1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十三年三月八日(火曜日)
午後一時二十二分開議
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議事日程 第二十四號
昭和十三年三月八日
午後一時開議
第一 臨時通貨法案(政府提出) 第一讀會
第二 關税定率法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 飼料配給統制法案(政府提出) 第一讀會
第四 農地調整法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五 昭和十一年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十一年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十一年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十一年度滿洲事件第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十二年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十二年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第五 昭和十二年度特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
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〔左の報告は朗讀を經さるも参照の爲茲に掲載す〕
一議員の異動左の如し
福島縣第一區選出議員菅野善右衞門君退職者となりたり
一政府より提出せられたる議案左の如し
關税定率法中改正法律案
飼料配給統制法案
(以上三月七日提出)
一昨七日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
昭和十三年度歳入歳出總豫算案竝昭和十三年度各特別會計歳入歳出豫算案
豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件
一議員より提出せられたる議案左の如し
日本發送電株式會社法案に對する修正案
提出者
窪井義道君 青木精一君
金錢債務調停法中に人事調停制度制定に關する建議案
提出者 北原阿智之助君
宮林線鐵道速成に關する建議案
提出者 陣軍吉君
汚水防止に關する建議案
提出者
坂下仙一郎君 高木粂太郎君
商工省に自動車局設置に關する建議案
提出者 山田清君
軍友會を系統的團體に組織方斡旋に關する建議案
提出者
伊藤東一郎君 大野一造君
片岡恒一君
補償生絲一掃に關する建議案
提出者
長谷長次君 喜多壯一郎君
青山憲三君
占據地國民に人絹布製日滿支國旗掲揚方に關する建議案
提出者
長谷長次君 喜多壯一郎君
青山憲三君
國旗に關する法律制定に關する建議案
提出者 匹田鋭吉君
國旗地質制定に關する建議案
提出者
樋口善右衞門君 小笠原三九郎君
宮本雄一郎君 加藤知正君
羽田武嗣郎君
雪害防除施設費補助に關する建議案
提出者
藤井浩然君 加藤知正君
三宅正一君 松木弘君
小笠原八十美君
園部福知山間省營自動車運轉開始促進に關する建議案
提出者
田中好君 芦田均君
直江津港修築に關する建議案
提出者
羽田武嗣郎君 丸山辨三郎君
植原悦二郎君 武田徳三郎君
松木弘君 加藤知正君
名古屋帝國大學設立に關する建議案
提出者
服部英明君 服部崎市君
大口喜六君 岡本實太郎君
小笠原三九郎君 大野一造君
渡邊玉三郎君 加藤鯛一君
塚本三君 内藤守正君
山崎常吉君 安藤孝三君
椎尾辨匡君 樋口善右衞門君
杉浦武雄君 鈴木正吾君
(以上三月七日提出)
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
新潟縣下雪害豫防竝救濟に關する質問主意書
提出者
今成留之助君 佐藤與一君
増田義一君 小柳牧衞君
川合直次君
(以上三月七日提出)
一昨七日第四部選出建議委員菅野善右衞門君は退職者となりたり
一昨七日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第四部選出
豫算委員 小山谷藏君(田中萬逸君補闕)
一昨七日委員長及理事互選の結果左の如し
農業保險法案(政府提出)委員
委員長 村上國吉君
理事
土屋寛君 長野綱良君
坪山徳彌君 馬岡次郎君
石坂繁君
一昨七日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
重要鑛物増産法案(政府提出)外一件委員
理事 高畠亀太郎君(理事瀧澤七郎君昨七日委員辭任に付其の補闕)
一昨七日に於ける特別委員の異動左の如し
重要鑛物増産法案(政府提出)外一件委員
辭任 松永義雄君 補闕 川俣清音君
辭任 瀧澤七郎君 補闕 高畠亀太郎君
社會事業法案(政府提出)外二件委員
辭任 松本治一郎君 補闕 川村保太郎君
辭任 箸本太吉君 補闕 松浦伊平君
商法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外二件委員
辭任 木村作次郎君 補闕 紅露昭君
辭任 高橋泰雄君 補闕 牧野賤男君
昭和十二年法律第九十二號中改正法律案(輸出入品等に關する臨時措置に關する件)(政府提出、貴族院送付)委員
辭任 小林房之助君 補闕 原玉重君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=0
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001・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=1
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002・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此際第二號、昭和十
二年度歲入歲出總豫算追加案、特第一號、
昭和十二年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案、追第一號、豫算外國庫ノ負擔トナルベ
キ契約ヲ爲スヲ要スル件、臨第一號、臨時
軍事費豫算追加案、第一號、昭和十三年度
歲入歲出總豫算追加案、特第一號、昭和十
三年度各特別會計歲入歲出豫算追加案ノ
六案ヲ一括議題ト爲シ、委員長ノ報〓ヲ
求メ、其審議ヲ進メラレンコトヲ望望マ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=2
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003・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=3
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004・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、第二號、
昭和十二年度歲入歲出總豫算追加案、特第
盛昭和十二年度各特別會計歲入歲出豫
算追加案、追第一號、豫算外國庫ノ負擔ト
ナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、臨第一號、
臨時軍事費豫算追加案、第一號、昭和十三
年度歲入歲出總豫算追加案、特第一號、昭和
十三年度各特別會計歲入歲出豫算追加案、
右六案ヲ一括シテ議題ト致シマス、豫算委
員長ノ報告ヲ求メマス-豫算委員長田子
一民君
(第二號)昭和十二年度歲入歲出總豫算
追加案(委員長報〓)
(特第一號)昭和十二年度各特別會計歲
入歲出豫算追加案(委員長報告)
(追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルベ
キ契約ヲ爲スヲ要スル件(委員長報告)
(臨第一號)臨事軍事費豫算追加案
(委員長報告)
(第一號)昭和十三年度歲入歲出總豫算
追加案(委員長報告)
(特第一號)昭和十三年度各特別會計歲
入歲出豫算追加案(委員長報告)
報告書
一(第二號)昭和十二年度歲入歲出總豫算
追加案
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子一尺
衆議院議長小山松壽殿
報〓書
一(特第一號)昭和十二年度各特別會計歲
入歲出豫算追加案
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子瓦
衆議院議長小山松壽殿
報〓書
-(追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルベ
キ契約ヲ爲スヲ要スル件
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子一民
衆議院議長小山松壽殿
報告書
-(臨第一號)臨時軍事費豫算追加案
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子民
衆議院議長小山松壽殿
報〓書
一(第一號)昭和十三年度歲入歳出總豫算
追加案
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子一民
衆議院議長小山松壽殿
報告書
(特第一號)昭和十三年度各特別會計歲
入歲出豫算追加案
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十三年三月八日
豫算委員長田子良
衆議院議長小山松壽殿
〔田子一民君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=4
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005・田子一民
○田子一民君 只今議題トナリマシタ豫算
追加案五件及ビ豫算外契約一件ニ付キマシ
テ、委員會ニ於ケル審査ノ經過竝ニ結果ヲ
御報告申上ゲマス、臨時軍事費豫算追加案
ハ、支那事變ノ推移ニ伴フ必要經費ヲ追加
シタノデアリマシテ、其金額ハ歲入四十八
億八千六百五十餘万圓、歲出四十八億五千
万圓デアリマス、其歲出ノ內譯ハ、陸軍臨
時軍事費三十二億五千七百万圓、海軍臨時
軍事費十億四千三百万圓、豫備費五億五千
万圓デアリマシテ、陸軍臨時軍事費ハ遣外
部隊ノ維持、作戰資材ノ應急整備、航空要
員ノ急速補充、造兵設備ノ增强等ニ關スル
モノデアリマス、海軍臨時軍事費ハ遣外艦
船等ノ維持、航空、通信、工作、補給等、
各種施設ノ急速整備ニ關スルモノデアリマ
ス、右歲出ノ財源ハ大部分公債ニ依ルコト
ニナッテ居リマシテ、公債金以外ニ於テ一般
會計及ビ特別會計ヨリ增稅、煙草値上等ニ
依ル增收額ヲ受入レ、又通信、鐵道及ビ各
外地ノ特別會計ヨリノ繰入金其他若干ノ普
通財源ヲ充當スルノ計畫デアリマス、第二
號昭和十二年度歲入歳出總豫算追加案、
及ビ特第一號、昭和十二年度各特別會計歲
入歲出豫算追加案ハ、何レモ緊急巳ムヲ得
ザル經費ヲ追加致シタノデアリマス、豫算
外國庫ノ負擔トナルベキ契約ニ關スル件、
追第一號ハ、一般會計ノ軍需關係資材確保、
損失補償、海軍工廠資金特別會計ノ造船造
兵材料購入等ニ關スルモノデアリマス、尙ホ
第一號、昭和十三年度歲入歳出總豫算追加
案、及ビ特第一號、昭和十三年度各特別會
計歲入歲出豫算追加案ハ、何レモ主トシテ
臨時軍事費ニ關聯スル經費ノ追加デアリマ
ス
以上ハ只今上程セラレテ居リマス豫算各
案ノ大要デアリマス、是ガ審査ノ爲メ豫算
委員會ハ去ル三月一日ヨリ本日迄七囘ノ會
議ヲ重ネ、又長時間ニ亙ル祕密會ヲ開キマ
シタ、玆ニ委員會ニ於テ現レマシク質疑應
答中、一二ノ重要ナル事項ヲ御報告申上ゲ
マス
第一ニ今次ノ臨時軍事費追加豫算モ、前
囘ノ豫算ト同樣、是ガ支出ニ當リマシテハ
一々閣議ノ決定ヲ經、更ニ勅裁ヲ仰ギテ之ヲ
實行スルヤトノ質疑ガアリマシタ、ソレニ
對シテ政府ハ其通リノ手續ヲ執ルベキ旨ノ
答辯ヲサレマシタ、第二ニ、現ニ提出セラレ
テ居ル臨時軍事費追加額四十八億五千万圓
ハ、今後何箇月分ノ經費ナルヤトノ質問ガ
アリマシタ、之ニ對シ今次ノ追加額ヲ以テ
スレバ、大ナル事情ノ變化ナキ限リ、次ノ
通常議會マデノ所要ヲ辨ジ得ベシトノ答辯
デアリマシタ、第三ニ、今後ノ情勢如何ニ
依リマシテハ、今囘要求ノ臨時軍事費追加
額全部ヲ支出スルノ必要ナキニアラズヤト
ノ質問ガアッタノデアリマスガ、情勢ノ變化
ニ應ジテ必要ナキニ至レル場台ニハ、固ヨ
リ政府ハ是ガ使用ヲ爲サザル方針ナル旨ヲ
言明セラレタノデアリマス、更ニ臨時軍事
費追加額ニ伴フ物資ノ需給、國際收支ノ適
合、生產力ノ擴充、公債ノ消化、物價ノ歸
趨竝ニ滿洲重工業株式會社等ノ問題ニ關
シ、有益且ツ適切ナル質疑應答ガ交換セラ
レタノデアリマスガ、其詳細ハ速記錄ニ依
リ御承知ヲ願フコトト致シマス
委員會ハ昨日其質疑ヲ終了致シマシテ、
本日午前討論ニ入リマシタ、民政黨ヲ代
表シテ木檜三四郞君、政友會ヲ代表シテ
松村光三君、第一議員倶樂部ヲ代表シテ平
野力三君、社會大衆黨ヲ代表シテ佐竹晴記
君、第二控室ヲ代表シテ椎尾辨匡君、東方
會ヲ代表シテ由谷義治君ノ諸君ヨリ、何レ
モ銃後施設ノ完璧ト、今次戰果ノ確實ナル
成果ヲ收ムベキコトヲ政府ニ要望シ、贊成
ノ旨ノ發言ガアリマシタ、採決ニ入リマシ
テ、原案ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマシタ
所起立全員、卽チ六案トモ原案ノ通リ可
決致シタノデアリマス、此段御報告申上ゲ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=5
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006・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ討論ニ入リマ
ス-勝正憲君
〔勝正憲君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=6
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007・勝正憲
○勝正憲君 只今議題ト相成ッテ居リマス
追加豫算各案ニ對シテ、私ハ民政黨ヲ代表
シテ委員長報告ニ贊成スル者デアリマス、
豫算各案中臨時軍事費追加案ハ、此度新ニ
四十八億五千万圓ノ追加ヲ計上致シタモノ
デアリマス、此四十八億圓ノ大軍事豫算
ハ、實ニ我國空前ノ厖大ナル軍事豫算デハ
アリマスケレドモ、我々ハ百万ノ大軍ガ海
ニ、陸ニ、全支那ニ轉戰シ、實ニ一國ノ運
命ヲ賭セントスル此大戰ニ際シマシテ、硝
煙彈雨ノ間、死生ノ巷ニ出入シツヽアル我
ガ忠勇義烈ナル百万ノ同胞ニ對シ、少シモ
其協贊ヲ吝ム者デハアリマセヌ、喜ンデ之
ヲ協贊セントスルモノデアリマス(拍手)併
ナガラ此支那事變ニ對シ吾々ハ既ニ二十五
億ノ豫算ヲ協贊致シテ居リマス、前後通計
スレバ實ニ七十三億圓餘ノ大豫算トナリマ
ス、我國ノ經濟財政ガ果シテ能ク此巨大ナ
ル豫算ヲ消化シ得ルデアラウカドウカ、我
國ノ產業機關ガ能ク此大豫算ヲ完全ニコナ
シ得ルデアラウカドウカ、此巨大豫算ノ施行
ニ際シ、果シテ何等ノ障碍ナク國民經濟ノ
健全ナル發展ト調和スルヤ否ヤト云フ點ニ
付キマシテハ、吾々ハ幾多ノ疑問ヲ懷ク者
デアリマス、吾々豫算委員ハ是等ノ疑問ヲ
提ゲテ政府ノ囘答ヲ求メ、由テ以テ全國民
ト共ニ安心シテ政府ノ措置ニ信賴セントシ
タノデアリマス、併ナガラ政府ハ作戰用兵
ノ機密ノ故ヲ以テ、其具體的ナル說明ヲ囘
避セラレマシテ、遺憾ナガラ吾々ハ此目的
ヲ十分ニ達成スルコトガ出來ナカッタノデ
アリマス、抑〓此四十八億ノ巨大豫算ハ、陸
軍費、海軍費及ビ豫備費ノ三本ニ分レテ居
ルダケデアリマシテ、其總テガ殆ド一款一
項デアリ、勿論其目節ノ區別モアリマセヌ、
實ニ流通自在デアリ、加フルニ年度ノ區分
モ無ク、事件ノ續ク限リ何時ニテモ、何時
マデモ之ヲ支出シ得ルコトトナッテ居リマ
シテ、是ガ審議ヲ致サントシテモ、事實上
審議不能ニ近イ有樣デアッタノデアリマス、
然レドモ吾々ハ此重大ナル時局ニ鑑ミマシ
テ、其質スベキ所ヲモ質サズ、其忍ビ難キ
所ヲ忍ンデ、其全額ヲ其儘協贊セントスル
者デアリマス、然レドモ吾々ハ此巨大豫算
ノ施行ニ當リマシテ、幾多政府ニ對シ警告
シ、要望致サナケレバナラナイ點ガアルノ
デアリマス
政府ノ說明ニ依レバ、此臨時軍事費ノ財
源トシテ、新ニ四十四億圓ノ公債ヲ發行セ
ントシテ居ルヤウデアリマス、昭和十三年
度ニ於キマシテハ、既ニ一般會計ニ於テ六
億九千万圓、特別會計ニ於テ一億六千万
圓合計八億五千万圓ノ公債發行ガ計畫
セラレテ居リマス、之ヲ通計致シマスレ
バ、實ニ五十二億五千万圓ト云フ巨額ナル
公債發行ノ計畫トナルノデアリマス、昭和十
二年度ニ於キマシテモ三十三億九千万圓ノ
公債ノ發行ガ計畫セラレ、今日尙ホ相當巨
額ナル公債ノ發行殘額ガアルノデアリマス
カラ、此五十二億圓ノ公債ハ大體之ヲ一箇
年間ニ發行シナケレバナラナイコトニ相成
ルコトト信ジマス、然ラバ此五十二億圓ハ
實ニ一箇月四億三千万圓ニ當ルノデアリマ
ス、卽チ每月平均四億圓以上ノ新規公債ヲ、
殆ド釣瓶打チニ發行シナケレバナラナイ譯
デアリマス、我國ノ市場ハ今後益〓巨額ノ軍
事費ガ撒布セラレ、是ガソレ〓〓ノ子+
ンネル」ヲ通ッテ貯蓄機關ニ還流スルデアリ
マセウ、隨テ吾々ガ從來想像スルコトモ出
來ナカッタ程巨額ナル公債ノ消化力ガ、玆ニ
現レルデアラウトハ信ジマスケレドモ、每
月平均四億圓ト云フ公債ヲ發行スルト云フ
コトハ、決シテ容易ナラザル事デアリマス、
若シ一タビ其調整ヲ誤レバ、直チニ惡性
ㄱインフレーション」ガ起ラヌトハ、誰ガ保
證スルコトガ出來マセウ、政府ハ其市場操
作ニ十分ナル注意ヲ拂ヒ、市場ニ浮動スル
資金ト、個人ノ奢侈的消費ノ源泉トナル過
剩資金トヲ速ニ吸收スルコトニ努メ、苟モ
公債操作ノ失誤ニ依リ、經濟界ニ異常ナル
打擊ヲ與ヘザルヤウ、十分ナル注意ヲ拂ハ
レンコトヲ要望スル者デアリマス(拍手)
我國ノ外國貿易ハ昨年以來甚ダ惡化シテ參
リマシテ、現ニ昨年ニ於テハ輸入超過額實ニ
六億三千五百万圓ニ達シテ居リマス、本年
ニ入リマシテモ甚ダ樂觀ヲ許サナイモノガ
アリマシテ、一月、二月ノ累計額ニ於キマ
シテモ、輸出金額三億六千四百万圓デアリ
マシテ、前年同期ニ之ヲ比較シマスレバ、實
ニ一億二千万圓ノ激減トナッテ居ルノデア
リマス、而シテ三月以降ニ於キマシテモ、
其傾向ガ益〓甚シカラントスルモノガアリマ
ス、貿易外ノ收支ニ於キマシテ、若干是ハ
囘復スルカモ知レマセヌケレドモ、他面軍
需品其他ニ於テ、輸入ハ是レ以上制限スル
コトガ出來ナイ有樣デアリマスカラ、我國
ノ國際收支ハ實ニ非常ニ憂フベキモノガア
ルノデアリマス、果シテ一志二片ノ爲替水
準ヲ、何時迄モ何時迄モ堅持スルコトガ出
來ルデアラウカドウカト云フコトヲ心配致ス
ノデアリマス、此重大ナル時局ニ於テ、吾々
ガ最モ心配ヲ致スノハ此點デアルノデア
リマス、若シ一タビ此爲替水準ガ動搖スル
ガ如キコトガアリマシタナラバ、我國ノ經
濟界ハ實ニ恐ルベキ混亂ヲ生ズルデアリマ
セウ、此國際收支ヲ改善シ、爲替水準ヲ堅
持スルコトハ、此厖大豫算ヲ執行スル上ニ
最モ緊要ナル點デアリマス、能ク此國際收
支ノ「バランス」ヲ改善致シマスコトハ、輸
入ノ防遏ト輸出ノ增進ト二ツノ方法シカナ
イノデアリマス、而シテ政府ノ爲ス所ヲ見
マスレバ、輸入ノ防遏ニ於テハ其手段方法
宜シキヲ得ズ、輸出產業其モノニモ著シク
打擊ヲ與ヘントシテ居リマス、又他ノ一面
ニ於キマシテ輸出增進ノ方法ニ於テ、未ダ
十分積極的ナル施設ヲ見ナイノデアリマス、
政府ハ深ク此點ニ顧ミ、輸入防遏ノ手段方
法ニ十分ナル改善ヲ加ヘ、更ニ進ンデ積極
的ニ輸出ノ增進ニ對スル施設ヲ行フコトヲ
要スルト認メマス、此點ヲ深ク政府ニ警〓
ヲ致シテ置クノデアリマス(拍手)
我國ノ物價ハ昨秋以來追々騰貴ノ趨勢ヲ
示シテ居リマス、歐米ノ各國ハ何レモ物價
漸落ノ步調ヲ示シテ居ルノニ、我國ノ物價
ノミガ獨リ漸騰シテ居ルト云フコトハ、何
ヲ意味スルデアリマセウカ、是ハ大イニ考
ヘナケレバナラナイ點デアルト思ヒマス、
此厖大ナル軍事豫算ニ伴ヒマシテ、明年度
ニ於テハ五十二億圓ノ公債發行ノ必要ニ迫
ラレテ居ル、其結果トシテ通貨ノ膨脹ハ實
ニ免レ難キ運命ニ置カレテ居ルト申サナケ
レバナリマセヌ、加フルニ貿易ノ調整ニ基
ク物資ノ缺乏ガ、更ニ一段ト物價騰貴ノ趨
勢ヲ煽ルモノト思ヒマス、其結果延イテハ
輸出貿易促進ノ障碍トナリ、國民生活ノ不
安ヲ招來セント致シテ居ル、大藏大臣ハ
先日モ物價對策トシテハ、爲替水準ヲ堅持
スレバ足リルノ故ヲ以テ、通貨膨脹ニ對シ
テハ餘リ重キヲ置イテ居ラレナイヤウデア
リマスガ、吾々ハ斷ジテ此見解ニ同意スル
コトハ出來マセヌ、政府ハ此巨大豫算ノ施
行ニ當リマシテ、通貨膨脹ヲ抑制スル爲ニ
有ユル手段ヲ盡シ、物資ノ供給ヲ潤澤ニシ、
物價ノ急騰ヲ豫防スルコトニ、十全ノ注意
ヲ拂ハレンコトヲ望ムモノデアリマス(拍
手)
今日ノ非常時局ヲ乘切ル爲ニハ、產業ノ
各方面ニ統制ヲ强化シテ參ルコトハ、洵
巳ムヲ得ヌコトデアリマセウ、政府ハ現ニ
資金ノ統制ヲ行ヒ、貿易ノ統制ヲ行ヒ、爲
替ノ統制ヲ行ッテ居ル、然ルニ其實行シタル
跡ヲ見マスレバ、當業者ノ取引ニ多大ナル
壓迫ヲ加ヘ、到ル處ニ苦情百出ノ狀態デア
リマス、其結果折角政府ガ念願シテ居ル所
ノ生產ノ擴充其モノニモ、多大ナル打擊ヲ
與ヘントシツヽアル現狀デアリマス、輸出
貿易ノ伸暢ニモ甚シク打擊ヲ與ヘツヽアル
モノデアリマス、私ハ此場合具體的ニ一々
之ヲ例示スルコトヲ避ケマスルケレドモ、
統制ノ方法拙劣ナル爲メ、統制ニ從事シツヽ
アル官吏ノ熟練ヲ缺イテ居ル爲メ、產業
ノ各方面ニ於テ意外ナル打擊ヲ與ヘツヽア
ルト云フコトハ明カナ事實デアリマス(拍手)
統制ノ强化ハ洵ニ已ムヲ得ズトスルモ、此
統制ヲ實行スルニ當リマシテ十分ナル〓究
ヲ遂ゲ、能ク最小ノ犠牲ヲ以テ此目的ヲ達
スルヤウ、特別ノ注意ヲ拂ハレンコトヲ警
告スル者デアリマス、以上ノ警告ノ下ニ私
ハ追加豫算各案ニ對シ委員長報告通リ贊成
ヲ致ス者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=7
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008・小山松壽
○議長(小山松壽君) 原口初太郞君
〔原口初太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=8
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009・原口初太郎
○原口初太郞君 私ハ立憲政友會ヲ代表致
シマシテ、玆ニ臨時軍事費豫算追加案外各
豫算案ニ對シ贊成ノ意ヲ表スル者デアリマ
ス、臨時軍事費追加豫算四十八億五千万圓
ハ、我國空前ノ大豫算デアリマス、軍事豫
算ハ其編成竝ニ形式ニ於テ、軍事機密ノ保
持上、殊ニ目下ハ事變進行中ノ爲メ、審議
上其內容ヲ審カニスルコトヲ得マセヌガ、
吾々ハ酷暑極寒ヲ忍ビ君國ノ爲メ、陸ニ、
海ニ、將タ空ニ、驚異的戰績ヲ擧ゲツヽアル
皇軍ニ對シ、衷心感謝ノ意ヲ表スルト共ニ、
深ク時局ノ重大性ニ鑑ミマシテ、政府特ニ
陸海軍當局ヲ信賴シ、銃後國民ノ義務ト致
シマシテ、玆ニ本豫算ニ對シ欣然協贊ヲ致
ス者デアリマス(拍手)併ナガラ本豫算ハ之
ニ昭和十三年度一般豫算一一十八億六千餘万
圓、竝ニ追加豫算ヲ加フル時ハ、實ニ八十
餘億圓ノ巨額ニ達シマシテ、是ガ實行上ノ
影響ハ洵ニ重大ナルモノガアルト申サナケ
レバナリマセヌ、卽チ本豫算ガ及ボス必然
的物價ノ騰貴、國際收支、就中貿易、爲替
等ニ及ボス影響ハ、蓋シ想像ニ餘リアルモ
ノト考ヘマス、又事變ニ因リ惹起セラレタ
ル所ノ景氣、竝ニ負擔ノ跛行性ハ益〓甚シキ
ヲ加フルモノガアリマス、故ニ政府ハ本
豫算ノ實行ニ當リマシテハ、十分ノ用意ヲ
整ヘテ、運用上宜シキヲ得、以テ本豫算ニ
依リ生ズルコトアルベキ惡影響ノ防遏ニ、
渾身ノ努力ヲ致サレンコトヲ望ンデ已マヌ
次第デアリマス(拍手)政府ハ國家總動員法
案ノ審議ニ當リマシテ、若シ總動員法ガ實
施セラルヽ曉ニ於テハ、軍需省ノ如キ機關
ヲ設置スル必要アリト言明セラレテ居リマ
スガ、總額八十餘億圓ノ大豫算ノ實行ニ當
リマシテハ、政府ハ國民ノ重キ負擔ナルコ
トニ深キ念ヒヲ致サレマシテ、苟且ニモ濫
費等ノ非難ニ陷ルコトナキヤウニ、萬遺憾
ナキヲ期セラレタキモノデアリマス(拍手)
帝國政府ハ事變勃發當初ニ於テ、不擴大
現地解決方針ヲ堅持セラレマシタガ、好マ
ザルニ拘ラズ、支那國民政府ノ計畫的抗日
行動ノ爲ニ擴大ノ餘儀ナキニ至リ、今ヤ政
府ハ新事態ニ對應シテ、帝國不動ノ決意ヲ
中外ニ宣明シ、愈〓長期持久ノ作戰方針ヲ確
立セラレ、將ニ新段階ニ入ラントスル時デ
アリマス、吾々國民ハ臥薪嘗膽時局突破ニ
邁進スルノ固キ決心ヲ致シ、戰局ノ將來ニ
對シ毫モ不安ヲ感ズルモノデハアリマセヌ
ガ、國際關係ハ漸次微妙ニ錯綜シ來リ、動
モスレバ帝國出師ノ初目的貫徹ニ障碍ヲ來
サントスルコトアルハ、我國從來ノ戰爭事
變ニ於テ例外ナキ不首尾ヲ囘想致シマスレ
バ、懸念セザルヲ得ナイノデアリマス
手)政府ハ玆ニ留意セラレ、之ヲ未然ニ防遏
スル爲ニ有ユル方策ヲ講ゼラレタキモノデ
アリマス
又政府ハ一方作戰上ノ效果ヲ擧グルト共
ニ、他方占據地域ノ治安維持、經濟開發等
ニ努力シ、所期ノ目的ヲ十分ニ達成セラレ
ンコトヲ望ミマス、是ガ爲ニハ申ス迄モナ
ク國策ハ常ニ首尾一貫、聊モ矛盾撞著ナキ
ヲ期セラレナケレバナリマセヌ、然ルニ例
ヘバ外資ノ一事ニ付テ申シマシテモ、一方
ニ於テ政府ハ滿洲竝ニ北支ノ經濟開發ノ爲
ニ、外資ノ導入ヲ必要トスルコトヲ屢〓言明
セラレタルニ拘ラズ、他方ニ於テ本院ニ上
程セラレタル電力關係法案ニ於テ見ル如ク、
外債所有者ニ不安ノ念ヲ與フルガ如キ國策
ヲ敢行セラレルコトハ、正ニ國策遂行上ノ
矛盾撞著ト言ハザルヲ得マセヌ(拍手)十分
ナル御注意ヲ要望シテ已マザル次第デアリ
マス
終リニ臨ミ重ネテ申上ゲマス、吾々國民
ハ時局ノ重大性ニ顧ミ、政府特ニ陸海軍當局
ヲ深ク信賴シテ、本豫算ヲ無條件ヲ以テ協
贊致ス者デアリマス、併ナガラ飜ッテ國內ノ
情勢ヲ見マスルニ、時局ノ重大ニ藉口シテ、
國內ニ相剋摩擦ヲ起サシムルガ如キ言動ヲ
敢テスル者ガアリマス、其官タルト民タル
トヲ問ハズ、擧國一致ノ和偕ヲ紊サントス
ルモノデアリマスカラ、深ク之ヲ戒飭セラ
V、眞ニ官民一致ノ實ヲ擧ゲ、以テ上陛
下ノ宸襟ヲ安ンジ奉リ、下萬民ノ負託ニ副
ハレンコトヲ謹ミテ要望致シマス、重ネテ
爰ニ本豫算案ニ贊成ノ意ヲ致ス者デアリマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=9
-
010・小山松壽
○議長(小山松壽君) 野中徹也君
〔野中徹也君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=10
-
011・野中徹也
○野中徹也君 私ハ第一議員倶樂部ヲ代表
致シマシテ、昭和十三年度歲入歲出總豫算
追加案外五件ノ事柄ニ關シマシテ贊成ノ意
ヲ表シタイト思ヒマス、私共ガ豫算ニ關ス
ル所ノ主張、又豫算ニ關スル吾々ノ意見、
斯ウ云フヤウナ事柄ハ、旣ニ此前ノ豫算ヲ
審議スルニ當リマシテ、吾々ノ同僚カラシ
テ發表致シテ居リマス、ソレデアリマスカ
ラ、私ハ多クヲ此處デハ申上ゲマセヌ、又
言フ必要ガナイ、殊ニ今年二月十一日カラ
行動ヲ開始致シマシタ山西方面ニ於ケル我
軍ノアノ狀態ヲ見ル時ニ於キマシテハ、殊
更ニ吾々ノ意見ヲ特ニ發表スル必要ハナイ
ト考ヘルノデアリマス、殊ニ私共ハ向フ
ノ方面ヲスッカリ調査シ、〓究致シテ居ル、
アノ邊ニ於ケル情勢ハ、國內ニ於テ吾々ガ
想像シ得ザル狀態デアル、斯ウ云フ風ナ
艱難、斯ウ云フヤウナ困苦ヲ忍ンデ、而モ雪
中ニ於テ活躍ヲ致シテ居ル皇軍、此皇軍ノ
辛苦ヲ想フナラバ、吾々ハ豫算ヲ審議スル
必要ハナイト認メテモ宜イ位ノモノデハナ
イカト考ヘル
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=11
-
012・小山松壽
○議長(小山松壽君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=12
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013・野中徹也
○野中徹也君(續) 殊ニ此豫算ノ中心ハ、
所謂軍事豫算デアル、ソレデアルカラ此軍
事豫算ヲ眞個ニ適正ニ行ハスル其目的ノ爲
三ハ先ヅ出征シテ居ル將士ノ氣持、此氣
持ヲ能ク吾々ハ了承シナケレバ相成ルマイ
ト思フ、此出征セル將士ガ安心シテ軍事行
動ヲ取リ得ルヤウニヤッテ行カナケレバナ
ラヌノヂヤナイカト思フ、其爲ニハ先ヅ國
內的ニ於テ大ニソレニ對スル事情ヲ考慮
シ、又矯正シテ行カナケレバナルマイト思
フ、先ヅ家庭ノ問題、是等ハ旣ニ政府ガ幾
多ノ施設ニ於テヤッテ居ルガ故ニ、特ニ言フ
必要ハナイ、私共ノ恐ルヽノハ最近ニ於ケ
ル所ノ國內政治ノ情勢デアル、此政治ノ情
勢ハマダ恐ラク出征セル將兵ニハ傳ハッテ
居リマスマイ、幾分傳ハッテ居ルカモ知レヌ
ガ、普ク傳ハッテハ居リマスマイ、ソレデ
アルケレドモ、若シモ最近ニ於ケル政治ノ
情勢ト云フモノガ、アノ將兵ニ殘ラズ傳ハ
ルヤウナ場合ニ於テ、彼等ノ氣持ハドウデ
アルカ(拍手)國內相剋云々ト云フヤウナ問
題ハ、之ヲロニスル諸君ノ氣持ノ上ニ、大
ニ考ヘテ行カナケレバナラヌコトガアルノ
デハナイカト思フ
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=13
-
014・小山松壽
○議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=14
-
015・野中徹也
○野中徴也君(續) 政府モ亦同樣デアル、
政府モ此將兵ノコトヲ思ヘバ、決シテ小サ
ナコトニ戀々トシテハイケナイ、不退轉ノ
意氣ヲ以テ政策ヲ急行スベキモノデナイカ
ト思フ、或ハ今國內ニ於キマシテハ、戰爭
ハ何處ニ起ッテ居ルカト云フヤウナ顏付ヲ
シテヤッテ居ルヤウナ連中ガ多イト思フ、
(「ソレハオ前ダ」ト呼フ者アリ)サウ言フ者
ガサウダ
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=15
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016・小山松壽
○議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=16
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017・野中徹也
○野中徹也君(續) 斯ウ云フ風ナ氣持デア
ルガ故ニ、此將士ガ日本政治情勢、殊ニ議
會情勢ヲ見ル場合ニ於テ、痛憤スル連中ガ
相當ニアルノデハナイカト思フ、吾々ハ政
府ガ能ク內省スルト同時ニ、オ互同志モ內
省シナケレバナラヌノデハナイカト思フ
(「オ前コソ反省シロ」ト呼フ者アリ)政府ハ
宜シク此政策ヲ實行スルニ當ッテ、不退轉ノ
氣持ヲ以テ、ドン〓〓自分ノ思フ所ヲ進行
シテ宜シイ、遠慮スル必要ハナイ(拍手)自分
ノ信念ニ應ジテ、斯ウ云フヤウナ豫算ヲ出シ
タ場合ニ於テ、少シ位文句ヲ言ッタッテ問題デハ
ナイ(「大キナコトヲ言フナ」ト呼フ者アリ)
更ニ進ムナラバ、斯ウ云フ風ナ情勢デ續イテ
行ッタ場合ニ於テ、戰場ニ行ッテ居ル將士ガ日
本ニ歸ッテ來タ曉ニ、如何ナル情勢ガ現出スル
カモ分ラヌト、私共ハ心配セザルヲ得ナイ
(「豫算ト何ノ關係ガアルカ」ト呼ヒ其他發
言スル者多シ)宜シク政府ハ本豫算ヲ實行ス
ルニ當ッテハ、今言ッタ通リ不退轉ノ意氣ヲ以
テ、小節ニ關セズ、大局ヲ見テ行動シナケレ
バナラナイ、之ヲ切ニ政府ニ進言ヲ致シマシ
テ、私ハ本案ニ對スル贊成ノ意ヲ表スル次
第デアリマス、殊ニ私共ガ本案ニ贊成スル
所以ノモノハ、前ニ言ウタ通リ、戰場ニ於
キマシテ身命ヲ〓シテ、專心國家ノ爲ニ奮
鬪シテ居ル陸海軍ノ將士ニ對シテ、愼重ナ
ル敬意ヲ表スルガ爲メデアリマシテ、故
謹ンデ本案ニ贊成スル者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=17
-
018・小山松壽
○議長(小山松壽君) 米窪滿亮君
〔米窪滿亮君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=18
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019・米窪滿亮
○米窪滿亮君 今囘ノ事變ガ有史以來ノ大
事變デアルコトハ、今更私ガ此處デ申ス迄
モナイコトデアリマス、而モ現狀ハ長期戰
ノ態樣ヲ示シテ居ルノデアリマシテ、斯ウ
云フ意味ニ於テ、我ガ國民ガ一日モ早ク政
府聲明ノ當初ノ目的ヲ實現スルコトガ必要
デアルコトハ、是亦言フ迄モナイノデアリ
マシテ、玆ニ私ガ社會大衆黨ヲ代表致シマ
シテ、臨時軍事費追加豫算外五案ニ對シ、
贊成ノ意ヲ表スル所以ハ玆ニアルノデアリ
マス(拍手)併ナガラ本豫算ハ我國開闢以來
ノ大膨脹豫算デアリマス、此財源トシテ吾々
ガ承ッテ居ル點ハ、卽チ公債ニ依ルノデア
リマスガ、此公債ノ發行ニ付テ考ヘテ見マ
スト、軍事費トシテ吾々ガ目下審議シツヽ
アルモノガ約四十億圓、之ニ十二年度分ノ
未發行公債ガ約十七八億圓、更ニ十三年度
ノ一般會計ノ財源トシテ引充テヽ居ルト傳
ヘラレルモノガ七億圓、特別會計ニ對スル
財源トシテノ公債ガ三億圓、合計六十七八
億圓ノ非常ニ厖大ナル公債ガ發行サレルコ
トニナルノデアリマス、此厖大ナル公債
ノ消化ガ、果シテ出來ルカドウカニ付テハ、
何等ノ疑問ハナイノデアリマスガ、此消化
ガ國民生活ニ與ヘル影響ニ付テ、吾々ハ政
府ニ二三ノ希望ヲ申上ゲテ置キタイト思フ
ノデアリマス、何トナレバ此大キナ公債ノ
發行ハ、當然ノ歸結トシテ日本銀行ノ背負
ヒ込ミトナルコトハ、私ガ言フ迄モナイノ
デアリマス、此結果當然ソレハ通貨ノ大膨
脹ヲ促スノデアリマシテ、是ハ輸入ノ統制
ト相俟ッテ、物價殊ニ國民ノ必需品ノ非常ナ
ル騰貴ヲ促スコトハ必至デアリマス、本事
變ガ今後相當長期ニ互ルコトガ想像サレル
時ニ、國民ノ此持久力ヲ經濟的ニ持タセル
爲ニ、物價騰貴ガ國民生活ノ消費經濟ヲ危
險ニ陷レザラシメルコトハ、政府トシテ當
然考慮シナケレバナラヌ問題デアリマス(拍
手ノ又此物價ノ騰貴ハ生產力ノ擴充ニ障碍
ヲ及ボスコトハ、是亦言ヲ俟タナイノデア
リマス、吾々ハ之ニ對シテ政府ハ宜シク公
債政策ト相竝ンデ、生活必需品ノ公定價格
ヲ根幹トスル物價統制機構ヲ樹立スベシト
云フコトヲ忠〓スルノデアリマス(拍手)隨
テ政府ハ此厖大ナル追加豫算ニ對スル國民
ノ關心ガ、何處ニアルカヲ能ク察知セラレ
マシテ、十分ナル對策ヲ講ズベキデアリマ
ス
更ニ吾々ハ出征者ノ遺家族ニ對スル國家
ノ扶助ヲ擴大シテ、以テ出征將兵ヲシテ後
顧ノ憂ナカラシメルコトヲ要求スル者デア
リマス(拍手)最近各種ノ情報及ビ議會ニ於
ケル各種ノ機會ニ於テ政府ノ報〓スル所ニ
依リマスレバ、今ヤ對支戰局ハ我方ガ自主
的ニ其進展及ビ範圍ヲ決定シ得ル段階ニ迄
達シテ居ルト云フコトヲ吾々ハ承知シテ居
ルノデアリマス、此戰局ガ重大ナル轉機ニ
達シテ居ル現段階ニ於テ、政略的ニモ亦戰
略的ニモ、政府ハ愼重且ツ有效ナル方途ヲ
講ズベキデアルト云フコトヲ、私ハ政府ニ
强ク注意ヲスルノデアリマス、先程政友會
代表ノ言ハレタ通リ、其一ツノ具體的方法
トシテハ、占據地ニ於ケル文化經濟ノ兩工
作ニ付テハ、最モ有效ナル方策ヲ講ズベキ
デアリ、更ニ國際的ニハ今日マデノ、アノ
輝シイ軍事的ノ戰果ヲシテ有終ノ美ヲ收
メ、以テ數万ノ血ノ犠牲者ニ對シテ、之ヲ
無爲ニ終ラシメザラヌ所ノ、外交工作ヲシ
ナケレバナラヌト云フコトヲ言フノデアリ
マス(拍手)卽チ今日ノ戰時外交ノ態勢ヲ整
ヘ、更ニ之ヲ今日以上ニ積極化スルコト
ガ、內閣數次ニ亙ッテ聲明シタ所ノ、當初ノ
目的ヲ一日モ早ク實現スルモノデアルト固
ク信ズル者デアリマス、以上ノ希望ヲ政府
ニ傳ヘテ、私ハ本案ニ贊成スル所以デアリ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=19
-
020・小山松壽
○議長(小山松壽君) 椎尾辨匡君
〔椎尾辨匡君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=20
-
021・椎尾辨匡
○椎尾辨匡君 本豫算ニ贊成ノコトハ、先
ニ報〓サレマシタ通リ、全會一致デアリマ
シテ、私共モ擧ッテ贊成スル者デアリマスル
ガ、其希望意思ニ付キマシテハ、自ラ違ッタ
方面モアリマスルノデ、國民全體ノ動キノ
爲ニ一言希望ヲ申述ブルノデアリマス、此
皇軍ノ活躍ト、重大ナル時局ニ對シマシテ、
擧國一致スルコトハ言フ迄モナイノデアリ
マスルガ、此一致ノ力ヲ以チマシテ、內閣
ガモット力强ク、確信以テ進マルヽコトヲ希
望スルノデアリマス、近衞首相ガ明朗率直
ナル達識ヲ持ッテ事ニ當ラレツヽアルコト
ハ、國民ガ喜ビヲ以テ見テ居リマスケレド
モ、何トナクソコニ弱々シイ所ガアルノデ、
モット力强ク一般ヲ率ヰテ進マレルコトヲ
希望スル者デアリマス(拍手)同時ニ閣僚諸
公ニ於カレマシテモ、軍部ハ此國民總意ニ
依ル贊同ニ依リテ一切ノ費用、殊ニ軍ノ各
種設備ノ充實セラレマスル機會ヲ以テ、
ドシ〓〓ト兵器設備ヲ充實セラレマスルバ
カリデナク、更ニ繼續的ニ、現實ニ之ヲ整備
セラレマシテ、如何ナル時局ノ變化ガ起リ
マシテモ、如何ナル國際情勢ノ問題ガ起リ
マシテモ、毫モ逡巡スル所ナキヤウニ、十
分ナル設備ニ邁進セラレンコトヲ希望スル
者デアリマス(拍手)而シテ軍ガ十分ナ成績
ヲ擧ゲツヽアルノデアリマスルガ、國民ノ
期待致シマスル所ハ、決シテ是ガ中途デ唯
勝利ヲ名トシテ撤退スルコトナク、其戰果
ヲ確實ニ、徹底的ニ把握スルコトヲ希望シ
テ已マナイ者デアリマス、是ガ爲ニハ軍ト
外交ガ能ク一致シテ、其目的ヲ達成スルニ
努メラレンケレバナラヌノデアリマスルガ、
外交ノ努力ハ之ヲ認メマスルケレドモ、其
十分ナル努力、有效ナル成績ヲ期待シ得ル
カト云フコトニ付テ、國民ハ多クノ不安ヲ
感ジテ居ルモノデアリマス(拍手)ソレ故ニ
外交方面ニ於カレマシテハ、一層其機關ノ
活躍ヲ圖リ、殊ニ先ニ提示サレマシタ四箇
條ノ要件ナドニ拘ハルコトナク、モット有效
確實ナル戰果ヲ把握致シマスルヤウニ、
著々準備セラレンコトヲ希望スル者デアリ
マス
更ニ國內各般ノ政務ノ上ニ於キマシテハ、
此長期戰ト云フニ拘ラズ、長期戰ノ認識ガ
甚ダ不徹底デアリマス、成程新聞其他ニ報
ジマスルガ如ク、蔣政權ハ戰意沮喪シ、又
兵力財力ノ涸渴ヲ來シ、內訌紛爭ヲ見ルガ
如キコトモ、一面ノ事實ニ相違アリマセヌ、
併ナガラ國民ノ長期戰ニ對スル覺悟認識ヲ
强メマスルニハ、左樣ナ我國ニ都合ノ好イ
方面バカリヲ考ヘルコトデナクシテ、我國
ニ都合ノ惡イ方面ヲモ十分ニ國民ニ認識サ
セテ置ク必要ガアルノデアリマス、卽チ蔣
政權ニ致シマシテモ、今トナッテハ絕體絕
命窮鼠猫ヲ嚙ム底ノ力ヲ以テ進ムコトデ
モアリ、又四川省方面カラ奧地ニ於キマシ
テハ、相當ニ食糧ノ自給自足ノ途ガアルコ
トデアリ、又人口多數ナルニ依リテ、相當
ノ兵員ノ補給ヲ得ルコトデモアリ、有ユル
努力ニ依リマシテ、國際上ノ不當ナル契約
ニ依ッテデモ、何等カノ利便ヲ得ルコトヲ計
ルコトデアッテ、少クトモ我方ニ油斷ガアリ
マスレバ、如何ナル困難ヲ、一層深刻ナラ
シメルカ分ラナイト云フコトヲ明ニ致シマ
シテ、國民全體ガ是ハ眞ニ長期戰ニナルモ
ノデアルト云フコトヲ認識シテ、共同結束
致シマスルヤウニ指導セラレルコトノ、必
要ガアルモノデアルト信ズル者デアリマス
(拍手)
更ニモウ一ツ附加ヘマスルコトハ、言フ
迄モナク今囘ノ事變ハ、我ガ建國以來ノ皇
國ノ大精神ニ基キ、東亞ノ安定ヲ圖ル、正々
堂々タル事柄デアリマシテ、之ヲ思想方
面カラ見マスレバ、實ニ人類ノ眞實ナル國
際平和生活ヲ建設シ、新國際聯盟ヲ建設致
シマスル所ノ、大精神ニ基イテ動クベキモ
ノデアリマシテ、內閣ヲ中心トシテ全面的
ニ此日本ノ偉大ナル精神、偉大ナル思想ヲ
發揮スルコトニ、有ユル方面ニ努力サレテ、
國民全體ガ精神的ニ眞ノ結束ヲシテ、堅忍
持久其事ニ當ルヤウニ努力サレルヤウニ、
此豫算全體ガ通過スルコトヲ機會ト致シマ
テ、一層內閣ハ確信以テ事ニ當ッテ、擧國一
致シテ此時局ヲ克服センコトヲ希望シテ已
マナイ者デアリマス、此意味ヲ以テ贊同ノ
意ヲ表スルノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=21
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022・小山松壽
○議長(小山松壽君) 由谷義治君
〔由谷義治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=22
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023・由谷義治
○由谷義治君 四十八億五千万圓、一部ノ
豫算案トシテハ、空前ナ巨大數字ヲ持ツ臨
事軍事費追加豫算ヲ中心トシテ、附錄的五
箇ノ豫算案ガ今爼上ニ上ッテ居リマス、臨時
軍事費追加豫算ノ內容ハ一切不明デアリマス、
軍部兩相カラ極メテ抽象的ナ提案理由ノ說
明ハアリマシタガ、吾々ハ遂ニ其具體的內
容ヲ知ルコトガ出來ナカッタノデアリマス
例ヘバ私ハ一個ノ〓究資料トシテ敢テ提
供シヨウト思フノデスガ、一般的ニ心配
サレテ居ル所ノ生產力、特ニ軍需生產力問
題ノ如キヲ、一箇ノ〓究資料トシテ考究シ
ヨウト考ヘマシテモ、軍事費豫算書ハ何事モ
吾々ニ〓ヘナイノデアリマス、成程軍部兩
相ノ說明中ニハ、兵器彈藥ノ補充、作戰資
材ノ準備、軍需品ノ調達等々ノ言葉ハアリ
マスガ、其具體的ナ數量モ金額モ全然祕密
デアリマス、私ハ偶、ミ議題ノ一ツデアル所ノ
特別會計追加豫算中ノ陸軍省所管、造兵廠
作業追加豫定計算書各目明細書ヲ見マシタ
所ガ、右ノ造兵廠製品賣拂代、卽チ兵器彈
藥製造額ガ十三年度當初豫算ニ於テ二億三
百万圓デアリマシタモノガ、此度ノ追加豫
算ニ於テ一躍十二億七千万圓、約六倍半ニ
達スル所ノ飛躍的大擴張ガ計畫シテアルコ
トヲ承知シタノデアリマス、然ルニ其各目
明細書ヲ更ニ仔細ニ吟味致シマスト、地金、
木材、皮革、火藥原料、雜品等々ノ材料費、
從業勞働者ノ人員、竝ニ支拂賃銀給與等ノ
事業費ハ、製品賣上高ト殆ド同率ノ割合デ
增加シテ居リマスガ、六倍半ノ生產力擴大
强化ニ當然對應セネバナラヌ工場設備ヲ增
大スベキ、固定資本ノ增加豫算ヲ發見スル
コトガ出來ナイノデアリマス、造兵廠其モ
ノノ工場ヤ機械ガ大增加スルニ要スル設備
資金ガ、何處カラ豫算立テラレテ居ルカ全
然不明デアリマス、恐ラク前ニ引用シマシ
タ軍部兩省ノ抽象的說明用語カラ、斯ノ如
キ工場設備資金ハ四十八億五千万圓ト云フ
臨時軍事費豫算中ニ包藏サレテ居ルデアラ
ウコトヲ、想像スルダケニ止マルノデアリ
マス、以上ハ唯一箇ノ例證ニ過ギマセヌガ、
軍事費ノ內容ハ毫末モ帝國議會ニ知ラシメ
ラレナイ、私ハ此處デ議會審議權ト軍事費
トノ憲法論議ヲ彼此レシヨウトハ考ヘマセ
ス、此處デ爲スベキコトハ、軍事費ノ內容
ヲ一切合財不明不知ノ儘ニ、其贊否ヲ表明
セネバナラヌコトデアリマス、時ハ戰爭ノ
眞最中、事ハ軍事外交ノ機密ガ全部的デア
リマス、其意味ニ於テ吾々東方會ハ、臨時
軍事費ヲ初メ一切ノ豫算案ニ贊成致シマス、
贊成ハスルガ、此機會ニ於テ政府當局ニ對
シ、吾々ハ眞劍ニ要求シ且ツ警告セネバナ
ラヌモノガアリマス、今ヤ支那事變ガ第二
段階ニ移ッタノデアリマスガ、國民總意ノ
常識カラ之ヲ見、全國民的率直至純ナル感
情カラ之ヲ察スルト、日支事變ニ直接的ナ
問題トシテ、戰爭ノ進行展開ニ關シ、戰爭
ト表裏不可分ノ關係ニアル外交ノ問題ニ關
シ、幾多ノ重大問題ガ累加輻湊シテ居リマ
ス、ソレニモ拘ラズ是等重大問題ニ對スル
政府ノ答辯ハ常ニ囘避セラレ、或ル場合ニ
ハ拒否サヘセラレタノデアリマス、併シ吾々
ハ是モ又時ト場合ガ時ト場合ダカラ已ム
ヲ得ナイトスルガ、國民ノ常識ト感情ガ如
何ニモ許シ得ザルモノガ殘ッテ居リマス、
私ハ極メテ露骨且ツ端的ニ其數點ヲ指摘シ
タイ
日本ノ支那ニ於ケル一切ノ軍事行動ガ、
遠大ナル戰果ヲ達成スルニ躊躇シテ居ルガ
如キ感ガアルト云フノモ、其一デアリマ
ス、日本ガ軍的事ニモ、政治的ニモ、外交
的ニモ、遮二無二一心不亂ニ突進シ、突破
セネバナラヌト云フノモ、其一デアリマス、
廣東卽座ニ攻略スベシ、以テ蔣政權最後ノ
糧道ヲ殲滅シ、以テ致命的打擊ヲ敢行セネ
バナラヌト云フノモ、其一デアリマス、蔣
介石ノ謂フ長期抗日戰ニ對應スベク、日本
自ラ長期應戰ト云フガ如キコトハ、東亞安
定勢力ヲ把握スル者ノ名譽デハ斷ジテナシ
ト云フノモ、其一デアリマス、彼レ長期抗
戰デアルナラバ、我ハ卽チ長期大陸經營ナ
ラザルベカラズト云フノモ其一デアリマス、
特ニ近頃奇怪千萬ナコトハ、又々第三國ニ
依ル第二次和平仲介ノ風說、世評ガアチコ
チカラ風聞セラルヽコトデアリマス、敢テ
其具體的說明ハ之ヲ私ハ遠慮致シマス、斯
ノ如クシテ政府ハ果シテ健在ナリヤ、廣田
外相ノ責任如何ト云フノモ其一デアリマス
以上ノ如キ諸點ガ今ヤ全國民的常識ト感
情トノ重大關頭事トナッテ參ッテ居リマス、
近衞首相以下閣僚諸公ハ深甚ナル覺悟ト用
意ガアリマスカ、吾々ハ本豫算ヲ贊成シ
ツヽ、特ニ戰費ノ使用ニ關シ、戰爭ノ進行ニ
關シ、外交ノ經緯ニ關シ、近衞內閣ノ責任
ト任務ハ絕對的ナモノデアルコトヲ强調致
シマス、世界歷史ノ一大轉換ヲ意味スル支
那事變今後ノ處理對策ニ關シテ、萬々一失
政失敗ガアル場合、政府諸公ハ其身命ヲ賭
スルダケノ誠忠ト決意ガナケレバナラヌト
思フ、政府ノ誠忠ト決意トヲ前提條件トシ
テ吾々ハ本案ニ贊成致シマス
此場合最近ノ政治情勢ニ關シテ私ハ一言
シタイコトガアル、第一ハ政府ニ自己分裂
ガアッテハナラヌコトデアリマス、私
一々ノ事實ヲ此處デ指摘致シマセヌ、是人
內閣諸公ガ自ラ顧ミルナラバ分ルデアラウ
ト思フ、切ニ反省ヲ要求スル、第二ハ、
昨日本會議場ニ於テ電力管理案記名投票ノ
場合ニ於ケル永井遞信大臣ノ醜態デアリマ
ス、永井遞信大臣ハ政民兩黨ノ修正案ニ反
對ヲ表明シテ居ル、然ルニ記名投票ノ際、
其國務大臣ノ責任ニ於テナゼ靑票ヲ投票シ
ナイカ、斯ノ如キハ立憲國ノ國務大臣トシ
テ、其責任抛棄デアリマス、衆議院議員ト
シテハ、是ハ重大ナル議員ノ任務ノ自己冒
瀆デアリマス、コンナ連中ガ居ッテ近衞內
閣ハ果シテ革新政策ヲ强調シ、非常時局ヲ
突破スル資格トシテ缺クル所ナキヤ否ヤ、
特ニ永井君ノ反省ヲ要求シ、私ハ政府全體
ニ警告ヲスル
最後ニ私ハ南支、中支、北支戰線ニ出動
セル所ノ、百万ノ皇軍將兵ノ忠勇武烈ニ對
シ、滿腔ノ尊敬ト信賴トヲ表明スル機會ヲ得
タルコトヲ光榮ト致シマシテ、豫算各案ニ
對スル贊成ノ趣旨辯明ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=23
-
024・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ討論ヲ終局致
シマシタ、採決致シマス、六案ノ委員長報
告ハ孰レモ可決デアリマス、六案ヲ一括シ
テ委員長報告ノ通リ決スルニ贊成ノ諸君ノ
起立ヲ求メマス
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=24
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025・小山松壽
○議長(小山松壽君) 起立總員
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=25
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026・小山松壽
○議長(小山松壽君) 仍テ六案共委員長報
告ノ通リ全會一致可決確定致シマシタ拍
手発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=26
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027・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此際日程第四ヲ繰上ゲ
上程シ、其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=27
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028・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=28
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029・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第四、農地調整法案、第一讀會ノ續ヲ
開キマス、委員長ノ報〓ヲ求メマス-委
員長宮澤裕君
第四農地調整法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一農地調整法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノ
ト議決致候此段及報告候也
昭和十三年三月五日
委員長宮澤裕
衆議院議長小山松壽殿
〔別紙〕
(小字及-ハ委員會修正)
農地調整法案中左ノ通修正ス
〓互讓相助ノ精神ニ則リ
第一條本法ハ〓耕作者ノ地位ノ安定及
農業生產力ノ維持增進ヲ圖リ以テ農村
ノ經濟更生及農村平和ノ保持ヲ期スル
爲農地關係ノ調整ヲ爲スヲ以テ目的ト
ス
第四條道府縣、市町村其ノ他命令ヲ以
テ定ムル團體ガ農村ノ經濟更生ノ爲命
令ノ定ムル所ニ依リ自作農創設維持又
ハ農地ノ貸付ノ事業ヲ行フ場合ニ於テ
之ニ要スル土地ヲ取得シ又ハ使用スル
ノ必要アルトキハ行政官廳ノ認可ヲ受
ケ土地ノ所有者其ノ他之ニ關シ權利ヲ
有スル者ニ對シ土地ノ讓渡又ハ使用收
益ノ權利ヲ設定若ハ讓渡ニ關スル協議
ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ團體ガ未墾地ヲ開發シテ同項ノ
事業ヲ行ハントスル場合ニ於テ同項ノ
規定ニ依ル協議調ハザルトキハ開發セ
ントスル未墾地其ノ他其ノ開發ニ必要
ナル土地又ハ其ノ使用收益ノ權利ヲ收
用又ハ使用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル收用又ハ使用ニ關シ
テハ土地收用法ヲ適用ス
〓ガ宥恕
第九條農地ノ賃貸人ハ賃借人。ニ信義
スベキ専情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滯納スル
ニ反シタル行爲ナキ限リ賃貸借ノ解約
等
ヲ爲シ又ハ更新ヲ拒ムコトヲ得ズ但シ
土地使用ノ目的ノ變更又ハ賃貸人ノ自
作ヲ相當トスル場合其ノ他正當ノ事由
アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
當事者ガ農地ノ賃貸借ノ期間ヲ定メタ
ルトキハ當事者ガ期間滿了前六月乃至
一年內ニ相手方ニ對シ更新拒絕ノ通知
又ハ條件ヲ變更スルニ非ザレバ更新セ
ザル旨ノ通知ヲ爲サザルトキハ從前ノ
賃貸借ト同一ノ條件ヲ以テ更ニ賃貸借
ヲ爲シタルモノト看做ス但シ賃貸人ノ
疾病ニ因リテ自ラ耕作スルコト能ハザ
ル爲其ノ他特別ノ事由ニ因リテ一時賃
貸借ヲ爲シタルコト明ナル場合ハ此ノ
限ニ在ラズ
農地ノ賃貸借ノ當事者賃貸借ノ解約ヲ
爲シ又ハ更新ヲ拒マントスルトキハ命
令ノ定ムル所ニ依リ豫メ其ノ旨ヲ市町
村農地委員會ニ通知スベシ
第二項竝ニ民法第六百十七條及第六百
十八條ノ規定ニ異ル小作條件ニシテ賃
借人ニ不利ナルモノハ之ヲ定メザルモ
ノト看做ス
第十三條小作關係ノ爭議ヲ除クノ外相
隣關係其ノ他農地ノ利用關係ニ付爭議
ヲ生ジタルトキハ當事者ハ裁判所ニ調
停ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於
テハ小作調停法及第十條乃至前條ノ規
定ヲ準用ス
第四條第一項ノ規定ニ依ル協議調ハザ
ルトキハ同條同項ノ團體ハ裁判所ニ調
停ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於
テハ小作調停法ヲ準用ス
第十四條裁判所第十二條又ハ前條第一
頃ノ規定ニ依リ小作關係ノ存續、小作
條件ノ變更其ノ他爭議ノ解決上必要ナ
ル裁判ヲ爲サントスル場合ニ於テ必要
アリト認ムルトキハ市町村農地委員會
又ハ道府縣農地委員會ノ意見ヲ聽クコ
トヲ得
及第十一條乃至
第二十一條第十條第二項、第十一條、第
十二條、第十三條第一項及第十四條ノ
規定ハ本法施行ノ際現ニ繫屬スル小作
關係其ノ他農地ノ利用關係ニ關スル訴
訟事件又ハ調停事件ニモ亦之ヲ適用ス
附帶決議
一政府ハ永小作權(民法施行法第四十
七條第三項ノ永小作權ヲ含ム)八井子
ハ速ニ調査ノ上所有權者及永小作權者
雙方ノ地位安定ノ方途ヲ講スヘシ
二政府ハ農地委員會ノ設置構成運用ニ
付テハ本院ノ論議ニ鑑ミ公平妥當ニシ
テ且ツ農村自治機能ニ惡影響ヲ及ホサ
サル樣愼重ニ對處スヘシ
〔宮澤裕君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=29
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030・宮澤裕
○宮澤裕君 豫テ審議ヲ御委託ニ相成リマ
シタル農地調整法案ノ委員會ノ經過竝ニ結
果ヲ報告申上ゲマス
委託ヲ受ケマシタ吾々委員ハ、去ル一月
二十九日委員室ニ會合致シマシテ、委員
長、理事ノ互選ヲ致シタノデアリマス、其
結果不肖宮澤裕委員長ニ、理事ニハ土屋寛
君、村松久義君、河野一郞君、服部岩吉君、
赤城宗德君、川俣〓音君、此六名ガ御選任
ニ相成リマシタ、尤モ赤城君ハ中途ニ於テ
御辭任ニナリマシテ、高岡大輔君ガ玆ニ更
迭サレ、再ビ高岡君ノ御辭任ニ依ッテ、北勝
太郞君ガ御選任ニナッタノデアリマス
御報〓ノ順序上、本案ノ〓要ヲ一通リ申
上ゲテ見タイト思フノデアリマスガ、本案
ハ全條二十二箇條ヲ以テ成立ッテ居ルノデ
アリマス、而シテ第一條ニハ本法制定ノ趣
旨ヲ謳ヒ、第二條ニハ農地ノ定義ヲ謳ヒ、
第三條ニ於テハ兵役ニ應召其他ノ事由ニ依ッ
テ、土地ノ所有者若クハ耕作者ガ自ラ土地
ヲ管理シ、耕作スルコト能ハザルニ至ッタ場
合ノ救濟規定ガ、玆ニ規定セラレテ居ルノデ
アリマス、第四條、第五條ニ於キマシテハ、
農村經濟更生ノ爲ニ、自作農創設維持ヲ行
フ主體デアル府縣、市町村、法令ニ依ル團
體ガ、ソレニ必要ナル既墾、未墾ノ土地ヲ
得マスル爲ニ、必要ナル手續權限ヲ認メテ
居ル條規デアリマス、更ニ六條、七條ハ、
斯クシテ設定致シマシタル自作農者ガ其土
地ヲ失ハナイヤウニ、維持存續セシメル爲
ニ、自分ノ處分モ制限サレ、他ヨリノ侵犯
モ保護ヲ受クルヤウナ規定デアルノデアリ
やく、八條、九條、就中八條ニ於キマシテ
ハ、一旦小作者ガ小作權ヲ設定致シマスト、
登記ノ有無ニ拘ラズ第三者ニ對抗スルコト
ガ出來、他ノ總テノ物權ニ對抗シテ小作權
ヲ主張シ、維持シ得ルコトヲ認メテ居ルノ
デアリマス、九條ハ、地主ト小作人トノ間
ノ關係ヲ律シタ規定デアリマシテ、小作人
ハ信義ニ反スル行爲ノナキ限リ、土地ノ引
上ヲサレル心配モナク、又地主ニ於キマシ
テモ、地目ノ變更、或ハ其土地ヲ地主自ラ
耕作スルトカ、特別ナル事由ノアル場合ノ
外ハ、土地ノ引上ヲ爲スコトヲ禁止致シマ
シテ、專ラ地主ト小作人ガ協調妥協シテ、
從來動モスレバ頻發致シマシタル地主ト小
作間ノ爭議ヲ、未然ニ防止シヨウト云フ計
畫ノ下ノ規定デアルノデアリマス、十條乃
至十三條ハ、先ヅ頻發スル小作爭議ヲ小作
調停法ニ依ッテ解決シ、不能ノ場合ハ更ニ進
ンデ裁判ヲ以テ爭議ノ解決ヲ圖ラウト云フ
規定デアリマス、ソレガ爲ニハ從來小作官
ニ與ヘテ居ラナカッタ所ノ、爭議調停ノ申立
ヲ爲スコトヲ認メテアリ、場合ニ依ッテハ裁
判所ガ裁判ニ依ッテ、此爭議ノ解決ヲスルコ
トモ認メテ居ルノデアリマス、十四條乃至
十七條ハ、本案ノ眼目ト致シマスル農地委
員會ノ種類、組織、權限、或ハ其構成範圍
等ヲ規定致シテ居ルノデアリマス、最後ニ
附則トシテ十八條乃至二十二條ニハ、斯ウ
云フ立案ニ伴フ必然ノ結果トモ申スベキ經
過規定、及ビ國稅デアル登錄稅ノ免除規定
ガ制定サレテ居ルノデアリマス
要スルニ本法案ハ、當面既ニ起リ、又將
來起ラントシツヽアリマス小作爭議ヲ、本
法ニ依ッテ解決シツヽ、進ンデ耕作地ヲ順次
自作農地ニ組替ヘテ行カントスルコトヲ眼
目ト致シテ居ル所ノ立法デアリマス、此審
議ハ前ニ申上ゲマシタ如ク、一月二十九日
開會以來、一昨々日迄、約一箇月半ノ日月
ヲ費シタノデアリマス、而モ所謂晝夜兼行、
委員ハ勿論委員外者マデノ質疑ヲ許シマシ
テ、質疑應答ヲ重ネタル回數實ニ十八囘デ
アリマス、質疑者ノ人員ヲ延人員ニ致シマ
スレバ、實ニ百數十名ニ上ルデアラウト思
フノデアリマス
抑〓本案ハ現下我ガ帝國ノ所謂重大案件デ
アリマス農村問題ニ對シテ、劃期的規律ヲ
定メタル立法デアリマシテ、之ヲ物質的ニ
申シマスナラバ、人口ノ凡ソ六割ヲ占メテ
居リマス農村民ニ關スル產業立法デアリマ
スト同時ニ、之ヲ精神的ニ申シマスナラ
バ、所謂農村ノ紛爭ヲ解決致スコトハ固ヨ
リデアリマスガ、國家ニ取ッテ最モ忽諸ニ付
シ難キ思想、衞生、保健等ニ至大ノ關係ヲ
有スル社會立法デアリマス、而シテコヽ二
十年來ノ懸案解決ヲ目的トシテ居ル法律デ
アリマシテ、世ニ所謂今期議會ニ於ケル三
大重要法案デアリマス、然ルニ他ノ電力國
家管理法案、或ハ國家總動員法案ニ比ベマ
スト、問題ガ土地ニ關スル問題デアリ、地
方農村ニ關スル問題デアリマスカラ、極メ
テ地味デアリマシテ、電力國家管理法案ノ
如ク、極メテ煌ビヤカナ問題デハゴザイマ
セヌ、併ナガラ此審議ニ携リマシタ委員諸
君ハ、何レモ斯道ノ權威者揃ヒデアリマシ
テ、極メテ熱心ニト云フヨリハ、寧ロ眞劔
ニ、而モ平和裡ニ、極メテ熱心懇切ナル質疑
應答ガ繰返サレタノデアリマス、其質疑ノ內
容ヲ悉ク此處ニ御紹介申上ゲルノ煩ヲ避ケ
マシテ、大體ハ速記錄ニ就テ御覽ヲ願フコ
トニ致シ、最モ問題トナッタ數點、疑問トサ
レマシタ數箇所ニ付テ玆ニ御報告申上ゲ、
御紹介申上ゲタイト思フノデアリマス
第一ノ質問ハ、本案ハ昨年度ノ農地法案
及ビソレニ伴フ修正案ニ比シテ、〓シテ內
容モ簡略デアリ、殊ニ退步的デアリ、小作
立法ノ如キハ極メテ僅カシカ規定シテナイ
ガ、如何ナル考デアルノカ、或ハ院議ヲ尊
重セザルノ憾ミハナイカ、或ハ又之ヲ一時
的臨時立法トシテ協贊ヲ求メテ居ルノデハ
ナイカト云フヤウナ質問ガアッタノデアリ
やっ、之ニ對シマシテ政府ハ、院議ハ決シ
テ無視シテハ居リマセヌ、唯現下ノ情勢ニ
於テハ、本法ヲ以テ最モ適正妥當ナリト思ッ
テ居ルノデアリ、又此際多キヲ望ンデ不成
立ニ終ランヨリハ、寧ロ少キヲ以テ成立ヲ
期シテ居ルノデアリマス、謂ハヾ本法ハ時
代ノ反映デアリマストノ答辯ガアッタノデ
アリマス
次ノ質問ハ政府ハ將來土地制度ニ對シ
テ、根本的ノ計畫ヲ何カ持ッテ居ルノデア
ルカ、卽チ第四條ニ於テハ土地ノ團體所有
權及ビ經營ヲ認メテ居ルガ、其眞意ハ那邊
ニアルノデアルカ、又是ハ家產法的ノ意味
アッテノ制定デアルカ、或ハ又自作者ニ限
リ土地ヲ所有セシムル等ノ考デモアッテノ
法案デハナイカ、斯ウ云フ突込ンダ質問ガ
アッタノデアリマス、之ニ對シテ政府ノ答
辯ハ、土地制度ノ根本的改革ナドト云フ考
ハ持ッテ居リマセヌ、唯多數ノ實際耕作者
ニ土地ヲ所有セシムルコトヲ目的ニシテ居
ル法案デアリマス、第四條ニ自作農創設維
持ノ爲ノ手段トシテ、暫定的ノ所有經營ヲ
認メテ居ルノデアリマスガ、是ハ所謂自作
農創設維持ノ經過的手段トシテ認メテ居ル
ノデアッテ、假令一時的手段トシテモ、個人
ガ兼併セル土地ヲ小作スルヨリハ、其方ガ
寧ロ宜イデハナイカト云フヤウナ答辯モ
アッタノデアリマス、尙ホ結果トシテ家產
法的トモナルカモ知レヌガ、其意圖アッテ
斯ウ云フ立法ヲシテ居ルノデハナイ、又自
作者ニ非ズンバ土地ヲ所有セシメナイト云
フヤウナ意圖アッテ、制限ヲ考ヘテ居ルヤ
ウナ譯デモナイ、斯ウ云フヤウナ答辯ガ
アッタノデアリマス
其次ノ質問ハ、本案ハ自作農創設維持ヲ
主眼トスル法案デアルト言ハレルガ、從來
自作農創設維持ノ狀況ニ照シテ見ルト、極
メテ不成績デアル、政府ハ此點ニ付テ對策
ヲ考ヘテ居ルカ、先ヅ此對策ノ一ツトシ
テ、低利資金ノ貸付利子ナドヲ、或ハ二分
五厘程度ニ低下セシムル考ハナイカ、又低
利資金ノ利子ノ國庫補助ナドヲ考ヘテ居ラ
ナイカ、殊ニ實績ハ自作農ガ小作農ニ年一
年轉落スルノ傾向ガアルガ、其責任ハドウ
見テ居ルカ、斯ウ云フヤウナ質問ガアッタ
ノデアリマス、之ニ對シマシテ政府ハ、自
作農創設維持ハ成功トモ思ッテ居ラヌガ、不
成功トモ思ッテ居ラヌ、若シ此制度ナカリセ
バ、更ニ自作農ヨリ小作農ニ轉落スル者ガ
ヨリ以上多カッタデアラウコトヲ考ヘル、又
貸付金利子ノ低下、或ハ國庫補助ナドハ結
構デハアリマスケレドモ、只今困難ナリト
思ハルヽトノ答辯デアリマシタ
次ノ質問ハ農村ニ於ケル小作爭議ノ原因
ノ大半ハ、地主ノ土地ノ引上デアリ、小作
料ノ値上等ガ多クノ原因ヲ成シテ居ル、此
際小作權ヲ認メ、進ンデハ小作料ヲ法認ス
ル、卽チ畫一的ニ何割以下トカ云フ位ニ法
認スルコトニ依ッテ、小作權ノ讓渡ヲ認メ、
權利義務ノ限界ヲ明確ニスルコトガ、爭議
解決ニ便利デハナイカト云フコトノ質問、
殊ニ又地方ニアッテハ現在小作料ガ或ハ二
百圓內外、又永小作ニ付テハ八百圓內外ト
云フヤウニ、現實賣買サレテ居ル土地スラ
アルノデアル、是等ノ現實ニ對シテ政府ハ
何ト見テ居ルカ、又作離料デアルトカ云フ
ヤウナモノモ、地方ニ於テハ事實行ハレテ
居ルノデアルガ、之ヲ何故ニ規定セヌカト
云フヤウナ、熱心ナル質疑ガアッタノデアリ
マス、之ニ對シマシテ政府ハ、何レノ形ニ
依ッテモ小作料ヲ此際法認スルコトニ依ッテ、
小作權ヲ所有權ニ近カラシムルコトハ、各
方面ニ重大ナル關係ヲ及ボシテ、所謂土地
制度ノ改革ト思ハレル小作料、離作料ヲ法
認セヌカト云フ質問ガアリマスガ、是モ全
國必シモ一律一樣ヂヤナイ、無イ處モアル
シ、認メテ居ッテモ其額モ必シモ一樣デハナ
イ、寧ロ甚ダ區々デアル、故ニ是ハ其地方
ノ習慣、個々ノ事情ニ依ッテ解決セシムルコ
トガ、實情ニ卽スルト信ジテ居ル、又舊慣
永小作權ノ如キモ、民法施行法四十七條三
項ニ於テ、約十年ノ將來ニハ問題ノ解決期
ガ迫ッテ居ルガ、是モ其期間ヲ待タズ、成ベ
ク速ニ、出來ルコトナラバ本議會ノ終了後、
全國ニ亙リ其實情ヲ調査シテ、早ク之ニ善
處シ、對策ヲ講ジタイト云フ政府ノ言明ガ
アッタノデアリマス
更ニ質問ト致シマシテ、十二條ニ依ルト
小作調停委員會ニ於テ調停ガ成立タナイ場
合ハ、裁判所ノ裁判ニ依ッテ之ヲ決定スルコ
トニナッテ居ル、然リト致ストキハ、吾人帝
國臣民ハ憲法二十四條ニ依ッテ、法律ノ定ム
ル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ權利ヲ失フコト
ニナルガ、ドウ云フ譯デアルカ、殊ニ此事
案タル小作爭議ハ所謂社會爭議デアル、社
會爭議ヲ苟且ニモ裁判ヲ以テ決定スルト云
フコトハ、如何ニモ不穩當デハナイカ、其
上ニ從來動モスレバ裁判官ノ沒常識ヲ云爲
サレテ居ル此際ニ、甚ダ妥當ナラザル立法
ト思フガ、ドウ云フ考デアルカナドト云フ、
熱烈ナル質疑ガ行ハレタノデアリマス、之
ニ對シマシテ政府ハ、十三條ノ裁判ハ調停
困難ニシテ、到底調停スル能ハザルト認メ
タ場合ニ、小作官、調停委員ノ意見ヲ聽キ、
兩當事者ノ利益ヲ衡平ニ考へ、事情ヲ參酌
シテ裁判スルノデアリマス、況ヤ本裁判ハ
其性質上形成裁判デアッテ、確認裁判デハア
リマセヌ、殊ニ本法ノ前例ヲ爲シテ居リマ
スル金錢債務調停法ノ實績ニ徵シテ見ルト、
金錢債務調停法ハ昭和七年ノ九月以來實施
サレ、凡ソ事件ヲ三十八万件扱ッテ居ルガ、
其中調停裁判ニ掛ッタモノハ、僅々百六十五
件ニ過ギナイ、言換ヘレバ此裁判ニ掛ケル
ト云フコトガ傳家ノ寶刀トナッテ、解決ヲ速
カナラシメ、容易ナラシメテ居ルノデアル
カラ、御心配ノ如ク之ヲ濫用シテ、裁判ヲ
以テ拘束スルヤウナコトハ實ニ極メテ少ク
アラウト思フ、而シテ是アルガ爲ニ調停ノ
解決ヲ容易ナラシムルノデアルカラ、御
諒解ヲ願ヒタイノデアル、又十條ニ於テ
ハ係爭中、卽チ既ニ小作爭議ガ受訴裁判
ニ付サレ、係爭中ノ爭議ヲ小作調停ニ戾
シテ解決スルコトヲ認メテ居ルガ、是ハ
卽チ裁判ヲスル權利ヲ持ッテ居ル者ニ調停
ヲ行ハセルト云フコトハ、是ハ裁判權ヲ
奪フモノデハナイカト云フ質問ニ對シテ、
政府ハ是ハ裁判ヲ行フヨリモ、寧ロ調停
ニ廻シタ方ガ當事者雙方ノ利益デアリ、又
解決ヲ容易ナラシムルト信ズル場合ニ、當
該裁判ヲ一時中止シテ調停ニ廻スノデア
ル、若シ調停ニ於テ不調トナッタ場合ハ、
原則トシテ再ビ當該裁判所ニ返戾スルコト
ニナッテ居ルノデアルカラ、決シテ是ハ所謂
憲法二十四條ノ臣民ノ權利ヲ故ナク奪フモ
ノデハアリマセヌ、又裁判官ノ沒常識ガ御
質問デアリ、御注意デアリマスルガ、之二
對シテハ當該裁判官ハ努メテ理解アル者ヲ
適所ニ配置セシメテ、サウシテ萬遺憾ナキ
ヲ期スル、且ツ本法ヲ執行スル曉ニ於テ
ハ、司法當局トモ十分懇談シテ、以上ノ不
都合ノナイヤウニ留意致シマストノ答辯デ
アッタノデアリマス
次ニ質問ノ大切ナル點デアリマスルガ、
本法案ノ中心點ハ農地委員會ニ存シテ居
ル、言換ヘレバ、本法ガ所期ノ目的ヲ達成
スルカ否カト云フコトモ、一ニ懸ッテ農地
委員會運用ノ如何ニアリト思フ、然ルニ本
委員ノ選擧ヲ致シマスル順序ヲ見ルト、先
ヅ市町村長ガ候補者ヲ推薦シテ、ソレニ依ッ
テ知事ガ任命スルト云フ順序ニナッテ居ル、
然ル所市町村長ハ是ガ推薦ニ當ッテ、或ハ之
ヲ政爭ノ具ニ爲シ、或ハ自己ノ勢力擴張ニ
之ヲ利用シタリ、又一部地主階級ニ偏シタ
リ、又ハ小作人階級ニ偏スルヤウナコトガ
アリ勝チデアルガ、此點ハドウ考ヘテ居ル
カ、又是等弊害豫防ノ爲ニ委員會ノ構成範
圍ヲ市町村單位ニセズシテ、郡單位若クハ
數箇町村單位トスル意思ハナイカ、或ハ又
定數以上、倍位ノ候補者ヲ推薦シテ、其中
ヨリ府縣知事ニ適材ヲ任命セシメルコトニ
シテハドウデアルカ、又各階級、卽チ地主小
作ノ各階級ヨリ一定ノ數ヲ割當テテ、公選
ニ依ッテ之ヲ選定シテハドウデアルカト云
フヤウナ質問モ行ハレタノデアリマスル
ガ、之ニ對シテ政府ノ答辯ハ、市町村長ノ
推薦ハ小作調停法ノ前例モアルノデアル
シ、成ベク各方面ヲ代表スルト認ムベキ、
主トシテ入格者ヲ推薦スルコトハ勿論デア
ルシ、又任命ニ當ッテ知事ハ推薦者其儘ヲ默
諾スルニアラズシテ、小作官其他ノ意見ヲ
徴シ、色々ナ材料ヲ徴シテ、偏頗ナク人格
者ヲ任命セシメルヤウニナッテ居ルノデア
ルカラ、左樣ニ御承知ヲ願ヒタイ、決シテ
御心配ノ如キ不都合ハナカラウト思フ、又
市町村長ノ推薦スル人員等ハ、是ハ將來勅
令ヲ以テ決メルノデアルカラ、更ニ再考ス
ルコトニ致シテ見ヨウ、構成單位ハ郡單位、
或ハ數箇村單位ト云フヤウナ御意見デアリ
マスルガ、是ハヤハリ市町村單位ニヤッタ方
ガ適當デアラウト信ジテ居リマス、斯ウ云
フ答辯デアッタノデアリマス
更ニ次ニ農地委員會ハ、全國デ約一万市
町村ニ對シテ之ヲ設置スルト云フ計畫デア
ルラシイガ、實ハ從來小作爭議ノ絕無ノ町
村ガ可ナリ多イノデアル、斯ウ云フ處ニ故
ラニ機械的ニ農地委員會ヲ設クルコトハ、
却テ寢テ居ル子ヲ醒シ、平地ニ波瀾ヲ起ス
ヤウナ弊害ガアルト思フガドウデアルカ、
且ツ市外地ニハ都市計畫區域地ガアルガ、
此處ニモ設置スルノカ、斯ウ云フ質問デア
リマス、之ニ對シテ政府ハ、必シモ全國畫
一的ニ設置スルトハ考ヘテ居リマセヌ、必
要ノナイ處ヘハ設置スルコトヲ見合セマス、
殊ニ市外地計畫地ナドニハ成ベク設置セザ
ルコトニ致シタイ、斯ウ云フ風ナ答辯ガアッ
タノデアリマス
其他土地ノ團體所有ヲ認メマスルト、我
ガ國民思想ニ惡形響ハナイカト云フ質問、
又本法ヲ制定シテ農地委員ヲ設ケテモ、是
ガ運用ニ當ッテ或ハ西洋流ノ自由主義、民主
主義ノ思想デ之ヲ運用スルノデハ、却テ是
ハ弊害バカリアルノデアルカラ、宜シク農
村古來ノ實情、所謂隣保相助ノ精神ニ立脚
シテ、日本精神ヲ根柢トセル調停ヲシテ貰ハ
ナケレバ相成ラヌ、殊ニ本法制定ト同時ニ、
全國地主ヘノ啓蒙運動モ最モ大切デアルト
ノ意見モアリ、又日本ノ農村ハ元來隣保相
助ノ溫情主義ニ依存シテ成立ッテ居ルノデア
ルガ、本法ニハ此事ヲ全然閑却致シテ居ル、
斯クスルコトニ依ッテ我國ノ德治國ヲ變ジテ
法治國タラシメ、農村ノ美風ヲ破壞スルノ
憂ガアルト思フカラ、此點ニモ十分留意ヲ
願ッテ實施ヲシテ貰ヒタイト云フ希望モア
リ、更ニ團體所有ヲ認ムルコトニナルト、
產業組合ガ多クノ土地ヲ所有スルニ至ルコト
ニナルガ、其點モ注意シテ呉レト云フ注意、
又第九條ニ信義ニ反ストカ、或ハ正當ノ事
由アル場合云々トアルガ、是モ字句ガ極メ
テ不明デアル、殊ニ本法實施ニ依ッテ土地ノ
價格ヲ低落サセテ、農村全體ノ所謂農村金
融ニ支障アラシメ、土地ニ對スル執著心ヲ
稀薄ナラシムル憂ガアルト思フガ、是モ留
意願ヒタイト云フヤウナ希望ガアッタノデ
アリマス
斯ク致シマシテ質疑大體ヲ打切ッテ討論
ニ入ッタノデアリマスルガ、民政黨ノ土屋委
員ガ討論ニ御立チニナッテ、政民共同提案ノ
左ノ修正案ヲ御提出ニ相成ッタノデアリマス、
其修正案ハ或ハ既ニ諸君ノ御手許ニ印刷サ
レテ配付サレテ居ルカト思フノデアリマス
ガ(「配付シテアリマセヌ、配付シテ下サイ」
ト呼フ者アリ)配付致シマスガ、配付シテ
ナイナラバ玆ニ簡單ニ御說明申上ゲマス、
第一條「本法ハ」トアリマスガ、其「本法ハ」
ノ次ニ「互讓相助ノ精神ニ則リ」ノ十字ヲ入
レテ「本法ハ互讓相助ノ精神ニ則リ耕作者
ノ地位ノ安定」云々ト是ガ修正サレタノデ
アリマス
次ハ第四條デアリマスガ、第四條ニ於テ
「道府縣、市町村其ノ他命令ヲ以テ定ムル團
體ガ農村ノ經濟更生ノ爲命令ノ定ムル所ニ
依リ自作農創設維持又ハ農地ノ貸付ノ事業
ヲ行フ場合ニ於テ之ニ」トナッテ居ル、其「自
作農創設維持」ノ下ノ「又」カラ「之」マデノ
十九字ヲ削除スルコトニナッタノデアリマ
ス(「何處ヲ修正シタヤラ分ラヌヂヤナイ
カ」ト呼フ者アリ)法律案ハ旣ニ御配布シテ
アリマス、ソレヲ御覽下サイ(「ナイ」ト呼
フ者アリ)原法案ハ各員ニ配付濟デアリマ
ス、ナイノハアナタノ怠慢デアリマス(拍
手)
ソレカラ第九條ノ「農地ノ賃貸人ハ賃借
人」ノ次ニ「ガ宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ
小作料ヲ滯納スル等」ト云フ二十三字ヲ挿
入スルノデアリマス
更ニ十三條ノ二項ヲ全文削除スルノデア
リマス、其結果ト致シマシテ次ノ十四條ノ
「第一項」ト云フ三字、及ビ二十一條ノ數文
字ヲ削除スルコトハ、是ハ十三條ノ二項ヲ
削除スルコトニ依ッテ必然行ハルベキ字句
ノ修正デアリマス
斯ク致シマシテ所謂政民共同提案ニ成ル
修正案ガ提起サレタノデアリマスガ、之二
對シマシテ政友會ノ河野委員ヨリ修正案贊
成ノ討論ヲ行ハレタノデアリマス、次イデ
各小會派ノ諸君ヨリ修正理由ノ質疑ガ行ハ
レ、其結果第一控室ノ平野委員、社大ノ杉
山委員、第二控室ノ中原委員、東方會ノ大
石委員ヨリ、ソレ〓〓討論ガ續行サレマシ
テ、有ユル觀點、角度ヨリ修正案ヲ論難
シ、非難サレテ、以上各小會派ハ一致シテ
政民提出ノ共同修正案ニ反對シ、政府提出
ノ原案其儘ヲ承認スル旨ノ御主張ガアッタ
ノデアリマス、更ニ之ニ續イテ本案ニ對シ
テ附帶決議ヲ附ケ、此附帶決議ハ各派一致
シテ共同ニ提案サレタノデアリマス、整
附帶決議ノ全文ヲ朗讀致シマス、長クハゴ
ザイマセヌカラ、御聽取ヲ願ヒタイト思ヒ
マス-今一寸原文ガ見付カリマセヌカ
ラ、後刻朗讀致シマス(笑聲)右ニ依ッテ數
案ヲ採決致シタノデアリマスガ、採決ヲ起
立ニ諮ヒマシタ結果、先ヅ所謂政民共同提
案ノ修正案ノ如ク修正スルコトノ可否ヲ起
立ニ諮ヒマシタ結果、起立多數ヲ以テ確定
サレタノデアリマス、更ニ政民共同提案ノ
修正點ヲ除ケル爾餘ノ政府原案ニ付テ、起
立ニ依ッテ贊否ヲ決シタノデアリマスガ、是
亦起立多數ヲ以テ可決確定致シタノデア
リマス、最後ニ各小會派カラ提出ニナリマ
シタ政府提出原案全部其儘ヲ承認スルコト
ノ可否ヲ起立ニ諮ウタノデアリマスガ、少
數否決ニナッタノデアリマス、ソコデ附帶
決議ヲ採決ニ諮ウタノデアリマスガ、其附
帶決議ハ只今此處ニ到達致シマシタカラ朗
讀致シマス
附帶決議
一政府ハ永小作權(民法施行法第四十
七條第三項ノ永小作權ヲ含ム)二段六
ハ速ニ調査ノ上所有權者及永小作權者
雙方ノ地位安定ノ方途ヲ講スヘシ
二政府ハ農地委員會ノ設置構成運用ニ
付テハ本院ノ論議ニ鑑ミ公平妥當ニシ
テ且ツ農村自治機能ニ惡影響ヲ及ホサ
サル樣愼重ニ對處スヘシ
斯ウ云フ二個ノ附帶決議デアリマス、之ヲ
起立ニ依ッテ採決ヲ致シタノデアリマスガ、
起立總員、可決ニ相成ッタノデアリマス、以
上委員會ノ報〓ヲ申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=30
-
031・小山松壽
○議長(小山松壽君) 本案ノ委員長報告ハ
修正デアリマスカラ、討論ハ便宜上第二讀
會ニ於テ爲スコトト致シマス、本案ノ第二
讀會ヲ開クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=31
-
032・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=32
-
033・服部崎市
○服部崎市君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
カレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=33
-
034・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=34
-
035・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス、討論ニ入リマス、
通〓順ニ依ッテ發言ヲ許シマス-石坂繁
君
農地調整法案第二讀會
〔石坂繁君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=35
-
036・石坂繁
○石坂繁君 私ハ只今議題ト相成ッテ居リ
マス農地調整法案ノ委員長報〓ニ付キ、其
修正ノ部分ニ反對シ、當初ノ政府提出原案
ニ贊成ノ意ヲ表スル者デアリマス(拍手)抑、〓
本法案ノ目的ト致シテ居リマス所ハ、同法
案第一條ニ明カデアリマスル如クニ、耕作者
ノ地位ノ安定及ビ農業生產力ノ維持增進ヲ
圖リ、以テ農村ノ經濟更生及ビ農村平和ノ
保持ヲ期スル爲メ、農地關係ノ調整ヲ致ス
ト云フニアルノデアリマス、私ハ本法案ノ
目的トスル所ヲ深ク諒ト致ス者デアリマス、
然ルニ其耕作者ノ地位ノ安定ト云ヒ、農業
生產力ノ維持增進ト云ヒ、又農村經濟更生
及ビ農村平和ノ保持ト云ヒ、現下ノ非常時局
ニ於テ、我國ノ農村ニ取リテ何レモ必要缺
クベカラザル要項デアルノデアリマス、唯
要ハ果シテ本法ヲ以テ致シマシテ、斯ノ如
ク欲スル所ノ目的ヲ能ク達成シ得ルヤ否ヤ
ニアルト存ジマス、私ハ未ダ本法案ヲ以テ
十分ナリト致ス者デハアリマセヌ、併ナガ
ラ農林大臣ガ委員會ニ於テ屢〓明言サレマシ
タ言葉ニ、此法案ヲ以テ十分ナリト致スモ
ノデハナイケレドモ、吾々ノ目的トスル所
ヲ先ヅ滿足シ得ルモノナリト云フ其言ニ信
賴シ、暫ク本法案ヲ認メマシテ、速ニ我國
ノ農村ノ現狀ニ卽應セル如キ、一層根本的
ナル農地制度ノ立法ヲ期待シテ已マナイノ
デアリマス
〔議長退席、副議長著席〕
然ルニ只今委員長報告ノ如ク、本法案ニ對
シマシテ政民兩派ヨリ修正案ヲ御提案ニ相
成リ、只今御報〓ノ如キ經過ヲ以チマシテ
修正案ガ委員會ヲ通過致シタノデアリマス、
其修正ノ箇所ハ是亦只今委員長ヨリ御報告
ノ通リデアル、卽チ其修正案ノ重要ナル點
ハ四箇所デアリマス、之ヲ說明致シマスル
ナラバ、第一條、第四條、第九條及ビ第十
三條第二項ノ削除デアリマス、ソコデ私ハ
此主ナル四箇條ノ修正ニ付キマシテ、簡單
ニ私ノ意見ヲ申上ゲマシテ、此修正案ヲ批
評致シテ見タイト存ジマス
先ヅ第一條ノ修正、是ハ申上ゲルマデモ
ナク、第七十議會ニ提出セラレマシタ所ノ
農地法案第一條冒頭ノ文言ヲ移シテ、本法
案ノ冒頭ニ加ヘタモノデアル、卽チ本法ハ
互讓相助ノ精神ニ則ルト云フコトハ、(〓)
農地法案第一條ニ謳ッタ所デアリマス、之ニ
對スル委員會ノ質問ニ際シマシテノ農林大
臣ノ御答辯ノ趣旨ハ、我國ノ農村關係ハ、
互讓相助ノ精神ニ依ッテ處理スベキコト固
ヨリ當然デアル、隨テ殊更ニ法律ノ明
文ニ謳ハナカッタノデアルト云フ御趣旨
デアッタノデアリマス、私共我國ノ農村問題
ヲ觀察致シマスルニ、全體トシテノ農村ノ
問題ハ、此互讓相助ノ精神ニ則ルト云フ農
村ノ傳統的理由ヲ活カシテ、益〓此基調ヲ
盛ナラシメント云フ持論ヲ持ッテ居ルモノ
デアル、隨テ私ハ此第一條ノ修正ニ對シマ
シテハ、必シモ其精神ニ於テ反對デハナイ
ノデアル、併ナガラ是ダケノ言葉ヲ謳ヒマ
セヌデモ、本法ニ所期シテ居ル所ノ精神ハ
ソコニアルト、農林大臣ノ御說明ヲ諒承ス
レバ宜シカラウト存ズルノデアリマス
第二點、是ハ第四條デアル、抑、第四條ハ
此農地調整法案ニ於キマシテハ頗ル重要ナ
ル條項デアル、卽チ本法案ハ農地制度ノ改
正ニ對スル所ノ根本的基調ヲ含ンデ居ルモ
ノナリト、私共ハ觀察シテ居リマスルガ故
ニ、第四條ヲ頗ル重要視シテ居ルノデアリ
マス、隨ヒマシテ其修正ノ文言ハ簡單ノヤ
ウデアリマスルケレドモ、此條文自體ノ修
正ハ、私ハ頗ル重要視シテ考へテ居ルノデ
アリマス、抑、≧土地ノ制度ノ問題ハ、極メテ
重要ニシテ且ツ困難ナ問題デアリマス、遠
キ昔ハ問ハズ、大化ノ改新ニ於ケル班田收
授ノ如キ、其他我國ノ歷史ノ上ニ於キマシ
テ、幾度カ變遷致シテ居ルノデアリマスル
ガ、要スルニ限リアル土地ヲ如何ニシテ之
ヲ分配致セバ生產力ヲ旺盛ニシ、富ノ平均ヲ
保ツコトガ出來ルカト云フヤウナ點カラ致
シマシテ、農地制度ハ極メテ重要ナ問題デ
アリマス、而シテ歷代ノ爲政者ノ最モ頭ヲ
惱マシマシタ所ノ問題ノ一ツデアラウト存
ジマス、明治維新ハ我國ノ歷史上非常ニ大
キナ改革デアル、隨ヒマシテ農地制度ニ關
シマシテモ、非常ニ重大ナル改革ガ遂ゲラ
レタノデアリマスルガ、御承知ノ通リニ明
治維新以後、西洋ノ文物制度ガ非常ニ急速
ニ輸入セラレ、隨ヒマシテ資本主義ノ經濟
組織ガ樹立致サレマシテ、其間ニ於テ農地
制度トノ關係ニ於テ之ヲ考ヘマスルト、土
地ノ所有權ノ觀念ト云フモノガ確立致シテ
參ッタノデアリマス、土地ノ所有權ニ對スル
所ノ法律ノ保護ガ完備シテ參ッタ、其爲ニ物
質文明ノ非常ナル發達ヲ來シマシタコトハ、
勿論申上ゲルマデモナイコトデアリマスルケ
レドモ、其間ニ於テ我國ノ農業生產ノ最モ重
要ナル要素デアル所ノ農業土地、此土地ヲ
利用スルコトニ依ッテ、直接ニ農產物ノ生產
ニ從事スル所ノ耕作者、此兩者ノ農地ヲ中
軸トシテノ關係ハ、色々ノ問題ヲ胚胎致シ
テ參リマシタ、隨テ農地ニ對スル所有權ガ
發達スレバ發達スルニ連レテ、ソレニ對ス
ル矛盾ハ自ラ集積セザルヲ得ナイヤウナ狀
態ニ相成ッタノデアリマス、茲ニ農地制度ニ
對スル根本的改革ガ要望サレルニ至ッタ事
情ノ伏在ヲ、私共ハ否定スルコトガ出來ナ
イノデアリマスルガ、更ニ今日ニ於テ私共
考ヘマスルニ、今日ノ時局ニ於テ多數ノ出
征將士ノコトニ想ヲ致サナケレバナラヌノ
デアリマス、卽チ北支ニ、又中支ニ多數出
征致シテ居リマスル所ノ皇軍ノ將兵ノ多ク
ハ、中小工業者ノ家族カラ出テ居ル人モ多
數アルデアリマセウガ、其大多數ハ農家ノ
世帶主、或ハ其子弟デアル、或ハ自作農モ
アリマセウシ、小作農モアリマセウガ、要
スルニ多數農家ノ子弟ヲ送ッテ居ルト云フ
コトハ顯著ナ事實デアル、其多數ノ人々ガ
廣漠タル支那ノ平野ニ轉戰又轉戰、到ル處
一望際涯ナキ廣イ支那ノ原野ヲ見テ參リマ
シテ、サウシテ凱旋致シマシタ場合ニ於キ
マシテ、一タビ支那大陸ヲ見テ來タ所ノ眼
ヲ以テ、日本內地ノ狹イ農地ヲ見マスル時
ニ、其人達ノ農地ニ對スル考ハ非常ニ違ッテ
參ルデアラウト私ハ考ヘテ居リマス、サラ
デダニ農民ハ土地ガ欲シイ、土地ニ飢ヱテ
居ル、小作人ハ自作農ニナリタイ、自作農
ハ少シデモ多クノ土地ガ欲シイ、是ガ農民
ノ熱烈ナル欲求デアル、此熱烈ナル欲求ト
希望ニ副フ爲ニ、私共ハ今日ニ於テ特ニ農
地制度ニ對スル根本政策ノ樹立ヲ痛感致シ
テ居ル者デアリマス(拍手)不日凱旋歸還致シ
マス將兵ノ土地ニ對スル考ハ、思想的ニモ
經濟的ニモ、非常ニ見方ガ異ッテ參ル、
現ニ歐羅巴大戰後ノ歐羅巴各國ニ於ケル情
勢ヲ見マスルニ、其多クノ國々ハ歸還兵ノ
思想ニ動カサレテ、農地制度ノ改革ヲ爲シ
タコトハ、其例ガ澤山アルノデアリマス、
故ニ私共ハ今日此際ニ於テ、我國ニ於テ最
モ根本的ナル農地制度確立ノ必要ヲ痛感致
シテ居ッタノデアリマス、然ラバ其農地制
度改革ノ根本基調ヲ何レニ求ムベキカ、申
上グル迄モナク、是ハ今日ノ所有權ノ觀念
ニ對スル所ノ是正サレタ思想ヲ、ソコニ盛
ラナケレバナラヌト、私ハ斯樣ニ考ヘテ居
ル、歐羅巴ノ中世ヨリ十九世紀ヲ經テ二十
世紀ニ至ル、其經濟制度、法律制度ノ過渡
的事情ヲ考ヘテ見マスルニ、中世紀ニ於テ
個人ノ權利ガ認メラレナカッタ、ソレガ個
人ノ解放トナリ、所有權ノ觀念トナリ、契
約自由ノ原則トナッタノデアリマス、ソレ
ガ今日ノ資本主義ノ文化ヲ樹立シタコトモ
私共否定致シマセヌガ、今日ノ所有權ニ對
スル所ノ觀念ハ、徐々ニ變化シツヽアルト
云フコトヲ、私共ハ否定致スコトハ出來ヌ
ノデアリマス、之ヲ歐羅巴ノ法制ニ付テ考
ヘマスルニ、明ニソレヲ法文ノ上ニ謳ヒマ
シタ所ノ法制モアル、卽チ獨逸ノ「ワイマー
ル」憲法百五十三條ノ如キ、所有權ハ義務
ヲ負フト云フ規定ヲ書イテ居ル、サウシ
テ其所有權ノ行使ハ同時ニ公共ノ爲ニ役立
ツモノデナケレバナラヌト云フ規定ヲ書イ
テ居リマス、瑞西民法第二條第一項ニ於テ
信義ノ原則ヲ規定シ、同條第二項ニ於テ權
利ノ明白ナル濫用ハ法律ノ保護ヲ受ケズト
規定致シテ居ル、我國ノ法制ニハ斯ノ如キ
明文上ノ規定ハゴザイマセヌケレド、現實
ニ判決ヲ下サナケレバナラナイ所ノ裁判所
ハ、是等ノ思想ノ影響ヲ著シク受ケテ居
ル、サウシテ一方ニ於テハ我ガ民法第九十
條ノ公序良俗ノ條文ヲ持チ、或ハ又權利濫
用ノ思想ヲ取入レマシテ、所有權ニ對スル
所ノ判決ハ徐々ニ變化シツヽアル傾向ニア
ルコトハ、是ハ認メナケレバナラヌ、所有權
ヲ否定スルニアラズ、公衆ノ福祉ノ爲ニ、
全體的ノ利益ノ爲ニ、所有權ハ用ヒナケレ
バナラナイト云フ思想ノ傾向、卽チ裁判所
ハ憲法ニ依ッテ絕對的ニ保障サレテ居ル所
ノ所有權、此所有權ノ絕對性ニ執著ヲ持チ
ナガラ、一面社會生活ノ協同性ヲ顧慮シ、
權利濫用ノ理念ヲ全面的ニ適用シツヽアル
狀況デアルコトハ、私カラ申上ゲル迄モナ
ク、諸君ノ御諒承ノ所デアラウト存ズルノ
デアリマス(拍手)卽チ所有權ノ絕對性ト云
ヒ、又契約自由ノ原則ト云ヒ、社會的妥當
性ヲ條件トシテノミ存續ヲ認メラレ、且ツ
存續ノ必要ガ認メラレルヤウナ傾向ニ變リ
ツヽアルト云フコトハ、之ヲ認メナケレバ
ナラヌノデアリマス(拍手)是ハ單ニ外國ノ
思想ノ影響トバカリ申上ゲマセヌ、我國ハ
古來傳統的ニ此思想ガアル、卽チ公地公民
ノ思想ト云ヒ、或ハ陛下ノヨサシ給フ
マニ〓〓、分ニ應ジテ所有權ヲ持ッテ居ルト
云フ、此思想ハ明文ノ上ニマダナイカモ知
レマセヌケレドモ、我國ノ傳統的三千年ノ
歷史ノ上ニ、國民思想ノ中ニハ是ガ傳ハッテ
來テ居ル思想デアルト私ハ考ヘル(拍手)農
林大臣モ委員會ニ於テ左樣ナル思想ノアル
コトハ認メル、斯ウ仰セラレテ居ルノデア
リマス、私ハ斯樣ナル意味合ヲ以チマシテ、
我國ノ傳統的思想ヲ回顧シツヽ、其思想ヲ
以テ所有權ニ對スル所ノ觀念ヲ再檢討シ
テ、國家全體ノ大局ヨリスル考ヲ深クシナ
ケレバナラナイト云フ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ
居ルノデアリマス、ソレガ私ハ今日ノ土地
制度ニ對スル所ノ根本ノ基調デアッテ欲シ
イト云フノガ私ノ思想デアル(拍手)
ソコデ斯ノ如キ指導精神ヲ以テ私ハ本法
案全部ヲ眺メテ見マスル時ニ、此法案ニ於
テ、殊ニ第四條ニ於テ其片鱗ヲ認メラレル
氣持ガ致スノデアリマス、飜ッテ我國ノ耕地
ノ實際ヲ見マスルニ、農林當局ノ御調査ニ
依リマスレバ、昭和十一年度ハ田三百一一十
二万町步、畑二百八十七万町步、此合計六
百九万町步、之ヲ我國ノ全面積三千八百五
十七万町步ニ比較致シマスト、僅ニ田八分
三厘、畑七分四厘、合計一割五分七厘ニ過
ギナイ、而シテ農家戶數五百五十九万戶ニ
シテ、昭和十一年度ノ調査ハ自作農三割九
厘小作農二割七分一厘、自作農兼小作農
四割二分ト云フ狀況デアル、サウシテ農家
一戶ノ耕地面積ハ田五段七畝、畑五段一畝、
合計一町八畝ニ過ギナイ、斯樣ナ狀態デア
リマスカラ、斯樣ナ實情ニアル所ノ我國農
村ニ對シマシテ、農林大臣ガ之ニ臨マレル
所ノ態度ハ如何デアルカト云フコトヲ檢討
シテ見マスルト、十八囘ニ及ブ委員會ノ速
記錄ヲ通覽シテ見マシテ、農林大臣ノ御意
見ヲ忖度要約致シマスレバ、第一ハ我國ノ
農業政策ハ耕作者本位ニスルト云フコト、
而シテ第二ニハ自作農維持ヲ中心トシテ、
更ニ之ニ自作農ノ創設ヲ相當考ヘルト云フ
コト、是ガ現有馬農林大臣ノ現下ノ我國ノ
農村ニ對スル所ノ大方針デアル、私ハ此御
態度ト御所見ニ對シマシテハ贊意ヲ表スル
者デアリマス、然ルニ大正十五年自作農創
設維持規則ガ實施セラレテ以來今日マデ、
果シテ自作農創設維持ハ其效果ヲ擧ゲタル
ヤ否ヤト云フ問題ガ出テ來マスガ、不幸委
員會ニ於テハ政府ノ所見ト吾々ト意見ヲ異
ニスルコトヲ發見シタ、此統計ニ付テ申上
ゲタイノデアリマスガ、何レモ本邦農業要
覽ヲ引用致シタモノデアリマスカラ省略ヲ
致シマス、皆樣ノ御承知ノ通リデアラウト
思ッテ省略致シマス
ソコデ然ラバナゼ其自作農創設ノ方法
ガ、ソレダケ效果ヲ擧ゲルコトガ出來ナカッタ
カ、農林大臣ニ言ハセマスト、若シ自作
農創設維持規則ナカリセバ、モウ少シク多
數ノ自作農ガ沒落シタデアラウ、斯ウ云フ
風ノコトヲ申サレマシテ、其意味ニ於テ本
邦ノ自作農創設維持規定成功セリト云フガ
如キ御口吻デアルノデアリマス、私ハ左樣
ニ存ジマセヌ、私ノ見タ所ヲ以テ致シマス
レバ、自作農ノ此制度ガ著シク成功致スコ
トガ出來ナカッタノハ、此創設ノ方法ニ强制
主義ヲ加味シテ居ラナカッタカラデアルト
云フ、斯樣ナ結論ヲ私ハ持ッテ居ルノデアリ
マス、此觀點カラ致シマシテ本法ヲ見マス
ル時ニ、殊ニ第四條ノ規定ニ於テハ、私
適切ナル規定ナリトシテ、此原案ニ一層强キ
贊意ヲ表シテ居ッタモノデアル、此法案ノ所
期致シテ居リマスル所、殊ニ第四條ノ目的
ト致シテ居リマスル所ハ、申上ゲル迄モナ
ク此條文ノ活用ニ依ッテ、先ヅ不在地主ノ地
所ノ整理、大地主ノ地所ノ制限、而シテ又
銀行會社ト云フヤウナモノガ、例ヘバ擔保
流レト云フヤウナコトニ依ッテ取得サレタ
所ノ土地ニ對スル制限、斯樣ナコトヲ目的
トシテ居ルコトハ、其趣旨ニ於テ强ク窺フ
コトガ出來ルノデアリマス、而シテ斯樣ナ
ル地主ノ土地ヲ制限シ、或ハ整理スルコト
ニ依ッテ、眞ニ其町村ニ在ッテ耕作ニ從事シ
テ居ル所ノ人達ニ、適正ニ妥當ナル耕地ノ
分配ヲシヨウト云フ所ニ、本案ノ非常ニ良
イ所ガアルト私ハ考へテ居ル、然ルニ政民
兩派ニ依ッテ御修正ニナリマシタ案ハ、此第
四條中農地ノ貸付ノ事業ヲ行フコトヲ削
ラレタノデアリマス、私ハ此修正者ノ御
說明ヲ極メテ冷靜ニ、極メテ沈著ニ、滿
腔ノ敬意ヲ以テ傾聽致シタノデアリマスル
ケレドモ、其御說明餘リニ簡ニシテ、私
ノ不敏ナル爲カ、何故ニ斯ノ如キ修正ヲサ
レタカト云フ趣旨ヲ、徹底的ニ十分ニ諒解
スルコトガ出來ナカッタノデアリマス、私
ノ諒解ニシテ或ハ間違ッテ居ルカモ知レ
マセヌガ、修正者ガ此修正ヲサレマシタ其
理由ノ一ツト致シマシテハ、產業組合ト
云フヤウナモノガ土地ヲ兼併スルコトヲ
恐レルト云フヤウナ趣旨モアッタヤウニ想
像サレマス、併ナガラ實際問題ト致シマシ
テ、產業組合ハ果シテ修正者ノ心配サレマ
シタ如キ、廣イ土地ヲ長ク持ツコトガ出來
ルデアリマセウカ、ドウデアリマセウカ、
私ハ左樣ニアラズト考ヘル、故ニ此點ヨリ
スル本條ノ修正ナラバ、是ハ少シク私ハ杞
憂ニ失シテ居ル修正ナリト考ヘマス、或
又此心配ヲ除去致シマスル爲ニハ、別ニ命
令ヲ以テ其事業內容ニ付テ一定ノ準則ヲ定
花別ニ勅令ヲ以テ事業內容ノ準則ヲ定
メサヘスレバ、其杞憂ハ自ラ除去サレルノ
デハナイカト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、
而モ現ニ貸付ヲヤッテ居ル產業組合ハ多數
ニアルト思フ、尙又縣營ノ新地ヲ築造シ、
縣營ヲ以テ貸付ケテ居ル縣モアル、或ハ又
舊郡制時代ニ新地ヲ築造シテ、今日公共團
體ヲ以テ貸付事業ヲヤッテ居ル團體モアル
ノデアリマス、左樣ニ致シマシテ此事業內
容ニ一定ノ基準ヲ置イテ、ソウシテ本當ニ
農村ノ更生ヲ圖ルト云フ、此趣旨目的ノ爲
ニ貸付ノ事業ヲ行フト云フコトハ、決シテ
私ハ不當ナル法律ノ條文デハナイト考ヘル
者デアリマス、又一說ニ伺ヒマスルト、自
作農創設維持マデノ過渡的ノ時期ニ於テハ、
產業組合モ土地ノ貸付事業ヲヤッテホエル
イ、斯ウ申サレルノデアリマスルカラ、若
シ果シテ左樣ナレバ、ナゼ此條文ヲ特ニ削
除セネバナラヌカト云フコトヲ、私ハ益諒
解致スコトガ困難ニナッテ參ルノデアリマ
ス、更ニ十三條ノ第二項ノ削除ノ問題ハ、
此第四條ト關聯致シマスルガ故ニ、便宜第
四條ノ次ニ論ジタイト思ヒマスルガ、此十
三條第二項ハ、修正者曰ク、是ハ傳家ノ寶
刀ダ、容易ニ拔クベキモノデハナイカラ、條
文ノ上ニ存置セヌデモ宜シイデハナイカ、
或ハ又協議整ハナイモノハ裁判所マデ持ッテ
行クト云フコトハ妥當デナイト云フ、是ダ
ケノ說明ノヤウニ私ハ伺ッタノデアリマス、
傳家ノ寶刀ハ、政府ノ說明ト修正者ノ說明
ト、其動機同一ナリトハ申シマセヌケレド
モ、傳家ノ寶刀ヲ以テ此法律ヲ說明サレマ
シタノニ、第九條ノ裁判ノ問題ガアル、是
ハ私ハ別ニ論ズル、第十三條第二項ヲ傳家
ノ寶刀ナリト致シマスルナラバ、傳家ノ寶
刀ハ存スコトニ依ッテ、傳家ノ寶刀トシテノ
效力ガアルノデアル(拍手)傳家ノ寶刀ハ勿
論容易ニ拔クベキモノデハナイ、容易ニ拔
クベキモノデハナイカモ知レヌガ、傳家ノ
寶刀一振ヲ持ッテ居ルト云フコトニ、其中
ニ無限ノ妙味ガアルト云フコトヲ看取シナ
ケレバナラヌノデアリマス、ソコヲ能ク味
ハッテ戴キタイ、假ニ數百步ヲ讓リマシテ、
第四條ヲ修正者ノ御意見ノ如ク、土地貸付
ノ場合ヲ除クトシテ考ヘテ見マシテモ、第
四條ハマグ重大ナル使命ガ殘ッテ居ル、卽チ
農村ノ經濟更生ノ爲ノ自作農創設維持ヲ目
的トシテノ土地ノ取得ト云フモノガ殘ッテ
居ル、サウシテ其取得スル方法ハ協議ヲス
ルト云フコトナンデス、協議ヲシテ協議ガ
整ハナカッタ場合ニドウナルカト云フ規定
ヲ置カナケレバ、此第四條ハ死文ニ等シイ
ト言ウテモ過言ニアラズト思フノデアリマ
ス、此條文ヲ假ニ百步ヲ讓ッテ、貸付ノ場合
ヲ削除スルト考ヘテ見マシテモ、今申上ゲ
マシタヤウナ條文ガ殘ル、此殘ル條文ニ對
シテ若シ十三條第二項ノヤウナモノガナ
カッタナラバ、更ニ新シク加ヘルコトニ依ツ
テコソ、畫龍點晴ノ終リヲ全ウスベキデア
ラウト思ヒマスノニ、傳家ノ寶刀ダカラ要
ラナイト云フ、斯ウ云フ修正ヲ爲サル方
ハ、傳家ノ寶刀ノ意味ノ解釋ニ於テ、私共
ト天地ノ相違アリト言ハナケレバナラヌト
思ヒマス(拍手)私ハ第四條ヲ全部抹殺スル
ナラバ別デアルガ、併ナガラ修正者側ノ御
所見ヲ以テ致シマシテモ、第四條ヲ殘スノ
デス、第四條ヲ殘ス以上ハ、其時アッテカ
發動ヲシナケレバナラヌヤウナ傳家ノ寶
刀-十三條二項ヲ殘スコトハ絕對ニ必要
ナリト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス
而シテ更ニ第九條ノ問題、第九條ノ問題
ガ一番論議ノ中心トナリマシタノハ、信義
ニ反シタト云フコトナンデス、是ガ曖昧ダ、
分ラヌヂヤナイカト云フ御議論ガ多分ニアッ
タヤウデアリマスルガ、果シテ信義ニ反シ
テト云フ言葉ハ、ソレ程分ラナイ言葉デア
リマセウカ、ドウデアリマセウカ、私カラ
色々先輩ニ申上ゲル積リハゴザイマセヌ
ガ、今日ノ法律ノ觀念ヲ以テ致シマシテ、
今日ノ倩權法ノ基調ハ、多ク論ズル迄モナ
"、信義ノ原則ヲ基調トシテ成立セル所ノ
法制デアル、佛蘭西民法千百三十四條ノ如
キ、獨逸民法二百四十二條ノ如キ、瑞西民·
法第二條ノ如キハ、何レモ信義ノ原則ト云
フコトヲ謳ッテ居ル、我國ノ民法、殊ニ債權
法ハ、此信義ノ原則ト云フ言葉ハ用ヒテ居
リマセヌケレドモ、債權債務ノ關係ニ於テ
信義ノ原則ニ則ッテ行動スベシト云フコト
ハ、學說、判例一ツモ爭ノナイ所デアリ、
頗ル明瞭ニシテ、長イ間既ニ熟シタル言葉
デ、私ニハ此言葉ヲ削除スル意味ガ分ラヌ
ノデス、或ハ御說明ヲ伺ヒマスト、ソレデ
ハ分ラヌカラ「宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ
小作料ヲ滯納スル等信義ニ反シタル」斯ウ云
フコトニ御修正ニナッテ居ル、ソレナラバ伺
ヒマスガ、信義ノ原則ハ御分リニナラヌデ
モ、宥恕スベキ事情ト云フコトハ、爾ク簡
單明瞭ニ分ルカドウカト云フコトナンデ
ス、私ノ頭ヲ以テ致シマスレバ、此修正案
ハ信義ノ原則ノ方ハ、ソレハ少シハッキリシ
タヤウナ氣持ガスルカ知リマセヌケレド
モ、一ツノ疑問ニ新シキ宥恕スベキ事情ト
云フ別ノ疑問ヲ持ッテ來タニ過ギナイ、法律
的ノ用語ノ點カラ考ヘ、立法技術ノ點カラ
考ヘテ見テ、私ハ此修正案ヲ了解スルコト
ガ出來ナイノデアリマス(拍手)私ハ斯樣ニ
各修正ノ箇所ノ中、直接條文ノ內容ニ觸レ
マシタ中ニ付キマシテ、甚ダ非禮ヲ顧ミ
ズ、私ノ所見ヲ申上ゲマシテ、修正反對ノ
意見ヲ述ベサシテ戴イタノデアリマス、若
シ修正ヲスルナラバ、私ハモウ少シ、何故
全面的ノ大修正ヲ爲サラナカッタカ、斯樣ナ
疑問モ浮ブノデアリマス、質問應答ノ其途
中ニ於テ、此法律案ハ實體規定ヲ缺クカラ
適當デハナイデハナイカト云フ質問ガ澤山
出テ居ル、若シ斯樣ナル意見ニ依ッテノ御修
正ト致シマスルナラバ、何故小作關係ノ有
ユル場合ヲ網羅シテ、卽チ小作料ノ關係、
小作期間ノ問題、其他小作ニ關スル所ノ有
ユル權利ヲ網羅シタサウ云フ法律案ニシテ、
サウシテ本法ノ自作農創設維持ノ規定及ビ
爭議調停ノ規定以外ニ、ソレダケ纏ッタ小作
立法トシテノ御修正ナラバ、私共ハ非常ニ
ソレニ對シマシテハ一層ノ敬意ヲ拂フベキ
筈デアッタラウト思フノデアリマスルガ、此
修正ノ程度ヲ以テ致シマシテハ、重ネテ申シ
マスルガ、其說明餘リニ簡ニシテ、私ノ不
敏ナル能ク諒解スルコトガ出來ナイノデア
リマス、昔孟子ハ梁ノ惠王ニ五十步ニシテ
百步ヲ笑フ者ノ不可ナルコトヲ〓ヘタ、私
ハ此修正案ヲ以テ五十步ニシテ百步ヲ笑フ
モノナリナドト云フ、左樣ナル非禮ノ言ヲ
爲ス者デハアリマセヌケレドモ、此古ノ孟
子ノ言ガ何故カ私ニハ思出サレルノデアリ
そく、私ハ斯樣ナル意見ヲ以チマシテ本
修正案ニ反對シ、政府提出ノ原案ニ贊成ヲ
致ス者デアリマスルガ、私ハソレ故ニ政府
提出ノ原案ヲ十分ナリトシテ贊成ヲ致ス者
デハナイノデアリマス、私ノ今マデノ意見
開陳ノ中ニ、自ラ私ノ所信ハ御諒察下サッタ
コトト思ヒマスルガ、私ハ此原案ニ對シテ、
將來此原案ヲ實施スルコトニ依ッテ、更ニ新
シイ完全ナ、サウシテ此法律案ノ實施ノ經
驗ニ基イタ所ノ、新シイ農地制度ノ根本的
立法ヲ期待シテ已マナイノデアリマスガ、
私共此法案ノ實施後ニ於ケル所ノ希望ヲ最
後ニ一纏メニシテ申上ゲタイト存ジマス
希望意見
一、我國農村ノ現狀ニ鑑ミ速ニ土地制度
ノ根本的法制ヲ立案スヘシ
一、本法ノ實施ニ當リテハ重點ヲ耕作者
ニ置クヘシ
一、自作農創設維持ノ事業ト併行シ治山
治水竝ニ用排水ヲ完備シ耕地整理ヲ强
行スヘシ
農地委員會ノ構成、設置竝ニ廢止及
ビ委任ノ解任ニ對シテハ最モ公正妥當
ヲ期スヘシ
本法ニ關スル命令ヲ發シ又ハ裁判ヲ
爲スニ當リテハ常ニ農村ノ實情ニ卽シ
テ誤ラザル樣特ニ裁判所ニ對シテハ嚴
重ナル注意ヲナスヘシ
此五箇條デアリマス、其希望意見ノ内容ニ
付テ逐一申上ゲタイノデアリマスルケレド
モ、時間ノ都合上ソレハ省略致シマス
更ニ私ハ最後ニ一言申上ゲタイ希望ヲ
持ッテ居リマスルガ、ソレハ今日內地ニボ
ツボツ歸還致シテ居リマスル所ノ出征將兵
ニ關シテデアリマス、一見恰モ農地調整法
案トハ緣ガ遠イヤウデアリマスケレドモ、
決シテサウデハナイ、ト申シマスノハ、長
イ間櫛風沐雨、本當ニ苦戰致シマシテ、幸
ニ武運目出度ク歸還致シマシタ人達ニ對シ
マシテ、吾々ハ滿腔ノ熱誠ヲ以テ之ヲ歡迎
シ、其家族ハ勿論、〓黨ノ人又無限ノ感慨
ヲ以テ之ヲ歡迎スルト云フコトハ想像ニ難
クアリマセヌ、而シテ是等ノ人ガ軈テ產業
ノ生產力ノ中心トナリ、農村ノ中心トナリ、
農村ノ生產力ノ擴充强化ヲ圖ル第一線ニ立ッ
テ來ル、所デ折角武運長久デ凱旋致シマシ
タ是等ノ人々ガ、支那ノ風土病、或ハ支那
ノ不衞生ナル病菌、斯ウ云フヤウナモノニ
對シテ、多少デモ健康ヲ害シテ居ルヤウナ
コトガアリマスナラバ、洵ニ御氣ノ毒ナコ
トデアリ、又憂慮スベキコトデアルノデア
リマス、此點ニ關スル私ノ言葉ハ甚ダ不十
分デアリマスケレドモ、ドウゾ私ノ言外ノ
餘情ヲ御察シ下サイマシテ、農林大臣ハ農
地調整法ニ依ッテ農村ノ更生、其平和ヲ維持
セントスル此首途ニ當ッテ、軍部大臣或ハ厚
生大臣トモ能ク此點ニ付テノ御協議ノ上善
處アランコトヲ、最後ニ衷心ヨリ希望致ス
次第デアリマス(拍手)以上ヲ以チマシテ私
ノ修正案ニ對スル反對、政府原案ニ對スル
所ノ贊成ノ意見ト致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=36
-
037・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 土屋寛君
〔土屋寛君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=37
-
038・土屋寛
○土屋寛君 私ハ民政黨ヲ代表致シマシテ
委員長ノ報告ニ贊成シ、之ニ異ナル意見ニ
反對致シマス、國民生活上直接ノ關係ヲ有
スル農地ニ關シマシテ、其法制ノナイコト
ハ遺憾ニ堪ヘヌ次第デアッタノデアリマス、
昭和四年ニ自作農創設維持助成資金特別會
計法案ガ初メテ議會ニ提出致サレマシテ、
昭和六年ニ小作法案ガ提出セラレ、昭和十
二年ニ農地法案ガ提出致サレマシタガ、何
レモ不成立ニ終ッタノデアリマス、社會ノ複
雜化ニ伴ヒマシテ、農民ハ農地制度ノ確立
ヲ希フコト切ナルモノガアルノデアリマス、
農地制度ヲ確立シ、農業經營ヲ合理化シ、
以テ農業生產ヲ旺盛ナラシムルコトハ、刻
下ノ喫緊事ナリト信ズル次第デアリマス、
本議會ニ農地調整法案ガ提出セラレマシタ
ノハ(發言スル者アリ)洵ニ當ヲ得タモノト
信ズルノデアリマス
農地調整法案ヲ檢討致シマスルニ、條章
ハ委員長ノ報告通リ二十二箇條デアリマス、
十八囘ノ委員會ノ審議ノ結果、委員長ノ報
告通リ修正決議セラレタノデアリマス、私
ハ此委員長報告ニ贊成ノ意見ヲ述ベマスル
ニ當リマシテ、修正ニ關スル個所ニ對シテ
意見ヲ申述ベマス
第一條ニ「互讓相助ノ精神ニ則リ」ト云フ
コトガアリマシタ、其理由ハ本案ノ條章ガ
洵ニ少ウアリマシテ、適用ノ範圍ガ非常ニ
廣イノデアリマス、特ニ農地委員會ノ如キ
ハ、自作農創設維持、小作關係ノ調整、農
地ノ交換分合、其他農地ニ關スル事項ヲ處
理スルノデアリマスルガ故ニ、總テノ關係
者ガ互讓相助ノ精神ニ則ラナケレバ、法ノ
活用ヲ期スルコトハ出來ナイト信ズルノデ
アリマス、互讓相助ノ精神ハ、我國古來ノ
傳統的美風ト稱スベキ隣保相助ノ精神ニ基
ク最モ中正穩健ナル思想デ、我國特有ノモ
ノデアリマス、此精神ハ法ノ力ヲ超越セル
道義的共同精神ノ結晶デアリ、農村ガ能ク
和合シ、能ク一致シ、相協力シテ家ヲ立テ、
村ヲ愛シ、國ヲ護ル、旺盛ナル盡忠報國ノ
精神ノ根源デアルト信ジマス(拍手)第一條
ノ冒頭ニ此字句ヲ插入致シタルノモ亦此故
デアリマス
次ニ第四條第一項ニ付テ申上ゲマス、此
第四條第一項ノ修正ニ對シマシテ、修正反
對ノ御意見トシテ石坂君ヨリ先ニ御述ニナ
リマシタ、私ハ委員會ニ於テ修正意見ヲ述
ベタノデアリマスガ··
(「何故改惡シタ」ト呼ヒ其他發言スル
者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=38
-
039・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 三宅君ニ注意致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=39
-
040・土屋寛
○土屋寛君(續) 私ハ產業組合ノ土地兼併
ヲ惧レルト云フコトハ申シテ居リマセヌ、ソレ
ヲ豫メ申シテ置キマス、次ニ此第四條ノ第
一項ヲ修正スルト共ニ、第十三條第二項ノ
修正ヲ一〓ニシタノデアリマス、第四條ノ
修正ハ、貸付事業ヲ削除スルト云フコトニ
ナッテ居ルノデアリマス、此貸付事業削除ニ
對シテ、石坂君ヨリ相當ニ御非難ガアッタ
ヤウデアリマス、此第四條ノ第一項ノ貸付
事業ト云フ所ガ削除ニナリマシタ理由ハ、
政府ノ說明ヲ承リマスレバ、自作農創設維
持ヲ爲ス場合ノ過渡的必要ノ規定デアルケ
レドモ、一時貸ヲスルニ於テハ、無ケレバ
無クテモ差支ハナイト云フ意味デアッタノ
デアリマス、然ルニ委員會ノ討論ニ際シマ
シテ、貸付ヲ削除スルコトハ不當デアルト
ノ議論ガ出タノデアリマス、其論旨トセラ
ルヽ所ハ、產業組合ノ貸付事業ガ出來ナク
ナル、又ハ不在地主ノ土地ヲ取得シテ貸付
ヲ行フコトガ出來ナクナルト云フノデアリ
マシー產業組合ノ貸付事業ハ、如何ナル性
質ノ事業デアルカト云フコトヲ明ニスル必
要ガアリマス、產業組合ガ所有ノ土地ヲ貸
付スルノニハ、本法ニハ關係ハナイノデア
リマス、卽チ本法ニハ經濟更生ノ爲ニスル
事業デアッテ(「何故ソレヲ言ハヌカ」ト呼フ
者アリ)行政官廳ノ認可ヲ受ケ取得シタル
コトガ必要條件デアリマスルガ故ニ、產業
組合ノ所有地貸付ニ關係ナキノミナラズ、
產業組合組織ニ依ル土地利用組合ノ土地利
用ニ、何等ノ影響ヲ及ボスモノデハアリマ
セヌ(拍手)又不在地主ノ土地ヲ取得シテ貸
付ヲ行フト云フ論旨ハ、聊カ明瞭ヲ缺クノ
點ガアリマスガ、不在地主ニ致シマシテモ、
現住地主ノ土地ニ致シマシテモ、經濟更生
ノ爲メ自作農創設維持ヲ行フ必要上、行政
官廳ノ認可ヲ受クルコトヲ要スルノデアリ
マスルガ故ニ、前段中述べマシタ一時的貸付
ニ支障ノナキ限リ、必要ノアル規定デハナ
イノデアリマス、若シ自作農創設維持以外
ニ貸付事業ヲ行フコトヲ認メ、又第十三條
第二項ノ小作調停法ノ準用ニ依ッテ、土地ヲ
取得セントスル意味ニ於テ必要ダト言ハレ
ル論旨ト致シマスルナラバ、尙更削除致サナ
ケレバナラヌノデアリマス(拍手)國策トシ
テ自作農創設維持ヲ行フ爲ニ、大正十五年
ヨリ昭和十一年迄ニ一億六千三百万圓ノ貸
付ヲ致シテ居リマス、昨年ヨリ二十五箇年
計畫デ十億圓ノ金ヲ融通致スコトニナッテ居
リマス、斯樣ニ多額ノ金融ヲ圖ッテ、自作農
創設維持ヲ致シテ居ルニ拘ラズ、小作調停
法ヲ準用シテ土地ヲ得セシメ、貸付事業ヲ
行フ地主ヲ作ル必要ハナイノデアリマス(拍手)
農家ヲ自作農トスル爲ニ國策ニ依ッテ多額ノ
金融ヲ圖リツヽ一面ニ於キマシテ貸付事業
ヲ行フコトヲ法律ニ定ムルト致シマスレバ、
ソレハ明ニ自作農創設維持政策ノ自殺デア
リマス、第十三條第二項ノ削除ノ點ハ、自作
農維持創設ニ必要ナル農地ヲ地主ガ賣渡サ
ザル爲ニ、小作調停法ヲ準用シテ之ヲ取得
セシメヨウト云フコトハ、私ハ妥當ナラザ
ルモノト信ジテ削除ノ意見ヲ持ッタノデアリ
マス、斯ノ如キ法律ガ出來マスレバ、將來
耕作セザル者ハ農地ヲ所有セヌコトニナリ
マスノミナラズ、農地ノ價格ヲ低落セシム
ル結果トナリマシテ、直チニ農村ノ金融ニ
大ナル影響ヲ來シマス、頑迷ナル少數地主
ヲ對象トシテ、之ニ處スル意味ニ於テ法ヲ
定ムルト云フコトハ、社會公益ヲ害スルモ
ノデアッテ、思ハザルモ甚シキモノト言ハザ
ルヲ得ヌノデアリマス、一般的ニ地主ニ向ツ
テ適用セントスル意思ナラバ、何故第一番
ニ小作法ヲ制定シナイノカ、次ニ土地所有
制限ノ法ヲ定メザルカト云フコトニナルノ
デアリマス、强制的ノ方法ニ依ッテ自作農創
設維持ヲ爲サントスレバ、自作農ト小作農
ノ狀態ヲ徹底的ニ調査シ、而シテ自作農減
少ノ原因ヲ除去シ、統計ニ現レテ居ルガ〓
キ、年々小作農ノ增加セヌヤウナ政策ヲ執
ラネバナリマセヌ
此場合自作農減少ニ付テ申上ゲマス、自
作農ノ減少ハ、小作農ニ轉落スル者ト、農
業ヲ捨テヽ都會ニ走ル者トノ、二ツニ區別ス
ルコトガ出來ルト思フノデアリマス、小作
農ニ轉落スル者ハ、經濟上ノ關係ニ於テ小
作農トナルノデアリマス、都會ニ走ル者ハ、
農家經濟ノ不利ナルガ故ニ、農地ヲ他人ニ
小作セシムルカ、又ハ賣却シテ其地ヲ去ル
ノデアリマス、而シテ其原因ハ、農產物價
ト農家必需品ノ價格差ノ爲ニ、非常ナル損
失ヲ受クル點デアリマス、農家ノ賣却スル農
產物價格ノ變動ト、農家必需品ノ價格ノ變
動トノ鋏狀ノ差ニ依ッテ損失ヲ受クルノデ
アリマス、此農家ノ損失ニ對シテハ、何人
モ肯定スル經濟現象デアリマス、今次事變
ニ伴フ物價ノ變動ハ、如何ナル狀態ニ於テ
農村經濟ニ現レルカ豫測シ難キモ、必ズ事
變後ニ一大變化ヲ來スコトハ、將來ノ例ニ
徵シテ相當甚シキモノデアルコトヲ豫想ス
ルト同時ニ、自作農減少モ亦必然ノ結果ト
思フノデアリマス
次ニ農村負擔ノ過重ナル點デアリマス、
今更茲ニ申上ゲル迄モナク、此明々白々タ
ル負擔ノ不均衡ハ未ダ是正致サレマセヌ、
其次ニ農家ノ勞力分配ノ適正ナラザル點デ
アリマス、農家ニ農繁期アリ、農閑期ガア
リマス、此勞力分配ヲ適正ニシナケレバ、農
家ノ收入ハ增加致シマセヌ、農業ノ性質上、
農繁期ニ要スル勞力ヲ常ニ備ヘテ置カナケ
レバナリマセヌ關係ヨリ致シマシテ、餘剩
勞力ガアルノデアリマス、統計ニ依リマシ
テ農家ノ過剩勞力ガ澤山アルト云フ見方ヲ
スル人モアリマスガ、是ハ過剩勞力デハア
リマセヌ、餘剩勞力デアルノデアリマス、
餘剩勞力ヲ活用致スコトニ依ッテ、農家ノ收
入ガ增加スルノデアリマス、餘剩勞力ヲ完
全ニ活用シ得ル方途ヲ、政策上立テナケレ
バナラヌコトト思ヒマス
次ハ農民生活ガ文化發達ノ線ニ沿ウテ向
上セネバナラヌ點デアリマス、此點ハ詳細
申述ベタイノデアリマスガ、農民悲慘ノ狀
態ヲ申述ベルコトニナリマスカラ、私ハ是
ハ省略致シマス、以上ノ如キ事情ニ依リマ
シテ、自作農ガ小作農トナリ、又ハ村ヲ捨
テル爲ニ自作農ガ減少スルノデアリマスカラ、
之ヲ除去スル方法ヲ先決問題トシ、而シテ自
作農强制創定ノ政策ヲ採ルベキ順序ナリト
信ズルモノデアリマス、此機會ニ於テ、石坂君
ヨリ第四條ノ自作農創定ニ關スル强制規定
ヲ除クノハ、宜シクナイト云フ御意見ガアリ
マシタカラ一言附加ヘテ置キマス、自作農强
制創定ノ方法ハ歐羅巴ニモ澤山アリマス、歐
洲大戰後ニ於テ特ニ甚シキモノハ東歐羅巴諸
國デアリマス、其東歐羅巴諸國ニ於テ行ハレ
タル土地政策ノ中、强制自作農創定ノ方法ガ
採ラレテ居ルト云フコトハ、農地政策ヲ論
ズル者ノ見落スコトノ出來ナイ問題デアリ
やっ、此自作農强制創定ノ方法ハ、必ズヤ
農地ノ所有限度ヲ定ムルコト、農地ノ賣買
ニ一定ノ制限ヲ加ヘルコト、是ハ絕對的必
要條件デアリマス、今日我國ニ自作農ノ强
制創定ノ方法ヲ採ルト致シマスレバ、前
申上ゲマシタ如ク、農村金融界ニ非常ナル
影響ヲ來スノデアリマスカラ、强制創定ノ
方法ハ決シテ微溫的ニ採ルベキ政策デハナ
イノデアリマス、自作農强制創定ノ方法ヲ
採ラントスルナラバ、必ズヤ非常ニ强力ナ
ル自作農創定政策デナケレバナラヌト云フ
コトヲ私ハ信ジマスガ故ニ、只今ノ石坂君
ノ御演說ニハ服從致シ兼ネマス(拍手)
第九條第一項ニ付キマシテ「宥恕スベキ事
情ナキニ拘ラズ」ト云フ文句ガ非常ニオ氣
ニ入ラナイヤウニ伺ヒマシタ、是ガ御承知
ノ通リ、信義ニ反シタル行爲デアルコトハ
明瞭デアルト云フ御言葉デアリマス、此「信
義ニ反シタル」ノ上ノ、「宥恕スベキ事情ナ
キニ拘ラズ小作料ヲ滯納スル等」ト云フ此
文句ガ非常ニヤカマシイノダサウデアリマ
ス、是ハ昨年モ農地法案ノ委員會ニ於テ
モ、信義ニ反シタル行爲ハ如何ナルモノカ
ト云フ點ニ、相當質疑應答ヲ重ネラレタノ
デアリマス、此信義ニ反シタル行爲ト云フ
字句ハ、小作法案ノ中ニ背信ノ行爲ナキ限
リト云フ言葉ガアリマシタノガ、今度農地
法案デ信義ニ反シタル行爲トナッテ來タノ
デアリマス、又本年本法案ニ信義ニ反シタ
ル行爲ト云フノガアリマシテ、每々論議ガ
重ネラレルノデアリマス、此廣汎ナル意義
ヲ解スルコトハ、人ニ依ッテ相當異ナル解釋
ガ下サレル虞ガアリマス爲ニ、玆ニ例示的
文句ヲ挿入セラレタノデアリマス、然ル所
小作料滯納等ノ文句ヲ挿入スルハ不都合ナ
リトノ議論モアリマシタガ、「宥恕スベキ事
情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滯納スル等」ト云フ
文句ハ、何等差支ヘナイト思フノデアリマ
ス、宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ小作料ヲ
滯納スルコトハ、信義アル行爲ト認メラレ
マセヌ、其際小作權ニ付テノ御意見モアッタ
ノデアリマスガ、現在ノ法制ニ依リマス
ト、小作條件ノ決定、變更ヲ當事者ノ自由
契約ニ一任致シテ居リマス、小作條件ガ小
作人ノ不利益ナル場合ニ於テモ、生活上巳
ムヲ得ズ地主ノ意見ニ從ハザルヲ得ヌ場合
モアルカト存ジマス、其他種々ノ事情ニ依
リマシテ、小作人ニ不利益ノ場合モアルカ
ト思ハレマスガ、之ヲ改メルニハ法ノ力ニ
依ッテ小作契約ノ自由ヲ制限スルカ、將又小
作地ヲ自作地トスルカ、此二ツノ方法デア
ルト思ヒマス、全部ノ小作地ヲ自作地トス
ルコトハ、國ノ經濟ニ於テ之ヲ許シマセヌ
カラ實行性ガ乏シイ、ソレデ小作契約ノ自
由ヲ制限スル法律ヲ設ケルコトニナルノデ
アリマス、是ガ卽チ小作法デアリマセウ、
小作法ヲ制定シ、地主、小作ノ利益ヲ擁護
シ、耕作者ヲシテ安ジテ農業經營ニ精進ス
ルト共ニ、農業生產ノ增加ヲ圖ルコトガ國
家ノ爲メ緊要ナルコトト存ジマス、政府ハ
現下ノ農村情勢ニ鑑ミラレ、小作ニ關スル
實體規定ヲ立案シ、次ノ議會ニ提案セラレ
ンコトヲ切望致シマス
以上修正ニ關スル意見ヲ申述ベマシタ、
ソレ以外ノ條項ニ付テモ意見ヲ申述ブベキ
デアリマスガ、本案修正ガ民政、政友兩黨
ノ共同修正提案デアリマスル關係上、政友
會ノ御方カラモ委員長報告ニ贊成ノ御演說
ガアルコトト存ジマスカラ、私ノ意見申ヲ
述ベルコトハ此程度ニ止メテ置キマス
次ニ希望ヲ申述べマス、政府ハ本法案ノ
第四條ニ依ル土地收用法適用ノ場合ニ於テ
ハ特ニ愼重ノ注意ヲ拂ハレンコトヲ望ミ
マス、此第四條第三項ノ土地收用法適用條
項ハ削除センカトモ考へタノデアリマスガ、
耕地擴張ノ意味ガ含マレテアルノデ、其儘
ニ致シタノデアリマスカラ、其意ヲ諒セラ
ルヽヤウ望ミマス
次ニ農地委員會ノコトデアリマス、農地
委員會ノ職能ハ實ニ廣汎ノモノデアリマシ
テ、設置、委員ノ選任、委員會ノ運用等、
若シ其措置ヲ誤ル時ハ爭議ヲ釀成シ、階級
闘爭ヲ助長シ、農村ノ平和ヲ破壞シテ、悔
ヲ千歲ニ貽ス惧アルコトヲ特ニ留意セラレ
ンコトヲ望ンデ置キマス、附帶決議ニ付キ
マシテハ速ニ實行セラレルヤウ望ミマス、
此際政府ハ本案修正ニ對シ其態度ヲ表明セ
ラレンコトヲ望ミマス、以上申述べ委員長
報〓ニ贊成シ、是ト異ル意見ニ反對ノ意ヲ
表明スルモノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=40
-
041・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 杉山元治郞君
〔杉山元治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=41
-
042・杉山元治郎
○杉山元治郞君 私ハ社會大衆黨ヲ代表シ
テ、只今議題トナッテ居リマスル農地調整法
ニ付テ政府原案ニ贊成シ、委員長ノ報〓ノ
修正案ニ遺憾ナガラ反對ノ意思ヲ表明スル
モノデアリマス、今石坂君ガ法律的ノ立場カ
ラ反對致サレマシタノデ、私ハ少シク角度
ヲ變ヘテ反對ノ意思ヲ表明シテ見タイト存
ズルノデアリマス
先ヅ第一ニ私ハ政府原案ガ吾々ノ最小限
度ノ案デアルト云フコトヲ申上ゲテ置キタ
イノデアリマス、本法案ノ第一條ニハ四ツ
ノ目的ガ揭ゲラレテ居リマス、此四ツノ目
的ハ各、關聯ヲ致シテ居リマシテ、ソレ〓〓
其目的ガ重要デアルト共ニ、尙ホ其目的ソレ
ゾレガ關係ヲ致シテ居リマスガ、特ニ現時
非常時局ニ際シマシテ、此目的ノ中ノ基調
ヲ成スモノハ、生產力ノ維持增大ニアルト
存ズルノデアリマス(拍手)生產力ノ擴充ガ
今日盛ニ叫バレテ居リマスガ、ソレハ單ニ
直接戰爭ニ必要ナ軍需品バカリデナク、農
產生產力ニ於テモ亦然リデアリマス、食糧
品ガ缺乏致シマスナラバ、軍竝ニ國民ノ士
氣ニ關係シ、ソレガ延イテ敗戰ニマデ導イ
タコトハ、歐洲大戰ノ實例ニ依ッテモ明カデ
アリマス、ソコデ農產生產力ノ擴充ニ必要
ナモノハ、色々アルノデゴザイマセウガ、
其中デモ最モ重要ナルモノハ耕作者ノ生活
安定デアリマス(拍手)安心シテ耕作ニ從事
出來ルヤウニスルコトガ、何ヨリモ大切デ
アリマス(拍手)彼ノ封建時代ニハ、農民ノ
生活ガ甚シク搾取壓迫サレタト言ハレテ居
リマスガ、併シ尙ホ最後ノ生活權ハ保障サ
レ、土地ハ子々孫々ニ至ルマデ耕作スルヤ
ウニセラレテ居ッタノデアリマス、然ルニ明
治維新ノ土地改革ハ、地主階級ニ有ユル特
權ヲ附與致シマシタガ、耕作農民ヲ封建時
代其儘ニ置去ッタバカリデナク、慣習小作權
ヲ無視シ、民法ノ賃貸借ト化シテシマッタノ
デアリマス(拍手)玆ニ今日ノ土地問題ハ胚
胎シクノデアリマシテ、年々數千件ニ餘ル
小作爭議中、約五割ガ土地引上問題デアリ
マス、斯ル狀態デアリマシテ、ドウシテ安
心シテ肥培行爲ヲスルコトガ出來マセウカ
(拍手)隨テ生產力モ增大スルコトハ出來ナ
イノデアリマス、是ハ要スルニ耕作人ニ耕
作權ナルモノガ認メラレテ居ラヌカラデア
リマス、ダカラ耕作權ノ確立コソガ、耕作
者ノ生活安定ノ基礎條件デアリマス、且ツ
ハ生產力擴充ノ重大要素トナルノデアリマ
ス(拍手)然ルニ農地調整法案ハ、社會正義
ヲ叫ビ、革新政策斷行ヲ標榜スル近衞內閣
ノ農村社會立法タルニ拘ラズ、此點ニ觸レ
テ居ラヌコトヲ私共ハ甚ダ遺憾トスルモノ
デアリマス(拍手)
次ニ現下内外ノ社會情勢上、相剋摩擦ヲ
スルコトハ互ニ戒ムベキデ、農村ノ平和保
持コソハ洵ニ望マシイコトデアリマス、然
ルニ年々數千件ノ小作爭議ガ發生シテ居リ
マス、是ハ時局柄減少シタトハ云ヘ、尙ホ恐
ラク五十件ニ近イモノガゴザイマス、一部
ノ人々ハ之ヲ以テ農民組合運動ヤ、或ハ一
部ノ煽動者ノ所爲ノ如ク言ハレルガ、認識
不足モ甚シイト言フベキデアリマス、火ノ
ナイ所ニ如何ニ警鐘ヲ亂打シテモ火事ニハ
ナラナイノデアリマス、假令一步ヲ讓ッテ煽
動者ガアッタトシテモ、日本ノ農村社會ニ小
作問題ガ起リ得ルヤウナ條件ガナケレバ、
決シテ起ラナイノデアリマス(拍手)小作問
題ガ起ルト云フノハ、起リ得ル原因ガアル
カラデアリマシテ、例ヘバ其主ナル一ツハ
小作料ノ高率ニアルト云フコトデアリマス
(拍手)仍テ農村ノ平和保持ヲ致スニハ、何
トシテモ現行小作料ニ對シ、公正妥當ナル
基準ヲ示シ、爭議ノ根本原因ヲ除去スルコ
トニ努ムベキデアリマス(拍手)然ルニ政府
ハ農村ノ平和保持ヲ望ミナガラ、本法案ニ
公正小作料ノ實體規定ノナイコトハ、吾々
ノ甚ダ遺憾トスル所デアリマス、併シ内外
時局ハ重大デアリマス、私共ハ實體規定ヲ
入レマスル小作法ノ制定ハ姑ク將來ニ俟チ、
此貧弱ナ案デアッテモ通過致シマスナラバ、
耕作者ノ爲メノ一步前進デアリ、又運用宜
シキヲ得レバ、相當ノ功績モ擧ゲ得ルト云
フ政府ノ言明ヲ信賴シ、私共ハ此政府原案
ヲ最小限度ノ案トテシ贊成スル所以デアリ
マス(拍手)故ニ此政府原案ニ對シマシテモ、
次ノヤウナ希望條項ヲ附シテ居ルノデアリ
やく、之ヲ申述ベマスナラバ
一近キ將來ニ於テ耕作權竝ニ公正小作
料等ノ實體規定ヲ含ム完全ナル小作法
ノ制定ヲ爲スベシ(拍手)
二舊慣永代小作ニ付テハ來ル更新期マ
デニ單獨法ヲ制定スベシ(拍手)
三現下統制經濟ノ線ニ沿ヒ農村土地ノ
共同管理又ハ共同經營ニ邁進スベシ
(拍手)
四自作農創設維持ニ付テハ今一段ノ〓
究ヲ爲シ從來ノ如キ不成績ヲ繰返ヘサ
ヌヤウニ爲スベシ(拍手)
五小作農ノ耕地引上ニ際シテハ單ナル
法文上整備セルコトニ依ラズ能ク內容
ノ具備ニ留意スベシ(拍手)
六小作官竝ニ裁判官ハ職權强化ニ伴ヒ
民意ノ壓迫職權ノ濫用ニ陷ラザルヤウ
留意スベシ(拍手)
七農地委員會ハ本法案中ノ眼目トモ言
フベキモノナレバ公選ヲ行ヒ公平妥當
ナル代表者ヲ選任スルヤウニスベシ、
(拍手)
然ルニ政民兩黨ノ修正案ヲ拜見致シマシテ
モ、亦委員會ニ於テ其修正ノ意見ヲ拜聽致
シマシタ時ニモ、別段原案ト內容ノ大シタ
變化ノナイモノデアルカラ贊成セヨト云フ
ヤウナ御言葉ガアッタノデアリマス、併シ吾々
ハ左樣ニ解釋スルコトガ出來ナイノデア
リマシテ、此修正ガ地主的修正デアルト云
フコトヲ申上ゲタイノデアリマス(拍手)ナ
ゼナラバ、吾々ニ配ラレタ所ノ岐阜縣ノ農
事協會長デアリ、大地主デアル所ノ上松某
ノ「農地調整法ニ對スル修正意見陳情書」ナ
ルモノヲ見マスナラバ、此陳情書ト今囘ノ
兩黨ノ修正ト餘リニモ符合シテ居ルト云フ
コトデアリマス(拍手)是ガ地主的修正デア
ルト申シテ何ノ間違ヒガアリマセウカ、ダ
カラ如何樣ニ說明セラレヤウトモ、原案ガ
相當根本的ニ修正歪曲サレタモノデアルト
認メ、此修正案ニ吾々ハ贊成スルコトガ出
來ナイノデアリマス(拍手)今二三ノ點ニ付
テ其理由ヲ申述ベテ見タイト存ジマス
第一條ノ修正ニ付テハ、先程石坂君モ御
話ニナッタヨウニ、アノ原案ノ中ニ既ニ盛ラ
レテ居ルノデアルカラ、別段入レナクトモ
宜イ程ノモノデアル、併シ入レラレテモ宜
イト云フコトデゴザイマシタガ、私共モ暗
暗裡ニ入ッテ居ルノデアルカラ、別段ソレガ
入レラレタカラト云ッテ文句ヲ言フノデナ
イガ、若シ互讓相助ノ精神ニ則ルト申シマ
スナラバ、本當ニ其精神ガ活カサレルヤウ.
ニ、私ハ此場デ希望シテ置キタイ、先程土
屋議員カラ、農村ハサウ云フヤウニ行ハレ
テ居ルト云フ御話モアッタケレドモ、一體今
日マデ實ハ不作ノ爲ニ非常ニ困ッタ場合ニ、
地主ノ方面カラ、今年ハ不作デアルカラ負
ケテヤラウト云フコトヲ、三年ニ一度デモ
言ウテ出タコトガアルデアラウカ(拍手)私
共ハ遺憾ナガラサウ云フ實例ヲ聞クコトハ
少イ、絕無トハ言ハナイ、稀ニハアルケレ
ドモ、甚ダ少イコトヲ遺憾トスルモノデアッ
テ、出來ルナラ其精神ヲ活カシテ貰ヒタイ
ト云フコトヲ申上ゲルノデアリマス
次ニ第四條ノ「貸付ノ事業ヲ行フ場合」云々
ト云フコトヲ削除致シマシタ點、ソレニ關
聯致シマスル所ノ第十三條二項ノ削除ノ點
デアリマス、是ハ石坂君モ申サレマシタガ、
相當根本的ナ修正デアルト私共ハ考ヘルノ
デアリマス、農村ノ社會ヲ無視シタ、土地
制度ノ理念ヲ骨拔キニシタモノデアルト考
ヘルノデアル、近來農村ノ土地ハ年々約十
九万町步位移動シテ居ルト云フコトデア
ル、是等ノ土地ハ、農村ノ中小地主ガ沒落
シテ、都市資本家ヤ金融資本家ニ兼併サレ
ツヽアルノデアリマス、斯クシテ農村ノ土
地ハ助川參與官ノ言葉ヲ借リテ言フナラ
バ、職場的農地ヨリ收益財產的ノ農地ニ變
化シツヽアルノデアリマス、土地ガ不在地
主ニ持タレ、農地ガ單ニ利子生產ノ目的物
トナル時、古來カラアル美シイ農村ノ姿ガ
破壞サレルノデアリマス(拍手)村ノ土地ハ
村ノ者デ持チ、村ノ者デ耕作スルト云フノ
デナケレバ、健全ナ農村ト云フコトガ出來
マセヌ、本法案ノ立案者ノ一人デアリマス
ル所ノ助川參與官ハ、斯ク申シテ居ルノデア
リマス、「土地ノ兼併ト不在地主ノ發生トハ
不可避的經濟現象デアルガ、社會通念ヨリ
スルモ、農村自體ノ健全性保持ノ上カラス
ルモ、其存在ヲ維持セネバナラナイ理由ハ
見出スコトガ出來ヌ、殊ニ不在地主ノ存在
ハ、全ク社會的意義ヲ有セザルモノデアル、
故ニ土地ノ兼併ト不在地主トヲ解消スベキ
制度ガ設ケラレナケレバナラナイノデアル
ガ、ソレト共ニ更ニ其發生ヲ防止スベキ方
途ガ講ゼラレナケレバナラナイ」(拍手)斯ク
申シテ居ルノデアリマス、斯ル立案者ノ意圖
ノ爲ニ、第四條ノ「貸付ノ事業」云々ト云フ
文字ガ入レラレタコトハ、ドウシテ見テモ明
カデアリマス(拍手)卽チ原案ノ第四條ハ、
最近ノ土地制度ノ誤謬ヲ是正シ、農村ヲシ
テ立派ナ共同體ニ立返ラシムルヤウ立案サ
レタモノデアリマス、然ルニ是等ノ點ヲ削
除スルコトハ、土地移動ヲ現狀ノ儘ニ放任
シ、益〓資本家的不在地主ノ增加ニ拍車ヲ掛
ケルモノデアリマス(拍手)農村ノ實情ヲ少
シデモ知ル者ナラバ、斯ル修正案ニ贊成ス
ルコトガ出來ナイノデアリマス(拍手)
第二ニ先程修正者カラ、產業組合ニ土地
ヲ持タスコトノ心配ニ付テ色々話ガアッタ
ノデアリマスガ、今日ノ經濟社會ノ情勢ヲ
見マスルト、好ムト好マナイトニ拘ラズ、
漸次自由主義的資本主義經濟ヨリ統制經濟
ヘト移行シツヽアルノデアリマス、農村ニ
於テモ經濟社會ノ一環トシテ存在スル以
上此線ニ沿ウテ對應シテ行カネバナラ
ヌコトハ勿論デアッテ、玆ニ農村生產部
面ノ基本タル土地ノ共同管理、共同經營
等ガ必然ニ起ッテ來ルノデアリマス(「ノー
ノー」「ヒヤ〓〓」拍手)否、此必然的ナ傾向
ニ動カサレテ、產業組合ニ於テ土地管理、
或ハ土地利用組合ガ造ラレ、現在二百十餘
ノ組合ガアルノデアリマシテ、卽チ本法案
ノ第一條ニ揭ゲマシタ所ノ目的ニ向ッテ、著々
ト成功ヲ收メツヽアルノデアリマス、或
ル一部ノ人々ハ、斯ウシタ產業組合ノ土地
利用ヲ以テ、何カ左翼的ナコトデアルカノ
ヤウニ心配セラレル向モアルガ、思ハザル
ノ甚シイモノデアリマス(拍手)農村社會ハ
古來ヨリ共同體トシテ土地ヲ共有シ、共同
管理又ハ共同經營ノ經驗ノ持主デアリマス、
ソレヲ唯統制經濟ノ線ニ沿ヒ、近代化シテ
行カウト云フニ過ギナイノデアリマス、第
四條ノ修正ハ、農村社會ノ共同體トシテノ
近代化ヲ妨害スル虞ガ多々アリマス、吾々
ハ此意味ニ於テ委員長報告ノ修正案ニ贊成
スルコトハ出來ナイノデアリマス
第三ニ九條修正ノ點デゴザイマスガ、本
法案中朧氣ナガラモ小作人ノ權利ヲ擁護シ
テ居ルノハ第八條、第九條デアリマス、殊
ニ第九條ハ濫ニ解約ヲ爲シ、或ハ更新ヲ拒
ムコトノ出來ナイヤウニシタ規定デアリマ
スルガ、併シ後半但書以下ニ於テ除外例ガ
設ケラレ、卽チ土地使用ノ目的ノ變更或ハ
自作ヲ相當トスル場合、其他正當ナル事由
アル場合ハ解約モ出來、更新モ拒絕スルコ
トガ出來ルト云フヤウニナッテ居ルノデア
リマス、是デハ何ノコトカ分リマセヌ、右
手デ與ヘラレタモノヲ、左手デ奪ッテ居ルヤ
ウナモノデアリマス、今日六大都市ヲ初メ
多クノ都市近郊ノ農村ハ、住宅地乃至ハ工
場敷地等々ノ爲メ、土地使用目的變更ノ理
由ヲ以テ幾多ノ土地ガ引上ゲラレ、又爭議
モ頻發シテ居ルノデアリマス、又自作農ヲ
相當トスル場合ハ、如何ニモ尤ラシイ理由
ニ聞エルノデアリマスガ、今日マデ地主ノ
土地引上手段トシテ屢〓用ヒラレタコトハ
多々アルノデアリマス、吾々ハ小作人ニ僅カ
バカリノ權利ヲ與ヘタカノ如ク見セ掛ケテ、
直チニ奪フヤウニシテ居ル所ノ原案其モノ
ニ對シテモ、大ナル不滿ヲ持ッテ居ルノデ
アルガ(「ナゼ贊成スル」ト呼フ者アリ)曩ニ
言ウテ居ルデハナイカ、更ニ政民兩黨ノ修
正案ハ「信義ニ反シタル行爲ナキ限リ」ノ
上ニ「宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ小作料
ヲ滯納シタル者等」ノ文字ヲ入レタノデア
リマス、修正者ノ說明デハ、信義ニ反シタ
ル行爲ヲ唯解釋說明シタニ過ギナイト言ハ
レマスガ、小作料滯納ノ文字ヲ入レタ意圖
ハ、察スルニ難クナイノデアリマス、地主
組合デハ抽象的ナ言葉デハ困ル、小作料滯
納ト云フ明瞭ナ文字ヲ入レテ吳レト云フ要
求ヲシテ居ルノデアリマス、收穫量ノ五割
五分モ納メル今日ノ高率小作料ヲ、滿足ニ
納メラレマスルノハ豐年ノ時デナケレバナ
ラヌ、風水害、早害、蟲害等ガアレバ、減
免ヲ要求シテ居ルコトハ、古來カラノ慣習
ニナッテ居ルノデアリマス、若シ斯ウシタ場
合、減免ノ相談中、或ハ時期ガ遷延シテ、
卽チ一定ノ納期ニ滯納センカ、此場合小作
人ハ不作ト言ヒ、地主ハ不作デナシト言フ、
斯ウシタ場合ニ此有恕スベキ理由云々ノ文
字ハ、直チニ卽チ地主ノ土地引上ノ理由ト
ナルデアラウト云フコトハ明ナ事實デアリ
マー、私共ハ斯ウ云フ意味合ヲ以テ、遺憾
ナガラ修正案ニ贊成スルコトハ出來ナイノ
デアリマス(拍手)ドウカ政府ハ委員會デ言
明致シタヤウニ、原案支持ヲ何處マデモ固
執セラレンコトヲ希望致シマシテ、私ノ討
論ニ代ヘル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=42
-
043・金光庸夫
○副議長(金光庸夫君) 服部岩吉君
〔服部岩吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=43
-
044・服部岩吉
○服部岩吉君 只今議題トナッテ居リマス
農地調整法案ニ對シマシテ、私ハ政友會ヲ代
表致シマシテ、委員長ヨリ御報告致サレマ
シタ修正案、竝ニ附帶決議ニ對シマシテ贊
意ヲ表シ、併セテ其趣旨ト希望トヲ簡單ニ申
述ベタイト思フノデアリマス
農地ニ關シマス立法ハ、コヽ十數年來或ハ
政府ノ提案トナリ、或ハ又議員ヨリノ提案
トナリマシテ、本院ニ於キマシテ相當愼重
檢討致サレテ來タノデアリマス、ソレ等ノ
案ハ審議未了ニ終リ、或ハ又本院ハ通過致
シマシタガ、貴族院ノ方デ審議未了ニ終ッタ
モノモアルノデアリマス、一體農地ニ關シ
マス立法ニ付キマシテハ、唯私ハ權利義務
ヲ織込ンダダケデハ、決シテ解決スベキモ
ノデナイト信ジテ居ルノデアリマス、昔ヨ
リ地主小作ハ親子ノ關係、卽チ溫情主義デ
農業生產ニ貢獻シテ來タノデアリマス、私
ハ古イ思想カモ知レマセヌガ、現在ニ於キ
マシテモ親子ノ關係ヲ徹底サレルコトガ、
農業生產ノ維持增進ト、農村平和保持ノ至
上ノ策ナリト信ジテ居ルノデアリマス(拍手)
併ナガラ我國ノ農村經濟モ亦世界ノ經濟ノ
波ニ支配サレマシテ、自給經濟ヨリ現金經
濟ヘト進展致シ、且ツ重農主義ハ何時シカ
重商工主義ヘト轉換致シマシテ、一方ハ人
口ノ增殖ニ依リマシテ耕地ガ狹メラレ、過
小農ノ巳ムナキ情勢ニ追込マレテ居ルノデ
アリマス、農村ハ愈〓、地地ニ陷ッテ、農村ノ生
活ハ常ニ不安勝チナノデアリマス、小作爭
議ノ惹起サレルニ至ッタノモ、是ガ主ナル原
因デアルト私ハ思フノデアリマス、ソコヘ
大正ノ中頃カラ種々ナル農民運動ガ生レマ
シテ、之ニ禍ヒサレマシテ、處々ニ雨後ノ
筍ノ如クニ小作爭議ガ捲起サレマシタコト
ハ、皆サンノ御承知ノ通リデアリマス(拍手)
併シ今日デハ或ル爲ニ利用サレマシタ小作
爭議ト云フモノハ無益ノミナラズ、却テ農
村ノ純朴ナル平和ヲ破壞スルコトヲ惧レマ
シテ、斯ル運動モ下火ニナリマシテ、天災地
變等ニ因リマス收穫減少ノ場合ニ於キマシ
テハ、地主、小作間ニ於キマシテ圓滿ニ解
決ヲ致シツヽアリマスルコトハ、農村ノ爲
ニ洵ニ幸福ト私ハ感ズルノデアリマス、隨
テ一時雜草ノ荒地ト化シマシタ所ノ耕地モ、
今デハ美田ニ戾リツヽアルノデアリマス、
併ナガラ農業生產ノ維持增進ハ、國力ノ發
展ト共ニ益〓其重要性ヲ持チマス、一面社
會組織ハ日一日ト複雜化スルノミデ、他ノ產
業ヤ商工業ガ立法化サレテ居リマスノデ、
農地ニ對シマシテモ亦立法ヲ以テ、地主ナ
リ耕作者ノ地位ヲ安定セシメルト云フコト
ハ、農業政策上其必要ヲ認メナケレバナラ
ヌノデアリマス(拍手)本立法ハ自作農維持
創設ヘノ指導精神ヲ根幹トシ、自作農創設
ノ幇助ト、爭議其他ニ對シテハ互讓ノ精神
ヲ發揮セシメテ自治的ニ役立タシメル、サ
ウシテ權利義務ノ如キ四角張ッタ規定ヲ拔
キニシテシマッテ、地方ノ諸實情ニ適合セシ
メテ解決スルト云フノデアリマス
〔副議長退席、議長著席〕
我黨ハ農村政策ト致シマシテ、夙ニ土地ノ
開墾、肥料政策ノ確立、自作農創設及ビ維
持、用排水幹線工事ノ施設、農村負擔ノ均
衡ト負債整理組合、其他諸種ノ政策ヲ立テ
マシテ、自ラ之ヲ行ヒ、又政府ヲシテ之ヲ
行ハシメテ來テ居ルノデアリマス、就中自作
農維持ハ耕地ニ對スル所ノ根本策ト致シテ
居ルノデアリマス、今囘提案サレマシタ農
地調整法案ハ、自作農ノ創設維持ヲ主眼ト
シテ居リマスモノデ、我黨ノ耕地對策ト全
ク一致ヲ致シテ居ルノデアリマス、卽チ自
作農ハ耕地所有ノ合理化デアリマシテ、自
作農ノ增加ハ愈〓農業生產ノ增進ト確保ノ目
的ヲ達シ、併セテ小作爭議ノ如キヲ自然解
消ヘト導キマシテ、農村ノ平和ニ資スルコ
トヲ得ルモノト私ハ確信ヲスルノデアリマ
ス(拍手)其故ニ贊成ヲ致スノデアリマス
私ハ更ニ政府、特ニ農林大臣ニ對シマシ
テ希望シテ置キタイト思フノデアリマス、
法ハ死物デアリマス、之ヲ活カスモ殺スモ運
用ノ適否一ツニ懸ッテ居ルノデアリマス、運
用ノ宜シキヲ得ルト否トハ、之ヲ掌ル所ノ
人物ニ依リマスコトハ論ヲ俟チマセヌ、關
係大臣ハ此點ニ重大ナル關心ヲ持ッテ戴キ
タイノデアリマス、本法ハ見ル人ニ依リマ
シテ、小作者ニ有利ナリト稱スル人モアリ
マス、又地主ニ有利ナリト稱スル人モアリ
マス、私ハ斯ル見方ノ中ニ、本法ノ一ツノ大
キナ使命ノ存在シテ居ルモノト思フノデア
リマス、政府ハ各論者ノ意見ヲ正視サレマ
シテ、是ガ運用ニ萬全ヲ期サレンコトヲ重
ネテ申上ゲル次第デアリマス、尙ホ特ニ都
市計畫地區內及ビ都市隣接地帶、及ビ農林
大臣ノ指定地等、將來住宅又ハ工場地ニ豫定
サレ、農地トシテ將來性ニ乏シイ地區及ビ未
墾地ニ對シマシテモ、地方廳ノ認可、監督、取扱
上、十二分ノ考慮ヲ拂フヤウ、御配意アラ
ンコトヲ申添へテ置ク次第デアリマス、附
帶決議ノ第二項ニアリマスル農地委員會ノ
委員ノ選任ニ付キマシテハ、一層愼重ヲ期
セラレマシテ、農村ノ平和ヲ是ガ爲ニ紊ス
ガ如キコトガアリマシタナラバ、實ニ一大
事デアリマスカラ、此點モ特ニ御考慮ヲ願ッ
テ置キタイノデアリマス
尙ホ本立法ヲ以チマシテ農村問題ガ解決
セルモノトハ、無論御考ニナラウトハ思ヒ
マセヌガ、畢竟小作爭議ガ起リマスノモ、
農業其モノガ經濟的ニ惠マレナイ結果ニ依
ルモノデアリマスカラ、縦令自作農ガ相當
增加サレタト致シマシテモ、耕作者ノ地位
ガ安定シタト云フコトダケデ、農產物價格
ガ相當程度ニ維持サレ、又一面農村ト都市
トノ國民的負擔ガ、根本的ニ均衡ヲ得ルコ
トガ出來得ナケレバ、折角ノ自作農創設モ
亦崩壞ノ運命ヲ豫想スルニ難クナイト思フ
ノデアリマス
農業方面ノ重要性ハ、近ク歐洲戰後ノ交
戰國ヲ檢討サレルナラバ明瞭ダト思ハレル
ノデアリマス、彼ノ英國ノ如キ重商工主義
ヲ以テ立國策トシテ居リマシタモノガ、戰
後俄ニ農業ヲ重視シ掛ケマシタノハ、相當
苦イ經驗ヲ嘗メタ結果ト思フノデアリマス、
獨リ英國ノミナラズ交戰國亦皆然リデアリ
ママ、又國力ガ擴大スレバスル程、國防上
農村ノ使命ハ益〓重キヲ加ヘラレルノデアリ
マスカラ、世界ノ强大國ハ皆重農主義カラ
重工業主義ヘト發展致シマシタ、更ニ重工
業主義カラ又重農主義ヘト逆戾的ナ傾向ヲ
餘儀ナクセラレテ居リマス、此現狀ニ鑑ミ
ラレマシテ、我國現時ノ重大時局ト將來性
ヲ達觀スル時、特ニ農村對策ニ力ヲ致スベ
キモノト思フノデアリマス、農林水產物ノ
國際收支ノ地位ハ、無論商工業ノソレニ遠
ク及ビマセヌケレドモ、農林水產物ガ純國
產デアリマスル點ハ、非常ニ心强ク感ズル
ノデアリマス、且ツ近年輸出額モ相當增加
ノ傾向ヲ帶ビテ居リマスルシ、殊ニ一面小
麥增產計畫ニ基キマシテ、小麥ノ如キハ殆
ド輸入ヲ防遏シテ居ルト云フヤウナ狀態デ
アリマス、平時ニアリマシテハ輸出ニ努メ
ルト同時ニ、一朝事ノ有ッタ場合ニハ食糧ノ
確保ヲ期スルコトガ、國防上國家ガ益〓發展
スル上ニ於テ最モ必要ダト思フノデアリマ
ス、前ニモ申述ベマシタ都市ト農村トノ負
擔ノ均衡ニ次ギマシテ、農業者ノ消費ノ大
部分ヲ占メル所ノ肥料ノ如キハ、一日モ早
ク低廉ニシテ、豐富ニ供給セラルヽコトノ
策ヲ實現シテ貰ヒタイ、農家經濟ヲ良クシ、
全國農家一戶當リ九反四畝步未滿ノ過小農
ニ對シマシテハ、未墾地ノ聞墾ヲ助成シ、
一方又農家ノ餘剩勞働力ヲ合理化スル爲ニ
ハ、農產地方ニ適當ナル工業ヲ分散セシメ
ル方途ヲモ講ゼラレタイノデアリマス、更
ニ用排水ノ幹線工事ノ施設、及ビ有畜農業
ヘノ助成、確固タル所ノ農村經濟更生ノ指
導ト助成、時局多端トハ云ヘ、事變下ノ農
業生產維持增進ガ事件解決促進ノ一要素デ
アリマスル以上ハ、之ニ要スル費用ハ戰費
ト致シマシテ、決シテ吝ムベキモノニアラ
ズト確信スルガ故ニ、農相ハ軍相ノ〓ヲ持
チマシテ然ルベシト、國民ハ期待ヲ致シテ
居ルノデアリマス
最後ニ修正ニ對スル點デアリマスルガ、
是ハ土屋君ヨリモ縷々御述ニナリマシタカ
ラ、私ハ抽象的ニ申上ゲマス、私ハ耕地所
有ハ、耕作ヲスルコトヲ對象トシテデナケ
レバナラヌ、決シテ資本的ナ對象デアッテハ
ナラヌ、サウ云フ觀念ハ固ヨリ持ッテ居ル、
又サウ云フ觀念ヨリ離レルコトガ理想ダト
私ハ考ヘテ居ル(拍手)併ナガラ現實ノ問題ハ
理想ヲ以テ解決スルコトハ出來マセヌ、故
ニ私ハ隣保相助ノ精神ヲ以テオ互ニ協調シ、
漸次理想ノ境地ニ向ッテ進ムベキダト思フ、
此漸進主義ヲ持ッテ居ルノデアリマス、デア
リマスカラ、唯冷酷ナ權利義務ノ如キモノ
ヲ挿ムヨリハ、此互讓精神一本デ行クト云
フ此立場デ、此法案ガ最モ妙味ノアルモノ
デアル、此意味合ニ於テ修正案ニ贊成スル
者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=44
-
045・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ討論ハ終局致
シマシタ、此際政府ヨリ發言ヲ求メラレテ居
リマスカラ、之ヲ許シマス-有馬農林大臣
〔國務大臣伯爵有馬賴寧君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=45
-
046・有馬頼寧
○國務大臣(伯爵有馬賴寧君) 先程討論ノ
際ニ土屋委員ヨリ、本修正案ニ對スル政府
ノ態度ヲ表明シテ欲シイト云フコトデアリ
マシタノデ、一言申上ゲマス、本法律案ノ
修正ニ對シマシテ、政府ト致シマシテハ、
此際進ンデ御同意ヲ致シ兼ネマスコトヲ甚
ダ遺憾ニ存ジマス、併シ本修正案ガ兩院ニ
於キマシテ議決サレマシタ場合ニ於キマシ
テハ、十分ニ之ヲ尊重致スト云フコトヲ、
玆ニ表明致シテ置キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=46
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047・小山松壽
○議長(小山松壽君) 採決致シマス、本案
ノ委員長報告ニ係ハル修正ニ贊成ノ諸君ノ
起立ヲ求メマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=47
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048・小山松壽
○議長(小山松壽君) 起立多數、仍テ委員
長ノ報告ニ係ハル修正ハ可決致シマシタ、
其他ハ原案ノ通リ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=48
-
049・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ其他ハ原案ノ通リ決シマシタ、是
ニテ本案ノ第二讀會ハ終了致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=49
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050・服部崎市
○服部崎市君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開
カレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=50
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051・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=51
-
052・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第三讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
農地調整法案第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=52
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053・小山松壽
○議長(小山松壽君) 討論ノ通〓ガアリマ
ス、之ヲ許シマス-川俣〓音君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=53
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054・川俣清音
○川俣〓音君 簡單デアリマスカラ、自席
カラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=54
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055・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=55
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056・川俣清音
○川俣〓音君 私ハ只今修正サレマシタ本
案ニ對シ、遺憾ナガラ贊成致シ兼ネル意思
ヲ明ニ致シタイト思フ次第デアリマス、本
法ハ本法ノ中第一條ノ「互讓相助ノ精神ニ
則リ」ト云フコトノミノ修正デアリマスナ
ラバ、吾々ハ次善案ト致シマシテ贊成致シ
テモ宜シイノデアリマスガ、第四條ハ本法
ノ企圖致シテ居リマスル耕地ノ分配ノ適正
ヲ期スル重要ナル案件デアリマス、民政黨
ノ諸君、或ハ政友會ノ諸君モ、本法ノ中ニ
盛ラレテ居リマスル耕地分配ノ適正ヲ圖ル
條項ト致シマシテ、本條項ノミヲ擧ゲテ居
ルノデアリマス、隨テ此條項ガ削除セラレ
マスナラバ、自作農ノ創設、或ハ小作爭議
ノ調整ノ部分ニ付キマシテハ本法ニ盛ラレ
テ居リマスガ、耕地適正ノ分配ノ條項ガ削
除サレマスル爲ニ、本法案ノ三分ノ一ガ削
除サレマシタ結果ト相成ルト考ヘルノデア
リマス(拍手)隨テ此重要ナル部分ガ削除サ
レマシタコトハ、本法案ガ不完全ナル案ト
ナラザルヲ得ナイト私共ハ認識致スノデア
リマス、又十三條ノ修正ハ、本法案ガ農村
ノ美風ト致シマシテ、自治的解決ヲ圖ルノ
ガ本條項ノ目的デアリマス、隨テ此條項ハ
農村ノ自治的解決ヲ圖ル所ノモノデアリマ
シテ、此條項ガ所謂傳家ノ寶刀トモ認ムベ
キモノデアリマス、此條項ノ削除ニ依リマ
シテ、本法案ノ圓滑ナル運用ハ出來ナイ結
果ト相成ルノデアリマス、隨テ恐ラク農林
大臣モ斯ル修正ニ付テハ同意シ兼ネル結果
ニ相成ッタコトト思フノデアリマス、卽チ私
共カラ見マスルナラバ、此修正サレマシタ
案ハ、農民ノ總意ヲ無視シタル案デアリマ
シテ、須ラク出直スベキ案ナリト信ジマシ
テ、最善案ト認メ難ク、反對ノ意思表示ヲ
致ス次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=56
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057・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ討論ハ終局致
シマシタ、採決致シマス、本案ハ第二讀會
議決ノ通リ決スルニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求
メマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=57
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058・小山松壽
○議長(小山松壽君) 起立多數、仍テ本案
ハ第二讀會議決ノ通リ確定致シマシタ-
日程第一及ビ第二ハ、便宜上一括議題ト爲
スニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=58
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059・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、日程第一、臨時通貨法案、日程第二、
關稅定率法中改正法律案、右兩案ヲ一括シ
テ第一讀會ヲ開キマス-太田大藏政務次
官
第臨時通貨法案(政府提出)
第一讀會
第二關稅定率法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
臨時通貨法案
臨時通貨法
第一條政府ハ必要アルトキハ貨幣法第
三條ニ規定スルモノノ外臨時補助貨幣
ヲ發行スルコトヲ得
第二條臨時補助貨幣ノ種類ハ十錢、五
錢及一錢ノ三種トス
第三條十錢及五錢ノ臨時補助貨幣ハ五
圓迄、一錢ノ臨時補助貨幣ハ一圓迄ヲ
限リ法貨トシテ通用ス
第四條臨時補助貨幣ノ素材、品位、量
目及形式ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條政府ハ必要アルトキハ臨時補助
貨幣ノ外五十錢ノ小額紙幣ヲ發行スル
コトヲ得
小額紙幣ハ十圓迄ヲ限リ法貨トシテ通
用ス
小額紙幣ノ形式ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六條政府ハ小額紙幣發行高ニ對シ命
令ノ定ムル所ニ依リ日本銀行ヲシテ政
五五〇ノ二金錢登錄機、
品
第六百十二號第一項己ノ四ヲ左ノ如ク改ム
己ノ四モミ屬(トドマツ等)、
(エゾマツ、
葉松等)
イマツ屬(紅松等)
ロ其ノ他
ロノ一
サルモノ
ロノ二
第六百二十號中「ヴァナヂウム」ヲ「ワナ
ヂウム、鐵」ニ改ム
府預金ノ內之ト同額ヲ區分整理セシメ
其ノ引換準備ニ充ツベシ
小額紙幣ハ他ノ通貨ヲ以テ之ヲ引換フ
第七條小額紙幣ノ發行、銷却及引換ニ
關シテハ大藏大臣ノ定ムル所ニ依リ日
本銀行ヲシテ其ノ事務ヲ取扱ハシム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
臨時補助貨幣及小額紙幣ハ支那事變終了
ノ日ヨリ一年ヲ經過シタル後ハ之ヲ發行
セズ
關稅定率法中改正法律案
關稅定率法中左ノ通改正ス
第九條第二項中「輸入原料品ニシテ」ノ下
ニ「製帽用兎毛、」ヲ加フ
別表輸入稅表中左ノ如ク改ム
第五百五十號ノ二ヲ左ノ如ク改ム
計算機其ノ他類似ノモノ及同部分
從價五割
タウヒ屬
スプルース等)、マ
ツ屬(紅松等)及カラマツ屬(落
無稅
厚二百ミリメートルヲ超エ
每立方メー四·四五
トル
其ノ他(丸太及割材ヲ含ム)每立方メー二·七〇
トル
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員太田正孝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=59
-
060・太田正孝
○政府委員(太田正孝君) 只今議題トナリ
マシタ臨時通貨法案竝ニ關稅定率法中改正
法律案提案ノ理由ヲ御說明致シマス
先ヅ臨時通貨法案ニ付テ申上ゲマス、現
在十錢ト五錢ノ補助貨幣ハ「ニッケル」ヲ以テ
造リ、一錢ノ補助貨幣ハ銅、錫及ビ亞鉛ノ
合金デアリマスル靑銅ヲ以テ造ッテ居ルノ
デゴザイマス、然ルニ是等ノ金屬資材ノ中
三、現下內外ノ時局ニ顧ミマシテ、是ガ
使用ヲ節約スルコトヲ要スルモノガアルト
認メラレマス、仍テ當分ノ內其製造發行ヲ
差控ヘマシテ、我國ニ於テ相當多量ニ生產
セラレ、且ツ貨幣材料トシテ適當ナル金屬
ヲ以テ、十錢、五錢及ビ一錢ノ臨時補助貨
幣ヲ、製造發行スルコトト致シタイト考ヘ
ルノデゴザイマス、次ニ五十錢ノ補助貨幣ハ、
最近相當著シキ需要增加ノ傾向ヲ示シテ居
リマス、然ルニ今後ニ於ケル趨勢如何ニ依
リマシテハ、是ガ代用トシテ五十錢ノ小額
紙幣ヲモ發行シ得ル途ヲ開イテ置ク必要ガ
アルト認メラレルノデアリマス
次ニ關稅定率法中改正法律案ニ付キマシ
テ御說明申上ゲマス、本案ハ稅率ノ改正ト
致シマシテハ、木材等三品目ニ關スルモノ
デアリマスガ、是等ノ物品ニ付キマシテハ、
其生產、輸入及ビ需要供給等ノ狀況ニ顧ミ
マシテ、木材ノ中ノマツ屬、及ビ鐵ヲ含ム
觸媒ハ之ヲ無稅トシ、金錢登錄機等ニ付キ
マシテハ、其關稅率ヲ引上ゲントスルモノ
デゴザイマス、此稅率改正ノ外、本案ニ於
キマシテハ、製帽用兎毛ノ製造ニ供スル兎
毛皮ノ關稅ヲ免除スル爲ニ、第九條ニ改正
ヲ加ヘントスルモノデゴザイマス、詳細ノ
コトニ付キマシテハ、委員會ニ於テ御說明ヲ
致シタイト存ジマス、何卒御審議ノ上速ニ
御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ御願致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=60
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061・小山松壽
○議長(小山松壽君) 質疑ノ通〓ガアリマ
ス、之ヲ許シマス-眞鍋儀十君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=61
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062・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 簡單デアリマスカラ、自席
ヨリ發言ヲ御許願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=62
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063・小山松壽
○議長(小山松壽君) 宜シウゴザイマス
〔「登壇々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=63
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064・小山松壽
○議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=64
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065・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 本員ガ曩ニ建議委員會ニ於
テ愛國記念貨幣發行ヲ提唱致シマシタ所ガ、
政府ハ是ガ考慮ヲ約サレマシタ、更ニ赤字
公債委員會ニ於キマシテ、圖案ノ時代的改
裝ヲ要求致シマシタ所、亦諒承ノ旨ヲ答ヘラ
レマシタ、玆ニ本法ニ於テ其一部ヲ實行ニ
移サレルコトニナリマシタガ、此際次ノ二
點ニ關シ政府ノ所見ヲ質シテ置キタイト存
ジマス、其第一ハ、今囘發行ノ硬軟四種ニ
用フル圖案ハ、日本精神ヲ宣揚スルモノト
聞イテ居リマスガ、依然トシテ從來ノ如ク
同巧異曲ノモノヲ御用ヒニナリマスルモノ
カ、或ハ一種每ニ各〓異ッタ視野ヨリ之ヲ表現
シ、潤ヒアル模樣ヲ以テ國民ニ「アッピール」
サレントスルモノデアリマスカ、換言スレ
バ、甲ガ三千年ノ光輝アル歷史ヲ顯現セン
トスレバ、乙ハ一君萬民ノ皇室中心主義ヲ
高調シ、丙ガ國民精神ノ緊張ヲ意味スルナ
ラバ、丁ハ大亞細亞建設ノ理想ヲ示唆スル
ナド、〓新潑刺ノ氣分ヲ圖案ニ織込マウト
スル御意思ガアルヤ否ヤ、第二ハ新製ノモ
ノハ紀元年號ヲ併記スルコトニナッテ居ル
カドウカ、世界何レノ國モ時ノ君主ノ卽位
年號ト、其國ノ建國ノ年號トハ併記サレテ
居ルモノデアリマス、國ヲ肇メテ二千六百
年、萬邦無比ノ皇紀ヲ有スル日本ノ貨幣ニ、
紀元年號ヲ併記シテ居ラナイノハ、國體明
徵ノ點ヨリスルモ頗ル遺憾ナコトト存ジマ
ス、特ニ「オリムピック」、萬國博等、國際的
飛躍ノ現下ニ於テ、最モ是ガ必要ヲ痛感ス
ルノデアリマスガ、此點如何デアリマスカ、
右二點ニ關シ政府ノ御所見ヲ此際伺ッテ置
キタイト存ジマス(拍手)若シ御答辯ガ困難
デアレバ、大臣ト御打合セノ上適當ナ機會
ニ御答辯アランコトヲ切望致シマス
〔政府委員太田正孝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=65
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066・太田正孝
○政府委員(太田正孝君) 新貨幣ノ圖案ニ
付キマシテ、御注意深イ御忠告、御意見ヲ
承リマシタ、而シテ一種類ニスルカ、如何
ナル圖案ヲ以テスルカト云フコトハ、眞鍋
君ノ御趣意ヲ能ク酌ンデ行キタイト思ヒマ
ス、御案内ノ通リ今圖案ヲ募集シテ居リマ
スルノデ、其審査ノ際ニモ御意見ノ程ヲ能ク
酌ンデ行キタイ、併シ之ヲ一種類ニスルカ、
或ハ如何ナル圖案ニスルカト云フコトハ、
今此處デ御返事申上ゲルコトハ出來マセ
又、第二點ノ紀元年號ヲ併記スルコトハ、
最モ理由ノアル御考ト存ジマス、併シ如何
ニモ小サイ所へ澤山ノ數字ヲ入レルト云フ
技術ノ關係モゴザイマスノデ、御趣意ノ點
ニ副フヤウニ其際考ヘテ行キタイト思フノ
デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=66
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067・小山松壽
○議長(小山松壽君) 眞鍋君、宜シウゴザ
イマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=67
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068・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=68
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069・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ質疑ハ終了致
シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=69
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070・服部崎市
○服部崎市君 日程第一及ビ第二ノ兩案ヲ
一括シテ、議長指名十八名ノ委員ニ付託セ
ラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=70
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071・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=71
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072・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=72
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073・服部崎市
○服部崎市君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=73
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074・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=74
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075・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ議
事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ
是ニテ散會致シマス
午後五時七分散會
衆議院議事速記錄第二十四號中
正誤
頁段行誤正
五七六三二三○永井一夫君〇永江一夫君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007313242X02519380308&spkNum=75
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