第70回帝国議会　衆議院　本会議　第20号　昭和12年3月11日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  昭和十二年三月十一日（木曜日）
  　　午後一時三十四分開議
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  　議事日程　第二十一號
  　　昭和十二年三月十一日
  　　　午後一時開議
  　第一　國民健康保險法案（政府提出）　第一讀會（前會の續）
  　第二　保健所法案（政府提出）　第一讀會（前會の續）
  　第三　結核豫防法中改正法律案（政府提出）　第一讀會（前會の續）
  　第四　小運送業法案（政府提出）　第一讀會
  　第五　日本通運株式會社法案（政府提出）　第一讀會
  　第六　帝國の滿洲國に於ける治外法權の撤廢及南滿洲鐵道附屬地行政權の調整乃至移讓に伴ひ退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第七　朝鮮事業公債法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第八　朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第九　昭和十二年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十　昭和七年法律第一號中改正法律案（滿洲事件に關する經費支辨の爲公債發行に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第十一　船員法改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十二　揮發油及アルコール混用法案（政府提出）　第一讀會
  　第十三　貿易組合法案（政府提出）　第一讀會
  　第十四　貿易調整法案（政府提出）　第一讀會
  　第十五　工業組合法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十六　昭和七年法律第十二號中改正法律案（造幤局資金拂出に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第十七　日本銀行條例中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十八　日本銀行參與會法廢止法律案（政府提出）　第一讀會
  　第十九　横莊鐵道株式會社所屬鐵道外三鐵道買收の爲公債發行に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十　東京農業教育專門學校創設に伴ふ帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會計の關渉に關する法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十一　製鐵事業法案（政府提出）　第一讀會
  　第二十二　大正九年法律第五十三號中改正法律案（關税法及關税定率法等の朝鮮に於ける特例に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第二十三　地方鐵道補助法中改正法律案（政府提出）　第一讀會
  　第二十四　大正九年法律第五十六號中改正法律案（北海道拓殖鐵道補助に關する件）（政府提出）　第一讀會
  　第二十五　商法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十六　肥料取締法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十七　酒造組合法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十八　日本無線電信株式會社法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第二十九　特許法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十　商標法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十一　不正競爭防止法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十二　裁判所構成法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十三　大正十年法律第百二號中改正法律案（定年に因る退職判事檢事の恩給に關する件）（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十四　兵役法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十五　産業組合中央金庫法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
  　第三十六　産業組合自治監査法案（政府提出、貴族院送付）　第一讀會
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  　　〔左の報告は朗讀を經さるも参照の爲茲に掲載す〕
  一今十一日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
  　北海道舊土人保護法中改正法律案
  一今十一日貴族院より受領したる政府提出案左の如し
  　刑事訴訟法中改正法律案
  　外國裁判所の囑託に因る共助法中改正法律案
  一政府より提出せられたる議案左の如し
  　昭和十年度第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十年度特別會計第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十年度特別會計豫備費支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十年度滿洲事件第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件（承諾を求むる件）
  　自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十一年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十一年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）
  　昭和十一年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件（承諾を求むる件）
  　　　　　　　　　（以上三月九日提出）
  　防空法案
  　海外移住組合聯合會に對する政府貸付金の出資等に關する法律案
  　農村負債整理資金特別融通及損失補償法案
  　　　　　　　　　（以上三月十日提出）
  一議員より提出せられたる議案左の如し
  　理容師法案
  　　提出者
  　　　　中山福藏君　内藤正剛君
  　　　　一松定吉君　川橋豊治郎君
  　　　　紫安新九郎君　松田正一君
  　　　　濱野徹太郎君　眞鍋儀十君
  　　　　牧山耕藏君　戸井嘉作君
  　　　　服部崎市君
  　衆議院議員選擧法中改正法律案
  　　提出者
  　　　　戸澤民十郎君　青木亮貫君
  　　　　武知勇記君
  　建築士法案
  　　提出者
  　　　　小西和君　熊谷直太君
  　　　　野村嘉六君　倉元要一君
  　　　　増田義一君　志賀和多利君
  　　　　手代木隆吉君　星島二郎君
  　　　　　　　　　（以上三月九日提出）
  　金錢債務臨時調停法廢止法律案
  　　提出者
  　　　　升田憲元君　紅露昭君
  　　　　立川太郎君　南條徳男君
  　　　　池田清秋君　山本粂吉君
  　　　　金井正夫君　岡本實太郎君
  　　　　牧野賤男君　名川侃市君
  　　　　牧野良三君　清瀬一郎君
  　　　　村岡吾一君　一松定吉君
  　　　　　　　　　（以上三月十日提出）
  　國道四號線竝縣道改修に關する建議案
  　　提出者
  　　　　坪山徳彌君　松村光三君
  　　　　船田中君
  　國道四號線竝縣道改修に關する建議案
  　　提出者
  　　　　高田耘平君　岡田喜久治君
  　　　　高松長三君　木村淺七君
  　　　　大門恒作君　森下國雄君
  　弘前田代間鐵道速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　工藤十三雄君　菊池良一君
  　田代より岩崎若は深浦に至る鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　菊池良一君　工藤十三雄君
  　帝國圖書館完成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　内ヶ崎作三郎君　石坂豐一君
  　　　　牧野良三君　片山秀太郎君
  　　　　河上哲太君　山道襄一君
  　　　　三好榮次郎君　漢那憲和君
  　　　　一松定吉君
  　盲唖教育義務制に關する建議案
  　　提出者
  　　　　村岡吾一君　内ヶ崎作三郎君
  　　　　山枡儀重君　野村嘉六君
  　牟岐室戸間鐵道建設速成に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　川井石井線阿野加茂名線中津石井線齒の辻國府線省營自動車運轉開始に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　劍山一帶の地域を國立公園指定に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　橘丹生谷間省營自動車運輸開始に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　徳島驛改築竝徳島臨港鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　阿波池田川之江間鐵道速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　紅露昭君　玉置吉之亟君
  　　　　河上哲太君　大本貞太郎君
  　　　　三尾邦三君　生田和平君
  　盲唖教育義務制實施及就學奬勵金交付に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　荒川改修工事速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　松永東君　高橋泰雄君
  　　　　鈴木康太郎君　出井兵吉君
  　　　　宮崎一君　横川重次君
  　太刀洗原開墾國營に關する建議案
  　　提出者
  　　　　野田俊作君　鶴惣市君
  　　　　沖藏君　原口初太郎君
  　唐津港第二期修築工事實現に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　藤生安太郎君
  　宮崎縣中央縦貫鐵道建設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　伊東岩男君
  　北海道農業金融政策に關する建議案
  　　提出者
  　　　　山本厚三君　澤田利吉君
  　　　　一柳仲次郎君　淺川浩君
  　　　　坂東幸太郎君　手代木隆吉君
  　　　　大島寅吉君　南雲正朔君
  　國分川及久万川改修速進に關する建議案
  　　提出者
  　　　　長野長廣君　尾崎重美君
  　杣山神社昇格に關する建議案
  　　提出者
  　　　　齋藤直橘君　斯波貞吉君
  　北海道に無水アルコール工場設置に關する建議案
  　　提出者
  　　　　山本厚三君　澤田利吉君
  　　　　一柳仲次郎君　淺川浩君
  　　　　坂東幸太郎君　手代木隆吉君
  　　　　大島寅吉君　南雲正朔君
  　刑務所看守の待遇改善に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　小久江美代吉君
  　那賀川改修工事促進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　伊豆沼國營開墾に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　大石倫治君
  　農耕地開發及農業用公共施設改良計畫樹立に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　匹田鋭吉君
  　牛淵川改修區域擴張竝工事促進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　小久江美代吉君
  　宇島港第二期修築に關する建議案
  　　提出者
  　　　　末次虎太郎君　片山秀太郎君
  　犀川築城間竝添田油須原間鐵道建設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　末次虎太郎君　片山秀太郎君
  　日田守實間鐵道建設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　末次虎太郎君　清瀬規矩雄君
  　特務艦富士保存に關する建議案
  　　提出者
  　　　　八角三郎君　熊谷直太君
  　　　　田子一民君
  　庄川改修促進に關する建議案
  　　提出者
  　　　　松村謙三君　島田七郎右衞門君
  　　　　土倉宗明君　寺島權藏君
  　　　　野村嘉六君　石坂豐一君
  　　　　　　　　　（以上三月九日提出）
  　牟岐室戸間鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　田村秀吉君
  　那賀川改修工事促進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　田村秀吉君
  　徳島高知間縣道を國道に編入に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　田村秀吉君
  　建國の功臣を祭神とする神社の社格昇進に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　松尾四郎君
  　鹽賠償價格低減計畫停止竝製鹽業指導助成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　長尾秀太郎君　戸澤民十郎君
  　金澤樽見間鐵道速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　猪野毛利榮君　木村作次郎君
  　　　　神保重吉君
  　久留米より福島山鹿を經て熊本に至る鐵道速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　野田俊作君　松野鶴平君
  　　　　木村正義君　鶴惣市君
  　　　　沖藏君
  　社會事業助成法制定に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　河野密君
  　在外子弟の教育に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　石坂繁君
  　久万川改修に關する建議案
  　　提出者
  　　　　大石大君　佐竹晴記君
  　恩給金庫貸付業務に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　尾崎重美君
  　岡崎多治見間鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　服部英明君　岡本實太郎君
  　廷丁の待遇改善に關する建議案
  　　提出者
  　　　　小久江美代吉君　戸澤民十郎君
  　大阪和歌山間國道改修速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　松田竹千代君　小山谷藏君
  　木次三次間鐵道敷設速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　升田憲元君　木村小左衞門君
  　　　　原夫次郎君　俵孫一君
  　　　　櫻内幸雄君
  　北海道港灣漁港修築速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　山本厚三君　一柳仲次郎君
  　　　　坂東幸太郎君　澤田利吉君
  　　　　手代木隆吉君　岡田春夫君
  　　　　大島寅吉君
  　北海道鐵道敷設速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　山本厚三君　一柳仲次郎君
  　　　　坂東幸太郎君　澤田利吉君
  　　　　手代木隆吉君　岡田春夫君
  　　　　大島寅吉君
  　舊屯田兵善後處置に關する建議案
  　　提出者
  　　　　坂東幸太郎君　一柳仲次郎君
  　　　　岡田春夫君
  　耕地政策確立に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　小野寅吉君
  　徳佐高森間鐵道敷設速成に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　窪井義道君
  　植林樟腦樹國有に關する建議案
  　　提出者
  　　　　武知勇記君　青木亮貫君
  　保健省設置に關する建議案
  　　提出者
  　　　　鏑木忠正君　岡田春夫君
  　　　　大島寅吉君　齋藤直橘君
  　三國港改修に關する建議案
  　　提出者
  　　　　齋藤直橘君　喜多壯一郎君
  　水量メーター檢査制度改正に關する建議案
  　　提出者
  　　　　中崎俊秀君　横山金太郎君
  　落合福渡間鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　片山一男君
  　多摩秩父八ケ岳國立公園設定に關する建議案
  　　提出者
  　　　　八並武治君　宮澤胤勇君
  　　　　田島勝太郎君　斯波貞吉君
  　阿蘇國立公園地域に高千穂編入に關する建議案
  　　提出者
  　　　　田尻藤四郎君　三善信房君
  　川南村に區裁判所出張所設置に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　田尻藤四郎君
  　宇島甘木間國營自動車運轉に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　末次虎太郎君
  　蒲生田岬に國立燈臺建設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　海部川改修に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　日和佐川改修に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　徳島市に高等水産學校設置に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　徳島桑野間鐵道ガソリンカー運轉に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　二軒屋及立江を起點とし勝浦山分に至る省營自動車運輸開始に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　國道二十一號線中改良工事速成に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　紅露昭君
  　伊野新居濱間鐵道建設に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　佐竹晴記君
  　國有林野處分法制定に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　高田耘平君
  　　　　内ヶ崎作三郎君　奧山亀藏君
  　　　　信太儀右衞門君　工藤鐵男君
  　　　　鶴見祐輔君
  　濁酒醸造許可に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　氏家清君
  　國有林野整備に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　高田耘平君
  　　　　内ヶ崎作三郎君　奧山亀藏君
  　　　　鶴見祐輔君　工藤鐵男君
  　　　　信太儀右衞門君
  　浪江川俣間鐵道速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　粟山博君
  　除隊兵士に軍服給與に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　内ヶ崎作三郎君
  　巡査任用資格の改正に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　中村又一君
  　長石硅石等を鑛山法に編入に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　奧山亀藏君
  　地方産物の鐵道運賃輕減に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　比佐昌平君
  　船引浪江間鐵道敷設に關する建議案
  　　提出者
  　　　　氏家清君　湊季松君
  　　　　粟山博君　仲西三良君
  　新宮若櫻間鐵道敷設速成に關する建議案
  　　提出者
  　　　　小畑虎之助君　田中武雄君
  　　　　古河和一郎君　清瀬一郎君
  　地方自治團體議員の待遇に關する建議案
  　　提出者
  　　　　小畑虎之助君　池本甚四郎君
  　　　　飯田助夫君　大門恒作君
  　　　　田中源君　中野治介君
  　　　　佐々木家壽治君　宮本雄一郎君
  　　　　盛島明長君
  　國分川改修に關する建議案
  　　提出者
  　　　　大石大君　佐竹晴記君
  　裁判所書記竝雇の待遇改善に關する建議案
  　　提出者
  　　　　小久江美代吉君　松井郡治君
  　　　　服部英明君　岡本實太郎君
  　國有林野拂下に關する建議案
  　　提出者　　　　　　　　小林三郎君
  　　　　　　　　　（以上三月十日提出）
  一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
  　鹽專賣に關する質問主意書
  　　提出者　　　　　　　　小西和君
  　　　　　　　　　（以上三月九日提出）
  　華族制度改正特權階級權益制限に關する質問主意書
  　　提出者　　　　　　　　松本治一郎君
  　　　　　　　　　（以上三月十日提出）
  一去月九日に於ける特別委員の異動左の如し
  　輸出補償法中改正法律案（政府提出）委員
  　　辭任　山口忠五郎君　補闕　宮本雄一郎君
  　絲價安定施設法案（政府提出）外一件委員
  　　辭任　小高長三郎君　補闕　篠原義政君
  　一般會計歳出の財源に充つる爲特別會計より爲す繰入金に關する法律案（政府提出）外二件委員
  　　辭任　木村吉太郎君　補闕　服部教一君
  　　辭任　奧山亀藏君　補闕　鈴木康太郎君
  　鐵道敷設法中改正法律案（政府提出）委員
  　　辭任　三善信房君　補闕　天辰正守君
  　　辭任　尾崎天風君　補闕　東條貞君
  一昨十日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
  　第一部選出請願委員　　　蔭山貞吉君
  一昨十日に於ける特別委員の異動左の如し
  　郵便法中改正法律案（政府提出）委員
  　　辭任　宮澤清作君　補闕　志賀和多利君
  　絲價安定施設法案（政府提出）外一件委員
  　　辭任　小山倉之助君　補闕　日比野民平君
  　農地法案（政府提出）委員
  　　辭任　陣軍吉君　補闕　林路一君
  　議院法中改正法律案（政府提出）委員
  　　辭任　井阪豐光君　補闕　藏園三四郎君
  　臨時租税増徴法案（政府提出）外五件委員
  　　辭任　池本甚四郎君　補闕　村岡吾一君
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  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=0

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• 001・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　是ヨリ會議ヲ開キ
  マス、議事日程第一乃至第三ノ三案ヲ一括
  シテ第一讀會ヲ開キ、前會ノ議事ヲ繼續致
  シマス-山口久吉君
  第國民健康保險法案(政府提出)
  第一讀會(前會ノ續)
  第二保健所法案(政府提出)
  第一讀會(前會ノ續)
  第三結核豫防法中改正法律案(政府
  提出)第一讀會(前會ノ續)
  〔山口久吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=1

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• 002・山口久吉

  ○山口久吉君　私ハ一昨日ノ質問ヲ繼續致
  シマス、總理大臣ニ對スル質問ハ終リマシ
  テ、內務大臣ニ對シテノ質問ヲ中途デ止メ
  テ居リマスカラ、內務大臣ニ對シテ續行致
  シマス、併ナガラ質問ノ前ニ、大體內務大
  臣ニ對シテ、ドウ云フ點ヲ御尋シツヽアッタ
  カト云フ〓略ヲ申上ゲテ置キタイノデアリ
  マス、全國五万ノ開業醫ガ醫師ノ團體契約
  權ヲ認メヨ、第九條ノ削除ヲ熱烈ニ要求シテ
  居ルガ、由テ來タ此原因ニ對シテ、如何ナル
  所見ヲ持タレテ居ルカト云フ點ニ付テ、私
  ハ色々ノ方面カラ御尋シタイト思フノデア
  リマス、本案ヲ此儘實施スルヤウナ場合ハ、
  現行ノ健康保險制度ヨリ、更ニ低額ノ醫療
  ヲ强要セラルヽヤウナ懸念ガアルノデハナ
  イカ、多分ニ斯ウ云フ點ヲ含マレテ居ルト
  云フ、此點ニ付キマシテハ、政府ガ過去十
  一箇年ニ、健康保險ノ事業費ニ付テ、昭和
  九年マデノ九箇年ノ統計ニ依ッテ示ス所、徵
  收シタ所ノ保險料竝ニ國庫負擔金ノ實收入
  三億二千五十餘万圓、之ヲ實際支出シタモ
  ノヲ控除スル場合ニ、恐ラク五千万圓位ノ
  剩餘金ガ殘ッテ居ル筈デアリマス、此金ヲ一
  體ドウ云フ風ニ處分シヨウト考ヘテ居ラレ
  ルノカ、何故蓄ヘテ居ラレルノカ、何故斯
  ウ云フ所ノ疑問ガアルカト申シマスト、半
  面ニ於テ低額ナル所ノ報酬デ醫療ヲ行ハセ
  テ居リナガラ、斯ウシタ莫大ナ金ガ殘ッテ
  居ルデハナイカト云フ此疑問デアリマ
  ス、現在治療報酬ノ低下ト云フモノハ、健
  康保險ノ十年間ノ經過ガハッキリ物語ッテ
  居ルノデアリマス、政府ハ醫師ニ對シ
  テ不當ノ廉價診療ヲ正面カラ强要シテ居
  リマス、診療組合ヲ奬勵シテ居ッタリ、之ヲ
  助長シテ居リマシテ、非醫者ノ安價治療機
  關ト云フモノノ開設ヲ喜ビ迎ヘテ居ルヤウ
  ナ傾向ガアリ、更ニ官公立、半官的大病院
  ノ營利輕費診療ト云フモノモ容認シテ居ル、
  側面カラ民間ノ醫業ヲシテ已ムナク低減セ
  ザルヲ得ザラシメルガ如キ政策ヲ政府ノ
  執ッテ居ルコトハ、內務當局ハ能ク御承知ノ
  コトト思フノデアリマス、斯ル情勢ノ下ニ
  於テ本案ガ實施セラレル曉ハ、國民健康保
  險ノ範圍ハ、將來國民ノ八割マデ被保險者
  トナルノデアッテ、治療費ハ限定セラレテ居
  リナガラ、診療ノ方ハ擴大セラレテ、ドウ
  シテモ開業醫トシテハ、良心ニ恥ザル治療
  ヲ爲スコトガ出來ナクナルト思フノデアリ
  マス、已ムヲ得ズ玆ニ粗診粗療ト云フコト
  ニナル、斯ウ云フ虞ガ多分ニアル、ソレガ
  國民ノ健康ニ及ボス不利益ハ甚大ナルモノ
  ト思ハザルヲ得ナイ、此見地ニ立チマシテ、
  醫師會ノ團體契約權ノ確保ハ、卽チ醫師ニ
  對シテ監督權竝ニ統制權ノ强化トナッテ、其
  弊害ヲ防グコトガ出來ルト思フノデアリマ
  ス、第九條ノ削除ハ、端的ニ申スナラバ、
  醫師會ノ統制權ヲ完全ナラシメル上ニ必要
  デアリマス、同時ニ醫業ノ獨立性ノ破壞ヲ
  防止スル上ニ於テ、重大性ヲ有スルモノト
  考ヘル、現在醫師ノ身分權ヲ支配シテ居ル
  モノハ內務大臣デアリマス、內務省トシテ
  ハ事務上ノ所管ヲ衞生局ガヤッテ居ル、其他
  ニ身分權ニ關與シ得ルモノハ醫師會ト中央
  衞生會デアリマス、故ニ此醫師會ハ會員タ
  ル醫師ニ對スル身分權ヲ有シ、同時ニ處分
  權モ發生シテ居リマス、處分權ト致シマシ
  テハ、內務大臣ハ業務ノ停止、免許ノ取消
  ノ二ツガアリマス、醫師會デハ戒〓、過よ
  金免許取消等ノ處分申請權ガアリマス、
  尙ホ業務ニ關スル制限ハ、種々ノ法規デ制
  限ヲ設ケラレテ居リマスガ、其處分ト致シ
  マシテハ、體刑ダノ罰金刑或ハ科料等ノ制
  度ガアリマス、斯ウシタ行政上ノ仕組ノ下
  ニ於キマシテ、開業ノ醫師ハ全部醫師會員
  デアルカラ、醫者ニ對シテ其直接ノ監督ハ
  醫師會ニナッテ居リマス、醫師會ノ最高監督
  ハ內務大臣ニナッテ居ルノデアリマス、故ニ
  此醫師會ハ法令ニ依ッテ內務大臣カラ醫事
  衞生ノ改良發達ニ關シ委ネラレタル監督權
  ヲ有スルモノデ、其監督權ノ發動スル所、
  團體權ノ確立セラルヽコトハ必然デアリマ
  ス、此最高監督者デアル所ノ內務大臣ハ、
  自己ノ手足トナッテ醫者ヲ監督スル醫師會
  ノ統一ガ能ク取レマシテ、鞏固ノ存在ト
  ナッテ、其職能ヲ發揮セシムルコトヲ望ムベ
  キコトハ、私ハ當然デアラウト思フノデアリ
  マス、斯クシテコソ醫師會ニ對シ監督指導
  ガ十分ニ私ハ行ハレルダラウト思フ、隨テ其
  醫師會ノ使命ヲ十分ニ發揮サセル爲ニ障碍
  トナルヤウナコトハ除去スルガ、必然內務
  大臣ノ責務デアルト思フノデアリマス、然
  ルニ其團體力ヲ弱體化シ、更ニ破壞セント
  スル理由ハ、一體何處ニ在リヤト云フコト
  ヲ御尋シタイ、昭和十年四月社會局長官カ
  ラ日本醫師會長宛ノ通達ニ依リマスルト、
  組合ノ契約ニ付テ醫師會ト契約スルモ、將
  又工場囑託醫デモ、附近ノ醫師デモ、組合
  ノ自由意思デアルカラ、ソレヲ妨ゲヌヤウ
  ニ云々、此起案理由ニ曰ク、將來國民健康
  保險ノ布カレタ際ニ、醫師會ノ結束ガ鞏固
  デアル場合ニハ、障碍トナルト云フヤウナ
  起案理由ガ附サレテ居ルノハ、取モ直サズ
  結束力卽チ團體制ヲ破壞セントスル意思ガ
  アルコトヲ、窺ヒ知ルコトガ出來ルノデア
  リマス
  最後ニ醫事衞生ノ改良發達ノ爲ニ、醫師
  ノ指導監督ヲナサル自治體ヲ醫師會以外ニ
  認メントスル意思アリヤ否ヤ、卽チ診療利
  用組合、國民保健組合、此二ツノモノハ醫
  師ノ指導監督ハ如何ニスルカ、將來醫師會
  ニ委ネズシテ、又ハ醫師會ノ手カラ奪ハン
  トスル理由ハ那邊ニ在リヤ、卽チ指導權監
  督權ニハ必然處分權ト云フモノガ附隨シテ
  居ル爲ニ、完全ト效果ヲ發揮シ得ルモノデ
  アリマス、隨テ此處分權ヲ奪ッタ指導權ト云
  フモノハ、恰モ無力ナ、空念佛ノヤウナモ
  ノト思ハレル、サウシタ理由ガ、團體契約
  權ノ確保、卽チ醫師ノ監督權確保ヲ望ム、
  第九條ノ削除ハ醫師會ノ統制ヲ完全ニセン
  ガ爲メナリトノ主張ガ、熱烈ナル要求トシ
  テ現ハレ來ッタノデアリマス、內務大臣ハ之
  ニ對シテ如何ナル所見ヲ有スルヤ、宜シク
  內務大臣ハ日本國民全體ノ福社增進ト國運
  發展ノ基礎ヲ鞏固ニスル爲メ、更ニ本案ヲ
  出シ直シテ中央衞生會ニ諮問シ、或ハ保健
  衞生ノ前衞トシテ活動シテ居ル所ノ全國ノ
  醫師、齒科醫或ハ藥劑師、賣藥業者、產婆
  等ノ諸團體ニ協力致シマシテ、完璧ヲ期ス
  ル法案ノ創定ヲシテハ如何ナルモノデアル
  カ、此點ニ付テノ御考ヲ明確ニ御伺シタイ
  ノデアリマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=2

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• 003・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　山口サンカラ
  ノ御尋ハ、一昨日丁度途中デ切レマシタノ
  デ、ソレ等ニ關聯シテ御答ヲ申上ゲタイト
  思ヒマス、第一、一昨日從來實行セラレテ
  居リマスル健康保險ノ事業ニ於テ、可ナリ
  ノ金ガ殘ッテ居ルノデハナイカ、是ハ斯ウ云
  フ風ニ殘スコトハ、卽チ低價診療ヲ成ベク
  助長シテ行ク其一例デアルガ、夥シイ金ガ
  殘ッテ居ルヂヤナイカ、五千万圓以上ノ金ガ
  殘ッテ居ルヂヤナイカ、是ハドウ云フ譯ダ、
  斯ウ云フ御尋ガアリマシタヤウデアリマ
  ス、取敢ヘズ其點ニ付テ先ニ御說明申上ゲ
  テ置カウト思ヒマス、健康保險ノ事業ニ付
  キマシテハ、御承知ノ通リ國、卽チ政府ガ
  管理致シテ居リマスル保險ノ仕事ト、組合
  ノ自治ニ委シテアル仕事ノ二通リアリマス
  ガ、組合ノ方ノ自治ニ委シテアリマス仕事
  ニ付キマシテハ、大體ニ於テ不時ニ如何ナ
  ル事ガ起ルカ分ラヌノデアリマスカラ、大
  體一年分位ノ醫療費ト云フモノヲ積立テ
  テ置ケト云フ規定ガアリマス、政府管掌ノ
  方ニ於キマシテモ、ヤハリ同樣ノ趣旨ニ基
  イテ、一年分位ノ醫療費ト云フモノヲ積立
  テルヤウナ方針ヲ執ッテ居ルノデアリマス、
  一年分ノ醫療費ト云フモノハ、大體政府管
  掌ノ方ニ於キマシテ約三千万圓デアリマス
  ノデ、ソレマデ積立テルコトヲ適當ナリト
  考ヘテ居リマスガ、現在ハ約千二三百万圓
  ノ積立ガアルノデアリマス、組合ノ方ノ積
  立ハ、是ハ一年分ノ醫療費ハ約二千万圓位
  アル筈デアリマスカラ、ソレ〓〓マダ今日
  デハソコマデ積立ガ出來テ居リマセヌ、組
  合ニ依ッテ額ハ違ヒマスガ、總計約三千万圓
  程度ノヤウデアリマス、隨ヒマシテ過日御
  述ニナリマシタヤウナ、五千万圓ト云フ金
  ガ總額ニ於テ殘ッテ居ル譯デハナシ、又斯ク
  積立テルコトハ、法律ノ規定、若クハ適當
  ナリト云フ行政上ノ處置ニ依ッテ積立ラレ
  テ居ルノデアリマシテ、是ハ只今私ガ申上
  ゲマシタヤウニ、不時ニ或ハ流行性感冒ガ
  非常ニ起ルトカ、或ハ全國ヲ席捲スルヤウ
  ナ傳染病ガ起ル場合ノ準備ノ爲ニ、積立テ
  サシテ居ルノデアリマス
  尙ホ更ニ一昨日自由開業醫制度ト云フモ
  ノハ、日本ノ特徵デアッテ、其功績ヲ認メナケ
  レバナラヌト云フ御言葉ガアリマシタガ、
  是ハ御言葉ノ通リ、從來ノ開業醫ト云フモ
  ノノ社會ニ貢獻シタ功績ト云フモノハ、是
  ハ國家トシテヤハリ認メテ行カナケレバナ
  ラヌト思ヒマス、サリナガラ他面ニ於キマ
  シテ、先日來度々私ガ申上ゲマスヤウニ、
  所謂醫療ノ機會ニ均等シ得ザルヤウナ困ッ
  タ人ガ、日本國民數千万ノ中ニ多數居ルノ
  デアリマシテ、是等ノ救濟、是等ノ醫者
  ニ掛ル機會ヲ得セシムルト云フコトハ、
  國家ガ社會政策ノ見地ノ上カラモ、亦國
  民保健、國力發達ノ上カラモ、先ヅ第一
  ニ考ヘナケレバナラヌ問題ト思フノデアリ
  マス、私ガ度々申上ゲマスルヤウニ、世ノ
  中ノ仕事ハ、成ベク摩擦ヲ少クシテヤッテ
  行クコトハ必要デアリマスケレドモ、併シ
  一面ニ於キマシテ、或ル重大ナル事項ガア
  リマスルナラバ、ヤハリ之ヲ國家トシテハ
  實行スルト云フコトガ必要デアリマス、主
  タル問題ハ、團體契約ヲ公認スルカ、ソレ
  カラ第九條ノ點デアリマスガ、是亦私ガ度
  度申上ゲタヤウニ、醫師ト云フモノハ、從
  來法規ノ下ニ重要ナル權利ヲ與ヘラレタ、
  强力ナル團體ヲ作ッテ居ルノデアリマス、是
  レ以上ニ一面ニ於キマシテ、更ニ所謂團體
  契約ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ、法
  制上ノ根據ヲ與ヘルコトハ、是ハ國家トシ
  テ考ヘテ如何ナモノデアラウカト云フコト
  ヲ、特ニ愼重ニ考ヘナケレバナラヌノデア
  リマス、更ニ度々私ガ申上ゲマスルヤウニ、
  醫者ト國民健康保險組合トノ間ニ於キマシ
  テハ、是ハ或ル程度マデ自由ニ委セル方ガ
  宜イ、組合員ヲシテ成ベク廣イ範圍內ニ於
  ケル醫療ノ機會ヲ得セシムルト云コトハ、
  固ヨリ必要デアリマスルガ、其根本方針
  ノ下ニ於キマシテモ、中ニハ組合ガ十分發
  達シテ居ル場合ニ於テ、或ハ完全ナル病院
  ヲ持チ、ソレ〓〓分科ノ醫者ヲ雇傭致シテ
  居リマスルヤウナ場合ニ於キマシテハ、其
  自治ニ委シテ少シモ差支ナイ、强ヒテサウ
  云フコトヲ禁止スル必要ハ少シモナイノデ
  ハナイカ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、
  併ナガラ多クノ場合ニ於キマシテ、國民健
  康保險組合法ヲ施行致シマシテモ、直チニ
  サウ云フ風ナ完全ナル組合ガ、澤山出來ル
  ト云フ譯ニハ行カヌノデアリマス、斯ウ云
  フ場合ニ於キマシテハ、ソレ〓〓組合員ヲ
  シテ、成ベク廣キ範圍ニ於ケル醫者ニ掛ル
  自由ヲ得セシムルコトガ必要デアリマスカ
  ラ、斯ウ云フ場合ニ於キマシテハ、多クハ
  團體契約ト云フモノガ結バレルデアラウ、
  又政府ト致シマシテモ、右申シタヤウナ組
  合員ヲシテ、或ル特定ノ醫者バカリデナク、
  成ベク廣イ範圍ニ於ケル醫師ニ掛リ得ルヤ
  ウニ爲サシムベク、省令等ヲ規定スル積リデ
  アリマスルカラ、多クノ場合ニ於テハ、サウ
  云フ風ナ結果ニ自然ナルデアラウト思ヒマ
  スガ、併シ只今申上ゲマシタヤウニ、之ヲ
  必ズ醫師團體ト云フモノト、團體契約ヲシ
  ナケレバナラヌト云フコトヲ規定致シマス
  ルコトハ、實際ニ於テモ適當デナシ、又一
  面ニ於キマシテ、非常ニ强イ權力ヲ持ッテ居
  リマスル醫師團體、其外ニ今日ニ於キマシ
  テハ、團體契約ヲ强制スルヤウナ規定ハナイ
  ノデアリマス、斯ウ云フ風ナ醫師ノ團體ニ
  限ッテ、團體契約ト云フモノヲ法律上ノ根據
  トシテ與ヘマスト云フコトハ、今日適當デ
  ナイト斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  第九條ノ問題ニ付キマシテハ、是亦私ガ
  度々申上ゲマシタヤウニ、現在アリマスモ
  ノニ付キマシテ申シテモ、相當ナル成績ヲ
  擧ゲ、相當ナル設備ヲ持ッテ居ッテ、而モ立
  派ニ經營シテ居ルヤウナモノニ付キマシテ
  ハ、組合員ハ全ク同ジデアッテ、而モ全ク別
  箇ノ組合ヲ作ラセルト云フコトハ、二重ノ
  手續デアリ、且又現在色々ノ設備ヲ持ッテ居
  ル、或ハ病院トカ、或ハ其外ノ設備ヲ持ッテ
  居リマス場合ニ、別箇ニ作ッテ、其財產等ヲ
  又別ノ國民健康保險組合ノ方ニ委讓スルヤ
  ウナ手續ヲヤリ、而モソレガ組合員ガ違フ
  ナラ兎モ角、全ク人ガ同ジデアッテ、更ニサ
  ウ云フヤウナ煩雜ナ手續ヲシテマデモ、別
  箇ニ作ラセル必要ハナイヂヤナイカ、現在
  能ク出來テ居ルノナラ、ソレヲ認メテ代行
  セシムルコトガ實際ニ合フノデアラウ、斯
  ウ云フ風ニ思フ次第デアリマス
  〔山口久吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=3

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• 004・山口久吉

  ○山口久吉君　大體此法案ニ付テ先日來內
  務大臣ノ考ヘテ居ルコトハ、私共其趣旨ニ
  付テハ能ク諒承致シマシク、併ナガラ私共
  ハ一點斯ウ云フ疑ヲ持ッテ居ルノデアリマ
  ス、內務大臣ハ常ニ各般ノ摩擦ヲ調節スル
  ト云フコトヲ能ク言ッテ居ラレル、此法案ノ
  創定ニ當リマシテ、一體內務省ハ社會立法
  トシテノ此法案、私共ハ其後ロニ保健國策
  ノ片鱗ガアルト云フコトヲ推定スルコトガ
  出來ル、ソレナラバ此法案ノ創定ニ當リマ
  シテ、唯社會局ノ調査會ノミニ掛ケルト云
  フコトヨリカ、モウ一步進ンデナゼ中央衞
  生會議ニ掛ケナイカ、或ハ醫師會ノ存在ト
  云フモノガアルノデアルカラ、サウ云フモ
  ノト協力スル考ハナイカ、私共ノ根柢カラ
  考ヘルコトハ、保健國策ガ前衞ニナッテ、此
  社會立法トシテ現レタノデハナイカト思フ
  ノデアリマス、ソレハ何力、軈テ來ルモノ
  ハ公營醫療制度デアリ、或ハ國營醫療機關
  ノ統制デアルノデハナイカ、サウシタ場合
  ニ於テ必要ナノハ衞生省ノ設置デアラウト
  云フコトヲ、吳レ〓〓モ內務大臣ニハ御尋
  シテ居ルノデアリマス、ソレニ觸レナイ所
  ニ、私共ハ折角內務大臣ハ各般ノ摩擦ヲ調
  節スルト云フコトヲ極力仰シヤッテ居リマス
  ルガ、其意ヲ事實ノ上ニ現ハス、其實意ト
  云フモノヲ疑ッテ居ルノデアリマス、此點ヲ
  ハッキリ御答辯ヲ願ヒタイ、ソレカラ詳細ニ
  亙リマシテハ委員會ニ於テ又質問致シマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=4

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• 005・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今御答漏ガ
  アリマシテ甚ダ恐縮デアリマシタ、第一ノ
  今囘ノ法案ト云フモノガ、社會政策以外ニ
  於テ保健國策ト云フモノヲ十分ニ含ンデ居
  ルノデアルカラ、サウ云フコトトスレバ、
  何故ニ醫師會トカ、或ハ中央衞生會等ニ諮
  問ヲシナカッタカト云フ御尋ノヤウニ拜承
  致シマシタ、是ハ只今御述ニナリマシタヤ
  ウニ、社會政策ト保健國策、困窮ナル人ニ
  對シテ國家ノ恩惠ヲ與ヘシムルト云フコト
  ト、更ニ國家全體ノ考へ方トシテ、九千万
  國民ノ健康ヲ增進セシムル、體位ヲ增進セ
  シムルト云フ趣旨ニ出デテ居ルコトハ申ス
  マデモアリマセヌ、此問題ニ付キマシテハ、
  過日モ御答致シマシタヤウニ、社會保險調
  査會ト云フ、權威者ヲ網羅シタ一ツノ委員
  會ガアリマシテ、是ニハ日本醫師會ノ會長、
  或ハ日本藥劑師會ノ會長、日本齒科醫師會
  ノ會長、サウ云フ人々モ網羅シテ居ルノデ
  アリマス、唯第九條ノ點ハ、先般來私ガ申
  上ゲマシタヤウニ、初メ社會保險調査會ニ
  掛ケマシタ後ニ入ッタモノデアリマシテ、
  此第九條ハ寧ロ枝葉ト考ヘルノデアリマス
  ガ、此法案自體ト云フモノハ、サウ云フ風
  ナ權威者ノ議ニ掛ケテ、全體ノ贊成ヲ得テ
  立案セラレタモノデアリマス
  ソレカラ第二ハ醫療國策、醫療國營、更ニ
  進ンデ衞生省若クハ保健省等ヲ作ル意思ア
  リヤ否ヤト云フ風ニ伺ヒマシタ、此醫療國
  營ト云フ問題ハ、非常ニ重大ナル問題デア
  リマシテ、直チニ實行スルト云フ御答辯ヲ
  致ス譯ニハ行カヌト思ヒマス、現ニ先日來
  御述ニナリマシタヤウニ、日本ニ於ケル開
  業醫ノ功績、開業醫ト云フモノハ、日本ノ
  國民ノ實生活ニ能ク合ッテ居ルト云フヤウ
  ナ點カラ考ヘマシテモ、直チニ醫療國營ト
  云フコトニ手ヲ染メルヤ否ヤト云フコトニ
  付キマシテハ、十分愼重ナル考慮ヲ重ネナ
  ケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリ
  マス、衞生省若クハ保健省ノ問題ニ付キマ
  シテハ、是ハ行政機構全體ニ關スル問題デ
  アリマシテ、各種ノ行政、サウ云フモノヲ
  綜合考究致シテ決定致サナケレバナラヌノ
  デアリマスカラ、只今直チニ其何レニスルヤヲ
  御答スル時期ニ達シテ居ラヌノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=5

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• 006・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　山口君、モウ宜シ
  イデスカ-土屋〓三郞君
  〔土屋〓三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=6

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• 007・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君　吾々ノ同胞デアル日本國
  民ヲシテ、一人タリトモ餓エテ食ヲ得ザル
  者ナク、一人タリトモ病ンデ醫療ヲ受クル
  コトノ出來ナイ者ノナイヤウニシヨウト云
  フコトハ、吾々ガ議會人トシテ多年ノ希望
  デアリマシタ、只今玆ニ上程サレマシ夕國
  民健康保險法案ハ、政府ノ說明ニ依リマス
  ルト云フト、吾々ノ多年希望シテ居ッタ所
  ノ、國民全體ニ對シテ醫療ヲ普及シヨウト
  云フコトデアリマスルノデ、吾々ハ最モ愼
  重ニ案ノ內容ヲ檢討シテ見タノデアリマス、
  ノミナラズ一昨日來吾々ノ同僚諸君ノ質
  問、之ニ對スル政府ノ答辯ヲモ承リマシタ
  ガ、承レバ承ル程吾々ハ此案ニ對シテ重大
  ナル疑義ヲ懷クノデアリマス、併シ私ハ今
  日其一々ヲ擧ゲテ玆ニ質問スルコトハ致シ
  マセヌ、其根本ニ對シテノミ質スノデアリ
  マスルカラ、其意味ニ於テ御答辯ヲ願ヒタ
  イノデアリマス、醫療普及ノ眼目ヲ何處ニ
  置クカト云ヘバ、國民ヲシテ何人タリトモ
  自由ニ醫師ノ診察ヲ受クルコトガ出來、何
  人タリトモ醫療ヲ受クル均等ノ機會ヲ與ヘ
  ルコトデアリマス、然ラバ其方法ニハドウ
  云フ方法ガアルカ、今日マデ調ベタ所ニ依
  リマスレバ、大體ニ於テ之ヲ三ツニ分ケル
  コトガ出來ヨウト思ヒマス、一ツハ日本古
  來ノ開業醫ト云フ制度ヲ基礎トシテ、之ヲ
  善用スルコトデアリマス、今一ツハ保險ノ
  方法デ、危險ヲ多數國民ガ分擔スル、其方
  法ヲ基礎トスルノデアリマス、更ニ今一ツ
  ハ公共團體又ハ國ヲ主體トシテ醫療ヲ普及
  スル所ノ、所謂公營デアリマス、此案ハ只
  今現レマシタ此案ハ、其第二ノ保險ヲ基礎
  トスル方法ニ據ラレタヤウデアリマス
  ルガ、現在政府ガヤッテ居ル所ノ醫療方
  法ヲ見マスルト云フト、社會局デヤッテ
  居ルモノノ中ニモ、保險制度ニ據ルモ
  ノモアレバ、或ハ救護法ノ如キモノガア
  ル、又只今現レテ居ル結核豫防法ノ如
  ク、公營ノ方法ニ據ルモノモアリマス、
  或ハ又遞信省ノ簡易生命保險ノヤウナヤリ
  方モアルノデアリマス、政府ハ此方法ヲ採
  用スルニ、何ヲ眼目トシテヤッタノデアルカ、
  此方法ガ國民大衆ニ向ッテ醫療ヲ普及スル
  ニ、最モ善イ方法ナリト認メラレタル所ノ、
  其根據ハ何處ニアルカ、之ヲ第一ニ內務大
  臣カラ御答辯ヲ戴キタイ
  ソレカラ第二ニハ、此國民保險法案自體
  デアリマス、此案ガ議場ニ現ルヽマデニ、
  幾度カ政府ガ新聞其他ニ發表シタ所ニ依リ、
  又一昨日來說明サレタ所ニ依リマスルト云
  フト、名前ハ國民保險法デアリマスルケレド
  モ、其實ハ町村ヲ主體トスル所ノ町村醫療
  組合デアッテ、之ニ保險ノ考ヲ注ギ込ンダモ
  ノデアル、隨テ之ヲ國民保險法ト言フノハ
  當ヲ得ナイト思フノデアリマス、ソレカラ
  是モ政府ノ今マデ發表サレタ所デアリマス
  ルガ、此制度ニ依リマスレバ、全國ニ每年
  五百乃至六百位ノ醫療組合ヲ町村ニ設ケサ
  セ、サウシテ二十年ノ後ニ全國ニ普及シヨ
  ウト云フノダサウデアリマス、或ハ最近ニ
  之ヲ短縮シヨウトスル考ヲ持ッテ居ルサウデ
  アリマスガ、斯樣ニ致シマスレバ、甲ノ村
  ニ於テハ本年醫療組合ガ出來テ、其土地ノ
  者ハ其恩惠ヲ受ケマセウガ、隣村ニ於テハ
  十年、二十年後デナケレバ、其恩惠ニ浴ス
  ルコトガ出來ナイ、是デハ全面的ニ醫療ヲ
  普及サセヨウトスル趣旨ニ副ハナイノデハ
  ナイカ、ソレカラ此組合ヲ組織スルノハ自
  由デアル、加入モ隨テ任意デアル、ソレデ
  アルト體ノ弱イ者ハ先ヅ加入シテ、健康ナ
  ル者ハ加入ヲ避ケルノデハナイカ、ソレバ
  カリデハナク、一旦或ル病氣ガ流行ッタ場合
  ニ、組合ガ町村ト云フ小サナ區域デアル
  カラシテ、其危險ヲ組合員全體ガ分擔スル
  コトガ出來ナクナッテ、忽チニシテ組合ハ經
  濟的ニ破綻ヲ來スノデハナイカ、卽チ保險
  ノ趣旨ニ適ハザルモノデアルト思フガドウ
  デアルカ、其上ニ此醫療ヲ土地ノ開業醫ニ
  委託スル、總テソレハ組合ノ任意デアルト
  云フコトデアルガ、然ラバ如何ニシテ其醫
  療ノ內容ヲ監督スルカ、是等ノコトヲ考ヘ
  テ見マスルト云フト、此國民保險制度ト云
  フモノハ、謂ハヾ二十年ノ歲月ヲ要シテ、
  バラ〓〓ニ全國ノ各町村ニ、ボツリ〓〓組
  合ヲ組織サセテ、サウシテ其土地ノ開業醫
  ニ別々ニ委託ヲシテ治療ヲヤラスト云フコ
  トデアッテ、國民全體ニ對シテ醫療ノ機會ヲ
  與ヘ、由テ以テ多年ノ問題ヲ解決スルト云
  フ、此趣旨ニ副ハナイノデハナイカ、今日
  世界各國ハ醫療普及ノ方法トシテ、段々此
  國民保險制度ヲ採ッテ居リマス、併ナガラ
  日本ノヤウナ斯ウ云フ制度ヲ採ッテ居ルモ
  ノハ、僅ニ世界ノ小國デアル所ノ丁抹ダケ
  ガ、古クカラ自然的ニ町村ニ斯ウ云フ組合
  ガ發達シ、ソレガ今日全國的ニ形ヲ成シテ
  居ルト云フダケデアッテ、ソレ以外ノ國ニ於
  テハ斯樣ナ制度ヲ採ッテ居ル處ハアリマセ
  又、ソレハ何故デアルカト言ヘバ、被保險
  者ニ全面的ニ均等ノ機會ヲ與ヘルコトガ出
  來ズ、醫師ノ監督ガ出來ナイト云フ點ニ、
  大ナル缺陷ヲ存シテ居ルト思フノデアリマ
  ス、況ヤ保險其ノモノハ一人ノ危險ヲ出來
  ルダケ多數ニ分擔スルト云フ趣意デアルニ
  拘ラズ、其危險ノ分擔ハ此制度デハ到底出
  來ナイノデアリマス、左樣ナ色々ナ缺陷ガ
  アルニ拘ラズ、世界ニ於テ最モ古クカラ自
  然的ニ出來テ來タ小國ノ例ヲ捉ヘテ、之ヲ
  日本ニ採用シタノデハ、今日一日モ早ク醫
  療ヲ普及スル制度ガ急ヲ要スルト云フ國論
  ニ副ハナイデハナイカ、之ヲ採用シタル根
  據ヲ內務大臣ニ承リタイ
  ソレカラ次ニ是ハ內務大臣ト遞信大臣ニ
  承リタイ、遞信省ニハ御承知ノ通リ簡易生
  命保險局ガアッテ、今日ハ國民ノ殆ド半分ヲ
  被保險者ニシテ居ッテ、サウシテ其被保險者
  ノ健康保持增進ノ爲ニ、色々衞生ノ施設ヲ
  致シテ居ル、全國ニ澤山ナ健康相談所ヲ置
  イテ居ル、其處ニハ應急ノ醫療設備モヤツ
  テ居ルヤウニ承ッテ居リマス、隨テ遞信省
  簡易保險局ニ於テハ、單ニ生命保險バカリ
  デハイケナイ、進ンデ健康保險マデモヤラ
  ナケレバ國民大衆ガ救ハレナイト云フノデ、
  先年來此制度ニ付テ可ナリノ〓究ヲ遂ゲ、
  其意見ハ內務省ノ社會局ノ案ト前後シテ發
  表セラレテ居リマス、ソレニ依リマスト、
  全國ヲ一ツノ區域トシテ、旣成ノ色々ノ公
  ノ施設ニ依ッテ救ハレテ居ル者ヲ除イタ國
  民ノ大部分ヲ、此國營ノ健康保險制度ニ
  依ッテ醫療ヲ受ケサセヨウトシテ居ッタノデ
  アリマス、現ニ昨年政府ニ於テ內閣調査局ニ
  ハ、一方ニハ社會局ノ國民健康保險制度案
  ガ問題トサレ、他ノ一方ニハ遞信省ノ簡易
  生命保險局デ作ッタ所ノ案ガ問題トサレテ、
  調査局ニ於テハ此方ガドウカ宜クハナイカ
  ト云フノデ、審議中ニ、內閣ガ倒レタト云
  フコトヲ承ッテ居ルノデアリマス、隨テ此案
  ハ今度ノ內閣カラ出タ案デアリマスルケレ
  ドモ、マダ內務大臣モ十分ニ檢討サレテ居
  ラナイデハナイカ、遞信大臣モ其所見ヲ十
  分ニ述ベテ居ラレナイデハナイカ、恐ラク
  二人ガ此處デ顏ヲ合セタナラバ、必ズ矛盾
  シタ所ノ議論ヲスルノデハナイカト私ハ考
  ヘテ居ルノデアリマス、遞信大臣ハ此內務
  省ノ不徹底ナル所ノ國民健康保險法案提案
  ニ對シテ、如何ナル所見ヲ持タレテ居ルノ
  デアルカ、此點ニ付テ遞信大臣ノ所見ヲ承
  リタイ
  ソレカラ次ニ本案ヲ玆ニ出スヤウニナッ
  テカラノ內務當局ノ醫師會ニ對スル態度デ
  アル、內務大臣ハ日本醫師會ノ總會每ニ醫
  師會ニ臨マレテ、サウシテ其式辭ノ中ニ、
  我國ノ醫療ハ日本古來ノ開業醫制度ヲ基
  礎トシテ改善サレテ行カナケレバナラナイ
  ト云フコトヲ每囘述べテ居ル、殊ニ昨年十
  一月ノ總會デハ、潮內務大臣ハ特ニ其式辭
  ノ中ニ、近ク國民健康保險法ヲ作ル積リデ
  アル、其實施ニ對シテハ特ニ醫師會ノ協力
  ニ俟タナケレバナラヌト云フコトヲ述ベラ
  レテ居リ、其上ニ此案ガ先年來醫師會ニ綱
  領ヲ示サレタ場合モ、或ハ社會保險調査會
  ニ掛ケラレタル場合モ、產業組合トノ關係
  ニ付テハ一言モ及バレテ居ラナイノミナラ
  ズ其社會保險調査會ニ於テ調査委員ノ一
  部カラ、產業組合ニ關スル意見ノ出タ場合ニ、
  社會局當局ハ、國民保險組合ト產業組合ト
  云フモノハ、全然其根柢ヲ異ニスルモノデ
  アッテ、之ヲ一緒ニスルト云フコトハ出來ナ
  イ、其意味カラ此產業組合ヲ醫療組合ニ代
  行スルト云フコトニ付テ、斷然拒絕シテ居
  ルバカリデナク、當時事務官デアッテ、其後地
  方ノ警察部長ニ行カレタ人ハ、態〓其反駁文
  ヲ非公式ニ發表セラレテ居ルノデアル、ソ
  レマデニ行ッタ所ノ內務大臣ガ、今度此案ヲ
  提出スルニ際シテ、長イ間相談ヲシテ手ヲ
  握ッテ參ッタ所ノ醫師會ヲ袖ニシテ、サウシ
  テ反對ヲシテ居ッタ所ノ產業組合ト提携シ
  テヤラウト云フヤウナ改正案ヲ出サレタ、
  其心境ガ僅ノ間ニ變化シタ所ノ根據ハ何處
  ニアルカ(拍手)世間ハ之ヲ以テ政治的ノ貞
  操ノナイモノデアルト、斯ウ言ッテ居ルノデ
  アル、此點ニ付テ眞摯ナル御答辯ヲ承リタイ
  第四ニ承リタイノハ、今日我國ノ衞生行
  政ニ關スル所ノ機構ハ、極メテ複雜シテ
  居ッテ、殆ド收拾スルコトノ出來ナイ狀態デ
  アル、例ヘバ此國民保險制度案ガ社會局カ
  ラ出來マシタ場合ニ、衞生局ハ其所見ヲ異
  ニシテ、省ニ於テ可ナリ揉メタコトハ世間
  周知ノ事實デアル、又遞信省ノ簡易保險局ガ
  是ト反對ノ意見ヲ發表サレテ、社會局ト遞
  信省保險局トノ間ニ可ナリノ縺レガアッタ
  ト云フコトモ、亦天下周知ノ事實デアル、
  斯樣ナ不合理ナ今日ノ行政組織、是デ國民
  全體ニ對スル醫療普及ノ制度ヲ實施スルト
  云フコトハ困難デハナイカ、況ヤ今日醫
  療機關ノ分布狀態ヲ觀マシテモ、都會ニハ
  非常ニ普及シテ居ッテ、地方ニハ非常ニ少イ
  ノデアル、此分布ヲドウスルカ、又今日ノ
  如ク社會生活ガ、文明生活ガ人類ノ體質ヲ
  段々退化シテ行ク狀態ニ於テハ、之ヲ如何
  ニ豫防スルカ、或ハ國民ノ體質ガ段々退化
  シテ、榮養ガ段々衰へテ行クト云フ現狀ニ
  對シテ、如何ナル救濟方法ヲ執ルカ、國民
  ノ衞生知識ガ非常ニ幼稚デアルガ、此狀況
  ヲドウスルカ、醫療ヲ防ゲル所ノ賣藥ノ廣
  〓ガ全面的ニ各新聞ニ現レテ、是ガ爲ニ國
  民ノ神經ハ非常ニ過敏ニナッテ、賣藥ニ對
  シテ國民ガ今日支拂フ所ノ金額ハ、年額殆
  ド三億ニ垂ントシテ居ルト云フコトハ、
  是亦天下周知ノ事實デアル、甚シキニ至ッテ
  最近是等ノ賣藥業者ハ小學校ニマデ喰入ッ
  テ、小學時代カラ藥ヲ飮マセヨウトスルヤ
  ウナ宣傳マデ段々ヤッテ居ルノデアル、斯樣
  ニ一方ニハ誤レル醫療ニ關スル見解ガ、營
  利業者ニ依ッテ極メテ惡性ニ宣傳サレテ居
  ルノヲ放任シテ置イテ、他面健全ナル衞生
  知識ヲ國民ニ得セシメルコトニハ全然無關
  心デアル、是等ノ狀態ヲ十分ニ吟味シテ、
  國民ノ衞生ヲドウスルカ、國民ノ醫療ヲド
  ウスルカ、ソレニハ先ヅ行政機構ヲ改革シ
  ナケレバナラヌ、醫師ノ〓育ヲ改メナケレ
  バナラヌ、其分布ヲ適當ニシナケレバナラ
  ヌ、醫療ヲ妨グル所ノ一切ノモノニ對シテ、
  政府ノ權力ヲ以テ嚴重ナル斧鉞ヲ加ヘナケ
  レバナラヌ、斯ウシタ後ニ初メテ本當ノ醫
  療國策ヲ樹テラレナケレバナライノデアル、
  現内閣ハ其成立ノ當初ニ於テ、庶政ヲ一新
  シテ國民生活ノ安定ヲ圖ルト云フコトヲ、
  重要ナル政綱ト致シテ居ルノデアリマス、
  而シテ其醫療普及ノ問題ハ、國民生活安定
  ノ中ノ最モ重要ナル部分ヲ占ムルト考ヘル
  ノデアルガ、其內容ヲ檢討スレバ、只今申上
  ゲマシタ如ク名ト實ト伴ハズ、悠々十年、
  二十年ノ歲月ヲ閱シテ、地方ノ町村ニ部分
  的ニオ禁厭的ニ醫療組合ヲ作ッテヤラウト
  云フガ如キ、左樣ナ不徹底ナルコトハ、現
  內閣ノ聲明ト副ハナイデハナイカ、廣義國
  防ノ意味ニ於テモ、是ハ全然考へ直シ、行
  政機構ヲ一新シテ國策ヲ樹立スル、其一ツ
  ノ中ニ此醫療普及ノ問題ハ決定サレナケレ
  バナラナイト思フノデアリマス、會期切迫
  シタル今日ニ於テ、政府ガ成立勾々內容ニ
  對シテ十分ナル檢討モナク、政府各省ノ間
  ニ可ナリノ摩擦ノアル所ノ案ヲ玆ニ持出シ
  テ、議會ニ於テノ摩擦ヲ憂慮スルガ如キハ、
  政府自ラ己レヲ知ラザルノ甚シキモノナリ
  ト私ハ斷ズルノデアル、以上ノ點ニ付テ內
  務大臣竝ニ遞信大臣ノ確ッカリシタ御答辯
  ヲ要求シマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=7

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• 008・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　土屋サンカラ
  ノ御尋ヲ要約シテ見マスト、第一ハ元來健
  康衞生ノ問題ハ、ソレ〓〓社會保險的ニヤ
  ル方法モアリ、又醫者ノ開業醫制度ト云フ
  ヤウナコトデ行ク方法モアルガ、一體ドッチ
  ヲ採ルカ、斯ウ云フ御尋ノヤウニ拜承致シ
  マシタ、是ハ先日來私ガ度々申上ゲマスヤ
  ウニ、必シモ一ツノ主義ノ下ニ方策ヲ樹テ
  テ、ソレニ膠著シテ居ル必要ハナイノデア
  リマシテ、如何ニスレバ氣ノ毒ナ人々ニ對
  シテ醫療ノ機會ヲ與ヘ得ルカ、斯ウ云フ所
  デアルト思フノデアリマス、而シテ今囘提
  案致シマシタ國民健康保險制度ト云フモノ
  ハ、所謂純然タル極貧者救濟ト云フ意味デ
  ハ必シモナイ、所謂極貧者ニ對シマシテハ
  救護法其他ノ施設ニ依リ、大體ニ於キマシ
  テ、所謂中產以下ノ農漁山村ノ住民竝ニ中
  小商工業ニ從事シテ居ルヤウナ人、若干ノ
  收入ハアルケレドモ、病氣ニナッタ時ニハ非
  常ナ悲慘ナ思ヒヲシナケレバナラナイト云
  フ人ニ、平素カラ若干ヅヽ積立テヽ、必シ
  モ國家ノ慈惠デハナイ、自分ノ力モ其中ニ
  入ッテ居ルノダト云フ立前デ行クノガ、今日
  國民ノ自力更生ノ上カラモ必要デアル、斯
  ウ云フ風ナ趣旨カラシテ、單ニ恩惠ダケデ
  ハナイ、皆ガ力ヲ合セテ、ソレニ國家ガ相
  當ノ援助ヲシテ、斯ル悲慘ノ事ノナイヤウ
  ニ、安心シテ自分ノ業務ニ勉强ガ出來ルト
  云フヤウナコトニサセタイト云フノガ、此
  國民健康保險法ノ要旨デアリマス、併ナガ
  ラソレバカリデ今日ノ醫療ヲ完備スルコト
  ハ出來ナイノデアリマスカラ、過日來同時
  ニ又提案致シテ居リマスル保健所ノ法トカ、
  或ハ豫算ノ上ニ現ハレテ居リマスル結核療
  養所ノ施設ヲ擴張スルトカ、或ハ無醫村ニ
  對シテ醫者ヲ多クスル施設ヲヤラシテ、助
  長スルトカ云フヤウナ方法ヲ立テヽ居ルノ
  デアリマス、其外救護法ヲ改正致シマシテ、
  其救護ノ範圍ヲ擴張スルトカ、有ユル手段
  ヲ盡シテヤッテ行クト云フノガ、國家ノ社會
  政策ノ上カラモ、亦保健行政ノ上カラモ必
  要デアル、何デヤラナケレバナラヌト云フ
  ヤウナ、一定ノ主義ノ下ニ膠著スル必要ハ
  ナイノデアリマスガ、此國民健康保險法ト
  云フノハ、只今私ガ申上ゲマシタヤウニ、
  或ル程度マデ自力ヲ入レ、ソレニ對シテ國
  家ガ十分ナル便宜ト助力ヲ與ヘル、斯ウ云
  フ立前ニ出來テ居ルノデアリマス、私ハ一
  般ノ斯ウ云フ風ナ種類ノ人、卽チ國
  民ノ中堅ヲ成シテ居リマスル所ノ、斯
  ウ云フ風ナ人々ニ對スル施設トシテハ、單
  純ニ國家ノ恩惠デナク、斯ウ云フ風ナ保險
  制度ニ依ッテヤッテ行クト云フコトガ最モ適
  當デアッテ、私ハ此制度ト云フモノガ今日最
  モ適當スルヤウニ思フノデアリマス
  ソレカラ第二ニ、一體國民健康保險法ト
  云フヤウナ大キナ名前ヲ揭ゲテ置キナガ
  ラ、町村單位ト云フヤウナコトデ、所謂羊
  頭ヲ懸ゲテ狗肉ヲ賣ルト云フヤウナモノデ
  ハナイカ、斯ウ云フ風ナ御話ノヤウニ伺ヒ
  マシタ、是ハ私ガ申ス迄モナク、唯名前ダ
  ケデアリマシテ、實ハ此法制定ノ際ニモ、
  或ハ庶民ト云フヤウナ名前ヲ用ヒル方ガ宜
  イノデハナイカ、庶民健康保險組合ト云フ
  ヤウナ名前ガ宜イノデハナイカト云フヤウ
  ナ議論ガ出タノデアリマスガ、併ナガラ特
  ニ國民ノ中ノ或種ノ人ニ、庶民ト云フヤウ
  ナ名前ヲ附ケルコトハ、私ハ宜シクナイト
  云フ意味ニ於キマシテ、所謂最モ差障リノ
  ナイ國民ト云フ名前ヲ附ケタ譯デアッテ、國
  內全體ノ人ヲ網羅シテ大キナ組合ヲ作ルト
  云フ意味デナイコトハ、是ハ私ガ申ス迄モ
  ナイコトト思ヒマス、單ニ名前ダケニ過ギ
  ナイノデアリマス、而シテ何故ニ町村ヲ單
  位トスルカト申シマスト、是ハ私ガ申ス迄
  モナク、今日我國ノ自治體ト云フモノハ、
  大體ニ於テ町村ト云フモノヲ單位トシ、或
  ハ市ヲ單位トシテ居リマスルガ、斯ウ云フ
  モノガ單位トナッテ發達ヲシテ來テ居リマ
  ス、而シテ我國ハ外國ト違ヒマシテ、所謂
  隣保相助ノ觀念ト云フモノハ非常ニ發達シ
  テ居ル、此點ニ於テハ私ハ先程土屋サンガ
  御例示ニナリマシタ丁抹ナドトハ、餘程似テ
  居ルノデハナイカト思フ、卽チ單ニ個人主
  義デナク、病氣ヲシタ場合ニハオ互ニ隣近
  所ハ助ケ合フ、是ハ非常ナ美風デアリマシ
  テ、此風ハ益〓助長ヲシテ行ッテ宜イ問題デ
  ハナイカ、斯ウ思ヒマス、卽チ一町村內ニ
  於キマシテ、オ互ニ知合ッタ者ガ一ツノ團體
  ヲ作ッテ、サウシテイザ病氣ト云フ場合ニ、
  急ニ金ガ要ルノデアルガ、其急ニ金ガ要ル
  ト云フノヲ、平素カラ節約ヲシテ若干積立
  テテ居ッテ、病氣ニナッタ場合ニ安心シテ醫
  者ニ掛カレル、斯ウ云フ途ヲ開クコトガ最
  モ適當デアッテ、所謂町村ヲ單位トスルト云
  フコトガ、我國ノ長イ間ノ傳統ニモ適ヒ、
  今日ノ實情ニモ相應シ、將來亦斯ウ云フ風
  ニシテ地方ノ基礎ヲ固メテ行クト云フコト
  ガ、私ハ最モ適當デアルト、斯ウ云フ風ニ思
  フノデアリマス、而シテ町村ヲ單位トシテ
  澤山出來マスレバ、自ラ是ガ全國ニ普及ス
  ル譯デアリマシテ、段々ト是ハ助長奬勵シ
  テ行クト云フコトニ致シテ行キマスルナラ
  バ、相當ノ年月ノ中ニハ、我國ニ於キマス
  ルサウ云フ風ナ階級ノ人々ガ、安心シテ生
  活ヲ爲シテ行クコトガ出來ル、只今土屋サ
  ンノ仰セニナリマシタヤウニ、一番人生悲
  慘ナルモノハ、明日ノ日ニ食へナクナルト
  云フコトト、更ニ病氣ヲシタ時ニ、其前途
  ガ分ラナイト云フコトガ、一番悲慘ナコト
  デアリマスルカラ、サウ云フコトヲ安心シ
  テ醫者ニ掛カレルト云フコトデ、光明アル
  生活ヲ數年-何年掛ルカ分リマセヌケレ
  ドモ、我國ノ國民ノ大多數ガ、サウ云フ安
  心シタ生活ガ出來ルヤウニ爲シ得ルト思フ
  ノデアリマス、更ニ此組合デハ身體ノ弱イ
  者バカリ入ッテ、サウシテ丈夫ナ者ハ入ラヌ
  ト云フヤウナコトニナルト、結局ハ算盤ガ
  立タヌデ倒レテシマヒヤセヌカ、斯ウ云フ
  ヤウナ御尋デアリマシタガ、是ハ申ス迄モ
  ナク所謂家族制度デアリマシテ、組合員ト
  云フモノハ、大體ニ於テ其家長カ何カガナ
  ルコトデアリマシテ、其一家ニ於ケル家族
  ト云フモノガ、其恩惠ニ浴スルコトニナル
  ノデアリマスカラ、一家ノ內ニ總テ丈夫ナ
  人バカリ揃ッテ居ルト云フコトバカリモ
  ナシ、一家ノ內ニ總テ弱イ人バカリ集ッテ居
  ルト云フコトモナイノデアリマスカラ、大
  體ニ於テ私ハ町村ノ相當ナ人ガ之ヲヤラウ
  ト云フ場合ニハ、相當ナ人ガ入ッテ行ク、弱
  イ人ニ限ルト云フコトハ恐ラタナイノデハ
  ナイカ、且又大體ニ於テ平均ヲ取ッテ見マ
  スト、農村等ニ於ケル一年ノ醫療費ハ、二
  十四五圓ニ當ッテ居ルヤウニ計算サレテ居
  ルノデアリマスガ、サウ云フ風ナ金ヲ分割
  シテ納メテ行ク、斯ウ云フコトデ行クノデ
  アリマスカラ、大體ニ於テ之ヲ作ルト云フ
  積リニナッテ、其町村ノ人ガ肚ヲ合セ心ヲ合
  セルナラバ、自ラ全體ガ組合ニ加ハッテ行
  ク斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、尙ホ
  更ニ其市町村內ニ於テ三分ノ二以上ノ人ガ
  作リマス場合ニハ、場合ニ依ッテ地方長官ハ
  之ヲ强制スルコトガアル、斯ウ云フ規定ヲ
  設ケテ居ルノデアリマス、デアリマスカラ御心
  配ノヤウナ弱イ者バカリデ、終ヒニ經濟ガ
  取レヌヤウニナリハセヌカト云フコトハ、
  私ハナイデアラウ、斯ウ云フヤウニ思フノ
  デアリマス、尙ホ先程御述ニナリマシタヤ
  ウニ、我國ニ於キマシテハ、都市ト農村トノ
  間ニ於ケル醫師ノ分布ニ於テ非常ナ不均衡
  ガアル、是ハ仰シヤッタ通リデアリマス、此
  點ニ付キマシテハ種々ナル方法、例ヘバ無
  醫村ニ對シテハ醫者ヲ置クヤウニ國家ガ奬
  勵スル、是ハ豫算ノ上ニ揭ゲテ居リマス、斯
  ウ云フヤウニ色々ノ方法ニ於テ、一方ニ於テ
  ハ健康保險組合ト相俟ッテ行キマスナラバ、國
  民ノ所謂生活安定ヲ達成スルコトガ出來ル
  デアラウ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス
  ソレカラ醫師會ノ問題デアリマスガ、
  是ハ先程來度々御話ガ出マシタヤウニ、
  我國ニ於ケル開業醫ノ制度ト云フモノハ、
  是ハ一ツノ尊重スベキ制度ト思フノデア
  リマスガ、隨ヒマシテ歷代ノ內務大臣ト
  云フモノモ、ソレニ對シテ相當ノ敬意ヲ表
  シテ居ル、是ハ私ガ申ス迄モアリマセヌ、デ
  アリマスカラ例ヘバ社會保險調査會等ニ於
  キマシテモ、日本醫師會ノ代表トシテ日本
  醫師會長、或ハ日本齒科醫師會長ト云フ者
  ガ加ハッテ、重要ナ發言權ヲ持ッテ居ルノデ
  アリマス、先程此法案第九條ニ於キマシテ、
  是ハ元來社會保險調査會ニ於テ掛ケテ後ニ
  入レタノデハナイカ、是ハ其ノ通リデアリ
  マスガ、是ハ先日來私ガ申上ゲマシタヤウ
  ニ、其必要アリト認メテ、卽チ現在十分發
  達シテ居ルモノハ、是ハドウモ除外スル必
  要ハナイ、代行サセル方ガ便利デアル、斯
  ウ云フ所カラ出來タノデアリマシテ、是ハ
  私ハ別ニ論議ヲ致ス譯デハアリマセヌガ、
  團體契約、此議場ニハ關係ナイコトデアリ
  マスガ、醫師會ニ於テ團體契約ヲ必ズ法定
  セイト云フコトヲ主張サレテ居ルヤウデア
  リマスガ、當時ノ社會保險調査會ニ於テ、
  日本醫師會ヲ代表サレテ居ル日本醫師會長
  ガ、サウ云フ主張ヲサレテ居ラナカッタ、法
  定セヨト云フコトハ主張ガナカッタヤウニ
  私ハ思ヒマス、デアリマスカラ、ソレガ其
  時ニ出タカラ、後カラ入レルノハ惡イト云
  フ筋ノモノデナク、ヤハリソレヲ今日主張
  サレルノハ、ソレ〓〓ノ理由ガアルコトト
  私ハ思ヒマスガ、必シモ贊成ハシマセヌガ、
  併ナガラ何等カノ理由ニ依ッテ、今日日本醫
  師會等ニ於テ主張サレテ居ルノデアリマス
  ガ、ソレハ私ハ少シモ咎メナイト同ジヤウ
  ニ、ヤハリ第九條ノ規定ガ、其當時出來テ
  居ナカッタカラ、其後ノ狀況ニ依ッテ入レル
  ト云フコトハ少シモ差支ナイ、斯ウ云フ風
  ニ私ハ思フノデアリマス、先程御述ニナリ
  マシタヤウニ、國民ノ體位ヲ上進シ、國民
  生活ノ安定ヲ圖ルト云フコトハ、今日國家
  ノ急務デアリマシテ、有ユル點ニ於テ國民
  生活ノ安定ヲ圖ルト云フコトハ必要デアリ
  マスガ、併ナガラ總テノ點ニ國家ガ何デモ
  彼デモヤルト云フコトハ出來ナイノデアリ
  マスカラ、焦眉ノ急デアル病氣ニ罹ッタ場合
  ノ醫療ノ機會ヲ均等ナラシムルト云フコト
  ガ、一番先ニヤラナケレバナラヌ事デアリ
  マシテ、私共ハ斯ウ言ッテ論ジテ居ル間ニ、
  醫者ニ掛レナイデ非常ニ悲慘ナ狀態ニアル
  人ガ澤山アルト思フノデアリマスカラ、
  刻モ早ク此國民健康保險法ヲ制定致シマシ
  テ、出來ルダケサウ云フ人ヲシテ醫療ノ機
  會均等ニ至ラシムルコトヲ私ハ切望スルノ
  デアリマス
  尙ホ簡易保險ト國民健康保險トノ差異デ
  アリマスガ、是ハ何レ遞信大臣カラ御答ガ
  アラウト思ヒマスガ、簡易保險ハ所謂私ガ
  申ス迄モナク生命保險デアリマシテ、此國
  民健康保險ト云フモノハ、卽チ社會保險デ、
  醫療ノ機會ヲ與ヘシムルト云フコトノ目的
  デアリマシテ、死ンダ場合ニ所謂葬祭費ト
  カ、助產費ト云フモノハ與ヘマスケレドモ、
  別ニソレニ對シテ金ヲ幾ラヤルト云フヤウ
  ナコトヲ目的ト致シテ居ルモノデハナイノ
  デアリマス、此點ダケヲ申上ゲテ置キマス
  (拍手)
  〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=8

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• 009・兒玉秀雄

  ○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君)　土屋君ノ御
  質問ニ御答ヲ致シマス、土屋君ガ御述ニナ
  リマシタ通リニ、遞信省ニ於キマシテハ、
  大正十一年カラ簡易生命保險ニ於キマシテ
  健康相談所ヲ設ケテ居リマス、是ハ主トシ
  テ被保險者ヲ中心ト致シマスルノデ、被保
  險者ノ健康ノ保持增進ヲ目的ト致シテ居ル
  モノデアリマス、簡易保險ノ發展ニ連レマ
  シテ、健康相談所ノ數モ漸次增加ノ傾向ヲ
  持ッテ居リマスガ、此健康相談所ニ於キマシ
  テハ、只今申上ゲマスル通リニ、被保險者
  ヲ中心ト致シマシテ、其健康ノ相談ニ應ズ
  ル事柄ヲ原則ト致シテ居ルノデアリマス、
  唯其中ニ已ムヲ得ザル場合ニ於キマシテノ
  ミ、之ニ或ハ醫療ヲ與ヘ、診療ヲスルコト
  ガアリマスケレドモ、原則ト致シマシテハ、
  被保險者ニ對スル健康ノ相談ニ止メテ居ル
  次第デアリマス、斯ノ如キ次第デアリマス
  ルカラ、今日只今問題ニナッテ居リマスル國
  民健康保險法案トハ、毫モソコニ對立矛盾
  ガナイノデアリマス、政府ト致シマシテハ、
  斯ノ如キ近代的社會立法ガ速ニ成立致シマ
  シテ、相協調シテ其實ヲ擧ゲル事柄ヲ熱望
  シテ巳マナイノデアリマス(拍手)
  〔土屋〓三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=9

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• 010・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君　只今內務大臣ハ、焦眉ノ
  急ニ迫ッテ居ル此氣ノ毒ナル病人ヲ、一刻モ
  早ク救フ爲ニ此制度ヲ設ケルノデアル、斯
  ウ云フ御答辯デアリマス、私ハサウデアレ
  バコソ、十年モ二十年モ掛ルヤウナ案ヲ廢
  メテ、全面的ニ國民ヲシテ醫療ノ機會ヲ得
  セシムルヤウニシテハドウカト言フノデア
  リマス、丁抹ノ例ヲ御擧ゲニナリマシタ
  ガ、丁抹ト日本ノ農村ハ全然違フノデアリ
  マス、國ハ極ク小サク、東京市民ヨリマダ
  僅カノ人ロデアル、其狹イ區域ノ中ニ於テ、
  農村ハ裕福ニナッテ居リマスルカラ、自然ニ
  村々ノ此醫療組合ガ發達シタノデアリマス、
  日本ノ今日ノ農村ハドウデアリマスカ、政
  府ガ生々シイ御經驗ヲ御持チニナッテ居ル
  ヤウニ、今日ノ農村ト云フモノハ、實ニ堪ヘ
  ラレナイ氣ノ毒ナル狀態ニ在ルノデアル、
  ソレデアレバコソ、交付金ノ要求ガアレダ
  ケ熾烈デアッタデハアリマセヌカ、日本ノ農
  民ニソレダケノ餘裕ガアルナラバ、丁抹ヨ
  リモモット早ク此施設ハ出來テ居ルノデア
  ル、ソレガ出來ナイノガ日本ノ今日ノ農村
  ノ實情デアル、サウデアリマスカラ、今日
  サヘ困ッテ居ル所ノ農村ニ向ッテ、此施設ヲ
  任意的ニ作レト言ヒマシテモ、一番必要ナ
  ル貧村ハ一番後〓シニナッテ、此組合ヲ早ク
  作リ得ル所ノ富裕ナル村ノ方ガ、先ニ出來
  ルノデハナイカ、是ハ內務大臣ノ御考ト全
  ク矛盾シタ結果ヲ見ルノデアリマス、ノミ
  ナラズ此制度ヲ見マスルト、診察ヲ受ケル
  場合ニモ、治療ヲ受ケル場合コモ、患者ハ
  ヤハリ一部ノ金ヲ持ッテ行カナケレバナラ
  ヌノデアル、一部ノ金ヲ持ッテ行カナケレ
  バ診察ヲ受ケラレナイノデアル、吾々ノ要
  求スル所ハ、日本國民デアル以上、庶民階
  級ハ少シデモ工合ガ惡ケレバ、何時デモ只
  デ醫者ニ診テ貫フヤウニシタイノデアリマ
  ス、只デ治療ヲ受ケルヤウニシタイノデア
  ル、ソレデナケレバ醫療ニ對シテ、庶民大
  衆ニ均等ノ機會ヲ得セシムルト云フコトハ
  出來ナイノデアル、ソレデ私ハ此處デ先程
  カラ質問シテ居ルノデアル、此保險制度ガ
  一番宜イト云フナラバ、此保險ヲ全面的ニ
  國營ニシテ一度ニヤル、サウシテ其醫療
  ヲ-歷代ノ內務大臣ガ果シテ日本醫師會
  ヲ信用シ、開業醫制度ヲ尊重スルト云フナラ
  バ、現ニヤッテ居ル所ノ他ノ方法ト同ジヤウ
  ニ、醫師會ト契約ヲシテ、開業醫全部ニ
  此保險ノ診療ヲ擔當サシテ、患者ニ對シテ
  ハイツ何時デモ、ドノ醫者デモ選擇シテ掛
  レルヤウニ、而モ一文ノ金ガナクトモ、病
  氣ノ場合ニハ何時デモ行ッテ只デ診察ヲ受
  ケテ、只デ治療ヲ受ケラレルヤウニシナケ
  レバ、醫療ニ對スル施設ト云フモノハ徹底
  シナイノデアル、之ヲ吾々ハ聽イテ居ルノ
  デアル、此點カラ言ッテ、此國民健康保險制
  度ト云フモノハ、全ク金ヲ持ッテ行カナケレ
  バ診察ヲ受ケラレヌ、治療モ受ケラレヌ、
  サウシテ貧村ガ一番遲レテ、富裕ナル村ダ
  ケガ先ニ出來ル、最モ遲レタル外國ノ制度
  ヲ如何ニモ物珍シゲニ取上ゲテ、是コソ庶
  政一新、國民生活ノ安定ヲ期スル醫療普及
  ノ制度ナリト言フニ至ッテハ、吾々ハ實ニ驚
  クノ外ハナイ、遞信大臣ノ御答辯ハ、私ノ
  問ヲ御了解ニナッテ居ラヌ、私ハ簡易生命保
  險ノ施設ヲ聽イタノデハナイ、遞信省ハ簡
  易生命保險ヲヤッテ、國民ノ大部分ヲ其加入
  者ニシテ、旣ニ今日マデニ契約ガ三十億圓
  ヲ突破シテ居ル實情デアル、遞信省簡易保
  險局ガ進ンデ國營ノ國民健康保險制度ヲ
  ヤッテ、二十万ノ手足ヲ持ッテ居ル郵便局ヲ
  動員シテ、サウシテ國民ノ大部分ヲ加入サ
  シテ、集金ノ働ヲサシテヤッタナラバ、是コ
  ソ本當ニ理想的ノ國民保健制度ガ出來ルデ
  ハナイカ、斯樣ニアナタノ部下ハ長イ間〓
  究シテ、發表サレテ居ル、其苦心ハ玆ニア
  ナタノ所カラ現レタル大部ノ本トナッテ公
  ニサレテ居ルノデアリマス、此點ヲ私ハ承
  リタイ、之ニ付テ遞信省ハ、社會局ノ今日
  ノ不徹底ナル案ニ對シテ、如何ナル考ヲ御
  持チニナッテ居ルノデアルカ、以上ニ付テ承
  リマス、御答辯ガアルトナシニ拘ラズ、細
  カイコトニ付テハマダ澤山缺陷ガアリマス
  カラシテ、是ハ委員會ニ於テ十分質問應答
  ヲシテ、勝敗ヲ決シタイト思ヒマス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

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• 011・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　第一ノ御尋ハ、
  國營ニデモシテ徹底的ニヤラナケレバ仕樣
  ガナイヂヤナイカ、斯ウ云フコトニ伺ヒマ
  シタガ、一度ニヤレルノハ、ソレハ一番理
  想デアリマスガ、併ナガラ國家トシテハヤル
  ベキ仕事ガ澤山アリマス、私ガ申ス迄モナ
  ク、一方ニ於テハ國防モヤラナケレバナラ
  ヌ、或ハ土木ノ方ノ關係モシナケレバナラ
  又、產業ノ助長モシナケレバナラヌ、サウ
  云フモノガ綜合シテ、初メテ一國ノ發展ト
  云フコトガ見ラレルノデアリマシテ、保健
  衞生ノ見地カラ、之ヲ國營其他ノ方法ニ依ッ
  テ、徹底的ニスルコトハ望マシイコトデア
  リマスガ、一面國家財政其他ノコトモ考ヘ
  ナケレバナリマセヌカラ、ヤハリ是ハ漸進
  的ニ行クヨリ外ハナイ、更ニ又私ガ先程申
  上ゲマシタヤウニ、必シモ國家ノ慈惠、惠
  ミト云フコトデナク、ヤハリ若干ノ力ノア
  ル者ハ、自分ノ病氣ヲ治スコトニ付テ、其
  力ヲ出スト云フコトハ私ハ當然ト思フ、隨
  ヒマシテ唯總テ施療的ニヤルト云フコトニ
  付キマシテハ、私ハ直チニ贊成シ得ナイノ
  デアリマス
  ソレカラ第二ニ、ヤハリ一部ノ負擔ヲスル
  デハナイカ、全部組合ノ費用デヤッテ呉レル
  ノデハナイデハナイカト云フ御尋デアリマ
  シク、是ハ其通リデアリマシテ、一部負擔ヲ命
  ズルコトニナッテ居リマス、サリナガラ是ハ
  總テ病氣ニナッタ時ニハ、組合費デ以テ總テ
  始末ヲシテ呉レルト云フコトニナリマスト、
  場合ニ依ルト濫リニ診療ヲ願出ス、組合ハ
  他カラ金ガ出テ來ル譯デナイ、組合員各自
  ガ負擔スルノデアリマスカラ、組合員各自
  ガ無闇ニ大シタコトデナクトモ、醫者ノ診
  療ヲ受ケルト云フコトニナリマスト、組合
  ガ成立タナイ、ソレ等ヲ制限スル意味ニ於
  テ、病氣ニナッタ時ニ若干持ッテ行ク、健康
  ノ人モ負擔シテ居ルノデアルカラ、病氣ニ
  ナック時ニ若干ノ金ヲ持ッテ行クト云フコト
  ハ適當デアラウ、斯ウ云フ風ニ思フノデア
  リマス
  〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕

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• 012・兒玉秀雄

  ○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君)　土屋君ノ再
  度ノ御質問デアリマスケレドモ、詳細ノコ
  トハ委員會ニ於キマシテ申述ベルコトニ致
  シタイト思ヒマス

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• 013・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君　簡單デスカラ此席デ發言
  スルコトヲ御許シ願ヒマス

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• 014・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　許可致シマス

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• 015・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君　診察ヲ只デ何處デモ受ケ
  ラレルト云フ制度ガ、一番庶民階級ニ醫療
  ヲ受ケサセルニ必要ナノデアリマス、是ハ
  絕對ノ條件デアリマス、現ニ·
  〔「空想ダ」ト呼ヒ其他發言スル者多シ〕

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• 016・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

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• 017・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君(續)　空想デナイ、現ニ佛
  蘭西ノ如キハ、國民健康保險法ヲ實施シテ
  居リマシテ、庶民階級ハ何時タリトモ醫者
  ノ所ニ行ッテ、只ダ診察ヲ受ケラレル制度ニ
  ナッテ居ル、若シ政府ガ本當ニ此決心ヲ以
  テ-今ノ內務大臣ノヤウニ、醫師會ト喧嘩
  ヲスルヤウナコトハ絕對ニイケナイ、若シ
  私ガ當局デアッタナラバ醫者ヲ信用シテ、日
  本醫師會ト契約シテ、全國ノ開業醫ト契約
  シテ、自由ニ只デ診療ヲ受ケラレルヤウニ
  スル、此相手ヲ信用スル所ノ度量ガナクテ、
  是ダケノ仕事ヲスルコトハ無理デハナイ
  カ、之ヲ第一ニ考ヘナケレバ、庶民階級ニ
  對シテ均シク醫療ノ機會ヲ得セシムルコト
  ハ、斷ジテ出來ナイト云フコトヲ、此機會
  ニ內務大臣ニ御注意申上ゲテ置キマス

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• 018・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　三宅正一君
  〔三宅正一君登壇〕

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• 019・三宅正一

  ○三宅正一君　私ハ國民健康保險法案、結
  核豫防法中改正法律案竝ニ保健所法案、其
  他現內閣ノ提出サレマシタ保健諸法案ニ對
  シマシテ質問ヲ試ミタイト考ヘルノデゴザ
  イマス
  私ハ第六十九議會、前議會ニ於キマシテ、
  國民健康保險法制定ニ關スル建議案ヲ提出
  致シマシテ、是ガ通過シ、更ニ同僚佐藤謙
  之輔君ト共ニ、潮內務大臣ニ對シテ、本議
  會ニ國民健康保險法案ヲ提出スル意思アリ
  ヤ否ヤノ點ヲ、質問主意書ヲ提出致シマシテ、
  サウシテ是ガ成立ヲ翹望シテ居ッタノデア
  リマス、幸ニシテ色々ノ點ニ於テ、未ダ十
  分デナイ點ハアルケレドモ、未ダ曾テナイ
  ヤウナ保健ニ關シマスル色々ノ法案ガ、
  本議會ニ提出サレマシタト云フコトニ付キ
  マシテハ、私ハ心カラ感激ニ燃エテ居ル者デ
  アルノデゴザイマス(拍手)唯私ハ此際內閣
  總理大臣ニ問ヒタイ點ガゴザイマスノハ、
  保健、衞生、國民體位ノ問題ニ付テ、現內
  閣ハドノ程度ニ重要視シテ居ルカト云フ
  點デアルノデゴザイマス、私共ハ七大國策
  ノ中ニ、現內閣ガ保健政策ヲ加へテ居ラナ
  イト云フ一點ニ於テ、現內閣ハヤハリ落第
  ヲシテ居ルト云フ點ヲ認メザルヲ得ナイノ
  デゴザイマス、保健國策ヲ重視シナイ議會、
  保健政策ヲ輕蔑スル政府、私ハ是ハ文明ニ
  遲レテ居ル「バロメーター」デアルト考ヘル
  ノデゴザイマス、鐵道行政ノ爲ニ一省ヲ設
  ケ、遞信行政ノ爲ニ一省ヲ設ケナガラ、モッ
  ト重要ナル國民體位ノ問題ニ付テ一省ヲ設
  ケザルガ如キ、此議會ト此政府ト云フモノ
  ハ其點ニ於テ時代遲レデアルト云フコト
  ヲ吾々ハ痛感致シテ居ルノデゴザイマス(拍
  手)特ニ一昨日議場ガ此問題ニ付テ定足數
  ヲ缺キマシタト云フヤウナ點ニ付キマシテ、
  竝ニ醫科出身ノ代議士ガ出テ居ラレマスル
  カラ、吾々ハ保健政策ニ付テ〓ヲ乞ヒタイ
  ト考ヘテ居ルノデアルケレドモ、醫科出身
  ノ代議士ガ鐵道ヲ引張ルコトニハ狂奔サレ
  ルケレドモ、保健政策ニ付テ政府ヲ指導シ、
  國民ヲ指導スル、何等ノ積極的ナ抱負經綸
  ヲ御出シニナラナイト云フ所ニモ、日本ノ
  遲レタル一面アリト吾々ハ考ヘザルヲ得ナ
  イノデアリマス(拍手)此點ニ付キマシテ、
  政府ハ我國ノ保健政策ヲドノ程度ニ重視シ
  テ居ルノデアルカ、衞生局カラ或ハ社會局
  カラ、バラ〓〓ニ保健政策ヲ出ス程度ヲ以
  テ、我國ノ國民ノ體位ハ之ヲ維持出來ルト
  御考ニナッテ居ルノデアルカ、ソレトモ衞生
  問題ハモット重大デアッテ、鐵道大臣ヨリモ、
  遞信大臣ヨリモ、內務大臣ヨリモ、內閣ニ
  於テ最モ重要ナル地位ヲ占メルノガ保健大
  臣デアルト云フ位ノ信念ヲ以テ、オヤリニ
  ナッテ居ルカドウカト云フ點ニ付テ、私ハ內
  閣總理大臣ニ先ヅ此點ヲ承リタイト考ヘル
  ノデゴザイマス
  〔私語スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=19

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• 020・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

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• 021・三宅正一

  ○三宅正一君(續)　第二ニ私ハ內務大臣ニ
  御質問申上ゲタイノデゴザイマスガ、今日
  ノ我國ノ醫療行政ハ果シテ成功シテ居ルカ
  失敗シテ居ルカ、私ノ見ル所ヲ以テスレバ、
  我國ノ醫療行政ハ徹底的ニ破產シテ居ル、
  陸軍ガ衞生省設置ノ聲明ニ於テ言ッテ居リ
  マスル通リ、我國ノ醫學ハ治療醫學ニ於キマ
  シテハ獨逸ノ壘ヲ摩シタト言ヒマス、醫學
  博士ハ日ニ三人ヅヽ出來ル、醫學博士ガ巷
  ニ充チ、開業醫ガ街ニ滿チテ居リナガラ、
  三千五百ノ村ニ醫者ガ居ラナイ、而シテ町
  ニ於キマシテモ、貧乏ノ爲ニ醫者ニ掛レナ
  イ者ガ激增シツヽアッテ、國民ノ體位ガ年々
  低下シツヽアルト云フコトハ、我國ノ醫療
  行政ガ徹底的ニ今日ニ於テハ失敗シテ居ル
  ノデアルト云フ點ヲ、內務大臣ハ御認メニ
  ナルカドウカト云フコトヲ、私ハ先ヅ質問
  シタイノデアル(拍手)
  而シテ此點ヲ內務大臣ガ御認メニナルナ
  ラバ、然ラバ我國醫療行政ノ失敗ノ原因ガ
  何處ニアルカト云フ點ニ付テ、內務大臣ニ
  承リタイノデゴザイマス、私ノ見ル所ヲ以
  テスレバ、我國ニ於ケル醫療行政ノ失敗ノ
  第一ノ原因ハ、統一的保健行政ノ缺如デア
  ル、而シテ特ニ保健社會政策ノ缺如ガ、我國
  ノ醫療行政失敗ノ第一ノ原因ナリト私ハ考
  ヘテ居ルノデアル、御醫者サンガ幾ラ出來
  タ所デ、金ガナケレバ掛レナイト云フコト
  ハ、土屋君ノ言ハレタ通リデアル、金ガナ
  クテハ掛レナイ、民衆ノ收入ヨリモ醫療費
  ノ方ガ高過ギテ掛レナイト云フ、是ガ眞ナ
  ラバ、醫者ハ何人出來タッテ國民ノ體位ハ決
  シテ上ラナイノデアル、而シテ今日ノ如ク
  患者ガ來ナケレバ醫者モヤッテ行ケナイト
  云フ醫療制度ヲ有ッテ居リマスル我國ニ於キ
  マシテ、醫療制度自體ガ豫防醫學ニ進出ス
  ルコトハ出來ナイノデゴザイマス、今日ノ醫
  療制度ハ豫防醫學ニハ進出出來ナイ制度ニ
  ナッテ居ル、其處ニ私ハ我國ノ所謂醫療ト云
  フモノノ失敗シテ居ル所ノ重大ナル點ガア
  ルト考ヘル(拍手)卽チ治療醫學ノ如キハ醫
  療問題ノ末デアル、積極的ニ國民體位ノ維
  持ヲ圖ルニハ、卽チ豫防醫學ガ重大デアル、
  豫防醫學ガ重大ナルノミナラズ、更ニ積極
  的ニ吾々ガ重大ナリト考ヘル點ハ、國民體
  位ノ向上ニハ、治療醫學、豫防醫學ヨリモ、
  更ニ生活環境ノ改善ニアルト信ズルノデア
  リマス(拍手)卽チ榮養ノ問題、住宅ノ問題、
  休養ノ問題、勞働ノ問題、體育等ノ諸條件
  ニ付テ、統一シタ國民體位ノ積極的改善
  ヲ圖リ、國民生活ノ安定ヲ圖リ、貧乏ノ
  根絕ヲ圖ルコトガ、卽チ體位向上ノ中心眼目
  デアルト吾々ハ考ヘテ居ルノデアル(拍手)
  此點ニ付テ今日積極的ニ指導サレルノガ、
  僅ニ內務省ノ外局デアル社會局ガ關與サレ、
  產業組合關係ニ於テ、僅ニ農林省ガ所謂保
  健問題ニ付テ關與サレ、遞信省ガ簡易保險
  ノ金ヲ以テ僅ニ健康相談所ヲヤッテ居ラレ
  ル、此程度ヲ以テシテ、ドウシテ日本ノ國
  民ノ積極的體格ノ擴充ガ圖ラレ得ルト考ヘ
  ルノデアリマスカ、其例トシマシテハ、
  昨日ノ議場ニ於テ行吉代議士ガ指摘シタ通
  リ、空氣ノ良イ農村ニ於テ千人ニ付テ二十
  人死亡シ、空氣ノ惡イ町ニ於テ十七人死亡
  スルト云フ事實ハ、空氣ノ問題ニ非ズシテ、
  農村ガ貧乏デ窮迫シタ結果、斯樣ニ死亡率
  ガ殖エテ居ルト云フコトヲ、證據立テルモ
  ノデアルト考ヘルノデアリマス、其他ニモ
  附屬的ノ原因ガアルニ違ヒナイケレドモ、
  私ハサウ考ヘル、而シテ都會ニ於キマシテ
  モ、貧乏地區ニ於テハ死亡率ガ高イ、日本
  橋ニ於ケル死亡率ト、本所、深川ニ於ケル
  死亡率ハ、內務省ノ統計ニ依ルト倍ニナッテ
  居ル、此事實ハ貧乏ト生活ト住宅ノ關係ニ
  於テ、單ニ醫者ダケ多ク居ッテモ駄目デアル
  ト云フコトヲ、證據立テル所以デアルト考
  ヘルノデアリマス
  更ニ徴兵檢査ノ報〓ニ付テ、陸軍省ノ小
  泉醫務局長ノ名前ヲ以テ發表サレタ所ニ依
  ルト、丙種、丁種ガ四割ニナッテ居ル、千人
  ノ中デ四百人ハ丙種、丁種ニナッテ居ル、而
  シテ丙種、丁種ガ多イ地區ハ、東京、大阪
  等ヲ中心ニスル大都市ノ近所ガ多イ、是ガ
  第一、第二ノ現象ハ、靑森縣ガ千人ニ付テ
  四百人以上、沖繩縣モ四百人以上デアル、
  此陸軍ノ出シマシタ統計ハ、心ナキ統計デ
  アルケレドモ、心ノ眼ヲ以テ見ルナラバ、
  都市ニ於ケル壯丁ノ體格ノ惡クナッテ參リ
  マシタノハ、長イ時間勞働スル、勞働條件
  ノ劣惡化、過勞、斯ノ如キ都市ニ於ケル集
  團衞生ト云フモノノ缺如ハ、今日ノ個人開
  業醫ニ依ッテ何等改善サレル所ナクシテ、玆
  ニ大ナル死亡率ヲ來シタト共ニ、日本ニ於
  ケル最モ貧乏地區デアル沖繩縣ト靑森縣ニ於
  テ、都市ニ匹敵スル壯丁體格ノ劣惡ヲ見タ
  ト云フコトハ、諸君吾々ハ慄然トシテ恐レ
  ナケレバナラヌト思フガ、內務大臣ハ如何
  ニ御考ニナルノデアリマスカ、ソレヲ御聽
  キシタイノデゴザイマス、斯ノ如キ結果、
  卽チ日本ニ於ケル結核ハ、幼年工ヲ虐使ス
  ルコトデアル、長時間勞働ノ結果デアル、
  不衞生ナル工場環境ニアルコトハ明白デア
  ル、而シテ工場ニ於テ女工ガ肺病ニナルト
  云フト、都會ニ置クノガ惡イト云フノデ、
  肺病ト云フ病名ヲ附ケズニ、風邪ト云フ名
  ヲ附ケテ田舍ニ歸シマシテ、都會デ肺病ニ
  シテ其責任ハ、之ヲ田舍ニ轉嫁セシメテ居
  ルト云フノガ、今日ニ於ケル我國ノ工場勞
  働ノ實情ト考ヘマスガ、內務大臣ハ此點ニ
  付テ如何ニ御考ニナルノデアリマスカ折
  手)卽チ私ハ統一的保健行政ノ意味ハ、單
  ナル衞生省ノ設置デハ駄目デアル、一昨日
  ノ議場ニ於テ衞生省ヲ設置セヨト云フ議論
  ガアッタガ、衞生省ヲ設置シタダケデ何ガ出
  來ル、醫者ダケデ何ガ出來ル、社會省ヲ兼
  ネ、衞生省ヲ兼ネ、勞働省ヲ兼ネ、福社省
  ヲ兼ネ、安寧省ヲ兼ネル所ノ-防貧、福
  社勞働保護ト保健衞生ヲ兼ネル所ノ社會
  衞生省ノ設置ガ、今日日本ノ國ニ於テ要求
  サレテ居ル所ノ、大ナルモノデアルト考へ
  ルノデアリマスガ、內務大臣ハ如何ナル御
  考デアルカ、之ヲ承リタイノデアリマス
  第二ノ我國醫療行政失敗ノ原因ハ、今日
  ノ開業醫制度ノ缺陷ニアルト考ヘルノデア
  リマス、我國現在ノ醫療組織ハ、開業醫制
  度ガ九割デアッテ、開業醫ヲ本體トシテ居
  ルコトハ明白デアル、併ナガラ開業醫制
  度ハ土屋君ノ言ハレルガ如ク、日本古來ノ
  制度デハナイ、封建時代ニ於テハ御殿ノ抱
  ヘ醫ガ醫業ノ本體デアッタ、御殿醫ガ醫業ノ
  本體デアッタ、軈テ資本主義ノ發生ト共ニ、
  商人ガ發達シテ町醫者ト云フノガ出テ來
  テ、明治ノ御一新ニナッテ、資本主義ニナツ
  テ、町醫者ノ發展シタノガ開業醫デアッテ、
  開業醫ハ資本主義ト共ニ發達シタ、資本主
  義的醫療組織ガ、卽チ開業醫制度ナリト
  吾々ハ考ヘルガ、一體內務大臣ハ此點ニ付
  テ如何ニ御考ニナルカ(拍手)私ハ今日マデ
  ノ開業醫ノ所謂功勞ヲ誹議スルノデハナ
  イ、開業醫ノ諸君ニ對シテ大イナル敬意ヲ
  拂ヒツヽモ、時代ト共ニ開業醫ノ制度ガ行
  詰ッテ來タコトニ付テ能ク御考ニナリ、政府
  モ亦之ヲ考ヘテ、サウシテ之ヲ指導シナケ
  レバ、我國ノ保健衞生ハ斷ジテ適當ナル展
  開ヲ爲シ得ナイト考へルノデアル、開業醫
  制度ノ特質ガ何處ニアルカト言ヘバ、第
  ハ、開業醫制度ハ營利主義醫療制度デアル
  ト云フ點デアル、營利主義醫療制度デアル
  カラ、如何ニ御醫者サンノ必要ガアッテモ、
  儲カラヌ處ニハ開業セナイト云フ制度ガ、
  卽チ營利主義ノ本體ヲ持ッテ居ル開業醫制
  度デアル、私ハ開業醫ガ惡イト言フノデハナ
  イ、惡イト言フノデハナイガ、儲カラヌ處
  ヘ行ッテハヤレナイカラヤラナイノデア
  ル、開業醫ヲ攻擊スルノデハナイ、開業醫
  ノ制度ノ本質ト云フモノハ、如何ニ必要ガ
  アッテモ儲カラヌ處へ行ッテハ開業セヌト云
  フ制度デアル、隨テ三千四百ノ村ニハ醫者
  ガ居ラナイノデアル、而モ町ニハ醫者ガ餘ッ
  テ居ルケレドモ、貧乏ナ者ハ醫者ニ掛カレ
  ナイ、ダカラ社會的ニハ町ニ於ケル中產階
  級以下ハ、醫者ノ惠ミニ浴スルコトガ出來
  ナイト云フ現狀ニアルコトヲ、私ハ否定ス
  ルコトハ出來ナイト考ヘルガ、此點ニ付テ
  內務大臣ハ如何ニ考ヘルカ(拍手)
  而シテ第二ニ、開業醫制度ノ特質ハ無統制
  醫療制度デアルト云フコトデアル、斯ノ如
  キ經濟學的術語ヲ以テスレバ無政府的醫療
  制度ガ卽チ開業醫制度デアル、儲カリサウ
  ナ處ヘバラ〓〓開業スル、何處ニカ必要ガ
  アッテ開業スルト云フノデハナイ、籤引ト同
  ジダ、勝手ニ開業スル制度ガ、卽チ私ハ今
  日ノ開業醫制度デアルト考ヘル、隨テ開業
  醫制度ハ、醫療費負擔ヲ爲シ得ザル層ニ
  ハ、恩惠ヲ及ボシ得ザル制度デアル、醫療
  費ノ拂ヘナイ者ニハ恩惠ヲ及ボサナイノデ
  アル、デアルカラ御醫者サンガ主觀的ニ如
  何ニ仁術ナリト考ヘラレテ居リマシテモ、
  其本質ニ於テ患者ガ來ナケレバ、病人ガ出
  來ナケレバ、決シテ食ッテ行ケナイ制度デア
  ル、醫者ガ風邪ガ流行ラナケレバ、「インフ
  ルエンザ」ガ流行ラナケレバ食ッテ行クコト
  ガ出來ナイ制度ガ、卽チ開業醫制度デアッ
  テ、本人ノ主觀的意思ニ拘ラズ、是ハ非人
  道的ニシテ不合理ナル制度デアルカラ、斯
  ノ如キ制度ヲ以テシテ病人ヲ積極的ニ減ラ
  シ、豫防醫學デアルトカ、或ハ積極的ニ體
  位向上ニ寄與貢獻スル所ノ社會醫學等ニ進
  出スルコトガ出來ナイノハ、開業醫制度ノ
  現況ヲ現ハスモノデアルト考ヘルノデアリ
  マス、此點ニ付テ內務大臣ハ如何ニ御考ニ
  ナッテ居ルカ、隨テ私ハ今日ニ於キマシテ
  ハ、我國醫療制度ハ其本體ヲ開業醫制度ニ
  置クベキ時代ハ過去ッタト斷定スルノデゴ
  ザイマス(拍手)
  次ニ無醫村ノ問題ニ付テ私ハ考ヘタイ、
  無醫村ニ內務省ガ寄付金ヲ以テ如何ニ診療
  所ヲ御作リニナッテモ醫者ガ行カナイ、何故
  無醫村ニ今日ノ制度ヲ以テシテハ醫者ガ行
  カナイカ、私ノ見ル所ヲ以テスレバ、無醫
  村ニ醫者ガ行カナイノハ、經濟的理由ト、
  技術的理由ト、文化的理由トガアル、經濟
  的理由ハオ金ガ入ラヌカラ行カナイノデア
  ル、是ハ明白デアル、國民健康保險法ハ、
  此點ニ付キマシテハ一ツノ問題ヲ解決ス
  ルト考ヘル、第二ハ技術的理由デアルガ、
  今日ノ如ク專門ニ分レ、「レントゲン」ヲ持
  チ、血〓ノ檢査ヲシ、內科、外科、產科ト
  分レマシテ、專門化シテ、之ヲ綜合化シテ
  病院組織ニシナケレバ、完全ナル治療
  ヲ爲シ得ナイ、山ノ中ヘ醫者ガ行ッテ、
  顯微鏡モ持タズ診療サセテ、籔井竹庵
  ノ眞似ヲシロト云ッテモ、技術ヲ愛スル
  醫者ハ、金ヲ幾ラ出シテモ行カナイ、
  此醫療技術ノ點ガ、卽チ無醫村ニ醫者ノ行
  カナイ理由デアルト私ハ考ヘルノデアル、
  更ニ文化的理由トシテ、大學ヲ出、專門
  學校ヲ出タ醫者ガ、寂漠荒寥タル山村ニ於
  テ、〓養モナイ民衆ト共ニ居ルコトニ付テ、
  今日ノ醫者ガ行クコトヲ拒ンデ居ル、此三
  ツノ點ヲ解決シナケレバ駄目デアル、私ハ
  無醫村ニ醫者ヲ配置スル所以ノモノハ、三
  井財閥ノ恩惠ニ依ルノデナクシテ、醫療組
  合ノ制度ニ依ル本院ヲ作ッテ、其分院ニ醫者
  ヲ配置スル、サウスレバ分院ニ行キマス醫者
  ハ、本店支店ノ關係ニ於テ、專門的ニ本院
  ノ「レントゲン」モ利用出來ルカラ、一定ノ特
  定手當ヲ出セバ技術的良心ヲ滿足サセテ、
  無醫村へ喜ンデ赴任スルト云フ點ニ於テ、
  統制的醫療制度デアル醫療組合ニ依ル外ハ、
  無醫村ニ醫者ヲ配置スル途ガナイト私ハ考
  ヘルガ、其點ニ付テ內務大臣ハ如何ニ御考
  ニナルカ、而シテ更ニ此結果ハ、開業醫自
  體ノ生活難トナッテ襲ヒ掛ッテ來タノデアル、
  村ヘハ醫者ハ行カナイ、町ニハ醫者ガ餘ッ
  テ居ル、然ルニ今日ノ狀態ニ於キマシテハ、
  醫者ハ一體町ニ居ッタッテ、流行ルカ流行ラ
  ナイカハ神樣ヨリ知ラナイ、食ッテ行ケル
  カ食ッテ行ケナイカ、全ク博奕打ト同ジデア
  ル、流行サヘスレバ、今日ノ狀態ヲ以テス
  しく、ソレハ倉ノ出來ルコトハ明デアル、
  患者ガ來ルカ、來ナイカ向フ樣委セデアル、
  何万圓カ借金シテ玄關ヲ開イテ待ッテ居テ
  モ、是ハ信濃川ニ釣糸ヲ垂レテ居ルノト同
  ジデ、御客ガ引懸ッテ來レバ儲カルガ、引
  懸ツテ來ナケレバ儲カラナイト云フ所ニ、今
  日ノ開業醫制度ノ博奕性アリト私ハ考ヘル
  ノデゴザイマス、國家ガ澤山ノ金ヲ使ヒマ
  シテ、御醫者サンヲ養成致シマシテ、ソレ
  ガ生活ノ不安ニ曝サレルト云フ制度ハ、極
  メテ不合理デアル、一定ノ人口ニ一定ノ醫
  者ヲ配シ、「メデカル·センター」及ビ「ヘル
  ス·センター」ヲ置キマシテ、卽チ網ノ目ノ
  如ク統制的醫療行政ヲ行ヒマスコトハ、我
  國ニ於ケル醫療分布ノ問題ヲ解決スル所以
  ナリト考ヘルガ、河原田內務大臣ハ此點ニ
  付テ如何ニ御考ニナルカ、私ハ拜承シタイ
  ノデアル、故ニ醫療制度ハ醫療國營ノ方向
  ニ向ッテ進ムカ、然ラズンバ非營利主義ノ共
  同的ナ、計畫的醫療制度ニ向ッテ進マナケレ
  バナラヌ段階ニアルト考ヘルノデゴザイマ
  スガ、私ハ今日醫療利用組合ガ非常ナ反對
  ガアリマスルニモ拘ラズ、續々トシテ出來
  ツヽアル所以ト云フモノハ、開業醫制度ノ
  深刻ナ行詰リニ面シテ、民衆ガ自然發生的
  ニ、民衆ノ創造力ニ依ッテ共同シテ作リマシ
  タノガ、卽チ今日ノ醫療組合竝ニ醫療同盟
  ノ組織ナリト云フコトヲ考ヘテ居ルノデゴ
  ザイマス、開業醫制度ニ反抗致シマシテ、
  或ハ之ニ反撥致シマシテ出來マシタ制度ト
  致シマシテハ、開業醫制度ノ缺陷ヲ改メル
  爲ニ出來マシタ制度ト致シマシテハ、實費
  診療所ガアリ、醫療同盟ガアリ、醫療組合
  ガアリ、慈善病院ガアリ、而シテ官公立ノ
  所謂公立病院ガアル、所ガ此官公立ノモノ
  ニ對シテハ、醫師會ハ手ヲ下スコトハ出來
  ナカッタケレドモ、醫療組合、實費診療所、
  醫療同盟、慈善病院等ニ付キマシテハ、遂
  ニ醫師會ノ政治的勢力ヲ以テ、昭和八年醫
  師法ヲ改正シテ、非醫師ノ經營スル實費診
  療所ノ途ヲ杜絕致シマシタ點ニ於キマシテ
  モ、私ハ醫師會ノ反動性ガ玆ニ現レテ居ル
  モノデアルト云フコトヲ考ヘザルヲ得ナイ
  ノデゴザイマス、醫療組合ノ問題ニ付キマ
  シテハ、一昨日ノ議場ニ於テ、實ニ無智ニ
  シテ低劣ナル御批評ヲ拜承シテ、天下ノ諸
  君ト共ニ私ハ憤リヲ感ジタノデアル、一體
  アンナ材料ヲ何處カラ取ッテ來タカ、アレハ
  皆〓デアル、是ハ後カラ申シマスガ、醫療
  組合ハ一體何處カラ出來タカ、日本ニ於ケ
  ル流行ハ東京カラ流行ッテ來ル、醫療組合ハ
  東京カラ出來タノデハナイ、最モ醫者ニ因ッ
  テ居ル、最モ文化ニ遲レテ居ル靑森、秋田、
  岩手ニ於テ、農林省ノ奬勵ヲ俟タズ、自然
  發生的ニ、民衆ノ創意ト協同ノ手デ出來上ッ
  タノガ、卽チ醫療組合ノ制度デアルト云フ
  コトヲ申上ゲルノデアル、醫療組合ノ光ハ
  北方ヨリ來ル、醫療組合運動ヲ、私ハ昭和
  年代ニ於ケル「ワット」ノ蒸汽機關ノ發明ニモ
  比スベキ、偉大ナル文化ニ對スル寄與ナリ
  ト考ヘテ居ルノデゴザイマス
  諸君、今日政府ガ提出サレマシタ保健所
  法案ニ對シマシテ、日本醫師會ガ一度大會
  ヲ開キマスレバ、此法案ノ運命ガ危ブマレ
  ル程、此醫師會ハ力ヲ持ッテ居ルノデアル、
  地方ニ於キマシテ縣醫師會ガ擧ッテ反對シ、
  日本醫師會ガ擧ッテ反對致シマスル中ニ於
  テ、民間ノ微々タル力ヲ以テ、其反對ト鬪
  ヒマシテ、有ユル困難辛苦ヲ致シマシテ、
  靑森ヨリ秋田、秋田ヨリ新潟、岩手、石川、
  九州ト及ンデ參リマシタ、我國醫療組合運
  動コソハ、實ニ殉難者ノ運動デアッタト云フ
  コトヲ、苦勞ヲシタ代議士ハ、ソレ位ナコ
  トガ分ラナケレバー醫師會ノ「パンフレッ
  ト」ヲ持ッテ、ソンナコトヲ言ッテ居ッタンヂ
  ヤ、此次ハ必ズ落選スルト云フコトヲ、私
  ハ豫言シテ置クノデアル(拍手)而モ靑森縣
  ニ於テ出來マシタ事例ヲ吾々ハ考ヘテ見テ
  モ分ルケレドモ、國家ハ必要ガアリマスル
  ナラバ、日用品ノ値段ヲ下ゲマスル爲ニ、
  公設市場ヲ作ッテ値段ヲ下ゲテ居ル、小賣商
  人ノ如キ弱者ノ地位ニ在ルモノデアッテモ、
  是ガ値段ヲ上ゲタノデハ、消費者ニ影響ス
  ルト云フ際ニ於テハ、公設市場ヲ作ル、家
  賃ヲ下ゲマスル爲ニハ、公營住宅ヲ作ルノ
  デアル、醫師會ハ獨占的ナ「ギルド」團體タ
  ル特權團體ニ依ッテ、是ヨリ安クスルト罰金
  ヲ取ルト言ッテ頑張ッテ居ル、民衆ノ收入ガ
  之ニ及バナイ、ダカラシテ小賣商人ノ暴利
  ヲ抑ヘル爲デモ公設市場ヲ作ラシテ居ルナ
  ラバ、何ガ故ニ醫師會ガ動モスレバ橫車ヲ
  押サウト云フコトヲ牽制スル一ツノ牽制劑
  トシテ、醫療組合ガ出來ルコトヲ、今日モツ
  ト政府ハ奬勵シナイカト云フコトヲ、私ハ
  社會政策ノ見地ヨリ御尋ヲセザルヲ得ナイ
  ノデゴザイマス(拍手)
  諸君、而モ醫療組合ガ出來マシタ結果ハ
  ドウダ、靑森縣ニ於キマシテ、靑森市カラ
  一里出ルト往診料ヲ十圓取ッテ居ッタノガ、
  醫療組合ガ出來タ結果一圓ニ下ッタ、博士ノ
  診察料ガ只ニナック、醫療費ハ靑森縣ノ發表
  致シマシタ發表ニ依レバ-私ノ聞キマシ
  タ發表ニ依リマスルナラバ、一人三十一圓
  ノ醫療費ガ、殆ド九圓、十圓ニ下ッタ、一戶
  ニ付テ、是ガ出來タ結果、雙方ノ勉强ニ依ッテ
  非常ニ下ッテ、農村更生ノ上ニ於テハ非常ナ
  重大ナル意義アリト云フコトヲ、初メテ靑
  森縣當局ガ悟ッタト云フ事實ヲ、私ハ拜承シ
  テ居ルノデゴザイマスケレドモ、是ガ出來
  テ、ソレヂヤ開業醫ガ食へヌヤウニナッタカ、
  食ヘヌヤウニナラナイ、開業醫モ特權ノ惰眠
  ヨリ覺メテ、努力シタ、又勉强シタ、醫療組合
  ト開業醫ト切磋琢磨シテサウシテ時代ト共
  ニ醫療費ガ下ッテ參リマシテ、民衆ノ負擔力
  ト合ヒツヽアルト云フ所ニ、醫療組合ノ大
  キナ社會性ガアルト云フコトヲ、認識セザル
  ヲ得ナイト考ヘルノデゴザイマスルガ、河
  原田內務大臣ハ此點ニ付テ如何ニ御考ニ
  ナッテ居ルカ(拍手)
  隨テ私ハ卽チ今日以後ノ醫療制度トシ
  テ、非營利ヲ原則トシテ-營利主義デナ
  イ、非營利主義デアリ、相互扶助主義デア
  リ、而シテ自力更生ノ精神ヲ持チ、計畫的ニ
  統制的デアリ、非營利デアルガ故ニ、豫防醫
  學ニ進出スルコトノ出來ル所ノ制度トシテ、
  醫療組合ノ如キハ實ニ私ハ適切ナル醫療制
  度デアルト考ヘテ居ルノデゴザイマス、況
  ヤ反產運動ヲ緩和スル上ニ於キマシテモ、
  醫療組合ダケハ皆助カルカラ、之ニ入ッテ吳
  レ、御承知ノ通リ埼玉縣浦和ニ於キマシテ
  ハ、反產運動ノ此間迄ハ大家デアッタ米屋ノ
  諸君ガ中心ニナッテ、產業組合法ニ依ル醫療
  組合ヲ作リ出シタ、今度ハ醫者ガ產業組合
  法ニ依ル消費組合ヲ作ッテ、之ニ對抗シツヽ
  アルト云フ事實ヲ、河原田內務大臣ハ御認
  メニナルカドウデアルカト云フコトヲ私ハ
  御伺シタイノデアル
  兎モ角昨日行吉代議士モ申サレマシタ通
  リ、醫療ハ營業デナイト日本ニ於テモ規定
  サレテ居ル、ケレドモ今日ノ開業醫ノ制度
  ハ營利主義デアル、獨逸ノ醫師法デハ、醫
  師ハ各個人ト國民全體ノ健康ノ爲ニ、挺身
  貢獻スルヲ以テ職務トス、醫師ハ其法ニ規
  定セラレタル公務ヲ遂行スルモノトス、醫
  師ノ業務ハ營業ニ非ズト規定セラレテ居
  ル、我國醫師ニ付テモ、日本ノ法律ガ營業
  稅ヲ取ラナイ點カラ見テ獨逸ト精神ハ同ジ
  デアルト考ヘルガ、醫師ガ非營利デアルト
  云フ限リニ於テハ、今日ノ開業醫制度ダケ
  ニ委セルコトハナクシテ-併ナガラ私ハ
  ハ今アル開業醫ヲ潰セト言フノデハナイ、
  經過的ニ之ヲ認メテ、段々非營利病院ノ醫
  者ヲ醫者ノ無イ村ヘ配置スレバ、開業醫モ
  助カッテ來ルノデアルカラシテ、開業醫一本
  建主義デ行カズニ、開業醫制度ト醫療組合
  制度トヲ我國醫療ノ二大柱トシテ、之ヲ交
  交奬勵發達セシムル意思アリヤ否ヤト云フ
  コトヲ、內務大臣竝ニ總理大臣ニ御聽ヲシ
  テ置キタイト考ヘルノデアリマス(拍手)
  而シテ醫療組合ノ現數ニ付テ、昨日
  私ハ不眞面目ナル議論ヲ聞キマシテ
  痛憤ヲ感ジタ、一體何處カラアヽ云フ
  材料ヲ持ッテ來タカ、今日醫療組合ノ數ハ皆
  樣ガ御考ニナッテ居ルヨリカズット殖エテ居
  リマス、醫療組合ノ數ハ委員會ニ於テ農林
  省ニ一ツ材料ノ提出ヲ御求メナサイ、昭和
  十一年ニ於テハ二百バカリデハアリマセヌ
  ソ、六百七十八出來テ居リマス、區域市町
  村數ハ十八市、二百五十五町、一千五百五
  十村ニ亙ッテ居ルノデアル、世帶數ガ四十一
  万五千九十三、其家族員數ニ至リマシテハ
  二百五十万ニ及ンデ居ルノデアル、而シテ
  赤字ガ大部分デアッテ、黑字ハ十七ト言ハレ
  タガ、ドウ云フ數字デアルノカ、醫師會ノ
  發表シタ材料デアラウケレドモ、噓ヲ言ッチ
  ヤイカヌ、赤字ノアリマスノハ僅カ六分カ
  七分、一割程度ノ赤字ダケデアッテ、其他ハ
  全部黑字ニ轉化シツヽアルト云フ事實ヲ、
  皆サンハ御承知デアルカドウカ、ノミナラ
  ズ黑字ニナラウガ、ソンナコトハ問題ヂヤ
  ナイ、是ハ相互扶助精神ニ依ル共同ノ組合
  デアル、皆ガ健康ニナリサヘスレバ宜イヂ
  ヤナイカ、信用組合、購買組合、販賣組合
  ノ剩餘金ヲ以テ、只デ組合員ヲ診テヤッテ
  モ、全部缺損ニナッテモ、株式會社トハ
  違フノダカラ、ソレニ依ッテ農村ガ更生
  シ、健康ガ良クナレバ、是ハ赤字デモ結
  構デアル、寧ロ餘リ儲ケナイヤウニ之ヲ
  監督シナケレバイカナイノデアルニ拘ラ
  ズ、自分ノ頭ト向フノ頭トヲゴッチヤニ
  シテ、儲カル〓〓ト言ハレルノデハ、國民
  ハ之ニ對シテ傾聽シナイト考ヘル、斯ノ如
  キ無責任ナル言說ニ對シテ、政府ノ權威ノ
  上ニ於テモ之ヲ訂正サレル意思アリヤ否ヤ
  ヲ、先ヅ伺ッテ置キタイノデアル(拍手)
  次ニ我國ノ醫療ヲ阻碍致シマシタル大キ
  ナ理由ト致シマシテ、醫療行政ノ失敗致シ
  マシタ大キナ事由ト致シマシテハ、醫師會
  ノ存在デアルト考ヘルノデアル、醫師會ハ
  御承知ノ通リ醫師法竝ニ醫師會令ニ依リマ
  シテ、國法ニ依ッテ制定セラレタル公益法人
  デアル、而シテ醫師會ノ目的ハ何處ニアル
  カト云フナラバ、醫事衞生ノ發達ヲ圖ルコ
  トヲ目的ト爲スノデアル、此醫師會ガ今日
  マデ日本ノ醫事衞生ノ發達ニ貢獻シタルヤ
  否ヤ、私ノ見ル所ヲ以テスルナラバ、醫師
  會ハ開業醫ノ利益、私利ヲ守ル「ギルド」同
  業組合ト化シ、殆ド醫事ノ發達ニ無貢獻デ
  アッタバカリデナシニ、苟クモ良イ組織ニ對
  シマシテハ全力ヲ擧ゲテ是ガ反對ニ狂奔シ
  タ、醫事衞生ノ發達ヲ妨害シタ組織デアッタ
  ト考ヘルノデアル(拍手)事實ニ就テ申上ゲ
  ルナラバ、第一ハ三千五百ノ村ニ醫者ガ居
  ラヌノヲ、日本醫師會ハ醫事衞生ノ發達ノ
  見地カラ、無醫村ニ醫者ヲ配置スルコトニ
  何等カノ對策ヲ效果的ニ實行サレタ事實ガ
  アルヤ否ヤ、第二ニ醫師會ハ勢力爭ヒニ終
  始シ、其大會ハ終始勢力爭ヒデ徒消シ、何
  等社會ノ進步ニ寄與スル言說ナク、徒ニ嗟
  嘆愁訴、開業醫華ヤカナリシ過去ヲ追フノ
  ミデアッテ、是ハ何ノ爲ニ大會ヲ開イテ居ル
  カ、心アル者ハ醫師會ノ大會ハ、地方大會
  タルト全國大會タルト、是ガ一體紳士ノ集
  マリデゴザイマスルカト言ッテ居ッタノガ、
  今日迄ノ實例ト私ハ考ヘテ居ルガ、此事實
  ヲ內務大臣ハ認メテ居ラレルノカ、而シテ
  開業醫ノ多クガ一タビ資格ヲ獲得セラレマ
  スレバ、日進月步ノ醫術ノ進步ニ追隨スル
  コトヲ考ヘテ居ラナイカラ、醫師會ガ之ヲ
  指導シテ、强制的ニ引張ッテ、醫術ヲ「レベルㄴ
  マデ上ゲナケレバナラヌガ、斯ノ如キ事ニ對
  シテ醫師會ハ何等カノ貢獻ヲ爲シタカ、而
  シテ醫事衞生ノ進步ニ對シテハ、殆ド總テ反
  對シタノハ醫師會デアル、勞働者ノ健康保險
  ガ制定サレヤウトスルヤ、之ニ全力ヲ擧ゲ
  テ反對シタノハ醫師會デアル、一タビ是ガ
  制定サレマスヤ、「サボタージュㄴヲシタノ
  ハ醫師會デアル(拍手)而シテ今日我國ノ勞
  働者ガ零細ナ金ヲ積ンデ居ッテ、サウシテ醫
  療內容ガ虐待サレタ、低下シテ居ルト云フ
  點ニ付テノ不平ノ大部分ハ、醫師會ノ態度
  ニアルト云フコトヲ、內務大臣ハ認メテ居ラ
  レルカドウカト云フコトヲ承リタイ、而シテ
  醫藥分業ニ對シテ反對シ、衞生組合法人化
  ニ對シテ反對シ、更ニ實費診療所、個人又
  ハ市町村-多年鬪ッテ居ラレル鈴木梅四
  郞氏ノ實費診療所ノ鬪ヒハ、終始迫害ノ鬪
  ヒデアル、斯ノ如キモノニ反對シ、醫療組
  合ガ出來ルナラバ、惡イ材料ダケ持ッテ行ッ
  テ之ヲ天下ニ放送シ、飽クナキ惡罵中傷ヲ
  加ヘテ、民衆ノ總意ニ依ッテ苦心慘憺シテ作ッ
  テ居リマス醫療組合ヲ妨害シタノガ、卽チ
  醫師會ノ態度デアッタト考ヘルガ、内務大臣
  ハ此點ニ付テ如何御考ニナッテ居ルノデア
  ルカ(拍手)而モ獨リ反產運動ノ尻馬ニ乘ツ
  テ、醫療組合ニ反對サレタダケデハナイ、
  苟モ民衆ニ有利ナ施設ニハ全部反對シテ居
  r、東京ノ中小工業者ガ實業組合聯合會ニ
  於テ實業病院ヲ作ッテ、店員ヤ自分達ガ經費
  低廉ニ良イ醫者ニ掛カラウト考ヘマシタラ、
  之ニ反對サレタノハ醫師會ヂヤナイカ、到
  頭醫師會ノ反對ニ依ッテ東京ニ於ケル中小
  工業者ノ實業病院ハ握リ潰サレタノデアル、
  中外商業新報社ガ橫濱ニ於テ診療所ヲ作ラ
  ウトシク時ニ、新聞社ノ診療所ニモ反對シ
  テ居ルノハ、諸君、醫師會デハナイカ、而
  モ宗〓團體デアル東京淺草ニ於ケル淺草
  寺、淺草ノアノ觀音サンノ淺草寺ガ病院ヲ
  作ッテ、サウシテ宗〓團體ガ進出シヨウトス
  ル時ニ、大會ヲ開イテ、宗〓團體ノ病院ニ
  マデ反對スルニ至リマシテハ、良キモノニ
  ハ總テ反對スルト云フ幾リヲ受ケマシテモ、
  私ハ之ヲ免カルヽコトガ出來ナイト考ヘルガ、
  一體內務大臣ハ此點ニ付テ如何ニ御考ニナ
  ルカ承リタイノデアリマス(拍手)
  而シテ更ニ今囘ノ此保健政策ニ對スル醫
  師會ノ態度ハ一體何デアルカ、國民健康保
  險法ニモ反對シ、結核診療所ノ問題モ之ヲ
  握リ潰サセヨウトシ、或ハ保健所ノ問題モ
  握リ潰サセヨウトシテ居ル、斯ノ如キ態度
  (「馬鹿ナコトヲ言フナ」ト呼フ者アリ)サウ
  ヂヤナイカ-吾々ノ不審ニ堪ヘナイ點ハ、
  昨日行吉代議士ガ本議場ニ於テ指摘サレマ
  シタ如ク、內務省ガ警告ヲ發セラレマシタ
  ニモ拘ラズ、反對運動ノ政治資金トシテ秋
  田市デハ醫師一人ヨリ五圓ノ寄附ヲ取リ、
  神戶デハ十圓ヲ寄附ノ名義ニ於テ取リ、東
  京市醫師會ニ於テハ會長交際費ノ名前ニ於
  テ一圓ヅツヲ取リマシタト云フ事實ニ付
  テ、何等ノ取締ヲナサラヌ、是ガ一體醫事
  衞生ノ發達ヲ圖ルベキ公益法人ノヤルベキ
  仕事デアルカ、之ニ對スル取締ハ一體何ヲ
  ヤッテ居ルカト云フコトヲ私ハ承リタイ、
  而モ斯ノ如キコトニ依ッテ大騒ギヲヤッテ、
  サウシテソレノミナラズ虚僞ノ事實ヲ流布
  シタト云フ事實デアル、科學者ト云フモノ
  ハ善イ惡イニ拘ラズ事物ノ本質ヲ辨ヘナケ
  レバ駄目デアル、醫者モ科學者デアル、
  然ルニ醫療組合ニ對シテ虚僞ノ放送ヲ爲
  シ、越ケ谷順正會ニ對シテ虚僞ノ放送ヲ
  爲シテ居ル、之ニ對シテ一體內務省ハ默ツ
  テ宜イノデアルカ、越ケ谷町長ハアノ埼玉
  縣廳ノ百万圓事件ニ關シテソレニ連坐シ
  ク、此町長ハ此順正會ニ對シテ反對シタ
  男デアル、反對シタ位遲レタ男ダカラサウ
  云フ事ヲヤッタノデアリマセウガ、ソレヲ醫
  師會ノ幹部ハ見テ來テ居リナガラ、全ク關
  係ノナイ漬職町長ガヤッテ居ルノダカラ、順
  正會ナドハ問題ニモナラナイト言ッテ、國法
  ガ認メタ公益法人ノ大會ニ於テ公然叫ンデ
  居ル、噓ノコトヲ承知シテ叫ンデ居ルコト
  ニ對シテ、何等取締ヲナサラヌト云フコト
  ハ、一體何事デアルカト云フコトヲ私ハ承
  リタイノデアル、而モ越ケ谷順正會ニ於ケ
  ル事實ハ私ハ二囘行ッテ之ヲ見テ參ッタノデ
  アリマス、昨日演說ヲオヤリニナリマシタ
  諸君ハ-是カラ後ニ立タレル田中養達君
  ハ行ッテ見ラレタサウデアルガ、昨日反對サ
  レテ、越ケ谷順正會ノ惡口ヲ言ハレタ諸君
  ハ一遍行ツテ御覽ナサイ、目ト鼻ノ間ニアル
  モノヲ見テ來ズニ、醫師會ダケノ一方的材
  料ヲ其儘朗讀サレマシテハ、是ハ政治家ノ
  權威何處ニアリヤヲ私ハ疑ハザルヲ得ナイ
  ノデアリマス(拍手)而モ越ケ谷順正會ノ出來
  マシタ歷史ヲ調ベルナラバ、私ハ越ケ谷順
  正會ノ歷史ニ付テ淚ナキヲ得ナイ、御承知
  ノ通リ越ケ谷ノ町政ガ紊亂シテ、サウシテ
  町債ガ嵩マッテ、非常ニ戶數割ハ多クナッタ、
  稅金ノ滯納者ガ多クナッテ來タ、ソコデ納稅
  組合ヲ作リマシテ、町ノ有志ガ每日掛金ヲ
  集メニ行ッテ滯納ヲ減ラサウトシタノデア
  ル、サウシテヤッテ居ッタ所ガ、每日金ヲ集
  メニ行クト、病氣デ氣ノ毒デ取レナイノガ
  出テ來ル、是ハ何トカ納稅ヲ完納サセル爲
  ニハ醫療保護ヲヤラナケレバイカヌト云フ
  ノデ、納稅組合ノ運動ガ卽チ順正會ノ運動
  トナリ、國民保險法ノ類似組合トナッタノ
  デアル、關係當事者ノ苦心慘憺タルヤ殆ド
  無報酬デ以テ連日連夜奮鬪サレマシタ、其
  努力ニ對シテ、而シテオ醫者サンノ收入ガ
  却テ良クナッテ居ルノニ對シテ、良クナッタ
  ト云フ報〓ハ之ヲ削ッテ、惡クナッタト云フ
  報告ダケ「パンフレット」ニシテ出ス、斯ノ如
  キ虚僞ナル事實ヲ放送スルニ付テ、内務大
  臣ハ何等ノ取締ヲナサラヌト云フコトハ何
  事デアルカト云フコトヲ私ハ承ハリタイノ
  デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=21

  ---

• 022・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　三宅君ニ御注意致
  シマス、制限時間ハ超過致シマシタ、御注
  意ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=22

  ---

• 023・三宅正一

  ○三宅正一君(續)　醫師會令第三十五條第
  一項ニハ次ノ如キコトガアル「內務大臣ハ日
  本醫師會ノ議決又ハ施行スル事項ガ法令若
  ハ會則ニ違反シ又ハ公益ヲ害スト認ムルト
  キハ理由ヲ示シテ其ノ議決ヲ取消シ、其ノ
  施行スル事項ノ廢止、停止若ハ變更ヲ命シ
  又ハ其ノ解散ヲ命スルコトヲ得」トアル、斯
  ノ如キ行動ガ公益ニ反シテ居ルコトハ明白
  デアル、內務大臣ハ日本醫師會ニ對シテ、
  醫事衞生ノ發達ヲ妨害シ、斯ノ如キ國策ノ
  遂行ヲ妨害スル私利私慾ノ團體化シテ居ル
  日本醫師會ニ對シテ、之ニ解散ヲ命ゼラレ
  ルコトガ法ノ精神ヨリシテ適當ナリト考ヘ
  ルガ、ドウ考ヘルカ、是ハ單ニ私ガ言フノ
  デハナイ、醫師會ノ內部ノ進步的ナオ醫者
  サンヤ、平醫者ハ、吾々ハ醫師會ノ幹部ノ
  ヤリ方ニ反對デアルカラ、ドウカヤッツケ
  テ吳レト言ウテ種々ノ材料ガ我共ノ手許ニ
  入ッテ來テ居ル時ニ、斯ノ如キコトニ付テ明
  確ナ答辯ガナイナラバ、第二質問ニ於テ私
  ハ勞働者健康保險ニ於テ頭ヲハネタリ、色
  色ノ酒色ニ使ッタリシテ多クノ累積セル材
  料ニ依ッテ、斯ノ如キ取締怠慢ヲヤラレマシ
  タ內務當局ヲ糺彈スルト共ニ、色々ノ事實
  ヲ暴露シテ質問ヲシタイト考ヘルガ、之二
  付テ明確ナル御答辯ヲ得タイモノデアル(拍
  手)
  時間ガナイト言ハレマスルノデ、更ニ私
  ハ醫師會ノ問題ニ付キマシテ、斯ノ如キ狀
  態ナルガ故ニ醫師法、醫師會令等ヲ改正シ
  テ、時代ニ卽シタ醫師法トシ、醫師會令ト
  シテ、醫者ガ總テ衞生發達ノ爲ニ努力スル
  コトノ出來ルヤウニ醫師法、醫師會令ヲ改
  正サレル意思アリヤ否ヤト云フコトヲ承ッ
  テ置キタイノデアリマス
  更ニ私ノ見ル所ヲ以テスレバ今日ノ醫療
  ノ低下ト云フモノハ、醫學〓育ノ徹底的失
  敗ニアルト考ヘル、時間ガナイカラ私ハ諄
  クハ申上ゲマセヌ、唯例ヘバ保健所ヲ內務
  省ガ御造リニナッタ所ガ、今ノ醫學校ヲ出タ
  醫者デ以テ保健所ノ仕事ガ出來ルカ、今ノ
  醫者ハ個人ノ脉ヲ診ルコトシカ知ラナイ、
  社會衞生學ヲ知ラズ、統計學、社會學ヲ知
  ラズ、經濟學ヲ知ラナイ、斯ノ如キ醫者ガ
  保健所ニ頑張ッテ居ッテモ、結局ハ病人ガ來
  テモ其環境ヲ良クスルコトヲ指導スルコト
  ガ出來ナイ、勞働條件ヲ指導スルコトガ出
  來ナイ、オ前ハ風邪ダカラ「アスピリン」ヲ
  飮ミナサイト云フコトデ、保健所ノ「ヘル
  ス·センター」ガ「メディカル·センター」ニ
  ナルヨリ仕方ガナイ、此一點ヲ以テシテモ
  今日ノ醫學〓育ハ根本的ニ改正サレ、更に
  人格ニ付テモモット培養サレル途ガ必要デ
  アルト考ヘルガ、如何御考ヘデアルカ承リ
  タイノデアリマス
  更ニ此失敗ハ藥劑師ヲ尊重シナイ點ニア
  ル、醫師會ノ勢力ヨリ藥劑師ノ勢力ガ弱イ
  カラ、藥劑師ヲ尊重スルコトヲ知ラズ、藥
  劑師ノ使命ヲ果サセテ居ナイ、賣藥ノ番頭
  ノヤウナコトシカヤッテ居ナイ、コンナコト
  デハイカヌ、藥劑師モ醫者ト同ジ立場ニ
  立ッテ、出來ルダケ醫藥分業ノ原則ヲ羅立ス
  ルト共ニ、醫者ト共ニ國民保健向上ノ爲ノ
  指導員トシテ、之ヲモット尊重スル態度ヲ執
  ラレルコトガ私ハ正シキ政治ト考ヘマスガ、
  內務大臣ノ御所見ハ如何デアリマスカ
  更ニ私ハ最後ニ勞働者保護ノ法規ノ缺如
  ガ今日勞働者ノ健康ヲ惡タシテ居ル原因デ
  アルト思フ、コンナ狀態デ健康ガ惡クナッテ
  行クコトハ分リ切ッタコトデアル、然ルニ今
  日日本ノ勞働者ハ十二時間、十三時間、十
  四時間モ働カサレテ居ル、幼年エヲ使用セ
  ルコト、工場設備ノ劣惡、女工其他ガ結核
  ニナルト風邪ト云ッテ總テ田舍ニ歸ヘス、私
  ハ委員會デ以テ内務大臣ニ材料ヲ以テ迫リ
  タイト考ヘルガ、勞働法規ノ完備、勞働者
  保護ニ付テ考ヘナケレバ衞生ハ駄目ナリト
  考ヘルガ如何デアルカ
  結論ヲ申上ゲル、以上ノ諸原因ヲ把握シ
  テ鞏固ナル國策トシテノ一省ヲ設ケ、其長
  官ハ內務大臣、大藏大臣、陸海軍大臣以上
  ノ實力ヲ持タセナケレバ國民體位向上ハ出
  來ナイト考ヘルガ、內務大臣ハ之ニ對シテ
  必要ト考ヘラレルカ、不必要ト考ヘラレル
  カヲ承リタイノデアリマス、偖テ、私ハ愈〓
  本論ニ入リタイノデアリマスルガ、今囘
  提案ノ健康保險諸法案ニ對シマスル-モ
  ウ時間ガアリマセヌカラ細目ハ殆ド委員會
  ニ讓ル、但シ重大ナル點ダケハ申上ゲタイ、
  第一私ガ問ヒタイ點ハ、今囘ノ國民健康保
  險法ハ十年ニ亙ル勞働者健康保險ノ貴重ナ
  ル體驗ヲ基礎トシテ、其短所ヲ捨テ、長所
  ヲ御採リニナッテ、經驗ヲ十分ニ攝取サレタ
  カドウカト云フ點ヲ承リタイ、第二ハ醫療
  費一部負擔ノ問題ニ付テ承リタイ、第三ハ
  保險金負擔方法ニ關スル問題ニ關シテ承リ
  タイ、第四ハ、補助金ノ問題ニ付テ承リタ
  イ、併ナガラ是ハ私ハ時間ヲ省キマシテ申
  上ゲマセヌ、唯重要ナル問題三點ニ付テ申
  上ゲル、第一ハ、此保險制度ハ窮迫セル農
  民ノ爲ノ制度ナルガ故ニ、醫師ノ民衆搾取
  機關タラシメザルコトガ必要デアル、第一、
  醫師會ノ發表ニ依リマシテモ、農村ニ於テ
  ハ醫療費ノ五割ハ不拂ニナッテ居ルノデア
  ル、隨テ國民健康保險組合ガ出來ルナラバ、
  ソレガ全部組合カラ拂ハレマスカラ、醫者
  ノ收入ハ倍ニナル勘定デアル、而シテ今マ
  デハ富山ノアンボン丹ヤゲンノシヨーコデ
  辛抱シテ居ッタ連中ガ、今度ハ醫者ニ掛ル
  カラ患者ガ殖エル、之ニ依ッテ醫者ノ收入
  ハズット殖エル、ダカラ私ハ醫療費ノ單價
  ニ付テハ、勞働者ノ健康保險ノ單價ノ程度
  マデ下ゲロト申上ゲルノデハナイケレド
  モ、少クトモ相當ノ程度之ヲ下ゲテ、醫者
  モ生活ガ安定スルガ、併ナガラ農民ノ生活
  ハ之ニ依ッテ尙ホ安定スルト云フ所マデ下
  ゲマシテ、單價ガ下ッタカラト云ッテ、醫療
  内容ノ低下シナイヤウニスル用意ヲシナケ
  レバナラヌト考ヘルガ、其點デ私ハ醫師會
  トノ〓體契約ニ對シテ絕對反對デ、原案ヲ
  支持シタイト考ヘルノデアリマスガ、此點
  ニ付テ內務大臣ハ確ッカリシタ仕ガアルカ
  ドウカ承リタイノデアリマス
  更ニ私ハ一番重大ナ問題ハアト二點デア
  ルガ、先ヅ醫師會トノ〓體契約ノ問題ニ村
  テ申上ゲタイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=23

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• 024・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　成ベク簡單ニ願ヒ
  マス

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• 025・三宅正一

  ○三宅正一君(續)　醫師會ガ團體契約ヲ主
  張シテ居リマス唯一ノ理由ハ、醫師選擇ノ自
  由ト云フコトナンデアリマス、掛リタイ醫
  者ニ誰デモ掛レルヤウニシロト云フコトガ、
  醫師會ノ主張スル所以デアルガ、今日ノ勞
  働者ノ健康保險ハ、醫師會ト團體契約ヲシ
  テ居リナガラ、開業醫五万ノ中三万二千位
  シカ保險醫ニナッテ居ラナイ、一万八千ハ保
  險醫ニナッテ居ナイ、隨テ開業醫ガ居リナガ
  ラ、保險醫ガ居ラナクテ、被保險者ガ健康保
  險ノ恩典ニ浴スルコトガ出來ナイ村ガ、內務
  省ノ發表ニ依ルト三百九十三町村、其村ニハ
  五百二十二人ノ醫者ガ居ル、而シテ被保險者
  ハ一万八千七十九入アリマスガ、保險醫ガ居
  ラナイ爲ニ掛レナイ、工場數ニ於テハ千三百
  六十ガ掛レナイ、東京市內ニ於キマシテハ
  開業醫ハ七千入デアルガ、保險醫ハ四千人
  位シカチラナイカラ、團體契約ヲヤッテモ、
  三割以上ハ實際ニ於テ保險醫ニナッテ居ラ
  ナイト云フ事實ハ、團體契約ト云フモノハ
  駄目デアルト云フコトノ、私ハ具體的ナ證
  據デアルト考ヘルフデアル(拍手)特ニ酷イ
  ノハ聖路加病院ニ於テ三十人ノ醫者ガ居リ
  マスガ、稻田博士、鹽田博士等ノ如キ、東
  大ノ〓授ヲヤラレマシタ權威者ハ、保險醫
  ヲ受ケテ居ラナイノデアル、十人位上ノ方
  ノ醫者ハ保險醫ヲ受ケテ居ラナイ、後ノ貧
  弱ナル醫者ニシカ被保險者ハ掛レナイノデ
  アル、何ノ爲ニ日本醫師會ト云フ〓體契約
  ヲスルノデアルカ、ソレダケデハナイ、醫
  療組合ノ醫師ヨリ保險醫ヲ剝奪シ、工場醫
  局ヨリ保險醫ノ權利ヲ剝奪シテ居ル、ソレ
  ダケデハナイ、更ニ甚シキニ至ッテハ、醫師
  會ノ幹部ノ御機嫌ヲ損ジテ居ル開業醫カラ
  ハ、ドシ〓〓保險醫ヲ剝奪シテ居ルト云
  フ、此不合理ナル事實ニ付テ、內務省ハ之
  ヲ御認メニナッテ居ルカドウカト言フノデ
  アル、現ニ御承知ノ如ク吉岡生女史、是
  ハ女子醫專ヲ經營シテ居ラレ、病院ヲ二ツ
  持ッテ居ラレルガ、數年前千歲烏山ニ分院ガ
  出來タ、其處ニハ入院設備ノアル醫者ハナ
  イ、併シ被保險者ハ千人以上モアルフデ、
  警視廳デモドウカ其病院ヲ健康保險病院ニ
  指定シタイト希望スルケレドモ、醫師會ノ
  幹部ハ吉岡女史ノ數年前出シタ保險醫指定
  願ヲ握潰シテ保險醫ニ指定セズ、立派ナ設
  備ガアッテモ、其地方ノ者ガソレヲ利用出來
  ナイ、サウシテ會費ダケハ彌生女史ハ取ラ
  レテ居ルト云フ狀態デアルト云フコトデ
  ハ、是ハ公益法人ノ趣旨ニ反スルシ、是デ
  ハ團體契約主義ト云フモノハ、絕對ニ駄目
  デアルト云フコトヲ、私ハ御認メニナルト
  思フガドウカ、ソレダケデハナイ、大阪市
  醫師會保險部長西起三郞ト云フ人ハ、杏林
  時報ニ團體契約ノ不可ヲ論ゼラレテ居ル、
  ソレカラ所謂倉敷勞働科學〓究所ト云フ權
  威アル團體、八幡製鐵所、鐵道病院等ガ〓
  體契約主義ハイケナイ、制限撰擇主義ガ監
  督ガ出來テ宜イ、若クハ工場醫局制度ガ宜
  イ、專屬醫制度ガ宜イト云フコトヲ、本當
  ニ勞働者ノ保護ノ見地カラシテ進言シテ居
  ル事實ヲ、御認メニナラナカッタカドウカ、
  私ハ是ダケ承リタイ
  最後ニ第九條ノ代行問題デアル、第九條
  ノ法文ヲ其儘讀ミマスト「營利ヲ目的トセ
  ザル社團法人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方
  長官ノ許可ヲ受ケ組合ノ事業ヲ行フコトヲ
  得」トアリマスガ、國民健康保險ガ旨ク行
  クカ行カナイカハ此一條ニ懸ルト思フ、何
  モ醫療組合ダケノ問題ヂヤナイ、商業組合
  ニモ御委セニナッタラ宜イ、工業組合ニモ御
  委セニナッタラ宜イ、醫療組合ニ委セルダケ
  デナシニ、產業組合ニ御委セニナレバ宜
  イ、農村デハ組合ガ多過ギテ困ル、前ノ質
  問者ガ言ッテ居ラレル通リ、四百戶五百戶位
  ノ村デ新シイ組合ヲ作ッタッテ駄目デス、產
  業組合ニ併設サレルナラバ事務費モ儉約ガ
  出來ルシ、基礎モ鞏固ニナル、信用、販賣、
  購買ノ剩餘金等ヲ運用スレバ、組合員ニ苦
  痛ヲ與ヘナイト云フ意味ニ於キマシテモ、
  亦御醫者サンノ支拂ヲ滯ラセナイト云フ意
  味ニ於キマシテモ、產業組合ニオヤラセニ
  ナッタ方ガ、却テ御醫者サンノ爲デモアルト
  云フ點ヲ、私ハ主張シタイノデゴザイマ
  ス、此點ニ付テ內務大臣ハ如何ニ御考ニナ
  ルカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=25

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• 026・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　三宅君、更ニ注意
  ヲ喚起シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=26

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• 027・三宅正一

  ○三宅正一君(續)　モウ一點申上ゲル、ソ
  レハ何デアルカト云フナラバ、一體越ケ谷
  ノ順正會ノ成功シテ居ルノハ、納稅組合ト
  云フ相互扶助組合ノ訓練ガ旣ニ出來テ居ル
  カラデアル、勞働者ノ健康保險デ成功シテ
  居ルノハ、工場、鑛山ニ於ケル共濟組合ガ
  アッテ、互助組合トシテノ訓練ガ出來テ居ル
  コトガ成功シテ居ルノデアル、隨テ產業組
  合ノ此相互扶助ノ訓練ノ出來タ所ヘ持ッテ
  行カナケレバ、國民健康保險組合ハ成功シ
  ナイノデアルカラ、此點ニ付テハ飽マデ原
  案ヲ支持シテ、全國ノ農民ノ爲ニ頭張ル意
  思ガアルカドウカト云フコトヲ、更ニ私ハ
  最後ニ念ヲ入レマシテ、內務大臣ノ丁寧ナ
  ル御答辯ヲ希望スル次第デアリマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=27

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• 028・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今三宅サン
  カラ實ニ傾聽スベキ御言葉ト御意見ヲ承リ
  マシテ、私共保健行政ニ當ル者ニ付テハ、非
  常ナ參考ニナッタノデアリマス、尙ホ國家ノ
  發展、國民ノ體位ノ上昇ト云フコトニ付テ
  ハ、單ニ醫療問題バカリデナク、各種ノ方
  面カラ卽チ勞働行政ノ方面、或ハ榮養ノ方
  面、サウ云フモノト綜合的ニヤッテ行カナケ
  レバナラヌト云フコトニ付キマシテハ、
  洵ニ御同感デアリマシテ、是等ノ點ニ付キ
  マシテ十分ナル勉强ヲ致シタイト思ヒマス、
  唯保健省等ヲ作ルヤ否ヤト云フコトニ付キ
  マシテハ、先程私ガ御答致シマシタヤウ
  ニ、行政機構一般ノ問題トシテ、今日尙ホ
  御答スル時機ニ到達シテ居リマセヌ、サリ
  ナガラ私ハ不敏デハアリマスガ、保健行政
  ヲ擔任スル者トシテ、別ニ獨立機關ノアル
  ト否トヲ問ハズ、保健行政ニ付テハ全責任
  ヲ以テ努力致ス積リデアリマスカラ、御諒
  承ノ程ヲ願ヒマス、團體契約ヲ法規ノ中ニ
  公定ヲシテ、之ヲ强制スルヤ否ヤト云フコ
  トニ付キマシテハ、私ハソレニハ反對デア
  リマス、第九條ノ點ニ付キマシテハ、是ハ
  色々御意見ガアルヤウデアリマスルガ、餘
  リニ範圍ヲ擴メルト云フコトハドウデアラ
  ウ、餘リニ範圍ヲ擴メルノハ却テ宜シクナ
  イヤウニ思フノデアリマス
  〔三宅正一君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=28

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• 029・三宅正一

  ○三宅正一君　只今內務大臣ハ、私ノ質問
  致シマシタ數々ノ點ニ付テ、殆ド三ツカ二
  ツシカ御答辯ヲ得ナカッタノデアリマスケ
  レドモ、自分一人デ時間ヲ取リマスルコト
  ハ甚ダ恐縮デアリマスルノデ、私ハ一點ダ
  ケヲ伺ッテ置キタイト考ヘルノデゴザイマ
  ス、卽チ勞働保護ニ關スル規定ガ缺ケテ居
  ル點ガ、非常ニ勞働者ノ結核ヲ多クシテ居
  ル、死亡率ヲ高クシテ居ル、ソコデ昔カラ
  見マスルナラバ、勞働者ノ數モ、工場ノ數
  モ、勞働强化モ、非常ニ多クナッテ居ルノデ
  アルカラシテ、勞働者ノ工場衞生監督官ト
  云フモノヲモット御殖シニナル意思ガアル
  カドウカ、之ヲ私ハ希望ト共ニ伺ッテ置キタ
  イト考ヘルノデアリマス
  更ニ私共ハ本法ニ付キマシテ、非常ナ重
  大性ヲ感ジテ居ルノデゴザイマス、御承知
  ノ通リ本法ガ出ルニ至リマシタ動機ト云フ
  モノハ、一昨日ノ議場ニ於テ、或ル代議士ガ
  申サレマシタ通リ、是ハ郵便貯金ノ利息ガ下
  ゲラレタ結果ト致シマシテ、此法案ガ出テ
  參ッタノデアル、社會政策ト云フモノハ、金
  持ノ方カラ取ッテ來テ、貧乏人ノ方ヲ潤ス
  ノガ、社會政策デアルト考ヘテ居ッタラバ
  此社會政策ハ貧乏人ノ貯金ノ利息ヲヘツッ
  テ、ソレデ貧乏人ヲ助ケテヤラウト云フ、
  コンナ蛸配社會政策ハ拜見シタコトハナイ、
  貧乏人ノ貯金ヲヘツッテオヤリニナル社會
  政策デアルナラバ、何處マデモ勤勞大衆ノ
  爲ニナル社會政策ヲヤッテ戴カナケレバナ
  ラヌト私ハ考ヘマス、特ニ交付金問題ニ付
  テ、農村議員ハ全部奮起シタノデアリマス
  ルケレドモ、階級的ニ見マスルナラバ、交
  付金ノ問題ヨリモ、貧農ニ取ッテハ此問題
  ハ大キイノデアル、交付金ガ廢止ニナッタッ
  テ、戶數割五十錢納メル者ハ五十錢ノ影
  響シカナイ、三十錢納メル者ハ三十錢ノ影
  響シカナイノデアリマスルケレドモ、此法
  案ガ通ルナラバ、一家ノ家族五人トスレバ、
  一軒ニ付テドンナ貧乏ノ家デモ五圓ノ補助
  金ノ恩澤ガ及ブト云フ點ニ付キマシテハ、
  交付金ノ問題ヨリモ、階級的ニ見ルナラバ、
  私ハ貧農ニ取ッテ重大ナル問題デアルト考
  ヘルノデゴザイマス(拍手)私ハ此點ニ付キ
  マシテ、若シ政府ニ於カレマシテモ、議會
  ニ於カレマシテモ、此點ニ付テ交付金ダケ
  ノ熱意ヲ議會ガ示スコトナクシテ、醫師會
  等ノ策動ニ依ッテ、之ヲ改惡スルガ如キコト
  ガアルナラバ、全國ニ於ケル勤勞大衆ハ、
  議會ハ結局地主、資本家ノ本據デアルト云
  フコトヲ考ヘルデアラウト云フコトヲ、私
  ハ警告シテ置キタイト考ヘルノデゴザイマ
  ス(拍手)此點ニ付テ重ネテ內務大臣ノ御決
  意ヲ伺ッテ置キタイト考ヘルノデゴザイマ
  ス(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=29

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• 030・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼言君)　產業ノ發達ニ
  連レマシテ、工場、鑛山等ニ於ケル勞働者
  ノ保健衞生ノ助長、監督ニ付テ、モット意
  ヲ致スベキモノデアルト云フコトニ付キマ
  シテハ、全ク御同意デアリマス、ソレ等ノ
  手段方法等ニ付テ、更ニ又勞働法制ト云フ
  モノヲ、此時勢ニ合フヤウニ再檢討スル必
  要アリヤ否ヤニ付テモ、十分當局トシテハ
  調査〓究ヲ致シタイト思ッテ居リマス、唯實
  際ノ働キトシテハ、工場監督官等ノ數ヲ增
  サヌデモ、ヤハリ其目的ヲ達スルヤウニ、大
  體ノ方針ヲ決メテ努力ヲ致ス積リデアリマ
  スカラ、左樣御諒承ヲ願ヒマス、更ニ此問
  題ハ私トシテハ交付金ニモ劣ラザル-交
  付金ノ問題モ極メテ重要デアリマスルガ、
  是ニモ劣ラザル重要ナル問題ト存ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=30

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• 031・三宅正一

  ○三宅正一君　只今ノ御答辯ニ付キマシテ
  モ、不滿足ノ部分ハ多々アリマス、併シナ
  ガラ私共ハ所謂社會立法ニ對シマシテハ、
  常ニ政府ノ原案ヲ維持スルコトガ、吾々ノ
  力ノ最高限度デアル、退職積立金法案ニ於
  テ、是ガ改惡サレヤウトシ、或ハ此法律ガ
  改惡サレヤウト云フ事實ニ對シマシテハ、
  私共少クトモ原案ヨリハ惡クサレナイ程度
  ニ於テ、議會ヲ通シタイト云フ熱意ヲ以テ、
  國家ノ爲ニ奮闘シタイト考ヘルノデアルカ
  ラ、政府當局ニ於テモ腰ヲ決メテ、若シ斯
  ノ如キ問題ガ通ラナカッタナラバ、解散ヲ堵
  シテモヤルト云フ御覺悟ヲ以テ當ラレンコト
  ヲ望ミマス(拍手)此議會ニ於テ、私ハ一言
  取消ヲ中シテ置キタイト考ヘルノデアリマ
  スルガ、先程富山ノアンポン丹ト申シマシ
  タノハ、千金丹ノ間違デアリマスカラ、取
  消シテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=31

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• 032・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　此際土倉宗明君ヨ
  リ議事進行ニ付テ發言ヲ求メラレテ居リマ
  ス、之ヲ許可致シマス-土倉宗明君
  〔土倉宗明君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=32

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• 033・土倉宗明

  ○土倉宗明君　本案上程中、三宅正一君ノ
  質疑ノ演說中、富山ノアンポン丹ト云フ言
  辭ヲ弄セラレタノデアリマス、富山ニハア
  ンポン丹ナル藥名ノ賣藥ハ發賣致シテ居リ
  マイス
  〔「取消シタヂヤナイカ」ト呼フ者其他
  發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=33

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• 034・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=34

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• 035・土倉宗明

  ○土倉宗明君(續)　是ハ自ラ御取消ニナッ
  タヤウデアリマスカラ、是レ以上私ハ追窮
  ハ致シマセヌガ、少クトモ議員ノ言動ハ、
  公開ノ席上ニ於テハ爾來御注意アルベシト
  云フコトヲ警告申上ゲマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=35

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• 036・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　北勝太郞君
  〔北勝太郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=36

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• 037・北勝太郎

  ○北勝太郞君　本法案ハ農村ニ深イ關係ヲ
  有ツノデアリマスガ、總ジテ政府モ、議會
  モ、農村問題ニ對シマシテハ甚ダ熱意ヲ缺
  ク、誠意ヲ缺ク、否寧ロ農村イヂメノ感ガ
  アリマスルコトハ、私農業者ノ立場ヨリ甚
  ダ遺憾ニ感ズル者デアリマス、今ヤ全國農
  民ノ不滿ハ最高潮ニ達シテ居ルノデアリマ
  ス、是レ決シテ單ナル地方財政交付金ノ問
  題ダケデハナイノデアリマス、一體農民生
  活ガ如何ニ慘メナモノデアルカ、其狀態ガ
  如何ニ氣ノ毒ナモノデアルカト云フコトニ
  付テ、當局ハ御知リニナラヌノヂヤナイカ、
  知ッテ尙ホ之ヲ知ラヌ顏ヲシテ居ラレルノ
  デアラウカ、私ハ洵ニ怪訝ニ堪ヘヌノデア
  リマス、農業ヲ、又農民ヲ斯ノ如ク輕視シ、
  蔑視スル所ノ政府、竝ニ議會ノ態度ソレ自
  身ガ、農村ヲシテ益〓、乏乏ニ陷ラシメテ行
  クモノデアルコトヲ記憶シテ戴キタイノデ
  アリマス、政府ハ從來農村ノ醫療ニ對シマ
  シテモ甚ダ不親切デアル、農民ノ負債ガ四
  十幾億ニ達シテ居リマスガ、其四割以上ハ
  醫療費ニ依ル負債デアル、斯ウ言ハレテ居
  ルコトニ依ッテモ窺知ルコトガ出來ルノデ
  アリマスガ、是ハ內務當局ガ、先程モ三宅
  君ガ言ハレタ通リ、日本醫師會ノ運動ノ爲
  ニ、此醫療社會化ヲ停頓セシメテ來タ、是
  ガ大キナ原因ニナッテ居ルノデアリマス、是
  ガ爲ニ農村ノ醫療ニ少カラズ障碍ヲ與ヘテ
  來タモノデアリマス、最近壯丁ノ體位ノ低下、
  或ル農村健康狀態ノ不良、斯ウ云フヤウナ
  點ガ際立ッテ目立ツヤウニナリマシテカラ、
  漸ク本案ノ提案ヲ見ルヤウニナッタモノト
  思フノデアリマスガ、私ハ甚ダ遲キニ過ギ
  タト思フノデアリマス、而モ現內閣ハ此僅
  少ナル豫算サヘモ半減致シテ居ルノデアル、
  洵ニ殘酷モ聊カ度ガ過ギルヂヤナカラウカ
  ト思ハレルノデアリマス、本案ニ依リマス
  ルト、多大ノ保險料ヲ組合員ニ負擔サスル
  ヤウニナッテ居ルノデアリマスルガ、疲弊シ
  切ッテ居ル農村ガ、果シテコンナ餘裕ガアリ
  マセウカ、又農民ガ悅ンデ之ニ參加スルコ
  トガ出來マセウカ、是ガ重大ナル難點デア
  ルト思フノデアリマス、成程貧富ノ差ニ依ッ
  テ負擔ヲサセルコトニシテハ居リマスガ、
  是ガ又至難ナ業ナノデアリマス、私共ノ長
  イ間ノ經驗ニ依リマスルト云フト、大凡斯ル
  精神的ノ事業デ、繼續的ニ多大ノ費用ヲ伴
  フ所ノ團體ヲ作ルト云フコトハ、洵ニ是ハ
  面倒ナコトデアリマシテ、決シテ一朝一夕
  ニ出來ルモノデハナイノデアリマス、ソレ
  ガ爲ニ折角斯ウ云フヤウナ立派ナ法案ガ出
  來マシテモ、畫餅ニ歸スルノデハナイカ、
  繪ニ畫イタ餅ニナルノデハナイカ、之ヲ私
  ハ惧レルノデアリマス、政府ハ自ラ是ガ爲
  ニ支出致シマスル補助金ノ外ニ、何等カ此
  負擔緩和ノ方法ニ付テ用意ガアリマスルナ
  ラバ、私ハ承リタイト思フノデアリマス
  次ニ私ハ此事業ハ、農村デハ產業組合ヲ
  母體ニシテヤラセナケレバイカヌト云フコ
  トニ付テ、一言申上ゲテ見タイト思フノデ
  アリマス、農村ニハ團體ガ多過ギルト云フ
  聲ガ高イノデアリマス、斯ウ云フヤウナ場
  合ニ於キマシテ、此種ノ組合ヲ又作ルト云
  フコトハ甚ダ面倒デアリマス、ノミナラズ
  假初ニモ是ハ保險事業デアリマス、デアリ
  マスルカラ基礎ガ鞏固デアルモノデナケレ
  バ信用ガ得ラレナイ、イザト云フ時ニ賴リ
  ニシヨウト云フノデアルカラ、サウ信用ノ
  得ラレナイモノニハ入ッテ來ナイ、卽チ組合
  ノ成立ガ出來ナイノデアリマス、而モ難カ
  シイコトニハ、此事業ハ其性質上組合員ノ
  負擔ヲ極度ニ輕減シナケレバナラヌ、輕イ
  率デ經營シテ行カナケレバナラヌ、玆ニ一
  ツノ惱ミガアルノデアリマス、ソレガ爲ニ
  經營上ニ赤字ノ出ルコトモ、豫メ覺悟シナ
  ケレバナラヌノデアリマス、斯ウ云フヤウ
  ナ場合ニ資力薄弱ナ團體デアリマスルト、
  ソレハ保險給付金ノ支拂ニモ困ルデアラウ
  シ、御醫者サンノ報酬ヲ支拂フニモ困ルデ
  アリマセウ、ソレガ爲ニ忽チ破綻ニ陷ルコ
  トハ、火ヲ睹ルヨリモ明カデアルト存ズル
  ノデアリマス、現ニ埼玉縣ノ越ケ谷ニ於キ
  マシテハ、此町ハ相當裕福ナ町デアリマ
  ス、ソコニ保險類似組合ガ出來テ居リマス
  ガ、此保險類似組合ハ三井報恩會其他ノ各
  種ノ寄附ガナケレバ、一日モ立ッテ行ケヌト
  云フコトヲ立證シテ居ルノデアリマス、デ
  アリマスカラ、ヨリ以下ノ窮乏シテ居ル所
  ノ農村ニ於キマシテハ、是ハ產業組合ノ力
  ヲ藉ラナケレバ斷ジテ出來ナイト申上ゲ
  テモ、私ハ過言デナイト思フ、產業組合ハ
  御承知ノヤウニ既ニ二十年、三十年ト云フ
  年所ヲ經テ居リマス、又精神的ニモ經濟的
  ニモ基礎ガ確立シテ居ルノデアリマス、場
  合ニ依リマシテハ、其剩餘金ノ一部ヲ以チ
  マシテ、此組合費ノ負擔ヲ輕減スル方法モ
  アル、又赤字ガ出マシテモ、之ニ對シテ對
  應スル所ノ彈力性ガアルノデアリマス、前
  內閣ハ此產業組合ニ對シテ課稅ヲ目論マレ
  タノデアリマス、併シ產業組合ガ非營利、
  公益性ノモノデアリマシテ、理論的ニモ之
  ニ課稅スルト云フコトハ筋道ガ通リマセ
  又、若シ理不盡ニモ之ヲ前內閣ガ强行シテ
  居ッタトスルナラバ、恐ラク竹槍蓆旗ノ不祥
  事ヲ捲起サナカッタト誰ガ保證シ得タデア
  リマセウカ、幸ニ是ハ御取止メニナリマシ
  タガ、斯ウ云フヤウナ吝ナ考ヘ方カラ持タ
  ズニ、產業組合ノ本質ニ鑑ミ、之ヲ社會的
  事業ニ支出サセル、斯ウ云フヤウナ社會事
  業ニ支出サセルト云フコトハ、是ハ最モ私
  ハ賢明ナ行キ方デアルト思フノデアリマ
  ス、斯クシテ產業組合ヲシテ國民生活安定
  ノ上ニ、更ニ一段ト國家的役割ヲ負擔セシ
  ムベキデアルト、私ハ確信スルノデアリマ
  ス、之ニ對シテ當局ハドウ云フ御考ヲ持ッテ
  居ルカ承リタイノデアリマス
  〔議長退席、副議長著席〕
  次ニ私ハ日本醫師會ガ本案ニ對シマシテ、
  第九條削除、或ハ團體契約云々ト云フコト
  デ反對ヲ致シテ居ルト云フコトヲ聞クノデ
  アリマス、是ハ醫師會ノ爲ニ私ハ惜シムノ
  デアリマス、前者ハ醫師ノ自由選擇ヲ自ラ
  叫ビナガラ、之ヲ自ラ又否認サレルト云フ所
  ニ、大ナル矛盾ガアルノデアリマス、後者
  ノ方ハ保險組合經營ノ實際ヲ度外視シタ議
  論デアル、論者ノ多クハ御醫者サンノ實際
  家デハアルガ、保險經營ノ實際家デハアリ
  マセヌ、恰モ舟ト水トノ關係ニ對シテ、舟
  ダケハアッテモ水ガナイヤウナ議論ニナッテ
  居ル、全ク實際ニ當嵌ラヌノデアリマス、
  此保險ハ色々ノ點カラ見マシテ地方ノ實情
  ニ卽シタ、飽マデ自治的ノモノデアラネバ
  ナラヌノデアリマス、是ガ經營ニハ其地區
  內ノ御醫者サンモ、亦一部ノ責任ヲ負ウテ
  貰ハナケレバナラヌ、換言スレバ、其地方
  ノ醫師ト適切ナル契約ヲスルト云フコトデ
  ナケレバ、際限ノナイ保險經費ノ增大トナ
  ルノデアリマシテ、保險經濟ノ基礎ハ攪亂
  サレテシマフノデアリマス、サウナリマシ
  タラ、誰モ此保險經營ニ對シテノ責任ノ負
  ヒ手ガナクナル、是デス、是ガ劃一的ニ日
  本醫師會ト契約スル、或ハ道府縣醫師會ト
  契約スルト云フコトノ不可能ナル所以ナノ
  デアリマス、保險經營ノ生命線ハ、私ハ玆
  ニアルト思フノミナラズ、本法ノ總則ニハ
  「相扶共濟ノ精神」ト言ッテアリマス、此相
  扶共濟ノ精神ニ則ルベキモノデアリマシテ、
  保險組合ハ其村ニ於ケル自治的經營デアリ
  マシテ、各町村每ニ負擔ガ違フノデアリマ
  ス、隨テ住民中多少デモ資力ノアル者ハ貧
  村程非常ニ重イ負擔ヲシナケレバナラヌ、
  ガ、併シ之ニ小言ヲ言ハズニ行ク所ニ、所
  謂本法成立ノ餘地ガアルノデアリマス、先
  程ドナタカカラ此制度デアルト、富裕ナル
  村カラ先ニ出來テ、貧乏ノ村ガ後ニナルト
  言ハレタ、是ハ大間違ヒ、團結ヲ良クスル、
  相扶共濟ノ精神ノ徹底シタ村ガ先ニ出來
  ル、幾ラ金持村デモ扶ケ合フト云フ考ガナ
  イ、人類互ニ扶ケ合フト云フ精神ノ缺如シ
  タ村ハ、後廻シニナルノデアリマス、大間
  違ヒデアリマス、カルガ故ニ其町村內ニ居
  住スル醫師モ、亦率先シテ相扶共濟ノ精神
  デ範ヲ他ニ示シテ行カナケレバナラヌノデ
  アリマス、此互助意識ニ缺ケタ所ノ、不眞
  面目ナ彼保險者ヤ、又此互助意識ニ缺ケタ
  所ノ貪慾ナル醫者ノ存在ト云フコトハ、實
  ニ此保險組合經營上ニ於ケル大ナル暗礁デ
  アルノデアリマス、然ルニ醫師ダケハ此精
  神ノ埒外ニ立タレ、除外例ヲ求メヨウト云
  フノガ、此團體契約ノ主張ノ現レデアルノ
  デアリマシテ、自己ノ營利的立場ヲ有利ニ
  導イテ行カウ、斯ウ云フ考ハ全ク此立法ノ
  精神ニ背反スルモノデアリマス、從來醫師
  會ト云フモノガ、動モシマスルト營利的傾
  向ガアッタノデアリマス、勞働者ノ健康保險
  ニ於キマシテハ試驗濟デアリマス、或ハ差
  別待遇ヲシタトカ、或ハ內容ノ低下ヲシタ
  トカ、或ハ濫診濫療ニ陷ッタトカ云フコトデ
  アリマス、此濫診濫療ニ付キマシテハ、此
  處ニ調査シタモノガアリマスカラ、御參考
  マデニ私ハ讀ンデ見ヨウト思ヒマスガ、「輕
  症ヲ重症ニ診斷スル場合、一箇月休業セシ
  肺尖炎患者出業ニ際シ健康診斷ヲ行ヒシニ
  他覺的變化ヲ認メズ、發病當時ノ主訴ヲ尋
  ネシニ發熱四十度ニ上リ頭痛全身倦怠アリ
  シト云フ、保險醫ハ肺尖炎ト診斷シ散水二
  劑ヲ與ヘ二週間ノ休業ヲ與ヘタリ、發熱以
  外ニハ自覺症ナク(咳嗽、咯痰、盗汗等ナク)
  發熱ハ二日間ニテ常溫ニ復シ爾來自覺症ナ
  カリシト云フ、恐ラクハ流行性感冒ナリシナ
  ランモ保險醫ハ「レントゲン」檢査ニヨリ肺
  尖炎ト診斷セリ、然ルニ被保險者ハ肺尖炎ト
  診斷セラレ肺病ハ初期ニ治療セザレバ癒ラ
  ヌト聞キ一箇月間休業セリト、被保險者ト
  シテハ無理カラヌコトナレド之レ剩費診療
  ニシテ必要診療ニアラズ、感冒トカ胃「カター
  ル」トカニテハ一日一劑一點シカ請求シ得
  ザルモ、肺結核、胸膜炎等慢性疾患ナレバ
  散水二劑ノ外ニ注射ヲ認メラルヽニ基因ス
  ル診療報酬ノ請求點數引上ゲ策ニアラザル
  カ」ト斯ウ云フ工合ニニロッテ居ルノデアリ
  やっ、又病的生理ヲ診斷スル場合、是モ書
  イテアリマス、「殘業六時間働クモノハ勞
  働時間實ニ十四時間ヲ算ス、カヽル勞働ガ
  二三日續ケバ必ズヤ肩ノ凝リ、脊痛、腰痛
  ヲ訴フ、之ハ過勞ノ結果ニシテ一種ノ疲勞
  現象ナリ、休養セシムルカ睡眠ヲ十分ニ與
  ヘレバ自然ニ消散ス、然ルニ多クノ勞働者
  ハ醫師ノ門ヲ叩イテ治療ヲ乞フ、保險醫ノ
  多クハ肺尖炎、心筋炎ノ神經痛等ノ病名ノ
  下ニ投藥シ注射ヲ行フ、カヽル場合睡眠、
  入浴、「マッサージ」等ニヨリ恢復スルモノ
  ハ、宿醉ガ疾病ニアラザルト同樣健康保險
  ノ範圍外ニ屬スベキモノト思考ス、然ルニ
  保險醫曰ク、被保險者ハ我々ノ御得意デア
  ル、診テ吳レ治療シテ吳レト云ッテ來タラ
  診療シテ差支ヘナイバカリカ診療シテヤラ
  ナケレバナラナイノデアルト」斯ウ云フ工
  合ニ言ッテ居ル、斯ノ如キ濫療濫診ヲ爲シ
  得ルノデアリマス、其他保險醫ノ指定權ヲ
  醫師會ガ獨占ヲ致シマシテ、醫師會ノ爲ニ
  少シデモ不利ト思フモノニ對シテハ之ヲ除
  外致シ、例ヘバ醫療利用組合ノ如キモノニ
  對シテハ、之ヲ除外致シテ居ルノデアリマ
  ス、全ク自己本位ノ偏見狹量ヲ暴露致シテ
  居ルノデアリマス、然ルニ却テ此法律運用
  ノ方ニ於キマシテハ、醫師選擇ノ自由ヲ原
  則ト致シテ居ル、ソレガ爲ニ一部ノ者ガ專
  屬ニナルトカ、或ハ一部ノ者ハ除外サレル
  ト云フヤウナ憂ガナイコトニナッテ居ルノ
  デアリマスルカラ、公正ナル頭ヲ持ッタ醫
  師デアルナラバ、之ニ反對サレル筈ハナイ
  ト私ハ思フ、唯併シ此場合內務省令其他デ、
  被保險者ノ醫師選擇自由ノ一點ヲ明瞭ニシ
  テ置カレル方ガ私ハ宜イト思フノデアリマ
  スガ、當局ニ其意思アリヤ否ヤト云フコト
  ヲ承リタイノデアリマス
  最後ニ一言、此重要ナル社會立法ガ、醫師
  側ノ誤解ト自我ト感情トニ依リマシテ、萬一
  ニモ握潰シノ運命ニデモナリマスルナラバ、
  恰モ彼ノ米穀自治管理法ノ經緯ノ如ク、大
  衆ノ反動トナリ、天下ノ物情ヲ起スモノト
  思フノデアリマスルカラ、此解決ノ遷延ハ
  私ハ兩者ノ爲ニ取ラザル所デアリマス、國
  民ハ假令負擔ガ重クトモ、或ハ現在健康者
  デ今直チニ此保險組合ヲ必要トシナイ者モ、
  國家意識ノ下ニ奉仕的觀念デ、之ニ全面的
  支持ヲ致シテ居リマス、獨リ御醫者サンダ
  ケガ、此場合自我ヲ固執シテ讓ラヌト云フ
  コトハ、平素自ラ紳士ヲ以テ任ジテ居ラレ
  ル御醫者サントシテハ、私ハ取ラザル所デ
  アルト、斯ウ思フノデアリマス、ノミナラ
  ズ論爭ノ中心點、團體契約ノコトデアリマ
  スガ、是ハ結局醫師側ガ本法ノ運用上ニ付
  テ、過分ノ心配ヲサレルカラ起ルノデアル、
  私ハ實質上サウ云フコトガ起リサヘシナケ
  レバ、ソレデ宜イノヂヤナイカ、組合側ダ
  カラト云ウテ、決シテ非常識ナ要求ヲスル
  モノデハナイト私ハ信ジテ居ル、縱ンバソ
  ンナコトガ稀ニアリマシテモ、官廳ガ中ニ
  立ツノデアリマスカラシテ、斯ウシタ心配
  ハ私ハナイト思フ、實際ハ案ズルヨリ產ム
  ガ易イノデアリマシテ、一切ハ雙方ノ常識
  ニ依ッテ立派ニ解決ヲ付ケ得ルト私ハ感ズ
  ル、餘リ「ヒステリー」的ナ過分ノ取越苦勞
  ハ、此際無用ノ禁物デアルト思フ、願ハク
  ハ醫師諸君ガ初メカラ喧嘩腰ナ對立抗爭デ
  臨マズニ、總テガ圓滿協調ノ精神デ、兩方
  共相携ヘテ、此大事ナ國策デアル、此法案
  ノ制定ノ趣旨ニ副フヤウニシテ行カナケレ
  バナラヌト思フノデアリマス、全國ノ產業
  組合側ニハ、旣ニ其用意ガアリト私ハ言明
  致シマス、何卒醫師側ノ方々ハ、此點ノ診
  斷ヲ誤ラヌヤウニシテ、偏狭ナ考ヲ捨テヽ
  戴キタイト思フノデアリマス、尙ホ私ハ兩
  大政黨ガ-天下ノ大政黨ガコンナ國民生
  活ノ重要問題ニ付テ
  是ハ何事デアルカ、大イ
  ニ反省ヲ求メナケレバナラヌト思フノデア
  リマス(發言スル者多シ)アノ現實ヲ何ト見
  ルカ-

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=37

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• 038・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　私語ヲ禁ジマス
  -北君、私語ヲ注意シテ下サイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=38

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• 039・北勝太郎

  ○北勝太郞君(續)　私ノ質問ハ是デ終ッタ
  ノデアリマスガ、此質問ヲ要約致シマスト、
  疲弊シタ農村デハ、保險料ノ負擔ガ容易デ
  ナイガ、政府ハ自ラ交付スル補助金ノ以外
  ニ、此負擔ノ緩和ニ對シテ何等カノ用意ガ
  アリマスルナラバ承リタイ、次ハ農村デ斯
  ウシタ新團體ヲ作ルト云フコトハ容易デナ
  イノデアリマス、農村ハ旣ニ團體ノ多イコ
  トニ食傷シテ居ルヤウナ有樣デアルカラシ
  テ、是ガ爲ニ折角ノ法案モ畫餅ニ歸スルト
  思フノデアリマス、ソコデ此經營主體ニ對シ
  テ、政府ハ一貫シタ所ノ用意ガアルカドウカ、
  之ヲ承ッテ置キタイト思フノデアリマス、次
  ハ省令デ醫師選擇ノ自由ヲ規定セラルヽ所
  ノ御考ガナイカ、其次ハ產業組合ヲ社會事
  業ニ進出サセテ、其公益性ヲ一層發揮サセ
  ル所ノ御考ハナイカ、此四點デアリマス、
  前段ノ三ツノ點ハ內務大臣カラ答辯ヲ得タ
  イト思ヒマス、後段ノ產業組合問題ハ、農
  林省ノ關係者デ宜シイト思ヒマスガ、詳細
  ナル御答辯ヲ御願シタイト思ヒマス
  (「農林省ハ誰モ居リハセヌヨ」ト呼フ
  者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=39

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• 040・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　北君、アナタノ今
  ノ演說中ニ、此案ニ
  ト云フコトヲ言ヒマシタガ······

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=40

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• 041・北勝太郎

  ○北勝太郞君　イヤ、サウ言ヒマセヌ、反
  對サレテハイカヌト言ッタノデス
  〔「イヤ、三ツノ言ッタ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=41

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• 042・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　アナタノ發言中ニ
  ト云フコトガアッタナラバ、取消
  シヲ命ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=42

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• 043・北勝太郎

  ○北隣太郞君　トハ何事デアル
  カト言フノデアッテ、トハ言ッテ居
  ラヌ、ハッキリシテ置キマス
  〔「言ッタ、言ッタ」「速記錄ヲ調ベレバ分
  ル」「議長橫暴ダ」其他發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=43

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• 044・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　靜ニナサイ-河
  原田內務大臣
  〔田淵豐吉君「議長、言論ノ自由ヲ何故
  壓迫スルカ、議長、サウ云フ言論ノ壓
  制ハイカヌ、議長、議長、橫暴」ト呼
  フ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=44

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• 045・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　田淵君、靜ニナサ
  イ、田淵君、靜ニナサイ
  〔田淵豐吉君「議長、議長ノ言葉ヲ取消
  セ、アレヲ取消セ」ト呼フ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=45

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• 046・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　田淵君-田淵
  君、注意シマス、靜ニナサイ
  〔田淵豐吉君「何故言論ヲ壓迫シタ、取
  消セ」ト呼フ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=46

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• 047・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　靜ニナサイ、田淵
  君、田淵君、注意シマス-注意シマス
  〔田淵豐吉君「取消セ、何故壓迫シタ」
  ト呼ヒ、其他「退場々々」「議事ノ妨害
  ニナル」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=47

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• 048・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　田淵君、注意シマ
  ス、靜ニナサイ-靜肅ニ願ヒマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=48

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• 049・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今ノ北サン
  ノ御尋ニ御答ヲ致シマス、第一ニ、現在ノ
  農村ハ··
  〔田淵豐吉君「議長、取消シナサイ、言
  論ノ壓迫ダ」ト呼ヒ、又「退場ヲ命ジロ」
  其他發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=49

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• 050・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　田淵君、注意シマ
  ス、御注意ナサイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=50

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• 051・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)(續)　現今ノ我
  國農村ガ非常ニ負擔ノ上カラ見テモ貧弱デ
  アッテ、斯ウ云フ組合ヲ作ッテモ負擔ノ點ニ
  於テ困ルコトガアリハセヌカ、斯ウ云フ御
  尋デアリマシタ、之ニ付キマシテハ、大體
  ニ於テ極ク貧弱ナル町村ニ對シマシテハ、
  國費ノ補助モ若干斟酌ヲシテ、多少多ク支
  給スルト云フ途モ考ヘラレ得ルノデアリマ
  ス、ソレカラ又御承知ノ通リ、此國民健康
  保險組合費ハ醫療費ニ代ハルノデアリマシ
  テ、從來拂ッテ居リマシタ醫療費ヲ組合費ト
  シテ納メルノデアリマスルカラ、新シク負
  擔ヲ重課スル意味デナイコトハ御承通ノ通
  リデアリマス、更ニ此組合ノ組合費ヲ納入
  スルニ當リマシテモ、或ハ收穫期ヲ利用ス
  ルトカ、金ノ入ッタ時納メサセルトカ、或ハ
  又收穫物、卽チ物納ヲモ許ス積リデアリマ
  スルカラ、隨ヒマシテ農村住民ノ負擔ノ上
  カラ申シマシテ、非常ニ樂ニナルト思フノ
  デアリマス
  第二ニ、現在アル或ハ產業組合其外ノ色
  色ナ組合ヲ利用シテ、此國民健康保險組合
  ニ代ラシタラ宜イデハナイカ、斯ウ云フ御
  尋デアリマシタガ、是ハ先日來私ガ申上ゲ
  マスルヤウニ、國民健康保險組合ト云フモ
  ノヲ中心ニ致シタイノデアリマシテ、餘リ
  ニ範圍ヲ擴ゲマスルコトハ却テイカヌカト
  思フノデアリマス、例ヘバ產業組合ハソレ
  ソレ產業組合トシテノ目的ヲ持ッテ居ルノ
  デアリマスカラ、ヤハリ本筋ノ醫療ノ問題
  ハ、國民健康保險組合ト云フモノデヤラシ
  テ行キタイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマ
  ス
  ソレカラ第三ノ醫師ノ選擇ノ自由ヲ認メ
  ルヤウニ省令等ニ於テ規定スルヤ否ヤ、斯
  ウ云フ御尋デアリマシタガ、是ハ大體ニ於
  テサウ云フ積リデアリマス、卽チ先程來私
  ガ申上ゲマスヤウニ、法律ノ中ニ團體契約
  ヲ强制シテ法定スルコトニハ反對デアリマ
  スガ、併シ省令ノ中ニ於テ醫師選擇ノ自由
  ヲ認メサセルヤウニシタイ、斯ウ云フ積リ
  デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=51

  ---

• 052・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　北君、モウ宜シウ
  ゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=52

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• 053・北勝太郎

  ○北勝太郞君　農林省ノ御答辯ハアリマセ
  ヌカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=53

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• 054・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　農林省ノ御答辯ハ
  アリマセヌヤウデス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=54

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• 055・北勝太郎

  ○北勝太郞君　ナケレバ、私ハ只今ノ內務
  大臣ノ御答辯ニ對シテハ不滿ノ點ガアリマ
  ス、併ナガラ時間ノ關係上委員會ニ讓リタ
  イト思ヒマスカラ、此程度デ私ノ質問ヲ打
  切リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=55

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• 056・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　伊禮肇君
  〔伊禮肇君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=56

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• 057・伊禮肇

  ○伊禮肇君　本案ハ相互扶助ノ趣旨ニ依リ
  マシテ、農村ニ醫療ヲ普及セシメタイト云
  フ法案デアリマスルガ故ニ、我ガ同盟ト致
  シマシテハ、其精神ヲ諒トスルモノデアリ
  マス、併ナガラ此法案ニ付キマシテハ、旣
  ニ多數ノ議員カラ御質問ガアリマシタケレ
  ドモ、尙ホ二三質疑ヲ持ッテ居リマスルノ
  デ、之ヲ更ニ政府ニ質シマシテ、御明答ヲ
  得タイト思フ次第デアリマス
  第一ニ私ガ政府ニ伺ヒタイコトハ、保險
  金ニ對スル政府ノ補助ガ餘リニ少額ニ過ギ
  ハセヌカト云フ點デアリマス、今囘ノ補助
  ハ一戶當リ五圓程度ト承ッテ居リマスル
  ガ、先ヅ或ル千戶單位ノ町村ヲ考ヘマス
  ルト云フト、其町村ニ於ケル一戶平均ノ
  醫療費二十五圓ト見マシテ、政府補助ノ五
  圓ヲ差引キ、アト一戶平均二十圓ノ保險料
  ヲ負擔シナケレバナラヌ結果ニナリマス、
  隨テ此千戶單位ト致シマスレバ、二万圓ト
  云フコトニナルノデアリマス、町村ノ戶數
  割ハ千戶單位ノ町村ニ於テ見マスルト云フ
  ト、約一万五千圓程度ト考ヘラレマス、此
  一万五千圓程度ノ戶數割サへ餘リニ負擔ガ
  重イ、負擔ニ堪ヘナイ、此意味ニ於キマシ
  テ廢止ノ運動ガアリ、地方財政交付金ノ運
  動ガアルノデアリマス、此戶數割負擔ノ過
  重ニ苦シミ、其撤廢ヲ運動シテ居ル際ニ當
  リマシテ、戶數割以上ノ負擔ヲ强ヒルト云
  フコトニ於テ、此案ハ非常ナ困難ガ伴フノ
  デハナイカト考ヘル次第デアリマス、成程
  一般公共ノ爲ノ行政費ノ支出ト云フコト
  ト自分ノ病氣ノ爲ニ備フル爲ノ負擔ト
  ハ、其氣持ニ於テ相當ノ差違ガアルコトハ
  認メマスケレドモ、事實ニ於テ病氣シタ時
  ト違ヒマシテ、病氣ノ災難ニ遭フ場合ノ用
  意ノ爲ニ、日頃ニ相當ノ負擔ヲ强ヒラレル
  ト云フ點ニ於テ、ヤハリ戶數割同樣ノ負擔
  ノ苦シミガアルト考ヘルノデアリマス、靜
  岡縣ノ醫師會ニ於テ、三万人ノ患者ニ付テ
  調査シタ所ニ依リマスト云フト、本當ニ醫
  療費ヲ支拂ヒ得ル者ハ五六%ニ過ギナイ、
  斯ウ云フコトヲ發表シテ居リマス、靜岡縣ハ
  全國ニ於テモ富裕ナル縣デアリマス、隨テ
  全國平均ノ一般農村ニ於キマシテハ、或ハ
  五〇%以下、或ハソレ以下ノ階級ノミガ醫
  療費ヲ支拂ヒ得ル程度デハナイカト考ヘマ
  ス、斯ノ如ク戶數割以上ノ負擔、竝ニ其醫
  療費ヲ負擔シ得ル程度ノ農民ガ半數以下デ
  アルト云フ點カラ考ヘマシテ、此政府補助
  ノ五圓ヲ尙ホ增額シ、或ハ之ヲ半額程度マ
  デ補助ヲ增額シテ戴カナケレバ、本案ノ實
  施ハ困難デハナイカト考ヘル次第デアリマ
  スルガ、政府ハ如何ニ御考ニナリマスカ
  第二ノ問題ハ、保險料ノ決定ヲスルニ當
  リマシテ、組合員ノ地位トカ、或ハ資力ニ
  依リマシテ等級ヲ決定スルト承ッテ居リマ
  ス、此等級ノ決定ノ方法如何、之ヲ先ヅ伺
  ヒタイ、私ハ今日マデ戶數割ノ決定ニ付キ
  マシテ、各地方ノ町村ニ於テ相當ナル弊害
  ヲ來シテ居ルコトヲ知ッテ居リマス、隨テ此
  問題ニ付キマシテモ、相當困難ナル問題ガ
  起リハシナイカト憂フルモノデアリマス、
  政府ハ此問題ニ付テ如何ニ御考ニナリマス
  カ、政府ノ此案ニ對スル御考ハ、大體自治
  的ニ行キタイト云フ御方針ノヤウデアリマ
  スルガ、私ハ此等級ノ決定トカ、色々ナ難
  問題ヲ解決スルニ當リマシテハ、相當ニ强
  制的ノ內容ヲ含ム所ノ規約ヲ設ケル必要ガ
  アリハセヌカト考フルモノデアリマス、醫
  師會ノ反對、所謂代行機關問題、或ハ團體
  契約問題、斯ウ云フ問題ハ監督ノ强化ト
  カ、或ハ其運用上ノ手心、色々ノ方法ニ依
  リマシテ圓滿妥協ノ途ヲ講ジ得ルカト考ヘ
  マスケレドモ、此等級ノ決定問題、負擔ノ
  均衡問題ハ、一步誤ルト本制度ノ相互扶助
  ノ目的ヲ踏ミ外シ、殆ド收拾スルコトノ出
  來ナイヤウナ羽目ニ陷リハセヌカト云フコ
  トヲ憂フルモノデアリマス、政府ハ此點ニ
  付テ何等ノ心配ガナイ、支障ガナイヤウ
  ニ、十分ノ御用意ガアリマスカドウカ
  更ニ第三ニ御伺シタイコトハ等級問題、
  負擔ノ均衡問題ヲ圓滿ニ解決スル爲ニ、此
  法案ノ中心點ヲ相互扶助ニ置イタコトト考
  ヘラレマス、所ガ相互扶助ノ美風ト云フモ
  ノハ、大字單位ニ於テハマダ存スルモノト
  思ヒマスケレドモ、今日ノ五百戶、千戶、
  或ハ二千戶ト云フヤウナ町村單位ニ於キマ
  シテハ、到底此相互扶助精神ニ依ッテ、此法
  案ノ運用ヲ圓滑ニスルト云フコトハ出來ナ
  イト考ヘルモノデアリマス、相互扶助ノ此
  美風、此精神ヲ强調致シマシテ、之ニ依ッテ
  富メル者ハ貧シキ者ノ爲ニ多額ノ費用ヲ負
  擔シ、一大家族主義ノ下ニ此制度ヲ運用ス
  ルト云フコトハ、要スルニ大字單位デナケ
  レバナラヌ、併シ一面ニ於テ保險ノ本質デ
  アリマスル所ノ危險分散、此點カラ行キマ
  スルト、字ハ勿論ノコト、町村單位デモ餘
  リニ小サ過ギル、寧ロ府縣單位ニシナケレ
  バナラヌト思フ、例ヘバ傳染病ノ流行ノ場
  合ノ如キ、町村ヤ大字單位ニ致シマシテハ、
  直チニ組合ノ經濟ハ行詰ル、斯ウ云フ虞ガア
  ルノデアリマス、玆ニ大ナル矛盾ガゴザイマ
  ス、此矛盾ヲ政府ハ如何ニ解決サレントス
  ルカ、卽チ相互扶助ノ精神ヲ、此制度ノ上ニ
  生カサウト思フト、ヤハリ大字單位ヲ以テ宜
  シトシマス、所ガ所謂保險ノ本質クル危險ノ
  分散ノ趣旨ヲ徹底セシメルニハ、之ヲ府縣單
  位トシナケレバナラヌ、此調和ヲ如何ニシテ
  圖ルカト云フノガ重大ナ問題デアリマス、
  私ハ此問題ニ付キマシテハ平均醫療費ノ二
  十五圓、此半額程度マデ政府ガ補助ヲ致シ
  マスルナラバ、サウシテ傳染病トカ、所謂
  災害ノ場合ニ於テ、或ハ又特別ナ貧弱町村
  ニ對シマシテハ、特ニ一般補助ノ外ニ特別
  ノ補助ヲ致シマスルナラバ、ヤハリ大字本
  位ニシタ方ガ、最モ有效ニ效果ヲ擧ゲルト
  考ヘルモノデアリマス
  更ニ第四番目ニ私ガ伺ヒタイコトハ、政
  府ハ此制度ニ付テドノ程度ニ御熱意ガア
  ルカト云フ點デアリマス、巷間傳フル所
  ニ依リマスレバ、郵便貯金ノ利子引下ヲ
  ヤッテ、サウシテ庶民階級ニ相當ナル犠牲
  ヲ拂ハシタ其代償トシテ、本案ノ經費ヲ
  大藏省ハ承諾シタ、斯ウ云フコトニ聞イ
  テ居リマス、果シテ是ハ事實デアルカド
  ウカ、前內閣以來庶政一新トカ、或ハ生活
  ノ安定トカ、斯ウ云フコトヲ吾々ハ屢〓耳
  ニシテ居リマス、併ナガラ此立法コソハ、
  此聲明ニ相應シイ、其內容ハ第二ト致シマ
  シテ、此立法ダケハ確ニ國民生活安定ノ聲
  明ニ相應シイ社會立法ダト考ヘテ居ル次第
  デアリマス、斯ノ如ク重要ナル社會立法ニ
  對シマシテハ、政府ハ國防費ト同樣ニ、ヨリ
  以上ニ此經費ヲ重大視シナケレバナラヌ、增
  稅デモ宜シイ、公債デモ宜シイ、思切ッテ此
  經費ヲ出サナケレバナラヌト私ハ思フノデ
  アリマス、斯ノ如キ經費ニ對シマシテハ國
  民モ反對シナイ、貧困ノ爲ニ十分醫療ヲ受
  ケルコトノ出來ナイ農民ノ爲ニ-疾病ノ
  爲ニ貧困ニ陷リツヽアル所ノ農民ノ爲ニ之
  ヲ救濟シ、積極的ニ其健康ヲ增進シ、更ノ
  年々低下シツヽアル靑年ノ體格ヲ向上シ、
  國民保健衞生ノ完璧ヲ期スルト云フコトハ、
  廣義國防ノ意味ニ於キマシテ、國家トシテ
  何ヨリモ眞ッ先ニ講ジナケレバナラヌ重大
  ナル政策デアルト考へマス、此重大ナル問
  題ニ當ッテ、僅ニ郵便貯金ノ利子引下ノ代償
  的意味ヲ持ツト云フコトハ、甚ダ遺憾ニ
  思フ次第デアリマス、私ハ斯ノ如キ重大ナ
  ル社會立法、此問題ニ付テハ繰返シ申シマ
  スガ、國防費以上ノ熱意ヲ以テ、政府ハ相
  當ナル經費ヲ出スベキデアルト思フノデア
  リマス(拍手)內務大臣ハ此社會立法ヲ完全
  ニ遂行スル爲ニ、今後相當ナル補助ヲ要求
  シ、サウシテ圓滿ナル運行ヲスルダケノ熱
  意アリヤ、此點ヲ伺ヒタイノデアリマス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=57

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• 058・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今ノ御尋ノ
  第一ハ、組合ニ對スル補助ガ甚ダ少イデハ
  ナイカ、斯ウ云フコトニ伺ッタノデアリマス、
  是ハ私ガ先程來申上ゲマスヤウニ、國家ト
  シテ出來ルダケノ援助ガ出來ルコトハ、最
  モ望マシイコトデアリマスガ、一面ニ於キ
  マシテ國家財政ノ關係モ見ナケレバナラヌ
  ノデアリマスカラ、初カラ十分ナル譯ニハ
  行カヌト云フコトニ付キマシテハ、御諒承
  ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、且又此制
  度ハ成ベク普及スルコトヲ望ミマスカラ、
  唯若干ノ箇所ニ十分ノ補助ヲヤルト云フヨ
  リモ、多少ハ少クテモ成ベク普及スル方ガ
  宜カラウ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、
  且又農村ニ於キマシテハ、ドウセ今マデモ
  醫者ニ掛リ藥ヲ飮ンデ居ルノデアリマシテ、
  其醫療費ガ代ッテ組合ノ保險料ニナルノデ
  アリマスルカラ、是ガ爲ニ別ニ住民ノ負擔
  ヲ增スト云フ譯デハナイノデアリマス、而
  シテ其上ニ若干ナリトモ國家カラ補助ガ出
  ルノデアリマスルカラ、餘程此點ニ付キマ
  シテハ、非常ナ便宜ヲ得ルコトト思フノデ
  アリマス、第二ニ、組合員ノ資力ニ付テ等
  級ヲ附スルガ、從來ノ戶數割等ノ例ニ付テ
  見テモ、甚ダ其等級ヲ附スルコトガ困難デ
  アリハセヌカト云フ御意見デアリマシタ、
  是ハ元來町村ノ戶數割ト違ヒマシテ、其範
  圍ト云フモノガ非常ニ狹イノデアリマス、
  卽チ從來アリマスル類似組合ノ例ヲ見マシ
  テモ、最低五錢最高五圓ト云フヤウナ有樣
  デアリマシテ、甚ダ其間ノ差ハ少イノデア
  リマス、戶數割ニ付テ言ヒマスレバ、最高
  ハ或ハ千圓以上ニ上ル場合モアルノデアリ
  マシテ、ソレ程ノ差ガナイノデアリマス、
  而シテ其決定ニ付キマシテモ、大體十階級
  位ニ分ケマシテ、組合會ノ決議ニ依ル外、
  更ニ行政官廳トシテ適當ナ監督ヲ加ヘル
  積リデアリマスカラ、大シク弊害ヲ生ズ
  ル虞ハナイト私共ハ信ジテ居ルノデアリマ
  ス
  ソレカラ更ニ相互扶助ノ精神ニ立脚シテ
  居ルナラバ、大體大字位ヲ基礎ニスベキモ
  ノデアッテ、町村ト云フコトデハ甚ダ中途半
  端デハナイカ、若シ徹底スルナラ府縣位ヲ
  單位ニスルノガ至當デハナイカト云フ御意
  見ノヤウデアリマシタ、是ハ根本ノ考へ方
  ト云フモノガ、所謂相互扶助カラ出發シテ
  居ルコトハ私ガ申ス迄モナイノデアリマシ
  テ、假令自分ガ病氣ニ罹ラヌデモ、何時病
  氣ニナルカ分ラナイ、其場合ニオ互ニ助ケ
  合ッテ、サウシテ互ニ其時ノ不幸ニ對シテ豫
  メ準備シテ置ク、斯ウ云フコトデアリマス
  ノデ、其根本ハ相互扶助的ノ精神ニ出發シ
  テ居リマスルケレドモ、併シ更ニソレガ擴
  張シマシテ、町村ナリ或ハ市ト云フモノ
  ニ-市ト云フコトハ恐ラクナカラウト思ヒ
  マスケレドモ、町村アタリニ擴張スルコト
  ハ、醫療ノ給付ノ上カラモ亦便利デアルノ
  デアリマスルカラ、成ベクサウナルコトヲ
  希望シマスガ、町村一單位ト云フコトデアッ
  テモ、可ナリノ施設ガ出來ルノデアリマス、
  先般私ガ例ニ致シマシタヤウナ、譬ヘバ
  越ケ谷ノ例ノ如キモノハ、人口約四千五百位
  デアリマスガ、殆ド其全部ノ人ヲ網羅シテ
  居リマシテ、一ツノ病院ヲ持ッテ、醫師八
  人齒科醫師三人位ヲ包容シテ居ルヤウナ
  有樣デアリマス、デアリマスルカラ、更ノ
  之ヲ擴張シテ府縣ノ單位ト云フコトニナリ
  マスト、是ハ餘リニ大キ過ギテ、所謂尾大振
  ハズト云フ形ニナッテ、其監督或ハ醫療ノ方
  法ト云フコトニ付テ、非常ナ面倒ヲ生ジ易
  イノデアリマスカラ、丁度町村單位グラヰ
  ガ適當デアラウト思フノデアリマス、是モ
  必シモ町村單位トハ限ラヌノデアリマシテ、
  其場合ノ成立ノ狀況ニ委シテアリマスガ、
  併シ大體ニ於テヤハリ町村單位ニナル傾向
  ト思ヒマス
  ソレカラ最後ニ如何ナル程度ニ於テ此案
  ニ熱意ガアルカ、更ニ國民健康保險組合
  ニ對スル費用ハ、郵便貯金ノ利下ノ其差
  額ヲ以テ充テルノデハナイカ、斯ウ云フ
  風ナコトデアリマシタ、之ニ對シマシテ
  ハ所謂郵便貯金ノ利下問題ト、國家歲出
  トシテノ各種ノ施設トハ自ラ別問題デ、私
  ガ申ス迄モナク或ハ不動產稅ハ土木ノ事業
  ニ充テルトカ、或ハ所得稅ハ〓育ノ費用ニ
  充テルトカ云フヤウナ、國家ノ收入ハソレ
  ゾレ歲出ヲ決メテ別箇ニ收入支出サレルモ
  ノデハナイノデアリマシテ、ソレヲ統合シ
  テ、更ニ其全體ヲ纏メテ、必要ナル國家ノ
  施設ニ支出スルノデアリマスカラ、ソレ等
  ノ點ニ付テ區別サルベキモノデハナイノデ
  アリマス、郵便貯金ノ利下ト云フコトハ、
  今日ノ低金利ト云フコトニ對スル一ツノ施
  設デアッテ、ソレト健康保險組合ニ對スル費
  用ノ支出トハ自ラ別問題デアルト、斯ウ云
  フ風ニ御考ヲ願ヒタイト思ヒマス
  〔伊禮肇君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=58

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• 059・伊禮肇

  ○伊禮肇君　內務大臣ハ郵便貯金ノ利下ノ
  代償トシテ、此豫算ガ出來クト、斯ウ云フ
  意味ニ於テ取違ヘテ居ラレル、私ガ此質問
  ヲ致シマシタノハ、郵便貯金利下ノ點ガナ
  ケレバ、或ハ此案ハ葬ラレタカモ知レヌ、
  ソレ程ノ熱意ノナイ程度ノ提案ノ仕方ナラ
  バ、將來ガ思ヒヤラレル、寧ロ引込メタ方
  ガ宜イ、此意味デアリマス、何モ此歲入ハ
  此歲出ニ行クトカ、是ハ決ッテ居ナイコト
  ハ、大臣ガ說明スル迄モナク能ク分ッテ居
  リマス、此法案ニ對スル經費ヲ如何ニシテ
  捻出スルカニ付テノ經過ガ餘リ面白クナイ、
  政府ハ斯ノ如キ重大ナル社會立法ハ堂々ト
  經費ヲ要求シ、五圓デハ少イケレドモ財政
  上云々ナド言ハレズニ、公債ヲ發行シテモ、
  增稅ヲ斷行シテモヤルダケノ熱意ガナケレ
  バ此法案ハ駄目ダ、此意味デアリマス、尙ホ
  大臣ノ答辯ニ相當不滿ノ點ガアリマスガ、
  私風邪ヲ引イテ居リマシテ〓喉ガ惡イカ
  ラ、委員會ニ讓リマシテ此質問ヲ打切リマ
  ス
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=59

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• 060・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　本案ニ對シテ
  政府ハ非常ナ熱意ヲ持ッテ居ルコトヲ玆ニ
  言明シテ置キマス、ソレカラ更ニ只今ノ國
  民健康保險ニ對スル費用ノ支出ハ、決シテ
  郵便貯金ノ利下ノ代償デハナイト云フコト
  モ、私ハ此處デ言明シテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=60

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• 061・岡田忠彦

  ○副議長(岡田忠彥君)　田中養達君
  〔田中養達君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=61

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• 062・田中養達

  ○田中養達君　議長ニ御願シマスガ、陸軍
  大臣ニ特ニ質問ガアリマスカラ、ドウゾ出
  席ノ手續ヲ願ヒマス、今日窮乏シテ居ル農
  村竝ニ中小商工業者、勞働者、是等ノ諸君
  ガ一度ビ病氣ニナック時ノ惱ミ、併シ病氣ニ
  ナッタ時ノ惱ミ位デナシニ、僅カバカリノ貯
  蓄ノ有ル人ト無イ人トニ依ッテ、其治療ニ甲
  乙ノアル位情ナイ人生悲慘事ハナイノデア
  リマス、私ハ此問題ニ付テハ、丁度小學校
  ノ兒童ガ貧富ノ別ナク机ヲ竝ベテ、平等ニ
  國家ノ手デ〓育ヲ受ケルヤウナ、少タトモ
  病ンダ人等ニ對シテハ貧富ノ別ナク、國家
  ノ手デ平等ニ治療ヲ施シテヤッテ貰ヒタイ、
  是ガ私ノ豫テノ持論デアリマス、私ハ幸ヒ
  今囘此趣旨ニ副ウタ本案ノ提出サレマシタ
  コトヲ、此意味ニ於テ心カラ實ハ喜ンデ居
  リマス、私ハ今三宅君、北君ノ、何カ知ラ
  ヌガ本案ニ反對デヽモアルヤウナ、醫師會
  ガ反對ダトカ、或ハ議員諸君ノ中ニ反對ガ
  アルヤウナ御言葉デアリマスガ、少クトモ
  帝國ノ臣民誰一人、此趣旨ニ反對スル者ハ
  ナイト、私ハ信ジテ居リマス(拍手)三宅君ノ
  御說ヲ默ッテ聽イテ居リマスト、マルデ社會
  政策ト、困ッテ居ル大衆ノ味方ハ、獨リ無產
  黨ノミト云フヤウナ、勝手ナ御議論デアリ
  マシタガ、サウデハナイト思フ(拍手)實ハ
  今日マデ此目的ノ爲ニ幾多ノ法案ガアルノ
  デアリマス、健康保險トカ、少シ意味ハ違
  ヒマスガ、濟生會トカ、併ナガラ是ハ悉ク
  失敗デアリマス、ナゼ全體是ガ失敗シタノ
  デアラウカ、其根本ヲ衝キマスト、是ハ救
  療贊ガ安カッタト云フ所ニアルノデアリマ
  ス、ソレデ折角ノ趣旨ノ是等ノ幾多ノ法案
  ノ失敗ハ、實際病ンデ居ル患者竝ニ患家ハ、
  是ガ安イ取引ガサレテ居ルト云フ所ニ、非
  常ナル自尊心ヲ傷ツケテ居ルガ爲ニ、是ガ
  失敗シタノデアリマス、私ハ今囘此案ガ幸
  ニ提案サレマシタノデ、此前者ノ轍ヲ履マ
  ヌヤウニシタイト、斯樣ニ存ズル次第デア
  リマス、ノミナラズ本案施行ノ曉ハ、全國
  民ノ八割マデヲ包含シ、今日マデ世界ニ誇
  リ得タ東洋醫道ノ劃期的ノ變革ニナルノデ
  アリマス、ソレダケデナイ、直接ニハ五万
  ノ開業醫ノ生活問題、藥劑師、賣藥業者ハ
  申スニ及バズ、今幾百万ノ寢テ居ル患者自
  體ノ直接生命ノミナラズ七千万オ互同胞
  ノ健康ト生命ニ係ハル重大ナル法案デアル
  ノデアリマス、隨テ私共ハ此趣旨ニ絕對贊
  成スルト同時ニ、若シ少シデモ間違ガアレ
  バ十二分ニ之ヲ正シテ、完全無缺ナモノニ
  シテ之ヲ通シテ、今日一番惱ミ苦ンデ居ル
  アノ病人ヲ出シタ家族ノ氣持、此悲慘ナル
  氣持カラ救ウテ、朗カナル生活ノ送レルヤ
  ウニシタイト思フノガ私ノ念願デアリマス
  (拍手)所デ私ノ憂ヘマスコトハ、斯ノ如キ
  重要ナル案ガ、之ヲ提案サレル手續ト順序
  ニ於テ非常ナル間違ガアル、此事ハ同僚靑
  木君カラ申サレマシタカラ私ハ止メマスガ、
  大體斯ノ如キ法律ヲ拵へルノニ、二三ノ官
  僚ガ外國ノ二三ノ例ヲ取ッテ作ッタノデアル、
  大體此法案ノ骨子ハ何カト言ヘバ、差當リ
  ハ治療デアリマス、治療ハ何カト言ヘバ、
  現在ノ開業シテ居ル五万ノ醫者ガ相手デナ
  イカ、其五万ノ醫者ガ法ノ命ズル所ニ依ッ
  テ醫師會ヲ作ッテ居ルノデハナイカ、然ルニ
  何ガ故ニ此醫師會ニ此事ヲ諮ラヌノカ、此
  事ヲ諮ラズニ突然斯ノ如キ法案ヲ出シテ、
  此處デ協贊ヲ經ル、アナタ方御自體ハ、社
  會政策、其他ニ付テハ無論御〓究シテオ居
  デニナッテ居リマスケレドモガ、治療ノコト
  ニ付テハオ素人デアリマス、此根本ノ治療
  ノコトヲ、治療ヲ掌ル五万ノ醫者ニ相談セ
  ズニ、此案ガドウシテ完全ナモノガ出來ル
  ノデアルカ(拍手)私ハ醫者ノ立場カラ申ス
  ノデナイ、是レ位間違ッタ手續ハナイノデアリ
  マス、素人ノアナタ方ニ治療ノコトヲ決メテ
  貰ウテ、玄人ノ醫者ニ之ヲ喰ヘト云フ位矛盾
  撞著ハナイノデアリマス(拍手)大體如何ニ法
  ガ完備シテアッテモ人ヲ得ナケレバ駄目ダノ
  ニ、法ニ缺陷ガアリ、之ヲ主宰シ、之ヲ牛耳ル
  主務大臣ガ衞生行政ニ何ノ經驗モナイ方ガ
  ヤラレルノダカラ、本案ノ將來ハ實ニ寒心
  ニ堪ヘヌ、私ハ斯ウ云フ立前カラ、徹底シ
  テ質スベキハ質シ、直スベキモノハ直シタ
  イ、私ハ先ヅ次ノ三點ニ付テ御尋スル
  先ヅ第一ニ何ガ故ニ第九條ヲ入レラレタ
  カ、第二ニハ何ガ故ニ醫師團ト團體協約ヲ
  ナサレヌノカ、第三ハ組合ト將來醫師ト協
  定サレル時ノ治療費ノ目安ヲ何處ニ置カレ
  ルカト云フコト、此三ツデス、併ナガラ第
  一、第二ノ第九條竝ニ團體協約ノコトハ、
  川島、靑木、武田ノ各〓ノ方カラ十二分ニ穿ッ
  ク御質問ガアリマシタカラ、私ハ此事ハ最
  モ大切デアリマスケレドモ、最モ簡單ニ御
  尋シテ置キタイ、斯ウ思ヒマスコトハ、大
  體一昨日來ノ質問應答ヲ承ッテ居リマスト、
  一方ハ產業組合デヤレ、一方ハ團體協約デ
  ナケレバ怪シカラヌト云フ此爭論デス、全
  體此本案ノ骨子、根本ノ目的ハ何處ニアル
  カト言ヘバ、申ス迄モナク成ベク安イ治療
  費デ、而モ其危險ヲ成ベク分散シテ、一人ニ
  重キ負擔ヲサセヌヤウニスルコトガ一ツ、
  今一ツハ患者ハ最モ廣ク自由ニ醫師ヲ撰擇
  シ得ルコト、此二ツデアリマス、若シ此二
  ツノ何レカニ缺陷ガアルナラバ、遺憾ナガ
  ラ本案ハ其意味ヲナサヌノデアリマス、私
  ハ此立前カラ、治療費ノ問題ハアトデ申シ
  マスガ、是ハ理想ト致シマスト、日本中ノ
  總テノ開業醫、有ユル治療行爲ヲヤッテ居ル
  煮悉クニ國家ノ手デ一手ニ之ヲ協約ナサ
  ルノガ一番宜シイ、又開業シテ居ル醫者、
  病院、產業組合ノ病院、悉ク其義務ガアリ
  マス、併シ結局全國一手ト言ヘバ、色々手
  續其他モ面倒ガ起リマセウト思ヒマスカ
  ラ、私ハ五十步、百步、千步ヲ讓ッテ、府縣
  ノ醫師團體ト之ヲ協定ナサッタラドンナモ
  ノカ、私ノ申上ゲルノハ府縣ノ醫師團體ダ
  ケヂヤアリマセヌ、其府縣ニハ町村立ノ公
  立ノ病院ガアリマス、無論是モ協約セネバ
  ナリマセヌ、今一ツハ產業組合ノ病院モア
  リマス、是モ無論協定シテヤッテ戴キタイ
  ガ、玆ニ一ツ困ッタコトハ、此產業組合ノ病
  院ハ、最前三宅サンノ數ト、内務大臣ノ數
  ニ少シ喰違ヒガアルガ、私共モ二百數十ト
  心得テ居リマス、其中黑字ハ十七ダト聞イ
  テ居リマス(「違フゾ」ト呼フ者アリ)其違ヒ
  ハ又アトデ正シマスガ、サウ私ハ聞イテ居
  ル、其組合ノ赤字ハ當然デス、百人カ、二
  百人カ、三百人カ、五百人カ、組合ニ依ッテ
  拵ヘタ病院ハ、其組合員ダケシカ之ヲ診ラ
  レヌ規則ニナッテ居ルノデアリマス、而モ此
  組合員ハ若シ重イ病氣ニ罹ル時ニハ、餘所
  ノ醫者ニ診テ貰ヒニ行クノデアリマス、此
  組合病院ハ他ノ患者ハ診ラレナイノデス、
  自分ノ組合員ダケデ維持シテ居ルノデアリ
  マス、其組合員ガ若シモ重イ病氣ニナルト、
  餘所ノ醫者ニ掛リニ行クノダカラ、是ガ持
  テヤウ道理ガアリマセヌ、ソレデ私ハ紙ノ
  上ノ手續ハ存ジマセヌガ、是等ヲ何故解消
  シテ下サラヌカ、若シ之ヲ何カノ手續ニ依ツ
  テ解消ナサルト、玆ニ病院ダケ殘リマス、
  是ハ前ノ組合員ノ出資デモ何デモ宜シイ、
  此病院ヲ紙ノ上デ解消シテ之ヲ公開シ、此
  病院ニ誰デモ自由ニ選擇シテ行ケルヤウニ
  何故セラレナイノデアリマスカ、斯ウサヘ
  スルナラバ、今赤字デ惱ンデ居ル組合病院
  デモ、良イ病院デアルナラバ、必ズ立ッテ行
  クト思ヒマスガ、ドウデスカ、何故假ニ組
  合病院ガ、ソレ程良イモノナラ、手前等ダ
  ケ三百ヤ五百ダケガ診テ貰ハズニ、何故隣
  ノ村ノ者ニモ診テ貰ヘルヤウニシテヤッテ
  吳レナイノカ、コンナ馬鹿ナコトハナイ、コ
  ンナ矛盾ガアルカ、是ガ法律デヤラレルナ
  ラバ已ムヲ得ナイガ、先ヅ之ヲ止メテ貰フ、
  而シテ全縣一致平等ニ醫師會トモ協定スル、
  町村立病院、公立病院、產業組合病院トモ
  協定スル、而シテ全縣民ハドノ醫者デモ自
  由ニ選擇シ得ルヤウニシテヤッテ戴キマセ
  ヌト、折角デハアリマスガ、此法案ノ趣旨
  ガ沒却サレルノデアリマス(拍手)素人ノ人
  ハ或ハ五人カ十人カノ醫者ヲ、是ハ內科ノ
  博士デ宜カラウ、是ハ外科ノ博士デ宜カラ
  ウ、大體五六人ト契約シテ置ケバ宜カラウ
  ト御考ニナルカモ知レナイガ、患者ノ氣持
  ハサウデハナカラウ、病氣デ永ラクニナリ、
  都合ニ依ッテハ死ヌノデハナイカト云フヤ
  ウナ時ニナルト、折角博士ニ掛ッテ居ッテモ、
  隣村ノ他ノ醫者ニモ一遍掛ッテ見タイト云
  フ氣持ハ、是ハ患者ノ實際ノ心情デアルノ
  デアリマス(拍手)之ヲ阻止シテハナラヌノ
  デアリマス、其立前カラ私ハ醫師會ガ一人
  握ルト言フノデハナイ、最モ廣ク自由ニ患
  者ガ醫者ノ選擇ガ出來ルヤウニ、何故之ヲ
  シテヤッテ戴ケナイノカ、是程正シイ道理ガ
  アルニモ拘ラズ、內務大臣ハ折角此案ヲ御
  出シニナッテ、橫槍ガ入ッテ詰ラヌコトニコ
  ダハッテオヰデニナリマスガ、若シ產業組合
  トカ、今ノ利用組合ヲ代行爲サルト云フコ
  トニナリマスト、此組合長ガ神樣ナラ宜シ
  イ、其附近ノ醫者ガ悉ク神樣ノヤウナ人ナ
  ラ宜シイ、人間凡夫、サウハ行カヌ、ソコ
  デ全體、此組合長ハ何處ヲ目安ニ協定爲サ
  ルノデゴザイマスカ、五人ニシヨウト、十
  人ニシヨウト、二十人ニシヨウト、之ヲド
  ウ爲サル積リカ、若シ此人ガサモシイ人デ
  アルト假定スルナラバ、玆ニ色々ナ問題ガ
  起ルデハナイカ、其又周圍ニ若シサモシイ
  醫者ガ居ルトスレバ、ソコニ測ラザル、思
  ハザル醜關係ガ起ラヌト誰ガ明言スルコト
  ガ出來マスカ、若シモ斯ノ如キ協約ガ出來
  タラ誰ガ迷惑スルノデスカ、組合員自體ガ
  直接迷惑スルノデハナイカ、何故私ハアナ
  タガ是程分リ易イ道理ガ分ラナイノダラウ
  ト思ヒマス、アナタノ支配下ニ於テデスヨ、
  行ク〓〓之ヲ爲サルト一万何ボノ組合ヲ
  作ッテ、ソレガ各〓此組合ハ五人ノ醫者、アノ
  組合ハ十人、是ハ三十人ト、ドウシテ此不
  を
  公平ヲ統制ナサル御積リデアリマスカア
  ナタガ眞劍ニ、本當ニ此案ヲ完全無缺ナモ
  ノトシ、今日惱ミ苦ンデ居ル是等大衆ヲ救
  ヒタイト云フ氣持ガアレバ、今少シク大所
  高所カラ之ヲ眺メ、國家ノ目カラ見テ、全
  縣民、全國民平等ナル、斯ノ如キ間違ノ豫
  メ起ラヌヤウニシテ置クト云フコトガ、爲
  政者ノ最モ爲スベキコトデアルト私ハ斯樣
  ニ思フ(拍手)只今北君カラモ、是ハ組合デ
  代行シテモ宜カラウト云フ御說、ケレドモ
  私ハ斯ウ考ヘマス、醫者トノ協定ハ內務大
  臣ハ地方長官ニ御命ジニナッテ宜シイ、大體
  ニ於テ協約シテシマフ、產業組合ハ其町村
  ニ出來タ組合ノ經濟的ノ方面ダケノ世話ヲ
  シテヤッテ戴キタイ、其村々ニ依ッテ、或
  掛金ニ色々ノ都合モアルダラウ、或ハ處ニ
  依ッテハ現物出資ヲセンナラヌ處モアルデ
  セウ、ソレ等現物出資ト組合費ノ色々ナ立
  賛其他經濟的ノ方面ダケハ、是ハ是非組
  合ニ依ッテヤッテ戴キタイト私ハ斯樣ニ思フ
  (拍手)其產業組合ガ何故是ハ醫者ト協定セ
  ンナラヌノデアリマスカ、ドウ云フコトカ、
  私ニハドウシテモ此處ノ事ガ分ラヌ、產業
  組合ガ醫者ト徒ニ協定サレルト云フコトハ、
  觀方ニ依リマスト、產業組合ガ醫業ヲヤル
  ノデアリマス、產業組合ニ醫者ハ生業ヲ奪
  ハレルノデアリマス、默ッテ見テ居レルカ
  ナ、今日地方ニ於ケル產業組合、私ハ農村ノ
  協同運動ノ爲ニ、此產業組合ノ健全ナル發
  達ヲ希ウテ居リマス、併ナガラ此產業組合ガ
  徒ニ其地方ノ生業ヲ奪ヒ、ソレガ爲ニ反產
  運動ト云フ社會問題ヲ起スト云フコトデア
  ルト、是ハ考慮センナラヌコトデハナイカ、
  此點ハアナタハドウ全體御考ニナルカ、此事
  ハ將來ニ及ボス大問題デアリマス、十二分
  ノ御考慮ガ願ヒタイ、私共ハ醫者デアルガ
  故ニ、醫師會ノ爲ニト云フ、ソンナサモシ
  イ根性デ申シテ居ルノデナイノデアリマス、
  實際惱ミ苦シンデ居ル患者ノ心情ヲ知ルノ
  ハ、醫者デナイト分ラヌノデアリマスヨ、
  ソレダカラ其立場カラ私ハアナタニ申上ゲ
  ル、若シコンナモノヲ產業組合ノ二三ノ幹
  部トカ、或ハ地方ニ居ルサモシイ醫者等ノ
  爲ニ、若シ此法律ガ枉ゲラレルヤウナコト
  ニナリマスト、是ガ今日惱ンデ居ル大衆ノ
  不幸ニナルノデアリマス、ドウゾ此點ハ內
  務大臣特ニ誤解ノナイヤウニ、國家ノ爲ニ、
  アノ惱ンデ居ル大衆等ノ爲ニ、冷靜ニ考ヘ
  テヤッテ戴キタイ、私ハ斯ウ云フ揚足取リノ
  ヤウナコトハ申上ゲタクナイノデアリマス
  ガ、一ツ聽イテ戴キタイ、ソレハ昨日靑木
  代議士ノ質問ニ對シテ、內務大臣ハ今埼玉
  縣ノ越ケ谷ノアノ順正會、如何ニモアレガ
  非常ナ好成績ヲ擧ゲテ居ルコトハ、天下周
  知ノ事實トハッキリアナタハ仰シヤッテ居リ
  マス、是ガ組合ノ「サンプル」ノヤウニアナ
  タハ仰シヤッテ居リマス、今三宅君ノ御說ヲ
  拜聽致シマシテモ、此問題ガ出テ居リマス、
  併シ內務大臣ニ私ハハッキリ申上ゲルガ、ア
  ナタハ之ヲ成績ガ擧ッテ居ルト重ネテ茲ニ
  御答ニナル勇氣ガアリマスカ、私ハ此問題
  ハ豫テ〓究シテ居リマス、ケレドモガ少ク
  トモ此演壇ニ立ッテ責任ノアル言論ヲスル
  ニハト思ッテ態〓、私ハ見ニ行ッタガ、其內容
  ニ幾多ノ缺陷ヲ見テ來タ、而モ數ハ少イガ、
  最近何人カ此組合ヲ脫退シタ人カラ直接ニ
  話ヲ聽イテ來タノデアリマス
  〔副議長退席、議長著席〕
  私ハ此趣旨ニ反對スルノデハナイノデアリ
  マス、斯ノ如キ公開ノ席上デ折角生レント
  スル此順生會ヲ潰ス意思デハナイノデアリ
  マスカラ、其積リデ居ッテ貰ヒタイガ、併シ內
  務大臣ハ此席上デ之ヲ良成績ノモノナリト、
  其「サンプル」ノ如ク仰シヤルト云フコトニナ
  ルト、若シ是ガ全國ニ普及スルヤウナコト
  ニナッタラ、容易ナラザル問題ガ起ルノデア
  リマス(「ノー〓〓」)內務大臣ニハッキリ私
  ハ申上ゲル、私ノ見解トアナタトハ完全ニ
  違フ、是ハアナタノ御考ニナルヤウナ好成
  績デハナイ、是カラ先キ直サレルノハソレ
  ハ別デス、現在ニ於テハアナタノ考ヘナ
  サルヤウナモノデハナイ、ソレデ私ハアナ
  タニ、申ス、アナタガモウ一遍此處ニ立ッテ
  是ハ好成績ヲ收メタ「サンブル」トシテモ恥
  シクナイ結果ヲ收メテ居ルモノナリトアナ
  タガ言ヒナサルナラバ、私ハサウデハナイ、
  私ハ徒ニアナタト言葉ノ取ヤリハ御免蒙
  ル、若シアナタモ責任ヲ以テ是ガ良イト此
  處デ言ヒナサル以上ハ、全責任ガアリマス
  ヨ、間違ナレバ責任ガアル、アナタト私ハ
  日ヲ期シテ出掛ケヨウヂヤアリマセヌカ、
  最モ公平デアルベキ新聞記者諸君ニハ御氣
  ノ毒デアルガ、煩ハシテ、アナタト私ト二
  人ガ出掛ケテ行ッテ、此事實ヲ調査シヨウ
  ヂヤナイカ、ドウデス、其代リ若シモ私ノ
  言ッタコトガ間違デアルナレバ、私ハ自ラノ
  職責、自ラノ責任トシテ代議士ヲ辭メマス
  (拍手、笑聲)而シテ滿天下ニ其罪ヲ謝ス、
  其代リデスヨ、內務大臣ニ間違ガアルナラ
  バ、アナタハ辭メルカ(笑聲、拍手)諸君、此
  事ハ私ハ徒ラナコトヲ申スノデハナイ、大
  體今日議會政治ノ信用地ニ墜チ、誰言フト
  ナク議會ヲ否認セントスルヤウナ形ニナッタ
  最大ナル原因ハ、何處ニアルカト言ヘバ、
  議員モ亦何カ知ラヌガ無責任ナ演說ヲシ、
  當局者又オ座ナリノ答辯ヲ爲サル所ニ、議
  會信用ガ失墜シタノデハナイカト私ハ思フ、
  少クトモアナタモ私モ此演壇デ責任ヲ以テ
  ノ言葉ノ取ヤリデアリマス、ハッキリト肚ヲ
  決メテ此事ダケハ御返事ヲ願ヒマス(拍手)
  (「餘リ興奮スルナ」ト呼フ者アリ)興奮デハ
  ナイガ、是程大事ナコトデス
  第三ニハ曩ニ御尋シタ、若シ誰ト協定サ
  レマシテモ、治療費ハ何ヲ目安ニサレル
  カ、多分政府ハ今マデ十年間ヤッテ來タア
  ノ保健組合、或ハ濟生會、ソレ等ヲ一ツノ
  目安ト爲サレルノデハナイカト私ハ思フ、
  併ナガラ若シ左樣ナモノガ目安ニナルト云
  フコトデアレバ、曩ニ申上ゲルヤウニ健康
  組合、濟生會ノ失敗ハ玆ニアルノデアリマ
  スカラ、是ハ一ツ特ニ考ヘテ戴キマセヌ
  ト、安イ金デ澤山治療ガ出來テ、如何ニモ
  形ノ上デハ宜イヤウデアリマスケレドモ、
  本當ニ親ガ死ヌカ生キルカ、本當ニ可愛イ
  息子ガ死ヌルカ生キルカト云フ時ニナッテ
  見マスト、其安イ切符ヲ持ッテ醫者ノ家へ行
  ク人ハナイノデアリマス(拍手)玆ニ缺陷ガ
  アル、患者ハ無論、其家族モ自尊心ヲ傷ツ
  ケラレルガ爲ニ、折角救療シテヤラナケレ
  バナラナイ一番苦シンデ居ル時ニ、徒ニ借
  金シテ普通ノ醫者ニ診テ貰ハウト云フノガ
  今日ノ實情デアリマスゾ、私ハアナタ方ガ
  何カ知ラヌガ、安ケレバ宜イ、私ハ此點ヲ
  國民ノ健康增進、差當リハ治療、其點ニ付
  テ一番憂ヘルノデアリマス、是ハ物ノ賣買
  ト違フ、三錢ヤ四錢損ガ行ッタ、儲カッタト
  云フノトハ違フ、一ツ間違ヘバ命ニ係ル大
  問題デアリマスゾ、今日マデノ官僚ノ頭デ
  安ケレバ宜イ、此安ケレバ宜イト云フ所ニ
  根本ノ誤リガアルノデアリマス(拍手)私共
  ハ今日ノ日本ノ財政、是ヨリ金ガナイカ
  ラ、僅カデハアルガ、是デヤッテ吳レヌト云
  フコトニ反對スルノデハナイノダ、宜シイ
  カ、安ウヤレト云フノト、十分ニシタイケ
  レドモ、ナイカラ已ムヲ得ヌカラ辛抱シテ
  貰ヒタイト云フノトハ、自ラ根柢ガ違ヒマ
  スヨ(拍手)私ハ之ヲ正シテ置イテ戴キタ
  イ、ソレデ此給付ヲ契約ナサル時ニハ、大
  體日本ノヤウナ小サナ所ハ、人情風俗ガ決ッ
  テ居リマス、生活狀態モ大體決ッテ居ル、ソ
  レデ各府縣ニハ醫師團ガ自ラ藥代ヲ決メテ
  居リマス、之ヲ目安ニナサッタラドウデス、
  ソレハ此健康保險ヲ目的ニ拵ヘタ藥價デハ
  ナイノデアリマス、何十年カノ間、其地方
  ノ人情風俗、其地方ノ經濟狀態ニ合フヤウ
  ニ、色々ト織込マレテ出來タノガ、今日ノ
  藥價規定デアリマス(「ノー〓〓」)之ヲ一步
  モ入ッテハ相成ラヌ、何故私ハ斯ウ云フコト
  ヲ申上ゲルカト言ヒマスト、當局者ハ醫者
  ガ高イト仰シヤル、ソレデ二割カ三割引ク
  ト云フ、若シモ左樣ナ馬鹿ナコトヲ爲サル
  ト-今日醫者ハ最前三宅君ガ申サレマシ
  タヤウニ、地ノ利ヲ得タ者ト、得ヌ者ニ依ツ
  テ大變收入ガ違ヒマス、地ノ利ヲ得ヌデ
  く
  モ、親ガ醫者デアッタ、先祖ガ醫者デアッタ
  ト云フ爲ニ、收入ガ少イ所ニ辛抱シテ居ル
  醫者ハ可ナリ多數ニナッテ居リマス、之ヲ一
  律平等ニ値下ゲヲシタラ、全體地ノ利ガ惡
  イ爲ニ收入ノナイ醫者ハドウスルノデス、
  生活ガ出來ナクナッテ何處カヘ行クデハナ
  イカ、又國家ハ此處へ何トカシテ醫者ヲ連
  レテ行カナケレバナラヌト云フ、馬鹿氣タ
  矛盾ガ事實上ニ於テ起ルデハナイカ、之ヲ
  ドウシヨウト仰シヤルカ、ソレダカラ私ハ
  アノ藥價規定ハ負ケテハ相成ラヌ(笑聲)御
  聞キナサイ、本案ヲ實施スレバ是デ初メテ
  醫者ノ全收入ガ分ルノデス、サウデセウ、悉
  ク請求書デ取ルノデスカラ、醫者ノ全收入
  ガ分ルノデアルカラ、地ノ利ヲ得タ人、其
  他ノ爲ニ特別ノ暴利、特別ノ儲ケガアル人
  ナラバ、是ハ社會通念ニ依ッテ如何樣ナ方
  法ニ依ッテデモ御取リニナッテ差支ナイデハ
  ナイカ、諸君、此點ハ非常ニ大切ナ點デア
  リマス、此事ハドウゾ將來トモ特ニ此醫療
  ノ爲ニハ、給付藥價ノ爲ニハ特別ノ御心遣
  ヲ願ヒマセヌト、曩ニ申スヤウニ安イノガ
  宜イノデハナイ、私ハ自分デ患者ヲ診テ愈〓、
  病重イト、ドンナ高イ御藥デモ宜イカラ良
  イ御藥ガ戴キタイ、皆サウ申シマス、今日
  日本ノ藥價ハドウデス、私ハ六大都市、是
  ハ別ニ考ヘテ戴キタイガ、大體日本ノ農村
  ハ藥代モ、診察料モ一ツデアリマス、是ガ
  日本醫道獨特ノモノデ、天下ニ誇ルベキモ
  ノハ是デアリマス、診テモヤル、藥モヤ
  ル、其時金ガナケレバ半年後デモ宜イ、是
  ガ世界ニ誇ル醫道デアル、假ニ今日水散合
  セテ五十錢デセウ、是ガ日本ノ藥價デス、
  醫者ガ診テ一日五十錢ノ藥ガ何ガ高イノデ
  アリマス(「高イ」ト呼フ者アリ)ドナタカ高
  イト仰シヤルガ、コンナ安イノハ世界ニナ
  イノデス(「ノー〓〓」)ソレハ診察料ト藥價
  ガ別ニナッテ居ルカラ高イノデアリマス、此
  認識ガナイ、若シ日本デ醫藥分業ヲスルナ
  レバ、都會ハ私ハ先ヅ問ハヌ、今日農村ノ
  負擔ハ二重ニナリ、堪ヘ切レルモノデナイ
  ノデアリマス、私ハ幸ニ日本ガ今日今尙ホ
  醫藥分業ニナラヌコトヲ、是等農村、窮迫
  セル是等ノ階級ノ人ノ爲ニ、寧ロ心カラ喜
  ンデ居リマス、私ハ是ハ今申スヤウニ、醫
  者ハ暴利ト云フノデナイ、請求書ヲ出
  シテ收入ガ全部分ルノデアリマスカラ、
  ソコデ多分ニ收入ガ入ッタラ取レ、其人
  カラ何カノ方法ニテト云フノガ、何ガ惡イ
  ノデス、此位正シイ道理ハナイデハナイ
  カ、アノ窮乏セル露西亞、麵麵ノ一片ヲス
  ラ節約スル露西亞ガ、醫者ニハ自動車ト
  邸宅ヲ供シテ居リマス、ソレハドウ云フコ
  トダラウ、今現在結核患者ナド二百万人寢
  テ居リマスヨ、此恐ルベキ傳染ノ結核患者
  ノ中へ日夜、時ニハ寢食ヲ忘レテ、己ノ生
  命ヲ危險ニ暴シ活動シテ居ル者ハ、醫者デ
  アリマスゾ(拍手)隨テ國家トシテ此醫者ニ
  對シテ少シデモ心身休養ヲ與ヘントスル此
  趣旨カラ、アノ露西亞ガ自動車ヲ提供シ、
  邸宅ヲ提供シテ居ル事實ガアルデハナイカ、
  ソレニ可哀相ニ、最高ノ學府ヲ卒業シ、大
  學ヲ卒業シタ醫學士ガ自轉車デ患者宅ヲ步
  イテ、細君ハ子供ヲ負ッテ皆其手傳ヲヤッテ
  居ル、此事實ヲアナタハ御存ジアルマイ、
  何ガ高イ、私ハ高イノデナイ、地ノ利其他
  デ特別儲カル人ガアルノデアリマス、ソレ
  ハ取ッテモ宜シイ、地ノ利ノ惡クテ取レヌ人
  ガドレ程アルカ分ラヌ、諸君等ハ此處へ醫
  者ヲヤレト言ハレルヂヤナイカ、ソレヲ頭
  ヲハネテドウナサル、是ハドウカ考ヘテ下サ
  イ、眞劍ニ私モ勞働者ノ爲メ、農民ノ爲ヲ憂
  ヘレバコソ此言ヲスルノデアリマスカラ、
  此點ダケハドウゾアナタ方モ特ニ御考ヲ戴
  イテ、私ハ是ハ決シテ醫者本位デ申上ゲルノ
  デハナイノデアリマスカラ、特ニ申上ゲテ置
  キマス、此三點ニ特別ノ御答辯ヲ戴キタイ
  尙ホ一ツ結核豫防ト國民健康法、是ハ
  私ハ重要ナル法案デ、一ツ〓〓デモヤリタ
  イガ、時間ガアリマセヌカラ一括シテ·······大
  體是ハ國民健康增進ノ目的デアルコトハ申
  ス迄モナイ、全體今日國民ノ健康ガ低下ス
  ルコトヲ非常ニ憂ヘテ居リマス、是ハ軍部
  ガ發表ナサッテ居ル、全體日本ノ斯ノ如キ國
  民健康低下ハ何ガ故デアラウカ、私ハ第一
  番ニ賣藥ダ、此賣藥ハ或ハ新潟カ、滋賀縣
  ニモ可ナリアリマス、昔カラ俗ニ謂フ家傳
  トカト云フ賣藥、相當地方ニ勢力ヲ得テ居
  ル、之ヲ申スノデハナイノデアリマス、極ク
  最近アノ新聞紙ヲ御覽ニナルト分リマス、
  何ト云フ無責任ナ誇大廣告デス、マルデ悉
  ク患者ヲ迷ハサンガ爲メデス、或ハ祕密ノ
  性ノ病氣、或ハ人ノ嫌フ呼吸器ノ病氣ト云
  フコトノ、此弱點ヲ摑ンデノアノ新聞紙ノ
  麗々タル廣〓ハ、アナタノ眼ノ中ニ入ラヌ
  ノカ(拍手)可衰相ニアノ惱ミ苦シミ、ドウ
  カシテ世間ヘモ隱シテ置キタイト云フヤウ
  ナ、此病氣ヲヤッタ人ノ弱點ヲ摑ヘテ、事モ
  アラウニ、今日ノ此進步セル醫學カラ見テ
  效果ガ無イニ決ッテ居ルモノヲ、如何ニモ效
  ク如ク麗々シク廣〓シ、是ハ一ツノ詐欺デ
  ハアルマイカ(拍手)是ガ爲ニ···

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=62

  ---

• 063・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　田中君ニ注意致シ
  マス、モウ制限ノ時間ヲ經過致シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=63

  ---

• 064・田中養達

  ○田中養達君(續)　サウデスカ、ソレデハ急
  ギマシテモウ暫ク-私ハ此賣藥問題ニ付
  テハ、醫者ニハ經歷ヲスラ廣告ヲ嚴禁シテ
  居リマス、患者ガ迷ウテハイカナイ、是モ
  宜シイ、ソレナラバアノ無責任極マッタ賣
  藥ハ、思切ッテ徹底的ニ取締ッテ行ク譯ニ行
  カヌダラウカ、獨逸ハ如何ナル方法ヲ以テ
  シテモ、如何ナル形ヲ以テシテモ、賣藥ノ
  廣告ハ嚴禁致シテ居リマス、世界ノ多クハ
  其形デアリマス、私ハ之ヲ先ヅアナタニ御
  尋スル、今一ツハ非醫者ノ行爲デアリマ
  ス、或ハ指壓療法トカ、或ハ電氣トカ、私
  ハ是等ガイカヌト言フノデハナイ、併ナガ
  ラ是等ノ療法ガ效クナラバ、醫者ノ命令ニ
  依ッテヤルベキモノデハアルマイカト私ハ
  思フ、唯此取締ガ不十分デアル、今日本ニ
  ハ非醫者二万、按摩其他ヲ加ヘルト九万居
  リマス、之ヲ止メヨト云フノデハナイノデ
  ハナイノデアリマス、何カ之ニ法規ヲ拵ヘ
  テ、醫者ノ治療行爲ノ一ツトナサラヌト、
  將來トモ醫事衞生ノ爲ニ容易ナラザル問題
  ガ起ルコトヲ憂ヘルカラ私ハ申上ゲマス、
  此取締ヲドウ爲サルカ承リタイ
  今一ツハ結核デアリマス、今日ノ日本ノ
  健康低下ノ最大ノ原因ハロ疋デアリマス、御
  承知ノ通リ結核デ年々二十万死ニマス、今
  現在二百万寢テ居リマス、此結核デ寢ルマ
  デノ患者ガ一千万人以上アルノデアリマス、
  是ガデスヨ、而モ年若イ人デス、是ガ健康
  低下ノ今日ノ最大原因デアリマスガ、大體
  結核ハ諸外國ハヂリ〓〓ト減リマス、ソレ
  ニ日本ダケ殖エルノハ何故デアル、結核ハ
  世界中特殊ナ治療法ハナイノデアリマス、
  日本ノミ獨リ此結核ガ多イト云フコトハ、
  アノ疲勞困憊シテ居ル榮養不良ノ農民トカ、
  可哀相ナアノ勞働者トカハ、休養ノ時間
  モナク、榮養モナク、アノ蒼白イ是等ノ
  總テノ階級コソ、結核ノ好イ溫床ニナッテ
  居ルノデアリマス、隨テ政府ハ本案ニ依
  リ是カラ十年經ッテ結核病床五万ヲ拵ヘ
  ルト云フノデアルガ、何ト云フコトデア
  ルカ、現ニ今二百万居リマス、一千万將
  ニ寢ントシテ居ル者ガ居ル、十年後ニ五
  万病床ヲ作ル、是ハ本當ニ二階カラ眼藥ド
  コロデハナイノデアル、全體斯樣ナモノデ
  ドウシテ結核ノ撲滅ガ出來ルカ、殊ニ結核
  ハ國際聯盟ノ結核豫防會デハ、病床主義デ
  ハ駄目ト決ッテ居リマス、ソレヂヤナシニ眞
  ニ結核豫防ヲ爲サウト欲スルナラバ、是等
  ノ生活狀態ヲ改善スルニアラザレバ、結核
  ハ斷ジテ減ラヌ(拍手)私ハ是ニ至ッテ軍部
  ニ御尋シタイ、軍部ハ滿洲事變以來廣義國
  防ヲ御說キニナッテ居リマス、國民生活ノ安
  定ヲ御說キニナッテ居ル、ソレト同時ニ國民
  ノ健康低下ヲ御憂ヘニナッテ居リマス、無理
  カラヌコトデアル、是ガ爲ニ五·一五事件、
  二·二六事件、此尊イ軍ハ犠牲ヲ御拂ヒニ
  ナックノデハナイカ、然ルニ私ハ今囘馬場財
  政ガ地方交付金二億二千万圓、是デ足レリ
  トハ言ハヌガ、差當リ農村負擔ガ幾分カ是
  デ輕減シ、少シデモ生活ニ餘裕ガ出來、軈
  テハ延イテハ結核豫防ノ方面ニモ、健康增
  進ニモ非常ニ好結果ヲ來スモノト思ッテ喜
  ンデ居ッタニモ拘ラズ、此事實ガアルニモ拘
  ラズ、アナタハ今度ノ結城財政ニ依ッテ、此
  二億二千万圓ヲタッタ七千万圓ニサレタ、可
  哀相ニ町村ハモウ今貰ヘルト思ッテ-飴
  玉ヲ持ッタ子供ノ手カラ飴ヲ引チギッタヤウ
  ナ目ニ遭シタノデハナイカ、私ハ國民生活
  ノ安定ダケデナシニ、アナタガ今御憂ヘニ
  ナッテ居ル結核豫防、體質低下防止ノ爲ニデ
  干、ナゼアナタハ閣議デ力說シテ戴ケナン
  ダカ、如何ニ軍部ガ健康低下ヲ御憂ヘニナ
  リマシテモ、生活安定ナシニハ出來ナイノ
  デアリマス、私ハ是ト併セ考ヘテ見タイ、
  昨年特別臨時議會デ退職積立金法案、是モ
  例ノ修正ヲサレタ(「簡單」ト呼フ者アリ)其
  時モ軍ハ相變ラズ何等ノ此爲ニ努力ヲ拂ハ
  レナカッタ
  (「簡單々々」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=64

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• 065・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　田中君ニ注意致シ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=65

  ---

• 066・田中養達

  ○田中養達君(續)　是等ノ生活ノ爲ニ、ア
  ナタハ何等ノ努力ヲ爲サラヌト斯ウ申上ゲ
  テモ、アナタハ辯明ノ言葉ハナイト思フ、
  私ハ憂フルノデアリマス、今日何カ知ラヌ
  ガ、軍民離間ヲ唱ヘラレテ居リマス、私ハ
  斯ノ如キ事實ヲ事實トシテ、軍ガ怪シカラ
  ヌト云フ所ニ、軍民離隔ノ恐ルベキ原因ガ
  出來ルノデハナイカト思フ、アナタハ今其
  處ニ陸軍ノ服ヲ著テオヰデニナルガ、一タ
  ビ農村ヘアナタノ足ヲ御入レニナッタラ、
  町村長ハ或ハ一片ノ儀禮ニ依ッテ羽織袴デ
  迎ヘルカ知ラヌガ、鋤ヲ持チ鍬ヲ手ニセル
  百姓等ハ、怨ミコソスレ、斷ジテ敬意ハ拂
  ヒマセヌヨ、私ハ國防ノ見地カラ、特ニ陸
  軍大臣ハ何カ積極的何トカスル意思ハナイ
  カ、之ヲ御尋スル
  モウ一寸一言許シテ戴キタイ(「簡單簡
  單」ト呼フ者アリ)今一ツハ陸軍大臣ノ支配
  下ニアルアノ赤十字社病院ノコトデアリマ
  ス、大體赤十字社病院ノ根本ノ目的ハ、申
  ス迄モナク戰時病者ノ手當救療デアルノニ、
  近頃日本ニアルアノ赤十字社ハ悉ク營業行爲
  デアリマスヨ、營利本位デアリマスヨ、コ
  コデ御尋シタイコトハ、先程滿洲ニ行ッタ兵
  隊可哀相ニ近頃ノ入營兵ハ入營シタカト
  思フト出征、而モ氣候ノ激變ノ爲ニ澤山ノ
  結核患者ガ還送サレルト云フ事實ヲ私ハ聞
  イテ居リマス、然ルニアナタノ支配下ニア
  ル病院ガ、此結核ノ爲ニ還送サレタ者ヲ、
  皆收容出來ヌノハドウ云フコトカ、私ハ此
  處ニ山口縣砲兵第四十二聯隊長カラ山口縣
  ノ醫師會長宛ノ公文書ヲ持ッテ居リマスガ、
  折角赤十字社ニハ病床ガアルニモ拘ラズ、
  其送リ還サレタ患者ガ、可哀相ニ普通ノ患
  者ガ入ッテ居ルガ爲ニ收容出來ヌデ、縣醫師
  會デ手當シテ貰ヒタイト云フ文章デアル、
  ナゼ私ハ陸軍省ハ此營業本位ヲ廢メテ、斯
  ノ如キ可憐ナル患者ヲ悉ク收容シテ、十二
  分ノ處置ヲ爲サラヌカ、(拍手)ソレニ附加
  ヘテ續イテ赤十字社病院ヲ全部開放シ
  テ-今アナタノ御憂ヘニナッテ居ル國民
  健康低下ノ第一デアル結核豫防ノ爲ニ、之ヲ
  全部開放シテ戴ク譯ニハ行キマスマイカ、
  此事ヲ私ハ御尋申上ゲル、私ハマダ聞キタ
  イガ、アナタ方ノ御迷惑ト紳士協定ガアル
  ノデ、殘念デアルガ是デ止メマス、何レ委
  員會デ篤ト御尋致シタイガ、ドウカ一ツ特
  ニ內務大臣ハ肚ヲ決メテ御答ヲ御願申上ゲ
  ル(拍手)
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=66

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• 067・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　御答ヲ致シマ
  スガ、大體御尋ノ要旨ハ、第九條ノ問題ト
  醫師會トノ團體契約ノ二ツノ點ノヤウニ思
  ハレルノデアリマス、更ニ醫師ノ醫療費ト
  云フモノハ安イダケガ目的ヂヤナイ、之二
  對シテドウダト云フ三ツノ點ノヤウニ諒承
  ヲ致シマシタ、第九條ノ問題ハ、私ガ數日
  來度々申上ゲマシタヤウニ、健康保險組合
  ト云フモノヲ何處マデモ本旨ニスル、サリ
  ナガラ現在出來テ居リ、相當ノ成績ヲ擧ゲ
  テ居ルモノハ、却テ之ヲ代行セシムル方ガ
  便利デハナイカ、之ニ依ッテ、第九條ニ依ッ
  テ、產業組合ノ代行ヲ奬勵スルト云フ意味
  ハ決シテナイト云フコトヲ、度々私ハ申上
  ゲテ居リマスカラ、玆ニ繰返サヌデモ宜カ
  ラウカト思ヒマス、ソレカラ更ニ第二ノ醫
  師會トノ團體契約ノ問題デアリマスガ、是
  亦度々私ガ申上ゲテ居リマス通リ、從來醫師
  ノ、所謂開業醫ノ行爲ト云フモノニ付キシ
  マテハ、私ハ敬意ヲ表スルト云フコトヲ申
  上ゲテ居リマス、且又開業醫ノ制度ト云フ
  モノハ、今日日本ノ醫療ノ組織ニ於テ根柢
  ヲ成シテ居ルト云フコトヲ申上ゲテ居リマ
  ス、隨ヒマシテ健康保險組合ガ出來マシテ
  干、唯特定ノ一人カ二人ノ醫者ト云フコト
  デナク、出來ルダケ廣キ範圍ノ醫者ニ組合
  員ガ掛レルヤウニ致サセタイ、是ハ私ガ度
  度言明ヲ致シテ居ル所デアリマシテ、其趣
  旨ハ省令等デ規定ヲ致シタイ、隨ヒマシテ
  實際ノ狀況トシテハ、醫師會トノ間ノ一ツ
  ノ團體的ノ契約ガ出來ルコトガ多カラウト
  云フコトヲ申上ゲテ居ルノデアリマス、併
  ナガラ醫師會ト云フヤウナ一ツノ非常ニ有
  力ナル團體、卽チ其團體ト云フモノハ、或
  ハ藥價マデモ公定スル權利ヲ持ッテ居ルノ
  デアリマスルガ、法律ニ依ッテ非常ニ强イ力
  ヲ與ヘラレテ居ル醫師會ト云フモノニ對シ
  テ、團體契約ヲ必ズシナケレバナラヌト云
  フヤウナ、又特別ノ特權ヲ法律ニ依ッテ與ヘ
  ルト云フコトハ、今日適當デナカラウ、且
  又大體ニ於テハ健康保險組合ト云フモノモ、
  ヤハリ其自治的ノ發達ニ委セル方ガ宜シイ、
  ソレアルガ爲ニ却テ醫師會トノ間ニ適當ノ
  協定モ出來テ、切嗟琢磨シテ醫療ノ成績ヲ
  擧ゲテ居ルノデアラウ、斯ウ云フ風ニ考ヘ
  ルノデアリマス、ソレカラ此健康保險組合
  ノ目的ト云フモノハ、是亦私ガ度々申上ゲ
  マスルヤウニ、氣ノ毒ナ人ヲシテ醫療ノ機
  會ヲ得セシムルト云フ所ニアリ、隨ヒマシ
  テ成ベク安イ金デ、失費ヲ掛ケズ、又醫療
  費ヲ出ス方法ヲ簡單ニサセヨウ、斯ウ云フ
  所ニ出デテ居リマスルノデ、唯無暗ニ醫者ノ
  藥價或ハ醫療費ヲ低下セシムルト云フダケ
  ノ目的デハナイノデアリマス、且又之ニ依ッ
  テ開業醫等ガ壓迫ヲサレテ、所謂失業等ノ
  問題ヲ起スノヂヤナイカト云フ御話モアリ
  マシタケレドモ、併ナガラ是亦私ガ度々御
  說明申上ゲマシタ通リ、從來自分ノ生活ノ
  困窮ノ爲ニ、病氣ニナッテモ醫者ニ掛リ得
  ナカッタヤウナ階級ノ人ヲシテ、醫者ニ掛ケ
  得ル機會ヲ得セシムルノデアリマス、而モ
  從來ハ御醫者サンニ掛リマシテモ、盆暮ノ
  拂モ十分ニ行カナカッタ場合ニ於キマシテ
  モ、今囘保險ノ組織ニ依ッテ組合ヲ作ッテ、
  組合ガ支拂ノ保障ヲスルヤウナ恰好ニナル
  ノデアリマスルカラ、醫者ニ掛ル患者ノ數
  モ殖エ、且又御醫者トシテハ支拂ノ保障ヲ
  得ルヤウナコトニナルノデアリマスカラ、
  決シテ開業醫ノ人ニ取リマシテモ不利益デ
  ハナイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリマス、
  併ナガラ先程御心配ニナリマシタヤウニ、
  特ニ藥價ヲ下ゲサセルトカ云フヤウナコト
  ハ、是ハ宜シクナイコトデアリマシテ、ソ
  レゾレ地方ノ協定ニ依ラナケレバナラヌノ
  デアリマスカラ、サウ云フ無理ナコトニ對
  シマシテノ相當ノ監督ハ固ヨリ致ス積リデ
  アリマシテ、此點ニ付キマシテハ御同感デ
  アリマス
  ソレカラ尙ホ本法制定ニ付テノ手續ニ缺
  陷ガアルヤウニ御話ガアリマシタ、是亦度
  度御答ヲ致シマシタガ、五万ノ醫師ヲ代表
  セラレテ居ル日本醫師會長ト云フ者ガ、相
  當保險調査會ノ重要ナル委員デアリマシテ、
  度々ノ會合ニ必ズ出席セラレテ、相當ノ意
  見ヲ述ベラレテ居ルノデアリマスカラ、日
  本醫師會長ハ其節五万ノ醫師ヲ代表シテ意
  見ヲ述ベラレタト、私ハ諒承シテ居ルノデ
  アリマス
  次ニ醫業類似行爲、斯ウ云フモノハ隨分
  弊害ガアルガ、是ハドウスルカ、斯ウ云フ
  御尋デアリマシタガ、今日御承知ノ通リ之
  ニ對シマシテハ地方廳ノ命令ヲ以テ定メテ
  居リマスガ、之ヲ統一シテ或ル法規ヲ作ル
  必要アリヤ否ヤト云フコトニ付キマシテハ、
  相當考究スル價値アル問題トシマシテ、十
  分ニ〓究ヲ致シタイト思ヒマス、尙ホ賣藥
  廣告ニ關スル取締ノ問題デアリマスガ、御
  承知ノ通リ賣藥ニ付キマシテハ、賣藥法ノ
  規定ガアリマシテ、ソレニ基イテ適當ナ取
  締ヲ厲行致シテ居リマスガ、御話ノハ所謂
  新藥、新製劑ト云フヤウナ種類ノモノト考
  ヘマスガ、之ニ對シテハ未ダ何等ノ規定ガ
  ナイノデアリマシテ、是等ニ付キマシテハ
  ソレ〓〓其取締ニ付キマシテ、相當ノ制限
  ヲ設ケルヤウナ必要ガアリハセヌカト思ヒ
  マシテ、目下〓究中デアリマス
  最後ニ一言私ノ申上ゲタイコトハ、御言
  葉ノ中ニ恩賜財團濟生會ガ失敗デアルヤノ
  御話デアリマシタガ、是ハ御承知ノ通リ明
  治大帝ノ大御心ニ依ッテ出來マシタモノデ
  アリマシテ、爾來之ニ依ッテ幾万、幾十万
  ノ困ッタ人ガ救濟サレテ居ルノデアリマシ
  テ、私ハ決シテ失敗デハナイト云フコトヲ、
  內務大臣トシテ申上ゲテ置キマス(田中養
  達君「順正會ノコトハドウシタ」ト呼ヒ其他
  發言スル者多シ)順正會ノコトニ付キマシ
  テハ、私ハ相當ノ成績ヲ擧ゲテ居ルト思ヒ
  マス
  〔田中養達君「ヨウ返事出來マスマイ、
  何ト云フ無責任ナコトヲ言フカ」ト呼
  フ〕
  〔國務大臣杉山元君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=67

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• 068・杉山元

  ○國務大臣(杉山元君)　田中君ノ御尋ニナ
  リマシタ點ニ付キマシテハ、國家財政上巳
  ムヲ得ズ之ヲ忍ンデ戴カナケレバナラヌト
  考ヘマシテ、此度ノ豫算ヲ提出致シタノデ
  ゴザイマス、併ナガラ之ヲ以テ御質問ノ點、
  言換へマスレバ、廣義國防ト云フコトヲ抛
  棄シタノデハナイカト云フ御尋ノヤウデア
  リマスガ、決シテ左樣デハゴザイマセヌ、
  此際ハ是デ忍ンデ戴キマスガ、將來ニ向ッテ
  私共ハ廣義國防ノ點ニ付キマシテハ、十分
  努力致シタイト存ジテ居リマス、第二ニ赤
  十字病院ニ付キマシテ結核患者ニ對スル御
  熱心ナル、又御同情ノアル御注意ガゴザイ
  マシタガ、此點ハ御意圖ニ副ヒマス如ク、
  私共モ十分ニ努力致シテ居リマスノデ、ド
  ウカ御諒承ヲ願ヒタウゴザイマス
  〔田中養達君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=68

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• 069・田中養達

  ○田中養達君　今內務大臣ヨリ私ノ一番尋
  ネントスル越ケ谷ノ順正會ノ問題ニ付テノ
  御答ガアリマセヌ、アナタハアレハ成績ガ
  良イト仰シヤルガ、私ハ遺憾ナガラ成績ガ
  良イトハ思ヒマセヌ、「イエス」トカ「ノー」
  ヲ言ッテ戴ケバソレデ宜イノデス、併ナガラ
  此「イエス」カ「ノー」ハオ互責任ガアリマス
  ヨ、其場遁レノ返事ハ聞キタクナイ、ソレ
  ハ一番惡イコトデアリマス、私モ眞劍ニ申
  述ベテ居ルカラ、アナタモ眞劍ニ御答願ヒ
  タイ、私ハモウ時間ガアリマセヌカラ、(「簡
  單簡單」ト呼ビ其他發言スル者多シ)斯ノ如
  キ醫事行政ノ混亂、無統制ヲ統一スル爲ノ
  衞生省ノ設置、或ハ文官任用令撤廢、其他
  色々申上ゲタイガ、皆サンノ御注意ニ依リ
  之ヲ申上ゲマセヌガ、唯一遍此返事ダケヲ
  承ッテ置キタイト思ヒマス
  〔「答辯ノ必要ナシ」ト呼フ者アリ〕
  〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=69

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• 070・河原田稼吉

  ○國務大臣(河原田稼吉君)　只今御答致シ
  マシタガ、相當ノ成績ヲ擧ゲテ居ルト云フ
  コトヲ申上ゲマシタ
  〔田中養達君「相當ト云フト、天下周知
  ノ事實トハ譯ガ違フゾ、サウ云フ馬鹿
  ナコトヲ言フナ」ト呼フ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=70

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• 071・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　田中君宜シイデス
  カ
  〔田中養達君「眞劍ニヤラウヂヤナイ
  カ」ト呼ヒ「委員會デヤレ」ト呼フ者ア
  リ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=71

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• 072・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　是ニテ質疑ハ終局
  致シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員
  ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=72

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• 073・松永東

  ○松永東君　日程第一乃至第三ノ三案ヲ一
  括シテ、議長指名二十七名ノ委員ニ付託セ
  ラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=73

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• 074・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議ハアリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=74

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• 075・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=75

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• 076・松永東

  ○松永東君　議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
  出致シマス、卽チ此際鶴見祐輔君及ビ芦田
  均君提出外交方針ニ關スル緊急質問ヲ許可
  セラレンコトヲ望ミマス
  (「贊成」ト呼フ者アリ拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=76

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• 077・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議ハアリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=77

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• 078・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  マス-政府ハ此議事日程ノ變更ニ同意セ
  ラレマシタ、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、
  先ヅ鶴見祐輔君ノ發言ヲ許シ、次イデ芦田
  均君ノ發言ヲ許シマス-鶴見祐輔君
  〔拍手起ル〕
  外交方針ニ關スル緊急質問(鶴見祐輔君
  外一名提出)
  〔鶴見祐輔君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=78

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• 079・鶴見祐輔

  ○鶴見祐輔君　私ハ帝國外交ノ全般ニ亙リ
  マシテ、外務大臣ニ御質問ヲ致シタイト思
  フノデアリマス、私ハ第一ニ大所高所ヨリ
  我國外交ノ根本原則ニ關シテ外務大臣ニ御
  質疑ヲ致シ、然ル後ニ進ンデ具體的ノ問題
  ニ付テ御伺ヲ致シタイノデアリマス
  順序トシテ私ハ先ヅ世界ノ現勢ノ認識ニ
  付テ、外務大臣ニ伺ッテ置キタイコトガアル
  ノデアリマス、私ハ昨年歐羅巴ニ旅シテ英
  國ニ渡リマシタ時ニ、英國ニ於ケル洵ニ熾烈
  ナル軍備擴張熱ヲ見テ驚イタノデアリマス、
  保守黨ガ軍備ニ熱心デアッタノミナラズ、多
  年軍備縮小ノ爲ニ奮鬪致シテ居ッタ勞働黨
  スラモ、最モ熱心ナル軍擴意見ニ變ッテ居
  ルノヲ目睹致シマシテ、實ハ私ハ事ノ意外
  ニ驚イタノデアリマス、サウシテ私ハ多年
  交ヲ辱ク致シテ居ッタ學者、政治家等ニ就キ
  マシテ、其眞因ヲ尋スルニ及ビ、更ニ一層
  此形勢ノ重大ナルコトニ喫驚致シタノデア
  リマス、卽チ今日英國識者ノ間ニ於キマシ
  テハ、戰爭勃發ノ危險ヲ痛感致シテ居ル人
  ガ多數存在致スノデアリマス、ソレガ爲ニ
  是等ノ人々ハ年來ノ軍縮意見ヲ抛ッテ、熱心
  ナル軍備擴張論者ニ變ッタノデアル、彼等ハ
  歐洲ノ平和ヲ維持スル方法ハ、英國ガ壓倒
  的ニ强大ナル軍備ヲ有スルコトデアルト云
  フ、一見矛盾シタル論法ヲ以テ、此情勢ヲ
  私ニ說明致シテ居ッタノデアリマス、英國
  ノ軍備ガ果シテ何國ヲ假裝敵國トシテ準備
  セラレツヽアリヤヲ私ハ申ス必要ハナイノ
  デアリマスガ、此簡單ナル事實ガ私ニ〓へ
  ル所ハ、歐洲大陸ニ於キマシテハ、戰爭ト
  云フコトガ假定ノ域ヲ脫シテ、旣ニ實際的
  危險ノ範圍ニ入ッテ居ルト云フコトデアリ
  マス、ソレハ「エチオピヤ」事件ヲ囘顧シテ
  モ、現在ノ西班牙ノ內亂ヲ眺メテモ明瞭デ
  アリマス、併ナガラ私ノ御尋致シマスノハ、
  此歐洲ノ事情デハナイノデアリマス、此歐洲
  ノ現勢ノ我國ニ及ボス影響デアリ、之ニ對
  スル我國ノ對策デアリマス、私ハ賢明ナル
  歐洲ノ政治家ガ、斯ノ如キ慘禍ヲ未然ニ防
  ガレルデアラウト云フコトヲ信ズル、併ナ
  ガラ萬々一斯ノ如キ不祥事勃發ノ際ニハ、
  我ガ帝國トシテ執ルベキ態度ハ、決シテ此
  歐洲動亂ノ渦中ニ捲込マレナイコトデアル
  ト思フノデアリマス、ソシテ是ハ申ス迄モ
  ナイコトデアルガ、私ハ後段ニ於テ具體的
  ニ此點ニ觸レル必要ガアリマスカラ、劈頭
  先ヅ外務大臣ニ御伺ヲ致シテ置クノデアリ
  マス
  私ハ歐洲ノ斯ノ如キ危險ナル狀態ヲ眺メ
  マシテ、其原因ガ果シテ何處ニアッタカト云
  フコトヲ考ヘザルヲ得ナカッタノデアリマ
  スガ、私ノ到達致シマシタル結論ハ、歐洲
  戰爭以後、世界ニ起リマシタ所ノ極端ナル
  經濟的國家主義ガ、其誘因トナッテ居ッタト
  云フコトデアッタノデアリマス、卽チ各國ガ
  競ッテ經濟的ニ各〓、其門戶ヲ鎖シテ、他國ノ經
  濟的發展ヲ阻止致シマシタ結果、民族抗爭
  ノ勢、年ヲ逐ウテ激化致シ、爲ニ貧シキ國ハ
  益〓貧シクシテ、焦燥ノ氣ニ滿チ、富ミタル
  國ハ其富ヲ失フコトヲ恐レテ、遂ニ軍擴ニ
  其安心ヲ求ムルニ至ッタト思フノデアリマ
  スガ、斯ノ如キ經濟的國家主義ハ一種ノ鎖
  國デアッテ、一種ノ經濟的「ブロック」ヲ作ッテ、
  此中ニ安住ノ天地ヲ求メント致シテ居ルノ
  デアリマスガ、其爲ニ遂ニ武力ヲ以テ此狀
  態ヲ維持セントスル軍備熱ニ陷ッタノデア
  ル
  轉ジテ我ガ日本民族自身ノ狀態ヲ眺メマ
  スルト、此全世界ニ於ケル極端ナル閉戶閉
  鎖ノ傾向ガ、全世界ニ於ケル我ガ民族ノ發
  展ヲ阻止致シテ居ルコトハ、私ヨリ申上ゲ
  ル必要モナイコトデアリマス、ソレガ爲ニ
  私ハ此經濟「ブロック」ノ思想ガ、次第ニ全
  世界ニ波及致シマシタ結果、我國ニ於テモ
  經濟政策ニ關シテ、一種ノ變ッタ議論ガ發
  生シツヽアルコトヲ感ゼザルヲ得ナイノデ
  アリマス、卽チ我國モ亦滿洲國ト協同シ
  テ、一種ノ經濟「ブロック」ヲ作ッテ、此中ニ
  於テ自給自足ノ天地ヲ作ラウカト云フ議論
  モアリマスガ、私ハ此議論ニ贊成シナイノ
  デアル、此議論ガ直チニ帝國外交ノ根本
  ニ觸レテ來ルト私ハ思フノデアリマ
  ス、卽チ日本民族ノ世界ニ於ケル所ノ
  位置ヲ考ヘテ見マスルト、一方ニ於テ斯ノ
  如キ經濟的ノ鎖國主義ノ方向ニ吾々ガ沿ッ
  テ進ムベキデアルカ、或ハ此世界ニ於ケル
  經濟的鎖國ノ形勢ヲ打破スル方向ニ、吾々
  ガ行クベキデアルカト云フコトガ、日本ノ
  根本方針ニ亙ッテ居ルト思フノデアリマス、
  私ハ我ガ民族ハ此經濟的鎖國主義ヲ打破シ
  テ、民族發展ノ自由ヲ全世界ニ主張スル立
  場ヲ執ラネバナラヌモノト思フノデアリマ
  ス
  私ハ此二箇ノ一般論ニ立チマシテ、現下
  帝國ノ外交ニ關シ、六ツノ具體的問題ニ付
  テ外務大臣ニ御意見ヲ伺ッテ見タイト思フ
  ノデアリマス、第一ハ祕密外交ノ問題デア
  リ、第二ハ日獨協定ノ運用ノ問題デアリ、
  第三ハ日「ソ」關係、第四ハ日英關係、第五、
  日米關係、第六ハ對支關係ノ問題デアリマ
  ス
  第一ニ私ハ祕密外交ニ關シテ外務大臣ニ
  御伺ヲ致シテ置キタイノデアリマス、前內
  閣ノ外交ニ關シテハ、世上囂々タル非難ノ
  聲ガアリマシタケレドモ、其由テ來ル所ヲ
  考ヘマスルト、其外交政策ノ內容自身ニ對
  スル反對カラモ生レテ居リマシタケレドモ、
  又同時ニ其外交交涉ノ手續ニ關スル國民ノ
  反對デアッタノデアリマス、ソレハ何デアル
  カト申セバ、當時ノ當局者ガ重大ナル國民
  ノ運命ニ關スル外交交涉ヲ試ムルニ當リ、
  一切ヲ祕シテ國民ノ耳目ヲ蔽ウタ點デアリ
  マス、而モ當時ノ內閣ハ、內ニ於テハ日本
  國民ノ耳目ヲ蔽フコトニ成功致シタケレド
  モ、海外諸國ニ於テハ、當時ノ内閣ガ交渉
  シツヽアリシ事件ノ內容ガ、殆ド擧ゲテ發
  表セラレテ居タノデアリマス、例ヘバ日支
  交涉ノ內容ガ、九月二十八日ヲ以テ「モス
  コー」ニ送ラレ、十月一日ニ於テ紐育ノ「ヘ
  ラルド·トリビューン」ニ悉ク揭載セラレテ
  居ル如キ、或ハ日獨交涉ニ關スル內容ガ、
  日本ニ於キマシテハ十一月二十六日ノ朝ノ
  新聞ヲ以テ發表サレタルニ拘ラズ、米國ニ
  於テハ紐育「ヘラルド·トリビューン」ハ旣
  ニ十一月十二日ニ之ヲ揭載シ、倫敦「タイ
  ムス」ハ十一月十八日ニ之ヲ社說ヲ以テ論
  ジテ居ッタノミナラズ、更ニ驚クベキコト
  ハ、此大體ノ傾向ガ昨年三月旣ニ紐育ニ於
  テ印刷サレマシタ大平洋會議ノ「プログラ
  ム」ノ中ニ盛ラレテ居ルト云フ如ク、天下
  日本以外ノ國々ニ於テ知レ渡ッテ居ック事件
  ヲ、日本ノ國內ニ於テ餘リニ祕密ニ致シテ
  居リマシタ爲ニ、國民ハ當時ノ政府ノ政策
  ヲ支持セント欲スルモ、之ヲ支持スベキ材
  料スラ持タナカッタヤウナ狀態デアッタ、由
  來我國ニ於キマシテハ、外交ニ關シテハ之
  ヲ議會ニ於テ十分ニ討論ヲ致ス習慣ガナイ
  爲ニ、外交ニ關シテハ恰モ腫物ニ觸ハルヤ
  ウニ之ヲ取扱ッテ居リマシタ爲ニ、却テ世界
  ノ常識トナッテ居ルヤウナ事件スラ、日本國
  民自身ハ之ヲ知ラズシテ、政府ヲ支援スル
  コトスラ出來ナカッタト云フコトハ、寔ニ遺
  憾ナコトデアッタト思フノデアリマス(拍手)
  私ハ固ヨリ外交ノ內容ガ悉ク議會ニ、或ハ
  國民ニ公表セラルベシト申スノデハアリマ
  セヌケレドモ、過去ニ於ケル如キ極端ナル
  彈壓、機密ノ方法ヲ以テ致シテハ、眞ニ國民
  ノ同情ト熱情ヲ動員シテ、力アル國民外交
  ヲ行フコトガ出來ナイト思フカラ、過去ニ
  於ケル斯ノ如キ事件ヲ非難致シマスヨリ
  ハ、將來ニ亙ッテ外務大臣ガ之ニ對シ如何ナ
  ル御考ヲ有セラレ、如何ナル措置ヲ執ラレ
  ルカヲ、私ハ御伺致シテ置キタイノデアリ
  マス
  第二ハ私ハ日獨協定ノ問題ニ付テ御伺ヲ
  致シタイノデアリマス、日獨協定ノ成立自
  身ニ付テ、私ハ前內閣ニ御伺致シタイ色々
  ナ點ガアッタノデアリマスガ、併ナガラ其人
  旣ニ去ッタル今日、私ハ既往ヲ論ゼント致ス
  モノデハナイノデアリマス、唯今儼トシテ
  存スル日獨協定ノ運用ヲ、現內閣ハ如何樣
  ニナサレルノデアルカト云フコトニ付テ、
  御伺ヲ致シテ置キタイノデアリマス、卽チ
  日獨協定ガ祕密ノ裡ニ突如トシテ國民ノ前
  ニ投出サレタル爲ニ、此成立ニ當リマシテ、
  日本國內ニ於ケル感ジハ、三十五年前ノ日
  英同盟發表當時ト甚シク異ッテ居ッタノデア
  リマスルガ、而モ此當時國民ハ二ツノ
  點ニ關シテ關心ヲ懷イタト思フノデア
  リマス、ソレハ時ヲ同ジウシテ發表セラレ
  タル日伊協定ノアッタ爲ニ、世界ニ於テ
  恰モ一種ノ政治的思想ヲ等シウスル國々
  ノ聯携デアルカノ如キ誤解ト誹謗ヲ生ジマ
  シタ、ソレガ爲ニ從來日本ニ對シテ友好關
  係ヲ持ッテ居ッタ國々ノ同情ガ冷却ヲ致ス心
  配スラ認メラレタノデアリマスルガ、新大
  臣ハ此點ニ關シテ如何ナル處置ヲ御執リニ
  ナルカヲ御伺シテ置キタイノデアリマス、
  第二ニ國民ノ懷キマシタル關心ハ、歐羅巴
  ノ情勢緊迫致シテ居ル今日、此全然防共協
  定デアル日獨協定ガ、斷ジテ歐羅巴ノ問題
  ニ無關係デアルト云フコトヲ明瞭ニシテ貰
  ヒタイト云フ關心ヲ持ッテ居ッタノデアリマ
  シテ、此點ニ關シテ外務大臣ノ明瞭ナル御
  意見ヲ伺ッテ置キタイノデアリマス
  第三ニ私ハ日「ソ」ノ關係ニ付テ御尋ヲ致
  シタイノデアリマス、佐藤新外務大臣ハ三
  月八日ノ貴族院ニ於ケル御演說ノ中ニ於キ
  マシテ、日「ソ」關係ニ言及セラレテ、何等
  カノ打開策ヲ發見シテ、兩國ノ關係ヲ良好
  ニ致サナケレバナラナイト言ッテ居ラレル
  ノデアリマスルガ、併シ外務大臣ハ其說明
  ノ大部分ヲ「コミンテルン」ノ問題ニ集中致
  サレタノデ、漫然トシテ之ヲ聽ケバ「コミ
  ンテルン」ノ存在スル限リ、兩國關係ノ明
  朗化ハ困難デアルカノ如キ印象ヲ與ヘラレ
  タノデアリマスガ、恐ラクハ外務大臣ノ眞意
  ハ其處ニハナカッタト思フノデアリマスガ、
  尙ホ此機會ニ於テ御尋ヲ致シテ置クノデア
  リマス、私ハ日「ソ」關係ノ重點ハ、日本ト
  「ソ」聯邦トガ國境ヲ接シテ居ルト云フ點ニ
  アルト思フノデアリマス、吾々ハ三千年來
  海ニ圍マレテ居リマシタ爲ニ、國境ヲ隔テ
  テ異民族ト對峙スル經驗ヲ持タナカッタカ
  ラ、國境ニ對スル觀念ガ歐洲各國ノ民ノ如
  ク熾烈デナイノデアリマスルガ、此接壤國
  ヲ新ニ滿洲國ヲ通シテ吾々ガ持ッタト云フ
  コトハ、帝國ノ將來ニ對シテ深刻ナ影響ヲ
  持ツト思ヒマスル、故ニ私ハ此國境問題ノ
  解決ニ當ッテ、現內閣ガ如何ナル御用意ヲ持
  タレルカヲ伺ッテ置キタイノデアリマス、東
  洋ニ於テハ、從來國境ヲ隔テヽ一觸卽發ト
  云フヤウナ危險ナル狀態ヲ吾々ハ持ッテ居
  ナカッタノデアッテ、斯ノ如キ國境觀念ハ、
  東洋的ノ觀念デハナカッタノデアリマスル
  故ニ、吾々ハ此國境ノ觀念ノ明朗化ト云フ
  モノガ、將來ノ日本ノ爲ニ洵ニ必要デアル
  ト考ヘテ居ルノデアリマスルガ、此點ニ付
  テ私ハ外務大臣ガ如何ナル對策ヲ御考ニ
  ナッテ居ルカヲ伺ッテ置キタイノデアリマス
  第四ニ私ハ日英關係ニ付テ御伺致シタイ
  ノデアリマス、此點ニ關シテハ旣ニ林前外
  相ノ聲明モアリ、佐藤新外務大臣ノ御說明
  モアッタノデアリマスガ、外務大臣ノ御說明
  ハ、要スルニ英國トハ出來ルダケ協調ヲ
  保ッテ行キタイト云フ御考デアリマス、ソレ
  ハ抽象論トシテハ其通リデアルト思フノデ
  アリマス、併ナガラ具體的問題トシテ、英
  國ト日本ノ關係ヲ眺メマスルト云フト、明
  白ニ吾々ノ利害ハ世界ノ到ル處ニ於テ衝突
  ヲ致シテ居ルノデアリマス、今日日本ノ移
  民ハ英國ノ領土內到ル處ニ於テ排斥ヲ致サ
  レテ居リ、日本ノ商品ハ英國ノ領內ハ申ス
  ニ及バズ、英國ノ勢力ノアル國々ニ於テ、
  亦排斥ヲ受ケテ居ルノデアリマス、卽チ日
  英親善ト云フ希望ト、利害ノ衝突ト云フ現
  實トヲ、外務大臣ハ如何樣ニ御調和ニナル
  カヲ伺ヒタイノデアリマス、例ヘバ通商ノ
  關係ニ於キマシテ、昭和七年以來日本ノ貿
  易ガ目覺シキ勢ヲ以テ世界ニ擴ガッテ居ッタ
  ニ拘ラズ、最近ニ至リマシテハ到ル處ニ於
  テ重大ナル障碍ニ面接ヲ致シテ、今ヤ停頓
  セントスル危險ヲスラ見テ居ルノデアリマ
  ス、殊ニ英國ノ王領植民地「セーロン」ノ
  如キハ、割當制實施以來四分ノ一ニ減退
  シ、英國ノ勢力下ニアル埃及ノ如キモ、
  二分ノ一ニ減退ヲ致シテ居ルノデアリマシ
  テ、加奈陀、濠洲、印度等ニ於テ協定ハ
  成立致シマシタケレドモ、吾々ノ希望ヲ未
  ダ十分ニ認メテ居ルト看做スコトハ出來
  ナイノデアリマス、而モ驚クベキコトハ、英
  國ハ單ニ英國領土內ニ於ケル日本商品ノ輸
  入ヲ防遏セント致スノミナラズ、英國以外
  ノ第三國ニ於テモ、日本商品ノ輸出ヲ防遏
  セント致シテ居ルコトヲ、私ハ昨年倫敦ニ於
  テ英國人ヨリ聽キマシテ一驚ヲ喫シタノデ
  アリマスガ、此英國ノ海外貿易ニ對スル態
  度ガ繼續致シマスル限リ、日本ノ生命線ノ
  一ツデアル海外輸出貿易ノ前途ハ、洵ニ寒
  心スベキモノガアリマスル故ニ、私ハ日英
  親善工作ヲ致サレルト云フ御趣旨ニハ、滿
  幅ノ贊成ヲ致シマスルケレドモ、一方ニ於
  テ斯ノ如キ事實ヲ如何樣ニ解決セラレルノ
  デアルカヲ御伺致シテ置キタイノデアリマ
  ス
  次ニ私ハ日米關係ニ付テ御尋ヲ致シタイ
  ノデアリマス、日米メ間ニ只今存在スル問
  題ハ、或ハ移民法ノ改正、或ハ通商問題モ
  アリマスルケレドモ、ソレハ私ハ今日之ヲ
  論ジナイノデアリマス、今日米ノ間ニアル現
  實ノ問題ハ、海軍軍縮ノ問題デアリマスル
  ガ、併ナガラ何故ニ海軍ノ問題ガ、日米ノ
  間ニ於テ斯ノ如ク重大トナッテ來タカト云
  フコトヲ考ヘテ見マスルト、ソレハ要スル
  ニ支那ニ對スル發言權ノ問題デアルト私ハ
  眺メルノデアリマス、故ニ日本ト亞米利加
  トノ間ニアリマスル最モ重要ナル問題ハ、
  對支政策ニ付テ日本ノ態度ト亞米利加ノ政
  策トガ相容レザルモノデアルカ、或ハ協調
  可能ナルモノデアルカト云フ點ニ窮極ヲ致
  スト思フノデアリマス、然ルニ亞米利加ノ
  對支政策ハ「ジョン·ヘイ」ノ門戶開放政策
  ハ純粹ナル經濟政策デアリマシタ所、大正
  十一年華盛頓ニ於テ締結セラレタル所ノ九
  國條約ガ、領土保全ト稱スル政治的內容ヲ
  盛リマシタ爲ニ、遂ニ對支政策ノ內容ガ變
  化ヲ致シテ參リマシタケレドモ、米國ノ對
  支政策ノ內容ガ果シテ經濟的ナモノデアル
  カ、或ハ政治的ナモノデアルカト云フコト
  ハ、吾々ガ更ニ檢討ヲ致サナケレバナラヌ
  ト思フノデアリマス、卽チ滿洲事件當時ニ於
  テ不承認ノ原則ト云フモノガ唱道セラレマ
  シタガ、ソレハ米國ノ對支政策ノ中心ヲ政治
  的ノモノト考ヘタル結果起ッタモノデアッタ
  ガ、吾々ノ眺メタ所デハ此米國ニ於ケル所
  ノ對支政策ノ眼目ハ次第ニ今變更ヲシテ本
  來ノ經濟政策ニ引返サント致シテ居ルト思
  フノデアリマス、若シ然ラバ日本ノ支那ニ
  於ケル所ノ眞意ガ眞實ニ米國ニ諒解サレマ
  スナラバ、私ハ日本ト亞米利加トノ間ニ於
  ケル最モ重要ナル對支政策ニ付テハ、意見
  ノ衝突ハ無イモノト思フノデアリマスガ、
  此點ニ付テ外務大臣ハ日本ノ對支政策ノ眞
  實ノ姿ヲ、米國民ニ對シテ說明セラレ、其
  徹底ヲ圖ラレルノニ如何ナル御精神ヲ有セ
  ラレルカヲ、私ハ承知シテ置キタイノデア
  リマス
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=79

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• 080・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御靜肅ニ願ヒマス

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• 081・鶴見祐輔

  ○鶴見祐輔君(續)　最後ニ私ハ日支關係ニ
  付テ御尋ヲ致シダイノデアリマス、總理大
  臣ハ外務大臣ヲ兼任セラレテ居リマシタ當
  時、櫻井兵五郞君ノ質問ニ答ヘテ、是カラ
  後ハ經濟的ノ握手、文化的ノ協力ヲシテ行
  クノデアルト申サレタノデアリマス、佐藤
  新外務大臣ハ從來ノ行懸リヲ水ニ流シテ、
  平等ノ立場ニ立ッテ出直シテ見タイト申サ
  レタノデアリマス、其根本ノ趣旨ニ於テ
  吾々ガ何等ノ異存ナキコトハ洵ニ當然デア
  リマスルケレドモ、ソレハ極ク抽象的ナル
  議論デアリマスルガ、吾々ノ知ラント欲ス
  ルノハ、然ラバ斯ノ如キ抽象論ヲ如何ニシ
  テ具體的ニ國策ノ上ニ實現セラレルカト云
  フコトデアリマス、私ハ西安事件以後ニ於
  ケル支那ノ形勢ハ、非常ニ變化ヲ致シテ居
  ルト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、ソレ
  ハ一ニハ支那自身ノ變化デモアリマスルガ、
  今一ツハ第三國卽チ英國ノ態度デアリマス、
  英國ガ最近ニ至ッテ支那ニ對シテ本腰ニ
  ナッテ、援助ノ態度ヲ執ッテ參ルヤウニナリ
  マシタ爲ニ、支那ノ形勢ガ變ッテ參ッテ居ル
  ト思フノデアリマスガ、然ラバ私ガ玆ニ外
  務大臣ニ御伺致シタイコトハ滿洲ノ問題或
  ハ北支ノ問題ニ付テハ、日本一國ノ力ヲ以
  テ之ヲ解決致スコトモ出來ルデアリマセウ
  ガ、中支南支ノ問題ニ付テ政府ハ長ク支那
  ニ於テ關係ヲ有シ、利權ヲ有スル是等ノ
  國々ト協力スルコトナクシテ、目的ヲ達
  成シ得ルト御考ニナルカドウカト云フ
  コトデアリマス、ソレハ第一ニ日本ガ全世
  界ニ於テ貿易ノ進出ヲシテ參ッタ一ツノ原
  因ハ、吾々ガ對支貿易ガ激減致シマシタ爲
  ニ、之ヲ補フ爲ニ進出致シテ、英國ト全面
  的ニ衝突ヲ致シテ居ルノデアルカラ、若シ
  英國ト日本トノ具體的ナル協調ガ可能デア
  ルト致スナラバ、ソレハ支那ノ問題デアル
  ト私ハ眺メルノデアリマスルガ、其支那ノ
  具體的ノ問題トシテ私ガ外務大臣ニ御伺ヲ
  致シテ置キタイコトハ、今日支那ノ關稅稅
  率ハ甚ダ高率デアル、其爲ニ、日本ノ對支
  貿易ガ甚ダ阻碍セラレテ居ルノデアル、而
  モ關稅自主權ノ囘復ノ爲ニ率先シテ之ヲ援
  助致シタノハ、日本デアッタト云フコトヲ考
  ヘテ見マスト、今日ノ支那ガ日本ノ致シタ
  良キ事ハ之ヲ忘レテ、單ニ日本ノ致シタ事
  デ彼等ノ不平トスル所ノミヲ强調致シテ居
  ルノハ正當デハナイ、此高率ナル關稅ノ存
  在致ス限リ、日支間ノ經濟提携ハ洵ニ困難
  デアル實情ニ鑑ミマシテ、私ハ現外務大臣
  ガ此關稅改訂ノ問題ニ如何ニシテ指ヲ染メ
  ラレルカニ付テ、具體的ニ御伺ヲ致シテ置
  キタイト思フノデアリマス、今一ツハ私ハ
  日本國民ハ支那ノ復興ニ對シテ深甚ナル同
  情ヲ有シマスルガ故ニ、支那ノ經濟復興ニ
  對シテ吾々ハ積極的ノ援助ヲ致シタイト云
  フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマスルガ、其具體
  的ナ問題トシテハ、私ハ現前日本ノ前ニア
  リマスル所ノ問題ハ、對支投資ノ問題デア
  ルト思フノデアリマス、然ルニ英國ハ既ニ
  西安事件以後ニ於テ、人ヲ派シテ支那ニ於
  テ投資ヲ實行セント致シテ居リマスル現狀
  デアリマスルガ故ニ、若シ日本ガ今日意ヲ
  決シテ此問題ノ解決ニ當ラザル限リハ立遲
  レトナッテ、將來日支提携ニ阻碍ヲ及ポスノ
  デハナイカト考ヘルノデアリマスガ、此點
  ニ關シマシテ私ハ外務大臣ハ日本ノ對支投
  資ニ關シテハ、他ノ國々ト協力ヲ致シテ之
  ヲ爲ス御考ガアルカドウカヲ、伺ッテ置キタ
  イノデアリマス
  私ハ先日ノ外務大臣ノ貴族院ニ於ケル御
  演說ヲ承知致シマシテ、外務大臣ガ支那ト
  平等ノ立場ニ於テ新シク出直スノデアルト
  云フ御說明ニ力ヲ用ヒラレマシタル結果、
  却テ日本ノ眞意ニ付テ反對ノ誤解ヲ相手方
  ニ生ゼシメタ心配ハナカッタカト、杞憂ヲ
  致スノデアリマス(拍手)故ニ私ハ日支關係
  ノ根本ニ付テ最後ニ御伺ヲ致シテ置キタイ
  ノデアリマス、卽チ日本ノ支那ニ對スル態
  度ニ於キマシテハ、日本外交ノ根本策デア
  ル滿洲國ノ完成ト云フコトハ、如何ナル內
  閣ガ出來マシテモ、如何ナル外務大臣ガ現
  レテモ、日本ノ一貫不動ノ方針デアルガ故
  ニ、之ニ變リハナイト云フコトヲ明瞭ニ致
  シテ置カナケレバナラナイ、隨テ滿洲國ト
  接壤地方ノ治安維持ニ付キマシテモ、亦帝
  國政府ハ重大ナル關心ヲ有ッテ居ルト云フ
  コトヲ明瞭ニ致シテ置カナケレバナリマセ
  又、又北支ノ經濟開發ニ付テモ、帝國ハ特
  殊ナル利害關係ヲ有ッテ居ルト云フコトヲ
  明ニシテ置カナケレバナリマセヌ、併ナガ
  ラ支那ガ統一セラレテ繁榮ナル社會ヲ造ル
  ト云フコトハ、日本全國民ノ衷心ノ希望デ
  アッテ、日本ハ復興支那ニ對シテ援助ヲ惜ム
  モノデナイト云フコトヲ、明瞭ニ致シテ置
  キタイノデアリマス、從來吾々兩國間ニ於
  キマシテハ種々ナル事件ガ發生ヲ致シテ、
  此日本民族ノ支那ニ對スル衷心ノ同情ガ、
  歪曲セラレテ支那ニ映ジタルコトハナカック
  カ、若シ左樣ナコトガアッタナラバ吾々ハ之
  ヲ深ク遺憾トスルノデアリマス、吾々ハ支
  那ニ對シテ反省ヲ求メルト共ニ、吾々自ラ
  モ反省ヲスルコトニ吝デナイト云フコトヲ、
  明瞭ニ致シテ置キタイノデアリマス(拍手)
  故ニ私ハ此機會ニ於テ佐藤新外務大臣ガ、
  日本ノ支那ニ對スル政策ノ限度ヲ明瞭ニセ
  ラレンコトヲ希望致スノデアリマス、若シ
  然ラザル場合ニ於キマシテハ好意ニ出發ヲ
  シテ、却テ失望ト反感ヲ買フノ虞ガアルコ
  トヲ杞憂致スカラデアリマス、此點ニ關シ
  マシテ私ハ此際外務大臣ヨリ、明瞭ナル御
  返答ヲ伺ヒタイノデアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=81

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• 082・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　芦田均君
  〔芦田均君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=82

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• 083・芦田均

  ○芦田均君　私ハ林總理大臣竝ニ佐藤外務
  大臣ニ對シテ、帝國外交ノ方針ニ關シ一三
  ノ質疑ヲ致シタイト思ヒマス、佐藤外務大
  臣ガ三月八日ノ貴族院ニ於テ述ベラレマシ
  タル外交ニ關スル抱負ハ、國ノ內外ニ於テ
  相當良好ナ影響ヲ與ヘタヤウニ見受ケマ
  ス、新外務大臣ハ率直ニ、大膽ニ其信念ヲ
  吐露セラレタノデアリマシテ、大體ノ趣意
  ニ於キマシテハ何人モ異存ノナイコトデア
  ルト信ジマス、併ナガラ外務大臣ガ長時間
  ニ亙ッテ述ベラレタコトハ、多クハ外交理念
  ヲ陳述セラレタノデアリマシテ、具體的ノ
  事實ニ對シテハ殆ド觸レテ居ラレマセヌ、
  其聲明ニ依レバ、日「ソ」關係ニ於テハ何等
  カノ方法デ親善ヲ加へタイ、英國ト提携シ
  テ行キタイノハ全日本ノ希望デアル、又日
  支交渉ノ行詰リニ付テハ何等カノ妥協點ニ
  進ム必要ガアルカラ、今後ハ日支平等ノ立
  場デ、更メテ出直ス意嚮デアルト述べラレ
  テ居リマス、之ヲ一言ニシテ申セバ、八方
  圓滿ニ國交ヲ調整シヨウト云フ樂シイ夢ヲ
  語ラレタノデアリマス、但シ如何ニシテ斯
  ノ如キ理想境ニ到達スベキヤト云フ具體的
  政策ニ付テハ、不幸ニシテ說明ヲ伺フコト
  ガ出來ナカッタノデアリマス、私ハ直截ニ外
  務大臣ニ申シタイ、吾々共ニ每年議會ノ劈
  頭ニ於テ、外務大臣ノロカラ略〓同工異曲ノ
  樂シイ物語ヲ聽カサレタノデアリマス、併
  シ軈テ冷タイ現實ノ暴露ニ、苦シイ盃ヲ嘗
  メサセラレタ經驗ヲ忘レルコトガ出來マセ
  ヌ(拍手)現在我ガ國民ノ不安ハ、何時デモ
  樂觀的ナ政府ノ聲明ト、吾々ガ眼前ニ見ル
  國際情勢トノ間ニ、餘リニモ距離ガアリ、矛
  盾ガアルト云フ點デアリマス、現ニ林總理
  大臣ハ、過日來豫算總會ニ於テ、屢〓一觸卽
  發ト云フ言葉ヲ繰返サレテ居リマス、更ニ
  現內閣ノ豫算ハ、一層有力ニ其心境ヲ裏書
  シテ居ルモノデアルト思ヒマス、結城財政
  ハ二十八億圓ノ歲出ノ半分、十四億圓餘リ
  ヲ國防費ニ充當致シテ居リマス、馬場財政
  ノ修正デアルト觸出シナガラ、國防費ニ於
  テハ、憲法違反ノ浮名ヲ立テラレツヽ、四
  千六百万圓ノ金額ヲ切捨テルト見セテ、實
  ハ勝手口カラ逃ガシテ居ルデハアリマセヌ
  カ、斯ク申シタ所デ、私ハ決シテ國防充實
  ノ急務ヲ認メナイト云フノデハアリマセ
  又、國防ニ不安ヲ感ズルガ故ニ、一層强ク
  外交國策ヲ樹立スルノ必要アリト申スノデ
  アリマス(拍手)
  私ガ第一ニ林總理大臣ニ御尋致シタイト
  思フコトハ、軍備ト外交トノ調和ヲドウス
  ルカト云フ點デアリマス、言葉ヲ換ヘテ申
  セバ、內閣ニハ國防ト財政ト外交トノ綜合
  サレタル國策ノ御持合ガアルベキ筈デア
  ル、今更申ス迄モナク日本ハ孤立デアリマ
  ス、孤立シタ國ハ自分ノ力ニ依ッテ國ヲ護ル
  外ニ途ハアリマセヌ、ソコデ我國ハ、陸上
  於テハ「ソビエト」聯邦ト、支那ノ陸軍ヲ假
  想敵トシテ、陸軍ヲ充實シナケレバナラヌ、
  海ニ於テハ英米ヲ目標トシテ海軍ヲ建設シ
  ナケレバナラヌ、ケレドモ國防ニ於テ斯樣
  ナ重イ責任ヲ負フ國ガ、世界ノ何處ニアリ
  マスカ、此重イ責任ヲ單ニ軍備ノ力ニ依ッテ
  ノミ完クシヨウトスルノハ、假令不可能デ
  ナイ迄モ、斷ジテ賢明ノ政策デハナイト信
  ジマス(拍手)我國ノ周圍ニ今迫ッテ來テ居
  ル日本包圍ノ鎖ヲ、單ニ軍備ニ依ッテノミ斷
  チ切ラウトスルナラバ、十四億圓ノ國防費
  ノ如キハ、之ヲ二倍ニ增加シテモ尙ホ足リ
  ナイデアリマセウ、然ルニ豫算總會ニ於テ
  陸海軍ノ當局ハ、現在ノ國防豫算ヲ以テス
  レバ、今後數年間ハ增加ノ必要ハナイト申
  サレテ居リマス、吾々ハ此點ニ於テ密ニ國
  際情勢ノ認識ニ於テ見解ヲ異ニスルコトヲ
  痛感致シタノデアリマス、現在ノ狀況デ進
  ンデ行ケバ、コヽ二三年ノ中ニ、帝國議會
  ハ更ニ新シイ國防費ノ增額ヲ、審議スル運
  命ニ迫ラレテ居ルコトハ明白デアリマス(拍
  手)ソレニモ拘ラズ國內ノ各方面ニ於テハ、
  國防費增加ノ傾向ヲ憂慮スル論議モアリ、
  又增稅ノ與ヘルデアラウ所ノ惡イ影響ニ付
  テモ、不安ノ念ヲ表示スル者ガ相當ノ數ニ
  上ッテ居リマス、ケレドモ今日ノ事態ニ於テ
  增稅案ヲ値切ッテ、軍事費ヲ僅カバカリ削減
  シテ見タ所デ、ソレハ問題ノ解決ニハナリ
  マセヌ、國費ノ膨脹ハ國防費ノ爲メデアル、
  國防費ノ增大ハ孤立無援ノ環境カラ來テ居
  ルノデアリマス(拍手)故ニ總テノ國策ハ現
  在ノ此國際情勢ヲ如何ニ我國ニ有利ニ轉換
  スベキカト云フコトカラ、出發シナケレバナ
  ラナイト思フノデアリマス(拍手)此國際環境
  ヲ此儘ニ拾テヽ置イテ增稅ノ可否ヲ論ジ、豫
  算ノ大小ヲ論議スルノハ、謂ハヾ枝葉末節
  ノ論議デアル(拍手)隨テ此國防不安ノ境涯
  ヲ外交ニ依ッテ如何ニ轉換スベキカト云フ
  コトガ、差當リ國防ト財政問題ノ根本デナ
  ケレバナラヌト信ジマス、ソレガ出來ナイ
  限リ日本ハ幾人大藏大臣ヲ取換ヘテ見タ所
  デ、將來財政ノ見透シハ付キ兼ネルト言ハレ
  ルニ決ッテ居ル(拍手)斯樣ナ情勢ノ中ニアッ
  テ、我ガ國民ニ國防安全感ヲ與ヘルノハ
  外交ノ外ニハアリマセヌ、外交ガ國防ノ第
  一線ニ立ツベキ筈デアリマス
  〔發言スル者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=83

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• 084・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=84

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• 085・芦田均

  ○芦田均君(續)　然ルニ從來外交ハ廣義國
  防ノ圈外ニ立ッタバカリデナク、兎角戰略上
  ノ考ニ引摺ラレ勝チデアリマシタ、殊ニ現
  内閣ニ至ッテハ八宗兼學ノ總理大臣ヲ迎ヘ
  テ、御蔭デ外交ハ開店休業ノ看板ヲ出シテ
  居リマス(拍手)林內閣ハ此誤ッタ方針ヲ是
  正シテ、我國ノ財政ト國防ノ實情ニ卽シタ
  ル外交政策ヲ御持チニナラナケレバナラヌ
  筈デアルガ、政府ノ所信ヲ率直ニ御說明願
  ヒタイト思ヒマス(拍手)
  次ニ私ハ林內閣ノ對「ソ」政策ニ付テ御伺
  致シマス、日「ソ」關係ハ大陸ニ於ケル我國
  ノ運命ヲ決スル問題デアリマス、然ルニ現
  在ノ日「ソ」關係ハ戰爭デモナケレバ平和デ
  モナイト云フ、極メテ陰欝ノ狀態ニアルコ
  トハ國民ノ最モ關心ヲ持ツ點デアリマス(拍
  手)佐藤外務大臣ハ八年ノ長イ間露西亞ニ
  在勤セラレテ、我國露西亞通ノ隨一ト言ハ
  レテ居リマス、此人ヲ外務大臣トシテ迎ヘ
  タト云フコトハ、日「ソ」問題ノ解決ニ一道
  ノ曙光ヲ與ヘルモノデアッテ、國民ハ其實行
  力ニ多大ノ期待ヲ繫イデ居リマス、今日マ
  デ歷代ノ內閣ハ或ハ極東ニ集中シテ居ル「ソ
  ビエト」ノ兵力ヲ、撤退セシメル方法ヲ考
  慮スルトカ、或ハ「モスコー」政府ノ反省ヲ
  求メルトカ、何レモ其場限リノオチヤラカ
  シヲ竝ベテ來テ居リマス、其結果ハドウデ
  ス、其結果ハ「ソビエト」聯邦ガ刻々ニ極東兵
  力ヲ充實シテ、現在旣ニ三十万ノ兵力ト千
  二百ノ飛行機ヲ備ヘルニ至ッテ居ル、來年度
  ノ「ソビエト」ノ軍事費ハ二百億留ヲ突破ス
  ルトモ傳ヘラレテ居リマス、殊ニ日獨協定
  ノ調印以來、露西亞ハ益〓此方面ノ防備充實
  ニ熱ヲ出シテ來マシタ、隨テ滿洲國境ヲ挾
  ンデ本格的ノ軍備競爭ガ展開サレテ居ル、
  新外務大臣ハ此情勢ヲ此儘ニ成行ニ任セヨ
  ト云フ御考デアルノカ、或ハ又之ヲ轉換ス
  ル何等カノ具體的政策ヲ持ッテオキデニナ
  ルノカ、若シ此形勢ヲ此儘ニ見送ルト云フ
  コトデアルナラバ、兩國關係ノ窮極スル所
  ハ、想像スルニ決シテ難クハアリマセヌ、
  外務大臣ハ貴族院ニ於ケル質問ニ答ヘテ「ソ
  ビエト」聯邦ガ國際共產黨ノ存在ヲ許サズ、
  或ハ國外ニ放逐スルコトニナレバ、國際關
  係ハ明朗ニナルト言ハレテ居リマス、成程
  ソレモ國交改善ノ一ツノ條件ニハ相違アリ
  マセヌガ、併ナガラ日「ソ」關係ノ重點ヲ共
  產主義ノ宣傳ニ置クト云フコトデハ、當分
  兩國ノ關係ハ改善ノ見込ガナイト吾々ハ考
  ヘル(拍手)見込ガナイノミナラズ、此方策
  ヲ極端ニ押進メテ行クナラバ、我國モ遂ニ
  「イデオロギー」ニ依ル國際的對立ノ渦中
  ニ、捲込マレル危險ガアルト思ヒマス(「ヒ
  ヤヒヤ」拍手)共產主義ヲ排擊スルコトニ於
  テ、吾々決シテ人後ニ落チル者デハナイ、
  吾々ノミデハナイ、總テノ立憲國民ハ共產主
  義ニ與セズ、獨裁政治ヲ排擊シテ居リマス、
  ソレハ世界大戰ノ五箇年ノ經驗ニ見テ明カ
  デアルガ如ク、戰爭ノ困苦缺乏ニ堪ヘテ最
  後ノ勝利ヲ占メタ國ハ、悉ク立憲國家デアッ
  タカラデアリマス(拍手)私共ノ信念ニ依
  レバ我國ノ基礎ハ、共產主義ノ宣傳ニ依ッ
  テ危クサレル程ノ脆弱ナモノトハ考ヘマ
  セヌ(拍手)又日,兩國ノ關係ハ共產
  主義ノ問題ニ依ッテノミ左右サレル如キ、
  單純ナモノトモ思ハレマセヌ、共產主義以前
  ノ露西亞ト我國トノ間ニモ、日露戰爭ハ起ッ
  タノデス、之ヲ思ヘバ日「ソ」兩國ノ關係ハ、
  モット實際的ノ見地カラ打開ノ途ヲ講ゼナ
  ケレバナラナイモノデアルト信ジマス拍
  手)現ニ漁業問題、北樺太ノ油田問題、何レ
  モ國民生活ニ極メテ密接ナ關係ヲ持ツ問題
  ガ、吾々ノ前ニ山積シテ居ル今日、我ガ國
  民ハ冷靜ニ大局ノ上カラ兩國ノ關係ヲ整調
  スルコトヲ、希望シテ居ルト固ク信ジテ居
  ルノデアリマス
  第三ニ對支政策ニ關シテ御尋ヲ致シマス、
  日支關係ハ言フマデモナク我國死活ノ問題
  デ、サウシテ地理的條件ノ變化ガナイ限リ、
  日本ニ取ッテハ永遠ノ問題デアリマス、曩ニ
  廣田內閣ハ昨年九月ヨリ三箇月ノ日子ヲ費
  シテ、日支交渉ヲ行ヒマシタケレドモ、何
  ノ得ル所ナク終ッタ、詰リ日支交涉ノ失敗ハ
  廣田內閣倒壞ノ一大原因ヲ爲シタノデアリ
  マス、林內閣ハ其後ヲ承ケテ政局ニ立タレ
  タノデアル、隨テ何ヨリモ先ヅ日支交涉決
  裂ノ善後處分ヲ爲スベキ、當然ノ責任ヲ負
  ハレテ居ルト思ヒマス、ソコデ佐藤外務大
  臣ハ此日支關係ヲ何處ニ導カウウ云云御
  デアルノカ、特ニ此際政府ノ注意ヲ喚起致
  シテ置キクイ點ガアリマス、杉山陸軍大臣
  ハ二月二十七日ノ本議場ニ於テ、今尙ホ前
  內閣ノ對支三原則ヲ維持スルト明白ニ答辯
  シテ居ラレマス、又林總理大臣モ略〓之ニ類
  スル答辯ヲ與ヘラレテ居ルノデアリマス、
  然ルニ此度佐藤外務大臣ハ、日支共ニ平等
  ノ立場ニ於テ、新シイ出發點カラ見直スト
  聲明シテ居ラレル、是デハ林內閣ニ未ダ確
  固タル對支政策ガナイトノ結論ニ到達スル
  コトハ、已ムヲ得ナイノデアリマス(拍手)
  新シク出直スト外務大臣ガ言ハレタノハ、
  單ナル觀念論ニ過ギナイ、我ガ對支政策ノ
  全貌ヲ表現スル言葉トシテハ、甚ダ物足リ
  ナイ感ジヲ懷カザルヲ得ナイノデアリマス、
  隨テ國民ハ改メテモット具體的ナ政府ノ對
  支方針ヲ、表明シテ戴クコトヲ期待シテ居
  リマス、吾々ガ過去數年間主張シテ來タコ
  トハ、世界ニ對シテ我ガ大陸政策ノ限界ヲ
  示セト云フコトデアリマス、日本ハ何處マ
  デ來ルノカト云フコトガ、支那ノ大衆ノ懷
  イテ居ル不安デアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)
  日本ハ何處マデ行クノカト云フコトガ、吾
  吾國民ノ懷イテ居ル不安デアリマス(拍手)
  故ニ今日此點ヲ明白ニ決定スルコトガ、我
  ガ外交國策樹立ノ出發點ナリト考ヘルモノ
  デアリマス(拍手)最近政府ハ日支ノ經濟的
  協力ヲ力說シテ居ラレマスコトハ、吾々國
  民トシテハ洵ニ喜ンデ居ル所デアリマスガ、
  此經濟提携ヲ行フニハ、何ヨリモ先ニ日支
  兩國ノ間ニ蟠ル不安ノ空氣ヲ一掃シナケレ
  バナラヌト思フ、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ日支
  ノ政治的折衝ヲ有利ニ行フノデナケレバ、
  本當ノ經濟提携ハ行ハレ得ナイモノデアル
  ト考ヘルノデアリマス、又經濟提携ノ實行
  ニ際シテハ、從來ノ如ク政府ノ息ノ掛ッタ仕
  事バカリデナク、廣ク民間實業家ノ創意ヲ
  以テ、日支經濟界ノ本當ノ提携ヲ圖ルベキ
  モノデアルト吾々ハ考ヘル(拍手)政府ハ此
  點ニ付テ如何ナル見解ヲ持ッテ居ラレルカ、
  伺ヒタイノデアリマス、元來今日マデ日支
  兩國ノ協力ガ豫想ノ如クニ進捗シナカッタ
  ト云フ原因ハ、一方ニハ平和的ノ努力ヲシナ
  ガラ、他方ニハ之ヲ破壞スルガ如キ行動ガ、
  白晝公然ト行ハレテ居ッタ爲メデアル(拍
  手)國民ガ外交一元化ノ必要ヲ痛感シタト
  云フコトハ、固ヨリ當然デアルト思ヒマス
  (拍手)私ハ玆ニ一ツノ例ヲ申上ゲル、日支
  交涉ガ南京ニ行ハレツヽアッタ其眞最中ニ、
  緩遠事件ガ白熱點ニ達シタ、日支交渉ハ之
  ヲ契機トシテ立往生ジタコトハ御承知ノ通
  リデアリマス、其當時ノ支那ノ新聞ヲ披イ
  テ見レバ、此事件ガ如何ニ支那民衆ノ結束
  ヲ鞏固ニシタカハ一見シテ明白デアリマス、廣
  東ノ刑務所ニ於テハ、獄ニ繫ガレタル多クノ
  囚徒ガ、食フ物ヲ食ハナイデ、之ヲ緩遠軍ニ
  獻金シテ居ルノデアリマス、斯樣ニ日支關係ニ重
  大ナ波紋ヲ與ヘタ事件ガ、我國ニ於テハ、我
  國ニ於テノミ其眞相ガ掩ハレテ、國民ハ五里
  霧中ニ彷徨シテ居ッタ(拍手)ケレドモ事件
  ノ眞相ハ知ル人ゾ知ル、私ハ遡ッテ過去ノ事
  實ヲ咎メヨウト云フノデハアリマセヌ、ケ
  レドモ將來、少クトモ將來斯ノ如キ過チヲ
  再ビ繰返スコトノナイヤウニ、嚴重ニ警メ
  ナケレバナラヌト考ヘテ居リマス(拍手)佐
  藤外務大臣ハ日支兩國ハ平等ノ立場ニ立ツ
  テト申サレタ、言換ヘレバ與ヘテ取ルト云
  フコトデアリマス、日支關係ノ整調ニハ大
  局ノ上カラ見テ、共存共榮ノ具體的政策ヲ
  用意シナケレバナラヌノデアリマスガ、從
  來ト雖モ我國ニ若シ明敏ナル政治家ガアッタ
  ナラバ、支那ヲ援助スル機會ハ屢〓捉ヘル
  コトガ出來タ筈デス、一昨年ノ幣制改革ニ
  於テモ、昨年ノ西安事件ニ於テモ、絕好ノ
  機會ヲ眼前ニ見ナガラ、之ヲ逸シ去ッテ、徒
  ニ支那ヲ歐洲諸國ノ懷ロノ中ニ飛込マシテ
  シマック、林內閣ハ果シテドノ程度マデ支那
  ト協力スル具體的ノ案ヲ持ッテ居ルノデア
  ルカ、又我ガ大陸政策ノ眼界ヲ明白ニ表明
  スルダケノ決心ヲ持ッテ居ラルヽカドウカ、
  此點ヲ伺ヒタイノデアリマス
  最後ニ私ハ外交國策ノ根本ニ付テ、私ノ
  卑見ヲ申述ベテ政府ノ所信ヲ伺ヒタイト存
  ジマス(「緊急質問」ト呼フ者アリ)近頃我國
  ノ外交ガ八方行詰リノ狀態ニアルコトハ、
  吾々國民ノ齊シク憂トスル所デアリマス、
  何ヲ以テ我國ノ外交ガ行詰ッタト言フノカ、
  今日ノ外交ハ不幸ニシテマルデ機動ノ自由
  ヲ失ッテ居ル、支那ニ對シテモ、「ソビエトL
  ニ對シテモ、或ハ又英米ニ對シテモ相手
  ノ思フ儘ニ引摺ラレテ、此方ハ手ヲ拱イ
  テ呆然トシテ居ル形デアリマス、今日迄歷
  代ノ政府ハ外交ノ自主積極ノ看板ヲ揭ゲテ
  居ッタケレドモ、積極政策ノ如キハ實ハ藥ニ
  シタクモ見當ラナカッタ、其間ニ周圍ノ情勢
  八位で、惡化シテ、何時ノ程ニカ日本包圍ノ
  網ハ隈ナク張廻サレテシマッタ、此孤立ノ形
  勢ニ焦慮シタ廣田內閣ハ、僅ニ獨逸トノ協
  定ニ依ッテ世間體ヲ糊塗シヨウト努メタノ
  デアリマス、斯樣ニ歷代政府ノ其日暮シノ
  政策ニ依ッテ或國ハ洵ニ全面的ノ行詰リニ
  當面シテ居ル、行先ハ戰爭カ平和カト云フ
  岐路ニ立ッテ、國民ハ等シク不安ノ中ニ迷ッ
  テ居ルノデアリマス、林內閣ハ此難局ヲ切
  拔ケルニ付テ、一層其責任ノ重大ナルコト
  ヲ痛感セラレナケレバナラヌ、端的ニ申セ
  バ今日我國ノ禍ハ、國民ガ進ムベキ明白ナ
  ル目標ガ示サレテナイト云フコトデアリマ
  ス(拍手)迷ッテ居ル民衆ヲ指導スベキ强イ
  力ガ無イト云フコトデアリマス、國內ノ政
  治ニ强力ナル中心ガナイガ如ク、外交國策ニ
  於テモ指導精神ヲ失ッテ居ルト思ヒマス、時
  ハ非常時デアルト言ヒ、國防ノ充實ハ一日
  モ忽セニスベカラズト言ヒツヽモ、其目標
  ハ何處ダト問ヘバ、或ル者ハ黑龍江ノ風雲
  急ナリト答ヘ、或ル者ハ太平洋ノ波高シト
  答ヘル、斯樣ニ國論ガ區々ニ岐レテ、國民
  ハ四方八方ニ精力ヲ分散シテ居ル、國民ノ
  多數ハ其嚮フベキ所ニ迷ッテ居ル、而モ外部
  ノ情勢ハ目ニ見エナイ力ヲ以テ、日一日ト
  我國ニ迫ッテ來テ居ル、是ガ現狀デアリマス、
  固ヨリ吾々ハ我ガ民族ノ將來ニ十分ノ確信
  ヲ持ッテ居ル、ソレ故ニコソ吾々ハモット落
  著イテ確乎タル國策ヲ定メテ、此國策ニ向ツ
  テ精力ヲ集中シナケレバナラナイト主張ス
  ルノデアリマス(拍手)例ヘバ日本ガ全精力
  ヲ傾注スベキ滿洲國ニ付テモ、今日ノ狀態
  デ果シテ安心ガ出來ルノカ、多クノ點ニ付
  テ出直サナケレバナラナイ問題ヲ控ヘテ居
  ルノデハナイカ、滿洲國ノ發達、强化ノ爲
  ニ政府ハ全日本ノ智能ト財力トヲ動員スベ
  キデハナイカ、是等ノ問題ハ國民ノ等シク
  聽カント欲スル點デアリマス、併ナガラ滿
  洲國ノ指導ニ精力ヲ集中スル爲ニハ、國力
  ヲ八方ニ分散スルコトハ嚴ニ戒メナケレバ
  ナラヌ、殊ニ領土的野心ヲ以テ長城ノ外ニ
  武力ヲ行使スルガ如キハ、斷ジテ戒メナケ
  レバナラヌト思ヒマス(拍手)勿論平和的發
  展ノ爲ニハ五大洲到ル處ニ、堂々トシテ進
  出スル政策ヲ立ツベキデアル、吾々ノ前
  ニハ日本ノ輸出貿易ヲ阻害スル爲ニ、幾多
  ノ障碍ガ加ヘラレテ居リマス、ソレニモ拘
  ラズ過去數年ニ亙ッテ、我國ノ對外貿易ハ躍
  進ニ躍進ヲ重ネテ來タ、故ニ政府ハ此際宜
  シク通商自由ノ大旆ヲ揭ゲテ邁進スベキデ
  アル、正義ト公平ノ精神ノ下ニ、世界資源
  ノ公開ヲ主張シテ、一段ト積極的ナ努力ヲ.
  爲スベキデアルト考ヘマス(拍手)是ダケノ
  氣魄サヘモ持合セノナイ爲ニ、北支ノ密輸
  入ニ片棒ヲ擔グガ如キ疑ヲ受ケテ、八方陳
  辯ニ是レ努メタノハ、國民ノ今尙ホ深ク遺憾
  トスル所デアリマス(拍手)林內閣ハ國體明
  徵ヲ其政策ノ劈頭ニ揭ゲテ居ラレル、其精
  神ハ恐ラク正義ノ國家ヲ打樹テルト云フ御
  趣意デアリマセウ、日本ハ未ダ曾テ武力ヲ
  以テ世界ヲ征服シヨウナドト考ヘタコトハ
  アリマセヌ、日本精神ハ正義ヲ以テ世界ニ
  臨ムコトヲ本質トスルノデアル、若シ林總
  理大臣ノ言ハレル祭政一致ト云フ言葉ガ、
  此正義國家ノ建設ヲ意味スルノデアルナラ
  バ、吾々モ亦之ヲ支持スルニ決シテ吝デナ
  イト云フ意ヲ表明シテ私ノ質問ヲ終リマス
  (拍手)
  〔國務大臣佐藤尙武君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=85

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• 086・佐藤尚武

  ○國務大臣(佐藤尙武君)　諸君、本日ハ鶴
  見君竝ニ芦田君ヨリ熱誠ヲ籠メテ、此重要
  ナル時期ニ際シマシテ、日本ノ外交ノ根本
  ハ何處ニアルカト云フコトニ付テ、該博ナ
  ル御議論ヲ拜聽シタノデゴザリマス、之二
  對シマシテ御答ヲスルト云フコトハ、短イ
  時間デ果シテ出來ルカ、可ナリ困難ナ程重
  要ナ問題デゴザリマス、併ナガラ此議場ニ
  是ダケノ議員諸君ガオ居デニナリマシテ、
  而シテ是等ノ重要ナル諸問題ニ關シテ、政
  府ノ意向ヲ御聽質シニナリタイト云フ其御
  考ハ洵ニ御尤ナコトデゴザリマス、私自身
  自分ノ出來ルダケノ力ヲ以チマシテ御說明
  ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、先ヅ事
  ノ順序ト致シマシテ、私ハ兩君ノ質問ノ諸
  點ヲ擧ゲマシテ、而シテソレニ付キ一々御
  答辯申上ゲタイト思ヒマスル、併シ問題ガ
  問題デゴザリマシテ、又兩君ノ御話モ可ナ
  リ似寄ッタ所ガゴザリマスルカラ、或ハ一括
  御返事ヲ申上ゲルト云フコトガアルカモ知
  レマセヌ
  先ヅ鶴見祐輔君ノ第一問デアル歐洲ノ政
  情ニ關シテノ御見解デアリマスルガ、歐洲
  ニハ果シテ戰爭ガ勃發スルヤウナ危機ガ、
  其處ニ存在シテ居ルノカドウカト云フコト
  ニ付キマシテハ、私ハ或ハ樂觀論者デアル
  カモ知レマセヌケレドモ、成程國際間ノ關
  係ハ頗ル逼迫シテハ居リマス、ケレドモ其
  逼迫其モノガ果シテ戰爭ヲ誘致スル性質ノ
  モノデアルカドウカト云フコトニ付キマシ
  テハ、私ハ多大ノ疑問ヲ持ッテ居リマス、成
  程戰爭ノ危險ハアルカモ知レナイ、各國ガ
  軍備ヲ是程蓄ヘテ、國境相接シテ居ル今日
  ニ於キマシテ、戰爭ノ危險ガ絕對ニナイトハ
  誰モ言ヘマスマイ、併ナガラ戰爭ト云フモ
  ノハ、果シテソレ程簡單ニ勃發スルモノデ
  ゴザイマセウカ、私ハサウデナイト云フ大
  キナ信念ヲ持ッテ居リマス、何トナラバ戰爭
  ノ勃發ヲ防止スル力ガ、又ソコニ反對ニ
  湧イテ來ツヽアルカラデアリマス、是ハ國
  際間ノ輿論デゴザイマス、輿論ノ力、ソレ
  ハ平和ヲ欲シテ居リマス、此輿論ノ力ヲ認
  メナイト云フコトハ、私ハ間違ッテ居ルト思
  ヒマス、日本モ併ナガラ戰爭ノ勃發スル危
  險ノ有ル無シニシロ、現在ノ問題トシテ、
  經濟上デハ各國ノ關係ハ是程逼迫シテ居ル
  ヂヤナイカ、各國皆國家經濟主義ヲ採ッテ、
  自國ノ安立ヲノミ是レ事トシテ居ル、斯ウ
  云フ狀態ニ於テハ、國際間ノ關係ガ惡化ス
  ル一方デアル、成程其通リデアリマス、故
  ニ進ンデ日本モ自存ノ爲ニ必要デアルナラ
  バ、滿洲其他ノ經濟上ノ所謂「ブロック」ヲ
  拵ヘテ、ソシテ此大勢ニ當ルベキデアルト
  云フ御說ヲ、鶴見君カラ承ッタト思フノデア
  リマスルガ、洵ニ御尤ナコトト思ヒマス、
  但シ果シテ現在ノ狀態ハ其處マデ行ッテ居
  ルカドウカ、私ハサウハ思ヒマセヌ、サウ
  云フ經濟上ノ「ブロック」ヲ拵ヘルト云フコ
  トハ、是ハ切羽詰ッタ時ノ話デアッテ、現在
  ニ於テハ、少クトモ日本其モノノ生存ヲ開
  拓スベク、吾々ハマダ〓〓突進シ、且ツ努
  力ヲシナケレバナラヌ方面ガ澤山アルト思
  フノデアリマシテ、ソレ等ガ總テ不成功ニ
  終ッタ時ニ、初メテサウ云フコトモ〓究サル
  ベキデアルト思ヒマス
  ソレカラ進ンデ祕密外交ニ付テノ御考ガ
  アリマシタ、成程外交其モノハ國家ノ外交
  デアリマシテ、國民ガ其內容、外交ノ趨向
  ヲ知リタイト云フ希望ニ充チ滿チテ居ルノ
  ハ、是ハ極メテ諒解シ易イ所デアリマシテ、
  又今日ノ外交ニ於キマシテハ、國民ノ背景
  ナシニ、輿論ノ支持ナシニ外交ト云フモノ
  ハ行ハレルモノデナイ、ソレハ何人モ異存
  ノナイ所デアリ、又サウナクテハナラヌ所
  デアリマスル、併ナガラ國民ガ知ラント欲
  スル所ト、國家ノ利益ヲ如何ニ調和スルカ
  ト云フコトガ、私ハ最モ困難ナル問題ト
  思ッテ居リマス、成程國民ハ一日モ早ク知リ
  タカラウ、併シ之ヲ知ラサンガ爲ニ、外交
  ノ內容ヲ發表スルト云フコトガ、若シ其時
  ノ情勢ニ於テ、國家ノ利益デナカッタトシ
  タナラバ如何デゴザイマスカ、私ハ已ムヲ
  得ズ國家ノ利益ヲ先ニシテ、而シテ或ル解
  決ニ到著シタ場合ニ、初メテ國民ヲシテ知
  ラシメルト云フ外ハナイダラウト思ヒマ
  ス、而シテ外交ト云フモノニハ、ソレデハ
  祕密ハ絕對ニ必要ハナイノカト申シマスル
  ト是ハサウデハナイノデアリマシテ、例
  ヘバ個人々々ノ談判ニ於キマシテモ、亦ハ
  商談ニ於キマシテモ、祕密ハ常ニ伴ッテ居
  リマス、前以テ自分カラ先ニ斯ウ云フ手デ
  オ前ト談判スルノダ、斯ウ云フ內容デ以テ
  オ前ト話ヲスルノダ、商談ヲ進メルノダト
  ハ、誰モ申シマスマイ、私ハ國家ノ利益ヲ
  最モ多ク代表スル所ノ此外交ニ於キマシテ、
  前以テ自分ノ手ヲ公開スルト云フコトハ有
  リ得ナイト思フノデアリマス、總テ私ハサ
  ウ云フ場合ニ國家本位デ考ヘタイノデアリ
  マシテ·····
  〔發言スル者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=86

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• 087・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=87

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• 088・佐藤尚武

  ○國務大臣(佐藤尙武君)(續)　果シテ國民
  ニ或ル時期ニ之ヲ發表スルカドウカト云フ
  コトハ、總テ其時ノ情勢ニ依ッテ考フベキモ
  ノダト云フコトヲ附言シテ置キマス
  進ンデ日獨協定ノ問題ニ付テ御質問ガゴ
  ザイマシタ、本協定ハ御承知ノ如ク世界革命
  ヲ目的トシテ居ル「コミンテルン」ト云フモノ
  ノ破壞工作ニ對シテ、共同防衞ヲ爲スヲ本旨
  トスルト云フコトハ、旣ニ明白デアリマス、
  締約國ノ國家ノ體裁若クハ國政ノ運用トハ、
  何等ノ關係ノナイ問題デアリマシテ、申ス
  迄モナク帝國ハ萬邦無比ノ獨特ナル國體ヲ
  有スルモノデアリマスカラ、帝國ガ所謂
  「ファッショㄴノ「ブロック」ニ參加シテ、共和國、
  民主國ニ對抗スルト云フガ如キコトハ、ソ
  レ自體全ク意味ヲ成サナイ所デアリマス、
  本協定ハ「ファッショ」國タルト、民主國タルト
  ヲ問ハズ「コミンテルン」ノ脅威ヲ感ズル一
  切ノ國ノ參加ヲ認メテ居ルノデアリマス、
  又特定國ニ對抗セントスルモノデハアリマ
  セヌ、デアルカラ之ニ依ッテ他國トノ友交
  關係ガ害セラレルベキ筋ノモノデハナイト
  心得マスル、尤モ此點ニ付キマシテハ、可
  ナリノ誤解ガ伴ッタノデアリマスルガ、今日
  ニ於テハ大分左樣ナ誤解モ解ケタト見受ラ
  レマスルシ、隨テ本協定ニ依ッテ我國ガ古
  イ友邦ヲ失ッタトハ考ヘテ居リマセヌ、尙
  ホ今後モ一層此問題ニ付キマシテ、對外啓
  發ニ意ヲ用ヒルト共ニ、各方面ニ於ケル帝
  國ノ現實ノ行動ニ依リマシテ、右誤解ノ一
  掃ヲ期スルト云フコトヲ考ヘテ居ルノデア
  リマス、此協定ノ目的ガ只今申上ゲタヤウ
  ナ次第デゴザリマスルカラシテ、本協定ノ
  爲ニ我國ガ直接歐洲ノ政局ニ捲込マレルト
  云フ虞ハ、私共ハ一ツモ持ッテ居ナイノデア
  リマス
  更ニ進ミマシテ日支間ノ問題ニ付テ御說
  明ヲ申上ゲタイト思ヒマス、是ハ鶴見君ノ
  御質問ニ答ヘルノデアリマシテ、更ニ後段
  デハ芦田君ノ御質問ニモ亦御答スルコトニ
  ナルト思ヒマス、滿洲問題ニ對シテ、果シ
  テ政府ハ之ヲ日支間ノ交涉ニ於テ、又再ビ
  問題トスルヤウナコトガアリハスマイカ、
  若クハ接壤國トノ治安ニ關シテ、日本ハ可
  ナリ大キナ利害關係ヲ持ッテ居ルガ、ソ
  レハドウスル積リデアルカ、更ニ進ンデ
  ハ支那ノ再建ト云フコトニ付テ、日本ハ
  積極的ニ援助スル考ハナイカト云フヤウ
  十、重要ナ點ニ付テ御質問ガアッタノデ
  アリマス、固ヨリ滿洲國ノ儼トシテ存
  在シテ居ル今日ニ當リマシテ、而シテ又其
  滿洲國ニ關シテハ、歷史的ノ緊密ナル關係
  ヲ持ッタ日本トシマシテ、日支間ニ再ビ交渉
  ガ始マッタトシマシテモ、私共ハ此滿洲國ノ
  問題ニ關シマシテ、之ヲ再ビ兩國ノ問題ト
  シテ取扱フ意思ハ一ツモ持合セハゴザイマ
  セヌ、接壤國ノ地方ニ關スル權益、之ヲ又
  如何ニシテ擁護スベキヤ、是亦私共ノ緊密
  ニ考ヘテ居ル所デゴザイマシテ、而シテ是
  モ亦如何ニ支那トノ間ニ協定スベキヤト云
  フコトニ付テモ、勿論愼重ナル考ヲ以テ攻
  究シテ居ルノデアリマス、支那ノ再生ニ關
  スル積極的ノ援助、是亦政府ト致シマシテ、
  何等問題トスル必要ナシト考ヘテ居ルノデ
  アリマシテ、ソレハ卽チ積極的ニ支那ガ統
  一ヲシ、且ツ再生セントスル其運動ニ對シ
  マシテハ、吾々ハ勿論滿腔ノ同情ヲ持ッテ之
  ヲ見、且ツ出來ルダケノ援助ヲシタイ、又
  シナケレバナラヌト云フ風ニ考ヘテ居リマ
  ス
  最後ニ鶴見氏ノ御話ハ、亞米利加トノ關
  係デアッタト思フノデアリマス、種々有益ナ
  ル御意見ノ御陳述ガアリマシテ、私共モ傾
  聽シタノデアリマス、帝國トシマシテハ、
  中支及ビ南支ニ對シテ門戶開放主義ヲ、依
  然トシテ持スルコトハ當然ナコトデアリマ
  ス、又我國トシテハ支那全土ニ亙ッテ、其主
  義ヲ尊重シテ行カウト云フ決心デアリマス
  ル、亞米利加トノ關係ハ、窮極ノ所對支政
  策ニ關スル問題デアルト云フ御意見モ、全
  然御同感デゴザイマス、若シ日本ノ對支政
  策ナルモノガ、極メテ公明正大ナル基礎ニ
  築カレテ、米國ノミナラズ、各國ニ對シテ
  之ヲ公開シテ何等恥ヅル所モナク、又何等
  遲疑スル所モナイ、サウ云フ政策デアリマ
  シタナラバ、私ハ亞米利加ガ特ニ日支間ノ
  關係ニ關心ヲ持ツ必要ハナクナル筈デアリ
  マシテ、斯クシテ初メテ日米間ノ關係ガ全
  然常道ニ上ッテ、何等ノソコニ蟠リガナク、
  極メテ明朗ナル國際關係ニ入ルコトガ出來
  ルト云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマス、私
  ガ過日貴族院デ述ベマシタ平等論ニ關シテ
  ハ、鶴見君ハ、是ハ抽象的ノ議論デアル、
  是デハ單ニ如何ナル態度ヲ以テ臨ムカト云
  フコトガ言ヒ現サレタダケデアッテ、實際上
  ノ問題ニ關シテハ何等觸レテ居ラナイ(「其
  通リ」ト呼フ者アリ)其通リデアリマス、併
  ナガラ私ノ欲シマシタ所ハ、日支關係ガ可
  ナリ此數年來停頓シテ居リマシテ、其間ニ
  打開ノ〓ヲ見出スコトガ不幸ニシテ今日マ
  デ出來ナカッタ現狀ニ於キマシテハ、何等カ
  交涉再開ノ爲ニ土臺ヲ拵ヘル、若クハ雰圍
  氣ヲ拵ヘルト云フコトガ必要デアルト云フ
  風ニ考ヘタノデアリマシテ、而シテ其爲ニ
  ハ私ノ申述ベタ此極メテ平凡ナル考ガ、其
  土臺ノ根本デナクテハナラヌト云フ風ニ私
  ハ信ジテ居ルノデアリマス、而シテ此極メ
  テ陳腐ナル考サヘモ、亦玆ニ改メテ申述ベ
  ナケレバナラナイト云フ程、日支關係ガ停
  頓シテ居ッタト云フコトハ、洵ニ悲シムベキ
  コトダト思フノデアリマス、私ハ此土臺ニ
  立チマシテ、而シテ虛心坦懷支那ノ責任者
  ト話スコトガ出來タナラバ、或ハ互ニ〓ヲ
  見付ケ、徐々ニ進ンデ行クト云フコトガ出
  來ハシナイカト云フ風ニ思フノデアリマシ
  テ、私ハ現在ノ所其方針デ進ム外ナイト信
  ジテ居ルノデアリマス
  更ニ平等論ヲ唱ヘテ、而シテ其裏面ニ非
  常ニ大キナ心配ハナカラウカ、今迄サウ云
  フ關係デハナカッタノニ、一朝平等ノ立場ニ
  立ツトスレバ、其結果ハドウデアラウカト
  云フコトニ付テノ御心配ガアリマシタ、私
  ハ其懸念ハ絕對ニナイトハ申シマセヌケレ
  ドモ、若シ吾々ノ方策トシテ支那ニ臨ム、
  其方策ガ極メテ公正ナモノデアッテ、又吾々
  ノ有スル權益ヲ擁護スベキ最小限ノ註文デ
  アッタナラバ、私ハ之ヲ天下ニ示シテ、支那
  ト交涉スルニ當リマシテ何等遲疑スル必要
  ハナシ、又其最小限ノ註文ヲ吾々ガ死守ス
  ルト云フコトモ、決シテ無理ナコトデハナ
  ク、列國カラ見マシテモ當然ノコトデナケ
  レバナラナイト思フノデアリマス、斯クシ
  テ初メテ吾々ノ態度ハ鮮明ニナリ、支那ニ
  乘ゼラレル虞モナクナルト思フノデアリマ
  シテ、若シ其交涉サヘモ不調ニ終ルナラバ、
  吾々ハ已ムヲ得ズ其相手國ノ態度ガ變ルマ
  デ忍耐ヲ以テ、此儘維持スル外ハナイト思
  フノデアリマス
  〔發言スル者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=88

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• 089・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　靜肅ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=89

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• 090・佐藤尚武

  ○國務大臣(佐藤尚武君)(續)　次ニ芦田君
  ノ質問ニ移リマス、國防ト財政ト外交ノ調
  和ノ必要ガアルト思フガ、ドウデアルカト
  云フ御質問デアリマス、國防ハ之ニ關スル
  財政及ビ外交トガ、渾然一體ヲ成シテ、國
  策ノ遂行ニ當ラナケレバナラヌト云フコト
  ハ、當然ノ御說ト思ヒマス、申スマデモナ
  ク政府ハ國際關係ヲ改善シテ、一層之ヲ明
  朗ナラシメル爲ニ、外交上最善ノ努力ヲ爲
  ス考デアリマス
  次ニ日「ソ」關係ニ付テ種々ノ御質問ガゴ
  ザイマシタ、私ハ之ニ關シテ一括御答シ
  タイト思フノデアリマス、去ル八日私ガ貴
  族院デ御話シマシタ、其中ニ「ソビエト」聯
  邦ノ中ニ、所謂「コミンテルン」ナル特殊ノ
  〓體ガ存シテ居ラナカッタナラバ、日「ソ」間
  ハ固ヨリ、「ソビエト」ト諸外國トノ關係
  ハ、餘程明朗ニナルダラウト申シマシタ、
  之ニ對シテ「ソ」聯ハ-是ハ無意味ナコト
  ヲ言ッタモノデアル、「コミンテルン」ガ「ソ
  ビエト」聯邦内カラ去ッテシマフ如キハ、到
  底行ハレザル問題デハナイカ、隨テ其解消
  若クハ退去ヲ待ッテ居ルヤウデハ、「ソビエ
  トレトノ國交改善、若クハ各般ノ問題解決
  ノ如キハ、百年河〓ヲ俟ツガ如シト言フ人
  モアリマス、或ハ又日「ソ」間ノ諸問題ハ、
  右ノヤウナ强力ナ特殊團體ガ存在スルト否
  トニ拘ラズ、兩國間ノ問題トシテ殘存スル
  モノデアッテ、日本ハ其圓滿ナル解決ヲ欲求
  シテ居ルモノデアル、其解決ガ日本ニ取ッテ
  ハ必要ナノデアルト云フヤウナ批判ガ唱へ
  ラレマシタ、私モ此批評ハ確ニ當ッテ居ル
  ト思ッテ居リマス、併シ私ノ所論ハ是等ノ觀
  念ヲ全然排除シテ申述べタノデハナイノデ
  アリマス、此「コミンテルン」ナル特殊ナル
  團體ガ存在スルガ爲ニ、「ソビエト」ノ隣國
  モ之ニ對シテ特殊ナル考量ヲ拂ハザルヲ得
  ナイノデアリマス、此「コミンテルン」ナル
  團體ガ世界的運動ヲ目途トシテ居リマスル
  以上、之ニ依ッテ危險ヲ感ズル諸國ハ、勢ヒ
  國際的手段ヲ以テ防護方法ヲ講ゼザルヲ得
  ナイト云フコトモ、當然ナコトト思ヒマ
  ス、而シテ是等ノ國際的防衞ヲ講ズルニ於
  キマシテ、其處ニ種々ノ猜疑、危懼ガ生ズ
  ルト云フコトモ、現時ノ國際關係ニ於キマ
  シテハ巳ムヲ得ナイ所デゴザイマスル、日
  獨協定ノ如キハ、正ニ以上ノ道程ヲ辿ッテ出
  來タモノデアリマス、又其結果トシテ只今
  申述べマシタヤウナ猜疑心、若クハ危懼ノ
  念ヲ齎ラシタノデゴザイマス、斯ク論ジテ
  參リマスレバ、「コミンテルン」ナルモノノ
  存在ガナカッタナラバ、防共協定ナドト云フヤ
  ウナモノヲ考ヘル必要モナカッタモノデア
  リマシテ、隨テ同協定ノ結果、日「ソ」ノ間
  ニ起キタル誤解ナドモ避ケ得タ筈デアリマ
  ス、卽チ日「ソ」ノ間ノ關係ハ、モット能ク明
  朗デアリ得タノデアリマセウ、併シ防共協
  定其モノハ、洵ニ日「ソ」間ノ國交ノミカラ
  見マスレバ、不幸ナ出來事デアッタニ相違ア
  リマセヌ、ガ斯ウ云フ〓體ノ存在シテ居ル
  以上、洵ニ已ムヲ得ナカッタ所ト申ス外ハ
  ナイノデアリマス、偖テ日「ソ」ノ間ニハ現
  ニ懸案トシテ存在スル諸種ノ問題ガアリマ
  ス、サウ云フ懸案ノ解決、又ハ國交ノ調整
  改善ノ必要ニ至リマシテハ、我ガ帝國トシマシ
  テモ全力ヲ盡サナケレバナラナイコトハ、日
  「ソ」兩國ガ境ヲ接シテ存在シテ居ル以上、
  私カラ申セバ當然過ギル程當然ノコトデア
  リマシテ、是ハ「コミンテルン」ナルモノノ
  存在ト否トニ拘リマセズ、政府トシテ當然
  試ミルベキ要ノアル問題デアリマシテ、此
  點ハ慥カ芦田君モ左樣ニ仰セラレタト思
  ヒマス、全然御同感デゴザイマスル、又
  私モ其決心ヲ以テ是カラ事ニ當リタイト考
  ヘテ居リマスル、而シテ之ヲ過去ノ事實ニ
  徵シテ見マスレバ、昭和元年北京デ締結セラ
  レマシタ芳澤「カラハン」協定ト云フモノガ
  ゴザリマスルガ、其結果「シベリヤ」出兵「ニ
  コライエフスク」等ノ悲慘ナル事件ガアッタ
  後ヲ承ケテ、尙且ツ「ソビエト」ト日本トノ
  國交ハ完全ニ恢復シマシタ、數年ニ亙ッテ敦
  厚ナル交際ヲ續ケルコトガ出來タノデアリ
  マス、私ハ「ソビエト」國人ト、日本人トノ
  間ニハ感情上一脈ノ相通ズルモノガアルト
  云フ風ニ考ヘテ居リマスルノデ、今後モ兩
  國ノ當局者ニ於テ虛心坦懷ニ平和ヲ欲シ、
  誠意ヲ以テ事ニ當リマシタナラバ、十二年
  前ノ先例ヲ繰返スト云フコトハ決シテ不可
  能ノコトデハナイト云フ風ニ存ジテ居リマ
  ス(「ヒヤ〓〓」)
  對支政策ニ關シマシテ、芦田君ハ、何カ
  林總理、杉山陸相ト私トノ間ニ、其言フ所
  ハ必シモ一致シテ居ナカッタ、隨テ林內閣ニ
  ハ確固タル對支政策ヲ認メ得ナイ虞ガアル
  ト云フ御質問デアリマスル、先日私ガ貴族
  院デ對支政策ヲ新ナル立場カラ見直シタイ
  ト云フコトヲ申述ベマシタ、其問題ニ付キ
  マシテ、右ハ總理及ビ陸相ノ答辯ト一致シ
  テナイヤウニ見受ケルト云フ御議論デゴザ
  イマスルガ、私ハ帝國ノ對支根本方針ニ付
  テ別段變更ノ要ヲ認メテ居ル者デハアリマ
  セヌ、唯從來ノヤリロニ付テ再檢討ヲ行ヒ
  タイト思ッテ居ルノデアリマス、私ノ所言ト
  總理竝ニ陸相ノ所言トノ間ニハ、其結果ト
  シマシテ何等不一致ノ點ガアルトハ在ジテ
  居リマセヌ、私ノ考デハ、前內閣ノ主義若
  クハ原則ト云フモノハ吾々ノ到達スベキ目
  的ヲ示シタモノデアッテ、其目的地ニ達スル
  迄ノ行キ方ハ色々アルト思ヒマス、私ハ其
  點ニ重キヲ置キマシテ、平等互惠ノ立場ニ
  立ツテ、支那ノ心配スル所モ聽キ、又吾々ノ
  緊密トスル權益ニ關スル主張モ十分ニ聽イ
  テ貰ッテ、最小限ノ要求ニ對シマシテハ、吾々
  ハソレヨリ一步モ退クコトガ出來ナイト
  云フ立場ヲ執ッテ進ミタイト云フ風ニ思フノ
  デアリマスル
  最後ニ外交ノ國策ノ根本方針ニ付テ政府
  ノ所見ヲ御質問ニナリマシタ、成程我國ハ
  現時ノ狀態ニ於テハ或ハ八方塞リノヤウニ
  見エルカモ知レマセヌ、又芦田君ノ言ハレ
  ル所デハ、現時ニ於テハ平和カ戰爭カト云
  フ岐路ニ立ッテ居ッテ、國民ハ迷ッテ居ルト云
  フ御說デゴザイマシタ、日本內地デ當時能
  ク唱ヘラレタ言葉デアリマスルガ、三十五
  六年ノ危機ト云フコトガ常ニ人ノ口ニ上ツ
  タノデアリマス、三十五六年ヲ經テ、而シ
  テ現今カラ之ヲ顧ミテ見マスルト、果シテ
  ドウデアッタカ、危機ト云フ言葉ハ何ヲ言現
  ハスカ、若シ其危機ナル言葉ガ戰爭ヲ意味
  シテ居ッタト云フコトデアレバ、私ハ當時、
  三十五六年ニ至ッテモ戰爭ハナイ、隨テ其意
  味ノ危機ナラバ有リ得ナイト云フ風ニ考ヘ、
  又當時日本ヘ歸ッテ居リマシテ、各方面デ其
  御話ヲ致シマシタ、若シ又其危機ナル言葉
  ガ國際關係ノ逼迫デアルト云フ意味ニ解ス
  ベキモノナラバ、ソレハ三十五六年ヲ待タ
  ズ、滿洲事件以來常ニ日本ハ危機ニ瀬シテ
  居ルノデアル、併シソレハ日本バカシノ特
  殊ノ問題デハナイ、歐羅巴ニ於テハ每日危
  機デアリマス、國ト國トノ境ヲ接シ、飛行
  機ノ如キハ一二時間ヲ爭フト云フ、サウ云
  フ地理的狀況ニ於テ、國際間ノ關係ニ融和
  ヲ缺キ、互ニ軍備ヲ整ヘテ居ルト云フ今日
  ニ於テハ、其危機ハ每日每時刻ニ存在シテ
  居ルノデアリマシテ、何モ日本ニ限ッテソレ
  ヲ氣ニ病ンデ、焦躁ナ氣分ニナルト云フ必
  要ハ一ツモナイト云フコトヲ私ハ申上ゲマ
  シタ(拍手)其後三十五六年ヲ經テ、今現在
  三十七年ニナッテ之ヲ考ヘテ見マスルノニ、
  私ハ國際間ノ危機ト云フモノヲサウ云フ意
  味ニ解スルナラバ、而シテ又戰爭ト云フモ
  ノガ眼ノ前ニブラ下ッテ居ルト云フヤウナ意
  味ニ解スルナラバ、私ノ申シマシタコトガ
  理窟ガアッタト云フ風ニ感ズルノデアリマス、
  私ハ日本國ノヤウナ國柄ハ、出來ルダケ國
  民ヲ落著ケテ、此焦躁氣分ヲナクスト云フ
  コトガ最モ必要ナコトト思ヒマス(拍手)勿論
  其爲ニハ國策ト云フモノヲ立テマシテ、之
  ヲ明ニシ、國民ノ歸趨ヲ示ス、國民ノ赴ク所
  ヲ示スト云フコトガ必要デアルノモ全ク御
  名論ダト思ヒマスル、私ハ國民ニ斯ウ云フコ
  トヲ諒解シテ貰ヒタイト思フノデアリマス、
  本當ノ意味ノ危機、詰リ戰爭ノ勃發ト云フ
  意味ノ危機、日本ガ之ニ直面スルノモ、シ
  ナイノモ、私ハ日本自體ノ考へ如何ニ依ッテ
  決ルノデアルト云フ風ニ考ヘルノデアリマ
  ス(拍手)若シ自分ガ其意味ノ危機ヲ欲スル
  ナラバ、危機ハ何時デモ參リマス、之ニ反
  シテ、日本ハ危機ヲ欲シナイ、サウ云フ危
  機ハ全然避ケテ行キタイト云フ氣持デアル
  ナラバ、私ハ日本ノ考ヘ一ツデ其危機ハ何
  時デモ避ケ得ルト確信致シマス(拍手)諸
  君、私ハ辯舌ニ甚ダ拙デゴザイマシテ、明
  ニ自分ノ意向ヲ表明スルコトガ出來ヌカモ
  知レマセヌケレドモ、私ハ今日ノ日本、ソ
  レハ七十年ノ歷史、努力ヲ以テ、此處マデ
  築上ゲタ此日本ヲ何ノ必要ガアッテ、堂々タ
  ル態度ヲ執ッテ、堂々タル道ヲ步キ得ナイノ
  カ、ソレヲ私ハ不審ニ感ズルノデアリマス
  (拍手)今日マデ進ミマシタ日本ハ、私ノ考
  デハ極メテ公明ナル方策ヲ立テマシテ、權
  謀術數ナドト云フコトハ、頭ノ中カラ全ク
  去ッテシマッテ、而シテ國際間ニ處シマシテ、
  坦々タル道ヲ大手ヲ振ッテ步ケバ、私ハ宜イ
  ト思フノデアリマス(拍手)斯クスレバ國民
  モ其外交政策ナルモノニ對シテ、十分ナル
  了解ヲ持チ得マセウシ、又國際間ニ處シマ
  シテモ、誰シモ吾々ノ國策、外交政策ト云
  フモノニ對シテ、危惧ノ念ヲ懷クベキ筈ハ
  ナイノデアリマシテ、此大キナル國策ヲ背
  ニ脊負ヒマシテ、輿論ノ力ヲ以テ、而シテ
  自分達ノ前ニ開拓シマシタル明カナル大道
  ヲ、自分達ノ目的ニ向ッテ濶步シテ行キタ
  イト思フノデアリマス(拍手)是ハ極メテ陳
  腐ナコトヲ申上ゲマスノデ、何モ新奇ヲ街
  タ譯デモ何デモナイノデアリマス、私ハ外
  交ナルモノニ新奇ヲ街フコトハ、大キナ間
  違ダト思ヒマス(拍手)極メテ普通ノ考カラ、
  極メテ單純ナル道ヲ、自分ノ持ッテ居ル常識
  ニ依ッテ判斷シテ、其道ヲ唯進ンデ行ケバ
  宜イト云フヤウニ考ヘルノデアリマシテ、
  斯クシテコソ初メテ國民モ一〓ニナルコト
  ガ出來マセウシ、所謂吾々ノ欲スル擧國一
  致ノ外交政策ト云フモノガ、立チ得ルノデ
  アルト思ヒマス、私ハ議會ハ勿論ノコト、
  政府、軍部、實業方面、新聞、其他皆此極
  メテ了解シ易イ國策ニ向ッテ、一致ノ態度ヲ
  執ッテ、而シテ此纒ッタ力ニ依ッテ、纒ッタ國
  論ニ導カレテ、而シテ吾々ニ與ヘラレタル
  此眞直グナ道ヲ、進ンデ行キタイノデアリ
  ママ、是ガ私ノ執ラントスル方策デゴザイ
  マス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=90

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• 091・鶴見祐輔

  ○鶴見祐輔君　簡單デアリマスカラ、自席
  ヨリ發言ヲ御許ヲ願ヒマス

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• 092・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　許可致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=92

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• 093・鶴見祐輔

  ○鶴見祐輔君　只今ノ外務大臣ノ最後ノ部
  分ニ關シマシテハ、吾々ハ十分ノ滿足ノ意
  ヲ表シマス、唯一點私ノ質問致シマシタル
  點ニ付テ、全然反對ノ御了解ヲ得タヤウデ
  アリマスカラ、之ヲ申上ゲテ置キマス、卽
  チ私ハ歐羅巴ニ斯ノ如キ戰雲ガ靉イテ居ル
  ノハ、極端ナル鎻國的ナル國民的經濟政策
  ヲ執ッタ結果デアッテ、ソレヲ是正スル方面
  ニ日本ハ行カナケレバナラナイ、經濟的「ブ
  ロック」ノヤウナ考デハイケナイト申シタノ
  デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=93

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• 094・松永東

  ○松永東君　殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日ハ
  是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=94

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• 095・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　松永君ノ動議ニ御
  異議アリマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02019370311&spkNum=95

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• 096・富田幸次郎

  ○議長(富田幸次郞君)　御異議ナシト認メ
  マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ
  日程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ
  是ニテ散會致シマス
  午後七時三十五分散會
  衆議院議事速記錄第十八號中
  正誤
  頁段行誤正
  四二二二八現內閣前內閣
  四二二四三二財政財源
  3mg二九前內閣ノ前內閣ハ
  L〓w〓四四當局者當業者
  四二五二一六爲シタ要求シタ
  四二五三九商工業小工業
  四二六一六金融ガ金融ト
  四二六二二九化學化科學化
  四二六三九人間ノ人的人的
  四二六三二二軍工業重工業
  四二六四四有期長期
  四二六四二八陸海軍陸軍
  四二七三三斷然斷乎
  四二七三七林內閣ハ成立シ成立シ
  四二七三二六演說理由

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