1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月二十六日(金曜日)午前十時二十二分開議
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議事日程 第二十五號
昭和十二年三月二十六日
午前十時開議
第一 小運送業法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第二 日本通運株式會社法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 國民健康保險法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 保健所法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 結核豫防法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=0
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001・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 報〓ヲ致サセ
マス
〔角倉書記官朗讀〕
昨二十五日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府
提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆
議院ニ通知セリ
漁船保險法案
漁船再保險特別會計法案
號外昭和十二年三月二十七日
森林火災國營保險法案
森林火災保險特別會計法案
朝鮮事業公債法中改正法律案
朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案
大正九年法律第五十六號中改正法律案
同日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ
氏名左ノ如シ
昭和十二年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案特別委員會
委員長侯爵小村捷治君
副委員長堀切善次郞君
議院法中改正法律案特別委員會
委員長伯爵松木宗隆君
副委員長男爵黑田長和君
アルコール專賣法案特別委員會
委員長子爵梅小路定行君
副委員長男爵沖貞男君
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
臨時租稅增徵法案可決報告書
法人資本稅法案可決報告書
外貨債特別稅法案可決報〓書
揮發油稅法案可決報告書
有價證劵移轉稅法案可決報告書
明治四十年法律第二十一號中改正法律案
可決報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
小運送業法案
日本通運株式會社法案
國民健康保險法案
保健所法案
結核豫防法中改正法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=1
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002・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ會議ヲ
開キマス、日程第一、小運送業法案、日程
第二、日本通運株式會社法案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會、是等ノ兩案ヲ一括
シテ議題トスルコトニ御異議ハゴザイマセ
ヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=2
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003・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、伍堂鐵道大臣
〔左ノ送付文及法案ハ朗讀ヲ經サ
ルモ參照ノ爲メ玆ニ載錄ス以下之
ニ傚フ〕
小運送業法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月二十五日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
(小字ハ衆議院ノ修正ナリ)
小運送業法案
小運送業法
第一條本法ニ於テ小運送業トハ左ニ揭
グル事業ヲ謂フ
鐵道、軌道若ハ自動車運輸事業ノ
爲ス物品運送又ハ此等ノ運送機關ト
通運送ヲ爲ス運送機關ニ依ル通物品
運送ノ運送取扱業又ハ運送代辨業
二鐵道、軌道又ハ自動車運輸事業ニ
附隨シ又ハ之ヲ利用シテ爲ス陸上ノ
物品運送業
第二條小運送業ヲ營マントスル者ハ主
務大臣ノ免許ヲ受クベシ
第三條小運送業者ハ運賃、料金其ノ他
ノ取扱條件ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受
クベシ之ヲ變更セントスルトキ亦同ジ
第四條主務大臣ハ公益上必要アリト認
ムルトキハ運賃料金其ノ他ノ取扱條件
ノ變更、設備共同使用ノ協定、集配區
域ノ協定其ノ他事業ノ實施及改善ニ關
シ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
前項ノ協定ニ付當事者間ノ協議調ハザ
ルトキハ主務大臣之ヲ裁定ス
第五條主務大臣ハ小運送業者ヲシテ其
ノ事業ニ關シ報〓ヲ爲サシメ又ハ部下
ノ官吏ヲシテ其ノ事業ノ狀況ヲ檢査セ
シムルコトヲ得
前項ノ官吏其ノ職務ヲ執行スル場合ニ
於テハ身分ヲ證明スベキ證票ヲ携帶ス
ベシ
第六條小運送業者其ノ事業ノ全部又ハ
一部ヲ休止シ又ハ廢止セントスルトキ
ハ主務大臣ノ認可ヲ受クベシ
第七條小運送業ノ讓渡又ハ小運送業ヲ
營ム會社ノ合併若ハ解散ノ決議若ハ總
社員ノ同意ハ主務大臣ノ認可ヲ受クル
ニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
相續人ガ被相續人ノ小運送業ヲ承繼シ
タルトキハ相續人ハ小運送業ノ免許ヲ
受ケタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テ
ハ相續人ハ遲滯ナク其ノ旨ヲ主務大臣
ニ屆出ヅベシ
第八條免許又ハ認可ニハ條件ヲ附スル
コトヲ得
前項ノ條件ハ公益上必要アルトキハ之
ヲ變更スルコトヲ得
第九條小運送業者其ノ事業ニ關スル協
定ヲ爲シタルトキハ之ヲ主務大臣ニ屆
出ヅベシ之ヲ變更又ハ廢止シタルトキ
亦同ジ
前項ノ協定ガ本法若ハ本法ニ基キテ發
スル命令ニ違反シタルトキ又ハ公益ヲ
害スル虞アルトキハ主務大臣ハ協定ノ
全部若ハ一部ヲ取消シ又ハ其ノ變更ヲ
命ズルコトヲ得
第十條小運送業者ハ認可ヲ受ケタル運
賃及料金ヲ公示スベシ
小運送業者ハ何等ノ名義ヲ以テスルモ
小運送業ニ付テハ公示シタル運賃及料
金以外ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得ズ但
シ特別ノ事由ニ因リテ爲シタル特別ノ
作業ニ付相當ノ報酬ヲ受クルハ此ノ限
ニ在ラズ
第十一條鐵道營業法第十三條ノ三ノ規
定ハ小運送業ニ之ヲ準用ス
第十二條小運送業者左ノ各號ノ一ニ該
當スルトキハ主務大臣ハ免許ノ全部若
ハ一部ヲ取消シ又ハ事業ノ全部若ハ一
部ノ停止ヲ命ズルコトヲ得
一本法ニ基ク命令ニ違反シタルトキ
二免許又ハ認可ニ附シタル條件ニ違
反シタルトキ
三事業ノ經營不確實又ハ資產狀態ノ
著シキ不良其ノ他ノ爲事業ヲ繼續ス
ルニ適セザルトキ
四公益ヲ害スル行爲ヲ爲シタルトキ
五第十條ノ規定ニ違反シ運賃及料金
ヲ公示セズ又ハ不當ノ報酬ヲ請求シ
タルトキ
主務大臣前項ノ規定ニ依ル免許取消ヲ爲サ
ントスルトキハ審査委員會ノ議ヲ經ルコト
ヨハ
前項ノ審査委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第十三條第三條乃至第五條、第八條乃
至第十條及前條ノ規定ハ運送品ノ荷
造保管及仕分、保險契約ノ締結、代
金ノ取立、立替其ノ他小運送業ニ通常
附帶シテ爲ス業務ニ之ヲ準用ス
第十四條免許ヲ受ケズシテ小運送業ヲ
營ミタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス自
己ノ免許名義ヲ他人ニ利用セシメタル
者亦同ジ
第十五條小運送業者左ノ各號ノ一ニ該
當スルトキハ三百圓以下ノ罰金又ハ科
料ニ處ス
一本法ニ基ク命令ニ違反シタルトキ
二本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令
ニ依リ認可ヲ受ケテ爲スベキ事項ヲ
之ヲ受ケズシテ爲シタルトキ
三免許又ハ認可ニ附シタル條件ニ違
反シタルトキ
四本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令
ニ依ル屆出若ハ報〓ヲ爲サズ又ハ虛
僞ノ屆出若ハ報〓ヲ爲シタルトキ
五第五條ノ規定ニ依ル檢査ヲ拒ミ、
妨ゲ又ハ忌避シタルトキ
六第十條ノ規定ニ違反シ運賃及料金
ヲ公示セズ又ハ不當ノ報酬ヲ請求シ
タルトキ
第十六條小運送業者ハ其ノ代理人、戶
キ家族、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ
業務ニ關シ本法ニ違反シタルトキハ自
己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處
罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
本法ノ罰則ハ法人ニ在リテハ理事、取
締役其ノ他法人ノ業務ヲ執行スル役員
ニ、未成年者又ハ禁治產者ニ在リテハ
法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關
シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年
者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第十七條本法ニ定ムル主務大臣ノ職權
ノ一部ハ之ヲ地方長官(東京府ニ在リ
テハ警視總監トス)又ハ鐵道局長ニ委
任スルコトヲ得
第十八條第一條ニ揭グル事業以外ノ陸
上ニ於ケル物品運送業(鐵道、軌道又
ハ自動車ニ依ル物品運送業ヲ除ク)又
ハ陸上ニ於ケル物品運送ノ運送取扱業
若ハ運送代辨業ニ於ケル運賃、料金其
ノ他ノ取扱條件ニ關スル規定ハ命令ヲ
以テ之ヲ定ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法公布前小運送業ヲ開始シタル者又ハ
其ノ承繼人ニシテ本法施行ノ際現ニ小運
送業ヲ營ムモノ本法施行後三月內ニ主務
大臣ニ其ノ旨ノ屆出ヲ爲ストキハ本法施
行ノ日ヨリ本法ニ依リ小運送業ノ免許ヲ
受ケタル者ト看做ス
本法公布ノ日以後ニ小運送業ヲ開始シタ
ル者ニシテ本法施行ノ際現ニ小運送業ヲ
營ムモノ又ハ其ノ承繼人ハ本法施行後三
月內ニ限リ小運送業ヲ營ムコトヲ得此ノ
期間內ニ免許ノ申請ヲ爲ストキハ免許又
ハ免許ノ拒否ノ日迄亦同ジ
日本通運株式會社法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月二十五日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
(小字及-ハ衆議院ノ修正ナリ)
日本通運株式會社法案
日本通運株式會社法
第一條日本通運株式會社ハ小運送業ノ
健全ナル發達ヲ圖ル爲左ノ事業ヲ營ム
コトヲ目的トスル株式會社トス
小運送業者ノ取引ヨリ生ズル債權
債務ノ決濟ニ關スル事業
貨物引換證ノ整理及保證ニ關スル
事業
三小運送業ノ助長ニ必要ナル事業
四小運送業及之ニ附帶スル事業
日本通運株式會社ハ小運送業又ハ之ニ
關聯スル事業ニ投資スルコトヲ得
第二條日本通運株式會社ノ資本ハ三千
五百萬圓トス但シ政府ノ認可ヲ受ケ之
ヲ增加スルコトヲ得
第三條日本通運株式會社ノ株式ハ記名
式トシ政府、公共團體、帝國臣民又ハ
帝國法人ニシテ社員、株主若ハ業務ヲ
執行スル役員ノ半數以上、資本ノ半額
以上若ハ議決權ノ過半數ガ外國人若ハ
外國法人ニ屬セザルモノニ限リ之ヲ所
有スルコトヲ得
第四條政府ハ日本通運株式會社ノ資本
ノ半額ヲ限リ其ノ株式ノ引受ヲ爲スコ
トヲ得
前項ノ株式引受ニ因ル拂込金ハ帝國鐵
道會計ノ資本勘定ノ歲出トシ政府ガ該
引受ニ因リ取得シタル株式ハ同會計ノ
資本所屬物件トス
第一項ノ規定ニ依ル株式ノ株金拂込ハ
其ノ他ノ株式ノ株金拂込ト之ヲ異ニス
ルコトヲ得
第五條日本通運株式會社ニ社長副社長
各一人、理事五人以上及監事二人以上
2番分
第六條社長ハ日本通運株式會社ヲ代表
シ其ノ業務ヲ總理ス
副社長ハ社長事故アルトキハ其ノ職務
ヲ代理シ社長缺員ノトキハ其ノ職務ヲ
行フ
副社長及理事ハ社長ヲ輔佐シ日本通運
株式會社ノ業務ヲ分掌ス
監事ハ日本通運株式會社ノ業務ヲ監査
ス
社長、副社長、理事及監事ハ株主中ヨ
第七條社長及副社長ハ主務大臣之ヲ命
リ株主總會ニ於テ之ヲ選任ス
ジ其ノ任期ヲ五年トス
社長、副社長及理事ノ任期ハ三年、監事ノ任
理事ハ株主中ヨリ株主總會ニ於テ之ヲ
期ハ二年トス
選任シ其ノ任期ヲ四年トス
監事ハ主務大臣之ヲ命ジ其ノ任期ヲ三
年トス
第八條日本通運株式會社ノ社長、副社
長及理事ハ他ノ職業ニ從事スルコトヲ
得ズ但シ主務大臣ノ認可ヲ受ケタルト
キハ此ノ限ニ在ラズ
第九條日本通運株式會社ハ每營業年度
ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額ガ第四
條第一項ノ規定ニ依ル株式以外ノ株式
ノ拂込ミタル株金額ニ對シ年六分ノ割
合ニ達スル迄第四條第一項ノ規定ニ依
ル株式ニ對シ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ
要セズ
每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益
金額ガ第四條第一項ノ規定ニ依ル株式
以外ノ株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ
年六分ノ割合ヲ超過スルトキハ其ノ超
過額ハ總株式ニ對スル利益配當ガ拂込
ミタル株金額ニ對シ均一ノ割合ニ達ス
ル迄第四條第一項ノ規定ニ依ル株式以
外ノ株式ノ拂込ミタル株金額及第四條
第一項ノ規定ニ依ル株式ノ拂込ミタル
株金額ニ對シ一ト五トノ割合ヲ以テ之
ヲ配當スベシ
第十條主務大臣ハ日本通運株式會社ノ
業務ヲ監督ス
主務大臣ハ部下ノ官吏ヲシテ何時ニテ
モ日本通運株式會社ノ金庫、帳簿及諸
般ノ文書物件ヲ檢査セシムルコトヲ得
第十一條主務大臣ハ日本通運株式會社
ノ業務ニ關シ監督上必要ナル命令ヲ爲
スコトヲ得
第十二條定款ノ變更、社債ノ募集、利
益金ノ處分、合併及解散ノ決議ハ主務
大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效
力ヲ生ゼズ
第十三條日本通運株式會社其ノ事業ヲ
休止セントスルトキハ主務大臣ノ認可
ヲ受クベシ
第十四條主務大臣ハ日本通運株式會社
ノ決議又ハ社長、副社長、理事若ハ監
事ノ行爲ガ法令、法令ニ基ク命令若ハ
定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害スト認ムル
トキハ其ノ議決ヲ取消シ又ハ社長、副
社長、理事若ハ監事ヲ解任スルコトヲ
得
第十五條日本通運株式會社本法又ハ本
法ニ基ク命令ニ違反シタルトキハ社長
又ハ社長ノ職務ヲ行ヒ若ハ代理スル副
社長ヲ千圓以下ノ過料ニ處ス副社長又
ハ理事ノ分掌業務ニ係ルトキハ副社長
又ハ理事ヲ過料ニ處スルコト亦同ジ
第十六條社長、副社長又ハ理事第八條
ノ規定ニ違反シタルトキハ二百圓以下
ノ過料ニ處ス
第十七條非訟事件手續法第二百六條乃
至第二百八條ノ規定ハ前二條ノ過料ニ
之ヲ準用ス
附則
第十八條本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行
ス
第十九條日本通運株式會社左ノ事項ニ
付登記ヲ受クル場合ニ於テハ其ノ登錄
稅ノ額ハ左ノ額トス但シ登錄稅法ニ依
リ算出シタル稅額ガ左ノ額ヨリ少キト
キハ其ノ稅額ニ依ル
一設立
金錢出資ニ依ル拂込株金額ノ千
分ノ五ト金錢以外ノ財產ノ出資
ニ依ル拂込株金額ノ千分ノ一ト
ノ合計額
二設立ノ際ニ於ケル出資ノ目的タル不
動產又ハ船舶ニ關スル權利ノ取得
不動產又ハ船舶ノ價格ノ千分ノ三
北海道、府縣、市町村其ノ他ノ公共團
體ハ日本通運株式會社ニ對シ前項ニ規
定スル不動產又ハ船舶ニ關スル權利ノ
取得ニ關シ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ
第二十條主務大臣ハ設立委員ヲ命ジ日
本通運株式會社ノ設立ニ關スル一切ノ
事務ヲ處理セシム
第二十一條日本通運株式會社ノ設立ニ
際シ金錢以外ノ財產ヲ出資ノ目的ト爲
ス者アル場合ニ於テハ設立委員ハ出資
ノ目的タル財產ノ價格ニ付評價委員會
ニ諮問スベシ
前項ノ評價委員會ニ關スル規程ハ勅令
ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二條設立委員ハ定款ヲ作成シ主
務大臣ノ認可ヲ受クベシ
前項ノ認可アリタルトキハ設立委員ハ
株式總數ヨリ政府ニ割當ツベキ株式及
前條ノ金錢以外ノ財產ノ出資ニ對シテ
割當ツベキ株式ヲ控除シタル殘餘ノ株
式ニ付株主ヲ募集スベシ
第二十三條株式申込證ニハ定款認可ノ
年月日竝ニ商法第百二十六條第二項第
二號、第四號及第五號ニ規定スル事項
ヲ記載スベシ
第二十四條設立委員ハ株主ノ募集ヲ終
リタルトキハ株式申込證ヲ主務大臣ニ
提出シ其ノ檢査ヲ受クベシ
第二十五條設立委員ハ前條ノ檢査ヲ受
ケクル後遲滯ナク各株式ニ付第一囘ノ
拂込ヲ爲サシムベシ
前項ノ拂込アリタルトキハ設立委員ハ
遲滯ナク創立總會ヲ招集スベシ
第一項ノ規定
創立總會ニ於テハ第七條第二項ノ規定
ニ準ジ社長、副社長、理事及監事ヲ選任スベシ
ニ準ジ理事ヲ選任スベシ
第二十六條創立總會終結シタルトキハ
設立委員ハ其ノ事務ヲ日本通運株式會
社社長ニ引渡スベシ
〔國務大臣伍堂卓雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=3
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004・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 只今議題トナリ
マシタ小運送關係二法律案、提出ノ理由ヲ
申上ゲマス、小運送ハ國民經濟上極メテ重
要ナル意義ヲ有スルノデアリマスガ、現行
制度ノ下ニ於キマシテハ、其ノ經營ヲ自由
ニ放任致シテアリマス結果、小運送業ノ堅
實ナル發達ヲ期待シ得ナイバカリデナク、
一般利用者ニ對シテモ尠カラザル不便、不
利ヲ與ヘテ居ル實情デアリマス、仍テ此ノ
際小運送業ヲ免許營業ト致シマシテ、資力
薄弱、信用不確實ナルモノノ簇出ヲ防止ス
ルト共ニ、免許營業者ニ對シマシテ適當ナ
ル監督取締ヲ加ヘタイト存ズルノデアリマ
ス、又小運送業ハ其ノ業務ノ性質上、業者間
ニ於ケル貸借ノ決濟、業務ノ連絡、其ノ他
ノ統轄事務ヲ行フ機關ヲ必要トスルモノデ
アリマシテ、此ノ機關ヲシテ業者間ノ連絡
ト事業ノ助成トヲ行ハシムルコトガ小運送
改善ノ捷徑デアルト考ヘルノデアリマスル
ガ、現今ノ如キ數箇ノ營利會社ニ之ヲ委ネ
マスコトハ、公益上不適當デアリマスシ、
又直接國家ノ經營トスルコトモ實情ニ副ハ
ヌ虞ガアリマスノデ、此ノ際新タニ半官半
民ノ特殊會社ヲ設立シ、國家ガ適當ニ之ヲ
監督助長致シマシテ、統轄機能ノ完全ナル
運用ヲ圖リタイト存ズルノデアリマス、尙
小運送改善ノ問題ハ業界二十年來ノ懸案デ
アリマシテ、鐵道省ハ從來色々ノ方策ヲ講
ジマシタガ、何レモ徹底シタ成果ヲ收メル
ニ至ラズ、又帝國議會ニ於キマシテモ、此
ノ小運送改善ガ屢〓問題ニナッタノハ御承
知ノ通リデアリマス、鐵道省ハ之ニ鑑ミ、
昨年朝野ノ權威者ヲ網羅シタ小運送制度調
査會ヲ設ケ、愼重審議ヲ御願シ、其ノ答申
ヲ得マシタノデ、之ニ基キ茲ニ兩法案ヲ提
出致シタ次第デアリマス、業界ヲ根本的ニ
改善シテ國利民福ニ寄與スルニハ、是非ト
モ此ノ兩法ノ實施ニ俟タネバナラヌコトト
信ズル次第デアリマスカラ、何卒御審議ノ
上御協賛ヲ賜ハラムコトヲ御願ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=4
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005・池田政時
○子爵池田政時君 今只議題ト相成リマシ
タ小運送業法案外一件ハ重要法案デアリマ
スガ故ニ、其ノ特別委員ノ數ヲ十五名トシ、
其ノ指名ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提出致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=5
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006・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=6
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007・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 池田子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=7
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008・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマ
ス
〔角倉書記官朗讀〕
小運送業法案外一件特別委員
公爵鷹司信輔君侯爵久我通顯君
伯爵副島道正君子爵今城定政君
子爵新庄直知君子爵秋元春朝君
男爵飯田精太郞君男爵大藏公望君
男爵加藤成之君遠藤柳作君
靑木周三君八田嘉明君
林平四郞君岩田宙造君
風間八左衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=8
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009・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第三、國
民健康保險法案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會、內務大臣
國民健康保險法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月二十五日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
(小字及-ハ衆議院ノ修正ナリ)
國民健康保險法案
國民健康保險法
第一章總則
第一條國民健康保險ハ相扶共濟ノ精神
ニ則リ疾病、負傷、分娩又ハ死亡ニ關シ保
險給付ヲ爲スヲ目的トスルモノトス
第二條國民健康保險ハ國民健康保險組
合(以下組合ト稱ス)之ヲ行フ
第三條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル
徵收金ヲ徵收シ又ハ其ノ還付ヲ受クル
權利及保險給付ヲ受クル權利ハ一年ヲ
經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
前項ノ時效ノ中斷、停止其ノ他ノ事項
ニ關シテハ民法ノ時效ニ關スル規定ヲ
準用ス
組合ガ規約ノ定ムル所ニ依リテ爲ス保
險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル徴收金ノ
徵收ノ〓知ハ民法第百五十三條ノ規定
ニ拘ラズ時效中斷ノ效力ヲ有ス
第四條國民健康保險ニ關スル書類ニハ
印紙稅ヲ課セズ
第五條保險給付トシテ支給ヲ受ケタル
金品ヲ標準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ
課セズ
第六條保險給付ヲ受クル權利ハ之ヲ讓
渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
第七條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人
又ハ保險給付ヲ受クベキ者ハ被保險者
又ハ被保險者タリシ者ノ戶籍ニ關シ戶
籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ
對シ無償ニテ證明ヲ求ムルコトヲ得
第八條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル
徵收金ヲ滯納スル者アル場合ニ於テ組
合ノ請求アルトキハ市町村ハ市町村稅
ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テ
ハ組合ハ徵收金額ノ百分ノ四ヲ市町村
ニ交付スベシ
市町村ガ前項ノ請求ヲ受ケタル日ヨリ
三十日以內ニ其ノ處分ニ著手セズ又ハ
九十日以內ニ之ヲ結了セザルトキハ組
合ハ地方長官ノ認可ヲ受ケ之ヲ處分ス
ルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ町村制第百十
一條第一項及第四項ノ規定ヲ準用ス
第一項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ
順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノ
ノ徴收金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノト
ス
第九條營利ヲ目的トセザル社團法人ハ
命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可
ヲ受ケ組合ノ事業ヲ行フコトヲ得
九
第十條本法中地方長官トアルハ二以上
ノ道府縣ニ跨ル組合若ハ組合ノ事業ヲ
行フ法人又ハ國民健康保險組合聯合會
ニ付テハ之ヲ主務大臣トス
第十一條本法中町村又ハ町村長トアル
ハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之
ニ準ズベキモノトス
第二章國民健康保險組合
第一節總則
一
第十二條組合ハ左ノ二種トス
一普通國民健康保險組合
二特別國民健康保險組合
組合ハ法人トス
二
第十三條普通國民健康保險組合ハ其ノ
地區內ノ世帶主ヲ組合員トシ、特別國
民健康保險組合ハ同一ノ事業又ハ同種
ノ業務ニ從事スル者ヲ組合員トシ之ヲ
組織ス
六
第十七條第一項但書ノ規定ニ依リ被保
險者タル資格ナキ者ハ組合員タルコト
ヲ得ズ但シ其ノ世帶ニ被保險者タル資
格アル者アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
普通國民健康保險組合ノ地區ハ市町村
ノ區域ニ依ル但シ特別ノ事由アルトキ
ハ此ノ區域ニ依ラザルコトヲ得
三
第十四條組合ヲ設立セントスルトキハ
發起人ハ規約ヲ作リ組合員タラントス
ル者ノ同意ヲ得テ地方長官ノ認可ヲ受
クベシ
組合ハ設立ノ認可ヲ受ケタル時ニ成立
ス
四
第十五條組合ノ規約ニハ左ノ事項ヲ記
載スベシ
一組合ノ名稱
二事務所ノ所在地
三組合ノ地區(特別國民健康保險組
合ニ在リテハ組合員ノ範圍)
四組合員ノ加入及脫退ニ關スル事項
五被保險者ノ資格ノ得喪ニ關スル事
項
六其ノ他重要ナル事項
五
第十六條普通國民健康保險組合ニ付其
ノ組合員タル資格ヲ有スル者ノ三分ノ
二以上組合員タル場合ニ於テ地方長官
必要アリト認メ其ノ組合ヲ指定シタル
トキハ組合員タル資格ヲ有スル者(特
別ノ事由アル者ニシテ命令ヲ以テ定ム
ルモノヲ除ク)ハ總テ組合員ト爲ルモ
ノトス
六
第十七條組合ハ組合員及組合員ノ世帶
ニ屬スル者ヲ以テ其ノ被保險者トス但
シ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ此ノ限
ニ在ラズ
-健康保險ノ被保險者
二他ノ組合又ハ組合ノ事業ヲ行フ法
人ノ被保險者
三特別ノ事由アル者ニシテ規約ヲ以
テ定ムルモノ
前項ノ規定ニ拘ラズ組合ハ規約ノ定ム
ル所ニ依リ組合員ノ世帶ニ屬スル者ヲ
包括シテ被保險者ト爲サザルコトヲ得
七
第十八條組合ハ規約ノ定ムル所ニ依リ
規約違反者ヨリ過怠金ヲ徵收スルコト
ヲ得
八
第十九條組合ハ事業ニ支障ナキ場合ニ
限リ被保險者ニ非ザル者ヲシテ組合ノ
施設ヲ利用セシムルコトヲ得
組合ハ前項ノ規定ニ依リ組合ノ施設ヲ
利用スル者ニ對シ規約ノ定ムル所ニ依
リ利用料ヲ請求スルコトヲ得
十九
第二十條本法ニ規定スルモノノ外組合
ノ管理、財產ノ保管及利用方法其ノ他
組合ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ
之ヲ定ム
第二節事業
第二十一條組合ハ被保險者ノ疾病又ハ
負傷ニ關シテハ療養ノ給付、分娩ニ關
シテハ助產ノ給付、死亡ニ關シテハ葬
祭ノ給付ヲ爲ス但シ特別ノ事由アル組
合ハ助產ノ給付又ハ葬祭ノ給付ヲ爲サ
ザルコトヲ得
組合ハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ給
付ニ併セテ其ノ他ノ保險給付ヲ爲スコ
トヲ得
特別ノ事由アル組合ハ規約ノ定ムル所
ニ依リ第一項ノ給付ニ代ヘテ療養費、
助產費又ハ葬祭費ヲ支給スルコトト爲
スコトヲ得
一
第二十二條療養ノ給付、助產ノ給付又
ハ葬祭ノ給付ヲ爲ス組合其ノ給付ヲ爲
スコト困難ナル場合其ノ他必要アル場
合ニ於テハ其ノ都度之ニ代ヘテ療養費、
助產費又ハ葬祭費ヲ支給スルコトヲ
得
二
第二十三條組合ハ療養ノ給付ニ要スル
費用ノ一部ヲ其ノ給付ヲ受クル者(給
付ヲ受クル者組合員ニ非ザル場合ニ於
テハ其ノ屬スル世帶ノ組合員)ヨリ徵
收スルコトヲ得
三
第二十四條組合ハ被保險者ノ健康ヲ保
持增進スル爲左ノ施設ヲ爲スコトヲ得
-疾病又ハ負傷ノ豫防ニ關スル施設
二健康診斷ニ關スル施設
三保養ニ關スル施設
四其ノ他健康ノ保持增進ニ關スル施
設
四
第二十五條組合ハ其ノ事業ニ要スル費
用ニ充ツル爲組合員ヨリ保險料ヲ徵收
ス
組合ハ特別ノ事山アル者ニ對シ保險料
ヲ減免シ又ハ其ノ徵收ヲ猶豫スルコト
ヲ得
五
第二十六條組合ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ一定期間保險給付ヲ受クル者ナカリ
シ世帶ノ組合員(組合員ノミヲ被保險
者トスル組合ニ在リテハ保險給付ヲ受
ケザリシ組合員)ニ對シ其ノ期間ノ保
險料ノ一部ヲ拂戾スコトヲ得
六
第二十七條保險給付ノ種類範圍支給期
間及支給額、保險料ノ額徵收方法及減
免其ノ他保險給付及保險料ニ關シ必要
ナル事項ハ規約ヲ以テ之ヲ定ムベシ
第三節管理
七
第二十八條組合ニ組合會ヲ置ク
組合會ハ組合會議長及組合會議員ヲ以
テ之ヲ組織ス
組合會議長ハ理事長ヲ以テ之ニ充ツ理
事長故障アルトキハ其ノ代理者議長ノ
職務ヲ行フ
組合會議員ハ組合員ニ於テ之ヲ互選ス
八
第二十九條組合會ノ議決スベキ事項左
ノ四シ
-收入支出ノ豫算
二事業報〓及決算
三收入支出ノ豫算ヲ以テ定ムルモノ
ノ外新ナル義務ノ負擔又ハ權利ノ抛
棄
四準備金其ノ他重要ナル財產ノ處分
五組合債
六規約ノ變更
七其ノ他重要ナル事項
前項第一號及第四號乃至第六號ニ揭グ
ル事項ノ決議ハ地方長官ノ認可ヲ受ク
ルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
二十九
第三十條組合會ハ組合ノ事務ニ關スル
書類ヲ檢閱シ、理事ノ報告ヲ請求シ又ハ
事務ノ管理、議決ノ執行及出納ヲ檢査
スルコトヲ得
組合會ハ議員中ヨリ委員ヲ選擧シ前項
ノ組合會ノ權限ニ屬スル事項ヲ行ハシ
ムルコトヲ得
第三十一條組合ニ理事數人ヲ置ク
理事ハ組合會ニ於テ組合員中ヨリ之ヲ
選任ス但シ特別ノ事由アルトキハ組合
員ニ非ザル者ノ中ヨリ之ヲ選任スルコ
トヲ妨ゲズ此ノ場合ニ於テハ其ノ選任
ニ付地方長官ノ認可ヲ受クベシ
普通國民健康保險組合ニ在リテハ特別
ノ事由ナキ限リ前項ノ規定ニ拘ラズ理
事中ニ關係市町村長又ハ其ノ委任ヲ受
ケタル吏員ヲ加フルモノトス
一
第三十二條理事ノ中一人ヲ理事長トス
理事長ハ理事ニ於テ之ヲ互選ス但シ前
條第三項ノ規定ニ依ル理事アルトキハ
特別ノ事由ナキ限リ之ニ付選任ス
理事長ハ組合ヲ代表ス
理事長故障アルトキハ規約ノ定ムル所
ニ依リ他ノ理事其ノ職務ヲ代理ス
第三十三條組合會成立セズ又ハ其ノ議
決スベキ事項ヲ議決セザルトキハ理事
ハ地方長官ノ指揮ヲ請ヒ其ノ議決スベ
キ事項ヲ處置スルコトヲ得
三
第三十四條組合會ニ於テ議決スベキ事
項ニ關シ臨時急施ヲ要スル場合ニ於テ
組合會成立セザルトキ又ハ之ヲ招集ス
ルノ暇ナキトキハ理事之ヲ專決スルコ
トヲ得
四
第三十五條前二條ノ規定ニ依リ處置ヲ
爲シタルトキハ理事ハ次囘ノ會議ニ於
テ之ヲ組合會ニ報告スベシ
五
第三十六條組合ハ規約ノ定ムル所ニ依
リ理事長及理事以外ノ役員ヲ置クコト
ヲ得
第四節分合及解散
六
第三十七條組合分割、合併又ハ解散ヲ
爲サントスルトキハ組合會ニ於テ之ヲ
議決シ地方長官ノ認可ヲ受クベシ
七
第三十八條合併後存續スル組合又ハ合
併ニ因リテ成立シタル組合ハ合併ニ因
リテ消滅シタル組合ノ權利義務ヲ承繼
ス
分割ニ因リテ成立シタル組合ハ分割ニ
因リテ消滅シタル組合又ハ分割後存續
スル組合ノ權利義務ノ一部ヲ承繼ス
前項ノ規定ニ依リ承繼スル權利義務ノ
限度ハ分割ノ議決ト共ニ之ヲ議決シ地
方長官ノ認可ヲ受クベシ
八
第三十九條組合ハ解散ノ後ト雖モ〓算
ノ目的ノ範圍內ニ於テハ仍存續スルモ
ノト看做ス
三十九
第四十條組合解散シタルトキハ理事〓
算人ト爲ル
前項ノ規定ニ依リテ〓算人タル者ナキ
トキハ地方長官〓算人ヲ選任ス〓算人
缺ケタルトキ亦同ジ
〓算人ハ組合ヲ代表シ〓算ヲ爲スニ必
要ナル一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス
〓算方法及財產處分ニ付テハ地方長官
ノ認可ヲ受クベシ
地方長官必要アリト認ムルトキハ〓算
方法及財產處分ノ變更ヲ命ジ又ハ〓算
人ヲ解任スルコトヲ得
第三章國民健康保險組合聯合會
第四十一條組合及組合ノ事業ヲ行フ法
人ハ共同シテ其ノ目的ヲ達スル爲國民
健康保險組合聯合會(以下組合聯合會
ト稱ス)ヲ設立スルコトヲ得
組合聯合會ハ法人トス
第四十二條組合聯合會ヲ設立セントス
ルトキハ規約ヲ作リ地方長官ノ認可ヲ
受クベシ
組合聯合會ハ設立ノ認可ヲ受ケタル時
ニ成立ス
二
第四十三條組合聯合會ノ規約ニハ左ノ
事項ヲ記載スベシ
一組合聯合會ノ目的及事業
二組合聯合會ノ名稱
三事務所ノ所在地
四加入及脫退ニ關スル事項
五經費ノ分賦ニ關スル事項
六其ノ他重要ナル事項
第四十四條組合聯合會ニ總會、理事長
及理事ヲ置ク
總會ノ組織竝ニ理事長及理事ノ選任ニ
關スル事項ハ規約ヲ以テ之ヲ定ムベシ
四
第四十五條本章ニ規定スルモノノ外組
七十
合聯合會ニ關シテハ第十八條乃至第二
九八二十九
け條、第二十九條、第三十條、第三十
一
二條第三項第四項及第三十三條乃至第
三十九
四十條ノ規定ヲ準用ス
第四章監督及補助
五
第四十六條主務大臣及地方長官ハ組合
若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人又ハ組合聯
合會ニ對シ其ノ事業及財產ニ關シ報〓
ヲ爲サシメ、其ノ狀況ヲ檢査シ、規約
ノ變更ヲ命ジ其ノ他監督上必要ナル命
令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
六
第四十七條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
法人又ハ組合聯合會ノ役員ニ欠缺若ハ
故障アルトキ又ハ其ノ役員其ノ執行ス
ベキ職務ヲ執行セザルトキハ地方長官
ハ官吏又ハ其ノ他ノ者ヲ指定シテ其ノ
職務ヲ執行セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ其ノ職務ノ執行ニ要
スル費用ハ組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
法人又ハ組合聯合會ノ負擔トス
七
第四十八條地方長官ハ組合若ハ組合ノ
事業ヲ行フ法人又ハ組合聯合會ノ決議
又ハ役員ノ行爲ガ法令、規約、主務大
臣若ハ地方長官ノ命令若ハ處分ニ違反
シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリ
ト認ムルトキ又ハ其ノ事業若ハ財產ノ
狀況ニ依リ事業ノ繼續ヲ困難ナリト認
ムルトキハ決議ヲ取消シ、役員ヲ解職
シ又ハ組合若ハ組合聯合會ノ解散ヲ命
ズル
ジ若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人ニ對シ第
九條ノ許可ヲ取消スコトヲ得
八
第四十九條國庫ハ豫算ノ範圍內ニ於テ
組合及組合ノ事業ヲ行フ法人ニ對シ補
助金ヲ交付スルコトヲ得
道府縣及市町村ハ組合及組合ノ事業ヲ
行フ法人ニ對シ補助金ヲ交付スルコト
ヲ得
第五章審査、斡旋、訴願及訴訟
四十九
第五十條保險給付ニ關スル決定ニ不服
アル者ハ國民健康保險委員會ニ審査ヲ
請求シ其ノ決定ニ不服アルトキ民事訴
訟ヲ提起スルモノトス
前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シ
テハ裁判上ノ請求ト看做ス
第五十一條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
法人又ハ組合聯合會ト醫師、齒科醫
〓藥劑師其ノ他ノ者又ハ其ノ團體ト
ノ間ニ於ケル保險給付ニ關スル契約ニ
關シ紛爭ヲ生ジタルトキハ國民健康保
險委員會ハ當事者ノ請求ニ依リ其ノ解
決ニ付斡旋ヲ爲スコトヲ得
一
第五十二條國民健康保險委員會ノ組
織審査及斡旋ニ關シ必要ナル事項ハ
勅令ヲ以テ之ヲ定ム
二
第五十三條組合ノ爲シタル保險料其ノ
他本法ノ規定ニ依ル徵收金ノ賦課若ハ
徵收ノ處分又ハ第八條ノ規定ニ依ル滯
納處分ニ不服アル者ハ地方長官ニ訴願
シ其ノ裁決ニ不服アル者ハ內務大臣ニ
訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコト
ヲ得但シ二以上ノ道府縣ニ跨ル組合ニ
關スルモノニ在リテハ內務大臣ニ訴願
シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルモノトス
第五十四條本章ニ規定スル審査ノ請求、
訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起
ハ處分又ハ決定ノ通知ヲ受ケタル日ヨ
リ三十日以內ニ之ヲ爲スベシ此ノ場合
ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八
條第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ
民事訴訟法第百五十八條第二項及第百
五十九條ノ規定ヲ準用ス
第六章罰則
四
第五十五條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
三十九
法人又ハ組合聯合會第四十條第五項又
五
ハ第四十六條ノ規定ニ依ル命令ニ違反
シ又ハ處分ヲ拒ミ若ハ妨ゲタルトキハ
其ノ役員又ハ〓算人ヲ百圓以下ノ過料
·三段入
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百
八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
醫療設備ノ利用ヲ目的トスル產業組合ニシテ
昭和十二年三月三十一日ニ於テ現ニ醫療事業
ヲ行フモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官
ノ許可ヲ受ケ組合ノ事業ヲ行フコトヲ得
第七條、第九條、第四十五條乃至第四十八條、
第五十條及第五十四條ノ規定ハ前項ノ許可ヲ
受ケタル產業組合ニ之ヲ準用ス但シ第四十七
條中解散ヲ命ズルコトヲ得トアルハ附則第二
項ノ許可ヲ取消スコトヲ得トス
第十六條第一項ノ規定ノ適用ニ付テハ同項第
二號中他ノ組合トアルハ他ノ組合又ハ附則第
二項ノ許可ヲ受ケタル產業組合トシ、第四十
條第一項ノ規定ノ適用ニ付テハ同項中組合ト
アルハ組合及附則第二項ノ許可ヲ受ケタル產
業組合トス
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=9
-
010・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 國民健康保險
法案ヲ提出スルニ當リマシテ、提案ノ理由
ヲ御說明申上ゲマス、國民ノ健康ガ國力進
展ノ原動力デアリマスコトハ申ス迄モナイ
コトデアリマシテ、其ノ保持增進ヲ圖リマ
スコトハ極メテ必要デアルト考ヘルノデ
アリマス、而シテ之ガ爲ニハ幾多ノ方法ガ
ゴザイマセウガ、傷病ニ際シマシテ必要ナ
ル醫療ヲ受ケシメ、速カニ健康ノ囘復ヲ圖
リマスコトハ最モ肝要ナコトデアリマス、
然ルニ醫療ヲ受ケルコトニ關シマシテ、第
一ニ問題トナリマスノハ醫療費ノ負擔デア
リマシテ、一度傷病ニ際會致シマスルヤ、
一時ニ多額ノ出費ヲ要シマスコトハ、
般國民ニ取リマシテ誠ニ苦痛トスル所デア
リマス、其ノ結果十分ナル醫療ヲ受ケルコ
トガ出來ナイト云フコトハ、國民保健及國
民生活安定ノ見地カラ觀マシテ忽ニスベカ
ラザル重大事ト考ヘルノデアリマス、殊ニ
最近ニ於キマスル農山漁村居住民、都市中
小商工業者等ノ疲弊ハ深刻ナルモノガアリ
マシテ、斯カル人々ニ取リマシテ醫療費ハ
相當經濟的重壓トナッテ居ルノデアリマス、
此ノ醫療費問題ヲ根本的ニ解決致シマスル
三、共同ノ力ト平素ノ用意トニ依リマス
ル保險ノ組織ヲ以テ最良ノ策デアルト考ヘ
ルノデアリマス、國民健康保險制度ノ案ヲ
玆ニ作成致シマシテ、社會保險調査會ニ諮
問致シマシタル所、現下ノ社會情勢ニ照ラ
シマシテ必要ナル施設トシテ、滿場一致ヲ
以テ可決セラレタノデアリマス、更ニ第六
十九議會ニ於キマシテ、國民健康保險法制
定ニ關スル建議ガアリマシテ、又昨年六
月、社會事業調査會ニ於キマシテモ、本制
度ノ速カナル施行ヲ要王セラレタノデアリ
マス、依ッテ政府ハ是等ノ建議及答申ニ基
キマシテ銳意〓究ノ結果、茲ニ本法案ヲ提
出スルニ至ッタ次第デゴザイマス、本法案ノ
骨子ト致シマスル所ハ、相扶共濟ノ精神ニ
則リマシテ國民健康保險組合ヲ設置セシ
メ、此ノ組合ヲシテ健康保險事業ヲ爲サシ
メムトスルモノデアリマス、本組合ハ原則
トシテ從來〓土的團結ヲ有シテ居リマスル
市町村ノ區域ニ依ルコトト致シ、補充的ニ
職業的組合ヲ組織スル途ヲモ開イテ居ルノ
デアリマス、本組合ノ事業ト致シマシテハ
療養ノ給付ヲ中心ト致シテ居ルノデアリマ
スガ、組合ノ事業及經營ノ方法ハ、各組合
ノ實情ニ應ジマスルコトガ肝要ト考ヘマス
ルノデ、事業ノ內容ハ〓ネ組合ヲシテ自治
的ニ決定セシムルコトト致シテ居ルノデア
リマス、尙本制度ハ右ノ如キ趣旨ニ依リマシ
テ醫療費問題ヲ解決致シ以テ國民ノ健康ヲ
保持增進セムトスルノデアリマスガ、醫療
機關トノ關係ハ最モ重要デアリマスルノデ、
之ガ實施ニ當リマシテハ、可及的ニ從來ノ
醫療制度ニ影響ヲ與フルガ如キコトナキヤ
ウ十分指導スル考デアリマス、健康ニ關シ
マスル保險ニ付キマシテハ、旣ニ勞働者ノ
健康保險制度ヲ實施シテ居ルノデアリマス
ガ、其ノ實績ニ顧ミ、又農山漁村居住民及
都市ニ於ケル中小商工業者等ノ實情ヲ考慮
致シマシテ、本制度ヲ制定スルニ至ッタノデ
アリマシテ、斯クノ如キ制度ニ依リマシテ
國民ノ健康ヲ保持增進シ、以テ國民生活ノ
安定ヲ期シマスルコトハ、時局ニ鑑ミ喫緊
ノ要務ダト考ヘル次第デアリマス、尙本法
案ニ對シマシテハ衆議院ニ於テ修正ガ加へ
ラレタノデアリマス、ソレハ營利ヲ目的ト
セザル社團法人ハ命令ノ定ムル所ニ依リマ
シテ、國民健康保險組合ノ事業ヲ行フコト
ヲ得ル旨ノ所謂代行ニ關スル規定ガ、原案
ノ第九條ニアッタノデアリマスルガ、之ヲ昭
和十二年三月三十一日ニ於テ現ニ醫療事業
ヲ行フ醫療利用組合ニ限定シ、其ノ旨ヲ附
則ニ規定スルコトニ修正セラレタノデアリ
マス、修正ノ趣旨ハ、國民健康保險組合ヲ
本則ト致シマシテ、醫療利用組合ノ代行ハ
例外的デアリマスルコトヲ明瞭ニ致シ、之
ヲ制限スルコトニ在ルト存ズルノデアリマ
ス、政府ニ於キマシテモ、本修正案ニ依リ
マシテモ、本法案本來ノ精神ニ牴觸セズ、
實施上支障ヲ生ズルコトハナイト信ズルノ
デアリマス、政府ニ於キマシテハ、國民生
活安定ノ爲ニハ醫療ヲ普及徹底致シマスル
コトガ極メテ肝要デアルト考ヘマスルノデ、
本法案ガ速カニ成立スルコトヲ希望致ス次
第デアリマス、從ヒマシテ兩院ノ御意見ガ
一致致シマシタナラバ、其ノ御決議ヲ尊重
シテ善處致ス考デアリマス、何卒御審議ノ
上速カニ御協賛ヲ賜ハラムコトヲ切ニ御
願ヒ致ス次第デアリマス
〔土方寧君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=10
-
011・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 質疑ノ通〓ガ
ゴザイマス、順次御許シヲ致シマス、金杉
英五郞君
〔金杉英五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=11
-
012・金杉英五郎
○金杉英五郞君 私ハ只今上程セラレマシ
タル國民健康保險法案ニ付キマシテ內務大
臣ニ二三ノ質問ヲ試ミタイト思ヒマス、其
ノ前提トシテ二三ノ卑見ヲ申述ベマスルコ
トノ御許シヲ願ヒタイト存ジマス、私ハ元
來社會立法中醫事衞生ニ關スルモノニ付テ
ハ我ガ國情、國民性ニ鑑ミテ尙早ナリトノ
持論デアリマシテ、今囘御提出ニ相成リマ
シタル國民健康保險法案ニ付テモ亦同樣、
果シテ急設ヲ要スルモノナルヤ否ヤヲ疑フ
者デアリマスル、併シナガラ該案ハ旣ニ衆
議院ノ審議ヲ經テ本院ニ回付セラレタルモ
ノナルヲ以テ、一ニハ衆議院ノ院議ヲ尊重
スル意味ト、一ニハ會期切迫ノ折柄、徒ニ
議論ヲ鬪ハシテ議事ヲ遷延シ審議未了ニ終
ルガ如キ運命トナリマシテハ、折角醫療普
及、國民生活ノ安定、社會平和ノ確保ヲ標
榜シテ立案セラレタルモノヲ水泡ニ歸セシ
ムルガ如キコトガアリマシテハ遺憾ト存ズ
ルノデ、强ヒテ反對スルヤウナコトハ差控
ヘマスルガ、唯此ノ機會ヲ利用致シマシ
テ第一、旣往ニ實施セラレタル衞生保健
ニ關スル各種ノ社會立法ガ果シテ豫期ノ效
果ヲ收メ居ルヤ否ヤニ付テ申述べ、第二ニ
ハ、爲政家竝ニ一般公衆ノ一部分ニハ開業
醫師ヲ誤解若シクハ曲解スルコトナキカニ
付テ申述べ、第三ニ、國民健康保險立法ニ
付テ質問ヲ試ミ、御腹藏ナキ御答辯ヲ煩ハ
シタイト存ジマスル、尙昨今ノ新聞紙上ニ
據レバ、私ハ醫師會代表ノ立場ニ於テ、又
有馬伯爵ハ產業組合代表ノ立場ニ於テ質疑
ヲ行フコトニ決シタ云々トアリマシタガ、
少クモ私ハ醫師會ノ代表ノ立場ニ於テ演壇
ニ起チタル者デナク、不肖ナガラ立法府ノ
一員トシテ大處高處ヨリ公正中和ノ意思ヲ
以テ卑見ヲ申述べ、疑義ノ存スル所ヲ氷解
セムトスルモノニ外ナラヌ次第デアリマス
ルト云フコトヲ豫メ申上ゲテ置キマス、率
直ニ申シマスレバ我國現時ノ國情、國民性
ヨリ察シマスルノニ、一般公衆ガ果シテ國民
健康保險法ノ實施ヲ要求スルノ情勢ナリヤ
否ヤト云フ點デアリマシテ、古人ガ不急ノ
コトハ切ニ爲スナカレ空シク神ヲ勞シ力ヲ
費ヤスノミデアルト言ウタコトガ眞理デア
ルトスレバ、此ノ簡單ナル案ノ爲ニ衆議院
ニ於テ七八回ニ亙ル特別委員會ノ討議ヲ繼
續セネバナラヌ程神ヲ勞シ力ヲ費ヤスベキ
急ヲ要スルモノデアラウカ、又旣ニ八九年
間實行シ來リタル勞働健康保險法ガ豫期ノ
效果ヲ收メ得ザリシト云フ世間ノ評判カラ
見マシテモ、未ダ就ラザルノ功ヲ圖ルヨリ
ハ旣ニ成ルノ業ヲ保ツニ如カズ、既往ノ失ヲ
悔ユレバ將ニ來ラントスルノ非ヲ防グニ如
カズノ古訓ヲ守リ國民健康保險立法ニ付テ
ハ尙大イニ檢討ヲ重ネルノ要アリシモノニ
非ザリシカト思フノデアッタノデアリマス、
而シテ先ヅ以テ既成ノ勞働健康保險法ノ運
用ヲ完成セシムルコトガ急務デハアルマイ
カト思ハルヽノデアリマスル、併シナガラ
此ノ案ガ兩院ヲ通過致シ御裁可ヲ仰ギテ實
行ニ移リタル以後ニハ、其ノ圓滿ナル發達
ニ付テハ勞働健康保險法案ニ於ケル時ト同
樣ニ、私ハ聊カ微力ヲ致スノ用意ヲ有スル
者デアリマスル、唯々國民健康保險立法ノ
缺陷多クシテ不完全ナリト認ムベキハ、前
ニ申上ゲマシタル通リ衆議院ノ特別委員會
ガ七八囘モ繼續サレ、而モ喧々囂々タリシ
コトハ數十億圓ノ豫算審議ニモ劣ラヌ程デ
アリマシタコトニ見テモ知ルベキデアリマ
シテ、若シ之ガ萬人ノ是認スル合理的法案
デアッタナラバ、之ヲ過去二十年間ノ議會ノ
例ニ徵シテモ、一二囘ノ特別委員會ニテ審
議完了セラルベキ筈ノモノデハナイカト思
ハレルノデアリマス、玆ニ何等カノ缺陷、
不完全ナル所ノアリマシタルコトヲ語ルモ
ノデアルト申サナケレバナラナイト思ヒマ
スル、旣ニ實行サレツヽアル勞働健康保險
法案ノ如キモ過去七八年間、斷エズ社會局
ト醫師會トノ摩擦ヲ持續致シ、衞生行政中
樞機關タル衞生局ト反リガ合ハズ、事業
家勞働者ノ一部ニモ不滿アリト云フ
狀態デアリマシテハ、健康保險立法ノ
目的ヲ達セムトスルコトハ少シク無理ナル
コトデアリマシテ、恰モ興行主ガ俳優、舞
臺監督、囃子方、見物人等ト衝突シツヽ芝
居ノ大入繁昌ヲ望ムノト同樣、決シテ圓滿
ナル發展ヲ企圖シ得ベキモノデハナイト考
ヘマス、蓋シ其ノ玆ニ至リマシタル所以ハ
相互ガ獨善主義デアッテ、中和ヲ缺クガ故デ
ハアルマイカト思ハレマス、苟モ中ハ天下
ノ大本ナリ、和ハ天下ノ達道ナリト云フ理
想ヲ以テ協調シタナラバ、斯ンナ狀態ヲ持
續シ得ラルベキモノノ筈デハナイト思ハル
ルノデアリマス、若槻、濱口兩內閣時代カ
ラ俄ニ自由主義ノ擡頭トナリマシテ、從ッテ
社會政策ニ關スル各種ノ立法ガ提案セラレ
タルコトハ御承知ノ通リデアリマスル、衞
生保健ニ關スルモノニ付テハ勞働健康保險
法案、賣藥稅廢止法案等ガ提出セラレタノ
デアリマス、又中央、アアリカ」ニデモ見ル
ヤウナ賣藥混合販賣案ナルモノモ出タノハ
其ノ頃デアリマス、當時拙者ハ是等ノ案ニ
ハ尙早ナリトシテ異論ヲ唱ヘタル一人デア
リマシタガ、當時貴衆兩院ニハ社會立法ナ
ル名目ニ眩惑シタル者ガ多カリシモノト見
エマシテ、前二案ハ容易ク成立致シ、後ノ
一案ハ勿論否決セラレタノデアリマシタ、
賣藥稅ノ如キ數十年ヲ經過シテ、最早惡稅
ニ非ズシテ良稅ト變ジテ居リマスルモノヲ、
社會政策ノ名ノ下ニ廢シタト云フヤウナコ
トハ、經費多端ノ時勢ヨリ考フレバ一層惜
シムベキモノデアッタト思ハレタノデアリ
マシタ、其ノ頃賣藥稅ノ總額ガ一一千萬圓ニ
近キモノデアリマタカラ、賣藥ノ數量ガ數
倍ニ增加シタル今日ヨリ數ヘマスレバ、恐
ラクハ其ノ稅額ハ四五千萬圓以上ニモ達ス
ルデアラウト思ヒマスル、而モ其ノ廢稅ガ
如何ナル理由ヲ以テ社會政策トナルデアラ
ウカト云フコトハ、當時私ガ當事者ニ質問
致シマシタル答辯ガ甚ダ不明ナリシガ如ク、
今日ニ至ッテモ如何ナル所ヲ摑ヘテ社會政
策ト言フノデアルカト云フコトハ甚ダ不明
デアリマス、當時私ハ如上ノ諸案ニ反對シ
タル理由ハ、總テ社會立法ナルモノハ其ノ
國情、國民性ヲ洞察シテ按排施設スベキモ
ノデアッテ、例ヘバ勞働健康保險法案ノ如キ
モ國情、國民性ノ全然異ナレル歐米諸國ニ
テハ其ノ必要ヲ感ジタルモノデアラウケレ
ドモ、我國ニテハ此ノ模倣行爲ダケハ早手廻
シデアック、卽チ尙早デアルト唱ヘタノデア
リマス、何トナレバ現代ノ國民性ガ如何ニ
輕佻浮薄ニ傾キツヽアルトハ申シナガラ、
當時ノ醫師ニハマダ隣保相扶ノ觀念ガ十分
ニ保持サレテ居リ、加之大部分ノ事業家及
勞働者モ亦十分醫師ノ隣保相扶ノ觀念アル
コトヲ認メテ居ッタカラデアリマス、ソレ
故ニ若シ之ヲ實施スルコトニナレバ、勞働
者卽チ被保險者、事業家、醫師ノ三方面ニ
各種ノ苦情ガ起ルデアラウ、卽チ社會政策
ノ押賣ニ驚クデアラウ、從ッテ其ノ圓滿ナル
發達ヲ期待シ難キモノデアラウト言ッタノ
デアリマス、今ヤ該法實施後、旣ニ七八年
ヲ經過シタノデアルガ、果セル哉、勞働者
中ニハ年來、相知レル醫師ノ恩情ニ依リ、
微細ノ謝禮若シクハ施療ニテ一家ノ健康ヲ
保持シ來レル者ガ、俄ニ健康保險法ナル差
別待遇的治療機關內ニ片付ケラレ、何トナ
ク肩身ガ狹イヤウナ感ジガアルトノ愬ヘヲ
爲ス者ガ續出致シマシタ、事業家ハ該案實
施後勞働者ガ濫リニ醫療ヲ受クルノ權利ア
ルガ如ク考フル所ノ傾向トナッテ、些細ノコ
トニモ醫師ヲ訪ウテ治療致シマスル爲ニ、
俄ニ罹病率ガ增加致シタト云フコトニ驚ク
者ガ續出致シマシタ、醫師ハ有料トモ付カ
ス、施料トモ付カズ變態患者ノ生ジタル爲
ニ、治療上ノ取扱ガ煩雜ニナッタコトヲ愬
フル者ガ續出スルニ至ッタノデアリマス、誠
ニ是等ノコトハ私ヲシテ先見ノ明者タ
ラシメタルヲ悲シムノデアリマス、卽チ
勞働者ハ差別待遇醫療機關內ニ片附ケラレ
テ、其ノ自尊心ヲ損セラレタルコトヲ不快
トシ、事業家ハ其ノ罹病率ノ增加シタルコ
トヲ歎キ、醫師ハ此ノ變態患者ノ爲ニ開業
醫制度ヲ紊亂セラレタルコトヲ歎ク、所謂
三スクミノ狀態トナッタノデアリマス、併
シナガラ私ハ元來如何ナル法案ニ付テモ一
度立法部ヲ通過シ、御裁可ヲ仰ギ、實行ニ
移リタル場合ニハ、出來得ルダケ當局者ヲ
援助シ、圓滿ニ發達セシムベシトノ主義ヲ
有スルモノデアリマスルガ故ニ、該法案實
施後ハ當局者ノ爲ニモ幾分カ微力ヲ致シ、
又其ノ團體、契約者タル醫師會ヲシテ必ズ
法規ヲ遵奉シテ誠實ニ運用スベキヲ戒〓シ
タ者デアリマス、ソコデ數萬ノ開業醫師ハ
正ニ犠牲的精神ヲ以テ從順ニ從事シテ今日
ニ至ッタノデアリマス、然ルニ現時ノ社會ニ
ハ運命ノ何モノタルヲ覺ラズ、分ニ安ンズ
ルノ尊キモノタルヲ解セズ、漫リニ世ヲ呪
ヒ、人ヲ呪フノ一派ガアリマシテ、常ニ不
平不滿ヲ事トシ、詭激ノ言論ヲ弄シテ快哉
ヲ叫ビ、甚ダシキハ社會組織ヲ破壞セムト
スル者ナシトモ限ラレザル情勢デアリマ
ス、其ノ餘波トシテ濫リニ相互ノ重職ニア
ル所ノ醫師ヲ誹謗シ、若シクハ壓迫セント
スルニ至リタル傾向アルコトハ眞ニ聖代ノ
痛恨事デアリマス、此ノ機會ニ於テ此ノ壇
上ヨリ一般公衆ノ醫師ニ對スル認識ヲ促シ
マスルコトハ、事如何ニモ一小事ナルガ如
クナレドモ、我ガ國醫事衞生上ノ大問題ト
シテ決シテ輕々ニ看過スベカラザルモノデ
アルト信ズルノデアリマス、御承知ノ通リ
古來我ガ國ニ於ケル醫師ト患者ノ關係ハ、
歐米諸國ノソレトハ全ク其ノ趣ヲ異ニシテ
居リマス、都市山村ヲ問ハズ、何レノ地方
ニ於キマシテモ、其ノ關係ハ恰モ親戚朋友
ノ如キ美風ヲ存シ、醫師會規約ノ成立シク
ル後ニ於テモ多數ノ開業醫師ハ診察料、藥
價手術料等ニ付テモ、其ノ支拂不能者ニ
對シテハ、官公署ノ命令ガアック譯デモナ
ク、公共ノ依賴ガアック譯デモナシニ、醫師
會ノ醫業報酬標準規程ト云フモノ迄モ破ッテ
密カニ無制限ニ施療ヲシテ居ルノデアリマ
ス、此ノ醫業報酬標準規程ト云フノハ、藥
價ヲ安クスルカラト云フコトヲ標謗シテ患
者ヲ集メタリ、若シクハ望外ノ暴利ヲ貪ル
者ヲ制裁スル爲ニ設ケテ居ル所ノモノデア
リマス、前申ス通リ別ニ官公署ノ命令ガアッ
タ譯デモナク、公共ノ依賴ガアック譯デモナ
イケレドモ、密カニ多數ノ施療ヲシテ參ッテ
來タノデアリマス、而シテ支拂可能者ヨリ
徵收シタルモノヲ以テ、其ノ一部分ヲ補ヒ
來ックト云フコトガ實情デアリマス、又支拂
可能者ニシテ支拂ノ義務ヲ履行セザル場合
ニ於テモ、歐米諸國ノ醫師ノ如ク訴訟ヲ起
スノ類ハ九牛ノ一毛ニモ達セザルモノデア
リマス、甚ダシキハ入院料ヲ支拂ハザルノ
ミナラズ、歸國ノ旅費マデモ貸與スルコト
ガ往々アルノデアリマス、尤モ醫師中ニモ
稀ニハ他ノ社會ニ惡德者ガアル如ク、患者
ニ不深切ナル者ガナイトハ申サレマセヌ
ガ、大體ニ於テハ隣保相扶ノ觀念ヲ有スル
コトガ我ガ國醫師ノ傳統的良知トモ申スベ
キモノデアリマス、善事ヲ爲シテ之ヲ隱シ
テ居ルト云フコトガ隱功デアルト云フコト
ヲ知ッテ居ルノデアリマス、而シテ此ノ隱功
ハ功ノ最モ大ナルモノデアルト云フコトヲ
知ッテ居ルノデアリマス、此ノ知ッテ居ルコ
トガ卽チ仁術ヲ守ッテ居ルト云フ意味ニ相
成ルノデアリマス、古來我ガ國ニ「醫者ノ
オ禮ト谷間ノ花ハ取リニ行カレズサキ次
第」ト云フ俗歌ノ存スル所以デアリマス、
「醫者ノオ禮ト谷間ノ花ハ取リニ行カレズ
サキ次第」ト云フコトハ、此ノ俗歌ハ我ガ
國ヨリ外ニハナイノデアリマス、他ノ數百
數千ノ職業ニ付テ見マスルノニ、一家一人
タリトモ無償ニテ物品ヲ與フル者ガアルデ
アリマセウカ、例ヘバ事件ニ付テ其ノ幾分
タリトモ訴訟辯護ヲ賴ミマスル場合ニ於
テ、無償デ訴訟ノ辯護ヲスル辯護士ガアル
デアリマセウカ、無料ニテ法事ヲ營ンデ吳
ルヽ坊主ガアルデアリマセウカ、一杯ノ汁
粉一杯ノ「コーヒー」ト雖モ無代ニテ飮マ
セル店ガアルデアラウカ、一粒ノ賣藥ト雖
モ無代ニテ與フルノ賣藥店ガアルデアリ
マセウカ、入場料ナシニ見物サセル芝居、
映畫館等ガアルデアリマセウカ、況ヤ最高
科學者ニシテ、司命ノ職ニアル醫師ハ、日
進醫學ニ遲レザラムガ爲ニハ、常ニ書籍、
機械、〓究室、設備等ニ人ノ知ラザル多額
ノ費用ヲ要スルモノデアリマスカラ、現在
ノ開業醫制度、卽チ醫業報酬標準規程ハ我
ガ國民性ト一致シテ作成シタルモノデアリ
マシテ、此ノ制度ヲ破壞セラレテハ、新刊
ノ書籍、機械購入、〓究設備等ヲ全ウスル
コトガ出來ナイバカリデナク、醫師ノ生活
マデモ脅カサルヽヤウナコトニナルノデア
リマス、サウ云フコトニナルトナリマスレ
バ、醫術ハ漸次退步スルト云フコトハ當然
ノコトデアリマシテ、其ノ國民保健上ニ及
ス影響ハ決シテ尠カラザルモノアルコトヲ
知ラルヽノデアリマス、健康保險法實施後
ニハ不知不識ノ間ニ開業醫制度ハ著シク紊
亂セラレ、醫師ト患者トノ美風モ漸次菲薄
トナリマシテ、醫者モ現金主義トナッタル傾
向ガアルノデアリマスル、併シナガラ不思
議ニモ醫師ノ隣保相扶ノ觀念ハ惰性トシテ
今尙全ク消失スルニ至ラザルモノデアリマ
シテ、其ノ證據ニハ過日私ガ諸方ノ醫師ニ
種々問合セマシタ所ガ、其ノ多クハ支拂不
能者ニハ密カニ施療シツヽアルコトハ依然
トシテ舊ノ如キ狀況デアルトノ返答デアリ
マシタ、或一派ノ「パンフレットLニ依リマ
スルト、日本人中醫者ノ治療ヲ得ズシテ死
スル者ガ八十「プロセント」ト書イテアリ
やく、而シテ尙附加ヘテ、醫者ノ診察ヲ受
クルノハ死亡診斷書ヲ書イテ貰フ時ダケ
デアル、詰リ死ンデカラノオ醫者ノ治療デ
アルト云フヤウナコト迄書イテアリマス、
是ハ餘リ世間ヲ知ラザルノ甚ダシキモノデ
アリマシテ、此ノ數字ノ現シ方ナドハ、往
往官邊ニ於テモ認メクルヤウナコトヲ言ッ
テ居リマシタリ、又書イタリスルヤウナコ
トガアリマスガ、是ハ誠ニ不都合千萬ナコ
トデアリマシテ、延イテ國民ノ保健上容易
ナラザル關係モアルト云フコトヲ私ハ憂フ
ルノデアリマス、醫師ノ治療ヲ受ケズニ死
ヌル者ガアルト云フコトニ付テハ、私ハ久
シク調査致シテ居リマスル、是ハ我ガ日本
ニ於テハ殆ド無イコトデアリマシテ、日々ノ
新聞紙上ニ見マシテモ、衣〓ニ窮シテ餓死シ
タリ、衰弱シテ死ンダリ、親子心中ヲシタ
リ、自殺シタリト云フヤウナモノハ頻繁ニ
現レマスルケレドモ、醫者ノ治療ヲ得ズシ
テ斃レタト云フコトハ新聞紙上ニモ殆ド無
イノデアリマス、是デ萬事ガ能ク分ルノデ
アリマス、又社會局ニ於キマシテハ、農家
一戶當リガ一箇年二十五圓醫者ノ治療費ガ
掛ルト云フコトヲ書イテアリマスルガ、是
ガ醫業報酬規程ニ依ッテ支拂フトスレバ成程
サウナルカモ知レマセヌケレドモ、斯クノ如
ク二十五圓ト云フ勘定ハ十戶ニ一戶モナイ
ノデアリマス、其ノ他ノ者ハ多クハ盆暮ニ三
圓トカ五圓トカ包ンデ持ッテ來ル、或ハ大根、
人蔘、蕎麥ト云フヤウナモノデ御禮ヲ濟マ
シテ居ル所ガ障分農村漁村ナドニハ多イノ
デアリマス、私ハ是ハ三十年來調ベテ居リ
マスルガ、斯ウ云フ狀況ニアルノデアリマ
ス、世間ハ千人ノ醫者ノ中ニ一二人ノ者ガ
國情、國民性ヲ洞察スルノ明ナク、傳統的
美風ヲ忘レテ、利慾ニ溺レテ暴利ヲ貪ル者、
若シクハ貧者ニ對シテハ往診シナイト云フ
ヤウナ不深切者アルヲ見マシテ一般醫界ヲ
律スルト云フコトハ餘リニモ認識ノ狹隘ニ
シテ、曲解ノ甚ダシキモノアルニ驚カザル
ヲ得ナイノデアリマス、若シ敍上ノ行爲ガ
行ハレナイトシタナラバ、私ハ微力ナガラ
全國六萬ノ醫師ニ相談致シマシテ、是非是
ハ此ノ美風ハ還元シナケレバナラヌト云フ
コトヲ申入レ、又ソレガ必ズ力アルモノト
自ラハ信ジテ居ルノデアリマス、一方又醫
師會ニ於テモ不正ノ醫者ノ現レタル場合ニ
於キマシテハ、官省ノ手數ヲ煩ハス迄モナ
〃嚴重ナル制裁ヲ加ヘルコトガ最モ必要
ナコトデアリマシテ、是ハ私ガ屢〓醫師會ニ
戒告シタコトデアリマス、其ノ嚴重ナル制
裁ニ對シテ優柔不斷ナルコトノアリマス爲
ニ、爲政家及一般公衆ヨリ幾分ノ誤解ヲ受
クルノ原因トナルノデハナカラウカト心配
シテ居ルノデアリマス、苟モ社會立法ヲ案
出セムトスル者ハ能ク敍上ノ情勢ヲ認識ス
ルコトガ緊要デハアルマイカト思フノデア
リマス、元個人主義ナル歐米諸國ノ民族性
ト隣保相扶主義ノ民族性ナル我ガ國トヲ同
一視シタルコトガ、歐米模倣ノ勞働健康保
險法ノ實施トナリタルモノデアリマシテ、
却テ我ガ善美ナル隣保相扶主義ヲ個人主義
ニ誘引致シタルコトハナカッタカト云フヤ
ウナコトヲ思ハルヽノデアリマス、物ニハ
緩急アリ、利害アリ、損失アリ、如何ニ社會立
法ダカラトテ「ゴー·ストップ」ノ信號ヲ無視
シテ猛進致シマスレバ、必ズ各方面ノ摩擦衝
突ヲ惹起スルコトハ當然ノコトデアリマシ
テ、元社會ノ摩擦衝突ヲ緩和調和スル筈ノ社
會立法ノ旨趣ニ反スルコトハ申ス迄モナイ
コトデアラウト思ヒマスマス、社會局ト醫
師會トハ其ノ當初ヨリ引續キ摩擦ヲ繼續シ、
勞働者、事業家等モ亦滿足スルモノデハナ
イト云フコトガ、ドウモマダ斯ウ云フ立法
ハ早カッタノデハナイカト云フヤウナ感ジモ
致シマスル、內務大臣ハ衆議院ノ一議員ノ
質問ニ對シ、勞働健康保險法ハ相當ノ效果
ヲ收メテ居ルト云フコトノ御答辯デアリマ
シタ、當事者トシテハ、サウ言ハナケレバ
ナラヌコトデアリマセウケレドモ、實際ニ
於テハマダ滿足スベキ狀態ガ少シモ現レテ
居ラナイノデアリマス、ソコニ相當ノ效果
ト言ハレタルコトハ、內務大臣ニ於テモ完
全ナル效果ト云フコトハ仰シヤリニクカッ
タモノト推察致サレマス、又衆議院議員ニ
於ケル或一派ノ如ク、社會立法ト名ノ付クモ
ノナラ何事デモ贊成ダト云フガ如キ自由主
義者ノ說ニ共鳴スルガ如キコトガアッタナ
ラバ、百害アッテ一利ナキモノタルコトヲ知
ラナケレバナリマセヌ、世人ハ動モスレバ
社會局ヲ誤解シテ、醫師征伐ノ本陣デアリ、
唯濫リニ新規ナル政策ノ試驗所ナリト稱ス
ルモノガアリマスルガ、私ハ社會局ノ方々
ヲ能ク知ッテ居リマスルケレドモ、此ノ世間
ノ評判ダケハ信ジマセヌ、社會局ハ新進氣
銳ノ多士濟々タルモノデアリマス、常ニ新
シキヲ求メテ邁進シ、適切ナ善政良策ヲ發
見シテ國利民福ニ資セムトスルノ熱情燃ユ
ルガ如キモノガアリマス、其ノ熱情燃ユル
ガ如キモノアリマスル爲ニ、時トシテハ奔
馬逸スルノ感ナキニ非ズト私ハ常ニ考ヘテ
居リマス、斯ク申ス私ナドモ若イ時、今ヨ
リ四十六年前ニハ、「ドイツ」ニ居リマスル
時ニ、後藤新平「ドクトル」ト「ドイツ」ノ各
種ノコトヲ調ベテ居ッタ時代デアリマスル
ガ、「ドイツ」ノ「フランケンカッセ」ト云フ
モノヲ見マシテ、是ハ非常ニ宜シイ、是ハ
一ツ日本ニ實行シヨウヂヤナイカト云フヤ
ウナコトデ、歸朝後、明治二十五六年頃デ
アリマス、私ガソレヲ飜譯致シマシテ、後
藤「ドクトル」、後ノ後藤伯爵デアリマス、
此ノ人ガ案ヲ立テヽ何處カヘ提出シタノデ
アリマス、ソレガ老練ナル大政治家ニ叱ラ
レタ、此ノ日本ノ國情、國民性ヲ歐米諸國
ト同ジニ見テ居ルカ、馬鹿ナ奴ダト言ハレ
テ、大變零シテ居ッタノデアリマスガ、我々
モ亦若イ時ニハ斯ンナ考モアッタノデアリ
マス、社會局ノ新進氣銳ノ人モ漸次年ヲ取ッ
テ來マスレバ、是等ノ御考モ付クデアラウ
ト思フノデアリマス、前申ス通リ、近頃官
吏及某黨派ノ一部ニハ濫リニ醫師ヲ誹謗ス
ル者ガアル、斯ウ云フコトヲ私ハ見聞シテ
居リマスルガ、「イタリー」ノ「ウチッチ」博
士ノ書イタモノニ依リマスルト、醫者ヲ誹
謗スル者ノ大部分ハ、旣往ニ於テ醫者ニ報
酬ノ責務ヲ果サザル者ニ限ルト云フコトガ
書イテアリマスガ、果シテ然リトスレバ醫
師程迷惑ナル者ハナイノデアリマス、拂ハ
レナイ上ニ誹謗サレル、此ノ位割ノ惡イモ
ノハナイノデアリマス、日本ニハサウ云フ
コトハナカラウケレドモ、是モ亦多少考慮
スベキ事柄デハナイカト思ヒマス、斯ク申
シマスルケレドモ、併シナガラ社會情勢ノ
變遷ハ、現今ノ開業醫師制度ガ永久ニ保持
シ得ラレルモノトノミハ考ヘテ居リマセヌ、
醫師會ハ何時カハ衞生局、社會局等ト熟議
ヲ遂ゲ、內務大臣監督ノ下ニ、時勢ト國情
トニ合致シタルヤウナ醫業制度ヲ拵ヘナケ
レバナルマイト私ハ思ヒマス、又醫師ニ於
キマシテモ反省スベキハ大イニ反省シ、爲
政家ヲ援ケテ國利民福ヲ主眼トシテ努力ス
ルノ覺悟ガナケレバナラヌト思ヒマス、私
ガ醫學者デアルガ爲ニ、右ノヤウニ醫師ヲ
庇護スルト云フコトノ誤解ダケハ御免ヲ
蒙リマス、サウ云フ意思ハ毛頭モナク、聊
カ高處、大處ヨリ實情ヲ申述ベテ、一般公
衆ノ醫師ニ對スル認識ヲ正確ニシ、今後醫
事衞生ニ關スル社會立法ノ運用上、當局者
ノ御考慮ヲ煩ハシタイト希フ迄ノコトデア
リマス、尙私ハ折角ノ社會立法ガ一步過レ
バ異端主義ニ引摺ラレル傾向ガアリハセヌ
カト云フコトヲ近來憂ヘテ居ル者デアリマ
ス、爲政家、若シクハ天下ノ指導者タルベ
キモノハ時ノ勢ヲ察スルコトガ緊要デアル
ト思ヒマス、古人モ「勢ハ猶ホ水ノ如キナリ
涓々ニ始マッテ漸々ニ積ミ以テ汗漫澎湃一
決シテ去ルニ至レバ則チ防グニ千里ノ堤ヲ
以テスルモ亦禦グベカラザルナリ」ト言ッテ
居リマス、近クハ尾去澤ノ鑛山ニ其ノ一大
悲慘ノ實例ヲ示シテ居ル通リノ次第デアリ
マス、異端主義者ノ如キモ亦涓々漸々ノ時ニ
細心注意シテ之ガ防禦ニ奴カムルコトガナカッタ
ナラバ、其ノ汗漫澎洋容易ニ禦グベカラザ
ルニ至ルコトハ火ヲ睹ルヨリモ瞭カナルコ
トト思フノデアリマス、官民トモニ其ノ緩
急利害ヲモ顧慮スルコトナク、濫リニ社會
立法ノ名ニ眩惑、盲信スルガ如キコトガアッ
テハ前途頗ル憂フベキ事柄ヲ出來シナイカ
ト云フコトヲ私ハ杞憂スルモノデアリマス、
扨是ヨリ愈〓〓本論ニ入ル譯デアリマス、只
今上程ニナリマシタル國民健康保險法案ハ
旣ニ實施セラレツヽアル勞働健康保險法案
ニ比ベマスレバ、其ノ異ナレル點ハ被保險
者トナルモノノ數ヲ著シク擴張シタルコト
ト、營利ヲ目的トセザル社團法人ガ監督官
廳ノ許可ヲ受ケテ國民健康保險組合ノ事業
ヲ行フコトヲ得ルコトト、醫師會トノ團體
契約ヲ法文化セザルコト等ノ相違ガアルヤ
ウニ思ヒマスルガ、其ノ被保險者ノ數ヲ著
シク擴張シタルコトハ、開業醫師ニ對スル
著シキ迫害トナルベキハ當然ノコトデアリ
マスルケレドモ、醫療能率增進ト國民ノ健
康向上ヲ目的トスルノ趣旨ヨリ申シマスレ
バ、開業醫師モ亦必ズ其ノ犠牲トナルベキ
覺悟アルモノトハ信ジマスルケレドモ、產
業組合ナルモノヲシテヤタラニ醫療行爲ヲ
營マシメルト云フコトハ、國民保健ノ上ヨ
リ言フモ、開業醫師制度紊亂ノ上ヨリ言フ
モ、其ノ職業上ノ障害ハ別トシテ科學者ノ
立場トシテ默々ニ看過シ得ベカラザルハ當
然ノコトデアリマシテ、今後產業組合ノ
ヤウナモノガ醫療機關ヲ設クルト云フヤ
ウナコトガ續出スルト云フコトニ相成リマ
スレバ、被保險者ノ昏迷ト不便トモ亦豫想
シナケレバナラヌコトデアリマス、社會上
最モ緊密ニシテ最モ至難ナル醫療機關ノ運
轉ヲ、田畑ノ耕耘、養蠶、酒造リ、醤油造
リト云フヤウナモノト同一視スルノ無謀ニ
ハ驚カザルヲ得ヌノデアリマス、幸ニ衆議
院ノ修正ニ於テ、第九條ノ削除セラレタル
コトハ幾分緩和セラレタルノ觀ガアリマス
ルケレドモ、是迄許可シタルモノハ已ムヲ
得ズトシテ、今後一切醫師以外ニ醫療機關
ヲ許可セヌノガ當識デアラウト思ヒマス、
又醫師會トノ團體契約ヲ法文化スルコトニ
付テハ、一小部分ノ被保險者ヲ有スル勞働
健康保險法ニ於テスラ之ヲ法文ニ明記シタ
ルニ、其ノ數百倍數千倍ニモ達スベキ國民
健康保險法ニ於テハ、愈〓益〓醫師會ト鞏
固ナル團體契約ヲ爲スベキ筈ナルニ、之ヲ
除キタルハ產業組合トノ關係等ヲ顧慮スル
爲デアラウト思ヒマスルケレドモ、國民健
康向上ノ目的ヨリ見テ甚ダ疑問ナキ能ハズ
デアリマス、實ハ此ノ國民健康保險法調査
會是ハ私ガ委員長トシテ決定シタルモノ
デアリマシテ、是等ノコトニ付テ彼此論議
致シマスルコトハ頗ル心苦シキコトデアリ
マスルケレドモ、實ハ委員會デ決定シタル
後ニ、第九條ト云フモノハ委員長ニ挨拶モ
ナシニ入レタル事柄デアリマス、其ノ入レ
タル事柄ハ不都合デアルト思ッタケレドモ、
ソレヲ又政府ハ衆議院デ削除サレタ、折角
苦心慘澹隱シテ入レタモノヲ削除サレテモ
默ッテ居ルト云フコトガドウ云フ意味デア
ルカ、ソレガ私ニハ今日迄サッパリ解ラナ
イ、頗ル奇怪事ト考ヘテ居ルノデアル、今
日御伺スルコトハ、斯クノ如キ各種ノ變態
ガ此ノ案ノ中ニ現レタルガ爲デアリマシテ、
其ノ點ハ內務大臣ニ於テモ御了承ノ上御答
ヲ願ヒタイノデアリマス、ソコデ拙者ノ伺
ヒタキコトヲ摘要シテ見マスレバ、第一ニ
內務大臣ハ旣ニ實施シツヽアル勞働健康保
險法ガ豫期ノ效果ヲ擧ゲ居ルト思ハルヽカ、
或ハ尙改善ヲ要スル點アリト思ハルヽカト
云フコトデアリマス、第二ニ何故ニ醫師會
トノ團體契約ヲ法文化スルコトニ躊躇ナサ
ルカト云フコトデアリマス、第三ニハ產業
組合法第一條ニ、組合員ノ產業又ハ其ノ經
濟ノ發達ヲ企圖スルガ目的デアルト書イテ
アリマスル、ソレニ依ッテ見マスルト、產業
組合ナルモノハ產業經濟ニ全力ヲ注ギ、其
ノ發達ヲ企圖スベキ使命アリト思ヒマスル、
此ノ重大ノ使命ヲ有スルモノニ見當違ヒノ·
醫療機關マデモ設置セシムルコトハ百害アッ
テ一利ナシト考ヘルノデアリマス、此ノ點
ニ付テドウ云フ御考デアリマスルカ、醫師
ノ機關ト云フモノハ他ノモノトハ違ヒマシ
テ容易ナコトデアリマセヌ、村長ノ理事
長ナドガ醫業ヲ營ムト云フヤウナコトハ、
細カク言ヘバ非常ナ事柄ガアリマスルガ、
一口ニ言ヘバ非常ナ弊害ガソコニ起ッテ來
ルコトハ分リ切ッタ話デアリマス、醫者ノ事
ト云フモノハ他ノ事トハ違ッテ非常ニムヅ
カシイモノデアル、私ガ中央金庫ノ理事長
ニナルト云フコトハ決シテ私ハムヅカシイ
トハ思ハナイ、有馬伯爵ニ病院長ヲシロト
言ッタラ是ハトテモムヅカシイ、是ガ一例デ
アリマス、第四、社會局ト醫師會トノ摩擦
ハ不斷ノ行事ナルコト天下周知ノ事實デア
ル、元來國民生活ノ安定ト社會平和ノ確保
ヲ標榜シテ施行シタル健康保險ガ其ノ立法
者ト其ノ事業ニ最モ樞要ナル醫師會トノ間
サヘ調査ガ出來ズシテ、其ノ生活安定ニ苦
慮セシメテ交互ノ平和ヲ保ツ能ハザルヤウ
ナコトヲ續ケテ居ッテ、如何ニ國民生活ノ安
定ト、社會平和ノ確保トヲ期スルコトガ出
來ルデアリマセウカ、此ノ點ニ付テ御高見
ヲ伺ヒタイ、第五、此ノ案ハ申ス迄モナク
醫藥ノ負擔ニ堪ヘザル者ヲ助ケルノガ目的
デアラウト思ヒマスルガ、完全ニ保險料支
出ノ出來ル者ハ組合ノ醫療機關ニ依ラザル
モ治療ヲ受ケルノ力アル者デアッテ、又此ノ
恩典ニ與ルベキ程度ノ者ハ必ズ保險料金ヲ
納メ得ザル階級ノ者デアルト思ハルヽガ、
是ニテモ醫療普及ノ目的ヲ障害ナク逹シ得
ラルヽデアラウカト云フコトデアリマス、
第六ハ附則ノ本年三月三十一日現存ノ醫療
事業ヲ行フ組合ノ代行スル數ヲ出來得ル限
リ減少スルコトガ妥當ナリト思フガ如何ト
云フノデアリマス、第七ニ醫師會ノ團體契
約權ヲ省令竝ニ地方官ニ通牒ノコトハ出來
ルダケ遺漏ナクナサルヽ御意思デアルカ、
是ハ是非サウシナケレバナラヌト思フノデ
アリマス、ソレニ付テノ御高見ヲ伺ヒマス、
尙時間ノ節約上御答辯ガアリマシテモ、別
ニ反問ハ致サヌト云フコトヲ申上ゲテ置キ
マスカラ、ドウカ御腹藏ナクオ互ノ間デス
カラ、御深切ニ御答辯ヲ御願ヒ申シマス
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=12
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013・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今金杉博士
カラ七項目ニ亙ル御質問ガゴザイマシタ
ガ、其ノ前提トシテ種々ナル御經驗ノ深イ
御老巧ナル立場カラノ御意見、御注意ガ
アッタノデアリマスガ、誠ニ私共ハ其ノ點ニ
付キマシテ十分ニ考慮ヲ重ネタイト思ヒマ
スルガ、多少博士ノ御所見ト異ニスル點ガ
アリマスルノデ、先ヅ各項目ニ御答ヲ致シ
マスル前提トシテ、私共ノ所見ノ一端ヲ申
上ゲテ置キタイト思ヒマス、第一ニ博士ノ
御意見トシテハ我ガ國ノ國情、或ハ社會情
勢カラ見テ、社會立法ノ制定ニ付テハ十分
ノ注意ヲ加ヘル必要アリ、殊ニ今囘提案ニ
ナリマシタ國民健康保險法ニ付テハ聊カ尙
早ノ嫌ハナイノデハナイカト、斯ウ云フ風
ナ御意見ガアリマシタヤウデアリマス、是
等ニ付キマシテハ私共ノ考ヘ方ヲ聊カ開陳
致シタイト思ヒマス、私ガ申ス迄モナク今
日國民生活ト云フモノハ、或ハ經濟界ノ變
遷或ハ社會上種々ナル重壓ノ結果ト致シマ
シテ、段々ト此ノ庶民階級ニ於ケル生活ト
云フモノガ餘程困難ヲ加ヘツヽアルト云フ
コトハ、是ハ私ガ申ス迄モナイト思ヒマス、
而シテ一定ノ財產ヲ持ッテ居ルトカ、或ハ相
當ノ收入ノ決ッテ居ルト云フ者ハ兎モ角ト
致シマシテ、辛ウジテ其ノ日其ノ日ノ生活ヲ
送リ、家族ヲ養ッテ居ルト云フヤウナ者ニ於
キマシテハ、一番頭ヲ惱マスノハ何カト云
フト、其ノ業ヲ失フト云フコトト、且ソレ
以上ニ心配ニナリマスルノハ、自分若シク
ハ家族ガ病氣ニナッタ時ドウシタラ宜カラ
ウカ、斯ウ云フ所ニ私ハ歸著スルト思フノ
デアリマス、一度······ヤット其ノ糊口ヲ致シ
テ居リマシテモ、若シ自分ナリ、或ハ家族
ガ病氣ニナッタ時ハドウシタラ宜カラウカ、
斯ウ云フヤウナコトヲ想ヒ到リマスト云フ
ト、實ニ其ノ生活ト云フモノハ暗澹トシテ
生活ノ樂シミト云フモノヲ失フト云フコト
ハ私ガ此處ニ縷々申ス迄モナイト思ヒマ
ス、從ヒマシテセメテ國家トシテハ是等ノ
者ノ最小限度ノ生活安定、卽チ病氣ニナッタ
時先ヅ〓〓心配セズニオ醫者ニ掛レ、藥ガ
飮マレルト云フコトヲ考ヘテヤルト云フコ
トハ、國家トシテ社會立法ノ最小限度デア
ラウト斯ウ考ヘルノデアリマス、デ今日或
ハ是等ノ要求ガ普及シテ居ラヌノデハナイ
カト云フヤウナ御話モゴザイマシタケレド
モ、是ハ博士ノ御所見モサウ云フ風ニ御見
ニナルノモ一ツカモ知レマセヌガ、併シ私
共ノ耳ニ入リ目ニ見マス所ハ、ナカ〓〓此
ノ點ニ付テノ要求ガ熾烈デアリマス、先程御
引例ニナリマシタヤウニ、農村ニ於キマスル
負債、若シクハ困窮ノ重要ナル原因トシテ、
此ノ醫療費ノ負擔ト云フモノガ數ヘラレテ
居ルノデアリマス、殆ド是ハ統計デアリマ
スルガ、一年約一家ニ付テ二十五六圓ノ
醫療費ト云フモノガ統計ニ現レテ來ル、今
日ニ於キマシテ農漁山村ニ於ケル所謂庶民
階級以下ノ者ニ於ケル、是等ノ負擔ト云フ
モノハ可ナリナ生活上ノ重壓ニナルト云フコ
トハ、私ガ縷々申述ベル迄モナイト思フノデ
アリマス、且又都市ニ於キマシテモ、庶民
階級以下ノ者、是等ノ者ニ付キマシテモ非
常ニ醫療費ノ負擔、病氣ニナッタラドウシタ
ラ宜カラウカト云フ心配ト云フモノハ、絕
エズ其ノ腦裡ヲ往來シテ居ル一ツノ重大ナ
ル事項デアルト見受ケラレルノデアリマ
ス、是ハ此處デ申上ゲルノハ如何カト思ヒ
マスルガ、過日私ハ衆議院ノ此ノ委員會ニ
於テモ申述ベタノデアリマスガ、丁度其ノ
委員會ノ前ノ日ニ私ノ所ニ或來客ガアリマ
シテ、其ノ人ガ中シマスノニハ、今自分ハ
圓「タク」ニ乘ッテ來タ、所ガ圓「タク」ノ運轉
手ガ言フニハ、一體此ノ國民健康保險法ト
云フモノハドウナッタノダラウカ、是ハ新聞
紙上デ可ナリ議論ガアックコトヲ見テ居ッタ
モノト見エマシテ、アレガ出來レバ自分等
ハ直グヤリタイ、ドウシテ早ク進行シナイ
ノデアラウカト云フコトデ、自分ニ聽カレ
タト云フコトデ、私ニ話シテ吳レマシタ、
是等ヲ見マシテモ、人知レズ、卽チ大キナ
聲ヲ擧ゲ得ザル方面ニ於テ如何ニ此ノ要求
ノ熾烈デアルカト云フコトノ一例ニナルノ
デハナイカト、私ハ斯ウ云フ風ニ考へタノ
デアリマス、現在斯ウ云フ風ナ庶民階級以
下ノ人々ハ、成程其ノ數ハ非常ニ多イノデ
アリマスガ、所謂七千萬國民、九千萬國民
ノ大部分ヲ占メテ居ルモノデアリマスル
ケレドモ、併シ是等ノ人々ト云フモノハ所
謂鳥合ノ衆デアリマシテ、或ハ政治上社會
上ニ其ノ發言ト云フモノガ一團トナッテ有
力ニ働カナイデ、其ノ外ノ政治上或ハ社會
上ニ於ケル勢力ノアル團體ト云フモノハ、
數ガ少クテモ其ノ空氣ト云フモノガ有力ニ
反映スルト云フコトハ、是ハ私ガ申ス迄モ
ナイコトデアリマシテ、或意味ニ於テ是等
ハ所謂聲ヲ擧ゲ得ザル人々ノ考デアリマシ
テ、是等ハ將來、政府ハ固ヨリ所謂政治家
ト云フ方々ハ是等ノ點ニ付テ十分ナル想ヲ
囘ラスコトガ必要デハナイカト、斯ウ云フ
風ニ私ハ思フノデアリマス、併シナガラ社
會立法ト云フモノハ社會組織ヲ何處マデモ
根柢ニシテ、社會組織ニ急激ナル變更ヲ與
ヘズシテ改善ヲ加ヘテ行クト云フコトガ最
モ必要ナコトデアルコトハ、金杉博士ノ仰
セラレタ通リデアルト思ヒマス、デアリマ
スルカラ、本法制定施行ニ當リマシテモ、此
ノ點ニ付キマシテハ、矢張リ政府トシテハ
十分ナル考慮ヲ加ヘナケレバナラヌト、斯
ウ云フ風ニ思フノデアリマス、成ルベク世
ノ中ガ摩擦ヲ避ケテ圓滿ニ改善ニ向フト云
フコトハ、是ハ萬人ノ希望スル所デアリマ
シテ、政府ト雖モ固ヨリ當然ノコトト思フ
ノデアリマス、デアリマスルガ、併シナガ
ラ總テノ摩擦ヲ避ケテ行クト云フコトハ結
局改善ガ行ハレヌト云フコトニ往々ナリ勝
チデアルノデアリマスルカラ、其ノ摩擦ヲ
成ルベク避ケテ、サウシテ出來ルダケ一步
ヅツ改善ヲ加ヘ、國民生活ノ安定ヲ圖ッテ
行クト云フコトガ必要デハナイカト、斯ウ
云フ風ニ思フノデアリマス、故ニ本法制定
ニ付キマシテモ、我ガ國ニ於ケル醫療制度
ノ根本ト云フモノハ、只今博士ノ仰セラレ
マシタ通リ、所謂開業醫制度ト云フコトガ
數百年ノ傳統デアリマシテ、且又我ガ國ニ
於ケル開業醫ノ諸君ノ功績ト云フモノハ、
是ハ又社會トシテ非常ニ感謝ヲシナケレ
バナラヌ所デアリマス、所謂醫ハ仁術デアッ
テ、只今仰セニナリマシタヤウニ隣保相助
ノ觀念ニ依ッテ、或ハ實際ニ於ケル救療トカ
或ハ深切ナル醫療ト云フコトガ我ガ國ニ於
テ行ハレテ居ッタト云フコトハ、是ハ開業醫
諸君ノ功績デアル、我ガ國ニ於ケル特殊ノ
制度デアッテ、是ハ矢張リ將來ト雖モ、此ノ
醫療ノ根本基礎制度トシテ維持シ、其ノ適
當ナル發達ヲ圖ルト云フコトハ固ヨリ必要
ト思フノデアリマス、デアリマスルカラ是
等ノ制度ニ對シテ急激ナル變革ヲ起サズシ
テ、出來ルダケ是等トノ摩擦ヲ避ケテ、サ
ウシテ一般庶民階級ノ幸福ヲ圖ッテ行クト
云フコトガ本法制定ノ根本趣旨デアルノデ
アリマス、是等ヲ前提ト致シマシテ、弘
只今御質問ニナリマシタ事項ニ付テ御答ヲ
申上ゲタイト思ヒマス、第一ニ現在施行シ
テ居リマスル所ノ工場鑛山等ニ於ケル勞働
者ノ保險、是ハ其ノ成績ガ良ク行ッテ居ル
カドウカト、斯ウ云フ御尋デアリマシタ、
是ハ私ガ申ス迄モナク、現在工場鑛山ノ從
業員ト云フモノハ約三百萬ニ及ンデ居リマ
スルガ、是等ニ對シテ、成ルベク其ノ醫療
ト云フモノニ付キマシテ、將來改善ノ餘地
ノ多々アルコトモアリマセウ、又現在ニ於
キマシテ、博士ノ御述ニナリマシタヤウ
ニ、ソレガ爲ニ或ハ濫療·······醫療ヲ濫リニ
要求スルヤウナ弊害トカ、或ハ又畫一ニ流
レルガ爲ニ醫療ガ十分デナイト云フヤウナ
色々ノ缺點ハ固ヨリ認メザルヲ得ナイノデ
アリマスルガ、大局ニ於テ少クモ此ノ產業
ニ從事スル三百萬ノ從業者ト云フモノハ、
此ノ恩惠ヲ受ケテ、例ヘバ工場ニ於テ怪我
ヲスルトカ、或ハ病氣ニナルトカ、斯ウ云
フ風ナ場合ニ安心シテ其ノ醫療ガ出來ルト
云フコトハ、是ハ大キナ功績デアラウト、
斯ウ云フ風ニ私ハ思フノデアリマス、私ガ
申ス迄モナク、產業發達ノ蔭ニ、產業振興
ノ裏ニ多數ノ從業員ノ犠牲ト云フモノヲ考
ヘナケレバナラヌ、私ガ申ス迄モナク昔ノ
工業組織ト違ヒマシテ、所謂大工業、大工
場、大產業組織ニナリマスルト、其處ニ澤
山ノ犠牲者ガ生ズル虞ガアル、或ハ負傷、
或ハ工場、鑛山ニ於テ其ノ事業ノ爲ニ起ル
所ノ疾病トカ云フヤウナ、產業上ノ各種ノ
犠牲ト云フモノガ現レテ來ルノデアリマス
ルカラ、是等ニ付テ大局的ニ於テ國家ガ或
制度ヲ考ヘテ行クト云フコトハ、工業產業
ノ發達ト共ニ必要ナコトト思フノデアリマ
ス、固ヨリ隣保相助ト云フコトハ我ガ國ノ
美風トシテ、何處迄モ保持シテ行カナケレ
バナラヌモノデアリマスケレドモ、併シナ
ガラ一方ニ於テ、產業組織ガ所謂歐米的ニ
大企業ニナリマスルト云フト、矢張リ其ノ
大企業ニ基イタ社會立法若シクハ多數從業
者ノ福利ヲ考ヘルト云フ制度ヲ立テテ行カ
ナケレバナラナイノデアリマシテ、私ハ大
體ニ於テ、矢張リ此ノ從來ノ勞働保險制度
ト云フモノハ、多數ノ從業員ヲシテ安心シ
テ此ノ事業ニ從事スル、勞働ニ從事シ得ル
ト云フ安心ヲ與ヘテ居ル點ニ於テ重大ナル
功績ヲ擧ゲテ居ルト云フ風ニ思フノデアリ
マス、唯其ノ種々ナル點ニ付テハ、將來十
分ナル考究ヲ加ヘテ、其ノ改善ヲ圖ッテ行カ
ナケレバナラヌ、是ハ申ス迄モナイコトト
思フノデアリマス、第二ニ何ガ故ニ醫師會
トノ團體契約ヲ法文化スルニ躊躇スルカト
斯ウ云フ御尋デアリマシタ、是ハ御承知ノ
通リ現在行ハレテ居リマスル工場、鑛山ノ
勞働者ヲ目標ト致シマスル勞働保險ニ於キ
マシテ、是亦大體ニ於テ醫師會トノ間ノ團
體契約ト云フモノガ行ハレテ居ルコトハ、
私ガ申ス迄モアリマセヌ、デアリマスルカ
ラ私共卽チ政府ト致シマシテハ、團體契約
ソレ自體ニ決シテ反對ハシナイノデアリマ
ス、且又先程來申上ゲマスルヤウニ、開業
醫制度ト云フモノハ我ガ國ニ於ケル醫療組
織ノ根本デアッテ、開業醫ノ集合デアリマス
ル醫師會ト云フモノハ、又之ヲ尊重シナケ
レバナラナイ、開業醫ノ功績ヲ相當社會ト
シテ認メナケレバナラヌノデアリマスルト
共ニ、醫師會ノ社會衞生ニ對スル功績ヲ認
メナケレバナラヌ、而シテ醫師選擇ノ自由
ヲ與ヘルガ爲ニハ自ラソコニ團體契約ト云
フモノガ行ハレルト云フコトハ、今日ノ實
情ニ於テハ自然デアラウト思フノデアリマ
ス、デアリマスルカラ政府トシテハ決シテ
此ノ團體契約ガ絕對ニイカヌ、團體契約ハ
禁止スベキモノ、若シクハ之ヲ妨害スベキ
モノナリトカ云フ考ハ決シテ持タヌノデア
リマス、自然ト團體契約ハ行ハレルノデア
ラウト云フ寧ロ豫想ヲ持ッテ居ル位ノモノデ
アリマス、サリナガラ之ヲ法文ニ規定シテ、
國民健康保險組合ハ必ズ此ノ醫師會ト團體
契約ヲ結バナケレバナラヌト云フコトヲ、
法規ヲ以テ强制スルト云フコトハ重大ナル
事件デアリマシテ、直チニ輕々ニ贊同スル
譯ニハ行カヌノデアリマス、私ガ申ス迄モ
ナク、我ガ國ニ於キマスル法文ノ原則ハ民
法、商法等ヲ通ジテモ、所謂契約自由ノ原
則ト云フモノガ行ハレテ居ル、之ニ對シテ
例外ヲ設ケルト云フコトハ非常ニ重大ナル
何等カノ理由ガナケレバナラヌ、尙私ガ申
ス迄モナク此ノ醫師會ト云フモノハ、其ノ
必要ヲ認メマシテ國家カラ醫師法ニ依ッテ重
大ナル權能ヲ與ヘラレテ居ルノデアリマス、例
ヘバ或一定ノ地域ニ於ケル開業醫者ト云フ
モノハ、必ズ醫師會ニ入ラナケレバナラヌ、
或ハ其ノ規約ニ違反シタル者ニハ重大ナル
處罰ノ制裁ノ權能ヲ與ヘラレテ居ル、或
更ニ其ノ地方ニ於ケル醫療ノ代金ノ公定ノ
權限マデモ持ッテ居ルト云フヤウナ、重
大ナル權能ガ與ヘラレテ居ル、此ノ團體
ニ更ニ必ズ此ノ團體ト契約ヲシナケレバナ
ラヌト云フヤウナ、國家ガ更ニモウ一ツ重
大ナル權能ヲ與ヘルト云フコトハ、是ハ直
チニ贊成スルコトガ出來ナイ、團體契約ヲ
スルコトニハ少シモ異存ハナイノデアリマ
スルガ、國家ガ法規ヲ制定シテ、必ズ此ノ
醫師會ト云フモノト團體契約ヲシナケレバ
ナラヌト云フコトヲ、强制スルト云フコト
ニハ、政府ハ贊成致シ兼ネルノデアリマ
ス、第三ニ、產業組合、所謂第九條ノ問題
ト致シマシテ、產業組合デアリマスルモノ
ガ醫療ヲヤルト云フコトハ適當デナイデハ
ナイカ、斯ウ云フ御話デゴザイマシタ、第
九條ハ所謂公益ヲ目的トスル、營利ヲ目的
トセザル社團、斯ウ云フコトヲ規定シテ居
リマスルガ、是ハ大體ニ於テ、所謂今日行
ハレテ居リマス醫療組合ヲ指シテ居ルコト
ハ只今仰セノ通リデアリマス、唯是ハ法文
ノ上ニ於キマシテ、所謂政府ト致シマシテ
ハ若シクハ私共トシテハ必ズシモ法文ノ
重大ナル事項トハ考ヘテ居ラナイノデアリ
マス、此ノ國民健康保險法ハ、所謂國民健
康保險組合ト云フモノヲ骨子ト致シマシ
テ、ソレヲ中心ニシテ庶民階級ノ醫療ノ完
全ヲ期スルト、斯ウ云フ所ニアルノデアリ
マスルカラ、此ノ國民健康保險組合ノ發達
ヲ助長シ、且其ノ發達ヲ希望スルノデアリ
マスルガ、一面ニ於キマシテ所謂經濟的發
達ヲ目的ト致シマスル產業組合ニ於テ、醫
療ヲ實行スルコトヲ奬勵助長スルト云フ意
思ハ少シモナイノデアリマス、唯現在產業
組合法ニ依リマシテ、醫療ヲ實行シテ居ル
組合ガアル、斯ウ云フモノノニ中於テ成績
ガ良好デアリ、且又將來ト雖モ其ノ成績良
好ヲ維持シ得ルヤウナモノガアリマスルナ
ラバ、ソコヘ改メテ國民健康保險組合ヲ作
ラヌデモ、ソレニ代ラシテモ宜イデハナイ
カ、斯ウ云フ程度ニ過ギナイノデアリマス
カラ、之ニ依ッテ醫療組合ノ發達助長ヲ期ス
ルト云フ考ハ少シモナイノデアリマス、根
本ハドコ迄モ國民健康保險組合ト云フモノ
ヲ中心ニ致シテ、之ニ依ッテ庶民階級ノ醫療
ノ普及ヲ期シタイ、斯ウ云フ次第デアリマ
ス、第四ニ此ノ社會立法、其ノ他社會保險
ヲ扱ヒマス所ノ社會局ト醫師會トノ摩擦ヲ
能ク考ヘナケレバナラヌト、斯ウ云フヤウ
ナ御意見デゴザイマシタ、是ハ私ガ申ス迄
モナク、社會局ト云ヒ、衞生局ト申シマシテ
モ、是ハ結局ハ內務大臣ノ補助機關ニ過ギ
ナイノデアリマスカラ、內務大臣ニ於テ十
分ニ其ノ點ヲ考慮シテ行クト云フコトデ御
諒承ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、唯ソ
レソレ其ノ擔任ノ部局ニ於キマシテハ、ソ
レソレ其ノ擔任ノ事務ニ付テ常ニ熱心デア
ルベキ次第デアリマスルカラ、時ニハ意見
ノ扞格ヲ起シ、或ハ議論ノ相違ヲ來スト云
フコトハ、是ハ又已ムヲ得ナイコトデアリ
マスルガ、結局ハ申ス迄モナク內務大臣ノ
補助機關デアリマスルノデ、ソレ等ノ點ニ
付キマシテハ內務大臣ニ於テ責任ヲ持ツ、
斯ウ云フ次第ニ相成リマスル譯デアリマ
ス、是ハ私ガ申ス迄モナイコトト考ヘマ
ス、第五ニ、醫藥ノ負擔ニ堪ヘザル者ヲ
此ノ國民健康保險組合ト云フモノハ、醫療
費ヲ支出シ得ル者ハ此ノ組合員外ノモノデ
アリ、從ッテ醫療費ヲ負擔シ得ザル者ヲ以テ
組合ヲ組織スルト云フコトニナルガ爲ニ、
從ッテ組合ト云フモノノ存立維持ヲ阻害ス
ルヤウニナルノデハナイカ、斯ウ云フ風ナ
御尋ト拜承致シマシタ、是ハ御述ニナリマ
シタヤウニ、大體ニ於テ庶民階級ノ醫療ヲ
目的トスル、斯ウ云フ所ニアルノデアリマ
スルカラ、自力ヲ以テ醫療ヲ受ケ得ル者ハ固
ヨリ此ノ組合員外デアリマス、唯特殊ノ例外ハ
アリマスルガ、大體ニ於テサウ云フ趣旨デアル
コトハ、御述ニナリマシタ通リデアリマス、又
一方ニ於キマシテ、實際ニ收入ノ途ノナイ
者ハ、是亦救護法其ノ他ニ依ッテ國家ノ慈惠
ノ下ニ醫療等ヲ受ケナケレバナラヌノデア
リマシテ、大體此ノ組合ノ狙ヒ所ハ、所謂
生活ニ絕對困難ト云フ者デハナク、或程度
マデ生活シ得ルケレドモ、併シナガラ醫療
費ノ負擔ニ非常ニ苦シムト云フ者、所謂庶
民階級ノ人々ヲ目標ニシテ居ルノデアリマ
ス、デ是ハ私ガ先程申上ゲマシタヤウニ、
醫療費ガ平均年ニ於テ、農村ニ於ケル醫療
費ト云フモノガ一年約二十五六圓ニ達スル
ト云フ次第デアリマスルガ、之ヲ其ノ都度
支拂ヒマセヌデモ、オ互ニ危險負擔ノ原則
ニ依ッテ、ソレ〓〓平素カラ持チ寄ッテ居ル
ト云フコトニ依ッテ、所謂醫療費ノ負擔ノ輕
減ト云フコトヲ圖リ得ルト思フノデアリマ
ス、是ハ又其ノ醫療費ノ支出、醫療費ノ負
擔ト云フコトモ必ズシモ現金ニ依ラズ、或
ハ出來マシタ農產物ヲ以テ代納スルトカ、
色々ナ方法ヲ立テマスナラバ、其ノ醫療費
ノ納付、納入ト云フコトニ付テ左程ノ困難
ヲ感ジナイデ濟ムデアラウト、斯ウ云フ風
ニ思フノデアリマス、且又此ノ點カラ申シ
マシテモ、私共ハ開業醫ノ生活ヲ脅サナイ、
寧ロ或意味ニ於テ開業醫ニ便利ヲ與ヘル、
斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、此ノ國民
健康保險組合ト云フモノガ普及發達致シマ
スナラバ、從來農漁山村等ニ於キマシテ
モ、病氣ニナッテモ醫者ニ掛レヌ、醫療費ノ
負擔ノ爲ニオ醫者ニ掛レヌ、サウ云フ風ナ
人ガ此ノ國民康保險法ニ依リマシテ、オ醫
者ニ掛リ得ル機會ガ多クナルノデアリマス
カラ、卽チ開業醫ノ扱ハレル患者ト云フモ
ノガ却テ從來ヨリモ多クナリ、又一方ニ於
キマシテ從來拂ヘナカッタ醫療費ニ付キマ
シテモ、組合制度ニ依ッテオ互ニ保證スル
ヤウナ形ニナリマスルカラ、或意味ニ於テ
開業醫ニ於ケル醫療費ノ收入ト云フモノモ、
或意味ニ於テ確實ニナル、斯ウ云フコトニ
ナルノデアリマスルカラ、此ノ制度ハ私ハ
決シテ從來ノ開業醫ノ脅威ニナラヌト、斯
ウ云フ風ニ思フノデアリマス、寧ロ或場合
ニ於キマシテハ其ノ收入ヲ確保スルト、斯
ウ云フ結果ヲ生ズルノデハナイカ、斯ウ云
フ風ニ思フ次第デアリマス、第六ニ第九條
ニ依ル所謂醫療組合ノ代行ノ中デ、代行ス
ルモノノ數ハドノ位デアラウカ、代行スル
モノノ數ヲ成ルベク少ク限定セヨト、斯ウ
云フ御話ノヤウニ承リマシタ、此ノ點ニ付
キマシテハ、私ガ先程申上ゲマシヤウニ、
所謂本法ハ國民健康保險組合ト云フモノヲ
本旨ト致シマスルノデ、所謂從來ノ他ノ法
人ノ代行ト云フコトハ一種ノ便宜手段ニ過
ギナイノデアリマスルカラ、之ヲ助長奬勵
スル意思ハ、此ノ法案ニ於テハ少シモ現レ
テ居ラヌノデアリマスルカラ、只今御述ニ
ナリマシタヤウニ、結局其ノ數ト云フモノ
ハ極メテ少イモノデアラウト、斯ウ云フ風
ニ思フノデアリマス、ソレカヲ醫師會ノ團
體契約ノ問題ニ付キマシテハ、先程來私ガ
御答ヘ申上ゲマシタヤウニ、團體契約權ヲ
法文ヲ以テ規定スルト云フコトニハ政府ハ
同意致シカネルノデアリマスルガ、併シナ
ガラ團體契約ソレ自體ニ付キマシテハ決シ
テ之ニ反對スルモノデハナイノデアリマス、
而シテ組合員ヲシテ成ルベク廣ク······今日
ハ私ガ申ス迄モナク醫師ノ分科ト云フモノ
ハ非常ニ廣ク分レテ居ルノデアリマスルカ
ラ、成ルベク組合員ヲシテ廣イ範圍ノ醫師
ニ掛リ得ルヤウニ爲サシメルコトハ最モ必
要デアル、卽チ醫師選擇ノ自由ヲ組合員ニ
與ヘマスルコトハ極メテ必要ト考ヘマスル
ノデ、其ノ趣旨ヲ省令等ニ於テ規定致シタ
イト、斯ウ云フ積リデアリマス、從ヒマシ
テ自然ト實際ニ於キマシテハ法文化セズト
モ、醫師會トノ團體契約ト云フモノヲ法規
ニ於テ强制致サズトモ、結果ニ於テハ醫師
會トノ團體契約ガ廣ク行ハレルデアラウ、
斯ウ云フ風ニ私共ハ想像スル次第デアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=13
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014・金杉英五郎
○金杉英五郞君 只今內務大臣ノ周密ナル
御答辯ニ對シマシテ、深ク感謝致シマス、
先約ニ依リマシテ、反問致シマセヌカラ、
是デ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=14
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015・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ休憩ヲ
致シマス、午後一時三十分ヨリ開會致シマ
ス
午後零時一分休憩
午後一時四十二分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=15
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016・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ午後ノ
會議ヲ開キマス、日程第三ニ對スル質疑ヲ
續行致シマス、伯爵有馬賴寧君
〔伯爵有馬賴寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=16
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017・有馬頼寧
○伯爵有馬賴寧君 只今金杉君ノ御質疑ノ
中ニ、自分ハ議員トシテ質疑ヲスルノデアッ
テ、醫師ノ代表ト云フヤウナ意味ハ毛頭ナ
イト云フコトヲ仰セラレマシタ、私ニ於キ
マシテモ同樣デアリマシテ、其ノ間ヲ混同
致シマスヤウナコトハ無論致サナイノデア
リマス、併シ金杉君ハ醫師ノ側ノ方デアリ、
私ハ產業組合ノ側ノ人間デアルト云フ此ノ
事實ヲ如何トモスルコトガ出來ナイノデア
リマス、併シ多數ノ同僚諸君ハ醫師側ノ方
デモナシ、又產業組合側ノ方デモナイノデ
アリマス、皆サンニ依ッテ極メテ公正ナル妥
當ナル審判ヲ本法案ニ對シテ與ヘラレマス
ルコトヲ念願モシ、亦同時ニ確信ヲシテ居
ル者デゴザイマス、私ハ本案ヲ推賞致シマ
スル三ツノ理由ヲ見ルノデアリマス、ッ
ハ現行保險組合ノ普及徹底ニ依リマシテ國
民ノ健康ガ保持サレ、疾病ガ絕滅サレルト
云フコトニナリマスレバ、國民ノ體位ガ向
上ヲ致スノデアリマスルカラ、其ノ意味カラ
考ヘマシテモ、本法案ガ通過致シマシテ、國
民健康保險ガ全國ニ設立サレルコトハ誠ニ
結構ナコトデアルト考ヘマス、其ノ意味ニ
於テ本法案ヲ推賞致シマス、第二ニ先程內
務大臣ノ御答辯ノ中ニモゴザイマシタヤウ
ニ、農村其ノ他ノ方面ニ於キマシテ、醫療
ノ爲ニ經濟的重壓ヲ蒙ッテ居リマスル人ガ
非常ニ多クアルノデアリマス、此ノ組合ガ
普及ヲ致シマスレバ、ソレ等ノ人達ガ經濟
的重壓カラ解放サレルト云フ點ニ於キマシ
テ、私ハ此ノ組合ノ設立サレマスコトヲ歡
ブ者デアリマス、第三ノ理由ハ此ノ健康保
險組合ガ我ガ國ノ美風デアル所ノ隣保相助
ノ精神ニ基キマシテ、第一條ニゴザイマス
ヤウニ相扶共濟ト云フ其ノ精神ヲ基調ニシ、
近代的ノ機構デアル所ノ組合主義ニ基カレ
タト云フ點ニ私ハ贊意ヲ表スル者デアリマ
ス、管々シイコトハ申上ゲマセヌガ、我ガ
國ノ死亡率ガ非常ニ高イコト、又壯丁ノ檢
査ニ於キマシテ、近頃ハ丙丁ノ體格ノ者ガ
非常ニ殖エテ參リマシタト云フコト、及ビ
農山漁村ノ健康デアルベキ人々ガ、非常ヒ
健康ガ惡イト云フヤウナコト、是ハ主トシ
テ工場ニ働キマス或ハ都會ニ出テ働イテ居
リマシタ者ガ病氣ニナルト、多ク農村ニ歸ッ
テ參リマス爲ニ、農村ニ非常ニ病人ガ多イ
ヤウニ見ラレルノデアリマスガ、ソレ等ノ
コトヲ考ヘ合ハシテ見マス時ニ、此ノ制度
ノ出來マスルコトハ誠ニ喜バシイト思フノ
デアリマス、又先程モ御話ノ中ニ出マシタ
ガ、農家一戶ノ一年ノ醫療費ガ二十五圓デ
アル、是ハ平均デアリマスカラ、病人ガア
リマシテモ、醫療ニ掛ラナイ家ガ相當アル
譯デアリマスルカラ、實際ニ醫者ニ掛リマ
シタ者ノ經濟的ノ負擔ト云フモノハ、此ノ
平均價額ヨリモ更ニ多額ナンデアリマシテ、
從ッテ其ノ經濟的重壓ト云フモノハ、相當重
イモノデアルト云フコトハ、之ヲ知ルコト
ガ出來ルノデアリマス、以上三點ノ推賞ス
ベキ特長ガアルノデアリマスガ、私ガ此ノ
法案ノ內容ヲ見マスルト、其ノ三ツノ優レ
タ點ガアルニ拘ラズ、此ノ內容ヲ以テシテ
ハ十分ニ其ノ目的ヲ達スルコトガ出來ナイ
ノデハナイカト云フ疑ヲ持ツノデアリマス、
其ノ私ノ疑點ニ對シマシテ、ソレニ關シマ
シテ二三ノ質問ヲ致シタイト思フノデアリ
マス、第一ニ御尋ネ致シタイコトハ、此ノ
國民健康保險組合ナルモノハ將來如何ナル
方法ニ依リ、如何ナル規模ニ依リ、何年後
ヲ期シタナラバ是ガ全國的ニ普及ヲ致シマ
シテ、眞ニ私共ガ健康ナル國民ヲ以テ我ガ
國ヲ充タシ得ルヤウナ喜ヲ持ツコトガ出來
ルカ、將來ニ對スル御計畫ナリ、其ノ手段
方法ナリト云フモノニ付テ御尋ヲシタイノ
デアリマス、昭和十二年度ニ之ニ關スル費
用ガ四十四萬圓デアルト云フコトデアリマ
ス、設立サレマスル組合ノ數ガ百二十、其
ノ對象トナル所ノ人々ノ數ガ五十萬人ト云
フコトデアリマス、是ハ最初ノ年度デアリ
マスカラ勿論準備時代デアルト見ルコトガ
出來ルノデアリマスガ、若シ斯クノ如キ小
サナ規模ニ於テ今後進メラレルトスルナ
ラバ、所謂百年河〓ヲ待ツニ等シキモノ
デアリマシテ、斯ウ云フコトデ、私
共ハ滿足スルコトガ出來ナイコトハ申ス迄
モナイノデアリマス、衆議院ニ於ケル當局
ノ御答辯ヲ伺ヒマシタ中ニ、今後ハ年々二
千五百位ノ組合ヲ設置スル見込デアルト云
フ御答デアリマシタ、サウシテ見レバ四年
デアリマスカ、五年デアリマスカ、經チマ
スレバ、日本ノ一萬二千ノ全町村ニ此ノ組
合ガ普及スルト云フコトモ考ヘラレルノデ
アリマスルガ、果シテモット早クデモ出來レ
バシタイト云フ御考ハナイノデアリマスカ、
將來ニ對スル御計畫ヲ今伺ッタ譯デアリマ
ス、御承知ノ如ク日本ニ醫師ノ居リマセヌ
町村ガ相當多數ゴザイマシテ、所謂無醫村
ト申シテ居リマスルモノガ三千四百餘リア
ルノデアリマス、產婆ノ居リマセヌ村ガ二
千數百アリマシテ、齒醫者ノ居リマセヌ村
ガ全國ニ七千以上アルノデアリマス、其ノ
人口ヲザット當ッテ見マシテモ、約八百萬人
アルノデアリマス、醫者ニ掛ラナイト云フ
ヨリモ、醫者ノ顏ヲ見タコトモナイト云フ
人ガ全國ニ八百萬人モアル、又醫者ガ居リ
マシテモ醫者ニ掛ラヌ人ハ相當アルノデア
リマスカラ、患者ノ數ハ少クモ病人ノ數ハ
モット非常ニ澤山アルト云フコトハ是ハ想像
出來ルコトデアリマス、此ノ無醫村ニ醫師
ヲ置イテ、組合ヲ作ッテ醫療ヲ受ケラレルヤ
ウニスルト云フコトダケデモ相當ノ數ガア
ルノデアリマスカラ、政府ガ此ノ目的ヲ達
シヨウトスルニハ相當早急ニ大規模ニナサ
ラナケレバナラナイト考ヘルノデアリマス、
或ハ保健省設置ト云フヤウナ意見モアルヤ
ウデアリマスシ、又我ガ國ガ明治維新以來
僅カニ七十年ノ間ニ此ノ世界デ一二ヲ爭フ
所ノ國ニナリ得タト云フコトハ色々原因モ
アラウト思ヒマスガ、〓育ノ普及徹底デアッ
タト云フコトハ考ヘラレルコトナノデアリ
マスガ、ソレニハ山間僻地到ル處ニ學校ガ
設ケラレ、師範學校ノ卒業生ハ義務的ニ其
處ニ居リマシテ、國民ノ〓育ニ從事シテ居
ルト云フ此ノ力ニ俟ツ所極メテ大デアルト
思フノデアリマス、從ッテ此ノ國民ノ健康ヲ
眞ニ保持シナケレバナラヌト云フ大目的ノ
爲ニハサウシタ〓育制度ノ例ニ做ヒマシテ、
如何ナル所ニモ醫療ノ設備ガアリ、如何ナル
山ノ奧ニモ醫師ガ居住スルト云フヤウナ風
ニマデ致サナケレバ、眞ニ此ノ目的ハ達セ
ラレナイノデハナイカト私ハ考ヘルノデア
リマス、最近ノ新聞紙ヲ通シテ見マスト、
政府ハ近キ將來ニ於テ、更ニ俸給生活者ノ
爲ニ健康保險組合ヲ設立スルト云フ考ヲ持ッ
テ居ラレテ、其ノ要項サヘモ發表サレテ居ル
ノデアリマス、サウ云フ風ニ現行ノ健康保
險組合アリ、又此ノ國民健康保險組合アリ、
更ニ將來俸給生活者ノ組合ト云フ風ニ、サ
ウ云フ風ニ多方面ニ亙ッテ一齊ニオヤリニ
ナルト云フコトハ誠ニ結構デハアリマスル
ガ、何レモソレヲ完成シヨウトスルナラバ、
ソコニ非常ナ財源モ要リマスシ、色々ナム
ヅカシイ問題ガ起ルト思フノデアリマスガ、
是等ヲ何レモ完全ニ遂行シヨウトスル御考
ニ對シテハ、ドウ云フ御計畫ガアルカト云フ
コトヲ先ヅ承リタイノデアリマス、第二ニ
御尋ヲ致シタイノハ、當局トシテハ只今私
ガ申上ゲマシタヤウニ、出來ルナラバ短イ
期間ニソレヲ完成シタイト云フ御考ハ無論
持ッテオイデニナルト思フノデアリマス、ソレ
ガ爲シ得ナイト云フコトノ原因ハ他ニ多少
アルト致シマシテモ、其ノ主タル原因ハ矢張
リ財源ノ問題ダト思フノデアリマス、今囘
ノ來年度ニ於ケル所ノ四十四萬圓ト云フノ
ハ、是ハ郵便預金ノ利下ヲ行ヒマシテ、サウ
シテ一方ハ預金部ガ貸出シマス所ノ利子ヲ
引下ゲナイト云フコトニ依ッテ生ズル其
ノ金ガ、之ニ廻サレルノダト云フ風ニ私ハ
承知致シテ居ルノデアリマス、將來別ニ郵
便預金カラ生ズル收入ト云フヤウナモノ
ヲ之ニ振當テラレルト云フコトハ無論ナイ
ト思フノデアリマスガ、此ノ郵便貯金ト云
フモノハ、御承知ノヤウニ所謂零細ナ貯金
デアリマシテ、低イ階級ノ方々ガ貯金サレ
ク金ガ集ッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ金
ヲ此ノ會社政策トシテ實行サレル保險組合
ノ費用ニ充當サレルト云フコトデハ、般
庶民階級ガ受ケル利益ガ非常ニ減殺サレル
コトニナルト私ハ思フノデアリマス、平タク
言ヘバ右ニ奪ハレテ左ニ與ヘラレルト云フ
結果ニナルノデアリマシテ、サウ云フ財源
ノ取リ方ハ、私ハ此ノ目的ニ副ハナイノヂヤ
ナイカ知ラヌト云フ風ニ考ヘルノデアリマ
ス、是ハ先般稅租ノ委員會デ大藏當局ニ私
ガ伺ッタコトガアルノデアリマスガ、私ハ
斯ウ云フ社會政策的ナ事業ヲ政府ガヤル爲
ノ其ノ財源、其ノ金ト云フモノハ、ソレト
稍〓性質ヲ同ジクスル、又目的ヲ同ジクス
ル所ノ財源ヲ振向ケルト云フコトガ最モ妥
當デハナイカト私ハ思フノデアリマス、サ
ウ云フ意味カラ私ハ相續稅ト云フモノノ一
部ヲ割イテ、斯クノ如キモノノ費用ニ向ケ
ルト云フコトガ最モ適當ダト思フノデアリ
マス、私ハサウ云フ稅ノ收入ヲ或特殊ノ目
的ニ使フト云フコトガ妥當デナイ、サウ云
フヤリ方ハ財政當局トシテハ出來ナイト云
フコトハ承知致シテ居リマスガ、稀ニハサ
ウ云フ例モアルト云フコトヲ伺ッテ居ルノ
デアリマスガ、若シ出來ルト致シマスナラ
バ、相續稅ト云フモノハ勿論收入ヲ目的ト
シテ課稅セラレルモノデアリマスルガ、
面ニ於テハ社會政策的ナ目的ヲ持ッテ居ル
モノダト思ヒマス、卽チ高イ所ノ土ヲ削ッテ
低イ所ヲ埋メルト云フ意味ニ於テ相續稅ト
云フモノハ課セラレルノダト思フノデアリ
ママ、從ッテ相續稅ノヤウナ性質ヲ持ッタモ
ノヲ、此ノ庶民階級ノ幸福ノ爲ニ振向ケル
ト云フコトハ、私ハドチラカラ見テモ意義
ガ有ルト云フ風ニ私ハ考ヘルノデアリマ
ス、モウ一ツ政府ノ收入ノ中ニ馬劵カラ來
ル收入ガアリマス、此ノ馬劵ノ賣上ニ關シ
テ入ッテ參リマスル收入ノ大部分ハ馬匹ノ改
良ニ使ハレルト云フコトハ勿論當然デアリ
マスガ、其ノ中ノ一部ヲ割イテ、內務省ガ
社會事業ニ每年其ノ中カラ使ッテ居ルノデ
アリマス、斯ウ云フ種類ノモノガアリ、サウ
云フコトガ出來ルノデアルト致シマスルナ
ラバ、矢張ノ國民健康保險組合ノ財源トシ
テハ、サウシタ種類ノモノヲ考ヘルコトガ最
モ妥當デアルト思フノデアリマス、從來ノ
此ノ組合ノ財源ニ對シテドウ云フ御考ヲ
持ッテオイデニナルカト云フコトヲ承リタ
イノデアリマス、第三ニ承リタイト思ヒマ
スノハ、第九條ノ營利ヲ目的トセザル、公
益法人ノ代行ニ關スル政府ノ御考ヲ承リタ
イノデアリマス、政府ノ提出サレマシタ原
案ニ於ケル、第九條ノ營利ヲ目的トセザル
社團法人トアリマシタノハ、アレハ何ヲ指
シテ居ラレタノデアリマスカ、單ニ產業組
合ニ依ル所ノ、產業組合法ニ依ル所ノ醫療
組合ノミヲ指シテ居ラレタノデアリマスルカ、
或ハ產業組合全般及商業組合、工業組合ト
云フヤウナモノ迄モ考慮ニ入レテ、サウシ
テ營利ヲ目的トセザル社團法人ト云フ字ヲ
使ハレタノデアリマスルカ、其ノ點ヲ伺ヒ
タイノデアリマス、其ノ點ニ關シテ私ノ考
ヘテ居ル所ヲ一應申上ゲマス、衆議院ノ修
正ノ結果ニ依リマスト、所謂醫療組合ト云
フコトニ限定サレルコトニナリマシタ、併シ
產業組合側ト致シマシテハ斯ウ云フ說ガア
リマス、必ズシモ醫療組合ト云フコトニ限
ラナクッテ、所謂產業組合ニ之ヲ代行セシム
ルコトニシタイ、其ノ意味ハ產業組合ヲシ
テ代行サセマスノハ、此ノ健康保險組合ノ
事務ニ關スルコトダケヲ代行致シマシテ、
醫療其ノ他ノコトハ產業組合自體デハヤラ
ナイ、ソレ等ハ此ノ健康保險組合ニ於ケル
場合ト同ジヤウニ謂ハユル營業トシテヤッテ
居ル所ノ開業醫ノ方ト契約ヲ致シマシテ、
醫療其ノ他ノコトハ全部其ノ專門家ニ委ネ
テ、產業組合ハ唯此ノ保險組合ノ事務的方
面ダケヲ代行シタイ、斯ウ云フ意見ヲ持ッテ
居ルノデアリマス、此ノコトハ醫師ノ方ノ
側ニ於キマシテモ必ズシモ不贊成ナ方バカ
リデハナイノデ、之ニ對シテハ贊成ノ意見
ヲ持ッテオイデニナル方モアルヤニ聞キ及
ンデ居ルノデアリマス、假ニサウ云フコト
ガ出來ルト致シマシタ場合ニ、ドウ云フ利
益ガアルカト申シマスルト、諄々シクハ申
上ゲマセヌガ、經濟的ナ重壓カラ農村ノ
人々ガ救ハレル爲ニハ、產業組合ニ代行サ
セルト云フコトガ最モ宜イト私ハ考ヘルノ
デアリマス、若シ產業組合ノ存在致シマス
ル所ニ更ニ保險組合ガ出來ルト云フコトニ
ナリマスレバ、今日農村ニ於キマシテハ色々
ナ團體ガ澤山ニゴザイマシテ、其ノ爲ニ負
擔モ重クナリ、事務モ煩雜ニナリ、色々ナ
意味ニ於テ、農村ガ困ッテ居リマスルコトハ皆
樣ノ御承知ノ通リデアリマス、從ッテ成ルベ
ク組合ノ團體ノ數ヲ減ラシマスルト云フ意
味カラ考ヘマシテモ、旣存ノ產業組合ヲシ
テ代行セシメルト云フコトノ方ガ現在ノ農
村ノ實際上カラ言ッテモ宜シイノダト考ヘ
ルノデアリマス、假ニ現在ノ產業組合ガ代
行ガ出來ナイト云フ場合ヲ考ヘテ見ル、サ
ウ云プ規定ニナッタト致シマシテ、現在ノ
產業組合ト云フモノガ、其ノ同ジ組合員
ヲ以テ健康保險組合ヲ設立セムト致シマ
シタ場合ニ、之ヲ許サレルト云フノデア
ルナラバ、最初カラ代行サセタ方ガ宜イノ
デアリマシテ、之ヲ許サナイト云フコト
ニナリマスルト云フト、其處ニ二ツノ重
ナック同ジヤウナ内容ヲ持ッタ組合ガ存立
スルト云フコトニナルノデアリマス、
團體ノ數ヲ殖スコトガ惡イト假ニ致シマス
ルナラバ、寧ロ之ヲ代行サシテ二ツノモノ
ヲ作ルヨリハ、一ツノモノデ濟マシタ方ガ
農村ノ爲ニ宜イト私ハ考ヘルノデアリマス、
第二ハ健康保險組合ト云フモノガ產業組合
ニ代行ヲサセナイデ、別個ニ村ニ立テラレ
ルト致シマスルト、其ノ健康保險組合ノ色
色ナ事務費デアルトカ、人件費デアルトカ、
色々ナコトニ相當ナ費用ガ掛リマシテ、其
ノ集リマシタ所ノ金ト云フモノノ相當ノ部
分ガ此ノ事務的方面ニ食ハレテシマッテ、
實際ノ醫療ノ方面ノ費用ニ使ハレルモノガ
非常ニ少クナルト云フ結果ガ來ルト思フノ
デアリマス、若シ之ヲ產業組合ニ代行セシ
メルト云フコトニナリマスレバ、現在產業
組合ガヤッテ居リマスル仕事ト餘リ大差ガ
ナイノデアリマスルカラ、ソレガ爲ニ無駄
ナ費用ガ要ッタリ、無駄ナ手數ガ掛ッタリス
ルコトヲ省キマスカラ、從ッテ健康保險組合
ノ醫療的方面ニ使ハレマス費用ガ十分ニナ
ルノデハナイカト思フノデアリマス、又產
產業組合ガ代行致シマスルト云フト、農家
ガ現金支出ヲ免レル非常ニ便宜ガアルト思
フノデアリマス、農村ノ色々ナ苦痛ノ中デ
農家ガ僅カナ收入ノ中カラ現金ヲ支出致シ
マスト云フコトハ最モ大キナ苦痛ナノデア
リマス、產業組合デ之ヲ代行致シテ居リマ
スレバ、米ナリ、麥ナリ、或ハ繩ナリ、其
ノ他サウシタ品物ヲ持ッテ參リマシテ、之
ヲ產業組合ニ於テ金ニ換ヘテ貰ヒ、或ハ金
ヲ貸シテ貰フト云フ便宜ガアリマスカラ、
無理ニ他デ以テ現金ヲ作ラナケレバナラヌ
ト云フヤウナコトガナクテ濟ムト思フノデ
アリマス、又保險組合ニ於キマシテハ掛金
ノ拂戾ト云フヤウナコトモアルノデアリマ
ス、サウ云フヤウナ保險金ノ拂込デアルト
カ、或ハ拂戾デアルトカ云フヤウナコトニ
關シマシテ、之ヲ取扱ヒマスコトハ隨分煩
瑣ナ仕事デアルト思フ、ソレヲ產業組合デ
アリマスレバ、信用事業トシテヤッテ居リ
マスル仕事ト大體ニ於テ同ジナンデアリマ
スルカラ、之ヲ致シマスルコトガ大シテ煩
雜デナイト考ヘルノデアリマス、之ヲ醫師
ノ側カラ見マシタ場合ニ、產業組合ニ代行
サセルト云フコトガ醫師ノ側カラ見テモ決
シテ惡イコトハナイト思フノデアリマス、
ソレハ產業組合側ニ於キマシテハ、何モ强
ヒテ現在ノ醫療組合ノヤウナモノヲ無理ヤ
リニ數ヲ殖シ之ヲ擴メナケレバナラヌト云
フコトヲ考ヘテ居ッタノデハアリマセヌ、ソ
レハ御承知ノヤウニ現在ノ醫療制度デハ、農
村ノサウシタ低イ階級ノ人達ガ、醫療ニ惠
マレナイノヲ救ハナケレバナラナイト云フ
結果ガ、卽チ醫療組合ト云フモノガ發達シ
テ來タノデアリマス、若シ此ノ健康保險組
合ナルモノガ今カラ五年ナリ十年ナリ前ニ
出來テ居ッタナラバ、恐ラクハ醫療組合ト云
フモノハ生レテ來ナカッタンデハナイカト
思フノデアリマス、デ產業組合ニ事務的方
面ヲ代行サセテ、サウシテ產業組合自身ガ
醫療組合ヲヤルト云フコトヲ防グコトガ出
來タナラバ、是ハ所謂醫師側ガ希望シテ居
ラレル一番大キナ目的ガ達セラレルノデハ
ナイカト思フノデアリマス、其ノ他醫師ノ
收入ガ確實ニナルト云フヤウナ色々ナ問題
ガアリマスガ、ソレ等ヲ綜合シテ考ヘテ見
マシテモ、私ハ產業組合ニ代行サセルコト
ハ何レノ方面カラ見テモ決シテ惡イコトデ
ハナイト思フノデアリマス、殊ニ行用ト云
フコトハ成ルベク相類似シタルモノニ代行
セシメルト云フノガ筋ガ通ッテ居ルノデアリ
マシテ、違ッテ居ルモノニ行用サセルト云フ
コトハ、私ハ筋ガ通ラナイト思フノデアリ
マス、今囘ノ改正ニ依リマスルト、醫療組
合ニハ代行サセルガ、產業組合ニハ代行サ
セナイト斯ウ云フコトニナリマスト、私カ
ラ見マスルト、產業組合ニ事務的ナ代行ヲ
サセルコトノ方ガ寧ロ近イ、卽チ健康保險
組合ニ於キマシテハ、所謂事務的方面ヲヤッ
テ居テ、一切ハ開業醫ニ之ヲ任セルト云フ
建前デアリマス、只今私ガ申上ゲマシタヤ
ウニ產業組合ガ事務的方面ノミヲ代行シテ、
醫療ノ方面ハ開業醫ニ之ヲ任セルト云フナ
ラバ、ソレハ一般健康保險組合ト同ジ形デ
アルト思フノデアリマス、其ノ同ジ形デア
ル方ノ產業組合一般ニ對スル代行ヲサセナ
イデ、醫療組合ト云フ自ラ醫療ヲ行フ所ノ
醫療組合ニ限ッテ代行サセルト云フコトハ、
寧ロ健康保險組合トハ可ナリ性質ガ違フト
思フノデアリマス、卽チ健康保險組合ハ、ソ
レ自體醫療ヲヤラナイノデアリマスルカラ、
ソレ自體醫療ヲヤラナイ開業醫本位デアル
所ノ健康保險組合ノ代行ヲ、自分自身デ醫療
ヲヤル所ノ醫療組合ニ委ネルト云フコトハ、寧
ロ代行カラ云ッテ逆ヂヤナイカ知ラト私ハ思
フノデアリマス、サウ云フ意味カラ私ハ第
九條ノ公益法人ノ代行ト云フコトハ、產業
組合、工業組合、商業組合ト云フヤウナモノ
ニ廣ク事務的方面ヲ代行セシメルト云フ御
考デ初メ立案サレタンデハナイカト想像ス
ルノデアリマスノデ、其ノ點ヲ御尋ネ致シ
タイノデアリマス、第四番目ニ御尋ヲ致シ
タイノハ、第九條ノ削除ト其ノ附則ニ付テ
デアリマス、政府ハ衆議院ノ修正ニ同意ヲ
サレマシタ、若シ營利ヲ目的トセザル公益
法人ト云フコトヲ削除シテ、單ニ醫療組合
ニ代行セシムルト云フ風ニナッタ此ノ修正
案ニ御同意ニナルト云フノデアルナラバ、
政府モ最初ヨリ所謂醫療組合ニ限ルト、代
行ト云フコトハ卽チ醫療組合ニ代行セシム
ルノダト云フ風ニ初メカラ御考ニナッテ居
ラッシタモノノ如ク想像ガサレルノデアリ
やっ、內務大臣ノ先程ノ御答辯及衆議院ニ
於ケル御答辯ヲ拜聽致シマツテモ、稍〓サ
ウ云フ風ニ受取レルノデアリマスガ、ソレ
ナラバ何故ニ最初ニ、營利ヲ目的トセザル
公益法人ナント云フ、社團法人ナント云フ
ヤウナ言葉ヲ御使ヒニナラナイデ、初メカ
ラ所謂醫療組合ニ代行セシムルト云フ風ナ
文字ヲ御使ヒニナラナカッタノデアリマス
カ、其ノ點私ハ了解シ難イノデアリマス、又
健康保險組合ノ中ニハ普通ノト特別ノトア
リマス、特別ト云フノハ主トシテ都會ノ商
工業者ト云フ方面ニ於テ組織サレルモノデ
アル、先程內務大臣ノ御答辯ノ中ニモ、中
小ノ商工業業ト云フヤウナ御言葉ガアリマ
シタ、從ッテ是ハ農村ノミノモノデハナイ
ト思フノデアリマス、都市ノ商工業者ノ間
ニ此ノ健康保險組合ヲ普及サセヨウトスル
ナラバ、現在發達ノ途上ニアリマス所ノ工
業組合竝ニ商業組合ト云フヤウナモノニ、
其ノ事務的方面ヲ代行セシムルコトハ極メ
テ妥當デナケレバナラナイト私ハ思フノデ
アリマス、更ニ東京アタリノ細民窟、所謂
貧民窟ト稱セラレル所ニ居リマスル人々
ガ、只今ドノ位アルカ分リマセヌガ、大體
ニ於テ貧民ノ數ト云フモノハ其ノ都市ノ人
口ノ約一割ト言ハレテ居リマス、從ッテ東京
ノ貧民窟ニ居リマスル人ハ、三四十萬人ノ
人ガ居ルデアラウト思フノデアリマス、是
等ニ對シマシテ健康保險組合ト云フモノヲ
ドウ云フ風ニ當嵌メテ行カレルノデアリマ
スカ、サウ云フ人達ハ問題ニシナイト云フ
御考ナンデアリマスカ、其ノ點モ之ニ關係
シテ御伺シタイノデアリマス、モウ一ツ
ハ、衆議院ノ附則ニ三月三十一日迄ノ、所
謂醫療組合ニ限ッテ代行セシメルト云フコ
トニナリマシテ、是モ政府ガ御同意ニナッタ
ンデアリマス、三月三十一日ト云フ日ハ何
處カラ出テ來タノデアリマスカ、政府ニ御
伺スルコトハ甚ダ變ノヤウデハアリマスケ
レドモ、政府ガ御同意ニナッタ所ヲ見レバ、
衆議院ガ何ガ故ニ此ノ三月三十一日ト云フ
日ヲ押ヘタカト云フコトハ、無論御聽キニ
ナッテ御同意ニナッタモノダト思フノデス、
從來ノ例カラ申シマスルト云フト、例へ
バ、本法施行ノ日迄トカ、何カソコニ法律
ト關係ノアル特別ノ期日ガアル筈デス、ド
ウモ是ガ會計年度ト關係ノアルモノトハ私
ハ考ヘナイノデアリマシテ、三月三十一日
ト云フ日ハ何處ニ原因シテ斯ウ云フ日ガ出
テ來タノデアリマスカ、其ノ點私甚ダ疑念
ナキヲ得ナイノデアリマス、又ドンナニ良
イ醫療組合デアッテモ、今迄ノモノハ許スケ
レドモ將來ノモノハ許サナイ、斯ウ云フ風
ニ附則ニ依ッテ定メラレルノデアリマスガ、
代行ト云フコトハ、後ニ申シマスルヤウ
ニ、内務大臣ニ對シマシテ衆議院ノ特別委
員長カラ色々念ヲ押サレマシタ、其ノ中ニ、
斯ウ〓〓云フ條件ヲ持ッテ居ルモノデナケ
レバイカヌト云フ條件ヲ四ツバカリ出シテ
居ラレマス、其ノ條件モ內務大臣ハ之ヲ承
認シテ居ラレルノデアリマス、其ノ條件ハ、
全町民ヲ組合ニ入レテ居ナケレバナラヌト
カ、或ハ設備ガ完全シテ居ナケレバナラヌ
トカ、今迄ノ成績ガ良クナケレバナラヌト
カ、色々ナ條件ガ其處ニアルノデアリマス
ガ、サウ云フ條件ガアルト云フコトハ、卽
チ其ノ條件ヲ具備シテ居ルモノナラバ、代
行サセテ良イト云フコトダト思フノデアリ
マス、然ルニサウ云フ條件ヲ假令備ヘテ居
ルモノデアッテモ、是カラ出來ルモノハイケ
ナイト云フコトヲ言ハレルノハ甚ダ筋ガ通
ラナイト私ハ思フノデアリマス、過去ノモ
ノデアラウト、又將來ノモノデアラウト、
ソレ等ノ條件ヲ假ニ良イト致シマスナラ
バ、其ノ條件ヲ具備シテ居ルモノデアルナ
ラバ、將來ノモノモ亦之ヲ代行セシメルト
云フノデナケレバ筋ガ一貫シナイト思ヒマ
ス、然ルニ三月三十一日ト云フ特別ニ期限
ヲ限ルト云フコトハ、私甚ダ當ヲ得ナイト
思フノデアリマス、ソコデ是ハ推測デハア
リマスガ、サウ云フ條件ヲ一方ニ附ケテ
置イテ、更ニ三月三十一日ト云フ期限ヲ
切ッタト云フコトカラ推測致シマスルト
云フト、此ノ修正ハ、或ハ又此ノ修正ヲナ
スベク働イタカト云フモノハ、此ノ醫療
組合ト云フモノニ代行セシメルト云フコ
トガ問題ナノデハナクテ、將來醫療組合
ト云フモノガ增加シナイト云フコトヲ目標
ニシテ居ルモノダト私ハ思フノデアリマ
ス、惡イモノデナケレバ宜イト云フナラバ
將來デモ宜イ筈ナンデス、過去ノモノモ良
イモノナラバ過去ノモノダケハ許ス、將來
出來ルモノハ良イモノデモ惡イモノデモ之
ヲ許サナイ、代行サセナイノダト云フ、斯
ウ云フコトニナリマスルト、ソレハ代行問
題デハナクテ、醫療組合ノ設立ヲ阻止シヨ
ウトスル所ノ趣意ニアルト私ハ考ヘルノデ
アリマス、ソコデ伺ヒタイノハ此ノ健康保
險組合ノ代行ト云フモノヲ產業組合ガ出來
ナイ、今後出來ナイト云フコトニ此ノ法律
ニ依ッテ定メラレタ曉ニ於テ、農村ノ產業組
業ガ將來醫療組合ヲヤルカヤラナイカト言
ヒマスルト、是ハ產業組合全體ノ一致シタ
方針デハアリマセヌケレドモ、一部ノ方面
ニ於テハ、今後益〓、農村ニ於テ產業組合ハ醫
療組合ヲヤラナケレバナラヌト云フ强イ主
張ヲ持ッテ居ル地方ガ相當多クアルノデア
リマス、ソレハ產業組合ノ方面ニ於テ醫療
組合ヲ營ムコトガ禁止サレテナイ限リ、產
業組合トシテ醫療組合ヲ經營スルコトハ
將來ニ於テモ考ヘラレル事柄ナンデアリマ
ス、若シサウ云フコトニナッタト致シマス
ルナラバ、此ノ醫療組合ガ將來出來ルコト
ヲ阻止シタイ爲ニナサレタ此ノ法律ノ改正
ト云フモノハ、恐ラク目的ヲ達シナイコト
ニナルノデハナイカ、若シ其ノ醫療組合ノ
設立ヲ將來ニ向ッテ阻止シヨウト云フ其ノ
意圖ニ對シテ、政府ガ同ジヤウナ御考ヲ
持ッテ居ラッシヤルトスルナラバ、ソレハ恐
ラク地方長官ニ於テ新シイ醫療組合ノ設立
ニ對シテ認可ヲ與ヘナイト云フ方針ヲ執ラ
レルヨリ外ニ方法ハナイト思ヒマス、ソコ
デ私ハ伺ヒタイノハ、內務省ハ將來地方長官
ヲシテ新ラシイ醫療組合ハ認可ヲシナイ方
針ヲ執ルト云フヤウナ御考ヲ持ッテ御イデ
ニナルノカドウカ、其ノ點ヲ私ハ承リタイ
ノデアリマス、先程チヨット申上ゲマシタ
ガ、代行ヲ許スト云フコトニ付テ、特別委
員長ト內務大臣ノ間ニ交サレタ應答ノ中
ニ、全町村民ノ加入シテ居ルモノ、詰リ醫
療組合トシテ代行ヲ許ス所ノモノハ、全町
村民ヲ加入セシメテ居ルモノ、又醫療設備
ノ完全ナモノ、第三ニ創立以來、醫療成績
ノ良好ナルモノ、第四ニ過去ノ成績ニ徵
シ、收支相償ヒ、財政ノ基礎鞏固ナルモ
ノ、斯ウ云フ非常ニムヅカシイ條件ガ四ツ
揭ゲテアルノデアリマス、之ニ對シテ內務
大臣ハ、第一ノモノニ付テハ、チヨット御
答デハ例外ヲ置カレタヤウデアリマスガ、
後ノ三ツニ付テハ御同意ニナッテ居ルノデ
アリマス、此處デ私ノ伺ヒタイノハ、醫療
組合ニ對シテハ斯クノ如キ非常ニ嚴重ナ條
件ガ附ケラレテ居ルト致シマスナラバ、將
來健康保險組合ガ開業醫ト契約ヲサレ、開
業醫ニ醫療事業ヲ委ネラレマス場合ニモ、
大體ニ於テ此ノ條件ニ適スルヤウナ者ニ御
依賴ニナルノデアリマスカ、開業醫デアル
ナラバ、設備ハ不完全デアラウト、其ノ成
績ハ如何ニ惡カラウト、サウ云フコトハ一
切問題ニハナラヌ、醫療組合ノ場合ダケ
ガ、斯ウ云フ條件ヲ持ッテ居ナケレバナラ
ヌト、斯ウ云フ風ニ言ハレルノハ甚ダヲカ
シイト思フノデアリマス、殊ニ第一ノ全町
村民ガ加入シテ居ナケレバナラヌト云フコ
トヲ條件ニ加ヘラレテ居リマスガ、私ノ承
知シテ居ル所デハ、健康保險組合ハ强制
加入ノ點モゴザイマスケレドモ、大體
ハ加入自由主義ヲ執ッテ居ラルヽヤウデ
アリマス、然ルニモ拘ラズ此ノ醫療組
合ダケハ全町村民ガ加入シテ居ルト云フ
コトヲ條件ニシテ居ラッシヤルコトハ、甚
ダ無理ガアルト思フノデアリマス、卽チ
醫療組合ニ對シテハ可ナリ出來ナイ相談ヲ
持チ掛ケラレ、資格ノ合格シナイ者ヲ故ラ
ニ作ッテ居ラルヽヤウナ感ジガ私ニハスル
ノデアリマス、サウ云フムヅカシイ代行條
件ヲ附ケ、更ニ期限ヲ限ラレタト云フコト
ハ、私ハ甚ダ遺憾ニ思フノデアリマス、團
體契約ノ問題ハ、先程內務大臣ノ御答ニ
依ッテ承知ヲ致シマシタ、併シ團體契約ト云
フコトガ、此ノ健康保險組合ニ取ッテドウ云
フ關係ニ在ルカト云フコトハ、過去ニ於ケ
ル所ノ健康保險組合ニ於ケル團體契約ノ實
情ニ照シテ見テ、最早茲ニ考慮ヲサレル餘
地ハナイモノト私ハ考ヘルノデアリマス、
最後ニ、是ハ委員會デ御尋スベキコトデ、
此處デ申上ゲルコトデハナイカモ知レマセ
ヌケレドモ、健康保險組合ガ出來マシテ、サ
ウシテ醫師ト醫療ノ點ニ於テ契約ヲサレマ
シタ場合ニ、若シ斯ウ云フヤウナ場合ガアッ
タラバ、ドウ云フ風ニ御取扱ニナルンデス
カ、ソレヲ伺ヒタイノデスガ、醫師ガ何等
特別ノ理由ナクシテ、正當ナル所ノ理由ナ
クシテ、患者ノ請求ニ應ジナカッタ場合、
往診ヲ拒絕スルト云フヤウナ場合ガアリマ
シタ時ニハ、是ハドウ云フ風ニ御取扱ニナ
ルノデアリマスカ、一方ニ於テ健康保險組
合ヲ奬勵シテ、之ニ强制加入ヲサセテ置イ
テ、サウシテ醫者ハ賴ンデモ來テ吳レナイ
ト云フヤウナ場合ガ若シアッタト致シマシ
タナラバ、ソレハ醫師ニ對シテ或制裁ナリ、
何等カノ方法ガ考ヘラレルノデアリマセウ
カ、其ノ點ヲ伺ヒタイノデアリマス、ナゼ
私ガサウ云フコトヲ御尋スルカ、外デハア
リマセヌガ、御承知ノ如ク、今日モ尙差別
待遇ノナクナラナイ部落ガ全國ニ澤山ゴザ
イマス、其ノ人口約八十萬人ト言ハレテ居
リマスガ、是等ノ人達ガ經濟上、社會上、
有ラユル場合ニ於キマシテ差別待遇ヲ受ケ
テ非常ニ惱ミ苦ンデ居ルト云フ事實ハ恐ラ
ク皆サンノ御承知ノコトデアルト思フノデ
アリマス、私ノ聞及ビマシタ所ヲ申上ゲマ
スレバ、部落デハ病氣ニナリマシタ時ニ、
醫者ノ往診ヲ依賴致シマシテモ、部落ニ往
診ヲシテ吳レル人ハ極メテ稀デアリマス、
勿論來テ下サル方モアリマスガ、部落ヘハ
來テ下サラナイ御醫者サンガ隨分多イノデ
アリマス、私自身ノコトヲ申上ゲテ甚ダ恐
縮デアリマスガ、先年私ハ〓里へ歸リマシ
テ、〓里ノ直グ傍ニ部落ガアリマス、其處
へ講演ガゴザイマシテ、講演ニ參リマシタ
節ニ、私ハ腦貧血ヲ起シテ倒レタノデアリ
マス、早速附近ノ醫師ノ所ニ驅付ケマシテ
往診ヲ依賴致シマシタ所ガ、三人トモ醫師
ガ來テ吳レナイノデアリマス、巳ムヲ得ズ
私ノ姓名ヲ申シマシテ、サウシテ是レ〓〓
デ倒レタカラ來テ欲シイト申シマシタラ
バ、初メテ一人ノ醫師ガ來テ吳レタヤウナ
ノデアリマシテ、其ノ部落ノ人ノ話ヲ聽キマ
スト、何時デモサウデアル、決シテ部落カ
ラ迎ヘニ行ッタノデハ醫師ハ來テ吳レナイ
ノダト云フコトヲ申シテ居ッタノデアリマ
ス、健康保險組合ガ出來テ、總テノ人ガ醫
療ニ惠マレルト云フコトハ、組織ノ上カラ
言ヘバ、制度ノ上カラ言ヘバ出來ルコトデ
アリマセウケレドモ、實際問題ハサウ簡單
ニハ行カナイノデアリマシテ、ソコニ色々
ナ支障ト云フモノガアルト云フコトヲ社會
局ニ於テハ勿論御承知デアラウト思フノデ
スガ、サウ云フヤウナ事柄ニ對シテハ如何
ニ御處置ニナリ、御考ニナッテ居ラッシヤル
カト云フコトヲ承リタイノデアリマス、是
ハ質問デハゴザイマセヌガ、先程金杉サン
ノ御質疑ノ中ニ、私ハ金杉サンノ御質疑ニ
對シテ兎ヤ角申上ゲルノデハアリマセヌガ、
私ノ立場トシテドウシテモ申上ゲテ置カナ
ケレバナラナイコトガ一ツアルノデアリマ
ス、ソレハ產業組合ガ醫療組合ヲ拵ヘテ、
醫療ノ事業ニ從フト云フコトハ脫線ダ、間
違ッテ居ルノダ、米ヤ麥ヤ牛ヲ飼ッタリ、サ
ウ云フコトヲスルモノガ產業組合ヲ作ルノ
ハ宜イガ、醫療事業ヲヤッテ組合ヲ作ル
ト云フコトハ怪シカラヌト云ッタ風ナ御
話ガゴザイマシタガ、是ハ申上ゲル迄モ
ナク、決シテ組合ノ幹部トカ何トカ云フ
ヤウナ、醫師デモ何デモナイ者ガ醫療事
業ヲヤッテ居ルノデハ勿論ナイノデアリ
マシテ、其處ニ立派ナ博士ナリ、學士ナ
リ、其ノ他ノ醫師ヲ高給ヲ拂ッテ雇ッテ居リ
マスルシ、設備其ノ他ニ於キマシテモ相當
完全ナ設備ヲシテヤッテ居ルノデアリマシ
テ、ソンナ素人ノ、素人療治ノヤウナコト
ヲ決シ致シテ居ル譯デハナイノデアリマス、
金杉君ハ組合病院ヲ御覽ニナッタコトハ御
アリニナラヌダラウト私ハ思フノデアリマ
スガ、若シ御暇ガアリマシタラバ、東京ノ
中野ノ驛ノ直グ傍ニ組合病院ガゴザイマス、
此ノ組合病院ノ設備等ハ、恐ラクハ私立病
院ノ惡イノニ比ベレバ遙カニ優レタ設備ヲ
持チ、立派ナ醫師ヲ持ッテ居ルト思フノデア
リマス、又醫師ノ側ノ方ガ產業組合ノ醫療
或ハ今回ノ代行ト云フヤウナコトニ付テ必
ズシモ反對ヲシテ居ラレナイ、現ニ衆議院
ノ社會大衆黨ノ三宅正一君ガヤッチ居リマ
スル新潟縣ノ中越醫療組合病院ノ設立ノ時
三·H、其ノ地方ノ醫師ノ方々ガ非常ニ反對
ヲサレマシテ、東京帝國大學ノ醫學部ニ對
シテ醫師ヲ派遣シナイ、要求ガアッテモ醫師
ヲ送ラナイヤウニト云フコトヲ運動サレマ
シタトキニ、東京帝國大學ノ醫學部ニ於テ
ハ其ノ要求ヲ排除サレテ、進ンデ組合病院
ヲ援助サレタト云フ事實ガアルノデアリマ
ス、其ノ他各地ニアリマスル組合病院ニハ
全國ノ各醫科大學ガ進ンデ之ヲ援助サレテ
居ルト云フ事實ガアルノデアリマシテ、決
シテ私共ハ產業組合ノ醫療事業經營ト云フ
コトガ、必ズシモ醫師ノ方々カラ反對ヲサ
レテバカリ居ルモノデナイト云フ風ニ私ハ
承知致シテ居ルノデアリマス、私ノ申シタ
コトガ非常ニ順序ガ混同シタリ何カ致シマ
シテ、御聽取リニクカッタ點ガアッタカト
思フノデアリマスガ、內務大臣ノ御答辯
ヲ戴キマスレバ、非常ニ仕合セデゴザイ
マス
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=17
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018・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今有馬伯爵
カラ本法案ニ付キマシテ御同情アル段々ノ
御言葉ヲ戴キマシテ、誠ニ感佩ニ堪ヘマセヌ、
御尋ノ次第ヲ逐次私ノ解釋ニ基キマシテ御
答ヲ申上ゲタイト思ヒマス、第一ハ將來如
何ナル方法ニ依ッテ此ノ健康保險組合ト云フ
モノヲ普及セシムルカ、斯ウ云フ御尋ノヤウ
ニ諒承ヲ致シマシク、只今仰セニナリマシタ
ヤウニ、今年度ノ計畫ト致シマシテハ、マ
ダ甚ダ少イノデアリマス、豫算ニ現レマシ
タヤウニ、初メノ年度ニ於キマシテ一人當
リ年一圓、三年以後ハ七十錢、五年以後ハ
五十錢ノ國カラ補助ヲスルト云フ計畫デア
リマス、デ將來財源ノ餘裕ノ付キマス限リ
ハ、出來ルダケ速カニ、且出來ルダケ廣範
圍ニ此ノ制度ヲ普及致シタイト思フノデア
リマス、デ固ヨリ地方ニ於ケル醫療ノ惠澤
ヲ廣カラシメテ、一方ニ於キマシテ國民生
活ノ安定ノ一助ヲ爲サシムルト共ニ、叉
面ニ於キマシテ國民體位ノ向上ヲ圖ルト云
フ趣旨カラ、此ノ組合普及ノ外ニ、尙豫算
面ニ現レテ居リマスヤウナ、無醫村ニ對シ
テ段々ニ醫者ヲ普及セシメテ行キタイ、斯
ウ云フ計畫ガアルノデアリマス、ソレカラ
尙別個ノ法案トシテ提出ヲ致シテ居リマス
ル保健所法案ニ依リマシテ、人口約二十萬
乃至十二三萬ノ範圍內ニ於テ健康相談所ヲ
置イテ、サウシテ營養其ノ他ノ〓究、普及
ト云フコトニ當ラシメ、是等ト相俟ッテ國民
體位ノ向上ヲ來サシメタイ、斯ウ云フ積リ
デアリマス、デ本制度ニ於キマシテモ出來
ルダケ早ク、出來ルダケ廣ク普及セシメタ
イノデアリマスガ、只今申上ゲマシタヤウ
ナ、一方ニ於キマシテハ財源ト云フコトモ
考慮シナケレバナラヌ、必ズシモ當局ノ考
ヘルヤウニ、直チニ極メテ短イ年度ノ間ニ
普及スルカドウカト云フコトハ、玆ニ確言
ハ致シ兼ネマスルガ、私共ト致シマシテハ
出來ルダケ早ク此ノ普及ト云フコトニ努力
致シタイノデアリマス、ソレカラ第二ニ尙
是ト關聯致シマシテ「サラリーマン」ノ保險
問題ニ付テ計畫ガアルサウデアル、是ハド
ウカト、斯ウ云フ御尋ノヤウニ伺ヒマシタ
ガ、是ハマダ確定ノモノハゴザイマセヌケ
レドモ、矢張リ社會保險ノ三單位トシテ勞
働者ニ對スル保險、船員ニ對スル保險竝ニ
此ノ給料生活者ノ保險ノ問題ニ付キマシテ、
相竝ンデ、成ルベク近イ機會ニ解決致シク
イ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、第二
ニ短期間ニ普及ガ出來ナイト云フ理由ハ財
源ニ基クモノデアラウ、且又今囘ノ補助財
源ニ郵便貯金ノ利下ノ金ヲ以テ充テル、サ
ウ云フヤウナコトハ必ズシモ適當デナイ、
將來ハ相續稅其ノ他ノ財源ニ依ッテ其ノ
普及ヲ圖ルベキモノデアラウト、斯ウ云
フ御言葉デアリマシタ、私ハ誠ニ御尤ノ御
考ト考ヘマスルガ、併シ此ノ社會政策ニ
關スル施設ハ必ズシモ財源ト云フ問題
ニ限ラズ、一般財源、何ノ財源ト、云フコ
トニ依ラズシテ、所謂庶民階級ノ
福利ヲ圖ル爲ニハ一般財源ノ建前ニ於テ之
ヲ考慮シテ、成ルベクサウ云フ風ニ向ケテ
行クト云フコトガ適當デアリ、必要デアル
ト思フノデアリマス、デ必ズシモドノ財源
ト云フ風ニ限ラヌデモ宜イノヂハナイカ、
斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、
次ニ第三ニ第九條ノ問題デアリマスガ、先
ヅ第一ノコトハ此ノ原案ノ第九條ト云フモ
ノニ付テ營利ヲ目的トセザル社團法人トア
ルガ、是ハ醫療組合ト云フコトヲ明カニシ
テ居ラヌ、從ヒマシテ甚ダ不明瞭デハナイ
カ、此ノ範圍ニ屬スルモノハ所謂產業組合
モアリ、工業組合モアリ、其他ノ色々ノ公
益團體ト云フモノガアルノダガ、ソレヲ見
込マナイノデアラウ、·大體ニ於テ醫療組合
ト云フモノヲ眼中ニ入レテ斯ウ云フ規定ヲ
拵ヘテアルノダラウト云フ、斯ウ云フ風ノ
御解釋デアリマシタガ、其ノ通リデアリマ
ス、廣ク此處ニハ營利ヲ目的トセザル社團
法人ト云フ言葉ヲ用ヒテアリマスガ、是八
法律ノ用語トシテ適當ナル言葉ト思ッタ次
第デアリマシテ、別ニ他意アル譯デハナク、
俗ニ謂フ醫療組合ト云フモノヲ目標ニシタ
次第デアリマス、工業組合或ハ商業組合、
若シクハ廣イ意味ノ產業組合ト云フモノガ
アル、一般ノ公益法人ト云フモノヲ意味シ
テ居ル次第デハナイノデアリマス、更ニ此
ノ國民健康保險ノ事業ヲ廣ク產業組合ヲシ
テ行ハシムルコトガ適當デハナイカ、斯ウ
云フコトニ付キマシテ段々ノ御意見ヲ拜承
シタノデアリマス、是ハ一面ニ於テ御尤ナ
次第ガアルトハ考ヘマスガ、併シ一面ニ於
テ先程私ガ申上ゲタヤウニ、國民健康保險
ノ問題ハ、矢張リ國民健康保險組合ト云フ
一ツニ統轄サレタ團體ノ下ニ、ソレノミヲ
主眼トシテ行フ團體ニ於テ行ハシムルコト
ガ適當デアラウ、產業組合ハ私ガ申ス迄モ
ナク所謂經濟上ノ幸福ヲ······組合員ノ經濟
上ノ幸福ヲ增進スルコトヲ目的トシテ設立
セラレルモノデアリマシテ、餘リニ廣ク色
色ノ事業ヲ附シマスコトハ、是ハ固ヨリ其
ノ組合ノ自由デアリマスガ、法文ニ於テサ
ウ云フコトヲ奬勵スルコトハ如何カト、斯
ウ云フ風ニ思フノデアリマス、固ヨリ本法
ガ施行セラレマシテモ、產業組合ニ於テ醫
療事業ヲサレルコトハ何等禁止ノ規定ハナ
イノデアリマス、デ御承知ノ通リ是ハ大局
ノ觀察ト致シマシテ、先程金杉博士カラ御
述ニナリマシタヤウニ、此ノ問題ニ付キマ
シテハ種々ナル摩擦ヲ考ヘナケレバナラヌ、
或場合ニハ或程度ノ摩擦、或程度ノ利害ノ
得失ト云フコトヲ眼中ニ置カヌデ解決シナ
ケレバナラヌコトハ固ヨリデアリマスガ、
此ノ事業ヲ行ヒマスルニハ、若シクハ或改
善ヲ行ヒマスニハ······サリナガラ其ノ摩擦
ト云フモノヲ成ルベク少ナカラシメテ行キ、
其ノ摩擦ヲ成ルベク廣ク排除致シマシテ、
成ルベク世ノ中ヲ圓滑ニ、協調的ニ行カシ
メルト云フコトガ非常ニ必要デハナイカト
思ヒマス、サウ云フ觀點ニ於テ種々ナル改
善ヲ圖ッテ行クト云フコトガ矢張リ此ノ政
治ナリ、行政ナリノ根本デアリ基礎デハナ
イカ、成程理想論カラ申シマスレバ多少不
滿ノコトガアリマシテモ、矢張リ實際ノ施
設トシテハ色々ノ摩擦ヲ防グガ爲ニ、若干
ノ點ヲ忍バナケレバナラヌ、斯ウ云フコト
モ私ハ考ヘネバナラナイノデハナイカト思
ヒマス、而シテ產業組合トシテハ尙更ニ組
合員ノ經濟上ノ福利ヲ增進スルコトニ重大
ナル目的ガアルノデアリマスカラ、所謂一
般國民ノ醫療ト云フ問題ハ、別個ノ組合ニ
之ヲ爲サシメテ、且又別個ノ組合ノ方針ト
シテ爲サシムルコトガ私ハ適當デハナイカ、
斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、是ハ申ス
迄モナク近時產業組合ノ活動ガ頗ル活潑デ
アリマシテ、是ハ誠ニ結構ナコトト思ヒマ
スルガ、之ガ爲ニ諸方ニ色々ナ摩擦ヲ生ジ
テ居ル、是ハ私ハ兎ヤ角言フ譯デハアリマ
セヌケレドモ、此ノ醫療ト云フ問題ヲ解決
致シマスル上ニ於テハ、成ルベクサウ云フ
問題ニ觸レズシテ、サウシテ國民ノ健康增
進ト云フ一本筋ニ進ムト云フコトガ、ヤリ
方トシテハ適當デハナイカ、斯ウ云フ風ニ
考ヘタ次第デアリマス、從ヒマシテ第九條
ハ先程私ガ申述ベマシタヤウニ、國民健康
ノ增進ト云フコトハ、所謂國民健康保險組
合ト云フモノヲ根本骨子トシテ致ス次第デ
アリマシテ、唯現在ニ於テ行ハレテ居ル醫
療組合ニシテ、相當成績ガ擧ッテ居リ、且此
ノ仕事ヲ爲サシメテ差支ナイモノハ或程度
マデ此ノ代行ヲ認メルト云フコトモ別ニ差
支ハナイデアラウ、斯ウ云フ所カラ挿入セ
ラレマシタヤウナ次第デアリマシテ、第九
條ト云フモノハ本法ノ骨子デハナイノデア
リマス、デ先程有馬伯爵カラ御述ニナリマ
シタヤウニ、產業組合ヲシテ爲サシムル場
合ニ於テハ、或ハ掛金ノ取立、或ハ支拂等
ニ於テ若干ノ便利ハアルコトハアリマセウ、
サリナガラ大局ノ問題トシテ、私ハ右申述
ベタヤウニ、成ルベク摩擦ヲ少クシテ、而
モ社會ノ改善、一般民衆ノ福利ヲ圖リタイ、
斯ウ云フ所ニ出デテ居ルノデアリマス、且
又假令此ノ國民健康······且又、私ガ一言申
シタイコトハ、此ノ國民健康保險組合ニ於キ
マシテハ、大體ニ於テ町村ト云フ一ツノ自治
團體ヲ根據ト致シテ、所謂地方團體ノ相互
扶助、隣保相助ト云フコトヲ前提ニ致シテ
考ヘテ居ルノデアリマシテ、成ルベクナラ
バ町村ト云フ一團體ヲ一ツノ單位ト致シタ
イト思フノデアリマス、然ルニ產業組合ハ必
ズシモ一町村ニ限ラナイ、或ハ或町村ノ一
部ニ限ラレテ居ル場合モアリマスルシ、又
或ハ市町村ヲ併セテ居ル場合、又或ハ或町
村ト或町村ノ半分、或町村ノ全部、或町村
ノ半分ノ人ヲ網羅シテ居ル、斯ウ云フ風ナ
コトモアリマス、斯ウ云フ風ニ其ノ內容ガ
極メテ其ノ組合員ノ範圍其ノ他ニ於テ複雜
デアリマスルカラ、矢張リ此ノ醫療組合ト
致シマシテハ、若シ是等ノ組合ヲシテ總テ
代行ヲ認メマスル場合ニハ、其ノ經費ノ問
題トカ種々ナル點ニ於テ複雜シタ關係ヲ生
ジマスルノデアリマス、本法案ノ骨子ハ大
體ニ於テ町村ヲ一ツノ單位ト致シマシテ、
市町村長ヲシテ大體ニ於テ其ノ組合ノ組合
長トシテ扱ハシメル、斯ウ云フ趣旨デアリ
マスルノデ、成ルベク其ノ一ツノ町村內ノ
住民ト云フモノガ一團トナルト云フコトガ
適當デアラウト考ヘマス、然ルニ只今申上
ゲマシタヤウニ、產業組合ハ其ノ組合員ガ
種々デアリマスルカラ、總テノ產業組合ヲ
シテ是等ノ仕事ヲ爲サシメ代行セシメルト
云フコトハ、却テ事務ノ煩雜ヲ來シハセヌ
カ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、從ヒ
アシテ將來此ノ醫療組合ニシテ代行ヲ認メ
ラルヽモノノ條件ト致シマシテ、一町村ノ
町村民全部ヲ網羅シテ居ルト云フモノナル
コトヲ條件ト致シマシタヤウナ次第デアリ
マス、尙此ノ組合ガ出來マシテモ、必ズシ
モ先程私ガ申上ゲマシタヤウニ、或ハ物納
ヲ認メルトカ、或ハ其ノ他ノ便法ハ、ソレ
ソレ組合規約ヲ以テ規定シ得ルト考ヘマス
ルカラ、別ニ產業組合等ノ組合以外ニ於
テ、國民ノ健康保險組合ト云フモノガ出來
マシテモ、ソレ程煩雜ナ影響ヲ町村住民ニ
與ヘルトハ考ヘナイノデアリマス、從ヒマ
シテ第九條ノ營利ヲ目的トセザル社團法人
ト云フ意味ト、今囘衆議院ニ於テ決議セラ
レマシタ修正案ノ附則醫療設備ノ利用ヲ目
的トスル產業組合ニシテ、ト云フ意味ハ全
ク同樣デアリマシテ、初メニ原案ヲ作リマ
シタ趣旨モ、所謂醫療組合ニ限ッテ居ルト
云フ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、次ニ所
謂此ノ細民街ノ住民ニ對シテハドウ云フ風
ナコトヲヤルカ、所謂國民健康保險法ノ適
用ニ於テ如何ナル處置ヲ爲シテ行クカト云
フ御尋デアリマス、國民健康保險法ハ先程
私ガ申上ゲマシタヤウニ、大體ニ於テ所謂
庶民階級ヲ目標ニシテ居ル次第デアリマシ
テ、必ズシモ國家或ハ其ノ外ノ社會ノ恩惠
ニ賴ルト云フ意味デハナク、自己ノ所謂自
力ニ依ッテ、ソレ〓〓平素ニ於テ若干ヅツノ
持出シヲシテ、サウシテ一朝病氣ニデモナ
リマシタ時ノ、不時ノ用ニ備ヘルト云フ趣
旨デアリマスルカラ、所謂自力獨立ノ出來
ル方法ヲ大體ニ於テ目標ニシテ居ルノデア
リマス、デアリマスルカラ所謂窮民的ノ人
人ニ付キマシテハ、是ハ或ハ救護法ニ依ッ
テ國家ガ之ヲ救濟シナケレバナラヌ場合モ
アリマセウシ、或ハ濟生會其ノ外、所謂慈
惠的ノ設備ニ依ッテ、是等ノ疾病ニ對スル
救療ヲスル、斯ウ云フ風ナコトヲ考ヘナケ
レバナラヌト思ヒマス、併シナガラ斯ウ云
フ方面ニ於キマシテ眞ニウマク出來マスル
ナラバ、是ハ矢張リ一ツノ、必ズシモ之ヲ
認メナイト云フ必要ハナイ、斯ウ云フ風ニ
思ヒマスルガ、大體ノ考方トシテハ、斯ウ
云フ方面ニ是ケル醫療ニ對スル施設ハ、所
謂慈惠、國ノ慈惠、或ハ社會公共ノ慈惠施
設ニ依ッテ實行シテ行ク方ガ適當デハナイ
カ、斯ウ云フ風ニ考ヘル次第デアリマス、
ソレカラ次ニ衆議院ニ於テ修正附加セラレ
マシタ所ノ附則ノ、昭和十二年三月三十一
日現在ニ於テ醫療事業ヲ行フモノト云フノ
ガアリマスルガ、此ノ三月三十一日ト云フ
一體標準ハ何處カラ出テ來タノカ、斯ウ云
フ御尋デアリマシタ、是ハ先程私ガ申上ゲ
マシタヤウニ、大體ニ於テ現在ヤッテ居ル
醫療組合ニ於テ適當ナルモノハ是ハ認メタ
ラ宜イヂヤナイカト云フ所カラ、此ノ第九
條ト云フモノガ出來タノデアリマスルガ、
併シナガラ之ニ付キマシテハ種々ナル議論
ガアッテ、是レ以上成ルベク代行ト云フモ
ノハ認メテ貰ヒタクナイ、斯ウ云フ所カラ
來マシテ、是ガ衆議院トシテ論議ヲ重ネタ
上ニ出來上ック次第デアリマシテ、此ノ根
本精神ニ於テハ當局トシテモ異議ノナイ所
デアリマシテ、唯此ノ三月三十一日ト云フノ
ハ、所謂何ト言ヒマスカ、本法ガ出來上ッタ時
ト、斯ウ云フ意味ニ於テ三月三十一日ト云フ
コトガ書カレタノデアリマス、三月三十一
日ト云フノハサウ云フ意味デ、卽チ現在存
在シテ居ルモノ、斯ウ云フ意味デアリマス、
然ラバ將來醫療組合ガ出來ク場合ニ、ドウ
スルカト云フコトニナリマスレバ、是ハ所
謂代行ト云フ、本法ニ依ル代行ハ認メラレ
又、斯ウ云フコトニナルノデアリマス、サ
リナガラ產業組合ニ於テ醫療事業ヲサレル
コトハ、是ハ別ニ法律ニ於テ禁止スルノデ
ハナイノデアリマスルカラ、或ハ產業組合
ニ於テ、醫療ノ事務ヲヤラレルト云フコト
モアラウト思ヒマス、併シナガラ將來ハ矢
張リ一般國民ノ健康、疾病、救療ト云フコ
トニ付キマシテハ、國民健康保險組合ガ其
ノ骨子トナッテ行クト云フコトガ最モ適當
ト考ヘル次第デアリマシテ、之ニ對シマシ
テハ若干ナリトモ國庫カラ補助ガ出ルノデ
アリマスルカラ、將來ハ恐ラク此ノ國民健
康保險組合トシテ、サウ云フ形ニ於テ出來
ルモノガ多イノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ
想像スル次第デアリマス、尙是ハ役所ノ手
續ノ問題デアリマスルガ、產業組合ノ一般
的ノ監督ト云フコトハ、是ハ申ス迄モナク
農林省ノ所管デアリマシテ、醫療ノ施設ニ付
キマシテハ、内務省ノ所管ニナリマスルガ、
產業組合ト云フモノニ對シテハ農林省ノ所
管デアリマス、サリナガラ第一次ノ監督官
廳ハ私ガ申ス迄モナク地方長官デアリマス
ルカラ、其ノ點ニ於テハ一致ノ取扱ガ出來
マスルガ、唯法律論ヲ申上ゲマスルト云フ
1、所謂產業組合ノ事業自體ハ農林省ノ所
管デアリマス、ソレカラ團體契約ノ問題ニ
付キマシテハ、私ガ先程述べマシタヤウナ
趣旨デ、是ニハ贊成致シ兼ネタノデアリマ
ス、ソレカラ最後ニ醫師ガ正當ノ理由ナク
シテ往診ヲ拒ンダ場合ニ之ヲ如何ニスル
カ、斯ウ云フ御尋デゴザイマシタガ、是ハ
醫師法ノ第九條ニ於テ、醫師ハ正當ノ理由
ナクシテ往診ヲ拒ムコトガ出來ナイト、斯
ウ云フ規定ガアルノデアリマス、而シテ之·
ニ違反シタ場合ニハ五十圓以下ノ罰金ニ處
スルト云フ規定ガアルノデアリマス、苟モ
仁術タル醫者ガ、往診ヲ理由ナクシテ拒ム
ト云フコトハ甚ダ是ハ宜シクナイコトデア
リマスルカラ、斯ウ云フ場合ニハ嚴重ナル
取締ヲスルコトガ必要デアラウト考ヘマ
ス、尙若シ私ノ言葉ニシテ足リマセヌ所ガ
ゴザイマシタナラバ、又重ネテ御尋ニ依ッテ
御答ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=18
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019・有馬頼寧
○伯爵有馬賴寧君 只今ノ御答辯ニ對シテ
納得致シ兼ネル點モゴザイマスケレドモ、
他ハ委員會ニ讓リマシテ、本議場ニ於ケル
質問ハ是デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=19
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020・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 質疑ノ通告者
ハ全部是デ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=20
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021・池田政時
○子爵池田政時君 只今議題トナリマシタ
國民健康保險法案ハ重要法案デアリマスカ
ラ、其ノ特別委員ノ數ヲ十五名トシ、其ノ
指名ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提出致シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=21
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022・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=22
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023・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 池田子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=23
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024・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
國民健康保險法案特別委員
侯爵細川護立君侯爵井上三郞君
伯爵有馬賴寧君松浦鎭次郞君
子爵高倉篤麿君子爵野村益三君
子爵伊東二郞丸君男爵高木喜寛君
男爵大森佳一君男爵關義壽君
宮田光雄君金杉英五郞君
鵜澤總明君濱口儀兵衞君
金岡又左衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=24
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025・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第四、保
健所法案、日程第五、結核豫防法中改正法
律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、
是等ノ二案ヲ一括シテ議題トスルコトニ御
異議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=25
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026・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、內務大臣
保健所法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月二十五日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
保健所法案
保健所法
第一條保健所ハ國民ノ體位ヲ向上セシ
ムル爲地方ニ於テ保健上必要ナル指導
ヲ爲ス所トス
第二條保健所ニ於テハ左ノ事項ニ付指
導ヲ行フ
一衞生思想ノ涵養ニ關スル事項
二榮養ノ改善及飮食物ノ衞生ニ關ス
ル事項
三衣服、住宅其ノ他ノ環境ノ衞生ニ
關スル事項
四姙產婦及乳幼兒ノ衞生ニ關スル事
項
五疾病ノ豫防ニ關スル事項
六其ノ他健康ノ增進ニ關スル事項
第三條保健所ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
北海道府縣之ヲ設置スルモノトス但シ
勅令ヲ以テ指定スル市ノ區域ニ在リテ
ハ市之ヲ設置スルモノトス
保健所ニハ其ノ事業ノ執行ヲ便ナラシ
ムル爲支所ヲ置クコトヲ得
內務大臣必要アリト認ムルトキハ第一
項ノ公共團體ニ對シ保健所ノ設置ヲ命
ズルコトヲ得
第四條本法ニ依ル保健所ニ非ザレバ其
ノ名稱中ニ保健所タルコトヲ示スベキ
文字ヲ用フルコトヲ得ズ但シ內務大臣
ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラ
ズ
第五條保健所ノ設備ノ使用又ハ保健所
ニ於テ行フ業務ニ付テハ命令ヲ以テ定
ムル場合ヲ除クノ外使用料又ハ手數料
ヲ徴收スルコトヲ得ズ
第六條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ保
健所ニ關スル經費ノ支出ヲ爲ス公共團
體ニ對シ其ノ支出額ノ二分ノ一以内ヲ
補助ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
結核豫防法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十二年三月二十五日
衆議院議長富田幸次郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
結核豫防法中改正法律案
結核豫防法中左ノ通改正ス
第一條醫師結核患者ヲ診斷シ環境上病
毒傳播ノ虞アリト認ムルトキハ命令ノ
定ムル所ニ依リ速ニ行政官廳ニ屆出ヅ
ベシ
第二條第一項及第三條中「結核患者」ヲ
「病毒傳播ノ危險アル結核患者」ニ改ム
第六條主務大臣ハ結核患者ニシテ環境
上病毒傳播ノ虞アルモノヲ收容セシム
ル爲北海道府縣市其ノ他必要ト認ムル
公共團體ニ對シ結核療養所ノ設置ヲ命
ズルコトヲ得
第七條第一項ヲ左ノ如ク改ム
地方長官ハ環境上病毒傳播ノ虞アル結
核患者ニシテ豫防上特ニ必要ト認ムル
モノヲ前條ノ規定ニ依リ設置スル結核
療養所ニ入所セシムルコトヲ得
第十條中「療養ノ途ナキ結核患者」ヲ環
境上病毒傳播ノ虞アル結核患者」〓
ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=26
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027・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今上程ニナ
リマシタ保健所法案ニ付キマシテ、竝ニ結
核豫防法中改正法律案ニ付キマシテ、其ノ
提案ノ理由ヲ御說明申上ゲマス、先ヅ保健
所法案ニ付テ申上ゲマスガ、我ガ國民ノ保
健狀態ヲ見マスルノニ、近時稍、改善ノ跡
ヲ認メ得ルノデアリマスガ、之ヲ歐米主要
國ニ比較致シマスレバ、尙著シキ遜色ガア
ルバカリデナク、結核ノ蔓延ノ如キ、誠
寒心ニ堪ヘザルモノガアルノデアリマシテ、
國民體位ノ向上ヲ圖リマスコトハ、當ニ喫
緊ノ要務ト存ズル次第デゴザイマス、我ガ
國ノ醫學ハ近年著シキ進步ヲ遂ゲツヽアル
ニモ拘ラズ、國民保健ノ狀態ガ敍上ノ如ク
デアリマスノハ、他ニモ種々ノ原因ガ存ス
ルコトト思ヒマスルガ、國民ノ健康ノ保持
增進スベキ衞生上ノ施設ニ於キマシテ、尙
足ラナイモノガアルト云フコトガ大キナ原
因デアラウト思ハレルノデアリマス、從ヒマ
シテ國民ノ體位ヲ向上セシメマス爲ニハ、
健康ノ增進乃至疾病ノ豫防ニ關スル指導扶
掖卽チ積極的指導衞生ノ方面ニ於キマシ
テ、一段ノ努力ヲ致サナケレバナラナイト
考ヘル次第デアリマス、以上申述ベマシタ
事情ヲ篤ト考慮致シマシテ、今回政府ハ
般國民ニ對シマシテ、保健上萬般ノ指導ヲ
致シマス所ノ機關デアル保健所ノ設置ヲ企
畫致シマシテ、玆ニ保健所法案ヲ提出シタ
次第デアリマス、保險所ハ國民體位ヲ向上
セシムル爲メ、衞生思想ヲ啓發致シマシテ、
衣〓住其ノ他日常生活ノ衞生的改善ヲ指導
シ、結核其ノ他疾病豫防ノ指示ヲ爲ス等、
有ラユル角度カラ保健上ノ指導ヲ爲ス機關
デアリマシテ、保健所ニハ醫師、藥劑師、
衞生指導員、公衆衞生看護婦等ヲ置キ、是
等ノ職員ハ所內ニ於テ衞生各般ノ相談ニ應
ズルノ外、擔任區域內ヲ巡囘シテ實地指導
ヲ爲シ、或ハ關係官公署團體等ト連絡協力
シテ、以テ指導事業ノ徹底ヲ期セムトスル
モノデアリマス、保健所ハ大體人口二十萬
乃至十二三萬ニ付キ一箇所ノ割合ヲ以テ全
國ニ之ヲ設置シ、必要ノ地ニハ支所ヲ設ケ
シムル豫定デアリマシテ、之ガ設置經營ノ
主體ハ、北海道、府縣又ハ特定ノ市デアリ
マスガ、國庫ハ其ノ創設費ニ對シ二分ノ
以內、經當費ニ對シ三分ノ一以內ヲ補助ス
ル考デアリマス、以上ハ保健所法案ノ提出
理由ト其ノ要旨デアリマス、續イテ結核豫
防法中改正法律案ニ付キマシテ御說明申上
ゲタイト思ヒマス、現行結核豫防法ハ大正
八年ニ制定セラレタノデアリマスガ、結核
豫防ノ目的ヲ達成致シマス爲ニハ、現行法
ノ規定デハマダ不十分ナル點モアルヤウニ
存ゼラレマスノデ、結核豫防施設ノ擴充ヲ
期セムトスル此ノ機會ニ於キマシテ、本法
ヲ改正シテ豫防上遺憾ナキヲ期シタイト在
ズル次第デアリマス、今回改正法律案ニ於
キマシテ、改正シタイト云フ主要ナル點ヲ
申上ゲテ見マス、第一ハ現行法ニアリマス
結核ノ定義ヲ削除致シマシテ、結核豫防法
ノ適用ハ肺結核又ハ喉頭結核デアッテ、病毒
傳播ノ危險アルモノニ限ルコトナク、其ノ
他ノモノニ對マシテ之ヲ適用シテ必要ナル
豫防法措置ヲ講ズルノ趣旨ヲ明カニスルコ
トデアリマス、第二ハ、醫師ガ結核患者ヲ診
斷シタル場合ニ於キマシテ當該患者ニシテ
環境上病毒傳播ノ虞アリト認メマスル時ニ
ハ、其ノ醫者ニ對シマシテ、之ヲ行政官廳ニ
屆出ヅルノ義務ヲ課シ、行政官廳ヲシテ豫
防上適切ナ措置ヲ講ゼシメタイトスル趣旨
デアリマス、第三ハ公立結核療養所ニ入所
セシムル患者ノ範圍ヲ擴張致シマシテ、環
境上病毒傳播ノ虞アル結核患者ハ、療養ノ
途ナキ者ハ勿論、其ノ他ノ者ヲモ入所セシ
メ得ルコトニ改メムトスルノデアリマス、
第四ハ、現行法ニハ結核療養所ノ設置ハ、
人口五萬以上ノ市ヲ原則トスルガ如キ規定
デアリマスガ、寧ロ道府縣モ市ト相竝ンデ
之ヲ設置スルコトガ適當ト認メラルヽノデ、
主務大臣ハ北海道、府縣、直其ノ他必要
ト認メマスル公共團體ニ療養所ノ設置ヲ命
ジ得ルコトニ改メムトスルノデアリマス、
以上ガ今囘ノ改正案ニ於キマスル主要ナ點
デアリマス、何卒御審議ノ上、速カニ御協
贊ヲ賜ラムコトヲ御願申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=27
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028・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御質疑ガ
ゴザイマセヌケレバ兩案ノ特別委員ノ氏名
ヲ朗讀致サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
保健所法案特別委員
侯爵大隈信常君伯爵川村鐵太郞君
子爵近衞秀麿君有吉忠一君
男爵佐藤達次郞君松村義一君
丸山鶴吉君絲原武太郞君
靑木才次郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=28
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029・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程ハ全部終
了致シマシタ、次會ノ議事日程ハ、決定次
第彙報ヲ以テ御通知ヲ致シマス、本日ハ是
ニテ散會致シマス
午後三時六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02419370326&spkNum=29
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