1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
船員法改正法律案（政府提出）
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會議
昭和十二年七月三十一日（土曜日）午前十時三十分開議
出席委員左の如し
委員長 漢那憲和君
理事 岡野龍一君 理事 長井源君
理事 高橋泰雄君 理事 田代正治君
野田文一郎君 多田滿長君
小柳牧衞君 前田房之助君
星島二郎君 濱地文平君
山崎常吉君 石坂繁君
米窪滿亮君 小山亮君
紅露昭君
同月三十一日委員増永元也君辭任に付其の補闕として紅露昭君を議長に於て選定せり
出席國務大臣左の如し
遞信大臣 永井柳太郎君
出席政府委員左の如し
外務參與官 船田中君
社會局長官 大村清一君
陸軍主計大佐 栗橋保正君
海軍中將 豐田副武君
司法省刑事局長 松阪廣政君
文部省實業學務局長 小笠原豐光君
遞信政務次官 田島勝太郎君
遞信參與官 犬養健君
遞信省管船局長 小野猛君
拓務參與官 伊禮肇君
拓務省殖産局長 植場鐵三君
委員長の許可を得て出席したる者左の如し
司法書記官 清原邦一君
本日の會議に上りたる議案左の如し
船員法改正法律案（政府提出）発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=0
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001・漢那憲和
○漢那委員長 是ヨリ會議ヲ開キマス、通
告順ニ依ッテ質問ヲ許シマス-長井君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=1
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002・長井源
○長井委員 私ハ遞信大臣竝ニ司法大臣ニ
御尋致シタイト思ッテ居リマスノデ、只今御
見エニナッテ居ラヌヤウデアリマスカラ、留
保シテ戴イテ、後廻シニ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=2
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003・漢那憲和
○漢那委員長 長井君ガ留保致シマシタカ
ラ、次ハ山崎常吉君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=3
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004・山崎常吉
○山崎委員 私御尋セント致シマスノハ、
マダ新米デゴザイマスノデ、今度ノ船員法
ノ法律改正ニ付キマシテ、箇條的ニ問題ガ
十分分リマセヌノデ、〓括的ニ一應御尋
シタイト思ヒマス、就キマシテハドノ箇條
ヲドノ政府委員ノ方ニ御尋シテ宜イカト云
フコトモ樣子ガ分リマセヌノデ、御尋シマ
ス要點ヲ適宜係ノ方カラ御答ヲ願ヘレバ結
構デゴザイマス、先ヅ第一番ニ御尋シタイ
ト思ヒマスノハ、船員法ノ改正ニ付キマシ
テハ、既ニ第七十議會ニ於キマシテ其審議
討論モ御濟ミニナリ、貴族院ニ廻ッテ、一方
ニ於キマシテ議會ガ解散ニナッタト云フヤ
ウナ工合ニ御聞キシテ居ルノデゴザイマ
ス、此船員法ノ改正法案ガ第七十議會ニ提
案ヲ爲サレマシテ、法律ノ明文カラ二重ニ
モ三重ニモ刑罰ノ苛酷ナ重荷ガアルト云フ
ヤウナ工合デ、高級船員ノ方カラハ改正ノ
要求ガアリ、或ハ其決定ニ反對ノ運動ヲ爲
サレタト云フコトヲ聞及ンデ居リマス、更
ニ下級船員ノ方カラモ第一一十四條、五條、
六條ト云フヤウナ條文ニ對シマシテ、但書
ノ點ニ對スル所ノ取下ゲ、或ハ其改訂ト云
フヤウナ工合ノ要求ガアッタト云フヤウニ
聞イテ居リマス、上級、下級ノ船員ノ間カ
ラモ左樣ナ要求ガアッタニモ拘ラズ、此度ノ
第七十一議會ニ對シマシテハ、原案其儘ノ
法律ガ再ビ提案セラレタト云フ狀態デアリ
マス、是ハ政府ノ御心持ハ左樣ナ反對ガ
アッタニモ拘ラズ、ソレヲ押切ッテ再ビ原案
ノ儘提出セラレタト云フコトハ、ドウ云フ
御意見デアリマセウカ、先ヅソレヲ御尋シ
タイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=4
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005・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今山崎君カラ御尋ニナ
リマシタコトハ御尤ニ存ジマスガ、御承知
ノ通リニ此改正案ハ、曩ニ海運業ニ關係シ
テ居リマス勞資兩方面ノ代表者竝ニ官民ノ
關係者ヲ合セテ相當長期ニ亙ッテ審議シテ
拵ヘ上ゲタ、其趣旨ニ基キマシテ拵ヘタモ
ノデアリマス、勿論茲ニ此度拵ヘマシタ改
正案ガ、必シモ總テノ關係者ヲ滿足セシメ
テ居ルモノトハ思ヒマセヌ、尙ホ一層各方
面ノ意見ニ聽イテ〓究ヲ要スル問題モ確ニ
殘ッテ居ルト思ヒマス、ケレドモ現行船員法
ハ明治三十二年頃、非常ニ早ク出來テ居リ
マシテ、餘リニ社會ノ進運ニ遲レテ居リマ
スノト、海員ノ生活ノ保護ハ一日モ忽セニ
スルコトガ出來ナイト云フ考カラ、取敢ズ
各方面ノ意見ノ一致致シマシタモノヲ取纒
メマシテ、此度ノ改正案ヲ作リマシタ、サ
ウシテ之ヲ七十議會ニ提出シタ次第デアリ
マス、御話ノ通リマダ〓究ヲ要スル問題モ
少クナイト思ヒマス、又別ニ關係法規ヲ拵
ヘテ、其關係法規ノ中デ補フベキ問題モ殘ツ
テ居ルト思ヒマス、併シ只今申上ゲマシタヤ
ウニ、各方面ノ意見ノ一致致シマシタモノ
ダケハ、一日モ速ニ法律ニ制定致シマシテ、
海員ノ生活ノ保護ニ對スル目的ヲ遂ゲタ
イ、斯樣ニ考ヘマシテ此法案ヲ提出シタ次
第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=5
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006・山崎常吉
○山崎委員 只今遞信大臣カラノ御說明ヲ
伺ヒ、其氣持ハ私モ能ク分リマスガ、同時
ニ又只今ノ御說明ノ如キ趣旨ノ文書モ手
許ニ戴イテ居リマス、私ノ御尋致サントス
ル所ノ趣意ハ、只今御說明ニナッタヤウナ
工合ニ、大變此法規ノ出來タ時代ト今日ノ
社會情勢トヲ異ニシテ居ル、時代ノ進運ニ
伴ッテノ法ノ制定或ハ業者ノ保護、從業員ノ
保護、洵ニ結構ダト思ヒマス、併ナガラ斯
樣ナ保護政策ノ下ニ、助長政策ノ下ニ出來
タ法律改正案デアルニモ拘ラズ、船員上下
ノ間カラ其改訂ヲ叫ビ、其撤廢ヲ叫ンデ居
ルト云フヤウナ實情ニ對シマシテ御尋シタ
ヤウナ次第デゴザイマス、ソレデ第七十議
會ニ於キマシテハ、法文ガサウシテ決定ス
ルコトハ仕方ガナイガ、然ラバソレニ對シ
テ附帶決議ヲスルト云フ工合デ、附帶決議
ガ決定シテ居ルト云フヤウナ工合ニモ聞イ
テ居リマスノデ、此度ノ第七十一議會ニ於
キマシテハ、此附帶決議ニ對シマシテ、當
局ハドウ云フ工合ニ取扱ヒニナル御方針デ
アルカ、是モ一應御尋シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=6
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007・永井柳太郎
○永井國務大臣 第七十議會ニ於キマシ
テ、山崎君ノ御話ノ通リ附帶決議ガ附イテ
居ルノデアリマス、附帶決議ハ專ラ海員ノ
過失ニ對スル刑罰ニ關スルモノト、ソレカ
ラ其過失ノ場合ニ色々ナ取調ヲスルニシテ
モ、海運業ニ從事シテ居ル者ノ特殊ノ立場
ヲ考慮シテ、普通ノ犯罪嫌疑人ヲ取扱フヤ
ウニ、咄嗟ニ拘引ヲスルト云フヤウナ態度
ハ、宜シクナイト云フコトニ付テノ附帶決
議デアリマス、實ハ此附帶決議ノ趣旨ハ、私
共モ御尤ニ思フノデス、ソレデ若シ法文化
スル餘地ガアルナラバ、ソレハ〓究ニ値ス
ルモノダト考ヘタノデアリマスガ、丁度司法
省ニ於キマシテハ、ヤハリ刑法改正ノ時ニ、
船舶ダケデナシニ、或ハ航空ナドニ關シテモ
同樣ノ事態ガ起リ得ルノデアルカラ、ソレ
等ノコトヲ一括シテ適當ナ法ノ改正ヲスル
コトヲ〓究シテ居ルカラ、其〓究ヲ俟ッテ改
正ヲスルコトニ致シタイト云フ意見ガアリ
マシテ、趣旨ハ十分諒承サレテ居ルト思ヒ
マシタカラ、ソレデ附帶決議ニシ、其附帶
決議ニ吾々モ同意致シタト云フ次第デアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=7
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008・山崎常吉
○山崎委員 只今ノ御言葉ハ斯ウ解釋シテ
宜シウゴザイマスカ、附帶決議ノアノ問題
ニ付キマシテハ、當局モソレヲ諒承シテ居
ルカラ、成ベクソレヲ活カスヤウナ方法ニ
シタイト云フ心持ガアルト云フ工合ニ、解
釋シテ宜シウゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=8
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009・永井柳太郎
○永井國務大臣 山崎君ノ御話ノ通リデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=9
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010・山崎常吉
○山崎委員 此問題ハ多クノ先輩諸氏ガ十
分御〓究ナサッテ居ルコトヽ思ヒマスカラ、
私ハ此程度デ此質問ヲ一應打切リマスガ、
更ニ一般船員ノ思想問題ニ付キマシテ、遞
信大臣ノ所見ヲ一應御伺シテ置キタイ、先
ヅ私ハ現在ノ社會情勢ノ下ニ於キマシテ、
國際的ニ一番重要ナ立場ニ居ルノハ船員ダ
ト思ヒマス、特ニ四方ヲ海ニ圍マレマシタル
我國ノ如キ狀態ニ於キマシテハ、此船員ノ
思想ガ、國體ニ基ク所ノ思想ノ保持者デア
ルカ、或ハ國體破壞的ノ共產主義ノ思想
或ハ社會民主主義ノ思相ノ保持者デアルカ
ト云フコトハ、將來ノ國家ノ上ニ取リマシ
テ多大ナ影響ヲ持ツモノデアルト思ヒマ
ス、此處デ一寸船員ノ狀態ヲ離レマシテ、
今一般陸上勞働者ノ動向ヲ考ヘマス時ニ、
我國ハ餘リ自由主義的ニ思想ヲ許シタト云
フヤウナ關係上、惡質ノ爭議ガ各工場デ起
サレマス、惡質ノ爭議ノ結果、產業上ニ及
ボス所ノ影響ハ可ナリ甚大ナ損害ガゴザイ
やく、是等ハ又後日ノ機會ニ私ハ御話申上
ゲタイト思ヒマスガ、陸上勞働者ニ對シマ
シテモ、政府ハ國體觀念ニ基ク所ノ思想ノ
善導ヲスベク進マネバナラヌヂヤナイカト
思ウテ居リマス、特ニ只今申上ゲマシタヤ
ウナ場合ニ、船員ノ思想ト云フコトハ、直
接國體ト相反スル所ノ國々ヘ行キ、又其國
國ノ諸君ト交ルト云フ點ニ付キマシテ、大
變ナ重大性ヲ持チマス、更ニ最近ノ軍器ノ
製作工場、軍需工場、或ハ〓糧衣服ノ工場ニ
對スル所ノ國際「スパイ」ノ横行、我ガ產業
ノ機密ヲ盜マントスル所ノ國際「スパイ」ノ
横行、是ハ阪神地方或ハ橫濱、川崎、斯樣ナ
方面ニ付キマシテハ、盛ンニ暗躍ガ續ケラ
レテ居ル、最近又名古屋ニ愛知時計ト云フ
民間ノ軍器ノ製作工場ガアリマス、其處デ
國際「スパイ」ノ暗躍ニ依ッテ六千人ノ從業
員ガ騒動ヲ起シタ、斯ウ云フヤウナコトモ
アリマス、サウ云フヤウナ社會情勢ニ於キ
マシテ、此海運業ニ從事スル船員ノ思想ノ
統一ト云フコトハ、相當ニ重要性ノアルモ
ノダト思ヒマス、最近私耳ニ致シマシタ所
ノ問題ヲ考ヘマス時ニ、昨年十一月ノ海軍
大演習觀艦式ノ時、日本郵船株式會社ガ起
シマシタ國旗揭揚ノ不敬事件、アレ等モ國
體ニ反スル思想ノ現レデアルト思ヒマス、
ソレカラ是ハ方面ガ違ヒマスガ、本年ノ初
メノ頃デゴザイマシタガ、日本海員組合ト
新日本海員組合トノ合同ノ問題、此合同ノ
問題ニ對シテ遞信局長ハ、大變統一スベシ
ト云フコトニ付テ御骨折ヲ爲サッタノデア
リマスガ、之ニ對シテ大阪方面ノ憲兵隊ノ
司令官ガ仲ニ入リマシテ、一體海員ノ思想
ヲ社會民主主義ニ持ッテ行クノカ、日本主義
ニ持ッテ行クノカト云フ點ニ付テ、大變御意
見ガ述ベラレタト云フヤウナコトモ聞イテ
居リマス、私ハ我國ノ各種產業ニ從事
スル勞働者ノ思想ハ、國體觀念ニ基ク
所ノ思想ニ統一セラレネバナラヌノデハ
ナイカト斯樣ニ考ヘマスガ、此點ニ付
キマシテ遞信大臣ハ、將來船員ノ思想
ノ動向ヲドウ云フ方面ニ導カレルト云フ
覺悟ガアラルヽカ、其點ヲ一應御聽キシ
タイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=10
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011・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今山崎君ノ御尋ニナリ
マシタ點ハ、海員ノ生活問題ノ根柢ノ問題
ダト思フノデスガ、御話ノ通リ勞務ニ從事
シテ居リマスル者ノ、國家ノ興隆ニ取ッテ重
要デアリマスコトハ、海陸ヲ問ヒマセヌ
ガ、殊ニ幾多ノ危險ヲ冐シマシテ、海上ニ
國家ノ基礎ヲ建設シヨウトスル勞務ニ從事
シテ居リマスル船員ノ國家ニ取ッテノ重要
性ハ、私モ山崎君ト同樣ニ認メテ居リマ
ス、而シテ同時ニ船員ノ生活ハ、常ニ國際
的ニ其ノ生活ノ範圍ガ擴大サレテ居リマス
ル關係カラ、種々ナル外國思想ノ感化ヲ蒙
リ易イ立場ニ居ルト云フコトモ、注意シナ
ケレバナラヌト思ヒマス、私ハ海上ト云ハ
ズ。陸上ト云ハズ、總テノ勞務者ハ其根柢
ニ於テ日本國民トシテノ自覺ヲ持ツト云フ
コトガ、其生活ノ根柢ニナッテ來ナケレバ
ナラヌト思ヒマス、又サウ云フ勞務者ニ依ッ
テコソ眞ノ日本ノ產業モ勃興シ、國家ノ興
隆モ期スルコトガ出來ルノデアルト存ジマ
ス、只今御話ニナリマシタヤウナ事件ハ、
私ノ就任前ノコトデアリマシテ、餘リ其眞相
ハ詳カニ致シマセヌケレドモ、船員ノ生活
ハ申上ゲル迄モナク、一切ノ勞務ニ從事シ
テ居ル者ヲ、眞ニ國體ノ精華ヲ顯現スルト
云フ大使命ノ下ニ指導シテ行クト云フコト
ハ、今期議會ノ劈頭ニ總理大臣カラモ聲明
サレマシタ通リ、吾々ハソレヲ方針トシナ
ケレバナラヌト思ヒマス、船員ノ精神上ノ
指導等ニ於キマシテモ、平素ノ生活ニ於キ
マシテモ、其日本國民トシテノ大義名分ニ
則ッテ進退ヲスルヤウニ之ヲ指導シテ行ク、
激勵シテ行ク、又過チナキヤウニ保護シテ
行クト云フ點ニ付キマシテハ、當局トシテ
万全ノ方法ヲ講ジテ御期待ニ背カヌヤウニ
致シタイト考ヘマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=11
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012・山崎常吉
○山崎委員 能ク分リマシタ、先程ノ船員
法ノ問題ニ付マシキテ、改正或ハ二重三重ノ
刑罰ノ重荷ニ對スル所ノ反對ノ聲ガ、各船
員ノ間ニ揚ッテ居リマシテ、是ハ各委員諸氏
ノ所ニ、其反對ニ邁進シテ貰ヒタイト云フ
所ノ激勵ノ電報ガ來テ居ルト思ヒマス、私
ノ所ヘモ來テ居リマスガ、各商船學校ノ倶
樂部、或ハ各船舶ノ乘組ノ上級船員カラ長
文ノ反對決議、或ハ反對ニ努力シテ貰ヒタ
イト云フヤウナ電報ガ十六通來テ居リマ
ス、其點ハ一應御認メ置キヲ願ヒタイト思
ヒマス、以上デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=12
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013・漢那憲和
○漢那委員長 長井君、此際遞信大臣ニ御
質問ナサルナラバ御許シ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=13
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014・長井源
○長井委員 實ハ此船員法ハ、特ニ法律關
係トシテ司法大臣ニ、前ノ委員會ノ時モ色
色質疑應答ガアッタノデゴザイマシテ、司法
大臣ノ御出席ヲ求メテ御意見ヲ伺ッテ置キ
タイト思フノデアリマスガ、陪審法其他ノ
重要ナ案モアルト思ヒマスノデ、進行上政
府委員ノ方デ御答ヲ戴クコトニシテ質問ヲ
スルコトニ致シマス、取敢ズ御尋ヲ致シタ
イコトハ、本法案ハ昨年ノ前議會ニ於テ提
出サレテ、本院ヲ通過シテ居ルモノデアリ
やく、而モ其委員會ノ席上ニ於キマシテ
ハ、熱心ナル委員ノ方々、實際ノ事情ヲ能
ク御承知ノ方々カラ、縷々質問論議ガアッ
タノデアリマシテ、當時論議ハ凡ソ盡キタ
カト思ヒマス、ソレデ其後內閣モ迭ッタコ
トデアリ、時日ノ推移ナリ、事情ノ變化ナ
リガアリマシテ、前議會ニ於テ政府ガ御答
ニナッタ、或ハ意見ヲ述ベラレマシタモノ
ヲ、此議會ニ於テ變更ナリ、或ハ追加ナリ
補正ナリスルヤウナモノガアリマスカドウ
カ、前囘ノ通リカドウカ、是ダケヲ取敢ズ
伺ッテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=14
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015・松阪廣政
○松阪政府委員 御答申上ゲマス、前囘司
法省トシテ御答申上ゲマシタ通リデアリマ
ス、變更スベキコトハ何モゴザイマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=15
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016・長井源
○長井委員 遞信大臣ノ方ハ···発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=16
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017・永井柳太郎
○永井國務大臣 遞信省ト致シマシテモ、
前囘、只今御尋ノ件ニ付テ言明致シマシタ
コトハ其通リニ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=17
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018・長井源
○長井委員 サウシマスト、詰リ前ノ委員會
ニ於テ意見ヲ發表サレマシタコトハ、全面
的ニ今囘ノ委員會ニ於テモ同樣ノ御意見デ
アルト云フコトニ拜承致シマス、尙ホ補正
サレルヤウナ部分モ餘リナイヤウニ承知致
シマス、念ノ爲ニ當時ノ質疑應答ニ關スル
二ノ點ニ付キマシテ、此際御意見ノ相
違ガナイカドウカヲ伺ッテ置キタイト思ヒ
マス、前議會ニ於ケル委員會ノ主要ナ論點
ハ、船員ノ輕過失ノ處罰ノ問題デアッタト
思ヒマス、其外尙ホ船員ノ待遇ニ關スル件
モゴザイマシタカラ、ソレ等ノ點ニ付テ二
三伺ッテ置キマス、鹽野司法大臣ハ板谷委員
ノ質問ニ對シマシテ、斯ウ云フコトヲ言ウ
テ居ラレマス「ソレハ結局輕イ過失ト云フ
モノハ罪ト認定サレルコトハアルマイ、著
シイ場合ダケガ殘ルノダラウ、斯ウ云フ御
答ヲシテアルノデアリマシテ、是ハ詰リ立
法技術ト云フモノハ、一般的ニ見テ總テノ
均衡ガ取レテ居ルト云フコトガ必要デアリ
マスルカラ、法文ノ上ニ現ハレマスル事柄
二、特ニ特殊ノモノニダケ齒ノ缺ケタヤウ
ナ工合ニ取扱フコトガ出來ナイノガ普通ナ
ノデアリマス、ソコデ其處ノ所ヲ、運用ノ
上ニ於テ十分ニ海員ニ對シテ安心ノ行クヤ
ウニシタラ宜カラウ、斯ウ考ヘテ居ルノ
デ、ソレニ付テハ相當過失ヲ過失ト認メル
ト云フコトハ中々困難ナノデアリマスカ
ラ、實際法文ノ上ニ於テハ、一般ノ規定ガ
アリマシテモ、實情ノ上ニ於テハ結局著シ
クト云フ重過失ノ點ガ實用ニナル、斯ウ云
フ見込デ居ルノデアリマス」斯ウ御答ニナッ
テ居ラレマス、是モ現在ニ於テ何等ノ變化
ハゴザイマセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=18
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019・松阪廣政
○松阪政府委員 前囘司法大臣ガ左樣ニ申
シタ通リ、事實上ノ取扱トシテ結局左樣ナ
コトニナルト思ヒマス、前囘ト相違ゴザイ
マセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=19
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020・長井源
○長井委員 尙ホ待遇ノ點ニ關シマシテ、
兒玉遞信大臣ハ岡崎委員ニ對シマシテ、斯
ウ云フ趣旨ノコトヲ答ヘテ居ルノデアリマ
ス「退職手當金或ハ船員保險、養老金ナド
ノコトニ付テハ、至急調査ヲシテ適當ニ實
現シタイ」斯ウ云フ風ニ答ヘテオ居デニナ
リマスガ、現內閣ノ遞信大臣ハドウ云フ御
考ヲ持ヲテ居ラレマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=20
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021・永井柳太郎
○永井國務大臣 兒玉前遞信大臣ト同ジニ
考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=21
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022・長井源
○長井委員 尙ホ輕過失處罰ノ問題ニ付テ
ハ刑法ノ改正ノ際ニ十分船員保護ノ爲ニ、
司法省當局モ法制審議會ノ方ニ意見ヲ申述
ベテ、船員達ノ希望ニ副フヤウニスルト云
フヤウナ御答ガアッタ、漢那委員ノ質問ニ對
シマシテ鹽野國務大臣ハ「刑法ノ改正委員
會ニ諸君ノ御意見ノ在ル所ヲ能ク傳ヘマシ
テ、尙又司法當局モ其委員ヲ派遣シテ居リ
マスルカラ、其點ニ付キマシテ委員會ニ於
テ十分ニ篤ト考ヘテ貰ッテ、出來ルグケ御意
見ノ通ルヤウニ努力スルト云フコトヲ申上
ゲテ置キタイト思ヒマス」、斯ウ申述ベテ居
ラレマスガ、現在モ此通リデゴザイマス
カ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=22
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023・松阪廣政
○松阪政府委員 現在デモ左樣ニ考ヘテ居
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=23
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024・長井源
○長井委員 最後ニ漢那委員ノ質問ニ對シ
マシテ、鹽野國務大臣ハ、此船員法改正ニ
關スル總體的ノ意見トシテ、次ノヤウニ述
ベテ居ラレルノデアリマス、「第一點、海難
發生ノ原因ハ極メテ複雜デアリマシテ、頗
ル特異性ノアリマスルコトハ、司法當局ト
シテモ固ヨリ十分之ヲ認メテ居ル次第デア
リマスカラ、刑法改正委員會ニ於キマシテ
モ、諸君ノ御意見ノアル所ヲ能ク傳ヘマシ
テ、篤ト〓究シテ貰フコトニ致ス次第デア
リマス、第二點、海員ノ業務上ノ過失事件
ニ付キマシテハ、前申上グルヤウニ特殊性
ノ頗ル强イモノデアリマスカラ、是ガ訴追
ヲ爲スニ當リマシテハ、極メテ愼重ニ取扱
ハナケレバナラヌノデアリマス、隨テ司法
當局ト致シマシテモ、曩ニ通牒ヲ發シテ、全
國ノ檢察當局ニ對シ、海事審判所ノ審判ガ
確定シタ後デナケレバ、起訴シテハ相成ラ
ヌト云フ趣旨ヲ傳ヘテアリマス、併シ旣ニ
十年ニ近キ以前ノコトデアリマスカラ、今
囘尙ホ改メテ記憶ヲ喚起スルヤウニ十分ナ
ル訓示ヲ致ス考デ居リマス、第三點ハ、船
員ノ業務上ノ過失事件ニ對シマシテハ、其
取調竝ニ起訴ニ付テ愼重ニ處置スベキコト
ハ前申上ゲタ通リデアリマスカラ、輕々ニ
之ヲ處置スベキニアラザル旨ヲ、全國ノ檢
察當局ニ對シテ徹底スルヤウニ訓示致シタ
イト思ッテ居リマス、第四點、海難事件ノ搜
査ニ付キ船員ヲ取調べマスコトハ、延テハ
船舶ノ運行ニ支障ヲ生ゼシムルコトアリ、
又ハ莫大ナル滯船料ヲ空費セシメルヤウナ
コトモ生ジマス、往々ニシテ船長ノ失業ス
ルヤウナコトモ發スル事情ガアリマシテ、
其點ハ深ク考慮ニ置キマシテ、十分ニ理解
アル態度ヲ以テ取調ニ著手スベキモノト考
ヘマスカラ、是亦前同樣一般ニ訓示ヲ致スコ
トニ考ヘテ居リマス、尙ホ訓示ノ內容ニ付
キマシテノ御話ガアリマシタガ、是ヨリ以
上述ベマシタル趣旨ニ依ッテ訓示ヲ作成致
シ、發布致スノデアリマスガ、當局ノ權限
內ノコトデゴザイマスカラ、當局ノ言ヲ御
信用下サイマシテ御任セヲ願ヒタイノデア
リマス、此急ノ際ニ俄カニ案文ヲ作リ、殊
ニ之ヲ速記錄ニ殘スト云フコトハ避ケタイ
ト思ヒマスガ、是ハ責任ノ囘避スル爲ニ避
ケルノデハアリマセヌ、其點ヲ御諒察下
サッテ、私ノ以上申シマシタ所ヲ御信用下
スッテ御任セヲ願ヒタイト思ヒマス」此最後
ノ所ハ、實ニ訓示ノ案文ヲ相談ノ上デヤッテ
貰ヒタイト云フ强イ要求ガアリマシテ、ソ
レニ對シテ司法當局ノ官廳トシテノ權限內
ノ問題デアルカラト云フノデ、特ニ斯ウ云
フ御言明ガアッタノデアリマシタガ、以上申
上ゲマシタ點ニ付キマシテモ何等ノ變化ハ
アリマセヌデセウカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=24
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025・松阪廣政
○松阪政府委員 別ニ變化ハゴザイマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=25
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026・長井源
○長井委員 私ノ質問ハ是デ終リト致シマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=26
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027・漢那憲和
○漢那委員長 次ハ星島二郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=27
-
028・星島二郎
○星島委員 私ガ御尋シタイ點ハ、直接本
案ニハ關係ガナイノデスガ、此機會ニ遞信大
臣-文部當局ニ御伺致シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=28
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029・漢那憲和
○漢那委員長 文部當局ハマダ見エテ居リ
マセヌガ·····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=29
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030・星島二郎
○星島委員 ソレデハ後カラ答辯ヲ願ヒタ
イト思ヒマス、ソレデ先ヅ海員ノ養成ニ關
スル事デアリマスガ、最近商船學校ガ各地
ニアリマシタモノガ、段々閉鎻廢校ノ手續
ヲ執ラレテ居ル地方ガ多イノデアリマス、
現ニ廢校セラレタ所モアリマス、又岡山縣
ノ味野商船學校ノ如キハ、三年制度ノガ今
漸ク一年ヲ止メテ、アト二年ノ間ニ廢校サ
レルコトニナルノデアリマスガ、一時海員
ノ失業者多キ其狀態ニ見テ、當局ハ明ニ學
校廢止ノ手段ニ出ラレタノデアリマスガ、
是ハ餘リニ近視眼的ノコトデアッテ、現ニ旣
ニ今日吾々ノ觀ル所デハ、海員ハ寧ロ不足
ヲ告ゲテ居ルノデハナイカト思ヒマス、ソ
レデ當局トシテハ之ヲドウ云フ風ニ見テ居
ラレマセウカ、海員ガ既ニ失業ドコロカ、
不足ヲ〓ゲテ居ルト云フヤウナ場合デア
リ、殊ニ我ガ日本ノ如キ周圍ニ海ヲ環ラス
海國ニ於テハ、相當長期ニ亙ル根本的對策
ヲ以テ當ラネバナラヌ、少シ景氣ガ好イカ
ラ殖ヤス、一寸又困レバ商船學校ヲ廢止ス
ルト云フヤウナ洵ニ當面ニ堕シタ國策ハ、
私ハ實ニ是ハ怪シカラヌ事デアルト思フノ
デアリマス、先ヅ第一ニ遞信大臣ニ御伺シ
タイ點ハ、遞信當局ハ文部當局ノ管轄下ニ
アル此海員養成ノ〓育機關ヲ、寧ロコチラ
ニ取ッテ來テ統制サレテヤラレル御意思ハ
ナイノカ、其方ガ國家トシテ良イノデハナ
イカト思フノデアリマス、其點ト、ソレカ
ラ今日遞信當局ハ海員ノ不足ヲ感ジ、商船
學校ヲ廢止スルドコロカ、寧ロ之ヲ保護助
長シテ增設サレルト云フ御意思ハナイデセ
ウカ、現在一般ニ廢止サレツヽアリマス
ガ、其地方ノ要求ハ其存續ヲ非常ニ望ンデ
居ルノデアリマス、而モ其地方ハ相當ノ金
一
ヲ出シテモ、之ヲ存續シテ貰ヒタイト云フ
希望ヲ度々請願モシ、又陳情モ致シテ居ル
ノデアリマスガ、是等ニ對スル御意見ヲ承
ハリマスレバ幸デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=30
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031・永井柳太郎
○永井國務大臣 星島君ノ御尋ニナリマシ
タヤウナ點ハ、確ニ問題デアルト考ヘテ居
リマス、慥カ昭和六七年頃デアリマシタ
カ、船員ノ失業者ガ多數出マシタ、其當時
ノ情勢カラ、只今御話ノヤウナ學校ノ廢校
ニナルヤウナモノモ起ッテ來タカト思ヒマ
スガ、是ハ海運業ノ發展ヲ圖リマス爲ニモ
非常ニ憂フベキ現象デアリ、又現實ニ今日
船員ノ缺乏ヲ感ジテ居ルノデアリマシテ、
只今星島君ガ御話ニナリマシタヤウニ、船
員ノ養成ハ今日ノ急務デアルト思ッテ居リ
やく、ソレデ學校ノ所管ヲドチラニスルカ
ト云フヤウナコトハ、是ハ學制一般ニ亙ル
調査會モ開カレルコトデアリマシテ、尙ホ
〓究ヲ要スルコトヽ存ジマスガ、取敢ズ船
員ノ不足ヲ補フ必要カラ、遞信省ニ於キマ
シテハ文部當局ニ交涉致シマシテ、臨時ニ
船員ヲ養成スル目的ヲ以テ、今期議會ニソ
レニ關聯シタ豫算モ計上シテ、御協賛ヲ願
フコトニナッテ居ルノデアリマシテ、御尋ノ
御趣旨ニ於キマシテハ、私モ全然同感ニ存
ジテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=31
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032・星島二郎
○星島委員 只今遞信大臣ノ御言葉ヲ聞キ
マシテ洵ニ滿足スルノデアリマスガ、ドウ
ゾ今將ニ廢止ノ運命ニアルモノハ、他ノ學
校ニ臨時養成所ヲ作ルヤウナコトハセナイ
デ、寧ロ現存ノモノヲ活カシテ、之ニヤラ
スト云フヤウナ手段ヲ執ラレンコトヲ望ム
ノデアリマス、殊ニ岡山縣味野ノ商船學校
ノ如キハ、其附近ニ三井ノ造船所ガゴザイ
マシテ、〓育ニハ非常ニ良イ地位ニアリマ
ス、私ハ思ヒマスノニ、造船所ノ如キ今日
非常ニ儲ケテ居ルモノハ率先シテ、此海員
ノ養成ニ自ラ進ンデ當ル、而モ其地方ハ敷
地或ハ學校ノ建築費サヘモ寄附スルト云フ
マデニ申出テ居ルノデアリマスガ、既ニ廢
止ノ方針デアルト云フ一點張リデ、將ニ廢
止ノ運命ニ瀕シテ居ルノデアリマスガ、只
今ノヤウナ御言明ニ依リマシテ、是ガ復活
サレ、サウシテ出來ルコトナラバ造船所ノ
如キモノガアルノデアリマスカラ、從來ノ
蒸氣機關ノ時代ノ船員ヲ再〓育ヲシ、或八
「ディーゼル」式ノ如キ機關士ニナレルト云フ
ヤウナコトハ、最モ當ヲ得タ處置ト思ヒマ
スノデ、私ハ遞信大臣ノ御言明ニ滿足致シ
マスカラ、ドウゾ遞信當局モウント一ツ力
强イ復活ヲ文部當局ニ致サレマシテ、ソレ
ヲ實現サレンコトヲ希望致シマス、今文部
當局ノ方ガオ居デニナリマセヌカラ、他ノ
質問者ノ時間ノ爲ニ、唯此質問ニ依リマシ
テ、次ノ委員會ニ於テモ宜シイカラ、文部
當局ノ答辯ヲ正式ニ得タイト思ヒマス、私
ノ質問ヲ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=32
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033・米窪滿亮
○米窪委員 本案ハ前七十議會ニ於キマシ
テ、又只今ノ委員會ニ於キマシテ遞信大臣
カラ御說明ノヤウニ、主トシテ船員ノ保護、
海上勞働ノ調整、船員ノ生活ノ安定、更ニ
延イテ海運界ノ健全ナル發達ヲ實現セシメ
ントスル御當局ノ御意思ノ下ニ、改正サレル
ト云フコトデアルノデアリマス、之ヲ此頃
ハヤル言葉デ言ヘバ、所謂社會立法ノ一種
ト吾々ハ考ヘテ居ルノデアリマシテ、隨テ
今議會ニ提出サレタ政府法律案ノ中、極メ
テ重要ナルモノデアルト私ハ考ヘテ居ルノ
デアリマス、私ノ此所見ガ誤ッテ居ラナイ
コトハ、八年前ニ遞信省ガ御諮問ニナリマ
シタ臨時海事法令調査會ノ委員及ビ之ニ關
係サレタ方々ガ、先程遞信御當局ノ御說明
ニナッタ通リ船主、船員ノ團體ノ代表者バ
カリデナイ、學者ヲ含ミ、更ニ遞信省バカ
リデナク、司法省或ハ外務省其他關係各省
カラシテ委員、或ハ其他ノ方々ガ出テ居ラ
レタト云フコトヲ見テモ分ルノデアリマ
ス、隨テ私ノ質問ハ、幸ニ遞信大臣此處ニ
オ見エニナッテ居リマシテ、甚ダ感謝ニ堪ヘ
ナイノデアリマスガ、遞信大臣ニ對スルバ
カリデナク、本法ト直接或ハ間接ノ關係ニ
アル司法大臣、拓務大臣、外務大臣、內務
大臣、陸軍大臣、海軍大臣、是等大臣ノ出
席ヲ求メテ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
ガ、國務多端ノ際デアリ、且ツ會期モ短イノ
デアリマスカラ、必シモ大臣デナクテハナ
ラナイト云フノデハアリマセヌガ、私ハ新
シイ議員デアリマシテ、遞信、司法ノ馴染
ノ方以外ニ政府委員ノ御顏ヲ存ジマセヌカ
ラ、私ノ質問ノ要點ガソコヘ參ッテ、其關係
政府委員ガオ見エニナラナイ時ニハ、委員
長カラ御注意ヲ願ヒタイト思ヒマス、其際
私ハ其事項ニ付テ質問ヲ保留シタイト思フ
ノデアリマス、先ヅ第一ニ遞信大臣ニ御伺
申上ゲタイト思フノデアリマスガ、大臣ニ
ハ主トシテ〓括的ニ御質問申上ゲ、ソレガ
濟ンデカラ條文ニ亙ッテ詳細ニ御質問申上
ゲタイト思フノデアリマス、本法ハ先程カ
ラ度々御話ガアッタ通リ、七十議會ノ本會議
及ビ委員會ニ於テ質疑應答ガ交換サレマシ
テ、ソレニ付テ先程長井委員カラ御尋ガ
アッテ、遞信及ビ司法兩當局ハ前議會ノ御
答辯ヲ其儘御認メニナッテ居ルノデアリマ
シテ、其點非常ニ安心シテ居ルノデアリマ
スカ、唯私ガ特ニ御注意ヲ喚起シタイ點
ハ、前議會ニ於キマシテハ本會議ニ於テモ、
委員會ニ於テモ、其論議ノ中心ハ主トシテ
先程同僚ノ委員カラ御質問ニナッタ所ノ船
員ノ所謂二重刑罰問題ト云フモノニ集中サ
レマシテ、所謂本法ノ社會立法ノ精神ガ入レ
ラレタリト稱スル所ノ船員ノ保護問題、或
ハ海上ニ於ケル勞働ノ調整ト云フヤウナ點
ニ付テハ、殆ド論議ガナカッタヤウニ私ハ記
憶シテ居ルノデアリマス、隨テ船員ノ利害
ヲ直接代表スル立場ニ立ッテ居ル私トシテ
ハ、主トシテ其點ニ付テ御質問申上ゲタイ
ト思フノデアリマス、此船員ノ保護及ビ海
上勞働ノ調整ト云フ點ニ付テハ、率直ニ申
上ゲレバ、私ハ本法ニ對シテ不滿ヲ持ッテ
居ル、此點ハ極ク大體デハアリマシタガ、
前議會ニ於ケル民政黨ノ松田君カラモ同意
見ヲ述ベラレテ居ルノデアリマスガ、詳シ
ク申上ゲマスナラバ、先ヅ遞信大臣ニ御尋
シタイ點ハ、本法ヲズット見テ參ルト船員
ノ利害ニ直接關係ノアル重要ナル點ガ、殆
ド全部ト言ッテ宜イ程勅令ヲ以テ定メルト
云フコトニナッテ居ルノデアリマス、言フ迄
モナイコトデアリマスガ、勅令ハ吾々ガ直
接ニ關與出來ナイ方法ヲ以テ決定サレル譯
デアリマシテ卽チ國民ノ總意ト發言ガ代表
サレ、反映サレル議會ニ於テ窺ヒ知ルコト
ノ出來ナイ方法ヲ以テ決メラレルノガ勅令
デアリマス、隨テ船員ハ勅令ノ內容ニ付テ
ハ非常ナ不安ヲ持チ、假ニ本法ガ所謂社會
立法デアルニシテモ、其重要ナル點ガ勅令
ヲ以テ定メラレルト云フコトデアッタナラ
バ其勅令ノ內容ヲ御伺スルコトガ出來ル
マデハ、安心ガ出來ナイト云フコトハ、決シ
テ無理デハナイト思フノデアリマス、此點
ニ付テ先ヅ第一ニ遞信大臣ハ、勅令ノ內容
ヲ今囘ノ委員會ノ適當ナル機會ニ於テ御發
表ニナル御意思ガアルカドウカ伺ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=33
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034・永井柳太郎
○永井國務大臣 米窪君ノ御心配ハ御尤デ
アリマスガ、大體船員ノ生活ノ保護ニ關
シ、又勞務ノ調整ニ關スル重要ナル原則
ハ、總テ法規ニ依ッテ明記致シテ居リマス
ノミナラズ、多少周圍ノ環境ノ變化ニ應ジ
マシテ、其適用ヲ末節ニ於テ變更スル必要
ノアルト云フ點ハ、自然勅令ニ讓ヲテアル所
モアリマスルシ、又其適用ノ性質カラ、勅
令ニ讓ルコトヲ便宜トスル點ヲ、勅令ニ讓ッ
テ居ルノデアリマス、大體此法規ノ精神ニ
則ッテ勅令ガ作ラレルベキコトハ申上ゲル
マデモゴザイマセヌノミナラズ、只今御尋
ニナリマシタ勅令ノ重要ナ點ハ、旣ニ御手
許ニ配付シテアルノデハナイカト思ヒマ
ス、此法律ヲ制定セラレル其御精神ニ則ラ
ナケレバナラナイノデアリマスカラ、議會
ノ意思ヲ尊重スル意味デ、其勅令トナルベ
キモノヽ要旨ハ御目ニ懸ケルコトニ致シテ
居ルノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=34
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035・米窪滿亮
○米窪委員 只今ノ大臣ノ御答辯ニ依リ、マ
シテ、勅令トナルベキ所ノ要旨ニ付テハ、
旣ニ吾々ノ手ニ渡ヲテ居ルト云フ御話デアッ
タノデスガ、或ハ何等カノ行達ヒカ、私ノ
所ニハ參ッテ居リマセヌ、併シ只今ノ御答
辯ニ依レバ、何レ御公表サレル意思ガアル
ト分リマシタ、唯勅令ニ對スル解釋、所謂
勅令ニ依ッテ規定スベキ範圍ニ關スル御解
釋ハ、甚ダ不幸ナガラ私ト見解ヲ異ニスル
モノガアルノデアリマス、併シソレヲ論議
スルコトハ立法技術ニ涉リマスルシ、又此
條文ノドノ點ガ勅令ニ決メラレテ居ッテ、ド
レガ吾々ガ遺憾トスルナドト云フコトハ、時
間ノ關係上省略シテ、次ノ要點ノ質問ニ移
リマス、本法ハ大體ニ二ツニ分ケルコトガ
出來ルト思ヒマス、卽チ公益的規定ト私法
的規定トナルノデアリマスガ、私法的規定
ニ付テハ、私ノ見解ガ誤リデナイナラバ、政
府ハ餘リニモ統制ヲシ過ギテ居ル、卽チ其
一例ヲ申上ゲマスナラバ、海員ノ雇入、雇
止ニ付テハ、是ハ私ハ私法的規定ト思ヘル
ノデアリマスガ、之ニ付テ相當政府ハ干渉
ヲシ過ギテ居ル感ガアル、モウ一ツノ公益
的規定ニ付テハ、其御取扱ノ上ニ於テ、勞
資ノ間ニ非常ニ差別ト不公平ガアルト云フ
コトヲ私共ハ考ヘテ居ル、其一例ヲ申シマ
スナラバ、各條文ニ散見スル所ノ處罰規定
ニ於テ、殆ド全部本法ニ違反シタル船主ニ
對シテハ、單ニ罰金刑ノミヲ以テ處罰シ、
船員ニ對シテハ事ノ輕重ヲ問ハズ、總テ罰
金刑ト體刑トヲ併用シテ居ルノデアリマ
ス、先程來申上ゲマス通リ、本法ノ目的ハ
海上ニ於ケル勞働ノ調整デアリ、海員ノ保
護デアル、且ツ海運界ノ健全ナル發達ヲ庶
幾スル御精神カラ立法サレタモノデアル以
上ハ、此海運界ノ健全ナル發達ヲスル爲ノ
原動デアル船主ト船員、卽チ車ノ兩輪ニ比
スベキモノガ、一方ニ於テ政府ノ取締ガ重
ク、一方ニ於テ輕イト云フコトハ、吾々ト
シテ洵ニ遺憾トスル所デアリマス、實ハ條
文ニ付テハ、先程申上ゲタ通リ後程詳シク
申上ゲル積リデアリマスガ、此點ニ關聯シ
テ一ツノ例ヲ申シマスルナラバ、第六十條
ニ於テ船員ガ爭議ヲ爲シ得ル場合ト、ソレ
以外ノ場合ニ於ケル處罰ノ方法ヲチヤント
決メテ居ルノデアリマス、是レ〓〓時ニ於
テハ船員ハ勞働爭議ヲシテハイケナイト云
フコトヲ、此處デ決メテ居ルノデアリマス
ガ、ソレニ該當シタ時ニ爭議ヲシタ場合ニ
ハ船員ハ一年以下ノ懲役ヲ以テ罰セラレ
ルノデアリマス、然ルニ私共ノ經驗カラ言
ヒマスルナラバ、今マデ海上ニ於テ爭議カ
起ッタ場合ノ直接ノ原因ハ、必シモ船員ガ
給料ノ增額、或ハ其他ノ勞働條件ノ改善ト
云フコトヲ要求スルコトカラ起ルト限ラナ
イノデアリマシテ、船主ノ方カラ賃銀ヲ引
下ゲ、或ハ手當ヲ無クシ、或ハ又定員ヲ減
ラスト云フヤウナ所謂船主ノ方ノ事情カラ
海上ニ於ケル勞働爭議ガ起ル場合ガアル、
斯ウ云フ場合ハ、明ニソレヲ起シタ原因ガ
船主側ニアル、責任ハ船主側ニアルノデア
リマス、而モ本法ガ愈,實現シタ場合ニ於テ、
斯ウ言ッタ原因カラ出發シタ所ノ船主、船
員間ニ於テ、其問題ノ交涉ガ續行サレテ居
ル所謂一週間以內ニ於テ船主ガ船員ヲ解雇
シタ場合ニ於テハ、何等茲ニ處罰ノ規定ガ
ナイノデス、當然此一週間以內ニ船員ガ勞
務ヲ中止シタ場合ニ於テハ、今申上ゲタ通
リノ懲役又ハ罰金ガ課セラレルニモ拘ラ
ズ、船員ガオトナシク交涉ヲ繼續中デアル
ニモ拘ラズ、船主ノ方カラ突然解雇スル英語
デ申セバ「ロック·アウト」シタ場合ニ、何等
之ニ付テ處罰ノ規定ガナイト云フノハ、本法
立法ノ精神カラ見テ、甚シク片手落デアル
ト吾々ハ考ヘザルヲ得ナイノデアリマス、斯
ウ言ッタ點ニ付テ、私ハ遞信大臣ガ果シテサ
ウ云フ御精神デ以テ立法サレタモノデアル
カ、或ハ今私ノ指摘シタ不備ノ點ニ付テハ
何等カノ方法ヲ以テ之ヲ修正スル御意見ガ
アルカ、之ヲ御質問申上ゲルノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=35
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036・永井柳太郎
○永井國務大臣 今ノ米窪君ノ御尋ニナリ
マシタ點ハ、兩者ニ對シテ十分公正ナ取扱
ヲ爲シ得ルヤウニ、相當〓究ヲ致シタノデ
アリマスガ、詳細ナコトハ私ヨリ管船局長
カラ申上ゲル方ガ適當ダト思ヒマスノデ、
管船局長カラ御說明申上ゲサセマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=36
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037・小野猛
○小野政府委員 米窪君ノ御質問モ、見方
ニ依リマスト、サウ云フ風ナ御解釋モ出來
ルカモ知レマセヌ、大體此船員法ハ、船員
ノ保護ト同時ニ取締規律ト云フコトヲ目標
ニシテ居ル法律デアリマスノデ、船員ニ對
スル罰則ガ自然非常ニ多イ、目ニ付クト云
フ風ニナルコトヽ思ハレルノデアリマス、資
本家ノ方、例ヘバ航路ノ統制ヲヤルトカ、
航路ノ補助ヲヤルトカ云フヤウナ、統制
ニ於テハ自然其處ニ重點ガ置カレ、ソレ等
ニ對スル罰則ガ多イト云フコトニナリマス
ガ、此船員法ハ大體船員ノ規律ト云フコト
ガ相當部分ヲ占メテ居リマスカラ、サウ云
フ御感ジガスルカモ知レマセヌ、併シ此船
員ノ取締ノ規定ノ中ニ於テモ、私共實際立
案致シマシタ者トシマシテハ、成ベク現行
ノ船員法ヨリハ取締ヲ緩和シ、サウシテ反
對ニ船主ノ方デ之ニ違反シタ場合ニハ相當
ノ處罰ヲスル、斯ウ云フ氣持ハ十分動イテ
居ル、其一例ト致シマシテ、從來ノ商法ニ
於キマシテハ、船主ガ扶助ノ義務ニ違反シ
タト云フヤウナ者ニ付キマシテハ、單ニ民
法上ノ損害賠償ト云フ方法シカナイノデア
リマスガ、此規定ニ於キマシテハ、資本家
ガ、ヤルベキ義務ヲ果サナカッタ者ニ對シ
テハ、罰則ヲ以テ之ニ臨ムト云フコトデ、
此點ニ付キマシテモ、現在ノ社會立法ノ調
子ヲ取入レテ居ルノデアリマス、從來ノ船
員法並ニ海商法ノ規定ヨリハ、一段船主ニ
對スル罰ヲ重クシテ居ルノデアリマス、又
今ノ六十條ノ問題デアリマスルガ、此六十
條ノ問題ハ御承知ト思ヒマスルガ、臨時海
事法令調査局デモ非常ニ問題ニナッタノデ
アリマシテ、海員ノ勞働爭議、同盟罷業ニ
對シテ如何ナル方法デヤルカト云フコトニ
付テ問題ニナッタノデアリマスガ、結局勞資
落著ク所ガ此處ニ落著キマシタノデ、此程
度ガ現在ノ日本ノ海運產業ニ於ケル勞働爭
議ニ對スル措置トシテハ、適當デアラウト
云フコトデ決ッタノデアリマスルガ、併シ之
ニ付キマシテモ、私共ハ單ニ海員ダケヲ彈
壓スルトカ、勞働爭議ヲ禁壓スルト云フ風
ナ氣持デ臨ンデハ居ナイノデアリマス、反
對ニ從來ノ法規ニ於キマシテハ、海員ハ如
何ナル事由ニ基キマシテモマルデ何等理由
ナキニ拘ラズ解雇シ得ルコトニナッテ居ル
ノデアリマス、商法ノ五百八十二條ト記憶
致シマスルガ、兎ニ角一箇月ノ手當ヲヤレ
バ、如何ナル理由デモ首ガ馘レルノデアリ
Wゞ、併シ今度ノ法規ニ於キマシテハ、已
ムコトヲ得ナイト云フ、止ムニ止マレナイ
事情ガアルニアラザレバ、解雇スルコトヲ
得ナイト云フ風ニ、一般ニ海員ノ保護ニ注
意致シテ居ル積リデアリマス、併シソレニ
付テモ、非常ニ不滿足デアルト、斯ウ仰シ
ヤレバ、是モ一ツノ見解デアリマスルガ、
私共立案者ト致シマシテハ、雙方ニ對シテ
公平ニ、而シテ現海運產業ノ段階ニ於テ
此程度ガ適當デアラウト云フコトデ立案
致シ、又海員團體ニモ御相談ヲ致シテ居ル
次第デアリマス、御諒承願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=37
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038・米窪滿亮
○米窪委員 只今小野政府委員カラ御答辯
ガアッタノデアリマスルガ、成程五百八十二
條ノ條文ガアル現行法ヲ、此改正法律案ト
比ベレバ、其點デハ本法ハ進步シテ居ルガ
如クニ見エル、或ハ其他ノ點ニ於テモ多少
サウ云ッタ點ガ認メラレルト思ヒマスガ、少
クトモ、六十條ノ規定ニ付キマシテハ、前
七十議會ニ於テ民政黨ノ松田議員ガ、本會
議ニ於テ既ニ私ト同ジ意見ヲ述ベテ居ラレ
ルノデアリマス、現行ノ船員法ニ於テハ勞
働爭議ニ關スル規定ハナイ、船員法ノ七十
二條ニ依ッテ船員ガ相黨與シタ時ハ禁鋼云
云ト云フ處罰ガアルノデアリマス、相黨與
シテ勞務ヲ中止シタ場合ハ禁錮何年ニ處
ス、或ハ何箇月ニ處スト云フ規定ガ現行ノ
船員法ニアルノデアリマス、隨テ相黨與シ
テ職務ヲ怠ルトカ、或ハ勞務ヲ中止スルト
カ云フ現行ノ規定ヲ、直チニ現在ノ勞働爭
議ノ場合ニ適用スルナラバ、ソレハ明ニ此
ノ改正法律案ノ方ガ宜イノデス、併シ私ノ
考ヘマスル點ハ、現行ノ船員法ハ明治三十
二年ニ制定サレマシタノデ、當時勞働運動
ガナイ、勞働團體モ勿論ナイ時ニ作ッタ此
七十二條ハ、決シテ爭働爭議ガ起ルコトヲ
豫想シテ、其勞働爭議ニ適用スルト云フ意味
デ立案サレタモノデハナイ、斯ウ云フヤウ
ナ觀點カラ見マシテ、是ハ全然別ノ場合、例
ヘバ海上ニ於テ反亂ヲ起シタ場合ニ、船長ハ
之ヲ取鎭メル場合ヲ豫期シテ作ラレタモノ
デアッテ、決シテ之ヲ今日屢〓見ル所ノ海上
勞働爭議ニ援用スルト云フコトハ當ラナイ
ト思フノデアリマス、隨テ苟モ遞信省ガ社
會立法ト云フコトヲ名乘ッテ、本法ヲ改正ス
ル以上ハ、六十條ニ於テ一週間以內ニ、交
涉中ニ船員ガ職務ヲ中止スルト云フコトニ
付テハ、私之ヲ處罰スルコトハ毛頭異存ハ
アリマセヌ、而モ今日ノ非常時ノ場合ニ於
テ海上ノ交通機關ヲ扱ッテ居ルヤウナ極メ
テ重要ナ產業ニ從事スル職場ニ於テ、假令
理由ノ如何ナルコトニセヨ、船員ガ船主ト
交渉中ニ停船セシムルガ如キコトハ、是ハ
吾々トシテモ不贊成デアル、併ナガラソレ
ニ付テ或ル一定ノ期限ヲ經過セザル內ニ職
務ヲ中止シタ場合ニ於テ船員ヲ處罰スル
以上ハ、同ジ場合ニ於テ、船主側ノ方カラ
船員ヲ不當ニ解雇シタ場合ニ於テモ、之ヲ
處罰スル規定ヲ設ケルコトガ當然デハナイ
カト考ヘマス、本法ニ於テ之ヲ修正スルコ
トヲ私ハ希望スル者デアリマスガ、ソレガ
色々ノ事情デ出來ナイ場合ニ於テハ、本法
ノ施行令或ハ施行細則ニ於テ、是非トモ私
ノ希望スル點ヲ、法制トシテ實現シテ戴キ
タイト云フコトヲ希望致シテ次ノ質問ニ移
リタイト思ヒマス-今ノ點ニ付テ甚ダ諄
イヤウデアリマスガ、遞信當局ハ施行令或
ハ施行細則ト云フヤウナモノニ於テ、私ノ
希望ヲ實現セラレル御意思ガアルカドウカ
ト云フコトヲ、御尋シタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=38
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039・小野猛
○小野政府委員 是ハ勅令事項デハナイト
心得ルノデアリマス、書クナラバ法律デヤ
ラナケレバナラヌ譯デアリマシテ、今ノヤ
ウナ米窪君ノ御希望ニ付テハ、他日此六十
條ガ、假ニ勞働爭議ニ對シテ適當ニアラズ
ト云フヤウナコトニナリマシテ、他日ノ問
題トシテ〓究スルコトハ十分出來ルト思ヒ
マスガ、此法案ノ範圍內ニ於テハドンナモ
ノデアラウカト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=39
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040・米窪滿亮
○米窪委員 次ノ質問ヲ申シマス、先程カ
ラ遞信當局ハ、本案ハ八年前ニ臨時海事法
令調査會デ、船主船員ノ團體ガ出席ヲシテ
取極メラレタト云フコトヲ言ハレルノデア
リマスガ、當時船員側ヲ代表スル委員ハ僅
カ二名デ、其他ハ殆ドソレト對蹠的ナ立場
ニ立ッテ居ル所ノ方々ノ御意見デアル、今申
上ゲタヤウナ點ニ付テハ、船員側ノ委員ハ
或ハ反對、或ハ意見ノ保留ヲシテ居ルノデ
アリマス、而シテ海事法令調査會全體トシ
テハ、茲ニ現ハレテ居ルヤウナ法案ノ方向ニ
向ッタノデアリマシテ、是ハ吾々トシテハ不
滿足ナガラモ、調査會ト云フ全體ノ意見ヲ
取纒メル上ニ於テ贊成シタノデアリマス
ガ、船員側ハ當時カラ不滿ヲ持ッテ居ル、而
モ昭和四年當時ニ於テハ、御承知ノ通リ亞
米利加ニ起ッタ經濟不況カラシテ、全世界ガ
金融經濟ノ大恐慌ニ陷ヲタ最初ノ年デアリマ
シテ、日本ノ海運界モ其影響ヲ受ケマシテ
非常ナル不況ノドン底ニ在ッタ、隨テ茲ニ
現ハレタヤウナ法案ノ各「ポイント」ニ觸レ
ル度每ニ、總テ船主ノ負擔ガ重クナルトテ
船主ノ經濟力ヲ心配ヲシマシテ、吾々モ此
點ニ付テハ平素勞資協力ノ立場ニ立ッテ居
ル吾々ノ主義方針トシテ甚ダ不滿足デアリ
ナガラモ、船主ノ負擔ヲ增加セシメルコト
ハ、卽チ海運界ノ不健全ナル結果ヲ招來ス
ルト云フコトヲ顧慮致シマシテ、淚ヲ呑ン
デ、ソレニ保留ハシナガラモ、結局ハ調査
會ノ決定ニ合流シタ譯デアリマス、所ガ最
近ハ-八年後ノ今日ニ於テハ、海運界ノ
景氣ハ八年前ト全然異リマシテ、先程星島
委員カラモ御話ニナッタ通リ高級船員、或
ハ普通船員ノ需要ガ多クテ、供給ガ之ニ足
ラナイト云フ狀態ニマデ、日本ノ船舶ノ建
造ガ行ハレテ居ル、今日〓算五百三十萬噸
ノ商船ガアルノデアリマス、他ニ今後一年
間ニ新シク造ラレル所ノ船ガ十萬噸、隨テ
之ニ補給スベキ船員ガ足ラナイト云フ程
二、我國海運界稀ニ見ル好景氣ヲ招來シテ
居ルノデアリマス、而モ此好一景氣ヲ示シ
テ居ル、而モ船主ニ對シテ政府ハ政府ノ傳
統的ナル重厚ナル海運界ノ保護政策ヲ行ツ
テ居ルノデアリマシテ、昭和十一年ニ於テ
政府ハ船質改善助成金トシテ四十萬圓、遠
洋航路補助金百十二萬圓、定期航路補助金
九百五十一萬圓、合計年額千百萬圓ト云フ
補助金ヲ船主ニ與ヘテ居ル、而モ低利ノ融
資方法トシテ、海事銀行ノ如キモノヲ計畫
サレテ居ルト云フコトデアリマス、斯ノ如
ク船主ニ對シテ極メテ重厚ナル海運保護ヲ
シテ居ルニ拘ラズ、一方先程申上ゲタ海運
界ノ發展ノ爲メ、車ノ兩輪ニモ比スベキ船
員ノ保護ニ對シテハ、極メテ寥々タルモノ
デアリマシテ、年額僅ニ四萬圓カ五萬圓程
度ノ失業船員救濟保助金ナルモノヲ支給サ
レテ居ルノデアリマス、本法ハ先程申上ゲ
タヤウニ、八年前日本ノ海運界ノ歷史ニ殆
ド見ザル所ノ不況ノドン底ニアッタ時ニ作
ラレタモノヲ、何等ノ修正ヲセズ其儘-
甚ダ言葉ハ惡クナリマスガ、棚晒シデアッタ
法案ヲ引ヲ張リ出シテ來テ、其儘茲ニ上提ス
ルト云フコトデアリマス、吾々ハサウ云フ
工合ニ考ヘテ居リマスガ、中ニハサウ思
ハレナイ議員ガオアリニナルト見エマシ
テ、七十議會ニ於テ某議員ハ、本法ハ社會
立法デアルケレドモ、餘リ進ミ過ギナイヤ
ウニシロト云フ御注意ヲ政府ニ與ヘマシ
タ、卽チ急激ナル勞働條件ノ改善ハ、却テ
產業ノ萎靡ヲ來モノデアルカラ、將來日本
ノ法制ノ立テ方ハ家族主義、又ハ此頃ノ流
行言葉デ言ヘバ、全體主義的ニ勞働ヲ統制
スベシト云フヤウナ御意見ヲ述ベラレタ委
員ガオアリニナル、此委員ハ獨逸ヲ引例シ
マシテ、所謂獨逸ノ「アルバイト·フロント」
或ハ獨逸ノ「アルバイト·デイーンスト」
ト言ッタヤウナ制度ヲ以テ、直チニ是ガ
良イ制度デアリ、日本ニ適用スベキモノデ
アルト云フヤウナ御考カラ言ハレタノデア
ルカドウカ知リマセヌガ、又斯ウ云フ意見
ハ今日官吏ノ間ニモ一部御持チニナッテ
居ルヤウニモ拜察スルノデアリマス、併シ
私ヲシテ言ハシメルナラバ、獨逸ノ勞働戰
線或ハ「アルバイト·デイーンスト」ノ如
キ制度ハ其一方ニ「コンセントレイシヨン·
キヤンプ」强制收容所ノ如キ嚴重ナル彈壓
的機關ガアルノデアリマス、隨テ已ムヲ得
ザル所ノ勞働戰線デアリ、已ムヲ得ザル
所ノ勞働奉公制度デアルノデアリマシテ、
是等ノ眞相ヲ知ル時ニ私ハ獨逸ノ今日ヤッ
テ居ル勞働統制ハ僞裝勞働統制デアリ、僞
裝「トータリタリアン」制度デアルト考ヘル
ノデアリマス、私ハ決シテ日本ノ社會制度
ハ外國ノ眞似ヲスル必要ハナイ、英國、露
西亞、佛蘭西ノ眞似ヲスル必要モナケレ
バ從ッテ獨逸ノ眞似ヲスル必要ハナイ、日
本ハ日本獨自ノ勞働制度ヲ設ケテ行ッテ宜
イト思フノデアリマシテ、吾々ハ決シテ勞
働階級ト云フヤウナ、一方的ナ階級ノ利益
ノミヲ偏重シテ、而シテ其主張ガ認メラレ
ナイカラ階級闘爭ヲヤルト云フヤウナ精神
ハ毛頭ナイノデアリマス、此點ハ近衞總理
大臣ガ言ハレタ、國內ノ各階級間ノ相剋及
ビ摩擦ヲ防グコトニ付テハ、毛頭異存ガナ
イノデアリマスルガ、苟モ本法ガ勞働立法、
社會立法デアルト云フ銘ヲ打ッテ居ル以上
ハ、私ハ先程申上ゲタ點ニ於テ、甚ダ不滿
ヲ持ッテ居ルノデアリマスルガ、遞信大臣ニ
御尋申上ゲタイ點ハ、八年前斯ノ如キ社會
事情ノ下ニ答申サレタ所ノ臨時海事法令調
査會ノ意見ガ其儘、或ハ考ヘ方ニ依ッテハ寧
ロ退步シテ改惡サレテ出テ來テ居ル、ソレ
ノ原因ハ先程モ申上ゲタ、獨逸ノ所謂僞裝
勞働統制ノ日本版ヲ實現シヨウト云フ御趣
旨カラ現ハレタモノデアルカドウカ、之ヲ
御尋致シタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=40
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041・永井柳太郎
○永井國務大臣 此船員法ノ改正案ハ、只
今米窪君ガ御話ニナリマシタヤウニ、海事
法令審議會ノ議決ヲ尊重シテ各方面ノ纒ッ
タ意見デアリマスカラ、出來ルダケ實現ス
ルト云フ方針デ、此法案ヲ拵ヘタノデアリマ
スルガ、別ニ今御述ニナリマシタヤウニ獨
逸ノ法制ヲ見做フテ、ソレニ模倣スルヤウ
ナ制度ヲ作ルト云フヤウナ考ハ少シモ持ッ
テ居リマセヌ、先程申上ゲマシタヤウニ、
日本ノ船員法ハ飽マデモ日本獨自ノ國情ニ
基イタ船員法デナケレバナラヌト存ジマ
ス、ソレデ例ヘバ勞資間ノ爭議ニ致シマシ
テモ、兎ニ角資本家モ勞働者モ、ヤハリ海
上ニ於テハ日本ヲ擴大シテ行クト云フ共同
ノ目的ニ於テハ、協力シナケレバナラヌノ
デアリマスカラ、爭議ノ如キモノモ出來ル
ダケヤハリ國家的見地ニ立ッテ、大乘的ノ精
神デ相剋ヲ解消スルト云フコトガ、最モ望
マシイト思フノデアリマス、隨テ海事協同
會ノ申合ニ依リマシテ、海事協同會ガ爭議
ノ仲裁ヲスル迄ハ、爭議ヲシナイト云フヤ
ウナ風ニ話合ガ出來テ居ルヤウデアリマス
ルガ、サウ云フヤウナコトモ尙且ツ行ハレ
難イヤウナ場合ニハ、此法案ノ第四十一條
ニアリマスヤウニ、政府自身ガ又調停ヲ試
ミ、出來ルダケ勞資兩階級ノ相刺ヲ避ケテ、
勞資兩階級ガ協力シテ日本ノ海運業ノ發展
ニ貢獻シ得ルヤウニ、又殊ニ海上ニ於キマ
シテハ、人命竝ニ貨物ノ運送保護ヲ預ッテ
居ル重大ナル責任ガアルノデアリマスカ
ラ、成ベク從來行ハレテ居ルヤウナ鬪爭的
ノ對立氣分デ御互ニ爭フコトノナイヤウ
ニ、言葉ニ誤弊ガアルカモ知レマセヌガ、
共ニ日本國民デアルト云フ大乘的精神ニ基
イテ成ベク協調シ、協力シテ海運業ノ發達
ニ貢獻セシムルヤウニト云フ、日本獨特ノ
國情ニ基ク精神デ此法案ヲ編成致シタ次第
デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=41
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042・米窪滿亮
○米窪委員 遞信大臣ノ御答辯ヲ伺ヒマシ
テ滿足スル者デアリマス、次ニ御質問申上
ゲタイ點ハ、本法ノ目的ノ一ツハ海上勞働
統制ニアルノデアリマス、海上勞働統制ニ
付テ、實ハ是非御伺シタイ點ハ、先程山崎
君カラモ海上勞働者ノ思想統一ニ關スル御
意見ガ出テ居ルノデアリマシテ、洵ニ結構
ナ御意見ダト拜聽シタ次第デアリマス、唯
之ニ付テ單ニ思想ヲ統一スルバカリデナ
ク、海上ニ於ケル所ノ勞働者ノ實際ノ團體、
サウ云ッタ組織ト云フカ、職務ヲ行フ職場ニ
於ケル所ノ統一ト云フコトモ、海運產業ノ
健全ナル發逹ニ是非必要デハナイカト考ヘ
ル、實ハ先程山崎君ガ引例サレマシタ日本
海員組合ト云フモノガ、今日殆ド日本ノ全
船舶、五百三十萬噸ノ全商船ニ其組合員ガ
乘ッテ居ルノデアリマシテ、隨テ日本海員組
合ノ社會的地位ハ極メテ重大デアリマスカ
ラ.少シク其說明ヲ申上ゲタイト思フノデ
アリマス、日本海員組合ハ大正十年ニ創立
サレマシテ、今日十六年ヲ經ッテ居ルノデ
アリマスガ、其綱領ニ於テ注目スベキ點ハ
我國ノ國情、國民性ニ基イテ勞働運動ヲス
ルト云フコトヲ、今カラ十年モ前ニ綱領ニ
於テ定メタ、アノ所謂日本精神ノ橫溢シテ
居ル所ノ勞働團體デアルノデアリマス、然
ルニ甚ダ不都合ナコトニ、今カラ三年前ニ
幹部ノ間ニ、主トシテ感情的ノ經緯カラ、
一小部分ノ組合員ガ分裂ヲシタノデアリマ
スルガ、是ガ船主ニ及ボス所ノ影響、政府
當局ニ對スル所ノ影響ガ甚大デアッテ、所謂
健全ナル海運ノ發達ヲ所期スルコトガ出來
ナイト云フ見地カラ、本年三月主トシテ大
阪ノ藤原遞信局長ノ幹旋ニ依ッテ合同ヲシ
タノデアリマスガ、然ルニ分裂者ハ尙ホ一
部殘ッテ居ルノデアリマス、此合同シタ時ノ
聲明書ニハ、先程山崎君ノ言ハレタ通リ、
ハッキリ國體的觀念ニ基イテ吾々ハ合同ス
ルノデアルト云フコトヲ明示シタ、隨テ此
點ハ一點ノ疑問ノ存在スル餘地ガナイノデ
アリマス、而モ先程大臣ノ言ハレル通リ、
此日本海員組合ハ、日本船主協會トノ間ニ
團體契約ヲ締結スル爲ニ、海事協同會ナル
モノヲ組織致シマシテ、所謂勞資協力、產
業協力ノ精神ノ上ニ立ッテ居ルノデアリマ
ス、今日北支ノ事變ガ起リマシテ、多クノ
船舶ガ御用船トシテ徵發サレルノデアリマ
シテ、隨テ此船舶乘組員デアル海員ノ思想
及ビ態度ノ動向ハ、極メテ注目サレルコト
ニナッテ來タノデアリマスガ、此點デ私日本
海員組合ノ組合員タル者ハ、決シテ心配ノ
ナイ精神狀態デアリ、立派ナ態度ヲ示シテ
居ルト云フコトヲ申上ゲテ差支ナイト思フ
ノデアリマス、今カラ四年前、滿洲事變ノ
際ニ有名ナル春丸事件ト云フモノガアッタ、
是ハ是非聽イテ戴キタイト思フノデアリマ
スガ、春丸ト稱スル船ニ、張學良ガ横濱カ
ラ天津ニ向ケテ軍用「トラック」百臺ヲ積ン
デ受取ラウトシタノデアリマス、併シ張學
良ト云フ名前ガ出タ時ニハ、當然是ハ受取
レナイノデアリマスカラ、「アメリカン·ト
レーデイング·コンパニー」ガ荷送主デア
リ、同ジク天津ノ「アメリカン·トレーデイ
ング·コンパニー」ガ荷受人ト云フ船荷證劵
ヲ作成シテ、サウシテ之ヲ天津ニ輸送セン
トシタノデアリマス、當時憲兵隊ガ此祕密
ヲ探ラントシテ橫濱ニ參テッ調査シマシタ
ケレドモ、書類上ニ於テ何等ノ不審ノ點ガ
ナイノデアリマスカラ、遂ニ見遁シテ船ハ
橫濱ヲ出タ、サウシテ崎戶ト云フ所ニ焚料
炭ヲ取ル爲ニ入港シタ時ニ、再ビ小倉憲兵
隊ガ出張シテ調査シタノデアリマスガ、又失
敗ニ終ッタノデアリマス、併シ是ハ明ニ張學
良ニ送ルベキ軍用「トラック」デアルト探知
シタ吾々ハ斯ウ言ッタ、憲兵隊デ見遁シタモ
ノヲ、本船ニ宛テヽ直チニ電報ヲ打チマシ
テ、本船ガ天津ニ行クコトハ、所謂敵ニ武
器ヲ供給スル危險ガ發生スル虞ガ多分ニア
ルカラシテ、航路ヲ變更サセルカ、船ヲ停
船シロ、洋上ニ於テ「ボート」ヲ下シテ全員
下リロ、船長ガドウシテモ天津ヘ行クト云
フコトヲ强要スルナラバ、斯ノ如キ手段ヲ
執レト云フコトノ命令ヲ下シタノデアリマ
ス、或ハ此種ノ命令ハ少シク不穩當デアッ
タカモ知レマセヌガ、緊急已ムヲ得ザル事
態ナリト心得マシテ、其命令ヲ下シタ所、
遂ニ船長モ船主ト相談ノ結果、妥協シマシ
テ船ハ大連ヘ入ッタノデアリマス、大連ニ入
リマシテ直チニ關東特務機關ガ參リマシ
テ、其全部ノ「トラック」ヲ差押ヘマシテ、之
ヲ轉ジテ河原部隊ノ〓河討伐ニ使ハレタト
云フ事實ガアルノデアリマス、若シ此際產
業協力、日本精神ノ主義ノ上ニ立ツ所ノ勞
働團體デナカッタナラバ、洵ニ憂フベキ事態
ヲ惹起シタノデハナイカト考ヘテ居ルノデ
アリマス、是ハ日本海員組合ハ單ニ口バカ
リデナク、實際ニ於テ國家觀念ヲ實踐ニ現
ハスト云フ、一ツノ實例ヲ申上ゲタノデア
リマスルガ、斯ウ云フ組合ヘ尙ホ多少ノ感
情ニ囚ハレテ戾ラザル所ノ分裂セル組合ガ
海上ニアル、遞信大臣ハ旣ニ藤原大阪遞信
局長ガ勞働統制ニ骨ヲ折ッタ御精神ヲ更ニ
延長シテ、今日殘ッテ居ル所ノ此一部ノ勞働
團體ヲ、再ビ三年前ノ親〓體ニ戾ラセルダ
ケノ、所謂海上ニ於ケル勞働統制ノ御精神
ヲ實現スル御手段ヲ御執リニナル御積リデ
アルカ、モウ一ツ同ジ問題ニ付テ御質問ヲ
シタイ點ハ、今日高級船員ノ大部分ノ者ガ
入ッテ居ル團體ハ海員協會デアリマス、此海
員協會カラ同ジク三年バカリ前ニ、多少ノ
事由ハアッタデセウガ、分裂シテ出テ、今日
無線技士會ト云フモノヲ作ッテ居ル所ノ團
體ガアル、船舶ニ於ケル無線電信ハ所謂一
船ノ耳目デアリマス、殊ニ今日ノ如ク軍事
多端ノ場合ニ於テハ、此無線電信ニ於ケル
所ノ思想及ビ行動ガ、極メテ重大ナル影響
ヲ各方面ニ及ボスノデアリマス、今日マデ
ノ經過ニ依リマスト、勞働條件ノ改善ニ基
イテ、此無線電信技士ガ必シモ船內ニ於テ
船長ノ統制ニ服シテ居ラナイ、所謂船長、
機關長其他ノ大部分ノ高級船員ノ屬シテ居
ル所ノ海員協會ノ勞働運動ノ遺方、所謂產
業協力ノ方針ニ對シテ、此無線技士會ノ方
針ハ必シモ一致シテ居ラナイ、隨テ船主ノ
命令及ビ船長ノ命令ガ、此技士會ニ關スル
限リ、此技士會ニ於テ用ヒラレテ居ラナイ
結果ガ、船ガ停ル或ハ停ラントシタ事態ガ
一再ニ止マラナイ、最近ニ於テ多クノ船ガ
-是ハ軍機ニ關シマスカラ申上ゲマセヌ
ガ、多クノ船ガ御用船ニナッテ居ル時代ニ
於テ、斯ル一部ノ勞働團體ガ海員協會ヲ離
レテ居ルコトハ、極メテ是ハ心配ニ堪ヘナ
イコトデアリマシテ、遞信大臣ハ此團體ヲ
モ急遽海員協會ヘ合併セシムルコトニ御骨
折ヲサレル御積リデアルカ、此二ツノ點ニ
付テ御說明ヲ求メル次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=42
-
043・永井柳太郎
○永井國務大臣 米窪君ノ御質問ノ御趣旨
ハ私モ同感ニ存ジテ居リマス、日本海員組合
ノ綱領ヲ見マスト、我國特異ノ國情竝ニ國
民性ニ立脚シテ船員組合ヲ組織スルヤウニ
書カレテ居リマスシ、又ソレカラ分離致シ
タ新日本海員組合ハ、日本精神ニ基イテ組
合ヲ作ルト云フヤウニナッテ居リマシテ、根
本ノ精神ニ於テハヤハリ同ジ日本人トシ
テ、同ジ自覺ニ燃エテ居ルノデナイカト思
ハレマス、殊ニ只今御話ニナリマシタヤウ
ナ出來事ヲ承リマシテ、大イニ其感ヲ深ウ
致シタノデアリマスガ、併シ此組合ガ別々
ノ行動ヲ取ルヤウナコトニナリマシタコト
ニ付キマシテモ、相當ノ事情ノアッタコト
ト存ジマスルガ、是等ノ事情ニ付キマシテ
ハ十分調査ヲ遂ゲマシテ、出來得ルコトナ
ラバ全日本海員ガ一團トナッテ、同ジ海上日
本ノ建設ニ協力シ得ルヤウニ導キタイト思
ヒマス、勞働者ダケデナク、資本家ヲモソ
コニ導キタイト思ッテ居ルノデアリマスカ
ラ、同ジ勞務ニ從事シテ居ルモノガ一ツニ
ナルコトハ、洵ニ願ハシイコトデアルト思
ヒマス、併シ只今申上ゲマシタヤウナ種々
ノ事情ガアルコトヽ存ジマスノデ、ソレ等
ハ十分ニ調査ヲ致シマシテ、可能ノコトデ
アリマスルナラバ、其實現ニ努力致シタイ
ト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=43
-
044・漢那憲和
○漢那委員長 米窪君ニ御諮リ致シマス
ガ、モウ時間モ大分經過致シマシタカラ、
御質問ハ午後ニ續イテオヤリニナッタラ如
何デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=44
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045・米窪滿亮
○米窪委員 異議アリマセヌ、只今言ヒ落
シタ點ダケヲ·····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=45
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046・漢那憲和
○漢那委員長 ソレデハソレダケヲ願ヒマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=46
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047・米窪滿亮
○米窪委員 時間ヲ私一人デ獨占スル積リ
デハナイノデアリマスガ、事社會立法デア
リ、船員ノ利害ニ直接關係ノアル問題デス
カラ、午後カラノ質問ヲ御許シヲ願ヒタイ
ト思ヒマス、只今言落シタ點ハ、無線電信
技士會ノコトデアリマスガ、遞信大臣ハ之
ニ御觸レニナラナカッタノデアリマスガ、遞
信大臣ノ御答辯ニ依リ其御精神ノアル所ハ
諒ト致シマス、無線電信技士會ガ海員協會
ト云フ、殆ド日本ノ大部分ノ高級船員ヲ網
羅シテ居ル團體カラ、今日尙ホ分裂シテ居
ル一ツノ原因ハ、船舶無線電信ノ機械ヲ設
置スル、或ハソレヲ檢査スルト云フヤウ
ナ、技術的ナ仕事ヲ擔當サレテ居ル遞信省
ノ電務局ガ、サウ云フ關係カラ、ソレニ從
事シテ居ル技士ノ社會運動ト云フカ、勞働
運動ト云フカ、サウ云フ取締マデオヤリニ
ナッテ居ルヤウニ拜承シテ居リマス、然ラ
バ今日海員ニ關スル勞働行政ハ、遞信省ノ
管船局ノ人々ガ當ッテ居リマスガ、同ジ海
員デアッテ同ジ重要ナ地位ニアル無線電信
技士ノ勞働行政ハ、同ジ遞信省ノ電務局ノ
方ガ當ッテ居ラレルト云フコトハ、勞働行
政ノ上ニ於テ不統一デアル、此點ニ付、部局
ヲ併合シテ勞働行政ヲ統一セラレル御考ガ
アリマスカ、御伺致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=47
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048・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今ノ御質問ハ御尤デア
リマスガ、併シ管船局、電務局ノ間ニ於キマ
シテハ十分連絡ヲ取リマシテ、一ツノ指導
精神デ統制シテ行クヤウニ努力ヲシテ居リ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=48
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049・米窪滿亮
○米窪委員 私ノ午前中ノ質問ハ之ヲ以テ
終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=49
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050・漢那憲和
○漢那委員長 午前中ハ此程度デ休憩致シ
タイト思ヒマス、午後ハ一時半カラ再開致
サウト思ヒマス、暫時休憩致シマス
午後零時五分休憩
午後二時十分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=50
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051・漢那憲和
○漢那委員長 休憩前ニ引續キ會議ヲ開キ
マス-米窪君ノ發言ヲ許シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=51
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052・米窪滿亮
○米窪委員 午前ニ引續イテ質問ヲ致シマ
ス、次ニハ本法ト關聯致シマシテ、遞信大
臣竝ニ拓務大臣ニ御尋スル點デアリマスガ、
要點ハ今日海事ニ關係アル所ノ法規ガ、船
舶ノ船籍ノ所在地ニ依ッテ、實際ノ事務ノ取
扱ガ區々ニナツテ居ル、少クトモ所轄管海
官廳ガ違ッテ居ル、其間取扱ノ實務ニ於テ
種々ノ不便ガ起ッテ居ル實情ニアルノデア
リマス、一二ノ例ヲ申上ゲマスナラバ、海
員ノ雇入、雇止ノ事務ヲ取扱フ場合ニ於
テ、所謂內地ニ船籍ヲ持ッテ居ル船舶ニ對
スル場合ト、臺灣、朝鮮、關東州、樺太等
ノ拓務省御關係ノ方面ニ船籍ヲ有スル船舶
ニ對スル事務トハ、其所管ノ管海官廳ガ異
ル爲ニ取扱ニ於テ差等ガ起ルノデアリマ
ス、吾々ノ手許ニアル所ノ第二十四條ニ於
キマシテ「海員ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル
場合其ノ他已ムコトヲ得ザル事由アル場合
ニ於テハ」ト云フ、茲ニ條文ガアルノデア
リマスルガ、其場合ハ「船長ハ海員ヲ雇止
ムルコトヲ得」トアルノデアリマス、此 此
ノ他已ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於テ
ハ」ト云フ條文ノ御精神ハ、現行ノ所謂商
法ノ五百八十二條ヲ指スダラウト思フノデ
アリマス、此點ニ付テハ、吾々ハ斯ウ云フ
條文ニ對シテハ反對ノ意思ヲ持ッテ居ルノ
デアリマスルガ、是ハ後程條文ニ付テノ場
合ニ申上ゲルコトニ致シマシテ、今私ガ質
問申上ゲテ居ル點ニ於テ不便デアルト云フ
點ハ、其一ツノ實例ヲ此條文ノ場合ト適合
スルコトガ出來ルノデアリマス、是ハ內地
ニ船籍ヲ有スル場合ニ於テハ直チニ今マデ
ハ、商法五百八十二條ダト思ヒマスガ、ソ
レデヤラレタノデアリマスガ、船籍ガ外地
ニアル場合ニ於テハ、是ガ其儘ニ實施サレ
ナカッタ實例ガアルノデアリマス、斯ウ云
フ場合ニ船員ヲ雇止スルト云フ事柄ダケニ
付テ見マシテモ、船籍ノ所在ガ異ルコトニ
依ッテ取扱上ニ甲乙ガ生ズルト云フコトハ、
本法改正ノ抑3ノ御精神カラ言ッテ甚シク不
都合デハナイカ、斯ウ云フ工合ニ考ヘルノ
デアリマス、隨テ私共トシテハ一日モ早ク
船籍ノ所在地ノ如何ニ拘ラズ、船員法ガ包
括スル事務ニ付テハ、全部之ヲ遞信省ニ於
テ統一サレルト云フコトガ望マシイノデア
リマスルガ、遞信大臣ハ此點ニ付テドウ
云フ御意見デアルカ、及ビ拓務省御當局ハ
私共ノ希望ニ對シテ御贊成デアルカト云フ
コトヲ御尋シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=52
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053・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今米窪君ガ御尋ニナリ
マシタ通リ、內外地ガ港域ヲ異ニシテ居リ
マス關係カラ、海事行政ノ上ニモ統一ノ取
レナイ場合ガ少クアリマセヌ、隨テ其爲ニ
不便ガ多イト云フコトハ私モ認メテ居リマ
ス、ソレデ內外地ヲ通ジテ海事行政ノ統一
ヲ實現スルカ、或ハ又內外地ヲ通ジテ事實
上統一セラレタニ等シイ協定ヲスルカ、何
レニシテモ海事行政ニ對シテ、實質上相互
ノ連絡統一アル組織ヲ持ツト云フコトハ、
確ニ必要デアルト考へマス、其點ニ付キマ
シテハ、關係當局トモ相談ヲ致シマシテ、
出來得ルダケ速ニ改善致シタイト考ヘテ居
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=53
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054・伊禮肇
○伊禮政府委員 今遞信大臣カラ御答ニ
ナッタト同趣旨ニ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=54
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055・米窪滿亮
○米窪委員 次ノ質問ハ、遞信大臣、陸軍
大臣、海軍大臣ニ御尋スルノデアリマス
ガ、今日日本ノ國旗ヲ揭ゲテ居ル日本ノ船
ニ於テ、中華民國或ハ其他ノ違ッタ國籍人
ヲ、船員トシテ使用シテ居ル船ガ非常ニ多
イ、其理由ハ、其船舶ガ所謂關東州ニ船籍
ヲ有スルカ、或ハ日本船ガ支那ノ沿岸ノミ
ヲ航行シテ居ル爲ニ、斯ウ云フ賃銀ノ安イ
船員ヲ使ハナケレバ、同ジヤウニ支那ノ船
員ヲ使ッテ居ル英國其他ノ外國船ト對抗ス
ルコトガ出來ナイ、斯ウ言ッタ船主ノ經濟
上ノ理由等カラ、其二三ノ大船主ニ於テ支
那ノ船員ヲ使用シテ居ルノデアリマス、併
シ其船主ノ經濟的ノ理由ハ、私午前中ニ申
上ゲマシタ通リ、今日海運界ガ非常ナ好景
氣デアッテ、六分、七分ノ配當ヲシテ居ル所
ノ情勢カラ見レバ、經濟的ノ理由ハ私ハ理
由トナラヌト思ヒマス、今日世界ノ各國ノ
此點ニ關スル法規ヲ對照シマスト、例ヘバ
白耳義等ニ於テハ、九割マデハ自國船員ヲ
使ハナケレバナラヌト云フ規定ガアル、英
國等ニ於テハ四分ノ三マデハ母國語ヲ語ル
所ノ船員デナケレバナラヌト云フ規定ガア
ル。是ハ何故デアルカト云フト、萬一海難
等ノ場合ニ於テ、言語ガ違ッテ居ル所ノ高
級船員ト普通船員トガ乘ッテ居ル場合ニ於
テ、其非常時ニ於テ完全ニ人命及ビ船體其
他財產ヲ救助スルコトガ出來ナイコトハ當
然デアリマス、又今日見ルガ如ク北支ノ事變
ガアル、日本ノ船舶ノ或モノガ御用船ニナ
ル場合ニ於テ、他國民ガ乘ッテ居ルト云フヤ
ウナ船ヲ、勿論御用船ニ指命サレルコトハ
ナイト思ヒマスルガ、兎モ角モサウ云フ問
題ガ起リ得ル、東亞ノ情勢ニ基キマシテ、
苟モ日本ノ國旗ヲ揭ゲテ居ル所ノ船舶ニ、
他國ノ國籍ヲ持ッテ居ル船員ヲ使用スルト
云フコトハ、色々ノ點カラ言ッテ甚シク不
都合デアル、而モ現在ハ幸ニシテ船員ノ失
業者ガ段々減ジツヽアリマスルケレドモ、
海事協同會ノ報告スル所ニ依レバ、尙且ツ
普通船員ノ失業者ハ二千名ヲ下ラナイ現狀
ニアル時ニ於テ、單ニ船主ノ經濟的理由ノ
ミヲ以テ、安イ勞銀ノ船員ヲ使フト云フダ
ケノ理由ヲ以テ、他國ノ國籍ヲ有スル所ノ
船員ヲ、日本ノ國旗ヲ揭ゲテ居ル所ノ船舶
ニ使フト云フコトハ、是ハドノ角度カラ考
ヘマシテモ不合理デアルト思フ、然ルニ今
日御用船ニ徵發サレタル所ノ船舶ガ相當ノ
多數ニ上ッテ居ルノデアリマスルガ、其乘
組員ノ中ニ所謂半島出身ノ鮮人ガ乘組員ト
シテ乘ッテ居ル、相當ノ經驗ガアリ技倆ガ
アル、職ニ對シテモ適任デアルニ拘ラズ、
是ガ同ジ日本國民デアリナガラ、鮮人デア
ルト云フ理由ヲ以テ降サレテ居ルノデアリ
マス、其理由ニ付テハ私ハ事軍機ニ關シマ
スルカラ此處デハ申上ゲマセヌガ、兎モ角
モ日本國民タルモノガ、日本ノ船ニ乘レナ
イノニ、他方ニ於テハ中華民國ノ、或ハ滿
洲其他ノ所謂日本ニ國籍ノアラザル者ガ日
本ノ船ニ乘ッテ居ル現狀ハ、極メテ不合理
ナル次第デアルノデアリマス、ソレカラ一
方ニ於テハ變態輸入船ナルモノガ今日アル
ノデアリマス、變態輸入船ト云フノハ是ハ
俗稱デアリマスルガ、ドウ云フ船デアルカ
ト申上ゲマスト、先年行ハレマシタ優秀船
建造、船質改善ノ助成事業トシテ遞信省ガ
之ヲ奬勵シ、相當ノ補助ヲ與ヘテ居リマス
ルガ、此船質改善事業ノ一ツノ條文トシ
テ、此船質改善事業ナルモノヲ完璧タラシ
メル爲ニ、外國船ヲ輸入シテ來テ之ヲ日本
ノ沿岸ニ於テ貿易ヲ許サナイ、卽チ日本ノ
國籍ニ之ヲ編入スルコトヲ許サナイト云フ
輸入特許條項ガアルノデアリマス、之ニ依ツ
テ今マデ外國ノ相當ノ年齡ト速力ヲ持ッテ
居ル船ヲ買ッテ居ッタ日本ノ船主ハ買ヘナク
ナッタ、隨テソレダケ船員ノ失業緩和ガ出
來ナクナッタ現狀ニアルノデアリマスルガ、
日本ノ海運業百年ノ長計ヲ樹テル爲ニ、是
ハ當然ノ處置ナリトシテ、吾々船員モ之ニ
贊成シタノデアリマスルガ、是ニ於テ外國
船ノ輸入ヲ禁ジタ爲ニ、日本ノ船主ガ其特
許條項ノ裏ヲ搔キマシテ、事實ニ於テ日本
ノ船主ガ外國カラ船ヲ四貝ッテ來ル、而モ之
ヲ解撤船トシテ潰サナイ、サウシテ依然ト
シテ之ラ貿易商業ニ使ッテ居ルノデアリマ
スルガ、今申上ゲタ法規ニ依ッテ之ヲ日本
ノ國籍ニ直ス譯ニ行カヌ、日本ノ國旗ヲ揭
ゲル譯ニ行キマセヌカラ、之ヲ中華民國ヘ
持ッテ行キマシテ、如何ニモ支那ノ船主ガ
買ッタ如ク裝ウテ、支那ノ國旗ヲ揭ゲテ、
而モ高級船員ハ支那ノ船員デハ到底其技倆
ガ不十分デアリマスルカラ、日本ノ高級船
員ヲ乘セマシテ、普通船員ハ支那人ヲ乘セ
テ居ルト云フ極メテ變態的ナ經營ヲヤッテ
云ルノデアリマス、之ニ對シテハ關稅ノ間
題ヤ其他ニ於テ相當ノ牽制ガ行ハレテハ居
リマスルガ、併シ事實ニ於テ、實際的ニ日
本ノ船主ガ支那ノ國旗ヲ揭ゲ、名目上ハ支
那人ヲ船主トシテ登錄シテ居ルニ拘ラズ、
日本ノ高級船員ヲ使ッテ居ルト云フコトハ、
殊ニ今日ノ時局ト對照シマシテ甚ダシク遺
憾ナ點デアルト思フノデアリマス、私遞信
大臣及ビ陸軍大臣、海軍大臣ニ御尋シタイ
點ハ、私共トシテハ日本ノ國旗ヲ揭ゲテ居ル
船ニ日本ノ船員ヲ使フベシト云フ此精神ヲ
何カノ形ニ於テ、船員法ニ於テ之ヲ律スル
コトガ出來ナケレバ、勅令其他ノ方法ニ於
テ、此精神ヲ法制ニ於テ現ハシテ戴キタイ
ト思フノデアリマスルガ、之ニ付テノ可能
性ハ果シテアルカドウカト云フコトヲ、今
申上ゲタ三大臣ニ御尋シタイト思フノデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=55
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056・永井柳太郎
○永井國務大臣 日本ノ船舶ニハ原則トシ
テ日本ノ船員ヲ使フ方ガ宜シイト云フ御意
見ハ御尤デアリマス、現在ニ於キマシテモ
日本ノ船舶ニハ、原則トシテハ日本ノ船員
ヲ使ハセルト云フ立前ニシテ居ルノデアリ
マスガ、或ハ支那ノ沿革又ハ支那ノ河川ヲ
航海シテ居リマスル船舶ガ、其積荷又ハ船
客ヲ取扱フ必要カラ、或ハ又特殊ノ會社ノ
經濟上ノ必要カラ、其例外ノ處置ヲ執ッテ
居ル事實ハ、米窪君ノ御話ノ通リデアリマ
ス、ソレ等ノ特殊ノ事實ヲ參酌致シマシ
テ、サウ云フ例外ノ場合モ認メテ居リマス
ガ、御話ノ通リ立前ト致シマシテハ、日本
ノ船舶ニハ出來ルダケ日本ノ船員ヲ乘込マ
セルト云フコトニ致シタイト思ウテ居リマ
ス、ソレカラ支那ニ船籍ヲ有ッテ居ル船舶
ニ付テノ御話モゴザイマシタガ、是ハ米
窪君ガ御話ノ通リ、今日ノ日本ノ優秀船ヲ
建造シテ國家百年ノ大計ヲ樹テル方針ノ下
ニ於テハ、已ムヲ得ザル事實ト思ウテ居リ
マス、併シ是等ノ支那ニ船籍ヲ有シテ居ル
船舶モ、實質ニ於テハヤハリ日本ト諸外國
トノ間ニ往來シテ、或ハ鑛石ナリ木材ナリ
鹽ナリ、日本ノ必要品ヲ運搬スル役目ヲ果
シテ居ルノデアリマシテ、ソレダケノ日本
ノ必要トスル船腹ノ供給ニ管 9.3居ルノデ
アリマスカラ、ソレ等ノ特殊ノ事情カラ日
本ノ船員ガ其高級ノ仕事ニ從事シテ居ルト
云フコトモ、亦必要上已ムヲ得ナイコトデ
アラウト思ッテ居リマス、大體ニ於テ今米
窪君ガ御話ニナリマシタヤウニ、日本ノ船
舶ニハ原則トシテ日本ノ船員ヲ乘込マセル
ト云フ方針ハ、最モ望マシイコトデアルト
存ジテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=56
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057・栗橋保正
○栗橋政府委員 陸軍ニ於キマシテモ只今
遞信大臣ノ御說明ト全ク同樣デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=57
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058・豐田副武
○豐田政府委員 海軍ニ於キマシテモ遞信
大臣ノ御說明通リニ考ヘテ居リマス、又古
船ノ支那船籍デ運航致シテ居リマス狀況
ハ、現在ノ事態デハ全ク特殊ナ暫定的ノ狀
態ト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、將來
ニ於テハ是ハ永續スベキモノデハナイト云
フヤウニ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=58
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059・米窪滿亮
○米窪委員 押返シテ御質問申上ゲテ相濟
ミマセヌガ、只今遞信大臣、陸軍、海軍御
當局ノ御答辯ガアリマシタガ、私ノ御尋シ
タイ點ハ、遞信大臣ハ近キ將來ニ於テ日本
ノ船ニハ日本船員ヲ乘セルト云フ何等カノ
法制ヲ御立テニナル御意思ガアルカ、斯ウ
云フコトデアリマス、ソレカラ變態輸入船
ニ對シテハ、今日私共ノ調査ニ依レバ五十
四隻ニ及ンデ居ルノデアリマス、斯ウ云フ
狀態ニ對シテ、只今海軍御當局ニ於テハ多
分此點ヲ御指摘ニナッタト思ヒマスルガ暫
定的ノ存在デアッテ、將來永續スベキモノデ
ナイト云フ御話デ、其點多少明確ニナリマ
シタガ、私ハ更ニ此點ニ付テハ敷衍ヲシテ
遞信大臣ニ御尋ヲシタイ、斯ウ云フ變態的
ナ存在ヲ此際根本的ニ解決ヲスル爲ニ、現
在事實上日本ノ船主ガ所有シテ居ルニ拘ラ
ズ、先程申上ゲタ理由ニ依ッテ支那ノ船主ガ
唯單ニ登錄上ノ所有者デアルト云フヤウ
ナ、此種ノ船舶ハ之ヲ事實上ノ船主デアル
日本人ノ所有者ニ對シテ船體ヲ解撤ヲスル
トカ、何等カノ方法ヲ講ズベキデアルカ、或
ハソレガ出來ナケレバ寧ロ此際特許條項ヲ
緩和シマシテ、或ル一定ノ船齡以下ノ船、
或ハ或ル節數以上ノ優秀ナル速力ヲ持ッテ
居ル外國船ハ之ヲ輸入シテ宜シイ、但シ
ソレガ或ル年齡ニ達シタ時ニハ直ニ解撤ス
ベシ、斯ウ云フ經過的條項ヲ設ケテ此特許
條項ヲ緩和スル御意思ガアルカ、此二ツノ
中、何レカノ根本的解決ヲナサル御意思ガ
アルカト云フコトヲ重ネテ御質問申上ゲマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=59
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060・永井柳太郎
○永井國務大臣 日本ノ船舶ニ原則トシテ
日本ノ船員ヲ乘組マシメルト云フコトヲ、
何カ法令ニ據ルベキヤ否ヤト云フコトハ、
是ハ尙ホ一層〓究シタイト思ヒマスルガ、
事實ニ於テ其實現ヲ期スルコトハ先程申上
ゲタ通リデアリマス、ソレカラ今日支那ニ船
籍ヲ置イテ居ル變態ノ船舶ハ、是ハ先程申
上ゲマシタ日本ノ優秀船ヲ建造スル大方針
ノ下ニ於テ、已ムヲ得ザル權宜ノ處置トシ
テ現レテ來タ事實ト思ヒマス、併ナガラ此
船舶ノ中ニハ米窪君モ御存ジト思ヒマス
ガ、相當ノ古イ船モ少クアリマセヌ、是等
ノ船ヲ濫ニ內地ニ輸入セシムルト云フコト
ハ、折角確立シツヽアル優秀船ヲ建造スル
方針ノ上ニモ影響スル所ガ宜シクナイト思
ヒマスシ、又造船業ニ對シテモ影響スル所
ガ宜クナイト存ジテ居リマス、ケレドモ今
日非常ノ時局ニ臨ンデ來マシテ、特ニ船腹
ヲ要求スルヤウナ事態ガ發生シテ來テ居ル
ノデアリマスカラ、ソレ等ノ點ヲモ考慮致
シマシテ、此船舶ノ處置ニ付テハ適當ナル
方法ヲ執ラナケレバナラヌト考ヘテ居リマ
ス、ケレドモ今直ニ是等ノ變態ノ船舶ヲ日
本ノ國內ニ輸入スルコトヲ許可スルト云フ
コトヲ決定スル程、吾々ハ其必要ヲ認メテ
居リマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=60
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061・米窪滿亮
○米窪委員 外務省ノ關係ノ方ハ御見エニ
ナリマシタカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=61
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062・漢那憲和
○漢那委員長 外務省ハ見エテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=62
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063・米窪滿亮
○米窪委員 次ニ御質問申上ゲタイ點ハ、
遞信大臣及ビ外務大臣ニ對スル質問デゴザ
イマスルガ、本法第十四條及ビ第三十條ニ
於キマシテ、船員ガ外國ニ於テ下船シタ場
合-ソレハ第三十條デスガ、或ハ外國ニ
於ケル帝國臣民ガ必要ガアッテ日本ヘ送還
サレル場合ノ規定ガ卽チ第十四條ニ規定シ
テアル、所ガ今日主トシテ問題ハ亞米利加
ニ限ラレテ居ルノデアリマスガ、亞米利加
ニ御承知ノ如ク移民法ナルモノガ存在シテ
居ル、此移民法ハ私ガ申上ゲル迄モナク、
亞米利加合衆國ニ入ッテ行ク所ノ日本ノ臣
民ニ適用スルコトニナッテ居ルノデアリマ
シテ、亞米利加合衆國ニ上陸ヲ事實ニ於テ
シテ居ラナイ船員ニ之ヲ適用スルハ勿論不
當デアルコトハ私ガ申上ゲル迄モナイコト
デアリマス、所ガ亞米利加政府ハ日本ノ船
員ガ亞米利加合衆國ノ港ニ於テ上陸スベカ
ラズト云フ規定ガ移民法ニナイ、デアルカ
ラ上陸ハ自由デアル、併シ一方ニ於テ脫船
逃亡スル場合ニ於テハ之ニ對シテ相當重イ
罰金ヲ、本人ガ拂へナイ時ニハ船舶所有者
ガ拂フト云フコトガ規定サレテ居ル關係
上、日本ノ船主ハ桑港、「ロサンゼルス」等
ノ主要ナル亞米利加合衆國ノ港ニ碇泊中
ハ、船員ノ自由ヲ拘束シマシテ上陸ヲ許サ
ナイ、曾テハ碇泊中ハ船員室ニ之ヲ殆ド監
禁同樣ニ閉込メテ、入口ニ碇ヲ下シ鍵ヲ掛
ケテ、「ピストル」ヲ持ッタ亞米利加人ヲ雇ツ
テ監視スルト云フヤウナ、極メテ非人道的
ナ狀態ヲ續ケテ居ッタノデアリマスガ、最
近ハサウ云フコトガ稍〓緩和サレマシタガ、
依然トシテ「ウォッチマン」ナルモノガ舷梯ニ
頑張ッテ、普通船員ノ上陸及ビ逃亡ヲ監視シ
テ居ルト云フヤウナ狀態ニアルノデアリマ
ス、一方船主ハ一人ノ船員ガ逃亡シテモ相
當重イ罰金ヲ課セラレル、郵船會社ノ如キ
ハ聞ク所ニ依ルト、一年約二百萬圓ニ相當
スル保證金ヲ積ンデ居ル有樣デアリマス、
斯ウ云フ狀態ニアル爲ニ、日本ノ船主ハ船
員ノ上陸ヲ嚴禁シテ居ルノデアリマス、隨
テ船員ハ上陸シナイノデアリマス、亞米利
加政府ハ、ソレハ日本ノ船主ノ都合デア
ル、亞米利加ノ移民法ハ船員ノ上陸ヲ何等
禁止シテ居ラナイ、デアルカラ亞米利加ノ
移民法ハ船員ハイツ何時上陸スルカモ分ラ
ナイト云フ前提ノ下ニ、當然日本ノ船員ニ
モ其實施ヲ適用スルモノデアルト云フ立前
カラシマシテ、船ガ港ニ著クト直ニ亞米利
加ノ檢疫官ガ來マシテ、船ノ「ドクター」ガ
此男ハ病氣ニ罹ッテ居ル、肺病或ハ傴瘻病、
十二指腸蟲病或ハ花柳病、斯ウ云フモノニ
罹ッテ居ルケレドモ、今迄ノ經過カラ見レ
バ、碇泊中或ハ日本ニ歸ル途中ニ於テ全治
ノ見込ガアル、斯ウ云フ報告ヲシテ居ルニ
拘ラズ、或ハ更ニ甚シイノハ全治シタニ拘
ラズ、嘗テ病氣ニ罹ッタ痕跡ガアルト云フ
極メテ非道ナル態度ヲ執ッテ、其船員ヲ檢疫
所內ノ移民收容所ナルモノニ收容スル、サ
ウシテ其收容期間ノ費用ハ全部日本ノ船主
ニ負擔サセル、船員ハソレガ爲ニ折角船內
ニ於テハ船長ト諒解ノ上ニ、依然船員トシ
テ其職場ニ働ク保障ヲ得テ居ルニ拘ラズ、
移民法惡用ノ結果、其船員ハ失業船員トナ
ル、而モ給料ヲ失フバカリデナク就職ノ機
會ヲ失フ、更ニ送還費ハ一體誰ガ拂フカ、
斯ウ云フヤウナ問題デ非常ナ不安ト脅威ヲ
受ケテ居ル、之ニ對シテハ日本海員組合、
海員協會等ノ海員團體カラ、過去數年ニ
亙ヲテ外務省ヲ通ジテ此移民法ノ改正、之ヲ
換言シマスレバ、移民法ヲ上陸セザル船員ニ
適用セズト云フ諒解ヲ求メル爲ニ、外務省
ヲ通ジテ亞米利加官憲ニ交涉ヲ御願シタノ
デアリマスガ、率直ニ申シマスレバ外務省
ハ極メテ冷淡ニシテ、提出セル吾々ノ陳情
書ヲ半年モ一年モ机ノ中ニ埃塗レニシテ
居ッタト云フ實情ヲ聞イテ居ル、其結果吾
吾ハ已ムヲ得ズ、其關係アル所ノ亞米利加
ノ海員組合ニ交涉シタ所ガ、直ニ若干效ヲ
奏シテ一時緩和サレタ、其檢疫狀態タルヤ
極メテ非人道的デアリマシテ、入港シタ船
員ヲ上甲板ニ竝ベマシテ、サウシテ此委員
會ノ席上デ申上ゲルコトハ憚リマスガ、殆
ド半裸體ノ狀態ニシテ性病ノアルカナイカ
ヲ調ベル、而モ衆目環視ノ下ニ於テヤルト云
フヤウナ暴狀ヲ彼等ハ行ッテ居ル、ソレデ私
共ノ先程申上ゲテ居ル外務省ヲ通ジテノ交
渉.或ハ亞米利加海員團體ニ對スル交渉ノ
結果、一時上甲板ニ列ベテ檢査スルコトハ
緩和シマシテ、特定ノ部屋ニ一人々々入レ
テ檢査スルコトニナッタノデアリマスガ、先
程申上ゲル移民收容所へ之ヲ收容スルコト
ハ依然トシテ改マラナイ、而モ是ハ事件ノ
アル每ニ、例ヘバ滿洲事變ガ起ルト云フト
犬糞的ナ意味合デアルカドウカ知リマセヌ
ガ、又其檢査ガ峻嚴ニナル、恐ラク今度ノ
北支事變デ必ズ一時緩和シテ居フタコトガ
再發スルノデハナイカト考ヘザルヲ得ナ
イ、旣ニ今囘徹底的ニ此弊ガ改マッテ居ラ
ナイノデアリマスルガ、私ガ外務當局ニ御
尋シタイ點ハ此屈辱的ナ、民族ヲ侮辱スル
ヤウナ取扱ヲ亞米利加合衆國ガ依然トシテ
續ケテ行フト云フコトハ、互惠條約ガアル
カドウカ私ハ知リマセヌガ、少ク共對等ニ
扱ッテ居ル國際的信義關係ヲ無視スルモノ
デアル、此點ニ於テ移民法ノ適用ヲ上陸セ
ザル船員ニ適用スベカラズト云フ點ニ於テ
嚴重ナル御交涉ヲ爲サルヽ御用意ガアルカ
ドウカ、又遞信大臣ニハ之ニ依ッテ生ズル
所ノ送還ニ關スル條項ハ吾々トシテハ第十
四條ヲ適用スベキデナク、第三十條ヲ適用
シテ、當然之ニ對シテハ其間ノ給料、及ビ
食料、送還費等ヲ船主ニ於テ支辨スベキモ
ノト考ヘルガ、果シテ遞信省ハ立法ノ際ニ
於テ此點ヲ御考慮ニナッタカドウカ、之ヲ
兩御當局ニ御尋致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=63
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064・船田中
○船田政府委員 外務大臣ハ差支ガアリマ
シテ見エラレマセヌノデ、私ヨリ便宜御答
ヲ申上ゲマス、只今米窪君カラ御質問ニナ
リマシタ米國各港ニ碇泊ヲ致シマスル邦船
ノ船員ニ對シテ不當ニ移民法ヲ適用スル、
寧ロ移民法ノ濫用ヲシ、或ハ船員ニ對シテ
不當ナ、非人道的ナ身體檢査ヲスル、或ハ
時ニ依ッテハ移民收容所ニ不當監禁ヲスル
ト云フ事實ニ付キマシテ、度々海員組合等
カラシテ御陳情ノアリマシタコトハ承知致
シテ居リマス、ソレニ對シマシテ外務省ト
致シマシテモ、先頃非公式ニ御話ガゴサイ
マシタノデ、關係當局ニ調査ヲシテ貝ヒマ
シタ、昨年ノ五月「ニユーオルレアンス」ノ
領事ノ方カラ、又昨年ノ七月ニハ紐育ノ總
領事ノ方カラモ報告等ゴザイマシテ、ソレ
ニ依リマスト、我方カラ彼地ニ在リマス總
領事ヲ通ジテ地方官憲ニ交涉ヲ致シマシタ
結果、漸次改善サレツヽアルト云フヤウニ
報〓ガ來テ居ルノデアリマス、最近ノ狀況
ニ付キマシテハ寧ロ米窪君ノ方ガ能ク御承
知ダト思ヒマス、外務省ノ方ニハソレ程甚
シキ非難ガ參テテ居ラナイノデアリマス、併
シ只今ノ御話ノ點ニ付キマシテハ、洵ニ御
尤デゴザイマシテ、今後モ十分是等ニ付テ
先方ニ交涉ヲ致シ、反省ヲ求ムルヤウニ致
スコトニ吝カデナイ、斯樣ニ存ジテ居リマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=64
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065・小野猛
○小野政府委員 送還ノ問題ニ關シマシテ
私カラ御答致シマス、米窪君ノ御解釋ノヤ
ウニ送還ノ問題ハ第十四條ト第三十條デ決
マッテ居ルノデアリマスガ、特ニ第三十條
ニ付キマシテハ、國際勞働條約案ヲ取入レ
マシテ、現狀ヨリハ相當改善サレテ居ルノ
デアリマス、唯イマ擧ゲラレタ如キ當該船
員モ船ヲ下リル意思ハナシ、船主モ下ロサ
ウト云フ意思ハナイ、ソレヲ他國ノ法律デ
無理ヤリニ病院ニ入レルト云フ場合デアリ
マスガ、斯ウ云フコトハ實ハ法律デハ全ク
豫想シテ居ラナカッタノデアリマス、又サウ
云フコトハアリ得ベキコトデナイト吾々立
案者ハ考ヘテ居ッタノデアリマスガ、事實
ニ於テ病院ニ入レラレテ、隨テ失業スルト
云フヤウナ狀態ニアル、此事實ハ吾々モ注
目ニ値スルモノト思ヒマス、唯之ヲ如何ニ
シテ救濟スルカト云フコトデアリマスガ、
法規ト致シマシテハ、今申上ゲマシタ通リ
ニ豫想ハシテ居リマセヌガ、マア解釋ヲ强
イテ附ケレバ、船主モ下ロスト云フ意思ハ
ナシ、本人モ下リルト云フ意思ハナイ、ダ
カラ其雇傭契約ハ實ハマダ切レテ居ラヌノ
デハナイカト云フ解釋ハ-具體的ノ事實
ヲ見ナケレバ分リマセヌガ、サウ云フ場合
モアルンヂヤナイカ、サウナレバ又元ノ船
ニ再ビ雇入レサセル、又雇入レルベキモノ
デアルト云フ解釋ガ成立チマス
又實際ノ場合ト致シマシテハ、サウ云フ
同情スベキ者デアリマスノデ、領事ノ方デ、
領事職務掌程ニハ或ハ合ハナイカモ知レヌ
ケレドモ、船主ニ送還ヲ命ズルト云フヤウ
ナコトモアリ得ルト思ヒマス、サウ云フ同
情スベキ者ノ送還ニ付キマシテハ、サウ云
フ風ナ救濟方法モアルト思ヒマスガ、萬.
サウ云フ者ガアッテ、外國ノ法律ノ爲ニサ
ウ云フ難ヲ受ケルヤウナコトガアリマシ
テ、送還ガ出來ナイト云フヤウナコトガア
リマスレバ、私共ノ方ニ御申出下サイマス
レバ、何トカ斡旋シテ見タイト考ヘテ居リ
やく、法規上豫想シナカッタト云フコトハ
事實デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=65
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066・米窪滿亮
○米窪委員 押シ返シテ御尋スルノデアリ
マスガ、外務省ノ船田サンニ御尋シタイ點
ハ、成程外務省ニ屆イテ居ル情報ニ依レ
バ最近ハ改善サレテ居ルカ存ジマセヌ
ガ、實ハ合衆國ノ取扱ハ、其點ハ執拗ニシ
テ事變ガアルト、例ヘバ滿洲事變、或ハ北
支事變ノ如キ事變ガアルト、直チニ海港檢
疫官ノ感情ニ依ッテ、其取扱ガ或ハ嚴シク
ナリ、或ハ非人道的ニナル、デアルカラ、
私ハ外務當局ハ根本的ニ此問題ヲ解決スル
方針トシテハ、移民法ヲ船員ニハ適用シナ
イト云フ立前カラ、先方ノ政府ニ交涉ヲシ
テ、之ヲ解決スルヨリ外ニ途ハナイト思
フ、此意味ニ於テ外務當局ハ其方針デ御交
涉ヲ爲サル意思ガアルカドウカト云フコト
ヲ、他日ノ機會ニ於テ御答ヲ願ヒタイト思
ヒマス
ソレカラ小野政府委員ノ御答デアリマス
ガ、サウ云フ事件ガ起ッテカラ吾々ノ方ヘ
屆出レバ然ルベクヤルト云フコトデアリマ
スガ、是ハ立法ノ問題ヲ議スル今日ニ於
テ、私共トシテハ一寸承服ガ出來ナイノデ
アリマス、デアルカラ小野政府委員ハ率直
ニ臨時海事法令調査會當時ニ於テハ豫想シ
ナカッタト云フコトヲ仰セラレテ居ルノデ
アリマシテ、其當時ノ事情ヲ吾々諒トスル
者デアリマスガ、併シサウ云フ事件ガナ
クッテモ今日ハ起ッテ居ル、卽チ八年間ニ斯
ノ如ク此一ツノ例ガ示スヤウニ、船員法ナ
ルモノハ非常ナル修正ヲ要スベキ狀態ガ現
ハレテ來タ、隨テ八年前ノモノヲ其儘認メ
ロト云フ遞信省ノ今日ノ御態度ハ少シク蟲
ガ良イト考ヘテ居リマスルガ、併シ此點ニ
付テハ必ズシモ本法ニ入レナクテモ、或ハ
船員法ノ施行令或ハ施行細則ニ於テ新ニ明
示スル御考デアルカ事件ガ起ッテカラシテ
其取扱ニ於テ遞信省ハ骨ヲ折ルト云フ程度
デハ私共トシテハ滿足出來ナイノデアリマ
ス、此點重ネテ遞信御當局ニ伺ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=66
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067・小野猛
○小野政府委員 只今一應答辯シタ通リデ
アリマスルガ、私ハ豫想ハシテ居ラナカッ
タガ、サウ云フ風ナ事實ハ契約ガ繼續シテ
居ルモノデハナイカ、斯ウ云フ解釋デ行ケ
ハセヌカト思フノデアリマス、ソレデ全ク
外國ノ法律デヤラレタモノヲ、誰ニ送還義
務ガアルト云フコトヲ法律デ決メマスルコ
トニ付テハ、立法理由トシテハ相當ノ難關
ニ打突カルダラウ、ソレデ今申上ゲマシタ
ヤウナ解釋其他ノ法律デ萬全ヲ期シタイト
思ヒマス、是ハ國際勞働條約ハ送還ニ付テ
ハ相當完備シタ條約デアリマスルケレド
モ、アレスラ斯ウ云フコトヲ豫想シテ居ラ
ナイ、恐ラクサウ云フ惡法ト云ヒマスカ、
サウ云フモノガアルコトヲ豫想スルコトガ
極メテ困難デアルト云フ事實ニ基イタコト
ト思ヒマスガ、今ノ解釋竝ニ實際ノヤリ方
デ萬全ヲ期シタイト考へテ居リマス、左樣
御諒承願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=67
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068・船田中
○船田政府委員 只今米窪君ノ外務當局ニ
對シテノ重ネテノ御注意的ノ御質問デゴザ
イマシタガ、此點ハ能ク關係當局ヲ督勵シ
テ萬全ヲ期スルヤウニ留意スルコトニ致シ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=68
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069・小山亮
○小山委員 今ノ問題ニ關聯シテ御伺シタ
イノデスガ、只今ノ問題ハ遞信省モ豫期シ
テ居ラナイ一ツノ具體的ナ事實ガアル、是
ハ遞信省モ豫期シテ居ラナカッタ、併ナ
ガラ其事實ガアルト云フコト、サウ云フコ
トガアリ得ルト云フコトヲ御認メニナッテ
居ラレルトスルナラバ、直チニ之ニ對スル
所ノ法案ガ出來ル前ニ對策ヲ御執リニナル
コトガ必要デハナイカト私ハ思フ、ソレヲ
管船局長ダケガサウ云フ場合ニハ斯ウ云フ
風ニ私ハ思フ位ノ解釋デ、サウシテ此法案
ガ此儘ニ通サレルコトハ私ハ非常ニ遺憾ニ
思ヒマス、若シサウ云フ場合ニハマダ雇止
メシナイ、船主モ雇止メヲスル意思ガナカッ
タ、ダカラ斯ウ云フ場合ニハ本人ハ下船ヲ
サセラレタノデハナイト云フ風ニ解釋ヲス
ベキモノデアルト云フコトヲ遞信大臣カラ
ハッキリト御言明ヲ願ヒタイ、斯ウ私ハ思
フノデアリマス、之ニ對スル大臣ノ御意見
ヲ伺ヒタイト思フ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=69
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070・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今米窪君ガ御尋ニナリ
マシタヤウナ事實ハ米國ノ國情デハアリ
得ルコトダト思ッテ居リマス、隨テサウ云
フヤウナ不幸ナ立場ニ立チマシタ船員ニ對
シマシテハ、十分其生活ニ對シテ保護ヲ加
ヘルベキ方法ヲ〓究シテ見タイト思ヒマ
ス、此法案ハ先程申上ゲマシタ通リ大體各
方面ノ話ノ纒ヲタモノヲ之ニ法案トシテ拵
ヘ上ゲマシタノデアリマシテ、只今御話ニ
ナリマシタヤウナコト、其他〓究ヲ要スル
問題ハ尙ホ相當アルト思ヒマス、勿論出來
ルダケサウ云フヤウナマダ未解決ノ問題ハ
速ニ解決シテ補充スベキモノハ補充ヲシテ
完全ヲ期セナケレバナラナイト考ヘテ居リ
やって、今米窪君ノ御話ニナリマシタヤウナ
事態ノ犠牲トナッテ居ル船員ニ對シマシテ
ハ、ソレヲ保護スルコトニ付テ萬全ノ方法
ヲ考究シテ、或ハ法令ニ據ルベキモノガア
レバ法令ニ據リ、何カソレ以外ノ手續デ救
濟シ得ルモノガアレバソレ以外ノ手續ヲ講
ズルコトニ致シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=70
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071・米窪滿亮
○米窪委員 此問題ハ見樣ニ依ッテハ相當
重要デアリマス、船田外務政府委員ノ御答
辯ニハ甚ダ不滿足デアリマス、私ハ更ニ折
返シテ私ノ意見ヲ申上ゲルノデアリマス
ガ、移民法ヲ上陸セザル亞米利加寄港中ノ
日本船ノ乘組員ニ適用スベカラズト云フ立
前ノ下ニ、直チニ亞米利加政府當巳同ニ御交
涉ヲシテ戴キタイト云フコトニ付テ外務當
局ノ確固タル御答辯ヲ、本日御伺出來ナケ
レバ他日他ノ機會ニ於テ御伺シタイ
ソレカラ遞信大臣ニ對シテハ小山君ノ關
聯事項ニ關スル御質問ニ御答ガアッタノデ
アリマスガ、是ハ私ハ此問題ヲ解決スル爲
二、根本的解決方針トシテハ只今私ノ申
上ゲタ通リニ、移民法ヲ亞米利加ノ港ニ碇
泊中ノ日本船ノ船員ニ適用スベカラズト云
フコトガ實現スレバ片付ク譯デアリマス、
隨テ遞信省モ外務省ト連絡ヲ執ッテ至急此
方針ノ下ニ御交涉ヲ願フト同時ニ、其交涉
ガ成功スル事前ニ既ニ是ハ當然問題ニナ
ルノデアリマスカラ、私ハ第二十四條ニ於
ケル「己ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於
テハ」ト云フ文句ヲ削除ニナッタラドウデア
ルカ、是ハ先程申シタ商法五百八十二條ノ
精神ガ再ビ茲ニ現レテ來テ居ル條項デアリ
V-1.五百八十二條ガ惡條項デアルコトハ
旣ニ先刻政府委員ノ方モ認メラレテ居ルノ
デアリマス、是ハ第七十議會ニハ斯ウ云フ
表現デ付議サレナカッタノデアリマシテ、
第二十四條ノ第五號ノ所デ以テ「巳ムコト
ヲ得ザル事由アル場合」ト云フノガ今日見
ル如キ體裁デ表現サレテ居ルノハ、私ノ察
スル所法制局邊リデ單ナル字句ノ修正トシ
テ拔出シテ主文ニ入レタノデアルト思フノ
デアリマスガ、既ニ七十議會ト七十一議會
ニ於テ精神ハ變リハナクトモ字句ノ現ハシ
方其他ニ於テ是程ノ修正ガアッタノデアリ
マスカラ、イッソノコト「巳ムコトヲ得ザル
事由アル場合」ト云フ字句ヲ御取リニナル
ト云フ御精神ハナイカ、是ハ船長ノ裁量ニ
依フテ如何ナル理由モ「其ノ他已ムコトヲ得
ザル事由アル場合」ト云フヤウニ解釋サレ
易イ極メテ危險ノアル文句デアリマシテ、
船長ノ裁量ニ依ッテハ此處ニ列記シテ居ル
所ノ四ツノ場合以外ノ點デドシ〓〓ト解雇
サレル危險ガアルノデアリマス、此字句ダ
ケヲ取レバ今ノ外國ニ於テ不當ニ解雇サレ
タ場合ニモ之ニ應ズルコトガ出來ルト思フ
ノデアリマスガ、之ニ付テノ遞信當局ノ御
答辯ヲ伺ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=71
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072・小野猛
○小野政府委員 此已ムコトヲ得ズト云フ
問題ニ付テ米窪サンノ御解釋ニ依リマスト、
現行商法五百八十二條ト全ク同一ダ、斯ウ
云フ御解釋デアリマスガ、私ノ方デハ商法
五百八十二條ヨリ船員ノ爲ニ非常ニ保護ヲ
加ヘタ立法ダト心得テ居ルノデアリマス、五
百八十二條ハ五百八十一條ニ色々ナ解雇原
因ヲ擧ゲテ、其他ノ場合ト云フ風ニ書イテア
ルト思ヒマスガ、如何ナル事由デモ、海員ノ
面ツキガ惡イト云フ理由デモ何デモ、已ムコ
トヲ得ズト云フヤウナ條件無シニ首ガ馘レ
ル、唯一箇月ノ捨扶持ヲヤレバ宜イノダ、是
ガ現行商法五百八十二條ノ解釋ダ、又實際
ニサウヤッテ居ルノデアリマス、併シソレハ、
一箇月ノ給料ヲヤリサヘスレバ如何ナル理
由デモ罷メサセテモ宜イト云フコトハ、如
何ニモ船員ノ爲ニ酷デアルト云フコトデ、
私共ノ方デハ已ムコトヲ得ズ、已ムニ已マ
レザル事由アルニアラズンバ船員ヲ解雇シ
テハナラヌ、斯ウ海員ノ爲ニ現行法ヨリ非
常ニ進ンデ立法シタ積リデアルノデアリマ
ス、隨ヒマシテ五百八十二條ト全然同ジデ
アルト云フ御解釋ニ、私共ハ同意スル譯ニ
行カナイ、是ハ海員ノ爲ニ非常ニ宜イ、サ
ウシテ之ニ依リマシテ罷メラレマシタ者ア
リトスレバ、ヤハリ一箇月ノ失業手當ハヤ
ラウ、是ハ勅令ノ事項デアリマスルガ、サ
ウ云フ風ニ考慮シテ居ルノデアリマス、强
チ現行法ト同ジダト云フ御解釋ハ甚ダ遺憾
ト存ズルノデアリマス、ノミナラズ、陸上
ニ於キマシテモ民法ニ於テハ已ムコトヲ得
ズト云フ理由アルニアラズンバ解雇シテハ
イカヌ、斯ウナッテ居ルノデアリマス、所
ガ陸上ニ於テハ一箇月ヤルト云フヤウナコ
トハナイノデアリマス、海上ニ於テハ此已
ムコトヲ得ズト云フコトハ陸上ト同ジダ
ガ、一箇月ノ手當ハヤラウ、斯ウ云フコト
ニナッテ居リマスルノデ、陸上ヨリハ海員ノ
方ヲ厚クシ、現行法ヨリハ厚クシテ居ル次
第デアリマス、之ヲ削ルト云フコトハ私ハ
海員ノ爲ニ宜シクナイ、斯ウ心得ルノデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=72
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073・米窪滿亮
○米窪委員 其他已ムコトヲ得ザル場合ニ
於テノ御解釋ニ付テハ能ク分リマシタ、但
シソレハソレデ片付イタノデアリマスル
ガ、併シ今申上ゲタヤウナ異常ナル場合ニ
於テ、外國デ雇止メラレル場合ニ、此儘デ
ハ船員ハ極メテ不安デアル、隨テ私更ニ取
扱上ニ關スル極メテ現實的ナコトニ付テ御
尋シタイノデアリマスルガ、海員ガ雇止サ
レタ時ニハ、之ヲ公認ヲ受ケルコトハ本法
ニ於テハ規定シテアル、隨テ公認ヲ受ケザル
場合ノ雇止ハ、法律上效力ガ發生シナイト
認メテ差支ナイノデアリマシテ、是ハ船主
ノ都合ニ依ッテハ雇傭契約ガ滿了シテモ依
然トシテ實際上ノ雇傭關係ガ存續シテ居ル
コトハ、第二十六條ニ於テ決メテ居ルノデ
アリマス、是ト同ジヤウニ、只今ノ問題、
卽チ亞米利加官憲ノ暴戾ナル手段ニ依ッテ
下サレテモ、是ハ依然トシテ雇傭關係ガ存
續シテ居ルモノト看做スト云フ小野政府委
員ノ御解釋ガアッテ、吾々此點ハ大イニ多ト
スルノデアリマスルガ、之ヲ實際ニ現ハス
場合トシテ、船員ノ雇止ヲ、外國ノ港デ以
テサウ云フ事故ガ起ヲタ時ニハ、管海官廳ニ
代ルベキ領事ナドガ行フノデアリマスル
ガ、是ハ遞信省カラ外務省ノ方へ御交渉ニ
ナッチ、只今申上ゲタヤウナ場合ニ於テハ、
船長カラサウ云フ申請ガアッテモ、雇止ノ申
請ハ之ヲ受付ケナイト云フヤウナ取扱方ヲ
施行令或ハ施行細則デ御決メニナルコトガ
出來ルノデハナイカ、斯ウ私ハ考ヘテ居リ
マス、此點重ネテ御質問申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=73
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074・小野猛
○小野政府委員 私モ一應サウ云フ解釋ヲ
爲シ得ル場合、是ハ具體的ノ事實ニ打突ッ
テ見ナイト-例ヘバサウ云フ事實ガアル
カドウカ知レマセヌガ、一年モ長ク止メラ
レテ居ルト云フヤウナ場合ニ、サウ云フ解
釋ガ付クカドウカト云フヤウナコトハ、具
體的ノ事實ニ付テ見ナケレバ分リマセヌ
ガ、一應サウ云フ解釋ハ付クノデアリマ
ス、今ノ米窪君ノ御話ノヤウナ、サウ云フ
場合ニハ雇止ノ公認ヲサセナイト云フヤウ
ナコトモ一ツノ方法ダラウト思ヒマス、ソ
レカラ第十四條ニ基イテ、サウ云フモノニ
對シテハ私ノ方ト外務省ノ方ト協議ノ上デ
送還命令ヲ出スヤウニト云フコトヲ交涉ス
ルノモ一ツノ方法デハナイカト思ヒマス、是
ハ今思付キデアリマスガ、サウ云フコトハ
一ツ十分〓究ヲ致シマシテ、此惡法ノ爲ニ
難ヲ被ッタ者ニ付テハ最善ノ考慮ヲ拂フト
云フコトヲ誠意ヲ以テ申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=74
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075・米窪滿亮
○米窪委員 其問題ハ此程度デ打切リマス
ガ、次ニ內務大臣ニ御尋申シタイト思フノ
デアリマス、ソレハ目下內務省社會局ニ於
テ立案ヲ急イデ居ラレルト思フ所ノ船員保
險法ノ問題デアリマスガ、實ハ今カラ八年
前臨時海事法令調査會ニ於テ、只今審議中
ノ船員法ノ改正ニ付テ種々ノ御話ガアッタ
時ニ、先程申上ゲタ通リ、船主ノ經濟力ニ
付テ其負擔ノ增大ガ常ニ問題ニナッタノデ
アリマス、例ヘバ現行船員法第十九條、第
二十九條、此點ニ觸レタ時ニ於テモ、ソレ
ハ一方ニ於テハ勅令デ定メルト同時ニ、他
方ニ於テハ船員ニ對スル其該當條項ノ範圍
ニ於テハ、船員保險法ニ依ッテ「カバー」サ
レル、斯ウ云フコトヲ理由トシテ、委員ノ
審議ハ、極メテ私カラ見レバ消極的デアッ
タト考ヘテ居リマス、ソコデ此觀點カラ、
船員保險法ト船員法トハ相當密接ナ關係ガ
生ジテ來テ居リマス、卽チ船員法ヲ以テ
「カバー」サレナイ點ハ、是非共船員保險法
ニ依ッテ「カバー」サレルベキデアリ、又吾
吾ハソレヲ希望シテ居リマス、船員保險法
ハ其歷史ハ隨分長イノデ、既ニ十年以上、
或ハ十數年前ニ於テ、遞信省ニ於テ最初ノ
立案ヲサレマシタ、其後所管換ガアリマシ
テ、內務省へ是ガ移管サレテ、引續イテ社
會局ニ於テ之ヲ立案シ、時ハ忘レマシタガ、
一時議會ニ上程サレル機運ニマデナッテ居ツ
タノデアリマスガ、其給付ノ內容ニ於キマ
シテ、船員全般ノ多年ノ熱望デアッタ所ノ
養老ニ關スル給付ガ缺ケテ居ッタ爲ニ、甚ダ
殘念ナガラ海員團體ハ之ニ反對シテ、遂ニ
上程サレナカッタ歷史ヲ有ッテ居ルノデアリ
やく、船員ハ御承知ノ通リ、陸上勞働者ト
比較シマシテ、極メテ其就職可能ノ期間ガ
短イ、ソレハ所謂船舶ハ家庭デアルト同時
ニ且ツ工場デアリマシテ、公私ノ生活ノ限
界ガハッキリシナイ、更ニ何等ノ娛樂モナ
イ、而モ食糧ニ付テハ、是ハ現改正法案ニ
於テモ、「カロリー」ニ關スル點ニ付テ、萬
全ヲ期シテ居ル食糧ノ取扱ガアルガ、併シ
新鮮ナ食糧ハ得ラレナイ立場ニアルノデア
リマス、隨テ勞働ニ報イルダケノ榮養素ヲ
吾々ハ果シテ攝ッテ居ルカドウカト云フコ
トニ付テハ極メテ疑問デアルト思フ、其他
イツ何時天候ノ激變ニ依ッテ寢テ居ル者モ
起キテ出テ仕事ヲシナケレバナラヌ、或ハ
氣候ガ常ニ春カラ夏、夏カラ冬ニナリ、又
夏ニ戾ルト云フヤウナ狀態ヲ繰返シテ居
ル、隨テ船員ノ勞働ハ、單ニ之ヲ時間デ見
積ルバカリデナク、實質的ニ非常ナ過激ナ
勞働デアルト言ッテ差支ナイト思フ、卽チ昔
ノ諺ニ、所謂板子一枚下ハ地獄デアルト云
フ境地ハ、今尙ホ改善サレテ居ラナイノデ
アリマス、是ハ如何ニ優秀ナ船ヲ造ッテモ、
船員ノ生活狀態ハ、結局諺ノ板子一枚下ハ
地獄デアルト云フ此表現ハ、今日ニ於テ船
ガ海ノ上ヲ航海シテ居ル限リニ於テハ同ジ
デアリマス、斯ウ云フ色々ノ點カラ、船員
ハ早ク年ヲ取ルト云フコトハ當然デアリマ
シテ、陸上ニ於テ五十五歲ニ於テ尙且ツ勞
働シ得ルモノガ、海上ニ於テハ五十歲デ以
テ其體力ガ衰ヘル、或ハ判斷ヲ誤ル、斯ウ
云フ實情ニアルノデアリマス、之ニ對シテ
今日海事協同會ニ於キマシテ、船主ト船
員トノ間ニ退職手當制度ナルモノガ協定サ
レマシタノデアリマスルガ、是レ卽チ吾々
ノ眼カラハ九牛ノ一毛ニ過ギナイノデアッ
テ、甚シク吾々トシテハ其內容ニ不滿ヲ
有ッテ居ル、隨テ此退職手當制度ニ依ッテ退
職金ヲ受取ッテモ、ソレデ以テ五十年後ノ彼
等ノ生活ヲ保障スルニ足ルモノトハ毛頭考
ヘルコトガ出來ナイ、斯ウ云フ意味合カラ
養老給付ヲ是非トモ重要ナル給付項目ノ中
ニ入レタル所ノ船員保險法ヲ、來ルベキ通
常議會ニ御出シニナル御意思ガアルカドウ
カ、新聞紙ノ報ズル所ニ依レバ、國民健康
保險法ガ諸種ノ政治的事情ノ爲ニ此特別議
會ニ上程サレズシテ次ノ通常議會ニ延ビ
タ、其時ニ內務省當局談トシテ、實ハ國民
健康保險法ガ特別議會ニ上程サレヽバ、更
ニ引續イテ通常議會ニ「サラリーマン」ニ對
スル保險法、或ハ船員ニ對スル保險法ヲ出
ス積リダッタノデアルガ、國民健康保險法ノ
上程ガ出來ナクナッタ今日ノ實情カラ見テ、
其影響ノ及ボス所極メテ憂慮スベキモノデ
アルト云フコトヲ洩サレテ居ルノデアリマ
シテ、是ハ吾々トシテモ甚ダ重大ナル問題
デアリマシテ、國民健康保險法ノ餘波ヲ受
ケテ、船員保險法ガ更ニ向フヘ延ビルト云
フコトニナルト云フト、船員ハ十何年ノ間
待チニ待ッタ所ノ保險立法ガ制定サレナイ
ト云フコトニナル、非常ナル不安ヲ感ズル
ノデアリマス、申シ落シマシタガ、陸上勞
働者ニ對シテハ既ニ不完全ナガラ健康保險
法ガアリ、一般國民ニ對シテハマダ上程サ
レテハ居ラナイガ、來ルベキ通常議會ニ恐
ラク上程サレルデアラウ所ノ國民健康保險
法ガアルニ拘ラズ、船員ニ對シテハ寧ロソ
レヨリモ前カラ旣ニ問題ニナッテ居ル所ノ
船員保險法ガ、未ダ是ガ上程サレナイト云
フコトハ、海運立國ノ立場カラ見テ、極メ
テ遺憾デアルト思フ、此點內務省御當局ニ
對シテ現行ノ船員法ノ足ラザル所ヲ乃ノ
ー」スル意味ニ於ケル船員保險法ヲ通常議
會ニ御提出ニナル御意思ガアルカドウカ、
之ヲ御尋ネシタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=75
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076・大村清一
○大村政府委員 只今船員保險ニ付キマシ
テ御尋ガアッタノデアリマスルガ、御話ニ
モアリマス如ク現在陸上ノ勞働者ニ對シマ
シテハ、相當程度ノ負傷疾病其他ノ事故ヲ
保險スル制度ガ出來テ居ルノデアリマスル
ガ、海上勞働者ニ對シマシテハ、現在ハ僅
ニ商法ノ中ニ其服役中ノ傷病ニ對スル船主
ノ扶助ニ關スル責任ガ或ル程度定メラレテ
居ルニ過ギナイノデアリマシテ、陸上勞働
者ニ對シマシテ、海上勞働者ハ社會保險ノ
上ニ於キマシテ、確カニ片手落チニナッテ
居ルト云フヤウニ考ヘテ居ルノデアリマ
ス、數年前船員ニ對スル社會保險ガ衆議院
ニ上程サレタコトモアリマスルガ、不幸ニ
シテソレハ成立スルニ至ラナカッタノデア
リマス、吾々ト致シマシテハ其樣ニ考ヘテ
居リマスノデ、出來ルダケ早ク成案ヲ得マ
シテ、議會ニ御協賛ヲ仰グヤウナ運ビニ致
シタイト云フヤウニ考ヘテ居ルノデアリマ
ス,更ニ其內容ニ付キマシテノ御尋モアッ
タノデアリマスルガ、私カラ申上ゲマスル
迄モナク、陸上ノ勞働者、海上ノ勞働者ト
ノ間ニ於キマシテハ、色々事情ノ異フタ點
モゴザイマス、又先程申上ゲマシタ如ク海
上勞働者ニ對シマシテハ、或ル程度商法ノ
中デ疾病ニ付テノ船主ノ義務モ定メラレテ
居ルト云フヤウナ相違モアリマス、ソレ等
ノ點ヲ彼此レ能ク考究ヲ致シマシテ、實情
ニ合ッタ制度ヲ樹テナケレバナラナイト云
フヤウニ考ヘテ居リマス、唯御尋ノ中ニア
リマシタ養老年金ノ點ニマデ此保險制度ヲ
擴張シ得ルヤ否ヤト云フ點ニ付キマシテ
ハ、只今ノ所十分ナル成算モナイノデアリ
マシテ、此點ハ尙ホ考究ヲスル積リデアリ
マス、又其他ノ點ニ於キマシテハ、或ハ船
員保險ノ上ニ於キマシテハ、出來得レバ脫
退手當ノ點ヲ考慮致シテ見タイ、是ハ陸上
勞働者ノ方ニ於キマシテハ斯樣ナル運ビニ
參リマセヌ、先程申上ゲタヤウナ理由カラ
致シマシテ、脫退手當ノ點ハ船員保險ノ
中デ考慮致シテ見タイト云フヤウナコト
デ、只今〓究ヲ進メテ居ルヤウナ次第デア
リマス、尙ホ新聞紙ノ報道ヲ援用ザレマシ
テ御尋ガアリマシタノデアリマスガ、國民
健康保險制度ガ確立シナイ前ニ職員保險ガ
出來ルト云フヤウナコトハ、或ハ困難カト
思フノデアリマスガ、船員保險ハ先ニ申上
ゲマシタ如ク、陸上勞働者ニ對シテハ旣ニ
出來テ居リマシテ、海上勞働者ニハ出來テ
居ナイノデアリマスカラ、只今ノヤウナ事
情ニナリマシテモ、船員保險ハ此際至急ニ
解決ヲスル必要ガアルデアラウト云フヤウ
ニ考ヘテ居ル次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=76
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077・米窪滿亮
○米窪委員 非常ナ御懇篤ナル御答辯ヲ戴
キマシテ感謝スル者デアリマスガ、更ニ希
望ヲ申上ゲテ此點ノ質問ヲ打切リタイト思
ヒマス、卽チ脫退給付ヲ御考ニナッテ居ル
ガ、養老年金ニ付テハ尙ホ若干ノ〓究ヲ要
スルト云フコトデ、御趣旨ハ結構デアリマ
スガ、船員ハドチラヲ採ルカト云ヘバ、寧
ロ養老年金ノ必要ヲ認メテ居リマス、脫退
給付ハ養老年金ノ身代リノ次善ノ案デアリ
やく、此點ニ付テ內務當局ニ於テハ是非共
養老年金給付ヲ項目ノ一トスベキ船員保險
法ヲ立案サレルコトヲ要望致シマス、デナ
イト再ビ曾テノ如ク船員團體反對ナドト
云フヤウナ場面ガ展開サレルコトヲ恐レマ
ス
次ニ再ビ遞信御當局ニ條文ノ詳シイ點ニ
付テ御質問申上ゲタイノデアリマスガ、他
ニモ質問者ガアルヤウデアリマスカラ、其
方々ノ御迷惑ニナリマシテモト存ジマシ
テ、極メテ簡單ニ、主ナル點ニ付テ御伺致
シタイ、六十條、二十四條等ニ付テハ既ニ
質問ガ濟ンデ居リマス、私ハ最初ノ條文カ
ラソノ要點ニ付テ申上ゲマスカラ、(株)
テ御答辯ヲ願ヒマス
第一條ニ於テ、除外例ニ付テハ今後立法
者ノ立場ニ立ッテ居ル政府トシテハ、此除
外例ニナッテ居ル船員ニ對シテハドウ云フ
方法デ之ヲサレル御方針デアルカ、第二十
二條ニ於キマシテ、船ニ醫者ヲ乘セルト云
フコトガ規定サレテ居リマスガ、是ハ八年
前昭和四年當時ニ於テ、船客及船員ヲ合
セテ百人以上ヲ持ッテ居ル船舶ト云フモノ
ガ、當時七十四隻アッテ、其七十四隻ノ中既
ニ五十九隻ハ醫者ヲ持ッテ居ル、僅ニ十五隻
ダケガ持ッテ居ラナイト云フヤウナ話ガ臨
時海事法令調査會ニ於テ起ッテ居ル、ソレハ
位取リガ吾々トハ違フカラ、サウ云フ好成
績ヲ示シテ居ルノデアルガ、私共ハ百人モ
乘ッテ居ルヤウナ場合ニ於テハ、法令デ之
ヲ規定シナクテモ、常識上、所謂人道問題
トシテ當然船醫ヲ乘セテ居ルト云フコト
ハ、八年前五十九隻マデ乘ッテ居ルト云
フコトニ依ッテモ分ル、隨テ吾々ハ百人デ
ハイカヌ、五十人位ニ之ヲ下ゲタラドウ
カ、嘗テ國際勞働總會ニ於キマシテモ、
此問題ガ審議サレタ時ニ、五十人ト云フ
說〓ソレカラ二週間續ケテ一ツノ港カラ
他ノ港ヘ航行中ノ船、大體此二ツノ問題
カラ此問題ヲ縛ラウト云フ意見ガ出テ、
是ハ不幸ニシテ條約案ニハナリマセヌデ
シタガ、今日ノ速力ガ殖エテ居ル船舶ノ狀
態及ビ今日ノ人間ノ體力ガ昔ト比ベテ頑健
サヲ失ッテ居ル時ニ於テ、百人ノ人間ガ乘
ラナケレバ醫者ヲ持ッテ來ラレナイト云フ
コトハ、是ハ人道上カラ極メテ重大問題デ
アリマス、デアリマスカラ、私ハ是ハ五十
人以上乘ッテ居ル場合ニハ醫者ヲ置クカ、
或ハ二週間以上續ケテ航海シテ居ル船ニハ
之ヲ置クカ、斯ウ云フコトニ御修正願ヘル
モノデアルカドウカ、遞信御當局ハ海上法
規調査會ニ於テハ船醫ガ乘ッテ居ラナクテ
モ、ソレニ代ルベキ方法ガアル、卽チ看護
手ヲ乘セルトカ、或ハ「メデイカル、チェ
スト」樂筐ヲ備ヘルト云フコトデ足ラザル
所ヲ補フト云フ御意見デアリマシタガ、藥
筐ヲ備ヘル場合ニ於テ、藥ヲ盛ル者ハ誰デ
アルカト云フト、所謂調合ニ關スル極ク大
體ノコトヲ書イタ本ヲ賴リマシテ一等運轉
士或ハ其他ノ運轉士ガ之ヲヤルノデアリマ
ス、是ハ極メテ危險デアリマシテ、所謂毒
ニモナラズ藥ニモナラナイ病氣ノ場合ハソ
レデ宜シイデセウガ、相當重大ナ病氣ノ時
ニハ藥ノ調合ヲ一步誤レバ是ハ重大ナ結果
ヲ招來スルノデアリマス、是ハ外國ノコト
ヲ申上ゲテ恐入リマスガ、非常ニ國際會議
ニ於テモ問題ニナリマシテ、例ヘバ場合ニ
依ッテハ斯ウ云フ方法ガアル、卽チ陸上ニ
アル本職ノオ醫者サンニ船長カラ是レ〓〓
ノ病氣デアル、現狀ハドウデアルト云フ素
人診察デ無線電信ヲ送ッテ陸上ノ醫者ノ診
察ヲ受ケテ藥ノ調合ヲ受ケルト云フ方法ガ
アル、無線電信デ藥ノ調合ヲ受ケルコトハ
極メテ不完全デアリマシテ、〇·一デアル
カ〇·〇一デアルカ極メテ微妙ナ誤ハ直ニ
良藥變ジテ毒藥トナルト云フ非常ナル危險
ガ起ルノデアリマシテ、旁〓色々ナ場合ヲ
考察致シマシテ、ドウシテモ醫者ノ免狀ヲ
持ッテ居ル者ガ船ニ乘ラナケレバイカヌ、モ
ウ一ツノ問題ハ、法律的ニ解釋シテモ運轉
士ガ調合スルト云フコトハ今日ノ醫師法ト
相反スルコトニナリマス、此點ハ極メテ重
大デアルト思フノデアリマス、仍テ私ハ茲
ニ出テ居ル原案ヲ、五十人以上或ハ二週間
以上繼續シテ航海スル船ニハ船醫ヲ乘セル
ト云フコトニ御修正ガ願ヘヌカ、之ニ對シ
テ遞信當局ハサウシタ場合ニ於テ醫者ノ供
給ガ不十分ダラウト言ハレマスガ、昭和四
年ニ於テハ開業免狀ヲ持ッテ居ル者ガ少カツ
タノデアリマスガ、八年經ッテ居ル今日デ
ハ相當ノ醫者ガアルノデアッテ、御當局ノ
心配ニナルヤウナ供給不足デアルト云フ
ヤウナ御心配ハナイノデハナイカ、斯ウ云
フ工合ニ考ヘマス、此點ニ付テ御尋申上ゲ
ルノデアリマス
次ニ第二十五條ノ第二項ニ於キマシテ、
船員ガ下船スル場合、卽チ本人ノ意思ヲ以
テ下船スル場合ハ後任者ヲ本人ガ提供シナ
イ限リ下リラレナイ規定ニナッテ居ル、是ハ
成程失業船員ガ少イ場合、卽チ船腹ニ比べ
テ船員ガ極メテ少クテ供給ガ不足勝ノ場合
ニハサウ云フ心配ガアルガ、ソレハ平時ノ場
合デハナイノデアリマシテ、法令ハ總テノ
場合ヲ考慮シテ御作リニナル以上ハ、斯ウ
云フ僅カナ場合ヲ考慮シテ、下リタイ船員
ハ親ガ病氣デ下リルトカ、或ハ家族ノ都合
デ下リタイト思ッテ居ル場合ニモ後任者ヲ
提供シナケレバ下リラレナイト云フコト
ハ、甚ダ不都合デハナイカ、隨テ後任者ヲ
提供スルト云フコトハ一ツ御修正ヲ願ヘナ
イモノカドウカ
ソレカラ第二十六條及ビ第二十七條ニ契
約期間存續規定ガアリマス、是ハ大體ニ於
テ私、斯ウ云フ場合ニ於テハ已ムヲ得ヌ規
定デアラウト思ヒマスガ、唯一ツ吾々トシ
テ御考慮願ヒタイ點ハ、積荷ヤ陸揚ガ完了
シナイ限リ船員ハ契約ガ滿了シテ居ッテモ
下リラレナイ、併シ積荷ヤ陸揚ノ後始末ヲ
シナケレバ船員ガ下リラレナイト云フコト
ハ、實情ニ照シテ甚ダシク是ハ妥當ヲ缺ク、
船員ガ全部下リル場合ハ勿論其心配ハ起ル
ノデアリマスガ、一部ノ船員ガ下リル場合、
荷役ノ後始末マデシナケレバ下リラレナイ
ト云フコトハ實情ニ反スル、實際ニ於テハ
荷役設備ノナイ所デナケレバ船員自身ガ荷
役ヲヤルト云フコトハナイ、荷役人夫ガス
ル爲ノ用意ヲヤレバ事足リルノデアリマシ
テ、用意ヲスルノニ全員揃ッテ居ラナケレ
バナラヌト云フコトハナイ、隨テ荷役ヲス
ルノハ荷役人夫ガ外カラ來テヤルノデアリ
マスカラ、船員ハ例ヘバ倉庫ヲ開ケルト
カ、或ハ揚荷機ヲ揚ゲルトカ、或ハ蒸氣ヲ
作ルトカ、サウ云フコトダケノ準備行爲ヲ
スレバ事足リルノデアリマス、併シ假令一
人ガ下リル場合デモ荷物マデ全部揚ゲテシ
マハナケレバ交代ガ出來ナイト云フコトハ
甚ダ行キ過ギテ居ルノデハナイカト考ヘテ
居ルノデアリマス
ソレカラ第三十二條ニ於キマシテ時效ノ
期間ヲ二年トシテアリマスガ、是ハ今日船
舶ガ所謂行方不明ノ場合ニ於テハ生命保險
ノ場合デモ三年間經タナケレバ呉レナイ、
卽チ船舶所有者ニ對スル海員ノ債權ハ一年
ト云フ點ヲ二年トシタ點ニ於テハ多トスル
ノデアリマスガ、今日ノ實情カラ見マシ
テ、或ハ社會通念カラ致シマシテ三年位經
タナケレバ生命保險サヘモ手ニ入ラナイ
實情ニアル、船員ノ場合ハ-卽チ船舶ノ
失踪ナルモノガ明ニ宣〓サレルノハ三年ノ
經過ヲ要スルノデアリマシテ、隨テ船舶所
有者ニ對スル海員ノ債權モ三年ニ御改メ願
フコトガ出來ナイカ、他ニモアリマスルガ
大體ニ於テ此點デアリマス、モウ一遍申上
ゲマスレバ第一條ノ例外ハ如何ニシテ保護
スルカ、第二十二條ノ船ノ醫者ハ之ヲ百人
ヲ五十人、或ハ二週間以上引續イテ航海ス
ル船舶ト云フ工合ニ御修正ガ願ヘナイカ、
或ハ二十五條ノ後任者ヲ提供シナクテハ船
員ハ下リラレナイト云フコトハ之ヲ修正ス
ルコトハ出來ナイカ、第二十六條、第二十
七條ノ積荷ノ陸揚ヲ要セズシテ船員ハ下船
スルコトハ出來ナイカ、更ニ三十二條ハ二
年ノ時效期間ヲ三年ニ改正スルコトハ出來
ナイカ、是等ノ點ニ關スル私ノ質問デアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=77
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078・船田中
○船田政府委員 先程米窪君カラ外務省ニ
對スル御質問中御留保ニナリマシタ點ニ付
キマシテ御答申上ゲマス、遞信當局ト能ク
協力致シマシテ、若シ御話ノ通リノヤウナ
移民法ヲ不當ニ適用シ、不法ニ監禁スルト
云フヤウナ具體的ナ事實ガゴザイマスルナ
ラバ、ソレハ外務省カラ米國政府ニ交涉ス
ルコトニ致シタイト思ッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=78
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079・小野猛
○小野政府委員 米窪君ノ各條項ニ對スル
御質問ニ對シテ御答致シマス、第一條ノ除
外例ニ對スル、法規國民ニ對シテ保護法規
ヲ設ケル意思ガアルカドウカト云フコトダ
ラウト思ヒマスガ、是ハ此前ノ議會ニ於キ
マシテモ御同僚ノ岡田君カラモ御質問ガア
リマシテ、此船員法ガ一ツ出來マシタナラ
バ、其點ニ付テモ考究致シテ見ヤウト考ヘ
テ居リマス、ソレカラ醫者ノ百人ヲ五十人
ニ、ソレカラ二週間ノ航行、此問題ハ實ハ
餘リ突如トシテノ御質問デアリマシテ、今
突如トシテ是ガ解決ガ出來ルト云フコトハ
申上ゲ兼ネマス、唯問題ハ勅令事項トシテ
能ク考究致シテ見タイト思ッテ居リマス、
ソレカラ海員ノ補充者ノ問題デアリマス
ガ、是ハ實ハ現行法ヨリ非常ニ進ンデ居ル
ト吾々モ考ヘテ居ル國際勞働條約ニ是ハア
ルノデアリマス、從來ハ海員ノ方カラ雇止
ノ請求ヲ爲シ得ル場合ハ、茲ニ書イテアリ
マス三箇ノ場合以外ニナカッタノデアリマ
スガ、國際勞働條約デ、例ヘバ海員ガ試驗
ヲ受ケルトカ何トカ云フヤウナ場合ニハ、
船長ノ「サチスハイ」スル所ノ補充者ヲ提供
スルナラ下リテモ宜イト云フ勞働條約ノ規
定ガアルノデアリマス、是ハ「スカンヂナ
ビヤ」邊リノ法制ニアルノデアリマスガ、非
常ニ進步シタ法制デアルト思ヒマシテ、私
共モ勞働條約ヲ履行スル意味デ之ヲ採用シ
タノデアリマス、是ハ海員ノ爲ニハ從來ヨ
リハ進步シタモノト思ッテ居ル次第デアリ
マス、之ヲ削リマスト、勞働條約ヲ履行出
來ナイト云フ破目ニ陷ルノデアリマシテ、
私ハ之ヲ進步シタモノト思ヲテ採用シタ次
第デアリマス、ソレカラ期間ノ定メノナイ
契約ノ場合等ノ契約終了ノ時期デアリマス
ガ、是ハ積荷ノ處理ガ出來ナイ中ハ下リテ
ハイカヌト云フノハ酷デハナイカト云フ御
質問デアリマスガ、現行法デモ左樣ニナツ
テ居ルノデアリマス、船員ハ乘客又ハ積荷
ノ處理ヲシタ後初メテ契約ノ終了ガ出來
ル、是ハ國際勞働條約モ左樣ニナッテ居ッタ
ト記憶スルノデアリマス、是ハ要スルニ交
通事業ノ公益性ニ鑑ミマシテ、荷物オ客ト
云フヤウナモノヲ能ク處理シタ後ニ契約ヲ
終了サセルト云フ、公益性カラ來テ居ルモ
ノト心得ルノデアリマス、幾分海員ノ爲ニ
不便ガアルカモ知レマセヌガ、公益性ノ爲
ニ其處ヲ我慢シテ戴キタイ、斯樣ニ考ヘル
ノデアリマス
ソレカラ少額債權ノ時效ヲ一年ヲ二年ニ
シタコトデアリマスガ、是モ現在ノ色々ナ
進步シタ學說ニ依リマスト、少額債權ノ消
滅時效ハ成ベク延伸スベシト云フノガ定論
ニナッテ居ルノデアリマス、偖二年ガ宜イ
カ三年ガ宜イカト云フ問題デアリマスル
ガ、工場法等ニモ二年ト云フコトニナッテ
居リマスルノデ、ソレト調子ヲ揃ヘタ次第
デアリマス、左樣御諒承ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=79
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080・米窪滿亮
○米窪委員 最後ノ御質問ヲ致シマシテ、
私ノ長時間ニ亙ル質問ヲ打切リタイト思ヒ
マス
最後ノ質問ハ遞信大臣及ビ司法大臣ニ御
尋シタイノデアリマシテ、是ハ前議會ニ於
テ相當-相當ヂヤナイ、殆ド全部此問題
ニ集中サレマシタ船員ノ業務上ノ過失ニ基
ク處罰ノ問題デアリマス、之ニ付テハ既ニ
冐頭ニ於テ前議會ノ質問及ビ答辯ヲ今議會
ニ於テモ認メラレルト云フ司法當局ノ御話
ガアッタノデアリマスガ、私前議會ニ於テ
モ此點ニ付テ尙且ツ言ハレナカッタト思ハ
レル點ニ付テ若干ノ意見ヲ申上ゲテ、ソレ
ニ聯關シテ質問ヲ申上ゲタイト思フノデア
リマス、ソレハ海難ハ船員ノ所謂重過失或
ハ輕過失等カラ起ッテ來ル原因モ勿論アル
ノデアリマスガ、船員ノ過失ニ依ラザル海
難モ相當アルノデアリマス、一ツノ例ヲ申
上ゲマスナラバ、瀨戶內海ヲ航行スル場合
ニ於テ、今潮ガ引イテ居ルカ或ハ滿チテ居
ルカ、私ハ極メテ通俗的ニ申上ゲマスガ、
吾々ノ言葉デ申スト、潮ガ丁度、干滿ノ間
ニアルト云フヤウナ狀態ヲタルミト申シマ
スガ、サウ云フヤウナ潮ノ狀態ヲ示ス所ノ
信號所ガアルノデス、此信號所ハ潮ガ滿チ
テ居ル時ニハ黑イ丸イ印ガ右肩ガ上ルト
カ、或ハ潮ガ引イテ居ル時ニハソレト反對
ニナル、或ハ干滿ノ丁度境ニナル時ニハソ
レガ稍〓水平ニ近イ姿勢ヲ示ス、斯ウ云フ
ヤウニシテ現在信號所ノ附近ノ潮ガドウ云
フ狀態ニアルカト云フコトヲ示スノデアリ
マスガ、今日經驗ノアル船長及ビ水先人ハ
潮ガ丁度干滿ノ間ニアルタルミト申ス時ニ
ハ、非常ニ自重シテ船ヲ進メナイノデス、
普通ノ素人ノ解釋カラ言ヘバ、此タルミガ
船ヲ動カスノニ一番都合ガ好イ、卽チ潮ノ影
響ヲ受ケマセヌカラ舵ヲ取ルノニ舵ノ利キ
目ガ多イ、此時コソ船ガ盛ンニ動クベキモ
ノデアルノニ、却ッテ反對ノ現象ヲ示シテ
居ルノハ何デアルカト云フト、信號ノ動カ
シ方ガ、或ハ上ゲ潮ニ變リ或ハ引キ潮ニ變
ルト云フヤウニ、突如トシテ動クモノデス
カラ、茲ニ於テ交通スル航船ガタルミノ時
ニハ急ニ多數ニナッテ、サウシテ衝突ヤ其
他ノ事故ガ起ル、隨テ自重シテ暫ク待ッテ
居テ、滿ツルノデアルカ或ハ退クノデアル
カト云フコトヲ見テソレカラ初メテ船ヲ動
カスト云フコトガ、熟練セル船長及ビ水夫
長ノ採ル態度デアリマス、之ヲ以テ見テモ
分ル通リ、卽チ海難ハ單ニ船長或ハ水先人
ノミノ過失デ起ルノデハナイト云フコト、
信號所ガ潮ノ上ゲ下ゲノ印ヲ若シ逆ニヤッ
タナラバ、大變ナ間違ヒニナルノデアリマ
ス、司法當局ハ過失ニ對スル處罰ハ、海上
モ陸上モ之ヲ普遍的ニシナケレバイカヌ、
共通ニシナケレバナラナイト云フコトヲ常
ニ反對ノ御理由ノ一ツニセラレテ居リマ
ス、卽チ汽車ヲ動カス所ノ操縱者、或ハ電
車ヲ動カス所ノ操縱者ニ對シテ過失ヲ處罰
スルニ拘ラズ、海員ダケニ之ヲシナイト云
フノハ、法ノ建前上甚ダ不公平デアルト云
フコトヲ常ニ言ハレルノデアリマスガ、陸
上ニ於テハ今申上ゲマシタヤウナ點ハ海員
ノ場合ト同ジヤウニシテ居ルカト云フト、
私ハ違フト思フ、ソレハ何デアルカト云フ
ト、最近岡山驛デ起リマシタ例ノ列車追突
事件デアリマス、アレハ尙ホ調査中デアル
カラ私ハ斷定的ニハ申上ゲラレマセヌガ、
吾々ガ新聞紙ヲ通ジテ見タノニ依レバ、所
謂追突シタ側ノ機關手ハ殆ド過失ガナイト
認メザルヲ得ナイ、卽チ「ポイントマン」ガ
考ヘ違ヒヲシテ、旣ニ先發シテ停車シテ居
ル所ノ列車ノ線路へ急行列車ヲ入レタノデ
アリマシテ、之ニ氣ガ付イタ所ノ機關手ハ
當然非常手段ヲ以テ電氣「ブレーキ」デアル
カ「エヤブレーキ」デアルカハ知ラヌガ、制
動機ヲ掛ケタヾラウト思フ、併シ急行列車
ノコトデアルカラ惰力ト云フモノガアリマ
シテ、遺憾ナガラ既ニ停ッテ居ル汽車ノ後
部ニ衝突シタ、此場合ハ明ニ機關手ガ制動
機ヲ迅速ニヤッテ居ッタト云フコトガ若シモ
立證サレルナラバ、機關手ニハ何等缺點ハ
ナイ、過失ハナイ、隨テ此場合ハ人命ニ死
傷ガ起ラウガ、或ハ列車ニ損傷ガ起ラウ
ガ、是ハ責任ハ「ポイントマン」ニアッテ機
關手ニハナイノデアルカラシテ、機關手ハ
罰セラレナイ、斯ウ云フ刑法上ノ判決ガ下
ルダラウト思フ、所ガ是ガ海上ノ場合ニ於
テハサウハ行カナイノデス、明ニ潮汐信號
所ニ於テ示シタ所ガ間違ッテ居フテ、上ゲ潮
ヲ引キ潮ト信號シタ、船長ハソレヲ信賴シ
テ船ヲ進メタ爲ニ衝突ガ起ッタト云フ場合
ニ於テモ、當然是ハ海事審判所ニ於テ罰セ
ラレルノガ今マデノ實情デス、何故サウ云
フ工合ニ海事審判所ガヤルカト云フト、兎
モ角モ船ガ海難ヲ起シテ船體ヲ損傷シタ、
或ハ更ニ悲シムベキコトニハ、人命ニ死傷
ガ起ッタト云フ場合ニ於テハ、今日マデノ
海事審判ノヤリ方ハ、十分ニ船長ガ時宜ニ
適シタ所ノ處置ヲ執ッタ、縦カラ見テモ橫
カラ見テモ何等船長ニ責任ガナイト云フコ
トガハッキリ分ラナイ時ニ於テハ、假令極メ
テ輕微ナ處罰、卽チ譴責ノ如キ處罰ヲ下サ
レル場合ニ於テモ、其譴責ヲ下ス理由トシ
テハ過失ト云フコトヲ以テ決定スル、
過失ガナケレバ譴責ヲ下サレナイ、茲
ニ於テ所謂過失デナイ所ノ、卽チ判斷
ノ誤リ、或ハ更ニ甚シイノハ自巳ノ判斷
ノ誤リ、或ハ他人ノ判斷ノ誤リノ爲ニ海
難ガ起ッテモ、之ヲ立證スル反證ガ擧ラナ
イ限リニ於テハ、海員ハ少クトモ譴責ト
云フ處罰ヲ受ケル、其譴責ヲ類推スル爲
ニ審判所ノ理事官或ハ審判官ハ之ニ對シテ
過失ト云フコトヲ言フノデアリマスガ、過
失ガアッタト云フコトデ譴責或ハ免狀ノ行
使停止、斯ウ云フコトガ行ハレルノデアッ
テ、ソレガ刑事問題トナッテ刑事ノ訴追ニ
ナルト、海事審判所ニ於テ過失ト認メラレ
テ居ルカラト云フコトデ、一モ二モナク二
重刑罰ガ行ハレルノデアリマス、是ニ於テ
私ノ注意ヲ喚起シタイ點ハ「ミス·ジヤッヂ
メント」卽チ判斷ノ誤リト云フコトハ私ハ
過失デナイ、ソレハ船長ガ判斷ヲ誤ッタト
云フコトハ過失デアルト云フ見方モアルデ
セウガ、船長ハ飽マデ是ハ正シイト信ジテ
ヤッタ場合ニ於テハ多少ノ疑義ガアリマス
ルガ、私更ニ申上ゲタイコトハ信號所ノ信
號手、或ハ其他所謂船長ノ與リ知ラザル所
ノ責任者ガ「ミス·ジヤッヂメント」シタ爲
ニ、共結果重大ナル海難事件ガ起ッタ時ニ
ハ、海事審判所ハ結果論カラ言ヒマシテ、
サウシテ海難ノ起ッタ其對象物カラ判斷シ
マシテ、其責任ヲ船長ニ持ッテ來ル、或ハ水
先案內人ニ持フテ來ル、是ガ爲ニ船員ハ刑
事訴追ヲ受ケルト云フコトガ能クアルノデ
アリマス、斯ウ云フコトカラ言ヒマシテ、
陸上デハ過失ニ對シテ處罰ヲスルカラ、海
上ニ於テモ同ジ交通機關-交通ノ方法ハ
違っテ居ッテモ等シク交通機關デアルカラ、
海員ニ對シテ等シク處罰ヲスルト云フコト
ハ、是ハ法ノ立前カラ見テハ穩當カモ知レ
マセヌガ、併シ問題ノ本質カラ見テ甚ダ不
當デアルト私ハ言ハザルヲ得ナイノデアリ
VV.更ニ冐頭ニ申上ゲマシタ海難ハ船員
ノ過失ノミデハ起ラナイト云フ他ノ場合ヲ
考ヘマスルト、本質的ニ直接的ニハ成程船
員ノ不注意カラ起ッタヤウニ見エル事件ニ
於キマシテモ、其海難ノ起ッタ抑〓ノ遠因的
ナル、或ハ本質的ナ原因ヲ探求シマスル
ト-案外他ノ所ニ其原因ガアル、卽チ海
難ノ起ッタノハ直接ノ原因デアルケレドモ、
遠因、本質的ナ原因ガナカッタナラバ起ラ
テイ、確ニ是ハ起ラナイト思フ時ニ起ッテ
居ル、ソシテ直接起ッタ所ノ其問題ヲ捉ヘ
テ、是ハ海員ノ責任デアル、斯ウ言ハレル
點ガ多イノデアリマシテ、此點陸上ノ交通
機關ト非常ニ差異ガアルノデアリマス、例
ヘテ見マシタナラバ、今日船主ガ造船費ヲ
出シ惜ミヲシマシテ、極メテ短期間ニ船ヲ
造ル、或ハ船ノ構造ニ於テ、荷物ヲ澤山取
リタイ爲ニ、船員ノ待遇トシテ爲スベキ所
ノ設備ハ安全法ノ許ス範圍ニ於テ窮屈ナル
所ノ構造ノ船ヲ造ル、斯ウ云フ爲ニ非常ナ
無理ヲシテ居ル、船ヲ造ル上ニ於テ無理ヲ
シテ居ル、其一ツノ實例ハ大阪丸ト云フ船
ガ昨年ノ十二月ニ潮岬ノ沖デ沈沒シタ、是
ハ僅ニ千二三百噸ノ小サイ船デアリマスル
ガ、是ハ「モーター·シップ」デアリマシテ、
出來テ間モナイ船デス、昭和十一年ノ五月
ニ處女航海致シマシテ十月ニ沈沒シテ居リ
やく、其沈沒ハ、多少ノウネリハアリマシ
タケレドモ、千三百噸位ナ船ガ沈ムヤウナ
嵐デハナイノデアリマス、何デソレガ沈沒
シタカト言ヒマスルト、其船ノ構造ガ-
是ハ朝鮮カラ明礬ノ礦石ヲ積ンデ橫濱へ行
ク途中ニ於テ沈沒シタノデアリマスルガ、
此船ノ構造ガ、サウ云フ目的ノ爲ニ造ッタ
ノデアリマスルカラ、成ベク餘計ノ荷物ヲ
取ル爲ニ、非常ニ大キナ船舶-「ホール
ド」ヲ船橋ノ前後ニ造ッタ、、船體ノ大キサニ
比較シテ非常ニ大キクー-是ハ造船規程ノ
許ス範圍デヤツタノダトハ思ヒマスルガ、
非常ニ大キ過ギル所ノ「ホールド」ヲ造ッタ、
隨テ「ハッチ」所謂船口ノ大キサモ非常ニ大
キイノデアリマス、船ノ全長ハ百四十七呎、
ソレニ對シテ「ハッチ」ノ幅ガ十六呎、是ハ
吾々ノ經驗カラ言ヒマシテモ、常識上非常
ニ大キイノデアリマス、横幅ガ十六呎、縱
ハドウデアルカト云フト、前ノ船舶ハ殆ド
其全部ガ「コリージヨン·バルクヘッド」所謂
衝突隔壁ニ殆ドクツ付カンバカリニナッテ居
ル、後ノ「ハッチ·コーミング」ハ「ブリ子
ヘクツ付イテ居ル、サウシテ「ブリッチ」へ
クツ付ケルコトニ依ッテ「ハッチ」ノ强ミヲ加
ヘ、、後甲板ニアル所ノ船船モ同樣デ、其
後ノ方ノ「ハッチ·コーミング」ハ「プープ·バ
ルクヘッド」ヘクツ付イテ居ル、ソシテ其前
方ノ「ハッチ·コーミング」ハ同ジ「ブリッヂ·
ハウス」ヘクッ付イテ居ル、隨テ此沈沒シタ
場合ニ於テ嵐ハ大シタモノデナカッタノデ
スガ、非常ニ「スウエール」所謂ウネリガア
ル、ソシテ荷ヲ乾舷ノ許ス範圍ニ滿載シテ
居リマスルカラ、相當舷ガ低イ、其處ヘ
「スウエール」ガ入ッテ來マシテ、其入ッテ來
タ水ヲ吐出ス爲ニ要スル通路、水ニ對スル
通路ガ今申上ゲタヤウナ點デ「ハッチ·コー
ミング」カ「ブリッチ」へ兩方トモクツ付イテ
居リマスカラ、片方ノ舷ヘ打込ンダ水ガ他
ノ「サイド」ニ流レ出ス通路ガナイ、一遍ドッ
ト水ガ打込ミマスト急ニ百八十噸程ノ水ガ
入ルコトニナル、是ダケノ水ガ入ルト船ガ
傾斜スル、而シテ造船業者ニ對シテ甚ダ遺
憾トスルノハ、前甲板ト後甲板ヲ連絡スル
所ノ「パッセーヂ·ウオーター·タイト」ニシ
テ居ラナイ、所謂逃路ガ出來テ居ラナイ爲
二、水ガ「ブリッヂ·ハウス」ニ入リマス、水
ガ船船へ入ル「マンホール」カラ入ッテ行ク、
「マンホール」カラ浸水シタノデアリマシ
テ、是ハ明ニ造船規程ノ裏ヲ搔イテ居ル
カ、造船規程ニ違反シテ居ルカ、或ハ造船
規程ノ最大限度ノ無理ヲシテ居ルト云フコ
トガ分ルノデアリマス、此場合ニ於テモ船
長ハ大阪ノ地方海事審判所ニ於テ船長ノ過
失デアルト認メラレテ、二箇月間ノ船長ト
シテノ免狀行使ヲ停止サレテ居リマス、是
ハ勿論專門家ノ裁斷デアッテ、吾々其場ニ居
ラナイ者ガ此處デ輕々ニ之ヲ斷定スル譯ニ
ハ行カヌノデアリマスガ、而モ一方ニ於テ
斯ウ云フ工合ニ船長ノ過失ノミデナイ、造
船當時ニ於テ既ニ本質的ナ缺陷ガアルト云
フ一ツノ有力ナル事實ガ擧ッテ居ルニ拘ラ
ズ、海事審判所ハ之ヲ取上ゲテ居ラヌ、斯
ウ云フ事カラ今日ノ海難ガ起ッテ居ルト云
フコトガ言ヘルノデス、更ニモウ一ツノ原
因ハ、二ツバカリアリマスガ、我國ニ於テ
ハ船ノ乘組ノ定員ノ制度ガナイ、隨テ何噸
ノ船ニハドレダケノ定員ヲ要スル、是ハ船
舶職員法ニ依ッテ、免狀ヲ持ッテ居ル船員ニ
對シテハ定員ガアリマスルガ、船舶職員法
ニ依ッテ「カバー」サレナイ所ノ船員、高級船
員ハ定員制度ガナイ、隨テソレガ爲ニ船ヲ
操縱スルノニ非常ナル無理ガソコニ起リツ
ツアルト云フコトハ、私ガ言フ迄モナイ、
是等モ海難ノ發生ヲスル一ツノ原因デアル
ト私ハ考ヘル、更ニ其次ニ、船員ノ過失ニ
基カズト斷定スベキ海難ノ原因トシテハ、
不熟練ノ船員ヲ使ッテ居ル、是ハ外國ノ如キ
所謂熟練船員ノ定數ヲ決メテ居リマス、何
噸ノ船ニハ何年以上海上ニ勤務シタ所ノ經
驗ヲ持ッテ居ル者デナケレバナラヌ、水夫
ノ場合ニハ三年以上、或ハ二年以上勤メタ
者ハ何人、火夫ノ場合モ同樣デアリマス、
斯ウ云フ規定ガアルニ拘ラズ、日本ニハ熟
練船員ノ噸數別ノ定員ノ最低限度ガ決メテ
ナイ、隨テ熟練セザル所ノ船員ガ船ニ乘ッ
テ居ル爲ニ、海難ガ起リ易イト云フ原因ハ
想像ニ難クナイ、殊ニ先程申上ゲタ通リ日
本ノ國旗ヲ揭ゲテ居リナガラ支那ノ船員ガ
乘ッテ居ル、船ノ名前ヲ此處デ申上ゲル必要
モアリマセヌカラ申上ゲマセヌガ、昨年瀨
戶內海ニ於テ或ル會社ノ船ト他ノ會社ノ船
トガ衝突シタ、一方ノ會社ハ高級船員ハ日
本人デアルケレドモ、普通船員ハ支那人デ
アル、此支那人ノ「コーター·マスター」卽
チ舵手ガ船長ノ命令通リニ舵ヲ動カシタカ
ドウカハ是ハ疑問デアリマスルガ、少クト
モ私共ノ知ッテ居ル範圍ニ於テハ、衝突後ノ
人命救助ニ於テ、片方ノ側ノ支那船員ハ狼
狽シテ爲ス所ヲ知ラナカッタ爲ニ多クノ人
命ガ徒ニ喪ハレタト云フコトヲ、新聞其他
ニ依ッテ知ッテ居ルノデス、支那船員ヲ使フ
ト云フコトハ、此點カラ見テモ私共ハ非難
ヲシテ居ルノデアリマスガ、斯ウ云フ工合
ニ熟練セザル船員ガ乘ッテ居ルト云フコト
ガ海難ノ重大ナル原因デアル、最後ニ船員
ノ過失ニ因ラザル海難ノ起リ得ル原因トシ
マシテハ、航路標識ノ不備ト云フコトヲ擧
ゲザルヲ得ナイノデアリマス、今日燈臺局
ノ非常ナル努力ニ依リマシテ、稍〓航路標識,
ハ增加シツヽアル傾向デアリマスガ、之ヲ
他ノ諸外國ニ比ベマスト、尙ホ未ダ日本ノ
航路標識ハ少イ、今日日本ノ航路標識ハ夜
間ノモノト晝間ノモノト合セマシテ五百三
十三、無線電信ニ依ッテ其方位ヲ示ス所ノ
所謂「ラヂオ·ビーコン」ナルモノガ四十四
アルノデアリマスルガ、之ヲ外國ニ比ベマ
スト、アノ小サイ國、海岸線ノ極メテ短イ
和蘭ガ六百八、獨逸ガ千百十、佛蘭西ハ千
百二十二、英國ガ三千三百九十五、伊太利
ガ七百九十六、「スカンヂナビヤ」ガ三千四
百五十八、亞米利加合衆國ガ七千九百四十
六、加奈陀ガ二千五百十四、支那ノ如キデ
サヘモ四百三十九、是ダケノ航路標識ヲ
持ッテ居ル、之ヲ海岸線トノ比率ニ付テ言ヒ
マスルナラバ、燈臺一基ニ對スル海岸線ト
シテハ、和蘭ガ一番成績ガ好イノデアリマ
シテ一·五哩、獨逸ガ二·〇八哩、佛蘭西ガ
二·〇一、葡萄牙ガ二·五五、英國ガ二·七
三、伊太利ガ四·二〇、「スカンヂナビヤ」
ガ四·二九、米國ガ四·四三、西班牙ガ五·
八二、丁抹ガ五·九一、日本ガ一八、支那
ガ一九·六八、加奈陀ガ二一哩デアリマシ
テ、日本ハ是等ノ諸國ノ中デ漸ク十一番デ
アリマス、是ハ昭和十一年ノ燈臺局發表ノ
モノデアリマスルカラ間違ナイノデアリマ
スルガ、此僅カナル航路標識ヲ持ッテ居ル
日本ニ於テ、船員ノ過失ノミヲ以テ海難ノ
原因ニスルト云フコトハ誤ッテ居ルト私ハ
考ヘル、最後ニ船員ノコトデアリマスルガ
日本ノ船員ハ昔カラ海ヲ恐レルコトハ非常
ナモノデアリマシテ、卽チ海難ヲ恐レル爲
ニ海ヲ恐レル、ソレデ今日大自然ノ超人間
的ナ壓迫ニ對シテ、船員ガ此不可抗力ニ對
シテ非常ナ心理的ノ屈伏ヲ持ッテ居ル、卽チ
諦メテ居ル結果、今日所謂優秀船所在ニ起ツ
テ居ル際ニ於テ、迷信ガ尙且ツ船員ノ心理
ヲ支配シテ居ル、今日皆サン既ニ御承知ノ
通リ、郵船會社ノ船ハ殆ド全部神社ノ名前
ヲ付ケテ居ル、例ヘバ箱根丸、筥崎丸、伏
見丸、或ハ氷川丸、日枝丸、龍田丸、斯ウ
云フ工合ニ郵船會社ノ船ガ皆神社ノ名前ヲ
著ケテ居ルノハ何デアルカト云フト、所謂
神佛ノ加護ニ依ッテ此不可抗力ヲ克服シテ
無事ニ航海シヨウト云フ船主及ビ海員ノ心
理的ノ現レデアリマス、今日汽船、帆船、
發動機船ヲ通ジテ、金比羅丸、天神丸、住
吉丸ト云フヤウナ名前ヲ持ッテ居ルモノハ
百何艘ト云フ數デアリマス、如何ニ船員ガ
海難ヲ恐レ、不可抗力ニ對スル結果迷信ニ
囚ハレテ居ルカト云フコトハ是デ分ル、斯
ノ如ク船員ハ最善ノ注意ト努力ヲ盡シテ
モ、尙且ツ不可抗力ノ爲ニ海難ガ起リ得ル
環境ニ置カレテ居ル、之ニ對シテ、船員ニ
對スル所ノ過失ヲ、陸上ノ交通機關ニ從事
シテ居ル所ノ勞働者ト同樣ニ扱フト云フコ
トハ、甚シク誤ッテ居ルノデハナイカ、斯ウ
云フ工合ニ考ヘルノデアリマス、モウ一ツ
司法省御當局ノ反對ノ理由ノ一ツトシテ
ハ、常人ガ過失ヲ起シタ際ニハソレガ輕過
失デアッテモ處罰スルノニ、所謂其職ニ在ル
者ガ輕過失ヲシタノヲ罰シナイナドト云フ
コトハ間違ダト言ヒマスガ、私ハ常人ガ過
失ヲ犯スト云フコトハ殆ド有リ得ナイト思
ヒマス、常人ガ海難ヲ起スト云フコトハ、是
ハ故意デス船客ガ機關室へ下リテ徒ニ「ピ
ストン」ヲ動カスト云フコトハ有リ得ナイ、
聾客ガ舵ヲ取ッテ廻スト云フコトハ有リ得
ナイ、卽チ常人ガ過失ヲ犯シテ海難ガ起ル
ト云フコトハ有リ得ナイ、隨テ常人ガ過失
ヲ犯スト云フコトハ故意デス、陸上ノ場合
ハ知リマセヌガ、常人ガ海上ノ交通機關ニ
於テ過失ヲ犯スカラ罰スル、然ルニ船員デ
アルカラ罰シナイト云フ譯ニハ行カナイト
云フ御論據ハ、實情カラ見テ間違ッテ居ル、
元來日本人ハ責任感ノ强イ國民デアリマシ
テ、處罰ニ依ッテ注意ヲシナケレバナラヌ
ト云フコトハ、私共日本人ノ國民性トシ
テ、日本人ハ處罰サレナイ前ニ自責ノ感
ガ湧イテ來テ自ラ自決スルト云フコトガ、
日本人ノ永イ間ノ觀念デアリマス、隨テ
此過失ヲ罰スルノニ、過失デアルカラト
云ッテ之ヲ罰スルカラ事故ガ起ラナイト
云フ考ハ、是ハ立法ノ精神トシテ甚シク
誤ッテ居ル、却テ寧ロ罰スルカラ精神ガ萎
縮シテ、オド〓〓シマシテ寧ロ過失ヲ招
來シ易クナルノデハナイカト思フノデ
アリマス、ソレカラ、今日海運立國ガ唱ヘ
ラレテ居ルニ拘ラズ、日本ノ船員ニ對スル
社會的待遇ハ極メテ貧弱デアリマシテ、英
國ノ如キハ何年間船長ヲ勤メタ者ニ對シテ
ハ或ハ「サー」ト云フ稱號ヲ與ヘル、或ハ上
陸シタ時ニハ電車、汽車ヲ無賃ニスルカ、
半額ニスルカトカ云フヤウナ、社會的優遇
方法ヲ講ジテ居ルニ拘ラズ、今日日本ノ船
員ハ、日本ノ船員ノ制服ヲ著ケテ上陸スル
ノヲ好マナイ、ソレハ何デアルカト云フト
日本ノ朝野ヲ擧ゲテ船員ニ對スル所ノ侮蔑
ノ觀念ヲ持ッテ居ル、船員ガ買物ヲスル時ニ
ハ必ズ二割三割ノ掛値ヲスルト云フコト
ガ、横濱、神戶ニ於テモ今日尙ホ其弊風ガ
殘ッテ居ル、斯ウ云フ狀態ニ於テ海運立國ヲ
叫ンデ居ッテモ是ハ海運ノ發達ハシナイ、然
ルニ其上更ニ輕過失デモ罰スルコトニスル
ト云フコトハ、益〓船員ヲシテ其精神ヲ萎縮
セシメテ、良イ船員ハ早ク足ヲ洗ッテ轉業
ヲシテシマフ、何時マデモ板子一枚ハ地獄
ノ境地ニ居ラヌ、氣ノ利イタ船員ハ足元ノ
明ルイ內ニ船員ヲ廢メテシマフト云フ氣持
ニナルノハ當リ前デアル、斯クシテ船員ノ
健全性ガ保タレルカト云フコトハ甚ダ疑問
デアルト私ハ思フノデアリマス、デアリマ
スルカラ私以上申上ゲタ點ニ於テ、現行船
員法ノ第七十三條ヲモウ一遍復活スル御意
思ハナイカ、卽チ重大ナル過失ニ依ラザル
場合ニ於テハ其事故ハ處罰セヌト云フ精神
ヲ、此船員法ニ、司法當局トシテモ、或八
遞信當局トシテモ、之ヲ置クコトガ出來ナ
イカ、若シソレガ出來ナイト云フナラバ、
先程冐頭ニ於テドナタカ御尋ニナッタ卽チ
遞信、司法兩省ハ、前議會ノ委員會ニ於テ
質問ガアリ、ソレニ對シテ御答ノアッタ點
ヲ、未ダニ其精神ハ變ラナイト云フ御
言葉デアルナラバ、是ハ斯ウ云フ工合ニ
解釋申上ゲテ宜シイカ、卽チ四ツノ附帶
決議ガ付イテ是ガ院ヘ廻ルコトニ委員會
トシテハナッタノデアルガ、依然司法當局
ハ、此委員會ニ於テモ若シ審議ノ結果四ツ
ノ附帶決議ガ付ク場合ニ於テハ、司法省ハ
之ニ對シテ異存ハナイカ、是ハ全院ノ最小
限度ノ希望デアルト云フ點ヲ申ゲテ私ノ質
問ヲ打切ルコトニ致シマス
○清原司法書記官 御許シヲ得マシテ私ヨ
リ答辯申上ゲタイト思ヒマス、現行船員法
第七十三條ノ規定ヲ今囘ノ改正案ニ存置ス
ベキカドウカニ付キマシテハ、色々議論ノ
アルコトデゴザイマシテ、只今米窪サンヨ
リ其該博ナル御經驗竝ニ御〓究ニ基キマシ
テ、色々貴重ナル御意見ヲ拜聽致シマシタ
ガ、司法當局ト致シマシテハ、遺憾ナガラ
今直チェ現行法第七十三條ノ規定ヲ此改正
法律案中ニ挿入スルコトニ付テハ御贊成申
上ゲルコトハ出來ナイノデアリマス、其理
由ニ付キマシテハ色々アリマスルガ、先ヅ第
一點ニ於キマシテハ米窪サンノ御話中ニモ
アリマシタ如ク、現行刑法ノ第百二十九
條、卽チ業務上ノ過失ニ依リマシテ艦船ヲ
覆沒シタ罪ニ付キマシテハ、電車竝ニ汽車
ノ〓覆破壞等ト同條中ニ規定シテ居ルノデ
アリマシテ、隨テ今直チニ船員ノミニ付テ
輕過失ハ罰シナイ、獨リ重過失ノミヲ罰ス
ルコトニナリマスト明ニ他ノ汽車ノ機關
士.或ハ電車ノ運轉手乃至ハ航空士等ニ對
シマシテ甚シク公正ヲ缺ク憾ガアリマス、
又第二ニ是亦米窪サンノ御話ニモアリマシ
タ如ク、普通人ノ過失ニ付キマシテハ輕過
失ト云フモノハ尙ホ之ヲ罰シテ居ルノデア
リマス、此點ニ付キマシテ米窪サンヨリ、
普通人ハ故意ノ場合ヲ除イテハ艦船ヲ覆沒
スルコトハナイデハナイカト云フ御話デア
リマシタガ、是ハ實際上ノ問題トシテハ餘
リ例ハナカラウカトハ存ジマスガ、決シテ
有リ得ナイ問題デハナイノデアリマス、卽
チ刑法第百二十九條ハ、船員法ノ規定ニ依
ル船員ノミニ關スル規定デハナイノデアリ
マシテ、一般船舶卽チ二十噸未滿ノ船舶ニ
付テモ尙ホ其適用ガアルノデアリマスカ
ラ、斯ル場合ニ於テ普通人ガ過ッテ船ヲ操
縱シテ居ル際之ヲ〓覆サス、サウ云フコト
ハ觀念上十分想像シ得ルコトデアリマシ
テ、絕對アリ得ナイ問題デハナイノデアリ
マス、隨テ斯ル場合船員法ノ適用アル船舶
ニ付キマシテ、過失ノ問題ニ付テ甚シク其
取扱ヲ異ニスル、二十噸以上ノ船舶ニ付テ
ハ輕過失ハ之ヲ處罰シナイ、他ノ船舶ニ付
テハ之ヲ處罰スルト云フコトハ、是亦公正
ヲ缺クコト甚シイモノデアルト考ヘマス、
尙ホ船舶ノ海上事故ニ付キマシテハ色々特
殊性ガアル、或ハ濃霧、惡潮流、其他ノ自
然現象ニ災サレルコトガ多イ、又米窪サン
ノ御話ノ如ク船體ノ不良、或ハ航路標識等
ノ不完全等ノ理由ニ依リマシテ、獨リ海員
ノ過失ノミニ基因セズシテ幾多他ノ現象ト
競合シテ、其結果海難ノ事故ヲ生ム、此事
ハ至極御尤デアリマシテ、私共ノ方デモ十
分諒承シテ居ル積リデアリマスガ、海難ノ
事故ハ何分船舶ハ多數ノ乘客ト又多量ノ貨
物ヲ積載シテ居ル關係上、一度〓覆等ノ事
故ガ發生スレバ、其事故ノ結果ノ重大ニシ
テ且ツ悲慘デアルコトハ、到底他ノ陸上ノモ
ノト比較スベクモナイノデアリマス、隨テ此
重大ナル結果ニ對シテ船客竝ニ船貨ノ運命
ヲ双肩ニ荷ッテ居ル船舶乘組員トシテハ、重
キ責任ヲ負ハナケレバナラヌコトハ當然デ
アリマス、隨テ此意味ニ於キマシテモ、船
員法ノ適用アル船舶ノ船員ニ對シテノミ輕
過失ヲ處罰シナイ、重過失ノミヲ處罰スル
ト云フコトハ、今直チニ遺憾ナガラ御贊成
申上ゲルコトハ出來ナイノデアリマス、尙
ホ最後ニ、若シ本議會ニ於テモ前囘ノ如ク
同ジヤウナ附帶決議ヲ附ケタ場合ニハ、司
法省トシテ如何ナル措置ヲ執ルカ、其點ノ
御質問デゴザイマシタガ、是ハ假定論デアリ
マスルガ、假ニ當議會-拾六十前囘ト同樣
)、全ク內容同一ノ附帶決議ヲ御付ケニナ
ルヤウナ場合ガアルトシマスレバ、司法省
ト致シマシテハ勿論十分其院議ヲ尊重致シ
タイト存ジテ居ル次第デアリマス、之ヲ以
テ御答辯ト致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=80
-
081・永井柳太郎
○永井國務大臣 只今米窪君カラ、船員ノ
過失ニ付キマシテ種々ナル場合ヲ事實ニ基
イテ御說明ニナリマシテ、其御質問ノ御趣
旨ハ十分ニ諒承致シマス、ソレニ付キマシ
テ只今司法當局カラモ言明ガアリマシタヤ
ウニ、前議會ト同樣ノ附帶決議ヲ御付ケニ
ナリマスル場合ハ、遞信省ト致シマシテモ
其趣旨ハ十分ニ諒承シテ居ルノデアリマス
カラ、其趣旨ノ實現ニ對シテハ努力致シタ
イト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=81
-
082・米窪滿亮
○米窪委員 是ハ只今私カラ御尋スルコト
ハ或ハ時機ヲ得テ居ラヌカトモ思ヒマスル
ガ、幸ヒ刑事局長ガ御見エニナッタヤウデ
アリマスカラ伺ヒマスガ、假ニ附帶決議ガ
此委員會ニ於テ付セラレルコトニ決定シタ
場合ニ於テ、司法御當局トシテハ院議ヲ尊
重サレル、遞信大臣モ同ジ御答辯ガアリマ
シタガ、司法御當局ニ伺ヒタイ點ハ、私共
船員側ノ集約セル意見ト致シマシテハ、單
ニ議會ニ於テ四ツノ附帶決議ガ付イテ船員
法ガ通過シタト云フダケデハ、吾々ノ方ノ
要望ノ實現ガ何時ニナルカ、結局ソレデハ
安心ガ出來ナイノデアリマシテ、司法御當
局ニ伺ヒタイ點ハ、此附帶決議卽チ「政府
ハ海運ノ重要性ト船員ノ特殊性トニ鑑ミ刑
法ヲ改正シ船員ガ著シク其職務ヲ怠リタル
コトニ因リテ生ジタル過失ニ非ザレバ罰セ
ザルヤウ之ヲ法文化スベシ」是ハ前議會ノ
附帶決議ノ第一ノ點デアル、今議會モ恐ラ
ク是ト同樣ノ意味ノ決議ヲスルト思ヒマス
ガ、四ツノ決議ノ中最モ重要ナ所ハ是デ
ス,ソレデ是ノ取扱方トシテハ、吾々ノ解
釋スル所ニ依レバ刑法改正審議會ヘ御諮リ
ニナルコトヽ思ヒマスガ、其刑法改正審議
會へ御掛ケニナル御意思デアルカ、或ハ其
他ノ方法ニ依ルノデアルカ、又其時期ハ直
チニオヤリニナル御積リデアルカ、其取扱
ノ點ニ付テ此委員會デ御伺ガ出來ルナラバ
幸デアルト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=82
-
083・松阪廣政
○松阪政府委員 御答申上ゲマス、刑法ノ
改正委員會ハ目下著々トシテ進行中デア
リマスルガ、マダ船舶ノ覆沒等ノ所マデ行ツ
テ居ラヌノデアリマス、隨テマダドウナリ
マスカ、今ノ所デハ無論分ラヌノデアリマ
ス、附帶決議等ガアリマシタナラバ、無論
院議ノアル所ハ司法大臣ニ於テモ尊重スル
ノデアリマスカラ、其趣旨ノアル所ヲ刑法
改正委員會ニ傳ヘマシテ、其點ニ對シテ十
分愼重ニ〓究シテ戴ク、御意思ハ十分尊重
致シマシテ、相當努力ヲスル考デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=83
-
084・米窪滿亮
○米窪委員 長ラク私ニ質問ヲ御許シ下サ
イマシテ、且ツ政府各方面ノ御當局カラ懇
切ナル御答辯ヲ戴イタコトヲ感謝致シマ
ス、之ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=84
-
085・漢那憲和
○漢那委員長 此場合私カラ一寸司法當局
ニ御伺シタイコトガアルノデアリマス、假
ニ此案ニ現行船員法ノ七十三條ガ挿入サレ
タト致シマシテ、其結果ハ船員法ノ七十二
條、卽チ重過失ニ對スル罰則ガアル、ソレ
カラ現行刑法モ其儘存續サレルト云フコト
ニナル譯デアリマスガ、其時ニハ刑法ノ此
船員ノ業務上ノ過失ニ對スル罰則ハ適用サ
レナイコトニナルノデアリマスカ、或ハ兩
方トモ適用サレルコトニナルノデアリマス
カ、此點ヲ一寸御伺致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=85
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086・松阪廣政
○松阪政府委員 御答致シマスルガ、今囘
ノ改正船員法中ニ、現行船員法中ニアリマ
スルヤウナ同ジヤウナ規定ヲ設ケマスル
ト、其刑法ノ刑ヨリハ刑罰ガ高クナッテ居
リマスカラ、特別法ト代ヘラレマシテ、重
イ場合ニハ船員法ニ依ッテ其重イ刑ガ適用
セラレマスガ、輕過失ノ場合ニハ刑法ガ適
用セラレルト私ハ存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=86
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087・漢那憲和
○漢那委員長 次ハ小山君ニ發言ヲ許シマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=87
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088・小山亮
○小山委員 時間モ大分經過シマシタシ、
大體ノ質問ガ米窪君デ盡キテ居ルト思ヒマ
スガ、私モ司法當局及ビ遞信大臣ニ御伺シ
タイ點ガ一二點アリマスノデ、其點ヲ御伺
シタイト思ヒマス、司法大臣ニ御伺ヲ致シ
タイ點ハ、司法省ノ刑法改正ノ審議會ニ對
シマシテ、斯ウシタ特別ナル法案ガ審議サ
レルヤウナ場合ニハ、海事關係ノ實際的ナ
技術家ガ、サウ云フ改正ノ審議會ニ、正式
委員デナクテモ參考人デアルトカ、或ハ何
等カノ名義ヲ以テ、「アドバイザー」トシテ
列席サセテ意見ヲ徴サレルヤウナ、サウシ
タ機關ハナイノデアリマスカ、ソレヲ伺ヒ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=88
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089・松阪廣政
○松阪政府委員 只今ノ所デハ、左樣ナ機
關ハゴザイマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=89
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090・小山亮
○小山委員 只今ノ所デハサウシタ機關ガ
ナイガ、何等カノ名目ヲ以テ參畫ヲサセレ
バ出來ルヤウナ手立ハアルノデアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=90
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091・松阪廣政
○松阪政府委員 刑法ノ委員會ニソレ〓〓
ノ部門ニ亙ッテソレ〓〓ノ專門家ヲ任命ス
ルト云フコトハ、刑法ノ關係部門ハ非常ニ
廣イモノデアリマスカラ、事實上不可能デ
アラウト私ハ考ヘルノデアリマス、刑法ノ
各條文ヲ御覽下サイマシテモ、國民ノ各階
層、或ハ各種類ノ人々ニ關係ヲ持ツコトデ
アリマシテ、ソレヲ全部或ハ其重要ナル方
方ヲ委員ノ中ニ、或ハ其「アドバイザー」ト
シテ何等カノ機關ニ於テ意見ヲ述ベサセル
ト云フコトハ、實際上不可能デアル、終局
ニ於テハ、結局ハ國民ノ代表デアル議會ニ
提案サレタ時ニ、貴衆兩院議員ニ於テ然ル
ベク審議ヲセラレル外ハナイカト考ヘマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=91
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092・小山亮
○小山委員 司法省ニ對スル質問ハ之ヲ以
テ終リマス、遞信大臣ニ伺ヒタイ點ハ、船
員ニ對シテハ、斯ウシタ二重刑罰ノヤウナ
問題デスラモ、尙ホ法律ニ依ッテ輕減サレ
ルヤウナ方法ハ採ラレテ居リマセヌ、然ル
ニ船員ト比ベテ、一方資本家デアル所ノ船
主ガ、如何ニ國家カラ優遇サレテ居ルカト
云フ點ヲ考ヘマスルト、實ニ私共ハ働ク者
ト船主タル資本家トノ間ニ、其國家ガ之ヲ
待遇スル所ノ差ガ餘リニ强イト云フコトニ
驚カザルヲ得ナイ、近ク郵船會社ニ起リマ
シタル明朗會ノ爭議、是ハ何故起ッタカ、唯
祝日ニ國旗ヲ揭ゲナカッタカラ、國體明徵デ
ナイト言ッテ、若イ船員ガ騒イダノデハナ
イノデアリマス、少クモ今日三十七八歲以
下ノ靑年ハ、モウ少シ目覺メテ居ル、唯國
旗ヲ揭ゲナイノガ不敬デアルカラト云ッテ、
サウシテ大勢ガ徒黨ヲ組ンデ騒グヤウナコ
トハナイ、斯ウ云フコトガ起リマスルノ
ハ、必ズ由テ來ル所ノ原因ガアルノデアリ
マス、郵船會社モ長イ間ノ會社デアリマス
ルカラ、ヤハリ上下ノ間ノ空氣ト云フモノ
ガ非常ニ腐敗シテ居ル、融和ヲ缺イテ居ル、
言換ヘレバ改革ヲセントスル所ノ氣運ト、
現狀ヲ維持セントスル所ノ二ツノ鬪ノ現ハ
レガ、アヽ云フ問題ヲ捉ヘテ偶〓〓發發タタ
デアリマス、ソコデ私ハ郵船會社ニ對シテ
モ、政府當局ノ十分ナル御留意ヲ願ハナケ
レバナラヌ點ハ、現在ノ日本ノ船會社、現
在日本ノ政府カラ補助金ヲ貰ッテ居リマス
ル船會社ガ、一箇年ニドノ位ノ補助金ヲ政
府カラ獲得シテ居ルカト申シマスルト、大
約一千五百萬圓バカリデアリマス、然ルニ
一千五百萬圓ノ多額ノ補助金ノ中デ、ドノ
會社ガ一番多クノ補助金ヲ獲得スルカト云
フト、日本第一ノ大會社デアリ、日本第一
位ト言ハレル大財閥ノ經營シテ居リマス
ル、三菱ノ背景ニアル所ノ日本郵船會社
ガ、千五百萬圓ノ多額ノ補助金ノ中ノ七百
十二萬圓ト云フ、莫大ナル所ノ補助金ヲ獲
得シテ居リマス、ソレハ直接遞信省カラハ
五百萬圓程デアリマスルガ、樺太廳、或
朝鮮、臺灣、サウシタ所ヲ併セマスルト、
約七百十二萬圓內外ノ多額ノ補助金、殆ド
半數ノ補助金ヲ獲得シテ居リマス、然ラバ
日本郵船會社ト云フモノハ、現在經營ガ困
難デアルカト言ヘバサウデナイ、現在ハ日
本郵船會社ハ法定積立金ノ外ニ特別積立金
ヲ五百萬圓持フテ居リマス、サウシテ株ノ配
當ハ七分、八分デアリマス、而モ此好景氣
ノ波ニ乘ッテ居ル現在ニ於テ、此會社ガ儲
カラナイ筈ハナイ、隱シ切レナイ程ノ利益
ヲ上グル所ノ會社ニ、政府ガ煙草錢ヲ搾リ
上ゲ、或ハ郵便切手ノ値上マデシナケレバ
ナラヌ、國民大衆カラハ是程苦シイ會計ノ
中カラデモ多クノ金ヲ必要トシテ居ル、此
國家ノ財政ノ中カラ三菱ノ日本郵船會社ダ
ケガ、是ダケ多額ノ金ヲ獲得シテ居ルト云
フコトハ、私共ハドウ考ヘテモ考ヘ切レナ
イ位不思議ナコトナンダ、今私達弱イ船員
ガ、一ツノ海難事故ニ對シテモ二重ノ刑罰
ヲ受ケル、斯ンナ間違ッタコトハナイ、ドノ
委員ノ方ガ考ヘラレテモ是ハ無理ダ、司法
當局モ刑法改正ノ時ニハ、必ズ之ヲ改メナ
ケレバナラヌト云フ位ナコトスラ、今日初
メテ私達ハ採上ゲラレタ、サウシテソレス
ラ實現サレナイ、然ルニ今誰ガ考ヘテモ分
リ切ル位分ッテ居ル此航路補助金ノ問題ガ、
此議會デハ再檢討サレルコトガ決シテナイ
ノデス、廣田內閣ノ時ニ賴母木遞信大臣ガ
補助金ハ再檢討シナケレバナラヌ、是ハ御
說ノ通リダ、ダカラ必ズ近イ中ニ補助金ノ
再檢討ヲスルト仰シヤイナガラ、未ダニ此航
路補助金ノ再檢討ト云フコトハ爲サレテ居
リマセヌ、併ナガラ斯ウ云フコトガ郵船內
部ニ於テハ、政府ノ多大ナル恩寵ヲ受ケテ、
其恩寵ニ狎レテ、リウシテ何等社內ノ改
革ヲ行ハナイト云フ此氣分ガ、郵船內部
ニ於テハ少壯船員ト會社ノ上層階級トノ
間ニ於テ、革新勢力ト現狀維持勢力ノ二ツ
ノ對立トナッテ現ハレテ、サウシテアノ明
朗爭議ト云フヤウナ、妙ナ爭議ガ起上ッタ
ノデアリマス、郵船會社ト云フ會社ハ、
體ドノ位ノ補助金ヲ政府カラ獲得シテ居ル
カト私達ハ考ヘテ、委員會ニ於テ今マデ郵
船會社ガ日本ノ政府カラ獲得シタ所ノ航路
補助金ト云フモノヽ總額ヲ知リタイト思ツ
テ、其計數ノ提出ヲ求メタ所ガ、震災デ其
書類ガ燒ケタト、斯ウ云フ遞信省ノ御言葉
デ、其書類ガ出マセヌ、併ナガラ明治十九
年以來今日マデ燒ケナイ所ノ書類ニ依ッテ
推算シマスルト、少クモ二億一千萬圓以上
デアリマス、郵船ノ資本金ガ一億圓、然ル
ニ資本金ノ倍額以上ノ莫大ナル補助金ヲ
第2、會社經營ヲシテ居ルナント云フ會
社ハ、私ハ恐ラク世界ニ稀レデアラウト思
フ、今日ノヤウナ場合ニ、少クトモ此利益
ヲ滿喫シテ居ルヤウナ會社ニ對スル補助金
ノ再檢討ヲ行ハレルト云フコトハ、國家ガ
非常時局ニ直面シ、國民臥薪嘗膽ヲシナケ
レバナラヌ此危急ノ時期ニ於テ、私ハ最モ
大切ナコトダラウト思ヒマスルガ、此點ニ
對スル所ノ永井遞信大臣ノ御考ヲ率直ニ伺
ヒタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=92
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093・永井柳太郎
○永井國務大臣 小山君ノ只今ノ御質問
ハ、啻ニ海運業者ダケデナク、國民經濟ノ
全般ニ亙ッテ考ヘラレテ居ル問題ダト思ヒ
やく、今日殆ド各種ノ事業ニ於キマシテ、
其事業主ト此事業ノ業務ニ從事シテ居ル者
トノ間ニ於ケル分配ガ、公正ニ行ハレテ居
ルカドウカト云フコトガ、今日ノ重大ナル
社會問題ニナッテ居ルト思ヒマス、生產ノ
擴充ト云フコトニ沒頭シテ、他面ノ分配ノ
公正ト云フコトヲ考ヘルコトニ冷淡トナル
傾ガアリマス、之ニ對スル不滿ガ社會ノ一
方ニ勃興シテ、ソレガ種々ナル相刺トモナ
リ、又思想ノ激化トモナッテ來ルト云フ事
實ハ、是ハオ互ニ最モ注意ヲスベキ問題デ
アリマス、ト同時ニサウ云フ相剋ヲ解消ス
ルコトニ付テ、吾々ハ根本的ニ再檢討シナ
ケレバナラヌコトダト考ヘテ居リマス、殊
ニ海運事業ノ如キ、其事業ニ從事シテ居ル
勞務者ハ、普通ノ勞務者ニ比ベテ一層ノ危
險ヲ冐シテ居リマスルシ、又先程米窪君モ
御話ニナリマシタヤウニ、特殊ノ過激ナル
勞務ニモ服シテ居ルノデアリマシテ、サウ
云フ特殊ノ立場ニ居ルコトカラ、一層分配
ノ公正ニ關シテ再檢討シナケレバナラヌト
云フ氣運ノ起ッテ來ルコトハ無理モナイト
思ヒマス、他方船會社ニ對シマス政府ノ補
助金ハ、是ハ申上ゲルマデモナク國家的ノ
見地カラ特殊ノ航路ヲ維持シ、又日本ノ船
舶ヲ世界ノ必要ナル部分ニ往來セシメナケ
レバナラヌト云フ特殊ノ必要カラ、補助モ
行ハレテ居ルノデアリマスカラ、其補助ヲ
スルコトソレ自身ハ、決シテ無意義ナコト
デナク、又ソレ自身十分ナル理由ヲ持ッテ
居リマスケレドモ、其補助金ガ今日ノ業態
ニ於テ果シテ適當デアルカドウカト云フコ
トハ、一錢デモ國民ノ負擔ヲ浪費シテハナ
ラナイ政府ト致シマシテハ、十分ニソレヲ
再檢討スル必要ガアルト思ヒマス、同時ニ
其事業ニ從事シテ居リマス勞務者ガ、ソレ
ダケノ重要ナ仕事ニ貢獻シテ居ルモノトシ
テ、適當ナ報酬ヲ受ケ、適當ナ保護ヲ受ケ、
適當ナ地位ヲ與ヘラレテ居ルカドウカト云
フコトニ付テモ、再檢討スル必要ガアルト
考ヘテ居リマス、大體ニ於キマシテ小山君
ノ御話ニナリマシタ、其御質問ノ御趣旨ニ
ハ極メテ同感ニ存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=93
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094・小山亮
○小山委員 モウ一點遞信省ノ、是ハ大臣
デハナク、管船局長ニ御伺致シタイノデア
リマスガ、司法省ハ刑法ノ改正ヲシナケレ
バ、二重刑罰ト云フモノヽ解決ハ結局付カナ
イト云フコトニナッテ居ルノデアリマスガ、
之ヲ少クモ刑法ガ改正サレルマデニ、何等
カノ緩衝地帶ヲ作ッテ、サウシテ此法律ヲ
其儘ニ直チニ非常識ニ適用サレナイ爲ニ、
海軍デヤッテ居ルヤウナ、査間會ヲ開クト
カ云フ風ナコトガ出來ルカドウカ、例ヘバ
海軍ノ艦船ニ於テ若シ海難事故ガ起リマシ
タ時ニハ、海軍大臣ガ直チニ査問會ヲ作リ
マシテ、ソレニ依ッテ具サニ其狀態ヲ審査
サセマシテ、ソレガ果シテ海軍刑法ニ依ツ
テ處斷サレルモノデアルカドウカト云フコ
トヲ審査シテ、然ル後ニ海軍ノ軍人ハ處斷
ヲ受ケルノデアリマス、所ガ先程米窪委員
ガ言ハレマシタ通リニ、此商船乘組員ハ事
件ガ起リマスト、卽チ海難事故ガ起リマス
ト直チニ是ガ高等審判ニ-海員ノ技術審
判ニ掛ケラレマシテ、懲戒法ニ依ッテ直グ
ニ處斷サレマス、ダカラ全ク私達ガ之ヲ常
識的ニ考ヘテモ、技術的ニ考ヘテモ、無罪
デナケレバナラヌト云フ風ナモノガ、ドウシ
テモ結果カラ是ガ處斷サレマスカラ、結局
譴責ニナルトカ、或ハ輕微ナ免狀停止トカ
云フ風ナ處罰ヲ受ケマス、其處罰ヲ受ケマ
スコトガ、結局ハ熟練シタ海員ガ自分ノ家
庭ノ生活ニ非常ナル所ノ脅威ヲ受ケル、或
ハ失業スル原因ニナル、保險會社等カラハ
非常ニ嫌忌サレル基ヲ作ルト云フ風ニナル
ノデアリマスガ、之ニ對シテ管船局當局ト
シテハ、何トカ之ニ對スル適正ナ妥當ナ取
扱トシテノ御良案ハナイモノデアリマス
カ、伺ヒタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=94
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095・小野猛
○小野政府委員 海軍ノ査問會ト軍刑法ト
ノ關係ハ、私ハ能ク存ジマセヌガ、査問會デ
刑法ニ掛ケルカ否カト云フコトヲ議スルノ
デハナイノヂヤナイカト思フノデアリマ
ス、是ハ私能ク存ジマセヌ、或ハ私共ノ方
ノ海員審判ト今ノ刑法ト云フ風ナモノトノ
關係ト、同ジヤウナモノニアルノヂヤナ
カラウカト思ヒマス、海員審判ハ御承知ノ
ヤウニ行政處分デアリマスカラ、其海員ガ
當該免狀ニ現ハサレテ居ル技術ヲ適正ニ運
用シテ居ルカドウカト云フコトヲ査問致シ
マシテ、行政罰トシテ免狀ノ行使ヲ停止シ
タリスルコトニナルノデアリマシテ、刑法
ノ關係トハ離レテ居ルノデアリマス、隨ヒ
マシテ何カ査問會ノヤウナモノデ、刑法ト
海員審判トノ間ノ調和ヲ圖ルヤウナ機構ヲ
考ヘラレナイカト云フコトニハ、今直チニ
サウ云フコトガ出來ルト云フヤウニ御答ガ
出來ナイノデアリマスルガ、私ハ常ニ斯ウ
考ヘテ居ルノデアリマス、實際海員ノ現在
ノ立場ハ非常ニ御氣ノ毒デアル、先ヅ衝突
ガアレバ遞信省ノ海員審判デ行政罰ヲヤラ
レル、其結果、又其結果ニ關聯シテ、刑法
デ今ノ輕過失、重過失デ罰セラレル、其外
ニ民事訴訟デ損害賠償ノ責ヲ受ケルト云
フ、三重ノ制裁ガ現行制度ニアルノデアリ
マス、是ハ中々一ツノ階級ノ方々トシテハ堪
ヘ難イモノデアラウト、豫テ考ヘテ居ルノ
デアリマス、唯民事關係、刑事關係ハ、私
共ノ權限ノ範圍外デアリマスルカラ、私共
ノ權限ノ範圍デ出來ルコトハ、然ラバドウ
シタラ宜カラウカト、常ニ念頭ニ置イテ居
ルノデアリマスルガ、ソレハ現行海員懲戒
法ヲ一ツ改正シテ見テハドウカ、此懲戒法
ハ小山君モ萬々御承知ノヤウニ、今仰シヤッ
タヤウニ、餘リニ懲戒ヲスルト云フコトニ
流レ過ギル弊ガアルノデハナカラウカ、是
ハ自分ガ其任ニ當ッテ居ッテサウ云フコトヲ
言フノハ、甚ダヲカシナコトデアリマスル
ガ、寧ロ制度トシテハ、懲戒本位ヨリハ海
難ノ原因ヲ探求スル方針ニ改メテ見テハド
ウカ、海難ノ原因ヲ探求スル道程ニ於テ、
海員ガ過失ガアルト云フコトナラバ、海員
ノ懲戒ヲヤルモ宜シ、又海難調査ノ道程ニ
於テ、船舶ノ物的施設ニ缺陷ガアル、斯ウ
云フコトニナレバ、船舶ノ構造上ノ規定ヲ
改正スルガ宜カラウシ、又最前米窪君ノ言
ハレタ燈臺ガ足リナイ、燈臺ノ缺陷ニ因ツ
テ海難ガ起ルト云フコトナラバ、燈臺ノ施
設ヲ改造スルガ宜カラウシ、又潮流ノ調査
ガ不備デアルト云フコトガ、海難ノ原因デ
アルトスレバ、其不備ヲ解消スル必要ガア
ル、斯ウ云フコトデ、其眼目ヲ海難ノ調査
ト云フ方向ニヤッテ見テハドウデアラウカ、
斯ウ實ハ考ヘテ居ルノデアリマス、唯部內
ノコトヲ申上ゲテ甚ダ何デアリマスガ、非
常ニ忙シイ課デアリマシテ、此船員法ガ一
ツ解決ガ付キマスレバ、今ノ海員懲戒法ト
云フモノハ改正ニ手ヲ著ケテ見ヨウカト云
フ風ニ私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、是ガ
今申上ゲマシタヤウナコトニ參リマスレ
バ海員ノ爲ニ萬全トハ申サレマセヌカモ
知レマセヌケレドモ、現在ノ如キ御氣ノ毒
ナ狀況ヲ緩和シ得ルノデハナカラウカト、
斯樣ナ信念ヲ有シテ居ルノデアリマス、以
上御答ヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=95
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096・小山亮
○小山委員、 遞信大臣ニ伺ヒマスガ、管船
局長ノ御答辯ハ只今ノ通リデアリマスガ、
現在私達ハ北支問題カラ非常時局ニ直面シ
マシテ、吾々ノ仲間ハ殆ド大部分ヤハリ此
問題ノ一線ニ立ッテ、御用船ノ乘組トナッテ、
現ニ支那方面ニ働キニ行クコトニナッテ居
リマス、斯ウ云フ事態ニナリマスト、御承
知ノ通リ御用船ニナリマスト、軍ノ作戰行
動ニ伴ヒマシテ、ドウシテモ船ノ運用或ハ
船ノ操縱、サウ云フモノガ非常ニ無理ガ出
來ルノデアリマス、例ヘバ船ノ現在ノ吃水
トシテハ、殆ド入リ得ルヤ否ヤ分ラナイヤ
ウナ場所デモ、軍ノ作戰行動上必要デアル
トスレバ、サウ云フ所ニ船ヲ突込マナケレ
バナラヌ、或ハ非常ニ無理ダト思フヤウナ
所デモ、船ヲ廻シテ其處ニ入レナケレバナ
ラヌト云フ風ナ、非常ニ危險狀態ガ伴フノ
デアリマス、ダガサウ云フ非常ニ危險ガ伴
ヒマスル時ニ、尙ホ此苛烈ナル所ノ法律ヲ
以テ、ドン〓〓ト律セラレルト云フコトニ
ナレバ、到底働イテ行クコトハ出來ナイト
云フ結論ニナルノデアリマス、ソコデ私達
ハ只今ノ管船局長ノ御話ヲ伺ッテ非常ニ愉
快ニ思ッタコトハ、只今ノヤウナ此非常時局
ニ直面シテ、少クモ國內的ニ有ユル萬般ノ
モノヽ改革ヲ行ハナケレバナラヌコトハ言
フマデモナイ時期デアリマスガ、此際ニド
ウカ少クモ來ルベキ冬ノ議會位マデニハ、
只今管船局長ノ御希望デアルヤウナ海員懲
戒法ノ改正ヲスル、其法律案ヲ上程スルト
云フト云フ位ノ御誠意ノ御持合セガ、遞信
當局ニアラレルカドウカ、或ハ出來ルナラ
バ次ノ通常議會ニハ、之ヲ出スト云フ風ナ
努力ヲスルト云フ御誠意ガ、遞信當局ニオ
有リデアルカドウカ、私ハ伺ヒタイノデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=96
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097・永井柳太郎
○永井國務大臣 小山君ノ御希望ハ御尤デ
アリマスガ、私共トシマシテモ、出來ルダ
ケ早ク御希望ニ應ジ得ルヤウナ方法ヲ執リ
タイト思ッテ居リマス、併シ次ノ議會ニ提出
スルカドウカト云フコトヲ、此處デ言明ス
ル程ノマダ確信ハ持ッテ居リマセヌ、是ハ篤
ト關係ノ者トモ相談ヲ致シマシテ、出來ル
ダケ調査ヲ急ガセマシテ、出來ルダケ早イ
機會ニサウ云フヤウナ改正ヲ致シタイ、斯
ウ云フヤウニ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=97
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098・小山亮
○小山委員 私ハ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=98
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099・漢那憲和
○漢那委員長 別ニ質問ノ御通〓モアリマ
セヌカラ、質問ハ是デ終了シタモノト認メ
マス、次ハ明後日討論ニ入リタイト思ヒマ
スルカラ、ドウカ左樣御承知ヲ願ヒマス、
細カイコトハ公報ヲ以テ後デ御知ラセ致シ
VV、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後四時四十分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007112069X00219370731&spkNum=99
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