1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十四年三月七日(火曜日)午前十時十五分開議
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議事日程 第十九號
昭和十四年三月七日
午前十時開議
第一 昭和十四年度歳入歳出總豫算案竝昭和十四年度各特別會計歳入歳出豫算案 會議(委員長報告)
第二 豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件 會議(委員長報告)
第三 軍馬資源保護法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 種馬統制法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 競馬法の臨時特例に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 裁判所構成法改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第七 檢察廳法案(衆議院提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=0
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001・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報告ヲ致サセマ
ス
〔佐藤書記官朗讀〕
去ル四日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提
出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議
院ニ通知セリ
人事調停法案
同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提
出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
非訟事件手續法中改正法律案
昭和十四年三月八日
貴族院議事速記錄第十九號
同日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
久留里線上總龜山、房總東線安房天津ノ兩
驛間、鐵道敷設ノ請願外十八件ノ請願ハ各、ミ
意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送付セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和十四年度歲入歲出總豫算案、昭和十
四年度各特別會計歲入歲出豫算案、豫算
外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要
スル件可決報告書
昭和十二年、法律第五十七號中改正法律
案可決報告書
大正十四年、法律第五十一號中改正法律
案可決報告書
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第七十四囘帝
國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受
領セリ
司法省所管事務政府委員
司法書記官森山武市郞君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
軍馬資源保護法案
種馬統制法案
競馬法ノ臨時特例ニ關スル法律案
昨六日內閣總理大臣ヨリ左ノ通第七十四囘
帝國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ
受領セリ
內務省所管事務政府委員
內務書記官町村金五君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=1
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002・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、日程第一、昭和十四年度歲
入歲出總豫算案竝昭和十四年度各特別會計
歲入歲出豫算案、日程第二、豫算外國庫ノ
負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、會
議委員長報告、是等ノ兩案ハ之ヲ一括シテ
議題トスルコトニ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=2
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003・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス、委員長渡邊子爵
〔左ノ報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參
照ノタメ茲ニ載錄ス〕
一昭和十四年度歲入歲出總豫算案
一昭和十四年度各特別會計歲入歲出豫算
案
一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件
右衆議院ヨリ受領シタル各案ヲ審査シ總
テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリ
ト議決セリ依テ及報〓候也
昭和十四年三月四日
委員長子爵渡邊千冬
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔子爵渡邊千冬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=3
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004・渡邊千冬
○子爵渡邊千冬君 只今上程セラレマシタ
昭和十四年-度歲入歲出總豫算及同各特別會
計歲入歲出豫算竝ニ豫算外國庫ノ負擔トナ
ルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件ニ付キマシテ、
豫算委員會ニ於ケル審議ノ經過ノ〓略竝ニ
結果ヲ御報告申上ゲマス、今囘政府ノ提出
ニ係ル昭和十四年度歲入歲出總豫算ノ金額
ハ歲入歲出共ニ三十六億九千四百餘萬圓デ
アリマスガ、歲入豫算ハ經常部二十三億七
千二百餘萬圓、臨時部十三億二千百餘萬圓
デアリマシテ、歲出豫算ハ經常部十九億六
千二百餘萬圓、臨時部十七億三千百餘萬圓
デアリマス、之ヲ前年度豫算額ト比較致シ
マスル時ハ、歲入歲出共ニ一億八千餘萬圓
ヲ增加致シタノデアリマス、先ヅ歲入豫算
ノ內譯ハ租稅等ノ普通歲入二十八億百餘萬
圓前年度剩餘金繰入八千四百餘萬圓、公
債金收入八億九百餘萬圓デアリマシテ、右
ノ普通歲入ハ之ヲ前年度豫算額ニ比較致シ
マスレバ、二億九千四百餘萬圓ノ增加トナッ
テ居リマスガ、是ハ主トシテ租稅收入ノ增
加ニ基クモノデアリマス、次ニ歲出豫算ノ
大體ニ付申上ゲマス、昭和十四年度豫算ノ
編成ニ當ッテハ前年度ニ引續キ國家各般ノ
施設ハ、事變目的遂行ヲ目標トシテ之ニ集
中スルノミナラズ、更ニ一層之ヲ强化スル
ノ趣旨ヲ以テ事變關係施設ハ出來ルダケ之
ガ充實ヲ期スルト共ニ、其ノ他ノ諸經費ニ
至ッテハ緊急差措キ難キモノノ外ハ計上ヲ
見合ハセルコトニ致シタトノ政府ノ說明デ
アリマス、先ヅ軍事扶助費、軍事援護諸費、
傷痍軍人保護諸費等ノ銃後對策ニ要スル經
費トシテ九千七百餘萬圓ノ新規增加額ヲ計
上致シテアル外、生產力擴充ニ關スル經費、
物資需給調整ニ關スル經費、輸出增進ニ關
スル經費、馬政計畫擴充實施ニ要スル經費、
滿洲移民ニ關スル經費、民間航空及防空ニ
關スル經費等、現下ノ時局ニ鑑ミ緊要ナル經
費ガ計上セラレテアルノデアリマス、尙近
時各地ニ起リマシタ水害ニ鑑ミ、治水ニ關
スル經費ヲ增加計上シ、其ノ他失業又ハ轉
業對策ニ關スル經費、農村對策ニ關スル經
費、中小工業振興ニ關スル經費等ニ付テモ
ソレ〓〓所要額ヲ計上シテアリマス、又事變
等ニ伴フ豫算超過及豫算外支出ノ必要ニ應
ズル爲ニ、第一豫備金ハ前年度ヨリ千萬圓ヲ
增加シテ三千萬圓トシ、第二豫備金ハ前年度
通リ六千萬圓ヲ計上シテアリマス、次ニ昭和
十四年度ニ於ケル既定經費ノ節約額竝ニ部
隊竝艦船ノ出征等ニ伴フ經費ノ減少額ノ合
計ハ三億一千七百餘萬圓ニ上ッテ居ルノデア
リマス、而シテ昭和十四年度豫算ニ於ケル
歲入不足ノ金額ハ公債財源ニ依ルコトトシ、
其ノ一般會計ニ於ケル公債發行豫定額ハ
八億九百餘萬圓デアリマシテ、前年度ニ比
シ一億九千八百餘萬圓ノ減少トナッテ居リ
マリ、尙朝鮮總督府、臺灣總督府、帝國鐵
道及通信事業ノ各特別會計ニ於テ、其ノ歲
出ノ財源ニ充ツル爲ノ公債ノ發行豫定額二
億七千三百餘萬圓ヲ右ニ加ヘマスルト、其
ノ總額ハ十億八千二百餘萬圓トナリマシテ、
之ヲ臨時軍事費財源ニ關スル分ヲ除イタ前
年度額ニ比較致シマスルト、九千百餘萬圓
ノ減少トナッテ居ル譯デアリマス、昭和十四
年度各特別會計歲入歲出豫算竝ニ豫算外國
庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件
ニ付テハ、其ノ說明ヲ省略致シマス、以上
ハ只今上程セラレテ居リマス所ノ豫算案ノ
大要デアリマス、右豫算各案ヲ審議スル爲
ニ豫算總會ヲ二月ノ十四日ヨリ開會致シマ
シテ、三月四日其ノ審議ヲ終了致シマシタ、
其ノ間各分科會ニ於テハ殊ニ豫算ノ內容ニ
付テモ十分ナル檢討ヲ致サレタノデアリマ
ス、各委員皆時局ノ重大ナルニ顧ミテ、誠
ニ熱誠適切ナル質問ヲ試ミ、愼重ニ審査ヲ
致サレマシタガ、政府モ亦之ニ對シテ已ム
ヲ得ザル軍事、外交ノ機密等ニ亙リマスコ
トヲ除キマシテハ、赤裸々ニ其ノ所信ヲ披
瀝致サレタノデアリマス、今ヨリ其ノ審議
ノ大要ヲ御報告致シタイト存ジマス、先ヅ
最初ニ申述ベタイト存ジマスコトハ、現內
閣ノ施設ノ方針ニ付テデアリマス、改メテ
申上グル迄モナク、現內閣ノ支那事變ニ對
處スル政策ハ近衞前內閣ノ政策ヲ踏襲シテ
居ルノデアリマシテ、內閣ノ更迭ニ依ッテ何
等變更ヲ來スモノデハテク、東亞新秩序ノ
建設、卽チ日滿支三國互助連環ノ關係ニ於
テ政治、經濟、文化ノ施設ヲ爲スコトヲ以テ
其ノ大使命トシ、又其ノ主タル目標ト致シ
テ居ルコトハ申ス迄モナイコトデアリマス、
唯平沼首相ハ其ノ組閣ノ初ニ於テ聲明セラ
レマシタ所ノ、施政ノ方針デアル國民ノ總
親和ト云フコト、萬民輔翼ノ精神ト云フコ
ト、又萬物ヲシテ各〓其ノ處ヲ得セシムルコ
ト等ニ付キマシテハ、數氏ノ委員ヨリ屢〓之
ニ對シテ贊意ヲ表明セラレタノデアリマス、
近頃我ガ國ノ政治家ハ動モスレバ口ヲ開ケ
バ卽チ革新ト云フコトヲ叫ブノデアリマス
ガ、私ハ革新ノ爲ニスルノ革新、又社會ノ
一部ノ爲ニスル他ノ部分ノ革新ノ如キハ
此ノ時局下ニ於テ特ニ固ク相戒メテ、濫リ
ニ之ヲ行フベキモノデハナイト云フコトヲ
信ジマス、之ニ反シテ國民總親和、萬民輔
翼ノ精神ノ下ニ總テノ物ヲシテ其ノ處ヲ得
セシムル爲ニ、不言實行セムトスル革新コ
"、一方ニハ徒ニ國民ヲシテ不安ナラシム
ルコトナク、而シテ却テ革新ノ實ヲ擧ゲル
モノデアルト存ジマス、私ハ現內閣ガ侍局
ノ重大性ニ鑑ミ、國民ヲシテ疑心暗鬼ヲ生
ゼシムルコトナク、總親和、萬民輔翼ト云
フガ如キ大理想ヲ提ゲテ、國民ノ前ニ示サ
レマシタコトハ國民全般ニ對シテ其ノ不安
ヲ一掃シ、擧國一致ノ精神ヲシテ益〓牢固潑
刺タラシムル上ニ於テ、大ナル裨益アルモ
ノト確信致ス者デアリマス、豫算委員會ニ
於キマシテモ、國民精神總動員ノ問題其ノ
他ニ關シ、是等ノ點ニ贊同ノ意味ヲ以テ屢〓
言及セラレタノモ誠ニ當然ノコトト存ズ
ル次第デアリマス、次ニ財政ニ關シマシテ
ハ主トシテ豫算ノ節約、公債ノ消化等ノ問
題ガ論議セラレタノデアリマス、卽チ本豫
算案ヲ一覽スルニ、何レモ今年度カラ是非
實施シナケレバナラヌト云フ事業バカリノ
ヤウニハ受取レナイ、繰延ベラレルモノニ
付テハ繰延ベル必要ガアルト思フガ如何、
又日銀ノ公債ノ所有高モ段々增加シ、物價
モ騰勢ヲ持續シテ居ル、公債ノ消化モ餘リ
樂觀ハ出來ナイト思フガ政府ノ所見如何ト
ノ質問ガアリマシタ、之ニ對シテ政府ハ、旣
ニ昭和十二年度ニ於テ一般會計、特別會計
ヲ通ジテ相當節減、繰延ヲ行ヒ、十三年度
ニ於テモ一般特別兩會計ヲ通ジ、二億數千
萬圓ノ節約ヲ爲シタ、本年度ニ於テハ豫算
ノ編成ニ當リ更ニ一層節約ニ努メタノデア
ルカラ、今ノ處、實行、豫算ヲ組ム考ハ持
タナイガ、豫算ノ實行ニ付テハ十分御趣旨
ヲ考慮スル、公債ノ消化ニ付テハ、今日ノ
處相當順調ニ行ハレテ居テ、將來モ政府
ノ撒布資金ガ銀行ニ還ヘルヤウニナリ
又民間ノ貯蓄モ十分ニ行ハレテ來タナラ
が、公債ノ消化ハ循環的ニ行ハレルノデ
アッテ、强チ悲觀スルニ當ラヌトノ答辯
ガアッタノデアリマス、次ニ經濟ノ問題
ニ關シマシテハ、物價問題ガ各方面ノ
見地ヨリ最モ熱心ニ檢討セラレタノデアリ
マく、政府ノ物價對策ニ關スル所信如何、
中央物價委員會ニ於テハ、政府ヨリ原案ヲ
提出シテ、委員會ガ承諾ヲ與ヘルニ過ギナ
イ、會議ハ形式ニ流レテ居ル、商品別ニ最
モ公平ナル價格ヲ決定スルニハ原價計算ガ
必要デアル、而モ原價計算ナルモノハ專門
家デナケレバ出來ナイモノデアルカラ、物
價委員會ニ其ノ道ノ専門家ヲ集メル必要ガ
アルト思フガ如何、將來物價ノ騰貴ヲ抑ヘ、
消費ヲ節約セシメル爲ニハ、商品ノ單純化
ガ必要デアルト思フ、闇相場ノ取締ニ付テ
ハ同業組合ヲ動員シテ、連帶ノ責任ヲ負ハ
セル必要ガアルト思フガ如何等ノ質問ガ發
セラレマシタ、之ニ對スル政府トシテハ
物價對策ハ從來ハ取敢ズ、物價ガ現狀以上
ニ騰貴スルノヲ抑制スルコトヲ目的トスル
應急對策デアッタノデアルガ、今後ハ單ニ製
品ノ價格ヲ抑ヘルダケデナク、更ニ製品ヲ
構成スル原料ノ價格ヲ抑ヘ、生產カラ消費
ニ至ル間ノ適當ナル利潤等モ考ヘテ決定セ
ネバナラヌト思フ、又物ガナケレバ値段ヲ
定メテモ無理ガ生ズルカラ、物價ノ統制ハ
物資ノ統制、消費ノ統制ト相關聯シテヤラ
ナケレバナラヌ、而シテ中央物價委員會ガ
根本對策ヲ定メ、此ノ標準ニ基イテ地方ノ
物價委員會デソレ〓〓適當ニ加減シテ決メ
テ行キタイ、政府ノ機關トシテハ商工省ニ
物價對策部ト云フガ如キ一部局ヲ作リタイ
ト考ヘテ居ル、今後物價委員會ノ改善如何
ニ付テハ殊ニ考慮ヲ加ヘル、卽チ常任委員
ノ增加ト同時ニ、專門委員ヲ增加シテ、民
間專門家ヲ集メタイト思ッテ居ルトノコト
デアリマシタ、又大藏大臣ヨリモ、戰時財
政ハ公債ニ財源ノ大部分ヲ仰グノハ已ムヲ
得ナイガ、如何ナル手段ニ依ルモ物價ノ昂
騰ハ阻止致サネバナラヌ、一方ニ於テハ物
價自體ヲ抑ヘルコトハ固ヨリ必要デアル
ガ、ソレト同時ニ購買力ヲ封ジテ紙幣ノ增
發ヨリ來ル惡結果ヲ除カナケレバナラヌ、
其ノ爲ニ公債、貯蓄債劵等ヲ發行シテ札ヲ
引上ゲ、又增稅モ民間ニ溢レル所ノ金ヲ取
込ム手段トナルノデアル、政府ハ今後トモ
相當ノ決意ヲ以テ物價對策ニ對處シテ行ク
考デアルトノコトデアリマシタ、商品ノ規
格ニ付テハ其ノ單純化ガ必要デアル、是ハ
今後重要問題トシテ何等カノ對策ヲ施ス考
デアル闇相場ノ取締ハ一層之ヲ嚴重ニス
ルト共ニ、他方經濟關係諸法規ヲ周知セシ
ムルニ努メ、尙組合ノ自肅自戒ヲ養成スル
コトニ依ッテ相當抑制ガ出來ルト思フトノ
コトデアリマシタ、次ニ中南支貿易問題ニ
對スル質問應答ガアリマシタ、商工會議所
ヤ貿易振興會ガ中南支ニ於テ新幣制ノ出來
ル迄、法幣ヲ使用スルコトヲ決議シテ居ル
ガ、之ニ對スル政府ノ所見如何トノ質問ニ
對シテ政府ハ當局トシテハ其ノ決議通リ
ヤリ兼ネル法幣ハ蔣政權ノ紙幣デアルカ
ラ今後ドウナルカ分ラテイ、殊ニ今日法幣
ヲ賣ルニハ一定ノ制限ガアルカラ、他ノ外貨
ニ換ヘラルヽ限リハ之ヲ利用シ得ルケレド
モ、全面的ニ法幣ヲ基礎トスルコトハ出來
ナイト答辯致シマシタ、又今日ノ如ク我ガ
國ガ大イニ海外ニ發展スル時代ニ於テハ
有力ナル金融機關ガ必要ト思フ、正金銀行
ガアルガ是ハ專ラ爲替銀行デアッテ、海外
ニ在ッテ長期資金ヲ貸付ケル仕事ハシテ居
ナイカラ、朝鮮、臺灣兩銀行ヲ打ツテ一丸ト
シテ、社債發行權ヲ與ヘテ長期資金ノ貸付
ヲ行ハシメテハ如何トノ問ガアリマシタガ、
之ニ對シテ正金銀行ハ爲替銀行デハアルガ、
必ズシモ其ノ業務ハ爲替ノミニ限定サレテ
居ナイ、北支ニハ北支開發株式會社、中支
ニハ中支振興株式會社ガアッテ、ソレ〓〓
投資、融資ヲ行ッテ居ルガ、今日ノ狀況ニ於
テハ御考ノ如キ金融機關ヲ設ケテ、廣ク海
外ニ資金ヲ貸付ケルガ如キコトハ事實困難
デアルトノ應答ガアリマシタ、尙是ハ外交
ニモ關聯スル問題デアリマスガ、北洋漁業
問題、北樺太ノ石油石炭權益問題ニ關スル
問答ガアッタノデアリマス、卽チ過去ニ於
テ我ガ國民ガ露國官憲ト通謀シテ不當ノ價
格デ入札シテ、日魯漁業ノ目星シイ漁
區ノ全部ヲ奪ッタコトガアリ、今囘〓ロ
タントハ廣田「カラハン」協定ヲ無視シテ、
安定漁區ヲ入札ニ付スルト云フガ、前ノヤ
ウニ我ガ國民ノ中ニ不都合ナ者ハアルマイ
ト思フガドウデアルカ、「ロシア」ガ國營ノ力
デ押シテ來ルノニ對シテ我ガ國ノ陣容ト云
フモノハ之ニ耐ヘルダケノ用意ガ出來テ居
ルカ、我ガ國ニ於テハ北緯五十度以北ハ農
林省、五十度以南ハ北海道廳ガ管理シテ居
ルガ、是ハ農林省ガ一元的ニ管理スベキデ
ハナイカ、又北樺太ノ石油石炭ノ權益ニ付
テハ、之ニ對スル「ソ」聯ノ壓迫ハ根强イモ
ノガアリ、國防上ノ大問題デアル、尙北樺
太石油會社ハ石油ヲ掘出スダケデ、所謂井
戶掘會社デアルガ、之ヲ多角經營方法ニ改メ
ル要ハナイカ等ノ質問ガアリマシテ、之二
對シテ、「ソ」聯ノ沿岸漁業問題ガ今以テ解決
ガ付カヌノハ遺憾デアル、「ロシア」人ト通
謀スルヤウナ不都合ナ日本人ノ出ヌヤウニ
十分ニ注意スルガ、左樣ナ不都合ナ者ハナ
イト思フ、北洋漁業ヲ統一スル國策會社ノ
設立ハ考ヘテ居ルガ、現在ノ會社ヲ合同統
一シテ、一國策會社トスルコトニハ可ナリ
困難ガアル、唯之ヲ統制スル別個ノ會社ノ
設立ハ考ヘラレルガ、ソレニ付テハ目下〓
究中デアル、北洋漁業ノ監督ハ將來之ヲ一
元的ニシタイ、現在ノ處、出來ル限リ連絡
ヲ執ッテ居ル、北樺太ノ石油石炭ハ帝國ノ重
大ナ權益デアルカラ、此ノ權益ノ維持及企
業ノ付ニ維持テハ萬全ノ處置ヲ講ズル積リ
デアル、北樺太石油會社ノ多角經營化ニ付
テハ、海軍トノ關係モアルカラ、篤ト考慮
シタイトノ答辯ガアリマシタ、右ノ外經濟
問題トシテハ輸出振興政策、產金政策、海
運政策、蠶絲業一元統制問題等ガ論議セラ
マシタ、尙昭和十四年度ニ於ケル物資動員
計畫及生產力擴充四箇年計畫ニ付テハ祕
密會ニ於テ政府ヨリ詳細ナル說明ガアッタ
ノデアリマス、次ハ外交問題デアリマス、
今日英米ノ我ガ國ニ對スル感情ハ頗ル宜シ
クナイ、ソレガ又支那事變ニ對スル反感ヲ
益〓强カラシメテ居ル、是ハ我ガ國ノ政治機
構ヲ獨裁政治ナリト誤解シテ居ルコトニ基
クモノデアル、故ニ世界ヲシテ我ガ國ノ憲
法政治ノ本質ニ付認識ヲ深カラシムル必要
ガアリト思フガ、政府ノ所見如何トノ質疑
ガアリマシタ、之ニ對シテ首相ハ、我ガ國
ハ民主國デモナク獨裁國デモナイコトハ
明カデアル肇國ノ初ヨリ統治ノ大權ハ
天皇之ヲ御掌握ニナリ、萬民ハ總テ之ヲ輔
翼シ奉ルノガ我ガ國體デアッテ、憲法ハ其ノ
趣旨ヲ明カニシテ居ル、我ガ國ハ民主主義ノ
國デナイト同時ニ、全體主義ノ國デナイコ
トヲ、世界ニ向ッテ明カニスルコトガ最モ大
切デアルトノ所信ヲ示サレマシタ、又新東
亞建設ノ根本方針竝ニ支那事變ニ關係スル
列國トノ懸案解決ニ關スル政府ノ所見ヲ質
セルニ對シテ、外務大臣ヨリ、皇道主義ノ
精神ハ列國ヲシテ各〓其ノ處ヲ得セシムルコ
トデアル、故ニ支那ヲシテ我ガ國ニ從屬サ
セル考ハナイ、日滿支三國ノ結合ニ依リ東
洋ノ繁榮、延イテ世界ノ繁榮ニ寄與スルコ
トヲ目的トスルノデアル懸案ノ解決ニ付
テハ、外國カラノ要求ガナクトモ、解決ス
ベキモノハ進ンデ解決ニ努力シタイ、唯問
題ノ緩急難易ノ點ハ考慮ヲ要スルトノ說明
ガアリマシタ、尙又國際聯盟脫退ノ際ニ賜
リマシタル詔書ノ旨ヲ奉體シテ、東亞ノ一
角ニ偏局シテ孤立スルガ如キコトナキコト
ヲ希望セルニ對シ、外相ヨリ聖旨ハ明カニ
我ガ國ノ嚮フ所ヲ御示ニナッテ居ル、質疑者
ノ御心配ハ御無用デアルトノコトデアリマ
シタ、次ニ上海ノ「テロ」事件ニ關シテ、我
ガ國ニ取ッテハ大陸進出ノ基地デアル上海
ニ於テ種々ノ事件ガ勃發シ、國威ヲ損ズル
ヤウナ事態ニ至リツヽアルハ看過スルコト
ハ出來ナイ、之ニ對シテ政府ハ如何ナル對
策ヲ有スルカ、工部局ニ對シテ政府ハ治
安維持ノ能力アリト考ヘルカ、工部局ハ
此ノ種ノ事件ニ關シテ誠意ガナイト思フガ
如何トノ質問ニ對シテ、政府カラ、上海ノ
治安狀態ハ甚ダ遺憾デアル是ハ或意味デ
ハ工部局ニ能力ナシトモ見ラレ、又誠意ナ
シトモ見ラレル、故ニ我ガ國トシテハ工部
局ヲシテ誠意アラシメ、且能力ノ不足スル
所ヲ補ハシメネバナラヌ、對策トシテハ差當
リノ措置ト恆久的措置トガアルガ、今ノ處
申上ゲル時期ニ至ッテ居ナイトノ答辯ガア
リマシタ、「テロ」事件ニ關スル工部局トノ交
渉ノ模樣ニ付キテハ、祕密會ニ於テ詳細ナル
說明ガアリマシタ、次ニ揚子江ノ開放問題
ニ關シテ質疑ガアリマシタガ、之ニ對シテ
海軍大臣ハ揚子江ハ目下作戰上ノ大動脈ト
ナッテ居ルノデ、之ヲ閉鎖スルニハ何ノ遠慮
モ要ラヌト考ヘルガ、併シ作戰上ノ必要ガ
緩和サレヽバ、之ヲ開放スルコトハ、支那
民衆ノ經濟生活ニ寄與シ、東亞ノ建設ニ役
立ツコトハ非常ニ大ナルモノガアルト思フ、
但シ是ガ蔣政權ノ利益トナルヤウデハ困ル
カラ、假令開放スルニシテモ制限ヲ加ヘル
必要ガアル、開放ノ時期ニ付テハ作戰上ノ
必要モアルカラ、明言ハ出來ナイガ、出來
ルダケ其ノ時期ノ早ク來ルコトヲ望ンデ居
ルトノ說明ガアリマシタ、尙此ノ場合特ニ
御報告致シタイコトガアリマス、ソレハ外
交關係ガ世界的ニ緊張シテ居リマス今日、
誠ニ喜バシキ一ツノ事實デアルト信ジマシ
タカラデアリマス、第二分科會ニ於キマシ
テハ齋藤前駐米大使ノ薨去ニ對シ、二三ノ
委員ヨリ故人ノ功績ヲ賞揚シ、ソレニ次イ
デ米國ノ朝野ガ哀悼ノ意ヲ表シ、殊ニ「ルー
ズヴェルト」大統領ガ、齋藤氏ノ遺族及我
ガ外務省ガ同意スルニ於テハ、其ノ遺骨
ヲ軍艦ヲ以テ日本ニ送リタイト云フ、未ダ
曾テ前例ノ無イ最高ノ弔意ト儀禮トヲ示ス
ノ申出ヲ爲シタトノ報ニ關シ感激ノ意ヲ表
明シ、政府ニ向ッテ事實ノ說明ヲ求メラレタ
ノデアリマス、尙又日米間ノ八十年ノ歷史
ヲ有スル傳統的親善關係ハ日米兩國ニ於
テ其ノ信ズル所ヲ述べ、主張スベキ所ヲ主
張シテモ、之ガ爲ニ傷ケラレルコトナク、
斯クシテ却テ永遠ノ諒解ヲ來スモノデハナ
イカト思ハレテ、誠ニ欣快ニ堪ヘナイトノ
意見ニ對シ、外務大臣ヨリ、齋藤前大使ノ
薨去以來、米國官民ノ寄セタル深甚ノ同情
ニ對シ詳細ナル報〓ガアリ、併セテ議會ニ
於テハ哀悼ノ演說ガ行ハレ、尙且大統領及
ㄱハル」國務長官ノ名ニ於テ、外務大臣迄弔
意ヲ表明サレ、外務大臣ヨリモ帝國政府ノ
名ニ於テ謝意ヲ表シタルコト、又巡洋艦ニ
依ッテ遺骨ヲ送ラムトスル「アメリカ」政府ノ
申出ニ對シテモ、欣然同意セル旨ノ說明ガ
アリマシタ、尙又外務大臣ハ、此ノ米國政
府ガ旣ニ現職ヲ去ッテ居ラレタ齋藤氏ノ遺
骨ヲ軍艦ヲ以テ送ルト云フコトハ、勿論齋
藤氏ニ對スル個人的友誼ニモ依ルコトデハ
アルガ、又米國ガ日本ノ外交代表者ニ對シ
敬意ヲ表スルト云フ趣旨ガ含マレテ居ルコ
トハ米國側ガ堀内大使ニ對シテ爲セル說
明ニ依ッテ明カデアル、最近支那事變ニ關係
シテ日米間ニ存在スル外交上ノ困難ニ付テ
モ、日本ノ眞意ノアル所ヲ諒解セシムルコト
ニ依ッテ、之ヲ漸次除去シ得ルコトヲ確信シ
テ疑ハナイト附言セラレマシタ、私ハ今次
支那事變ノ如キ、我ニ取ッテハ非打算的デハ
アルガ、東洋永遠ノ平和ノ爲ニ已ムヲ得ザ
ル最後ノ、而シテ唯一ノ殘サレタル手段ト
シテ、日本ガ支那ニ於テ執リツヽアル軍事行
動ガ、宣傳ヲ好ム人々ノ影響ヲ受ケテ、廣ク
誤解セラレ、曲解セラレツヽアル疑ノアル
場合ニ於テ、「ルーズヴェルト」大統領ノ此
ノ稀ナル友好的行爲ハ、由來正義觀ノ强キ
多クノ「アメリカ」人ニ反省熟慮ノ機會ヲ與
フルモノトシテ、深ク喜ブモノデアリマス、
次ハ〓育ノ問題デアリマス、學制改革ハ急
速ニ實行スベシ、義務年限ノ延長ハ來年度
ヨリ實行スルヤ、女子靑年學校ニ付テモ來
年度カラ之ヲ實施スルヤ、中等學校ノ入學
難ハ、各學校間ニ餘リニ優劣ノ差ガ甚ダシ
イ爲ニ起ルモノデアルカラ、入學難ヲ緩和
スル爲ニハ各學校ノ優劣ノ差ヲ無クスル
必要ガアリト思フガ、政府ノ所見如何等ノ
質問ガ提出セラレマシタ、政府ハ學制改革
ニ付テハ〓育審議會ノ答申ヲ得タモノハ
直チニ實行ニ移シタイ、義務〓育年限ノ延
長ハ、法令規則ノ改正ヤ財政上ノ都合モア
ルカラ、大體十五年度ノ豫算ニ計上シタイ
ト考ヘテ居ルガ確言ハ出來ナイ、女子靑年
學校ノ義務制ニ付テハ未ダ直チニ之ニ著手
スル程度ニ至ッテ居ナイ、入學難ヲ緩和スル
爲ニハ學校ノ優劣ノ差ヲ少クスルト共ニ、或
學校ノ卒業生ヲ特ニ優秀視スル弊ヲ改メル
必要ガアルトノ答辯ガアリマシタ、尙〓育
ニ付テハ以上ノ外ニ、學術振興ノ必要ガ力
說セラレマシテ、有益ナル質疑應答ガ行ハ
レタノデアリマス、此ノ學術振興ノ問題ガ
取上ゲラレ、屢〓論議セラレタト云フコトハ
本期議會ノ顯著ナル特色ノ一ツデアルト存
ジマス、旣ニ本會議ニ於キマシテモ、、長岡
博士ヨリ基礎科學ノ重要性、天才〓育ノ必
要ガ力說セラレマシタコトハ尙我々ノ耳ニ
新タナル所デアリマスガ、豫算委員會ニ於
キマシテモ、亦分科會ニ於キマシテモ、此
ノ問題ハ屢〓論議ノ的トナッタノデアリマス、
今其ノ要點ヲ搔イ摘ンデ申上ゲマスト、我
ガ國ノ現狀ハ世界各國ガ最モ力ヲ致シテ居
ル基礎科學、殊ニ純正物理學ノ進步ノ程度
ニ於テ遺憾ノ程度ガ少クナイ、應用方面ノ
學術ニ於テモ、我ガ國ハ歐米各國ノ後塵ヲ
拜セネバナラヌ、我ガ國ニ於テモ科學振興
調査會アリ、學術振興會アリ、又理化學〓
究所其ノ他幾多ノ〓究所ガ各〓輝カシキ業績
ヲ擧ゲテ居ルノハ周知ノ事實デアルケレド
千、各〓究所ノ間ニ統合連絡ニ於テ遺憾ノ
點ガ少クナイノミナラズ、設備ノ點ニ於テ
モ、經費ノ點ニ於テモ、今後大イニ完備サセ
ネバナラナイ、之ヲ「ドイツ」ノ「カイザー·
ウイルヘルム·ゲゼルシャフト」、「アメリ
カノ「ロックヘラー·インスティテュート」
等ニ比スレバ、其ノ規模ニ於テ遙カニ及バ
ナイモノガアル、又大學等ニ於テモ〓授、
助〓授、助手等大イニ充實セネバナラナイ、
又在外〓究員モ事變前ニ比シテハ非常ニ
減少シテ居ル、國際學術會議ニモ適當ナル
人ヲ內地カラ派遣スルコトナク、間ニ合セ
ノ人デ一時繕ウテ居ルヤウナ有樣デアルヽ
目下ノ事變カラ言ッテモ必要ナルノハ物的
資材バカリデナク、智的資材モ必要デハナ
イカト云フヤウナ、熱心ナ意見ガ一度ナラ
ズ發言セラレタノデアリマス、之ニ對シテ
文部大臣モ亦全ク同感デアルト云フコトヲ
表明セラレ、生產擴充ノ爲ノ應用化學、產
業科學ノ重要性ニ付テハ、多クノ人ガ關心
ヲ持ッテ居ルケレドモ、純正科學、物理學等
ノ基礎的〓究ニ於テモ政府ハ心ヲ致シ、本
年モ九州大學理學部設置ノ豫算ヲ提出致シ
テアルノミナラズ、名古屋ニ於ケル綜合大
學モ理學部設置ノ計畫ヲ有シテ居ラレル旨
ノ答辯ガアリマシタ、又大藏當局ニ於テモ
財政困難ノ今日ナルニモ拘ラズ、學術振興
會ニ關シテハ三割三分ニ當ル增額ヲ認メテ
居ルガ、其ノ外科學振興調査會ノ答申ヲ待ッ
テ、來年度ニ於テハ尙十分ナル施設ヲ致シ
タイト云フ說明ヲ附加へラレタノデアリマ
ス、尙此ノ問題ニ關聯シテ國際知識ノ涵養
ニ付テモ論及セラレタノデアリマス、私ハ
嘗テ文部當局ノ態度ニ遺憾トスル所ガアリ
マシテ、此ノ所ニ立ッテ知識尊重ノ必要ヲ
申述べ、各方面ヨリ數十通ノ同感ノ旨ヲ述
ベラレタル書信ヲ受領致シタコトガアリマ
スガ、今期議會ニ於テ圖ラズモ右申上ゲマ
シタヤウニ、政府及議員諸君ノ力强イ御意
見ヲ拜聽スルコトヲ得マシテ、衷心歡喜ノ
念ニ堪ヘナイ次第デアリマス、尙所謂大學
肅學問題ニ關シ、國體明徵ノ趣旨ヲ徹底セシ
メル爲、大學內ノ人事ニ於テモ、〓授科目
ニ付テモ、文部大臣ガ進ンデ之ヲ實行セラ
ルヽノ意思ナキヤト云フ質問ニ對シ、文部
大臣ハ質問者ノ御趣旨ハ全ク同感デアルガ、
物ニハ順序ガアル、之ヲ急激ニ外部ヨリ手
ヲ下スヨリモ、文部當局ハ大學ト協力シ
テ、自肅自戒ニ依リ內部的ニ改善セシメム
ト欲シテ居ル旨ノ答辯ガアリマシタ、以上
申上ゲマシタ以外ニモ內政問題トシテ種々
論議セラレタノデアリマス、先ヅ近衞無任
所大臣ノ樞相兼任問題ニ付、平沼首相ハ衆
議院デ之ヲ妥當ナラズト申サレタガ、是八
將來行フベカラザルコトト了解シテ宜イカ、
又適當ノ機會ニ何レカ一方ヲ辭任サレルコ
トガ必要デアルト思フガ如何トノ質問ガア
リ之ニ對シ首相カラ、今囘ノコトハ時局
ノ必要ニ依ッテ行フタモノデアリ、先例ニ
從ッタモノデモナク、又先例トシテ將來
此ノ事ガ行ハレルトモ考ヘナイ、近衞公ヲ
現在ノ地位カラ去ラシムル事情ニハ至ッテ
居ラヌカラ、近イ將來ニ何レカヲ辭スコト
ハナイト思フトノ言明ガアリマシタ、又近
來議會ハ其ノ機能ヲ失ヒ、官僚政治ガ行ハ
レルニ至ッテ居ル、國民ノ聲ガ政治上ニ現ル
ルヤウニ努力セラレタイ、民間ノ言論統制
ガ餘リニ行キ過ギテ居ル、言論統制ニ關ス
ル所見如何、又民間ノ言論統制ヲヤカマシ
ク言ヒナガヲ、却テ國家ノ官吏ノ言論統制ガ
行ハレザル其ノ理由如何等ノ、諸質問ニ對
スル政府ノ應答ハ、今日ハ政黨ノ首領ガ內
閣ヲ組織シタ時代トハ狀態ガ異ッテ居ルガ、
斯カル事態ノ下ニ於テハ、民意ヲ政治ニ反
映セシメルコトガ必要デアルカラ、今後種
種ノ施設ヲ講ジタイ、言論ノ取締ニ付テハ
目下支那事變中デアルノデ窮屈ニナッテ居
ルガ出來ルダケ國民ノ希望ト、國家ノ必
要トヲ調和シテ行キタイ、官吏ノ言論ハ最
モ愼マネバナラヌ、此ノ點ハ十分注意スル
ト云フコトデアリマシタ又吏道刷新ノ問
題ニ關シテ、下剋上トカ、官吏獨善ノ弊ニ
付熱心ナル意見ノ陳述ガアリマシタガ、之
ニ對シテ總理大臣ハ遺憾ナル例ガ皆無トハ
考ヘラレナイ、今後ハ自分ノ責任トシテ之
ヲ是正致シタイト考ヘル旨ノ答辯ガアリマ
シタ、神社行政ニ關シテハ、神社ノ行政機
構ヲ擴充スルノ意ナキカトノ質問ニ對シ、
來ル十五年度ヨリ實現ヲ見ルヤウニ努力ス
ル、特別ノ官衙ヲ設クルヤ否ヤニ付テハ
今俄ニ明言ヲナスコトヲ得ナイト內務大臣
竝ニ總理大臣ヨリモ答辯ガアリマシタ、次
ニ臺灣米ノ移出管理案モ論議セラレマシタ、
質問ノ要旨ハ戰時ニ於テハ食糧問題ハ重要
デアル、然ルニ臺灣ニ於テハ米ノ增產ニ努
まぐり寧ロ米ノ減產ヲ招ク移出管理案ヲ實
施スルノハ何故デアルカ、又本案ノ實施ハ
臺灣ノ人心ニ惡影響ヲ及スト思フガ如何ト
云フノデアリマスガ、之ニ對シテ臺灣米移
出管理案ハ米作ヲ減少セシメムトスルモノ
デハナク、戰時ニ必要ナル他ノ作物ノ增產
ヲ圖ルト同時ニ、米ニモ計畫的增產性ヲ與
ヘムトスルモノデアル、本案ノ實施ニ依リ
農民ノ收入ガ一時減少スルコトハ事實デア
ルガ、ソレハ直チニ囘復シ得ルモノデアル
總督府ハ耕地ノ新開拓、水利ノ施設其ノ他
農民ノ福社ニ付積極的ニ乘リ出ス筈ダカラ、
結局ソレ等ハ收入ヲ增加スル原因トナルモ
ノデアル、總督府ニ於テハ今後モ此ノ案ガ
農民ノ福社ノ爲ニ役立ツモノデアルコトヲ、
認識セシメル爲ニ努力スル考デアルトノ答
辯ガアッタノデアリマス、更ニ東北振興ノ問
題ニ關シマシテ、政府ハ東北振興ヲ國策ト
考ヘルカ、東北ノ特異性ニ基イテ、東北廳
ヲ設置スルノ要ハナイカ、東北興業會社ノ
重大ナル創業期ニ、二年間ニ三人モ總裁ガ
更迭スルノハ遺憾デアル等トノ質疑ニ對シ
テ、東北振興ハ勿論國策ノ一トシテ考ヘナ
ケレバナラナイ、東北廳ノ設置ニ付テハ、
今之ヲ設置スルトハ申上ゲ兼ネル、總裁ノ
更迭ハ人事ノ都合上已ムヲ得ナカッタコトダ
ガ、將來ハ深ク考慮スルトノ答辯ガアリマ
シタ、森林事業ノ發展ニ關スル質疑トシテ
國有林ヲ特別會計トシテ剩餘金ヲ森林事業
ニ使用シテハ如何、森林金融ニ對シ特別ノ
途ヲ講ジテハ如何等ノ問ニ對シマシテ、國
有林ノ經營ノ爲、特別會計ヲ設置スルコト
ハ、目下考慮中デアル森林金融ハ甚ダ不完
全デアル、是ハ日本ノ森林行政上注意スベ
キ點デアルトノ答辯ガアリマシタ、尙又何
等カ府縣ト市町村トノ間ノ中間機關ヲ設置
スルノ必要ガ、時局對策トシテノ地方機關
ノ改善ノ見地ヨリ論ゼラレマシタガ、政府
ハ之ニ對シテ中間機關ノ設置ハ〓究中ナル
旨ノ答辯ヲ致シマシタ、其ノ他砂防工事ノ
促進、國民精神總動員ノ强化、非常警備
ノ組織、司法官ノ地位向上、義勇軍、液
體燃料、國家總動員法第十一條、二千六
百年記念事業等ノ諸問題ニ付テモ、有
益ナル質疑應答ガアリマシタ、尙詳細
ニ亙リマスコトヤ、各分科會ニ於ケル
質疑應答等ニ關シマシテハ、會議錄ニ依ッテ
御諒承ヲ願ヒタイト存ジマス、而シテ三月四
日ノ總會ニ於キマシテモ、國策ニ關スル論
議ガ行ハレ、次イデ熱誠ノ溢レタル討論ノ
後、直チニ三案ヲ一括シテ採決致シマシタ
ル處、全會一致ヲ以テ可決ヲ致サレタノデ
アリマス、豫算委員各位ノ總會及分科會ニ
於テ、連日御精勵下サイマシタコトニ、對
シ、玆ニ改メテ感謝ノ意ヲ表シマシテ、私
ノ報〓ヲ終リタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=4
-
005・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 質疑ノ通告ガゴ
ザイマス、是ヨリ通〓順ニ依リマシテ順
次發言ヲ御許シ致シマス、佐々木八十八君
〔佐々木八十八君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=5
-
006・佐々木八十八
○佐々木八十八君 私ハ工藝〓育ノ振興ニ
付テ文相閣下ニ質問ヲ申上ゲ、閣下ノ御高
見ヲ拜承致シタイト存ジマスル、私ハ嘗テ
國立工業指導所ノ擴充ニ付テ、當時ノ所管
當局タリシ町田商相、小川商相、村瀨商工
次官ニ對シ、御質問申上ゲマシタ處、三閣
下ニ於カセラレテハ我々ノ質問ニ對シ、大
イニ御共鳴下サイマシテ、旣ニ之ガ實現ス
ルニ至リマシタルコトハ、今尙感謝新タナ
ル所デゴザイマス、尙私ハソレニ關聯シテ
第七十議會ニ於テ、當時ノ兼攝文相林閣下ニ
對シ、工藝〓育ノ振興ニ關シ、此ノ壇上ヨ
リ御質問申上ゲマシタル處、林閣下ニ於カ
セラレマシテハ、我々ノ要望ニ對シ大イニ
御共鳴下サイマシタノデゴザイマス、然ル
處、爾來三星霜ヲ閱、當該問題ニ對シ、未
ダ具體的ノ施設モナク、杏トシテ何等ノ御
計畫モ聞クコトヲ得ナカッタコトハ、私共ノ
大イニ遺憾トスル所デゴザイマス、今ヤ我
國ハ擧國一致ヲ以テ東亞建設ノ大事業ヲ遂
行シツヽアリ、尙國際貸借ノ均衡ニ對シテ
ハ、飽ク迄モ之ヲ維持シナクテハナラナイ
ト云フ時ニ當リ、更ニ進ンデ第三國ニ對シ
輸出超過ヲ以テ金ノ獲得ヲヨリ大ナラシメ
ナクテハナラナイノデゴザイマス、茲ニ於
テ輓近各方面デハ日滿支ノ資源開發ニ對
シ、孜々汲々タルモノガアリマスルケレド
モ、今日ノ所デハ、輸出製品ニ要スル原料ノ
如キ、圓「ブロック」以外ノ第三國ニ之ヲ仰ガ
ナクテハナラナイト云フコトニナッテ居リ
マン、先ヅソレガ對策トシテハ、輸出製品
ニ要スル輸入原料ノ代價支拂額ヲシテ、成
ルベク少額ナラシムルト同時ニ、輸出製品
ニ對シマスル外貨ノ受入金高ヲシテ、成ル
ベク多額ナラシメ、之ヲ差引シテ、金ノ獲
得ヲシテ成ルベク多カラシメナクテハナラ
ナイノデゴザイマス、カルガ故ニ、金ノ獲
得ヨリ見テ、輸出製品ニ要スル輸入原料ハ
成ルベク價格ノ低イ物ヲ選ビ、又成ルベク
容量ノ少クテ足リルヤウナ、輸入原料ニ對
シ、工藝技術的ノ加工ヲ施シテ、優秀ナル
製品、卽チ高級化シタル商品ニ仕上ゲ可
及的、高價ナル要品ニ美化シテ、之ヲ第三
國ニ輸出スルヨリ他ニ方法ハナイノデゴザ
イマス、是ガ輸出超過ノ促進トナリ、所謂、
加工工業國トシテノ金獲得ニ對スル是ガ
唯一ノ方策デアルト思フノデアリマス、又
ㄱハヴ·ナット」ノ國トシテ生キテ行クベキ、無
二ノ途デアルト斯樣ニ考へテ居リマス、蓋シ
人ニハ先天的ニ美ヲ愛好スル趣味ガアリマ
シテ、總テノ物ハ形狀及色彩ノ上ニ新規ナ
ル意匠ヲ加ヘテ、其ノ價値ヲ上ゲ、人ノ趣
味ニ愬ヘテ販路ヲ開拓或ハ擴張シ得ルノデ
アリマス、カルガ故ニ出來得ル限リ之ヲ高
度ニ利用シテ、只今申上ゲマシタヤウナ工
藝雜貨ノ輸出進展ニ資スベキデアルト、斯
樣ニ思ウテ居リマス、而シテ其ノ趣味性ニ
モ亦文化ノ高イ程度ノ國民程、ソレ程洗煉
サレテ居リマスルケレドモ、各國ニ於ケル
民族モ、眠色毛色ノ變ルガ如ク、種々雜多
デ、決シテ一樣デハナイノデアリマス、從ッテ
其ノ仕向地ニ於ケル文化ノ程度及嗜好等ニ
對シ、具サニ比較〓究シテ、其ノ人々ノ好ミ
ニ投ズルヤウ苦心慘澹、巧ミニ最善ヲ盡ス
ベク努力ヲ要スルノデアリマス、幸ニ我ガ國
民ハ美的情操ニ富ミ、工藝技術加工ニ對シ
最モ良イ素質ヲ持ッテ居リマスルケレドモ、
悲シイ哉往々ニシテ半製品ノ儘輸出サルヽ
コトモアリ、或ハ安價品ヲ以テ海外市場開拓
セラルヽヤウナ現狀ヲ思フニ當リマシテハ、轉、ミ
寒心ニ堪ヘナイモノガアリマス、斯クノ如キ
我ガ國ノヤウナ資源ニ乏シイ國トシテ、輸
出貿易ノ進展ヲ圖ラムト欲スレバ、勢ヒ工
藝〓育ノ振興ニ對シ、一日タリトモ之ヲ忽
セニスルコトハ出來ナイノデアリマスガ故
ニ、多年ニ亙リ我々ハ先ヅ其ノ指導機關ヲ
擴充スル必要ヲ痛感致シマシテ、屢〓當當ニ
要望スル所ガアリ、遂ニ國立工藝指導所ヲ
增設セラルヽニ至リマシタルコトハ先程
申上ゲマシタ通リデゴザイマス、併シナガ
ラ是ダケデハ恰モ諺ニ謂フ所ノ、佛作ッテ
魂ヲ入レナイト云ッタヤウナモノデアリマ
シテ、本當ニ工藝技術ノ進步發達ヲ促ス爲
二、百尺竿頭一步ヲ進メテ、大イニ工藝
〓育ノ振興ヲ圖リ、多數ノ工藝技術者ヲ養
成スルコトガ、現下ニ於ケル喫緊ノ急務デ
アルコトハ勿論、我ガ工產品ニ優秀ナル工
藝美ヲ發揮セシメ、更ニ積極的ニ進ンデ第
三國ニ對シ輸出超過ノ促進ヲ圖リ、工藝雜
貨ノ海外進出性ノ增大ニ努メ、須ク我ガ國
ノ對外信用ニ對シ飽ク迄モ維持シナクテハ
ナラナイト思フノデアリマス、之ニ依ッテ我
ガ國ノ經濟力ヲ培養スル所トナリ、今後ノ
長期戰ニ備ヘ、斷乎トシテ此ノ非常時局ヲ
突破スルノ大覺悟ヲ極メナケレバナラナイ
ト思フノデアリマス、左レバ工藝〓育ノ振
興及普及ハ上述ノ通リ我ガ國ノ國力ノ消
長ニ影響スル所極メテ重大ナル事柄デアリ
マスガ故ニ、多年ニ亙リ我々ハ之ニ對シ重
要性ヲ强調致シマシタ所以ノモノハ、我ガ
國傳統ノ國民的性能ヲ啓發培養シテ、其ノ卓
越セル技能ニ依ッテ、須ク國富ノ增進ヲ圖
リ、以テ工藝奉仕ヲ期セナクテハナラナイ
ト云フ信念ニ外ナラナイノデゴザイマス、
政府ハ輸出振興ヲ其ノ政綱中ニ御揭ゲニナッ
テ居ラルヽヤウニ思ヒマスルガ、ソレナラ
バ殊更、工藝〓育振興ノ必要ヲ御認メニナッ
テ居ラッシヤルノデハナカラウカト存ジマ
スル以上私ガ申上ゲマシタ事每ニ對シ
文相閣下ノ御高見ヲ拜承致シタク存ジマス
〔國務大臣男爵荒木貞夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=6
-
007・荒木貞夫
○國務大臣(男爵荒木貞夫君) 只今ノ御尋
ノ工藝〓育振興ニ付キマシテ、現在ノ我ガ
國ノ工藝技術〓育ハ專門學校ニ於テ五學
科ヲ設ケテ居リマスル府縣ノ中等程度ノ
工業學校ニ於テ百八ノ學科ヲ設ケマシテ、
此ノ方面ニ於ケル技術者ノ養成ニ努力致シ
テ居ルノデアリマス、而シテ其ノ方ニ於テ
ハ只今御述ニナリマシタ如ク、我ガ國民ノ
天賦ヲ十分ニ發揮致サセマシテ、之ヲ總テ
ノ工藝ノ上ニ活用致サスルヤウニシテ、獨
創的ナ種々工夫ヲサスルヤウナ方針ヲ執ッ
テ居ル次第デアリマス、併シナガラ只今御
述ニナリマシタ如ク、工藝技術ガ輸出入ノ
收支關係ニ大ナル關係ヲ持ッテ居リマスルコ
トニ鑑ミマシテ、更ニ世界ノ此ノ方面ニ對ス
ル趨勢ニ能ク鑑ミ又各國民、各國家ノ趣
味ヲ能ク斟酌致シマシテ、斯樣ナ意味ニ於
ケル工業〓育ノ進展ニ關シテ、將來一段ノ
努力ヲ致シ、更ニ商工省方面トモ連絡ヲ緊
密ニ圖リマシテ、今日ノ必要性ニ應ジテ
ソレ〓〓適當ノ處置ヲ執ッテ其ノ振興ヲ圖
リタイト存ジテ居ル次第デアリマス、ドウ
ゾ御了承ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=7
-
008・佐々木八十八
○佐々木八十八君 至極簡單デゴザイマス
ルノデ、自席ヨリノ發言ヲ御許シ願ヒタイ
ト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=8
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009・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=9
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010・佐々木八十八
○佐々木八十八君 只今ハ文相閣下ヨリ、
イトモ詳細ヲ極メタル御答辯ヲ辱ウ致シマ
シタニ對シ感謝ノ意ヲ表シマス、何卒政府
ニ於テ之ガ爲ニ能ク善處ヲ爲サレマシテ、
之ガ實現スルコトノ一日モ速カナラムコト
ヲ庶幾シテ私ノ質問ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=10
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011・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 二荒伯爵
〔伯爵二荒芳德君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=11
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012・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 會期切迫ノ今日ニ當リ
マシテ、暫ク時間ヲ頂戴致シマシテ、豫算
ノ執行ト云フコトニ付キマシテ、質問ヲ致
シタイト存ズルノデアリマス、問題ハ文部
省關係ニ亙ルコトガ主デアリマスガ又外
務省ノ關係ニモ及スト存ジマスノデ、此ノ
點御含ミヲ願ッテ置キタイト存ジマス、先ヅ
御斷リヲ致シテ置キタイト存ジマスルノハ、
昨年文部省ノ補助費ト致シマシテ、日獨靑
少年交驩ノ費用ト致シマシテ、十萬圓ヲ計
上致シタノデアリマス、而シテ委員會ニ於
キマシテハ此ノ十萬圓ノ使途ニ付キマシ
テハ詳細ナル質疑應答ガゴザイマシテ、或
團體ヲ特ニ作リマシテ、其ノ團體ヲシテ靑
少年交驩ノ事業ヲ行ハシメルト云フコトデ
アッタノデアリマス、凡ソ補助費ナルモノ
ハ補助サルヽ團體ガアッテ初メテ計上サ
ルベキモノデアルノデアリマスガ、其ノ團
體ガ數箇〓體ゴザイマシタノデ、其ノ數箇
團體ヲ一括致シマシテ、玆ニ交驩團ト云フモ
ノヲ作ッテ之ニ補助費ヲ與ヘタノデアリマ
ス、從ッテ其ノ補助費ヲ受ケタ交驩團ハ、其
ノ補助費ヲ計上サレタ目的ニ從ヒマシテ
能ク之ヲ使フト云フコトガ必要デアルノデ
アリマス、然ルニ其ノ補助費ノ使用方法及
此ノ補助費ヲ助クル爲ニ更ニ民間カラ集メ
マシタ所ノ其ノ費用等ニ付キマシテ、不幸
ニシテ私ノ見ル所ハ政府當局ノ見ル所ト全
ク相反スルモノガアリマスルガ故ニ、今日
ノ如ク多額ノ補助費ヲ用ヒマス國家ノ現狀
ニ於キマシテハ、ドウシテモ政府ノ御方
針ヲ聽キマシテ、之ニ對スル我々ノ心構ヲ
致シタイト思フノデアリマス、尙此處デ御
斷リヲ申シテ置キタイノハ、此ノ十萬圓竝
ニ寄附金八萬何千圓ト云フモノノ使途ガ、
會計法上ノ見地ヨリ見テ不正デアッタトカ、
或ハ疑惑ガアルトカ云フ意味ヲ含ンダモノ
デハ毛頭ナイノデアリマス、又私ノ只今申
出マス質問ニ對シテハ、一ツノ行政上ノ方
法ノ批判ニモナリマスノデ、或ハ議政壇上
ニ於テ問題トスルノニハ小サイ事デアルト
云フ御考ヲ御持チニナル方ガアルカモ知レ
マセヌガ、此ノ問題ヲ此ノ壇上ニ於テ論ジ
マスコトハ實ハ一ツノ例示ニ過ギナイノ
デアリマス、由來社會〓育關係ニ於テハ斯
クノ如キ事柄ガ多々アルノデアリマシテ、
之ヲ具體的ニ申上ゲナケレバ問題ノ核心ニ
觸レルコトガ出來ナイカラ、已ムヲ得マセ
ヌデソレヲ申上ゲル所以デアリマス、尙更
ニ國民精神ノ根本的ノ原動力ハ、私常ニ申
シテ居リマスヤウニ社會〓育ニ在ルト思フ
ノデアリマス、從ッテ社會〓育ノ振興ナルモ
ノハ國防上實ニ軍備等ニモ匹儔スベキト
申サムヨリハソレ以上ニ道義的、精神的
ノ意味ニ於テ重大性ヲ持ツト思フノデアリ
マスガ故ニ、其ノ中核ヲ衝イテ質問ヲ致シ
タイト思フノデアリマス、尙最後ニ御斷リ
申上ゲタイト存ジマスルノハ近頃官吏獨
善ト云フ言葉ガ流行リマスガ、私ハ斯クノ
如キ重大ナル事變下ニ於テハ種々革新或
ハ改善、總テノ整理ト云フモノガ急速ニ行
ハレナケレバナラヌト思フノデアリマス、
從ッテ舊態ヲ維持シテ居ル人々ノ眼カラ見
マスレバ、恰モ官吏ガ獨善主義ニ事ヲ運ン
デ居ルカノ如ク見エル場合モアラウト思フ
ノデアリマスガ故ニ、一面ニハ官吏ノ獨善
ヲ我々ハ十分警戒スル必要ガゴザイマス
ガ、他ノ意味ニ於テハ革新ノ企テヲ一〓ニ
官吏獨善ナリトシテ貶スヤウナ見方ハ深
ク注意ヲ致シテ差控フベキモノダト思フノ
デアリマス、唯官吏ノ所信ニ邁進スル以上、
苟モ其處ニ嚴肅ナル批判ヲ加ヘラレタトキ
ニハ心ヲ虛シクシテ其ノ批判ヲ聽キ、サ
ウシテ直チニ次ノ正シキ途ニ蹈ミ進ムト云
フ寬容ナ、又眞摯ナル態度ガ必要デアルト
思フノデアリマス、斯クノ如キ諸點ヨリ見
マシテ、私ハ今日次ノ質問ヲ申上ゲタイト思
フノデアリマス、卽チ日獨靑少年團交驩ノ費用
十萬圓ナルモノガ與ベラレマシタ交驩會ハ、
數個團體ノ靑少年團〓育ノ團體デゴザイマ
シテ、民間カラ更ニ此ノ團體ノ名前ニ於テ八萬
數千圓ノ寄付金ヲ仰ギマシテ、日獨靑少年ノ
交驩ヲ完成致シタノデアリマスガ、不思議ナ
コトニハ、此ノ民間カラ得マシタ八萬數千圓
ノ寄附金ト云フモノハ未ダ曾テ交驩會ノ
理事等ニ於テハ報〓サレタコトガナイノデ
アリマス、同時ニ政府補助ノ十萬圓ト云フ
モノノ使途ニ付テモ、未ダ曾テ其ノ內容ヲ
〔副議長侯爵佐佐木行忠君議長席ニ著
ク〕
交驩會ノ理事ニハ說明サレタコトヲ聞カ
ナイノデアリマス、卽チ交驩會ト云フ存在
ハゴザイマシタケレドモ、諸費ノ經理、其
ノ外重要ナ事項ニ付テハ理事會ト云フモノ
ヲ僅ニ一囘開イタバカリデ、此ノ交驩會ノ
事業ト云フモノハ或一人ノ常務理事、而
シテ官吏ノ身分ヲ有スル人々ニ依ッテ專行
サレタト云フ所ニ私共ハ非常ナル道義的ノ
責任ヲ其ノ人達ガ持ツベキモノデアルト云
フコトヲ申シタイト思フノデアリマス勿
論理事會ハ二囘開カレテ居ルノデアリマス
ガ、其ノ二囘目ハ實ハ交驩事業ノ濟ンダ時
ニ行ハレマシタ理事會デアリマシテ、交驩
事業ノ前ニハ唯一囘ノ理事會シカ開カレテ
居ラヌノデアリマス御承知ノヤウニ、斯
クノ如キ重大ナル國家事業、而シテ國際的
ノ影響ノ大キナモノガ、誠ニ輕卒ニ誠ニ不
用意ニ、而モ專斷ニ依ッテ行ハレタト云フコ
トニナリマスレバ、將來斯タノ如キ場合ニ、
再ビ此ノ轍ヲ踏ムコトアルヲ非常ニ惧レル
モノデアリマス、而シテ私ハ決算ノ委員會
ニ於キマシテ、數字上ノ質問ヲ致スコトハ
勿論十三年度ニ行ハレマシタコトデアリマ
スカラ、之ニ付キマシテ其ノ以外ノ點卽チ
如何ニ交驩會ト云フモノガ出來、如何ニ事
務ガ取リ運バレタカト云フコトヲ質問致シ
マシタノニ對シテ、又不思議ナ御答辯ヲ得
タノデアリマス、「ドイツ」ノ靑少年團體ハ
國家機關ガヤッテ居ルモノデアル、卽チ國家
ガ中心ニナッテヤッテ居ルモノデアルガ故ニ
我ガ國ニ於テモ文部省ガ中心ニナッテヤッタ
ノデアルト云フ御答辯デアッタノデアリマ
ス、是ハ實ニ菽麥ヲ辨ヘナイ答辯デアルト
思フノデアリマス、「ドイツ」ノ靑少年指導
廳ナルモノハ、文部省ニモ匹敵スベキヤウ
ナ千人ニ近イ役人ヲ使ッテ居リ、其ノ部局ハ
十五部局ニ分レテ居リマシテ、中ニハ外交
關係ヲ扱フ部局、宣傳ヲ扱フ部局、或ハ〓
育其ノモノヲ扱フ部局等々ゴザイマシテ
一見厖大ナル一大官省デアルノデアリマス、
然ルニ文部省ノ中ニ存在致シマスル所ノ社
會〓育局ナルモノハ僅カニ專任八名乃至
九名ノ高等官ヲ有シ他ハ屬僚ト致シマシテ
二十數人ノ官吏ヲ有スルニ過ギナイ一局內
ノ一課デアルノデアリマス、「ヒットラー
ユーゲント」ノ團體ガ、國家機關ニ依ッテ
行ハレテ居ルガ故ニ、文部省ガ當然此方モ
其ノ積リデ國家的ニヤルノダト云フヤウナ
コトハ、內容ト云フコトニ一ツモ注視スルコ
トナク、全ク獨斷的ノ判斷ニ依ッテ之ガ行ハ
レタト云フ所ニ、甚ダシキ不聰明ト不用意
ガアルト申サナケレバナラヌノデアリマス、
斯ク私ガ申シマスコトハ文部省自身ニ對
シテノ非難ヲシテ居ルノデハアリマセヌ
社會〓育局ガドンナ大切ナ役割ヲ此ノ事變
下ニ持タナケレバナラヌト云フ點ニ付テ
非常ナル不安ヲ持チマスガ故ニ之ヲ申シテ
居ルノデアリマス、又其ノ事務ノ執リ方ニ
付テモ、斯クノ如ク文部省ガ直接ニヤルノ
デアルカラシテ、或官吏ヲ之ニ專屬セシメ
テ、サウシテ其ノ官吏ガ專ラ之ヲ行フコト
ニ致シタノデアル、斯ウ云フ說明デアリマ
ス、若シ斯クノ如キコトデアルナラバ、初
カラ交驩團ナドト云フモノヲ作ルト云フコ
トハ、形式的ニ之ヲ扱フ考デ、文部省自身
ガ之ニ當リ、或ハ文部省ノ社會〓育局自身
ガ之ニ當ルト云フ肚ヲ持ッテ居ッタコトニナ
ルノデアリマシテ、昨年ノ豫算ノ時ノ質問
應答ト云フモノハ、全ク一ツノ方便ニ過
ギナカッタト云フ結果ニナルノデアリマ
ス、交驩團ハ一ツノ團體デアリ、是ノ意
思決定ヲ爲スモノハ理事會ガアルノデア
リマス、是ガ唯常務理事ダケノ考ニ於
テ行ハレルコトスラ適當デハナイノデ
アリマスルガ、而モ共ノ一常務理事ノ專斷
ト云フコトニナリマスレバ、將來非常ナル
恐ロシキ結果ヲ生ズルト思フノデアリマス、
今年度ニ出シマシタ文部省ノ豫算中ノ補助
費ダケデモ百七十六萬圓ト云フ多額ノモノ
ヲ計上致シテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ
ヤウナ多額ノ金ガ先程申スヤウナ事例ニ從
ヒマシテ使用サレルト云フコトニナリマス
そくろ共ノ結果タルヤドウ云フ恐ロシイモ
ノガアルカト云フコトハ、皆樣ノ御想像ニ
委セテ御判斷ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス、之ヲ要スルノニ今後ノ國際的文化事業
ト云フモノハ一文部省ノヤルベキコトデ
ハ決シテナイト思フノデアリマス、他面ニ
ハ外國ノ事情ニ通ジタ外務省ノ部局ガヤラ
ナケレバナリマスマイシ、之ガ全國的ニ或
ハ旅行シ或ハ〓究ヲスル爲ニ、其ノ團體ガ
動クト云フコトニナリマスレバ、內務省モ
亦大キナ役割ヲ持タナケレバナラヌト思フ
ノデアリマス、而シテ文部省ノ今日ノ社會
〓育局ノ威力ト云フモノハ、地方ノ社會局
主事等ニモ十分徹底シナイヤウナ有樣デ
アリマスナラバ、不用意ナ計畫ハ、時ニハ
國家ノ體面ヲモ傷ツケル、又精神的ニ與フ
ベキ色々ノ糧ヲ、外來ノ賓客ニ與ヘ損ナッテ
シマウト云フコトハ、軈テ國民精神ノ本質
ヲモ彼等ニ知悉セシムル機會ヲ逸シテシマ
フト云フコトニナルノデアリマス、假ニ「オ
リムピック」大會ガ行ハレタト云フヤウナ場
合デモ、斯ウ云フ一種ノ無氣力ノ失態ト云
フモノハ想像サレルト思フノデアリマス、
私ハ事ハ小ニ似テ居リマスケレドモ、國家
ノ前途ノ爲ニ、斯クノ如キ事ガ今後絕對ニ
ナイコトヲ望ムト同時ニ、今日ノ世ノ中ハ
兵力ノ戰爭ヲ一面ニ致シテ居リマスガ、實
ハ思想戰ノ戰鬪、又精神力ノ戰鬪ノ時期ニ
入ッテ居ルノデアリマス、其ノ本營デアル所
ノ文部省ガ斯クノ如キ不用意ナ立場ニ立ツ
テ居ルト云フコトハドウシテモ國防ノ上
カラ私共ハ默視シ得ナイノデアリマス、此
ノ點ニ付キマシテ、一面ニハ文部大臣ノ御
決意ヲ伺ヒタイト存ジマスシ、國際問題ノ
重要性ニ付キマシテハ、外務大臣ノ御答辯
ヲ辱ウシマスナラバ誠ニ幸ト存ズル次第デ
アリマス
〔國務大臣男爵荒木貞夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=12
-
013・荒木貞夫
○國務大臣(男爵荒木貞夫君) 只今二荒伯
爵カラ日獨靑少年交驩會ノ事務ノ內容ニ關
スル卽チ理事會ノ運營ニ關シテ適當ナラズ
ト云フ御趣意ノ第一ノ御質問ガアッタノデ
アリマスルガ日獨靑少年交蘿會ハ、御承
知ノ如ク一昨年ヨリ此ノ問題ガ起リマシテ、
文部省ガ主任トナッテ此ノ成果ヲ收メルコト
二、事務ヲ進捗致シタノデアリマシテ、玆
ニ交驩會ナル一ツノ事務ヲ取扱フベキ組織
ヲ作リマシテ、只今御述ニナリマシタ理事ガ
出來ラレテ、此ノ理事ニ依ッテ總テノ進捗ヲ
致シタノデアリマス、其ノ理事會ノ內容、
其ノ運營ニ付テ御指摘ノヤウナ點ガアリ
トセバ是ハ理事會ニ於ケル問題ト致シマ
シテ、能ク精査致シマシテ、是等ノ運營ニ
誤リナカラシムルヤウニ、ソレ〓〓ノ主任
ヲ督勵致スコトニ、御指摘ニ從ッテ謙虛ニ此
ノ點ヲ十分〓究致シテ、將來誤ナカラシメ
ルヤウニ期シタイト存ジマス、此ノ交驩會
ハ御承知ノナヤウ徑路ハ取リマシタガ、日
獨兩國ノ親善關係、殊ニ其ノ基礎的ノ靑少
年ノ交驩ニ付テハ、多大ノ寄與スル所ガア
リマシテ、今後ニ於テモ此ノ交驩會ハ更ニ
繼續スル必要ヲ認メテ居ルノデアリマス
更ニ日獨文化協定モ成立致シマシタノデ、
是等ノ點ニ付キマシテハ、重ネテ日獨ノミ
ナラズ他ノ諸邦トノ間ニ於キマシテモ、文
化ノ興隆、之ヲ通ジテノ理解、更ニ心ヨリ
民族ノ親善ヲ期スル上ニ付テ、將來更ニ活
躍ヲ期セネバナラヌト存ズルノデアリマ
ス、之ガ爲ニ只今御指摘ニナリマシタ如ク、
今日ノ組織ヲ以テシテハ決シテ十分トハ申
シ兼ネルノデアリマシテ、國際文化ノ振興
ニ於キマシテハ各種ノ團體ト共ニ中央機
關ト致シマシテ、我ガ國ノ文化、更ニ協定
ヲシテ居リマス所ノ各國ノ文化ノ眞髓ヲオ
互ニ交換ヲ致シマシテ、、基礎アル系統ヲ立
テテ、我ガ國ノ文化ヲ彼等ニ紹介スル必要
ガアリマスノデ、此ノ點ニ付テハ文部省ハ
主管省ト致シマシテ、今後モ更ニ是等ノ機
關ヲ擴大强化致シマシテ、外務省トノ間ニ
是等紹介ノ、又事務進捗ノ緊密ナル連鎖ヲ
取ッテ、更ニ其ノ有終ノ美ヲ濟シタイト期シ
テ居ル次第デアリマス、以上御質問ノ點ニ
關シマスル過去ノ經過竝ニ將來ノ考ニ付テ
御答へ申ス次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=13
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014・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 有田外務大
巨
〔國務大臣有田八郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=14
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015・有田八郎
○國務大臣(有田八郞君) 只今ノ二荒伯爵
ノ御質問ニ對シマシテハ、文部大臣カラ一
應御答辯ガアッタノデアリマス、外務省ト致
シマシテハ從來國際關係ノゴザイマスル
問題ニ付キマシテハ、各省トノ間ニ連絡ヲ
取リ來ッタソデアリマス、昨年「ヒットラー·
ユーゲント」ノ參リマシタ時ノ狀況ニ付キ
マシテハ私詳細承知ヲ致シテ居ラナイノ
デアリマスガ、或ハ此ノ連絡ニ於テ缺クル
所ガアッタノデアルカトモ存ズルノデアリ
マスガ、只今文部大臣ノ申サレタヤウニ、
日獨ノ間ノ文化協定モ出來、又其ノ他ノ國
トモ是等ノ協定ガ出來ムトシツヽアリマス
從ッテ是カラハ益〓外國トノ間ノ文化事業ニ
對スル提携、各種ノ催等ガゴザイマスコト
ト思フノデアリマスガ、是等ノ際ニハ外務
省ト致シマシテハ、主管省ト十分ニ連絡ヲ
取リマシテ、成績ヲ擧グルコトニ遺憾ノナ
イヤウニ努メタイト考ヘテ居ル次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=15
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016・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 簡單デゴザイマスカラ、
自席カラ發言ヲ御許ヲ顧ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=16
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017・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 宜シウゴザ
イマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=17
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018・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 只今文部大臣、外務大
臣ヨリ御答辯ヲ得マシテ滿足ニ存ジマス
「ヒットラー·ユーゲント」ノ日本訪問ト云フ
コトハ、其ノ效果ニ於テハ彼我多大ノ功
績ヲ殘シタト存ジテ居リマス、殊ニ「ドイ
ツ」方面ニ於ケル交驩團ノ歸國以後ノ活動、
卽チ日本文化ヲ國內ニ宣傳シテ、實ニ最努
力ヲ拂ッテ日本ヲ諒解セシメテ居リマスコ
トヲ知リマシテ、其ノ效果ハ非常ニ大キカッ
タト存ズルノデアリマス、又我ガ國內ニ於
テモ其ノ效果ハ決シテ少クナカッタト存ジ
マスガ、先程兩大臣カラ御話ノヤウニ、今後
此ノ種ノ企テハ益〓起ッテ來ルト思フノデア
リマス、從ヒマシテ此ノ事業ノ十分ナル用
意ノ下ニ行ハレムコトヲ切望致シマシテ已
マナイ次第デアリマス、之ヲ以チマシテ私
ノ質問ヲ終リト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=18
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019・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 三上參次君
〔三上參次君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=19
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020・三上參次
○三上參次君 私ハ戰時及戰後ノ國民思想
問題ニ付テ、總理大臣、內務大臣ニ、半バ
ハ希望ヲ申上ゲ、半バハ御質問ヲ申上ゲタ
イト考ヘルノデアリマス、世ノ中ノ泰平ガ
續キマスト云フト、或ハ社會ノ狀態ガ固著
シマシタリ、又其ノ間ニ色々ノ學說ガ起リ。
ナド致シマシテ、矢張リ思想問題ガ時々起
ルノデアリマス、サウシテソレガ往々世ノ
中ニ大ナル波瀾ヲ起スト云フコトハ、今古
東西ノ國々ノ能ク體驗シテ居ル所デアルノ
デアリマス、況ヤソレガデス、此ノ度ノ如
キ國ヲ擧ゲテノ大戰爭ト云フ風ナコトニナ
リマスト云フト、一段サウ云フ心配ハ加ル
ノデアリマス、大正十二年ノ彼ノ大震火災、
誠ニ見ルニ忍ビズ、言フニ堪ヘザル大慘害
デアリマシタケレドモ、之ヲ地方カラ見マ
スルト云フト、尙一地方ノ事デアッタノデ
アリマス、然ルニ若シ斯カル出來事ガ全國
民ノ頭ノ上ニ直接ニ繫ルト云フコトデアッ
タナラバ、其ノ影響スル所ハ、及ス所ハ如
何ニ大キイカト云フコトハ、大抵想像ノ出
來ルコトデアラウト思フノデアリマス、ア
ノ震火災ノ時デサヘモ可ナリ自暴自棄的ナ
考ヲ起シタリ、卽チ俗ニ申ス所ノ捨鉢的ノ
考ヲ述ベタ者モアッタヤウニ私ハ記憶致シ
テ居リマス、大戰爭ガ續キマスト云フト
之ニ依ッテ一種ノ宗〓心ガ强クナッタリ、若
シクハ社會ニ迷信ノ程度ガ增スナドト云フ
コトガ多イノハ卽チ原因ハソコニアルト
思フノデアリマス、戰爭ニ於テ古來敗北ヲ
致シタ所ノ國ハ、其ノ社會ノ機構ガ或ハ變
リ、又人情風俗ガ大イニ變ルト云フコトハ、
固ヨリ申ス迄モナイ話デアリマスルガ、戰
捷ヲ最後ニ占メタ國ニ於テデモ、同樣ノコ
トガ屢〓是迄繰返サレテ居ルノデアリマス、
殊ニ今日ノ我ガ國ノ事變ノ如ク、當面ノ支
那ハ申スニ及バズ、其ノ背面ニハ最モ厭フベ
キ「ロシア」ノ共產主義ト云フモノガ織込マ
レテ居ルノデアリマスルガ、此ノ共產主義、
「ロシア」主義ト云フモノハヽ荀モ我ガ國體
ト相容レナイモノデアル私共ハ之ヲ不倶
戴天ノ仇ト考ヘテ居ルノデアリマスルガ、
ソレガ敵方ニ廻ッテ大イニ腕ヲ揮フテ居ル
ノデアリマスルカラシテ、我ガ國ノ上下ノ
人ノ之ニ對シテ關心ヲスルト云フコトモ誠
ニ尤モナコトデアリマス、申上ゲマスル迄
モナク、支那ニ於テハ四五千年ノ昔ヨリ、
或ハ時ニ依ッテハ均產主義ヲ採ル、或ハ共產
主義ヲ以テ國ヲ治メル若シクハソレニ反
シテ、全ク自由競爭デ、弱肉强食ノ時代、
卽チ漢詩ニモアリマス通リ、一方デハ富王
侯ニ等シク、他ニハ立錐ノ地モ有シナイト
云フヤウナ不權衡ナ時代ガ出來テ來ル、サ
ウ云フ不權衡ナ時代ガ出來テ來マスト、共
產主義若シクハ均產主義、ソレガ行詰リマ
スト、元ノ如ク又自由競爭ノ時代ニナルト
云フヤウナコトハ、支那ニ於テハヤリ過ギテ
居ルノデアリマスルカラシテ、恐ラクハ蔣
介石ノ政府ニ於テハ、我々ガ不思議ニ思ヒ、
苦痛ニ思ッテ居ルコトヲ、彼等ハ歷史的ニ考
ヘテ、我々ノ先祖ノヤッテ居ル事ヲ繰返シテ
居ルニ過ギナイト云フヤウナコトヲ思ッテ
居ルカモ知レナイト思フノデアリマス、サ
ウシテ其ノ支那大陸ニ於テサウ云フコトガ
アリマス度每ニ、大ナリ小ナリ我ガ國ニ影
響ヲ及シタノデアリマスルガ、其ノ最モ大
ナル影響ハ、卽チ例ノ大化ノ時デアリマシ
テ、班田收授ノ法ト云フモノハ卽チ均產主
義デ、ソレヲ我ガ國ニ用ヒタガ爲ニ、將來
大キナ影響ヲ殘シテ居ルト云フコトハ歷史
上ノ一ツノ大キナ問題ニナッテ居ルコトデ
アリマス、然ルニ幸ニシテ金甌無缺ノ我ガ
國體ハサウ云フ主義ヲ用ヒタト雖モ、却テ
皇威ヲ發揚スルコトコソアレ、我ガ皇威ヲ
毀損スルト云フコトハ少シモナカッタト云
フコトハ我々國民タル者ノ大イニ誇リト
シ、喜ブベキ所デアルノデアリマス、處ガ
今日ノ共產主義ハ支那ノ昔用ヒマシタ所
ノ共產主義及均產主義ヨリモ、餘程變ッタ油
斷ノナラヌモノニナッテ居ルト云フコトハ、
今更此處デ申上ゲズトモ宜シカラウカト思
フノデアリマスケレドモ、私共ハ大化ノ昔
ノコトヲ考ヘテ、今日ノコトヲ想ヒマスル
ト云フト、慄然トシテ膚ニ粟ヲ生ズルヤウ
ナ感ジヲ時々致スノデアリマス、申ス迄モ
ナク今日ノ支那ニ於ケル我ガ國ノ戰爭ト云
フモノハ、恐クハサウ云フ禍根ヲ絕ツト云
フコトガ戰爭ノ目的ノ過半デアルト云フコ
トモ我々信ジテ居ルノデアリマスルガ、兎
角此ノ戰爭ト云フモノガアリマスルト云フ
ト、其ノ戰爭ノドサクサ紛レニ、サウ云フ
思想ガ入ッテ來ルト云フコトハ餘程注意ヲ
致シマセヌト云フト、是迄ニモ例ノアルコ
トデアッタノデアリマス、政府ニ於キマシテ
モ、十分其ノ邊ノ御注意ハアッタノデアラウ
ト思ヒマシテ信賴ヲ致シ、感謝ヲ致シテ居
リマスルガ、併シナガラ尙昨日デシタカ
今日デシタカノ新聞ニ、黑色「ギャング」團
ガ檢擧サレタトカ、告發サレタトカ、若シ
クハサウ云フ硬派ノ「ギャング」デナク、軟
派ノ「ギャング」ノ或印刷物ガ押收セラレタ
ト云フヤウナコトヲ見マスルト云フト、此
ノ上下一致、聖戰ニ從事シテ居ル間ニ於テ、
尙我ガ同胞中ニ斯クノ如キ者ガアルカト云
フ感ジヲ深ク致スノデアリマス、大體ニ於
テ此ノ問題ニ對シテハ政府ニ於テモ十分ニ
警戒ヲシ、各方面ニ向ッテソレ〓〓施設ヲシ
テ下サルコトデアルト信ズルノデアリ
マスルケレドモ、尙ソレニ關聯シマシタ
事柄ニ於キマシテハ、アチラコチラニ多
少ノ穴ガアルヤウニ思フノデアリマス
大キナ堤モ蟻ノ穴カラ崩レルト云フヤウナ
コトガアリマスヤウニ、我々ハサウ云フ
點ヲ懸念セズニハ居ラレナイノデアリマス、
昔カラシテ德ヲ以テ政ヲスレバ民ガ悅ンデ
服スル、法ヲ以テ政ヲスルト云フト民免レテ
耻ヅルコトナシト云フコトヲ言ッテ居リマス
ルガ、今日ノ世ノ中ノ狀態ヲ見マスルト云
フト、甚ダ言ヒタクナイ言葉デアリマスル
ケレドモ、免レテ耻ヅルコトナシト云フ民
ガ餘程マダ多イヤウニ考ヘラレルノデアリ
マヽ、私ハ靑少年ニ接觸スル機會ガ割合ニ
多イノデアリマシテ、彼等ノ心理狀態、思想
ナドヲ少シク知ッテ居ル積リデアリマス、又
古ク昔ニ遡ッテ之ヲ比較シテ見マスルト云フ
ト、成ル程斯ウ云フモノデアラウト云フヤ
ウニモ感ズルノデアリマスルガ、今日ノ靑
少年ハ法律萬能主義ト個人主義ト云フモノ
ヲ固ク持ッテ居ルト云フコトハ、我々驚クノ
デアリマス、斯ク迄モサウ云フ風ニ固マッ
テ居ルカト云フコトヲ驚クコトガ屢〓アルノ
デアリマス、サウ云フ風デアリマスカラシ
テ政府カラ法律ガ雨ノ降ル如クニ出マス
法案ガ多ク出マスルト云フト、之ニ觸レル
者ガ多クナッテ來マス、從ッテ昨年ノ何月デ
アリマシタカ判事、檢事ガ一時ニ數十人
增加セラルヽト云フヤウナコトモ出來テ來
ルノデアリマス、是ハ世ノ中ガ進步シ、社
會ガ複雜ニナルニ從ヒマシテ已ムヲ得ナイ
現象デアリマシテ、判檢事ノ一時ニ數十人
增加ト云フヤウナコトモ、蓋シ其ノ時ニ於
テハ已ムヲ得ナカッタコトデアラウト思フノ
デアリマス併シナガラ政治ノ本ヲ成スモ
ノハモウ少シ末ニ走ラズニ、本ニ立還ツテ、
本ヲ正スト云フコトヲシナケレバイケナイ
ノヂヤナカラウカ、私共ノ敬愛シテ居ル平
沼首相ナドハ、平生サウ云フ御考ノ人デア
リマセウト思ヒマスルカラシテ、私ハ是ハ
平沼首相ニ向ッテハ特ニ御註文モシ、サウ云
フ御心持デイラッシヤルノデアルカト云フ
コトヲ確メテ置キタイノデアリマス、今日
屢、地方カラ參ッタ者ナドニ聞キマス所ニ依リ
マスト云フト、此ノ度ノ聖戰ニ於テ支那ヲ
膺懲シ、君國ノ爲ニ身ヲ犧牲ニ供シ、東亞
興隆ノ爲ニ拾石トナッテ亡クナッタ所ノ忠勇
義烈ノ士ハ、實ニ澤山アルノデアリマスル
ガ、其ノ人々ノ遺族ノ間ニ於テ、一時賜金
ヲ繞ッテ甚ダ面白カラザル爭ノ起ルコトト云
フモノハ、地方ニ依ッテハナカ〓〓多イト云
フコトヲ承ッタノデアリマス、而モ其ノ數タ
ルヤ分數ニ於テ甚ダ少クナイト云フコトヲ
承ッタノデアリマス、私ハ斯ウ云フコトハ縱
令此ノ壇上ニ於テデサヘモ申スコトハ甚ダ
辛イノデアリマシテ、若シサウ云フコトガ第
一線ニ於テ働イテ居ル人ノ耳ニ入リ目ニ觸
レマスト云フト、此ノ上モナク氣ノ毒ニ感
ズルノデアリマス、若シモ國民ガ、殊ニソ
レ等ノ遺族ノ人々竝ニ親戚、〓黨ノ人々ガ
一般ニ謙讓ノ德ニ富ンデ居ッテ、唯法律上ノ
議論ヲシテ、金錢ヲ爭フト云フ風ナコトガ
ナカッタナラバ、左樣ナ醜イコトハ見ズシテ
濟ムコトガ出來ルノデナイカト、大變ニ遺憾
ニ思フノデアリマス、サウ云フ場合ニ於テ
遺族竝ニ家族ニ付テ政府ハ固ヨリ十分ナル
御注意ガアリ、御手當ガアルト云フコトデ
アリマセウト存ジマスケレドモ、其ノ上下
トノ間ニハ、ドウモシックリ取扱ナドガ一致
ヲシナイデ、不平ヲ言ヒ、若シクハ中ニハ
困難ニ陷ッテ居ル人モアルト云フヤウニ聞
イテ居リマスガ、斯ウ云フコトハ或ハ陸軍
大臣ノ御所管ノコトカモ知レマセヌガ、私
ハ唯一般ニ總理大臣ニ向ッテ、國民ノ間ニサ
ウ云フ怨嗟ノ聲ガ聞エルト云フコトヲ御耳
ニ入レテ置キタイト思フノデアリマス、又
其ノ遺族ノコトニ付テ關聯シテ申シマスル
ガ、日々ノ官報ヲ見マスルト云フト、數十
人ノ戰死者ノ遺族ガ一時賜金ヲ貰ッテ居ル
辭令ガ出テ居リマス、其ノ中ニハ隨分婦人
ノ名前モ多イノデアリマシテ、殊ニ婦人ノ
名前ノ方ガ多イデアリマセウ、若クシテ寡
婦トナッタ人モアル、處ガ斯ウ云フ氣ノ毒ナ
ル、若クシテ寡婦トナッタ人ノ將來ヲ考ヘテ
見マスルト云フト、是ハ一ツノ社會問題デ
アルノデアリマス、私ハ嘗テ記憶致シテ居
リマスルガ、明治二十七八年戰役ノ時ニ
或有名ナル官員ガ自分ノ子ヲ戰死サセタ、
若イ未亡人ガソコニ出來タ、茲ニ於テ
其ノ方ハ或時私ニ向ッテ、君、昔カラシ
テ貞女兩夫ニ見エズト云フ言葉ガアル
ガ、アレハドウ云フ意味ノ言葉デアル、
僕ノ近頃ノ〓究ノ解釋ニ依ルト云フト
貞女ハ一時ニ兩夫ニ見エズト云フ解釋デ宜
カラウト云フコトヲ言ハレタ、ソレハ餘リ
ニ寛大過ギル言葉デアル、一時ニ兩夫ニ見
エタラ、ソレハ法律上ノ問題ニモナルコト
デアッテ、當時其ノ說ハ其ノ方ハ雜誌ニモ
出サレタコトガアル、其ノ方ノサウ云フコ
トヲ言ハレ、サウ云フ說ヲ雜誌ニ發表サレ
ク動機ト云フモノハ誠ニ同情ニ堪ヘナイ
モノデアッテ、若イ寡婦ヲ此ノ儘ニ宅ニ置ク
ノハ氣ノ毒ダト云フ點カラ、サウ云フ風ニ言
ハレタノデアリマセウガ、其ノ昔ノ言葉ノ解
釋ニ迄持ッテ行カレルト云フコトハ、餘リ寬
大過ギルト云フ風ニ私ハ思ッタノデアリマ
ス、斯カル寛大過ギル思想ノ言葉ト、在來
ノ道德思想トノ對立ト云フモノモ、是カラ
追々現レテ來ルコトデアラウト思フ、武家
時代ノコトデ言ヒマスト云フト、御承知ノ
通リニ貞永式目ノ中ニ、人ノ妻妾タル者夫
ノ讓リヲ受ケタ其ノ時ニハ專ラ夫ノ菩提ヲ
弔フベキデアルガ、改メテ他ニ嫁シタ時ニハ
其ノ領地ハ其ノ當人ハ持ッテ居ルコトガ出
來ナイト云フコトガ原則ニナッテ居ル、ソレ
ハ多少形ガ變リマシタケレドモ、武家時代
ヲ通ジテズットソレガ婦人ノ道德デアリマ
シテ、今日ニ至ル迄堅イ方面デハサウ云フ
コトヲ原則トシテ居ルト云フコトハ御承知
ノ通リデアラウト思フ、處ガ今日ニ於テハ、
一方ニ於テハ餘程軟カクナリ過ギル、寛
大ニナリ過ギル、制裁ガ少クナリ過ギル
一方ニ於テハ依然トシテ昔ノ道德ヲ成ルタ
ケ守ラウト云フ說ガアリマシテ、政府ニ於テ
モ日本ノ古來ノ醇風美俗ヲ維持シテ行カウ
ト云フ一般ニ付テノ御考デアラウト思フ、
是ハ文部大臣ニハ別ニ御意見ヲ伺フ機會モ
幾ラモアリマスカラシテ、今日ハ御考ヲ伺
フ必要モアリマセヌガ、總理大臣ニ於テハ
大體ニ於テサウ云フ古イ醇風美俗ヲ出來ル
ダケ維持シテ行ク御考デアルカ、固ヨリ時代
ニ依ッテ多少ノ變化ハ免レヌト云フコトハ
承知ヲ致シテ居リマス、併シナガラ進ンデ
其ノ醇風美俗ヲ離レタ當世風ノ御考デ、世
ノ中ノ事ヲ律シテ行ク御考デアリマセウカ、
ソコノ所ヲ一ツ伺ヒタイノデアリマス、總
理大臣ノ此ノ御答辯ヲ下サレバ、其ノ一言
ハ世間ノ、是カラ後ニ向ッテノ人心ニ如何ニ
大ナル影響ヲ與ヘルカ、ソレガ根源トナル
カト云フコトニ、私ハ極メテ重キヲ置ク者
デアルノデアリマス、又一ツ是ハ同ジヤウ
ナ性質ノモノデアリマスガ、內務大臣ニ御
伺ヲ致シタイノデアリマスガ、是ハ決シテ
今日ノ內務大臣ノ御關係ニナッタコトデハ
アリマセヌ、少シ古イコトデアリマス、或
友人ガ近頃不思議ナ芝居ヲ見タ、ソレハ袈
装御前ハ貞節ヲ守ッタ者デナイト云フコト
ノ芝居ヲヤッテ居ルト云フコトデアル、ドウ
モ變ナコトダト思ッテ私ハ態々其ノ芝居ヲ見
ニ行キマシタ、處ガ成ル程袈裟御前ガ一旦
遠藤武者盛遠ノ脅迫ニ遭ッテ其ノ身ヲ許シ
テ、結局ソレノ繼續ヲ强ヒラレルガ爲ニ、
昔ノ傳說ノ通リニ自分ノ身ヲ殺シタト云フ
筋書ニナッテ居ッタノデアリマス、是ハ實ニ
驚イタコトデアリマス、文學者ガ自分ノ構
想ニ依ッテ新シイモノヲ如何樣ニ書カウト
干、是ハ警保局ナドデ御止メニナラヌ限リ
ハ御自由デアリマスガ)苟モ七八百年來我
ガ國ニ於テ貞女ノ鑑トナリ、國民道德ノ龜
鑑トナッテ居ル人ヲ、サウ云フコトニ於テ傷
ツケテシマウト云フコトガ甚ダ怪シカラヌ
コトデアル、サウ云フコトノ興行ヲ芝居ニ
許サレタト云フコトノ御取締ハ、私ハ當局
者ニ於キマシテモ其ノ責ナシトハ言ハレナ
イト思フノデアリマス、況ヤ其ノ芝居ノ筋
書ハ其ノ人ノ全集ニ載ッテ世ノ中ニ流布サ
レテ居ルト云フコトデアリマス、併シ是ハ
其ノ後、アトカラ其ノ御注意ガアリマシテ、
ソコガ削除セラレテ居ルカ、其ノ儘ニナッテ
居ルカハ存ジマセヌガ、兎ニ角サウ云フ事
實ガ一ツアル、ソレデ斯ウ云フ方面ニ向ッテ
ハ矢張リ一方黑色「ギャング」ト云フヤウナ
モノヲ御取締ヲ爲サルト同ジヤウニ、
方ニ向ッテモサウ云フ軟派ノ「ギヤング」ト
私ハ申シテ差支ナカラウト思フ、サウ云フ
モノニ向ッテモ相當ノ御取締ヲシテ下サレ
タイト思フノデアリマス、內務大臣果シ
テ私ノ希望ヲ容レテ下サルデアリマセウ
カドウデアリマセウカ、殊ニ私ノ憂慮
スル所ハ戰爭中ニハ國民上下一般ガヒド
ク緊張シテ居リマス、固クナッテ居リマス
ノハ申スニ及バヌコトデアリマス、併
シナガラ一旦戰爭ガ濟ミマスト云フト、
久シイ間ノ緊張ノ反動力ト云フモノガ起リ
マスト云フコトハ、是ハ世ノ常ノコトデア
ルノデス、然ルニデス、不思議ナコトニハ
今日ニ於テハ戰爭中ニ於テ、旣ニ社會ノ或
一部分ニ於テハ反動デハアリマセヌガ、大
イニ其ノ弛緩シタ形勢ノ見エルト云フコト
ヲ聞キモシ、新聞雜誌ニ見ルノデアリマ
ス、勿論政府ニ於テハサウ云フ餘裕ノアル
モノニ向ッテハ、出來ルダケ貯蓄ヲ奬勵セラ
レテ居リマスト云フコトモ能ク存ジテ居リ
マイ、其ノ外サウ云フ方面ノコトモ講ゼラ
レテ居ルト云フコトモ承知シテ居リマスケ
レドモ、私ノ眼カラ見マスルト云フト、マ
ダ其處ニ十分ナラザル所ガアルト思フノデ
アリマス、是ハ私ハ大藏大臣ニ對シテ申ス
ノデハアリマセヌ、矢張リ國政一般ノコト
ニ於テサウ云フ遺憾ガアリマスト云フコト
ヲ總理大臣ニ申上ゲテ置キタイト思フノデ
アリマス、ソレカラ最後ニモウ一ツ申上ゲ
テ置キタイコトハ、御承知ノ通リ官報ニハ
時々彙報欄內ニ褒賞、卽チ御褒美ヲ貰フ人
ノ名前ガ列擧セラレテアリマス、又ドウカ
スルト云フト地方行政ト云フ欄ニ旌表、卽
チ篤行家ガアッテ、之ヲ賞美セラレタト云フ
コトノ揭示ノ出テ居ルコトガアルノデアリ
そう、偶〓金錢ニ餘裕ノアル人ガ社會事業
ニ貢獻スルトカ、學校ノ建築費ヲ寄附スル
トカ、水難救濟ノ爲ニ金ヲ出ストカ、赤十
字ノ事業費、滿洲事變ノ義金、學藝奬勵費、
其ノ外有ラユル方面ノコトニ向ッテ金ヲ寄附
セラルヽト云フコトハ實ニ結構ナコトデアッ
テ、申ス迄モナク賞讃スベキコト、政府ガ之
ニ向ッテ褒賞條例ニ依ッテ紺綬褒章ヲ與ヘ
ソレニ飾版ヲ加ヘテ與ヘラレルト云フコト
ハ是ハ當然ノコト至極結構ナコトデアリ
やく、金錢ニ餘裕ノアル方ハサウ云フ方面
ニ常ニ心ヲ用ヒテ戴キタイノデアリマス、
併シナガラ之ニ對シテ地方行政ノ欄ニ出テ
居ル所ノ國民ノ篤行表彰ト云フコトニ付テ
ハ其ノ割合ガ甚ダ少イヤウニ私ハ感ズルノ
デアリマス、其ノ數ノ割合ヲ統計的ニ取ッテ
申スコトデハアリマセヌケレドモ、ドウモ
少イヤウニ思フ、卽チ孝子、義僕、節婦、其
ノ外昔カラ孝子傳トカ忠義傳トカ云フヤウ
ナモノニ出テ居ルヤウナ、平和ノ時ニ於テ
ノ最モ國民ノ模範トスベキ、龜鑑トスベキ
出來事ニ付テノ政府カラノ注意ガマダモウ
少シ足リナイノヂヤナカラウカト思フノデ
アリマス、例ヘバ多クハ每年ノ紀元節ノ佳
節ヲトシテ各地方廳ニ於テサウ云フモノヲ
旌表セラレルノデアリマシテ、官報ニハ二
月ノ末カラ三月四月頃ニ亙ッテ出ルノデアリ
マス、中ニハ纖弱キ女ガ永イ間病氣ノ夫ヲ
看護シタガ遂ニ亡クナッタ、寡婦トナッタ、
併シナガラ尙病メル所ノ舅姑ヲ看護シ、家
ノ經濟ヲ計ッテ行ッテ、幼弱ナル子供、娘等
ヲ育テテ行クト云フヤウナ艱難辛苦ガ數十
年ニ亙ッテ居ル、之ニ依ッテ表彰セラレルト云
フヤウナ淚グマシイ記事ガ時々出ルノデア
リマス、サウ云フコトハ之ヲ仕組ンデハ小
說ニ致シテモ立派ナモノニモナリマセウシ、
或ハ芝居ノ一幕モノニシテモ觀ルベキモノ
ニナルデアラウト感ズルコトガ多イノデア
リマス、ケレドモドウ云フモノカ其ノ地方
ノ新聞ニハ出ルデアリマセウケレドモ、東
京ノ新聞ナドニハ餘リ其ノ事ハ見ナイノデ
アリマス、或友人ノ新聞記者ノ有名ナル人
ニ其ノ事ヲ申シマシタ所ガ、ソレハ官報ニ
出テシマフト云フト、ドウモ「ニユース·ヴァ
リュー」ガナイカラネト云フヤウナコト
ヲ言ハレル、モウアトハ私ハ何モ申シマセ
ヌケレドモ、ソレデハ甚ダドウモ物足リナ
イ感ジガ致スノデアリマス、是ハドウ云フ
ヤウナ取扱ニナッテ居ルカ分リマセヌケレ
ドモ、學校へ「ピアノ」ヲ一臺寄附シタト云ッ
テ褒賞デ取扱フ、サウ云フ孝子、節婦ノアッ
タ時ニハ地方廳限リデ取扱ハレテ、最モ立
派ナル國民ノ龜鑑ガ出テモ、ソレハ地方廳
限リノ取扱ニ任シテ中央政府ニ於テハ關知
セラレナイノデアリマセウカ、此處ハ私ハ
能ク存ジマセヌガ、若シソレデアリマスナ
ラバ、私少シ物足ラナク感ジルノデアリマ
ス餘裕ノアル人ガ金錢ヲ寄附シタルト同
ジヤウニ、民間ノ如何ナル職業ニ從事シテ居ル
者ト雖モ、數十年ノ間忠孝、貞烈、〓黨ヲ感ゼ
シメタト云フヤウナコトデアルナラバ、ソ
レハ同ジヤウニ御取扱下サッテ宜クハナイカ
ト思フノデアリマス、要スルニ私ガ感ジマ
云は、是カラ一方ニ向ッテハ戰時及戰爭
ガ濟ミマスト云フト、新シイ思想ガ各方面
カラ湧イテ來ルダラウト思フ、卽チ貧富ノ
懸隔ト云フコトモ昔ト違ッテ新シイ形デ現
レテ來マセウ、學說デモ新シイ學說ガ又昔
ト違ッタ形デ現レテ來ルダラウト思フ、其
ノ外色々ノ事ニ付テ人情、風俗ニ付テ、世
ノ中ノコトニ付テ殆ド總テニ亙ッテ新シイ思
想ニ支配サレルモノガ出來テ來ルデアラウ
ト思フ、此ノ際ニ於テ政府ハ出來ルダケ之
ヲ適當ニ手綱ヲ御取リ下サルコトヲ願ヒタ
イ無論悉ク之ヲ阻止スルコトハ出來マス
マイケレドモ、又之ヲ悉ク其ノ水ノ低キニ
流ルヽガ如ク、世ノ中ノナルガ儘ニ委シテ
置クト云フコトハ勿論出來ナイコトデアリ
マセウト思ヒマス、幸ニ現總理大臣ハ平生
ノ御思想カラシテ私共トハ大變ニ御共鳴下
サル方ト思フノデアリマスガ、果シテサウ
デアリマセウカ、ドウデアリマセウカ、是
ハ私一人ニ御答ヘ下サルコトガ卽チ世ノ中
ヲ御指導下サル所以デアリマスカラシテ、
御返答ヲ願ヘレバ有難イ仕合セデアリマス、
又內務大臣ハ今ノ印刷物ノコトニ付テ一層
御注意ヲシテ下サルコトガ出來マセウカ、
ドウデセウカ、ソレヲ御伺ヒ致シタイト思
ヒマス
〔國務大臣男爵平沼騏一郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=20
-
021・平沼騏一郎
○國務大臣(男爵平沼騏一郞君) 三上君ノ
御質問ニ御答ヲ致シマス、御述ニナリマシ
タ中ニ、御希望ニ屬スル點又御質問ニ屬ス
ル點ト兩樣ゴザイマスルガ、併シ之ヲ纏メ
マシテ御答ヲ致シタイト考ヘマス、最初御
述ニナリマシタ泰平ノ續イタ場合ニ色々ナ
思想ガ入ッテ世ヲ紊スコトモアル殊ニ此
ノ事變ノ後ニハ其ノ憂ガ最モ多イヤウデア
リマス、現今ノ事態ニ於テ共產主義ノ思想
ガ蔓延致シマシテ、我ガ國國民ヲ蠧毒スル
ト云フ憂ガアルヤウデアリマス、之ニ對シ
テハ如何考ヘルカト云フ御趣意ノヤウニ承
リマシタガ、固ヨリ三上君ノ御心配ニナリ
マス點ハ同樣ニ心配ヲ致シテ居リマス御
承知ノ如ク斯クノ如キ思想ニ對シマスル是
迄ノ取扱方ハ先ヅ〓育ノ方面カラ致シマ
シテ成ルベク之ニ陷ラヌヤウニ、又既ニ之
ニカブレマシタ者モ、成ルベク之ヲ改メシ
ムル、尙之ニ服シマセヌ者ハ之ヲ彈壓スル
ト云フノガ御承知ノ通リマア大體ノ方針デ
アリマス、今後ニ於キマシテモ此ノ方針ヲ
以テ臨ミマスル積リデゴザイマス、又現今
此ノ事變中、殊ニ此ノ取締ハ嚴重ニ致シテ
居ルノデゴザイマス、ソレカラ次ニ政治ハ
德ヲ以テ導クト云フコトガ本デナケレバナ
ラヌ、法ヲ以テ臨ミ、刑ヲ以テ齊フルト云
フコトデアッテハ、所謂民免レテ恥ナシト、
斯ウ云フ事態ニ陷ルノテアルガ、近頃靑少
年ノ如キ者モ、多ク此ノ法律ト云フコトヲ
ノミ考ヘテ居ルヤウデアル、是ハ三上君ノ
御述ノ通リ、大體政治ハ德ヲ以テ導クト云
フコトガ大切デゴザイマス、法モ必要デゴ
ザイマスルガ、唯法律ノミデ治メヨウト致
シマスルト、御心配ニナルヤウナ結果ニ相
成リマス、近頃靑少年ノ、固ヨリ三上君ノ
御述ニナリマシタヤウナ思想ノ人モゴザイ
マセウガ、併シ段々靑少年モ日本ノ固有ノ
道ヲ尊重スルト云フコトハ、現今ノ靑少年
ニ於キマシテハ殊ニ能ク心得テ居リマスヤ
ウデゴザイマス、殊ニ地方ノ農村ノ靑少年
ノ如キハ、最モ此ノ點ニ付キマシテ正シイ
道ニ進ンデ居ルヤウニ自分ハ考ヘテ居リマ
ス、段々能ク指導シテ參リマスレバ、唯法
律ニ觸レナケレバソレデ宜シイト云フヤウ
ナ觀念ハ段々改ッテ參ルコトト自分ハ考
ヘテ居リマス、又之ニ對シマシテハ〓育
方面カラ致シマシテ十分ニ指導ヲ致シ
テ參ル積リデゴザイマス、ソレカラ次ニ
具體的ノ事實ヲ御擧ゲニナリマシテ、現
今出征將兵ノ戰歿セラレタ人々ノ遺族、
之ニ對シテ與ヘラレル所ノ手當、之ニ付テ
親族間ニ爭ノ生ズルヤウナコトガアルヤウ
デアル律是ハ誠ニ憂フベキコトデアル、蓋
シ唯一片カラ致シマシテ、其ノ曲直ヲ爭フ
ト云フコトハ善クナイコトデアルト云フ御
趣意ノヤウニ承リマシタ、先達テ政府ガ提
出致シマシタ人事調停法ノ如キモノモ、此ノ
點ニ最モ重キヲ置キマシテ、斯クノ如キコト
ハ法律ニ依ッテ裁クト云フコトデナシニ、成
ルベク圓滿ニ總テガ納得シテ解決ノ出來ル
ヤウニ致シタイト斯ウ云フ考デ居リマス、
ソレカラ次ニ我ガ國ノ醇風美俗ハ嚴格ニ之
ヲ維持スル、是ハチヨット私ガ誤解ヲ致シテ
居ルカモ知レマセヌガ、戰歿者ノ寡婦ニ對
シテ賜ッタ賜金、其ノ他是ハ其ノ家ヲ去リ
マシタ者ニモ尙與ヘル、斯ウ云フコトハ貞
永式目等ニハナイヤウデアルガ、之ヲ與ヘ
ルト云フコトハ餘リ寛大ニ過ギルデハナイ
カト云フ御趣意ニ承リマシタ、現今左樣ニ
ハナッテ居リマセヌノデ、其ノ家ヲ去リマス
レバ其ノ恩典ニハ與ラヌコトニ相成ッテ居
リマス、又〓括的ニ我ガ國ノ醇風美俗、之ヲ
具體的ニ個々ノコトニ付テ考ヘマスレバ、是
ハ古來ノ醇風美俗デアルヤ否ヤト云フコト
ニ付テハ色々異論ノアルコトモゴザリマセ
ウ、大體醇風美俗ハ是ハ何處迄モ維持スル
ノガ至當ト考ヘルノデアリマス、一面ニ於
テハ舊來ノ陋習ヲ打破スルト共ニ、醇風美
俗ハ總テ是ハ維持セラルベキモノト考ヘル
ノデアル、併シ個々ノ事項ヲ、是ハ醇風美
俗ニ屬スルカ或ハ否ヤト云フコトハ是ハ個
個ノ問題ニ付テ決スベキコトト考ヘルノデ
ゴザイマス、其ノ他事項ヲ擧ゲテノ御尋ガ
ゴザイマシタ、是等ハ主管大臣ヨリ御答ヲ
致スコトニ致シマシテ、尙漏レマシタ點ハ
其ノ後ニ申上ゲルコトニ致シタイト存ジマ
ス
〔國務大臣侯爵木戶幸一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=21
-
022・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 三上サンノ
私ニ對シマスル御尋ハ芝居ノ脚本ノ取締
ニ付テノコトデゴザイマシタ、此ノ問題ハ
實ハ私ハ詳シイコトハ承知致シテ居リマセ
ヌノデアリマス、唯御話ノ通リデゴザイマ
スレバ、卽チ歷史上顯著ナル人物ノ事績ヲ
殊更歪曲致シマシテ、國民ヲシテ其ノ事績
ヲ誤リ認識サセマスト云フコトハ是ハ餘
程國民ニ與ヘマス影響ハ大キイノデアリマ
スカラ注意ヲ要スルコトデアルト考ヘテ
居リマス、事ハ具體的ノ問題デゴザイマス
カラ、尙取調ベマシテ善處シタイト思ヒマ
ス、尙三上サンカラノ御尋ノ中ノ孝子、義
僕、節婦等ヲ表彰致シマスコトニ付テノ御
尋デゴザイマシタ、從來是等ノ孝子、義僕、
節婦等ハ御話ノ通リ大體ニ於キマシテ地
方長官ニ於テ、紀元節ノ機會ニ於テ表彰ヲ
致シテ居ルノデアリマス、併シナガラ御話
ノ通リ此ノ種ノ表彰ハ、トモスレバ地方的
ニノミ傳ヘラレルダケニ止マリマシテ、中
央ニ於テ關心ヲ持タヌト云フ點ニ付テハ御
話ノ通リノ缺點ガアルト存ジマス、從ヒマ
シテ殊ニ此ノ事變下ニ於テ、益〓斯ウ云フ方
面ノ道義心ヲ涵養致ス必要ガアル際デアリ
マス、十分此ノ點ハ考慮シタイト考ヘテ居
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=22
-
023・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 三上君ニ御
尋ネ致シマスガ、御質疑ハ終了致シタモノ
ト認メテ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=23
-
024・三上參次
○三上參次君 兩大臣ノ御答辯デ滿足致シ
マシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=24
-
025・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 是ニテ休憩
致シマス、午後ハ二時ヨリ開會致シマス
午後零時三十七分休憩
午後二時八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=25
-
026・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報告ヲ致サセマ
ス
〔丸龜書記官朗讀〕
本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
裁判所構成法中改正法律案可決報〓書発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=26
-
027・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ休憩前ニ
引續キ會議ヲ開キマス、本日男爵今園國貞君
病氣ニ付名古屋帝國大學創設ニ伴フ帝國大
學特別會計及官立大學特別會計ノ關涉ニ關
スル法律案外一件特別委員ヲ辭任致シタイ
旨御申出ガゴザイマシタ、之ヲ許可スルコ
トニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=27
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028・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス、就キマシテハ男爵沖貞男君ヲ補闕
トシテ指名ヲ致シマス、土方寧君
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=28
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029・土方寧
○土方寧君 從來總理大臣其ノ他ノ國務大
臣ニハソレ〓〓官舍ヲ持チ、且相當多數ノ
巡査ヲシテ其ノ官邸私宅等ニ身邊ノ護衞ヲ
サスコトニナッテ居リマス、之ニ付キマシテ
ハサウ云フ待遇ヲ受ケテ居ラレル方々ノ御
考ハドウデアルカ、多分ソレガ善イトモ惡
イトモ別段ニ今迄御考ニナッタコトハナカラ
ウト思ヒマス世人モ亦多年ノ慣例デ、サ
ウ云フ事ガ善イカ惡イカ、無駄デハナイカ
ト云フヤウナコトヲ何モ考ヘテ居ラナイダ
ラウカト想像致シマスケレドモ、私ハ官邸
モ護衞ノ巡査モ二者共ニ無用無益、見ヤ
ウニ依ッテハ有害デアルト豫テ考ヘテ居マス
ノデ、是ハ廢スベキモノト存ジテ居リマス、
ソレニ付キマシテ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイ、
先ヅ第一ニ官邸ノコトデアリマス、總理大
臣ニハ別ニ主務官廳ガアリマセヌカラ、無
論サウ云フ總理大臣ノ官邸ハ必要デアリマ
セウ、ソレカラ又外務大臣モ外交官トノ交
際上或ハ必要デアリマセウ、ケレドモ他ノ
各大臣ノ官舍ハ全ク無用デアル、實ハ外務
大臣ノ官舍モ同樣デアリマス、同ジ構內ニ
アリマス陸軍大臣ノ官舍トカ、海軍大臣ノ
官舍トカハ主務官廳ノ隣ニアリマスカラシ
テ、是ハ在ル物ハ態。、廢スルコトモアリマス
マイガ、其ノ他ノ官邸ハ多クハ主務官廳ガ
多少ノ距離ヲ隔テテアリマス、斯ウ云フ主
務官廳ト多少離レタ所ニアル官邸ニ居ラレ
ル大臣ハ主務官廳ニ出勤シテ職務ヲ執ラレ
ルコトモアリマセウシ、官邸デ職務ヲ執ラ
レルコトモアリマセウ、ソレハ各大臣デ色
色區々ニナッテ居リマセウガ、主務官廳ニ出
勤シナイデ、官邸ニ居ッテ事務ヲ見ル時ニハ
部下ノ官吏ガ書類ヲ持ッテ主務官廳ト官邸
ノ間ヲ往復シマス、其ノ時ヲ浪費スル、今日
最モ節約ヲ要スル「ガソリン」モ浪費シマス、
ソンナ不合理ナコトハナイト思ヒマス私
ノ考デハ、各大臣ハ主務官廳ニ出勤シテ事
務ヲ見ラレルト云フコトニシテ、官邸ヲ設
ケナクテモ宜イト思フ、官邸ハ私邸デハア
リマセヌガ、兎角官邸デ國務ヲ見ラレルト、
公私混淆スルト云フ弊害モ起リ易イノデア
リマス、今日銃後ノ國民ハ平時ト違ヒマシ
テ擧國一致、節約ニ各〓分ニ應ジテ奮鬪努力
シテ居ル時期デアリマス、ソレニ比シマスト
大臣方ガ官邸ニ居ラレテ、部下ノ官吏ヲ官
邸ニ呼付ケテ事務ヲ見ルト云フコトハ如何
ニモダラシナイ、緊張味ヲ缺イテ居ルヤウ
ナ風ニ國民ノ腦中ニ映ズルダラウト思ヒマ
ス、贅澤ダト思ヒマス、ソレデ私ノ考デハ
各大臣方ガ本當ニ重大ナ時局ニ直面シテ、
眞劍味ヲ以テ其ノ職ヲ執ッテ居ラレルト云
フコトノ狀況ガ外ニ現レナイ、殘念ニ思ヒ
やく、是ハドウシテモ私ノ考デハ、金ニシ
マシタラ大シタコトハアリマセヌ、厖大
ナ、未曾有ノ豫算ノ金額ニ比スレバ、官邸
ヲ廢シテ浮ク所ノ費用ハ幾ラデモアリマセ
ヌガ、併シナガラ官邸ト主務官廳ト兩方ド
チラカデ事務ヲ見ルト云フヤウナ不合理極
マル方法ト云フモノハ誠ニ感服シナイト思
ヒマスカラ、是ハ全廢スベキダト思ヒマス、
ソレカラモウ一ツハ、是ハ總理大臣、各國
務大臣ノ外ニモ護衞巡査ヲ附シテ居ルノハ
宮內大臣トカ、內大臣トカ、其ノ他前官待
遇ノ人モアルト思ヒマス、隨分多數アリマ
ス、今ハ總理大臣ト、各國務大臣ハ遞相ト
拓相ハ兼任デスカラ十一人カト思ヒマス、
總理大臣ノ官邸私邸ヲ警戒スル巡査ノ數ハ
幾人カ知ラヌガ、十人以上ダト思ヒマス
他ノ大臣ノハソレ程アリマスマイガ幾人
カ能ク知リマセヌガ、マア十人近イダラウ
ト思フ、サウスルト皆合セマスト百何十人
ガ十二人ノ大臣ヲ護衞スルコトニナッテ居
ル、然ルニ東京府內、警視廳管內ニ於ケル巡
査ノ保護ヲ受ケル府民ノ割合ハ、數年前ニ
聞キマス所デハ一人ノ巡査ガ四五百人ヲ保
護スルコトニナッテ居ルト云フコトデアリマ
シタガ現在ハ巡査モ多少殖エテ居リマセ
ウ、殊ニ元ノ郡部ニ於テ·····ケレドモ人
口ガ更ニ多ク殖エテ居ルカラ、多分巡査一
人ガ五六百人ヲ保護スルコトニナッテ居ルダ
ラウト思ヒマス、サウスルト其ノ中ノ百何十
人ト云フモノヲ十二人ノ大臣ガ獨占セラレ
ルト云フト、五六萬人ノ府民ヲ保護スベキ
巡査ガ獨占セラレテ居ル、是ガ若シ是等ノ
大臣方ヲ保護スル爲ニ必要ナラ仕方アリマ
セヌガ、今迄ノ例ニ依ッテ見マスト、ドウ
モ一ツモ此ノ護衞巡査ガ用ヲ爲シタ例ハナ
イヤウデアリマス、東京驛ニ於ケル原、濱
口兩君、總理大臣官邸ニ於ケル犬養君、ソ
レカラ私邸ニ於ケル高橋、齋藤君、官邸ニ
於ケル岡田サン、是ハ身代リガ出タカラ助
カツタト云フノデ、護衞巡査ガ居ッタガ爲、
危害ヲ加ヘラレムトシテソレヲ防止シタ例
ハ一ツモアリマセヌ、全ク無駄ニナッテ居
ルソレモ無理ガナイノデアリマス、斯樣
ニ申スト警察官ノ方ヲ罵倒スルヤウニ聞エ
マスケレドモ、決シテサウ云フ譯デハナ
1、仕組ガ惡イ、若シ或大臣ニ危害ヲ加へ
ムトスル人ガ刀劍ヲ以テ斬付ケムトスルナ
ラバ接近シナケレバナラヌカラ、接近スル
前ニ巡査ガ發見シテソレヲ防止スルコトガ
出來マセウ、ソレダカラ彼等ハソンナ凶器
ハ持チマセヌ、「ピストル」デアリマス、型ガ
小サイノデ隱シテ持ッテ居レバ分リマセヌ、
而モソレハ相當遠方カラ擊テマス、唯近所
ニ巡査ガ居ッタカラト云ッテ防ギヤウハナイ
譯デアル、之ヲ國防ニ比シテ考ヘマスト云
フト國防ノ大方針ハ、成ルベク本土ヨリ
遠方ノ第一線ヲ目標トシナケレバナラヌノ
デアル然ルニ日本ノ本土以外朝鮮、滿洲、
蒙疆等ノ方ノコトハ考ヘナイデ、本土ヲ守
ル爲ニ四面海ノ我ガ本土ニ於キマシテ、海
岸ニ多クノ要塞ヲ設ケ將兵ヲ置クト同ジヤ
ウナ譯デアル、ドウシテモ國ヲ護ル爲ニハ、
成ルベク本國カラ離レテ、遠方デ外敵ヲ喰
止メルコトノ方針ヲ執ラナケレバナラヌコ
トハ言フ迄モナイコトデアリマス、ソンナ
譯デ保護セムトスル大臣方ノ身邊ニ直接附
イテ居リマシテモ、今迄一ツモ目的ヲ達シ
タコトハアリマセヌカラ、畢竟大臣方ハ皆
東京ニ御イデデスカラ、警視廳管內ノ全般
ニ亙ル所ノ治安維持ヲ護ルヤウナ警察網ト
云フヤウナモノヲ建設スルノガ必要デア
ル、十一ノ大臣ガ五六萬人ノ分ヲ占有セラ
レル結果、ソレダケ、警視廳管內全般ニ亙
ル警察力ト云フモノハ薄弱ニナッテ居ル譯
デアル、ソレダカラ警戒ノ目的ヲ達シナイ
ト云フ實況ニナッテ居リマス、是ハ是非廢ス
ルガ宜カラウト思ヒマス、ソレダケ警視廳
管內ノ警察ノ取締等ガ行屆クコトニナル、
之ニ牽聯シマシテ、モウ一ツ伺ヒタイコト
ハ東京ノ舊市内十五區内、數多クノ警察
署ガアリマス、ソレ〓〓巡査ノ勤務地域ガ
定ッテ居リマス、處ガ十五區ニ於キマシテハ
家賃ガ高イカラシテ、多クハ舊郡部ノ相當遠
方ノ家賃ノ安イ所ニ住ッテ居ッテ通勤シテ居ル
ノデアリマス、是デハ警察官ノ能力ガ擧ラヌ
譯デアリマス、ソレデ私ノ考デハ麴町區ナラ麴
町區、神田區ナラ神田區デ、警察署內ノ勤
務巡査ハ其ノ區內ニ、獨身ノ者ハ合宿所デモ
設ケテヤル、妻子ノアル者ハ小舍宅ヲ設ケ
テヤル、無料デ宿泊セシムルト云フヤウナ
コトニシマスレバ、非番ノ時デアリマシテ
モ、自分ノ居ル所ノ周圍ノ者ニ始終色々ノ
事ガアルノハ見聞シマスシ、妻子ノアル者
ナラバ近所ノ者カラ妻子モ色々ノコトヲ聞
キマスカラ、其ノ勤務ノ管內ノ事情ニモ能
ク通ズルコトニナラウカト思ヒマスカラ
警察ノ能力ガ擧ルト思ヒマス、官舍ヲ廢ス
ル金ハ幾ラ浮クカ知リマセヌガ多分其ノ
金デ警察署內ノ同ジ區內デモ、方々ニ巡査
ノ舍宅ヲ拵ヘテヤル、待遇ガ誠ニ惡イモノ
デアリマスカラ、其ノ點ハ今後大イニ考慮
スベキコトト思ヒマスカラ、無料デ宿泊サ
ス、幾分彼等ノ境遇ヲ改善スルト云フコト
ガ必要デアラウト思フ、サウデモシマス
ト、非番ノ時デモ自分ノ住ッテ居ル所ノ地
域ノコトハ自然自ヅト見聞シマスカラ、其
ノ地域ノ事情ガ分ッテ來マスカラ、不心得
ノ者ガドウ云フ惡イ事ヲシヨウト云フヤウ
ナコトガアル時ニ、遠方ニ居ッタラ見聞ガ
出來マセヌガ、ソレモ多クノ場合ニハ氣
ガ付クコトダラウト思ヒマス、警察ノ能
力ガ擧ルコトト思フ、ソレデ私ノ考デハ
總理大臣、外務大臣ノ外ノ官舍ヲ全廢
スベシ、尤モ海軍大臣、陸軍大臣ハ本省ノ
隣ニアリマシテ、大キナ建物ノ一室カラ
他ノ室ニ行ク位ノコトデ、時ノ違ガ餘計ア
リマセズ、自動車ニ乘ル必要モナイノデ
スカラ、是ハ在ルモノダカラ止メル必要ハ
アリマセヌ、其ノ外ノモノハ主務官廳ト多
少ナリ離レタ所ニアル官舍ハ全廢スル、
護衞ノ巡査ハ實驗ニ徵シテ少シモ效能ガ
ナイカラ止メテ、其ノ護衞巡査百何十人
ト云フモノヲ警視廳管內全體ノ警衞ニ當
ラシメル、其ノ方ガ遠卷ニ警衞ノ實效ヲ擧
ゲルコトニナリハスマイカト思ヒマス
ソレデ此ノ護衞巡査ノ廢止ハ、實ニ私ハ大
臣方モ或場合ニハ迷惑ニ思ッテ居ラレルダ
ラウト思フ、サウ言ッテハ惡イケレドモ、巡
査ガ居ナケレバ何處カヘ微行シタイト云フ
ヤウナ時ニ、巡査ガ居ルカラ行ケナイト云
フコトガアルカモ分ラナイ、ソレ位ノ效能
ハアルカモ知レマセヌガ、外ニハ何モ效能
ハナイト思フ、ダカラ是ハ全廢スルト云フ
コトガ、私ノ意見デアリマスガ、此ノ二點
ニ付テ總理大臣、內務大臣、治安維持ノコ
トハ內務大臣ノ主管ノ事務デアリマス、御
所見ヲ國民ノ納得スルコトガ出來ルヤウ
二、明確ニ御答ヲ願ヒタイ、必要ナラ必要
ト云フコトニ付テ···
〔國務大臣石渡莊太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=29
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030・石渡莊太郎
○國務大臣(石渡莊太郞君) 御答ヘ致シマ
ス、大臣官舍ハ大體ニ於テ無用、無益、寧
ロ有害デアルカラ此ノ際止メテハ如何デア
ルカ斯ウ云フ御尋デアッタヤウデゴザイ
マス、今日此ノ官舎ノ問題ハ大抵ノ官廳ニ
於キマシテ官廳ノ延長トシテ用ヒテ居ルヤ
ウナ譯デゴザイマシテ、一面ニ於テ官舍、
一面ニ於テ官廳、斯ウ云フ譯ニナッテ居ルノ
デゴザイマシテ、必要ナ場合ガ多々アルノ
デゴザイマス、又能率上カラ考ヘマシテ有
害デアルト云フヤウナ御話モゴザイマス
ガ、是ハ官邸ト官廳トヲ通ジマシテ能率ノ
擧ルヤウニ十分皆考ヘテ居ルコトデゴザイ
マスノデ、今日ノ場合大臣官舍ヲ大體ニ於
テ廢止スルト云フ考ハ持ッテ居リマセヌデ
ゴザイマス
〔國務大臣侯爵木戶幸一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=30
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031・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 大臣其他ニ
付ケテ居リマスル護衞ヲ廢シテハドウカト
云フ御尋デゴザイマシタ、御話モアリマシ
タガ、此ノ大臣ニ護衞ヲ附ケマスコトハ
矢張リ附ケラレル方デハ相當却テ迷惑ナト
云フコトハ屢〓言ハレルノデアリマス、併シ
ナガラ是ハ矢張リ警視廳其ノ他警察ノ方カ
ラ見マスト治安ノ關係、殊ニ今日ノヤウナ
時勢トナリマスト、相當ニ治安上ノ問題モ
アリマシテ、矢張リ警衞シナケレバナラヌ
ヤウナ實情ニアルノデゴザイマス、唯長イ
コト附ケテ居リマス關係デ、或ハ形式ニ流
レルト云フヤウナコトモゴザイマスシ、其
ノヤリ方ニ付キマシテハ又色々ト〓究致シ
マス餘地ハアルト存ジマスノデ、ソレ等ニ
付テハ尙篤ト考究シタイト考ヘテ居リマス、
ソレカラ此ノ大官ニ附ケマスル護衞ノ爲ニ
警視廳管內ニ於テ相當ノ手不足ガ出來ハセ
ヌカト云フ御尋デゴザイマシタガ、其ノ點
ニ付キマシテハ警視廳ニ於キマシテハ十分
ノ整備ヲ致シテ居リマスノデ、只今ノ所サ
ウ云フ心配ハナイト考ヘテ居リマス
〔國務大臣男爵平沼騏一郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=31
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032・平沼騏一郎
○國務大臣(男爵平沼騏一郞君) 私ノ考モ
御尋デゴザイマシタ、只今大藏大臣、內務
大臣ノ述べマシタ通リデ、內務大臣モ述ベ
マシタ通リ隨分個人トシテハ迷惑ナ人モ必
ズナイトハ申シマセヌ、是ハモウ已ムヲ得
ナイコトト考ヘテ居リマス
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=32
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033・土方寧
○土方寧君 只今大藏大臣、內務大臣、總
理大臣カラ御答ヲ得マシタガ、ドウモ何レ
モ私ハ不滿足極マルコトデアリマス、大藏
大臣ハ官邸ハ主務官廳ノ延長ダト仰シヤ
ル成ル程延長ト言ヘバ文字ハサウ言ヘヌ
コトハアリマセヌガ、其ノ延長ニ距離ノア
ル場合ニ依ッテ色々長短ガアルヤウデアリ
マス、延長ト言ッテモ中間ニハ色々ノ住宅ガ
アリマス、ソレ故ニ延長セラレテ居ル官舍
ニ官廳カラ官吏ガ往復スルノニ自動車ニ乘
ル、時モ掛ル、全ク無駄デアリマス、延長
ダト云フ一ツノ御說明デハ私ハ承服出來マ
セヌ、此ノ問答ヲ聽イタノデハ、恐ラク民
衆モ滿足スマイト思ヒマス、ケレドモ是
レ以上ハ討論ニナリマスカラ深クハ述ベマ
そじ、內務大臣ノ御考デハ、大臣方ガ百何
十人モ巡査ヲ獨占セラレテ居ッテモ、警視廳
トシテハ、警視廳管內ノ治安維持ノコトニ
付テハ十分注意シテ居ルト仰シヤイマスケ
レドモ、ドンナニ注意ナサッタ所ガ、百何十
人ト云フモノハ大臣ノ身邊ヲ擁護シテ居ッ
テ、區內ノ全般ノ治安維持ノ任ニ當ッテ居ナ
イコトハ數字上爭ハレナイ、ソレダケ警視
廳管內ノ全般ニ亙ル警察網ト云フモノガ
力ガ弱クナッテ居ル、今ノ御說明デハ私ハ承
服出來ナイ、今ノ御答ヲ世人ガ知ッタナラバ
矢張リ、尤モト思ハヌダラウト私ハ思ヒマ
ス是モ討論ニナリマスカラ止シマス、總
理大臣ハ兩大臣ノ言ッタ通リト仰シヤッテ、
總理大臣自身ノ御考ヲ仰シヤイマセヌカラ
何モ申スコトハアリマセヌ、是レ以上ハ
討論ニナリマスカラ申シマセヌガ、此ノ議場
ヲ通ジテ、只今ノ兩大臣ノ御說明ニ依ッテ、
從來ノ通リ官舍モ維持シ、護衞モ廢止スル
ト云フコトハシナイト云フコトガ、十分ニ
道理デアルト云フヤウニ考ヘラレルデアラ
ウカドウカ、大イニ疑問デアリマス、私考へ
マスノニ、大臣方ガ護衞ガ無ケレバナラヌ
トフ云ノハ實ニ情ナイ、私ノ考ヘテ居ル所
デハ、警視廳管內デモ、全國ノ府縣內デモ、
恐ラク歐米ノ諸文明國ニ比シテ治安維持ノ
點ニ於テハ何モ遜色ハナイト思ヒマス、然
ルニ帝都ニ於テ、大臣ト云フヤウナ高位高
官ノ人ハ特ニ身邊ニ護衞ヲ置カナケレバ危
險ダト云フノナラバソレハ卽チ帝都ニ於
ケル警察ノ不行屆··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=33
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034・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) チヨット申上ゲ
さく、質問ニ御止メヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=34
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035・土方寧
○土方寧君 宜シウゴザイマス、サウ云フ
コトニナルト思ヒマシテ、誠ニ國ノ體面ニ
モ關スルト思フ、見ヤウニ依ッテハ、私ノ考
デハ大臣方ハ危險人物デアル危險人物ト
云フトヲカシイケレドモ、被危險人物デア
ル情ナイ話デアル、私ノ考デハ、サウ云
フ特別ノ護衞ヲ置カナクテモ大事ナイト思
フ若シ特別ノ事情ガアッタ場合、特定ノ場
合ニ危險ガアルト云フノナラ臨時ニ身邊ヲ
護衞スレバ宜イ、一般ノ場合ニハ廢シテ宜
イト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=35
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036・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 小林嘉平治君
〔小林嘉平治君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=36
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037・小林嘉平治
○小林嘉平治君 私共ハ今囘ノ事變デ色々
ノコトヲ〓ヘラレマシタ、獲物ハナカ〓〓
ニ大キイ、第一ニ、我ガ日本ノ國體ガ如何
ニ有難イカ、我ガ日本ガ如何ニ有難イ國柄
デアルカト云フコトヲ今更ノ如クニ體驗サ
シテ戴クコトガ出來マシタ、是ハ私共バカ
リデナイ、今朝、國カラ來タ新聞ヲ見マス
ト、此ノ間「ドイツ」ノ或博士ガ日本ヘ參リマ
シテ御伊勢參リヲ致シマシタ、サウシテ歸
リニ松坂ノ本居宣長翁ノ遺蹟ヲ訪ネ、関、
歸ッテカラ日本ニ於ケル感想談ヲ松坂ノ方
ヘ送ッテ來タ、ソレニ依リマスト、日本ニハ
マダ武士道ハ廢ッテ居ナイ、日本ノ强イノハ
ココニアル、斯ウ云フコトヲ書イテ送ッテ
寄越シタノデアリマス、事變前ノ樣子ヲ見
マスト、日本ノ武士道ハ一體何處ニ在ルノ
カ知ラント心配シタヤウナ······我々自身モ
サウ云フ感ジヲ懷イタコトガアル、然ルニ
所謂中外ニ亙ッテ、日本ノ國體ガ如何ニ有難
イカト云フコトヲハッキリト認識サセルコ
トガ出來タ、又私ハ今日ノ此ノ豫算會議ニ
臨ミマシテ、今日ノ數字ハ三十六七億デア
ルガ、次ニ來ルモノハ六十億デアル、恐ラ
ク百億ニ近イモノガ現レテ來ル、而モマダ
其ノ議案ノ現レナイ中カラシテ、我々ハ此
處デハッキリト全會一致ヲ以テ可決サレマ
スト云フコトヲ明言ガ出來ル、斯ウ云フコ
トヲ言フト皆樣カラ御叱リヲ蒙ルカ分ラヌ
ガ、私ハ確信シテ居ル、日本ノ國モ大キク
ナッタモノデアル、偉イ力ヲ持ツヤウニナッ
タモノデアルト云フコトヲ私ハ痛切ニ感ズ
ル、私ハ日〓、日露ノ戰役ノ時分ニハ年ハ若
カッタガ、モウ旣ニ中學校ヲ卒業シテ居ッタ
廣島ノアノ議會デ、確カアレハ一億萬圓ノ
戰費デアッタト思フガ、卽決可決サレタト云
フコトデ、如何ニ國民ガ且ツ驚キ且ツ歡ン
ダカ、ソンナコトヲ考ヘマスト、實ニ私ハ
日本ノ國モ大キナモノニナッタ、又底力ノア
ルモノニナッタト云フコトヲ、痛切ニ感ズル
ノデアリマス、併シ油斷ハ大敵デアリマ
ス、午前中ニ三上博士ガ思想問題ニ於テ色
色心配ヲナサッテ、サウシテ政府ニ對シテ
警告ヲ加ヘラレタト云フコトモ誠ニ意義ノ
アルコトデアル、先程土方博士ノ御說ニ依
レバ、サウ云フ方面モ安心シテ宜イノデ、
大臣ニハ護衞ヲ附ケル必要ナシ、斯ウ云フ
オ感ジヲ持ッテ居ラッシヤルヤウデアルガ
是モ一ツノ見方デアル、併シ事變前ニハ斯
ウ云フコトハ言ヘナカッタ、マア何ニシタ
所ガ油斷ハ大敵デアル、矢張リ私共ハ內務
大臣ノ御答辯ヲ尤デアルト聽取ッタ者デア
リマス、コンナ頭デ私共ガ此ノ間ノ衆議院
ニ於ケルアノ農林漁業ノ生產增進ニ關スル
決議案ヲ眺メマスト、非常ニ私ハ意義ノ深
イモノガアルト思フ、私ガ今日此ノ問題ヲ
捉ヘテ、此ノ壇上カラ政府ノ決意如何ト云
フコトヲ御尋スルノハ玆ニアルノデアリマ
ス、此ノ間各派共同デ提案サレタ決議案ハ
斯クノ如クデアリマス、「農林漁業ノ生產ヲ
增進シ國民生活ノ安定ヲ期スルハ長期聖戰
對應ノ絕對的要務ナリ政府ハ速ニ重要農林
水產物ノ生產增進ニ關シ生產資材ノ供給、
勞働力ノ調整、生產物價格ノ適正竝······
此處ガ大事ナ所デアリマス、「農山漁村部落
實行團體ヲ整備强化セシムル等適當ナル施
設ヲ黴底シ以テ聖戰目的ノ達成上萬遺憾ナ
キヲ期スヘシ」以上デアリマス、只今此ノ決
議案ヲ各位ニ於カレマシテハ如何ニ御覽ニ
ナッタカ、私ハ衆議院ニ於テ全會一致ヲ以テ
可決セラレタコトモ誠ニ根據ノアルコトデ
アルト云フ感ジヲ深クサレタコトト思ヒマ
ス、又現ニ是モ此ノ戰爭ガ始ッテカラ、ハッ
キリト國民ノ頭ニ植付ケラレタノデアリマ
スルガ、此ノ食糧ノ泉源ヲナス所ノ、又食
糧バカリデハナイ、第一線ニ働イテ居ル所
ノ忠勇ナル軍人ノ多數ガ何處カラ出テ居ル
カ、又工場地帶デ働イテ居ル所ノ勤勉ナル
勞働者ガ何處カラ出テ居ルカ、此ノ人的資
源モ悉ク農村カラ出テ居ルト言ウテ宜イノ
デアリマス、此ノ決議案ハ此ノ農村ニ關ス
ル所ノ大イナル問題ヲ解決シヨウト云フノ
デ提案サレタモノデアリマシテ、總理大臣
ニ於カレマシテモ、是ハ決シテ農林大臣一
人ニ任シテ置イテ宜イ問題デナイト云フコ
トハ能ク頭ニ刻ンデ居ラレルコトト心得ル
ノデアリマス、殊ニ我ガ首相ハ疾ニ農村ヲ
能ク理解サレテ、私共ノ縣農會ガ先年首相
ニ、農會ノ樓上ニ掲ゲル額面ヲ一ツ頂戴シ
タイト云フコトヲ願ヒマシタラ、想ヒ起シ
マイ、其ノ時ニ何ト書カレタカ、培根達枝
根ヲ培ヒ枝ニ達スト云フ四字額ヲ頂戴致シ
マシテ、ソレガ揭ゲテアルノヂアリマス、根
ト云フノハ一體何デアルカ、首相ハ在野當
時カラ常ニ農ハ國ノ基ナリト仰セラレタ、
卽チソレデアルノデアリマス、コンナコト
ハ申上ゲヌデモ宜イノデアルガ、如何ニ總
理大臣ガ在野當時カラ農村ヲ理解シ、如何
ニ此ノ問題ヲ解決スルノニ心ヲ碎イテ戴イ
テ居ルカト云フコトヲ申上ゲル譯デ、從ッテ
私ノ是カラ申上ゲルコトハ必ズ私ハ實現
サレルコトト深ク信ジテ居ルノデアリマス、
衆議院ニ於キマシテハ私ハ親シク傍聽シテ
居リマシタ、此ノ生產資材ノ問題、殊ニ肥
料ノ問題ニ力ヲ注イデ、色々ノ註文ヲセラ
レタノデアリマスルガ、農林大臣ハ玆ニ思
ヲ致サレテ、我々ノ最モ心配シテ居ル此ノ
肥料ノ問題ニ付テモ、肥料ハ所謂彈丸デア
ル戰爭ニ於ケル彈丸デアルト云フ强イ主
張ノ下ニ、モウ旣ニ此ノ春ノ肥料ニ向ツテ
ノ手當ヲシテ戴イタト云フ責任ノアル御言
葉ヲ承リ、私共喜ンデ居ルノデアリマス
又次ニ大イナル、澤山ノ肥料ヲ要シマス其
ノ準備ニ付テモ、只今ノ肥料ハ彈丸ナリ、
斯ウ云フ思召ノ下ニ、又內閣諸公ニ於カレ
テモ、陸海軍ノ方々ニ於カレテモ、必ズ此
ノ農林大臣ノ提唱ニハ御同意ヲナサレテ
次ニ來ル肥料期ノ準備モ必ズ出來ルコトト
私ハ信ジテ居ル又勞働力ノ調整、又生產
物價ノ適正ナル維持ト云フコトニ付テモ
相當ノ御心配ヲ下サレテアルコトハ、色々
ノ機會ニ承ッテ居ルノデアリマス、併シ私ガ
唯一ツ玆ニ心配ニナルコトガアル不安ヲ
感ジテ居ルコトガアルノデアリマス、ソレ
ハ何カト云フト、最後ニ申上ゲマシタ農山
漁村部落實行團體ヲ整備强化セシムルト云
フ問題デアリマス、此ノ部落ノ實行團體ト
云フノハ何デアルカト云フト、各村ニ農會
ガアリマス、ソレヲモウ一ツ掘リ下ゲテ、二
三十戶單位ノ組合ヲ拵ヘル、農家組合トカ
實行組合トカ名ヅケテ居リマス、此ノ組合ニ
總テノ農事ノ實行ヲサシテ居ルノデアリマ
ス、又將來愈〓其ノ働ヲ强化シヨウト考ヘテ居
ルノデアリマス、所謂隣保相助ノ精神ニ基
イテ、此ノ二三十戶單位ノ實行組合ニ依ッテ
農事ノ活動ヲ促スコトニ相成ッテ居ルノデア
リマス、此ノ頃農林省ニ於テ生產計畫又肥
料ノ配給、勞働力ノ調整ト云フコトニ付テ、
色々具體的ノ案ヲ御定メニナッテ居ルガ、此
ノ實行組合ノ手ヲ煩ハサズシテハ何事モ出
來ヌコトニ相成ッテ居ル、斯ウ云フ風ニ考ヘ
テ參リマスト、必ズ當局ハ相當ノ對策ヲ今
講ゼラレツヽアルト私ハ信ジテ居リマス、先
刻申上ゲタヤウニ深イ意義ノアル組合、其
ノ數ハドレダケアルカト云ヒマスト、凡ソ
二十七萬組合ガアル、其ノ數ガ如何ニ多イ
カト云フコトヲ御考ヘナスッテ、又其ノ働キ
ガ如何ニ大事デアルカト云フコトヲ御考ヘ
下スッテ、サウシテ此ノ組合ノ活動ノ助成ヲ
シテ貰ヒタイト云フノデアリマス、政府デ
餘程オ氣張リ下スッテ、之ヲ二三十萬ノ組合
ニ分ケルト云フコトニナリマスト云フト、一
體ドレダケノ活動資金ニナルカ、玆ニ思ヲ致
サレテ、相當巨額ノ支出ヲシテ貰ヒタイト思
フノデアリマス、殊ニ私ハ一昨年ノ議會ノコトヲ
想ヒ出シマスガ、或委員會ニ於テ、出征軍
人ノ給與ノ問題ニ付キマシテ、官公吏及會
社員ノ多數ニハ相當ノ給料ヲ支給シテ居ル
然ルニ農村ノ子弟ニ對シテハ如何ニ扱フ積
リデアルカ、斯ウ云フ質問ヲサレタ方ガア
リマス、ソレニ對シテ政府ノ答辯ハ、農村
ニハ隣保相助ノ誠ニ美ハシイ風習ガアル、
之ニ依ッテ勤勞奉仕ヲヤッテ、サウシテ此ノ
家族ヲ助ケルコトニスルノデアルトノコト
デアリマシタ、誠ニ結構ナコトデアリマス、
農民ハ默々トシテ、此ノ兵役ハ國民ノ一大
義務デナリトシテ喜ンデ征途ニ就イテ居リ
ママ、是ハハッキリ申上ゲテ置キマス、此ノ
一大義務ハ決シテ金錢ニ換ヘルコトガ出來
ルモノデナイト云フコトヲ能ク承知シテ居
リマス、是ハ日本ノ國柄デアル、併シナガ
ラ今玆ニ隣保相助ノ實ヲ擧ゲ、勤勞奉仕ヲ
ヤッテ居ル農家組合ニ向ッテ相當ノ援助ヲス
ルト云フ、此處ニ考ガ定マリマスナラバ、思
ヲ此處ニ致サレテ、私ハ相當ノ助成ヲシテ
戴キタイト思フノデアリマス、是ハ陸海軍
大臣ガイラッシヤラナイカラ甚ダ失望致シ
マスガ、殊ニドウモ政務官モイラッシヤラ
ナイヤウデ······一體今日迄ノ豫算總會ト云
フモノハ、コンナモノデナカラウト思ッテ
居ッタ、衆議院ニ於ケル議事ノ都合モアリ
マセウケレドモ、是ハ各省ノ豫算ガ出テ居
ルノデアリマス、是レ以上ハ申上ゲマセ
ヌ······此處ニ思ヲ致サレテドウカ私共ノ希
望ニ副フヤウニ、一ツ御努力アラムコトヲ、
幸ニシテ總理大臣、大藏大臣ガ居ラレルノ
デアリマスカラ、何分ニ宜シク御願ヲ申上
ゲテ置キマス、尙私ハ勞働力ノ調整ニ付テ
一ツノ意見ヲ持ッテ居リマスノデ、此ノ機會
ニ併セテ私ハ、是ハ文部大臣ニ聽イテ戴キ
タイノデアルガ····幸ニ前文部大臣木戶
內相ガイラッシヤルコトデモアルシ、シマ
スノデ御聽キヲ願ヒタイ、此ノ事變以來小
農家組合ガ隣保相助デ、出征農家ニ勤勞奉
仕ヲ致シテ居リマスガ、其ノ他ニ小學校ノ
五六年生以上、又男女ノ中等學校ノ生徒、
又專門學校ノ生徒ガ、喜ンデ此ノ勤勞奉仕
ニ力ヲ注イデ居ッテ吳レマス農繁期ニ於ケ
ル所ノ勤勞奉仕ノ有樣ハ實ニ淚グマシイモ
ノガアルノデアリマシテ、私共寫眞ニ撮ッテ、
ソレヲ公ニモシ、保存モ致シテ居ルノデア
リマスガ、此ノ事ハ生徒ニ與フル所ノ、所
謂精神的ノ效果ハ實ニ大キナモノガアルト
思ウテ居ル、ソコデ私ハ今斯ウ云フ問題ト
結付ケテ、文部省ニ於テ一步前進シテ·····
私ハ中等學校以上ノコトハ此處ニ申シマセ
ヌガ、セメテ農村ニアル所ノ、農村ニ百名
內外ノ生徒ヲ有シテ居ル所ノ、此ノ高等小
學ノ課程ト云フモノニ大イナル改革ヲ加へ
ル所ノ意思ナキヤ如何、是デアリマス、今
ノ〓育ニ缺ケテ居ルモノハ何デアルカト云
フト、所謂心身ノ鍛鍊ト云フモノガ忘レラ
レテ居ル、〓育ハ〓場デナケレバ出來ヌト
思ッテ居ル、之ヲ一ツ田圃ニ及シテ貰ヒタイ、
所謂勤勞第一主義ノ一ツ〓育ヲ始メテ貰ヒ
タイ、斯ウ云フノデアリマス、是ハ私ノミ
ノ考デハナイ、サウ云フ聲ハ以前カラ〓育
界ニアル、又今ノ小學ハ幸ニ一組五十名內
外ノ生徒ヲ集メテ居ッテモ、皆個人々々ノ〓
育デアル、集團ノ訓練ト云フモノハ出來テ
居ナイ、行ノ〓育ト云フモノハ出來テ居ナ
イ、一ツ此ノ機會ニ其ノ集團訓練ヲ施スコ
トニシタラドウカ、若イ生徒ガ勤勞奉仕ヲ
ヤッテ居ル樣子ヲ見テモ、實ニドウモ心面白
クヤッテ居ル、此ノ間モ私國ニ歸リマシテ、
郡農會ノ總會ニ臨ンダノデアリマシタガ、
山村ニ於ケル肥料問題ヲ解決スベク堆肥ヲ
拵ヘル、山村ニハ山草ガアル、是ハ今ドン
ナ風ニナッテ居ルカト云フコトヲ其ノ土地
ノ人ニ尋ネマスト、澤山其ノ原料ハアルガ、
人夫賃ガ高イ、人手ガ足ラヌ、ソレダカラ
殘念ナガラ堆肥ヲヨウ拵ヘナイデ、其ノ儘
ニ枯ラスコトニナッテ居ル、是ハ農會長ガ言
フノダカラ間違ヒナイダラウト思フ、誠
殘念デアル、斯ウ云フ機會ニ小學校ノ高等
科以上デ宜シイ、其ノ生徒ニ每日相當ノ草
刈ヲヤラシテ、サウシテ堆肥ヲ拵ヘサセル
ト云フコトニナッタラ直チニ目ノ前ニ見
三六、此ノ聖戰ニ參加スル銃後ノ護リノ
大キナ役目ヲ果スコトニナルコンナ意味
デ一ツ小學校ノ高等科ノ課程ヲ一ツ改造シ
テ戴クコトハ出來ヌカ、私ハコンナコトヲ
机ノ上デ言フノデナイ、私ノ三重縣ニハ十
年バカリ前カラ此處ニ著眼シテ、隨分文部
省ヤ縣廳カラ叱ラレテモ、規定ノ高等科ノ
課程ハソコ除ケニシテヤッテ居ッタ所ガア
ル今現ニ公民學校トシテ都市ニ於テモ現
ニ實用〓育、作業〓育ヲ與ヘテ居ル所ガ、
戰前カラ既ニ出來テ居タ、斯ウ云フ情勢デ
アリマス、今此ノ機會ニ此ノ制度ヲ改メテ
貰フタラドンナモノデアル、斯ウ云フノデア
リマス、私共常ニ縣農會ノ······實ハ會長ヲ
致シテ居ルノデアリマスルガ、技術員ニ斯
ウ云フコトヲ訓シテ居ル戰時態勢ノ平常
化ト云フコトヲ心得ナクテハイカヌ、不斷
ニ色々理論上、又實際上、是非斯クセナケ
レバナラヌト云フコトガ澤山アッタ、現ニ是
カラ具體的ニ現レテ來ル所ノ肥料配給ノ問
題其ノ他今農林省ノ將ニ示サレムトスル
アノ種々ノ計畫ハ、不斷カラ分ッテ居ル、ソ
レガ平生ハ實行サレテ居ナカッタ、ソコデ之
ヲ戰時態勢ノ下ニ實行スル、併シソレダケ
デハイカヌ、戰時態勢ノ平常化、此ノ戰時
ニ於テ十分ニ習慣付ケタコトヲ、一ツ戰後
ニモ續ケテ行カウヂヤナイカ、是デアリマ
ス、私今高等小學ノ課程ノ改革ノ註文ハソ
レデアルノデアリマス、此ノ戰時態勢ノ平
常化ト云フコトハ、所謂禪ノ平常心是レ道
ニ外ナラヌノデアル、總テノ方面ニ斯ク心
掛ケルコトニ依ッテ、私ハ此ノ戰爭ガ一層意
義付ケラレルコトニ相成ルト思フ、モウ斯
ウナッテ來タラ、ドレダケ戰爭ガ續イテモ構
ハヌ、戰爭卽建設デアリマス、長期ノ建設
デアルノデアリマス、ドウカ今私ノ御願ニ
對シ、又申上ゲタコトニ付テ、總理大臣、
農林大臣、大藏大臣又内務大臣ノ御答辯ヲ
煩ハスコトガ出來レバ大變ニ仕合セニ存ジ
やく、尙私事務局ヘハマダ外ニ質問ノ要綱
ヲ申上ゲテ置キマシタ、ソレハ何デアルカ
ト云フト、町村自治制ノ改正ニ付テデアリ
そく、是ハ私ハ此ノ壇上デモ機會アル每ニ
屢〓私ノ持論ハ申上ゲテ居ル、ソレデ此ノ議
會ニ必ズ是ガ出ルト云フコトヲ非常ニ私ハ
期待ヲ有ッテ居ッタ、現ニ貴族院ニ於テモ事
務局ニ於テ其ノ積リデ斯ウ云フ調査材料ヲ
チヤント、昨日デアッタカ箱ノ中ニ入レテ
居ッテ吳レルヤウナコトデ、非常ニ是ノ改正
案提出ノ見合セニナッタト云フコトハ殘念
ニ思ッテ居リマス、ドウモ新聞ニ發表サレ
テ居ル內務大臣ノ御發表ニハ承服ノ出來ヌ
モノデアリマスガ、丁度事務局デ調ベルト、
次ノ山隈サンガ此ノ問題ニ付テ質問ナサレ
ルコトニナッテ居ルサウデアリマシテ、此ノ
問題ハモウ當識トナッテ居ルノデ、山隈サン
ノ御質問ノ要旨モ恐ラク私ト變ラナイモノ
ダラウ、ソレデ若シ山隈サンノ仰シヤル
コトニ私異議ガアリマシタナラバ質問ヲ
留保サシテ戴キマスガ、山隈サンニ御讓ヲ
致シマシテ私ハ是デ打切ッテ置キマス
〔國務大臣男爵平沼騏一郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=37
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038・平沼騏一郎
○國務大臣(男爵平沼騏一郞君) 御答ヲ致
シマス、御述ノ通リ農山漁村ノ生產ノ增加
ト云フコトハ、國民生活安定ノ基礎トモ相
成リマスシ、又輸出ノ重要ナ資料トモ相成
ルノデゴザイマスカラシテ、在來之ガ增加
ニ付キマシテハ極力努力シ來ッタノデ
ゴザリマス、殊ニ今次事變ノ際ニ於キマシ
テハ殊ニ其ノ必要ヲ痛感致シマスル次第
デゴザリマスルカラ、先達テノ衆議院ニ於
ケル所ノ決議ノ趣旨ヲ尊重致シマシテ、將
來一層此ノ點ニハ努力致ス積リデゴザリマ
ス、又農山村ノ振興ニ付キマシテ、種々具
體的ノコトノ御話モゴザイマシタ、殊ニ今
日行ノ〓育ニ依リマシテ、勤勞奉仕竝ニ隣
保相親ムノ美風ヲ養成スルト云フコトハ
最モ是ハ大事ナコトデアラウト考ヘテ、此
ノ點ニ付キマシテハ將來深ク留意致ス心底
デゴザリマス、其ノ他種々具體的ノ事柄ニ
付キマシテノ御答ハ、主管大臣ヨリ致スコ
トニ致シマス
〔國務大臣櫻內幸雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=38
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039・櫻内幸雄
○國務大臣(櫻內幸雄君) 只今小林君ノ御
質疑ニ對シマシテ御答辯申上ゲマス、先般
衆議院ニ於テ農漁山村生活確保竝ニ生產擴
充ニ關スル所ノ決議案ニ對シマシテハ
我々モ常ニ此ノ問題ニ對シマシテ心ヲ致シ
テ居ル所デアリマシテ、大體其ノ御趣旨ニ
付テハ同感デアルノデアリマス、今御話ノ
如ク今日ノ戰時下ニ於テ如何ニ長期戰ト相
成リマシテモ、我ガ國民ノ生活ガ毫モ脅威
サレナイト云フ事柄ハ實ニ國土ノ恩惠デア
リマシテ、深ク我々ノ感激スル所デアリマ
スト同時ニ、之ガ生產ニ當ッテ居ル農漁
山村ノ人々ガ如何ニ努力致シテ居ルカト云
フコトニ付キマシテハ、常ニ感謝致シテ居
ル所デアリマス、殊ニ御承知ノ如ク多數ノ
出征將士ヲ出シ、又軍需其ノ他ノ重工業
ニ對シテ多數ノ從業員ヲ出シ、又國際貸借
其ノ他ノ關係上カラシテ肥料ノ手廻リモ十
分ナラズ、馬匹モ徵發サレ、非常ナル困苦
ノ中ニ於テ優ニ平生收穫ヲ致シテ居ルダケ
ノ產物ヲ出シテ居ルト云フ事柄ニ付キマシ
テハ、如何ニ現在ノ農村ガ國家的意識ニ燃
エテ居ルカト云フコトヲ如實ニ示スモノデ
アリマシテ、我々ハ只今小林君ノ御話ニナッ
タ如ク、日本精神ノ發露ガ農村ニ現レテ居
ルモノト感ズルノデアリマス、併シナガラ
今後ニ對シマシテ此隣保相助、勤勞奉仕、
是ダケノ考ヲ以テ將來ノ生產力ノ擴充竝ニ
生產ヲ確保致スコトガ出來ルカ否カト云フ
コトニ付キマシテハ、我々深ク考ヘナケレ
バナラヌ所デアリマシテ、農林當局ト致シ
マシテハ前大臣此ノ方深ク此ノ點ニ付テ〓
究考慮致シマシテ、今囘ニ於キマシテモ相
當ノ案ヲ立テテ出シテ居ル譯デアリマス、
卽チ一面ニ於テハ國民ノ生活安定ニ資スル
ダケノ生產ヲ致シ、一面ニ於テハ國際收支
ノ關係ニ對シテ輸出貿易ニ對シテ非常ナル
貢獻ヲ致スト云フ見地カラ、輸出ノ大宗デ
アル所ノ生絲ヲ初メト致シ、水產物其ノ他
ノモノニ付キマシテ輸出增進ニ對スル所ノ
相當ナル案ヲ立テ、本豫算ノ中ニ組込ンデ
提案ヲ致シタ譯デアリマス、併シナガラ今
後ノコトヲ考ヘマス時ニ、單ニ是ダケデ果
シテ確保出來ルカ否カト云フコトヲ考ヘマ
シテ、更ニ一層其ノ生產ヲ確保シ、輸出增
進ニ資スルガ爲ニ近ク案ヲ具シテ更ニ御容
議ヲ煩ハシタイト考ヘテ居ルヤウナ譯デア
リマス、何ニ致セ只今申シタヤウナ種々ナ
ル點ニ於テ困難ガ件ッテ居ルノデアリマス
ガ故ニ、此ノ對策モ亦種々多樣ニ亙ッテ居
リマス、又生產物モ單ニ米トカ繭トカ云フ
モノバカリデハナイ、例ヘテ言ヘバ「ガソリ
ン」ノ代用タル所ノ「アルコール」ノ資材デ
アル所ノ甘藷ノ增產ノ如キ、或ハ「ガソリンL
代用ノ木炭ノ增產ノ如キ、斯ウ云フ問題モ
伴ッテ居ルノデアリマシテ、此ノ點ニ付キマ
シテハ深ク留意ヲ致シテ居ル譯デアリマス、
其ノ具體的方法ヲドウ云フ手段ニ依ッテヤ
ルカト云フ御話デアリマスガ、只今ノ所ハ
各中央カラ府縣、地方町村、之ニ至リマス
ル迄總テ農村ニ對シテ一定ノ計畫ヲ立テマ
シテ、此ノ計畫ニ依ッテ進ンデ行ク方法ヲ
講ジテ居リマス、米穀ノ增產ニ付キマシテ
ハ或ハ勞働班ノ移動ヲ行ヒ、或ハ機械ノ
共同使用ヲ行ヒ或ハ螟蟲其ノ他稻熱病ト
申ス如キモノノ害蟲ノ驅除ニ對シテ全力ヲ
注ギ、或ハ冷溫床ノ如キモノヲ用ヒマシテ、
冷害地ニ備ヘ、種々雜多ナ方法ヲ講ジテ居
リマス、是等ノ問題ニ付キマシテハ、農事
ニ關係ノアル有ラユル團體ノ總動員ヲ致シ
マシテ、卽チ農村ノ總力ヲ玆ニ集中ヲ致シ
マシテ、此ノ目的達成ニ努力ヲ致シテ居ル
ヤウナ譯デアリマス、今御話ノ其ノ一番前
線デアル所ノ農事實行組合、又一面カラ言
ヘバ部落、此ノ部落ノ活動ニ對シテ、相當
ナ考慮ヲ拂フカト云フ風ナ御意見デアリマシ
タガ、此ノ點ニ付キマシテモ相當ノ考ヲ以
テ、今日對案ヲ講ジツヽアル際デアリマス、
勞力ノ不足ヲ補フ點、竝ニ肥料ノ缺乏ニ對
シマシテモ、所謂自給肥料ニ對シマシテ力
ヲ注グ點、有ラユル方面ニ付キマシテ、政
府ハ最善ノ努力ヲ致シマシテ、今日ノ此ノ
難局ヲ突破シ、以テ農村將來ノ繁榮ヲ期シ
タイト期シテ居ルヤウナ次第デアリマスガ
故ニ、一應御諒承ヲ願ッテ置キタイト思ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=39
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040・小林嘉平治
○小林嘉平治君 肝腎ノ財源ヲ有セラルヽ
大藏大臣ノ一ツ、此ノ際私ノ所見ニ對スル
御批判ヲ仰ギタイト思ヒマス、尙文部大臣
ハ御缺席デアリマスノデ、私ノ速記錄ヲ見
テカラ、適當ナ機會ニ一ツ御答辯ヲ得タイ
ト思ヒマス
〔國務大臣石渡莊太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=40
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041・石渡莊太郎
○國務大臣(石渡莊太郞君) 農產物ノ數量
ノ增加維持、又國際收支ニ關係ノアリマス
ル農產物ノ增產、其ノ他ニ付キマシテ、只
今農林大臣ガ詳細ニ述ベラレタノデアリマ
スカ、大藏省ト致シマシテモ、大體ニ於テ
御同感デゴザイマス、此ノ問題ハ銃後對策
トシマシテ、極メテ緊要ナ問題デゴザイマ
スルノデ、私ト致シマシテモ、出來ルダケ
ノ事ヲ致シタイト存ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=41
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042・小林嘉平治
○小林嘉平治君 只今大藏大臣ノ御答辯ヲ
承リマシテ、所謂財源ヲ持ッテ居ラレル大藏
大臣カラ、只今ノヤウナ御答辯ヲ得マシタ
コトハ、非常ニ私ハ滿足ヲ致シマス、先刻
書記官ガチヨットコチラヘ見エマシテ、批評
ヲ仰ギタイト云フコトヲ私ガ申シタノハ、
先例ガ餘リナイサウデアリマシテ、私ハ御
答辯ヲ願ヒタイ、斯ウ云フコトデアッタノデ
アリマス、此ノ點訂正ヲ致シテ置キマス
尙總理大臣及農林大臣ノ御答辯ハ、私ハ信
賴シマシテ、近ク提案サレル所ノ追加豫算
ヲ樂シンデ待ツコトニ致シタイト思ヒマス、
是ハ單ニ私バカリデナイ、此ノ點ニ思ヲ致
シテ居ル者ハ大イナル期待ヲ致シテ居ルノ
デアリマスカラシテ、何分ニ宜シク御願ヲ
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=42
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043・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 山隈康君
〔山隈康君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=43
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044・山隈康
○山隈康君 內閣總理大臣及內務大臣ニ御
伺ヲ致シタイト存ジマス、地方自治制度ガ
國家ノ根幹デアリ、又其ノ基礎ヲ爲スベキ
モノデアルト云フコトハ今更事新シク述べ
ル迄モナイコトデアルト存ズルノデアリマ
ス、自治制ガ布カレマシタ以來、產業、〓
育、衞生社會、其ノ他國民ノ生活ニ必要ナ
ル施設ニ對シマシテ、各地到ル所充實普及
シ、之ガ爲ニ國運ノ進展興隆ニ寄與シタル
コトノ大ナルコトハ明カナ事實デアリマス、
現ニ明治二十四年度ニ於ケル地方ノ歲出總
計ハ四千三百八十八萬一千圓ニ過ギナカッ
タノデアリマスルガ昭和十二年度ノ地方
歲出ノ總計ハ實ニ二十億七千八百九十萬五
千二百九十二圓、丁度僅カナ年月ノ間ニ四
十七倍ノ膨脹ヲ見テ居ルノデアリマス、是
ハ如何ニ地方自治團體ノ活動ガ非常ニ旺盛
デアッタカト云フコト、從ッテ此ノ旺盛ノ爲
ニ我ガ國運ノ發展興隆ニ偉大ナル力ヲ與ヘ
タト云フコトハ、數字ニ依ッテ明白ニ證明ガ
出來テ居ルト思フノデアリマス、東亞新秩
序ノ建設ガ提唱サレマシテ、我ガ帝國ハ其
ノ指導者トナリ又中心トナルベキ大使命
ヲ有シテ居リマスル上カラ致シマシテモ、
國家ノ根幹デアル自治精神ノ振興ヲ圖リ、
自治行政ノ刷新ヲ圖リマシテ、之ニ對應ス
ル覺悟ヲ有スルコトハ、是亦議論ノ餘地ガ
ナイト存ズルノデアリマス、殊ニ此ノ時代
ノ進運ト社會生活ノ複雜化ニ伴ヒマシテ、
現在ノ地方制度ノ上ニ於テ尠ナカラザル缺
陷ヲ見出スニ至ッタノデアリマス、現在ノ制
度ヲ此ノ儘ニ放任致シマスレバ、折角築キ
上ゲマシタル自治ノ地盤ニ龜裂ヲ生ジ、延
イテハ國家ノ基礎ニ緩ミヲ來シハシナイカ
ト云フコトヲ惧ルルモノデアリマス、此ノ
地方議會ノ議員ノ選擧自體ニ於キマシテモ、
段々此ノ制度ノ不備ノ爲ニ、議員ノ素質ガ低
下致シマシテ、議場ニ於ケル議論ハ徒ニ無責
任或ハ空漠ナ議論ヲ鬪ハシ、此ノ爲ニ其ノ地域
內ニ於ケル有力者、若シクハ德望、經驗學識
アル者ハ、ソレ等ノ者ト伍スルコトヲ潔シトセ
ヌ、此ノ爲ニ地方ノ自治團體ニ住ム相當識見
ノアル人ハ、次第ニ自治ニ對スル關心ヲ失フ
傾向ガ現ニアルノデアリマス、又現在ノ自
治制度ノ上ニ於キマシテ、市町村長ガ職務
執行ノ上ニ付テ何等權限ガナイ、此ノ故ニ
市町村長ガ自治制ノ圓滿ヲ期セムト致シマ
スレバ、執行機關タル此ノ執行機關ノ意思ニ
迎合致シマシテ行クヨリ外ニハ、圓滿ニ自治
制ヲ運行スル方法ハナイ、是等ノ缺陷ニ乘
ジマシテ、色々ナ忌ハシキ策動ガ行ハレ
更ニ自治制ノ上ニ於テ、醜怪ナル事實ガ續
出スルコトハ諸君ノ御承知ノ通リデアルト
存ズルノデアリマス、恐ラク此ノ裏面ヲ遠
慮ナク爬羅別抉ヲ致シマシタナラバ、或ハ
諸君ノ御承知以上ノ腐敗、色々ナ事實ガ現
ルヽコトト存ズルモノデアリマスル、此ノ
故ニ地方制度ノ改正ニ關シマシテハ數年
ミ前ヨリ屢〓絕叫サレマシテ、全國ノ町村長
會議、全國ノ市長會議更ニ市會議長會議等
ニ於キマシテ、屢〓此ノ改正ニ關スル決議ヲ
ナシ、政府ニ對シテ其ノ實行ヲ迫ッタコト
ハ政府モ御承知ノコトト存ズルノデアリマ
ス、政府ニ於カレマシテモ、此ノ現在ノ自
治制ノ弊害ヲ御認メニ相成ッテ、旣ニ地方制
度調査會ヲ設ケテ之ニ付議サレマシテ、調
査會ハ數箇月ニ亙リ、愼重審議地方制度改
正ノ綱要ヲ決定シテ答申ヲセラレタ次第デ
アリマス、此ノ地方制度ノ改正、町村制ノ
改正、是ハ議會ノ初メ、其ノ後ニ於キマシ
テモ、内務當局ヨリ屢〓本議會ニ提出ヲスル
ト云フコトヲ御言明ニ相成ッテ居リマスル、
殊ニ昨年十二月發行サレマシタル「地方行
政」ト題スル雜誌ニ、內務事務官吉岡惠一
君ガ自ラ自己ノ職名ヲ揭ゲテ、サウシテ此
ノ今議會ニ町村制ノ改正案ヲ提出スル旨發
表サレテ居ルノデアリマス、又先刻渡邊豫
算委員長ヨリモ御話ニナッタ如ク、平沼内閣
ハ近衞內閣ノ延長デアッテ、其ノ政策ヲ踏襲
スル、普段ノ内閣ノ編成等トハ違ッテ居ルト
云フコトヲ、屢〓御聲明ニモ相成ッテ居ルノデ
アリマス、此ノ故ニ私共ハ近衞內閣ノ革新
政策中、最モ力ヲ入レラレタル地方自治殊
ニ町村制ノ改正案ダケハ御提出ニ相成リマ
シテ、近衞內閣承繼ノ實ヲ示サレルモノト
深ク期待ヲシテ居ッタノデアリマス、昨年東
京ニ於ケル全國ノ町村長會議モ矢張リ私共
ト其ノ感ヲ同ジク致シマシテ、此ノ改正
案ガ當然當議會ニ提出サレルモノト云フ期
待ノ下ニ、全部殆ド滿場一致ニ近キ決議ヲ
以チマシテ、此ノ改正案ニ贊同スル意思ヲ
表シ、更ニ提案ヲ待チマシテ其ノ通過ヲ圖
ル爲ニ、適當ナ機會ニ再度ノ町村會ヲ開催
スル豫定ニ相成ッテ居ッタノデアリマス、斯
クノ如ク國民ノ全體ガ此ノ重要ナル改正案
ノ提案ヲ期待シ翹望ヲシテ居ル際ニ、案外
ニモ突如トシテ此ノ提案ヲ爲サナイト云フ
旨ヲ御發表ニ相成リマシテ、私共ハ期待ガ
裏切ラレテ殆ド亞然トシタノデアリマス、
昨年四月十七日ノ自治制發布五十周年記念
式ニ畏多クモ天皇陛下ノ御親臨ヲ辱ク致
シマシテ優渥ナル勅語ヲ賜リ、其ノ御言葉ノ
中ニ「益々自治ノ根柢ニ培ヒ以テ國家無疆ノ
康福ヲ增進セムコトヲ期セヨ」、此ノ有難キ
御言葉ヲ拜シマシテ、私共ハ全力ヲ自治制
ノ根柢ニ培ヒ、自治制度ノ改正ヲ行ヒ、サ
ウシテ此ノ有難キ聖旨ニ應ヘ奉ラムト存ジ
テ居ッタノデアリマス、然ルニ折角政府ガ
提案ヲスルト云フコトヲ御決定ニナッタモ
ノヲ突如トシテ提出ヲシナイト云フ御聲明
ニ對シマシテ、私共ハ實ニ痛恨措ク能ハザ
ルモノガアリマス、政府ガ未提出ノ理由ト
シテ仰セラレル所ニ依リマスルト、法案中
ニ若干ノ不備ノ點ヲ發見シタ、又町村制ノ
改正案ハ市制、府縣制、是ト同時ニ提案ス
ルノ必要ヲ認メタト云フ御聲明ニ相成ッテ
居リマス、甚ダ言葉ガ穩當デナイカモ知レ
マセヌガ、率直ニ申述ベマスレバ、是ハ政
府ガ世間ヲ裝フ御言葉デアッテ、眞ニ御提出
ヲサレナカッタ理由ハ別ニアルンヂヤナイ
カ、是亦不遠慮ニ申述ベマスレバ、或一部
ノ反對、詳シクハ申述ベマセヌ、或一部ノ
反對ノ氣勢ニ押サレテ、所謂相剋摩擦ヲ惧
レタル爲ニ、政府ノ腰ガ碎ケラレテ、提出
ヲ見合ハスルノ已ムナキニ至ッタト云フ疑
ヲ國民ハ懷イテ居リマス、非常時局ニ際シ
マシテ、私共ハ首相ノ仰セノ如ク、總親和、總
協力ノ趣旨ニ基キ、飽迄現政府ヲ支持シ、現政
府ト協力一致致シマシテ、東亞新秩序建設ニ
邁進セムト存ジテ居ッタノデアリマス、然ルニ
折角出シタ重大ナル法案ヲ中途突如トシテ
提案ヲシナイ其ノ態度ニ對シマシテハ、頗
ル國民ハ不安ガアリマス、政府ノ方針、政
府ノ力、政府ノ態度ニ對シテ非常ナル不安
ガアリマス、ソレハ一面ニハ、豫テ平沼首
相ノ御人格、手腕、平生ノ主張カラ致シマ
シテ、所信ニ邁進セラレル堅キ決意ヲ有シ
テ居ルト云フコトニ對シテ、私共ハ常ニ首
相ヲ尊敬シテ居ッタノデアリマス、ソレニ非
常ニ裏切ラレタ感ガアリマス、若シ政府ノ
態度ニ疑ヲ懷キ、信任ヲ缺クガ如キコトガ
アリトセバ、此ノ非常時局ノ上ニ於キマシ
テ由々敷コトナリト存ズル者デアリマスル
此ノ改正案ハ、先刻來申述ベマスル如ク、地
方制度調査會デ有力ナ方ガ集ッテ、數箇月ニ
亙リテ愼重審議ヲサレ、又政府殊ニ內務省
デハ、自治制ニ對スル弊害、缺點ハ多年ノ
經驗ニ依ッテ十二分ニ御承知ニ相成ッテ居ル
筈デアリマス、又之ヲ矯正スル爲ニ、如何
ナル態度ニ依ルベキカト云フコトモ普段〓
究シ盡サレテ居ルベキ筈デアリマス、ソレ
ニ今ニナッテ俄カニ、出來上ッタ成案ニ不滿
ノ點ガアリト云フ御釋明、更ニ當初ハ府縣
制度及市制ハ次ノ議會ニ提出ヲスル、併シ
ナガラ町村制ノ改正案ハ本議會ニ提出ヲス
ルト云フ肚ヲ極メ、他ニ之ヲ表明シ、之上
關スル一切ノ準備モ整ヘテ居リナガラ、今
ニナッテ府縣制若シクハ市制ト同時デナケレ
バイケナイ、此ノ釋明ニ對シテハ何トモ國
民ハ諒解ガ出來マセヌ、サウ云フ簡單ナ理
由デ、折角決心ヲサレタ改正案ノ提出ヲ見
合ハセラレタル理由トシテハ、何トシテモ
受取リニクイ、デ私ハ此ノ際、政府ハ成案
ヲ得タル改正案中ドノ點ニ付テドウ云フ缺
點ヲ發見シタ、故ニ更ニ再考ヲ要スルモノ
デアル、又當初ハ府縣制、市制ト離シテ單
獨ニ町村制ヲ提案ヲスル覺悟デアッタガ、是
非是ガ府縣制若シクハ市制ト同時デナケレ
バイケナイト云フ理由ヲ御見出シニナッタナ
ラバ、其ノ理由、之ヲ明白ニ率直ニ御說明
ニ相成リマシテ、國民ノ疑ヲ解クト云フコト
ハ政府ノ當然ノ責務ダト思フノデアリマス、
私共ハ旣ニ政府ガ改正案ノ提案ヲ御見合セ
ニ相成リマシタル現時ニ於テ、尙會期切迫
ノ今日ニ於テ、町村制改正案ノ提出ヲ迫ル
者デハアリマセヌ、併シ此處デ政府ノ言明
ヲ得タイト思ヒマスルコトハ、地方制度調
査會デ決定セラレタル綱領、是ハ一旦政府
ノ方デハ其ノ綱領ヲ御採入レニナッテ居ルヤ
ウデアリマス、デ此ノ綱領ニ基キ、百難ヲ
排シ敢然トシテ所信ニ邁進セラルベキ御決
意ガアルカドウカ、他ノ色々ナ反對障碍、
其ノ爲ニヘコタレルヤウナコトガナイカ、
ドウカ、更ニ其ノ決心ヲ以テ次ノ議會ニ府
縣制、市制ト共ニ町村制ノ改正案ヲ御提出
ニナル御決意ガアルカト云フコトヲ明白ニ
承リタイト存ジマス、次ニ御伺ヒシタイコ
トハ國家ノ事業、之ヲ地方ニ御經營ニ相成
リマスル場合、ドウモ近來其ノ國家ノ施設
經營ニ關シ設備費ノ幾分ヲ寄附セヨ、敷地
ヲ提供セヨ、斯ウ云フヤウナコトガ段々多
クナッテ居リマス、國家直接ノ事業ノ施設ガ
中央タルト地方タルトヲ問ハズ、苟モ國營
事業デアル以上ハ總テ國費ヲ以テ支辨セラ
レルト云フコトガ、是ハモウ無論當然ノ事
デアルト存ズルノデアリマス、政府ハ是等
ノ事業ヲ計畫セラレマスル場合ニハ、其ノ
建設設備費及敷地、經營ノ費用、之ニ關ス
ル一切ノ經費ヲ御計上ニナルコトハ勿論ノ
コトデアリマス、經費ノ出所モ考ヘズ、事
業ノ施設ヲナサルベキコトハアリ得ナイコト
ト存ズルノデアリマス、近來私ハ殊ニ甚ダシ
ク感ジマスルコトハ、國家ノ經營ニ關スル學校
卽チ大學、工業學校、斯ウ云フモノノ施設ニ對
シマシテモ、矢張リ土地ノ提供ヲセヨトカ、
或ハ建設費ノ若干ヲ寄附セヨト云フヤウナ
コトヲ示唆セラレルバカリデナク、明カニ
要求セラレルコトガアリマス、是ハ若シ政府
ノ方デ實例ヲ示セト云フ御言葉ガアッタナ
ラバ、私ノ直接ニ關係致シマシタル實例ヲ四
五申上ゲルコトハ差支アリマセヌ、併シ是
ハ恐ラク政府モ御承知ノコトト存ジマスカ
ラ、實例ヲ擧ゲマスコトダケハ差控へタイ
ト存ジマス、是等ノ國家事業ノ施設ハ地方
ニ取リマシテハ、地方ノ貫祿ヲ高メ、又地
方ノ繁榮ヲ招來スルモノデアリマスカラ
地方民ハ、極メテ熱意ヲ以テ其ノ事業ノ施設
ヲ誘致シタイト云フ、熱意ニ溢レテ居リマ
ス、從ッテ地方ノ公共團體ハ地方民ノ熱意ヲ
體シマシテ、假令誘致ノ見込ナキモノデ
モ、大體誘致ノ見込ハ困難ダト云フ場合デ
モ、地方民ノ熱意ニ動カサレマシテ、運動
員ヲ動員致シマシテ數囘、數十囘政府ニ對
シテ陳情、御相談ヲスル、政府ノ當局デモ
事務御繁多ノ際ニ、澤山ノ地方運動員ガ來
テ、種々ノ陳情ヲ申上ゲルコトハ相當御迷
惑ノコトト存ズルノデアリマス、唯地方ト
致シマシテハ今申上ゲマスル如ク、若干ノ
運動ノ費用ヲ投ジ、又物資ノ提供ヲ致シマ
シテモ、將來ノ其ノ土地ノ繁榮ヲ招來スル
コトヲ考ヘマスレバ放ッテ置ケナイ、矢張リ
是ハ誘致シテ目的ヲ達シ得ベキ場合ニ於テ
ハ運動モ已ムヲ得ナイ事柄デアルト思フ
ノデアリマス、唯私共ガ非常ニ心配ヲスル
ノハ、國家ノ事業ハ國策ノ上カラシテ其ノ
經營ニ關スル方法モ、亦設置ノ場所ノ計畫
モ、當初ニ於テ決定サルベキモノデアル、
ソレヲ誘致運動ノ巧妙、不巧妙、或ハ物資
提供ノ多少、有無ニ依ッテ設置ノ箇所ヲ變
更セラルヽガ如キ思ヲ國民ニ懷カシムル
是ハ私ハ現今叫バレマス所ノ綱紀肅正ノ上
カラ致シマシテモ、大イニ自肅ヲ望ムベキ
コトデハナイカト思フノデアリマス、現
私共ノ直接ニ關係スル所ニ依リマスルト
ドウモ君ノ方ノ地方ハ熱ガ足ラヌ、皆提供
シロ、何トカ考ヘロ、無條件ヂヤイカヌ
ト、斯ウ云フコトヲ御話ニナルノデアリマ
ス、斯ウ云フ爲ニ運動ガ彌ガ上ニモ猛烈ニ
起ル、私共ハ地方ヲ代表シテ運動ニ參リマ
スルト、省內デ各種ノ運動員ト鉢合セヲス
ル、國家ノ事業、國策ノ上ニ立ツベキ仕事、
ソレヲ地方ノ運動ニ依ッテ彼此スルト云フ
ヤウナコトハ、私ハ甚ダ遺憾ニ思フ次第デ
アリマス、現今ノ市町村ハ國家ノ委任事項
ガ段々ト增加致シマシテ、之ニ要スル經費
ガ激增ヲ致シマシテ、地方ノ負擔ノ上ニ於
キマシテ相當困惑ヲ極メテ居リマス、政府
ノ方デハ是等ノ事情カラ致シマシテ、地方
交付金ノ制度ヲ設ケラレテ、地方財政ノ困
難ヲ補給セラレムトナシツヽアル際、國家
直接ノ經營ニ對シテ更ニ負擔ノ增加ヲシ
財政ニ重壓ヲ受ケシムルト云フコトハ、大
體受益者負擔法ト云フ法律トカ、其ノ他特
別ノ命令ニ基ク場合ハ無論是ハ問題ナイ
サウデナイ場合、一般ノ國費ヲ以テ支辨ス
ベキ場合ハ、其ノ國費ノ輕減ヲ圖ラムガ爲
ニ地方ニ物資ノ提供、負擔ヲ分タシムル如
キコト、又ソレニ依ッテ政府ノ設置箇所其ノ
他ノモノニ依ッテ變更サレル、左右サレルト
云フヤウナコトハ、段々近時サウ云フ傾向
ガ著シクナルノデアリマス、之ニ對スル政
府ノ御所見ヲ承リタイト存ジマス、率直ニ
申上ゲマスレバ、只今斯樣ナ質問ヲ致シマ
シテモ、私地方ニ歸リ、何カ國家ノ施設ヲ
聞及ビマスレバ、政府ガ儼タル國策ノ上ニ、
國家ノ經營ニ屬スルモノハ地方ノ運動ニ
依ッテ左右スルモノニ非ズト云フ嚴然タル
御辯明ガナイ限リハ、矢張リ私共ハ地方ヲ
代表致シマシテ、御迷惑デモ相變ラズ陳情
ノ爲ニ運動ニ來ネバナラヌ實際ノ事情デア
リマス、第三ニ御尋ネシタイ是ハ政府ノ
方デ御理由ヲ御持チニナッテ居ルト思ヒマ
スガ、何ダカ近時ノ政治ノ行キ方ハ、地方
自治ハ段々ト官治ニ移ル傾向ガアリハシナ
イカ、第一ハ職業紹介所ノ如キ、是モ從來
市町村デアッタモノガ國營ニナル、必ズシ
モ私ハ之ニ反對シマセヌ、併シナガラ一
面國營ニナッテ其ノ費用ノ若干ハ矢張リ
地方ノ負擔デアル更ニ近來防護團ト消防
ト合セテ警防團ト云フ組織ノ勅令ガ下リマ
シテ、此ノ警防團ノ實施後ニ於テハ、無論
市町村ノ協力ヲ以テスル趣旨ニナッテ居ル
ヤウデアリマスガ、其ノ組織其ノ他ニ對シ
テハ縣警察部ノ專權ニ屬シテ居ル如何ナ
ル區域ニ何ボ造リ、人員ハ幾ラニスル、被
服ハドウスル、斯ウ云フコトハ一切警察ノ
權限ニ屬シテ、市町村長ハ之ニ容喙スル權
限ヲ持タナイ、ソレハ人情ノアル縣當局デ
ハ非公式ニ市ノ意見ヲ聽ク場合モアリマス
ケレドモ、全然是ニハ市ニ權利ガナイ、サ
ウシテ權利ハナクシテ義務ハ負擔シナケレ
バナラヌ、是ハ斯ウ云フ種類ノコトハ澤
山別ニ例ガアルヤウデアリマス、是等ノ政
策ソレ自體ニ對シテノ當否ヲ私ハ云爲スル
モノデハナイノデアリマスルガ、何トナク
初ニ申述ベマシタル如ク、自治ガ官營ニ移
行致シマシテ、自治ノ根柢ヲ培フトハ正反
對ニ、段々自治ノ根柢ガ一本々々切拔カレ
テ、漸次自治ト云フ精神、自治ト云フ制度
ガナクナッテ來ル傾向ガナイカト思フノデ
アリマス、畏多クモ先刻援用シ奉リマシタル
御勅語ニ、「自治ノ根柢ニ培ヒ以テ國家無
疆ノ康福ヲ增進セムコトヲ期セヨ」ト云フ
勅語ヲ拜シマシタル私共自治國民ハ、是等
ノ情勢ニ對シテ甚ダ遺憾ヲ禁ジ能ハナイノ
デアリマス、此ノ點ニ付キマシテ政府ノ御
所見ヲ伺ヒタイト在ジマス、
〔國務大臣男爵平沼騏一郞君演壇ニ登
ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=44
-
045・平沼騏一郎
○國務大臣(男爵平沼騏一郞君) 御答ヲ致
シマス、政府ハ何故ニ町村制ヲ今議會ニ提
出ヲシナイカト云フコトガ第一ノ御質問デ
アリマス、是ハ他ニ理由ハゴザリマセヌ
只今市制、府縣制、他ノ自治制トノ牽聯ス
ル問題ガゴザリマス、之ニ對シマシテ更ニ
檢討ヲ致シマシテ、然ル後ニ提出スル考デ
ゴザリマス、決シテ市町村制ノ提出ヲ止メ
タト云フコトデハゴザリマセヌカラ、左樣
御承知ヲ願ヒマス、次ノ御尋ハ、近頃國家
ノ施設ニ付テ地方カラ物ノ供給ヲサセル、
斯ウ云フコトハ宜シクナイデハナイカト云
フ御趣意ノヤウデアリマシタガ、固ヨリ國
家ノ事業ニ付キマシテ、之ヲ設クベキ所ノ
地方カラシテ土地其ノ他ノ物ヲ供給スルト
云フコトハ、必ズ是ハ惡イトハ申サレマセ
之、併シナガラ之ガ爲ニ或ハ無用ノ競爭ヲ
惹キ起ス、其ノ他弊害ヲ生ズルヤウナコト
ガアッテハ是ハナリマセヌカラ、是等ノ點ニ
付キマシテハ十分注意ヲ致ス考デゴザイマ
ス、ソレカラ第三ノ御質問ハ、段々ニ町村
ノ自治ニ屬スベキ範圍ガ官營ニ移ル傾向ガ
アルガドウカ、固ヨリ此ノ地方自治ニ屬ス
ベキ範圍ト國營ニ屬スベキ範圍トニ付キ
マシテハ或ハ時ニ其ノ廣狹ニ付キマシテ
差異ヲ生ズルコトハ固ヨリ存スルコトデゴ
ザイマスルガ、之ガ爲ニ地方ノ自治ノ根柢
ニ動搖ヲ來スト云フヤウナコトガアッテハ
是ハナリマセヌカラ、其ノ點ニ付テハ固ヨ
リ注意ヲ致サナケレバナリマセヌ、併シ必
ズシモ今日地方ノ自治ノ區域ニ屬スルコト
ヲ國營ニ移シマシテ、之ガ爲ニ自治ノ根柢
ニ動搖ヲ來スト云フヤウナコトハ、今日ハ
決シテナイ考デゴザイマス
〔國務大臣侯爵木戶幸一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=45
-
046・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 御答ヲ致シ
マい、第一ノ御尋ノ町村制ノ提案ヲ本議會
ニ見合セマシタコトニ付キマシテハ先程
總理大臣ヨリ御答辯ガゴザイマシタ趣旨以
外ニ何等ノ理由ハナイノデアリマス、而シ
テ內務省ト致シマシテモ、此ノ自治制度ノ
刷新ヲ致シマシテ、自治精神ノ振興ヲ圖ル
ト云フコトニハ、勿論熱心ニ努力致サナケ
レバナラヌノデアリマシテ、其ノ意味ニ於
キマシテ成ルベク速カニ市制、町村制、府
縣制等ニ亙リマシテ考究ヲ遂ゲマシテ、自
治制度全般ニ關スル方針ガ決定致シマシタ
ル上ハ、速カニ法案ヲ提出スル考デ居リマ
ス、ソレカラ第二ノ御尋ノ點デゴザイマス
ガ大體總理大臣ヨリモ御答辯ガアリマシ
タノデ、殆ド盡キテ居ルノデアリマス、地
方ニ於キマシテ色々ノ國家ノ施設事業ガ出
來マスル場合ニ、其ノ施設事業等ガ矢張リ
地方ニ相當ノ利益ヲ與ヘマスヤウナ關係
上地方ニ於キマシテ自由ニ、自發的ニ寄
附其ノ他ガ行ハレマスコトハ、是ハ必ズシ
モ不適當トハ考ヘテ居リマセヌ、併シナガ
ラ時ニ依リマスト、只今御話ノヤウナ、何
カ其ノ物資、資材等ヲ提供スルト云フコト、
ガ、條件ニナリマシテ、其ノ設置ノ位置等
迄ガ動クト、斯ウ云フコトニナリマスト
ソレハ甚ダ行過ギデモアルノデアリマシテ、
ソレ等ニ付テハ十分是正シテ行カナケレバ
ナラヌト考ヘテ居リマス、ソレカラ第三ノ
御尋ノ、地方ノ自治ガ段々官治ノ傾向ヲ持
ツヂヤナイカト云フ御尋デアリマシタ、是
ハ偶、〓此ノ非常時局ニ於キマシテ、例ヘバ警
防團デアルトカ、或ハ職業紹介所デアルト
カ、是ハ何レモ此ノ時局ノ當面ノ問題ト致
シマシテ、防空ノ如キ、又多數ノ職業人ノ
移動、紹介、是ハ全國的ニヤラナケレバナ
ナラヌヤウ狀態ニアルノデアリマシテ、サ
ウ云フ意味カラ致シマシテ之ヲ國營ト致シ
タヤウナ次第デアリマス、從ヒマシテ此ノ
非常時局ニ於キマシテハ偶、サウ云フ現象ガ
起ッテ居リマスガ、根本ニ於キマシテ自治制
度ノ根柢ヲ搖ガスト云フヤウナ施設、考
ヘ等ハ政府トシテハ持ッテ居リマセヌ、其ノ
點ニ付テハ十分將來トモ戒心シテ、地方ノ
自治制度、官治ト云フコトガ紛淆致サヌヤ
ウニ心掛ケナケレバナラヌト考ヘテ居リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=46
-
047・山隈康
○山隈康君 簡單デゴザイマスカラ自席カ
ラ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=47
-
048・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=48
-
049・山隈康
○山隈康君 只今總理大臣竝ニ內務大臣ノ
御答辯ハ、私ノ主トシテ伺ハムトスル趣旨
ゝヨリ稍、離レタル感ガアリマス、併シ今日
ノ政府トシテソレ以上ノ御答辯ハ御困難ダ
ト拜察致シマスノデ、是レ以上ハ差控ヘマ
ス、唯自治制ノ刷新改善等ニ關シテハ、極
メテ内務當局デモ御熱心ト云フコトヲ拜聽
致シマシテ、ドウカ明年度、今迄數年間ノ
問題デアリマスカラ、相當ニ〓究ハ、成ツ
テ居ルモノト存ズルノデアリマス、是非明
年度ニ於テ三案一〓ニ御提案アラムコトヲ
切望致シマシテ私ノ質問ヲ打切リマス
〔有吉忠一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=49
-
050・有吉忠一
○有吉忠一君 今朝私共ハ渡邊豫算委員長
ヨリ豫算委員會ニ於ケル報告ヲ〓聽致シマ
シテ、政府ガ昭和十四年度總豫算ニ對シテ
織込ンデ居リマスル政策ノ大綱ハ之ヲ了承
致シタノデゴザイマス、サレバ最早私更ニ
是等ノ點ニ付テ政府ニ質問ヲスル意思ハゴ
ザイマセヌガ、最近起リマシタ事實ニ付キ
マシテ、國民ノ間ニ多少ノ惑ヒヲ生ジ、是
ガ國家ノ上ニ餘リ好イ影響ヲ及シテ居ラヌ
ヤウニ考ヘマスルガ故ニ、玆ニ暫ク此ノ時
間ヲ拜借致シマシテ、私ノ質問ヲ提起シ、
之ニ對シテ政府ノ所信ヲ明カニセラレムコ
トヲ希望スル次第デアリマス、今日我ガ國ニ
於テ生產力ノ擴充ト、輸出貿易ノ增進ガ最
モ重要ナル急務デアルト云フコトハ申ス迄
モゴザイマセヌ、サレバ明年度ノ豫算ニ於キ
マシテ、政府ハ是等ノ助成ニ付テ色々ナル
施設ノ費目ヲ要求サレテ居ルコトモ承知致
シテ居リマス、サレバ私ハ是等ノ費目ヲ政府
ガ能ク適切ニ有效ニ活用サレマシテ、是非其
ノ效果ヲ擧ゲルヤウニ一層努力セラレム
(副議長侯爵佐佐木行忠君議長席ニ著ク〕
コトヲ希望シテ已マナイノデアリマスルガ、
併シ私ハ今自分ノ關係致シテ居リマスル職
務ノ關係カラシテ、多少此ノ輸出ヲ增進ス
ルト云フコトガ今日ノ急務デアリマスルガ
故ニ、是非共何トカシテデモ少シナリトモ
之ヲ增進シタイト云フ考カラ、色々方策ヲ
熟考致シテ見マスルガ、ナカ〓〓新シイ品
物ヲ新シイ市場ニ送リ出スト云フコトハ容
易ナコトデハゴザイマセヌ、サウシテ又縱
令多少ハ其ノ效果ガアリマシテモ、其ノ金
額ハ誠ニ微々タルモノデアリマシテ、百萬
圓ノ新タナル販路ヲ作リ出スト云フコトハ
是ハ容易ナコトデハゴザイマセヌ、併シ旣
ニ開拓サレテ居リマスル市場ニ向ッテ、其
ノ市場ノ馴レテ居リマスル品物ヲ出ス、
其ノ品物ノ出ル價格ヲ多クスルト云フコ
トハ比較的ニ樂デアリマシテ、其ノ效果
ガ非常ニ多イノデゴザイマス、是ハ我ガ國
ノ生絲ニ付テ私ガ申述ベムトスルノデゴザ
イマス、生絲ハモウ申ス迄モナク、先程來
農林大臣モ屢〓繰返シテ申サレタ如ク輸出
ノ大宗デアル、此ノ支那事變ノ始リマシタ
ル昭和十二年ニハ、其ノ輸出總額ハ四億餘
圓ニ上ッテ居リマシタガ、輸出ヲ大イニ盛ニ
シナケレバナラヌ必要ノアル昨年度ニ於テ
ハ、是ガ三億圓臺ニ減少ヲ致シテ居ルノデ
アリマス、此ノ減少ノ原因ガ何處ニアルカ
ト申シマスレバ、是ハ此ノ生絲ヲ需要スル
所ノ外國ノ市場ノ事情如何ニ依ルト申スコ
トハ、是ハ申ス迄モゴザイマセヌ、併シナ
ガラ又我ガ國內ノ狀況モ多少之ニ伴フテ影
響ヲシテ居ルト云フ所ガゴザイマス、サス
レバ外國ノ事情ハ如何トモスルコトガ出來
ヌト致シマシテモ、國內ニ於テ少シデモ輸
出ヲ增進スルコトノ出來ル方法ガアリマシ
タナラバ、是ハ官民一致シテ其ノ方策ヲ講
ジナケレバナラヌト思フノデゴザイマス
ココ極ク數日以前ニ生絲ガ非常ナ値上リヲ
致シマシタ、此ノ値上リハドウ云フ譯デ起ッ
タラウカト云フコトヲ考ヘテ見マスルノニ、
或人ハ國內ニ於テノ需要ニ對スル思惑ガ大
ナル原因デアッタト申シテ居リマス、併シナ
ガラ今日カラ之ヲ囘顧シテ見マスルト云フ
ト、大需要國デアル所ノ「アメリカ」ノ方デ
ハ、サウハ考ヘテ居ラヌ、日本ニ於テハ綿
縫綿布、或ハ羊毛等ノ織物ニスル所ノ原
料及ビ織物ヲ非常ニ統制シテ居ル今日ニ於
テハ、勢ヒ日本ニ於テ生產スル所ノ絹ヲ使ッ
テ織物ヲ造ルヤウニナル、故ニ國內ニ於テ
此ノ生絲ノ需要ガ多クナルコトハ當然デア
ルサウスレバ需要供給ノ經濟的原則ニ基
イテ、日本ニ於テ生絲ノ値段ガ高クナルト
云フコトハ、是ハ當然ノ事ダト云フ風ニ見
テ居ル、是ハ都下ノ大新聞ニ其ノ値上リノ
後數日······二三日後デスカ、「ニューヨー
ク」ノ通信トシテ載セテ居ル所ニ明カニ向
ウノ事情ハ斯ウ見テ居ルト云フコトヲ書イ
テ居ル又此ノ度生絲ガアノ通リ上リマシ
タ其ノ値上リノ幅ハ、アノ通リ上レバ、其
ノ需要スル所ノ市場ニ於テ使用ヲ減ズルヤ
ウニナラナケレバナラヌ程、ヒドイ値上リ
ヲシタモノデアルカト言ヒマスルト、ドウ
モ是モ決シテサウデハナイヤウデアリマス、
當業者ノ說明ヲ聽キマスルト云フト、此ノ
度上リマシタ生絲ノ値段ノ如キハ······此ノ
生絲ハ「アメリカ」ニ於テハ大部分靴下ノ原
料ニ用ヒラレルノデアリマスルカラシテ、其
ノ靴下ニ此ノ値上リヲ轉嫁致スト致シマシ
テモ一足ニ向ツテ嫁スル値上リハ極ク僅
デアリマス、其ノ靴足袋ノ需要ヲ減額スル
ヤウナ、サウ云フ大キナ影響ヲ與ヘルモノ
デハナイト云フコトデアリマス、此ノ生絲
ガ是迄値段ハ長イ間向フノ市況ノ不況ニ依
リマシテ、非常ニ安ク抑ヘラレテ居リマシ
タノガ、段々品ガ減ッテ參ッテサウシテ而
モ生產地タル日本ニ於テモ此ノ生絲ガ多ク
需要サレルト云フ所ヲ考ヘテ來テ、段々ト
値段ガ上ッテ參ッタ、其ノ經濟界ノ原則ガ茲
ニ現レテ來タモノト言ッテ差支ガナイノデ
アリマス、然ルニ此ノ値上リガ突然ニ起リ
マシタト云フ關係カラシテ、俄カニ此ノ〓
算取引所ニ休止ヲ命ジタノデアリマス、命
ジタト云ッテハ惡ウゴザイマス、〓算取引所
ガ休止致シマシタ、其ノ休止ガデス、形ハ
其ノ取引所ノ自發的ノ意思ニ依ッテ休止シ
タト云フコトニナッテ居リマス、併シナガラ
世間ニ傳ヘル所ニ依リマスルト云フト、是
ハドウモ其ノ筋ノ意思ヲ反映シテ体止スル
ニ至ッタモノデアラウト云フ風ニ取ッテ居リ
そう、私ハ其ノ何レガ本當デアルカト云フ
コトヲ今此處デ探究スル必要ハナイト思ヒ
マン、併シナガラ此ノ〓算取引ノ休止ト云
フコトガ如何ナル影響ヲ市價ニ與ヘタカ
ト申シマスルト、立會再開ノ時ニ折角騰ッタ
所ノ絲ノ値段ガ復下ッタノデアリマス、此ノ
下ッタノガドウ云フ譯デアルカ、此ノ輸出ノ
上ニ於テ最モ忌ムベキコトハ斯ウ云フ値段
ノ亂高下デアリマス、値段ガ騰ルコトハ必
ズシモ輸出ヲ阻止スル原因ニハナリマセヌ
一旦騰ッタモノヲ騰ッタ値段デ買ッタ者ガ、又
ソレガ非常ニ下ッタト云フコトニナッタ時
二、自分ノ受ケル損害ガキビシイノデア
リマスカラ、買フコトヲ非常ニ手控ヘ
ルヤウニ相成リマス、サレバ輸出ヲ盛
ニシヨウトスルナラバ、其ノ品物ノ値段ヲ
成ルベク變動ノ少イヤウニスルト云フコトガ
最モ大切ナコトデアルノデゴザイマス、先
程モ申シタヤウニ、此ノ度ノ生絲ノ値上リ
ハ需要スルアノ國ニ於テハ不當ノ値段トハ
考ヘテ居ラヌ、高イトハ思ッテ居ナイ、又生
產セラレル所ノ品物ガ負擔シ切ラナイ程ノ
値段デハナイノニ、俄ニ之ヲ休止シタ、休
止シタガ爲ニ値段ガ落チタ、其ノ落チタ原
因ハ何處ニアルカ、玆ニ私ハ政府ニ注意ヲ
シテ貰ヒタイト思フ點ガ存スルノデアリマ
ス、固ヨリ私ハ政府ノ意思ヲ忖度スルダケ
デアリマス、聞イテ居リマセヌケレドモ、
ソレハ國內一般ノ物價政策ト云フモノヲ片
方ニ持ッテ居ッタラウト思ヒマス、又一方ニ
於テハ此ノ生絲ヲ原料ニシテ輸出スル所ノ
絹織物ノ輸出ト云フモノヲ減少サセヌヤウ
ニシヨウト云フ肚ガアッタノデハナイカト
思フノデアリマス、是ハサウ云フ見方カラ
サウ云フ政策ヲ執ラレルノモ其ノ主務官廳
トシテハ或ハ已ムヲ得ヌコトデアルカモ知
レマセヌガ、併シナガラ今日ノ如キ少シデ
モ輸出ヲ增進シテ正貨獲得ヲ努メナケレバ
ナラヌト云フ此ノ時機ニ於テ、折角大イニ
輸出ヲ盛ニシ、正貨獲得ノ出來ルヤウナ狀
況ノ現レテ來テ居ルモノヲ、單ニ此ノ國內
ニ於ケル一般物價ニ對スル政策ノミ、又僅
カナルト言フト、語弊ガアリマスガ生絲
ノ輸出カラ較ベレバ、其ノ金額ハ誠ニ少イ
絹織物ノ輸出ト云フヤウナ點カラノミ考ヘ
テ、此ノコトヲ處理セラレタト云フコトガ、
私ハ非常ナ茲ニ斯ウ云フ我々ノ遺憾ナル現
象ヲ現シタ原因デハナイカト考ヘルノデア
リマス、蠶絲ニ關スル主管官廳ハ農林省デ
アリマス、而シテ其ノ蠶絲ヲ商品トシテ取
扱フ所ノ〓算市場ハ商工省ノ主管デアリマ
ス、而シテ商工省ハ一般物價ニ關スル統制
ヲシヨウト考ヘテ居ラレル、又其ノ生絲ヲ
原料トシテ作ル所ノ絹織物ハ、是ハ商工省
ガ主管サレテ居ル所デアリマス、ソコデ此
ノ取引所ニ向ッタ所ノ處置ハ、商工省ガ自
分ノ主管シテ居ル職務ニ忠實ナル餘リ、外
ノコトヲ十分ニ考ヘル餘地ガアッタカナカッ
タカハ分リマセヌガ、ソレガ考ニ入ルヨ
リモ、自分ノ主管ノ方ガ非常ニ多カッタガ爲
ニ、己ノ主管スルコトノミニ意ヲ取ラレタ
ノデハナイカト云フヤウナ考ヲ私ニ起サシ
メルノデアリマス、殊ニ此ノ〓算市場ニ於
テ生絲ガ斯クモ一旦騰ッタモノガ下リマシ
タト云フノニハ、賣物ガ多ク出タト云フコ
トモ一ツノ原因デアリマスルケレドモ、又
政府ガ之ニ對シテハ物價ヲ騰貴サセルコト
ヲ止メヨウト云フ政策ヲ行ハレルノデアラ
ウカ、生絲ニ對シテモ其ノ政策ヲ行フノデ
アラウカト云フ危惧ノ念ガ當業者ニ起ッタ
ノデアリマス、ソレデ或ハ其ノ時ニ色々ナ
ル風說ガ飛ビマシテ、政府ハ國內ニ於ケル
生絲ノ消費ヲ是ハ制限スルダラウト云フヤ
ウナコトモアリマシタ、輸出ヲ奬勵スルガ
爲ニハ國內ノ消費ヲ制限スル必要ガアルト
云フヤウナ見地カラ、多分サウ云フ擧ニ出
ヅルノデハナイカト云フ說ガ飛出シタ、或
ハ絹織物ノ値段ヲ制限スルデアラウト云フ
說モ飛出シマシタ、現ニ生絲ノ消費ヲ制限
スルト云フコトハ、是ハ少シ考ヘタラバ
政府ガサウ云フ政策ヲ執ラレルヤウナ気遣
ハアルマイト云フコトハ分ルノデアリマセ
ウガ、併シ絹織物ノ價格ヲ制限スルト云フ
コトハ遂ニ是ハ實現ヲ見マシテ、政府ハ既
ニ之ヲ聲明サレテ居ルノデアリマス、卽チ
一月十日ニ於ケル絹織物ノ値段ヲ以テ制限
トシテ、ソレ以上ノ價格デ賣買スルコトヲ
許サヌト云フヤウナ趣旨ヲ持ッテ居ラレル
ヤニ聞キマスガ、今ヤ此ノ絹織物ノ價格ノ
制限額ハ物價委員會カ何カニ諮問サレテ居
ルヤニ承リ及ビ居リマス、是ハ商工省ガ主
管事務トシテサウ云フ處置ヲ執ラレルコト
ハ當然ト致シマシテモ、政府ハソレニ依ッテ
何モ生絲ノ値段ヲ制限シヨウト云フ積リヂ
ヤナカッタ、併シ民間ノ方デハ其ノ眞意ガ分
ラナイ、ソコデデス、一月ノ十日ニ於ケル
絹織弥ノ價格カラ勞力賃等ヲ計算シマシテ、
原料トナル生絲ノ値段ヲ計算致シマスル
ト、九百五十圓カラ千圓ノ相場ニナルヤウ
ナ程度デアルサウデアリマス、然ルニ當業者ハ
サウ云フ當然ナ所ニ解釋ヲ取ラナカッタ、或
者ガ······サウシテ政府ハ一月ノ十日ノ絹織
物ノ價格ヲ取ッテ標準トセラレルト云フコト
ダカラ、生絲ノ相場モ一月ノ十日ノ生絲相場
ヲ標準トセラレルノデアラウト云フ風ニ諒解ヲ
シタ者ガ多ク起ッタノデアリマス、ソコデ是
デハ堪ラヌト云フノデ賣リニ出タ者ガ多少
アッタト云フコトヲ私ハ聞キ及ビマシタ斯
樣ニ此ノ取引所ニ於ケル取引ニハ、實ニ皆
ノ神經ガ非常ニ銳敏ニ働イテ居リマスルカ
ラシテ、政府ノ執ラレル處置ト云フモノガ
實ニ敏感ニ此處ニ響クノデアリマス、而シ
云此ノ生絲ハ固ヨリ取引所ハ商工省ノ主管
ニ屬シテ居ルノデアリマスルケレドモ、而
モ蠶絲ノ大體ト云フモノハ、桑カラ繭ニナ
リ生絲ニナル迄ノコトト云フモノハ、農林
省ガ主管サレテ居ルノデアリマスルカラ
此ノ蠶絲ニ對スル政策ハ常ニ農林省ガ主體
トナッテ考ヘラレナケレバナラヌヤウニ我
我ハ思フノデアリマス、此ノ度ノ此ノ取引
所休止ガ果シテ主管官廳ノ意思ヲ反映シタ
モノデアルカナイカト云フコトヲ、私ハ追
究ハ致シマセヌケレドモ、確カニ主管官
廳ノ意思ガ其處ニ或程度迄加ッテ居ッタト云
フコトハ爭ハレヌ事實ノヤウニ考ヘラレマ
ス、サレバサウ云フ意思ヲ傳ヘラレルニ付
テハ蠶絲ノ主管官廳デアル所ノ農林省ト常
ニ能ク一致シテ十分ナル熟議ヲ遂ゲテ、之
ヲヤラレタカドウカト云フコトヲ私ハ尋ネ
タイト思フ位デアリマスルガ、左樣ナルコ
トヲ今私ハ此處デ追究ヲシテ見タ所デ、既
ニ起ッタ事實ハ如何トモスルコトガ出來ナ
イノデアリマスカラ、ソレ迄私ハ此處ニ政
府當局ノ辯明ヲ得ヨウトハ希望致シマセヌ、
ガ、今後ハ再ビ斯樣ナル過ヲ繰返サヌヤウ
ニサセルト云フコトガ私ハ必要デアルト考
ヘマスルノデ、ソレニ付テハ是非商工、農
林兩省ガ一體トナッテ、眞ニ此ノ輸出品ニ付
テノ處置ハ十分ニ愼重ナル態度ヲ以テ臨マ
レルヤウニセラレル必要ガアルト思フノデ
アリマスルシ、尙茲ニ生絲ニ對シテハ將來
政府ハドウ云フ方針ヲ持ッテ行クノダ、サウ
皆ガ惑ウテ居ルヤウナ生絲ノ消費ノ制限ヲ
スルトカ云フヤウナコトハシナイ、又絹織
物ノ價格ノ制限ヲシテモ、ソレニ使用スル
所ノ生絲ノ値段迄、ソレニ依ッテ、制限ヲス
ルモノデハナイト云フヤウナコトヲ、是ハ
此ノ際國民ノ前ニ明カニシテ貰フト云フコ
トガ最モ必要デアルト考ヘルモノデアリマ
ス、其ノ次ニ私ハ是ハ特ニ農林大臣ニ御尋
ヲシタイノデアリマス、今日ノ蠶絲業ニ對
スル對策ハ、平時ノ場合、卽チ言ヒ換ヘレ
バ、此ノ支那事變ガ起ル前ニ確立セラレタ
ル所ノモノデアリマス、今ヤ事情ハ非常ニ
變化シテ居ル、殊ニ輸出ヲ最モ盛ニシナケ
レバナラヌ時期ニ當面シテ居ルノデアリマ
ス是迄ノ政策ヲ何等カ變更セラレル必要
ガアリト私ハ考ヘマスルガ、政府ハドウ考
ヘラレルカト云フコトヲ承リタイト思フ、
私ノ此ノ質問ヲ致ス趣旨ノ說明ノ爲ニ、
二ノ例ヲ申述ベテ見タイト思フノデアリマ
ス、私ハ政府ニ對シテ政策ヲ新タニスル氣
ガアルカナイカト云フコトヲ聽キマスルノ
ハ今輸出スル所ノ生絲ト內地デ消費スル
所ノ生絲トハ、負擔ノ上ニ非常ナ不權衡ガ
アルノデアリマス、其ノ一二ノ例ヲ申上ゲ
マスト、曩ニ昭和四年頃ニ絲ガ非常ニ暴落
ヲ致シマシタ、ソコデ絲價ヲ維持致シマス爲
ニ、製絲業者ガ寄リマシテ共同保管ヲ致シマ
シタ、併シ到底製絲家ノ聯合デハ之ヲ背負ヒ
切ルコトガ出來マセヌノデ、遂ニ政府ニ肩替
リヲ願ッタノデアリマス、其ノ時ニ非常ナ損失
ガ方々ニ起リマシテ、政府ハ定メラレタル三
千萬圓ノ限度ニ損失ヲ負擔シ、民間ノ製絲業
者ハ三千八百五十萬圓ト云フモノヲ負擔ヲ
致シ、銀行ハ又其ノ金ノ利子ヲ犧牲ニシ、保
管料ヲモ銀行ガ負擔ヲシタト云フノデアリ
マシテ、銀行及民間ノ負擔ハ殆ド一億圓位
デアル、其ノ損失ヲ補塡致シマス爲ニ、只今
輸出スル所ノ生絲ハ千人ニ付テ七十圓ヅヽ
徵收サレマシテ、ソレデ此ノ損失ヲ補塡シ
ツヽアルノデアリマス、是ハ絲價維持ノ爲
ニ起ッタ損失デアリマスノデ、獨リ輸出スル
生絲ノミガ負擔スルモノデハゴザイマセヌ、
全國ノ製絲家ガ之ヲ負擔シナケレバナリマ
セヌノデ、ソレヲ徵收スル方法ガナイト云
フノデ、輸出スル生絲ガ之ヲ拂ッテ居ルノデ
アリマス、ソレカラ又先般製絲業ヲ整理ス
ル必要ガアルト云フノデ、釜數ノ整理ヲ致
シマシタ、丁度八萬程ノ釜ノ整理ヲシテ買
ヒ潰シタノデアリマス、其ノ費用ガ一千萬
圓程掛リマシタ、其ノ費用ハ是ハ矢張リ日
本ノ製絲家全體ノ爲ニ行ッタモノデアリマス
ノニ、其ノ一千萬圓ノ負擔ハ輸出スル生絲
ノミガ之ヲ負擔シテ居ル、是ガ千人ニ付テ
十三圓ヅヽ支拂ッテ居ルノデアリマス、ソレ
カラ又生絲ノ値段ノ變動ヲ防グト云フガ爲
ニ、絲價安定施設組合ト云フモノガ法律ニ
依ッテ出來テ居ル、此ノ絲價安定ノ組合ノ經
費ハ是迄一般ニ製絲家ガ內地ノ需要ト外國ノ
輸出ノモノトヲ問ハズ、同ジク恩典ニ浴ス
ルニ拘ラズ、其ノ費用ヲ矢張リ此ノ輸出生
絲ノミガ負擔シテ居ルノデアリマス、其ノ
他輸出ニ付テハ强制シテ檢査ヲ受ケナケレ
バナリマセヌカラ、檢査ノ手數料ト云フモ
ノヲ拂ヒマス、又其ノ檢査ノ手數料ヲ拂フ
コトガ、是ハ輸出生絲ノミガ受ケルノデア
リマスカラ、是ハ致方ナイト致シマシテモ、
其ノ檢査ノ結果カラ間接ニ受ケル所ノ損害
ト云フモノモ少クナイノミナラズ、其ノ損
害ト云フモノガ內地デ使フ所ノ生絲ト輸出
スル所ノ生絲トノ間ニ權衡ヲ失シテ居ル所
ガアルノデアリマスガ、是等ハ甚ダ微細ニ
入リマシテ、左樣ナコトヲ說明スル必要モ
ナイガ、兎ニ角斯ノ如ク輸出スル生絲ト內
地デ消費スル生絲トノ間ニ不公平、不均衡
ガアルノデアリマス、是モ平素ノ如ク輸出
スル生絲ノ方ガ遙カニ內地ニ於テ消費セラ
レル生絲ヨリモ上値ヲ走ッテ居リマス時ハ
是ハ何モ問題ニナリマセヌ、易々ト負擔ヲ
致シテ居ッタノデアリマス、然ルニ今日ノ如
ク國內ノ事情ガ生絲ニ依存スルコトガ非常
ニ多クナッテ來タト云フヤウナ場合ニハ、內
地ノ需要ノ値段ト輸出スル所ノ生絲ノ値段
ノ値幅ニ違ヒガナイヤウニナッテ來タ、斯ウ
云フ違ヒガナイヤウニナッタ時期ニハ、是ハ
何トカシテ內地ノ需要ト外國輸出トノ間ニ
均衡ヲ保ツヤウニシテヤラナケレバ、自然
最モ容易ク賣リ捌クコトノ出來ル內地需要
ノ方ニ生絲ガ向フト云フコトハ當然ナ話デ
アリマス、ソコデ私ハ政府ハ此ノ問題ニ付
テ、輸出生絲ト內地消費生絲トノ間ニ橫ハッ
テ居ル不均衡ヲ是正スル、訂正スル所ノ方
策ヲ持ッテ居ラレルヤ否ヤ、是正スル必要ヲ
認メラレルカドウカ、必要ヲ認メラレルナ
ラバ、ソレニ對スル方策ヲ持ッテ居ラレルヤ
否ヤ、若シ幸ニシテ其ノ方策ガ御アリニナ
ルナラバ、ドウ云フ風ニスル積リデアルカ
ト云フコトヲ說明シテ貰ヘバ私ハ皆ガ非
常ニ安心ヲスルデアラウト思フノデアリマ
ス、此ノ二點ニ付テ私ハ政府ノ所信ヲ質シ
テ、一般ニ惑フ所ノナイヤウニ致シタイト
考ヘマシテ、玆ニ此ノ質問ヲ提起スル所以
デゴザイマス
〔國務大臣八田嘉明君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=50
-
051・八田嘉明
○國務大臣(八田嘉明君) 只今有吉サンカ
ラ御尋ノ點ニ付キマシテ、商工當局ト致シ
マシテ一通リ御答ヲ申上ゲタイト存ジマス、
只今御話ノアリマシタル通リ、今日輸出ノ
增進ガ急務デアリマスル際ニ、此ノ生絲卽
チ我ガ國ノ國產、而シテ同時ニ輸出ノ大宗
デアリマスル所ノ生絲ニ對シマシテハ最モ
愼重ナル態度ヲ要スルコトハ全ク御話ノ
通リデアルト存ズルノデアリマス、國內需
要ト國外ノ需要ニ付キマシテモ御話ガゴザ
リマシタガ、又其ノ點ニ付キマシテモ同感
ニ考ヘテ居ルヤウナ次第デアリマス、デ、
之ニ關聯致シマシテ只今取引所ノ休止ノコ
トニ對シテ御話ガゴザリマシタ、是ハ敢テ
特ニ御質問ト云フコトデハナイヤウニモ考
ヘマシタケレドモ、此ノ際申上ゲテ置ク方
ガ宜シイカト存ジマシテ、極ク簡單ニ商工
當局ノ關シテ居リマスル點ダケヲ申上ゲタ
イト存ズルノデアリマス、御承知ノ如ク
近時一般ノ商品ハ投機的ニ取引ヲ致スト云
フコトハ大變鎭靜ニ歸シテ居ル次第デアリ
マスルケレドモ、特ニ或制限ノ加ッテ居リマ
セヌ所ノ品物ニ對シマシテハ兎角動モス
レバ思惑的取引ト云フモノモ起リツヽ又
起ラムトスル傾向ノアリマスルコトハ否ミ難
イノデアリマス、生絲ニ對シマシテハ斯カ
ル情勢ガアッタカドウ〓カト云フコトハ、只今
御話ノ中ニモアリマシタル通リ、見方ニ依ッ
テ或ハ異說ガアルカト存ズルノデアリマス、
併シナガラ何レニ致シマシテモ思惑取引若
シクハ思惑ニ依リマスル所ノ商品ノ賣買ト
云フコトニ付キマシテハ當局ニ於キマシ
テハ極力之ヲ事前ニ於テ、或ハ已ムヲ得ナ
イ時ニハ法ノ力ニ依リマシテヘヲ抑制ス
ルト云フコトガ必要デアルト云フコトヲ現
下痛切ニ感ジテ居ルノデアリマス、處デ此
ノ取引所ニ關シマシテハ商工當局ガ其ソ
監督指導ノ立場ニアリマスル責任上、當日一
其ノ取引物品ノ徒ラナル奔騰ト申シマスカ、
上下ヲ致シマスト云フコトニ付キマシテ
ハ成ルベク之ヲ差控ヘルヤウナ風ニ平生
ニ於テ關係理事者トモ話シ合ッテ居ルト云
フ事實ハアルノデアリマス、先頃神戶竝橫
濱ノ取引所ニ於キマシテ、二日ノ日デゴザ
イマシタカ、一日ヲ休ンダト云フコトニ付
キマシテハ其ノ前日ニ於キマシテ一日ニ
五十圓ノ暴騰ヲ致シタノデアリマス、此ノ
五十圓一日ニ暴騰スルト云フコトハ、見方
ニ依ッテハ當然他ノ方面ノ需要供給ノ關係
カラサウナッタトモ見レマセウシ、或ハ又思
惑的傾向ガ及シタモノトモ考ヘラレルノデ
アリマスルガ、其ノ點ハ只今申上ゲタ通リ、
必ズシモドノ點ガ、ドウ云フ理由ガ最モ正
鵠ヲ得テ居ルカト云フノハ各〓觀察ニ依ッテ
違フト存ジマスルノデ、御話ニモアリマシタ
ル通リデアルト存ズルノデアリマス、併シ
ナガラ其ノ時ノ情勢ガ動モスレバ更ニ爆發
的暴騰ヲ續ケルヤニ考ヘラレタノデ、其ノ
當事者ニ於キマシテ、平生話合ッテ居ルヤウ
ナ關係カラ白發的ニ一日ノ休止ヲサレマ
シテ、其ノ間ニ申合ヲサレ、詰リ取引所ニ
於テ申合ヲサレテ、サウシテ之ヲ委託者ニ
徹底サセルノ時間ト、サウシテ又整理等ノ
都合ガアッテ、自發的ニ立會ヲ中止シタト云
フ事實ガアルノデアリマス、之ニ付キマシ
テハ其ノ翌日又營業開始ヲシタノデアリマ
スガ、今日迄營業ヲ繼續致シテ居リマスル
ケレドモ、幸ニモソレニ依ッテ生絲ノ暴落ヲ
見ズ、又非常ナ暴騰モ見ナイト云フヤウナ
ノガ今日ノ事實デアルノデアリマス、卽チ
千何十圓ト云フ所ニ只今其ノ價ガアルヤウ
ニ承知致シテ居ルノデアリマス、併シナガ
ラ只今御話ノ如ク徒ニ物品ノ價格ニ響クヤ
ウナコトハ特ニ注意ヲ要スルコトデアルト
考ヘマスルノデ、御注意ノ點ハ今後ニ於キ
マシテ特ニ愼重ナル注意ヲ致シタイト考ヘ
テ居リマスノデ、御了承ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス、要スルニ生絲ノ如キモ亂調
子ヲ以テ上下スルト云フコトヲ非常ニ當業者
ニ於テモ惧レテ居ルト云フコトハ事實ノヤ
ウニ考ヘルノデアリマス、又之ニ關聯致シ
マシテ、絹織物竝其ノ製品ヲ······本月ノ四
日デゴザイマシタカ、物品販賣取締規則ニ
依リマシテ告示ヲ致シタノデアリマスガ、
之ニ付キマシテモ實ハ絹織物ハ昨年ノ十二
月頃カラ非常ナ暴騰ヲ續ケマシテ、先頃ニ
至リマシテハ五割、六割ノ暴騰ヲ見ルト云
フヤウナコトニナリマシタノデ、他ノ纖維
品ニ付キマシテハ總テ價格ガ抑制サレテ
居リマスルモノデアリマスルカラ、此ノ
純絹織物ニ向ッテノミ思惑ガ殺到致シテ
參ッタコトハ疑ナイ事實デアルノデアリマ
ス、併シ之ヲ下手ニ抑制ヲ致シマスルト、
其ノ結果ハ縱令其ノ製品、其ノ原料ハ國
內向ノ絹絲デハアリマスルケレドモ、併シナ
ガラソレガ動モスレバ輸出等ノ關係ニ響キ、
或ハ農業生產ト云フ見地カラシテ、是ガ惡
影響ヲ來スト云フコトヲ惧レマシテ、其ノ
暴騰ヲ見ナガラ恐ラク二三箇月手ヲ著ケナ
カッタノモ御承知ダト思ヒマス、併シナガラ
新聞紙上等ニ於キマシテハ此ノ問題ハ盛ニ
取扱ハレ、又各銀行關係ニ於キマシテモ思
惑的資金ニ付テハ融通ヲ禁止スルト云フヤ
ウナ申合モシテ居ッタコトヲ承知致スノデア
リマス、斯樣ナ次第デアリマスノデ、出來
ルダケ成ルベク手ヲ著ケナイノガ宜シイノ
デアリマシタガ、只今申上ゲタヤウナ非常
ナル暴騰デアリマスノデ、他ノ自肅價格等
ノ關係モアリ或ハ他ノ纖維品ハ悉ク之ヲ
抑制シテ一ツノ價格ニ止メテ居リマスヤ
ウナ關係上、之ヲ放置スルコトガ出來ナカッ
タ事情モ一ツ御諒察ヲ願ヒタイノデアリマ
ス、併シナガラ此ノ結果、幸ニモ此ノ原料
デアリマス生絲ニハ何等響カナカッタト云フ
コトハ、誠ニ幸ト存ジテ居リマスル次第デ
アリマスガ、併シナガラ御說ノ如ク十分ナ
ル注意ヲ拂ヒマシテ、今後ニ於キマシテハ
特ニ農林當局其ノ他トモ、更ニ將來ノコト
ニ付キマシテハ十分聯繫ヲ取リマシテ、徒
ニ世間ニ於テ恐怖等ノ起ラナイヤウニ努メ
タイト存ズルノデアリマス、此ノ點ヲ私カ
ラ御答へ申上ゲル次第デアリマス
〔國務大臣櫻內幸雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=51
-
052・櫻内幸雄
○國務大臣(櫻內幸雄君) 只今有吉君カラ
生絲ニ對スル所ノ私共ノ考ノ持チ方ニ付テ
御尋ガアッタノデアリマス、此ノ問題ハ極メ
テ重要ナル問題デアリマスガ故ニ、大要私
共ノ意見ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、
生絲ガ最近ニ至リマシテ非常ナ騰貴ヲ致シ
タ、是ハ今御話ノ如ク現實ノ事實デアリマ
ス、何ガ故ニ斯樣ナ騰貴ヲ致シタカ、是一、
御承知ノ如ク昨年繭ガ約一割三分程減產致
シマシテ、約七千數百萬石ト云フ數字ニ減ツ
タノデアリマス、其ノ結果本年生絲ノ生產
量ガ減ルト云フコトガ想像致サレマス、是
ガ生絲ノ騰貴シタ一ツノ重要ナ原因ヲ成シ
テ居ルコトト思ヒマス、更ニ大ナル原因ヲ
成シテ居リマスモノハ國內ニ於ケル所ノ生
絲ノ需要デアリマス、棉花ノ入リマセヌ結
果ハ、自ラ綿絲ニ關係シ綿絲布ニ關係ヲ致シ
マスノデ、自然ト綿布類ガ騰貴ヲ致シマス、
殊ニ制限ガサレテ居ルノデアリマス、又人絹
類モ原料タル「パルプ」資材ヲ輸入致シマス
關係上、是モ統制ヲ致サレテ居リマス、獨
リ生絲ガ自由ニ賣買ヲサレテ居リマスル結
果絹織物ニ對スル所ノ需要ト云フモノガ
急激ニ增加致シタノデアリマス、殊ニ重工
業ニ從事サレテ居ル所ノ從業員諸君其ノ他
ノ方々デ、所謂現在ノ時局ニ沿ウテ相當ノ收
入ガアル方々ハ自然ト絹布ヲ買フ情勢ニ相
成リマシタ、是ハ織物工場ニ付テ調ベテ見
マシテモ、又三越、白木屋等ノ「デパート」
ニ付テ調ベテ見マシテモ相當ナル增加デア
リマス、卽チ何レモ生絲ヲ要スルノデアリ
マスガ故ニ、自然ニ國內需要ト云フモノガ
增加ヲ致シマシタ結果、茲ニ生絲ガ缺乏ヲ
致スコトトナッタノデアリマス、此ノ生絲ガ
値上リヲスル情勢デアリマスノデ、「アメリ
カ」ノ市場ニ於キマシテハ、今ニ下ルデア
ラウ、去年ノ情勢カラ見テモサウ騰貴ハシ
ナイデアラウト云フ關係上カラ、仕入ヲ手
控ヘテ居ッタ傾モアルノデアリマス、私共ノ
方デ調査致シマスル所ニ依リマスルト「ア
メリカ」ニ於ケル所ノ、所謂靴下業者ノ手
持ノ在庫品ト云フモノハ、非常ニ激減ヲ致
シテ居リマス、是等ノ事情ガ綜合サレテ、
今日ノ生絲ノ騰貴ヲ見タモノト斯樣ニ解釋
致シテ居リマス、而シテ政策ト致シマシテ
ハ今日位ノ相場ヲ維持スルコトハ農村
ノ繭ノ增產ヲ圖ル上ニ於テモ私ハ必要ダト
思ッテ居リマス、又幸ニシテ輸出ガ出來マス
ルナラバ八百圓デ一俵ヲ賣ルヨリモ、千
圓デ賣ッタ方ガ國際貸借ノ上ニ利益ガア
リマス、故ニ此ノ點ニ付キマシテハ「アメ
リカ」ノ市場ニ於テ、ドノ程度迄日本ノ生
絲ヲ買ヘレバ引合フデアラウカト云フ
コトニ付テ、深キ〓究ヲ致サナケレバナラ
ヌト思ヒマシテ、私就任以來百方調査ヲ致
シタノデアリマス、其ノ結果ハ、何レノ輸
出商モ、亦「アメリカ」ニ市場ヲ持ッテ居ラレ
ル方々モ、九割五分迄ハ、千圓程度若シク
ハ千百圓程度迄ハ買ッテ來ルダラウト云フ
風ナ解釋ヲオ持チデアリマス、ソレハ何故
ニサウ云フ解釋ガ下ッテ來ルカ、「アメリ
カ」ノ市場ハ決シテ活潑デハナイ、然ルニ
斯樣ナ事情ガ、何處ニサウ云フ風ニ起ッテ
來ルノデアルカト云フ御意見モアリマスル
ガ、只今有吉君ノ御話ノ如ク、從來我ガ國
ニ輸出致シマシク所ノ生絲ノ六割、七割ト
云フモノハ、織物ニナッテ「アメリカ」ノ婦
人等ガ使ッテ居リマシタガ、數年此ノ方ハ
ソレガ非常ナル變化ヲ致シマシテ、靴下ニ
大分使フヤウニナリマシタ、年々ニ靴下ニ
使用スルモノガ殖エテ織物ニスルモノガ非
常ニ減ッテ、今日デハ七割何分ト云フモノ
ハ靴下ニ使ッテ居リマス、二割幾分ト云フ
モノガ僅カニ織物トシテ殘ッテ居ル譯デア
リマス、此ノ靴下ニ對シマシテハ「アメリ
カ」ノ婦人ハ全ク日本品ノ「フアン」デアリ
マシテ、日本品ニアラザレバ靴下ヲ使ハナ
イト云フ位ノ流行ニナッテ居リマス、肌觸リ
ノ點ニ於キマシテモ、持チノ點ニ於キマシ
テモ、有ラユル點ニ於テ日本ノ生絲ガ優秀
デアルト云フコトニナリマシテ、最早世界
何レノ國モ日本ノ生絲ニ敵スルモノハナイ
ノデアリマス、殊ニ況ヤ一足ノ價格ガ八十
「セント」內外デアリマスノニ、之ニ要スル
所ノ生絲ハ僅カニ十何「セント」デアリマス、
卽チ極メテ生絲ガ小部分デアリマス、從ヒ
マシテ不幸ナル日米間ノ感情ノ疎隔ノ來リ
マシタ際ニモ、日本品排斥ガ起リマシタ場
合ニモ、卽チ此ノ生絲ノ輸入ニ依ッテ、「アメ
リカ」ノ非常ニ多數ノ人ガ生活ヲ致シテ居
リマスガ故ニ、此ノ生絲ニ對シテダケハ排
貨ガ起ラナカッタ、斯樣ナ關係ニナッテ居リ
やく、故ニ最近非常ニ暴騰致シマシタケレ
ドモ、「ニューヨーク」ノ電報ヲ見マスルト
一「ダース」ニ付テ僅カニ一一十五「セント」上ッ
タダケデアリマス、靴下ノ値段卽チ一足ニ
對シマシテ二「セント」ホカ上ッテ居リマセ
ヌ、故ニ此ノ二「セント」或ハ三「セント」位ノ
モノハ値上リヲシテ居ルガ、「アメリカ」カ
ラシテ生絲ハ買フデアラウ、斯ウ云フ解釋
デアリマス、故ニ價格ト致シマシテハ、現
在ノ價格ヲ下ゲナケレバ「アメリカ」ニ賣レ
ヌト云フ事柄ハナイト思ヒマス、唯賣ル品
物ガ果シテ確保出來ルカ否カト云フコトヲ
私ハ心配致シテ居リマス、從來七十萬俵出來
マス中デ、四十七萬俵乃至四十五萬俵ガ輸出
デアッテ、二十三萬乃至一一十五萬ガ國內需要
デアリマシタノガ、此ノ國內需要ガ急激ナ增
加ヲシテ三十萬ガ三十五萬トナリ四十萬ト
ナッタ場合ニ於テ、輸出スル生絲ガ確保サレ
ルカト云フト、是ハ非常ニ心配ナ事柄デア
ルノデアリマス、固ヨリ輸出ハ十四中ト申
シマシテ極メデ高級品デアリマス、國內デ
使ッテ居リマスモノハ.一十一中ト云フノガ
大部分デアリマシテ、稍劣ッテ居ル品物デ
アリマス、併シナガラ順次此ノ高級品ヲ使
フ風習ガ起ッテ來ツヽアルノデアリマスガ故
ニ、此ノ品物ヲ確保スルト云フ事柄ハ非常
ニ大事ナコトデアリマス、故ニ政府ハ此ノ
點ニ付キマシテ深ク考慮ヲ拂ッテ、此ノ輸
出生絲ト云フモノノ確保ニ對シテ實ハ全力
ヲ盡シテ居リマス、併シナガラ政府ガ若シ
輸出品ヲ、必ズ輸出スベキ品物ヲ、此處ニ
斯ウ云フ風ナ方法ニ依ッテ、確保スルノダト
云フコトガ、若シ是ガ外國ノ見ル所トナリ
マスレバ、ソレハ是ハ安クテモ賣ルデアラ
ウト云フノデ、又相場ノ崩レル虞ガアルノ
デアリマス、政府ト致シマシテハ適當ニ之
ヲ調節シナケレバナラヌト、考ヘテ居リマ
ス、併シナガラ一面カラ申セバ、生絲ノ値
段ガ上レバ上ル程宜イデハナイカ、千圓ノ
モノガ千二百圓ニナリ千三百圓ニナル、サ
ウスレバ、四十七萬俵ノモノガ約四十萬ニ
減ッテモ、三十五萬ニ減ッテモ、三十五萬ニ
減ッテ千二百圓ナラバ、卽チ四億二千萬圓入
ルデハナイカ、昨年ノ三億六千萬圓ヨリ
ズット宜イデハナイカ、斯樣ナ議論モ議論
トシテ受取レルノデアリマスケレドモ、併
シナガラ我々此ノ監督ノ地位ニ在ル者ト致
シマシテハ、是ガ餘リニ騰貴致シタ場合ニハ、
ドウ云フ影響ヲ及スカ、一面ニ於テハ國內
ノ物價ヲ刺戟シテ、總テノ物價ヲ上ゲル傾向
ヲ起シハシナイカ、是モ恐ルベキコトデア
リマス、是ハ容易ナラザル問題デアリマス、
又一面ニハ日本ノ品物ガ高クナッタ結果、「ア
メリカ」ノ市場ニ於ケル所ノ日本品ノ愛好
者ガ他ニ奪ハレル虞ハナイカ、卽チ是ガ代
用品ノ方面ニ奪ハレ、或ハ「イタリー」品ニ
之ヲ蠶食サレル斯樣ナル事柄ガアッテハ
ナラヌト又考ヘルノデアリマス、卽チ適當
ナル價格ニ於テ「アメリカ」ノ要求スルダケノ
品物ヲ供給致シタイト云フコトガ我々ノ考
ヘテ居ル所デアリマシテ、其ノ正當ナル價
格ガドノ程度デアルカ、又確保スベキ所ノ
生絲ノ數量ガドレダケ必要デアルカ、之ヲ
確保スルノニハ如何ナル方法ニ依ッテヤル
カト云フコトダケハ、今日只今此ノ席デ私
ハ言明スルコトガ出來ナイノデアリマス、
唯此ノ點ニ付キマシテハ深ク注意致シテ居
ルト云フコトダケニ付テ御諒承ヲ願ヒタイ
ト思ヒマス、商工省ニ於テ先般告示セラレ
タ品物ヲ、卽チ暴騰シタル絹絲布、絹織布
ヲ相當ノ値段ニ調節シタ、是ハ申ス迄モナ
ク低物價政策ニ卽應スルト云フ事柄ト、餘
リニソレガ生絲其ノ他ニ較ベテ多ク騰貴シ
テ居ッタト云フ關係上カラ、是ハ統制サレタ
モノト考ヘマス、併シ今後ニ於キマシテド
ウ云フ風ナ絹織物ニ對シテノ政策ヲ執ルカ
ト云フコトニ付テハソレハ我々常ニ商工
當局ト密接ナル關係ヲ取ッテ十分協議ヲ致
シテ決メタイト考ヘテ居リマス、最後ニ生
絲政策ヲ變換スルノ考ハナイカ、斯樣ナ御
質疑デアリマス、卽チ輸出生絲ニ對シマシ
テハ、今日從來ノ損害ノ補償ヤラ或ハ其ノ
他ノ關係ニ於テ或「ハンデイキヤップ」ガ附
イテ居リマス、之ヲ一掃シテシマッテ、輸出
生絲ノ便利ヲ圖ルノ意思ガナイカ、生絲輸
出ニ對シテ奬勵スルノ意思ガナイカト云フ
風ナ御意見ノヤウデアリマシタガ、此ノ點
ニ付テモ〓究ヲ致シテ居リマス、之ニ對シ
テ今ドウ云フ方策ヲ以テ之ニ對スルカト云
フコトハ申上ゲニクイノデアリマスケレド
モ、併シ現在ノ國內ノ需要ト云フモノハ、
單ニ其ノ位ナ開キノモノデハナイノデアリ
マン、國內ノ需要ハ恐ラク國外ニ出ル値段
ヨリハ更ニ百圓、百五十圓ト云フヤウナ差
額ガ起リツヽアルデハナイカト思ヒマス、
元來申セバ、輸出品ガ千圓デアルナラバ國
內品ハ九百二三十圓デアッテ宜シイノデア
リマスケレドモ、此ノ相場ガサウ云フ風ナ
懸隔ヲ持ツカ持タヌカト云フコトハ、餘程ノ
疑問ガアルコトデアリマス、從ヒマシテ輸
出生絲ニ對スル政策ト、又國內需要ニ對ス
ル所ノ生絲ノ奬勵デアルトカ、生絲ノ生產
デアルトカ或ハ織リ方デアルトカ云フコト
ニ付キマシテハ自ラ變ヘテ行クト云フコ
トニ付キマシテハ、是ハ考究スベキ必要ガ
アルト斯樣ニ考ヘテ居リマス、サウ云フ點
ニ付キマシテハ十分商工、農林兩省ノ間ニ
於テ密接ナ連絡ヲ取リマシテ、萬遺算ナキ
ヲ期シタイト斯業ニ心得テ居リマスノデ、
一應茲ニ御答辯ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=52
-
053・有吉忠一
○有吉忠一君 簡單ニ致シマスカラ、此處
カラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=53
-
054・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 宜シウゴザ
イマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=54
-
055・有吉忠一
○有吉忠一君 只今私ノ質問ニ對シテ商工
大臣ハ、今後大イニ其ノ取扱ニ付テ注意シ
ヨ·ハ、又愼重ニ取扱フコトヲ心掛ケル積リ
デアルト云フコトヲ明言サレマシテ、私ハ
ソレニ滿足致シマス、尙櫻內農林大臣ノ述べ
ラレマシタルコトハ、私ガ先ニ述ベタ所ト殆
ド同一デアリマシテ、私ハ其ノ所感ヲ農林大
臣ガ同ジウシテ居ラレルコトニ付テ是モ滿足
ヲ致シマス、唯輸出生絲ト內地消費ノ生絲トノ
間今日執ッテ居ル所ノ政策ヲ變更スル所ノ意
思ガアルカナイカト云フコトヲ御尋ネシタ
ニ對シテハ、私ハ必ズシモ輸出生絲ニ對シ
テハ何等カノ補助ヲヤレト云フヤウナ、サ
ウ云フ特別ナル待遇ヲ與フルカドウカト云
フヤウナコトヲ御尋ネシタ積リハゴザイマ
セヌ、唯不均衡ナル負擔ヲシテ居ルノデア
リマスカラ、其ノ不均衡ヲ訂正スルト云フ
コトガ、特ニ輸出ヲ奬勵シナケレバナラヌ
時期ニ際會シテ居ルノデアルカラ、サウ云
フコトデ尙均衡ヲ得ルヤウニスルト云フコ
トガ必要デハナイカト云フコトヲ申上ゲタ
ノデアリマス、今農林大臣ハ內地ノ需要ガ
非常ニ盛デアルガ故ニ、內地ノ生絲ノ價格
ハ輸出ノ價格ヨリモ餘程上走ッテ居ル、サレ
バソレ位ノコトヲ訂正シテモ果シテ輸出ニ
生絲ガ向キ得ルカ否カト云フコトハ疑問デ
アルト云フヤウナ御答デアツタヤウニ諒解
ヲ致シマシタ、併シ若シ斯樣ニ內地ニ於ケ
ル生絲ノ値段ガ、輸出スル生絲ヨリモ遙カ
ニ上走ルト云フヤウナコトデアッタトシマ
スルナラバ、幾ラ輸出ヲ奬勵シヨウトシテ
モ、ナカ〓〓其ノ奬勵ハ效果ス擧ゲル見込
ガ薄イト申サネバナラヌノデアリマス、是
ハ實ニ重大ナル問題デアルト考ヘマス、私
ハドウカ內地ノ消費ニ向フ所ノ生絲ノ値段
ガ、輸出セラレル生絲ヨリモ遙カニ上走ル
ト云フヤウナコトノ起ラヌヤウニ十分ナル
注意ヲ農林大臣ニ於テ執ラレムコトヲ切望
シテ已マヌノデアリマス
〔議長伯爵松平賴壽君議長席ニ復ス〕
尙又今日ハ生產增殖ガ最モ大事デアリマ
ス、只今農林大臣ガ述ベラレマシタル如ク、
農家ハ此ノ際織物ノ原料トナルベキ色々ナ
ル物ガ不自由ヲ感ジテ居リマスル際ニハ
成ルベク斯ウ云フ國內ノ消費ニ當テ得ルダ
ケノ品物ヲ造リ得ラレルヤウニシテヤルト
云フコトガ最モ大事デアリ、又ソレガ一般
公衆ニ便宜ヲ與ヘルバカリデナク、農家ノ
經濟ヲ助ケルコトニモナリマス、サレバ此
ノ增產ヲ妨害スルヤウナル政策ハ成ルベク
執ラヌヤウニシテ貰ヒタイド云フコトヲ私
ハ希望致シマス、今日ハ時間モ延ビテ參リ
マシタカラ私ノ質問ハ是デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=55
-
056・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 小林嘉平治君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=56
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057・小林嘉平治
○小林嘉平治君 時間ガ切迫致シテ居リマ
スノデ、私モ簡單ニ此ノ席カラ質問ヲ御許
シ願ヒマス、私ハ只今ノ內務大臣ノ御答辯
ニ對シテ確メテ置キタイコトガアルノデゴ
ザイマス、內務大臣ノ御答辯ニ依リマスト、
此ノ際市制ノ改正ハ又府縣制トモ睨ミ合
ハシテ〓究センナラヌカラシテ、此ノ際提
案ヲ見合セタノデアル、斯ウ云フ御答デア
リマシタ、此ノ市制ノ改正ト云フコトハ單
ナル市制ノ改正デナイノデ、大キナ問題ガ
其ノ中ニ隱レテ居ルノデアリマス、何カト
云フト、アノ都制案デアリマス、是ト切離
シテ市制ノ改正ト云フコトハ私ハ出來ナイ
ト思フ、都制案ヲ改正スルト云フコトニナ
ラネバ市制案ヲ改正スルコトハ出來ナイ、
ソレデナケレバ町村制モ延イテ改正ガ出來
ナイト云フコトニナリマシタナラバ、我々
ノ期待ニ反スルコトハ非常ニ大キイノデア
リマス、政府ニ於カレテハ、衆議院ニ多少
ノ反對ガアルト云フヤウナコトヲ御認メニ
ナッテ居ルヤウデアリマスルガ、私ノ知ル範
圍ニ於テハ、g
部ニアリマシタガ、、初期に 武汉創チカットのアルコールで
詳シイ說明ヲ聽イテ見タガ、アレナラバ結
構デアル、多少ノ修正ハシナケレバナラヌ
ガ、ナゼ出サヌノデアラウカト云フコトヲ
現ニ私ニ告ゲテ居ル人ガアルノデアリマス、
又御見合セニナッテカラ、此ノ都下ノ大新聞
ガドウ云フ論調ヲ取ッテ居ルカト云フコト
ヲ能ク御考へ下スッテ、サウシテ都制案ノヤ
ウナ大キナ問題ノ潜ンデ居ル此ノ市制案ト
ハ切離シテ、サウシテ此ノ町村制ノ改正ニ
一日モ早ク御掛リ下サルヤウニ切ニ望ンデ
置キマス
〔國務大臣侯爵木戶幸一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=57
-
058・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 小林サンノ
御尋ニ御答ヘ致シマス、此ノ町村制ノ改正
ニ付キマシテハ、先般內閣ニ於テ其ノ提案
ヲ見合セタコトニ付キマシテノ聲明ヲ致シ
タノデアリマス、其ク中ニハ要スルニ市制、
自治制度ノ改正ハ、市制、町村制及府縣制
ニ亙ッテ考究スルヲ要スルヲ以テ、政府ハ更
ニ自治制度全般ニ關スル方針ヲ決定シタル
上、法案ノ提出ヲナスコトニシ、今囘ノ町
村制ノミノ改正案ハ見合ス、斯ウ云フコト
ニ決メテ居ルノデアマリス、從ヒマシテ只
今御話ノヤウニ、市制ニ關聯致シマシテ都
制案ノ方モ〓究致ス筋合ニナッテ居リマス
唯問題ハ要スルニ是等ノ方針ガ一應決定致
シマスレバ、必ズシモ全部ノ法案ヲ揃ヘナ
ケレバナラヌト云フ建前ニハナッテ居ラヌ
ノデアリマス、町村制、市制其ノ他總テノ
方針ヲ決定致シマシタ上デ成ルベク速カニ
此ノ問題ヲ解決シタイト考ヘテ居ル次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=58
-
059・小林嘉平治
○小林嘉平治君 只今ノ御答辯ニ依ッテ私
ハ全ク誤解デアッタコトヲハッキリ申上ゲテ
置キマス、私ノ了解スル所ニ依レバ市制モ
脱ミ合シテ〓究ハスルガ、併シ其ノ意味ハ
市制ト切離シテ町村制ヲ提案スルノデアル
ト云フ斯ウ云フコトニ了解致シマシタ、滿
足致シマス、ドウゾ宜シク御願ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=59
-
060・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ質疑通〓
者ハ全部濟ミマシタ、是ヨリ討論ニ移リマ
ス、通〓順ニ依リマシテ發言ヲ御許ヲ致シ
マイク長岡隆一郞君
〔長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=60
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061・長岡隆一郎
○長岡隆一郞君 本員ハ只今議題ト相成ッテ
居リマスル昭和十四年度歲入歲出總豫算案
竝昭和十四年度各特別會計歲入歲出豫算案
及豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件、右諸案ニ對シテ贊成ノ意ヲ表
スル者デアリマス、但シ之ヲ贊成スルト共
ニ本員ノ希望ノ二三ヲ述ベマシテ、贊成ノ
理由ヲ明カニ致シタイト存ズルノデアリマ
ス、固ヨリ是ハ本員一人ノ意見ニ止リマシ
テ本員ノ所屬スル會派ノ意見ヲ代表スル
モノデハゴザイマセヌ、第一ハ政府部內ノ
統一、融和ト云フコトデアリマス、事變以
來政府ハ屢〓國民ニ對シテ國民精神ノ融和ト
云フコトニ付キ御諭シヲ示サレ、又國內ノ
相剋摩擦ヲ戒メテ居ラレマス、併シナガラ
國民ハ政府ノ御諭シヲ待ツ迄モナク互ニ相
戒メ、其ノ精神ヲ緊張致シテ居リマス、大
都會ニ於ケル狀況ヲ見マスト如何ニモ苦々
シイ幾多ノ現象ニ接シマスルケレドモ、斯
カル悲シムベキ例外ハ比較的少數デアリマ
シテ、國民ノ大部分ハ相一致シ、又精神ヲ
緊張致シ、銃後ノ護リヲ固ク致シテ居リマ
ス、殊ニ地方農村ニ參リマスト、男モ女モ
老イタル者モ幼キ者モ富メル者モ貧シキ者
モ、各〓其ノ分ニ應ジテ淚グマシキ程努力致
シ、擧國一致ノ實ヲ擧ゲテ居リマス、帝國
議會ニ於キマシテモ事變勃發以來、政府ノ
事變遂行ニ關スル政策ト方針トハ極力之ヲ
支持致シテ居リマス、固ヨリ議員ノ本分ト
致シマシテ、或ハ立入リタル質問、討論ヲ
致シタコトハゴザイマセウ、併シナガラ結
果ニ於テ見マスルナラバ、政府ノ提案サレ
タ事變遂行ニ關スル豫算案、法律案ニ對シ
テハ全部協贊ヲ與ヘテ居リマス、政府ガ現
地不擴大主義ト言ハレヽバ國民ハ之ニ從ッテ
居リマス、政府ガ蔣介石ヲ相手ニセズト言
ハレヽバ國民モ亦之ニ從ッテ居リマス、政府
ガ帝國不動ノ方針ト決意トヲ宣言致サレヽ
バ國民ハ又默々トシテ之ニ從ッテ居リマス、
國民ハ此ノ未曾有ノ大事變ニ際シ只管政變
ノ起ルコトヲ憂ヘ、政府當局ガ長ク其ノ職ニ
御留リニナリマシテ、誠心ヲ披瀝シ、全力ヲ擧ゲ
テ時局ノ拾收ニ當ラレムコトヲ希望致シテ居
ルノデアリマス、然ルニ過去ニ於キマスル內閣
ニ於ケル實情ハ如何デアリマセウカ、國民
精神ノ統一融和ヲ說ガレル政府部內ニ於テ、
果シテ相剋摩擦ガナカッタデゴザイマセウ
カ、申ス迄モナク人其ノ面ヲ異ニスル每ニ
各〓其ノ心ヲ異ニス、政府ヲ構成スル各省官
吏ノ間ニ意見ノ相違アルコトハ、是ハ巳ム
ヲ得ザルコトデアリマス、又斯カル事實ハ
如何ナル時代ニ於テモ見ラレタ現象デゴザ
イマス、併シナガラ斯カル場合ニ於キマシ
テハ、其ノ異レル各省ノ意見ヲ檢討致シ
十分調査〓究ヲ重ネラレタ後ニ、内閣總理大
臣ニ於テ最後ノ決定斷案ヲ與ヘラレタル上
ニ、國策トシテ定メラレタル方針ヲ國民ノ
前ニ提示發表セラレタモノデアリマス、然
ルニ近來ニ於テハ然ラズ、新聞記者ガ第六
感ヲ以テ「スクープ」シタル事實ナラバイザ
知ラズ、各省官吏ガ口頭又ハ文書ヲ以テ新
聞記者ニ獨自ノ意見ヲ發表致シ、內閣ノ方
針未ダ定マラザルニ先チ、他省ノ方針ヲ論
難攻擊致シテ居ル、斯クノ如キ事例ハ或ハ總
動員法第十一條ノ問題起レル際ニ於テ、綜
合「リンク」制ノ問題紛糾セル際ニ於テ、又最
近ニ於テ生絲暴騰問題ニ對スル農林、商工
兩省ノ對立ノ如キ、其ノ他屢〓我々ノ見聞シ
タル事實デアリマシテ、我々國民ハ國策果
シテ何レニアリヤ、其ノ歸趨ニ迷フノデゴ
ザイマス、本員ハ關係各省ノ甲ノ意見ハ是
ナリ、乙ノ意見ハ非ナリト云フガ如キ內容
ノ批評ヲ致ス意思ハ毛頭ゴザイマセヌ、併
シナガラ各省區々ノ意見ヲ發表セラルヽ結
果、國民歸趨ニ迷フコト尙之ヲ忍ブベシ
又平時ニ於テハ各省時トシテ其ノ未定稿
ヲ公ニ致シ、輿論ニ探リヲ入レルト云フ
コトモ是亦一策デゴザイマセウ、然レドモ
現在ハ非常時デアリマス、交戰國竝ニ我ガ
國ニ好意ヲ有セザル第三國ハ飛耳長目、
虎視眈々トシテ日本ノ國情ヲ凝視シテ居ル
時デアリマス、政府部內ノ意見ノ不統一ヲ
發表セラルヽコトハ百害有ッテ一利無シ、平
沼內閣總理大臣ハ宜シク前車ノ覆轍ニ鑑ミ
テ、將來ニ於テハ國民ノ相剋摩擦ヲ戒メラ
レル前ニ、政府部內ノ意見ノ相違ヲ內部ニ
於テ統一セラレルヤウ希望スル次第デゴザ
イマス、第二ハ官吏、官僚ノ自肅自戒デア
リマス、之ニ關シマシテハ從來屢〓、貴衆兩院
ニ於テ論議セラレ、平沼内閣總理大臣ニ於
カセラレマシテモ亦官僚獨善ノ非ナルコト
ヲ認メラレ、二月二十四日付內閣訓示號外
ヲ以テ各官廳ニ對シ、濫リニ高ク自ラ標置
シ獨リ自ラ大ナリトスルハ取ラザル所ナリ
ト戒メラレテ居リマス、本員ハ平沼内閣總
理大臣ガ民ノ聲ヲ聽クニ吝カナラザル御態
度ニ對シ、敬意ヲ表スルモノデゴザイマス
ガ、久シク官界ニ浸潤シ、習性トナッテ居リ
マスル傲慢尊大ノ惡風ガ、一片ノ御訓示ニ
依ッテ掌ヲ覆スガ如ク改マルモノトハ思ハレ
マセヌ、固ヨリ本員ハ事變以來各官廳ノ事
務ノ激增セルコトハ知ッテ居リマス、又官吏
諸君ガ御勉强ニ增ナッテ居ラレルコトモ能
ク承知致シテ居リマス、又固ヨリ本員ハ官
廳ニ於テ許可スベカラザル事項ヲ許可スベ
シト云フガ如キ、行政ノ內容ニ立入ッテ論議
スル意思ハ勿論ゴザイマセヌ、併シナガラ
許可スルニセヨ、許可セザルニセヨ、之ガ
決定ハ成ルベク速カニ致シ、又國民ニ對ス
ル熊度ハ深切丁寧ヲ旨ト致サナケレバナリ
マセヌ、天ニ口無シ人ヲシテ之ヲ言ハシ
ム、今ヤ官廳ニ於ケル行政處分ノ遷延ト、
官吏ノ尊大傲慢ナル態度ニ對スル怨嗟ノ聲
ハ巷ニ溢レテ居リマス、之ニ付テハ內閣總
理大臣ノ御訓示モ誠ニ結構デゴザイマスル
ガ、官吏、官僚全員互ニ相戒メ、國民民衆
ニ對シテハ一視同仁、深切丁寧ヲ旨ト致サ
ルヽヤウ、嚴ニ自肅自戒セラルヽヤウ希望
スル者デゴザイマス、第三ハ行政ノ行過ギ
デゴザイマス、此ノ問題モ各方面ニ於
テ國民ノ苦シンデ居ル所デゴザイマス、
本員ハ事變以來政府ノ御方針ニ付テハ
何ノ異存ヲ申スモノデハゴザイマセヌ、
併シナガラ親ノ心子知ラズト申シマスル
カ、執行ノ任ニ當ッテ居ラルヽ下級官吏
ガ、功名ヲ急グノ餘リ兎角行政ノ行過ギ
ヲヤリタガル、例ヘバ綿絲布統制ノ實情ヲ
見マスルト、政府最高幹部ノ御方針、卽チ
惡質ナル法規違反ニ對シテハ嚴罰ヲ以テ之
ニ臨ムト雖モ、手續ヲ知ラザリシ爲ニ犯シ
タル、形式上ノ違反ニ對シテハ、成ルベク
說諭ニ止ムルト云フ此ノ御方針、是ハ誠ニ
御尤ト存ジマス、然レドモ此ノ御方針ヲ遵
守スベキ下級官吏ノ中ニハ、動モスレバ功
名ヲ焦セルノ餘リ、檢擧件數ノ多キヲ競ヒ、
國民ノ怨ヲ買ヒシ實例實ニ枚擧ニ遑アリマ
セヌ、又例ヘバ落棉問題ヲ初メト致シ、當
局ノ御方針、朝令暮改致サレタ爲ニ善良ナ
ル國民ガ犯意ナクシテ法律ニ觸レシ實例實
ニ多イノデアリマス、又極メテ些細ナル例
デアリマスルガ、怠惰ナル學生ニ對シ、親
心ヲ以テ取締ヲナサレルト云フノハ誠ニ結
構デゴザリマスルガ、或ハ往來ニ於テ學生
ヲ毆打シ、或ハ十分ナル法令ノ根據ナクシ
テ長ク人身ノ自由ヲ拘束サルヽ如キハ、是
亦行政ノ行過ギト存ジマス、斯カル事例ヲ
擧ゲマスレバ幾ラデモゴザリマスルシ、又
事柄ガ小問題デアルヤウニ御聽取ニナルカ
モ知レマセヌ、又私ハ政府當局ノ御趣旨ノ
アル所モ能ク了承シテ居ルノデアリマス、
然レドモ上ノ定ムル所、時トシテ下ニ徹底
セズ、國民ヲシテ怨嗟ノ聲ヲ放タシムルコ
トガ多イノデアリマス、勿論寛嚴宜シキヲ
得ルト云フコトハ口ニ之ヲ言フコトハ容易
デアリマスケレドモ、之ヲ實行スルコトハ
ナカ〓〓困難デアリマスルケレドモ、所謂
上意下達、下意上達ト云フコトニ付テハ
政府當局ニ於テ更ニ一段ノ御留意アラムコ
トヲ望ム次第デゴザイマス、第四ハ豫算經
理ニ關スル問題デゴザイマス、近時ノ跛行
景氣ハ其ノ進行益〓急速度トナッテ參リマシ
テ一方ニ於テ軍需工業ノ成金ガ美酒ニ醉
フト同時ニ、他方ニ於テハ業ヲ失ヒ生活ニ
苦シム者、街ニ充チ滿チテ居リマス、假令
職ヲ失ハザルニセヨ、一定ノ收入ニ依リテ
衣〓スル所謂低額所得者ハ物價ノ暴騰ト
增稅トニ脅サレマシテ、事實ノ減俸ニ遭ウ
デ居ルノト同樣デゴザイマス、而モ彼等ハ
戰線ニ於ケル將兵ノ勞苦ヲ思ヒ、何ノ不平
モ唱ヘズシテ生活難ト鬪ッテ居ルノデアリ
マス、帝國議會モ亦事變勃發以來、政府ノ
提出セラレル豫算案ニ對シテハ一錢ノ削減
モ加ヘテハ居リマセヌ、政府ハ此ノ國民
ノ血ノ結晶トモ申スベキ財政ヲ經理スルニ
當ラレマシテハ一厘一毛モ之ヲ濫費シテ
ハナリマセヌ、然ルニ政府ノ爲ス所、非常
時ノ蔭ニ隱レテ國民ノ期待ヲ裏切ルコトナ
キヤ否ヤ、各省豫算ノ經理ニ付テ濫費、濫
給跡ナキヤ否ヤ、私ハ關係者ニ御迷惑ヲ
及スコトヲ惧レマスガ故ニ、事件モ年月日
モ今日ハ申上ゲマセヌガ、巷間傳フル所ニ
依レバ、或情勢ノ變化ニ依リ莫大ナル經費
ヲ要スルコトト相成リ、內閣首腦部ニ於テ
臨時議會ヲ召集シテ、追加豫算ヲ要求スル
決心ヲシテ居ラレタコトガアル、然ルニ再
調査ノ結果、既定歲出豫算ノ見積甚ダ過大
ナリシ爲ニ、右歲出豫算ノ剩餘殘額ヲ以テ
裕ニ其ノ經費ヲ賄ヒ得ルコトヲ發見シ、臨
時議會ノ召集ノ御取止メニナッタ事實ガア
リ、而モ此ノ事實ガ豫算査定ノ事務ヲ大藏省
ヨリ企畫院ニ移管セムトスル政府部内一部
ノ主張ノ、直接ノ動機ト相成ッテ居ルヤニ承ッ
テ居ルノデアリマス、政府ハ昭和十四年度ノ
豫算ヲ實行セラルヽニ當リ、愼重ノ上ニモ
愼重ノ注意ヲ加ヘラレ、苟モ國民ノ眼ニ濫
費冗費ノ影ヲ留メザルヤウ御留意ヲ望ム
次第デゴザイマス、最後ニ國內革新ニ對スル
希望ヲ簡單ニ申上ゲタイト存ジマス、近衞
前内閣總理大臣ハ、帝國ハ必要ナル國內諸
般ノ改新ヲ斷行シテ、愈〓國家總力ノ擴充ヲ
圖リ、萬難ヲ排シテトリアノノ成成ノ邁進セ
ザルベカラズト聲明セラレ、而シテ平沼內
閣總理大臣ハ、大體ニ於テ近衞內閣ノ方針
ヲ蹈襲スルト述ベラレテ居ラレマス、然ル
ニ國內革新ニ關スル諸政策ハ今日ノ所行方
不明ノ形デアリマシテ、少クトモ帝國議會
ニハ今日迄殆ド提案サレテ居リマセヌ、此
ノ爲ニ或一部ニハ旣ニ容易ナラザル不滿ノ
聲ガ起ッテ居ルヤウニ承ッテ居リマス、勿論
現内閣ハ成立日未ダ淺キガ故ニ、難キヲ責ム
ルコトハ酷デゴザイマセウ、又平沼内閣總
理大臣ハ、衆議院ニ於テ斯カルコトハ徒ニ聲
ヲ大ニシテハイカヌガ、著々トシテ實行ス
ル積リデアルト答辯セラレ、ドウヤラ不言
實行ヲ期シテ居ラレルヤウデゴザイマスル
ノデ、本員ハ此ノ平沼內閣總理大臣ノ御言
明ニ信賴シテ、其ノ御實行ヲ待ッテ居ル者デ
ゴザリマスルガ、何卒不言實行ガ不言不實
行ニ終ラザルヤウ御願ヒ致ス次第デゴザイ
そう、以上本員ノ一個人ノ希望ヲ述ベマシ
テ、本案ニ贊成ノ意思ヲ表スル者デゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=61
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062・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 前田利定子爵
〔子爵前田利定君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=62
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063・前田利定
○子爵前田利定君 只今議題ニ上リマシタ
昭和十四年度一般會計豫算各案ニ對シマシ
テ、私ハ時局ノ重大性ニ鑑ミ、小異ヲ捨テ
テ大同ニ就クト云フ所存ヲ以チマシテ、無
修正可決ノ意見ヲ有スル者デアリマス、サ
リナガラ此ノ機會ニ於キマシテ私ハ、當議
會開會以來我ガ貴族院ノ各會議ヲ通ジマシ
テ未ダ議員ノドナタカラモ政府ニ對シテ
强調論議ヲナサラナカッタ問題ヲ取上ゲマ
シテ、私ハ私ノ口カラ此ノ議場ニ於キマシ
テ臺閣諸公ニ御傳ヘヲ致シ、政府ノ御賢察
ヲ請ヒ御賢慮ヲ煩ハシマシテ、政府經綸
ノ貧困ナル場面ヲ一日モ速ニ是正追補セラ
レムコトヲ要望セムトスル者デアリマス、
ソレハ國民生活ノ安定ニ關スルコトデアリ
マスルガ、主トシテ私ハ國民中ノ貧困者ニ
對シマスル救護ニ付テ申上ゲタイト思フノ
デアリマス、豫算ト致シマシテハ厚生省ノ
所管ノ豫算ニ觸レル問題デアルノデアリマ
ス、抑〓本豫算案ハ、申上グル迄モナク聖戰
目的ヲ達成スルト云フコトヲ眼目ト致シマ
シテ編成セラレタモノデアリマス、從ヒマ
シテ長期建設ヲ企圖スルト云フコトニ付キ
マシテハ、國民大衆ヲシテ堅忍持久ノ決心
ノ臍ヲ固メシメルト云フコトノ必要ナルコ
トハ論ヲ俟タナイ所デアリマス、右ニ付キ
マシテハ先ヅ以テ國民ノ生活ノ安定ト云フ
コトヲ十分ニ圖ラレルト云フコトガ喫緊ノ
要務デアルト信ジマス、就中國民中ニ於キ
マシテ、社會ノ下層ニ沈淪シテ居リマスル
窮民ニ對シマス救護ハ最モ大切デアルト思
フノデアリマス、然ルニ政府ニ於カレマシ
テハ、銃後ノ諸對策ニ付キマシテハ隨分
ト御行屆ニナッテ居ルニ拘リマセズ、餘リニ
モ其ノ方ニ御行屆ニナッタガ爲カ、其ノ方ニ
御心ヲ取ラレタ所以グラウト思フノデアリ
マスガ、只今申上ゲマシタ一事ニ付キマシ
テハ、昔ノ儘ニ打捨テ置カレ閑却サレテ居
リマシテ、丁度置イテキボリニナッタヤウナ
感ジガ致サレルノデアリマス、抑〓厚生省
ノ新設セラレマシタト云フコトハ何ノ爲デ
アリマシタカ、國民保健、國民ノ體位ノ向
上竝ニ國民生活安定ノ爲ニ綜合的國策ヲ遂
行スルト云フノガ趣旨デアッタト思フノデ
アリマス、私ハ此ノ御趣旨ニ對シマシテハ
誠ニ結構ト存ズルノデアリマスルガ、扨テ
其ノ實績如何ト見マスルト云フト、國民生
活、殊ニ窮民ニ對シマスル所ノ救護ガ甚ダ
不十分不徹底デアリマシテ、誠ニ身窄シイ
感ジガ致スノデアリマス、此ノ點ハ國家社
會ノ爲ニ轉タ寒心深憂ニ堪ヘナイノデアリ
やく、現下ニ於ケル所ノ窮民救護ノ有樣ヲ
申上ゲマスレバ、私ノ調査スル所ニ依リマ
スレバ、全國ニ居ラレル所ノ方面委員ノ手
ニ依ッテ保護ヲ受ケテ居リマス貧民世帶ノ總
人員ハ、二百二十萬ノ多數ニ上ッテ居ルノデ
アリマス、而シテ其ノ中ノ極貧者ニ對シマシ
テハ、政府ハ既ニ救護法竝ニ母子保護法ヲ
運用サレマシテ、所謂公的ノ保護ヲ加ヘラ
レテ居リマス、ソレト同時ニ隣保相扶ノ原
動力トナッテ働イテ居ラレマスル方面委員ノ
手ニ於テ、保護セラレル所謂私的ノ保護ニ
付キマシテモ、政府ハソレガ指導誘披ヲ努
力サレテ居ラレルノデアリマス、公私ノ兩
面カラシテ萬全ヲ策シテ居ラレマスル政府
ノ御心構ニ對シマシテハ私ハ之ヲ多トスル
者デアリマス、但シ御心構ヲ多トスルト云
フノデアリマシテ、其ノ實績ヲ見マスト云
フト誠ニ寂寞ノ感ガ致スノデアリマス、昭
和十二年ノ四月以降、半箇年間ニ於キマシ
テ、此ノ救護法ノ發動ニ依ッテ救護ヲ受ケマ
シタ人員ハ僅カニ十五萬八千人デアリマス、
之ニ對シマスル救護費ハ三百十二萬餘圓デ
アリマシテ、一人平均當リハ二十六圓餘ニ
相成ルノデアリマス、又母子保護法ニ依リ
マシテ、保護ヲ受ケマシタ人員ハ二萬一千
人デアリマシテ、之ニ對シマスル經費ハ三
十一萬七千餘圓デアリマス、之ヲ一人平均
ニ致シマスト云フト、十四圓餘ニナルノデ
アリマス、誠ニ少額デアルト思フノデアリ
マン、ドウシテ此ノ救護費ガ少額デアルカ
ト申シマスト云フト、救護法ニ依ル救護ハ、
生活ノ扶助費、兒女ノ〓育費、疾病ニ對シ
マス療養費ナドガアルノデアリマスルガ、
其ノ救護ノ限度ハ勅令ニ於テ定メラレテア
ルノデアリマス、而シテ救護法ノ救護ノ場
合ヲ申上ゲマスト云フト、居宅救護卽チ被
救護人ノ居宅ニ於テ致シマス救護ハ、一日
一人二十五錢以內、一世帶一日一圓以內ト
定メラレテアルノデアリマス、地方ニ於キ
マシテハ、地方長官ガ此ノ勅令ノ規定ノ限
度ニ鑑ミマシテ、其ノ地方ノ情勢ニ應ジテ
手加減ヲスルコトニナッテ居ルノデアリマ
ス、多クノ府縣ニ於ケル現狀ニ於キマシテ
ハ、都市ニ於テモ、町村ニ於キマシテモ、
其ノ限度ハ只今申上ゲマシタ勅令ノ最高限
度以內デ、而モ遙カニ、遙カニ低位ニ定メ
ラレテ居ルノデアリマス、デアリマスカラ
シテ、全國ヲ平均シテ見マスルト云フト、
一日一人十錢餘ニシカ付カヌノデアリマス、
皆樣方モ御承知ノ通リニ、淺草觀音ノ境內
ニ居リマス鳩デサヘモ、每日々々明ケテモ
暮レテモ、一年三百六十五日、絕間ナキ善
男善女ノ參詣ニ依リマシテ、又其ノ子供達
ヨリ鳩ガ撒イテ貰フ所ノ豆代ノ一日ノ總高
ハ、私ハナカ〓〓相當ノ高ニナルデアラウ
ト思フノデアリマス、鳩ノ一日ノ餌代ニモ
遠ク々々及バナイヤウナ心細イ救護費ヲ以
テ、救護ヲスル者モスル者デアリマスケレ
ドモ、其ノ救護ヲ受ケル者ノ慘メサ加減ト
云フモノハ實ニ想像ニ餘リアリト思フノデ
アリマス、如何ニ落チブレタリトテモ、萬
物ノ靈長タル人間一匹ガ鳩ニ顏負ケスルヤ
ウナ悲慘ナ生活ヲスルト云フコトハ誠ニ同
情ニ堪ヘヌ次第デアリマシテ、是等窮民ノ
生活ノ狀況ノ上ニ思ヲ御連ビニナリマシタ
ナラバ、皆樣トテモ必ズ眼頭ガ熱クナラレ
ルコトデアラウト私ハ思フノデアリマス、
況シテヤ救護法ノ實施ニナリマシタノハ昭
和十二年ノ一月カラデアリマスガ、其ノ當
時ハ皆樣御記憶ニアル通リニ、經濟界ハ誠
ニ沈衰ヲシテ居リマシタ時代デアリマシタ、
從ヒマシテ物價ハ著シク低落ヲシ、國民生
活ハ今日ノソレト較ベテ見マシテ、比較的
樂ナ時勢デアッタノデアリマス、其ノ時勢デ
アリマシテモ、一人一日平均十錢餘ノ生活
費ト云フコトデアリマシテハ、ナカ〓〓ニ
生活ヲ支ヘル所カ、生命ヲ支ヘルコトスラ
モ容易ナコトデハナカラウト思フノデアリ
ひく、況ヤ其ノ後數年後ヲ經マシテ、經濟
界ハ年ヲ逐ウテ上向ニナリ、諸物價ハ騰貴
ノ一路ヲ迪ッテ居リマス、殊ニ戰時態勢强化
ノ今日ニ於キマシテハ、各物價ハ一齊ニ騰
貴シテ居リマシテ、國民ハ之ガ爲ニ生活上
ノ脅威ヲ受ケツヽアル今日デアリマス、斯
ク經濟狀況ノ變異ニ伴ハナイ所ノ依然タル
救護費ヲ被救護人ハ受ケテ居ルノデアリマ
ス、デアリマスカラ、被救護人ト致シマシ
テハ已ムヲ得ナイ、自分ガ每日常食トシテ
居ル所ノ米ナリ、麥ナリ、鹽ナリ、味噌ナ
リ、野菜ナリ、其ノ量目ヲ二割方モ切詰メ
ナケレバナラヌト云フ事態ニナッテ居ルノ
デアリマス、ト申シマスモノハ、最近ノ小
賣物價指數ヲ調ベテ見マスルト、昭和十三
年十二月中ノ平均ト、昭和七年中ノ平均ト
ヲ較ベテ見マスルト云フト、七割七分ノ騰
貴ヲ示シテ居ルノデアリマス、尙又朝日新
聞社調ノ全國生計費指數ヲ調ベテ見マス
ルト云フト、昭和十三年中ノ平均ト、昭和
七年中ノ平均ノ指數トデハ、二割七分五厘
ノ昂騰ヲ示シテ居ルノデアリマス、デア
リマスカラ、被救護者ハ金高ノ方ハ變ラ
ナイノデアリマシテ、物價ガ騰貴スルノ
デアリマスカラ、自分ノ食スル分量ヲ減ラ
スヨリ外ニハナイノデアリマス、誠ニ
慘澹タル憫ムベキ境遇ニ居ルモノト、皆樣
方ニ於テモ十分御想像ヲ願ヒタイト思フノ
デアリマス、斯クノ如ク經濟界ノ變動ハア
リマシテモ十年一日ノ如クニ、切詰メラレ
タル救護費ノ限度ト云フモノハ、未ダ曾テ
引上ゲラレテ居ラナイノデアリマス、釘付
ケニサレテ居ルノデアリマス、若シモ此ノ
事實ヲバ臺閣諸公ガ御承知ニナッタナラバ、
必ズヤ打棄テヽ置カレナイコトデアラウト
私ハ信ズルノデアリマス、我々常識デ考ヘ
テ見マシテモ、物價ガ高クナッテ收入ガ變ラ
ナケレバ、ソコニ破綻ノ生ズルト云フコト
ハ是ハモウ自明ノ理デアリマス、詰リ今日
迄是等ノ給與限度ノ引上ガ行ハレナカッタト
云フコトハ、又ソレニ關スル勅令ナゾノ改
訂ガナカッタト云フコトハ、恐ラクハ臺閣諸
公ハ此ノ邊ノ消息ヲ、餘リ高イ處ニ居ラレ
マスカラ御耳ニ達セラレナイノデアラウト
思フノデアリマス、此ノ際此ノ席ニ於キマ
シテ、其眞情ヲ御耳ニ達シマスルデ、十分
御考慮ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、之
ニ對シマシテハ、要シマスルノニ、救護費
ノ增額ヲスルト云フコトト、ソレカラ關係
勅令ノ規定ヲ所要ニ應ジテ改訂スルト云フ
コトト、府縣ニ御指揮ニナリマシテ、其ノ
府縣ノ標準限度ヲバ引上ゲサセルト云フ必
要ガ迫ッテ居ルモノト、私ハ確信ヲ致シテ居
ルノデアリマス、或一部ノ人ハ斯樣ナコト
ヲ申スカモ知レマセヌ、救護費ハ其ノ額ノ
儘デ宜シイノデアル、未ダ曾テ救護費ガ足
ラナイカラト云ッテ餓死シタ者ハ一人モ居
ラナイノデアル、日本ニハ古來隣保相扶ト
云フ美風ガアッテ、救護費デ足ラナイ所ハ隣
人ガ互ニ助ケ合フト云フコトニナッテ居ル、
此ノ美風ハ何時迄モ尊重シテ行キタイモノ
デアル、デアルカラ、熱ニ救護費ヲ增額スル
ト云フヤウナコトハソレハ不可デアル、斯
樣ナ見解ヲ持ツヤウナ方ガ、廣イ世ノ中ニ
若シアリトシタナラバ、ソレハ非常ナ御料
簡違ヒデアルト私ハ思フノデアリマス、此ノ
隣保相扶ノ美風ハ誠ニ尊重スベキコトハ勿
論デアリマスルガ、此ノ隣保相扶ニ依リマ
シテ、貧民ノ救護ヲ致シテ居ル者ハ、是ハ
寧ロ方面委員ノ手ニ於テ行ハレテ居ルノデ
アリマス、何サマ、二百二十萬以上ノ窮民
ニ對シマシテ、法律ノ保護ヲ受ケテ居ル者
ハ前述ノ如クニ僅カニ約二十萬人位ニ過
ギナイノデアリマス、アトノ二百萬人ト云
フモノハ方面委員ガ此ノ隣保相扶ノ美風
ニ則リマシテ、益〓ソレヲ普及徹底サセマシ
テ、今日迄モ懸命ニ努力シテ居ラレル其ノ
方ノ範圍ニ屬スルモノデアルノデアリマス、
ノミナラズ、救護ヲ受ケル者ハ元來ドウ云
フ人デアルカト申シマスト云フト、老人ト
カ子供トカ疾病者、癈疾者ノ手合ヒデアリ
マシテ、自ラ立ッテ立チ働イテ活路ヲ求メル
ト云フコトノ不自由ナ徒輩デアリマス、ソ
レガ人間並ミラシクナイ暗イ〓〓生活ヲ、
陽ノ目モ見ナイヤウナ路次裏デ、呻キ喘イ
デ居ルヤウナ有樣デアリマス、デアリマス
ルカラ、救護費ガ殖エナケレバ、先程申上
ゲタ通リニ食ベル物ヲ減ラシテデモ何トカ
シテ行カナケレバナラナイト云フ、悲シキ
境遇ニ陷ッテ居ルノデアリマス、デアリマス
カラ、救護法ニ依ル救護ハ、獨リ此ノ生活
ノ扶助バカリデアリマセヌ、子女ノ〓育ト
カ疾病ノ療養費ナドモアリマスルケレド
〓、ナカ〓〓以テ露命ヲ繋イデ行クト云フ
コトスラモ困難デアリマスルカラ、ナカナ
カ自分ノ保健トカ榮養トカ云フヤウナコト
ニ手ノ屆キヤウ筈ハアリマセヌ、況ヤ子女
ノ〓育ニ於テヲヤデアリマス、斯カル手合
ヒガ自分ノ健康ヲ害シ、天壽ヲ全ウスルコ
トヲ得ズシテ死期ヲ早メ、其ノ影響トシテ
子女ガ不良ノ仲間ニ入リ込ンデ行クト云フ
コトモ、是モ分リ切ッタコトデアラウト思フ
ノデアリマス、斯ウ云フヤウナ境地ニハ得
テ惡思想ガ釀成サレルモノデアリマス、所
謂主義者ノ手ガソレニ伸ビマシテ、之ニ誘
致サレ引込マレ易イ所ノ素質ガ、斯カル所
ニ酸酵シ醞釀セラレルモノデアラウト思フ
ノデアリマス、故ニ斯ク考ヘテ參リマスレバ、
外ニ對シマシテ、日獨伊ノ防共ノ協同ノ鐵
陣ヲ張ルコトヲ圖ラレマスルト同時ニ、內
ニ對シマシテハ、地元タル國民ノ生活ノ安
定、殊ニ最モ呻吟シテ居ル所ノ、生活ノド
ン底ニ居ル所ノ此ノ窮民ノ救護ト云フ上ニ
溫キ手ヲ差伸ベテ、サウシテ自分ノ足許ヲ
バ踏ミ固メ、ドンナ主義ガ舞ヒ込ミマシテ
モ、貧乏搖ギモシナイヤウナ地盤ヲ作ルト
云フコトガ、誠ニ私ハ喫緊ノ急務デアルト
思フノデアリマス、抑〓思想犯人ト云フモノ
ハドウ云フ者ガナルノデアルカ、ドウ云フ
人ガ思想犯人ニナルノデアルカ、ト斯ウ申
シマスト云フト、私ノ乏シイ考カラ考ヘマ
シテモ、先ヅ第一ニハ親代々ノ貧乏暮シノ
者デアリマス、第二ニハ、自分ノ家ガ貧シ
クシテ、學校ニモ通フコトガ出來ズニ、徒
ニ身丈バカリ仲ビシテシマヒマシテ、人夫
的ノ勞働ハ出來マスト致シマシテモ、他ニ
何モ能ガ無イヤウナ人間、サウ云フヤウナ
手合ヒ、又第三者ニハ自分ノ身體ガ病氣
デアルトカ、又自分ガ病氣デナクテモ、其
ノ家族內ニハ母親トカ女房トカ云フ者ガ病
ミ續キデアリマシテ、ドンナニ〓〓朝カラ
晩迄働キ續ケマシテモ貧乏神ガ側カラ離レ
テ吳レナイ、稼ギニ追ヒ付ク貧乏ナシト云フ
ノハ昔ノ諺デアリマスガ、幾ラ稼イデモ稼イ
デモ貧乏ノ淵カラ免レルコトガ出來ナイ、
丁度恰モ底無シノ沼ニ足ヲ踏ン込ンダヤウ
ナモノデ、幾ラ藻搔イテモ喚イテモ、其ノ
沼カラ足ガ離レナイト云フヤウナ情勢ニ在
ル者ガ社會ノ隅々ニ夥シク存在シテ居ルノ
デアリマス、斯樣ナ手合ヒガ假ニ威儀堂々
タル所ノ大厦高樓ノ、富ンダ人ノ、所謂物
ヲ持ッタ人ノ立派ナル邸宅ヲ見マシタリ、都
大路ヲバキラビヤカナ服裝ヲシテ贅澤三昧
ニ練リ步ク所ノ、所謂持テル人々ノ得意ノ
有樣ヲ見マシタ場合ニ、フト自分ノ慘メナ
境遇ニ思ヒ較ベマシテ、人ヲ呪ヒ世ヲ呪
ヒ此ノ世間ト云フモノニ對シマシテ不滿
ト反感トヲ持ツト云フヤウナ、若シ場合ニ
ナリマシタナラバ、其處へ主義ノ話ヲ持チ
込マレマシタナラバ、如何デアリマセウカ、
若シモコチラノ身體ガ左樣ナ話ヲ受付ケナ
イヤウナ境遇デアリマシタナラバ碌々ニ
聽キモ致シマスマイシ、又聽キマシテモ聞
キ流シテシマフノデアリマスルケレドモ、
自分ノ慘メナ有樣ニ思ヒ較ベマシテ、其ノ
話ガ如何ニモ面白ク聽キ取レルデアラウト
思ヒマス、此ノ社會デハナイ、自分ノ行手
ニハモット美シイ樂シイ所謂樂園ガアルヤ
ウニモ思ハレマシテ、而モ話ヲ聽イタダケ
デモ、自分ノ每日々々憂鬱ナ、不快ナ暮シ
ヲシテ居ル身ニ取リマシテハヽ誠ニ心ノ慰
メニモナルト云フヤウナ所カラ、知ラズ識
ラズニ主義ノ話ニ聽キ惚レマシテ、又主義
モ〓究シテ見タクナリ、遂ニハ主義者ノ群
ニ入リ、主義者ノ群カラ引張リ込マレルト
云フヤウナ徑路ヲ辿ルモノデアラウト私ハ
思フノデアリマス、固ヨリ思想犯ニナリマ
元カ,獨リ貧民階級バカリノ者デハナイ
ノデアリマス、婦人ニ致シマシテモ、學生
ニ致シマシテモ、其ノ境遇ニ依リマシテハ、
フト思想犯ニ入ルヤウナ傾向ヲ持ッテ居リ
マスヤウナ者ハ、又入ルト云フヤウナ場合
モアリ得ルノデアリマスケレドモ、此ノ場
合ハ貧民ノコトニ限局ヲ致シマシテ申上ゲ
テ居ルノデアリマス、如何ナル理論デアリ
マシテモ、其ノ理論ガ良クテモ、之ヲ受入
レ易イヤウナ缺陷ガ、社會ニゴザイマセヌ
デアリマシタナラバ、何ノ恐レル所ハナイ
ト思フノデアリマス、左樣ナ理論ヲバ受ケ
易イヤウナ缺陷ガ社會ニアリマシタ場合ニ
於キマシテ、政府ノ政治ノ御行屆キ方ガ惡
カッタ場合ニ於キマシテハ、主義ハ其ノ缺陷
ニ乘ジテ割込ンデ來マシテ擴ガッテ行クコ
トガ燎原ノ火ヲ睹ルヤウナモノデアラウト
思フノデアリマス、堯舜ノ時代ニハ、社會問
題ヤ生活問題ハ蓋シ無カッタラウト思フノ
デアリマスガ、恐ロシイノハ貧苦ニ、生活
ノ苦ニ呻吟シテ居リマス者ガ、此ノ世ノ中
ニ對シマスル不滿反感ノ情デアリマス、故
ニ政府ニ於カレマシテハ思想犯人ヲ檢擧
シタリ、罰シタリスル事前ニ於キマシテ、斯
樣ナ感情ノ懷カレナイヤウニ、十分溫イ政
治ヲ御ヤリニナラナケレバナラヌト思フノ
デアリマス、殊ニ先程モ二荒伯爵ノ仰セラレ
マシタ通リニ、現時ノ戰爭ハ、兵力戰ノミ
ナラズ思想戰ニナッテ居ルノデアリマス、而
モ長期ノ建設ノ長帳場ノ上ヲ進ンデ行ク
我ガ國ト致シマシテハ、斯樣ナル窮民ヲシ
テ更生セシメテ、サウシテ貧シイナガラモ、
是等ノ人々ノ軒カラ朝晩炊事ノ煙ノ立昇ル
ヤウニ致サレルヤウナ御施設ガナケレバナ
ラヌ時デアラウト思フノデアリマス、ソレ
ニ付キマシテハ、畏多クモ明治天皇ハ斯
樣ナ御製ヲモノサレマシタ、「事アルニツケ
テイヨ〓〓オモフカナ民ノカマトノ煙イカ
네. .是ハ明治三十七年中ノ御作デアリ
マン、惟フニ日露戰爭ノサ中ニ御詠出ニ相
成ッタ御製デアラウト拜察シ奉ルノデアリマ
ス、只今モ日本建國以來ノ未曾有ノ國難ニ
臨ンデ居リマシテ、大イニ事アル時デアリ
やく、尙又此ノ御製ト大昔ノ仁德天皇ノ高
キ屋ノアノ御製ト照シ合ハセテ誦シ奉ル時
ニ、誠ニ一天萬乘ノ神ノ御末ノ光輝アル御
位ニ在ラセラレナガラ、國ツ民ヲバ大御寶
ト思召ス大御心ノ程返ス〓〓モ恐懼至極ニ
存ジ奉ルノデアリマス、且又皇室ニ於カレ
マシテモ、社會慈惠事業ノ上ニ軫念アラセ
ラレマシテ、每年紀元節ノ佳節ニハ尠カラ
ザル御内帑金ヲバ民間ニ御下賜ニ相成ッテ
居ルノデアリマス、誠ニ天恩ノ山ヨリ高ク
海ヨリモ深キ御仁恤ノ辱ナサハ、唯感泣感
激スルミノデアリマス、抑〓救護法ノ救護
ト云フモノハ、啻ニ生命ノ維持バカリデハ
アリマセヌ、先程モ申上ゲマシタ通リニ、
生業ノ補助、疾病ノ治療、子女ノ〓育ナド
ノ目的ヲモ含ンデ居ルモノデアルノデアリ
マスガ、現狀ノ支給ノ限度カラ見マシテ、
到底ソレハ及ビモ付カナイコトデアリマス、
政府ノ折角ノ御仁政モ徹底シテハ居ラヌノ
デアリマス、又母子保護法ノ方ヲ見マシテ
モ、是ハ政府ニ於テモ大變ニ誇リ顏ニ仰セ
ラレタコトガアッタノデアリマス、母子保護
法ハ單ナル救貧法制デハナイ、母性ノ保護
ト子女ノ〓養ニ重點ヲ置クノデアッテ、是ハ
積極的法制デアルト云フコトヲ申サレテ居
ルノデアリマス、何ガ積極的法制デアリマ
スカ、其ノ保護ノ經費ヲ見マスト云フト、
是亦救護法ノ救護費ト同樣ニ、一日一人二
十五錢以内、養育扶助費モ一日一人二十五
錢以内、親子共ノ扶助費一世帶一圓以內、
救護法ト何等變ル所ハナイノデアリマス、
デアリマスルカラ、是モ矢張リ母子保護法
ノ此ノ保護金額モ時ノ經濟情勢ニ應ジテ
眞實ニ最下限ノ生活ヲ支ヘテ行クニ足ルダ
ケノモノ位ハ、奮發ヲ、政府ガナサラナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、之ヲ要シ
マスルノニ、救護サルベキ所ノ人員ハ、先
程申上ゲマシタ通リニ一一百萬人以上ニモ上ッ
テ居ルノデアリマシテ、之ニ對シマスル救
護費ハ、誠ニ較ベテ見マスレバ雀ノ淚ミタ
ヤウナモノデアルノデアリマス、是デハ到
底所期ノ目的ヲ達スルコトハ出來ナイ、折
角有難イオ役所ガ出來、又有難イ法律ガ出
來テモ、其ノ實際ノ救護、保護ヲ受ケル者
ノ側カラ申シマスルト云フト、誠ニ賴ミニ
ナラナイ心細イ次第デアリマシテ、ソレコ
ソ露ノ玉ノ〓ヲ繫ギ留メテ居ルト云フダケ
ノコトデアリマス、是ハ何トカ此ノ際政府
ノ方ニ於キマシテモ、此ノ窮民ノ救護ノ上
ニ十分思ヒヤリノ御頭ヲ傾ケラレマシテ、
サウシテ是等ノ窮民ノ法ノ目的タル更生ヲ
シテ參リマスヤウニ御仕向ケニナッテ、其ノ
成績ヲ御擧ゲニナルト云フコトガ、平沼內
閣ノ口癖ニ仰シヤル所ノ萬民輔翼、總親和
ノ實ガ其ノ時ニ擧ルモノダラウト私ハ思フ
ノデアリマス、サウナッテコソ初メテ廣大無
邊ナル御仁慈ニ浴シ、御仁慈カラ漏レル者
ガナイヤウニナルノデアラウト思フノデア
リマス、以上ノ理由ニ依リマシテ私ハ政府
ニ要望スルコトハ、救護法ニシテモ、母子
保護法ニシテモ、其ノ扶助額ヲバ、給與額
ヲバ增額ヲナサレルト云フコトデアリマス、
幸ナコトニハ此ノ救護法ニ依ル救護費補助
モ、母子保護法ニ依ル處ノ保護費ノ補助モ、
之ハ補充科目ニナッテ居ルノデアリマスカ
ラ、昭和十四年度ノ豫算ノ運用ニ當ラレマ
シタ時ニ、所要ニ應ジテ增額支給ヲ爲サレ
バ足ルノデアリマス、又關係勅令ノ限度ヲ
バ御直シニナルト云フコトモ、左迄困
難ナコトデハナイノデアリマス、誰ガ聞
イテモ是ハ合理的ノ話デアリマス又
府縣ニ對シマシテハ府縣ノ限度ヲバ引上
ゲルコトヲ御命令ニナリマスレバ宜シイノ
デアリマス、此ノ際終リニ臨ミマシテ私ハ
厚生大臣ニ對シマシテ御留意ヲ請ヒタイト
思フコトガアリマス、ソレハ昭和十四
年度ノ厚生省豫算、經常部第十五款ノ第五
項ニ、救護法ニ依ル救護費ノ補助費額ガ計
上サレテアリマス、又同第十項ニハ母子
保護法ニ依リマスル保護費補助ガ計上サレ
テアルノデアリマス、然ルニ此兩方ノ補助
費ガ本年、十四年度ノ要求額ト、前年度ノ
要求額ヲ較ベテ見マスト云フト、兩方共ニ
各〓三十萬圓宛減額ニナッテ居ルノデアリ
きく、誠ニ怪訝ニ堪ヘナイ次第デアリマス、
惟ヒマスノニ、政府ニ於カレマシテハ、昨
年度ノ精算ノ結果、豫算所要額ヨリモ支拂
ガ少クナリマシテ使ヒ殘リガ出タカラ、其
ノ使ヒ殘リガ出タコトニ鑑ミマシテ査定減
ヲ行ハレタコトデアラウト、御推察ヲ申上
ゲルノデアリマス、成ル程現狀ノ儘デ、六
七年前ノ物價ノ廉イ時ニ決メタ勅令ノ限度、
而モ其ノ當時サヘモ誠ニ覺束ナイ程ノ少額
デアック限度、ソレヲ六七年モ經ッテ、諸物
價ガ騰貴シタ今日ニ於テモ依然トシテ變ラ
ナイ限度、ソレデアリマスルカラ使ヒ殘リ
ノ出ルコトハ當然過ギル程當然デアリマシ
テ、若シ殘ラナカッタナラバ、ソレコソ摩詞
不思議ト言ハナケレバナラヌノデアリマス、
申上ゲル迄モナク、地方ニ於キマシテハ、中
央ノ意ヲ體シマシテ勅令ノ最高限度ヨリモ
遙カニ〓〓低イ限度ヲ定メテ居ルノデアリ
マイクソレデアリマスルカラ、一日一人二
十五錢ノ割合デ豫算ヲ御組立ニナッテ居リ
マスルナラバ、勘定殘リノ出ルコトハ是ハ
當リ前ノ話デアリマス、ソレヲ政府ノ方ニ
於カレマシテ、是ハ救護ガ行屆イテ使ヒ殘
リガ出タノダト云フ風ニ、若シ御考ニナッテ
居リマスナラバ、實ニ滑稽千萬デアリマス、
失禮ノ申分デハアリマスケレドモ、誠ニ御
目出度イ方ト申上ゲネバナラヌト思ヒマス、
芳バシクナイ使ヒ殘リデアリマス、尙又進
ンデ申上ゲマスナラバ、此ノ救護費ノ補助
ト云フモノハ、國庫ニ於テ二分ノ一負擔シ、
地方ニ於テ二分ノ一負擔スルト云フコトニ
ナッテ居リマシテ、詳シク申上ゲマスト、道
府縣ニ於テ四分ノ一、市町村ニ於テ四分ノ
一ト云フコトニナッテ居ルノデアリマス
デアリマスルカラ、府縣ニ於キマシテハ、
何モ負擔ヲ輕クスルガ爲ニト申ス譯デモア
リマスマイガ、成ルベク此ノ限度ヲバ引上
ゲルナント云フコトハ、夢ニモ考ヘテ居ラ
ヌト思フノデアリマス、又實際ニ於キマシ
テ今日迄、引上ゲタト云フ話ヲ私寡聞ニシ
テ聞イテ居リマセヌ、デアリマスルカラ、
是ハ政府ノ方ニ於テ先ヅ以テ率先シテ勅令
ノ規定ヲ改訂サレマシテ、經濟ノ狀況ニ適
應シタ所ノ救護費ヲ御遣ハシニナリ、窮民
ヲシテ更生セシムルヤウニ爲サラネバナラ
ヌト思フノデアリマス、尙玆ニ申上ゲテ置キ
タイユトハ全國ニ亙リマス五萬ノ方面委
員ハ、從來トテモ隣保相互扶助ノ原動力ト
ナッテ隨分勉强シテ働イテ淚グマシキ努力
ヲ續ケラレテ居ルノデアリマスガ、斯樣ナ
戰時下ニ於キマシテハ此ノ法的ノ救護ヲ
モット發達進步セシメマスト同時ニ、他面
ニ於キマシテハ此ノ方面委員ノ手ニ於テ
スル救護ノ方モ拍車ヲ掛ケテ、モツト之ヲ
强化シテ行カナケレバナラヌ必要ニ迫ッテ
居ルト思フノデアリマス、ソレニ付キマシ
テハ此ノ方面委員ニ對シマシテモ、一ツ
政府ノ方デ御奮發ニナッテ、精神的ノ優遇ノ
途ヲ與ヘ、又ソレト共ニ相當ノ經濟的援助ヲ
バ與ヘルト云フコトニナサッタナラバ宜カ
ラウト私ハ思フノデアリマス、成ル程方面
委員ニ對シマシテハ後援ヲスル所ノ助成團
體ハアルコトハアリマスルケレドモ、全
國ヲ通ジマシテ僅カニ一一千五百ノ團體キリ
シカナイノデアリマス、然ルニ委員設置ノ
市町村ヲ數ヘテ見マスルト云フト、九千餘
ニナッテ居ルノデアリマスカラ、助成團體ガ
其ノ四分ノ一ニシカ滿タナイ譯デアリマス、
ノミナラズ、助成團體ト申シマシテモ敢テ
資力ガ豐富デアルト云フ譯デハナイノデア
リマシテ、事實ニ於テ隨分行詰ツテ居ル狀
況ヲバ見聞ヲ致シテ居ルノデアリマス、要
シマスルノニ、法的ノ救護ニ於テ十分ニ御
考慮ニナルコトト、又別働團體トシテ働イ
テ居ル所ノ、法律以外ニ働イテ居ル所ノ此
ノ方面委員ニ對シマスル一層ノ活躍、活潑
ニ努力ノ出來マスルヤウナ途ヲ講ジテヤル
ト云フコトガ、私ハ兩々必要ナコトデアラ
ウト思フノデアリマス、尙先程申上ゲマシ
タ通リニ、昭和十四年度ノ豫算ノ運營ニ付
キマシテ、政府ノ御考一ツデハ直チニ實行
ノ出來ルコトデアリマスルケレドモ、萬々
一ニ昭和十四年度ニ於テハ豫備費カラ增額
スルトカ云フヤウナコトガ、御出來ニクイ
ヤウナ御事情ガアリト致シマスルナラバ
已ムヲ得マセヌ、昭和十五年度ノ豫算編成
ニ際シマシテ、救護法ニ依ル救護費ノ補助
母子保護法ニ依ル所ノ保護費補助ノ費用ニ
付キマシテモ、十分ニ一ツ御考慮アラムコト
ヲバ煩ハシタイト思フノデアリマス、尙又
畏イコトデアリマスルケレドモ、昭憲皇
太后ノ御歌ニ「アヤニシキトリ重ネテモ
オモフカナ寒サオホハム袖モナキ身ヲ」、何
ト御同情深イ御心デアラウカト拜察シ奉ル
ノデアリマス、寒イ夜、隙漏ル風ニモ、
其ノ寒氣ヲバ凌グニ足ルダケノ衣類調度ノ
持合セモナイヤウナ窮民ノ上ヲ、深ク御同
情遊バサレマシタ所ノ誠ニ畏イ御歌ト誦シ
奉ルノデアリマス、デ重ネテ申上ゲマスガ、
私ハ此ノ同情ト云フコトハ同情ト云フ精
神ハ社會道德カラ申シマスレバ是ハ第一
義ニ置クベキモノデアラウト私ハ思フノデ
アリマス、又政治道德ノ上カラ申シマシテ
モ、此ノ同情ト云フモノハ第一ニ置クベキ
モノデアルト思フノデアリマス、甚ダ諄イ
ヤウデアリマスガ、ドウカ政府當局者ト致
サレマシテハ社會ノ下層ニ沈淪ヲ致シテ
居リマスル、生活ノドン底ニ居リマスル憫
レムベキ無辜ノ窮民ヲ救護ナサイマシテ、
其ノ境地ガ主義ノ溫床ニナリマセヌヤウニ、
進ンデハソレ等ガ更生シマシテ、所謂萬民
輔翼ノ健全ナル國民ニ相成リマスルヤウニ
御願ヲ致シタイト思フノデアリマス、ソレ
デアッテコソ初メテ日頃標榜ナサル所ノ祭
政一致、道義政治ト云フモノノ表現ニナル
ト思フノデアリマス、私ハドウカ政府モ此
ノ點ニ重點ヲ置カレマシテ、他ノ銃後ノ諸
對策ノ行屆クト同樣ニ、此ノ邊ノ問題ニ付
キマシテモ、溫カイ思ヒ遣リノアル、行キ
屆イタ政治ヲシテ戴キタイト云フコトヲ切
ニ切ニ望ミマシテ、私ノ討論ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=63
-
064・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ討論ハ終
リマシタ、是ヨリ採決ヲ致シマス、御異議
ガナケレバ兩案全部ヲ問題ニ供シマス、兩
案全部ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=64
-
065・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 全會一致ト認メ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=65
-
066・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第三、軍馬
資源保護法案、日程第、四種馬統制法案、日
程第五、競馬法ノ臨時特例ニ關スル法律
案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、是
等ノ三案ヲ一括致シテ議題ト爲スコトニ御
異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=66
-
067・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス櫻內農林大臣
〔左ノ送付文及法案ハ朗讀ヲ經サ
ルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之
ニ傚フ〕
軍馬資源保護法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十四年三月四日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
(小字ハ衆議院ノ修正ナリ)
軍馬資源保護法案
軍馬資源保護法
第一條本法ハ國防上特ニ必要トスル馬
ノ資質ノ向上ヲ圖リ軍馬資源ノ充實ヲ
期スルコトヲ目的トス
第二條政府ハ軍馬タルベキ資質アル馬
ヲ選定スル爲命令ノ定ムル所ニ依リ每
年馬ノ檢定ヲ行ヒ之ニ合格シタルモノ
ヲ軍用保護馬ニ指定スルコトヲ得
市町村長ハ前項ノ檢定ニ立會ヒ又ハ當
該市町村ノ吏員ヲシテ之ニ立會ハシム
ベシ
第三條政府ハ前條第一項ノ檢定ヲ受ク
ル者ニ對シ勅令ノ定ムル所ニ依リ手當
及旅費ヲ給ス
第四條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ每
年-度豫算ノ範圍內ニ於テ軍用保護馬ヲ
飼養スル者ニ對シ補助金ヲ交付スルコ
トヲ得
第五條軍用保護馬ノ所有者其ノ他命令
ヲ以テ定ムル者ハ其ノ軍用保護馬ニ付
本法ノ定ムル鍛鍊ヲ受ケシムルコトヲ
要ス
第六條本法ニ依ル軍用保護馬ノ鍛鍊ハ
普通鍛鍊及鍛鍊競技トシ政府之ヲ管理
ス
普通鍛鍊ハ軍馬トシテ必要ナル能力及
馴致ノ向上維持ヲ圖ルコトヲ目的トス
鍛鍊競技ハ普通鍛鍊ヲ受ケタル軍用保
護馬ノ能力及馴致ヲ審査シ併セテ軍馬
ノ資質ニ關スル知識ノ普及ヲ圖ルコト
ヲ目的トス
第七條普通鍛鍊ノ事業ハ命令ノ定ムル
所ニ依リ地方長官之ヲ行フ
市町村長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ普通
鍛鍊ニ關スル事務ノ一部ヲ行フ
普通鍛鍊ノ施行ニ因リ軍用保護馬死亡
シ又ハ傷害ヲ受ケタルトキハ政府ハ勅
令ノ定ムル所ニ依リ補償金ヲ交付ス
第八條鍛鍊競技ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ北海道、府縣、畜產組合聯合會、畜
產組合其ノ他政府ノ指定スル團體ヲシ
テ之ヲ行ハシム
鍛鍊競技ニシテ優等馬ノ投票ニ關スル
施設ヲ伴フモノ(以下鍛鍊馬競走ト稱
ス)ヲ行フコトヲ得ル者ハ命令ヲ以テ
定ムル畜產組合聯合會又ハ道府縣ノ區
域ニ依ル畜產組合其ノ他政府ノ指定ス
ル法人ニシテ鍛鍊馬場ニ付政府ノ許可
ヲ受ケタルモノニ限ル
鍛鍊馬競走ヲ行フコトヲ得ル鍛鍊馬場
ノ數ハ一府縣一箇所以內、北海道三箇
所以內トス
鍛鍊馬競走ノ施行ハ鍛鍊馬場每ニ年二
囘以内トシ其ノ期間ハ每囘四日以內トス
第九條鍛鍊競技ニハ勅令ノ定ムル所ニ
依リ地方長官ノ指定シタル軍用保護馬
ニ非ザレバ出場セシムルコトヲ得ズ
第十條鍛鍊馬競走ノ施行者ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ入場者ヨリ入場料ヲ徵收
スベシ
鍛鍊馬競走ノ施行者ハ鍛鍊馬場ニ於テ
入場者ニ對シ額面金額三圓以下ノ優等
馬票ヲ額面金額ヲ以テ發行スルコトヲ
得
優等馬票ノ發行ハ鍛鍊馬競走一競技ニ
付一人一枚ヲ限リ單式優等馬票及複式
優等馬票ヲ發行スル場合ニ於テハ鍛鍊
馬競走一競技ニ付一人各一枚ヲ限ル
優等馬票ハ之ヲ讓渡スコトヲ得ズ
學生生徒又ハ未成年者ニ對シ優等馬票
ヲ發行スルコトヲ得ズ
當該鍛鍊馬競走ニ於ケル命令ヲ以テ定
ムル施行委員又ハ當該鍛鍊馬競走ニ關
スル騎乘者其ノ他鍛鍊馬競走ノ事務ニ
從事スル者ニ對シ亦前項ニ同ジ
鍛鍊馬競走ノ施行者ハ優等馬投票ノ的
中者ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ當該
競技ニ付テノ優等馬票ノ發行ニ依リ得
タル金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ拂戾
ヲ爲スモノトス但シ其ノ金額ハ優等馬票
ノ額面金額ノ十倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
優等馬投票ノ的中者無キ場合ニ於ケル
優等馬票ノ發行ニ依リ得タル金額又ハ
前項但書ノ規定ニ依リ生ジタル超過金
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ優等馬票
ヲ購買シタル者ニ拂戾スベシ
前二項ノ拂戾金ノ債權ハ一年間之ヲ行
ハザルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第十一條鍛鍊馬競走ノ施行者優等馬票
ヲ發行シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ
依リ其ノ發行ニ依リ得タル金額ノ百分
ノ二十五以內ノ金額ヲ收得スルコトヲ
得
前項ノ場合ニ於テ鍛鍊馬競走ノ施行者
ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ納付金ヲ軍用
保護馬鍛鍊中央會ニ納付スベシ
前項ノ納付金ハ軍用保護馬鍛鍊中央會
ノ目的ヲ達スル爲必要ナル經費ニ充ツ
ルコトヲ要ス
鍛鍊馬場ノ開設又ハ維持、競走ノ觀覽、優
等馬票ノ發行又ハ購買、拂戾金又ハ賞金ノ
交付又ハ受領其ノ他鍛鍊馬競走ノ施行又ハ
開催ニ關シテハ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ
第十二條軍用保護馬鍛鍊中央會ハ法人
トシ鍛鍊競技ノ健全ナル發達ヲ圖リ以
テ軍用保護馬ノ能力及馴致ノ向上ニ資
スルト共ニ軍馬ノ資質ニ關スル知識ノ
普及ヲ期スルコトヲ目的トス
軍用保護馬鍛鍊中央會ハ全國ヲ通ジ
箇トシ第八條第二項ノ許可ヲ受ケタル
者ヲ以テ之ヲ組織ス
軍用保護馬鍛鍊中央會成立シタルトキ
ハ會員タル資格ヲ有スル者ハ總テ會員
トス
第十三條政府ハ軍用保護馬鍛鍊中央會
ノ保有スル資金ガ勅令ヲ以テ定ムル額
ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ヲ政府ニ
納付セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル納付金ハ國稅滯納處
分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但
シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノト
ス
第十四條軍用保護馬鍛鍊中央會ニハ所
得稅及營業收益稅ヲ課セズ
軍用保護馬鍛鍊中央會ガ本法ニ基キテ
爲ス登記ニ付テハ登錄稅ヲ課セズ
第十五條本法ニ定ムルモノノ外軍用保
護馬鍛鍊中央會ノ設立、登記、管理、
監督、解散、〓算其ノ他軍用保護馬鍛
鍊中央會ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第十六條行政官廳ハ鍛鍊競技ノ施行者
ニ對シ鍛鍊競技ノ施行ニ關シ監督上必
要ナル命令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第十七條政府ハ鍛鍊馬競走ノ施行者又
ハ軍用保護馬鍛鍊中央會ニ對シ鍛鍊競
技ノ健全ナル發達ヲ圖ル爲必要ナル施
設ヲ命ズルコトヲ得
第十八條政府ハ鍛鍊馬競走ノ施行者又
ハ其ノ役員若ハ施行委員ノ行爲ガ法令
若ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シ又ハ
公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ム
ルトキハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一第八條第二項ノ許可ノ取消
二鍛鍊馬競走ノ停止
三優等馬票發行ノ停止又ハ制限
四施行委員ノ職務執行ノ停止
第十九條軍用保護馬ハ政府ノ許可ヲ受
クルニ非ザレバ之ヲ輸出シ又ハ移出ス
ルコトヲ得ズ第二條第一項ノ檢定ニ合
格シタル馬ニ付命令ヲ以テ定ムル期間
內亦同ジ
第二十條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
每年軍用保護馬ノ檢査ヲ行ヒ之ニ合格
セザルモノニ付軍用保護馬ノ指定ヲ取
消スコトヲ得
第二條第二項ノ規定ハ前項ノ檢査ニ之
ヲ準用ス
第二十一條政府ハ第二條第一項ノ檢定
又ハ前條第一項ノ檢査ノ爲必要アリト
認ムルトキハ區域及期間ヲ指定シ馬ノ
移動ヲ制限スルコトヲ得
第二十二條本法ハ左ノ各號ノ一ニ該當
スル馬ニ付之ヲ適用セズ
-當歲ノモノ又ハ明ケ十八歲以上ノ
モノ
二國又ハ道府縣ノ所有ニ係ルモノ
三前二號ノ外命令ヲ以テ定ムルモノ
第二十三條軍用保護馬ガ左ノ各號ノ一
ニ該當スル場合ニ於テハ軍用保護馬ノ
指定ハ其ノ效力ヲ失フ
-明ケ十八歲ニ達シタルトキ
二輸出又ハ移出セラレタルトキ
三國又ハ道府縣ノ所有ト爲リタルト
キ
四前三號ノ外命令ヲ以テ定ムル場合
第二十四條市町村長ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ左ノ各號ノ一ニ該當スル馬ニ付
馬籍ニ其ノ旨記載スベシ
-第二條第一項ノ檢定ニ合格シタル
モノ
二軍用保護馬ニ指定セラレタルモノ
又ハ軍用保護馬ノ指定ヲ取消サレタ
ルモノ若ハ其ノ指定ノ效力ヲ失ヒタ
ルモノ
第二十五條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ三年以下ノ懲役若ハ五千圓以下ノ罰
金ニ處シ又ハ其ノ刑ヲ併科ス
一鍛鍊競技ニ關シ第八條第二項ノ許
可ヲ受ケズシテ優等馬票ヲ發行シ又
ハ之ニ類似ノ行爲ヲ爲シタル者
二第十八條第三號ノ停止又ハ制限ニ
違反シ優等馬票ヲ發行シタル者
三鍛鍊競技ニ關シ常習トシテ多數ノ
者ニ對シ財物ヲ以テ賭事ヲ爲シタル
者
四第十條第六項ニ揭グル者ニシテ前
號ニ規定スル行爲ノ相手方ト爲リタ
ルモノ
第二十六條鍛鍊馬競走ノ施行委員鍛鍊
馬競走ノ職務ヲ執行スルニ當リ之ニ對シ
テ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ二年以
下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
團體若ハ多衆ノ威力ヲ示シ、團體若ハ
多衆ヲ假裝シテ威力ヲ示シ又ハ兇器ヲ
示シ若ハ數人共同シテ前項ノ罪ヲ犯シ
タル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千圓以
下ノ罰金ニ處ス
第二十七條第十九條ノ規定ニ違反シタ
ル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ
罰金ニ處ス
第二十八條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
-第九條ノ規定ニ違反シ同條ニ規定
スル軍用保護馬ニ非ザル馬ヲ鍛鍊競
技ニ出場セシメタル者
二第十條第二項又ハ第三項ノ規定ニ
依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ發行シ
タル者
三第十條第五項又ハ第六項ノ規定ニ
違反シ優等馬票ヲ發行シタル者
四第十條第六項ニ揭グル者ニシテ優
等馬票ヲ購買シタルモノ
五第十條第七項ノ規定ニ依ル制限ニ
違反シ拂戾金ヲ交付シタル者
六第二十五條第一號乃至第三號ノ一
ニ規定スル行爲ノ相手方ト爲リタル
者
第二十九條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第十條第二項又ハ第三項ノ規定ニ
依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ購買シ
タル者
二第十條第五項ニ揭グル者ニシテ優
等馬票ヲ購買シタルモノ
三優等馬票ヲ讓渡シ又ハ讓受ケタル
者
四第十條第七項ノ規定ニ依ル制限ニ
違反シタル拂戾金ノ交付ヲ受ケタル
者
第三十條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ
五十圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
ー第二條第一項ノ檢定、第七條第一
項ノ普通鍛鍊又ハ第二十條第一項ノ
檢査ニ應ゼザル者
二第二條第一項ノ檢定、第七條第一
項ノ普通鍛鍊又ハ第二十條第一項ノ
檢査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
三第二十一條ノ規定ニ依ル制限ニ違
反シタル者
第三十一條軍用保護馬鍛鍊中央會ノ役
員又ハ鍛鍊馬競走ノ施行委員ガ其ノ職
務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若
ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ
處ス因テ不正ノ行爲ヲ爲シ又ハ相當ノ
行爲ヲ爲サザルトキハ五年以下ノ懲役
三菱重
前項ノ場合ニ於テ收受シタル賄賂ハ之ヲ
沒收ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ沒收スル
コト能ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
第三十二條前條第一項ニ揭グル者ニ對
シ賄賂ヲ交付、提供又ハ約束シタル者
ハ二年以下ノ懲役又ハ三百圓以下ノ罰
金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキ
ハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得
第三十三條法律ノ規定ニ依ラザル馬ノ
競走ニ關シ優等馬票、勝馬投票劵若ハ
之ニ類似ノモノヲ發賣シ又ハ之ニ類似
ノ行爲ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役
若ハ五千圓以下ノ罰金ニ處シ又ハ其ノ
刑ヲ併科ス
第三十四條法人又ハ人ノ代理人、戶主、
家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ
其ノ法人又ハ人ノ業務ニ關シ第二十七
條又ハ第三十條第一號若ハ第三號ノ違
反行爲ヲ爲シタルトキハ其ノ法人又ハ
人ハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ
其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十五條第二十七條竝ニ第三十條第
一號及第三號ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナ
ルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ
業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ
禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ
之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同
一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此
ノ限ニ在ラズ
第三十六條前二條ノ場合ニ於テハ懲役
ノ刑ニ處スルコトヲ得ズ
第三十七條鍛鍊競技ノ施行者又ハ鍛鍊
馬競走ノ施行委員第十六條、第十七條
又ハ第十八條第四號ノ規定ニ依ル行政
官廳ノ命令ニ違反シタルトキハ千圓以
下ノ過料ニ處ス
軍用保護馬鍛鍊中央會ノ役員第十五條
ノ規定ニ依ル勅令又ハ第十七條ノ規定
ニ依ル命令ニ違反シタルトキハ千圓以
下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百
八條ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用
ス
第三十八條本法ニ於テ市町村又ハ市町
村長トアルハ市制第六條ノ市及市制第
八十二條第三項ノ市ニ在リテハ區又ハ
區長トシ町村制ヲ施行セザル地ニ在リ
テハ町村又ハ町村長ニ準ズベキモノト
ス
附則
本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ
之ヲ定ム
軍用保護馬鍛鍊中央會ハ本法公布ノ日ニ
於テ現ニ優勝馬投票ニ依リ景品劵ヲ發行
スル競馬施行ノ許可ヲ受ケ居ル畜產組合
聯合會又ハ畜產組合ガ第三十三條ノ規定
ノ施行ニ關聯シ當該競馬場ニ付爲ス設備
ノ處分其ノ他ノ整理ニ關シ勅令ノ定ムル
所ニ依リ必要ナル事業ヲ行フコトヲ得
種馬統制法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十四年三月四日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
種馬統制法案
種馬統制法
第一條本法ハ種馬ヲ整備シ其ノ配合ヲ
統制シ以テ馬ノ改良增殖ヲ圖ルコトヲ
目的トス
第二條馬ノ種付事業ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ政府之ヲ管掌ス
北海道、府縣、畜產組合、畜產組合聯
合會其ノ他政府ノ適當ト認ムル者ニ限
リ前項ノ規定ニ拘ラズ命令ノ定ムル所
ニ依リ政府ノ特許ヲ受ケ馬ノ種付事業
ヲ行フコトヲ得
第三條種牡馬ハ總テ國ニ於テ之ヲ所有
スルモノトス但シ第七條ノ規定ニ依リ
指定セラレタル種牡馬ニ付テハ此ノ限
ニ在ラズ
第四條政府ハ種牡馬タルベキ資質アル
馬ヲ選定スル爲命令ノ定ムル所ニ依リ
每年公共團體又ハ私人ノ所有(以下民
有ト稱ス)ニ係ル牡馬ノ檢定ヲ行ヒ之
ニ合格シタルモノヲ候補種牡馬ニ指定
スルコトヲ得
第五條政府ハ國有ノ種牡馬ヲ整備スル
爲每年度豫算ノ範圍內ニ於テ所要ノ頭
數ヲ限リ民有ノ候補種牡馬ヲ購買ス
第六條政府ハ必要ニ應ジ國有ノ牡馬ヲ
候補種牡馬ニ、國有ノ牡馬又ハ候補種
牡馬ヲ種牡馬ニ決定ス
第七條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第
二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者ノ所有
スル牡馬又ハ候補種牡馬ヲ種牡馬ニ指
定スルコトヲ得
第八條種牡馬ニ非ザレバ種付ニ供用ス
ルコトヲ得ズ
第九條種牡馬又ハ候補種牡馬ニハ去勢
ヲ行フコトヲ得ズ
第十條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國
有ノ種牡馬又ハ候補種牡馬ヲ北海道、
府縣、畜產組合又ハ畜產組合聯合會ニ
シテ第二條第二項ノ特許ヲ受ケタルモ
ノニ無償ニテ貸付スルコトヲ得
第十一條政府必要アリト認ムルトキハ
第二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者ニ對
シ種牡馬ノ飼養管理又ハ種付ニ關スル
設備ノ改善ヲ命ジ其ノ他監督上必要ナ
ル命令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第十二條政府ハ第二條第二項ノ特許ヲ
受ケタル者ノ行爲ガ本法若ハ本法ニ基
キテ發スル命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害
シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ特
許ヲ取消シ又ハ種牡馬ノ種付ニ關スル
業務ヲ停止シ若ハ制限スルコトヲ得
第十三條政府ハ優良種牝馬タルベキ資
質アル馬ヲ選定スル爲命令ノ定ムル所
ニ依リ每年明ケ二歲ノ民有ノ牝馬ノ檢
定ヲ行ヒ之ニ合格シタルモノヲ候補優
良種牝馬ニ指定スルコトヲ得
政府ハ前項ノ檢定ヲ受クル者ニ對シ勅
令ノ定ムル所ニ依リ手當及旅費ヲ給ス
第十四條政府必要アリト認ムルトキハ
所有者又ハ命令ヲ以テ定ムル者ノ申請
ニ依リ明ケ三歲以上ノ民有ノ牝馬ノ檢
定ヲ行フ
政府ハ前項ノ檢定ニ合格シタル馬ヲ優
良種牝馬又ハ候補優良種牝馬ニ指定ス
ルコトヲ得
第十五條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
候補優良種牝馬ヲ優良種牝馬ニ指定ス
ルコトヲ得
第十六條政府馬ノ改良增殖ヲ圖ル爲必
要アリト認ムルトキハ馬ノ配合ノ統制
上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲ス
コトヲ得
第十七條政府ハ種付ヲ爲スコト不適當
ト認ムル牝馬ニ付命令ノ定ムル所ニ依
リ其ノ種付ヲ制限スルコトヲ得
第十八條政府必要アリト認ムルトキハ
優良種牝馬又ハ候補優良種牝馬ノ所有
者其ノ他命令ヲ以テ定ムル者ニ對シ當
該馬ノ飼養管理又ハ種付ニ關シ必要ナ
ル命令ヲ爲スコトヲ得
第十九條政府ハ學術〓究ノ爲ニスル馬
ノ種付ニ付テハ命令ヲ以テ別段ノ定ヲ
爲スコトヲ得
第二十條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
每年度豫算ノ範圍內ニ於テ政府ノ貸付
シタル種牡馬若ハ候補種牡馬ヲ飼養ス
ル者又ハ優良種牝馬若ハ候補優良種牝
馬ヲ飼養スル者ニ對シ補助金ヲ交付ス
ルコトヲ得
第二十一條種牡馬、候補種牡馬、優良
種牝馬又ハ候補優良種牝馬ハ政府ノ許
可ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ輸出シ又ハ
移出スルコトヲ得ズ
第二十二條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ每年民有ノ種牡馬、候補種牡馬、優
良種牝馬又ハ候補優良種牝馬ノ檢査ヲ
行ヒ之ニ合格セザルモノニ付其ノ指定
ヲ取消スコトヲ得
第二十三條民有ノ種牡馬、候補種牡馬、
優良種牝馬又ハ候補優良種牝馬ガ左ノ
各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ
指定ハ效力ヲ失フ
-國有ト爲リタルトキ
二輸出又ハ移出セラレタルトキ
三前二號ノ外命令ヲ以テ定ムル場合
第二十四條市町村長ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ種牡馬、候補種牡馬、優良種牝
馬又ハ候補優良種牝馬ニ指定セラレタ
ル馬ニ付馬籍ニ其ノ旨記載スベシ其ノ
指定ヲ取消サレタル馬又ハ其ノ指定ノ
效力ヲ失ヒタル馬ニ付亦同ジ
前項ノ市町村長トハ市制第六條ノ市及
市制第八十二條第三項ノ市ニ在リテハ
區長トシ町村制ヲ施行セザル地ニ在リ
テハ町村長ニ準ズベキモノトス
第二十五條第二十一條ノ規定ニ違反シ
タル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下
ノ罰金ニ處ス
第二十六條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ六月以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰
金ニ處ス
一第二條第二項ノ特許ヲ受ケズシテ
馬ノ種付事業ヲ行ヒタル者
二第八條ノ規定ニ違反シタル者
三第二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者
ニシテ第十六條ノ規定ニ依ル命令ニ
違反シタルモノ
四第二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者
ニシテ第十六條ノ規定ニ依ル處分ヲ
拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタルモノ
第二十七條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
一第九條ノ規定ニ違反シタル者
二第十一條ノ規定ニ依ル命令ニ違反
シタル者
三第十一條ノ規定ニ依ル處分ヲ拒ミ、
妨ゲ又ハ忌避シタル者
四第十二條ノ規定ニ依ル業務ノ停止
又ハ制限ニ違反シタル者
第二十八條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ五十圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
-第十三條第一項ノ檢定又ハ第二十
二條ノ檢査ニ應ゼザル者
二第十三條第一項ノ檢定又ハ第二十
二條ノ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シ
タル者
三第二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者
以外ノ者ニシテ第十六條ノ規定ニ依
ル命令ニ違反シタルモノ
四第二條第二項ノ特許ヲ受ケタル者
以外ノ者ニシテ第十六條ノ規定ニ依
ル處分ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル
モノ
五第十七條ノ規定ニ依ル種付ノ制限
ニ違反シタル者
六第十八條ノ規定ニ依ル命令ニ違反
シタル者
第二十九條法人又ハ人ノ代理人、戶主、
家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ
其ノ法人又ハ人ノ業務ニ關シ第二十五
條、第二十六條第二號若ハ第三號、第
二十七條第一號、第二號若ハ第四號又
ハ前條第一號、第三號、第五號若ハ第
六號ノ違反行爲ヲ爲シタルトキハ其ノ
法人又ハ人ハ自己ノ指揮ニ出デザルノ
故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十條第二十五條、第二十六條第二
號及第三號、第二十七條第一號、第二
號及第四號竝ニ第二十八條第一號、第
三號、第五號及第六號ノ罰則ハ其ノ者ガ
法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ
法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年
者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代
理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年
者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付
テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十一條前二條ノ場合ニ於テハ懲役
ノ刑ニ處スルコトヲ得ズ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
政府ハ當分ノ內勅令ノ定ムル所ニ依リ島
嶼ヲ指定シ本法ノ全部又ハ一部ヲ施行セ
ザルコトヲ得
種牡馬檢査法ハ之ヲ廢止ス
本法施行前種牡馬檢査法ニ依ル檢査ニ合
格シ本法施行ノ際現ニ同法ノ種牡馬タル
モノハ第七條ノ規定ニ依リ種牡馬ニ指定
セラレタルモノト看做ス
本法施行ノ際現ニ馬ノ種付事業ヲ行フ者
又ハ其ノ事業ヲ承繼シタル者ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ一年間ヲ
限リ引續キ其ノ事業ヲ行フコトヲ得
前項ノ者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ
許可ヲ受ケ前項ノ期間經過後引續キ其ノ
事業ヲ行フコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル許可ノ申請ヲ爲シタル
者ハ其ノ申請ニ對スル許可又ハ不許可ノ
處分ノ日迄引續キ其ノ事業ヲ行フコトヲ
得
政府ハ勅令ヲ以テ定ムル期間內ニ限リ第
十條ノ規定ニ拘ラズ國有ノ種牡馬又ハ候
補種牡馬ヲ北海道、府縣、畜產組合又ハ
畜產組合聯合會ニ無償ニテ貸付スルコト
ヲ得
本法施行前種牡馬檢査法ノ罰則ヲ適用ス
ベカリシ行爲ニ付テハ仍其ノ罰則ニ依ル
馬匹去勢法第一條中「種牡馬」ノ下ニ「又
ハ候補種牡馬」ヲ加フ
馬匹去勢法第二條ヲ左ノ如ク改ム
第二條左ノ各號ノ一ニ該當スル牡馬
ニハ去勢ノ施行ヲ猶豫ス
疾病又ハ發育不全ニ因リ去勢ヲ行
フニ堪ヘスト認メタルモノ
二學術〓究ノ爲行政官廳ノ許可ヲ得
タルモノ
三前二號ノ外命令ヲ以テ定ムルモノ
馬匹去勢法第四條第三號中「種牡馬ニシ
テ檢査合格ノ證明ノ效力ヲ失ヒタルモノ」
ヲ「種牡馬又ハ候補種牡馬ニシテ其ノ指
定ヲ取消サレ又ハ指定ノ效力ヲ失ヒタル
モノ」ニ改ム
馬匹去勢法第九條中「種牡馬檢査法」ヲ
「種馬統制法中種牡馬又ハ候補種牡馬ニ
關スル規定」ニ改ム
競馬法ノ臨時特例ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和十四年三月四日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
競馬法ノ臨時特例ニ關スル法律案
競馬法第八條第一項ノ規定ニ依リ日本競
馬會ガ政府ニ納付スベキ金額ハ同項ノ制
限ニ拘ラズ其ノ賣得金ノ額ノ百分ノ十一·
五以内ニ於テ命令ノ定ムル金額トス
前項ノ規定ニ依ル政府ニ納付スベキ金額
ト競馬法第九條ノ規定ニ依ル賣得步合金
額トノ合計ハ賣得金ノ額ノ百分ノ十八ヲ
超ユルコトヲ得ズ
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法ハ支那事變終了後其ノ翌年十二月三
十一日迄ニ之ヲ廢止スルモノトス
〔國務大臣櫻內幸雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=67
-
068・櫻内幸雄
○國務大臣(櫻內幸雄君) 只今議題トナリ
マシタ軍馬資源保護法案外二法律案ノ提案
理由ヲ申上ゲタイト存ジマス、先ヅ軍馬資
源保護法案及種馬統制法案ニ付テ御說明申
上ゲマス、今次ノ支那事變ニ依リ我ガ國ト
シテハ未曾有ノ多數ノ馬ガ徵發セラレ、支
那各地ニ於テ軍馬トシテ大規模ニ各種ノ作
戰ニ供用セラレマシタ結果、軍事上ニ於テ
ハ勿論、產業上ニ於テモ幾多貴重ナル經驗
ヲ得タノデアリマス、右支那事變ノ經驗ト、
最近軍備各般ノ施設ニ一大變革ヲ來シマシ
タ等ノ事情ニ依リ、陸軍ノ馬政ニ關スル要
望ノ次第モアリマシテ、此ノ際廣義國防ノ
見地ニ立チ、有事ノ際ニ於テ國軍所要ノ軍
馬ノ供給ヲ容易ナラシムルト共ニ、努メテ
產業上ニ及ス支障ヲ輕減致シマス爲ニハ
一面ニ於テ日滿等ヲ通シ、馬ノ生產及分布
ノ調整ヲ圖リ、以テ馬資源ノ培養充實ニ努
メマスルト共ニ、他面國內ニ於キマシテ
國內保有馬ノ資質及能力ノ向上、馬ノ生產
力ノ擴充ヲ圖リ、以テ馬政上遺憾ナキヲ期
スルコトヲ緊要ト認ムルノデアリマス、仍
テ國內保有馬ノ資質及能力ノ向上ヲ圖ル方
策トシテ玆ニ軍馬資源保護法ヲ制定シ、又
馬ノ生產力ヲ擴充スル方策ト致シマシテ種
馬統制法ヲ制定シ、國防上特ニ必要トスル
馬ノ資質ノ向上ヲ圖ルト共ニ、有能馬ノ造
成ニ努メムトスルモノデアリマス、而シテ
軍馬資源保護法案ノ主要ナル內容ト致シマ
シテハ、國防上特ニ必要トスル馬ヲ軍用保
護馬ニ指定シ、之ガ飼養管理ヲ十分ナラシ
ムル爲、飼養費ノ一部ニ對シ助成ヲ爲シ、
又軍用保護馬ニハ一定ノ鍛鍊ヲ行ハシメ、
常ニ軍馬タル必要ナル能力ヲ充實セシムル
ト共ニ、軍馬ノ資質ニ關スル知識ノ普及ニ
資スル爲、鍛鍊馬競走ノ施行ヲ認メ、且軍
馬資源確保ノ爲、輸移出ニ付政府ノ許可
ヲ要スルコトトシ、尙又軍用保護馬鍛鍊
中央會ヲ設置スル等ノ規定ヲ設ケマシテ、
軍馬資源ノ保護充實ヲ圖ルコトヲ目的ト
致シテ居ルノデアリマス、種馬統制法案ノ
主要ナル內容ト致シマシテハ優良ナル
種牡馬及種牝馬ヲ整備充實スルト共ニ其ノ
配合ヲ統制シ、以テ馬ノ改良增殖ヲ圖ルコ
トヲ目的ト致シ、之ガ爲種牡馬及ビ候補種
牡馬ノ制度、優良種牝馬及候補優良種牝馬
ノ制度、馬ノ種付事業ノ特許制度等ヲ設ク
ルコトトシテ居ルノデアリマシテ、種
牡馬ハ之ヲ國有トシ、又優良種牝馬等ノ
飼養者ニ對シテハ保護助成ノ途ヲ講ズルノ
外、生產資源確保ノ爲、其ノ輸移出ニ付政
府ノ許可ヲ要スルコトトシ、以上ノ制度ノ
運用ニ依リマシテ馬ノ改良增殖上遺憾ナキ
ヲ期シタイト存ズルノデアリマス、次ニ競
馬法ノ臨時特例ニ關スル法律案ニ付テ御說
明申上ゲマス、今次支那事變ノ推移ニ對處
シ、併セテ最近ニ於ケル競馬施行ノ實況ニ
鑑ミマシテ、此ノ際競馬法ニ依ル政府納付
金ニ關シ所要ノ改正ヲ加フルノ要アリト認
メマシテ、右ニ關シ過般馬政調査會ニ對シ
テ諮問ヲ致シ、其ノ答申ニ基イテ本法案ヲ
立案致シタモノデアリマシテ、競馬法ニ依
ル政府納付金率及ビ之ニ關聯スル勝馬投票
劵ノ賣得金ニ對スル控除率ニ關シ、臨時的
ニ必要ナル改正ヲ加ヘムトスルモノデアリ
やく、以上ガ軍馬資源保護法案、種馬統制
法案及競馬法ノ臨時特例ニ關スル法律案提
出ノ理由ノ大要デアリマス、何卒御審議ノ
上速カニ御協賛アラムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=68
-
069・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 質疑者ガゴザイ
Wくり、通〓ノ順ニ依リマシテ御許シ致シマ
ス、大河内輝耕子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=69
-
070・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 簡單デゴザイマスカ
ラ、此ノ席カラ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=70
-
071・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=71
-
072・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 私ハ內務大臣ニ質問
シタイ此ノ軍馬資源保護法案ニ付キマシ
テハ衆議院デ修正ニナリマシタ、此ノ修正
ニ付キマシテ政府ハ御同意デアルヤ否ヤ
其ノ點ヲ伺ヒタイ、尙御同意アルニシテモ、
ナイニシテモ、其ノ理由ヲ併セテ伺ヒタイ
〔國務大臣侯爵木戶幸一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=72
-
073・木戸幸一
○國務大臣(侯爵木戸幸一君) 大河內サン
ニ御答ヲ致シマス、此ノ軍馬資源保護法案
ニ付キマシテ衆議院ハ修正ヲ致シタノデア
リマスガ、此ノ修正ニ對シマシテハ政府ハ
此ノ際同意致シ兼ネル次第デアリマス、其
ノ理由ト致シマシテハ、內務省ノ關係ニ於
キマシテ、所謂馬劵ヲ買ヒマスル者ニ對シ
マシテ地方稅又ハ之ニ代ル寄附金ノ制度ヲ
存置致シマスコトハ相當理由ノアルコトデ
アルト考ヘマスルシ、又此ノ所謂馬券ヲ買
ヒマスル者ノ擔稅力竝ニ他ノ奢侈的ノ課稅
トノ間ノ均衡其ノ他ニ考ヘマシテ、之ニ課
稅スルノハ何等差支ナイト思ハレマス、從
前此ノ地方稅ヲ課シ、又ハ之ニ代リマスル
寄附金ヲ收納シテ居リマシタ地方團體ノ財
政ニ付テモ相當影響ガアリマスノデ、此ノ
際此ノ修正ニハ應ジ兼ネル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=73
-
074・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 仰セノ通リ此ノ問題
ハ財政上相當ノ關係モアルノミナラズ、
ノ問題トシテ統制ノ上カラモ重大ナ問題ダ
ト私ハ考ヘル、ドウカ此ノ委員會ノ議ヲ進
メラレルニ付キマシテモ十分其ノ點ヲ考慮
ノ中ニ入レテ御審議ヲ願ヒタイト存ジマス、
是デ質問ハ終了致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=74
-
075・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 土方寧君
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=75
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076・土方寧
○土方寧君 只今議題ニ上ッテ居リマスル三
號乃至五號ノ中ノ一番オ終ヒノ競馬法ノ法
案デアリマスガ是ハマア現行ノ競馬法ヲ
基礎トシタモノデアリマシテ、之ニ付テ兎
ヤ角言フ考デハアリマセヌ、現行ノ競馬法
ト云フノハ所謂馬券附競馬法デアリマス、
是ハ私ハ思想ヲ惡化スルモノデアルカラ斷
然廢スベキモノデアルト固ク豫テカラ信ジ
テ居ルノデアリマス、長イコトハ申シマセ
ヌガ、日〓戰爭ノ時分ニ、日本ノ馬匹ト云
フモノハ非常ニ貧弱ナモノデアッタノデ、ソ
レカラ後、馬匹改良ノ必要ヲ感ジテ馬政局
ガ出來、其ノ改良ノ方法トシテ、馬劵附競
馬ヲ行フヤウニナッタ、日露戰爭ノ時ニハ幾
分改良サレタ結果ガ見エタト云フコトデア
リマス、日露戰爭後大變ニ繁昌シタ時分ニ、
人心ガ輕佻浮薄ニ流レテ、馬劵附競馬ト云フ
モノガ盛ニ行ハレタノデアリマスガ、其ノ
弊害ヲ御憂慮遊バサレタノデアリマセウ、
明治天皇カラ戊申詔書ヲ拜スルヤウニナッタ
ノデアリマス、時ノ政府ハ其ノ戊申詔書ノ
御趣旨ニ基イテデアリマセウ、馬劵附競馬
法ヲ斷然廢シマシタ、處ガ何囘デアリマス
カ知ラヌガ、大正十一年カラ十二年ニ跨ル
議會デ、矢張リ馬匹ノ改良ヲスルノニハ競馬
ヲ盛ニシナケレバナラヌ、競馬ヲ盛ニスル
ニハ馬劵附デナケレバイケヌト云フノデ
提案サレタ、其ノ時ニ私ハ極力反對シマシ
タガ、仕甲斐ガナクテ今日行ハレテ居ル、
ソレカラ又地方ニモ色々ノ小規模ノモノガ段
段殖エマシテ、私ハ都會ノ人心ガ隨分惡化シ
テ居ルト思ヒマスガ、ソレニ比スレバ實ニ堅實
ナ農村ノ住民ニ對シテ、多ク競馬ハ郡部デ行
ハレマスカラ、都會ノ近クデモ何程害ヲ及
シテ居ルカ分ラヌ、私ハ長イコトハ申シマ
セヌガ、何事ニ付テモ思想ガ根本デアリマ
ス、思想改善、善導ト云フコトハドノ內閣
デモ常ニ仰シヤル、斯ウ云フ時局ニ際シテ
ハ尙更必要デアリマス、私ノ考デハ、此ノ
馬劵附競馬ト云フモノハ賭博類似ノモノ思
フ、賭博トハ申シマセヌ、賭博ハ維新前カ
ラ國禁デアリマス、處ガナカ〓〓根絕スル
コトハムヅカシイ、支那人ハ賭ケガ好キ
デ、麻雀ナント云フモノハ賭ケノ道具ダサ
ウデアリマスガ、是ガ輸入セラレテ、近
頃都會等······東京ナンゾデモ隨分麻雀俱樂
部ガ澤山アルヤウデスシ、斯ウ云フ風ナ國
禁ノ賭ケ事ヲスルト云フコトハヽソレト類
似ノ馬劵附競馬ヲ公許シテ居ルト云フコト
ガ一大原因ヲ爲シテ居ルト思フ、國民ハ
ソン程惡イト思ッテ居ナイ、是ハ大變ナ間違
ヒト私ハ思ヒマス、馬匹改良ノ爲ニハ競馬
ガ必要、競馬ヲ盛ニスル爲ニハ馬劵ノ賣買
ヲ許サナケレバナラヌト言ヒマシテモヽ人
心ヲ惡化スルモノデアルナラバ比較ニナラ
ヌ、輕重〓倒シタ話デ、是程人ヲ馬鹿ニシ
タ考ハナイト思ヒマス、馬匹ノ改良ガ必要
デモ人心ガ惡化シタラドウナリマセウ、是
程人ヲ馬鹿ニシタヤリ方ハナイト私ハ考ヘ
ルソレデ此ノ件ニ付キマシテ、總理大臣
ガ非常ニ國民思想ニハ深甚ノ關心ヲ持ッテ
居ラルヽコトハ豫テ承知シテ居リマス、デ
スカラ文部大臣ハ先刻迄御出席デアリマシ
タガ御歸リデアリマシタカラ他日デ宜シウ
ゴザイマスガ是ハ〓育ノ方ノ主管デアリ
マスカラ、總理大臣ト文部大臣ニ馬劵附競
馬ヲ許スト云フコトガ、思想ヲ惡化セシム
ルモノデアルカラ宜クナイト云フヤウニ私
ハ考ヘマスガ、サウ御考ニナラナイカ、廢
スベキモノト思フケレドモ存置シテ置イテ
モ宜イト思ッテ居ラレルノカ、斯ウ云フコト
ヲ御尋シマシテ、抽象的ニ御伺ヒスル代リ
ニ、私ノ考デハ明治十五年ノ陸海軍軍人ニ
賜ッタ明治天皇カラ賜ッタ軍人ニ對スル
勅諭デス、ソレカラ二十三年ノ十月、欽定憲
法ガ實施セラレル一年數箇月後、是ハ大イ
ニ前後ノ關係ニ意味ガ」アルト思ヒマスガ、
〓育勅語、ソレカラ先刻申シマス所ノ戊申
詔書、時ノ政府ハ之ニ依ッテ廢シタノデアリ
マス、ソレカラ大正十二年ノ關東震火災ノ
後、御承知ノ通リ下町ハ殆ド灰燼ニ歸シ、人
心ガ混亂狀態ニ陷ッタ時ニ、大正天皇カラ
精神作興ノ詔書ヲ拜シテ居マス、此ノ中デ
〓育勅語ニ反スルト御考ハナイカト申シタ
ラ、ソレハ直グニ卽答ガ出來ルト思フ、多分
總理大臣ニ於テハ暗誦シテ御イデダラウト
思フ、暗誦シテ御イデニナラナケレバ大變ナ
不心得ダト思フ、明治天皇御自身、拳拳
服膺云々ト云フコトガアリマスガ、私ノ考
デハ立憲治下ニ於テ、天皇ヲ輔弼シ奉ル
重責ニアル國務大臣ハ、每日朝何デスネ、殆
ド〓育勅語ト云フモノノ暗誦、復習ヲサレ
ル積リデ職ニ當ルモノト思ッテ行カナケレ
バナラナイ、是ハ御承知デアリマセウガ
十五年ノ軍人ニ對スル勅諭ト云フモノハ長
イモノデアル、是ハ陸軍大臣ハ大體ノ趣意
ハ御承知ダラウケレドモ、文句ハ一々御存
ジナイト思ヒマス、私讀ンデ見マシタガ大
變長イ、戊申詔書デアリマストカ大正十
二年ノ精神作興ノ詔書ト云フヤウナモノニ
反シナイカト云ラタ時ニ、其ノモノヲ御覽
ニナラナケレバ御答ガ出來ナイト思ヒマス
カラ、卽答ハ促ザナイ)此ノ四ツノモノニ
照ラシ、之ニ示サレテ居ル所ノ一貫シタル
御聖旨ニ反スルモノデナイカ、私ハ反スル
ト思フノデスケレドモ、反スルモノナラ無
論廢シナケレバナラヌ、其ノ點ヲ今日ハモ
ウ卽答ハ出來ナイグラウト思フガ、是等ノ
モノヲ見ナイデ御答ハ出來マスマイ、之ニ
反シナイカ、見ナイデハ卽答ハ出來マスマ
イソレダカ』ラ、サウ云フ質問ヲシテ、後
日御囘答ヲ得タイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=76
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077・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題トナリマシタ
軍馬資源保護法案外二件ハ重要ナル法案デ
アリマスルガ故ニ、其ノ特別委員ノ數ヲ十
八名トシ、其ノ委員ノ氏名ヲ議長ニ一任ス
ルノ動議ヲ提出致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=77
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078・秋田重季
○子爵秋田重季君 賛成爲濕子爵を動議ニ
〔一異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=78
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079・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サセマス
〔丸龜書記官朗讀〕
軍馬資源保護法案外二件特別委員
侯爵西〓從德君侯爵四條隆德君
伯爵溝口直亮君子爵高倉篤麿君
子爵曾我祐邦君子爵西尾忠方君
大島健一君宇佐美勝夫君
男爵千田嘉平君堀切善次郞君
男爵關義壽君男爵佐藤達次郞君
次田大三郞君金杉英五郞君
高鳥順作君三橋彌君
宇野勇作君米原章三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=79
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080・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴嘉君) 日程第六、裁判
所構成法改正法律案、日程第七、檢察廳法
案、衆議院提出、第一讀會、是等ノ兩案ヲ
一括シテ議題ト爲スコトニ御異議ハゴザイ
マセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=80
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081・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス
裁判所構成法改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和十四年三月二日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
裁判所構成法
第一章總則
第一條裁判所ハ民事及刑事ヲ裁判ス
第二條裁判所ハ區裁判所、地方裁判所、
控訴院及大審院トス
司法事務上必要アルトキハ法律ヲ以テ
或ル地方裁判所ヲ民事ノミヲ管轄スル
裁判所又ハ刑事ノミヲ管轄スル裁判所
ト爲スコトヲ得
第三條裁判所ニ判事ヲ置ク
第四條裁判ニ關スル職務ノ執行ニ付テ
ハ判事ハ獨立ノ地位ヲ有ス
第五條區裁判所ニ於テハ判事單獨ニテ
裁判ヲ爲ス
地方裁判所ニ於テハ三人ノ判事、控訴
院ニ於テハ五人ノ判事、大審院ニ於テ
ハ七人ノ判事ヲ以テ組織シタル部ニ於
テ合議ニ依リ裁判ヲ爲ス
第六條裁判所ノ設置及管轄區域ハ別ニ
法律ヲ以テ之ヲ定ム
第七條裁判所ニ於テハ國語ヲ用フ
第八條司法年度ハ一月一日ニ始マリ十
二月三十一日ニ終ル
第九條裁判所ノ事務章程ハ司法大臣之
マルチノ
大審院ハ自ラ事務章程ヲ定ム
第二章區裁判所
第十條區裁判所ハ民事訴訟ニ於テ左ノ
事件ニ付管轄權ヲ有ス
千圓ヲ超過セサル金額又ハ價額千
圓ヲ超過セサルモノニ關スル事件
二價額ニ拘ラス左ノ事件
イ住家其ノ他ノ建物ノ賃貸借關係
ニ基ク事件
ロ占有ノミニ關スル事件
反訴ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラス訴訟
法ノ定ムル所ニ依リ管轄權ヲ有ス
第十一條區裁判所ハ刑事訴訟ニ於テ左
ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス但シ豫審ヲ經
タルモノ及特ニ大審院ノ管轄ニ屬セシ
メタルモノハ此ノ限ニ在ラス
一拘留又ハ科料ニ該ル罪ノ事件
二短期一年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該
ル罪ヲ除ク外有期ノ懲役若ハ禁錮又
ハ罰金ニ該ル罪ノ事件
第十二條區裁判所ハ破產事件ニ付管轄
權ヲ有ス
第十三條區裁判所ハ法律ニ別段ノ定ア
ル場合ヲ除ク外非訟事件ニ付管轄權ヲ
有ス
非訟事件中登記事務ハ錄事ヲシテ之ヲ
取扱ハシムルコトヲ得
第十四條區裁判所ノ權限及權限行使ノ
方法ハ本法ニ規定スルモノノ外訴訟法
其ノ他ノ法律ノ定ムル所ニ依ル
第十五條司法大臣ハ區裁判所ノ事務ノ
一部ヲ同一地方裁判所ノ管轄區域内ノ
他ノ區裁判所ヲシテ取扱ハシムルコトヲ得
第十六條司法大臣ハ區裁判所ノ事務ノ
一部ヲ取扱ハシムル爲區裁判所出張所
ヲ設置スルコトヲ得
第十七條判事二人以上ヲ置キタル區裁
判所ニ於テハ司法大臣ハ其ノ一人ヲ監
督判事トス
第十八條監督判事又ハ判事一人ノ區裁
判所ニ於テハ其ノ判事ハ其ノ廳ノ行政
事務ヲ掌ル
監督判事差支アルトキハ他ノ判事席次
ノ順序ニ依リ之ヲ代理ス
判事一人ノ區裁判所ニ於テ其ノ判事差
支アルトキハ裁判事務ノ代理ヲ爲ス判
事之ヲ代理ス
第十九條區裁判所ノ事務ハ各判事ニ分
配ス
第二十條判事差支アルトキハ其ノ區裁
判所又ハ他ノ區裁判所判事之ヲ代理ス
第二十一條區裁判所ニ於ケル事務分配
及代理順序ハ地方裁判所長每年豫メ之
マルトハ
第二十二條司法大臣ハ區裁判所カ事務
ヲ取扱フコトヲ得サル事由ヲ生シタル
場合ニ於テハ地方裁判所長ノ每年豫メ
定メタル順序ニ依リ他ノ區裁判所ヲシ
テ代リテ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第二十三條事務ノ分配ハ司法年度中之
ヲ變更セス但シ判事事務分擔著シク不
均衡ト爲リタル場合又ハ轉職、退職、
疾病其ノ他ノ事故ニ因リ引續キ差支ヲ
生シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十四條區裁判所判事差支ノ爲或ル
事件ヲ取扱フコトヲ得ス裁判所ノ判事
中其ノ代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ
於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ
地方裁判所長ハ地方裁判所判事ニ其ノ
代理ヲ命スルコトヲ得
第三章地方裁判所
第二十五條地方裁判所ハ民事訴訟ニ於
テ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
第一審トシテ
區裁判所ノ管轄ニ屬スルモノヲ除キ
其ノ他ノ事件
二第二審トシテ
イ區裁判所ノ判決ニ對スル控訴
ロ區裁判所ノ決定及命令ニ對スル
抗〓
第二十六條地方裁判所ハ刑事訴訟ニ於
テ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
-第一審トシテ
區裁判所ノ管轄ニ屬スルモノ及特ニ
大審院ノ管轄ニ屬セシメタルモノヲ
除キ其ノ他ノ事件
二第二審トシテ
イ區裁判所ノ判決ニ對スル控訴
ロ大審院ノ管轄ニ屬スルモノヲ除
ク外區裁判所ノ決定命令ニ對スル
抗〓
第二十七條地方裁判所ハ非訟事件ニ關
スル區裁判所ノ決定及命令ニ對スル抗
告ニ付管轄權ヲ有ス
第二十八條地方裁判所ニ一又ハ二以上
ノ民事部及刑事部ヲ置ク
部ノ數ハ司法大臣之ヲ定ム
第二十九條地方裁判所ニ所長ヲ置ク
部ニ部長ヲ置ク
第三十條所長ハ部長ト爲リ且其ノ廳ノ
行政事務ヲ、部長ハ裁判長ト爲リ部ノ
行政事務ヲ掌ル
第三十一條所長差支アルトキハ席次ノ
順序ニ依リ部長之ヲ代理ス
部長差支アルトキハ席次ノ順序ニ依リ
部員之ヲ代理ス
第三十二條豫審事務ヲ取扱フヘキ判事
ハ司法大臣之ヲ命ス
第三十三條地方裁判所ノ事務ハ之ヲ各
部各豫審判事及其ノ他ノ各判事ニ分配
ス各部長、部員ノ配置及所長、部長、
部員差支アル場合ニ於ケル代理ノ順序
ハ部長及上席判事ト協議シテ所長每年
豫メ之ヲ定ム
第三十四條地方裁判所判事差支ノ爲或
ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且其ノ廳ノ
判事中代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ
於テ所長ハ其ノ管轄區域內ノ區裁判所判
事又ハ豫備判事ニ其ノ代理ヲ命スルコ
トヲ得但シ豫備判事ハ各部一人ニ限ル
前項ノ場合ニ於テ緊急ノ必要アリト認
ムルトキハ控訴院長ハ管轄區域内ノ他
ノ地方裁判所判事ヲシテ豫審事務ヲ取
扱ハシムルコトヲ得
第三十五條民事地方裁判所及刑事地方
裁判所アル場合ニ於テ裁判事務上必要
アリト認ムルトキハ控訴院長ハ民事地
方裁判所又ハ刑事地方裁判所ノ判事ニ
其ノ管轄區域ヲ同シクスル刑事地方裁
判所又ハ民事地方裁判所ノ判事ノ代理
ヲ命スルコトヲ得
第三十六條第十四條及第二十三條ノ規
定ハ地方裁判所ニ之ヲ準用ス
第三十七條司法大臣ハ地方裁判所ノ事
務ノ一部ヲ取扱ハシムル爲支部ヲ設置
スルコトヲ得
支部ノ上席ノ部長又ハ上席ノ判事ハ支
部ノ行政事務ヲ掌ル
上席ノ部長又ハ上席ノ判事差支アル場
合ニ之ヲ代理スヘキ者ハ司法大臣ノ定
ムル所ニ依ル
第四章控訴院
第三十八條控訴院ハ左ノ事件ニ付管轄
權ヲ有ス
一地方裁判所ノ第一審判決ニ對スル
控訴
二大審院ノ管轄ニ屬スルモノヲ除ク
外地方裁判所ノ第一審トシテ爲シタ
ル決定及命令ニ對スル抗〓
第三十九條控訴院ニ院長ヲ置ク
部ニ部長ヲ置ク
第四十條院長ハ部長ト爲リ且其ノ廳ノ
行政事務ヲ掌ル
部長ハ裁判長ト爲リ其ノ部ノ行政事務
マヨナ
第四十一條院長ハ判事差支ノ爲或ル事
件ヲ取扱フコトヲ得ス且其ノ廳ノ判事
中代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ
其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ管轄
區域内ノ地方裁判所判事ニ其ノ代理ヲ
命スルコトヲ得但シ豫備判事ニ之ヲ命
スルコトヲ得ス
第四十二條第十四條、第二十三條、第
二十八條、第三十一條及第三十三條ノ
規定ハ控訴院ニ之ヲ準用ス
第五章大審院
第四十三條大審院ハ左ノ事件ニ付管轄
權ヲ有ス
終審トシテ
イ上告
ロ地方裁判所ノ第二審トシテ爲シ
タル決定及命令竝控訴院ノ決定及
命令ニ對スル抗〓
ハ地方裁判所又ハ區裁判所ノ爲シ
タル上〓棄却ノ決定ニ對スル抗〓
二第一審ニシテ終審トシテ
刑法第七十三條、第七十五條、第七
十七條乃至第七十九條及第八十一條
乃至第八十九條ノ罪竝治安維持法第
一條第一項ノ罪及其ノ未遂ノ罪ノ事
件
第四十四條大審院ニ院長ヲ置ク
部ニ部長ヲ置ク
第四十五條院長ハ部長ト爲リ且其ノ廳
ノ行政事務ヲ掌ル
部長ハ裁判長ト爲リ其ノ部ノ行政事務
ZAM
第四十六條院長ハ判事差支ノ爲或ル事
件ヲ取扱フコトヲ得ス且其ノ廳ノ判事
中代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ
事件緊急ナリト認ムルトキハ控訴院ノ
判事ニ其ノ代理ヲ命スルコトヲ得
第四十七條法律上ノ點ニ付爲シタル大
審院ノ裁判ハ當該事件ノ裁判ニ付裁判
所ヲ覊束ス
第四十八條大審院ニ於テ法律上ノ點ニ
付前ニ爲シタル裁判ト異ル裁判ヲ爲サ
ントスルトキハ事件ノ性質ニ從ヒ民事
若ハ刑事ノ總部又ハ民事及刑事ノ總部
ヲ聯合シタル部ニ於テ審判ヲ爲ス
聯合審判ハ當該事件ヲ擔任スル部ノ請
求ニ因リ院長之ヲ命ス
第四十九條聯合部ハ相當ト認ムルトキ
ハ當該法律上ノ點ニ限リ裁判ヲ爲スコ
トヲ得此ノ場合ニ於テハ聯合審判ノ請
求ヲ爲シタル部ニ於テ事件ヲ完結ス
第五十條聯合部ノ審判ハ聯合部ノ判事
三分ノ二以上關與シテ之ヲ爲ス
前項ノ場合ニ於テハ聯合部ノ判事中席
次最モ高キ者ヲ部長トス但シ院長ハ自
ラ部長ト爲ルコトヲ得
第五十一條院長ハ第一審ニシテ終審タ
ルヘキ刑事ノ事件ニ付其ノ廳ノ判事ニ
豫審ヲ命ス但シ便宜ニ依リ他ノ裁判所
ノ判事ニ豫審ヲ命スルコトヲ得
第五十二條第十四條、第二十三條、第
二十八條、第三十一條及第三十三條ノ
規定ハ大審院ニ之ヲ準用ス
第六章判事
第五十三條判事ハ三年以上辯護士トシ
テ實務ニ從事シタル者ヨリ之ヲ任ス
第五十四條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ判事ニ任セラルルコトヲ得ス
一禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
二破產ノ宣告ヲ受ケ復權セサル者
三懲戒處分ニ因リ免官セラレタル者
又ハ辯護士法ニ依リ除名セラレタル者
第五十五條新ニ判事ニ任セラレタル者
ハ一時豫備判事トシテ地方裁判所ニ勤
務セシムルコトヲ得
第五十六條判事ハ終身官トシ親任、-勅
任又ハ奏任トス
第五十七條大審院長ハ親任判事ヲ以テ
之ヲ親補ス
控訴院長、大審院部長及地方裁判所長
ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任判事ヲ以
テ之ヲ補シ其ノ他ノ判事ノ職ハ勅任判
事又ハ奏任判事ヲ以テ司法大臣之ヲ補
ス
第五十八條五年以上判事タル者ニ非サ
レハ控訴院判事ニ補セラルルコトヲ得
ス
第五十九條十年以上判事タル者ニ非サ
レハ大審院判事ニ補セラルルコトヲ得
ス
第六十條判事タル資格ヲ有スル者ニシ
テ左ニ揭クルモノノ在職ハ前二條ノ適
用ニ付テハ之ヲ判事ノ在職ト看做ス
一朝鮮總督府判事
二臺灣總督府法院判官
三關東廳法院判官
四南洋廳判事
五實務ニ從事スル辯護士
六帝國大學令又ハ大學令ニ依ル大學
ニ於テ民事又ハ刑事ニ關スル法律學
ノ〓授ヲ擔任スル〓授、助〓授又ハ
專任〓員
七行政裁判所長官及行政裁判所評定
官
八司法次官、司法省各局長及司法書
記官
九訴訟事件及非訟事件ニ關スル事務
竝登記事務ニ從事スル領事官
第六十一條判事ハ在職中左ノ諸件ヲ爲
スコトヲ得ス
-公然政事ニ關係スルコト
二政黨ノ黨員又ハ政社ノ社員ト爲ル
コト
三帝國議會ノ議員又ハ道府縣市町村
ノ議會ノ議員トナルコト
四行政事務ニ關スル公務ヲ兼ヌルコト
五商業ヲ營ミ又ハ營利ヲ目的トスル
法人ノ役員ト爲ルコト
第六十二條司法事務上必要アルトキハ
司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ
決議ニ依リ判事ニ轉職ヲ命スルコトヲ
得
第六十三條判事身體又ハ精神ノ衰弱ニ
因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタ
ルトキハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決
議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
疾病其ノ他已ムコトヲ得サル事由アル
場合ニ於テハ本人ノ願ニ依リ前項ノ規
定ニ拘ラス之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
第六十四條前二條ノ總會ニ關スル事項
ハ司法大臣之ヲ定ム
第六十五條法律ヲ以テ裁判所ノ組織ヲ
變更シ又ハ之ヲ廢シタル場合ニ於テ其
ノ判事ヲ補スヘキ關位ナキトキハ司法
大臣ハ之ニ俸給ノ半額ヲ給シテ關位ヲ
待タシム
第六十六條判事禁錮以上ノ刑ニ處セラ
レタルトキハ其ノ官ヲ失フ
第六十七條判事ハ第六十二條ノ規定ニ
依ルノ外懲戒ノ處分ニ因ルニ非サレハ
其ノ意ニ反シテ轉官、轉職又ハ免官セ
ラルルコトナシ
前項ノ規定ハ豫備判事ニ對シ勤務スヘ
キ裁判所ノ變更ヲ命スルコトヲ妨ケス
第六十八條判事ニ對シ懲戒訴追又ハ刑
事訴追ヲ始メタル爲法律上職務ヲ執ラ
シムルコト能ハサル期間內ハ俸給ノ三
分ノ一ヲ減ス
第六十九條判事ノ席次ハ司法大臣之ヲ
定ム
第七章錄事及通譯官吏
第七十條裁判所ニ錄事ラ置ク錄事ハ奏
任又ハ判任トス
錄事ハ民事及刑事ノ審理ニ關スル準
備法廷ノ立會、調書ノ作成、記錄ノ
整理保管其ノ他法令ノ定ムル事務ヲ取
扱フ
錄事ハ前項ノ外上官ノ指揮ヲ承ケ裁判
所ニ於ケル諸般ノ事務ヲ取扱フ
第七十一條地方裁判所及錄事二人以上
ヲ置キタル區裁判所ニ〓血督錄事、控訴
院及大審院ニ錄事長ヲ置ク
錄事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
監督錄事及錄事長ハ上官ノ命ヲ受ケ錄
事ノ事務ヲ監督ス
第七十二條裁判所ニ通譯官及通譯吏ヲ
置クコトヲ得
通譯官ハ奏任、通譯吏ハ判任トス
通譯官及通譯吏ノ職ハ司法大臣之ヲ補
ス
第八章開廷
第七十二條開延ハ裁判所又ハ支部ニ於
テ之ヲ爲ス
事務ノ處理上必要ナル事情アルトキハ
司法大臣ノ許可ヲ受ケ管轄區域內ノ一
定ノ場所ニ於テ開廷ヲ爲スコトヲ得
第七十四條開廷中秩序ノ維持及審判ノ
指揮ハ裁判長ニ屬ス
第七十五條開延ハ定數ノ判事列席シテ
之ヲ爲ス但シ裁判所ノ長ハ裁判長ノ請
求ニ因リ補充判事ヲ命スルコトヲ得
補充判事ハ審判ニ立會ヒ判事差支アル
トキ之ニ代ルモノトス
第七十六條安寧秩序又ハ風俗ヲ害スル
ノ虞アルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ對
審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第七十七條對審ノ公開ヲ停ムルノ決定
ハ理由ヲ開示シテ之ヲ言渡スヘシ
第七十八條判決ノ言渡ハ之ヲ公開ス但
シ理由ニ付テハ安寧秩序又ハ風俗ヲ害
スルノ虞アルトキハ裁判所ハ決定ヲ以
テ公開ヲ停ムルコトヲ得此ノ場合ニ於
テハ前條ノ規定ヲ準用ス
第七十九條公開ヲ停メタルトキト雖裁
判長ハ相當ト認ムル者ノ入廷ヲ許スコ
トヲ得
第八十條裁判長ハ未成年者、裁判所ノ
威儀ニ適セサル風體ヲ爲ス者其ノ他秩
序維持ニ害アリト認ムル者ノ入廷ヲ禁
シ又ハ之ヲ退廷セシムルコトヲ得
第八十一條裁判長ハ法廷ノ秩序維持ノ
爲必要ト認ムルトキハ開廷中審判ヲ妨
ケ又ハ不當ノ行狀ヲ爲ス者ヲ閉廷迄留
置スルコトヲ得
裁判所ハ決定ヲ以テ前項ノ違反者ヲ五
百圓以下ノ過料又ハ五日以内ノ勾置ニ
處スルコトヲ得
留置命令及其ノ理由ハ之ヲ訴訟記錄ニ
記載スヘシ
第八十二條過料又ハ勾置ヲ命スル裁判
ニ對シテハ該事件ノ手續ニ從ヒ卽時抗
告ヲ爲スコトヲ得
勾置ニ付テハ勾留ニ關スル規定ヲ準用ス
第八十三條第八十一條ノ場合ニ於テ其
ノ行爲刑ヲ科スヘキモノナルトキ及法
廷ニ於テ僞證其ノ他ノ犯罪アリタルト
キハ裁判長ハ事實ヲ明確ニシテ事件ヲ
檢事ニ送致スヘシ此ノ場合ニ於テ必要
アルトキハ裁判長ハ違反者ノ逮捕ヲ命
スルコトヲ得
第八十四條第七十四條及第七十六條乃
至前條ノ規定ハ區裁判所判事、豫審判
事及受命判事ノ審判ニ之ヲ準用ス但シ
裁判長ノ權限ハ審判ヲ爲シタル判事之
ヲ行フ
第八十五條豫審判事又ハ受命判事ノ爲
シタル過料又ハ勾置ノ裁判ニ對シテハ
二日以内ニ判事所屬ノ裁判所ニ異議ノ
申立ヲ爲スコトヲ得
抗告ハ異議ニ付テノ裁判ニ對シテ之ヲ
爲スコトヲ得
第八十六條法廷ニ於テハ審判ニ關與ス
ル判事、檢事、錄事及辯護士ハ一定ノ
制服ヲ着ス
第九章合議
第八十七條裁判ノ合議ハ裁判長之ヲ開
キ且之ヲ整理ス
合議ハ之ヲ公行セス
合議ノ〓末竝各判事ノ意見及多少ノ數
ニ付テハ嚴ニ祕密ヲ守ルヘシ
第八十八條合議ニ於テハ席次低キ判事
ヨリ順次意見ヲ陳述シ裁判長ヲ終トス
判事ハ意見ノ陳述ヲ拒ムコトヲ得ス
第八十九條裁判ハ過半數ノ意見ニ依ル
數額ニ付判事ノ意見三說以上ニ分レ何
レモ過半數ニ達セサルトキハ過半數ニ
達スル迄多額ノ意見ヨリ順次寡額ニ合
算ス
刑事ニ付意見三說以上ニ分レ何レモ過
半數ニ達セサルトキハ過半數ニ達スル
迄被告人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益
ナル意見ニ合算ス
第十章司法行政ノ監督
第九十條司法大臣ハ裁判所ヲ監督ス
大審院長、控訴院長及地方裁判所長ハ
各其ノ廳及管轄區域內ノ下級裁判所ヲ
監督ス
區裁判所ノ監督判事又ハ一人ノ判事ハ
其ノ廳ヲ監督ス
第九十一條司法大臣及監督權アル判事
ハ不適當ナル事務取扱ニ關シテ注意ヲ
爲シ且職務ノ內外ヲ問ハス地位ニ不相
應ナル行狀ニ對シテ諭〓ヲ爲スコトヲ
得但シ處分前當該官吏ヲシテ辯明ヲ爲
サシムヘシ
第九十二條前條ノ規定ハ法令ニ依ル懲
戒ノ事由アル場合ニハ之ニ適用セス
第九十三條本章ノ規定ニ依ル監督權ノ
行使ハ事件ノ裁判ニ關スル判事ノ職務
ノ實行ニ影響ヲ及ホスコトナシ
第九十四條司法事務取扱ノ延滯又ハ不
適當ナル事務取扱ニ對シテハ利害關係
人ハ司法大臣又ハ監督權アル判事ニ之
ヲ申告スルコトヲ得
附則
第九十五條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第九十六條裁判所構成法施行條例ハ之
マルス
第九十七條本法施行前裁判所ノ受理シ
タル訴訟ノ管轄ニ付テハ從前ノ規定ニ
依ル但シ本法ニ依リ其ノ裁判所ノ管轄
ニ屬スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第九十八條本法施行前ニ聯合審判ヲ命
シタル事件ノ聯合審判ニ付テハ仍從前
ノ規定ニ依ル
第九十九條本法施行ノ際現ニ從前ノ規
定ニ依ル判事ノ資格ヲ有スル者ハ本法
施行後ト雖仍其ノ資格ヲ有ス大審院判
事又ハ控訴院判事ニ補セラルル資格ニ
付亦同シ
第百條舊刑法ノ重罪ノ刑又ハ禁錮ニ處
セラレタル者ハ第五十四條ノ規定ノ適
用ニ付テハ之ヲ禁錮以上ノ刑ニ處セラ
レタルモノト看做ス
第百一條本法施行ノ際現ニ從前ノ規定
ニ依リ裁判所書記タル資格ヲ有スル者
ハ本法施行後ト雖仍裁判所錄事タル資
格ヲ有ス
第百二條本法施行前從前ノ規定ニ依リ
罰金又ハ拘留ニ處スヘキ行爲ヲ爲シタ
ル者ニシテ本法施行ノ際未タ其ノ裁判
ヲ受ケサルモノハ本法ニ依リ處罰ス但
シ過料ノ額ハ從前ノ規定ニ依ル額ヲ超
ユルコトヲ得ス
第百三條本法施行前從前ノ規定ニ依リ
爲シタル罰金又ハ拘留ノ裁判及陳述禁
止處分ニ付テハ仍從前ノ規定ニ依ル
第百四條本法施行ノ際現ニ裁判所勤務
ノ裁判所書記又ハ書記長ハ別ニ辭令ヲ
用ヒス同官等俸給ヲ以テ裁判所錄事ニ
任セラレ各其ノ現ニ勤務スル裁判所ノ
錄事又ハ錄事長ニ補セラレタルモノト
ス
第百五條違警罪卽决例、明治三十二年
法律第七十號及刑事交涉法ハ本法ノ爲
ニ變更ヲ受クルコトナシ
第百六條他ノ法令中裁判所勤務ノ裁判
所書記ニ關スル規定ハ之ヲ裁判所錄事
ニ關スル規定トシ裁判所書記長ニ關ス
ル規定ハ之ヲ裁判所錄事長ニ關スル規
定トス
第百七條裁判所勤務ノ裁判所書記ノ職
務上ノ行爲ハ之ヲ裁判所錄事ノ職務上
ノ行爲ト看做ス
檢察廳法案
右本院提出案及送付候也
昭和十四年三月二日
衆議院議長小山松壽
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
檢察廳法案
檢察廳法
第一條檢察廳ハ區檢察廳、地方檢察廳、
檢察院及總檢察院トス
司法大臣ハ地方檢察廳ノ事務ノ一部ヲ
取扱ハシムル爲支廳ヲ設置スルコトヲ得
第二條檢察廳ニ檢事ヲ置ク
第三條檢事ハ公訴ヲ實行シ、裁判ノ執
行ヲ指揮シ其ノ他公益上必要ナル事項
ニ付法令ノ定ムル職權ヲ行フ
第四條區檢察廳ノ檢事ハ區裁判所ノ管
轄ニ屬スル事項、地方檢察廳ノ檢事ハ
地方裁判所ノ管轄ニ屬スル事項、檢察
院ノ檢事ハ控訴院ノ管轄ニ屬スル事項、
總檢察院ノ檢事ハ大審院ノ管轄ニ屬ス
ル事項ニ付其ノ職務ヲ行フ
第五條總檢察院ニ檢事總長、檢察院ニ
檢事長、地方檢察廳ニ檢事正ヲ置ク
檢事二人以上ヲ置キタル區檢察廳ニ於
テハ其ノ一人ヲ首席檢事トス
第六條檢事總長ハ總檢察院ノ長、檢事
長ハ檢察院ノ長、檢事正ハ地方檢察廳
ノ長ト爲リ各其ノ廳ノ行政事務ヲ掌ル
支廳ノ上席ノ檢事、首席檢事又ハ檢事
一人ノ支廳若ハ區檢察廳ニ於テハ其ノ
檢事ハ檢事正ノ命ヲ承ケ其ノ廳ノ行政
事務ヲ掌ル
第七條檢察廳ノ設置及管轄區域ハ別ニ
法律ヲ以テ之ヲ定ム
第八條檢事ハ左ニ揭グル者ヨリ之ヲ任
ズ
-三年以上辯護士トシテ實務ニ從事
シタル者
二判事及判事タル資格ヲ有スル朝鮮
總督府判事及朝鮮總督府檢事
第九條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ檢
事ニ任ゼラルルコトヲ得ズ
-禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
二破產ノ宣告ヲ受ケ復權セザル者
三懲戒ノ處分ニ因リ免官セラレタル
者又ハ辯護士法ニ依リ除名セラレタ
ル者
第十條檢事ハ親任、勅任又ハ奏任トス
檢事總長ハ親任檢事ヲ以テ之ヲ親補ス
檢事長ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任檢
事ヲ以テ之ヲ補シ其ノ他ノ檢事ノ職ハ
勅任檢事及奏任檢事ヲ以テ司法大臣之
マヨハ
第十一條新ニ檢事ニ任ゼラレタル者ハ
一時豫備檢事トシテ區檢察廳又ハ地方
檢察廳ニ勤務セシムルコトヲ得
第十二條檢事總長年齡六十五年、其ノ
他ノ檢事ノ職ニ在ル者年齡六十三年ニ
達シタルトキハ退職トス但シ司法大臣
ハ三年以内ノ期限ヲ定メ仍在職セシム
ルコトヲ得
第十三條檢事身體又ハ精神ノ衰弱ニ因
リ職務ヲ執ルコト能ハザルニ至リタル
トキハ總檢察院ノ總會ノ決議ニ依リ之
ニ退職ヲ命ズルコトヲ得
疾病其ノ他已ムコトヲ得ザル事由アル
場合ニ於テハ本人ノ願ニ依リ前項ノ規
定ニ拘ラズ之ニ退職ヲ命ズルコトヲ得
第一項ノ總會ニ關スル事項ハ司法大臣
之ヲ定ム
第十四條法律ヲ以テ檢察廳ノ組織ヲ變
更シ又ハ之ヲ廢シタル場合ニ於テ其ノ
檢事ヲ補スベキ關位ナキトキハ司法大
臣ハ之ニ俸給ノ半額ヲ給シテ闕位ヲ待
タシム
第十五條檢事禁錮以上ノ刑ニ處セラレ
タルトキハ其ノ官ヲ失フ
第十六條檢事ハ懲戒ノ處分ニ因ルニ非
ザレバ其ノ意ニ反シテ轉官又ハ免官セ
ラルルコトナシ
檢事ノ懲戒ニ關シテハ別ニ法律ヲ以テ
之ヲ定ム
第十七條檢事ニ對シ懲戒訴追又ハ刑事
訴追ヲ始メタル爲法律上職務ヲ執ラシ
ムルコト能ハザル期間內ハ俸給ノ三分
ノ一ヲ減ズ
第十八條檢察廳ニ錄事ヲ置ク
錄事ハ奏任又ハ判任トス
錄事ハ書類ノ作成、記錄ノ整理保管其
ノ他法令ノ定ムル事務ヲ取扱フ
錄事ハ前項ノ外上官ノ指揮ヲ承ケ檢察
廳ニ於ケル諸般ノ事務ヲ取扱フ
第十九條地方檢察廳及錄事二人以上ヲ
置キタル區檢察廳ニ首席錄事、檢察院
及總檢察院ニ錄事長ヲ置ク
錄事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
首席錄事及錄事長ハ上官ノ命ヲ承ケ錄
事ノ事務ヲ監督ス
第二十條檢察廳ニ通譯官及通譯吏ヲ置
クコトヲ得
通譯官ハ奏任、通譯吏ハ判任トス
通譯官及通譯吏ノ職ハ司法大臣之ヲ補
ス
第二十一條司法大臣ハ公訴ノ實行ニ付
檢事ヲ指揮ス
檢事總長以外ノ檢事ニ對スル指揮ハ
檢事總長ヲ經由シテ之ヲ爲ス但シ緊急
ノ必要アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項但書ノ規定ニ依リ指揮ヲ爲シタル
トキハ司法大臣ハ檢事總長ニ其ノ指揮
ヲ爲シタル事項ヲ通〓ス
第二十二條檢事總長、檢事長及檢事正
ハ公訴ノ實行ニ付各其ノ廳及管轄區域
內ノ檢察廳ノ檢事ヲ指揮ス
檢事總長、檢事長及檢事正ハ公訴ノ實
行ニ付各其ノ廳及管轄區域內ノ檢察廳
ニ於テ或ル檢事ノ取扱フベキ事務ヲ自
ラ取扱ヒ又ハ之ヲ他ノ檢事ニ移スコト
ヲ得
第二十三條檢事ハ犯罪ノ捜査其ノ他職
務ノ執行ニ付司法警察官吏ヲ指揮ス
第二十四條司法大臣ハ檢察廳ヲ監督ス
第二十五條檢事總長、檢事長及檢事正
ハ各其ノ廳及管轄區域內ノ檢察廳ヲ監
督ス
區檢察廳ノ首席檢事又ハ一人ノ檢事ハ
其ノ廳ヲ監督ス
第二十六條檢事總長、檢事長及檢事正
ハ各其ノ廳ノ檢事ヲシテ監督事務ノ
部ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第二十七條檢事總長、檢事長、檢事正、
支廳ノ上席ノ檢事又ハ首席檢事差支
アルトキハ各其ノ廳ノ檢事席次ノ順序
ニ依リ之ヲ代理ス
檢事一人ノ支廳又ハ區檢察廳ノ檢事差
支アルトキハ其ノ廳ヲ監督スル檢事正
ハ其ノ職務ヲ代理スベキ者ヲ命ズ
檢事ノ席次ハ司法犬臣之ヲ定ム
第二十八條司法警察官及司法警察官ノ
職務ヲ行フ者ニ對スル監督ハ前四條ノ
例ニ依ル
第二十九條檢察廳ノ事務取扱ノ延滯又
ハ不適當ナル執務若ハ處分ニ對シテハ利
害關係人ハ直近上級ノ監督官廳ニ抗〓
ヲ爲スコトヲ得但シ裁判所ニ於テ取消
又ハ變更ヲ命ズルコトヲ得ル檢事ノ處
分ハ此ノ限ニ在ラズ
抗告ハ原檢察廳ヲ經由シテ書面ヲ以テ
之ヲ爲スベシ
第三十條抗告ニ對スル處分ハ抗告申立
人ニ通知スベシ
第三十一條檢察廳ノ事務章程ハ司法大
臣之ヲ定ム
附則
第三十二條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第三十三條區檢察廳ノ檢事ノ職務ハ當
分ノ内司法警察官又ハ其ノ職務ヲ行フ
者ヲシテ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第三十四條本法施行ノ際現ニ從前ノ規
定ニ依リ檢事タル資格ヲ有スル者ハ本
法施行後ト雖仍其ノ資格ヲ有ス
第三十五條從前ノ檢事局ハ第八條ノ適
用ニ付テハ之ヲ檢察廳ト看做ス
第三十六條舊刑法フ重罪ノ刑又ハ禁錮
ニ處セラレタル者ハ第九條ノ適用ニ付
テハ之ヲ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル
モノト看做ス
第三十七條本法施行ノ際現ニ從前ノ規
定ニ依リ裁判所書記クル資格ヲ有スル
者ハ本法施行後ト雖仍檢察廳錄事タル
資格ヲ有ス
第三十八條本法施行ノ際現ニ檢事ノ職
ニ在ル者ハ別ニ辭令ヲ用ヒズ同官等俸
給ヲ以テ檢事ニ任ゼラレタルモノトシ
各區裁判所檢事局ノ檢事ハ當該區檢察
廳ノ檢事ニ、各地方裁判所檢事局ノ檢
事又ハ檢事正ハ當該地方檢察廳ノ檢事
又ハ檢事正ニ、各控訴院檢事局ノ檢事
又ハ檢事長ハ當該檢察院ノ檢事又ハ檢
事長ニ、大審院檢事局ノ檢事又ハ檢事
總長ハ總檢察院ノ檢事又ハ檢事總長ニ
補セラレタルモノトス
本法施行ノ際現ニ休職中ノ檢事又ハ退
職檢事タル者ハ別ニ辭令ヲ用ヒズ各休
職又ハ退職ノ儘檢事ニ任ゼラレタルモ
ノトス
第三十九條本法施行ノ際現ニ檢事局勤
務ノ裁判所書記ハ別ニ辭令ヲ用ヒズ同
俸給ヲ以テ檢察廳錄事ニ任ゼラレタル
モノトシ各區裁判所檢事局勤務ノ書記
ハ當該區檢察廳ノ錄事ニ、各地方裁判
所檢事局勤務ノ書記ハ當該地方檢察廳
ノ錄事ニ、各控訴院檢事局勤務ノ書記
ハ當該檢察廳ノ錄事ニ、大審院檢事局
勤務ノ書記ハ總檢察院ノ錄事ニ補セラ
レタルモノトス
第四十條本法施行前區裁判所檢事局ニ
於テ受理シタル事件ハ其ノ地ノ區檢察
廳ニ於テ之ヲ處理ス
本法施行前地方裁判所檢事局ニ於テ受
理シタル事件ハ其ノ地ノ地方檢察廳ニ
於テ之ヲ處理シ地方裁判所支部檢事局
ニ於テ受理シタル事件ハ其ノ地ノ地方
檢察廳支廳ニ於テ之ヲ處理ス
本法施行前控訴院檢事局ニ於テ受理シ
タル事件ハ其ノ地ノ檢察院ニ於テ之ヲ
處理ス
本法施行前大審院檢事局ニ於テ受理シ
タル事件ハ總檢察院ニ於テ之ヲ處理ス
第四十一條他ノ法令中檢事局ニ關スル
規定ハ之ヲ檢察廳ニ關スル規定トス
他ノ法令中區裁判所檢事局ニ關スル規定
ハ之ヲ區檢察廳ニ關スル規定トシ地方
裁判所檢事局又ハ地方裁判所支部檢事
局ニ關スル規定ハ之ヲ地方檢察廳又ハ
其ノ支廳ニ關スル規定トシ控訴院檢事
局ニ關スル規定ハ之ヲ檢察院ニ關スル
規定トシ大審院檢事局ニ關スル規定ハ
之ヲ總檢察院ニ關スル規定トス
第四十二條他ノ法令中區裁判所ノ檢事
ニ關スル規定ハ之ヲ區檢察廳ノ檢事ニ
關スル規定トシ地方裁判所ノ檢事又ハ
檢事正ニ關スル規定ハ之ヲ地方檢察廳
ノ檢事又ハ檢事正ニ關スル規定トシ地
方裁判所支部ノ檢事ニ關スル規定ハ之
ヲ地方檢察支廳ノ檢事ニ關スル規定ト
シ控訴院ノ檢事又ハ檢事長ニ關スル規
定ハ之ヲ檢察院ノ檢事又ハ檢事長ニ關
スル規定トシ大審院ノ檢事又ハ檢事總
長ニ關スル規定ハ之ヲ總檢察院ノ檢事
又ハ檢事總長ニ關スル規定トス
第四十三條他ノ法令中第一審裁判所、
上訴裁判所、控訴裁判所、上〓裁判所
又ハ管轄裁判所ノ檢事ニ關スル規定ハ
之ヲ各當該裁判所ノ管轄ニ屬スル事項
ニ付職務ヲ行フ檢察廳ノ檢事ニ關スル
規定トス
他ノ法令中裁判ヲ爲シタル裁判所ノ檢
事ニ關スル規定ハ之ヲ其ノ裁判所ノ管
轄ニ屬スル事項ニ付職務ヲ行フ檢察廳
ノ檢事ニ關スル規定トス
第四十四條他ノ法令中檢事所屬ノ裁判
所ニ關スル規定ハ之ヲ當該檢事ノ職務
ヲ行フベキ事項ニ付管轄權ヲ有スル裁
判所ニ關スル規定トス
第四十五條他ノ法令中檢事局勤務ノ裁
判所書記ニ關スル規定ハ之ヲ檢察廳錄
事ニ關スル規定トス
第四十六條從前ノ檢事又ハ檢事局勤務
ノ裁判所書記ノ職務上ノ行爲ハ各之ヲ
檢事又ハ檢察廳錄事ノ職務上ノ行爲ト
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082・子爵戸澤正巳君
○子爵戸澤正巳君 只今上程セラレマシタ
裁判所構成法改正法律案外一件ハ、關聯ス
ル所ガゴザイマルガ故ニ、人事調停法案ノ
特別委員ニ併託セラレムコトノ動議ヲ提出
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=82
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083・子爵秋田重季君
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=83
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084・議長(伯爵松平賴壽君)
○議長(伯爵松平賴壽君) 戶澤子爵ノ動議
ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
〇議長(伯爵松平賴壽君)御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007403242X01919390307&spkNum=84
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085・議長(伯爵松平賴壽君)
○議長(伯爵松平賴壽君) 次會ノ議事日程
ハ決定次第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、
本日ハ是ニテ散會致シマス
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3. 会議録のPDFを表示
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