1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和十六年二月二十六日（水曜日）午後一時四十五分開會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=0
-
001・八條隆正
○委員長(子爵八條隆正君) 是ヨリ開會致
シマス、質疑ハ前囘ニ於キマシテ大體終了
シタモノト認メマス、御異議ガナケレバ是
ヨリ討論ニ移リタイト存ジマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=1
-
002・八條隆正
○委員長(子爵八條隆正君) ソレデハ討論
ニ移リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=2
-
003・米津政賢
○子爵米津政賢君 農林省ノ法案モ幾ラモ
澤山出タノデゴザイマスケレドモ、大臣ガ
御出席ニナッタ機會ガ全然ナカッタモノデス
カラ、此ノ討論ノ機會ニ、或ハ重複シテ御
聽苦シイカトモ思ヒマスケレドモ所見ヲ申
上ゲタイト思ヒマス、大體私ハ本案ニ對シ
テ非常ナ失望ヲ感ジナガラ、又非常ナ期待
ヲ有ッテ贊成申上ゲル者デゴザイマス、前ノ
委員會ノ時ニ質問ノ仕方ガ甚ダ不用意デア
リマシテ、一息ニ申上ゲテシマッタモノデス
カラ、誠ニ意見ヲ開陳シタヤウニナッテ、果
シテ政府委員、次官カラ意見デアルヤウニ御
取ラレシタノデゴザイマスケレドモ、結局
ハ此ノ蠶絲業統制ヲ行フニ付テノ自分ノ意
見ヲ以テ政府ノ御意見ヲ叩イテ見タヤウナ
積リダッタノデゴザイマス、話ガ或ハ重複ス
ル點ハ御許シ願ヒタイノデアリマスガ、日
本ノ農業ノ非常ナ發展ニハ地力ト農民ノ勤
勞、此ノ二ツニ賴ル外ハナイト思ッテ居リマ
ス、ダカラシテ此ノ前ノ委員會ノ時ニモ日
本ノ國土ノ多角味ト云フコトヲ申上ゲタ通
リ、實ニ世界ニ得難イ玉ノヤウナ國土デア
ルト思ッテ居リマス、ソレカラ又米ノ生ヒ立
ニ付テモ申上ゲマシタガ、實ニ世界ニ類ノ
ナイ惟神ノ食物デゴザイマス、農業ノ上カ
ラ言ヘバモウ當局ノ方ハ御承知ノ通リ、我
ガ國ノ溫度ト、ソレカラ濕氣ト土壤ノ性質ガ
非常ニ良イノト、水利ニ惠マレテ居リマス關
係カラ、有機質ノ肥料ト云フモノガ非常ニ能
ク腐熟發酵シテ、日本ノ土地ハ永遠ニ若ク、
老ヲ知ラナイ國土デアルト云フコトニ考ヘ
テ居リマス、ソレダケニ學者ノ爲ダカ、或
ハ肥料會社ノ爲ダカ、藥物農業ガ行ハレマ
シテ、大衆ハ金肥ト云フモノガナカッタナラ
バ、農業ハ出來ナイモノノヤウニ〓ヘラレ
テ居リマス、又サウ思ヒ込ンデシマッテ居ル
ノデアリマス、農林省ニ於テハ幾億萬圓ノ
國費ヲ投ジテ肥料ノ原料ヲ外國カラ輸入シ
テ金肥ヲ造成スル、金肥ヲ配給スルト、斯
ウ云フコトガ農林省切ッテノ大半ノ問題ニナッ
テ居リマス、米ノ方デモ亦サウ云フ藥ガナ
ケレバ穫レナイト云フヤウナ米ニサレテシ
マッテ居リマス、丁度今ノ現代人ガ體力モ精
力モ非常ニ衰弱シテ、醫藥ト云フモノカラ
離レタナラバ人間ノ生活ト云フモノガ出
來ナイヤウニ考ヘラレテ居ル、何カシラ絕
エズ小サナ修繕ヲ肉體ニ加ヘテ居ルト云フ
ノガ、今ノ人ノ健康狀態デゴザイマス、デ我々
ノ民族ノ壽命ト云フモノモ、壽命ト云フモノ
モ、壽命ガ延ビタンデハナクテ、唯長生キス
ル人間ガ殖エテシマヒマシタ、又病弱デ育
チ得ナイ人間ガ育ッテ來ル、自然陶汰ト云フ
モノハ全ク世ノ中ニ行ハレナイモノニナッテ
シマッテ居ル、デ色々ナ〓育ヤ「スポーツ」
ヤ、サウ云フモノヲ奬勵スルニ拘ラズ、人間
ノ體力トカ、精神力ト云フモノハ何ニモ向上
ハ見ラレナイ、國土ノ體力モ低下スルガ、
米ノ體力モ低下スル、退化スル一方デゴザイ
マシテ、土地ハ重クナッテシマフシ、又土地ノ
動脈ハ硬化シテシマフ、此ノ土地ノ身體ハ冷エ
テシマッタリ、暑過ギタリ、何ノ潤ヒモナイ
デ、絕エズ農業ト云ヘバ冷害、早害、蟲害
ノヤウニ脅カサレテ居ナケレバナラナイ有
樣デゴザイマスカラ、年々技術ニ依ッテ收穫
增進ト云フコトハアルケレドモ、軈テ本當
ノ體力ノ衰ヘト云フモノガ打チ勝ッテ來タ
ナラバ、テンデ賴リニナラナイモノニナッテ
シマフ、消費ノ方面ニ於キマシテモ、米程
貴重ナ、何ニ代ヘルコトモ出來ナイ價値ノ
高イ食物ハナイト思ッテ居リマス、處ガ其ノ
食物ノ米ト云フモノト、ソレヲ作ル農民ト
云フモノモ食物トシテモ、人間トシテモ餘
程低ク評價サレテ居ルノデゴザイマス、然
ルニ本當ノ米ノ生カシ方ヲシテ、玄米ト云
フモノト較ベマシタナラバ、マア其ノ玄米
ダケデ以テ、人間ノ榮養分ト云フモノハ十
分足リテ居ッテ、副食物ト云フモノハ殆ド要
ラナイ位ノモノデアル、麥ヤ「パン」等トハ
全ク比較ノ出來ナイ食物デゴザイマス、籾
殼ヲ付ケテ置キマシタナラバ、如何ナル長
年月ノ貯藏ニモ堪ヘル立派ナ包裝デアルノ
ニ、今日ノ米ノ消費ノ方法ト云フト肝腎ナ
養分ハ皆摺リ取ッテシマヒマシテ、サウシテ
脂肪トカ蛋白質ト云フモノハ家畜等ニ皆喰
ハシテシマッテ居ル、人間ニ大事ナ養分ハ摺
リ減ラサレテ家畜ニ皆廻シテ居ル、近年頻
リニ使ハレル籾「ローラー」ト云フノハ沙汰
ノ限リノ製造法ダト思ッテ居リマス、多分深
川ノ米穀倉庫アタリノ米ト云フモノハ腐ッ
テ居リハセヌカト思フ位デゴザイマス、人
間ノ食糧ヲ作ルノカ、家畜ノ食糧ヲ作ルノ
カト云フノガ始終問題ニナルケレドモ、モ
ウ出來マシタ米カラ大事ナ所ハ摺リ取ッテ
家畜等ニ喰ハシテ居ルヤウナ有樣テアリマ
ス、實ハ大臣ニハ御出席ゴザイマセヌデシ
タケレドモ、前囘ノ御質問ノ時ニ「ダレーL
等ヲ引用シタノハ、自分デモ實ハキザナ話
ダト思ッテ居ルノテアリマスケレドモ、民族
ノ血ト土トヲ題目トシテ考ヘマシテ、ソレ
ヲ繰返シタイ爲ニ、唯引張リ出シテ見タノ
テゴザイマス、處ガ民族ノ血ト土トドウ云
フ關係ガアルノカ、人間ノ「ブルート」ト
「ボーデン」ト云フモノハドウ云フ關係ガア
ルモノカト云フコトハ、實ハ「ダレー」等引
張リ出サナイデモ、實ハ神代カラ私共〓へ
ラレテ居ルノデアリマス、伊勢ニ內宮ガア
リ、外宮ガアッテ、豐受大神ガ內宮ト同格ニ
齋キ祭ラレテ居リマス、假ニ之ヲ宗〓ト云
フ名前ヲ與ヘラレマスルナラバ、此ノ立派
ナ宗〓ト云フモノハ、外ニ何處ノ國ニアル
ダラウカ、食物ニ付テハ朝野ニ色々ノ祭事ガ
アル、又祭日モアル、天皇自ラ田植ヲ遊
バシマスシ、皇后ハ自ラ絹ヲ紡イデ範ヲ示
シテオイデニナリマス、出來秋、收穫ハ、農
林大臣ハ、陛下ガ假ニ行幸ニナッテ居ルヤ
ウナ場合デモ、行幸先ニ迄伺ッテ、言上スル
ヤウナ有樣ニナッテ居ルノハ、全ク單ナル義
理デハナイト思ッテ居リマス、全ク血ト土ノ
國其ノモノガ我々ノ古來ノ國柄デアルト
思ヒマス、ダカラ「ダレー」モ是ハ貴國ノ惟
神ノ道ダト云ッテ居ルデハゴザイマセヌカ、
向フガ日本ノ惟神ノ道ヲ傳ヘテ思想トシテ、
ソレヲ血ト土ト云フ風ニ言ッテ居ルヤウナ
譯デアル、米ト一〓ニ神カラ授ケラレタ惟
神ノ衣料ガ蠶デアル、デ私ハ「ダレー」ナル
モノヲ引用シタ爲ニ、ソレハ〓物ニ付テノ議
論デアリ、衣料ハ格別ナモノダト云フヤウ
ニ御答辯ヲ受ケタノデゴザイマスケレドモ、
色々衣〓住一切ヲ通ジテ理ハ一貫シテ居
ル、國策トシテハ同ジ方法デ行ハレナケレ
バナラナイト思ッテ居リマスガ、今米ノコト
ニ付テ申上ゲタ通リナ話デ、絹ト云フト米
ヨリ一層落魄シタ姿ノヤウニ我々ニハ見エ
ル、一般ノ大衆ノ生活トハ全ク沒交渉ニ
ナッテシマッテ外貨一途ノ目的ニ發達シタト
云フコトハ、ドウ考ヘテモ絹本來ノ使命デ
アルトハ思ヒマセヌ、絹ガ自覺シテ本當ノ姿
ニ立還ル時ガ必ズアラウト思ヒマスガ、ソ
レヨリモ農學者ヤ農業技術者ガ國體認識、
國土ノ認識、米ノ認識、米價ニ對スル認識、
米ノ生產ニ對スル認識、米ノ消費ニ對スル
認識、ソレヲ皆見直シテ掛カラナケレバナ
ラナイト思ヒマスガ養蠶モ全ク其ノ通リダ
ト思ヒマス、私共ハ養蠶ヲ萎縮退却サセヨ
ウトハ思ッテ居ナイデ、近ク省內ニ畜產機構
ヲ改革サレマシタト同ジヤウニ、ドウ云フ
形態ヲ採ルニシテモ、養蠶其ノモノハ益〓革新
シテ行カナケレバナラナイカト思ッテ居リマ
ス、國ノ新體制ト共ニ斯ウ云フ〓業ノ改革
ト云フコトハ、農業ノ大變革デゴザイマスカ
ラ、前途ハ非常ニ遼遠デアリ、併シ其ノ氣持
ダケハ御同意ヲ得タイカト思ヒマシタケレド
モ、サウ云フ風ニ御答辯ハ受ケナカッタノデ
ゴザイマス、此ノ法案ハ全國大半ノ蠶業ラ統制
スル劃期的ノ變革デアッテ、現在ノ事情トシテ
ハ最モ喫緊ノ處置ダラウトハ思ヒマスガ、併
シ之ヲ貫イテ居ル精神ニ至ッテハ古イ殼カラ
一步モ出テ來ナイヤウニ感ズル、ソレデ果
シテ宜イノデゴザイマセウカ、國用々々ト
言ハレルケレドモ、結局ハ現在ノ絹ノ狀態
ニ卽シテノ國用論デアリマシテ、丁度國ノ
政治ニ於テモ體制ガ新タデアルケレドモ、
ソレヲ語ル聲ハ數多クアルケレドモ、人ノ
心持ハ少シモ改マッテ居ナイノト同ジヤウ
ナ氣ガスルノデゴザイマス、併シ此ノ法案
モ蠶業界ニ取ッテハ進步ノ段階、其ノ一步デ
アラウカト思フカラ、先ヅ斯ウ云フ計畫ヲ
以テ旅ヲスルノモ宜カラウト思フノデ、ゴザ
イマス、丁度私共ハ子供達ノ心構ヘハ物足
ラヌケレドモ、ソレヲ思ヒヤリナガラ遠イ
首途ヲ見送ルヤウナ心持デ、現在不滿ハア
ルケレドモ、將來ノ良キ結果ニナリマスヤ
ウニト云フ期待ノ下ニ本案ニ贊成申上ゲタ
イト思フノデゴザイマス、大變長クナリマ
シタケレドモ、大臣モ御出席ノコトダカラ
自分ノ考ヘタコトヲ言ヒタイト思ッテ贊成
ノ意見ヲ述ベマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=3
-
004・八條隆正
○委員長(子爵八條隆正君) 他ニ討論ニ付
テ御發言ハゴザイマセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=4
-
005・瀧川儀作
○瀧川儀作君 原案擧ゲテ贊成致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=5
-
006・今井五介
○今井五介君 私採決ニ先ダッテ少シク述
ベサシテ戴キタイコトガゴザイマス、私チ
ヨット風邪氣デアリ、又老眼デアルガ爲ニ、
私ノ申上ゲルコトガ御判斷ニ苦シムカモ知
レマセヌガ、ドウゾ御許シテ戴キタイト思
ヒマス、今囘御提出ニナリマシタ蠶絲業統
制法案ハ時局柄最モ適切ナル案ト存ジ、深
ク敬意ヲ表スル次第デアリマス、元來斯カ
ル蠶絲業ノ統制問題ハ蠶絲業者トシテハ、十
數年來ノ要望デアリマシタガ、此ノ度漸ク
玆ニ實現ノ機會ニ到達致シマシタコトハ、
單リ業者ノミナラズ國家ノ爲大イニ意ヲ强
ウスル次第デアリマス、從ッテ統制ノ機運到
來シタル以上ハ、些カモ躊躇送巡スル所ナ
〃、斷乎トシテ徹底的統制ヲ行ヒ、再ビ將
來ニ禍根ヲ貽スコトナキヤウ期セラレナケ
レバナラナイト思ヒマス、本案ニ對スル農
林大臣ノ御言葉、將又貴衆兩院ノ委員會ニ
於ケル質問應答ヲ伺ヒマスルト稍〓了解解得得
ラルルモ、遺憾ノ點少カラズト思ヒマス、
最モ其ノ成果ノ如何ト云フコトハ要スルニ
法ノ運用ニ在リト深ク信ジテ疑ヒマセヌ、
然ルニ輸出生絲ヲ統制スレバ、外貨獲得ノ
上ニ品質ノ低下、需要ノ減退ヲ招來スルノ
虞アルトカ云フ御說明ノヤウデアリマスル
ガ、旣往ニ於ケル經驗ニ徵スレバ、現在ノ
如ク輸出生絲ヲ自由取引ニシテ置クナラバ、
絲價ノ變動ハ相變ラズ甚ダシク、消費者ハ
之ガ爲ニ非常ナル困難ヲ來シ、益〓需要ハ減
退スルノデアルト存ジマス、旣ニ今日迄各
產業方面ニ於ケル各會社ハ統制ヲ行ハレテ
居リマスルガ、何レモ滿足ノ成績ヲ收メナ
イト伺ッテ居リマスルガ、是ハ要スルニ生產
ヨリ消費迄一貫シタル統制ガ行ハレテ居ナ
イカラデアルト思ハルルノデアリマス、從
來製絲業者ハ農產物ヲ加エスル所以デ、製
絲業者ハ農家ノ延長デアリト看做サレ、工業
トシテノ存在ヲ輕視セラレテ居リマシタ、
從ッテ事業ノ經營モ、國ノ政策モ總テ其ノ御
方針ガ商業方面ニ重點ヲ置カレタガ爲ニ、
自然其ノ事業ガ投機的トナリ、延イテハ是
ガ農村ニ迄波及シテ、蠶絲業ハ取モ直サズ
投機的事業ナリト一般ヨリ認メラルヽニ至
タ次第デアリマス、是レ卽チ蠶絲業ヲ不堅
實ナラシメタ最大原因デアルト思フノデア
リマス、幸ヒ玆ニ蠶絲業ノ一大革新ヲ圖ラ
ムトスル以上ハ此ノ際此ノ病根ヲ一掃シテ、
蠶絲業ヲ最モ堅實ナル基礎ノ上ニ立タシム
ルコトガ緊密デアルト確信スル者デアリマス、
尤モ繭ハ一定基準ヲ以テ總テ統制會社ニ買
上ゲラレル譯デアルカラ、輸出生絲ノ價格ノ
變動ハ直接養蠶家ニハ影響セザルヤノ筋書
デアルガ、輸出生絲價格ノ變動ハ自然國用生
絲ノ價格ニ影響シ、更ニ繭價ニ及スコトハ
必然ノ結果トナリマス、是レ蠶絲業全般ノ
基礎ヲ動搖セシムルニ至ルモノデアル、是ニ
於テ蠶絲業ノ根本ヲ成ス所ノ生產部門、卽
チ蠶種、養蠶、製絲ノ各業者ハ一團トナッテ
蠶絲業ノ徹底セル一元統制ヲ熱望シテ居ル
所以デアッテ、販賣部門ノ一部ヲ自由トスル
ガ如キ統制ハ統制ノ本旨ニ副ハザルノミナ
ラズ、將來ニ禍根ヲ貽ス虞アリト存ジマス、
尙更ニ私ハ生產部門ノ三團體ガ是迄各方面
ニ向ッテ陳情シタ其ノ要點ヲ茲ニ述ブルコ
トヲ御許シヲ戴キタイト思ヒマス、玆ニ改
メテ申ス迄モナク三團體ト云フノハ百六十
四萬七千餘戶ヲ有スル全國養蠶業組合聯合
會千八百有餘工場ヲ有スル全國製絲業組
合聯合會、二千七百五十餘戶ヲ有スル全國
蠶絲業組合聯合會、此ノ團體ガ熱望シテ陳
情ヲ致シタル其ノ理由ノ一部ヲ申上ゲテ御
聽ヲ願ヒタイ、輸出生絲ヲ埒外ニ放置スル
トキハ統制ヲ亂スコトト云フコトガ第一ノ
理由デアリマス、之ヲ一カラ八項ニ分ッテ申
上ゲマス、一ハ統制ニ破綻ヲ來スコト、現
時ノ物資統制ニ於テ重大ナル缺陷ヲ認メラ
ルヽモノハ一部的統制、跛行的ノ統制、不
均衡ナル統制デアリマス、蠶絲業ノ統制ニ
際シ、最モ要部ヲ占ムル輸出生絲ヲ埒外ニ
置クコトデアラバ蠶絲業ノ統制ハ破綻ヲ來
スニ至ルコト免レヌト存ジマス、二トシテ
ハ蠶絲業ヨリ投機性ヲ排除シ得ザルコト、
養蠶製絲共ニ危險ナル產業、投機的產業ト
稱ヘラレ、興亡常ナク其ノ安定ヲ期シ得
ザリシハ業界ノ爲ノミナラズ、國民經濟
ノ上ヨリ見ルモ最モ遺憾トスル所ナリ、今
囘蠶絲業ニ對シ强力ナル統制ヲ加ヘムトシ
ツヽアルニモ拘ラズ、輸出生絲ヲ埒外ニ置
キ、舊來ノ如ク〓算市場ニ於ケル取引ヲ放
任シ依然トシテ投機思惑ノ具ニ供セントス
ルハ、業界ノ積年ノ惱ミヲ打破スルノ徹底
ヲ缺クモノト存ジマス、三ト致シマシテハ、
絲價ノ安定ヲ期シ難キコト、絲價ノ安定ヲ
確保スルノ要アルコトハ萬人ノ等シク認ム
ル所デアリマス、政府ハ制高制低ノ値幅ヲ
縮ムルコトニ依リ、絲價ノ安定ヲ確保スベ
シト唱フルモ、斯カルコトハ之ヲ譬ヘテ見
ルト云フト耳ヲ掩ウテ鈴ヲ盜ムノ類ト存ジ
やく 、輸出生絲ハ今日二三十萬俵ノ範圍ニ
限定セラレルヤウデアリマス、斯ク少量ニ
限定サルヽニ至ラバ、多イ時ハ七八十萬俵
ガ〓算取引ノ目的トセラレタリシニ比シ、
一層投機思惑ハ容易ニ行ハレ、價格ノ安定
ハ期シ得ラレザルモノト存ジマス、四ト致
シマシテ業者ニ甚シキ不出來ヲ招來スルコ
ト、國用生絲ノ生產者ハ、公定價格ニテ統
制會社ニ賣却スルノ外、他ニ處分ノ途ナキ
モノニ對シ、輸出生絲ヲ生產スル製絲家ハ、
公定價格ニテ統制會社ニ賣却スルコトガ出
來定期ニ賣リ繋グコトモ出來、輸出業者
ニ賣却スルコトモ差支ナク、直輸ヲモ爲シ
得ルトノ御說明ナリ、是ガ等シク製絲業者
ナルニ國用向製絲トシテ指定サレタモノト、
輸出向製絲トシテ指定サレタルモノトノ間、
偏重ノ嫌ヒアリトス、要スルニ斯カルコト
ハ大製絲家保護ト誤解サレ、小製絲家壓迫
ノ議リヲ免カレザルモノト存ジマス、五ト
致シマシテ需用地ニ於テ一層價格ノ動搖ニ來
スニ至ルベキコト、米國ニ對スル輸出ヲ維持
增進セムニハ、絲價ノ安定ヲ確保スルノ外
道ナシト存ジマス、然ルニ是迄通リ自由放
任輸出サルヽ場合、商品ハ自由ナルガ故ニ、
中間業者ハ斯カル間隙ヲ惡用シ市場ヲ攪亂
スルヲ以テ、絲價ノ安定ハ愚カ、需用ノ增進
モ、現狀維持モ覺束ナシト存ジマス、六ト
致シマシテ支那生絲トノ調整ヲ不可能ナラ
シムルコト、我ガ國蠶絲業ノ最モ大ナル惱
ミハ、支那生絲トノ競爭ニアリト存ジマス、
カルガ故ニ兩國生絲ノ輸出ニ關シテハ强力
ナル調整ヲ行フコトハ兩國蠶絲業ノ爲ニ最
モ緊要ナルコトト存ジマス、而シテ之ガ調
整ハ、兩國蠶絲ノ輸出ガ一元的ニ統制サレ
テ初メテ可能デアルト存ジマス、サレバコ
ソ我ガ國ニ於テハ支那ニ對シ、輸出生絲一
元的統制ヲ强要シテ居ラルヽノデアリマス、
然ルニ我ガ國ノ生絲統制ヲ自由放任シテ、支
那生絲ニ對シ一元的統制ヲ强要スルハ、甚ダ
シキ無理解ノコトト存ジマス、七ト致シマシ
テ生絲ノ需要變遷ニ應ジ、强力性ヲ缺クニ至
ルベキコト、生絲需要ノ前途ハ、今日ニ於テ豫
想シ得ザルモ、輸出ニ關シ多大ノ不安ヲ感ズ
ルノ今日、國用ト輸出トヲ併セ統制會社ニ於
テ統制スル時、初メテ輸出ノ增進ニモ應ズル
コトヲ得、又減退ニモ對處シ得テ、彈力性ア
ル措置ヲ講ジ得ラルヽモノト存ジマス、殊ニ
新販路開拓ノ如キハ、一元的輸出統制機構
ノ整備ニ依リ其ノ目的ヲ達シ得ラルヽモノ
ト存ゼラレマス、八ト致シマシテ中樞機關
ノ確立ヲ要スルコト、蠶絲業ノ難局ヲ突破
シ、將來ノ發展ヲ期セムトセバ、蠶絲業ノ
中樞機關ヲ確立シ、有ラユル事態ニ對處シ
テ機宜ノ處置ヲ講ジ得ルノ體制ヲ整フルノ
要アリト存ジマス、然ルニ折角統制會社ヲ
設立セムトスルニモ拘ラズ、輸出生絲ヲ埒
外ニ置クニ於テハ、中樞機關トシテノ機能
ニ缺クル所アラシメルノデ、蠶絲業將來ノ
爲甚ダ禍根ヲ貽スモノト存ゼラレマス、以
上ノ要點ハ、生產者團體ハ一致シテ輸出生
絲ヲ國外生絲ト同樣ニ一元的ノ保護ヲ爲サ
ムトスルコトヲ切望シテ已マナイト云フ次
第デアリマス、以上ヲ以テ私ハ之ヲ速記ニ
留メテ戴ケバ滿足スル次第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=6
-
007・瀧川儀作
○瀧川儀作君 私ハ今日迄色々參考ニナル
御意見ヲ伺ヒマシタガ、一應御贊成ヲ申上
ゲルニ付テ重ネテ玆ニ申上ゲテ置キタイト
思ヒマス、私ハ〓絲業デモナク、製絲業者
デモナク、又輸出業者デモアリマセヌガ、
生絲ノ問題ガヤカマシクナリマシタニ付キ
マシテ、關西蠶絲絹業協會ト云フモノヲ設
ケテ、私ハ會長トナッテ此ノ事業ノ〓究ヲヤ
リマシタ爲ニ、聊カ關心ヲ有ッテ居ルノデア
リマス、過日來衆議院ニ於ケル討論ヲ見マ
シテモ、當業者ノ要求ハ殆ド蠶絲業ガ今日
ノ如ク、政府ガ犠牲ヲ拂ッテ國策會社ヲ拵ヘ
ヨウト云フニ至ッタ責任ヲ政府ニノミ嫁シ
テ居ルヤウニ思フノデアリマス、私ハ長ラ
ク大臣閣下ト御顏ハ存ジテ居リマスガ、私
交ハアリマセヌ、敢テ農林當局ニ媚ブル者
デハナイノデアリマス、眞ニ、多年······二
十年前後、商業會議所ノ會頭ヲヤリ、又十
年バカリ蠶絲絹業協會ノ會長ヲヤッテ居リ
マシタガ、此ノ長イ歷史ヲ持チ、此ノ立派
ナ事業デアッテ經驗アル御方モオイデニナ
ル、資產モ十分ニアル、又此ノ會社ハ貿易
業者ト言ハズ、製絲業者ト言ハズ、又養蠶
業者ト言ハズ、相當〓育ノアル立派ナ人間
ガ居リナガラ、白ラ其ノ事業ヲ完全ニ經營
スルコトヲ爲シ得ナカッタト云フコトハ、要
スル所私國家的觀念ガ乏シイカラデアッタ
ト思ヒマス、然ルニ之ヲ又政府ニ依ラレテ、
此ノ國策會社ニ向ッテ之ヲ營利事業デアル
カノ如キ觀念ヲ以テ彼等ガ入ッテ來ル、經營
スル時ニハ、此ノ大切ナル事業、生產事業
ヲスッカリ之ヲ臺ナシニシテシマフヤウナ
コトガアリハシナイカト思ヒマス爲ニ、質
問ノ結論ト致シマシテ、此ノ國策會社ハ營
利事業デナイ、眞ノ國策會社トシテ經營願
ヒタイ、神ノ如キ人格者デナケレバ此ノ會
社ノ社長トナッテ經營スルコトハ出來ヌデ
アラウ、申ス迄モナク農ハ國家ノ大本ト稱
シテ米ト生絲、米デ食ッテ生絲デ著テ、更ニ
其ノ餘剩デ以テ小遣ヒヲ取ッテ來タガ、斯ク
ノ如ク發達シテ來タノハ輸出業ガアッタ爲
ニ發達シテ來タト謂ッテモ宜イカモ知レマ
セヌ、近來ノ話ハ統計ニ於キマシテ
モ、其ノ七八割迄モ輸出デアリマスカラ、
政府ハ玆ニ考慮サレテ輸出ヲ濫リニシナイ、
輸出事業ヲ衰亡ニ導クヤウナコトガアッテハ
ナラヌト云フコトヲ十分ニ考慮サレテ、此
ノ國策會社ノ方針ノ中ニ織リ込マレテ居ル
コトニ付キマシテ、私ハ非常ニ敬意ヲ表シ
テ居ルノデアリマス、唯之ヲ當業者ガ輸出
ヲ紊リマスル、阻害スルト云フヤウナ風ニ曲
解シテ、又投機事業、生絲ニ依ル投機ト云フ
ケレドモ、取引所ナルモノハ輸出貿易ニ取ッ
テ必要ナ機關デアリマス、ソレヲ徒ラニ自
ラ其ノ經營ヲ誤ッタコトヲ棚ニ揚ゲテ、投機
業者ガアル爲ニ此ノ事業ガ〓亡ニ瀕シタト
云フヤウナ偏シタ議論ヲスルニ至ッテハ、實
ニ言語道斷ト考ヘルノデアリマス、此ノ點
ニ付キマシテハ蛇足デアリマスケレドモ、
前會ニ有吉委員カラ御話ノアッタコトデア
リ、幸ニモ農林當局、大臣、次官、局長ニ
至ル迄、多年ノ御經驗、農林行政ニ御經驗
ヲ有シ、殊ニ此ノ法案ヲ見マスルト近來米、
生絲ニ向ッテ全力ヲ御注ギニナッテ居ルノデ
アリマスカラ、私ハ農林當局ニ信賴シテ、
此ノ法案ヲモウ完全ナモノトシテ運用サレ
ムコトヲ希望シテ居ルノデアリマス、Lim.
所感ヲ申上ゲテ本案ニ贊成致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=7
-
008・八條隆正
○委員長(子爵八條隆正君) 他ニ御發言モ
ナケレバ採決ヲ致シマス、念ノ爲申上ゲマ
スガ、貴族院ニ於テノ原案トナッテ居リマス
ルモノハ、衆議院ノ修正ヲ加ヘラレタルモ
ノガ只今ノ場合ノ原案デアリマスカラ、左
樣御承知ヲ願ヒマス、原案全部ヲ問題ニ供
シマス、蠶絲業統制法案全部原案通リデ御
異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=8
-
009・八條隆正
○委員長(子爵八條隆正君) 御異議ナイト
認メマス、仍テ蠶絲業統制法案ハ當委員會
ニ於テハ可決セラレマシタ、是ニテ散會致
シマス
午後二時二十五分散會
出席者左ノ如シ
委員長子爵八條隆正君
副委員長男爵稻田昌植君
委員
公爵鷹司信輔君
侯爵四條隆德君
伯爵酒井忠正君
子爵米津政賢君
子爵柳澤光治君
男爵三須精一君
今井五介君
瀧川儀作君
野村德七君
大澤德太郞君
片倉兼太郞君
國務大臣
農林大臣石黑忠篤君
政府委員
農林次官井野碩哉君
農林省蠶絲局長吉田〓二君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007601219X00419410226&spkNum=9
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。