタ點ニ
  於テ多ク見受ケナイ(拍手)斯樣ナ譯デアリ
  マスカラ、私共ハ此豫算ヲ一度引込メテ、
  再ビ本當ニ庶政一新ノ實ヲ擧ルヤウナ豫算
  ニ組替ヘテ、出直サレルコトヲ希望致ス者
  デアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)私ハ齋藤隆夫
  君ガナサッタ此間ノ演說ヲ謹ンデ拜聽致シ
  テ居ッタ、之ニ依リマスレバ、私ノ感ジハ、
  政黨內閣ノ盛ナリシ頃ヲ囘顧スル氣持、想
  ヒ起ス氣持、囘顧的ノ氣持ト云フモノガ現
  レテ居リマス、同時ニ又現在ノ無力ヲ顧ミ
  テ、極メテ感傷的ナ氣持モ現レテ居ル拍
  手)併シ政治ハ專門家ノ俺達ニ委セロ、俺
  達デヤッテ退ケルト云フ氣魄ハ玆ニ現レテ
  居ラナカッタ、隨テ齋藤隆夫君ト陸軍大臣ト
  ノ間ニ交ハサレタ演說ハ、形ニ於テハ洵ニ
  立派ナモノガアル、併シ其實質ニ於テハ國
  民ノ生活ニ觸レテ居ナカッタ、斯ウ思フノデ
  ス(拍手)是等ヲ考ヘマシテ、政黨デアルト
  カ、又軍部其他如何ナル部分モ、猛省スル
  必要ガアリマスケレドモ、特ニ此豫算ハ更
  始一新ノ色ヲ少シモ帶ビテ居ラナイ豫算デ
  アルガ故ニ、組直シテヰラッシヤイ、斯ウ云
  フ言葉ヲ以テ政府ニ申上ゲヨウト思フ、是
  デ終リマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=75

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• 076・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　紫安新九郞君
  〔紫安新九郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=76

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• 077・紫安新九郎

  ○紫安新九郞君　諸君、私ハ只今上程セラ
  レテ居リマスル昭和十一年度歲入歲出總豫
  算追加案ニ對シマシテハ、杉浦君ノ御意見
  ニ反對シ、豫算委員長ノ報告ニ贊成スル者
  デゴザイマス、此追加豫算案ハ憲法ノ條章
  ニ依リマシテ、十一年度豫算案ト併セテ見ル
  ベキモノデアル、其實體ハ岡田內閣ノ編成致
  シマシタル昭和十一年度不成立豫算ト、大
  差ノナキモノデゴザイマス、災害應急費、
  其他ノ費用二千五百万圓ヲ加ヘタノニ過ギ
  ナイノデアリマス、現內閣ノ政策トシテ新
  ナル意味ヲ持ッテ居ルモノデハゴザイマセ
  又、大體ニ於テ前內閣ノ豫算デアリマス、
  卽チ高橋財政ノ現レデアリマス、此意味ニ
  於テ吾々ハ本豫算ヲ審議スルニ當リマシテ
  ハ、廣田內閣馬場藏相ノ提案シタモノヲ議ス
  ルノデハナク、高橋財政ノ豫算、アノ國民ノ
  信望ヲ一身ニ集メラレナガラ、悲シクモ時
  代ノ犠牲トナラレタル老藏相ノ遺產デアル
  所ノ豫算ヲ審議スル氣持ニ、充サレテ居ッ
  タノデアリマス、此豫算ヲ昭和十一年度ノ
  豫算ニ比較致シマスレバ、總歲出額ニ於テ
  九千餘万圓ヲ增シテ居ルニモ拘ラズ、普通
  歲入ニ於テ經常ト臨時ヲ通ジテ二億六千六
  百万圓ヲ增シテ居ル結果、赤字公債ハ六千
  九百万圓ヲ減ジテ居ルノデアリマス、而モ
  歲出ノ增加六千三百万圓ノ中デ、軍事費ノ
  增加三千六百餘万圓デアリマスルガ、同時
  ニ產業費、其他軍事費モ、實ニ二千六百万
  圓ヲ增シテ居ルノデアリマス、茲ニ時局ニ
  對スル前內閣ノ苦心ノ現レテ居ルコトヲ感
  ズルノデアリマス、尙ホ此豫算ノ特徵ト致
  シマシテ一言スベキコトハ、一般會計ト特別
  會計トノ調節ヲ圖ッタコトデアリマス、卽チ
  特別會計ガ是マデ一般會計庇護ノ下ニ改善
  セラレ、今日ハ割合ニ良好ナル狀態ニ在ル
  ノデアリマスル、ソコデ其餘裕金ノ一部ヲ
  一般會計歲出ノ財源ニ充テタコトデアリマ
  ス、今囘新ニ各特別會計カラ致シマシテ一
  千七百五十万圓ヲ支出シ、減債基金繰入額
  ノ增加ヲ合セマシテ、合計四千三百万圓ノ
  調整繰入金ヲ成シテ居ルデアリマス、是ハ
  我ガ財政上多年ノ懸案デアル所ノ一般會計
  ト特別會計トノ調整ヲ圖ルノ途ヲ開イタモ
  ノデゴザイマス、其他窮乏町村ノ財政ヲ援
  助致シマスルガ爲ニ、地方財政調整交付金
  ト致シマシテ、二千万圓ヲ盛ッテ居リマス、
  又最モ異彩ヲ放ッテ居ルト思ヒマスルノハ、
  中小商工業ノ金融ヲ圖ルガ爲ニ中央金庫ヲ
  創設シタコトデアリマス(拍手)其他貿易ノ
  振興、民間航空ノ助長及東北振興等ニモ、
  幾分ノ新規費用モ見積ッテ居ルコトデアリ
  マス、今日ノ國民生活安定ヲ切ニ望ンデ居
  リマスル見地カラ見マスレバ、兎モ角赤字
  公債漸減ノ方針ヲ確守シナガラ、一般會計
  ト特別會計トノ調整ノ端〓ヲ開イタルコト
  ハ、聊カ多トスベキモノデアリマス(拍手)
  吾々ハ前內閣ノ爲セル所ト致シマシテハ、
  當時ノ財政事情ト致シマシテハ先ヅ此程
  度ヲ以テ已ムナキモノト思ッテ居ルノデア
  リマス、又今日廣田內閣ガ成立〓々此前內
  閣ノ豫算ヲ踏襲致シマシテ、特別議會ニ臨
  ンダルコトモ吾々ハ諒トスル者デアリマス、
  ソコデ吾々ハ此豫算ニ贊成スル者デアリマ
  スルガ、廣田內閣ガ非常時局ヲ擔當シテ庶
  政刷新ヲ標榜シナガラ、其財政計畫ノ輪廓
  ダケデモ明ニシ、國民ノ不安ヲ除カンケレ
  バナラヌノガ今日ノ急務デアリマスルニ拘
  ラズ、此財政計畫ノ輪廓ヲ見ルト云フコト
  ハ、是ハ國民ガ特別議會ニ待望シタル重點
  デアルト思フニ拘ラズ、本議會開會以來、
  當議場竝豫算總會ニ於ケル各方面ノ質問應
  答ニ依リマシテモ、現內閣ノ有シテ居ル所ノ
  財政經濟政策ノ輪廓ヲ明ニスルコトガ出來
  ズ、加之其說明ニ矛盾スル所ガアル、國民ノ疑
  惑ヲ解クト云フコトノ出來ナカッタト云フコトハ、
  吾々ノ遺憾トスル所デアリマス(拍手)政府
  ハ十二年度豫算ノ編成ニ當リマシテハ、將
  來ニ亙ル財政計畫ノ全貌ヲ明ニスルト云フ
  コトヲ、心掛ケンケレバナラヌト思フノデ
  アリマス、政府ハ十二年度ヨリ增稅ニ依ル
  普通歲入ノ增加ヲ圖リ、出來得ルダケ公債
  收入ニ依ル部分ヲ減ジテ、恆久收入ヲ目安
  トスルト計ッテ居ルノデアリマス、是ハ吾々
  同志ガ從來唱ヘ來ッタ所デアリマシテ、機宜
  ノ處置ヲ爲スモノト言ハンケレバナラヌノ
  デアリマス、併ナガラ增稅ハ何ト申シマシ
  テモ、國民ノ生活ニ直接且ツ深刻ニ響クモ
  ノデアリマスルカラシテ、是ガ按排ニハ最
  善ノ注意ヲ拂ハンケレバナラヌト云フコト
  ハ勿論デアリマスルガ、馬場藏相ハ國稅ト
  地方稅ト竝ンデ稅制ノ一大改革ヲ行ヒ、且
  ツ負擔ノ均衡ヲ主トシテ增稅計畫ヲ立ツル
  旨ヲ言明シ、又所謂大衆課稅ハ出來得ルダ
  ケ之ヲ避ケル方針ヲ以テ、法人所得ヲ中心
  トシテ、稅制ヲ整理スルト云フコトヲ申シ
  テ居リマス、其趣旨ハ洵ニ結構ト思ヒマ
  ス、若シ政府ガ此方針ヲ確ニ守ッテ行クナラ
  バ、吾々ハ國民經濟ニ對スル壓迫ハ、餘程
  減ゼラレルモノト思フノデアリマス、其代
  リニ多額ノ收入ヲ期スルト云フコトハ難シ
  イコトト思フノデアリマス若シ相當多額
  ノ收入ヲ得ントスルナラバ、消費稅ナリ專
  賣其他官業收入ノ增加ヲ圖ランケレバナ
  ラヌト思フノデアリマス、斯ノ如ク致シマ
  スレバ、國民生活ノ安定ト云フ現內閣ノ主
  要ナル政策ハ、多大ノ影響ヲ蒙ルコトトナ
  ルノデアリマス、此點ニ關シマシテ、政府
  ハ議會ニ於ケル質疑應答ノ趣旨ニ鑑ミ、國
  民負擔ノ公平ヲ期スルト共ニ、國民生活ヲ
  脅威スルコトナキ根本的稅制整理ヲ斷行セ
  ラレンコトヲ切ニ望ムモノデアリマス拍
  手)更ニ私ハ馬場藏相ガ公債ノ消化及ビ產
  業ノ振興ノ爲ニ、最近低金利政策ヲ實行セ
  ラレマシタガ、此低金利ヲ唯一ノ架橋ト致
  シマシテハ、經濟安定ノ彼岸ニ渡ルコトハ
  出來ヌト思ッテ居リマス、馬場藏相ガ勇往果
  敢ニ實行致シマシタル此政策ハ、果シテ金
  融界ノ實情ニ卽シタモノデアリマセウカ、
  近キ將來ニ於テ反動ノ懸念ハナイデセウ
  カ、若シ一兩年ノ中ニ此低金利反動ノ起ル
  コトガアリマスナラバ、公債ノ暴落ニ因リ
  財界ハ甚ダシキ打擊ヲ蒙リ、延イテ現內閣
  ノ財政遂行ガ行詰ルヤモ知レナイノデアリ
  さく、元來金融ハ從デアル、產業ガ主デア
  ル、而モ金融ノ形勢ト云フコトハ、國民ノ
  通貨ニ對スル信用如何ニ依ルモノデアリマ
  スカラシテ、國民ノ通貨ニ對スル信用ニシ
  テ、一朝動搖スルガ如キコトガアリマスル
  ナラバ、金利政策ノ如キモノハ忽チ其效果
  ヲ失フモノデアルト言ハナケレバナラナイ
  ノデアリマス、換言スレバ馬場財政ノ低金
  利政策ハ、公債ノ消化力ニ重キヲ置キマシ
  テ、多少トモ實情ニ先走ッタ所ハナイデア
  リマセウカ、現在ニ於キマシテコソ經濟ノ
  不安カラ致シマシテ、遊資ハ公債化サレツ
  ツアルノデアリマスルガ、軈テ資金ノ遊資
  ノ方面ニ流レ行クコトハナイデアリマセウ
  カ、ソレニ連レテ玆ニ馬場財政ノ破綻ガナ
  イトモ限ラナイノデゴザイマス、元來公債ノ
  消化力ハ何デアルカト云フナラバ、卽チ公
  債ヲ買ウモノデアルト言ハナケレバナラナ
  イノデアリマス、其公債ヲ買フ資金ハ何處
  カラ出テ來ルノデアルカト云フナラバ、申
  スマデモナクソレハ國民ノ貯蓄デアル、國
  民ノ貯蓄ノ現實化シタモノハ何デアルカト
  云フナラバ、銀行ノ預金デアリ、郵便貯金
  デアリ、信託預金デアリマスルガ、此國民
  ノ貯蓄ノ中カラシテ、其國民經濟ヲ維持ス
  ル費用ヲ差引キマシタ其餘リガ、公債ノ源
  泉トナルト思フノデアリマス、然ラバ此公
  債ノ源泉ニナリ得ル財源ハ、凡ソ幾ラ位ア
  ルモノデアルカト申シマスルト先ヅ大雜把
  ノコトヲ申シマスルナラバ、七八億圓ト申
  スノデアリマス、併シ此七八億圓ト申シマ
  シテモ好景氣ト不景氣トニ依ッテ違フコト
  ノアルノハ、申スマデモナイコトデアリマ
  ス、卽チ是ガ公債消化ノ一ツノ限度デアラ
  ウト思フノデアリマス、所ガ世ノ中ニハ公
  債ト云フモノハ、政府ガ募集セントスルナ
  ラバ幾ラデモ募集シ得ラルヽガ如ク、思
  テ居ルモノガナイデモナイノデアリマ
  ス、サウ云フ考ハ根本ニ於テ我國經濟ノ
  實情ニ副ハザルモノト言ハンケレバナラヌ
  ノデアリマス、廣田內閣ハ國民生活ノ安定
  ヲ强調シテ居リマス、若シ此公債消化政
  策ニ付テ行詰リヲ來シタナラバ、是ガ
  國民ニ與ヘル影響ハドウナルカト申シマス
  ト、購買力ノ伴ハナイ所ノ通貨ノ膨脹ガ起ッ
  テ來ルノデアリマス、サウナルト云フト物
  價ハ騰貴スル、貿易ガ振ハナイ、產業ノ發
  展ヲ期スルコトガ出來ナイ、必然ノ結果ト
  致シマシテ、國民ノ生活ハ不安ニ陷ルト言
  ハンケレバナラヌノデゴザイマス、之ヲ要
  スルニ今日ノ經濟界ニ、何トナク一抹ノ不
  安ノ念ヲ去ラナイノハ、色々ノ原因ハアリ
  マスルガ、其主ナルモノハ、將來ノ財政計
  畫ハドウナルデアラウカ、財政ノ基礎ハ如
  何樣ニシテ、鞏固ナルモノデアラウカト云
  フコトヲ知リ得ルコトガ出來ナイカラト思
  フノデアリマス、之ヲ政府ガ確定シナケレ
  バ、國民經濟ノ安定ヲ期スルト云フコトハ、
  出來ナイ相談ト言ハナケレバナラナイノデ
  アリマス(拍手)廣田首相ハ悲壯ナル決心ヲ
  以テ今日ノ難局ニ立チ、庶政一新ヲ呼號シ
  テ居ラレル、吾々モ其點ニ對シテハ其意氣ヲ
  偉ナリトスルモノデアリマスルガ、一日は
  速ニ聲明シテ居ル所ヲ具體化セラレタイノ
  デアリマス、尤モ聲明シテ居ル所ニ付キマ
  シテモ、具體化シ得ラレルモノト、具體化シ
  得ラレナイモノガゴザイマスルカラシテ、具
  體化シ得ラルヽモノニ對シテハ、一日モ速
  ニ具體化セラレマシテ、國防ト財政ト產業
  ノ調和ヲ圖リ、社會ノ不安ヲ除去スルト云
  フコトヲ念頭ニ置カレンコトヲ、切ニ望マ
  ザルヲ得ナイノデアリマス、勿論是等ノ事
  柄ハ言フコトハ言ヒ易イノデアリマスルガ、
  行フト云フコトハ、是ハ何人ガ局ニ當リマ
  シテモ、中々困難ナコトデアルト云フコト
  ハ、吾々モ十分ニ之ヲ知ッテ居ルノデアリ
  マスルガ、君國ニ殉ズルノ非常ナル決斷ヲ
  以テ廣田首相ガ當ラルヽナラバ、必シモ是
  ハ出來ヌト云フコトデハナイノデアリマス、
  國際關係ノ微妙ナル動キノアル今日デアリ
  マス、國防ノ重大ニシテ一日モ弛ウスベカ
  ラザルコトハ、天下何人モ認メル所デアリ
  マス、唯憂フル所ハ、今申シマシタ所ノ國
  防財政、產業ノ調和ヲ圖ッテ行カナケレ
  バ結局ニ於キマシテ大切ナル國防充實ヲ
  期シ、國民生活ノ安定ヲ望ムト云フコトハ、
  到底出來ナイト思フ者デアリマス(拍手)
  私ハ以上述ベマシタ所ヲ以チマシテ、本豫
  算ノ通過ヲ望ム者デゴザイマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=77

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• 078・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　河上丈太郞君
  〔河上丈太郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=78

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• 079・河上丈太郎

  ○河上丈太郞君　廣田內閣ガ出來マシテ、
  所謂馬場財政ニ關スル私達ノ批判ヲ申上ゲ
  ル前ニ、今日ノ馬場財政ノ歷史的ナ意義ガ
  何處ニアルカト云フコトヲ、先ヅ決定致シ
  タイト考ヘルノデアリマス、昭和六年九月
  ニ滿洲事件ガ起リマシタコトガ、日本ノ資
  本主義ニ取リマシテハ一ツノ大キナ問題
  デアリマス、日本ノ資本主義ガ此滿洲問題
  ヲ消化スル能力ガアルカドウカ、日本ノ資
  本主義ガ滿洲問題ヲ如何ニ料理シテ行クカ
  ト云フコトガ、昭和六年以後、卽チ高橋財
  政及ビ馬場財政ノ歷史的意義ヲ決定スル出
  發點デアルト考ヘルノデアリマス、吾々ハ
  今日馬場財政ノ本質ヲ批判スルニ付テ、其
  歷史的發展ノ過程ニ立ッテ、初メテ馬場財政
  ノ本質ヲ看破スルコトガ出來ルト信ジテ居
  ルノデアリマス、日本ノ資本主義ハ滿洲ヲ
  抱込ンダコトニ依ッテ其動搖ガ始マッテ居リ
  マス、順調ニ發展シテ來マシタ所ノ資本主
  義ノ動搖ガ始マッテ居リマス、順調ニ發展シ
  テ來マシタ所ノ政黨政治ノ崩壞ハ、此滿洲
  事件ヲ抱込ンダ日本ノ資本主義ノ動搖ノ上
  ニ立ッテ居ルト、私ハ固ク信ジテ居ルノデア
  ル(拍手)吾々ハ此歷史的過程ノ上ニ立チ、
  發展ノ上ニ立ッテ、初メテ馬場財政ノ本質ヲ
  批判シナケレバナラナイ、馬場財政ノ前ノ
  高橋財政ハ、此滿洲事件ヲ中心トスル日本
  ノ資本主義ノ煩悶ト、日本ノ資本主義ノ苦
  惱ヲ、如何ニシテ解決シタカト云フナラバ
  勿論財政ノ膨脹デアリマス、其財政ノ膨脹
  ニ向ッテ日本ノ資本主義ハ、赤字公債主義ヲ
  以テ之ニ順應シテ來タノデゴザイマス、處
  女ノ如クニ、而シテ最モ從順ニ、赤字
  財政主義ヲ以テ之ニ順應シツヽ日本
  ノ資本主義ハ此難局ニ適應シツヽ來タ
  ノデアリマス、併ナガラ日本ノ金融
  資本ハ赤字財政ノ膨脹ニ一ツノ危惧ヲ
  抱イテ居ル、一ツノ大キナル心配ヲ持ッ
  テ居ル、其心配ハ赤字公債ノミヲ以テ、此
  滿洲事件以後ノ日本ノ財政膨脹ヲ料理スル
  コトハ不可能ナリト考ヘテ居ル、日本ノ資
  本主義ハ昭和七年以後、每年十億圓前後ノ
  赤字公債ヲ募集シテ居リマスルガ、其資本
  主義ノ上ニ及ボス所ノ一ツノ大キナ影響ハ、
  其赤字公債ヲ十億圓ヅヽ每年出シテ行クナ
  ラバ、日本ノ資本主義ハ自壞作用ヲ起スカ
  モ知レナイト云フ心配、是ガ日本ノ金融資
  本ノ大キナル心配トシテ、其心配ハ遂ニ自
  己ノ資本主義自壞作用ニ對スル本能的ナル
  所ノ防衞政策トシテ現ハレテ參リマシタノ
  ガ、所謂公債漸減ノ鐵則デゴザイマス、此
  公債漸減ノ鐵則ヲ主張致シマスル所ノ關係
  トシテ、此軍事豫算ヲ中心トスル所ノ財政
  ヲ切盛ルノニ、昭和九年度ニ於キマシテハ
  單價切下論ヲ以テ之ニ調和シ、更ニ增稅的
  ナ手段ヲ以テ之ニ調和セントシテ來テ居ル
  ノデアル、昭和八年度ニ於キマシテハ、恩
  給法ノ改正ニ依ル所ノ自然增收ヲ以テ之ニ
  充テ、更ニ昭和十年度ニ於キマシテハ、臨
  時利得稅ヲ設置シテ之ニ調和シ、昭和十一
  年度ノ卽チ不成立豫算ニ於キマシテハ、特
  別會計カラ一般會計ヘノ繰入ノ手段ヲ用ヒ
  テ、辛ウジテ其豫算ヲ成立シテ居ルノデゴ
  ザイマス、滿洲事件以來日本ノ財政ノ歷史
  的發展ハ、此赤字公債ト同時ニ、或ハ單價
  切下ニ依リ、或ハ自然增收ニ依リ、或ハ增
  稅ノ形デ公債漸減鐵則ヲ死守シテ參リマシ
  タケレドモ、此公債漸減鐵則ヲ死守スルニ
  當ッテ、若キ大藏大臣ハ其職ニ殪レ、老イタ
  ル大藏大臣亦其處ニ殪レタル悲劇ヲ持ッテ
  居ルノデゴザイマス、此歷史的ナル發展ノ
  過程ニ踊出タノガ、今日ノ馬場財政デアル
  コトヲ吾々ハ規定シナケレバナライノデア
  リマス、馬場財政ハ此歷史的規定ノ上ニ立ッ
  テ居ル-日本ノ資本主義ノ煩悶ト苦惱ノ
  上ニ今日立ッテ居ルノガ、馬場財政デアルコ
  トヲ私達ハ考ヘナケレヤナラナイ、而シテ
  馬場財政ノ本質ハ何處ニアルカト云フナラ
  バ、私ハ大體ニ於テ馬場財政ガ爲シマシタ
  所ノ第一ハ低金利政策デアッタト信ズル、先
  程委員長ノ報〓ニモアリマシタ如クニ、豫
  算委員會ノ討論ニモアリマシタ如クニ、此
  低金利政策ハ馬場大藏大臣ガ爲シタ一ツノ
  政策トシテ今日認メラレテ居ル、ケレドモ吾
  吾ハ此低金利政策ハ、如何ナル社會的意義
  ヲ持ッテ居ルカト云フコトヲ批判シナケレ
  バナラナイ、私達ノ見ル所ニ依ルナラバ
  馬場財政ノ本質ノ一ツヲ成ス所ノ低金利政
  策ハ、產業資本家ノ擁護ニアルコトヲ第一
  ニ斷定スルノデアリマス、卽チ「コスト」ノ
  切下ヲシテ利潤ノ增大ヲ劃スルコトガ、低
  金利政策ノ一ツノ大イナル所ノ使命デアル
  コトヲ信ジテ居ル、而モ其低金利政策ニ依ッ
  テ產業資本家ノ利益ヲ擁護スル中、最モ甚
  大ナル利益ヲ受ケルモノハ、軍需產業資本
  家デアルコトヲ、私ハ玆ニ斷ゼザルヲ得ナ
  イノデアル、馬場財政ノ低金利政策ノ第二
  ノ點ハ、是ハ公債借與ニ依ル所ノ金融資本
  ニ對スル擁護的政策デアルコトヲ斷定スル
  ノデア」リマス、低金利政策ノ發表後公債借
  換ヲヤッテ-吾々ノ見ル所ニ依リマスル
  ト、四分利公債ノ所有者ガアノ借換ニ應ジ
  テ、非常ナル利益ヲ獲得シテ居ルコトヲ看
  破セザルヲ得ナイノデアリマス、民間ニ於
  キマスル所ノ二十六億ノ四分利公債ノ所有
  者ノ一枚平均一圓六十錢ノ利益デアリマス
  ルナラバ、馬場財政ノ低金利ニ依ッテ、四分
  利公債ニ於テ約四億圓ノ利益ガ金融資本財
  閥ノ懷ロニ入ッタコトヲ私ハ斷定セザルヲ
  得ナイ、而モ四分利公債ノ大部分ハ一流
  銀行家デアル金融資本家ノ所有デアリマス
  ルカラ、馬場財政ニ依ッテ持來サレタル所ノ
  低金利政策ニ依ッテ、四億圓以上ノ金ガ日本
  ノ金融資本家ノ利益ヲ擁護シテ居ルコトヲ、
  私達ハ玆ニ見ナケレバナラナイ、第三ニ馬
  場財政ノ低金利政策ハ、將來ノ資本家ニ向ッ
  テノ課稅ニ對スル所ノ準備的行動デアルコ
  トヲ看破セザルヲ得ナイノデアル、馬場財
  政ノ本質ノ中ニ增稅問題ガ漂ウテ居ル、其
  增稅問題ハ或ハ大衆課稅ニ來ルカ、或ハ財
  產稅其他ノ直接課稅ニ來ルカト云フコトハ、
  相當豫算委員會ニ於キマスル所ノ討論ヲ通
  ジテモ吾々ハ見ルコトガ出來ルガ、併ナガ
  ラ金利ノ引下ニ基キマシテ、吾々ハ將來產
  業資本家ニ對スル所ノ課稅ノ所謂標準ヲ、
  之ニ依ッテ決定シタコトヲ私達ハ考ヘル、低
  金利ダケ課稅致シマシテモ產業資本家ニ取ッ
  テハ苦痛デハナイ、將來ソレガ若シアリト
  スルナラバ、其增稅ニ對スル所ノ先ヅ準備的
  ニ、馬場財政ハ產業資本家ノ增稅ニ對スル擁
  護ヲシテ居ルコトヲ、私ハ斷定セザルヲ得ナ
  イノデアル、既ニ馬場財政ノ低金利ハ-
  將來產業資本家ニ對スル增稅ガアッタトス
  ルナラバ、其將來ニ對シ旣ニ免稅ヲ玆ニシ
  テ居ルノガ、低金利ノ本質デアルコトヲ看
  破セザルヲ得ナイ、更ニ第四ニ馬場財政ノ
  低金利政策ハ、民衆生活ニハ何等ノ經濟的
  ナル利益ガナイト云フ點デアル、吾々ハ馬
  場財政ノ低金利ニ依ッテ、果シテソレナラバ
  三十九億ニ達スル所ノ庶民階級ノ負債ノ負
  擔、ソレニ對シテ低金利政策ガドウ影響ス
  ルカト云フコトハ、殆ド不可能デアルト私
  ハ考ヘテ居ル、所謂馬場財政ノ低金利政策
  ト云フモノハ、四十億ニ近イ所ノ大衆ノ借
  金ニハ、殆ド關係ガナイト云フコトヲ斷ゼ
  ザルヲ得ナイ、私ハ以上ノ理由ニ依リマシ
  テ、馬場財政ノ低金利政策ハ、日本產業資
  本家ト金融資本家ニ奉仕スル所ノ一ツノ政
  策デアルト斷定セザルヲ得ナイノデアル
  馬場財政ノ第二ノ政策ハ、先程モ委員長
  ノ報告ノ中ニアリマシタガ、產金ノ買上問
  題デアルコトヲ私達ハ見ナケレバナラナイ、
  五月ノ五日ニ金買上ノ値段ヲ一瓦三圓五十
  錢一刄十三圓十二錢五厘ニ致シマシタ、
  此產金買上問題、委員長ノ報告ニ依リマス
  ルト、馬場大藏大臣ハ產金奬勵ノ目的ヲ以
  テ之ヲ爲サレタト云フコトデアルケレドモ、
  私達ハ他ノ方面カラ之ヲ觀察スルコトガ出
  來ルノデアル、當時ノ東京ノ新聞ニモ出テ
  居リマシタガ、此產金買上ノ當然ノ結果ト
  致シマシテ、產金業者ノ受取ル利益ハ、年
  ニ八千五百貫ト致シマシテ、約一千二百万
  圓ニ達スル見込デアルト言ハレテ居ル、
  目下產金會社ト言ハレテ居ル日本鑛業、
  三井、三菱、古河、住友、藤田ノ如キ
  大財閥、卽チ六社ノ手持高ハ約四百貫デ
  アル、其値上リノ利益ハ約六千万圓ダ
  ト豫定サレテ居ルノデアル、日本銀行
  ガ、五圓ノ買入値段トシテ帳簿ニ記載致シ
  マシタ實際ノ買入價格トノ差ハ、貸出金ト
  シテ記載シ、政府ガ其損失ヲ補償シテ居ル
  ノデアリマスルカラ、此差額ノ負擔ハ正ニ
  國民ノ犠牲ニ於テ爲サレテ居ルモノデアル
  ト言ハザルヲ得ナイノデアル、馬場財政ノ
  第二ノ政策デアル所ノ產金買上ノ行爲ニ
  依ッテ、日本ノ少數財閥ハ一日ニシテ六十万
  圓一年ニ約千二三百万圓ノ大キナル所ノ
  利益ヲ得ルニ反シテ、其一切ノ犠牲ト云フ
  モノガ國民ノ負擔ニ於テ爲サレテ居ルト云
  フノガ、馬場財政ノ第二ノ政策デアル、是
  ガ卽チ產金買上ニ關スル所ノ本質デアルノ
  デアル、吾々ハ馬場財政ノ第二ノ政策ノ上
  三、、明ニ日本ノ少數財閥擁護ノ政策ヲ發
  見スルコトガ出來ルコトヲ固ク信ジテ居ル
  ノデアル(拍手)而モ大藏當局ハ、此產金業
  者ニ對スル所ノ課稅ト云フモノハ考ヘテ居
  ナイ、是ニハ稅ヲ課ケナイト云フ、單ニ政
  府ノ買上ニ依ッテ、斯ノ如ク少數財閥ガ利益
  ヲ得テ居ル、是ガ馬場財政ノ第二ノ本質デ
  アル、低金利ニ次ギマシテ馬場財政ノ本質
  ハ、所謂公債漸減主義ノ抛棄デアルト私達
  ハ見テ居ルノデアル、公債漸減主義ハ、御
  承知ノ如クニ滿洲事件以來數年間ニ亙ッテ、
  日本ノ金融資本ガ非常ナル苦鬪ヲ以テ鬪ヒ
  來ッタ所ノ一ツノ鐵則デアル、ソレガ爲ニハ
  二人ノ大藏大臣モ死ヲ賭シテシナケレバナ
  ラナイ所ノ鐵則デアッタガ、今日馬場財政ハ
  ソレヲ抛棄サレテ居ルト私達ハ觀察シテ居
  ル、卽チ赤字公債デ將來ノ財政ヲ賄ッテ行ク
  ト云フ此立場ハ、滿洲事件以來日本ノ財政
  ガ戰時的財政ニ入ッタコトヲ規定シテ居ル
  ノデアルガ、併シ其戰時的ナ財政デアル其
  財政ニ向ッテ、尙ホ公債漸減主義ヲ以テ、之
  ヲ平常化シヨウトシテ居ッタケレドモ、遂ニ
  馬場財政ニ依ッテ、所謂軍事費ヲ中心トスル
  戰時財政ト云フモノガ、全ク確立シタコト
  ヲ私達ハ玆ニ見ルノデアル、卽チ馬場財政
  ハ明ニ戰時的財政計畫ノ第一步ニ入ッタコ
  トヲ、私達ハ玆ニ觀察シナケレバナラナ
  イ、併ナガラ公債消化力ノ問題ガ其處ニ出
  テ來マスルケレドモ、馬場財政ハ、既ニ低
  金利政策ヲ以テ其公債消化ノ問題ヲ、或ル
  意味ニ於テ解決シテ居ルノデアル、卽チ低
  金利ニ依ッテ公債消化力ヲ助長シ、而シテ赤
  宇公債主義ニ依ッテ日本ノ金融資本ノ利益
  ヲ少シモ害サナイ所ニ、馬場財政ノ本質ガ
  在ルコトヲ私達ハ考ヘテ居ルノデアル
  第三ニ馬場財政ノ本質ハ、增稅問題デア
  ルコトヲ私達ハ考ヘナケレバナラナイ、馬
  場大藏大臣ノ入閣以來、增稅問題ハ馬場財
  政ノ何處カラモ問題ニサレテ居ル所ノ問題
  デアル、組閣當時ニ於ケル所ノ增稅ノ意
  圖、或ハ種々ナル聲明書ニ於ケル所ノ經過
  等、色々ノコトヲ見テ、馬場財政ノ本質ノ一
  ツノ中ニ、增稅問題ノ含マレテ居ルト云フ
  コトヲ吾々ハ見ナケレバナラナイ、此增稅
  問題ニ向ッテ、ソレナラバ如何ナル增稅ヲ爲
  スカト云フコトガ、次ニ起ル問題デアルガ、
  豫算委員會ニ於ケル所ノ各黨ノ討論ヲ聽キ
  マスルト、此增稅ニ付テハ、財產稅ニ對
  シ、或ハ資本家ニ對スル課稅ニ對シマシテ
  ハ、政民兩黨ノ諸君ハ非常ナル防禦的論線
  ヲ張ッテ居ルコトヲ見ルノデアリマス、
  又大藏大臣ハ財產稅、其他ノ直接稅ニ
  對シマシテハ、非常ニ遠慮勝チナ意見
  ヲ述ベラレテ居ルノデアル、財產稅ニ關
  シマスル所ノ馬場大藏大臣ノ意見ハ
  豫算委員會ニ於ケル政友會ノ大口氏ノ意
  見ト、略、同樣ナ意見ヲ持タレテ居ル、
  日本ハ財產稅ヲ設置シテモ、ソレ程ノ收入
  ハ得ラレナイ、ダカラ是ハスル必要ハナイ
  ト云フ風ナ意見ニ馬場財政ハ見ラレル、所
  得稅ノ改正其他ニ、多少ノ直接稅ニ對スル
  所ノ課稅ガアルカモ知レナイガ、ソレハ先
  程申シマシタ通リニ、低金利政策ニ依ル所
  ノ所謂馬場財政ノ資本家ニ向ッテノ擁護ノ
  立場ニ於テ、是ハ帳消ニサレル程度ノ增稅
  デアラウト、私達ハ考へテ居ルノデアル(拍
  チ·隨テ馬場財政ノ增稅ハ、直接稅或ハ資
  本家ニ向ッテノ增稅ハ、先ヅシナイト云ッテ
  モ宜イ程度ノモノデアラウト私達ハ考ヘテ
  居ルノデアル、然ルニ吾々ハ馬場財政ガ脊
  負ッテ立ツ所ノ將來ノ財政計畫ヲ、玆ニ展望
  シナケレバナラナイ、其展望ハ所謂軍事費
  ヲ中心トスル財政ノ展望デアリマス、今日
  ノ委員長ノ報告ニモアリマシタ如クニ、軍
  部當局ニ於キマシテハ、今日迄ノ軍事豫算
  ハ一ツノ基礎的ナ工事ノ費用デアルト言ハ
  レテ居ルノデアリマス、將來ノ厖大ナル所
  ノ軍事計畫ノ基礎工事ダ、ソレニ是ダケハ要
  ルノデアルガ、其基礎工事ノ上ニ打建テラ
  レル所ノ上部構造ノ費用ハ、又其計畫ハ、茲
  ニ發表スルコトガ出來ナイト云フノガ、軍
  部當局ノ御意見デアッタト私ハ聞イテ居ル
  ノデアリマス、併ナガラ少クトモ今日用ヒ
  ラレテ居リマスル所ノ、軍事組織ノ基礎的
  工事カラ判斷致シマシテモ、其基礎ノ上ニ
  建テラレル上部構造ガ如何ニ巨大ナモノデ
  アルカト云フコトハ、想像ニ難クナイト信
  ジテ居ルノデアリマス、世間ニ傳フル所ニ
  依リマスルナラバ、六年間ニ二十億圓ノ計
  畫ガアルト謂ハレテ居リマス、恐ラクハ此
  世間ニ傳ヘラレテ居ル所ノ一ツノ考ハ、眞
  實ヲ語ッテ居ルト私達ハ考ヘテ居ル、而モ此
  六年二十億ノ軍事計畫ノ話ハ、寺內陸相ガ
  現內閣ニ入閣スルカ否カト云フ時ニ、數時
  間ニ亙ッテ廣田總理大臣ト會見ヲシタ後ニ、
  世間ニ發表サレタル噂デアリマスカラ、恐
  ラクハ總理大臣ト陸軍大臣、或ハ軍部大臣
  トノ間ニ相當ノ理解アル所ノ計畫デアラウ
  コトヲ想像スルノデアリマス、六年間ニ亙ッ
  テ二十億圓ノ厖大ナル軍事豫算ヲ調達スル
  ニ當ッテドウスル、是ガ馬場財政ガ今日課セ
  ラレテ居ル所ノ一ツノ歷史的使命デアルコ
  トヲ考ヘル、此歷史的ナル使命ヲ、馬場財
  政ガドウシテ切拔ケルカト云フノガ、馬場
  財政ノ增稅問題ニ絡マッテ居ル所ノ大キナ
  ル問題デアルコトヲ、私達ハ考ヘザルヲ得
  ナイノデアリマス、若シモ此上部構造ノ軍
  事組織ニ對スル費用ガ、六年間ニ瓦ッテ二十
  億近イモノデアルトスルナラバ、每年少ク
  トモ二三億圓ノ費用ヲ掛ケナケレバナラナ
  イ、ソレヲ何處カラ調達スルカト云フコト
  ガ、馬場財政ニ課セラレタル問題ナンデア
  ル、然ルニ私ガ以上ニ述べタ如クニ、馬場
  財政ハ資本家ニ向ッテ、或ハ有產階級ニ向ッ
  テノ增稅計畫ハ今日發表シテ居ナイノミナ
  ラズ、寧ロソコニ殘サレテ居ル問題ハ、多
  クノ論議ノ對象トナッテ居ルガ如クニ、大衆
  的ナル課稅ノ外ニ途ガナイ(「ヒヤ〓〓」拍
  手)馬場財政ノ擔ッテ居ル所ノ歷史的ナ運命
  ハ、結局大衆課稅ノ一路ヲ迪ッテ進ムモノ
  ガ、馬場財政ノ本質デアルコトヲ玆ニ規定
  スルノデアル、馬場財政ハ將ニ所謂大衆課
  稅ヲ眞ッ向ニ振翳シテ行クコトヲ信ジテ居
  ルケレドモ、大衆課稅ヲ致スコトハ評判ガ
  惡イカラ、馬場サンハ言ヲ左右ニシテ逃ゲ
  テ居ルト私ハ思フ、追究サレルト云フト、
  白狀致シマシタ所ハ、所謂大衆ノ生活ニ影
  響ノナイヤウナ大衆稅ト云フ洵ニ珍妙ナル
  所ノ、大衆稅ガ出テ來ル、其例ハ何カト申シ
  マスルナラバ、所謂化粧品稅ト言ハレテ居リ
  マスルガ、大藏當局ガ眞實ニ發表シタカドウ
  カ分リマセヌケレドモ、相當日本ノ市場ヲ騒ガ
  セマシタ所ノ三億五千万圓增稅計畫ト云フ
  モノノ內容ヲ拜見致シマスルナラバ、化粧
  品稅ハ僅ニ五百万圓程度デアル、五百万圓
  程度ノ大衆課稅、卽チ化粧品稅ヲヤッテ、二
  十億ノ日本ノ軍事計畫ニ對スル財源トスル
  ナラバ、洵ニ是ハ一ツノ詭辯カ、一ツノ詐
  欺的ノ表現ニ過ギナイト私達ハ考ヘル、馬
  場サンガ個人ノ意思トシテ、大衆課稅ヲ逃
  ゲヨウトスル意思ハ諒ト致シマスルケレド
  モ、馬場財政、卽チ今日日本ノ資本主義ノ
  自壞作用ノ下ニ立ッテ居ル馬場財政トシテ
  ハ、個人ノ意思ヲ否定シテ、歷史ノ必然性
  ハ大衆課稅ニ驀ラニ進ンデ行クト、吾々ハ
  言ハザルヲ得ナイノデアリマス、吾々ハ馬
  場財政ノ本質ヲ以上ノヤウニ規定致シタノ
  デゴザイマス、是ガ馬場財政ノ本質デゴザ
  イマス、卽チ馬場財政ノ目的トスル政策ハ
  資本主義ノ擁護デアリ、彼ノ產金買上政策
  モ資本家ノ利益デアル、而モ大衆課稅、卽
  チ大衆ノ生活ノ重壓ノ上ニ立テラレントス
  ルノガ、馬場財政ノ本體デアルコトヲ私ハ
  玆ニ言ハザルヲ得ナイ(拍手)
  吾々ハ馬場財政ノ本質ヲ斯ノ如クニ規定
  シテ、滿洲事變以來ノ今日ノ日本ノ資本主
  義的ノ財政計畫ヲ、一瞥シタイト考ヘルノデ
  アリマス、今日滿洲事件以來軍部ノ要求ノ下
  ニ軍事豫算偏重ノ財政デアルト云フコトハ、
  旣ニ何人モ否定スルコトノ出來ナイ定論デ
  アルハ是レ卽チ此財政ニ向ッテ、此財政ノ本
  質ガ、更ニ馬場財政ノ背景ヲ成ス所ノ資本
  主義的ナル現段階ニ於ケル財政ノ本體ハ、
  軍備費遍重ノ財政デアルト云フ點デアリマ
  ス、吾々ハ此軍備ヲ中心トスル所ノ財政ガ
  資本主義經濟ノ社會ニ於テハ、結局資本家
  階級ノ利益ニナルト云フコトヲ、私ハ言ハ
  ナケレバナラナイノデアル、第二ニ此財政
  ハ日本ノ勤勞大衆ニ對スル犧牲ヲ强イラレ
  テ居ルト云フコトデアリマス(「ヒヤ〓〓」)
  私ハソレヲ多少統計ニ依ッテ私ノ意見ヲ申
  上ゲタイト思ヒマスルガ、滿洲事件以來ノ
  日本ノ大會社ノ拂込資本金額ニ對スル所ノ
  利潤金ヲ、私ハ玆ニ申上ゲルコトガ出來ルノ
  デアル、例ヘテ申シマスルナラバ輕工業デ
  アリマス所ノ綿絲紡績ハ、昭和六年ノ上半
  期ニ於テハ一六·六ノ收益率デアリマシタ
  シ、其後輕工業デアル所ノ綿絲紡績ノ收益率
  ハ、ソレ程高クナッテ居ナイ、多少多クハ
  ナッテ居リマスケレドモ、昭和九年度ノ下
  期ニ於キマシテハ二二·二位ノ增加率デア
  リマス、然ルニ造船業ニ於テハ昭和六年ノ
  下期ニ於テ〇·五ノ損失ヲ持ッテ居ッタノデ
  アリマス、更ニ昭和七年ノ上期ニ於テハ一·〇
  ノ損失ヲ持ッテ居ッタノデアリマス、更ノ
  昭和七年ノ下期ニ於テハ八·六ノ損失ヲ持ッ
  テ居ル、然ルニ昭和八年ノ上期カラ段々ニ
  造船業ノ利率ハ增大シテ來マシテ、昭和九
  年度ノ下期ニ於キマシテハ五·七ノ增加率
  ヲ持ッテ居ルノデアリマス卽チ造船業ニ
  於テハ滿洲事件ヲ中心トスル軍事的豫算ノ
  結果トシテ、造船業ニ於ケル所ノ事業ノ收
  益率ガ斯ノ如ク增加シテ居ルノデアリマス、
  更ニ製鐵ニ關シテハ昭和六年ノ上期ニ於キ
  マシテハ三·三ノ損失ヲ持ッテ居リマスルガ
  昭和六年ノ下期ニ於テモ一·一ノ損失ヲ持ッ
  テ居リマスルガ、滿洲事件ノ起リマシタ以
  來、昭和七年ノ上期以來、卽チ高橋財政ノ
  當時デアリマスルガ、段々ニ是ガ增加シテ
  昭和九年度ノ下期ニ於テハ二四·六ノ利益ヲ
  持ッテ居ルノデアリマス、此統計ハ卽チ軍
  備費ヲ中心トスル日本ノ財政ガ、所謂一部
  重工業ノ利益ヲ斯ル程ニモ增加シタト云フ
  コトヲ證明スルニ足リルト考ヘル、私ハ空
  疎ナル議論ヲ申上ゲルノデハナイ、明ニ
  日本ノ滿洲事件ヲ中心トシタ所ノ財政ノ發
  展ト云フモノハ、一部ノ重工業ノ利益ヲ斯
  程ニマデモ增加シタ事實ヲ、私達ハ玆ニ見
  ナケレバナラナイ、隨テ滿洲事件以來ノ日
  本ノ財政ハ、重工業ノ利益ニ當ッテ居ル財
  政デアルコトヲ看破スルガ、更ニ馬場財政
  ハ此傾向ニ對シテ拍車ヲ掛ケテ居ルト私ハ
  考ヘテ居ル、重工業ヲ更ニ「トラスト」化シテ、
  之ヲシテ獨占企業ヲ擁護セントスル所ノ現
  內閣ノ統制ニ關スル政策ハ、正ニ此重工業
  ノ利益ヲ更ニ一層增加スル所ノ傾向ヲ持ッ
  テ居ルト、私ハ斷ズルノデアリマス(拍手)
  併ナガラ吾々ハ此重工業ガ滿洲事件以
  來ノ財政計畫ノ結果、斯ノ如ク增加シツヽ
  アル反面ニ於テ、大衆ノ拂フ所ノ犠牲ハド
  ンナモノデアッタカト云フコトヲ、私ハ考ヘ
  ナケレバナラナイノデアル、其一ツノ好イ
  例トシテ内務省ノ報〓ヲ諸君ニ御紹介致シ
  タイト考ヘル、內務省ノ昭和八年度內務省
  工場監督年報ヲ見マスルト、昭和八年度ニ
  於テハ非常ニ死亡率ガ多イノデアリマス、
  卽チ昭和八年度ニ於テ內務省工場監督年報
  三、斯ル意味ヲ書イテ居リマス、「此增加
  率ハ死傷總數ニ於テ二三一%、重傷數ニ於テ
  ハ一九%、死亡數ニ於テハ四二%ニ近キ激
  增ヲ示セリ、斯ノ如キ脅威的變化ハ實ニ改
  正工場法施行昭和二年以後ニ於テ曾テ見ザ
  ル所ニシテ、其原因又ハ理由ノ如何ニ拘ラ
  ズ國家ノ蒙リタル有形無形ノ損失ハ實ニ甚
  大ナリト言フベク、工場監督ノ歷史上ニ於
  ケル恨事ト謂フベシ」ト書イテアルノデア
  リマス(「ヒヤ〓〓」拍手)日本ニ於テ重工業
  ノ利益ガ其一方ニ於テ斯ノ如ク增大スル半
  面ニ於テ、重工業工場ニ働イテ居ル勞働者
  ガ斯ノ如キ死亡率、負傷率ノ增加ヲ示シテ
  居ル事實ヲ、私ハ看過スルコトガ出來ナイ
  ノデアリマス、吾々ハ其事實ヲ考ヘテ見テ
  モ、重工業ノ利益ノ一面ニ日本ノ勞働者ガ
  如何ナル犠牲ヲ拂ッテ居ルカト云フコトガ、
  御分リデアラウト私ハ考ヘルノデアリマス、
  昭和八年度ニ於テハ諸君ハ御笑ヒニナルカ
  モ知レマセヌガ、少クトモ重傷ガ九千人以
  上ニ達シテ居リマス、死ンダ人ガ三百五十
  四人ニ達シテ居ル、一日一人ノ割デ日本ノ
  資本主義ハ人ヲ殺シテ居ル(拍手)諸君ハ一
  日一人ノ勞働者ガ日本ノ工場ニ於テ屍ヲ曝
  シ、流血ヲ漂シテ居ル事實ヲ諸君ハ笑ッテ
  居ルケレドモ、此事實ハ日本ノ統計ガ示シ
  テ居ル事實デアル(「ソンナコトハ流言ダ」
  ト呼フ者アリ)流言ヂヤナイ、事實茲ニ證據
  ガアル、日本ノ今日ノ資本主義ガ、一ヵ月
  於テ日本ノ利潤ノ增大ヲ圖リ、尙ホ斯ル悲
  劇ヲ起シテ居ル、卽チ滿洲事變以來ニ於キ
  マスル所ノ日本ノ資本主義ハ、明ニ此死亡
  者ト重傷者ヲ生ンデ居ルノデアル、諸君ニ
  ハ理解ガ出來ナイカモ知レナイケレドモ、
  一人ノ勞働者ガ斃レタ時ニ、其勞働者ノ家
  族ハ泣クノデアル、生活ニ困ルノデアル、
  ソコニ政治ノ根本ガ在ルト云フコトヲ吾々
  ハ喝破シナケレバナラナイ(拍手)ソレヲ諸
  君ハ笑ッテ居ル、愚弄シテ居ル、諸君ノ政黨ノ
  崩壞ガ其處ニアルコトヲ私ハ喝破シナケレ
  バナラナイ(拍手)吾々ハ斯ル大キナ犠牲ガ
  勞働者ト勤勞大衆ニ强ヒラレテ居ル時ニ、
  更ニ此軍需工業ヲ中心トシテ日本ノ一ツノ
  問題ハ、臨時工問題デアル、低賃銀ノ問題デ
  アル、或ハ臨時工ニ對スル待遇ノ相違、或ハ
  失業ノ不安デアル、而シテ臨時工ノ數ハ今
  日約三十万人アルト言ハレテ居ル、軍需工
  業ノ發展ニ伴ウテ三十万ノ勞働者大衆ガ、
  所謂臨時工ノ低賃銀ト生活ノ不安ニ怯エテ
  居ル事實ハ、此大キナル犠牲ノ上ニ立テラ
  レテ居ル所ノ事實デアル、吾々ハ此事實ヲ
  玆ニ見ル時ニ當ッテ、更ニ滿洲事件ニ於キマ
  スル所ノ財政ノ膨脹ニ伴フ「インフレーショ
  ン」ノ結果、物價ノ騰貴ニ因ル所ノ大衆生
  活ニ對スル壓迫ヲ考ヘルナラバ、正ニ先程申
  上ゲタ如ク、造船、製鐵ニ關スル所謂資本家
  ノ利潤ニ比較シテ、日本ノ勤勞大衆ガ其生活
  ノ上ニ於テ、其生命ノ上ニ於テ、其賃銀ノ上
  ニ於テ、如何ニ大ナル犠牲ヲ拂ッテ居ルカヲ、
  私達ハ見ナケレバナラナイノデアル(拍手)
  軍部當局ハ廣義國防ノ理論ヲ唱ヘラレテ居
  ルケレドモ、今日此資本主義ノ組織ノ下ニ
  立ッテハ、軍備擴張ガドウシテモ一部產業資
  本家ノ利益ト、大蠶ノ犠牲ニ依ッテ立テラレ
  ナケレバナラナイコトヲ私共ハ主張シタイ
  ノデアル(拍手)馬場財政ハ正ニ此傾向ヲ-
  今日ノ此傾向ヲ一層强化スルモノナルト、
  私ハ斷定セザルヲ得ナイノデアル、馬場財
  政ノ基根的本質ハ此傾向ヲ更ニ助長スルモ
  ノナリト私達ハ斷ゼザルヲ得ナイ、廣田內
  閣ガ出來テカラ僅ニ六十餘日デアルケレド
  モ、其出サレテ居ル政策ハ何カト云フナラ
  バ、此傾向ヲ强化スルノ政策以外ニハ何
  物モナイト言フテモ宜イ(拍手)辛ウジテ退
  職積立金ノ問題ガアリマスケレドモ、恐ラ
  クハ此內閣ガ强硬ニ之ヲ主張スルカドウカ、
  非常ニ怪シムヤウナヘナ腰デアルコトヲ、
  私達ハ嗤ハザルヲ得ナイケレドモ、此日本
  ノ傾向ヲ强化シツヽアル一面ニ於テ、吾々
  ニ與ヘラレル所ノモノハ、此資本主義ノ强
  化ト馬場財政ヲ通ジテノ大衆生活ニ對スル
  壓迫ニ對シ、吾々ガ公正ニシテ深刻ナル批
  判ヲシヨウトスルナラバ、不穩文書取締法
  ニ依ッテ之ヲ彈壓セントスルノガ、今フ廣田
  內閣ノ本體デアルト私達ハ考ヘザルヲ得ナ
  イ(「ヒヤノ」拍手)廣田內閣、サウシテ馬
  場財政ハ此次ニ來ルベキ所ノ專制的ナル、
  暗黑的ナル所ノ獨占企業中心ノ政治ト、經
  濟ノ前夜所產デアルト、私達ハ玆ニ喝破
  セザルヲ得ナイノデアル(拍手)吾々ハ斯ル
  意味ニ於テ此馬場財政ニ向ッテ反對シ、馬場
  財政ニ對シテ全面的ナ否定ヲスルコトガ、
  今日大衆ニ對スル最モ忠實ナ態度デアルト
  私共信ジテ居ルノデアル(拍手)吾々ハ大衆
  ニ對スル忠實ナル所ノ態度ノ表現トシテ、
  馬場財政否定ノ意見ヲ申上ゲテ、私達ノ立
  場ヲ明ニスル所以デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=79

  ---

• 080・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　大口喜六君
  〔大口喜六君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=80

  ---

• 081・大口喜六

  ○大口喜六君　私ハ只今議題ト相成ッテ居
  リマスル昭和十一年度歲入歲出總豫算追加
  外六件ニ對シマシテ、玆ニ希望條件ヲ附シ
  テ贊成致ス所ノモノデアリマス、卽チ希望
  條件ト致シマシテハ
  一財政計晝ヲ確立スルコト
  一國防產業ノ兩全ヲ圖ルコト
  一負擔ノ均衡、犧牲ノ公平ニ則リ一般
  的稅制ノ改正ヲ行フコト
  一地方財政補整制度ヲ擴充スルコト
  此四箇條デアリマス
  今囘提出サレマシタ追加豫算額ハ一般會
  計ニ於キマシテ、其總額歲入三億六千四百
  餘万圓、歲出三億六千六百餘万圓デアリマ
  シテ、之ヲ政府ガ旣ニ施行豫算ノ範圍內ニ
  於テ定メテ居リマスル昭和十一年度實行豫
  算總額歲入歲出各〓十九億四千餘万圓ニ合
  計致シマスルト、歲入ニ於キマシテ二十三億
  四百餘万圓、歲出ニ於キマシテ二十三億七
  百餘万圓トナリマス、卽チソレヲ前內閣ガ
  第六十八議會ニ提出致シマシタ昭和十一年
  度不成立豫算ニ比較致シマスルト、歲入ニ
  於テ二千六百餘万圓、歲出ニ於テ二千九百
  餘万圓ノ增加トナリマス、然ルニ其內容ヲ
  檢討致シマスルト、實ハ大藏大臣モ既ニ言
  明致サレテ居リマス如ク、殆ド前內閣ノ豫
  算其儘ヲ踏襲サレタモノデアリマシテ、別
  ニ是ト申ス程ノ新政策ハ殆ド發見サレ得ヌ
  ノデアリマス、是デハ現内閣ガ組閣當初ニ
  示サレマシタ其意氣、竝ニ庶政一新ノ其聲
  明カラ考ヘマシテ、如何ニモ遺憾ヲ感ゼザ
  ルヲ得マセヌ(拍手)唯時局ハ極メテ重大デ
  アリマス、殊ニ此追加豫算ニ計上サレテ居
  リマス所ノ經費ハ、孰レモ必要ニシテ缺ク
  ベカラザルモノデアルト認メマスルガ故ニ、
  私共ハ當議會ニ於ケル政府ノ將來ニ對スル
  言明ヲ信ジマシテ、玆ニ本豫算ニ贊成致ス
  所ノ者デアリマス(拍手)併シソレト同時ニ、
  政府ニ對シマシテ切ニ考慮ヲ煩スノ必要ア
  リト考ヘマシテ、玆ニ希望條件ヲ附シタル
  次第デアリマス、政府ノ說明スル所ニ依リ
  マスト、我國ニ於ケル軍事費ハ、將來相當
  額ノ膨脹ヲ爲スモノト推測致サレマス、而
  モ一面ニ於キマシテハ、少クトモ之ニ伴フ
  ベキ產業ノ發達ヲ企圖スル必要ガアリマス、
  隨テソレガ爲ニモ亦適當ナル經費ヲ要スベ
  キコトハ勿論デアリマス、スレバ我國ノ豫
  算額ハ此上少ナカラザル膨脹ヲ爲スモノト、
  覺悟ヲ致サナクテハナリマセヌ、然ルニ現
  在ニ於キマシテモ旣ニ歲入ハ不足致シテ居
  リマス、サウシテソレヲ補塡スベキ所謂赤
  字公債ノミデモ、旣ニ五億一千二百餘万圓ノ
  巨額ニ上ッテ居ルノデアリマス、此上尙ホド
  レダケノ赤字公債ヲ要スベキデアリマセウ
  カ、政府ノ答辯ヲ得ラレマセヌノデ、的確
  ナ數字ハ未ダ明瞭デアリマセヌガ、併シ其
  要求額ハ相當多額ニ上ルモノト想像サレ得
  ルノデアリマス
  然ラバ將來果シテ之ヲ如何ニ爲スベキデア
  リマセウカ、是ガ實ニ我國財政上ノ一大問
  題デアルト考ヘルノデアリマス、大藏大臣
  ノ說明サレル所ニ依リマスト、ソレニハ先
  以テ增稅ガ考ヘラレテ居ルモノト推斷致サ
  レマス、然ラバ其增稅ニ依リテ政府ハドレ
  ダケノ增收ヲ爲シ得ラルヽデアリマセウカ、
  是ガ直チニ起ルベキ問題デアルト思ヒマス、
  是モ大藏大臣ノ說明カラ推定致シマスト、
  到底其要求ヲ滿足セシムルニ足ルベキ程度
  二、達シ得ザルモノト考ヘザルヲ得マセ
  又、有體ニ申シマスト、私共モ亦此場合增
  稅ノ已ムヲ得ザルコトハ認メテ居リマス、
  併ナガラ一面ニ於テ國家有事ノ場合ヲモ考
  慮セネバナリマセヌ、有ラン限リノ民力ヲ
  一時ニ吸收スルガ如キ增稅ハ、極メテ之ヲ
  愼マネバナラヌト考ヘマス(拍手)殊ニソレ
  ガ爲ニ却テ產業ノ發達ヲ阻碍スルガ如キコ
  トガアリマシテハ、所謂勘定合ッテ錢足ラズ
  デ、結局所期ノ目的ヲ達セザルノミナラズ、
  場合ニ依リテハ民力衰退ノ原因トナラヌト
  モ限リマセヌ、斯ウ考ヘマスト、假令增稅
  ヲ致シマシタ所デ、ソレニ依ル政府ノ增收
  額ハ、今日ノ場合殆ド推算スルニ餘リアル
  ト考ヘマス、況ヤ增稅ヲ致シマスニハ、ソ
  レト同時ニ中央地方ヲ通ジテ稅制ノ一大改
  革ヲ爲ス必要ガアリマス、而モ今日ニ於テ
  國民ノ最モ苦シンデ居リマスノハ、國稅ト
  言ハンヨリハ、寧ロ地方稅デアルト考ヘマ
  ス、サウシテ地方稅ニハ是ト云フ確タル財
  源ガアリマセヌ、隨テ歸スル所ハ戶數割、
  家屋稅、ソレカラ雜種稅ニ重課サレテ居ル
  ノデアリマス、ソレノミナラズ地租ノ如キ
  ハ、實ニ國稅ニ對スル二倍ノ重課ニナッテ
  居リマス、而モソレニ依リテ行ハレマス地
  方行政ノ事務ハ、如何デアルカト申シマス
  ルニ、實ニ其過半ガ國政事務デアリマス、
  地方自治體其モノヽ事務ハ、却テ其半數ニ
  モ及バヌノガ事實デアリマス、殊ニ農山村
  ノ如キニ至リマシテハ其全部ガ殆ド國政
  事務デアルト申シテモ差支ナイ程デアリマ
  ス、政府ハ果シテ之ヲ何ト見ラレテ居ルデ
  アリマセウカ、地方財政窮乏ノ原因中、主
  ナルモノハ實ニ玆ニ在リト考ヘザルヲ得マ
  セヌ、此事實カラ考ヘマスト、先以テソレ
  ガ匡救ヲ策スルコトガ急務デアリマス、政府
  ハ今囘ノ追加豫算ニ於キマシテ、臨時町村
  財政補給金二千万圓ヲ計上サレマシタガ、
  而モ一方ニ於キマシテ、尋常小學校費臨時
  補助ニ於テ曩ニ三百万圓、今又九百万圓ヲ
  削ラレテ居リマスカラ、差引僅カ八百万圓
  ガ新ニ地方ニ支給セラレル道理ニナルノデ
  アリマス、勿論是トテモ無キニハ勝リマス
  ガ、是デハ到底當初ノ目的ヲ達シ得ルコト
  ハ困難デアルト考ヘマス、私共ガ地方財政
  補整制度ノ擴充ヲ切望致シマスノモ、其理
  由ノ一ハ實ニ玆ニ在ルノデアリマス、ソレ
  ノミナラズ現在ノ國稅中ニ於キマシテモ、
  改廢ノ結果、寧ロ政府ノ收入ヲ減ズベキモ
  ノガアルベキ筈デアリマス、今日ノ場合、
  廢稅ノ如キハ或ハ不可能カトモ存ジマスガ、
  ソレガ爲ニ我國產業ノ進路ガ擴張サレルコ
  トヲ想ヒマスレバ、ソレモ必シモ考慮スベ
  カラザル筋合デハアルマイト考ヘマス、斯
  ウ云フコトヲ段々ニ考ヘテ參リマスト、今
  日ノ場合假令增稅ヲ致スト致シマシテモ、
  其剩ス所果シテ幾何デアリマセウカ、結局
  赤字額ノ半額ニ達スルコトモ、尙且遠キモ
  ノアリト信ゼザルヲ得マセヌ、然ラバ其餘
  ノ不足ヲ如何ニスルノデアルカ、斯ウ云フ
  コトニナリマスガ、ソレハヤハリ公債ニ俟
  ツノ外ハアルマイト考ヘマス、然ルニ此公
  債ト雖モ自ラ限度ガアルモノデアリマス、
  無限ニ之ヲ繼續スルコトノ出來難イコトハ
  申スマデモアリマセヌ、然ラバ其最後ヲ如
  何ニ爲スベキカ、斯ウ云フコトニナッテ參リ
  マスガ、ソレハ過日豫算總會ニ於テ馬場藏
  相ガ私ニ御答ニナリマシタ如ク、誰ガ考ヘ
  マシテモ、結局我國產業ノ發達ニ依リテ、
  自然增收ノ增進ニ俟ツノ外ハアルマイト考
  ヘルノデアリマス、申スマデモナク我國ハ
  今ヤ世界ニ向ッテ躍進シツヽアリマス、此趨勢
  ハ何處マデモ之ヲ維持致サナクテハナリマセ
  又、否寧ロ益〓其隆昌ナランコトヲ期セネバナ
  リマセヌ、スレバソレニ對スル支出ノ重加ス
  ルコトモ亦、之ヲ否定スル譯ニハ參リマセ
  又、ソレト同時ニ我國ニ於ケル經濟力ノ發
  展ガ益〓大切デアルコトハ、論ヲ要セザル
  所デアルト考ヘマス、如何ニ躍進ヲ欲シマ
  シテモ、之ニ經濟力ガ伴ハヌコトニナリマ
  スレバ、結局最終ノ目的ハ期シ得ラレヌモ
  ノデアルト考ヘマス
  然ラバ如何ニシテ經濟力ノ發展ヲ企圖ス
  ベキデアルカ、國內產業ノ發達ニ俟ツベキ
  モノノアルコトハ、是亦申スマデモアリマセ
  又、然ラバ國內產業ハ如何ニシテ之ヲ發達
  セシムベキカ、斯ウナラナクテハナラヌト
  思フノデアリマス、勿論斯ウナリマスト、
  議論ハ頗ル多岐ニ互ッテ參リマス、併シ大體
  カラ考ヘマシテ、先以テ海外貿易ガ大切デ
  アルコトハ申スマデモアリマセヌ、サウシ
  テソレト同時ニ所謂重西女產業ノ勃興ガ必要
  デアルコトモ亦勿論デアリマス、ソレニ付
  キマシテハ一々玆ニ申述ブル必要モナイ
  ト考ヘマスガ、實ハ此數年來、私共ハ特ニソ
  レニ對スル意見ヲ發表致シマシテ、出來得
  ル限リノ努力ヲ續ケテ參ッタコトヲ自信致
  シテ居リマス、勿論私共ノ力バカリデハア
  リマセヌ、併シ幸ニモ今日ニ於ケル我國貿
  易ノ現狀ハ、先以テ或ル程度ノ順調ヲ保チ
  得テ居ルモノト考へラレマス、油斷ハ固ヨ
  リ出來マセヌ、內政ニ、外交ニ、此上ノ努
  力ヲ要スルコトハ申スマデモアリマセヌガ、
  兎ニ角一通リノ地點ニハ達セルモノト考へ
  テ宜カラウト思ヒマス、ソレカラ近來豫算
  ノ膨脹ニ依リマシテ、我國軍需工業ノ勃興
  シツヽアルコトモ御承知ノ如クデアリマス、
  隨テ此方面ニ於ケル景氣モ亦相當ニ良好デ
  アルト考ヘラレマス、併シ茲ニ考ヘネバナ
  ラヌコトハ、是等產業ノ發展ニ依リテ得ラ
  レツヽアル所ノ利益ガ、果シテドレダケ國
  民ニ均霑サレ得ルカト云フコトデアリマ
  ス、成程貿易ニ依ル利益ニシテモ、重要產
  業又ハ軍需工業ニ依ル利益ニ致シマシテ
  モ、間接ニハ一般國民ノ上ニ及ンデ居ルニ
  相違アリマセヌ、併シ直接ニ其利益ヲ受ク
  ル所ノモノハ、全國民カラ申セバ甚ダ少數
  デアルト考ヘナクテハナリマセヌ(「ヒヤヒ
  ヤ」)大多數ノ國民、卽チ農漁山村ニ於ケル
  國民ノ多數、ソレカラ都會ニ於ケル中小商
  工業者竝ニ勞働者ノ多數ハ、實ハ今尙ホ疲
  弊困憊ノ域ヲ脫スルコトハ出來ナイノデア
  リマス(拍手)否、寧ロ益〓疲弊セントスル
  者ガ決シテ少クナイノデアリマス(「多イノ
  デアリマス」ト呼フ者アリ)是ヲドウスル
  ノカ、是ガ實ハ今日ニ於ケル緊要ナル大問
  題デアルト私共ハ考ヘテ居ルノデアリマス
  (拍手)此大多數ノ國民ガ少クトモ疲弊困憊
  ノ域ヲ脫シ、之ニ經濟力ガ付イテ來ルヤウ
  ニナラナケレバ、到底我國ニ於ケル眞ノ經
  濟力ハ確立シナイト考ヘマス、サウ云フコ
  トカラ考ヘマスト、ソレガ政策ニ要スル少
  少ノ公債ナドハ何デモナイコトニナリマ
  ス、此大多數ノ國民ノ懷ロヲ肥シ、更ニ適
  當ニ收入ガアルヤウニナレバ、必ズヤ政府ノ
  自然增收ハ殖エマス、又增稅ヲヤルニシタ
  所デ比較的ニ容易デ、比較的ニ增收ガアル筋
  合デアルト考ヘマス、私共ガ先ヅ國民ニ與
  ヘ·ロ、然ル後ニ取レト申シマスルノハ實ニ
  是デアリマス(拍手)唯取ルコトバカリ考ヘ
  テ見マシタノデハ國民ハ瘦セマス、ソレデ
  ハ如何ニ稅率ヲ高メタ所デ、一方ニ自然減
  收ガ出來マスノデ、其結果ハ前ニ申シタ如
  ク勘定アッテ錢足ラズニナルト考ヘネバナ
  リマセヌ、此點ハ深ク當局者ノ一考ヲ煩シ
  タイ所デアリマス、ソコデ產業政策ノ問題
  ニナリマスルガ、現内閣ニハ未ダ定ッタソレ
  ガナイト云フコトデアリマス、成程大藏省
  ニハ大藏省、農林省ニハ農林省、商工省ニ
  ハ商工省ト云フヤウニ、ソレ〓〓對策ハ考
  ヘテ居ラレマセウガ、一貫シタル政府ノ大
  方針ト云フモノハ、マダ何モノモナイト申
  シテ宜カラウト考ヘマス(拍手)是ガ洵ニ
  私共ノ遺憾トスル所デアリマス、近來
  世界ニハ統制經濟、計畫經濟ト云フヤウ
  ナコトモ言ハレテ居リマス、勿論是ニモ
  一理ハアリマス、併シ我國ニハ自ラ我國
  ノ國情ガアリマス、直チニ外國デヤッテ居
  ルヤウナコトヲ持ッテ參リマスト云フコト
  ハ、果シテ如何デアリマセウカ、我國ト雖
  モ統制スベキハ固ヨリ統制スベキデアリマ
  ス、併シソレト同時ニ自由ニシテ置イテ宜
  イコトハ、固ヨリ之ヲ自由ニ致スガ宜シイ
  ト考ヘマス、何モ强テ現狀ヲ破壞スルヤウ
  ナコトヲシテマデモ、統制スル必要ハアル
  マイト私ハ考ヘルノデアリマス、要スルニ
  無理ヲスルコトガ結局宜シクナイ、サ
  ウカト云ウテ舊態ヲ墨守シテ居マシタ
  ノデハ躍進ハ出來マセヌ、ソコガ所謂吾々
  ガ常ニ言フ精進スルコトデアリマス、我ガ
  國體ノ本義、日本ノ大精神ニ則ッテ、忍
  耐ト刻苦ガ極メテ大切ナルコトヲ知ラナケ
  レバナラヌノデアリマス、唯急イデ急激ニ
  自己ガ外國カラ受ケタコトヲ、一刻モ早ク
  我國ニ實現シヨウト考ヘルカラ、却テ大ナ
  ル害ヲ生ズルト云フコトヲ考ヘナケレバナ
  ラヌ、我ガ日本ノ人ハ開闢以來一貫シテ居
  リマス所ノ我國ノ大精神ニ依リマシテ、飽
  マデ忍耐刻苦シテ行カナケレバナラヌ、我
  國ハ昔カラ決シテ鎖國デハアリマセヌ、盛
  ニ外國ノ文化ヲ入レテ居リマス、併ナガラ
  外國カラ入ッテ來ル文化ハ、必ズ我ガ大日本
  帝國ノ大精神ニ統合スルモノデナクテハナ
  リマセヌ、卽チ吾々ハ一口ニ言ヘバ、外國
  文化ヲ日本化スルノガ宜シイ、日本ノ文化
  ヲ外國化シヨウト企テル者ハ大ナル誤リデ
  アルト考ヘマス(拍手)殊ニ我國ノ農村ハ恐
  ラクハ世界ニ於テ比類ノ少イ組織ニナッテ
  居ルト思ヒマス、之ヲ一朝ニシテ變革スル
  ガ如キコトハ出來得ルモノデハアリマセヌ、
  我國ノ農村ハ我國ノ農村トシテ何處マデモ
  固有ノ美風ヲ發揮シ、ソレニ依リテ世界獨
  特ノ發達ヲナサシムルコトモ、亦決シテ不
  可能デハナイト考ヘマス(拍手)私ノ卑見ヲ
  以テ致シマスレバ、我國ノ農村ハ全ク歐米
  ノソレト趣キヲ異ニ致シマスルガ如ク、寧
  ロ其ヤリ方ノ裏ヲ行ク方法ガ適切デハナイ
  カト考ヘテ居ルノデアリマス、歐米ノ工業
  ガ大資本ノ力ニ依リマシテ偏ニ機械力ヲ集
  中シ、出來得ル限リ人工ヲ省キマシテ、生
  產品ノ單價ヲ下ゲシメントスルノニ反シ、
  我國ニ於テハ寧ロ出來得ルモノニ付テ之ヲ
  部分化シ、以テソレヲ農村ニ於ケル餘剩能
  力ト相結合セシムルコトガ、極メテ時宜ニ
  適シテ居ルモノト考へテ居ルノデアリマス
  (拍手)今日既ニ其方法ニ依リマシテ相當ノ
  效果ヲ收メツヽアル例ハ決シテ少クアリマ
  セヌ、現ニ大河內博士等ノ經營シテ居ラレマ
  ス財團ガ、越後ニ於テ致シテ居リマスル農村
  ノ餘剩能力利用、卽チㄱピストン·リング」
  ノ製造工業ハ確ニ成功致シテ居ルト考ヘマ
  ス、又同ジ越後ノ燕町ニ於テ行ハレテ居リ
  マス西洋食器ノ製造ノ如キモソレデアリマ
  ス、而モ其製品ノ大部分ハ外國ニ輸出致サ
  レマシテ、歐米ノ製品ニ對抗シ得テ居ルノ
  デアリマス、ソレカラ私ノ〓里デアリマス
  豐橋市ニ、俗ニ達磨製絲ト稱スル製絲工業
  ガアリマスガ、是ハ全然家庭工業デアリマ
  シテ、現ニ千戶以上ノ家庭ガソレニ從事致
  シテ居リマス、是ナドモ全ク一種ノ家庭
  工業デアリマシテ、農村又ハ勞働者等ノ家
  庭ニ於ケル餘剩勞力ヲ利用セルモノデアリ
  マン、又御承知ノ甲州ニ於ケル郡内、彼處
  ノ家庭工業デアリマシタ甲斐絹ハ、御承知
  ノ通リ先年來非常ニ賣行ガ減ジマシテ、
  時ハ疲弊ノ情勢ニアリマシタ、然ルニ今日
  デハソレガ在來ノ技能ヲ利用シテ、廣中物
  又ハ朱子ヲ織ルコトニナッテ居リマス、諸君
  ガ谷村カラ富士山麓ノ吉田へ御出デニナリ
  マスレバ、沿道ノ農家デハ盛ニソレヲヤッ
  テ居リマス、實ハ小サナ農家ニ大キナ機織リ
  ノ機械ヲ据付ケマシテ、家族ノ者ガ寢ル所
  モナイ程ノ有樣ニナッテ居リマス、サウシテ
  此製品ハ滿洲へ輸出サレルト云フコトデア
  リマスガ、近頃ハ大分ニ此地方ノ經濟ガ安
  定シテ居ルコトハ事實デアリマス、斯ウ云
  フ實情ハ全國到ル處ニ見ラレマスガ、併シ
  是ニモ中々競爭ガ起リマス、燕ノ工場ガ盛
  ニナッタト云ヘバ、直チニ其眞似ヲスルモノ
  ガ出來マス、是デハ共倒レニナラナクテハ
  ナリマセヌ、ソレニハヤハリ或ル統制ガ必
  要トセラルヽコトニモナリマス、併シソレ
  ニハ一面ニ於テ親切ニ國家ハ其世話ヲシテ
  ヤラナクテハナリマセヌ、唯統制バカリヤッ
  テ生產者ヲ苦シメルヤウナコトヲ致シマシ
  タノデハ、是ハ仕事ハ成功ヲ致シマセヌ、
  何處マデモ親切ニ其世話ヲシテ、統制ヲナ
  スト同時ニ、其發達ヲ助成シテヤルコトヲ
  努メナクテハナリマセヌ(拍手)感心ナコト
  ニ燕町ニハ、ソレガ爲ニ新潟縣カラ專門ノ
  技師ガ一人始終其組合事務所ニ出張致シテ
  居リマス、サウシテ全ク組合員ノ如クニ相
  成リマシテ指導シテ居リマスガ、私ハ最初
  此人ニ會ヒマシタ時、全ク組合員ダト思ッ
  タノデアリマス、元來農村ニ最モ重要ナノ
  ハ、何ト申シマシテモ米ト繭トデアリマス、
  之ニ對シマシテ適當ノ政策ヲ必要トスルコ
  トハ、最早申スマデモアリマセヌ、併シ如
  何ナル政策ヲ立テルト致シマシテモ、米へ
  一面ニ於テ國民ノ生活上大切ナル食糧品デ
  アリマス、隨テ其價格ガ容易ニ生產者ノ思
  フヤウナ所マデ上ルコトノ出來ナイ事情ガ
  アリマス、又繭ニ致シマシテモ、其過半ハ
  生絲トナリマシテ米國ニ賣行クノデアリマ
  ス、隨テ米國ノ相場ガ上リマセヌ限リハ
  到底昔ノヤウナ値段ニハナリマスマイ、而
  モ農村ノ生活程度ハ相當ニ高マッテ居リマ
  ス、此時世ニ促サレマシテ、高マリマシタ
  所ノ生活程度ト云フモノハ、何ト申シマシ
  タ所デ容易ニ下ゲ得ラレルモノデハアリ
  マセヌ、ソコヲ能ク考ヘテヤラナケレバナ
  ラヌト思ヒマス
  今日產業組合ト反產運動トノ間ニ、如何
  ニモ憂慮スベキ狀態ガアルト思ヒマス、併
  シ是モ歸スル所ハ、農民ニセヨ、中小商工
  業者ニセヨ、其生活ニ困難ヲ感ズルノ結果
  ガ玆ニ至ルモノデアルト考ヘラレマス、懷
  ロガ裕カニナッテ、オ互ノ收入ガ殖エテ參リ
  マスレバ、コンナ對抗ハ自然ニ下火ニナル
  ベキ道理デアラウト思ハレマス、唯我國ノ
  農村ハ國民ノ過半數デアル農民ヲ包容シテ、
  極メテ大切ナモノデハアリマスガ、其仕事
  ガ極メテ細カイモノデアッテ、其上地方々々
  ニ依ッテ事情ニ相違ガアリマス、隨テ極メテ
  區々デアッテ、極メテ面倒デアリマス、中一
  ハ立法行爲ニ依リマシテ一般ニ及ボシ得ル
  所ノモノモアリマセウガ、偖テソレヲ實際
  ニ當嵌メテ見マスルト、前ニモ申シマシタ
  如ク、我國ニ於ケル農村ハ獨特ノ發達ヲ爲
  シ來ッタ歷史ガアリマスノデ、所謂千篇一律
  デハ旨ク參ラナイ事情モ少ナカラズ存在シ
  テ居ルノデアリマス、隨テ何ヲヤルニ致シ
  マシテモ、農村ノコトハ何處迄モ其事情ニ
  卽シテ、細カク世話ヲスル覺悟ガ大切デア
  ルト考ヘラレマス(拍手)此處ガ貿易ヤ重要
  產業ト少シク趣ヲ異ニスル獨特ノ點デアル
  ト私ハ考ヘテ居リマス、例ヘバ少シ世話ヲ致
  シマスレバ、マダ〓〓農產物モ有利ナモノ
  ガアルト思ヒマス、近來我國ハ每年棉花ヲ
  七億圓バカリヅヽ外國カラ輸入致シテ居リ
  やく、又羊毛ニ致シマシテモ、每年二億圓
  內外ヲ輸入シテ居リマス、然ラバソレガ我
  國デ出來ヌカト申シマスト、決シテサウデ
  ハアリマセヌ、在來ノ如キ綿ノ種デハ到底
  望ミハアリマセヌガ、今日印度、米國「メキ
  シコ」ナドノ種ヲ持ッテ參リマスレバ、十分ニ
  成功致ス見込ガ立ッテ居ルノデアリマス、尤
  モ米國ハ旣ニ綿ノ種ノ輸出ヲ禁止致シテ居ル
  ト承ッテ居リマスガ、印度カラデモ「メキ
  シコ」カラデモ、マダ輸入ハ出來ルト考ヘラ
  レマス、ソレカラ羊毛ニ致シマシテモサウ
  デアリマス、北海道ニシテモ、東北地方、
  殊ニ福島縣ナドハ大分ニ發達シテ參ッタヤ
  ウニ思ハレマス、併シ農村ニハ假令良イ事
  ダト思ヒマシテモ、ソレヲ押切ッテ企テル力
  ガアリマセヌ、又及ビ腰デ下手ナコトヲ致
  シマスレバ、損ヲ致スニ決ッテ居ルノデアリ
  ママ、コヽガ國ノ力デ指導ヲ要スル所デア
  ルト考ヘザルヲ得マセヌ、斯ク申シマスト、
  サウ云フコトデ農村ヲ發達セシムル結果、
  偶、以テ都會ノ勞働者ヲ壓迫スルニ至リハ
  セヌカト云フ議論モ出マス、併シ私ハソレ
  程ニハ考ヘマセヌ、今日都會ニ行ハレテ居
  リマスヤウナ所謂重要產業ハ、到底之ヲ
  部分的工業ニ分割シテ、農村ノ家庭的工業
  ニ移スヤウナコトハ出來難イノデアリマス、
  部分工業ト爲シ得ルヤウナモノハ、自ラ其
  種類ガ異ッテ居ルト思ヒマス、先刻申シマシ
  タ大河內博士ノ經營シテ居ラレル「ピスト
  ン·リング」ノ如キハ、謂ハヾ精密工業ノ一
  部ニ屬スルモノト言ッテモ宜イノデアリマ
  セウガ、斯ウ云フ種類ノモノハマダ〓〓發
  展ノ餘地ハ大分ニアルヤウニ考ヘマス、現
  ニ我國ガ昭和八年中ニ外國ヘ輸出シマシタ
  機械及ビ部分品ハ、僅ニ二千五百万圓バカ
  リデアリマシタガ、ソレガ昭和九年ニハ五
  千七百餘万圓トナリ、昭和十年ニハ實ニ六
  千三百餘万圓トナッテ居リマス、是等ハマダ
  マダ我國ニハ發達ノ餘地ガアルコトト考ヘ
  マス
  尙ホ農村ニ必要ナル應急策トシテ、負債
  整理ノ大切デアルコトハ申ス迄モアリマセ
  ヌ、現ニ行ハレテ居リマス負債整理法ニハ、
  時宜ニ應ジテ尙ホ大ニ改善スベキモノガア
  ルト思ヒマス、政府ハ宜シクソレガ實現ニ
  努力サルベキデアルト考ヘザルヲ得マセヌ、
  要スルニ我國現時ノ產業政策ト致シマシテ
  ハ、貿易ニ對スルコト、重要產業ニ對スルコ
  ト、是ハ依然トシテ大切デアリマスガ、一面ニ
  於テ農村ニ對スルモノニ於テ、最モ當面ノ急務
  タルコトヲ信ズルノデアリマス、サウシテ中小
  商工業者トノ間ノ調和ガ極メテ大切デアル
  コトヲ痛感致シマス、政府デハ動トモスルト
  官吏ノ數ヲ殖ヤスコトヲ致シマス、今度ノ豫
  算ニ於キマシテモ、ソレガ實ニ著シク眼ニ映ズ
  ルノデアリマス、併シ其結果唯事ガ面倒ニナツ
  テ、其割ニ實績ノ擧ラヌコトガ多イヤウニ感ゼ
  ラレマス、先刻モ申ス如ク、統制モ必要デアレ
  バ、ソレモ宜シイ、併シ事ガ面倒ニナルバカリ
  デ、國民ノ利益ガ增進セヌヤウナコトガアリ
  マシテハ、何ノ役ニモ立タヌ譯デアリマス、
  繭ヤ生絲ナドニ付キマシテモ、ヤハリ統制
  ヲ必要トサレテ參リマシタガ、私ニ言ハセ
  マスレバソレト同時ニ假令値段ハ安クト
  モ、繭ナリ生絲ナリノ賣レテ行クコトニ努
  力シテ貰ハネバナラナイト考ヘマス(拍手)
  賣レヌカラト云フノデ、直チニ生產制限ヲ
  セヨト云フヤウナコトデハ、果シテ如何デ
  アリマセウカ、ソレモ巳ムヲ得ヌトシタナ
  ラバ、ソレト同時ニ賣レルコトヲモ考ヘラ
  レネバナラヌ筈ダト思ヒマス、私ハ多年ノ
  主張デアリマスガ、生絲ノ賣行ヲ大ナラシ
  メマスル一方法ト致シマシテハ、人造絹絲
  ト生絲トノ混織ヲ容易ナラシメ、海外ニ輸
  出セシムルコトニアルト深ク考ヘテ居リマ
  ス、ソレニハ何ト申シマシテモ、織物稅ノ
  廢止ガ極メテ必要デアルト考ヘマス(拍手)
  此增稅ノ場合ニ廢稅ハ如何デアルカトハ考
  ヘマスガ、是モ產業政策上重要ナコトデア
  リマスカラ、政府ノ御一考ヲ煩ハシタク考
  ヘル次第デアリマス、更ニ考ヘネバナリマ
  セヌノハ、軍需工業ト農村竝ニ一般工業ト
  ノ關係デアリマス、時間ガアリマセヌカラ
  私ハ端的ニ申シマスガ、軍需工業ノ與フル
  利益ヲ、廣ク國民ノ間ニ分配スルニ足ルベ
  キ政策ガ、痛切ニ行ハレネバナラナイト考
  ヘマス、申スマデモナク今日ノ軍事費ハ一
  般會計總豫算額ノ半バニモ達セントシテ居
  リマス、隨テソレト我國ノ農村竝ニ一般工
  業トノ間ニ密接ノ關係ガ保タレマセヌケレ
  バ、恐ラクハ其持續ハ遂ニ困難ニ陷ラネバ
  ナラナイト考ヘザルヲ得マセヌ、政府ハ深
  ク是ニ思ヲ致スノガ最モ緊要デアラウト考
  ヘルノデアリマス
  終リニイマ一ツ申述べタイコトハ災害豫
  防ニ關スル問題デアリマス、一昨年以來不
  幸ニシテ我國ニハ災害ガ多ク起リマシテ、ソ
  レガ救濟費ハ實ニ少カラヌコトデアルト考
  ヘマス、現ニ東北ノ雪害ナドハ如何ニモ稀有
  ノコトデ、政府ハ之ニ對シマシテ速ニ救濟
  ノ必要アルコトヲ認メマス(拍手)併シ玆ニ
  尙ホ考ヲ要シマスルコトハ、災害ノ豫防デ
  デアリマス、只今申シマシタ雪ノ如キハ、
  或ハ豫防ハ困難デアルカトモ考ヘラレマス
  ガ、水害ノ如キハ明ニソレガ出來ルノデア
  リマス(拍手)現ニ今度ノ豫算中ニ常願寺川
  ノ改修費ガ出テ居リマスガ、是ナドモモット
  早ク出來テ居リマスレバ、一昨年ノ如キ大
  水害ハ免レテ居ッタ譯デアリマス、アノ時ノ
  水害ノ如キハ、明ニ改修ノ出來テ居リマシ
  タ神通川ハ水害ヲ免レマシテ、改修ノ出來
  テ居ナカッタ直グ隣ノ常願寺川ガ、アノ大
  水害ヲ被ッタノデアリマス、サウ考ヘマス
  ト、治水ヲ怠ルト云フコトハ實ニ恐ロシイ
  コトデ、國家ノ損害是ヨリ大ナルハナシト
  申シテ宜カラウト思ヒマス(拍手)然ルニ內
  務省デハ之ヲ決メマシテ、費用ヲ大藏省ニ要
  求ヲ致シマシテモ、大藏省ガ所謂健全財政
  主義デ、之ヲ削除致シマシタ例ハ極メテ少
  クアリマセヌ、現政府ハ深ク玆ニ思ヲ致シ
  マシテ、斯ノ如キ國家重大ナル經濟ニ關シ
  マスコトハ、相當ノ程度マデハ費用ヲ吝マ
  ズ支出サレルノガ當然デアルト考ヘザルヲ
  得マセヌ、大分ニ長クナリマシタガ、併シ
  以上述ベマシタ所ハ、希望條件ニ對スル說
  明ノ一部分デアルト御承知ヲ願ヒタイノデ
  アリマス(拍手)
  是レ以上述ベマスコトハ時間モ掛リマス
  ノデ、他ノ機會ニ讓リタク思ヒマスガ、唯
  一ツ茲ニ附加ヘテ置キタイノハ、所謂財政
  計畫ニ關スルコトデアリマス、實ハソレニ
  付キマシテハ、既ニ馬場藏相モ其大切ナル
  コトト、近キ將來ニ於テソレガ實現ヲ期ス
  ベキコトヲ言明サレテ居ラレルノデアリマ
  ス、併シソレガ果シテ如何ナル所ニ重點ヲ
  置カレルノカ、ソレモマダ政府ニハ定見ガ
  ナイヤウデアリマス、勿論ソレニ付テハ先
  以テ歲出ノ見透シ、例ヘバ軍事費ノ如
  キ、產業費ノ如キ、此見透シガ付ケラレネ
  バナラヌ筈デアリマスガ、私共ガ殊ニ玆ニ
  力說シタク考ヘマスノハ、須ラク國民ノ經
  濟力其モノニ立脚シテ、將來ニ於ケル財政
  的實力如何ヲ確認シテ掛ルコトガ、大
  切デアラウト考ヘルノデアリマス(拍手)
  財政ノ健全ナランコトハ誰モ望ム所デア
  リマス、唯私共當面ノ收支計算ニ沒頭
  致シマシテ、目前ノ辻褄ヲ合セルコト
  ヲ以テ能事終レリトスルガ如キ所謂健
  全財政ニハ、容易ク贊成ガ出來ナイノデア
  リマス(拍手)少クモ思ヒヲ幾年ノ外ニ馳セ、
  功ヲ十年ノ後ニ收メル所ノ考ガナクテハナ
  ラヌト思ヒマス(拍手)ソレガ爲ニハ先以テ
  經濟力其モノノ基礎ニ立脚シタル、所謂財
  政的見透シガ緊要デアルト考ヘマス、サウ
  シテ少クモソレガ基調トナッテ、每年度ノ豫
  算ガ編成サレネバナラヌモノデアルト考ヘ
  ザルヲ得マセヌ、是ダケヲ申シテ置キマス
  要スルニ私共ハ昭和十一年度ノ豫算ニ對
  シマシテハ、甚ダ不滿足ノ點カアルト思ヒ
  マスガ、併シ其大部分ハ旣ニ憲法第七十一
  條ノ規定ニ則リマシテ實行豫算ト相成ッテ
  居リマス、ソコデ今度ノ追加豫算ニ致シマ
  シテモ、私共ノ權限トシテ削除ハ出來マス
  ガ、增加ハ出來マセヌ、私共ハ前ニモ申ス
  如ク現內閣ノ言明ヲ姑ク信ジマス、サウシ
  テ此追加豫算ニ計上セラレタルモノハ必要
  ト認メラレマスカラ贊成致シタ次第デアリ
  マス、願クバ政府ニ於カレマシテモ、篤ト
  私共ノ希望ノ點ヲ理解致サレマシテ、自ラ
  其聲明ヲ實行致サレマスト同時ニ、私共ノ
  希望ニ對シテモ、是ガ實現ヲ期セラレンコ
  トヲ切望シテ已マザル次第デアリマス(拍
  手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=81

  ---

• 082・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　風見章君
  〔風見章君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=82

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• 083・風見章

  ○風見章君　本豫算ニ關スル反對ノ理由ヲ
  開陳致シマス、廣田內閣存在ノ意義乃至値
  打、之ニ關スル私共ノ考ヘ方ヲ明ニスル、
  廣田內閣ハ自ラ擧國一致ヲ標榜シテ立ッタノ
  デアリマスガ、組閣ノ當時ニ於テハ、議會ニ絕
  對多數ノ議席ヲ有ツ、政友會、民政黨、昭和
  倶樂部ト共ニ立ツカノ如キ傾向ニ見エテ居ッ
  タ、然ルニ其後ニ於ケル經過ヲ見ルニ付ケ、
  殊ニ此議會ニ於テ、政友會、民政黨等ノ此
  內閣ニ對スル態度、竝ニ言論ヲ聽イテ居リ
  マスルト、與黨デアルカノ如ク、ナキガ如
  ク、廣田內閣カラ言ヘバ與黨ニナッテ貰ッテ
  居ルカノ如ク、ナッテ居ラナイカノ如ク、甚
  シク不徹底ナル態度デアルコトハ、吾々國
  民ヲシテ、政黨ト現內閣トノ關係ハ、正
  腐レ緣以外ノ何物デモナイ(拍手)斯ノ如キ
  印象ヲ與ヘシメ、隨テ正ニ擬裝擧國一致內
  閣ナリト斷定サレマシテモ、廣田內閣ハ一
  言半句辯解ノ言葉ハアルマイト思フ、斯ノ
  如キ政府ノ存在ハ、正ニ政局ヲ明朗ナラザ
  ラシムルコト甚シキモノガアル、國民ハ政
  局ノ明朗化ヲ望ンデ居ルニ拘ラズ、隨テ此
  內閣ハ、此意味ニ於テ國民ノ要望ニ逆行ス
  ルモノデアル、隨テ斯ノ如キ內閣ノ存在ハ、
  國家ニ取リ有害デアリト雖モ、チットモ利益
  ハナイ、是ガ私共ガ此廣田內閣ニ對スル其
  存在ノ意義、竝ニ價値ニ關スル最後ノ批判
  デアリマス(拍手)斯ノ如キ無力無能、而シ
  テ不徹底ナル內閣ノ下、斯ウ云フヤウナ何
  ガ何ダカ分ラナイヤウナ存在デアル內閣
  (笑聲「謹聽々々」ト呼フ者アリ)コンナ內閣
  ノ下デ政友會、民政黨ノ諸君ハ、其爲スコ
  トヲ一年間待ッテ見ヨウト斯ウ言フ、コンナ
  內閣ノ下デ一年間待テルヤウナ時局デアル
  カナイカ、二·二六事件ニ依ル深刻ナル刺
  戟此刺戟ガ此廣田內閣ヲシテ所謂庶政一
  新ノ掛聲ヲ爲サシメタ、先般ノ有難キ御詔
  書ニ對シ、廣田內閣モ恐懼シタニ相違ナイ
  ガ、政友會、民政黨ノ諸君モ、此特別議會
  ニ於テ庶政一新ニ關スル決議案ヲ出サウデ
  ハナイカ、斯ウマデナッテ居ル、隨テ又國民
  全體ハ今日所謂庶政一新ノ具體案ノ示サル
  ルコトヲ待ツヤ、將ニ早天ノ雲霓ヲ望ムノ
  〓ガアル、斯ノ如ク國民ハソレヲ待チニ待ッ
  テ居ル時ニ、政友會、民政黨竝ニ昭和倶樂
  部ノ與黨諸君ハ、此內閣ニケチヲ付ケナガ
  ラ、腐レ緣以外ニ何物デモナイヤウナ態度
  ヲ持シナガラ、一年間待タウト言フ、是ガ果
  シテ國民ノ期待ニ副フ所以デアルカ(拍手)此
  內閣ハ此一事ヲ考ヘマシテモ、當ニ今日國民ノ
  間ニ怒濤ノ如ク渦卷キ起リツヽアル、革新ヲ
  要望スル此國民ノ心臟ノ鼓動ト何處ニ脈膊ヲ
  同ジウスルカ、チットモ同ジクシテ居リハシナイ、
  私ハ斯ノ如キ情勢ヲ考へル時ニ、斯ノ如キ
  有樣デアルコトヲ思フ時ニ、此結果何處ニ
  至ルカヲ思ヒ、衷心寧ロ戰慄ヲ禁ズル能ハ
  ザルモノガアル
  今ヤ肅軍ハ最モ重大ナル事柄トシテ、國
  民之ニ注目シ、議會モ之ヲ問題ニスルノデ
  アリマスルガ、肅軍ノ主觀的ナル意圖ガ、
  ドレ程强カラウトモ、玆ニ革新ニ關スル具
  體策ヲ一日モ早タ明ニシテ、國民ヲシテ其
  趨ク所ヲ知ラスルニアラズンバ、私ハ結局
  此肅軍ニ缺クベカラザル客觀的條件ヲ不備
  ナラシムルコトニ依リ、折角ノ肅軍ノ企圖
  ガ其效果ヲ發揮スルコトニ非常ナ困難ヲ感
  ズルヲ思フ時ニ、誰カ國民ニシテ戰慄ヲ禁
  ズル能ハザルモノガアルカ
  先程政友會ノ大口喜六君ハ、此內閣ノ產
  業政策ニ關シ、何モ見ルベキモノナシト斷
  定サレタ、洵ニソレハ其通リデアル、產業
  政策ガ見ルベキモノナクシテ、ドウシテ一
  體財政政策ガ立ツカ、產業政策ガ旣ニ見ル
  ベキモノガナイナラバ、此內閣ニ勿論財政
  計畫ガアル譯ハナイ、私ハ若シ此內閣ニ假
  令曲リナリニナリ、若クハ間違ッテ居ルニ
  セヨ、一ツノ一貫シタル財政ノ方針、隨テ
  之ヲ基礎ヅケル一貫シタル產業方針ガアル
  ナラバ、此產業方針竝ニ財政方針ニ關シ、
  徹底シタル批判ヲ試ミテ此內閣ニ反對ノ、
  豫算ニ反對ノ意ヲ明ニシタイノダガ、第
  「ゼロ」ナンダ「ゼロ」ノ產業政策ヲドウシテ
  批判ガ出來ルカ、隨テ「ゼロ」ノ財政計畫ナ
  ンダ、旣ニ批判ノ餘地スラナイノデアル、
  斯ノ如キ狀態デアリマスルケレドモ、併ナ
  ガラ今日內外ノ情勢ヲ考ヘル時ニ、國防ノ
  費用ノ如キ本當ニ大切ナノダ、或ハ水害若
  クハ霜害ニ關スル應急ノ施設、或ハ東北振
  興ニ關スル經費、若クハ沖繩振興ニ關スル
  經費、或ハ例ヘバ左澤、荒砥線デアルトカ、
  楯岡、寒河江間ノ鐵道等々々ノ交通政策ノ
  實現、勿論是等種々ノ今直グニヤッテ貰ハ
  ナクテハナラナイヤウナモノガアルケレド
  モ、是等ノモノト雖モ全日本ノ一貫シタル
  產業政策、財政計畫ノ一部トシテ、之ヲ實
  現スルニアラザレバ、果シテ十分ニ其效果
  ヲ擧ゲ得ルカハ甚シク疑ハシイ
  殊ニ國防費ノコトニ關シ、勿論之ニ關シ
  テハ徹底シタル、又一貫シタル東亞政策ノ
  確立ガナクテハナラナイ、然ルニ先般私ガ
  豫算分科會ニ於テ外務大臣ト僅ノ時間デア
  リマシタガ、東洋ニ於ケル政局ノ根本ヲ成
  ス農業問題ノ推移ニ關シテ意見ヲ交換セン
  トシタ時、外務大臣ハ知ラナイカ知ッテ居
  ルカ、或ハ示スコトヲ憚ルカ、此問題ニ關
  シテ明カナル意見ヲ吐カナカッタ、私ハ恐ラ
  ク知ラナカッタノデハナイカト思フ、農業問
  題ヲ知ラズシテ、今日ノ北支那問題ヲ考へ
  ラレルカ、農業問題ヲ知ラズシテ今日ノ支
  那ノ政局ヲ語リ得ルカ、隨テ斯ノ如キヤウ
  ナ狀態デアッテハ、本當ニ足ガ地ニ著イタ
  外交方針ハアリ得ナイコトダ、一貫シタル
  外交方針ガ立ッテ、其處ニ十分ナル國防費
  ガアッテ、初メテ此國防費ガ役ニ立ツコト
  ハ申ス迄モナイ、然ルニサウ云フヤウナ傾
  向竝ニ方針ハ、何處ニモ發見出來ナイ、吾
  吾ガ東京カラ現ニ或ハ滿洲、北支那ニ向ッテ
  出テ行ク兵隊サンノ姿ヲ見ルニ付ケ、吾々
  ハ本當ニ十分ナル國防費、同時ニ又本當ノ
  純一無雜ナル正シキ政治ノ實現ヲ希望セザ
  ルヲ得ナイガ、之ヲ希望スレバスルニ付ケ、
  之ヲ切望スレバスル程、斯ノ如キ無方針、
  斯ノ如キ認識ナキ內閣、是ガ唯宜イ加減ニ
  必要ナル經費ト言ッテ、斷片的ニ列ベ立テ
  タニ過ギナイ經費ニ關シマシテハ、吾々ハ
  其實際的ノ效果ヲ果シテ十分ニ現ハスヤ否
  ヤヲ疑ハザルヲ得ナイ(拍手)
  〔發言スル者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=83

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• 084・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

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• 085・風見章

  ○風見章君(續)　先程政友會ノ大口喜六君
  ノ言說ヲ聽イテ居リマスルト、洵ニ我國農
  村ニモ獨特ナル特色ガアル、斯ウ云フ御議
  論ガアッタ、其獨特ナルモノノ內容如何、之ニ
  付テハ聽クヲ得マセヌデシタカラ、私モ内
  容カラ考ヘテ果シテ大口君ノ考ヘ方ニ贊成
  出來ルカ出來ナイカハ明言出來マセヌガ、
  確ニ獨特ノモノアルコトニ關シテハ、私モ
  是ハ認メル、私ノ聽イタ所ガ間違ヒナケレ
  バ是等ノ農民ハ洵ニ辛抱力ガ宜イ、斯ウ云
  フ事實ヲ指摘サレタト私ハ聽イタノデアリ
  マスルガ、全ク今日マデノ農民ハ實ニ辛抱
  强カッタ、誰カノ歌ノ文句デハナイガ「田ヲ作
  リ蠶ヲ飼ヒテ老イニケリ、尊クモアルカコノ
  年寄ハ」斯ノ如キ農民ニ依ッテ日本ノ農村ハ
  滿タサレテ居ル、併シ斯ノ如キ純一無雜ナ
  ル氣持ハ、謂ハバ神ノ如キ存在ナノダ、併
  ナガラドレ程斯ウ云フヤウナ氣持デ居ッタ
  所ガ、コンナ下ラナイ豫算ノ下ニ此豫算ガ
  實行サレヽバ、ドレ程言葉ノ上ニ於テ色々
  ノ辯解ハシマシテモ、結局此厖大ナル豫算
  ハ勤勞國民大衆ガ脊負フ以外ニ、誰ガ一體
  脊負フンダ、隨テ幾多美シイ言葉ハ列ベマス
  ルガ、ドンナニ美シイ言葉ニ依ッテ繭著シヨ
  ウトシマシテモ、斯ウ云フ豫算ノ壓力ガ大
  衆ノ肩ニ脊負ハセラレル時、此純一無雜ニシ
  テ忍耐力ノ强イ農民ダッテ、何時マデ辛抱出
  來ルカ(拍手)斯ノ如キ純眞ナル農民ヲ怒ラ
  シタ時ニハ、私ハソコニ正ニ戰慄スベキ世
  ノ中ノ狀態ガ實現スルコトヲ思ウテ、自ラ
  脊中ニ冷汗ノ流ルヽ思ヒナキヲ得ナイ
  私ハ斯樣ニ考ヘ來ッテ廣田內閣竝ニ此與
  黨ノ諸君ハ現在ノ内外ノ情勢ヲ再檢討シ、
  之ヲ再吟味シ、今ノ如ク援クルガ如ク援ケ
  ザルガ如ク、援ケラルヽガ如ク援ケラレザ
  ルガ如キ內閣トノ關係ヲ〓算シ、廣田內閣
  モ、之ヲヲ援ケル政友會、民政黨、昭和會
  諸君モ、度性骨ヲ叩キ直シ魂ヲ入レ替ヘテ、
  速ニ國民ガ一日モ早カレト希望スル庶政一
  新ニ關スル具體案ヲ打立テヽ、此案ヲ議會
  ヲ通シテ國民ト共ニ實行スルノ實ヲ擧グル
  爲メ、速ニ臨時議會ノ召集ヲ奏請シテ其途
  ヲ開クコトガ、私ハ廣田內閣トシテモ、其
  與黨トシテモ、正ニ國民ニ負フ所ノ當然ノ
  政治ノ責任ナリト斷定シタイ(拍手)洵ニ內
  外ノ情勢カラ申シマスレバ、東北振興費ノ
  如キ、或ハ雪害ニ關スル對策ノ如キ、東北
  沖繩振興費ノ如キ、或ハ水害ニ對スル對策ノ
  如キ、幾多重要ナル案件ガアリマスケレド
  モ、吾々ハ斯ウ云フ施設ノ一日モ早ク實效
  ノ擧ランコトヲ希望スルニ付ケ、全日本ノ
  本當ノ庶政一新ノ爲ノ政策ノ一部分トシテ
  組直シテ、サウシテ國民ニ見ユルコトガ正
  ニ當然ノ行キ方ナリト考ヘルノデアリマス
  ルカラ、ソコデ此豫算ニハ吾々ハドウシテ
  モ贊成出來ナイノダ、此意思ヲ開陳シテ、
  私ノ反對論ヲ終ルコトニ致シマス(拍手)

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• 086・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　森肇君

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• 087・森肇

  ○森肇君　簡單デスカラ此自席カラ御許ヲ
  願ヒマス

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• 088・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　登壇ヲ願ヒマス
  〔森肇君登壇〕

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• 089・森肇

  ○森肇君　贊成反對共ニ旣ニ意見ハ他ノ同
  僚諸君ニ依ッテ述ベ盡サレタト思ヒマス、デ
  私ハ玆ニ意見ノ一切ヲ述ブルコトヲ省略致
  シマシテ、昭和十一年度ノ豫算追加ノ各案
  ニ對シテ、贊成ノ意思ヲ表明スル者デアリ
  マス(拍手)

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• 090・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　是ニテ討論ハ終局
  致シマシタ、採決致シマス、只今議題トナッ
  テ居リマスル七案ノ委員長報告ハ孰レモ可
  決デアリマス、七案ノ委員長報告ニ贊成ノ
  諸君ノ起立ヲ求メマス
  〔贊成者起立〕
  〔「贊成」「反對」ト呼フ者アリ〕

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• 091・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　起立者多數(拍手
  起ル)仍テ七案ハ孰レモ委員長報告通リ可
  決確定致シマシタ(拍手起ル)
  此際一言致シマス、先刻ノ加藤勘十君ノ
  質疑中、揭載禁止ノ事項ニ關スル點ガアッ
  タヤウニ思ヒマス、議長ハ取調ノ上右ノ點
  ガアリマシタナラバ、先例ニ依リ速記錄ニ
  ハ之ヲ揭載致シマセヌ、又杉浦武雄君ノ討
  論中、委員會ニ於ケル祕密會ノ質疑應答ニ涉
  レル點ガアリト認メマス、是ハ速記錄ヨリ
  削除スルコトニ致シマス、尙ホ追ッテ取調ノ
  上、議長ニ於テ適當ノ處置ヲ執ルコトヽ致
  シマス(拍手)

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• 092・松永東

  ○松永東君　殘餘ノ日程ヲ延期シ、明後十
  八日定刻ヨリ特ニ本會議ヲ開クコトヽナ
  シ、本日ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミ
  マス

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• 093・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006913242X01019360516&spkNum=93

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• 094・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  やく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ
  日程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ
  是ニテ散會致シマス
  午後八時五十四分散會
  衆議院議事速記錄第九號中正誤
  頁段行誤正
  二二六四八○議長(富田○副議長(岡
  幸次郞君)田忠彥君)
  二二六四二四○議長(富田○副議長(岡
  幸次郞君)田忠彥君)
  一九七頁一段一三行ノ次ニ左ノ四行ヲ加フ
  一去十一日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
  米穀自治管理法案(政府提出)外二件委員
  辭任大石大君補闕野中徹也君
  辭任伊藤武七郞君補闕中村梅吉君
  一九七頁一段ノ一七行及一八行ヲ削ル

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