1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十三年二月二十二日(火曜日)
午後一時二十三分開議
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議事日程 第十五號
昭和十三年二月二十二日
午後一時開議
第一 支那事變特別税法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 臨時利得税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第三 臨時租税措置法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第四 日滿國税徴收事務共助法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第五 國家總動員法案(政府提出) 第一讀會
第六 重要鑛物増産法案(政府提出) 第一讀會
第七 日本産金振興株式會社法案(政府提出) 第一讀會
第八 商法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第九 商法中改正法律施行法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十 有限會社法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十一 日滿司法事務共助法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十二 社會事業法案(政府提出) 第一讀會
第十三 商店法案(政府提出) 第一讀會
第十四 石油資源開發法案(政府提出) 第一讀會
第十五 樺太地方鐵道補助法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十六 昭和十二年法律第九十二號中改正法律案(輸出入品等に關する臨時措置に關する件)(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一議員の異動左の如し
北海道第四區選出議員南條徳男君退職者となりたり
一昨二十一日貴族院より受領したる政府提出案左の如し
民法中改正法律案
民事訴訟法中改正法律案
外國裁判所の囑託に因る共助法中改正法律案
一昨二十一日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
兵役法中改正法律案
一議員より提出せられたる議案左の如し
船員保險法案
提出者
米窪滿亮君 岡崎憲君
小學校教員の公務出張に對し鐵道無賃乘車に關する建議案
提出者
大野伴睦君 松尾孝之君
中華民國臨時政府關税中人絹織物の税率引下方交渉促進に關する建議案
提出者
木村淺七君 齋藤直橘君
喜多壯一郎君
國道四號線改修竝日光國立公園關係道路改築助成に關する建議案
提出者
坪山徳彌君 松村光三君
小平重吉君 江原三郎君
佐藤洋之助君 出井兵吉君
公衆浴場統制に關する建議案
提出者
井上良次君 永江一夫君
田万清臣君
小學校林造成に關する建議案
提出者
伊藤五郎君 松浦周太郎君
森田重次郎君
帝國圖書館完成に關する建議案
提出者
山本厚三君 牧野良三君
府縣行政三部制度廢止に關する建議案
提出者
大野一造君 加藤鯛一君
岡本實太郎君 内藤守正君
渡邊玉三郎君
戰傷死者戸籍面登載に關する建議案
提出者
村松久義君 森田重次郎君
宇賀四郎君
東北地方耕地國營開發促進竝自作農創設に關する建議案
提出者
仲西三良君 釘本衞雄君
川崎末五郎君 粟山博君
小柳牧衞君
名古屋美濃太田間鐵道敷設に關する建議案
提出者
服部崎市君 山崎常吉君
土倉宗明君 加藤鯛一君
牧野良三君 加藤鐐造君
野村嘉六君 樋口善右衞門君
椎尾辨匡君 塚本三君
支那事變勳功者の敍勳に關する建議案
提出者
今成留之助君 池田清秋君
北れい吉君 一松定吉君
(以上二月十九日提出)
檢察廳法案
提出者
野田文一郎君 岡本實太郎君
作田高太郎君 濱野徹太郎君
今成留之助君 池田清秋君
眞鍋勝君 南雲正朔君
高橋義次君 手代木隆吉君
西田郁平君 中山福藏君
平川松太郎君 菊池良一君
村松久義君 内藤正剛君
松田正一君 松永東君
服部英明君 原玉重君
小高長三郎君 牧野良三君
松木弘君 世耕弘一君
名川侃市君 牧野賤男君
津原武君
裁判所構成法改正法律案
提出者
野田文一郎君 岡本實太郎君
作田高太郎君 濱野徹太郎君
今成留之助君 池田清秋君
眞鍋勝君 南雲正朔君
高橋義次君 手代木隆吉君
西田郁平君 中山福藏君
平川松太郎君 菊池良一君
村松久義君 内藤正剛君
松田正一君 松永東君
服部英明君 原玉重君
田村秀吉君 牧野良三君
名川侃市君 松木弘君
世耕弘一君 小高長三郎君
津原武君
國道四號線改修竝日光國立公園關係道路改築助成に關する建議案
提出者
高田耘平君 森下國雄君
木村淺七君 岡田喜久治君
松永東君 山本粂吉君
薩摩永野驛隼人驛間鐵道敷設に關する建議案
提出者
寺田市正君 東郷實君
岩元榮次郎君
(以上二月二十一日提出)
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
東京市小河内貯水池築設に關する質問主意書
提出者 中村高一君
(以上二月十九日提出)
一去十九日に於ける特別委員の異動左の如し
農地調整法案(政府提出)委員
辭任 小畑虎之助君 補闕 土田莊助君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=0
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001・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リ致シマス、電力管理法案外三件
及ビ農地調整法案ノ各委員長ヨリ、本日本
會議中委員會ヲ開キタシトノ申出ガアリマ
ス、之ヲ許可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=1
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002・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ之ヲ許可致シマス-此際新ニ
議席ニ著カレマシタ議員ヲ御紹介致シマ
ス-第二百十四番新潟縣第三區選出議員
藤井浩然君
〔藤井浩然君起立〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=2
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003・小山松壽
○議長(小山松壽君) 日程第一乃至第四ノ
四案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キ、前會ノ議
事ヲ繼續致シマス-西村金三郞君
第支那事變特別稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二臨時利得稅法中改正法律案(政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第三臨時租稅措置法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第四日滿國稅徵收事務共助法案(政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
〔西村金三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=3
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004・西村金三郎
○西村金三郞君 只今議題トナッテ居リマ
スル支那事變特別稅法案外三件ニ付テ、二
三簡單ナル質問ヲ致シタイト思ヒマス、第
一ニ本增稅ハ近衞內閣ノ財政計畫ノ上ニ於
テ、如何ナル意義ヲ有スルカト云フコトヲ
御尋致シタイノデアリマス、本增稅ハ御承
知ノ通リ三億一千八百万圓、之ヲ一個人ニ
割當テレバ約三圓五十錢、一家五人トスレ
バ十七圓五十錢、租稅全體ヨリ見レバ約二
割ニ當ルノデアリマス、決シテ輕キモノデ
ハアリマセヌ、隨テ財政計畫ノ上ニ於テ、
必ズ意義アラネバナラヌト存ズルノデアリ
マス、勿論國民ハ增稅ドコロカ、命サヘモ
捧ゲテ居ルノデアリマス、併ナガラ此增稅
ノ意義、卽チ政府ノ爲サントスル所ノ計畫
ノ意義ヲ知ル時ニ、國民ハソコニ初メテ之
ニ從フ、之ニ喜ンデ從フト云フ心ガ出ルノ
デアリマス、國民ガ國策ニ追隨スルト云フ
結果ヲ招來スルト思フノデアリマス、國民
ガ國策ニ追隨スルト云フコトハ、政治ノ大
理想デアッテ、國家ノ强味是ヨリ大ナルモノ
ナシト信ズルノデアリマス、此支那事變ニ
付テ金ガ要ル、金ガ要ルガ故ニ增稅シタ、
增稅シタ所ガ足ラナイ、故ニ借金スル、是
デハ一世ノ信望ト期待ヲ擔ッテ居ル所ノ、又
此非常時局ヲ擔當スル所ノ、近衞內閣ノ財
政ノ衝ニ當ル大藏大臣ノ說明トハナラナイ
ト思フノデアリマス、私ハ大藏大臣ノ斯樣
ナ說明ヲ聽イテ一時ハ非常ニ不滿足デアッタ、
併ナガラ前囘ノ我ガ同僚ノ質問ニ對シテ大
藏大臣ハ、此增稅ハ支那事變ニ對スル所ノ
公債ノ利拂ニ充テルノデアル、元本ノ償還
ハ之ヲ後代ニ讓ルト致シマシテモ、此利息
ハ現代ニ於テ之ヲ負擔スルト云フ精神ニ出
デタノデアル、斯ク說明サレテ私ハ非常ニ
滿足シタノデアリマス、斯クナクテハナラ
又、是デ初メテ財政ノ上ニ於テ意義アラシ
ムルモノデアルト考ヘタカラデアリマス、
是ニ於テ私ハ大藏大臣ニ御尋ヲスル、果シ
テ然ラバ將來支那事變ニ付テ公債ヲ發行ス
ルナラバ、其公債ノ利拂ダケハ、必ズ增稅
ニ依ッテ之ヲ爲スト云フ決定的ノ御計畫ヲ
持タレタノデアルヤ否ヤ、此點ニ付テ御
尋致シタイノデアリマス、私ハ此質問ハ二
ツノ實益ヲ持ッテ居ルト思フ、一ツハ先程
モ申シタ通リ、國民ガ國策ニ追隨スルト云
フ結果ヲ招來スルノデアル、此時局柄國
民精神ノ總動員ト云フ趣旨モ茲ニアルト
思フ、第二ニ於テハ人心ノ不安ヲ一掃スル、
而シテ財界ノ安定ニ資スルモノデアルト、
斯ク信ズルノデアリマス、ドウモ近頃歷代
ノ內閣ガヨク放言ヲサレル、或ハ放言ヲサ
レタ如クデマガ飛ブ、是ガ爲ニ國民ニ不安
ヲ生ゼシメテ居ルモノガ多イノデアリマス、
現ニ今囘ハ大イニ輸入ヲ統制サレルサウダ、
斯ウ云フコトガ次々ノデマトシテ大イニ飛
ブ時ニ、貿易業者ハ非常ニ澤山ノ買込ヲヤ
ル、其買込ヲヤル爲ニ割高ノ物ヲ買フ、昨
年モ其割高ノ物ヲ買ッタノガ約二億圓ト言
ハレテ居リマス、而シテ買込ガ-買思惑
ガ約三億以上、斯ウ云フコトニナルト、昨
年ノ輸入超過約六億圓餘ハ、殆ド買思惑ト
高買トニ歸スルト云フヤウナ結果ニナルノ
デアル、斯ノ如キコトデアルガ爲ニ、政府
ノ方針ノ決定シタルモノハ、特ニ能ク明ニ
言明シテ置クコトガ、民心ヲ安定スル所以
ト存ズルノデアリマス、是レ私ガ此質問ヲ
致ス所以デアリマス
第二ニハ、此機會ニ於テ近衞首相ニ御尋
致シタイ、只今モ申シタ如ク、政府ガ如何
ナル計畫ニ依ッテ之ヲ爲スノデアルト云フ
意義ヲ明ニシタ時ニ、國民ガ其政策ニ追隨
スルト云フコトヲ申シマシタ、而シテ是ガ
憲政有終ノ美ヲ濟ス所以デアル、國ノ强キ
是ヨリ大ナルモノナシト私ハ信ズルノデアリ
マスガ、如何ナル立派ナ內閣ガソコニ出來
テモ、又如何ナル立派ナ國策ガ樹立サレテ
モ、國民ガ之ニ追隨シナケレバ、決シテ其
國策ハ完全ニ行ハレルモノデハアリマセヌ、
而シテ國民ガ國策ニ追隨スルノハ、其國策
ノ意義ヲ能ク了解スルニ在ルノデアリマス、
國民ガ國策ノ意義ヲ了解スルノハ、議會ニ
於ケル所ノ論戰デアリマス、議會ニ於テ質
問應答ヲ重ネル、ソレヲ議會ヲ通ジテ一般
國民ニ知ラシメル、國民ガ之ヲ知ルニ依ッテ
初メテ國策ヲ知リ、之ニ追隨スルト云フ氣
分ヲ生ズルノデアリマス、明治天皇ガ萬機
公論ニ決スト仰セニナッタノハ、政治ノ此眞
諦ヲ後世ニ御示シニナッタモノト私ハ拜察
スルノデアリマス、私ハ斯ク考ヘル時ニ、
此萬機公論ニ決スルト云フコトヲ、內閣ノ
諸公ハ常ニ頭ニ置イテ戴キタイモノダ、是
ガ卽チ憲政ノ最モ骨髓デアルカラデアル、
私ハ又此萬機公論ノ御詔ハ、廟堂ニ立ツ者
ガ會議、公論ヲ嫌ウテ、萬機ヲ獨斷專行ス
ルト云フヤウナル不心得ノ者ノ出デザルヤ
ウ、後世ニ戒メラレタル御言葉ト拜察スル
ノデアリマス、近衞首相ハ如何ニ考へラレ
ルカ、又私ハ此萬機公論ト云フコトヲ頭ニ
置カズシテ、憲法ハ解釋スルコトガ出來ナ
イト思ウテ居ルノデアリマス、憲法ヲ一貫
スル所ノ大精神ハ、此萬機公論ニ在リト考
ヘテ居ルノデアリマス、憲法ノ二章ニ「法律
ノ定ムル所ニ依ル」ト認メラレテ居ル所ヲ
吾々解釋スルニ、法律ハ必ズ帝國議會ノ協贊
ヲ經ナケレバナラヌ、帝國議會ノ協贊ヲ經
ルニハ、必ズ議會ノ公論ヲ經ナクテハナラ
又、故ニ法律ト云フモノヲ一タビ頭ニ考ヘ
タ時ニ、必ズソコニ帝國議會ト云フコトガ
アル、帝國議會ニ於テ公論スルコトガアル
ト云フコトヲ、同時ニ考フベキデアルト思
フ、此帝國議會ノ協贊、議會ノ公論、之ヲ
考ヘズシテ法律ハ考ヘルコトガ出來ナイト
思フノデアリマス、サレバコソ時局ノ重大
ナル秋、緊急ナル時ニハ、ソコニ緊急勅令
ノ規定ガアリ、又非常大權ノ規定ガアルノ
デアリマス、斯ノ如クシテ緊急ナル場合ニ
於テ、決シテ國家ガ措置ヲ誤ラザルヤウニ
憲法ニハスッカリ之ヲ整ヘテ居ルノデアリ
やく、此事ハ決シテ間違ッテハ相成ラヌト
考ヘルノデアリマス、近衞首相ノ御所見如
何斯ク分リ切ッタルコトヲ私ガ玆ニ御尋
申ス所以ハ、近頃兎角世上戰々兢々、憲政
ハ此五十年ヲ以テ終ルノデハアルマイカト
云フガ如キ懸念ヲ生ジツヽアルコトヲ洵ニ
遺憾トスルカラ、又憲政ノ下ニハ必ズ主義
主張ヲ一ニスル所ノ者ガ相集ッテ政黨ヲ組
織スル、ソレニ依ッテ政治ノ圓滿ヲ期スル、
是ハ當然ノコトナノデアルノニ、其政黨ノ
本據ヲ白晝襲フ、其襲フ後口ニハ誰ガアッタ
彼ガアッタト云フコトガ世ノ中ニヤカマシ
ク言ハレルコトハ、洵ニ遺憾千萬デアリマ
ス殊ニ時局柄最モ之ヲ遺憾ニ考ヘルノデ
アリマス、斯ノ如キ場合ニ私ノ此質問ニ對
シテ近衞首相ガ明確ニ御答辯ニ相成ルコト
ハ、確ニ人心ヲ安メル所以ト考ヘルノデ
アリマス
次ニ負擔均衡ニ付テ御尋致シタイ、負擔
均衡ノコトニ付テハ、大藏大臣モ餘程注意
セラレテ居ルヤウデアリマス、政府ノ此心
掛ハ洵ニ宜シイ、私ハ諒トスルノデアリマ
ス、洵ニ負擔均衡ハ課稅ノ鐵則デアリマス、
苟モ國民ニ負擔ヲ命ズル以上ハ、均衡ハ絕
對的ノ條件デアルト信ズルノデアリマス、
古來負擔ノ不均衡ノ爲ニ思想ヲ惡化シ、國
內ニ騒擾ヲ起シタコトハ、古今東西ニ其例
無シトシナイノデアリマス、寧ロ其例ガ洵
ニ多イノデアリマス、併ナガラ此負擔均衡
ト云フコトハ、洵ニ言ヒ易ク行ヒ難イト考
ヘマス、又之ヲ課スル者ハ、是ハ負擔均衡
ナリトシテ課シテモ、之ヲ納ムル者、負擔
スル者カラ言ヘバ、洵ニ不均衡ナ場合ガア
ルノデアリマス、政府ノ役人ニ先般モ尋ネ
マシタガ、ドウモ是ハ甚ダ不均衡ヂヤナイ
カト、斯樣ニ申シマスト、イヤ、ソコニ不
均衡ノ事實ヲ吾々ガ認メルナラバ、其法律
ハ改廢スルト、斯ウ申スノデアリマス、ソ
レガ非常ナ間違ヒダト思フ、一タビ國民ニ
課シタ以上、其均衡、不均衡ヲ見定メルマ
デニハ數年ヲ要スル、數年ヲ要スル上ニ於
テハ大抵轉嫁スベキモノハ自然ニ轉嫁ガ
行ハレルノデアリマス、故ニ惡稅ノ形ヲ持ッ
テ居ッテモ、實質的ニハ良稅デアルコトガア
ル、斯ノ如キ性質ノモノヲ、其形ヲ見テ又
引繰返スト云フコトヲヤレバ、殆ド國民ハ
負擔ノ不均衡ニ常ニ苦マナケレバナラヌ、
故ニ私ハ此稅制改革ノ如キ、或ハ稅法ノ如
キニハ最初ニ十分ノ審議ヲ重ヌベキモノ
ト考ヘルノデアリマス、現ニ今囘提出サレ
テ居ル所ノ支那事變特別稅法案ノ如キ、物
品特別稅ニ付テ點檢致シマスト、其中ニハ
之ニ課スルナラバ、是ニモ必ズ課サナケレ
バナラヌ、之ヲ免ズルナラバ、是モ必ズ免
ゼナケレバナラヌト云フ性質ノモノガ相當
アル、又支那事變ノ此臨時利得稅ニ付テ、
其內容ヲ見マシテモ、此臨時利得稅ハ、本來
今囘ノ事變ニ付テ利益ヲシタル者ニ重課ス
ルコトガ目標デアリマス、成程相當重課サ
レテ居ル、併ナガラ此事變ニ因ッテ最モ利
益シ、何ノ苦モナクシテ利益シテ居ル所ノ
者ガ玆ニ相當見逃ガサレテ居ル、法人ニ付
テハ一七·二五、個人ニ付テハ一一·五、法人
ノ超過ハ三〇、個人ノ超過ハ二〇、斯ノ如
クナッテ居ルノニ、此支那事變ニ於テ政府ノ
特別ニ保護シテ居ル所ノ會社ノ重役ノ如キ
ハ、半期ニ二万五千圓ト云フ賞與金ヲ受ケ
テ居ル、一年ニ五万圓、平重役ト雖モ尙ホ
三万圓ノ賞與金ヲ受ケテ居ル、是ハ國家ガ
外國ヨリ瓲當リ百二十圓デ買入レタモノヲ、
八十圓デ其處ニ供給シテ居ル會社デアル、
斯ノ如クシテ太キナ利益ヲ得テ居ル、其利
益ノ分配トモ見ルベキ所ノ賞與金ガ、斯ノ
如キ大キナ賞與金デ、唯一般ノ所得稅ノミ
ガ課セラレテ居ルト云フコトハ、負擔不均
衡デアルマイカト思フノデアリマス、斯ノ
如キモノハ此租稅ノ制定ヲ致ス時ニ、稅制
制定ノ初メニ於テ能ク注意スベキデ、き議會
ニ於テ當然修正サレルモノト思ヒマスガ、
寧ロ修正以前ニ、是ハ成程負擔不均衡ナリ
ト御悟リニナルナラバ大藏大臣ニ於テハ
自ラ之ヲ訂正スルダケノ雅量ガナクテハナ
ラヌト思フ、左樣思召サヾルヤ否ヤヲ御尋
致シタイ
次ニ私ハ斯ノ如キ長期戰ニアッテハ、時局
認識ヲ常ニ新ニスル底ノ租稅ヲ設クル必要
ガアルマイカト思フノデアリマス、富者ハ
固ヨリ萬燈ヲ獻ズベク、併ナガラ貧者モ亦
一燈ヲ獻ジタキ時期デアリマス、吾々ノ同
胞ガアノ暑キ異境、アノ寒キ異境ニ於テ、
血稅ヲ拂ッテ居ル時ニ、吾々ハ感謝ヲス
ル、感激ヲスル、此感謝、感激ノ記憶ヲ新
ニスルト云フ性質ノ稅金ガナクテハナラヌ
ト私ハ思フ、私ハ其多寡ヲ決シテ言フノデ
ハナイ、他ノ稅金ニ於テ大衆ニ課カルモノ
ガアレバ、之ヲ減ジテモ、斯ノ如キ一ツノ
性質ノ稅金ヲ課ケルコトハ、是ハ國民精神
總動員ノ實行デアリ、又一般消費節約ノ属
行トシテモ、創定スベキモノデアルマイカ
ト思フノデアリマス、收入本位ニ稅金ヲ取
ル、是ハ現在ニ於テ已ムヲ得ナイト思フガ、
收入本位ノ稅金ニ依ッテ富士ノ高嶺ニ居ル
所ノ者ノミガ、成程此時局ハ斯ノ如キモノ
ト認識スルガ、其裾野ノ大衆ハ一向之ヲ知
ラナイト云フガ如キハ、爲政者ノ罪洵ニ大
ナルモノト私ハ考ヘルノデアリマス
次ニ私ハ此課稅ノ形式ハ成ベク簡單ニ、
之ヲ納ムル者ニ能ク了解シ易キモノトスル
コトハ、爲政者ノ當然ノ心掛デアリ、又重
要、職職責デアルト思フノデアリマス、假令
ソレガ臨時的デアッテモ、經過的デアッテモ、
是ハ爲政者ニ於テ十分注意シナケレバ相成
ラヌト思フ、今囘ノ稅ノ形ヲ見マスルト、
基本稅、臨時增徵、北支事變特別稅、支那
事變特別稅ト、三階建、四階建ニナッテ居
ル、之ヲ申〓スル者ハ中々分ラナイ、否、申
告ヲスル者ドコロカ、政府ノオ役人ノ方々
モ、是ハ自分デハ決シテ其計算ハ出來マイ
ト思フ、斯ノ如キ洵ニ負擔者ガ自分デ分リ
惡イヤウナ稅金ヲ課シテ、ソレヲ取上ゲヨ
ウトスルコトハ、不親切デアラウト思フ、
殊ニ徵稅官ハ之ニ對シテ隨分嚴シク徴稅ス
ルト云フコトデアレバ、是ハ國民ノ怨府ト
政府ガナルコトハ當然デアラウト思フ、本
年徴稅調査委員ノ代辯ヲ禁止サレタノデア
リマスガ、私ハ此代辯ヲ禁止サレテハ、素
人ハ愈〓〓ドウシタラ宜イノカ、ウロツキ廻
ルコトデアラウト同情ニ堪ヘナイノデアリ
マス、私ハ徵稅官ガ斯ノ如キ場合ニ於テハ、
進ンデ其面倒ヲ見テヤルト云フコトニシ
ナケレバ相成ラヌト思フノデアリマス、而
シテ同時ニ成ベク早ク分リ易キ稅ノ形ニ直
シテシマフコトガ必要デアラウト思フ、私
ハ玆ニ大藏大臣ニ御願ヲスル、又ソレヲ聽
イテ下サルカ否カ御返事ヲ願ヒタイノハ、
此面倒ナル稅金ヲ申〓スル者ハ、自分ハ所
得稅ハ幾ラトカ、或ハ何ニ依ッテノ利得ハ幾
ラト、斯ノ如ク言ヘバ、然ルベク徴稅官ニ
於テ親切ニソレヲ手直シテヤル、手傳ッテヤ
ル、是ダケノ親切ヲアラシメテ下サルヤ否
ヤ、之ヲ御尋スルノデアリマス
私ハ最後ニ此長期戰ニ於ケル所ノ租稅ト
公債トニ付テ御尋ヲ致シタイ、今囘ノ事變
ニ付テ政府ノ動向ヲ察シマスルト、此長期
戰ノ財源ヲ公債ト租稅トニ求メテ居ルヤウ
デアリマス、第一ニ此國內債ト增稅トガ、
此長期戰ノ財源トシテ遺憾ナキヤ否ヤヲ承
リタイノデアル、長期戰ニ於キマシテハ、
國內債ハ決シテ戰費ノ延期トハナラナイノ
デアリマス、戰爭ノ費用ヲ負擔スルコトヲ
延期スルコトトハ相成ラヌノデアリマス、公
債ハ生產力ノ徵發デアルコトハ當然デアリ
やく、租稅ハ購買力ノ强制徵發デアリ、又
生產力ノ强制徴收デアルコトハ申ス迄モナ
イノデアリマス、近頃政府ノ方々ニ承ルト、
景氣ガ大變好イヂヤナイカ、斯ウ云フコト
ヲ仰シヤルノデアリマス、若シ景氣ガ好ケ
しや、是ハ所謂軍需景氣デアラウト思フ、
軍需景氣ハ御承知ノ如ク財界ヲ一時錯覺ニ
陷レルニ止マルノデアル、丁度酒呑ミガ醉
拂ッテ居ルノト同ジコトデアル、十分醉ッ
拂ッテ居ル間ハ洵ニ景氣ガ好イガ、ソレダケ
懷ロノ財布ガ空ニナッテ居ルノデアリマス、
此國內債ト增稅トガ長期戰ニ於テ生產力ノ
徵發デアルガ爲ニ、私ハ洵ニ其財源トシテ
堪ヘルヤ否ヤヲ心配スル所以デアリマス、
アノ獨逸ガ歐洲大戰ニ於テ國內債ト增稅ト
ニ依ッテ、其財源ヲ支持セントシテ遂ニ長期
戰ニ失敗致シタコトハ、吾々玆ニ考ヘナケ
レバナラヌ事デアルト思フ、獨逸ノ事情ト
日本ノ國情トハ一ツデハナイノデアリマス、
併ナガラ此事情ハ殷鑑トシテ吾々ノ頭ニ置
イテ對策ヲ立テナケレバ相成ラヌト思ヒマ
ス、藏相ノ御考ヲ御尋致シマス、國內債ト
增稅トハ軍費調達ノ決定的條件デアリマス
ルガ、長期戰ニ於キマシテハ、銃後ノ護リ
ヲ鞏固ニスルコトガ、最モ大切ナ決定的條
件ト思フノデアリマス、然ルニ先程申シタ
如ク、增稅ハ購買力竝ニ生產力ノ徴收デア
リ、公債モ亦同樣デアルトスルナラバ、必
ズ國民經濟ノ上ニ是ガ影響シ、國民經濟ノ
上ニ影響スル所、必ズ銃後ノ護リヲ弱メハ
シナイカト思フノデアリマス、對策アリヤ
否ヤヲ伺ヒタイ
次ニ此國內債ト增稅トノ經濟界ニ及ボス
影響デアリマス、公債約八十億トナルデアリ
マセウ、三十億ガ市場ニ消化サレルト致シ
マシテモ、此五十億ガ日本銀行ガ引受ケ、之ニ
對シテ通貨ヲ膨脹セシメルナラバ、物價騰貴
ハ當然ノ趨勢デアリマス、現ニ現在ニ於テモ物
價ハ騰貴致シテ居リマス、現在ノ物價騰貴
ハ原料ノ不足ヨリ生ズル所ノ惡性ノ物價騰
貴ト私ハ考ヘテ居リマス、此惡性ノ物價騰
貴ノ所ヘ、又更ニ通貨膨脹ニ依ル所ノ惡性
ノ物價騰貴ガ拍車ヲ掛クルニ至ッテハ、經濟
上正ニ由々シキ事ト存ズルノデアリマス、
是ガ對策アリヤ否ヤ、藏相ハ先般本會ニ於
テ我ガ國力ハ二百億、三百億ハ決シテ驚カ
ナイ、斯ク聲明セラレマシタ、洵ニ時節柄
心强イ聲明ト感服致シマシタ、然ラバ四百
億五百億ハドウデアルカ、六百億、七百
億ハドウデアルカ、有ルモノヲ當ニシテ使
ヘバ遂ニ無クナルコトハ當然デアリマス、
此戰爭ハドウシテモ勝タナケレバナラヌ戰
爭デアル、隨テ此有ルモノヲ使ヒ去ルト云
フコトニ、唯其對策ヲ立テテ置クコトハ、
決シテ賢キ政策デナイト考ヘマス、勿論此
公債ト增稅トハ戰費調達ノ財源デアルコト
ハ私モ認メマス、之ニ依ッテ長期戰ノ財政計
晝ヲ根本的ニ立テ、兩者ヲ調節シ、市場金
融ノ緩急ヲ察シテ、或ハ通貨ヲ注入シ、或
ハ大藏證劵ヲ以テ之ヲ引上ゲ、漸次長期公
債ニ導ク巧妙ナル方策ノ必要ナルコトハ當
然デアリマス、併ナガラ何トシテモ、國內
債ト增稅トハ共ニ生產力ノ徵發デアルガ故
ニ、玆ニ更ニ對策ヲ要スルコトハ當然デア
ラウト思フ、私ハ國力ノ休養若クハ涵養ノ
手段トシテ、外債若クハ在外「クレヂット」
ノ設定ガ是非トモ必要デアルト思フ、外債
若クハ在外「クレヂット」ノ設定ハ、是ハ戰
費ノ延期トナリ得ルト思フ、外國ノ生產力
ヲ我國ニ利用スル途デアルカラデアリマス、
次ニハ此國力休養及ビ涵養ノ途トシテ、日
滿支共助ノ戰費節約ヲシナケレバナラヌト
思フ、此戰爭ハ固ヨリ支那ノ爲ニ、或ハ東
洋平和ノ爲ニスルノデアッテ、決シテ我國ノ
侵略行爲デナイコトハ然デアリマス、隨
テ日滿支ガ共助シテ、此目的ヲ達成スルヤ
ウニ努力スル上ニ、經濟的ニモ共助ヲ致ス
ベキコトハ當然ト考へルノデアリマス
最後ニハ國力ノ增進ト云フコトヲ考ヘナ
ケレバナラヌ、國力ノ增進ハ、私ハ貿易ノ
振興ヨリ以外ニナイト思フノデアリマス、我
國ノ貿易ハ振興サルベキ筋合ニ居ルノデア
ル、御得意トシテハ支那及ビ太平洋沿岸ノ
黎明期ニ居ル所ノ國民七億ガアル、是ノ需
要ハ日ニ益〓、盛ニナッテ居ル、又海路ニ依ルコ
トトテ運賃ガ洵ニ低廉デアル、過剩ナル我ガ
人口ハ工藝美術ニ優秀デアッテ、外來ノ原料
品ヲ巧ミニ製品化スル所ノ能力ヲ持ッテ居
ル、資源ハ窮乏デアル爲ニ片貿易ヲ許サヾ
ル所ノ現在ノ國際貿易ノ情勢ニ適合スルノ
デアル、斯ノ如キ有利ナル條件ガアッテ、
玆ニ貿易ノ振興ガ出來ザル理由ハナイノデ
アリマス、徒ニ國際收支ノ適合ト云フコト
ニ拘束サレ、爲替水準一志二片ト云フコト
ヲ墨守セントシテ、是ガ爲ニ大局ヲ誤ッテハ
相成ラヌト思フノデアリマス、何レノ國ニ
於テモ生產力ヲ擴充シ、其殘リヲ外國ニ輸
出シ、國際收支ヲ良好ニ導カント致シテ居
ルコトハ日本ダケデハナイ、唯日本ガ外國
ノ品物ヲ引入レルニシテモ、ソレガ輸出ノ
材料トナルモノニアラザレバ輸入ハ許サナ
イト云フヤウナル、小サナ型ノ中ニ體ヲ入
レテ居ッタナラバ、此國力增進ト云フ大局ヲ
誤ルノデアッテ、長期戰ニ於テハ最モ有利ナ
ル所ノ我ガ日本帝國ノ貿易上ノ地位、ソレ
ヲ忘レテハ相成ラヌト思フ、殊ニ輸出ヲ振
興セシメル上ニ於テ、販路開拓ニハ爾來非
常ナル努力ヲ同業者ガ致シテ居ッタ、其販路
開拓ニ非常ナル努力ヲ致シタ結果、漸クア
ノ貿易ノ振興ヲ來シタノデアル、之ヲ得ル
コトハ洵ニ難イ、併ナガラ此販路ヲ失フコ
トハ洵ニ易イノデアル、此際ニ於テ我ガ日
本ノ貿易政策ヲ誤ルナラバ、再ビ取返シノ
付カナイコトニ相成ルノデアリマス、是ガ
爲ニ十分ノ對策ヲ立テナケレバ相成ラヌト
思ヒマスガ、當局ニ於テハ如何ニ御考ニナッ
テ居リマスカ、增稅ニ關聯シテ此簡單ナル
質問ヲ致シマシテ當局ノ答辯ヲ求メマス
(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=4
-
005・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 只今西村君ノ御
質問ニ相成リマシタコトニ御答ヲ申上ゲル
ノデアリマス、將來公債ノ利子額ダケハ必
ズ增稅ヲ致シ、之ニ依ッテ支辨ヲスル計畫デ
アルカ否ヤト云フ御尋デアリマスルガ、此御
趣旨ハ總テ經常歲出ハ經常歲入ヲ以テ賄フ
ベキモノナリト云フ、財政上ノ御考ヨリ出
タコトト存ジマス、獨リ公債ノ利子ノミナ
ラズ、此事變ニ因リマシテ經常的ノ歲出ハ
增加スルモノガ相當アラウト思ヒマスガ、
是ハ將來經常的收入ニ依ッテ賄ッテ參リマス
ルコトハ、原則トシテ吾々モ之ニ努メタイ
ト思フノデアリマス、財政計畫全般ニ付キ
マシテモ、原則トシテ同樣ナ方針デ相努メ
タイト思フノデアリマス、尙ホ負擔均衡ニ
付テノ御話デアリマスルガ、是ハ今囘ノ稅
制ノ案ガ、或ハ事變ノ利得ニ對シテ、又物
品稅等ニ致シマシテモ、一定額以上比較的
擔稅力ノアル方面ニ對シテ課シ、消費稅ニ
付キマシテハ比較的ニ薄イノデアリマス、
又營業收益稅、地租等ノ一部モ減稅ヲ企テテ
居リマシテ、御趣旨ノ如ク負擔均衡ニ努メ
テ居ルノデアリマス、國民一般ガ戰場ニア
リマスル將士ニ對スル感激ノ念ト申シマス
ルカ、免稅點ノ引下ノ如キモ、或ハ消費稅
ノ如キモノモ、國民全般ガ銃後ノ勤メヲス
ルト云フ趣旨カラ出テ居ルノデアリマス、
尙ホ特殊會社ノ重役ノ稅ニ付テ御話ガアリ
マシタガ、特殊會社モ、普通ノ會社モ、會
社竝ニ其重役等ニ對スル課稅ハ一律扱ヒデ
アリマシテ、不公平ハナイノデアリマス、
課稅上ノ規定ガ複雜デアルト云フ御話デア
リマスガ、是ハ御尤デアリマス、併シ今日
ノ場合已ムヲ得マセヌノデ、此取扱ニ付キ
マシテハ極メテ親切ニ、國民ヲシテ成ベク
其煩瑣ノ爲ニ困却スルコトノナイヤウニ、
重々相努メル次第デアリマス
尙ホ戰費調達ニ付キマシテ、增稅ト公債
ニ依ルノデアラウガ、將來非常ニ注意ヲ要
スルト云フ御話デアリマシテ、是ハ私共モ
御同感デアリマス、財政論カラ申上ゲレ
バ、主トシテ公債ニ依リ、增稅ヲ併用スル
ヨリ外ハナイノデアリマス、戰費ハ金ニ依
リマスルケレドモ、戰爭デ要ルモノハ勞力
デアリ、物資デアルノデアリマス、隨テ幾
ラ金ヲ積ミマシテモ、必要ナル物資勞力ノ
供給ガアリマセヌケレバ、事變ノ目的ヲ達
スルコトハ出來ナイノデアリマス、其故ニ
物資ノ自給ニ對スル方策、又生產力擴充ノ
方策、國際收支維持ノ方策等、諸種ノ經濟
的方策ニ依リマシテ、其基本ノ物資ノ供給
ニ遺憾ナキヤウ努メマスルコトハ、度々御
說明申上ゲマシタ通リデアリマス、此基本
ノ經濟政策ニ依ッテ、其上ニ於ケル財政政策
ノ運用ガ出來ルヤウニ努メテ參ル積リデア
リマス、戰費ガ將來事變ガ延ビマシタ場合
ニ於テハ非常ナル巨額ニ上リマセウガ、ソ
レハ其間ノ國民ノ生產力ニ依ッテ之ヲ賄ッテ
行クノデアリマス、戰爭ハ御承知ノ通リ最
大ノ消費デアリマスル、其生產力ニ依ッテ賄
ヒ、國力ノ基本ニ喰ヒ込ム部分ヲ出來ルダ
ケ少クスルト云フ努力ガ必要デアルト考ヘ
ルノデアリマス、外債ニ付キマシテハ、目
下ノ所政府ハ外債ヲ起スノ意思ハアリマセ
ヌ、日滿支共助ニ付テノ御話デアリマスル
ガ、是ハ御趣旨ノ通リデアリマス、色々ノ
意味デ日滿支ガ協力ヲ致シマシテ、此事變
ニ對スル對策ハ勿論、事變後ノ對策モ續ケ
テ參ル積リデアリマス、貿易ノ振興ニ付キ
マシテハ、輸出貿易ヲ盛ニ致シマシテ、國
家國民ノ爲ニ必要ナル輸入力ノ增大ニ努メ
マスルコトハ御趣旨ト同樣デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=5
-
006・小山松壽
○議長(小山松壽君) 永山忠則君
〔永山忠則君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=6
-
007・永山忠則
○永山忠則君 商工大臣、農林大臣ノ出席
ヲ求メテ置キマシタガ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=7
-
008・小山松壽
○議長(小山松壽君) 永山君ニ御答致シマ
ス、商工大臣ハ本日ハ登院致シ兼ネルト思
ヒマス、農林大臣ハ農地調整法ノ委員會ニ
出席中デアリマス、政務次官ガ參ッテ居リマ
スカラ御尋ニナッテ如何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=8
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009・永山忠則
○永山忠則君(續) 私ハ只今議題トナリマ
シタ增稅案ニ付テ檢討致シマスト、頗ル多
クノ點ヲ疑問トシテ質サネバナラヌコトヲ
遺憾ニ思フモノデアリマス、併シ約束付ケラ
レタ時間ノ關係モアリマスシ、前質問者ニ
依リテ相當質疑サレテ居リマスカラ、出來
ル限リ重複ヲ避ケマシテ、大局的ニ、綜合
的ニ異ッタ角度カラ質問致シテ見タイト思
フノデアリマス、今囘ノ增稅案ハ賀屋、吉
野兩大臣ノ「コンビ」デアルト言ハレテ居ル
經濟三原則ノ線ニ沿ヒ難クシテ、或ハ却テ
逆作用的效果ヲ齎ラスモノデハナイカト云
フ疑問ヲ懷クモノデアリマスルカラ、此觀
點ヨリ次ノ三項目ニ付テ御尋ヲシテ見タイ
ト思フノデアリマス
第一、增稅ガ極メテ消極的デハナイカト
云フコトデアリマス、其爲ニ第二、物價騰
貴ヲ誘發シテ物資需給ノ圓滑ニ支障ナキヤ
ト云フコトデアリマス、第三ハ、負擔ノ不
均衡ヲ激發シテ國民生活ノ安定ヲ阻碍スル
ノ憂ナキヤト云フ點デアリマス
第一ノ增稅ガ消極的デハナイカト云フ點
ニ關シマシテ御伺致シマスガ、政府ハ此事
變下ノ增稅ニ對シマシテ、自由主義的現狀
維持ノ立場カラ反對スル空氣ガ强イノニモ拘
ラズ、取敢ズ增稅ヲ斷行サレタト云フコト
ハ敬意ヲ拂フモノデアリマスガ、其增稅ノ
程度ガ極メテ微溫的デ、自由主義現狀維持
派ト妥協抱合シタ消極的ノモノデアルコト
ヲ、頗ル遺憾ニ思フ者デアリマス、現下ノ
超非常時、長期戰ニ對應スル增稅ハ、極メ
テ積極的ニ財政上ノ理由ヲ持ツモノデナク
テハナリマセヌ、卽チ數十億ニ達スル公債
ノ負擔ノ及ボス我ガ財政經濟ヘノ影響ヲ、
如何ニ增稅ヲ以テ抑制シ處理シテ行クカノ
積極性ノ意義ヲ持ツ增稅デナクテハナリマ
セヌ、政府ガ今囘提案サレタ如キ大衆課稅
ニ重クシテ、負擔ノ公正ハ第二義的ニ考ヘ
ルヤウナ增稅ヤ、增徵額ハ公債ノ利子拂位
ニ止メルガ如キ消極的ノモノデハ、部門 前
價騰貴ヲ抑制スル感ガアリ、物價騰貴ヲ抑
制シナガラ生產ヲ擴充シ、國民生活ノ安定
ヲ圖ルト云フ、社會正義ノ線ニ沿ウタ增稅
トハ申サレヌノデアリマス、此事變下ノ增
稅ハ、先ヅ大衆課稅ヲ避ケテ、事變ニ惠マ
レル金融產業資本ニ特ニ重課稅主義ヲ採ッ
テ、サウシテ負擔均衡作用ニ一層重點ヲ置
イテ、事變ノ重壓ニ惱ム社會層ノ負擔ノ減
免ノ徹底ヲ圖ルコトガ、極メテ緊要デアル
ト思フノデアリマス、サウシテ其增稅額ハ
公債ノ利子拂程度ニ止メズシテ、事變財政
處理ノ爲ニ膨脹スル通常經費ノ一部ニモ充
當シ得ル金額、卽チ此場合ト致シマシテハ、
少クトモ五億圓ヲ下ラザルコトガ、戰時體
制經濟下ノ社會政策的意義ヲ持ツ最小限度
ノ基礎的ノ數字デアルト思フノデアリマス、
政府ハ此場合增稅ニ對シテモット大膽ニ積
極的ニ進ンデコソ增稅ヲ通ジテ物價騰貴ヲ
抑制シ、而モ生產ヲ擴充シテ負擔及ビ分配
ノ公平ヲ期シ、國民生活ノ安定ヲ圖リ得ル
モノデアルト思フノデアリマス、政府ノ御
意見ヲ御伺シタイノデアリマス
第二ハ今囘ノ增稅ガ物價騰貴ヲ誘發シテ、
物資需給ノ圓滑ニ支障ナキヤト云フ點デア
リマス、今囘ノ如キ煙草ノ値上ヲ初メトシ
テ、物品課稅ハ實ニ四十數目ニ及ビマシタ、
其中ニ第二次生活ノ必需品ガアルノミナ
ラズ、燐寸ニ至ルマデ課稅物件トナルニ至
リマシテハ、物價騰貴ハ必然デアルト思フ
ノデアリマス、否此物價騰貴ハ旣ニ議論デ
ハアリマセヌ、現實ノ問題トシテ現レテ居
ルノデアリマス、元來政府ハ戰時體制下ノ
經濟計畫ニ當リマシテ、最初カラ物價統制
策ノ特筆スベキモノヲ樹立シナカッタト云
フコトガ、此增稅案ヲ契機トシテ驚クベキ
物價騰貴ヲ招キツヽアル大キナ原因デハア
ルマイカ、現在政府ガ間接的物價統制策ト
シテ併用シテ居ル暴利取締令ヤ、重要產業
統制法、消費節約、配給ノ改善、代用品ノ
奬勳等ハ、何レモ微溫的デ核心ニ觸レテ居
リマセヌカラ、物價ハ躍騰又躍騰ヲ續ケテ
居ルノデアリマス、殊ニ見逃スコトノ出來
ナイノハ、小賣物價ノ騰貴ガ極メテ顯著デ
アルト云フ點デアリマス、而モ小賣物價ハ
卸賣物價ニ比べマスト、甚シキ騰貴ヲ致シ
テ居ルノデアリマス、小賣物價ガ斯クモ高
イト云フコトハ、最近ノ綿布ニ於テ見マス
ヤウニ、賣惜トカ、買溜等ニ原因スルコト
ガ頗ル多イノデアルト思フノデアリマス、
ソコデ國民生活ノ壓迫ハ刻々ニ迫ッテ、
日本經濟ノ破局ハ此一角カラ生ズルノデハ
ナイカトサヘ憂慮セザルヲ得ナイノデアリ
マス、政府ハ物價騰貴ハ物品ノ消費節約ヲ
結果付ケル效果ガアルノダト云フヤウカ、
自由主義的ノ偏見ヲ速ニ〓算シテ、本增稅
案ヲ實施スルト共ニ、强大ナル價格決定權
ヲ政府ガ持ツ强權立法ヲ確立シテ、戰時體
制下ノ物價統制、殊ニ小賣物價ノ昂騰抑制
ニマデ乘出スベキ時期ニ直面ヲ致シテ居ル
ト思フノデアリマスガ、政府ノ御所見ヲ御
伺シタイノデアリマス
物價統制ニ關聯致シマシテ、特ニ商工省
及ビ農林省關係ノ人ニ御尋ヲ致シテ見タイ
コトハ、今日喧シイ問題トナッテ居リマス所
ノ、晒木綿ノ公定價格不當ノ件ニ付テデア
リマス、商工省デハ晒木綿ノ小賣公定相場
ヲ一圓二十五錢カラ一圓五十錢位マデニ御
決定ニナッタノデアリマスガ、政府ハ此價格
ヲ適正ト御考ニナッテ居ルノデアリマスカ、
勿論賣買中止前ヨリハ、多少安クナッテ居リ
マスガ、常識的ニ見テモ普通相場ノ二倍以
上生產費ヲ四五倍モ超エタ此價格ハ、不
當ト言フベキデハアリマセヌカ、此不當ノ
最高價格ヲ政府立會ノ下ニ公定サレルト云
フコトハ、物價騰貴ヲ政府ガ誘發シテ居ル
ト言ッテモ過言デハアリマスマイ、晒木綿ノ
暴騰ハ買溜、賣惜ノ結果ニ因ルモノデアル
コトハ周知ノ事實デアリマス、政府ハ何故
ニ賣買停止ヲ命ズル前ニ、暴利取締令ヲ發
動シナカックノデアリマスカ、斯ノ如キ場合
デモ暴利取締令ヲ發動シナイト云フコトハ、
暴利取締令ノ彈力性ヲ失ハセテシマヒ、仲
小路廉氏ガ傳家ノ寶刀トシテ威力ヲ持ツモ
ノデアルト言ハレタモノガ、吉野商工大臣
ニ依ッテ赤錆刀ニ變ルヤウナ結果ヲ見ルト
云フコトハ、洵ニ遺憾ニ堪ヘナイノデアリマ
ス、政府ハ將來晒木綿ノ公定相場ヲ引下ゲ
テ、又今後公定價格ヨリモ上廻リデ賣買サ
レル時ニハ、暴利取締令ヲ勇敢ニ用ヒルノ
勇氣ガゴザイマスカ、斯ノ如キ場合ハ暴
利取締令ヲ發動スルコトハ、法律上疑義ガ
アルカラト言ハレルナラバ、暴利取締令ヲ
改正スルトカ、又ハ他ニ適當ナル方法ヲ考
慮ニナッテ居ルノデアリマスカ、又此晒木綿
ノ價格吊上カラ見マシテモ、物價騰貴ハ必
然デアルト思フノデアリマス、サウシテ農
產物價トノ跛行性ハ愈、增大致シテ參ルデ
アリマセウ、繭ノ如キハ農林省ハ絲價安定
施設法ノ運用ニ依リマシテ、一貫目五圓ノ
相場デ農民ハ安定シテ居ルト言ハレテ居ル
ノデアリマスガ、今日ノ物價ノ關係カラ言
ハハ十圓ニナラナケレバ均衡ヲ得テ居ナ
イト養蠶農民ハ連日陳情致シテ居ルデハア
リマセヌカ、農林大臣ノ御考ハ如何デアリマ
スカ、米價ノ公定價格引上モ必然的ニ迫ル
モノト思ハレルノデアリマス、農林大臣ハ
果シテ農產物價ノ維持ニ關シテ、如何ナル
御抱負ヲ御持チニナッテ居ルノデアリマス
カ、勤勞階級ノ生活困難モ愈〓加加リツヽア
リマスガ、勞働賃銀ノ引上、官吏ノ增俸ニ
關シテハ、如何ナル御考ヲ御持チニナッテ居
ルノデアリマスカ、更ニ物價騰貴ト貿易統
制、輸入統制ノ强化ニ關シマシテ、當局ノ方
針ヲ承リタイノデアリマス、此物價騰貴ノ
情勢ニテハ、爲替相場ノ堅持ハ眞ニ異常ナ
ル決心ヲ要スルコトト思フノデアリマス、
併シドンナ困難ナル狀況ニ打勝タレマシテ
モ、一志二片ヲ堅持スルト云フコトガ、此
場合必要デアルト云フコトハ、當局ノ御言
明ノ通リデアルト私ハ思フノデアリマス、
貿易統制、輸入統制ヲ緩和致シマシテ、其
爲替水準ガ崩レルヤウナコトニナリマスナ
ラバ、輸入貿易ニ關係アル所ノ產業ヲ振興
セシメル效果ヨリモ、國民大衆ニ於ケル犠
牲ノ方ガ遙ニ甚大デアルト言ハナケレバ
ナラヌノデアリマス、故ニ勢ヒ貿易統制、
輸入統制ノ範圍ヲ擴張シマシテ、是ガ强
化ヲ圖ラナクテハナラヌ運命ニ決定付ケ
ラレテ居ルモノデアルト思フノデアリマ
ス、勿論其統制强化ニ官僚獨善主義ハ許ス
ベカラザルモノデアリマスガ、ソレハ統制
ヲ緩和スル爲ノ攻擊デアッテハナリマセヌ、
統制ノ手段方法ノ技術的問題デハナクテハ
ナリマセヌ、國民ノ經濟活動マデ國策ノ線
ニ計畫付ケナクテハ、ドウシテモ此戰時財
政經濟ヲ乘切ルコトハ出來ナイノデアリマ
スカラ、官僚獨善主義ヲ排除シテ、官民一
體ノ有機的統合ガ必要デアリマス、政府ハ
此貿易統制、輸入統制强化ニ對シマシテ如
何ナル御考ヲ御持ニナッテ居ルノデアリマ
スカ
第三ハ今囘ノ增稅ハ負擔不均衡ヲ激化シ
テ國民生活安定ヲ害スルノ憂ナキヤト云フ
點デアリマス、元來資本主義經濟ハ大衆ノ
經濟生活ヲ犠牲トシテ發達シタモノデアリ
マスルカラ、資本主義ガ高度ニ進ミマシタ
時ニハ、必ズヤ大衆ノ經濟ハ極度ニ壓縮サ
レルモノデアリマス、歐洲各國ハ今ヤ此高
度ノ資本主義ニ惱マサレテ居ルノデアリマ
ス、日本ノ資本主義ハ、支那事變前ニ、軍
擴ヲ中心ニ此資本主義變革期ニ直面ヲ致シテ
居ッタノデアリマス、サウシテ國民ハ二·二六事
件ヲ契機トシテ負擔不均衡ノ是正ヲ約束付
ケラレテ居ッタノデアリマス、然ルニ此恩惠
ヲ蒙ラズシテ此時局ニ直面致シタノデアリ
マスカラ、此事變ニ依リマシテ國民大衆ハ
愈〓生活ノ苦境ニ喘ガナケレバナラナイ結
果ニ陷ラント致シテ居ルノデアリマス、此
秋ニ當リマシテノ大衆課稅ノ重壓ハ、國民
大衆ノ沒落ヲ決定的ナラシメルモノデアリ
マス、嘗テ羅馬ガ中堅層ノ沒落ニ依リマシテ
滅亡致シマシタ如キ、重大ナル結果ヲ招致
スルヤモ測リ難イト思フノデアリマス、且
ツ事變ニ惠マレル者ト然ラザル者、軍需生
產都市ト農村トノ經濟力ノ跛行性ハ愈〓激く
化シテ參ルノデアリマス、故ニ今囘ノ增稅
ハ負擔不均衡ノ是正ニ全的努力ヲ集中シナ
ケレバナラナイノデアリマス、然ルニ此增
稅案ハ此負擔不均衡ノ徹底的是正ノ目的ヲ
有ッテ居ナイト云フコトヲ頗ル遺憾トスル
モノデアリマス、本案ノ如ク大衆課稅若ク
ハ大衆ニ轉嫁サレル稅ガ、增徵總額ノ半額
ニ垂ントスルガ如キ、大衆課稅主義ニ向フ
コトハ、負擔不均衡ヲ拍車付ケルモノデア
ルト言ハナクテハナラヌノデアリマス、今
囘位ノ增稅額、北支事變特別稅ノ一億圓ヲ
加ヘテ三億圓位ノ增稅額ハ、事變ニ依リ
マシテ惠マルヽ部分層ヲ中心トスル增稅ノ
ミデ事足レリト私ハ思フノデアリマス、卽
チ第二種所得稅ノ綜合課稅ニ依ル所ノ增徵、
或ハ財產稅ノ創設ニ依ル增徵、或ハ臨時利
得稅、利益配當特別稅、取引稅、有價證劵
移轉稅等ハ、戰地ニ於テ尊キ血稅ヲ拂ッテ居
ル將兵諸士ノ勞苦忠誠ヲ思フノ時、マダノ
一段ト增稅ノ餘地ハ殘サレテ居ルト思フノ
デアリマス(拍手)三億圓位ノ增稅ヲ爲スノ
ニハ、大衆課稅ヲ避ケテ增徵スルト云フコ
トガ負擔ノ不均衡ヲ是正シテ、社會正義ニ
立脚シタ革新的稅制デアルト思フノデアリ
マスガ、當局ノ御意見ハ如何デアリマスカ
次ニ都市ト農山村ノ負擔均衡ノ作用ヲ持ツ
地方財政補給金ノ增額ハ、屢〓質問ヲ繰返サ
レテ居リマスガ、一點御伺シテ置キタイコ
トハ、補給金ノ本質的目的ヲ政府ハ何處ニ
置イテ居ラレルカト云フ點デアリマス、農
村ガ困ッテ居ルカラ補助スルンダト云フ恩
惠的意味ノ救助ニ本質目的ヲ置イテ居ラレ
ルノデアリマスカ、ソレトモ農村ガ都市ヨ
リモ負擔ガ重ク課ケラレテ居ル、卽チ負擔
能力ノアル都市ノ方ガ負擔ガ輕クテ、負擔
力ノナイ擔稅力ノナイ農村ガ重クナッテ居
ルヤウナ、不合理ナ負擔ノ不均衡ヲ是正ス
ルト云フ所ニ本質性ガアルノデアリマス
カ、當局ノ御意見ヲ承リタイノデアリマ
ス、此補給金ハ農村ノ經濟的困難ヲ救助ス
ルト云フ恩惠的性質ノモノデハアリマセ
ヌ、負擔不均衡ヲ是正スル爲ニ農村ガ當然
ニ受クベキ權利デアリマス、不均衡課稅
是正ノ作用ヲ爲ス所ノ性質ノモノデアリ
マス、故ニ其增給額ハ申譯的ノモノデアッテ
ハナリマセヌ、負擔均衡ノ目的ヲ達スル程
度ノ計數的根據ノ金額デナケレバナラヌト
思フノデアリマス、此理念ヨリ出ヅル計數
ハ馬場財政ノ稅制改革ノ際、餘リニモ明
瞭ニ民國ノ前ニ發表サレテ居ルデハアリマ
セヌカ、吾々國民ハ其數字ハ斷ジテ忘レテ
ハ居ラヌノデアリマス、政府ハ果シテ今囘
幾許ノ臨時地方財政補給金ノ增額ヲ追加計
上サレントサレテ居ルノデアリマスカ、補
給金ノ本質性ヲ欺瞞セザル程度ノ金額ノ增
額ヲサレマシテ、徹底的ニ地方負擔ノ均衡
ニ努力スルト云フ御決意ヲ、此場合御披瀝
ニナルト云フコトガ最モ必要デアルト思フ
ノデアリマス
又土地負擔ノ重壓ハ農村疲弊ノ根源ヲ成
スモノデアリマシテ、地租ハ營業收益稅ト
共ニ所得稅ノ補完稅トシテ車ノ兩輪ノ如キ
地位ニアルノデアリマス、故ニ其課稅率ハ
平等デナクテハナリマスマイ、然ルニ地租
ノ課稅率ハ營業收益稅ニ比ベマシテ、國稅
率ニ於テモ更ニ地方稅附加率ニ於キマシテ
モ、遙ニ重課サレテ、實ニ二倍以上ヲ超エ
テ居ルノ狀況ニアリマス、加フルニ課稅標
準ニ於キマシテモ、營業收益稅ハ標準ヲ純
益ニ置イテ居ル、然ルニ地租ハ純益以外ノ
收入ヲ加ヘテ居ル、總收入ヲ標準ニ置イテ
課稅スル如キ不公平ニナッテ居ルノデアリ
マく、デアリマスカラ其結果ハ土地ノ利廻
ハ二分以下ニ〓落致シテ居ルデハアリマ
セヌカ、斯ノ如ク地租ノ重課主義ハ、都市
ト農村ノ負擔不均衡ノ重大ナル原因ヲ成シ
テ居ルノデアリマス、故ニ今囘ノ增稅ニ當
リマシテ、政府ハ土地課稅減額ニ關シテハ
最モ勇敢ニ進マナケレバナラナカッタノデ
アリマス、然ルニ其實績ノ見ルベキモノガ
ナイコトヲ農民ハ頗ル遺憾ニ思ッテ居ルノ
デアリマス、政府ハ或ハ昨年ノ土地賃貸價
格ノ改訂ニ依ル減額ヲ以テ、十分ダト御思
ヒニナッテ居ルノデアリマスカ、此土地賃貸
價格ノ改訂ニ依ル減額ト云フノハヽ法定地
價中心時代ノ不當ナル賃貸價格ヲ公正ニ是
正シタ結果ニ過ギナイノデアリマシテ、何
モ恩惠的ノ減額デハナイノデアリマス、高
率ナル課稅ノ引下モ出來テ居ラナケレバ
課稅標準ノ是正モサレテ居ラナイノデアリ
やく、元來資本主義ハ土地資本ヲ踏臺トシ
テ發達シテ、今ヤ金融資本、產業資本ハ、
資本主義經濟ノ中樞トシテ土地資本ヨリモ
遙ニ優位ニアルノデアリマセヌカ、此點カ
ラ見マシテモ、增稅ヲ金融資本、產業資本
ニモット重課スルト云フコトハ、社會政策的
革新稅制ノ根本義デナクテハナリマセヌ、
然ルニ當局ハ此時期ニ至リマシテモ尙ホ土
地資本ノ不勞所得者ノ優位感ニ因ハレタ土
地重課主義ノ舊套ヲ脫シテ居ラナイト云フ
コトハ、結局都市ト農村ノ負擔均衡ヲ望ミ
得ナイ結果ニナルモノデアルト思フノデア
リマス、政府ハ果シテ今囘ノ增稅ノ結果、
金融資本ト產業資本ト土地資本トノ課稅ガ
均衡ヲ得テ居ルモノデアルト、敢テ御辯明
ナサルノ勇氣ガアルノデアリマスカ、農林
大臣ノ御意見モ併セテ御伺シタイト思ヒマ
ス
此際關聯シテ質問致シタイコトハ、金融
資本ノ王者ト言ハレル所ノ、保險會社ノ公
債保有ニ關スル問題ニ關シテデアリマス、
現在ノ生命保險會社ノ運用資金ハ三十億圓
ニ達シテ居ルノデアリマスガ、其中公債買
入額ハ僅ニ一億五千万圓位ニシカナッテ居ナ
イノデアリマス、卽チ公債ヘノ投資率ハ運用
資金ノ一割ニモ足ラナイ七分ニナッテ居ルノデ
アリマス、保險會社ガ公債ヲ保有スルト云フ
コトハ、國民ガ公債ヲ買フノト同ジ結果ニナ
ルノデアリマスカラ、此場合政府ハ保險會社
ニ對シテ運用資金ヲ公債ニ投資セシメ、或ハ
高率配當ヲ抑制シテ公債ヲ買ハシメルト云
フコトニ依リマシテ、今後增發サレル所ノ
國債ノ消化力ヲ培養スルト云フ方策ヲ執ラ
レルト云フコトハ、現下ノ時局トシテ最モ
緊要ナモノデアルト思フノデアリマスガ、
當局ノ御意見ヲ御伺シタイト思ヒマス、此
際注意ヲ要シマスコトハ、保險會社ノ公債
保有ノ增大ト云フコトハ、運用資金ノ利廻
水準ヲ低下スルコトニナリマスカラ、必ズ
ヤ營利本位ノ是等ノ會社ハ保險料率ノ引上
ヲ爲シテ、被保險者、卽チ國民大衆ニ其犠
牲ヲ轉嫁スルノデアリマセウ、現在ノ保險
會社ノ重役ノ報酬ヤ賞與ノ多額ナルコト、
或ハ株式配當ノ高率ナルコトハ、現下ノ時
局トシテハ吾々ハ特ニ遺憾ニ思ッテ居ルノ
デアリマス、時代ハ重役、株主ノ自省ニ依
リマシテ、國民大衆タル被保險者ヘノ犠牲
轉嫁ヲ避ケラレテ、保險會社ノ公債保有ヲ
强化シテ、國策ノ遂行ニ共助スルコトヲ切
望致シテ居ルノデアリマスガ、商工大臣ハ
是等ノ點ニ對シテ如何ナル指導原理ノ下ニ
監督ヲサレントシテ居ルノデアリマスカ、
御伺シタイノデアリマス
次ニ簡易生命保險最高金額引上ト公債消
化ニ關シテ御尋ヲ申上ゲタイノデアリマス
ガ、厚生大臣ニ御伺致シマス、簡易生命保
險、郵便年金事業ハ其積立金ガ十五億圓ヲ
超エテ居ルノデスガ、其十五億圓ヲ超エル
資金ヲ運用スルニ當リマシテ、現在五十四
種ノ社會公共事業ニ低利資金トシテ廻サレ
テ、其事業助成ニ努メラレテ居ルノデアリ
マス、又一方公債ニ對シマシテモ、將來積
極的ニ放資セントスルノ御計畫ガアルト聞
イテ居ルノデアリマス、此點御伺致シマス、
簡易生命保險、郵便年金事業ハ如何ニ現在
公債消化ニ關シテ重大ナ地位ニアリ、又如
何ニ國民生活安定ト向上ヲ目指シテ報國ノ
實ヲ擧ゲテ居ルカト云フコトハ論ヲ俟タナ
イノデアリマス、故ニ政府ハ此際簡易生命
保險金額ノ最高ヲ一千圓マデ引上ヲ斷行ス
ルト共ニ、郵便年金ノ大衆化ヲ圖ッテ、非常
時戰時體制下ノ金融經濟、殊ニ公債消化ニ
資シテ、國民大衆ノ生活經濟ノ伸張ニ容與セ
シメルコトハ、緊急中ノ急務デアルト思フ
ノデアリマス、現内閣ガ金融產業資本ノ陣
營ニ社會正義ノ劍ヲ振ヒ得ズシテ、簡易生
命保險金額最高引上ヲ六百圓ヤ七百圓デ妥
協スルヤウナラバ、國民ハ斷ジテ承服シナ
イデアリマセウ、世間デハ現内閣ハ厚生省
ノ誕生ノ際、樞密院ノ鼻息ヲ窺ウテ、厚生
省カラ保險院ヲ抹殺スルヤウナ弱腰デアル
カラ、社會正義ニ立脚シタ保險行政ハ不可能
デアルト悲憤慷慨ヲシテ居ルノデアリマス、
故ニ此場合政府ハ儼然トシテ社會政策的保
險行政ヲ實行スルモノデアルト云フコトヲ
聲明ナサルコトガ、時宜ニ適シタ處置デア
ルト思フノデアリマス、敢テ答辯ヲ要求致
ス次第デアリマス
增稅ガ斷行サレマシテモ、是等ノ相關性
ノ重大ナル案件ガ國策ノ線ニ置換ヘラレテ、
綜合的ニ有機的ニ總動員ヲサレナクテハ、
今日ノ超非常時戰時經濟ヲ計畫經理スルコ
トハ、斷ジテ出來ナイト思フノデアリマス、
故ニ右ノ負擔均衡ニ關スル點、物價騰貴ニ
關スル點、增稅ノ積極目的ニ關スル點ヨリ
質問致シマシタ諸種ノ事項ニ對シマシテ、
國民ノ名ニ於キマシテ親切ナル御答辯ヲ要
求シテ已マナイ者デアリマス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=9
-
010・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋風宣君) 御答ヲ申上ゲマ
ス、今囘ノ增稅ハ程度ハ少キニ過ギルデハ
ナイカ、モット大イニ此際增稅ヲ致ス方ガ適
當デハナイカト云フ御所見デアリマスルガ、
是ハ國民ノ代表トシテ左樣ナ御考ヲ伺ヒマ
スルコトハ、當局ノ頗ル多トスル所デアリマ
ス、併ナガラ此戰時事變中ニ於キマシテハ、
產業ノ發展ト云フコトヲ考ヘナケレバナリ
マセヌ、又國民生活ニ對シテモ急激ニ非常
ナル壓迫ヲ加ヘルト云フコトハ愼マナケレバ
ナラナイノデアリマス、ソレ故ニ諸種ノ事情
ヲ勘案致シマシテ、只今ノ程度ニ止メタ次
第デアリマス
尙ホ今囘ノ增稅ハ物價騰貴ノ原因トナル
デハナイカト云フ御話デアリマスルガ、今
囘ノ增稅ニハ間接稅的ノモノハ約三分ノ一、
一億圓デアリマシテ、其中消費稅ハ砂糖消
費稅ノミニ止マッテ居リマス、其他ノ物品特
別稅ノ大部分ハ一定ノ金額以上-高價ト
申スコトハ出來マセヌガ、庶民階級ガ我慢
ヲスレバ、其程度以下ノ品物デ濟ミマスル
ヤウナ、比較的價格ノ高イ物ニ對シテ課稅
ヲ致シテ居ルノデアリマス、其課稅ヲ致シ
マスル程度ニ物價ガ上リマスコトガ稅ノ目
的デアリマスルカラ巳ムヲ得マセヌ、併ナ
ガラ此增稅ニ藷ロシテ特別物品稅ヲ課ケラ
レザル物ノ値上ヲ致シ、或ハ物品稅ノ課カ
リマスル物ニ致シマシテモ、其金額以上ニ
値上ヲ致スト云フヤウナコトハ、此時局ヲ
認識致シテ居リマスル我ガ國民ハ、決シテ
左樣ナコトハナイト存ジマスルシ、又當局
モ之ニ對シマシテ十分ニ事態ヲ明ニシテ國
民ノ自省ヲ求メ、又强ヒテ之ヲ致シマスル
者ニ對シテハ、適當ナル且ツ嚴重ナル取締
ノ方法ヲ講ズル積リデアリマス
尙ホ一般的ノ物價騰貴ニ對シマシテハ、
是ハ政府ノ考ト致シマシテモ、今後モ重要
ナル經濟上ノ問題デアリマスルカラ、有ユ
ル力ヲ盡シマシテ、不合理ナル騰貴ヲ抑制
スル積リデアリマス、尙ホ爲替相場ノ堅持
ノ必要デアルト云フコトハ洵ニ御說ノ通リ
デアリマシテ、政府ノ決心ハ度々申上ゲマ
シタ通リデアリマス、之ヲ引下ゲマシテモ
決シテ輸入ノ緩和ニハ相成リマセヌ、何等
ノ效力ナクシテ經濟上ノ害ノ大キイコトハ
御說ノ通リデアリマス、併ナガラ其維持ノ
手段トシテノ爲替貿易ノ統制ニ付キマシテ
ハ、御說ノ如ク其方法ニ付キマシテハ萬全
ヲ盡サナケレバナラナイノデアリマシテ、
十分周到ナル用意ヲ以チマシテ、是ガ施行
ニ付テ從來ヨリハ改善ヲ致シテ參リタイ、
斯ウ云フ熱意ヲ持ッテ居ル次第デアリマス、
國民ノ負擔均衡ノ問題デアリマスルガ、今
囘ハ大衆課稅的ノモノハ比較的少イノデア
リマシテ、消費稅的ノモノハ酒ト砂糖デア
リマスルシ、物品特別稅ハ是ハ先程申上ゲ
マシタヤウナ一定金額以上ノ物ニ課スルノ
デアリマス、又煙草ノ値上ニ致シマシテモ、
大衆的消費ノヤウナ物ハ避ケタノデアリマ
シテ、國民負擔ノ均衡ニハ努メテ意ヲ用ヒ
タ積リデアリマス、事變ニ依ル所得ニ重課
シ、其他負擔力ノアリマス方面ニ課稅ヲス
ルト云フコトヲ本旨ト致シタ次第デアリ
マス、地方財政補給金ノ趣旨ハ如何デアル
カト云フコトデアリマスルガ、是ハ御說ノ
如ク負擔ノ衡平ト云フコトガ其主眼デアリ
マス、今囘增加致シマスル金額等ニ付キマ
シテハ、只今〓究中デアリマス、大體御答
ヲ申上ゲマス
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=10
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011・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 永山君ニ御
答ヲ致シマス、一般物價ノ高率ニ比べマシ
テ、繭ノ値段ガ安イカラソレヲ引上ゲナケ
レバナラヌト云フ御話デアリマシタ、絲價
安定施設法ニ依リマシテ、絲價ノ公定價格
ガ決定サレマシタ、勿論少シデモ高イ方ガ
農家ニ取ッテ利益デアルコトハ申ス迄モゴ
ザイマセヌケレドモ、御承知ノヤウニ絲ハ
多ク海外ヘノ輸出デアリマシテ、餘リニ高
價ニナリマスコトハ日本ノ輸出ノ上ニ支障
ヲ來スト考ヘマスノデ、私共ハ先般決定致
シマシタ公定價格ヲ以テ適當ナモノト考ヘ
テ居ルノデアリマス、又米價ノ引上ニ付キ
マシテモ、昨年十二月新米穀年度ニ入リマ
シテ、以前ノ公定價格ヨリモ幾分高率ニナッ
タノデアリマス、是モ御承知ノヤウニ生產
者ト消費者ガ共ニ國內ニアリマスノデ、
方ニ利益デアレバ一方ニ損害ヲ與ヘルト云
フヤウナ關係ニアリマスノデ、米價ハ其兩
者ニ適當ナ程度ニ於テ之ヲ決定致シテ居ル
ヤウナ譯デアリマシテ、之ヲ更ニ引上ゲル
ト云フコトハ困難デアルト思ヒマス、負擔
均衡ノ問題ハ只今大藏大臣カラ申述ベラレ
タ通リデゴザイマス
〔國務大臣侯爵木戶幸一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=11
-
012・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 御答ヲ致シ
マス、簡易生命保險竝ニ郵便年金ノ積立金
ニ關シマシテノ御尋デアリマシタガ、此兩
積立金ハ勅令ニ依リマシテ公共ノ利益ノ爲
メ運用スベシト云フコトニナッテ居リマス
關係上、從來地方公共事業ノ爲ニ運用シテ
居リマシタノデアリマス、隨ヒマシテ國債
ノ保有額ハ積立金總額ノ約二〇%ニナッテ居
ルヤウナ現狀デアリマス、而シテ只今御尋
ノヤウニ將來此時局等ノ關係ニ鑑ミマシテ、
是等ノ國債ノ保有ニ付テハ相當考慮スル考
デ居リマス、第二ノ御尋ノ簡易生命保險ノ
金額ノ引上ハ、現在ノ金額ニナリマシテ以
來既ニ十數年ヲ經テ居リマシテ、現在ノ實
情ニモ適シマセヌノデ、是ハ相當ノ引上ヲ
考慮致シマシテ、目下關係方面ト協議ヲ致
シテ居リマスルノデ、極メテ近イ機會ニ於
テ提案ヲ致シマシテ、御協贊ヲ願フコトニ
致シタイト考ヘテ居リマス
〔政府委員木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=12
-
013・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 永山君ノ御質
問ニ御答申上ゲマス、物價問題ハ只今大藏
大臣ガ申サレマシタ通リニ、今後ニ於ケル
經濟政策ノ中心ヲ成スモノデゴザイマスシ、
國防豫算フ遂行ノ上ニモ、國民生活ノ上ニ
モ、至大ノ關係ノアルモノデゴザイマスノ
デ、商工省ト致シマシテハ、極力是ガ妥當
ナル解決ヲ〓ゲルコトニ力ヲ盡シテ居ルノ
デゴザイマス、只今御質問ニナリマシタ今
囘ノ物品稅ハ、物價ノ騰貴トナル原因ニナ
リハシナイカト云フ御質間デゴザイマシク
ガ、幾分カ物價ヲ騰貴セシムルヤウナ嫌ノ
アルコトハ已ムヲ得ナイコトデアラウト思
ヒマスケレドモ、御承知ノ通リ今囘ノ物品
稅ハ、大體ニ於キマシテ奢侈的性質ヲ帶ビ
ル物品ニ課カッテ居リマスノデ、ソレガ上リ
マシタ所デ國民全體ノ大衆生活ニ影響スル
所ハ、多少アルカモ知レマセヌガ、餘リニ
多キコトハナカラウ、比較的少ナイノデハ
ナイカト云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマス、
更ニ今日ノヤウナ時局柄貿易統制ヲ行ヒ
マシテ、輸入ノ抑制ヲ行ヒ、サウシテ輸入
原料ガ潤澤ニ參リマセヌデ、ドウシテモ窮
屈ナ需給關係ヲ維持シテ居リマス今日ノ經
濟界ニ於キマシテ、物價ノ統制ト云フコト
ハ洵ニ困難ナルコトハ皆樣ノ御存ジノ通リ
デアリマス、併ナガラ輸入ヲ抑制致シマシ
タ關係ノ、例ヘバ綿絲、混紡絲、或ハ輸出
綿布ノ一部ナドニ付キマシテハ、當業者ガ
團體ヲ作リマシテ、サウシテ最高價格ヲ決
メテ、商工省ノ承認ヲ得テ、サウシテ是デ
取引ヲ致シ、之ヲ取扱フ者モ、或ル一定ノ
手數料ヲ以テ滿足致シテ居ルト云フヤウナ
狀態ニナッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フヤ
ウナ需給關係ガ窮屈ナ時代ニ於キマシテハ、
物價ノ統制ト云フコトハ洵ニ御承知ノ通リ
困難デゴザイマスケレドモ、當局ト致シマ
シテハ其品物ニ付テ、消費ト配給ノ兩方面
ニ統制ヲ加ヘマシテ、サウシテ妥當ナル物
價ノ調整ヲ致シタイト云フコトニ力ヲ盡シ
テ居ルノデゴザイマス、之ヲ取扱フ所ノ人
達ニ對シマシテハ、十二分ニ監督ヲ嚴重ニ
致シマシテ、必要ニ應ジマシテハ、今後ニ
於テ只今此處デ御議論ナサレマシタヤウナ、
暴利取締令ノ發動ヲモ用意致シテ居ルヤウ
ナ次第デゴザイマス、尙ホ晒木綿ノ問題ニ
付キマシテハ御承知ノ通リ、アレハ只今ノ
御演說ノ中ニハ商工省ガ決定シタト云フヤ
ウナ御說明ガゴザイマシタガ、晒木綿ニ付
キマシテハ、消費者側ニ於テ聊カ國策ニ順
應スル點ニ遺憾ノ點モアリ、生產者側ニ於
テ國策ニ順應スル點ニ遺憾ノ點モアリマシ
タノデ、價格ガ暴騰致ス傾向ヲ來シマシタ
ノデ、當局ガ之ニ注意ヲ與ヘマシタ結果、
當業者デ申合セヲシテアノ値段ヲ發表致シ
マシタヤウナ次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=13
-
014・永山忠則
○永山忠則君 簡單デアリマスカラ自席カ
ラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=14
-
015・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=15
-
016・永山忠則
○永山忠則君 引續キ御質問ヲ申上ゲネバ
ナラヌ重要ナル點ガアルノデアリマスガ、
約束付ケラレタル時間デアリマスノデ、私
ハ他ノ機會ニ質問ヲ續ケルコトト致シマシ
テ、今日ハ是デ私ノ質問ヲ終ルコトニ致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=16
-
017・小山松壽
○議長(小山松壽君) 河野密君
〔河野密君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=17
-
018・河野密
○河野密君 總理大臣竝ニ陸軍大臣ノ出席
ヲ要求致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=18
-
019・小山松壽
○議長(小山松壽君) 河野君ニ御答致シマ
ス、總理大臣ハ病氣引籠中デ登院致シ兼ヌ
ルトノ趣デアリマス、陸軍大臣ハ葉山御用
邸ニ伺候中トノコトデアリマス、左樣御承
知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=19
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020・河野密
○河野密君(續) 私ハ只今上程セラレテ居
リマスル支那事變特別稅外三件ニ付キマシテ、
極メテ簡單ニ御尋ヲシタイト存ズルノデア
リマス、最初ニ本案ヲ審議スルニ當リマシ
テ、基本的ノ問題ト考ヘラレマスル點ニ付
テ、三點賀屋財政ノ本質ニ關スル問題ニ付キ
マシテ二點、當面ノ法案ノ內容ニ付キマシテ
三點御伺シタイト存ズルノデアリマス、最
初ノ三點ニ付キマシテハ、總理大臣竝ニ大
藏大臣ヨリ伺ヒタイノデアリマスルガ、總
理大臣ノ出席ガゴザイマセヌノデ、適當ノ
機會ニ總理大臣ヨリ御答辯ガ願ヒタイト存
ジマス、第二ノ點ニ付キマシテハ、主トシ
テ大藏大臣竝ニ陸軍大臣ヨリ御答ガ願ヒタ
イノデアリマスガ、陸軍大臣ニ關スル部分
ハ政務次官デモ結構デアリマスカラ、御答
ガ願ヒタイト存ジマス、其他ノ點ハ主トシ
テ大藏大臣ニ御尋シタイト存ズルノデアリ
マス
本案ヲ審議スルニ當ッテ最モ根本的ナル
問題ハ、長期戰トハ如何ナルコトデアルカ、
私ハ此點ヲ總理大臣ニ御尋シタイノデアリ
マス、一體長期戰トハ何時マデノコトヲ言
フノデアルカ、地域的ニ隴海線ヲ取ル迄、
或ハ廣東、漢口ヲ占據スル迄ト云フヤウナ
コトヲ意味スルノデアラウカ、ソレトモサ
ウ云フ軍事的ナ問題ヲ意味スルニアラズシ
テ、經濟的ナル意味ヲ含ムモノデアラウカ、
此點ヲ私ハ總理大臣ニ御尋シタイノデアリ
マス、今日マデ長期戰ノ言葉ヲ聞クケレド
キ、政府當局ヨリ長期戰ノ內容ガ何ナルカ
ヲ明確ニシテ居ラヌノデアリマス、今日ニ
於テ長期戰ノ內容ヲ明瞭ニスルコトナクシ
テハ、如何ナル問題ニ對シテモ決定的ナル
對策ヲ講ズルコトガ出來ナイト信ズルノデ
アリマス(拍手)私ノ解スル所ニ依リマスナ
ラバ、長期戰トハ支那ノ經濟的復舊ヲ完成
シ、日滿支ヲ貫ク「ブロツク」經濟ヲ確立シテ、
極東ニ所謂一個ノ國防國家圈ヲ樹立スルコ
ト、是卽チ長期戰ナリト信ズルノデアリマ
ス、斯ノ如クニ長期戰ヲ解スルナラバ、今
日我國ニ於テ爲スベキ第一ノ急務ハ、其場
合場合ニ於ケル對策ヲ講ズルニアラズシテ、
四箇年ナリ五箇年ナリノ財政經濟計畫ヲ樹
立シテ、一定ノ計畫性アル所ノ經濟ヲ確立
スルコトデナケレバナラヌト信ズルノデア
リマス(拍手)ソコデ私ハ政府ニ御尋スルノ
デアリマスガ、巷間傳フル所ニ依ルナラバ、
政府ニハ財政經濟ニ關スル所ノ四箇年計畫
ガアルトノコトデアリマスルガ、之ヲ此際
速ニ發表シテ戴キタイ、日滿支ヲ貫ク所ノ
四箇年計畫ガアルナラバ、之ヲ發表シテ貰
ヒタイト云フ點デアリマス、更ニ計畫經濟
ヲ遂行スルニ當リマシテハ、今日ノ如キ內
閣制度ノ下ニ於テハ、是ガ實現ヲ期スルコ
トハ出來ナイ、少クトモ吾々ハ國民經濟會
議或ハ最高經濟會議ト云フモノヲ樹立シ
テ、今日大藏省、商工省トノ間ニスラアル
ガ如キ、意見ノ對立ヲ解消スルニアラズン
バ、絕對ニ計畫的ナ政策ヲ樹テルコトハ出
來ナイト信ズルノデアリマス(拍手)政府ハ
獨逸ノ「ウイルトシヤフト·ラート」、經濟議
會ニモ比スベキ國民經濟會議ヲ樹立スル意
思アリヤ否ヤト云フコトヲ、總理大臣ニ伺
ヒタイノデアリマス
更ニ私ガ大藏大臣ニ伺ヒタイノハ、第三
次事變費ハ四十八億數千万圓ト云フコトガ
發表ニナッテ居ルノデアリマスガ、本增稅
案ヲ提出スルニ方ッテハ、恐ラク四十八億
數千万圓ト云フモノト睨ミ合シテ御提出ニ
ナッタモノト私ハ信ズルノデアリマス、シ
テ見ルナラバ、此四十八億數千万圓ト云フ
第三次軍事費ナルモノハ、凡ソ何時マデノ
期間ヲ見込マレテ居ルノデアルカ、此四十
八億數千万圓ノ軍事費ヲ支辨スル間ニ於テ
ハ、再ビ增稅ヲヤル意思ガナイモノデアル
カドウカ、此點ヲ私ハ御答ヲ願ヒタイト存
ズルノデアリマス
次ニ私ハ賀屋財政ノ本質ニ關シマシテ御
尋ヲシタイト思フノデアリマス、最初ニ甚ダ
僣越デアリマスルガ、私自身ノ考へ方ヲ申
上ゲサシテ戴イテ、其アトデ大藏大臣カラ
伺ヒタイト思フノデアリマス、世間デハ今
日賀屋財政ニ付キマシテ諸種ナル批評ガア
リ、當議會ニ於キマシテモ、屢〓多クノ方々
カラ賀屋財政ニ對スル所ノ批判ノ言葉ヲ聽
イタノデアリマスケレモド、私ハ率直ニ申
上ゲマスルナラバ、是等ノ多クノ批判ト云
フモノハ、一ツトシテ私ヲシテ首肯セシム
ルニ足ラナイノデアル、私ハ近衞內閣ノ毆
ラレ役、所謂「ヒッピング·ボーイ」トモ言フ
ベキ賀屋大藏大臣ニ對シテハ、寧ロ氣ノ毒
ニ感ズルノデアリマス、併ナガラ人アッテ
私ニ向ッテ、然ラバ君ハ賀屋大藏大臣ノ爲
ス所ノ財政政策ニ對シテ、一カラ十マデ贊
成カト尋ネル者ガアルナラバ、私ハ贊成ナ
リト言フコトニ躊躇ヲスルノデアリマス、
假ニ私ガ大藏大臣トナッテ財政變理ノ任ニ
當ッタト致シマシテモ、恐ラク私ハ今日賀屋
大藏大臣ト同ジコトヲヤリマス、爲替管理
ノ强化デアルトカ、貿易ノ統制、資金ノ調
整、消費ノ節約、小額公債ノ賣出、增稅、
金ノ現送、日銀正貨準備ノ堅持、爲替相場ノ
確保、斯ウ云ッタヤウナ政策ハ私モ之ヲ爲ス
ノデアリマス、ケレドモデス、私ハ更ニ一步
突キ進ンデ考ヘテ見マスル場合ニ於テ、新
タナル軍事費ガ四十八億ヲ算ヘ、公債ノ發
行ガ七十億ニ垂ントスル時ニ於テ、是ダケ
ノ政策ヲ以テ果シテ誤リナキヲ期スルコト
ガ出來ルデアラウカ否カ、此事ヲ考ヘテ見
マスル場合ニ、私共ハ百尺竿頭一步ヲ進メ
テ、更ニ何等カノ手ヲ打タナケレバナラナ
イノデハナイカ、何等カノ手段方法ヲ講ジ
ナケレバナラナイノデハナイカト云フコト
ニ想ヒ到ルノデアル大藏大臣ハ御記憶デア
ルト存ジマスルガ、私ハ過グル第七十二議
會ニ於テ大藏大臣ニ質問ヲシタノデアル、
大藏大臣ハ九千六百万圓先ヅ豫備金ヲ支出
シ、四億圓ノ第一次軍事費ヲ支出スル時ニ
ハ、一億圓ノ增稅ヲ附ケテ出シタ、次ニ二一
十億二千万圓ノ第二次軍事費ヲ出ス時ニ於
テハ、總テ之ヲ公債ニ依ルト言ッタ、私ハ此
矛盾ニ付テ大藏大臣ヲ追究シタノデアル、
四億圓出ス時ニハ一億圓ノ增稅ガ要ルガ、
二十億二千万圓ヲ出ス時ニハ、總テガ日銀
引受ノ公債デ宜シイト云フノハ、一體矛盾
デハナイカト質問シタノデアルガ、其時ノ
私ニ對スル大藏大臣ノ答辯ハ、四億圓ノ金
ヲ出シタ時ニハ準戰時體制デアル、二十億
ノ金ヲ出スヤウニナッタナラバ、是ハ純粹ノ
戰爭體制デアル、戰時ニ準ズル場合ト、戰爭
ノ始ッタ場合ニ於テハ、自ラ考慮ヲ異ニスル
モノデアル、準戰時ノ時代ニ於テハ增稅ヲ
考ヘルコトガ出來ルケレドモ、戰爭ガ始ッタ
場合ニ於テハ總テガ公債デ宜シイノダ、斯
ウ云フ御答辯デアッタノデアル、私ハ此御
答辯ニ極メテ不滿デアッタノデアリマスル
ガ、敢テ追窮シナカッタ、其背後ニハ當時
ニ於テ日本銀行ガ僅カ七千万圓ノ國債ヲ
「シンヂケート」團ニ强制引受ヲサセタ爲ニ
資金ノ梗塞ヲ來シテ、日本銀行自身ガ態々
買ヒ「オペレーション」ニ迄〓ッテ、政府ノ
前渡金ヲ撒布シテ、漸ク資金ノ梗塞ヲ切拔
ケタト云フヤウナ、其當時ニ於ケル事情ヲ
私ハ知ッテ居タカラデアリマス、ケレドモ
其後大藏大臣ハ口ヲ極メテ、公債消化ハ無
理ニハヤラナイト云フコトデ、昨年間ニ於
キマシテハ殆ド公債消化ヲヤラヌト云フコ
トノ辯明ダケヲシテ居ラレタヤウニ私ハ信
ズルノデアリマス、大藏大臣ノ財政經濟政
策ノ中ニハ何等一貫セル所ノモノガ無イ、
私ハ之ニ對シテ甚シキ不滿ヲ持ツノデアル
(拍手)
近年ニ於ケル我國ノ財政經濟上ノ至上原
則ト云フモノハ、軍需生產力ノ擴充デアリ
マス、之ヲ財政上破綻ナシニ如何ニシテヤ
ルカ、惡性「インフレーション」ノ危險ナシ
ニ如何ニシテヤルカト云フコトガ、財政當
局ニ對スル所ノ至上命令デアル、馬場財政
ハ之ヲ一定ノ計畫性ノ下ニ於テ、增稅ト公
債消化トヲ以テ之ヲ爲サントシタノデアリ
マス、然ルニ不幸ニシテ此財政政策ハ物價
ノ急騰ト云フ事實ニ依ッテ破綻ヲシタノデ
アル、之ヲ繼イダ結城大藏大臣ノ結城財政
ナルモノハ、所謂軍部ト財閥トノ抱合政策
ヲ策シテ金ノ現送ヲ爲シ、之ニ依ッテ軍需資
材ノ輸入ヲ圖リ、所謂生產力ノ擴充ヲ爲サ
ントシタ、金ノ現送ヲ爲シテ、「インフレー
ション」ヲ先ニ延バシテ、急速ニ軍需生產
力ノ擴充ヲ爲サントシタノガ結城財政デアッ
タト私ハ思フノデアリマス、次イデ賀屋大
藏大臣ヲ所謂賀屋財政ナルモノハ、丁度此
兩者ノ中間ヲ行クモノデアル、計畫性ノ點
ニ於テハ馬場財政ヲ踏襲シ、金ノ現送其他
ノ政策ニ於テハ結城財政ノ衣鉢ヲ繼ギ、兩
者ヲ折衷シテ爲シツヽアルノガ、私ハ今日
ノ賀屋財政ノ本質デアルト思フノデアル、
然ルニ賀屋財政ハ其三原則ヲ提ゲテ、其
折衷案ヲ提ゲテ今日マデ登場シテ來タノデ
アリマスルガ、其爲ス所ヲ見ルナラバ、今
ヤ國際收支ノ適合、所謂爲替相場ノ堅持ト
云フモノガ、賀屋財政ノ生命線トナッテ、生
產力ノ擴充ト云フ問題ハ、漸次尻窄マリニ
ナリツヽアルコトヲ私ハ見ザルヲ得ナイノ
デアリマス、生產力擴充ノ政策ガ三原則ト
ナリ、三原則ノ政策ガ既ニ所謂一點ノ生命
線ニ集中サレテ、其結果國際收支ノ前途ノ
見透シモ付カズ、貿易ノ不振トナリ、惡性
「インフレーション」ノ危險ガ次第ニ現レン
トシツヽアル(拍手)ト云フ狀態デアルナラ
バ、恐ラク是ハ賀屋財政ノ志ス所ト餘リニ
モ懸離レテ居ルコトデハナカラウカト信ズ
ルノデアリマス
私ハ斯樣ナ事實ガ現ニアルトハ申上ゲマ
セヌ、ケレドモ斯樣ナ危險性アリト私ハ思
フノデアル、金ノ現送ヲ漫然ト續ケテ、今
ヤ保有金ガ少クナッタカラ、金ノ現送ニ對シ
テ警鐘ヲ亂打シテ、輸入ノ統制ダ何ダト云
フヤウナコトヲ、俄ニ慌テテヤルト云フ其
態度ソレ自身ニ、私ハ大ナル矛盾ガアルト
思フノデアル、凡ソ軍事費ヲ今日ニ於テ調
達スル途ハ、私ノ見ル所ニ依ルナラバ三ツ
アリマス
〔議長退席、副議長著席〕
一ツハ過去ノ蓄積ノ消耗デアル、ーハハ
國內ニ於ケル消費ノ節約デアル、一ツハ生
產力ノ擴充デアリマス、金ノ現送ハ過去ノ
蓄積ノ消耗デアリ、國債消化ト增稅トハ國
內消費ノ節約デアル、併ナガラ是等ノモノ
ヲ爲シテモ將來ニ於テ生產力擴充ノ見透シ
ガ付テ、將來ニ於テヨリ高イ程度ニ於テ國
際收支ノ適合ガ來ルト云フ見透シ、玆ニ私
ハ發展的ナル期待ヲ持ツ所ニ、今日マデ國
民ハ賀屋財政ヲ支持シテ來タト思フノデア
ル、私ハ多クノ人ガ言フガ如クニ、或ハ爲
替相場ガドウデモ宜イトカ云フヤウナ議論
ニ、、決シテ贊成ヲスル者デハゴザイマセ
ヌ、日銀ノ正貨準備ガ一文モ無クナッテモ宜
イナドト云フヤウナ議論ニハ、絕對ニ贊成
スル者デハゴザイマセヌ、ケレドモ國際收
支ノ適合ト、爲替相場ノ堅持トハ、自ラ違ッ
タ觀念デアル、爲替相場ニ對シテ色々ナ手
段ヲ講ジナクトモ、國際收支ノ適合自ラ成
ルヤウナ政策ヲ執ラナケレバナラナイト信
ズルノデアル(拍手)日銀ノ正貨準備ガ假ニ
一文モ無クナッタトシテモ、其爲ニ工場ガ殘
リ、鑛山ガ殘リ、船舶ガ殘リ、土地ガ殘ル
ナラバ、ソレニ依ッテ何等ノ不安ハナイノデ
アリマス、正貨準備ガ減ルト同時ニ他ノ形
ニ於テ物ガ殘ルナラバ、日銀ノ正貨準備ガ
無クナッテモ敢テ憂フルニ足ラナイノデア
ル、然ルニ日銀ノ正貨準備ガ無クナルト共
ニ、何ニモ其處ニ生產力ノ擴充ガ殘ラナイ
ト云フ點ニ、私ハ今日ノ惱ミガアルト思フ
ノデアル(拍手)
然ラバ之ニ對スルオ前ノ對策ハ何ダト斯
ウ御尋ニナルナラバ私ハ申上ゲル、第一ニ
今日吾々ガ財政當局ニ立ッテ爲スベキコト
ガアルトスルナラバ、一箇年々々々ノ豫算
ノ如キハ止メテシマヒ、四箇年ナリ五箇年
ナリノ計畫經濟ヲ立テテ、四箇年計畫、五
箇年計畫ノ財政計畫ヲ立テテ、其上ニ立ッテ
今年ハ斯ウデアル、來年ハ斯ウデアル、再
來年ハ斯ウデアル、是ニ於テ初メテ國際收
支ノ適合ガ出來ルノダト云フ計畫經濟ヲ立
テナケレバ決シテヤラレルモノデハナイト私
ハ思フノデアル、(「ヒヤ〓〓」拍手)賀屋大藏
大臣ハ屢〓、物ノ經濟ト云フコトヲ主張サレル
ノデアリマスガ、物ノ豫算、物ノ經濟ト云
フモノハ、計畫經濟ト云フコトノ別名デア
ル、多クノ人々ガ反資本主義ト云フ言葉ヲ
聞クト甚ダ神經ヲ尖ラスノデアリマスガ、
物ノ經濟ト云フモノハ決シテ資本主義經濟
デハナイノデアリマス、物ノ經濟ニハ資本
主義性ト云フモノハナイノデアル、此本質
ヲ見極メナイ所ニ賀屋財政ノ短所ガアルノ
デハナカラウカ、物ノ經濟ト言ッタ以上ハ計
畫的ナ經濟ヲ立テナケレバナラヌノデアル、
此計畫的ナ經濟ヲ推進メルコトナクシテ、
漫然ト物ノ經濟ト云フモノヲ主張スル點ニ、
私ハ短所アルニアラザルカト信ズル者デア
リマス(「ヒヤ〓〓」拍手)第二ニ私ノ考ヘント
スルモノハ、〓經濟圏、所謂經濟領域ノ擴大
デアリマス、日滿支ヲ打ッテ一丸トスル計
畫經濟ノ確立、「ブロック」經濟ノ確立ト云フ
コトヲ申シマスルガ、眞ニ日滿支ヲ打ッテ
一丸トスル計畫經濟、「ブロック」經濟ノ確立
ガアルナラバ、國際收支ノ適合ノ問題モ、
貿易振興ノ問題モ、自ラ私ハ裕リガ出來テ
來ルモノト信ズルノデアリマス、旣ニ政府
ハ滿洲ニ於ケル產金竝ニ滿洲ニ於ケル保有
金ト云フモノヲ動員シテ、國際收支ノ爲ニ
之ヲ使フト云フ計畫ヲ御立テニナッテ居ル
ノデアリマスルガ、私ハ尙ホ進ンデ滿洲國
ニ於ケル所ノ、所謂國際收支ノ受取勘定ヲ
動員シタラドウカ、貿易外ノ受取勘定ヲモ
併セマスルト、日本トノ關係ヲ除キマスナ
ラバ約二億圓アルノデアリマス、之ヲ動員
シテ國際收支ノ適合ノ役ニ立テタラドウデ
アラウカ、斯樣ナ御考ハアルカト云フコト
ヲ御尋シタイノデアル(拍手)
更ニ昭和十一年度ニ於キマスル北支五省
ニ於ケル貿易ノ情勢ヲ見マスルノニ、各、色々
ナ統計ニ依ッテ計數ハ違ッテ居リマスルガ、
三億三千万元アル、而モ輸出超過ハ五千万
元アル、是モ日本ニ對スル輸入超過三千万
元ヲ差引計算ヲ致シマスルト、八千万元デ
アル、更ニ貿易外ノ受取勘定ヲ入レマスル
ト、或者ハ一億一千万元ト言ヒ、少キ者デ
モ九千五百万元ノ國際收支ノ受取勘定デア
ルト申シテ居ルノデアリマス、政府ハ我國
ノ經濟領域ヲ擴大シテ、國際收支ノ適合ノ
爲ニ是等ノモノヲ動員スル計畫ヲ御立テニ
ナックラドウデアルカ、最近中國準備銀行ト
云フモノガ圓ニ「リンク」シテ設立サレタ、洵
ニ結構デアリマス、ケレドモ、更ニ進ンデ
此中國準備銀行ニ對シテ日本ノ國債ヲ保有
セシメテ、此國債ヲ擔保トシテ通貨ヲ發行
セシムルト云フヤウナ方策ヲ御考ニナッタラ
ドウデアルカ、私ハ少クトモ日本、滿洲、
北支、此三ツノモノヲ打ッテ一丸トスル所
ノ、鞏固ナル經濟的「ブロック」ヲ作ッテ、之
ニ依ッテ我國ノ行詰レル所ノ經濟狀態ヲ打
開スル途ヲ、ソコニ求メナケレバナラナイ
ト考ヘルノデアリマス、私ヲシテ言ハシム
ルナラバ、今マデハ準戰時體制、或ハ戰時
體制ト云フ言葉ヲ使ッタガ、將來ノ長期戰
ニ於ケル吾々ノ立前ト云フモノハ、國防國
家體制ノ樹立デナケレバナラナイト思フノデ
アル(拍手)以上私ノ考ヲ申述ベタノデアリ
マスガ、是等ノ點ニ付テノ大藏大臣ノ所見
ヲ伺ヒタイノデアリマス
更ニ此際關聯シテ陸軍大臣ニ御尋ヲ
シタイト思フノデアリマスガ、一體北
支ノ開發ニ對スル間題ハ、外務大臣ノ
所管デアルノカ、陸軍大臣ノ所管デア
ルノカ、拓務大臣ノ所管デアルノカ、
當席ニ立ッテ質問ヲスルニ當ッテモ、ドノ大
臣ニ質問シテ宜イノカ分ラナイヤウナ狀態
デハ洵ニ困ル、早ク畫一的ナ北支經濟開發
ニ對スル、專管スル所ノ機關ガナケレバ
ナラヌト私ハ思フノデアリマス、
ソコデ私ハ假ニ陸軍大臣ニ御尋ヲスルノデ
アリマスガ、一體占據地ニ於ケル所ノ資源
ト云フモノノ管理權ハ何人ニ屬スルノデア
ルカ、北支五省ニアル所ノ資源占有物、占
據シタ所ノモノノ管理權、ソレハ一體何人
ノ手ニ屬スルノデアルカ、私ガ陸軍大臣ニ
敢テ問ハントスル所以ノモノハ、最近ノ報
道ニ依リマスルナラバ、北支ノ資源ノ最モ
多數ヲ占メテ居ル所ノ山西省ニ於ケル總テ
ノ工場、鑛山、サウ云フモノハ資本家ニ之
ヲ分擔セシメテ委任經營ヲスルト云フコト
ガ發表ニナッテ居ルノデアル、一體何人ガ之
ヲ決メタノデアルカ、例ヘテ見ルナラバ、
製紙ノ問題ニ付テ、山西省ニ閻錫山ノ經營ヲ
シテ居タ所ノ製紙工場ハ、王子製紙ガ之ヲ
代ッテ經營ヲスルト決定シテ居ル、晋華公司
ト云フ閻錫山ノ紡績工場ガアリマスガ、是
ハ東洋紡績ガ代ッテヤルト言ッテ居ル、太原
ニアリマスル所ノ電燈公司其他ノモノハ、
興中公司ガ之ヲヤルト言ッテ居ル、西北實業
公司ト云フ、閻錫山ノ息ノ掛ッタ所ノ洋灰
廠ト云フノガ太原ニアリマスガ、此洋灰廠ハ
淺野「セメント」デヤルト言ッテ居ル、或ハ陽
泉ニアリマスル所ノ保晋鐵廠、サウ云フモ
ノハ之ヲ大倉組ニヤラセルト斯ウ言ッテ居
ル、私ハ之ヲ疑フノデアル、占據地域ニ於ケ
ル經濟開發ノ問題ガ、今日未ダ如何ナル機
關ニ依ッテモ決定セラレザル前ニ於テ、アノ
工場ハ淺野「セメント」ダ、アノ工場ハ興中公
司ダ、アノ資源ナルモノハ是ハ大倉組ニヤ
ラセルノダ、斯樣ナコトヲ一體何人ガ決メ
テ、如何ナル根據ニ依ッテ發表シタノデア
ルカ、私ハ明確ニ御答辯ガ願ヒタイノデア
リマス(拍手)北支ニ於ケル經濟開發ノ問題
ハ、我國ノ國運ヲ賭シ、我國ノ國民ノ血稅
ヲ拂ヒ、日本ノ將來ヲ托スル所ノ重要ナル
問題デアル、此問題ニ對シテ荏苒日ヲ送ツ
テ、今日マデ統一セル機關ナキスラ、吾々
ハ不審怪訝ニ堪ヘナイノニ、而モソレバカ
リデハナク、多クノ工場、鑛山ヲ何人カノ
手ニ依ッテ、アレハ淺野「セメント」ダ、アレハ
大倉組ダト云フガ如キ、財閥ノ代表者ニ此
經營ヲ委任スルト云フコトハ、何人ノ權限
ニ依ッテ爲シタルモノデアルカ(拍手)更ニ
私ハ御尋シタイノハ、北支ニ在ル中國準備
銀行ノ出來タコトヲ私ハ洵ニ慶賀ニ堪ヘナ
イ、ケレドモ中國準備銀行ノ出來ル前ニ、
旣ニ蒙彊自治聯合會ノ地域ニ於テハ、資本
金千二百万元ヲ以テ蒙彊銀行ト云フモノガ
設立サレテ居ル、蒙彊銀行ハ晋北自治政府、
察南自治政府、蒙彊自治聯盟ト云フ、此三
ツノ地域ヲ限ッテ、旣ニ滿洲國中央銀行ニ
「リンク」スル所ノ蒙彊紙幣ナルモノヲ發行シ
テ居ルノデアル、蒙彊銀行紙幣ト云フモノ
ヲ發行シテ居ルガ、此中國準備銀行ト蒙彊
銀行トノ關係ハ、一體ドウスルノデアルカ、
今日ノ我國ニ於ケル重大ナル問題ハ、出來ル
限リ經濟圈ヲ擴大統一シテ、出來ルナラバ
日本ノ圓ヲ以テ皆統一シタイ位デアル、斯
ウスルコトニ依ッテノミ、初メテ眞ニ統一的
ナル國防國家體制ヲ樹立スルコトガ出來ル
ノデアル、是コソハ陸軍當局ノ考ヘラル
所ノ、希望セラルヽ所ノ途デアルト信ズル
ノデアル、然ルニ一方ニハ中國準備銀行ア
リ、一方ニハ同ジ北支ニ於テ蒙彊銀行アリ
兩者各、一方ハ圓ニ「リンク」シ、一方ハ滿洲
國中央銀行ニ「リンク」スル所ノ通貨ヲ發行
シテ居リ、兩者ノ關係極メテ複雜デアルト
云フコトニ付テハ、陸軍大臣ハ如何ニ御考
ニナルノデアルカ、御尋シタイノデアリマ
ス(拍手)
(「法案ニ關係ナイヂヤナイカ」「默ッテ
聽ケ」ト呼ヒ、其他發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=20
-
021・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 靜肅ニ-靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=21
-
022・河野密
○河野密君(續) ソコデ私ハ以上ノ如キ內
外ノ情勢ニ鑑ミマシテ、本增稅案ノ內容ニ
付テ大藏大臣ニ三點御尋シタイト思フノデ
アリマス、大藏大臣ハ今囘ノ增稅ヲ爲スニ
當リマシテ、漠然ト公債ノ利子ヲ增稅ニ依ッ
テ賄フ如キモノデハナイ、斯樣ニ申シテ居
リマス、大藏大臣ノ增稅案ニ對スル說明ハ
國防獻金ノ合理化デアルト云フコトヲ申シ
テ居ルノデアリマス、私ハ本議會ニ於キマ
シテモ、旣ニ國防獻金ノ合理化ト云フヤウ
ナコトヲ申サレタコトヲ、洵ニ遺憾トスル
ノデアリマスガ、私ノ見ル所ニ依リマスル
ナラバ、戰時增稅ノ目標ト云フモノハ、公
債ニ依ッテ撒布セラレタ資金ノ囘收ヲ圖リ、
「インフレーション」ヲ防止スル、同時ニ物
價騰貴ヲ抑制致シマシテ、併セテ財政ノ基
礎ヲ鞏固ニスルト云フノガ、戰時ニ於ケル
增稅ノ目標デアルト信ズルノデアリマス、
然ルニ只今提出セラレマシタ案ト云フモノ
ハ、如何ナル角度カラ見マシテモ、此目的
ニ副ヒ得ルモノナリヤト云フコトニ私ハ疑
問ヲ持ツノデアル、先程來大藏大臣ト質問
者ノ間ニ於テ、物價騰貴ト增稅、公債トノ
關係ニ付テ、種々ノ質問應答ガ繰返サレタ
ノデアリマスルガ、私ハ此物價ト公債ト增
稅トノ關係ニ於テ核心的ナ、中心的ナル問
題ハ此點ニアルト思フ、郞チ公債ニ依ルモ、
增稅ニ依ルモ、物價騰貴ヲ起スコトニ於テ
ハ變リハナイ、公債モ物價騰貴ヲ來ス、增
稅ヲ爲スモ物價騰貴ヲ來ス、ケレドモ公債
ニ依ル物價騰貴ナルモノハ、「インフレーショ
ン」ニ依ル物價騰貴デアルガ故ニ、上下
何等ノ隔テナク、必需品デアルト必需品ニ
アラザルトヲ問ハズ、一律ニ物價騰貴ヲ來
ス點ニアルト思フ、然ルニ增稅ニ依ル物價
騰貴ト云フモノハ、出來ル限リ生活必需品
ニ對スル物價騰貴ヲ抑制シテ、生活必需品
ナラザルモノニ於ケル物價騰貴ヲ來スコト
ニ、所謂統制アル物價騰貴ヲ來シ得ル點ニ
增稅ノ妙味ガアルト私ハ信ズルノデアリマ
ス(拍手)然ルニ今大藏大臣ノ御提案ニナリ
マシタ增稅案三億圓ヲ見マスルナラバ、其
中ニ於テハ所謂大衆課稅ト稱スルルノガ一
億圓アル、三億圓ノ中デ一億圓ノ大衆課稅
ト云フガ如キモノハ、結城增稅案ニ於テハ
勿論ノコト、北支事件特別稅ニ於テモ未ダ
曾テ最近ニ於ケル增稅案ニハ斯ノ如キコト
ハナカッタノデアル、北支事件特別稅ガ九對
一ト云フ、大衆課稅一、直接稅九ト云フ比
率ヲ持ッタ時ニ吾々ハ大藏大臣ニ、此方針ヲ
將來ノ增稅ニ對シテ貫ク意思アリヤ否ヤヲ
釘ヲ差シテ置イタノデアル、然ルニ今ヤ僅
カ一年モ經タナイ今日ニ於テ、大衆課稅ニ
依ル所ノ增稅、三分ノ一ヲ大衆課稅ニ求ム
ル所ノ增稅ヲ爲シタノハ、一體何ガ故デア
ルカ(拍手)大衆課稅ニ依ル增稅ノ爲スナラ
バ、生活必需品ヨリ、大衆ニ直接影響ヲ持
ツ所ヨリ物價騰貴ヲ來スコトニ依ッテ、公債
ニ依ル物價騰貴ヨリモ尙ホ惡イ結果ヲ來ス
ト私ハ信ズルノデアル(拍手)大藏大臣ノ考
ヘラルヽ點ハ、全ク公債ニ依ル物價騰貴ト、
增稅ニ依ル物價騰貴ノ妙味ト云フモノヲナ
クシテ居ル政策デアルト信ズルガ、大藏大
臣ノ所見ハ如何デアルカ
更ニ第二ノ點ハ、大藏大臣ハ應能負擔ト
云フコトヲ强調シテ居リマスルガ、今提案
セラレマシタル增稅案ヲ見ル時ニ於キマシ
テ、臨時利得稅ノ增徴ハ僅ニ三千万圓デア
リマス、昭和十二年上半期ニ於ケル所ノ事
業會社ノ成績ヲ見マスルノニ、前年度ニ於
ケル增稅ヲ織込ンデモ四億九千六百万圓、約
五億圓ノ收益ヲ擧ゲテ居ルノデアリマス、
ソレバカリデハナイ、其外ニ公募株劵ニ對
スル「プレミアム」ヲ加へルナラバ五億一千五
百万圓ト云フ莫大ナル所ノ利益ヲ擧ゲテ居
ルノデアル、斯ノ如キ事業會社ニ對シテ、
臨時利得稅ヲ課スルニ何ノ不思議ガアルカ、
三千万圓ノ如キモノヲ、オッカナビックリ出
ス必要ハ斷ジテナイト私ハ思フ、モット此
方面ニ於ケル所ノ增稅ノ餘地アリト信ズル
ガドウデアルカ(拍手)
其次ニ私ハ法人資本稅ニ付テ何故ニ僅カ
ノ增徵ニ止メタカト云フコトヲ御尋シタイノ
デアル法人資本稅ハ從來ノ千分ノ一カラ千
分ノ一·二ト云フ僅カノ率ノ引上ヲ爲シテ、
之ニ依ッテ僅ニ四百万圓ノ增收ヲ圖ッタノデ
アリマスルガ、法人資本稅ト云フモノヲ、
若シ千分ノ五マデ引上ゲルナラバ、之ニ依ッ
テ一億圓ノ增收ヲ得ルコトハ易々タルモノ
デアル、政府ハ法人資本稅ハ「キヤピタル·
レヴイ」ナルガ故ニ之ニ對シテ重稅ヲ課ス
ルコトハ出來ナイト御考ニナルカモ知レナ
イガ、今日一般國民大衆ハ自ラノ生活ヲ削
リ、自ラノ生活ノ中カラ割イテ增稅ニモ應
ジ一般ノ國防獻金ニモ應ジテ居ルノデアル
然ルニ一方ニ於テハ、先日矢野議員カラモ
御尋ガアリマシタヤウニ、今日ニ於テハ、
所謂會社ハ增稅ノ負擔ヲ免カレンガ爲ニ水
膨レヲ爲スコトハ比々皆然リデアル、十二
年度ニ於キマスル所ノ資本ノ總額ト云フモ
ノハ、新設、合併、併合一切ノモノヲ加へ
テ三十三億圓ニナッテ居ルノデアル、而モ此
三十三億圓ト云フモノハ、資金調整法ガ、出
ルト云フコトヲ見込ンデ、資金調整法ガ出
ナイ前ニ早ク增資ヲヤルト云フ不純ナ動機
ニ依ッテ爲シタ所ノ增資、合併ノ計畫ト云フ
モノガ澤山ニ含マレテ居ルノデアリマス、
シテ見レバ斯ウ云フ三十三億圓ト云フ水膨
レシテ居ルヤウナモノニ對シテ、法人資本
稅ヲ課シテ、其一部ヲ削ッテモ何等私ハ差支
ナイモノデアルト思フノデアル(拍手)
殊ニ私ハ此際諸君ノ御注意ヲ喚起シナケ
レバナラナイノハ、日本產業ガ滿洲ニ移駐
シマシテ、滿洲重工業株式會社トナッタコト
ニ付テデアル、先日豫算總會ニ於テ陸軍大
臣ハ日本產業ノ株劵ノ拂込ハ二億二千五百
万圓デアルケレドモ、時價ガ四億五千万圓
スルカラシテ、日本產業ヲ滿洲重工業トス
ルニ付テハ四億五千万圓ト之ヲ見積ッタノ
デアル、斯樣ニ御答辯サレテ居ル、此答辯
ハ私ハ實ニ不思議デアルト思フ、是デアル
ナラバ、正ニ資本ノ水膨レ、之ヲ陸軍省ガ
官許シタヤウナモノデアル、滿洲重工業株
式會社ト云フモノガ出來テ、二億二千五百
万圓ノ拂込資本ヲ四億五千万圓ニ計上スル
コトヲ許ストスルナラバ-今日民間ニ於テ
「プレミアム」附デ總テノ會社ヲ合併スルコ
トニ依ッテ資本ノ增大ヲ圖ッテ居ル此事實ニ
對シテ大藏省ハ「メス」ヲ加ヘルコトガ出來
ナクナルノデハナイカ(拍手)私ノ聞ク所ニ
依リマスナラバ、日本產業ガ內地ニ於テ納
メテ居タ所ノ稅金ハ年額五百万圓デアル、
所ガ滿洲重工業株式會社トナッタニ付テ滿
洲重工業株式會社ガ納メル所ノ稅金ハ年額
三百五十万圓デアル、シテ見ルト日本產業
ガ滿洲ニ移駐シテ滿洲重工業株式會社トナッ
タガ爲ニ、ソレニ依ッテ免カルヽ稅金ノ額ダ
ケデモ、年々百五十万圓ト云フコトニナル、
此事實ニ對シテ、大藏當局ハ如何ニ御考ニ
ナルノデアルカ、私ハ此點ニ付テ影響スル
所極メテ大ナル問題デアルト思フノデアリ
マスカラ、特ニ十分ノ御考慮ヲ願ヒタイト
存ズルノデアリマス
更ニ私ノ御尋致シタイノハ、第三種所得
稅ノ最高率ヲ百分ノ五十五デ御切リニナッタ
ト云フ點デアル、百圓ノ中五十五圓取上ゲ
ルナラバ、ドンナ金持デモ可哀相ダカラ、百
分ノ五十五デ止メヨウト云フ御考デアルト
存ジマスガ、併シ馬場大藏大臣ノ立テタ馬場
財政ニ於テハ百分ノ五十八マデ徵ルト云フ
計算ニナッテ居ッタノデアル、然ルニ非常時
下ニ於ケル增稅ト云フモノガ、上ニ對スル
課稅ヲ特ニ百分ノ五十五デ御切リニナッタ理
由ハ何故デアルカ、私ノ計算スル所ニ依リ
マスト、此百分ノ五十五ニ依ッテ切ッタト云
フコトノ爲ニ、百五十万圓以上ノ高額利得
者ハ一定ノ利益ヲ受ケルノデアル、二百万
圓ノ所得ノアル者ニ於テハ、一般ノ人ガ二
割五分ノ增徵ヲ蒙ッテ居ルニモ拘ラズ、二割
五分增徵シタ場合ヨリハ約一万圓減額サレ
ルノデアル、三百万圓ノ所得者ニ於テハ九
万四千圓ノ減額トナルノデアル、四百万圓
ノ所得者ニ對シテハ十六万九千圓ト云フ減
額ニナルノデアル、一般國民大衆ニハ非常
時デアル、國防獻金デアルト云フ名ノ下ニ
於テ、一律ニ二割五分ノ增徵ヲシテ置キナ
ガラ、上ノ方ニ於テハ百分ノ五十五デ切ッタ
爲ニ、ソレニ依ッテ二百万圓ノ所得者デハ一
万圓ヲ減額サレ、三百万圓ノ所得者デハ九
万六千圓ノ減額ヲサレ、四百万圓ノ所得者
ニ至ッテハ十六万九千圓ノ減額ヲサレルト云
フガ如キ(拍手)斯ウ云フ稅金ノ課ケ方ト云
フモノハ一體大藏大臣ノ申サレル所ノ負擔
ノ公平ニ合スルモノナリヤト私ハ尋ネタイ
ノデアル
更ニ私ハ中產階級ノ問題ニ付テ御尋シタ
イ、增稅ハ總テ中產階級ヲ滅亡セシメルモ
ノデアルト云フコトハ稅金ノ原則ト謂ハレ
ルノデアリマスガ、政府ハ本增稅案ヲ作成
セラレルニ當ッテ、今日我國ノ少額所得者ト
云フモノガ如何ナル生活ニ置カレテ居ルカ
ト云フコトニ付テ、十分ノ御考慮ガアッタノ
デアラウカ、千二百圓程度、月百圓程度ノ
收入ヲ持ツ者ニ對スル、內閣統計局ノ發表
スル所謂家計調査ト云ノモノニ對シテ、十
分ナル根據ヲ置イテ增稅案ヲ御決メニナッタ
モノデアルカドウカト云フコトデアリマス、
千二百圓ノ所得ヲ持ツ者ハ、所得稅ニ於テ
二割五分ヲ增徵セラルヽバカリデナク、物
價騰貴ニ於テ今日月七圓乃至十圓ヅヽ生活
ノ中ニ喰込ミツヽアルノデアリマス、シテ
見ルト云フト、月七圓乃至十圓ヅヽ生活ノ
中ニ喰込ムナラバ、其稅金タルヤ一箇年ニ
於テ驚ク勿レ百二十圓ニ達スルノデアル、
更ニ二割五分ノ增徵ヲサレ、若シソレガ營
業收益ニ依ル所ノ所得デアルナラバ、營業
收益稅ヲ課セラレテ、私ノ計算ニ依ルナラ
バ、一箇年ニ是等ノモノヲ加ヘルナラバ、
負擔ノ增大正ニ百六十二圓ニ達スルノデア
ル、今日月百圓位ノ收入ノアル者ニ對シテ、
一箇年百六十二圓ニ達スル所ノ負擔ノ增大
ヲ圖ッテ、之ヲ以テ負擔ノ衡平ガ期シ得ルモ
ノト考ヘラレルノデアリマスカ、果シテ之
ニ依ッテ所謂中產階級ノ沒落ヲ促進セシメナ
イデアラウカ、私ハ大藏省當局ハ是等ノ點
ニ付テ如何ナル對策ヲ持ツモノデアルカト
云フコトニ付テ、是非トモ親切ナル御答辯
ガ願ヒタイト思フノデアリマス
更ニ私ハ物品特別稅ニ付テ御尋スルノデ
アリマスルガ、唯一點ダケ御尋スルノデ
アリマスガ、政府ハ支那事變特別稅ノ附則
ニ於キマシテ、脫稅防止ノ意味ニ於テ、現
在ノ取引狀態ヲ考慮スルコトナシニ、所
謂脫稅ノ目的ヲ以テ買置キスルコトヲ防止
スルト云フ意味ニ於テ、三千圓以上ノ物品
ヲ持ツ者ニ對シテハ、一律ニ課稅ヲスル
ト云フコトヲ御決メニナッタノデアル、三千
圓以上ノ物品ヲ持ッタ者ト申シマスルト、全
國ノ殆ド大部分ノ小賣商店ト云フモノハ、
此範圍ニ入ルデアリマセウ、此小賣商店ニ
對シテ三千圓以上ノ商品ガアルカ否カト云
フコトヲ、若シ稅務官吏ガ一々其場ニ行ッテ
調査ヲシテ、家宅搜索マデヤルト云フヤウ
ナコトデアックナラバ、一體ドウデアラ
ウカ、私ハ是等ノ點ニ付テハ十分御考慮
アルモノト信ズルノデアリマスルガ、取引
ノ現狀ヲ破壞シテ、僅カ本稅法ガ成立シテ
カラ一箇月位シカ間ノナイノニ對シテ、是
程ノ重大ナル附則ヲ設ケル必要ガ果シテアッ
タデアラウカドウデアラウカト云フコトヲ、
當局ニ御尋シタイノデアリマス、今日我國
ノ情勢ヲ見マスル時ニ、私ハ洵ニ我國ノ情
勢ハ重大デアルト信ズルノデアリマス、重
大デアルガ故ニ、吾々ハ增稅ノ負擔デアッ
テモ、喜ンデ其負擔ニ應ジヨウトシテ居ル
ノデアル、ケレドモ其負擔クルヤ何處マデ
モ衡平ノ原則ニ卽シ、何處マデモ今日ノ惱
メル虐ゲラレタル所ノ下層階級ニ輕ク、ソ
レ等ノ人々ヲ苦シメル所ノモノデアッテハ
ナラナイト私ハ信ズルノデアリマス(拍手)
今日我國ニ於キマシテハ色々ナコトガ起リ
ツヽアリマス、或ハ學界ニ於キマシテハ、他
人ノ數年前、十數年前位ノ著書ヲ顯微鏡下
ニ曝シテ、恰モ黴菌デモ居ルカノ如ク、之ヲ
探サントスル學界「ゲ·ペ·ウ」ガ居ル、民間
ニ於テハ反對黨ノ者ト言ヘバ、總テ之ヲ人民
戰線ナリト稱シテ、「ビラ」ヲ撒イテ居ル所
ノ民間「ゲ·ペ·ウ」ガ居ル、其時ニ於テ稅務官
吏ガ個々ノ商店ヘ行ッテ、オ前ハ三千圓ノ商
品ヲ買溜シテ置イタダラウ、家ヲ見セロ、
オ前ノ家ノ家探シヲスルゾト言ッテ、稅務官
吏ガ財界「ゲ·ペ·ウ」ニナックナラバ、國民ハ
何時ノ日ニカ安堵ヲ得ルコトガ出來ルデア
ラウカ(拍手)私ハ是等ノ點ニ付テ大藏大臣
ノ責任アル所ノ考ヘ方ヲ聽カシテ戴キタイ
ト思フノデアリマス
現下ノ時局ハ極メテ重大デアリマス、私
ノ如キ詰ラナイ者デアリマシテモ、半夜夢
睲メテ國家ノ前途ヲ思フ時、實ニ仲々トシ
テ睡ルコト能ハザル思ガスルノデアリマス、
「エチオピヤ」ノ戰爭ニ於テ「ムッソリーニㄴ
ガ「ピストル」ヲ抱イテ寢タト云フヤウナ氣
持モ、恐ラク私ハ日本ノ國民ノ心有ル人々
ノ氣持デハナカラウカト信ズルノデアリマ
ス、今日內閣諸公、內閣ニ在ル所ノ人々ノ氣
持ハ私十分ニ察スルノデアリマスガ、願クハ此
重大時局ニ對シテ些々タル國民ノ聲モ聽キ、
國民大衆ノ通ゼントシテ通ズル能ハザル聲
モ聽イテ、大乘的ノ政策ヲ御立テアランコ
トヲ、衷心ヨリ希望シテ此質問ヲ終ル次第
デアリマス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=22
-
023・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 只今ノ御質問ニ
對シマシテ御答申上ゲマス、四十八億ノ事
變費ハ、何時マデノモノデアルカト云フ御話
デアリマスガ、現在ノ豫測ノ下ニ於キマシ
テハ、次ノ通常議會マデ是デ宜シイ積リデ
アリマス、其間ニハ增稅ヲ致ス積リハアリ
マイヨー
尙ホ此經濟、所謂何財政ト申シマスルカ、
結局現內閣ノ財政經濟政策全般ニ對スル基
本的ノ御質問デアッタト思フノデアリマス
ガ、是ハ屢〓他ノ機會ニ於テ申述ベタノデ
アリマスガ、大藏省ノ所謂財政ト致シマシ
テハ、豫算デアリ、稅デアリ、公債デアリ、
金融デアルノデアリマス、併シ屢〓申上ゲ
マシタ如ク、斯ウ云フ場合ニハ單純ニ金錢
以上ノ考-金錢以下ト申シマスカ、金錢
以上ト申シマスカ、金錢上ノ考ヲ以テ處理
致スコトハ到底出來ナイノデアリマス、基
本ニ遡ッテ、經濟全般ニ互ッテ方策ヲ立ッテ
居ルノデアリマス、國際收支、外國爲替、
物資需給ノ適合、生產力ノ擴充、之ヲ地域
的ニ申シマスレバ、日滿一體ノ關係ニ於テ
出發致シテ居ルノデアリマス、尙ホ昨今ノ狀
況今後考ヘレバ、之ニ日本ト緊密ナル提
携ノ立場ニ居リマスル支那ノ領土ガ入ッテ
參ルノデアリマス、其事ハ屢、申上ゲタノデア
リマシテ、今更繰返スノモナンデアリマス
ガ、之ニ依リマシテ此事變ニ處スル、軍需ニ
不自由ナカラシムル爲ニ、金モ物モ十分ニ事
變ノ目的ヲ達シ得ルヤウニ集マルコトヲ主眼
トシテ居リマス、サウシテ國民經濟ヲ維持シ、
國民ノ活力ヲ維持スル、之ヲ考ヘテ此二ツ
ノコトヲ致シマス爲ニ、物資ノ需給ノ適合
ヲ圖リ、生產力ノ擴充ヲ圖リ、國際收支、
外國爲替相場ノ維持ヲ圖リ、ソレ等ノ基礎ノ
上ニ金融、物價、豫算、税有ユルモノヲ
考ヘテ居ルノデアリマス、其一々ニ付テハ
度々申上ゲタノデアリマスカラ、今更之ヲ
繰返シマセヌガ、御質問ノ中ニアリマスル
コトニ付キマシテ申上ゲマスレバ、例ヘバ
增稅ニ付キマシテハ、昨年ノ五億ノ戰費ノ
場合ニ一億ノ增稅ヲ致シマシタ場合ニハ、
未ダ國際收支、物資ノ需給ノ適合等ニ付キ
マシテハ、計畫的ノ方策ガ立ッテ居ナイ時
代デアリマスカラ、舊時代ノ財政方策ノ如
ク、一部ヲ增稅ニ依リマシテ、之ニ依リマ
シテ爲替相場ナリ、物價ナリ、國際收支ノ
維持ニ貢獻スルト同時ニ、心理的ニ其作用
ヲ起サント致シタノガ其目的デアリマス、
第二次ノ二十億ノ戰費ニ於キマシテハ、各
種ノ戰時立法ノ御協贊ヲ經マシテ、經濟體
制ハ稍〓整ッタノデアリマスカラ、二十億ノ
戰費ニ依ッテ直グ樣國際收支ノ均衡ノ維持
ヲ失ッテ惡性「インフレーション」ガ來ルト
カ、サウ云フ危惧ハアリマセヌノガ一方ノ
理由デアリ、他ノ理由ハ大ナル事變ノ初期
ニ當リマシテハ、多クハ金融界、產業界ノ
前途ニ對シテ不安ヲ懷クモノデアリマス、
此際ニ不安ノ材料ノ加重ヲ致サヌ爲ニ、增
稅ヲ致サナカッタノデアリマス、ソレガ段々
軌道ニ乘ッテ參リマシタカラ、普通ノ條理ニ
基イテ、今囘ハ增稅ヲ致シタ次第デアリマ
ス
尙ホ此國際收支ノ維持ニ付キマシテ、其
維持ガ必要デアルト云フ趣旨ハ御同感デア
リマスルガ、爲替相場ト國際收支ノ維持ハ
別物デアル、斯ウ云フ御說ガアッタヤウデ
アリマスルガ、是ハ理論トシテハ御話ノ通
リデアリマス、併シ只今トシテハ實際ハサ
ウデナク、同一物デアリマス、今ノ爲替水
準ヲ維持シマスルコトガ、國際收支ヲ最モ
工合好ク保ツノニ絕對ニ必要ナノデアリマ
ス、之ヲ弛メルコトニ依ッテ輸入ガ樂ニナ
ルトカ、モット寛ログトカ、サウ云フコトハ
決シテナイノデアリマス、ノミナラズ一度
之ヲ引下ゲマスルト、諸君ノ御心配ニナリ
マス惡性「インフレーション」ガ起ル虞ガア
リマス、國民生活ハ固ヨリ、軍備ノ擴充
モ、事變ノ對策モ、玆ニ恐ルベキ破壞ノ現
象ガ來ナイトハ言ヘナイノデアリマス、只
今ニ於テハ國際收支ノ維持ト爲替ノ維持ト
ハ、全ク事實ニ於テ符合ヲ致シテ居ルノデ
アリマス
尙ホ正貨準備ニ付キマシテモ、是ハ色々
考ヘナケレバナリマセヌ、御說ノ如ク金ハ
生產ノ設備デモナケレバ何デモナイ、是ガ
有用ナル設備、物資ニ轉換シテ初メテ經濟
上意義ガアルノデアリマスガ、然ラバト
一四三、サウ云フ力ヲ持ッテ居ルモノヲ或ル
程度ニ持ツト云フコトハ、只今ノ場合絕對
ニ必要ナノデアリマス
尙ホ財政計畫ニ付キマシテハ、今後計畫
性ヲ以テ數年ノ間ヲ見透シテ行ケト云フ御
話デアリマス、計畫性ト云フコト、又物ノ關
係ハ、私共ガ昨年以來高調シテ居ル所デア
リマシテ、全ク御趣旨ハ同感デアリマスル
ガ、事變ノ前途ヲ豫測スベカラザル際ニ、
具體的ニ幾ラ〓〓ト云フ計畫ハ、今日樹テ
ヨウハナイノデアリマス、其時機ニ應ジ、
變ニ臨ンデ、之ニ處スルノ其基本ノ考ガ
必要ナノデアリマス、ソレハ前々申上ゲタ
通リノ點デアリマス
尙ホ國際收支ノ維持ニ專念シテ、生產力
ノ擴充ガ出來ナイデハナイカト云フ御話デ
アリマスルガ、是ハ生產力ノ擴充ヲ爲サン
トシテモ、國際收支ヲ破レバ、生產力ノ擴
充其モノガ出來ナクナルノデアリマスルカ
ラ、常ニ兩者ノ調和ヲ保ツコトガ必要ナノ
デアリマス
尙ホ昨年資金調整法施行以後四箇月ノ間
ニ十數億ト云フヤウナ、此事變ノ爲ニ必要
ナル生產力ノ擴充ヲ致シマシタコトハ、現
下ノ國際收支ノ維持ノ下ニ於テ劃期的ノ、
未ダ曾テアラザル生產力ノ擴充ヲ致シタ
ト云フコトヲ、具體的ニ證明致シテ居
ルノデアリマス
日滿支一體トシテノ國際收支ノ適合ヲ圖
レト云フ御話ハ、全ク御同感デアリマシ
テ、日滿一體ノ原則ノ下ニ國際收支ノ適合
ヲ圖ッテ居ルト云フコトモ、度々申上ゲタ通
リデアリマス、又滿洲ガ日本トノ關係ヲ除
キマシテ、受取勘定デアルト云フコトモ御
說ノ通リデアリマス、其受取勘定ハ日滿ノ
爲ニ遺憾ナク利用スル目的ヲ以チマシテ、
本年度ノ物資ノ需給計畫、生產擴充ノ計
畫、外國ヨリノ輸入ノ計畫、總テ之ヲ基礎
ニシテ立ッテ居ルノデアリマシテ、今年度ニ
於キマシテハ前々申上ゲマスルヤウニ、此
輸入計畫ニ付キマシテ、一年ヲ全體トシテ
ノ計畫ヲ既ニ樹立シテ居リマス、決シテ前
カラ無計畫デハアリマセヌガ、其點ニ付キ
マシテハ度々申上ゲマシタカラ、今ハ略ス
ルコトト致シマス
尙ホ此際ニ於テ御留意ヲ願ハナケレバナ
ラヌノハ、滿洲ハ日本ヲ除イタル第三國ニ
ハ左樣ナ受取超過デアリマスルガ、日本カ
ラ非常ナル輸入超過ヲ致シテ居ル、隨テ日
本ノ對滿投資ハ巨額ニ上ルノデアリマス、
今ノ日滿ノ輸入超過ノ原因ハ、日本ガ外國
ヨリ輸入ヲシテ、ソレヲ直接間接ノ力トシ
テ、滿洲ノ開發ノ爲ニ滿洲ニ輸入ヲシテ居
ルト云フコトモ相當大キナ原因デアルノデ
アリマス、ソレハ只今ハ滿洲ト云フモノ
ハ、國際收支ノ點カラハ日本ニ取ッテ相當ノ
「マイナス」材料デアリマスルガ、其「マイ
ナス」タルヤ、將來滿洲ノ產業ヲ起シテ、
今御話ノ國防、經濟ヲ完璧ニ致ス準備行爲
デアル、斯樣ナ大キナ光明ヲ持ッテ居ルノデ
アリマス
經濟政策一般ニ付キマシテハ其程度ニ致
シマシテ、尙ホ租稅ノ內容ニ付キマシテノ
御質問デアリマスルガ、此大衆課稅一億圓
ト云フ御話デアリマスルガ、私共ハ是ハ只
今ノ御說ノ如ク三千餘万圓、今囘ノ增稅ノ
一割程度ニ止ッテ居ルト思フノデアリマ
ス、六千餘万圓ノ物品稅ハ度々申上ゲマス
ルヤウニ、或程度以上ノ、比較的ニ餘裕ア
リト思ハルヽ程度ノ物品ニ掛ケマスルノ
デ、吾々ハ是ハ庶民階級ノ負擔トナルモノ
デハナイト思フノデアリマス、煙草ノ値上
ニシマシテモ、同樣ノ政策ヲ執リマシタコ
トモ、前申上ゲタ通リデアリマス
尙ホ臨時ノ利得者ニ付テ、今以上ニ課稅
ヲシタナラバト云フ御話デアリマスガ、是
ハ普通ノ所得稅、超過所得稅等ヲ負擔致シ
マシタ上ニ、法人ニアリマシテハ所得其モ
ノノ三〇%ヲ取ルノデアリマシテ、相當
ノ是ハ重イ稅デアルノデアリマス、尙ホ法
人ノ資本稅ニ付キマシテハ、是ハ新稅ノコ
トデモアリマスシ、今申上ゲマシタ如ク、
法人ハ普通所得或ハ超過所得、或ハ臨時所
得、營業收益稅等、多數ノ負擔ヲ致シテ居
リマスルノデ、此所得以外ニ資本其モノヲ
目的トシマシタ重課ヲ致シマスルコトハ、
只今ニ於キマシテハ、未ダ其時機デナイト
思フノデアリマス、尙ホ此馬場案ノ增稅ニ
於テハ、所得稅ノ最高百分ノ五十八ト云フ
御話デアリマシタガ、是ハ四百万圓以上ノ
所得ガアリマシタ際ニ、其四百万圓ハ除キ
マシテ、四百万圓以上ノ部分ニ對スル稅率
デアルノデアリマスルカラ、是ハ其所得全
體ニ對シテハ、是ヨリ遙ニ〓〓下ノ點
ニ止マルモノデアリマス、今回是ト御
比較ニナリマシタ所ノ、所得稅ヲ五十五
ニ止ムルト云フ御話デアリマスルガ、
是ハ地方稅タル附加稅モ入レテ、所得總額
ニ對シテ課稅ガ百分ノ七十以上ニハナ
ラナイ、斯ウ云フ意味ニ於テ止メマシク
次第デアリマシテ、相當ニ大ナル所得者ニ
對シテハ課稅ガ行ッテ居ル次第デアリマス、
決シテ大ナル所得者ニ對シテ、故ラニ輕減
スルト云ウヤウナ考ハ毛頭ナイノデアリマス
ソレカラ千二百圓程度ノ大衆階級ニ對ス
ル課稅ガ、物價騰貴ト照シテ重イト云フ御
話デアリマスガ、是ハ只今申上ゲマシタ如
〃、大所得者ニハ色々ナ課稅ガアリマスル
ノデ、其階級ノ所得者ニ對シテハ御氣ノ毒
デハアリマスルガ、此際トシテハ御忍ビヲ
願フヨリ外ナイト思フノデアリマス
次ニ製造課稅ノモノニ付キマシテ、稅法
施行ノ際ニ三千圓ノ「ストック」ノアリマスル
モノニ課ケマスト云フ點ニ付キマシテハ、
是ハ三千圓以下ノ餘リニ小サイモノニ迄及
ボスト云フコトヲ避ケマシテ、三千圓ト定
メタ次第デアリマス、尙ホ之ヲ施行致シマ
スル際ニハ十分ニ注意ヲ致シマシテ、餘リ
苛酷ナコト、其他行過ギノナイヤウニ十分
留意スル積リデアリマス
〔政府委員加藤久米四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=23
-
024・加藤久米四郎
○政府委員(加藤久米四郞君) 河野君ニ御
答致シマス、今日ハ尙ホ軍事行動ノ繼續中
デアリマス、此間ニ於テ占據地ニ於ケル敵
性アル物資ト財產ハ、軍ニ於テ現實ニ管理
ヲ致シテ居リマス、尙ホ占據地ニ於ケル產
業ノ開發、資源ノ確保、殊ニ金融ノ諸問題
ニ關シマシテハ、著々順調ニ進行致シテ居
リマシテ、萬遺憾ナキヲ期セラレテ居ル次
第デアリマス、右ハ總テ現下ノ時局ニ於テ
大切ナル問題デアリマスカラ、政府ニ於キ
マシテハ現地ノ意嚮ヲモ參酌致シマシテ、
適切ナル措置ヲ講ジツヽアルノデアリマ
ス、尙ホ對支問題ノ中央機關ニ關シマシテ
ハ、政府ニ於テ目下愼重ニ〓究中デアリマ
ス、右御答申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=24
-
025・河野密
○河野密君 答辯ニ付テ重ネテ質問シタイ
點モアリマスガ、時間ノ關係上委員會ニ讓
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=25
-
026・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 三木武夫君
〔三木武夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=26
-
027・三木武夫
○三木武夫君 私ハ增稅案ニ對シテ、二三
政府ノ御所信ヲ承リタイト考ヘルノデアリ
マス、先ヅ最初ニ今囘ノ增稅ノ目的ニ付テ
デアリマスガ、大藏大臣ノ御所信ヲ承ッテ
居リマスルト、或ハ戰費ヲ全部公債ニ依ッ
テ支辨ヲスルト云フコトハ妥當デナイト
カ、或ハ又今回ノ增稅ハ事變公債ノ利子ニ
充當スルモノデハナイトカ、或ハ出征將士
ノ血稅ニ對シテ、銃後ノ國民トシテ戰費ヲ
負擔スルノガ至當デアルトカ、或ハ今囘ノ
時局ニ對シテ收入ノ增加シテ居ル向モアル
カラ、負擔ノ均衡ヲ圖ラナケレバナラヌト
カ云フヤウニ、御說明相成ッタト思フノデ
アリマス、然ラバ今囘ノ增稅案ハ單ニ純財
政的ナ理由カラデハナクシテ、負擔ノ均衡
ヲ圖ラウト云フ社會政策的意圖、竝ニ戰場ノ
將士ノ苦難ニ對シテ、銃後ノ國民ガソレヲ
分擔スルト云フ道德的意圖カラ、增稅案ヲ
御立案ニナックモノト私ハ考ヘルノデアリ
マス
然ラバ此增稅案ガ政府ノ意圖スルガ如ク
負擔ノ均衡ガ圖ラレテ居ルカト云フト、三
億圓ノ增稅ノ中デ、一億圓ヲ占ムル大衆課
稅ヲ考ヘマシテモ、斯ル大衆課稅ガ負擔ノ
均衡ニ反スルト云フコトハ申上ゲル迄モア
リマセヌ、更ニ其內容ヲ吟味致シマシテ
モ、例ヘバ產業資本ト金融資本トノ關係ヲ
考ヘテ見マシテモ、公債ニ對シテハ、四分
以下ノ利率ニ對シテハ之ヲ除外シ、或ハ社
債ニ對シテハ、四分五厘以下ノ利率ニ對シ
テハ除外シテ居ルニ反シテ、株式所得ニ對
シテハ、第三種所得稅ノ中ニ綜合課稅サレ
マス結果、累進稅ヲ課セラレ、更ニ附加稅
ヲ課セラレ、又七分以上ノ配當ニ對シテハ
利益配當特別稅ヲ課シテ、明ニ金融資本ト
產業資本トノ間ニ衡平ナル負擔ヲ課シテ居
ナイト云フコトハ、否定ノ出來ナイ事實デ
アリマス、御承知ノ如ク今日ノ時局ニ於
キマシテハ、ドウシテモ生產擴充ヲ致シ
マシテ、國內ニ於キマシテ軍需必要品ノ
供給ヲ確保スルト云フコトガ、長期戰ニ
對シテ絕對必要ナ條件ト考ヘラレマス
ガ、斯ノ如ク株式ニ對シテ壓迫ヲ加ヘマ
シタナラバ、果シテ政府ノ御考ニ相成ッ
テ居リマス所ノ生產擴充ト、矛盾ナク
產業政策ヲ遂行スルコトガ出來ルカドウ
カト云フコトヲ、私ハ懸念スルノデアリマ
ス、此見地カラ考ヘタ時ニ、今囘ノ產業界
ニ壓迫ヲ加ヘルガ如キ增稅案ハ、保留スル
ノガ至當デアラウト思フノデアリマスガ、
政府ハ其實施ヲ望ンデ居ラレルノデアリマ
スカラ、政府ハ國民ガ憂慮致シテ居リマスト
ハ反對ニ、我國ノ經濟力、其基本實體タル
所ノ產業力ト云フモノニ對シテ、御樂觀ニ
相成ッテ居ルノデアリマスカ、斯ノ如キ狀
態デ事變ノ終局ニ臨メルト云フ確信ヲ御持
チニナッテ居ラレルカドウカト云フコトヲ
承リタイノデアリマス
國民ハ今日生產ヲ擴大スルト云フコトニ
對シテ非常ナ關心ヲ持チ、又我國ノ經濟力
ニ對シテモ、可ナリ案ジテ居ルノデアリマ
ス、今日ノ如キ時局ニ於テハ、外資ヲ輸入
スルト云フコトハ困難デアリマスガ故ニ、
ドウシテモ自國ノ經濟力ニ依ッテヤッテ行カ
ナケレバナラナイ、其爲ニハ產業ノ利潤ヲ
增大致シマシテ、ソレヲ生產擴充ニ充テシ
ムルト同時ニ、公債消化ノ源泉ヲ培養シナ
ケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、斯ウ
云フ點ニ付テハ政府モ御考ニナッテ居ルト
考ヘルノデアリマスガ、ソレヲ知リナガ
ラ-此增稅ヲ實施スルコトニ依ッテ、我
國ノ產業ニ對シテ壓迫ヲ加ヘルト云フコト
ヲ、十分ニ御存ジデアリナガラ、次々ニ增
稅ヲシテ、國民ノ所得ノ偏在ニ對シ、富ノ
偏在ヲ是正シテ居ルト云フコトヲ國民ニ示
サナケレバ、國民ノ社會心理ニ對シテ動搖
ガアルト云フ風ニ御考ニナッテ、此案ヲ提
出致シタノデアリマスカ、勿論政治ノ意義
ニ於キマスル富ノ偏在ハ、之ヲ是正シナケ
レバナリマセヌ、之ヲ是正スル所ノ國民生
活安定ノ期待モアルモノデアリマスケレド
モ、併シ今日國民ガ考ヘテ居リマスコト
ハ、單ニ租稅政策ニ依ッテ社會政策的何物
カヲ御示ニナラウト云フヤウナ、小乘的態
度デナクシテ、今日ノ此時局ヲ能ク認識致
シマシテ、生產力ヲ擴充致シテ、サウシテ
大陸進出政策、言葉ヲ換ヘテ申セバ、日滿
支ノ經濟「ブロック」ト云フモノヲ瑕瑾ナク
完成シテ戴ク、是ガ國民ノ期待デアリマシ
テ、此租稅ニ依ッテ社會政策的何物カヲ御
示ニナラウト云フヤウナ小乘的ナ態度ハ國
民ノ本當ニ望ンデ居ル所ト私ハ一致セナイ
ト思フノデアリマス、御承知ノ如ク銃後ノ
國民ハ、此時局ヲ認識シテ實ニ堅忍持久ノ
態度ヲ執ッテ居リマス、農村ニ於キマシテ
モ色々言フベキコトハアルノデアリマスケ
レドモ、我慢ヲ致シテ銃後ノ活動ニ餘念ガ
ナイノデアリマシテ、斯ウ云フ點ヲ考ヘマ
シタ時ニ、斯ノ如キ銃後ノ狀態ニアルニ拘
ヲズ、尙且ツ國民一般ニ對シテ之ニ血稅ヲ
負擔セシメテ時局ヲ認識セシメナケレバナ
ラナイト、大藏大臣ハ御考ニナルノデアリ
マスカ、モット日本ノ國民道德、日本ノ國
民ノ精神力ト云フモノヲ、歐米流ノ封建的
解釋デハナクシテ、日本流ニ御信用ヲ願ヒ
タイト思フノデアリマス
第二ニハ、戰線ノ擴大ト事件ノ勃發ガ餘
リニ突然デアリマスルガ故ニ、適切ナル財
政計畫ノ樹立ヲスルト云フコトガ御困難デ
アルト云フコトハ十分御察シスルノデアリ
マスルケレドモ、今日ノ如ク繼ギ〓〓ノ租
稅技術デアリマシテハ、果シテ政府ノ期待
スル增稅ノ目的ニ合致スルカドウカト云フ
コトヲ私ハ疑フノデアリマス、所得稅ノ例
ヲ取リマシテモ、一億二千万圓ノ臨時所得
稅ニハ、基本稅トシテノ所得稅アリ、又臨
時租稅增徵法ニ依ル徵收ガアリ、又支那事
變特別稅ノ今回ノ適用ガアルト云フヤウ
ニ、何段ニモナッテ徵收致スノデアリマス
ルカラ、國民ト致シマシテハ洵ニ難解複雜
ヲ極メルノデアリマス、斯ウ云フ風ナ狀態
デアリマシタ時ニハ、稅務官ハソレヲ了解
スルコトガ出來マシテモ、國民トシテハ唯
盲從スルヨリ外ハナイノデアリマシテ、政
府ノ意圖スル所ヲ十分ニ理解スルコトハ困
難ト思フノデアリマス、斯ウ云フ風ニシテ
彼我認識ノ一致ガナクテモ、果シテ政府ハ
所期ノ目的ヲ達スルト御考ニナリマス
カ、擧國一致ト云フコトハ單ニ國民ヲ盲
從セシメルモノデナクテ、本當ニ政府ノ
考ヘテ居ル所ヲ國民ニ理解セシメテ、
協力一致セシメルコトコソ、本當ノ擧國
一致ノ意義デナケレバナラヌト私ハ思フ
ノデアリマス、斯ウ云フ點カラ考ヘタ時
ニ、藏相ハ今日ノ如キ複雜難解ノ稅制ヲ
モット單純化シマシテ、サウシテ一目瞭然ト
シテ國民ガ分ルヤウナ稅制改革ヲナサル意
思ハナイノデアリマスカ、賀屋藏相ノ御言
葉ヲ承リマスレバ、今日ノ如ク國民ノ收入
ガ激變シテ居ル時ニ、稅制改革ハ困難デア
ルト云フヤウニ私ハ解釋致スノデアリマス
ガ、若シソレガ藏相ノ眞意デアルトシタナ
ラバ、賀屋藏相ノ下、稅制改革難シト解釋
致シテ宜シイモノデアリマスカドウカ、又
物價ノ問題ニ付テデアリマスルガ、海外ノ
物價ト比較致シマシテ、今日ノ我國ノ物價
ハ、獨リ海外ノ物價ヲ遊離シテ暴騰致シテ
居ル事實ハ數字ノ示ス所デアリマス、卸賣物
價指數ニ於キマシテハ一一割二分、小賣物價
指數ニ於キマシテハ昭和四年六月以降ノ暴
騰ヲ示シテ居ルノデアリマス、此物價騰貴
ハ增稅ヨリモ恐ロシイモノデアリマシテ、
不斷ニ國民ノ生活ニ脅威ヲ與ヘルモノデア
リマスルガ、之ニ對シテモット的確ナル物
價政策ヲオ持チニナッテ居ルカドウカト云
フコトヲ、モット詳細ニ承ッテ見タイノデア
リマス、又今囘ノ增稅ハ必ズ物價騰貴ニ拍
車ヲ掛ケルモノト私ハ解釋致シマス、然ラ
バ此物價騰貴ニ對シテモ、今囘ノ增稅トノ
關係ヲドウ云フ風ニ大藏大臣ハ御考ニナッテ
居ルカ、又若シ此增稅案ガ實施サレマシタ
時ニハ、本年ノ七八月頃ノ日本ノ物價ト云
フモノガ、昨年ノ同月ニ比シマシテドレダ
ケノ物價指數ヲ示シマスコトガ、大藏大臣
トシテハ御滿足ノ數デアルカト云フコトマ
デ、ヨリ能ク御考ニナッテノ增稅案デアル
カドウカト云フコトヲ承リタイ
更ニ物品特別稅ニ付キマシテ、次第々々
ニ其課稅種目ヲ擴大サレテ居リマスルガ、
是ハ軈テ一般的ナ小賣稅ノ創設ニナルノデ
ハナイカト國民ハ懸念致シテ居ルノデアリ
やく、此物品特別稅ト一般的小賣稅トノ範
圍乃至關係ト云フモノヲ明白ニ承リタイノ
デアリマス
次ニ是ハ杞憂ニ過ギナイカモ知レマセヌ
ケレドモ、時局ノ推移ニ依リマシテハサウ
云フコトモ考ヘラレルト思フノデアリマス
ガ、一般ノ消費ノ節約ニ對シマシテ、四十三
主要ナ品目バカリデハナクシテ、一般ノ〓
料品ニ對シマシテモ、ヨリ能ク國民ニ消費
ヲ節約スルト云フ訓練ヲ與ヘル必要ガアル
ノデハナイカト思フノデアリマス、防空演
習ヲ實施シマスヤウニ、一般ノ生活品ニ對
シマシテモ是ト同樣ナ試練ヲ經テ、擧國一
致ノ試練ヲ經テ、消費節約ノ訓練ヲ與ヘル
ヤウナ、ソレ程ヨリ能ク長期戰爭ト云フコ
トヲ御考ニナッテ居ルカドウカト云フコト
ヲ承リタイノデアリマス、簡單デハゴザイ
マスケレドモ、明白ナル御答辯ヲ願ヘレバ
仕合セデアリマス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=27
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028・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 御答申上ゲマ
ス、今囘ノ增稅ハ產業ノ擴充ニ妨害ニハナ
ラナイカ、邪魔ニハナラナイカト云フ意味
ノ御質問デアリマシテ、ソレハ株ニ對スル
課稅ト社債公債等ニ對スル課稅ノ相違カラ
御議論ガアリマシタヤウデアリマスガ、社
債等ニ低イ稅率ヲ盛リマシタノハ、御承知ノ
如ク、昨年ニ於テモ株式ノ拂込ハ非常ニ旺
盛ナノデアリマシタガ、社債ハ非常ニ窮屈
デ出マセヌ狀況デアリマシタ、詰リ社債ノ
方ヲ助長致シマスルノガ只今トシテハ產業
擴充ニ必要デアル、產業擴充ノ爲ニハ株ノ
拂込ノミナラズ、社債ノ出來マスコトガ非
常ニ大切デアリマス、隨テ此社債ヲ比較的
ニ所謂優遇致シマシテ產業擴充ノ目的ヲ達
セントスル一助ニ致シタノデアリマス、公
債ニ付キマシテハ前ニ申上ゲタ通リデアリ
マスシ、又銀行預金等ニ付キマシテモ、是
ガ社債、公債消化ノ源泉デアリマスルノ
デ、只今此貯蓄ヲ奬勵增加スルト云フコト
ガ、惡性「インフレーション」ヲ避ケ、
必要ナル產業ノ擴充、進ンデハ戰費ノ
調辨ニ最モ大切ナルコトデアリマスカ
ラ、只今ノ狀況トシテハ斯ノ如キ處置ヲ
執リマスルコトガ必要デアルト考ヘテ居
ルノデアリマス、尙ホ稅制ガ甚グ複雜デ
アッテ難解デアルト云フ趣旨カラノ御尋ガ
色々アリマシタガ、是ハ御說ノ通リデアリ
マス、只今トシテハ已ムヲ得マセヌ、實
施ニ當リマシテハ、納稅者ノ便宜ニナリマ
スルヤウナ、說明デアリマストカ、稅率一
覽表デアリマスルトカ、サウ云フ考案ハ十
分ニ致シタイト思フノデアリマス、尙ホ增
稅ト物價トノ關係デアリマスルガ、是ハ前
申上ゲマシタヤウニ、物品特別稅或ハ消費
稅ハ其課ケラレマス範圍デ增加スルコトハ、
是ハ已ムヲ得ナイノデアリマスルガ、ソレ
以上ニ此理由デ上リマスルコトハ、國民自
體モ自制ヲ致シマセウシ、又吾々モ十分ニ其
自制ヲ求メル積リデ居ルノデアリマス、
般ノ物價政策ニ付キマシテハ、每々申上ゲ
マス通リ、今後ノ重要ナル政策ノ一ツデア
リマス、基本的ノ需給ノ適合ハ固ヨリ、配
給ノ改善、或ハ最高價格ノ設定、暴利ノ取
締等、是ハ萬全ヲ期スル積リデアリマス、
ソレカラ一般ニ小賣稅ヲ起ス意思ハナイカ
ト云フ御話デアリマスガ、只今サウ云フ考
ハ持チマセヌ、今囘ノ物品稅トノ相違ハ、
是ハ今囘ノハ一定價格以上ノモノ、奢侈的
ト云フ言葉ガ過ギルニ致シマシテモ、相當
負擔力ノアル階級ノ消費致シマス物ニ課ケ
ルト云フコトヲ大體ノ主眼ト致シテ居ルノ
デアリマス、一般ノ小賣稅トハ大分ソコニ
趣ガ違フノデアリマス、尙ホ消費ノ節約ニ
付キマシテハ、我國ハ歐羅巴諸國ト違ヒマ
シテ、戰時ニ於ケル節約ノ政策ニ致シマシ
テモ、經濟上ノ觀點カラ食物關係ノモノヨ
リモ、他ノ軍需品或ハ輸入品ニ主眼ヲ置ク
ベキモノデアラウト存ズルノデアリマス、
經濟政策ノ上カラハ只今ノ狀況ニ於キマシ
テハ、一般的ニ申セバ食物ニ對シテ餘リ消
費節約ヲ强度ニ奬勵スルコトハ、却テ有害
デアラウト存ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=28
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029・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 馬場元治君
〔馬場元治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=29
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030・馬場元治
○馬場元治君 私ハ所謂增稅案ニ關シマシ
テ極メテ簡單ニ政府ノ所見ヲ質シタイト存
ジマス、時局重大ナル折柄國民ハ增稅ハ當
然來ルベキモノトシテ、豫テヨリ今日アル
コトヲ期シテ居ッタノデアリマス、如何ナル
犧牲モ、如何ナル負擔モ、君國ノ爲メ欣然
トシテ之ニ應ゼントスルノ決意ヲ有シテ居ッ
タノデアリマス、ソコデ問題ハ將ニ行ハレ
ントスル增稅ガ國民ノ如何ナル階級、如何
ナル層ニ向ッテ行ハレントスルカ、換言スレ
バ負擔均衡ノ原則ハ如實ニ一貫セラレテ居
ルダラウカ、更ニ此國民ノ犠牲、國民ノ負
擔ニ依ル巨額ノ國費ガ、如何ニ運營セラレ
ントスルカ、此二ツノ問題ガ議論ノ中心ト
ナルベキ問題デアラウト存ジマス、旣ニ同
僚諸君カラ有ユル角度ヨリ議論ガ盡サレマ
シタノデ、私ハ此負擔均衡ノ問題、現行制
度ガ不備デアリ、速ニ中央地方ニ亙ル稅制
ノ根本的改革ヲ致サナケレバナラヌト云フ
コトヲ强ク政府ニ要望致シマシテ、唯簡單
ニ二三ノ點ニ付テ御尋ヲ申上ゲテ見タイト
思ヒマス
第一ニ御尋ヲ申上ゲタイノハ、政府ハ財
產稅ヲ創設ナサル御考ハナイカ、曩ニ行ハ
レヨウト致シマシタ馬場大藏大臣時代ノ稅
制改革ハ、有ユル意味ニ於テ異彩ヲ放ッテ居
リマシタガ、就中特異性ヲ持ッテ居リマシタ
ノハ、其財產稅デアッタヤウニ存ジマス、今
日戰時體制、長期抗戰ト申シテ居リマスル
場合ニ於テ、此蓄積資本ニ對スル課稅、殊
ニ極メテ伸縮性ノアリマスル財產稅ヲ政府
ハ創設ナサル御考ハナイカ、賀屋大藏大臣
ノ御答辯ニ依リマスト、軈テハ事變終結ノ
後ハ稅制改革ヲナサルト云フ御話デアリマ
スガ、左樣ナ長イ將來ヲ待タズシテ、成ベ
ク早イ機會ニ改革ヲ願ヒタイノガ吾々ノ希
望致ス所デアリマスガ、左樣ナル機會ニ財
產稅ヲ創設ナサル御考ハナイモノカ、之ヲ
御尋申上ゲタイノデアリマス
次ニ地方財政調整交付金、此問題ハ同僚
諸君ガ屢〓有ユル角度カラ論議セラレタル問
題デアリマスガ、私ハ違ッタ考へ方デモウ
一度御伺ヲシテ見タイ、ソレハ各派ノ諸君
ノ御意向ハ、地方財政調整交付金ハ更ニ最
低限度五千万圓ダケ增額シテ貰ヒタイ、此
御要求ノヤウニ承ッテ居リマス、ソコデ政
府ノ方デハ各派ノ要求ガ五千万圓程度デア
ルカラ、步ミ寄ッテ三千万圓カ一一千万圓位
ノ增額ニ止メヨウト云フヤウナ御考デア
ルヤウニ漏レ承ッテ居ルノデアリマス、
元來地方財政調整交付金ハ、私共ノ考デ
ハ、町村ニ對スル國家ノ委任事務ト云フ
モノハ洵ニ多端ニ亙ッテ居ル、直言致シ
マスルト、町村ノ事務ノ大部分ト云フモノ
ガ國家ノ委任事務デアルト申シマシテモ過
言デハナイヤウニ私ハ考ヘル、此國家事務
ニ對スル經費ハ國家ニ於テ負擔ヲ致シマス
ルノガ當然ノ筋合デアルト考ヘマス、其委
任事務ニ要スル費用、之ヲ計算致シマスル
ト、凡ソ七億圓見當ニモナラウカト心得
ル、此經費ハ國家ガ支出スルノガ本筋デア
ラウト思ヒマス(拍手)ソコデ五千万圓ト云
フヤウナ、或ハ中庸ヲ取ッテ二千万圓、三千
万圓ト云フヤウナ考ヘ方デナシニ、少クト
モ馬場財政ニ依ッテ明確ニ示サレタル二億九
千万圓、是ダケ位ヲ是非御出シ願ヒタイ(拍
手)通常豫算ガ二十八億圓、戰時追加豫
算ガ四十八億圓、合セマスルト約八十億圓
ニ垂ントスル厖大ナル豫算、是ダケ御出シ
ニナル以上ハ、更ニ二億、三億圓國費ヲ增
シテモ、日本ノ財政經濟ハ大丈夫ト云フコ
トハ、賀屋大藏大臣御證明ノ通リデアリマ
スカラ、此際ハ積極的ニ、發展的ニ、飛躍
シテ、斯ウ云フ方策ヲ御採リニナリマスル
コトガ、啻ニ農村ノ爲メバカリデハナク、
國力ヲ培養シ、民力ノ休養ヲ圖リ、是ガ將
來性ニ對スル耐久力ヲ養ッテ行クト云フコト
ガ何ヨリモ必要デハアルマイカト考ヘマ
ス(拍手)
次ニ御尋申上ゲタイノハ脫稅ノ問題デア
リマス、今日動モ致シマスレバ、不心得者
ガアリマシテ脫稅ヲ圖ラントスル、殊ニ多
額ノ所得ヲ有スル者ニ其傾向ガ强イヤウニ
考ヘル、二重三重ニ帳簿ヲ作製シテ、故意
ニ徵稅ヲ免レントスル、如何ニ國家ガ增稅
ヲ圖リマシテモ、巧ニ脫稅ヲ圖ル者ガ現ハ
レマスレバ、國家ノ收入ノ增加ヲ目的トス
ル增稅計畫ハ根本カラ破壞サレルト私ハ考
ノイ今日吾々ノ子弟ハ或ハ北支ニ或ハ南
支ニ懸命ニ奮鬪致シテ居リマス、血ヲ流シ
骨ヲ埋メテ奮鬪致シテ居ル、此出征將兵諸
君ノ勞苦ヲ考ヘナイデ、私利私慾ニ趨リテ
脫稅ヲ圖ルト云フコトハ、斷ジテ赦ス譯ニ
參ラナイ非國民的行動ダ、是等ニ向ヒマシ
テハ、當然國家ノ膺懲ノ鐵槌ガ下ラナケレ
バナラヌト思ヒマス、稅額ノ二倍若クハ三
倍、ソレヲ增徵スルト云フヤウナ手溫イコ
トデナシニ、其稅ノ由ッテ生ジマスル元本ヲ
悉ク沒收スル、脫稅者ニ對シテハ稅ノ元本
沒收、此位ノ意氣込デ行クコトガ正ニ必要
デナカラウカト考へマス、此點ニ對スル政
府ノ御所見ヲ承リタイノデアリマス
之ニ關聯致シマシテ在外正貨ノ問題ニ付
テ質シテ見タイト思ヒマス、今日ノ在外正
貨ハ資本ノ自然ニ蓄積サレタルモノデハナ
イ、審ロ金融財閥ナドガ、日支事變ノ影響
ヲ受ケマシテ、日本ノ財界ガ急激ナ變動ヲ
受ケル、ソレニ對シテ外國ガ危惧ノ念ヲ懷
キハシナイカト云フコトヲ恐レマシテ、故
ラニ外國ニ蓄積致シマシタノガ、所謂在外
正貨デハアルマイカト心得マス、見方ニ依ッ
テハ一ツノ脫稅デアル、是等ニ對シテハ政
府ガ此際國内ニ還元スル非常手段ヲ御執リ
ニナッテ、之ヲ徵稅ノ對象トシテ好箇ノ財源
ヲ見出スコトガ至當デハアルマイカト考へ
マス、此點ニ對スル政府ノ御意見ヲ承リタ
イ
最後ニ御尋申上ゲタイノハ、此法案ガ其
名ニ於テ示シテ居リマスル通リ、支那事變
特別稅、國民ガ犠牲ヲ拂ヒ負擔ヲ甘受致シ
マスル所以ノモノハ、我國ノ非常時局、今
日ノ國家ノ難局ノ此有樣ニ十分ナル認識ヲ
有シ、何トカシテ國家ニ御奉公致シタイ、
國家ニ寄與致シタイ、斯樣ナ考へ方カラデ
アリマス、一日モ早ク時局ヲ日本ニ有利ニ
解決シタイ、內治、外交、非常ナル關心ヲ
持ッテ居リマス、稅金ヲ納メルニ付テハ-
是ダケノ負擔ヲ致シマスルニ付ニハ、國民
ノ關心ハ一方ナラヌモノガアル、獨リ
財政經濟バカリデハアリマセヌ、殊ニ軍
事外交ニ對シテ非常ナル關心ヲ持ッテ居
ル、ソコデ此機會ニ關聯致シマシテ是非
共御尋ヲ致シタイト思ヒマスノハ、政府
ハ何故ニ彼ノ廣東ヲ攻略ナサラヌカト云
フコトデアリマス、皇軍ハ出征以來連
戰連勝、南京ハ攻メ取リマシタ、晝ハ旗行
列夜ハ提灯行列、全國津々浦々大勝利萬
歲ヲ祝ッタノデアリマス、其時分ニ吾々ハ、
此南京陷落ト時ヲ同ウシ、否時ヲ移サズシ
テ直チニ南ノ方ノ廣東ガ滅茶苦茶ニヤラレ
ルモノデアラウ、其快報ノ來ルコトヲ心私
カニ期待シテ居ッタノデアリマス、所ガ今日
マデ、南京陷落以來約二箇月、未ダニ其事
ガナイ、私ハ是ハ政府ノ首腦部或ハ軍ノ當
局ガ、惡辣陰險傲慢無禮ナ英吉利邊リニ氣
兼ネヲ致サレタ結果、未ダニ廟議決定シナ
イノデハアルマイカト心得マス、今日ハ陸
海軍大臣モ總理大臣モ御居デニナリマセヌ
ガ、國務大臣トシテ何トカ御答ヲ賜リタイ、國
民全體ガ此問題ニ對シテハ耳ヲ「アンテナ」
ノヤウニシテ注意ヲシテ居ル筈デス、
ドウカ、事軍機ニ觸レマスルカモ知レマセ
ヌカラ、或ハ御答ガ出來ヌカモ知レマセス
ケレドモ、兎ニ角國民ガ成程左樣デアルカ
ト云フノデ納得ノ行キマスルヤウナ御答ヲ
賜ルコトガ出來マスレバ幸ニ存ジマス( )
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=30
-
031・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 賀屋大藏大臣
〔國務大臣賀屋興宜君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=31
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032・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 御答ヲ申上ゲマ
ス、財產稅ヲ創設スルノ意思ナキヤト云フ
御尋デアリマスルガ、財產稅ハ理論上相當
理由ノアリマスル稅ト考ヘルノデアリマス
ルガ、併シ一方是ハ所得ニ賦課スルコトナ
クシテ、元本ニ喰込ンデ參リマス關係モア
リマスシ、又增額モ非常ニ多キヲ望ムコト
モ困難デアリマス、徵稅ノ手續ハ非常ナ困
難ガアリマスルノデ、只今財產稅ヲ起スノ
考ハナイノデゴザイマス、地方財政調整交
付金ニ付キマシテハ、是ハ度々申上ゲマス
ヤウニ、只今此案ニ付テ考究中デゴザイマ
ス、尙ホ此時局ニ當ッテ忠勇ナル將兵ガ血ヲ
流シテ國ノ爲ニ奮鬪シテ居ラレル際ニ、脫
稅ヲスルガ如キコトガアッテハ甚ダ不都合
デアルノデ、十分ノ取締ヲ爲スベシト云フ
意味ニ於ケル御質問デアリマスルガ、是ハ
全ク御同感デアリマス、政府ハ苛斂誅求ニ
涉ラザル限リ、此稅法ノ趣旨ヲ遺憾ナク適
用致シマシテ、脫稅ノヤウナコトガ無イヤ
ウニ相努メマス考デアリマス、尙ホ民間ノ
法人個人ノ在外資金ノ聞題デアリマスル
ガ、是ハ或ル程度外國ニ在リマスルコトハ、
我國ノ貿易其他ノ國際事業ノ上ニ於キマシ
テ、極メテ必要デアリマスルノミナラズ、
是ガ相當額存在致シマスルト云フコトガ、
國際收支ノ調節ノ上ニ於テモ必要ナノデア
リマス、尙ホ是ガ國民負擔ノ關係カラ申シ
マスレバ、所得稅ハ之ニハ賦課セラレテ居
ルノデアリマス、外地ニ於テ各種ノ稅金ヲ
課セラレテ居リマシテ、或ハ二重課稅ニモ
ナルヤウナ場合ガアル位ナノデアリマシ
テ、國民負擔ノ上ヨリ、特ニ是ガ課稅ヲ免
レテ居ルト云フコトハナイノデアリマス、
尙ホ此事變ニ付キマシテ、外交軍事等ノコ
トニ付キテ御尋ガアリマシタガ、是ハ他ノ
國務大臣ヨリ御答辯申上ゲマシタル如ク、
東洋ニ於ケル日支ノ關係立場ヲ十分ニ諒解ヲ
致シテ居リマスル眞摯ナ政權ノ成立ヲ期待
致シテ居リマシテ、日滿支提携ヲシテ、眞
ニ極東平和ノ基礎ヲ固メタイト云フ、其事
變ノ目的ヲ達スル爲ニハ、政府ハ萬全ノ策
ト最大ノ努力ヲ致スコトハ申上ゲル迄モナ
イノデアリマス、唯軍事行動等ノ具體的ノ
コトニ付キマシテハ、是ハ御答ノ限リデナ
イノデアリマスルカラ、左樣御承知ヲ願ヒ
タイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=32
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033・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 是ニテ質疑ハ終了
致シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=33
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034・服部崎市
○服部崎市君 日程第一乃至第四ノ四案ハ
一括シテ政府提出臨時租稅增徵法中改正法
律案外七件委員ニ併セ付託セラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=34
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035・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 服部君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=35
-
036・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 御異議ナシト認メ
マく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=36
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037・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此際日程第六及ビ第七
ノ兩案ヲ繰上ゲ一括上程シ、其審議ヲ進メ
ラレムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=37
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038・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 服部君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=38
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039・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第六、重要鑛物增產法案、日程第七、
日本產金振興株式會社法案、右兩案ヲ一括
シテ第一讀會ヲ開キマス-商工政務次官
木暮武太夫君
第六重要鑛物增產法案(政府提出)
第一讀會
第七日本產金振興株式會社法案(政
府提出)第一讀會
重要鑛物增產法案
重要鑛物增產法
第一條本法ニ於テ重要鑛物トハ金鑛、
銀鑛、銅鑛、鉛鑛、錫鑛、安質母尼鑛、
水銀鑛、亞鉛鑛、鐵鑛、硫化鐵鑛、格
魯謨鐵鑛、滿俺鑛、重石鑛、水鉛鑛、ニツ
ケル鑛、コバルト鑛、石炭、亞炭、硫
黄、砂金、砂鐵、砂錫其ノ他勅令ヲ以
テ指定スル鑛物ヲ謂フ
本法ニ於テ鑛業權者トハ砂鑛權者ヲ、
鑛業權トハ砂鑛權ヲ、鑛區トハ砂鑛區
ヲ含ム
第二條政府重要鑛物ノ增產ヲ圖ル爲必
要アリト認ムルトキハ重要鑛物ヲ目的
トスル鑛業權者ヲシテ事業計畫ヲ定メ
之ヲ屆出ヅベキコトヲ命ズルコトヲ得
鑛業權者前項ノ命令ニ依リ屆出デタル
事業計畫ヲ變更セントスルトキハ之ヲ
政府ニ屆出ヅベシ
政府必要アリト認ムルトキハ前二項ノ
事業計畫ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第三條政府重要鑛物ノ增產ヲ圖ル爲必
要アリト認ムルトキハ重要鑛物ヲ目的
トスル鑛業權者ニ對シ事業ニ著手シ又
ハ事業ヲ繼續スベキコトヲ命ズルコト
ヲ得
第四條重要鑛物ノ增產ヲ圖ラントスル
者ハ之ガ爲必要トスル鑛業權ノ讓渡又
ハ隣接鑛區トノ間ノ鑛區ノ增減ニ付當
該鑛業權者ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依
リ協議ヲ爲スコトヲ得
前項ノ協議ヲ爲スコト能ハズ又ハ協議
調ハザルトキハ重要鑛物ノ增產ヲ圖ラ
ントスル者ハ當該事項ニ付政府ノ裁定
ヲ申請スルコトヲ得
第五條政府重要鑛物ノ增產ヲ圖ル爲必
要アリト認ムルトキハ鑛業權ノ讓渡又
ハ隣接鑛區トノ間ノ鑛區ノ增減ニ付當
該鑛業權者ニ對シ重要鑛物ノ增產ヲ圖
ラントスル者ト協議ヲ爲スベキコトヲ
命ズルコトヲ得
鑛業權者前項ノ協議ヲ爲サズ若ハ爲ス
コト能ハズ又ハ協議調ハザルトキハ政
府ハ當該事項ニ付必要ナル決定ヲ爲ス
コトヲ得
第六條第四條第二項ノ規定ニ依ル申請
アリタルトキ又ハ前條第一項ノ規定ニ
依ル命令アリタルトキハ當該鑛業權者
ハ其ノ申請ヲ拒否スル旨ノ裁定アル迄
又ハ第十條第二項ノ規定ニ依リ裁定若
ハ決定ガ其ノ效力ヲ失フ時期迄當該鑛
業權ヲ讓渡シ又ハ當該鑛區ノ分合、減區
若ハ增減區ノ出願ヲ爲スコトヲ得ズ
第七條政府鑛業權ヲ讓渡シ又ハ隣接鑛
區トノ間ノ鑛區ノ增減ヲ爲ス旨ノ裁定
又ハ決定ヲ爲ストキハ其ノ裁定又ハ決
定ニ於テ鑛業權者ニ支拂フベキ對價及
其ノ支拂ノ時期ヲ定ムルコトヲ要ス
第八條裁定又ハ決定中對價ニ付不服ア
ル者ハ其ノ裁定又ハ決定ノ通知ヲ受ケ
タル日(裁定又ハ決定ノ通知ヲ受ケザ
ル者ニ付テハ其ノ公示ノ日)ヨリ三十
日以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ
得
第九條左ニ揭グル場合ニ於テハ對價ヲ
支拂フベキ者ハ其ノ對價ヲ供託スルコ
トヲ要ス
-對價ヲ受クベキ者ガ其ノ受領ヲ拒
ミタルトキ又ハ之ヲ受領スルコト能
ハザルトキ
二裁定又ハ決定中對價ニ付前條ノ規
定ニ依ル出訴アリタルトキ
三鑛業權ニ付抵當權ノ設定アルトキ
但シ抵當權者ノ同意ヲ得タルトキハ
此ノ限ニ在ラズ
前項第三號ノ場合ニ於テハ抵當權者ハ
供託金ニ對シテモ其ノ權利ヲ行フコト
ヲ得
第十條對價ヲ支拂フベキ者裁定又ハ決
定ニ於テ定メタル對價支拂ノ時期迄ニ
對價ノ全部ノ支拂又ハ供託ヲ爲サザル
トキハ鑛業權者ハ對價ヲ支拂フベキ者
ニ對シ六十日ヲ下ラザル一定ノ期間內
ニ其ノ支拂又ハ供託ヲ爲スベキ旨ヲ催
告スルコトヲ得
前項ノ期間內ニ支拂又ハ供託ナキトキ
ハ裁定又ハ決定ハ其ノ效力ヲ失フ
第十一條裁定又ハ決定ニ依ル對價ノ全
部ノ支拂又ハ供託アリタルトキハ政府
ハ鑛業權ノ移轉又ハ變更ノ登錄ヲ爲ス
鑛業權者對價ノ全部又ハ一部ノ支拂ニ
付延期ヲ承諾シタルトキ亦前項ニ同ジ
此ノ場合ニ於テ政府ハ對價ノ支拂ヲ受
クル權利ヲ有スル者ノ爲移轉又ハ變更
アリタル鑛業權ニ付抵當權設定ノ登錄
マヨク、
第十二條第四條乃至第十條ノ規定ハ鑛
業權ノ讓渡又ハ隣接鑛區トノ間ノ鑛區
ノ增減ニ伴ヒ必要ナル事業設備ノ讓渡
ニ之ヲ準用ス但シ第九條中抵當權トア
ルハ登記シタル擔保權、抵當權者トア
ルハ擔保權者トス
事業設備ヲ讓渡スル旨ノ裁定又ハ決定
アリタルトキハ其ノ權利ハ裁定又ハ決
定ニ依ル對價ノ全部ノ支拂又ハ供託ア
リタル時移轉ス
第十三條本法ニ規定スルモノノ外裁定
又ハ決定ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第十四條第四條第二項ノ規定ニ依ル裁
定又ハ第五條第二項ノ規定ニ依ル決定
ニ依リ鑛業權ヲ取得シ又ハ鑛區ヲ增區
セラレタル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
事業計畫ヲ定メ政府ノ認可ヲ受クベシ
之ヲ變更セントスルトキ亦同ジ
政府必要アリト認ムルトキハ前項ノ事
業計畫ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第十五條鑛業權者前條第一項ノ規定ニ
違反シ認可ヲ受ケザル事業計畫ヲ實施
シ又ハ同條第二項ノ規定ニ依ル命令ニ
違反シ事業計畫ヲ變更セズシテ之ヲ實
施シタルトキハ政府ハ鑛業權ヲ取消ス
コトヲ得
第十六條政府重要鑛物ノ增產ヲ圖ル爲
必要アリト認ムルトキハ重要鑛物ヲ目
的トスル鑛業權者ニ對シ事業設備ノ新
設、擴張若ハ改良ヲ命ジ又ハ作業方法
若ハ作業用品ノ規格ニ關シ必要ナル事
項ヲ命ズルコトヲ得
政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ規
定ニ依リ爲シタル命令ニ因リ生ジタル
損失ヲ補償ス
第十七條政府ハ重要鑛物ヲ目的トスル
鑛業權者ニ對シ其ノ業務及財產ノ狀況
ニ關シ報〓ヲ爲サシメ又ハ帳簿書類其
ノ他ノ物件ノ檢査ヲ爲スコトヲ得
政府ハ重要鑛物ヲ目的トスル鑛業權者
ニ對シ其ノ業務及會計ニ關シ監督上必
要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコト
ヲ得
第十八條本法ニ依リ爲シタル手續其ノ
他ノ行爲ハ鑛業權者ノ承繼人ニ對シテ
モ其ノ效力ヲ有ス
第十九條政府第四條第二項(第十二條
第一項ノ規定ニ依リ準用スル場合ヲ含
ム)ノ規定ニ依ル裁定、第五條第二項
(第十二條第一項ノ規定ニ依リ準用ス
ル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル決定、第
十六條第一項ノ規定ニ依ル命令又ハ同
條第二項ノ規定ニ依ル補償ヲ爲サント
スルトキハ重要鑛物委員會ノ議ヲ經ベ
シ
重要鑛物委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第二十條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ
二千圓以下ノ罰金ニ處ス
-第二條第一項ノ規定ニ依ル命令若
ハ同條第二項ノ規定ニ違反シ事業計
畫ノ屆出ヲ怠リ又ハ屆出デタル事業
計畫ヲ實施セザル者
二第二條第三項ノ規定ニ依ル命令ニ
違反シ事業計畫ヲ變更セズシテ之ヲ
實施シタル者
三第三條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ
タル者
四第十四條第一項ノ規定ニ違反シ認
可ヲ受ケザル事業計畫ヲ實施シタル
者
五第十四條第二項ノ規定ニ依ル命令
ニ違反シ事業計畫ヲ變更セズシテ之
ヲ實施シタル者
六第十六條第一項ノ規定ニ依ル命令
ニ違反シタル者
第二十一條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
ー第十七條第一項ノ規定ニ依ル報〓
ヲ怠リ又ハ虚僞ノ報〓ヲ爲シタル者
二第十七條第一項ノ規定ニ依ル檢査
ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
三第十七條第二項ノ規定ニ依ル命令
又ハ處分ニ違反シタル者
第二十二條法人ノ代表者又ハ法人若ハ
人ノ代理人、使用人其ノ他ノ從業者ガ其
ノ法人又ハ人ノ業務ニ關シ第二十條又
ハ前條第一號若ハ第三號ノ違反行爲ヲ
爲シタルトキハ行爲者ヲ罰スルノ外其ノ
法人又ハ人ニ對シ亦前二條ノ刑ヲ科ス
第二十三條金鑛及砂金ニ關シテハ第二
條、第三條、第十六條及第十七條ノ規
定ハ之ヲ適用セズ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ施行後五年間ヲ限リ其ノ效力ヲ有
ス
本法失效ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ
勅令ヲ以テ之ヲ定ム
日本產金振興株式會社法案
日本產金振興株式會社法
第一章總則
第一條日本產金振興株式會社ハ產金事
業ノ振興ヲ圖ル爲必要ナル事業ヲ營ム
コトヲ目的トスル株式會社トス
第二條日本產金振興株式會社ハ其ノ本
店ヲ東京市ニ、支店ヲ京城府ニ置ク
日本產金振興株式會社ハ前項ノ外政府
ノ認可ヲ受ケ支店又ハ出張所ヲ設クル
コトヲ得
第三條日本產金振興株式會社ノ資本
ハ五千萬圓トシ內二千五百萬圓ハ政府
ノ出資トス
日本產金振興株式會社ハ政府ノ認可ヲ
受ケ其ノ資本ヲ增加スルコトヲ得
第四條日本產金振興株式會社ハ株金全
額拂込前ト雖モ其ノ資本ヲ增加スルコ
トヲ得
第五條日本產金振興株式會社ノ株式ハ
記名式トシ政府、公共團體、帝國臣民
又ハ帝國法人ニ限リ之ヲ所有スルコト
ヲ得
第六條日本產金振興株式會社ノ存立期
間ハ設立登記ノ日ヨリ三十年トス但シ
政府ノ認可ヲ受ケ之ヲ延長スルコトヲ
得
第七條日本產金振興株式會社ニ非ザル
モノハ日本產金振興株式會社又ハ之ニ
類似ノ名稱ヲ以テ其ノ商號ト爲スコト
マヨン
第二章役員
第八條日本產金振興株式會社ニ社長副
社長各一人、理事三人以上及監事二人
以上ヲ置ク
第九條社長ハ日本產金振興株式會社ヲ
代表シ其ノ業務ヲ總理ス
副社長ハ社長事故アルトキハ其ノ職務
ヲ代理シ社長缺員ノトキハ其ノ職務ヲ
行フ
副社長及理事ハ社長ヲ補助シ日本產金
振興株式會社ノ業務ヲ分掌ス
監事ハ日本產金振興株式會社ノ業務ヲ
監査ス
第十條社長及副社長ハ政府之ヲ命ジ其
ノ任期ヲ四年トス
理事ハ株主中ヨリ株主總會ニ於テ二倍
ノ候補者ヲ選擧シ政府其ノ中ヨリ之ヲ
命ジ其ノ任期ヲ三年トス
監事ハ株主中ヨリ株主總會ニ於テ之ヲ
選任シ其ノ任期ヲ二年トス
第十一條社長、副社長及理事ハ他ノ職務
又ハ商業ニ從事スルコトヲ得ズ但シ政
府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在
ラズ
第三章營業
第十二條日本產金振興株式會社ハ左ノ
事業ヲ營ムモノトス
金鑛ヲ目的トスル鑛業若ハ砂金ヲ
目的トスル砂鑛業(以下金鑛業ト總
稱ス)、金製鍊業又ハ金鑛業若ハ金製
鍊業ノ用ニ供スル器具機械類ノ製造
業ニ對スル資金ノ融通又ハ投資
二金鑛業又ハ金製鍊業
三金鑛業又ハ金製鍊業ノ爲必要ナル
器具、機械、材料又ハ設備ノ賣買
四含金鑛產物ノ賣買
五委託ニ依ル金鑛山ニ關スル調査又
ハ鑑定
日本產金振興株式會社ハ政府ノ認可ヲ
受ケ前項ノ事業ノ外本會社ノ目的達成
上必要ナル諸事業ヲ營ムコトヲ得
第十三條日本興業銀行、朝鮮殖產銀行
又ハ東洋拓殖株式會社ハ前條第一項第
一號ノ事業ニ關シ日本產金振興株式會
社ノ業務ノ一部ヲ代理スルコトヲ得
日本產金振興株式會社前項ノ銀行又ハ
會社ヲシテ業務ノ一部ヲ代理セシメン
トスルトキハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第四章產金振興債劵
第十四條日本產金振興株式會社ハ拂込
ミタル株金額ノ五倍ヲ限リ產金振興債
劵ヲ發行スルコトヲ得
產金振興債劵ヲ發行スル場合ニ於テハ
商法第二百九條ニ定ムル決議ニ依ルコ
トヲ要セズ
第十五條產金振興債劵ヲ發行セントス
ル場合ニ於テハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第十六條政府ハ產金振興債券ノ元本ノ
償還及利息ノ支拂ニ付保證スルコトヲ得
第十七條產金振興債劵ハ無記名式トス
但シ應募者又ハ所有者ノ請求ニ因リ記
名式ト爲スコトヲ得
第十八條產金振興債劵ノ所有者ハ日本
產金振興株式會社ノ財產ニ付他ノ債權
者ニ先チテ自己ノ債權ノ辨濟ヲ受クル
權利ヲ有ス
第十九條日本產金振興株式會社ハ社債
借換ノ爲一時第十四條ノ制限ニ依ラズ
產金振興債劵ヲ發行スルコトヲ得此ノ
場合ニ於テハ發行後一月以內ニ其ノ社
債總額ニ相當スル舊產金振興債劵ヲ償
還スベシ
第五章準備金
第二十條日本產金振興株式會社ハ每營
業年度ニ準備金トシテ資本ノ缺損ヲ補
フ爲利益金額ノ百分ノ八以上ヲ積立テ
且利益配當ノ平均ヲ得シムル爲利益金
額ノ百分ノ二以上ヲ積立ツベシ
第六章監督及助成
第二十一條政府ハ日本產金振興株式會
社ノ業務ヲ監督ス
第二十二條日本產金振興株式會社借入
金ヲ爲サントスルトキハ政府ノ認可ヲ
受クベシ
第二十三條定款ノ變更、利益金ノ處分、
合併及解散ノ決議ハ政府ノ認可ヲ受ク
ルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第二十四條日本產金振興株式會社ハ每
營業年度ノ事業計畫ヲ定メ政府ノ認可
ヲ受クベシ之ヲ變更セントスルトキ亦
同ジ
第二十五條政府ハ日本產金振興株式會
社ノ業務ニ關シ監督上又ハ產金事業ノ
振興上必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第二十六條政府ハ日本產金振興株式會
社監理官ヲ置キ日本產金振興株式會社
ノ業務ヲ監視セシム
第二十七條日本產金振興株式會社監理
官ハ何時ニテモ日本產金振興株式會社
ノ金庫、帳簿及諸般ノ文書物件ヲ檢査
スルコトヲ得
日本產金振興株式會社監理官必要ト認
ムルトキハ何時ニテモ日本產金振興株
式會社ニ命ジ業務ニ關スル諸般ノ計算
及狀況ヲ報告セシムルコトヲ得
日本產金振興株式會社監理官ハ株主總
會其ノ他諸般ノ會議ニ出席シ意見ヲ陳
述スルコトヲ得
第二十八條政府日本產金振興株式會社
ノ決議又ハ役員ノ行爲ガ法令、法令ニ
基キテ爲ス處分若ハ定款ニ違反シ又ハ
公益ヲ害スト認ムルトキハ其ノ決議ヲ
取消シ又ハ役員ヲ解任スルコトヲ得
第二十九條日本產金振興株式會社ハ每
營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金
額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂
込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ四ノ割
合ニ達スル迄政府ノ所有スル株式ニ對
シ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ要セズ
第三十條日本產金振興株式會社ノ每營
業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額
ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込
ミタル株金額ニ對シ年百分ノ四ノ割合
ニ達セザルトキハ政府ハ初營業年度及
爾後五年間ヲ限リ之ニ達セシムベキ金
額ヲ補給スベシ但シ其ノ額ハ初營業年
度ヲ除キ每營業年度ニ於テハ政府以外
ノ者ノ所有スル株式ノ拂込ミクル株金
額ニ對シ年百分ノ四ノ割合ニ相當スル
額及當該營業年度ニ於テ支拂ヒタル產
金振興債劵ノ利息額ノ合計額ヲ超ユル
コトヲ得ズ
每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益
金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ
拂込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ四ノ
割合ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ハ先
ヅ之ヲ前項ノ規定ニ依ル補給金ノ償還
ニ充ツベシ
初營業年度及爾後五年間ニ於ケル配當
シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所
有スル株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ
年百分ノ四ノ割合ヲ超過スルトキハ其
ノ二分ノ一ヲ配當準備ノ爲別ニ積立ツ
ベシ
第二項ノ規定ニ依リ補給金ヲ償還シ尙
殘餘アリタルトキハ之ヲ前項ノ拂込ミ
タル株金額ニ對シ年百分ノ四ノ割合ヲ
超過シタル當該營業年度ノ利益金ト看
做ス
前二項ノ規定ニ依ル積立金ハ後營業年
度ニ於ケル第一項ノ規定ニ依ル補給金
ノ計算ニ付テハ之ヲ配當シ得ベキ利益
金ト看做ス
第三十一條日本產金振興株式會社ノ每
營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金
額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂
込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ四ノ割
合ヲ超過スル場合ニ於テ政府以外ノ所
有スル株式ニ對シ年百分ノ四ノ割合ヲ
超エ利益配當ヲ爲サントスルトキハ其
ノ超過スル利益金額ハ利益配當ガ總株
式ニ付拂込ミタル株金額ニ對シ均一ノ
割合ニ達スル迄政府以外ノ者ノ所有ス
ル株式ノ拂込ミタル株金額政府ノ所有
スル株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ一
ト五トノ割合ヲ以テ之ヲ配當スベシ
第三十二條日本產金振興株式會社ニハ
開業ノ年及其ノ翌年ヨリ十年間所得稅
及營業收益稅ヲ免除ス
第三十三條北海道、府縣及市町村其ノ
他之ニ準ズベキモノハ前條ノ期間日本
產金振興株式會社ノ事業ニ對シ地方稅
ヲ課スルコトヲ得ズ但シ特別ノ事情ニ
基キ政府ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ
限ニ在ラズ
第七章罰則
第三十四條日本產金振興株式會社左ノ
各號ノ一ニ該當スルトキハ社長又ハ社
長ノ職務ヲ行ヒ若ハ代理スル副社長ヲ
百圓以上二千圓以下ノ過料ニ處ス副社
長又ハ理事ノ分掌業務ニ係ルトキハ副
社長又ハ理事ヲ過料ニ處スルコト亦同
ジ
ー本法ニ依リ認可ヲ受クベキ場合ニ
於テ其ノ認可ヲ受ケザルトキ
二第十二條ノ規定ニ依ラズシテ業務
ヲ營ミタルトキ
三第十四條ノ規定ニ違反シ產金振興
債劵ヲ發行シタルトキ
四第十九條ノ規定ニ違反シ產金振興
債劵ノ償還ヲ爲サザルト
五第二十五條ノ規定ニ基キテ爲シタ
ル命令ニ違反シタルトキ
第三十五條日本產金振興株式會社ノ社
長、副社長及理事第十一條ノ規定ニ違
反シタルトキハ二十圓以上二百圓以下
ノ過料ニ處ス
第三十六條第七條ノ規定ニ違反シタル
者ハ十圓以上百圓以下ノ過料ニ處ス
第三十七條非訟事件手續法第二百六條
乃至第二百八條ノ規定ハ前三條ノ過料
ニ之ヲ準用ス
附則
第三十八條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第三十九條政府ハ設立委員ヲ命ジ日本
產金振興株式會社ノ設立ニ關スル一切
ノ事務ヲ處理セシム
第四十條設立委員ハ定款ヲ作成シ政府
ノ認可ヲ受クベシ
第四十一條前條ノ認可アリタルトキハ
設立委員ハ株式總數ヨリ政府ニ割當ツ
ベキ株式ヲ控除シタル殘餘ノ株式ヲ募
集スベシ
第四十二條株式申込證ニハ定款認可ノ
年月日竝ニ商法第百二十六條第二項第
二號、第四號及第五號ニ規定スル事項
ヲ記載スベシ
第四十三條設立委員株主ノ募集ヲ終リ
タルトキハ株式申込證ヲ政府ニ提出シ
其ノ檢査ヲ受クベシ
第四十四條設立委員ハ前條ノ檢査ヲ受
ケタル後遲滯ナク各株ニ付第一囘ノ拂
込ヲ爲サシムベシ
前項ノ拂込アリタルトキハ設立委員ハ
暹滯ナク創立總會ヲ招集スベシ
第四十五條創立總會ニ於テハ第十條ノ
規定ニ準ジ理事候補者ノ選擧及監事ノ
選任ヲ行フベシ
第四十六條創立總會終結シタルトキハ
設立委員ハ其ノ事務ヲ日本產金振興株
式會社社長ニ引渡スベシ
第四十七條本法施行ノ際日本產金振興
株式會社又ハ之ニ類似ノ名稱ヲ以テ商
號ト爲ス會社ハ本法施行後六月以內ニ
其ノ商號ヲ變更スルコトヲ要ス
第三十六條ノ規定ハ前項ノ期間內之ヲ
前項ニ揭グル者ニ適用セズ
第四十八條登錄稅法第六條第一項第十
一號中「又ハ燃料興業債劵」ヲ「燃料興
業債劵又ハ產金振興債劵」ニ改ム
第四十九條金資金特別會計法第四條中
「又ハ國債」ヲ「、國債、產金振興債劵又
ハ總額二千五百萬圓ヲ限リ日本產金振
興株式會社株式」ニ改ム
〔政府委員木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=39
-
040・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 只今議題ト相
成リマシタ重要鑛物增產法案ニ付テ提出ノ
理由ヲ御說明申上ゲマス、申ス迄モナク鑛
物資源ハ國防上、產業上最モ重要ナルモノ
デゴザイマシテ、是ガ增產ヲ圖ルコトハ
現下ノ時局ニ於テ極メテ緊要ノコトデアル
ノデアリマス、從來重要ナル鑛物ニシテ、
其大部分ノ供給ヲ外國カラノ輸入ニ仰イデ
居ッタモノモ少クナイノデゴザイマスルガ、
幸ナコトニハ我國ニ於キマシテハ、是等ノ
鑛物ハ尙ホ相當地下ニ埋藏セラレテ居ルコ
トガ、從來ノ調査ナドニ依リマシテ、略、、想
像ガ出來ルノデゴザイマス、ソコデ本法案
ハ斯ル見地カラ、是等ノ鑛物ノ增產ヲ圖ル
コトヲ目的トスルモノデゴザイマシテ、其
手段トシテ、先ツ現在鑛業權ヲ持チナガラ、
徒ニ其權利ノ上ニ眠ッテ居リマスル所ノ、所
謂睡眠鑛區ノ權利者ニ其權利ノ行使ヲ促シ、
又ハ錯雜併在シテ居リマスル鑛區ノ整理ヲ
促進セシメマシテ、或ハ重要鑛物ヲ目的ト
スル鑛業權者ニ對シテ、其開發ニ關スル事
業計畫ヲ屆出デシムルト共ニ、更ニ進ミマ
シテハ必要ニ應ジテ增產ニ關スル施設ニ付
テ、適切ナル措置ヲ講ジヨウトスルモノデ
ゴザイマス、本法律案ニ於キマシテハ、他
方抵當權者ノ利益等モ十分ニ考慮致シマシ
テ、又權利關係ノ重要事項、竝ニ增產ニ關
スル施設命令等ニ付キマシテハ、特ニ官民
有識者ヲ以テ組織スル重要鑛物委員會ヲ作
リマシテ、此委員會ニ付議スルコトト致シ、
以テ法ノ運用ノ適正ヲ期スルコトニ致ス
考デゴザイマス、本法律案ニ規定シテ居リ
マスル所ノ色々ノ條項ハ、〓ネ現行鑛業法
規ニ密接ナル關係ヲ有チマシテ、其中ニ規
定シテ然ルベキモノモアルヤニ考ヘラルヽ
部分モ少クナイノデゴザイマスルガ、御承
知ノ通リ現行鑛業法ノ一般的改正ハ、目下
商工省デ調査委員會ヲ設ケテ、著々〓究ヲ
進メテ居ル次第デアリマスルノデ、其邊ト
ノ關係ヲ考慮致シマシテ、本法律案ハ其施
行期日ヲ五年間ト致シマシタ次第デゴザイ
マス、何卒御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレン
コトヲ切望致シマス
次ニ只今議題トナリマシタ日本產金振
興株式會社法案ノ提案ノ趣旨ヲ御說明申
上ゲマス、我國ニ於キマシテ金增產ノ必
要ナコトハ、玆ニ事新シク申述べル必要
モナイノデゴザイマシテ、政府ニ於キマ
シテハ昭和七年以來、種々產金事業ノ奬
勵助長策ヲ行ッテ參リマシテ、更ニ前々議會、
卽チ第七十一帝國議會ニ於テハ一層金
ノ增產奬動施設ヲ擴充スルト共ニ、產金
法ヲ制定致シマシタコトハ、旣ニ御承知
ノ通リデアリマス、幸ヒ我國ノ產金額ハ近
年順調ナル增加ヲ示シツヽアルノデアリマ
スルガ、金ノ增產ハ我ガ國策ノ遂行上今後
愈〓其重要性ヲ加フルモノデアリマスルカラ、
政府ニ於キマシテモ是ガ爲ニハ尙ホ一層ノ
努力ヲ致シタイト考ヘルノデゴザイマス、ソ
コデ此際產金事業ノ振興ヲ圖リマス爲ニ、
半官半民ノ日本產金振興株式會社ヲ設立致
シマシテ、特ニ本事業ニ對シマシテ、必要
ナル資金ヲ潤澤ニ供給シ得ルノ途ヲ開キ、
又低品位ノ鑛石ノ處理ヲ促シマシテ其他
金ノ增產上必要ナル色々ノ助成的事業ヲ行
ハシメタイト存ズルノデゴザイマス、本法
案ハ右會社ノ設立ニ關スルモノデゴザイマ
ス、何卒御審議ノ上御協贊アランコトヲ希
望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=40
-
041・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 質疑ノ通〓ガアリ
やく、順次之ヲ許シマス-高橋壽太郞君
〔髙橋壽太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=41
-
042・高橋壽太郎
○高橋壽太郞君 只今御上程ニナリマシタ
重要鑛物增產法案ニ關シ、商工、鐵道兩當
局ニ御尋シタイト思ヒマス、私ノ質問ノ順
序ハ、先ヅ國防上竝ニ國際收支ノ均衡上カ
ラ、如何ニ重要鑛物增產ガ必要デアルカト
云フコトヲ申述べ、次イデ其見地ニ立ッテ本
法案ヲ檢討シ、最後ニ私ノ質問事項ヲ列擧
シテ質問ヲ終リタイト存ジマス
先ヅ國防上ノ見地カラ申シマスレバ、我
國ガ軍用器材ノ原料トナルベキ金屬資源ニ
乏シイ爲ニ、其大部分ヲ海外カラノ輸入ニ
仰イデ居ルト云フコトハ、洵ニ國防上ノ弱
點デアリマス、例ヘバ鐵ニ付テ申上ゲテ見
マスルト、我國ノ製鐵ハ自給自足ノ域ニ達
シタト豪語シテ居リマスケレドモ、其製鐵
原料ノ大半ヲ國外ニ仰イデ居ル狀況デアリ
マシテ、極端ニ之ヲ批評シタナラバ、根ノ
ナイ花ヲ生ケテ喜ブト言ッタヤウナ嫌ヒガ
アルノデアリマス、今囘ノ事變ニ於キマシ
テ、幸ニ製鐵原料タル屑鐵ハ或ル數量ヲ輸
入シ得タヤウデアリマスケレドモ、鐵鑛石
ノ方ニ相成リマスルト、餘程輸入ノ困難ガ
伴ッテ居ルヤウニ見受ケラレルノデアリマ
ス、卽チ事件以來揚子江方面ヨリスル、大
冶其他ノ鐵山カラ持ッテ參リマスル鐵鑛石
ハ、全ク輸入杜絕デアリマス、而シテ南洋
方面カラ舶載スル所ノモノ、殊ニ其大部分
ヲ受持ッテ居ル所ノ馬來半島カラスルモノ
ガ、最近ニ至ッテ甚シク激減シ、事變前ノ一
割程度ニナックト云フコトヲ、最近ノ新聞紙
ハ報ジテ居リマス、洵ニ製鐵原料タル屑鐵
六割、鐵鑛石ノ八割ヲ海外ニ仰イデ居ルト
云フ日本ハ、此時局ニ際會シテ深憂禁スベ
カラザルモノガアルノデアリマス、新聞紙
ノ報ズル所ニ依レバ、馬來方面ヨリスル鐵
輸入ノ激減ハ、支那勞働者ノ罷業ニ基クモ
ノナリト傳ヘテ居リマスガ、或ハ恐ル、某
國ガ豫テ企圖シテ居ル所ノ經濟封鎖ノ一端
ガ、玆ニ現レタノデハナイカト思ハレルノ
デアリマス、固ヨリ我國ト致シマシテ
モ、有事ノ際ニ備フル爲メ相當ノ鐵鑛石ノ
積置量ハアリマス、隨テ現下ノ情勢ニ於テ
取敢ズノ手當ニ事缺クコトハアリマスマイ
ガ、ソレトテモ當テニシテ居ッタ鑛石ガ入ッ
テ來ナイト云フコトハ、相當ノ打擊デアラ
ウト思ヒマス、漸次是ガ進ンデ參リマス
ト、或ハ鐵飢饉等ヲ招來スルヤウナコトニ
ナラヌトモ限リマセヌ、先程モ商工政務次
官カラノ御說明ガアリマシタガ、我國ハ鐵資
源ニハ乏シイトハ申シナガラ、四〇%程度ノ
貧鑛デアルナラバ、幾千万瓲、幾億万瓲ヲ
埋藏シテ居ルト思ヒマス、富鑛ハ甚ダ其量
ガ少イヤウデアリマスガ、ソレデモ全國所々
ニ幾十万瓲、或ハ一、三百万瓲程度ノ埋藏
量ガアルコトハ確カデアリマス、政府ニ遠キ
慮リガアッタナラバ、平時ニ於テ是ガ開發利
用ノ途ヲ講ジテ居ラレル筈デアリマス、況
ヤ我國ノ砂鐵ノ埋藏量ノ如キハ幾億瓲ト
モ稱セラレル程無盡藏ナモノデアリマス、
此砂鐵開發利用ハ、實ニ國防上ノ見地カラ
申シマスレバ、一日ノ緩怠ヲ許サナイノデ
アリマスガ、歷代ノ內閣ノ之ニ對スル熱意
ガ甚ダ乏シカッタコトハ、此時局ニ於テ私
ハ殊更遺憾ノ念ニ打タレルノデアリマス、
殊ニ砂鐵カラ精鍊シタ鐵、銅ハ特ニ良質ノ
モノデアリマスガ故ニ、砂鐵開發、利用
ノ結果ハ、延イテ機械工業、精密工業等ノ
重工業方面ニ一生面ヲ開イタデアラウト存
ズルノデアリマス、又政府ノ一部ニハ製
鐵原料ノ如キハ之ヲ海外ニ仰ギ、國內ノ資
源ハ有事ノ際ニ備フル爲ニ、之ヲ保留スベキ
モノナリトノ說ヲ爲ス人ガアッタノデアリ
マス、現ニ昨年ノ製鐵事業法ノ委員會ニ於
テ、商工大臣ハサウ云フ意味ノ說明ヲナサ
レタノデアリマス、併ナガラ是ガ甚シキ謬
論デアルコトハ、今囘ノ事變ガ立證シテ餘
ス所ガナイノデアリマス、平時ニ探鑛モセ
ズ、開發モシナイ鑛山ガ、一旦有事早急ノ
際ニ間ニ合フカドウカ、考ヘテ見テモ分ル
コトデアリマス、洵ニ是ハ泥繩以上ノ考ヲ
持ッテ居ッタト評シテモ宜カラウト思ヒマス、
又海外ヨリ戰時ニ於テ幾百万瓲、或ハ千万
瓲ニモ達スル如キ大量ノ鐵鑛石ヲ輸送シ來
ルト云フコトハ、軍事上非常ナ困難ガ伴フ
ノデアリマス、固ヨリ是等ノ鑛石ノ輸送ニ
對シテハ、我國ノ生命戰デアリ、又交通線
デアル關係カラ、海軍ハ出來ルダケノ保護
ヲ致スノデアリマセウ、併ナガラ中々サウ
云フ大量ノ物資ヲ敵ノ潛水艦、飛行機ノ跳
梁跋扈スル海上ヲ越エテ、我國ニ持來スト
云フコトハ一大事デアリマス
論ヨリ證據、私ハ之ヲ日露戰爭ノ實例ニ
就テ證明シテ見タイト思フ、日露戰爭ノ當
時、奉天會戰ガ終ルヤ、我ガ陸軍ハ樺太攻
略ノ計ヲ進メラレタノデアリマス、仍テ海
軍ニ對シ海陸共同作戰又陸軍輸送船護送ノ
コトニ付テ要望ヲシタノデアリマスガ、其
當時我ガ海軍ハ「バルチック」艦隊ノ來航ヲ目
前ニ控ヘ、一時、一艇ト雖モ之ヲ割クノ餘
力ナシトノ理由ヲ以テ、陸軍ノ要望ニ應ジ
ナカッタノデアリマス、斯ノ如クニシテ日本
海ノ海戰ガ終リ、ソレカラ樺太攻略ノ實行
ニ入ッタノデアリマスガ、何分ニモ時機ガ稍〓
遲レ、樺太攻略軍ノ先發隊ガ樺太ニ上陸シ
タノハ七月ノ十日デアリマス、超エテ八
月ニハ日露ノ講和談判ガ始リ、九月ノ初頭
ニハ日露ノ休戰條約ガ締結セラレタノデア
リマス、恐ラク今日ノ樺太ガ五十度ノ緯度
ヲ境ニシテ、南北其地圖ノ色ヲ異ニスル所
以ハ、或ハ玆ニ原因シテ居ルノデハナイカ
ト察セラルヽノデアリマス(拍手)斯ク申セ
バトテ、私ハ其當時ノ海軍當局ノ作戰ヲ非
難セントスルモノデハアリマセヌ、否寧ロ
ソレガ海軍作戰ノ常道デアリ、昔モ今モ當
ニサウアルベシトノコトヲ、國民ニ對シテ
警告致シタイト思フノデアリマス
更ニ考ヲ進メテ、其當時ノ我ガ海軍ノ勢力ト
「バルチック」艦隊ノ勢力トヲ比較シテ見マスト、
我十ニシテ彼七、而モ彼ハ萬里ノ波濤ヲ越
エテ來タ疲切ッタ艦隊デアリマス、言葉ヲ換
ヘテ申シマスナラバ、十ヲ以テ七ヲ擊チ、
優ヲ以テ劣ニ當リ、逸ヲ以テ勞ヲ迎ヘタノ
デアリマス、是ガ日本海海戰ノ大勝利ヲ得
タ最大原因デアラウト思フ、所ガ今後吾々
ガ豫想スル所ノ將來戰ハ、十對七ハオロカ
場合ニ依ッテハ七ヲ以テ十ニ當リ、若シ相手
方ガ二國聯合デアルナラバ、七ヲ以テ十五
或ハ二十ニ當ラザルヲ得マイト思フ、サウ
云フ場合ニ果シテ海軍ガ敵鑑隊攻擊ノ本任
務ヲ控ヘナガラ、比較的第二次的ト解セラ
ルヽ海上輸送、物資輸送ノ爲ニ有力ナル兵
力ヲ割キ得ベシトハ私ハ考ヘラレマセヌ、
此點ハ海軍當局モ戰時國內ニ運ビ込マナケ
レバナラナイ大量ノ物資ニ對シテハ深甚ナ
考慮ヲ拂ヒ、國民モ亦之ニ對シテ十分ナ認
識ヲ持タナケレバナラナイト存ジマス
次ハ國際收支ノ關係デアリマスガ、志志
二片ノ對英爲替ヲ堅持スルコトハ、是ガ現
下ニ於ケル財政經濟ノ根本義デアルト、我
ガ財政當局ハ屢〓繰返シテ居ラレマス、是ハ
畢竟スルニ、國際收支ノ均衡ヲ得ルト云フ
コトニ相成ルノデアリマスガ、是ガ又私
ハ相當ムヅカシイ問題デハナイカト思フ、
恐ラク財政當局トシテハ數十億ノ國債ヲ
消化スルヨリモ、數億ノ輸入超過ニ對シ
テ如何ニ善處セントスルカト云フコトガ、
一層ノ御心配デハナカラウカト思フノデ
アリマス、最近一年間ニ於テ我國ニ輸
入セラレマシタ重要鑛物、金屬ノ輸入
高ハ數億圓ニ達シテ居リマス、恐ラク鐵
關係ニ於テ三億圓、銅其他ノ金屬ニ於テ三
億圓、都合六億圓、此額ハ實ニ昨年度ニ於
ケル輸入超過額ノ六億數千万圓ニ近イノデ
アリマス、若シ此金屬輸入ノ六億圓ヲ半分
ナリ三分ノ一ナリ國產品ヲ以テ置換ヘルコ
トガ出來タトシタナラバ、我ガ國際收支ノ均
衡ニ資スル所甚ダ大ナルハ申ス迄モアリマ
セヌ、此見地ニ立ッテ考ヘル時ニ、吾々ハ金貨
ヲ以テ支拂フベキ外國鑛石一瓲ヲ十圓デ假
ニ買フトシタナラバ、紙幣ヲ以テ支拂ノ出
來ル內國產ノ鑛石ニ對シテハ、三十圓五十
圓ヲ出シテモ差支ナカラウト思フ、政府ハ
曩ニ產金法ヲ制定サレマシテ、金ノ增產ニ
努メテ居ラレマス、其目的ハ國際收支ノ埋
合セニアルコトハ申ス迄モアリマセヌ、併
シ銅、鐵其ノ他ノ金屬ノ增產ヲ圖ッテ輸入
ヲ防遏スルト云フコトニナリマスレバ、其
結果ハ卽チ產金法ノ目的趣旨ト相一致スル
ノデアリマス、私共ハ何故ニ政府ガ產金法
ニ是レ急ニシテ-今日モ日本產金振興會
社トカ云フ法案ノ御說明ガアリマシタガ、
何故ニ產鐵法、產銅法-金ヨリモ寧ロ國防
上ノ見地カラスレバ重大資源デアル銅鐵其他
ノ金屬ニ對スル積極的ノ增產方策ヲ講ゼラ
レナイノカ(拍手)極端ニ申シマスナラバ一
ヲ知ッテ二ヲ知ラナイト申シマシテモ宜力
ラウト思フ、吾人ノ解釋ヲ以テスレバ產金
法ノ金ハ黃金ノ金デハナクシテ、寧ロ金屬
ノ金ダト私ハ申上ゲタイト思フ、昔靑砥藤
綱ハ十文錢ヲ川ノ中ニ落シ、之ヲ拾フ爲ニ
百文ヲ費シタト云フ話デアリマス、國ノ財
政經濟ヲ扱フ人ハ此心事ヲ以テ當ラナケレ
バナラナイト思フノデアル、吾々ノ常ニ感
ズル所ハ、政府ガ兎角一營利會社ノ收支決
算ヲスルガ如キ熊度ヲ以テ、國ノ經濟財政
ニ處スルコトデアリマス、ドウカ政府ハ深
ク大所高所ヨリ觀察セラレマシテ、國內重
要鑛物增產ニ對シテハ思切ッタ保護助成ヲ
加ヘラレンコトヲ切望ニ堪ヘマセヌ(拍手)
私ハ此意味ニ於テ政府ニ惜シミナク與ヘ
ヨ、斯ク絕叫スルモノデアリマス
以上ノ見地ニ立ッテ本法案ヲ檢討シマス
ト吾々ノ期待ニ副ハザルコト甚シキモノ
ガアリマス、恐ラク政府ガ本法案ヲ提出サ
レタノハ單ニ補完手段トシテ此法案ヲ出サ
レタモノデ、他ニ大規模ナ積極的ナ增產ノ
經綸ヲ有シテ居ラレルダラウト拜察スルノ
デアリマス、本法案ノ骨子ヲ調ベテ見マス
ルト、先程御說明ニアリマシタ通リ、休眠
シテ居ル鑛區ヲ活動セシムル、若シ活動シ
ナイモノガアルナラバ本法案十五條ニ依ッ
テ其鑛業權ヲ沒收スルト云フノデアリマ
ス、第二ハ鑛山經營者ノ事業報〓ヲ徵シ、
其財產狀況ヲ調査シテ、之ニ監督指導ヲ加
ヘント云フノデアリマス、謂ハヾ干渉デア
リマス、休眠中ノ鑛區ヲ活動セシムルト云
フコトハ洵ニ結構ナコトデアリマス、ドナ
タモ異存ハアリマスマイ、併シ是ニハ相當
ノ副作用ガ伴フモノト思フ、如何ニモ一攫
千金ヲ夢ミテ鑛區ヲ眠ラシテ居ル者モアリ
マセウガ、鑛業權者ノ大部分ト、云フモノ
ハナントカシテ此鑛山ヲ開發シ、鑛山報
國ノ誠ヲ致シタイト念願ヲシテ居ルノデア
リマス、鑛業權者ハ〓ネ一種ノ鑛山「マニヤ」
デアリマス、自分ノ有スル鑛山ニ對スル期
待ハ甚ダ大ナルモノデアリマス、是等ノ人
人ガ手ヲ束ネテ鑛區ヲ眠ラシテ居ルト云フ
コトハ、實ハソレヲ開發スベキ資金ガナ
イ、或ハ技術的ノ知識ガナイ、ソレデ巳ム
ヲ得ズ萬斛ノ淚ヲ呑ンデ拱手シテ居ルノデ
アリマス、昔趙子ガ連城ノ璧ヲ懷イテ夜ナ
夜ナ泣哭シ其眼ヲ泣キ潰シタト云フ話ガ
アリマスガ、私ハ正ニ鑛業權者ノ心事ヲ表
現シタモノト考ヘルノデアリマス、政府ハ
休眠スル鑛區ヲ叩キ起シテ、活動サセル
ト云フ前ニ、此飢ヱ疲レテ立上ル勇氣
モナク寢テ居ル人ニ、ドウカ飮食ヲ
與ヘ、勇氣ヲ付ケ、勇躍シテ鑛山開發ニ
當リ得ル如ク御指導ト保護助成ヲ惜マレナ
イヤウニ切望スル者デアリマス、一〓ニ怠
ケ者トシテ鐵拳ノ制裁ヲ以テ之ニ臨ム如キ
ハ、決シテ重要鑛物增產ノ目的ニ副フ所以
デハアリマセヌ
斯ク申スト政府或ハ言ハン、元來鑛山業
ト云フモノハ小資本デハ出來ナイモノデア
ル、隨テ群小ノ鑛業權者ニ鑛區ヲ委シテ置
クコトガ、抑、こ誤リデアルト斯ウ云フ見解ヲ
執ラレルカモ知レマセヌ、ケレドモソレハ
一應ノ道理ハアリマスガ、甚ダ誤ッタ御意見
デアリマス、凡ソ鑛山ノ沿革ヲ調ベテ見タ
ナラバ、大ナリ小ナリ山師ト稱セラレル群
小ノ鑛業權者ガ山野ヲ跋涉シ、有ユル困苦
艱難ニ堪ヘテ鑛石ヲ發見シ、自分ノ力ノ及
ブ限リ是ガ開發ニ努メルノデアリマスガ、
何分資力足ラザルガ爲ニ中道ニシテ倒レ、
又ソレヲ繼承シタ人ガ同ジヤウナコトヲ繰
返シ、幾多ノ迂餘曲折ヲ經テ漸ク其鑛山ガ
物ニナリサウナ見當ガ付イタ頃ニ、大鑛業
權者ガソレヲ手ニ入レルノデアリマス、斯
ウ考ヘテ見マスル時ニ、私共ハ此中小鑛業
權者ニ對シテ鐵拳的制裁ヲ以テ臨ムガ如キ繼
子扱ハ相成ラヌト思ヒマス、若シ大軍ヲ進
メルノニ斥候ガ必要デアリ、尖兵ガ必要デ
アルト云フノデアルナラバ、ドウシテモ此
群小ノ鑛業權者ヲ保護助成シナケレバナラ
ナイト存ジマス、實ニ彼等ハ鑛山開發ノ先
驅者デアリ殊動者デアル、埋草ニナリ踏臺
トナッテ今日ノ我國鑛山ヲ開發セシムルニ
至ッタ人々デアリマス、所ガ其功勞者タル中
小ノ鑛業權者ガ、此法案ニ依リマスト、動モ
スルト押倒サレテ、大鑛業權者ニ兼併セラ
ルヽノ憂ガ甚ダ多イノデアリマス、ドウセ
特ッテ居ッタ所ガソレヲ開發シナケレバ政府
ニ取上ゲラレルノヂヤナイカト、足元ヲ見
ラレテ居リマスカラ、隨テ値切リ倒サレル
憂ガアリマス、斯ク申シマスト政府ハ、其爲
メ第八條ニ於テ通常裁判ニ出訴スルノ權ヲ
與ヘ、又第十九條ノ重要鑛物委員會ノ議ヲ
經ルノデアルカラ、サウ云フコトガナイト
仰セラレルカモ知レマセヌ、併シ中小鑛業
權者ノ大部分ハ訴訟費用ニモ困ル程度ノ人
ガ多イノデアリマス、又重要鑛物委員會ト申
シマシテモ、委員ノ顏觸ハドウ云フ顏觸ヲ
御揃ヘニナルカ知レマセヌガ、從來ハドノ
委員會ニ於テモ〓ネ政府側ニ立ツ人ガ多ク
テ、結局政府支持ノ委員會ニ終ッテ居ルノガ
例デアリマス、政府ハ果シテ此第八條ノ出
訴權ト第十九條ノ委員會トニ依ッテ、此兼併
ノ弊ヲ生ジナイト云フ御自信ガアルヤ否ヤ
私共ガ此法案ヲ手ニシテ先ヅ考ヘサセラ
レルコトハ、又政府ガ統制ヲヤリ出ス此
頃市井ニ於テ行ハルヽ京童ノ批評ハ、當
世流行リノ統制ダト申シテ居ルノデアリマ
ス、統制モ宜シウゴザイマスケレドモ、統
制ニハ色々ナ副作用ガ附纏ウテ居ルノデア
リマス、例ヘバ政府ハ輸入品ノ統制ヲ行ハ
レタノデアリマスガ、其結果晒木綿ガ一反
六七十錢シテ居ッタモノガ、最近ニハ二圓ニ
モ暴騰シタノデアリマス、政府ハマサカ之
ヲ豫想シテ、アヽ云フ輸入品ノ統制ヲ試ミ
ラレタノデハアリマスマイケレドモ、神ナラ
ヌ政府、其結果斯ル事ヲ招來スルコトニ相成ッ
タノデアリマス、故ニ統制ヲ行フニ付テハ
副作用ヲ最小限度ニ止ムル如ク、深甚ナル
御注意ヲ願フノデアリマス、吾々ノ切望ス
ル所ハ、政府ガ國民ニ統制ヲ以テ臨マル
前ニ、政府自ラモ夫子自ラモ、爲スベキ
所ヲ爲シ、盡スベキ所ヲ盡シテ、其至ラザ
ル點ヲ國民ニ協力ヲ求メラルヽノ態度ニ出
ラレンコトヲ希望スル者デアリマス、サウ
ナサレマスレバ、天下翕然トシテ政府ヲ支
持シ、今日ノ非常時局打開ニ協力スルコト
ト確信スル者デアリマス
以上述ベマシタ見地ニ基キマシテ、次ノ
質問ヲ政府ニ致シタイト存ジマス、私ノ質
問項目ヲ列擧シテ申上ゲマス、尙ホ此項目
ノ覺書ハ此壇上ニ殘シテ參リマスカラ、政
府ハソレラ御覽ノ上ニ、漏レナク明確ニ御
答辯下サッテ、以テ滿天下ノ鑛山關係者ニ對
シ政府ノ方針ヲ明ニシ、國民ノ嚮フ所ヲ示
サレタイト存ズルノデアリマス
質問項目
金銀銅鐵等ノ貧鑛處理ニ關スル方策
如何
二、中小鑛業權者ニ對シ事業經營ニ要ス
ル損失補償附低利資金ノ融通ヲナス用
意アリヤ
三、現在民營ノ金銀銅製錬所ニ於ケル買
鑛若クハ委託製錬ニ關シテハ兎角ノ苦
情多キヲ耳ニス、例ヘバ製鍊料以外ニ更
ニ精銅百「キロ」ニ付八圓ノ課金ヲ徴收
シツヽアルガ如キ是ナリ政府ハ是等
ニ對シテ如何ナル監督指導ヲ行ヒタル
ヤ
四、金銀銅製錬ノタメ國內數箇所ニ營利
ヲ目的トセザル國立製鍊所ヲ設クルノ
意ナキヤ
五、各鑛山監督局內ニ鑛山相談所等ノ機
關ヲ併置シ、鑛山ニ關スル一切ノ相談
ニ與リ、是ガ開發指導ヲ行フノ意ナキ
ヤ
又必要アル各府縣廳內ニ鑛石分析所ヲ
設置シ、低廉ナル料金ニテ迅速ニ其要
望ニ應ゼシムルノ意ナキヤ
六、鑛山道路ヲ開設シ以テ附近鑛山地帶
ノ開發ヲ行フノ用意アリヤ、又同樣ノ
目的ヲ以テ特ニ鐵道又ハ軌道ヲ敷設ス
ルノ意圖アリヤ
七、金鑛石以外ノ鑛石モ亦金鑛石同樣ニ
鐵道運賃ヲ輕減スルノ意ナキヤ
八、現下鑛石ノ運搬ハ船腹ノ不足ト鐵道
貨車ノ拂底ト「トラック」馬車等缺乏ノ
爲頗ル停滯ヲ來シ居レリ、是ガ改善
ノ方策如何
九、產金法ニ準ジタル產鐵法、產銅法ノ
如キ法制ヲ設クルノ意ナキヤ
+、內地產鑛石ヲ原料トセル、鐵鋼
銅等ニ對シ、特ニ補助金ヲ交付シ以テ
低品位ノ鑛石ヲモ開發セシムルノ意ナ
キヤ
十一、鐵鑛石ノ埋藏量多カラザル我國ニ
アリテハ特ニ砂鐵ノ利用開發ヲ必要ナ
リト認ムルガ政府ノ之ニ對スル保護助
成ノ方針如何
十二、探鑛奬勵ノ爲政府ハ思切ッタル保
護助成ヲ行フ意ナキヤ
十三、日本製鐵會社ノ如キ特殊會社ヲシ
テ內地產鑛石ヲ優先的ニ買鑛セシムル
ノ意ナキヤ
十四、本法案ハ動モスレバ中小鑛業權者
ヲ押倒シテ之ヲ大鑛業權者ニ兼併セシ
ムルノ弊ニ陷リ易シ、政府ハ之ニ對シ
如何ニ善處セントスルヤ
十五、中小鑛業權者ハ實ニ鑛物增產ニ關
スル先驅者トシテ重要ナル役割ヲ演ズ
ルモノナリト信ズ、政府ハ此種中小鑛
業權者保護ニ關シ如何ナル方策ヲ有ス
ルヤ
十六、本法案ニ於テ敢テ砂鑛鑛區ノ活動ヲ
促サントスルニ徵スレバ一般ニ砂鑛利
用ハ已ニ工業的採算點ニ達シタルモノ
ノ如シ、其實情果シテ如何
以上(拍手)
〔政府委員木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=42
-
043・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 高橋サンノ洵
ニ剴切ナル御〓心ナル御質問ヲ拜聽致シマ
シタ、御言葉ニ依リマシテ簡單ニ逐次各條
項每ニ御答ヲ申上ゲマス(「大臣々々」ト呼
フ者アリ)大臣ハ本日病氣ノ爲ニ登院致シ
マセヌカラ、私ガ代ッテヤラシ、戴戴キマス
第一ノ金銀銅鐵等ノ貧鑛處理ノ方策如何
ト云フコトデアリマスガ、御承知ノ通リ最
近金ニ付テモ、鐵ニ付テモ、銅ニ付キマシ
テモ、色々新シキ選鑛法ガ發明サレマシタ
ノデ、當業者ハ貧鑛處理ニ力ヲ盡シテ居ル
ヤウナ譯デゴザイマス、政府ニ於キマシテ
モ助成金ノ交付、或ハ免稅、其他色々ノ方
法デ、貧鑛處理ニ關シテ助成ヲ與ヘテ居ル
ヤウナ次第デゴザイマス
第二ノ中小鑛業權者ニ對シマシテ、事業
經營ニ關スル損失補償附低利資金ノ融通ヲ
爲ス用意ガアルカト云フノデアリマスガ、
目下ノ所政府ニ於キマシテハ損失補償附ノ
低利資金融通ヲ中小鑛業者ニ對シテ爲ス考
ハ持ッテ居リマセヌ、唯從來ヨリヤリ來ッテ
居リマス通リ、中小鑛業者ノ負擔ヲ輕カラ
シムル爲ニ、御承知ノ通リ探鑛奬勵金ヲ增
シテヤルトカ、或ハ金ニ對シマシテハ特ニ
產金法或ハ產金奬勵規則等ヲ實施致シマシ
テ、有ユル力ヲ盡シテ中小鑛業者ノ負擔ノ
輕減ヲ圖ッテ居ルヤウナ次第デゴザイマス、
殊ニ探鑛奬勵金ヲ銅、錫銓亞鉛ナドニ
交付致シテ居リマスケレドモ、此探鑛奬勵
金ハ今後中小鑛業者ノ負擔ヲ輕減スル意味
ニ於キマシテ、鑛物ノ種類ヲ增ストカ、或
ハ金額ヲ增加スルト云フヤウナコトデ擴充
致シタイト考ヘテ居ルノデアリマス
第三ノ御質問ニ對シマシテ御答ヲ申上ゲ
マスガ、御質問ノヤウナ趣旨ハ、買鑛當時
ト製鍊致シマシタ後ノ鑛產物ヲ賣ル時分ト
ノ市況ノ變動ノアリマスル時ニ、從來ヨク
アリマシタ一ツノ風習デゴザイマスケレド
モ、最近ノヤウニ鑛產物ノ好況時代ニナッテ
ハ、此風習傾向ハ段々無クナッテ行クモノノ
ヤウニ考ヘテ居リマスガ、尙ホ十分ニ當局
ト致シマシテハ考究致シマシテ、中小鑛業
者ノ利益ヲ害セザルヤウニ努メタイト考ヘ
テ居ルノデアリマス
第四ノ御質問ハ營利ヲ目的トセザル國立
製鍊所ヲ設クル意思ハナイカドウカト云フ
コトデアリマスガ、御承知ノ通リ技術上カ
ラ申シマシテモ、技術者ノ數ノ點ナドカラ
申シマシテモ、今日國立製鍊所ヲ國內數箇
所ニ造ラウト云フコトハ、政府デハ考ヘテ
居リマセヌ、買鑛ノ場合ニ色々不公正ガア
ルト云フヤウナコトニ付キマシテハ、旣
御協贊ヲ經マシタ產金法第九條ノ運用其他
ノ措置ニ依リ、是ガ是正ヲモ考ヘラレルコ
トモゴザイマスシ、今度ノ新シイ會社ニ依
リマシテ出來マスル精鍊所ヲ適當ニ運用致
シマシテ、玆ニ買鑛取引ノ公正ナル基準ヲ
立テシムルヤウナ方策ナドニ依リ弊害ノ防
止ヲ考ヘテ居ルノデゴザイマス
次ハ鑛山監督局ニ鑛業相談所等ノ機關ヲ
作ッテヤレト云フヤウナ御質問、且ツ各府縣
廳ノ中ニ鑛石分析所ヲ造ッテ低廉ニ之ヲヤ
レト云フノデ、御趣旨ハ一應御尤デゴザイ
マスケレドモ、御承知ノ通リ各府縣廳ニ鑛
物ノ分析所ヲ造ルト云フヤウナコトニナリ
マスト、鑛石ノ分析ト云フコトハ極メテ重
大ナ事デ、一步ヲ誤リマスト、非常ナル損
害ヲ生ゼシムルト云フコトデ、愼重ニ此扱
ヒヲ致サナケレバナラヌノデゴザイマスカ
ラ、各府縣廳ニ十分ナラザル分析所ノアル
ト云フコトハ、却テ害ヲ爲スヤウニモ考ヘ
ルノデゴザイマシテ、各府縣廳ニ置クト云
フヤウナ考ハ持ッテ居リマセヌ、ソレカ
ラ各地方ノ鑛山監督局ノ內容ヲ段々ト改メ
マシテ、是ガ一般ノ中小鑛業者ノ相談所
トナルヤウニト云フヤウニハ考ヘテ居リ
マスシ、今囘ノ法律ガ實施セラレル結果、
御期待ニ副フヤウナ相談所トシテノ働キ
ヲ爲スヤウニナルト考ヘテ居ルノデアリ
マス
次ニ第六ハ鑛山ノ道路ヲ開設シテ附近鑛
山地帶ノ開發ヲ行フノ用意ガアルカト云フ
ヤウナ意味ノ御話デゴザイマスガ、交通機
關ヲ整備シテ鑛山ノ開發ニ資スルト云フコ
トハ、洵ニ結構ナコトデゴザイマスルガ、道
路ヲ造ル鐵道ヲ造ルト云フ交通ノ整備ハ
其目的トスル所ノ鑛山ノ鑛量ノ如何ト云
フヤウナコトモ大分關係致シテ居リマスノ
デ、抽象的ニハ御贊成申上ゲマスガ、必シ
モソレガ總テノ場合ニ出來ルカト云フコト
ハ難シイコトノヤウニ考ヘテ居リマス、併
シ道路ノ開發其他ニ依リマシテ、道路無キ
時代ニ休業致シ、或ハ開發セラレザル中小
鑛山ノ開發サレルコトハ、政府ト致シマシ
テモ御同樣ニ希望致シテ居ル所デゴザイマ
スソレカラ第七ハ鐵道ノ關係デゴザイマス
カラ、私ノ方カラハ御答ヲ申シマセヌ
第八ノ御質問ニ對シテ御答ヲ申上ゲマス
ガ、鑛石ノ運搬ト云フコトガ事變以來頗ル
不圓滑ニナリマシタコトハ御話ノ通リデア
リマス、殊ニ石炭ナドニ付キシマテハ、色々
ノ苦情モゴザイマスノデ、國內ニ於ケル石
炭增產ノ計畫ヲ樹立致シマスルト共ニ、貨
車ノ配給或ハ港灣或ハ船舶ト云フヤウナコ
トニ對シマシテ、內務省、遞信省、鐵道省
等、關係各官廳ノ間デ連絡ヲ取リマシテ、
目下一ツノ成案ヲ得テ居ルヤウナ次第デゴ
ザイマス、石炭增產ニ對スル其運搬配給ノ
點ニ付キマシテハ、今後出來ルダケノ努力
ヲ致シタイト考ヘテ居ルノデゴザイマス
第九ノ質問ニ御答致シマス、政府ト致シ
マシテハ產金法ニ傚ッテ產銅法或ハ產鐵法
ト云フヤウナ、銅鐵鑛ノ增產ニ關スル新
シイ法律ヲ作ラウト目下考ヘテ居リマセ
又、此ノ法律ノ運用ニ依ッテ御話ノヤウナ
目的ヲ達スルコトガ出來ルト固ク信ジテ居
リマス
第十ノ御質問、內地產ノ鑛石ヲ原料トシ
テ、鐵鑛、銅等ニ對シ特ニ補助金ヲ支給シ
テ、低品位ノ鑛石ヲモ開發セシメテハドウ
カト云フ御質問デゴザイマス、內地產ノ鐵
鑛ヲ使ハセマスルコトニ付キマシテハ全ク
御同感デゴザイマシテ、日本製鐵株式會社
ガ特殊ノ使命ヲ帶ビテ居ルコトニ鑑ミマシ
テ、日本製鐵株式會社法第九條ノ發動ニ依
リマシテ命令ヲ下シマシテ、內地ニ於ケル
所ノ鐵鑛石ヲ買フコト、或ハ鑛山ヲ買フコ
トヲ慫慂致シマシテ、今日ハ休ンデ居ッタ
山ガ息ヲ吹キ出シタリ、或ハ又開發サレナ
イ山ガ働キ出スト云フヤウナコトモ相當ノ
數ニ上ッテ居リマスルガ、唯日本製鐵株式會
社ニ對スル命令バカリデハゴザイマセヌデ
他ノ製鐵會社ニ對シマシテモ、政府ハ極力
此內地ノ低品位ノ鐵鑛石ヲ利用スルコトヲ
慫慂致シマシタ結果トシテ、相當ノ效果ヲ
擧ゲ、現ニ鑛石ヲ納入シ始メタリ、近ク稼
業ヲ開始セントスル中小鑛山ハ約十數山ニ
達セントシテ居ルノデゴザイマス
第十一ノ御質問ハ鐵鑛石ノ埋藏量ノ多ク
ナイ日本デハ特ニ砂鐵ノ利用開發ヲ必要ト
認メルガ、政府ハ之ニ對シテ保護助成ノ方
針ハアルカト云フヤウナ御話デゴザイマス、
御承知ノ通リ曩ニ御協賛ヲ願ヒマシタ製鐵
事業法ニ於キマシテ、砂鐵ノ製鍊ニ對シマ
シテハ、砂鐵ヲ利用スル事業ニ對シマシテ
ハ免稅ヲ致スト云フヤウナコトモ、ー),
助成ノ現レノヤウニ考ヘテ居リマス、逐
年金額ニ於キマシテハ大ナルコトハ申上ゲ
ラレマセヌケレドモ、砂鐵ノ〓究奬勵金ト
云フヤウナモノモ出シテ居ルヤウナ次第デ
ゴザイマシテ、殊ニ目下日本製鐵株式會社
ノ先程申上ゲマシタ法律第九條ノ〓究命令
ヲ出シマシテ、今迄ノヤウナ〓究室ニ於ケ
ル砂鐵製鍊ノコトヲヤラセルバカリデハゴ
ザイマセヌデ、輪西工場ニ於キマシテ熔鑛
爐ヲ一ツ使ッテ、砂鐵精鍊ノ工業用ノ利用價
値ノ〓究ト云フコトヲ今日ハヤラセテ居
ルヤウナ次第デゴザイマシテ、外ノ或ル會
社ノ如キモ一年二十万瓲ノ砂鐵ヲ利用スル
ト云フヤウナコトニマデ、政府ノ慫慂ニ依ッ
テ進ンデ居ルヤウナ次第デゴザイマシテ、
御說ノヤウニ低品位ノ砂鐵ヲ我國ノ如キ國
情ノ下ニ於テハ鑛業的ニ利用シ得ル日ノ一
日モ早ク來ランコトヲ當局ト致シマシテモ、
切望致シテ居ルヤウナ次第デゴザイマス
〔「ソンナコトハ委員會デヤレ」ト呼フ
者アリ〕
簡單ニ申上ゲマス、モウ直グデゴザイマス
カラ御聽ヲ願ヒマス
第十二ノ御質問ニ御答ヲ申上ゲマス、金
鑛ニ對シマシテハ、相當ノ探鑛奬勵金ノア
ルコトハ御承知ノ通リデゴザイマス、銅
鐵錫鉛亞鉛ナドニ對シマシテモ相當
ノ探鑛奬勵金ヲ考ヘテ居ルヤウナ次第デゴ
ザイマシテ、又政府デ現ニヤッテ居リマス
鑛床調査ト云フヤウナコトモ御希望ノヤウ
ナ點ニ合致スルモノト信ジテ居ルノデゴザ
イマス
第十三ノ御質問ニ對シマシテ御答ヲ申上
ゲマス、日本製鐵會社ニ對シマシテハ先程
來申上ゲマシタヤウニ、我國ニ於ケル中小
鑛業者ノ内地ノ鐵鑛山ノ開發ニ付テ積極的
ニ努力ヲスルヤウニト云フコトヲ唯慫慂致
スバカリデハゴザイマセヌ、日本製鐵株式
會社法第九條ノ發動ニ依リマシテ、命令ヲ
下シテヤッテ居ルヤウナ譯デゴザイマシテ、
其結果休止鑛山ガ息ヲ吹返シタリ、或ハ幾多
ノ鑛石ヲ買ッテ居ルト云フヤウナ事情ガア
ルノデゴザイマス
次ノ第十四ノ、此法律ガ出マスル爲ニ、
大キナ鑛業家ニ小サナ鑛山ガ兼併サレテ、
中小鑛業家ヲ壓迫スルヤウナ結果ニナルノ
デハナカラウカト云フ非常ナル御痛念デゴ
ザイマシタガ、此法律ハ御承知ノ通リ所謂
睡眠鑛區ノ活動ヲ促進スルト云フコトヲ主
眼ト致シテ居ルモノデゴザイマス、隨テ急
速ニ日本ニ於テ不足シテ居ル重要ナ鑛物ノ
增產ヲ目的ト致シテ居ル所ノ法律デゴザイ
マシテ、此法律ノ運用ニ依ッテ、其結果ガ當
然大キナ鑛山家ニ小サナ鑛業家ノ鑛山ヲ兼
併サレルト云フ風ニハ當局ハ考ヘテ居リマ
セヌ、唯從來動トモスルト叩キ値デ賣ラナ
ケレバナラナカッタト云フヤウナ鑛區ハ、今
囘ハ政府ガ其間ニ介在シテ、鑛區ノ讓渡シ
其他ニ付テ世話ヲ致シマスルカラ、寧ロ公
正ナル價格デ中小鑛業家ノ手ニ其代價ガ入
ルモノノヤウニモ吾々ハ考ヘテ居ルノデゴ
ザイマスシ、又今マデ資力、信用、技術、
勞力ノ無イ、小サナ鑛山ヲ持ッテ居ル人ハ、
ソレ等ノモノト旨イ工合ニ組合ハセ手ヲ握
リマシテ、サウシテ其開發ニ邁進スルコト
ガ出來ルヤウデ、寧ロ中小鑛業家ノ利益ニ
ナル法律デアルト云フコトヲ確信致シテ居
ルノデアリマス
次ノ御質問ハ本法案ニ於テ、敢テ砂鐵鑛
區ノ活動ヲ促ガサントスルニ徴スレバ、
般砂鐵利用ハ既ニ鑛業的採算點ニ達シタル
モノノ如シ、其實情果シテ如何ト云フノデ
ゴザイマシタ、是ハ先程度々申上ゲマシタ
コトニ依ッテ御諒承下サルコトト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=43
-
044・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 板谷順助君
〔板谷順助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=44
-
045・板谷順助
○板谷順助君 只今上程サレマシタル二案
ニ付テ、最モ重要ナル二三ノ點ニ付テ質問
ヲ致シマシテ、實ハ商工大臣カラ直接御返
答ヲ願ヒタイノデアリマスルガ、御病氣ノ
爲ニ御缺席ダト云フコトデアルカラ、政務
次官ガ能ク御聽取ニナッテ、適當ノ時期ニ御
答辯アランコトヲ要求致シマス、併ナガラ
產金政策ニ付キマシテハ、幸ニ大藏大臣ガ
オ居デニナルコトデアルカラ御答辯ヲ願ヒ
タイ
先ヅ前提ト致シマシテ現在ノ時局ニ鑑ミ
マシテ、產金奬勵ノ必要デアルト云フコト
ハ勿論同感デアリマス、又官民協力一致シ
テ此問題ヲ解決シナケレバナラヌト云フコ
トモ、申ス迄モナイコトデアリマスルガ、
私ハ從來政府ガ執ッテ居ラレタ所ノ產金政
策ハ、果シテ所期ノ目的ヲ達シテ居ルヤ否
ヤ、大イニ疑ナキヲ得ナイノデアリマス、
若モ此處ニ商工大臣ガオ居デニナッテ、成功
シテ居ルト云フ確信ガアルナラバハッキリ
御答辯ヲ願ヒタイ、私ハ大體ニ於テ失敗シ
テ居ルト見テ居ル、成程近年產金高ハ增加
シテ居リマス、昭和十年三十四瓲ノモノガ
昭和十一年ニハ四十一瓲トナリ、更ニ昨年
度ニ於テハ是ガ五十四瓲ニ殖エテ居ル、
是ハ事實デアル、事實デアリマスケレド
モ、其原因ガ果シテ政府ガ助成金ヲ出シテ
ヤッタ、或ハ又指導監督ヲシタ其結果デ
アルヤ否ヤ、勿論私ハ全然失敗トハ言ハナ
イ、多少ノ效果ハアルダラウガ、若シ產金
高ガ殖エタト云フコトガ政府ノ成功デアル
ガ如キ御考ヲ御持ニナッタナラバ、私ハ自
惚ガ强過ギルト思フ、大體ニ於テ產金高ガ
殖エタト云フコトハ、先ヅ第一ニ金ノ買入
價格ガ引上ゲラレタト云フコト、又民間ノ
企業家ノ努力ノ結果デアルト私ハ信ズル(拍
手)例ヘバ失敗ノ一例ヲ申シマスルナラ
バ、前年政府ガ製鍊場建設ニ對スル所ノ補
助金ヲ交付シタノデアリマス、是ハ諸君
モ御存ジノ通リデアル、此交付サレタ所ノ
助成金ガ果シテ所期ノ目的ヲ達シテ居ルヤ
否ヤ、幾ラ達シテ居ルカ、幾ラ役ニ立ッテ居
ルカ、私ヲシテ言ハシメルナラバ、私ハ精
精二割ト見テ居ル、アトノ八割ハ殆ド溝ニ
捨テタモ同樣ノ結果ニナッテ居ルト信ズル、
又更ニ先程政府委員ノ御說明ニ依リマスレ
バ、昨年御承知ノ通リ產金獎勵法ナルモノ
ガ可決サレマシテ、四百万圓ノ金ヲ出スコ
トニナッテ居ル或ハ鑿岩機ヲ無料デ貸付ス
ル、又採掘費ニ對スル所ノ補助金ヲ出スト
云フ法律ガ出來タ、現ニソレガ實行サレツヽ
アルノデアリマスガ、果シテ現在其金ガ
如何程役ニ立ッテ居ルカ、若シ役ニ立ッテ居
ル、斯ウ云フ實績ガ擧ッテ居ルト云フ確信ガ
アッタナラバ、私ハ玆ニ御示シヲ願ヒタイ、
大體助成金ヲ出ス、或ハ採掘費ヲ出スナド
ト言ウテモ、堅實ナヤリ方ヲシテ居ル所ノ
鑛業家ハコンナ面倒臭イ手續ノヤカマシイ
コト、或ハ又認識不足ナ政府ノ役人ガ會計
ノ檢査ヲスル、帳簿ヲ出セトカ有ユル干涉
ヲスル、其關係ニ於テ僅カノ補助金ナド貰
ヒハシナイ、補助金ヲ出セト云フテ寄ッテタ
カッテ來ルノハ、卽チ運動ヲスル所謂山師ト
云フカ何ト云フカ、是等ノ人々デアル、勿
論地下ニ在ル所ノ鑛物デアリマスルカラ、
中々之ヲ判斷スルト云フコトハ容易デナイ
ダラウガ、學校出タテノ技師諸君ガ此山
ハ良カラウ、アノ山ニハ補助金ヲ出シテヤ
ルト云フコトデ、其結果今申上ゲル通リ殆
ド開店休業ノ狀態ニナッテ居ルト云フ今日
ノ實情デマリマス、大體私ハ常ニ感ジテ居ル、
勿論政府ノ役人諸公ガ机ノ上デ色々御〓
究ニナリ、或ハ調査ニナル、勿論學問モ或
ル程度マデ必要デアル、必要デアリマスル
ガ、人間ノ貴サ、卽チ體驗、經驗ヨリ得タ
ル知識程貴イモノハナイノデアル、此點ニ
付テ私ハ將來此產金政策ニ對スル熟練ナル
技師ヲ養成スルニ付テ、大臣ハ如何ナル腹
案ヲ持ッテオイデニナルカ、之ヲ伺ヒタイ
ソコデ私ハ只今上程サレマシタ所ノ產金
振興會社ナルモノ此會社ガ愈〓成立致シマ
シテ、所期ノ效果ヲ擧ゲルト云フニハ少
クトモ三年乃至五年經タナケレバナラヌ、
恐ラクハ現在ノ非常時ニ於テ機械ヲ用意シ、
有ユル設備ヲ行フ上ニ於キマシテモ、恐ラ
クハ此會社ガ成立ヲシテ所期ノ目的ヲ達ス
ルト云フニ付テハ、少クトモ三年乃至五年
經タナケレバ出來ヌコトト私ハ思フ、ソコ
デ大藏大臣ハ此處ニオ居デニナリマスルガ、
我國ノ金ノ價格ノ前途ニ付テ、一體如何ナ
ル見透シヲ付ケテオイデニナルカ、金ノ價
格ハ將來ニ於テ如何ナル變化ガアルト云フ
御考ヲ持ッテオイデニナルカ、大體今日我國
ノ金價ガ高イ、是ハ決シテ世界的ニ不足デ
アルト云フ意味バカリデハナイ、御承知ノ
通リ亞米利加ナリ、或ハ佛蘭西ナリ、有餘
ル程金ヲ持ッテ居ル、併ナガラ現在ノ國情ニ
於テ所謂偏在シテ居ル、貯藏シテ居ル、此
金ガ一朝世界ガ平和的ニナッタ場合ニ於テ
ハ、國際的ニ流出スルモノト見ナケレバナ
ラヌ、流出シタ場合ニ於テ、果シテ此金價
ヲ維持スルコトガ出來ルカドウカ、勿論金
ノ現在ノ價格ガ下ラナイト致シマシテモ、
一方ニ於テ反對ニ物價ガ騰貴スルト云フコ
トハ自然ノ傾向デアル、又更ニ今申上ゲマ
スル通リ、世界ガ平和的ニナッタ場合ニ於
テ、或ハ亞米利加、英吉利ノ如キハ、將來
金政策ニ對スル何等カノ手段方法ヲ執ッタ
ナラバ、世界ノ經濟界ニ大ナル變動ガ來ル
ト云フコトモ、是ハ豫期セネバナラヌノデ
アリマス、然ルニ現在ノ金價ヲ標準ニシテ、
此振興會社ナルモノハ、低品位ノ金鑛ヲ處
理スルト云フコトヲ仰シヤルガ三年乃至五
年經タナケレバ、其效果ヲ擧ゲルコトノ出
來ナイ此會社ノ前途ニ對シマシテ、私ハ非
常ナル因難ガ伴フモノダト信ズル、此會社
ノ內容ヲ見マスルト、御承知ノ通リ先ヅ第
一ニ半官半民デ五千万圓ノ資本金、之ニ對
スル所ノ資本金ノ五倍ノ債劵ヲ發行スル、
此資本金ト五倍ノ債劵ヲ極度ニ使ッタ場合
ニ於テハ三億圓デアリマスヨ、此三億圓ニ對
シ一方ニ於テハ政府ハ配當ノ保證ヲスル、
一方ニ於テハ此二億五千万圓ニ對スル所ノ
元利ヲ國家ガ保證スル、私ガ今申上ゲマシ
タ通リ、將來ニ於テ此會社ナルモノハ大ナ
ル損害ヲ來シタ場合ニ於テハ、一體誰ガ責
任ヲ負フカ、國家ニ損害ヲ與ヘタ場合ニ於
テハ、一體此責任ヲ誰ガ取ルノデアリマス
カ、先程來色々議論ガアッタノデアリマスル
ガ、私ハ近頃ノ官僚統制ナルモノガ大ナル
弊害ヲ伴ッテ物價ガ暴騰シ、其結果現ニ東京
市中ニ於テモ怨嗟ノ聲ガ起ッテ居ル、大藏大
臣、商工大臣ハ之ヲ御聞キニナッテ居ラナイ
カ、大體如何ナル仕事ト雖モ、官僚ニアラ
ザレバ何事モ爲シ得ザルト云フヤウナ思想、
御承知ノ通リ現政府ハ革新政策ヲ標榜シテ
居ル、私ハ此革新政策ヲ實行スルト云フコ
トニ付テハ、先ヅ第一ニ此思想カラ改造セ
ネバ、國家ノ禍ノ本ニナルト私ハ信ズル(拍
手)デアルカラ現在ノ我國ノ國情ニ於テ、
ドウシテモ金ヲ殖ヤサナケレバナラヌ、是
ハ當然デアル、產金ヲ奬勵シテ國際貸借ニ
對スル所ノ收支ノ適合ヲ圖ラナケレバナラ
ヌコトハ、言フ迄モナイコトデアリマスル
ガ、コンナ複雜ナル所ノ會社ヲ作ルヨリハ、
先ヅ第一ニ金ノ價格ヲ引上ゲルト云フコト
ハ、勿論爲替關係ニ於テ困難デアリマセウ、
困難デアルカラ、或ル程度マデ一面ニ於テ山
カラ實際出タ所ノ金ニ對シテ奬勵金ヲヤル、
二年、三年ノ後ニ金價ノ變動ガアッタ場合ニ
於テハ其奬勵金ナルモノヲ補給シサヘス
レバ宜シイ、デアルカラ斯ノ如キ手ッ取リ早
イ方法ニ依ッテ、民間ノ經營ヲ激勵スルト云
フコトハ私ハ今日ニ於テ最モ適切ナル案
デアルト信ズル、若シ政府ガ假ニ五千万圓
ノ資本金、二億五千万圓ノ債劵發行ノ餘力
ガアッタナラバ、ナゼ現在ノ生產擴充ニ之ヲ
振向ケナイカ、生產擴充ニ振向ケ、輸出奬
勵ヲシテ、出來ルダケ國際收支ノ改善ヲ圖
ルト云フコトハ、私ハ現在ノ最モ急務デア
ルト信ズル(拍手)商工大臣ハオ居デニナラ
ヌノデアルガ、是ハ私ノ持論デアリマスカ
ラ、之ニ對シテ適當ノ機會ニ於テ私ハ御答
辯ヲ要求致シマス
又更ニ重要鑛物增產法案ニ付キマシテ、只
今政府委員ガ御說明ニナッタ通リ、成程我
國ノ鑛業法ト云フモノガ、或ハ寛大ト云
フカ、缺陷ガアルト云フカ、誰デモ構ハ
又、僅カノ稅金ヲ納メテ居ッタナラバ、二
十年デモ三十年デモ永久ニ持ッテ居ルコト
ガ出來ル、其結果御承知ノ通リ、一 四、
於テハ是ガ一攫千金ヲ夢ミテ居ル所ノ山
師ニ利用サレ、ソレガ爲ニ世ノ中ノ一部ニ
金儲ヲシタ者モアルダラウガ、又一面ニ於
テハ非常ニ悲慘ナル所ノ悲劇ヲ起シテ居ル
ト云フコトモ、諸君御承知ノ通リデアル、
現在ノ鑛業法ニ不備缺陷ガアル、一面ニ於
テ之ヲ政府ガ此際命令ヲ以テ改メルト云フ
ガ、恐ラクハ私ハ政府ガ此點ニ氣ガ付カレ
タノダト思フ、現在ノ休眠鑛區ヲ澤山持ッテ
居ルノハ、所謂中小ノ一部ノ少數ノ者デハ
アリマセヌゾ、諸君モ御承知ノ通リ大會社
ト云フカ、或ハ大資本家ト云フカ、斯ウ云
フ人々ガ、例ヘバ石炭ノ如キ、百万坪ノ鑛
區ヲ持ッテ居ッタナラバ恐ラクハ何十年ト
掛ルモノヲ、其附近ニ他ノ者ガヤッテ來ラレ
テハ迷惑デアルト云フ所カラ、周圍何千万
坪ト云フモノヲ彼等ガ占有シテ居ル、隨テ
所謂休眠鑛區ナルモノガ澤山出來ル、叉
面ニ於テ國家ノ資源ノ開發ニ對スル妨ゲト
ナル、デアルカラ私ハ先ヅ第一ニ此鑛業法
ナルモノヲ改正スル意思アリヤ否ヤ、御承
知ノ通リ是ハ外國ニ例モアリマスルガ、例
ヘバ鑛區ヲ出願スル場合ニ於テハ、身分證
明ヲ附ケル、企業目論見書ヲ附ケルデア
ルカラ其鑛區ガ或ル一定ノ時期ニ於テハ
是ガ確實ニ稼行サレルト云フ目標ガナケレ
バナラヌ、此點ニ付キマシテ鑛業法ヲ改正
スル意思アリヤ否ヤ、此點ヲ私ハ伺ヒタイ
更ニ此重要鑛物增產法案ノ重點トナルノ
ハ卽チ第二條、第三條デアリマス、御承
知ノ通リ政府ガ第三條ニ於テ「重要鑛物ノ
增產ヲ圖ル爲必要アリト認ムルトキハ重要
鑛物ヲ目的トスル鑛業權者ニ對シ事業ニ著
手シ又ハ事業ヲ繼續スベキコトヲ命ズルコ
トヲ得」ト云フ、斯ウ云フ箇條デアリマス、
成程政府ガ此法案ニ依ッテ命令權ナルモノ
ヲ持ツト云フコトデアルガ、若シ其鑛業權
者ガ一體金ガナカッタラドウスル、或ハ之ニ
對スル所ノ資金ノ用意ガ假ニ政府ニアルト
シテモ、共鑛業權者ガ資格ガナクテ、ソレ
ニ金ヲ貸スコトガ出來ナイト云フヤウナ場
合ニ於テハ、政府ハ之ニ對シテドウ云フ方
針ヲ執ルカ、其鑛區ヲ沒收スルカ、或ハ政
府ガ直接ソレニ對シテ稼行スルト云フ意思
ガアルノカ、此點ガハッキリシテ居ラヌノデ
アリマス、デアリマスカラ、私ガ今申上ゲ
マシタル產金政策ニ對シテハ、大藏大臣カ
ラ御答辯ヲ願ヒタイ、其他ノ條項ニ付テハ
何レ適當ノ機會ニ於テ、商工大臣カラ明確
ナル御答辯ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス(拍手)
〔國務大臣賀屋興宣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=45
-
046・賀屋興宣
○國務大臣(賀屋興宣君) 產金政策ノ中私
ニ關係ノアリマスル部分ニ付キマシテ御答
ヲ申上ゲマス、此會社ハ多少ハ製鍊場等ノ
新設ニ付キマシテハ、危險ヲ冒シテモヤリ
マセヌト、產金ノ奬勵ハ思フヤウニ參リマ
セヌカラ、多少ノ危險ハ冒シマスルガ是
ガ全額ノ損失ニナルト云フ風ナコトハ考ヘ
テ居ラナイ次第デアリマス、又將來金ノ價
格如何ト云フコトデアリマスルガ、是ハ只
今ノ金ノ價格ハ大體ニ於キマシテ亞米利加
ノ金ノ買入値段ガ之ヲ支配致シテ居ルノデ
アリマス、此買入値段ノ變更ハ當分ハナイ
モノト吾々ハ考ヘテ居リマス、之ヲ引下ゲ
マスル場合ニハ、亞米利加ノ對外貨幣價値
ガ急騰致シマスルノデ、輸出入貿易、產業
等ニ非常ナ影響ガアリマスルシ、又金ヲ保
有シテ居リマスル國庫等ハ非常ナ損失ヲ被
リマス、金融機關モ同樣ナ點モアリマスノ
デ、是ハ言フベクシテ容易ニ行ハレナイコ
トデアリマス、兎ニ角此金ノ價格ハ只今政
府ノ買上ゲテ居リマスル價格ガ績キマスト
シテ、安心ヲシテ事業ノ擴張ヲ致シテ貰ヒ
タイモノデアルト私共ハ考ヘテ居ル次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=46
-
047・板谷順助
○板谷順助君 只今ノ大藏大臣ノ御答辯ハ
要領ヲ得マセヌデ不滿足デアリマスガ、何
カ適當ノ時機ニ讓リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=47
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048・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 世耕弘一君
〔世耕弘一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=48
-
049・世耕弘一
○世耕弘一君 私ハ只今上程サレタ兩案ニ
付キマシテ、簡單ニ御尋致シタイト思フノ
デアリマス、同志ノ中カラ質問ガアリマ
シタ如クニ、ドウモ此法案ハ商工省ノ統制
ト云フ所ニ主眼點ガアルノヂヤナイカト疑
ハレル點ガ多イノデアリマス、而モ其統制
ニ當ッテ、寧ロ中小ノ鑛業者ニ非常ナ打擊ヲ
加ヘルト云フ點ヲ幾多發見スルコトガ出來
ルノデアリマス、此點ニ關シマシテ商工省
當局ハ左樣ナ憂ハナイト云フコトヲ仰セラ
レルノデアリマスガ、モウ少シハッキリシタ
保證ヲ得ナイト、此點ニ不安デアルト云フ
コトダケヲ申上ゲテ置キマス
本法案ノ骨子ハ未開發竝ニ休眠鑛區ノ處
理ガ主眼デアッタヤウニ思フノデアリマス
ガ、大體休眠竝ニ未開發ノ鑛山ハ如何ナル
理由カラ斯ノ如キ狀態ニ立至ッタカト云フ
コトヲ、商工當局ハ能ク御理解ヲ持ッテ戴カ
ナクチヤナラヌト思フ者デアリマス、幾多
實例ガアラウト思ヒマスガ、ソレハ省略致
シマシテ、要ハ中小鑛山業者ノ資金難ト云フ
コトニ根據ガアルト云ンコトヲ察シテ戴カ
ナケレバナラヌ、只今板谷君カラモ御話ガ
アリマシタガ、嘗テ政府ガ補助金ヲ出シテ
居ルガ、盡ク失敗シテ居ルト言ハレテル
確ニ其通リデアリマス、若シ其補助金デ
成功シテ居ルモノト假定シタナラバ、ソ
レハ大鑛業者ヲ利シタト云フ以外ニ何モノ
モナイト云フコトヲ斷言スルコトガ出來ル
ノデアリマス、故ニ此點ニ付テ特ニ御留意
ヲ願ヒタイコトハ、山間ヲ跋涉シテ命懸ケ
デ探鑛シテ、ヤレ〓〓是カラ一ツ鑛山業者
トシテ活躍ノ舞臺ニ立タントスル場合ニ於
テ資金難ニ惱ミ、幾多苦心經營シテ今日ニ
至ッタ所ノ中小鑛山業者ヲシテ、統制或ハ重
要鑛物增產ノ美名ノ下ニ隱レテ、此幾多ノ
犠牲ヲ拂ッテ今日鑛業界ニ貢獻シタ者ノ生
命トモスベキモノヲ奪フヤウナコトノナイ
ヤウニ私ハ御願シテ置キタイノデアリマ
ス、更ニモウ一ツ御尋致シタイコトハ、
此兩案ノ中ニ產金法案トモウ一ツノ法案ト
ヲ同ジ目的ノ下ニ立案致シタモノトスルナ
ラバ此產金ト重要鑛物ノ法案ノ中ニ甲乙
ノ差ガアルト云フコトガ吾々見テ分ルノデ
アリマス、是ハ如何ナル理由ニ基クモノ
デアルカ、先程高橋君カラモ言ハレテ居ッタ
ガ、非常時局ノ今日ニ於テ、重要ナルモノ
ハ金其モノバカリデハナイ、鐵銅其他ノ
所謂重要鑛物ガマダ今日國家トシテモ重要
ナル所ノ役割ヲ演ジテ居ルノデアリマス
何故ニ此間ニ於テ甲乙ヲ付ケルガ如キ立案
ヲ爲シタカト云フ點ニ付テ御尋シテ置キタ
イノデアリマス
次ニ御伺致シタイコトハ、重要鑛物法案
ノ中ニアル石炭ノ問題デアリマスガ、今日
石炭政策ニハ相當議論ガアル、細カイ議論
ハ拔キニ致シマスルガ、將來政府ハ日滿支
ノ石炭政策ヲ如何ニ取計フ積リデアルカ、
此點モ國策上重大ナ問題デアリ、日滿支一
貫セル所ノ燃料國策ノ重大ナル要點デアル
ト私ハ考ヘルノデアリマス
次ニ鐵ノ問題ニ付テ御尋致シタイノデア
リマスガ、此點ハ同志カラ細カク質問サレ
タカラ私ハ省略致シマス、唯一點ダケ御尋
致シマス、日本ニハ御承知ノ通リ四〇%程
度ノ鐵鑛ガ散在シテ居ルコトハ申上ゲル迄
モナイノデアリマス、然ラバ今日海外カラ
輸入シテ居リマスル所ノ六〇%以上ノ鑛石
ト混合シテ若シ精鍊ニ當ルトスルナラバ
私ノ計算スル所ニ依リマシテモ百万瓲、約
一千万圓ノ輸入ヲ防遏スルコトガ出來ルノ
デアリマス、私ハ日本製鐵會社ハ斯ウ云フ
ヤウナ問題ヲ解決スルノニ、最モ重要ナル
使命ヲ帶ビテ居ル會社デアルト記憶シテ居
リマス、若シ然リトスルナラバ、何故ニ商
工省ハ此國策會社トシテノ重大ナル使命ヲ
遂行サセナイノデアルカト云フコトヲ御尋
シテ置キタイ
次ニ銅ニ付テデアリマス、是モ簡單ニ御
尋致シテ置キマス、現在銅ノ市價ハ百「キ
ロ」二百圓乃至二百四十圓致シテ居リマス、
所ガ政府ガ默許シテ居ル所ノ財閥團ノ買上
値段ハ百十圓トナッテ居リマス、全ク是ハ暴
利ト云フコトガ出來ルト思フノデアリマス、
凡ソ商業上ノ道德カラ申シマシテモ、斯ノ
如キコトハ世間デ許サレルコトデナイト私
ハ思フノデアリマス、此點ニ付テ政府當局
ハ如何ナル御考ヲ御持チニナッテ居ルカト
云フコトヲ御尋致シタイノデアリマス、而
シテ此重要鑛物法案ノ中ニ、中小鑛山業者
ヲ繼子扱ヒニシハセヌカト云フコトニ對シ
テ不安ヲ持ツ一點ハ、本法案ノ第十六條ノ
末端ニ、纔ニ補償ノ一項ガ揭ゲラレテ居ル
ノミデアリマシテ、極メテ消極的ナ案デア
ルト云フコトヲ吾々考ヘルノデアリマス、
今日ノ日本ノ重工業ヲシテ發展セシメント
スルナラバ、唯一ツ中小鑛山業者ガ積極的
ニ活躍スルヤウニ仕向ケテコソ、初メテ政
府ノ目的ガ達成スルモノデアルト云フコト
ヲ私ハ斷言シテ置キマス
次ニ日本產金會社ニ付テ是亦簡單ニ御尋
シテ置キマス、先程同志ノ方カラ質問ガア
リマシタガ、私ハ金銀鑛石ニハ運賃低減ニ
アラズシテ、免除ヲ斷行シロト云フコトヲ
政府ニ希望シタイノデアリマス、此點鐵道
省ニ御關係ガアリマスカラ、鐵道省カラノ
御答ヲ伺ヒタイノデアリマス、大藏大臣ガ
オイデヽシタラ、是非一ツ聽イテ置イテ戴
キタイト思ッタコトハ、板谷君カラ御質問ガ
アリマシタガ、運賃ノ免除、或ハ國立製鍊
場、優良技術員ノ配置、原鑛石ノ地元ノ買
上、或ハ鑛石ノ種類ニ依ッテ大體實收率ノ標
準ヲ權威アル所デ決定スルト云フヤウナ、
色々技術的ナ議論ガアリマスガ、要ハ板谷
君カラ先程御話ノアッタヤウニ、極メテ迅速
ニ產金ノ增額ヲ目的トスルトスルナラバ
現政府ガ買上ゲテ居ル所ノ金ノ相場ヲ引上
ゲルト云フコトガ最大ノ便法デアルト私ハ
斷言致シテ置キマス、此點ニ付テ大藏大臣
ハオイデニナラナイヤウデアリマスカラ、
大藏當局ニ關係ノアル方面カラ御傳言ガ願
ヒタイト思フノデアリマス
ソレカラ更ニモウ一ツ御尋シタイコト
ハ、今日設立サレントスル所ノ產金會社、
此產金會社ダケデ增產ヲ滿足スルノカト云
フコトヲ御尋シテ置キタイ、五千万圓程度
ノ、而モ貧弱ナ此產金會社ニ依ッテハ、今日
吾々ノ要求スル所ノ產金增額ハ其目的ノ半
バニモ達シナイト云フコトヲ私ハハッキリ
申上ゲテ置キマス、第一此會社ノ重役ヲ如
何ナル方面カラ選ブカト云フコトヲ調ベテ
見レバ分ル、必ズ官吏ノ古手ガ出テ來ル、
然ラザレバ特ニ從來ノ產金ニ關係ノアル財
閥ガ頭ヲ突込ンデ來ル、斯ル場合ニ國策遂
行ノ上ニ、自山ノ鑽石其他ノ產金關係ニ於
テ必ズ利害ノ衝突ヲ生ズルノデアリマス、
誰ガ之ヲ處理シテ行クカ、不可能デアルト
云フコトヲ私ハ申上ゲテ置キマス、細カイ
點ニ對シテハ此際申上ゲマセヌ、一體政府
ハ此會社ニ何「パーセント」程度ノ貧鑛ヲ處
理セシメントスルノカト云フコトヲ御尋シ
テ置キタイ、又今日思フヤウニ產金ノ發達
シナイ所以ハ、製鍊場ニ於ケル所ノ分析ノ
不公平デアルト云フ所カラ非難ガアルト云
フコトヲ承知致シテ居ル、此點ニ關シテ商
工省鑛山監督局ハ如何ナル役割ヲ演ジテ居
ルカト云フコトヲ御尋シテ置キタイノデア
リマス
最後ニ私ノ御尋シタイコトハ、政府ハ目
下ノ實情カラ考ヘマシテ、ドレダケノ金增
產ヲ目安トシテ居ルノカト云フコトヲ玆ニ
御尋ヲシテ置ク次第デアリマス
モウ一ツ重要ナ點デ御尋シタイコトハ、
先程板谷君カラモ御說明ガアッタヤウニ、非
常時局ヲ處理スル意味ニ於テ-乘切ル意
味ニ於テ、產金增額ガ必要デアルト云フコ
トモ意義アルコトデアリマス、若シ然リト
スルナラバ、今日ノ現狀ニ於テ新シク作ラ
レル所ノ會社ニ依ッテ此增產計畫ヲ達成セ
ントスルコトハ餘リニ氣長過ギル、故ニ速
ニ是ガ處理ヲセントスル所ノ方法ヲ吾々ハ
別ニ考ヘナクテハナラヌ、ソレガアルカト
云フトアル、其方法ヲ私ハ此際最後ニ述べ
テ置キタイ、一例ヲ申シマスルナラバ露
西亞デハ千九百三十年ニ四十五瓲ノ金ヲ產
出致シテ居リマス、所ガ六年後ノ千九百三
十六年ニハ二百五十瓲ニ增加致シテ居ル次
第デアリマス、約六倍ノ金ノ增產デアリマ
ス、是ハ何處カラ來タカト申シマスルト、
言フ迄モナク露西亞ハ砂金採取ノ結果ニ
依ッテ此增產ヲ得テ居ルノデアリマス、日本
ニハ其方法ガナイカト云フト、日本ニハ先
程ドナタカ仰セラレマシタガ、現在一億八
千万圓、所謂五十瓲、昨年ノ產額デアリマ
スガ、昭和元年ノ僅ニ三千万圓ソコ〓〓ノ
金ノ產額ヲ、今日一億八千万圓ノ增額ニ導
イタト云フコトハ洵ニ大成功トモ言ヘルノ
デアリマスルガ、吾々ハ是デハマダ不滿足
デアリマス、天平ノ時代カラ日本ニハ金山
ハ到ル處ニ存在スルト云フコトハ歷史家ノ
多ク述ベル所デアリ、又實際家ノ認メル所
デアリマス、而モ砂金ニ於テハ無盡藏ナリ
ト云フ說ヲ技術家ガ述ベル所デアリマス、
私ハ其確實ナ調査ニ基イタ一ツノ數字ヲ玆
ニ擧ゲテ見タイ、例ヘバ臺灣ノ東ノ花蓮港
ノ北ヨリ專門家ノ調査ガ約四五年ニ
互ッテ、又一般會社方面モ調査致シテ居リマ
スガ、砂金ダケデ臺灣ニ約百四十億カラア
ルト云フコトヲ發表サレテ居リマス、又千
島ノ國後島ニハ五十億ノ金鑛ノ所在ヲ明ニ
シテ居ルデハアリマセヌカ、何故此時局ニ
際シテ最モ採取簡單ナ臺灣ノ此百四十億ノ
砂金ノ採取ヲ政府ハヤラナイカト云フコト
ヲ私ハ言ヒタイ、今日此非常時局ヲ乘切ル
ノニハ、輸出ニ依ッテ、貿易關係ニ依ッテ外
資ヲ輸入スルカ、然ラザレバ產金ノ增產ニ
依ッテ吾々ハ軍費ヲ調達スルヨリ外ニ先ヅ
差當ッテノ便法ハナイト思フ、ソレニ最モ適當
ナル所ノ臺灣ノ所謂百四十億ノ砂金開發、
同時ニ臺灣ノ中央山脈約六十里ニ互ル所ノ
アノ金山ノ開發ヲ何故政府ハ速ニ斷行シナ
イカト云フコトヲ私ハ御聽キシタイ、此點
ニ關シテハ旣ニ拓務省ニ於テモ相當調査ガ
遂ゲラレテ居ル筈デアリマス、臺灣總督府
ニ於テモ既ニ十分ノ調査ガ遂ゲラレテ居ル
筈デアリマス、私ハ此際特ニ此一言ヲ加ヘ
テ私ノ質問ヲ終ルコトニ致シマス(拍手)
〔政府委員木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=49
-
050・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 世耕君ノ御質
間ニ簡單ニ御答辯申上ゲマス、或ハ伺ヒ漏
シタ點モゴザイマセウカラ、サウ云フ點ハ委
員會デ詳細ニ御質問ヲ願ヒタイト思ヒマス、
中小鑛業者ニ對シテ何カ壓迫ヲ加ヘハシナ
イカト云フヤウナ御質問ハ、先程高橋君ノ
御質問ニ對シマシテ御答申上ゲマシタ通リ、
此法律案ノ趣旨ト云フモノハ、增產ヲ目標
トシテ、權利ノ上ニ眠ッテ居ル睡眠鑛區所有
煮或ハ休業鑛山ヲ促シテ增產ヲ致シマス
ルノデゴザイマシテ、其事自體ガ直チニ大
キナ鑛業者ノ利益ニナリ、中小鑛業者ノ不利
得ニナルトハ吾々考へテ居リマセヌ、寧ロ
政府ガ介在致シマシテ、資金、信用、技術、
勞力等ノ適當ナル組合セ配備ヲ爲スナド、
其間ノ幹旋ヲ致スト云フヤウナコトハ、從
來ノヤウニ放任サレテ居ッテ大キナ資本ヤ
信用ヲ持ッテ居ル大鑛業家ニ叩カレテ居ル
ヨリモ、中小鑛業家ノ利益デアルト吾々ハ
信ジテ居ルノデゴザイマス、ソレカラ內地
ノ四〇%程度ノ貧鑛ヲ使ッテ、外國カラ來ル
鐵鑛石ノ輸入ヲ減ラスヤウニ何故努メナイ
カト云フヤウナ御質問デゴザイマスガ、殊
ニ之ニ付テハ日本製鐵株式會社ト云フモノ
ガ、特殊ノ使命ヲ帶ビテ居ルコトニ鑑ミテ、
何故出動シナイカト云フコトデアリマシタ
ガ、是モ先程實ハ高橋君ノ御質問ニ御答申
上ゲタ通リニ、政府ハ日本製鐵株式會社法
第九條ヲ發動致シマシテ、內地ノ鐵鑛石ヲ
成ベク澤山利用、使用致シマスコトヲ慫慂
スルバカリデナク、同社へ命令ヲ致シテ居
ルヤウナ次第デゴザイマシテ、ドウゾ砂鐵
ノ利用其他ニ付キマシテモ、從來ノ試驗室
ヲ脫シマシテ、工業的ニ利用スル方針ニ迄、
製鐵會社ヲシテ進メテ居リマスコトヲ御諒
承願ヒタイト思ヒマス
ソレカラ金ノ價格ヲ引上ゲロト云フ御議
論デゴザイマシタガ、是ハ御承知ノ通リ、
犬養內閣當時高橋サンガ大藏大臣ニナリマ
シテ以來、昭和七年三月ト記憶致シマスガ、
從來トマルデ變ッテ、屢次時價ニ應ジテ引上ゲ
マシテ、今日ハ金一瓦三圓七十七錢ニナッテ居
リマシテ、國際市價トノ「マージン」ト云フモ
ノハ約六錢カ七錢シカナイノデアリマシテ、
此國際市價以上ニ金ノ價格ヲ引上ゲルコト
ハ極メテ影響スルコトガ多イノデゴザイマ
シテ、俄ニ御贊成申上ゲルコトハ出來ナイ
ノデアリマス、ソレカラ增產ノ目標ハ一體
何處ニ置イテ居ルカト云フコトデゴザイマ
スガ、昭和十二年ヲ基準ト致シマシテ、五
箇年計畫卽チ昭和十七年末ニ於キマシテ內
地デ五十六瓲、朝鮮ニ於テ七十五瓲ヲ目標
ニシテ、政府ニ於キマシテハ、產金增加ノ計
畫ヲ立テ、此モノガ出來マシタナラバ丁
度百三十瓲バカリニナリマシテ、現在ノ時
價ニ換算致シマスナラバ、四億九千万圓ト
云フコトニ御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス、
漏レマシタコトハ又委員會デ御質問ニ應ジ
テ詳細ニ御答辯申上ゲマス(拍手)
〔政府委員八角三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=50
-
051・八角三郎
○政府委員(八角三郎君) 御答致シマス、
現在臺灣デ產出致シテ居リマス金ハ三瓲バカ
リデゴザイマシテ、昭和十六年ニハ六瓲ヲ目
標ト致シテ居リマス、其中砂金ハ鑛區ガ六十
四、面積ガ一千九十九万坪ニナッテ居リマス、
其中稼行シテ居リマスノハ二十四、面積ガ
四百二十六万坪ニナッテ居リマシテ、產出
高ハ五万四千瓦デゴザイマス、御說ノヤウ
ニ臺灣ノ東海岸ハ最モ有望ナ鑛區デアリマ
シテ、極力是ガ探鑛ト產出ニ向ッテ助成致
スコトニ致シマシテ、先般御協賛ヲ得マシ
タ豫算ニ於キマシテモ、臺灣デハ五十万圓
ノ豫算ヲ以チマシテ此探鑛奬勵、選鑛及ビ
製鍊ノ助成ヲ致シテ、極力是ガ指導ヲ圖ッ
テ居ル次第デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=51
-
052・世耕弘一
○世耕弘一君 簡單デアリマスカラ自席カ
ラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=52
-
053・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=53
-
054・世耕弘一
○世耕弘一君 政府ノ答辯ハ不十分デアリ
マスガ、今日ハ是デ止メマシテ何レ適當ナ
機會ニ再質問致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=54
-
055・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 加藤鐐造君
〔加藤鐐造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=55
-
056・加藤鐐造
○加藤鐐造君 私ハ重要鑛產物增產ニ關ス
ル法案ニ關聯致シマシテ、二三政府ノ所信
ヲ伺ッテ見タイト思フノデゴザイマス、時
間ガアリマセヌノデ、極メテ簡單ニ質問致
シマス
其第一點ハ石炭ノ配給ノ問題デゴザイマ
ス、賀屋財政ニ對スル吾々ノ不安ハ、此財
政ガ輸出貿易ヲ不振ニ陷レハシナイカト云
フ點ニアルノデゴザイマス、申ス迄モナク
現下ノ非常時局ニ處シテ、國民生活ノ混亂
ヲ來サナイヤウニスル爲ニハ、國際貸借ノ
改善ニ力ヲ盡サナケレバナラナイノデアリ
マス、サウシテ國際貸借ノ改善ヲ圖ルニハ、
先ヅ輸出增進ニ力ヲ盡サナケレバナラナイ
コトハ申ス迄モナイコトデアリマス、我國
重要輸出品ノ上位ヲ占メテ居リマス綿絲ダ
トカ、人絹ダトカ云フモノハ、其原料ヲ海
外ニ仰ガナケレバナラナイノデ、是等ノ輸
出品ノ輸出入增加ヲ圖ル爲ニハ、先ヅ大量ノ
原料輸入ヲシナケレバナリマセヌ、軍需資
材ノ輸入ヲ急ガナケレバナラナイ今日ニ於
キマシテ、ソレハ中々困難ナ問題ニナルノ
デゴザイマス、然ルニ一方我國ニハ敢テ原
料ヲ海外ニ俟タズトモ、總テヲ國內ノ原料
デ生產シ、輸出シ得ル所ノ商品ガ少クナイ
ノデアリマス、是等原料ヲ輸入ニ仰グ必要
ノナイ商品ノ輸出ヲ增進スルコトハ、其輸
出全額ガ受取勘定トナルモノデアリマシテ、
斯ウ云フ商品ノ輸出增進コソ、刻下我國ノ
最大急務デアルト考ヘルノデゴザイマス
(拍手)斯ウ云フ受取勘定ノ輸出品ノ代表的
ナモノハ、私ハ陶磁器デアルト考ヘルノデ
アリマスルガ、此陶磁器ノ輸出ハ昭和七年
以降躍進ニ躍進ヲ重ネテ來タノデアリマス
ガ、是ガ昨今ニ至リマシテ著シク頽勢ヲ見
セテ來タノデアリマス、サウシテ今日窯業
界ハ極度ニ不安ユ襲ハレテ居ルノデアリマ
ス、此不安ノ原因ハ固ヨリ多々アルノデゴ
ザイマスルガ、其第一ニ私ハ燃料ノ暴騰ヲ
擧ゲ得ルト思フノデアリマス、陶磁器ニ付
キマシテハ、石炭卽チ燃料費ハ、現在デハ
其生產費ノ四五%乃至ハ五五%ニ相當シテ
居ルノデアリマス、販賣價格ハ遙ニ生產費ヲ
割ッテ居ル現狀デアリマス、其大部分ガ中小商
工業ニ屬シテ居リマスル所ノ窯業家ハ、旣
ニ日々倒產ニ頻シツヽアル現狀デアリマス、
昭和六年十二月上旬ヲ基準ト致シマス炭價
指數ヲ調ベテ見マスルト、北海道粉炭デ昨
年ノ一月一五六·八デアッタモノガ、本年一月
ニ至リマシテハ二四〇·三ト云フ風ニ、僅カ
一箇年ノ間ニ五割以上ノ騰貴ヲシテ居ルノ
デアリマス、此石炭產業ニ付キマシテハ
今日鞏固ナ獨占機關デアル所ノ、昭和石炭
株式會社ト云フモノガ、內地ニ於ケル所ノ
石炭配給ヲ完全ニ支配シテ居ルノデアリマ
シテ、サウシテ此昭和石炭ナルモノガ、機
會アル每ニ價格ノ吊上ヲ今日ヤッテ居ルノ
デアリマス、例ヘバ名古屋地方ニ於キマシ
テ、其市價ニ付テ私ノ調ベタ所ニ依リマス
ト、一瓲十九圓五十錢デアリマシタ所ノ上
等炭ガ、昭和十二年一月ヨリ十三年一月マ
デノ間ニ、九圓九十七錢騰貴シテ居ルノデ
アリマス、此炭價引上ノ理由ハ色々アリマ
スルガ、其第一ノ理由トシテ居リマスル所
ハ船舶運賃ノ値上デアリマス、併ナガラ九
州ヨリ名古屋港マデノ運賃ノ此期間ニ於ケ
ル値上リハ、僅ニ三圓十九錢シカ上ッテ
居ナイノデアリマス、而モ需要者、
例ヘテ申シマスルナラバ、工業組
合等ノ如キモノガ少シデモ安イ石炭ヲ買ハ
ウト致シマシテ、直接採炭業者カラ共同購
入ヲヤラウト致シマスルト、大小幾多ノ中間
商人ガ昭和石炭ノ庇護ノ下ニ、有ユル方法ヲ
講ジテ妨害スルノデアリマス(拍手)サウシ
テ一塊ノ石炭モ是等ノ中間商人ノ手ヲ經ズ
シテハ購入スルコトガ出來ナイヤウニスル
ノデアリマス、又撫順炭ノ輸入ニ付テ考へ
テ見マシテモ、一箇年三百万瓲以上ノ輸入
協定ガ出來テ居ルニモ拘ラズ、此輸入高二
百万瓲ニ過ギナイ現狀ニアルノデアリマス
ルガ、是ハ明ニ安價ナ石炭ノ內地輸入ガ、
常ニ何者カニ依ッテ阻止セラレテ居ルコトヲ
物語ッテ居ルト私ハ思フノデアリマス(拍手)
撫順炭ノ販賣ハ、滿鐵、三井物產、三菱商
事竝ニ南昌洋行、是等ノ共同出資ニ依ッテ出
來テ居ル所ノ、撫順炭販賣會社ナルモノガ
之ヲ行ッテ居ルノデアリマス、三井、三菱ト
云フヤウナ我國ノ代表的財閥デアリ、又內
地ニ於ケル所ノ炭鑛ノ大部分ヲ持ッテ居リマ
スル所ノ資本家ニ、撫順炭ノ配給權ハ獨占
サレテ居リマシテ、其輸入ガ阻止サレテ居
ル爲ニ、輸出產業方面ノ不振ガ濃化サレツヽ
アルト致シマシタナラバ、實ニ是ハ重大
ナル問題デアルト言ハナケレバナラナイ
ノデアリマス(拍手)政府ハ石炭ノ配給ニ圓
滑ヲ期セヨウトセラルヽナラバ、此撫順炭
ノ場合ニ於キマスル所ノ協定高スラモ、輸
入スルコトヲ阻止シテ居ルノニ對シテ、又
細カナ事業家ガ生キル爲ニ僅カナ石炭ノ共
同購入ヲ爲サントスルコトマデ妨害スルヤ
ウナ、惡辣ナル財閥支配ノ販賣機構ニ對シ
マシテ、一大改革ヲ加ヘル必要ガアルト考
ヘルノデアリマスルガ、政府ハ此點ニ對シ
テ如何ナル方策ヲ持ッテ居ラルヽカ、伺ヒタ
イノデアリマス(拍手)聞ク所ニ依リマスレ
バ、政府ハ石炭ノ生產統制ノミナラズ、配
給統制マデ實施スル爲ニ、本議會ニ石炭事
業法ヲ提出スル意向デアッタト云フコトヲ私
共ハ聞イテ居リマスルガ、ソレヲ何者カノ
外部カラノ牽制ニ依ッテ見合ハサレタト云
フヤウナ話ヲ聞イテ居ルノデアリマス、若
シサウ云フコトガアルトスレバ、其外部ノ
力トハ何物デアルカ、是ハ私ガ申上ゲル迄
モナイコトデアルト思フノデアリマスルガ、
私ハ政府ガ是等ノ石炭資本家ノ反對ヲ押切ッ
テ、今日中小工業家ニ取リマシテ、最モ重大
ナ問題デアリマスル所ノ、石炭ノ配給統制
ヲ實施セラルヽ意思ガアルカドウカト云フ
コトヲ伺ヒタイノデアリマス
第二點ハ、日滿支「ブロック」經濟ト本法ト
ノ關係ニ付テ伺ッテ見タイノデアリマス、本
法實施ニ依リマシテ、鑛物ノ增產ヲ圖ルト
致シマスレバ、勢ヒ貧鑛ノ採掘、或ハ採掘
坑道ヲ深ク掘下ゲナケレバナラヌト云フヤ
ウナ風デ、玆ニ當然生產費ノ增加ヲ招キマ
シテ、結局ソレハ價格ノ騰貴ヲ來サザルヲ
得ナイノデアリマス、內地重要鑛產物ノ市
價ヲ高メテ參リマスルナラバ又ソレヲ維
持シヨウト致シマスルナラバ、滿洲方面カ
ラノ鑛物ノ內地輸入ガ益〓困難トナラザルヲ
得ナイノデアリマス、忠勇ナル皇軍ニ依ッテ
占據セラレ、治安ガ目覺シク復活セラレ、
サウシテ資源ノ開發ガ著々行ハレヨウトシ
テ居リマスル所ノ今日ノ北支ニ於キマシテ、
我國ニ取ッテ今日確實ニ利用價値ノアル所ノ
鑛物資源ハ、鹽ト石炭ニ限ラレテ居ルト言
ハレテ居ルノデアリマスルガ、內地ノ石炭
增產ガ生產費ヲ高メル結果トナリマスレバ、
當然滿洲北支ノ安價豐富ナル石炭ノ輸入ハ
困難トナリマシテ、日滿支ノ資源ヲ打ジテ
一丸トスル所ノ「ブロック」經濟ハ、勢ヒ相
矛盾スル結果トナルト思フノデアリマス、
私ハ徒ニ政府ガ今日內地ノ生產費ノ高イ
石炭ノ增產ヲ圖ラレルヨリモ、滿洲炭、北
支炭ヲ輸入シテ、內地工業ノ振興ヲ圖ルベ
キデハナイカト考ヘルノデアリマスルガ、
安價ナ石炭ノ輸入ガ內地石炭業ノ存立ヲ危
クスルト云フコトヲ言ハレルナラバ、是人
一方ニ於テ防グ方法ハ幾ラデモアルト思フ
ノデアリマス、例ヘバ滿洲炭、北支炭ノ販
賣デ得タ所ノ利潤ヲ以テ、內地採炭業者ノ
損失ヲ「カバー」シテヤルト云フヤウナ方策モ
執ラレ得ルト思フノデアリマスルガ、政府
ガロニ日滿支ノ計畫經濟ヲ常ニ唱ヘラレナ
ガラ、本法實施ニ依ッテ行ハントセラレル
所ハ、相矛盾スル結果ヲ喚起スノデハナイ
カト私ハ思フノデアリマス、日滿支一體ト
シテノ經濟確立ニ對スル所ノ政府ノ信念ヲ
私ハ伺ッテ見タイト思フノデアリマス
第三點ハ鑛產物增加策ガ當然結果シマス
所ノ、災害ニ對スル豫防竝ニ賠償ノ問題デ
アリマス、是ハ私ハ厚生大臣竝ニ農林大臣
ニモ伺ヒタイノデゴザイマスルガ、時間ノ關
係上ソレハ委員會ニ讓リマシテ、簡單ニ此
問題ノ骨子ダケヲ申上ゲテ質問致シタイト
思フノデアリマス、鑛產增加策ノ强行ガ、
工場ヤ鑛山ニ於キマスル所ノ勞働者ニ對ス
ル所ノ災害增加ヲ來シタコトハ、敢テ私ガ
贅言スル迄モナイコトデアリマス、是ガ防
止策ニ付キマシテハ、政府ガ銳意努力シテ
居ラレルダラウト私ハ信ジテ居リマス、重
要鑛物ノ增產ニハ有毒ナ藥品ヲ使用スルコ
トガ多クナリマシテ、危險ナ排液ダトカ、
或ハ瓦斯等ヲ發生スルノデアリマス、例へ
バ金ノ製錬ニハ自殺ノ流行藥デアリマス所
ノ靑酸加里ガ必要デアリマスシ、又化學工
業ノ振興ハ亞硫酸瓦斯ヲ發生サセルト云フ
ヤウナ風ニ、斯ウ云フ有毒瓦斯或ハ有毒液
體ノ放出ニ對シマシテ、嚴重ナ豫防裝置ヲ
施サセナケレバ、農產物或ハ水產物方面ニ、
或ハ又人畜等ニ恐ルベキ被害ヲ與ヘルノデ
アリマスルガ、私ハ商工省當局ハ鑛業法規
ヲ改正シテ、鑛山ニ於ケル所ノ落磐其他カ
ラ來ル損害ニ對シテ、賠償規定ヲ設ケヨウ
トシテ居ラレルト云フコトモ聞イテ居リマ
ス、又農林省方面ニ於キマシテハ、數年前
カラ沿岸漁業保護ノ見地カラ、水質汚毒防
止法ヲ制定セラレントスル意思ガアルト云
フコトヲ聞イテ居リマス、私ハ本法ノヤウ
ナ重要鑛物增產ノ法案ガ今日提案サレマシ
タニ際シテ、只今申シマシタヤウナ年來ノ
懸案デアリマス所ノ賠償竝ニ豫防策ノ提案
ノナイノハ、甚ダ奇怪ナコトデアルト考へ
ルノデアリマスルガ、政府ハ鑛物增產ニ關
聯シマシテ、斯ウ云フ有毒物ニ對スル所ノ
豫防策、或ハ其損害賠償等ノ問題ヲ、今日
如何ニ取扱ハウトシテ居ラレルカト云フコ
トヲ伺ヒタイノデアリマス(拍手)
〔政府委員木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=56
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057・木暮武太夫
○政府委員(木暮武太夫君) 加藤サンノ御
質問ニ簡單ニ御答申上ゲマス、詳細ノコト
ハ何レ委員會ニ讓リタイト存ジマス、只今
御質問ニナリマシタ石炭ノ配給ノ問題ハ、
抑言スレバ產業ノ原動力ノ配給ノ問題トシ
テ、極メテ重要ナ問題デゴザイマシテ、當
局ニ於キマシテモ更ニ一段改善スベキ點ノ
アルコトヲ深ク信ジテ居ルノデアリマシテ、
今後十分注意ヲ致シタイト思ヒマス、撫順
炭ガ豫定通リ參リマセヌコトハ御話ノ通リ
デゴザイマシテ、嘗テハ二百七十万瓲以上
モ參リマシタ撫順炭ガ、段々此方ニ參リマ
スル數量ガ減ッテ參リマシタ、滿洲ニ於キマ
シテ增產計畫ガアルニ拘リマセズ、滿洲ニ
於ケル所ノ需要ガ增加致シマシタコトト、
事變關係ニ於キマシテ、輸送ガ頗ル困難ニ
ナッタコトガ原因ノヤウニ考ヘテ居ルノデ
アリマシテ、御話ニナリマシタ陶磁器ニ必
要ナル撫順炭モ、撫順炭其モノガ全體的ニ
減少致シマスル關係上、減ルノデハナイカ
ト當局デモ心配致シテ居ルノデアリマシテ、
是等ニ付キマシテモ篤ト考慮致シマシテ、
善處致シタイト考ヘテ居ルノデゴザイマ
ス
ソレカラ石炭增產ニ伴ヒマシテ、色々災
害ヲ發生スル虞ガアル場合ニ、ドウ考ヘテ
居ルカト云フヤウナコト、或ハ落磐ニ對シ
マスル所ノ損害賠償ト云フヤウナコトモゴ
ザイマスガ、差當ッテ鑛業警察權ノ機能ヲ强
化スルト云フヤウナコトモヤッテ居リマス、
又只今御承知ノ通リニ、明治三十八年以來
根本的ノ改正ヲ致シマセヌデシタ現行鑛業
法ヲ改正致シマシテ、御期待ニ副フヤウニ
努メテ居ルヤウナ次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=57
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058・加藤鐐造
○加藤鐐造君 只今ノ政務次官ノ御答辯ハ
甚ダ要領ヲ得ナイノデゴザイマシテ、只今
內地ノ鑛物增產計畫ト、日滿支經濟「ブロッ
ク」ノ關係等ニ付キマシテノ明確ナル御答
辯ノナカッタコトヲ甚ダ遺憾ニ思ヒマスガ、
是ハ政務次官ノ御答辯ヲ豫期スルコトハ無
理カト思ヒマスカラシテ、改メテ委員會ニ
於キマシテ大臣ニ御答辯ヲ願フコトニシテ、
私ノ質問ヲ打切リタイト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=58
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059・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 是ニテ質疑ハ終了
致シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=59
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060・服部崎市
○服部崎市君 日程第六及ビ第七ノ兩案ヲ
一括シテ、議長指名二十七名ノ委員ニ付託
サレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=60
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061・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 服部君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=61
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062・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 御異議ナシト認メ
せく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=62
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063・服部崎市
○服部崎市君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=63
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064・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 服部君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=64
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065・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 御異議ナシト認メ
マス仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ
議事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日
ハ是ニテ散會致シマス
午後六時三十分散會
衆議院議事速記錄第十五號中
正誤
頁段行誤正
三〇五三-一東京市東京市長
三〇七三五薰督董督発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X01619380222&spkNum=65
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