1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月二十九日（月曜日）午前十時二十一分開議
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議事日程 第二十八號
昭和十二年三月二十九日
午前十時開議
第一 昭和十二年度歳入歳出總豫算案竝昭和十二年度各特別會計歳入歳出豫算案 會議（委員長報告）
第二 豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件 會議（委員長報告）
第三 昭和十二年度歳入歳出總豫算追加案（第一號） 會議（委員長報告）
第四 昭和十二年度各特別會計歳入歳出豫算追加案（特第一號） 會議（委員長報告）
第五 豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件（追第一號） 會議（委員長報告）
第六 昭和十二年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第七 昭和七年法律第一號中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第八 昭和七年法律第十二號中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第九 日本銀行條例中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十 日本銀行參與會法廢止法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十一 東京農業教育專門學校創設に伴ふ帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會計の關渉に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十二 帝國の滿洲國に於ける治外法權の撤廢及南滿洲鐵道附屬地行政權の調整乃至移讓に伴ひ退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十三 議院法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十四 小運送業法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十五 日本通運株式會社法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=0
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001・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ報〓ヲ致
サセマス
〔角倉書記官朗讀〕
昨二十八日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府
提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆
議院ニ通知セリ
アルコール專賣法案
揮發油及アルコール混用法案
同日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
昭和十二年度歲入歳出總豫算追加案第
一號)、昭和十二年度各特別會計歲入歲出
豫算追加案(特第一號)、豫算外國庫ノ負
擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件追
第一號)可決報〓書
議院法中改正法律案修正報〓書
小運送業法案可決報告書
日本通運株式會社法案可決報〓書発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=1
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002・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、日程第一、昭和十二年度歲入
歲出總豫算案竝昭和十二年度各特別會計歲
入歲出豫算案、日程第二、豫算外國庫ノ負
擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、日程
第三、昭和十二年度歲入歲出總豫算追加案、
第一號、日程第四、昭和十二年度各特別會
計歲入歲出豫算追加案、特第一號、日程第
五、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件、追第一號、會議、委員長報
〓、是等ノ五案ハ一括シテ議題ト爲スコト
ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=2
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003・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、豫算委員長林伯爵
一昭和十二年度歲入歲出總豫算案
一昭和十二年度各特別會計歲入歲出豫算
案
一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件
右衆議院ヨリ受領シタル各案ヲ審査シ總
テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリ
ト議決セリ依テ及報〓候也
昭和十二年三月二十七日
委員長伯爵林博太郞
虫族院議長公爵近衞文磨殿
一昭和十二年度歲入歲出總豫算追加案
(第一號)
一昭和十二年度各特別會計歲入歲出豫算
追加案(特第一號)
一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件(追第一號)
右衆議院ヨリ受領シタル各案ヲ審査シ總
テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリ
ト議決セリ依テ及報〓候也
昭和十二年三月二十八日
委員長伯爵林博太郞
貴族院議長公爵近衞文廣殿
〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=3
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004・林博太郎
○伯爵林博太郞君 昭和十二年度歲入歲出
總豫算案、昭和十二年度各特別會計歲入歲
出豫算案、豫算外國庫ノ負擔ノナルベキ契
約ヲ爲スヲ要スル件、竝ニ昭和十二年度一
般會計歲入歲出總豫算追加第一號、昭和十
二年度特別會計歲入歲出豫算追加特第一
號豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件、追第一號、右總豫算案、及
ビ追加豫算案ノ委員會ニ於ケル經過竝ニ結
果ノ大要ヲ御報〓致シマス、此ノ總豫算ハ
三月九日午前ヨリ豫算總會ニテ愼重ニ審議
ヲ致シマシタ、質問ニ移リマシテ、三月二
十三日ヨリ同ジク二十七日午前ニ亙リマシ
テ各分科會ニ於テ審議ヲ致シマシタ、同日
午後總會ヲ開キ、質問討論ヲ經テ全會一致
ヲ以テ可決ニ相成リマシタ、又十二年度追
加豫算案ハ三月二十八日午前分科會デ審議
ヲ致シマシテ、同日午後總會ニ付議シ、質
問討論ヲ經テ全會一致可決ト相成リマシ
ク、先ヅ總豫ノ內容ニ付キマシテ簡單ニ御
說明ヲ致シマス、當初政府カラ衆議院ニ出
サレマシタ昭和十二年度歲入歳出豫算ノ金
額ハ歲入歲出共ニ三十億三千八百五十餘萬
圓デアリマシタ、然ルニ現政府ニ於キマシ
テ二囘ニ亙ッテ修正ヲシテ、衆議院ニ於テ可
決シテ本院ニ送付セラレマシタ昭和十二年
度歲入歳出總豫算ノ金額ハ、歲入歳出共ニ
二十八億一千三百九十餘萬圓デアリマス、
當初衆議院ニ提出サレタモノニ比シマシ
テ、歲入歲出共ニ二億二千四百六十餘萬圓
ノ減額トナッテ居リマス、之ヲ前年度ノ實行
豫算ノ金額ニ比ベマスレバ、歲入ニ於テ五
億八百三十餘萬圓、歲出ニ於テ五億二百四
十餘萬圓ノ增加トナッテ居リマス、先ヅ歲入
豫算ニ付テ大體ヲ申シマスト、普通歲入ハ
經常部ニ於テ十八億一千四百六十餘萬圓、
臨時部ニ於テ二億二千八百四十餘萬圓、合
計二十億四千三百十餘萬圓トナリマシテ前
內閣ノ編成シマシタ豫算ニ比シ、經常部ニ
於テ二億三十餘萬圓ヲ減少シテアリマス、
臨時部ニ於テ七百二十餘萬圓ヲ增加シテア
リマス、差引一億九千三百餘萬圓ノ減少ト
ナリマスガ、之ヲ前年度實行豫算ニ比較シ
マスレバ、經常部ニ於テ三億六千四百六十
餘萬圓、臨時部ニ於テ七千六百七十餘萬
圓合計四億四千百三十餘萬圓ノ增加ト
ナッテ居リマス、此ノ增加ハ主トシテ臨時租
稅增徵、新稅創設、其ノ他ノ增收計畫ニ基
クモノデアリマス、臨時租稅增徵竝ニ新稅
創設ニ依ル增加二億六千九百五十餘萬圓、
製造煙草賣渡價格ノ改定ニ依ル增加二千五
百四十餘萬圓、特別會計ヨリ一般財源受入
六千七百八十餘萬圓、合計三億六千二百九
十餘萬圓、此ノ外關稅改正等ニ依ル增加二
千二百五十餘萬圓デアリマス、尙公債金收
入ハ七億七千八十餘萬圓デアリマシテ、前
内閣ノ豫定額ニ比シ三千百六十餘萬圓ノ減
少トナリマスガ、前年度實行豫算額ニ比較
致シマスト六千六百九十餘萬圓ノ增加デア
リマス、次ニ歲出豫算ニ付テ簡單ニ申上ゲ
ママ、歲出豫算ハ經常部十四億六千二百七
十餘萬圓、臨時部十三億五千百二十餘萬
圓合計二十八億千三百九十餘萬圓デアリ
マシテ、前內閣ノ編成セル豫算ニ比ベマス
ト經常部ニ於テ二億三千八百十餘萬圓減
ジ、臨時部ニ於テ千三百五十餘萬圓ヲ增シ
テ居リマスノデ、差引二億二千四百六十餘
萬圓ノ減少トナリマス、前年度實行豫算額
ニ比ベマスレバ、經常部ニ於テ一億百九十
餘萬圓、臨時部ニ於テ四億四十餘萬圓、合
計五億二百四十餘萬圓ノ增加トナッテ居リ
マス、政府ハ今囘ノ豫算ノ修正ニ當リマシ
テハ、最近ニ於ケル物價騰貴ノ情勢ニ鑑ミ
マシテ、政府ノ物資需要ノ增加ヲ抑制シ、
之ニ伴ッテ民間物資ノ需要ヲモ緩和スルト
云フ趣旨ニ依リマシテ、其ノ歲出豫算ニ付
テ再檢討ヲ爲スト共ニ產業ノ振興、國民生
活ノ安定ニ關スル事項ニ付テハ、出來ルダ
ケ其ノ趣旨ヲ尊重スル方針ヲ執ッタト申
シテ居リマス、地方財政ニ關シマシテハ、
中央地方ヲ通ズル稅制竝ニ財政ノ全般ニ
亙リマシテ更ニ檢討考究スル必要ガアリト
致シ、前內閣ノ計畫シタ地方財政調整金ハ
之ヲ此ノ際取止メマシテ、別ニ農山漁村ノ
負擔輕減ノ爲ニ應急ノ措置トシテ、本豫算
中ニ臨時地方財政補給金七千萬圓ヲ計上シ
テアリマス、尙陸海軍兩省所管ノ經費ニ付
テハ、前內閣ノ編成シタモノニ對シ何等ノ
修正ヲ致シテハアリマセヌケレドモ、政府
ノ說明ニ依リマスト、其ノ實行ニ當リ各〓二
千三百萬圓ヲ下ラザル金額ノ使用ヲ見合セ
ムトスル決心デアルトノコトデアリマス、
次ニ各特別會計ニ於ケル公債ノ發行豫定額
ハ一億四千三百萬圓デアリマシテ、前內閣
ノ豫定額ニ比シ、千二百萬圓ノ減少トナリ
マスガ、前年度實行豫算ノ豫定額ニ比シ、
五千九百三十餘萬圓ノ增加ニナッテ居リマ
ス、今一般會計及特別會計ヲ通ジテ申上ゲマ
スト、昭和十二年度ノ公債發行豫定額九億千
三百八十餘萬圓、前內閣ニ於ケル豫定額九
億五千七百四十餘萬圓ニ比べ、四千三百六
十餘萬圓ノ減少ト相成ッテ居リマスガ、之ヲ
前年度實行豫算ノ豫定額ニ比較シマスレバ、
一億二千六百三十餘萬圓ノ增加トナッテ居
リマス、尙昭和十二年度各特別會計歲入歲
出豫算、竝ニ豫算外國庫ノ負擔トナルベキ
契約ヲ爲スヲ要スル件ノ內容ニ付テハ說明
ヲ省略致シマス、是ヨリ質問應答ノ大要ヲ
申上ゲマス、第一、庶政一新、人心ノ不安
ハ誠ニ今日ヨリ甚ダシキモノハナイノデア
ル、特ニ下剋上ト云フコトガ流行シテ居ル
ノデアリマシテ、從ッテ國民ハ國民禮法ト云
フモノヲ兎角辨ヘナイ嫌ガアル、政府ハ國
民禮法ヲ規定スル意思ハナイカ、斯ウ云フ
質問ガアリマシタ、之ニ對シテ首相ハ申サ
レマシタ、第一ニ、國防ノ充實、國防ノ充
實トハ之ヲ甲、乙丙、丁ニ分ケマスト云
フト、甲ハ軍備ノ充實、乙ハ國家總動員ノ
準備、丙、國民生活ノ安定、T、國民精神
ノ昂揚、是ガ第一、國防ノ充實デアル、第
二ニハ、國防ノ發展、第三ニハ、國體ノ眞
姿顯現、此ノ三者ヲ原則トシテ大イニ我々
ハヤラナケレバナラナイモノデアリマス、
之ヲ原則トシテ、庶政一新、行政機構ノ形
式ヲ考ヘマス、併シナガラ未ダ結論ニハ達
シテ居リマセヌ、是ハ篤ト〓究シテ其ノ實
現ヲ期スル積リデアルト云フ答辯デアリマ
ス、又國民ニ對シマシテ國防ト申シマスト
云フト、兎角此ノ軍備ノ整備ト云フヤウナ
意味ニ於ケル物質的國防ヲ謂フノデアルガ、
實ハ其ノ前ニ精神的國防ト云フモノガナケ
レバナラナイ、狹義ノ國防、卽チ軍備ノ國
防ニ對シマシテ精神的國防ト云フノハ何デ
アルカ、ト云フト卽チ軍民一致、官民一致、
此ノ非常時ヲ克服スル所ノ愛國的精神ニ滿
チテ、互ニ對立ヲ克服シテ行カナケレバナ
ラナイ所ノ精神的統一ガ必要デアル、然ル
ニ不祥事ノ續發ハドウデアリマスカ、是等
ハ悉ク精神的國防ノ缺陷ヨリ生ズルモノデ
アル、而モ此ノ缺陷アルニ乘ジマシテ、或
ハ愛國ノ假面ヲ被ッテ、益〓反國體的思想ガ橫
行スルト云フヤウナ機會ヲ與ヘツヽアルノ
ハ誠ニ奇怪デアル、之ニ對シテ政府ノ所信
ハドウデアルカ、先ヅ陸相ヨリ答ヘラレマ
シタ、軍ニ於キマシテハ、日夜御勅語、御
勅諭ヲ奉ササセルノデアル、之ニ依ッテ、入ッ
テハ良兵トナリ、出デテハ良民トナル所ノ
〓養ニ努メテ居リマス、海相ハ曰ク、軍隊
ヲ〓育スルニ當リテハ、寧ロ明カニ今日迄ノ「コ
ンミュニズム」ノ〓要ヲ寧ロ話シテ、以テ益〓我
ガ國體ノ精華ヲ體得セシムルト云フコトニ努
メテ居リマス、此ノ故ニ海軍ニ於キマシテハ、何等
此ノ點ニ付テビク〓〓スル所ノ必要ハナイト云
フ確信ヲ持ッテ居ルトノコトデアリマス、首相ハ
申サレマシタ、精神的國防ハ誠ニ是ハ必要
ナコトデアル、是ガ今日此ノ點ニ於テ缺陷
アルハ頗ル寒心ニ堪ヘナイ、又遺憾ニ堪ヘ
ナイ次第デアル、我ガ國ノ特色ヲ十分確保
セシムルコトハ此ノ際必要ナコトデアル、
之ニ依ッテ外來思想ニ穢サレザルヤウ大イ
ニ國民ヲ戒メナケレバナラナイ、特ニ滿洲
事變ヲ以テ侵略デアルト云ウヤフナコトハ、
是ハ我ガ國ノ道義的皇道ヲ知ラナイ爲ニ
起ッテ來ルノデアル、口舌ノ論デナク、實ハ
依ッテ現シテ行クナラバ、世界ハ我ガ皇道精
神ノ尊ブベキコトヲ知ル時ガ必ズ來ルデア
ラウト云フ答辯デアリマス、肅軍ノロトニ
付キマシテ質問ガアリマシタ、海相ヨリ之
ニ答ヘラレテ居ル所ヲ申シマストヽ軍紀ト
云フモノハ、是ハ軍ニハ必要ナモノデアル、
軍紀ノ紀ト云フノハ、是ハ織物デアッテ、織
物ハ縱ト橫トノ絲ノ調和ニ依ッテ出來ルモ
ノデアル、畏レ多クモ大元帥陛下ノ聖旨ヲ
奉戴シ、サウシテ之ヲ尊重スルコトハ緯デ
アル、職責尊重ハ經デアル、此ノ經緯ガ
聚ッテ軍紀ノ紀ヲ爲ス所以デアリマス、斯ウ
云フ答辯デアリマス、又軍民一致ト云フコ
トハ極メテ必要デアルガ、兎角此ノ頃ハ下
剋上ト云フ噂ガアル、是ハ國防ニ對シテ大
ナル支障ヲ及スモノデアルガ、此ノ所信ハ
ドウデアルカ、陸相ハ答ヘラレマシク三重
民ガ不一致トハ考ヘテ居リマセヌ、軍民不
一致ト云フコトヲ世間デハ故意ニ言フ者ガ
アルノハ、是ハ國家ノ爲ニ誠ニ憂フベキコト
デアル、有識者ハ此ノ點ニ付テ誠ニ憂ヘテ
下サルノハ感謝スル所デアリマス、益〓軍民
一體ノ實ヲ擧ゲテ時艱ヲ克服スベキ秋デア
リマス、軍ハ此ノ信念ヲ以テ指導ヲ致シテ
居ル、臆測トカ誤解トカアルナラバ之ヲ一
掃シテ、折角御骨折ヲ願ッテ、名實共ニ堅實
ナル一致一體トナッテ邦家ノ爲ニ盡サウト
思フ、ソレカラ又、我ガ國體カラ觀マシテ、
官國幣社ノ御社殿ノ整備ニ遺漏ガアルヤウ
ニ思フガ、此ノ點ヲ整備スル意思ナキヤ、
是ハ國民ノ敬神崇祖ノ念ヲ涵養スル上カラ
大事ナコトデアル、大イニ〓究考慮シマス
ト云フ內相ノ答辯デアリマス、地方ノ財政
ニ關スル內務大臣、大藏大臣ノ監督上ノ處
分ト云フモノガ兎角煩瑣重複ヲ累ネテ居ル
カラ、之ニ一ツ簡易有效ニスル意思ハナイ
ノデアルカ、內務大臣ガ答ヘテ申シマスノ
ニ、庶政一新ハ是ハ必ズシモ大問題ニハ限
リマセヌ、高キニ上ルニハ低キヨリシナケ
レバナラナイ、能ク御趣旨ヲ尊重シテ其ノ
點ニ付テ努力ヲスルト云フコトデアリマ
ス、地方行政機構ヲ改善シテ、全國畫一ノ
弊ト中央集權、此ノ兩者ノ弊ヲ矯正スル
必要ハナイカ、之ニ對シマシテハ內務大臣
ハ、地方制度調査會ヲ設ケルコトニナッテ居
ル、自治ト云フコトハ形式的デナクシテ、
實質的カラモ發達ヲサセナケレバナラナイ
客觀的ニ形式的ニ議決シタモノヲ、直グ正
シイト云フコトニシナイデ、自治體ノ意思
表示自體ガ主觀的精神的ニ正當デアルヤウ
ニ指導シタイト思ッテ居ル、中央、地方ハ
相竝ビ、何事モ中央ニ依存スルト云フ風ヲ
矯正シテ行カナケレバ自治體ハ發展ヲシ
ナイ、斯クノ如クニシテ堅實ニ自治體ヲ發
展サセタイノデアル、首相ハ之ニ對シマシ
テ內相ト同樣ノ意見ヲ持ッテ居ル、地方ノ
特色ハ十分ニ考ヘテ之ヲ發揮シナケレバナ
ラナイ、是ト同時ニ地方ト中央トノ平衡ヲ
保ツコトニ努メル、第二內政、之ニ付キマ
シテ治山、治水ト云フ問題ガ縱橫ニ論ゼラ
レマシタ、山中ノ賊ヲ平グルハ易ク、心中
ノ賊ヲ平グルハ難シト云フ古語ガアル、國
防問題ヲ山中ノ賊トスレバ天災ハ心中ノ賊
デアル、天災ハ豫知スルコトガ出來ナイ所
ニ特色ガアル、明日起ルカモ知レナイ、昭
和九年、十年ノ風水害ノ時ニハ十億圓モ掛ッ
テ居ル、內務當局モ、農林當局モ末流ヲ治
ムルニ止ッテ、肝腎ナル上流ノ砂防工事ヲ
等閑ニ視スルト云フノハ如何ナルコトデア
リマスカ、今日ノヤウナ政府ノ施設ヲ待ッ
テ居ッテハ、百年河〓ヲ待ツモノデアル、昨
年ノ第三分科ノ希望決議ヲ承知シテ居ルカ
ト云フ質問ガアリマシタ、之ニ對シテ政府
ハ、現內閣ノ先ヅ爲スベキコトハ人心ノ安
定ト云フコトガ第一デアル、人心ガ安定ス
ルノニハ物價ノ騰貴ヲ抑ヘナケレバナラナ
イ、ソレデアリマスルカラ大局上カラ豫算
ノ減額ヲシナケレバナラナクナッタ、デ農相
モ之ニ對シマシテ、大局上節減シタ次第デ
アッテ、先ヅ急ヲ要スルモノニ先ヅ差向ケ
テ、其ノ外ハ繰延ベルト云フコトカラ一億
圓ヲ希望シタケレドモ、トウ〓〓八千萬圓
デ折合ッタコトニナッタンダト云フヤウナ質
問應答ガアリマシタ、併シ是ハ十分ニ政府
ニ於テモ將來考ヘルト云フコトデアリマシ
タ、尙上流ニ於ケル砂防工事ニ止ラズ下流
ニ於ケル河川改修工事ニ付テモ色々ノ質問
應答ガアリマシタガ、是ハ省略ヲ致シマス、
次ニ政府ノ東北振興策ハ頗ル手緩イ、積極
的ニモット熱心ニ遂行スル意思ハナイカ、之
ニ對シテ政府ノ答辯ハ次ノ如クデアリマス、
東北振興ハ昭和九年ニ內務省ノ重要國策ニ
數ヘラレタノデアル、現內閣ニ於テモ其ノ
方針ニ變リハナイ、第一ニ綜合計畫ハ全面
的ニハ認メルガ、豫算ノ上ニハ幾ラカ變ッテ
居ルカモ知レマセヌ、出來ルダケ尊重シテ
重大ノコトデアルカラ盡シテ見タイ、東北
興業株式會社、電力株式會社ハ政府ノ施設
ト相俟ッテ盡シテ戴キタイト思フ、此ノ第一
期綜合計畫トシテ六千萬圓ガ調査會デ決定
ヲサレタノデアル、其ノコトハ政府ハ能ク
知ッテ居リマス、尙十分之ヲ尊重スルノデ
アリマスガ、國防充實デ國費厖大ヲ來シタ
今日、前內閣ノ時不本意ナガラ二千三百七
十萬圓ニ削減シタ、然ルニ現內閣ハ更ニ三
百萬圓ヲ繰延ベルコトニシタノハ、現在ノ
經濟力ニ副ハヌモノガアルカラ、又物價騰
貴ノ惡影響ヲ來シマス爲ニ、巳ムヲ得ズ不
本意ナガラ繰延ヲシタ次第デアッテ、決シテ
忽セニスル意思ハナイノデアル、ト云フ
コトヲ懇ニ述ベラレマシタ、其ノ外紀元二
千六百年祝典評議員會ノ件、私設社會事業
ノ統制助成ノ件、公娼問題ノ件等ニ付キマ
シテ色々質問應答ガアリマシタガ、是ハ省
略ヲ致シマス、第三、外交、對支外交ハ廣
田首相ガ岡田內閣以來局ニ當ッテ、所謂三
大原則ヲ立テタノデアル、我々ハ之ニ期待
シテ居ッタ、然ルニ派生的ニ色々ナ事柄ガ發
生シテ來マシテ、外交失敗ノ聲ヲ近頃ハ聞
クノデアル、此ノ外交ハ精神ハ良カッタガ、
運用ガ惡カッタ爲ニ、斯クノ如キ狀態ニナッ
タノデアル、今日外交方針ハ如何ナルモノ
デアルカ、又外交一元化ト云フコトヲ今日
言フガ、ソレハドウ云フコトデアラウカト
云フコトニ付キマシテ、質問應答ガアリマ
シタ、支那ノ現情ハドウデアル、新聞ニ依
ルト、或ハ司令官ガ外交ノ聲明ヲ爲シタ
リ、軍事ノ機關デ外交ニ當ッテ居ルヤウニ
モ見エルノデアル、外交ハ總テ外務省ガ
一元的ニヤッタラドウデアルカ、之ニ對シ
テ外相ノ答辯ハ關係各省ト十分協議ヲシ
テ、一度其ノ方針ガ一決シタ場合ニハ之
ヲ以テ外務省ガ終始スル、現內閣當初ノ聲
明通リ擧國一致ノ外交政策ニ依ッテ外交當
局デヤルコトニナッテ居リマス、國際關係ノ
緩和ト云ッテモ內閣閣僚ノ同心一體ガ其ノ
前ニ必要ダト思フガ、其ノ首相ノ御考ハド
ウデアルカ、ソレニ對シマシテ、二月八日
ノ政綱發表、先ヅ國際正義ニ則ル、而シテ
其ノ後ニ國防、軍備ノコトヲ言フノデアル、
國防第一トハ申サナイ、何モ拔身ヲ突キ付
ケルコトハ面白クナイ、デアルカラ「萬邦
ノ共榮ヲ具現セシムルノ目的ヲ以テ擧國一
致ノ外交國策ヲ遂行シ、國際關係ヲ明暢ナ
ラシムルコトヲ期ス」ト斯ウ申シタノデア
ル、是レ我ガ外交ノ精神デナケレバナラナ
イ、國防ノ充實ハ好戰的意思ヲ持ッテ居リマ
セヌ、帝國ノ安泰ヲ圖ルガ爲ノミデアル、世
間ガ之ヲ好戰的ニ解釋スルコトガ誠ニ不思
議デアル、斯ウ云フ風ニ答辯ヲサレタノデ
アリマス、又陸相ノ答辯ガアリマシタ、擧
國一致ノ外交ト云フコトニ付テハ陸軍モ異
存ガナイ、唯一言シタイコトガアル、最近
數年間ノ支那ハ誠ニ混沌狀態ニアル、色々
ノ計畫ノ實行ニ伴ヒマシテ、協定ガ出來タ、
梅津、何應欽協定ト云フヤウナ協定モアル、
是等ノ協定ノ實行ニ當リマシテハ、情況ニ
依ッテハ直接局ニ當ル者ガ處置ヲ執ルト云
フコトハ實ニ今日ノ場合已ムヲ得ナイ、或
ハ外務省ニ託シ、或ハ兩方デヤルコトモア
リマス、ガ併シ今日ハ斯ウ云フ機宜ノ處置
モ已ムヲ得ナイノデアル、勿論軍司令官自
體單獨ニヤルノデハアリマセヌ、重要問題
ニ付テハ出先ニ於テモ中央當局ノ承認ヲ經
テ實行ヲスルコトニナッテ居リマス、是ダケ
ハ御承知ヲ願ヒタイ、支那側デ十分此ノ協
定ニ從ヒ、忠實ニ實行シサヘスルナラバ、
其ノ存在ハ消滅スルモノト考ヘル、今日ソ
コ迄行カナイノガ誠ニ遺憾デアルト云フコ
トデアリマシタ、ソレカラ「ソ」聯ノ關係ニ付
テ質問ガアリマシタ、之ニ付キマシテハ誤
解ヲ一掃シ、懸案ガアレバ解決シ、兩國交
ノ調節、現下ノ不安狀態ヲ除クコトニ努メ
ルト云フコトデアリマシタ、第四、〓育問
題明治以來〓育ハ山村僻地迄普及シテ居
リマシタ、但シ他面ヨリ見マスルト云フト、
先年〓育疑獄ガ起ッタ、百五十名モ檢擧サレ
タガ、兵庫縣ノ視學ノ如キハ殆ド全滅ヲシ
タ狀態デアッタ、其ノ他〓育界ノ腐敗ハ屢〓、
新聞ニ於テ耳ニスルノデアリマス、又赤化
事件モアル、政府ハ當初ニ於テ政綱ヲ立派
ニ發表ヲサレタノデアル、其ノ中ニ施政方
針ニ於テ〓育問題ガ少シモ書イテナイノハ
ドウデアルカ、首相ハ之ニ答ヘテ申サレル
ノニハ、政綱ノ全幅悉ク〓育デアル、斯ウ
云フ答辯デアリマシタ、併シアレハ誠ニ今
日ノ場合ドウシテモアノ項目ダケハ實行シ
ナケレバナラナイ、之ニ付テハ國民一致シ
テ其ノ〓ヲ自ラシテ行カナクテハナラナイ
ノダ、修養ヲシテ行カナケレバナラナイ、
是レ悉ク〓育デアル、專任文相ヲ置クカ置
カナイカ、文相ハ非常ニ重要ナ位置デアリ
やっ、現內閣ノ生命トモ謂フベキモノデア
ル、目下愼重ニ人選ヲシナケレバナラナ
イ、已ムヲ得ナケレバ自分ガ續イテ勤メテ
モ至當デナイカト考ヘテ居ルト云フ首相兼
文相ノ答辯デアリマス、義務〓育延長ハ如
何是ハ義務〓育延長ハ大體適當デアルト
思フ、唯延長ニ付キマシテハ相當〓究ノ必
要ガアル、又此ノ機會ニ〓育改善ノ、義務
〓育以外ノ方面ヲモ同時ニ考慮スル必要ガ
アルト云フ答辯デアリマス、平生前文相ガ
職ヲ賭シテ迄義務〓育八年制ヲ計畫シ、而
モ十三年度ヨリ實施スル爲ニ若干ヲ計上シ
タ、ソレヲ今度削除シテシマッタ、義務〓育
延長ハ明治初年以來ノ〓育ノ沿革ニ依リマ
シテモ、一等國ノ現情ヨリ見マシテモ必要
ナコトデアル、又他ノ學校制度ノ改善ト同
時ニ行ハナケレバナラナイト云フモノデハ
ナイ、普通〓育ハ普通〓育、高等普通〓育ハ
高等普通〓育、專門〓育ハ專門〓育、各〓、其
ノ間ニ獨立性ガアッテ、相連絡スルノガ〓育
ノ本體デアル、ソレダカラ差當リ義務〓育
ノ延長ヲ單獨ニヤッテモ何等不都合ハナイ
筈デアル、義務〓育ト云フコトハ憲法上ノ立
法事項デハナイ、勅令デ規定シテモ出來ル
ノダ、其ノ點ハドウデアルカ、政府ノ申サレ
ルノニハ、勅令ニ依ルカ法律ニ依ルカハ目下
〓究中デアリマス、併シナガラ義務〓育延
長ハ大體贊成シテ居リマス、次ノ議會迄ニ
提出シタイ、其ノ外師範〓育ノ改善ニ付テモ
同時ニ考ヘタイノデアル、又陸相カラモ〓育
ガ徹底シテ行クト云フコトハ軍ニモ有利デ
アルカラ、義務〓育ヲ八年制ニスルコトハ
軍ハ贊成デアル、其ノ外〓育ニ付キマシテ
ハ、盲啞〓育ニ付テ詳細ナル質疑應答ガア
リマシタガ、是ハ省略致シマス、第五財政、
財政ハ色々問題ガアリマシタガ、其ノ主ナ
モノダケヲ申上ゲルニ止メマス、總理ハ此
ノ財政時局ヲドウ見テ居ルノデアルカ、日
本ハ慢性赤字病ニ罹ッテ居ル、其ノ慢性
赤字病モトウ〓〓赤字ヲ出スコトガ出來
ナクナッテ、民間航空カ何カ富籤ヲヤラウ
ト云フコトマデ贊成シヨウトシテ居ル、第
狀モ茲ニ至ッテ極レリト謂フベキデアル、內
閣ハ此ノ時局ヲドウ一體認識シテ居ルノ
カ、此ノ先ハドウナルカト言ッテモ答辯ハ出
來ナイダラウ、其ノ點ハドウデアルカ、首
相ハ答ヘテ言ハレルニハ、時局ハ洵ニ重大
デアリマス、負擔モ累年增加スル傾向ニア
ル、此ノ難局ヲ打開スルト云フコトニ我々ハ
努メナケレバナラヌ、國際的情勢ガ漸次緩和
スレバ、時局モ緩和スルト思ヒマス、民力、
生產力ガ增進發展ノ〓ニ就イタナラバ、自然
ト國民ノ負擔モ其ノ間ニ於テ緩和スル方法
モアルダラウト思フ、重大時局ト考ヘマス
ガ、日本ノ發展性等ニ鑑ミテ見マスト、日本
ノ財政ハ只今直チニ覆滅スルト云フガ如キ貧
弱ナモノデナイト考ヘマス、ソレカラ又對支
經濟外交上ノ金融機關ト云フヤウナモノハ
ナイノデアルカドウデアルカ、正金銀行ガ爲
替ヲ主トシテヤッテ居ルガ、金融ト云フヤウ
ナコトニ付テハ大キナ力ヲ爲シ得ル力ガナ
イ、微力デアル、何カ金融機關ヲ彼ノ地ニ
設ケテハドウデアルカ、之ニ對シマシテハ
此ノ經濟提携ニハ根本的ニ金融機關ヲ必要
トスルコトハ同感デアリマス、從來ノ金融
機關ハ特殊的デアッテ、不十分デアッタト云
フコトモ認メテ居リマス、今後有ラユル方
面ニ活動シ得ル機關ノ設置ニ付キマシテハ
十分ニ協議シテ考ヘマスト云フコトデアリ
やっ、地方財政調整交付金、此ノ問題ガ又
或ハ內務省ニ關シ或ハ農林省ニ關シ其ノ他
ニ關シテ色々ナ質問ガ出タノデアリマス、
政府ハ地方財政ニ付キマシテハ、中央ノ財
政ヨリモ改革ニ迫ラレテ居ルト云フコトヲ
認メテ居ル、今日ノ所相當ノ交付金ヲ致ス
コトハ必要デアラウト云フコトカラ、七千
萬圓ヲ計上シマシタ、尙各方面ノ御說ヲ承
リマシテ、都市ト農村ノ負擔均衡ノ上カ
ラ、更ニ追加豫算デ以テ三千萬圓ヲ增額致
シタノデアリマス、兎角論ニナッテ居ル所ノ
戶數割ノ廢止問題ニ付キマシテハ、是非ノ
議論ガ一定シテ居ラナイ、地方稅制ヲ大キ
ク一般的見カラ新シク改革スル場合ニ於テ
是ハ考ヘルコトトシテ、此ノ際ハ見合セタ
ノデアル、卽チ之ヲ廢メテシマフカ、殘ス
カト云フコトハ、次ノ大キナ稅制ヲ考ヘル
時ニ同時ニ考ヘタイト思フ、內務大臣ハ言
ハレルノニ、戶數割ノ如キモ一面ニハ弊ガ
アリマス、又他方面カラ見レバ洵ニ融通性
ニ富ンデ居ル、又地方自治體ノ基礎ヲ爲ス
モノデアリマス、此ノ故ニ來年度中央、地方
ノ稅制財政ノ根本方策ヲ立テル時ニ確定案
ヲ決メヨウト思ッテ居ル、戶數割等モサウ輕
輕ニ廢止スベキモノデハナイデアラウト云
フ考ヲ持ッテ居リマス、次ニ重大問題ノ一ツ
トシマシテ、金ノ現送ニ付テノ質問ガ
アリマシタ、是ハ政府ハ心配ガナイト
云フノデアリマス、思惑輸入ガ今殺到シ
テ居ルモノダカラ、是ガ爲替ニ變動ヲ來
シテ、一時的ニ弱含ミニナッタノデアル、
併シ段々今日ハ强含ミニナッテ居ルノデ心配
ハナイト思フ、或正貨ヲ外國ニ於テ決濟ニ
充テルト云フコトハ差支ナイ、而モ年產一
億數千萬圓ノ金ガ出マスガ、之ヲ此ノ中カ
ラ賄ヒ得ル程度ト今日ハ考ヘテ居ル、此ノ
故ニ正貨準備ニハ觸ラナイ、又兌換ニハ影
響シナイト云フ考デアリマス、第六、拓務
行政、拓務行政ノ重要性ニ鑑ミマシテ、拓
務省ノ擴大ヲ圖ルヤ否ヤ、政府ハ之ニ對シ
マシテ、申サレルノニハ、其ノ任務ハ頗ル
重大デアル、拓務省ヲ擴大スルト云フコト
ハ、十分ニ考ヘテ檢討スベキモノデアルト
考ヘル、拓務行政ノ强化ハ考ヘルガ、今ノ
儘ニ擴大スルカ、其ノ形ヲ變ヘルカト云フ
コトハ、今日明答ハ出來マセヌ、斯ウ云フ
話デアリマス、滿洲問題、移民ノ問題ニ付
キマシテハ著々トシテ今日好イ結果ヲ聞ク
ノデアルガ、將來ニ付テノ政府ノ所見ハド
ウデアルカ、前內閣ハ重要國策トシテ滿洲
ノ移民ヲ計畫シテ、二十年間ニ百萬戶、其
ノ第一步トシテ五箇年間ニ十萬戶ト云フコ
トヲ計畫シタ、現内閣ニ於テモ大體之ヲ踏
襲シタイノデアリマス、昭和十二年度ニハ
集團移民五千戶、自由移民一千戶トシテ本
豫算ニ計上シタノデアル、其ノ實行方法ハ
今迄通リヤルノデアル、先ヅ內地デ訓練ヲ
シマシテ滿洲ニ送ル、滿洲デハ滿洲國政府
ト滿洲拓殖會社トノ間ニ連絡ヲ能ク取ッテ、
其ノ世話ヲスルコトニナッテ居ル、滿拓ニ千
五百萬圓デ、サウ云フ行屆イタ世話ガ出來
ルカドウカ、政府ノ申シマスニハ、之ヲ日
滿合辦ノ會社トシテ、增資ヲシナケレバイ
ケマセヌ、改組後ノ滿拓會社ハ移民國策ノ
代行機關トナリマシテ、形式ハ株式會社デ
營利的デアリマスケレドモ、其ノ實質ニ於
テハ營利的デハナイ、資金融通モ長期低利
トシテ、全ク其ノ國家的見地カラ活動スル
國策會社デアル、移民犠牲者ノ慰安方法ヲ
モウ少シ考ヘタラドウデアルカ、軍隊ニハ
犠牲ニナッタ者ニ對シテハ國家ハ色々之ニ
對シテ慰安ヲシテ居ル、然ルニ軍ニ屬セザ
ル者デ以テ、軍人同樣ノ犠牲トナッタ者ガア
ルシ、又今後モ出ルノデアルガ、是ハモウ
少シ慰安ノ方法ヲ考ヘタラドウデアルカト
云フコトデアリマス、之ニ付テノ質疑應答
ガアッテ、當局ニ於テハ十分ニ考慮スルト云
フコトデアリマス、以上ハ質問ニ付テノ〓
略ヲ述ベタノデアリマシテ、此ノ外ノ質問
モ決シテ輕々シイモノデアルト云フ私ノ考
デハアリマセヌ、何レモ重要ナル質問デア
リマスガ、此ノ際ハ速記錄ニ御讓リ致シタ
イト思ヒマス、三月二十二日ノ午後、大體
質問ガ濟ミマシテ、二十三日ヨリ各分科會
ニ於テ審査スルコトト決定致シマシタ、又
不日昭和十二年度追加豫算ヲ受領スルコト
ニナッテ居リマスノデ、此ノ際ニハ之ヲ總會
ニ付セズ、直チニ各分科會デ審議スルト云
フコトヲ諮リマシタガ、異議ナク決シマシ
ク、三月二十三日ノ午前カラ同二十七日午
前ニ亙ッテ分科會ヲ開イテ審議致シマシタ、
三月二十七日午後豫算委員會ヲ開イテ各分
科主査ヨリノ報〓ヲ伺ヒマシタ、ソレカ
ラ質問ニ入リマシタ、此ノ質問ニ付テモ簡
單ニ申上ゲテ置キマス、先ヅ對支問題ガ出
マシタ、次ニ治山治水ニ付テ更ニ前ヨリモ
突込ンダル質問ガアリマシタ、ソレニ對シ
テ內務大臣ハ砂防ハ改修ト竝行シテ完備ス
ルコトガ最モ重要デアル、砂防ニ付テハ十
二年度カラ二千五百萬圓デ繼續費トシテヤッ
テ居リマスガ、是デハ不十分デアリマス、
前囘第三分科ノ希望決議ニ鑑ミマシテ、國
家財政ノ許ス限リ、治山治水計畫ヲ擴大シ
テ遺憾ナキヲ期スルコトニ致シマス、首相
カラモ同樣ノ考デアルト云フコトヲ申サ
レマシタ、ソレカラ昭和十四年ニ「ニユー
ヨーク」或ハ「サンフランシスコ」ニ世界博覽
會ガアル、日米ノ國交上ニモ是ハ重大ナル
關係ガアルノデアリマスカラ、之ニ加盟スル
ト共ニ、其ノ經費モ恥シクナイヤウニ、又
立遲レヲシナイヤウニ、十分ニシタイト思
フノデアルガ、政府ノ所見如何、商工大臣
ハ我ガ文化產業ノ現情ヲ宣傳スル爲ニ是非
參加シタイ、又出來ル限リ一日モ早ク其ノ
準備ヲ促進スル考デアル、外務大臣ヨリモ
同樣ノ言明ガアリマシタ、玆ニ一ツ重要ナ
ル御話ヲ申シ上ゲル問題ガアリマス、所謂
實際豫算ニ關スル問題デアリマス、最後ニ
一委員カラ是非確メテ置キタイト云フノ
デ、此ノ實際豫算ト云フコトニ付テノ質問
ガアリマシタ、陸海軍兩省所管ニ關
スル所謂實際豫算、其ノ意義ハ何デアルカ、
二、若シ實際ニ使用スル豫算ナリトセバ
其ノ使用スルト云フコトハドウ云フ意味デ
アルカ、三、豫算ノ使用ハ契約、處分、命
令等ニ始リ現金ノ支拂ニ終ル、物品ノ購入、
工事ノ契約等ガアルナラバ、現金ノ支拂ナ
キモ既ニ豫算ノ實行ガアル、之ヲ豫算ノ實
際使用ト見ザルカ、四斯カル契約モ爲サ
ナイ、命令モ行ハナイトスレバ、何ノ必要
アッテ之ヲ豫算ニ計上スルカ、斯ウ云フ質問
ガ出タノデアリマス、之ニ對シマシテ政府
ガ答辯ヲ致シマシタ、是ハ間違フトイケナ
イカラ政府ノ言ッタ儘ヲ朗讀ヲ致シマス、「所
謂實際豫算額ト云フノハ法律上ノ用語デハ
アリマセヌ、政府ハ經濟界ノ事情ニ適應ス
ル爲メ豫算ノ實行上使用ヲ見合サムトスル
金額ニ付キマシテ、使ハナイト云フ決心ヲ
シタカラ法律上卽チ形式上豫算額ヨリ之ヲ
差引イタモノヲ斯ク稱シタモノデアリマシ
テ、之ヲ發表スルコトガ適當デアルト認メ
タ次第デアリマス」、是ハ所謂實際豫算額ノ
意味如何ト云フコトニ對スルモノデアリマ
ス、第二ハ使用見合セノ意味ハドウデアル
カト云フノデアルガ、使用見合セノ金額ニ
付キマシテハ、本年度內ニ於テ將來支出ノ
原因ヲ爲スベキ契約等ヲ絕對ニ爲サザル意
味ナリヤトノ御趣旨ノ質問ニ對スルモノデ
アリマス、「政府ガ前內閣ノ編成シタ豫算ニ
付キ之ニ變更ヲ加ヘル必要ヲ認メタノハ、
經財界ノ情況殊ニ物價騰貴ノ趨勢ニ鑑ミマ
シテ、政府支出ノ減少ニ依ッテ直接間接ニ
政府竝ニ民間ノ物資ノ需要ノ減少ヲ圖ラム
トスルコトガ重要ナ目的デアリマスカラ、
陸海軍ニ於テモ困難ヲ忍ンデ此ノ目的ノ達
成ニ努メタ次第デアリマシテ、陸海軍兩省
ノ經費ハ、金額ハ多額ニ上ルト雖モ、今日ノ
國際情勢、國防上ノ必要ヨリ見マスナラバ、
各款項トモ極メテ切詰メタモノデアリマシ
テ、到底此ノ際何レノ款項ニ於テモ之ヲ修
正スルコトガ出來マセヌ、提案額ニ付キ協
贊ヲ求ムルコトヲ必要トスルモノデアッテ、
今後實行上苦シキヲ忍ビ、有ラユル努力ヲ
爲シテ實行上年度內支出ヲ見合セムトスル
モノデアリマシテ、元來ノ趣旨ガ物資ノ需
要減少ニ依ルノデアッテ、年度內ニ於テ支拂
ヲ爲サザルハ固ヨリ、國防上忍ビ得ル限度
ニ於テ出來得ル限リ物資購入等ノ契約ヲモ
成ルベク後ニ延バサムト努ムル方針デアル、
卽チ購買等ノ契約ノ遲ケレバ遲イ程物資需
要ノ急增ヲ防ギ得ルヲ以テデアリマス、右
ノ趣旨デアリマスカラ、支出ノ原因タル契
約ヲモ出來得ルダケ後年度ニ延スベク努力
スル方針デアリマスガ、國防上絕對ニ忍ビ
難キヤウナル場合ニハ、年度內ニ契約スル
コトハ必ズシモナイト云フコトヲ保シナイ」
ト云フ、斯ウ云フ答辯デアリマス、是ヨリ
討論ニ入リマシタ、一委員ヨリ豫算ノ提出
ニハ妥當ヲ缺ク點ガアルト思ヒマスガ、內
閣成立後ノ現勢カラ考ヘマスト、是モ亦諒
トスベキ點ナキニモシモ非ズデ、此ノ點ニ
付テハ只今敢テ追究シマセヌ、併シナガラ
ドウカ是ハ前例ニナラナイコトヲ政府ニ警
告シマス、全幅ノ滿足ヲ以テ贊成ハ出來ナ
イケレドモ、國家ノ現情ニ鑑ミ、國民總動
員ノ覺悟ヲ以テ時艱ヲ克服スベキヲ思ヒ、
豫算各案ニ對シテ贊成ノ意思ヲ表示シマス、
斯ウ云フ發表ガアリマシタ、軈テ採決ニ入
リマシタル所、全會一致ヲ以テ豫算案全部、
各分科會主査報告通り可決ニ相成リマシタ、
尙次ノ希望決議モ、全會一致ヲ以テ可決致
シマシタ
第七十囘議會豫算委員會希望決議
一政府ハ本豫算ヲ實施スルニ當リ經濟界
ニ急激ナル變動ヲ與ヘ國民生活ニ不安
ヲ生ゼシメザルヤウ深甚ノ注意ヲ拂ハ
レンコトヲ望ム
一今期議會ニ於ケル豫算提出ノ方法及其
ノ處置妥當ヲ缺クモノト認ム政府ハ將
來深ク注意スヘシ
前者ニ付テ簡單ニ申上ゲテ見レバ、今日ノ
今囘提出サレマシタ所ノ豫算ト云フモノハ
全ク赤字豫算デアル、增稅豫算デアル、之
ニ依ッテ物價ガ上ッテ來タノハ當然デアル
シ、又將來モ大イニ上ルデアラウ、從ッテ
此ノ民間ノ會社ニ於テハ、其ノ職員ノ俸給
ヲ增加スルト云フコトハ、之ハ出來ルコト
デアラウ、必ズ行クダラウ、然ルニ官吏ノ
如キニ至ッテハ、イツ迄モ同一ノ俸給デ
テッチ、之ヲ元ニ戾スト云フヤウナコトハ
容易ナコトデナカラウ、又一例ヲ擧ゲテ見
マスト云フト、東京市ノ一端ニ在ル所ノ川
口ニ於ケル鑄物工場ヲ見マスルト、鐵ガ寔
ニ不足シテ、一向工場ヲ買ハウトシテモ買
フ物ガナイ、從ッテ仕事ヲ休マナケレバナ
ラヌ、休メバ茲ニ職工ノ不安モ起ッテ來ル
ノデアル、色々ノ事情ガ政府ニアルサウデ
アルガ、之ハ尤モデアルト思フ、斯ウ云フ
風ナ工合ニ國民生活ニ不安ヲ生ゼシメルヤ
ウナコトガアッテハ甚ダイケナイガ、之ニ
付テハ將來大ニ注意ヲ拂ッテ貰ヒタイト云
フノデアリマス、又此ノ第二ニアリマシタ、
今期議會ニ於ケル豫算案提出ノ方法及其ノ
處置妥當ヲ缺クモノガアルト云フコトニ付
テノ警告ハ、斯ウ云フ大體ノ意味デアリマ
ス、政府ノ答辯ニ依リマスレバ、所謂使用
見合セ額ナルモノハ、嚴格ニ申シマスト、
其ノ實使用ヲ必要トスルモノデアッテ、其
ノ實行上見合セムトスルモノハ單ニ現金ノ
支拂ヲ猶豫スルノ意ニ過ギナイノデアル、
斯カル事項ハ豫算トシテノ問題デハナイ、
經常臨時ノ區別サヘシナイ款項ノ區別ハ之
ヲ決定シナイ、斯ウ云フ豫算ト云フモノハ
アルベキモノデナイ、憲法上ノ豫算デモナ
ケレバ、行政法上ノ豫算トモ言ヘナイノデ
アル、實際豫算ト云フヤウナ言葉デ云々ス
ルノハ是モ更ニ不可解ノコトデアル、是ガ
爲メ實際使用ニ必要ノナイモノヲ豫算ニ計
上シタル如キ疑ヲ生ゼシメ、憲法上、會計
法上各種ノ紛議ヲ生ジタノハ頗ル遺憾ニ堪
ヘナイコトデアリマス、思フニ苟モ政府ガ
勅命ヲ奉ジ、帝國議會ニ提出シタル豫算ニ
懸値ヲスルトカ、或ハ不要ノ金額ヲ含マセ
ルト云フガ如キコトハ、許スベカラザル事
態デアル、我ガ陸海軍當局ガ、不必要ナル
豫算ヲ要求シタト云フコトハ斷ジテ信ズル
能ハザル所デアルガ、況ヤ今囘ノ如キ其ノ
已ムベカラザル國防上ノ必要ノ爲ニ、重大
ナル負擔ヲ國民ニ課セムトスル場合ニ於テ
尙更然リト思フノデアル、然ルニ今囘ノ事
タル陸海軍豫算ノ如キ、所謂實行上使用見
合セ額ト云フモノハ、他ノ各省豫算ニ於テ
修正減額セラレタモノト、其ノ關係ヲ全ク
異ニシテ居リ、眞ニ國防上避クベカザル經
費デアル、是ガ要求ヲ阻止スルコトガ出來
ナイ、唯兩省豫算ノ實行上、每年度相當多
額ノ繰越ノアル實際ニ鑑ミテ他省ト協力シ
テ、其ノ財政上ノ重壓ヲ緩和スルガ爲、
各〓二千三百萬圓ノ程度ニ於テ、成ルベク
支拂ヲ猶豫セムコトヲ約束シタモノデハナ
カラウカ、是ナラバ甚ダシク國防計畫ノ遂
行ヲ妨ゲルコトナクシテ實行シ得ルデアル
カモ知レナイ、併シナガラ之ハ單ニ自然ニ
生ズベキ繰越ヲ見合セタ機宜ノ處置ニ過ギ
ナイノデアリマシテ、斯ウ云フコトハ、軍
部當局ト財政當局トノ間ニ於ケル政府部內
ノ了解事項タルニ止リ、豫算案提出ニ關ス
ル對帝國議會ノ直接交涉事項デナイ、然ル
ニ政府ハ當初ヨリ正式ノ豫算ヲ提出スルト
同時ニ、實際豫算ナルモノヲ提出シテ、
兩々相對シテ恰モ不可分的ニ形影相伴フ姿
ヲ成シ、人ヲシテ常ニ一ハ實際上ノ豫算、
ハ假裝的ノ豫算デアルカノ如キ感ヲ懷カシ
メ、爲ニ疑惑ト議論ヲ生ゼシメタノハ、政府
ガ豫算ノ取扱ヲ誤リ、之ニ關スル說明ノ徹
底シナカッタ結果デアッテ、眞ニ遺憾デアル
ト云フノガ大體ノ意見デアリマシテ、是ガ
卽チ提出方法竝ニ其ノ處置妥當ヲ缺クモノ
ト認ムト云フコトノ內容デアリマス、六一
昭和十二年度追加豫算ニ付テ其ノ經過ヲ申
上ゲマス、本追加豫算案ハ三月二十七日午
後衆議院カラ本院ニ送付受了致シマシタ、
玆ニ追加豫算案ノ大要ヲ簡單ニ述べマス、
昭和十二年度一般會計歲入歲出總豫算追加
第一號、同ジク特別會計歲入歲出豫算追加
特第一號、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契
約ヲ爲スヲ要スルノ件追第一號、甲、總豫
算追加第一號、歲入歲出ニ於テ五千八百十
餘萬圓、歲入ノ內譯ハ、一、普通歲入
ノ增加ガ六百五十餘萬圓、二、公債金ノ增
加五千百六十餘萬圓、其ノ內譯金ノ現
送在外資金充實ノ爲ニ伴フ貨幣交換差金
五百八十餘萬圓、此ノ五百八十餘萬圓ノ歲
入ト致シマシテ、交換差金ト云フノハ金ハ
今日十三圓ナニガシデ以テ政府ガ買ッテ居
リマス、之ヲ外國ニ賣リマスト云フト、十
四圓ナニガシデ一圓ノ其處ニ差額ガ出ル、
其ノ差額ノ合計ガ五百八十餘萬圓、歲入ト
ナッテ現レテ居ルト云フコトデアリマス、
第二ハ歲入補塡公債ノ增加ガ五千百十餘萬
圓滿洲事件費公債ノ增加四十餘萬圓、歲
出ノ內譯ヲ申シマスレバ、第一ニハ臨時地
方財政補給金ノ增加三千萬圓、是ガ此ノ追
加豫算ノ大眼目デアリマス、本豫算ノ七千
萬圓ヲ加ヘテ一億萬圓トナルコトハ御承知
ノ通リデアリマス、第二、道縣災害土木費
補助等ノ增加ガ六百四十萬圓、九州地方其
ノ他各地風水害復舊施設費二百餘萬圓、是
ハ昭和十二年度カラ三年間ニ千六百十餘萬
圓ト云フモノガ出來テ居リマス、其ノ中ノ
年度割デアリマス、第四、英國皇帝陛下戴
冠式記念觀艦式參列軍艦派遣費八十餘萬
圓第五、第十二囘「オリムピック」大會費
補助七十餘萬圓、第六、北樺太石油資源開
發助成費ノ增加六十餘萬圓、第七、帝國燃
料興業株式會社設立費五百餘萬圓、第八、
紀元二千六百年記念萬國博覽會開催助成金
五十萬圓、第九、滿洲拓殖會社出資拂込金
九百萬圓デアリマス、ム特別會計ノ追加
豫算特第一號、是ハ國債整理基金、公債
金關東局、帝國大學、同資金部、官立大
學資金部、朝鮮總督府ノ各特別會計ニ屬ス
ルモノデアリマス、丙豫算外國庫ノ負擔
トナルベキ契約ニ關スル件追第一號、足人
道縣災害土木費補助、北樺太石油株式會社
ニ對スル助成金、同社ノ社債元利保證、滿
洲拓殖會社出資金竝社債元利ノ保證等デア
リマス、是等ハ簡單ニソレダケノ說明ニ止
メテ置キマス、三月二十八日午前各分科會
デ審議ヲ爲シマシテ、同日午後豫算委員會
ヲ開催致シマシタ、此處デ質問ニ入リマシ
テ、「オリムピック」大會ニ關スル質問ガア
リマシタ、「オリムピック」大會デ我ガ國ヲ
紹介スルノハ誠ニ結構デアルガ、我ガ靑年
ニハ國際道德的訓練ガ足リナイ、從ッテ日本
精神ヲ動モスレバ誤解サレムトスル虞ガア
ル、然ルニ先般「ベルリン」デ行ハレマシタ
所ノ「オリムピック」ノ狀態ハドウデアルカ
ト云フト、「ナチス」ハ誠ニ能ク靑年國ヲ訓練
シテ居リマシテ、誠ニ此ノ「ナチス」ノ精神
ヲ能ク海外ニ發揚シタノデアル、我ガ當局
ニ於テハ今ヨリ此ノ點ニ付テ考慮シテ、サ
ウシテ我ガ日本ノ眞相ヲ紹介スルト云フコ
トニ遺憾ナキヲ期サナケレバナラナイガ、
文相ノ御感想ハドウデアルカ、首相兼文相
ハ之ニ對シテ申サレマシタ、日本精神ハ誠
ニ崇高ナモノデアッテ、徒ニ口舌ヲ以テ宜傳
スベキモノデナイ、不言實行、以心傳心、
這ノ間ニ外國ノ靑年ヲシテ直感シテ嘆美サ
セルト云フコトガ必要デアル、公明ナル態
度、信義ヲ重ンズル態度、淡白、酒落ノ氣
分等ノ日本精神ノ善點ヲ、言ハズ語ラズノ
間ニ彼等ニ直感サセル、自然ニ是ガ發現ス
レバ、其ノ結果トシテハ自分カラ外容ヲ感
動セシムルモノ深イモノデアルト考ヘル、
先ヅ監督者自身ガ反省ヲシテ、然ル後靑年
ヲ能ク訓練スルヤウニシタイト思フ、此ノ
點ハ十分ニ今日ヨリ準備スルト云フ答デア
リマス、軈テ討論ニ入リマシテ採決ニ移リ
マシタル所、本追加豫算案ハ、各分科主査
ノ報告通リ、全會一致ヲ以テ可決ニ相成リ
マシタ、以上ヲ以チマシテ昭和十二年度ノ
總豫算案竝ニ追加豫算案ニ關スル豫算委員
會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓致シマシテ、之
ヲ以テ報告ヲ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=4
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005・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 質疑ノ通告ガゴ
ザイマスカラ、順次之ヲ許シマス、關屋貞
三郞君
〔關屋貞三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=5
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006・關屋貞三郎
○關屋貞三郞君 會期切迫ノ今日、多クノ
質問ハ政府ニ於テモ、同僚諸君ニ於テモ御
迷惑トハ思ヒマスルガ、私ハ國防充實ト共
ニ、政府ノ大イニ力ヲ用ヒラレテ居ル國民
生活安定ニ最モ關係深キ、社會事業施設助
成ノ問題ニ付キ、政府ノ所見ヲ質シタイト
思フノデアリマス、本件ニ付キマシテハ本
議會ニ於テ、衆議院ニ於テ建議モアリ、又
我々ト志ヲ同ジウスル同僚ヨリ、豫算總會
ニ於テモ簡單ニ質問ガアリマシタガ、今日
ハ幸ニ總理大臣ヲ初メ關係各大臣御揃ヒノ
好機會デアリマスルカラ、玆ニ御質問ヲ申
上ゲルノデアリマス、成ルベク極メテ簡單
ニ申述ベマスルカラ、暫時御靜聽ヲ願ヒマ
ス、近來社會事業ガ社會現實ノ狀況ニ直面
シ其ノ必要ニ迫ラレ、中央地方トモ其ノ規
模ヲ擴張シ、又施設ヲ新タニシ、其ノ數ヲ
增加シツヽアルコトハ事實デアリマス、從ッ
テ中央政府ノ豫算モ地方公共團體ノ豫算モ
自ラ增加シ來ッタコトハ當然ナ事デアリマ
ス、殊ニ今議會ニ於テ政府ハ救護法、軍事
救護法及結核豫防法ノ改正、母子保護法、
國民健康保險法、保健所法等ノ諸案ヲ提出
セラルヽ一方、之ニ伴ヒ其ノ豫算ヲ增加計
上セラレマシタコトニ付テハ、其ノ法規ノ
內容若シクハ豫算ニ付キマシテハ未ダ以テ
十分ナリトハ致サナイモノガアリマシテ
モ、是等ニ依ル施設ナリ經費ナリガ國民生
活ノ安定ニ資スルモノデアルコトハ疑ナイ
所デアリマス、私ハ此ノ點ニ於テ政府ノ努
力ヲ多トスルモノデアリマス、又政府ガ濟
生會ヲ初メ特殊ノ團體ニ對シ補助金ヲ支出
セラレテ居ルコト、及ビ預金部資金、簡易
生命保險積立金等ヨリ低利資金ヲ社會事業
ノ爲ニ融通セラレテ居ルコトモ承ッテ居リ
マス、唯茲ニ一ツ取殘サレテ居ルモノデ、
而モ多年希望セラレテ居ルニモ拘ラズ其ノ
儘ニ相成ッテ居ルモノガアリマス、ソレハ一
般社會事業施設ニ對スル助成ノ問題デアリ
マス、御話ヲ簡明ニスル爲ニ少シク數字ヲ
申上ゲマス、社會事業施設ノ數ハ約一萬二
千、其ノ中三分ノ二ハ民間ノ事業デアリマ
ス、經常費ハ一箇年約五千萬圓、之ニ對シ
テ政府ノ獎勵助成費一箇年、昭和十一年度
デアリマスガ二十數萬圓、是ハ奬勵助成ノ
意味ヲ以テ數百ノ優良團體ニ下付セラルヽ
モノデアッテ、其ノ恩惠ハ一般ニハ及ビマセ
又、社會施設一年ノ經常費五千萬圓ニ對シ
二十數萬圓ハ、先ヅ二百分ノ一位ノモノデ
アリマセウ、以上ノ事ハ勿論所管大臣タル
內務大臣及司法大臣、外地ノ方面デハ拓務
大臣モアリマスガ、御關係ノ大臣ハ夙ニ御
承知ノコトト思フノデアリマスルガ、總理
大臣、大藏大臣ハ恐ラクハ或ハ初メテ此ノ
事實ヲ御聞キニナルコトカト思フノデアリ
マス、生活安定ヲ希望セラルヽ他ノ閣僚諸
公ニ於カセラレテモ、之ヲ聞イテ意外ノ感
ヲ御起シニナルコトト信ジマス、而シテ此
ノ奬勵助成ハ紀元節當日ニ宮內省ノ御下賜
金ト共ニ下付セラルヽモノデ、大正十年以
來實行セラレ今日ニ及ンデ居ルモノデアリ
マス、宮內省御下賜金ハ全ク斯業御奬勵ノ
思召ヲ以テ御內帑ヨリ御下賜アラセラル
モノデアリマシテ、拜受者ハ恐懼感激致シ
テ居ルノデアリマス、拜受團體ニ於テハ之
ヲ積立テマシテ記念基金トスルモノ、或ハ
之ニ依リテ記念建築物ヲ設クルモノモア
リ、只管聖恩ノ萬一ニ報イ奉ラムコトヲ期
シテ居ルノデアリマス、政府ノ奬勵助成ハ
最初大體宮內省ノ御下賜金ト同一步調ヲ取ッ
テ來タノデアリマスガ、昭和五六年頃ニハ一
般經費ト同樣ニ緊縮減少セラレタノデアリ
マス、社會救濟ノ必要ガ甚ダ切ナルモノガ
アッタ時機ニ於テ却テ著イシ減少ヲ見タコ
トハ、當時宮內省ニ於テ年々御下賜金ヲ御
增額ナサレタニ比シ、意外千萬ニシテ、政
府ノ認識又ハ識見ヲ疑ッタ者モ少ナクナカッ
タノデアリマス、幸ニ數年前ヨリ稍〓增加シ
昨年ハ前述ノ額ニナッテ居リマス、ソレニ致
シマシテモ經常費五千萬圓ニ對シ僅ニ二十
數萬圓ト云フ少額デアリマス、是ダケノコ
トヲ申上ゲマシテモ、私ノ此處ニ立チマシ
タ目的ノ一班ハ御了解下サルコトト存ズル
ノデアリマス、併シ尙申上グベキ更ニ重要
ナル問題ガアリマス、ソレハ低金利ト物價
騰貴ノ社會事業施設ニ及ス影響デアリマ
ス、社會事業團體ノ保有スル利子ヲ生ズル
資產ハ約二億五千萬圓ト推定セラレマス、
昭和五六年頃有價證劵ノ利廻リ約六分ノ時
代ニハ年收約一千五百萬圓デアリマシタモ
ノガ、現在利廻リ四分ト見テ約一千萬圓卽
チ五百萬圓ノ減少デアリマス、又他面物價
騰貴ヲ假ニ二割ト致シマスレバ、經常費五
千萬圓ニ對シ一千萬圓ノ減額トナリマシ
テ、一ハ收入減トナリ他ハ支出增トナッテ居
ルノデアリマスガ、兎ニ角經常費ニ於テ併
セテ一千五百萬圓ノ打擊ヲ被ッテ居ルト云
フ勘定デアリマス、殊ニ篤志家ノ寄附モ增
稅、低金利、物價騰貴等ノ爲ニ、漸次手控
ヘセラレルヤウナ傾向ガ近來顯著デアリマ
シテ、社會事業經營ノ困難ハ當然增大セラ
レ、前途頗ル寒心ニ堪ヘナイモノガアルノ
デアリマス、斯クノ如キ次第デアリマスカ
ラ、政府ハ是非至急是等ノ施設ニ對シ、何
等カノ對策ヲ講ゼナケレバナラヌト云フ狀
態ニアルコトハ、火ヲ睹ルヨリモ明カデアリマ
ス、低金利ト物價騰貴ト稅制ノ問題ハ、二重ニ
モ三重ニモ、公益團體ニ影響スルコトハ、獨リ
社會事業施設ニ關スルノミナラズ、〓化、育
英、學術奬勵等、其ノ他公益ヲ目的トスル諸團
體ニ對シテモ同樣デアリマスルガ、是等ノ
諸團體ハ社會事業トハ自ラ多少異ナル所モ
アリマシテ、今日ハ國民生活安定ト云フ立
場カラ、特ニ社會事業施設ニ對シテノミ御
話ヲ申上ゲテ居ルノデアリマスカラ、廣ク
一般公益團體ニ付キマシテハ申述ベナイノ
デアリマスガ、其ノ影響ヲ受クル點ニ於テ
ハ略〓同樣ナルモノガアルト存ジマシテ、此
ノ際特ニ政府ノ御注意ヲ促シテ置キタイト
存ジマス、社會事業施設ハ全國ニ於テ約一
萬二千、其ノ三分ノ二ハ民間ノ事業デアル
ト云フコトハ前ニ申上ゲマシタガ、ザット其
ノ種類ヲ申シマスレバ、病人ノ爲ニ施藥救
療ヲ致シテ居ルモノ、老人ノ世話其ノ他色
色ト困ッテ居ル人々ノ救護ヲ行ッテ居ルモ
ノ、子供ノ保護ヲ致シテ居ルモノ、刑務所
ヨリ釋放セラレタ人々ヲ保護善導シテ居ル
モノ、其ノ他救貧、防貧、〓化ノ爲メ、諸
施設ガ色々アリマスルガ、是等ハ何レモ國
家公共團體ニ代ッテ、國民ノ救護ヲ盡シ、其
ノ福祉ノ增進ニ顯著ナル實績ヲ示シテ居ル
ノデアリマス、是等社會事業施設ノ經營ノ
中ニハ、名譽トカ位地トカ榮達ヲ顧ミズ、
中ニハ自己ノ財產ヲ傾ケ盡シ、其ノ全生涯
ヲモ此ノ事業ノ爲ニ捧ゲテ居ル人モ少クナ
イノデアリマス、又自分自身ノミナラズ、
一家總掛リデ之ニ當ッテ居ル者モアルノデ
アリマス、中ニハ親子二代、或ハ更ニ父祖三代
ニモ亙リ、而モ七十、八十ノ高齡ヲモ顧ミズ、
孜々汲々トシテ數十年一日ノ如ク働イテ下
サル方モ今日尙存スルノデアリマス、此處
デ其ノ方々ノ御名前ヲ申上ゲルコトハ差控
ヘマスガ、是等ノ方々ニ對シテハ我々唯々
感謝致ス外ハアリマセヌ、而モ是等ノ尊敬
スベキ人々ハ、單ニ我々同胞ノ中ニアルノ
ミナラズ、我ガ國ニ多年在留スル外國人ノ
中ニモ少クナイノデアリマス、近時社會政
策的施設ノ實施ニ伴ヒマシテ、漸ク公營社
會事業ノ勃興ヲ見ルノデアリマスガ、斯カ
ル趨勢ノ中ニアリマシテモ、前述ノ如ク民
間社會事業家ガ不遇者ニ對スル情熱ト奉仕
ノ至誠、更ニ斯業運營ニ關スル不斷ノ努力
ト不撓ノ精神トニハ何等變ル所ガナイノデ
アリマス、今現ニ是等ノ人々ニ依ッテ十萬ノ
兒童ガ保護サレ、五萬ノ老人ガ養ハレ、刑餘
ノ人一萬ガ輔導ヲ受ケ、約百八十萬ノ病者
ガ醫療ヲ受ケテ居ルノデアリマス、此ノ目
立タナイ、又目立タセヤウトモシナイ民間
社會事業從事者ノ奉仕ニ對シテハ、誠ニ感
激ニ堪ヘナイモノガアルノデアリマス、彼
等ノ中ニハ觀櫻、觀菊ノ御宴ニ召サレ、地
方行幸ノ際ニハ拜謁、御陪食ノ光榮ニ浴シ、
或ハ恭クモ位動其ノ他ノ恩賞ヲ拜戴シ、又
國家其ノ他ヨリノ表彰ヲ受ケ、感激ニ咽ン
デ淬勵ノ誠ヲ誓ヒ、只管奮鬪努力致シテ居
ル者モ尠クアリマセヌ、併シナガラ諸君、
彼等ノ奉仕的行爲ガ榮譽ノ冠ニ依ッテ報イ
ラレ、又奬勵慰安ニ依ッテ力付ケラレテ居リ
マスルコトハ有難イ極ミデアリマスガ、彼
等ノ前ニハ荊棘ノ難路ガ次カラ次ヘト續ク
ノデアリマス、斯クノ如クシテ民間社會事
業從事者ハ今日此ノ非常ノ時局ニ際會シ、
彼等ノ目前ニ不遇ナル同胞ガ日ニ夜ニ激增
スルノヲ見テ、更ニ感奮ヲ新タニシテ、-
層活動力ヲ擴充强化シ、全幅ノ機能ヲ發揮
シ、其ノ重大ナル使命ヲ全ウセムコトヲ期
シテ居ルノデアリマス、御承知ノ如ク民間
社會事業ノ經費ハ御下賜金、政府及公共團
體ノ補助金、民間助成團體及篤志家ノ寄付
金、基本財產ヨリノ收入、會員ノ醵出金、
經營者自ラノ支出等ニ依ッテ支辨スルモノ
デ、助成團體及篤志家ノ寄付金ハ頗ル有力
ナル財源デアリマス、中央地方幾多ノ助成
團體及篤志家ニ對シテハ、社會事業關係者
ハ滿腔ノ謝意ヲ表シテ居ル次第デアリマス、
然ルニ民間社會事業家ハ前ニ申上ゲマシタ
通リ、最近低金利ト物價騰貴ノ挾ミ擊チニ
遭ヒマシテ、甚ダシキ經營難ニ當面シテ苦
戰シテ居ルノデアリマス、從ッテ民間社會事
業家ハ四苦八苦ノ餘リ淚ヲ揮ッテ、被保護者
ノ衣食ヲ節約シナケレバナラナイ悲境ニ陷
リツヽモ、尙有ラユル努力ヲ拂ッテ其ノ事業
ノ維持ニ苦鬪致シテ居ルノデアリマス、諸
君、社會事業ノ活動ヲ要望スルコト最モ切
ナル今日ニ於テ、貧苦、病魔及罪惡ヲ敵ト
シテ戰ッテ居ル民間社會事業家ハ、軍資金ノ
缺乏ニ正ニ刀折レ矢盡キムトスル窮狀ニア
ルノデアリマス、諸君、今日我ガ國ニ於ケ
ル保護ラ要シマスル窮民ノ數ハ、實ニ二百
萬ヲ數ヘ、不良兒童ノ數ハ十萬ニ上リ、刑
務所ヨリノ釋放者ハ十五萬ニ上ッテ居リマ
ス、然ルニ是等ノ中社會立法ニ依リ、又ハ
官公設ノ社會事業ニ依リ保護セラレマスル
者ハ、其ノ一部ニシカ過ギナイノデアリマ
シテ、從ッテ其ノ大部分ハ民間社會事業
ニ依ッテ保護指導スルト云フ實情ニアルノ
デアリマス、加之民間社會事業者ハ稀薄ナ
ル待遇ニ甘ンジ、不遇者ニ對スル情熱ト忘
私奉公、私ヲ忘レテ公ニ奉ズルノ至誠ヲ以
テ其ノ事ニ當ッテ居ルノミナラズ、比較的ニ
少イ經費ヲ以テ、多クノ效果ヲ擧グル特色
ヲモ持ッテ居ルノデアリマス、私ハ此ノ際何
故政府ハ積極的ニ是等ノ民間社會事業家ヲ
助成シテ、其ノ機能ヲ十分ニ活動セシムル
ノ途ヲ講ゼザルカヲ怪シム者デアリマス、
最近政府ハ議會閉會間際ニ迫ッテ、司法保護
事業奬勵ニ關スル經費ノ增加十萬圓ヲ十二
年度追加豫算トシテ提出セラレマシタ、是
レ固ヨリ司法保護事業促進ノ爲メ喜ブベキ
次第デアリマスルガ、犯罪ノ增加殊ニ再犯
激增ノ情勢ニ鑑ミ、又司法保護事業ノ至難
ナルコトヲ思ヒマスレバ、右經費ノ增加ノミ
ヲ以テ滿足スルコトハ出來マセヌ、思想犯
ニ付キマシテハ、保護觀察ノ制度モ實現致
シマシタコトデアリマスルカラ、是等ノ實
績ヲモ十分御〓究ニナリ、我々ノ同僚ヨリ
モ旣ニ御注意モ申上ゲテ居リマスルガ如ク
ニ、司法保護事業全般ニ互リ、適切有效ナ
ル施設ヲ速カニ實行セラレムコトヲ庶幾ヒ
マヽ、之ヲ要シマスルニ、政府ガ是等民間
社會事業團體ニ相當ノ助成金ヲ交付セラレ、
其ノ活動ヲ十分出來得ルヤウニサレルコト
ガ國家ノ現狀ニ卽シテ極メテ緊急適切ナ
ル方策デアルト信ズルノデアリマス、卽チ
之ニ依ッテ比較的僅少ノ經費ヲ以テ社會事
業ヲ最モ能率的ニ活躍セシメ、我ガ國民生
活ノ安定ニ資スルト云フコトハ、適切賢明ニ
シテ且緊急ナルコトト確信スル者デアリマ
ス、仍テ私ハ政府ガ現下ノ世態ニ於ケル民
間社會事業ノ擔ヘル使命ノ重要ナルコトヲ
認識セラレ、速カニ之ヲ助成スルノ制度ヲ
確立セムコトヲ要望スル者デアリマス、而
シテ政府ガ之ヲ助成スルニ付キマシテハ、
經費ノ助成ハ勿論、施設經營ニ便宜ヲ與ヘ
從業員ノ優遇ヲ講ズルコトモ當然考慮サ
レナケレバナラナイノデアリマス、併シナ
ガラ私ハ無條件ニ社會事業ヲ謳歌シ、又ハ
盲目的ニ社會事業家ヲ禮讚スルモノデハア
リマセヌ、多數ノ社會事業ノ中ニハ、效果
ノ甚ダ擧ラナイモノモアリマセウ、動モス
レバ其ノ目的ト背馳スルガ如キ結果ヲ生ズ
ルモノモ絕無トハ申サレマスマイ、或ハ其
ノ經營方法ノ誤レルモノ、或ハ經費ヲ集メ
ルニ急ニシテ、其ノ手段ノ穩當ヲ缺キ、一
般公衆ニ迷惑ヲ及シ、甚シキハ好意ヲ寄ス
ル篤志家ニサヘ嫌厭ノ情ヲ抱カシムル者モ
ナイトハ限リマセヌ、社會事業家其ノ人ガ
世間ノ指彈ヲ被ル場合モ折々ハ耳ニスルノ
デアリマス、是等ハ累ヲ社會事業ニ及スモ
ノデアッテ、官民社會事業關係者ノ大イニ留
意致シ、深ク戒メナケレバナラヌ所ト考ヘマ
ス、故ニ政府ハ之ヲ助成スルニ當リマシテ
ハ、民間施設ノ濫設ヲ戒メ、其ノ內容ノ向
上ヲ圖リ其ノ經營方法ニ弊害ヲ生ゼザルヤ
ウ指導スルコトガ必要デアルト思ヒマス、
一面之ヲ助成シ其ノ振興ヲ助クルト共ニ、
他面ニハ之ニ適當ナル指導監督ヲ加ヘテ、
其ノ改善向上ヲ圖リ、之ニ依リテ救濟防貧
〓化ノ徹底ヲ期セシムルヤウ措置セラレム
コトヲ衷心ヨリ望ンデ止マナイモノデアリ
ママ、之ニ對スル內務大臣、司法大臣、外
地關係デハ拓務大臣ハ勿論デアリマスルガ、
併セテ總理大臣、大藏大臣ノ御所見ヲ承リ
タイト存ジマス
〔國務大臣河原田稼吉君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=6
-
007・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今關屋サン
カラ適切ナル御言葉ガ數々アリマシタ、私
設社會事業團體ノ助成ニ付キマシテハ、從
來モ可及的其ノ助成ヲ致シテ參ッタノデア
リマス、昭和十二年度ニ於キマシテモ、若
干ノ國費ノ增額ヲ致シタヤウナ次第デアリ
マスガ、併シ何ト言ッテモマダ不十分ノ嫌ヲ
免レマセヌノデアリマス、社會事業ノ普及
發達ニ付キマシテハ、現今ノ社會情勢ニ照
ラシマシテ誠ニ緊要ナルコトト考ヘマスル
ノデ、今後十分ニ此ノ點ニ付キマシテ考究
ヲ重ネテ、根本對策ノ樹立ト云フコトニ付
キマシテ十分ニ努力ヲ致シタイト思ヒマス
〔國務大臣鹽野季彥君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=7
-
008・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 關屋サンノ御質
問ニ御答ヲ致シマス、御承知ノヤウニ司法
保護事業ハ是迄私設ノ團體ノミニ委セテア
リマシテ、是等ノ團體ハ甚ダ資力ガ薄弱ノ
モノデアリマス、御質問ノヤウニ最近ニ至
リマシテ篤志家ノ寄付モ激減致スヤウナ狀
態デアリマス、甚ダ其ノ事業ガ必要ナルニ
拘ラズ、其ノ活動モ萎微スルヤウナ狀態デ
ゴザイマスルノデ、今囘取念ギ追加豫算ノ
上ニ於キマシテ、十萬圓ノ計上ヲ致シタヤ
ウナ次第デアリマスルガ、政府ト致シマシ
テハ此ノ方面ニ十分ナル力ヲ用ヒマシテ、
來年度ニ於キマシテハ相當ノ計畫ヲ立テマ
シテ、此ノ最モ社會事業ノ中デモ困難デゴ
ザイマスル犯罪者ニ對スル保護指導ノ問題
ヲ十分ニ發展ヲ致サセタイト計畫ヲ致シテ
居ル次第デゴザイマス、御答ヲ致シマス
〔國務大臣結城豊太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=8
-
009・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 關屋君ノ御心
配ニナッテ居リマス低金利ト物價騰貴ハ個
人經濟ニ於キマシテモ、國家ノ財政ニ於キ
マシテモ色々ナ影響ヲ來シテ居ルノデアリ
マシテ、之ガ對策ト致シマシテハ、低金利ハ
產業發展ノ上カラ寧ロ喜バシイコトデアリ
マシテ、逆轉スルコトハ困ルノデアリマス、
物價騰貴ニ付キマシテハ其ノ急騰スルコト
ヲ抑制スル途ヲ講ジテ居リマス次第デアリ
やっ、是等ノ關係カラ種々ナル社會事業ノ
施設ニ困難ヲ感ゼラレテ居ルコトハ能ク察
シテ居ル次第デアリマスルガ、其ノ爲ニ十
二年度ノ豫算ニ於キマシテモ、一部サウ云
フコトヲ考慮致シマシテ增加致シマシタモ
ノモアルノデアリマス、今後ノコトニ付キ
マシテハ財政上ノ關係ヲ考慮致シマシテ、
其ノ邊ノコトニ付テ十分ニ心配ヲ致シタイ
ト考ヘテ居ル次第デアリマス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=9
-
010・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今關屋君カラ
社會事業團體ノ活動ヲ促進シマスコトニ付
キマシテ諸種ノ御意見ガアリマシタガ、至
極御同感ニ存ズルノデアリマス、政府ハ今
日ノ社會情勢ニ鑑ミマシテ只今御話ノ御意
見中ノ諸點ニ付キマシテ、今後十分ニ〓究
ヲシ、實施ヲ致シタイト存ズル次第デアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=10
-
011・關屋貞三郎
○關屋貞三郞君 簡單デゴザイマスカ
う.発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=11
-
012・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=12
-
013・關屋貞三郎
○關屋貞三郞君 只今總理大臣ヲ首メ各大
臣ヨリ御懇切ナル御答辯ヲ賜ハリマシテ、
深ク感謝致シマス、是ハ獨リ質問者タル私
ノミナラズ、社會事業關係者ハ一同御答辯
ニ對シテ感謝シテ居ル次第ト思ヒマス、ド
ウカ出來ルダケ速カニ御實現アラムコトヲ
切ニ希望致シマシテ、私ノ質問ヲ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=13
-
014・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 休憩ヲ致シマス、
午後一時三十分ヨリ開會致シマス
午後零時一分休憩
午後一時四十四分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=14
-
015・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 休憩前ニ引續
キマシテ開會致シマス、豫算案ニ對スル質
疑ヲ御許シ致シマス、佐々木八十八君
〔佐々木八十八君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=15
-
016・佐々木八十八
○佐々木八十八君 數年來ノ懸案ニナッテ
居リマシタル國立工藝指導所增設ニ關シ商
工當局ニ一言質問申上ゲマス、第七十議會
ノ會期モ愈〓明後日ヲ以テ盡キナント致シマ
スル際、假令僅少ナル時間ト雖モ私ニ御割
愛下サイマシタルコトヲ私ハ大イニ恐縮致
シテ居リマス、カルガ故ニ至極簡單ニ、煩
ハシキ數字ヲ除去致シマシテ、申述ベサシ
テ戴キタイト存ジマス、本件ハ曩ニ第六十
七囘議會ニ於テ、町田商工大臣ニ質問申上
ゲマシタトコロ、其ノ御答辯ニ曰ク、商工
省ニ於テハ現下ノ我ガ國貿易狀態ニ鑑ミテ、
工藝指導奬勵ニ關スル有ラユル設備ニ留意
ヲシテ居ル、併シナガラ財政ノ關係上、未
ダ之ヲ實現スルコトヲ得ナカッタケレドモ、
幸ヒ高橋大藏大臣モ御出席デ、佐々木君ノ
御意見ヲ能ク御聽取リニナッテ居ルカラ、自
分トシテ出來ル限リ、佐々木君ノ御意見ニ
副フヤウニ、一日モ早クヤッテ見タイト思フ
ト云フ御答辯ガアッタノデアリマス、又第六
十九議會ニ於テ小川商工大臣ニ質問申上ゲ
マシタトコロ、小川商相閣下ニ於テ、大イ
ニ御共鳴下サイマシタ、其ノ仰セニハ商
工省ニ於テモ能ク、佐々木サント町田サン
トノ問答ヲ能ク承知シテ居ルカラ、必ズヤ
近ク之ガ實現ヲ見ルコトダラウト思フケレ
ドモ、豫算ノ關係上未ダ實現セナカッタコト
ヲ大イニ遺憾トシテ居ルヤウナ譯デアル、
併シナガラ何トカ豫算ノ振當テヲ考ヘテ見
ヤウト云フヤウナ仰セガアッタノデアリマ
ス、又只今申上ゲマシタ通リ、是ハ商工省ニ
於キマシテハ、數年間ニ亙ル問題デアリマス
ガ故ニ、商工當局ニ於カセラレテハ、之ガ內
容及事情等ニ付テハ、能ク熟知シテ居ラッシ
ヤルコトト存ジマスル、又或意味カラ申シマ
スルト云フト、斯ク中シマスル私ヨリカ商
工當局ノ方ガ却テ經緯ニ付テハ精通シテ居
ラッシヤルカトモ思ハレル節ガナイデハナ
イノデアリマス、トコロガ今度ノ豫算ヲ見マ
スト云フト、何等新タニ增設スルト云フコト
ガ計上セラレテナイノデアリマス、僅カバ
カリノ事務費ハ計上シテアリマシタケレド
モ、未ダ的確ナル是ノ增設ト云フコトノ計
上ガナイト云フコトハ、私共大イニ失望落
膽ニ堪ヘナイノデアリマス、ソコニ於テ私
共ハ伍堂商工大臣ニ、是ノ必要デアルト云フ
コトヲ縷々申上ゲタイト思フタノデアリマ
スルケレドモ、本日ハ御缺席デ、代ッテ御出席
下サイマシタノガ商工行政ニハ御精通ノ令
聞アル村瀨次官デアリマスルカラ、私ハ至
極簡單ニ總テヲ切詰メテ申上ゲテ見タイト
思フノデアリマス、私ガ質問スル以前ニ同
志ノ先輩ガ、成ルタケ短カク强ク言ッテ見ロ
ト仰セニナッタノデアリマスルガ、强クト言
フコトハ私ノ柄ニモナイコトデモアリ、短
カクト云フコトハナカ〓〓ムヅカシイノデ
アリマスケレドモ、併シ最モ短カク申上ゲ
テ見ヤウト思フノデアリマス、申上ゲルマ
デモナク、近來我ガ國ノ貿易ガ著シイ躍進
ヲ示シマシタルガ故ニ、世界列强ハ日本製
品ノ氾濫ニ悲鳴ヲ揚ゲマシテ、其ノ反動ハ
自國產業保護ノ猛運動ヲ致シマシテ、世界
到ル所關稅ノ障壁ヲ高ク致シマシテ、日本
製品ノ排斥ニ日モ尙足ラザルノ現狀デアリ
やく、是ハ皆サンモ能ク御承知ノコトト存
ジマスルガ、日本製品ノ斯クノ如ク進出致
シマシタノハ抑〓何ニ依ルカト申シマスル
ト云フト、是ハ大體カラ見テ我ガ國產業ノ
異常ナル發展ト、生產「コスト」ノ低廉ナルガ
故ニハ相違ナイノデアリマスルケレドモ、
其ノ最大ナル原因ハ、過去數年間ニ亙ル對
外爲替低落ノ餘澤トモ思ハレルノデアリマ
ス、然ルニ其ノ爲替安ナルモノハ恒久的ノ
モノデアルカドウカト云フヤウナコトヲ思
ヒマスト云フト、決シテ之ニ依存スルコト
ハ出來ナイノデアリマス、只今デハ海外ノ
需要ニ刺戟サレマシタル產業界ノ勃興ト反
比例ニ、海外市場カラ「シヤット·アウト」サ
レテ居ルノデアリマス、之ガ爲ニ忽チニシ
テ値段ノ競爭ガ惹起致シマシテ、爾來益〓値
段ノ値下ト云フモノガ深刻ニナリツヽアル
ノデアリマス、殊ニ我ガ國貿易業者ノ値段
ノ競爭ト云フト當識外レデアッテ、誠ニ亂暴
極マルヤウナモノデアリマス、由來日本ノ
貿易業者ニ致シマシテモ、生產業者ニ致シ
マシテモ、値段バカリ焦リ過ギル癖ガアル
ノデアリマス、ソレデ品質ノ劣惡ニナルト
云フコトハ已ムヲ得ナイヤウニ見ラレテ居
ルノデアリマス、是等ハ値段ヲ崩スバカリ
デナク、日本製品ノ聲價ヲ墜シ、遂ニハ折
角開拓シタ市場ヲ失フニ至ルヤモ測リ知ル
ベカラズデアリマス、我ガ國貿易上、實上
憂慮ニ堪ヘナイ次第デゴザイマス、生產業
者ニ致シマシテモ、纖維工業及其ノ他ノ重
工業ノヤウニ大資本ヲ擁スル大企業デアリ
マスルト、業者自ラ卓越完備シタ〓究機關
ヲ有シテ居リマス、サウシテ日進月步ノ社
會進運ニ遲レナイヤウニ種々ノ工風ヲ怠ラ
ナイノデアリマスルケレドモ、輸出工藝雜貨
ノ大〓ハ、小規模ナル家庭工業ニ依ッテ生產
サレルノデアリマスルガ故ニ、自ラ之ガ〓
究機關ヲ完備スルト云ッタヤウナ力ガナイノ
デアリマス、〓究機關ヲ具備シ能ハザル小
規模ナル生產機構ヨリ生產サルヽ所ノ工藝
雜貨ハ、唯海外市場ニ於ケル需要品ノ模倣
ト、値段ノ引下ゲノミニ依ッテ市場ヲ作リ、
辛ウジテ販路ヲ維持シツヽアルノデアリマ
ス、之ガ爲ニ値段ハ次カラ次ヘト引下ゲラ
レマシテ、惡イコトハ知リナガラモ粗惡
品ヲ以テ一時ヲ糊塗シテ居ルカノヤウニ思
ハレルノデアリマス、斯カル狀態ハ何時マ
デ續ケ得ラレルモノデアラウカ、今ニシテ
之ガ救濟ノ途ヲ講ゼズンバ、其ノ行詰リハ
目前ニ迫ッテ居ルカニ思ハレルノデアリマス、
玆ニ於テカ我ガ國輸出雜貨ノ工藝化、意匠
化ノ指導ハ、實ニ中小工業者ヲ裨益シ、輸
出貿易ノ振興上極メテ緊要ノコトト謂ツベ
キデゴザイマス、是レ私共ガ是等輸出工藝
雜貨生產最高ノ地位ヲ占ムル所ノ大阪ノ地
ニ、國立工藝指導所設置ノ急務ナルコトヲ
絕叫スル所以デアリマス、現時我ガ國ニ於
ケル工藝指導機關ハ、仙臺ニモ國立工藝指
導所ガ設置サレテアルノデアリマスガ、其
ノ位置ガ東北ニ偏シマスガ故ニ、全國的ニ
利用セラレル便ヲ缺キマシテ、所謂其ノ目
的ヲ達成シ難イノミナラズ、我ガ國輸出雜
貨ノ生產地デアル所ノ中心點タル阪神地方
カラ利用シタクテモ、何分八百「キロ」ノ遠
隔地デアリマスガ故ニ、容易ニ利用シ能ハ
ザル等、遺憾ノ點ガ尠クナイノデアリマ
ス、ソコデ設置地ハ何レノ地方ガ適當デ
アルカト申シマスルト云フト、之ニ付テハ
一言其ノ理由ヲ申上ゲナケレバナラ
ナイト思フノデアリマス、ミ抑〓本問題
ノ工藝指導事業ト云フノハ、古キ傳統
ヲ有シ、百世ニ愛好セラルベキ美術工藝
品、又ハ美術染織物等デハナイノデアリマス、
是等所調美術工藝品ハ作家ノ個性ニ俟ツベ
キモノデアリマシテ、事業上容易ニ指導シ
得ベキモノデハナイノデアリマス、茲ニ本
問題ノ工藝雜貨トハ如何ナル種類ノモノデ
アルカト申シマスルト云フト、現ニ輸出サ
レツヽアル所ノ工藝雜貨デアリマシテ、國
際市場ニ於テ外國製品ト角逐スベキ硝子製
品、時計、玩具、琺瑯製品、化粧品、綿絲
布加工品、鞄裝身具、蓄音器、木竹製家
具、「セルロイド」製品、各種携帶品、革製品、
金屬器具、漆器等デアリマシテ、工藝指導
事業トシテハ是等雜貨ノ工業化、意匠化ノ
指導ヲ謂フノデアリマス、是等ノ輸出工藝
雜貨ノ大阪府ニ於ケル最近ノ年產額ハ二億
圓ヲ算シマシテ、無論全國ノ首位ヲ占メテ
居ルノデアリマス、嘗テ東京工藝學校ノ調
査ニ依リマスト云フト、之ガ製產高ハ大阪、
東京、愛知、兵庫、京都ノ順位ニナッテ居
ルノデアリマス、是ガ大阪ニアリサヘスレ
バ、全國的ニ利用スル上ニ於テ甚ダ便利便
益ヲ蒙ムルノデアリマスガ故ニ、大阪ニ設
置セラレルト云フコトハ全國ニ於ケル貿易
業者、生產業者ノ總意デアルト言ッテ毫モ
憚ラナイノデアリマス、而モ既設大阪府立
工業奬勵館ハ、最近百萬圓ノ豫算デ以テ現
在ノ建物ヲ改築スルコトニ決定シタノデア
リマス、愈〓、工藝指導所ガ大阪ニ設置セラ
ルヽニ至ラバ、事業ノ性質上相互緊密ナル
連絡ヲ保タナケレバナラナイコトハ勿論デ
アリマスルガ、從ッテ差當リ事務室其ノ他ヲ
貸與シ得ラレルノミナラズ、工藝指導所新
築ノ場合ニハ、構內ノ地所ヲモ提供スルノ
意嚮ガアルヤウニ聞イテ居ルノデアリマス
第六十七議會ノ貴族院ニ於テ町田商相ハ「大
阪ノ如キ所ニ斯樣ナモノガアルコトハ最モ
宜シイト考ヘテ居リマス」トノ仰セガアリ、
又第六十七議會ノ衆議院ニ於テ、靑田代議
士ノ建議案ニ對シテ高橋政府委員ガ「大阪
ニ國立工藝指導所ノ設置ハ御尤モト存ジマ
ス」ト申サレタコトガアルノデアリマス、
ドウゾ此ノ際、速カニ國立工藝指導所ヲ大
阪ニ御設置下サイマシテ、將ニ行詰ラムト
シテ居ル所ノ輸出工藝ロ四界ニ、一條ノ活路
ヲ御與へ下サイマスヤウニ切望シテ已マナ
イノデアリマス、之ニ對シテ商工次官ノ御
所見ヲ拜承シタイノデアリマス、次ニ文相
閣下ニ申上ゲマス、只今商工次官ニ申上ゲ
マシタ通リ、現時ニ於ケル我ガ國貿易ノ狀
態ニ鑑ミ、工藝指導機關擴充ノ急務ナルコ
トハ縷々申上ゲタノデアリマスルガ、之ヨ
關聯シテ工藝〓育ノ振興ト普及トガ、極メ
テ緊要ナルコトト申上ゲタイト存ジマス、
近來著シク產業工藝振興ノ輿論ガ朝野斯界
ニ高マリマシテ、國內ニ於テハ產業工藝博
覽會、輸出工藝博覽會等ノ開催ニ依リマシ
テ、サウシテ工藝技術ノ〓鑽ト、之ガ工產
業界ヘノ活用ヲ奬勵致シテ居リマス、又外
ニ向ッテハ歐米ノ各地ニ巡廻ノ、我ガ國工藝
美術品又ハ工藝雜貨ノ見本市ヲ開設致シマ
シテ、之ヲ海外人ニ紹介シ、輸出伸張ノ應
急方策ニ相當ノ努力ヲ拂ハレルヤウニナッタ
ノハ、誠ニ喜ブベキ現象ト存ジマスル、併
シナガラ其ノ根本ヲ培養スル工藝〓育ノ重
要性ニ對スル關心ハ、未ダ十分デハナイヤ
ウニ思ハレルノデアリマス、從ッテ之ガ振興
ノ急務ヲ高唱スル權威者ノ少ナイノヲ大イ
ニ心細ク思フテ居ルノデアリマス、押 &
ガ國ハ天與ノ資源ニ乏シイコトハ御承知ノ
通リデアリマス、カルガ故ニ工藝材料ノ大
部分ハ海外ニ仰イデ、之ニ加エシテ海外ニ
輸出スルトコロノ所謂加工工業國トデモ謂
フベキデアリマス、可及的高價ナ商品ト
シテ輸出スルコトガ理想デアリマス、然
ルニ半製品デ輸出シ、又先刻モ商工次
官ニ申上ゲマシタ通リ、安價品デ以テ
海外ノ市場ヲ開拓シテ居ルト云フ現狀デ
ハ、甚ダ心許ナイノデアリマス、我ガ國數
十年來ノ努力ニ依リマシテ、國民ニ科學知
識ヲ普及シ、以テ優秀ナル技術者ヤ偉大ナ
ル發明家ヲモ多數ニ輩出致シマシテ、以テ
今日ノヤウナ强大ナル工業ノ能力ヲ備フル
ニ至リマシタコトハ、大イニ慶スベキコト
デアリマス、將來ニ於テ之ニ加フルニ、古
來ニ對スル〓究及之ヲ表現スル工藝技術ニ
秀デタ傳統的ノ我ガ國民性ヲ啓發シテ、我
ガ工業技術ノ飛躍的向上進步ヲ圖リ、大イ
ニ我ガ工產品ニ優秀ナル工藝美ヲ發揮セシ
メ、以テ品質ト品位トノ向上ヲ期シ、益〓海外
ノ進出性ヲ增大シ、且ツ海外ノ日本製產品
ニ對シ愛好心ヲ高メ、彼等ノ購買力ヲ把握
スルコトガ最良ノ方策デアルマイカト思ハ
レルノデアリマス、更ニ方面ヲ轉ジテ見マ
スルニ、科學的文化ノ隆盛ニ心醉シテ、精
神文化ノ向上ヲ怠リ、或ハ美的情操ノ涵養
ヲ看過スレバ、人間生活ハ餘リニ機械的デ
アリ、無味乾燥ニ陷ラザルヲ得ナイデアラ
ウガ、今ヤ全世界ヲ擧ゲテ斯カル趨勢ニア
ルノデハアルマイカ、果シテ然リトスレバ
美ヲ要求スル人間ノ本能ニ覺醒ヲ促シ、多
種多樣ナル其ノ趣味性ヲ滿足セシムベク、
努メテ文化的精神生活ノ向上ヲ圖ルベキデ
アリマシテ、此處ニモ亦高尙健全ナル工藝
ノ振興ヲ企圖スルコトノ緊要ナルコトヲ、
强調セザルヲ得ナイト云フコトヲ大イニ痛
感スルノデアリマス、斯クテ吾人ガ我ガ國
工藝及工藝〓育振興竝ニ普及ノ重要性ヲ强
調スル所以ノモノハ、我ガ傳統ノ國民的
性能ヲ啓發培養シテ、其ノ優秀ナル技術ヲ
鬻ギ、以テ國富ノ增進ヲ圖リ、工藝奉仕ヲ
期セムトスル念願ニ外ナラナイノデアリマ
ス、之ニ對シテ文相閣下ノ御所見ヲ拜承シ
タイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=16
-
017・村瀬直養
○政府委員(村瀨直養君) 只今ノ御質問ニ
御答ヲ致シマス、工藝ヲ振興致シ、貿易ノ
仲張ヲ圖リマスルコトハ、極メテ肝要ノコト
ト考ヘマス、之ガ爲ニ從來モ施設スル所ガ
ゴザイマシタガ、今般更ニ工藝技術ノ〓
究指導機關ノ整備擴充ヲ圖リマスコトハ
最モ緊要デアルト認メマシテ、新タニ東京
及關西地方ニ工藝指導所ヲ設置スルコトト
致シマシテ、本豫算ニ其ノ經費ヲ計上致シ
テ居リマスル次第デゴザイマス、而シテ其
ノ設置場所ニ付キマシテハ未ダ決定致シテ
居リマセヌガ、本豫算ノ執行ニ當リマシテ
ハ、工藝指導所ノ新設ノ趣旨ニ鑑ミマシ
テ、篤ト考究ノ上遺漏ナキヲ期シタイト考
ヘテ居リマスル次第デアリマス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=17
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018・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今佐々木君ノ
私ニ對シテ御質疑ノ第一點デアリマスル我
ガ國ノ工藝〓育ガマダ不十分デアッテ、此點
ニ付テハ十分ニ我ガ國ノ傳統的ノ工業美ヲ
發揮シテ、所謂海外ニ向ッテ之ヲ出シタ場合
ニ、十分外邦ノ愛好心ヲ高メルト云フヤウ
ナ點ニ付テノ〓育ガ、不十分デハナイカト
云フ御質疑デアリマス、此ノ事ハ全ク御同
感デアリマシテ、尙今後此ノ科學的知識技
能ノ練磨ト相俟チマシテ、只今御話ノヤウ
ナ點ニ十分注意ヲ拂ッテ、工藝〓育ノ基礎ヲ
培ヒタイト存ジテ居リマス、又ソレニ伴ヒ
マシテ殊ニ此ノ我ガ國ノ獨特デアル精神文
化ヲ發揮シテ、美的情操ヲ養フト云フ點ニ
付テモ御意見ガアリマシタガ、是等ノ點ニ
付キマシテモ將來此ノ〓育方面ト產業方面
ト、十分ニ提携スルコトニ努メマシテ、此
ノ工藝ノ〓育ニ付キマシテハ獨創的ノ工夫
考案ヲ凝ラスト云フコトニ努力致シタイト
存ズル次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=18
-
019・佐々木八十八
○佐々木八十八君 簡單デアリマスカラ自
席カラ、只今ハ商工次官及文部大臣ヨ
リ御理解アル御答辯ヲ忝ク致シマシテ感謝
ノ意ヲ表シマス、尙商工次官ニ一言申上ゲ
タイノハ、是非明年度ニハ之ガ設置地ヲ御
極メ下サイマシテ、是非施設ノ實現ヲ見ル
ヤウニ御圖リヲ願ヒタイト云フコトヲ申上
ゲマシテ私ノ發言ハ了ッテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=19
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020・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 柳原伯爵
〔伯爵柳原義光君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=20
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021・柳原義光
○伯爵柳原義光君 本會議ノ本議場ニ於キ
マシテ、豫算委員長タル林伯爵カラ豫算委
員會ノ經過竝ニ結果ヲ細カク承リマシテ拜
承致シマシタ、其ノ御報告ノ中ニ私ガ是カ
ラ質疑致サムト欲スルコトガゴザイマシタ
ナラバ、卽チ豫算委員會ニ於テ私ガ是カ
ラ質疑ヲ致サムト欲スルコトノ質疑ガゴ
ザイマシタナラバ、此ノ壇上ニ立ッテ私ハ
是カラノ質問ヲ致ス積リハナイノデアリマ
スガ、何等此ノ點ニ觸レテ質問ガナカッタ
サウデアリマスカラ、暫クノ間此ノ壇上ニ
立ッテ私ガ質疑ヲ試ミクイト存ジマス、唯ソ
レノミナラズ衆議院ニ於テモ私ガ是カラ質
疑致サムトスル事柄ニ付テハ何等質問ガナ
カッタサウデアリマスカラ、尙更其ノ意味ヲ
以テ私ガ暫クノ間質問ヲ致シタイト存ジマ
スル、其ノ質疑ハ格別長イ質疑デハナイノ
デアリマスガ、其ノ內容ハ誠ニ愼重ナル意
味ヲ含ンダルモノデアルト私ハ考ヘルノデ
アリマス、ソレハ皆樣ノ御存ジノ如ク、本
年ノ目出度キ國家ノ佳節タル紀元節ニ於キ
マシテ、優渥ナル御聖旨ニ依リマシテ、文
化動章ナルモノヲ御制定御發布ヲ見タノデ
アリマス、私共ハ深ク此ノ深遠ナル聖旨ニ
對シ奉リテハ、感激ノ至リニ堪ヘヌノデア
リマスル、而シテ此ノ文化勳章ヲ如何ナル
資格ノ者ニ授與セラレルカト申シマスルト、
卽チ科學、學問ノ方面、卽チ學術、ソレカ
ラ藝術ノ方面ニ於テ、文化ノ進步發達ニ貢
獻シタル者ニ對シテ特ニ賜ハルト云フ特殊
ノ動章ナノデアリマスル、而シテ其ノ動章
タルヤ、一般ノ動章ノ如ク差等ガナクシテ、
階級ガナクシテ、一階級デアリマシテ、唯一
階級ノ文化動章ヲ賜ハルト云フ制度ノ下ニ
出來タ所ノ動章デアリマス、誠ニ結構ナコ
トト考ヘルノデアリマスル、武勳ノ赫々タ
ル軍人ニ動章ヲ授與セラレル如ク、文勳ノ
方面ニ於テ國家ニ貢獻シタル者ニ對シテ、
斯ノ如キ文化的ノ御表彰ノ意味ヲ以テ文
化勳章ヲ賜ハルト云フコトハ、眞ニ結構
ノコトト深ク感激感佩スルノデアリマス、
申ス迄モナク日本ノ文化ハ建國以來ノ我ガ
皇道ノ精神ニ依リマシテ、而シテ其ノ皇道
精神ニ基礎ヲ置イテ、其ノ後ニ傳ハッテ參リ
マシタ所ノ漢籍、卽チ儒道、更ニ後ニ參リ
マシタル所ノ佛〓、或ハ又西洋ノ文明、其
ノ中ニハ基督〓モ含ンデ宜カラウト思ヒマ
スガ、要スルニ儒道、佛道、西洋ノ文明、
是等ノモノヲ健全ナル日本精神ヲ以テ之ヲ
消化シテ、サウシテ自家藥籠中ノモノト致
シテ、立派ニ日本ノ文化燦然タル效果ヲ見
テ、他國ノ追隨スルコトヲ許サザル立派ナ
文化ガ日本ニ出タノデアリマスル、眞ニ是
ハ貴イ文化デアルト私ハ考ヘルノデアリマ
ス、文化ノ高キ國民ハ必ズ一方ニ於テハ武
勇ニ秀デタル國民デアルト云フコトハ、是
ハ古今東西ノ歷史ガ證明スル所デアリマス、
卽チ文化ニ秀デタル國民ハ戰爭ニモ强イノ
デアリマス、發シテハ萬朶ノ櫻トナリ、凝ツ
テハ百鍊ノ鐵トナルト云フノハ、全ク此ノ
意味ニ基クモノデアルト私ハ信ズルノデア
リマス、而シテ此ノ動章ヲ授與セラレル者
ノ範圍ト云フコトニ付テ、私ハ質疑ヲ致シ
タイノデアリマス、第一ニハ此ノ科學、卽
チ學問ヲ以テ我ガ國ノ文化ニ貢獻シタル者
ニ賜ハルト云フコトデアリマスルガ、此ノ
科學ノ範圍ト云フモノヲ、ドノ邊ノ程度ニ
マデ及ブモノデアルト云フコトヲ、先ヅ以
テ承リタイノデアリマス、勿論是ハ獨創ノ
モノデナケレバナラヌト云フコトハ是ハ
當然ノコトデアリマスルシ、又動章ノ制度
ガ公布セラレタ時ニ獨創的ノ貢獻ノアル者
云々ト云フコトガ書イテゴザイマシタカラ
シテ、勿論是ハ附燒刄ニ非ズシテ、全ク自己
ノ獨創的ノ知識ヲ以テ科學的ニ國家ニ貢獻
シタル大發明、大發見ヲシタト云フ者ニ限
ルト云フノハ、是ハ承ラヌノデ一應了解致
シテ居ルノデアリマスルガ、其ノ科學ナル
モノノ範圍ガ、ドノ程度ニマデ及ブノデア
リマスルカ、是ガ私自ラハ誠ニ分ラナイノ
デリアマス、勿論其ノ獨創的ノ科學ノ發明
發見ヲシタ者ノ結果ハ、國家ノ利益、人類
ノ福利ニ多大ナル貢獻ヲシタ者デナケレバ
ナラヌト云フコトハ、是ハ明カニ分ッテ居ル
ノデアリマスルガ、其ノ根本ノ科學ト云フ
モノノ範圍ト云フモノハナカ〓〓之ヲ捉
フルノニムヅカシイモノデアラウト存ジマ
スルガ、其ノ範圍如何ト云フコトニ付テ承
リタイノデアリマス、更ニ他ノ方面ニ於テ
ハ、藝術ノ範圍ト云フコトニ付テモ一
應承リタイト存ズルノデアリマス、勿論
藝術ニ依ッテ我ガ特殊ノ國民性ヲ發揚
セル者ヲ表彰セラルヽト云フコトハ
是ハ分ルノデアリマスルガ、藝術ト云フ
モノハ極メテ範圍ガ廣イモノデアリマスル
ガ、範圍ヲドレ程ノ程度マデ及ブノデア
ルカ、承リタイト思フノデアリマス、勿論
一例ヲ擧ゲテ申シマスレバ、繪畫、建築、
彫刻、音樂、陶器、漆器、織物、高級ナル
演藝ニ携ハル者、或ハ文藝ノ作家ト云フヤ
ウナ如キ者ハ、何レモ藝術家ノ範圍ニ入ル
ノデアリマスル、先ヅ此處ラヲ目シテ、此
處ラノ人々ガ、其ノ自己ノ作品ナリ藝術ノ
製作品ニ依ッテ、國家ニ貢獻シタ者ニ對シテ
表彰セラルヽモノト存ジマスルガ、アラ方
ノ範圍ヲ私ハ承リタイト考ヘルノデアリマス、
而シテ此ノ功勞ノアル者ヲ表彰セラルヽ場
合ニ、是ハ當然私ガ伺ハナクテモサウナサ
ルヽトハ存ズルノデアリマスルガ、人格ノ
嚴選ト云フコトヲ私ハ是非トモ其ノ資格ノ
中ニ加ヘテ戴キタイト思フノデアリマス、
兎角藝術ニ携ハル者ハ、所謂一種ノ藝術家
ニ通有ノ性質ガアリマシテ、不覊、獨立、
磊落······不覊、獨立、磊落マデハ宜イノデ
アリマスガ、或ハ其ノ域ヲ脫出シテ、往々
常識以外、卽チ非常識ノコトヲシテ、誠
不體裁ノ者モアルノデアル、或ハ藝術家ノ
兎モスルト免ルベカラザル所ノ通弊デアル
ノデアリマス、仍テ如何ニ藝術ニ卓越シタ
ル手腕アル者ト雖モ、相當ノ人格ヲ保ツ者
ニ非ズンバ、決シテ斯クノ如キ名譽アル表
彰ヲ與ヘルモノデナカラウト私ハ信ジマス、
是ハ政府當局ニ於テモ勿論御同感ト存ジマ
スルガ、此ノ意味ヲ明カニ伺ヒタイト存ジ
マスル、一タビ藝術ニ卓越シタル者デアル
カラト云ウテ名譽ノアル勳章ヲ授ケラレ、
而シテ後ニ其ノ人ノ人格ニ兎角ノ非難ガ
アッテ、極端ノ場合ヲ豫想シタ譯デアリマス
ルガ、此ノ名譽アル勳章ヲ褫奪セラルヽト
云フコトノ如キコトガアリトセバ、萬々一
ニモアリトセバ、誠ニ優渥ナル聖旨ニ悖ッテ
不都合千萬ナルコトト存ジマスルカラ、豫
メ先ヅ此ノ授與ノ前ニ當ッテ、斯クノ如キ點
ニ向ウテハ深甚ナル御注意ヲ願ヒタイト私
ハ考ヘルノデアリマス、恐ラク滿堂ノ皆樣
モ御同感デアラセラルヽト私ハ考ヘマス、
尙又私ハ此ノ藝術ノ範圍ニ於テ、殊ニ我ガ
皇國日本デアルガ故ニ、一一ツノ新シキ新鮮、
味ヒアルモノヲ加ヘテ戴キタイト存ズルノ
デアリマス、ソレハ何カト申スト、文ノ方
面ニ於テハ我ガ國特有デアル書道ト云フコ
トニ對シテ御考慮ヲ願ヒタイノデアリマス、
勿論我ガ國ノ書ハ支那カラ傳來致シマシタ
所ノ形象ノ文字デアリマスルケレドモ、旣ニ
日本化シテ、立派ニ日本ノ文字トナッテ居ル
ノデアリマスル、否啻ニサルノミナラズ、
我ガ平假名ノ如キハ日本ニ於テ是ハ巧ミニ
拵ヘタル所ノ假名文字デアリマスル、此ノ
假名文字ハ申スマデモナク、支那カラ渡來
シタル所ノ固イ字ヲ、日本的ニ拵ヘタ一ツ
ノ我ガ日本民族ノ創造品デアリマス、此ノ
平假名ノ如キハ誠ニ優美ナモノデアリマシ
テ、平假名ガ巧ミニ書イテアル掛物トカ、
書類ヲ見マスルト、下手ナ繪ヲ見ルヨリハ
假名ノ美ハシイ筆ノ跡ヲ見タ方ガ美的觀念、
美事ナ美ハシイ所ノ情操ヲ味ヒ得ルノデア
リマスカラシテ、是非トモ日本ノ書ト云フ
モノハ、是ハ外國ノ「アルフアベット」トハ全
ク譯ガ違フノデアリマシテ、一ツノ立派ナ
美術品デアリマスガ故ニ、書道ト云フコト
ニ付テモ此ノ中ニ加ヘルト云フコトニ對シ
テ、深甚ノ御考慮ヲ願ヒタイト私ハ考ヘル
ノデアリマスル、文ノ方ニ於テハ是非トモ
此ノ書道、書ト云フモノニ對シテ國家ニ貢
獻シタル者ヲ表彰シテ戴キタイ、ト同時ニ
武ノ方ニ於テハ、日本精神ノ籠ッタ所ノ刀
劒、是ハ或ハ工藝美術デアルトカナイトカ、
刀劒ガ純粹ナル工藝美術品デアルトカナイ
トカ云フ輩ガアルノデアリマスルガ、私ハ
此ノ日本ノ刀劒ト云フモノハ、卽チ我ガ皇
國精神ノ發露シタモノデアッテ、大和魂ノ
凝ッテ固ッタモノト存ズルノデアリマス、故ニ
私ハ此ノ刀劍ニ對シテモ深甚ナル御考慮ヲ
願ッテ、是非此ノ文化勳章ヲ賜ハル資格ノ中
ニ、刀劍ノ製作者ノ優良ナル者ハ加ヘテ戴キ
タイト切ニ私ハ考ヘルノデアリマスル、卽チ文
ニ於テハ筆道ノ大家、武ニ於テハ刀劒製作
者ノ大家ヲ加ヘテ戴キタイト云フコトハ、我
ガ日本デアルガ故ニ斯クアラネバナラヌト
信ズルノデアリマスル、大體質問ヲ致スコ
トハ是レダケデアリマスルガ、更ニ質問ヲ
致シタイコトハ、此ノ文化動章ヲ賜ハルノ
二、之ヲ銓衡スル方法ハ如何ニナサルヽカ
ト云フコトニ付テ承リタイノデアリマスル、
而シテ其ノ方法ト、及ビ此ノ銓衡ヲスル機
關ガドウ云フモノデアルカト云フコトニ付
テ承リタイノデアリマスル、私ハ局外者デ
ゴザイマスケレドモ、此ノ勳章ヲ授與セラ
レル所ノ銓衡ノ方法及機關ト云フモノハ、
頗ルムヅカシイモノダト存ズルノデアリマ
スル、普通一般ニ賜ハリマスル所ノ動章ハ、
諸君モ御存ジノ如ク、議定官ト云フ動章ヲ
賜ハル時ニ御諮詢ニナル一ツノ機關ガゴザ
イマスル、併シ此ノ文化勳章ニ對シテハ、
何等御諮詢ノ機關及ビ銓衡ノ方法ガマダ表
向キニ相成ッテ居ラヌノデアリマスル、是ハ
ドウナサル御積リデアリマスカ、之ヲ承リ
タイト思フノデアリマスル、私ハ是ハ學士
會員ノスル事業デモナシ、勿論樞密院ノス
ル事デモナシ、貴衆兩院議員ニ御相談ニ相
成ルベキモノデモナシ、サレバト云ッテ商工
會議所ニ御諮詢ナサルモノデモナカラウト
思フ、何カ是ハ特別ノ之ヲ審議スル所ノ機
關ガ國家トシテナケレバ相成ラスト思フノ
デアリマスルガ、先ヅ以テ之ヲドウナサル、
御積リデアリマスカ、之ヲ承リタイト思
ヒマスル、私ノ常識デ考ヘマスルト、先ヅ
差當ッテハ總理大臣、文部大臣、内務大臣ノ
邊リガ、之ニ付テ御相談ト申シマセウカ、
御協議デモナサルルコトト存ジマスルガ、
ナカ〓〓此ノ科學及廣汎ニ亙ル所ノ藝術ニ
對シテノ審査、考査ヲスルト云フコトハ、
誠ニ失禮ナ申分デアリマスルケレドモ、總
理大臣ト雖モ將又其ノ他ノ諸大臣ト雖モ、
ソレ等ノ御方々ニ此ノ適當ナル結果ヲ見ル
コトヲ願ヒタイト云フ註文ヲ申スコトハ蓋
シ無理ノコトト存ジマスル、是ハ特殊ノ知
識ノ、特殊ノ頭腦ガナケレバ、完全ニ此ノ
銓衡ヲスルコトハ出來ナイト私ハ存ジマス
ルノデアリマスル、ドウシテモ是ハ公平ニ、
誰ガ見テモ尤モデ、誰ガ見テモ無理ノナイ
ト云フ所ノ人々ニ此ノ動章ハ賜ハラナケレ
バ相成ラヌノデアリマスガ、之ヲ銓衡スル方
法如何、機關ト云フモノガ如何ニ相成ッテ居
ルノデアリマスルカ、誠ニ此ノ銓衡ノ方法
及此ノ機關ガ不完全デアッタナラバ、其ノ現
レテ來ル結果タルヤ誠ニ由々シキコトニ相
成ルト存ジマスルカラ、此ノ點ニ付テモ私
ハ一點危惧ノ念ナキ能ハズデアリマスルカ
ラ伺ヒタイト存ズルノデアリマスル、天下
之ヲ授與セラルヽ方針ニ付テ、政府當局ノ
御所見ヲ承ッテ見タイト思フノデアリマス
ル、大體此ノ科學者ト云フモノハ、兎モス
レバ唯我獨尊ノ性癖アルコトハ免レヌノデ
アリマス、併シナガラ科學者ハ兎モ角モ、
科學的ニ效果ノアルモノハ、相當ノ人ガ見
レバ分リマスルカラ、科學上、學問上、國
家ニ貢獻シタ者ヲ調ベルト云フコトハ、是
ハ左程ムヅカシイコトデハナカラウト存ズ
ルノデアリマスルガ、他ノ一方卽チ此ノ藝
術文藝ノ方面ニ對シテ、國家ニ功勞ノアル
者ヲ公平ニ調ベルト云フコトハ、相當私ハ
ムヅカシイコトデアラウト存ズルノデアリ
マスル、唯過去ノ功勞功績ヲ錄スルト云フ
コトデアリマスレバ、是ハ格別ムヅカシイ
コトデモナイト存ジマスル、ソレハ繪畫ノ
方ニ譬ヘテ申シマスレバ、帝展トカ、院展
ノ審査員ヲ長クシテ、相當ナ作品ヲシタル
所ノ繪畫ノ大先生ヲ其ノ儘推薦スレバ、先
ヅ穩當ダラウト思ヒマスルケレドモ、マア
繪畫位ノモノデアレバ、是位ノコトハ分ル
ト存ジマスルケレドモ、其ノ他一般ノ廣イ
藝術家、廣イ藝術ニ携ハル者ニ對シテ公平
ナル審査ヲスルト云フコトハ、ナカ〓〓是
ハ神ナラヌ人間トシテハ、ムヅカシイコト
デアラウト私ハ存ズルノデアリマスル、而
シテ此ノ文化勳章ト云フモノハ、唯過去ノ
功勞ヲ表彰スルバカリデナクシテ、否過去
ノ表彰ハ······過去ニ於テハ此ノ人ハ相當ナ
功績ノアルト云フコトハ分ルノデアリマス
ルカラ、私等ノ希望スル所ハ、將來ニ向ッテ
新鮮味ノアル發展味ノアル、將來ニ對シテ
國家ニ多大ナル貢獻ヲスル見込ノアルベキ
人ヲコソ、私ハ此ノ名譽アル動章ヲ授與セ
ラルベキ資格ノアル者デアラウカト私ハ密
カニ思フノデアリマスル、其ノ他一般ノ藝
術家ニ對シテモ、將來ノ指導的價値ノアル者
ニ對シテ、十分ノ御考慮ヲ爲サルヽ必要ガ
アルト私ハ思フノデアリマシテ、唯只今ニ
於テハ行詰ッテ居ル所ノ過去ノモノヲ、徒
ニ表彰ヲ爲サルヽト云フコトハ、格別
意義ノナイコトデアッテ、要スルニ將
來ノ發展性ノアル、將來ニ對シテノ新
シキ新鮮味ノアルモノガ、此ノ恩典ニ浴ス
ルノガ私ハ國家トシテ田然ノコトデアラネ
バ相成ラヌト存ズルノデアリマスル、只今
申上ゲマシタル如ク、ナカ〓〓此ノ銓衡ヲ
公平ニスルト云フコトハ、人間業トシテハ
ムヅカシイコトデアルヤウニ思フノデアリ
マスル、何卒此ノ銓衡ハ十分ニ公平無私、
誰ガ見テモ尤モ千萬デアルト云フ風ニアリ
タイト考ヘルノデアリマスル、而シテ此ノ
銓衡ノムヅカシイ餘リニ、或ハ總花主義ニ
陷ッテ、先ヅ此ノ人ニモ之ヲ授與セラレタカ
ラ、此ノ人ニモ釣合上斯ウセヌケレバナラ
ヌト云フヤウニ釣合主義、更ニ言葉ヲ惡ク
申セバ、總花主義ニ相成リマシテハ、折角
ノ思召ニ依ッテ出來マシタル所ノ、新シキ
此ノ有意義ノ勳章御制定ノ御精神ヲ汚スモ
ノト存ジマスルカラ、何卒是ハ矢鱈ニ濫授
ニナラナイヤウニ、十分嚴選ヲシテ戴キタ
イモノデアルト私ハ深ク考ヘルノデアリマ
スル、恐ラク滿堂ノ諸君ニ於テモ、私ト御
同感デアラセラルヽコトト存ジマスル、私
ノ質疑ノ要點ハ、先ヅソレダケデアリマス
ルガ、而シテ旣ニ此ノ制度ガ御發布ニナッタ
以上ハ、何時カラ之ヲ奏請シテ授與セラ
ルヽノデアリマスルカ、此ノ時期ガ御分リ
ニナッテ居リマスルナラバ、承リタイモノ
ト思フノデアリマスル、新聞紙上デ承知致
シマスル所ニ依リマスルト、畏クモ陛下ニ
於カセラレテハ、此ノ天長節ノ吉辰カラ御
自身ガ玉體ニ御佩用遊バサルヽト云フヤウ
ニ新聞ニ書イテアルノデアリマス、然ラバ
先ヅ天長節頃カラ是ガ授與セラルヽモノ
ハ、臣民ニ於テモ出來テ來ルノカト存ジマス
ルガ、併シ其ノ時期ハ何時デアリマスルカ、
御分リニナリマシタナラバ、凡ソ何時頃カ
ラ此ノ勳章ヲ授ケラレルト云フコトヲ承リ
タイモノト存ジマスル、ソレカラ又之ヲ奏
請シテ授與發表セラルヽ人間ノ種類、人間
ノ數ハ凡ソドレ程デアルカト云フコトガ御
分リデアリマスレバ、是モ承リタイト存ジマ
スル、而シテ其ノ數ノ中ニ假ニ十人ナラ其ノ
中ノドレダケハ、所謂科學學問ノ方面ノ功
績ニ依ッテ授與セラルヽ方々デアッテ、而シテ
他ノドレダケハ文藝、藝術ノ方面ニ對シテ
功績ノアルモノデアル、ドウ云フ風ニ何名
ガ科學方面デアッテ、何名ガ文藝、藝術ニ
關スル功績者デアルト云フ風ナ、其ノ數マ
デ御分リニナリマスレバ、誠ニ私ハ結構ト
存ジマス、大體私ガ御質疑申上ゲマシタ所
ノ〓略ハ只今申述ベマシタ通リデゴザイマ
スカラ、私ノ質問ニ對シテ御深切ニ御答辯
ヲ賜ハレバ、誠ニ有リ難ク存ズル次第デア
リマス、之ヲ以テ質問ヲ終リマス
〔土方寧君發言ノ許可ヲ求ム〕
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=21
-
022・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 柳原伯ノ只今ノ
文化勳章ニ關スル御質疑ニ御答ヲ致シマ
ス、第一ハ此ノ恩典ニ浴スル範圍、學術、
藝術ト云フコトノ範圍ニ付テ御質疑ガアリ
マシタ、此ノ科學ノ範圍ト申シマス點ニ付
キマシテハ、廣ク科學ト認メラレテ居ルモ
ノノ全體ヲ含ム考ヘデアリマシテ、所謂精
神科學モ物質科學モ、總テ是等ヲ網羅シテ
考ヘル積リデアリマス、藝術ノ範圍ニ於キ
マシテモ文藝繪畫、彫刻、建築、音樂其ノ
他一般ニ藝術ト認メラレルモノヲ廣ク解釋
スル考デアリマス、第二ニハ、其ノ技術ノ
ミナラズ人格ト云フ點ニ付テノ嚴選ト云フ
コトニ付テ御意見ガアリマシタガ、是ハ全
ク私共モ御同感デアリマシテ、其ノ學術、
藝術ト共ニ其ノ人ノ人格ト云フ所ニ十分ノ
力ヲ用フベキダト考へテ居リマス、次ニハ
書道、刀劍ト云フヤウナ點ニ付テモ及ブカ
ト云フ御質疑デアリマシタガ、是等ノ點ニ
付キマシテモ十分〓究考慮ヲ致シタイト存
ジテ居リマス、次ニハ銓衡ノ方法ニ付テ御
質疑デアリマスガ、此ノ點ニ付テ特別ナル
機關ヲ設ケルト云フヤウナコトハ只今デハ
考ヘテ居リマセヌ、普通ノ勳章ノ場合ニ同
ジク賞勳局議定官ノ審議、是ガ最終決定ト
云フ風ニ考ヘテ居リマス、或ハソレ迄ニ何
カ特別ノ機關ヲ作ルト云フヤウナ必要ヲ、
今後ニ於テ感ズルカドウカハマダ審議中デ
アリマスガ、只今ノ所デハサウ云フ機關ヲ
設ケル運ビニハナッテ居リマセヌ、ソレカ
ラ其ノ次ニハ大體銓衡ノ方針ニ付キマシテ、
單ニ過去ノ功績ノ表彰ニ止マラズ、將來ニ
向ッテ指導的ノ價値ノアルモノデアルト云
フヤウナ點ニ考慮スルノ必要、ソレカラ濫
授ハ宜シクナイト云フ御意見、是等ノ點ニ
付テモ御尤モト考ヘマスノデ、將來十分ニ
〓究致ス積リデアリマス、次ニハ其ノ發表
ノ時期ニ付テ御質疑ガアリマシタガ、是ハ
成ベク速カニ奏請ノ手續ヲ執ル考ヘデハ居
リマスガ、只今ノ所デハ豫定ノ時日ヲ申上
ゲルヤウナ立場ニハ立至ッテ居リマセヌ、ソ
レカラ人數ノ點ニ付テ御質疑ガアリマシタ
ガ、此ノ點モ努メテ嚴選ヲ致シテ、少數ニ止
ムル考ヘデアリマスルガ、人名トカ豫定ノ
員數ト云フヤウナ點ニ付キマシテモ、何分
マダ時日ガ短クテ十分ニ〓究ヲ致シテ居リ
マセヌノデ、今日只今此處デ申上ゲル都合
ニハ參ッテ居リマセヌ、此ノ點ハ御諒承ヲ御
願ヒ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=22
-
023・柳原義光
○伯爵柳原義光君 只今ノ總理大臣及文部
大臣ノ御答辯ニ依リマシテ、私ノ質疑ノ大體
ハ窺ヒ得マシテ、誠ニ本懷ノ至ト在ジマス、
申ス迄モナク最モ此ノ名譽アル勳章ヲ授與
セラルヽニ際シマシテハ、人格ヲ尊ビ、嚴選
ナル御詮議ノ下ニ濫授ニ亙ラザルヤウ、愼
重ナル御詮議ノ上デ授與セラルヽヤウニ、
御盡力相成ラムコトヲ切ニ希望致シマシテ、
本員ノ質問ヲ打切リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=23
-
024・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 土方君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=24
-
025・土方寧
○土方寧君 私ハ先刻ノ柳原伯爵ノ御質問
ニ蛇足ヲ加フル意味デハアリマセヌガ、其
ノ一部ニ付テ僅カニ數五Ⅲデアリマス、此ノ
席デ述ベルコトヲ御許シヲ願ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=25
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026・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=26
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027・土方寧
○土方寧君 伯爵ノ御質問ノ中ニモ、此ノ
文化勳章ヲ授與セラルベキ者ハ人格者デナ
ケレバナラヌ、只今ノ總理大臣······文部大
臣ノ御答辯ニモサウ仰シヤイマシタ、私共
ノ方カラ人格者ト云フ言葉ハ全ク不明瞭デ
アリマス、私共法律屋カラ見レバ、誰デモ
皆人格ヲ持ッテ居ル、人格者ト云フダケデハ
能ク分リマセヌガ、學術ヨリ寧ロ技藝ニ長
ジタ人、天才ニハ動モレバ奇行ガ多イ、英
話デ言フト「モノマニア」ガ多イ、サウ云フ
人ハドウモ身ガ修ッテ居ラナイ、一人前ノ人
間トシテ一技ニハ長ジテ居リマスガ、外ノ
コトニ付テハ誠ニドウモ厄介ナ人ガ隨分ア
リマス、斯ウ云フヤウナ者ニハ行カヌダラウ
ト思ヒマスガ、ソレデモ宜イト云フコトナ
ラ技術ヲ賞揚スル、技術ヲ持ッテ居ル人ヲ賞
揚スルノデハナイカ、此ノ點ニ付キマシテ
ハ唯人格者ト云フダケデハ行キマセヌ、サ
ウカト云ッテ完全ヲ望ム譯ニハ行キマセヌ
シ、聖人、君子人ト云フヤウナ立派ナ學德ヲ
具ヘテ居ル者デナケレバナラヌト云フコト
ハムヅカシイ、程度ノ話デアリマスガ、唯
御質問ノ中ニモ、文部大臣ノ御答ノ中ニモ
人格者ト仰シヤッタケレドモ、私共法律屋ニ
言ハセレバ皆人格ヲ持ッテ居ル、餘リ漠然ト
シテ居リマスカラ、サウ云フヤウナ點ニ付
テ御考慮ヲ願ヒタイ、人格者ト云フコトニ
付テ、何カ別ニ文部大臣ノ御考ガアレバ伺
ヒタイ、斯ウ云フコトヲ附加ヘテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=27
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028・柳原義光
○伯爵柳原義光君 只今ノ私ノ足ラザル所
ヲ此ノ席ニ於テ補足致シタイト存ジマスガ、
宜シウゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=28
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029・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=29
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030・柳原義光
○伯爵柳原義光君 私ノ人格ト申シタノハ
法律上ノ人格ニ非ズシテ、社會通念デ申ス
人格、卽チ道德上缺クル所ナキ圓滿ナル人
格ヲ持ッテ居ル者、斯ウ云フ意味デアリマス、
法律上カラ見レバ誰デモ人格ヲ持ッテ居リ
マス、私ノ申スノハ、社會通念カラ見マシ
タル道德上何等批議スル所ナキ、圓滿ナル
人格ヲ具ヘタ者、斯ウ云フ意味デアルト云
フコトヲ補ッテ置キタイト存ジマス
〔國務大臣林銑十郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=30
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031・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ土方君ノ
御質疑ニ御答へ致シマス、私ハ先程ノ御答
ノ中ニ人格者トハ申サナカッタヤウニ思ッテ
居ルノデアリマスガ、若シ申シテ居レバ、
少シ私ノ考ガ違ッテ居ルノデ、人格ノ點ニ於
テモ十分考慮スル、斯ウ云フ風ニ中シタ積
リデアリマス、所謂道德上非常ナ缺陷デモ
アルト云フコト、普通其ノ人格上面白クナ
イト云フヤウナ、サウ云フヤウナ問題モ併
セテ考ヘルト云フ意味デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=31
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032・土方寧
○土方寧君 能ク分リマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=32
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033・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ討論ニ
移リマス、子爵前田利定君
〔子爵前田利定君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=33
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034・前田利定
○子爵前田利定君 諸君ノ御記憶ニマダ生
生ト御想ヒ御起シニナルデアラウト思ヒマ
スガ、昨年ノ二月二十六日ノ雪ノ曉ニ起リ
マシタル所謂二·二六事件ノ突發ハ、サラデ
ダニ五·一五事件ニ依リマシテ、社會ノ各方
面ニ大ナル「シヨック」ヲ受ケマシタ人々ノ
上ニハ、層一層軍部ニ對シマスル非常ナル
戰慄ト恐怖ノ念ヲ高メタノデアリマシタ、
自分ノ思フコトヲバ率直ニ中スコトハ避ケ
マシテ他聞ヲ憚リ、私語スル場合ニ於キマ
シテモ、成ルベク聲音ヲ低ウシテ語リ合フ
ト云フヤウナ、誠ニ言論ノ極メテ不自由ナ
ル世ノ樣ガ現出シタノデアリマシタ、敬愛
スベキ皇軍ニ對シ、信賴スベキ軍部ニ對シ
マシテ、其ノ武力ト威服ニ憚リマシテ、之
ヲ敬遠シ、國民、人皆石ノ如クニ沈默ヲ守
リ、憂欝ナル空氣ノ下ニ快々トシテ眉ヲ顰メ、
不安ノ念ニ驅ラレタノデアリマシタ、韓詩外傳
ニ、有聲ノ聲ハ百里ニ至ラズ、無聲ノ聲ハ延
延トシテ四海ニ及ブト云フコトガアルサウ
デアリマス、音聲ヲ以テ人ノ耳ニ入レマス其ノ
聲ヨリモ、此ノ無聲ノ聲、所謂人ト人トノ間ニ、
以心傳心的ニ傳ハリ擴ガルト云フ方ノ聲ガ
幅廣ノモノデアリマス、所謂無聲ノ國論、
無聲ノ世論ト申シマスモノガ凝リ固マリマ
シテ鬱積シ、勢ノ激スル所此ノ沈默ヲ破リ
マシタ場合ニ於キマシテハ、有聲ノ害ヨリ
モ一層恐ロシキモノガアルト私ハ思フノデ
アリマス、此ノ無聲ノ國論、世論ガ、遂に
反軍ノ思想ヲ作リ出シマシテ、軍民隔離ノ
途ヲ迪ルヤウナコトガアリハセヌカト云フ
點ニ付キマシテ、私ハ國家ノ爲ニモ、軍部
ノ爲ニモ、國民ノ爲ニモ大イニ憂ヘテアッタ
ノデアリマス、想フニ皆樣方ニ於カセラレ
マシテモ御同感デアラセラレタラウト拜察
ヲスルノデアリマス
〔議長公爵近衞文麿君議長席ニ著ク〕
然ルニ幸ニ廣田內閣ガ出來マシテ、當時ノ
陸相寺內伯ハ、肅軍ノ工作ニ從來ヨリモ一
層ノ拍車ヲ掛ケラレマシテ、所謂淚ヲ揮ッテ
馬謬ヲ斬ル底ノ大勇斷ヲ以テセラレマシ
テ、武動赫々タル攻城、野戰或ハ帷幄ニ參
畫スル所ノ、國家トシテハナクテハナラナ
イ宿將、名將トモ申サレルベキ方々ヲ、肅
軍工作ノ途上ニ於キマシテ犠牲ニ迄供セラ
レマシタノデゴザイマシタ、此ノ誠意アル
肅軍工作ノ後ヲ承ケラレマシテ、現內閣ノ
陸相モ其ノ工作ヲ續ケラレテ居ラレルノデ
アリマス、想フニ其ノ肅軍モモウ大詰メニ
近クナッテ居ルノデアラウト思ハレルノ
デアリマス、本議會ニ於キマシテ、議員ガ
議場ニ於キ、又委員會ニ於テ陸相トノ質疑
應答ノ間ニ、陸相ノ肅軍ニ關スル答辯、例
ヘバ軍人ノ政治干與、軍部ノ政治的聲明、
陸軍ノ諸學校ノ生徒ノ〓育指導ノ改善、軍
部各〓其其本分ヲ恪循スル、又部內ノ統制ト
云フヤウナコトニ對シマスル御答辯ガ、誠
ニ誠意ガ溢ルルバカリデアリマシテ、而モ
其ノ肅軍ノ著々トシテ進捗致シテ居リマス
所ノ實情ヲモ徵スルコトガ出來タノデアリ
マシテ、我々ト致シマシテハ、此ノ誠意ア
ル陸軍自身ノ肅正ガ、誠ニ我々ニ於キマシ
テハ多トスル次第デアルノデアリマス、是
ハ獨リ我々ノミナラズ、一般ノ所謂無聲ノ
國論ニ於テモ、左樣ニ相成ッタノデアラウト
思ヒマスコトハ、皇軍ニ對シ、軍部ニ對ス
ル敬愛信賴ノ念ガ、昔日ノ如クニ澎湃トシ
テ〓マッテ來テ居ルノヲ覺エルノデアリマ
ス、長イ間軍民ノ間ヲ覆フテ居ッタ所ノ惡
氣流ガ追々ト晴レテ行キマシテ、好晴ノ秋
ノ空ヲ望ムガ如キ、誠ニ氣持ノ好イ心持ヲ
以チマシテ、議員ト軍部大臣トノ質疑應答
ガ交換ヲ致サレマシタ、從來ニナク其ノ信
ズル所、言ハムトスル所ノモノヲ遠慮ナ
ク、忌憚ナク披瀝致シマシテ、前ノヤウナ
奧齒ニ物ノ挾マッタヤウナ遠〓シデ申スヤ
ウナ問答デハナク、障壁ヲ撤シテノ赤裸々
ノ問答ニ依リマシテ、如何ニモ現下ノ國際
時局ノ重大ナルコトヲバ我々ハ深ク認識ス
ルコトヲ得タノデアリマス、而シテ軍民一
致シテ、此ノ時艱ヲ克服突破シナケレバナ
ラナイト云フコトモ深ク覺悟ガ出來タノデ
アリマス、而シテソレニ善處スベキ所ノ國
防充實ヲ基幹ト致シマシタル所ノ、此ノ大
豫算ニ對シマシテモ、我々ハ之ヲ承認シ、
尙又臨時增徵ニ依リマスル所ノ二億五千萬
圓、之ヲ前年度ノ實行豫算ニ比較致シテ見マ
スルト云フト、五億八百萬圓ノ大增加ニナッ
テ居リマスモノヲ含ンデ居リマスル二十八
億ノ大豫算ヲバ、我々共ハ之ヲ容認ヲ致シ
タノデアリマス、而シテ容認シタバカリデ
ナク、此ノ大豫算ガ恙ナク議場ヲバ通過スル
ヤウニ、ソレニ向ッテ忠ナラムト欲シテ居
ルヤウナ次第デアリマス、嘗テ故犬養毅翁
ガ遭難セラレマシタ際ニ、其ノ終焉ノ直前
ニ申サレマシタ、話セバ分ル、誠ニ此ノ、
話セバ分ル、ト云フコトハ眞理デアリマシ
テ、議員ト軍部トガ晴ヤカナ氣持デ、腹藏
ナク意見ヲ交換致シマシタト云フコトガ、
斯樣ナ結果ニナッタノデアリマシテ、實ニ我
我ハ話シテ分ッタノデアリマス、國防充實ガ
此ノ時局ニ對シマシテ必要デアリ、且ツ急
務デアルト云フコトヲ確認ガ出來マスル以
上ハ、尤モ世間多クノ方々ノ中ニハ、斯樣
ニ重大時局ニ接スルヤウニ、國ガ今日マデ
進ンデ來タ所ノ、過去ノ步ミ方ノ善惡ニ付
キマシテ論議スルヤウナ方モアルカモ知レ
ヌト思フノデアリマスルガ、私ハ左樣ナ方
ニ向ヒマシテハ、ソレハ死ンダ兒ノ齡ヲ御
數ヘニナルヤウナモノデアル、一晩中議論
ヲ續ケテ見タ所デ鳧モ著カズ、何ノ役ニ
モ立タナイモノデアル、トモアレ國家
ガ其ノ地點迄乘リ出シ、押シ進ンデ來タ
今日、假令其ノ步ミ方ガ善キニセヨ惡シキ
ニセヨ、今更〓レ右ハ出來ナイノデアリマ
ス、直面シマシタ所ノ時局ニ對スル善處ノ
法ヲ講ズベキデアリマス、卽チ備ナキ
ハ補ヒ、備ノ薄キハ厚ウスル、石垣ヲ高ク
シ、濠ヲ深ウスルト云フコトガ現下ニ於キ
マシテハ肝要事デアリマス、サレバトテ是
ハ決シテ侵略セムトスルノ意味合デハ毛頭
ナイノデアリマシテ、自己保存ノ爲デアリ
せく、國家存立ノ必要條件デアルノデアリ
マス、孫子ニ、兵ハ國家ノ大事ニシテ死生
ノ地、存亡ノ道、察セザル可カラザルナリ
ト申サレテ居リマス、此ノ言葉ハ孫子全卷
ヲ通ジタル所ノ、孫子ノ大精神デアリマシ
テ、如何ニモ兵燹ト云フコトガ重要性ヲ帶
ビタモノデアルカト云フコトヲバ、至レリ
盡セリニ言ヒ盡シテ居ルモノト思フノデア
リマス、固ヨリ兵ハ濫リニ動スモノデハア
リマセヌ、去リナガラ降リ掛ッテ來ル所ノ火
ノ粉ハ之ヲ拂ハナケレバナリマセヌ、寄セ
來ル敵ガアリマシタ場合ニハ、之ヲ防ガナ
ケレバナリマセヌ、備ヲ立テルノハ敵ヲ攻
メル具デハナクシテ、自軍ヲ守ルノ道具デ
アリマス、治ニ居テ亂ヲ忘レズデ、一旦緩
急ノアッタ場合ニ對スル處置ヲ平生ノ時カ
ラ心構ヲシテ置クト云フコトハ、何ヨリモ
是ハ大切ノコトデアルト思フノデアリマス、
斯ク國家ノ防備ガ現下ニ對シマシテ必要デ
アルト、斯ウ確認ヲ致シマシタ以上ニハ
國民ハ又國民トシテノ覺悟ヲセンケレバナ
ラヌト思フノデアリマス、申上ゲル迄モナ
ク國家アッテノ國民デアリマス、國家ナクシ
テ國民ノアルベキ筈ハアリマセヌ、國家亡
ビマスレバ國民又亡ブノデアリマス、國民
ノ生活安定ト云フモノモ、國家アッテノ國民
ノ生活安定デアリマス、廣義ノ國民生活
ノ安定ノ爲ニ、是非共ナサネバナラナイ經
費デアリマスナラバ、是ハ忍ブベカラザル
ヲ忍ンデモ、耐ヘザルモノヲ耐ヘマシテデ
モ、之ヲ國家ノ爲ニ奉仕ヲシナケレバナラ
ナイト思フノデアリマス、已ムニ巳マレナ
イ經費デアル以上ニハ、我々國民ハ所謂緊
褌一番ドコロデハナイ、大肌脫ギニナリマ
シテ、サウシテ犠牲心ヲ發揮シテ、公ニ奉
ズルノ覺悟ト決心ヲ持タナケレバナラナイ
ト思フノデアリマス、我々議員ト致シマシ
テモ、國民ノ一人ト致シマシテ、其ノ職責
本分ニ恪循致シマシテ、奉公ノ至誠ヲ效ス
上ニ於テ、私心ヲ去リ、公利ヲ尊ビ、自ラ
戒メ自ラ愼ミ、此ノ時艱ヲ克服突破スルガ
爲ニ、所謂政府ト抱キ合ッテ行カナケレバナ
ラナイト我々ハ決心ヲ致シタノデアリマス、
サレバコソ十四億ノ陸海軍費ヲ含ミマス所
ノ、此ノ二十八億ノ豫算ヲ敢然トシテ協贊
ヲ致シマシタ一人デアルノデアリマス、衆
議院ニ於キマシテハ、本豫算ノ審議ニ當リ
マシテ、所謂陸海軍ノ本年度見合セ額四千
六百萬圓ニ對シマシテ、違憲ノ聲ガ揚ッタノ
デアリマス、結局衆議院ヲ通過スル際ニ惡
例封ジノ一札トシテ、希望決議ガ附帶サレ
タノデアリマス、確カニ大イナル釘ヲ打込
ンダモノト思フノデアリマス、貴族院ニ於
カレマシテモ、先程皆樣委員長ヨリノ報〓
ヲ御聽取リニナリマシタ通リニ、略〓同樣ナ
ル希望決議ガ附帶サレテ居リマシテ、矢張
リ今後斯樣ナコトヲ例トスベカラズト云フ
釘ヲ打ッタノデアリマス、皆樣方ニ於カレマ
シテモ遠イ記憶ヲ御喚起ニ相成ルデアリマ
セウ、若シ斯ウ云フヤウナ豫算ノ提出形式
ノ上ニ於キマシテ憲法上、會計法上ニ關シ
マスル問題ガアックト致シマシタナラバ、是
ガ十五年、二十五年ノ昔デアリマシタナラ
バ如何デアリマセウ、ソレコソ其ノ內閣ハ
非常ナ大地震ニ搖ラレナケレバナラナイノ
デアリマス、併シ現下ニ於キマシテハ左樣
ナコトヲ論ズルヨリモ、此ノ大切ナル時局
ニ善處スベキ此ノ大豫算ヲ、何トカシテ早
ク通過セシメテ、國家ノ急ニ副ハナケレバ
ナラナイト云フ、此ノ至誠ノ精神ガ充チ滿
チテ居リマシタガ故ニ、大切ナル問題デハ
アリマスルケレドモ、希望決議ノ形ニ於テ
戒シメルニ止ッタト云フヤウナ次第デアル
ノデアリマス、是モ議員我々ガ時局ノ如何
ニモ重大ナルコトヲバ認識シ、同時ニ又軍
部ニ於ケル自己肅正ノ如何ニモ誠意アラレ
ル所ノ工作ヲ認メタカラデアルノデアリマ
ス、尙言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、軍民一
致ノ氣持ヲ以テ之ニ臨ンダカラデアリマ
ス、申ス迄モナク誠ニ現下ハ重大ナル場合
デアリマシテ、朝トナク野トナク、政黨モ
議會モ、官僚モ軍部モ、農民モ財界人モ、
國民總テノ者ガ協心努力致シマシテ、
所謂打ッテ一丸ト成ル底ノ氣持ヲ以チマシ
テ國民ガ總掛リ、國民的精神力ノ總動員ヲ
行フヤウナ心持ヲ以チマシテ、具ニ與ニ手
ヲシッカリト握ッテ、此ノ時難ヲバ克服シナ
ケレバナラナイ時機デアルト思フノデアリ
やく、ソレガ故ニ本員モ此ノ大豫算ニ對シ
マシテハ、進ンデ贊成ヲ表シタ一人デアル
ノデアリマス、併シナガラ豫算自體ヲ顧ミ
テ見マスト、論議スベキ餘地ハ尠クナイヤ
ウニ思フノデアリマス、先ヅ豫算ノ提出ノ
形式竝ニ貴衆兩院ニ於テ問題ニナリマシタ
陸海軍費四千六百萬圓、之ノ取扱振リニ付
キマシテハ、私モ憲法上、會計法妥當ニア
ラズト存ジテ居リマス者ノ一人デアリマス、
貴族院ニ於カレマシテハ去ル三月三日ニ大
河內子爵ガ此ノ問題ニ付キマシテ、政府ニ
對シテ質問サレタンデアリマシテ、ソレニ
對スル結城藏相ノ御答辯ニハ、嚴格ニ申シ
タナラバ、嚴正ニ申シタナラバ成程議論ハ
アルデアラウト云フコトヲバ、大藏大臣自
ラモ之ヲ認メラレテ居ラレルノデアリマス、
併シナガラ私ハ今更此ノ問題ヲ此ノ壇上デ
繰リ返スコトヲ差控ヘタイト思フノデアリ
マス、此ノ內閣ノ成立當時ノ模樣ニ付キマ
シテモ諒トスベキモノモアリマスト共ニ、
所謂武士ハ相ミ互ト云フコトガアリマスガ、
矢張リ政治家同志ノ間ニ於キマシテモ矢張
リ相ミ互デ、同情味、人情味ヲ持チマシテ、
旣ニ其ノ非ナルコトヲ悟ッテ居ラレマスル
以上ハ、敢テ徒ラニ追及ヲスルト云フコト
ハ私ハ控ヘマシテ、唯、今後左樣ナコトヲナ
サラナイヤウニト云フ强イ警告ニ止メテ置
キタイト思フノデアリマス、更ニ方面ヲ變
ヘマシテ、此ノ大豫算ノ生ジテ參リマスル
源ニナッテ居リマスル現內閣ノ政策、施設或
ハ方針等ニ付キマシテ議員トノ質疑應答ノ
間ニ現レテ居リマスルモノニ付キマシテ、
政府ノ所見ガ、各問題、各政策ニ付テノ御
答辯御說明ヲ拜聽致シマスト云フト、個々ト
致シマシテハ承服ノ出來ルモノモアリ、又
心强クモ感ゼラレルモノモアルノデアリマ
ス、サリナガラ是等ノ各政策、施設ガ所謂
國家財政ト云フ上ニ於キマシテ運營サレマ
シタ場合ノコトヲ考ヘテ見マスト云フト、
私ハナカ〓〓政府ノ說明、答辯、個々ニ於
ケル所ノ問題、政策ノ說明、御答辯ニ依テ
安心ヲ致シテ居リマスル譯ニハ參ラナイ節
ガ多々アルノデアリマス、ソレハ各政策ノ
間ニ於キマシテ、或ハ矛盾ヲシ或ハ相剋ヲ
シ、或ハ撞著ヲシテ居リマスモノガ尠クナ
イノデアリマシテ、ソレガ因トナリ果トナ
リ、果ガ又因トナリ、因果關係ガ走馬燈ノ
廻グルガ如ク循環ヲサレテ參リマスル間
ニ、矛盾ガ更ニ矛盾ヲ重ネ、撞著ハ更ニ撞
著ヲ重ネ、相剋ハ更ニ相剋ヲ加へルト云フ
コトニナッテ參リマシタナラバ、循環途上ニ
於キマシテ如何ナル羽目ガ生ズルヤト云フ
コトニ付テ憂慮少クナイモノガアルノデア
リマス、之ヲ具體的ニ二三ノコトヲ申シマ
シテ御參考ニ供シマスレバ、先ヅ第一ニ金
ノ現送、金保有ノ問題デアリマス、大藏大
臣ハ之ニ對サレマシテ、每年金ノ產額ガ一
億二三千萬圓モアルノデアリマスカラ、其
ノ範圍內ニ於テノ金ノ現送、例ヘバ先般實
施シタ所ノ、五千四百萬圓ト記憶シテ居リ
マスガ、五千四百萬圓ノ金ヲ三囘ニ互ッテ
送リ出シタ、先ヅ當分ハ是デ形勢ノ推移ヲ
見テ居ラウ、兎ニ角モ產金額ノ範圍內ニ於テ
ノ金ノ輸送デアルナラバ、在外爲替ノ一「シ
ルリング」二「ペンス」ノ建値ヲバ維持スル
コトモ出來、又日本銀行ノ正貨準備ノ上ニ
於テモ何等ノ支障ヲ來スコトハナイノデア
ル、斯樣ナ御說明ヲ承ッテ見マスト云フト、誠
ニ是ハサウナラ、ソンナニ心配スル迄ノコ
トハナイト斯ウ當初ハ思フノデアリマス、
又公債ノ消化ニ付キマシテハ、斯樣ニ申サ
レテ居ルノデアリマス、公債ノ消化ニ付テ
ハ、公債ノ價値ガ下ガラヌヤウニシテ置カ
ナケレバナラナイ、モット深ク言ヘバ、國
家財政ノ信賴ト云フコトニ歸著スルノダ、
金融機關ヤ投資機關ガ啻ニ利廻ノ算盤ヲ彈
カナイデ、成ル程今日ノ時局ニ於テハ、是
ダケノ國トシテハ歲出ヲ要スルデアルンダ
ラウ、是ダケノ公債ハ出サズニ居ラレマイ、
公債ヲ持ッテモ別ニ不安全デナイ以上ハ、多
少ノ利廻ハ國ノ爲ニ忍ンデ、サウシテ之ヲ
保有スルヤウニシヨウト云フヤウナ、國ニ
對シマス所ノ奉公ノ考ヲ持ッテ貰ッタナラ
バ、日本ノ經濟力ニ於テ今少シ多クノ公債
ノ消化モ出來ルデアラウト思フ、又富ノ蓄
積モ年々增加シテ行クシ、產業ガ繁榮ニナ
レバ、一時ハ其ノ方ニ金ガ取ラレルケレド
干、利潤サヘ上ッテ來レバ、其ノ利潤ハ銀行
ニ收納サレテ來テ、公債保有力ノ力ガ附イ
テ來ルノデアルカラ、是ノ循環ガウマク參
レバ、マダ〓〓日本ノ經濟力ハモット大キナ
公債ヲコナスコトガ出來ルト思フ、而モ其
ノ消化ノ强マッテ行クコトハ、每年幾分ヅツ
デモ增シテ行クノデアルト云フヤウナ御說
明ヲ承リマスト云フト、公債消化ニ付テモ
ソンナニ心配ヲスルコトハ要サヌヤウニ思
ハレルノデアリマス、又本議場ニ於テ大藏
大臣ハ、國防ノ充實ト云フコトト、民間ノ
經濟力ト云フモノハ車ノ兩輪ノ如キモノデ
アル、デアルカラ民間ノ產業ヲ發達、助成
ヲシテ、サウシテ生產力ノ擴充ヲ圖ルト云
フコトガ急務デアル、是ガ爲ニハ金融機關
ノ躍動ヲ切ニ望ム所デアルト云フコトヲ申
サレテ居ルノデアリマス、是モソレダケ伺
ヘバ誠ニ御尤千萬デアリマシテ、厖大ナル
所ノ此ノ陸軍費ノ中ニハ多クノ軍事上ノ、
所謂軍需工業品ヲ含ンデ居ルノデアリマス
ルカラ、民間ノ生產力ノ擴充ガ急速ニ進展
シテ參リマセヌケレバ、此ノ多分ノ豫算ヲ
コナスコトガ出來ナイ、ノミナラズ計畫サ
レタル所ノ軍器ニシロ、兵器ニシロ揃ハナ
イト云フコトニナリマスカラ、國防充實ハ
ナカ〓〓完成ハ出來ナイト云フコトニナリ
マスカラ、成ル程國防ノ充實ニ對シテハ、
民間ノ生產力ノ擴充ト云フコトハ車ノ兩輪、
鳥ノ兩翼ノ如キモノデアルト云フ御說明ハ
誠ニ御尤デアルノデアリマス、又ソレニ付
テ生產力ノ擴充ヲ圖ラウト云フ御趣旨ニ於
テモ誠ニ御同感デアルノデアリマス、併シ
ソレハ其ノ問題ニ付テノミノ同感デアルノ
デアリマス、ト申シマスモノハ、皆樣ニ斯
樣ナコトヲ申上ゲルコトハ釋迦ニ說法スル
ヤウナモノデ、自分ナガラヲカシク感ズル
ノデアリマスガ、併シ演述ノ順序トシテ申
上ゲザルヲ得ヌノデアリマスルカラ御許ヲ
願ヒマスガ、民間ノ生產力ノ擴充ヲ圖ルト
云フコトハ、詰リハ多クノ軍需品製作ヲシ
ナケレバナラナイ、然ルニソレ等ノ軍需品
ノ原料ハ皆外國ニ仰ガナケレバナラヌ、皆
デモアリマスマイガ大部分外國ニ仰ガナケ
レバナラナイ、民間ノ生產力ノ擴充ヲ圖レ
バ圖ル程、原料ノ輸入ト云フモノハ激增シ
テ來ベキコトハ明白ナコトデアリマス、シ
テ見マスレバ、サラデダニ國際勘定ガ借勘
定ニナリツヽアル、ソレニ拍車ヲ掛ケルト
云フコトニナリマスカラ、結局スルニ爲替
相場ノ建値ト云フモノヲ維持スルコトガナ
カナカ困難ニナッテ來マシテ、年產金額ノ範
圍デ以テソレガ賄ヘルカドウカ、サレバト
云ッテ建値ヲバ維持セント欲セバ金ノ現送
ヲモット多クシナケレバナラナイト云フコ
トニナル、又金ノ保有高ヲバ產金額ノ範圍
內ニ留メテ置カウトスルノニハ、輸入ノ激
增ヲ何トカシテ抑制シナケレバナラナイ、
輸入管理令ト云フヤウナ法律ノ働キモアリ
マスルガ、併シ大藏大臣ハ成ルベクサウ云
フヤウナ官憲ノ力ヲ以テヤルヤウナコトハ、
成ルベク致シタクナイト云フコトヲ仰セニ
ナッテ居ル、ガ輸入ノ管理令デモ敢行ヲシテ、
サウシテ洪水ノ如ク入ッテ來ル所ノ、外國カ
ラ來ル原料ヲ何トカ抑制デモシナケレバ、
ナカ〓〓此ノ建値ノ維持ト云フコトハムツ
カシクナル、サレバト云ッテ日本國ヲ空シウ
シテ金ヲ向フニ持出スト云フ譯デハ無論ナ
イノデアリマスカラ、生產力擴充ノ方ニ於
テ少シク我慢ヲシテ貰フト云フヤウナコト
ニセヌ限リニ於キマシテハ、ナカ〓〓金ノ
保有ノ上ニ於テモ、建値維持ト云フコトニ
於テモ困難ガ來ルト思フノデアリマス、政
府ニ於テハ一體何處ニ力點ヲ置イテ居ラレ
ルノデアルカ、何ハ扨措イテモ生產力ノ擴
充ヲ圖ルト云フコトヲ第一義トセラレルノ
デアルカ、或ハ金ノ保有ト云フコトヲ第一義
トセラレルノデアルカ、或ハ又建値維持ト云
フモノヲバ第一義トセラレテ居ラレルノデ
アルカ、其ノ邊ノコトハ伺ヒ問ヒマセヌデア
リマシタガ、何レヲ第一義ト致シマシテモ、
ソレガ爲ニ後ノ二ツト云フモノハ惡影響ヲ
蒙ッテ來ルノデアリマシテ、コチラ立テレバ
アチラガ立タズ、アチラ立テレバコチラガ
立タナイト云フ情景ニナルノデアリマス、
一ツ一ツノ財政經濟政策ノ御說明ヲ承リマ
スレバ、眞ニ安心ガ出來マスケレドモ、包
括致シマシタル國家財政ニ一齊ニ是ガ働ク
ト致シマシタナラバ、此ノ矛盾ヲドウ調和
ナサルノデアルカ、此ノ因果關係ヲバドウ
云フ風ニ離脫サレテ行カレルノデアルカ、
私ハ其ノ點ニ付テ了解ニ苦シムノデアリマ
ス、先ヅ第一ニ在外爲替ノ一「シルリング」
二「ペンス」ノ建値、之ヲ金科玉條ノ如ク支
持シヨウト云フヤウナ御口吻ノ如クデアル
ガ、抑〓此ノ一「シリング」二「ペンス」ト云
フ建値維持ノ率ガ、何處カラ割出サレテ來
タノデアルカ、思フニ私ハ確タル根據ガナ
イノヂヤアルマイカ、要スルニ一方ニ於テ
公債ノ消化アリ、生產力ノ擴充モ圖ラネバ
ナラヌ、物價ノ騰貴ヲバ抑制ヲシナケレバ
ナラナイ、三方四方目ヲ配ッテ、先ヅ此ノ邊
ナラバ何トカ四方八方釣合ガ取レテ行クト
云フ所ニ此ノ一「シリング」二「ペンス」ノ建
値ヲ置カレタノデアルカ、謂ハバ是ガ勘ド
コロデアルノデハアルマイカト、斯樣ニ私
ハ考ヘルノデアリマス、勘ドコロデモ宜イ、
此ノ勘ドコロヲ永久不變ニ過チヲ仕出カシ
マセヌデ、三方四方ニ大事ナ財政政策ガ躓
カズニ、破綻ヲ起サズニ、何トカ廻ッテ參リ
マスルナラバ、之ハソレデモ宜シイカ知レ
マセヌケレドモ、是ハ私ハ直ニ心强ク安心
出來兼ネルノデアリマス、假リニ又此ノ勘
ドコロニ依リマシテ、三方四方ガソレノ
相見合ッテ或程度ノ調和ガ執レルトシマシ
テモ、斯カル工合デアリマシタナラバ、何
レノモノモ皆好良ナ成績ヲ擧ゲル譯ニ參ラ
ヌダラウト思フノデアリマス、生產力擴
充ノ方ニ於テモ聊カ步減リヲセズ、又金ノ
保有ノ上ニ於テモ聊カ我慢ヲシテ多ク出ス
トカ、或ハ又公債ノ消化ノ方ニ於テモ少シ
ソレハ控目ニスルトカ、國防ノ充實ノ豫算
ノ方ニ於テモソレハ後年度ニ不使用トシテ
繰越ストカ何トカ致シマセヌケレバ收ラヌ
デアラウト思ヒマスガ、私ハ此ノ勘ドコロ
ハサウ永久ニ防止ハ出來ナイト思ヒマス、
甚ダ卑近ノ例ヲ申上ゲテ相濟ミマセヌガ、
民間ニアリマス曲藝ヲスル藝當デモ、謂ハ
バ七分三分ノ兼合ト云フ此ノ釣合ヲ、中心
ヲ取ッタ藝當モ上手ノ手カラ水ガ漏リマシ
テ、ヤリ損ジルト云フコトガアルノデアリ
マス、私ハ此ノ矛盾セル相撞著シ合フ、此
ノ各政策ヲ如何ニシテ調節サレ、何レノ政
策ガソレ〓〓ノ使命ヲ達スルヤウニ動イテ
行ケルモノデアルカドウカ、此ノ點ニ付テ
非常ニ寒心ヲスル者デアリマス、結城藏相
ニ切ニ望ミマス所ハ、アナタノ御持合ノ智
慧袋ヲ傾ケ盡サレマシテ、財政ノ前途ニ雲
ノ影ヲ見マセヌヤウナ明朗ナ確實味ノアル、
シカトシタ財政政策ヲ御樹立ヲ願ハザルヲ
得ヌト思フノデアリマス、ドウカ一面ニ於
キマシテハ、此ノ厖大ナル所ノ豫算ガ圓滑
ニコナサレテ參リマシテ、サウシテ國防充
實ノ大使命ニ副フヤウニ、遂行ガ出來マス
ヤウニ、他面ニ於キマシテハ、國家ノ財政
ノ前途ガ行詰リニナリマセヌヤウニ、切ニ
此點ニ付キマシテハ、政府ノ猛省ヲ請フ所
以デアリマス、之デ私ノ贊成要旨ヲ終リマ
ス
〔拍手スル者アリ〕
〔竹越與三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=34
-
035・竹越與三郎
○竹越與三郞君 私ハ豫算委員長ノ報〓ヲ
支持スル者デアリマス、但シ批評ガナイデ
ハナイ、又削除ヲ試ミタイト思フコトガナ
カッタデモナイ、又頗ル疑ヲ懷ク點ガナイデ
モナカッタノデスガ、現内閣成立ノ事情ニ鑑
ミマシテ、修正批評ヲスル時機デナイト云
フコトデ、之ニ贊成致スノデアリマス、定
メテ現內閣ノ方々モ、私ト同感デアラウト
思フト云フノハ、此ノ豫算ハ前內閣ノ豫算
ヲ一夜漬ニ御直シニナッタモノデアル、定
メテ平常ノ抱負トカ經綸トカ云フモノヲ顧
ミル暇ナク、唯議會ニ間ニ合セル爲ニ御拵
ヘニナッタモノデアラウト思フ、而シテソレ
ニ付テ責任ヲ取ラレルコトハ、誠ニ御氣ノ毒
ト思フノデアル、第一、前内閣ノ豫算ハ準
戰時豫算ト云フヤウナコトヲ言ハレタ、準
戰時トハ何デアルカ、戰爭ヲセムトスル豫
算ト云フコトデアル、何處ノ國ニ斯カル豫
算ヲ唱ヘル人ガアルカ、如何ナル國デモ開
戰ノ前夜迄ハ平和ニ蹇々トシ、平和ヲ求メ
平和ヲ唱ヘナケレバナラナイ、然ルニ準戰
時豫算ト云フヤウナ文字ヲ揭ゲ、鉦ヤ太鼓
デ國民ヲ煽テ上ゲヨウトスル、我ガ國民ハ
左樣ナ幼稚ナ國民デハナイ、或國々ノヤウ
ニ威シタリ賺シタリシナケレバ、國家ノ情
態ガ分ラヌト云フヤウナ低級ナ國民デハナ
イ、我ガ國情ハ能ク分ッテ居ル、國家ガ已ム
ヲ得ズンバ增稅ニ廿ンズルト云フ覺悟ハ
持ッテ居ルノデアル、然ルニ斯カル兒〓ニ類
シタル標榜ヲ揭ゲテ出來上ッタノガ前內閣
ノ豫算デアル、之ニ付テ只今ノ政府ハ定メ
テ急場ニ御直シニナルノデ御苦心ガアッタ
ラウト思フ、其ノ御苦心ヲ察シテ私ハ贊成
ヲスルノデアリマス、但シ我々ハ批評ナシ
ニハ贊成シタノデハナイ、或軍事ニ精通シ
タ人ノ說ニ依レバ、今日ノ軍事豫算ハ結局
ハ出サネバナラヌガ、併シ急イデ出サヌデ
モ、今年ハ先ヅ六七千萬圓差控ヘテモ出來
ルコトデアラウト云フ說モアル、併シ是ハ
私ハ素人デアルカラ分ラヌ、又繰延カラ言
ヘバ昭和八年ニハ陸軍ニ於テ千五百萬、海
軍ニ於テ百九十萬、昭和九年ニハ陸軍ニ於
テ千九百萬、昭和十一年ニハ二千萬ノ繰越
ガアル、是ハ工業能力ガ計畫ニ應ジナイカ
ラ、自然ニ剩ッタノデアリマス、此ノ大豫算
ヲ呑込ムダケノ工業能力ハ日本ニアルト云
フコトナラバ誠ニ仕合セデアルガ、恐ラク
ハアルマイト思フ、今、前田子爵ノ言ハレ
タ如ク、此ノ豫算ヲ消化スル爲ニ工業能力
ヲ急速ニ擴張シタナラバ、輸出輸入ノ危變
ガ來ル、之ヲ擴張シナケレバナラヌノデア
ルカラ是非シタイノデアルガ、恐ラクハ工
業能力ノ擴張ハ、サウ急速ニ行クモノデナ
イト思フ、工業能力ノ最モ基本トナルモノ
ハ鐵デアル、今日ハ鐵饑饉ト言ッテ居ル、鐵
ガ〓倍ノ値ガ出テ、鐵ヲ買フコトハ出來ナ
イ、恐ラクハ是ハ商工省ノ管轄デセウガ、
石油ヲ石油會社ニ貯藏サセル義務ヲ命ジテ
アル、ソレハ大キナ「タンク」ヲ以テ貯ヘネ
バナラヌ、其ノ「タンク」ヲ拵ヘル鐡ガ今日
無イノデ、石油貯藏ノ義務ヲ果スコトハ出
來ヌト云フ狀態デアル、又小サイ事ヲ言ヘ
バ此ノ鑄物工場ノアル所ノ川口ノ町ハ、溝
板ニ嵌メテアル所ノ鑄鐵ヲ外シテ、材料ト
シテ尙足ラナイデ、ドウカシテ鐵ヲ得タイト
云フコトデ騒イデ居ル、是亦意外ノ變デモ何
デモナイ、我ガ國ニ於テ昭和九年度ニ消費セ
ラレタル銑鐵ト屑鐵ハ四百七十五萬瓲デア
ル、然ルニ之ニ對シテ內地滿洲ニ於テ產出
シタル銑鐵ト屑鐵ハ三百十一萬瓲ニ過ギ
又、故ニ不足高ハ百六十四萬瓲デアル、是
ハ皆外國カラ屑鐵ヲ輸入シテ居ル、爾後每
年足リナイ、今年ノ推測ハ定メテ二百二十
二萬瓲ノ不足ニナルデアラウト云フ統計デ
アリマス、斯カル不足ハ現實ニ統計表ニ現
レテ居ル時、政府ノ官吏ハ何ト言フカト言
ハバ、鐵ノ饑饉ハ思惑カラ來テ居ル、思惑
カラト云フコトハ定メテ値ガ騰ルコトノ原
因ヲ言フモノデアラウガ、現ニ二百二十餘
萬瓲足リナイノデアル、屑鐵ハ何處カラ來
ルカト言ヘバ、多ク「アメリカ」デアル、此
ノ「アメリカ」ハ「イギリス」ニ今賣ッテ居ッテ、
日本ニハ賣ルコトノ出來ナイ狀態デアル、
若シ或國ガ日本ノ軍備擴張ヲ氣ニ病ンデ屑
鐵ノ輸出ヲ禁止セザルモ、手心ヲスレバ、
全ク屑鐵ハ來ナクナルノデアル、故ニ我々
ノ必要トスル所ノ鐵ハ銑鐵ヲ造ルコトニア
ル、此ノ銑鐵ニ全力ヲ盡サネバナラヌノデ
アルガ、政府ハ今迄ドウシタカト云フト、斯
クノ如ク軍備ヲ擴張スル計畫ヲ持チナガラ、
銑鐵ノ製造ヲ邪魔シテ居ッタノデアル、或
會社ハ鎔鑛爐ノ新設ヲ願ヒ出クナラバ、十
八箇月間調査ト稱シテ之ヲ許サナカッタ、而
シテ政黨大臣ガ出テ初メテ之ヲ許シタ、鎔
鑛爐ハ拵ヘテ二年、二年目ニ初メテ鐵ガ出
ルノデアルガ、此ノ十八箇月ト云フコトヲ、
モット早ク許シテ居ックナラバ、鐵ハモット出
テ居ル、今、政府ハ朝鮮ノ茂山ニ於テ鐵ヲ
出スト言ッテ居ラレルガ、誠ニ結構デ、サウ
シナケレバナラヌノデアル、此ノ茂山ノ鐵
ガ何時出ルカト云フト昭和十七年デナケレ
バ出ナイ、現在我々ハ二百二十餘萬瓲ノ不
足ヲ持ッテ居ッテ、是カラ造ルコトハ勿論宜
シイノデアルガ、此ノ不足ヲ以テ、鐵ヲ基
礎トスル軍備ガドノ位擴張ガ出來ルカト云
フコトヲ私ハ頗ル疑フノデアリマス、私ハ
誠エ素人デアッテ分リマセヌガ、外國ノ本
デ讀ンダ所ニ依ルト、歐洲大戰ノ時「イー
プル」ノ戰線ダケデ三箇月間ニ射出シタ大
砲ノ高ガ、十一萬瓲、彈ダケデ射ッテ居リ
マく、三箇間デス、歐洲全線ニ亙ッテ定メ
シ數百萬瓲ノ鐵ガ土ノ中ニ打込ンデアルダ
ラウト思フ、鐵ナクシテ戰爭ハ出來ナイ、
鐵ナクシテ軍備擴張ハ出來ナイノデアル、
故ニ今日ノ軍備擴張ハ本筋ヲ言ヘバ先ヅ鐵
ノ產出ヲ促シ、屑鐵ノ輸入ニ仰ガズ、足リ
ナカッタナラバ滿洲、朝鮮ニ於ケル貧鑛ノ處
理マデ手續ヲシテ、而シテ此ノ準備ノ上ニ
軍備擴張ヲシナケレバナラナカッタノデア
ラウト思フノデアリマス、併シ今日之ヲ
言ッテモ仕方ガナイノデアルガ、先ヅ是デ
ヤッテ戴クノ外ハナイ、唯私ガ果シテ是ダケ
ノ金デ、陸海軍ノ希望セラルヽ目的程ノ品
物ガ出來ルヤ否ヤヲ疑フノデアル、レータラ
コトハ鐵饑饉デ物價ガ騰ル、其ノ物價ハ總
テノモノニ波及シテ來ル、是ガ豫算執行ノ
上ニ於テ非常ナ困難デアルト思フ、故ニ私
ハ疑ナシニ此ノ豫算ヲ協贊シタノデハナイ
ガ、唯此ノ上ハドウゾ先ヅ宜シクヤッテ御
覽下サイ、成ルベク所期ノ目的ヲ達スルヤ
ウニ御努力ヲ願ヒタイト云フノ外ハナイノ
デアリマス、今日ニ於テ斯クノ如キ鐵ノ不
足ヲ來シタコトハ、我ガ工業家ガ力ガ足リ
ナカッタカラト云フコトモ原因デアルガ、政
府ガ怠慢ニシテ需要供給ノ現在ガ分ラズ、
唯机上ノ空論カラ官吏ノ鞭一本デ工業ヲ統
制シヤウトシタト云フコトガ原因デアルカ
ラ、商工大臣ハ宜シク其ノ部下ニ小兒病ノ
統制經濟ナント云フコトヲ止メサシテ、
ドン〓〓鐵ヲ自由ニ造ラセルコトヲ御命令
ニナルコトヲ希望致シマス、序ナガラ私ハ
陸軍ニ御願ヒガアリマス、我々ハ此ノ豫算
ヲ協贊スルニ付テハ、此ノ豫算ニ依ッテド
ウ云フモノガ出來ルノカ知リタイト云フ希
望ガアッテ質問スル人モアルガ、其ノ質問タ
ルヤ內容ト云フ程ノコトデハナク殆ド外貌
デス、其ノ外貌サヘ知リタイノデアルガ、
ソレヲ知ルコトガ出來ナイ、是ハ軍事上
ノ機密ト云フコトデアル、御尤モノコトデ
アル、機密ヲ維持シタイト云フコトハ御尤
モノコトデアル、併シナガラドウモ陸軍
ハ機密ガ多クハナイカト思フ、我々ハ梅津
何應欽協約ト云フモノハ、ドウ云フモノカ
サヘモ知ルコトガ出來ナイ、滿洲ニ付テ書
クコトモ自由デナイヤウニ思ハレルシ、言
フコトモ自由デナイヤウニ思ハレル、是ハ
定メシ色々ノ御都合ガアルコトデアラウ
ガ、併シ批評ノナイ所ニ進步ガナイ、進步
ノナイ所ニ停滯ガアル、軍事ニ於テハ停滯
ト云フコトハ卽チ他國ニ比シテ退步デアル
カラ、是ハ餘程注意シナケレバナラヌコト
デアルト思フ、今日ハ誰モ我ガ軍隊ノ中必勇
無雙ヲ疑フ者ハナイガ、併シ今日ハ歐洲列
國競ウテ軍隊メ機械化、科學化ト云フコトニ
全力ヲ盡シテ居ル、「タンク」ノ普通ノ力デ
ナク一人「タンク」ヲ理想トスル時代ニナッテ
來テ居ル、此ノ時ニアッテ定メシ我々ノ信賴
スル陸軍ハ科學化、理學化ヲ努メテ居ラレ
テ、完全ニ行ッテ居ルデアラウ、此ノ上トモ
此ノ事ニ付テ全力ヲ盡シテ戴キタイ、「フラ
ンス」ガ「プロシヤ」ト戰フ時、軍器ハ宜イカ
ト云フ議論ガ出タラバ、軍器ハ「ナポレオ
ンㄴ三世自ラ造ッタ皇帝砲ト云フモノガア
ル、之ヲ一發スレバ「プロシヤ」兵ハ禽奔獸
散スト云フコトデアル、皆喜ンデ然ラバト
云フノデ「ベルリン」ヘ「ベルリン」ヘト皆叫
ンダノデアル、其ノ結果ヲ見レバ軍器ハ意
外ニ劣弱デアッタ、我々ハ歷史ニ鑑ミテ陸軍
ガ全能ヲ盡シ、精魂ヲ盡シテ此ノ科學化ト
機械化ニ努メテ戴キタイト思フノデアリマ
ス、我々ガ初メテ「ロシア」ト南山デ出ッ會
シタ時ハ可ナリ苦ンダノデアル、歐洲ニ於
テハ爾後非常ニ變遷ガ來テ居ル、是ハ我々
素人サヘモ分ルノデアルカラ、定メテ當局
ハ御苦心デアラウト思ヒマス、ドウカ其ノ
苦心ヲ救フノニ全能、全力ヲ盡シテ戴キタ
イ、之ニ力ヲ盡セバ是レ日モ足リナイ筈デ
アル、電力國營ニ軍人ガ尻押ヲスルトカ、
統制經濟ヲ立テ、經濟機構ヲ直スナント云
フコトヲ言ッテ居ル暇ガナイ筈デアル、サウ
云フコトハ一切「シヴィル」ノ人ニ任セテ、
軍人ハドウカ全國民ガ希望ヲ集メテ居ル、
其ノ希望ヲ達スルヤウニ機械化ト科學化ニ
盡力セラレルヤウニ、陸軍大臣ハ御誘導ナ
サラムコトヲ御願ヒ致シマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=35
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036・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 安保男爵
〔男爵安保〓種君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=36
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037・安保清種
○男爵安保〓種君 私ハ只今議題ニナッテ居
リマスル此ノ總豫算案ニ贊成ヲ致スモノデ
アリマス、此ノ總豫算案ハ誠ニ空前ノ厖大
豫算デアリ、又劃期的ノ增稅計畫ヲ含ンデ
居リマスノデアッテ、其ノ內容ノ一ツ々々ニ
付キマシテハソレ〓〓議論、論議サルベキ
點ガ多々アルト思ハレルノデアリマスルケ
レドモ、現下ニ於キマシテノ此ノ國際情勢
ヤ、又我ガ國ニ於キマシテノ實情ヲ考査致
シマスレバ我々國民ハ何ト致シマシテモ擧
國總掛リデ以テ所謂軍民一致、朝野協力、
我ガ國ノ直面シテ居リマスル所ノ此ノ時難
ヲ克服シテ行カナケレバナラナイノデアリ
マス、思フニ此ノ病人ヲ收容治療シマスル
爲ニ、病院ノ必要デアリマスルコトハ申ス
迄モナイノデアリマスガ、ソレヨリモ其ノ
病氣ノ起ラナイヤウニ衞生ノ設備ヲ致シマ
スト云フコトガ、國家社會ニ取ッテ更ニ重
要デアリマスルト同樣ニ、國防ニ於キマシ
テモ國家萬一ノ場合ニ御役ニ立タナケレバ
ナラヌコトハ申スニ及ビマセヌト同時ニ、
充實サレタ軍備ノ所謂「サイレント·プレッ
シュア」、不言ノ威力ニ物ヲ言ハセテ、平和
ノ中ニ我ガ國家國民ノ繁榮、發展ヲ招來ス
ルト云フコトガ何ヨリモ大切デアルノデア
リマシテ、本格的ノ國防充實ト云フコトモ、
蓋シ其ノ本旨ハ此處ニアルト考ヘルノデア
リマス、卽チ我々ハ此ノ豫算案ヲ成立致サ
セマシテ、最モ有意義ニ之ヲ實行シテ、我
ガ國家ノ繁榮、生存、發展ニ資セナケレバ
ナラナイト云フ立場ニアルト信ズルノデア
リマス、サウシテ此ノ大豫算ガ成立實行ト
云フコトニ相成リマスレバ、國民ノ負擔ガ
非常ニ增加スルコトハ申スニ及バズ、國防
ノ充實又產業ノ開發、增進、其ノ他有ラユ
ル施設ヤ作業ノ上ニ、此ノ國民ノ、國民全
體ノ非常ナル努力、所謂擧國一致ノ努力ヲ
必要ト致シマスノデアリマス、申ス迄モナ
ク國民ノ一致團結ノ力ハ强ケレバ强イダケ
國家社會ハ其ノ大ヲ成スノデアリマシテ、
能ク申シマスル五指交々彈クハ一拳ニ如カ
ズ、五本ノ指ガ一ツ〓〓働キヲ致スヨリ、
之ヲ打ッテ一丸トシタ鐵拳、其ノ鐵拳ノ非常
ナル威力發揮ヲ要求シテ居ルノガ、今日ノ
日本ノ實情デアルト思フノデアリマス、今
此ノ國家非常時ニ際シマシテ、此ノ時艱ヲ、
國難ト申シマスヨリ時艱ト申シタ方ガ宜イ
ト思ヒマスルガ、是ハ一體誰ガ救フノデアリ
マスルカ、是ハ國民銘々ガ相寄ッテ救ハナケ
レバナラナイノデアリマス、卽チ國民銘々ハ
我ガ國ノ今日ノ實情ヲ能ク呑ミ込ンデ、サウ
シテ其ノ立場々々ニ在ッテ、官吏ハ官吏、軍人
ハ軍人、會社員ハ會社員、又商人ハ商人、
實業從業員ハ從業員、婦人ハ婦人ト云フヤ
ウニ、ソレ〓〓銘々自分ノ立場々々ニ在ツ
テ最善ヲ盡シ、以テ國家ニ奉仕シ、國家ヲ
救ハナケレバナラナイノデアリマス、要スル
ニ國家ハ國民、此ノ自分ガ支ヘテ居ル、斯ウ
云フ自覺ヲ國民全體ガ持ッテ居ラレルコトガ
切要デアリマシテ、一人々々是レ皆國家ノ
柱デアリマス、從ッテ非常時日本ヲ救フト云
フモノハ此ノ自分ノ力デアル、斯ウ云フ大
自覺ヲ國民全體ガ持ツト云フコトガ、何ヨ
リモ大切デアルノデアリマシテ、此ノ國民
銘々ノ大自覺ト云フ事柄ガ、實ハ學國一致
團結ノ基調デアリ、又國ヲ救フ本當ノ原動
力デアルノデアリマス、斯樣ニシテ出來上
リマシタ此ノ國民ノ偉大ナル團結ノ力コソ、
取リモ直サズ國防其ノモノデアリマシテ、
意義ノ有ル本當ノ國防ト云フノハ卽チ是デ
アルト思フノデアリマス、戰爭ガ起ルトカ
或ハ起ラナイトカ云フコトハ、別ノ問題ト
致シマシテ、此ノ眞ノ國防ガアリサヘ致シ
マシタナラバ、今日ノ我ガ國ノ時艱ト云フ
モノハ、必ズヤ救ハレルノデアリマシテ、
前途ノ光明ハ自ラ輝キ到ルト思フノデアリ
やく、此ノ點ハ政府當局ニ於テ十分留意ヲ
スル必要ガアリ、又留意ヲサレテ居ラレル
コトト考ヘルノデアリマス、此ノ意味ニ於
キマシテ私ハ軍民一致、朝野協力、有ラユ
ル苦痛ヲ忍ビ、困難ヲ克服シテ、此ノ大豫
算ヲ有意義ニ實行致シ、サウシテ我ガ國ノ
國防ノ安固ト國家ノ隆昌發展ニ邁進スルノ
ガ、我ガ國現下ノ急務ト確信ヲ致ス者デア
リマス、以上ノ趣旨ニ依リマシテ、私ハ本
案ニ贊成ヲ致ス者デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=37
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038・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 一條公爵
〔公爵一條實孝君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=38
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039・一條實孝
○公爵一條實孝君 本員モ亦本豫算案各案
ノ成立ニ贊意ヲ表スル者デアリマス、本豫
算ハ御承知ノ如ク、實ニ我ガ國未曾有ノ厖
大豫算デアリマシテ、其ノ一部ヲ租稅ノ增
徵ニ依リ、其ノ一部ヲ赤字公債ニ依リマシ
テ、辛ウジテ其ノ支出ヲ賄フモノデアリマ
ス、從ッテ各方面ニ對シ隨分無理ガ出來テ居
ルノデアリマス、卽チ從來ヨリシテ其ノ生
活ニ惠マレザル者ハ、一層其ノ困難ヲ加ヘ、
又負擔ヲ分擔致シテ居リマスル者モ愈、益、
負擔ノ增加ニ苦シミ、國民一般困難ヲ感ズ
ルノデアリマス、併シナガラ國家ノ非常時
ニ對應シ、帝國ノ立場ヲ保チマスル爲ニ
ハ、本豫算ハ絕對ノ必要デアリマス、就中
豫算ノ約半分ヲ占メマスル所ノ陸海軍豫算
ハ眞ニ必要〓クベカラザルモノデアリマ
シテ、苟モ帝國臣民トシテ生ヲ享ケタル者
ハ、諒解致シテ居ル筈ト存ズルノデアリマス、
從ッテ其ノ他ノ緊要ナル諸經費、例ヘバ地方
財政補給金ノ如キ、或限度ニ留ムルノ已ム
ナキモノモアリマス、或ハ幾多ノ大衆課稅
モ、是モ忍バネバナラヌノデアリマス、以
上ノ實情ニ鑑ミマシテ、本員ハ玆ニ政府ニ
對シマシテ、本豫算ノ實施ニ當リマシテハ、
苟モ冗費ニ渉ルガ如キ使途ヲ愼ミ、眞ニ適
切有效ナル使用ヲ望ムト同時ニ、徵稅等ニ
當リマシテハ、所謂苛斂誅求ノ議リヲ受ケ
ザルヤウ、至誠奉公、其ノ本分ヲ竭サレム
コトヲ望ム次第デアリマス、凡ソ權力ノ地
位ニ在ル者ハ動モスレバ其ノ權力ヲ濫用
シ、爲ニ忠良ナル臣民ニ怨嗟ノ聲ヲ放タシ
ムル場合ガアルノデアリマシテ、其ノ例ハ
尠クナイト存ズルノデアリマス、本豫算ノ
實施ニ當リマシテハ、官吏ハ率先シテ自肅
自省ノ範ヲ示シ、上御一人ノ思召····奉
公ノ任ニ當ルノ實ヲ擧ゲラレムコトヲ望ン
デ巳マナイ者デアリマス、又臣民ノ立場ト
致シマシテハ、此ノ非常時局克服ノ責任ヲ分
擔シ、忍ビ難キヲ忍ビ、以テ官民一致、奉
公ノ誠ヲ竭シ、上聖慮ヲ安ンジ奉リ、外ハ
諸外國ニ對シ、皇國ノ光輝ヲ發揚シ、帝國
ノ眞ノ姿ヲ示スコトニ努力セネバナラヌト
存ズルノデアリマス、斯クノ如クニ致シマ
スレバ、現下帝國ニ對スル列國ノ誤解ハ一
掃セラレ、軈テハ眞ニ我ガ帝國ヲ認識敬慕
スルニ至リマセウ、國際親善、福社ノ增進、
期シテ待ツベキデアルト存ズルノデアリマ
ス、以上ノ見地ヨリシテ本員ハ、本豫算各案
ノ成立ニ贊意ヲ表スル者デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=39
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040・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 大河內子爵
〔子爵大河內輝耕君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=40
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041・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 委員長ノ詳細ナル御
報告竝ニ皆樣ノ熱誠ナル贊成ノ御趣旨ヲ伺
ヒマシテ、決シテ私ハ其ノ補足ヲスルコト
モ何モ必要ハナイ、アノ通リデゴザイマス、
併シサウ云フ補足トカ何トカ云フ意味デハ
ゴザイマセヌガ、豫算委員會ノ中ニ於キマ
シテ、私ハ甚ダ喜ブベキ事實ヲ發見致シマ
シタ、此ノコトヲ此處ニ述べマシテ贊成ノ
趣旨ニ代ヘタイト存ジマス、卽チソレハ澤
山ゴザイマス、澤山ゴザイマスガ、最モ喜
ブベキ事ノ一ツトシテハ林內閣ガ全力ヲ擧
ゲテ此ノ國際關係ノ打開ニ努力シヨウ、斯
ウ言明サレタ一事デアリマス、サウシテ段
段國際情勢ノ認識ニ付テ伺ッテ見マスルト、
我々ノ心配ハ漸次解ケテ來タ、卽チ日本ハ
ドウ云フ態度カ、申ス迄モナク各方面カラ
伺ッテ見マスト、不脅威不侵略、此ノ方法デ
行クノダト云フコトガ、軍部當局ノミナラ
ズ總テノ方カラ明言サレタ、ソレヂヤ外國
ハドウカ、外國ノ情勢ヲ伺ッテ見マスト、是
ハ此處デハ具體的ニ申サレマセヌガ、外國
ト雖モ決シテ日本ニ好ンデ挑戰スルモノハ
ナイ、日本ガ相當ノ力ヲ備ヘ、相當ナ方式
ヲ以テ出ルナラバ、外國ガ決シテ好ンデ日
本ニ挑戰スルモノハナイト云フ狀態モ判明
致シマシタ、尙次ニ喜ブベキコトハ外交ノ
刷新、殊ニ其ノ一元化デアリマス、今日斯
樣ニ國際關係ガ惡クナッタノハ何カ、其ノ
一ツノ原因ハ支那外交ノ多元デアル、卽チ
外務當局ヲシテ思フ存分手腕ヲ振ハセナカッ
タト云フコトガ、支那ニ於テ振ハセナカッタ
ト云フコトガ、今日此ノ狀態ヲ招來シテシ
マッタ、現內閣ハ此ノコトニ氣付カレテ、併
シ實際ノ事情ガアルカラ急ニハ行カナイ、
急ニハ行カナイガ、漸次此ノ打開ハ試ミテ
行カウト云フ決心ヲ表明サレタ、斯ウ云フ
狀態デ行ケバ此ノ所謂暗黑ナ國際情勢モ日
ナラズシテ明朗ニナッテ來ヨウト存ジマス、
是ハ外務大臣ガ仰シヤッタカ何カ存ジマセ
ヌガ、仰シヤッタモノデナイト存ジマスガ、
世間誤リ傳ヘテ居ル所ニ依レバ、外務大臣
ハ軍部ノ力ナンゾガナクテモ、此ノ情勢
ハ必ズ打開ガ出來ルト言ハレタト誤リ傳ハッ
テ居リマス、誤リ傳ハッテ居リマスガ、私ハ
此ノ位ノ意氣込ノアル所ノ外務大臣ガナケ
レバ、此ノ今日ノ國際間ノ暗雲ハ拂ヒ切レ
ルモノデナイト思フ、ドウカサウ云フ意氣
込デ以テ、外務大臣閣下ニ於テハ今後ノ外
交ニ當ラレムコトヲ希望致シマス、尙ソレ
ノミナラズ、此ノ豫算ノ施行ニ付キマシテ
ハ、幾多ノ難問ノアルト云フコトハ度々繰
返シ繰返シ主張サレマシタ、ソレデドウス
ルカト云フト、詰リ根本ノ所ハ外交ノ打開、
國際關係ノ整備、從ッテソレヨリ生ジテ來ル
所ノ軍備ノ縮小、縮小ト言フト言葉ガ惡イ
ガ、餘リ軍備ヲ急速ニ增サナイ、詰リ國力
ニ相應シテ軍備ヲヤッテ行クト云フコトニ歸
シテ來ヨウト思フ、一體增稅ガアリマス時
ニ國民ハ何ト思ッタ、成ルホド火事ガアル時
ニハ消サナケレバナラヌ、併シ火事ハ自分
ガ起シタ火事デナイ、何處カ何ダカ分ラナ
イモノガ來テ火事ヲ起シテ、我々國民ハ何
等責任ナキニ拘ラズ、三億ノ增稅ヲ負擔シ
テ、此ノ火事ヲ消サナケレバナラヌ、誠
其ノ必要デアルト云フコトハ、是ハ今日自
覺シテ居リマスガ、其ノ必要ノ原因ニ至ッテ
ハ承服スルコトハ出來ヌ、又今後之ヲ如何
ニシテ拂ハレテシマフダラウカ、折角三億
ノ增稅ハシタガ、又何處カラ火事ガ來テ滅
茶滅茶ナコトニナッテシマヒヤシナイカ、シ
マヒヤシナイカヂヤナイ、サウナッテシマフ
ノダトマデ言ッテ居ル、コンナヤケ氣分モア
ル、此ノコトモ私ハ當局ニ對シテヨク意見
ヲ述ベタ、當局モヨク此ノ點ハ諒察サレテ、
國際關係ヲ打開スルナリ、其ノ他有ラユル
方法ヲ執ッテ、サウシテ此ノ增稅ヲ快ク國民
ガ負擔ヲシテ行クヤウニ、此ノ增稅ハ主ト
シテ理想トシテハ國利民福ノ增進ニ使ハレ
ルヤウニ持ッテ行カウ、若シ出來ルコトナラ
バ將來モット減シテモ宜カラウト云フ風ニ
考ヘテ居ラレルト云フコトモ判明致シマシ
ク、マダ澤山ゴザイマス、是等質問應答ニ
依ッテ得タル事項ハ、誠ニ國家ノ爲ニ喜ブベ
キコトト私ハ考ヘル、私ハ此ノ際ニ林內閣
ノ健在ヲ祈リ、且今聲明サレタヤウナ政策
ガ著々具體的ニ行ハレルコトヲ希望シテ此
ノ壇ヲ降リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=41
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042・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 是ニテ討論ヲ終
リマス、御異議ガナケレバ、以上五案ヲ一
括シテ採決ヲ致シマス、五案全部ヲ問題ニ
供シマス、五案全部ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ
請ヒマス
〔總員起立〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=42
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043・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 全會一致ト認メ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=43
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044・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第六、昭和
十二年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公
債發行ニ關スル法律案、日程第七、昭和七年
法律第一號中改正法律案、日程第八、昭和
七年法律第十二號中改正法律案、日程第九、
日本銀行條例中改正法律案、日程第十、日
本銀行參與官法廢止法律案、日程第十一、
東京農業〓育專門學校創設ニ伴フ帝國大學
特別會計及學校及圖書館特別會計ノ關涉ニ
關スル法律案、日程第十二、帝國ノ滿洲國
ニ於ケル治外法權ノ撤廢及南滿洲鐵道附屬
地行政權ノ調整乃至移讓ニ伴ヒ退官退職シ
タル者等ニ交付スル公債發行ニ關スル法律
案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、
委員長報〓、是等ノ七案ヲ一括シテ議題ト
ナスコトニ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=44
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045・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス、委員長、小村侯爵
昭和十二年度一般會計歲出ノ財源ニ充
ツル爲公債發行ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
昭和七年法律第一號中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衛文麿殿
昭和七年法律第十二號中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
日本銀行條例中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
日本銀行參與會法廢止法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
東京農業〓育專門學校創設ニ伴フ帝國
大學特別會計及學校及圖書館特別會計
ノ關涉ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
帝國ノ滿洲國ニ於ケル治外法權ノ撤廢
及南滿洲鐵道附屬地行政權ノ調整乃至
移讓ニ伴ヒ退官退職シタル者等ニ交付
スル公債發行ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十七日
委員長侯爵小村捷治
貴族院議長公爵近衞文麿殿
〔候爵小村捷治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=45
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046・小村捷治
○侯爵小村捷治君 御報告申上ゲマス、只
今議題ニ上リマシタ昭和十二年度一般會計
歲出ノ財源ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法
律案、外六件ノ提案理由ニ付キマシテハ、
旣ニ大藏大臣ヨリ本議場ニ於テ御說明ガゴ
ザリマシタノデ、此ノ際ハ省略サセテ戴
キマス、直ニ委員會ノ審議ノ情況ニ付テ申
上ゲルコトニ致シマス、委員會ハ二十五、
二十六、二十七、ノ三日間ニ亙リ會議ヲ開
キマシテ、愼重審議ノ結果可決致シマシタ
ノデゴザイマスルガ、先ヅ各法案ニ付テ其
ノ質疑應答ノ極ク〓略ダケヲ中述べタイト
存ジマス、先ヅ七億五千萬圓餘ニ上リマス
ル赤字公債關係ノ二法案ニ付キマシテハ、
旣ニ增稅モ行ハレムトシテ居ルガ、同時ニ
赤字公債デ何時マデ賄ッテ行クノカ、現下
ノ情勢ヨリ見テ、是モ已ムヲ得ナイガ、前
途ノ收支ノ均衡ヲ目標トシテ、根本的ノ財
政計畫ヲ次年度カラハ立テテ貰ヒタイ、其
ノ計畫ハ如何ト云フ委員ヨリノ熱心ナル質
疑ニ對シマシテ、大藏大臣ヨリハ增稅ニ
依ルカ、赤字公債ニ依ルカノ問題ニ付テ、
自分ノ意見トシテハ、出來ルダケ普通ノ歲
入デ賄ッテ行キタイ、但シ目今ノ國際情勢上
ヨリ、軍備ノ充實ハ已ムヲ得ヌ所デ、旣
前內閣ハ、其ノ財政計畫ニ依リ財界ニ相當
ナ衝動ヲ與ヘタ、其ノ後幸ニ財界ノ情勢ハ
落付イテ來テ、今日殆ド不安ハナイ、サリ
トテ來年度カラ豫算ガ減ルト云フ見込モ付
カナイガ、財界ノ趨勢ニシテ順調ナラバ、
年々十億圓位ノ公債發行ハ、サシテ困難デ
モアルマイ、併シ赤字財政ニ依ル歲出ノ膨
脹ハ、出來得ル限リ阻止セネバナラヌガ、
是ニハ國際關係ノ好轉ヲ期セネバナラヌ、
日本トシテハ他國ニ比シテ、國力カラ見テ
多過ギルト云フ程ノコトハナイ、公債ハ能
ク消化サレテ居ル、更ニ減債基金其ノ他ノ
方法ヲ講ズレバ、公債ノ信用モ高マッテ行ク
コトデアラウ、此ノ邊ハ運用ノ如何ニ依ッテ
散布サレタ國庫金ヲ工合好ク吸ヒ上ゲテ行
クト共ニ、國民ノ貯蓄心ヲ涵養シテ、經濟
界ヲ培ヒ育テ上ゲテ行クコトヲ心掛ケレバ
有ラユル金融機關モソレ〓〓公ケノ一個ノ
機關ヲ經營シテ居ル一員ダト云フ觀念ヲ懷
クヤウニナリ、少シ位算盤ニ合ハナイ場合
ニモ公債ヲ持ツヤウニナッテ來ルト思フ、公
債市價ノ維持ニハ十分努力スル、稅制モ來
年度マデニハ確立シタイ旨ノ懇切ナル答辯
ガゴザイマシタ、次ニ日本銀行條令改正、
卽チ從來ノ參與會ヲ廢シテ、新タニ參與理
事ヲ設ケル、此ノ二ツノ法案ニ關シマシテ
ハ、參與理事ノ設置ノ意義、其ノ權能乃至
ハ弊害ノ有無等ニ付テノ質疑ニ對シ、從來
ノ參與會ハ諮問機關ニ過ギズ、十分ナル效
果ヲ擧ゲ得ナカッタガ、參與理事トスレバ、
日本銀行ノ業務ニモ或程度ノ責任ヲ有ツコ
トニナリ、日銀ノ理事會ニモ緊張味ヲ與ヘ
ルコトニナル、又特殊銀行ノ首腦者乃至金
融界以外ノ實業家中ヨリモ練達堪能ノ士ヲ
加ヘル爲メ、各種金融機關其ノ他外部トノ
連絡協調ニ便利トナリ、株主總會ガ選擧ス
ル關係上、必ズシモ正副總裁ノ方針ニ盲從
スル必要ハナイ、又參與理事ハ政策ニ參與
シテ業務ニハ與ラヌ、但シ金融、通貨、公
債爲替等ノ政策ノ實行方法ニハ參畫スルコ
トモアル、日銀ノ祕密事項ニ付テハ金利政
策等ノ意見ヲ徵セラルヽコトハアルガ、決
定ハ總裁ト內部理事トノ合議ニ依リ、成立
テバ直チニ大藏大臣トノ協議ニ移リ、斯ク
シテ決定發表ト云フ順序ヲ取ルノデ心配ハ
アルマイ、且其ノ地位ヲ利用シテ特殊銀行
首腦者等ガ參與理事トナッテモ、弊害ノ起ル
コトハ避ケタイトノ答辯ガ、是亦大藏大臣
ヨリ行ハレマシタ、次ニ昭和七年法律第十
二號中改正案ニ關聯致シマシテ、資金貸付
及回收ノ情況ハドウカトノ質疑ニ對シマシ
テ、貸付先ハ北京、天津、上海、漢口、其ノ
他支那各地ニ於ケル居留民團或ハ債務者團
デアッテ、昭和十三年度末マデ据置キニシテ
置イテ其ノ後ノ十年間、卽チ昭和二十三年
度末マデニ三分ノ利子デ均等ニ返濟スルコ
トニナッテ居ル、期限到來後ニ萬一返濟不能
ノ場合ガ起レバ適當ナル方策ヲ其ノ際講
ズルト云フ旨ノ政府委員ノ答辯ガゴザイマ
シタ、ソレカラ東京農業〓育專門學校案ニ
付キマシテハ、開設準備ノ模樣ニ付テ質疑
ガアリ、又滿洲國ニ於ケル我ガ治外法權撤
廢及南滿洲鐵道附屬地行政權ノ調整乃至移
讓ニ伴ヒ、退官退職シタル者等ニ交付ノ公
債案ニ付テハ其ノ人數、仕事ノ種類、退官
退職者ノ將來、治外法權撤廢ノ順序等ニ付
テ問答ガ行ハレマシタ、斯クテ質疑ヲ終リ
マシテ討論ニ入リ、全委員ヨリ贊成意見ノ
開陳ガゴザイマシテ、斯クシテ全會一致ヲ
以テ此ノ七ツノ法案全部ヲ可決スベキモノ
ト議決ヲ致シマシタ、右ヲ以テ委員會ノ御
報告ト致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=46
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047・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 以上七案ノ第二
讀會ヲ開クコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=47
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048・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=48
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049・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=49
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050・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=50
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051・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=51
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052・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=52
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053・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 七案全部、委員
長ノ報告通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=53
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054・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=54
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055・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=55
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056・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=56
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057・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=57
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058・近衞文麿
○議長(公爵近衛文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=58
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059・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 七案全部、第二
讀會ノ決議通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=59
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060・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=60
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061・近衞文麿
○議長(公爵近衞文麿君) 日程第十三、議
院法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會ノ續、委員長報告、松木伯爵
議院法中改正法律案
右別冊ノ通修正議決セリ依テ及報〓候也
昭和十二年三月二十八日
委員長伯爵松木宗隆
貴族院議長公爵近衞文麿殿
(-ハ特別委員修正)
議院法中左ノ通改正ス
第一條中「四十日」ヲ「二十日」ニ改ム
第四十條第一項及第二項中「二十一日」ヲ
「二十五日」ニ改メ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
第三十三條ノ規定ニ依ル停會中ノ日數
及年末年始ニ際シ各議院ガ議決ヲ以テ
爲シタル休會中ノ日數ハ之ヲ前三項ノ
日數ニ算入セズ但シ算入セザル休會中
ノ日數ハ二十日ヲ超ユルコトヲ得ズ
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔伯爵松木宗隆君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=61
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062・松木宗隆
○伯爵松木宗隆君 議院法中改正案ニ付キ
マシテ、委員會ノ經過ト結果トヲ御報〓申
上ゲマス、重要ナル議院法ノ改正ノコトデ
アリマスカラ、委員會ハ愼重ニ審議ヲ盡サ
レタノデアリマス、而シテ本案ニハ修正ヲ
加ヘラレマシテ、全會一致ヲ以テ可決セラ
レタノデアリマス、其ノ修正ノ點ハ
〔副議長伯爵松平賴壽君議長席ニ著ク〕
但書ノ、「但シ算入セザル休會中ノ日數ハ
二十日ヲ超ユルヲ得ズ」此ノ但書ヲ削除ス
ルコトニ議決セラレタノデアリマス、御覽
ノ如ク本案ハ各條項ニ亙ッテ、單ニ日數ノ增
減ニ過ギマセヌガ、現下議院制度ノ改善ニ
向ッテ各自ガ熱意ヲ持ッテ考究中ノコトデア
リマスルカラ、委員會デハ重要ナ問答ガ行
ハレタノデアリマス、併シ會期切迫ノ時デ
アリマスカラ、其ノ中ノ一二點ニ付テ御報
告ヲ申上ゲルコトニ止メタイト存ジマス、
御質問ノ點ハ、抑〓此ノ改正案ノ由來スル所
ハ、議院制度調査會ノ十一月召集說ニ基ク
モノデアリマスルカラ、政府ガ果シテ十一
月召集ヲ奏請スル意思ヲ有スルヤ否ヤ、之
ヲ確ムルノ必要アリトシテ、總理大臣ノ御
出席ヲ求メタノデアリマス、總理ノ御答辯
ハ、重大ナル支障ナキ限リ、卽チ眞ニ已ム
ヲ得ザルコトノ生ゼザル限リハ召集相成ル
ヤウ努力スル氣持デアルト云フ旨ノ御答辯
デアリマシタ、又一委員ヨリ當委員會ヲ好
キ機會トシテ政府ニ希望ヲ表サレタノデア
リマス、ソレハ貴族院ハイツモ開會ノ當初ニ
アッテハ、法案ノ提出僅少ナルガ爲ニ、手ヲ空
シウシ時ヲ餘シテ頗ル不滿ヲ感ズルノデア
リマス、之ニ反シテ會期ガ末期ニ迫ルニ及
ンデハ、重要ナル法案ガ輻湊シ來ッテ、審査
ニ晝夜兼行日モ亦足ラザルノ苦境ニ陷ルノ
デアリマス、貴族院トシマシテハ會期ヲ最
モ有效ニ審査ヲ最モ效果アラシメムコトヲ
期スルノデアリマスルガ、斯クノ如キ苦境
ニ陷ラシムルト云フコトハ、政府モ亦其ノ
責アリト云フ感ジヲ持ツノデアル、故ニ將
來政府ハ法案ノ提出ニ際シテ、是迄ノ慣習
ニ囚レズシテ改善サレテ然ルベキ點ガ多々
アルト考ヘラルヽニ依ッテ、政府ニ考慮ヲ求
ムルト云フコトデアリマシタ、之ニ對シテ
當局ハソレ等ノ點ニ付テハ、向後十分ニ考
慮シテ努力スル積リデアルト云フ御答辯デ
アリマシタ、尙本案ニ關聯シマシテ特別議
會へ總豫算提出ノ問題、又ハ憲法、議院法
等ニ於ケル停會又ハ議會ノ延長等ニ付テ、
重要ナル問答ガ行ハレタノデアリマス、併
シ是等ノ問答ハ速記錄ニ讓リマシテ御精讀
ヲ希フコトニ致シマス、討論ニ入リ一委員
ヨリ修正ノ動議ガ提出サレタノデアリマス、
ソレハ前段申上ゲマシタル如ク、但書ノ削
除デアリマス、其ノ理由トセラレマス所ハ、
休會ハ議院ノ自主的決議デアリ、又道德的
ノモノデアル、然ルニ其ノ休會ヲ無制限ニ
流用セラレルカ否ヤト云フヤウナ懸念ヲ以
テ、此ノ案ニ於テ制限ノ規定ヲ設ケラレム
トスルト云フコトハ、議員ノ品位、議會ノ
權威ニ於テ是ハ要ラザル御縣念デアル、削
除然ルベシト云フコトデ提案サレタノデア
リマス、之ニ對シテ政府ノ御答辯ハ、其ノ
理由トセラルヽ所ト政府ガ立案シタル所ノ
趣意トハ異ッテ居ル所ガアリマスルケレド
モ、政府ハ敢テ原案ヲ固執セズト云フ御意
嚮デアリマシタ、依ッテ全委員擧ッテ削除ニ
贊意ヲ表セラルヽコトニ至リマシタ、採決
ニ至リマシテ本案ハ但書ヲ削除シ、後ハ全
會一致ヲ以テ可決サルベキモノト議決サレ
タノデアリマス、此ノ段御報〓申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=62
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063・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ討論ニ
移リマス、大河內子爵
〔子爵大河內輝耕君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=63
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064・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 晩クナリマシテ、度
度皆樣ヲ御煩シシテ誠ニ恐縮ニ存ジマス、
私ハ之ニ對シテ贊成意見ヲ述べタイ、實ハ
此ノ私ノ述ベタイコトハ質問ノ形ニ致サウカ
ト存ジタノデアリマスガ、モウ政府ニ豫算委
員會デ質問致シマシテ、政府モ十分ニ其ノ
趣旨ヲ諒トシテ居ラルヽノデゴザイマスカ
ラ、贊成演說ニ變ヘマシタ、併シ若シ政府
ガ御反對ノヤウナリ、或ハ御分リニナリ惡
イ所ガゴザイマシタナラバ、御遠慮ナク御
質シヲ願ヒタイ、只今松本委員長カラ御報
〓ノ通リ、此ノ案ハ十一月ニ議會ヲ開クコ
トト相關係シテ出來タモノデアル、斯ウ云
フ御話デアッタ、之ニ付キマシテハ、私ハ議
會ヲ早ク開クト云フコトハ成ル程理由ハア
ルデセウ、立派ニ理由ハアリマス、私モ寒
イ時分ニ隨分選擧演說ヲ賴マレマシテ方々
ニ參ッタコトガアル、信州ノ大町アタリマデ
出掛ケマシタ、ナカ〓〓雪ノ中ヲ走リ廻ル
ト云フコトハ勞力モエライバカリデナク、
費用モ大變デアル、ソレデ大町位ナラマダ
宜ウゴザイマスガ、アレカラマダ山ノ中、
越後境マデ行ッタラ大變ナモノダラウト思
フ、信州デスラ其ノ位デアル、是ガ東北ト
カ北海道ト云フコトニナリマスト、雪ノ中
デ總選擧ヲヤルト云フコトハ容易デナイコ
トデアル、出來ルコトナラ是ハ避ケタイ、
衆議院議員ノ選擧ノ費用ガ多クテ困ル、誠
ニ御尤デアル、此ノ問題ハ決シテ衆議院議
員ダケノ問題デナイ、此ノ選擧費ヲ減ラス
コトハ勿論一致シテ各方面カラ努力シナ
ケレバナラヌ、此ノ點ニ於キマシテ十一月
說至極御尤デアル、御尤デハゴザイマスガ、
其ノ點ニ付テハモウ仰シヤル通リデアリマ
スガ、之ヲヤリマスト、豫算ノ編成ノ立場
カラ見マシテ、豫算ガ好イ加減ナモノニ
ナッテシマフ虞ガアル、虞ガアルドコロヂヤ
ナイ、宜イ加減ナモノニナル、豫算ガ宜イ
加減ナモノニナレバ財政ノ基本ト云フモノ
ハ立タナイ、無駄ナ經費モ使ハレル、餘計
ナ仕事モ出來ル、一方ニ於テ又必要ナ經費
ハナイト云フヤウナコトニナッテ來テ、甚ダ
不經濟ナ結果、又非能率的ナ結果ヲ起ス譯
デアル、何故カト申シマスト、是ハ今日申
上ゲル迄モナイコトデスガ、今年ノ豫算ノ
例ヲ取ッテ見レバ分ル、今年ノ豫算ニ於キマ
シテハ大變ニ御急ギニナッタ、其ノ結果歲出
ノ內容モ、當局者自身モドウモ不十分ナ所
ガ多イカラ、此ノ次ノ豫算ニハ再檢討ヲシ
ヨウ、歲入ノ增加ノ方モ不十分ナ點ガ多イ
カラ、此ノ次ノ稅制案ヲ出ス時ニモット能
ク檢討ヲシヨウト言ッテ、當局自身御不滿デ
アル、是ハ何故カト云フト、急イデ御ヤリ
ニナックカラデアル、ソレデアリマスカラ、
ソレヂヤ十一月ニ繰上ゲルトドウナルカ、
サウスルト、今日ノ實情カラ申シマスレバ、
四月一日カラ急速ニ變ヘナケレバナラヌ、
迚モ間ニ合フモノヂヤアリマセヌ、急速ニ
ヤッタ結果ハドウナルカト云フト、各省デハ
詰リ分リ切ッタ豫算シカ出シテ來マセヌ、各
省カラモ分リ切ッタ豫算シカ出シテ來マセヌ
カラ、唯普通ノ「ルーティン〓ビジネス」ニ
屬スル豫算ダケガ出來上ッテシマフ、併シ問
題ニナルベキ豫算ハドウカト云フトナカナ
カサウ急ニ極ルベキモノデナイ、サウシテ
終ヒニハドウシテモ十月カ十一月頃迄ハ極
ルモノデハナイ、其ノ結果ドウナルカト云
フコト皆追加豫算ニ廻ッテシマフ、總豫算
ト云フモノハ財政ノ政策ヲ其所ニ盛ラナケ
レバナラヌノデ、小サナモノハ追加豫算ニ
ナッテモ仕方ガゴザイマセヌガ、大キナ政策
ニ屬スルモノハ總豫算ニ盛ルベキモノデア
ル、現ニ今年ノ追加豫算ノ如キモ燃料會社
ノ問題ト云ヒ、滿洲植民ノ問題ト云ヒ、或
ハ朝鮮ノ林業會社ノ問題ト云ヒ、今年ノ年
度ノ金ハ馬鹿ニ少イ、少イガ來年度以降ニ
ナルトズット殖エテ來ル、斯ウ云フモノハ總
豫算ノ中ニ組込ンデ財政計畫ノ中ニ包含シ
テ來ナケレバ我々ハ財政ノ審査ヲスルコト
ガ出來ナイ、ソレヲ面倒臭イモノハ皆追加
豫算ニヤッテシマヘト云フヤウナコトニナリ
マシテハ、是ハ豫算ノ審議ヲスルコトニ於
テ不便ドコロヂヤナイ、出來ハシナイ、ソ
レト今一ツハ急イデヤラセルト云フコトニ
ナルト結局無駄ガ殖エル、早ク提出シロト
云フコトニナリマスト各省ハドウスルカ、
四月カ五月迄ニ提出スルト云フコトニナル
ト、其ノ經費ハ翌年ノ四月カラ翌々年ノ三
月デスカラ、二年先ノコトハ分ルモノ
ヂヤナイ、宜イ加減ナモノヲ書イテ
出ス、宜イ加減ナモノヲ書イテ出スカラ詰
リ無駄ガ多クナル、澤山書イテ出スヨリ仕
方ガナイ、斯ウ云フ結果カラシテ單ニ事務
上バカリデハナイ、此ノ問題ハ財政上ノ立
場カラ非常ナ惡影響ヲ及シテ來ル、ソレデ
十一月ニ御ヤリニナルト云フコトモ御尤ナ
節モゴザイマスカラ、決シテソレハ主義ト
シテ彼此私ハ申シマセヌガ、餘リ此ノ點ヲ
墨守サレテ、何デモ十一月ニ開カナケレバ
ナラヌト云フコトニナルト、財政ノ上ニ非
常ナ害惡ヲ來スコトニナルト思ヒマス、殊
ニ來年度ノ如キハ歲出ヲスッカリ總浚ヒヲ
スル、歲入ニ對シテモ總浚ヒスル、ソレヲ
是カラ十月位迄ニヤッテシマヘト言ッタッテ
言フ方ガ無理ナノデス、是ハ來年度ニ限ッタ
コトデハアリマセヌガ、政府ハ此處デ此ノ
豫算ガ通ッタラバ先ヅ緩ックリ落著イテ此ノ
豫算ヲ執行シテ、是ガ果シテ產業界ト調和
ヲ得ルカ、金融界ト調和ヲ得ルカ、度々質
問應答ガアリマシタヤウニ生產力ガ耐ヘテ
行クカ、金ノ現送ハドンナコトニナルダラ
ウカ、爲替相場ハドウナルダラウカト云フ
ヤウナ點ヲ能ク御考ニナッテ、ジックリ考ヘ
タ上ニ來年度ノ豫算ノ編成ニ御著手ニナル
ガ宜イ、事務的ニ行ケバ宜イト云ッテサウ急
イデ御ヤリニナルベキモノデハナイ、是人
今年ニ限ッタコトデナシニ每年ノ例デゴザ
イマス、今回ノ大藏省ニ於ケル豫算編成前
ノ狀態ヲ見ルト、迚モ十一月ニ議會ヲ開ク
ト云フコトハ思モ依ラヌコトデス、落着イ
テ、良イト云フモノヲヤルナラ出來マス、
良イト云フモノヲヤルナラ出來マスガ、時
勢ニ卽應シタ政策ヲ立テテ、豫算ヲ編成ス
ルニハ、成ルベク年度ニ近イ方ガ宜イ、斯
ンナコトヲ墨守サレタナラバ、政治上財政
上多大ナ弊害ヲ來サウト思ヒマス、單ニ是
ハ事務上ダケノ問題ヂヤアリマセヌ、私ハ
此ノ希望ヲ付シマシテ此ノ修正案ニ贊成ヲ
致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=64
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065・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ討論ヲ
終リマシタ、別ニ御異議ガゴザイマセヌケ
レバ、本案ノ採決ヲ致シマス、本案ノ第二
讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=65
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066・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=66
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067・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=67
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068・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=68
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069・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=69
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070・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=70
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071・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀
會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問
題ニ供シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=71
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072・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 本案全部委員
長ノ報告通リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=72
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073・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=73
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074・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=74
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075・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=75
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076・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=76
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077・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=77
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078・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀
會ヲ開キマス、本案全部二讀會ノ決議通リ
デ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=78
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079・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=79
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080・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 日程第十四小
運送業法案、日程第十五日本通運株式會社
法案、政府提出衆議院送付、第一讀會ノ續、
委員長報〓、是等ノ二案ヲ一括シテ議題ト
爲スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=80
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081・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス、委員長飯田男爵
小運送業法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十二年三月二十八日
委員長男爵飯田精太郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
日本通運株式會社法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十二年三月二十八日
委員長男爵飯田精太郞
貴族院議長公爵近衞文麿殿
〔男爵飯田精太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=81
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082・飯田精太郎
○男爵飯田精太郞君 只今上程ニ相成リマ
シタ小運送業法案、日本通運株式會社法案
ノ特別委員會ノ經過竝結果ヲ簡單ニ御報〓
申上ゲマス、兩法案ノ委員會ハ二十七、二
十八ノ兩日ニ互ッテ開キマシテ、兩法案ヲ一
括シテ審議致シマシタ、審議ノ詳細ハ速記
錄ニ付キ御覽ヲ願フコトニ致シマシテ、重
要ナ事項ニ付キマシテ、其ノ要領ヲ御報告
申上ゲタイト思ヒマス、先ヅ政府ノ兩法案
提出ノ理由ヲ簡單ニ申上ゲマスレバ、小運
送業ハ國民經濟上極メテ重要ナル意義ヲ有
スルニモ拘ラズ、現行制度ニ於キマシテハ
其ノ營業ガ自由ニ放任セラレ且交互計算等
ノ統轄事務ヲ行フ會社ガ分立致シテ居リマ
スル結果、種々ノ弊害ヲ生ジ、小運送業ノ
健全ナル發達ヲ圖ルト云フコトハ望ミ得ナ
イノデアリマス、仍ッテ小運送業ヲ免許營業
トシテ適當ナル取締監督ヲ行フト共ニ、新
タニ半官半民ノ統轄會社ヲ設ケマシテ、旣
存ノ民間統轄會社ノ事業ヲ繼承致サセ、之
ヲシテ小運送業ノ改善助長ヲ圖ラシムルコ
トガ最モ有效適切デアルト云フ點ニ存スル
ノデアリマス、先ヅ小運送業法案ニ付テ其
ノ主ナル內容ヲ申上ゲマスレバ、鐵道、軌
道ニ附隨スル運送店ノ營業、卽チ運送ノ取
扱、運送ノ代辨等ノ營業ハ免許ヲ要スルコト
ト致シマシテ、其ノ運賃、料金等ハ認可ヲ
受ケタ後、之ヲ公示スルコトトシ、其ノ他
日常事務ニ付キマシテモ、之ヲ監督スルコ
トニナッテ居リマス、又日本通運株式會社法
案ニ付テ申上ゲマスレバ、本會社ハ資本金
ヲ三千五百萬圓トシ、鐵道會計ヨリ、資本
金ノ半額ヲ限度トシテ出資シ得ルコトトナッ
テ居リマスガ、鐵道會計ノ持株ニ對シマシ
テハ、一般ノ配當ガ年六分ニ達スル迄ハ配
當ヲ要セザルコトニナッテ居リマス、特別
委員會ニ於キマシテハ各委員カラ種々重要
ナル質問ガアリマシタガ、之ヲ一々御報〓
致シマスト非常ニ時間ヲ要シマスノデ〓略
ノ御報告ニ止メサセテ戴キタイト思ヒマス、
先ヅ第一ニ兩法案提出ノ動機及兩法案ノ實
施ニ依ッテ社會ノ受ケル利益ハドウデアラ
ウカト云フ質問ガアリマシタ、之ニ對シテ
政府ヨリ小運送ヲ改善シテ荷主公衆ノ利便
ヲ圖ル爲ニ鐵道省ハ永年ニ亙リ色々ナ施設
ヲ行ッタガ、其ノ實驗ニ徵シ、ドウシテモ小
運送業ヲ免許制度トシ、國家ガ其ノ監督取締
ニ當ルト共ニ、統轄會社ヲ統一シテ、之ヲシ
テ運送店ノ指導助成ニ當ラシメルヨリ外ニ
途ガナイ、卽チ此ノ兩法案ノ實施ニ依ッテ、
初メテ小運送業ノ改善助長ヲ期シ得ルノデ
アルトノ答辯ガアリマシタ、次ニ免許セラ
レタル小運送業者ノ指導監督ハ、鐵道省ガ
之ニ當ルコトト思フガ、一方新會社モ亦小
運送業者ノ指導ニ當ル必要ガアルト思フ、
此ノ間ノ關係ヲ如何ニ按配スルカト云フ質
問ガアリ、政府ヨリ不正不當ノ取扱ニ關ス
ル取締ナド主トシテ行政的監督ハ鐵道省ガ
之ニ當リ、運搬具ノ改良トカ、業務ノ改
善、業者間ノ連絡等、業務ノ助長改善ニ關
シテハ、日本通運株式會社ガ之ニ當ル旨ノ
說明ガアリマシタ、又日本通運株式會社法
第四條、第三項ニ規定シテアリマスル所
ノ、鐵道會計ノ引受ケタル株式ノ株金拂
込ハ其ノ他ノ株式ノ株金拂込ト之ヲ異ニ
スルコトヲ得、トノ條項ハ、現ニ鐵道會
計ガ所有スル株式ニ限ルノカ、或ハ一旦鐵
道會計ガ引受ケタ株式デアレバ、ソレガ
他ニ移ッタ後ニモ、同樣ノ扱ヲ受ケルカド
ウカ、此ノ邊ノコトハ定款デ明瞭ニ定メ
ル必要ガアルト思フガ如何、トノ質問ガア
リマシテ、之ニ對シテ政府ヨリ、他ノ株金
拂込ト異ニスルコトヲ得ルノハ、鐵道會計
ガ所有シテ居ル株式ニ限ルノデアッテ、是等
ノ點ニ關シ定款ニ規定スルコトニ付テハ、十
分了承シタ旨ノ答辯ガアリマシタ、次ニ此
ノ兩法案ハ衆議院デ修正ガアリマシタガ、
此ノ修正ニ對シ政府ハドウ考ヘテ居ルカト
ノ質問ガアリマシタ、之ニ對シ政府ハ、小
運送業法案ノ修正ハ免許ノ取消ニ付テ審査
委員會ノ議ヲ經ベシトノコトデアリ、又日
本通運株式會社法案ノ修正ハ、社長、副社
長理事及監事ガ政府ノ任命トナッテ居ッタノ
ヲ、株式總會ノ選任トシ、其ノ任期ヲ短縮
スルコトデアリ、是等ノ修正ハ何レモ立法
ノ趣旨ニハ何等支障ヲ及サナイノデ、政府
トシテハ、兩院ノ意見ガ一致スレバ、之ヲ
尊重致ス意味ノ答辯ガアリマシタ、尙此ノ
外ニ種々ノ質問應答ガアリマシタ後、最後
ニ統制ニ依ッテ獨占的弊害ガ起ラヌヤウ、又
小運送業法案第一條ハ分リニクイノデ、適
當ナ方法ニ依リ明瞭ニスルヤウ、更ニ兩法
案ノ運用ニ付テハ業者ヲ公平ニ扱フヤウナ
ドノ希望ガアリマシタ、以上申上ゲマシタ
ヤウニ、愼重ナル審議ヲ重ネマシタ結果、
特別委員會ニ於キマシテハ、衆議院ヨリ送
付致サレマシタ此ノ兩法案ヲ、全會一致可
決スベキモノト議決致シマシタ次第デゴザ
イマス、右御報告申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=82
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083・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モ
ゴザイマセヌケレバ、兩案ノ採決ヲ致シマ
ス、兩案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ハ
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=83
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084・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=84
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085・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=85
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086・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=86
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087・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=87
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088・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=88
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089・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 兩案ノ第二讀
會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問
題ニ供シマス、兩案全部委員長ノ報告通リ
デ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=89
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090・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイモ
ノト看做シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=90
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091・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=91
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092・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=92
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093・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ
動議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=93
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094・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイモ
ノト看做シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=94
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095・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 兩案ノ第三讀
會ヲ開キマス、兩案全部第二讀會ノ決議通
リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=95
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096・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイモ
ノト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=96
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097・松平頼壽
○副議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ日程ハ
全部終了致シマシタ、次會ノ日程ハ決定次
第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是
ニテ散會ヲ致シマス
午後四時六分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007003242X02719370329&spkNum=97
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