1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十三年三月九日（水曜日）午前十時三十九分開議
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議事日程第二十一號
昭和十三年三月九日
午前十時開議
第一 農地調整法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第二 市街地建築物法中改正法律案（政府提出） 第一讀會の續（委員長報告）
第三 有價證券業取締法案（政府提出） 第一讀會の續（委員長報告）
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=0
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001・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報〓ヲ致サセマ
ス
〔石橋書記官朗讀〕
昨八日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長
ノ氏名左ノ如シ
重要鑛物增產法案特別委員會
委員長伯爵副島道正君
副委員長男爵松田正之君
不動產融資及損失補償法中改正法律案特
別委員會
委員長男爵園田武彥君
副委員長子爵西大路吉光君
有價證劵引受業法案特別委員會
委員長子爵三室戶敬光君
副委員長男爵高橋弓彥君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
昭和十二年度歲入歲出總豫算追加案(第
二號)
昭和十三年三月十日
昭和十二年度各特別會計歲入歳出豫算追
加案(特第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件(追第一號)
臨時軍事費豫算追加案(臨第一號)
昭和十三年度歲入歲出總豫算追加案第
號
昭和十三年度各特別會計歲入歲出豫算追
加案(特第一號)
農地調整法案
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通第七十三囘帝
國議會政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ
受領セリ
遞信省所管事務政府委員
遞信書記官大野勝三君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=1
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002・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、日程第一、農地調整法案、
政府提出、衆議院送付、第一讀會、有馬農
林大臣
〔左ノ送付文及法案ハ朗讀ヲ經サ
ルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之
ニ傚フ〕
農地調整法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十三年三月八日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
(小字及-ハ衆議院ノ修正
ナリ)
農地調整法案
農地調整法
。互讓相助ノ精神ニ則リ
第一條本法ハ〓耕作者ノ地位ノ安定及
農業生產力ノ維持增進ヲ圖リ以テ農村
ノ經濟更生及農村平和ノ保持ヲ期スル
爲農地關係ノ調整ヲ爲スヲ以テ目的ト
ス
第二條本法ニ於テ農地トハ耕作ヲ目的
トスル土地ヲ謂フ
第三條農地ノ所有者又ハ耕作者ハ兵役
其ノ他命令ヲ以テ定ムル事由ニ因リテ
農地ヲ自ラ耕作シ又ハ管理スルコト能
ハザルトキハ市町村其ノ他命令ヲ以テ
定ムル團體ニ農地ノ管理又ハ買取ノ申
出ヲ爲スコトヲ得
前項ノ申出アリタル場合ニ於テハ同項
ノ團體ハ命令ノ定ムル所ニ依リ農地ノ
管理又ハ買取ヲ爲スコトヲ得
第四條道府縣、市町村其ノ他命令ヲ以
テ定ムル〓體ガ農村ノ經濟更生ノ爲命
令ノ定ムル所ニ依リ自作農創設維持又
ハ農地ノ貸付ノ事業ヲ行フ場合ニ於テ
之ニ要スル土地ヲ取得シ又ハ使用スル
ノ必要アルトキハ行政官廳ノ認可ヲ受
ケ土地ノ所有者其ノ他之ニ關シ權利ヲ
有スル者ニ對シ土地ノ讓渡又ハ使用收
益ノ權利ノ設定若ハ讓渡ニ關スル協議
ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ團體ガ未墾地ヲ開發シテ同項ノ
事業ヲ行ハントスル場合ニ於テ同項ノ
規定ニ依ル協議調ハザルトキハ開發セ
ントスル未墾地其ノ他其ノ開發ニ必要
ナル土地又ハ其ノ使用收益ノ權利ヲ收
用又ハ使用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル收用又ハ使用ニ關シ
テハ土地收用法ヲ適用ス
第五條行政官廳農村ノ經濟更生ノ爲必
要アリト認ムルトキハ農地ノ所有者ヲ
シテ農地處分ニ當リ命令ノ定ムル所ニ
依リ豫メ市町村農地委員會ニ其ノ旨ヲ
通知セシムルコトヲ得
第六條命令ヲ以テ定ムル自作農創設維
持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレタ
ル自作地ノ所有者ハ命令ノ定ムル場合
ヲ除クノ外行政官廳ノ認可ヲ受クルニ
非ザレバ其ノ自作地ノ讓渡若ハ貸付ヲ
爲シ又ハ之ニ付物權ヲ設定スルコトヲ
得ズ
第七條前條ノ自作農創設維持ノ事業ニ
依リ創設又ハ維持セラレタル自作地ニ
付テハ其ノ旨ノ登記ヲ爲スコトヲ要ス
前項ノ登記ヲ爲スニ非ザレバ前條ノ自
作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維
持セラレタル自作地タルコトヲ以テ第
三者ニ對抗スルコトヲ得ズ
第一項ノ規定ニ依ル登記ニ關シ必要ナ
ル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條農地ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ
農地ノ引渡アリタルトキハ爾後其ノ農
地ニ付物權ヲ取得シタル者ニ對シ其ノ
效力ヲ生ズ
民法第五百六十六條第一項及第三項ノ
規定ハ登記セザル賃貸借ノ目的タル農
地ガ賣買ノ目的物ナル場合ニ之ヲ準用
ス
民法第五百三十三條ノ規定ハ前項ノ場
合ニ之ヲ準用ス
〓ガ宥恕
第九條農地ノ賃貸人ハ賃借人。二信義
スベキ事情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滯納スル
ニ反シタル行爲ナキ限リ賃貸借ノ解約
等
ヲ爲シ又ハ更新ヲ拒ムコトヲ得ズ但シ
土地使用ノ目的ノ變更又ハ賃貸人ノ自
作ヲ相當トスル場合其ノ他正當ノ事由
アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
當事者ガ農地ノ賃貸借ノ期間ヲ定メタ
ルトキハ當事者ガ期間滿了前六月乃至
一年內ニ相手方ニ對シ更新拒絕ノ通知
又ハ條件ヲ變更スルニ非ザレバ更新セ
ザル旨ノ通知ヲ爲サザルトキハ從前ノ
賃貸借ト同一ノ條件ヲ以テ更ニ賃貸借
ヲ爲シタルモノト看做ス但シ賃貸人ノ
疾病ニ因リテ自ラ耕作スルコト能ハザ
ル爲其ノ他特別ノ事由ニ因リテ一時賃
貸借ヲ爲シタルコト明ナル場合ハ此ノ
限ニ在ラズ
農地ノ賃貸借ノ當事者賃貸借ノ解約ヲ
爲シ又ハ更新ヲ拒マントスルトキハ命
令ノ定ムル所ニ依リ豫メ其ノ旨ヲ市町
村農地委員會ニ通知スベシ
第二項竝ニ民法第六百十七條及第六百
十八條ノ規定ニ異ル小作條件ニシテ賃
借人ニ不利ナルモノハ之ヲ定メザルモ
ノト看做ス
第十條小作關係ノ爭議ニ付公益上必要
アリト認ムルトキハ小作官ハ小作調停
法ニ依ル調停ノ申立ヲ爲スコトヲ得
小作關係ノ爭議ニ付訴訟ガ繫屬スルト
キハ受訴裁判所ハ職權ヲ以テ小作官ノ
意見ヲ聽キ事件ヲ小作調停法ニ依ル調
停ニ付スルコトヲ得
第十一條小作調停法ニ依ル調停ノ爲必
要アリト認ムルトキハ裁判所ハ職權ヲ
以テ小作官ノ意見ヲ聽キ調停前ノ措置
トシテ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル裁判ハ調停事件ノ繋
屬スル裁判所ニ於テ非訟事件手續法ニ
依リ之ヲ爲ス
第一項ノ規定ニ依ル裁判ニ違反シタル
者ハ調停事件ノ繫屬スル裁判所ニ於テ
五百圓以下ノ過料ニ處スルコトヲ得
非訟事件手續法第二百七條及第二百八
條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
第十二條小作調停法ニ依ル調停委員會
ニ於テ調停成ラザル場合ニ裁判所相當
ト認ムルトキハ職權ヲ以テ小作官及調
停委員ノ意見ヲ聽キ當事者雙方ノ利益
ヲ衡平ニ考慮シ一切ノ事情ヲ斟酌シテ
調停ニ代ヘ小作關係ノ在續、小作條件
ノ變更其ノ他爭議ノ解決上必要ナル裁
判ヲ爲スコトヲ得此ノ裁判ニ於テハ小
作料ノ支拂、小作地ノ引渡其ノ他財產
上ノ給付ヲ命ズルコトヲ得
前條第二項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル
裁判ニ之ヲ準用ス
第一項ノ規定ニ依ル裁判ニ對シテハ卽
時抗〓ヲ爲スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ
二週間トス
前項ノ卽時抗〓ハ執行停止ノ效力ヲ有
ス
第一項ノ規定ニ依ル裁判確定シタルト
キハ裁判上ノ和解ト同一ノ效力ヲ有ス
第十三條小作關係ノ爭議ヲ除クノ外相
隣關係其ノ他農地ノ利用關係ニ付爭議
ヲ生ジタルトキハ當事者ハ裁判所ニ調
停ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於
テハ小作調停法及第十條乃至前條ノ規
定ヲ準用ス
第四條第一項ノ規定ニ依ル協議調ハザ
ルトキハ同條同項ノ團體ハ裁判所ニ調
停ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於
テハ小作調停法ヲ準用ス
第十四條裁判所第十二條又ハ前條第一
頃ノ規定ニ依リ小作關係ノ存續、小作條
件ノ變更其ノ他爭議ノ解決上必要ナル裁
判ヲ爲サントスル場合ニ於テ必要アリト認
ムルトキハ市町村農地委員會又ハ道府
縣農地委員會ノ意見ヲ聽クコトヲ得
第十五條自作農創設維持、小作關係ノ
調整、農地ノ交換分合其ノ他農地ニ關
スル事項ヲ處理スル爲市町村ニ市町村
農地委員會ヲ、道府縣ニ道府縣農地委
員會ヲ置クコトヲ得
市町村農地委員會及道府縣農地委員會
ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條左ニ揭グル不動產ノ取得ニ對
シテハ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ
第三條又ハ第四條ノ團體ガ第三條
又ハ第四條ノ事業ノ爲ニスル土地ノ
取得
二第四條又ハ第六條ノ自作農創設維
持ノ事業ニ依ル個人ノ土地ノ取得
三第四條又ハ第六條ノ自作農創設維
持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレ
タル土地ノ所有者ガ其ノ創設又ハ維
持ノ條件ヲ具備セザルニ至リタル場
合ニ於ケル事業者ノ土地ノ取得
第十七條本法ニ於テ町村トアルハ町村
制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズ
ルモノトス
附則
第十八條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ
之ヲ定ム
第十九條命令ヲ以テ定ムル自作農創設
維持ノ事業ニ依リ本法施行前ニ創設又
ハ維持セラレタル自作地ニ付テハ其ノ
旨ノ登記ヲ爲スコトヲ得
第六條、第七條第二項及第三項竝ニ第
十六條第二號及第三號ノ規定ハ前項ノ
自作地ニ關シテ之ヲ準用ス
第二十條第八條及第九條ノ規定ハ本法
施行ノ際現ニ存スル農地ノ賃貸借ニモ亦
之ヲ適用ス但シ本法施行ノ際現ニ存ス
ル農地ノ賃貸借ニシテ本法施行後一
年內ニ其ノ期間滿了スベキモノニ付
キ當事者ガ其ノ期間滿了前一年內ニ
相手方ニ對シテ爲シタル更新拒絕ノ
通知又ハ條件ヲ變更スルニ非ザレバ
更新セザル旨ノ通知ハ第九條第二項ノ
期間內ニ爲サザルモノト雖モ之ヲ同條
同項ノ期間內ニ爲シタルモノト看做ス
及第十一條乃至
第二十一條第十條第二項、第十一條、第
十二條、第十三條第一項及第十四條ノ
規定ハ本法施行ノ際現ニ繫屬スル小作
關係其ノ他農地ノ利用關係ニ關スル訴
訟事件又ハ調停事件ニモ亦之ヲ適用ス
第二十二條登錄稅法第十九條但書中
「第八號、第九號」ヲ「第八號乃至第九號
ノ四」ニ改ム
同法同條第八號中「自作農ノ創設維持
又ハ」及「北海道府縣市町村、產業組
合、產業組合聯合會、」ヲ削リ同號ノ次
ニ左ノ一號ヲ加フ
八ノ二農地調整法第四條、第六條
又ハ第十九條ノ自作農創設維持ノ
事業ニ依ル個人ノ土地所有權ノ取
得ノ登記
同法同條第九號ヲ左ノ如ク改ム
九農地調整法第三條若ハ第四條ノ
團體又ハ第六條若ハ第十九條ノ事
業ヲ行フ者ニ對シ同法第三條、第
四條、第六條又ハ第十九條ノ事業ニ
要スル資金ノ貸付ヲ爲ス者カ其ノ
貸付ノ爲ニスル抵當權ノ取得ノ登記
九ノ二農地調整法第三條又ハ第四
條ノ團體カ同法第三條又ハ第四條
ノ事業ノ爲ニスル土地ノ權利ノ取
得ノ登記
九ノ三農地調整法第四條、第六條
又ハ第十九條ノ事業ヲ行フ者カ自
作農創設維持ノ爲ニスル抵當權ノ
取得ノ登記
九ノ四農地調整法第七條又ハ第十
九條ノ規定ニ依ル登記
同法同條第十二號ヲ左ノ如ク改ム
十二農地調整法第四條、第六條又
ハ第十九條ノ自作農創設維持ノ事
業ニ依リ創設又ハ維持セラレタル
土地ノ所有者カ其ノ創設又ハ維持
ノ條件ヲ具備セサルニ至リタル場
合ニ於ケル事業者ノ土地所有權ノ
取得ノ登記
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=2
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003・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 只今議題ト
ナッテ居リマス農地調整法案ニ付キマシテ、
其ノ大體ヲ御說明致シタイト存ジマス、申
ス迄モナク農地ハ農業經營及農家生活ノ基
礎デアリマスルト共ニ、又一面國家ノ存立
發展ノ基本條件タル人的資源及〓糧資源ノ
源泉デアリマシテ、農地面積ノ廣狭、其ノ
所有關係、小作關係、其ノ他農地ノ利用關
係如何ハ、直接農家ノ生活及農村社會經濟
ニ重要ナル關係ヲ有スルバカリデナク、延
イテ國家ノ發展上ニモ至大ナル關係ガアル
ノデアリマス、然ルニ我ガ國ノ現狀ヲ顧ミ
マスルニ、農家一戶當リノ平均耕作面積ハ
一町步餘ニ過ギズ、而モ其ノ所有關係ニ於
テハ自作農家ハ僅二三割餘デ、爾餘ノ七
割弱ニ當ル農家ハ、多少ノ差ハアレ他人ノ農
地ヲ耕作スルノデアリマシテ、自作地ハ農
地總面積ノ五割三分、小作地ハ四割七分弱
ト云フ割合ヲ示シ、殆ド農地ヲ所有セザル
所謂純小作農家ガ全農家ノ約二割七分ニ上
ボル情況デゴザイマス、而シテ其ノ小作關
係ニ付キマシテハ、往々ニシテ實情ニ卽セ
ザルモノガアリ、又各地ニ小作爭議、殊
土地返還ニ關スル爭議ガ著シク增加シテ、
其ノ解決ハ一層困難トナッテ參リマシタコ
トハ、農家農村ニ取ッテハ固ヨリノコト、邦家
ノ爲ニ誠ニ遺憾ニ存ズル次第デアリマス、從ッ
テ此ノ農地關係ノ調整、改善ヲ圖ルコトハ、誠
ニ緊要ト言ハネバナラヌノデアリマシテ、殊ニ
現下ノ時局竝ニ時局後ノ情勢ノ推移等ヲ考
ヘマスルト、此ノ際農村ニ於ケル耕作農家
ノ生活ノ安定向上、農業生產力ノ維持增進
ヲ圖リ、以テ農村經濟ノ更生振興、農村平
和ノ保持ヲ期スルコトハ一層ノ急務トスル
所デアリマス、之ガ爲ニハ固ヨリ各方面ニ
亙ッテ諸般ノ農村對策ヲ講ズベキ必要ノア
リマスコトハ勿論デアリマスガ、更ニ直接
農地ニ關スル諸般ノ關係モ亦調整スルノ必
要ガアルノデアリマス、而シテ之ニ付テハ
農村民ノ自覺協調ニ俟ッテ之ヲ期スベキモ
ノモ尠クアリマセヌシ、又政府ニ於テモ未
墾地ノ開發、農地ノ改良、農業水利ノ改善、
自作農ノ創設維持其ノ他農地ニ關シ、ソレ
ゾレ事情ノ許ス限リ諸般ノ施設ヲ講ジツヽ
アル次第デアリマスガ、尙是ト相俟ッテ法制
ノ整備ヲ要スルモノモ亦尠クナイノデアリ
マス、農地調整法案ハ右ニ述ベマシタ趣旨
ヲ以チマシテ、兵役其ノ他特別ノ事情アル
農家ノ爲ノ農地ノ管理又ハ買取ニ關スル事
項、農村經濟更生ノ爲ニ、道府縣、市町村
等ノ團體ガ、自作農ノ創設維持又ハ農地ノ
貸付ノ事業ヲ行フ場合ニ於ケル土地ノ取
得、又ハ使用ニ關スル事項、自作農創設維
持ノ事業ニ依リ創設維持セラレタル自作地
ノ保全ニ關スル事項、農地ノ賃貸借ノ存續
消滅ニ關スル事項、小作關係其ノ他農地ノ
利用ニ關スル爭議ノ調停ニ關スル事項、農
地委員會ニ關スル事項等ニ付テ規定致シテ
居ルノデアリマス、以上ハ本案提出理由ノ
大體デアリマスガ、何卒御審議ノ上御協贊
アラムコトヲ希望スル次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=3
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004・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 質疑ノ通〓ガゴ
ザイマシタカラ、是ヨリ發言ヲ御許シ致シ
やく、靑木才次郞君
〔靑木才次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=4
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005・青木才次郎
○青木才次郞君 私ハ未曾有ノ重大時局ニ
直面致シマシテ、近衞首相以下各閣僚諸公
ノ御奮鬪ニ對シマシテ、先ヅ深甚ナル敬意
ト感謝ノ意ヲ表スル者デアリマス、然レド
モ只今上程セラレマシタル農地調整法案、
我ガ農政上最モ重大ナル法案デアリマス、
其ノ運用ノ如何ニ依リマシテハ國民思想ニ
變革ヲ來シ、經濟組織ヲ破壞シ、社會ノ秩
序ヲ紊スノ危險ヲ含ムノデハナイカト疑ハ
レマスルガ故ニ、敢テ此ノ質問ヲ爲ス所以
デアリマス、第一、此ノ法案ハ、農村ノ平
和ヲ紊シ、小作ノ爭議ヲ頻發セシメ、地主
小作人ノ對立抗爭ヲ激化シ、階級闘爭ヲ意
識セシメマシテ、其ノ理論ヲ〓へ、其ノ實
行運動ニ訓練ヲ與フル虞アルモノト思ヒマ
ス、實ニ國家將來ノ爲メ深甚ナル論議〓究
ヲ要スル重要法案デアルト信ズルノデアリ
やっ、政府ハ第一條ノ初メニ於キマシテ、
耕作者ノ地位ノ安定、之ヲ御求メニナッテ居
ルノデアリマス、此ノ法案ヲ施行シナケレ
バ、耕作者ノ地位ノ安定ガ得ラレヌト云フ
理由ガ何處ニアルカ、不安定ナリト御認メ
ニ相成ルナラバ其ノ理由ヲ承リタイ、私ノ
見ル所ニ依リマスト、只今ハ地主ノ都合ニ
依リマシテ、耕地ノ貸付ハ解約ガ出來ルコ
トニナッテ居リマス、然レドモ地主ガ勝手ニ
解約ニナッテ居リマス土地ガ何處ニアルカ、
假ニアリト致シマシテモ、蓋シ九牛ノ一毛
デアラウト私ハ思フノデアリマス、普通選
擧施行セラレマシテ以來、我ガ國ノ現狀ハ、
地主ト小作人ガ其ノ位置ヲ〓倒致シマシテ、
小作人ガ常ニ優勝ノ地位ニ居ルコトハ一般
ニ顯著ナル事實デアリマス、例ヘテ申上ゲ
マスナラバ、期限ノ約束ノナイ農地ヲ、地
主ガ自ラ耕サムトシテ解約ヲ申込ミマシテ
モ、小作人ハナカ〓〓容易ニ應ジナイノデ
アリマス、地主ハ巳ムヲ得ズ訴訟ヲ起ス、
訴訟ヲ起シタ場合ニ、小作料ノ滯納デモア
レバ又格別デスガ、滯納デモ餘リナカッタ際
ニ於ケル裁判所ノヤリ方ヲ見マスルト、ナ
カナカ判決ヲ下サヌノデアリマス、而シテ
結果ハ調停ニ付サレ、調停ノ結果ハ地主ガ
泣キ寢入リニナル、是ガ現在農村ノ實情デ
アリマス、又此ノ小作料ノ支拂ニ對シマシ
テ、年々風害デアルトカ、或ハ蟲害デアル
トカ、早害デアルトカ、僅カノコトヲ針小
棒大ニ申立テマシテ、村內ノ小作人ノ聯盟
ヲ作リ、減額又ハ免除ヲ强要スル、サウシ
テ滯納致シマシテ、地主ヲ泣カセ得々タル
モノガ比々皆然リデアリマス、小作料ノ不
納、滯納ハ勿論ノコト、地主ガ正當ナル小
作料ノ引上トカ或ハ耕地ノ返還ヲ求メマシ
タ場合ニ、常ニ地主ガ不利デアリマス現在
ノ狀態デアルノニ、耕作者ノ現狀ガ不安定
ナリト云フ觀察ノ根據ハ何レニアルノデア
リマスカ、之ヲ御明示願ヒタイノデアリマ
ス、其ノ次ニ、第二ニ御伺ヒ致シマスルノ
ハ、此ノ法案ハ現ニ大都市ニ行ハレテ居リマ
スル借地法ト大體似テ居ルヤウデアリマス、
借地法ヲ制定サレマシタ當時ノ借地人ハ、
此ノ借地法ノ御蔭ニ依リマシテ、多大ノ借
地權利ヲ得ラレ、大ナル利益ヲ受ケテ居リ
マスガ、其ノ半面ニ於キマシテ、借地法ガ
施行セラレタ後ニ於テ、借地セムトスル人
ハ大ナル不利益ヲ蒙ッテ居ルノデアリマス、
非常ニ困難ナル實情ニアルノデアリマス、
此ノ事ハ現ニ施行サレテ居リマス都市バカ
リヂヤナイ、地方ノ中小都市ニ於キマシテ
モ、將來大都市ノ如ク此ノ借地法ヲ施行サ
レテハ大變ダ、空ケテ置クヤウデモ貸地ス
ベカラズ、斯ウ云フ譯デ貸手ガナイ、此ノ
借地法ノ齎シマシタル惡影響ハ實ニ大ナリ
ト私ハ思ッテ居ルノデアリマス、此ノ農地調
整法案ガ實施サレマスルト、丁度此ノ借地
法ノ借地人ト同樣ニ、現在ノ小作人ハ救ハ
レマス、小作地ノ安定モ得ラレ、莫大ナル
小作ノ權利金モ得ラレマスガ、此ノ農地調整
法施行後ニ於キマシテ、農地ヲ借リ一家ヲ立
テヨウトスル者ハ、一家ヲ立テヨウトスル
所謂農村ノ次三男ハ、農地ヲ借リルノニ非
常ニ困難ヲ生ズルノデアリマス、困難ヲ感
ジタ結果ハ已ムヲ得ズ都市ニ走ルヨリ外ニ
途ナシ、斯ウ云フコトニナルコトハ火ヲ睹
ルヨリモ明カナリト私ハ信ジテ居ルノデア
リマス、之ガ果シテ我ガ國家ノ爲ニ有益デ
アルヤ否ヤ、政府ガ有益ナリト御認メニナッ
タ點ヲ伺ヒタイノデアリマス、第三ハ本案
第一條ニ依リマスト、耕作者ノ利益ヲ圖ル
ト云フコトヲ目的ニシテ居リマシテ、恰モ
地主ノ利害ハ眼中ニ置カナイヤウニ見受ケ
ラレテ居ルノデアリマス、衆議院ニ於ケル
委員會ノ速記錄ヲ拜見致シマスルト、農林
大臣ノ答辯ハ何遍モ此ノ意味ヲ繰返シテ居
ラレル、我ガ國農村ノ是迄發達致シマシタ
ルコトハ、中小ノ地主ニ負フ所ガ多大デアル、
是ハ私ガ申上ゲマセヌデモ御承知ノ通リデ
アリマス、然ルニ〓養アリ、品性ノアル地主
ガ如何ニ農村ノ向上ニ貢獻シタカ、旣往ノ
事實ヲ顧ミナイデ、徒ニ革新思潮ニ眩惑シ、
中小地主ヲ滅シマシテ、其ノ有スル祖先傳
來ノ所有地ヲ剝奪セムトスルモノノ如ク思
ハレルノデアリマス、政府ハ是等不耕作中
小地主、此ノ人々ノ將來ニ對シマシテ、如
何ナル考ヲ御持チニナッテ居ルノデアリマ
スカ、私ハ農村振興ノ樞軸ハ將來モ亦既往
ト同ジク、實ニ是等不耕作中小地主ニアル
ト思フノデアリマス、其ノ詳細ナル理由ハ
之ヲ申上ゲル必要モナク、苟モ日本農村ノ
實情ヲ知ル人デアリマスナラバ、之ヲ否認
スルコトハ私ハ出來ナイト思フノデアリマ
ス、政府ノ御所見如何デアリマスカ之ヲ伺
ヒタイ、第四、現時ノ世相ハ農地ノ所有權
ハ權利デナクッテ、寧ロ租稅、公課其ノ他社
會的負擔ヲ負フ所ノ義務對象デアリマス、
僅カニ因襲ニ由ル所ノ所有慾ト優越感ニ依ッ
テ維持サレテ居ルノデアリマスガ、此ノ法
案ガ提出サレタト云フコトヲ聞キマシテ、
旣ニ賣逃ゲヲシヨウトシテ居リマス地主ガ
各縣、各地方ニ見受ケラレテ居リマスル今
日、若シ此ノ法案ガ通過致シマスルト、農
地ハ賣物ガ殺到シ、遂ニ無價値、古新聞ニモ
劣ルヤウニナルコトハ火ヲ睹ルヨリモ明
カナリト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、其
ノ結果ハ農村民ノ不動產ノ愛著心、此ノ愛
著心ヲ一朝ニシテ失ヒ、延イテハ國家ノ基
礎タル愛〓、愛國ノ精神ヲ萎靡セシムル虞
アリト憂ヘテ居ルノデアリマス、政府ノ御
所見如何デアルカ、是ガ第四ノ質問事項デ
アリマス、其ノ次ハ、本案ノ農地委員會ハ
單ニ決議機關ニ止リマセヌ、强權ヲ持ッテ居
リマスル所ノ執行機關デアリマシテ、而モ
其ノ權限タルヤ驚クベキ廣汎デアリマス、
苟モ農地ニ關スル限リニ於テ、農地委員會
ヲ地主ガ操縱致シマスレバ、ドンナ横暴モ
出來ルト思ヒマス、反對ニ之ヲ小作人ガ占
領致シマスルト、小作人ハ永久ニ其ノ農地
ヲ返サズ、小作料モ支拂ヒマセヌ、其ノ小
作ノ權利ハ自由ニ賣買ガサレマシテ、稅金
ダケハ地主ニ負擔サセル、此處迄行カヌト
モ限ラヌト思ヒマス、詰リ地主デモ小作側
デモ强イ者ガ勝チ、弱イ者ヤオトナシイ者
ハ結局土地ヲ奪ハレルト云フ所迄行クノヂ
ヤナイカト思ヒマス、今日ノ農村ニ於キマ
シテ何レガ强者デアリマスカ、普通選擧施
行ノ結果、事實ニ於テ、此ノ選擧運動ハ非
常ニ惡化シテ居リマス、此ノ選擧運動ハ最
下級ノ人々ノ手ニ私ハ落チテ居ルト思ヒマ
ス、村ノ中堅人物ハ馬鹿々々シイノデ候補
ニ立チマセヌ、村會議員ノ素質ハ年一年ト
低下致シテ居ルノデアリマス、地方ニ依リ
マスト、襤褸半纏ヤ大胡床ノ手合ガ村會議
員トナリマシテ、或ハ甲派ニ味方シ、或時
ハ乙派ニ與シ、「キャスティング·ヴォート」
ヲ握リマシテ、村政ヲ攪亂致シテ居ル者ノ
アリマスコトハ旣ニ御承知ノ通リデアリマ
ス、村長ハ御承知ノ如ク村會議員ノ選擧デ
アリマス以上、其ノ結果知ルベシデアリマ
ス、村長官選論ガ起ッタノモ無理ガナイ、斯
ク思フノデアリマス、斯クノ如キ實情ノ下
ニ於キマシテ生レ來タル所ノ農地委員會ノ
性格果シテ如何、農地委員會ノ此ノ委員ノ
任命權ハ地方長官ニ與へテ居リマスガ、其
ノ內容ハ村長ノ上申ニ基ク、然レドモ小作
組合ノ强化致シテ居リマス地方ニ於キマシ
テ、地方長官ガ其ノ村長若シクハ其ノ村人
ノ意思ニ反シタ委員ヲ任命スルコトガ出來
マスカ、若シ地方長官ガ村長若シクハ村人
ノ意思ニ反シタ委員ヲ任命シタト致シマスル
ナラバ、村人ハ大擧シテ縣廳ニ押掛ケテ、其
ノ委員ヲ忌避致シマシテ、別ノ人ヲ取換ヘテ
吳レト陳情シ、或ハ强要シ、玆ニ騒ギヲ反覆
スルコトニナリマシテ、結局階級鬪爭ノ訓
練ヲ爲スニ至ルト思フノデアリマス、又ソレ
程表立チマセヌデモ、表面指摘スル程ノ人
物デナイト致シマシテモ、小作人ノ味方ヲ
スル委員ガ多數ニナルコトヲ防グコトガ出
來マスカ、私ハ之ヲ心配スルノデアリマス、
由來利害ノ伴ハヌ所ノ委員會、若シクハ利
害ヲ同ジウスル所ノ委員會ハ、衆智ヲ集メ
マシテ好イ結果ヲ生ム場合ガ多々アリマス、
本案ノ如キ利害ノ相反スル人ヲ集メマシテ
委員會ヲ作リ、時々妥協ニ依リマシテ利益
ヲ公平ニ分ケロト云フヤウナ委員會ハ、私
ハ成功スル筈ガナイト思フ、必ズヤ抗爭、
對立、嫉視、反噬、極マル所ナク、所期ノ
目的ト相反スル方向ニ行ッテシマフコトハ、
普通人ノ行動トシテ已ムヲ得ヌト思フノデ
アリマス、總テノ人ヲ聖人君子ト假定致シ
マスルノハ共產主義者ノ主張デアリマスガ、
我々ノ與スル能ハザル所デアリマス、我ガ
國ニ起リマシタル小作爭議ノ大部分ハ、其
ノ原因ハ小作人ニモアラズ、又地主ニモア
ラズ,何カ目的ノアリマスル第三者ガ、小
作人ヲ煽動致シマシテ爭議費用ヲ取集メ、
爭議ノ永續ヲ計ッテ居ル、甚ダシキニ至リマ
シテハ途中ニ於テ地主ニ味方シ、地主カラ
モ相當ノ金ヲ取ル、私ハ其ノ事實モ知ッテ居
リマスガ申上ゲマセヌ、終リノ方ニ行クト
又小作人ニ味方ヲスル、小作爭議ヲ營業ニ
シテ居ルヤウナ人ガ私ハ相當アルノダト思
フノデアリマス、而モ斯ウ云フ人々ガ相當
ノ有識階級ニアル、政府ハ特ニ此ノ點ニ御
留意スル必要アリト私ハ思フ、私ハ事實ヲ
知ッテ居ルノデアリマス、人ノ名譽ヲ尊ブ意
味ニ於テ留保シテ置ク、又此ノ地方農村ニ
於ケル村會議員中、〓養アリ資產アル人ノ
議員ノ意見ガ多ク用ヒラレル、如何ハシキ
思想ヲ持ッタル階級カラ出テ來ル議員ノ意
見ガ多ク用ヒラレナイ、用ヒラレル議員ヲ
何トナク嫉ム、憎ム、遂ニ何人カヲ以テ有
力議員ノ宅ヘ押掛ケサセル、曰ク、君ガ議員
ヲシテ居ルト、他ノ議員ハ言ヒタイコトモ
言ヘナイデ、村ノ事ハ君ニバカリ「リードㄴ
サレル、詰リ村ノ爲ニナラヌカラ議員ヲ辭
メテ吳レト來ルノデアリマス、辭メルト辭
メナイノハ自由デアリマスガ、若シ之ヲ辭
メナイ場合、辭メナイ場合ニハ腕力デアリ
マツー、ブン擲ルノデアリマス、現ニブン擲
ラレタ人ガアルノデアリマス、已ムヲ得ズ
辭メチヤッタ、若シコンナコトガ二年モ三年
モ續クヤウナラ、コンナ處ニ居ラレナイト
言ッテ居リマス、私ノ友人ニアリマス、〓黨
ニ重ンゼラレ、村ヲ愛シテ居リマスル有力
議員ハ、ソンナ譯デ辭表提出ノ已ムヲ得ザ
ルニ至ルノデアリマス、邪ハ榮エ、正ハ滅
ブ、愛〓ノ念ニ燃エテ居リマスル人格者ハ
遂ニ心ナラズモ故〓ヲ捨テ都會ニ移住スル
者日ニ多キヲ加フル今日ニ於キマシテ、斯
カル實情ニアル農村ニ於キマシテ、本法ノ
求ムル所ノ農地委員ノ職責ガ嚴正ニ、公平ニ
完ウシ得ル力ヲ疑フノデアリマス、現在ノ
地方ノ情況ニ對シテ實例ヲ申上ゲマスルナ
ラバ幾ラデモアリマスルガ、長クナリマス
カラ是ハ省略致シテ置キマス、政府ハ如何
ナル理由ニ依ッテ、極メテ的確ナル所ノ委員
會ヲ構成シ得ルコトガ出來ルト思ッテ居ル
ノデアリマスカ、苟モ斯クノ如キ大法案ヲ
御提出ニナル以上、單ニ認メルモノデアル、
或ハ信ズルモノデアルト云フヤウナ、認定
的言葉ヲ以テ決スルモノデハナイト私ハ思
フノデアリマス、殊ニ有馬農相ガ識見高邁
ニシテ、天下ニ令名ノアル御方デアリマス、
思慮深遠ノ御方デゴザリマス、故ニ斯カル
御提案ヲナサレマス以上、天下萬衆ヲシテ
少クトモ之ニ敬服セシメ、首肯セシムルニ
足ル論據ヲ御持チノコトト思ヒマス、決シ
テ獨斷的ニ、單ニ信ズルモノデアルト云
フガ如キコトデ御提案ニナッタノヂヤナイ
ト私ハ思フ、農地委員會ガ本法ノ與ヘ
テ居リマスル職責ヲ完ウシ得ルト認メタ
ル所ノ理由如何、其ノ證憑スベキ所ノ論據
如何、之ガ第五ノ質問デアリマス、第六ハ、
此ノ法案ヲ假ニ實施シタト致シマシテ、
政府ノ期待シテ居リマスルヤウナ效果ヲ擧
ゲムトスルナラバ、私ハ此際、少クトモ此
ノ法案ト共ニ市町村制ヲ改正シ、市町村會
議員ノ選擧ヲ改正シ、之ヲ等級選擧ニ復舊
サセテ、議員ノ素質ヲ向上セシムル必要ガ
最モ急ナリト、斯ウ云フ風ニ見テ居ルノデ
アリマス、此ノ點ニ關聯致シマシテ內務大
臣ノ御意見ヲ伺ヒ得レバ幸ヒダト思ヒマス、
其ノ次ハ、政府ハ曩ニ借地法案ニ依リマシ
テ、御承知ノ如ク都市ノ借地人ヲ救濟致
シ、今又此ノ農地調整法案ニ依リマシテ小
作人ヲ救ハムト欲シテ居リマスガ、然ル以
上農村ニハ御承知ノ通リ四十億ノ農村負債
ガアルノデアリマス、政府ハ更ニ進ミマシ
テ此ノ農村負債ニ對シ、債務者ニ利益ヲ得
セシメル法律ヲ御設ケニナリマセヌケレバ
公平ヲ失スルト思フノデアリマス、現行金
錢債務調停法ヲ擴張致シマシテ、借地法若
シクハ此ノ農地調整法案第九條ニアル如
ク、負債ノ限度ヲ撤廢致シ、債權者ハ債務
者ニ信義ニ反シタル行爲ナキ限リ、貸借ノ
解約ヲ爲スコトヲ得ズ、又ハ更新ヲ拒ムコ
トヲ得ズ、或ハ債務者ニ不利ナル約束ハ之
ヲ爲サザルモノト看做スト云フガ如キ法案
ヲ提出スル御意思アリヤ否ヤ、私ハ斯ウ云
フ法案ノ提出ヲ敢テ望ムトハ申シマセヌ、
望ムトハ申シマセヌガ、農地ニノミ斯クノ
如キ提案ヲ爲シテ地主ヲ苦シメル、同ジク
農村ニ投資シテアリマス所ノ金錢貸付方面
ニ對シマシテハ馬耳東風、我關セズ、是デ
ハ私ハ公平ヲ缺クト思フ、ノミナラズ政府
ノ方針何レニアリヤ、之ヲ疑フノデアリマ
ス、政府ノ御所見ヲ承リタイ、今日ノ重大
時局ハ國民ノ協心戮力ヲ最モ必要トスル時
デアリマス、然ルニ農村ノ平和ヲ害シ、農
村ヲ混亂セシメ、農村ノ地主ヲ滅ス虞アル
危險ナル法案、殊ニ小作人擁護ニ日モ亦足
ラザル人々ガ、先ガ見エナイト云ッテ非常ニ
心配シテ居ラレマスル、此ノ煙幕法案ヲ提
出シ、政府ハ將來如何ニシテ國民精神ヲ緊
張セシメ、銃後國防ノ實ヲ擧ゲムトスルノ
デアルカ、此ノ法案ハ前申上ゲマシタ如ク
國家ノ前途ニ暗影ヲ投ズル虞アル所ノ重要
法案デアルニモ拘ラズ、幸カ不幸カ地主ハ
政府當局ヲ信賴致シマシテ、法案ノ內容モ
知リマセヌ人ガ多イ、ソレガ爲ニ無事平穩
デアリマスルガ、若シ是ガ電力法案ノ如ク
地主ガ其ノ內容ヲ知リマシタ曉、必ズヤ全
國幾萬ノ地主ハ生活權ノ脅威ナリ、所有權
ノ否認ナリト云ッテ上京スルデアラウト私
ハ思フ、若シ此ノ法案ガ通過致シマシテ、
地主ガ其ノ內容ヲ知リマシタル時、全國幾
萬ノ地主ノ胸中如何ナル感ジカ往來スル
カ、眠ッテ居ル中ニ平素信用シテ居〕リマシ
ク、尊敬シテ居リマシタ何者ニカ財產ヲ取
ラレテシマッタ、寢首ヲ搔カレタ、我ガ事終
レリト叫ブハ當然ナリト信ズルノデアリマ
ス、要スルニ此ノ人間平等論、人間平等論
ニ出發致シマシタル只今ノ選擧法ハ如何ニ
社會ヲ毒シテ居ルカ、小作爭議モ東京市電
其ノ他ニ起リシ勞働爭議モ、私ハ皆此ノ普
選ノ生ンダル卵デアルト思フ、歐米ニ眞似
タル所ノ衆愚政治、卽チ此ノ現行選擧法ニ
依リマシテ、個人主義惡弊ト權利思想ノミ
仲張シ、國家ニ對スル所ノ義務觀念ハ消滅
シ、敬老尊重ノ傳統的美風ヲ失ヒ、禮節地
ニ墜チ、國民道德ヲ破壞スル、若シ今度ノ支
那事變ノ發生デモナカッタナラバ、國破レテ
山河アリ、斯クノ如キ嘆聲ヲ聞クニ至ッタノ
デハナカッタカト憂エテ居ルノデアリマス、
此ノ農地調整法案ハ其ノ「イデオロギー」ヲ
普選ト同ジウスルモノデアルト思フ、甞テ
河上肇博士ノ京大ニ於キマスル所ノ講義
ハ滿堂萬雷ノ拍手ヲ以テ迎ヘラレタノデ
アリマス、今ヤ其ノ華ヤカナリシ時代ニ人
トナッタ人々ガ、社會ノ中堅層ニナッテ居ル
ノデアリマス、彼等ハ共產主義ヲ高唱致
シマスルト、身邊ノ危險、之ヲ熟知致シテ
居リマスルカラ、誠ニ巧ミニ「カモフラー
ジュㄴシテ居リマスルガ、一旦染ッタ白紙ハ
ナカ〓〓元ニ還ルモノデハナイト思フ、心
ノ底ニ殘ッテ居リマスル火ハ、事ニ觸ルル每
ニ色々ノ形ニ現レテ來ルモノデアリマス、
思想的ニ關係ノアル法規ヲ立案スル人ノ中
ニハドウ云フ思想ノ人ガ居ルカ私ハ知リ
マセヌ、ソレハ分リマセヌガ、此ノ農地法
ニ反對スル著書ニ對シテ紊リニ削除ヲ命
ジ、或ハ地主ヲ擁護シ革新政策ニ反對ス
ルモノハ許サヌ、斯ウ云フ風ニ豪語シタ官
吏ガアリト傳ヘラレテ居ルノデアリマス、
果シテ事實デアリマスナラバ、私ハ是ハ容
易ナコッチヤナイト思フ、敵國外患ハ國民ノ
協力一致ニ依リマシテ防グコトガ出來マス
カラ、敢テ恐ルル必要ハアリマセヌガ、此
ノ思想問題程怖ロシイモノハ私ハナイト思
フノデアリマス、東大ノ經濟學部ニ於キマ
シテ突發シタル所ノ大內〓授、アノ人達ノ
拘留セラレタル問題ニ端ヲ發シマシテ、土
方、本位田〓授等ノ組織シマシタ此ノ革新
團ノ出現、是ハ神佛自ラ之ヲ爲サズ、人ヲ
シテ爲サシメタルモノナリト私ハ斯ウ云フ風
ニ思フ者デアリマス、既ニ神佛ノ加護ニ依
リマシテ、我ガ思想界ヲ「リード」セムトス
ル所ノ行政ハ、東天ニ現レマシタ曉ノ鐘ヲ
打鳴シテ居ルト思フノデアリマス、各階級
ニ浸潤致シテ居リマスル暗雲ノ霧消將ニ近
キニアリト思フノデアリマス、時ヤ恰モ憲
法發布五十年、大祝典ノ擧行ニ當リマシテ、
畏クモ優渥ナル勅語ヲ賜ッタ時デアリマス、
私ハ切ニ農林大臣ノ御考慮ヲ煩シタイ、更
ニ進ミマシテ首相以下閣僚諸公ノ御明斷ヲ
切ニ請ヒタイノデアリマス
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=5
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006・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 靑木君ノ御
質問ニ御答ヲ致シマス、第一ノ御尋ハ、法
案ノ第一條ニ耕作者ノ地位ノ安定ト云フコ
トヲ特ニ書イテアルガ、耕作者ノ地位ト云
フモノハソレ程不安定ナモノデアルカ、寧
ロ地主ノ方ガ現狀カラ云ヘバ非常ニ困難ヲ
シテ居ルコトガアル實情ニアルノデ、殊更
ニ耕作者ノ地位ノ安定ト云フコトヲ謳フコ
トハ、不當デアルト云フヤウナ意味ノ御尋
デアックト思ヒマス、申ス迄モナク政府ガ此
ノ法案ヲ提出致シマスル目的ハ、日本ノ農
業ヲ盛ナラシメ、農村ヲ繁榮ニシ、更ニ農
家農民ノ幸福ヲ增進スルト云フコトヲ目
的トシテ居ルノデアリマシテ、ソレ以外ニ
何等ノ意味ガアル譯デハゴザイマセヌ、特
ニ耕作者ノ地位ノ安定ト云フコトヲ謳ヒマ
シタ意味ハ、小作爭議ト云フモノガ今日モ
尙非常ニ澤山アリマシテ、其ノ數ガ數千ニ
上ッテ居ルノデアリマスガ、其ノ澤山ノ小作
爭議ノ原因トナッテ居リマスルモノノ大部
分ハ、土地ノ引上ニアルノデアリマス、詰
リ地主小作ノ間ニ爭議ガ起リマシテ、其ノ
土地ヲ地主ニ依ッテ取上ゲラレルト云フコト
ガ今日ノ小作爭議ノ大部分ヲ占メテ居ルノ
デアリマス、私共ハ決シテ此ノ法案ニ依ッテ
特ニ耕作者ノ利益ヲ多クスルト云フノデハ
ナイノデアリマシテ、耕作者ノ少クトモ自
分ガ耕ス所ノ土地ト云フモノダケハ安ジテ
耕シ得ルト云フ、詰リ地位ノ安定ヲ與ヘヨ
ウトスルノデアリマス、決シテ地主ノ地位
ト云フモノヲ不安ナラシムルト云フ意味デ
ハナイノデ、兎ニ角地主ノ人ノ地位ト云フ
モノハ、土地ヲ所有スルト云フコトニ依ッテ
確立シテ居ルノデアリマスガ、小作人ノ方
ハ何時其ノ土地ヲ取上ゲラレルカ分ラナイ
ト云フ、詰リ仕事ノ根本ヲ失フ虞ガアリマ
スカラ、其ノ地位ヲ安定セシメルト云フコ
トガ極メテ今日ノ實情カラ云ッテ必要ダト
考ヘマシテ、此ノ條項ヲ入レタヤウナ譯デア
リマス、第二ノ御尋ハ、此ノ法律ハ國家ノ爲ニ
有益デアルカ、サウ云フ理由ヲハッキリ言ヘ
ト云フ御尋デアリマシタ、其ノ御質問ノ要旨
ノ中ニ、之ニ依ッテ現在ノ借地人ト云フモノ
ハ有利ニナルケレドモ、將來ノ借地人ハ非常ニ
困難ニナッテ、農家ノ次三男ト云フヤウナモ
ノガ獨立シヨウトシタ場合ニハ、寧ロ不利ニ
ナルノデハナイカト云フヤウナ意味ノコト
ヲ御話ニナリマシタ、管々シイコトハ申上ゲ
マセヌガ、事變ニナリマシテ農村ノ勞力ガ
相當減少ヲ致シテ居リマス、又重工業其ノ他
ノ都會ノ繁榮ニ伴ヒマシテ、農村ノ人々ガ
大分都會ニ集中ヲ致シテ居リマス、又一方
ニ滿洲ニ於ケル移民モアリマス、現在耕シ
テ借地ヲ致シテ居リマスル者ガ、之ヲ他ニ
讓ルト云フヤウナコトハ餘リ多ク考ヘラレ
ナイノデアリマシテ、從ッテ農家ノ次三男
ト云フヤウナ者ハ都會ノ方面ニ移ッテ商工
業ニ從事スルカ、或ハ滿洲方面ニ移住ヲス
ルカト云フヤウナ方面ニ主トシテ參ルノデ
アラウト考ヘラレマスノデ、御心配ノヤウ
ナ事柄ハ私ハ大シテナイノデハナカラウカ
ト云フ風ニ考ヘテ居リマス、此ノ法律ガ國
家ノ爲ニ有益デアルカドウカト云フ御尋ニ
對シマシテハ、私共無論此ノ法律ガ出來マ
スコトガ、國家ノ爲ニ有益ダト固ク信ジテ
居ルヤウナ譯デアリマス、第三點ニ中小ノ
地主ノコトニ付キマシテノ御尋デアリマス、
此ノ法律ガ出來レバ地主ガ非常ニ困難ヲス
ル、善良ナ地主ト云フモノガ今迄ニ農村ノ
爲ニドンナニ貢獻シテ來タカ、然ルニ此ノ
法律ガ出來ルト云フト、地主ガ非常ニ不利
ナ立場ニナッテ、農村ヲ離レテ行ッテシマウ
ノデハナイカ、斯ウ云フ御心配デアリマス、
私ハ過去ニ於テ善良ナ地主ガ農村ノ爲ニ非
常ニ貢獻シタト云フコトニ對シマシテハ、
無論御共鳴申上ゲルノデアリマスガ、而モ
私共ノ知ル範圍內ニ於テ、隨分農村ノ爲ニ
良クナカッタト思ハレルヤウナ地主モ亦少
クナカッタト思フノデアリマス、私共ハ、中
小ノ地主ノ將來ト云フコトニ付テノ御心配
デアリマスガ、耕作者ノ地位ヲ安定セシメ、
耕作者ノ利益ヲ多少ナリトモ增進シテ行カ
ナケレバナラヌト考ヘマスレバソコニ幾
分カ地主ノ人々ニ讓歩シテ貰ハナケレバナ
ラヌコトハ當然ノ結果ダト思ヒマス、從ッテ
其ノ地主ノ拂ヒマスル所ノ、讓步致シマシ
タ部分ニ對シマシテハ、國家ガ之ヲ保護ス
ルト申シマスカ、助ケルト申シマスカ、事
ニ依ッテ地主ヲ保護ヲ致シマスコトハ當然ノ
順序デハナイカト思フノデアリマス、私共
ハ中小地主ガ農村ニ存在致シマスコトハ結
構ナコトダト思ヒマス、從ッテ其ノ人々ガ耕
作關係カラ多少ナリトモ不利益ナコトヲ感
ズルト云フノデアリマスレバ、ソレニ對シ
テ負擔輕減ヲ致シマスナリ、其ノ他ノ方法
ニ依リマシテ其ノ中小ノ地主ヲ保護スル途
ハアルト云フヤウニ考ヘテ居リマス、第四
ノ御尋デアリマスガ、斯ウ云フ法律ガ出來
テ地主ガ非常ニ不安定ニナレバ土地ヲ愛スル
ト云フ觀念ガ段々薄クナッテシマッテ、土地
ヲ賣ッテ逃ゲテ、サウシテ、土地ノ値段ト云
フモノガ無價値ニナッテシマウダラウ、愛〓
心ト云フモノガ無クナッテシマウダラウト、
斯ウ云フ御話デアリマシタガ、是ハ主トシ
テ地主ニ付テノミノ御意見ノヤウニ承ルノ
デアリマシテ、成程地主ダケニ付テ考ヘレ
バ或ハサウ云フ風ニ考ヘル人モアルカ知
レマセヌ、併シ私共ハ日本ノ農村ノ根柢ヲ
自作農ニ置カウトスルノデアリマシテ、勿
論地主ヲ否定スルモノデハアリマセヌガ、
成ルベク自ラ自分ノ土地ヲ耕シ得ル堅實ナ
ル自作農ヲ以テ日本ノ農村ノ大部分ヲ占メ
ルヤウニ致シタイト云フ考ヲ根本ニ持ッテ
居ルノデアリマシテ、從ッテサウ云フヤウナ
地主ノ人々ガ、此ノ法律ガ出來タ爲ニ非常
ナ不利ニナッテ賣リ逃ゲヲスルトカ、土地
ガ無價値ニナルトカ云フコトニハ私共ハ考
ヘテ居リマセヌ、從ッテ又假令サウェ云フコ
トガ假ニアッタト致シマシテモ、農村ガソ
レガ爲ニ非常ニ荒廢ニ歸スルト云フヤウナ
コトハアリ得ナイト云フヤウニ私共ハ考ヘ
テ居リマス、第五番目ノ御尋デアリマス、
農地委員會ノ構成ニ付テ、大分御心配ノヤ
ウナ御尋ガアッタヤウデアリマシタガ、此
ノ法案ニゴザイマスヤウニ、農地委員會ハ
所謂町村長ノ推薦ニ依リマシテ、地方長官
ガ之ヲ認可スルコトニナッテ居リマス小
作人ガ非常ニ勢力ヲ持ッテ居ルヤウナ所デ
アリマスト、村長ハ其ノ村民ノ氣持ヲ察
シテ小作人側ノ委員バカリ選ブダラウ、
サウスルト云フト、農地委員會ト云フモノ
ガ殆ド小作人ノ代表者ニ依ッテ構成サレル
カラ、其ノ土地ノ地主ハ非常ニ困難ニ陷ルダ
ラウト云フ御心配デアリマシタ、併シ是ハ
私共少シ御心配ガ過ギルト思フノデアリマ
シテ、一方ノ側ノ人カラ申シマスレバ、現在
ノ小作調停委員ノ銓衡ヲ見テモ、矢張リサ
ウ云フヤウナ小作人側ノ者ガ、大部分ヲ占
メルト云フヤウナコトハ實際上アリ得ナイ
ト私共ハ考ヘルノデアリマス、小作官モ居
リマスルシ、調停委員モアリマスルシ、其
ノ他縣廳ニ於キマシテモ、其ノ村ニ於ケル
地主、小作ノ側ノ代表者トシテハ、ドウ云
フ人ガ適當デアルカト云フ······別ニ代表者
ヲ選擧スル譯デハアリマセヌカラ、地主、
小作雙方ニ取ッテ、極メテ公平ナ處斷ヲ致シ
得ルヤウナ人ヲ能ク承知致シテ居ル譯デア
リマスカラ、假令村長ニ於テ不公平ナ推薦
ヲ致シマシテモ、縣ニ於テ之ヲ許可スルコ
トハナイノデアリマスカラ、官廳ノ監督其
ノ他ニ於キマシテ、只今ノ御心配ニナルヤ
ウナ結果ハナイト私共ハ信ジテ居ルノデア
リマス、小作爭議ノ原因ニ付キマシテ、第
三者ノ煽動ト云フヤウナコトニ付テ大分御
述ニナリマシテ、此ノ點ハ御尋デハナカッタ
ト思フノデアリマスガ、私共モ自己ノ利益
ノ爲ニ、殊更ニ小作人ヲ煽動シテ、サウシ
テソコニ爭議ヲ起サシメテ、自分ノ利益ヲ
圖ルト云フヤウナ、サウ云フ正シクナイ運
動ト云フモノニ對シマシテハ、當局ニ於テ
之ヲ嚴ニ取締リ、斯クノ如キコトノアラシ
メナイヤウニ注意ヲ致シマスコトハ申ス迄
モナイノデアリマス、唯所謂社會運動ト認
メラレマスモノガ、ソレガ總テ不純デアリ
不正デアルト云フ風ニ申スコトハ出來ナイ
ト考ヘルノデアリマス、元々農村ニ於テ地
〓、小作人ノ間ニ於テ、眞ニ其ノ村ヲ愛シ、
日本ノ國土ヲ愛護スルト云フ觀念ガアリマ
スレバ、サウ云フヤウナ惡意ノ煽動者ガ、
煽動ヲスル所ノ餘地モナイデアラウト私ハ
考ヘテ居ルノデアリマス、第六、第七ノ御
質問ハ、一ツハ內務省關係デアリ、一ノ一
司法省關係デアルト思ヒマスカラ、私ハ最
後ノ、銃後ノ國防ニ付テノ御尋ニ對シテ簡
單ニ御答ヲ申上ゲタイト思ヒマス、御尋ノ
中ニ、非常ニ此ノ法案ガ過激ナモノデアル、
若シ地主ガ之ヲ聞イクナラバ非常ニ驚キモ
スルシ、又反對モスルダラウト云フヤウナ
意味ノコトヲ御述ニナリマシタ、靑木サン
モ能ク御承知ダト思ヒマスガ、小作法ヲ作
ラナケレバナラナイト云フ聲ハ、モウ隨分
古イノデアリマシテ、今カラ十年位前ニ旣
ニ小作法ガ立案ヲサレ、議會ニ提出ヲサレ
テ、サウシテ衆議院デハ通過ヲシマシタガ、
貴族院ヲ通過シナクテ不成立ニ終リマシタ、
其ノ小作法ノ內容ヲ、今囘ノ農地調整法ノ
內容ト御比較ニナリマスレバ、今囘ノ農地
調整法ト云フモノガ、如何ナル程度ノモノ
デアルカト云フコトハ自ラ御了解ガ出來ル
ト思フノデアリマス、又昨年ノ議會ニ於キ
マシテ衆議院ヲ通過シ、是亦貴族院ヲ通過
致シマセヌデシタ農地法ニ付キマシテモ、ソ
コニハ可ナリ進ンダ實體規定ナドカ入ッテ
居リマシタ、是等ニ比ベマシテモ今囘ノ農
地調整法ト云フモノハ、時代ノ反映カモ知
レマセヌガ、決シテ非常ナ革新的ナ、危險
ナモノダト云フ風ニハ、私共ハ全然考ヘテ
居リマセヌ、銃後ノ農村ニ付キマシテハ
私ハ日本ノ農村ノ振興ト云フモノハ從來
農產物ヲ作リ出セバ宜イト云フ所ニ主眼ガ
置カレテ居ッタヤウデアリマスガ、ソレト同
時ニ、之ヲ耕ス所ノ農民ノ幸福ト云フコト
ヲ考ヘナケレバナラヌト思ヒマシテ、其ノ
點ニ力ヲ入レタイト思ッタノデアリマスガ、
偶〓事變ガ起リマシタ爲ニ、現在及將來ニ對
シマシテハ、主トシテ農產物ノ增產、就中
食糧ノ確保ト云フコトニ、主力ヲ注ガナケ
レバナラナイト云フ風ニ考ヘルノデアリマ
ス、食糧ノ獨立ト云フコトハ國家ノ存亡ノ
上ニ非常ナ重大ナ關係ガアリマスノデ、今
後ハ農產物ノ增產ヲ圖ッテ、食糧ノ獨立ヲ
圖リ、同時ニ國ノ利益ヲ增スト云フコトニ
力ヲ入レナケレバナラヌト思ヒマス、ソレニ
關聯シテ、私共ハ此ノ農業ノ生產ニ從事ヲ
スル所ノ耕作者ト云フモノノ保護、其ノ人
人ノ向上ト云フコトニ力ヲ入レナケレバナ
ラヌト考ヘルノデアリマス、此ノ法案ハ決
シテ地主ノ味方ヲスルトカ、小作人ノ味方
ヲスルトカ云フヤウナ、サウ云フ考デハナ
イノデアリマシテ、要スルニ隣保相助ノ美
風ヲ持ッテ居リマスル農村ニ於キマシテ、日
本ノ國ノ爲ニ、日本ノ農村ノ爲ニ、相協力
シテ行ケルヤウニ致シタイト云フノガ此ノ
根本ナノデアリマシテ、御心配ニナリマス
ルヤウナコトハナイト私共ハ確信ヲ致シテ
居ル次第デアリマス
〔國務大臣末次信正君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=6
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007・末次信正
○國務大臣(末次信正君) 靑木君ノ御質問
ハ、農地調整法ト關聯シテ町村會議員選擧ヲ
等級制度トスル必要ハナイカ、斯ウ云フ要
旨デアッタト存ジマス、御質問ニ付キマシテ
ハ今迄モ時々同樣ノ御意見ヲ承ルノデアリ
マく、議員ノ素質ヲ向上シナケレバナラヌ
必要ニ付キマシテハ、全ク靑木君ト同感デ
アリマス、唯此ノ問題ハ地方制度ノ根幹ニ
觸レルコトデモアリマスシ、選擧制度ノ改
正トモ關聯致シマスノデ、現ニアリマスル
地方制度調査會其ノ他ニ付議致シマシテ、愼
重ニ考究シタイト考へテ居リマス
〔政府委員井上登君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=7
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008・井上登
○政府委員(井上登君) 金錢債務臨時調停
法ニ關スル御質問ニ付キマシテ御答辯申上
ゲマス、此ノ法律ニ付キマシテハ、從來カ
ラモ色々論議サレテ居ルノデゴザイマスケ
レドモ、其ノ施行以後今日迄相當好イ成績
ヲ擧ゲテ居リマス、例ヘテ申シマスト、其
ノ申立總數ガ三十八萬三千八百三十三件ゴ
ザイマス、其ノ中二十八萬七千四百九十
件、七割以上ノ調停ガ成立シテ居ルノデゴ
ザイマス、其ノ調停後ノ履行ノ狀態ヲ見マ
シテモ、司法省ニ於テ調ベマシタ所ニ依リ
マスト、ナカ〓〓良ク履行サレテ、好イ成
績ヲ擧ゲテ居ルノデゴザイマス、其ノ調停
委員ノ選定トカ調停ノヤリ方、其ノ他取扱
ニ付キマシテモ、當局ト致シマシテハ十分
注意シテヤッテ居リマシテ、債權者、債務
者雙方ノ利益ヲ最モ公平ニ保護スルヤウ
ニ、一生懸命努力致シテ居リマス次第デゴ
ザイマス、ソレデ只今直チニ此法律ヲ廢止
若シクハ改正致シマセウト云フヤウナ計畫
ハ、只今ノ所ハゴザイマセヌケレドモ、御
質問ノ點ニ付キマシテハ能ク了解致シマシ
タカラ、尙十分省內ニ歸リマシテ、ヨク傳
ヘマシテ、十分〓究、調査致シタイト存ジ
テ居リマス
〔靑木才次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=8
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009・青木才次郎
○靑木才次郞君 折角御答辯ハ戴キマシタ
ガ、小生不敏ノ爲カ、遺憾ナガラ了解出來
ナイノデアリマス、殊ニ私ノ質問中、番
骨子ト致シマシタル農地委員ノ構成、農地
委員會ガ人選ノ結果、豫期ノ行動ヲナセル
ト認メタル論據如何、其ノ理由如何ト云
フ、此ノ點ニ對スル大臣ノ御答辯ハ、小作
調停官モアルコトデアルカラ、サウ云フ心
配ハナイデアラウ、斯ウ云フ意味ニ伺ッタノ
デアリマス、私ハモット〓〓我々ヲ了解サシ
テ下サル程ノ十分ナル論據ガオアリノコト
ト思ッテ居リマシタガ、御答ハソレダケデア
リマス、昔ナラバサウ云フ御答辯デモ已ム
ヲ得マセヌ、殿ノ仰セ御尤トシテ引下ラナ
ケレバナラヌト思ヒマスルガ、立憲治下ノ
今日ニ於キマシテハ、「オーライ」ト稱シテ引
込ム譯ニハ行カヌノデアリマス、然レドモ
此ノ上質問ヲ重ネマスルト、遂ニ議論ニ亙
ル虞アリ、今日此ノ席ニ於テ爲スベキ所ヂ
ヤナイト思ヒマス、他日機會ガアリマシタ
ナラバ、此ノ御答ニ基キマシテ、私ノ所見
ヲ申上ゲル積リデアリマス、此ノ際ニ唯一
點追加質問ヲ致シテ見タイコトガアルソ
レハ農林大臣ガ衆議院ノ本案ニ對スル委員
會ニ於テ、御答ニナラレタ點デアリマス
農林大臣ハ衆議院ノ農地調整法ノ委員會ノ
第六囘委員會ニ於キマシテ、加藤委員ノ質
問ニ對シマシテ、斯ク答ヘラレテ居リマス、
前ハ略シマス「假ニ實例トシテ貴族院ヲ御覽
ニナレバ一番良ク分リマスガ、貴族院ニ農
村代表者ハ殆ド居ナイ、居レバ地主ノ代表
デアル、サウ云フ場合ニ貴族院ガドノ程度
ニ農村ヲ理解シ、農村ニ政治上ドウ云フコ
トヲシテ居ルカト云フコトヲ御考ニナレ
バ、一番能ク分ルト思フノデアリマス」云々
ト、斯ウ言ッテ居リマス、其ノ次ニ、同會第七
囘、南委員ノ質問ニ對シマシテ、前ノ如ク
前ハ略シマス、「此ノ農地調整法ノ成立致シ
マシタ曉ニ於キマシテハ、此法ノ運用上カ
ラ申シマシテモ、是非トモ地主ヲシテ
十分ナ理解ヲ持タシメ、又サウ云フ人達
ノ啓蒙ヲスルト云フコトハ、之ニ伴ッタ
事柄トシテ是非シナケレバナラナイダ
ラウト思ッテ居リマス、私モ微力デハア
リマスガ、此ノ法案ガ幸ヒ衆議院ヲ通過
致シマシテ貴族院ニ廻リマスレバ、恐ラク
其ノ啓蒙運動ノ一端ガソコニ現レテ來ルノ
デハナイカト思フノデアリマス」ト述ベラ
レテ居リマス、次ニ同ジク委員會ノ第九囘、
愛野委員ノ質問ニ對シマシテ、前ハ略シマ
ス、「貴族院ノ〓究會ノ方々ガ、此ノ衆議院
ノ方ノ農地調整法ノ委員會ノ速記錄ヲ大部
分讀ンデ居ラレテ、私ノ答辯ノ中ノ色々ナ
所ヲ拾ヒ上ゲテ、大分問題ニシテ居ラレル
サウデアリマシテ、私十分申上ゲタイコト
ハ色々アルノデスガ、此處バカリノコトニ
ナラナイノデ、直グソレガアチラニ響イテ
參リマスノデ、暫シノ間、言ヒタイコトハ
山程アルノデスガ」······、今ノハチヨット違
ヒマシタ、チョット拔ケマシタカラ直シマ
ス、「響イテ參リマス」ノ次ニ、「此ノ法案ノ通
リマス迄ト言ッテハ語弊ガアリマスガ、暫シ
ノ間言ヒタイコトハ山程アルノデスガ、言
ヘバ言フダケ段々山ガ高クナッテ越エラレ
ナクナッテシマフノデハナイカト思ヒマス」
云々ト、斯ウ云フ風ニ言ハレテ居リマス、
之ニ付テノ御尋デアリマス、貴族院ニ農村
代表者ハ殆ド居ナイ、居レバ地主ノ代表デ
アル云々、此ノ點デアリマス、私ハ察スル
ニ、農林大臣ハ貴族院ニ居レバ地主ノ代表
ナリト言フノハ、蓋シ我々ヲ言フノデハナ
イカト思フ、ドウ云フ議員ヲ言フノデアッタ
カ分リマセヌガ、我々ヲ言フノデハナイカ
ト思フ、我々地方カラ選出サレテ居ル者ヲ
言フノデハナイカト思フ、此ノ論法ヲ以テ
シマスルナラバ、衆議院ノ諸公ハ多クハ無
產階級ノ小作人ノ票ガ多數ニ依ッテ選出サレ
テ居ル、衆議院ノ諸公ハ小作人ノ代表ナリ
ト云フノデハナイカト私ハ思フ、私ハ衆議
院ノ諸公ガ小作人ノ代表ナリトハ斷ジテ
思ッテ居リマセヌ、國民ノ代表ナリト思ッテ
居リマスガ、貴族院ニ農村代表ノ議員ガナ
イ、アレバ地主ノ代表者ト稱スル此ノ言葉
カラ聯想致シテ見マシテ、農林大臣ハ衆議
院ノ諸公ニハ地主代表ナシ、アレバ小作人
ノ代表ナリ、斯ウ云フ風ニ言フノヂヤナイ
カト思フノデアリマス、私ハ此ノ貴族院ノ
議員諸公ハ農村モ代表シ、同時ニ都市モ代
表シテ居ルト思フ、卽チ全國民ノ代表ダト
思ッテ居ルノデアリマス、更ニ此ノ地主ノ啓
蒙運動ヲオヤリニナルコトハ先程農林大臣
モ仰セラレマシタガ、全國幾萬ノ地主ノ中
ニハ多少ハ惡イ人ガアルト思フ、是ハ敢テ
否定ハ致シマセヌ、役人デサヘ惡イ人ガア
ル世ノ中デスカラ、地主ニモ多少ハアルト
思ヒマス、多少ハアリマセウカラ、此ノ點
ハ御尋ネ致シマセヌガ、事モアラウニ、終
リノ方ニ、「微力デハアリマスガ、此ノ法案
ガ貴族院ニ廻リマスレバ、恐ラク其ノ啓蒙
運動ノ一端ガソコニ現レテ來ルノデハナイ
カト思フ」ト仰セラレタ點、私ハ此ノ文字ハ
貴族院議員ノ啓蒙運動ノ必要アリト仰シヤッ
タヤウニ思フ、本員淺學菲才デハアリマス
ガ、一意國家ノ前途ヲ念ト致シマシテ、世
俗ニモ阿リマセヌ、民衆ノ意ニモ迎合致シ
マセヌ、如何ナル非難、攻擊ガアリマセウ
トモ、冷靜、公平ニ、大所高所ニ立ッテ審
議ヲ盡シ、職ニ殉ズル學悟テ居ルノデアリ
やべ、啓蒙シテ下サル點ガアルト致シマス
しや、農林大臣ハ私ノ意ノアル所ヲ諒セラ
レ、其ノ必要ノアル點ヲ明細ニ一ツ〓ヘテ
戴キタイト言フノデアリマス、其ノ次ニ第
三點ノ、言ヒタイコトハ山程アルノデアリ
マスガ、此點デアリマス、私ハ此ノ重要法
案ノ審議ニ當リマシテハ、政府ハ勿論議員
モ御互ニ意ノアル所ヲドシ〓〓言ッテ切瑳、
〓究ヲ致シマシテ、良イ所ヲ取ル、是ガ立
憲政治ノ本旨ダト思フ、畏クモ開院式ノ御
勅語ニモアルノデアリマス、唯此ノ農地調
整法案ノ通過ニノミ熱中シ、意ノアル所ヲ
示サヌト云フ理由ハ何レニアリヤ、之ヲ聽
キタイ、私ハ此ノ三ツノ點ガ若シ衆議院デ
アックラ大變ダト思フ、貴族院ノ慣例ハ成ル
タケ言葉ヲ愼ンデ丁寧ニヤラナクチヤナラ
又、サウ云フ風ニ聞イテ居リマスカラ、言
ヒタイコトモ遠慮シテオトナシク······極メ
テオトナシクヤッテ居ル積リデアル、私ガ大
臣ナラコンナコトナラ引込ミマセヌ、ドウ
ゾ農林大臣ハ、私ハ遠慮シテ御質問シテ居
ルノデアリマスカラ、御丁寧ニ能ク分ルヤ
ウニ御說明ガ願ヒタイ
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=9
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010・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 私ノ衆議院
ニ於キマシテ委員會デ申述ベマシタ事柄ニ
付キマシテ、只今靑木サンカラ御尋デアリ
マシタ、第一點ノ貴族院ニ農村ノ代表ハナ
クテ、居レバ地主ノ代表ダト云フコトヲ申
上ゲタコトニ付テデアリマス、私ノ用ヒマ
シタ言葉ニ或ハ不穩當ナ所ガアッテ誤解ヲ
招イタ點モアルカト思ヒマスガ、私ガ此處
デ農村ノ代表ト申シマシタノハ、或ハ現在ノ
貴族院ニ於キマシテハ望ミ得ナイ無理ナコト
カモ知レマセヌガ、農村ト云フモノガ所謂上
下、大小有ラユル階級ガアルノデアリマス、
其ノ農村ノ有ラユル階級ノ人々ヲ代表シテ
居ルトハ私ハ考ヘテ居ナイノデアリマス、
地主ノ代表ト申上ゲタ言葉ガ惡ケレバ言葉
ハ換ヘマスガ、常識的ニ考ヘテ見テモ貝族
院ニ居ラレル農村關係ノ方ト言ヘバ、矢張
リ私ハ地主ノ方ガ大部分ダト思フノデアリ
マス、サレバト言ッテ私ハ只今モ御話ニナリ
マシタヤウニ、衆議院ニハ小作人ノ代表ト
云フコトハ私ハ申シマセヌ、衆議院ノ農村議員
ト雖モ、決シテ小作人ノ代表者ト見得ル人
モアリマスガ、又此處ニモ地主ノ代表ト見
ラルル人モアルノデアリマシテ、決シテサ
ウ云フ對立ノ意味ニ於テ申上ゲタノデハ
アリマセヌガ、貴族院ニオイデニナル所ノ
農村關係ノ方々ハ、大部分ハ私ハ地主ノ側ノ
方々ダト思フノデアリマシテ、私ガ農村代
表ガ居ナイト申上ゲマシタノハ、農村ノ全
般ニ亙ッテノ代表者ガ居ナイト云フ意味ノ
コトヲ申上ゲタノデアリマシテ、決シテ惡
意ハ何モナイノデアリマス、第二點ノ地主
ノ啓蒙ト云フコトニ付キマシテ、貴族院ニ
此ノ法案ガ廻レバ、所謂地主啓蒙ノ一端ガ
ソコニ現レルダラウト云フヤウナコトヲ申
シタ點ニ付テノ御尋デアリマス、地主ガ啓
蒙サレナケレバナラヌカドウカト云フコト
ニ付テハ、是ハ靑木サンノ御考ト私ノ考ヘ
テ居ルコトトハ相當考へ方ガ違フノカモ知
レマセヌガ、私ハ地主ノ人々ニ考へテ貰ハ
ナケレバナラナイコトモ尠カラズアルト思
フノデアリマス、決シテ貴族院ニ居ラレル
地主ノ方々ニ啓蒙シテ戴クト云フ意味デハ
ナイノデ、此ノ法案ガ貴族院ニ於テ論議サ
レマスレバソレガ全國ノ所謂地主ノ人々
ノ啓蒙ニナルト云フ風ニ私ハ考ヘテ居リマ
ス、前ニモ申上ゲマシタヤウニ、地方ニ於
ケル地主ノ主ナ方々ガ此處ニオイデニナ
ルノデアリマスカラ、此ノ法案ヲ通シテ
色々農村ノコトガ論議サレ、審議サレマス
レバ、所謂地方ノ地主ノ中ニ若シ假ニ分
ラナイ人ガアッタト致シマスレバ、其ノ
人々ガ啓發サレルト云フコトハアリ得ル
ト私ハ考ヘテ、サウ云フ意味デ申上ゲタ
ノデアリマス、言ヒタイ事ガ山程アルケレ
ドモ言ハナイノダト云フコトニ付テノ御尋
デアリマスガ、是ハ靑木サンモ色々仰シヤ
リタイ事ガアルケレドモ、言ハナイト仰シ
ヤイマシタガ、私モ言ヒタイ事ハ勿論山程
ゴザイマス、併シ本會議デサウ云フコトヲ
澤山云フコトハ遠慮スルモノダト云フ御話
デゴザイマスカラ、私モ此處デハ申上ゲマ
セヌガ、何レ委員會デデモ御尋ヲ受ケマス
レバ、申上ゲナケレバナラヌ譯デアリマス
カラ、考ヘテ居リマスル事ハ當然御答ヲ申
上ゲタイト思ヒマス、御質問ニ對シテ或ハ
不十分デアルカモ知レマセヌガ、大體御尋
ノコトニ對スル私ノ考ヘハ以上ノ通リデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=10
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011・青木才次郎
○靑木才次郞君 極メテ簡單デアリマスカ
ラ、此ノ席デ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=11
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012・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=12
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013・青木才次郎
○靑木才次郞君 只今ノ御答辯遺憾ナガラ
全然了解出來ナイノデアリマス、然レドモ
再ビ御伺スルト議論ニ亙リマスカラ、殊
時間モ過ギテ居リマスシ、本日ハ此ノ程度
ニ止メマシテ、他ノ機會ニ御尋スルコトニ
致シマス、質問ヲ打切リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=13
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014・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 時間ノ都合上一
時休憩致シマス、午後ハ一時半ヨリ開會致
シマス
午後零時九分休憩
午後一時四十四分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=14
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015・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 報〓ヲ致サ
セマス
〔丸龜書記官朗讀〕
本日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ
氏名左ノ如シ
擔保附社債信託法中改正法律案特別委員
會
委員長公爵島津忠承君
副委員長橋本辰二郞君
電力管理法案特別委員會
委員長伯爵兒玉秀雄君
副委員長男爵矢吹省三君
本日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
昭和十三年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案可決報告書
昭和七年法律第一號中改正法律案可決報
〓書
造幣局東京出張所廳舍其ノ他ノ新營費ニ
關スル法律案可決報告書
對支文化事業特別會計法ノ特例ニ關スル
法律案可決報告書
支那事變ニ關スル臨時軍事費ノ財源ニ充
ツル爲特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル
法律案可決報告書
朝鮮事業公債法中改正法律案可決報〓
書
軍ノ需要充足ノ爲ノ會計法ノ特例ニ關ス
ル法律案可決報告書
請願文書表(第八囘報〓)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=15
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016・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 是ヨリ休憩
前ニ引續キ午後ノ會議ヲ開キマス、通〓順
ニ依リ質疑ノ發言ヲ許シマス、山隈康君
〔山隈康君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=16
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017・山隈康
○山隈康君 質疑ニ入ルニ先ダチマシテ二
三申述ベタイコトガアリマス、第一ノ點ハ
先刻靑木君ヨリ質問ヲサレマシタ點ト私ノ
是ヨリ御尋ヲ申上ゲムトスル點ガ、其ノ終
點ニ於テハ或ハ同一ニ歸著スルカモ計ラ
レナイノデアリマスルケレドモ、行ク軌道
ガ違ッテ居ルノデアリマス、此ノ點豫メ御了
承ヲ願ッテ政府ノ御答辯ヲ願ヒクイト存ジ
マス、第二ニハ靑木君ニ對スル農林大臣ノ
御答辯ヲ拜聽致シマスレバ、私共ト二個ノ
認識ニ相違ガアルコトヲ發見致シマシタ、
第一ノ點ハ農村ノ基本、農村經濟ノ基礎ハ
自作農及小作人、斯ウ云フ意味ニ拜聽シタ
ノデアリマス、私共ハ國家ノ基本タル農村
ハ地主、自作人、小作、此ノ三者ノ協力一
致是ガ眞ニ農村經濟確立ノ基礎ナリト確
信ヲシテ居ルモノデアリマス、此ノ點ガ農
林大臣ト其ノ認識ヲ異ニスル一ツ、第二ノ
點ハ農林大臣ノ御說明ニ依リマスルト、地
主ニハ相當ノ惡性ノ者ガアル、私共ハ恒產
アル者ハ恒心アリ、是ハ千古不滅ノ格言ナ
リト存ジテ居リマス、此ノ見地カラ致シマ
シテ現今ノ地主ガ偶ニ例外ト致シマシテ惡
性ノ者ガアリマスルケレドモ大體ノ上ニ
於テ善良ナル人々デアルト存ズルノデアリ
マス、立法ハ例外ヲ基礎トスベキモノニア
ラズ、タマサカ一二ノ惡地主ガアルト云フ
コトヲ基礎トシテ、立法ヲスベキモノニ非
ズト信ズルモノデアリマス、此ノ點ガ不幸
ニシテ農林大臣ト認識ヲ異ニスル點デアリ
マス、從ッテ是等ニ對スル質問應答ガ結局同
一ニ歸著シ得ナイ、私共ノ質問ニ對シテ政
府ノ御答辯モ凡ソ想像ガ付キマス、併シ私
共ガ私共ノ信念ニ依ッテ質疑ヲシ、政府當局
ハ又政府當局ノ信念ニ依ッテ御答辯ニ相成
リ、此ノ間ニ於テ初メテ本案ノ眞運命ガ決
定セラルヽモノト存ズルノデアリマス、私
ノ質問ニ對シテ十二分ノ御答辯ヲ得ナイ虞
ハアリマスルケレドモ、兎ニ角斯ウ云フ見
地カラシテ御尋ヲシタイト存ジマス、第一、
本日上程セラレマシタル農地調整法案、是
ハ立法技術ト致シマシテハ頗ル巧妙ニ出來
テ居リマス、法文ヲ拜見致シマシテモ甚ダ
平穩、平和、而モ妥協的ニ出來テ居リマス、
殊ニ此ノ原則的ノ大綱ヲ揭ゲテ、實際ノ施
行ニ對シテハ、農地委員會、若シクハ此ノ
農地ニ關係アル各種ノ調査機構ノ自治ニ一
任セラレタル事柄ハ、近來ノ稀ニ見ル立
法ト存ズルノデアリマス、動モ致シマスト
近時ノ立法ハ頗ル煩瑣ニ流レ、〓科書的ノ
立法ニ陷ル弊モアリマスルガ、此ノ農地法
案ハ立法技術トシテハ以テ範トスルニ足ル
ト存ズルノデアリマス、併シ此ノ美シキ薔薇
ノ中ニハ一ツノ棘ガアル、此ノ棘ニ依ッテ恐
ラク政府ノ御期待ニ相成リマスル所ノ農村
ノ生業ノ擴充、農村經濟ノ確立、農村ノ平
利斯ウ云フコトノ目的ニ裏切ラレマシテ、
反對ニ地主對小作ノ爭議、階級ノ鬪爭、思
想ノ惡化、斯ウ云フコトヲ招來スル危險ガ
ナイカト存ズルノデアリマス、先ヅ此ノ際
私共ノ質問者ノ熊度ヲ明白ニシテ置キタイ
ト存ズルノデアリマス、私共ハ徒ニ地主ノ
位置ヲ擁護致シマシテ、濫ニ國策ノ遂行ニ
反對ヲ試ミムトスル者デモアリマセヌ、又
私益ハ公益ノ爲ニ犠牲ニセラレル、農村ノ確
立農村經濟ノ更生ガ、自作農ノ創設維持
ニアルト云フ見解ニ對シマシテハ、私共モ
同意ヲ致シマス、是ガ眞ニ公益上必要デア
リ、又ソレガソレダケノ目的ヲ達スルコト
デアリマシタナラバ、憲法ノ擁護ヲ致シマ
スル範圍內ニ於テ、地主ノ權利ヲ若干制限
ヲ加ヘルト云フコトモ、是モ私ハ當然ナリ
ト存ズルノデアリマス、但シ名ヲ公益ナリ
ト云フ看板ヲ揭ゲテ、其ノ實公益的事業ノ
完成ガ出來ズ、徒ニ所有權ノ侵害ヲ爲スガ
如キ法案ニ對シマシテ、私共ハ斷乎トシテ
反對ヲセネバナラヌト存ズルノデアリマス、
唯動モ致シマスレバ、近代ノ思想風潮ハ、
不在地主ヲ討伐セヨ、耕作ヲセザル地主ノ
存在ハ之ヲ容認シナイ、斯クノ如キ空漠ナ
ル〓念ノ下ニ、唯公益ト云フ旗印ノ下ニ、
折角憲法ニ依ッテ擁護サレマシタル私共ノ
所有權ニ對シテ侵害ヲシ、不安ヲ來スト云
フガ如キコトハ、國家ノ大局カラ見テ嚴ニ
戒メネバナラヌト思フノデアリマス、以上
ノ見地カラ致シマシテ本案ヲ探究致シマス
しや、第一ハ此ノ現在ノ政府ガ、自作農維
持ノ爲ニ融通セラレル金額ハ限度ガアリマ
ス、買收價額ノ全部ヲ融通セラレル譯デハ
ナイ、此ノ故ニ自作農タラムトスル者ハ、
其ノ不足分ヲ他ニ融通ヲ求メル必要ガア
ル、本法ノ第六條ノ規定ニ依リマスレバ、
「自作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維
持セラレタル自作地ノ所有者ハ命令ノ定ム
ル場合ヲ除クノ外行政官廳ノ認可ヲ受クル
ニ非ザレバ其ノ自作地ノ讓渡若ハ貸付ヲ爲
シ又ハ之ニ付物權ヲ設定スルコトヲ得ズ」、
斯クノ如キ制限ヲ附セラレマシタル以上
ハ、自己ノ買收致シマスル地所ヲ目當トシ
テ金錢ノ融通ノ爲シ能ハザルコトハ論ヲ俟
タヌ、然ラバ今日自分ノ耕作スル土地ヲ有
セナイ農民ガ、對人信用ニ依ッテ金ガ融通ガ
出來ルカト云フト、ソレハ殆ド出來ナイ、
斯ウ云フ見地カラ致シマスレバ、私ハ丁度
此ノ法案ハ畫ニ描イタ餅デス、體裁ハ非常
ニ美シイ、取ッテ食ハムトスレバ食フコト
ガ出來ナイ、小作人ハ此ノ美シキ法案ヲ涎
ヲ流シテ眺メテ、其ノ實ハ此ノ法案ニ依ッテ自
作農ノ制定維持ニハ何等ノ目的ヲ達スル
コトハ出來ナイ、斯ウ云フコトヲ考ヘルノ
デアリマス、現ニ此ノ政府ガ昭和元年カラ
昭和十一年ニ至ル間ニ於テ、自作農維持ノ
爲ニ融通ニ相成リマシタル金額ハ實ニ一億
六千三萬餘圓ニ達シテ居ル、此ノ巨額ノ金
ヲ投ジテ、其ノ成績トシテ現レテ居ル所ハ、
昭和六年ニハ自作農ガ百七十五萬六千三百
九十九戶、越エテ十一年ニハ百七十三萬千
百三十九戶、却テ二萬五千二百六十戶ノ減
少、金ハ一億萬圓以上ノ金ヲ使ヒナガラ、
自作農ハ減少ヲシテ居ル、是等ノ事實カラ
致シマシテモ、單ナル法律ノ力ニ依リ自
作農ガ天一ノ手品ノヤウニ、容易ニ實現ヲ
シ得ナイコトハ明白ナコトト存ズルノデ
アリマス、眞ニ此ノ政府ガ自作農ヲ維持
創設サレムトスルナラバ、先ヅ此ノ自作農
ノ維持金ヲ十二分ニ增額ヲサレ、自作農ノ
買收價額ノ全部ヲ融通セラレルト云フコ
ト、更ニ金利ノ引下、從來ノ金利ヨリモ
ズット引下ゲル、相當ニ金利ハ高イ、東ノ
償還年次ノ延長、又政府ノ金ヲ借リマスル
ニハ非常ニ煩雜ナ手續ヲ要スル、此ノ手續
ヲ簡潔ニセヨ、其ノ上ニ最モ大切ナ不動產
取得稅ノ全廢ヲスル、斯ウ云フ勇斷ニ出ラ
レタナラバ、ソレ等ノ政策ト相照ラシテ稍〓
自作農創設維持ノ目的ヲ達スルコトガ出來
ヨウト思フノデアリマスルケレドモ、今日
ノ政府ノ自作農維持ニ關スル經濟力、又是
等ニ關スル諸般ノ施設、條例規定ノ下ニ於
テ、單ナル此ノ法案ニ依ッテ所期ノ目的、第
一條ニ依リマスルト相當ナエライ目的ガア
リマス、耕作者ノ位置ノ安定、農業生產力
ノ維持增進、農村ノ經濟更生、農村ノ平和
ノ保持、斯樣ナ重大ナル大目的、是ハ此ノ
種ノ數箇條ニ亙ル、金ヲ使ハズ單ナル法律
ノ力ニ依ッテ、是等ノ遠大ナル目的ヲ達ス
ルト云フガ如キコトハ、木ニ緣ッテ魚ヲ求ム
ルヨリモ尙私ハ至難ノコトナリト存ズル者
デアリマス、次ニ私ノ最モ心配ニ堪ヘナイ
ノハ、靑木君ノ質問中ニモ稍〓觸レタヤウデ
アリマスルガ、此ノ本法案ニ依リマスレバ
自作農ノ維持創設ニ關シテハ、其ノ土地ノ
所有者其ノ他之ニ關シテ權利ヲ有スル者ニ
對シテ土地ノ讓渡又ハ使用、收益ノ權利ノ
設定若シクハ讓渡ニ關スル協議ヲ爲スコト
ガ出來ル、而シテ是等ノ自作農ノ維持創設、
小作關係ノ調整、農地ノ交換、分合其ノ他
農地ニ關スル事項ノ處置ト云フモノハ、農
地委員會ニ依ッテ之ヲ決定スル、勿論行政官
廳ノ認可ハ必要デアリマセウ、是ガ此ノ法
律ノ根本原理ヲ成シテ居ルモノト存ズルノ
デアリマス、此ノ法文自體カラ申シマスト、
協議ヲスルコトガ出來ル、地主ト自作農タ
ラムトスル者ノ間ニ委員會ガ介在ヲシテ懇
談懇話、相談ヲシテ決メル、法文ハ全ク
結構ナ法文デアリマス、極メテ所有者ノ自
由意思ヲ尊重シ、濫ニ所有權ノ侵害ヲシナ
イ、斯ウ云フコトガ法文ソレ自體ヲ見ルト
考ヘラレル、併シ私ハデス、法ノ法文デ左
樣ナ、妥協的所有者ノ意思尊重ト云フガ如
ク速了シ、了解ヲスル人ガアッタト致シマ
シタナラバ、其ノ人ハ甚ダ世間ノ事情ニ疎
イ、實際ノ生活ヲ知ラナイ管見者流ノ見解
ナリト存ズルノデアリマス、是ハ少シク農
林大臣ニ對シテ敬意ヲ失スルカモ知レマセ
ヌガ、率直ニ私ハ申述ベマス、蓋シ近時此
ノ種ノ法律ニ對シマシテ、此ノ法律ハ戰ニ
依ッテ地所ヲ奪フコトヲ示唆スル法律デア
ルト云フコトヲ批判スルノデアリマス此
ノ批判ヲ避ムガ爲ノ注意ニ出タル法文ニナ
ルト信ズル者デアリマス其ノ苦心ノ跡ハ
十分ニ認メルコトガ出來ルノデアリマスル
ガ、此ノ妥協交讓、所謂法文ノ協議、是ガ
此ノ儘ニ私ハ無條件ニ受ケ入ルヽコトガ出
來ルカドウカ、苟モ其ノ地方ニ於ケル有力
者ヲ集メテ、農地委員會ヲ組織スル、其ノ
委員會ガ、是ハ賣ルベキモノデアル、而シ
テ値段ハ幾ラデアル、而モソレハ農村ノ經
濟更生ノ爲ニ必要デアル、若シ之ニ反對シ、
若シ此ノ協議ニ應ジナイ者ノハデス、農村
ノ經濟更生ニ反對スル者デアル、斯ウ云フ
コトデアッタナラバ現在ニ於ケル地主ガ、ソ
レヲ拒否スルコトガ出來マセウカ、非常ニ
形式ハ宜シイ、公益ノ爲、農村經濟更生ノ
爲而シテ我々ノ先輩タル有力者ノ委員會
ノ決議、而モ其ノ背後ニハ多數ノ小作ヲ持
タナイ地主ガ背後ニ控ヘテ居ル、此ノ際敢
然トシテ其ノ妥協、其ノ交渉、其ノ相談ヲ
拒絕シ得ル者ガ果シテ幾許アルカ、私共ハ
寧ロ法律デ强制スルナラバ、人間ト云フモ
ノハ不思議ナモノデ、强制サルヽ相手方ハ
法律ヲ楯ニ取ッテ抗爭ヲスル、併シ法律ニ依
ラズ妥協交讓ニ依ッテ相談ヲ持チ掛ケラルヽ
場合ノ重壓ト云フモノハ、法律ノ面ニ依ル
强制ヨリモ、更ニ重壓ヲ加ヘテ、其ノ人ノ自
由意思ヲ拘束スル、尾ヲ振ル犬ハ打タレヌ、
此ノ例ヲ此ノ場合ニ引用スルノハ當ヲ得タ
ルモノニアラズト存ジマスケレドモ、妥協的
溫和シク出タモノニ對シテ威壓、ナカ〓〓サウ
云フモノニ對シテハ手ガ觸レラレナイ、例へ
バ私共ガ自動車ニ乘ル車ニ乘ル、賃錢ヲ先
方カラ要求スレバ高イ安イデソレヲ拒否ス
ルコトガ出來ル、思召デ宜シイト云フ時ニハ困
ル、十錢デ宜シイト云フモノヲ二十錢置ク、
玆ニ此ノ法律ノ、本法ノ妙味ガアッテ危險ガ
アル、私ノ美シク咲イタル薔薇ノ花ニ棘ガアル
ト云フノハ之ヲ指ス、近代ノ巧妙ナル立法
デアリマス、併シ實際ハ此ノ法律ニ依ッテ地
主ハドンナニ脅威ヲ感ジ、ドンナニ自己ノ
自由意思ヲ拘束スルカト云フコトヲ、苟モ
人間ノ機微ニ觸レ、實際生活ヲ了得シタル
者ハ、直チニ玆ニ思ヒ浮ブノガ相當デアル
ト存ズルノデアリマス、又更ニ此ノ委員會
ニ對シテ私共ノ懸念ニ堪ヘナイノハ、近時
ノ日本ノ政黨、是ハ中央ノ政界ニ於キマシ
テハ自戒自肅、全ク昔日ノ面目ヲ改メテ居
ルヤウデアリマス、併シ地方ニ於ケル政黨
ノ弊害ト云フモノハ病膏盲ニ入リ、戶數割
ノ査定、甚ダシキニ至ッテハ縣ノ權限ニ屬ス
ル小學校〓員ノ採否、採用スルカ否ヤニ對
シテモ容喙ヲスル、道路ヲ造ル、溝渠ヲ造
ル、是レ皆自己ノ政黨ノ利益ヲ基礎トシテ
ヤリ、甚シキニ至ッテハ米穀檢査員ノヤウナ
者モ、自己ノ政黨ニ屬スル者ヲ推薦スル、
是等ノ弊害ハ今日迄牢トシテ拔ケナイ、現
ニ或市ノ如キハ一樣ニ鐵骨ノ魚市場ガアッ
テソレガ眞中ニ壁ヲ仕切ッテ、甲ノ政黨、
乙ノ政黨ノ二ツノ市場ガ開設ヲサレテ居ル、
宿屋、料理屋、甚ダシキニ至ッテハ藝者迄
モ、是ハ何黨ノ所屬ノ藝者デアルト云フ位
ニ、此ノ政黨ノ弊ハ浸潤ヲシテ居ルノデア
リマス、村會議員ノ選擧、村長ノ選擧ニ猛
烈ナル競爭ヲシ、選擧違反ノ續出スルト云
フコトハ今更申ス迄モナイ顯著ノ事實ナリ
ト存ズルノデアリマス、而シテ此ノ地方ノ
有力者ハ殆ド籍ヲ政黨ニ有セザル者ハナイ、
而シテ地方ニ於ケル有力者ハ政黨ニ於ケル
有力者デアリマス、是等ノ者ニ依ック委員會
ガ政黨ノ弊害ヨリ全然脫出致シマシテ、農
林大臣ノ御期待ニナルヤウナ公平政治···
今日ハ裁判官、檢事、是等ノ判斷ニ對シテ、
取扱ニ對シテモ議論ガアリ、其ノ信用ヲ疑ッ
テ居ル、ソレニ此ノ民間ノ身分ノ保障ナク、
給料ノナイ、監督權ノ十分デナイ所謂地方
ノ有志、有力者ニ依ッテ成立ッタ地方委員ト
云フモノガ、此ノ間ニ於ケル公正嚴正、何等ノ
疑モナク處置ガ出來ルモノト云フ御確信ガ、
果シテ心カラオアリカドウカ、自分ノ心ヲ
欺ケバ兎ニ角デアリマス、良心カラ致シマ
シテサウ云フ委員ノ手ニ依ッテ公平嚴肅、何
等ノ不公平ガナイト云フコトヲ保證シ得ル
者ハ恐ラク私ハナイト存ズルノデアリマス、
假ニ此ノ政黨壓迫、政黨ノ弊ガナイト致シ
マシテモ、耕地ヲ有セザル農民ハ多數デア
リマス、利害ハ一致致シマス、動モ致シマ
スト團結ヲスル、ソレニハ又色々ナ職業的
ノ種々ノ人ガ背後カラ之ヲ使嗾シ擁護スル、
斯ウ云フ場合ニ私ハ其ノ地方委員ト云フモ
ノガ、ソレ等ノ壓迫、ソレ等ノ使嗾、ソレ
等ノ脅威ニ對抗致シマシテ、完全ニ職ヲ執
ルコトガ出來ルカドウカ、成程或ハ地方行
政官廳ノ認可ガアルカラ宜イヂヤナイカト
云フ御說ガアルカモ知レマセヌガ、是ハ實
際ハ非常ニ弱イ、地方デ決定致シマシタル
事柄モ法律的ニ調ベテ、違法デアレバ何ト
カ申シマスケレドモ、法律的デ、違法ガナ
ク、唯其ノ間ニ情弊情實、單ナル不公平ト
云フ場合ニ於テハ、餘程著シクナイ限リハ
行政官廳ノ認可權ヲ振〓スト云フコトハ、
實際問題トシテハ私ハ困難デアラウト思フ
ノデアリマス、是ハドウ云フ風ニ委員會ガ
組織ノ計畫デアルカ十分了承ヲシテ居リマ
セヌガ、ドンナヤウニ組織ヲ致シマシテモ、
今日ノ地方ニ於ケル人々ノ人格、力、修養、
サッキ靑木君ノ言ハレタヤウニ、一國ノ官
吏デ俸給ヲ得テ、其ノ身分ヲ保障セラレ、
榮譽アル位地ニ立ッテ、居ル人デモ【批判ノ餘
地ガアルト云フコトデアリマスカラ、私ハ
是等ノ委員ノ手ニ依ッテ、此ノ根本ノ自作農
ノ設定ノ重職ニ當ラセテ、ソレガ何ノ間違
ナク、地主ニ不安ガナイト云フコトハ言ヒ
得ナイコトデアルト存ズル此ノ點ニ對ス
ル政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思フノデアリ
VV、次ニハ大臣モ仰セニナッタヤウデア
リマスガ、小作爭議ガ屢〓行ハレテ、ソウシ
テ其ノ大部分ハ地所ノ引上ゲダ······直接ニ
仰セハナイデアリマセウケレドモ、何ダ
カ其ノ裏面ニハ地主ノ横暴、地主ガ勝手ニ
〔議長伯爵松平賴壽君議長席ニ著ク〕
地所ヲ引上ゲルカラ小作爭議ガ起ルガ如
キコトヲ暗示ヲセラレタヤウニ私ノ耳ニハ
響イタノデアリマス、果シテソレガ其ノ通
リニ實際首肯シ得ルカドウカ、是ハ衆議院
ノ委員會ニ於ケル某代議士ノ演說中ニ、近
頃ノ爭議ハ惡性ニナリマシテ、小作米ヲ倉
庫ニ積ミ蓄へ、或ハ之ヲ賣拂ッテ銀行ニ預ケ
入レ、サウシテ豫定ノ額迄引下ゲナケレバ
支拂ハヌト云フ迄ニ立チ至リ、或ハ多數團
結ヲシテ地主ニ對シテ膝詰談判ヲ爲シ、甚
ダシキニ至リテハ病人ノ枕許ニ坐リ込ン
デ强談ヲスル、是ハ衆議院ノ演說ノ一節デ
アリマス、又或議員ハ、今日ノ我ガ國農村
ノ狀態ハ、大地主ヨリ中地主ニ、中地主ガ
小地主ニ、小地主ガ小作人ニ轉落スルト云
フ誠ニ悲慘ナル狀態デアリマス、是等ハ多
クノ場合小作爭議ニ原因シ、卽チ小作爭議
ニ依リ地主ハ勿論、小作人モ其ノ損害ヲ被
リ、共ニ轉落ヲ爲シ、農村ノ荒廢ニ一大馬
力ヲ掛ケテ居リマス、而シテ是等ノ小作爭
議ハ多クハ職業的惡性煽動ニ依リ、或ハ又背
景ニアル團體ノ陰險惡辣ノ手段ニ依リ、純
眞無垢ノ良民ヲ煽動シテ、平和ナル農村ヲ
騒ガシメテ居リマスト演說シテ居リマス、
是モ衆議院ノ筆記カラ錄取シタモノデアリ
やく、斯クノ如キ事實ハ獨リ此ノ演說者ノ
地方ノミノ問題デナクシテ、恐ラク全國ニ
於ケル情勢デアルト存ズルノデアリマス、
衆議院ニ於テ農林大臣ハ、ソレハ地方ニ依ッ
テ地主ガ弱ク、小作人ガ强イ場所モアラウ
ケレドモ、又其ノ反對ノ箇所モアル、一〓
ニ地主ガ弱イト云フコトハ論斷シ得ナイト
云フ意味ノ御演說ガアッテ居リマス、是ハ實
際ト致シマシテ其ノ御演說ヲ首肯シ得ル
カ否カ、地主ハ小作人ノ協力ヲ得ナケレバ
自分ノ所有土地ノ利用價格ハ皆無デアリマ
ス、而シテ屢〓申述ベマスル如ク、小作人ハ
多數、他ノ小作人ト利害共通、動モ致シマ
スルト團結ガ出來ル、而モ近來ノ時代ノ流
v、思想ノ激化ガ之ニ拍車ヲ加ヘ、更ニ職
業的色々ナ團體ガソレニ後援ヲスル、イツ
ノ例デアリマシタカ新聞紙上ニ、小學校ニ
於テ小作人ノ子供ガ相集ッテ、地主ノ子供ヲ
脅威ヲシテ、彼等ハ地主ノ子ナリトシテ排
斥ヲシタ、斯ウ云フコトハ恐ラク現代ニ於
ケル時代相デハナイカト思フノデアリマス、
二三ノ例外ハ或ハアルカモ知レマセヌガ、
大體ニ於テ私ハ現今ノ思想ノ流レ、是ハサ
ウ云フ狀態ニ在ルト存ズルノデアリマス、
此ノ故ニ近時ハ地主ハ只管ニ小作人ノ意ヲ
迎へ、溫情ヲ以テ之ニ接シテ、小作人ノ激
化ヲシナイヤウニ、爭議ヲ起サナイヤウニ、
戰々兢々トシテ小作人ニ接シテ居ル、或ハ
小作人ヲ招待シテ晩餐ヲ供スル、或ハ優良
品ニ對シテ賞品ヲ授與スル、色々ナ方面ニ
對シテ出來ルダケノ優遇歡待ヲシテ居ル、
小作人ハ其ノ地主ノ弱點ヲ看破シテ、何カ
ノ機會ガアッタナラバ、此ノ弱點ニ乘ジテ自
己ノ利益ヲ圖ラムトスル、是ハマア人情デ
アリマセウ、斯ウ云フ對立スル場合ニ於テ、
對手方ノ弱點ニ乘ジテ自己ノ利益ヲ得ムト
スルガ如キコトハ、是ハ戰爭デモ其ノ通リ、
是ハ私ハ人情デアルト存ズルノデアリマス、
現ニ是ハ農林大臣ハ御想像ニモナラヌコト
ト思ヒマスルガ、昨年ノ冬本農地調整案ガ
議會ニ提案ヲサレルト云フコトヲ傳ヘ聞イ
テ、某々ノ縣ノ小作人ハ、我々ノ小作シテ
居ル地所ハイツカ自分達ノ所有ニ歸スル、
法律ニ依ッテ所有ニナル、今更小作米ヲ納
入スルニ及バズトシテ、十二年度ノ小作ノ
未完納ニ終ッタ地方ガ相當ニアルト聽イテ
居リマス、是ハ全ク廟堂ノ上ニ立ッテオイ
デニナル方ハ、或ハソンナ馬鹿ゲタコトハ
ナイヂヤナイカト云フ、御想像ニモ無イコ
トデアリマセウガ事實ハ事實、儼トシテ
斯クノ如キ事實ガ存在シテ居ル、斯ウ云フ
思想、斯ウ云フ風潮ハ何カノ間隙、何カノ
波ニ依ッテ起ラムトスル、本法ノ法律
ノ目的ハ正シイカモ知レマセヌ、併シナ
ガラ何處ニカ不在地主ノ討伐·······ト云フト
語弊ガアリマスルガ、不在地主、耕作セザル
地主ヲ排斥シテ、氣ノ毒ナ小作人ヲ擁護ス
ル趣旨ノ下ニ作ラレタモノト見テ、此ノ法
律ニ依據シテ、思想ノ惡化ニ拍車ヲ掛ケル
危險ガナイカト存ズルノデアリマス、是モ
衆議院ニ於ケル委員會ニ於テ、或委員ガ、
私ノ村ハ從來極メテ平和ノ村デアッタ、處ガ
其ノ後小作官ノ設置ニ依ッテ非常ニ小作爭
議ガ增加シタ、昭和元年ニハ僅ニ六件ニ過
ギナカッタ小作爭議ガ、小作官設置ノ後昭和
十一年ニ至ッテハ、驚クベシ四百五十一件ノ
多數ニ上ッタ、又或委員ハ······是ハマア先刻
大臣ノ仰セラレタル如ク、衆議院ノ方ハ、
小作若シクハ耕地ヲ有セザル人ヲ代表スル
方ガ多數委員トシテ選バレテ居ッタト思ヒ
マスルガ、其ノ委員中ニ斯ウ云フコトヲ
言ッテ居ル、農地委員會ノ設置ハ、小作爭議
請負者ノ看板ヲ揭ゲタルト同ジト極言シテ
居リマス、政府當局ハ農地委員會ハ必ズシ
モ作ラヌデモ宜シイ、作ルコトガ出來ルト
云フダケノ規定デアルト斯ウ仰セニナルケ
レドモ、一面ニハ農村ノ經濟更生ヲ御圖リ
ニナルト、他面ニハ小作人ガ斯ウ云フ法律
ガ出來タ場合ニ於テ默ッテ居ナイ、矢張リ此
ノ委員會ノ設置ヲ迫リマス、恐ラク當初カ
ラ政府ノ御想像ニナル如ク、全國津々浦々
此ノ種ノ委員會ノ設置ヲ見ルト云フコトハ
當然ノコトト思フノデアリマス、從ッテ餘程
ノ注意、監督ガナケレバ、私ハ此ノ法案ノ
實施ニ依ッテ却テ小作地主間ノ對立抗爭、小
作地主間ノ對立抗爭ハ宜イガ、其ノ副產物
ト致シマシテ階級鬪爭、更ニ恐ルベキ思想
惡化ニ拍車ヲ掛ケルト云フ危險ヲ虞レルモ
ノデアリマス、此ノ點ニ對スル政府ノ御所
見ヲ承リタイ、次ニ地主······總テト申上ゲ
マセヌ、例外モアリマス、併シ私共ノ知ル
限リニ於キマシテハ、大體此ノ大中地主ハ
其ノ地方ノ政治ノ中心デアリ、經濟機關ノ
樞機ニ與ッテ居ル、サウシテ灌漑、排水、耕
地整理、更ニ農產物ヲ運搬スル道路ノ開
通更ニ農業ノ副業タル工業、是等ニ對ス
ル資本主デアリマス、又其ノ大中地主ノ子
弟ハ專門學校或ハ農業學校、斯ウ云フモノ
ニ學ンデ、土地ノ靑年、一般ノ風紀ヲ維持
シ、更ニ農業其ノ他ノ各產業ニ對シテ指導
ヲスル、申ス迄モナク、近來防空演習ニ於
ケル各種ノ重要ナル機關、或ハ國民精神總
動員ニ於ケル主ナル役目、或ハ農會······縣
村、此ノ農會ノ首脳ハ皆大中地主デアリマ
ス、卽チ是等ガ中心トナッテ農村ノ政治、經
濟、風紀、產業、其ノ他、其ノ間ニ對スル
重要ナル役目ヲナシテ居ル、若シ是等ノ者
ヲ除外シテシマッタナラバ、全ク私ハ地方ハ
寂寞、耕地ノ改良ハ勿論、耕地整理、副業、
產業、是等モ全然衰頽スルノデハナイカト
思フノデアリマス、此ノ法案ノ施行ニ依リ
マシテ、地主ハ經濟更生ノ下ニ委員會ノ決
議ニ依ッテ、地所ハ奪ハレルト云フト語弊ガ
アリマスケレドモ、買ハレル、値段ハ委員
會ノ決定デアル、小作人ハ威張ル重壓ヲ
加ヘル、全クドウモ不安デアリマス、今日
能ク不在地主、地主ガ都市集中ヲスルノハ
結局是等ノ重壓ニ堪ヘナイ結果デアリマス、
此ノ法案ノ實施ニ依リマシテ土地ニ對スル
執著心ガ無クナッテ、地所ヲ賣捌ク、賣捌ク
コトガ本案ノ目的デアリマセウ、賣捌イテ
ソレガ各小作人ノ手ニ歸シテ自作農ガ出來
ル、此ノ大中地主ハ是等ノ地ヲ賣ッテシマツ
テ、其ノ金ヲ株其ノ他ノ資本ニ下シテ、皆
中央都市ニ集ル、斯ウ云フコトデ私ハ從來
ノ極メテ善良ナル家族的富メル者、貧シキ
者地主、自作者、小作人、是等ガ旨イエ
合ニ抱合フテ、圓滿ニ村政ヲ料理シ、經濟
ヲ經營シタモノガ、其ノ中心人物ヲ失フタ
後ノ農村ガ、果シテ農林大臣ノ御期待ノヤ
ウニ、此ノ法案ノ第一條ニ期待スルヤウナ
目的ヲ達スルコトガ出來ルカ否カト云フコ
トニ付テハ多大ノ疑ヲ持ツ者デアリマス、
以上大體本會議デアリマスルカラ、私ハ此
ノ法案ノ各條ニ對シテ相當ノ疑モアリマス
ルシ御尋モシタイト存ジマスルケレド
モ、本會議ニ左樣ナ質問ヲ申述ベテ各位ノ
御〓聽ヲ煩スト云フコトハ恐縮千萬ニ存ジ
マス、是ハ何レ委員會等ニ於テ各委員ヨリ御
質疑ニ相成ルコトト思ヒマスルカラ、大體ノ質
問クケニ止メテ置キマス、之ニ對シテ或ハ政府
ハ、ソレハ政府ノ方デハ此ノ案ヲ以テ所期ノ
目的ヲ達スルト云フ確信ガアル、オ前ノ方ハ
ソレハ達シ得ナイ、ソレハ意見ノ相違デハ
ナイカ、斯ウ云フコトデ御答辯ニ相成ルカモ
存ジマセヌケレドモ、私ハ此ノ重大法案ヲ
審議スルニ當リマシテ、私共ハ虛心坦懷、
眞ニ心カラ心配ヲシテ居リマスル所ヲ率直
ニ申述ベマシテ、御意見ヲ質シ、幸ニ明敏
ナル農林大臣ノ御答辯ニ依ッテ、私共ノ蒙ヲ
啓クコトガ出來マシタナラバ、本案ノ審議
ニ對シテ非常ニ都合ノ好キコトデアルト存
ズルノデアリマス、野人禮ニ嫻ハズ、言語
不遜ヲ極メマシタ點、謹ンデ御詫ヲ致シマ
シテ、農林大臣ノ御答辯ヲ拜聽致シタイト
存ジマス(拍手)
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=17
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018・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 山隈サンノ
御質問ニ御答ヲ申上ゲマス、御質問ニ御入
リニナリマスル前ニ、是ハ質問デハナイケ
レドモト言ッテ、現下ノ時局ニ對スル認識ニ
付テ御述ニナリマシタ、一應ハ私ノ意見モ
申上ゲタ方ガ宜シイト考ヘマスノデ簡單ニ
申上ゲマス、私ガ農村ノ基礎ヲ自作ト小作
ニ重キヲ置イテ、地主ト云フモノヲ度外視
シテ居ルト云フコトハ甚ダ誤ッテ居ル、農村
ハ地主ト自作ト小作ト是等ノ者ガ集リ力ヲ
協セテ、初メテ農村ノ繁榮ヲ來スコトガ出
來ルト云フ御意見デアリマシク、私モ決シ
テ農村ノコトハ自作小作ノコトダケ考ヘレ
バ宜クッテ、地主ノコトハ何等考慮ニ入レ
ル必要ガナイト云フヤウナ意味ハ申上ゲタ
積リハゴザイマセヌ、唯所謂農業政策上ノ
斯ウシタ法制ヲ設ケマス上ニ於キマシテ、
矢張リ最モ力ノ弱イ自作ナリ小作ナリ、生
活ノ困難ヲ致シテ居リマスル人々ヲ主トシ
テ向上セシメルト云フ所ニ力ガ入レラレマ
スコトハ、當然カト考ヘルノデアリマス、
勿論地主ノ方々モ今日ハ決シテ樂デナイト
言ハレマス、其ノコトニ私ハ決シテ異議ハ
申シマセヌ、併シ地主ノ方々ガ今日農業經
營上困難デアルト仰シヤルコトト、小サナ
所謂小作ノ人々ノ實際ニ困難ヲシテ、其ノ
日ノ生活ニモ困ッテ居ルト云フコトトハ私
自カラ差違ガアルト思フノデアリマス、政
府ガ農林政策ト致シマシテ諸種ノ法制ヲ設
ケ、政策ヲ講ジマスル場合ニ於キマシテハ、
無論地主、自作、小作、有ラユル農村ノ方
面ニ向ヒマシテ、適正ナル方策ヲ講ジマス
コトハ申ス迄モゴザイマセヌガ、此ノ際ノ
農地ノ調整法ト致シマシテハ、所謂耕作ヲ
シテ居ル者ノ地位ヲ安定セシメテ、ソレニ依ツ
テ農村ノ平和ヲ招來シ、農產物ノ增產ヲ
圖リタイト云フコトガ、特ニ此ノ戰時ニ際
シテ私共ハ考ヘラレタノデアリマス、モウ
一ツノ點ハ地主ニモ惡性ノ者ガアルケレド
モ、大體ニ於テ恒產ノアル者ハ恒心ガアル
ト昔カラ言フガ、全體トシテ地主ハ善良デ
アルト云フ御意見デアリマシテ、私モ決シ
テ地主ガ惡イ者バカリアルト云フコトヲ申
上ゲタ覺エハアリマセヌガ、私共ノ承知致
シテ居リマスル所ニ依リマスレバ、小作人
側ノヤウナ亂暴ナコトヲ致シタト云フヤウ
ナコトハ無論ゴザイマセヌデセウケレドモ
地主ノ方デ相當小作人ニムヅカシイ條件ヲ
出シテ小作セシメテ居ルト云フヤウナ例モ
必ズシモ私ハ尠クナイト思フノデアリマス、
小作人側ガ非常ニ亂暴ナコトヲシテ、小作
爭議ガ非常ニ險惡デアルト云フ御話デゴザ
イマスガ、私ノ記憶シテ居リマスル限リニ
於キマシテハ、大正六七年頃ノ新潟縣、岐
阜縣、香川縣其ノ他ノ小作爭議ノコトヲ想
ヒ起シマスレバ、今日ノ小作爭議ト云フモ
ノハ隨分穩カニナッテ來タト思フノデアリマス、
アノ熾烈ナ小作爭議ト云フモノガ、必ズシ
モ思想問題カラノミ起ッタトハ私ハ考ヘテ居
リマセヌ、今日迄長イ間隨分苦シイ立場
ニ置カレテ來タ人達ガ、誤ッタ考ヲ持ッタ人
モアリマセウシ、又第三者ノ〓唆ニ依ッテ
ヤッタモノモゴザイマセウケレドモ、併シ其
ノ間ニ私ハ必ズシモ地主ノ方ニ全然過失ガ
ナカッタトモ私ハ考ヘラレナイノデアリマ
ス、此ノコトハ山隈サンノ仰セラレルコト
モ誤ッテ居ラヌト思ヒマスシ、私ノ申上ゲル
コトモ必ズシモ全部間違ッテハ居ナイト考
ヘマス、御尋ノ第一點デアリマスガ、此ノ
法案ニ依リマシテ自作農ヲ造ッテ見テモ、造
ラウトシテモナカ〓〓條件ガ惡イカラ、自
作農ハ思フヤウニハ出來モシナイシ、又維
持モ出來ナイダラウ、ソレハ政府ガ自作農
創設ノ爲ニ出ス所ノ資金ト云フモノガ十分
デナイカラ、ダカラ資金ノ借入ヲシナケレバ
ナラナイ、サウ云フ資金ノ借入ヲスル所ノ
力ハナイ、從ッテサウ云フ者ハ所謂繪ニ描
イタ餅ノヤウナモノデ、折角出來テモ本當
ノ自分達ノ望ヲ果スコトハ出來ナイダラウ、
斯ウ云フ仰セデアリマシタ、過去ニ於テ一
億以上ノ多額ノ金ヲ使ヒマシテ行ヒマシタ
自作農創設ト云フモノガ、今日却テ自作農
ガ減ッテ居ルヂヤナイカ、其ノ效果ハ擧ッテ
居ナイト云フ仰セデアリマシタ、成程自作
農家ト致シマシテハ、寧ロ減少ヲ致シテ居
リマスルガ、自作地ハ却テ殖エテ居ルノデ
アリマシテ、私共工業ノ生產ナドト違ヒマ
シテ、此ノ自作農ヲ維持シ、創設スルト云
フヤウナ事業ハ、金ヲ注込ミマシタカラト
云ッテ、ソレダケ形ノ上ニ著々トシテ出テ來
ルト云フコトハ、勿論私共ハ期待ハ致シテ
居リマスルガ、農村ノ實情ト致シマシテハ、
サウ云フコトハナカ/〓望ミ得ナイノデア
リマシテ、少シデモ自作農ガ減ッテ行クト
云フコトヲ防ギ得ルトスレバソレデ一部
ノ目的ハ達シ得タト私達ハ考ヘ得ルト思フ
ノデアリマス、若シ之ヲ放任致シマスナラ
バ、殆ド非常ナ勢デ是ガ〓落シテ行クノデ
ハナイカト考ヘルノデアリマス、買收價額
ノコトニ付キマシテ御述ニナリマシタガ、
政府ノ自作農創設ノ資金ハ、原則ト致シマ
シテハ、買收價額ノ全部ヲ貸出スコトニナッ
テ居リマス、唯併シ自分デ金ヲ持ッテ居リ
マシテ、其ノ全部ヲ借リル必要ノナイ者ニ
對シマシテハ、勿論必要ナルモノダケヲ與
ヘマスルシ、又ダカラ不足ノ分ヲ借入レナ
ケレバナラナイヤウナ情況ニアリマス者ニ
對シテハ、自作農ノ資金ハ貸出ヲ致サナイ
コトニナッテ居リマス、金利ノ引下ゲニ付キ
マシテハ、御承知ノヤウニ簡易保險ノ資金
ト預金部ノ資金ヲ融通致シテ居リマスルノ
デ、預金部資金ハ其ノ儘融通ヲ致シマスケ
レドモ、簡易保險ノ方ハ御承知ノヤウニ利
子ガ高ウゴザイマスノデ、政府ガ之ヲ補給
致シマシテ、三分二厘デ貸シテ居ルヤウナ
次第デアリマシテ、是レ以上ニ補給ヲシテ
利子ヲ引下ゲマスト云フコトハ、今日ノ場
合相當困難カト考ヘテ居リマス、償還年限
ノ延長ノ問題ニ付キマシテモ同樣デアリマ
シテ、是ハ必ズシモ短期デハナイト私共ハ
考ヘテ居ルノデアリマス、手續ノ簡易ト云
フ問題ニ付キマシテハ、是ハ總テノ問題ニ
アルコトナノデアリマシテ、仰セノ如ク出
來ルダケ簡易ニ致サナケレバナラナイト考
ヘテ居リマス、不動產取得稅ノ問題ハ、是
ハ自作農ノ場合ダケ之ヲ免除致シマスト云
フコトハ、出來ニクイト云フ財務當局ノ意
見デ、是ハ實現致サナカッタノデアリマス、
要スルニ此ノ法案ノ成立ニ依リマシテ、自
作農ガ維持サレルト云フコトハ、私共確信
ヲ致シテ居ルノデアリマシテ、ソレガ出來
ナイト云フコトデアリマスレバ、此ノ法案
ノ價値ハ甚ダ薄クナル譯ナノデアリマス、
出征ノ兵士ガ自分ノ土地ヲ耕作スルコトガ
出來ナカッタリ、或ハ手離サナケレバナラナ
カッタヤウナ場合ニ於キマシテハ、適當ナ團
體ニ於テ、之ヲ一時預ルナリ、或ハ買取ル
ナリ致シマシテ、其ノ兵士ノ歸ッテ參リマ
シタ時分ニ、再ビ之ヲ戾スト云フ方法ヲ執ッ
テ居リマスシ、又自作農ニ對スル土地ノ、何
ト申シマスカ貸付トカ、或ハ賣渡トカ云フモ
ノニ付キマシテ、或制限ヲ加ヘマスコトモ、是
モ自作農維持ノ場合ニ於キマシテ已ムヲ得
ナイコトカト考ヘテ居リマス、尙負擔ノ輕減
トカ、或ハ農產物ノ價格ヲ維持スルトカ、
若シクハ自作農ノ負債ノ整理ヲ致シマスト
カト云フコトニ依リマシテ、此ノ法案ト相
伴ッテ參リマスレバ、自作農ノ維持ト云フコ
トハ決シテ達成サレナイコトハナイト考へ
テ居リマス、次ニ第四條ノ關係ノコトデア
リマスガ、經濟更生ノ必要ノ場合ニ、道府
縣市町村若シクハ命令ヲ以テ定ムル所ノ團
體ガ、土地ヲ取得致シタイト思ヒマスル場
合ニ、地主ニ對シテ協議スルコトガ出來ル
ト云フ規定ガゴザイマス、是ハ農村更生
ト云フ農村全體ノ情況ニ依リマシテ、地主
ノ土地ヲ讓ッテ貰フコトガ必要ナリト認メ
マシタ場合ニ、行政官廳ニ於テ之ヲ認可致
シマスレバ其ノ賣渡ヲ協議スルコトガ出
來ルコトニナッテ居ルノデアリマシテ、是ハ
從來トテモ此ノ法律ガナクトモマア出來得
ルコトナノデアリマスガ、併シ此ノ場合ニ
特ニ此ノ規定ヲ入レテ居ル譯ナノデアリマ
ス、唯御話ノ農地委員會ガ其ノ價格ヲ決定
スルト云フコトハ、甚ダ不都合ダト云ッタヤ
ウナ御話ガゴザイマシタガ、決シテサウ云フ
コトハ農地委員會デハ致サナイノデアリマ
ス、第四條ノ所謂地主ノ土地ヲ道府縣市町
村其ノ他ノ團體ガ經濟更生ノ爲ニ買ヒ取リ
マスル協議ヲ致シマスコトニ對シテ、農地
委員會ガ其ノ價格ヲ決定スルトカ、或ハ賣
渡ヲ强要スルトカ云フヤウナコトハ致サナ
イノデアリマスガ、其ノ點ハ御了承ヲ願ヒ
タイト思ヒマス、是ハ御尋デアルカドウカ
能ク分リマセヌガ、農地委員會ニ關聯シテ
ノ御意見デアッタト思フノデアリマスガ、地
方ニ於ケル政黨ノ弊害ニ付テ縷々御述ニナ
リマシタ、委員會ガ其ノ政黨ノ弊害ヲ脫ス
ルコトガ出來ルカ、サウシテ果シテ公平ナ
ル委員會ヲ作ルコトガ出來ルカドウカト云
フ御話デアリマシタガ、私共ハ所謂村ノ村
長ヲ初メ村ノ有力者ナリ、又ハ地主ノ方々
ナリ、其ノ他色々ナ方面ノ人ガ居ルノデア
リマスカラ、少クトモ地方ノ農村ノ眞ノ更
生ト云フヤウナ問題ニ付キマシテハ、必ズ
シモ政黨ノ人ガ對立シテ、總テノ紛糾ノ因
ヲ成シテ居ルトノミハ私ハ考ヘナイノデア
リマシテ、色々惡イ例ヲ御擧ゲニナリマシ
タガ、ソレハ勿論惡イ所ノ例モゴザイマス
ガ、私共ノ承知致シテ居リマス所ニ依リマ
スレバ、其ノ村ニ於ケル總テノ人々ガ協議
ヲシテ、非常ニ旨ク村ガ行ッテ居ルト云フ
實例モ決シテ尠クハナイノデアリマシテ、
其ノ點ハ將來實際ノ運用ノ場合ニ於テ十分
ニ考慮ヲ致シマスレバ、誤リナキヲ期スル
コトガ出來ルト考ヘテ居リマス、第三點ノ
小作爭議ノ問題デアリマスガ、小作爭議ノ
コトニ付キマシテ色々御述ニナリマシタ、
ソレニ付テ私ガ又意見ヲ申上ゲテハ、却テ
事ガ長クナリマスシ、紛糾ヲ致シマスカラ
申上ゲマセヌガ、私ガ最近數千件モアル所
ノ小作爭議ト云フモノガ、地主ノ土地引上
ニ起因シテ居ルノダト云フコトヲ申上ゲタ
ノニ對シテ、地主ガ不都合ダカラト云フヤ
ウナ意味デ私ガ申上ゲタト云フ風ニ御取リ
ニナリマシタケレドモ、私ハ決シテサウ云
フ意味デ申上ゲタノデハアリマセヌ、今日
アル所ノ數千件ノ小作爭議ト云フモノガ、
其ノ多クガ土地ノ引上ニ起因シテ居ルト云
フ事實ヲ申上ゲタニ過ギナイノデアリマス、
此ノ法律ガ出來マスルト云フト、小作爭議
ガ却テ殖エルダラウ、農地委員會ト云フヤウ
ナ札ヲブラ下ゲルト、ソレガ爭議引受所ト云
フヤウナコトニナッテ、小作爭議ヲ誘發スル
虞ガアルト云フヤウナコトハ是ハ衆議院
ニ於テノ質問ニモアッタノデアリマス、私共
ハ此ノ法案ヲ提出スルニ當リマシテ、死ぬ
角農村ノ平和ト云フコトヲ標榜致シテ居リ
マヽ、決シテ小作爭議ヲ誘發スルト云フヤ
ウナ虞ノアルコトヲ、强ヒテ規定致スト云
フヤウナコトハ毛頭考へテ居リマセヌ、又
農地委員會ト云フヤウナモノモ、現在小作
爭議ガ相當ニアッテ困ッテ、調停ヲシナケレ
バナラヌト云フヤウナ所ニハ或ハ强ヒテ
奬メテ設立ヲ致ス場合モゴザイマスケレド
干、平和ナ何事モナイヤウナ所ニ、强ヒテ
農地委員會ヲ作レト云フヤウナコトヲ强要
スルヤウナコトハ致サナイ積リデアリマス、
其ノ他不在地主ノ問題ヤ、大中ノ地主ノ事
柄ヤ、小作官設置ノ爲ニ小作爭議ガ殖エタ
トカ、色々御述ニナリマシタケレドモ、ソ
レ等ノ點ニ付キマシテ私ガ兎ヤ角申上ゲマ
スルト、誤ッテ、個人トシテノ意見ヲ申上ゲ
ルヤウナ虞モナイデハゴザイマセヌカラ、
唯私共ハ此ノ法案ノ成立ニ依リマシテ、決
シテ小作爭議ヲ誘發スルヤウナ虞ハナイト
信ジマスルシ、又サウ云フ虞ガ假ニアリト
致シマスナラバ、出來ルダケソレヲ防止ス
ルコトニ付キマシテ、同時ニ色々ナコトヲ
致シテ參リタイト考ヘテ居リマス、詳シイ
コトハ又委員會ニ於テ、御尋ニ從ヒマシテ
御答へ申上ゲタイト存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=18
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019・山隈康
○山隈康君 只今ノ農林大臣ノ御答辯ニ依
リマシテ、農林大臣ノ御趣旨ダケハ一應了
解致シマシタ、此ノ以上ハ意見ニ亙ル虞ガ
アリマス、先ヅ一應是デ本會議ニ於ケル質
問ヲ打切リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=19
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020・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 質疑ノ通〓者ハ
君ニテ終リマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=20
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021・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今上程セラレマシタ
農地調整法案ハ頗ル重要ナル法案デアリマ
スルガ故ニ、此ノ特別委員ノ數ヲ二十五名
トシ、議長ニ其ノ指名ヲ一任スルノ動議ヲ
提出致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=21
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022・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=22
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023・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 戶澤子爵ノ動議
ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=23
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024・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔丸龜書記官朗讀〕
農地調整法案特別委員
公爵一條實孝君公爵鷹司信輔君
侯爵池田宣政君伯爵黑木三次君
子爵野村益三君子爵米津政賢君
子爵八條隆正君子爵織田信恒君
松村眞一郞君太田政弘君
男爵本多政樹君男爵足立豐君
男爵三須精一君男爵稻田昌植君
男爵岩村一木君宮田光雄君
赤池濃君石川三郞君
上松泰造君仲田傳之〓君
小林嘉平治君山本米三君
絲原武太郞君靑木才次郞君
河井彌八君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=24
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025・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第二、市街
地建築物法中改正法律案、政府提出、衆議
院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、委員
長曾我子爵
〔左ノ報〓書ハ朗讀ヲ經サルモ參
照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
市街地建築物法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十三年三月七日
委員長子爵曾我祐邦
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔子爵曾我祐邦君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=25
-
026・曾我祐邦
○子爵會我祐邦君 只今上程セラレマシタ
市街地建築物法中改正法律案ノ特別委員會
ノ經過及結果ヲ御報〓申上ゲマス、今囘此
ノ法案ヲ提出セラレマシタ其ノ理由ヲ簡單
ニ申上ゲタイト存ジマス、現今行ハレテ居
リマスル所ノ市街地建築物法ト云ヒマスル
モノハ、大正八年ニ第三十七號ヲ以テ制定
セラレマシタ、大正九年ニ其ノ一部ノ改正
ヲ見タノデゴザイマス、而シテ今日ニ及ビ
マスルト相當ノ成績ハ擧ゲテ居ルト云フコ
トデゴザイマスルケレドモ、時勢ノ推移其
ノ他特ニ交通、或ハ防空、及保健衞生ノ上
カラ見マシテモ、其ノ改正ノ必要ヲ認メタ
ノデゴザイマス、改正ノ要點ハ第一、居
住專用地區ト云フモノト又工業專用地區ト
云フモノヲ拵ヘタコトデゴザイマス、現今
ノ居住地區內ニ於キマシテハ、住宅以外ノ
建築物モ相當ニ現存シテ居ルノデゴザイヤ
ス、爲ニ住居者ノ安寧トカ、保健ノ安全ヲ
期スルトカニ、甚ダ思ハシクナイト云フ點
モゴザイマスルガ故ニ、今囘ハ居住專用地
區ト云フモノヲ選定致シマシテ、居住者ノ
一安寧ト其ノ家族ノ健康安全ヲ保護シ、併セ
テ環境ノ整正ヲ圖ラムト欲スルモノデアリ
マス、又工業地帶ニ於キマシテハ、現在ハ其
處ニ建築セラレテアリマスル所ノ建築物ノ
用途ハ無制限ニナッテ居リマシテ、卽チ言換
ヘマスレバ埋立地、運河等ガゴザイマシ
テ、工業地帶ニ最モ適スルモノガアルニ拘
ラズ、其處ニハ住宅デアルトカ、商店デア
ルトカ云フモノガ混ッテ建築セラレテ居ル
ノデアリマス、今囘ハ工業專用地區ト云フ
モノヲ選定シテ、以テ土地利用ノ適正ヲ圖
リ、產業能率ノ增進ヲ期セムトスルノデア
リマス、第二ハ高度地區及空地地區ト云フ
モノニ關スルコトデゴザイマス此ノ言葉
ハ餘リ我々ハ耳馴レテ居リマセヌガ、極ク
簡單ニ申上ゲマスレバ、或地區ニ於キマシ
テハ三階以下ノ建築ヲシテイケナイ、四階
以下ノ建築ヲシテハイケナイト云フコトノ
指定ヲスル意味デアリマス、又反對ニ或地
區ニ於キマシテハ何「メートル」以上ノ建
築ヲシテハイケナイト云フコトデアリマス、
之ヲ實際ニ申シマスレバ、或ハ新宿ノヤウ
ナ所デアリマストカ、アヽ云フ所ニハ大キ
ナ建築物ヲ命ジマシテ、或ハ伊勢ノ神宮ノ
外宮ノ前デアリマストカ、皇居ノ附近ニ於
キマシテハ高イ建築ヲ許シマセヌ、一ハ高
サニ於テ最高ノ限度ヲ指定シ、一ハ最低ノ
限度ヲ指定シテ、建築物ヲ指定セムトスル
モノデアリマス、又空地ト申シマスモノハ、
邸ノ中ニ家ヲ造リマス其ノ面積ノ比例ヲ指
定シテ決メヨウト云フノデゴザイマス、例
ヘバ三割ニ決メルトカ、四割ニ決メルトカ
云フヤウナコトデアリマス、之ヲ言換ヘマ
スレバ、其ノ空地ノ目的ト云フモノハ詰リ
空爆ニ對スルヤウナ場合ニ、其ノ危險ニ對
スル安全率ヲ殖サウトスル目的デゴザイマ
ス、第三ノ建築物ノ構造、設備、或ハ敷地
ニ關シマシテハ、現行ノ規定ニ於キマシテ
ハ、主務大臣ガ衞生又ハ保安ニ必要ナル規
定ヲ設ケテ居リマスルガ、今囘ハ特ニ防空
上ノ必要ト云フコトヲ考ヘマシテ、空爆ニ
依ル所ノ禍害ヲ輕減セムト欲スルモノデゴ
ザイマス、第四、道路ノ幅員ニ關スルモノ
デゴザイマス、現行法ニ於キマシテハ、道
路ハ九尺以上ノモノト云フコトニナッテ居
リマシタガ自動車ノ發達及其ノ交通、火
災ノ延燒ノ防止、或ハ採光通風保健等ノ點
カラ見マシテ、特ニ防空ノ見地カラ見マシ
テ其ノ必要ヲ認メ、幅員ヲ四「メートル」以
上ヲ道路トスルト云フコトニ改正セムトス
ルモノデゴザイマス、併シナガラ特殊ノ理
由ニ基キマシテハ、此ノ四「メートル」ト云
フモノモ二·七「メートル」以上ノモノヲ道
路ト云フコトヲ認メヨウト云フコトデゴザ
イマス、以上ガ此ノ法案ノ提案サレタ主ナ
ル理由デゴザイマス、只今其ノ質問應答ノ
主ナルモノヲ申上ゲヨウト思ヒマス、專用
居住地區ニ現在旣ニ存在シテ居ル所ノ往宅
以外ノ建物ニ對シマシテハ、或ハ年限ヲ附
シテ改造セシムルトカ、或ハ禁止スルトカ、
或ハソレヲ如何ナル方法ニ依ッテ之ヲ制限
セムトスルヤト云フ問ニ對シマシテハ現
在ノ所デハ十分考ハ練ッテ居ラナイケレド
モ、將來年限ヲ附スルヤウナコトモアルカ
モ知レナイガ、併シナガラ唯現在在ル建物
ニ對シマシテハ、其ノ增築ノ場合、若シク
ハ改造ノ場合ニハ直チニ或程度ノ制限ヲ
シテ行キタイト云フ考デアルト云フ御答辯
デゴザイマシタ、今囘ハ防空施設ト云フコ
トニ對シテ大イニ考ヘテ居ラレルガ、防空ノ
設備ト云フコトハ一體如何ナルコトヲ爲サ
ムトスルノデアルカ、之ニ對シマスル答ト
致シマシテハ、防空ノコトハ非常ニムツカ
シイ、併シナガラ過去ノ經驗ニ鑑ミテ唯一
ツ明カナコトハ鐵筋「コンクリート」ノ建
物ガ爆彈ニモ、燒夷彈ニモ抵抗ガ非常ニ强
イト云フコトハ、明カニ證明サレタヤウナ
氣ガスル、デアルカラ大キナ「ビルデイン
グ」ノ如キモノニ對シテハ、所謂爆彈除ノ
目的ヲ以テ地下室ノ改造ヲ命ズルトカ、新
シク建テルㄱビルデイング」ニハ之ヲ制定セ
ムトスルト云フヤウナ考ヲ持ッテ居ル、或ハ
一般市民ノ地下室ニ入ルヤウナコトモ出來
ルヤウナモノヲ考ヘヨウカト思ッテ居ルト
云フヤウナ御說明デゴザイマシタ、問空
爆ト云フコトヲ考ヘルト直チニ火災ヲ聯想
シナケレバナラヌ、火災ヲ聯想スルト云フ
場合ニハ直チニ水ト云フコトヲ考ヘナケレ
バナラヌデハナイカ、殊ニ我ガ國ノ如キ地
震國ニ於テハ、一朝非常ナ時ニ於テハ直チ
ニ水道ヲ當テニスルコトガ出來ナイト云フ
コトハ、過去ノ震災ニ於テモ明カナ例デハ
ナイカ、今囘ノ法案ガ實施セラレル時ニハ
地下水ノ應用、卽チ鑿井ノ利用等ヲ十分考
ヘル必要アルト思フガ、政府ハドウ思フカ、
殊ニ此ノ水ノ問題ト云フモノハ防火ノ目的
以外ニ於テ、所謂一般人民ノ生命ニ關スル
重大ナ問題デアルト云フコトハ申ス迄モナ
イコトデハナイカ、之ニ對シマスル答ト致
シマシテハ、政府ハ此ノ點ニ付テハ大イニ
心配ヲシテ居ル、井戶若シクハ貯水槽ヲ造
ルコトニ於テ是ハ急務デアルト云フコトハ
考ヘテ居ルノデアル現ニ十二年度カラ
豫算ヲ取ッテ、全國ニ約二百四十六個ノ貯水
槽ヲ主ナ都市ニ造ラムト今考ヘテ居ル次第
デアル、問、第十二條ノ中ニ衞生上、保安上
ト云フコトガ竝ベテアルガ、今度ハ其ノ終
リニ防空上ト云フコトヲ附加ヘラレタ、今
囘ノ改正ニ於ケル唯一ノ防空ト云フ言葉デ
アル、卽チ防空ト云フ字ガ僅カニ此處ニ入ッ
テ居ルバカリデアルガ、如何ニモ防空ト云
フコトニハ從來迄ニモ考慮スルコトガ非常
ニ薄カッタコトヲ痛切ニ感ズル、今囘ノ改正
ニ依ッテ防空ニ關シテ十分ニ市街地建
築物ノ關係ガ法案ニ載セ盡シテ、是ガ
防空ヲ全ウシ得ルト考ヘルヤ否ヤ、先
ツ言換ヘマスレバ不十分デハナイカト
云フ御質問デゴザイマシク、之ニ對シマシ
テ政府ノ答ハ、今囘ノ防空ニ關スル規定ノ
設ケラレタコトハ結局建築物ニ關スル防
空設備ヲ完成シタイ見地カラ制定シタノデ
アル、併シナガラ此ノ防空ト云フコトノ完
璧ハドウモ理想的ニ期スルコトハ困難デア
ル、防空上特ニ必要ト認メル所ノ個々ノモ
ノニ付テ十分ナ設備ヲ爲シ、其ノ爲ニ將來
ハ或ハ國庫ノ補助モ必要デアルカモ知レナ
イ、但シ本條ノ十二條ニ防空上必要ナル規
定ヲ今後ドウ云フ風ニ設ケルカニ付テハ、
今後中央防空委員會ニ徵シテ、ソレニ依ッテ
決定シタイト考ヘテ居ル、問、現在ノ市街
地ノ建築物法ニ適用セラレテ居ル市町村ノ
數ハ幾ラアルカ、又其ノ法案ノ一部ヲ改メ
ラレテ居ルモノハ幾許デアルカ、答、現在ノ
市町村ノ數ハ二百九十九デ、其ノ內全部建
築物法ノ適用サレテ居ルモノハ三十四町村
デアル、此ノ三十四町村ニ對シテ今後改正
セラレタ所ノ規定ガ適用サレルコトヲ得ル
ト思フ、其ノ他主ナ質問及希望ヲ御述ニナ
リマシタ點ヲ一纏メニシテ申シマスレバ
一、專用地區ニ付テハ、地區指定ニ際シ餘
リニ廣範圍ニ於テ之ヲ指定スルト日常生活
ニ朝夕不便ヲ感ズルヤウナコトガアルカモ
知レナイカラ、十分ソレ等ハ注意スルコト
ガ必要デハナカラウカ、更ニ地區指定ノ際
ニ現存スル所ノ不合格ノ建築物ニ付テハ其
ノ增築、改築、再築ニ際シテ相當制限ヲ設
ケルコト住居專用地區內ニ於テハ假令規
模小ナル店舗ト雖モ原動力ヲ使用スルヤ
ウナモノハ之ヲ制限スルコト二、防空上ノ
規定ニ付テハ將來建築物ノミナラズ旣存ノ
建築物ニ對シテモ成ルベク之ヲ適用スルコ
ト又特ニ一般木造建築物ヲ可及的防火的
ナラシムルコトガ非常ニ必要ナルコトデア
ルカラ、ソレニ對スル十分ノ〓究ヲサレム
コトヲ希望スルト云フコトデゴザイマス、
三、芥卽チ塵埃ヲ埋立テテアル所ノ土地ニ
對シテハ特ニ衞生上十分注意ヲシナイト、
或ハ毒瓦斯ガ發生スルトカ、或ハ地盤ガ下
ルトカ、或ハ臭氣ノ堪ヘザルモノガ出來ル
トカ、衞生上非常ニ注意ヲ要スル、外國ニ於
テハ「ドイツ」ノ如キハ斯カル條件ノ土地ニ
ハ建築ハ許サナイ法案ガアル、「イギリス」
ノ如キモ非常ニ之ニ制裁ヲ加ヘテ居ルガ、
日本デハソレ等ニ付テハ少シモ構ッテナイ
ヤウデアルガ、之ニ對スル十分ノ注意ヲ要
スルト思フト云フ御話デゴザイマス、四、
防空ニ對スル建築物ノ彩リ、卽チ色彩ニ關
スル質問、又大建築物ガ或地點ニ密集シテ
建築サレルヤウナコトハ將來ノ防空ニ對シ
テ非常ニ考慮ヲ要スル點デハナカラウカト
云フヤウナ御質問モゴザイマス、五、市街
地ニ於テハ道路ノ幅員ヲ只今御說明シタヤ
ウニ制定サレタノデアリマスガ、自動車ノ
囘轉半徑ニ應ジテ、所謂往來ノ角ヲ削ッテ行
クト云フコトガ必要デハナカラウカ、斯ク
シナイト所謂交通上ニ色々ノ故障ガ起リ易
イカラ、角度ハ自動車ノ囘轉半徑ト相竝行
スル如ク削ルコトノ必要ガアリハシナイカ、
六、指定地外ノ工場、卽チ工場地點ニアリ
マス以外ノ特別ノ工場其ノ他ノ建築物ニ對
シテモ防空ノ設備ヲナサシムルノ必要ガ
アリハセヌカ、是等ノ質問應答ト希望意見
ニ關シマシテ、政府ニ於キマシテハ適當
ニ善處セラレルト云フノ深切ナル答辯ガゴ
ザイマシタ、斯クシテ質問應答ヲ終リマシ
テ、三月四日、七日ニ亙リマス所ノ一一日間
ノ質問應答ノ終リニ、此ノ法案ヲ一括シマ
シテ議題ニ供シ、全部全會一致ヲ以テ可決
セラレマシタ、右御報告申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=26
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027・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モナ
ケレバ本案ノ採決ヲ致シマス、本案ノ第二
讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=27
-
028・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=28
-
029・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=29
-
030・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=30
-
031・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異差ゴゴイイセスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=31
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032・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=32
-
033・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀會
ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部問題ニ
供シマス、本案全部、委員長ノ報告通リデ
御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=33
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034・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=34
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035・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=35
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036・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=36
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037・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=37
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038・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=38
-
039・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀會
ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決議通
リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=39
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040・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナシト認
メマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=40
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041・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第三、有價
證劵業取締法案、政府提出、第一讀會ノ續、
委員長報〓、保科子爵
有價證劵業取締法案
右別册ノ通修正議決セリ依テ及報〓候也
昭和十三年三月七日
委員長子爵保科正昭
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
特別委員ノ修正ニ係ル部分
ノミヲ印刷シ其ノ他ハ之ヲ
略ス小字及-ハ修正ナリ
第八條有價證劵業者ト其ノ業務ニ關シ
取引ヲ爲シタル者ハ有價證劵業者ガ其
シ生ジタル
ノ取引ニ關スル契約ニ違反シタル場合
ニ於テ其ノ違約ニ因ル債權ニ關シ前條
ノ營業保證金ニ付他ノ債權者ニ先チ辨
濟ヲ受クルノ權利ヲ有ス
〔子爵保科正昭君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=41
-
042・保科正昭
○子爵保科正昭君 只今議題トナリマシタ
有價證劵業取締法案ノ委員會ニ於ケル審議
ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓申上ゲマス、本案
ニ付キマシテ過日本議場ニ於キマシテ提案
理由ノ說明ガ詳細ゴザイマシタ故ニ、玆
私ガ重ネテ申上ゲナイデ唯其ノ大意ヲ一言
申上ゲテ置キマス、有價證劵ノ流通ト、其
ノ取引ノ安全ヲ圖ルコトガ必要デアリマス
故ニ、從來ノ取引所制度ニ依リマシテ、取
引所以外ニ於テ取引所類似ノ投機取引ヲス
ルコトト、相場ヲ利用シテ賭博的行爲ヲ爲
スコトヲ禁ジテ居リマシタノデゴザイマス
ガ、近來交通、通信ノ發達ニ伴ヒマシテ、
現物商ノ名ノ下ニ隱レテ、斯カル營業ヲ爲
ス者ガ增加シタノデゴザイマス、其ノ中ニ
ハ資力ガ乏シク、信用ガ薄弱デ、動モスレ
バ不正行爲、或ハ犯罪行爲ヲ行フモノガ少
クナイノデゴザイマス依リマシテ玆ニ此
ノ法案ヲ提出セラレマシテ、其ノ業ニ從事
致シマス者ハ免許ヲ要スルコトトシタノデ
ゴザイマス又營業致シマス上カラハ營
業保證金ト申シマスモノヲ供託スルコトヲ
必要ト致シタノデゴザイマス、其ノ供託金
ニ付キマシテハ、對手方ハ優先的ニ辨濟ヲ
受ケル權利ヲ認メマシテ、業者ノ業務、財
產等ニ關シマシテハ、政府ハ監督規定ヲ設
クルコトニ致シタノデゴザイマス、其ノ外
ニ尙是等ノ違反者ニ、行政上ノ處置及罰則ノ
規定ガ設ケラレテアルノデゴザイマス、本委
員會ハ三月四日ニ第一囘、引續キマシテ三
囘開會致シマシテ、委員諸君ハ愼重ニ審議
ヲ盡サレタノデゴザイマス、問題トナリマ
シタ點ノ主ナルモノヲ申上ゲマスレバ、第
二條ニ規定シテゴザイマス免許ノ年限デゴ
ザイマス、免許ノ年限ヲ五箇年ト致シマシ
テ、千篇一律ニ五箇年トナッテ居ルノデゴ
ザイマス、是ハ餘リ短イカラ考モノデハナ
イカト云フノガ問題ノ一ツニナリマシタソ
レカラ此ノ法案ノ第八條ニ規定シテゴザ
イマス不正行爲ニ因ッテ取引ニ損害ヲ加ヘ
タ場合ニモ、矢張リ保證金ヲ以テ辨償シテ
然ルベキデアルト思フガドウカ、是ハ營業
保證金ヲ申シタノデゴザイマス、第十四條
ニ付キマシテハ、差金、株式仲買デ差金ヲ
授受スル目的デ致シタ者ハ、賭博行爲ヲヤッ
タカドウカト云フ點ニ付テハ、果シテ賭博
行爲ガ主ナル目的デアルカドウカガ問題デ
ハナイカ、又第十七條ニハ罰則ヲ定メテア
リマス、其ノ中ニハ本人ノ犯シタ罪ヲ罰ス
ルハ勿論是ハ當然デアリマスケレドモ、本
人デナク、其ノ家族、家主ト云ッタヤウナ業
務ニ關係ヲシナイ者ガ犯罪シタノニモ、矢
張リ業者ノ犯罪、違反行爲ニ付テ本人ノ犯
シタモノト差コソアレ、矢張リ罪ト見ルコ
トハ如何デアラウカ、是ハ餘程法律上カラ
考ヘテ見テモ考慮スル點ガアリハシナイ
カ、ソレカラ最後ニ有價證劵業者ハ將來總
テ取引所法ニ依リマシテ、取引所員ト云フ
コトニ致シテ之ヲ監督シテ行ク考ハナイカ
ト云フ質疑ガアッタノデゴザイマス、之ニ對
シマシテ政府ハ、將來ノ問題トシテ十分〓
究ヲ遂ゲテ見タイト答ヘテ居ルノデアリマ
ス、而シテ本案ニ付キマシテハ、旣ニ印刷
ニ依リマシテ御報告申上ゲタ通リデゴザイ
マスカラ、玆ニ詳細ノコトハ申上ゲルノヲ
略シマスガ其ノ後全會一致修正案ヲ可決
サレタノデゴザイマス、其ノ修正ノ點ハ前
申上ゲマシタ第八條ノ「有價證劵業者ガ其ノ
取引ニ關スル契約ニ違反シタル場合ニ於テ
其ノ違約ニ因ル債權」トアリマスノヲ、「其
ノ取引ニ關シ生ジタル債權」ト云フコトニ改
メタノデゴザイマス、卽チ修正ニナリマシ
タ第八條ヲ初カラ玆ニ讀上ゲマスト「第八條、
有價證劵業者ト其ノ業務ニ關シ取引ヲ爲シ
タル者ハ其ノ取引ニ關シ生ジクル債權ニ關
シ前條ノ營業保證金ニ付他ノ債權者ニ先チ
辨濟ヲ受クルノ權利ヲ有ス」、斯樣ニ修正
ニ相成リマシタ、其ノ修正ノ理由ヲ申上ゲ
マスト、有價證劵業者ガ其ノ取引ニ關シ不
正ノ行爲ヲ爲シタ場合ニ、其ノ不正ノ行爲
ニ因ル債權ニ關シ、保證金ニ付テ取引者ガ
他ノ債權ニ先ダッテ辨濟ヲ受クル權利ガア
ルヤウニシナケレバ、其ノ第八條ハ十分デ
ナイ、本案ハ不正ノ行爲ヲ爲ス者ヲ取締ル
ト云フコトガ根本ノ考デナケレバナラナイ
ノデアルカラ、原案ノ如ク違約ニ因ル債權
ト規定シタダケデハ、一番大キナモノヲ逃
ガスト云フコトニナルノデアリマスカラ、
是ハ是非加ヘテ然ルベキモノデアルト云フ
コトデアリマシタ、仍テ前申上ゲマシタ趣
旨ヲ含マセマスヤウニ修正セラレタノデゴ
ザイマス、之ニ對シマシテ政府モ同意ヲ致
シマシタ、右申述べマシタ通リニ全會一致、
修正決議ニ相成リマシタ、以上甚ダ簡單デ
ゴザイマスガ御報告ヲ申上ゲマス、尙詳細
ノコトハ速記ヲ待ッテ御承知ヲ願ヒタイト
存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=42
-
043・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 簡單ニ質問致シタイ
ト存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=43
-
044・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=44
-
045・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 只今委員長ノ御報告
デ大體ノコトハ能ク分リマシタノデスガ、只
今修正ノ箇所ガアッタト存ジマス、其ノ修正
ノ箇所ハ政府デモ同意サレテ居ルト云フコ
トデアリマスルカラ、此ノ際政府委員カラ
伺ヒタイノデゴザイマスガ、其ノ修正ノ意
味ハドウ云フ意味ニ實際ナッテ居リマスカ、
法律的ニ申シマスト範圍ガ廣クナッテ居ルカ
ト存ジマスガ、ドウ云フ風ニ廣クナリマシ
タノデスカ、之ヲ一ツ法律的ニ一應御說明
ヲ願ヒタイト思ヒマス
〔政府委員木暮武太夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=45
-
046・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 只今ノ大河內
子爵ノ御質問ニ御答ヘ申上ゲマス、委員長
カラ詳細御說明ニナリマシタ通リニ、有價
證劵業取締法案ノ第八條ハ原文ニ於キマシ
テハ「有價證劵業者ト其ノ業務ニ關シ取引
ヲ爲シタル者ハ有價證劵業者ガ其ノ取引ニ
關スル契約ニ違反シタル場合ニ於テ其ノ違
約ニ因ル債權ニ關シ前條ノ營業保證金ニ付
他ノ債權者ニ先チ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ有
ス」ト云フ風ニナッテ居リマシタモノヲ御修
正ニ依リマシテ「有價證劵業者ト其ノ業務
ニ關シ取引ヲ爲シタル者ハ其ノ取引ニ關シ
生ジタル債權ニ關シ前條ノ營業保證金ニ付
他ノ債權者ニ先チ辨濟ヲ受クル權利ヲ有ス」
トナッテ居ルノデゴザイマス、原案ニ於キマ
シテハ有價證劵業者ノ供託致シマシタ營業
保證金ニ付キマシテ、顧客ガ有價證劵業者
ガ約束ヲ破リマシタ場合ニ、違約致シマシ
タ場合ニ、其ノ違約辨償ノ請求權ヲ有スル
ト云フ建前ニナッテ居リマシタノデアリマス
ガ、修正案ニ於キマシテハ違約ノ場合バカ
リデナク不正行爲ニ基ク辨償ノ請求權ヲ持
タセル、言葉ヲ換ヘテ申シマスルナラバ
不當利得返還ノ請求權デアルトカ、或ハ不
法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ト云フモノ
ヲ之ニ依ッテ得ルコトガ出來ルト云フ風ニ修
正案ニ依ッテナリマシタノデゴザイマス、實
際問題ト致シマシテハ、多クノ場合ニ於キ
マシテ不正行爲ニ依ルモノガ契約違反ニ依
ルモノト竝行シテ參リマスモノデスカラ、從
來澤山ノ例ガゴザイマスケレドモ、大部分
ハ契約違反ト云フ中ニ不正行爲ニ因ルモノ
ガ包含サレテ居リマシタ、實際問題トシテ
ハ從來何等ノ問題ガ起ラナカッタノデゴザイ
マスケレドモ、併シ理論上考ヘラレルコト
ハ、契約違反ニ因ラズシテ不正ノ行爲ガア
ルト云フコトモ法律上考ヘラレルノデゴザ
イマシテ、契約違反ガナイ場合ニ不正ノ行
爲ガアルト云フコトモ考ヘラレルノデゴザ
イマシテ、斯ウ云フ場合ニモ取引ヲ致シテ
居リマスル所ノ大衆ノ利益ヲ保護スルト云
フコトハ、必要デアルダラウト當局デモ考
ヘマスノデ、此ノ修正ニ依リマシテ此ノ原
案ニアリマス、唯契約違反ノ場合ノ顧客ノ利
益ヲ保護スルト云フグケヨリモ進ンデ、稀
ナル場合デゴザイマスケレドモ、不法行爲
ニ因ル場合ノ顧客ノ利益ヲ保護スルト云フ
風ニ、廣ク御修正ニナリマシタ點ニ付テハ、
政府ト致シマシテハ差支ナイト考ヘテ居ル
ノデゴザイマス、尙此ノ條文ニ基キマシテ
優先シテ辨濟請求權ヲ持ツト云フコトハ、
此ノ優先辨濟ノ請求權ハ、特別ノ先取特權
ト解釋致スベキモノト考ヘラレルノデゴザ
イマシテ、國稅徴收法ニ依リマスル國稅ガ
先ヅ優先致シマスル外ハ、一切ノ他ノ債權ニ
優先致シマスルト考ヘテ居ルノデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=46
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047・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 只今ノハ大體分リマ
シタガ、不正ト云フ中ニ不當利得ガ入ルヤ
ウニ御說明デアリマシタガ、ソコガ一點、ソ
レカラ賣買ニ依ッテ兩者間ニ債權債務關係ヲ
生ジタ場合ニハ此ノ中へ入リマスカ入リマ
セヌカ、其ノ點、此ノ二點ヲ御答へ願ヒマス
〔政府委員木暮武太夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=47
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048・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 御答へ申上ゲ
やっ、只今ノ御質問ノ二點ハ、私ハ此ノ修
正シタ方ノ解釋ノ中ニ入ルコトニナルト思
ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=48
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049・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 今一點伺ヒマスガ、
其ノ修正ハ勿論政府ニ於テ御同意ダト存ジ
マスガ、其ノ同意サレタ理由ヲ簡單デ宜シ
ウゴザイマスカラ御話ヲ願ヒマス
〔政府委員木暮武太夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=49
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050・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 御答ヲ申上ゲ
ママ、此ノ法律ハ委員長カラモ御說明申上
ゲマシタ通リニ、有價證劵取引ノ安全性、
優先性ヲ確保スル、サウシテ段々近頃盛ニ
ナッテ參リマス有價證劵取引ニ於キマス有
價證劵業者ト顧客トノ間ニ起リマスル所ノ
紛爭ヲ解決致シマシテ、サウシテ動トモス
ルト資力ノ無イ、信用ノ無イ有價證劵業者
ニ依ッテ此ノ有價證劵ノ取引ガ誤ラレルト
云フコトヲ正サウト云フ法律デゴザイマス
ノデ、政府ト致シマシテハ原案ニ依リマシ
テ從來取引所法ニ於テ原案ト同ジ條文ガア
リマスノデ、實際問題トシテハ不正行爲ニ
依リマシテ生ジタ損害ニ付テ、顧客ヲ保護
スルニモ何等實際問題トシテハ遺憾ノ點ハ
ナカッタノデゴザイマスケレドモ、法理上ハ、
必ズシモ契約違反ノ行爲ト、而シテ不正行
爲ト云フモノガ竝行シテ參リマセヌノデ契
約違反デナクシテ不正行爲ダケガ獨リ存在
シテ居ルト云フ考方モアリマスモノデスカ
ラ、御修正ニ對シテ廣ク顧客ノ利益ヲ保護
スルト云フ意味ニ於テ、別ニ反對スル理由
ハナク、御贊成申上ゲタ次第デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=50
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051・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御發言ガナケレ
バ本案ノ採決ヲ致シマス、本案ノ第二讀會
ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=51
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052・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=52
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053・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=53
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054・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=54
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055・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=55
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056・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=56
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057・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀會
ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問題
ニ供シマス、本案全部、委員長ノ報告通リ
デ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=57
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058・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=58
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059・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=59
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060・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=60
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061・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=61
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062・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=62
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063・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀會
ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決議通
リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=63
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064・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=64
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065・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 次會ノ議事日程
ハ決定次第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、
本日ハ是ニテ散會致シマス
午後三時三十一分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007303242X02119380309&spkNum=65
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