1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月二十三日(火曜日)
午後一時十二分開議
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議事日程 第三十號
昭和十二年三月二十三日
午後一時開議
質問
一 文政教育に關する質問(椎尾辨匡君提出)
二 林野整備案に關する質問(小坂梅吉君提出)
三 財政經濟軍備及外交に關する質問(尾崎行雄君提出)
四 宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問(伊東岩男君提出)
五 千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問(土屋清三郎君提出)
六 鹽專賣に關する質問(小西和君提出)
七 華族制度改正特權階級權益制限に關する質問(松本治一郎君提出)
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第一 防空法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 帝國燃料興業株式會社法案(政府提出) 第一讀會
第三 人造石油製造事業法案(政府提出) 第一讀會
第四 肥料取締法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第五 酒造組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第六 日本無線電信株式會社法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第七 特許法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第八 商標法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第九 不正競爭防止法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十 兵役法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十一 産業組合中央金庫法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十二 産業組合自治監査法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十三 軍機保護法改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十四 外國裁判所の囑託に因る共助法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十五 百貨店法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十六 辨理士法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十七 昭和十年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十年度滿洲事件第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
第十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十一年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十一年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第十七 昭和十一年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件(承諾を求むる件)
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一政府より提出せられたる議案左の如し
昭和十一年勅令第百八十九號(一定の地域に戒嚴令中必要の規定を適用するの件廢止の件)(承諾を求むる件)
(以上三月二十三日提出)
一政府より受領したる答辯書左の如し
衆議院議員椎尾辨匡君提出文政教育に關する質問に對する答辯書
衆議院議員小坂梅吉君提出林野整備案に關する質問に對する答辯書
衆議院議員尾崎行雄君提出財政經濟軍備及外交に關する質問に對する答辯書
衆議院議員伊東岩男君提出宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問に對する答辯書
衆議院議員土屋清三郎君提出千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問に對する答辯書
衆議院議員小西和君提出鹽專賣に關する質問に對する答辯書
衆議院議員松本治一郎君提出華族制度改正特權階級權益制限に關する質問に對する答辯書
(以上三月二十三日受領)
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文政教育に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月六日
提出者 椎尾辨匡
文政教育に關する質問主意書
一 政府は文政教育を重んずるか
勿論之を重んずと云はざるべからざるべく又林首相の庶政一新、國體明徴精神發揚に鋭意なるが如きも (1)文部大臣の專任を缺き (2)政綱中に教育充實に言及することすらなく (3)教育上の提案なきことを以ても平生文相に努力せしめたる廣田内閣にすら比較にならぬは文政教育を尊重して重大時局に善處する所以でないと思ふ有力なる文部大臣を得んが爲に延引せりとの豫算委員會の説明の如きは詭辯に類し (1)議會を輕視せるもの (2)閣僚詮奏に對する首相の職分を曠しうせるもの (3)全教育界、全國民を失望せしめ疑惑せしむることとなる政府は文政教育尊重の誠意を有するか之を有すとせば前述の諸點を如何にせらるるか
二 精神作興の時運を如何に充足せんとするか
(1)拜金唯物より剛健精神へ (2)兵數の増加兵器の整備必要なるも皇軍の振肅は更に重大 (3)物資財力少く費用殊に多き我が國状を支持するには堅忍剛毅なるを要し (4)現世紀の生命たるべきは眞に信念實力ある人間教育に俟つべし然るに政綱第一に掲ぐる「國體觀念を愈愈明徴にし敬神尊皇の大義を益益闡明し祭政一致の精神を發揚して」と云ふも數次の答辯に聽くに其の氣魄なく其の主張なく漠然皇謨を翼贊し親政を輔弼し奉ると云ふのみにて言當然なるも眞に精神作興の時運を明にせざるは勿論現内閣の政策中に何等見るべきものなく前内閣の施設せんとしたる所すら減額するに至りては其の政綱も無意義と言ふべし何を以て政綱を充たし時運に應ぜんとするか
三 義務教育を如何にするか
(1)前内閣すら義務教育延長に努力せるに現内閣は「國體の本義に基き肇國の理想を顯現」せんと云ふのみにして實際は冷淡甚しきに非ずや (2)庶政一新は教育の革新を第一とし之には文政、教育、研究、教化の全面的再檢討を要す政府は最近の教育審議機關の刷新意見を以て足れりとするか再審議を加ふるか (3)學齢、義務教育、國民教育、社會教育を檢討して適正なる國民教育を樹立すへきものと思ふ政府は何等之に處する所なし如何なる所見ありや (4)父兄の負ふ教育義務あるも別に國務として國民教育の重大任務あり同胞一家協戮親和を教養するを要す是れ庶政一新の爲にも國體發揚の上にも根本なりと考ふるが政府の所見云何 (5)義務教育は個人主義の國民に子弟教養を義務付けるに依るも之と區別し若は之に代ふる國民教育を行ふには其の年齡、年限、方法、國家負擔を云何にするか (6)國民教育たるべき普通教育に在ては外國人の經營管理を許すべからざるものと思ふ然るに都市に此の種學校あるは國民精神涵養の途に非ず明治初期の義務、自由、拜外教育の流弊たり政府は之を如何にせんとするか
四 大學教育の改善云何
(1)現在の大學は眞に學理蘊奥の研究とならず科學戰の時代に於て大學院研究室充實の意圖ありや (2)國防、産業、教化孰れも更深の研究を要するも現に大學には研究の用意設備を缺くに非ずや (3)國體發揚に關する諸學部の科學的充實云何 (4)法、文、經、商等の學部も尚國立を要すとするか私學に行はれさる特色何れに在りや (5)吏道、人格、國士要求の聲大なるも赤化學徒輩出せるも研究充たされざるも責任を負はず實際には人格養成の覺悟と方法とを缺くに非ずや
五 祭政一致の精神發揚云何
(1)首相の敬虔奉承維れ勗むるを認むるも祭政一致は深意なきものにして達成せらるべきか (2)神社は宗教に非ずとし神社局行政の現機構を以て足れりとするか (3)惟神の大道は源遠きも世に濟美、歴史を通じて精華を濟せりと思ふ殊に神武、崇神、應仁、推古以降淡海、飛鳥、奈良、平安諸時代の主流を標準とすべしと信ず尚古遡源して狹化するは國體精華を發揮する所以に非ずと思ふ政府の所見を明にして疑惑を斷つの要あり其の所見云何 (4)一國一教問題の所見云何滿洲協和會等には宗教信仰を命令に依り歸一せんとする主張あり今祭政一致を高調す此の主張を含むや否や (5)憲法第二十八條は他の規定と異り強く堅く廣くして信仰、布教、集會、結社自由、安寧秩序を妨げ臣民たる義務に背くに於ては法の制裁發動あるべきものと思ふ政府は宗教法規を如何に處理せんとするか (6)前内閣より行へる宗教警察行政は信教自由の憲法違反に非ずや
六 思想教導を云何にするか
(1)國家は物資財兵を要する以上に剛健なる精神を要す其の研究向上の組織體制を如何にするか現に施設せる文化研究竝本年度豫算にては不十分と思ふ政府の所見云何 (2)今の教育、宗教、文藝のみに期待するを得ず若期待すべきものとするには如何なる施設をなさんとするか (3)政治機構に依り人心を倦ましめざる經綸を施すの要あり最近組閣の經緯は人心に陰鬱を感ぜしむ軍部大臣が現役大中將に限るとせば組閣拝命者が求むる所に無條件入閣すべく若順次固辭するとも全現役大中將に於て誰か應諾の責任あるものと思ふ首相の所見云何 (4)剛健精神は尚農に發揚せらる然るに現政府は重商輕農に逆轉せりと見らる農村興隆に對する政策云何 (5)欽定憲法治下日本獨得の立憲政治あるべし政府は政綱に之を掲げながら首鼠兩端嚮ふ所を審にせざるは政黨を傷け民衆を過つものなり其の所見を明にせらるべし現内閣の主張の要旨云何
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員椎尾辨匡君提出文政教育に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員椎尾辨匡君提出文政教育に關する質問に對する答辯書
一、未だ専任文部大臣の任命を奏請するに至らざるは諸般の事情に依るものなるも議會を輕視し或は又首相としての閣僚詮奏に對する職分を曠しうし居るものとは思料せず、教育の重んずべく、文部行政の重要なることに付ては今更言を要せず、時艱克服は特に亦之に俟たざるべからざるものありと思料し、組閣以來之が施設經營の徹底を期し居れり
二、政府は時勢に鑑み我が國體の本義に則り教育、學問の刷新、興隆、國民精神の振作、更張を圖ることは最も肝要なりと思料し之れが實現に付き各種の施設を講じつつあるも尚將來一層努力せんとす
三、(1)義務教育の年限を延長することは時勢に鑑み緊要なりと思料せらるるを以て今後尚十分檢討の上次の議會に提案の見込なり
(2)(3)(5)政府は教育の刷新は最も重要なりと思料し今後更に教育各般に亙り再檢討を行ひ教育刷新の實を擧げんとす
(4)同胞一家協戮親和を教養するは國民精神作興上必要なりと思料す
(6)普通教育を施す外國人經營の學校に對しては尚一層監督を嚴にし國民精神涵養上遺憾なきを期せんとす
四、(1)政府は大學の使命に鑑み各大學の研究室を整備充實するに努めつつあるは勿論更に大學附屬の各種研究所を擴充新設し學術の蘊奥を究むるに遺憾なきを期しつつあり
(2)國防、産業、教化に關する研究の更新を達成せんが爲政府は航空學科の充實創設を企て各種研究所の整備と新設とを爲し又從來不十分の憾ありたる法、經學部の演習制度を確立する等鋭意努力しつつあり
(3)我が國體の本義に基き教學の發展を圖らむが爲政府は大學に於て特に日本文化講義を開設する外昭和十二年度より日本國體學講座充實等を圖らんとす
(4)文科系統の學部は一國文化の進展に至大の關係あるを以て國家に於て之が經營發展を圖ることは私學の重視及之が助成と相俟ちて極めて重要なることと思料す
(5)政府は大學の使命の重大なるに鑑み鋭意人格の陶冶に意を致しつつあり
五、(1)祭政一致の精神は我が國古來より存する大道なり
(2)神社に關する行政機構は事極めて重大問題なるを以て愼重に調査研究中なり
(3)惟新の大道は我が國固有の大道にして古來我が祖先の歴史的活動によりて發展し來りたる國民的信念なり
(4)祭政一致の精神には一國一教の主張を含むことなし
(5)憲法第二十八條は廣く信教の自由を保障すと雖も教宗派寺院教會等の結社に關しては之を憲法第二十九條の規定中に含むものと解し此の方針を以て宗教法規を整備せんとし目下調査中なり
(6)最近所謂淫祠邪教と認めらるるものの弊特に著しきものあるが爲是等に對し相當の取締を加へつつあるは事實なり、然りと雖も之が爲苟くも正信正法の宗教を壓迫し若は憲法に保障せられたる國民の信教の自由を妨害するが如きことあるべからざるは固より言を俟たざる處にして此の點特に戒心留意を爲しつつあるものにして既往當局の措置に關し何等斯る事實なしと確信す
六、(1)(2)政府は剛健なる精神を涵養することは極めて重要なりと思料す、仍て政府は國體の本義に基き教育の刷新を圖り以て益益國民精神の振作を圖らんことを期し例へば現に國民精神文化研究所に於て國民精神文化の研究、指導及普及を圖りつつあるも、昭和十二年度に於ては特に教學局の設置に關する費目を計上し益益國民精神の涵養、振興の實を擧げんとするものなり
(3)本質問は組閣拜命者より入閣の交渉を受けたる現役陸海軍大中將に關するものなるを以て答辯の限りに非らざるものと認む
(4)政府は農村固有の互讓相助の精神に則り農に對する諸制度の整備改善を爲すと共に其の剛健なる國民精神を基調とし農村經濟の根本的刷新を圖りつつあり、其の政策は經費の關係もあり尚ほ不十分なるは免れざるも必しも重商輕農に逆轉せりとは思料せず
(5)我が國獨特の立憲政治が萬古不磨の欽定憲法の條章に恪循して行はるべき政治なることは炳として明白なる所にして政府は其の健實なる發達を期し居れるものなることは既に屡々述べたる所たり
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
文部大臣 林銑十郎
農林大臣 山崎達之輔
内務大臣 河原田稼吉
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林野整備案に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月八日
提出者 小坂梅吉
林野整備案に關する質問主意書
我か國現行の保安林制度は産業經濟の幼弱なりし數十年以前の制度に係り今や世相一變二變三變し國民經濟の變遷せる世運に鑑み適當ならさるもの鮮からす現行森林法に依れは保安林所有者中には不當に利益を害されてゐるものあり今日保安林として所有權を制限し置くを要せさるに拘らす尚且其の儘に存置せらるるもの少からす此等を整理し眞に其の歸すへき所に從て全能力を發揮せしめ從來の如き無用なる犠牲を撤去して民林の利益を増進せしめ以て經營の合理化を期せしめさるへからす
政府は昭和四年調査委員會を農林省内に設け農林大臣及次官竝關係各廳官吏、貴衆兩院議員、林政農政の各學者等二十二名を委員とし調査研究の結果林野整備に關する成案を得たり
右林野整備案は民有水源涵養保安林の國有漸く實行されむとするに當り窮乏山村に取つて旱天に慈雨の意義あるものなるに政府は之を六年度議會に提出せす七年度又繰下けられ八年度九年度十年度十一年度十二年度又同樣の運命に葬られたるは我か國林政上實に慨歎に堪へす
今や世界各國中水道水源林の概ね九割は國有公有に歸し民有水源林に委ぬるものは小弱國に過きす速に民有水源涵養林を國有に移し國營民營の分野を確立するの外民有保安林の整齊竝國有林砂防施設の充實を圖り治水國策の下森林經營の根本的合理化を期するは農山村の實力培養産業振興を促進する所以にして「命を支ふるの道は山を齊ふるにあり」實に我か國林政上の急務にして國民生活安定に必須なるものなり
政府は右林野整備案を速に帝國議會に提出するの意思なきや
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員小坂梅吉君提出林野整備案に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員小坂梅吉君提出林野整備案に關する質問に對する答辯書
政府は昭和六年十月より同七年十月に亙り林野整備調査委員會を設け愼重審議の結果其の根本方策に付成案を得たるを以て適當なる時機に於て之が實現を期せんとす
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
農林大臣 山崎達之輔
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財政經濟軍備及外交に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月八日
提出者 尾崎行雄
財政經濟軍備及外交に關する質問主意書
本員は二月十七日國務大臣に對し、口頭を以て、七八箇條の質問を爲し、首相と陸相より簡單な答辯を得たが、質問事項の大部分に對しては、未だ答辯がない。多分本員の不辯の致す所、質問の意味が御分りにならなかつた爲めであらうと思はれる。依て質問の箇條を列記説明して、重ねて答辯を求むることにするであらう。
(一) 政府は今囘提出したる増税案通過後も、尚ほ近き將來に於て、再び増税案を提出する見込なる乎。
又將來も多額の公債を募集する見込なる乎。
昭和七年度までの一般會計は、二十億圓以下であつたが、十二年度は一躍して二十八億圓を超過し、多種多様多額の増税を爲すも、尚ほ八億圓以上の公債を以て、其不足を、補填するの止むべからざるに至つた。此の如くして底止する所なくんば、さなきだに生活難に苦める全國大多數の人民は、遂に其負擔に堪へざるに至るべく、又公債の應募力も遠からずして枯渇するに至るべし。
此の場合に於て、不幸にして干戈を外國と交ゆるの必要に際會せば、如何にして戰費を支辨するを得べき乎。一念此に及べば、何人と雖も、君國の爲めに戰慄せざるを得ざるべし。日清、日露の兩役に方ては、内に歳入の餘剩あり、外に友邦の我が募債に應ずるもの有て、漸く之を支辨し得たが、今や四顧何れの方面にも我に向て好意を寄する友邦はない偶々獨、伊兩國の、稍や我に接近するが如きものありと雖も、軍國主義の結果として、其經濟状態は、非常の窮地に陥り、人民の衣食すら缺乏してゐるほどである。我が戰費を援助する餘力のないことは辯を待たない。
かくて内外何れの所にも、戰費の出所がなければ軍備は充實しても、之を萬一の用に供することは出來ない。是れ本員が軍備の充實に贊成すると同時に、萬一の戰費支辨の爲めに募債と増税の餘地を遺さんことを切望する所以である。然るに政府は僅か數年の前途をも洞達せず、平居無事の今日に方り、増税と募債に因て、一時を糊塗し、更に幾たびも之を今後に繰返して、民力の枯渇を顧慮せざらんとする者に似たり。是れ本員が前記二個の質問をなす所以である。
(二) 政府は現在及近き將來に於ける國際關係を考察して、我と干戈を交ゆへき惧ある對手國は、海陸何れに在りと想定する乎。
萬一海陸兩面にありと想定せば、是れ一箇國の力を以て、二箇國に當らんとする方針となるが、政府は帝國現在の國力を以て、海陸二大國に對敵し得べしと信ずる乎。
遠き將來は、いざ知らず近き二三十年の間に我が戰敵となり得べき邦國を、陸に在ては露支、海に在ては英米と假想するも、露支には我に對抗し得べき海軍なく、英米には陸軍がない。故に我は同時に海陸兩軍を對立的に整備擴張する必要はない筈だ。前後緩急を深思熟慮して、時あつては海軍を主とし、時あつては陸軍を主とし、以て國家の必要に應ずるこそ是れ經國の要諦にして眞に國家を思ふ者の瞬時も遺忘すべからざる所である。遠き將來に於て、露支兩國が、強大な海軍を整備するに至らば、我は英米と衝突するの惧なき場合と雖も、尚ほ相當の海陸兩軍を整備せざるを得ないが、現在はまだ其必要はない故に現在に於て、大に海軍を整備するの必要は、只英米との衝突を豫想する場合に於てのみ起るのである。陸軍は露支との惡關係を豫想し、海軍は英米との惡關係を豫想することは一箇國の力を以て少くなくとも、海陸二箇國以上との衝突を豫想することになる。此の豫想に關して、第一に考慮すべきは、我が國力である。
今日の我が國は時を同くして二箇國以上の強敵に當る實力はない、たとへ有るにしても大禁物である、二箇國以上の敵に當る爲めには、我も亦二箇國以上の味方を作らなければならぬ、然るに常に海陸二箇國以上の強國との惡關係を豫想し、而して一箇國の味方をも作らず、敵を海陸兩面に受くるに至らば、斯くては戰場だけでは勝ち得ても、銃後の力が盡きて悲慘の状況に陷つた所の獨逸の覆轍を踏むことになりはしない乎「ビスマーク」は墺太利を攻むるに方ては、百方佛國の歡心を買ひ、墺に勝つても尚ほ縦横計を運らして、巧みに其敵愾心を豫防し、以て之と同盟の素地を作成した然る後ち、始めて佛國を攻め戰勝後は獨逸聯邦を統一し、墺太利と結び、更に露と密約し、以て佛國の復讐に備へた、此の事例は、我が國人の宜しく參酌すべき所であらう、現在及近き將來の情勢を考察して、危險關係が英米よりは、寧ろ露支に多しとすれば、主力を陸軍の整備に盡し、海軍は暫く之を他日に譲るべきである且此の場合に於ても、時を同くして、露支兩國衝突すべきでない、露國と衝突する惧あるに方ては、多少讓歩しても、支那の歡心を買はなければならない、支那と衝突の惧ある場合には、露國をば中立(出來るなら友好關係)の位地に立たしめなければならぬ。同時に雙方の惡感を買ふが如きは、拙中の拙、毫も外交を解せざる者の所行である。
「ビスマーク」は墺に勝ち佛に勝ち、獨逸聯邦を統一して歐洲第一の強國となつた後も、陸軍だけを以て、軍備の主體と爲し、英國とは友好關係を維持してゐた、然るに新帝が「ビスマーク」の謀慮に戻り「獨逸の將來は海上に在り」と呼號し、大に海軍の擴張に努力するに至て、英國と衝突の端を發き、遂に世界戰爭を惹起して、帝國の滅亡を招いた。是れは軍備を擴張して、却て國家を危殆ならしめた最近の實例である。
我が國も武力を以て、英米何れかに對抗せんと欲せば、主力を海軍に注ぎ、陸軍は暫く其從として、露支に安心を與へざるべからず。之に反して、露支何れかに對抗せんと欲せば、主力を陸軍に注ぎ、海軍は暫く之を從として、英米を安心せしめざるべからず。
之を顧慮せず、國力を傾倒して、海陸兩軍を擴張すれば、如何に不脅威不侵略を聲言するも、露支は我が陸軍に對して、脅威を感じ、英米は我が海軍に對して、脅威を感じ、其結果は四大國を刺激し世界に孤立するに至るは、必然の勢である。獨逸は孤立と云つて尚ほ墺・匈・勃・土の同盟國を有つてゐたが、日本は純粹の孤立である。英國が全世界の四分の一に亙る所の領土を有つてゐての孤立とは、全く異つた意味の孤立である。此の點に就ても、深思熟考しなければならぬ。
(三) 政府は競爭的方法に由て、陸軍は露支に對し、海軍は英米に對して、均勢又は優勢を保持し得べしと考ふる乎
兵の強弱は、精神的及び物質的要素の多寡に由て分るべきものであるが、精神的要素が如何に充足しても、物質的要素が缺乏すれば結局戰勝の利を收むることは出來ない、而して陸軍の物質的要素中最も大切なものは人口であり、海軍の物質的要素としては金力が大切である。先づ陸軍の組織分子たる人口を見るに、我が國は七千萬人で(朝鮮臺灣には、まだ徴兵制度すら施行してゐない)露國は約一億六千五百萬人、支那は四億人である。故に我が國同様の努力をすれば、露は我に二倍、支那は我に四五倍の兵員を訓練し得べし。明治三十七八年の日露戰役に際し、我が國が兵員の不足に苦める事實は、將來も亦あり得べきこととして考へて置かなければならぬ、現に今年の徴兵檢査には、五尺以下の壯丁や、近視者をも、甲種合格者として、採用しなければならないほど壯丁の不足を感じてゐるやうだ。現在の支那は、尚ほ問題外であるにしても、古來幾たびか隆興した史例のある國民だから、將來も再び隆興しないとは限らない。苟も國策を論ずるものは、現支那の病的状態のみを見ず、病勢囘復後の支那をも、打算中に加へなければならぬ。病衰中の支那だけを見て、打算しては其全快後悔ゆるとも、及び難き違算を生ずるであらう。
されば露支と對抗するに方ては、常に雨降つて地固まるの結果を齎らすべく百方苦心しなければならぬ。誤つて永く怨恨を抱かせるが如きことがあつては、露支其一に對するだけでも、日本は國力を傾倒せざるを得ざるに至ること、恰も佛獨恨みを結んで、人口の寡少な佛國が百年枕を高うする能はざると同樣の運命に陥るかも知れない。况んや露支二國を敵とするに於てをや。
海軍々備の爲めには、人員はさまで多きを要しないが、軍艦其他の器械的設備を要すること、陸軍の比類ではない。故に陸軍が人力を必要とする如く、海軍は金力を必要とする。巨大の經費を以て、多數の艦船を造らなければ如何に人材があつても海軍力の強大を來すことは出來ない。
然るに其金力に於ては、我が國と英米の間には、左の如き相違がある(内閣統計局發行の國勢要覧に據る)
第一表 國富
人口一人當り
百萬圓 圓
帝國 一一〇、一八八 一、七一〇
北米合衆國 八八〇、三八八 七、〇五二
英吉利 二八九、〇八一 六、三八五
我が國の農地は、世界無類の高價に評價されておるから、其實力は兩國にくらべて右表よりももつと少ないのかも知れない。左に全國民の一年中の所得高を對照する。
第二表 國民所得
人口一人當り
百萬圓 圓
帝國 一〇、六三六 一六五
北米合衆國 一六七、五九三 一、三三三
英吉利 六五、七〇〇 一、四一三
國民納税力の多寡大小は、右の所得に準じて定まるのであるが、人口一人當りの所得高に於ては、我が國人は、殘念ながら英米人の八分の一に過ぎない。(「ポンド」や「ドル」の國内的融通の力と、圓のそれとは、必ずしも其の名稱通りでないと思ふけれども、今は世上の慣例に依つて此の比較を用ひる。)從て其納税力も八分の一程度と見なければなるまい。然るに昭和十一年度に於ける政府の總歳入を比較すれば、凡そ左の如し。
第三表 政府の總歳入
百萬圓
帝國 二、三〇五
北米合衆國 一九、四九七
英吉利 一三、六八六
右の日本政府の歳入中には、八億餘萬圓の公債をも加算してあるに反し、英米の方は普通の歳入だけであるのに、尚ほ米は我が八倍、英は我が五倍に達してゐる。更に各種租税中に在て主要の位地を占むべき所得税を對照すれば、凡そ左表の通りであつて、我が所得税額は、米の十五分の一、英の十九分の一に過ぎない。故に將來は尚ほ大に増加すべき餘地はあるが、假りに廣田内閣の立案通り、五億二千六百萬圓に増加しても、尚ほ英米の八分の一に過ぎない。
第四表 所得税(昭和十一年度)
百萬圓
帝國 二三一
北米合衆國 三、七九〇(我が十五倍)
英吉利 四、四四〇(我が十九倍)
右の如く彼我の經濟力に、懸隔があるのだから、英米國民と同様の奮發をしたのでは、我が國の海軍力は、彼等の六割は愚か、三割にも達する事は出來ない。衣食住の費用まで節約して、製艦費に充當しても、彼等を相手に競爭すれば、我が國防は次第に危殆に赴かざるを得ない。然るに「ワシントン」條約終了の結果として、英米は從來差控へてゐた條約範圍内の製艦に著手し、又廢棄を約束した所の艦艇を保存し、又備砲の口徑を増大することに決定した。日本も勢ひ之に對應して、勢力増加の計を講ぜざるを得ない。是れ擴張競爭の前提である。(此所まで書いた時に、英國政府は、五ケ年間に十五億磅、即ち我が二百五十七億圓を以て海、陸、空の三軍を擴張することに決定した由の電報が到著した。海軍にも多大の金額を充當することと思はれるが、單に此の金額だけを見ても、我が國現在の富力では、競爭に因て、國防を安全にすることの、非常に困難である事情が分るであらう。但し英國の軍備大擴張は歐洲の危機に處するが爲めであつて、歐洲の情勢が險惡なれば、險惡なるほど、東洋には手出しが出來ないこととなる譯である。我が國人は頻りに海軍の英米に及ばないことだけを苦にするが、商船の隻數及噸數をも對照すべきである
第五表 商船の隻數及噸數
隻數 噸數
帝國 二、三六七 四、二一五、六九〇
北米合衆國 三、〇二一 一一、九〇五、二八一
英吉利 六、八九一 一七、一八二、八五七
我が商船の噸數は、米の三分の一、英の四分の一に過ぎない。戰闘艦が英米の六割しかないことを、國辱とするなら、商船が米の三割五分、英の二割四分しかないことも亦國辱でなければならぬ。現に軍艦だけは、我が國にも英米の最大戰艦に匹敵すべき三萬五千噸級の戰闘艦があるが、商船に至ては、我が最大の秩父丸一萬七千噸に對して、英には七萬九千噸の「クヰーン・マリー」號があり、佛には七萬三千噸の「ノルマンヂー」號がある。眞に國家の體面を重んずるものは、單に軍艦のみを見ずして、他の方面をも觀察しなければならぬ。國力が豐富でなければ、到底十分に軍事費を支辨することは出來ないからである。基本を量らずして、只其末を均しくせんとするは、國家經營の本道ではない。
本員の知る所だけを以てすれば、我が海軍將校中最も政治的に優れてゐた人物は、山本權兵衞伯、加藤友三郎男、齋藤實子であつて、三人とも首相となつた人である。此の三人は、何れも華府條約及「ロンドン」條約を贊成し、之を以て國防上の良計と考へてゐたのに、現在の海軍首腦部は、却て之に反對し、條約廢止を以て、國防上の長策と思つてゐるらしい。本員は其理由を知らんと欲して、二三の當局者と會談したが、不幸にして本員の首肯し得べき説明を聞くことを得なかつた。故に本員は現在も尚ほ左の如く確信してゐる。
(1) 無條約となつた將來は、其程度に濃淡強弱の差はあつても、製艦競爭は必ず起る。
(2) 經濟力が我に七八倍する所の英米と金力競爭にも均しき製艦競爭をすれば、如何に努力し、如何なる犠牲を拂つても、我が國防力は現在よりも一層危殆に陥らざるを得ない。
(3) 之に反して、英米と妥協して、制限條約を締結すれば、大に經費を減少して、而も現在以上に國防力を増加することが出來る。
然るに政府は無條約を以て、海軍國防の方針と爲し、製艦競爭僅かに其徴候を示せるばかりの今日に於てすら既に六億八千萬圓の經費を要求してゐる。將來本格的の競爭とならば、海軍費の激増恐らくは底止する所なかるべく、而して國防は益々危殆に赴くべし。
明年度の増税及募債計畫に付てすら、既に多大の不安と恐怖を感ずる所の國民が、今後無際限の誅求に戰慄するは、無理からぬ次第である。况んや如何なる大犠牲を拂ふも、我が國防力は、英米に對して、益益弱小ならんとするに於てをやである。政府は親切丁寧に右等の諸點を説明し、擧國人民をして犠牲の拂ひ甲斐があることを知らせねばならぬ。
(四) 政府は軍備さへ充實すれば、國防は必ず安全になると考へる乎。換言すれば、軍備の充實と、國防の安全とは、常に竝行兩立するものと考へてゐる乎。
國際關係が同一なれば、軍備の充實は國防の安全となるけれど、此の場合に於てすら、對手國の充實力が、遠く我に超過すれば、軍備の充實は、必ずしも國防の安全とはならない。對手國は豐富なる經濟力を以て、必ず我が國以上の軍艦を造るからである。
加之、世界列國は悉く總歳出の二割内外を軍事費に充當するに方り、我が國だけが、五割近くの軍事費を使用するときは、關係列國は我に侵略的野心あるかと推測し、縦しそれが無根の邪推であつても、之を解消せしめる事は容易でない。從て他國の敵意を惹起し、國際關係を悪化し、其結果却て國防の安全を減少することになるのは、獨逸が海軍を擴張した爲め、英國との關係を惡化し、遂に敗北の最大原因を作成した前掲の例がある、深く鑑戒すべきであらう。
かくて軍備の充實は、其海軍たり陸軍たるを問はず、對外關係上却て國防力を減少することもある。况や軍備は國防の要部であるが、其全部ではなく、之を運用するに方ては、全國民の協力、科學的知識、經濟力等を要するが、餘り軍備だけに熱中して他の方面の事業を怠るときは、一朝事あるに方て、戰費にすら差支へることがある。獨逸が戰場では敗けなかつたが降旗を翻へすの已むを得ざるに至つたのは、軍備以外の國防力が缺乏した爲めであつた。
適宜の軍備充實は普通の場合には、國防力を増加するが、過度に之を充實すれば、外に於ては列國の猜疑を招き、内に於ては財政の均衡を失し且つ民力を枯渇せしめ内外兩面より國防力を減殺することになる。然るに我が國人中には、軍備さへ充實すれば、國防は安全になると速斷するものが多い。故に國民の健康状態の惡いことは世界無比と云つても差支ないほどで、而も年々惡くなりつつあるにも拘はらず、未だ衞生省すら設置することが出來ない。軍備偏重の豫算を作るからである。是れでは軍備は如何に充實しても、國防力は内外兩様の原因よりして減少せざるを得ない。
(五) 剛健なる國家には其時代に適應すべき確乎不動の方針、即ち國是がなければならぬが、現在の我が國には一定の方針がない。政府は茫漠として捕捉すべからざる形容語を羅列することの代りに、具體的方針を確立する意思はない乎。
明治年間に於ける帝國の大方針、即ち國是は、外人に對しては法權も税權も有せざる哀れはかなき状態を脱出して獨立國當然の權利を囘復するに在つた。其手段方法に付ては各人みな多少意見を異にしたにも拘はらず、其大目的に至ては擧國同見、一人の異議者もなかつた。而して三十餘年間の努力に因て、遂に其目的を達成したのみならず、嚴然として世界八大強國中に列するに至つた。此に至るまでの方法としては、緩急疾徐の差別はあつても、歐米の武備と文物を採用するより外はなかつた。明治時代には之を稱して、「開國進取の國是」と云つた。此國是だに因て、既に國權を囘復し、八大強國に列し、歐洲大戰後は五大強國と呼ばれるやうになつた爲め從來の國是は此に至つて一大轉換を見なければならないことになつたのである。然るに舊方針は既に其目的を達して、廢物と爲つたけれど、新方針は未だ確立せられずして、右往左往、前進後退、人々各々獨自の意見に從つて、彷徨すること恰も夢遊患者の如き状態になり、或は大陸に伸びんとするものを生じ、或は海洋に伸びんとするものを生じ、一面に經濟的發展を企圖するものあれば、一面に武力的發展を企圖するものも現れて居るのである。
陸海兩省に總歳出の四割五割を充當し、更に之を増加せんとするを見れば、現在の國是は武力發展に在るやうにも想はれるけれど、大増税に反對する氣勢の激烈なるを見れば、其の眞意は未確定のやうにも思はれる。之を決定することが今日の急務であるに相違ない。之に反して、文化的及經濟的發展を以て帝國將來の方針と爲さんと欲するものは、既存の材料を以て、一と通り其方案を立つることが出來る。此處で問題となるのは、「現在の國際情勢に於ては軍備擴張は已むを得ない」と云ふ一事である。
歐洲の危機は東洋の安機か
歐洲列國の如く、何ん時大戰爭が勃發するかも知れない所(否な西班牙に於ては獨・伊・露の間に小能模の國際戰爭が既に開始されてゐる)では、軍備の擴張は已むを得ないが、帝國の關する限り、東洋に於ては支那以外には戰爭の起るべき危險は少ない。且つ歐洲の危機は東洋の安機であらう。歐洲が無事ならば、英・米・露等も或は武を東洋に用ふるかも知れないが、現在の如き事態の下に於ては、たとへ其必要があつても、百方之を囘避するに相違ない。况や彼等は、東洋に於ては、武力を以て解決し得べき問題を有せざるに於てをや。外來的危險がないことが明白であれば、帝國は毫も他に顧慮する所なく、自由自在に自國の大方針を確立することが出來る。それは將來我が經濟力が豐富になり、且つ屬領統治の祕訣を自得するまでは、武力發展を斷念するに如くはないと云ふことである。既に平和的發展と決心する以上は、基本法は何人でも容易に立てることが出來る。英米とは戰爭に由て解決し得べき衝突點がない。現に滿洲事件の當時ですら英米兩國は經濟的斷交をすら囘避した。將來帝國が該事件以上の大事件を捲起せば格別、苟も然らざる限りは、彼等より挑戰的態度に出る氣遣はない。之と友好關係を維持するは極めて容易の業である。
只米國は折角獨立させた「フヰリツピン」列島を日本に取られることを心配するだらうから日本は進んで其獨立を保證すべきである。それさへすれば米國の渡洋作戰の計畫などは自然に斟酌され、日米間の製艦競爭は大に之を緩和することが出來るやうになるであらう。
世間には、露國との關係を憂慮するものが多いやうだが、露國は列國に對して不可侵條約を提議して居るから、我も之に應じて締約すれば良いではない乎。漁業や國境問題の如きは普通の外交手段を以て之を解決すべきである。殘る所は、共産主義の宣傳であるが、思想は思想を以て對抗するより外に、有效な防禦法はない。武力や刑罰を以て之を防止することは、絶對に不可能である。彼が共産主義を宣傳すれば、我は皇道主義を以て之に對抗すれば良いではない乎。それでは對抗が出來ないと云ふのは、自ら世界無比の國體を侮蔑するものである。
大小強弱、智愚の天然的差別を無視して、平等の生活を爲さしめんとするが如き無法背理な共産主義が、知識階級に容れられるのは、それより以上の無法背理が社會に行はれてゐるからである。閥閲財産等の他力に因て、自力以上の位置を得、生活を爲すものが、多いからである。此の弊風を打破する爲めには共産主義が、俗耳に入り易いから、自力相當の位置を得る能はざる知識階級中之を唱道するものが起るのである。彼等は實は共産を求むるのではなく、公正なる社會を求め、機會均等を求むるのである。故に資本主義は未だ旺盛ならざるも、閥閲の情弊最も太だしかりし露國が、先づ之に感染し、獨國が次に之に感染した。獨逸の共産黨が最近の大統領選擧の際に、無慮六百萬の投票を得議會へ約一百名の議員を選出した事實を忘れてはならぬ。「ナチス」の勃興以來共産黨は一時武力に出て壓抑されて居るが、其六百萬の選擧人は恨を呑んで、鎭默して居るに過ぎない。他日機會を得れば、猛然として蹶起するであらう。將來「ナチス」に代つて獨逸を支配するものは、或は共産黨であるかも知れない。之に反して、英米の如き資本主義的國柄に於ては、却て其社會状態が、獨露よりも公正にして有能者進出の道が開通してゐるからである。我が國に於ても、共産思想の蔓延を豫防せんと欲せば、爵閥、財閥、軍閥等を始めとし、凡そ閥と名の附くものは、成るべく速に之を是正し、能者進出の道を開かねばならぬ。露國の「コミンテル」大會に於て、我が國を以て、共産思想の有望地と決定したのは、閥閲財産に起因する不平等不公平の情弊が、特に多いと認識したからである。而して此の情弊は、世に所謂皇道主義にも背戻するものと思はれる。
支那との關係に至つては、多端複雜にして急速に之を調整することは洵に容易の業でないが、然し既に國家の大方針を平和的發展と決定すれば、調整の途は徐ろに備はると思ふ。而してそれには大英斷を要する。茲に本員の卑見を略陳して當局者の囘答の便に供する。
(1)滿洲國をば極力庇護し如何なる場合に於ても支那に復歸せしめざること
(2)滿洲以外の支那内地に於ける政治及軍事には直接には勿論のこと間接にも一切關係せざること
(3)支那の統一事業と國權囘復には、其希望に應じ政治的と經濟的とを問はず、出來るだけ援助を與ふること
(4)滿洲國及關東軍をして、支那關係の事項に就ては總て東京政府の方針に遵據せしむること
右の方針を以て誠心誠意に支那の統一及發展を援助する以上は、支那人もやがて滿洲の囘復をば斷念して、關内を保全するを得策と考へるやうになり、排貨抗日等の運動をも廢棄するに至るであらう。多年軋轢の結果であるから、一朝一夕に拂拭することは出來まいが、遠からずして、そうなるであらう。其方が支那全國民の利益であるからである。
以上述べ來つた所を實行すれば、陸に於ては露支と衝突するの憂なく、海に於ては英米と角逐競爭するの必要もなく、我が海陸の軍備は、大に之を減少しても、國防は却て現在以上に安全になるのである、軍事費に於て、節約した經費を以て、教育、衞生、農漁村の救濟、製造工業貿易等の奬勵に充當すれば、さなきだに躍進しつつある我が産業は、更に大に發達せんこと疑を容れない。されば多くの年月を經過せずして、我が經濟力、納税力は英米とも對抗し得るに至るであらう。望むべきことではないが、其中に、若し歐洲に大戰爭が起り、米國も之に參加すれば、我が經濟力は一躍して、英米兩國をも凌駕するに至るは、必然の勢である、斯くて帝國は經濟的にも、武力的にも世界第一の富強國となれば、茲に始めて意の如く大和民族の使命を全うすることを得べし。
之に反して、現在の無方針状態を繼續すれば、啻に軍備を減縮する能はざるのみならず豫算は際限なく膨脹し、募債増税底止する所を知らずして、民衆は塗炭の苦に陥るであらう。二者何れが國家の長計大策であるか、眞に深思熟考を要するの秋であらう。
(六) 政府は日獨協定を以て、我が國體擁護の爲に有利と信ずる乎。
又將來益々此の協定を強化せんとする乎。
有田前外相は、日獨協定は兩國協力して、共産主義を驅逐し、我が國體を擁護せんが爲めに締結したるものの如く説明したが、本員は獨逸と協力することが、何故に此の二つの目的を達する爲に必要であるかを解することが出來ない
(1) 前にも述べた通り、獨逸は露西亞に次ぐ所の共産主義旺盛な國柄である。故に之を驅逐する爲めには、他國の助力を求むる必要もあらうが、我が國には毫も其必要はない。假りに其必要あるとしても共産主義の旺盛な獨逸の力を借ることは火を消さんと欲して石油を注ぐに均しき振舞である。
(2) 世界大戰爭までは、神意に因て帝位に居るものと傲語してゐた廢帝は、國境を接する所の和蘭に流寓してゐるが、獨逸國民は之を迎立しようとはしない。又皇子皇族をも路傍の人の如く取扱って居る、我が國體を擁護するが爲めに如何して此の如き國民の助力を借りる必要があるの乎。又彼等は如何なる言行を以て我に助力し得るだらう乎「自分等の爲す所に倣ふ勿れ」と云ふことの外には助力の道はなからうではない乎。
(3) 獨逸大總統「ヒツトラー」は露國に對して宣戰にも均しき暴言を逞しうして居る。之と協約を結べば、日露の關係は勢ひ悪化せざるを得ない。支那との關係が頗る險惡なる今日に於て、單に獨逸を助くるが爲に、對露關係を悪化するの非なるは、何人にも理解が出來そうなものだ。
(4) 更に日獨協定を強化して、軍事協定と爲し、東西呼應して露國を攻め、大勝を得たと假想せよ。獨逸は歐露に於ける肥沃繁榮の地を割取するを得べきも、我が國は「シベリア」の荒原を得るに過ぎないであらう。純然たる「ヒツトラー」の獵犬餘りと云へば馬鹿馬鹿しいではない乎。故に既に締結したものは仕方がないが、此の上之を強化するが如きことなからんを望む。
(5) 獨伊の專制主義と、英米の自由主義とは氷炭相容れざる性質のものであつて、獨伊と英米とは啻に經濟的や政治的のみならず、思想的にも調和し難い關係になつてゐる。故に我が國が特別に獨伊に接近すれば、自然英米と隔離することになる。之が爲めに生ずる思想上經濟上及軍事上の利害得失も亦考慮すべきである。
(七) 現内閣は植民地返還に關する獨逸の要求に應ずる意思ある乎。
前條の如き無益有害な日獨協定すら謳歌する我が外交界であるから、植民地返還の如きも獨逸が之を要求すれば、我が政府は二つ返辭で之を應諾するかも知れない。〓爾たる南洋の孤島、之を返しても還さなくつても其事自身は餘り大事件であるまい、が、之に關連する主義方針に至つては將來の大問題となるべき性質を有つてゐる。
現在は世界戰爭の結果獨逸から取上げた植民地だけが、問題に上つてゐるが、此の事件は元來そんな一局部だけの解決で終了すべき性質のものではない。「ハウス」大佐などは植民地再分配を唱へてゐるが、其具體的方法はない。縦し其方法を立てても之を實行することは出來ない。百歩を譲つて實行し得たとするも、人口の増減や國運の盛衰に因て再び不權衡を生ずる。人口、富力、産業力等を標準として少くも五十年に一囘位づつ再分配をしなければ、不平不滿と之に基いて起る所の紛爭は、絶えないだらう、我が政府は此の如き意見に惑はされて、植民地問題を取扱はれざらんことを切望する
然らば現在我が國も惱み又英米佛露支等の外全世界の邦國が悉く惱んで居る所の原料問題は如何にして之を解決すべき乎。「宇宙は全人類の共有物である」と云ふ原則を漸次實行すれば好いのである。土地は日光や空氣と同じく人類に取つて絶對的必要物であることを承認し、漸次之を實行すれば好いのである。世人が空氣や日光に付ては、此の原則を承認しながら、獨り土地に付て、之を承認しないのは、其知識道徳が尚ほ卑低な爲である。其證據には世の文明國と稱するものは、國内的には何れも此の原則を承認し、漸次之を實行に移してゐる。封建時代には武力を以て斬り從へた五十萬石百萬石の領分を其私有物と爲してゐたが、今日は之を國家に奉還し、何人でも法定の手續さへ履行すれば、之を使用し得ることになつてゐる。國際的に切り從へた土地、即ち植民地だけが、尚ほ蠻習を脱せず、封建時代の諸侯の領地と同様に取扱はれてゐるに過ぎない。文化は小なるものより進んで、漸次に大なるものに及ぶのが其順序であるから既に國内的に行はれてゐる事柄はやがて國際的にも行はれるに相違ない。否な、そうなるやうに盡力するのが、文化人の聯責である。植民地再分配の如き空論すら世上の一問題となつたのは、文化進歩の過程に於ける一現象と見て宜しい。
米國が多年極東に向つて提唱し、且つ或程度まで既に實行されてゐる所の「門戸解放」「機會均等」の主張は本人は未だそうとは氣が付かずにゐるにしても「土地は空氣や日光と同じく人類の共有物である」と云ふ思想の顯現として視るべきである。純然たる國家の私有物と見るならば、他より右の如き提議を爲すことは、國際的儀禮を解せざる無禮の言行である。それは兎もあれ門戸開放機會均等の提議は、極東の關する限り、日米英佛支獨伊等に承認され、且つ不十分ながらも、實行されてゐる。將來益益此の主義を擴張し且つ獨り極東のみならず、廣く世界の植民地にも實行すれば、原料問題や人口問題は、自然に解決せられるではない乎。其事は植民地の返還若くは再分配よりも、合理的にして實行し易く、且つ其結果は、一層良好であらう。返還や再分配は、たとへ出來ても、強大國だけの利益となつて弱小國は之に均霑することは出來ないが、門戸開放機會均等を實行すれば、大小強弱の別なく列國悉く其利益に均霑することが出來る。
帝國が經濟的發展を以て今後の國是と爲す以上は、門戸開放機會均等の主張と、其實行を以て、大方針と爲すべきである。有らゆる機會に於て有らゆる努力を以て差當り此の主義を、世界列國の植民地に實行せしめ、遂には其本國にも實行せしむべきである。武力發展に要するだけの努力と犠牲を、此の大方針の爲に拂へば早晩必ず成功して世界の面目を一新し大に全人類の幸福を増加し得べしと信ずる。知らず現内閣は此の國是方針に向て邁進するの雄圖なき乎。
(八) 林首相は對外軍備の必要を説くに方り、數々一觸即發などと云ふ詩語を用ふるが、それは何れの國を對手として云ふのである乎。
英米露は歐洲の形勢極めて險悪な今日に於て、彼より手出しをする氣遣はない。支那も自ら進んで失地囘復に著手する準備はないのみならず、首相は前内閣の對支方針を轉改して親善を圖る見込のやうである。果して然らば一觸即發の對手がないではない乎。又なからしむるやうに力めなければならぬ。對手のないのに此の如き險語を使用すれば、却て接壌國を刺激し其誤解を招く結果を生ずる。
現在の如き歐洲の危局に處しながら露國が大軍を「シベリア」方面に駐屯せしむることを欲せざるは勿論であらう。それにも拘らず、之を爲すのは疑心暗鬼の結果に過ぎないであらう此の疑心と誤解を一掃する位のことは平凡な外交官にも出來る筈。不可侵條約の提議に應じても又日獨協定を緩和しても、其目的は達し得られるではない乎。又眞に一觸即發の危機に際會して居るなら今後五年に亙る所の軍備充實では、手後れになりはしない乎。又此方が五年掛つて軍備を擴張すれば二倍以上の人口を有する先方は我よりも多く擴張して、我が國防は現在よりも危殆に赴きはしない乎。
(九) 杉山陸相は獨り本員の質問に對してのみならず他人に對しても、數々二・二六事件は政治的の腐敗の爲めに起つたやうに演べて居るが、それは如何なる事實を指して云ふのである乎。
墮落腐敗と云へば先づ殺人、強竊盜、贈收賄、詐僞取財、情實推擧等が、其重大なる現象であらうが、それは獨り我が政治社會ばかりに限つた現象ではない。政黨者流の間に見るだけの墮落腐敗は、何れの方面にも現れてゐるのみならず、同じ收賄でも、政黨者流は何れも皆な黨の爲に收賄したのであつて、自己一身の爲にしたのではない。然るに他の方面の收賄者は、多くは自己一身の爲めにして居る。
又五・一五事件二・二六事件が、軍備以外の堕落腐敗の爲めに起つたのなら、彼等は其張本人を襲撃すべき筈であるのに、彼等が襲撃した人物は、犬養毅、齋藤實、高橋是清、渡邊錠太郎、岡田啓介、牧野伸顯、鈴木貫太郎、西園寺公望等何れも三朝歴任の功臣であつて、而も所謂腐敗堕落には最も縁の遠い人々である。加之、彼等が擁立せんとした人物は、右等の諸君とは比べものにならない人物であつた。優れた人物を殺して劣つた人物を擁立すれば、何故政界の墮落腐敗を匡正することが出來る乎。彼等と雖も、其位のことは分らない筈はない。從つて彼等犯罪の動機は、陸相が數々明言するが如きものでないことは、明白なやうだ。
縱し、一歩を讓つて、陸相の説明の通りだと假定しても苟も身を陸軍の上層部に置く者は、之を口外してはならない。之を口外することは、叛逆者を庇護して、其後繼者を誘起せしむる結果を生ずる惧れがある。政治社會が如何に腐敗墮落しても、軍隊中より多數の犯罪者を出してはならぬ。明治初年以來、政界の腐敗墮落が昭和年代よりも太だしかつたことはあつたが、二・二六事件の如き不祥事件は起らなかつた。畢竟軍紀の弛廢未だ今日の如く太だしきに至らなかつた爲めであらう。明治天皇には臣民の犯罪に對してすら、
罪あらばわれをとがめよ天つ神
民はわが身の生みし子なれば
と仰せられた。然るに陛下の薫育に浴したる軍人、特に軍紀維持の責に任ずる者が、自己の怠慢を咎めずして、却て罪を政界の腐敗墮落に歸するに至つては、本員未だ其の可なる所以を解する能はざるを悲しむ。
(十) 政府は所謂る庶政一新の手段として、官廳の新設及廢合を企ててゐるやうだが、海陸兩省を合併して國防を統一する考はない乎。
明治年間には、内外の情勢上、海陸兩省を對立させる必要が有つたが、大正以後は、内に於ては薩長兩藩閥の對立が解消し、外に於ては、露支の海軍力が消滅した。故に兩國に對して、防備を施すの必要を認めても、それは陸軍だけで好い筈だ。又經費其他の關係より武力を背景として、英米と折衝するを必要とせば、其武力は海軍でなければならぬ。英米佛の如き富裕國ですら、海陸兩軍を對立的に充實するが如きことはしない。力を海陸に分てば、雙方共に弱くなるからだ。古人も「二兎を逐ふものは一兎を得ず」と云つてゐる。今や帝國は國防の重點を海陸何れに置くべき乎の大問題を解決すべき時機に際會してゐる。今日の機會に乘じ、陸海兩省を併合して、國防省を設くることは、庶政一新中の最大急務であらねばならぬ。之を合併して一大臣に管理せしむれば、大局の利害より打算して、「國防上の重點を海陸何れに置くべき乎」の問題は困難はあつても自然に解決せらるるであらう。又空軍の重要性は、將來益々増加すべく、英佛伊の如きは既に空軍省を設けて居る。
我が國では海陸兩省各々空軍を設備してゐるが、それは啻に不經濟であるのみならず、效果的でない。故に海陸各々一省を置く以上は、空軍省をも設けて之を統一すべきであらう。然しそれよりも寧ろ國防省を新設して、三軍を統轄せしむるが好い。そうすれば經費を減ずると同時に、國防力を増加することが出來る。
現在の如く陸軍は大陸に伸んと欲し、海軍は海洋に伸んと欲し、國家に一定の方針がなく、恰も夢遊病者の如く彷徨するときは、折角天祐に浴せる帝國も、或は左躓右顛、遂に意外の窮地に陷るかも知れない。
(十一) 帝室の尊榮と人民の幸福を維持する將來百年の計の爲めには、今日に方り、百方思を凝らして、武門政治の出現を豫防する必要があると信ず。現内閣の所見如何。
鎌倉以後徳川幕府の末に至る最近七百年間は、武門政治の時代であつて、其間に養成發達した思想感情は、今尚ほ國民の大多數の頭腦を支配してゐる 議會政治が滿足に行はれ難いが如き、軍部の權勢動もすれば内閣を壓するが如き、近來の總理大臣が多く軍人より出るが如きは、皆な其結果である。此の如き情勢の下に於ては、油斷をすれば全體主義統制主義其他の名義を以て、武力を背景とする所の獨裁政治即ち武門政治が、出現し易い。而して其結果が、朝廷と人民に不利なることは、最近七百年の歴史が之を證明してゐる。
然し、軍人をして政治に關與せしむれば、純忠至誠の士と雖も、知らず識らず、背後の武力を政治に應用するに至るは、必然の勢である。而してそれが武門政治の端緒となるのであるから、眞に君國を愛するものは、防微杜漸の計を施さねばならぬ。
彼の五・一五事件乃至二・二六事件の如きは、青年將校が、政治に興味を持つた爲めに、人臣の大節を誤るに至つた事例である。故に軍人をして政治に關與せしむることは、啻に國家に大害あるのみならず、兼ねて亦軍人をして其身を誤らしむる原因となる。之が統率の責に任ずるものは、深く思を茲に致して、紀律を肅正しなければならぬ。
現役に在らざる軍人は、選擧權被選擧權の行使を許されてゐるから、政治に關しても差支ないことは、勿論だが、さりとて、在郷軍人會の如き軍人團體の名義を以て、政治に關與するは、武門政治に到達するの徑路となる故之を嚴禁すべきであらう。軍人團體の名義を以て、政治に關與せずとも、普通人民として、之に關與すれば、好いではない乎。軍人團體の名に於て、政治に關與すれば、自然に其武力を用いたくなる。たとへ使用せずとも、他人をして其脅威を感ぜしむる。それは立憲政治下の大禁物である。申すまでもなく、立憲政治は言論と投票に依て萬事を解決すべき政體であつて、武門政治は武力に依て問題を解決すべき政體である。此の兩者は其主義と、最後の手段に於て、絶對に相容れざる政治機構であるから、苟も憲政を扶持して、帝室の尊榮と人民の幸福を保全せんと欲する者は、武力を背景とする者の政治的進出は、其現役將校たると、在郷軍人たるを問はず、總て之を禁止しなければならぬ。三百萬の會員ありと稱する在郷軍人會の活動は、之を單純なる軍事關係に止め、事の大小に拘らず、政治に關與せしめてはならないと思ふ。陸軍大臣は此の點に關して、如何なる見解を有する乎。本員の聽かんと欲する所である。
(十二) 現内閣は海陸軍備の國際協定を提唱し、以て世界列國を救ふと同時に、自ら救ふ意圖なき乎。
英米露支を對手として、競爭的に軍備を擴張しては、帝國は如何なる大犠牲を拂つても國防を安全ならしむることの困難な次第は、既に記述した通りである。陸相は我が五箇年計畫が成就すれば、蘇聯に對抗し得べき旨を説いたそうだが、我が陸軍擴張中に、先方が手を束ねて擴張せずに居れば、陸相の言ふ通りになるだらう。若し先方が帝國以上に擴張すれば、他に豫想外の異變が起らざる限り、我が對蘇國防力は、現在より弱くならうではない乎。其時は日獨協定が役に立つと思つてるかも知れないが、「ヒツトラー」が口を極めて蘇聯を攻撃しながら、盛んに軍需品を蘇聯に賣込んでゐることは、我が當局者も承知の筈である。
英米露は、何れも軍備の協定制限を希望してゐると認めらるるから近來は無條約論の急先鋒であつた所の帝國が、協定制限を提唱すれば、列國は必ず贊成するであらう、縱しそれが不成功に終つても、別段の損害はなく、若し成功すれば、世界列國を救ふと同時に、自ら救ふことも出來る。是れ本員が此の問題を提起して、現内閣諸公の意圖を聽かんとする所以である。
帝國前途の豫想
之を要するに、現在の儘で推移すれば、豫想外の僥倖に遭遇せざる限り、帝國は數年ならずして、凡そ左記の状態に陷るべき憂がある。
(1) 政府の經費は、際限なく増加するも、募債増税共に困難に赴き、財政的破綻を免れざるべきこと。
(2) 軍人の得意と民衆の失意とは、反比例に増加し、軍民の關係は漸次離反する虞あること。
(3) 國家必要の事業に對する經費の分配、其均衡を失するが爲め、不具的國家を現出すべきこと。
(4) 如何に軍備を擴張しても、國防力は次第に減少し、國勢は危殆に陷るべきこと
(5) 四圍の列國に嫉視せられ、帝國は益々孤立無援の位地に陷るべきこと。
(6) 孤立状態を免れんと欲して、獨伊に接近すれば、政治的及經濟的に交渉の多き英・米・露・支とは益々隔離して、帝國の不利を招くべきこと。
(7) 躍進途上に在る所の帝國の産業貿易は、當然の發展を遂ぐる能はずして、中道に挫折すること。
(8) 軍需品關係者だけ不當の暴利を得て、一般人民は生活難に苦しみ、社會的不平不滿が、愈々増加すること。
(9) 不正不當の方法に由て起れる不平等を打破する方便として、共産的思想が蔓延する惧あること。
(10) 一歩を誤れば、暴動内亂も起り兼ねまじき患あること。
(11) 二・二六事件の如き惡質の不祥事件が將來再發するかも知れないとの憂ひ尚ほ存すること。
(12) 明治大帝の最大偉業たる憲政の發達は、中道にして挫折し、武門政治とならんとする惧あること。
右は前途の見透しであるが、帝國には意外の天祐があるから、或は歐洲の大亂其他不期の事變が起つて、狂瀾を既倒に廻すかも知れない。只本員は天祐を頼まんよりは、寧ろ人事を盡したく思ふが故に、忌憚なく質問するのである。
今や帝國が前記の如き悲運に陷らんとする根本原因を尋ぬれば、國民的智徳の缺乏に在る、而して言路を壅塞して居ることが其智徳の發揚を妨害する大原因なるに相違ない。例へば戰亂の勃發既に目睫の間に迫れるが如き歐洲列國すら、悉く總歳出の二割強の軍事費を支出するに過ぎないのに、我が國だけが、四割乃至五割の軍事費を支出することの過度なる次第は、説明さへすれば、何人でも理解し得べき問題であるにも拘らず、言論壓抑の結果、之を説明することが出來ない。説明すれば生命財産に對する脅威が來る。其反對に勅諭と刑法を以て政治關與を禁ぜられて居る所の軍人のみは、演説に文書に盛んに其意見を發表する。故に全國人民は單に一方の意見のみを見聞して、之に盲從する。是れが近來に於ける國歩艱難の最大近因であるから、其匡救法は極めて簡單明瞭である。
甲 勅諭と法律の明文を属行して、軍人の政治關係を禁ずること。
(い) 軍部より發行する所の思想、經濟、政治等に關係する文書には總て責任者の氏名を署せしめ、且つ主管大臣をして其責任を負はしむること。
(ろ) 軍部の意向、決心、決議などと題して、數々新聞紙上に掲載せられる事項中、主管大臣の命に由て發表したるものの外は、其當事者を處罰すること。
乙 言論の自由を確保して、其暴壓者を嚴罰すること。
丙 政治に關與すべからざる軍人を教唆して、政治的行動を爲さしめんと企つる者は、叛亂豫備罪として嚴重に之を處罰すべきこと。
右の三件さへ實行せらるれば、時勢相當の意見が勝を制するから、現在の如き軍部偏重の論を生ずる惧れはなくなるのであるが、現在の輿論及議會の形勢は、自由の言論に因て造られず、其背後の武力に因て作成せられた趣がある。其證據には本員が二月十七日に衆議院で演べた意見中には、大多數の贊成を得た所もあつたのであるが、豫算案議決の際にはそれと反對の結果を現はした。本員は重ねて言ふ「憲政を維持し、且つ國家を救はんと欲せば、請ふ先づ言論の自由を確保せよ。又武門政治を豫防して、帝室の尊貴を保たんと欲せば、請ふ先づ軍人の政治に關與することを禁遏せよ」と。知らず現内閣は、此に事を遂行して、目下の國難を救治するに努むるや否や
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員尾崎行雄君提出財政經濟軍備及外交に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員尾崎行雄君提出財政經濟軍備及外交に關する質問に對する答辯書
(一)大藏大臣答辯
刻下内外の諸情勢より觀るときは、國防の充實其の他の施設の爲に、當分の内、相當多額の歳出を必要とすることに付ては覺悟する所なかるべからず、之が爲には租税收入の増加を圖る外、當分の内、相當額の公債を發行するは又已むを得ざる所なるべし
政府は今囘前内閣の立案に係る税制改革案は姑く之を取止むることとし不取敢、租税の臨時増徴を行ふこととなしたるが、尚政府は大體に於て制度の整備を主眼とし中央地方の税制を改正せんとするの意圖なり
(二)陸海軍大臣答辯
帝國の陸海軍軍備は、我が國體を擁護し、國權を維持し、帝國の平和的存立發展を保障するに要する最少限度の整備を目途とするものにして、或特定の國を目標とするものにあらず、又我が國情、地理的環境及現下の國際情勢に鑑みるときは、軍備の目標を一方に極限すること能はざるのみならず、假定の上に立脚して陸海軍備の一方に缺陷を存するときは、却て他國の乘ずる所となり、戰爭誘發の危險大となるべし、即ち、現状に於ては、陸海軍備は兩々相俟って始めて國防の實を完うし得るを以て、何れに偏傾するも適當にあらず
(三)陸海軍大臣答辯
第二項の答辯に述べたるが如く、自主的に國防上必要と認むる最小限度の軍備の整備を爲さんと欲するものにして、毫も列強と軍備擴充を爭はんとするものにあらず、從って、他國に追隨して之と均勢又は優勢の兵力を保有せんとするものに非ることは、已に屡屡政府より言明せる通なり
(四)陸海軍大臣答辯
國防の安全を期するには、獨り軍備の充實のみならず、國家の綜合的國力を向上發展せしめざるべからず
(五)内閣總理大臣答辯
政府は曩に政綱を公にして、其の嚮ふ所の大方針を明かにしたるが、今後は更に其の具體化を圖り、國運の進暢に大に力を效すべし
(六)外務大臣答辯
我國體と相容れざる「コミンテルン」の破壞工作は、國際的なるを以て、之が防遏の爲に國際的協力を爲すことは、必要且有效と認めらるるが故に、政府は先づ「コミンテルン」策動の主要目標たる獨逸國との間に協定を締結したり
將來は其の運用に錯誤無きを期し、協定の本旨に從ひ、充分の成果を擧ぐるに努力すべし
(七)外務大臣答辯
政府は舊獨逸殖民地たる南洋委任統治地域の返還を考慮するの意思毛頭無し、門戸開放機會均等の主張は、從來有ゆる機會に於て、帝國の主張し來りたる處にして、今後と雖も之が實現に一層努力すべし
(八)内閣總理大臣答辯
我が帝國は東亞安定勢力たる特殊使命を有するに鑑みて、東亞永遠の平和に力を效し、諸列強との交を敦うし、特に外交の明朗化を期し居れるも、滿洲事變後滿洲國を中心として釀成せられたる其の周圍の形成は、國境紛爭等未だ其の跡を絶たず、時に衝突の危險なきを保せざるの状況を見、遺憾に堪へざるものあり、一觸即發の語は、かかる状態を形容したるものなり
(九)陸軍大臣答辯
政界の腐敗のみを責むるに急にして、自己の責を囘避せんとする意志は之を有せず、政治的腐敗の事實は茲に之を指摘せず
(十)陸海軍大臣答辯
陸海軍省を合併し國防省となすことは、之を考慮し居らず
(十一)陸軍大臣答辯
我國獨特の立憲政治の健全なる發達は、之を衷心より熱望する旨屡々説明せる所にして、我國に武門政治が出現すべしとは、夢想だにせざる所なり
(十二)外務陸海軍大臣答辯
公正妥當なる基礎に於ける軍備の國際協定には、政府は從來同樣熱意を以て之に協力するの用意あり
但し、現下世界の情勢に照すときは、今日帝國より之を提唱するも、其の目的を達成し得る好機なりと認むること能はず
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
海軍大臣 米内光政
大藏大臣 結城豊太郎
陸軍大臣 杉山元
外務大臣 佐藤尚武
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宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月八日
提出者 伊東岩男
宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問主意書
宮崎縣は東西十七里南北四十里餘に亙り其の廣袤五百一方里にして面積頗る廣大なりと雖其の四割五分は官有地にして大部分は森林原野に屬し民有地は五割五分に過きす而も民有地租の内田地は二割、畑地は二割八分、宅地は三分にして山林原野雜地租は實に四割九分に達す而して人口八十五萬、其の一方里人口密度は僅に二一、六九一人にして全國中北海道に次く人口稀薄の地たり從て富力に於ても甚た低く民間の産業亦農産物、林産物及水産物を主とし其の業態は舊態依然として素朴幼稚の域を脱せす即ち地理的人文的特殊事情に因り財源貧弱なるは寧ろ宿命的制約に屬し將來と雖財源の自然的増加を期待し能はさるは之亦明白にして縣財政の前途を顧念する者夙に深憂措く能さる所なりとす加之歳出額は益益増加するのみならす土地廣濶なる關係上諸般の施設は寧ろ分散的普遍的に之か施行の必要に迫らるる事情ありて縣民の負擔は愈愈累加するの趨勢にあり更に縣財政上到底默過し能はさるものは即ち地理的不可避の關係と官有林の伐採亂行とに原因する大風水害及其の他の災害に對する復舊費莫大にして之か負擔に堪へさることにして財政策としては縣債に依らされは支辨の途なく今日極めて厖大なる縣債の數字を示すに至れるは注目すへき特異の事相と謂ふへし
斯の如く年々歳出の増加を見つつあるに反し歳入に於ては財源益益涸渇して増收の途なし試みに國税及地方税の比較に付て見るに國税の全國一人宛平均額は六圓十七錢(昭和十年)に對し宮崎縣は同上一圓八十八錢(昭和十一年)に當り右全國平均額を指數一〇〇とすれは宮崎縣は僅に三〇に過きす之を以て見るも國税負擔力の如何に貧弱なるものあるかを察知するを得へし然るに地方税に至りては國税百圓宛平均額は百五十二圓七錢なるに對し宮崎縣は同上四百四十四圓六十二錢に當り全國平均を指數一〇〇とすれは其の三倍に當る二九二の過大なる數字を示す以て如何に地方税の負擔か縣民の經濟に重壓を加へつつあるかを推知するに足るへし
此の機會に地方財政交付金制度を創設實施せらるるは洵に時宜に適したることにして就中右交付金制度の實施に當り税源貧弱にして負擔過重なる地方に對しては特に其の地方の實情に應して租税の再分配に依る交付金を以て地方の財政安定を期せむとするは蓋し地方財政の前途に一大光明を投するものと謂ふへし更に地方財政交付金の配分方法を公平にして其の均衡を計り戸數割の全廢又は輕減又雜種税の改廢を期すると共に併せ考察檢討すへきは負擔力涵養の爲産業資源を國か分與するの策を樹て其の地方の特別の事情に鑑み恆久的而も彈力性發展性ある財源を分與するの問題なり而して之か實行は最緊切なる要務にして十分講究を盡し且地方の要望を容認して以て其の救濟を爲し大いに將來の發展に資すへきなり
本員は此の見地より前述の如き宮崎縣の現状に顧みて少くとも既得權益たる各河川の發電水利使用竝特別の事情にある國有林野の拂下解放及利用に關する左記の各項に付政府の所見を質さむとするものなり
(い) 發電水利使用に關する特種財源保有の件
第一點
宮崎縣各河川は霧島山及祖母の山脈に水源を發し千古斧鉞を加へさる蓊鬱たる森林溪谷の間を蜿蜒流下して東太平洋へ注く而して縣下各河川は到る處豐富なる水利發電力を有し現在發電中のもの既に一八四、九六九馬力に及ひ將來開發すへきもの即ち
昭和十四年完成のもの 七八、四八〇馬力
既許可未著手のもの 一七、五四九馬力
工事實施未濟のもの 三六、八八二馬力
水利使用出願中のもの 一二三、三八九馬力
にして合計四四二、二六五馬力に達すへく蓋し宮崎縣に於ては各河川に依る發電水利は天與の一大資源たると共に税源涸渇せる縣財政上直接間接極めて有力なる財源にして大正十三年縣外に送電するものに對しては一馬力一圓宛を水利使用料に代る寄附金として夫々水力電氣事業會社との間に締結せる契約に基き徴收し更に昭和三年に至り縣外送電一圓五十錢、縣内供給の水利發電に對しても亦一馬力一圓の使用料に代るへき寄附金を收納することとし第一期に於て縣外送電のもの及縣内供給のもの併て總額二十九萬圓に上る寄附金收入を以て縣債償還の財源たらしめ種々重要事業を計畫實施せり
然るに昭和七年に至り内務遞信兩省か強制的に料金徴收率の低下を要求したるは實に宮崎縣の實情を無視したるものにして一時は縣民の輿論激化の徴ありしも本省示達巳むなく將來に於ける新規發電のものに對しては常時理論馬力一馬力に付一圓而して常時理論馬力、最大理論馬力との差に依る一馬力に對する五十錢の使用料を徴收するに止め從來の分に對しては昭和十二年度迄縣内外の供給を問はす總て最大理論馬力一馬力に付一圓を水利使用料として徴收し現在十八萬圓餘の寄附金を收納しつつあり殊に昭和十三年度よりは之を一般水利使用料として收入するを要する結果其の收入額亦十三萬餘圓に減することとなり縣財政の一大脅威にして只さへ財源窮乏の縣なれは之か補填の途なく財政經理の上に一大支障を訴ふるに至るへきは火を睹るより瞭かなり故に政府は此の實情に照し再檢討して縣財源の増加を期せしむる爲昭和三年當時の計算に基き徴收し得るやう考慮されたし政府の所見如何
第二點
若試みに現在水利使用料算定の基準に依り其の收納額を算出するときは昭和十四年に至り二十六萬四千圓餘に達し全部發電開始後は四十四萬二千圓、更に遡て昭和三年當時の計算に依るときは昭和十四年三十五萬圓、將來は約六十萬圓の收入を當然得へきものにして縣として斯の如き財政上極めて重大なる既得權益を喪ふことは全然縣民の默視し得さる所なり
前述の通り昭和三年より水利使用料二十九萬圓の收入を目的として縣政上の重要事業の起債財源とせるに拘らす本省の示達に依り遂に收入率低減の爲現在は收入額十八萬圓となり更に昭和十三年度より十三萬圓に減少するに及ひては既往及將來に於ける縣債償還財源に愈愈大なる缺陷を生せしめ從て之か補填の爲一般歳入に依る縣民負擔の増加亦已むを得さるとするも到底負擔能力なく縣財政の破碇を生するに至るへし故に政府は宮崎縣の實情に顧み天與の既得權の確保は勿論財源保有の爲他に特殊の方法を考慮せられたし所見如何
第三點
近く政府か企圖する國營電氣事業實施の曉に於ては此の既得權益に對して使用料に代るへき交付金の交付率に對して相當増額せられむことを切望し尚未許可の水利權に付ては悉く國營管理の下に移され此の結果縣財政の將來に於て最有力なる財源として多年渇望し來れる之等水利使用に依る收入か全く水泡に歸し從て縣政伸展の將來に應すへき諸多の新計畫亦畫餅となり縣民の失意落膽は到底筆舌に盡し得さるものあり國營電氣事業實施の曉に於ける之等關係權益の處置及方針如何
(ろ)官有林野解放其の他に關する件
第一點
宮崎縣は前述の如く國有林野の面積は頗る厖大にして其の經營は今日著しく公企業化し寧ろ産業行政たることよりも財務行政に主力を注き收入本位となる傾向ある爲却て直接間接地方財政及産業に影響する所少からす亦實際問題として公企業よりも私企業に移すことに依て有利の點多し仍て將來地方財政の財源涵養又は産業資源開發の目的を以て適當に國有林野の解放拂下を斷行せられたし政府の所見如何
第二點
若將來廣大なる國有林野の拂下又は部分林制度の擴大施行等を爲さす更に公企業化する場合に於ける之か保護監視は地元民の愛護に俟たさるへからす此の見地より關係地元町村に對する交付金を増額せらるるは當然なり政府の所見如何
第三點
部分林制度の擴大の意思なきや尚部分林伐採後跡地を縁故拂下を爲し引續き造林せしめては如何即ち部分林は少くとも伐採期に至るまて五十年、其の間造林者は其の土地に手入し且樹木を愛護したるものにして伐採後と雖其の跡地に對する愛著心は頗る濃厚なるなり此の意味より以上の方針を希望するものなり政府の所見如何
第四點
國有林野中作付適地多く之を田又は畑地とすることに依り其の利用率増大するものなれは之か合理化の爲開墾豫定地を擴大し而も其の貸付の簡易化を計り農山村の救助に資しては如何
第五點
海岸空地利用は現時早熟作物の栽培及各種特用作物の作付の上に頗る有利の點多し海岸空地の利用厚生は決して等閑に付すへきものに非す積極的に拂下けては如何
第六點
官有林、立木の拂下、賣却に當りては從來資本家の獨占なりし弊を改め農山村救濟更生に重點を置き殊に木炭用原料木の拂下の如きは地方の産業組合員に利用せしめ資金の供給、製品の販賣を組合中心とするの要あり又之に依りて雙方とも頗る有利なり政府の所見如何
第七點
各河川及海岸地に於ける土石及砂利の賣却料金は從來大藏内務兩省の收入となりたるも其の關係町村の財源に之を充當せしむるを要す政府の所見如何
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員伊東岩男君提出宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員伊東岩男君提出宮崎縣下各河川發電水利使用及官有林野解放等特種財源保有に關する質問に對する答辯書
(い) 發電水利使用に關する特種財源保有の件
第一點及第二點
河川法に依り徴收する發電水利使用料は從來發電の理論馬力を標準とし常時一理論馬力に對し年額一圓常時理論馬力と最大理論馬力との差に對し年額五十錢を徴收し得るものと定め其の範圍内に於て徴收することを認め來れり宮崎縣は前記徴收額の最高額を徴收し來れるものなるも水利使用料を徴收するは電力會社の一部に過ぎず他の大部分のものに對しては水利使用料に代へ最大一理論馬力に對し年額一圓の割合を以て寄附金を納付せしめ今日に至りたり此の寄附金は普通の場合に比し高率に上るものにして、昭和十三年度より當然水利使用料に改むべきものなるも窮迫せる宮崎縣の財政に重大なる影響あることは政府に於ても認むる所なるを以て政府は之等諸點を併せ考慮して適當なる措置を爲さむとす
第三點
電氣事業の國營が實現するも、電力會社より徴收し得べき水利使用料に相當する金額は之を可及的府縣に收納せしむるの方途を講じ府縣の財政に惡影響なき樣考慮せむとす
(ろ) 官有林野解放其の他に關する件
第一點
國有林野は治水其の他國土保安上重要なる關係を有するのみならず林利を永遠に保續し民業に適せざる巨材、特殊用材の如き材種を生産して國民經濟の需要に備ふると共に他面地元産業竝に地元民經濟の充足伸張を圖る方針に依り一定の計畫の下に經營せるものにして宮崎縣下の國有林野は十八万一千百餘町歩にして此の中不要存置國有林野は地方の事情に順應し拂下處分の見込なるも其の餘の要存置國有林野は前敍の國有林野本來の使命達成上必要なる林野に屬し永く國有として存置するの要あるものなり
第二點
國有林野の中管理上地元民に其の保護を委託するの必要あるものに付ては委託林の制度を設け町村又は部落に其の保護を委託し之が代償として自家用薪炭材及副産物の無償採取を許可し來りたる所にして將來に於ても本制度の活用を計る見込なるを以て保護委託の増加を理由として國有林野所在市町村交付金を増額するの要を認めず
第三點
政府は地元産業の状況竝從來の慣行等を參酌し必要なる林野は部分林の設定を許可し現在宮崎縣下に於ては一万七千餘町歩を算する現況なり而して之等部分林の伐採後は契約更新を爲す場合あるべきも部分林地の拂下に付ては考慮し居らざるものなり
第四點
國有林野中農耕適地に付ては地元の状況等を參酌し拂下又は貸付の方法に依り之が耕地として利用せしむる方針なり
第五點
海岸に所在する農林省所管の國有林野は概ね防潮防風保安林なるを以て農耕地として拂下利用せしむべき土地は存在せず
第六點
國有林野所在の地元民に對する自家用竝稼用の用薪材の供給に關しては其の實情に應じ可及的地元の要望に副ふ樣努めつつある所にして又一面木炭金融竝販賣の合理化を圖る爲には産業組合を中心として低資の供給販賣の斡旋を爲さしめつつあり
第七點
各河川及海岸地に於ける土石及砂利の賣却料金は河川法の適用若は準用なきものは國の收入となり居るも之を關係町村の財源に充當するや否やに付ては尚考究の上決定するの要あるものと認む
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
農林大臣 山崎達之輔
遞信大臣 伯爵 兒玉秀雄
内務大臣 河原田稼吉
大藏大臣 結城豊太郎
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千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月八日
提出者 土屋清三郎
千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問主意書
近來地方人民共通の不滿は實に官僚獨尊の脅威にあり而して昨年千葉縣山武郡緑海村に起れる所謂房總七・二六事件は地方に於ける官僚獨尊の如何に恐るへきかを暴露したるものにして端を小學校舍移築に對する縣當局の輕卒非常識なる措置に發し一半の村民愕然として反對陳情の擧に出つるや縣當局は以て官廳の威信に關すと爲し警察權を濫用して手段を選はす反對部民を彈壓し威力を以て之を慴伏せしめむとして果さす民間有志か之を憂へて調停解決に乘出すや陽に之に贊して陰に之を忌み反對部民か圓滿解決を信して安心せるに乘しし亂暴にも武力を以て之を強行せむと企て七月二十六日夜半縣下の警察官を動員して一隊を以て反對部落を封鎖し一隊を以て授業期間中の小學校舍を包圍し一擧に之を破壞して他に撤去し以て學童及反對部落をして名状すへからさる悲痛混亂に陷らしめ遂に二千の反對部民を驅りて縣政より離れて獨自の新村を結成し三百の學童を私塾に擁して自ら教育するの餘儀なきに至らしめたり爾來日を經ること既に九箇月村民は有らゆる迫害に對して頑然死守して屈せす縣當局は威信兩つなから地に墜ちて今尚策の出つる所を知らす甚しきは校舍破壞の際恐れ多くも教育勅語謄本の奉安に關し重大なる不敬の失態を演しなから極力之を曲庇して責任囘避の態度に出つ抑抑警察隊を以て自治體及教育機關を襲撃破壞する既に空前の暴擧たり之か爲縣政より遊雜せる無政府村の出現を餘儀なくせしめ陛下の赤子を政澤の外に遺棄して今尚之を迫害するに至りては聖代許すへからさる暴政に非すや況や之か爲未た一人の責任者を出さす監督の政府亦之を放任するに至りては政府は本來何の爲に存在するやを疑はさるを得す仍て左記事項に付内閣總理大臣、内務大臣及文部大臣の責任ある答辯を求む
一 緑海村の學校位置問題は十年來上側即ち純農部落と下側即ち半農半漁部落と爭ひ來りたるものにして六年前當時の村當局は多年の紛爭を一掃せむと欲し位置の公平なる選定を縣當局に仰き縣か專門的調査に依りて最適當と指定したる場所に全村會一致を以て決定建築したるものなり然るに一昨年新村當局か上側村會議員の多數に依り新築漸く五年を過きさる前述の校舍を僅々百餘間の上側に移築するの議を決し縣の認可を求むるや縣は下側村民が情理を悉くして其の不當を哀訴陳情したるに拘らす唯村會多數決の一事を理由として前任縣當局の苦心を無視し將來の影響を慮る所なく輕卒にも之に認可を與へ以て今次紛爭の因を作れり素より多數決は會議政治の原則なりと雖本件の如き場合唯村會多數決のみの故を以て必す之を認可せさるへからすとせは縣の監督權は無用の存在なるのみならす將來村會勢力の消長毎に學校の位置は上轉下行して止まる所なく啻に自治の圓滿なる發達を害するのみならす小學教育機關をして町村爭覇の火中に投するの結果を招來すへし政府は縣當局の措置を以て當を得たりと爲すか
二 縣の移築認可に對し下側村民か依然として反對陳情を繰返すや縣當局は緑海村を管轄する成東警察署長に態態下側と反對の立場に在る同村上側出身の齋藤某を任命し職權を濫用して極力下側反對民を彈壓せしめたり例へは反對民に對する債權者を警察署に招致して告訴を要請し以て反對者を窮地に陷れむと企て債權者の義憤的拒絶に會ひて失敗したるか如き又移築絶對反對の書面を上側の一友に送れる下側の者を捉へて拘留に處し釋放に先ち捕繩を以て胸部を緊縛し更に之を椅子に括り附けて署長の面前に据ゑ「君には氣の毒なるも斯くせされは反對は屏息せす加之校舍移築は縣の絶對的指令なるを以て如何なることあるも必す之を斷行すへし萬一之を妨くる者あらば直に全縣下の警官を動員して之を壓伏すへく必要に應して軍隊出動の用意もあり」と威嚇したるか如き或は下側反對の村税滯納者等に對し警官三名か村吏を帶同して家宅に臨檢し入口の障子其の他見易き場所に長大の差押封印を貼附し其の後屡屡警官を派遣して樣子を窺はしめ偶偶其の一部か剥離せるを發見するや數名の警官直に其の家に侵入し主人を引致して交換的に反對運動中止を強要したるか如き其の他一々之を指擧するを略すと雖以て縣當局の人事行政の非常識と警察の惡辣なる職權濫用の一端を窺知するを得へし政府は右警察署の行動を以て當を得たりと爲すか
三 成東警察署の彈壓痛く下側反對民の憤怨を買ひ人心漸く惡化するや此の儘に推移せむか他日遂に拔くへからさる禍根を殘さむことを憂ひ有志の士は頻りに縣當局、成東署及縁海村上側竝下側の間を奔走して圓滿解決に乘出すに至り下側も遂に其の誠意に動かされ一切を擧けて調停者に一任安堵し調停の有志亦縣當局と折衝の間に何事そ縣當局は陽に之を迎へて圓滿解決に贊しなから陰に村及成東署を指揮して遮二無二校舍の移築強行を企て竊に縣警察部巡査教習所其の他縣下の各署より百數十名の警官を動員し成東署員と合して七月二十六日午前三時を期し突如一隊を以て下側部落を戒嚴封鎖し一隊を以て小學校を包圍し署長及村長指揮の下に百數十名の人夫をして警官と協力し疾風迅雷の勢を以て校舍を破壞し之を所定の上側の新築地に運搬を始むるに至れり黎明に及び朝起會員として校門前の鐵路掃除に來れる學童等は此の光景を睹て愕然色を失ひ警官叱咤の間を縫ひて恰も火事場に物を探すか如く自己の學用品を索めて得す悲叫しき家に歸るに及ひ部民は始めて朝來物々して武裝警官隊の來往か吾等の愛兒の校舍破壞の爲の吾等の部落封鎖なるを知り卑怯極まる暗打的暴擧として悲憤一時に激發し各自警戒を突破して決死の集合を爲し署長以下警官隊包圍の裡に異口同音官憲の暴状斯の如し吾等は最早や本村より離れて吾等の兒童を吾等の手に依りて教育するの外なしと叫ひ即時私學設立、村税不納、警察排斥の議を決し獨立自營以て縣の虐政より囘避するに至れり抑抑警察の使命は社會生活の秩序を維持するにあり然るに縣當局は上述の如く反對部民か圓滿解決を信して安堵し毫も不穩の状なかりしに拘らす此の秩序維持を使命とする警察隊を以て夜陰に乘して包圍急襲し一擧秩序を破壞して無政府状態に陷らしめたるものにして其の行動は之を叛徒馬賊に比すへく其の思想は庶民を犬羊視する昔日の暴吏と選ふ所なし部民か呼んて以て警匪と爲し今尚之を怨敵視して毎月二十六日を記念する故なきに非す若夫れ授業中の校舍を豫告なくして警察力に依り急襲破壞せることか如何に童心に影響したるかに至りては一度彼等の綴れる感想文を讀む者をして思はす肌に粟を生せしむ政府は右縣當局及警察隊の行動竝學校破壞を以て當を得たりと爲すか
四 前項の校舍破壞に際して起れる最恐懼に堪へさる一事は實に教育勅語謄本奉護に關する失態なりとす即ち當日午前三時十五分頃成東署長及緑海村長は多數の警官及人夫を引率して突如校舍に乘込み先つ使丁及宿直教員を呼起して今より校舍の取壞しを行ふへきを以て直に教室に入りて机及校具の片付を爲すへし校長も迎へにやりたるを以て追て來るへしと告け兩名か直に教室に入りて片付けつつある間に早くも多數の人夫は正面玄關脇より宿直室の屋根に上りて瓦の剥離を始め以て教育勅語謄本奉安の儘其の直上の屋根を蹂躪取壞すの失態を惹起し剩へ間もなく登校せる校長に依りて他の書類と共に玄關廊下に移されたる勅語謄本は忽卒不用意の間に人夫に依りて他の校具書類と同樣自轉車後部の荷附に結ひて上側に運搬せられ次席訓導之を發見して恐懼して人夫を叱咤するの事態を惹起するに至れり思ふに斯る失態を釀すに至りたるは縣當局か警察及村當局と祕密に諜合して夜半急遽校舍の破壞搬出を敢行せむとしたる結果なりと雖苟も教育勅語謄本か同校に奉安しあることは縣當局周知の事にして從て校舍取毀に先ち必す之を適當の場所に奉安すへき旨嚴重關係者に注意すへかりしに拘らす當該校長職員にすら之を嚴祕して如上の失態を惹起するに至りたる以上現場に指揮せる村長署長等素より大責任ありと雖縣當局の責任最重しと謂はさるを得す然るに縣當局は關係部民より屡屡注意陳情を受けたるに拘らす只管其の責任の及はむことを恐れ縣會に於ても事實を曲庇して之を瞞化するの態度に出て部民をして縣當局果して皇室に對し忠誠の念ありやと憤慨せしむるに至れり抑抑教育勅語は國民道徳の大本にして御下賜の謄本は 天皇陛下皇后陛下の御尊影と同樣最尊重して奉護すへきこと文部當局累次の訓令なるに拘らす今日上述の如く關係者明知の失態を看過せむか文部の訓令は一片の反古と化し皇室の尊嚴と教育勅語の神聖は冒涜せられ國民思想に及ほす影響實に寒心に堪へさるものあり況や關係吏僚相結んて之を曲庇するに至つては不臣の罪斷して許すへからす政府は右に對し如何なる措置を取りたるか
五 校舍が破壞撤去せられ私立學校設置の報一度傳はるや同情翕然として被害部民に集り中には大に義憤を感して校舍は勿論机腰掛及使丁宿舍まて新造提供せる特志家あり其の他遠近淨財を贈りて之を後援する者相繼くの状態なるに反し縣當局は私學の出現か其の失政の結果となるを恐れ教員の招聘にも一一警官を派して之を阻止せしめ部民か巳むなく校長を東京より招聘し前月校舍破壞の日を以て清海小學塾として開校式を擧け九月一日三百餘名の學童を收容して授業を開始し同時に縣に對して私立小學校設立認可の申請を爲すや縣當局は右申請を其の儘にして百方手段を盡くして在學兒童の切崩しを策し遂に其の寸效なきを知るや八箇月を經たる去月中旬突如認可申請を却下すると共に一方縣下の中等學校に對して清海生徒入學拒絶の指令を與へ他方清海塾生は全部落第せしむる旨を新聞紙に宣傳し以て全面的に清海塾兒童の進出を封鎖し以て塾の潰滅を企つるに至れり茲に於てか上級生中には中等學校入學の爲他村の親族に寄留して其の村校に入學する者あるに至るや右情報に接せる縣當局は直に縣視學を派して當該小學校に對し清海塾生の入學取消を強要し之か爲折角入學したる者も拒絶せられて歸村の餘儀なきに至り父兄は餘りに執拗なる縣當局の迫害を怨み其の儘就學を斷念せしむるに至れり抑抑小學教育は次代國民養成の爲國家及父兄に課せられたる重大なる義務なるに拘らす縣當局は校舍を破壞して學童を私學に據るの已むなきに至らしめなから更に其の私學を壓迫不認可として尚飽足らす今又新學期を目前にして飽く迄之を迫害するに至りては之をしも文政當局の態度なりと爲すか竊に恐る斯の如き惡辣極まる迫害は孰れの日か民怨の爆發となりて遂に重大なる結果を生せむことを政府は右縣當局の措置を以て當を得たりと爲すか
六 學校破壞の最後的結果は下側部民に依る獨自の新村結成なり即ち警察隊の封鎖包圍の下に校舍の破壞搬去か決行せらるるや部民は縣當局及警察に對しては勿論本村上側に對する感情俄然惡化し營業上の取引は勿論日常の交際殆と杜絶し兄弟血縁の間も義絶の状態となり就中學童に在りては官憲及上側に對して極度に敵愾心を抱き上級學童の如きは誓つて他日の報復を期すと叫ひ頽齡の老婆亦涙を振つて兒孫を激勵する有樣にして到底融和の望なきのみならす此の儘に經過するは上下雙方の不幸にして寧ろ一日も速に本村より分れて新村を結成することか現在の恐怖状態より逃れて將來の平和を期する唯一の途なりとし下側部落四百餘戸加盟調印の上清海村の名に於て新村の結成を宣言し縣に向つて分村實現の陳情を爲すと共に村長以下村會議員を選任して近く更に役場建設の計畫を進めつつあり然るに縣當局は斯の如き事態か自己の失政の結果なるを省みす絶えす裏面的工作に依りて之か解消を企て其の全然不成功に終るや最近方向を學童及學校に轉換し前項所述の如く中等學校及他校への入學轉學の封鎖に依りて清海村塾の攪亂を策するに至りたる爲部民は憤慨の餘り去月下旬大會を急開して悽愴なる光景の下に「飽く迄分村の貫徹を期す縣税は納付せす」との決議を爲し以て縣當局の壓迫に對抗するに至れり抑抑地方自治の要諦は村民の協調偕和に在り然るに縣當局は自ら暴力を揮つて一村を兩斷し協調偕和の命脈を斷ちて必然的に分村の基礎を作りなから今に至つて進んて分村を實現するの勇斷なく退いて責を引くの良心なく縣政より遊離獨立する無政府村を出現せしめて何等爲すなきに至りては全然村民の能力を缺くものと謂はさるを得す政府の所見如何
七 近時官界の通弊は吏僚多く其の責任觀念に乏しきに在り而して緑海村事件は實に本邦自治制施行以來空前の暴擧にして最よく官僚獨尊の脅威を暴露したるものなり單なる一學校位置問題の解決の爲警察的武力を以て彈壓の一途に出て其の間聖勅奉護に對する不敬の失態を惹起し其の結果陛下の赤子を驅つて無政府村に逃避を餘儀なくせしめ荏苒九箇月を過きて何等解決せさるのみならす當局官憲中一人の責を負ふ者なきに至りては豈天下の一大怪事に非すして何そや往年徳川幕府の治世千葉縣には下總に佐倉騒動あり安房に萬石騒動あり孰れも藩僚暴政の結果に出つ而して前者の藩主は民怨の崇る所となりて亂心狂死し後者の藩主は領土を奪はれて追放せられ部下當局の藩僚は孰れも罪死し一方部民の願望は迅速且悉く達せられ怱々にして和平の局處を結へり幕府專制の時代に於て尚斯の如し聖世の當今下總と安房の間に起れる未曾有の暴政に對し關係の吏僚未た一人の責を問はれたる者なく部民の願望年を越えて何等達せらるるなきに至りては今日立憲政治却て昔日幕府の專制政治よりも劣るに非すや庶政を一新して民心を安んするは實に現内閣の重要政綱なり政府は速に關係吏僚の責任を糾明して官僚獨尊の病根を切斷し速に民怨を解消して被害村民をして再ひ天日を仰くを得しむるの意なきや
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員土屋清三郎君提出千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問に對し別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員土屋清三郎君提出千葉縣緑海村に於ける縣警察隊の部落封鎖小學校舍破壞教育勅語冒涜竝無政府村の出現及學童迫害に關する質問に對する答辯書
一、千葉縣山武郡緑海村に於ては小學校位置問題に關し多年紛爭を續け來りし處縣當局は之が融和解決に付種々腐心し愼重調査の結果現在の位置を指定したるものにして其の措置に付ては何等不當とすべき點なしと認む
二、警察官の行動に關しては同村が既往に於て小學校位置問題を中心に紛擾を重ね之が爲遂に警察事故を惹起したること一再ならざるの事實に鑑み昨年七月二十六日校舍移轉に際しても或は治安を害するが如き事態の發生せんことを虞れ警察官を派して取締の萬全を期したるものにして警察官自ら手を下して校舍を破壞したるが如きことは無く其の他特に本件に付干渉威嚇を行ひ又は職權を濫用したる等の事實なし
三、教育勅語謄本に關する不敬問題に付ては特に嚴密なる調査を行はしめたるも教育勅語謄本は移轉工事開始前職員に於て無事上側校舍に奉遷したるものにして質問の如き事實なし
四、私立清海小學塾の問題に付ては縣當局に於て關係民の感情鎭靜を期し極力村立小學校に兒童の通學を勸奬する一方各般の事情を愼重考慮の結果之を認可せざることと爲したるものにして特に學童を迫害したるが如き事實なし
五、要するに本件に關し縣當局の執りたる措置に付ては特に不當と認むべき事項なく又分村問題の如き愼重なる考究を遂げたる結果に基くものに非ずして偶發的感情に捉はれたる一時的所論と認めらるるを以て目下縣當局をして鋭意本件の解決に付努力せしめつつあり時日の經過と共に漸次事態は平靜に歸するものと認めらる
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
文部大臣 林銑十郎
内務大臣 河原田稼吉
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鹽専賣に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月九日
提出者 小西和
鹽專賣に關する質問主意書
一 鹽の專賣は當初品質の改良と財政關係とに基き且國庫の收入を目的とせり其の後收入主義を一擲し之に代ふるに非常の場合内地産食鹽の自給自足を期するのみならす配給の圓滑と價格の統一とを眼目とし以て今日に至れるものと認む然るに現下諸般の状況に照せは鹽專賣の必要性は著しく減殺せられたるものの如し此の故に依然鹽專賣を續行するは時勢に適應せす最近に於ては政府の之に對する處置も亦專賣廢止を前提とするに非すやとの疑を抱かしむるのあり政府は鹽專賣廢止の意思なきか
二 内地産鹽に對して政府は昨年七月を以て向八箇年を期し其の賠償價格金一圓引下けの聲明を發したり當局は爾來當業者との間に種々折衝中の處昨年十二月末を以て昭和十二年度に適用すへき内地鹽の賠償價格を大幅金二十錢引下くへき旨發表し當業者を驚駭せしめたり輓近に於ける一般物價は騰貴の趨勢に在り勞銀も亦上昇の傾向を辿るに非すや此の時に當りて單り鹽價の引下けを敢行するは逆流に棹さすの類にして適切穩當の擧と謂ふを得す從て政府の執れる熊度は確的に内地鹽の生産を壓迫し斯業を萎縮せしむるのみならす當業者をして苦痛を嘗め甚しきに至りては倒産に陥らしめ一方に於ては從業者の生活を脅威す斯る状態を以て推移したらむには遂に特殊の一大産業を廢滅に導くの虞なしとせさるなり而も尚鹽價引下けの擧に出つる理由及其の影響に對する政府の所見如何
三 政府は北支那就中長蘆の價格低廉、在貨豐富なる産鹽を内地に輸入するに決したるのみならす既に實行の端緒を啓きたるか如し其の經過と内容とに付て詳細なる説明を望む又此等外鹽の輸入は專賣局か軍部の強要的主張と購買の斡旋盡力とに加ふるに内閣調査局の軍部迎合に基因し遂に如上の擧に出つるの外なきに至れるものなりと聞く事實果して如何尚内地鹽賠償價格の引下けは如上外鹽輸入に起因するものに非すや政府は之か爲に内地製鹽業を壓迫し其の産額の漸減を招致するも已むを得すと思考するか
四 鹽專賣に關する施設經營の如何は啻に製鹽業者及其の從業員の利害に關するのみに止らす鹽田所在地方に取りて直接又間接の影響多大なり内地鹽の四割を生産する香川縣の實情は特に顯著なるものあり地方經濟及自治制度等に關聯すること亦素より鮮少なりとせす内地鹽賠償價格の引下けを聞きたる當時關係町村長は一齊上京して其の波及する苦痛を陳情し香川縣會は縣經濟及財政のみならす縣民に與ふる關係に付て論議し香川縣知事も亦上京して政府に具申する所ありき以て内地鹽賠償價格引下けの及ほす苦痛損害の多大且廣汎なるを知るへし之に對する政府の所見如何
五 鹽田は皆海岸に面し危險率多く營繕費を要すること亦然り加ふるに公租公課等の負擔重し而も鹽田所有者は四圍の情勢と金利の低下とに鑑み既に相當の地料を引下けたるもの多し其の地料は鹽を用ひて受渡すを普通とすること尚水田に於ける小作料に米を用ふるに異ならす從て鹽の賠償價格引下けに因る鹽田所有者の苦痛頗る大にして其の利廻りは甚た鮮少なるに至れり況んや凶年に際會すること稀ならさるに於てをや又鹽田小作者は勞銀及物價の昂騰に伴ひ經營に苦しむこと甚しき以て鹽田所有者に向ひ地料の引下けを要求するの外なきに至り茲に兩者間の爭議を惹起し現に紛爭中のもの比々然らさるはなく事態は誠に憂慮すへき情勢を呈す斯る場合を辨別せすして鹽賠償價格を引下くるか如きは決して當を得たる處置に非すと認む政府の所見如何
六 政府にして鹽専賣廢止の意思あらは豫め之を公表し當業者をして其の善後の方策を誤らさらしむへきなり之に反して依然專賣を維持する方針なるに於ては鹽田所有者、製鹽業者及從業員の等しく安定して經營又勞作し得るを基調とし以て各般の施設及行爲に出つるを要す即ち物價、勞銀を首め社會の情勢を參酌して生産費を算出し中庸適切なる賠償價格を定め併せて之に適應する諸般の方途を立つへきに非すや政府の之に對する態度如何敢て明確なる答辯を求む
七 政府は往年鹽田整理を決行せり爾來暫く斯の事なかりしに仄聞する所に據れは近く鹽田整理を爲さむとする趣なり之を整理する場合には廢田に對して新田を開拓せしむるか又は單に廢止するのみにして鹽田の面積を縮少する見込なるか若し鹽田の面積を縮少する見込なりとせは其の理由如何尚賠償價格引下けの理由として政府は根本的に製鹽設備を改良せしめ以て其の生産費を遞減する旨を高唱しつつあり然れとも政府の指導奬勵する設備及方法に依り果して好果を奏するや否や未た確乎たる實際上の證憑を見す今尚疑惑の裡に在り而も當業者としては多大の設備費を要するのみならす其の運用の困難に苦しめり之に對する政府の所見を問ふ併せて政府の内地製鹽に關する根本方針に付て明瞭なる答辯を望む
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員小西和君提出鹽專賣に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員小西和君提出鹽專賣に關する質問に對する答辯書
一、政府は鹽專賣を廢止する意思なし、時勢に適應して之に改善を加へ、其の運用を完うすることに努むるを適當と考へ居れり
二、内地鹽の價格は近年製鹽業の著しき改善に依り、漸次低下するに至れるも之を外地産鹽の豐富にして低廉なるに比較すれは尚ほ格段の遜色あり、故に内地鹽業は更に改善を加へ以て生産費の低下を圖るの緊要なることは論を俟たさるところにして、之か方策として製鹽の合同機械化を奬め、其の資金に付ては低利資金の融通を爲しつつあり而して昭和十二年に適用すへき鹽賠償價格は製鹽の收支關係、鹽業經濟の實情等に稽へ愼重考究の上之を決定したるものにして其の決定に當りては物價勞銀の動向に付十分考慮を拂ひたるを以て鹽業者の經濟に支障なきものと認め居れり
三、近年本邦内地に於ける曹達工業の急激なる發展に伴ひ、多量の工業原料鹽を要する處、北支那に廉價なる停滯鹽ありて之を輸入することの極めて有利なるを認め工業家をして之を輸入せしめたるものに外ならす他に何等事情あるに非す、而して右北支産鹽は工業用原料鹽なるを以て其の輸入は食料用たる内地鹽の賠償價格問題に關係を有せす又何等内地製鹽業を壓迫する等の虞なきものとす
四、鹽專賣の經營に當りては生産者の事業安定を圖るとともに消費者側の立場をも考慮し賠償價格を適當に決定するの要あり、而して昨年十二月行ひたる賠償價格の引下は第二項に述へたるか如き事由及考慮に基くものにして、決して鹽業の安定を失するものに非すと認む
五、鹽價引下に伴ひ偶々香川縣地方に於て鹽田地主及小作人の間に紛議を生したる事實あるも兩者の協調に依り漸次圓滿なる解決を見つつあり
六、政府は中庸適切なる賠償價格を定め居り尚鹽業の健全なる發達を圖るに付萬遺漏なきを期しつつあり
七、政府は目下の處鹽田整理を行ふの意嚮を有せす
内地鹽業設備の改善に付ては低利資金の融通、奬勵金の交付、技術の指導及鹽業關係者の協力等に依り所期の成果を擧け得るものと信す、而して政府は内地鹽業の維持改善に努めつつあること前述の通りなり
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
大藏大臣 結城豊太郎
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華族制度改正特權階級權益制限に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和十二年三月十日
提出者 松本治一郎
華族制度改正特權階級權益制限に關する質問主意書
現存華族制度の沿革を見るに明治維新の變革に當り封建制度の改廢に伴ひ舊身分は一應形式的には廢止せられたが明治十七年華族授爵の詔竝華族令が公布されるに及び當初維新政府が公卿諸侯を廢して唯空名のみを與へんとした華族は再び至特權ある一の身分的地位を確保するにつたのである之は實に一度廢止せられた舊身分制度の延長存續であり且明治維新の精神たる國民平等の原則を攪亂するものであつて是れあるが爲諸々の社會的、政治的不合理と矛盾とを生じ出して來たのである實に今日の華族制度こそは現代社會に於ける一種の癌である
今日華族は身分上、經濟上、政治上に幾多の權益を有して居る彼等は其の殊權を利用し財閥官僚と結託して極度に社會を毒し國民の絶對多數を占むる勞働者、農民、中小商工業者、俸給生活者等勤勞大衆を生活窮乏に陥れて居る
殊に全國に散在する六干部落三百萬人の被壓迫部落大衆は封建的身分關係に因り特權階級としての華族の對蹠的存在として凡ゆる人民的自由と權利とを奪はれ經濟的劣惡と政治的無權利とを強制される悲慘極まる状態に置かれて居る
今日華族制が存置されて居ることは被壓迫大衆を存在せしむる主要な條件となつて居り且國民の間に於ける階級對階級の軋轢鬪爭も亦之に縁由すること多大なりと言はねばならぬ
「和を以て貴と爲す」と天下に聲明せる現政府は國民の間に存在する斯の如き溝渠を撤廢し人民平等の原則に立脚して融和達成の爲に努力すべき責任と義務ありと信ず
故に左記の諸項に付政府の誠意ある答辯を要求するものである
一 政府は速に華族制度を根本的に改め臣民としての華族制を改正する爲之を上奏する意思なきや
二 政府に於て若し華族制度の改正を上奏するの意思がないとすれば政府は華族の身分上及政治上の特權を形式のみに止むべく之が手續を取る意思なきや
三 華族制度の改正に拘らず政府は貴族院の權限を徹底的に縮少すべく之を上奏御裁可を仰ぐ意思なきや
右及質問候也
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昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
衆議院議長富田幸次郎殿
衆議院議員松本治一郎君提出華族制度改正特權階級權益制限に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員松本治一郎君提出華族制度改正特權階級權益制限に關する質問に對する答辯書
(一)及(二)に付て
華族制度に關しては宮内省の管掌する所なるを以て答辯を差控へたし
(三)に付て
貴族院制度の改革に付ては第六十九囘帝國議會に於ける貴族院の建議の次第もあり、已に貴族院制度調査會を設置して愼重審議中なり
右及答辯候也
昭和十二年三月二十三日
内閣總理大臣 林銑十郎
一議員より提出せられたる議案左の如し
人權蹂躪根絶に關する決議案
提出者
小泉又次郎君 濱野徹太郎君
漢那憲和君 土屋清三郎君
内ヶ崎作三郎君 松田正一君
澤田利吉君 三好榮次郎君
清水留三郎君 一宮房治郎君
加藤鯛一君 永井柳太郎君
工藤鐵男君 八並武治君
松村謙三君 木檜三四郎君
櫻内幸雄君 齋藤隆夫君
一松定吉君 小山倉之助君
俵孫一君 大麻唯男君
原夫次郎君 岡崎久次郎君
岡本實太郎君 小久江美代吉君
渡邊銕藏君 田村秀吉君
中山福藏君 野村嘉六君
野田文一郎君 松田竹千代君
福田關次郎君 平川松太郎君
牧野賤男君 植原悦二郎君
宮脇長吉君 堀切善兵衞君
若宮貞夫君 安藤正純君
名川侃市君 西岡竹次郎君
宮澤清作君 山本芳治君
服部岩吉君 工藤十三雄君
大口喜六君 金光庸夫君
濱田國松君 松野鶴平君
川口義久君 立川太郎君
大野伴睦君 中井一夫君
青木雷三郎君 藏園三四郎君
(以上三月二十二日提出)
一昨二十二日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
(第一號)昭和十一年度歳入歳出總豫算追加案
(特第一號)昭和十一年度各特別會計歳入歳出豫算追加案
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
教育改革に關する質問主意書
提出者 服部教一君
(以上三月二十二日提出)
一昨二十二日提出者に於て撤囘したる質問主意書左の如し
外務大臣の演説に關する質問主意書
提出者 清瀬一郎君
一昨二十二日林内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
商工書記官 酒井喜四
第七十囘帝國議會商工省所管事務政府委員被仰付
一昨二十二日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第一部選出
建議委員 氏家清君(仲西三良君補闕)
第四部選出
懲罰委員 中山福藏君(松井郡治君補闕)
第六部選出
建議委員 椎尾辨匡君(今井新造君補闕)
一昨二十二日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第二部選出
豫算委員 亀井貫一郎君
第二部選出
懲罰委員 立川太郎君
第六部選出
懲罰委員 沖藏君
第九部選出
懲罰委員 宮澤裕君
一昨二十二日委員長及理事互選の結果左の如し
製鐵事業法案(政府提出)委員
委員長 福井甚三君
理事
大島寅吉君 片山一男君
田尻生五君
裁判所構成法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外二件委員
委員長 青木雷三郎君
理事
西田郁平君 村松久義君
天辰正守君
一昨二十二日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
鐵道敷設法中改正法律案(政府提出)委員
理事 佐保畢雄君(理事大本貞太郎君本月二十日委員辭任に付其の補闕)
船員法改正法律案(政府提出)委員
理事 日比野民平君(理事岡本實太郎君本月二十日委員辭任に付其の補闕)
一昨二十二日議長に於て選定したる委員左の如し
農村負債整理資金特別融通及損失補償法案(政府提出)委員
西村丹治郎君 牧山耕藏君
村上國吉君 岡田春夫君
松田喜三郎君 山本粂吉君
柏木清治君 佐澤定二君
吉植庄亮君 助川啓四郎君
高橋熊次郎君 行吉角治君
大本貞太郎君 伊東岩男君
石井徳久次君 永山忠則君
黒田寿男君 小山亮君
一昨二十二日に於ける特別委員の異動左の如し
輸出補償法中改正法律案(政府提出)委員
辭任 福田耕君 補闕 北勝太郎君
辭任 木村武雄君 補闕 渡邊泰邦君
辭任 菊池長右エ門君 補闕 東條貞君
辭任 森田政義君 補闕 山田佐一君
樺太市制案(政府提出、貴族院送付)委員
辭任 石坂豐一君 補闕 上塚司君
農地法案(政府提出)委員
辭任 愛野時一郎君 補闕 高橋守平君
小運送業法案(政府提出)外一件委員
辭任 柏木清治君 補闕 堀内良平君
裁判所構成法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外二件委員
辭任 野村嘉六君 補闕 原夫次郎君
船員法改正法律案(政府提出)委員
辭任 倉成庄八郎君 補闕 立川平君
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