1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十三年二月一日(火曜日)
午後一時二十四分開議
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議事日程 第八號
昭和十三年二月一日
午後一時開議
第一 臨時租税増徴法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 所得税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 相續税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 登録税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 酒造税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第六 酒精及酒精含有飮料税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 麥酒税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 大正九年法律第十二號中改正法律案(所得税法の施行に關する件)(政府提出) 第一讀會
第九 裁判所の設立に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十 大正二年法律第九號中改正法律案(裁判所管轄區域に關する件)(政府提出) 第一讀會
第十一 支那事變の爲召集せられたる地方議會の議員又は其の選擧の當選者の資格に關する法律案(清瀬一郎君外一名提出) 第一讀會
第十二 六大都市に特別市制實施に關する法律案(松永東君外二十名提出) 第一讀會
第十三 民族優生保護法案(八木逸郎君提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=0
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001・小山松壽
○議長(小山松壽君) 諸般ノ報〓ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一今一日貴族院ヨリ受領シタル政府提出案
左ノ如シ
特許法中改正法律案
商標法中改正法律案
不正競爭防止法中改正法律案
辨理士法中改正法律案
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
戰傷病者ノ家族鐵道無賃乘車ニ關スル建
議案
提出者松本治一郞君
船員保險法制定ニ關スル建議案
提出者
米窪滿亮君岡崎憲君
海員懲戒法改正ニ關スル建議案
提出者
米窪滿亮君岡崎憲君
帝國在〓軍人會國庫補助金增額ニ關スル
建議案
提出者行吉角治君
肥料專賣ニ關スル建議案
提出者稻田直道君
高知縣ニ無水アルコール工場設置ニ關ス
ル建議案
提出者依光好秋君
(以上一月二十九日提出)
一去二十九日衆議院規則第十五條但書ニ依
リ議長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
二七七北原阿智之助君
三四三釘本衞雄君
一去二十九日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ
如シ
第三部選出
豫算委員豐田豐吉君(小山谷藏君
補闕)
第三部選出
請願委員林路一君(佐藤啓君補
關
一去二十九日議長ニ於テ選定シタル委員左
ノ如シ
農地調整法案(政府提出)委員
土屋寛君村松久義君
村上國吉君佐藤與一君
北原阿智之助君池田秀雄君
古島義英君土田莊助君
坂下仙一郞君伊藤東一郞君
長野長廣君小林三郞君
山田六郞君森田重次郞君
河野一郞君石坂養平君
菅野善右衞門君泉國三郞君
加藤知正君山口忠五郞君
樋口善右衞門君服部岩吉君
曾和義弌君宮澤裕君
松浦伊平君國光五郞君
伊東岩男君高岡大輔君
赤城宗德君熊谷五右衞門君
平野力三君杉山元治郞君
前川正一君川俣〓音君
中原謹司君大石大君
一去二十九日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ
如シ
昭和十三年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案(政府提出)
外六件委員
辭任三木武夫君補關田川大吉郞君
一昨三十一日近衞內閣總理大臣ヨリ左ノ通
發令アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
朝鮮總督府鐵道局長吉田浩
第七十三囘帝國議會拓務省所管事務政府
委員被仰付
一昨三十一日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル
常任委員左ノ如シ
第五部選出豫算委員石坂繁君
一昨三十一日委員長及理事互選ノ結果左ノ
如シ
農地調整法案(政府提出)委員
委員長宮澤裕君
理事
土屋寬君村松久義君
河野一郞君服部岩吉君
赤城宗德君川俣〓音君
一昨三十一日特別委員理事補關選擧ノ結果
左ノ如シ
兵役法中改正法律案(政府提出)委員
理事鈴木憲太郞君(理事愛野時一郞
君本月二十八日委員辭任ニ付
其ノ補闕)
一昨三十一日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ
如シ
昭和十三年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案(政府提出)
外六件委員
辭任駒井重次君補關篠原陸朗君
辭任藏原敏捷君補關野中徹也君
辭任〓水德太郞君補闕田村秀吉君
兵役法中改正法律案(政府提出)委員
辭任山田順策君補闕眞鍋儀十君
電力管理法案(政府提出)外三件委員
辭任岡野龍一君補關中野邦一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=1
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002・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リ致シマス、電力管理法案外三件、
兵役法中改正法律案及ビ國民健康保險法案
ノ各委員長ヨリ、本日會議中委員會ヲ開キ
タシトノ申出ガアリマス、之ヲ許可スルニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=2
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003・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ之ヲ許可致シマス-鹽野司法大
臣ヨリ去ル一月二十四日ノ濱野徹太郞君及
ビ安藤正純君ノ質疑ニ對シ、答辯ノ爲メ發
言ヲ求メラレテ居リマス、之ヲ許可シマ
ス-司法大臣
〔國務大臣鹽野季彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=3
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004・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 過日本議場ニ於
キマシテ司法部ニ關スル事項ニ付テ、濱野
徹太郞君カラ御質問ガアリマシタ、又安藤
正純君カラモ御質問ガアリマシタノデ、本
日御答ヲ申上ゲル次第デアリマス
先ヅ濱野君ノ御質問ニ御答ヲ致シマスガ
其一ツハ司法制度ノ刷新ニ付テノ御質問デ
アリマシク、司法制度ノ刷新改善ニ付キマ
シテハ、前議會ニ於ケル當院ノ決議ノ御趣
旨ヲ尊重致シマシテ、爾來只管努力致シテ
居リマスルガ、將來ニ於キマシテモ益〓之
ニ力ヲ致ス考デ居リマス
次ハ人權蹂躙問題ニ關シテデアリマス、
此問題ニ付テハ過去ニ於キマシテ、直接搜
査ニ從事致シマシタル官吏ノ中ニ、若干斯
ノ如キ不祥事ヲ見マシタルコトハ、洵ニ遺
憾トスル所デアリマシテ、私ハ就任以來極
力其絕滅ヲ期シ、不當ノ行爲アリタル警察
官吏ニ對シテハ、或ハ司法處分ニ依リ、或
ハ行政上ノ懲戒ヲ要求致シマシテ、嚴重戒
飭ヲ加へ來リマシタ、特ニ事件指揮ノ任ニ
當リマシタ檢事ニ對シマシテハ、搜査ノ適
正妥當ヲ期スルヤウ、機會アル每ニ直接ニ
注意ヲ致シ、又其上官等ヲ通ジテ留意セシ
メテ居ルノデアリマシテ、將來人權蹂躪
ノ如キ聲ノ起ラザルヤウ、其絕滅ヲ期シテ
居ル次第デアリマス
次ニ帝人事件ニ關スル御質問デアリマシ
タガ、昨年末帝人事件ノ全被告ニ對シ無罪
ノ判決ガ下リマシタ、之ニ付テ控訴スベキ
ヤ否ヤニ付キマシテハ、愼重ニ熟慮ノ末、
控訴ヲ爲サザルヲ至當ト考ヘマシテ、控訴
ヲ爲サズ確定セシメタノデゴザイマス
尙ホ岩村司法次官ノ問題ニ付キマシテ
ハ、司法ノ人事行政ト致シマシテ、之ヲ以
テ適材適所ナリト考ヘタ次第デアリマス
(「ノウ〓〓」)
次ニハ判事、檢事職責ノ區分ニ付テ御尋
ガアリマシタガ、判事、檢事ノ地位職責ニ
關シマシテハ、司法ノ威信ヲ發揚スルコト
ニ付テ、將來トモ十分努力ヲ致ス考デアリ
マシ、尙ホ裁判所ト檢事局トノ廳舍ノ區分
ニ付キマシテノ御話モアリマシタガ、御意
見ノヤウニ豫算ノ許ス限リニ於テ既ニ實施
シツヽアルノデゴザイマス
又安藤君ノ御質問ニ御答ヲ致シマスル
ガ、檢察制度ニ付テ改善ノ要アルコトハ、
洵ニ御說ノ通リデアリマシテ、此點ニ付テ
著々努力ヲ拂ッテ居ル次第デアリマス、又
人權尊重ガ裁判、檢察ノ手續上極メテ大切
ナルコトモ亦申ス迄モナイコトデゴザイマ
シテ、政府ト致シマシテモ極力人權蹂躪ノ
如キ不祥事ノナキヤウ、種々具體的ノ方策
ヲ講ジテ努力致シテ居ルノデアリマス、帝
人事件ノ無罪判決ニ付キマシテハ、控訴ス
ベキヤ否ヤ、愼重熟慮ノ末ニ控訴ヲ爲サザ
ルコトヲ至當ト考ヘテ、其手續ヲ爲サナ
カッタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=4
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005・小山松壽
○議長(小山松壽君) 濱野徹太郞君
〔濱野徹太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=5
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006・小山松壽
○議長(小山松壽君) 濱野君ニ申シマス、
濱野君ヨリ總理大臣ノ出席ヲ求メラレマシ
タ、只今緊急會議中ニテ出席致シ兼ヌルト
ノコトデアリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=6
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007・濱野徹太郎
○濱野徹太郞君 先般ノ私ノ質問ニ對シ只
今司法大臣ヨリ御答辯ガアリマシタガ、其
御答辯ハ到底私ノ滿足ヲスル所デハアリマ
セヌ(拍手)先ヅ其中ノ司法制度刷新ニ關ス
ル問題ニ付キマシテハ、曩ニ本議會ニ於ケ
ル決議ノ趣旨ヲ尊重シ著々刷新ヲ圖ルト云
フ御言明ハ、姑ク之ヲバ信ズルコトト致シ
テ置キマス、私ノ司法大臣ニ伺ハナケレバ
ナラナイ問題ノ重點ハ、曩ニ明瞭ニ申上ゲ
テ置キマシタ通リ三點アリマス
其一ツハ、所謂一世ヲ聳動シマシタ帝人事
件ニ付キマシテ全部無罪ノ判決ノ言渡ガア
リ、其判決ノ理由ノ基礎トスル所ノモノハ、證據
ガマダ足リナイカラ無罪ニシタト云フニアラ
ズシテ、ハッキリト檢事ノ主張スル所ノ公訴
事實ハ根柢ヨリ存セザルモノデアル、法延
ニ於テ全被〓ハ口ヲ揃ヘテ、是レ實ニ檢事
ノ想像ニ基クモノデアリ、檢事側ノ創作ニ
依ルモノデアルト云フコトヲ主張シタガ、
判決ハ明ニ此事實ヲ認メテ、檢事ノ公訴ハ
全然事實無イモノデアリト云フコトヲバ根
抵トシテ居ルガ故ニ、此事實ニ基イテ三ツノ
問題ノ發生ヲ見、之ヲ質問致シタノデアル
苟モ天下ノ耳目ヲ聳動シタ所ノ此事件、
官紀紊亂ヲ叫ビ、畏クモ勅裁ヲ仰イデ國務
大臣二人ヲ勾留ニ付シ、其他大官、社會的
重要ノ地位ヲ占ムル人達ノ多數ヲ未決勾留
ニ處シ、サウシテ無罪ノ判決ガ確定シタ時
ニ於テ、當時事件ノ摘發、檢擧ヲ指導監督
シタル司法部ノ大官ニ對シ、政府ハ如何ナ
ル責任ヲ取リ、又ハ取ラサウトスルカト云
フコトニ付テノ質問デアリマシタ
第二ハ、判決ハ明ニ檢事主張ノ事實ナシ
ト謳ウテ居ルニ拘ラズ、新聞ノ聲明トシテ
傳ヘラレル所ニ依リマスト、司法大臣ハ大
イニ公訴ヲ維持スベキ事實ガアル、檢事ノ
主張ニハ十分ニ理由ガアル、證據ガ未ダ薹
ハナイト云フヤウナ所モアルガ、大乘的ニ
見テ控訴ヲ拗棄シタト云フコトノ聲明ガア
ル、是ハ一國ノ神聖ナル司法部ノ權威ト、
國民風〓ト思想ノ上ニ影響スル所重大デア
リマスルカラシテ、果シテ司法大臣ハ此聲
明ニ於ケル所ノ大乘的立場ニ依ッテ控訴權
ヲ抛棄シタト云フ、所謂大乘的トハ何ゾヤ
ト云フコトガ私ノ質問ノ第二デアリマシタ
(拍手)
第三ハ、當時檢擧ノ時ニ東京地方裁判所
ノ檢事正トシテ、全責任ヲ帶ビテ部下ノ檢
事ヲバ督勵指導シタ所ノ岩村氏ガ、此判決
ノ言渡ノ當時ニハ、大審院次席檢事ノ地位
ニ在リマシタガ、全責任ヲ感ジテ辭表ヲ提
出シ、官吏トシテノ道義心ノ發露ヲ見タル
所意外ニモ司法大臣ハ此岩村君ノ道義心
ノ發露ヲ蹂躪リ、辭表ヲ却下シタルノミナ
ラズ、更ニ又之ヲ司法次官ニ拔擢シタ、之ニ
對シ司法大臣ハ只今適材適所ト云フガ如キ、
片々タル理由ニ依リテ說明セントシタガ、
私ハ左樣ナ口實ヨリモ、寧ロ司法大臣ノ全
官吏ノ氣風ト責任ニ關スル信念ヲ伺ヒタイ
ト云フコトガ第三ノ點デアリマシタ(拍手)
私ハ昨日ノ豫算總會ニ於ケル帝人事件ニ
對スル一問一答ハ、十分注意シテ居リマシ
タカラ、今日司法大臣ガ語ッテ言ハザル所、
言ッテ足ラザル所ヲバ、豫算總會ニ於テ言
明サレタ所ヲ援用シテ重ネテ質問シタイ、
先ヅ司法大臣ハ豫算總會ニ於テ斯ウ云フコ
トヲ言ハレマシタ、アノ判決ヲ尊重スル、
アノ事實ノ確定ヲ尊重シマスト言ヒマシタ、
分リ切ッタコトデス、日本國民誰一人神聖ナ
ル裁判所ガ愼重審議ノ結果言渡サレタ判決
ガ確定シクル今日ニ於テ、何人カ判決ヲ尊
重セズ、其基礎トナル事實ヲ認メナイト云
フヤウナ者ガアリマセウカ(拍手)今日司法
大臣トシテ當然デアルベキ事柄ヲバ、豫算
總會デ今更ラシク言明シナケレバナラナ
カッタ其原因ハ何處ニ在ルカト私ハ聽イ
テ見タイ、諸君、此事件ガ斯ウ云フ公訴ノ
事實無シト云フコトガ確定シテ無罪ニナッタ
コトニ對シテ、當時檢擧シタル人達ノ指導
監督ノ任ニ當リシ人達ガ、何人モ責任ヲ執
ル者ナシトシマシタナラバ、國民ノ風〓ニ
及ボス影響、國民ノ感想如何ト云フコトガ
問題デアリマス、端的ニ言フナラバ、此儘
ニ責任ヲ執ル者ナシトシマスルナラバ、斯
ル大官、國務大臣ヲ拘留シ、內閣ヲ倒壞セ
シムルノハ檢事デアル、旣ニ然リトスレバ、
善良ニシテ而モ大官ニアラズ、國務大臣ニ
モアラズ將又財閥ニモアラザルヤウナ、微
力ニシテ而モ善良ナル國民生活ノ安定ハ、
全ク檢事ニ依ッテ脅サレルト云フコトヲ私ハ
惧ルヽ(拍手)更ニ此問題ノ重大性ヲ考ヘマス
ルト云フト、吾々憲法ニ依ッテ保障セラレル
所ノ吾人ノ生命モ、財產モ、自由モ、名譽
モ一ニ懸ツテ檢事ノ手ニ在ルノデアリマス、
重ネテ申シマスルナレバ、斯樣ナコトニ對シ
テ一ノ責任ニ任ズルヤウナ人ガ出ナイト云
フヤウナコトニナレバ、檢事ノ手ニ依ッテ吾
吾ノ生命モ、財產モ、時アッテ與奪セラレ、
一言ニシテ言フナラバ、國民ノ生命、財產
等ノ活殺ハ檢事ノ掌中ニアルト云フ結果ヲ
招來スルノヂヤナカラウカ(拍手)從來私ガ
司法部ニ因緣ノアル自分ヲ顧ミマスル時ニ、
世間ニアル言葉ノ中デタッタ一ツダケハ事
實デアッテハナラナイト存ジテ居ル言葉
ガアリマシタ、ソレハ世間デ申ス所ノ檢事
「ファッショ」ト云フ聲デアリマシタ、私ハ檢事
「ファッショ一」ノ本體ヲ知ラナカッタ、況ヤ檢
事「ファッショ」ノ事實ノ存在モ信ジナカッタ
ノデゴザイマスルケレドモ、今日此一世ヲ
聳動シ、今申シタヤウナ重大ナル事件ガ檢
事ノ主張ニ依ッテ提起セラレナガラ、無罪ノ
判決ガアリ、之ニ對シテ指揮監督ノ任ニ當
リシ者ガ、一人ノ責任ヲ取ル者ガナイトシ
マシタナラバ、玆ニ初メテ檢事「ファッショ
ト云フコトガ儼トシテ存在スルト私ハ信ズ
ルニ至ッタノデアル(拍手)蓋シ御承知ノ通
リ檢事ハ判事ト異リマス、判事ハ橫ヲ知ッテ
縱アルコトヲ知リマセス、裁判ニ當ッテ判事
ハ上ヲ見ルコトヲ必要トシナイ、上ト下ト
ノ區別ナクシテ、平等ノ地位ニ橫アルコト
ヲ知ルコトガ、日本ノ裁判ノ神髓デアリマ
スルケレドモ、公訴ヲ提起スル所ノ檢事ハ
全ク異ッテ、上ト下ノ區別アリ、命令ト監督
ニ生キルト云フ、講學上ノ檢事同一體ノ原
則ヲ見マスル時ニ、上ト下トガ互ニ連絡ヲ
取リ、一脈系統相通ズルモノガアッテ、上ノ
欲スル所下一般檢事ガ之ヲ守ル結果、玆ニ
一ツノ儼タル團體ノ存在ヲ見ル、サウシテ
其〓體ガ玆ニ國民ノ自由ト、生命ト、財產
ト云フモノニ對シテ、尊重スルコトヲ知ラ
ナイ時ニ、之ヲ檢事「ファッショ」ト謂フト
私ハ信ズルノデアリマス(拍手)恐ルベキハ
此檢事「ファッショ」」デハナイデスカ、司法
大臣ハ如何ヤウニ御考ニナリマスカ、若シ
檢事ガ法律ニ許サレタル妥當ナル範圍ヲ逸
脫シマシテ、若シ自分ノ職能ノ範圍ヲ逸脫
シマシテ、一國ノ政治問題ニ關與シヨウト
云フヤウナ、檢事「ファッショㄴノ思想ガ現
レマシタナラバ、内閣倒壞ト相成ルベク、
若シ一團ヲ成ス檢事ノ「ファッショㄴト云フコ
トガ事實トナッテ、社會問題ニ容喙セントス
ルナラバ、社會ノ混亂ヲ招クベク、又更ニ
他ノ方面ヲ考ヘマシテ、檢事「ファッショレ
目標ガ個人ノ方面ヲ指サス時ニ於キマシ
テハ、國民個人ノ生命ト、名譽ト、財產ト
云フモノハ、日々脅威ヲ與ヘラルヽノデア
リマス、檢事「ファッショㄴノ存スル所、國
家ノ問題ニ容喙スル時ニハ、內閣ノ倒壞ト
ナリ、社會ノ方面ニ眼ガ注ガルヽ時ニハ、社
會ハ混亂ヲ來シ、個人ノ一身ヲ睨マレタナ
ラバ、個人ノ生命ト自由ガ檢事ノ掌中ニア
ルト云フコトヲ、言葉ヲ極メテ私ハ司法大
臣ニ警〓スルノ必要ガアルト存ズルノデア
リマス(拍手)當時起訴ニ與ッタ所ノ、指揮監
督ヲシテ居ル人達ガ、或ハ今日退官シテ居
ル人モアリマセウ、退官シテ居ルカラシテ、
俺ハ責任ヲ取ラナイト云フコトハ、所謂西
洋流ノ法律上ノ片クル議論デアリマシテ、
今私ノ說カントスル所ハ、日本人固有ノ道
德、日本人ラシイ廉恥心ト良心ニ依ッテ須ク
責任ヲ取レト云フコトヲ私ハ申シテ居ルノデ
アリマス、(「ヒヤ〓〓」、拍手)聞キマスレ
バ當時ノ重大ナル責任ヲ取ルベキ一人ガ、樞
密顧問官ニ奏請サルヽベシト云フヤウナ新
聞ノ記事ヲ見マシタ時ニ、私ハ國家ノ官吏ノ
名譽ニ賭ケテ、全國家ノ官吏ノ廉恥心ニ賭
ケテ、左樣ナコト是レナカルベシト願ッテ居
ルノデゴザイマス(拍手)重ネテ司法大臣ニ
此點ニ付テ伺ヒタイノハ、此日本精神ニ基
イテ、眞ニ官吏ノ名譽ト尊嚴ヲ維持スル爲
ニ、此儘ニ放置シテ宜イト、重ネテ斷言ス
ルノ勇氣アリヤ否ヤ、伺ヒタイ
第二ノ點、諸君、私ノ質問ノ第二ノ點ハ、
司法大臣ハ說明サレマセヌデシタ、言フ所
ハ大乘的ニ見テ之ヲ控訴シナイ、證據ハ幾
ラカアルノダケレドモ、大乘的ニ見テ控訴
シナイト云フコトノ、所謂大乘的ナル意味
ヲ私ハ伺ッタノデアリマスルガ、司法大臣ハ此
問題ヲ漏シテ居ラレマシタ、唯併ナガラ豫算
總會ニ於ケル御答ニ依リマスルト、大乘的
ト云フヤウナ言葉トカ云々ト云フコトハ、
自分ガ新聞記者諸君ニ御話シタ中ノ、或
筆ノ誤リモアラウト云フヤウナ御言葉デ、
大體ハ否定サレテ居ルノデアリマス、私ハ此
處デ司法大臣ニ伺ヒタイ、若シ是ガコヽ數
年前ノコトデアリマスルナラバ、新聞記者ノ
諸君ガ或ハ筆ヲ走ラシ過ギテ、語ラザル所
ヲモ語ッタカノヤウニ、筆ヲ躍ラスヤウナ
時代モアリマシタケレドモ、今ヤ時代ハサ
ウデハアリマセヌ、新聞ト云ハズ、雜誌
ト云ハズ、言論機關ト云フモノハ悉ク抑
壓ヲ食ッテ居リマシテ、報道ノ自由ヲ奪ハ
レ、評論ノ自由ヲ奪ハレテ居ルト云フ狀態
デアリマス、決シテ新聞記者ノ報道ハ自由
デハナイ、極度ニマデ言論ガ重壓セラレマシ
テ、揭載禁止々々々々ト云フヤウナ狀態ニ
於テ、如何ナル感想ヲ新聞ニ付テ國民ガ持
ツカト言ヒマスルト、新聞ヲ開イテ吾々ガ
見マシタ時ニ、抑壓サレ、報道ノ自由ノナ
イ今日ニ、是ダケ載セラレテ居ル大臣ノ聲
明デアリ、是ダケ載セラレテ居ル官邊ノ放
送デアルカラ、是ダケハ確カデアラウト云
フコトヲ、國民ガ信ズルノニ無理ハナイト
私ハ信ズル(拍手)況ヤ此議會ニ於テ問題ニ
ナルベキ性質ノ言葉ヲバ、何故言論ヲ抑壓
スル所ノ當局ノ人達ハ早速ニ取消ヲセナン
ダノデアルカ、之ヲ放ッテ置イテ、今日吾々
ノ前デ、アレハ新聞記者ノ筆ノ誤リダトカ、
自分ノ言ッタコトヂヤナイト言ッタ所デ、國
民ガソレヲ信ジマスカ、否、却テ今申シタ
ヤウニ、明ニ司法大臣ノ言ッタコトダト信ジ
テシマッタコトハ、今更ドウニモ取消ノ仕樣
ガアリマセヌ、比較ヲスルノモ類ヲ失シテ
居リマスルカ分リマセヌガ、過去ノ疑ハシ
イ事實ニ對スル判斷ニ付テ、國民ガドウ云
フ關心ヲ持ツカト云フコトヲバ考ヘテ見ル
ト、例ヘバ三土氏ノ如キハ、判決ヲ受ケ確定
スル迄ノ間、世間或ハ-或ハ三土氏ヲ疑ク
テ居ル人ガアッタカモ分リマセヌケレドモ、
神聖ナル判決ガアリマスルト云フト、全ク靑天
白日ノ身トナリ、何人モ三土氏ヤ、アヽ云ッ
タ人達ノ無罪ヲ喜ブト共ニ、其中ノ元少壯官
吏デアッタ人達ハ、前官ヲ復活サレマシテ、今
官界ニ於テ活躍サレテ居ル、卽チ個人ガ如何
ニ寃罪ヲ受ケマシテモ、後日神聖ナル無罪
ノ判決ガ確定スルト云フト、全部靑天白日
ニ相成リ、春光ハ其一家ヲ訪レマスケレド
モ、一度報道ノ自由ヲ抑壓サレテ居ル新聞
ガ、最小限度ノ自由トシテ、司法大臣談ト
シテ、大乘的ニ控訴權ヲ行使セナンダト云
フ聲明ヲバ、國民ノ頭ニ塗付ケテシマッタ以
上ハ、今更口頭禪ニ過ギザル司法大臣ノ否
定ノ言葉ダケデハ、到底國民ハ此否定ヲ信
ジナイノデアル、卽チ玆ニ判決トノ區別ヲ
ハッキリ見得ラルヽト思フノデアリマス(拍
手)之ヲ要スルニ司法大臣ガ、私ノ新聞談ト
云フノハ間違ヒダ、ソンナコトハナカッタト
云フヤウナコトハ、一片ノ口頭禪デハ到底
國民ガ納得シマセヌ、唯茲ニ一ツノ方法ガ
アリマス、アナタノ言葉ヲバ事實ダト言ッ
テハッキリ裏書スル方法ガアリマス、御承知
デナケレバ私ハ敢テ御示シ申サウ、ソレハ
卽チ大乘的ナゾト云フ曖昧ナ言葉デ貴重ナ
ル控訴權ヲ左右スルモノデハナイ、司法權
ハ尊嚴デアリ、檢事ハ神聖ニ働イテ居ルト
云フ事實ヲ御示シニナルノハ、卽チ此無罪
ノ事實ヲ惹起シタ所ノ當圓ノ責任者ヲシテ
十分ナル責任ヲ取ラシメク時ニ於テ、司法
大臣ガ聲明ヲシタコトノナイト云フ否定ノ
言葉ヲ國民ガ信ズルデアラウト私ハ信ズル
ノデアリマス(拍手)サウ云フ具體的ノ方法
ヲ執ラズシテ、口頭禪ニ終ル結果トシテ、
ドウ云フ氣持ヲ持ツデセウ、大臣ト大官ト財
界ノ有力者デアリマスルナラバ、隨分ト大
乘的ノ方法ガアルケレドモ、金ニ惠マレズ
地位ニ惠マレザル人達ハ、大乘的ニモ、小
乘的ニモ、檢事「ファッショLニ依ッテ生殺與
奪ノ權ヲ握ラルヽト云フダケノ、恐ルベキ
印象ヲ與ヘルニ止マルノデゴザイマス、更
ニ岩村氏ノ辭表ヲ却下ニナリマシテ榮轉サ
セタト云フコトハ、何ヲ示スモノデアリマ
セウ、諸君、從來檢事ノ起訴シタ事實ニシ
テ無罪ニナック場合ガ度々アリマスルケレ
ドモ、無罪判決ノ言渡ガアッタカラト云フノ
デ、檢事正ガ辭表ヲ出シタト云フコトハ未
ダ一度モアリマセヌ、又世間ハソレヲ問
題ニシナイノデス、斯ウ云フ慣例ノアル司
法部ニ於テ、此事ニ限ッテ何故檢事正デアリ
マシタ岩村氏ガ辭表ヲ提出シタカ、一ツ二
ツノ無罪ノ判決ニ依ッテ檢事正ガ辭表ヲ出
シタコトハナカッタ、此慣例ヲ知リ拔イテ居
ル岩村君ガ、此事件ニ責任ヲ感ジテ辭表ヲ
出シタト云フコトハ、此事件ガ國家ノ風〓
民心ニ及ボス所頗ル重大ナルヲ感ジテ、官
吏トシテノ良心ノ發露ヲ示シタモノデアル
ト私ハ信ズルノデアリマス、旣ニ然リトス
ルナラバ、折角岩村氏ノ政治上ノ、否、官
吏道ノ良心ノ發露ヲ無殘ニ蹂躪スルト云フ
コトハ、岩村君ヲ生カス所以ニアラズシテ、
却テ岩村君ヲ殺ス所以デアルト私ハ御同情
ニ堪ヘナイノデアリマス、諸君、今ヤ、國
民ハ自分ノ私利ヲ犠牲ニシ、專ラ國家ノ興
榮ノ爲ニ營々トシテ盡シテ居リマス、然ル
所官吏ガ國ノ政務ヲ執ルニ當リ、國ノ事務
ヲ執ルニ當リマシテヤリッ放シデアリ結果ヲ
考慮スルコトナク、國民ノ生活ニ及ボス所ノ
危害トカ不利益ナドト云フモノヲ考慮セズ、
責任ヲ取ラナイ、否、然ラズシテ上官ガ部下
ノ責任心ノ發動ヲ沒却スルノ結果ハドウデ
アリマセウカ、近衞首相ハ文官令ノ改正ヲ斷
行スルノ勇氣ノ持合セガアルサウデアリマ
ス、官吏制度ヲ改正スルト言ヒマスルケレ
ドモ、制度ヲ改正シマシテモ、其運用ノ任
ニ當ル者ハ官吏デアリマスルカラシテ、官
吏ガ精神ノ緊張ヲ見ルコトナクシテハ、到
底制度改革ノ效果ヲ完ウスルコトハ出來マ
スマイ、官吏ノ精神ノ緊張トハ、卽チ全官
吏ノ責任感ヲ强ウスルコトデアリマス、今
ヤ近衞內閣ハ國民精神總動員ヲ國民ニ呼掛
ケテ居リマスルガ、此國家ノ司法權ノ權威
ヲ冐瀆シ、全官吏ノ責任心ヲ沒却スルガ如
キコトヲ此儘ニシテ置キマスルト云フト、
國民精神總動員ノ一角ヲ崩スモノハ、近衞
内閣自身デアルト云フ非難ヲ免ルヽコトハ
出來ナイト私ハ信ズルノデアリマス(拍手)
而モ私ノ斯樣ニ申シマスル所以ハ、司法部
ヲ彈効スルト云フヤウナ小乘的ノ考ニアラ
ズシテ、ソレコソハ司法大臣ノ言ハレタ大
乘的ニ立ッテ、裁判ノ神聖ヲ維持シ、國內ニ
於ケル正義ノ最後ノ殿堂デアル所ノ、司法
權ノ尊嚴ヲ維持セントスル所ノ、所謂大乘
的ニ立ッテ居ル者デゴザイマス、是ニ於テ首
相ハ居ラレマセヌガ、私ハ近衞內閣ノ文官
制度改正ノ熱意ニ顧ミ、官吏ノ精神ノ緊張
ヲ必要トスル時ニ當リマシテ、總理大臣ト
シテ此問題ニ對スル責任ヲ如何ニスルカト
云フコトヲバ伺ヒタイノデアリマスガ、甚
ダ遺憾デアリマス
次ニ司法大臣ニ對シマシテハ、斯ウ云フ
コトヲ伺ヒタイ、卽チ大乘的ニ控訴權ヲ行
使セザリシト云フ聲明ヲシタコトガナイト
否定サレテ居リマスガ、此壇上ニ於テモ否
定サルヽデアラウト存ジマス、併ナガラ國
民ハ一片ノ口頭禪デソレヲ信ジマセヌカ
ラ、アナタガ立派ナル政治家デアリ、國務
大臣デアルト云フ立場ヲ明ニスルノガ一面
デアリ、他ノ一面ハ、全國民ニ司法部健在
ナリト云フコトヲ示シマスガ爲ニハ、アナ
タガ、アノ大乘的云々ト云フ聲明ハ間違デ
アルト云フコトヲ裏書スル爲ニ、責任者ニ
斷乎責任ヲ取ラスト云フ所ノ大乘心アリヤ
ト云フコトヲ、司法大臣ヨリ重ネテ伺ヒタ
イト存ジマス(拍手)
〔國務大臣鹽野季彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=7
-
008・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 濱野君ニ御答ヲ
致シマス、只今御質問ノ點ハ第一ガ責任問
題第二ガ新聞記事ノ大乘的云々、第三ガ
岩村檢事正ノ問題ト云フコトニナリマス
ガ、便宜第二ノ新聞記事ニ付テ申上ゲマス、
當時ノ新聞記事ハ私ノ談話ヲ綴ッテ揭載セ
ラレタモノデアリマスカラ、其記事ノ文言ニ
付テ全部一カラ十マデ左樣デアルト云フモ
ノデハナイ、或ハ私ノ言葉ノ足リナイガ爲
ニ、記者諸君ノ中デ其頭ニ於テ書カレタ部
分モアルノデハナイカト思フノデアリマ
ス、其當時ニ於キマシテ大乘的ト云フ言葉
ヲ使ッタヤウニ思ヒマス、其意味合ハ、當時
檢事側ニ於キマシテハ控訴ヲシタイト云フ
希望デアッタノデアリマス、其當時私ハ事件
ノ全般ニ亙ッテ詳細聽取リマシテ、愼重熟慮
ノ上判決ヲ正當ナリト信ジタノデアリマ
ス、隨テ是ハ控訴シナイガ宜シイト云フ意
見ヲ述ベタノデアリマシテ、ソレニ對シマ
シテハ、或ハ此儘確定シテハ檢事ノ面目ガ
丸潰レデアルトカ、或ハ控訴ヲスル途ガアル
ノデアルカラ、兎ニ角控訴スルコトヲ許シ
テ貰ヒタイト云フヤウナ意見ガアッタノデ
アリマシテ、ソレ等ノ面目問題、其他ノ些
細ナ事ニ付テハ、旣ニ判決ガアッタ以上ニ於
テハ、ゴタ〓〓コダハルコトハナイ、大所
高所カラ見ルベキモノデアルト云フ意味合
ニ於テ、大乘的ト云フ言葉ヲ使ッタモノデア
リマス
第一點ノ責任問題ニ付キマシテハ、是ハ此
事件ニ關係シタ官吏ノ責任、之ニ付テノ御趣
旨ハ、判決ガ無罪ニナッタカラ、其以前ニ於ケ
ル官吏、卽チ有罪ノ決定ヲ爲シタル豫審判事
若クハ起訴致シタル檢事ノ責任ノ問題ト考
ヘマス、尙ホ進ンデハ要スルニ斯樣ナ事件ヲ
起シク檢事ノ責任ハ如何ト云フ所ガ要點ト考
ヘマス、御承知ノヤウニ判決ハ事件ヲ取調べ
マシタ最後ニ於ケル判斷デアリマシテ、起訴ハ
其取調ヲ要求スル所ノ處分デアリマス、隨テ判
決ノ結果ヲ以テ直チニ起訴ノ當否ヲ決ムベキモ
ノデハナイノデアリマス、起訴ハ起訴當時ニ於
キマスル狀況ニ依ッテ判斷スルノデアリマシテ、
卽チ訴起ノ當時ニ於キマシテ、證據ノ關係カ
ラ犯罪ノ嫌疑ガ十分デアルト見ラレタ場合
ニ、定メラレタル手續ヲ履ミマシテ、サウシテ
裁判所ノ活動ヲ求メテ居ルノデアリマス、
帝人事件ノ起訴ノ際ニ於キマシテモ、同樣
ノ手續ト、同ジク又同樣ノ犯罪ノ嫌疑ヲ以
チマシテ、起訴ノ手續ガ執ラレタノデアリ
マス、隨テ其起訴ニ付キマシテ責任ト云フモ
ノヲ問フベキ點ヲ認メナイノデアリマス、
隨テ當時ノ檢事正デアリマスル現岩村司法
次官ト云フ、其者ノ責任ト云フコトハ考へ
得ラレナイノデアリマス、併ナガラ第三
點トシテ、岩村檢事ガ辭表ヲ出シタデハナ
イカト云フ御話ガアリマシタガ、辭表ハ出
シタノデハアリマセヌ、其當時控訴ヲセザ
ルコトニ決定致シマシタ後ニ、岩村檢事カ
ラ進退伺ヲ出シテ參ッタノデアリマス、是ハ
固ヨリ岩村檢事ノ道義ノ觀念カラ自發的ニ
出シテ參ッタモノデアリマス、併ナガラ監
督官ト致シマシテ、前ニ申上ゲルヤウニ、
其職務ノ上ニ於テ責任ヲ認ムベキ點ガゴザ
イマセヌカラ、私ハ其義ニハ及バナイト申
渡シテ居ル次第デアリマス、何レニ致シマ
シテモ斯樣ナ大事件ガ、數年ニ亙リマシテ
世間ヲ騒ガシ、又當事者ヲ苦シメマシタヤ
ウナ此事件ガ、愼重ナル取調ノ結果全然無
罪ニナッテ結末ヲ〓ゲタノデアリマス、事斯
樣ナ事件ニ付キマシテハ、將來ニ於テ十分
ニ部下ヲ戒飭シ、斯樣ナ事件ヲ起サナイヤ
ウニ努力致ス積リデ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=8
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009・濱野徹太郎
○濱野徹太郞君 簡單デスカラ此席カラ發
言ノ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=9
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010・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=10
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011・濱野徹太郎
○濱野徹太郞君 只今ノ司法大臣ノ御答辯
ハ、法延ニ於ケル一檢事ノ論告ヲ聽クヤウ
デアッテ、大乘的ニ國家ノ官吏ノ廉恥心ト道
義心ト云フ大キナ問題ニ對スル囘答デハア
リマセヌ、國務大臣トシテノ鹽野氏ノ囘答
ヲ期待シタ私ハ頗ル見當ヲ外レテ居ル憾ガ
致シマシタ、岩村氏ノ提出シタノハ辭表デ
ナイ、進退伺ダト申サレマスガ、孰レニセ
ヨ、格段ニ斯樣ナモノヲ出シタト云フ所ニ、
本件ノ結果ノ重大性ヲ自覺シタ事情ニ外ナ
ラヌト私ハ斷定致ス者デアリマス、ドウカ
鹽野氏ハ、單ナル行政長官タルニ止マラズ、
國務大臣トシテノ御答辯ヲ願ヒタイト存ズ
ルノデアリマスガ、此處ハ一間一答ヲ許サ
ヌト云フノデアリマスカラ、他ノ機會ニ於
テ私ハ更ニ追究スル時ガアラウト存ジマス
ルノデ、私ノ質問ハ之ヲ以テ打切リマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=11
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012・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此際日程第九及ビ第十
ノ兩案ヲ一括シテ繰上ゲ上程シ、其審議ヲ
進メラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=12
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013・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=13
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014・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第九、裁判所ノ設立ニ關スル法律案、
日程第十、大正二年法律第九號中改正法律
案〓右兩案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キマ
ス-司法大臣
第九裁判所ノ設立ニ關スル法律案
(政府提出)第一讀會
第十大正二年法律第九號中改正法
律案(政府提出)第一讀會
裁判所ノ設立ニ關スル法律案
樺太元泊郡知取町ニ區裁判所ヲ置キ之ヲ
知取區裁判所ト稱ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
樺太ノ內
豐原豐原市豐原郡
長濱郡富內郡
樺太ノ內
知取
元泊郡敷香郡
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行前豐原區裁判所ニ於テ受理シタ
ル事件ハ其ノ裁判所ニ於テ之ヲ完結ス
〔國務大臣鹽野季彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=14
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015・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 只今上程ニナリ
マシタ二ツノ法律案ニ付キマシテ提案ノ理
由ヲ御說明申上ゲマス、本案ハ樺太豐原區
裁判所ノ管轄ニ属スル區域ノ一部、卽チ樺太
元泊郡、敷香郡、散江郡ノ三郡ヲ管轄區域
トスル知取區裁判所ヲ、元泊郡知取町ニ新
設セントスルモノデアリマス、現管轄廳タ
ル豐原區裁判所ハ樺太豐原市ニ在リマスル
ガ、樺太全體ノ地形カラ見マスト、其位置
ガ甚シク南ニ偏シテ居リマシテ、右ニ述べ
マシタ地方カラ管轄裁判所ニ至リマスルニ
ハ、少カラヌ時間ト費用ヲ要シマスルノデ、
樺太東海岸ニ於ケル知取町ニ新ニ區裁判所
ヲ設ケマシテ、右地方ノ發展ニ伴ヒタイト
大正二年法律第九號中改正法律案
大正二年法律第九號中左ノ通改正ス
別表裁判所管轄區域表中豐原區裁判所ノ
項ヲ左ノ如ク改ム
榮濱郡大泊郡
留多加郡
散江郡
存ジ、本案ヲ提出致シマシタ次第デアリマス
大正二年法律第九號中改正法律案ハ、只
今申上ゲマシタ裁判所設立ニ關スル法律案
ト牽聯致シマシテ、新ニ立テマスル知取區
裁判所ノ管轄區域ヲ定メル爲ニ提出致シマ
シタ、何卒速ニ御協贊ヲ與ヘラレンコトヲ
希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=15
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016・小山松壽
○議長(小山松壽君) 質疑ノ通告ガアリマ
ス、之ヲ許シマス-中村高一君
〔中村高一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=16
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017・中村高一
○中村高一君 本案ニ關聯致シマシテ司法
當局ニ質問ヲ致シタイト思フノデアリマス、
其一ツハ司法制度ノ改善ニ付キマシテ、更
ニ第二ハ出征兵士ニ對シマシテノ裁判ヲ如
何ニスルカト云フ點デアリマス、更ニ第三
ハ、今日ノ時局ニ當リマシテ簡易裁判所ヲ
設ケル意見ガアルカドウカ、第四ハ、旣ニ
農林省カラ提案ヲ致サレテ居リマスル所ノ、
農地調整法ナドガ實施ヲサレルト云フ時ニ
當リマシテ、農村問題ニ付キマシテ專門的
知識ヲ持ツ所ノ判事ヲ養成スル意思ガアル
カドウカ、是等ノ點ニ付キマシテ簡單ナ質
問ヲ致シタイト思フノデアリマス
只今濱野氏カラ帝人事件其他ニ付キマシ
テ司法當局ニ質問ガアッタノデアリマシタ
ガ、吾々モ司法當局ノ辯明ニ付キマシテハ
甚ダ不滿ヲ持ッテ居ルノデアリマシテ、只今
司法大臣ハ帝人事件ニ對シマシテノ責任ヲ
問ハレ、之ニ對シテ答辯セラレマシタケレ
ドモ、之ニ對シマシテハ殆ド吾々ハ了解ヲ
スルコトガ出來ナイ、國民全體ハアノ帝人
事件ガ無罪ニナリマシタ當時、多分司法大
臣ハ辭メルノダラウト云フヤウナコトヲ誰
モ言ッテ居ッタ、恐ラクハ內閣ガ倒レル程ノ
問題ヲ起シテ居ッテ、多分アレハ無罪ニナレ
バ司法大臣ハ無論辭メルシ、大問題ガ起ル
ト思ッテ居リマシタガ、一向司法大臣モ辭
メルヤウナ樣子モナイシ、本日モ何カ人ノ
コトノヤウナ工合ニ、極メテ淡々トシタ辯明
デアリマシテ(拍手)甚ダ吾々ハ不滿ヲ持ッテ
居ルノデアリマス、吾々ガ特ニ司法省當局ニ
尋ネタイノハ、無罪ニナッタカラ、或ハ有罪ニ
ナッタカラ吾々ハ問題ニシヨウトスルノデナク
シテ、裁判ノ結果デアルカラ、無罪ニナラウガ
有罪ニナラウガ已ムヲ得ナイ、唯其途中ニ於
テ人權蹂躪ガ行ハレテ居ルカラ吾々ハ之ヲ問
題ニシテ居ル、無罪ニナッタカラト云ッテ一々
問題ニナルト云フヤウナコトデアッタナラ
バ、是ハ又裁判制度ノ上ニ於キマシテモ、
吾々ハ大キナ問題ダト思フ、是ハ已ムヲ得
ナイ、併シ其間ニ於テ人權蹂躪ガアルト云
フヤウナコトデアルナラバ、是ハ以テノ外
デアリマシテ、今日私ハ檢察制度其モノノ
上ニ大キナ缺點ガアルト云フコトヲ考ヘル
ノデアリマス、先日モ私ハ或ル檢事ガ轉
任シテ來ラレタ判事ノ所ヘ挨拶ニ行ッタ歸
リ途、何デ君ハ挨拶ニ行クノダト言ッタラ、
アンマリ無罪ガ出テハ困ルカラ挨拶ニ行ク
ノダトカ言ッテ居リマシタガ、裁判デ無罪ニ
ナルト云フコトガ、若シモ問題ガナイナラ
バ、堂々ト無罪ニスルノガ私ハ當リ前ダト
思フ、ソレヲ日本ノ裁判統計ニ於テハ無罪
ノ數ガ少ナイト云フヤウナコトヲ言ッテ、無
罪ニナラナイコトヲ誇リトシテ計算ヲ致ス
ト云フヤウナコトガ、私ハ根本的ニ間違ダ
ト思フ、ダカラシテ無罪ニナラナイ爲ニ人
權蹂躪ヲ起スト云フヤウナコトガ勢ヒ出テ
來ルト思フノデアリマシテ、私ハ司法大臣
ガ只今濱野氏ノ御質問ニ對シマシテモ、今
後ハ十分人權蹂躙ニ對シマシテ取締ヲスル
ト云フノデアリマスケレドモ、私ノ御尋致
シタイノハ、ソレナラバ、一體具體的ニド
ウ云フ對策ヲ御採リニナルノカ、之ヲ私ハ
聽キタイノデ、唯人權蹂躪ニ付キマシテハ、
今後十分ニ注意シマストニロッテ見タ所ガ、常
ニサウ云フヤウナ言葉ハ聽クノデアリマシ
テ、具體的ニ例ヘバ犯罪ノ搜査方法ニ付テ
ドウスルトカ、或ハ司法制度ニ對シマシテ
モド、ウ云フ調査會ヲ作ルト云フヤウナ、直
グニ具體的ナ方法ニ付テヤッテ貰ハナカッタ
ナラバ、今度ノ帝人事件ノ無罪ヲ見マシテ
モ、國民ハ斷ジテ滿足ハ致シテ居ラヌト云
フコトヲ私達ハ考ヘルノデアリマシテ、ド
ウカ司法大臣ノ具體的ナル御考ヲ一ツ述ベ
テ戴キタイト思フノガ一ツデアリマス
其次ハ私ハ出征者ニ對シマシテノ事件ヲ
如何ニ取扱フカト云フコトニ付テ、御尋ヲ
致シタイノデアリマスガ、御承知ノ通リ刑
事裁判ニ付キマシテハ、先日モ大審院ニ於
キマシテ神兵隊事件ニ付テ數名ノ被〓ガ出
征ヲ致シマシタ、然ルニ之ニ對シマシテハ、
大審院ニ於テハ司法裁判所ノ管轄ニ屬セザ
ルト云フ理由ニ依リマシテ、何レモ公訴ヲ
棄却セラレテ居ルノデアリマス、或ハ是モ
私ハ極メテ機宜ノ方法デアルト思ヒマスカ
ラ申上ゲルノデアリマスガ、或ル應召サレ
マシタ被〓ガ、直グ其場デ裁判ヲ受ケテ、
卽決デ執行猶豫ニナッテ戰線ニ勇躍シテ出
征ヲ致シタト云フ事實ヲ聞キマシテ、極メ
テ私ハ適當ナル處置デアルト考ヘタノデア
リマス、之ニ比ベマシテ私ガ御尋ヲ致シタ
イノハ民事裁判デアリマシテ、恐ラクハ今度
ノ事變ニ際シマシテ出征ヲ致シテ居リマス
ル者ハ、非常ニ澤山ノ數ニナッテ居ルト思フ
ノデアリマス、此多數ノ出征者ノ中ニハ、
色々ノ訴訟ニ依リマシテ民事上ノ請求ヲ受
ケテ居ル者ナドモ澤山アルト思フノデアリ
やく、私ハ或ル出征者ノ口カラ聽イタ言葉
デアリマスガ、俺ガ出征スルニ當ッテ若シ食
ヘナカッタナラバ、有ル物ヲ皆賣ッテ〓ヒ繋イ
デ居レ、斯ウ言ッテ出征シタ人モアリマス、
或ハ中ニハ、今度ハ軍事扶助法ガ實施ヲセ
ラレマシテ家族ノ者ガ救ハレテ居ルト云フ
ノデ、安心シテ戰線デ働クコトガ出來ルト
云フ聲ヲ聞イタノデアリマスガ、出征者ニ
シテ遺シテ居ル所ノ家族ノコトヲ思ハナイ
者ハ私ハ一人モナイト思フ(拍手)此時ニ當
リマシテ私ハ日本全國ニ繫屬ヲ致シテ居リ
マスル所ノ出征兵士ニ對シマシテノ、色々
ノ民事上ノ請求事件ナドニ付キマシテハ、
宜シク此際事件ヲ中止ヲ致シマシテ、凱旋
ノ日マデ待ツト云フコトガ、私ハ當然デハ
ナイカト考ヘルノデアリマスルガ、之ニ對
シマシテ司法當局ハ、現在ノ訴訟法ノ範圍
內ニ於キマシテ中止ヲスルコトガ出來ルカ
ドウカ、或ハ若シ現在ノ法規ノ上ニ於キマ
シテ許サレズトスルナラバ、何等カノ之ニ
對スル立法ナリ、其他ノ處置ヲ御考ニナル
カドウカ、是ガ私ノ御尋致シタイ第二點デ
アリマス
更ニ第三點ハ、私ハ極メテ簡單ニ申シマ
スルガ、簡易裁判所ヲ此際設ケル意思ガナ
イカ、現ニ亞米利加ヤ英吉利ナドニ於キマ
シテ實施ヲセラレテ居ルノデアリマスガ、
例ヘバ五十圓以下トカ、百圓以下トカ云フ
ヤウナ少額ノ事件ニ付キマシテ、今日ノヤ
ウナ非常時ニ當ッテ、斯ノ如キ幾多ノ事件ヲ
二年モ三年モ掛リ、或ハ多額ノ費用ヲ要ス
ルト云フヤウナコトニ付テハ、吾々ハ考ヘ
ナケレバナラヌト思フ、司法省ニ於ケル統
計ヲ見マスルト、昭和十年ニ於キマシテ五
十圓以內ノ事件ガ四万九千三百十三件アリ
マス、更ニ昭和十一年ニナリマスルト四万
四千三百三十六ト云フ、五十圓以下ノ事件
ダケデモ五万件ニ近イ程アルノデアリマシ
テ、是等ノモノニ付キマシテ多額ノ費用ト
日子ヲ要シテ之ヲ審理スルト云フヤウナコ
トデナクシテ、ムヅカシイ書類ヲ省イタリ、
費用ヲ省イテ、簡單ニ之ヲ取扱ッテヤルト云.
フヤウナ方法ヲ、此際司法當局ハ御考ニナッ
テ居ラレルカドウカ、是ガ第三點デアリマ
ス
更ニモウ一ツハ、農地法ガ旣ニ提案ヲセ
ラレテ居ルノデアリマシテ、是ガ實施ヲセ
ラレマスナラバ、農村ノ裁判事件ト云フモ
ノハ非常ニ複雜化シテ來ルノデアリマス、
今日ノヤウニ農村ニ居リマシテ小作事件ナ
ドヲ取扱ッテ居ル所ノ裁判官ガ、少シモ農村
ノ事情ニ通ゼズシテ、米ガドウ云フ風ニシ
テ穫ッテ來ラレルカ、肥料ガドウ云フ風ニナ
ルカ、或ハ農民ガドレダケノ苦心ヲシテ居
ルカト云フヤウナコトニ付テ、專門的知識
ヲ持ッテ居ラナイ者ガアリマスル爲ニ、非常
識ナル所ノ扱ヲ受ケルト云フ不平ガ農村ノ、
殊ニ小作人ノ中カラ澤山サウ云フ聲ガ聞エ
ルノデアリマス(拍手)吾々ハ本當ニ農民ノ
苦心ト云フモノヲ理解シ得ルダケノ一ツノ
專門的ナ知識ヲ持ッテ居ル所ノ判事ヲ此際
養成致シマシテ、農地調整法ノ實施セラレ
ルト云フ時ニ當リマシタナラバ、是ト相俟ッ
テ其效果ヲ擧ゲルヤウナコトニ付キマシテ、
司法大臣ハ如何ナル御所見ヲ持ッテ居ラレ
マスカ、是ダケガ私ノ聽キタイ點デアリマ
ス(拍手)
〔國務大臣鹽野季彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=17
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018・塩野季彦
○國務大臣(鹽野季彥君) 只今ノ御質問ニ
對シテ御答ヲ致シマス、第一點ハ司法制度
刷新ニ付テ如何ナル具體的考ヲ持ッテ居ル
カト云フ御尋デアリマシタガ、此點ニ付キ
マシテモ當局ト致シマシテ非常ニ考慮致シ
テ居ル所デアリマス、先ヅ制度ノ問題ニ付
キマシテハ、官民ヲ合セクル大キナ委員會
ヲ設ケテ、其ノ委員會ニ於テ制度ノ改善ト
云フコトヲ圖リタイト考ヘテ居リマシタ、
又檢察事務ノ刷新ノ爲ニハ、其搜査方法ノ
上ニ付テ一段ノ工夫ガ必要デアルコトヲ感
ジマシテ、先ヅ是ハ科學的ノ搜査方法ヲ取
入レルコトガ必要デハナイカト考ヘマシタ
ガ爲ニ、科學的搜査方法ノ〓究所ト云フモ
ノヲ設置スル案ヲ作リマシク、以上ノ大調
査委員會、又科學的捜査ノ〓究所等ノ案ニ
付キマシテハ、豫算ヲ必要ト致スノデアリ
マシテ、十三年度ノ豫算ニ組入レルコトヲ
請求致シテ置キマシタル所、事變下ノ財政
ニ於テハ之ヲ認容スルコトガ出來ナイト云
フ悲シムベキ結果ニナリマシテ、明年ハ之
ヲ實施スルコトガ出來ナイノデアリマスル
ガ、機會ガアリ次第之ヲ實現スルコトニ努
力スル考デアリマス、併ナガラ制度ガ出來
マシテモ、之ニ當ル所ノ職員ノ心構ヘガ改
善ヲセラレナケレバ、其效果ヲ擧ゲルコト
ガ出來マセヌノデ、先ヅ第一ニ人事ノ刷新
ニ付テ努力ヲ致シテ居ル所デアリマス、昨
年ノ秋ニ於キマシテモ、東京在勤ノ多數ノ
判事ヲ全國ニ轉勤ヲスルヤウナ、前例ノナ
イ異動ヲ試ミテ見クノモ其一例デアリマス、
尙ホ又職員各自ガ其心構ヘヲ變ヘルベク、
地方各地ノ長官ヲ集メテ之ニ對シテ十分ナ
ル訓示ヲ以テ方途ヲ授ケテ置キマスル外
ニ、事務ノ繁閑ニ應ジマシテ全國ノ判事、
檢事數十名ヅヽヲ四囘ニ亙リマシテ招集致
シマシテ、其點ニ付テ大イニ反省熟慮スル
コトヲ諭示致シテ置キマシタ、是ガ爲ニ各
地ノ長官ヲ通ジ、又ソレ等ノ上京致シマシ
タル職員ヲ通ジマシテ、司法內部ニ於ケル
職員全部ガ司法ノ刷新ニ向ッテノ希望ヲ旺
ナラシメテ居リマス、何卒外部ニ於ケル各
位ニ於カレテモ、此司法刷新ノ爲ニ御援助
アランコトヲ切望スル次第デアリマス
第二點ノ出征兵士ノ裁判ノ件ニ關シマシ
テハ、御心配ノ點ハ民事裁判ノ方面ト考ヘ
ラレマス、出征中民事裁判ヲ休止シテ置ク
方法ハナイカ、ナケレバ立法ヲシテハ如何
カト云フ御尋デアリマシタガ、洵ニ御尤ナ
次第デアリマシテ、此點ニ付キマシテハ現
行ノ民事訴訟法第二百二十一條第一項ニ「當
事者カ不定期間ノ故障ニ因リ訴訟手續ヲ續
行スルコト能ハサルトキハ裁判所ハ決定ヲ
以テ其ノ中止ヲ命スルコトヲ得」ト云フ規定
ガゴザイマスルカラ、此規定ヲ引用致シマ
シテ、然ルベク其必要ニ應ズルヤウナ處置
ヲ執ルコトガ出來ヤウト考ヘテ居リマス(拍
手)此點ニ付キマシテハ現ニ應召ノ軍人ガ
係爭中ノ民事事件ガアリ、若クハ債務調停、
小作調停等ノ調停事件ガアリ、出征ニ當ッテ
其心ノ穩カデナイモノガアッタノデアリマ
スガ、幸ニモ債權者側ニ於キマシテ、其多
額ノ債權ヲ抛棄シテ、極メテ圓滿ニ解決ヲ
告ゲタ事件ガ比々ゴザイマス、洵ニ銃後ノ
美談ト申スヤウナ御話ガアルノデアリマス、
此休止ノ間題モ此處ニ讀上ゲマシタ規定ノ
適用ヲ致シマスルニ於テハ、當事者間ニ於
テ何等不服モナイコトカト存ズル次第デア
リマス
第三番目ノ農村問題ニ付キマシテハ、専
門的知識ヲ有スル判事ヲ必要トスルコトハ、
洵ニ御意見ノ通リデアリマス、司法當局ト
致シマシテモ、農村問題ハ洵ニ重要ナル問
題デアリマスルカラ、此部門ニ付テ十分ニ
專門的ノ知識ヲ有スル判專ヲ養成致スヤウ
ニ努力致ス考デ居リマス(拍手)
モウ一ツ簡易裁判所ノ御尋ガゴザイマシ
タガ、總テノ訴訟ニ付テ適正ナル裁判ヲ出
來得ル限リ迅速ニ結末ヲ付ケルト云フコト
ハ必要ナコトデゴザイマス、而シテ一
面訴訟事件ノ内容ノ複雜化ト、事件數ノ
增加トニ處スル對策ト致シマシテハ、裁
判所職員ノ增加ト設備ノ擴充トヲ必要ト
スルノデアリマスガ、他面ニハ比較的簡
單ナル訴訟事件ニ對シテ、一種ノ簡易ナル
手續ヲ設ケルコトモ亦〓究スベキ事柄デア
リマスル、仍テ司法省ニ於キマシテハ、先
般司法制度調査會ヲ設ケテ、司法制度ノ全
般ニ關スル調査ニ當ラシメタル際ニ於キマ
シテモ、少額裁判所或ハ簡易裁判所ノ設置
ニ付キマシテ調査ヲ致サセマシタ、色々審
議ヲ盡スベキ問題モアリマシテ、未ダ其結
論ヲ得ルニハ至ッテ居リマセヌ、隨テ此處
デ明確ニ御答ヲスル時機ニハ達シテ居リマ
セヌケレドモ、決シテ調査ヲ捨置ク譯デハ
ナイノデアリマス、銳意適當ナル處置ヲ致
シテ、〓究調査ノ上早ク其實現ヲ期シタイ
ト存ジテ居ル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=18
-
019・中村高一
○中村高一君 司法制度ノ改善ニ付キマシ
テハ色々意見ガアリマスルケレドモ、ソレ
ハ別ノ機會ニ讓リマシテ、本日ハ是デ私ノ
質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=19
-
020・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ質疑ハ終了致
シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=20
-
021・服部崎市
○服部崎市君 日程第九及ビ第十ノ兩案ハ
一括シテ政府提出、兵役法中改正法律案委
員ニ併セ付託サレンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=21
-
022・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=22
-
023・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程
第一乃至第八ハ便宜上一括議題ト爲スニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=23
-
024・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程第一、臨時租稅增徵法中改正
法律案、日程第二、所得稅法中改正法律案、
日程第三、相續稅法中改正法律案、日程第
四、登錄稅法中改正法律案、日程第五、酒造
稅法中改正法律案、日程第六、酒精及酒精含
有飮料稅法中改正法律案、日程第七、麥酒
稅法中改正法律案、日程第八、大正九年法
律第十二號中改正法律案、右八案ヲ一括シ
テ第一讀會ヲ開キマス-大藏大臣賀屋興
宣君
第臨時租稅增徵法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
第二所得稅法中改正法律案(政府提
〓第一讀會
第三相續稅法中改正法律案(政府提
〓第一讀會
第四登錄稅法中改正法律案(政府提
〓第一讀會
第五酒造稅法中改正法律案(政府提
山第一讀會
第六酒精及酒精含有飮料稅法中改正
法律案(政府提出)第一讀會
第七麥酒稅法中改正法律案(政府提
巴第一讀會
第八大正九年法律第十二號中改正法
律案(所得稅法ノ施行ニ關スル件(政
府提出)第一讀會
臨時租稅增徵法中改正法律案
臨時租稅增徵法中左ノ通改正ス
第五條中「第二種」ヲ「第一一種甲及乙」ニ改
ム
第六條所得稅中第三種ノ所得ニ對スル
所得稅ニ付テハ所得稅法第十四條第一
項第一號ノ二ノ所得ニ對スルモノヲ除
クノ外同法第二十三條第一項ノ規定ニ
拘ラズ所得金額ヲ左ノ各級ニ區分シ遞
次ニ各稅率ヲ適用シテ之ヲ賦課ス但シ
同法第十四條第一項第二號ノ所得ハ其
ノ他ノ所得ト之ヲ區分シ其ノ所得ヲ五
分シタル金額ニ對シ此ノ稅率ヲ適用シ
テ算出シタル金額ヲ五倍シタルモノヲ
以テ其ノ稅額トス
千二百圓以下ノ金額百分ノ一
千二百圓ヲ超ユル金額
百分ノ二·五
千五百圓ヲ超ユル金額
百分ノ四
二千圓ヲ超ユル金額百分ノ五·五
三千圓ヲ超ユル金額百分ノ七
五千圓ヲ超ユル金額百分ノ九
七千圓ヲ超ユル金額百分ノ十一
一萬圓ヲ超ユル金額百分ノ十三
一萬五千圓ヲ超ユル金額
百分ノ十六
二萬圓ヲ超ユル金額百分ノ十九
三萬圓ヲ超ユル金額百分ノ二十二
五萬圓ヲ超ユル金額百分ノ二十五
七萬圓ヲ超ユル金額百分ノ二十八
十萬圓ヲ超ユル金額百分ノ三十一
十五萬圓ヲ超ユル金額
百分ノ三十四
二十萬圓ヲ超ユル金額
百分ノ三十七
三十萬圓ヲ超ユル金額
百分ノ四十
五十萬圓ヲ超ユル金額
百分ノ四十三
七十萬圓ヲ超ユル金額
百分ノ四十六
百萬圓ヲ超ユル金額百分ノ五十
第十條相續稅ニ付テハ相續稅法第八條
第一項ノ規定ニ拘ラズ課稅價格ヲ左ノ
家督
課稅價格
五千圓以下ノ金額
五千圓ヲ超ユル金額
一萬圓ヲ超ユル金額
二萬圓ヲ超ユル金額
三萬圓ヲ超ユル金額
四萬圓ヲ超ユル金額
五萬圓ヲ超ユル金額
七萬圓ヲ超ユル金額
十萬圓ヲ超ユル金額
十五萬圓ヲ超ユル金額
二十萬圓ヲ超ユル金額
三十萬圓ヲ超ユル金額
四十萬圓ヲ超ユル金額
五十萬圓ヲ超ユル金額
七十萬圓ヲ超ユル金額
百萬圓ヲ超ユル金額
二百萬圓ヲ超ユル金額
三百萬圓ヲ超ユル金額
五百萬圓ヲ超ユル金額
相續
稅
相續人ガ被相續人
ノ家族タル直系卑
屬ナルトキ
千分ノ六
千分ノ七
千分ノ九
千分ノ十二
千分ノ十五
千分ノ二十五
千分ノ三十五
千分ノ五十
千分ノ六十五
千分ノ八十
千分ノ百
千分ノ百二十
千分ノ百四十
千分ノ百六十
千分ノ百八十
千分ノ二百
千分ノ二百二十
千分ノ二百四十
千分ノ二百六十
ニ各稅率ヲ適用シテ之ヲ課ス
相續人ガ被相續人ノ
指定シタル者、民法
第九百八十二條ニ依
リ選定セラレタル
者被相續人ノ家族
タル直系尊屬又ハ入
夫ナルトキ
千分ノ七
千分ノ九
千分ノ十二
千分ノ十五
千分ノ二十五
千分ノ三十五
千分ノ五十
千分ノ六十五
千分ノ八十
千分ノ百
千分ノ百二十
千分ノ百四十
千分ノ百六十
千分ノ百八十
千分ノ二百
千分ノ二百二十
千分ノ二百四十
千分ノ二百六十
千分ノ一百八十
各級ニ區分シ相續人ノ種類ニ從ヒ遞次
率
相續人ガ民法第九
百八十五條ニ依リ
選定セラレタル者
ナルトキ
千分ノ十
千分ノ十二
千分ノ十五
千分ノ二十五
千分ノ四十
千分ノ六十
千分ノ八十
千分ノ百
千分ノ百二十
千分ノ百四十
千分ノ百六十
千分ノ百八十
千分ノ二百
千分ノ二百二十
千分ノ二百四十
千分ノ二百六十
千分ノ二百八十
千分ノ三百
千分ノ三百二十
ス
遺産相續
稅
課稅價格相續人ガ直系相續人ガ配偶者又ハ
卑竇ナルトキ直系尊屬ナルトキ
千圓以下ノ金額千分ノ十二千分ノ十四
千圓ヲ超ユル金額千分ノ十四千分ノ十七
五千圓ヲ超ユル金額千分ノ十七千分ノ二十三
一萬圓ヲ超ユル金額千分ノ二十三千分ノ三十
二萬圓ヲ超ユル金額千分ノ三十千分ノ四十五
三萬圓ヲ超ユル金額千分ノ四十五千分ノ六十
四萬圓ヲ超ユル金額千分ノ六十千分ノ八十
五萬圓ヲ超ユル金額千分ノ八十千分ノ百
七萬圓ヲ超ユル金額千分ノ百千分ノ百二十
十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ百二十千分ノ百四十
十五萬圓ヲ超ユル金額千分ノ百四十千分ノ百六十
二十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ百六十千分ノ百八十
三十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ百八十千分ノ二百
四十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ二百千分ノ二百二十
五十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ二百三十千分ノ二百五十
七十萬圓ヲ超ユル金額千分ノ二百六十千分ノ二百八十
百萬圓ヲ超ユル金額千分ノ二百九十千分ノ三百十
二百萬圓ヲ超ユル金額千分ノ三百二十千分ノ三百四十
三百萬圓ヲ超ユル金額千分ノ三百五十千分ノ三百七十
五百萬圓ヲ超ユル金額千分ノ三百八十千分ノ四百
附則リ本法ヲ適用ス
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
前ノ例ニ依ル
第三種ノ所得稅ニ付テハ昭和十三年分ヨ
率
相續人ガ其ノ他ノ
者ナルトキ
千分ノ二十
千分ノ二十五
千分ノ三十五
千分ノ五十
千分ノ七十
千分ノ九十
千分ノ百十
千分ノ百三十
千分ノ百五十
千分ノ百七十
千分ノ百九十
千分ノ二百十
千分ノ二百三十
千分ノ二百五十
千分ノ二百八十
千分ノ三百十
千分ノ三百四十
千分ノ三百七十
千分ノ四百
千分ノ四百三十
本法施行前開始シタル相續ニ付テハ仍從
所得稅法中改正法律案
所得稅法中左ノ通改正ス
第二條ニ左ノ一號ヲ加フ
四本法施行地ニ於テ一時恩給又ハ之
ニ類スル退職給與ノ支拂ヲ受クル
トキ
第三條第二種ニ左ノ一號ヲ加フ
丙本法施行地ニ於テ支拂ヲ受クル
一時恩給又ハ之ニ類スル退職給與
第十三條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ一時恩給又ハ之ニ類スル退職給與
ハ其ノ支拂ヲ受クヘキ金額ヨリ五千圓
ヲ控除シタル金額ニ依ル
第十四條第一項第一號ノ次ニ左ノ一號ヲ
加フ
一ノ二第二種ノ所得ニ屬セサル一時
恩給及之ニ類スル退職給與ハ前年
中ノ收入金額ヨリ支拂者ヲ異ニス
ル每ニ五千圓ヲ控除シタル金額
同條第一項第五號中「年金」ノ下ニ「(郵便
年金ヲ除ク)」ヲ、「恩給」ノ下ニ「(一時恩
給ヲ除ク)」ヲ加へ「退隱料」ヲ削ル
第十六條第四項ヲ左ノ如ク改ム
同一人ノ所得ニ付前三項ノ規定ニ依ル
控除ヲ爲ス場合ニ於テハ先ツ第十四條
第一項第一號ノ二及第二號ノ所得以外
ノ所得ニ付之ヲ爲シ不足アルトキハ順
次同項第二號及第一號ノ二ノ所得ニ及
フ
第十八條第五號ヲ左ノ如ク改ム
五第十四條第一項第六號ノ所得中營
利ノ事業ニ屬セサル一時ノ所得
第二十二條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
丙所得金額ヲ左ノ各級ニ區分シ遞
次ニ各稅率ヲ適用ス
二萬圓以下ノ金額百分ノ五
二萬圓ヲ超ユル金額百分ノ十
十萬圓ヲ超ユル金百分ノ二十
額
五十萬圓ヲ超ユル百分ノ三十
金額
第二十三條第一項但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ第十四條第一項第一號ノ二及第二
號ノ所得ハ其ノ他ノ所得ト之ヲ區分シ
同項第一號ノ二ノ所得ニ付テハ支拂者
ヲ異ニスル金額每ニ前條第一項丙ノ稅
率ヲ適用シテ算出シタル金額ヲ以テ其
ノ稅額トシ第十四條第一項第二號ノ所
得ニ付テハ其ノ所得ヲ五分シタル金額
ニ對シ本項ノ稅率ヲ適用シテ算出シタ
ル金額ヲ五倍シタルモノヲ以テ其ノ稅
額トス
同條第二項中「前項ノ場合ニ於テ」ノ下ニ
「第十四條第一項第一號ノ二ノ所得ヲ除
クノ外」ヲ加フ
第二十六條第二項中「翌年ニ於ケル」ヲ
「翌年ヨリ三年間ハ仍」ニ改ム
第三十條第一項中「市制第六條」ノ下ニ
「又ハ第八十二條第三項」ヲ加フ
第五十四條ノ二調査委員ハ自己ノ所屬
スル所得調査委員會ノ調査ニ依リ決定
セラレタル課稅標準額ニ對スル審査ノ
請求、訴願又ハ行政訴訟ニ付納稅義務
者ノ代理ヲ爲シ若ハ其ノ相談ニ應スル
ヲ以テ業ト爲シ又ハ報酬ヲ得テ此等ノ
事務ヲ行フコトヲ得ス
第五十六條第一項中「退隱料」ヲ削ル
第七十四條ノ二第五十四條ノ二ノ規定
ニ違反シタル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ
處ス
第七十七條但書申「前條」ヲ「第七十四條
ノ二及前條」ニ改ム
第八十四條ヲ削ル
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
本法施行前ニ終了シタル法人ノ各事業年
度分ノ所得及本法施行前ニ於ケル解散又
ハ合併ニ因ル〓算所得ニ付テハ本法ヲ適
用セズ
一時恩給又ハ之ニ類スル退職給與ニシテ
本法施行前ノ退職ニ因ルモノニハ本法ヲ
適用セズ
第三種ノ所得ニ付テハ昭和十三年分所得
稅ヨリ本法ヲ適用ス但シ第二十六條ノ改
正規定ハ昭和十二年分以前ノ所得稅ニ付
テモ之ヲ適用ス
小笠原島及伊豆七島ニ於ケル昭和十三年
分ノ第三種所得稅ニ付テハ所得金額ノ申
告期限及第十六條又ハ第十六條ノ三ノ規
定ニ依ル控除ノ申請期限ヲ昭和十三年四
月十五日限トス
營業收益稅法第十三條第二項、資本利子
稅法第八條第二項及臨時利得稅法第十七
條第二項中「翌年ニ於ケル」ヲ「翌年ヨリ
三年間ハ仍」ニ改ム
相續稅法中改正法律案
相續稅法中左ノ通改正ス
第一條相續開始シタル場合ニ於テ被相
續人カ本法施行地ニ住所ヲ有スルトキ
又ハ本法施行地ニ相續財產アルトキハ
本法ニ依リ相續稅ヲ課ス
第二條被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ
有スルトキハ相續財產ノ全部ニ對シ相
續稅ヲ課ス
被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ有セサ
ルトキハ本法施行地ニ在ル相續財產ニ
付テノミ相續稅ヲ課ス
第二條ノ二財產ノ所在ハ動產、不動產
及不動產ノ上ニ存スル權利ニ付テハ當
該動產又ハ不動產ノ所在ニ依ル但シ船
舶ノ所在ハ船籍ノ所在ニ依ル
前項ニ揭クルモノ以外ノ財產ノ所在ハ
權利者ノ住所地ニ依ル
第三條被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ
有スルトキハ相續稅ヲ課スヘキ相續財
產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ被相續
人カ爲シタル贈興ノ價額ヲ加ヘ其ノ中
ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ
課稅價格トス
-公課
二被相續人ノ葬式費用
三債務
第三條ノ二被相續人カ本法施行地ニ住
所ヲ有セサルトキハ相續稅ヲ課スヘキ
相續財產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ
被相續人カ本法施行地ニ在ル財產ニ付
爲シタル贈與ノ價額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ
左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課稅
價格トス
-其ノ財產ニ係ル公課
二其ノ財產ヲ目的トスル留置權、特
別ノ先取特權、質權又ハ抵當權ヲ
以テ擔保セラルル債務
三其ノ財產ニ關スル贈與ノ義務
第三條ノ三被相續人ノ死亡ニ因リ相續
人ノ受取ル生命保險ノ保險金ニシテ被
相續人カ保險契約者タル保險契約ニ基
クモノハ之ヲ相續財產ト看做ス但シ相
續人ノ受取ル保險金ノ合計額カ五千圓
ニ滿タサルトキハ此ノ限ニ在ラス
保險契約者カ被相續人以外ノ者ナル場
合ト雖被相續人カ現實ニ保險料ノ支拂
ヲ爲スモノナルトキハ被相續人ヲ保險
契約者ト看做シ前項ノ規定ヲ適用スル
コトヲ得
第三條ノ四退職手當、功勞金及此等ノ
性質ヲ有スル給與ニシテ被相續人ニ支
給セラルヘキモノカ被相續人死亡シタ
ル爲其ノ相續人其ノ他ノ者ニ支給セラ
ルルトキハ之ヲ相續財產ト看做ス但シ
給與ノ合計額カ五千圓ニ滿タサルトキ
ハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ給與カ相續人以外ノ者ニ支給セ
ラルルトキハ遺贈アリタルモノト看做ス
第三條ノ五公共國體又ハ慈善其ノ他ノ
公益事業ニ對シ爲シタル贈與及遺贈ハ
相續稅ノ課稅價格ニ算入セズ
第四條第一項ヲ左ノ如ク改ム
相續財產ノ價額、相續財產ノ價額ニ加
算スヘキ贈與ノ價額竝ニ相續財產ノ價
額中ヨリ控除スヘキ公課及債務金額ハ
相續開始當時ノ現況ニ依ル
第五條第二項中「第三條」ヲ「第三條又ハ
第三條ノ二ノ規定」三段人
第十條中「相續稅ヲ課セラレタル後」ヲ
「相續稅ヲ課セラルヘキ相續開始シタル
後」ニ改メ「相續開始シタルトキハ」ノ下
ニ「命令ノ定ムル所ニ依リ」ヲ加フ
第十條ノ二第二條第一項ノ場合ニ於テ
外國ニ在ル相續財產ニ付其ノ國ノ法令
ニ依リ相續稅ヲ課セラレタルトキハ命
令ノ定ムル所ニ依リ其ノ財產ノ價額ニ
對スル相續稅ヲ免除ス
第十條ノ三相續人(相續人二人以上ナ
ルトキハ各相續人)、受遺者及第三條又
ハ第三條ノ二ノ規定ニ依リ相續財產ノ
價額ニ加算シタル贈與ヲ受ケタル者ハ
課稅價格中各自其ノ受ケタル利益ノ價
額ノ占ムル割合ニ應シテ相續稅ヲ納付
スル義務アルモノトス但シ相續人ハ共
同相續人、受遺者及第三條又ハ第三條
ノ二ノ規定ニ依リ相續財產ノ價額ニ加
算シタル贈與ヲ受ケタル者ノ納付スヘ
キ相續稅ニ付連帶納付ノ責ニ任ス
第三條又ハ第三條ノ二ノ規定ニ依リ相
續財產ノ價額ニ加算シタル贈與ノ價額
ニシテ第二十三條ノ規定ニ依リ相續稅
ヲ課スヘキモノアルトキハ其ノ相續稅
額ハ當該贈與ヲ受ケタル者カ前項ノ規
定ニ依リ當該贈與ニ付納付スヘキ相續
稅額ヨリ之ヲ控除ス
第十條ノ四相續人アルコト分明ナラサ
ルトキ又ハ相續人カ相續財產ニ付全ク
處分ノ權能ナキトキハ本法中相續人ニ
關スル規定ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク
ノ外之ヲ相續財產管理人又ハ遺言執行
者ニ適用ス
第十一條相續人ハ相續開始ヲ知リタル
日ヨリ三月以内ニ相續稅ヲ課セラルヘ
キ相續財產ノ目錄竝ニ相續財產ノ價額
ニ加算セラルヘキ贈與ノ價額及相續財
產ノ價額中ヨリ控除セラルヘキ金額ノ
明細書ヲ政府ニ提出スヘシ
前項ノ期間ハ遺言執行者又ハ相續財產
管理人ニ付テハ就職ノ日ヨリ三月トス
被相續人又ハ相續人カ帝國內ニ住所ヲ
有セサルトキハ前二項ノ期間ハ六月ト
ス
相續人確定シタルトキハ第一項ノ書類
ヲ提出スルト同時ニ又ハ其ノ確定ノ日
ヨリ一月以內ニ相續人ノ相續關係ヲ記
載シタル書面ヲ政府ニ提出スヘシ
第十一條ノ二納稅義務者本法施行地ニ
住所又ハ居所ヲ有セサルトキハ前條ノ書
類ノ提出、納稅其ノ他相續稅ニ關スル
一切ノ事項ヲ處理セシムル爲納稅管理
人ヲ定メ政府ニ申告スヘシ本法施行地
外ニ住所又ハ居所ヲ移サムトスルトキ
亦同シ
第十二條中「戶籍吏」ヲ「市町村長」ニ、「收
稅官廳」ヲ「稅務署長」ニ改メ同條ニ左ノ
一項ヲ加フ
前項ノ規定ハ市制第六條又ハ第八十二
條第三項ノ市ニ於テハ區長ニ、町村制
ヲ施行セサル地ニ於テハ町村長ニ準ス
ヘキモノニ之ヲ適用ス
第十二條ノ二本法施行地ニ於テ生命保
險(徴兵保險ヲ含ム以下同シ)ノ保險
金ヲ支拂ヒタル者ハ命令ノ定ムル所ニ
依リ支拂調書ヲ政府ニ提出スヘシ
前項ノ支拂調書ヲ提出シタル者ニ對シ
テハ命令ノ定ムル金額ヲ交付スルコト
ヲ得
第十二條ノ三稅務署長又ハ其ノ代理官
ハ調査上必要アルトキハ被相續人、納
稅義務者、納稅義務アリト認ムル者又
ハ前條第一項ノ支拂調書ヲ提出スル義
務アル者ニ質問スルコトヲ得
第十二條ノ四稅務署長又ハ其ノ代理官
ハ調査上必要アルトキハ被相續人、納
稅義務者若ハ納稅義務アリト認ムル者
ニ金錢若ハ物品ヲ支拂フ義務ヲ有スト
認ムル者ニ對シ又ハ被相續人、納稅義
務者若ハ納稅義務アリト認ムル者ヨリ
金錢若ハ物品ノ支拂ヲ受クル權利ヲ有
スト認ムル者ニ對シ其ノ金額、數量、
價額、支拂期日等ニ付質問スルコトヲ
得
第十三條第二項中「相續人、遺言執行者
又ハ相續財產管理人」ヲ「納稅義務者」ニ
改メ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
本法施行地ニ住所又ハ居所ヲ有セサル
納稅義務者納稅管理人ノ申告ヲ爲ササ
ルトキハ前項ノ通知ハ公告ヲ以テ之ヲ
爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テ公〓ノ初
日ヨリ七日ヲ經過シタルトキハ其ノ通
知アリタルモノト看做ス
第十四條中「相續人、遺言執行者又ハ相
續財產管理人」ヲ「納稅義務者」ニ、「再審
査」ヲ「審査」ニ、「三箇月」ヲ「三月」ニ改ム
第十六條前條第一項ノ決定ニ對シ不服
アル者ハ訴願ヲ爲シ又ハ行政裁判法ニ
依リ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十七條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改ム
納稅義務者前項ノ規定ニ依リ年賦延納
ヲ求メムトスルトキハ第十三條ノ通知
ヲ受ケタル後二十日以內ニ政府ニ申請
スヘシ但シ連帶納付ノ責アル納稅義務
者ニ在リテハ其ノ一人ヨリ申請スルヲ
以テ足ル
納稅義務者帝國內ニ住所ヲ有セサルト
キハ前項ノ期間ハ之ヲ三月トス
第十八條中「相續人、遺言執行者又ハ相
續財產管理人」ヲ「納稅義務者」ニ改ム
第十九條削除
第二十條削除
第二十二條中「、遺言執行者又ハ相續財
產管理人」ヲ削ル
第二十三條左ニ揭クル場合ニ於テ贈與
ノ價額カ千圓以上ナルトキハ遺產相續
開始シタルモノト看做シ其ノ財產ノ價
額ヲ課稅價格トシテ本法ニ依リ相續稅
ヲ課ス但シ本法施行地ニ住所ヲ有セサ
ル者ノ爲シクル贈與ニ在リテハ本法施行
地ニ在ル財產ニ付爲シタルモノニ限ル
一親族ニ贈與ヲ爲シタルトキ
二分家ヲ爲スニ際シ若ハ分家ヲ爲シタ
ル後本家ノ戶主又ハ家族カ分家ノ
戶主又ハ家族ニ贈與ヲ爲シタルトキ
不動產又ハ船舶ノ贈與ニ付登錄稅ヲ納
付シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ
其ノ登錄稅額カ相續ニ因ル所有權ノ取
得ニ付テノ登錄稅額ヲ超過スル金額ヲ
前項ノ相續稅額ヨリ控除ス
第一項ノ規定ニ依リ相續稅ヲ課スル場
合ニ於テハ第十條ノ規定ヲ適用セス
第二十三條ノ二信託ニ因リ委託者カ他
人ニ信託ノ利益ヲ受クヘキ權利ヲ有セ
シメタルトキハ左ニ揭クル時ニ於テ信
託ノ利益ヲ受クヘキ權利ヲ贈與シタル
モノト看做ス此ノ場合ニ於テ不動產又ハ
船舶ノ信託ニ因ル所有權取得ノ登記ハ
前條第二項ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ
贈與ニ因ル所有權取得ノ登記ト看做ス
ー元本ノ利益ヲ受クヘキ權利ヲ有セ
シメタルトキハ受益者カ其ノ元本ヲ
受ケタル時但シ數囘ニ之ヲ受クルト
キハ最初ニ其ノ一部ヲ受ケタル時
二收益ノ利益ヲ受クヘキ權利ヲ有セ
シメタルトキハ受益者カ其ノ收益ヲ
受ケタル時但シ數囘ニ之ヲ受クルト
キハ最初ニ其ノ一部ヲ受ケクル時
前項ノ場合ニ於テ受益者不特定ナルト
キ又ハ未タ存在セサルトキハ委託者又
ハ其ノ相續人ヲ受益者ト看做シ受益者
特定シ又ハ存在スルニ至リタル時ニ於
テ新ニ信託アリタルモノト看做ス
元本又ハ收益ノ受益者カ其ノ元本又ハ
收益ノ全部又ハ一部ヲ受クル迄ハ元本又
ハ收益ノ利谷ヲ受クヘキ權利ハ委託者又
ハ其ノ相續人之ヲ有スルモノト看做ス
信託ノ利益ヲ受クル時ノ委託者ト受益
者トノ身分關係カ信託ノ時ノ身分關係
ト異ルトキハ其ノ身分關係ハ第一項ノ
規定ヲ適用スル場合ニ於テハ信託ノ利
益ヲ受クル時迄存續スルモノト看做ス
第二十三條ノ三生命保險契約ニシテ保
險金受取人カ保險契約者以外ノ者ナル
トキハ保險事故ノ生シタル時ニ於テ保
險契約者カ保險金額ニ相當スル金額ヲ
保險金受取人ニ贈與シタルモノト看做
ス但シ保險契約者ノ同一ナル保險契約
ニ基キ同一事故ニ因リ同一人ノ受取ル
保險金ノ合計額カ五千圓以上ノ場合ニ
限ル
前項ノ規定ハ第三條ノ三ノ規定ニ依リ
保險金ヲ相續財產ト看做ス場合ニ付テ
ハ之ヲ適用セス
保險契約者以外ノ者カ現實ニ保險料ノ
支拂ヲ爲スモノナルトキハ其ノ者ヲ保
險契約者ト看做シ第一項ノ規定ヲ適用
スルコトヲ得
前條第四項ノ規定ハ第一項ノ場合ニ之
ヲ準用ス
第二十三條ノ四郵便年金契約ニシテ年
金受取人カ年金契約者以外ノ者ナルトキ
ハ年金支拂ノ事山發生シタル時ニ於テ
年金契約者カ當該郵便年金ノ價額ニ相
當スル金額ヲ年金受取人ニ贈與シタル
モノト看做ス但ツ年金契約者ノ同一ナ
ル年金契約ニ基キ同一事山ニ因リ同一
人ノ受取ル年金ノ價額ノ合計額カ五千
圓以上ノ場合ニ限ル
第二十三條ノ二第四項及前條第三項ノ
規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十三條ノ五死亡ニ因ル相續開始後
一年內ニ於テ相續人カ相續財產ニ付爲
シタル贈與ニ付テハ第二十三條ノ規定
ヲ適用セス但シ自己ノ直系卑屬ニ贈與
ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十四條ノ二正當ノ事由ナクシテ第
十二條ノ二第一項ノ規定ニ依リ政府ニ
提出スヘキ支拂調書ヲ提出セス又ハ虛
僞ノ記載ヲ爲シタル支拂調書ヲ提出シ
タル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ規定ニ依リ處罰セラレタル者ニ
對シテハ其ノ提出ニ係ル支拂調書ニ付
第十二條ノ二第二項ノ規定ニ依ル金額
ヲ交付セス
第二十五條中「三圓以上三十圓以下ノ罰
金又ハ科料」ヲ「五百圓以下ノ罰金」ニ
改ム
第二十七條被相續人カ朝鮮、臺灣又ハ
樺太ニ住所ヲ有シ其ノ地ニ於ケル法令
ニ依リ相續稅ヲ課セラルルトキハ本法
施行地ニ相續財產アルモ相續稅ヲ課セ
ス
第二十八條朝鮮、臺灣又ハ樺太ニ於ケ
ル法令ニ依リ相續稅ヲ課セラルヘキ相
續カ其ノ地ニ於テ開始シタル後五年又
ハ七年以內ニ於テ更ニ本法施行地ニ於
テ相續開始シタルトキハ第十條ノ規定
ヲ準用ス
第二十九條朝鮮、臺灣又ハ樺太ニ住所
ヲ有スル者カ本法施行地ニ在ル財產ニ
付爲シタル贈與ニハ第二十三條ノ規定
ヲ適用セス
第三十條朝鮮、臺灣又ハ樺太ニ於テ死
亡ニ因リ相續開始シタル後一年內ニ本
法施行地ニ住所ヲ有スル相續人カ相續
財產ニ付爲シタル贈與ニ付テハ第二十
三條ノ五ノ規定ヲ準用ス
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス但シ本法施行前開始シタル相續ニ關シ
テハ仍從前ノ例ニ依ル
永代借地權ハ當分ノ內相續稅ノ課稅價格
ニ算入セズ
登錄稅法中改正法律案
登錄稅法中左ノ通改正ス
第二條第一項第二號中「千分ノ四十五」ニ
「千分ノ四十」ニ、「千分ノ二十五」ヲ「千
分ノ二十三」ニ、同項第三號中「千分ノ三
十三」ヲ「千分ノ三十」ニ改ム
第三條ノ二信託財產タル不動產又ハ船
舶ヲ受託者ヨリ受益者ニ移ス場合ニ於
ケル所有權取得ノ登記ニ付テハ左ノ區
別ニ從ヒ登錄稅ヲ納ムヘシ
不動產不動產價格千分ノ四十
但シ神社、寺院、祠宇、佛堂又ハ
民法第三十四條ノ規定ニ依リ設立
シタル法人カ受益者ナルトキハ千
分ノ二十三
船舶船舶價格千分ノ三十
五
第三條ノ三及第三條ノ四ヲ削リ第三條ノ
五ヲ第三條ノ三、第三條ノ六ヲ第三條ノ
四、第三條ノ七ヲ第三條ノ五トス
第十九條ノ二信託ニ因ル財產權取得ノ
登記又ハ登錄ニシテ左ノ各號ノ一ニ該
當スルモノニハ登錄稅ヲ課セス
一委託者ヨリ受託者ニ移ス場合ニ於
ケル財產權取得ノ登記又ハ登錄
二委託者ノミカ信託財產ノ元本ノ受
益者タル信託ニ因リ受託者ヨリ受益
者ニ信託財產ヲ移ス場合ニ於ケル財
產權取得ノ登記又ハ登錄
三受託者ノ更迭ノ場合ニ於ケル新受
託者ノ財產權取得ノ登記又ハ登錄
前項第二號ノ規定ハ委託者ノ相續人ニ
信託財產ヲ移ス場合ニ於テハ之ヲ適用
セス此ノ場合ニ於テハ當該相續人ノ財
產權取得ノ登記又ハ登錄ヲ以テ相續ニ
因ル財產權取得ノ登記又ハ登錄ト看做
シ登錄稅ヲ課ス
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
第三條ノ二ノ改正規定ハ信託財產ヲ委託
者ヨリ受託者ニ移ス場合ニ於ケル受託者
ノ財產權取得ニ付從前ノ規定ニ依リ登錄
稅ヲ課セラレタルモノニ付テハ之ヲ適用
セズ
酒造稅法中改正法律案
酒造稅法中左ノ通改正ス
第二條ノ二酒類ノ販賣業(販賣ノ仲介
業ヲ含ム)ヲ爲サムトスル者ハ政府ノ
免許ヲ受クヘシ但シ酒類製造者カ其ノ
製造場ニ於テ爲ス販賣業及命令ヲ以テ
定ムル販賣業ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ免許ハ販賣場ヲ有スル者ニ在リ
テハ販賣場一箇所每ニ之ヲ受クヘシ
酒類販賣業ノ免許ヲ受ケタル者其ノ販
賣業ヲ廢止シタルトキハ其ノ旨ヲ政府
ニ申告スヘシ
第二十二條ノ二第二條ノ二ニ違反シ免
許ヲ受ケスシテ酒類ノ販賣業ヲ爲シタ
ル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條中「酒類ヲ製造スル者」ノ下ニ「又
ハ之ヲ販賣スル者」ヲ加フ
第三十三條ノ二第二十九條又ハ第三十
條ニ依リ處罰若ハ處分セラレタル者又
ハ二年以上引續キ酒類ヲ販賣セサル者
ニ對シテハ政府ハ酒類販賣業ノ免許ヲ
取消スコトヲ得
前條第二項ハ前項ニ依リ免許ヲ取消サ
レタル者ニ付之ヲ準用ス
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
昭和十三年一月一日前ヨリ引續キ酒類ノ
販賣業ヲ爲ス者本法施行後一月內ニ其ノ
旨ヲ政府ニ申告スルトキハ本法施行ノ日
ヨリ本法ニ依リ販賣業ノ免許ヲ受ケタル
モノト看做ス
酒精及酒精含有飮料稅法中改正法律案
酒精及酒精含有飮料稅法中左ノ通改正ス
第五條ノ三酒精又ハ酒精ヲ含有スル飮
料ノ販賣業(販賣ノ仲介業ヲ含ム)ヲ爲サ
ムトスル者ハ政府ノ免許ヲ受クヘシ但
シ酒精又ハ酒精ヲ含有スル飮料ヲ製造
スル者カ其ノ製造場ニ於テ爲ス販賣業
及命令ヲ以テ定ムル販賣業ニ付テハ此
ノ限ニ在ラス
前項ノ免許ハ販賣場ヲ有スル者ニ在リ
テハ販賣場一箇所每ニ之ヲ受クヘシ
酒精又ハ酒精ヲ含有スル飮料ノ販賣業
ノ免許ヲ受ケタル者其ノ販賣業ヲ廢止
シタルトキハ其ノ旨ヲ政府ニ申〓スヘ
シ
第十五條ノ二第五條ノ三ノ規定ニ違反
シ免許ヲ受ケスシテ酒精又ハ酒精ヲ含
有スル飮料ノ販賣業ヲ爲シタル者ハ五
百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十三條ノ三第十九條乃至第二十一
條ノ規定ニ依リ處罰若ハ處分セラレタ
ル者又ハ二年以上引續キ酒精若ハ酒精
ヲ含有スル飮料ヲ販賣セサル者ニ對シ
テハ政府ハ酒精又ハ酒精ヲ含有スル飮
料ノ販賣業ノ免許ヲ取消スコトヲ得
前條第二項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ
免許ヲ取消サレタル者ニ付之ヲ準用ス
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
昭和十三年一月一日前ヨリ引續キ酒精又
ハ酒精ヲ含有スル飮料ノ販賣業ヲ爲ス者本
法施行後一月內ニ其ノ旨ヲ政府ニ申告ス
ルトキハ本法施行ノ日ヨリ本法ニ依リ販
賣業ノ免許ヲ受ケタルモノト看做ス
麥酒稅法中改正法律案
麥酒稅法中左ノ通改正ス
第二條ノ二麥酒ノ販賣業(販賣ノ仲介
業ヲ含ム)ヲ爲サムトスル者ハ政府ノ
免許ヲ受クヘシ但シ麥酒ヲ製造スル者
カ其ノ製造場ニ於テ爲ス販賣業及命令
ヲ以テ定ムル販賣業ニ付テハ此ノ限ニ
在ラス
前項ノ免許ハ販賣場ヲ有スル者ニ在リ
テハ販賣場一箇所每ニ之ヲ受クヘシ
麥酒販賣業ノ免許ヲ受ケタル者其ノ販
賣業ヲ廢止シタルトキハ其ノ旨ヲ政府
ニ申〓スヘシ
第十一條ノ二第二條ノ二ニ違反シ免許
ヲ受ケスシテ麥酒ノ販賣業ヲ爲シタル
者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十九條ノ三第十五條乃至第十七條ニ
依リ處罰若ハ處分セラレタル者又ハ二
年以上引續キ麥酒ヲ販賣セサル者ニ對シ
テハ政府ハ麥酒販賣業ノ免許ヲ取消ス
コトヲ得
前條第二項ハ前項ニ依リ免許ヲ取消サ
レタル者ニ付之ヲ準用ス
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
昭和十三年一月一日前ヨリ引續キ麥酒ノ
販賣業ヲ爲ス者本法施行後一月內ニ其ノ
旨ヲ政府ニ申告スルトキハ本法施行ノ日
ヨリ本法ニ依リ販賣業ノ免許ヲ受ケタル
モノト看做ス
大正九年法律第十二號中改正法律案
大正九年法律第十二號中左ノ通改正ス
第二條中「又ハ樺太」ヲ「、樺太又ハ南洋
群島」ニ改ム
第三條中「又ハ樺太」ヲ「、樺太又ハ南洋
群島」ニ、「又ハ所得稅法施行地」ヲ「南洋群
島又ハ所得稅法施行地」ニ改ム
第三條ノ二乃至第七條中「又ハ樺太」ヲ
「、樺太又ハ南洋群島」ニ改ム
第八條乃至第十條ヲ削ル
附則
本法ハ昭和十三年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
第三種ノ所得ニ付テハ昭和十三年分所得
稅ヨリ本法ヲ適用ス
本法施行前ニ終了シタル法人ノ各事業年
度分ノ所得ニ付テハ仍從前ノ例ニ依ル外
貨債特別稅法第十六條第一項、臨時所得
稅法第三十一條第一項及北支事件特別稅
法第十八條第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ南洋群島ニ本店又ハ主タル事務所
ヲ有スル法人ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=24
-
025・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 只今議題トナリ
マシタ臨時租稅增徵法中改正法律案外七件
ノ政府提出ノ法律案ニ付キマシテ、其提案
ノ理由ヲ一括シテ說明申上ゲタイト存ジマ
ス
政府ハ中央及ビ地方ヲ通ズル稅制ノ全般
的改正ヲ行フベク調査〓究ヲ續ケテ參ッタ
ノデアリマスガ、支那事變ニ因リマシテ稅
制ノ基礎トテルベキ經濟事情、及ビ國民ノ
負擔力ニ相當ノ變化ヲ生ジツヽアリマスノ
デ、之ヲ見合セルコトニ致シタノデアリマ
スガ、現行租稅制度ノ上ニ於キマシテ出來
得ル限リ負擔ノ適正ヲ圖ル爲メ、部分的事
項ニ付キマシテ改正スルノ必要ヲ認メマシ
タノデ、玆ニ稅法ノ改正ヲ爲スコトト致シ
マシタ次第デアリマス
先ヅ臨時租稅增徵法ニ付キマシテハ、第
三種所得稅ト相續稅トノ增徵割合ガ階級割
增率ニ依ッテ居リマスガ、超過累進稅率ニ依
ル增徵ニ改ムルヲ適當ト認メマシタ次第デ
アリマス
次ニ所得稅ニ於キマシテハ、退職ニ因ル
給與ニシテ五千圓ヲ超ユル場合ハ、他ノ所
得トノ負擔ノ權衡ニ顧ミ課稅スルコトト致
シタノデアリマス、其他課稅ノ適正ヲ期ス
ル爲メ、所得金額ノ追加決定ヲ爲シ得ベキ
期間ヲ延長シ、又所得調査委員ノ爲ス稅務
ノ代理ニ付キ、兎角弊害ヲ生ジ易キ狀況ニ
鑑ミ、之ガ取締規定ヲ設クル等、必要ナル
改正ヲ加フルコトト致シタノデアリマス
次ニ相續稅ニ付キマシテハ、負擔ノ衡平
ヲ期スル爲メ、相續財產ノ所在ヲ問ハズ、
總テ之ヲ綜合シテ課稅スルコトヲ原則ト致
シマシタ、尙ホ被相續人ノ死亡ニ因リ相續
人ノ受クル生命保險金ガ五千圓以上デアル
場合ニ於テハ、他ノ相續財產ニ加算シテ課
稅スルヲ適當ト認メタ次第デアリマス
其他負擔ノ適正ヲ期スル爲メ、贈與ニ對
スル課稅ヲ不動產及ビ船舶ニ及ボシマシタ
外納稅者ノ負擔ヲ緩和スル爲メ、信託ノ
課稅時期ニ付改正ヲ加フルコトト致シタノ
デアリマス
登錄稅ニ付キマシテハ、不動產ノ負擔ヲ
緩和致シマスル爲メ、不動產ノ登錄稅ノ
部ヲ輕減スル企テヲ致シタノデアリマス
酒稅ニ付キマシテハ、酒稅ノ保全ヲ期ス
ル爲メ、酒類ノ販賣業ニ付キ免許制度ヲ採
用スルコトト致シ、ソレ〓〓關係稅法ヲ改
正スルコトト致シマシタ次第デアリマス
尙ホ南洋群島ニ所得稅ヲ創設スルコトト
ナリマシタノデ、大正九年法律第十二號ヲ
改正致ス案ヲ提出致シタノデアリマス、以
上ハ稅法改正案ノ〓要ノ說明デアリマス、
更ニ詳細ノ點ニ付キマシテハ、適當ノ機會
ニ於テ御說明申上ゲクイト考ヘマス、何卒
御審議ノ上速ニ御協贊ヲ與ヘラレンコトヲ
切望シテ巳マナイ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=25
-
026・小山松壽
○議長(小山松壽君) 質疑ノ通〓ガアリマ
ス、順次之ヲ許シマス-板谷順助君
〔板谷順助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=26
-
027・板谷順助
○板谷順助君 私ハ只今上程サレマシタル
諸法案ノ中ニ於テ、先ヅ第一ニ酒造稅法中
改正法律案ニ付テ伺ヒタイト思フノデアリ
マス、此法案ノ趣旨ハ酒稅保全ノ爲ニ免許
制度ヲ採用スルコトニナッテ居ルノデアリ
マスルガ、此問題ニ關聯致シマシテ、秋
其根本方針ニ付テ伺ヒタイト思フノデアリ
やく、御承知ノ通リ此議會ニ於テ、而モ本
議場ニ於キマシテ、官僚統制ニ對スル弊
害ガ非常ニ多イト云フコトガ指摘サレ
タノデアリマス、全ク同感デアリマス、
現在經濟上ノ知識ノ乏シイ行政官吏、
或ハ無經驗ナル役人ガ官僚獨善ヲ以テ、
唯机ノ上ニ於テ經濟問題ヲ論議サレルト
云フコトハ洵ニ危險千萬デアリ、又國民ノ
迷惑千萬デアルト云フコトハ言フ迄モナイ
コトデアリマス、併ナガラ又一面ニ於テ民
間ニ於ケル自治統制ナルモノガ兎角橫暴ニ
流レ易ク、隨テ其仕事ハ獨占的トナリ、又
消費者ノ立場ニアル者ニ對シテ高イモノヲ
買ハセル結果ニナル、此點ニ付キマシテハ
監督ノ任ニ在ル所ノ官廳ガ、或ハ之ヲ奬勵
スル、或ハ是ト通謀スル-ト言ヘバ語弊
ガアルカモ知レマセヌガ、兎ニモ角ニモ此
統制ヲ助長シツヽアルト云フコトハ、見逃
スコトノ出來ナイ所ノ事實デアリマス、此
統制ニ付キマシテハ種々ナル弊害ガ澤山ア
リマスルガ、私ハ此法案ニ關聯ヲ致シマシ
タル酒ノ生產統制、之ニ付テ其弊害ヲ指摘
シタイト思フノデアリマス、御承知ノ通リ
昨年ノ特別議會ニ於キマシテ、酒造組合法
中改正法律案ナルモノガ貴衆兩院ヲ通過シ
タノデアリマス、其要點ハ、營業者ガ統制
ヲ行フ場合ニ於テ、政府ガ必要ト認メタ場
合ニ於テハ其統制ニ服スルコトヲ命ズルコ
トヲ得ト云フ、斯ウ云フ法律デアリマスケ
レドモ、法案ニ基イテ酒造組合ノ中央聯合
會ハ、生產統制ヲ行ヒマシテ、昨年ノ造石高
全國四百二十七万九千石ニ之ヲ制限ヲ行ッ
タノデアリマス、又之ニ對シテ政府當局モ
承認ヲ與ヘタノデアリマス、其結果世ノ中
ニ如何ナル現象ヲ現ハシテ居リマスルカ、
所謂仕事ガ獨占的トナッタ結果、又生產統制
ヲ行ヒマシタル結果、品物ハ段々不足ヲ告
ゲマシテ、本年一月ニ於テハ酒ノ値上ヲ行ッ
テ居ル、又更ニ驚クベキコトハ、此特權ニ
對シテ全國各地ニ於テ一石二十圓以上ノ權
利ノ賣買ガ行ハレテ居ルノデアリマス、此
點ニ對シテ當局ハ何ト御覽ニナッテ居ルカ、
其弊害ニ付テノ更ニ適切ナル例ヲ申上ゲマ
スナラバ、北海道ニ於キマシテハ、景氣ノ
好イ時ニハ道內ニ於テ十七万石モ造ッタノ
デアル、更ニ又道外カラ六万石モ移入ヲシ
タ時代ガアッタノデアリマス、所ガ近年ノ凶
作、不作ノ結果段々減石ヲ致シマシテ、昨
年ノ造石高ハ十三万千石ニ減ッテ居ル、然
ルニ北海道ノ如キ、年々歲々人口ガ殖エテ、
而モ需要ガ增加スルニモ拘リマセズ、只今
申上ゲマス通リ十三万千石ニ之ヲ制限シテ
居ル、殊ニ又此酒造稅ナルモノハ、北海道
拓殖計畫ヲ實行スル上ニ於テハ、是ガ唯一
ノ財源デアリマス、北海道開發ニ對スル所
ノ此財源ガ洞渴スルト云フコトニ付テ、政
府ハ一體如何ナル考ヲ持ッテオ居デニナリ
マスカ、其結果恐ラクハ本年度ニ於テハ、
北海道ニ於テハ五万石モ足リナイデアリマ
セウ、大體政府ガ此法案ヲ出サレタル趣意
ナルモノハ、先ヅ第一ニ酒稅ノ保全ニアル
コトハ言フ迄モナイコトデアリマスケレド
モ、又一面ニ於テ、全國ノ當業者ハ不景氣
ノ爲ニ中小ノ酒屋ガ段々凋落ヲスル、仍テ之
ヲ救濟スル目的ニ於テ此法案ガ出來タノデ
アリマスケレドモ、其結果ハ反對ノ現象ヲ
呈シテ居ルノデアリマス、何トナレバ所謂
制限ヲ加ヘテ、之ヲ特權トシタ關係ニ於テ、
大キイモノハ所謂飽和狀態ニ澤山造ッテ居
ルノデアリマスカラ、段々肥ッテ行ク、併
ナガラ中小ノ酒屋ナルモノハ仲ビル力ヲ將
來ニ持ッテ居ラヌ、所謂營業ノ自由ヲ束縛ス
ルト云フ結果ニナルノデアリマス、政府ハ
之ニ對シテ如何ナル御所見ヲ持ッテオ居デ
ニナリマスカ、御承知ノ通リ昨年ハ全國豐
富デアル、又厖大ナル豫算ノ結果軍需工業
ガ到ル所ニ行ハレテ居ル、デアルカラシテ
本年ハドウシテモ或ル程度マデ酒ガ足リナ
イ、ノミナラズ支那方面ニハ相當輸出サレ
テ居ルカラ酒ハ足リナイ、勿論酒稅ヲ保全
スルト云フ必要ハアリマセウ、ケレドモ增
稅マデ行ッテ國庫ノ收入ヲ圖ラナケレバナ
ラヌト云フ此重大時期ニ於テ、斯ル橫暴ニ
流レ易イ此統制ナルモノヲ撤廢スル意思ア
リヤ否ヤ、此點ニ付テ私ハ伺ヒタイト思フ
ノデアリマス
更ニ又所得稅ノ問題ニ付テ一言申上ゲ
タイ、勿論此度ノ增稅ニ付テハマダ發表
ガナイノデアリマスカラ、私ハ昨年ノ特
別議會、臨時議會ヲ通過致シマシタ所
ノ、此臨時增稅案ニ付テ尋ネタイト思
フノデアリマス、勿論國民トシテハ
納稅ヲセネバナラヌ義務ガアル、又
國家非常ノ際ニ於テ增稅已ムヲ得ヌ
ト、國民ハ覺悟致シテ居ルノデアリ
マスルケレドモ、所謂負擔ノ均衡、公平ナ
ル所ノ立場ニ於テ、之ヲ處理シテ貰ハナケ
レバナラヌノデアリマス、吾々ハ現在ノ租
稅ナルモノハ均衡ヲ缺イテ居ル、デアルカ
ラシテ中央、地方ヲ通ジテ稅制ヲ根本的ニ
改正シテ、而シテ小刻ミニセズシテ大增稅
ヲ行ックラドウダト云フ意見ヲ、我黨ヨリ屢〓、
表明ヲ致シテ居ルノデアリマス、所ガ此小
刻ミニ增稅ヲ行フ結果、如何ナル所ノ數字
ガ出ルカ、勿論租稅ナルモノハ國民ノ收入
ノ中カラ拂フベキモノデアリマス、或ハソ
レガ八割ニナッテモ九割ニナリマシテモ、兎
ニ角其收入ノ中カラ拂フベキコトガ立前デ
ナケレバナラヌノデアリマス、然ルニ今後
ニ於ケル所ノ增稅ハ兎ニ角ト致シマシテ、
從來ノ增稅ノ割出ヲ調ベテ見マスルト、百
万圓ノ拂込ノ會社ガ從來十万圓ノ利益ガ
アッタ、所ガ勤勉努力ノ結果百万圓ノ利益ヲ
擧ゲタト假定致シマス、卽チ拂込資本ニ對
スル十割ノ利益デアル、所ガ之ニ對スル所
ノ會社ノ課稅ガ、全部デ八十三万四千六百
九十八圓、更ニ又此配當所得ニ對スル所ノ
金額ヲ合計致シマスルト、百二十一万六千
五百八十五圓、卽チ二十一万六千五百八十
五圓ヲ手カラ持出サナケレバナラヌト云フ
結果ガ現ハレテ居ルノデアリマス、此度ノ
增稅案ハマダ發表ガアリマセヌケレドモ、
假リニ是ガ二割五分增稅サレルモノト致シ
マシタナラバ、其合計ノ金額ハ驚クベシ百
五十二万圓、百万圓ノ利益ヲ擧ゲテ更ニ五
十二万圓ノ所得稅ヲ納メナケレバナラヌト
云フ結果ニナルノデアリマス、大藏大臣ハ
屢〓負擔ノ均衡ト云フコトヲ口ニ致サレマ
スガ、私共昨年ノ臨時議會ニ於テモ、現在
ノ所謂徵稅法ナルモノハ不備ガアルト云フ
コトヲ指摘シタノデアリマス、勿論此點ニ
付テハ只今直グ御卽答ハ出來ヌト考ヘマス
ルケレドモ、十分ニ御調査ノ上斯カル不備
ナル-法案ニ缺陷ガアルト云フコトニ付
テ、適當ノ機會ニ於テ御答辯アランコトヲ
切望致シマス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=27
-
028・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 御答申上ゲマス、
此酒稅ノ免許制度ニ付テノ御尋デアリマス
ルガ、是ハ小賣業者ガ相當ニ殖エマス現狀
ニ於テ、場合ニ依リマスナラバ不正ナル混
用物ヲ致ス、衞生上非常ニ害ノアル混用物
ヲ致シマストカ、或ハ場合ニ依リマシテ、
非常ニ市價ヲ崩シマストカ、相當酒類ノ販
賣業全體竝ニ消費者ニ不利益ナル點モアリ
マスルシ、又酒造稅ノ確保ノ上ニ於テモ不利
益ナル點ガ相當アルノデアリマス、此免許
制度ヲ設ケマスルコトハ、多數ノ當業者ノ
相當長イ期間ノ熱望デアルノデアリマス、
ソレニ依リマシテ今囘提案ヲ致シタ次第デ
アリマス、尙ホ酒造高ノ統制等ニ付キマシ
テ御話ガアッタノデアリマスルガ、是モヤハリ
相當ノ統制ガアリマセヌト、或ハ出來過ギ
等ノ結果市價ヲ崩スト云フヤウナコトガ、
逆ニ酒造稅ノ納付等ニ惡影響ヲ及ボシマシ
タリ、又業者全般ノ不利ヲ釀ス場合モアルノ
デアリマス、適當ナル統制ハ必要デアルト
考ヘテ居リマス、尙ホ其爲ニ品物ノ不足ヲ
生ズルコト、殊ニ北海道ニ於ケル御話ガアッ
タノデアリマスルガ、吾々ノ稅務當局ノ方
ニ於キマシテモ、國庫ノ收入ト云フコトニ
ハ特ニ注意ヲ致シテ居リマス、北海道ノ財
源ノ如キハ、常ニ從來ノ方針ニ於テ決リマ
シタモノ以上ヲ、一般財源ヨリ補塡ヲ致シ
テ居ル場合ガ多イト云フヤウナ有樣デアル
ノデアリマス、出來ルダケ財源ガ出來マス
コトハ希ッテ居ルノデアリマスガ、特ニ造石
高ヲ減スヤウナ意思ハ持チマセヌ、尙ホ將
來ニ於キマシテモ、御趣意ノ如ク是ガ適當
ナル統制ニナリマスルヤウニ十分ナル注意
ヲ致シタイト思ヒマス
所得稅ニ付テノ御話ガアリマシタガ、各
種ノ稅ガ一ツノ所得ニ對シテ集中的ニ賦課
サレルト云フヤウナ場合ニ於キマシテ、豫
想外ニ高率ノ負擔ニナルト云フ場合ガ往々
アリマス、只今仰セニナリマシタ數字ハ、詳
シク伺ヒマセヌト分リ兼ネルノデアリマス
ルガ、各種ノ稅ヲ綜合致シマシタ結果、相
當負擔ガ過剩ニナルト云フ場合モ認メラレ
マスノデ、今後此議會ニ提案ヲ致サントタ
テ居リマスル增稅案ニ付キマシテモ、其邊
ノ注意ヲ加ヘマシテ、各稅每ニ稅率ヲ盛リ
マスル外、擔稅者、納稅者ヲ中心トシテ見
マシテ、各稅綜合ノ結果ガ過重ノ負擔トナ
ルヤウナ場合ニ付キマシテ、適當ナル補正
ノ方法ヲ加ヘント目下折角準備中デアルノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=28
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029・板谷順助
○板谷順助君 此席ヨリ御許シ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=29
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030・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=30
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031・板谷順助
○板谷順助君 只今ノ大藏大臣ノ御答辯ニ
ハ不滿足デアリマス、何レ適當ノ機會ニ讓
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=31
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032・小山松壽
○議長(小山松壽君) 小申〓一君
〔小串〓一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=32
-
033・小串清一
○小串清一君 私ハ只今討議中ノ增稅案ニ
關聯致シマシテ、此際政府ノ所信ヲ一二御
尋シテ見タイト思フノデアリマス、先刻ド
ナタカカラモ御話ガアリマシタガ、中央、
地方ヲ通ジテ國民負擔ノ不均衡ヲ是正スル
ト云フ問題ハ、數年來ノ國論デアッテ、先頃
馬場藏相ノ當時ニ、吾々トシテハ甚ダ合理
的デアル稅制改革案ガ出來上ッテ、將ニ是ガ
議會ニ於テ決セラレルヤウナ形デアッタノ
デアリマシタガ、不幸ニシテ内閣ノ更迭ト
共ニ是モ挫折ヲシマシタ、アノ案ノ如キハ
今度多少情勢ノ變ッタ所ハアリマセウケレ
ドモ、若シ成立ヲシテ居ッタナラバ、本日此
處ニ御出シニナリ、又更ニ此議會ニ御出シ
ニナルヤウナ小刻ミナ小細工ノ稅制ヲヤラ
ナクテモ、アノ基礎ノ公正ナル、相當綜合
サレテ居ッタ所ノ形ノ上カラ、直チニ國家ノ
要求スル率ノ變更ニ依ッテ稅收入ガ得ラレ
タノデハナイカト、甚ダ殘念ニ思ッテ居ルノ
デアリマス、併ナガラ是ハ死兒ノ齡デア
リマス、昨年ノ當議場ニ於テ小川〓太郞君
ノ質問ニ、近衞首相ハ社會正義ト云フコト
ヲ御說明ニナル時ニ「稅制ノ問題モ社會正義
ヲ基本ト致シマスレバ、負擔ノ均衡ト云フ
コトガ眼目トナルノデアル、今囘調査會ヲ
設ケテ來ルベキ議會ニ提出スル考デアル」斯
樣ニ御答ニナリ、又八月ノ特別議會ニ櫻內
幸雄君外五十二名提出ノ彼ノ第百四十五、
決議案、國民負擔均衡ニ關スル件ヲ上程セ
ラレマシタ時ニ、福井甚三君ノ御說明ガ
アッテ、全會一致ヲ以テ之ヲ可決シ、當時馬
場內相ハ「只今ノ決議ニ對シマシテハ、政
府ハ國民負擔ノ均衡ヲ圖ル爲メ、中央、地
方ヲ通ジタル稅制改革案ヲ次期通常議會ニ
提出スル意圖ヲ有シテ居ル」斯樣ニ御答ニ
ナッタノデアリマス、其他當時ノ豫算審議ノ
場合ニモ、屢〓此內閣ニ於テ左樣ナ御說明
ガアリマシタガ、今囘此日支ノ大事變ガ
起ックニ付キマシテ、大藏大臣ハ先達テモ政
府ハ支那事變ノ見透シガ付クマデハ稅制改
革ヲヤラヌ、又只今此席ニ於テハ、支那事
變ノ爲ニ色々ノ經濟上ノ基礎ガ變化致シテ
居ルカラシテ、根本的ノ稅制改革ハヤラナ
イ積リデアルト云フヤウナ風デ、卽チ多年ノ
國論デアリ、又吾々トシテハ租稅負擔ト云
フモノガ高率ニナレバナル程、公正ナル立
前ノ下ニ置カナケレバナラナイト云フノ
ニ、此事變ニ藉口シテ政府ガ之ヲ實行セラ
レナカッタト云フコトハ、私ハ非常ニ此際遺
憾ニ思フノデアリマス、之ニ付キマシテハ
私ハ國民ヲンテ納得セシムルダケノ、政府
ハ御答辯ヲ爲サル義務ガアリハシナイカ、
卽チ事變ガアッテ色々經濟情況ガ變化シ
タカラ、ソレ故ニ稅制ヲ改革スルコトヲ
止メル、サウシテ小刻ミニ今ノヤウナ
甚ダ複雜ナ偏頗ナ形ノ下ニ課稅スル、
又中央ト地方トノ間ノ關係ヲ少シモ考
慮セズ、中央ニ金ガ要ルカラト云ッテ、
ドン〓〓中央ノミニ增稅スル、一例ヲ擧ゲル
ナラバ、今囘ノ此增稅ガヤハリ所得ヲ主ト
シテアリマスケレドモ--是ハ又稅トシテ
ハ所得ヲ主トシテ之ニ高率ヲ課スルコトハ
巳ムヲ得ヌコトデアリマスガ、地方ノ町村
ニ於テハ戶數割ト云フ、ヤハリ所得ニ課ス
ル所ノ一ツノ稅ヲ持ッテ居ル、是ガ國稅ニ於
テ餘リニ高率デナイ場合ニハ左程デモナイ
ケレドモ、非常ナル高率ヲ國稅ニ課スル時、
更ニ地方ハソレニ倍加シタル所ノ負擔ヲシ
ナケレバナラナイト云フコトハ、益〓中央、地
方ヲ通ズル所ノ稅制ニ偏頗ガ起ッテ來ルト
云フコトハ、私ハ最モ明カナ次第デアルト
考ヘテ居ルノデアリマス、斯樣ナ次第デア
ルカラ、最早政府ガヤラナイト云フモノヲ
私ハ之ヲ實行シロト希望スル者デハアリマ
セヌガ、兎ニ角無期延期ニナサッテ、先ヅ今
ノヤウナ姑息的ノ增稅ヲ······此國ヲ擧ゲテ、
而モ二年續クカ、三年續クカ、五年續クカ、
東亞百年ノ平和ノ爲ニ我ガ皇軍ガ赫々ノ戰
果ヲ收メ、而モ是ダケノ大事件ヲ進行シツヽ
アル時ニ、其最モ基礎トナルベキ課稅方
法ハ極メテ姑息的ナ、卽チ小乘的ナ稅收入
ヲ取ッテ居ルト云フコトハ、私ハ餘程御考ニ
ナラナケレバナラヌト思フノデアリマスカ
ラ、此點ニ付テドウシテモ今サウ云フ改革
ハ出來ヌト云フコトノ御說明ヲ政府ハオヤ
リニナル義務ガアル、斯樣ニ考ヘマス、併
シソレハソレトシテ、是カラ私ノ御尋ヲシ
ヨウト思フモノハ、旣ニ政府ガ負擔不均衡
ノ是正ノ爲ニ課稅ヲシナカッタガ故ニ、御承
知ノ通リ本年度ハ地方財政ヲ補整スル爲ニ
一億圓ヲ支出シタノデアリマス、私共ノ洩レ承
ル所ニ依ルト、今囘モ此稅制改革ヲ爲サナイ、
其ノ代リトシテヤハリ昨年通リノ一億圓ノ
補給金ヲ政府ハ出スト云フヤウナコトヲ伺ッ
テ居リマスガ、昨年通リ一億圓ノ財政補給
金ヲ地方財政ニ向ッテ國庫ガ出シタナラバ、
ソレデ公正デアラウカ、少クトモ昨年ノ
地方財政ヲ調理シタ其形ト同ジコトニナラ
ウカト云フコトハ、私ハ非常ナル疑問ヲ持ッ
テ居ル者デアリマス
第一ニ今囘カラ實施セラレマス所ノ土地
賃貸價格ノ改訂デアリマスガ、此賃貸價格
ノ改訂ニ依リマシテ、道府縣市町村ヲ通ジ
テ、國稅ニ於キマシテ二千六百五十万圓程
ノ減收入ニナルノデアリマス、然ル時ニ、
此地租附加稅ニ依ッテ府縣若クハ町村ノ財
政ヲ調理シテ居ル國體ハ、此附加稅、卽チ
約二千五百万圓ト云フモノハ財源ヲ失フ譯
デアリマス、之ヲドウスルカ、之ヲ若シモ
彼ノ特別地稅ノヤウナ風ニ、地方ニダケ附
加稅ト同等ノ課稅ヲ爲サシムルコトニ相成
ルナラバ、私ハ非常ナ不公平ナ結果ニナル
ト思フノデアリマス、元來此地租ハ多ク農
民ノ負擔デアッテ、營業稅ハ商工業者ノ負擔
デアル、營業稅若クハ營業收益稅ハ、每年
其營業ノ實績ニ依ッテ稅額ヲ決定スルモノ
デアリマスガ、地和ニ對シマシテハ十年每
ニ賃貸價格ヲ改訂スル、サウシテ課稅ヲ定
メル、本年ハ卽チ此十年目ノ改訂ヲ實施サ
ルヽ時デアリマスガ、斯樣ニ長イ期間据置
カルヽト云フ關係ハ、而モ現代ノヤウニ、
都市ノ賃貸價格ガ上リ、地方ノ賃貸價格ガ
之ニ伴ハナイト云フ時ニ、斯樣ナ長イ期間
ヲ置カルヽノデアルカラ、絕エズ地方ハ其
期間カラ期間ノ間ニ相當多額ノ負擔ヲシテ
居ルト云フコトハ私ガ說明スル迄モナイノ
デアリマス、デアルカラ少クトモ此土地賃
貸價格ヲ改訂シタナラバ、是ガ爲ニ生ズル
負擔ハ、國稅クルト地方稅タルトヲ問ハズ、
之ヲ減免スルト云フコトガ當然ノコトデア
ル、若シ又今申スヤウナコトガ出來ナイナ
ラバ、地方ハ所謂戶數割、家屋稅ノ增徵ニ
依ッテ此〓陷ヲ補フノ外ハナイノデアリマ
ス、所デ此戶數割ト地租附加稅ト云フモノ
ガ非常ニ性質ヲ異ニシテ居ルノハ、戶數割
ハ其地區內ニ住ンデ居ル町村ノ住民ノ所得
ヲ基礎トシテ之ニ課スルモノデアリマスケ
レドモ、地租附加稅ハ其行政區劃以外ノ所
有者ニモ課シテ居ルモノデアルカラ、此賃
貸價格ノ附加稅、卽チ地租附加稅ヲ戶數割
ニ轉換スルト云フコトハ、其性質ヲ變更シ
テ、負擔ノ甚シイ、理由ナキ負擔ヲセシメ
ルト云フ結果ニナルト私ハ思フノデアリマ
ス、兎ニ角今申ス通リ、此賃貸價格ノ減收
ニ伴フ負擔ヲ國庫ニ出シテ貰フト云フコト
ヨリ外ニ途ハナイ、其方法ハ卽チ今ノ地方
財政調整補給金ニ依ルカ、或ハ他ノ交付金
ニ依ルカハ知リマセスガ、昨年ノ一億圓ニ
對シテ此點ダケデモ二億五千万圓ノ增額ヲ
要スルコトハ最モ明瞭ナル事實デアリマス
更ニ此地方團體ハ、今囘ノ事變關係ニ於
テ經費ノ增額シタモノガ非常ニアル、是ハ
固ヨリ中央ニアリマスケレドモ、二三ノ例
ヲ擧ゲテ見ルナラバ、先ヅ出征軍人ノ地方
稅ノ減免、是ハ何處デモヤッテ居リマス、ソ
レカラ官公吏、或ハ團體ノ技術員デアルト
カ、職員デアルトカ云フヤウナ人ノ出征者
三、無論下士以下ノ人ガ大部分デアリマ
スガ、其俸給ヲ差上ゲル、是ハ又當然デア
リマスガ、然ル時ニ其代リノ人ヲ入レヽバ、
其代リノ人ノ俸給ヲ地方團體ガ出サナケレ
バナラヌ、是等ノ問題ハ國庫ニ於テモ三分
ノ一ノ補給ヲシテ居リマスケレドモ、俸給
額其他ノ費用ハ各〓地方團體ガ之ヲ負擔シ
テ居ル、一ツノ例ヲ擧グレバ警察官ノ如キ、
應召サレテ居ル其補充ノ警察官ノ俸給竝ニ
出征ヲセラレタ人ノ俸給ノ補充額ガ、約
千万圓ニ達シテ居ルト云フコトヲ聞イテ居
リマス、是等モ警察官ノ費用ハ國庫ハ其六
分ノ一ヲ出シテ居ルノデアリマスカラ、他
ノ六分ノ五ト云フモノハ全然地方團體ガ之
ヲ負擔シナケレバナラヌ、斯ウ云ッタ外ニマ
ダ出征軍人ノ遺家族ニ對シテ、相當ノ手厚
イ御救護モシナケレバナラヌ、殉難者ノ弔
祭斯樣ナコトモ決シテ費用ヲ彼此レスベ
キモノデハナク、國民ノ熱誠ニ依ッテ其遺族
ヲ慰メ、又一般ノ士氣ヲ鼓舞スル上ニ於テ
相當ノ費用ガ要ルノデアリマス、斯ウ云ッタ
ヤウナモノヲ私ハ此席上デ細カニ申上ゲル
コトヲ致シマセヌガ、大體計算ヲシテ見ル
ト、地方國體ニ於テ已ムヲ得ズ支出シナケ
レバナラナイ此事變ノ費用ガ、現在ノ形ニ
於テ四千万圓以上ニ達シテ居ルノデアリマ
ス、是ハ今ノ地方團體ノ御話デアリマスガ、
更ニ農村ノ内容ニ入ッテ見ルト、農村ハ一體
ドウダラウカ、斯ウ云ッタヤウナ行政的團
體ノ費用ノ外ニ、農村其モノノ經濟生活
ノ上ニ於テ人馬ノ應召、徴發、必需品
ノ供給ノ不足ト云フヤウナ困難ガ非常
ニ伴ッテ居ル、農村ハ今囘ノ此事變ニ
對シマシテハ、私モ各地ヲ步イテ
是ハ、都會モサウデスケレドモ、日本
國民全體ノ擧國一致ノ眞劍ナ形デアリマス
ガ、殊ニ農村ガ實際ニ有ユル自己ノ生活ヲ
犠牲トシテ社會的ニ勤勞奉仕ヲシ、出征者
ノ爲ニ働イテ居ル其眞劍振リハ、國民精神
總動員ノ講師ノ御方ガ折々見エテハ、吾々
ガ却テ農民ノ諸君ニ〓ハッテ居ルト言フ位
ナ形デアリマス、併ナガラサウ云フ風ナ眞
劍ナ形ノ前ニ、所謂經濟的ニドウ云フ形ガ
アルカ、農村ノ中デ最モ私ガ氣ノ毒ニ思ッテ
居リマスノハ、先刻來申スヤウナ出征軍人
救護ニ付キマシテハ、救護法ニ依ッテ救護簿
ヲ受クル人ガアル、又俸給生活者ハ俸給ノ補
充ニ依ッテ遺家族ノ生活ヲ保ツ、サウ云ッタ
ヤウナ狀態ト同ジデアル普通ノ農業者ト、
救護法カラ行ケバ財產モ帳面ノ上デ、公簿
ノ上デ相當アルガ故ニ、何等救護ヲ受ケナ
イ、斯ウ云フ人ハ唯隣人ノ援助ニ依ッテヤッ
テ居ル、卽チ隣人ハ自己ノ仕事ヲ割イテ、
靑年若クハ其他ノ人ガソコノ家ノ農業ヲ助
ケテ、其人ノ不在中ニ共人ノ居ル時ト同ジ
ダケノ生產ヲ擧グルヤウナ形ヲシテ居ルノ
デアリマス、斯ウ云ッタ形ヲ色々此處デ申上
ゲルノハ話ガ長クナル譯デアリマスガ、農
家ガ事變關係ニ支出スル金額ハ非常ニ多
イ、然ルニ農家經濟ノ上ニ於テ、今日ノ時
局ノ影響ハドウカト云フト、農產物ノ價ハ
或ル程度マデハ無論「インフレ」狀態ニ依ッ
テ騰ッテ居ル、自己ノ需要スル物ノ價ハ更ニ
騰ノテ居ル、卽チ一例ヲ擧グルナラバ、彼ノ
日本銀行ノ卸賣物價ノ調査ニ依ッテモ、農家
ノ食用農產物ノ一昨年末ノ物價指數ヲ百ト
致シマスト、昨年末ハ百十四デアルガ、同
ジ時ニ農家ノ最モ需要スル肥料ハ、百ニ對
シテ百二十三ニナッテ居リ、本年ノ一月ハ旣
ニ百三十ニ達シテ居ル、卽チ斯ウ云ッタ鋏狀
價格差ト云フモノガ段々ニ多クナッテ行ク
ノデアリマス、斯ウ云フ結果ハ最モ今吾々
ノ念頭ニ置クベキ農家ノ生產力ノ漸次擴充
ヲ妨ゲルコトニナリハシナイカ、彼ノ歐羅
巴ノ戰爭デ英吉利ヤ佛蘭西、獨逸等ニ於テ
最モ苦ンダノハ食糧ノ缺乏デアッタト云フ
コトヲ聞イテ居リマスガ、我國ハ是ダケノ
大戰爭ヲ爲シ、百万ノ兵ヲ出シテ居ッテモ恐
ラク食糧ト云フヤウナコトヲ誰モ考ヘナイ
程度ニナッテ居ル、併シ是ガ二年三年、或
五年モ續クコトニナッタラ、一番先ニ農村ノ
活動力、生產力ト云フコトヲ考ヘナケレバ
ナルマイト思フ、斯ウ云フ關係デ私ハ今囘
旣ニ議場ニ御提案ニナッテ居ル農地調整法
デアルトカ、農業保險法デアルトカ、國民
健康保險法-マダ農業保險法ハ御提出ニ
ナッテ居リマセヌガ、更ニ硫安ノ增產ニ關ス
ル計畫ト云フヤウナコトヲ御考ニナッテ居
ルコトハ、非常ニ結構ナコトデアリ、又斯
ウ云フコトニ依ッテ今私ノ憂フル所ノ農村
ノ經濟狀態ヲ改良スルコトハ出來ルト思ヒ
マスケレドモ、同時ニ是等ノ法案ヲ實施ス
ル時ニ、國庫ガ無論豫算ヲ以テ相當ノ助ケ
ハシマスケレドモ、當該ノ農村デハヤハリ
相當ノ金ガ要ル、現ニ國民健康保險組合ノ
如キハ、此組合ヲ作ルト、或ル私ノ方ノ地
方ノ人ハ戶數割ヲ旣ニ半分バカリニシテ貰ッ
タケレドモ、又今度此組合デ丁度ソレダケ
金ヲ出サナケレバ出來ナイ、良イ事デスカ
ラ金ヲ出サナケレバナラヌケレドモ、ヤハ
リ斯ウ云フコトガ農村ノ負擔ヲ增スコトデ
アルト云フコトヲ考ヘナケレバナラヌ、斯
ウ云フコトハ先ヅ差引キ農村モ利益ヲ受ケ
ルノダカラ我慢ヲスルト致シマシテ、、全國
ノ地方園體ニ於ケル費用ノ增嵩、事變ニ依ッ
テ已ムヲ得ズ何等冗費デモ何デモナイ所ノ
費用ガ全國ヲ通ジテ四千万圓出ル、更ニ賃貸
價格ノ缺陷ニ依ッテ二千五百万圓ヲ減ズルト
云フナラバ、此六千五百万圓ト云フモノハ何
處カラカ補充シナケレバナラヌ、國庫ガ或ル
財源ヲ與ヘテ地方ニ之ヲ徵收サセルカ、サモ
ナケレバ所謂地方財政調整交付金ヲ增加シテ
貰フヨリ外ニ方法ハナイト思フノデアリマス、
唯私ノ今言ッタコトニ幾分ノ割引ヲ加ヘナ
ケレバナラヌノハ、此事變ニ依リマシテ大
都會デアルトカ、或ハ軍需工業ノ非常ナ勢
ヲ以テ進展シツヽアル地方ニ於キマシテハ、
自然增收、其他ノ收入ニ依ッテ其團體ハ寧ロ
報イラレテ居ル、此位ノ減稅ヲシテモマダ
依然トシテ大丈夫ダト云フヤウナ地方モア
テマス、サウ云ッタモノモ私ハヤハリ計算シ
テ見タ、假ニ是ガ一千五百万圓位ハヤラヌ
デモ宜カラウト云フヤウナ處ガアルト假定
ヲ致シマシテモ、昭和十三年度ニ於キマシ
テハ、若シ此地方財政ノ缺陷ヲ補給金ニ依ッ
テ補フナラバ、最小限度五千万圓ノ增額ヲ
シテ戴クト云フコトガ、餘リニモ明白ナ事
實デアルト確信スルノデアリマス(拍手)之
ニ對シマシテ大藏大臣ハドウ云フ御考ヲ持ツ
テ居ラルヽカト云フコトガ私ノ御尋ノ要點
デアリマス
一體此地方團體ト云フモノハ國ノ行政組
織ノ一部分デアッテ、或ル意味ニ依ッテハ地
方國體ハ寧ロ國家ノ組織ノ基礎デアルカラ、
是ガ地方的ニ不均整ナル負擔ヲサセテ置イ
タリ、或ハ地方團體ヲ閑却スルト云フコト
ハ、中央ノ力ヲ弱クスルモノデアル、寧口
地方團體トシテ中央ノ援助ガ餘分ニ行過ギ
レバ、ソレダケ地方ノ力ガ强クナルカラ、
中央ヲ支持スル結果ガ出來ルコトニナルデ
アラウト思ヒマス、所ガ斯ウ言ッタ時代ニ於
キマスルト、國ニ於テハドウシテモ眼前ノ
經費ヲ調達スルニ急デアッテ、總テノ稅目ヲ
悉ク中央ニ取上ゲテ、サウシテ地方ニハ殆
ド財源ヲ無クシテ、今囘ノヤウナ財政調整
交付金デモ、恐ラク私ノ今申ス至當ナ國民
ノ要求デモ、或ハドウカト云フ心配ヲ持ツ
テ居ルノデアリマスガ、私ハ此中央地方ヲ
通ズル稅制ノ根本改革ヲ爲スベキコトヲオ
ヤリニナラヌ其理由、ソレカラ今申シマス
ダケノモノハ、當然是ハ中央ノ責任トシテ
御支出ニナルモノデアルトノ御答辯ヲハッ
キリト此處デ願ヒタイト思フノデアリマス
只今上程ノ諸案ニ付キマシテハ、其細カ
イ內容ニ付テ私ノ御尋シタイコトモアリマ
スケレドモ、是ハ委員會ニ於テ何レ申上ゲ
ル積リデアリマス、私ノ質問ハ之ヲ以テ終
リマス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宜君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=33
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034・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 只今ノ御質問ニ
御答申上ゲマス、此中央地方ヲ通ズル負擔
ノ衡平、殊ニ農村負擔ノ衡平ニ付キマシテ
ノ御說ハ、根本ノ趣旨ニ於テハ御同感デア
リマス、然ラバ何故ニ政府ハ從來議會ノ要
望モアリ、政府自身モ必要ト認メテ居ッタ中
央地方ヲ通ズル稅制ノ整理ヲ、此際之ヲ行
フコトナク延期シタカト申シマスレバ、是
ハ所謂見透シヲ付ケマシタ恆久的ノ稅制整
理デアルノデアリマス、隨ヒマシテ其稅制
ノ基礎ニナリマスル國民ノ負擔力ト云フモ
ノニ、或ル安定ヲ見透シ得ル狀態ヲ必要ト
スルノデアリマス、然ルニ昨年夏以來事件
ガ起リマシテ、事件ノ直接間接ノ影響ハ國
民ノ經濟上ノ力、租稅ノ負擔力ニ樣々ナ影
響ヲ及ボシマシテ、而モ是ガ事件中ハ容易
ニ安定ヲ見出スコトハ出來ナイ狀況デアリ
やく、其故ヲ以チマシテ此國民經濟力、租
稅負擔力ノ或ル安定ヲ見マスマデハ、根本
的ノ整理ヲ致シマスル條件ガ備ハラナイコ
トニナリマスルカラ、之ヲ延期スル方ガ適當
デアルト考ヘマシテ、之ヲ延期致シタ次第
デアリマス、併シナガラ一方、是ハ別ノ機
會ニ申上ゲマスルガ、增稅ノ必要ハアルノ
デアリマス、其增稅ヲ致シマスル場合ニハ、
只今ノ稅制ノ結果ノ負擔力モ考ヘマシテ、
之ニ適應スルヤウニ注意ヲ拂ヒマシテ致シ
マスルナラバ、全ク負擔ノ均衡ヲ亂スト云
フコトナク行ヒ得ルノデアリマスカラ、之
ヲ實行致サントスル次第デアリマス、先程
今囘更ニ提案ヲ致サントスル增稅ニ付キマ
シテ、附加稅ノ御話モアリマシタガ、是ハ
國家的必要ニ基ク增稅デアルノデアリマシ
テ、地方ノ附加稅ハ一切之ヲ認メナイ積リ
デアリマス
尙ホ地方〓體ニ對シマスル交付金ニ付テ
ノ御尋デアリマスガ、第一ノ御尋ハ、賃貸
價格ノ改正ニ依ル地租ノ減少ニ付テデアリ
さく、是ハ大體農村ニ於テ一千三百万圓ノ
地租ノ減收ト相成ルノデアリマス、國稅ノ
減收ダケデ農村ハ、本年以後一千三百万圓
ノ減收ト相成ルノデアリマス、併ナガラソ
レニ付テ農村其他地方團體ノ地租ノ附加率
ヲ現行通リニ致シテ置クナラバ、本稅ガ減
ルガ故ニ、率ハ同ジデモ農村ノ稅額ハ減ルデ
アラウ、隨テ歲入ニ缺陷ヲ生ズルデアラウ
ト云フ御說デアリマス、私モ農村負擔ノ從
來ノ沿革カラ顧ミマシテ、本稅ヲ減シマシ
タ場合ニハ、其附加率ヲ增加スルコトナク、
隨テ地租ノ附加稅ガ減少スルコトハ、農村
ノ爲ニモ希望致ス所デアリマス、併ナガラ
其附加稅ヲ減少致シマセヌデ、現在ト同ジ
稅額ヲ取リマス場合ニハ、附加率ノ增加ヲ
致サナケレバナラヌ、率ハ增加致シマスル
ガ、稅額トシテハ同ジデアリマス、地租ノ
附加稅ヲ此際減少致シマセヌデモ、農村ノ
負擔ト云フモノハ、本稅ノ減稅ダケデ一千
三百万圓ノ減額ガアルノデアリマス、隨テ
地方團體ノ狀況等ニ依リマシテ、或ハ附加
稅ヲ減少シテ、ソレヲ一部戶數割、其他ノ
地方稅ニ持ッテ行クコトノ適當ナル團體モ
アルカモ知レマセヌガ、左樣ナル處置ヲ執
ラズ、現在通リノ稅額ヲ取リマシテモ、餘
程昨年ヨリハ負擔ノ輕減ニ相成ル狀況デア
ルノデアリマス、私モ今申上ゲマスヤウニ、
元來出來レバ是モ減シタイノデアリマスガ、
御承知ノ如ク事變デアリマシテ、各方面巨
額ノ資金ノ要ル際デアリマスカラ、諸種ノ
事情ヲ勘案致シマシテ、此際ハ此本稅ノ減
少ニ依ル輕減ダケデ我慢ヲシテ戴キマシテ、
附加稅ノ財源ニ付キマシテハ、特ニ增額ス
ルコトナク、昨年通リノ一億圓ノ交付金ニ
依ッテ我慢ヲシテ戴キタイト思フノデアリ
そく、之ニ付キマシテハ、諸種ノ事情モ十
分ニ勘案ヲ致シク上デノ考デアリマス
尙ホ時局ニ關シマシテ、所謂銃後ノ施設
ト致シマシテ、地方ノ負擔ノ增加ニ付テノ
御說デアリマスガ、是ハ御說ノ如ク今囘ノ
事變ニ因リマシテ、國民ノ所得ハ十數億、
或ハ數十億ノ增加ヲ致シタノデアリマシテ、
大都會デアリマストカ、軍需工業ニ直接間
接關係ノゴザイマス方面ハ、寧ロ擔稅力ガ
增加致ス次第デアリマスガ、併ナガラ多數
ノ地方團體、殊ニ農山漁村等ニ於キマシテ
ハ、左樣ニ行カナイ方面モアルカト考ヘマ
スノデ、大體ノ銃後施設ニ付キマシテハ、
尙ホ〓究ヲ致シマシテ遺憾ナキヲ期スル積
リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=34
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035・小串清一
○小串清一君 此席カラ一寸·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=35
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036・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=36
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037・小串清一
○小串〓一君 只今ノ大藏大臣ノ御答辯ハ、
私非常ニ不滿ニ思ヒマスノハ、賃貸價格ノ
國稅ノ改訂ニ依ッテ、農村ガ一千三百万圓減
ルト云フコトハ其通リデアリマス、私ノ申
シマシタノハ、一般ノ全國ニ於ケル町村ニ
於テ二千六百四十何万圓ガ減ルト云フコト
ヲ指摘シタノデアリマスガ、而モ今ノ御辯
明ニ依ルト、ソレダケ國税ガ減ックノデアル
カラ、ソレデ我慢シロト云フノデアルガ、
其減ック理由ト云フモノハ、所謂負擔ノ不均
衡是正ニ依ッテ、都會地ノ賃貸價格ガ非常ニ
騰貴シテ、地方ノ賃貸價格ガ實態ニ伴ハナ
イ課稅ヲ永イ間負擔シテ居ッタカラ、之ヲ是
正シタノデアリマス、然ルニ是ダケ引イテ
ヤッタカラ、ヤハリ今マデ通リ割ヲ喰ッテ
モ、ソレダケハ我慢ヲシロト云フヤウナコ
トハ、社會正義ニ反スル政治デアルト私ハ
思ヒマス(拍手)
次ノ農村方面ガ已ムヲ得ズシテ出ス地方
國體ノ費用、卽チ軍需「インフレ」ニ伴ハナイ
地方ニ對シマシテ、斯ノ如キ窮乏ニ在ル狀
態ニ付テハ十分考慮スル、適當ナ處置ヲ執
ルト云フ御言葉ヲ戴キマシテ、是ハ私ハ其
御言葉ノ通リ、國民ノ爲ニ之ヲ熱望シテ置
キマス、此事ニ付テノ色々ナ事ハ、何レ委
員會其他ノ機會ニ伺フコトニ致シマシテ、
私ノ質問ハ之ヲ以テ終リト致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=37
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038・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ質疑ハ終了致
シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=38
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039・服部崎市
○服部崎市君 日程第一乃至第八ノ八案ヲ
一括シテ議長指名三十六名ノ委員ニ付託サ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=39
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040・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=40
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041・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=41
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042・服部崎市
○服部崎市君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=42
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043・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=43
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044・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ議
事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ
是ニテ散會致シマス
午後三時二十七分散會
衆議院議事速記錄第七號中正誤
頁段行誤正
一六三一三三千五百餘三千九百餘
万圖万圓
一三〇一一輸入移入
衆議院議事速記錄第八號中正誤
頁段行誤正
一五二三二七設立設定
一 〇 〇-I lillハイノデハナイノデ
一六-一七自作農自作農地
一同同二一七小作農小作農地
六三二三防止處理
同三六マスコトハ、マストセバ、
一七八四三二掛圖
一五一頁二段一七行ノ次ニ左ノ二行ヲ加フ
武知勇記君田子一民君
深澤豐太郎君葉梨新五郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X00919380201&spkNum=44
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