第70回帝国議会　衆議院　本会議　第19号　昭和12年3月9日

1. 会議録本文

本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。

• 000・会議録情報

  昭和十二年三月九日（火曜日）
  　　　午後一時四十九分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　議事日程　第二十號
  　　昭和十二年三月九日
  　　　午後一時開議
  　　　　質問
  　　一　國體及士風の隆汚に關する質問（田川大吉郎君提出）
  　　二　世界資源再分割と新國策樹立に關する質問（福田關次郎君提出）
  　　三　衆議院議員選擧法中改正法律案提出に關する質問（青木亮貫君提出）
  　　四　廣田内閣の辭職と林内閣の成立に關する質問（尾崎行雄君提出）
  　　五　精神的國防充實に關する質問（中村又一君提出）
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　第一　國民健康保險法案（政府提出）　第一讀會
  　第二　保健所法案（政府提出）　第一讀會
  　第三　結核豫防法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第四　小運送業法案（政府提出）　第一讀會
  　第五　日本通運株式會社法案（政府提出）　第一讀會
  　第六　帝國の滿洲國に於ける治外法權の撤廢及南滿洲鐵道附屬地行政權の調整乃至移讓に伴ひ退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第七　朝鮮事業公債法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第八　朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第九　昭和十二年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十　昭和七年法律第一號中改正法律案（滿洲事件に關する經費支辨の爲公債發行に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第十一　船員法改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十二　揮發油及アルコール混用法案（政府提出）　第一讀會
  　第十三　貿易組合法案（政府提出）　第一讀會
  　第十四　貿易調整法案（政府提出）　第一讀會
  　第十五　工業組合法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十六　昭和七年法律第十二號中改正法律案（造幣局資金拂出に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第十七　日本銀行條例中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十八　日本銀行參與會法廢止法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十九　横莊鐵道株式會社所屬鐵道外三鐵道買收の爲公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十　東京農業教育專門學校創設に伴ふ帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會計の關渉に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十一　製鐵事業法案（政府提出）　第一讀會
  　第二十二　大正九年法律第五十三號中改正法律案（關税法及關税定率法等の朝鮮に於ける特例に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第二十三　地方鐵道補助法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十四　大正九年法律第五十六號中改正法律案（北海道拓殖鐵道補助に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第二十五　商法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十六　肥料取締法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十七　酒造組合法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十八　日本無線電信株式會社法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十九　特許法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十　商標法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十一　不正競爭防止法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十二　裁判所構成法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十三　大正十年法律第百二號中改正法律案（定年に因る退職判事檢事の恩給に關する件）（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十四　兵役法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十五　産業組合中央金庫法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十六　産業組合自治監査法案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　　　　━━━━━━━━━━━━━

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=0

  ---

• 001・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　諸般ノ報〓ヲ致サ
  セマス
  〔書記官朗讀〕
  一今九日貴族院ヨリ受領シタル政府提出案
  左ノ如シ
  軍機保護法改正法律案
  一政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
  衆議院議員田川大吉郞君提出國體及士風
  ノ隆汚ニ關スル質問ニ對スル答辯書
  衆議院議員福田關次郞君提出世界資源再
  分割ト新國策樹立ニ關スル質問ニ對スル
  答辯書
  衆議院議員靑木亮貫君提出衆議院議員選
  擧法中改正法律案提出ニ關スル質問ニ對
  スル答辯書
  衆議院議員尾崎行雄君提出廣田內閣ノ辭
  職ト林內閣ノ成立ニ關スル質問ニ對スル
  答辯書
  衆議院議員中村又一君提出精神的國防充
  實ニ關スル質問ニ對スル答辯書
  (以上三月九日受領)
  國體及士風ノ隆汚ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  昭和十二年二月二十五日
  提出者田川大吉郞
  國體及士風ノ隆汚ニ關スル質問主意
  書
  一林大將ガ內閣組織ノ大命ヲ奉行スル
  ニ當リ陸軍當局ハ三當局ノ名ニ於テ林
  大將ニ先ンジテ現陸相ヲ候補者ニ推薦
  シ以テ林大將組閣ノ努力ヲ一時不安ノ
  間ニ彷徨セシメタルノミナラズ陸軍三
  當局ハ事實上大命拜受者以上ノ特別權
  能ヲ有スル者カノ如ク疑訝セシムルニ
  至ツタ
  海軍大臣ノ推薦ニ關シテモ略〓同樣ノ
  經過曲折ヲ見タ。
  二以上ノ經過及ビ事實ハ此ヨリ先キ宇
  垣大將ガ組閣ノ努力ニ對シ經驗シタル
  事實ト相俟ツテ大權ノ御發動及ビ之ニ
  恭順シ奉ルベキ陸軍ノ態度ニ對シ不測
  ノ疑ヲ抱カシムルニ至ツテ居ル
  假ニ字垣大將組閣ノ場合ニ於テ陸軍ノ
  現役將官中大臣タル資格アル者ガ一人
  タリトモ進ンデ大命拜受者ノ奉行ヲ助
  ケントスル者ナク孰レモ紛々タル聚議
  ニ辟易シ各辭讓シテ之ヲ阻礙シ之ヲ傍
  觀シタトイフコトハ解スベカラザル始
  末デアル。
  斯ノ如キ場合資格アル者ハ萬難ヲ侵ス
  モ身ヲ挺シテ大命奉行者ノ努力ヲ助ク
  ベキデナカツタカ、而シテ其ノ人ガ一
  人モ無カツタトイフコトハ臣節ノ弛廢
  士風ノ萎靡甚シイカナ地ニ墮チタリト
  慨スベキモノデナイカ。
  )
  三文部大臣ハ右ノ事實ヲ以テ一二分ク
  (
  國體ニ關スル國民〓育ニ何等ノ惡影響
  ヲ及ボサナカツタモノト爲シ今後ニモ
  及ボス虞レノナキモノト爲スカ、二若
  クハ幾分カノ惡影響ヲ及ボシタモノト
  爲シ今後ニモ及ボス虞レノアルモノト
  爲スカ。
  甲若シ第一點ノ如シトセバ其ノ理由
  如何、
  乙若シ第二點ノ如シトセバ之ヲ匡救
  スルノ方法如何、
  四國體明徴ノ論頗ル盛ンナリト雖モ今
  囘ノ如キ事實ヲ國民萬衆ノ前ニ公演シ
  テ之ヲ等閑ニ付シ去ルニ於テハ國體ノ
  本義却ツテ蒙晦セラレ國體ノ尊嚴ニ對
  スル國民的遵奉ノ美風漸ク衰微ノ端ヲ
  啓カンコトヲ虞ル、總理大臣主トシテ
  文部大臣ノ之ニ對スル見解如何。
  右及質問候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  衆議院議長富田幸次郞殿
  衆議院議員田川大吉郞君提出國體及士風
  ノ隆汚ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差
  進候
  〔別紙〕
  衆議院議員田川大吉郞君提出國體及士
  風ノ隆汚ニ關スル質問ニ對スル答辯書
  質問ノ趣旨ニ付テハ我ガ國體ニ關スル國
  民〓育ニ惡影響ヲ及ボスガ如キ事實ハナ
  カリシモノト思料ス
  右及答辯候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  文部大臣林銑十郞
  世界資源再分割ト新國策樹立ニ關スル
  質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  昭和十二年二月二十五日
  提出者福田關次郞
  世界資源再分割ト新國策樹立ニ關ス
  ル質問主意書
  一南方國策ニ付テ
  我ガ國現下ノ最大問題ハ日本民族生活
  權確保ノ爲新ナル國策ヲ樹立スルコト
  デアル而シテ從來ノ北方中心國策ニ再
  檢討ヲ加ヘテ世界資源就中南方資源利
  用ノ積極的國策ヲ立テ人類生存、更生
  日本建設ノ劃期的方途ノ實現ヲ圖ルコ
  トコソ帝國ノ生クベキ最高ノ方針ナリ
  ト信ズル
  惟フニ難局ヲ打開シ國力ノ充實、國民
  生活ノ安定ヲ期センニハ枝葉末節ノ革
  新ニ非ズシテ其ノ根本ニ觸ルルコトガ
  肝要デアル現内閣ハ庶政一新ヲ組閣ノ
  使命トサルルニ拘ラズ斯ル國家ノ根本
  指針ニ何等ノ對策ナキハ遺憾千萬ニ思
  フガ此ノ重大問題ニ對シ政府ハ如何ナ
  ル所見ト具體案トヲ有セラルルカ
  二國家ノ困窮ト生活ノ不安ニ付テ
  我ガ國過剩人口ノ重壓ガ齎ス農村ト都
  會トノ現世地獄ノ修羅場ヲ政府ハ認識
  サレツツアリヤ一年間ノ人口增加ハ約
  百萬人此ノ人口ニ與フベキ土地資源ハ
  何レニアリヤ
  假ニ農家ニ五人ノ子女ガ出生スルトシ
  テ其ノ中長男一人ヲ殘シテ他ノ子女ハ
  悉ク他ニ送リ出サザルヲ得ナイノガ一
  般的實情デアル而モ五反百姓生活ノ實
  際ハ一人ノ生存ヲ辛ウジテ可能ナラシ
  ムルモ他ノ四人ヲ留メルダケノ餘裕ナ
  ク僅ノ旅費ヲ與ヘテ異〓ノ空ニ捨テル
  ノ悲慘ナル狀態ニアルノデアル從テ都
  會ノ社會不安ハ日々ニ募リ惡事、醜行、
  思想ノ惡化隨處ニ起ル是等ハ皆社會ノ
  罪國家ノ責任デアルト云ハネバナラ
  ヌガ政府ハ斯ル不安ナル現實ニ對シ如
  何ナル考ト對案ヲ有セラルルカ
  三帝國ノ實力ト國防力ニ付テ
  政府ハ國民ノ實力ト國防力トハ常ニ一
  致スベキコトヲ强調サレタガ國民ノ收
  入ト國防トガ果シテ調和サレツツアリ
  ヤ狭小ニシテ憫ムベキ我ガ國ノ資源ヲ
  以テシテハ政府ノ思フガ如キ國民ノ實
  力ハ到底アリ得ナイト信ズルガ如何
  日本ノ現狀ハ米國ノ一州「サウス·ダコ
  タ」ト殆ド同一面積ノ耕地ヲ以テ內地
  人約七千萬人分ノ生活費ヲ稼ガネバナ
  ラヌ實情デアル日本國民ノ收入實力ハ
  他ノ列强ニ比肩シ得ナイ其レ故國防上
  他ノ列强ト並行スルコトノ不自然性ガ
  國民ノ一年間ノ收入程度ヲ比較スルコ
  トニ依テ判斷シ得ラルル卽チ各國中一
  人一年間ノ收入ハ濠洲七七〇圓、英七
  四〇圓、米七三〇圓、蘇聯五一〇圓、
  獨逸四一八圓、佛四〇〇圓、伊二三五
  圓、日本二〇四圓デ七百圓臺ニ對シ二
  百圓臺ハ餘リニモ悲慘デアル近時憂慮
  サルル國民ノ體位低下ハ保健衞生施設
  ノ不備ニ因ルニ非ズシテ人間一人ノ生
  存ニ必要ナ「カロリー」補給ノ不足ニ原
  因スルコトヲ特筆大書シテ政府ノ猛省
  ヲ促シタイ政府ガ此ノ原則的窮乏打開
  ニ何等再檢討ヲ加フルコトナク國民生
  活ノ安定ヲ叫ブハ思ハザルノ甚シキモ
  ノト云ハネバナラヌ土地資源ノ乏シキ
  日本國民ノ生活不安ハ年月ト共ニ增加
  スルハ明白デアル政府ハ以上ノ實勢ヲ
  以テ如何ニシテ國防ノ安固、國民生活
  ノ安定ヲ期スルノ見込ナルヤ
  四庶政一新ヨリハ國策ノ根本的轉向ガ
  急務デアル
  我ガ國從來ノ大陸政策ノ一本建ニハ大
  ナル誤謬アリト思フ此ノ際此ノ誤リヨ
  リ轉向シテ新ナル國是國策ヲ樹テ國家
  國民ノ向フベキ指導原理ヲ與フルコソ
  國難打開ノ根本デアル現時ニ於テ巳ニ
  此ノ困憊ヲ呈ス一朝十億ニ近キ蛸配的
  赤字公債廢止後ノ慘狀ハ戰慄スベキモ
  ノガアル政府ハ斯ル場合ヲモ考慮シ之
  ガ對策ヲ有スルヤ
  人口對策トシテ農業ノ改良、產兒ノ制
  限極度ノ工業化、消費ノ世界化ト云
  フガ如キハ萬全ノ策デハナイ其ノ行詰
  リハ日貨ノ世界的排斥、輸入超過ノ漸
  增ニ依テ明デアル要ハ好適ノ植民地コ
  ソ窮乏日本救濟ノ根本ト信ズル
  抑と我ガ國從來ノ國策ガ資本家擁護ニ
  墮シ增加大衆ノ生活權ヲ輕視シタルハ
  千載ノ恨事デアル政府ハ速ニ斯ル誤リ
  ヲ打破シテ過剩人口ニ正常ナル生存ノ
  途ヲ與ヘ國力ノ培養、生產ノ增加ヲ促
  進スルハ刻下ノ急務ト思フガ政府ノ所
  見如何
  重ネテ問フ政府ハ以上ノ如キ誤リタル
  國策下ニ內部的庶政一新ヲ斷行シテ果
  シテ何物ヲ獲得シ得ラルルノ見込ナル
  ヤ本員ハ從來ノ國策ノ根本的轉向ナク
  シテ革新ヲ斷行スルモ國力ノ充實、國
  民生活ノ安定ハ絕對不可能ト思フガ政
  府ニハ安定ノ確信アリヤ
  五大陸政策ノ誤謬ト北守南進策ニ付テ
  我ガ國人口ノ增加ハ主トシテ中產以下
  ノ無資本國民層ニ於テデアル從テ資本
  ヲ要スル所ハ過剩人口ノ捌口トハナリ
  得ナイ殊ニ北方移民ノ有望ナラザルコ
  トヲ速ニ自覺スベキデアル朝鮮ガ日本ノ
  有ニ歸シテ移民ハ逆輸入トナリ內地勞働
  界ヲ壓迫シタル事實ハ明瞭デアル又滿洲
  ニハ日本勞働者ヤ移民ハ殆ド入ルベキ
  餘地ガナイ生活「レベル」低キ苦力ニ日
  本ノ勞働者ハ對抗不能デアリ且寒冷ハ
  日本人ニ適セズ又同國ノ工業農業ニモ
  日本人ヲ使用シテハ收支相償ハヌコト
  トナル斯ル寒冷ノ貧地ガ如何程擴大ス
  ルモ防備戰線ノ擴大ニ因リ國費濫費ニ
  流ルルノミニテ過剩人口ノ捌口トハナ
  リ得ヌ强テ移民ヲ決行セントセバ莫大
  ノ補助金ヲ要スル我ガ國ノ財力ニハ斯
  ル餘力ガナイ現ニ廣田內閣ニ於テ樹テ
  タル僅ノ滿洲移民計畫サヘ財力不足ノ
  爲半減サレタルニ非ズヤ滿洲建國以來
  已ニ五年內地ヨリノ移住民ハ僅ニ十三萬
  人(拓務省取扱ハ四萬有餘人)一年間百
  萬人ノ增加ニ斯ル事實ハ無價値ニ等シ
  イト云ハネバナラヌ政府ハ之ニ對シテ
  如何ナル認識ト對策トヲ有セラルルカ
  六南方資源再分會議ト國策一新ニ付テ
  以上ニ依テ我ガ國ノ窮乏及民族生存上
  ノ急迫ト不自然性トハ明ニナツタ
  玆ニ現時歐米ノ對日輿論ヲ綜合スルニ
  人口ト資源トノ關係ハ世界中日本ニ於
  テ最モ酷デアル而モ日本ニハ國內發展
  ノ餘地ナキヲ以テ馬來血統デ熱帶ニ適
  スル日本人ハ南太平洋上ニ人口ノ捌口
  タル土地ヲ求ムベキコトヲ確認シ更ニ
  斯ル領土保有國ハ自國民ノ勞力ヲ以テ
  之ヲ開拓シ得ザル故ニ進ンデ之ヲ日本
  ニ讓渡スベシト高調シ又日本ニ人口吸
  收ノ門戶ヲ解放スルコトヲ得ルヤ否ヤ
  ハ世界戰爭ヲ誘致スルヤ否ヤノ大問題
  デアルト論ジ日本ハ滿洲ヲ得タルモ滿
  洲ハ人口ノ捌ロトハナラヌ何トナレバ寒
  冷ハ日本人ニ適セズ從テ日本ノ進ムベ
  キ道ハ南方及東部デアルト結論スルモ
  ノノ如クデアル世界ノ輿論ニシテ斯ノ
  如シ況ヤ國際正義人道ハ必ズヤ日本ノ
  立場ヲ理解シ資源再分割ノ當然性ヲ認
  識スルモノナルコト疑ヲ容レヌノデ
  アル而シテ是ニハ窮迫日本ノ實狀ヲ世
  界ニ披瀝シ日本ハ英國ノ既得植民地
  或ハ米國植民地ニハ一切手ヲ觸ルルコ
  トナク、南太洋上ノ勞力不足ナル島嶼
  ニ我ガ過剩人口ノ平和發展ヲ遂ゲルノ
  外日本ノ生クベキ途ナキ苦境ヲ世界ニ
  訴ヘ最善ヲ盡シテ植民地再分會議ノ如
  キモノノ成立ヲ期スベキデアル日本ノ
  要求ガ已ムナキ人口ノ捌口ヲ求ムルノ
  外何等野心ナキ誠意ヲ示シ且一定ノ形
  ニ於テ公約スルニ至ラバ延テハ以テ軍
  縮ノ世界的目的モ自ラ達成シ同時ニ世
  界平和確立ノ基本タルベキヲ疑ハヌ
  要スルニ日本人口問題ハ實ニ一切ノ社
  會科學的ニモ政策的ニモ凡有ラユル問
  題ノ根本デアル自今帝國ノ進ムベキ對
  外政策ノ中樞ハ此ノ根本ニ基クベキデ
  アルト信ズル
  以上ノ各項ニ對シ政府ノ所見ト決意ノ程
  ヲ承リタイ
  右及質問候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  衆議院議長富田幸次郞殿
  衆議院議員福田關次郞君提出世界資源再
  分割ト新國策樹立ニ關スル質問ニ對シ別
  紙答辯書差進候
  〔別紙〕
  衆議院議員福田關次郞君提出世界資
  源再分割ト新國策樹立ニ關スル質問
  ニ對スル。辯辯書
  日本民族ノ生活權ヲ確保スルノ肝要
  ナルハ論ヲ俟タス之カ爲政府トシテハ
  何レノ方面ヲ問ハス世界各方面ニ對シ
  平和的且經濟的ニ發展センコトヲ期シ
  銳意努力中ニシテ南方ニ對シテモ益〓
  努力スヘキカ之カ實施ニ當リテハ相手
  國ノ立場ヲモ考慮シ愼重ヲ期セサルヘ
  カラスト考ヘ居レリ
  二、我カ國過剩人口ノ重壓カ社會不安ヲ
  齎ラシツツアルコトハ我カ國內ノ土地
  資源ノ不足ニ依ル處大ナルモノアルヲ
  認ムルヲ以テ之カ對策トシテ邦人ノ世
  界各方面ニ於ケル平和的經濟的發展ヲ
  促進シ貿易移民等ノ助長ヲ期スルト共
  ニ國內產業ノ振興ヲ計リ居レリ
  三、政府ニ於テハ我カ國資源ノ不足ニ鑑
  ミ產業ノ振興貿易ノ伸張ヲ計リ國力ノ
  根幹ヲ培フト共ニ邦人ノ海外移住竝企
  業進出ニ對スル助長ノ方途ヲ講シ以テ
  國防ノ安固ト國民生活ノ安定トヲ期シ
  居レリ
  四、人口問題ノ對策ニ付テハ其ノ方策一
  ニシテ足ラサルモ海外移民ノ奬勵及企
  業進出ニ付テハ格段ノ努力ヲ要スルモ
  ノト認ム仍テ政府ハ其ノ所期セル庶政
  一新ト併セテ前記諸施設ニ特ニ力ヲ用
  ヒ居レリ
  五、對滿移民ハ旣定ノ大方針ニシテ專門
  家ノ多年ニ亙ル〓究竝ニ旣ニ實施セラ
  レ居ル試驗移民ノ成果ニ鑑ミ必ス成功
  スルモノト確信シ多數移民送出ニ努メ
  ツツアリ
  六、人口ノ稠密竝資源ノ缺乏ニ直面シ居
  ル帝國ノ實情ヲ世界ニ披瀝シ人口ノ捌
  ケ口及國內產業ニ必要ナル市場及資源
  ノ開放ヲ要望スルト共ニ併セテ帝國ニ
  於テ何等領土的又ハ侵略的意圖ヲ有セ
  サル次第ヲ闡明スルノ要アルハ勿論ナ
  リ之カ爲政府ニ於テハ常ニ機會アル每
  ニ之カ闡明ニ力メ居レルカ植民地再分
  會議ヲ提唱スルカ如キハ現下世界ノ實
  情上適切ニ非スト認ム
  右及答辯候也
  昭和十二年三月九日
  拓務大臣結城豊太郞
  外務大臣佐藤尙武
  衆議院議員選擧法中改正法律案提出ニ
  關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  昭和十二年二月二十五日
  提出者靑木亮貫
  衆議院議員選擧法中改正法律案提出
  ニ關スル質問主意書
  庶政一新ノ根本、立憲政治ノ確立ハ選擧
  法ノ改正ニアリ然ルニ政府ハ口ニ庶政一
  新立憲政治恪循ヲ唱ヘ乍ラ既ニ成案トナ
  レル選擧法改正案ヲ未タ本期議會ニ提出
  セサルハ吾等ノ頗ル遺憾トスル所ナリ吾
  等ハ速ニ政府カ選擧法改正案ヲ本期議會
  ニ提出スルコトヲ要求ス政府ハ之ヲ提案
  スル意思アリヤ
  右及質問候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  衆議院議長富田幸次郞殿
  衆議院議員靑木亮貫君提出衆議院議員選
  擧法中改正法律案提出ニ關スル質問ニ對
  シ別紙答辯書差進候
  〔別紙〕
  衆議院議員靑木亮貫君提出衆議院議員
  選擧法中改正法律案提出ニ關スル質問
  ニ對スル答辯書
  現行衆議院議員選擧法ニ關シテハ之ガ改
  正ヲ要望スル向少カラザルモノアルニ鑑
  ミ前內閣ニ於テハ特ニ選擧制度調査會ヲ
  設置シテ其ノ改正要綱ニ付種々調査審議
  セシムル所アリ昨年末ニ至リ同調査會ノ
  答申ヲ得テ改正法律ノ立案ニ著手シタル
  モ之ヲ議會ニ提案スル爲必要ナル諸般ノ
  手續ヲ了スルニ至ラザリシモノナリ、現
  内閣亦現行制度中改正ヲ要スルモノアル
  コトハ之ヲ認ムル所ナリト雖モ之ヲ議會
  ニ提案スルガ爲ニハ諸種ノ重要ナル手續
  ヲ經ザルベカラザル等ノ事情モアリ改正
  法律案ヲ會期切迫セル今期議會ニ提出ス
  ルコトハ困難ナリト思料ス
  右及答辯候也
  昭和十二年三月九日
  內務大臣河原田稼吉
  廣田內閣ノ辭職ト林內閣ノ成立ニ關ス
  ル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  昭和十二年二月二十七日
  提出者尾崎行雄
  廣田內閣ノ辭職ト林內閣ノ成立ニ關
  スル質問主意書
  第一問今囘ノ政變ニ關スル事態ホド不
  思議ナモノハナイ。廣田內閣ハ何故ニ辭
  職シタノカハッキリワカラナイ。。世間ニ
  傳フル所ニ依レバ、一月二十一日ノ衆
  議院ニ於テ一議員ノ質問ガアッタ後、寺
  內陸相ガ突然解散論ヲ主張シ其結果廣
  田首相ハ突然總辭職ノ決心ヲシクヤウ
  デアル。元來衆議院議員ハ民意ヲ代表
  スル爲ニ選擧セラレタモノデアルカラ
  前ノ總選擧以後ニ於テ國民ノ意思ガ大
  ニ變化シ、現在ノ議員ガ民意ヲ代表シ
  テヰナイト云フ證據ガナケレバ議會ハ
  解散スベキモノデナイ。ヨシ理不盡ニ
  解散ヲ主張スルニシテモ、ソレハ議會
  再開前ニ爲スベキコトデアツテ平生ノ
  如ク議會ヲ開キ僅カニ質問演說ノ始マ
  ツタバカリノ所デ解散論ヲ提出スルガ
  如キハ常識外レノ言動デアル若シ〓
  僚中ニ此ノ如キ非常識ナ主張ヲ爲スモ
  ノガアツタナラ總理大臣タルモノハ親
  切丁寧ニ其心得違ヒヲ說キ諭シテ過ヲ
  改メサスベキデアル。若シドウシテモ
  過ヲ改メナケレバ、其閣僚ダケヲ辭職
  セシメテ平生ノ如ク國務ヲ進行スベキ
  デアル。陸相ガ辭職スレバ其後任者ガ
  得ラレナイト云フガ如キハ、天皇陛
  下ノ任免大權ヲ蔑如スル所ノ思想デア
  ツテ、苟モ帝國臣民タルモノハ聖意
  ニ背イテ就任ヲ拒ムガ如キ不臣ノ振舞
  ヲスル筈ガナイ。病氣其他萬止ムヲ得ザ
  ル場合ノ外ハ何人ト雖モ陛下ノ任命
  ヲ拒否スルコトハ出來ナイ。殊ニ軍人
  タルモノハ、此觀念ガ一層强クナケレ
  バナラヌ。故ニ陸相ノ後任ヲ撰定スル
  ガ如キハ決シテ難事デハナイ。然ルニ
  廣田首相ガ內閣ヲ投ゲ出スニ至ツタノ
  ニハ何カ隱シタ事實ト理由ガナケレバ
  ナラヌ。只表面ニ現ハレタ事態ダケデ
  ハ廣田內閣總辭職ノ理由モ原因モ一切
  ワカラナイ新內閣ハ將來再ビ此ノ如
  キ不可解ナル政變ヲ惹起シ以テ上ハ
  宸襟ヲ惱マシ奉リ、下ハ國民ヲ困迷セ
  シムルガ如キコトナカラシムル爲詳細
  ノ〓末ヲ公表スベキデナイ乎。
  第二問民政、政友ノ兩大政黨ハ四名ノ大
  臣ヲ內閣ニ送ツテ居リ四大臣ハ政府案ニ
  總テ贊成シテ居ルカラ、タトヘ多少ノ波
  瀾ハアツテモ結局陸海軍ガ要求シテヰ
  ル所ノ軍備充實ニ關スル議案ハ大體ニ
  於テ今囘ノ衆議院ヲ通過スルニ相違ナ
  イ。然ルニ解散スレバ總テノ議案ノ實
  行ハ少クトモ三四ケ月後レルノミナラ
  ズ兩大政黨ヲ正面ノ敵トシテ總選擧ニ
  臨メバ、如何ナル手段方法ヲ施シテモ、
  兩黨以上ノ政府黨議員ヲ得ルコトハ出
  來マイ六十年間培養シ來ツタ政黨ノ
  地盤ハ二囘ヤ三囘ノ解散ニ依ツテ崩壞
  スルモノデナイ。其上ニ政府ガ之レヲ
  正面ノ敵トシテ挑戰スレバ元來政府案
  ニ贊成スル心算デアッタ所ノ兩大政黨
  モ多分之レニ反對スベク餘儀ナクサレ
  ルデアラウ。サスレバ軍備充實案ト其
  關聯法律案ハ、大ニ延期セラルルバカ
  リデナク或ハ實行スルコトガ出來ナク
  ナルカモ知レナイ。海軍大臣ガ軍備充
  實案ヲ通過サセル爲ニ解散ニ反對シタ
  ノハ當然ノコトデアル故ニ陸相ガ强
  ヒテ解散ヲ主張シタトスレバ、軍備充
  實案以上ニ重大ナ國家的問題ガナケレ
  バナラヌソレハ果シテ何デアツ夕乎。
  解散ニ依ツテ其目的ヲ達シ得ベキ軍備
  充實以上ノ大問題モナイノニ濱田代議
  士相手ノ問答ニ於ケル言語ノ枝葉末節
  ニ囚ハレテ卒然解散ノ決心ヲ起シタト
  セバ、ソレハ事ノ大小輕重ヲモ辨ヘザ
  ル人物ノ所行デアツテ苟モ國務大臣タ
  ル者ノ爲スベキ所デハナイ、寺內伯ガ
  此ノ如キ小人物デナイコトハ疑ヲ容レ
  ナイカラ、此ノ點ニ於テモ隱レタ重大
  ナ事實ガアツタノデアラウ。政府ハ國
  家ノ爲又寺內伯ノ名譽ノ爲ニ之ヲ公表
  スベキデハナイ乎。
  第三問內閣總辭職ノ後陛下ハ常例ニ
  依ツテ後任首相ノ推薦ヲ西園寺公ニ御諮
  詢ニナリ、公ハ宇垣大將ヲ奏薦シタ元
  來字垣大將ニ對シテ、陸軍部內ニ反對
  ガアルコトハ世間周知ノ事實デアル。
  故ニ西園寺公ガ大將ヲ奏薦スルニ當ツ
  テハ其反對ヲ押切ルダケノ手段方法ヲ
  考ヘタ後デナケレバナラナイ筈ダ。又字
  垣大將モ十分ノ考慮ヲ費シテ大命ヲ拜
  受スベキデアツタ。一旦大命ヲ拜シタ
  七位。陸軍部內ノ反對ニ會ツテ、大命
  奉行ニ支障ヲ生ズルガ如キ事アツテハ、
  畏レ多クモ陛下ノ御威光ニ關係スル
  カラデアル。然ルニ西園寺公モ宇垣大
  將モ此ノ注意ヲ怠リ、陛下ニ對シテ
  他ノ職司ニ比スレバ一層深ク服從ノ義
  務ヲ負フ所ノ陸軍軍人ノ反對ヲ受ケテ、
  內閣組織ノ大命ヲ奉行スル能ハズ、爲
  ニ陛下ノ御威光ニモ關ハルベキ事態
  ヲ招來スルニ至ツタコトハ、殘念至極
  ナ次第デアル。此ノ〓末ニ付テモ世間
  ニ知ラレザル事實ガアル筈デアル。政
  府ハ一切ノ事實ヲ發表シテ國民ノ疑惑
  ヲ解クト同時ニ、陛下ノ御感光ヲ發
  揚シ奉ルベキデハナイ乎。
  第四問字垣大將ノ組閣進行中陸軍ハ三
  長官會議ニ於テ宇垣内閣ニ陸相ヲ送ラ
  ナイコトニ決定シタルガ如キ報道ガ屢〓、
  新聞紙上ニ現ハレタガ、陸相ノ任命
  ハ申スマデモナク陛下ノ大權デアツ
  テ、何人モ此ノ大權ノ運用ヲ阻止シテ
  ハナラナイ陛下ガ字垣大將ヲシテ
  內閣ヲ組織セシメントシ給フニ當ツテ
  陸軍ノ三長官ガ之レニ反對スルガ如キ
  ハ、軍職ニ居ル者ノ絕對ニ爲スベカラ
  ザル所ト思ハレル。又三長官トハ陸相、
  參謀總長、〓育總監ノ事デアラウガ、
  此ノ場合ニ於テ主要ノ位置ヲ占ムル陸
  相寺內大將ハ、陛下寄託ノ職務ヲ奉
  行スル能ハズシテ辭表ヲ奉リ、待命中
  ノ身分デアル。只管恐懼謹愼シテ罪ヲ關
  下ニ待チ國家必要ノ常務以外ニハ何事
  ニ付テモ意見ナド述ブベキデナイ、
  步退イテ此ノ場合陸相ハ恐懼謹愼スル
  コトヲ要セズ、平生ノ如ク職責ヲ執行
  シ得ベシトスルモ、三長官會議ニ於テ、
  內閣組織ノ大命奉行ヲ阻止スル結果ト
  ナル如キ決議ヲ爲スコトハ、陛下ニ
  對シテ畏レ多キ次第ト思ハレル。
  若シ陛下ガ隈板内閣組織ノ時ノ如ク、
  陸海軍大臣ニ對シテハ、內閣組織ノ大
  命拜受者ノ奏薦ヲ待タズ、直接ニ任命
  大權ヲ御使用遊バサレタナラバ三長官
  ハ如何ニシテ其過ヲ謝スルデアラウ乎。
  只辭職スルダケデハ濟マナイデアラウ。
  又宇垣內閣組織中ニ陸軍ノ總意トカ、
  軍ノ意向トカ稱スルモノガ、屢〓新聞紙
  上ニ發表セラレタガ、苟モ軍人タルモ
  ノハ內閣組織ハ無論ノ事、其他ノ政治
  問題ニ付イテモ、其意見ヲ公表スルコ
  トハ陸軍刑法ヲ以テ禁ゼラレテ居ル。
  故ニ内閣組織ト云フガ如キ政治問題ニ
  關スル、陸軍ノ總意ト稱スベキ意見ハ
  絕對ニアリヤウ筈ガナイ。所謂陸軍ノ總
  意ナルモノハ僅カニ數名若クハ數十名
  ノ意見ニ過ギナイモノト思ハレルガ、
  ソレニシテモ演說若クハ文書ヲ以テ之
  レヲ世間ニ公表スルコトハ、陸軍刑法
  第百三條ノ禁ズル所デアル政府ハ何故
  ニ之等ノ刑法違反者ヲ不問ニ付スル乎。
  (參照
  陸軍刑法第百三條
  政治ニ關シ上書、建白其ノ他請願ヲ
  爲シ又ハ演說若ハ文書ヲ以テ意見ヲ
  公ニシタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處
  ス
  第五問單ニ外間ニ漏レタダケノ事跡ニ
  據レバ、天皇陛下ハ字垣大將ヲシテ
  內閣ヲ組織セシメントシ給ヒ、陸軍ハ之
  レニ反對シ遂ニ陛下ノ御希望ハ行ハ
  レズシテ、陸軍ノ意見ガ行ハレタヤウ
  ニ見エル。卽チ陛下ノ大命ヲ奉行セ
  ントスル者ト陸軍三當局者トノ間ニ確
  執ノ存シタル影響トシテ陛下ガ却ツ
  テ御讓步遊バサレタヤウニモ見エル。
  帝國臣民タルモノ誰カ此ノ畏レ多キ事
  態ノ出現ニ對シテ長嘆大息セザルモノ
  ガアラウ、是レニハ必ズ世上ノ憂惧ヲ
  一掃スルニ足ルベキ事實ト理路ガアル
  デアラウ。政府ハ速ニ之レヲ發表シテ
  世ノ忠臣義士ヲ安堵セシムベキデハナ
  イ乎。
  第六問一月三十日及二月一日ニ於テハ
  聲明書若クハ當局談ノ形式ヲ以テ、陸
  海軍兩省ノ意見ト稱スルモノガ發表セ
  ラレタガ、此ノ意見ハ果シテ何人ノ意
  見ナル乎。
  其大臣ハ何レモ待命中デアツテ、大臣
  以外ニハ省ヲ代表シテ、政治的意見ヲ
  發表シ得ベキ人ナク、發表スル者ハ各、
  刑法違反ノ行爲トナル。而シテ未ダ何人
  モ之レガ爲ニ處罰セラレタコトヲ聞カ
  ナイ.苟モ肅軍ト云フ以上ハ之等ノ刑
  法違反者ヲ處分シ、以テ將來ノ禍根ヲ
  芟除スルヤウニシナレバナラヌ。
  陸海軍以外ノ各省官吏ト雖モ、其戴ク
  ベキ大臣ニ付テ多少ノ意見ヲ持タナイ
  モノハナカラウガ、何レノ省ノ官吏モ、
  同志ヲ糾合シテ之レヲ公表シタ事ハナ
  イ。然ルニ陸海軍兩省ノ將校ダケガ、
  ソレヲ爲スガ如ク頻々新聞紙上ニ公表
  サレテヰル。他省ノ官吏ハ選擧權ノ行
  使ヲ許サレテ居リ、其仕事モ直接間接
  ニ政治ニ關係スルモノガ多イ。ソレデ
  モ尙ホ新大臣ノ御任命ニ對シテハ意見
  ヲ公表シナイ。然ルニ政治ニハ最モ緣
  ノ遠カルベキ將校卽チ選擧權ノ行使ス
  ラ許サレナイ所ノ軍人ガ大命拜受者ニ
  向ヒ軍部ノ名ヲ藉リ、各種ノ要望ヲ爲
  シタガ如ク公表サレテヰルガ、世評ニ
  敏感ナル當局者ハ未ダ其取消ヲ命ジナ
  イ。若シ此ノ如キ事實アリトセバ是
  レハ由々シキ大事デアツテ、殷鑑遠カ
  ラズ五·一五事件ニ在リ、二·二六事件
  ニ在リ、斯ノ如キハ畢竟スルニ、政治
  ニ關與スベカラザル軍人ガ政治ニ關與
  シ、又ハ之レニ興味ヲ持ツタ爲ニ起ツ
  タ不祥事ニ外ナラナイ。今ニシテ軍紀
  ヲ肅正セザレバ、將來モ亦類似ノ不祥
  事件ガ起ラヌトハ何人モ保證スルコト
  ハ出來難イ。故ニ全國人民中ノ心アル
  モノハ何レモ右等ノ報道ヲ讀ンデ深ク
  憂慮シテヰル。政府ハ世ノ浮說流言ヲ
  一掃スルニ足ルベキ事實ヲ發表スルト
  同時ニ、軍紀ヲ肅正シ、セメテハ普通
  文官ガ遵守シテヰルダケノ規律ヲ軍人
  三、遵守セシムル意圖ナキ乎。
  第七問内閣組織ノ大命ヲ拜シタ者ハ其
  奏薦スベキ大臣ト其擔當スベキ官省ト
  ノ關係ヲ考慮スルハ宜シイガ、公然其
  推薦方ヲ當該官省ニ依賴シテハ、組閣
  大命ノ一部ヲ他人ニ讓渡シタ事ニナル。
  是レ亦陛下ニ對シテ畏レ多イ事デア
  ツテ、任免大權ノ輕視ト評セラレテ
  モ、辯解ノ言葉ハナカラウ。然ルニ林
  大將ハ、陸海軍大臣ノ推薦ヲ辭表提出
  中ノ現任大臣ニ依賴シタト世間ニハ傳
  ヘラレテヰル。マタ其上ニ待命中ノ兩
  大臣ガ提出シタ候補者ハ自己意中ノ候
  補者ト異ツテヰタ爲一時組閣ノ困難ヲ
  生ジ、其事ノ聖聽ニ達スルヤ、
  陛下ニハ宸襟ヲ惱マセラレ深夜宮中ノ重
  臣ヲ御召シニナツタトモ傳ヘラレテヰ
  ル。カクテ一時ハ行キ惱ンダガ、林大
  將ハ自己ノ意見ヲ屈シ、辭職待命中ノ
  兩相ニ讓步シテ漸ク組閣ノ大命ヲ奉行
  スルヲ得タト云ハレテヰルガ、是レ亦
  主客〓倒ノ甚シキモノデアツテ、任免
  大權ノ威嚴ニモ關係スベキ事柄デアル。
  口ニ國體明徵ヲ稱ヘル人々ガ斯ノ如キ
  過失ヲ犯スニ至ツタノハ、實ニ遺憾千
  萬デアル。
  此事ニ就テモ、世上ノ誤解ヲ解クニ足
  ルベキ隱レタル事實ガアラウト思ハレ
  ルカラ、首相ハ自己及陸海兩省ノ名譽
  ノ爲ニ之ヲ發表スベキデナイ乎。
  第八問任免大權ハ、天皇ノ大權中最モ
  大切ナモノデアル。他ノ大權ハ何レモ
  責任者ノ進言ヲ待ッテ御行使遊バサレ
  ル事ニナッテヰルカラ、ソノ責任ハ輔弼
  ノ大臣ニ歸スルガ、內閣組織ノ場合ニ
  於テハ、諸大臣ガ總辭職ヲシタ際デア
  ルカラ輔弼ノ責任者ガナク、陛下自ラ
  直接ニ之ヲ御行使遊バサレル手續キト
  ナル。我ガ國デハ元老ニ御諮詢ニナツ
  テヰルガ、之ハ藩閥政治時代ニ於ケル
  特殊ノ事情ニ由テ起ツタ慣例デアツ
  テ、現在ノ如ク藩閥ガ旣ニ消滅シテ、
  上御一人ト下萬民ノ間ニハ何人モ介在
  スル事ナク「義ハ君臣、情ハ父子」ト
  大正天皇ガ仰セラレタ通リ君民一致ノ
  關係ヲ實現シテ居ル時代ニ於テハ、何
  人ニモ御諮詢ナク、天皇自ラ其事ニ
  當ラセ給フ方ガ朝廷ノ爲ニモ、人民ノ
  爲ニモ好イヤウニ思ハレル。林首相ハ
  君國ノ爲メ從來ノ慣例ノ改善ヲ奏請ス
  ル意圖ナキ乎。
  第九問元來元老ナルモノハ、憲法ニモ
  法律ニモ何等ノ規定モナイ一種特別ノ
  重臣デアルカラ、ソノ進言ガ誤ツテモ
  制度上責任ヲ負ハセルコトハ出來ナ
  イ。ソノ元老モ現在ハ西園寺公一人デ
  アツテ、近年ノ公ノ奏薦ハ世人ニ滿足
  ヲ與ヘテヰナイ。殊ニ今囘宇垣大將奏
  薦ノ結果ニ至ツテハ、實ニ慨嘆ニ堪ヘ
  ザルモノガアル。宇垣大將ニ對スル陸
  軍ノ反對モ、若シソレガ極祕裏ニ行ハ
  レタナラ、世間一般ハ知ラズニ過ギタ
  デアラウガ、不幸ニシテ白晝公然萬衆
  環視ノ間ニ行ハレタ。而シテ啻ニ宸
  襟ヲ惱マシ奉レルノミナラズ、斯ノ如
  キ惡結果ヲ生ジタ以上ハ、西園寺公タ
  ルモノハ、タトヘ制度上責任ナキモ道
  義上其責ニ任ゼザルヲ得マイ。
  遡ツテ考フルニ明治天皇ノ聰明絕倫
  ナル新內閣組織ノ適任者ニ就テ、他人
  ニ御諮詢遊バサルベキ必要ハナカツタ
  ノデアル唯〓明治中興ノ大業ハ主トシ
  テ陛下ノ御稜威ト薩長ノ武力トニ依
  テ成就シタモノデアツテ、一步ヲ誤レ
  バ建武中興ノ控折ヲ再演スルノ憂モ絕
  對ニナイトハ保證出來ナカツタノデア
  ル。武力ヲ以テ北條ヲ斃シタ後ハ、後
  醍醐天皇ノ英武ヲ以テスルモ、尙ホ尊
  氏ガ北條ニ代ルコトヲ防止シ得ラレナ
  カツタ。明治天皇ノ英明ナルコト、後
  醍醐天皇ノ比デナク、又薩長人士ノ勤
  王心ニ富ムコト、尊氏等ノ比類デナカ
  ツタコトハ論ズルマデモナイガ、武力
  ヲ以テ武門政府ヲ斃シタ者ハ、動モス
  レバ斃サレタ者ニ代ル傾向ヲ持ツテヰ
  ル加之當時ノ長閥ハ陸軍ヲ、薩閥ハ
  海軍ト警視廳ヲ掌握シテ、他縣人ノ進
  入ヲ許サナカツタカラ、明治天皇ガ此
  ノ兩藩閥ヲ駕御操縱シ給フ爲ニハ一方
  ナラズ御苦心遊バサレタコトハ申ス迄
  モナカラウ。此關係カラ、陸海軍ノ對
  立モ起リ、兩藩閥ノ首領等ニ元老ノ優
  遇ヲモ御與ヘニナツタノデアル內閣
  組織ノ場合ニ方ツテハ、兩藩ノ權衡ヲ
  維持シ且ツ其歡心ヲ繋グタメ、元老ニ
  御諮詢ニナルコトガ、最モ賢明ナ御處
  置トシテ、人物選擇ノ必要ヨリモ寧ロ
  兩藩ノ權衡維持歡心收攬ノ爲ニ、此慣
  例ハ起ツタノデアル然ルニ明治ノ末
  年ニ至ツテハ、薩長兩藩閥ノ根柢ハ全
  ク崩壞シ、陛下ト國民トノ關係ガ直
  接ニナリ、其結果トシテ、全國ノ同志
  ヲ集メテ組織シタ政黨ノ首領タル伊藤
  公ヤ西園寺公ガ、三囘マデモ內閣ヲ組
  織スル事ニナツタ。薩長人ニ限定サレ
  テヰタ總理大臣ハ、薩長以外ノ人物デ
  モ之レニ就キ得ルヤウニナツタ。大正
  ノ中頃此ノ形勢ハ益〓成熟シ、兩大政黨
  ノ首領ガ代ル代ル內閣組織ノ大命ヲ拜
  スル事ニナツテ、勢ノ趣ク所遂ニ桂、
  田中兩大將ノ如キモ、藩閥ノ殘壘ヲ捨
  テ政黨ノ人トナルニ至ツタ。言換レバ
  薩長ヲ土臺トセズ、國民ヲ土臺トスル
  ヤウニナリ、又全國人民ハ薩長ト云フ
  中介物ヲ經ズシテ、直接ニ天皇ヲ奉戴
  スルコトニナツタノデアル。我ガ政界
  ハ明治年間ト大正以後ハ全クソノ趣キ
  ヲ異ニシテヰル斯ノ如ク內閣ガ國民
  ヲ基礎トシテ成立スルコトニナツタ以
  上ハ、藩閥時代ニ賢明ノ御處置デアツ
  タ所ノ內閣組織者ヲ元老ニ御諮詢ニナ
  ル慣行ハ旣ニ前世ノ遺物トナリ、現在
  ノ時勢ニハ適應シナイモノトナツタ。
  故ニ今日以後ハ元老ノ推薦ヲ待タズシ
  テ、直接ニ任命大權ヲ御使用遊バサル
  ベキデアラウ。若シ元老ニ御諮詢ニナ
  ラズ、陛下自ラ任免大權ヲ直接ニ御
  行使遊バサレタナラ、近來ノ如キ結果
  ハ起ラナカツタデアラウト思ハレル。
  政府ハ內閣總辭職ノ際ニ於ケル任免大
  權ノ御發動ニ關シ斯ノ如ク奏請スルコ
  トヲ時勢ニ適應スル臣節トハ思考セザ
  ル乎。
  第十問西園寺公ガ、元老ノ御優遇ヲ辭退
  サレタ後、新內閣組織ニ當リ、若シ世
  間ノ事情ヲ御聽取リニナル必要ガアル
  場合ニハ、將來ハ全國民ヲ代表スル所
  ノ、衆議院議長及貴族院議長ニ御諮詢
  ニナルコトガ、最モ適當ナ御處置カト
  思ハレル。但シ貴衆兩院議長ガ、從來
  ノ如ク政治的野心ヲ抱キ、若クハ一黨
  一派ノ人デアツテハ此ノ大任ニ當ラセ
  ルコトハ出來ナイカラ、將來ハ兩院議
  長ニハ最モ公明正大ニシテ、政治的野
  心ノナイ人格者ヲ選任スルコトニ改メ
  ナケレバナラヌ。
  衆議院ガ議長候補者ヲ選擧スルニ方ッ
  テハ全ク黨派的觀念ヲ捨テ、院中第一
  ノ人格者ヲ擧ゲ、全院一致シテ之ヲ選
  擧スベキデアル。英國ニ於テハ、多數
  黨ガ少數黨中ノ人格者ヲ物色シテ、之
  レヲ議長ニ推薦シタキ旨ヲ少數黨ニ交
  涉シ、滿場一致ヲ以テ選擧シタ實例ス
  ラアル。其議長ハ一切黨派的感情ヲ拭
  ヒ去ッテ、最モ公平嚴肅ニ職務ニ當リ議
  會ハ幾度代ッテモ議長ハ再選セラレル
  コトニナッテヰル我ガ國デモ、ソノ位
  ノ事ハ出來ソウナモノダ、將來ハ議長
  候補者選擧ノ際ニ於ケル從來ノ惡慣例
  ヲ變改シテ、現在ノ元老ニ代ッテ
  陛下ノ御諮詢ニ奉答シ得ル人物ヲ擧ゲ
  ルヤウニシタイモノデアル。但シソノ場
  合ニ於テモ、陛下ニ於カセラレテハ、
  止ムヲ得ザル必要アル時ノ外ハ、兩院
  議長ニモ御諮詢アラセラレナイ方ガ宜
  シカラウカト恐察シ奉ル。陛下ノ英
  明ナル如何ナル人物ガ、新內閣組織者
  トシテ、最モ適當デアルカハ、必ズ御
  承知ノコトト思フ。然ルニ直接聖斷
  ヲ下サズ、公然重臣ニ御諮詢ニナレバ
  其奉答ガ多少聖慮ニ協ハザル場合ニ
  モ、之ヲ御採用ニナラナケレバナラナ
  イ事情モ起リ得ルデアラウカト思ハレ
  ル且ツ重臣等ノ奉答ト思ヘバコソ、之
  ニ反對スルモノモアラウガ、陛下直
  接ノ大命ニハ何人ト雖モ反對スルガ如
  キコトハナイ筈デアル。
  林首相ハ從來ノ慣例ノ御改易ヲ奏請シ
  奉ルベキ他ノ何等ノ方法モナシトスル
  平。
  右及質問候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  衆議院議長富田幸次郞殿
  衆議院議員尾崎行雄君提出廣田內閣ノ辭
  職ト林內閣ノ成立ニ關スル質問ニ對シ別
  紙答辯書差進候
  〔別紙〕
  衆議院議員尾崎行雄君提出廣田內閣ノ
  辭職ト林內閣ノ成立ニ關スル質問ニ對
  スル答辯書
  第一問、第二問、第三問及第五問ニ付テ
  質問ノ趣旨ハ何レモ現內閣ノ關知セザ
  ル事實ニ關スルモノニシテ、答辯ノ限
  ニ非ザルモノト思料ス
  第四問ニ付テ
  陸軍刑法第百三條ノ罪ヲ犯シタル者ア
  ラバ之ヲ不問ニ付スルノ意思ナシ
  第六問ニ付テ
  一月三十日及二月一日發表セラレタリ
  ト稱セラルル陸海軍兩省ノ意見ハ如何
  ナルモノヲ指稱セラルルヤ判明セザル
  モ世ノ浮說流言ニ對シテハ之ガ一掃ニ
  付適切ナル方策ヲ講ズルト共ニ軍ノ紀
  律肅正ニ付テモ亦萬遺憾無キヲ期シ居
  レリ
  第七問ニ付テ
  陸海軍大臣任命ノ奏薦ニ關シ任免大權
  ヲ冐瀆シ國體明徵ノ精神ニ反スルガ如
  キ事無ク、又世上ノ誤解ヲ招クガ如キ
  隱レタル事實モ無シ
  第八問、第九問及第十問ニ付テ
  内閣組織ノ大命降下ニ關スル點ハ論議
  ヲ避クルヲ適當ト認ム
  右及答辯候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  海軍大臣米內光政
  陸軍大臣杉山元
  精神的國防充實ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  昭和十二年二月二十七日
  提出者中村又一
  精神的國防充實ニ關スル質問主意書
  一我カ國ノ經濟的國力ハ英米等ニ比シ
  豐富ナラスト思料スルト同時ニ國防費
  ノ負擔ハ亦頗ル輕カラスシテ際限ナキ
  物質的軍備ノ擴張ハ國力ノ耐フル所ニ
  非スト信ス然レトモ國防ハ世界ノ形勢、
  隣國ノ狀況ヲ顧ミスシテ我ガ國獨リ軍
  備ヲ制限遠慮シ得ヘキニ非サレハ帝國
  現在ノ國防計畫ハ其ノ必要ナル程度ヲ
  超エ居ルモノトハ信セサルカ今後國防
  ノ有形的設備ニ於テ出來ルタケ整理節
  約ヲ爲シ而モ國防ノ完璧ヲ期スル上ニ
  於テ精神的國防充實策ヲ實施スルノ意
  思アリヤ如何
  二旣往日露戰役ノ實際ニ徵スルニ同戰
  役直前一九〇三年三月ノ露紙ハ日露戰
  爭ハ日本ノ自殺ヲ意味スト迄報道シ當
  時露國軍備ノ有形的設備ハ我カ國ノ其
  レニ比シ十倍二十倍ノ强大ヲ思ハセタル
  程ナリシニ寧ロ天祐トモ觀ルヘキ戰勝
  ヲ續ケタリ是レ陣中將卒ノ士氣全ク〓
  リテ所謂金鵄勳章精神ノ活動旺盛ナリ
  シニ因ルモノト思惟スルカ政府ニ於テ
  ハ此ノ際精神的國防充實ノ根本策トシ
  テ軍人精神ノ鼓舞作興、思想善導ノ爲
  畏クモ明治二十三年二月十一日金鵄動
  章御創設ノ詔ニ「金鵄勳章ヲ創設シ將
  來武功拔群ノ者ニ授與シ永ク天皇ノ威
  烈ヲ光ニシ以テ其忠勇ヲ奬勵セントス」
  ト宣ハセラレタル御趣旨ニ基キ戰役殊
  勳者待遇改善ニ付相當ノ處置ヲ速ニ爲
  ス意思アリヤ如何
  三戰役殊動者ニ對スル金鵄勳章年金ハ
  明治二十七年功七級ハ六十五圓ニ制定
  セラレ翌二十八年貨幣價値ノ變動等ニ
  依リ金百圓ニ改正シテ日〓戰役論功行
  賞ノ際實施シタルモノナルカ日露戰役
  當時ヲ囘顧スルニ出征軍人中例ヘハ恩
  給年限ニ達シ恩給ヲ受領シタル一等卒
  上等兵ハ四五十圓程度ノ恩給ヲ給與セ
  ラレタルニ功七級年金ヲ受領シタル殊
  動者ノ一等卒ハ金百圓ノ年金ヲ受領シ
  乃チ「恩給、年金ヲ美ム」程社會美望ノ的
  トナリ忠勇ノ鼓舞奬勵ニ資シタルモノ
  ナルカ今日ニ於テハ恩給法數度ノ改正
  ニ依リ前記一等兵ノ恩給カ金二百圓前
  後ニ增額セラレ現在ニ於テ功七級年金
  ハ百五十圓ニシテ「金鵄勳章年金、恩
  給ヲ美ム」カ如キ狀態ニテ其ノ他殊勳
  者ノ待遇ハ總テノ點ニ於テ多年忘却セ
  ラレ居ルコトハ誠ニ遺憾ノ次第ナルカ
  政府ニ於テハ金鵄勳章御創設ノ詔ニ對
  シ奉リ又金鵄勳章年金令ノ趣旨ニ副ヒ
  居ルモノト信スルヤ如何
  四政府ハ戰役殊勳者ノ精神的待遇方法
  ヲ考慮シツツアリト言フカ其ノ方法範
  圍ハ如何ナルモノナリヤ具體的實施ノ
  方策如何
  五金鵄勳章年金ノ增額改正ハ他ニ波及
  スル點アリトノ言明ナルカ假令恩給亡
  國論ヲ爲ス者ハ多少アリトシテモ國民
  中金鵄動章年金亡國論ノ意見ヲ持ツ者
  ハ一人モナシト確信スルカ政府ノ所見
  如何
  六林內閣總理大臣ハ陸軍大臣當時院外
  ニ於テ殊動者優遇ノ必要ヲ認メラレ當
  時大角海軍大臣ト共ニ精神待遇方法ノ
  一端トシテ國有鐵道乘車特典ノ實施ヲ
  希望サレタルコトアリシカ今日殊勳者
  ノ精神的待遇トシテ眞ニ實行セムトス
  ル有效適切ナル具體案ヲ有スルヤ然リ
  トセハ其ノ內容ノ要領如何
  右及質問候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  衆議院議長富田幸次郞殿
  衆議院議員中村又一君提出精神的國防充
  實ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
  〔別紙〕
  衆議院議員中村又一君提出精神的國防
  充實ニ關スル質問ニ對スル答辯書
  精神的國防充實ハ之ニ努力中ナリ
  二、昭和十二年一月二十一日提出質問第
  三號戰役殊勳者待遇ニ關スル質問主意
  書ニ對シ昭和十二年二月二十三日附ヲ
  以テセル答辯書五、六ニ於テ答辯セル
  (
  通リナリ
  三、五、前項答辯書一ニ答辯セル通リナ
  リ
  四、六、種々優遇ノ方法ヲ講ジツツア
  リ、尙ホ引續キ〓究中ニ屬ス
  右及答辯候也
  昭和十二年三月九日
  內閣總理大臣林銑十郞
  陸軍大臣杉山元
  海軍大臣米內光政
  〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
  玆ニ揭載ス〕
  一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  (第一號)昭和十一年度歲入歲出總豫算追
  加案
  (特第一號)昭和十一年度各特別會計歲入
  歲出豫算追加案
  製鐵事業法案
  大正九年法律第五十三號中改正法律案
  (關稅法及關稅定率法等ノ朝鮮ニ於ケル
  特例ニ關スル件)
  地方鐵道補助法中改正法律案
  大正九年法律第五十六號中改正法律案
  (北海道拓殖鐵道補助ニ關スル件)
  (以上三月八日提出)
  一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  恩給法中改正法律案
  提出者
  宮脇長吉君八角三郞君
  蠶絲業組合法中改正法律案
  提出者
  〓水留三郞君門田新松君
  小山邦太郞君
  傷痍軍人及戰公傷病死者遺族等ノ鐵道船
  舶等乘車船優遇ニ關スル法律案
  提出者
  中村又一君江藤源九郞君
  松定吉君原口初太郞君
  川橋豐治郞君蔭山貞吉君
  衆議院議員選擧法中改正法律案
  提出者
  牧野賤男君小林錡君
  牧野良三君侃市君
  益谷秀次君篠紅名原露川昭君
  宮崎一君義政君
  靑木雷三郞君中井一夫君
  立川太郞君立川平君
  阿波池田川之江間鐵道敷設ニ關スル建議
  案
  提出者
  本多眞喜雄君田村秀吉君
  小野寅吉君武知勇記君
  松田喜三郞君村上紋四郞君
  尾崎重美君高島兵吉君
  利根川沿岸築堤ニ關スル建議案
  提出者豐田豐吉君
  新居濱ヨリ別子ヲ經テ伊野ニ至ル鐵道建
  設ニ關スル建議案
  提出者小野寅吉君
  私立大學總長學長及〓職員優遇ニ關スル
  建議案
  提出者永山忠則君
  私立大學國庫補助ニ關スル建議案
  提出者永山忠則君
  霧島國立公園ノ施設促進ニ關スル建議案
  提出者陣軍吉君
  宮崎小林間鐵道速成ニ關スル建議案
  提出者陣軍吉君
  釜石本莊間鐵道速成ニ關スル建議案
  提出者
  信太儀右衞門君小山田義孝君
  土田莊助君
  雪國地帶ノ鐵道敷設速成ニ關スル建議案
  提出者八田宗吉君
  野岩羽鐵道速成ニ關スル建議案
  提出者八田宗吉君
  湖南鐵道敷設ニ關スル建議案
  提出者八田宗吉君
  野澤柳津間田島只見間坂下喜多方間鐵道
  敷設ニ關スル建議案
  提出者八田宗吉君
  磐梯山猪苗代湖ヲ中心トスル國立公園指
  定ニ關スル建議案
  提出者八田宗吉君
  水澤遠野間鐵道建設ニ關スル建議案
  提出者
  志賀和多利君松川昌藏君
  水澤大船渡間省營バス運轉ニ關スル建議
  案
  提出者
  志賀和多利君松川昌藏君
  國際競馬場設置ニ關スル建議案
  提出者
  倉成庄八郞君佐保畢雄君
  西岡竹次郞君
  長崎港修築ニ關スル建議案
  提出者
  倉成庄八郞君佐保畢雄君
  西岡竹次郞君
  長崎港ニオイルステーション建設ニ關ス
  ル建議案
  提出者
  倉成庄八郞君佐保畢雄君
  西岡竹太郞君
  竹内式部山縣大貳ヲ尋常小學校〓科書ニ
  復活ニ關スル建議案
  提出者今井新造君
  巡査及看守ノ待遇改善ニ關スル建議案
  提出者松本治一郞君
  小開墾助成ニ關スル建議案
  提出者松本治一郞君
  家畜商組合法制定ニ關スル建議案
  提出者
  岡田春夫君坂東幸太郞君
  手代木隆吉君
  書道振興奬勵ニ關スル建議案
  提出者
  川崎克君安藤正純君
  大竹貫一君安部磯雄君
  鹽賠償價格引上ニ關スル建議案
  提出者岡本實太郞君
  私立大學總長學長及〓職員優遇ニ關スル
  建議案
  提出者
  內ケ崎作三郞君野村嘉六君
  荒川五郞君原夫次郞君
  平川松太郞君松定吉君
  私立大學國庫補助ニ關スル建議案
  提出者
  內ケ崎作三郞君野村嘉六君
  荒川五郞君原夫次郞君
  平川松太郞君松定吉君
  官幣大社阿蘇神社營ニ對シ國費支辨ニ
  關スル建議案
  提出者
  安達謙藏君伊豆富人君
  松野鶴平君三善信房君
  大麻唯男君藏原敏捷君
  中野猛雄君石坂繁君
  木村正義君
  鐵道豫定線追加ニ關スル建議案
  提出者植原悅二郞君
  鐵道豫定線追加ニ關スル建議案
  提出者服部崎市君
  敦賀武生間海岸鐵道敷設ニ關スル建議案
  提出者
  猪野毛利榮君添田敬一郞君
  齋藤直橘君熊谷五右衞門君
  福田耕君
  浮世繪美術館建設ニ關スル建議案
  提出者
  窪井義道君眞鍋儀十君
  土倉宗明君木村武雄君
  (以上三月八日提出)
  一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
  如シ
  林野整備案ニ關スル質問主意書
  提出者小坂梅吉君
  財政經濟軍備及外交ニ關スル質問主意書
  提出者尾崎行雄君
  宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野
  解放等特種財源保有ニ關スル質問主意書
  提出者伊東岩男君
  千葉縣綠海村ニ於ケル縣警察隊ノ部落封
  鎖小學校舍破壞〓育勅語冒瀆竝無政府村
  ノ出現及學童迫害ニ關スル質問主意書
  提出者土屋〓三郞君
  (以上三月八日提出)
  一昨八日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
  樺太市制案(政府提出、貴族院送付)委員
  委員長野村嘉六君
  理事
  服部〓一君門田新松君
  一昨八日特別委員補關選擧ノ結果左ノ如シ
  關稅定率法中改正法律案(政府提出)外四
  件委員
  理事西村金三郞君(理事中山福藏君本
  月四日委員辭任ニ付其ノ補關)
  理事上田孝吉君(理事蔭山貞吉君昨八
  日理事辭任ニ付其ノ補闕)
  一昨八日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
  關稅定率法中改正法律案(政府提出)外四
  件委員
  辭任渡邊玉三郞君補闕中亥歲男君
  辭任松山常次郞君補闕松岡俊三君
  辭任田中養達君補闕馬場元治君
  郵便法中改正法律案(政府提出)委員
  辭任綾部健太郞君補關西方利馬君
  一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計
  ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案(政府提
  出)外二件委員
  辭任今井新造君補關田川大吉郞君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=1

  ---

• 002・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　是ヨリ會議ヲ開キ
  マス、本日ノ日程ニ揭ゲマシタ質問一乃至
  五ハ、何レモ政府ヨリ答辯書ヲ受領致シマ
  シタ、仍テ日程ヨリ之ヲ省キマス、尙ホ質
  問ノ答辯ニ對スル意見陳述ノ申出ガアリマ
  スガ、是ハ適當ノ機會ニ許可スルコトニ致
  シマス-是ヨリ法律案ノ議事日程ニ入リ
  マス、日程第一乃至第三ハ、便宜上一括議
  題ト爲スニ御異議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=2

  ---

• 003・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　異議ナシト認メマ
  ス、仍テ日程第一、國民健康保險法案、日
  程第二、保健所法案、日程第三、結核豫防
  法中改正法律案、右三案ヲ一括シテ第一讀
  會ヲ開キマス-國務大臣河原田稼吉君
  第.國民健康保險法案(政府提出)
  第一讀會
  第二保健所法案(政府提出)第一讀會
  第三結核豫防法中改正法律案(政府
  提出)第一讀會
  國民健康保險法案
  國民健康保險法
  第一章總則
  第一條國民健康保險ハ相扶共濟ノ精神
  ニ則リ疾病、負傷、分娩又ハ死亡ニ關シ保
  險給付ヲ爲スヲ目的トスルモノトス
  第二條國民健康保險ハ國民健康保險組
  合(以下組合ト稱ス)之ヲ行フ
  第三條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル
  徵收金ヲ徵收シ又ハ其ノ還付ヲ受クル
  權利及保險給付ヲ受クル權利ハ一年ヲ
  經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
  前項ノ時效ノ中斷、停止其ノ他ノ事項
  ニ關シテハ民法ノ時效ニ關スル規定ヲ
  準用ス
  組合ガ規約ノ定ムル所ニ依リテ爲ス保
  險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル徵收金ノ
  徵收ノ告知ハ民法第百五十三條ノ規定
  ニ拘ラズ時效中斷ノ效力ヲ有ス
  第四條國民健康保險ニ關スル書類ニハ
  印紙稅ヲ課セズ
  第五條保險給付トシテ支給ヲ受ケタル
  金品ヲ標準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ
  課セズ
  第六條保險給付ヲ受クル權利ハ之ヲ讓
  渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
  第七條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人
  又ハ保險給付ヲ受クベキ者ハ被保險者
  又ハ被保險者タリシ者ノ戶籍ニ關シ戶
  籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ
  對シ無償ニテ證明ヲ求ムルコトヲ得
  第八條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル
  徴收金ヲ滯納スル者アル場合ニ於テ組
  合ノ請求アルトキハ市町村ハ市町村稅
  ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テ
  ハ組合ハ徵收金額ノ百分ノ四ヲ市町村
  ニ交付スベシ
  市町村ガ前項ノ請求ヲ受ケタル日ヨリ
  三十日以內ニ其ノ處分ニ著手セズ又ハ
  九十日以內ニ之ヲ結了セザルトキハ組
  合ハ地方長官ノ認可ヲ受ケ之ヲ處分ス
  ルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ町村制第
  百十一條第一項及第四項ノ規定ヲ準用
  ス
  第一項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ
  順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノ
  ノ徵收金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノト
  ス
  第九條營利ヲ目的トセザル社團法人ハ
  命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可
  ヲ受ケ組合ノ事業ヲ行フコトヲ得
  第十條本法中地方長官トアルハ二以上
  ノ道府縣ニ跨ル組合若ハ組合ノ事業ヲ
  行フ法人又ハ國民健康保險組合聯合會
  ニ付テハ之ヲ主務大臣トス
  第十一條本法中町村又ハ町村長トアル
  ハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之
  ニ準ズベキモノトス
  第二章國民健康保險組合
  第一節總則
  第十二條組合ハ左ノ二種トス
  普通國民健康保險組合
  二特別國民健康保險組合
  組合ハ法人トス
  第十三條普通國民健康保險組合ハ其ノ
  地區內ノ世帶主ヲ組合員トシ、特別國
  民健康保險組合ハ同一ノ事業又ハ同種
  ノ業務ニ從事スル者ヲ組合員トシ之ヲ
  組織ス
  第十七條第一項但書ノ規定ニ依リ被保
  險者タル資格ナキ者ハ組合員タルコト
  ヲ得ズ但シ其ノ世帶ニ被保險者タル資
  格アル者アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
  普通國民健康保險組合ノ地區ハ市町村
  ノ區域ニ依ル但シ特別ノ事由アルトキ
  ハ此ノ區域ニ依ラザルコトヲ得
  第十四條組合ヲ設立セントスルトキハ
  發起人ハ規約ヲ作リ組合員タラントス
  ル者ノ同意ヲ得テ地方長官ノ認可ヲ受
  クベシ
  組合ハ設立ノ認可ヲ受ケタル時ニ成立
  ス
  第十五條組合ノ規約ニハ左ノ事項ヲ記
  載スベシ
  一組合ノ名稱
  二事務所ノ所在地
  三組合ノ地區(特別國民健康保險組
  合ニ在リテハ組合員ノ範圍)
  四組合員ノ加入及脫退ニ關スル事項
  五被保險者ノ資格ノ得喪ニ關スル事
  項
  六其ノ他重要ナル事項
  第十六條普通國民健康保險組合ニ付其
  ノ組合員タル資格ヲ有スル者ノ三分ノ
  二以上組合員タル場合ニ於テ地方長官
  必要アリト認メ其ノ組合ヲ指定シタル
  トキハ組合員タル資格ヲ有スル者(特
  別ノ事由アル者ニシテ命令ヲ以テ定ム
  ルモノヲ除ク)ハ總テ組合員ト爲ルモ
  ノトス
  第十七條組合ハ組合員及組合員ノ世帶
  ニ屬スル者ヲ以テ其ノ被保險者トス但
  シ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ此ノ限
  ニ在ラズ
  一健康保險ノ被保險者
  二他ノ組合又ハ組合ノ事業ヲ行フ法
  人ノ被保險者
  三特別ノ事由アル者ニシテ規約ヲ以
  テ定ムルモノ
  前項ノ規定ニ拘ラズ組合ハ規約ノ定ム
  ル所ニ依リ組合員ノ世帶ニ屬スル者ヲ
  包括シテ被保險者ト爲サザルコトヲ得
  第十八條組合ハ規約ノ定ムル所ニ依リ
  規約違反者ヨリ過怠金ヲ徴收スルコト
  ヲ得
  第十九條組合ハ事業ニ支障ナキ場合ニ
  限リ被保險者ニ非ザル者ヲシテ組合ノ
  施設ヲ利用セシムルコトヲ得
  組合ハ前項ノ規定ニ依リ組合ノ施設ヲ
  利用スル者ニ對シ規約ノ定ムル所ニ依
  リ利用料ヲ請求スルコトヲ得
  第二十條本法ニ規定スルモノノ外組合
  ノ管理、財產ノ保管及利用方法其ノ他
  組合ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ
  之ヲ定ム
  第二節事業
  第二十一條組合ハ被保險者ノ疾病又ハ
  負傷ニ關シテハ療養ノ給付、分娩ニ關
  シテハ助產ノ給付、死亡ニ關シテハ葬
  祭ノ給付ヲ爲ス但シ特別ノ事由アル組
  合ハ助產ノ給付又ハ葬祭ノ給付ヲ爲サ
  ザルコトヲ得
  組合ハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ給
  付ニ併セテ其ノ他ノ保險給付ヲ爲スコ
  トヲ得
  特別ノ事由アル組合ハ規約ノ定ムル所
  ニ依リ第一項ノ給付ニ代ヘテ療養費、
  助產費又ハ葬祭費ヲ支給スルコトト爲
  スコトヲ得
  第二十二條療養ノ給付、助產ノ給付又
  ハ葬祭ノ給付ヲ爲ス組合其ノ給付ヲ爲
  スコト困難ナル場合其ノ他必要アル場
  合ニ於テハ其ノ都度之ニ代ヘテ療養費、
  助產費又ハ葬祭費ヲ支給スルコトヲ得
  第二十三條組合ハ療養ノ給付ニ要スル
  費用ノ一部ヲ其ノ給付ヲ受クル者給
  付ヲ受クル者組合員ニ非ザル場合ニ於
  テハ其ノ屬スル世帶ノ組合員)ヨリ徵
  收スルコトヲ得
  第二十四條組合ハ被保險者ノ健康ヲ保
  持增進スル爲左ノ施設ヲ爲スコトヲ得
  一疾病又ハ負傷ノ豫防ニ關スル施設
  二健康診斷ニ關スル施設
  三保養ニ關スル施設
  四其ノ他健康ノ保持增進ニ關スル施
  設
  第二十五條組合ハ其ノ事業ニ要スル費
  用ニ充ツル爲組合員ヨリ保險料ヲ徵收
  ス
  組合ハ特別ノ事由アル者ニ對シ保險料
  ヲ減免シ又ハ其ノ徵收ヲ猶豫スルコト
  ヲ得
  第二十六條組合ハ命令ノ定ムル所ニ依
  リ一定期間保險給付ヲ受クル者ナカリ
  シ世帶ノ組合員(組合員ノミヲ被保險
  者トスル組合ニ在リテハ保險給付ヲ受
  ケザリシ組合員)ニ對シ其ノ期間ノ保
  險料ノ一部ヲ拂戾スコトヲ得
  第二十七條保險給付ノ種類範圍支給期
  間及支給額、保險料ノ額徴收方法及減
  免其ノ他保險給付及保險料ニ關シ必要
  ナル事項ハ規約ヲ以テ之ヲ定ムベシ
  第三節管理
  第二十八條組合ニ組合會ヲ置ク
  組合會ハ組合會議長及組合會議員ヲ以
  テ之ヲ組織ス
  組合會議長ハ理事長ヲ以テ之ニ充ツ理
  事長故障アルトキハ其ノ代理者議長ノ
  職務ヲ行フ
  組合會議員ハ組合員ニ於テ之ヲ互選ス
  第二十九條組合會ノ議決スベキ事項左
  ノ型
  一收入支出ノ豫算
  二事業報告及決算
  三收入支出ノ豫算ヲ以テ定ムルモノ
  ノ外新ナル義務ノ負擔又ハ權利ノ抛
  棄
  四準備金其ノ他重要ナル財產ノ處分
  五組合債
  六規約ノ變更
  七其ノ他重要ナル事項
  前項第一號及第四號乃至第六號ニ揭グ
  ル事項ノ決議ハ地方長官ノ認可ヲ受ク
  ルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
  第三十條組合會ハ組合ノ事務ニ關スル
  書類ヲ檢閱シ、理事ノ報〓ヲ請求シ又
  ハ事務ノ管理、議決ノ執行及出納ヲ檢
  査スルコトヲ得
  組合會ハ議員中ヨリ委員ヲ選擧シ前項
  ノ組合會ノ權限ニ屬スル事項ヲ行ハシ
  ムルコトヲ得
  第三十一條組合ニ理事數人ヲ置ク
  理事ハ組合會ニ於テ組合員中ヨリ之ヲ
  選任ス但シ特別ノ事由アルトキハ組合
  員ニ非ザル者ノ中ヨリ之ヲ選任スルコ
  トヲ妨ゲズ此ノ場合ニ於テハ其ノ選任
  ニ付地方長官ノ認可ヲ受クベシ
  普通國民健康保險組合ニ在リテハ特別
  ノ事由ナキ限リ前項ノ規定ニ拘ラズ理
  事中ニ關係市町村長又ハ其ノ委任ヲ受
  ケタル吏員ヲ加フルモノトス
  第三十二條理事ノ中一人ヲ理事長トス
  理事長ハ理事ニ於テ之ヲ互選ス但シ前
  條第三項ノ規定ニ依ル理事アルトキハ
  特別ノ事由ナキ限リ之ニ付選任ス
  理事長ハ組合ヲ代表ス
  理事長故障アルトキハ規約ノ定ムル所
  ニ依リ他ノ理事其ノ職務ヲ代理ス
  第三十三條組合會成立セズ又ハ其ノ議
  決スベキ事項ヲ議決セザルトキハ理事
  ハ地方長官ノ指揮ヲ請ヒ其ノ議決スベ
  キ事項ヲ處置スルコトヲ得
  第三十四條組合會ニ於テ議決スベキ事
  項ニ關シ臨時急施ヲ要スル場合ニ於テ
  組合會成立セザルトキ又ハ之ヲ招集ス
  ルノ暇ナキトキハ理事之ヲ專決スルコ
  トヲ得
  第三十五條前二條ノ規定ニ依リ處置ヲ
  爲シタルトキハ理事ハ次囘ノ會議ニ於
  テ之ヲ組合會ニ報告スベシ
  第三十六條組合ハ規約ノ定ムル所ニ依
  リ理事長及理事以外ノ役員ヲ置クコト
  ヲ得
  第四節分合及解散
  第三十七條組合分割、合併又ハ解散ヲ
  爲サントスルトキハ組合會ニ於テ之ヲ
  議決シ地方長官ノ認可ヲ受クベシ
  第三十八條合併後存續スル組合又ハ合
  併ニ因リテ成立シタル組合ハ合併ニ因
  リテ消滅シタル組合ノ權利義務ヲ承繼
  ス
  分割ニ因リテ成立シタル組合ハ分割ニ
  因リテ消滅シタル組合又ハ分割後存續
  スル組合ノ權利義務ノ一部ヲ承繼ス
  前項ノ規定ニ依リ承繼スル權利義務ノ
  限度ハ分割ノ議決ト共ニ之ヲ議決シ地
  方長官ノ認可ヲ受クベシ
  第三十九條組合ハ解散ノ後ト雖モ〓算
  ノ目的ノ範圍內ニ於テハ仍存續スルモ
  ノト看做ス
  第四十條組合解散シタルトキハ理事〓
  算人ト爲ル
  前項ノ規定ニ依リテ〓算人タル者ナキ
  トキハ地方長官〓算人ヲ選任ス〓算人
  缺ケタルトキ亦同ジ
  〓算人ハ組合ヲ代表シ〓算ヲ爲スニ必
  要ナル一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス
  〓算方法及財產處分ニ付テハ地方長官
  ノ認可ヲ受クベシ
  地方長官必要アリト認ムルトキハ〓算
  方法及財產處分ノ變更ヲ命ジ又ハ〓算
  人ヲ解任スルコトヲ得
  第三章國民健康保險組合聯合會
  第四十一條組合及組合ノ事業ヲ行フ法
  人ハ共同シテ其ノ目的ヲ達スル爲國民
  健康保險組合聯合會(以下組合聯合會
  ト稱ス)ヲ設立スルコトヲ得
  組合聯合會ハ法人トス
  第四十二條組合聯合會ヲ設立セントス
  ルトキハ規約ヲ作リ地方長官ノ認可ヲ
  受クベシ
  組合聯合會ハ設立ノ認可ヲ受ケタル時
  ニ成立ス
  第四十三條組合聯合會ノ規約ニハ左ノ
  事項ヲ記載スベシ
  -組合聯合會ノ目的及事業
  二組合聯合會ノ名稱
  三事務所ノ所在地
  四加入及脫退ニ關スル事項
  五經費ノ分賦ニ關スル事項
  六其ノ他重要ナル事項
  第四十四條組合聯合會ニ總會、理事長
  及理事ヲ置ク
  總會ノ組織竝ニ理事長及理事ノ選任ニ
  關スル事項ハ規約ヲ以テ之ヲ定ムベシ
  第四十五條本章ニ規定スルモノノ外組
  合聯合會ニ關シテハ第十八條乃至第二
  十條、第二十九條、第三十條、第三十
  二條第三項第四項及第三十三條乃至第
  四十條ノ規定ヲ準用ス
  第四章監督及補助
  第四十六條主務大臣及地方長官ハ組合
  若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人又ハ組合聯
  合會ニ對シ其ノ事業及財產ニ關シ報〓
  ヲ爲サシメ、其ノ狀況ヲ檢査シ、規約
  ノ變更ヲ命ジ其ノ他監督上必要ナル命
  令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
  第四十七條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
  法人又ハ組合聯合會ノ役員ニ欠缺若ハ
  故障アルトキ又ハ其ノ役員其ノ執行ス
  ベキ職務ヲ執行セザルトキハ地方長官
  ハ官吏又ハ其ノ他ノ者ヲ指定シテ其ノ
  職務ヲ執行セシムルコトヲ得
  前項ノ場合ニ於テ其ノ職務ノ執行ニ要
  スル費用ハ組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
  法人又ハ組合聯合會ノ負擔トス
  第四十八條地方長官ハ組合若ハ組合ノ
  事業ヲ行フ法人又ハ組合聯合會ノ決議
  又ハ役員ノ行爲ガ法令、規約、主務大
  臣若ハ地方長官ノ命令若ハ處分ニ違反
  シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリ
  ト認ムルトキ又ハ其ノ事業若ハ財產ノ
  狀況ニ依リ事業ノ繼續ヲ困難ナリト認
  ムルトキハ決議ヲ取消シ、役員ヲ解職
  シ又ハ組合若ハ組合聯合會ノ解散ヲ命
  ジ若ハ組合ノ事業ヲ行フ法人ニ對シ第
  九條ノ許可ヲ取消スコトヲ得
  第四十九條國庫ハ豫算ノ範圍內ニ於テ
  組合及組合ノ事業ヲ行フ法人ニ對シ補
  助金ヲ交付スルコトヲ得
  道府縣及市町村ハ組合及組合ノ事業ヲ
  行フ法人ニ對シ補助金ヲ交付スルコト
  ヲ得
  第五章審査、斡旋、訴願及訴訟
  第五十條保險給付ニ關スル決定ニ不服
  アル者ハ國民健康保險委員會ニ審査ヲ
  請求シ其ノ決定ニ不服アルトキ民事訴
  訟ヲ提起スルモノトス
  前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シ
  テハ裁判上ノ請求ト看做ス
  第五十一條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
  法人又ハ組合聯合會ト、醫師、齒科醫
  師藥劑師其ノ他ノ者又ハ其ノ團體ト
  ノ間ニ於ケル保險給付ニ關スル契約ニ
  關シ紛爭ヲ生ジタルトキハ國民健康保
  險委員會ハ當事者ノ請求ニ依リ其ノ解
  決ニ付斡旋ヲ爲スコトヲ得
  第五十二條國民健康保險委員會ノ組
  織審査及斡旋ニ關シ必要ナル事項ハ
  勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  第五十三條組合ノ爲シタル保險料其ノ
  他本法ノ規定ニ依ル徵收金ノ賦課若ハ
  徵收ノ處分又ハ第八條ノ規定ニ依ル滯
  納處分ニ不服アル者ハ地方長官ニ訴願
  シ其ノ裁決ニ不服アル者ハ內務大臣ニ
  訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコト
  ヲ得但シ二以上ノ道府縣ニ跨ル組合ニ
  關スルモノニ在リテハ內務大臣ニ訴願
  シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルモノトス
  第五十四條本章ニ規定スル審査ノ請求、
  訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起
  ハ處分又ハ決定ノ通知ヲ受ケタル日ヨ
  リ三十日以内ニ之ヲ爲スベシ此ノ場合
  ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八
  條第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ
  民事訴訟法第百五十八條第二項及第百
  五十九條ノ規定ヲ準用ス
  第六章罰則
  第五十五條組合若ハ組合ノ事業ヲ行フ
  法人又ハ組合聯合會第四十條第五項又
  ハ第四十六條ノ規定ニ依ル命令ニ違反
  シ又ハ處分ヲ拒ミ若ハ妨ゲタルトキハ
  其ノ役員又ハ〓算人ヲ百圓以下ノ過料
  三酸〕人
  非訟事件手續法第二百六條乃至第二百
  八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  保健所法案
  保健所法
  第一條保健所ハ國民ノ體位ヲ向上セシ
  ムル爲地方ニ於テ保健上必要ナル指導
  ヲ爲ス所トス
  第二條保健所ニ於テハ左ノ事項ニ付指
  導ヲ行フ
  一衞生思想ノ涵養ニ關スル事項
  二榮養ノ改善及飮食物ノ衞生ニ關ス
  ル事項
  三衣服、住宅其ノ他ノ環境ノ衞生ニ
  關スル事項
  四姙產婦及乳幼兒ノ衞生ニ關スル事項
  五疾病ノ豫防ニ關スル事項
  六其ノ他健康ノ增進ニ關スル事項
  第三條保健所ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
  北海道府縣之ヲ設置スルモノトス但シ
  勅令ヲ以テ指定スル市ノ區域ニ在リテ
  ハ市之ヲ設置スルモノトス
  保健所ニハ其ノ事業ノ執行ヲ便ナラシ
  ムル爲支所ヲ置クコトヲ得
  內務大臣必要アリト認ムルトキハ第一
  項ノ公共團體ニ對シ保健所ノ設置ヲ命
  ズルコトヲ得
  第四條本法ニ依ル保健所ニ非ザレバ其
  ノ名稱中ニ保健所タルコトヲ示スベキ
  文字ヲ用フルコトヲ得ズ但シ內務大臣
  ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラ
  ズ
  第五條保健所ノ設備ノ使用又ハ保健所
  ニ於テ行フ業務ニ付テハ命令ヲ以テ定
  ムル場合ヲ除クノ外使用料又ハ手數料
  ヲ徴收スルコトヲ得ズ
  第六條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ保
  健所ニ關スル經費ノ支出ヲ爲ス公共團
  體ニ對シ其ノ支出額ノ二分ノ一以内ヲ
  補助ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  結核豫防法中改正法律案
  結核豫防法中左ノ通改正ス
  第一條醫師結核患者ヲ診斷シ環境上病
  毒傳播ノ虞アリト認ムルトキハ命令ノ
  定ムル所ニ依リ速ニ行政官廳ニ屆出ヅ
  ベシ
  第二條第一項及第三條中「結核患者」ヲ
  「病毒傳播ノ危險アル結核患者」ニ改ム
  第六條主務大臣ハ結核患者ニシテ環境
  上病毒傳播ノ虞アルモノヲ收容セシム
  ル爲北海道府縣市其ノ他必要ト認ムル
  公共團體ニ對シ結核療養所ノ設置ヲ命
  ズルコトヲ得
  第七條第一項ヲ左ノ如ク改ム
  地方長官ハ環境上病毒傳播ノ虞アル結
  核患者ニシテ豫防上特ニ必要ト認ムル
  モノヲ前條ノ規定ニ依リ設置スル結核
  療養所ニ入所セシムルコトヲ得
  第十條中「療養ノ途ナキ結核患者」ヲ
  「環境上病毒傳播ノ虞アル結核患者」ニ改
  ム
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=3

  ---

• 004・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田 吉君)　玆ニ國民健康
  保險法案ヲ提出スルニ當リマシテ提案ノ理
  由ヲ說明致シマス、國民ノ健康ガ國力進展
  ノ原動力デアリマスコトハ申ス迄モナイコ
  トデアリマシテ、其保持增進ヲ圖ルコトハ
  極メテ必要デアルト考へマス、而シテ是ガ爲
  ニハ幾多ノ方法ガアリマセウガ、傷病ニ際
  シ必要ナル醫療ヲ受ケシメ、速ニ健康ノ恢
  復ヲ圖ルコトハ、最モ肝要ナコトデアリマ
  ス、然ルニ醫療ヲ受ケルコトニ關シ、第
  ニ問題トナルノハ醫療費ノ負擔デアリマシ
  テ、一度傷病ニ際會スルヤ、一時ニ多額ノ
  失費ヲ要スルコトハ、一般國民ニ取リマシ
  テ洵ニ苦痛トスル所デアリマス、其結果十
  分ナル醫療ヲ受ケルコトガ出來ナイト云フ
  コトハ、國民保健及ビ國民生活安定ノ見地
  ヨリ觀テ、忽ニスベカラザル重大事デアリ
  マス、殊ニ最近ニ於ケル農山漁村居住民、
  都市中小商工業者等ノ疲弊ハ深刻ナルモノ
  ガアリ、斯ル人々ニ取ッテ醫療費ハ相當經濟
  的重壓トナッテ居ルノデアリマス、此醫療費
  問題ヲ根本的ニ解決スルニハ、共同ノ力ト
  平素ノ用意トニ依ル保險組織ヲ以テ、最良
  ノ策タルコトヲ認メルノデアリマス、國民
  健康保險制度案ヲ作成シマシテ、社會保險
  調査會ニ諮問致シマシタ所、現下ノ社會情
  勢ニ照シ必要ナル施設トシテ、滿場一致ヲ
  以テ可決セラレタノデアリマス、更ニ第六
  十九議會ニ於キマシテ、國民健康保險法制
  定ニ關スル建議ガアリ、又昨年六月社會事
  業調査會ニ於テモ、本制度ノ速カナル施行
  ヲ要望セラレタノデアリマス、仍テ政府ハ
  是等ノ建議及ビ答申ニ基キマシテ、銳意〓
  究ノ結果、玆ニ本法案ヲ提出スルニ至ッタ
  ノデアリマス、本法案ノ骨子トスル所ハ、
  相扶共濟ノ精神ニ則リ國民健康保險組合ヲ
  設置セシメ、此組合ヲシテ健康保險事業ヲ
  爲サシメントスルノデアリマス、本組合ハ
  原則トシテ、從來〓土的團結ヲ有スル市町
  村ノ區域ニ依ルコトトシ、補充的ニ職業的
  組合ヲ組織スル途ヲモ開イテ居ルノデアリ
  マス、本組合ノ事業トシテハ、療養ノ給付
  ヲ中心ト致シマスガ、組合ノ事業及ビ經營
  方法ハ、各組合ノ實情ニ應ズルコトガ肝要
  デアリマスノデ、事業ノ內容ハ〓ネ組合ヲ
  シテ自治的ニ決定セシムルコトトシテ居リ
  マス、尙ホ本制度ハ右ノ如キ趣旨ニ依リマ
  シテ、醫療費問題ヲ解決シ、以テ國民ノ健
  康ヲ保持增進セントスルノデアリマスガ、
  醫療機關トノ關係ハ最モ重要デアリマスノ
  デ、是ガ實施ニ當リマシテハ、可及的ニ從
  來ノ醫療制度ニ急激ナル影響ヲ與フルガ如
  キコトナキヤウ、十分指導スル考デアリマ
  ス、健康ニ關スル保險ニ付キマシテハ、旣
  ニ勞働者ノ健康保險制度ヲ實施シテ居リマ
  スガ、其ノ實績ニ顧ミ、又農山漁村居住民、
  及ビ都市中小商工業者等ノ實情ヲ考慮シ、
  本制度ヲ制定スルニ至ッタノデアリマシテ、
  斯ノ如キ制度ニ依リマシテ、國民ノ健康ヲ
  保持增進シ、以テ國民生活ノ安定ヲ期スル
  ハ、時局ニ鑑ミ喫緊ノ要務ナリト考ヘルノ
  デアリマス、何卒愼重御審議ノ上御協贊ア
  ランコトヲ切ニ望ム次第デアリマス
  續イテ保健所法案ニ付テ提案ノ理由ヲ御
  說明申上ゲマス、我ガ國民ノ健康狀態ヲ觀
  マスルニ、近時稍、ミ改善ノ跡ヲ認メ得ルノ
  デアリマスガ、之ヲ歐米主要國ニ比較スレ
  バ、尙ホ著シキ遜色ガアルバカリデナ
  ク、結核ノ蔓延ノ如キ、洵ニ寒心ニ堪
  ヘザルモノガアリマシテ、國民體位ノ
  向上ヲ圖ルコトハ、當ニ喫緊ノ時務ト
  存ズルノデアリマス、我國ノ醫學ハ近年著
  シキ進步ヲ遂ゲツヽアルニモ拘ラズ、國民
  保健ノ狀態ガ敍上ノ如クデアリマスノハ、
  他ニモ種々ノ原因ノ存スルコトト思ヒマス
  ガ、國民ノ健康ヲ保持增進スベキ衞生上ノ
  施設ニ於テ、尙ホ足ラナイト云フ點ニ、大
  キナ原因ガ潜在シテ居ルト思ハレルノデア
  リマス、隨テ國民ノ體位ヲ向上セシムルニ
  ハ、健康ノ增進乃至疾病ノ豫防ニ關シマス
  ル指導扶掖、卽チ積極的指導衞生ノ方面ニ
  於キマシテ、一段ノ努力ヲ致サナケレバナラ
  ナイト考ヘルノデアリマス、以上申述ベマ
  シタ事情ヲ篤ト考慮致シマシテ、今囘政府
  ハ一般國民ニ對シ、保健上萬般ノ指導ヲ爲
  ス機關タル保健所ノ設置ヲ企畫致シマシテ、
  玆ニ保健所法案ヲ提出シタ次第デアリマス、
  保健所ハ國民體位ヲ向上セシムル爲メ衞生
  思想ヲ啓發シ、衣食住其他日常生活ノ衞生
  的改善ヲ指導シ、結核其他疾病豫防ノ指示
  ヲ爲ス等、有ユル角度カラ保健上ノ指導ヲ
  爲ス機關デアリマシテ、保健所ニハ醫師、
  藥劑師、衞生指導員、公衆衞生看護婦等ヲ
  置キ、是等ノ職員ハ所內ニ於テ衞生各般ノ
  相談ニ應ズルノ外、擔任區域內ヲ巡囘シテ
  實地指導ヲ爲シ、或ハ關係官公署團體等ト
  連絡協力シテ、以テ指導事業ノ徹底ヲ期セ
  ントスルモノデアリマス、保健所ハ大體人
  口二十万乃至十二三万ニ付キ一箇所ノ割合
  ヲ以テ全國ニ之ヲ設置シ、必要ノ地ニハ支
  所ヲ設ケシムル豫定デアリマシテ、是ガ設
  置經營ノ主體ハ北海道、府縣又ハ特定ノ市
  デアリマスガ、國庫ハ其創設費ニ對シ二分
  ノ一以內、經常費ニ對シ三分ノ一以內ヲ補
  助スル考デアリマス、以上ハ保健所法案ノ
  提出理由ト其要旨デアリマス、何卒御審議
  ノ上速ニ御協贊アランコトヲ御願申上ゲル
  次第デゴザイマス
  更ニ第三ノ結核豫防法中改正法律案ノ提
  案ノ理由ヲ御說明申上ゲタイト思ヒマス、
  現行結核豫防法ハ大正八年ニ制定セラレタ
  ノデアリマスガ、結核豫防ノ目的ヲ達成致
  シマス爲ニハ、現行法ノ規定デハマダ不十
  分ナル點モアルヤウニ存ゼラレマスノデ、
  結核豫防施設ノ擴充ヲ期セントスル此機會
  ニ於キマシテ、本法ヲ改正シテ豫防上遺憾
  ナキヲ期シタイト存ズル次第デアリマス、
  今囘ノ改正法律案ニ於キマシテ、改正シタ
  イト云フ主要ナル點ヲ申上ゲテ見マス、第
  一ハ、現行法ニアリマス結核ノ定義ヲ削除致
  シマシテ、結核豫防法ノ適用ハ肺結核又ハ
  喉頭結核デアッテ、病毒傳播ノ危險アルモノ
  ニ限ルコトナク、其他ノモノニ對シマシテ
  モ之ヲ適用シテ、必要ナル豫防措置ヲ講ズ
  ルノ趣旨ヲ明ニスルコトデアリマス、第二
  ハ醫師ガ結核患者ヲ診斷シタル場合ニ於
  キマシテ、當該患者ニシテ環境上病毒傳播
  ノ虞アリト認メマスル時ニハ、其醫者ニ對
  シマシテ、之ヲ行政官廳ニ屆出ヅルノ義務
  ヲ課シ、行政官廳ヲシテ豫防上適切ナ措置
  ヲ講ゼシメタイトスル趣旨デアリマス、第
  三ハ、公立結核療養所ニ入所セシムル患者
  ノ範圍ヲ擴張致シマシテ、環境上病毒傳播
  ノ虞アル結核患者ハ、療養ノ途ナキ者ハ勿
  論其外ノ者ヲモ入所セシメ得ルコトニ改
  メントスルノデアリマス、第四ハ、現行法
  ニハ結核療養所ノ設置ハ、人口五万以上ノ
  市ヲ原則トスルガ如キ規定デアリマスガ、
  寧ロ道府縣モ市ト相竝ンデ之ヲ設置スルコ
  トガ適當ト認メラルヽノデ、主務大臣ハ北
  海道、府縣、市、其他必要ト認メマスル公
  共團體ニ、療養所ノ設置ヲ命ジ得ルコトニ
  改メントスルノデアリマス、以上ガ今囘ノ
  改正案ニ於キマスル主要ナ點デアリマス、
  何卒御審議ノ上速ニ御協贊ヲ賜ハランコト
  ヲ御願申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=4

  ---

• 005・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　諸君、此際一言致
  シマス、本案ニ對スル質疑ノ通〓ハ頗ル多
  數ニ上ッテ居リマス、質疑ヲナサル諸君ニ於
  テハ、質疑ノ範圍ヲ越エ、討論ニ涉ル等ノ
  コトナキヤウ十分御注意アランコトヲ望ミ
  やく、尙ホ各派協議會ノ申合セモアリマス
  カラ、質疑時間ハ三十分ヲ超エザルヤウ併
  セテ御注意アランコトヲ望ミマス(拍手)是
  ヨリ通〓順ニ依リ質疑ヲ許可致シマス
  〓水留三郞君
  〔〓水留三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=5

  ---

• 006・清水留三郎

  ○〓水留三郞君　國民健康保險法案ニ付キ
  マシテ總理大臣、內務大臣、農林大臣、商
  工大臣ニ質疑ヲ致シタイノデアリマス、總
  理大臣、農林大臣、商工大臣ハ、貴族院ノ
  豫算總會ニ出席中トノコトデアリマスルカ
  ラ、總理大臣ニ屬スル部分ハ、國務大臣ト
  シテノ內務大臣ヨリ、農林大臣、商工大臣
  ニ屬スル部分ハ、政府委員ヨリ答辯ヲ希望
  スルノデアリマス
  第一ニ御伺致シタイノハ、國民健康保險
  ノ根幹ヲ成シマスル醫藥給付ノ問題デアリ
  マリー日本人ノ死亡率ハ歐米人ニ比シ著シ
  ク多イノデアリマス、最近ノ統計ニ依リマ
  スト、人口千人ニ對シマシテ、和蘭ハ八·四、
  獨逸ハ一〇·九、亞米利加ハ一〇·七、白耳
  義ハ一一·七、英吉利ハ一二·〇、伊太利ハ
  一三·八、佛蘭西ハ一五·一デアルニ拘ラ
  ズ、日本ニ於キマシテハ一六·八ニ該當ス
  ルノデアリマス、又平均壽命ニ於テ見マス
  ルノニ、日本人ハ歐米人ニ比シ約十年短命
  ナノデアリマス、斯ウ云フ風ナコトハ一體
  何ニ原因シテ居ルノデアリマセウカ、日本
  人ノ體格ガ歐米人ヨリ著シク劣ッテ居ルト
  ハ思ハレマセヌ、日本人ノ食物、榮養量ニ
  於テ、サウヒドク惡イトハ感ジナイノデア
  リマス、尤モ保健思想ノ幼稚ナル點、衞生
  施設ノ不十分ナル點、醫療機關ノ都市偏重
  等ト云フコトニ付テハ、多少考慮シナケレ
  バナルマイト思ヒマス、併シ其最大ノ原因
  ヲ成スモノハ、日本人ノ生活程度ニ比較致
  シマシテ、醫療費ノ負擔ガ多イト云フコト
  ト、醫療ガ合理化ナラザルト云フ點ニ歸著
  スルノデハアルマイカト感ジテ居リマス、
  最近數年ノ間ニ於キマシテ、簡易保險局ノ
  健康相談所ハ各地ニ設置セラレマシタ、產
  業組合ノ醫療利用組合ハ到ル處ニ普及サレ
  マシタ、實費診療所ハ各都市ニ增設セラレ
  マシタ、隨テ醫療費ハ漸次遞減ヲ來シテ居
  ルノデアリマス、更ニ健康保險ノ組織ニ於
  キマシテ、或ハ工場、鑛山ノ勞働者ハ、其
  恩典ニ浴シテ參リマシタ、今玆ニ國民健康
  保險ノ創設ニ依リマシテ、農民竝ニ中小
  商工業者ハ保險組織ニ依ッテ、此醫療費ノ重
  壓カラ段々除去シ得ラレルト思フノデアリ
  マス、更ニ進ンデハ「サラリーマン」ニ對ス
  ル所ノ健康保險ヲ創設シテ、以テ一般國民
  ヲシテ此安キ醫療費ノ負擔デ濟ムヤウニシ
  ナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、併シド
  ウモ醫療ノ合理化ト云フ問題ニ付キマシテ
  ハ、今日遺憾ノ點ガ多イノデアリマス、診
  療ハ醫者ニ、調劑ハ藥劑師ニ、各〓專門的
  ニ〓究シタ者ニ分業セシムルト云フコトガ
  必要ナノデアリマス、歐羅巴ヲ見マスルト、
  獨逸ニ於テモ、佛蘭西ニ於テモ、伊太利ニ
  於テモ、白耳義ニ於テモ、到ル處法律ヲ以
  テ分業ヲ强制シテ居ルノデアリマス、亞米
  利加ト英吉利ト「チエッコスロバキヤ」一於
  テハ、法律ヲ以テ分業ヲ强制シテハ居リマ
  セヌガ、强制スルノ必要ナキ程、分業ト云
  フモノガ行渡ッテ居ルノデアリマス、然
  ルニ日本ニ於キマシテ、健康相談所、
  或ハ陸海軍ノ病院、三人以上ノ醫師ヲ
  有スル病院、診療所等ニ於テハ、分業ガ行
  ハレテ居リマス、併シ一般ノ開業醫及ビ健
  康保險醫ノ大部分ト云フモノハ、舊來ノ
  習慣ニ從ヒマシテ、醫師ガ診察モスレバ
  調劑モ爲シテ居ルノデアリマス、醫師ガ調
  劑スルナラバマダ宜シイ、甚シキニ至リマ
  シテハ、藥ニ經驗ノナキ女中ナリ、看護婦
  ナリガ平然トシテ調劑シテ居ル、此問題ガ
  嘗テ健康保險ノ委員會ニ於テ討議セラレマ
  シタ時ニ、時ノ衞生局長ハ、醫師ノ監督指
  導ノ下ニ於テスルナラバ差支ナイト言ッテ、
  此藥學ニ經驗ノナイ所ノ女中ナリ、看護婦
  ナリノ調劑ト云フコトヲ、何等取締ッテ居ラ
  ナイノデアリマス、今ノ日本ノ制度ニ於キ
  マシテハ、診察スル者ハ醫者デアリマス、
  調劑スル者モ醫者デアリマス、死亡證明書
  ヲ書ク者モ醫者デアリマス、是ガ多クノ場
  合同一人デアル、サウ致シマスルト云フト、
  當然助カルベキ所ノ病人ガ、誤診ノ結果死
  ヌカ、誤藥ノ結果死ヌカ、其責任ノ歸著ト
  云フモノガ明カデナイ、若シ分業ヲ實施サ
  レタ場合ニ於キマシテハ、醫者ハ必ズ處方
  箋ヲ發行スル、藥劑師ハ其處方箋ニ依ッテ
  調劑致シマスルガ故ニ、玆ニ若シ醫者ノ診
  察ガ誤ッテ居ッテ、異ッタル處方箋ヲ書イタ
  場合ニ於テハ、藥劑師ハ之ニ注意ヲ與へ、
  藥劑師ガ誤ッタ藥ヲ盛ッテ、直チニ病氣ニ變
  動ヲ生ジタ場合ニハ、醫者ガ注意ヲスルト
  云フノデ、オ互ニ注意ヲ致シマスルカラ、
  茲ニ粗診粗療ト云フモノハ無クナリマシテ、
  完全ナル醫療制度ト云フモノガ行ハレルノ
  デアリマス、政府ガ新シイ計畫ヲ樹テマス
  ル場合ニ於テハ-從來ハ分業ハ任意分業
  ニナッテ居ルノデアリマス、此新シイ制度ヲ
  樹テル場合ニ於テハ、强制分業ニスベキガ
  當然デアル、英吉利ノ如キニ於キマシテハ
  一般ニ於テハ任意分業デアリマスルガ、政
  府ノヤッテ居リマスル健康保險其他ニ於テ
  ハ、强制分業ヲヤッテ居ル、而シテ此政府ノ
  立前ト致シマスルト云フト、强制分業其モ
  ノハ時期ガ早イ、政府ノ立前ハ任意分業ダ
  ト言ッテ居リマス、任意分業結構デアル、併
  シ任意分業ガ日本ニ於テ徹底サレテ居リマ
  スルカ、任意分業ノ障碍ヲ爲スモノハ處方
  箋料ノ問題デアル、五十錢カ、六十錢ノ藥
  ヲ貰ヒマスル場合ニ、處方箋料トシテ、東
  京醫師會ナドニ於テハ二圓以上ヲ規定シテ
  居リマス、僅ノ藥ヲ貰フ爲ニ、高イ處方箋
  料ヲ拂フノハ堪リマセヌカラ、一部ノ「イ
  ンテリ」階級以外ヲ除キマシテハヤハリ
  同ジ醫者カラ調劑ヲ受ケテ居ルノデアリマ
  ス、此處方箋料ヲ撤廢スルト云フコトガ重
  大ナル問題デゴザイマス、嘗テ健康保險ノ
  委員會ノ席上、私ヨリ此事ヲ質問致シマシ
  ク、政府ノ答辯ハ、歐米ニ於テハ處方箋料
  ト云フモノハ診察料中ニ當然含ムベキモノ
  デアル、又含マシムルノガ適當デアルト思
  フ、日本ニ於テハ多年ノ習慣ニ從ッテ居ルト
  云フダケノ答辯デゴザイマシタ、故ニ政府
  ノ立前デアリマスル任意分業デアルナラバ、
  任意分業ヲシテ徹底セシムベク、先ヅ處
  方箋料ト云フモノヲ撤廢スルコトガ必要ノ
  問題デアル、更ニ藥價ニ付テ考慮スルコト
  ガ必要ト思フ、今日ノ一般開業醫ノ實際ヲ
  見マスルト云フト、直接稅ニ比スベキ所ノ
  診察料ニ依ッテ生活スル者ハ少イ、間接稅
  トモ云フベキ所ノ藥ノ儲ケニ依ッテ生活シ
  テ居ル所ノ醫者ガ多イノデアリマス、是ハ
  實際ノ問題デアリマス故ニ、先ヅ私共ハ現
  在獨逸ガヤッテ居リマスルヤウナ、國定ノ
  藥價令、國ノ法律ヲ以テ藥ノ値段ヲ一定セ
  シムルコトガ必要ダト思フサウスレバ醫
  師ガ間接稅ニ比スベキ藥ノ儲ケヲ轉ジテ、
  直接稅ニ比スベキ診察料ニ依ルト云フコト
  ニナレバ、玆ニ分業ガ行ハレ、其結果死亡
  率モ少クナリ、壽命モ長クナルノデハアル
  マイカ、サウ云フ點ヲ考慮シタ場合ニ於テ
  ハ、政府ガ任意分業ヲ立前トシテ居ル、其
  任意分業ト云フモノヲ徹底セシムル爲ニ、
  處方箋料ノ撤廢、藥價令ノ制定ト云フコト
  ニ付テ、政府ハ如何ナル考ヲ持ッテ居ルカ
  ト云フコトヲ第一ニ伺ヒタイ
  更ニ此法案直接ノ問題ト致シマスルナラ
  バ此法案ニ於テハ無論組合ノ任意行爲タ
  ラシムルト思ッテ居リマス、組合ニ於テ或
  ハ處方箋ヲ發行シテモ宜イ、組合ノ任意行
  爲ト私共感ジテ居リマスガ、少クトモ政府
  ノ指導精神トシテ希望致シマスルノハ、醫
  者ハ其診察シタ患者ニ對シテハ、必ズ處方
  箋ヲ發行セシムルノ義務ヲ負ハシムルコト
  ガ必要デアル、無料デ處方箋ヲ發行スル、
  患者ガ其處方箋ヲ持ッテ、其醫者カラ調劑ヲ
  受ケヤウガ、藥劑師カラ受ケヤウガ、ソレ
  ハ患者ノ自由行爲タラシメレバ宜シイ、少
  クトモ今囘ノ此法案制定ニ於テハ、サウ云
  フ風ナ指導精神ヲ持ツコトガ宜イト考ヘテ
  居リマスガ、政府ノ之ニ對スル御考ハドウ
  デアルカト云フコトヲ御伺致シタイノデア
  リマス
  次ニ第二ニ御伺致シタイノハ、此國民健
  康保險ニ於キマシテハ、健康相談所ノヤッテ
  居ル如ク、專屬醫ヲ置イテ、サウシテ診察
  セシムルノデアリマスルカ、或ハ健康保險
  組合デヤッテ居リマスル如ク、開業醫ニ囑託
  シテ、開業醫ニ診察竝ニ調劑ヲセシムルノ
  デゴザイマスルカ、其根本ヲ承リタイノデ
  アリマス、健康保險ノ實際ヲ見マスルト、
  被保險者ト云フモノハ非常ニ不平ヲ言フ、
  ナゼ不平ヲ言ッテ居ルカ、例ヘテ見レバ健康
  保險醫ノ所ヘ參リマスルト、ドウモ一般患
  者ヨリ、健康保險ノ被保險者ト云フモノハ、
  診察ヲ後〓シニスル、一般患者ヲ診タ後デ
  ナケレバ診ナイト云フ場合ガ多イト云フ
  不平ヲ吾々ハ聞イテ居ル、又健康保險醫ニ
  於テ藥ヲ二通リニシテ居ッテ、健康保險ノ患
  者ニ對シマシテハ、「ホ」印藥品ト云フ二等品
  ヲ分類シテ居ル、之ヲ特ニ使ッテ居ルト云フ
  醫者ガアルト云フコトヲ聞イテ居ル、是ガ
  健康保險ガ日本ニ於テ成績ガ惡イ、治療日
  數ガ歐米カラ見ルト非常ニ長イト云フ、其
  長イノモサウ云フ結果デハナイカト思ッテ
  居リマス、政府ガ此案ヲ成スニ際シマシテ、
  先ヅ開業醫ニ囑託セシムル方針デアルカ、
  或ハ專屬醫ヲ置イテモ差支ナイノデアルカ、
  之ニ付テノ御方針ヲ承リタイ
  第三ニ御伺致シタイノハ、日本醫師會ト
  ノ間ニ團體契約ヲ結バシムル方針デアルカ
  ドウカノ問題、所謂團體契約ヲシテ、被保
  險者ニ自由選擇主義ヲ採ラシムル方針デア
  ルカドウカノ點デアル、團體契約ヲ致サセ
  マスト、被保險者ト醫者トノ間ニ於キマシ
  テ、一種ノ中間機關ガ出來ルノデアリマス、
  大日本醫師會ト契約ヲセシメル、サウスル
  ト醫師會ノ國民健康保險ニ於ケル所ノ事務
  費ト云フモノハ、結局被保險者及ビ診察ス
  ル醫者ガ分擔スルノデアリマス、サウスル
  ト被保險者カラ申シマスルナラバ、餘計ノ
  費用ヲ要スル、診察スル醫者カラ申シマス
  ルナラバ、餘計ノ費用ヲ要スル、ソレガ非常
  ノ不利益ニナルノデハアルマイカ、ノミナ
  ラズ此保險組合ト云フモノハ、村々ニ出來
  ルトカ、同業者間ニ出來ルト云フノデ、極
  ク小サナル團體デアル、小サナル團體ト、
  一面ニハ日本醫師會ト云フ大キナ團體トガ
  契約スルト云フト、大キナ團體ノ爲ニ常ニ
  壓迫サレマシテ、小ナル組合ト云フモノハ、
  全ク如何トモ處置スルコトガ出來ナイヤウ
  ナ狀態ニ陷ルコトハ、今ノ健康保險ニ於テ
  モ、醫師會ノ我儘ノ爲ニ弱ッテ居ル實例ヲ見
  テモ分ルノデアリマス、故ニ是等ノ點ニ付
  キマシテ、政府ハ果シテ日本醫師會トノ間
  ニ團體契約ヲ結ブ積リデアルカ、無論法制
  上ハ之ヲセヌト申シマセウ、現在ノ健康保
  險ニ於テモ、法制上ハ日本醫師會トハ何等
  ノ契約ノ條項ハナイ、併シ實際ハ日本醫師
  會ト契約ヲシテ居ルノデアル、若シ此法案
  實施ノ曉ニ於テ、政府ハ日本醫師會ト契約
  ヲスル考デアルカドウカ、此根本ノ問題ヲ
  承リタイ
  第四ニ承リタイノハ、醫師、藥劑師、賣
  藥業者ノ失業問題ガ起ル、之ニ對シテ如何
  ナル所ノ救濟ノ策ヲ講ジテ居ルカ、醫師ノ
  點カラ申シマスルナラバ、無論收入ノ減ル
  ト云フコトハ爭フベカラザル事實デアル、
  ノミナラズ醫師カラ言ヒマスルナラバ、組
  合ノ幹部ノ爲ニ常ニ種々ナル所ノ壓迫ヲ受
  ケル、組合幹部ノ歡心ヲ得ルニアラザレバ
  或ハ患者ハ寄越サレナイト云フ狀態ニナッ
  テ、醫師其者ノ種々ナル所ノ信用ヲ失墜ス
  ル場合ガ多カラウ、更ニ藥劑師ノ方面カラ
  申シマスルナラバ、健康保險實施ノ時ニ於
  テ、工場附近ノ藥劑師ハ、從來賣ッテ居ッタ
  賣藥其他ガ賣レナイ爲ニ、非常ニ困ッテ失業
  致シマシタ、若シ此法案實施ノ曉ニ於テハ、
  同樣ノ結果ヲ示シハシナイカ、殊ニ開業醫
  ニ對シテ囑託ヲスルト致シマスルナラバ
  開業醫ノ多クハ分業ヲ喜バヌ、處方箋ノ發
  行ハシナイ、サウスルト云フト、藥劑師ト
  云フモノハ玆ニ失業狀態ニ陷ルノデ、之一
  對シテ如何ニスルカ、殊ニ甚シイノハ賣藥
  關係ト思ヒマス、今日山村其他ニ於テ醫者
  ノ所へ參ルノニ非常ニ遠イ、又實際上不便
  デアル、斯ウ云フ場合ニ於テ、富山縣其他
  ノ多クノ賣藥業者ハ、主トシテ山村ニ入リ
  込ミマシテ、賣藥ヲ農村ノ各戶ニ配付スル、
  ソレヲ半年ナリ一年ノ後ニ於テ、殘ッタモノ
  ト使ッタモノトヲ調ベ、サウシテ使ッタモノ
  ニ對スル現金ヲ受取ッテ、新シイ藥ヲ置イテ
  來ルト云フノガ現在ノ習慣デアル、又是等
  賣藥業者ハ其預ケテ來タ所ノ賣藥、之ヲ擔
  保トシテ融通ノ方法モ講ジテ居ルノデアル、
  聞ク所ニ依リマスルト、政府ハ組合ニ對シ
  マシテ、丁度全購聯ガヤッテ居ルガ如ク、賣
  藥ヲ給付スルト云フ風ノ噂ヲ聞イテ居リマ
  スルガ、政府ハ果シテ組合ニ賣藥給付ノ權
  利ヲ與ヘルノデアルカドウカ、卽チ賣藥ヲ
  組合ニ委シテ、農村ノ各戶ニ組合カラ給付
  セシメタ場合ニ於キマシテ、ドウ云フ結果
  ヲ生ズルカ、其場合ニ被保險者ニ對シマシ
  テ賣藥ニ對スル選擇權ヲ與ヘルカ、被保
  險者ヲシテ好キナ賣藥ヲ買ハシムベ
  ク、現金給付ノ策ヲ講ズルカドウカ、政
  府ノ所見ヲ承リタイ、政府ハ組合ノ自治ニ
  委スト申シマスルガ、結局ハ若シ賣藥ヲ農
  村其他ヘ悉ク給付シタ場合ニ於テハ、ソレ
  コソ賣藥業者ト云フモノノ失業ヲ生ズル、
  是ハ重大問題デアル、之ニ對シテ政府ガ賣
  藥給付ヲ制限スル積リデアルカドウカ、獎
  勵スル積リカ、或ハ禁止スル積リカ、政府
  ノ方針ヲ承リタイ
  此場合私ハ農林當局ニ向ッテ承リタイコ
  トガアリマス、ソレハ全購聯ノ賣藥製造販
  賣ニ關スル問題デアリマス、昨年ノ特別議
  會ノ豫算分科會ニ於テ、私ハ政府委員ニ對
  シテ此點ヲ質問致シマシタ、其時小平政府
  委員ノ答辯ニ依リマスト、全購聯ハ自ラ製
  藥ハシテ居リマセヌト云フコトヲ申サレマ
  シタ、併シ實際ヲ見ルト云フト、全購聯ガ賣
  藥ノ製造販賣ヲシテ居ルノデアリマス、卽
  チ明ニ製造販賣元全國購買組合聯合會ト銘
  打ッタル賣藥ヲ到ル處ニ配付シテ居ルノデ
  アル、最近ニ於キマシテハ、ツイ先月ノ問
  題デゴザイマシタ、靜岡縣ニ於テ全購聯ガ
  靑年團ヲ組織致シマシテ、村々ニ配付致シ
  テ居リマスル賣藥ヲ全部集メテ、サウシテ
  自分ノ賣樂ト取換へ此集メタ賣藥ヲ富山
  縣ノ賣藥業者ニ纏メテ送リ返シタ、是ガ現
  在問題トナッテ居ルノデアル、全購聯ガ斯ウ
  云フ風ニ賣藥ニ對シテ製造販賣スルト云フ
  コトガ、果シテ善イカ惡イカ、一面ニ於テ
  ハ營業收益稅ヲ納メテ居リ、有ユル所ノ負
  擔ヲシテ居リマスル中小商工業者、他面ニ
  於テハ政府ノ恩典ヲ受ケ、低利資金ノ融通
  ヲ受ケ、運賃ノ割引ヲ受ケテ居リマスル產
  業組合ガ、商工業ノ範圍ニ侵入シ、ノミナ
  ラズ組合員ダケニ配付スルナラ宜シイガ、
  實際問題トシテハ、組合員以外ニモドン
  ドン配付シテ、商工業者ノ販路ヲ侵シテ居
  ル、是ハ現在ノ實際問題デアリマス、是人
  農林大臣ハ構ハヌデ置クノデアルカドウ
  カ、農林大臣ノ之ニ對スル御方針ニ付テ御
  伺致シタイ
  次ニ商工大臣ニ御伺致シタイノハ、商工
  大臣ハ產業組合ノ爲シテ居リマスル行動ニ
  向ッテ、之ヲ等閑視シテ居ルノカ、サウナレ
  バ商工業者ト云フモノハ到底營業ハ出來
  又、中間配給機關ヲ排除セヨト云フコトヲ
  產業組合ノ人々ハ言ッテ居ル、其場合ニ於
  テハ中小商工業ノ失業問題ガ起ル、是等ニ
  付テ商工大臣トシテ如何ナル對策ヲ持ッテ
  居ルカ、之ニ付テ私ハ商工大臣ノ御意見ヲ
  承リタイノデアリマス
  次ニ此制度ハ被保險者ガ保險料ヲ拂ヒマ
  スル以外ニ、診察ヲ受ケニ參リマスル場合
  ニ、一部ノ金ヲ持ッテ行クノデアル、所謂一
  部負擔制度ニナッテ居リマス、然ラバ貧困ナ
  人ニ向ッテハ如何ナル處置ヲ執ラルヽカ、尤
  モ教護法ニ依リマス所ノ極貧者ト云フモノ
  ハ、自治ノ能力ナキモノデアリマスカラ、
  自助的ノ施設デアル國民保險ニハ加入シナ
  イモノト吾々ハ考ヘテ居ル、更ニ金持階級
  ヲドウスルカ、外國ノ立法例ニ依リマスナ
  ラバ、金持ト云フモノハ除外シテ居ルノデ
  アル、卽チ自ラ金ヲ持ッテ十分醫療ガ爲シ得
  ラレル所ノ金持階級ト云フモノハ、社會施
  設デアリマス斯ウ云フ風ナ立法カラ除外シ
  テ居ルト云フコトガ各國ノ實例デアル、今
  囘ノ此制度ハ社會立法デアリマスル以上、
  金持階級マデモ組合員タラシムル考デアル
  カドウカ、更ニ救護法ニ依ル極貧者以外ニ、
  事實上農村都會ニ於キマシテモ、組合員ノ
  中ニハ貧富ノ懸隔ガ相當ニアル、之ニ對シ
  テハ社會政策的ノ立場カラ階級ヲ設ケル
  カ、マサカニ戶數割ト云フ風ニハ行キマス
  マイガ、二階級カ三階級カニシテ、或ハ保
  險料ニ差別ヲ設ケ、或ハ持ッテ參リマスル現
  金ニ差別ヲ設ケテ、貧富ノ間ニ於ケル所ノ
  一種ノ社會政策的ノ行動ヲ執ル考ガアルカ
  ドウカ、此點ヲ御伺致シタイノデアリマス
  次ニ第六ニ御伺致ツタイノハ、時間ガ切
  迫シテ居リマスカラ、簡單ニ要點ダケ申上
  ゲテ置キマス、第九條ノ規定デアリマス醫
  療利用組合ノ問題デアリマス、此法案ニ依
  リマスルト、營利ヲ目的トセザル社團法人
  ヲ以テ代用セシムルトアリマスルガ、是ハ
  產業組合ノ醫療利用組合ヲ指スモノト私ハ
  考ヘテ居ル、併シ醫療利用組合以外ニ代用
  セシムル所ノ、他ノ組合ガアルカドウカト
  云フ問題ヲ伺ヒタイ、又此醫療利用組合ヲ
  シテ代行セシメルト云フコトニ付テハ、今
  日贊否兩論ガアル、醫師會ハ反對シ、產業組
  合ハ贊成シテ、世論囂々タル問題デアル、私共
  ハ公平ノ立場カラ見ルナラバ一利一害ト思
  フ、併シ利用組合中ニハ赤字ニ惱ンデ、
  解散ノ運命ニ陷ラントシテ居ルモノモ少ク
  ナイノデアル、一部ニ於テハ、是ハ赤字ニ
  困ッテ居ル醫療利用組合ノ救濟策ダト言ッテ
  居ル、醫療組合ヲシテ代用セシメル場合ニ
  於テ、國民保險ト組織ヲ合致セシメルヤウ
  ニ變更ヲ强制スル考デアルカドウカ、卽チ
  今日ノ醫療組合ハ會員組織ニヤッテ居ル、今
  囘ノ案ハ保險組織ニヤッテ居ル、悉ク此法案
  ノ中ニ合致セシメルヤウナ總テノ改正ヲ企
  テ、而モ其中ニ於テ堅實ナルモノノミヲ許
  スト云フ御考デアルカドウカ、其點ヲ御伺
  致シテ置キタイ、更ニ利用組合ハ農林省ノ
  所管デアリマス、此國民健康保險ハ內務省
  ノ所管デアリマス、若シ之ヲ代用セシメル
  場合ニ於テハ、內務省ノ所管ニ變ヘルノデ
  アルカ、其儘產業組合ノ一團體トシテ農林
  省ノ管轄ニ置クノデアルカ、其管轄ノ問題
  ニ付テ御伺シテ置キタイノデアリマス
  最後ニ私ハ內務大臣竝ニ總理大臣ニ御伺
  シテ置キタイノハ、此法案實施ノ曉ニ於テ、
  政府ハ「サラリーマン」階級ニ對スル所ノ健
  康保險ノ法案ヲ提出スル考ガアルカドウ
  カ、若シ提出スル場合ニ於テハ、是ハ强制
  加入セシメルコトガ必要ト思ヒマスガ、强
  制加入ノ方針ノ下ニ於テ提出スル考デアル
  カドウカト云フ點ヲ伺ヒタイ
  更ニ內務大臣ニ御伺シテ置キタイノハ、
  今日醫療全般ニ對シマシテ種々ノ問題ガア
  ル、分業問題ヲ中心ト致シマシテモ、醫師
  ト藥劑師トノ間ノ軋轢ガアル、其他醫療全
  般ニ互ッテノ根本策ヲ解決スルト云フコト
  ハ、今日必要ナ問題デアル、ソレニ付テハ
  此醫療制度ニ對スル所ノ委員會組織-官
  民各方面カラ委員ヲ選ンデ、醫療國策ニ對
  スル根本ヲ決メル爲ニ、委員會組織ノ計畫
  アリヤ否ヤト云フ點デアル
  是ハ內務大臣トシテ御答辯ヲ願フヨリ
  ハ、總理大臣トシテノ御答辯ヲ願ヒタイ
  ガ、國務大臣トシテノ內務大臣ニ伺ッテ置
  キタイノハ、政府ハ保健省ト云フ風ノモノ
  ヲ設ケ、此醫療全般ニ對スル國策ノ爲ニ、
  之ヲ統一スル考ガアルカドウカ、保健省ヲ
  設ケルコトニ付テ何カ考ヲ持ッテ居ルカド
  ウカ、更ニ醫療問題ニ對スル最後ノ歸著點
  ハ、醫療國營ニ及バナケレバ解決出來ヌト
  思フ(拍手)最後ハ醫療國營ニシナケレバナ
  ラヌカト思フ、醫療國營ノ問題ニ向ッテ何
  カ考ガアルカ、醫療國營ハ第二ト致シマ
  シテモ、少クトモ製藥ノ國家管理ト云フ
  問題ニ付テハ〓究シナケレバナルマイ(「ソ
  レハ必要ダ」ト呼フ者アリ)今藥ハ藥九層
  倍ト申シテ、而モ其半分以上ハ廣〓費ニ
  取ラレ、其爲ニ國民ノ實際上ニ於ケル負
  擔ト云フモノハ、非常ニ重課サレテ居ル、
  結局ハ製藥ノ國家管理マデ進マナケレバナ
  ルマイ、斯ウ云フ點ニ付テ何カ政府ハ御考
  ヲ持ッテ居ルカドウカ、私ノ質問ハ多岐ニ
  亙ッテ居リマス、併シ時間ガアリマセヌノデ、
  內容ニ付テ詳シク申スコトハ出來マセヌガ、
  唯私ノ質問ノ〓要ダケヲ御酌取リ下サイマ
  シテ、政府ノ之ニ對スル御答辯ヲ承リ、尙ホ
  尋ネルベキ點ガアリマスルナラバ、重ネテ
  御尋致シタイト思フノデアリマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=6

  ---

• 007・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今〓水サン
  カラノ御尋ニ付キマシテ、段々ト御答ヲ申
  上ゲタイト思ヒマス、第一ハ醫藥分業ヲ强
  制スルカドウカ、隨テ處方箋料ヲ徵收スル
  ヤ否ヤ、斯ウ云フ風ナ御尋ノヤウニ諒解致
  シマシタ、根本ノ問題トシテ、醫藥分業ノ
  問題ハ、是ハ可ナリ面倒ナ重要ナ問題デア
  リマスガ、面倒ナ問題デアリマスコトハ、
  私ハ此處デ事新シク申上ゲルマデモナイコ
  トト思ヒマス、隨ヒマシテ今囘ノ國民健康
  保險組合ノ制度ニ於キマシテモ、直チニ此
  制度ヲ採用スルヤ否ヤト云フコトニ付キマ
  シテハ、容易ニ決定シ兼ネルノデアリマス、
  先ヅ大體ハ今日國民ノ風習ト云フモノニ從
  ヒマシテ、餘リニ理想的ニ走ルト云フコト
  ハ如何カト思フノデアリマス、且又處方箋
  ヲ無料デ出シタラドウカト云フコトニ關聯
  致シマシテモ、是亦御承知ノ通リ、我國ニ
  於キマシテハ餘リ斯ウ云フ問題ニ對シテ
  ハッキリシタ考、區別ガ國民ノ間ニナイノデ
  アリマス、例ヘバ藥價ノ中ニ自然ト處方箋
  ノ料金モ入ッテ居ルト云フヤウナ風習デア
  リマスノデ、是等ノ風習ハヤハリ、一 四、
  於テ考ヘナケレバナラヌノデアリマスカ
  ラ、此國民健康保險組合ノ制度ニ於キマシ
  テモ、ヤハリ大體ニ於テハ現在行ハレテ居
  ル風習ニ從ハセルヤウニシタイ、斯ウ云フ
  風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ第二ハ、國民健康保險組合ニ於
  テハ、専屬ノ醫師ヲ置クカ、或ハ從來ノ開
  業醫ニ診療セシムルカドウカ、斯ウ云フ御
  尋ト伺ヒマシタ、是ハ法文ニ揭ゲテアリマ
  スヤウニ、大體ニ於テ組合ノ自治ニ委シテ
  居ル次第デアリマスガ、實際ニ於キマシテ
  ハ、成ベク廣キ範圍ニ於ケル醫者ニ掛ラセ
  ルト云フコトガ、組合員ノ便利ト考ヘマス
  ルノデ、成ルベク廣キ範圍ノ醫者ニ掛ラセ
  ルヤウニ致シタイト思ヒマス、專屬ノ醫者
  ヲ置キマスルノハ、隨テ特別ノ場合、斯ウ
  云フコトニナルノデアラウト云フ風ニ考ヘ
  ルノデアリマス
  第三ノ團體契約ノ問題デアリマスガ、是
  亦大體ニ於テ組合ノ自治ニ委セル積リデア
  リマスガ、併シ土地ノ狀況、竝ニ諸般ノ狀
  況ヲ顧ミマシテ、サウ云フ風ナ或ル地方ノ
  醫者ノ團體ト約束スル方ガ、便利ナ場合ガ
  多々アルト思フノデアリマス、隨ヒマシテ
  斯ウ云フ場合ニハ、サウ云フ風ニ仕向ケルコ
  トモ亦必要デハナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘマス
  第四ニ此制度ヲ布イタ場合ニハ醫師、
  藥劑師、賣藥業者等ノ失業問題ヲ生ズルコ
  トガナイカ、斯ウ云フ御尋デアリマシタ、
  醫者ニ付キマシテハ私ガ申ス迄モナク、所
  謂成ベク國民ノ今マデ醫者ニモ掛リ得ナカッ
  タヤウナ人々、卽チ農漁山村ノ比較的因ッテ
  居ル人々、竝ニ都市ニ於ケル中小商工業者ト
  云フ者ヲ目途ニ致シテ居リマシテ、サウ云
  フ人々ガ若干ノ掛金ヲシテ、平素カラ多少
  ノ準備ヲシテ、何時デモ病氣ニナッタ時、醫
  者ニ掛リ得ルト云フ仕組デアリマスカラ、
  從來ヨリ寧ロ所謂御醫者ニ掛ル病人ト云フ
  者ハ多クナル、病人ノ數ハ同ジデアリマシ
  テモ、御醫者ニ診テ貰フ人ガ多クナルノデ
  アリマスカラ、御醫者サンノ仕事ハ却テ殖
  エルデアラウ、斯ウ云フ風ニ私共ハ考ヘル
  ノデアリマス
  賣藥業者ノ問題ニ付キマシチハ、是ハ〓
  水サンノ御意見ノヤウナ次第モアラウト思
  ヒマスガ、併シ是亦無理ヲ致サナイ積リデ
  アリマシテ、從來賣藥業ト云フモノハ、我
  國ニ於テ相當發展シテ居ルノデアリマスル
  カラ、急激ニ其業者ノ妨害ニナルヤウナコ
  トハ成ベク致サセタクナイ、斯ウ云フ風ニ
  思フノデアリマス、隨ヒマシテ組合ニ於テ
  賣藥ヲ備ヘテ、組合員ニ配付スルト云フヤ
  ウナコトハ、サセナイ方ガ宜イヤウニ思フ
  ノデアリマス、デアリマスカラ從來ノ慣習
  ニ依ッテ、賣藥ヲ田舍ナドデハ尊重サレテ居
  ルノデアリマスカラ、假令國民健康保險組
  合ガ出來マシテモ、ヤハリマダ暫クノ間ハ、
  此賣藥ノ需要ノ餘地ガアリマシテ、急激ニ
  此組合ノ成立ト共ニ無クナルコトハナカラ
  ウ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、唯社
  會ノ情勢ニ從ヒマシテ、世ノ中ハ段々進步
  スルノデアリマスカラ、卑近ナ例ヲ申シマ
  スト、例ヘバ段々自動車ナリ、交通ガ發達
  シマスト、從來ノ人力車ト云フモノハ、自
  ラ何處カヘ轉業スルト云フヤウナコトニナ
  リマスノデ、ヤハリ是ハ賣藥業者ニ於カレ
  マシテモ、此時勢ノ進運ニ顧ミマシテ、或
  ハ藥ノ品質ヲモット良クスルトカ、或ハ他ノ
  適當ナル方法デ、其需要ヲ喚起スルト云フ
  風ニ、ヤハリ社會ノ進步ト共ニ、ソレ〓
  ノ工夫ヲ凝サレンコトヲ希望スルノデアリ
  マス、唯國民健康保險組合ガ、一擧ニ日本
  全國ニ直グ行ハレルト云フコトハ、中々困
  難ナコトデアリマシテ、初メハ國家ガ固ヨ
  リ補助ヲ致シマスルガ、豫算ニ於テ揭ゲマ
  シタヤウニ、若干數ノ補助ヲ見込ンデ居ル
  ヤウナ位デアリマシテ、一擧ニ日本全國ニ
  此健康保險組合ガ普及スルト云フ譯ニモ行
  カヌト思ヒマス、其間ニハ若干ノ年月ヲ要
  スルノデアリマスカラ、田舍ニ於キマシテ
  モ急激ニ、此賣藥業者ト云フ者ガ直グ困ル
  ト云フヤウナコトハ、私共ナカラウト云フ
  見込デアリマス
  ソレカラ第六ニ、法案ノ第九條ノ規定ノ、
  所謂國民健康保險組合ニアラザル他ノ組合
  ト云フノハ、醫療組合ヲ指スノカ、或ハ其
  他ニアルノカト云フ御尋デアリマシタガ、
  是ハ御示ノヤウニ醫療組合ヲ指スノデアリ
  マシテ、其他ノ組合ヲ豫想ヲシテ居ラヌノ
  デアリマス、醫療利用組合ニ付キマシテ、第
  九條ヲ置ク趣旨ハ、從來醫療利用組合ハ可
  ナリアルガ、其中ニハ隨分成績ノ惡イモノ
  ガアル、赤字ノ隨分出テ居ルモノガアル、
  是等ヲ救濟スル意味デハナイト云フヤウナ
  御尋デアリマシタガ、サウ云フコトハ決シ
  テ致サヌ積リデアリマス、醫療利用組合ニ
  於キマシテモ、之ヲ國民健康保險組合ノ代
  行トシテ認メマスルノハ、地方長官ニ於テ相
  當ノ審査檢査ヲ致シマシテ、適當ナリト認
  ムルモノニノミニ付テ、其代行ヲ認メマスノ
  デアリマスルカラ、從來ノ醫療組合ガ全部
  第九條ニ依ッテ認メラレルト云フ趣旨デハ
  ナイノデアリマシテ、此點ニ付キマシテハ、
  相當十分ナル調査ヲ致シタイト思フ積リデ
  アリマス
  ソレカラ第七ノ將來所謂「サラリーマン」
  ニ關スル社會保險等ニ付テノ工夫ガアルカ、
  斯ウ云フ御尋デアリマスガ、從來御承知ノ
  通リ工場鑛山等ニ於キマスル勞働者ノ健康
  ニ關スル保險ガ實行セラレテ居ルコトハ
  御承知ノ通リデアリマシテ、或ハ船員ニ關
  スル保險、斯ウ云フヤウナモノガアリマス
  ガ、尙ホ更ニヤハリ國民生活安定ノ一ツノ
  方法トシテ、將來益〓、斯ウ云フ方面ノ安定
  ノ方策トシテ、種々ナル社會保險ト云フモ
  ノガ行ハレナケレバナラヌト思ヒマス、是
  等ニ付キマシテ出來ルダケ調査〓究ヲ重ネ
  テ、其方面ニ向ヒタイト思フノデアリマス、
  之ヲ强制スルヤ否ヤト云フコトニ付キマシ
  テハ、尙ホ其內容手段等ニ付キマシテモツ
  ト十分ニ〓究ヲ致シテ行キタイト思ヒマス
  第八ニ醫師ト藥劑師トノ軋轢、其外醫療
  全般ニ對スル根本策、是等ヲ解決スル爲ニ
  官民兩者ヲ合セタ委員會等ヲ作ル意思アリ
  ヤ否ヤ、斯ウ云フ御尋デアリマスガ、是ハ
  醫者ト藥劑師トノ關係ハ、我國ニ於キマシ
  テ醫療ノ關係ト云フモノハ、長イ間ノ傳統
  ト習慣ガアルノデアリマシテ是等ニ對シ
  マシテ急激ナル變化ヲ與ヘルト云フコトハ、
  却テ社會上宜シクナイノデアリマスカラ
  是等ノ根本問題ニ付キマシテハ愼重ニ考
  究ヲ重ネル必要ガアルト思フノデアリマス
  ソレカラ將來衞生、保健其他ヲ統合シタ、
  一ツノ大キナ保健省ノヤウナモノヲ作ル意
  思アリヤ否ヤト云フコトデアリマスガ、是
  等ハ行政機構全般ニ關スル問題デアリマシ
  テ、其外ノモノト十分ニ〓究ヲ致サナケレ
  バナラヌノデアリマスカラ、此處デ一寸直
  チニ御答申上ゲ兼ネルノデアリマス
  尙ホ此際御斷リヲ申上ゲテ置キタイノ
  ハ、商工省ノ所管ニ付テノ御尋ガゴザイマ
  シタガ、生憎商工省ノ大臣竝ニ政府委員ハ、
  貴族院ニ於ケル豫算總會ニ出席致シテ居リ
  マスルノデ、私ハ只今ノ御質問ノ趣旨ヲ能
  ク傳ヘマシテ、適當ノ機會ニ御答辯致サセ
  ルコトニ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=7

  ---

• 008・清水留三郎

  ○〓水留三郞君　簡單デアリマスカラ·····

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=8

  ---

• 009・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=9

  ---

• 010・清水留三郎

  ○〓水留三郞君　農林省ノ答辯ヲ願ヒマス
  〔政府委員小平權一君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=10

  ---

• 011・小平權一

  ○政府委員(小平權一君)　全購聯ノ關係ニ
  付テ御答致シマス、全國購買組合聯合會ハ、
  藥ノ製造工場ヲ持ッテ居リマセヌノデ、藥劑
  師ヲ置キマシテ嚴重ナル監督ノ下ニ、他人
  ノ工場ニ於テ製造シタモノヲ受入レテ居ル
  ノデアリマシテ、其實質ニ於テハ、全購聯
  ガ自ラ製造シテ居リマセヌ、此場合ニ御答
  致ス次第デアリマス、次ハ一括返上シタト
  云フコトニ付キマシテハ、最近各地方長官
  ヲ通ジテ調ベマシタ所ガ、一二例ガアリマ
  シテ、是ハ嚴重ニ左樣ノ事ノナイヤウニ取
  締ッテ居ル次第デアリマス、尙ホ組合員外ニ
  藥ヲ賣ルコトニ付キマシテハ、是ハ法令上
  出來ナイコトデアリマシテ、左樣ナ事ガア
  リトスレバ是ハ嚴重ニ取締ラナケレバナ
  ラヌノデアリマシテ、今後共員外ニ賣却ス
  ルコトハ、組合監督制度ノ完成ト相俟ッテ、
  嚴重ニ取締ル積リデアリマス、左樣御承知
  ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=11

  ---

• 012・清水留三郎

  ○〓水留三郞君　簡單デアリマスカラ此席
  カラ御許シ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=12

  ---

• 013・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=13

  ---

• 014・清水留三郎

  ○〓水留三郞君　只今ノ內務大臣ノ答辯ノ
  中ニ於テハ、私ノ質問ニ對スルハッキリシ
  タ答辯ノナカッタ點モアリマス、又答辯全
  體ヲ見マスルト、此法案ニ付テ或ル勢力ニ
  壓迫セラレマシテ、段々改惡ニナリツヽア
  ルヤウナ傾向ガアルノデアリマス、故ニ何
  レ他ノ機會ニ於テ御伺致シマスルガ、私ハ
  他ハ議論ニ亙ル虞モアリマスカラ、此程度
  デ私ノ質問ハ打止メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=14

  ---

• 015・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　川島正次郞君
  〔川島正次郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=15

  ---

• 016・川島正次郎

  ○川島正次郞君　只今上程セラレマシタ國
  民健康保險案ニ關シマシテハ、現在ノ國內
  情勢ニ鑑ミマシテ、私共ハ法案ノ趣旨ニハ
  滿腔ノ贊意ヲ表スルモノデアリマス、併ナ
  ガラ本案ハ醫療施設ニ於ケル劃期的ノ事業
  デアリマシテ、運用ノ如何ニ依リマシテ
  ハ、我國ノ醫療界ニ一大革命ヲ來スベキ內
  容ヲ有スルノデアリマス、本案ノ內容ニ關
  シマシテハ、幾多ノ疑義ヲ持ッテ居ルノデア
  リマスルケレドモ、其中重要ナル點二三ニ
  付キマシテ、玆ニ政府當局ニ對シテ疑ヲ質
  シテ置キタイト存ズルノデアリマス
  現在診療制度ノ狀態ヲ通觀致シマスル
  ト階級的ニ見テモ、亦之ヲ地方的ニ見テ
  モ、偏在ヲ致シテ居ルノデアリマシテ、疾
  病ニ罹リ或ハ負傷シナガラ、貧困ニシテ診
  療費ガナイガ爲ニ、醫療ヲ受クルコトヲ得
  ズシテ疾病ガ長引キ、或ハ死亡者ヲ出ス等
  ノ事柄ハ、幾多ノ事例ガアルノデアリマ
  ス、又一面地域的ニ之ヲ見マスルト、現在醫
  者ノナイ町村ガ千四百ニ達シテ居ルノデア
  リマスルカラシテ、實ニ日本全町村一万二
  千ノ三割ニナルノデアリマス、社會的ニ見
  テ醫療ガ偏在シテ居ルト云フコトハ、國民保
  健ノ立場カラ極メテ不合理デアリマシテ、
  此狀態ヲ矯正シヨウトスル本案ニ對シテ
  ハ、恐ラク反對スル所ハナイト考ヘルノデ
  アリマスルガ、一體本案ハ何ヲ目標ニシテ
  居ルノカ、卽チ醫療費ノ低減ヲ圖ルノガ其
  主タル目的デアルカ、或ハ保險ノ形式ニ依ッ
  テ醫療費負擔ノ方法ヲ改メルノガ其主タ
  ル目的デアルカ、法案ヲ通ジテハ遺憾ナガ
  ラ判明ヲ致サナイノデアリマス、社會局ガ
  最近私共ニ配付シマシタ文書ニ依リマスル
  ト、組合カラ醫師ニ支拂フ料金ハ、其地方
  ニ於ケル實際ノ醫療料金ヲ參酌シテ、適當
  ニ之ヲ定メル方針デアリ、不當ニ之ヲ値切
  ルヤウナコトハアリ得ナイ、當局トシテモ
  醫療料金及ビ診療內容ニ關シテハ、嚴重ニ
  組合ヲ指導監督スル方針デアルト、斯樣ニ
  アル所ヲ見マスルト、法案ノ目的ハ、醫療
  費ノ低減ト云フコトヲ全然除外ヲ致シテ居
  ルノカモ知レマセヌガ、凡ソ斯樣ナ社會立
  法ニ於テ、醫療費ノ低減ヲ圖ラヌト云フコ
  トハ、アリ得ベカラザルコトダト信ズルノ
  デアリマス、恐ラク內務當局當初ノ御考
  ハ、本案ノ目的ヲ達スルノニ於テ、醫療費
  ノ低減ヲ企圖致シタニ違ヒナイノダト思フ
  ノデアリマスガ、其後醫師會方面其他ノ反
  對ニ遭ヒマシテ、急遽態度ヲ改メテ、本案
  ハ決シテ醫療費ノ低減ヲ圖ルモノデハナイ
  ト云フコトニシタノデハナイカト考ヘラレ
  ルノデアリマス、大體ニ於テ此點ノミナラ
  ズ、本案ノ各所ニ散在シテ居ル所ハ、餘リ
  ニ當局ガ右顧左馬ヲシテ、法ノ精神ヲ沒却
  スル點ガ少クナイノヲ、甚ダ私ハ遺憾トス
  ルノデアリマス、現行ノ健康保險法ノ實績
  ヲ見マスルト、法ヲ制定シタ當時ニ於テ
  ハ治療費一日二十錢ヲ見込ンダノデアリ
  マスルガ、罹病率ガ高イガ爲ニ治療費ハ漸
  次低下ヲ致シテ、今日デハ十三錢内外ニ相
  成ッテ居ルノデアリマスルガ、斯樣ナ低額デ
  完全ナル治療ノ出來ナイコトハ言フ迄モナ
  イ、況ヤ健康保險ハ鑛山勞働者、或ハ工場
  勞働者ヲ對象ト致シテ居ルノデアリマスル
  カラシテ、比較的患者ハ少イ筈デアル、然
  ルニ今囘ノ健康保險ハ一般民衆ガ對象デ
  アッテ、殊ニ加入者ハ比較的虛弱者ガ多イト
  見ナケレバナラヌノデアリマスルカラシ
  テ、罹病率ハ益、高カラザルヲ得ナイノデ
  アリマス、政府ガ吾々ニ現在アル所ノ診療
  利用組合ノ好模範トシテ御示シニナッテ居
  ル、埼玉縣越ケ谷順正會ニ於ケル實績ヲ見
  マスルト、被保險者ノ一人當リノ保險料月
  額二十三錢、年額二圓七十六錢、之ニ補助
  金竝ニ寄附金ヲ加ヘテ、一年一人當リノ保
  險給付額ハ四圓三十二錢ヲ見込ンデ居ルノ
  デアリマス、ソコデ實際保險料ト給付額ト
  ノ差ハ一圓五十六錢デアリマシテ、之ヲ補
  助金又ハ寄附金ニ佐ッテ仰グ譯デアリマス
  ルガ、旣ニ一人當リ一圓五十六錢ノ補助ヲ
  必要トシテ、而モ一箇年ノ給付額ハ僅ニ
  四圓三十二錢ニ過ギナイ、內務省社會局
  ハ、全國農民ノ一箇年醫者ニ支拂フ金額ハ
  一戶當リ二十五圓、一人當リ五圓ナリ
  ト發表シテ居ル、然ルニ拘ラズ模範的醫
  療利用組合ナリトシテ居ル所ノ越ケ谷
  順正會ノ內容ハ、補助金ヲ加ヘテモ四圓三
  十二錢ニ過ギナイ、是デ果シテ完全ナル醫
  療ガ行ハレルヤ否ヤ疑ヒナキヲ得ナイノデ
  アリマス、ソコデ私ハ當局ニ御伺シタイノ
  ハ、本案ハ大體一人當リ一圓ノ補助ヲ見込
  ンデ居ルノデアリマスケレドモ、斯ノ如キ
  少額ノ補助金デ本案ノ目的ヲ達成シ得ルノ
  カドウカ、一方ニ於テ內務省デハ決シテ醫
  療費ノ低減ヲ目的トシテ居ルノデハナイカ
  ラシテ、現在ノ醫者ニハ迷惑ヲ掛ケナイト
  言ッテ居ルノデアリマスカラシテ、社會政策
  上ノ見地カラ言ヘバ、相當多額ノ補助金ヲ
  出シテ、此事業ヲ達成スベキ筈ト斯樣ニ考
  ヘラレルノデス(拍手)
  元來國民健康保險法ハ數年間ニ亙ル國
  民ノ要望デアリマシタガ常ニ政府ノ容
  ルヽ所トナラナイ、然ルニ幸ニモ前內閣
  當時郵便利子ノ値下ヲ致シマシテ、其對
  象トシテ本法案、其他若干ノ社會事業ノ
  擴張ヲ致スコトニ相成ッタノデアリマスル
  ガ、國民健康ノ增進ハ廣義國防カラ申上
  ゲレバ極メテ重大デアリ、且ツ密接ノ關
  係ガアルノデアリマシテ、郵便貯金利下ノ
  影響ニ依ッテ本案ヲ提出シタガ如キハ、全ク
  政府ニ熱ガナイト言ハナケレバナラヌ、國
  防費ノ一部ヲ割イテモ-巨額ノ軍事費ノ
  一部ヲ割イテモ、本案ノ如キハ速ニ提出ス
  ベキモノデアリ、且ツ相當ノ補助金ヲ出ス
  ベキモノダ、斯樣ニ考ヘルノデアリマスガ、
  之ニ對シテ政府ハドウ御考ニナッテ居ルノ
  カ、之ヲ聽キタイノデアリマス、醫療費ノ
  低減ヲ圖ルノガ目的デナイトシテ、然ラバ
  保險ノ形式ニ依ッテ醫療費負擔ノ方法ヲ改
  メルノガ主タル目的ダト考ヘタ場合ニ於テ、
  當然掛金ハ資產ノ割合ニ依ッテ違フノデアリ
  マセウカラ、金持階級ノ者ハ本組合ニ加入
  スルコトヲ喜バナイ、又加入スル必要モナ
  イノデアルカラ、之ヲ除外スルヤウナ結果
  ニナッテ來ル、逆ニ極メテ貧困階級デアルガ、
  而モ救護法ノ適用ハ受ケラレナイト云フ人
  人ハドウナルカト申上ゲマスルト、加入シ
  タクテモ掛金ガナイカラ加入シ得ナイ、假
  令加入ヲ致シテモ未納掛金ガ多クナッテ、組
  合ノ發達ハ阻碍サレルト云フ結果ニ相成ル
  ノデアッテ、結局運用ヲ誤レバ、本案ハ極メ
  テ少數ノ人々ノ機關ニシカ過ギナイ、多數
  ノ救フベキ人ヲ救ヒ得ナイト云フコトニ相
  成ルノデアリマスガ、之ニ對シテ當局ハド
  ウ御考ニナッテ居ルカト云フコトヲ御聽キ致
  シタイノデアリマス、私共ノ考ヨリ致シマ
  スレバ、寧ロ英國、獨逸ニ行ハレル如ク、
  强制加入ノ制度ヲ設ケテ、國民齊シク健康
  保險組合ニ加入ヲシ、以テ國民一般ノ健康
  ノ增進ニ資スベキダト、斯樣ニ考ヘルノデ
  アリマス、之ニ對スル內務大臣ノ御考ヲ承ッ
  テ置キマス
  次ニ御伺致シタイノハ、本制度ニ於キマ
  シテハ組合ガ個々ノ醫師ト契約スルカ、
  又ハ醫師會ト契約スルカト云フコトニ付キ
  マシテハ、何等規定ガナイノデアリマス、
  此問題ニ付テハ世間贊否兩論アリマシテ、
  醫師會カラシテ私共ノ手許ヘ配付サレタ文
  書ヲ見マスレバ、若シモ醫師個々ト組合ト
  ガ契約スルト云フコトニナレバ「動モスレ
  バ醫療ノ本質ヲ顧ミズシテ、不當ニ醫療費
  ノミノ切下ヲ要求セラルヽ結果、業界ヲ攪
  亂シ、必然的ニ醫療ノ粗惡ヲ來シ、國民保
  健上憂フベキ影響ヲ生ズル惧レアリ」ト斯
  樣ニアリマスシ、又之ニ反シテ全國農村產
  業組合協會ナルモノカラ配付サレタ文書ヲ
  見マスルト「一町村ヲ區域單位トシテ組織
  サレル國民健康保險組合ハ、醫師會ト團體
  契約ヲ强制サレル時ハ、政治的ニモ相當勢
  力ヲ有スル開業醫師團ニ、其生殺與奪ノ權
  ヲ握ラレ、隨テ醫療費ノ引上必然トナリ、
  延イテ保險料ノ增嵩ヲ來シ、結局國民健康保
  險組合ハ開業醫師ノ農民搾取機關トナリ終
  ル虞アリ」斯樣ニアリマシテ、全ク對立相反シタ
  ル考ヲ持ッテ居ルノデアリマスルガ、私共ノ考
  ヘマスノニ、此健康保險組合ト云フモノハ、
  運用宜シキヲ得レバ、將來非常ナル勢ヲ以
  テ國內ニ發展スル將來性ト可能性ノアル施
  設デアリマス、中產階級以下ノ大部分ノ人
  人ノ網羅スベキ又必要ナル施設デモアルノ
  デアリマス、隨テ此組合ノ保險醫タルモノ
  ハ、醫師全體ガ之ニ加入スベキ必要アリト
  斯樣ニ信ズル、若シモ組合ガ個々ノ醫者ヲ
  選リ得ルト云フコトニ相成レバ、組合醫タ
  ラントシテ、ソコニ幾多ノ競爭ガ起ッテ來
  テ、結局ハ惡醫ハ良醫ヲ排斥スルト云フ結
  果ニナッテ優良ニシテ肩書ノアルヤウナ醫
  師ハ、結局組合ニハ居ナクナルト云フ結果
  ヲ持來タス虞ガアルノデアリマス、有名ナ
  醫者、優良ナ醫者ト云フモノハ、金持階級
  ノ所有物トナッテ、不良ナル醫者ノミガ健康
  組合醫トナルト云フ虞ガアルト云フコトハ、
  幾多ノ外國ニ例ガアルノデアッテ、現ニ外國
  ニ於テ隨意ニ契約シ得ルト云フ國ニ於テハ、
  學校卒業シタテノ女醫ノミガ組合ノ保險醫デ
  アルト云フ實例サヘアルノデアリマスルカ
  ラシテ、私ハ醫者全體ヲ總動員シテ、優良
  ナル醫者ヲ逃サナイヤウニスルコトガ、此
  法案ノ目的ヲ達成サセル必要ナ要件デアル
  ト、斯樣ニ考ヘルノデアリマスルガ、之一
  對シテ政府ハ如何ニ御考ナサレルノデアリ
  マスルカ、之ヲ御伺致シタイノデアリマス
  更ニ御伺致シタイノハ、本法第九條ニ依ッ
  テ作ラルベキ筈ノ醫療利用組合ノ問題デア
  リマス、是ハ只今內務大臣ノ御答辯ノ如ク、
  產業組合ニ當嵌ルノデアリマスルガ、元來
  日本ノ產業組合ハ、明治三十三年制定ノ法
  律ニ依ッテ作ラレテ居ルノデアッテ、當時澎
  湃トシテ襲ヒ來ッタ資本主義ノ波ニ中小產
  者ガ埋沒セラレントスルノニ對シテ、都會
  ノ中小商工業者、農村ノ自作小作農者ガ、
  相倚リ相扶ケテ經濟的ノ力ヲ得テ、資本主
  義ニ對抗スルト云フ意味ニ於テ、產業組合
  ガ出來タノデアリマス、其後資本主義ノ力
  ガ伸ビルニ從ッテ
  〔議長退席、副議長著席〕
  一地方ノ產業組合ノミデハ、之ニ對抗スル
  力足ラズトシテ縣購聯、縣販聯、更ニ進ン
  デハ全購聯、全販聯、中央金庫等ノ組織ニ
  マデ及ンダノデアリマシテ、現在ノ產業組
  合中ニハ、甚シク不良デアッテ失敗ニ終ッテ
  居ルモノモアリマスルガ、併ナガラ趨勢ハ
  益〓盛ニナラウトシツヽアルノデアル、而モ
  今ヤ農村ヲ見マスルト、農村ノ政治、經濟、
  生活ノ中心ガ產業團體ニ移ラウトシテ居ル
  傾向ガアル、地方自治團體ガ殆ド國ノ委任
  事務ニ忙殺サレテ、僅ニ小學校々舍ノ新築、
  維持、管理程度以上ノ仕事ハナイノデアル、
  地方行政機構改革ノ根本ハ、如何ニシテ現
  在ノ地方自治制度ノ機能ヲ發揮セシムルカ
  ト云フコトニアルト私ハ信ズルノデアリマ
  スガ、斯樣ナ見地カラ申上ゲテ、內務大臣
  ハ適當ニ法令ヲ改正シテ、產業組合其他ノ
  產業團體ヲ地方自治團體ノ統制下ニ置ク御
  考ガアルカナイカ、先ヅ之ヲ御伺致シタイ
  ノデアリマス、產業組合ノ指導管理ハ今日
  農林大臣ノ所管ニ屬シテ居リマスガ、過般
  ノ豫算總會ニ於テ農林大臣ハ、今後大藏大
  臣ニモ其一部ノ監督權ヲ分ケル積リダト
  斯樣ナ御答辯ガアリマシタ、併ナガラ大藏
  大臣ノ管掌スル所ハ、僅ニ中央金庫ニ關ス
  ル金融關係ニ過ギナイノデアッテ、寧ロ今日
  ノ產業組合ト云フモノハ、農林大臣ヨリモ
  全面的ニ內務大臣ノ監督ヲ必要トスル事態
  ニ立至ッテ居ルノデアリマス、何故ニ內務大
  臣ハ產業組合ニ對シテ積極的ニ監督スル御
  考ヲ持タナイノカドウカ、之ヲ御伺致シタ
  イノデアリマス
  更ニ御伺致シタイノハ、內務省ノ御發表
  ニ依リマスト、假令第九條ノ規定ガアッタト
  シテモ、醫療利用組合ト云フモノハ、サウ
  餘計出來ルモノデハナイ、醫療利用組合ニ
  事業ノ代行ヲ認メル場合ニハ町村民ノ殆
  ド全部ヲ包含シタ組合デアッテ、而モ其基礎
  ガ鞏固デ圓滑ニ經營サレテ居ルモノニ限ル、
  斯樣ニ仰セニナッテ居ルノデアリマスガ、現在
  アル二百近クノ醫療利用組合ノ中、果シテ此
  意見ニ當嵌マル組合ガ幾ツアルノカ、極メテ
  少數ナリト私ハ信ズルノデアリマス、然ルニモ
  拘ラズ內務省ハ更ニ醫療利用組合ガアル上
  ニ、其同ジ町村ニ國民健康保險組合ヲ設置
  スルト云フコトハ、組合ノ範圍モ構成員モ
  全ク重複シタ組合ガ二重ニ設立セラレルコ
  トニナルノデ、此場合ニハ同ジ町村內ニ重
  複シタ組合ヲ設立スルコトヲ避ケテ、醫療
  利用組合ニ事業ノ代行ヲ認メル必要ガアル
  ト、斯樣ニ仰セニナッテ居リマスケレドモ、
  僅カ少數ノ組合ノ爲ニ、態、第第條ヲ設ケテ
  本案ヲ紛訌ノ渦中ニ投ズルヨリモ、第九條ヲ
  削除サレテ、從來アル所ノ醫療利用組合ヲ、
  新シク出來ル所ノ國民健康保險組合ニ變更
  セシメタラ如何デアルカ、此點ニ付テ內務
  大臣ノ明確ナル御考ヲ承リタイト思フノデ
  アリマス、世上傳フル所ニ依レバ產業組
  合ハ此第九條ヲ武器トシテ、將來產業組合
  ノ發達ヲ圖ルノダトサヘ言ハレテ居ルノデ
  アリマシテ、斯樣ナ疑惑ヲ避ケル上カラ言ッ
  テモ、第九條ノ如キハ速ニ削除スベキモノ
  ナリ、斯樣ニ考ヘルノデアリマスガ、此點
  ニ對スル內務大臣ノ御考ヲ承ッテ置キマス
  (拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=16

  ---

• 017・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今川島サン
  カラノ御尋ニ對シマシテ、段々ト御答ヲ申
  上ゲタイト思ヒマス、第一ハ、國民健康保
  險組合ハ醫療費ノ輕減ガ目的デアルノカ、
  何ガ目的デアルノカ、斯ウ云フ御尋デアリ
  マシタ、是ハ私ガ事新シク言フ迄モナク、
  結局所謂從來醫者ニ掛ルコトガ非常ニ困難デ
  アッタカ、又ハ出來ナカッタ氣ノ毒ナ人々
  ヲシテ醫療ノ機會ヲ得セシムル、斯ウ云フ
  コトガ一番ノ本旨ト思フノデアリマス、私
  ガ申上ゲル迄モナク、一番人生ニ於テ悲慘
  ナ思ヲスルノハ何デアルカト云フト、病氣
  ニナッタ場合デアリマシテ、其時ヲ考ヘルト
  云フト、實ニ暗澹タル心持ニナルト思フノ
  デアリマス、幸ニシテ其際ニ十分ニ醫者ニ
  掛レル人デアリマシタナラバ心配ハアリマ
  セヌガ、實際其時ニナッテ醫者ニ對スル藥
  代モ拂ヘナイ、或ハ診察モ受ケラレヌト云
  フヤウナコトヲ考へタ場合ニハ、實ニ人生
  ト云フモノハ悲慘極リナイモノト思フノデ
  アリマス、サウ云フ場合ニソレノ〓平素カ
  ラ少シヅヽノ積立ヲシテ、如何ナル場合ニ
  若シ病氣ニナリマシテモ、ソレ〓〓適當ナ
  醫者ニ掛レルト云フコトデアリマスナラバ
  是ハ實ニ人生ニ於テ光明ヲ見得ルヤウナ生
  活ガ出來ル、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマ
  シテ、先ヅ第一ニヤハリ醫者ニ掛レル機會
  ヲ多クサセル醫者ニ對スル診療ノ機會ヲ
  成ベク與ヘシムルヤウナ制度ヲ國家ガ考ヘ
  ルコトガ、一番ノ骨子ト思フノデアリマス、
  更ニ徹底致シマスレバ、所謂醫藥國營マデ
  進ンデ、國家ガ總テ病人ノ診療ヲシテヤル
  ト云フコトニナレバ、是ハ一番理想カモ知
  レマセヌガ、是ハ中々國家トシテ其費用ニ
  堪ヘヌコトト、今一ツハ餘リ國ガ仕事ヲヤル
  ト云フコトガ、各人ノ自營獨立ト云フコト
  ヲ阻碍スルカラ、ヤハリ保險制度ガ最モ適
  當ノヤウニ思フノデアリマス、隨テ唯醫藥
  費ノ輕減、醫療費ノ輕減ト云フコトバカリ
  ヲ考ヘマスレバ、自然ト療治診療ノ低下ヲ
  來スノデアリマスカラ、唯徒ニ醫療費ノ輕
  減ト云フコトバカリヲ目的ニスル譯ニモ行
  カナイ、根本ノ趣旨ハ、先程モ申上ゲマシ
  タヤウニ、出來ルダケ如何ナル人デモ、病
  氣ニナッタ場合ニ診療ノ機會ヲ得セシムル
  ト云フコトガ、此聖代ニ於テ最モ必要デア
  ラウ、斯ウ云フ趣旨カラ來テ居ルノデアリ
  ママ、尙ホ醫療費ノ輕減モヤハリ行ハレル
  ノデアリマシテ、所謂無理ナコトヲ醫者ト
  御相談セヌデモ、一方ニ於キマシテ國庫カ
  ラソレ〓〓若干ヅヽノ補助ヲ致スノデアリ
  マスカラ、其點ニ於キマシテ各個人ノ負擔
  ハ輕減セラレルト思フノデアリマス、而モ
  尙ホ保險ノ方法ニ依リマスルト、一時ニ藥
  代或ハ診察料ヲ拂ハヌデモ、每月若干ヅツ
  納メテ居ッテ、病氣ノ時ニハ强ヒテ其金ヲ出
  サヌデモ濟ムノデアリマスカラ、餘程氣ガ
  樂ニ生活ガ出來ルノデアリマス
  第二ニソレニ關聯シマシテ、健康保險組
  合ニ加入スル者ハ自然弱イ者バカリ入ルカ
  ラシテ、總テ醫療費等ガ嵩ムデハナイカ、
  斯ウ云フ御尋デアリマシタガ、是ハ法文ニ
  モアリマスヤウニ、大體ニ於テ國民健康保
  險組合ガ發達致シマスレバ、自然ト一町村
  內ノ大抵ノ人ガ入ルヤウニナルヤウニ豫想
  セラレルノデアリマス、殊ニ法文ニ於キマ
  シテモ、三分ノ二以上ノ加入者ガアリマス
  場合ニハ、場合ニ依リマシテ全町村民ノ加
  入ヲ强制スルコトガ出來ルト、斯ウ云フコ
  トニナッテ居ルノデアリマス、尙ホ補助ガ少
  イヂヤナイカト、斯ウ云フ御意見デアリマ
  シタガ、是ハ多ケレバ多イ程結構デアリマ
  セウガ、一面ニ於キマシテ、ヤハリ國家ノ
  財政ノコトモ考ヘナケレバナリマセヌカラ、
  當分先ヅ此程度デ滿足スルヨリ仕方ガナイ
  ト斯樣ニ思フノデアリマス、ソレカラ金
  持ノ階級ハ本組合ニ加入ヲ喜バナイト云フ
  ヤウナコトガアッテ、結局ハ中途半端ナ人バ
  カリヂヤナイカ、斯ウ云フ御意見ノヤウデ
  アリマシタガ、是ハ先程〓水サンカラモ御
  尋ガアリマシテ、私ハ一寸御答漏レヲ致シ
  タノデアリマスガ、實ハ本法制定ノ際ニ社
  會保險ノ調査會等ニ於キマシテモ、所謂國
  民健康保險組合ト云フモノハ、大體ニ於テ
  中產以下ノ人ヲ網羅スルモノデアルカラ、
  裕福ナ人ヲ入レルノハヲカシイヂヤナイカ
  ト云フヤウナ御論議モアッタノデアリマス
  ガ、我國ノ美風ト致シマシテ、或村、或町
  ニ於キマシテ、所謂此一致團結、外國ト違ッ
  タ個人主義デナク、隣保共助ノ思想ガ發達
  シテ居ルノデアリマスルカラ、ヤハリ斯
  ウ云フ風ナ人モ入ルコトハ宜イヂヤナイ
  カ、隨ヒマシテ此診療費ノ負擔ニ於キマシ
  テハ、若干ノ差等ヲ付ケル、斯ウ云フ風ナ
  コトニシテ、ヤハリサウ云フ風ナ樂ナ裕福
  ナ人モ入ル方ガ適當デアラウ、斯ウ云フコ
  トニナッテ、其入ル人ノ加入ノ制限ヲ規定シ
  ナカッタ次第デアリマスガ、是ガ却テ組合ノ
  事務ノ遂行ニ於テ圓滿性ヲ保チ得ル、斯ウ
  云フ風ニ思フノデアリマス
  第三ニ組合ハ個々ノ醫者ト契約スルカ、
  或ハ醫師會ト契約スルカ、之ニ對シテハッ
  キリシタ規定ガナイヂヤナイカ、斯ウ云フ
  御尋ト拜承シマシタガ、仰セニナリマシタ
  ヤウニ、法文ノ上ニ於テ何等ノ規定ヲ設ケ
  テ居ラヌノデアリマス、大體ニ於テ組合ノ
  自治的行動ニ委シテ居ルノデアリマスガ、
  併ナガラ一方ニ於キマシテハ、組合員タル
  者ハ成ベク廣ク種々ナル御醫者ニ掛リ得ル
  機會ヲ與ヘナケレバナラヌノデアリマスカ
  ラ、例ヘバ組合員ノ中ニハ、或ハ外科ノ病
  人モアリマセウシ、或ハ胃腸病ノ病人モア
  リマセウ、尙ホ呼吸器ノ病人モアルト云フ
  譯デアリマシテ、是ガ設備ガ完全シテ居ル
  場合ニ於テハ兎モ角デアリマスガ、然ラザ
  ル場合ニ於テ、唯診療ニ於テ、醫者一人ト
  云フヨリモ、成ベク診療ノ各種ノ廣イ範圍
  ニ於ケル御醫者ノ診療ヲ受ケシムルコトガ
  適當ト考ヘマスノデ、サウ云フ風ニ致サセ
  ル積リデアリマスカラ、實際ニ於テハ多ク
  ハ廣イ醫者ノ團體ト話合ヒヲ付ケルト云フ
  コトガ多クナリハセヌカト思フノデアリマ
  ス、是ハ今日ノ我國ノ實情ニ於キマシテ、
  是等ヲ法文デ强制セズ、適當ナ措置ニ委ス
  ト云フコトガ、最モ時宜ヲ得テ居ルヤウニ
  思フノデアリマス、現在工場鑛山等ニ於キ
  マスル勞働者ヲ網羅シテ居リマスル健康保
  險組合ノ制度ニ於キマシテモ、此點ニ付テ
  ハ何等ノ規定ヲ設ケテ居ラヌノデアリマス、
  實際ノ運用ニ委シテ居ル次第デアリマス、
  是ハ私ガ申ス迄モナイコトデアリマスルガ、
  世ノ中ノコトハ皆右カ左カ、サウハッキリ決
  メルコトガ出來ナイ、是ハヤハリ世ノ中ノ
  實情デアリマシテ、適當ニ其間ニ處置サレ
  ルコトガ、ヤハリ多クノ人ノ集マル社會ニ
  於テ適當ナコトデアルト思フノデアリマス
  ソレカラ第九條ノ問題デアリマスガ、是
  ハ現在醫療利用組合ニ於キマシテ、是ガ相
  當旨ク行ッテ居ルト云フヤウナモノハ、是ハ
  認メル方ガ實際ニ卽スル、第九條ハ決シテ
  之ニ依ッテ醫療利用組合ヲ奬勵スルト云フ
  意味デハナイノデアリマス、大體ニ於テヤ
  ハリ國民健康保險組合ト云フモノヲ本旨ト
  スルノデアリマス、サリナガラ相當ナ成績
  ヲ擧ゲ、相當旨ク行ッテ居ル組合ニ付キマシ
  テハ、之ヲ認メナイデ、他ニ又更ニ健康保
  險組合ヲ、同ジヤウナ人ヲ以テ作ラシメル
  ト云フ必要モナカラウ、デアリマスルカラ、
  現在醫療利用組合中ニ於キマシテ成績ガ良
  ク、又旨ク行ッテ居ル組合ハ、其代行ヲ認メ
  ルト云フコトガヤハリ適當デハナイカ、其
  數ニ於テハ澤山アリマセヌケレドモ、現在
  サウ云フ實況デアリマスルカラ、ヤハリ之
  ヲ認メテ置ク方ガ實際ニ適合スル、斯ウ云
  フ趣旨カラ來テ居ルノデアリマス
  ソレカラ更ニ地方ノ自治體ニ於キマシテ、
  或ハ產業組合トカ、或ハ其他ノ各種團體
  ガ、自治體ノ仕事ノ大部分ヲ專有シマシテ、
  實際從來ノ地方自治體ノ活動ノ範圍ガ狹ク
  ナッテ居ル、狹メラレテ居ル、是ハ困ルヂ
  ヤナイカト云フ御意見デアリマシタガ、是
  等ニ付キマシテハ御尤ナ點ガ多々アルヤウ
  ニ思ヒマスノデ、將來地方制度調査會等ニ
  於キマシテ、是等ノ點ハ十分〓究スル必要
  アルカト思ヒマス
  產業組合ヲ內務大臣ノ監督下ニ置ク意思
  ガアルカドウカ、斯ウ云フ點デアリマスガ、
  是ハ今日ノ所ハヤハリ農林大臣、若クハ或
  ル部分ニ付テ大藏大臣ト云フヤウナ監督下
  ニ置イテ先ヅ〓〓宜カラウト、斯ウ云フ風
  ニ思フノデアリマス
  ソレカラ第九條ノ醫療利用組合ニシテ、
  第九條ノ法文ニ當嵌マルモノハドノ位アル
  カト云フ御尋デアリマスガ、是ガ正確ナ數
  ハ一寸記憶致シマセヌガ、慥ニ二十以內位
  デアラウト、斯ウ云フ見込デアリマス、更
  ニ第九條ヲ武器トシテ產業組合ノ大發展、
  大活動ヲ圖ル意思ガアルノヂヤナイカ、斯
  ウ云フ御尋デアリマスルガ、私ガ先程モ申
  述ベマシタヤウニ、第九條ハ卽チ第九條デ
  アッテ、現在ノ斯ウ云フモノダケハ認メテ行
  ク、斯ウ云フ趣旨デアリマスカラ、決シテ
  之ヲ手段トシテ醫療利用組合若クハ產業組
  合ノ活動ヲ後援スルト云フ意思デハナイコ
  トヲ玆ニ申上ゲテ置キマス
  〔川島正次郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=17

  ---

• 018・川島正次郎

  ○川島正次郞君　只今ノ御答辯ニ對シマシ
  テ、一二諒解シ得ナイ點ヲ御尋致シテ置キ
  タイノデアリマスルガ、醫療利用組合ガア
  ル上ニ、此法律ニ依ッテ更ニ國民健康保險組
  合ヲ設ケルコトハ二重ニナルカラ、ソレハ
  宜シクナイト云フヤウナ御說明デアリマシ
  タガ、極メテ少數シカ全國ニ散在シテ居ラ
  ヌ醫療利用組合デアリマスルカラシテ、之
  ヲ產業組合ノ手カラ放シテ、新ニ成立サレ
  ル所ノ國民健康保險法ノ規定ニ依ッテ、事業
  ヲ遂行サセルヤウニシタラ如何デアルカト
  云フヤウナコトモ私ハ考ヘテ居ル、私ノ質
  問ハ此處ニアッタノデアリマスルガ、内務大
  臣ノ答辯ハ、私ノ質問トハ違ッタコトヲ御答
  ニナッテ居ルノデアリマス、是ガ出來ルカ出
  來ナイカ、出來ナイナラバ何故ニ出來ナイ
  ノデアルカト云フコトヲ、御尋致シテ置キ
  タイノデアリマス
  モウ一點ハ、團體契約ノ問題デアリマス
  ルケレドモ、個々ノ醫者ト契約ヲスルト云
  フ規定デアッテモ、大體ハ其地方ノ醫師ノ團
  體ト契約スルヤウニナルダラウト、斯樣ナ御
  意見デアリマシタケレドモ、內務省カラ御
  出シニナッテ居ル文書ヲ見テモ、適當ト認メ
  ラレル場合ニ於テハ奬勵ヲスル積リダト、
  斯樣ニアル、御精神ガソコニアルノナラ
  バ、端的ニ之ヲ條文ノ上ニ何故ニ御現ハシ
  ニナラナイノデアルカ、或ハ現在ノ健康保
  險法ノ運用ニ關シテ、政府ト日本醫師會ト
  ノ間ニ若干ノ紛糾ガアッテ、政府トシテハ醫
  師會ニ手古摺ッテ、ソコデ今度ハ醫師會ニ權
  限ヲ與ヘナイ爲ニ、時ニハ醫師會ヲ抑ヘ付
  ケルコトガ出來ルヤウニ、此法案ヲ作ッタノ
  ダト、斯樣ニ御考ニナルノデアルカドウカ、
  此二點ヲ更ニ御伺シテ置キマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=18

  ---

• 019・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　第九條ノ點ハ
  先程私ガ申述ベマシタヤウニ、現在相當ナ
  成績ヲ擧ゲテ居ルモノナラバ、之ヲヤハリ
  認メテ宜イデハナイカ、殊ニ國民健康保險
  組合ヲ作リマス場合ニ於キマシテモ、ヤハ
  リ從來ノ醫療利用組合ノ組合員ト云フ者ガ
  其本體ヲ成シマシテ、醫療利用組合以外ニ
  於テ、又同ジヤウナ人カラ成立ッテ居ル
  國民健康保險組合ト云フモノヲ作ラナケレ
  バナライト云フコトニナルノデアリマスカ
  ラ、斯ウ云フ成績ノ良ク、業績ノ擧ッテ居ル
  モノハマア〓〓サウ云フ二重ノ手數ヲヤ
  セラヌデモ差支ナイデハナイカ、斯ウ云フ
  コトニ外ナラヌノデアリマス
  第二ノ醫師會トノ團體契約ノ問題デアリ
  マスガ、是ハ先程申シマシタコトガ、多少
  或ハ言葉ノ足リヌ爲ニ、或ハ御了解下サリ
  兼ネタ所ガアラウカト思ヒマスガ、私ハ斯
  ウ申上ゲタノデアリマス、組合ガ醫師トノ
  契約ヲ爲ス場合ニ於テハ、是ハ法デ以テ强
  制ヲセズ、組合ノ自治ニ任セル、法ノ上デ
  ハ······卽チ個人ト契約ヲシヨウガ、或ハ團
  體ト契約ヲシヨウガ、法文ノ上ニハ自由ニ
  ナッテ居ル、而モ個人トノ契約ヲサセテー
  サセル趣旨デアルガ、實際ニ於テハ團體ト
  ノ契約ヲ成ベク認メルト云フ趣旨、決シテ
  斯ウ云フ意味デハナイノデアリマシテ、法
  文ノ上ニ於テハ自由デアルガ、併シ實際ニ
  於テハ、私ガ先程申上ゲマシタヤウニ、又
  社會局カラ御說明致シマシタヤウニ、組合
  員ヲシテ廣イ範圍ノ醫師ニ掛ラセルコトガ
  適當デアリマスカラ、成ベク廣イ範圍ノ醫
  師トノ契約ヲ奬勵スルヤウニナラウト思ヒ
  マス、是ハ社會局カラ申上ゲマシタコトト
  全ク同樣デアリマス、然ラバ醫師ノ團體ト
  公然契約ヲシタナラバ宜イデハナイカ、斯
  ウ云フ御意見デアリマスガ、是ハ私共トシ
  テハ大體ニ於テヤハリ組合トシテノ法文上
  ノ自治ト云フコトハ認メテ置クコトガ必要
  デアラウ、若シ是ガ絕對ニ醫師ノ團體トノ
  團體契約ヲシナケレバナラヌト云フコトニ
  ナリマスト、非常ニ窮屈ニナッテ、却テ其運
  行上ニ適當デナイ、或ハ場合ニ依ルト何等
  カ故障ヲ生ズルト云フヤウナコトモアラ
  ウト思ヒマスルノデ、現ニ更ニ此國民健康
  保險組合ヨリカモット大キナ〓體デアリマ
  ス所ノ所謂工場、鑛山ノ勞働者ヲ網羅シテ
  居リマスル健康保險ノ事業ニ於キマシテ
  モ決シテ團體契約ヲ法定シテ居ラナイノ
  デアリマス、ヤハリ今囘制定致サレマスル
  國民健康保險組合ニ於テモ、團體契約ヲ法
  定シナイト云フ方ガ適當ト考ヘル次第デア
  リマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=19

  ---

• 020・川島正次郎

  ○川島正次郞君　簡單デアリマスカラ此處
  デ御許ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=20

  ---

• 021・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　許シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=21

  ---

• 022・川島正次郎

  ○川島正次郞君　醫療利用組合ヲ產業組合
  ノ手カラ離レテ、此法律ニ依ッテ國民健康保
  險組合ニスルト云フコトハ、何故出來ナイノ
  デアリマスカ、ソレヲ簡單ニ御答辯願ヒマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=22

  ---

• 023・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　或ハ度々繰返
  スヤウデ御耳觸リカトハ存ジマスルガ、結
  局一方ニ於キマシテ醫療利用組合トシテ出
  來テ居リマスルモノハ、恐ラク相當廣イ範
  圍ノ村トカ町トカノ全員ヲ網羅シテ居ルモ
  ノガ、成績ヲ良ク擧ゲテ居ルト思フノデア
  リマス、ソレガ又國民健康保險組合ヲ作リ
  マスト、其内容ノ人ハ皆同ジデ、從來醫療
  利用組合ノ組合員デアル人ガ、又國民健康
  保險組合ノ組合員ニナル、斯ウ云フ風ナコ
  トニナルノデアリマス、而モ其內容ハ違ヒ
  マシテ、醫療利用組合ノ方ハ病氣ニナリマ
  シタ時、其時ニ金ヲ出シテ診テ貰フト云フ
  譯デアリマスガ、國民健康保險組合ノ方
  ハ平素カラ積立ッテ居ッテ病氣ニナリマ
  シタ時ニ特別ニ金ヲ出スト云フ仕組デナイ
  ノデアリマスカラ、更ニ二通リナモノヲ作
  ルト云フコトハ、是ハ實際ノ運行上不便デ
  アル、其二重ノ手間ヲヤラセル必要ハナイ
  デハナイカ、唯第九條ト云フモノハ、決シ
  テ醫療利用組合ヲ奬勵スルト云フ趣旨デハ
  ナイノデアリマシテ、現在出來テ居ルモノ
  ノ中、而モ良イモノハヤハリ認メテヤッタラ
  宜イデハナイカ、斯ウ云フ次第ニ外ナラヌ
  ノデアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=23

  ---

• 024・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　靑木亮貫君
  〔靑木亮貫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=24

  ---

• 025・青木亮貫

  ○靑木亮貫君　只今上程ニナリマシタ國民
  健康保險法案、保健所法案、尙ホ結核豫防
  法改正案、此三案ヲ一括シテ私モ御質問ヲ
  申上ゲタイト存ジマス
  元來國民健康保險法ナルモノハ、洵ニ時
  代ニ適シタ社會立法ノ一ツト致シマシテ、
  私共現在ノ國民ノ體位降下ノ狀態ヲ見ルト、
  一段ト其必要ヲ感ズルノデアリマス、殊ニ
  近來徵兵檢査ニ於ケル我ガ國民ノ體位ノ降
  下シタ今日、健康保險法ヲ制定サレテ、今
  日茲ニ上程サレマシタルコトハ、洵ニ私共
  意ヲ得タルコトト存ジマス、我國國民ノ健
  康狀態ガ、產業ナリ或ハ經濟方面ニ及ボス
  力ノ多大ナルハ、今更議論ヲ俟チマセヌ、
  考ヘテ見マスルニ、世界各國ニ於キマシテ
  ハ、何レモ此保險法ガ制定サレマシテ、或
  ハ獨逸、佛蘭西、亞米利加、英吉利、伊太
  利等、何レモ著々トシテ其效果ヲ示シテ居
  リマス、而シテ日本ガ今ヤ此保險法ヲ制定
  サレマスルコトハ、遲キノ憾ミコソアリマス
  ルガ、洵ニ遲クトモ出ナイヨリハマシダト
  存ジマス、併ナガラ我國ニハ往々外國ノ模
  做ヲヤル癖ガアリマス、故ニ此制度ノ如キ
  日本獨特ノ考ニ於キマシテ、最モ日本ノ美
  風良俗ヲ觀念トシ、十分ノ〓究ヲ要シテ提
  案サルル場合ニハ議論ハアリマセヌガ、一
  朝斯樣ナ問題ニ誤リガアリマスルトスルナ
  ラバ、五万ノ開業醫、三百万ノ賣藥業者、
  乃至現在五千万ノ患者ト稱セラレテ居リマ
  スルガ、是等死活ニ關スル重大ナル問題ト
  相成ルノデアリマス、諸君、私ハ斯樣ナ見
  地カラ、此問題ガ如何ニ重要ナル問題デア
  ルカト云フコトヲ泌々ト考ヘズニハ居ラレ
  マセヌ、然ルニ今囘御出シニナリマシタ法
  案ノ內容ヲ窺ヒマスルニ、先ヅ第一當局ニ
  私ノ御尋シタイコトハ、何ガ故ニ斯樣ナ問
  題ヲ御出シニナル以前ニ、我國ノ醫療ノ中
  心機關デアルベキ醫師會ニ其內容ヲ提示セ
  ズ、藥劑師團ニ其內容ヲ提示セズ、乃至我
  國ノ有ユル權威者ヲ網羅シタル中央衞生會
  ニスラ諮詢セズシテ、玆ニ案ヲ編成サレタ
  ト云フコトガ、先ヅ第一私共ハ其出發點ニ
  誤リアルコトヲ感ゼズニハ居ラレマセヌ(拍
  手)而シテ其內容ヲ檢討致シマスルト、現在
  我國ノ健康保險ナルモノハ、醫療ヲ措イテ
  全ク其骨子ハアリマセヌ、醫療コソ健康保
  險ノ骨子デナケレバナリマセヌ(拍手)然ル
  ニ其醫療ヲ掌ル開業醫ヲシテ、愈〓摩擦多
  カラシムルノ感ガアルノデアリマスソレ
  ハ卽チ本案ノ第九條ニ於テハ、營利ヲ目的
  トセザル團體トシ言ヘバ、恐ラクハ產組ヲ
  意味スルモノデアラウト存ジマスルガ、現
  在產業組合ニ此醫療機關ヲ代行セシムルト
  云フコトガ根本的ニ誤リデアルト存ジマス
  (拍手)ソレハ現在我國ノ醫療ハ、決シテ產
  組ガ今日ヤリツヽアルヤウナ診療機關ニ於
  テ、被保險者モ醫師モ總テ圓滿ニ仕事ガ遂
  行サレル筈ハアリマセヌ、現在產組ニ於テ
  實施シテ居リマスル診療機關ノ內容ヲ檢討
  致シマスルト、驚クベキ間違ガ澤山出來テ
  居ルト存ジマス、恐ラクハ當局ニ於テハ其
  內容ヲ十分御存ジアルマイト思フガ、產組ノ
  診療機關ニ醫師ヲ招聘致シマスルガ、其醫師
  ガ一年トシテ續イテ診療所ニ勤務シテ居ル
  者ハナイノガ事實デアリマス、ソレハ何ガ故
  ニ斯ノ如ク醫者ガ產組ノ診療所ニ職ヲ盡ス
  コトガ出來ナイノカト申シマスルト、例へ
  バ先ヅ最初三百圓ノ俸給ヲ以テ醫師ヲ招聘
  スル、然ルニ愈〓入所致シマスルト其三百
  圓ノ俸給カラ百圓ハ組合ヘ寄附ヲシロト强
  要サレル、而シテ其診療所ハ經營ガ甚ダ貧
  弱デアリマスル結果、其醫師ハ思フヤウナ
  醫藥ヲ投ズルコトモ出來ズ、思フヤウナ治療
  モ施スコトガ出來ナイ、其結果ハ開業醫ニ
  ハ疎マレ、思フ通リノ仕事ハ出來ナイト云
  フ意味デ、一年ト醫者ハ其場所ニ續カナイ
  ノデアリマス、是ガ事實デス、或ハ最前一
  例ヲ引カレマシタガ、順正會ノ如キハ洵ニ模
  範的ダナドト當局ハ推奬サレテ居リマスル
  ガ、是トテ赤字ニ重ヌルニ赤字、其經營難ノ
  結果ハ診療ノ上ニ大ナル影響ヲ及ボシマシ
  テ、殆ド醫師ハ思フ通リノ仕事ガ出來得テ
  居リマセヌ、是ハ事實デアリマス尙ホ斯
  樣ナ診療機關ヲ產業組合ニ代行セシメルナ
  ドト云フコトハ、如何ニモ官僚獨善ノ片鱗
  ガ現レテ居ルト存ジマス、ドウシテモ
  此診療機關ト產業組合ノ診療機關トハ、全
  然分ケ隔テヽシマハナケレバ、到底醫事ヲ
  完全ニ行フコトハ出來マセヌ、而シテ我ガ
  診療機關ノ上ニ、或ハ醫者ガ暴利ヲ取ル云
  云ノ聲モ聞クノデアリマスルガ、豈圖ラン
  ヤ、開業醫師ガ暴利ヲ取ルノデハナクテ、
  暴利ニアラザル事情ヲモ暴利ト看做スコト
  程左樣ニ日進月步ノ醫術ハ高ク付クノデア
  リマス(拍手)併シ其高キ治療費ヲモ下級ノ
  〓貧者ニ施サントスルニ付テ、此國民保險法
  ガ制定サレルコトト致シマスレバ、產業組
  合ノ診療機關ハ、今ヤ赤字ニ重ヌルニ赤字、
  氣息奄々タル狀態デアリマス、左樣ニ氣息
  奄々タル診療機關デドウシテ、此日新醫學
  ヲ思フ存分ニ治療ノ上ニ行フコトガ出來マ
  セウカ(拍手)是ハ餘程御考ヲ願ハナケレバ
  ナラヌコトダト存ジマス、尙ホ若シ夫レ產
  組ニ斯樣ニ總テヲ委託サルヽト相成リマス
  ルト、恐ラクハ我國三百万ノ賣藥業者モ茲
  ニ大ナル脅威ヲ感ズルコトガアリマス、先
  般來產組ニ於テ賣藥ノ强制配置ト云フノヲ
  ヤッテ居リマス、恐ラクハ將來診療機關ヲ產
  組ニ代行セシムルコトト相成リマスレバ
  組合自體ノ事業トシテ、恐ラクハ又モヤ賣
  藥ノ强制配置ヲモヤルダラウト存ジマス、
  斯樣ナコトデ賣藥ノ强制配置ヲヤルヤウナ
  コトガアリマスレバ、サナキダニ今日旣ニ我
  國ノ三百年來ノ傳統ヲ續ケテ居リマスル賣
  藥配置業者ハ、現在產組ノ賣藥配置ノ爲ニ
  殆ド其生活資料ヲ奪ハレントシテ居ル今日、
  尙ホ此診療機關ヲ代行サレタト云フコトニ
  カコツケテ、賣藥ノ配給ナンカヲヤリマス
  ルニ至ッテハ、茲ニ三百万ノ賣藥配置業者ハ
  全ク飢ニ臨ム以外ニハナイノデアリマス、
  是モ社會立法ノ根柢ニ於テ大イニ頭ヲ費サ
  ネバナラヌコトデアッタト存ジマス
  而シテ此內容ニ於テ先程川島サンカラモ
  御尋デアリマシタガ、團體契約デアルカ、
  醫師ノ個人契約デアルカガ明記サレテナ
  イ、之ヲ何ガ故ニ法文ニ表ハスコトガ出來
  ヌノデアル、個人契約ト團體契約ト何レガ
  是ナルカ、是ハ三歲ノ童子デモ私ハ言ヘル
  コトト思フ、例ヘバ斯ウ云フ保險組合ノ如
  キハ、被保險者ガ骨子デ、被保險者ガ目的
  デナケレバナリマセヌ、然レバ其被保險者
  ガ思フ通リノ醫者ニ診テ貰ヘルト云フコト
  程結構ナコトハナイト存ジマス(「ヒヤ〓〓」
  拍手)若シモ或ル個人ニ契約ヲ致シマスル
  ト、其契約サレタ醫者ガ、玆ニ外科專門ノ
  醫者デアッタト致シマスルト、內科ノ患者、
  婦人科ノ患者ハドウスルノデアリマセウ、
  若シモ團體契約デアリマスルナラバ、無論
  私ノ申ス團體トハ、必シモ日本醫師會ヲ指
  シタ團體トハ申シマセヌ、或ハ縣醫師會、
  乃至ハ郡市醫師會デ宜イ、左樣ナ團體ノ契
  約デアリマスレバ團體員ニアラザル開業
  醫ハナイノデアリマスカラ、被保險者ハ己
  ノ欲スル好ム醫者ニ診テ貰フコトガ出來ル
  ノデアリマス、斯樣ナ意味カラ申シマシテ
  モ、團體契約ト個人契約ト何レガ良イカ、
  何レガ惡イカト云フヤウナコトハ、火ヲ睹
  ルヨリモ明ナ所デアリマス(拍手)左樣ニ考
  ヘマスルト、今囘ノ此國民健康保險法ハ、
  根本的ニ出發點ヲ誤ッテ居リマス、而シテ其
  內容ニ於テ實ニ杜撰極マルモノガアリマス、
  故ニ斯樣ナ杜撰ナ健康保險法ハ寧ロ御撤囘
  ニナル御意思ガナイカ、撤囘スルノ御意思
  ナキトセバ、第九條ヲ削除スルノ御意思ガ
  ナイカ、尙又此儘ト云フノデアレバ何ガ
  故ニ〓體契約ト個人契約ト何レカ是非ヲ御
  決メニナッテ、之ヲ法文化スルノ御勇氣ガナ
  イカ、以上ヲ健康保險ノ問題デ御尋ヲシタ
  イト存ジマス、其詳細ニ至リマシテハ委員
  會等ノ席デ又御尋ヲ致シマスルガ、大體ニ
  於テ斯樣ナ御尋ニ向ッテ明快ナル御答ヲ願
  ヒタイト存ジマス
  ソレカラ保健所法案ガ出テ居リマスガ、
  保健所法案ハ內務大臣ノ御說明ニ依リマス
  ルト、全ク國民ノ衞生知識向上、體位向上
  ノ爲ニ設ケラレタ、國民的相談所トデモ申
  スヤウナ御說明デアリマシタガ、果シテ左
  樣ナモノデアリマスカ、今一應內容ヲ詳シ
  ク御說明ガ願ヒタイ
  最後ニ結核豫防法改正法律案、之ニ私ハ
  又意見ヲ持チマス、内務大臣ハ結核豫防法
  ノ改正法律案ト言ヘバ、御素人ダカラ結核
  トサヘ言ヘバ直グサマ一定ノ場斯ニ收容
  ノ出來ルモノダナゾト簡單ニ御考デアラウ
  ガ、中々結核ト云フモノハサウ簡單ニハ調
  ベラレヌ、元來結核患者ヲ一定ノ場所ニ收
  容隔離シヨウナント云フコトハ、實ニ途方
  モナイ御考ダト思フ、ソレハ現在日本ノ結
  核患者ノ療養所ノ收容力ガドレダケアリマ
  スカ、現在ノ實際ノ結核患者ガドレダケア
  リマスカ、第一健康保險ノ法案ヲ御拵ヘニ
  ナルニ付テモ、結核ノ豫防法ノ改正案ヲ御
  立テニナルニ付テモ、第一番ニ我國ニ於ケ
  ル病勢調査ヲナゼ御行ヒニナラヌカ、病勢
  調査ト云フモノヲ十分ニオヤリニナッテ、而
  シテ其罹病率ガドレダケデアルカ、內結核
  患者ガドレダケデアルカ、他ノ患者ガドレ
  ダケデアルカ、病勢調査ト云フモノヲオヤ
  リニナッテ、ソレヲ調査ノ結果得タル成案ニ
  依ッテ、初メテ健康保險モ組立テラレヽバ
  結核ノ豫防ノ改正案モ組立テラレル譯デ
  アッテ、唯漫然ト結核ノ豫防改正案ヲ御出
  シニナッテ、ドウ云フ御考デアルカ、結核患
  者ト云フモノガ傳播スル爲ニト云フノデア
  レバ結核患者ナリトテ傳播シナイノモア
  リ、傳染スルノモアリマスダカラ「レン
  トゲン」デヤッテ見テ、少シ此處ニ陰翳ガ
  アッタトカ言ッテ、直グ結核療養所ニ收容ス
  ルコトハ出來マセヌ、尙又結核ヲ一々醫者
  ガ屆出ルト相成リマスレバ、患者ハ隨テ醫
  者ヲ忌避スル、恐ラクハ左樣ナコトニナル
  ト、慢性ノ病氣デアリマスルカラ、サナキ
  ダニ迷ヒ多キ我ガ國民、迷信多キ我ガ國民
  ハ色々ナ迷信ノ爲ニ兎ヤ角ト恐シキ病毒
  ヲ傳播セシムル虞ガアリマス、是等ニ向ッテ
  如何ナル御考デアルカ、是モ承ッテ置キタイ
  尙ホ最後ニ國民健康保險法ニ付テ、恐ラク
  ハ內務大臣ノ十分ノ御考通リガ此法案ニ表
  示サレテ居ルカ、乃至社會局ノ當局ノ意思通リ
  ノ立法デアッタカ、私ハ一抹ノ疑ヲ持ツノデ
  アリマス、ソレハ社會局ノ當局ガ公開ノ席
  デ斯樣ニ言ッテ居ラレル、斯ウ云フ色々ナ施
  設ノ從來ノヤリ方ヲ見マスト云フト、醫療
  組織ト云フ點ニ於テ極メテ排他的デアルノ
  デアリマシテ、一般開業醫ト云フモノニ對
  抗シテヤッテ行カウトシテ居ルヤウニ見エ
  ル、隨テ若シ斯ウ云フ施設ニ依ッテ、國民一
  般ノ醫療問題ヲ解決スルト云フコトニナル
  ト、其醫療問題ヲ解決スルト同時ニ、今度
  ハ開業醫ノ生活問題ガ起ッテ來ルノデアリ
  マス、私共ハ何トシテモ一般國民ノ醫療問
  題ヲ解決スルニ付テハ、開業醫制度ト云フ
  モノト十分調和スルモノデナケレバナラヌ
  ト考ヘマス、開業醫ヲ斥ケ開業醫ノ感ジヲ
  害スルヤウナ制度デハ、實際國民ノ醫療問
  題ヲ解決スル譯ニハ參リマセヌ、大體斯樽
  ニ言ッテ居リマス、是ハ洵ニ實際ヲ言ハレタ
  コトデ、此意向ニ依ッテ編成サレタ健康保
  險法デアルナラバイマ少シク私共ヲ首肯
  セシムル法案デアラネバナラヌト存ジマス
  ルガ、是デ完全デアルト思召サルヽナラバ、
  其意味ヲ責任ヲ持ッテ御說明ガ願ヒタイト
  存ジマス、以上ヲ以テ私ノ質問ト致シマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=25

  ---

• 026・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　靑木サンノ第
  一點ノ御尋ハ、本法制定ニ當ッテ醫師會ト
  カ、或ハ齒科醫師會等ニ諮問シナイト云フ
  コトハ不都合ヂヤナイカ、斯ウ云フ御意見
  デアリマシタガ、是ハ本法制定ニ當リマシ
  テハ、社會保險調査會ト云フ內務省ニ種々
  ナル權威ヲ網羅シタ委員會ガアリマシテ、
  之ニ諮問致シタノデアリマス、而シテ其委
  員會ノ中ニハ、日本醫師會長ノ北島博士、
  日本齒科醫師會長、日本藥劑師會長等ヲ網
  羅シテ居ルノデアリマス、其外社會問題ノ
  權威者其他ヲ網羅シタ、我國ニ於キマスル
  此問題ニ關スル權威ヲ悉ク網羅シテ居ルノ
  デアリマス、而シテ此中ニ先程申シマシタ
  ヤウニ、日本醫師會長、日本齒科醫師會長
  竝ニ藥劑師會長ヲ網羅シテアルノデアリマ
  スカラ、原案ノ趣旨竝ニ此法律ノ成立ノ經
  過ト云フヤウナモノハ、十分御承知ノコト
  ト諒承シテ宜カラウト、斯ウ云フ風ニ思ッテ
  居リマス
  ソレカラ醫療ヲ掌ル開業醫ヲシテ摩擦ヲ
  深カラシムルヤウナコトハイカヌデハナイ
  カ、第九條ノ法文ニ關係シテノ御意見ガアッ
  タノデアリマス、是ハ先程川島サンニ御答
  申上ゲマシタヤウニ、決シテ第九條ノ趣旨
  ハ、醫療利用組合ヲ奬勵スルト云フノデハ
  ナクシテ、度々私ガ申上ゲマシタヤウニ
  現在出來テ居ル若干ノモノハ、此外ニ同ジ
  ヤウナ人、同ジヤウナ組合員ヲ以テ、更ノ
  別個ノ國民健康保險組合ヲ作ラセル必要ハ
  ナイデハナイカ、現在良クヤッテ居レバ、其
  モノヲ國民健康保險組合トシテ代行セシメ
  テ宜シイデハナイカ、斯ウ云フ點ニ過ギナ
  イノデアリマス、隨ヒマシテ現在アル醫療
  利用組合ニシテ、或ハ赤字ニ惱ンデ居ルト
  カ、或ハ其成績ガ宜シクナイト云フヤウナ
  モノニ付キマシテハ、法文ニ規定シテアリ
  マスル所ニ依ッテ地方長官ガ之ヲ認メナイ
  ノデアリマス、其中ノ成績ノ良ク差支イナ
  イモノニ付テノミ認メルノデアリマス、中
  ニハ色々アリマシテ、一例ヲ擧ゲテ見マス
  ルト云フト、埼玉縣ノ越ケ谷ニ於ケル組合
  ノ如キモノハ、中々成績ガ良ク行ッテ居ルコ
  トハ天下周知ノ事實ノヤウデアリマス、卽
  チ越ケ谷ノ町ノ戶數ガ九百五十七戶、人口
  四千五百三十四人ニ對シマシテ、組合員ガ
  六百九十六人、組合ノ關係者デ其醫療ノ利
  益ヲ受ケテ居ル者ガ四千百人、醫者ヲ八人
  程雇傭シ、且ツ齒科醫師三人程ヲ雇傭シテ、
  其成績ガ大變良ク行ッテ居ルヤウニ見受ケ
  ラレルノデアリマス、是ハ唯一例ニ過ギマ
  セヌガ、所謂從來ノ醫療利用組合ノ中デモ、
  成績ノ良ク差支ナイモノハ、ソレヲ認メテ
  ヤッテ宜イノヂヤナイカ、斯ウ云フ意味デア
  リマシテ、現在アル醫療利用組合悉クヲ代行
  機關トシテ認メルト云フ意味デハナク、又更
  ニ將來此醫療利用組合ヲ奬勵スルト云フ意
  味デハナイノデアリマス、何處マデモ健康
  保險組合ト云フモノヲ本旨トシテ進メテ行
  キタイト云フ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス
  ソレカラ賣藥ヲ現在產業組合デ强制配給
  ヲシテ居ルト云フヤウナ御尋デアリタシマガ、
  是ハ自ラ別問題デゴザイマスケレドモ、强制
  配給ト云フコトハナイヤウニ伺ッテ居リマス
  ソレカラ團體契約ノ問題デアリマスガ、
  是亦先程私ガ御答申上ゲマシタヤウニ、大
  體ニ於テ法文ノ上ニ於テハ、先ヅ組合ノ自
  由ト云フコトヲ立前ニスルノガ適當デアル、
  新ニ團體契約ヲシナケレバナラヌト云フヤ
  ウナコトヲ法制化シマスト云フト、自ラソ
  コニ非常ナ窮屈ヲ生ジテ、却テ組合ノ不便
  ヲ來シ、又醫者トシテモ、所謂或ル意味ニ
  於ケル切磋琢磨ト言ヒマスカ、サウ云フコ
  トヲ失フ虞モアリハセヌカ、唯實際ニ於キ
  マシテ、先程私ガ申上ゲマシタヤウニ、各
  地方々々ニ於キマスル開業醫ノ仕事ト云フ
  コトモ、是亦尊重シナケレバナラヌノデア
  リマシテ國民ノ一部トシテ、ヤハリ其方
  ノ仕事ヲ直グ失フヤウナコトニナリマスコ
  トハ、是ハイカヌ事デアリマスバカリデナ
  ク組合員ノ立場カラ申シマシテモ、成ベ
  ク廣ク各種ノ醫者ニ掛リ得ルト云フコトガ
  必要デアリ、適當デアリマスカラ、斯ウ云
  フ風ナ趣旨ヲ省令ニ規定シテ、廣ク診療ヲ
  受ケ得ルヤウニサセタイ、斯ウ云フコトニ
  サセタイノデアリマス、其結果トシテハ御
  承知ノ通リ、現在醫師ト云フモノハ、醫師
  會ト云フ强力ナ團體ヲ作ッテ居ラレルノデ
  アリマスカラ、自然ト醫師會トノ團體契約
  ト云フモノガ多分ニ行ハレルダラウ、斯ウ
  云フ風ニ思フノデアリマス、且又是ガ今日
  ノ我國ノ醫療ノ實況ニ徵シマシテ、適當デ
  アラウト考ヘルノデアリマス、サリナガラ
  之ヲ法定シテ、現在强力ナル醫師會ト云フ
  モノニ、更ニ是ダケノ强制權ヲ與ヘルト云
  フコトハ如何デアルカ、斯ウ云フ風ニ思フ
  ノデアリマス、デ先程來私ガ申上ゲマシタ
  ヤウニ、國民健康保險法ト云フモノハ、所
  謂醫療ノ機會ニ餘リニ惠マレテ居ラヌ階級
  ノ人々ヲシテ、醫療ノ機會均等ヲ得セシメ
  ルト云フ趣旨ニアルノデアリマスカラ、是
  ハ今日ノ制度トシテ最モ必要デアル、斯ウ
  云フ風ニ考ヘマスルノデ、是ハ決シテ撤囘
  スル意思ハゴザイマセヌ
  又第九條ニ付キマシテモ、先程申上ゲマ
  シタヤウナ極ク簡單ナ考デアルノデアリマ
  スルカラ、ソレ程御論議ニナラヌデモ宜イ
  ノヂヤナイカ、斯ウ云フ位ニ思フノデアリ
  マス、又團體契約ニ付キマシテハ、先程私
  ガ申上ゲマシタヤウニ法定致スノハ適當デ
  ナイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ國民健康保險法ハ私モ就任以
  來〓究ヲ遂ゲマシテ、是ガ今日我國ノ實況
  ニ於テ適當デアリ、必要ト考ヘテ居ルノデ
  アリマスカラ、是モ私ノ意思ト、斯ウ云フ
  風ニ御諒承下サッテ差支ナイト思ヒマス、且
  ツ開業醫制度トノ調和、是ハ先程私ガ申上
  ゲマシタヤウニ、現在ノ事實ト云フモノ
  ハ、相當尊重シテ行カナケレバナラヌノデ
  アリマスカラ、此調和ト云フモノニハ行政
  上ノ考へ方、行政上ノ措置トシテモ、出來
  ルダケ摩擦ヲ避ケテ調和ヲ圖ルト云フコト
  ハ、是ハ適當ナコトト考ヘマス
  更ニ國民健康保險法ト離レマシタ保險所
  ノ問題デアリマスガ、是ハ先程御話ニナリ
  マシタヤウニ、地方ノ或ハ十三万乃至二十
  万位ノ人口ノ處ニ一箇所位ノ割合ヲ以テ、
  此施設ヲ設ケマシテ、一般ニ廣ク國民ノ體
  位ノ上昇、或ハ健康ノ相談、或ハ榮養ノ相
  談ト云フコトニ當ラシメル、是ハ廣イ意味
  ニ於テ國氏ノ健康ヲ增進シ、其體位ヲ上進
  セシメルト云フ一ツノ施設デアリマス
  ソレカラ結核豫防ノ問題デアリマスガ、
  是ハ私ガ專門ノ方ニ申上ゲルノハ聊カ烏滸
  ガマシイノデアリマスガ、大體ノ統計ニ於
  テ、我國ガ一番文明諸國ノ中ニ於キマシ
  テ、結核患者ノ最モ多イ甚ダ不名譽ナル狀
  態ニ在ルノデアリマス、大體ノ統計ヲ見マ
  スト云フト、一年ノ死亡者ガ約十三万人、
  一万人ニ付テ十九人ノ患者ガアリ、全國デ
  百三十万人位ノ患者ガアルダラウト云フ見
  込デアリマス、是ハ今日ノ文明國中ニ於
  テ、我國ガ最モ其比率ガ多イノデアリマシ
  テ、是ハ甚ダ不名譽千萬ナコトト言ハナケ
  レバナラヌバカリデナク、國家ノ最モ重大
  ナル關心事デ、最モ痛心ノ事柄デアルト言
  ハナケレバナラヌ、之ヲ何トカシナケレバ
  ナラスト云フコトハ、是ハ國民ノ幸福ノ上
  カラモ或ハ國家ノ發展、或ハ國防ノ上カ
  ラモ、或ハ產業振興ノ上カラモ、重大ナル
  問題ト考ヘルノデアリマス、隨ヒマシテ一
  方ニ於テハ消極的ナ手段トシテハ、成ベク
  結核ノ傳播ヲ防ギ、積極的ノ手段ト致シマ
  シテハ、結核患者ノ療養ニ國家ガ出來ルダ
  ケノ施設ヲシテ、成ベク之ヲ無カラシムル
  ト云フ途ニ向ッテ進ムト云フコトガ、最モ必
  要ナヤウニ思フノデアリマス、其消極的ノ
  方面トシテ、此度結核豫防法ノ改正案ヲ提出
  致シマシテ、一方ニ於テ御醫者サンニ屆出
  ノ義務ヲ負ハシメル、サリナガラ是ハ尊敬
  スベキ醫師ノコトデアリマスカラ、罰則其
  他ヲ以テ强制シナイ、德義的ノ義務ヲ負ハ
  シメル、其他或ハ傳播ノ虞アル者ニ付テハ
  適當ナル規定ヲ設ケル、斯ウ云フコトデア
  リマス、積極的ノ方面ニ於キマシテハ、先
  程私ガ申述ベマシタ保健所モ一ツノ施設デ
  アリマスガ、其他結核患者ノ病床ヲ少クモ
  五六年ノ間ニ三万床ニ殖ス、卽チ國立ノ結
  核病床ヲ設ケマスト共ニ、一方地方府縣市
  町村ノ設備ニ對シテ補助スル、斯ウ云フ風
  ニ結核療養ノ施設ヲ出來ルダケ進メテ行ッ
  テ、サウシテ結核患者ヲ少クシテ、國民全體
  ノ幸福竝ニ產業ノ發達、國力ノ振興ヲ期シ
  タイ、斯ウ云フ風ナ次第デアルノデアリマス
  〔靑木亮貫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=26

  ---

• 027・青木亮貫

  ○靑木亮貫君　今內務大臣ノ御答辯ニ依リ
  マスト、此國民健康保險法案ハ、相當ノ機
  關ニ諮ッテ十分ノ協調ヲシタ上ノ案ノヤウ
  ナ御話デアリマシタガ、豈圖ランヤ、社會
  保險調査委員會ニ於キマシテハ、第九條ノ
  產業組合ヲシテ保險組合ノ診療機關ヲ代行
  セシメルナドト云フコトハ、寸毫モ話ガナ
  カッタト言フ、ソレハ現在我黨カラ出テ居リ
  マス調査委員ガ明言シテ居ラレルノデアリ
  マス、牽强附會ニモ、有ユル會議デ十分ノ
  協調ヲ遂ゲタナドト仰シヤルコトモ、全ク
  其場遁レノ御答ノヤウニ思ハレル、ソレカ
  ラモウ一ツハ、今大臣ノ御言葉ノ中ニ、第
  九條ハソンナニ論議スル程ノコトデモアル
  マイト思フト云フコトデアッタガ、私ハサウ
  云フ信念デオ居デニナルコトガ間違ヒダト
  云フコトヲ申上ゲタイ、(拍手)產業組合ト云
  フモノハ經濟產業ノ機關デアッテ、診療ナン
  カノコトニ仲間入ヲサシテ、オ負ケニ其診
  療機關ノ代行ヲヤラセヨウナント云フコト
  ハ、飛ンデモナイ間違デアルト私ハ思フ、
  ソレガ論議スル程ノコトデモアルマイト云
  フヤウナ御考デアルカラ、大變ナ間違ナン
  デアル、是ガ骨子ナンデアル、ダカラ之ニ
  向ッテアナタガ簡單ニ御取扱ニナルコトヲ、
  私ハ甚ダ遺憾ニ存ズルノデアリマス、保健
  所及ビ結核豫防法ノ問題ニ於テハ、是ハ又
  他日委員會ニ於テ詳細御尋モスル積リデア
  リマス、私ハ農林大臣ガオ居デニナリマセ
  ヌカラ、內務大臣ニ御尋スルノハ方角違ヒ
  カモ知レマセヌガ、元來產業組合ハソレ程
  マデニ診療機關ニ何故立入ル、產業組合ハ
  ザックバランニ申セバ、出シヤバリ過ギテ居
  リハシナイカ、(「ヒヤ〓〓」拍手)產業組合ハ
  經濟產業ノ機關デアッテ、之ニ向ッテハ私共モ
  十分力ヲ副ヘ、ドウゾシテ其發達ヲ期シタイ
  ト思ヒマスルガ、診療機關ノ代行ナドト云フ
  コトハ、是ハ片腹痛イ話ダト思フ、之ニ向ッテ今
  一應誠實ナル御答ガ願ヒタイト存ジマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=27

  ---

• 028・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　社會保險調査
  會ニ付議シマシタノハ此法案ノ全部デア
  リマシテ、唯第九條ニ付キマシテハ、今靑
  木サンノ仰セニナリマシタヤウニ、是ハ其
  全體ノ骨子ニ何等ノ關係ガナイト云フヤウ
  ナコトカラ、後ニ入ッタノデアリマスガ、法
  案全部ハ只今申上ゲマシタヤウナ、各種ノ
  人ヲ網羅スル社會保險調査會ニ於テ愼重審
  議セラレタルモノデアリマス、ソレカラ第二
  ノ第九條ノ問題デアリマスガ、是ハ私ハ度
  度誠實ニ御答致シテ居ルノデアリマシテ、
  決シテ第九條ニ依ッテ產業組合法ニ依ル醫
  療利用組合ノ奬勵ヲスルト云フ意味デハナ
  イ、唯現在出來テ居ル醫療組合ノ中ニ於テ、
  良イノハ更ニ改組サシテ、國民健康保險組
  合ト云フヤウナモノニ作リ直サセルトカ、
  或ハ別個ニ同ジヤウナ人ヲ以テ作ラセルマ
  デノ餘計ナ手數ハ必要ナイノヂヤナイカ、
  詰リ今日出來テ居ル少數ノ良イモノハ、其
  儘認メテヤッテモ宜イデハナイカト云フヤ
  ウナ趣旨ニ外ナラナイノデアリマシテ、之
  ニ依ッテ大イニ醫療利用組合ノ普及奬勵ヲ
  スル意味デナイコトハ、私ガ度々申上ゲル
  通リデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=28

  ---

• 029・青木亮貫

  ○靑木亮貫君　簡單デアリマスカラ此席カ
  ラ御許ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=29

  ---

• 030・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=30

  ---

• 031・青木亮貫

  ○靑木亮貫君　今內務大臣ハ、九條ノ如キ
  ハ後カラ入レタト云フ御話デアリマスルガ
  是ハ尙更怪シカラヌト思ヒマス、恐ラクハ
  是ハ內務省ナリ社會局ノ御意思デナカッタ
  ノヲ、何等カ外ノ方面カラ强要サレテ入レ
  タモノト思ハレル、產業組合ガ斯樣ニヤリ
  マスルコトガ、果シテ保險組合ニ是ナルカ
  非ナルカト云フコトヲ、能ク御考ヲ願ハナ
  クテハナラヌ、ドウゾ此邊ニ於テ私ハ御答
  ヲ承ラウト思ヒマセヌガ、十分御考慮ヲ願ッ
  テ、他ノ場合ニ又御說明ヲ伺ハウト存ジマ
  ス、是デ私ノ質問ハ打切リマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=31

  ---

• 032・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　武田德三郞君
  〔武田德三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=32

  ---

• 033・武田徳三郎

  ○武田德三郞君　私ハ議長ヨリノ御注意モ
  アリマスルノデ、成ベク簡單ニ質問致シタイ
  ト存ジマス、旣ニ今マデノ質問者ニ依リマ
  シテ、大體ノ要點ハ盡サレテ居ルト思フノ
  デアリマスガ、之ニ對スル內務大臣ノ答辯
  ガ甚ダ了解ニ苦シム點ガアリマスノデ、重
  ネテ簡單ニ御伺ヲ致シタイト存ジマス
  先ヅ第一ニ私ハ內務大臣ニ御伺ヲ申上ゲ
  タイコトハ、斯樣ナル重大ナル社會立法ノ
  制定ヲナサルニ當ッテハ、私ハ其用意ガ不十
  分デアルノデハナイカト云フ疑ヲ持ッテ居
  ルノデアリマス、從來ノ民間デ行ッテ居リマ
  スル所ノ醫療保險組合ノ實績ヲ見マシテモ、
  亦產業組合ノ醫療利用組合ノ實績ヲ見マシ
  テモ、其結果ハ甚ダ面白クナイ實績ヲ示シ
  テ居ルノデアリマス、而シテ左樣ナ面白カ
  ラザル結果ヲ招ク所以ノモノハ何デアルカ
  ト申シマスナラバ、私ノ理解スル所ニ依リ
  マスト、先程靑木君カラモ御話ノアリマシ
  タヤウニ、此健康保險ノ根本ニナリマス所
  ノ健康調査ト申シマスカ、竝ニ之ニ伴フ所
  ノ罹病率ト云フヤウナモノガハッキリ致サ
  ナイカラ、隨テ此醫療組合其他ノ結果ガ合
  理的ニ行ハレナイノデハナイカト思フノデア
  リマス、元來現行保險法ガ實施サレル場合
  二、政府ノ御見込ヲ聽イテ見マスト、一人
  一箇年ノ診療ノ期日ヲ約十七日位ニ御認メ
  ニナリ、一日ノ醫療費ヲ五十錢位ニ御見込
  デアルト云フコトヲ聞イテ居リマス、然ル
  ニ實際ノ成績ハドウデアルカト云フト、私
  ノ承ル所ニ依ルト、一人ノ診療日數ハ十五
  日、又一日ノ醫療費ハ僅ニ二三十錢ノ低イ
  モノニナッテ居ルト云フコトデアリマス、是
  ハ何ノ爲メデアルカ、卽チ罹病率ト云フモ
  ノガ分ラズ、オ負ケニ先ヅ良イカラヤラウ
  ヂヤナイカト云フヤウナコトカラヤッタ結
  果ガ、其組合ノ經濟ガ保テナイノデアリマ
  ス、而モ現行保險法ハ御承知ノ通リ政府ガ
  之ニ向ッテ法律ニ依ッテ保險給付ノ十分ノ一
  ヲ、政府ハ補助スルコトノ法律上ノ規定ガ
  アルノデアリマス、而シテ又雇主ハ其保險
  料ノ半額ヲ負擔スルコトニ相成ッテ居ルノ
  デアリマス、斯樣ナ種々ナル點ニ於テ、此
  保險組合ニ便宜ヲ與ヘテ居ッテサヘモ、尙ホ
  政府ノ見込通リ行カヌト云フコトハ、是ハ
  事實ノ證明スル所デアリマス、是等ノ點ヲ
  考ヘテ見マスト、政府ハ此社會立法ヲ致サ
  ルヽ上ニ於テ、十分ナル用意ニ缺ケテ居ル
  所ガアルノデハナイカト云フ風ニ考ヘルノ
  デアリマスガ、內務大臣ハ如何樣ニ御考ニ
  ナリマスカ
  尙又此問題ニ關聯シテ私ガ內務大臣ノ御
  意見ヲ承リタイコトハ、此問題ガ今日ノ實情
  ニ於キマシテ非常ナ面倒ナ問題ニ化シテ居
  ルノハ何デアリマセウカ、或ハ一面ニ於テ
  全國ノ醫師ガ足竝ヲ揃へテ之ニ反對シテ居
  ル、先日東京ニ於テ千五百人ノ全國ノ醫師
  ガ寄ッテ、之ニ反對ノ意思ヲ表明シテ居ルト
  云フ事實モ聞イテ居リマス、斯樣ナコトハ
  大抵內務省ニ於テモ想像ノ付ク事柄デナケ
  レバナラヌノデアリマス、承レバ全國ニ醫
  師ノ總數ハ五万人アルト云フコトデアリマ
  ス、其家族關係者ヲ集メマシタナラバ非常
  ナ多數ノモノデアリマセウ、又是等ノ人ト
  連絡ヲシテ居ル所ノ藥劑師、又賣藥業者ト
  云フヤウナモノヲ數ヘマスルナラバ、全國
  ニ於テ何百万ト云フ利害關係ガアルノデア
  リマス、一國ノ地方農村ノ人民ニ向ッテ適當
  ナル醫療ヲ加ヘテヤリタイト云フ其御趣旨
  ハ吾々モ滿幅ノ贊成ノ意ヲ表スルノデア
  リマスルガ一面ニ於テ何百万ト云フ醫者、
  賣藥業者竝ニ藥劑師等關係業者ノ生活問題
  ト云フモノモ、是亦內務省トシテハ御考ニ
  ナラナケレバナラヌ筈デアル、然ラバ斯樣
  ニ重大ナル利害ノアル問題ヲ御提案ニナリ
  マスルニ當リマシテハ、是等ノ各利害ノ
  異ッテ居ル階級ノ人々ト、如何ナル調和ヲ圖
  ラウカト云フコトニ向ッテハ、大體ノ御見透
  シガナケレバナラヌ筈ダト思フノデアリマ
  ス、然ルニソレダケノ用意ナク、突然
  突然デナイカモ知レマセヌガ、兎ニ角斯樣
  ナ重大ナル法案ヲ、此會期ノ短イ今日ニ於
  テ御提出ニナッテ、サウシテ國民ノ或種ノ階
  級ト或種ノ階級ノ間ニ軋轢ヲ生ジテ、之ヲ
  調和スルノ手段ヲ持タナイト云フヤウナコ
  トハ、內務大臣トシテハ私ハ重大ナル責任
  デハナイカト考ヘルノデアリマス、此點ニ
  向ッテ内務大臣ノ御所見ヲ先ヅ第一點トシ
  テ承リタイ
  ソレカラ本法案ノ重點ハ、先程靑木君、
  川島君竝ニ其他ノ諸君カラモ御話ガアリマ
  シタヤウニ、所謂醫師ト組合トノ團體契約
  ヲ認メルカドウカ、竝ニ醫療利用組合ヲシ
  テ代行機關タラシメタ方ガ善イカ惡イカト
  云フ、二點ニアルノデアリマス、此二點ニ付
  テ其他ノ諸君ヨリノ御質問ニ對シテ內務大
  臣ノ御答辯ハ、第一ニ對シマシテハ成程
  團體契約ハ便利ノ點モ多クアラウ、併シソ
  レハ將來ニ於テ、此組合ヲ指導スル過程ニ
  於テ、內務省ガ手心ヲ以テ左樣ニ致スヤウ
  ナ積リデアル、斯樣ナ御答デアッタ、是ハ私
  ハ甚ダ分ラヌノデアリマス、元來團體契約
  ヲシタ方ガ組合ノ爲ニ、或ハ此組合ノ被保
  險者ノ爲ニ善イカ惡イカト云フコトヲ、先
  決ニセンケレバナラヌ筈デアリマス、法律
  ノ規定ニナイノデアルカラ、ソレハ自治ニ
  委シテ置イテ、政府ノ監督上ノ手心ニ於テ
  左樣ニ導ク、斯ウ仰シヤル其裏面ニハ、團
  體契約ヲシタ方ガ組合ノ爲メ、又被保險者
  ノ爲ニ宜イト云フコトヲ、既ニ御認メニ
  ナッテ居ルノデハナイノデスカ、然ラバ何故
  ニ之ヲ法定スルコトハイケナイト仰シヤル
  ノデアルカ、元來被保險者卽チ患者ハ-
  被保險者卽チ患者ト云フ言葉ハ一寸ヲカシ
  イ譯デアリマスルガ、被保險者ニシテ病氣
  ニ罹ッタ人ハ、出來得ルダケ其自分ノ掛ラウ
  ト思フ醫者ヲ自由ニ選擇スルト云フコトハ
  望マシイコトデアルノデアリマス、然ルニ
  或ル個人ノ醫者ト契約ヲ致スト云フコトニ
  ナレバ、其自由ガ奪ハレルト云フコトハ當
  然デアリマス、若シ吾々ノ考ヘテ居ル如ク、
  內務大臣モ成ベク患者ニ對シテ其醫者ノ選
  擇ヲ自由ナラシムル方ガ宜シイト云フ御考
  ナラバ、其方向ニ向ッテ立法サレルト云フコ
  トハ至當デハアリマセヌカ、併ナガラ或ハ
  又內務大臣ハ左樣ナコトヲ法定スルコトハ
  何等カノ差支ガアラウ、ソレハ一利一害デ
  アルカラ、此事ハ其組合ノ自由ニ委スト、
  斯ウ云フコトデアリマスナラバ、是亦一面
  ノ見解ト言ッテモ宜シイノデアリマスルガ、
  然ラバ團體ト團體ガ契約スルコトニ、如何
  ナル不便ガアルト御考ニナルノデアリマス
  カ、私ノ考ヘル所ニ依リマスト、團體ト團
  體ガ契約スルト云フコトハ有ユル方面ニ於
  テ、醫者ノ方面ニ於テモ、組合ノ方面ニ於
  テモ、又被保險者ノ立場カラ言ッテモ、極メ
  テ便利ナ方法デハナイカト考ヘマス
  一體今日マデ利用組合竝ニ民間ノ疾病保
  險組合ノ、其結果ノ旨ク行カナカッタト云フ
  主ナル理由ハ何デアルカト云フト、醫者ト
  組合トノ間ノ醫療費ノ協定デアリマス、大
  體ヲ協定致シテ置キマシテモ、愈〓支拂ヲス
  ル場合ニ於テハ、之ニ向ッテ査定ヲ加ヘルト
  云フヤウナコトヲ今日シテ居ルノデアリマ
  ス其査定ノ仕方ニ於テ、又醫療上ノ醫療
  賃ノ契約ノ仕方ニ於テ、始終爭ウテ居ルノ
  デアリマス、是ガ抑、ミ此醫療組合ガ旨ク行カ
  ナイト云フ理由デアリマス、又此醫療保險
  組合ノ結果ガ良好デナイ所以デアルノデア
  リマス、故ニ內務大臣ノ管轄ノ下ニアリマ
  スル所ノ日本醫師會ト云フモノガ一方トナ
  リ、又同ジク內務大臣ノ所管ノ下ニアリマ
  スル所ノ此醫療保險組合ノ聯合會ト云フモ
  ノガ一方トナッテ、內務大臣ノ指導ノ下ニ、
  又一定ノ標準ノ下ニ、是等ノ團體ガ契約ヲ
  致シテ醫療代竝ニ其他ノ條件ヲ協定致シマ
  スルナラバ極メテ「スムース」ニ極メテ
  ソコニ摩擦ナクシテ、此組合ト醫師ノ團體
  トノ間ニ協定ガ出來ルト云フコトハ、「コン
  モンセンス」上想定サレルコトデハナカラ
  ウカト考ヘマス、然ルニ何故ニ內務大臣ハ
  之ヲ御認メニナラヌノデアル、サウシテ却
  テ色々ナル面倒ヲ後ニ殘シテ、保險組合ト
  醫師トノ間ニ爭ヲセシムルヤウナ原因ヲ、
  故ラニ殘シテ置クト云フノハ如何ナル理由
  デアラウカ、私ハ甚ダ解スルニ苦シムノデ
  アリマス、此點ニ向ッテハ內務大臣ハ深ク御
  考慮ニナルコトガ必要デアルマイカト考ヘマス
  更ニ醫療利用組合ノ代行ノ問題デアリマ
  ス、此點ニ付テ先程內務大臣ノ御答ハ、醫
  療組合ノ最モ成績ノ良イモノダケニ代行セ
  シムルノデアッテ、何レノ組合ニモ決シテ之
  ヲ許スモノデナイ
  〔副議長退席、議長著席〕
  是ハ內務省ノ行政的手段ニ依ッテ、府縣知事
  ヲシテ其結果ノ良イモノダケヲ認可セシム
  ルモノデアル、デアルカラ利用組合ヲ代行
  セシメタ爲ニ、此新ニ出來ル所ノ保險組合
  ガ累ヲ被ルヤウナコトガナイト云フ、斯樣
  ナ意味ノ御答辯デアリマシタ、是ハ甚ダ了
  解ニ苦シムノデアリマス、若シ左樣ナ御心
  持デアリマスナラバ是ハ机上ノ論トシテ
  ハ一應聞エルカモ知レマセヌ、併ナガラ今
  日ノ實際ト甚ダ遠ザカッテ居ルデハナイカ、
  私ノ承ル所ニ依リマスト、今日ノ醫療利用
  組合ハ約二百ノ多數ニ垂ントシテ居ル譯デ
  アリマスガ、其中僅ニ收支償ッテ居ル利用組
  合ハ十七八ニシカ及ンデ居ナイト云フコト
  デアリマス、然ラバ此代行シ得ル所ノ利用
  組合ハ、此二百ノ中ノ十七シカナイト云フ
  結果ニ陷ルデセウ、而シテ其二百ノ中十七
  ヲ除ケタ後ノ百八十組合ノアル處ニ保險組
  合ヲ組織セントスル場合ニハ、其地域ニ於
  テ同一ノ目的ヲ持ッテ居ル組合ガ二ツ出來
  ルト云フコトニナルノデアリマス、百八十
  ノ竝立ヲ認メテ置イテ、十七ニ留保サセル
  ト云フコトハ、何等ノ意味ヲ爲スデアリマ
  セウ、私ハ此代行ノ意味ヲ規定シテアル所
  ノ、本案ノ第九條ナルモノハ、實際ニ於テ
  何等ノ意味ヲ爲サヌコトニナルノデハナイ
  カト思フ、況ヤ先程モ靑木君デアリマシタ
  カ、御說ノアリマシタル通リ、利用組合ハ
  是ハ產業組合ノ一ツノ分派デアッテ、其監督
  ハ農林大臣ノ下ニアルコトハ申ス迄モナイ、
  然ルニ今度ノ保險組合ハ內務大臣ノ所管デ
  アリマスルカラ、此間ノ調和ヲスルト云フ
  コトニ向ッテ、監督上ノ衝突ヲ來ス虞ガ十分
  アルノデアリマス、是等モ元來此間ヲ如何
  ニシテ調和スルカト云フコトニ向ッテ、本案
  ノ立案者タル者ハ見究メヲ付ケテ置カナケ
  レバナラヌ筈デアラウト思フノデアリマス、
  同一ノ働キヲスル所ノ二ツノ組合ニ向ッテ、
  ソレヲ調和スル方法ヲ講ゼズ、內務大臣ト
  農林大臣ト所管ヲ異ニシテ居ル所ノモノヲ、
  漫然トシテ對抗サセルト云フヤウナコトハ、
  元來根本ニ於テ誤ッテ居ルノデハナカラウ
  カト私ハ考ヘルノデアリマス、寧ロソレガ
  同一ノ地區ニ殆ド同ジ目的ヲ持ッテ居ル所
  ノ組合ヲ二ツ作ルコトガ不便デアルカラ、
  對抗サルト云フコトデアリマスルナラバ、
  何故農林省トノ間ニ相當ナ交涉ヲ開カレマ
  シテ、之ヲ適當ニ組織替ヲスル、卽チ編成
  替ヲスルダケノ手段ヲ、此本法ノ上ニ於テ
  御規定ニナラナカッタカト云フコトヲ私
  ハ內務大臣ニ伺ヒタイノデアリマス、左
  樣ナ方法ヲ御執リニナッテ居レバ、左樣ナ矛
  盾ガ生ジナイノデアリマス、若シ之ヲ此儘
  ニ御實行ニナルト云フナラバ、先程申上ゲ
  タヤウニ、必ズ玆ニ重大ナル衝突ヲ生ズル
  コトガ、極メテ明瞭デアルト私ハ考ヘルノ
  デアリマス、此點ニ向ッテ内務大臣ノ御所見
  ヲ伺ヒタイ
  ソレカラモウ一ツ伺ヒタイコトハ、本法
  案ノ規定ニハアリマセヌケレドモ、內務大
  臣ノ御說明ニ依リマシテモ、亦此法文ノ一
  二ヲ見マシテモ、大體ニ於テ此保險組織ハ
  町村ヲ單位トスル御意思ノヤウニ承ッテ居
  ルノデアリマスルガ、是ハ成程組織ノ上ニ
  於テハ、一町村ヲ單位トスル方ガ便利デア
  リマセウ、併ナガラ危險ヲ分散スルト云フ
  上ニ於キマシテハ、大町村ハ兎モ角ト致シ
  マシテ、普通ノ今日ノ日本ノ町村ハ五百戶
  乃至七八百戶ガ普通デアリマスルガ、其程
  度ノ農村ヲ一ツノ區域トシテ組織セシメマ
  シタ結果ト致シマシテ、一時ニ病人ガ澤山
  出來マスヤウナ-土地柄ニ依ッテサウ云
  フコトハ多イト思ヒマスルガ、又流行病ハ
  別ノ扱ヒガ內務省ニアリマスカラ別ト致シ
  マシテ、少シク病人ガ餘計ニ出タ時ニハ、
  其組合ハ此危險分散ノ方法ヲ執ルコトハ出
  來ズシテ、直チニ重大ナル缺陷ヲ其組織ノ根
  本ニ生ズルノ危險ガ多クハナイカト私ハ思
  フノデアリマス、此點ニ向ッテ內務大臣ハ如何
  樣ニ御考ニナッテ居ルカ、之ヲ一ツ承リタイ
  ソレカラモウ一ツ最後ニ承ッテ置キタイコ
  トハ、本法ニ於キマシテハ、此保險組合ノ
  政府ノ補助金ハ豫算ノ範圍內ト云フコトニ
  ナッテ居リマスルガ、健康保險法ニ於テハ保
  險給付ノ十分ノ一、但シ一人二圓以上ヲ超
  エルコトハ出來ヌ、斯樣ニ相成ッテ居ルノデ
  アリマスガ、斯樣ナ同ジ性質ノ保險法案ニ
  二ツノ規定ガ別ニサレタト云フコトハ、如
  何ナル意味ヲ持ッテ居ルノデアリマセウカ、
  尙ホ私ハ此現行ノ保險法ハ、同ジク工業勞
  働者ヲ目的トシテ居ルモノデアリマスルガ、
  之ニ向ッテハ卽チ先程モ申上ゲタ通リ、其雇
  主ガ掛金ノ半分ヲ負擔スルト云フコトデア
  リマシテ、被保險者ハ相當救ケラレテ居ル
  ノデアリマス、然ルニ本案ノ目的ハ地方農
  村ヲ目的トシテ居ルノデアリマセウガ、今
  日地方農村ノ窮乏ノ狀態、殊ニ醫療費ニ窮
  シテ居ル狀態ハ、工場勞働者ノ狀態ト決シ
  テ異ナル所ハナイノデアリマス、寧ロソレ
  以上窮乏ノ度ガ强イト言ッテモ然ルベキコ
  トト考ヘマス、是等ニ對シテ政府ハ豫算ノ
  範圍內ニ於テ補助ヲ與へルト云フヤウナ、
  此僅ナ助力ノ程度ニ於キマシテ、完全ナル
  保險組合ガ成立シ得ルカドウカ、而シテ其
  運用ガ滑カニ行ッテ、果シテ此多數窮乏農
  民ノ疾病ヲ救ヒ得ルダケノ效果アリヤ否ヤ
  ト云フコトニ向ッテ、私ハ多大ノ疑ヲ持ッテ
  居ルノデアリマス、之ニ向ッテ內務大臣ハ
  此補助ノ率ヲ、例ヘバ私ノ希望カラ申シマ
  スナラバ、給付ノ少クトモ三分ノ一ト云フ
  位ナ國庫ノ補助ノ程度ヲ法定スルノ御意思
  アリヤ否ヤ、此點ヲ伺ヒタイノデアリマス、
  以上四點ニ付テ内務大臣ノ御答ヲ伺ッタ上
  ニ、又重ネテ御伺スルコトニ相成ルカモ知
  レマセヌ
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=33

  ---

• 034・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　武田サンノ御
  尋ノ第一點ハ、先ヅ斯ウ云フ風ナ法律ヲ施
  行スルニ付テハ、十分ナル病勢調査等ヲシ
  テ、完全ナル統計ヲ出シテカラスルノガ本
  當デハナイカ、斯ウ云フ風ニ伺ッタノデアリ
  せく、是ハ私ガ先程來申述ベマスヤウニ、
  大局ノ上カラ醫療ノ機會ヲ得ナイ氣ノ毒ナ
  人々ニ對シテ、醫療ノ機會ヲ與ヘルト云フ
  所ニ本旨ガアルノデアリマスカラ、必シモ
  十分ナ調査ヲシタ上ト云フ必要ハナイ、私
  ハ斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、或ハ
  餘談デアルカモ知レマセヌガ、度々豫算總
  會或ハ分科會ニ出マシテ、種々皆樣方カラ、
  御小言ヲ頂戴致シマスノハ所謂國民生活
  ノ安定問題デアリマシテ、廣義國防ノ立場
  カラ、何故政府ハモット國民生活ノ安定ヲ圖
  ラナイノカト云フヤウナ御叱リヲ受ケマシ
  テ、吾々ハ種々ソレニ對シテ辯解是レ努メ
  テ居ッタノデアリマス、デアリマスカラ殊
  ニ此國民健康保險法ノ如キモノハ、國民生
  活安定ノ最小限度ノモノデアリマシテ、私
  ハ今日最モ早ク施行スルコトガ、國民生活
  安定上最モ必要デアリ、且ツ皆樣ノ御期待
  ニ副フコトガ出來ルヤウニト思フノデアリ
  マス(拍手)隨テ大體ニ於キマシテ、是ハ
  從來ノ工場鑛山ノ勞働者ニ對スル健康
  保險ト同ジヤウニ、或ル程度ノ日ヲ限ッテ
  居ルノデアリマシテ、是ハ申ス迄モナ
  イコトデアリマシテ、現在鑛山工場ノ勞働
  者ニ對スル現行法ニ於キマシテハ、大體三
  十四日、七圓四十錢位ヲ目途ニシテ居ルノ
  デアリマス、是ハ澤山ノ人、大量ヲ扱フ上
  ニ於テ、或ル程度ノ制限ヲ置クト云フコト
  ハ、是ハ申ス迄モナイコトデアリマスガ、
  兎モ角取敢ヘズ病氣ヲ診療ツテヤルト云フ
  施設ヲスルコトガ、今日最モ必要ノヤウニ
  思フノデアリマス、ソレカラ此組合ハ法律
  ノ必シモ强制ニ依ラズシテ、地方ノ實情ニ
  依リ作リタイ場合ニ、之ヲ援助シテ作ラセ
  ルト云フコトニアリマスカラ、必ズシモ各
  種ノ調査ノ後ヲ俟ツト云フ必要ハナイ、私
  ハ斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  更ニ斯ウ云フ仕組ミヲスルト、所謂醫師
  ノ失業、全國五万ノ醫師ニ對シテ失業ト云
  フヤウナ問題ヲ起シハセヌカト云フヤウナ
  御話ノヤウデアリマシタガ、是ハ先程私ガ
  御答申上ゲマシタヤウニ、寧ロ醫師ノ仕事
  ヲ殖ヤス、從來病氣ニ罹リツヽモ、更ニ診
  療ノ機會ヲ得ナカッタ人々ニ對シテ、醫療ノ
  機會ヲ與ヘルノデアリマスカラ、却テ御醫
  者サンニ掛カル患者ノ數ガ殖エマシテ、寧
  ロ醫師ノ仕事ヲ殖ヤス、斯ウ云フ結果ニナ
  ルト私ハ思フノデアリマス、隨ヒマシテ決
  シテ醫師ノ業務ヲ奪フヤウナコトニハナラ
  ヌト確信スル者デアリマス
  ソレカラ更ニ第九條ノ問題デアリマスガ、
  醫療利用組合ハ全國ニ於テ二百位アルケレ
  ドモ、實際良イノハ十七位ダ、赤字ノナイ、
  收支ノ整ッテ居ルノハ十七位デアッテ、其爲
  ニ斯ル法規ヲ設ケル必要ガナイヂヤナイカ
  ト云フ御尋デアリマシタガ、是ハ先程來私
  ガ申述ベマシタヤウニ、假令數ガ少クテモ
  現在適當ナモノガアルナラバ、是ハヤハリ
  認メル方ガ便利デアリ、之ヲ改組セシムル
  ト云フコトハ、種々ナル手續ヲ要スルコト
  デアリマシテ、是ハヤハリ認メル方ガ適當
  デアラウ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、
  其外ニ赤字等ヲ出シテ居ル成績ノ惡イ利用
  組合ハ、是ハ地方長官ニ於テ代行ヲ認メナ
  イ場合ニ於キマシテハ、自然ト自滅ヲシテ、
  別個ニ國民健康保險組合トシテ必要ニ應ジテ
  出來テ來ル、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ醫師會ノ團體契約ヲ決定セザル
  理由如何、斯ウ云フ御尋デアリマシタガ、
  是ハ私ガ先程申上ゲマシタヤウニ、大體ニ
  於テ國民健康保險組合ト云フモノハ、其組
  合ノ自治ニ委セルコトガ適當デアル、デア
  リマスカラ之ヲ强ヒテ醫師會ト云フヤウナ
  團體ト、是非團體契約ヲシナケレバナラヌト
  云フ必要ハナイノデハナイカ、例ヘバ若シ
  國民健康保險組合ガ完全ナル發達ヲ遂ゲ
  マシテ、先程私ガ例ヲ擧ゲマシタヤウニ、
  越ケ谷ノ例ノヤウニ立派ナ病院ヲ持チ、或ハ
  各種ノ醫者ヲ雇傭シテ、完全ナル醫療ガ出
  來ルト云フ場合ニハ、ソレ等ヲ認メテ差支
  ナイ、斯ウ云フ風ニ思フノデ.アリマス、現
  在工場、鑛山ノ勞働者ヲ網羅シテ居リマス
  ル健康保險組合ニ於キマシテモ、所謂政府
  デ保險者トナッテ居リマスル政府管掌ノ保
  險ニ於キマシテハ、醫師會トノ團體契約ヲ
  シテ居リマスガ、大キナ工場等ニ於キマシ
  テハ、或ハ醫師會ト團體契約ヲシテ居ルモ
  ノモアリ、或ハ更ニ自己ニ於テ適當ナ醫療
  機關、卽チ完全ナル病院ヲ設ケテ、各種ノ
  醫師ヲ雇傭シテ居ルヤウナモノモアルノデ
  アリマスカラ、國民健康保險組合ニ於キマ
  シテモ、一律ニ醫師トノ團體契約ヲ强制ス
  ル必要ハナイ、且ツ今日ニ於キマシテハ、
  サウ云フヤウニスルコトハ適當デナイ、斯
  ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  更ニ健康保險法、卽チ工場、鑛山ノ勞働
  者ヲ主體トシテ居リマスル健康保險法ニ於
  キマシテハ、所謂使用者ノ負擔ガアルカラ
  シテ、勞働者側ノ負擔ハ割合樂デアル、然
  ルニ國民健康保險組合ニ於キマシテハ、國
  家ノ補助ガ頗ル少イ、是デ十分デアルカト
  云フヤウナ御尋ト拜承致シマシタ、是ハ私
  ガ申ス迄モナク、勞働者ノ健康保險法ハ、
  所謂事業主ト勞働者ト相俟ッテ、互ニ其危險
  ヲ分擔スルト云フ產業協力ノ趣旨ニ出來テ
  居ルノデアリマシテ、今日提案致シマシタ國
  民健康保險法ノ趣旨トハ、自ラ其性質ヲ異
  ニスルノデアリマス、國家ノ補助ニ付キマ
  シテハ、成ベク多イノヲ多ト致シマスケレ
  ドモ、一面ニ於キマシテ國家ノ財政ト云フ
  コトモ考ヘナケレバナラヌノデアリマスル
  カラ、今日ニ於キマシテハ、先ヅ此程度デ
  已ムヲ得ナイト考ヘテ居ルノデアリマス
  〔武田德三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=34

  ---

• 035・武田徳三郎

  ○武田德三郞君　私ノ質問ニ對スル內務大
  臣ノ御答ハ、少シクオ門違ヒノ點ガアルヤ
  ウニ思ヒマスルカラ、詳細ノコトハ委員會
  デ伺ヒマスト致シマシテ私ノ質問ニ對シ
  テ著シク見當違ヒノ點一二ダケヲ、重ネテ
  御伺ヲ致シタイト思ヒマス、私ハ第九條ノ
  代行機關ノ點ニ付キマシテ、先程申上ゲタ
  ル如ク、二百ノ中十七シカ相當ナ成績ヲ收
  メテ居ナイト云フコトデアリマスルト、ア
  トノ百八十以上ノモノハ代行ガ出來ナイト
  云フコトニ相成ルノデアリマス、內務大臣
  ノ御說ノ通リデアリマスルナラバ、左樣ナ
  場合ニ其保險組合ヲ作ル計畫ヲ致ス所ニ於
  テ、保險組合ト利用組合ト云フモノハ二
  ツ竝立スルコトハアルデハアルマイカト云
  フコトヲ申シタノデアリマス、左樣ナ場合
  ニドチラモ存在シナイコトニ相成ルデアリ
  マセウ、或ハ又此利用組合ガアッテ、代行ノ
  資格ガナイト云フヤウナ場合ニ、其或ル地
  域ニ更ニ保險組合ヲ作ラントシテモ、其利
  用組合ガアル爲ニ、又保險組合ノ組織ガ困
  難デアラウト云フコトデ、出來ナイト云フ
  虞ガアルデハアリマセヌカ、是ハ斯樣ニ二
  ツ出來タ場合ニハ、同ジヤウナモノガ二ツ
  出來テ競合ッテ雙方共困ルト云フヤウナコ
  トニ對シテ、內務大臣ハ如何ナル御取扱ヲ
  爲サルカト云フコトト、又利用組合ガ卽チ
  赤字利用組合デ、地方長官ノ代行ヲ許サナ
  イヤウナ組合ノアル處ニハ、此保險組合ノ
  組織ガ困難デナイカ、斯樣ナコトヲ承ッテ居
  ルノデアリマス
  ソレカラモウ一ツハ、若シ二ツ竝立シタ
  場合、利用組合ハ產業組合デアリマスルカ
  ラ、農林大臣ガ之ヲ所管ヲ致サレマセウ、
  又利用組合ト致シマシテモ、保險組合ノ働
  キヲ爲ス上ニ於テハ、內務大臣ガ御所管デ
  アリマスルカラ御監督ニナル、此時ニ農林
  大臣ト內務大臣トノ御監督ノ上ニ於テ、玆
  ニ一ツノ矛盾ガ生ジハシナイカト云フコト
  ヲ私ハ伺ッタノデアリマス、此點ニ向ッテ重
  ネテ御說明ヲ煩ハシタイト思ヒマス
  ソレカラモウ一ツ團體協約ノコトニ付キ
  マシテハ、私ハ先程申上ゲタヤウニ、團體
  協約ヲ法定ニ於テ認メル方ガ、此立法ノ趣
  旨ヲ實現スル上ニ於テ便利デハアリマセヌ
  カ、斯樣ナ意味ニ於テ御尋ヲ致シタノデ
  アリマス、卽チ先程モ申上ゲタルヤウニ、
  保險組合ト開業醫ト個人ト交涉スル場合ニ
  於テハ、其交涉ニ非常ナ面倒ガアルノデア
  リマス、保險組合ガ力ノ强イ時ニハ、開業醫
  ガ之ニ引摺ラレテ非常ナ困難ナ立場ニナル
  ノデアリマス、卽チ仰シヤル通リニ醫療金
  ヲ引下ゲテ、條件ヲ惡クシテ、自分ノ生活
  ノ脅威ヲ蒙ルヤウナ條件デ承諾シナケレバ
  ナラヌト云フコトガアリマス、又之ニ反シ
  テ開業醫ガ强イ時ニハ、此保險組合ガ非常
  ニ不利ノ立場ニナルヤウナ條件デ約束ヲシ
  ナケレバナラヌト云フヤウナ、困難ガ生ジ
  ハシナイカト私ハ惧ルヽノデアリマス之
  ヲ團體協約ヲ致ス場合ニ於キマシテハ、日
  本醫師會ハ內務大臣ノ監督ノ下ニ成立ッテ
  居ル團體デアリマスルカラ、內務大臣ガ相
  當ナ牽制ヲ爲サルコトハ出來ル、又一面ニ
  於テ保險組合モ同樣ニ內務大臣ノ監督下ニ
  アルモノデアリマスルカラ、同ジク內務大臣
  ノ監督下ニ於テ、內務大臣御自身ガ適當ナ
  ル標準ノ契約案ヲ示シテ、雙方ノ間ニ然ル
  ベク斡旋ト申シマスルカ、相當ナ御考慮ヲ
  加ヘラレテ、圓滿ニ契約ガ出來ルト云フ、
  非常ニ便宜ナ方法ガアリハシマスマイカ、
  斯樣ニ私ハ質問ヲ致シテ居ルノデアリマ
  ス、之ニ向ッテ內務大臣ノ御所見如何ト云フ
  コトヲ伺ッタノデアリマスルカラ、此意味ニ
  於テ御答辯ヲ願ヒタイト存ジマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=35

  ---

• 036・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　御質問ガ多岐
  ニ亙ッテ居リマシタノデ、私ノ答辯ガ漏レマ
  シテ甚ダ恐縮ニ存ジマス、第一ノ利用組
  合第九條ノ問題デアリマスガ、是ハ御尋
  デハアリマスガ、假ニ代行ト云フコトヲ認
  メマセヌデモ、ヤハリ醫療利用組合ト云フ
  モノハ、之ヲ禁止スルノデハナイノデアリ
  マスカラ、假令第九條ガナクテモ、作ル場
  合ニハ醫療利用組合ト云フモノハ出來テ行
  ク、國民健康保險組合ト云フモノハ强制シ
  ナイノデアリマスカラ、若シ此法ガ施行セ
  ラレマシテモ、或ハヤハリ從來ノ醫療利用
  組合ト云フモノガ出來テ居ッテ、國民健康保
  險組合ト云フモノガ出來ナイカモ知レズ、
  或ハ更ニモット澤山出來テ行クト云フコト
  ガアルカモ知レナイノデアリマシテ、醫療
  利用組合ト云フモノニ付テハ、本法ハ何等
  觸レテ居ラヌノデアリマス、唯第九條ニ於
  テ現在良イモノダケニ代行ヲ認メテヤラ
  ウ、斯ウ云フ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、
  ソレカラ醫療利用組合ハ、所謂產業組合ト
  シテ農林大臣ノ所管ニ屬スル、然ルニ醫療
  ニ關シテハ內務大臣ノ所管デアルカラシテ、
  其間ニ自ラ各種ノ矛盾ヲ生ジナイカ、斯ウ
  云フ御尋デアリマシタガ、是ハ法文ニアリ
  マスヤウニ、第一次ノ監督機關ハ地方長官
  デアリマシテ、私ガ申ス迄モナク地方長官
  ハ各省大臣ノ指揮ヲ受ケルノデアリマスカ
  ラ、其點ニ於キマシテ第一次ノ監督機關ガ
  一ツデアリマスレバ自ラ其間ニ矛盾ヲ避
  ケ得ルデアラウト思ヒマス、且ツ又私ガ申
  ス迄モナク政府ト云フモノハ、各省ニ分立
  シテ居ルノデハナイノデ、自ラ其間ニ融合
  統和ヲ圖ルト云フコトハ難クナイノデアリ
  マスカラ、假令管轄ガソレ〓〓分レテ居リ
  マシテモ、其點ニ付キマシテハ必シモ御心
  配ハ要ラヌノデアラウト、斯ウ云フ風ニ思
  フノデアリマス、ソレカラ團體契約ヲ法律
  ヲ以テ認メル方ガ便利デハナイカト云フ御
  尋デアリマシタガ、是ハ私ガ先程御答致シ
  マシタヤウニ、一ツハ團體契約ト云フモノ
  ヲ强制致シマスルト、必シモ醫師會トノ
  契約ヲ爲サズシテ、大キナ、例ヘバ健康保
  險組合ガ出來マスル時ニ、ソコデ一ツノ立
  派ナ醫療機關ヲ作ルト云フ場合ニハソレ
  ヲ禁ジテマデ醫師會トノ團體契約ヲ强制ス
  ルト云フコトハ必要デナク、且ツ又ソレハ
  自然ニ反スルヤウニ思フノデアリマス、且
  ツ又ソレ等ヲ適當ニ按排シタラ宜カラウ、
  內務大臣ハ醫師會ヲ監督シ、健康保險組合
  モ監督スルノデアルカラシテ、適當ニ監督
  ヲシタラ宜カラウト、斯ウ云フ御言葉デア
  リマシタガ、私ガ申ス迄モナク、醫師會ハ
  醫師法ニ依リマシテ、可ナリ.强大ナル權限
  ヲ與ヘラレテ居ルノデアリマス、卽チ或ハ
  醫師ノ犯則行爲等ニ付キマシテモ、之ヲ處
  分スル權能ガアリ、且ツ又藥價ヲ定メル權
  能ヲ持ッテ居ルノデアリマス、隨ヒマシテ是
  等ノ法律上ニ重大ナル權能ヲ持ッテ居ル醫
  師會ニ對シマシテ、サウ何デモカデモ干涉
  スルト云フコトハ出來ナイ、之ヲヤリマス
  レバ、寧ロ先程來御叱リヲ受ケテ居リマス
  官僚獨善ノ弊ヲ却テ起スノデハナイカト、
  斯ウ云フ風ニモ思フ位デアルノデアリマス、
  隨ヒマシテ是ハ私ガ先程來申上ゲマスルヤ
  ウニ、法律上ニハ强制セズシテ、實際ニ於
  テ其實情ナリ、地方ノ事情ニ合フヤウニ指
  導シテ行ク方ガ宜カラウ、而シテサウ完全
  無缺ナ病院ヲ造ッテ、大キナ組合ガ出來ルト
  云フコトハ、直チニ豫想ガ出來ナイノデア
  リマスカラ、而モ國民健康保險組合ハ、組
  合員ヲシテ廣ク各種ノ醫師ニ掛カリ得ルダ
  ケノ自由ヲ保有シナケレバナラヌト云フコ
  トヲ、省令ニ於テ規定スル積リデアリマス
  カラ、結局ニ於キマシテハ、自ラ其地方ニ
  於キマスル醫師會若クハ其他ノ團體ト自然
  契約ガ出來ル場合ガ多カラウ、斯ウ云フ風
  ニ思フノデアリマス、先程來私ガ申上ゲマ
  スルヤウニ、是ハドウシテモ法ヲ以テ團體
  契約ヲ强制スルト云フコトハ適當デナイ、
  現ニ度々申シマスヤウニ、勞働者ノ健康保
  險ニ於キマシテモ、決シテ其團體契約ヲ强
  制シテ居ラヌ、自然ニ委シテ適當ニ處置セ
  ラレテ居ルノデアリマスカラ、其方ガ最モ
  時宜ヲ得テ居ルヤウニ私ハ思フノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=36

  ---

• 037・武田徳三郎

  ○武田德三郞君　只今ノ內務大臣ノ御答辯
  ニ對シテハ、尙ホ滿足デアリマセヌガ、詳
  細ハ委員會ニ讓リマシテ、私ノ質問ハ是デ
  打切リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=37

  ---

• 038・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　服部崎市君
  〔服部崎市君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=38

  ---

• 039・服部崎市

  ○服部崎市君　只今上程ニ相成リマシタル
  國民保健ニ關シマスル三法案ハ、今期議會
  中最モ重要ナル社會立法ト致シマシテ、是
  ガ審議ヲ愼重ニ進メマスルハ當然ノコトト
  存ズルノデアリマス、我國現下ノ非常事態
  ニ際シマシテ、當局ハ敢テ之ヲ保健國策ト
  致シマシテ提唱サレテ居ルノデアリマスル
  ガ故ニ、私ハ其中デ特ニ保健所法案ニ關シ
  マシテ、日頃ノ所信ノ下ニ質問ヲ致シマシ
  テ、ソレ〓〓ノ所管大臣カラ御答辯ヲ煩ハ
  シタイト思フノデアリマス
  凡ソ一國ノ政治ヲ行フニ當リマシテハ、
  〓育上、產業上、軍事上ト言ハズ、次代國
  民ノ繁榮ヲ基準トシテ、根本方策ヲ立テナ
  ケレバナラヌト思フノデアリマス、此目的
  ニ對シマシテ至大ナル關係ヲ有シマスル國
  民ノ健康狀態ガ、我國現在ノ如ク、諸外國
  ト比較致シマシテ、統計ノ上カラ見マシテ
  モ、實ニ憂慮ニ堪ヘマセヌ劣惡ナル狀態デ
  アルノデゴザイマス、勤勞ト國防トニ耐ヘ
  ナケレバナラヌ頑健ナ身體ト、確固タル精
  神力トヲ、最モ切要ト致シテ居リマスル此
  時ニ當リマシテハ、國家ノ重要問題ト致シ
  マシテ、眞劍ニ考慮サレナケレバナラヌト
  存ジマス(拍手)而シテ玆ニ提案サレマシタ
  ル本法案ハ、卽チ國策トシテ對策ヲ具現セ
  ラルベキモノト期待シテ居リマシタ法案デ
  アルト思フノデアリマス、曩ニ廣田前內閣
  ニ依リマシテ庶政一新ガ提唱セラレマシタ
  中デ、最モ國民ノ歡心ヲ買ヒマシタモノ
  ハ、卽チ國民生活安定策ト云フコトデアッタ
  ノデゴザイマス、其際閣議ニ於キマシテハ、
  餘リ難カシイ問題ニ手ヲ觸レテハトノ或種
  ノ心遣ヒカラカ、先ヅ第一ニ取上ゲラレマ
  シタモノガ、國民保健施設ノ擴充ト云フ、
  何處カラモ苦情ヤ異論ノ出ナイ新政策デ
  アッタノデアリマス、殊ニ是ガ政治的中性ヲ
  帶ビタ題目デアリマシタダケニ、社會政策
  ノ角度カラ何トカシテ成案シ、國民生活安
  定ト云フ、約束手形ノ有力ナル穴埋ニスル
  ノニハ恰好ナモノト致シマシテ、進捗セラ
  レタノデアリマシテ、保健所創設案モ此波
  ニ乘ジテ生レタモノデアルト思フノデアリ
  マス(拍手)國民健康保險制度竝ニ無醫村對
  策ト共ニ、內務省當局ノ誇示致シマスル三
  位一體ノ保健施設ト致シマシテ、現林內閣
  ニ引繼ガレタノデアリマス、隨テ先ヅ國民
  健康保險制度ニ依ッテ、自治的ナル保險組織
  ヲ採用シ、主ニ農村方面ニ於キマスル醫療
  費負擔問題ヲ解決致シ、無醫村對策トシテ
  醫者ノ無イ村ヲ救ヒ、更ニ保健所制度ニ
  依ッテ、平素國民ノ保健思想ヲ啓發シテ、罹
  病ノ豫防ヲスルト云フノデアリマスカラ、
  國家大衆ニ取ッテ社會立法トシテ實ニ有難
  イ事デアリ、此種ノ施設ハ大イニ普及徹底
  サレナケレバナラヌト深ク信ズルノデアリ
  マス(拍手)併ナガラ政府ノ意圖セラレマス
  ル今囘ノ保健所ノ如キモノハ、旣ニ歐米諸
  國ニ於テハ「ヘルス·センター」ト云フ機構
  ニ依ッテ、都市ト云ハズ、農村ト云ハズ總テ
  ニ普及徹底セラレマシテ、相當ナル成績ヲ
  擧ゲテ居ルト聞イテ居ルノデアリマス、英
  國ニ於キマシテハ、此保健所ニ類シマスル
  兒童健康相談所網ガ完成セラレマシテ、ソ
  レニ依ッテ成功ヲ收メテ居ルノデアリマス、
  其他米、獨、佛ハ固ヨリ、葡萄牙「ポーラン
  ドㄴㄱユーゴスラビヤ」「ビルマ」「シンガポー
  ル」香港、蘭領印度等ニモ普及シテ居リマシ
  テ、日本ガ今日漸ク此制度ヲ採用スルニ至
  リマシタノハ、寧ロ文明國ト致シマシテ恥
  カシイ事ト謂ハネバナラヌト思フノデアリ
  マス(拍手)而モ我ガ國民ノ體位ハ、先ヅ乳
  兒ノ死亡率ニ於テ見マシテモ、歐米ノ重
  立ッタ國ノ倍以上ヲ示シテ居リマスルシ、殊
  ニ多クハ產ムケレドモ、多クヲ殺スト云フ、
  大キナ無駄ノ上ニ、更ニ悲シムベキ事ハ、
  十歲前後カラ死亡率ハ年ト共ニ累進致シマ
  シテ、二十歲前後ニ於キマスル死亡率ガ非
  常ニ高イト云フコトデゴザイマス、「トラ
  ホーム」患者ガ約九百万人ト謂ハレ、蛔蟲、
  十二指腸蟲保有者ニ至ッテハ、農村居住者
  ノ約八割ニ及ンデ居ルト云フコトデゴザイ
  マス、「チブス」ハ歐米諸大國ニ比シマシテ
  二十倍以上ヲ示シ、尙ホ結核患者ハ逐年增
  加ノ傾向デアリマシテ、殊ニ肺結核患者ニ至
  リマシテハ二十万以上ニナッテ居ルト云フ
  コトデアリマス、是デハ平均年數ノ永カラ
  ウ筈ハアリマセヌ、人生五十年トハ生命ノ
  短イノヲ嘆ジタ言葉デアリマスルケレドモ、
  我國ノ平均年齡ハ其五十歲ニスラ達シマセ
  ズ、米國ナドハ旣ニ六十歲ニ近イト云フノ
  デアリマスガ、我國ハ四十二歲半ト云フノ
  デアリマスカラ、實ニ憂慮スベキ狀態デア
  ルト謂ハナケレバナラヌト思フノデアリマ
  ス、斯ル狀態デアリマスレバコソ、今囘ノ
  此施設ガ案ジ出サレタモノデアルト思フノデ
  アリマス、ソコデ此對策ト致シマシテ、本案
  ニ依ッテ十分ナル是ガ施設ト考ヘラレルノ
  デアリマスルカ、私ハ此點ヲ當局ニ御伺ヲ
  致シタイト思フノデアリマス、殊ニ保健所ガ
  國民保健ノ中樞機關トシテ、其意義ト使命ガ
  重大視セラレル以上ハ、唯單ニ病魔豫防ニ
  因ル醫事的保命ノ消極的施設ニ止マルコト
  ナク、尙ホ一層進ンデ體育指導ニマデ進マ
  ネバナラヌト考ヘルノデアリマスガ(拍手)
  其點ニ付キマスル當局ノ御考モ承リタイト
  思フノデアリマス(拍手)國民健康ハ正ニ國
  家活動力ノ源泉デアリマシテ、國運進展ノ
  基礎ヲ成スベキ絕對的要素デアリマス、國民
  ノ體力上進ノ爲ニ積極的ニ働キ掛ケル契機
  トセラレナケレバナラヌト思フノデアリマ
  ス、此際政府當局ノ國民體育國策ニ對スル
  爲政者トシテノ理想ヲ喚起セラレタイト存
  ズルノデアリマスガ、本案ニ依ッテ十分ナリ
  ト考ヘラレルノデアリマスルカラ、御伺ヲ
  致シテ置キタイト思ヒマス(拍手)
  殊ニ近時我國ニ於キマスル醫學ノ進步發
  達ハ、先進諸國ヲ遙ニ凌駕致シマスコト驚
  嘆ニ値スルモノガアルノデアリマス、人ロト
  醫師トノ割合モ、人口約千四百人ニ對シマシ
  テ醫師一人ノ割トナッテ居リ、諸外國ニ比シ
  テ醫師ノ數ガ必シモ少クハナイノデアリマ
  ス、然ルニ一般衞生ノ劣惡ナル情勢ニ在リ
  マスコトハ、從來ノ我國衞生行政ガ兎角警
  察的取締ニ偏重シ勝チデアリマシタ弊害ニ
  負フ所ガ大デアルノデハアルマイカト思フ
  ノデアリマス、本法案ノ如ク防病ノ指導事
  業ヲ初メ、一般國民ノ健康相談竝ニ體位向
  上ノ指導ニ當ルベク、廣ク庶民ニ利用サセ
  ル立前ノモノニシテ、所謂御役所氣質ノ臭
  味ヲ除イテ、明朗ニ大マカニ運行セラレナ
  ケレバナラヌト考ヘルノデアリマスガ指
  手)其邊ノ御所見ノ程ヲ伺ヒタイト思フノ
  デアリマス、更ニ保健所機能ヲ十分ニ發揮
  セシムル爲ニ醫師、齒科醫師、藥劑師、衞
  生指導員、公衆衞生看護婦等ヲ職員トシテ
  配置セラルヽニ當ッテ、體育方面ノ指導者ヲ
  之ニ加ヘラレマスル意思ハナイカドウカト
  云フコトデアリマス、現在醫療機關トノ圓
  滿ナル提携ニ留意スル爲ニ、治療ノ域ニ進
  マザルヤウニ規定セラレテアルト聞キマス
  ルケレドモ、之ヲ明文化シテ置ク必要ハナ
  イカト云フコトデアリマス、農村ニ主力ヲ
  注グノデアリマスケレドモ、都會ニ於テモ
  是ハ忽セニスベカラザルコトト考ヘルノデア
  リマスガ、其按排ハ如何デアリマスカ、又經費
  ノ點ニ付キマシテモ、如何相成ッテ居ルノデ
  アリマスカ、併セテ伺ッテ置キタイト思ヒマ
  ス、尙ホ旣存ノ保健相談所ノ如キモノニ對ス
  ル方針モ明ニセラレタイト思ヒマス(拍手)
  大體以上御尋ヲ致シマシタコトハ、保健
  所ニ對シマス當面ノ問題ダケデアリマスガ、
  私ハ本保健所法ガ制定セラレマシテ、治療
  ノ方面ヲ健康保險組合ニ委ネテ行クモノデ
  アッテ、保健所ガ治療ニマデ及バナイト致シ
  マスナラバ、寧ロ一步ヲ進メテ之ヲ體育ノ
  指導機關トスル立前カラ、體育問題ニ付テ
  モ當局ノ御意思ノアリマス所ヲ伺ッテ置キ
  タイト思ヒマス
  國民體位ノ向上ノ爲ニハ衞生施設、〓
  育制度、國民生活ノ改善等、各種因子ノ十
  分ナル綜合的成果ニ俟ツベキハ固ヨリデ
  アリマスガ、其內體育運動ノ振興ト云フ
  コトガ、飽マデモ中樞的重要性ヲ持ツモ
  ノデアルコトハ、何トシテモ動カシ難イ
  事實デアルト存ジマスルガ故ニ、此際聊
  カ體育「スポーツ」界ノ現狀ニ言及致シマシ
  テ、當局ニ御質疑ヲ致シタイト思フノデア
  リマス、卽チ我ガ日本ノ「スポーツ」界ノ飛
  躍的發達振リハ、之ヲ單ニ「オリムピック」
  競技種目ニ依ッテ見マシテモ、非常ナル發達
  ヲ致シテ居ルノデアリマス、千八百九十六
  年ニ希臘ノ「アゼンス」ニ國際「オリムピッ
  ク」ガ催サレマシテ以來、先囘ノ伯林大會マ
  デ數ヘマスルト、十一囘ニ相成ッテ居ルノ
  デアリマス、殊ニ我國ガ初メテ千九百十二年
  ニ「ストックホルム」大會ニ金栗、三島ノ兩選
  手ヲ送リマシテ以來、七囘ノ「オリムピック」
  大會ニ參加致シテ居リマスガ、其當初ノ成
  績カラ見マスト、洵ニ隔世ノ感ガアルノデ
  アリマス、第九回ノ「アムステルダム」ノ大會ニ
  於キマシテ、織田、鶴田ノ兩選手ニ依ッテ日章旗
  ヲ揭ゲラレマシテカラ今日マデ三囘デアリマス、
  其間技術ノ上ニ、記錄ノ上ニ、總テノ上ニ
  隔世ノ感ガアルノデアリマシテ、殊ニ水泳
  ニ於キマスル世界制覇ノ偉業ノ如キハ、眞
  ニ世界ヲ驚歎セシメマシタモノデアルト言
  ハナケレバナラヌト思フノデアリマス(拍
  手)此輝ヤカシイ此過去ニ對シマシテ、
  飜ッテ、我ガ國民體位ノ現勢ヲ見マシタ時ニ
  ハ、洵ニ憂慮ニ堪ヘナイモノガアリハシナ
  イカト思フノデアリマス、卽チ競技ニ於テハ
  進步シ、漸次技術ニ於テ發達ハ致シマシタ
  ケレドモ、ソレト反對ニ國民ノ體位ハ非常
  ニ下落ヲ致シテ居リマスコトヲ見逃スコト
  ハ出來ナイノデアリマス、是ハ體育向上ヲ目
  的トスル「スポーツ」ガ、必ズシモ體育向上
  ノ目的トスルモノデナカッタ所カラ來ル缺
  陷ガ、漸ク指摘サレルニ至ッタモノデハア
  ルマイカト思フノデアリマス、國民體位向
  上ノ眞實ノ叫ビガ澎湃トシテ「スポーツ」界
  ニ擡頭シテ參ッタノモ見逃スコトノ出來ナ
  イ事實デゴザイマス、今日體育運動ト稱セ
  ラレルモノノ中ニハ、最初カラ體育的ナ意
  圖ノ下ニ作ラレマシタル體操ノ如キモノ
  干、極メテ自然ニ發達シタ運動ヲ後ニ體育
  ノ手段トシテ採入レ、利用サレテ居ルモノ
  ト、所謂「スポーツ」ノモノトガアルノデア
  リマス、「スポーツ」ヲ樂シンデ居ル間ニ健
  康ニナリ、活動能力ガ增大シ、生活ノ規律
  ガ立テ來、其上精神ガ段々練レテ、公共的
  ナ訓練ガ出來テ來ルト云フコトニナレバ
  實ニ結構ナコトデ、之ヲ體育運動トシテ取
  上ゲ、助成奬勵ヲ行ハルヽ文部當局トシテ
  ハ、飽マデモ之ヲ其目的ニ副ハシムルヤウ、
  眞ニ常ニ適切ナル指導、監理ヲ爲スベキ責
  任ガアルト考ヘルノデアリマスガ、當局ハ
  如何御考ニナッテ居ルノデアリマスカ、御伺
  致シマス(拍手)國民體育ノ振興ノ最モ急務
  トサレテ居リマスル今日、政府ハ體育ニ關
  シテ一層確固ナル國家的大方針ヲ立テヽ
  之ニ基キ十分正シキ體育運動ノ實施ヲ指導
  促進スルコトガ必要デアリマシテ、是ガ爲
  ノ行政機構ノ改革竝ニ改善等ニ考ヲセラレ
  ナケレバナラナイト思フノデアリマス、隨
  テ今日行政機構ノ改革ヲ意圖セラレテ居リ
  マスル政府ニ於キマシテハ、體育衞生省ノ
  設置マデ進ンデ爲サル御意思ガアルカナイ
  カ、御伺ヲ致シマス(拍手)
  更ニ此目的ヲ達成致シマス爲ニハ、大學
  ニ體育ヲ正科トセシムルト共ニ、更ニ進ン
  デハ體育大學ノ設置ヲ企圖セラレマスル意
  思ハナイカ、此點文部大臣ノ御意向ノアリ
  マス所ヲ明ニセラレタイト思フノデアリマ
  ス、尙ホ當今大日本體育協會ヲ初メ、其他
  運動競技團體ニ於キマシテモ、體育問題ニ
  付テ著シク關心ヲ增シマシテ、努力ヲ傾倒
  セラレテ居リマスコトハ、洵ニ結構ナコト
  ト思フノデアリマスガ、第十二囘「オリム
  ビック」東京大會モ招致開催セラルヽ此機會
  コソ國際競技ノ展開ヲ華トシテ、國民體
  育振興ヲ實トシテ、全キ成果ヲ收ムベク、
  當局トシテハ如何ナル方策ヲ有セラレマス
  ルカ、又「オリムピック」大會ニ對シマシテ、
  積極的ニ指導援助ヲ爲ス意思ガアリヤ否ヤ
  ト云フコトヲ御伺致シタイノデアリマス(拍
  手)尙ホ國民體位向上ノ叫ビハ、先程內務
  大臣モ仰セニナリマシタ如ク、單ニ運動團
  體關係者ノミナラズ、非常時國軍ニ於テモ、
  近年來徵兵檢査ノ結果ニ現レマシタル壯丁
  ノ體位ノ下落ニ對シマシテ、大ナル關心ヲ
  持ッテ居ラレルト云フコトデアリマス、軍部
  ハ勿論、各方面ニ於キマシテ、此問題ニ對
  シマシテハ、大ナル衝動ヲ與ヘテ居リマス
  ルガ爲ニ、私ハ玆ニ昭和十年度ニ於キマス
  ル徴兵檢査ノ結果ヲ示シマシタル統計ヲ持
  合セテ居リマスカラ、是ハ議長ヲ通ジマシ
  テ速記錄ニ殘シテ置キタイト思フノデアリ
  マス
  以上申述ベマシタ如ク、國民保健、體位
  向上ノ問題ハ、文武、農工商、何レノ部門ヲ
  問ハズ、貧富、上下階級ノ別ナク、個人ト
  シ且ツ社會人トシテ、一樣ニ念願スベキ幸
  福ノ根源トナルモノデアリマスルガ爲ニ、
  此國策ヲ徹底サレマスルナラバ、社會政策
  ノ數多ノ件モ、亦之ニ依ッテ解決セラルベキ
  モノデアルト考ヘルノデアリマス、尙ホ統計
  ノ示スガ如ク、貧弱ナル狀態ニアリナガラ、
  一般ノ關心トナラナイト云フノハ、一ツハ我
  國ガ幸カ不幸カ、國民體力ノ極限マデ試メ
  ス大試練ニ遭遇シナカッタ結果ニ外ナラヌト
  思フノデアリマス、卽チ體力、精神力ノ最大
  試練ハ、戰爭ヲ外ニシテハ求メ難イモノガ
  アルノデアリマス、過去ノ總テノ戰爭ハ、
  幸ニ何時モ皇軍ノ優秀ナル壯丁ノ體力ト智
  力ニ依ル大捷デアリマシテ、勿論國民ノ熱烈
  ナル愛國的精神力ヲ後援トシテ居ッタニハ
  違ヒアリマセヌケレドモ、國民總動員ノ大
  試練ハ受ケテ居ナイノデアリマス、是ハ他
  ノ歐洲大戰ノ慘禍ノ背後ヨリ盛返シツヽア
  リマスル諸國ハ固ヨリ、諸外國ノ實ニ旺盛
  ナル體育運動ノ興隆ガ、勿論軍備ノ充實ニ
  勢併シテハ居リマスルケレドモ、世界ノ情
  勢ヨリ考察致シマシテ、政府ハ此國防ト生
  活安定ノ大目的ノ爲ニ、體育衞生省ノ設置
  ニ依ル庶政刷新ノ先鞭ト致サレル決意ヲ有
  セナケレバナラヌト思フノデアリマス、是
  ハ特ニ林總理大臣ヨリ御意見ヲ承リタイト
  思ヒマス(拍手)
  最後ニ世界ノ祭トシテ、全世界ノ若人ノ
  熱ト、純情ト力ヲ奮ヒ起タセマシタ國際「オ
  リムピック」第十二囘ノ開催ヲ東京ニ愈〓、
  決定サレタノデアリマス、當時ノ我ガ國民
  ノ熱意ハ世界ヲ動カシ、珍シク國民外交ノ
  成功トシテ狂喜シタノデアリマシタガ、爾
  來半歲ヲ經過致シマシテ、「オリムピック」組
  織委員會ガ實行計畫ヲ立テ、體育協會初メ
  運動團體關係者ガソレ〓〓ノ立場デ準備ハ
  致シテ居ルノデアリマスガ、今日兎角ノ批
  評ノ中ニモ〓括的ナ成案ヲ得タト言ハレ
  マスルケレドモ、其內容ノ專門的進捗ニ當ッ
  テハ經費ノ點デ全ク委員會ノ自繩自縛ニ
  陷ッテ居ル狀態デアルト聞キマスガ、其點ニ
  對シマシテ如何ナル御考ヲ持ッテ居リマス
  カ、若シ然リト致シマスルナラバ、政府ニ
  於テモ委員ヲ出シテ是ガ機構ニ參ジテ居リ
  マスル以上ハ、實情ヲ十分ニ精査シテ、總
  費額ノ增加ヲ國庫、其他ノ補助豫算ニ立テ
  テ何故議會ニ協贊ヲ求メラレマセヌカ、私
  ハ此點ヲ明ニセラレタイト思フノデアリマ
  ス(拍手)
  「オリムビック」大會ハ單ナル國際競技タ
  ルニ止ラズ、主催國ト致シマシテハ、其國
  民精神カラ、其文化全般ニ亙ッテ、國家ハ能
  力ノ試練ニ於テ、大イニ國威ヲ世界ニ發揚
  スベキ歴史的大事業デアルト思フノデアリ
  マス(拍手)前囘獨逸ガ經濟的危機ニ立ッテ、
  尙ホ彼ノ大施設ヲ行ヒマシタモノハ、結局
  國家興隆ノ意識ヲ宣揚シタニ外ナラヌト思
  フノデアリマス、而モ我國ハ皇紀二千六百
  年祭ヲ理由ニ、世界ノ賓客ヲ集メ、少クト
  モ其前後ニハ世界ノ視聽ヲ集メテ、所謂名
  譽ノ孤立アル邦家ノ眞ノ姿ヲ示スベキ、此
  天與ノ機會ヲ空シクスルハ、何ト致シマシ
  テモ私共ノ愛國心ガ容サヌ所デアルノデア
  リマス、私ハ國民代表ノ府タル議會ニ於キ
  マシテ、此國家的大事業ノ翼贊ヲ議シ、明
  治神宮外苑ノ聖域ヲ完備シテ我國靑年ノ
  士氣ヲ鼓舞致シマスル源泉タル永久ノ道場
  トシテ、一方大乘的ニ之ヲ國民體位向上ニ
  資スル絕好ノ機ト信ジマスルガ故ニ、議政
  壇上ヨリ篤ト政府ノ經綸、抱負ヲ質シタイ
  ト思フノデアリマス(拍手)
  以上申上ゲマシタコトハ、ソレ〓〓ノ御
  所管ノ大臣、竝ニ政府委員ヨリ御答ヲ得タ
  イト思ヒマスルガ、折角國民保健ノ向上ヲ
  圖リ、體育國策ノ根本ヲ立ツル目的ノ爲ニ、
  保健所法案ヲ提出セラレタノデアリマスル
  カラ、其發揚ノ爲ニモ、十分ナル御答ヲ戴
  キタイト存ジマシテ、右ノ御質疑ヲ致シタ
  ヤウナ次第デアルノデアリマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=39

  ---

• 040・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　第一ノ御尋ハ、
  此保健所ノ現在ノ計畫ヲ以テ十分デアルカ
  ドウカ、斯ウ云フ風ニ諒承致マシタガ、
  理想トシテハ尙ホ進ンデモット致シタイノ
  デアリマスガ、取敢ズアノ程度ニ止メザル
  ヲ得ナイノデアリマス、尙ホ進ンデ體育指
  導マデ實行スルヤ否ヤト云フコトニ付キマ
  シテハ、指導員ヲ置クマデニハ至リマセヌ
  ガ、學校衞生官トカ、或ハ靑年團トモ連絡
  ヲシマシテ、十分ニ此方面ニモ働カセルヤ
  ウニ致シタイト思ヒマス
  第二ニ此保健所ノ施設ヲ成ベク役所的デ
  ナク、民衆的、一般的ニ明朗ニヤレ、斯ウ
  云フ御意見デアリマシタガ、全ク御同感デ
  アリマシテ、出來ルダケサウ致シタイト思
  ヒマス
  第三ニ農村バカリデナク、都會ノ方ヘモ
  注意セヨ、斯ウ云フ御意見デアリマシタ
  ガ、是亦全ク御同感デアリマシテ、此設置
  ノ趣旨モ單ニ農村バカリデナク、殊ニ都會
  ニ於キマスル段々體格ノ劣弱ニナルト云フ
  コトニ付キマシテ、十分ナル注意ヲ致サセ
  タイト思ヒマス
  第四ニ保健所ハ治療ヲスルカドウカト云
  フ御尋ノヤウニ伺ヒマシタガ、是ハ他ノ醫
  師トノ關係等モアリマシテ、治療ノ方マデ
  手ヲ出スコトハ如何カト思ヒマス、唯衞生
  健康ニ付キマシテ、現存ノ相談所ト十分連
  絡ヲ取ッテ、一般ノ保健ニ邁進致サセタイト
  思ヒマス
  第五ニ體育運動ノ振興ト云フコトニ付キ
  マシテハ是亦全ク御同感デアリマシテ、
  今日一般國民バカリデナク、工場、鑛山等
  ニ於ケル從業員ニ對シテモ、種々ナル勸奬
  手段ヲ執リマシテ、此方面ノ奬勵ニ努メテ
  居ルノデアリマス
  第六ニ體育振興ニ付テノ行政機構ヲ改革
  シテ、或ハ體育衞生省ト云フヤウナモノヲ
  作ル意思アリヤ否ヤト云フコトデアリマス
  ガ、是ハ先程御答致シマシタヤウニ、重大
  ナル問題デアリマスノデ、今日マダ御答ヲ
  致シマスル時機ニ到達致シテ居リマセヌ
  第七ニ體育大學ヲ設置スル意思アリヤ否
  ヤト云フ問題ニ付キマシテモ、今日マダ其
  意思アリト云フヤウナ御答辯ヲ致ス時機ニ
  達シテ居ラヌノデアリマス、體育向上、壯
  丁體位ノ劣弱ニ陷ルト云フヤウナコトニ付
  キマシテハ是ハ國家トシテ重大ナ問題デ
  アリマスカラ、各種ノ機關ヲ動員致シマシ
  テ、體位ノ向上ト云フコトニ付キマシテ、
  十分ナル注意ト努力ヲ致シタイト思ヒマス
  〔服部崎市君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=40

  ---

• 041・服部崎市

  ○服部崎市君　先程御尋ヲ致シマシタ中
  デ、直接保健所法案ニ關シマスル質疑ノ點
  ニ付キマシテハ、大體內務大臣ノ御答辯ニ
  依ッテ諒承ヲ致スノデアリマス、併ナガラソ
  レニ關聯致シマシテ、眞ニ保健所ノ機能ヲ
  十分ニ發揮致シマスルノニハ、進ンデ體育
  ノ指導ニマデ至ラナケレバナラヌト言及致
  シマシタコトニ對シマシテノ御答ガナカッ
  タヤウデアリマス、殊ニ第十二囘東京「オリ
  ムピック」大會ニ對シマスル政府ノ方策ノ片
  鱗スラ伺フコトノ出來ナイコトヲ甚ダ遺憾
  ニ思フノデアリマス(拍手)是ハ今日伺フコ
  トガ出來マセネバ、適當ナル機會ニ於テ御
  答辯ヲ戴キタイト思ヒマスルシ、尙ホ其機
  會ガアリマセヌ場合ハ、書面ヲ以テヾモ御
  答ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、殊ニ現
  時ノ「スポーツ」界ノ現狀ヲ見マシテモ、全
  ク自由放任ニセラレテ居リマスル結果ト致
  シマシテ、曩ノ亞米利加ノ大會ノ如キモ、
  亦獨逸ノ大會ノ如キモ、其大會デ大ナル成
  績ヲ收メマシタニ拘リマセズ、其結果ニ於
  テ色々ナル非難ガ起ッテ居ルノデアリマス、
  是ハ政府ガ「スポーツ」ノ統制ヲセズ、餘リ
  ニ之ヲ放任シテ居ラレマスル結果ニ外ナラ
  ヌト思フノデアリマス、隨テ政府ハ「スポー
  ツレヲ統制スルト云フコトハ、是ハ或ル
  意味ニ於テ考ヘナケレバナラヌカト存ジマ
  スガ、善キ意味ニ於テ之ヲ指導シ、善キ意
  味ニ於テ之ヲ統制シテ、國家ガ助長發達サ
  セルト云フコトニ指導シナケレバナラヌト
  考ヘルノデアリマスガ、其點ニ對シテ今少
  シク御所見ノアリマスル所ヲ伺ッテ置キタ
  イト思フノデアリマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=41

  ---

• 042・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　體育ノ指導ニ
  關スル保健所ノ働キニ付キマシテハ、先程
  私ガ御答致シマシタヤウニ、特ニ指導員ヲ
  置クマデノ施設ニハナッテ居リマセヌガ、靑
  年團トカ、或ハ學校衞生官等ト特ニ連絡ヲ
  保チマシテ、體育ノ指導ト云フコトマデモ
  努メサセタイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリ
  マく、「オリムビック」ノ問題ハ、是ハ私ガ
  御答ヲ落シマシタ、段々政府ニ於テモ、或
  ハ其他ノ機關ニ於テ、著々〓究竝ニ實施ノ
  步ヲ進メテ居ルヤウデアリマスガ、是ハ私
  ヨリモ文部省ノ政府委員カラ御答スルノガ
  便宜ト思ヒマスカラ、思召ノ趣旨ハ能ク傳
  ハー)適當ノ機會ニ御答辯致サセルコトニ
  致シタイト思ヒマス、其外「スポーツ」ノ問
  題ニ付キマシテモ、是亦同樣デアラウト思
  ヒマスカラ、是等ノ點ハ能ク申傳ヘテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=42

  ---

• 043・服部崎市

  ○服部崎市君　只今ノ御答辯デアリマス
  ガ、私共ノ聞イテ居リマスルノニハ、「オリ
  ムビック」ノ組織委員會ニ對シマシテ、各省
  ノ次官ガ參加致シテ居ラレルト云フコトデ
  アリマス、之ニ參加シテ居ラレマスケレド
  モ、ソレハ名ノミデアリマシテ、實際ニ積
  極的ノ協力ヲ致シテ居ルト云フ風ニ見エナ
  イノデアリマス、或ル場合ニ於テハ費用ノ
  點ニ於テ、或ル場合ニ於テハ責任ノ轉嫁サ
  レルコトヲ恐レテ、積極的デナイト云フ非
  難ガアリマスカラ、十分其點ハ御注意ヲ願
  ヒタイト思ヒマス、之ヲ以テ私ノ質疑ヲ終
  リマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=43

  ---

• 044・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　中井一夫君
  〔中井一夫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=44

  ---

• 045・中井一夫

  ○中井一夫君　私ハ現ニ御上程ニ相成ッテ
  居リマスル國民保險法案外數件ニ關係致シ
  マシテ、其案自體竝ニ我國ノ保健衞生ノ一
  般ニ關スル問題ニ付テ、政府ニ數箇ノ質問
  ヲ致サントスル者デアリマス
  先ヅ本案提出ニ至リマスルマデノ間ニ於
  キマスル政府ノ態度ニ付テ、政府ノ所信ヲ質
  サネバナラヌモノガアルト存ズルノデアリ
  マス、本案ガ本議會ニ提出セラレマシタ後、
  本月ノ四日ニ全國ノ醫師ガ上野ニ於テ其大
  會ヲ開イタノデアリマス、然ルニ其夕方頃
  ニ警視廳ヨリ吾々議員ノ旅宿ニ警官ヲ派遣
  セラレマシテ、番頭ニ〓ゲラレテ曰ク、醫師
  ノ團體ガ出テ來テ議員ニ面會ヲ强要スルカ
  モ知レナイ、左樣ナ亂暴ナ態度ガアルナラバ、
  直チニ最寄リノ交番ニ申出ヅベシ、斯樣ナ
  コトヲ〓ゲラレテ行カレタノデアリマス、
  固ヨリ吾々ハ此警視廳ノ態度ヲ以チマシ
  テ、吾々議員ノ身邊ニ萬一ノコトナカラシ
  メンガ爲ノ御配慮ノ結果デアルトハ思ヒマ
  スケレドモ、假ニモ醫師ハ仁術ヲ行フノ國
  手トシテ自ラ任ジテ居ルモノデアリマスル
  シ、四日上野ニ開カレタ所ノ大會ノ終始ト
  云フモノハ、甚ダ平穩無事デアッタノデア
  リマス、然ルニ之ニ對シテ政府ガ仁術ヲ行
  フ國手ヲ以テ任ズル所ノ醫師ニ對シテ、
  暴力團同樣ノ態度ヲ以テ臨マレルト云フコ
  トハ、果シテ如何ナモノデアラウカ、私共
  ハ率直ニ申スナラバ、內務當局ノ非常識ナ
  ルニ驚カザルヲ得ナイノデアリマス(拍手)
  而シテ本日民政黨ノ靑木君ノ御質問ニ對シ
  マシテ、內務大臣ハ本案ノ最モ問題ニナッテ
  居ル所ノ重點デアル第九條ノ產業組合ヲシ
  テ、此保險組合ノ事業ヲ代行セシメルト云
  フ此一點、是ハ當初政府ノ內ニアリマスル
  所ノ調査會等ニ諮問シタ所ノ案ノ中ニハナ
  カッタケレドモ、其後考ヘル所アッテ之ヲ附
  加スルニ至ッタノデアル、唯斯ノ如キ附加
  ヲ致シテモ、何等問題ガ起ラナイデアラウ
  ト思ッタカラ、之ヲヤッタノダト言ハレタノ
  デアリマス、然ルニ問題ハ現ニ起ッテ居ル
  デハアリマセヌカ、從來政府ガ政府部內ノ
  調査會ニ諮問セラレタダケデナクシテ、政
  府部外ノ醫師會其他ノ方面ニ御發表ニナリ
  マシタル案ニハ、第九條ニ關スル規定ト云
  フモノハ一ツモナカッタノデアリマス、昨年
  ノ年末ニ至ッテ、農林當局ト產業組合方面ノ
  熱烈ナル要求運動ノ結果、此一項ヲ加ヘラ
  レタノデアリマシテ、而モ醫師側ノ方面カ
  ラ度々內務當局ニ對シテ其事實アリヤ否ヤ
  ヲ尋ネ合セマシタノニ、常ニ政府ハ祕シテ
  之ヲ語ラレナカッタト云フ事實ガアルノデ
  アリマス(「ヒヤ〓〓」)隨テ本案第九條ノ關
  スル限リハ、內務省案ニアラズシテ、農林
  省案デアリ、產業組合法案デアルト申シテ
  差支ナイト思フノデアリマス(拍手)旣ニ政
  府ガ保險組合法ヲ企圖致サレマシタ際ニ於
  テナカッタ所ノ第九條、今日只今之ヲ削除ス
  ルト云フコトヲ天下ニ聲明シテ、目下非常
  ナル國民間ニ悲シムベキ摩擦ノ起ッテ居リ
  マスルコトヲ、多少デモ緩和スルコトガ出
  來ルナラバ、却テ國家ノ爲デアルト信ズル
  ノデアリマスルガ、政府ノ所見如何デゴザ
  イマセウ(拍手)而シテ先程申述ベマシタ所
  ノ警察官ノ非當識ナル態度、竝ニ內務大臣
  ノ靑木君ニ對スル無責任ナル御答辯、役人
  サヘ自ラ之ヲ行フナラバ必ズ何事モ圓滿ニ
  出來ルト云フ御考ガ、今日只今斯ノ如キ紛
  糾ヲ來スニ至ッタト云フ所以ヲ深ク考ヘマ
  スナラバ、官僚獨善デハ斷ジテ天下ノ政治
  ハ圓滿ニ行ヘナイト云フコトガ御分リニ
  ナッタコトデアラウト思フノデアリマス(「ヒ
  ヤヒヤ」拍手)
  本案自體ノ問題ニ付キマシテハ、旣ニ同
  僚諸君カラ有ユル方面ニ亙ッテ御質問ガゴ
  ザイマシタ、私ハ其細カイ各個ノ問題ニ付
  テハ、之ヲ此壇上ニ於テ御尋スルコトヲ遠
  慮致シマス、唯併シ重要ナル一二點ガ殘サ
  レテ居ルト思ヒマスカラ、此點ダケヲ御尋
  致シタイト思フノデアリマス、卽チ諸君モ
  御承知ノ通リ、明治三十年ニ傳染病豫防法
  ト云フモノガ制定サレマシテカラ、我國ノ
  各地ニ衞生組合ト云フモノガ設立サレマシ
  テ、此組合ハ爾來四十年間衞生施設ノミナ
  ラズ、所謂隣保共助ノ實ニ麗ハシイ民間
  ノ重要ナル使命ヲ果ス所ノ機關ト相成ッテ
  居ルノデアリマス、併ナガラ此組合ト云
  フモノハ、唯單ニ各府縣令ニ依ッテ定メ
  ラレルト云フコトデゴザイマシタカラ、十
  分ニ其機能ヲ發揮スルコトガ出來ナカッタ
  ノデアリマス、是ガ爲ニ是等ノ關係當路者
  ハ獨立ノ衞生組合法ト云フモノヲ制定致シ
  テ、此衞生組合ニ法人格ヲ與ヘ、益〓國家ノ
  爲ニ其機能ヲ擴大强化シテ、一層活躍セシ
  メタイトノ永年ノ希望ガゴザイマシテ、此
  數年來政府ニ對シテ常ニ其要求ヲ致シテ居
  ルノデアリマス、衞生局ニ於キマシテハ、
  其主張ヲ道理アリトセラレマシテ、數年前
  ニハ衞生組合法ノ制定ニ著手スル爲ニ、相
  當ノ用意ヲモ整ヘラレタト承ッテ居ルノデ
  アリマスルガ、此問題ガ內務省ノ地方局ニ
  廻リマシタ際ニ於テ、地方局デハ我國ノ此
  地方自治制度ノ體系ト云フモノハ、一ケ谷
  府縣制ガアッテ、一方ニ市町村制ガアル、此
  二ツノ地方自治制度ノ相竝立致シテ居ルト
  云フコトガ、其體制ノ根本ナノデアルカラ、
  其市町村ノウチラニ更ニ又一ツノ法人格ヲ
  持ツ所ノ獨立シタル組合ガ出來ルト云フコ
  トハ、我國ノ地方自治ノ體制ヲ紊スコトニ
  ナルカラシテ、許可スルコトハ出來ヌトノ
  御意見ガ現ハレマシテ、是ガ爲ニ衞生組合
  法制定ノ計畫ト云フモノハ、中途デ挫折ヲ
  致シタコトガアルノデアリマス、然ルニ本
  法ヲ見マスルト、吾々ガ永年其必要ヲ唱ヘ
  テ來テ居リマシタ所ノ、所謂衞生組合法案
  ヨリモ更ニ一步進メラレタモノデアリマ
  シテ、地方自治體デアル所ノ市町村ヲ一單
  位トシテ、之ニ此保險組合ヲ作ラシテ、サ
  ウシテ其人民ヲ擧ゲテ組合員トナラシメテ、
  之ニ獨立ノ法人格ヲ與ヘラレルト云フコト
  ニ相成ッテ居ルノデアリマス、然ラバ若シ衞
  生組合法ノ制定ヲ以テ、地方自治體ノ體制
  ヲ紊スト言ハレルナラバ、此法案ヲ成立セ
  シメルト云フコトニ依ッテ、更ニ一層政府當
  局ノ嘗テ言ハレテ居ッタ、地方自治體ノ體制
  ヲ紊スト云フ結果ニナラナケレバナラヌト
  思ワノデアリマス、政府ハ果シテ從來執ッテ
  居ラレマシタ所ノ、此地方自治體ノ體制ニ關
  スル御方針ヲ、御抛擲ニ相成ッタノデアリ
  マセウカドウカ、若シ然リト致シマスナラ
  バ、此際更ニ歷史アリ、最モ我國ノ爲ニ貢
  獻致シテ參リマシタ所ノ、衞生組合ト云フ
  モノニ對シテモ、獨立シタル法人格ヲ與ヘ
  テ、衞生組合ト云フモノヲ制定シテ、其機
  能ヲ擴大强化シテ、益〓國家ノ爲ニ活躍セシ
  メルト云フコトノ御計畫ヲ立テラレルノ御
  意思ナキヤ否ヤ、此點ヲ承ッテ置キタイト
  思フノデアリマス
  次ニハ保險料徵收ノ問題ニ付テデアリマ
  ス、本法ノ制定ノ目的ト致シマシテハ、第
  一條ニ「相扶共濟ノ精神ニ則リ」ト云フコト
  ヲ明ニサレテ居ルノデアリマス、然ルニ本
  法ノ保險料其他ノ徵收金ニ付キマシテハ、
  之ヲ滯納スル者ニ對スル處分規定ガ、第八
  條ニ明記サレテ居リマス之ニ依レバ此滯
  納者ニ對シテマシテハ、市町村ハ市町村稅
  ノ例ニ依ッテ、之ヲ處分スルコトガ出來ルト
  云フコトニナリ、更ニ進ンデハ組合自體モ
  同樣ノ處分ヲ爲スコトガ出來ルト云フコト
  ニ相成ッテ居ルノデアリマス、此事ハ卽チ滯
  納者ニ對シマシテハ、國稅徵收法ノ例ニ倣ッ
  テ、其處分ヲスルト云フコトデゴザイマス
  カラ、卽チ茲ニ本法制定ノ目的ト其運用ノ
  上ニ於キマシテハ、非常ナル矛盾ガ起ルノ
  デハナイカト思フノデアリマス、僅ナル保
  險料サヘ滯納スル程ノ者ガ、金持デナイコ
  トハ明デアリマス、貧乏ナルガ故ニ保險料
  ヲ納ムルコトガ出來ナイノデアル、又病氣
  ナルガ故ニ保險料ヲ納ムルコトガ出來ナイ
  者モ多々アルデアラウト思ヒマス、之ニ對
  シマシテ此法案ト云フモノハ、直チニ何等
  ノ裁判上ノ手續ニ依ラズシテ、其者ノ財產
  ヲ差押ヘルコトガ出來ルト云フコトニ相成ッ
  テ居ルノデアリマス、鍋モ釜モ蒲團ヲモ剝
  取ルコトガ出來ルト云フコトヲ、此法案ハ
  明定ヲ致シテ居ルノデアリマス、私ハ疑ヒ
  マス、此法案ヲ實行スルガ爲ニハ、斯樣ナ
  ル氣ノ毒ナ助ケテヤラネバナラヌ所ノ者ニ
  對シテ、高利貸サヘスルコトヲ憚ルガ如キ
  熊度ヲ、直チニ市町村若クハ組合ガ爲シ得
  ルト決メナケレバ、此組合ノ維持、此組合
  ノ事業ノ運營ト云フコトガ出來ナイト云フ
  コトデアルナラバ、果シテ本法ヲ以テ現內
  閣唯一ノ社會立法デアリ、本法第一條ニ定
  ムル相扶共濟ノ精神ニ依ッテ、是ガ出來タモ
  ノト言ヒ得ルデアラウカドウカ、私ハ殘酷
  ナル徵收規定ノ如キハ、正ニ本法ノ精神カ
  ラ見マシテモ、之ヲ削除スルコトガ、本法ノ
  精神ニ合スルモノデアルト思フノデアリマス
  ガ、政府ノ所見ハ如何デゴザイマス(拍手)
  次ニ御伺致シタイト思ヒマスルコトハ、
  本法ト產業組合ニ關スル問題デアリマス、
  先程同僚議員ノ御質問ニ對シマシテ、小平
  政府委員ハ、產業組合ハ賣藥營業ヲヤッテ
  居ナイト、御答ニナッタト承知ヲ致シマシタ、
  小平政府委員ノ御答辯ハ誤デアルカ、然ラ
  ズンバ嘘デアルト云フコトヲ、私ハ玆ニ斷
  言ヲ致シマス、此處ニアリマスルモノハ、全
  國購買組合聯合會カラ配置セラレマスル所
  ノ所謂配置賣藥、各戶ニ就テ此箱ニ色々ナ
  藥ヲ入レマシテ、サウシテ斯ノ如ク澤山ア
  ルノデアリマス、是ハ一切ノ各方面ノ藥ガ
  入ッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フコトヲ全
  國購買組合聯合會ガ現ニヤッテ居ル、麗々シ
  ク此處ニ全國購買組合ノ組合家庭藥ト書イ
  テアルノヲ、小平政府委員御承知ニ相成ラ
  ヌノデアルカ、此事ハ旣ニ度々問題ニナッタ
  ノデアリマシテ、農林當局トシニモ御承知
  ニナラヌ筈ハナイノデアリマス、然ルニ此
  議會ニ於キマシテ、未ダ尙ホ之ヲ否認サレ
  ルト云フコトハ、ソレダカラ農林省ト云フ
  モノノ態度ガ、餘リニ偏頗デアリ、不公平
  デアルト云フ非難ヲ免レナイト云フコトヲ、
  能ク御考ニナラナケレバナラヌノデアリマ
  ス、而モ內務大臣ハ更ニ此點ニ付キマシテ
  取締ヲドウスルカ、又此產業組合ニ關スル所
  管ヲ內務省ニ移シテハ如何ト云フヤウナ問
  題ニ付キマシテモ、トント餘リ多クノ關心
  ヲ持タレナイヤウデアリマス、併ナガラ此
  產業組合ノ賣藥營業ト云フコトニ付キマシ
  テハ、農林省ノ問題デアッテ、內務大臣ノ知
  ル所デナイト云フ譯ニハ參ラヌコトガアル
  ノデアリマス、產業組合ノ主管ト云フモノ
  ハ成程農林省ニアルコトハ固ヨリデアリ
  マスルケレドモ、賣藥營業法竝ニ之ニ關ス
  ル所ノ取締規則ト云フモノハ、一切內務大
  臣自身ガ主宰サレナケレバナラヌノデアル、
  全購聯ハ此賣藥ヲ自ラ造ラシテ、サウシテ
  之ヲ各戶ニ配置シテ、先程同僚諸君ガ言ハ
  レタ所ノ、旣ニ賣藥營業者ガ配ッテ居ル其藥
  ヲ、靑年團ナドヲ使ウテ、利益ノ一割若ク
  ハ二割ヲ靑年團ニ與フルト云フ約束ノ下ニ、
  强制的ニ之ヲ取上ゲテ、サウシテ商人ニ返
  スト云フガ如キ、殘酷ナ亂暴ナヤリ方ヲ致
  シテ居ルノデアリマス、是レ正ニ營業ノ妨
  害ニアラズシテ何ダ、又全購聯ガ賣藥營業
  ヲスルガ爲ニハ、賣藥法ニ依リマシテ、當
  該官廳ノ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フコ
  トハ法律ノ明定スル所デアリマス、若シ一
  商人ガ無許可ノ儘ニ賣藥營業ヲヤリマスル
  ナラバ、政府ハ一體如何ナル態度ヲ以テ之
  ニ臨ンデ居ラレルカ、直チニ嚴罰デアル、
  直チニ拘引デアル、然ルニ私ハ敢テ言フ、
  橫暴ナル大資本家デアリ、大財閥デアル所
  ノ全購聯ガ之ヲ爲ス場合ニ於テ、內務大臣
  ハ其法律ノ適用サヘモスルコトガ出來ナイ
  ト云フコトデハ、一體世ノ中ノ治安ト云フ
  モノヲ、何ニ依ッテ維持スルコトガ出來ルノ
  デアルカ、此點ニ付テ內務大臣ハ責任ノア
  ル御答辯ヲ爲サレナケレバナラヌト思フノ
  デアリマス、吾々ハ固ヨリ國民ノ一人ト致
  シマシテ、產業組合ガ農村救濟ノ爲ニ立上ッ
  テ、大イニ事ヲ爲スコトニ對シ、決シテ異
  議ヲ言フ者デモナケレバ、反對スル者デモ
  ナイノデアリマスケレドモ、政府ガ之ニ對
  シテ多額ノ金ヲ與ヘ、有ユル特點ヲ與ヘテ
  居リマス所以ノモノハ、農村助カレヨト云
  フ趣旨ニ外ナラヌケレドモ、斷ジテ之ニ依ッ
  テ農民ノスベカラザル商賣ヲ自ラ致シテ、
  商人ヲヤッ付ケロト云フ趣旨デナイコトヲ確
  信致スノデアリマス(拍手)故ニ私ハ此際產
  業組合ノ亂暴ナル、其埒ヲ脫シマシタ所ノ
  ヤリ方ニ付キマシテハ單ニ是ハ農林省ノ
  所管デアルカラ、俺ハ知ラヌト云フヤウナ
  コトヲ言ハレルコトハ、甚ダ以テ怪シカラ
  ヌ御態度デアルト私ハ思フノデアリマス、
  本案自體ニ關シマスル問題ニ付キマシテハ、
  其詳細ヲ委員會ニ讓ッテ質問致シタイト思
  フノデアリマス
  是ヨリ數點我國ノ保健衞生ノ一般ニ關シ
  マスル問題ニ付テ御尋ヲ致シタイト思ヒマ
  ス、其一ツハ公娼廢止ノ問題ニ付テデアリ
  マイク今度ノ御提案ニ相成リマシタ法案ノ
  中ニハ、結核豫防ニ關スル改正法律案ガ出
  テ居ルノデアリマスルガ、我國ニ於ケル國
  民病トシテ默過スルコトノ出來ナイノハ、
  一ツハ結核デアルト同時ニ一ツハ花柳病デ
  アリマス、政府ハ結核豫防ノ爲ニハ、本議
  會ニ二百万圓餘ノ豫算ヲ要求シテ居ラレル
  ノデアリマスルケレドモ、其餘ノ花柳病ニ
  關スル問題ニ付キマシテハ殆ド施設ノ見
  ルベキモノガナイノデアリマス、此點ニ付
  テ政府ハ將來如何ナル態度ヲ以テ臨マレン
  トスルカ從來ノ如ク唯單ニ警察官ヲシテ
  賣淫者ヲ引ッ括ラシメルト云フコトダケデ
  ハ、此問題ヲ解決スルコトハ出來ナイト思
  フノデアリマス、常ニ結核ノ問題ニ付テ、
  是マデ積極的ノ態度ヲ執ラレタ以上ハ、他
  ノ一ツノ國民ノ禍ヒニ付テモ徹底シタル方
  策ヲ講ゼラルベキモノデアルト思フノデア
  リマス、公娼廢止ノ問題ハ、卽チ此問題ニ
  關係致シマスルコトハ申上ゲル迄モナイノ
  デアリマスルガ、之ヲ廢止スルガ宜イカ
  否カト云フコトニ付テノ論議ハ、旣ニ久シ
  イ間ノ問題デアリマス、而シテ內務當局ハ
  旣ニ數年以前ニ於キマシテ、之ヲ廢止スル
  ノ計畫ヲ立テラレタノデアリマスケレドモ、
  遂ニ中途ニシテ此計畫ハオ流レニ相成ッテ
  シマウタノデアリマス、併ナガラ私ノ思ヒマ
  スル所ニ依リマスルト、公娼ヲ廢止シテモ
  斷ジテ私娼ヲ根絕セシムルコトガ出來ナイ
  以上ハ、我ガ國民ノ風紀衞生ノ上カラ見テ、
  公娼ヲ廢止スルコトハ、單ニ內務省ノ若手
  ノ役人衆ノ御考ニナッテ居ルガ如キ、外國人
  ニ對スル體面上之ヲ爲サネバナラヌト云フ
  ヤウナ簡單ナ輕薄ナル考ヨリシテ、之ヲ斷
  行スベキモノデナイト思フノデアリマス、
  隨テ此問題ノ解決セラレマスルガ爲ニハ
  先以テ私娼ニ對スル對策ト云フモノヲ速ニ
  立テラレル必要ガアリ、而シテ後此問題ニ
  手ヲ染メラルベキモノデアルト信ズルノデ
  アリマスルガ、此點ニ付キマシテ內務大臣
  ノ御所見如何デゴザリマスルカ、之ヲ承ッテ
  置キタイト思ヒマス
  次ハ醫療ト迷信ニ關スル問題デアリマス、
  病者ニ對シマシテ禁厭トカ祈禱ナドヲ致シ
  テ、神符、神水ナドヲ與ヘマシテ、其醫療
  ヲ妨ゲマスルコトハ、警察犯處罰令ノ嚴禁
  スル所デアリマス、然ルニ現在營利ノ爲ニ
  斯ノ如キコトヲ致ス者ガ、都鄙到ル處ニア
  ルノデアリマシテ、現ニ數日前是ガ爲ニ我
  ガ帝都ノ眞ン中ニ於テ、氣ノ毒ナ無智ナル
  男子ヲ慘殺致シタト云フ事例ノ如キモゴザ
  イマシテ、此弊害ハ甚ダ甚大デアル、-日
  モ早ク之ヲ矯正シナケレバナラヌモノガア
  ルト思フノデアリマス、所謂迷信、之ヲ根
  絕セシメマスルト云フコトハ、單ニ國民醫
  療ノ爲バカリデナクシテ、國民精神ノ健全
  ノ爲ニモ必要デアルト存ズルノデアリマス
  ガ、內務大臣ノ御所見如何デゴザイマスル
  カ、其御所見ヲ承リタイト思ヒマス
  次ハ醫學博士ノ學位ノ授與ニ關スル問題
  デアリマス、學位授與ノ狀態ヲ昭和十年ノ
  統計ニ見マスルト、法科、文科、工科、農科、
  其他ノ部門ニ於キマシテハ、少キハ一人、
  多キモ一年ヲ通ジテ四十名ニ足ラヌノデア
  リマスルケレドモ、獨リ醫科ノ部門ニ於キ
  マシテハ、實ニ九百人ノ多キニ及ンデ居ル
  ノデアリマシテ、是ハ正ニ一日ニ三人餘ノ醫
  學博士ガ出來テ參ルト云フコトデアリマス、
  固ヨリ醫科ハ他ノ分科ト異リマシテ、〓究
  題目ガ非常ニ多イノデアリマスカラシテ、
  自然他ノ分科ヨリ學位ヲ受ケル者ノ多イコ
  トハ、私モ亦之ヲ承知シテ居リマスケレド
  モ、從來ノ實情ニ見マスルト、少クトモ論
  文ノ審査ニ付テ、學位授與ノ點ニ付テ、嚴
  正ト愼重トヲ缺ケルモノノアルコトヲ否ム
  コトハ出來ナイノデアリマス、現ニ此學位
  授與ノ問題ニ關係致シマシテ、昨年長崎醫
  科大學ニ起リマシタ不正事件ノ如キ其一例
  デアリマシテ、吾々國民ハ唯博士トサヘ云
  フナラバ、無條件デ之ヲ信賴スルト云フ氣
  風ガアルノデアリマスルカラシテ、學問ノ權
  威ノ爲ニモ、此博士號ノ授與ト云フコトニ
  付テハ、政府ハ格段ノ注意ト監督ヲセラレ
  テ、殊ニ醫學博士ノ問題ニ付キマシテハ、
  嚴重ナル態度ヲ以テ臨マルベキデアルト信
  ズルノデアリマスルガ、內務大臣ノ國務大
  臣トシテノ立場ヨリ御所見ヲ承リタイト存
  ジマス
  終リニ御尋致シタイコトハ、斷種法ノ制
  定ニ關スルコトデアリマス、卽チ精神病其
  他遺傳的ノ惡疾ヲ有シマスル人間ガ、國家
  社會ニ流シマス所ノ害毒ト云フモノハ、如
  何ニ甚大デアルカト云フコトハ申ス迄モナ
  イノデアリマス、隨ヒマシテ斯ノ如キ人間
  ノ種ヲ斷絕セシメルガ爲ニ、又之ニ依ッテ
  國民全體ノ健康ヲ增進セシメルノ資ト致シ
  マスルガ爲ニ、所謂斷種法ト云フモノガ、
  米國、獨逸、其他ノ國々ニ於キマシテ行ハレ
  テ居ルコトハ申ス迄モナイノデアリマス、
  而シテ最近我國ニ於キマシテモ、政府ハ此
  斷種法ヲ制定スルガ爲ニ、種々調査〓究ヲ
  シテ居ラレルト云フコトヲ承リマス、又或
  者ハ恐ラク近イ議會ニ、此法律ヲ提出セラ
  レルノ意思ガアルデアラウトマデ言フ者ガ
  アルノデアリマス、此際政府ハ其所見ヲ明
  ニ致シマシテ、サウシテ此問題ノ解決ニ付
  テ如何ナル意思ヲ持ッテ居ラレルカ、之ヲ承
  リクイト思フノデアリマス
  以上數點、各方面ニ亙ッテノ質問デゴザ
  イマスケレドモ、此際御答辯ヲ仰イデ、更
  ニ不審ノ點ガアリマシクナラバ、改メテ御
  尋ヲ致スコトニ致シマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=45

  ---

• 046・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　色々ノ御尋デ
  アリマシタガ、先ヅ第一ニ先日上野デ醫師
  會ガ開カレマシタ時ニ、警察官ガ關係方面
  ニ出テ、色々ノ所謂脅迫者ヲ取締ルヤウナ
  態度ヲヤッタ、斯ウ云フヤウナ御話デアリマ
  シタガ、是ハ私事實ヲ存ジマセヌカラ、能
  ク調ベマスガ、併シ私ノ想像デハ、外ノ色
  色ノ無賴漢ナドトハ違ヒマシテ、立派ナ紳
  士デアリマスカラ、ソレ程ノヤウナ事ガアッ
  タモノトハ、私ニハ想像致サレマセヌガ、
  此點ハ尙ホ能ク調査致シマス
  ソレカラ第九條ノ問題デ、私ガ之ヲ入レ
  テモ問題ハ起ラヌダラウト云フヤウニ御答
  シタヤウニ御話ニナリマシタガ、私ノ述べ
  マシタ趣旨ハ、是ハ根本ノ國民健康保險法
  全體トシテハ、極ク些細ナ部分デアッテ、全
  體トシテ重要ナ部分デナカッタカラ、アトカ
  ラ段々〓究ノ結果、根本趣旨ハ社會保險調
  査會ニ掛ケタノデアルガ、斯ウ云フ風ナ大
  シタ問題デナイモノハ、アトカラ入レテモ
  宜カラウト云フコトデ入レタト、斯ウ云フ
  意味ニ申上ゲタノデアリマス、ソレカラ此
  點モ必シモ醫師會等ニ不意討ニ出シタノデ
  ハナイノデアリマシテ、十二月ノ醫師會ノ
  大會ニハ、當時明瞭ニ此第九條ノ點ヲ說明
  シタト云フコトデアリマシタ、是ハ係ノ役
  人ノ申シマスコトデ、信ジテ宜イト私ハ確
  信致スノデアリマス
  ソレカラ何カト色々ナ摩擦ヲ成ベクナ
  クスル方ガ、內務行政トシテ最モ適當デナ
  イカト云フヤウナ御意見デアリマシタガ、
  是ハ御尤デアリマシテ、私モ成ベク社會ハ
  協調圓滿ニ行クノガ最モ宜イノデアリマス
  カラ、成ベク摩擦ヲ少クシタイト思ヒマス
  ガ、一面ニ於キマシテ御醫者サンハ、兎モ
  角醫師會ト云フヤウナ强力ナ〓體ヲ持ッテ
  居ッテ、直チニ其利害ナリ意思ヲ、ソレノ
  ノ方面ニ愬ヘルコトガ出來ルノデアリマス
  ガ、此國民健康保險ノ恩澤ニ浴シヨウト云フ
  多數ノ極ク困ッタ人ハ、數ハ多イケレドモ、
  纏ッタ意向ヲ表示スルコトハ出來ナイノデ
  アリマスカラ、是等ノ點ニ付キマシテハ、
  私ハ皆樣ト共ニ十分ナル同情ヲ拂ヒタイト
  思フノデアリマス(拍手)
  ソレカラ衞生組合法ヲ制定シテ、衞生組
  合ニ法人格ヲ與フル必要ハナイカト云フ御
  意見デアリマスガ、是ハ先程御述ニナリマ
  シタヤウニ、之ニ法人格ヲ與ヘルコトノ可
  否ト云フコトニ付テハ從來色々問題ガア
  リマシテ、御述ニナリマシタヤウニ、所謂
  此仕事ハ市町村ナリ何ナリ、所謂自治團體
  ノ仕事ト混同スル所ガアリマスノデ、容易
  ニ法人格ヲ與ヘテ、地方市町村ノヤウナ自
  治體以外ニ、斯ウ云フ組合ニ法人格ヲ與ヘ
  ルコトガ、適當ナリヤ否ヤト云フコトニ付
  キマシテハ、非常ニ問題ト爲スベキ點ガ多
  イノデアリマス、隨ヒマシテ此點ハマダ結
  著致サヌノデアリマス、ソレナラ此健康保
  險組合アタリニ法人格ヲ與ヘル必要ハナイ
  ヂヤナイカ、斯ウ云フ御意見ノヤウニ伺フ
  ノデアリマスガ、是ハ衞生組合トハ自ラ性
  質ヲ異ニシテ-所謂衞生組合ノ方ハ、或
  ル傳染病ノ豫防トカ云フヤウナ、市町村ノ
  ヤッテ居ル仕事ノ手傳ヲスル、若クハソレト
  同ジヤウナ仕事ヲスルノデアリマスガ、此
  國民健康保險組合ト云フモノハ、全ク醫療
  ヲヤルダケデアリマシテ、市町村ノヤッテ
  居ラヌ仕事ヲヤルノデアリマスカラ、是ハ
  別個ニ法人格ヲ與ヘテ少シモ矛盾シナイト
  思フノデアリマス
  ソレカラ保險料徵收ノ問題デアリマスガ、
  是ハ所謂普通ノ會社等ノ保險ト違ヒマシテ、
  國民健康保險ニ於キマシテハ、直チニ醫療
  ヲ致シテヤルノデアリマス、他ノ會社等ノ
  保險ニ於キマシテハ、保險料ヲ拂ハナカッタ
  場合ニハ、保險ニ對スル反對給付ヲ與ヘナ
  イト云フコトデ濟ミマスガ、此組合ハ醫療
  ヲ爲スト云フコトガ主眼デアリマシテ、保
  險料ノ納付ト云フモノハ、ソレ〓〓ソレニ對
  スル對價トシテ納メルノデアリマスカラ、
  假令保險料ノ納付ガナクテモ、病人ヲ差措
  イテ其儘放ッテ置ク譯ニハ行カヌノデアリマ
  ス、直チニヤハリ適當ナル醫療給付ヲ致サ
  ナケレバナラヌ、併シサレバト云ッテ、保險
  料ノ納付ヲ滯納スル者ニ付テ、其儘放任シ
  テ置キマスト云フコトハ、其人ダケナラ宜
  シウゴザイマスケレドモ、此組合ト云フモ
  ノハ皆ガ持寄ッテソレ〓〓ノ負擔ヲシテ、
  サウシテ維持シテ居ルノデアリマスルカラ、
  ヤハリサウ云フ滯納者ガ澤山出ルト云フコ
  トニナリマシテハ、他ノ人ガ困ルノデアリ
  ママ、ダカラヤハリ是ハ相當强制徴收ノ途
  ダケハ開イテ置クコトガ必要デアル、斯ウ
  云フ風ニ思ヒマスガ、併ナガラ實際ノ施行
  トシテハ、サウ濫リニ强制徵收、先程御例
  示ニナリマシタヤウナ、困ッタ人ノ布團ヤ
  鍋釜マデ持ッテ行クト云フコトハサセナイ
  デ、ソコハ穩當ニ行クモノデアラウ、斯ウ
  云フ風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ賣藥營業ノ問題デアリマスルガ、
  是ハ根本ハ農林省ノ政府委員ノ方カラ答ヘ
  ラレルダラウト思ヒマスガ、內務省ノ關係
  トシテハ、ヤハリ賣藥營業者ト同樣ニ許可
  ヲ必要ト致シテ居ルノデアリマス、許可ノ
  手續ハ濟ンデ居ルヤウデアリマス
  ソレカラ公娼廢止ノ問題デアリマスガ、
  是ハマダ內務省トシテハ決定致シテ居ルモ
  ノデハナイノデアリマスカラ、大體左樣ニ
  御諒承ヲ願ヒマス
  ソレカラ迷信類似ノ取締ニ付キマシテハ、
  是ハ只今御述ニナリマシタヤウニ、隨分色
  色ナ弊害ガアル場合ガ見ラレルノデアリマ
  ス、之ニ付キマシテハ警察犯處罰令ニ依リ
  マシテ、出來ルダケ取締ノ厲行ヲ致シタイ
  ト思ヒマス
  ソレカラ博士號ノ問題デアリマスガ、是
  ハ私カラ御答スルノハ聊カ筋外レノヤウニ
  思ヒマスノデ、內務省ニ關スル限リニ於テ
  御答ヲ致シテ置キマスガ、學位ヲ所謂醫業
  廣〓トシテ認メルカドウカ、之ヲ或ハ取締
  ルベキカドウカト云フコトニ付キマシテハ、
  是ハ相當〓究ヲ要スル問題ト致シマシテ、
  目下〓究中デアリマス
  ソレカラ斷種法ノ問題デアリマスガ、是
  ハ將來優良ナル國民ヲ作ッテ行ク上ニ於キ
  マシテ、一ツノ見識デアリマシテ、洵ニ御
  尤ナ御意見トハ存ジマスルガ、事重大デア
  リマスルシ、且ツ遺傳性疾患ノ範圍トカ、
  或ハ其發病ノ程度トカ、斷種法ノ效果、其
  他ニ付キマシテ、是ハ愼重ナル〓究ヲ致サ
  ナケレバナラヌノデアリマスカラ、一寸輕
  輕ニ此法ヲ制定スルト云フ風ニ御答出來兼
  ネルノデアリマス
  〔政府委員小平權一君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=46

  ---

• 047・小平權一

  ○政府委員(小平權一君)　只今ノ全購聯ニ
  對スル御質問ニ御答致シマス、先程私ガ全
  購聯ノ御質問ニ對シテ御答致シタノデアリ
  マスガ、其意味ハ、前議會ノ豫算分科會ニ
  於キマシテ、私カラシテ全購聯ハ賣藥ヲ致
  シテ居リマスケレドモ、自ラ製造致シマセ
  ヌト、斯ウ御答シタノデアリマス、其後自
  ラ製造シテ居リマセヌト云フコトニ付キマ
  シテ、本日御質問ガアッタノデアリマスガ、
  其意味ハ、全購聯ハ自ラ工場ヲ持ッテ居リマ
  セヌノデ、他人ノ工場ニ於キマシテ、全購聯
  ノ配置シマス藥劑師ノ指揮ニ依ッテ製造ス
  ルモノヲ全購聯ニ引受ケテ、ソレヲ配給致
  シテ居ルノデアリマスカラ、其實質ヲ捉ヘ
  テ、私ハ前議會ニ於テ自ラ製造致シテ居リ
  マセヌト、斯ウ御答シタノデアリマス、左
  樣御諒承願ヒマス
  〔中井一夫君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=47

  ---

• 048・中井一夫

  ○中井一夫君　全購聯ノ賣藥ノ營業販賣ト
  云フコトニ付キマシテハ只今小平部長ノ
  答ヘラレタコト自體ソレガ營業ニ相成ルノ
  デアリマス、然ルニ其事實ヲ自ラ認メナガ
  ラ、之ヲ營業ニアラズト云フガ如キコトハ、
  卽チソレヲ三百代言ノ言ヒ方ナリト云フノ
  デアリマス(拍手)願クハ更ニ此問題ノ調査
  〓究ヲ遂ゲラレテ、速ニ適當ナル、且ツ嚴
  重ナル處置ヲ執ラレンコトヲ希望致シマス
  內務大臣ノ御答辯ニ付キマシテハ一々私
  ハ之ヲ承服スルコトハ出來ヌノデアリマス、
  併ナガラ此保險組合ニ於ケル保險料ノ徵收、
  其處分方法ノ殘酷ナル結果ヲ見ルガ如キコ
  トノ問題ニ付テノ御答辯、此點ニ付テダケ
  ハ一言申述ベナケレバナラヌト思ヒマス
  此問題ハ色々御說明デゴザイマシタガ、結
  局私ヲ、否吾々國民ヲ承服セシムルコトガ
  出來ヌコトハ申ス迄モナイノデアリマスル
  ガ、現ニ此徵收法ノ餘リニモ嚴重デアルガ
  故ニ、最近大阪市ニ於キマシテハ非常ナ
  ル一ツノ社會問題ヲ惹起致シタノデアリマ
  ス、卽チソレハ昨年ノ九月ニ健康保險料滯
  納ノ爲ニ差押ヲ受ケタ大阪ノ一印刷業者
  ガ、憤激ノ餘リ大阪府健康保險課ノ泉尾出
  張所ニ侵入致シマシテ、府廳ノ建物ノ內ニ
  於テ所長以下四人ノ課員ヲ殺傷致シマシ
  ク更ニ石油ヲ打撒イテ放火ヲ致シタト云
  フ事實ガアルノデアリマス、而シテ其原因ハ卽
  チ印刷工場ヲ持テル印刷業者トシテ、僅カ
  十數圓ノ健康保險料ヲ滯納致シマシタニ對
  シマシテ、此泉尾出張所ノ役人達ハ、卽チ
  只今問題トナッテ居リマスル所ノ此條文ヲ適
  用シテ、サウシテ之ヲ差押へ、直チニ競賣
  ニ付シタノデアリマスガ、此印刷營業者ガ
  唯一ノ財產トシテ持ッテ居リマシタ時價千
  五百圓ノ印刷機械ヲ、僅カ十數圓ノ保險料
  滯納ノ爲ニ打賣ッテシマッタノデアリマス、
  是ガ爲ニ此印刷業者ハ其商賣ヲスルコトガ
  出來ナクナッテ、國家ノ保險ノ爲ニ是ダケノ
  殘酷ナル目ニ遭ハサレルト云フ以上ハ、誰
  ヲカ恃マウト云フノデ、自ラ泉尾出張所
  ニ出掛ケテ行ッテ、所長以下四人モノ者ヲ殺
  傷致シマシテ放火スルコトニ相成ッタノデ
  アリマス、只今本法案ニ付キマシテ、特上
  一項ヲ擧ゲテ私ガ御質問致シマシタニ付キ
  マシテハ、斷ジテ將來憂ヒノナイ問題デハ
  ナイノデアッテ、現ニ此事實ガアルト云フコ
  トヲ私ハ知ッテ居リマスカラ、特ニ之ヲ申
  述ベテ、政府ニ警〓ヲ發シ、旁、所謂相互ニ
  村ノ者町ノ者等ガ抱合ウテ安樂ニ暮サウト
  云フノガ、此保險組合法ノ精神デアルナラ
  バ、滅多ニ行ハヌ手續デアラウケレドモ、
  斯ノ如キ殘酷ナル悲慘ナル結果ヲ來スガ
  如キ處分方法ハ、思切ッテ御取リニナルト云
  フコトガ當然デアルト考ヘマシタカラ、之
  ヲ申上ゲタノデアリマス、敢テ此實例ヲ
  內務大臣ニ更メテ申述ベテ、內務大臣ノ御
  再考ヲ願ヒタイト思ヒマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=48

  ---

• 049・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今御述ニナ
  リマシタ大阪ニ於キマスル實例ハ多少違フ
  所モアリマスガ(「ノー〓〓」)其事實ハアツ
  タヤウデアリマス、是ハ併シ工場鑛山ニ於
  ケル健康保險組合ノ例デアリマシテ、現
  仕事ヲヤッテ居ル人デアッテ、其事情ニ於キ
  マシテハ色々ノ關係モアルヤウデアリマス
  ガ、併シソレ以來十分ニ保險課長或ハ保險
  所長ニ注意ヲ加ヘマシテ、無理ナコトノナ
  イヤウニ致シテ居リマス、唯此國民健康保
  險組合ノ問題ニ付キマシテ、度々ノ御言葉
  デアリマシタケレドモ、是ハ先程私ガ申シ
  マシタヤウニ、大勢ノ人ガ集ッテ、金ヲ出シ
  合ッテ維持シテ居ルノデアリマスカラ、其一
  人ノ人若クハ團體ノ何等滯納ニ對スル處分
  法ヲ規定シテ置キマセヌト、滯納ノ人ガ殖
  エマス、サウスルト結局其組合トシテノ經
  營ガ成立タナクナッテ、結局ハ組合員ノ他ノ
  人ニモ迷惑ヲ及ボスヤウニナリマスカラ、
  ヤハリドウシテモ滯納ノ場合ニハ、斯ウ云
  フ手段ニ依ルゾト云フコトハ、規定シテ置
  クコトガ必要ノヤウニ思ヒマス、唯度々申
  シマスヤウニ、殘酷ナ處置ハスベキモノデ
  ハナイ、斯ウ云フ風ニ存ズルノデアリマ
  ス、尙ホ又此國民健康保險組合ノ組合員
  ハ、所謂極貧者ニアラズシテ、極貧者ト云
  フノハ救護法ニ依リマスノデ、兎ニ角若干
  ノ持寄リノ出來ル者ヲ集メルノデアリマス
  カラ、成ベク其心掛ヲ良クスルト云フ意味
  ニ於キマシテモ、或ル意味ノ强制徵收手段
  ヲ設ケテ置クコトガ適當ト思フノデアリマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=49

  ---

• 050・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　政府ノ答辯ハナイ
  ヤウデアリマス、中井君、宜シイデスカ-
  行吉角治君
  〔行吉角治君登壇〕
  〔「贊成カ反對カ、先ニ言ッテ吳レ」ト呼
  フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=50

  ---

• 051・行吉角治

  ○行吉角治君　贊成ダ(拍手)提案致サレマ
  シタ國民健康保險法案ニ付キマシテ申上ゲ
  タイ、本案ハ多年醫療問題デ苦ンデ居リマ
  シタ所ノ、中產階級以下農山漁村ノ貧困者
  ノ醫療及ビ保健保護等ニ對シマシテ重大ナ
  ル關係ヲ持ツト共ニ、跛行的保健行政ヲ是
  正改革致シマス使命アルノミナラズ、卽チ
  大衆ノ貧困防止ヲ目的トスルモノデアルガ
  故ニ、吾々國民ノ代表者ト致シマシテハ、
  本案ノ審議ニ當リマシテ、極メテ愼重、眞
  劍ナル態度ヲ以テ議決スベキ責務ガアルノ
  デゴザイマス(拍手)現時我國ノ醫學醫術
  ガ世界ニ冠タルノ發達ヲ遂ゲマシテ、約八
  千有餘人ノ醫學博士ヲ算フルニ至リマシタ
  コトハ、國民健康上洵ニ喜ブベキコト
  デゴザイマス然ルニ此發達ハ唯醫療醫
  學及ビ病理學ノミニ偏シマシテ、一方的ノ
  發達ノミニ貢獻致シマシテ、一般大衆ノ
  治療、社會衞生、豫防醫學等、國民體位ノ
  向上ニ必要ナル保健行政竝ニ醫療制度ニ對
  シテハ、全ク無方針、無統制ノ悲觀的狀態
  ニ置カレテアルノデゴザイマス(「ヒヤ〓〓
  拍手)ソレハ一體何ニ原因スルカ、我國ノ
  醫術ガ開業醫制度ノ發達ノ儘ニ放任致サレ
  マシテ、營利中心主義トナッタカラデアリマ
  ス(「ヒヤ〓〓」拍手)速ニ此偏在的、跛行的
  醫療制度竝ニ保健制度ヲ是正改革致シマシ
  テ、國民大衆ノ負擔ノ輕減ヲ期スベキデア
  リマス、尙ホ國民體位ノ低下ハ、直接ニ内
  治外政ハ固ヨリ、國防問題ニ重大ナル關係
  ヲ持ツモノデアリマス(拍手)吾々國民ト致
  シマシテハ、現下ノ非常時ニ對シテ、第
  番ニ國防問題ヲ考ヘナケレバナリマセヌガ、
  國防費、軍事豫算等ヲ厖大ニ計上致シマシ
  タノミデ、眞ニ國防ノ充實ヲ完備スルコト
  ハ出來得ナイノデゴザイマス、卽チ官民協
  力一致イタシマシテ其完成ヲ期スルコトガ、
  是ガ現下ノ國民ノ使命デアルト思フノデゴ
  ザイマス、現下ノ國民ノ務メデアルト思フ
  ノデゴザイマス、就中全國約七割ノ數字ヲ
  示シテ居リマスル所ノ農村ノ子弟コソ、實
  ニ軍務ノ中樞ト言ハナケレバナリマセヌ
  然ルニ現時農村ニ於ケル壯丁ノ體位ノ低落
  致シマシタコトハ實ニ著シキモノガアル
  ノデゴザイマス、昭和十年ノ徵兵檢査ノ成
  績ヲ見ルニ、丙丁種ガ約四割ノ多數ヲ占メ
  テ居ルノデゴザイマス、都市ト農村トノ體
  位ノ比較ヲシテ見マスルト、都市ニ於キマ
  シテハ千人ヲ單位ト致シマシテ、其死亡率
  ハ約一七%ヲ示シテ居ルノデゴザイマス
  ガ、空氣モ宜シイ、勞働モ非常ニ旺ンデア
  ル所ノ農村ニ於キマシテ、却テ反對ノ現象
  ヲ示シテ居リマスノハ如何デスカ、而モ千
  人ヲ單位ト致シマシテ、約二〇%ノ數字ヲ
  示シテ居ルノデゴザイマス、此原因タルヤ
  何カラ來ルモノデアリマセウカ、農村ノ疲
  弊困憊極リナキ貧困ヨリ來ルモノト云フコ
  トハ、論ヲ俟タナイノデゴザイマス、社會
  局ノ統計ニ依リマスト、國民ノ醫療費負擔
  額ハ各一戶當リ二十五圓前後ヲ要スルト稱
  サレテ居ルノデゴザイマス、現時ヤカマシ
  ク唱ヘラレテ居ル所ノモノハ、農村ニ於ケ
  ル戶數割撤廢ノ問題デゴザイマス、一円
  當リ平均一圓五〇錢乃至二圓ノ戶數割ス
  ラ滯納スル者ノ多クアル農村ニ於キマシ
  テ、二十五圓ト云フヤウナ重壓的醫療費
  ノ負擔ガ堪ヘ得ルデアリマセウカ、之ヲ如
  何ニシテ救濟スルカ、卽チ醫師ノ地域的分
  布ノ偏在ヲ是正致シマシテ、農村ヘノ囘收
  ヲ期シ、醫療費ノ大衆化ヲ圖ッテ、負擔ノ輕
  減ヲ圖リ、又豫防醫學ノ普及發達ヲ圖ルト
  共ニ、醫療ト社會的施設トノ關聯ヲ密接ニ
  致シマシテ、國民保健ノ發達、國民體位ノ
  向上ヲ期スルコトデアリマス、以上ハ醫療
  行政是正改革ノ根本策デアルト思フノデゴ
  ザイマスガ、此理由ニ基キマシテ、次ノ數
  點ニ亙リマシテ政府ノ所信ヲ質サントスル
  モノデアリマス
  第一、近時開業醫ハ全ク營業化シテ居ル
  ガ、之ニ對シテ營業稅類似ノ課稅ヲスル用
  意アルヤ否ヤ、我ガ日本ノ醫術ハ昔カラ仁
  術ヲ以テ任ジテ居ルノデアリマシテ、國民
  大衆ハ之ニ對シテ常ニ敬意ヲ拂ッテ居ルモ
  ノデアリマス、法律ニ依ッテ定メラレテ居
  ル所ニ依レバ、醫ハ營業ニアラズトアリ、
  而モ其醫師ニ致シマシテ、今囘本案ノ提出
  セラレルヤ全國津々浦々ヨリ三千五百名ノ
  醫師代表ガ上京致シマシテ、上野精養軒
  ニ於キマシテ醫師大會ヲ開キマシテ、本
  案ニ對シ修正決議ヲ致シタノデゴザイマ
  ス、其目的ハ自己ノ利害得失ニ重點ヲ置
  イタモノデゴザイマス(拍手)醫師ハ國民ノ
  生命ヲ預ルベキ重大ナ責任ガアリマス、此
  重大ナル責任ヲ沒却致シマシテ、多クノ醫
  者ハ多クノ患者ヲ放棄致シマシテ、自己ノ
  利害得失ノ爲ニ、斯ル行動ヲ執ッタト云フコ
  トハ、國民大衆ニ對シテ實以テ不親切極マ
  ルモノト言ハナケレバナリマセヌ(「其通
  リ」ト呼フ者アリ)苟モ醫者タル者ガ仁ヲ忘
  レ、己ヲ忘レ、自ラ營業タルコトヲ是認シ
  タモノデアリマス、全ク營業化シマシタ所
  ノ開業醫ニ對シテ、當局ハ斷然營業稅類似
  ノ課稅ヲ致ス必要ガアルト信ズルノデアリ
  やく、此點當局ノ御所見ヲ御尋致シタイ
  第二ハ醫藥分業法案ヲ提出スル意思アリ
  ヤ否ヤ、先年醫藥分業法案提出サレルト同
  時ニ、今囘ト同ジヤウニ全國ノ開業醫ハ之
  ニ猛烈ナル反對ヲ起シタノデゴザイマス、
  其結果ト致シマシテ、醫藥分業法案ハ有耶
  無耶ノ裡ニ葬リ去ラレタノデゴザイマス、
  此時國民大衆ハロヲ極メテ政府當局ト、國
  民ノ代表者デアル所ノ吾々議員ニ對シテ痛
  罵ヲ浴ビセタノデゴザイマス(「ノー〓〓
  「ヒヤ〓〓」)苟クモ吾々代表者タル者、其
  責務ヲ忘レテ、而モ一部ニ制限ヲ加ヘラレ
  テ居ル所ノ有產階級ノ僅ニ全國六万ノ醫者
  ニ味方ヲシタ、而モ甚シキニ至リマシテハ、
  裏面ニ何モノカガアッタ如ク錯覺ヲ起シタ
  ノデゴザイマス、國民ノ代表者タル者、此
  點注意ヲ要スルコトデアルト思ヒマス、今
  囘提出サレマシタ所ノ法案ニ對シテ、本員
  聞クニ堪ヘナイ風說ヲ聞クノデゴザイマス、
  本員全ク之ヲ信ジタクナイノデゴザイマス、
  巷間傳フル所ニ依リマスト、今囘モ醫師會
  ニ於キマシテハ、今日迄ノ經費二十數万圓
  ヲ使ッタト傳ヘラレテ居ルノデゴザイマス、
  全國カラ集リ來リマシタ所ノ醫者ノ代表者
  ガ三千人ヤ五千人上京致シマシテ、滯在致
  シマシタカラト申シマシテ、二十數万圓以
  上ノ金ノ要ル筈ハナイト思フノデゴザイマ
  ス(拍手)而モ吾々政黨人ト致シマシテ、現
  時ハ政黨ノ信用挽囘ニ獻身的努力ヲ拂ッテ
  居ル途上デアリマス、斯ル忌ハシキ風評ス
  ラ聞クノハ堪エ忍ビ得ナイノデアリマス(拍
  手)醫師會側ノ言分ヲ聽イテ見マスルト、醫
  藥分業法案ト同様ニ本案モ葬リ去ラレル自
  信アリト申シテ居リマス、恐ラク此醫師會
  ノ言分ハ、本員一人ガ耳ニ致シタノデハナ
  イト思フ、吾々國民ノ代表者タルモノハ
  此時ニ當リマシテ議會ノ權威ノ爲メ、議員
  ノ信用ノ爲メ、愼重ナル態度ヲ以テ之ニ臨
  マナケレバナリマセヌ(拍手)政府ハ大衆ノ
  貧困防止ヲ目的トスル限リハ、醫藥分業法
  案ヲモ提出致シマシテ、眞ニ其完成ヲ期ス
  ベキモノデアルト考へルモノデゴザイマス、
  先輩諸兄登壇致サレマシテ、全國ニ三百万
  ノ藥屋アリ、六万ノ醫師アリ、本案ニ依ッテ
  其生活ニ脅威ヲ感ズルコトニナルト論ゼラ
  レタ、然ラバ本案提出サルヽト同時ニ、若
  クハ次ノ議會ニ於キマシテ、醫藥分業法案
  ヲ政府案トシテ提出サルヽコトガ現下ノ急
  務デアルト信ズルモノデアリマス(拍手)此
  點特ニ政府當局ノ御所見ヲ伺ヒタイ
  第三開業醫ノ中ニハ暴利ヲ貪ル者アリ、
  之ニ對スル當局ノ取締方法如何、醫師法ニ
  依ッテ定メラレマシタ法規アルニ拘ラズ、都
  市農村ヲ通ジマシテ貧困者ノ往診ニ對シテ
  之ヲ無下ニ拒絕スル醫者ガアル、尙ホ一囘
  ノ往診料三十圓五十圓ヲ貪ル醫者ガアル、
  藥價ノ如キモ一定ノ規定ハアルガ、ソレハ
  無意味デアリマス、ソレニハ但書ガ附シテ
  アルノデゴザイマス、但シ高價藥ニ限リ其
  限リニアラズ、然ラバ都市農村ヲ通ジマシ
  テ、貧困者ハ名醫ノ診察ヲ受ケルコトモ出
  來ネバ、高價藥ヲ服用スルコトモ出來得ナ
  イ狀態ニアルノデアリマスガ、之ニ對スル
  當局ノ取締方法、而モ之ヲ法律化シテ嚴格
  ニ御取締アランコトヲ切望スルモノデアリ
  やっ、此取締方法如何
  第四健康保險組合ニ加入スル力ノナイ貧
  困者ニ對シテハ、當局ハ如何ナル對策アリ
  ヤ、都市ト農村ヲ通ジマシテ、病氣ニ罹ツ
  テモ醫者ニ掛カルコトガ出來得ナイ者ガ多
  クアル、殊ニ農村ニ於キマシテハ最近益ミ
  增加致シマスシ、醫師ハ段々都會ニ集中ス
  ルヤウニナッテ參リマシタ、其結果ト致シマ
  シテ全國三千四百箇町村ハ、唯一人ノ醫者
  モ居ナイ町村ガアルノデゴザイマス、之ヲ
  無醫町村ト致シマシテ放任サレテ居ルモノ
  デアリマス、斯ル狀態ニ付キマシテ貧困者
  ニ國民健康保險組合ト云フ至極結構ナ
  ル救濟機關ガ出來上リマシテモ、之三
  加入スルコトガ出來得ナイ貧困者ガ多數ア
  ルトシタナラバ、之ニ對シテハ政府ハ積極
  的ニ對策ヲ講ズル必要ガアルト思フノデゴ
  ザイマス、此點特ニ此對策ニ付テハッキリ
  御答ヲ賜リタイ
  第五ハ本案ノ運用ヲ誤ル時ハ、却テ惡結
  果ヲ招來スル虞アリ、之ニ對スル當局ノ取
  締方法如何、本案ハ第九條ノ定メル所ニ依
  レバ、代行機關ヲ設ケ、之ニ經營ヲ委ネテ
  其運用ヲ爲サシムルトアルガ、是ハ相扶共
  濟自治的產業組合ヲ此經營ニ當ラシメルモ
  ノナリト考ヘルガ、其點至極結構デアルト
  思フガ、現在多クアル產業組合ノ中ニ此種
  ノ健康保險制度ヲ既ニ實施サレテ居ルモノ
  ガアル、中ニハ頗ル不合理千萬ナルモノガ
  アル、一例ヲ擧ゲレバ、醫療費ヲ滯納致シ
  タル患者ニ對シテハ、往診ヲ拒絕セシメタ
  ル事實ガアルノデアリマス、尙ホ醫師ニ於
  テモ普通患者ト差別待遇ヲ故ラニ爲ス者ガ
  アルノデゴザイマス、其結果ト致シマシテ
  ハ醫療低下ヲ招來致シテ、貧困防止トナ
  ラズシテ、却テ醫師ノ大衆搾取トナル虞ガ
  アル、又組合加入員ノ不良被保險者ヲ製造
  スルガ如キ懸念ガアル、尙ホ此運用方法ニ
  付キマシテ、當局ノ意見ヲ承リタイ、以上
  第一、第二、第三、第四、第五ノ本員ノ質
  疑ニ對シテ政府當局ノ率直ナル親切ナ御答
  ヲ賜リタイ(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=51

  ---

• 052・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　第一ノ御質問
  ハ醫者ニ對シテ營業稅ヲ課スル意思アリヤ
  否ヤ、斯ウ云フ御尋デアリマシタ、外國ノ
  事例ヲ申上ゲテ見マスト云フト、營業竝ニ
  相當重稅ヲ課シテ居リマス處ハ、墺太利ト
  力獨逸ノ「ブレーメン」「リッペン」ト云フヤ
  ウナ方面デアリマス、英吉利ハ、ヤハリ營
  業稅トシテ割合ニ輕ク課シテ居ル、斯樣ナ
  狀況デアリマス、醫業ニ對シマシテ營業ヨ
  リモ特ニ輕ク課シテ居リマスノハ、卽チ勤
  勞並ノ取扱ヲ爲シテ居ルノハ米國トカ佛蘭
  西ト云フヤウナ國々ノヤウデアリマス、我
  國ハ從來醫ハ仁術ト云フ取扱ヲ受ケテ居リ
  マシタノデ、ヤハリ尙ホ此風習ヲ維持シテ、
  成ベク醫ハ仁術ナリト云フ風習ヲ存續致サ
  セタイヤウニ思フノデアリマス、隨ヒマシ
  テ只今直グ營業稅ヲ課スルト云フヤウナ所
  マデハ行カヌシ、又サウ云フコトヲスルノ
  ガ善イカ惡イカ、尙ホ十分ノ考究ヲ要スル
  ト思ヒマス
  ソレカラ醫藥分業法案ヲ提出スル意思ア
  リヤ否ヤ、是ハ一面カラ申シマスト云フト、
  洵ニ立派ナ御見識ト考へルノデアリマスガ、
  併シ一方ニ於テハヤハリ我ガ國民ノ衞生思
  想ノ狀態トカ、或ハ患者ノ便不便ト云フヤ
  ウナコトモ考慮致サナケレバナラヌノデア
  リマシテ、此點ニ付テハ尙ホ愼重ナル講究
  ヲ加ヘタイト思ヒマス
  開業醫中可ナリ高イ藥價等ヲ取ル者ガア
  ルノデ、卽チ此暴利ヲ取締ル方法ハナイ
  カ、又之ヲ法制化スル必要ハナイカドウカ
  ト云フ御尋デアリマシタガ、藥價ノ制定若
  クハ診察料ノ制定ト云フモノハ中々ムツカ
  シク、且ツ色々ナ傳統ガアリマシテ、是亦
  今日直チニ法律ヲ以テ規定スルー而モ藥
  ニハ色々ナ價格ノ違ヒガアリマシテ、所謂
  藥價令ノ制定ノ必要アリヤ否ヤト云フヤウ
  ナ問題モアリマスノデ、是亦急ニ斯ウ云フ
  規定ヲ設ケルヤウナ譯ニハ行カヌノデハナ
  イカ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ第四ノ組合ニ加入スル力ノ無イ
  者ニ付テハ如何ナル對策ガアルカト云フ、
  洵ニ御同情ノアル御言葉ヲ伺ッタノデアリ
  マスガ、仰シヤル通リ可ナリ農村其他ニ於
  テ組合費ノ負擔ニモ堪ヘヌヤウナ氣ノ毒ナ人
  ノアルコトハ事實デアリマスカラ、一ノ五〇
  於テ組合ニ對シマシテ、相當ノ補助ヲ國家
  カラ致シテ居ルノデアリマスカラ、假令組
  合費ガ直チニ納入出來ナクテモ、出來ルダ
  ケ町村等ニ於テ、全町村ノ人ヲ困ッテ居ル
  人モ網羅シテ行ケルヤウニシタイト思ッテ
  居リマス、併シドウシテモ組合ノ事情デ、
  總テノ人ヲ網羅スルコトガ出來ナイト云フ
  事情ガアリマスナラバ、サウ云フ風ナ特殊
  ノ人ニ對シテハ、所謂救護法等ヲ活シテ、
  適當ノ救濟ヲ國家竝ニ公共團體ニ於テ致シ
  テ行クノガ適當ト思ヒマス、ソレカラ國民
  健康保險法ノ施行ニ付キマシテ]ハ、ソレ
  ゾレ其施行ヲ適正ニ指導監督致シマシテ、
  成ベク惡結果ノ生ジナイヤウニ致シタイト
  思ヒマス、九條ノ規定ニ付キマシテハ、先
  程申上ゲマシタヤウニ、全部ヲ認メルノデ
  ハナク、唯良イノダケヲ認メタイト云フ積
  リデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=52

  ---

• 053・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　行吉君宜シイデスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=53

  ---

• 054・行吉角治

  ○行吉角治君　委員會デ···

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=54

  ---

• 055・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　山口久吉君
  〔山口久吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=55

  ---

• 056・山口久吉

  ○山口久吉君　私ハ國民健康保險法案ニ對
  シテ總理大臣ト內務大臣トニ極メテ簡潔ニ
  質問ヲ致シマス、只今總理大臣ガ見エテ居
  リマセヌカラ、國務大臣トシテ內務大臣ノ
  御所見ヲ伺ヒタイ、先ヅ內務大臣ニ對シテ
  ハ、國民ノ醫療國策ニ對スル將來ノ見透シ
  ニ付テ其御所見ヲ御尋シタイノデアリマス、
  歐洲大戰後、各國ハ戰後ニ於ケル所ノ國力
  ノ回復ニ對シテ根本的ノ對策ト致シマシテ、
  國民ノ健康保持增進ニ多大ノ關心ヲ以テ主
  力ヲ傾倒シタ、サウシテ其施設ニ對シテ
  色々行ウタコトハ周知デアリマス、彼ノ獨
  逸ガ大戰直後ニ於ケル所ノ國民ノ勤勞能率
  ハ、戰前ノ四分ノ一ニ減退シテ居リマシタ、
  體質ハ二十五年前ニ低下シタ、其爲ニ獨逸
  ニ於ケル所ノ國民ノ健康保持ノ方針ヲ統一
  シタ所ノ、醫師法ニ依ッテ改正セラレタ衞
  生行政ノ强化ヲ期シテ、極力其回復ヲ圖ッタ
  爲ニ、僅カ十數年デ著シク體質ガ向上シタ
  事實ガアリマス、英國モ「トランスバール」
  ノ變亂後ニ於テ、同樣國民ノ體質ガ減退シ
  タノガ、衞生省ヲ設置シタ爲ニ、其減退ヲ
  取戾シタト云フ實績モアリマス、今ヤ我國
  ニ於テモ滿洲事變後ニ於テ國際政局ト云フ
  モノハ頗ル緊迫シテ居リマス、非常時局ヲ
  乘切ッテ、之ニ對スル所ノ態度ヲ決メナケレ
  バナラヌト云フノデ、曩ニ軍部ガ發表シタ
  所ノ廣義國防-國防ノ充實モ、文化ノ發
  達モ、或ハ產業ノ發展モ、窮極スル所ハ國
  民ノ健康ニ其基礎ヲ置カナケレバナラヌト
  云フコトハ、誰人モ知ッテ居ル所デアリマ
  ス、最近ノ徵兵檢査ノ例ヲ通シテ見マシテ
  モ、壯丁ノ體質ト云フモノハ驚クベク惡
  化シテ居リマス、例ヘバ壯丁ガ身長ハ增ス
  ケレドモ、體重ガ伴ハナイ、或ハ結核性ノ
  胸部ノ疾患ヲ持〓所ノ人達ガ多クナル、近視
  眼ガ激增スル、徵兵ニ不合格ノ壯丁ガ累年
  增加スルヤウナ傾向ニナッテ居リマス、是ハ
  一ニ壯丁ノ體質ノ根源ト云フモノハ出生
  前ニ於ケル母胎內ニ胚胎スル其モノニ由ッテ
  原因スルノデアル、ソレハ衞生ヲ輕視スル
  所ノ政治ノ結果デアリマス、同時ニ無能無
  統制ノ衞生行政機構ノ結果、由來スルコト
  ト私共ハ斷言セザルヲ得ナイ、尙ホ一般國
  民ノ死亡率ハ諸外國ニ較ベテ段々比例ガ高
  クナッテ來ル、平均壽命モ益〓低下スルノミデ
  アリマス、乳兒ノ死亡率ニ至リマシテハ非
  常ニ多イ、是等保健衞生上ノ顧慮スベキ狀
  況ト云フモノハ、各省ニ分割サレテ居ル所
  ノ割據的ノ行政ノ不統一、不徹底ガ齎ス所デ、
  私共ハ此弊害ヲ打破シナケレバナラヌト思
  フノデアリマス(拍手)隨テ各局課ヲ統制致
  シマシテ、衞生國策遂行ノ爲ニ、中央ニ統
  轄行政機關タル所ノ衞生省ヲ設置スベキ必
  要ヲ軍部ハ提唱シテ居ルノデアリマス
  (「ヒヤ〓〓」)是ガ動機ニナリマシテ、從來
  動モスレバ顧ラレナカッタ所ノ保健國策ガ、
  廣田內閣ノ所謂庶政一新ノ波ニ乘ッテ、急進
  政策ト云フヤウニナッテ現ハレテ來タノデ、
  朝野ハ之ニ視聽ヲ聳テヽ來タノデアリマス、
  然ルニ現林內閣ハ廣田內閣ノ後ヲ承ケテ本
  案ヲ提出致シマシタ、內務省ガ言フヤウニ、
  現內閣唯一ノ社會立法デアル此法案ハ、私
  共ハ政府ノ保健國策ニ對スル施政方針ノ片
  鱗ヲ出シテ居ルモノト云フコトヲ思フノデ
  アリマス、單ニ內務省ノ言フヤウナ、社會
  的立法ノミニ偏シナイト私ハ思ッテ居ル、其
  處ニハヤハリ保健國策ノ片鱗ガ現レテ居ル
  ト思フノデアリマス、私共ハ本案實施ニ
  依ッテ、國民ノ大多數ヲ占メテ居ル農山漁村
  民竝ニ中小商工業者等ガ、社會保健ノ理由
  デ醫療ノ慶福ヲ普及サレルコトハ、非常ナ
  感激ヲ以テ國民ト共ニ欣ブ者デアリマス、
  併ナガラ其運營如何ニ依ッテハ却テ恐ルベ
  キ弊害ヲ釀シテ、保健國策ノ所期ノ目的
  ヲ達スルコトガ出來ナイカモ知レナイト
  云フコトヲ思フ、我國ニ於テハ從來世界
  獨特ノ自由開業醫制度ト云フモノガ
  アリマス、ドナタガ色々非難シ、攻擊
  爲サレテモ、此制度ハ存續致シテ居リ
  マス、日本國民ノ大部分ノ病氣ノ治療ヲ開
  業醫家ガ之ヲ擔當シテ居リマス、過去ニ於
  テ開業醫ガ國民ノ保健衞生ノ上ニ盡シタ功
  績ハ絕大ナルモノガアルノデアリマス、今
  日ト雖モ開業醫家ガ挺身世ノ病氣ノ治療ノ
  衝ニ當ッテ、其職務ヲ遂行シ、國家ノ爲メ社
  會ノ爲ニ奉公ノ誠ヲ盡シテ居ルト云フコト
  ダケハ、私ハ認メナケレバナラヌト思フ、
  然ルニ斯ノ如キ職責ヲ果シツヽアル所ノ個
  個ノ醫家ノ生活竝ニ、其社會的地位ハドウ
  デアリマスカ、其收入ハ減ルト共ニ、日々
  ニ低下シテ居ルノデハアリマセヌカ、我國
  ノ美風ノ一ツデアル此存在、開業醫制度ガ
  次第ニ崩レツヽアルト云フコトハ、誰人ニ
  於テモ否ムコトガ出來ナイノデアリマス、
  卽チ最近ノ社會的經濟的ノ傾向ハ醫療費ノ
  輕減ノミニ重キヲ置イテ、諸種ノ醫療機關
  ハ之ヲ目標ニ致シマシテ、雜然トシテ統一
  モナク、指導方針モナク濫設セラレテ、五万
  ノ開業醫ノ將來ハ甚ダ悲觀スベキ狀況ニナ
  リツヽアルノデアリマス、更ニ極端ナル理
  論家ヤ經世家ハ言フテ居ル、本案ノ實施ニ
  依ッテ開業醫ガ苦境ニ陷ラウトモ、ソレハ營
  業上ノ利害ノ衝突デアルカラ、巳ムヲ得ナ
  イデハナイカ、滅ビルモノハ滅ビヨト云フ
  ヤウナ聲モ聞エル、私共ハサウシタ結果
  ハ國家ノ爲ニ、君國ノ爲ニ甚ダ恐ルベキコ
  トデアルト云フコトヲ考ヘザルヲ得ナイ、
  少クモ我國ノ保健衞生ノ前線ニ立ッテ奮闘
  シ努力シテ居ル所ノ開業醫家ガ、沒落過程
  ニ追詰メラレツヽアル現在、更ニソレガ
  一層深刻ニナレバ醫學ノ進步モ、醫療ノ發
  達モ阻碍サレルト云フ事實ヲ思ハナケレバ
  ナラヌ、本案創設ニ當ッテ斯ウシタ醫者ニ對
  スル所ノ正シイ認識ヤ、醫療ノ本質的認識
  ガ、動モスレバ缺如シテ居ル、ソレデアル
  カラ中央衞生會ノ如キ權威アル所ノ醫事衞
  生ノ諮問機關ガアルニモ拘ラズ、政府ハ敢
  テ諮問セズ、唯小乘的ナル官僚獨善ノ考ノ立
  場ニ於テ、寡少ノ報酬デ、强イテ個人契約主
  義ヲ强行シヨウトスルヤリ方ハ、我國ノ自
  由開業醫制度ノ長所タル醫者ト患者トノ個
  人信賴關係ト云フヤウナモノヲ維持シヨウ
  トモセズ、疾病ニ對スル醫師ノ自由選擇ノ
  慣行ニ相反スルヤウナ制度ヲ作ッタノデア
  ルト私ハ思フ、是ガ國民ノ保健竝ニ社會政
  策上ノ理由ヲ揭ゲラレテ居ル所ノ本案ノ完
  璧ヲ期スルコトニナルカドウカ、却テ我國
  古來ノ開業醫制度ノ根本的變革ヲ來サント
  スルノデハナイカト思フノデアリマス、政
  府ハ將來開業醫制度ヲ認メテ之ヲ維持助長
  スル、斯ウ云フ方針ノ下ニ於テ、其助長發
  達ヲ期スル考ガアルカドウカト云フコトガ
  一點デアリマス
  更ニ一步ヲ進メテ醫療機關ノ公營カ、或
  ハ國營カヲ實行スル意思ガアルカト云フノ
  ガ第二點、最後ニ是等ノ保健國策ノ徹底的
  强化ヲ圖ル爲ニ、衞生省ノ設置ヲ爲ス意思
  ガアルカト云フコトガ其第三點デアリマス
  更ニ私ハ內務大臣ニ對シテ御尋シタイ、
  本案ニ對シテ全國五万ノ開業醫ノ醫師會ノ
  團體契約ヲ認メヨト云フコトト、第九條ノ
  削除ヲ熱烈ニ要求シテ居ル由ッテ來タ所ノ
  原因ハ如何ナルモノデアルカ、其所見ヲ
  ハ御伺シタイノデアリマス、本案ヲ此儘實
  施スル時ニハ、現行健康保險制度ヨリカ、
  更ニ低額ノ醫療ヲ强要スル所ノ懸念ヲ多分
  ニ持ッテ居ルノデアリマス、試ミニ政府ガ過
  去十一箇年ノ健康保險事業費ニ付テ、昭和
  九年マデ九箇年間ノ統計ノ示ス所ニ依レ
  バ、徵收シタ所ノ保險料竝ニ國庫負擔金ト
  ノ實收入ハ、三億二千五十餘万圓ニシテ、
  實際支出シタ金ヲ控除スルト、政府ノ管掌
  ノ分ガ一千十五万九千圓ガ殘ッテ居ル、組合
  ノ分デハ三千四百十四万一一千九百八十三圓
  殘ッテ、合計四千四百三十万二千八十三圓ト
  云フ莫大ナ殘金ガアルノデアリマス、更之
  十年度、十一年度ノ殘額及ビ利子等ヲ加算
  スレバ、五千万圓程度ノ金ガ殘ル譯ニナッテ
  居リマス、斯ノ如ク五千万圓ニモ垂ントス
  ル莫大ナ金ヲ社會局ハ如何ナル意思ニ依ッ
  テ貯ヘ置クヤ、將又如何ニ此金ヲ處分セン
  トスルカ、甚ダ諒解ニ苦シム所デアルト言
  ハレテ居リマスヽ斯ル一面ガアルニモ拘ラ
  ズ、治療報酬ノ低下ハ健康保險ノ十年間ノ
  經過ガ物語ッテ居リマス、政府ハ醫者ニ對シ
  テ不當ノ廉價診療ヲ表面カラ强要シテ居
  ル、ソレバカリデハナイ醫療組合モ奬勵シ、
  助長シ、非醫者ノ安價治療機關ト云フモノ
  ノ開設ヲ喜ンデ居ルヤウナ傾向ヲ帶ビテ居
  ル······(「議長······定足數ガアルカ」ト呼フ
  者アリ)更ニ官公又ハ半官的ノ大病院ノ輕
  費診療ヲ容認シテ、側面カラ民間醫療ト云
  フモノヲシテ低減セザルヲ得ザラシメルヤ
  ウナ政策ヲ採ッテ居ルコトハ、内務當局ノ能
  ク御存ジノコトト私ハ思フノデアリマス··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=56

  ---

• 057・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　山口君、山口君、
  一寸御待チ下サイ-議長ハ定足數ヲ缺イ
  テ居ルト認メマスカラ、散會致シマス
  午後七時十四分散會
  〔服部崎市君演說參照〕
  昭和十年度ノ我國徵兵檢査ニ於ケル壯丁
  ノ體格檢査表ヲ見ルニ
  受驗者千人ニ對シ甲種合格二百九十七
  人第一乙種百十五人、第二乙種二百
  五人デアリ丙種三百十八人、丁種六十
  三人トイフ割合デ、甲種ノ二百九十七
  人ハ前年ノ二百八十九人ニ比シテ遙ニ
  上位ニアリ、最近ノ高率ト云ハレル昭
  和五年ノ二百九十三人ニ比シテモ尙且
  ツ上位ニアル
  又身長ニ於テモ大正元年ノ平均五尺二
  寸ニ對シ昭和十年ノ平均ハ五尺二寸九
  分ヲ示シ二十三年間ニ九分ノ增加ヲ見
  セ、體重ニ於テモ大正元年ガ十三貫八
  百三十匁デアツタニ對シ、昭和十年ニ
  ハ十四貫十匁トナリ、之亦百八十匁ノ
  增加ヲ示シテ居ルガ、是ハ身長體重ノ
  增加ノ割合ガバランスノトレタモノデ
  ハナイ、是等ノ數字上ハ一見壯丁ノ體
  位向上ノ如ク思ハルヽガ、實際ニハ然
  ラズ、殊ニ現役竝ニ補充兵タリ得ル甲
  乙種ノ合計ト、國民兵又ハ之ニモ適セ
  ザル丙丁兩種ノ合計トノ割合ニ於テ、
  甲乙兩種合計ノパーセンテーヂハ逐年
  下向ノ趨勢ニアル
  卽チ大正十一年カラ十五年頃マデハ丙
  丁兩種ノ合計ハ壯丁千人ニ對シ二百五
  六十人內外ヲ示シテ居タモノガ昭和二
  三年頃ニ至ツテ三百五十人內外トナリ、
  最近四、五年間ハ三百八九十人カラ四
  百人ヲ突破スルノ憂フベキ狀態ヲ示シ
  ずんどん

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01919370309&spkNum=57

4. 会議録のPDFを表示

この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。