1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十五年二月十日（土曜日）
午後一時二十二分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第十號
昭和十五年二月十日
午後一時開議
一 紀元二千六百年祝賀上奏書捧呈の件
━━━━━━━━━━━━━
第一 所得税法改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二 法人税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第三 特別法人税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第四 配當利子特別税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第五 外貨債特別税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第六 相續税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第七 建築税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第八 鑛區税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第九 臨時利得税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十 營業税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十一 地租法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十二 酒税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十三 清涼飮料税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十四 砂糖消費税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十五 織物消費税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十六 揮發油税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十七 物品税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十八 遊興飮食税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第十九 取引所税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十 通行税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十一 入場税法案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十二 印紙税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十三 骨牌税法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十四 狩獵法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十五 明治四十四年法律第四十五號中改正法律案（砂糖消費税織物消費税等の徴收に關する件）（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十六 大正九年法律第五十一號中改正法律案（内地臺灣又は樺太より朝鮮に移出する物品の内國税免除に關する件）（政府提出）第一讀會（前會の續）
第二十七 支那事變特別税法及臨時租税増徴法廢止法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十八 營業收益税法廢止法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第二十九 資本利子税法廢止法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第三十 法人資本税法廢止法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
第三十一 臨時租税措置法中改正法律案（政府提出） 第一讀會（前會の續）
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=0
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001・小山松壽
○議長(小山松壽君) 諸般ノ報〓ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
(第二號)昭和十四年度歲入歲出總豫算追
加案
(特第一號)昭和十四年度特別會計歲入歲
出豫算追加案
(第一號)昭和十五年度歲入歲出總豫算追
加案
(特第一號)昭和十五年度各特別會計歲入
歲出豫算追加案
(追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルベキ
契約ヲ爲スヲ要スル件
昭和十五年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案中修正
(以上二月十日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
靑年禁酒法制定反對ニ關スル建議案
提出者中野寅吉君
(以上二月九日提出)
一昨九日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
昭和十五年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案(政府提出)
外五件委員
委員長紫安新九郞君
理事
宇賀四郞君矢野庄太郞君
鶴惣市君森幸太郞君
一昨九日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル常任
委員左ノ如シ
第一部選出請願委員澤田利吉君
第一部選出懲罰委員原玉重君
-紀元二千六百年祝賀上奏書捧呈ノ件発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=1
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002・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、諸君、明十一日ハ神武天皇御卽位遊バ
サレテヨリ悠久實ニ二千六百年ノ住節ニ當
ルノデアリマス(拍手)寶祚ノ無窮天壤ト
共ニ彌〓榮。、御聖德四海ニ輝クヲ拜シ奉
リ、一億國民ト共ニ洵ニ忻慶ニ勝ヘザル次
第デアリマス、玆ニ本院ハ此ノ光輝アル記
念日ニ際シ、慶祝ノ意ヲ表スル爲上奏書ヲ
捧呈致シタイト思ヒマス(拍手)上奏文ハ起
草委員ヲ設ケ之ヲ起草セシメ、其ノ委員ノ
數ハ十八名トシ、議長ニ於テ指名スルニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ノ聲起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=2
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003・小山松壽
○議長(小山於壽君) 異議ナシト認メマス、
仍テ直チニ委員ヲ指名致シマス
紀元二千六百年祝賀上奏文起草ノ件委員
山道襄一君添田敬一郞君
木檜三四郞君北原阿智之助君
信太儀右衞門君村上紋四郞君
鈴木憲太郞君熊谷直太君
河上哲太君匹田鏡吉君
陣軍吉君安藤正純君
猪野毛利榮君大石倫治君
鈴木文治君椎尾辨匡君
熊谷五右衞門君金光庸夫君
只今指名致シマシタ委員諸君ハ直チニ議
長應接室ニ御參集相成リ、委員長及理事ノ
互選ヲ行ハレ、引續キ起草セラレンコトヲ
望ミマス、暫時休憩致シマス
午後一時二十六分休憩
午後二時四十八分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=3
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004・小山松壽
○議長(小山松壽君) 休憩前ニ引續キ會議
ヲ開キマス、紀元二千六百年祝賀上奏文起
草ノ件、委員長ノ報告ヲ求メマス-委員
長山道襄一君
報告書
一紀元二千六百年祝賀上奏文起草ノ件
右ハ別紙ノ通起草致候此段及報〓候也
昭和十五年二月十日
委員長山道襄
衆議院議長小山松壽殿
〔別紙〕
衆議院議長臣小山松壽誠敬誠懽頓首頓首
謹ミテ奏ス伏シテ惟ルニ
神武天皇辛西元年宸極ニ光臨シタマヒ
テヨリ今玆庚辰ノ歲本月本日方ニ二千
六百年ヲ迎へ天人慶ヲ同ウシ瑞雲紫陌
ニ滿ツ臣等洵ニ懽抃忻慶ニ禁フルナシ
謹ミテ按スルニ
神武天皇乾靈國ヲ授クルノ德ニ答ヘ皇孫
正ヲ養フノ心ヲ弘メ六合ヲ兼ネ都ヲ開
キ八紘ヲ掩ヒテ字ト爲サムト宣セラレ
不業ヲ千古ニ創メ大統ヲ萬世ニ垂レ
タマヒ盛德愈〓遠遠愈〓顯ハル
皇統連綿奕世民庶ヲ撫育シテ德化ヲ遺
シタマヘリ伏シテ以フ
陛下叡聖文武明治ノ宏謨ヲ承ケ大正
ノ先〓ヲ紹カセラレ日ニ進ミ月ニ新ナ
ルノ國是ヲ定メ皇道惟神ノ政ヲ施カセ
タマフ文運内ニ茂ンニ武德外ニ揚リ臣
民雨露ノ仁恩ニ浴シ萬邦日月ノ威光ヲ
仰ク今迺チ天ニ應シ時ニ處シ範ヲ隣邦
ニ與ヘテ東亞ノ大勢ヲ安定シ世界平和ノ
確立ヲ圖ラセラレ祖宗ノ鴻圖ヲ恢弘シ
タマヒテ聖業將ニ成ラムトス億兆皡峰
嵩呼心ヲ一ニシテ奉公ヲ期セサルナシ嗚
呼謎ナル哉臣等民獻ノ責ヲ荷ヒ贊襄ノ任
ニ備ハル本日ノ祝節ニ當リ俯仰古今悃款
ニ任フルナシ敢テ匪躬ノ節ヲ致シテ
聖業ヲ輔翼シ
天恩ノ萬一ニ酬イ奉ラムコトヲ庶幾フ玆
ニ虔ミテ
皇統ノ萬世悠久ヲ祝シ寶祚ノ天壤無窮
予言
恭シク表ヲ上リ奉賀以聞ス臣小山松壽誠
敬誠懽頓首頓首謹ミテ奏ス
〔山道襄一君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=4
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005・山道襄一
○山道襄一君 紀元二千六百年祝賀上奏文
起草ノ件、委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓申
上ゲマス、起草委員ハ先刻議長ヨリ指名セ
ラレマシタ後、直チニ議長應接室ニ參集ヲ
致シマシテ會議ヲ開キマシタ、先ゾ委員長
及理事ノ互選ヲ行ヒマシタ結果、委員長ニ
不肖私ガ當選致シマシタ、理事ニハ北原阿
智之助君、信太儀右衞門君、熊谷直太君、
大石倫治君ガ御當選ニナリマシタ、引續キ
マシテ案文起草ノ議事ヲ進メマシタ、愼重
協議ノ結果滿場一致ヲ以テ一ノ成案ヲ得マ
シタ、之ヲ玆ニ朗讀サセテ戴キマス
衆議院議長臣小山松壽誠敬誠懽頓首頓首
謹ミテ奏ス伏シテ惟ルニ
神武天皇辛酉元年宸極ニ光臨シタマヒ
テヨリ今玆庚辰ノ歲本月本日方ニ二千
六百年ヲ迎へ天人慶ヲ同ウシ瑞雲紫陌
ニ滿ツ臣等洵ニ懽〓忻慶ニ禁フルナシ
謹ミテ按スルニ
神武天皇乾靈國ヲ授クルノ德ニ答ヘ皇孫
正ヲ養フノ心ヲ弘メ六合ヲ兼ネ都ヲ開
キ八紘ヲ掩ヒテ字ト爲サムト宣セラレ
不業ヲ千古ニ創メ大統ヲ萬世ニ垂レ
タマヒ盛德愈〓遠遠愈〓顯ハル〓
皇統連綿奕世民庶ヲ撫育シテ德化ヲ遺
シタマヘリ伏シテ以フ
陛下叡聖文武明治ノ宏謨ヲ承ケ大正
ノ先〓ヲ紹カセラレ日ニ進ミ日ニ新ナ
ルノ國是ヲ定メ皇道惟神ノ政ヲ施カセ
タマフ文運內ニ茂ンニ武德外ニ揚リ臣
〃民雨露ノ仁恩ニ浴シ萬邦日月ノ威光ヲ
仰ク今迺チ天ニ應シ時ニ處シ範ヲ隣邦
ニ與ヘテ東亞ノ大勢ヲ安定シ世界平和
ノ確立ヲ圖ラセラレ祖宗ノ鴻圖ヲ恢
弘シタマヒテ聖業將ニ成ラムトス億
兆皡韓嵩呼心ヲ一ニシテ奉公ヲ期セサ
ルナシ嗚呼懿ナル哉臣等民獻ノ責ヲ荷
ヒ贊襄ノ任ニ備ハル本日ノ祝節ニ當リ
俯仰古今悃款ニ任フルナシ敢テ匪躬ノ
節ヲ致シテ聖業ヲ輔翼シ
天恩ノ萬一ニ酬イ奉ラムコトヲ庶幾フ玆
ニ虔ミテ
皇統ノ萬世悠久ヲ祝シ寶祚ノ天壤無窮
ヲ祈リ
恭シク表ヲ上リ奉賀以聞ス臣小山松壽誠
敬誠懽頓首頓首謹ミテ奏ス
文案ハ只今讀上ゲマシタ通リデアリマス、
斯ク起草ヲ致シマシタ、以上謹ンデ御報告
ヲ申上ゲマス
〔拍手起ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=5
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006・小山松壽
○議長(小山松壽君) 只今委員長ヨリ御報
告ニナリマシタ上奏文案ニ御異議ガナケレ
バ、敬意ヲ表スル爲御起立アランコトヲ望
ミマス
〔總員起立〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=6
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007・小山松壽
○議長(小山松壽君) 起立總員、上奏文案
ハ全會一致可決セラレマシタ
〔拍手起ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=7
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008・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御決議ニナリマシタ
ル上奏書ハ宮中ノ御都合ヲ伺ヒマシテ捧
呈致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=8
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009・小山松壽
○議長(小山松壽君) 日程第一乃至第三十
一ノ三十一案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キ、
前會ノ議事ヲ繼續致シマス-田万〓臣君
第所得稅法改正法律案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二法人稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第三特別法人稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第四配當利子特別稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第五外貨債特別稅法中改正法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第六相續稅法中改正法律案(政府提
빅第一讀會(前會ノ續)
第七建築稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第八鑛區稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第九臨時利得稅法中改正法律案(政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第十營業稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十一地租法中改正法律案(政府提
田第一讀會(前會ノ續)
第十二酒稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十三〓涼飮料稅法中改正法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第十四砂糖消費稅法中改正法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第十五織物消費稅法中改正法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第十六揮發油稅法中改正法律案政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第十七物品稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十八遊興飮食稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十九取引所稅法中改正法律案政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第二十通行稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二十一入場稅法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二十二印紙稅法中改正法律案(政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第二十三骨牌稅法中改正法律案(政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第二十四狩獵法中改正法律案(政府
提出)第一讀會(前會ノ續)
第二十五明治四十四年法律第四十五
號中改正法律案(砂糖消費稅織物消
費稅等ノ徵收ニ關スル件)(政府提
出)第一讀會(前會ノ續)
第二十六大正九年法律第五十一號中
改正法律案(內地臺灣又ハ樺太ヨリ
朝鮮ニ移出スル物品ノ內國稅免除ニ
關スル件)(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二十七支那事變特別稅法及臨時租
稅增徴法廢止法律案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
第二十八營業收益稅法廢止法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第二十九資本利子稅法廢止法律案
(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
第三十法人資本稅法廢止法律案政
府提出)第一讀會(前會ノ續)
第三十一臨時租稅措置法中改正法律
案(政府提出)第一讀會(前會ノ續)
〔田万〓臣君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=9
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010・田万清臣
○田万〓臣君 玆ニ上程サレマシタ所得稅
法改正法律案、其ノ他三十件ニ付キマシテ、
聊カ御尋ヲ致シタイノデアリマス、旣ニ同
修議員各位カラ相當突込ンダ御質問ガゴザ
イマシタノデ、私ハ其ノ點ニ觸レナイヤウ
ニ心得テハ居リマスケレドモ、多少重複スル
點ガアルカモ知レマセヌガ、併シナガラ觀
點ガ違ツテ居リマスノデ、其ノ積リデ御聽
ヲ願ヒタイノデアリマス
第一ニ御伺致シタイノハ負擔ノ均衡ガ取
レテ居ナイト云フ點ト、其ノ原因ニ付テデゴ
ザイマス、玆ニ御上程ニナツテ居リマス稅
制改革案ハ阿部內閣ノ殘シタ政策ノ一ツ
デゴザイマス、所ガ阿部內閣ハ何等革新性
ヲ持タナイ所ノ內閣デアリマシテ、燃ユル
ガ如キ國民ノ革新的要望ニ應ヘルコトガ出
來ズシテ、遂ニ倒壞致シタノデアリマス
其ノ殘サレタ政策ヲ踏襲サレテ居ルノデア
リマスカラ、此ノ稅制案ニ革新性ヲ認メル
コトガ不可能デアルコトハ理ノ當然デゴザ
イマス
是ニ於テ此ノ稅制改革案ヲ批評致シマ
スルナラバ、是ハ單ニ技術的ニ稅制ヲ整理
シタマデノモノデアリマシテ、未ダ稅制改
革ノ根本ニ觸レタト言フコトガ出來ナイノ
デアリマス、稅制改革ノ根本ニ觸レルト云
フコトハドウシテモ今日マデ稅制其ノモ
ノヲ支配シテ參リマシタ金融資本ニ觸レナ
ケレバナリマセヌ、金融資本ニ「メス」ヲ入レ
ナイ所ノ如何ナル稅制改革案モ、本當ノ意
味ノ改革ノ內容ヲ持ツテ居ルモノデ斷ジテ
ナイト斷言スル者デアリマス(拍手)ソコ
ニ於テ稅制ノ改革ハ、結局ニ於テ金融資
本ノ支配カラ脫却スル所ニ眞意ガアルコト
ヲ諒解シナケレバナラヌノデアリマス、所
ガ事變勃發以來今日マデ三年ノ歲月ヲ經過
致シテ居リマスルガ、此ノ間ニ於ケル所ノ
稅制ノ變遷ヲ顧ミテ見マスルナラバ、先ヅ
稅制ノ變遷ト申スヨリハ增稅ノ變遷ト申
上ゲタ方ガ適當デアラウト考ヘルノデアリ
マス、增稅ノ變遷ハ、結局ニ於キマシテ直接
稅間接稅ヲ通ジマシテ、大衆負擔ノ增大
ヲ來シタコトガ眞ノ結果デアリマシテ、而
シテ金融方面ニ於キマシテハ其ノ利潤ノ
割合ニ比較的課稅ガ輕カツタト云フノガ、
過去ニ於ケル事實デアリマス、之ヲ考ヘマ
スルト、非常ニ吾々ハ憤懣ヲ感ゼザルヲ得
ナイノデアリマスガ、又茲ニ上程ニナツテ
居ル稅制改革案ニ付テ考ヘテ見マシテモ、
ヤハリ同ジ意圖、同ジ方針ト云フモノガ此
ノ中ニ織込マレテ居リマシテドウシテモ
此ノ金融資本ノ支配ヲ脫却致スコトガ出來
ナイノデアリマス、曩ニ大藏省ノ主稅局ノ
試案ト云フノガ稅制調査會ニ提出サレマシ
タガ、其ノ試案ナルモノハ諸君モ御承知ノ
如ク、金融資本ニ對シマシテ百그パーセン
ト」ノ遠慮ヲ致シタ案デアリマス、殊ニ第
二種所得ニ於テ四割控除ト云フガ如キハ
ドンナ理窟ヲ以テ辯解サレマシテモ、吾々
ハ理解スルコトガ出來ナイノデアリマス
何故公債、社債、銀行預金ノ利息、竝ニ貸
付信託等ノ利益ニ付テ四割ヲ控除シナケレ
バナラヌカト云フ此ノ理窟-理由ハドウ
考ヘテモ出テ來ナイノデアリマス、割切ラウ
トシマシテモ割切レナイモノガアルノデア
リマス、ドウモ官僚ト金融資本トノ間ニハ
割切レナイモノガ長イ間續イテ居ルノデア
リマスルガ、割切レナイモノハ世間デ色々ゴ
ザイマスガ、官僚ト金融資本トノ仁義トデモ
申シマスカ、何レニ致シマシテモ割切レナ
イ四割控除ト云フモノヲ認メテ居ツタノデ
アリマス(拍手)是ダケヲ考ヘテ見マシテモ
金融資本ニ對スル奉仕ト云フモノハ相當大
キナモノガアルニモ拘ラズ、其ノ稅制調査
會ニ於キマシテハ、或ハ第二種所得ヲ一般所
得稅ニ綜合スルト云フコトニナツテ居ツタモ
ノヲ、之ヲ選擇主義ニ修正ヲ致シテ居ルノ
デアリマス、此ノ事ニ付キマシテハ後程ニ
詳シク御尋シタイト考ヘマスルカラ、是レ
以上ニ觸レナイコトニ致シマス、併シナガ
ラ選主義ニ綜合主義ヲ修正致シマシタ結
果ト致シマシテ、二千五六百万圓バカリノ收
益ガ金融資本ノ方面ニ流レタ譯デアリマス、
又法人稅ニ付テモ左樣ナコトガ言ヘルト考
ヘルノデアリマス、今日日本ノ經濟機構ノ
根本カラ之ヲ考ヘテ見マスルナラバ產業
資本ニ致シマシテモ、商業資本ニ致シマシ
テモ、金融資本ニ依存シテ居ナイモノハ一ツ
モナイノデアリマス、サウ云フ譯カラシテ、
法人稅ト云フモノハ金融資本ニ重大ナ關係
ノアルコトハ言ヲ俟タナイノデアリマス、
此ノ法人稅ノ所得ノ稅率ニ付キマシテ、百
分ノ二十トナツテ居リマシタモノヲ百分ノ
十八ニ修正ヲ加ヘテ居ルノデアリマス之
ニ依リマシテ値切ラレタ金額ト云フモノ
ハ約六千五百万圓ニ達シテ居ル次第デア
リマス、斯樣ニ此ノ金融資本ハ初メカラ
遠慮ヲシテ作成サレタ原案ニ修正ニ修正ヲ
加ヘテ、何處マデモ飽クナキ心情ヲ表ハシ
テ居ルノデアリマス、之ニ反シテ一般國民
ノ大衆負擔ト云フモノハ如何ニナツテ居
ルノデアリマセウカ、今マデノ稅制ニ於テ
見ルヨリモ一層今度ノ稅制改革案ニ於テ
ハ大衆負擔ガ强化サレテ居ルノデアリマ
ス、殊ニ勤勞所得稅ト云フモノガ大擴張ヲ
致サレテ居リマス、ソレニ依リマスト、恐
ラクハ納稅者ノ數ガ政府ノ言明セラルル所
ヲ見マシテモ、二百万人增加スルコトト考
ヘラレルノデアリマス、併シ年收六百圓以
上ノ者ガ納稅者トナルノデアリマスルカラ、
二百万人ヤソコラノ增加デナイト私ハ思フ
ノデアリマス、二圓ニ足ラナイ所ノ日給者
ガ納稅者ニナルノデアリマス、現在ノ納稅
者百八十万ニ加ヘルニ新ニ二百万ト云フ風
ニ政府ハ考ヘテ居ルヤウデアリマスケレド
モ、併シナガラ二百万位デハ止マラズ、相
當多數ノ納稅者ノ激增ト云フコトニナリマ
シテ、課稅ノ分野ノ大擴張ノ根柢ハココニ
アルノデアリマス、所ガ左樣ニ勤勞大衆
ニ對スル課稅ノ分野ガ擴張サレタト云フバ
カリデナシニ、課稅率ト云フモノガ比例率
デゴザイマスカラ、年俸五千圓ノ勅任官モ、
日給二圓ニ足リナイ勞働者モ、同ジ率デ稅
金ガ課ケラレルト云フコトハ、是亦ドンナ
言葉ヲ以テ致シマシテモ諒解スルコトハ出
來マセヌ、五千圓ノ勅任官ガ御作リニナツ
タ原案デアリマスカラ已ムヲ得ナイト致シ
マシテモ、餘リニ露骨ニ日給二圓足ラズノ
勞働者モ、年俸五千圓ノ勅任官モ、同ジ率
ニ課稅スルト云フコトハ、國民全體ガ承知
スルコトガ出來マセヌ、非常ナ不滿ヲ持ツ
テ居ルト私ハ考ヘルノデアリマス、斯樣ニ
大衆課稅ノ方向ハグン〓〓進メラレマス
ガ、一般勤勞大衆ノ生活狀態ヲ考ヘテ見マ
スト、事變以來ノ物價騰貴ニ依リマシテ二
割三割ノ生活ノ壓迫ヲ受ケテ居リマズ、此
ノ點カラ見マスナラバ、日常生活ニ於キマ
シテ旣ニ所得金ノ二割三割ノ臺變稅ヲ課ケ
ラレテ居ル譯デアリマス、斯樣ナ譯デ既ニ
二割三割ノ事變稅ヲ拂ツテ居ル狀態デアル
ニモ拘ラズ、勤勞所得稅ノ大擴張トナツ
テ、非常ニ負擔ガ增加シテ來ルト云フ結果
ニナルノデアリマス、所ガ此ノ納稅ニハ出
來ルダケ納稅者ヲ多ク致シマシテ、國民ノ
愛國心ヲ强化スルノデアルト云フコトガ
傳ヘラレテ居ルノデアリマスケレドモ
日本國民ハ租稅ニ依ラナクテモ、燃エル
ヤウナ愛國心ヲ持ツテ居ルト云コトハ
何人モ疑ヲ容レマセヌ、寧ロ國民ハ政府ニ對
シマシテ、此ノ稅制改正ノ諸法案ニ見ルガ
如キ、金融資本トノ抱合政治ヲ〓算シテ、
眞ニ國家ヲ本位トスル所ノ愛國政治ヲ〓揚
サレンコトヲ希望シテ居ルノデゴザイマス、
尙ホ其ノ他ニ一般國民ノ大衆負擔トナルベ
キモノニハ、間接消費稅ノ大增稅ガアルノ
デアリマス、酒稅、〓涼飮料稅ノ三割增稅
ヲ初メト致シマシテ、砂糖消費稅ノ二割ノ
增稅、更ニ織物消費稅、通行稅、入場稅等
等其ノ增稅ヲ合算致シマスナラバ、約二億
三千万圓ノ大增稅ガ行ハレルコトニナルノ
デアリマス、昔カラノ言葉デアリマスガ、
菜種ノ油ト稅金ハ、搾レバ搾ル程出テ來ル
ト云フコトガアリマスガ、斯樣ナ見地カラ
考ヘラレタノデナイデセウケレドモ、餘リ
ニ大衆增稅ガキツ過ギル、而シテ金融資本
ニ對スル稅金ハ輕過ギルノデ、稅制改革ト
云フ名デアリマスケレドモ、舊態依然トシ、
テ、何等ソコニ根本的ナ改革ガ見ラレナイ
ト斷言シテ憚ラナイノデアリマス、政府ハ
斯ル戰時下ニ於テコソ、國民ヲ基礎ト致シ
マシテ、金融資本ノ支配ヲ斷乎粉碎スル絕
好ノ時期デアルト考ヘルノデアリマス、然
ルニ事茲ニ出ズシテ以上申上ゲタヤウナ舊
態依然タル非革新的態度ハ洵ニ遺憾ト致
ス所デゴザイマス、其ノ他負擔ノ均衡ノ取
レナイ事例ト致シマシテハ、或ハ各所得間
ノ不均衡デアルトカ、各階層間ノ不均衡デ
アルトカ、各地方間ノ不均衡デアルトカ、
洵ニ不均衡ノ事例ト云フモノハ枚擧ニ遑ナ
イノデアリマス、政府ハ此ノ稅制改正諸法
案ニ於キマシテ、負擔ノ均衡ヲ一枚看板ニ
致シマシテ、一ニモ負擔ノ均衡、一一ニモ負
擔ノ均衡ト申シテ居リマスケレドモ、負擔
ノ均衡ドコロカ、負擔ノ大不均衡デゴザイ
マス、此ノ負擔ノ不均衡ノ深刻ナル實情ヲ、
大藏大臣ハ如何ニ御覽ニナリマスカ、此
ノ負擔ノ不均衡ヲ來シタ根本原因ハ、卽チ
政府ハ歷史的ニ抵抗ノ强イ金融資本ノ前ニ
ハ屈服シテ、抵抗ノ弱イ一般國民ニハ勇敢
ニ犠牲ヲ要求スル所ニアルト考ヘルノデア
リマス、以上二ツノ點ニ付テノ政府ノ所信
ヲ承リタイト考ヘルノデゴザイマス
次ニ第二デゴザイマスガ、增稅ニ依ル物
價騰貴ニ對スル對策ニ付テ御尋ヲ致シタイ
ノデアリマス、此ノ點ハ說明ヲ拔キニ致シ
マシテ、項目ダケヲ擧ゲマシテ、大藏、商
工兩大臣ノ明快ナル御答辯ヲ希望致ス次第
デアリマス、一ニハ直接稅ノ增稅ガ從來ト
同樣ニ勞働所得ニ轉嫁サレマシテ、待遇ヲ
低下スル傾向ヲ防止スル手段ヲ承リタイノ
デアリマス、二ニハ間接稅ノ增稅ガ物價ヲ
高メ、國民ノ家計ヲ苦シメルノデアリマス
ガ、之ヲ救治シテ戰時下國民生活ヲ確保ス
ルニハ、ドウ云フ方法ヲ御持チニナツテ居
ルカ御尋シタイ、三ハ物價騰貴ガ豫算ノ物
件費ヲ增大セシメマシテ、豫算ノ執行ヲ困
難ナラシメ、臨時議會ヲ開クガ如キ事態ヲ
生ジハシナイカト云フコトモ、併セテ御尋
シタイノデアリマス
第三ニハ第一ノ質問ノ中ニアリマシタ綜合
課稅ノ問題ニ付テ重ネテ政府ノ所信ヲ明ニ
シタイト考ヘルノデアリマス、現行ノ第二
種所得稅ニ對スル綜合課稅ノ要望ハ實ニ久
シキモノガアリマス、今日トナツテハ之ニ
反對スル者ハ金融資本以外ニハゴザイマス
そう折角ノ稅制改革モ、綜合課稅ヲ斷
行スルノデナケレバ何等ノ革新モ期待ス
ルコトガ出來ナイノデアリマス、卽チ綜
合課稅ヲ斷行シナケレバ金融資本ノ本體
ニ觸レルコトガ出來ナイノデアリマス、今
日我國ノ非常時局ガ要望致スモノハ、財政
膨脹ノ現狀ガ恆久化スルト云フコトハ已ム
ヲ得マセヌガ長期財政計畫ヲ整備致シマシ
テ、之ニ卽應スル所ノ恆久的稅制ヲ產ミ出
シ、長期建設ニ對應スル財政計畫ヲ完成ス
ルニアルノデアリマス、併シナガラ最前モ
申シマス通リ、公社債、銀行預金ノ利息及ビ貸
付信託ノ利子等ノ收入金額ニ對シマシテ、四割
ノ控除ヲシタ上ニ、綜合主義ヲ選擇主義ニ變
更致シマシタ爲ニ、事實上二万五千圓以上ノ
所得者ニハ、綜合稅ガ行ハレナイト云フ狀
態ニナツタノデアリマス、戰時體制下ニ於
キマシテ、斯ル金融資本ヲ擁護スル課稅方
針ト云フモノハ、一般國民ハドウシテモ承
服スルコトガ出來ヌノデアリマス、國民ハ
燃エルヤウナ反感ヲ堅持致シテ居リマス、
斯樣ニ大多數ノ國民ガ不滿ヲ持ツテ居リ、
大多數ノ國民ガ納得ガ行カナイヤウナ內容
ヲ包藏スル所ノ稅制法案ト云フモノハ恆久
性ヲ持チマセヌ、必ズ近キ將來ニ於テ崩壞
スルノ已ムナキ實情ニアルノデアリマス
斯樣ナ譯デアリマスカラ、長期財政計畫ト云
フモノハ、現下非常時局ノ要望スル長期財
政政策ノ根本ヲ成ス恆久稅制ト云フモノガ、
其ノ一角カラ崩レルト云フコトニナリマシ
テ、長期財政計畫ハ斷ジテ立チマセヌ、故ニ
此ノタビノ此ノ綜合課稅ヲ採用シナイデ選擇
課稅ニシタコトハ、戰時税制ノ弱點ヲ暴露シ
テ居ルノデアリマシテ、洵ニ寒心ニ堪ヘナ
イ所デアリマス、大藏事務當局ガ稅制理論
ノ一貫性ヲ主張致シマシテ、第二種所得ノ
一般所得稅ヘノ綜合主義ヲ採用シタニモ拘
リマセズ、事務當局ヲ政治的ニ指導スベキ
前藏相ガ、遂ニ選擇主義ニ方針ヲ變更致シ
マシテ、事務當局ノ眞摯ナル理想ヲ金融財
閥ノ恫喝ノ前ニ蹂ミ躪ツタノデアリマス、
櫻內藏相ハ前內閣ノ官僚獨善ヲ排擊シタ政
黨ノ一人デアリマス斯ル經歷ヲ持ツ櫻內
大藏大臣ハ、金融資本ト抱合シテ、官僚獨
善ノ謗ヲ招キマシタ靑木前藏相ノ衣鉢ヲ踏
襲スル筈ガナイト確信致シマスルガ、本案
ノ選擇主義ヲ綜合主義ニ還元スルノ意思ガ
アルカドウカヲ明ニシテ戴キタイノデアリ
マス(拍手)
第四ニハ物品販賣業者ノ營業稅ニ付テ大
藏商工兩大臣ノ所信ヲ御伺シタイト考ヘ
ルノデアリマス、統制經濟ノ進展ハ今日ニ
於キマシテハ、旣ニ物品販賣業者、卽チ商
業者ヲシテ公定價格デ商品ヲ仕入レテ、之
ヲ公定價格デ販賣スル段階ニ達セシメテ居
リマス、卽チ商人ヲシテ、今日ニ於キマシ
テハ「コンミッション·マーチャント」タラ
シメテ居ルノデアリマス、今マデハ所謂差
益商人トシテノ立場ガアツタノデアリマス
ケレドモ、今後ノ商人ハ手數料商人トシカ
ナリ得ナイノデアリマス安ク物ヲ買ヒマ
シテ、高ク賣ツタト云フ自由主義時代ノ商
業原則ト云フモノハ全ク地ヲ拂ハント致
シテ居リマス、是ハ商業ノ實質ニ變化ガ參
ツタノデアリマシテ、安ク買ウテ高ク賣ル
ト云フ商業ガ、ソコニ特殊ノ商業利潤ノ存
在ヲ推測セシメマシテ、營業稅設定ノ根據
ヲ與ヘタコトハ、首肯スルコトガ出來ルノ
デゴザイマス、併シナガラ公定價格デ物ヲ
買ウテ、公定價格デ賣ル現在ノ統制經濟時
代ニ入リマシテハ何等カノ變更ヲ加ヘナ
ケレバナリマセヌ、以上申上ゲマシタ如ク、
商業ガ「コンミッションマーチャント」トナ
ツタ以上ハ、其ノ商業利潤ト云フモノハ
明ニ商品流通ヲ掌ル者ノ그バブリック·サー
ビス」ニ對スル報酬トシテ考ヘルベキデア
リマス法律ニ定メラレタ値段デ買ウテ、
法律デ定メラレタ値段デ賣ルノデアリマス
カラ、全ク「パブリック·サービス」ノ本質
ヲ持ツテ居ルノデアリマス、斯樣ニ考ヘ來
リマスナラバ、官吏ノ行政事務、會社員ノ
會社事務ト同ジヤウナ「パブリック·サービ
ス」ノ本質ヲ持ツノデアリマスカラ、ソレ等
ノ人々ガ受ケル俸給ト云フモノトハ、實質
的ニ區別スルコトハ出來マセヌ、所ガ官吏
トカ、或ハ會社員トカ云フ人々ニ付キマシ
テハ、勤勞所得稅ダケガ課ルノデアリマス
ガ、物品販賣業者ニハ事業所得稅ノ外ニ、
營業稅ガ賦課サレルコトニナルノデゴザイ
やっ、是ハ自由主義時代ノ觀念デアリマシ
テ、今日ニ於キマシテハ、サウ云フ二重稅
ヲ徴收スルコトハ如何カト考ヘルノデアリ
マッ、今日中小商工業者ヲ救濟スルト云フ
聲ハ、到ル處ニ滿チテ居ルノデアリマシ
テ、政府ニ於キマシテモ中小商工業振興調
査會ト云フモノヲ設ケマシテ、今日ニ至ツ
テ居ルノデアリマス、併シナガラ一方ニ於
テドウモ可哀相ダ、何トカシテヤラナケ
レバナラヌト言ヒマシテ、左ノ手デ頭ヲ
撫デテ居ルカト思フト、右ノ手デ稅金ヲ
ギユーツト取ルト云フヤリ方デアリマシ
テ、斯樣ナヤリ方ハ國家ノ方針ト致シマシ
テハ、如何カト考ヘルノデアリマス、今日
現在ノ商業ノ本質カラ考ヘ綺制經濟ヲ徹
底スル上カラ考ヘテ見マシテモ、營業稅ノ
撤廢ト云フコトハ當然デゴザイマシテ、此
ノ點ニ關スル大藏大臣竝ニ商工大臣ノ御意
見ヲ承リタイノデゴザイマス(拍手)
第五ニハ個人財產稅ニ付テ御尋シタイト
考ヘマス、御承知ノ如ク今日稅制體系トシ
テ考ヘラレルモノハ、一ツハ所得稅ヲ中心
ト致シマシテ、財產稅ヲ補完稅トスル所ノ
モノデアリマス、今一ツハ所得稅ヲ中心ト
致シマシテ、收益稅ヲ補完稅ト致ス所ノモ
ノデアリマス、更ニ一ツハ分類所得稅ト一
般所得稅トヲ併用スル所ノ制度デゴザイマ
ス、以上ノ三ツノ稅制體系ガアルノデアリ
マスガ、現在日本ニ行ハレテ居ル體系ハ
所得稅ニ收益稅ヲ補完稅トスルモノデアリ
マシテ、是ハ旣ニ行詰ツテシマヒマシテ、
稅制改革ノ聲ガ起ツテ、今日稅制改革案ガ
提出サレテ居ルヤウナ有樣デアリマス今
一ツハ玆ニ原案トナツテ居リマス分類所得
稅ニ、一般所得稅ヲ併用スル體系デアリマ
シテ、是ハ非常ニ矛盾ガ多イノミナラズ
到底負擔ノ均衡ヲ期シ得ナイモノデアリマ
シテ、其ノ點ニ付キマシテハ旣ニ私ガ指摘
ヲ致シテ置キマシタカラ、是以上ニ申上ゲ
マセヌ、ソコデ殘リマスモノハ所得稅ヲ中
心ト致シマシテ、財產稅ヲ補完稅トスル體
系デアリマスガ、之ニ依ツテ初メテ資產重
課ノ目的ヲ達スルコトガ出來ルノデアリマ
ス、收益ノアル財產ニモ、無收益ノ財產ニ
モ、一定ノ課稅ヲスルコトガ出來ルノデア
リマシテ、一般國民大衆ノ生活ヲ抑壓スル
ト云フコトハ絕對ニアリマセヌ、是ハ理
論的ニモ一貫シテ居リマスシ、洵ニ明快ナ
稅制デアルト考ヘルノデアリマス、現在ニ
於キマシテ獨逸ガ之ヲ採用致シマシテ、相
當ノ成績ヲ擧ゲテ居ルコトハ、諸君モ御承
知ノ通リデアリマス、又我國ニ於キマシテ
モ曩ニ第七十囘帝國議會ニ、時ノ馬場藏相
ガ提案ニナリマシテ、諸君モ能ク御存ジノ
通リデアリマス、所ガ今日政府ガ低物價政
策ヲ執リマシテ、物價ノ騰貴ヲ抑壓ヲシテ
居リマスケレドモ、統制ニ掛ラナイ財產ガ
相常多イノデアリマス、不動產ニ致シマシ
テモ相當ノ暴騰ヲ見テ居ルノデアリマス、
其ノ他種別ヲ申上ゲルナラバ數限リナイノ
デアリマスガ、兎ニ角事變ノ爲ニ相當財產
ノ價格ガ暴騰シテ居ルコトハ事實デアリマ
シテ、之ニ依ツテ不勞所得ヲ形成致シテ居
ルノデアリマス、之ニ對シマシテ稅金ヲ課
ケルコトハ當然ノコトデアリマシテ、何等
異議ヲ挾ム者ハナイト考ヘルノデアリマス、
ソコニ於テ私ハ原案デアル所ノ分類所得稅
ト、一般所得稅ヲ併用スル所ノ此ノ體系ヨ
リモ、私ガ今申上ゲマシタ所得稅ヲ中心ト
シテ、財產稅ヲ補完稅トスル體系ノ方ガ、
餘程徹底シテ居ルト考ヘルノデアリマスガ、
藏相ニ於カレマシテハ今ノ私ガ申上ゲタ體
系ニ、原案ヲ變更スルノ意思アリヤ否ヤヲ
御伺シタイノデアリマス
次ハ第六デゴザイマスガ、重要產業ニ對
スル一般的免稅ニ付テ御尋致シタイノデア
リマス、私ハ重要產業ニ對スル一般的免稅
ニ付キマシテ、非常ニ遺憾ニ考ヘテ居ルノ
デアリマス、現在國稅ノ免除ヲ受ケテ居ル
產業ノ種別ハ相當ニ多イノデアリマス、例
ヘバ重要物產製造業、製鐵事業、自動車製
造事業「アルコール」製造事業、人造石油製
造事業、硫酸「アンモニヤ」製造事業、工作
機械製造事業、航空機製造事業ト云フヤウ
ナ譯デアリマシテ、主ナル軍需工業ニハ免
稅ノ恩典ノ及ンデ居ナイモノハ一ツモナイ
ト申上ゲテモ過言デハゴザイマセヌ、資本主
義ヲ初メテ日本ノ國ニ移植ヲ致シマシテ、此
ノ資本主義ヲ助長發展セシメヨウト云フ時
代ニハ、免稅政策ニ依リマシテ生產ヲ刺戟シテ、
生產ノ增加ヲ圖ルコトハ考ヘルコトガ出來ル
ノデアリマス、所ガ今日ニ於キマシテハ、資
本主義ハ高度ノ段階ニ發達ヲ致シマシテ、
謂フ所ノ獨占資本主義ノ段階ニ達シテ居ル
ノデアリマス斯樣ナ時代ニ於キマシテハ重
要ナ產業ハ獨占サレ、重要ナ資源ハ獨占サ
レテ居ル有樣デアリマスカラ、免稅ハ徒ニ
獨占資本家ヲシテ特別利潤ヲ享樂セシメテ、
何等生產增加ニナツテ居ナイト云フコトハ
世上既ニ知ル所デゴザイマス、商工當局ハ
一昨來特別利潤ノ上ニ眠ツテ居ル產金業者
ニ對シマシテ、產金ヲ督促スル爲ニ各鑛山
別生產所定量ト云フモノヲ決メマシテ、生
產ノ督促ヲ致シタノデアリマス、今日重要
鑛產物、或ハ重要工業ノ生產力ノ增加ト云
フコトハ、國內的ニ考ヘテ見マシテモ、國防
的ニ考ヘテ見マシテモ、喫緊事デアルコ
トハ言ヲ俟チマセヌ、今日ハ物資ヲ生產
スルコトガ一番重要ナ國策デアル生產
ノ擴充ト云フモノハ事變以來一貫シタ國
策デアリマス、所ガ諸君、特別ノ保護恩
典ノ上ニ强大資本ヲ眠ラセル爲ニ免稅スル
コトハ絕對ニイケナイ、却テ此ノ免稅
政策ヲ以テ重要產業家ヲ刺戟シマシテ、物
資ヲウント增產セル方向ニ轉換スベキデ
アルト考ヘルノデアリマス、ソコデ產金
業者ニ對シテ商工當局ガ、生產所定量ヲ
旣ニ決メテ居リマスガ、是ト同樣ニ他ノ
產業ニ付キマシテモ、是々ノ生產ヲセヨト
一定量ヲ決メテ、此ノ一定量ヲ生產シタ者
ニハ免稅ヲシテヤリ、重大ナ理由ナクシテ
此ノ一定量ニ達シナイ者ニハ、免稅スル必
要ガナイ、斯樣ニ私ハ考ヘルノデアリマス、
一定量ニ達スレバ免稅トナルナラバ、業者
ハ全力ヲ其ノ一定量ノ生產ニ注グ結果ニナ
リマス、卽チ我國ノ現狀ハ免稅政策ヲ以テ生
產ヲ擴充シ、生產ヲ增加スル方向ニ轉換シ
ナケレバナラヌ時機ニ到達シテ居ルト考へ
ルノデアリマス、此ノ點ニ關スル法規ノ改
正ヲ斷行スル意思ガアルカドウカヲ、大藏
大臣竝ニ商工大臣ニ御伺致シタイノデアリ
マス
次ニ第七デゴザイマスガ、戰時利得ニ付
テ政府ノ所信ヲ伺ヒタイト考ヘルノデアリ
さゝ、支那事變勃發以來、所得ノ推移ヲ顧
ミマスト、國民所得ニ付テノ材料ガ手許ニ
アリマセヌカラ、其ノ點カラ中上ゲルコトハ
出來マセヌ、併シナガラ大藏省ノ主管スル
第三種所得金額ノ調ト云フモノガアリマスカ
ラ、之ニ就テ調ベテ見マスト、斯ウ云フ數
字ガ現ハレテ居ルノデアリマス、昭和十一
年度第三種所得決定額ハ二十五億千三百万
圓昭和十二年度ノ同決定額ハ二十九億二
千二百万圓、昭和十三年度ノ同決定額ハ三
十八億千九百万圓、昭和十四年度ノ同決定
額ハ四十五億六千万圓、以上デゴザイマシ
テ、卽チ支那事變ノ前年度デアリマス昭和
十一年度ト、事變後三年經ツタ昭和十四年
度トヲ比較致シマスト、所得ハ二十五億カ
ラ四十五億ニ飛躍致シテ居リマス、實ニ二
十億ト云フ殆ド倍額ニ近イ激增ヲ示シテ居
ルノデアリマス、是ガ人口一億ノ中デ僅カ
百八十万ノ所得ノ增加デアリマス、併シナ
ガラ其ノ半面ニ於キマシテ、此ノ事變下ニ於
テ俸給生活者、勞働者、ソレ等ノ人々ノ家
計收支ノ狀態ハドウデアルカト申シマスト、
政府ハ中々此ノ家計收支ノ狀態ヲ發表致シ
マセヌガ、昭和十三年度分ト云フモノガ、昨
年ノ秋初メテ公表サレテ居ルノデアリマス、
之ヲ見マスルト俸給生活者及ビ勞働者諸
君ノ家計ノ狀態ト云フモノハ、旣ニ政府ニ
於テモ此ノ報告書ニ依ツテ御承知ノ通リ、
餘裕ナシト云フヨリハ寧ロ赤字ノ生活ヲ
シテ居ルコトニナツテ居ルノデアリマス、
支那事變發生以來、機會アル每ニ提案サレ
マシタ增稅額ハ純增稅額トシテ見ラルル
モノハ約五億圓ト申上ゲルコトガ出來マ
セウ、而モ其ノ增稅ノ中ニハ一般國民大衆
ガ負擔スベキ間接消費稅モ增徵サレテ居
ルノデアリマスガ、事變後僅カ三年ノ間
ニ二十億ヲ超エル所得ノ增加ヲ得テ居ル階
級ニ、五億ノ增稅全額ヲ負擔サセマシテ
モ、苛酷ト云フコトハ斷ジテ言ヘマセヌ、
而モ此ノ大所得ハ大陸ニ活躍サレテ居ル將
兵各位ノ護國ノ精神ノ發揮ガ、銃後ニ齎ラ
シタモノデアルコトヲ考ヘテ見マスルナラ
バ愛國ヲロニスル政治家ハ戰時利得ヲ全
部國庫ニ納メル位ノ決斷ガ必要デアルト考
ヘルノデアリマス(拍手)又大所得者ニ於キ
マシテモ、愛國心ノ上ニ立ツテ自ラ進ンデ
之ヲ國家ニ返還スルト云フ態度ニ出ヅベキ
デアリマス、又斯ル大キナ所得ヲ民間ニ放
置シテ置クコトハ惡性「インフレ」ノ重要
ナル要素ヲ放置スルコトニナルノデアリマ
スカラ、此ノ際政府ハ戰時大所得ニ對シテ
劃期的ナ大增稅ヲ斷行致シマシテ、間接消
費稅ヲ引下ゲテ、眞ノ低物價政策ヲ行ヒマ
シテ、戰時國民生活ノ確保ニ努ムベキデア
ルト考ヘルノデアリマスガ、政府ハ此ノ點
ニ付キマシテ如何ナル考ヲ持ツテ居ラレル
カ、特ニ明快ナル御答辯ヲ御願スル次第デ
アリマス、以上ガ私ノ質問デゴザイマス、
尙ホ地方稅其ノ他ニ付テモ伺ヒタイ點ガ多
多アルノデアリマスガ、是ハ何レ他ノ機會
ニ御質問申上ゲルコトニ致シマシテ、本日
ハ是デ私ノ質問ヲ打切ルコトニ致シマス(拍
手)
〔國務大臣櫻內幸雄君登摘콘発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=10
-
011・櫻内幸雄
○國務大臣(櫻內幸雄君) 只今ノ御質疑ニ
對シテ御答辯申上ゲマス、第一ニ今囘ノ稅制
改革ヲ致スノニハ金融資本ニ「メス」ヲ入レ
ナケレバイカヌ、此ノ點ニ付テ缺點ガアル
デハナイカト云フ御話デアリマス、金融資
本ト仰セラレルノハ所謂產業資本ヲ含ンダ
コトデアラウト思ヒマスガ、今囘ノ增稅ハ
此ノ資本家階級ノ負擔ニ付キマシテハ十分
ニ考慮ヲ致シマシテ、所謂資本家階級ノ方
ニ多クノ增稅ヲ致シタノデアリマス、同時
ニ一般大衆ノ方ノ方々カラモ、多少ノ負擔
ヲシテ戴クト云フ見地カラ此ノ案ヲ作ツタ
ノデアリマス、金融資本ニ關スル問題ノ觀
點カラ、第二種ノ社債及ビ公債ノ利子ヲ何
故ニ綜合課稅ニ入レズシテ、入レル場合ニ
於テハ四割ノ控除ヲ致シ、又選擇主義ヲ採
ツテ百分ノ十五ト云フ稅金デ之ヲ見逃シタ
カト云フ御話デアリマスガ、是ハ御承知ノ
通リ從來ハ低イ稅率デアリマシタノデ、此
ノ度ノ改正ニ依リマシテモ非常ナル增額ニ
ナリマスノデ、是レ以上此ノ際急激ニ增加
ヲ致シマスコトハ、色々ナル金融政策ノ上
ニ支障ヲ起ス虞ガアルノデアリマス、例
テ申セバ公債政策ノ上ニ於テモ、公債ヲ持
タルル方ガ當初ノ調査會ニ出シマシタ案ノ
如ク致シマスト、殆ド人ニ依リマシテハ資
本ノ利子ガ一朱台ニ下ルヤウナ人モアルノ
デアリマシテ、左樣ナコトガ起リマシタ場
合ニ於テハ此ノ公債政策ノ遂行上差支ヲ
起スノデアリマス、故ニ御趣旨ハ私共同意
デアリマスガ、今日ノ現狀ニ於キマシテ左
樣ナ急激ナル增稅ヲ金融資本家ニ課スルト
云フ事柄ハ適當デナイト考ヘマシテ、臨機
ニ斯樣ナ手段ヲ執ツタノデアリマス
ソレカラ間接稅ニ可ナリ多ク課ケテ居ル
上ニ、物品稅ニ澤山ノ增稅ヲ致シテ居ル
ガ、是ハ物價騰貴ヲ招クデハナイカ、又同
時ニ豫算ノ實行ガ出來ナイデハナイカト云
フ御意見デアリマスガ、此ノ度ノ物品稅其
ノ他ノ消費稅ノ方ニ付キマシテハ大體ニ
於テ奢侈的ナ物品ニ重キヲ置キマシタ、國
民生活ニ直接關係アル方面ニ付キマシテハ、
ソレヲ考慮ニ入レマシテ多クヲ取ラヌコト
ニ致シタノデアリマス、其ノ點ニ付キマシ
テハ相當明瞭ニナツテ居ルノデアリマス
前ニ返リマスガ第二種綜合課稅ヲ原ノ
案ニ還元スルノ考ハナイカト云フ御話デア
リマスガ、今日只今ノ所左樣ナ考ハ持ツテ
居リマセヌ
現下ノ商業者ハ殆ド賣値ト仕入値トヲ制
限セラレテ居ツテ、手數料ヲ取ル營業ノヤ
ウニナツテ居ル際デアルカラ、是等ニ對シ
テ增稅ヲ致スコトハ甚ダ當ヲ得ナイデハナ
イカト云フ御意見ノヤウデアリマスガ、御
承知ノ通リ營業ニ付キマシテ具サニ考ヘテ
見マスト一部ハヤハリ資本所得ガ含マレ
ルノデアリマシテ、單ニ勤勞所得ト云フバ
カリデハナイノデアリマス、營業稅ハ御承知
ノ通リ地方稅ノ獨立財源ト致シマシテ、應益
的ナ課稅ヲ行ツテ居ルノデアリマシテ、此ノ
際今囘提案致シタ程度ノ負擔ヲシテ戴クト
云フコトハ大ナル障碍ハ起サヌト思フノ
デアリマス
財產稅ニ付テノ御意見ガアリマシタガ、
是ハ若シ適當ナル方策ニ依リマシテ、財產
稅ト云フコトヲ行フコトガ出來マスナラ
バ、是ハ相當稅收ヲ得ル譯デアリマシテ、
適當デアラウトハ考へマスケレドモ、御承
知ノ如ク財產稅ハ元本ニ課ケル稅金デアリ
マスカラ、働キヲシナイ財產ニモ課ケル結
果ト致シマシテ、高率ナ課稅ヲ致スコトガ
出來ナイ點ガアリマスノト、課稅方法ニ付
テ種々非常ニ面倒ナ點ガアリマスノデ、是
ハ考究スル爲ニ今囘ハ提案ヲ致サナカツタ
譯デアリマス
ソレカラ主ナル重工業ニハ免稅トカ其ノ
他特典ヲ與ヘテ居ルガ、是ハ誤ツタ政策デ
ハナイカ斯ウ云フ御話デアリマスガ、申
スマデモナク今日生產擴充ヲ致スコトハ最
モ必要ナ事柄デアリマス、其ノ際ニ於テ特
ニ此ノ重工業方面、國防力ヲ充實スル上ニ
於テハ、ドウシテモ其ノ發展ヲ期サナケレ
バナラヌノデアリマスガ、之ニ付テハ適當
ナル保護ヲ致シマセヌト、從來カラノ例ニ
依リマスト、一時非常ニ盛デアツテモ直グ
其ノ反動ノ來ルコトヲ惧レマシテ、企業者
ハ容易ニ企業ヲ致シマセヌ、故ニ此ノ點ニ
付キマシテハ相當注意ヲ拂ヒマシテ、適當
ナル恩典ヲ與ヘルコトニ致シテ居ルノデア
リマス、增產奬勵ニ關シテハ增產ノ部分
ニ對シテ奬勵ヲ致スト云フコトガ適切ナル
方法デアルト思フガ、サウハ考ヘナイカト
云フ御質問デアリマス、ソレハ御說御尤モ
ナコトデアリマシテ、或ルモノニ付キマシ
テハ增產部分ニ付テノミ奬勵金ヲ出ス場合
モアリマス、併シナガラ事業ノ性質ニ依リ
マシテハ全體的ニ奬勵ヲ行ツテ行カナケ
レバナラヌモノモアルノデアリマシテ、
卽チ其ノモノ其ノモノニ付テ奬勵法ヲ適當
ニヤツテ行クト云フコトガ、一番宜イデハ
ナイカト考ヘルノデアリマス
最後ニ戰時利得ニ對スル所ノ稅ヲ、モツ
ト徹底的ニ取ツテハドウデアルカト云フ御
意見デアリマスガ、是ハ今日ノ如キ場合ニ
於キマシテ、戰時利得ニ對シマシテハ出來
ル限リ多クノ負擔ヲシテ戴クト云フ事柄
ハ全ク私共モ御同感デアリマス、併シナ
ガラソレハ程度ノ問題デアリマシテ、此ノ戰
時ノ際ニ於キマシテノ利得、卽チ此ノ戰時
ニ際シテ利得シテ居ル金ニ對シテ、殆ド全
部ヲ取ツテ行クト云フ風ナコトハ出來ナイ
ノデアリマス、今囘ノ增稅案ニ付キマシテ
モ此ノ戰時利得ニ付キマシテハ可ナリ重
イ負擔ノ稅ガ課ケテアルノデアリマシテ、
今囘ノ提案ノ程度デ私ハ宜イノデハナカラ
ウカト思ツテ居リマス、今後消費稅ナドヲ
輕減致シテ、サウシテ國民生活ニ寄與スル
コトニ對シテ考ヘヌカト云フ御話デアリマ
スガ、出來得ル限リ斯ノ如キ消費稅等ハ輕
減致シタイノデアリマス、併シナガラ今日
ノ時局全ク已ムヲ得ナイ關係上、玆ニ今囘
ノ如キ稅ノ改正案ヲ出シタ譯デアリマスカ
ラ、此ノ點ハ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス
(拍手)
〔國務大臣藤原銀次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=11
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012・藤原銀次郎
○國務大臣(藤原銀次郞君) 只今私ハ豫算
總會ニ出席シテ居リマシタノデ、田万君ノ
御質問ノ御趣旨ラ詳細拜聽スル機會ヲ得マ
セヌコトハ洵ニ遺憾ニ存ジマス
第一ノ御質問ノ間接稅ノ增加ハ國民ノ負
擔ヲ增スノデハナイカ、斯ウ云フ御趣旨ノ
御質問ノヤウニ承ツテ居リマスガ、如何ニ
モ御說ノ如ク間接稅ノ增加、例ヘテ申シマ
スレバ煙草ノ値上ノ如キハ、一般大衆ノ負
擔ノ增加ヲ來シタト云フコトハ事實デゴザ
イマス、併シナガラ此ノ非常時ニ於キマシテ
ハ、國民一般モヤハリ多少辛抱シテ戴クヨ
リ外壮方ガナイデハナイカト存ジマス
尙ホ又其ノ次ノ中小商工業者ニ對シマシ
テ、所得稅ト營業稅ヲ課スルコトハ-統
制ガ益〓强化セラレマシテ、中小工業者ガ
種々ノ困難ニ遭遇シテ居ルヤウナ狀況デア
ルカラ、營業稅ヲ廢止スル意思ガナイカト
云フヤウナ御尋ノヤウデゴザイマシタガ、
私モ中小工業者ノ立場ニ對シテハ十分ノ
同情ヲ表シテ居ル者デゴザイマス、併シナ
ガラ營業所得ハ資產ノ要素モアルノデアリ
マシテ、勤勞所得トハ聊カ趣ヲ異ニシテ居
ルノデアリマスカラ、稅法ノ上カラ申シマ
シテ、是モヤハリ辛抱ヲ願フ外仕方ガナイ
ノデハナイカト存ジテ居ルノデアリマス
又重要產業ニ對スル免稅關係ニ付テ御尋
デゴザイマスガ、田万君ノ御說ハ、重要產業
ニ付テハ一定量ノ生產ヲ爲シタル場合ニ於
テノミ免稅シ、然ラザル場合ニ於テハ徵稅
スベシト云フヤウナ御論ノヤウニ拜承シマ
シタガ、是ハ大藏大臣カラ既ニ御答辯モア
リマシタ通リデアリマシテ、私ト致シマシ
テハ生產ガ一定量ニ達スルト達セザルトヲ
問ハズ、等シク生產界ニ貢獻致シタモノト
存ズルノデ、ヤハリ一般的ニ重要產業ニ對
シマシテハ免稅輕減ノ方法ヲ採ツタ原案
ニ同意ヲ致シマシタ次第デアリマス、之ヲ
以テ御答ト致シマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=12
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013・小山松壽
○議長(小山松壽君) 石坂繁君
〔石坂繁君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=13
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014・石坂繁
○石坂繁君 私ハ只今議題ト相成ツテ居リ
マスル稅制改正諸案ニ付キマシテ、聊カ質
疑ヲ試ミントスル者デアリマス、元來中央
地方ヲ通ズル稅制ノ根本的改革ノ問題ハ、
國民多年ノ要望デアツタノデアリマシテ、
今囘是ガ提案ヲ見マシタコトニ付キマシテ
ハ大藏當局ノ勞ヲ多トスル者デアリマス、
政府ノ御說明ニ依リマスト、今囘ノ稅制改
正ノ目標ハ、第一ハ中央地方ヲ通ジテ、負
擔ノ均衡ヲ圖ルト云フコト、第二ハ現下ノ
經濟諸政策トノ調和ヲ圖ルコト、第三八國
庫ノ收入ヲ增加シ、稅制ニ彈力性ヲ保タシ
メルト云フコト、第四ニ稅制ノ簡易化ヲ圖
ルト云フコトヲ以テ目標ト致シテ居ラレル
ノデアリマス、私ハ此ノ四ツノ目標ノ中デ、
就中今囘ノ改革案ハ增稅ニアリト斯樣ニ觀
察致シテ居ルモノデアリマス、卽チ改正案
ニ依リマスト、先ヅ所得稅ノ稅目ノ變更、
免稅點ノ引下、其ノ他課稅方法ニ付テ可ナリ
ノ改正ヲ試ミテ居ラレル、或ハ又間接稅ノ
種目ノ增加及ビ稅率ノ引下、而シテ又別ニ
市町村民稅ガ新設セラレントスルト云フヤ
ウナコトカラ、所謂大衆課稅ヲ招來スルノ
結果ト相成ツテ居ルノデアリマス、是ハ
蓋シ今日ノ時局下ニ於キマシテハ、出來ル
ダケ多クノ國民ニ此ノ時局ニ要スル國費ノ
負擔ヲサセル機會ヲ與ヘル換言致シマス
レバ此ノ興亞大業完遂途上ニ於キマシテ、
日本國民ハ悉ク聖代ノ御世ニ於ケル國民ト
シテノ自覺ト感激トヲ以テ、其ノ持場々々
ニ於テ其ノ分ニ應ジタル程度ト方法トニ於
テ、大業翼贊ノ御奉公ノ實ヲ擧ゲシメルト
云フ趣旨ガ、此ノ稅法改正ノ精神的基調デ
ナケレバナラヌト思フノデアリマス、卽チ
國民ヲシテ納稅セシムルコトニ依リマシテ、
曠古ノ大業ヲ翼贊シ奉ルト云フ國民的自覺
ヲ一層强メルト云フコト、卽チ納稅ハ國民
愛國ノ熱誠ノ發露デアルト云フ信念ヲ發揮
セシムルト云フコトガ、此ノ稅制改革案ノ
精神的基調ナケレバナラヌト信ジテ居ル者
デアリマス、併シ此ノ精神的基調、此ノ國
民的信念ノ發揮ハ單ニ國民大衆ニ一般的
ニ納稅ノ機會ヲ與ヘルト云フコトダケデハ
未ダ十分デアリマセヌ、ソコニハ各種ノ
政治的條件ガ伴ハナケレバナラナイノデア
ツテ、政府ガ本稅制改革提案ニ際シマシテ、
或ハ負擔ノ均衡ヲ圖ルコトヲ目標トシ、或
ハ經濟諸政策トノ調和ヲ考慮セントセラレ
マス其ノ態度ハ、私ハ必要ナル條件ナリト
思料致ス者デアリマス、併シナガラ假ニ斯
樣ナル條件ガ十分ニ具備致シマシタト致シ
マシテモ、私ハソレヲ以テ十分ナリト考へ
ル者デハナイノデアリマス、私ハ政府ガ目
標トセラルル所ノ總テノ條件ガ具備致シマ
シテモ、其ノ條件ヲ總テ含メタ、或ハ又其
ノ條件ヲ超越シタ所ノモツト根本的ナルモ
ノガナケレバナラヌト、斯樣ニ信ジテ居ル
者デアリマス、ソレハ卽チ國政變理ノ
任ニ當ル所ノ臺閣諸公、總理大臣初メ閣
僚諸公ガ、眞ニ此ノ非常時局下ニアツ
テ、國家ノ大任ヲ雙肩ニ擔ツテ立ツト
云フ信念ト氣魄トヲ以テ國政ニ當リ、圓
國民ト共ニ大業完遂ニ邁進セントスル烈々
タル氣〓ヲ以テ國民ヲ指導サレルコトデ
ナケレバナラヌコトト確信シテ居リマス、
是ガ卽チ今日ノ政治ノ根本問題デアリ、ソ
レハ同時ニ國民課稅ノ根本問題デナケレバ
ナラヌト信ジマス、私ハ斯ノ如キ信念ヲ以
テ今囘ノ稅制改正案ヲ檢討シ、斯樣ナ考ヲ
以テ政府ノ所信ヲ承リタイト存ズルノデア
リマス
先ヅ第一ニ御伺致シタイト考ヘマスルコ
トハ本改正案ノ眼目トスル增稅額ノ算定
ノ根據如何ト云フコトデアリマス、昭和十
五年度ノ豫算ニ徵シテ見マスルニ、稅收入
ハ經常部ニ於テ二十五億八千九百餘万圓、
臨時部ニ於キマシテ五億五千七百餘万圓、
此ノ合計實ニ三十一億四千六百餘万圓ト相
成ツテ居リマスルガ、政府ノ說明ニ依リマ
スルト、今囘ノ增稅ニ依リマシテ、國稅ニ
於テ平年度八億一千万圓、昭和十五年度ニ
於テ六億餘万圓ノ收入ヲ擧ゲルコトニナツ
テ居リマスルガ、是ヨリ地方團體へ交付サ
ルベキ金額ヲ控除致シマシテ、差引國庫ノ
收入ハ平年度五億餘万圓、昭和十五年度三
億七千餘万圓ノ程度トナル見込デアルト云
フコトデアリマス、ソコデ私ハ此ノ平年度
ニ於テ五億餘万圓、昭和十五年度ニ於テ三
億七千餘万圓ノ此ノ增稅ハ、抑ミ如何ナル根
據ニ依ル所ノモノデアルカ、其ノ數字的根
據ヲ承リタイノデアリマス是ハ豫算全體
ヲ通ジテモ同樣ノコトデアラウト思ヒマス
ルガ、若シ他ノ方法ニ於キマシテ、或ハ行
政機構ノ改革、或ハ經濟機構ノ改革ヲ斷行
シ、或ハ又行政上ノ事務ニ要スル所ノ費用
ヲ節約スルト云フヤウナ方法ニ依リマシテ、
此ノ程度ノ、或ハ此ノ程度ニ近イダケノ費、
用ヲ捻出スル方法ハ他ニナカツタノデアリ
マセウカ、政府ノ豫算ノ執行ハ時局重大
ノ今日ニ於キマシテ著シク國費ハ膨脹致シ
テ居リマスルガ、其ノ豫算ノ執行ハ實ニ嚴
格綿密、苟モ杜撰ナル使途ヲ許サナイノデ
アルト信ズルノデアリマス、政府ノ豫算編
成ノ心構ヘニ付キマシテハ曩ニ配付ヲ受
ケマシタ所ノ豫算綱要ナリ、或ハ去ル一日
ノ大藏大臣ノ演說ニ依ツテ承知致シマシタ
ガ、啻ニ豫算編成ノ上ノ心構ヘバカリデナ
ク、此ノ豫算執行ノ上ニハ一層嚴格綿密周
到ナル考慮ガ運ラサレナケレバナラヌト云
フコトハ當然ナリト信ズルノデアリマス、
而シテ豫算ノ實施ハ、物動計畫ノ實施ト睨
ミ合セテ多分ニ實施上ノコトガ論議サレテ
居リマスノデ、物動計畫ノ具體的說明ヲ聽
カナケレバ豫算ノ審議ハ進メ難シトサヘ申
サレテ居ルノデアリマス、是ト類似シタル
意味ニ於テ私ハ本增稅案ノ審議ニ際シマシ
テハ此ノ增稅額ノ計數的基礎ヲ承ラナケ
レバ、其ノ審議ヲ進ムルコトガ頗ル困難ナ
リト確信致シテ居リマス、而シテ又一面ニ
於テハ斯樣ナル增稅案ヲ提案致サレルニ竝
行致シマシテ、是ト同時ニ政府ハ他ニ行政
機構ノ改革、或ハ經濟機構ノ改革、乃至ハ是
等ノ事務上ノ刷新向上ト云フコトニ付テ、
格段ノ考慮ヲ運ラサルベキデアルト確信致
シテ居ルノデアリマスガ、米內總理大臣其
ノ他閣僚諸公ハ果シテ此ノ點ニ付テ如何
ナル御考ヲ御持チニナツテ居ルノデアリマ
セウカ、如何ナル方策ヲ持ツテ御居デニナ
リマセウカ、此ノ點ヲ併セテ御伺致シタイ
ト思フノデアリマス
次ニ御伺致シタイト存ジマスノハ、此ノ
改正案ガ果シテ政府ノ言ウテ居ラレル通リ
ニ負擔均衡ノ目標ニ合致スルモノデアリヤ
否ヤト云フコトデアリマス、抑〓租稅ノ負擔
ハ國民各階層ノ能力ニ照應シ、且ツ其ノ負
擔ハ均衡ガ保タレナケレバナラヌト云フコ
トハ固ヨリ當然ノコトデアリマス、租稅
ノ所謂應能負擔ノ原則ト云フモノハ今日
ニ於キマシテハ寧ロ富ハ債務ヲ生ズ、富ハ
義務ヲ負フト云フ、サウ云フ理念ヲ以テ、
大所得、大收益、大財產ニ對シマシテハ
其ノ然ラザル者ヨリモ比較的ニ多クノ課稅
ヲスルコトヲ以テ、却テ負擔ノ均衡ナリト
サヘ考ヘラレルニ立至ツテ居ルノデアリマス、
今回ノ改正諸案ガ果シテ政府ノ言フ通リニ
負擔ノ均衡ノ目標ニ合致シテ居ルモノデア
ルカドウカト云フコトニ付キマシテハ先
日來ノ本議場ニ於テモ度々論ゼラレタノデ
アリマスガ、私モ此ノ點ニ對シテ多クノ疑
ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマス、之ヲ所
得稅ニ付テ觀察致シマスルニ、此ノ改正案
ガ極メテ多クノ改正ヲ試ミント致シテ居リ
マスルコトハ)先程申上ゲタ通リデアリマ
スガ、其ノ個人所得ニ於キマシテ綜合課稅
主義ヲ徹底セシメ得ナカツタト云フコトハ、
負擔ノ均衡ヲ圖ル目標ニ背反スルモノデア
ツテ、私ハ之ヲ極メテ遺憾ニ存ジテ居ルノ
デアリマス、卽チ此ノ所得稅改正法案ニ於
キマシテハ、所得稅ヲ分類所得稅及ビ綜合
所得稅ノ二種ニ分類致シテ居ルノデアリマ
スルガ、銀行預金、貸付信託及ビ公社債ノ
利子ニ付テハ、其ノ課稅ニ付テ源泉課稅ト
綜合課稅トヲ納稅者ノ自由選擇ニ委セテ居
ルノデアリマス、ソコデ其ノ結果納稅者ニ
取リマシテハ、何レガ利益デアルカト云フ
コトヲ檢討致シテ見マスルト、色々ノ計算
ノ結果ハ、先ヅ是等利子所得ト利子所得以
外ノ基本所得トノ合計額ガ二万圓以下ノ場
合ニ於キマシテハ綜合課稅ヲ選ブ方ガ常
ニ有利デアリマス、利子所得以外ノ基本所
得ガ二万圓デアツテ、其ノ他ニ一万圓未滿
ノ利子所得ガアル場合ニ於キマシテハ綜
合、源泉ノ課稅ハ何レモ同額ト相成ル、併
シナガラ利子所得以外ノ基本所得ガ三万圓
以上アル場合ハ、ソレ以外ノ利子所得ガア
しくら、何時デモ源泉課稅ガ有利ト相成ル結
果トナルノデアリマス、卽チ之ニ依ツテ
見マスレバ、三万圓以上ノ所得者ハ悉ク源
泉課稅ヲ希望スルニ至ルコトハ自ラ明カデ
アリマス、隨テ本改正案ハ資產家ニ取ツテ
極メテ有利デアルガ、一面斯ル不合理ナル
稅制ニ於テハ、資產家ハ危險性アル產業投
資ヨリモ、公社債若クハ預金ノ、安全ニシ
テ且ツ有利ナルヲ選ブニ至リ、國民ノ企業
心ヲシテ著シク萎縮セシムルノ虞アリト考
ヘザルヲ得ナイノデアリマス、是ハ洵ニ綜
合課稅不徹底ノ結果現ハレテ來ル所ノ
ツノ產業上ノ惡影響ナリト言ハザルヲ得ナ
イノデアリマス、櫻內大藏大臣ハ七日ノ本
會議ニ於キマシテ此ノ點ニ觸レラレテ、更ニ
先程田万君ノ御質疑ニ對スル御答辯ノ中ニ
モアツタカニ存ジマスルガ、急激ナル改革
ヲ避ケルガ爲ト云フガ如キコトヲ仰セニナ
ツテ居ルノデアリマス、併シナガラ私ヲ以
テ言ハシムレバ、左樣ナコトハ理由ニナリ
マセヌ、曩ニハ-是ハ勿論前內閣ノ時デ
ハアリマスケレドモ、大衆ノ生活ニ大キナ
ル影響ヲ持ツ所ノ煙草ノ値上ヲ斷行シテ、
之ニ依ツテ六千万圓ヲ得テ居ルノデアリマ
スルガ、更ニ今囘ノ改正案ニ於キマシテモ、
特ニ下級階級ニ於ケル所ノ過重負擔ト相成
ツテ居ルノデハアリマセヌカ、卽チ新シイ
分類所得稅ト致シマシテ、勤勞者ニモ稍〓輕
イ特別ノ負擔ヲ課スルト云フコトハ、私ガ
冒頭ニ於テ申上ゲマシタ通リニ、納稅ニ依
ツテ國民的自覺ヲ喚起セシムルト云フコト
ニ於キマシテハ、私ハ其ノ點ヲ是認致スノ
デリアマスルケレドモ、併シ下級階級ノ人
ニ對スル所ノ課稅ハ、ソレガ此ノ法案ニ現
ハレテ居リマスル通リニ、累進稅デナクシ
テ、比例稅率ト相成ツテ居リマスルコトハ、
洵ニ下級階級ニ對スル所ノ過重負擔ノ結果
ト相成ルノデアリマス、本案ニ依リマスル
ト累進稅トナツテ居ルモノハ唯五千圓程
度以上ノモノノミデアリマスカラ、甲種ノ
勤勞所得稅ノ免稅點ヲ六百圓程度ト致スト
致シマシテモ、所得六百圓程度ノ下級勤勞
者モ、所得五千圓ニ近イ上級俸給者モ同等
ノ比例率ガ課カルコトニナリ、五千圓ニ近
イ俸給者ニ綜合所得稅ガ課カラズシテ、分類
所得稅ガ課カルコトニナツテ居ルノデアリマス、
是ハ餘リニ不公平ナリト申サナケレバナリマ
セヌ、同ジク勤勞者ノ中デモ六百圓乃至千
圓ノ收入ニ依ツテ低イ生活ヲ營ンデ居ル人々
ト、千圓乃至二千圓ノ階級、二千圓乃至三千
圓ノ階級、三千圓乃至四千圓ノ階級、四千
圓乃至五千圓ノ階級ナドデハ總テ生活ノ
難易ニ相當ノ差異ガアリ、此ノ間ニ相當累
進率ガ行ハレテ然ルベキデアツタニモ拘ラ
ズ、本案ニ依リマスルト、總テ之ヲ均等ニ
比例稅率トナシテ居リマスルコトハ下級
者ニ取リマシテ餘リニ重イ負擔デアルト言
ハナケレバナリマセヌ、稅率其ノモノノ上
カラ、或ル程度ノ累進率ヲ課サナケレバ、上
級者ト下級者トノ間ニ負擔ノ均衡ヲ保タレ
ルトハ申サレマセヌ
更ニ下級勤勞者ニ對シマシテハ假ニ均
等ノ課稅ヲ致シタト致シテモ、實際ハ一
部ノ殷賑產業ニ於ケル勤勞者ハ容易ニ
新稅ヲ雇主ニ轉嫁スルコトガ出來ルガ、併
シ他ノ普通ノ產業ニ從事致ス者ハ是ハ容易
デナイノデアリマス、卽チ殷賑產業ニアラ
ザレバ普通產業ニ從事シテ居ル所ノ下級
勞働者ハ、其ノ課稅サレタダケ收入ノ減少
ヲ來ス結果トナルノデアリマス、彼等ハ此
ノ事變以來諸物價ノ〓騰ニ依リマシテ、大
體二割位ノ生活ノ壓迫ヲサレテ居ル、格別
ソレ等ノ人達ハ、事變ニ依ツテ多クノ收益
ヲ得ル譯デハナク、旣ニ物價ノ騰貴ニ依ル
所ノ二割ノ稅ヲ負ツテ居ルヤウナ結果ニナ
ツテ居ルノニ、其ノ上此ノ度ノ稅ニ於テ
上級者竝ニ負ハナケレバナラヌト云フコト
ハ實ニ負擔ノ不均衡ガ下級階層ニ生ジテ
來ルト申サナケレバナラヌノデアリマス
斯ノ如ク一方ニ於テ下級階層ニ過重負擔ヲ
强ヒナガラ、大資本家ニ對スル所ノ自由選擇
ノ機會ヲ設ケマシテ、綜合課稅ノ徹底ヲ期
スルコトガ出來ナカツタト云フコトハ、洵
ニ私ハ了解ニ苦シム所デアリマスガ、蓋シ
思フニ是ハ金融資本家ノ反對ノ爲ニ外ナ
ラナカツタノデハアリマスマイカ、私ハ此
ノ點最モ了解シ得ザル所デアリマス、又負
擔均衡ノ目標ニ此ノ改正案ガ反スルト云フ
點ヲ他ノ觀點カラ論ジテ見マスルナラバ之
ヲ所得稅ノ改正案ニ見ルコトモ出來ルノデ
アリマス、今囘ノ所得稅ノ改正案ニ於キマ
シテハ、相續財產ノ額ガ多クナルニ付キマ
シテ、漸次課稅率ハ多クナツテ居リマスル
ケレドモ、之ヲ現行ノ相續稅ノ率ニ比較致
シテ見マスト、相續財產ガ大キクナレバナ
ル程、現行法トノ比率ハ小サクナツテ居ル
ノデアリマス、甚ダ煩ハシクナリマスカラ、
フ幾ツカノ例ヲ取ツテ申上ゲテ見マスルナラ
バ、假ニ相續財產五千圓以下ノ金額ト致シ
テ、現行法ハ千分ノ六デアリマス、ソレガ
改正案デハ千分ノ十ニナツテ居ル、五千圓
ヲ超ユル金額ハ、現行法千分ノ七、改正案
千分ノ十、而シテ其ノ比率ハ五千圓ヲ超エ
ザル金額ニ於キマシテハ、現行法トノ比率
ハ現行法一ニ對シテ一·六六ニナツテ居
リマス、五千圓ヲ超ユル金額ニ於テハ、現行
法一ニ對シテ一·四二ニナツテ居ル、更ニ五
万圓ノ相續財產ニ付テ見マスルト、現行ノ
千分ノ三十五ハ千分ノ五十ニナリ、此ノ比
率ハ一·四二ニナリ十万圓ノ相續財產ニ
付テ觀察致シマスルト、現行法ノ千分ノ六
十五ハ千分ノ九十トナリ、其ノ比率ハズツ
ト少クナツテ一·三八トナツテ居リマス
二十万圓ノ相續財產ニ付テ見マスルナラバ、
現行ノ千分ノ百ハ千分ノ百三十トハナツテ
居リマスルケレドモ、之ヲ比率ニ取ツテ見
マスルト、現行ノ一ニ對シテ改正案ハ一
三〇デアル、又五十万圓ノ相續財產ニ付テ
見マスレバ、現行ノ千分ノ百六十ハ千分ノ
百九十トナリ其ノ比率ハ一·二五トナツ
テ居リマス、更ニ百万圓ノ財產ニ付テ見マ
スルナラバ、現行ノ千分ノ二百ハ改正案デ
ハ千分ノ二百四十、而シテ比率ハ現行ノ
ニ對シテ一·二〇トナツテ居ル、五千圓ヲ
超エザル相續財產ニ付テノ比率ハ一·六六
デアルニモ拘ラズ、百万圓ヲ超過スル相續
財產ニ付テノ比率ハ一·二〇トナツテ居ル、
此ノ比率自體ニ依リマシテモ、今囘ノ相續
稅ノ改正案ハ決シテ大キナ財產ト小サイ
財產トニ負擔ノ均衡ヲ保チツツ改正サレタ
モノデアルトハ申サレナイト私ハ信ジテ居
リマス、私ハ以上ノ如ク今囘ノ改正案ヲ或
ハ所得稅ノ方面カラ、或ハ相續稅改正
ノ方面カラ見マシテ、斯ノ如キ負擔ノ均衡
ヲ保タザルノ實情ニアリト云フコトヲ申
上ゲタノデアリマスルガ、私ガ斯ノ如クニ
申上ゲマシテモ、尙且ツ大藏大臣ハ今囘
ノ改正案ハ負擔均衡ノ目標ニ合致セル
モノナリト仰セラレルノデアリマセウカ、
如何デアリマセウカ
次ニ御伺致シタイト存ジマスノハ、徵稅
事務ニ關スル問題デアリマス、卽チ稅務上
ノ問題デ、其ノ一ツト致シマシテハ不當不
法ノ課稅ニ對スル救濟方法ニ付テデアリマ
ス、此ノ問題ニ付キマシテハ先日ノ本會
議ニ於キマシテ同僚〓瀨一郞氏ヨリ論ゼラ
レマシタ、今日ノ所得稅法ガ認メテ居ル所
ノ不當不法ノ課稅ニ對スル救濟ノ方法ガ、
單ニ其ノ規定ハアルケレドモ、實際當事者
ニ取ツテ格別救濟ノ方法ニナラザルコトヲ
〓瀨氏ハ論ゼラレタノデアリマス、私モ全
ク同樣ノ見解ヲ持ツテ居ル、然ルニ之ニ對
シマシテ大藏大臣ヨリハ其ノ不當不法ノ
課稅ニ對スル救濟方法トシテハ全國七大
都市ニ稅務相談所ヲ置クガ、ソレ以外ノコ
トハ考ヘテ居ラナイト云フ御趣旨ノ御答辯
ガアツタノデアリマス、其ノ後新聞紙ノ傳
ヘル所ニ依ツテ見マシテモ、此ノ救濟方法
ニ付キマシテハ、全國ノ六大都市及ビ福岡、
卽チ此ノ七大都市ニ稅務相談所ヲ設ケルト
云フ程度ノ御考慮ノヤウデアリマス、ツコ
デ私ハ更ニ御伺致シタイノデアリマスルガ、
此ノ稅務相談所ヲ設ケルト云フコトハ今
囘劃期的ノ改正トモ云フベキ稅制諸案ノ實
施ニ際シマシテ、未ダ是等ノ法案ニ付不案
內ナルニ依ツテ、稅務相談所ニ於テ納稅者
ニ對スル所ノ解說、說明ヲシ、ソレニ依ツ
テ或ル程度ノ諒解ヲ求メルコトハ出來ルデ
アリマセウケレドモ、ソレハ不當不法ノ課
稅ニ對スル所ノ救濟トハ相成ラヌノデアリ
マス、而モ七大都市ニ稅務相談所ヲ設ケマ
シテモ、其處ヘ相談ニ來ル者ハ極ク僅カデ
アル、其ノ相談所所在ノ市ニ居住シテ居ル
極ク僅カノ人ダケデアツテ、恐ラク山間僻
地ノ人達ハ相談ニ行ク機會ハ永久ニナカラ
ウト心配セザルヲ得ナイ、而モソレハ說明。
デアリ解說デアツテ、苟モ一旦不當不法ノ
課稅ヲセラレタ以上ハ此ノ稅務相談所ニ
依ツテ救濟ヲ受ケルコトハ蓋シ木ニ緣ツ
テ魚ヲ求メルニ等シイノデアリマス、ソレ
ナラバソレダケデ濟ムカト云フト、恐ラク
私ハ此ノ稅務相談所ニ御使ヒニナル所ノ者
ハ稅務官吏ノ古手デアリマセウガ、其ノ
稅務官吏ノ古手ト現職ノ稅務官吏トノ間ニ、
色々ナ折衝ガ起ルコトハ想像スルニ難クナ
イノデアリマス、斯樣ナコトヲ想像スルコ
トハ私ノ洵ニ好マシカラザル所デアリマ
スケドレモ、此ノ稅務相談所ト云フモノハ、
蓋シ弊害多クシテ實際ノ利益ハ少シト斷定
セザルヲ得ナイノデアリマス、故ニ私ハ此
ノ稅務相談所ヲ全然設置スベカラザルモノ
ト論ズル者デハナイノデアリマスケレドモ
是ハ是トシテ、眞ニ不當不法ノ課稅ニ對ス
ル救濟ノ方法ニ付テハ、現ニ困ツテ居ル多
クノ階層ガアルコトヲ認メラレルナラバ
是ハ別途ニ考慮サレルコトヲ適當ト考ヘル
ノデ、私ハ別ニ簡易稅務裁判所ノ設置ヲ要
望致スノデアリマス、而シテ其ノ組織等ニ
對スル具體案モ持ツテ居ルノデアリマスガ、
是ハ他ノ適當ナル機會ニ讓ルコトニ致シマ
シテ、此ノ改正ニ依ツテ著シク增加サレル
デアラウト思ハレル納稅者ノ數ヲ考ヘルニ
付キマシテモ、私ハ別ニ此ノ救濟方法ヲ講
ズルコトヲ以テ最モ適切ナリト考ヘル者デ
アリマス、故ニ重ネテ櫻內大藏大臣ノ御考
慮ヲ煩ハサントスル者デアリマス
税務ノ事務上ニ關スル第二ノ問題ハ、稅
務官吏ノ處遇ニ關シテデアリマス今日時
局ノ趨勢ハ、各方面ノ統制ヲ强化セザルヲ
得ナイ狀態ニ相成ツテ居ルノデアリマスガ、
此ノ統制ノ波ニ便乘致シマシテト申シテハ
少シ言葉ガ過ギルカモ知レマセヌガ、稅務
官吏ノ認定獨裁ノ權能ハ次第ニ强化サレツ
ツアルノデアリマス、然ルニ稅務官吏自體
ハドウデアルカト申シマスト、昔ノ收稅吏
型苛斂誅求主義、ト言ウテハ是モ少シク
言葉ガ失禮ニナルカモ知レマセヌガ、正シ
イ納稅者ノ說明ニ耳ヲ藉サズ、道理アル納
稅義務者ノ釋明ニモ耳ヲ藉サズ、稅務官吏
ガ獨斷的ニ認定スル傾向ガ著シイノデアリ
マス、ソコデ斯ノ如キ態度ガ新稅ノ施行ニ
際シテ又現ハレルト云フコトニナルト、自
ラ官民ノ相剋摩擦ハ激化サレテ參リマス、
而シテ其ノ爲ニ國民ノ納稅思想ハ自ラ惡
化サレテ參ルノデアリマス、稅務官吏ニ
求ムルモノハ最モ圓滿ナル常識デナケレ
バナラヌ、同時ニ納稅者ニ對スル親切デ
ナケレバナラヌノデアリマス、故ニ稅務
官吏ノ處遇ニ付キマシテハ先以テ稅務
官吏ノ待遇ヲ改善スベシ、承ル所ニ依リ
マスト、今日ノ稅務官吏ノ平均給ハ九十
圓、此ノ程度デハイケマセヌ、其ノ待遇ヲ
改善スルト同時ニ、稅務官吏ノ〓育機關ヲ
設置スル必要ガアルト考ヘル、鐵道ニハ鐵
道職員〓習所ガアリ、遞信省ニハ遞信官吏
ノ上級下級ノ〓育所ガアリマス、然ルニ最
モ民衆ニ直接スル、最モ重大ナル職責ヲ持
ツテ居ル所ノ稅務官吏ニハ、其ノ機關ガナ
イノデアリマス(拍手)故ニ私ハ一面ニ於テ
稅務官吏ノ優遇方法ヲ講ジテ戴クト同時ニ、
更ニ稅務官吏ニ對スル〓育ノ機關ヲ設置シ
テ戴キタイト希望スルモノデアリマス、之
ニ對スル大藏大臣ノ御所見如何ト御伺致シ
タイノデアリマス
稅務上ノ第三ノ問題ハ、所謂標準率ノ決
定ニ付テデアリマス、今マデ課稅ニ當リマ
シテ、商工業者ノ所得ノ標準率、或ハ農業
者-是ハ自作モ小作モ含メテデアリマス
ガ、農業者ノ所得ノ反當標準率ノ決定ハ、
大藏大臣御承知ノ通リ稅務官吏ノ手加減ニ
依ルノデアリマシテ、法律ニ依ルニアラズ、
勅令ノ標準ニ依ルニアラズ、全ク稅務官吏
ノ獨斷的決定ニ依ツテ居ルノデアリマス、
ソコデ私ハ此ノ長イ間ノ傳統ヲ改メラレテ、
或ハ之ニ所得調査委員ヲ加ヘルナリ、或ヘ
當業者ノ意見ヲ聽クコトニ依ツテ之ヲ決定
シテ、願クハ各地ノ稅務監督局ニ於テ之ヲ
公ニ示シテ戴キタイ、斯樣ナ希望ヲ持ツテ
居ルノデアリマス、如何ナル人ノ所得ニ致
シマシテモ是ハ實際ノ額ニ依ツテ決定サル
ベキハ當然デアルノデアリマス、然ルニ其
ノ實際ノ額ト云フモノハ各人各樣デアツテ、
唯稅務官吏ガ机上ニ於テ決定シタル額ヲ以
テ律スベカラザルコトハ、理ノ當然デアル
ト言ハナケレバナリマセヌ、然ルニ日本ノ
稅法布カレテ以來今日ニ至ルマデ、稅務署
ハ-敢テ私ハ陋習ト申シマスルガ、此ノ
陋習ヲ一慣シテ持ツテ居ルノデアリマス、
是ハ洵ニ徵稅上ノ根本問題デアツテ今日稅
法ノ根本的改革ニ當リマシテ、先以テ斯ノ
如キ陋習ヲ改善サルベキデアルト私ハ考ヘ
テ居ル者デアリマス、故ニ標準率ノ決定ニ
際シマシテハ、下世話ニ申シマス通リニ、
餅ハ餅屋、酒ハ酒屋ト云フ工合ニ、實際當
業者ノ意見ヲ聽キ、當業者ノ意見ヲ聽クコ
トニ依ツテ標準額ヲ決定シ、官民協調ノ精
神ニ依ツテ出タ所ノ標準率ヲ課稅ノ標準ニ
シテ戴キタイト、私ハ希望セザルヲ得ナイ
ノデアリマス(拍手)若シ納稅者ニシテ此ノ
標準率ニ對シ納得ガ參リマスナラバ、現在
ノ官民ノ紛議ノ大部分ハ、恐ラクハ雲散霧
消スルコトデアラウト考ヘマス、併シナガ
ラ若シ此ノ標準率ガ從來ノ通リニシテ決定
セラレマスナラバ、如何ニ議會ニ於キマシ
テ愼重ニ稅制各法案ヲ審議致シマシテモ、
實際國民ニ課稅サレルニ當リマシテハ國
民ハ全然自己ノ關知セザル官廳ノ一方的決
定標準ニ依ツテ課稅サレル結果ト相成ルノ
デアリマシテ、是ハ重ネテ申シマスルガ、
實ニ看過スベカラザル所ノ徵稅上ノ根本問
題デアルト言ハナケレバナリマセヌ、櫻內
大藏大臣ノ如キハ、在野多年、練達ノ聞エ
高キ人デアリマシテ、私ハ斯ノ如キ人ヲ當
路ニ見出シマシタガ故ニ、此ノ際此ノ稅法始
ツテ以來ノ陋習ヲ斷乎トシテ改メラレテ、
私ガ前段申上ゲマスヤウナ方法ヲ講ジテ戴
キタイト要望致スノデアリマス、此ノ點ニ
對スル大藏大臣ノ御所見ヲ承リタイノデア
リマス
次ニ御伺致シタイト考ヘマスコトハ、各
稅法ノ實施ト產業トノ調和ニ付テデアリ
マス、租稅法ハ申上ゲルマデモナク常ニ其
ノ各方面ニ對スル影響ヲ考慮シ、社會政策
的見地ニ立チ、又產業政策上適切ナル考慮
ヲ廻ラシテ、是ガ實施ヲ爲スベキハ當然デ
アリマスガ、併シ徵稅ノ要諦ハ、納稅者ノ
負擔ノ均衡ヲ失フコトナクシテ、國家歲入
ノ充實ヲ圖ルト云フコトニアルノデアリマ
ス、隨ヒマシテ租稅法其ノモノノ任務ハ、
其ノ稅法ヲ以テ決定シタル所ノ具體的ノ租
稅ヲ徵收スルコトヲ以テ本來ノ任務ト致サ
ナケレバナリマセヌ、而シテ又之ヲ以テ私
ハ先ヅ十分ナリト考ヘルノデアリマス、故
ニ租稅其ノモノヲ以テ產業政策ノ具體化ヲ
同時ニ致サントスル如キコトハ、換言致シ
マスレバ、稅法自體ガ其ノ中ニ產業政策
ヲ調和セシメントスル規定ヲ具備スルト云
フコトハ、ソレ自體旣ニ難事デアルト申サ
ナケレバナリマセヌ、況ヤ產業政策トノ調
和ニ重キヲ置クノ結果ハ、却テ租稅本來ノ
使命ヲ歪曲セラレル如キ虞少シト致シマセ
又、今囘施行セラレマシタ所ノ臨時租稅
措置法ノ留保所得ノ運用方法ニ依ル所ノ負
擔輕減ノ問題、又ハ補助金ニ對スル所ノ措
置ノ如キハ、旣ニ行過ギノ感ガアルト私ハ
觀察致シテ居リマス、之ヲ實際ノ運用上カ
ラ觀察致シマシテモ、實ニ煩瑣ナル手續ヲ
執ラナケレバナラヌ結果ニ相成ツテ居ルノ
デアリマス、故ニ私ハ斯ノ如ク產業政策ト
ノ調和ニ對シマシテハ、租稅法以外ニ之ヲ
立法シ、之ヲ稅務ト切離シテ、各〓他ノ所
管官廳ヲシテ其ノ運用ニ當ラシメテ、以テ
租稅法ノ獨立不覊ノ特質ヲ冒瀆セザラシメ
ルヤウニスルト同時ニ、稅法ノ實際ノ產業
上ニ及ボス影響ニ付キマシテハ、他ニ適當
ナル措置ヲ講ズルコトヲ必要ナリト考ヘル
者デアリマス(拍手)是ガ同時ニ稅制ノ簡易
化ノ目標ニモ合致シ、又稅務官吏ノ心理上
カラ致シマシテモ、納稅者タル產業人ノ心
理上カラ致シマシテモ、適當ナリト信ズル
者デアリマス、私ハ御斷リ申シテ置キマス
ガ、課稅ニ對シテ產業政策ヲ無視シテ立法
シロト言フ者デハ斷ジテアリマセヌ、唯稅
法自體ニソレ等ノモノヲ兼ネ備ハラセルコ
トノ難事ヲ玆ニ論ジテ居ルノデアリマス
(拍手)
最後ニ私ハ、政府ノ「インフレーション」
抑止ノ政策ニ付キマシテ御伺致シタイノデ
アリマス、曩ニ米內總理大臣ハ一日ノ本會
議ニ於テ、其ノ施政方針ノ中ニ、國防力
ノ强化ヲ以テ現下喫緊ノ要諦デアルト爲
シ、ソレガ爲ニハ軍備ノ充實、國民精神ノ
昂揚、經濟力ノ發展及ビ戰時國民生活ノ確
保ガ缺クベカラザルモノナリト述べラレ、
更ニ又同日櫻內大藏大臣ハ、新東亞建設ノ
大業完遂ノ爲ニハ、擧國一致我ガ財政經濟
ノ運行ニ萬全ヲ期スルノ必要アリト爲シ、
現時我國內外ノ情勢下ニ在リテハ、我ガ財
政經濟政策ハ國防ノ充實ト基本國力ノ培養
トニ主力ヲ傾注シ、戰時國民生活ヲ確保ス
ルト共ニ、銃後ノ任務遂行ニ支障ナキヲ期
セネバナラヌト述ベラレテ居ルノデアリマ
ス、固ヨリ私ハ其ノ根本方針ニ關シマシテ
ハ十分ニ之ヲ諒トシ、之ニ賛意ヲ表スル者
デアリマス、而シテ本稅法改正諸案提案ニ
際シマシテモ、ノ大藏大臣ハ此ノ稅制改正ガ
現下ノ緊要ナル經濟諸政策トノ調和ヲ一大
目標トシテ居ラレルコトハ、一昨日ノ本會
議ニ於キマシテモ明ニセラレタノデアリマ
ス、是亦當然ノコトニ存ズルノデアリマス、
然ルニ本稅制改正ノ他ノ大キナル-私ヲ
シテ言ハシムレバ、恐ラクハ最大ノ目標トモ
申スベキハ國庫ノ增收、卽チ增稅ニアルコ
トハ先ニ指摘致シマシタ通リデアリマス、
卽チ本案ハ一ツノ增稅案デアル、政府ハ本
案ノ改正ニ依リマシテ、一一以以國國
收ヲ圖リ、一ハ以テ國民生活ヲ緊肅シテ、
消費節約、購買力ノ吸收ヲ圖リ、以テ漸ク
高物價其ノ他ニ旣ニ徵候ヲ現ハシテ居ル所
ノ「インフレーション」ヲ抑止セントスルニ
アルト云フコトハ窺ヒ知ルニ十分デアル
ノデアリマス、然ラバ果シテ本案改正ハ
政府ノ是等ノ經濟政策ニ適合スルカドウカ、
私ハ又甚シク疑問ヲ持タザルヲ得ナイノデ
アリマス、勿論本增稅案ハ或ル程度ノ「イ
ンフレ」抑止ノ作用ヲ持ツコトハ肯定出來
ルノデアリマスガ、同時ニ此ノ增稅案ハ物
價〓騰ノ結果ヲ招來スルコトヲ看過シテハ
ナリマセヌ、卽チ本增稅案自體ニ依ツテ見
マシテモ、聞接稅中酒稅ニ於テハ三割程度
ノ增徵、砂糖消費稅ニ於キマシテハ二割程
度ノ增徵、其ノ他〓涼飮料稅、織物消費稅、
通行稅、入場稅、物品稅等ノ增徵或ハ新設
ヲ見テ居ルノデアツテ、是等間接稅ノ增徵
35
或ハ新設ガ價格昂騰ヲ起スコトハ言フマデ
モナイノデアリマス、更ニ直接稅ニ致シマ
シテモ、之ヲ法人關係ニ付テ論ジマスレバ、
所得稅ノ改正、法人稅ノ新設、臨時利得稅ノ
改正等ニ依リマシテ、會社ノ負擔ハ是亦可ナ
リニ增大セシメラレテ居ルノデアリマス、企業經
營ニ於ケル公課負擔ノ增大ハ、勢ヒ生產品
價格ノ「コスト」〓騰ニ拍車セザルヲ得ナイ
ノデアリマス、斯ノ如クニ致シマシテ本改
正案實施ノ結果ハ、物價ガ〓騰スルノ結果ト
ナルコトヲ憂ヘザルヲ得ナイノデアリマス、
櫻內大藏大臣ハ間接稅ニ於キマシテハ、成
ベク奢侈的消費又ハ不急消費ニ重課スルノ
方針ヲ執ルコトト致シタ、斯樣ニ說明ヲセ
ラレテ居ルノデアリマスガ、藏相ノ言フガ
如ク、現下緊要ナル經濟諸政策トノ調和ヲ
圖ルト云フ點カラ論ジマスナラバ、奢侈的
消費又ハ不急消費ニ關シマシテハ、今少シ
ク重課スベキデアツテ、此ノ點頗ル不徹底
ナリト論ゼザルヲ得ナイノデアリマス、政
府ガ所期スル時局ニ於ケル經濟力ノ發展、
國民生活ノ確保ノ爲ニハ本稅制改正ト同
時ニ、他ノ緊急適切ナル經濟政策ヲ講ズベ
キデアル、而シテ以テ「インフレ」ノ抑制ヲ
ナサルベキハ、最モ緊要ナルコトデアルト
確信致スノデアリマス、ソレハ從來ノ如ク、
單ニ消費節約ノ勸說、或ハ百億貯蓄ノ奬勵
ト云フヤウナコトデハ追ツ付キマセヌ、今
少シク徹底シテ購買力ノ囘收ヲ圖ラナケレ
バナリマセヌ、殊ニ今日ノ世態ヲ眺メテ見
マスルト、殷賑產業ニ依ツタ所ノ利益ガ、
直接生活消費ニ湯水ノ如クニ浪費セラレテ
居ル所ノ場面ハ、實ニ言フニ忍ビザルモノ
ガアルノデアリマス(拍手)或ハ邸宅、別莊ノ
建設ガ禁止セラレタカラト申シマシテモ、
避暑地ノ家ヲ借リタリ、庭造リニ贅澤ヲ盡
シタリ致シテ居ル、花柳界空前ノ賑ヒ、或
ハ芝居、相撲ノ物凄イ繁昌、溫泉地ノ客ノ
殺到振リ、百貨店ノ商品劵ノ飛ブヤウナ賣
行、此ノ殷賑事業カラ流レル所ノ惡性ノ購
買力コソハ、實ニ色々ノ方面ニ於テ害惡ヲ
流スコト甚シイモノガアルノデアリマシテ、
之ニ對スル適切緊急ナル方法ヲ講ズルニア
ラザレバ、私ハ其ノ結果洵ニ憂慮ニ堪ヘザ
ルモノアリト信ズルノデアリマス(拍手)政
府ハ之ニ對シマシテ如何ナル方策ヲ樹立
シ、且ツ實行セントセラレルノデアリマセ
ウカ、私ハ此ノ點ニ關シマシテ、特ニ總理
大臣、大藏大臣、商工大臣ノ御答辯ヲ煩ハ
シタイノデアリマズ
私ハ以上各項ニ付テ質疑ヲ申上ゲタノデ
アリマスルガ、第一ノ行政機構其ノ他ノ改
革ト云フ問題ニ付キマシテハ、特ニ總理ノ
御答辯ヲ煩ハシ、其ノ他ノ問題ニ付キマシ
テハ最後ノ問題ヲ除イテハ、主トシテ大
藏大臣ノ率直ナル御答辯ヲ要望致スノデア
リマス(拍手)
〔國務大臣櫻內幸雄君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=14
-
015・櫻内幸雄
○國務大臣(櫻內幸雄君) 石坂君ニ御答辯
申上ゲマス、增稅額ノ算定ノ基礎ニ付テ第
一點ニ御質問ガアツタヤウデアリマス、是
ハ申スマデモナク、從來ノ租稅ノ狀況ト今
囘ノ稅法トヲ見合ツテ決定致シタノデアリ
マスガ、何分ニモ現在ノ情勢ハ所謂東亞ノ
新秩序建設ノ爲ニ、長期ニ亙ツテ相當ノ國
費ノ要ルト云フコトダケハ御承知ニナツテ
居ル所デアリマセウガ、ソレヲ支辨致シマ
スノニ、公債ダケヲ以テ支辨シテ行クコト
ハ是ハ到底財界ノ許ス所デナイノデアリ
マシテ、是ト相俟ツテ國民一般ノ負擔ニ依
ルコトガ必要デアリマスノデ、ソコデ此ノ
增稅ト云フコトガ、今囘ノ稅制改正ノ中ノ
一ツノ要素ニナツタノデアリマス、數字的
ノ根據ト云フ御話デアリマスガ、國費ハ本
年御承知ノ通リ一般、臨時ノ經費ニ於テ五
十八億圓ヲ超過シ、又軍事費ガ四十四億圓
ト云フ巨額ニ達シテ居リマシテ、將來ノ見
透シヲ考ヘテ見マシテモ、中々此ノ一般ノ
國費ガ容易ニ減少シナイ狀態デアリマスノ
デ、此ノ點ニ付キマシテ、今囘ノ增稅ハ巳
ムヲ得ナイモノト考ヘタノデアリマス、斯
ノ如キ增稅、卽チ平年度ニ於テ約八億一千
万圓、初年度ニ於テ約五億万圓、斯樣ナ大
キナ增稅ヲ爲ス場合ニ於テ、行政整理竝ニ
一般ノ經費ノ節約ニ依ツテ、之ヲ捻出スル
ダケノ考ヲ持タナカツタノデアルカト云フ
御話デアリマスガ、本豫算ハ出來得ルダケ
節約ヲシテ組立テラレタ豫算デアリマシテ、
到底斯樣ナ澤山ナ費用ヲ現在ノ豫算カラ捻
出スルコトハ難カシイノデアリマス、併シ
ナガラ私ハ此ノ豫算ノ實行ニ當リマシテ
ハ一厘一毛ト雖モ之ヲ輕率ニ使ハナイヤ
ウニ考ヘマシテ、現在ノ此ノ豫算ヲ少シデ
モ少ク致スヤウニ致シタイト云フコトニ付
キマシテハ、渾身ノ努力ヲ拂フ考デアリマ
ス
次ニ此ノ增稅案ガ、負擔ノ均衡ガ保タレ
テ居ナイデハナイカト云フノデ、先刻御答
辯申上ゲマシタケレドモ、第二種所得稅ヲ
綜合課稅シナカツタ點ニ對シテ御非難ガア
リマシタガ、ソレハ先刻旣ニ私ガ答辯致シ
タノデアリマスカラ、之ヲ重ネテ申上ゲマ
セヌガ、唯第二點ノ所謂五千圓以下ノ課稅
ニ付キマシテ、極ク少額ノ所得者ト五千圓
以内ノ、卽チ四千圓トカ、四千五百圓トカ
云フヤウナ人々ノ負擔ガ同一ニ取扱ハレ
テ居ルコトハ、不都合デハナイカト云フ御
意見デアリマスガ、洵ニ見樣ニ依ツテハサ
ウ云フ感ジガ致スノデアリマス、併シナガ
ラ是ハ事實ノ上ニ於テ見マスト、相當ヤハ
リ懸隔ガ置カレテ居ルノデアリマシテ、今
一例ヲ申シマスト勤勞所得ニアツテハ八百
圓ノ所得者ノ方ハ、百圓ノ收入ニ對シテ一
圓五十錢ノ稅ニナツテ居リマス、千五百圓
ノ人ハ百圓ニ對シテ三圓六十錢ノ稅ニナツ
テ居リマス、三千圓ノ所得ノ方ハ百圓ニ付
テ四圓八十錢ノ稅ニナツテ居リマス、斯ウ
云フ風ニヤハリ累進的ニ上ツテ參ツテ居ル
ノデアリマシテ、此ノ上リ方ガ少イトカ多
イトカ云フ點ニ付キマシテハ、色々議論ガ
アリマセウケレドモ、今日ノ日本ノ狀態カラ
考ヘテ見マシテ、先ヅ此ノ程度デ宜カラウ
ト云フノデ、斯樣ニ決定致シタヤウナ譯デ
アリマス、ソレカラ相續稅ノ問題デゴザイ
マシテ、相續稅ガ上ニナル程今度ハ增加シ
タ率ガ少イデハナイカト云フ御話デアリマ
スガ、成程御示ニナツテ居ルヤウナ數字デ
アリマスケレドモ、上ノ方モ增稅シタコト
ハ可ナリ多クノ增稅ヲ致シテ居リマス、唯
其ノ比率ガ比較的今囘、上ノ方ニ割合ニ多
ク行ツテナイト云フコトハ相續稅ノ從來
ノ負擔ヲモ見マシテ、餘リ苛酷ナコトヲ致
シマシテモ、是ハ實際ノ負擔ノ上カラ見テ
甚ダ當ヲ得ナイト考へマシタノデ、斯樣ニ
致シタノデアリマス
稅務上ニ付キマシテ不法、不當ノ課稅ヲ
受ケタ場合ニ於テ、之ヲ救濟スル途ガナイ、
先日モ此ノ問題ガ起ツタノデアリマスガ、
斯樣ナル場合ニ於テハ、訴願ノ途モアリマ
ス、或ハ審査要求ノ途モアリマスガ、ソレ
ハ從來非常ナ手數ガ掛ツテ居ルノデアツテ、
甚ダ不都合デアルト〓瀨君モ申サレタノデ
アリマスガ、此ノ點ニ付キマシテハ吾々モ
深ク考ヘナケレバナラヌト思ツテ居リマシ
テ、今囘卽チ稅務相談所ヲ設ケタノモ、此
ノ點ニ付キマシテ多少心ヲ配ツタ譯デアリ
マスガ、御話ノ如ク稅務相談所モ全國ニ何
箇所モ設ケルノデアリマセヌカラ、地方ノ
人ハ之ヲ利用スルノ途ガナイト云フ御意見
デアリマシテ、其ノ點ハ私共モ全ク御同感
ノ意ニ堪ヘナイノデアリマス、之ヲ救濟ス
ルノ途ト致シマシテハ、ドウシテモ稅務ヲ
執行スル所ノ官吏ノ〓育ヲ致スト云フコト
ガ必要デアリマシテ、此ノ點ニ付キマシテ
ハ十分ニ注意ヲ致シマシテ、稅務執行ノ上
ニ於テ遺憾ナキヤウニ致シタイト思ツテ居
リマス、今日ニ於キマシテモ稅務官吏ノ養
成ニ付キマシテ、常設ノ機關ハ設ケテ居リ
マセヌノデアリマスケレドモ、每年大藏省
內ニ於テ講習會ヲ開催致シマシテ、其ノ點
ニ付キマシテハ相當指導致シテ參ツテ居ル
ノデアリマスケレドモ、今後モ更ニ一層其
ノ點ニ付テ注意致シタイト考ヘルノデアリ
マス、標準率ノ決定ニ付テ公開ヲシタラド
ウデアルカト云フ御意見デアリマスガ、是
ハ私ハ御意見トシテ十分拜聽致シマシタケ
レドモ、今日之ヲ公開スルト云フ風ナ考ハ
持ツテ居ラヌノデアリマス、產業トノ調和ニ
付キマシテ、租稅政策ニ依ツテ產業ノ進展
ヲ圖ルト云フ事柄ハ不都合デアル、寧ロ租
稅ハ租稅トシテ取ツテ、若シ振興ノ爲ニ特
殊ノ奬勵ノ必要ナモノハ、各關係省ソレゾ
レノ手ニ依ツテヤツタラ宜イデハナイカト
云フ御意見デアリマスガ、此ノ點ニ付キマ
シテハ御意見トシテ私ハ傾聽スベキモノガ
アルト思ヒマスケレドモ、從來所謂特殊ノ
事業ニ付キマシテ免稅ヲ行フトカ、或ハ減
稅ヲ行フト云フガ如キ事柄ガ行ハレテ居リ
マシテ、起業ノ際ニ於テ此ノ稅ガ多ク問題
ニナリマスノデ、今囘モ亦此ノ從來ノヤリ
來リヲ踏襲シタ譯デアリマス「インフレー
ション」ノ問題ニ付キマシテ御話ガゴザイ
マシタガ、是ハ御意見ノ如ク此ノ「インフ
レーション」阻止ニ付キマシテハ、吾々ト
シマシテハ撒布セラレタル資金ヲドウシテ
モ囘收スル、又購買力ニ付キマシテモ十
分注意ヲシテ、之ヲ緊縮スルト云フコト
ハ最モ必要デアリマシテ、御承知ノ如ク
或ハ消費節約デアルトカ、或ハ貯蓄奬勵
テアルトカ、或ハ又企業ノ上ニ於テハ資金
調整法トカ、有ユル手段方法ヲ執ツテ居ル
ヤウナ譯デアリマス
ソレカラ物品稅ノ問題ニ付テ御話ガゴザ
イマシタガ、是亦先ニ御答辯申上ゲマシタ
通リ、今囘ノ物品稅ノ增徵ハ主トシテ奢侈
品ニ重キヲ置キマシテ、奢侈品若クハ生活
上不急ノ物ノ方ニ向ツテ多クノ增稅ヲ致シ
テ居ルノデアリマシテ、是ガ直チニ物價騰
貴ヲ起シテ、其ノ物價騰貴ノ結果國民生活
ニ危殆ヲ及ボスト云フ風ニハ考ヘテ居ナイ
次第デアリマス(拍手)
〔國務大臣藤原銀次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=15
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016・藤原銀次郎
○國務大臣(藤原銀次郞君) 石坂君ニ御答
ヲ申上ゲマス、只今私ニ對シテ御尋ノ點ハ、
大藏大臣ヨリ詳細御答ニナリマシタ通リ、商
工省ニ於テモ同樣ニ考ヘテ居リマスカラ、
左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手)
〔國務大臣米內光政君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=16
-
017・米内光政
○國務大臣(米內光政君) 今囘ノ稅制改革
ニ依リマスルト、相當多額ノ國民ノ負擔ヲ
增加致スコトニナリマス、之ニ付キマシテ
モ、只今ノ御質問ノ第一ノ行政機構等ノ改
革ヲ必要トセザルヤト云フコトデアリマス
ガ、刷新ノ必要ヲ認メマスモノハ、ドン〓〓
刷新シテ行クト云フコトニ躊躇致スモノデ
ハナイノデゴザイマス、第二ニ國民精神
ヲ緊張セシメマシテ生活ヲ緊肅スルコトハ、
是亦最モ肝要ナコトト存ズルノデアリマス、
是ガ爲ニハ政府ト致シマシテハ、〓育勅語、
戌申詔書、國民精神作興ニ關スル詔書ニ於テ
御示ニ相成リマシタル所ノ御訓示ノ精神ヲ
徹底セシムル爲最大ノ努力ヲ拂ヒマス、ソ
レト同時ニ國民精神總動員聯盟ニ於キマシ
テモ、大イニ力ヲ致シ、今日マデ足ラザル
所ハ之ヲ改正致シマシテ、其ノ實效ヲ擧ゲ
ルコトニ大イニ力ヲ用ヒタイト考ヘテ居リ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=17
-
018・石坂繁
○石坂繁君 簡單デアリマスカラ自席カラ
發言スルコトヲ御許ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=18
-
019・小山松壽
○議長(小山松壽君) 許可致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=19
-
020・石坂繁
○石坂繁君 只今ノ御答辯ニ對シマシテハ、
更ニ御尋ヲ致サナケレバナラヌ點ガ少クナ
イノデアリマスガ、ソレハ他ノ機會ニ讓ル
コトニ致シマシテ、今日ハ是デ一應私ノ質
疑ハ打切リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=20
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021・小山松壽
○議長(小山松壽君) 藤本捨助君
〔藤本捨助君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=21
-
022・藤本捨助
○藤本捨助君 平年度ニ於キマシテ約八億
一千四百万圓、初年度ニ於キマシテ約六億
四百万圓ノ增收ヲ以テ、其ノ內容ト致シマ
スル今次ノ中央地方ヲ通ズル、稅制ノ一般的
改革ガ、今ヤ國ヲ擧ゲテ努力致シテ居リマ
スル聖戰目的貫徹ノ一助トナリ、或ハ又過去
四星霜ニ亙リ東亞新秩序建設ノ爲ニ尊キ礎
石トナリマシタル護國ノ忠魂ニ對シ、或ハ
又硝煙彈雨今尙ホ死生ノ巷ニ奮戰力鬪シテ
居リマスル皇軍將士ノ御勞苦ニ對シマシテ、
聊カナリトモ報ユルコトガ出來ルナラバ、
洵ニ銃後國民ノ光榮アル義務トシテ欣快之
ニ過グルモノハナイノデアリマス、併シナ
ガラ本案ヲ繞リテ、仔細ニ之ヲ檢討致シマ
スルナラバ、尙ホ幾多ノ疑問ナキヲ得ナイ
ノデアリマス、先ヅ其ノ第一ト致シマシテ、
課稅ト國民精神トノ關係ニ付テデアリマス、
只今石坂君ノ御質問ニ對シ總理ノ御答辯ヲ
得タノデアリマスガ、私ハ之ニ對シマシテ諒
承致シ兼ネマスルガ故ニ、他ノ角度ヨリ御尋
致シテ見タイノデアリマス、申スマデモナ
ク租稅ハ公債ト異リ、國民ガ國家ニ對シ其
ノ購買力ヲ直接間接ニ無償デ提供スルモノ
デアリマスガ故ニ、先ヅ國民ニ國民的士氣、
國民精神ノ昂揚ガナケレバ、如何ニ稅制ニ
新裝ヲ施シマシテ之ヲ完備致シマシテモ、
或ハ又徴稅機關ガ如何ニ四苦八苦致シマシ
テモ、或ハ稅法違反者ニ對シテ嚴罰ヲ以テ
臨ミマシテモ、到底租稅政策ノ所期スル目
的ヲ圓滿ニ遂行スルコトハ出來ナイノデア
リマス、故ニ戰時下ニ於テ國民緊張ノ秋ニ
當リマシテモ、國民ノ經濟生活ニ對シ畫期
的重大變動ヲ與フルガ如キ稅制改革ヲ斷行
致ス際ニ當リマシテハ、先ヅ基礎的根本的要
件ト致シマシテ、國民ノ志氣ヲ鼓舞シ、國
民精神ノ昂揚ヲ企圖致シテ、國家ノ運命ヲ左
右スル國家經費ノ分擔ニ對シ、欣然之ニ寄
與セシメ、又長期大消耗戰ニ對處スル爲ニ、
消費經濟ノ方面ニ於テ、國民ニ自主的道德
的節約ヲ爲サシムル所ノ時局的總力戰的決
意ト訓練ヲ與ヘマスコトハ、正ニ重大ナル
戰時財政政策、戰時租稅政策ノ根幹ト言ハ
ネバナラナイノデアリマス(拍手)私ハ斯ノ如キ
見地ニ立チマシテ、二三事例ヲ擧ゲ政府ノ
所信ヲ承リタイノデアリマス
先ヅ稅革ハ其ノ時宜ヲ制セネバナラヌト
云フコトデアリマス、例ヘバ獨逸ハ世界大
戰勃發後其ノ戰費支辨ノ爲ニ、國民的緊張
ノ秋ニ於テ增稅ノ堅陣ヲ張ルコトナク、漫
然公債支辨主義ヲ以テ之ヲ彌縫糊塗致シ、
戰ガ漸ク長期膠著狀態ニ入リマシテ、國民
ノ士氣モ衰へ掛リ、且又時旣ニ惡性全
フレ」ノ徴候ガ現ハレ、政府ノ之ニ對スル
施策其ノ當ヲ得ズ、隨テ時難克服ニ對スル
國民的士氣ヲ沮喪セザルヲ得ナイ時ニ於キ
マシテ大增稅ヲ敢行致シマシタガ故ニ、遂ニ
獨逸國民モ腐ラザルヲ得ナカツタノデアリ
マス、顧ミテ今次ノ事變勃發以來國內情勢ノ
動向ヲ凝視致シ、更ニ事變勃發以來滿三箇年
ニ垂ントシテ、漸ク此ノ稅革案ノ提案ヲ見
タ事實ヲ繞リテ考慮致シマスルナラバ、時
ト國內情勢ノ相違コソアレ、我國モ亦獨逸
ノ場合ノ如ク、其ノ時宜ヲ失セザルヤノ憂
慮ヲ禁ジ得ナイノデアリマス、果シテ然リ
トセバ、此ノ稅革ノ使命ヲ圓滿ニ遂行スル
爲ニハ、斷乎國民精神ヲ昂揚シテ萬違算ナ
キヲ期セネバナラヌト信ズルノデアリマス、
先ヅ此ノ點ニ對シマシテ當局ノ御所信ヲ承
リタイノデアリマス
次ニ國內政情ノ不安、課稅ト形影相伴フ
政策ノ不確立モ亦、租稅政策ノ價値ヲ動搖
セシメザルヲ得ナイノデアリマス、然ルニ
事變勃發以來我國ノ國內政情ハ實ニ端倪ス
ベカラザル程浮動致シ、隨テ內閣ノ更迭ハ
頻々トシテ行ハレ、爲ニ其ノ主義政策ノ樹
立斷行ノ如キハ、唯目前焦眉ノ急ヲ彌縫糊
塗スルニ止リマシテ、戰時國內體制ノ强化
ヤ、或ハ事變處理ノ要請スル國家革新ノ根
本的政策ノ如キニ至リマシテハ、或ハ之ヲ
高閣ニ束ネ、或ハ出沒常ナク、爲ニ國民ハ
其ノ嚮フ所ニ惑ハザルヲ得ナカツタノデア
リマス、故ニ從來官僚獨善ノ聲ハ都鄙ニ滿
チ、或ハ闇取引ハ公然ノ祕密トシテ行ハレ、
或ハ又脫稅、其ノ他統制法規違反ノ所爲ガ
所在ニ頻出致シマシテ、曠古未曾有ノ國難ニ
0
處セル我ガ民族ノ眞ノ姿トモ思ヘザルガ如
キ事態ヲ生起セシメタルガ如キハ、單リ國
民ニノミ其ノ責任存スルヤ否ヤ、ソレトモ
大政變理ノ重責ヲ負擔致シ、確乎不動ノ信
念ト、適切妥當ノ政策ヲ堅持シテ國民ヲ指
導シ、官僚ヲ指令スベキ筈ノ政府ニ、政治
又ハ政策ノ貧困ガ存シタルガ爲ニ因ルノカ、
知ラズ、米內內閣ハ此ノ前轍ニ鑑ミ、今後
如何ナル所信態度ヲ以テ此ノ時艱克服ニ邁
進遊バサレルノデアリマスカ、私ハ二月一
日以來本議場ニ於テ政府ノ御答辯ニ依ル議
場ノ騷然タル樣ヲ見テ、其ノ責任必ズシモ
議員側ニノミ存セザルコトヲ思ヒ、更ニ今
ヤ內外時局ハ右顧左眄唯調査〓究ニ名ヲ藉
リテ、政策又ハ政治ノ貧困ヲ粉飾スルコトヲ
許サザル程ニ緊迫セルコトヲ思ヒマスル時
二、政府ガ國民ニ向ツテ不退轉ノ意氣ヲ說
キ、又滅私奉公ヲ示唆スルコトハ宜シ、サ
レド政府モ亦自ラ不退轉ノ意氣ヲ持チ、更
ニ確乎不動ノ政策ヲ堅持シテ國民ヲ指導シ、
官僚ヲ指令統率シテ此ノ時艱克服ニ邁進セ
ラレンコトヲ望ムノデアリマス、而シテ又
國家ノ爲ニハ生命ヲ賭シテモ顧ミザル我
國民ハ此ノ聖戰目的ノ爲ニ眞ニ必要ニシ
テ適切妥當ナル國策ノ樹立サヘアラバ、
欣然之ヲ支持協力致シ、其ノ經費ノ分擔
ノ如キハ斷ジテ吝ムモノデハナイト云フ
コトヲ、政府ハ再思三考スベキデアリマ
ス
次ニ思想ノ對立抗爭ト其ノ混迷モ亦租稅
政策ノ價値ヲ動搖セシメザルヲ得ナイノデ
アリマス、申スマデモナク租稅政策ハ財政
政策ノ一部デアリ、財政政策ハ國家政策ノ
一部デアリマスガ故ニ、租稅制度改革ハ、ソ
レガ租稅制度ノ範疇ニ於テ妥當ナル合目的
性ヲ有スルニ止マラズ、更ニ進ンデ其ノ優位
ニ在ル財政政策、國家政策ノ拘束ヲ受クベ
キコトハ申スマデモナイノデアリマス、隨
テ民主主義國家ニハ民主主菱國家トシテノ
租稅制度ガ行ハレ、或ハ社會主義國ニハ社
會主義國家トシテノ租稅制度ガ存シ、更に
所謂全體主義國家ニハ、其ノ獨特ノ租稅制度
ヲ見ルコトモ亦當然ト謂ハネバナリマセヌ、
故ニ千九百十六年六月獨逸ニ於テ初メテ賣
上稅ヲ創設致シマシタ際ニ、時ノ社會民主
黨ハ之ヲ呼ンデ刑罰稅ト稱シ、而シテ對外
貿易ヲ阻碍シ、小商人ヲ壓迫スルノミナラ
ズ、其ノ負擔ハ益〓弱者ニ轉嫁サレテ、國民
ハ長ク其ノ苦痛ニ惱ムモノナリトシテ反對
シマシタコトモ首肯シ得ルノデアリマス、
併シ主義ヤ「イデオロギー」ハ飽クマデモ思
想的指導原理デアリマスルカラ、之ヲ如何
ニ實際ニ具現スルカニ付キマシテハ、更ノ
其ノ實踐的、具體的指導原理ヲ要スルノデ
アリマス、凡ソ政治或ハ政策ノ貧困トハ
思想的ノ指導原理ハアルガ、其ノ實踐的、
具體的指導原理ノナイ場合ニ於テ生ジ、而
シテ一切ノ政治的、經濟的、社會的不安動
搖相剋摩擦ノ禍根ハ茲ニ胚胎スト信ジマ
スガ故ニ、主義、主張ノ對立抗爭又ハ其ノ
混迷ハ、躍進國家ノ陣痛ト致シマシテ不可
避デアリマスルケレドモ、併シ其ノ調整ト
指導統一ニ對シマシテハ、萬全ヲ期サネバ
ナリマセヌ、然ルニ輓近我國思想界ノ動向
ヲ見マスルニ、各種ノ「イズム」ヤ「イデオ
ロギー」ノ對立抗爭ト、其ノ混迷ハ蓋シ今
日ヨリ甚シキハナシト思フノデアリマス
例ヘバ個人主義アリ、或ハ自由主義アリ、
或ハ今尙ホ〓算サレザル資本主義アリ、或
ハ國家革新ヲ說ク全體主義モアルノデアリ
やっ、而シテ其ノ中ニ於キマシテモ、或人
民族主義ヨリ發足セルアリ、或ハ社會主義
ノ亞流ヨリ來レルモノアリ、或ハ獨逸ノ子
チズム」ニ歸依シ、或ハ伊太利ノ「ファシ
ズム」ニ其ノ流レヲ汲ムモノ等ガアリマシ
テ、洵ニ我ガ長期大消耗戰下ニ於ケル我ガ
國情、國策ニ、必ズシモ妥當セザルモノナ
シトシナイノデアリマス、果シテ然リトセ
バ政府ハ此ノ各種ノ「イズム」或ハ「イデオ
ロギー」ノ對立抗爭、或ハ混迷ヲ如何ニ調
整シ、指導シ、以テ之ヲ財政政策、租稅
政策ニ反映セシメテ、此ノ稅革ノ目的ヲ
圓滿ニ遂行セント爲サルノデアルカ、私
ハ獨逸ノ財政竝ニ稅制ガ「マルクス」主義
ヲ絕滅シ、社會的階級鬪爭ヲ根絕シテ、
初メテ可能ニナリマシタコトヲ想起致
シ、更ニ滅私奉公ヲ說ク聖戰下ノ我國ニ
於テ、例ヘバ殷賑商工業ニ惠マレテ利潤
ハアルガ、總動員法第十一條ノ發動ニ依リ
テ配當シ得ズ、サリトテ之ヲ積立テル時ハ
益〓租稅ノ負擔ガ加ハリマスガ故ニ、結局人
件費其ノ他ノ經費ニ支出シ、而シテ不急不
要ノ購買力ニ逃避セシメシトスルガ如キ資
本主義的害惡ガ、今尙ホ所在ニアルコトニ
想到スル時ニ、益〓以テ其ノ根柢ヲ成ス思想
調整ノ急務ヲ痛感スルノデアリマス、殊
又今ヤ長期大消耗戰ニ邁進致シテ居リマス
ル我國現下ノ內外諸政策ハ、惡性「インフ
レーション」ノ昂進ニ依リマシテ、致命的
打擊ヲ受ケルニモ拘リマセズ、今ヤ所謂國
民ノ潜在購買力ハ、公債ノ增發、貯蓄ノ奬
勵ニ依リマシテ益〓是ガ巨額ニ達シテ、潜在
待機セルノ事實ヲ思ヒ、而シテ之ヲ現實ノ
購買力ニ放出セシメザルハ一ニ國民ノ道
義心ニ俟ツコトヲ考ヘマス時ニ、益〓以テ此
ノ國民精神ノ昂揚ヲ圖リ、以テ今ヤ潜在待期
セル危險ト、覆面ノ害惡ヲ一掃セネバナラナ
イト信ズルノデアリマス、而シテ私ハ之ヲ以
テ今次ノ稅革ノ根本的、基礎的要件ト確信
スル者デアリマス、先般來本議場ニ於キマシ
テ、或ハ總理ノ御答辯ニ依リ、或ハ同僚議
員ノ御質問ニ示唆サレタル所ニ依リマシテ、
私ハ大イニ啓發ヲ受ケタノデアリマス、併
シ私ノ當局ニ御伺致サントスル所ハ、假令
時局認識ノ深サト廣サハドウデアラウトモ、
今次ノ戰爭ハ今土我ガ國家ニ火ガ燃エ付イ
テ居ル、或ハ曠古未曾有ノ國難デアルト云
フコトハ、三尺ノ童子ト雖モ之ヲ辨ヘテ居
ルト信ジマスルガ故ニ、例ヘバ燃エ盛ル火
事ヲ消シニ行カントスル者ハ、何人ト雖モ
其ノ火事ノ原因トカ、鎭火後ノ處置ナドヲ
穿鑿スルコトナク、唯一途ニ火事ヲ消スコ
トニ全力ヲ注ギ、是レ努メルト云フガ如ク
ニ、官民擧ツテ此ノ曠古未曾有ノ國難ニ赴
キ、身ヲ挺シテ今ヤ難航ヲ續ケル國家ノ運
命ヲ富嶽ノ安キニ置クコトニ專念スル國民
的士氣、國民的意氣ヲ、如何ニスレバ喚起
セシメ得ルカト云フコトヲ御尋致シタイノ
デアリマス
〔「早ク本論ニ入ルベシ」ト呼ヒ其ノ他
發言スル者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=22
-
023・小山松壽
○議長(小山松壽君) 藤本君-藤本君ニ
御注意致シマス、質疑ノ要點ヲ進メラレン
コトヲ望ミマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=23
-
024・藤本捨助
○藤本捨助君(續) 承知シマシタ-私ハ
只今申述ベマシタヤウナ國民的士氣、國民
的自覺ヲ、如何ニスレバ國民ヲシテ喚起セ
シメ、發揮セシメ得ルカ、而シテ時局ガ深
刻化スレバスル程、更ニ强ク之ヲ發揮又ハ
喚起セシメ得ルカト云フコトニ付、而シテ
其ノ必要ナルコト今日ヨリ甚シキハナイ
ト云フコトニ付テ承リタイト思フノデアリ
マス
次ニ第二點ト致シマシテ、財產稅ヲ創設
セザル理由ニ付テ承リタイノデアリマス、
先刻田万君ヨリ體系的理論ヲ提ゲテ御演說
ニ相成リマシタガ、私ハ角度ヲ變ヘテ御伺
致シマス、從來財產稅ヲ創設スルコトニ付
キマシテハ、其ノ反對理論トシテ、或ハ稅
源ノ涸渴、或ハ課稅方法上ニ於ケル技術的
困難、或ハ收益財產タル土地或ハ建物、營
業ニ對シテハ收益稅アリト云フガ如キ反對
理由ガアツタノデアリマス、併シ一千九百
十三年ニ於ケル獨逸ノ國防稅、或ハ一千九
百十九年ニ於ケル獨逸ノ緊急犠牲稅ノ如キ
ハ姑ク之ヲ措キマシテ、所謂個人ノ經常的
財產稅ノ創設ハ、現下ニ於ケル我ガ國ノ租稅
政策上、又社會政策上、最早理論ノ時代デナ
ク實行ノ時代デアルト確信スル者デアリマ
ス、申スマデモナク稅ハ國民ノ國家ニ對ス
ル財貨ノ無償提供デアリマスガ故ニ、如何ナ
ル稅デアリマシテモ、理論的ニ或ハ實際的
ニ、更ニ之ニ自由主義、個人主義、資本主
義等ノ理論ガ反映致シマス時ニ、所詮兎角
ノ異論ハ免レナイノデアリマス、併シナガ
ラ國家ノ運命ハ少數ノ國民ノ不平ニ依ルヨ
リモ、多數ノ國民ノ不平憤激ニ依ツテ危殆
ニ瀕シ、或ハ歐洲諸國ノ史實ニ徵シマシテ
モ、其ノ政治的、社會的革命ノ重大ナル原
因ノ一ハ、少數ノ有產國民ニ對スル多數
ノ無產國民ノ呪咀憤激ニアツタ事實ヲ見逃
シテハナラナイノデアリマス、(拍手)而シテ
私ハ現下ノ殊ニ長期大消耗戰下ニ於ケル我
ガ國內ノ情募ヲ熟、凝視致シマス時ニ、今
ヤ内外荊棘ニ滿テル道ヲ步メル我ガ國家ノ
爲ニ、實ニ深憂ニ堪ヘナイモノガアルノデ
アリマス、故ニ今ヤ滔々トシテ險惡化スル
社會相ヲ緩和致ス思想的、社會政策的方策
ト致シマシテ此ノ際輕微ナル財產稅ヲ創設
致シマスコトハ、而シテ所謂輕微ナル累進
課稅或ハ免稅點ノ設置、或ハ債務ノ控除、
個人的事情ノ斟酌、更ニ都會ノ新成金ト、
田舍ノ舊家トノ關係ノ考盧等ヲ行ヒ、所謂
財產稅ガ財產ヲ喰潰サザルヤウニ十二分ニ
配意致シマシテ、財產稅ヲ此ノ際創設致シ
マスコトハ、財產稅ガ本來色々ノ長所ヲ持
ツテ居ルト云フ以上ニ、其ノ急務ヲ痛感ス
ル者デアリマス、然ルニ今囘ノ稅革ニ於キマ
シテハ、財產稅ノ創設ヲ見ナイノデアリマス
ガ、ソレハ如何ナル理由ニ依ルノデアリマ
スカ、大藏大臣ニ御尋致シタイノデアリマス
更ニ負擔ノ均衡ハ租稅原則上金科玉條ニ
サレテ居ルノデアリ、今次ノ稅革ニ於キマ
シテモ、四大原則ノ一ツニナツテ居ルノデ
アリマスガ、果シテ然ラバ此ノ原則カラ申
シマシテモ小所得者、卽チ中央地方ノ中小
ノ商工業者、或ハ俸給賃銀生活者、或ハ農
山漁村ノ少額所得者ノ如キハ申スマデモナ
ク、相對的ニ多額ノ消費稅ヲ納メテ居ルノ
デアリマス、而モ之ニ對シテ尙且ツ分類所
得稅ヲ設ケテ重壓セシムルト云フコトカラ
考ヘマシテモ、恆久的ナ多額ノ財產ヲ持ツ
テ居ル者ニ對シテハ-而シテ今ヤ自然增
加ノ顯著ナル今日ニ於キマシテハ、財產稅
ヲ創設スルコトハ、其ノ負擔ノ均衡上ヨリ
見テモ最モ急務デアルト信ズルノデアリマ
ス(「ヒヤ〓〓」)私ハ此ノ點ニ付キマシテ政
府ノ御所信ヲ伺ヒ、更ニ此ノ機會ヲ借リマ
シテ一言附加ヘタイコトガアリマス、卽チ
分類所得稅ニ依リマシテ、其ノ重壓ヲ受ケ
ル者ハ主トシテ中等階級デアリ、知識階級
デアリマス、其ノ中ニ於キマシテハ、平和
產業、時局殷賑商工業ニ惠マレザル所謂犠
牲產業、斯樣ナモノニアリマシテハ、其ノ
事業ガ今ヤ疲弊困憊致シ、或ハ俸給賃銀ノ
不增加、物價ノ暴騰ニ依ル實質的ノ減俸ニ
惱ム者等アリマシテ、今ヤ中等階級ハ疲弊
困憊ノ一途ヲ辿ツテ居ルト云フコトニ對シ
テ、當局ハ如何ニ御覽ニナルノデアルカ、
而シテ長期大消耗戰ニ於テ、世相ガ險惡化
スレバスル程、此ノ中等階級ノ國家的使命
ハ益〓重且ツ大ヲ加ヘルト云フコトニ對シ
テ、當局ハ如何ニ御覽ニナルカ(拍手)更ニ
中等階級ノ使命ガ益〓重且ツ大ヲ加フルニ
モ拘ラズ、其ノ生活ノ疲弊困態斯ノ如キデ
アルトスルナラバ是レ戰時下ニ於ケル
國家ノ一大疾患デハナイカ、或ハ又矛盾
デハナイカ、而シテ尙且ツ之ニ分類所得稅
ヲ課セザルヲ得ナイトスルナラバ、其ノ稅
率ニ於テ、免稅點ニ於テ、特ニ考慮ヲ拂フ
ベキデアルガ、今次稅革ニ現ハレタル免稅
點或ハ稅率ニ於テハ、果シテソレガ適當デア
ルカドウカ、御答ヲ願ヒタイノデアリマス
第三ト致シマシテ、不換紙幣ト稅革トノ
關係ニ付テ御伺致シマス、紙幣經濟デアリ
マスル我國ノ經濟社會ハ兌換劵及ビ不換
紙幣ノ膨脹ニ依リマシテモ、亦惡性う)
フレ」ノ深淵ニ臨ンデ居ルノデアリマス、
兌換劵ノ膨脹ハ姑ク之ヲ措キマシテ、昭和
十二年六月僅ニ一千万圓程度デアリマシタ
ル不換紙幣ハ、昭和十四年三月ニ於キマシ
テハ實ニ一億三千万圓ヲ突破シ、今ヤ巨額
ニ達シテ居ルノデアリマス、申スマデモナ
ク不換紙幣ハ租稅ノ如クニ國民ニ直接負擔
ヲ及ボシマセヌ外觀ヲ有シテ居リマスガ故
ニ、國民側ノ反對モナク次第ニ增發サ
レテ居ルノデアリマス、併シ不換紙幣ハ
一面ニ於キマシテ、租稅ト同樣ナル效
果ヲ有スルコトヲ認メネバナリマセヌ、
ト言ヒマスノハ、政府ハ不換紙幣ト引
換ヘニ、國民ノ物資勞力ヲ獲得シ得ルカラ
デアリマス、又不換紙幣ハ惡稅以上ノ
作用ヲ有スルコトヲ看過シテハナラナイノ
デアリマス、卽チ是ガ爲ニ通貨ノ膨脹ヲ來
シ、玆ニ惡性「インフレーション」ノ一翼
トナリマシテ、貨幣價値ノ下落、物價ノ騰
貴ヲ致シ、而シテ或ハ公債ノ實質的負擔ヲ
輕減シ、其ノ程度ニ於キマシテ公債ノ實質
的破棄ヲ結果スルノデアリマス、或ハ國家
ノ財政政策上、租稅收入ノ實質的價値ノ減
少ト經費ノ膨脹高ヲ招來致スノデアリマ
ス、蓋シ直接稅ニ於キマシテハ徵稅計畫後
數箇月ノ後ニ徵收サレマスガ故ニ、稅革ノ
査定當時ト現實ニ徵收サレル其ノ間ニ於テ
貨幣價値ノ下落ガアリマスナラバ、其ノ兩
時ノ差額ダケハ國家ノ租稅收入ノ實質的減
少トナリ、隨テ國家ノ歲入ニ不足ヲ生ゼシ
ムルハ勿論、國家ガ其ノ政策ノ實行ヲ擴張
シナイ場合ニ於キマシテモ、ソレダケ經費
高ヲ膨脹セシメマシテ、國家ノ歲出ヲ增大
セシメルカラデアリマス、且又通貨ノ膨
脹、貨幣價値ノ下落、物價騰貴ノ經濟現象
ハ、更ニ消費者、或ハ貨幣資本所有者、或ハ
俸給賃銀生活者ニ犠牲ヲ及ボシマシテ、恰
モ彼等ニ消費稅ヲ課シタルト同樣ナル結果
ヲ與ヘルノデアリマス、而モ斯ノ如キ場合
ハ一般消費稅ト異リマシテ、何人ニモ影響
ヲ及ボシ、而シテ之ニ對處シ得ヌ者ニアリ
マシテハ、何人モ一樣ニ其ノ害惡ヲ受ケマ
スガ故ニ、正ニ惡稅以上ノ作用ヲ有スルト
認メナケレバナラナイノデアリマス(拍手)
果シテ然リトスレバ、政府ハ今囘ノ課稅ニ
依リマシテ國民ノ購買力ヲ奪ハントスルノ
デアルガ、國民ニ購買力ヲ與ヘル不換紙幣
ノ現在竝ニ將來ニ對シテ如何ナル態度ヲ
御執リニナルカ、御尋致シタイノデアリ
マス
次ニ第四點ト致シマシテ、戰爭ニ依リマ
シテ地方自治體ノ財源ガ豐富ニナツタモノガ
アリマス、之ヲ中央ノ國家經費ニ移讓スル
意思ナキヤ否ヤト云フコトニ付テ御伺致シ
マス、負擔均衡ノ課稅原則ハ人ノ正義觀念
ノ時代的變遷、或ハ輓近社會政策ノ進展ニ
伴ヒマシテ、或ハ超過稅、或ハ累進稅ノ理
論的根據ヲ提供致シ、更ニ世界大戰以來ハ
戰時政策ノ反映ト致シマシテ、或ハ戰時、
或ハ臨時ノ利得稅ヲ創設セシメタコトハ、
東西比々皆然リデアリマス、卽チ個人ト云ハ
ズ、法人ト云ハズ、其ノ能力ニ應ジテ國家
經費ノ分擔ニ寄與致シテ居ルノデアリマス
ガ、此ノ原則ハ獨リ個人又ハ法人ニ限ラズ、
苟クモ國家組織中、擔稅能力ノアル所ハ卽
チ納稅義務ノアル所トシテ之ヲ展開致シ、
彼ノ地方團體ノ如キニ於キマシテモ、若シ
其ノ財力ニ餘力ガアルナラバ、之ヲ移シテ
國家經費ノ分擔ニ任ゼシメルベキデアルト
信ズルノデアリマス(拍手)殊ニ事變下ニ於
キマシテ國家經費ハ急增致シ、地方ノ團體
ガ戰爭ノ爲ニ利益ヲ受ケタルガ如キ場合ニ
於テハ、特ニ然リト言ハネバナリマセヌ、
果シテ然リトセバ、聖戰下ニ於テ所謂殷賑
商工業ニ惠マレテ急增シタル地方自治團體
ノ戰時收入ノ如キハ一定ノ基準率ヲ設
ヶ、ソレヲ超過スル部分ハ之ヲ移シテ國家
經費ニ移讓スベキデアルト信ズルノデアリ
マス(拍手)當局ニ御答辯ヲ煩ハシタイノデ
アリマス
更ニ課稅ノ基礎デアル利益計算ヲ正確ニ
致ス爲ニ如何ナル方策アリヤト云フコトヲ
承リタイノデアリマス、之ニ付キマシテハ
石坂君ヨリ御質問ガアリマシタガ、私ハ角
度ヲ變ヘテ申上ゲタイノデアリマス、今次
ノ稅革ニ於ケル重點ノ一ツトシマシテ、稅
收入ノ增加ヲ圖ル爲ニ、或ハ稅率ノ引上、或
ハ國民皆稅主義ヲ徹底致シマシタルナド、甚
ダ其ノ勞ヲ多トスルノデアリマスガ、併シ
ナガラ最モ根本的ナル核心ヲ衝カザル遺憾
ナシトシナイノデアリマス、卽チ有ユル稅
率ノ適用サレル利益計算ニ對シマシテ、何
等新機軸ヲ發見シ得ナイカラデアリマス
隨テ是ガ爲ニ、今マデモアツタコトデハア
リマスルガ、今後ハ尙更納稅義務者中ニハ、
或ハ稅率ノ引上ニ依リテ失フ所ヲ、利益計
算ヲ「ルーズ」ニスルコトニ依ツテ「カバー」
セントスルニ至ルヤモ知レズ、隨テ國民ノ
道義心ヲ毀損スルハ勿論、稅率ノ引上ニ依
リテ得ル所ノ稅收ノ增加ハ、是ガ爲ニ減殺
セラレルカラデアリマス、故ニ政府ハ稅收
增加ノ目的ヲ唯課稅技術上ニノミ求メズ、
更ニ百尺竿頭一步ヲ進メマシテ、其ノ基礎
ヲ成ス所ノ利益計算ノ正確ヲ期スル爲、玆
ニ各種營業者ニ對スル監査制度ノ創設、或
ハ各種業態別ニ依ル會計計理ノ方式ヲ規制
スルナド、新シキ構想工夫ヲ爲スベキデア
ルト信ズルノデス(拍手)政府ノ御所信ヲ承
リタイノデス
更ニ寳行豫算編成ニ因ル國家ノ租稅政策
ニ及ボス影響ニ對シテ如何ナル用意アリヤ
ト云フコトヲ承リマズ、藏相ハ本議場ニ於
キマシテ、只今ノ所實行豫算ヲ編成スル
意思ナシト仰セラレタノデアリマス、併
シ現下ニ於ケル經濟界ノ諸現象ヲ檢討致
シ、更ニ物資ノ不足ニ對應シマシテ、惡性
「インフレ」ノ昂進ヲ通貨ノ側ニ於テ阻止
スル必要ヲ痛感致シマス時ニ、近キ將來
ニ於キマシテ成立豫算ノ實行豫算化サレマ
スコトハ何人モ想像シ得ルノデアリマス、
果シテ然リトセバ財政政策ノ一部デアル租
稅政策ハ、重大ナル影響ヲ受クベキコトハ
申スマデモナイノデアリマス、卽チ案ノ如
ク近イ將來ニ於キマシテ成立豫算ガ實行豫
算化サレマスルナラバ、而シテソレガ爲ニ豫
算ノ緊縮ガ行ハレマスルナラバ、之ニ伴ヒ
直接間接ニ事業ノ縮小、閉鎖、或ハ失業者
ノ放出ヲ不可避トナラシムルノデアリマ
ス、其ノ社會的影響ハ姑ク措クト致シマシ
テ、是ガ爲ニ個人ト云ハズ或ハ法人ト云ハ
ズ、其ノ擔稅能力ニ異變ヲ生ゼシメ、隨テ
國家ノ徵稅計畫ヲ齟齬セシメマシテ、國家
ノ歲入ニ不足ヲ生ゼシムルハ勿論、或ハ失
業者救濟等ノ社會政策費ノ增大ヲ結果スル
ニ至ルヤモ測リ知レナイノデアリマス、政府
ハ近ク實行豫算編成ニ當リマシテ、斯ノ如
キ場合ナシト御考ニナルカ、若シアルトス
ルナラバ、如何ナル用意ガアルカト云フコ
トヲ御尋致シタイノデアリマス
其ノ他色々御尋ネ致シタイコトガアリマ
スルガ、重複致ス嫌ヒガアリマスルノデ、
是デ私ノ質問ヲ打切リマス、第一點、卽チ
課稅ト國民精神ノ關係ニ付キマシテハ總理
大臣竝ニ文部大臣ノ御懇篤ナル御答辯ヲ煩
ハシマス、其ノ外ハ大藏大臣ノ明確ナル御
答辯ヲ煩ハシマシテ降壇致シマス(拍手)
〔國務大臣櫻內幸雄君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=24
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025・國務大臣(櫻內幸雄君)
○國務大臣(櫻內幸雄君) 私ニ對スル御質
問ニ對シテ答辯致シマス、第一ハ財產稅ヲ
ナゼ創設シナイカト云フ話デアリマスガ、
是ハ度々申上ゲマシタ通リ、財產稅ハ無收
益ノ財產ニ對シテモ課稅スル一ツノ方法ト
シテハ洵ニ宜イノデアリマスケレドモ、元
來ガ元本ニ稅ヲ課スル關係上高率ナ課稅ヲ
スル譯ニハ行キマセヌ、又之ヲ實行致スニ
付キマシテハ相當困難ナ點ガアリマスノ
デ、今囘ハ之ヲ採用シナカツタノデアリマス
分類稅ハ少額所得者ニ過重デハナイカト
云フ御話デアリマスルガ、今囘ノ分類所得稅
ニ於テ、其ノ負擔ノ範圍ヲ擴ゲテ、比較的
少イ所得者ノ方ニ擔稅ヲシテ戴クト云フコ
トハ甚ダ吾々トシテハ心苦シイ次第デア
リマスケレドモ、今日ノ時代已ムヲ得ナイ
コトデアリマシテ、此ノ程度ノ稅金ハ喜ン
デ其ノ負擔ニ任ジテ下サルト思フノデアリマス
不換紙幣ノ增發ニ付テ云々ト云フ話デア
リマスガ、此ノ問題ハ有ユル手段ヲ以テ其
ノ增發ヲ防ギタイト考ヘテ居リマス
利益計算ニ對シテ監査制度ヲ設ケテハド
ウデアルカ、是ハ御尤モナ御意見デアリマス
ガ、今日此ノ利益計算ニ對スル監査ノ方法
ニ付キマシテハ、十分注意ヲ致シテ居リマ
シテ、今後ト雖モ其ノ爲ニ不都合ヲ生ズル
ヤウナコトノナイヤウニ致シタイト思ツテ
居リマス
ソレカラ實行豫算ノ問題ニ付テ御話ガゴ
ザイマシタガ、只今ノ所ハ實行豫算ヲ設ク
ル考ヲ持ツテ居リマセヌガ、豫算ノ實行ニ
當リマシテハ、十分ニ注意ヲ致シマシテ、
一厘一毛ト雖モ苟モシナイヤウニ致シ、而
シテ此ノ豫算ガ圓滿ニ實行致サレルヤウニ
致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
〔國務大臣松浦鎭次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=25
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026・國務大臣(松浦鎭次郞君)
○國務大臣(松浦鎭次郞君) 只今ノ御質問
中、納稅ト國民精神ト云フモノノ關係ニ付
テ、政府ハ如何ニスルカト云フ趣旨ノ御質
問ガゴザイマシタ、今囘ノ稅制改正ニ依ツ
テ租稅ガ增加致シマシタ、是ハ一面カラ申
セバ國民ニ取リマシテハ一ツノ苦痛デアル
ト云フコトハ是ハ免ルベカラザルコトデ
アルト存ズルノデアリマスガ、併シナガラ
今日我國ハ興亞ノ聖戰ニ從事致シテ居ルノ
デアリマシテ、所謂東亞ノ新秩序ノ聖業ヲ
完遂スルト云フ、大キナ使命ヲ持ツテ居
ルノデアリマスルカラ、是ニハ租稅ノ增徵
ト云フコトモ實ニ巳ムヲ得ザル事柄デア
ル、國民ト致シマシテモ此ノ聖業ノ完遂ノ
爲ニハ、苦痛ヲ忍ンデモ一致協力ヲスルト
云フ、所謂時局ノ認識ニ徹底シテ、必ズヤ
サウ云フ自覺ヲ持ツテ居ラレルコトト存ズ
ルノデアリマスルガ、併シナガラ尙ホ此ノ
精神ヲ徹底セシメマスル爲ニハ政府ト致
シマシテハ有ユル機關ヲ通ジ、有ユル方法
ヲ執リマシテ、此ノ所謂精神〓揚ノ徵底ニ
努メタイ考デゴザイマス(拍手)
〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=26
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027・國務大臣(伯爵兒玉秀雄君)
○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君) 殷賑產業ノ
發達シタル諸團體ニ對シテ、一定以上ノ增
收ニ對シハ國デ捲上ゲタラドウカト云フ御
質問ニ對シマシテ御答致シマス、租稅ノ性
質ト致シテ、經濟上豐富ノ地域カラ多額ノ
收入ヲ得ベキ所得稅ニ對シマシテハ今囘
ノ改正法案ニ於キマシテ附加稅ヲ徵收セザ
ルコトニ取極メテ居ルノデアリマス、隨テ殷賑產
業ノ多イ地方ニ對シマシテモ、不當ニ財源ガ集
中スルコトノナイヤウナ建前ニナツテ居リ
マス、又地方財政上ノ關係カラ見マシテモ、
斯ル富裕ナル團體ニ於キマシテハ、各種ノ施設
ヲ要スルコトガ多ク、是ガ爲ニ相當ノ經費ノ
增大ヲ見ルコトデアリマスカラ、財政上收
支ノ關係カラ見マシテモ、此ノ改正ヲ適
當ト思ヒマスルノデ、隨テ更ニ新ニ是等ノ
地方團體ヨリ增加收入ヲ捲上ゲルト云フヤ
ウナ必要ハナイト考へテ居リマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=27
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028・議長(小山松壽君)
○議長(小山松壽君) 是ニテ質疑ハ終了致
シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=28
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029・服部崎市君
○服部崎市君 日程第一乃至第三十一ノ各
案ヲ一括シテ議長指名四十五名ノ委員ニ付
託サレンコトヲ望ミマス
議長(小山松義君)服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=29
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030・議長(小山松壽君)
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、是ニテ議
事日程ハ議了致シマシタ、次會ノ議事日程
ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ是ニテ
散會致シマス
午後五時三十一分散會
衆議院議事速記錄第九號中正誤
頁段行誤正
一一六欄外關シ關スル
一二二四七·第二十條第二十一條
一三三四一七經濟費經費
一三五三一二五額多額ノ
一三五三一八阪引所稅中取陬引所稅中取
引所引稅
一五六五還付稅、分與金還付稅分與金発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007513242X01119400210&spkNum=30
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