1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月五日(金曜日)午前十時十八分開議
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議事日程 第十三號
昭和十二年三月五日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第十日)
第二 百貨店法案(政府提出) 第一讀會
第三 北海道舊土人保護法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 刑事訴訟法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 外國裁判所の囑託に因る共助法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=0
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001・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 報〓ヲ致サセマ
ス
〔角倉書記官朗讀〕
一昨三日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政
府提出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
商法中改正法律案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案
ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
兵役法中改正法律案
昭和十二年三月六日
同日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
官幣大社阿蘇神社國費造營ノ請願外十三件
ノ請願ハ各〓意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ
送付セリ
同日委員長ヨリ決算委員佐藤三吉君ヲ第三
分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報〓書ヲ提
出セリ
同日產業組合中央金庫法中改正法律案特別
委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名
左ノ如シ
委員長子爵片桐貞央君
副委員長男爵稻田昌植君
同日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
百貨店法案
同日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
請願文書表(第四囘報告)
昨四日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
刑事訴訟法中改正法律案
外國裁判所ノ囑託ニ因ル共助法中改正法
律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
北海道舊土人保護法中改正法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=1
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002・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 昨四日瀧川儀作
君、貴族院令第一條第六號ニ依リ貴族院議
員ニ任ゼラレマシタ、仍テ部屬ハ第六部ニ
定メマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=2
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003・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ會議ヲ開
キマス、中川小十郞君病氣ニ付キ會期中、
請暇ノ申出ガゴザイマス、之ヲ許スコトニ
御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=3
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004・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=4
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005・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 一昨三日、中川
小十郞君ヨリ病氣ニ依リ決算委員辭任ノ申
出ガゴザイマシタ、許可ヲスルコトニ御異
議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=5
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006・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、第七部ニ於テ補關選擧ヲ行ハレム
コトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=6
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007・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程ヲ變更シテ
日程第一ヲ最後ニ廻シマシテ、日程第二以
下、順次議題ト爲スコトニ御異議ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=7
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008・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=8
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009・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第二、百貨
店法案、政府提出、第一讀會、伍堂商工大
臣
〔左ノ提出文及法律案ハ朗讀ヲ經サル
モ參照ノ爲玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
百貨店法案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十二年三月三日
內閣總理大臣林銑十郞
商工大臣伍堂卓雄
百貨店法案
百貨店法
第一條本法ニ於テ百貨店業者ト稱スル
ハ同一ノ店舗ニ於テ命令ヲ以テ定ムル
賣場面積ヲ有シ命令ノ定ムル所ニ依リ
衣食住ニ關スル多種類ノ商品ノ小賣業
ヲ營ム者ヲ謂フ
第二條同一ノ建物ニ於テ二人以上ノ小
賣業者各命令ヲ以テ定ムル賣場面積ヲ
有シ相連繫シテ營業ヲ爲ス場合其ノ賣
場面積及販賣スル商品ガ相合シテ前條
ノ規定ニ依ル賣場面積及商品ノ種類ニ
該當スルトキハ各小賣業者ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ之ヲ百貨店業者ト看做ス
第三條百貨店業ヲ營マントスル者ハ命
令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣ノ許可ヲ
受クベシ
第四條百貨店業者ハ左ノ場合ニ於テハ
命令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣ノ許可
ヲ受クベシ
ー支店、出張所其ノ他ノ店舗又ハ配
給所ヲ設置セントスルトキ
二本店、支店、出張所其ノ他ノ店舗
ノ賣場面積ヲ擴張セントスルトキ
三店舗以外ニ於テ小賣ヲ爲サントス
ルトキ
第五條主務大臣必要アリト認ムルトキ
ハ前二條ノ許可ヲ爲スニ當リ之ニ制限
又ハ條件ヲ附スルコトヲ得
第六條百貨店業者ハ閉店時刻以後及休
業日ニ於テ營業ヲ爲スコトヲ得ズ
前項ノ營業ノ範圍、閉店時刻及休業日
ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ
定ム
第七條百貨店業者ハ其ノ統制ヲ圖リ小
賣業ノ圓滿ナル發達ヲ期スル爲主務大
臣ノ認可ヲ受ケ百貨店組合ヲ設立スル
コトヲ得
第八條百貨店業者百貨店組合ヲ設立セ
ザル場合ニ於テ主務大臣必要アリト認
ムルトキハ百貨店業者ニ對シ百貨店組
合ノ設立ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ設立ヲ命ゼラレタル
者主務大臣ノ指定スル期限迄ニ設立ノ
認可ヲ申請セザルトキハ主務大臣ハ定
款ノ作成其ノ他設立ニ關シ必要ナル處
分ヲ爲スコトヲ得
第九條百貨店組合ハ法人トス
百貨店組合ハ營利事業ヲ爲スコトヲ得
ズ
第十條百貨店組合ハ左ノ事業ヲ行フコ
トヲ得
一組合員ノ營業ニ關スル統制
二組合員ノ營業ニ關スル指導
三小賣業ニ關スル〓究又ハ調査
四其ノ他組合ノ目的達成上必要ナル
事業
第十一條百貨店組合ハ設立ノ認可アリ
タル時又ハ第八條第二項ノ規定ニ依リ
定款ノ作成アリタル時成立ス
百貨店組合ノ設立アリタルトキハ各事
務所ノ所在地ニ於テ設立ノ登記ヲ爲ス
ベシ登記シタル事項中ニ變更ヲ生ジタ
ルトキ亦同ジ
百貨店組合ノ設立又ハ登記シタル事項
ノ變更ハ其ノ登記ヲ爲スニ非ザレバ之
ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ズ
第十二條百貨店組合ハ全國ヲ通ジテ一
箇トシ組合ノ設立アリタルトキハ百貨
店業者ハ其ノ組合員トス
第十三條百貨店組合ハ第十條第一號ノ
事業ヲ行フ場合ニ於テハ之ニ關スル規
程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クベシ其
ノ規程ヲ變更セントスルトキ亦同ジ
第十四條主務大臣小賣業ノ圓滿ナル發
達ヲ圖ル爲其ノ他公益上必要アリト認
ムルトキハ前條ノ規程ノ全部又ハ一部
ノ變更又ハ取消ヲ爲スコトヲ得
第十五條主務大臣小賣業ノ圓滿ナル發
達ヲ圖ル爲其ノ他公益上必要アリト認
ムルトキハ百貨店組合ニ對シ組合員ノ
營業ノ統制ニ關シ必要ナル事項ヲ命ズ
ルコトヲ得
第十六條主務大臣小賣業ノ圓滿ナル發
達ヲ圖ル爲其ノ他公益上必要アリト認
ムルトキハ百貨店組合ノ組合員ニ對シ
組合ノ統制ニ從フベキコトヲ命ズルコ
トヲ得
第十七條行政官廳ハ百貨店業者又ハ百
貨店組合ニ對シ其ノ業務ニ關シ報〓ヲ
爲サシメ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ
發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
行政官廳監督上必要アリト認ムルトキ
ハ當該官吏ヲシテ百貨店業者又ハ百貨
店組合ノ店舗、事務所其ノ他ノ場所ニ
臨檢シ業務ノ狀況又ハ帳簿書類其ノ他
ノ物件ヲ檢査セシムルコトヲ得此ノ場
合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶
セシムベシ
第十八條百貨店業者本法若ハ本法ニ基
キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處
分ニ違反シ又ハ第五條ノ規定ニ依リ許
可ニ附シタル制限若ハ條件ニ違反シタ
ルトキハ主務大臣ハ業務ノ停止若ハ法
人ノ役員ノ解任ヲ爲シ又ハ第三條若ハ
第四條ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第十九條百貨店組合ノ決議又ハ組合ノ
役員ノ行爲ガ法令、定款若ハ行政官廳
ノ處分ニ違反シタルトキ又ハ公益ヲ害
シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ
主務大臣ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一決議ノ取消
二役員ノ解任
三組合ノ事業ノ停止
四組合ノ解散
第二十條本法ニ規定スルモノヲ除クノ
外百貨店組合ノ設立、登記、管理、解
散〓算其ノ他組合ニ關シ必要ナル事
項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一條第十四條乃至第十六條ノ規
定ニ依ル命令又ハ處分其ノ他本法施行
ニ關スル重要事項ニ付主務大臣ノ諮問
ニ應ゼシムル爲百貨店委員會ヲ置ク
百貨店委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第二十二條第三條ノ規定ニ違反シ主務
大臣ノ許可ヲ受ケズシテ百貨店業ヲ營
ミタル者ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十三條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一第四條ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベ
キ事項ヲ許可ヲ受ケズシテ爲シタル
者
二第十五條又ハ第十六條ノ規定ニ依
ル命令ニ違反シタル者
第二十四條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一第六條ノ規定ニ違反シテ營業ヲ爲
シタル者
二正當ノ事由ナクシテ第十七條ノ規
定ニ依ル報〓ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ報
告ヲ爲シ又ハ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ
忌避シ其ノ他行政官廳ノ命令又ハ處
分ニ違反シタル者
第二十五條百貨店業者又ハ百貨店組合
ハ其ノ代理人、戶主、家族、雇人其ノ
他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ本法若ハ
本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キ
テ爲ス處分ニ違反シタルトキハ自己ノ
指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ
免ルルコトヲ得ズ
第二十六條本法又ハ本法ニ基キテ發ス
ル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者
ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他
ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成
年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定
代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成
年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ
付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十七條百貨店組合本法又ハ本法ニ
基キテ發スル命令ニ依ル登記ヲ爲スコ
トヲ怠リ又ハ不正ノ登記ヲ爲シタルト
キハ組合ノ役員又ハ〓算人ヲ三百圓以
下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百
八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ營業ヲ爲ス百貨店業者
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第三條ノ許可ヲ
受ケタルモノト看做ス
〔國務大臣伍堂卓雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=9
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010・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 百貨店法案提出
ノ理由ヲ說明申上ゲマス、現下我ガ國ノ中
小商業者ハ疲弊困憊甚シク、之ガ更生振興
ヲ圖ルコトハ刻下ノ急務トナッテ居ルノデ
アリマス、固ヨリ中小商業者窮迫ノ原因ハ
複雜多岐ニ亙ルノデアリマスガ、其ノ有力
ナル原因ノ一ツトシテ、大規模經營ニ依ル
百貨店ノ進出ヲ擧ゲ得ルノデアリマス、百
貨店ハ其ノ豐富ナル資本力、信用力ト近代
的ノ組織經營トニ依リ、小賣制度ノ合理化
ニ貢獻シ、消費者ニ利便ヲ與ヘテ居ルコト
ハ申ス迄モアリマセヌガ、他面ニ於キマシ
テ其ノ急激ナル進出ハ、百貨店相互ノ競爭
ヲ惹起致シマシテ種々ノ弊害ヲ生ジ、是ガ
軈テ消費者ニモ不利益トナルノミナラズ、
一般中小商業者ニ尠カラザル影響ヲ及シテ
居ルノデアリマス、之ガ爲ニ政府ハ曩ニ日
本百貨店商業組合ヲ組織セシメマシテ、其
ノ營業統制規定ニ基ク政府ノ監督ノ下ニ、
各種ノ制限ヲ實施致シマシテ、一般中小商
業者トノ調整ヲ圖ルト共ニ、配給機關トシ
テノ百貨店ノ機能ヲ圓滑ニシテ參ッタノデ
アリマス、然ルニ最近ニ於テ百貨店ノ新設
擴張相次イデ行ハレマシテ、從來ノ商業組
合ニテハ十分其ノ目的ヲ達シ難イ狀態ニ立
到リマシタノデ、社會局方面ノ意見要望ヲ
モ參酌致シマシテ、新タニ百貨店法ヲ制定
シマシテ、百貨店ノ新設擴張竝ニ其ノ營業
ニ適切ナル統制ヲ加へ、百貨店相互ノ不當
ナル競爭ヲ排除スルト共ニ、百貨店ト中小
商業者トノ關係ヲ調整致シマシテ、小賣業
全般ノ圓滿ナル發達ヲ期セムガ爲メ、玆
ニ本法案ヲ提出致シマシタ次第デゴザイマ
ス、何卒十分御審議ノ上、御協贊アラムコ
トヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=10
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011・池田政時
○子爵池田政時君 只今上程サレマシタ百
貨店法案ハ重要ナル法案デアリマスルガ故
ニ、其ノ特別委員ノ數ヲ十五名トシ、其ノ
指名ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提出致シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=11
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012・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=12
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013・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 池田子爵ノ動議
ニ御異議アリマセヌカ
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=13
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014・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
百貨店法案特別委員
公爵岩倉具榮君侯爵中御門經恭君
伯爵樺山愛輔君子爵秋元春朝君
子爵西尾忠方君內田重成君
男爵岩倉道倶君男爵松田正之君
男爵近藤滋彌君藤沼庄平君
松本學君菊池恭三君
佐々木八十八君大澤德太郞君
小野耕一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=14
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015・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第三、北海
道舊土人保護法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會、河原田内務大臣
北海道舊土人保護法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月四日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
北海道舊土人保護法中改正法律案
北海道舊土人保護法中左ノ通改正ス
第二條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改ム
第三條ノ規定ニ依ル沒收ヲ受クルコト
ナキニ至リタル土地ニ付テハ前項ノ規
定ハ之ヲ適用セズ此ノ場合ニ於テ讓渡
又ハ物權ノ設定行爲ハ北海道廳長官ノ
許可ヲ得ルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼ
ズ但シ相續以外ノ原因ニ因ル所有權ノ
移轉アリタル後ニ於テハ此ノ限ニ在ラ
ズ
第二條ノ二第一條ノ規定ニ依リ下付セ
ラレタル土地ニハ其ノ下付ノ年ヨリ起
算シ三十年ヲ經過シタル後ニ非ザレバ
地租ヲ課セズ又地方稅ヲ課スルコトヲ
得ズ但シ相續以外ノ原因ニ因リ所有權
ノ移轉アリタル土地、登記シタル質權
ノ目的タル土地又ハ登記シタル百年ヨ
リ長キ存續期間ノ定アル地上權ノ目的
タル土地ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ期間內ハ下付ヲ受ケタル者又ハ
其ノ相續人ニ對シ下付ヲ受ケタル土地
ノ下付若ハ相續ニ因ル所有權ノ取得又
ハ遺產ノ分割ニ關スル登錄稅ヲ課セズ
第四條中「農具及種子」ヲ「生業ニ要スル
器具、資料又ハ資金」ニ改ム
第七條中「授業料」ヲ「必要ナル學資」ニ改
ム
第七條ノ二北海道舊土人ニシテ其ノ不
良ナル住宅ヲ改良セントスル者ニハ必
要ナル資金ヲ給スルコトヲ得
第七條ノ三北海道舊土人ノ保護ノ爲必
要アルトキハ之ニ關スル施設ヲ爲シ又
ハ施設ヲ爲ス者ニ對シ補助ヲ爲スコト
ヲ得
第八條中「第四條乃至第七條」ヲ「第四條
乃至前條」ニ改ム
第九條削除
第十條第二項中「内務大臣ノ認可ヲ經テ」
アル
第十一條削除
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
從前ノ規定ニ依リ設ケタル小學校ハ其ノ
必要アルモノニ限リ當分ノ內國庫ノ費用
ヲ以テ之ヲ存置スルコトヲ得
旭川市舊土人保護地處分法第二條中「北
海道舊土人保護法第二條第一項」ヲ「北海
道舊土人保護法第二條」ニ改ム
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=15
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016・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今議題ニ供
セラレマシタ北海道舊土人保護法中改正法
律案ニ付キマシテ、提案ノ理由ヲ御說明申
上ゲマス、御承知ノ通リ本法ハ北海道ニ於
ケル舊土人ヲ保護シ、之ガ向上ヲ圖ルノ目
的ヲ以テ、明治三十二年ニ制定實施ニナリ
マシタモノデゴザイマシテ、其ノ後大正八
年救助ノ範圍ニ付テ一少部分ノ改正ガアリ
マシテ今日ニ至ッテ居ルノデアリマス、然ル
ニ舊土人ノ生活狀態ハ本法ノ制定當時ニ比
較致シマシテ、相當改善セラレタノデアリ
マス、一方拓殖事業ノ進捗ト共ニ、四圍ノ
情勢モ著シキ變遷ヲ見マシタ結果、本法中
舊土人ノ生活ノ實際ニ適應シナイモノガア
ルニ至リマシタノデ、今囘法律ノ改正ヲ行
ヒマシテ、舊土人保護ノ完璧ヲ期シタイト
存ズルノデアリマス、今改正ノ主ナル點ヲ
申上ゲマスト、先ヅ第一ハ現行法ハ下付シ
タル土地ニ付キマシテハ、讓渡又ハ物件ノ
設定等ヲ禁ジテ居リマスルガ、近來舊土人
ノ生活情況ノ進步ニ伴ヒマシテ、此ノ制限
ヲ緩和スルノ必要ヲ認メラレマスルノデ、下
付地ニ付キマシテハ北海道長官ノ許可ガア
レバ讓渡又ハ物權ノ設定行爲モ行ヒ得ルコ
トニ改メマスト共ニ、第二ニ舊土人ノ住宅
中ニハ保健衞生上カラ見マシテ、不良ナル
モノガ少クナイノデアリマスルノデ、之ガ
改良ニ要シマスル資金ヲ補給スルノ途ヲ開
クコトト致シタノデアリマス、第三ハ舊土人
ニ對シマスル經濟的保護ニ付キマシテモ、
從來ノ勸農ニ關スルコト以外ニ漁業、商工
業等ニ關シマスル經濟保護施設ヲ講ズルコ
トニ改メタイト存ズル次第デゴザイマス、
何卒御審議ノ上、御協贊アラムコトヲ切望
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=16
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017・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 別ニ御發言ガナ
ケレバ特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
北海道舊土人保護法中改正法律案特別委
員
侯爵德川義親君伯爵川村鐵太郞君
子爵實吉純郞構若林賚藏君
男爵松平外與麿君岡田文次君
田中德兵衞君風間八左衞門君
大和田健三郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=17
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018・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第四、刑事
訴訟法中改正法律案、日程第五、外國裁判
所ノ囑託ニ因ル共助法中改正法律案、政府
提出、第一讀會、是等ノ兩案ヲ一括シテ議
題ト爲スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=18
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019・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、鹽野司法大臣
刑事訴訟法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十二年三月四日
內閣總理大臣林銑十郞
司法大臣鹽野季彥
刑事訴訟法中改正法律案
刑事訴訟法中左ノ通改正ス
第四百四十條中「原判決ヲ破毀スヘキモ
ノト認ムルトキハ」ノ下ニ「第四百四十八
條ノ二ノ場合ヲ除クノ外」ヲ加フ
第四百四十三條中「上〓裁判所第四百十
二條乃至第四百十四條ニ規定スル事由ア
リト認ムルトキハ」ノ下ニ「第四百四十八
條ノ二ノ場合ヲ除クノ外」ヲ加フ
第四百四十八條中「第四百四十九條及第
四百五十條」ヲ「第四百四十八條ノ二乃至
第四百五十條」ニ改ム
第四百四十八條ノ二上告裁判所事實ノ
確定ニ影響ヲ及ホスヘキ法令ノ違反アリ
ト認メ又ハ第四百十二條乃至第四百十
四條ニ規定スル事由アリト認ムル場合
ニ於テ自ラ事實ノ審理ヲ爲スヲ適當ナ
ラストスルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ
破毀シ事件ヲ原裁判所ニ差戾シ又ハ原
裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ニ移送ス
ンソ
前項ノ差戾又ハ移送アリタル事件ニ付
裁判ヲ爲ス場合ニ於テハ原判決又ハ其
ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判
事ハ其ノ裁判ニ關與スルコトヲ得ス
第四百五十三條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ第四百十二條乃至第四百十四條ニ
規定スル事由アリト爲ス上〓ノ趣旨ハ
其ノ一部ヲ省略スルコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
外國裁判所ノ囑託ニ因ル共助法中改正
法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十二年三月四日
內閣總理大臣林銑十郞
司法大臣鹽野季彥
外務大臣佐藤尙武
外國裁判所ノ囑託ニ因ル共助法中改正
法律案
外國裁判所ノ囑託ニ因ル共助法中左ノ通
改正ス
第一條ノ二ニ左ノ一項ヲ加フ
條約又ハ之ニ準スヘキモノニ前項ノ規
定ト異ル規定アルトキハ其ノ規定ニ從
フ
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣鹽野季彥君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=19
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020・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 只今議題ニ上程
ニナリマシタ二ツノ法案ニ付キマシテ御說
明申上ゲマス、先ヅ刑事訴訟法中改正法律
案ニ付キマシテ御說明ヲ申上ゲマスルト、
大正十三年一月一日カラ施行ニ相成リマシ
タ現行刑事訴訟法ニ於キマシテハ、上告ノ
理由ト致シマシテ、法令違反ノ他一定ノ場
合ニハ、事實ノ認定及刑ノ量定ニ付キマシ
テモ亦之ヲ爭フコトガ出來ルコトニナッタ
ノデアリマス、而シテ事實ノ誤認又ハ刑ノ
量定不當ヲ上告ノ理由トシタ場合、竝ニ事
實ノ確實ニ影響ヲ及スベキ法令ノ違反ヲ上
〓ノ理由トシタ場合ニ於テハ、上〓裁判所
自ラ事實ノ審理ヲ爲スベキモノト致シテ居
ルノデアリマス、トコロガ上〓裁判所ニ於
ケル事實審理ノ情況ヲ見マスルニ、上告裁
判所ノ所在地ト被〓人ノ住所地又ハ犯罪地
トガ相距ルコト遠イガ爲ニ、證人、鑑定人等
ノ訊問ノ爲メ上〓裁判所ニ其ノ出頭ヲ求メ
ルニシテモ、又上告裁判所ガ現場ニ出張シ
テ檢證ヲ爲スニシテモ、不便ナ場合ガ屢〓生
ズルノデアリマス、又事實ノ誤認及刑ノ量
定不當ヲ理由トスル上〓ニアリマシテハ、
其ノ上〓理由ガ頗ル多岐多樣ニ亙リマシテ、
上告趣意書ニハ幾多ノ事實問題ガ巨細ニ揭
ゲラレマシテ、浩瀚ナル上告趣意書ガ差出
サレルト云フ傾向ニ在ルノデアリマス、而シ
テ刑事訴訟法上、上〓裁判所ノ判決書ニハ
上〓ノ趣意及重要ナル答辯ノ要旨ヲ全部記
載セネバナラヌコトニナッテ居リマスノデ、
上〓裁判所ト致シマシテハ判決ヲ爲スニ當
リマシテ、誠ニ必要以上ノ力ヲ用ヒテ居ル
實情デアリマス、仍テ玆ニ裁判所竝ニ訴訟
關係人ノ便益ヲ考慮致シマシテ、上告裁判
所ニ於ケル事實審理ノ制度ニ改正ヲ加ヘム
ガ爲ニ本案ヲ提出シタ次第デアリマス、改
正ノ第一點ハ從來上告裁判所ガ自ラ事實ノ
審理ヲ爲サナケレバナラヌ場合ニ於キマ
シテモ、上〓裁判所自ラ事實ノ審理ヲ爲ス
コトガ適當デナイト思料シタ場合ニハ、原
判決ヲ破棄シテ事件ヲ原裁判所ニ差戾スカ、
又ハ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ニ移送
スルコトガ出來ルヤウニ改メタコトデアリ
ス、改正ノ第二點ハ上〓裁判所ガ判決書ヲ
作成スルニ當リマシテ、事實問題ニ關スル
上告ノ趣意ハ、其ノ一部ヲ判決書ニ記載ス
ルヲ省略スルコトガ出來ルヤウニ改メタコ
トデアリマス、何卒以上申述ベマシタ上〓
裁判所ノ實情ヲ御洞察下サイマシテ、速カ
ニ御審議ノ上御協贊ノ程ヲ切望スル次第デ
アリマス、次ニ外國裁判所ノ囑託ニ因ル共
助法中改正法律案ニ付キマシテ御說明申上
ゲマス、外國裁判所ノ囑託ニ因ル共助法ハ、
御承知ノ通リ外國ノ裁判所カラ、司法事務
ニ關スル共助ヲ求メラレマシタ場合ニ、
之ニ應ズルニ必要ナル條件竝ニ之ニ應ズル
場合ノ施行方法ヲ規定シタ法律デアリマス、
而シテ右ノ條件ノ一ツトシテ共助ヲ請求シ
タ裁判所ノ所屬國ニ於テ、我ガ國ノ裁判所
ガ共助事務ヲ施行スル爲ニ要スル費用ヲ負
擔スルコトヲ必要トシテ居ルノデアリマス、
然ルニ現行ノ條約中ニ共助事務ノ施行ヲ囑
託セラレタ國ニハ、自ラ費用ヲ負擔シテ囑
託ニ應ズベキ旨ヲ規定シテ居ルモノガアリ
マス爲ニ、右法律ノ一部ヲ改正スル必要ヲ
認メマシタノデ、本改正案ヲ提出シタ次第
デアリマス、是亦何卒御審議ノ上、速カニ御
協賛アラムコトヲ切望致ス次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=20
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021・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 兩案ノ特別委員
ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
刑事訴訟法中改正法律案外一件特別委員
侯爵小村捷治君子爵冷泉爲勇君
子爵秋田重季君木場貞長君
松井茂君男爵有地藤三郞君
男爵周布兼道君下出民義君
武井覺太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=21
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022・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第一、國務
大臣ノ演說ニ關スル件、林總理大臣
(國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=22
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023・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 去ル三月三日ノ
本會議ニ於キマシテノ內藤君ノ御質疑ニ御
答ヘ致シマス、國防竝ニ產業上必要缺クベ
カラザル石油其ノ他ノ燃料ニ付キマシテ
ハ、種々ノ施設ヲ致シテ萬全ヲ期シテ居ル
次第デアリマスルガ、御話ノ國內石油資源
開發促進、是モ誠ニ重要ナル方策ト考ヘテ
居リマシテ、從來之ガ開發ニモ努メテ居ル
次第デアリマスガ、尙人造石油ニ付キマシ
テモ其ノ施設ニ著手セムトシテ居ル次第デ
アリマシテ、今後ハ更ニ各種ノ方面ニ亙リ
マシテ、一層ノ考慮ヲ拂ッテ御期待ニ副ヒタ
イト思ッテ居ル次第デアリマス、次ニ大河内
子爵ノ私ニ對スル御質問ニ大要ノ御答ヲ致
シマス、第一ノ御質疑ハ外交ノ一元化ト云
フコトニ付テ、其ノ主タル所ノ役所ハ外務
省ガ之ニ當ルト思フガ、ドウデアルカト云
フ御質疑ノヤウニ思ヒマスガ、是ハ當然其
ノ通リト考ヘマス、ソレカラ對支外交ニ付
テ色々今マデノヤリ方等ニ付テ御意見ガ
アッタヤウデアリマスルガ、此ノ事ニ付キマ
シテハ旣ニ第一囘ノ外交ニ關スル演說ニ於
キマシテ、對支外交ノ根本方針ニ付テ私ガ
申述ベテ居ル通リデアリマシテ、今後其ノ
方針ニ基イテ對支外交ガ行ハレルモノト御
承知ヲ願ヒマス、又其ノ次ニ平和的外交デ
アルカ、侵略的外交デアルカト云フヤウ
ナ御質疑ガアッタヤウニ考ヘマスガ、是ハ申
スマデモナク最モ平和的ナ意味ヲ以テ、其
ノ當時モ申上ゲマシタ通リ經濟的、或ハ文
化的ニ支那國トノ親善ヲ圖ッテ行キタイト
云フノニ過ギマセヌノデアリマス
〔内藤久寛君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=23
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024・内藤久寛
○內藤久寛君 只今林總理大臣閣下ヨリ、
私カラ此ノ間御尋ヲ致シマシタコトニ付テ
御答辯ヲ下サイマシテ拜承致シマシタ、其ノ
御答辯ノ要領ハ私ニハ少シク了解致シカネ
マスルケレドモ、併シナガラ只今御述ニナ
リマシタ點カラ考察致シマスルト、只今マ
デモ色々計畫ヲシテ來タモノ竝ニ其ノ他ノ
石油事業關係ニ付テモ心配ヲシテ、相當ノ
計畫ヲ立テルヤウニ致シタイト云フコトノ
ヤウニ承知致シマシタ、是ハドウカ實際ニ
臨ミマシテ、此ノ石油事業ノコトハ取急イ
デ御計畫ノアルヤウニシタイト思ヒマスル
シ、又唯漫然タルコトデナク、只今掘ッテ居
リマスル石油事業ニ對シテモ、相當ナ御施
設ノアルヤウニ願ヒタイト思ヒマス、ソレ
ニ付キマシテ私ガ少々バカリ此ノ石油事業
ノ甚ダ困難デアルコトヲ申述ベテ見タイト
思ヒマスルガ、是ハサウ時間ヲ費サナイ程
度ニ於テ、成ルベク簡單ニ申述べテ見タイ
ト思ヒマス、是ハ中ニハ御承知ノ方モアル
コトトハ思ヒマスルガ、ドウゾ少々ノ間御
〓聽ヲ願ヒタイト思ヒマス、凡ソ石油·····
色々ナ事業ノ中ニハ種類ガアリマスルガ、
石油事業ホド、其ノ性質ノ理解セラレテ居
ナイモノハナイト思ヒマス、同ジク鑛山事
業ト申シマシテモ、金銀トカ鐵トカ石炭ト
カ云フモノハ、一通リノ調査ニ依リマシテ
地下ニ於ケル大體ノ埋藏量ヲ知ルコトガ出
來ルノデアリマスルガ、石油ニ於テハ今日
ノ程度デハ全然ソレガ出來ナイト言ッテモ
過言デナイカト思ヒマス、色々新シイ學理、
技術ヲ應用シテ地質上ノ調査ガ行ハレテ居
リマスルガ、結局ノ所ハ矢張リ掘ッテ見ナケ
レバ分ラヌト云フノガ實際ノ情況デアル、
「アメリカ」ハ世界ノ最大產油國デアッテ、石
油事業ニハ最モ長キ歷史ト豐富ナル經驗ト
ヲ有スルモノデアルガ、其ノ「アメリカ」デサ
くぞ、時トシテハ此ノ事業ニ對スル判斷ヲ
誤ルコトガアル、今カラ十三年ホド前ニ、
大正十三年カト思ヒマスルガ、或地質學者
ガ「アメリカ」ノ石油埋藏量ハ九十億「バー
レル」餘デ、今ノヤウニ年々七億「バーレ
ル」モ採掘シテ居ッテハ、······現在ハ年產十
億「バーレル」モ只今ハ出マスガ、其ノ當時
ハ七億「バーレル」クラヰ出テ居ッタノデア
リマス、今後十年クラヰニシテ國內ニ全ク
石油ガ無クナッテシマフト云フヤウナ意見
ヲ發表シタ者ガアリマシタ、政府當局ハ俄
カニ慌テ出シマシテ、時ノ大統領「クーリッ
ヂハ石油保存委員會ナルモノヲ設置致シ
マシテ、陸軍卿「ウエーク」、農務卿(う)と
ルバー」、內務卿「ワーク」、商務卿「フー
ヴァー」等ヲ委員ニ任命致シマシテ濫掘ノ防止、
配給ノ統制カラ石油ノ輸出ニモ手加減ヲ加
ヘル等、專ラ石油資源ノ保存ト云フコトニ
盡力シマシタ、然ルニ皮肉ナコトニハ其ノ
翌年ニ、大正十四年頃カラ「テキサス」、、「オ
クラホマ」、「カリフオルニア」ヲ初メ、各地
方ニ思ヒ懸ケナイ新油田ガ續々開發サレ
テ、「アメリカ」ノ產油ハ從來ニナイ激增ヲ
來シ、石油ノ價格ガ暴落シマシテ、石油事
業ハ危機ニ瀬スルコトトナッタ、玆ニ至ッテ
ハ石油資源ノ保存ノ秋ト云フヨリハ、當面
ノ價格暴落ヲ防止スル爲メ、產油制限ヲ行
ハザルヲ得ナイト云フコトニナリマシテ、
ソレモ尋常一樣ノ手段デハ實行シ難イトコ
ロカラ、「オクラホマ」州ノ如キハ油田ニ軍
隊ヲ派遣シテ、武力ヲ以テ油井ヲ閉鎖シタ
ト云フ程ノコトデアリマシタ、今日デモ
「アメリカ」ノ產油ハ自然ニ放任シテ置
ケバ出過ギテ困ルトコロカラ、各所ニ於
テ嚴重ニ制限シテ、辛ウジテ產油三百萬
「バーレル」內外ニ止メテ居リ、次イデ大正
十三年ニ十年後ノ石油滅盡ニ備フル爲メ設
立セラレタル石油保存委員會ノ如キハ、何
等ノ爲スコトモナク全ク存置ノ意味ヲ有セ
ザルコトトナリ、一昨年遂ニ解散セラレマ
シタ、斯ウ云フヤウニ今日ヲ以テ明日ヲ測
ルコトノ出來ナイノガ石油事業ノ本質デア
リマス、我ガ國ニ於キマシテモ現在各地油
田中、最モ多クノ產油ヲ示シテ居ル秋田縣
八橋油田ハ、秋田市ノ直グ郊外ニアル土地
デ、以前カラ石油ノ露頭ナドノアル所デハ
アリマシタガ、何人モ今ノヤウナ大油田ニ
ナルモノトハ想像シナカッタ、ソレガ政府ノ
補助金ヲ得テ、實際ニ一二ノ井戶ヲ掘ッタ
バカリニ、僅カ二年間グラヰノ中ニ日產二
千石以上ノ油田トナッタノデアリマス、要ス
ルニ油田開發ノ祕訣ハ、一ニモ試掘、二
モ試掘デアッテ、試掘シテ見ナイ限リ實際ノ
コトハ分ラナイノデアル、ソレニ付キ面白
イ話ハ、「ヨーロッパ」大戰當時「イギリス」
ニ於テハ石油ノ必要ニ迫ラレ、本國內ニ試
掘ヲシテ見ルコトニナッタ、其ノ場所ハ「イ
ングランド」ノ「ダービシヤ」州ノ「ハードス
トフト」ト云フ所デアリマシタガ、何分從來
一滴ノ石油ヲモ產シタコトノナイ英本國内
ニ鑿井スルト云フコトデアルカラ、樂觀悲
觀色々ノ議論ガアリマシテ、中ニハ若シ英
本國內ニ石油ガ出タラ、其ノ出タダケノ石
油ハ自分ガ飮ンデ見セルトマデ言ッタ者モ
アリマシタガ、石油ノ試掘ノ結果大シタ油
田ニハナラナカッタケレドモ、兎ニ角日產二
十「バーレル」乃至三十「バーレル」ノ石油ヲ
產出シマシタ、而モソレガ數年間續イタト
云フヤウナ譯デ、何ト云ッテモ石油ハ實地ニ
掘ッテ見ナケレバ分ラナイトコロカラ、我ガ
國デハ民間會社ノ力ノ及ブ限リ、一生懸命
ニ試掘ヲシテ居ルノデアルガ、之ヲモット擴
張シテ日本油田ノ眞價ヲ見極メル爲ニ、ドウ
シテモ國家ノ强力ナル援助ガ必要デアル、
其ノ援助ヲ惜シンデ、日本ノ油田ハ大シタ
見込ガナイカノヤウニ言ハレテ居リマスル
ノハ、丁度子供ニ〓育ヲ施サズニ置イテ、
此ノ子ハ馬鹿ダト言フノモ同ジコトデアル、
私ハ政府當局ガ折角燃料國策ノ樹立ニ乘リ
出サレルカラニハ、人造石油ナドト云フ、
未ダ海ノモノトモ山ノモノトモ分ラヌ事業
ニ莫大ナル國費ヲ投ゼラレルニ先ダチ、先
ヅ此ノ石油事業ナルモノノ性質ヲ理解シテ、
其ノ試掘ニ對シ積極的ニ援助セラルヽノガ、
順序カラ云ッテモ亦效果ノ點カラ云ッテモ、
政府トシテ當然執ルベキ策デアルト信ズル
ノデアリマス、諺ニモ一度アッタ事ハ二度ア
ルト言ヒマスルガ、現ニ我ガ國ニ於テハ大
正三年ニ日產一萬石以上ノ油井ガ秋田縣ニ
出テ、一度サウ云フコトガアッタカラニハ、
更ニ今日ニ於テ一萬石以上ノ油井ノ現レル
可能性ガアルト言ッテモ、決シテ是ハ架空ノ
說トハ言ハレナイ、一昨日商工大臣ノ御答
辯ニ依レバ、昭和十二年度ノ豫算ニ、內地
油田試掘補助費ノ增額計上サレルコトハ出
來ナイト云フコトデアリマシタガ、ドウカ
此ノ石油資源ノ開發ト云フ問題ニ付テハ、
政府ニ於テモ十分考慮シテ戴キタイト思ヒ
マスル、大體只今申述ベマシタヤウナ困難
ナ性質ノモノデアリマシテ、何人モ之ガ必
ズ出ル、必ズ出ナイト云フコトハ斷言ノ出
來ナイモノダラウト思ッテ居リマス、私ハ尙
一步進ミマシテ、一度一萬石以上ノ良井ガ
出タコトガアリマスルカラ、ソレニ同額ノ
石油ノ出マスル井戶ガ此處ニモ彼處ニモ出
ルト云フコトハ、丁度「アメリカ」デ石油ガ
十年經テバ無クナッテシマフト云フノデ、各
大臣數名ヲ委員ニ選ビマシテ、「クーリッヂ」
大統領ガ石油使用ノ制限ヲシヨウト云フ委
員會ヲ設ケマシタノニ、其ノ翌年カラ追々
ト石油ガ出テ參リマシテ、今日デハ反對ニ
石油掘鑿ノ制限ヲシナケレバナラヌヤウニ
ナッテ居リマスノデ、サウ云フヤウナ譯デ
「アメリカ」デサヘモ事實トハ違ヒマシタコ
トニナック時代ガアルノデアリマス、我ガ日
本ニ於テモ色々ニ之ガ變ッテ來ルト云フコト
ハ免レナイコトデアルト思ヒマス、ソレ故
ニ先ツ此ノ日本ニ於テモ差向キ大事業ニナ
ルベキ見込ノアリマスルモノハ此ノ石油事
業デアリ、又或場合ニハ是ガ無クテハナラ
ナイ必要ナコトニ迫ッテ居ルモノデアリマ
スルカラ、是非共御〓究、御考慮下サイマ
シテ、試掘補助費ヲ今少シ澤山ニ出シ、又
「アメリカ」カラモ相當ノ人ヲ雇ッテ參リマ
シテ、此ノ事業ノ盛ニナリマスルヤウニ切
望致シマス、ドウゾ是ハ私ニ對スル答辯ノ
ミデナク、實際ニ於テ御計畫ニナルヤウニ
希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=24
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025・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 加藤君
〔加藤政之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=25
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026・加藤政之助
○加藤政之助君 私ハ本日總理大臣、遞信
大臣及大藏大臣、此ノ三大臣ニ對シテ御質
問ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、其
ノ問題ハ電力統制ノ問題デアリマス、私ガ
其ノコトヲ申上グル前提ト致シテ、私ガ此
ノ問題ニ著目スルニ至ッタ動機ヲ簡單ニ申
上ゲテ置キタイト思フ、今日ヨリ八年前ト
覺エマスガ、英國ノ總理大臣「ボールドウ
イン」ノ此ノ問題ニ關スル演說ヲ私ハ讀ン
ダノデアリマス、之ヲ讀ミマスルト云フト、
此ノ問題ノ日本ニ取ッテ重要ナルコトヲ痛
切ニ感ジタノデアリマス、ソレ故ニ其ノ全
文ヲ飜譯致シテ、時ノ首相若槻君ノ手許ニ
之ヲ提出シテ、政府ハ之ヲ檢討シ實行スル
ト云フコトニ步ヲ進メタラドウデアラウカ
ト云フコトヲ進言致シマシタ、トコロガ不
幸ニシテ此ノ若槻君ノ內閣ハ辭職スルニ
至ックノデアリマスガ、其ノ後私ハ當院ノ商
事會議及議員會議ニ差遣サレル委員ノ一人
ニ御命令ヲ受ケマシテ、是レ幸ト存ジテ、
「ヨーロツパ」ニ滯在中ニ是非此ノ問題ヲ〓
究シテ歸リタイ、斯ウ云フ考ヲ持ックノデ
アリマス、ソコデ「ロンドン」ニ參リマシ
テ、直チニ大使館ヲ訪問致シテ、此ノ問題
ノ調査ニ掛リマシタノデアリマスガ、大使
館ニ於テハ此ノ問題ヲ〓究シテ居ル者ガ一
人モナイ、又何等ノ書類モナイ、斯ウ云フ
コトデ私ハ失望致シマシタ、併シソレデ巳
ムベキデアリマセヌカラ、步ヲ進メテ杉山
商務官ヲ訪問致シタノデアリマス、サウシ
テ此ノ問題ヲ〓究シタイ積リデアルガ、ア
ナタノ方ニ材料ガアルナラバ有ルダケノ物
ヲ示シテ貰ヒタイト云フコトヲ申シマシ
ク、トコロガソレハ十分デハナイガ多少ア
ル、ソレハ有ルノハドウ云フ書類デアルカ
ト言ヒマシタ所ガ、「ボールドウイン」内閣
ガ電力ノ統制ニ著手シテ委員會ヲ組織シタ、
其ノ委員ノ數ハ七人デアル、但シ一人ノ委
員長ガソレニ加ッテ居ル、併シ此ノ委員會ハ
普通ノ委員會ト違ッテ諮問機關デハナイ、
實行機關デアル、ソレ故ニ統制上必要ナリ
ト此ノ委員會ガ認メレバ、直チニ之ヲ實行
ニ移スコトガ出來ル、必要ト感ズレバ、發電
所ヲ買收スルコトモ出來ル、而シテ其ノ代
金ハ公債ヲ發行スルコトモ出來ルノデアル、
誠ニ有力ナ委員會デアル、而シテ其ノ委員
ニナッテ居ル人々モ練達有能ノ士デアルト
云フコトヲ承ッタノデアリマス、其ノ時ニ杉
山商務官ハ、日本ナドデモ色々委員會ガ組
織セラルヽガ、四十人、五十人ト云フヤウナ
多人數ニ亙ッテ、諮問機關ニ止ッテ居ルガ、
此ノ「イギリス」ノ制度ハ、寧ロ日本デモ學
ブベキヂヤナイカト云フヤウナ話ヲサレマ
シテ、ソレヲ承ッタコトデアリマス、ソレカ
ラ尙步ヲ進メテ、其ノ委員會ガ實行ノ〓ニ
就イテ居ルナラバ、其ノ成績ハドウデアラ
ウカ、アナタノ御手許ニ分ッテ居ルダケ知ラ
シテ下サイト言ヒマシタ所ガ、ソレハ此ノ
間ノ「ロンドン·タイムス」ニ其ノ記事ガ出
テ居ッタ、ソレニ依ルト云フト、統制ノ結
果、是ハ「スコットランド」ノ溪谷カラ始メテ
居ルガ、其ノ統制ノ結果、電力料金ガ一「ペ
ンス」下ッタ、一「キロワット」一「ペンス」下ッ
タト云フコトガ書イテアルト云フ話デアリ
マシタ、ソコデ私ハ是ハ大變ニ良イ材料デ
アルト考ヘマシタノデアリマス、歸國早々
「世界大觀及新日本ノ建設」ト云フ題名デ、
此處ニ持ッテ居リマスガ、此ノ書物ヲ著述致
シテ發刊シタノデアリマス、而シテ此ノ書
物ハ其ノ當時貴衆兩院ノ議員諸君全部ニ之
ヲ私贈致シマシタカラ、其ノ當時議員デイ
ラッシヤッタ方ノ中デハ、御讀ミ下スッタ方々
モアラウト思フノデアリマス、ソコデ「イギ
リス」デハ此ノ統制當時、火力デ以テ若シ電
氣ヲ發シタナラバ、ドノ位ノ石炭ガ一馬力ニ
付テ要ルカト云フコトノ調査ヲシタ所ガ、
一馬力ノ電力ヲ發シマスルノニハ、六「ト
ン」ノ石炭ガ要ル、一「トン」ノ石炭ヲ假ニ
十五圓ト見ル、サウスルト一馬力火力デ發
電スルノニハ、九十圓ノ原價ガ要ル、斯ウ
云フコトデアリマシタ、ソレデ日本ノ電力
ヲ綜合〓算シテ三十萬馬力ト見マスルナラ
が、是ニ九十圓ヲ乘ケルト云フト二十七億
圓ニナリマス、此ノ二十七億圓ト云フ天然資
源ハ、我ガ日本國ガ天與ノ資源トシテ受ケ
テ居ル所ノ世界無比ノ資源デアリマス、ソ
レデ昨年ノ十二月末、昨年末ノ調ニ依リマ
スルト云フト、我ガ國ノ此ノ天與ノ資源、
卽チ水力ハ渴水標準デ以テ千二百萬〓〓
ロワット」、ソレデ其ノ中許可ヲセラレテ居
ルモノガ八百六萬「キロワット」、未許可ノ
分ガ四百萬「キロワット」、斯ウ云フコトデ
アリマス、而シテ其ノ許可ニナッタモノノ中
デ開發ヲシタ水力ガ三百七十九萬「キロワッ
ト」未開發ノ分ガ三百五十二萬三千「キロ
ワット」、斯ウ云フコトデアリマスカラ、許
可ニナッタモノノ中デ、開發セラレタノハ全
渴水水力ノ三分ノ一デアリマス、斯樣ナ次
第デアリマスカラ、今日ハ電力ノ統制ノ時
機多少遲レタル憾ハアリマスルケレドモ、
未ダ今日ヲ以テ此ノ電力統制ノコトニ著手
致シマシタナラバ遲クハナイト思ヒマス、
ソレデ若シ此ノ電力ノ統制ガ出來ルト云フ
コトニナッタナラバ其ノ結果ハドウナル
カ、統制ガ出來レバ發電所ノ增設モ出來マ
セウ、改廢モ出來マセウ、設備ノ改善モ出
來マセウ、又合併モ出來マセウ、其ノ結果
ハ電力料金、卽チ電燈ニ支拂フ代金モ減リ
マセウ、電氣「ストーヴ」モ同樣デアリマ
ス、又竈用ノ電氣モ同樣デアリマス、無論
電力料ガ減レバ、電車賃モ下落致シマス、
國民ノ負擔ハ之ガ爲ニ大イニ輕減サレルノ
デアリマス、電力使用ノ工業ハ其ノ電力ガ
下ルガ爲ニ生產品ノ原價ガ下ルノデアリマ
ス、サウスルト國民ハ此ノ電力使用ノ工業
ニ依ッテ生產サレタ、廉イ品物ヲ一般ニ使用
スルコトガ出來ルノデアリマス、內地然リ、
外國關係ノ上カラ見マスレバ、此ノ電力ヲ
使用シテ作リ出シタ品物、ソレハ原價ガ非
常ニ廉ク付クノデアリマスカラ、從ッテ外國
貿易ハ今日ヨリハヨリ以上ニ進出スル譯デ
アリマス、恰モ「イギリス」ガ良質ノ石炭、豐
富ナ石炭、之ヲ使用シテ、サウシテ種々ノ
生產品ヲ造ッテ、其ノ結果世界ノ貿易ヲ壓倒
的ニ支配シテ、「イギリス」ノ富ヲ加ヘタト云
フコトハ過去ノ事實デアリマス、日本モ此
ノ電力統制ノコトガ一度成レバ、「イギリス」
ト同樣ノ活躍ヲ爲スコトガ出來ル、富國强兵
期シテ待ツベキノミデアルト私ハ思フノデ
アリマス、然ルニ私ガ此ノ書物ヲ著述シテ
以來六年ノ星霜ヲ經過シタ、輿論ヲ喚起ス
ル程ノ力ガ無カッタノハ私ノ聲ノ小サキガ
爲デアッタラウト、今更慚愧ノ至ニ堪ヘマセ
又、ガ併シ此ノ間辭職セラレタ廣田內閣、
是ハ此ノ問題ヲ取上ゲテ、サウシテ成案ヲ
兎モ角モ作ッテ國論ニ愬ヘタノデアリマス、
私ハ其ノ案全部ヲ其ノ儘贊成スル者デハア
リマセヌガ、併シ電力ヲ統制スルト云フコ
トハ只今申上ゲタガ如ク、我ガ國ノ如キ富
源ノ乏シイ地積ノ狭イ國ニ於テハ、此ノ天
與ノ二十七億ト云フ資源ヲ活用シテ、サウ
シテ國民ノ生活ノ安定ヲ圖ルト云フコトハ、
殆ド比類ナキ程ノ大切ナル事項デアルト私
ハ考ヘル、此ノ問題ガ廣田內閣ニ依ッテ取
上ゲラレタト云フコトハ、私ハ大體上贊成ス
ル者デアッタノデアリマス、併シ廣田內閣ハ
不幸ニシテ一年ナラズシテ倒レテ、此ノ問
題モ中廢サレテ居ル今日ハ形デアリマス、
ソコデ今ノ林君ノ內閣ガ成立致シテ、施政
方針ヲ此ノ間此ノ演壇デ私ハ伺フコトガ出
來タノデアリマスガ、其ノ施政方針ノ演說
中ニ、具體的ニ電力統制ノ條項ハ見エナイ
ノデアリマス、私ハ遺憾千萬ニ存ジテ居ッタ
次第デアリマス、併シ今ノ內閣ハ此ノ問題
ヲ、此ノ重要ナル國民ノ利害ニ痛切ナ關係
ノアル此ノ問題ヲ冷眼視シテ捨テ置クト云
フコトハナサラヌデアラウト思フノデアリ
マス、何故ナレバ當面ノ遞信大臣兒玉伯ハ
明敏果斷ノ人デアリマス、大藏大臣ノ結城
君ハ財政經濟ニ通曉シタ拔目ノナイ財政家
デアリ、經濟家デアリマス、サウスレバ斯
クノ如キ重要問題ヲ冷眼視シ、放棄シテ置
クト云フヤウナコトハナイ、若シアッタナラ
バ國民カラ今ノ政府ハ無責任デアル、國民
ノ利害休戚ヲ一向顧ミナイ所ノ政府デアル、
斯ウ云フ非難ヲ受ケテモ恐ラク當局者ハ之
ヲ辯解スルノ言葉ガナイデアラウト私ハ思
フノデアリマス、然ルニ此ノ間衆議院ノ豫
算ノ第六分科會デ、兒玉遞信大臣ハ日限ガ
切迫シテ居ル、又此ノ統制案ニ付テハ尙檢
討スル、〓究スル必要モアル、ソレデ今年
ハ、此ノ議會ニハ政府ハ此ノ案ヲ提出シナ
イ積リデアルト云フコトヲ御明言ニナッタ
ト承ッテ居ル、サウスレバ電力統制ノコトニ
付テノ當局者ノ肚ハ今日未定ノモノデアル
ト考ヘル外仕方ガナイ、サウスレバ此ノ案
ノ未定デアル當局者ニ向ッテ、私ガ豫定ノ質
問ヲ此處デ提起致シタ所ガ、ソレニ對シテ
完全ナ御答ガアラウトハ豫期セラレヌノデ
アリマス、ソレ故ニ私ハ五ツノ質問ヲ出ス
積リデ考ヘテ居リマシタガ、ソレハ此ノ場
合中止致シマス、唯茲ニ總理大臣ト遞信大
田、之ニ向ッテ二個ノ質問ヲ提出シテ、之ニ
御確答ヲ仰ギタイ、斯ウ思ヒマス、其ノ一
ツハ總理大臣ノ施政方針ノ演說中、具體的
ニ電力問題ニ觸レタル言句ノナイノハ甚ダ
遺憾デアリマスガ、綜合的ニハ產業ヲ保護
シ、適切ノ統制ヲ行フ云々ト云フ御言葉ガ
アッタヤウニ記憶致シマス、此ノ御言葉ノ中
ニハ電力統制ノ問題ハ含蓄シテ居ルノデア
ラウト私ハ御察シヲ致シマスガ、果シテ此
ノ中ニ電力統制ノ問題ヲ含蓄シテ居ルヤ否
ヤ、此ノ御確答ガ願ヒタイ、其ノ二ハ兒玉
遞相ハ先刻申シマスル通リ、去ル一日衆議
院ノ第六分科會ニ於テ、時日ガ切迫シテ居
ル、又案ノ再檢討モ要スル、其ノ理由ニ
依ッテ電力統制案ハ提出シナイト明言セラ
レタノデアリマスガ、ソレナレバ兒玉遞相
ハ再檢討ヲ此ノ案ニ爲サレルト云フ意思ハ
アルニ違ヒナイ、此ノ再檢討ヲシテ成案ヲ
作ルノニハドノ位ノ時日ヲ要スルト云フ御
考デアリマスカ、又ソレガ出來タナラバ、
議會ヲ待タズニ、問題トシテ之ヲ公表シ〓
究スル御積リデアリマスカ、次ノ議會ヲ
待ッテ此ノ案ヲ提出ナサルト云フ御考デア
リマスカ、此ノ二ツノ問題ヲ直チニ御答辯
ヲ願ヘマスレバ、甚ダ仕合セデアルト存ジ
マス
〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=26
-
027・兒玉秀雄
○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君) 加藤君ノ御
質問ニ相成リマシタ電力問題ニ關シテ御答ヘ
申上ゲタイト思ッテ居リマス、加藤君ハ「イギ
リス」ニ於キマスル電力問題ニ付テノ御話ガ
ゴザイマシタガ、加藤君ガ述ベラレマシタ
通リニ、英國ハ世界大戰後、世界大戰ノ經
驗ニ鑑ミマシテ、電力ノ統制ニ付テ緊切ナ
ル必要ヲ認メマシテ、所謂「グリッド·システ
ム」ヲ採用致シマシテ、主トシテ送電ノ統制
ヲ致シマシタノデアリマス、其ノ結果ハ非
常ニ良好デアリマスノデ、加藤君ノ言ハレ
タ通リノ結果ヲ見ルニ至ッタノデアリマス、
此ノ問題ハ我ガ國ノ電力統制ニ關シマシテ、
最モ參考ニスベキ資料ノ一ト考ヘテ居ルノ
デアリマス、而シテ我ガ國ノ水力電氣ノ量
ハ、今日既ニ許可ヲ致シマシテ、開發ニ從
事シテ居リマス分ガ四百三十七萬千千
ワット」、マダ未開發ニ屬スル分ガ三百五十
二萬「キロワット」、未許可ニナッテ居リマス
分ガ三百二萬「キロワット」ニ上ッテ居ル
ノデアリマス、尙最近今年度ヨリ更ニ
河川統制ノ調査ヲ致シマスノデ、其ノ
結果我ガ國ノ水力電氣量ノ總量ハ、恐ラクハ
二千萬「キロワット」以上ニ上ルデアラウト云
フ計畫ヲ立テテ居リマス、從ッテ大體我ガ國
ノ電力ノ根本方針ト致シマシテハ、加藤君
ノ言ハレマス通リニ、水主火從ノ方針ヲ執ッ
テ行カナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、
今日ノ實情ヲ以テ見マスルナラバ、更ニ我
ガ國ノ電力ノ統制强化スルノ必要ハ政府ノ
痛感スル所デアリマシテ、只今加藤君ノ言
ハルヽ如ク、今日ニ於テモ尙遲カラズト考
ヘテ居リマス、又電力統制ノ結果ガ一面ニ
於テハ豐富低廉ナル電力ヲ供給シ、一 四、
於テハ國防上遺憾ナキヲ期スル點ニ於テ、
其ノ利益ノアルコトハ政府ノ最モ深ク認メ
テ居ル點デアリマス、此ノ電力統制案ニ付
キマシテハ、前內閣ハ所謂民有國營ノ案ヲ
議會ニ提出致シタノデアリマス、現內閣ニ
於キマシテハ此ノ內容ニ付キマシテ十分ナ
ル檢討ヲ加フルノ必要ガアリト考ヘテ居ル
ノデアリマス、但シ此ノ案ハ電力統制ノ上
カラ見マシテ一ツノ優秀ナル案トハ考ヘテ
居リマス、併シナガラ内容ニ付テハ尙檢討
ノ必要ガアリ、且又之ヲ檢討シ終リマスノ
ニ、議會ニ提出スルノニ如何ニモ時日ノ
切迫ナル事柄ヲ憂ヘテ居ル次第デアリマス、
斯クノ如ク致シマシテ今囘ノ本議會ニハ、
本案ヲ提出致サザルコトニ決シタノデアリ
マス、其ノ旨衆議院ノ豫算分科會ニ於テ私
ヨリ言明ヲ致シタ次第デアリマス、併シナ
ガラ今日ノ我ガ國ノ電力ノ有樣ヲ見マシテ、
之ヲ統制强化スルノ必要ハ政府ノ痛感スル
所デアリマス、速カニ之ガ再檢討ヲ行ヒマ
シテ、來ルベキ本議會ニハ何等カノ案ヲ求
メマシテ、提案ヲ致シタイト考へテ居ルノ
デアリマス、御承知ノ通リニ我ガ國ノ電氣
事業ハ、政府ノ指導ト民間ノ非常ナル努力
ニ依リマシテ、短時日ノ間ニ異常ナ發達ヲ
致シテ居リマス、併シナガラ今日此ノ儘ニ
此ノ電力ノ狀態ヲ置クト云フ事柄ハ、到底
忍ビナイ所デアリマスノデ、之ヲ統制强化
スルト云フ事柄ハ加藤君ノ言ハレタ御趣旨
ニ全然政府ハ贊成致シテ居ルモノデアリマ
ス、御承知ノ通リ臺灣ニ於キマシテハ、半
官半民ノ電力會社ニ於テ統制シ、朝鮮ニ於
キマシテハ民有民營ニ依リマシテ統制ノ實
ヲ擧ゲテ居ルノデアリマス、我ガ國ノ狀態
ニ鑑ミマシテ、如何ナル形ニ依リマシテ之
ヲ統制スルノガ一番良イノデアルカ、少ク
トモ今日前內閣ノ認メマシタル民有國營案
ハ優秀ナル一案ト認メマスガ、更ニ之ニ檢
討ヲ加ヘマシテ、來ルベキ議會ニ於テハ必
ズ提案ヲ致シタイト固キ信念ヲ持ッテ居ル
次第デアリマス、此ノ點ニ付テ御答ヲ申上
ゲテ置キマス、尙總理大臣カラ御答ニナル
コトトハ思ヒマスガ、政府ノ施政方針ノ中
ニ具體的ニ電力問題ニ觸レテ居リマセヌ所
以ノモノハ、加藤君ノ只今仰セニナリマシ
タル通リニ、綜合的產業方針ノ中ニ、電力
統制ノ問題ガ包含セラレルモノト政府ハ考
ヘテ居ルノデアリマス、ノミナラズ政府ハ
庶政一新ヲ叫ンデ居ルノデアリマス、此ノ
庶政一新ニ燃エツヽアル此ノ政府ハ、此ノ
電力問題ニ對シマシテモ一日モ速カニ適切
ナル案ヲ得マシテ、而シテ兩院ノ御協贊ヲ
得タイト考ヘテ居ルノデアリマス、此ノ點
ニ於キマシテハ更ニ總理大臣カラ御答ニナ
ルコトトハ思ヒマスケレドモ、主管大臣タ
ル私ヨリモ一應ノ御答ヲ申上ゲテ置キタイ
ト思ヒマス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=27
-
028・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今加藤君カラ
御尋ノ、私ノ演說ノ中ニ於キマシテ產業ノ
振興ヲ述ベタ所デ、內外ノ經濟情勢ニ適應
シテ保護ノ施設ヲ講ズルト共ニ、適切ナル
統制ヲ施スト云フコトヲ述ベテ居リマスガ、
此ノ點ハ電力問題ヲ包含シテ居ルノデアル
カト云フ御質疑デアリマシタガ、電力問題
ノ如キハ所謂產業ノ振興ト云フ中ノ重要ナ
ル部分ヲ占メテ居ルモノト考ヘテ居リマス
ノデ、當然只今遞信大臣カラ述ベラレマシ
タ通リニ、各種ノ方法ニ付キ〓究ヲ致シマ
シテ、十分ナル統制指導ヲ致シタイト存ジ
テ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=28
-
029・加藤政之助
○加藤政之助君 只今總理大臣及遞信大臣
ヨリ、私ノ質問ニ對シテ御答辯ヲ得マシタ、
總理大臣ハ先頃ノ施政演說中ニ具體的ニ電
力統制ノコトハ言ハナカッタケレドモ、勿論
アノ意味ノ中ニ含蓄シテ居ルト云フコトノ
御答デアリマス、ソレナラバ私ハ滿足ヲ致
ス次第デアリマス、又遞信大臣ハ出來ル限
リ早イ程度ニ於テ再檢討ヲ加ヘテ、サウシ
テ案ヲ次ノ議會ニハ提出スル、斯ウ云フ御
答デアリマスカラ、是亦已ムヲ得ヌコトデ
アルト存ジテ滿足致ス次第デアリマス、次
ニ私ハ南氷洋ノ問題ニ付テ政府ニ質問ガア
ルノデアリマスガ、是ハ如何致シマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=29
-
030・近衞文麿
○議長(公爵近衛文麿君) ドノ位ノ時間御
掛リニナリマセウカ、···御質疑ハドノ位
ノ時間御掛リニナリマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=30
-
031・加藤政之助
○加藤政之助君 時間ハソンナニ長クハ掛
リマセヌ、先ヅ二、三十分······発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=31
-
032・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御登壇ヲ願ヒマ
ス、······御登壇ヲ願ヒマス
〔加藤政之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=32
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033・加藤政之助
○加藤政之助君 私ハ前々ノ議會デ海面進
出ノコトニ付テ當局者ニ御注意ヲ促シタノ
デアリマス、ソレハドウ云フ譯デアルカト
申シマスルト云フト、皆樣ノ御承知ノ通
リニ、我ガ日本ノ陸地ハ極メテ狹隘デアル、
而シテ人口ハ激增スル、此ノ狹隘ノ土地デ
此ノ激增スル人口ヲ養フコトハ困難デアル
ト云フノデ、甚ダシキニ至ッテハ政府ノ設ケ
タ人口食糧問題ノ委員會デ、產兒制限ヲシ
テ之ニ應ズルガ宜カラウナドト云フ消極的
ノ議論ヲスラ吐ク者ヲ生ズルニ至ッタ、私ハ
遺憾千萬デアル、我ガ日本ハ左樣ナ消極的
ノ立場ニ立ツベキデハナイ、積極的ニ此ノ
增加スル人口ヲ利用シテ、海外ニ發展スル
ト云フ計ヲ講ズベキガ當然デアル、ソレニ
ハ陸地ノ三倍アル海面ニ進出スルト云フコ
トガ日本國民ノ當然爲スベキ所デアル、ソ
レニハ南氷洋ニ今「ノルウェー」ト「イギリ
ス」ガ鯨漁船ヲ出シテ漁業ニ從事シテ居ル
ガ、英國ハ二十艘、「ノルウェー」ハ五十艘
ノ捕鯨船ヲ出シテ居ル、サウシテ幾億ニ値
スル捕鯨ヲ爲シテ居ル、我ガ日本モ此ノ際
ソレニ割込ムベキデアルト思フ、當局者ハ
之ニ向ッテ奬勵スル考ハナイカト云フコト
ノ質問ヲ致シタコトガアルノデアリマス、
然ルニ昨年ノ末ニ於テ、我ガ日本ノ漁業家
中自發的ニ奮發スル者ガアッテ、政府モ之ヲ
奬勵保護スルト云フ態度ニ出タ結果、昨年
ノ暮ニハ日新、圖南、此ノ兩捕鯨船ガ南洋
ニ出掛ケテ、今尙捕鯨中デアルノデアリマ
ス、承レバモウ來月アタリハ歸國ノ途ニ就
クノダト云フコトニ承知シテ居リマスガ、
此ノ捕鯨ノ成績ハ宜シカッタト傳ヘラレテ
居リマスガ、政府ニハ必ズ無線電信カ何カ
デ正確ナル所ノ報告ガ來テ居ルノデアラウ
ト思フ、來テ居ルナラバ漏ラシテ差支ナイ
限リ、此處デ此ノ捕鯨船ノ成績ガドウデアッ
タカト云フコトヲ發表サレタイト思フノデ
アリマス、ソレニ尙此ノ南氷洋ノ捕鯨ニ從
事スベク一萬數千噸、二萬噸級ノ漁船ヲ建
造スルコトヲ政府ハ二隻許シタト云フコト
ヲ承ッテ居ル、果シテソレガ事實デアリマス
カ、ソレガ事實デアルト致シマシタナラバ、此
ノ過去ノ船ハ古船ヲ買ッタカ何カノ關係デ
アリマセウカラ、思フ通リニ之ヲ利用スル
コトモ出來ナカッタノデアラウト思ヒマスガ、
新タニ建造ヲ許ス以上ハ、將來一朝事ノ有ッ
タ時ニ、海軍ノ運送船ニ之ヲ十分利用スル
コトノ出來ルト云フ設計ノ下ニ監督シテ建
造サセルノガ當然デアルト思ヒマスガ、政
府ハ果シテ其ノ用意ガアルカ、果シテ其ノ
用意ノ下ニ監督ヲシツヽアルノデアルカ、
ソレモ承リタイ、ソレカラ尙近ク一層當業
者ハ此ノ勢ニ連レテ、此ノ勢ニ刺戟セラレ
テ、更ニ南氷洋ニ捕鯨船ヲ出スト云フ計畫
ガアッテ、有力ナ資產家ガ五千萬圓ノ資金ヲ
投ジテサウシテ新造船ヲ造リタイト云フ計
畫デ其ノ許可ヲ出願シタト云フコトモ承ッ
ク、サウ云フ事實ガ果シテアルノデアリマ
セウカ、ドウデアリマセウカ、アルナラ
バソレモ公表シテ差支ナイ限リ公表サ
レタイ、ソレカラ昨年末ニ往ッテ今捕鯨
中デアル所ノ二隻ノ捕鯨船、是ハ「イギリ
ス」、「ノルウエー」ノ漁船間ニ割込ンダノ
デアリマスガ、此ノ割込ンダ結果何等ノ故
障モ無カッタカドウデアルカ、ソレモ參考ノ
爲ニ伺ッテ置キタイト思ヒマス、ソレカラ斯
クノ如ク續々捕鯨船ヲ南氷洋ニ出スト云フ
計畫デアルト云フト、玆ニ特ニ注意シナケ
レバナラナイノハ、此ノ鯨漁ノ豐富デアル
カ、澤山獲レルカ獲レヌカト云フコトハ砲
手ノ巧拙ニ依ルト云フコトヲ承ッテ居ルノ
デアリマス、サウスルト云フト、此ノ砲手
ノ習練ニ付テ政府ハ豫メ監督スル、訓練ス
ル所ガナケレバナラヌト思ヒマスガ、斯ウ
云フ點ニ付テハ十分ニ御注意ニナッテ居リ
マスカドウカ、ソレモ伺ヒタイ、ソレカラ
最後ニ、是ハ北洋デアリマスガ、內地ノ漁
業ト、北洋ノ海面ノ漁業、所謂「カムチヤツ
カ」ノ如キ、或ハ千島ノ如キ、之ヲ一定ノ
規律ノ下ニ統制スルト云フ噂ガ立ッタノデ、
當業者ハ頻リニ不安ノ念ヲ懷イテ居ルト云
フコトヲ承ッテ居リマスルガ、政府ノ意思ハ
果シテ是等ノ內地ノ漁業ト、「カムチヤッカ」
方面ノ海面ノ漁業ト、同ジ方式ノ下ニ統制
スルト云フ意思デアルカドウカ、是モ一ツ
伺ッテ置キタイ、以上ノ點ダケデアリマス
〔國務大臣山崎達之輔君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=33
-
034・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 南氷洋ノ捕鯨
ニ關シマシテ御答ヲ申上ゲマス、加藤君ノ
仰セノ通リニ、南氷洋ニ於ケル捕鯨業ニ付
キマシテハ、當局ト致シマシテ積極方針ヲ
執ッテ居ルノデアリマス、兩三年前加藤君ノ
御質問ガアリマシタ當時ニ申上ゲマシタヤ
ウナ關係デアリマシテ、前內閣ノ當時ニ於
キマシテモ同樣積極ノ方針ヲ執ッテ居ラレ
タノデアリマシテ、加藤君御承知ノ通リニ、
最初圖南丸ト云フ船ヲ許可致シマシテ試驗
的ニ行ヒマシタ結果、相當優良ナ成績ヲ擧
ゲ得マシタノデ、其ノ次ニ日新丸ト云フ船
ヲ許可致シタノデアリマス、只今ノトコロ
本年ノ秋ニハ母船四隻ノ出漁ガ出來ル順序
ト相成ッテ居リマシテ、更ニ十三年度ニ於テ
ハ總計八隻ノ母船ノ出漁ヲ見ル豫定ト相
成ッテ居リマス、ソレ以上ノ許可ヲ致スカド
ウカト云フ點ハ、是ハ全體ノ成績モ考ヘナ
ケレバナリマセヌノデ、別ニ愼重ニ考慮ス
ル必要ガアルト考ヘテ居ルノデアリマス、
ソレカラ造船ノ設計ニ付キマシテハ、御承
知ノヤウニ圖南丸ハ古船ヲ買入レマシタ關
係デアリマスカラ是ハ別デアリマスガ、日
新丸以後ニ新造致シマスル船ハ、加藤君ノ
仰セノ一朝有事ノ際ニ於ケル考慮ヲ十分加
ヘテアルノデアリマス、ソレカラ本年ノ捕
鯨ノ成績ハ詳シイコトハマダ分リマセヌガ、
大體豫定ノ成績ヲ擧ゲ得ル見込デアリマス、
ソレカラ英國及「ノールウエー」トノ摩擦ノ點
デアリマスガ、此ノ點ハ今日マデ別ニ憂慮
スベキコトハナイト心得テ居リマス、ソレ
カラ砲手ノ訓練デアリマスガ、是ハ捕鯨業
ノ進展ノ爲ニハ重要ナ關係ヲ持ッテ居リマ
スコトハ加藤君御承知ノ通リデアリマシテ、
幸ニ沿岸捕鯨ニ於キマシテ相當ノ訓練ヲ加
ヘマシタ者ヲ、南氷洋ノ捕鯨ノ方ニ從事セ
シメル順序ヲ取ッテ居リマスカラ、今日ノト
コロ大シタ支障ヲ感ジテ居ラヌノデアリマ
ス、統制ノ方針ハ、斯樣ナ事業ハ發展ノ當初
ニ於キマシテ相當大局ヲ考ヘテノ統制ヲ取ッ
テ參リマセヌケレバ、後日ニナリマシテ統
制上種々困難ナルコトガ發生スルモノデア
リマス、普通ノ北洋漁業ト同一ノ考ハ持ッ
テ居リマセヌケレドモ、最初許可致シマス
際ニ將來ノコトヲ慮リマシテ、相當ソコニ
圓滑ナル統制ノ取レマスヤウナコトヲ考慮
ニ加ヘマシテ、個々ノ處分ヲ致シテ居ル次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=34
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035・加藤政之助
○加藤政之助君 私ノ質問ハ此ノ程度デ打
切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=35
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036・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ニテ休憩ヲ致
シマス、午後二時ヨリ開會致シマス
午前十一時五十三分休憩
午後二時十七分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=36
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037・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ午後ノ會
議ヲ開キマス、本日伊江男爵ヨリ、病氣ニ
依リ豫算委員辭任ノ申出ガゴザイマス、之
ヲ許スコトニ御異議ガアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=37
-
038・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、第一部ニ於テ補關選擧ヲ行ハレム
コトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=38
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039・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第一、國務
大臣ノ演說ニ關スル件、靑木才次郞君
〔靑木才次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=39
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040・青木才次郎
○靑木才次郞君 本員質問ノ要點ヲ先ヅ以
テ申上ゲマスレバ、今囘修正セラレタル豫
算ヲ以テ、農村ノ窮狀ヲ打開シ得ラレルト
政府ハ御信ジニナッテ居ルヤ否ヤト云フ點
デアリマス、本員ハ茨城縣ノ農村ニ生レタ
者デゴザイマスルガ、幼時古老ノ言ヲ聞キ
マシタル記憶ヲ申上ゲマスルト、舊幕時代
ノ農民ノ方ガ、マダ暮シ方ガ非常ニ樂デアッ
タト聞イテ居ルノデアリマス、成ルホド其
ノ當時ノ公課ハ頗ル重ク、所謂四公六民ハ
幕末ノ頃ニ至リマシテ六公四民ニモナッタ
ノデアリマス、併シ當時ハ金錢經濟ガマダ
農村ニ浸潤シテ居リマセヌ、租稅ハ物納デ
アリマシタ爲ニ、米、麥其ノ他ノ農產物ノ
價格ガ高クアラウガ、低クアラウガ、今日
ホド農家ノ懷ニ響キハナカッタノデアリマ
ス、彼等農民ハ自ラ作レル米、麥、野菜ヲ
食シ、自ラ造レル酒ヲ飮ミ、自ラ作レル煙
草ヲ吸ヒ、自ラ織リマシタル著物ヲ著テ、
細イナガラモ饑ヱズ、凍エズ生活ヲ爲シ遂
ゲテ參ッタノデアリマス、從ッテ今日ノ言葉
デ申シマス所ノ、所謂社會事業ナルモノハ
凶年、饑饉、洪水地震、或ハ大火等、非常
ノ場合ニ其ノ必要ヲ認メラレタルニ過ギナ
カッタノデアリマス、此ノ狀態ハ御維新後非
常ニ變化シテ參リマシタ、勿論經濟ノ發達
ニ伴ヒマシテ、金錢經濟ガ農村ニ浸潤シ來
ルコトハ自然ノ趨勢デゴザイマスルケレド
〓、之ニ拍車ヲ掛ケ、農村ノ斷末魔ヲ早メ
マシタモノハ、明治以來歷代政府ノ方針デ
アリマス、租稅モ金納トナリマシテ、自家
用ノ酒ヲ造レバ嚴罰ニ處セラレル、煙草ハ
政府ノ專賣トナッテ、金ヲ出シテ買ハナケレ
バナラナクナッタノデアリマス、從ッテ米、麥
其ノ他ノ穀物ノ價格ガ下落致シマシタル場合
ニ於テハ、農家ハ當然ノ結果ト致シマシテ、
借金ヲシナケレバナラナクナッタノデアリマ
ス、是ガ積リ積リマシテ四十億ノ農村負債
トナッタノデアリマス、衆議院ノ本會議ニ於
キマシテ西川貞一代議士君ガ、自家ノ飮料ト
シテ濁酒クラヰハ製造サシテモ宜イヂヤナ
イカ、自分デ喫ム煙草クラヰハ作ラシテモ
宜イヂヤナイカト云フ御尋ヲシタヤウデア
リマスガ、政府ハ之ニ對シテ何等ノ答辯ヲ
シテ居ラヌノデアリマス、私ハ此ノ點ニ對
シテ政府ノ御所見ヲ伺フコトガ出來レバ幸
ト存ジマス、前內閣ノ編成致シマシタル三
十億ノ放漫ナル豫算ニ對シマシテハ、本員
ハ固ヨリ贊成ハ致シカネマス、然レドモ所
謂馬場財政ノ特色ノ一ツトシマシテ、從來
ノ都市偏重政策ヲ改メ、農村ノ窮乏ヲ救フ
政策ヲ採リマシタコトハ本員ノ大イニ欣幸
トシタ所デアリマス、然ルニ現內閣ノ豫算
編成ヲ見ルニ及ビマシテ、農村ハ再ビ絕望
ノ淵ニ陷ッタノデアリマス、結城藏相ノ就任
ハ都市ノ提灯行列トナリ、地方ニ於テハ怨
嗟ノ聲ニ充チ滿チテ居ルノデアリマス、地
方財政交付金ハ莫大ナル削減ヲ被ッタノデ
アリマス、尤モ近頃衆議院ニ於キマシテ、
熱烈ナル衆議院ノ要望ニ依リマシテ、今回
三千萬圓ヲ增額追加提案サレルコトニナリ
マシタ、セザルニ勝ル、勿論デゴザイマス
ルガ、コンナ膏藥貼リデハドウニモナラナ
イト思ヒマス、地方財政調整交付金ノ確立
デナケレバナリマセヌ、都市ニ輕ク農村ニ
重キ家屋稅、賃貸價格百圓ニ付キマシテ、
東京府ハ僅カニ六十數錢、鹿兒島縣ニ於キ
マシテハ十八圓餘ト云フガ如キ不公正ナル
課率ノ訂正ハ望メナクナッタノデアリマス、
戶數割ノ廢止モ亦絕望トナリマシタ、農林
省ノ豫算ヲ見マスト、千八十四萬三十六圓
ノ減額トナリ、內務省ノ豫算ニ於キマシテ
ハ、農村負債整理ニ關スル經費ハ全額削除
ノ運命トナリ、水害防除施設助成ニ要スル
經費ハ六割ヲ減ゼラレタノデアリマス、殊
ニ農村ノ希望シテ居リマシタル農村經濟更
生ニ關スル經費、產繭處理統制施設費、養
蠶地方施設助成費、羊毛自給施設費等ガ、
軒並ミニ大減額ヲ加へラレマシテ、舊態依
然タル當面ノ糊塗策ノミヲ羅列スルニ
終リマシタコトハ重ネ〓〓遺憾ニ堪ヘザ
ル所デアリマス、殊ニ農產物檢査國營
費五百三十七萬四千七百十六圓全額削除
ノ如キ、農業政策ノ後退ヲ意味スルモノ
デアリマシテ、議會ニ於ケル公約ニ背
キ、一日モ忽セニスル能ハザル施設
繰延ブルガ如キハ、現內閣ノ農村ニ對スル
認識ノ缺クルモノト言ハナケレバナリマセ
ヌ、農地制度ニ關スル經費ハ豫算ニ殘存シ、
法案ハ提出セラレテ居リマスルケレドモ、
會期剩ス所幾何モナキ此ノ議會ニ、此ノ法案
ガ兩院ヲ通過スルコトハ期シ難キノミナラ
ズ、法案ノ內容ヲ拜見致シマスレバ、農村
ノ事情ニ卽シナイ點ガ多ク、此ノ法案提出
ノ爲ニ既ニ田畑ノ賣買價格ハ下落シタルコ
トサヘ傳ヘラレテ居ルノデアリマス、林內
閣總理大臣ハ現下農村ノ窮狀ヲ救ハズ、其
ノ希望ヲ蹂躪シ、果シテ國民生活ノ安定、
廣義國防ノ充實ヲ期シ得ラルヽト御考ニ
ナッテ居ルノデアリマセウカ、御高見ヲ伺
ヒタイノデアリマス、茨城縣ノ或農家ニ就
テ調査シタル實例ヲ申上ゲマスルト、田畑
一町五反、其ノ內田畑デ六反步小作、之ヲ耕
作シ年收七百圓ヲ得テ居リマスル自作兼小
作農ニ就キマシテ調査致シマシタトコロ、
近來ノ物價ノ騰貴ニ依リマシテ、醤油、砂
糖酒煙草、被服費、養蠶、木炭等ノ支
出ハ、年額六十餘圓ノ增加ニ相成ッテ居ルノ
デアリマス、是ハ茨城縣三百七十九箇町村ノ
各町村長ヨリ我々ニ參ック手紙デアリマス、
御參考ノ爲ニ之ヲ讀立テマス、「稅制竝地
方財政改革案實現ニ付御依賴、曩ニ公表セ
ラレタル中央地方ヲ通スル稅制改革竝地方
財政調整交付金制度ハ國民負擔ノ不均衡ヲ
根本的ニ是正シ財政ノ强化確立ヲ圖ラント
スルモノニシテ刻下最喫緊ノ事案ト謂フヘ
ク全地方民ハ之カ實現ノ一日モ速カナラン
コトヲ鶴首待望シツヽアリタル所今次圖ラ
スモ再調査ノ要アリトシテ其ノ實施ヲ延期
セラルヽノ議アルヲ聞クハ洵ニ驚愕措ク能
ハサル所ニ有之候萬一右ノ如ク其ノ延期ヲ
見又ハ減縮セラルヽカ如キコトアラハサナ
キタニ負擔ノ不均衡ト過重トニ呻吟シツヽ
アル地方住民ハ一層失意落膽ニ陷ルヘク誠
ニ地方ノ浮沈ニ係ル由々敷一大事ノ痛感セ
ラレ候此ノ際是非共右案ノ實現ヲ見國民多
數ヲシテ其ノ堵ニ安ンスルコトヲ得シメ候
樣格段ノ御配慮相願度茲ニ情ヲ具シ特ニ及
御依賴候」、是ハ全部ノ町村長カラ參ッテ居
ルノデアリマス、私バカリデナク他ノ同僚
諸君ニモ參ッテ居ルト思ヒマス、ソレカラ
是ハ全國農大會ノ宣言デアリマス、是ハ皆
サンノ御手許ヘモ參ッテ御承知ノ筈デアリ
マスガ、御記憶ヲ新シクシテ戴ク意味ニ於
テ、短イデスカラ讀立テヲ許シテ戴キタイ
ト思ヒマス、「宣言、時艱方ニ大ナリ庶政ハ
斷乎トシテ一新セザルベカラズ庶政一新ノ
要諦ハ兵農兩全ニアリ重斂ニ喘グトコロ農
全キノ實ナシ、農民ハ今ヤ戶數割廢止、地
租附加稅ノ輕減、家屋稅及雜種稅ノ改廢等
ヲ眼目トスル地方稅制改革竝地方財政調整
交付金制度ノ確立ヲ確信シテ疑ハザルノ事
態ニアリ、斯ノ機ニ及ンデ尙農村ヲ無視シ
其ノ待望ヲ裏切ルガ如キコトアランカ全農
民ノ政治ニ對スル信賴全ク地ヲ拂ヒ邦家ノ
憂患遂ニ玆ニ極マルベシ、政府ハ速ニ國民
負擔不均衡ノ匡革、重要農林國策ノ實現竝
農會技術員俸給國庫補助增額ヲ斷行スベ
シ、玆ニ全國農會大會ヲ開催シ全農民ノ衷
心ヲ天下ニ表明スルト共ニ政府ノ猛省ヲ促
シ所志ノ貫徹ニ邁進セントス、敢テ宣ス、
昭和十二年二月十五日、全國農會大會」、決
議ガアリマスガ、是ハ省略致シマス、請願
文書表ヲ見マシテモ、御承知ノ通リ負擔均
衡ニ關スル請願デ充滿シテ居ルノデアリマ
ス、農村ノ窮狀斯クノ如シ、斯クノ如クニ
シテ何等對策ヲ講ゼザルニ於テハ、地方農
民ハ益〓窮境ニ陷ルベク、富國强兵ノ實何
レニアリヤ、疑ハザルヲ得ヌノデアリマス、
現内閣ノ諸公ハ其ノ學識經驗ニ於テ其ノ閱
歷聲望ニ於テ、誠ニ政治家トシテ立派ナ方
方デアリマス、併シ率直ニ申上グルナラバ、
農村ノ實情ニ付テハ如何ニモ御認識ガ不足
シテ居ルノヂヤナイカト私ハ疑フノデアリ
マス、本員ハ決シテ攻擊セムガ爲ニ攻擊ス
ルト云フガ如キ不純ナル考ハ毛頭持ッテ居
リマセヌ、地ニ親シメル農村出身ノ議員ト
致シマシテ、誠心誠意、以上ノ點ニ付キマ
シテ內閣總理大臣ノ御方針ニ付キ質問ヲ申
上ゲル次第デアリマス、次ニ衆議院議員選擧
法改正ニ付テ御尋ネ致シマス、前內閣ハ其ノ
必要ヲ痛感シ、其ノ成案ヲ得、之ヲ本期議會
ニ提出セムト致シマシタルコトハ、旣ニ周知
ノ事實デアリマス、現行選擧法中改正ヲ要
スル點ハ多々アルノデアリマス、一々申上ゲ
マスルト時間ガ掛リマスガ故ニ、私ハ是ハ
申上ゲマセヌ、此ノ選擧法ノ調査會ニ於キ
マシテ、急務中ノ急務ナリトシテ取急ギ決
議致シマシタル卽チ罰則ノ改正コソ、一日
モ忽セニスベカラザル緊急事ナリト信ズル
ノデアリマス、現行法ニ依リマスルト、親
子ガ〓卓ヲ共ニシテ選擧ノ話ヲシテモ違反、
推薦狀ヲ代書サシテモ違反、倒レタ看板ヲ
起シテモ違反、選擧ニ關シマシテハ言論文
書ニアラザル限リ何ヲ爲シテモ違反デアリ
マス、選擧ノ肅正ハ誠ニ結構、大贊成デゴ
ザリマスルガ、餘リニ其ノ罰則ガ微細ヲ極
メ、如何ニモ常識ニ外レタカノ如キ點サヘ
モ多々アルノデアリマス、ソレガ爲ニ選擧
民ハ非常ニ怖レ萎縮シテ、政治談ヲ爲ス者
ナク、選擧ハ成ルタケ避ケムトシ、選擧ヲ爲
サムトスル者ハ日々ニ減少シテ居ルノデア
リマス、統計ノ上カラ見マスルナラバ、ヤ
レ八割出タトカ、七割出タトカ言ッテ居リマ
スガ、其ノ實情ヲ見マスルニ、講師ヲ派遣
シテ說キ聽カセ、或ハ滑稽ニモ神ノ力ニ縋
リ、或ハ小學生ヲ總動員シテ、一戶々々ニ
投票ニ行ッテ下サイト言ッテ勸誘シ、甚ダシ
キハ女子供ノ手マデ借リテ選擧ノ棄權ヲセ
ザルヤウ防止是レ努メテ居ルノデアリマス、
憲法治下ニ於ケル國民ノ斯カル狀態ニ、選
擧ノ罰則ノ改正コソ急務中ノ急務ナリト信
ズルノデアリマス、衆議院ニ於キマシテハ、
選擧法改正案ハ政民兩黨デ共同提案スベク
協議中ナリト云フ新聞記事ヲ見タノデアリ
マスガ、當然過ギル程當然ナリト信ズルノ
デアリマス「ニュース」ノ傳フル所ニ依リマ
スレバ、政府ハ今期議會ニ選擧法改正案ヲ
御提案ニナラヌト承ルノデアリマス、成ル
ホド解散ガナケレバ衆議院ノ選擧ハナイデ
アリマセウ、然レドモ地方ニ於テ縣會議員
ノ選擧モアリ、市町村會議員ノ選擧ハ今春
カラ夏ニカケテ行ハレル所ガ多イノデアリ
マス、現行選擧法ノ罰則中改正ノ必要アリ
ト御認メニナリマシタル點アリトスルナラ
バ、如何ニ會期ガ切迫シテ居リマス議會ナ
リト申シマシテモ之ヲ提案スルノガ政府當
然ノ責任ナリト斯ク信ズル者デアリマス、
去ル五十議會ニ於キマシテハ、現行選擧法
卽チ普選法ハ、社會的大變革ヲ來スガ如キ
未曾有ノ重要法案デサヘ、三月四日ニ初メ
テ本院ニ上程シ而モ可決セラレテ居ルノデ
アリマス、殊ニ本期議會ハ停會休會相次ギ
マシタル結果、少クモ何日間カノ會期延長
ハ不可避ノ情況ニアルノデアリマス、會期
短キ理由ニ依リ御提案出來ヌト云フ理由ハ、
何トシテモ了解出來ナイノデアリマス、選
擧法罰則改正ノ如キ、國民ノ悉ク熱望シテ
居リマスル所ノ法案ガ、會期少キ理由ニ依
リマシテ提案見合セト云フガ如キニ至リマ
シテハ、政府ノ揭ゲテ居リマスル所ノ民意
暢達、何レニ在リヤト問ハザルヲ得ナイノ
デアリマス、林內閣總理大臣ハ、去ル二月
十三日衆議院ノ豫算總會ニ於キマシテ、金
井代議士ノ質問ニ對シ、考究中、速カニ成
案ヲ得テ提出シタイト御答ニナッテ居リマ
ス、ケレドモ完全ナル成案ヲ得ルコトハナ
カナカ容易デハアリマセヌ、完全ナ成案ヲ
得テ、本期議會ニ提案セラルヽガ如キコト
ヲ夢想ダモ出來ヌト思フノデアリマス、故
ニ政府ハ次善ノ處置ト致シマシテ、調査會
ノ要望致シマシタル點ダケニテモ本期議會
ニ提案ヲシ、之ガ協贊ヲ受ケ、國民ヲシテ
明朗ナル氣持ヲ以テ選擧ニ臨マシムル責任
アリト信ズルノデアリマス、總理大臣ノ所
見ヲ伺ヒタイ、終リニ臨ミマシテ一言致シ
マス、此ノ質問ハ國務大臣ノ演說ニ對スル
質問デアリマシテ、平年ナラバ、一月末若
シクハ二月早々終了スルノデアリマス、今
頃ニナリマシテ更ニ時間ヲ費シマシテハ、
同僚諸君ニ御氣ノ毒ト存ジマスルガ故ニ、
私ハ再質問ハ致シマセヌ、林總理大臣ハ其
ノ御積リデ懇切丁寧ニ御答辯アラムコトヲ
切望致シマス
〔國務大臣山崎達之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=40
-
041・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 靑木君ノ御質
問ハ、總理大臣ノ御答辯ヲ御求メニナリマ
シタ次第デアリマシタガ、農林省ノ豫算等ニ
關係スル事項ガ多イヤウデゴザリマスルカ
ラ、一應私ヨリ御答ヲ申上ゲマスコトガ却テ
便宜デアラウト存ジマシテ、御答ヲ申上ゲ
ル次第デアリマス、農村全般ノコトニ付キ
マシテ色々御配慮ノ次第ハ篤ト御伺ヲ申上
ゲタ次第デアリマス、交付金ノ問題ニ關シ
マシテハ、何レ他ノ機會ニ於キマシ
テ大藏大臣等ヨリ詳細ニ御聽キヲ願ヒマス
場合ガアラウト存ジマスガ、一言申上
ゲマスレバ、今日マデ都市ト農村トノ
負擔ノ不均衡デアッタ事實ハ、是ハ政府
トシテモ十分認メテ居ル點デアリマス、
從ッテ、此ノ不均衡ヲ是正スルノ必要モ亦當
然ノコトデアリマス、併シナガラ此ノ問題
ハ申ス迄モナク、稅制全般ノ改正ト不可分
ノ關係ニアルトモ申シテ宜シイ譯デアリマ
スノデ、一方稅制ニ關シマシテ今日ノ經濟
情勢其ノ他ニ鑑ミマシテ、前內閣ノ稅制ニ
對シマシテ、暫定的ニ或變ッタ方法ヲ執ルノ
必要ニ迫ラレマシタ以上ハ、是ト關聯致シ
マスル交付金ノ取扱方、其ノ形ニ變化ヲ及
シマスコトモ、是モ必然ノコトデアリマ
ス、唯先ニ申上ゲマシタヤウニ、負擔不均
衡ノ事實ト、之ヲ是正スルノ必要ハ當然認
メル所デアリマスカラ、從ッテ今日國民ノ要
望モ參酌致シマシテ、七千萬圓ニ更ニ三千
萬圓ヲ追加シテ、此ノ問題ノ解決ヲ圖ラウ
ト致シテ居ル所デアリマス、農林省豫算ニ
付キマシテ、相當ノ節減ヲ致シタト云フ點
ニ付テノ御心配デゴザイマシタガ、今日財
政經濟、物價、其ノ他ノ關係カラ致シマ
シテ、豫算ニ相當ノ節減ヲ加ヘルコトガ巳
ムヲ得ザル必要ニ迫ラレテ居リマスル以上
ハ、農林省所管ノ豫算ニ於キマシテモ、或
程度ハ忍ブベカラザルヲ忍ブト云フコト
モ、是モ已ムヲ得ザルコトデアリマス、唯
併シナガラ之ヲ節減致シマスコトニ依ッテ、
農村ニ大ナル不利益ヲ生ジマスルヤウナコ
トハ、私ハ絕對ニ避ケタ積リデアリマス
デ、靑木君ノ御指摘ニナリマシタ、例ヘバ
穀物國營檢査ノ問題ハ一箇年延期ヲ致シマ
シタガ、是ハ一ツハ法律トノ關係モゴザイ
マシテ、而モ今日各地方ノ實情ト餘リニ摩
擦ヲ生ゼズシテ此ノ問題ヲ解決致シマスガ
爲ニハ、今少シク案ノ內容ニ檢討ヲ加ヘタ
イ點モアリマスノデ、旁、一箇年ノ延期ヲ致
シタ次第デアリマス、產繭處理統制ノ施
設或ハ養蠶地方ニ對スル特殊施設ノ經費
ニ若干ノ繰延モ致シマシタガ、是モ現在ニ
於ケル各地方ノ事情ノ進度ト睨ミ合セマシ
テ、實施上差支ナシト認メマシタ程度ニ於
テ經費ノ繰延ヲヤッタノデアリマシテ、是モ
私ハ之ガ爲ニ農村ニ大ナル不便ヲ生ズル懸
念ハナイト信ジテ居ルノデアリマス、負債
整理ノ問題ニ付キマシテハ、內務省所管ニ
計上シテアリマスル若干ノ人件費ヲ見合セ
マシタコトハ事實デアリマスガ、負債整理
計畫ソレ自體ニ付キマシテハ、只今折角計
畫ヲ纒メツヽアル際デアリマシテ、多分此
ノ議會ニ於テ皆樣ノ御協賛ヲ仰ギマス順序
ニ相進ミ得ルモノト信ジテ居ッタノデアリ
マス、農地法案ガ農村ノ事情ニ適セザルガ
爲ニ、旣ニ影響ヲ生ジタト云フヤウナ御言
葉モアリマシタガ、此ノ問題ハ何レ法律案
上程ノ上デ篤ト私共ノ考モ申上ゲタイトハ
存ジマスガ、一言申上ゲマスレバ、法案ノ
立テ方ハ私共ハ極メテ穩健中正ナ案デアッテ、
今日ノ我ガ國ノ農村事情ヲ最モ多ク考慮ニ
入レテ立案致シタモノト信ジテ居ルノデア
リマスカラ、靑木君ノ御懸念ノヤウナコト
ハ御取下ゲヲ願ッテ宜シイノヂャナイカト
信ズルノデアリマス、全體ノ農村ニ關スル
政策ハ、是ハ申上ゲマス迄モナク諸般ノ政
策ヲ併セ用ヒマシテ、不斷ノ努力ヲ傾注シ
ナケレバナカ〓〓簡單ニ片付ク譯ニハ參リ
マセヌ、私共ハ微力ナガラ十分ノ力ヲ用ヒ
マシテ、農村ノ爲ニ盡シタイト考ヘテ居ル
次第デアリマス
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=41
-
042・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 選擧法改正ノ
問題ニ付キマシテ總理大臣ニ御尋ガゴザイ
マシタガ、先ヅ私カラ其ノ大要ヲ御答ヘ申
上ゲルコトガ便利カト考ヘマス、只今御述
ニナリマシタヤウニ、現行選擧法ハ前囘執
行ノ總選擧等ノ實況ニ徵シマシテ、色々改
正ヲ要スル點ガ多々アルヤウデアリマス、
卽チ取締ノ內容ガ煩雜過ギルトカ云フヤウ
ナ點デアルノデアリマスガ、之ニ鑑ミマシ
テ前內閣ニ於キマシテ選擧制度調査會ヲ
作ッテ愼重審議ヲサレタノデアリマス、卽チ
取締ノ煩雜ナル點、形式ニ過グル點、或
實際ノ人情ニ合ハザル點ト云フヤウナコト
ニ付キマシテ十分ナル檢討ヲ加ヘテ、相當
ノ成案ヲ得テ居ラルヽコトハ只今御述ニナ
リマシク通リデアリマス、此ノ中ニハ大體
ニ於テ選擧取締ノ······或ハ大體ニ於テ緩和
ト云フコトガ主眼デアリマスガ、尙重大ナ
ル二三ノ條項ガアルノデアリマス、卽チ所
謂此ノ混同開票ノ問題、或ハ選擧事務長ノ
行爲ニ對スル連坐ノ關係トカ、又從來バラ
バラニナッテ居リマスル諸種ノ選擧ニ對ス
ル取締ノ規定ヲ統一シテ、一ツノ獨立ノ
法ニ作ッタラドウカト云フヤウナ事項ナ
ドガアルノデアリマス、是等ハ可ナリ愼重
審議ヲ要スル問題ト考ヘマス、其ノ上ニ御
承知ノ通リ選擧法ハ憲法附屬ノ大法ト
シテ樞密院ノ議ニ付スル等、愼重ナル
手續ヲ要シマスルノデ、現內閣ハ曩ニ議會
開會中ニ政變ノ後ヲ承ケマシタヤウナ次第
デ、如何ニモ會期切迫、之ヲ愼重審議ヲシ
テ更ニ必要ナル手續ヲ經マシテ提案スルノ
運ビニ至ラヌコトハ甚ダ遺憾デアリマスガ、
右ノヤウナ次第デアリマスルノデ、何卒御
諒承ヲ願フノデアリマス、只今御述ニナリ
マシタヤウニ、何等カ改正ノ必要ハ是ハ當
然認メテ居リマスル所デアリマスノデ、出
來ルダケ近イ機會ニ提案ヲ致シテ御協賛ヲ
願フヤウナ運ビニ致シタイト存ジマスルガ、
本議會ハ只今申上ゲマシタヤウニ、切迫ノ
爲ニ到底提案ハムツカシイノデハナイカト
斯ウ云フ風ニ考ヘマス、御諒承ヲ願ヒマス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=42
-
043・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ私ニ對ス
ル御質疑ニ付キマシテハ、大體農林大臣ノ
說明デ御了解ノコトト存ジマスガ、極ク大
體ノ私ノ所見ヲ申シテ置キマス、今日ノ此
ノ農村ノ窮乏ノ狀態ハ誠ニ御話ノ通リデア
リマシテ、今日ノ施設ヲ以テ廣義國防ノ點
デ果シテ滿足デアルカト、斯ウ言ハレマス
ト、其ノ點ハ遺憾ナガラ十分デナイノデア
リマス、併シナガラ一方ニ於テ狭義國防ト
申シマスカ、差當ッテノ必要、所謂焦眉ノ
急之ニ迫ラレテ居リマス爲ニ、其ノ方面
ニ比較的多クノ費用ヲ要シマスルノデ、結
局此ノ廣義國防ノ點ニ十分ノ力ヲ致スコト
ノ出來ナイノハ誠ニ遺憾ニ存ジテ居リマス、
要シマスルノニ今囘ノ施設トシマシテハ、
財政ノ許ス範圍內ニ於テ、努メテ農村ノ爲
ニモ出來得ル限リノ施設ヲ爲サムトスルモ
ノデアリマス、併シナガラ之ヲ以テ決シテ
完全ナリ、十分ナリトハ考ヘテ居リマセヌ
ノデ、將來ニ於キマシテハ一層努力ヲシタ
イト考ヘテ居ル次第デアリマス、ソレカラ
選擧法改正ノコトニ付キマシテハ、只今內
務大臣カラ申サレタ以上ニ私カラ申スコト
ハアリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=43
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044・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 二荒伯爵
〔伯爵二荒芳德君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=44
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045・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 會期切迫ノ折柄、私ハ
此ノ質問ヲ致サナイ考デゴザイマシタガ、
併シ今日ノ時勢ヲ見マシテ、一言ダケ總理
大臣竝ニ文部大臣ニ對シテ御伺ヲ致シタイ
ト思フノデアリマス、紀元二千六百年ヲ我
我時代人ガ迎ヘマスコトハ、實ニ日本臣民ト
シテ感激、歡喜ニ堪ヘナイコトデアルノデ
アリマス、悠久三千年ノ歷史ヲ顧ミマシテ、
此ノ光榮ニ滿テル現代日本ニ生レタコトヲ
考ヘマスレバ、此ノ際ニ十分ニ我ガ國體ノ
本質ヲ明カニシ、殊ニ明治天皇國ヲ開カ
セラレマシテカラ、明治、大正、昭和ト續
キマシタ此ノ世界的日本ノ建前ヲ、能ク國
民ニ明カニスル必要ガアルト思フノデアリ
マイ、然ルニ此ノ二千六百年ヲ迎ヘル心ノ
用意ト致シマシテ、今日ドレダケノコトガ
考ヘラレテ居ルカト云フコトヲ思ヒマス時
ニ、實ニ心淋シイ感ヲ禁ゼザルヲ得ナイノ
デアリマス、卽チ二千六百年ノ機會ニ於テ
「オリムピック」大會ヲ開クト云フコトハ、
此ノ議場ニ於テモ六十七議會ニ於テ建議セ
ラレタノデアリマスガ、其ノ建議ハ「オリ
ムビック」ノ大會ヲ迎ヘルト云フコトノ建議
デアッテ、二千六百年ニ對シテハ更ニ更ニヨ
リ深イ精神的ノ記念ヲ致サナケレバナラヌ
ト國民一同ガ考ヘテ居ルコトト思フノデア
リマス、而シテ今日記念スベキ事業トシテ、
施設方面ニハ或ハ橿原神宮ノ神域御擴張デ
アリマストカ、或ハ國士館ノ建設デアルトカ
云フコトガ出テ居リマスガ、是モ固ヨリ
大切デハアリマスケレドモ、精神方面ニ、
我ガ國體ノ精華ヲ明徵ニシ、民族ノ精神ヲ
不拔ニ培フト云フ用意ハ出來テ居ナイヤウ
ニ思ハレルノデアリマス、今日西洋ノ新興
諸國ノ例ヲ見マスナラバ、其ノ民族精神ヲ
徹底的ニ靑少年間ニ活カシ、一死報國ト申
シマスカ、一念報公ノ念ヲ固メル爲ニ、萬
全ノ策ヲ講ジテ居ルノデアリマス、曾テハ
往日ノ國家ニ於テ、宗〓ヲ以テ民心ヲ振興
シタリ、或ハ國家ノ特別ノ施設ヲ以テ民心
作興ニ力ヲ致シタノデアリマスガ、今日ニ
於テハ新シキ國家ハ、國民ノ體育ノ鍊成ニ
依ッテ宗〓的熱情ヲ靑少年ニ加ヘテ、サウ
シテ國家ノ一員トシテ健實ナル精神ノ持主
タラシメムコトヲ期シテ居ルノデアリマ
ス、政府ハ組閣ノ當初ニ於テ、祭政一致ノ
國柄ナルコトヲ明示セラレマシテ、大イニ
民心ノ作興ニ力ヲ入レラレル決意ヲ示サレ
タノデアリマス、私ガ今日伺ヒタイト存ジ
マスノハ、政府ハ此ノ民族精神ノ根本デア
ル所ノ、國家朝憲ノ民族的信念ヲ探究スル
爲ニ、ドウ云フヤウナ御用意ガアルカ、言
葉ヲ換ヘテ申シマスナラバ、御歷代ノ
皇謨ヲ擴張セラレマス爲ニハ、何時モ皇祖
宗ノ思召ニ依ッテ、其ノ天業ヲ盛ナラシメテ
行カレタノデアリマスガ、神代ノ事蹟トカ、
或ハ日向御三代ノ民族的ノ發展トカ云フモ
ノニ付テ御調査ヲナサレ、又其ノ精神ヲ探
究セラレルノニ、ドウ云フ御用意ガアルカ
ト云フコトガ一ツデアリマス、更ニ今日「オ
リムピック」大會ヲ迎ヘル時ニ當リマシテ、
唯西洋ノ「オリムピック」ノ大會ヲ茲ニ迎ヘ
ルノデナク、日本ノ古來持ッテ居リマス武士
道ノ根柢ニナッタ武道武藝等ノ精神ヲ鍊ル
爲ニ、國民精神ヲ此ノ方法ニ依ッテ鍛鍊スル
考慮ヲナサレテ居ルカドウカト云フコトデ
アリマス、「ドイツ」ノ「オリムピック」ヲ開
キマシタ時ノ如キハ、古ク古代「ドイツ」民
族ノ騎士道若シクハ武藝等ニ付キマシテモ
深イ〓究ヲ致シテ、之ヲ國民ニ周知セシメ
タヤウニ聞イテ居リマス、斯クノ如キ種類
ノ御用意是レアリヤ否ヤト云フコトガ第二
ノ點デアリマス、更ニ精神鍊磨ノ道場トシ
テ國民體位ノ向上ノ爲ニ、帝都ニ設備ノ整ッ
タ所ノ大競技場ヲ造リマシテ、サウシテ只
デサヘ學問ニ押付ケラレテ居ルヤウナ靑少
年ヲ、其ノ眼界ヲ轉ジサセマシテ、十分强
イ體驅ノ持主タラシメルコトニ、何カ御用
意ガアルカドウカ、是ガ第三ノ點デアリマ
ス、更ニ聖勅ヲ體顯スル爲ニ、又聖旨ヲ服
膺シ實踐スル爲ニ、靑少年ニ對シテ單ニ學
問ヲスルト云フコトデナク、勤勞ヲ以テ之
ヲ踐ミ行クト云フヤウナ御用意ガゴザイマ
スカ、踐ミ行ハシムルノ方策ノ御用意ガア
リマスカドウカ、卽チ民族的ニ見マスナラ
バ、我々臣民ト致シマシテ、其ノ勤勞ヲ以
テ國家ノ進運ニドウ貢獻シタラ宜イカト云
フ、精神的ノ用意ヲ靑少年ニ與ヘル方策ニ
付テ御考慮アリヤ否ヤ、此ノ諸點ヲ伺ヒタ
イト思フノデアリマス、二千六百年ノ記念
事業ハ、二千六百年ニ完成スベキモノデア
ル必要ハナイノデアリマシテ、此ノ年ヲ機
會ニ致シマシテ、其ノ前後ニ於テ出來ルダ
ケ廣ク、將來二千、三千年ノ時代人ガ、二
千六百年ノ時代ニ感謝スルヤウナ偉大ナ國
家的ナ、又祖國的ナモノヲ考慮スベキコト
ガ大切ダト思フノデアリマス、此ノ點ニ
付キマシテ首相、文相ノ御答辯ヲ辱ク致
シマスナラバ、幸ニ存ズル次第デアリマ
ス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=45
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046・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ二荒伯ノ
御質疑ニ御答ヲ致シマス、第一ノ御質疑ニ
對マシテハ政府ニ於キマシテモ此ノ皇紀二
千六百年ヲ迎ヘルト云フ一ツノ時期ヲ機會
ト致シマシテ、所謂我ガ國ノ肇國ノ大理想
ヲ國民一般、特ニ靑少年ニ徹底ヲセシメテ、
所謂萬邦無比ノ國體ニ生レテ居ルト云フ
コトノ感謝ヲ新タニセシムルト共ニ、皇運
扶翼ト云フコトニ全力ヲ傾注スルヤウニ、
十分ノ指導ヲ致シタイト存ジテ居リマス、之
ニ付キマシテ政府ト致シマシテハ、學校〓
育ニ於テ特ニ此點ニ對シテ格段ノ留意ヲ致
スコトハ勿論デアリマスガ、更ニ社會〓育
ニ重キヲ置キマシテ、ソレ〓〓適當ノ施設
ヲ講ジ一般國民、特ニ靑少年ノ精神力竝ニ
體力ノ向上ニ力ヲ致シマシテ、國運ノ進展
ニ寄與スルノ信念ヲ十分ニ培ヒタイト存ズ
ル次第デアリマス、次ニ武道武藝ノ點ニ付
テノ御質疑ガゴザイマシタ、只今中等學校
デハ御承知ノ通リ武道ヲ正科ト致シテ居リ
マスガ、小學校等ニ於キマシテモ漸次之ヲ
奬勵致シテ居ルヤウナ次第デアリマシテ、
畢竟其ノ技藝ヲ鍛鍊スルト申スヨリモ、此
ノ武藝武道ヲ通ジテ精神ノ鍊磨ヲ圖ルト云
フコトヲ主眼ト致シテ居リマシテ、今後此
ノ點ニ於キマシテモ十分ニ力ヲ用ヒタイト
考ヘテ居リマス、ソレカラ次ニ心身鍊磨ノ
道場トシテ、大競技場ヲ設クルノ意思ハナ
イカト云フ御質疑デアリマスガ、此ノ點ニ
付キマシテモ誠ニ結構ナ御考ト存ジテ居リ
マく、併シナガラ、相當經費ヲ要スル問題
デアリマスルノデ、差當リ既設ノ競技場ノ
擴張ヲ以テ先ヅ之ニ充テネバナラヌト考ヘ
テ居ル次第デアリマス、其ノ他靑年少年ノ
指導上ニ勤勞奉仕ノ精神ヲ涵養スルコトニ
付テノ御質疑ガアリマシタガ、是モ全ク御
同感デアリマス、此ノ精神ヲ十分ニ靑少年
ニ培フト云フコトニ付キマシテハ、今後大
イニ努メル考デ居リマス、以上ヲ以テ御答
ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=46
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047・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 本日ハ此ノ程度
ニ於テ、御異議ナケレバ延會致シタイト思
ヒマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=47
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048・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、次會ノ日程ハ決定次第御通知ニ及
ビマス、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後三時十分散會
貴族院議事速記錄第十一號正誤
三頁一段三行目ノ議事日程第十一號ハ議事日程
第十二號ノ誤ニ付訂正ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X01219370305&spkNum=48
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