1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十六年一月二十七日(月曜日)午前十時六分開議
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議事日程 第四號
昭和十六年一月二十七日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第二日)
第二 民法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 非訟事件手續法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 戸籍法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 時艱克服に關する決議案(公爵大山柏君外六名發議) 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=0
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001・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報〓ヲ致サセマ
ス
〔高山書記官朗讀〕
去ル二十二日委員會ニ於テ當選シタル正副
委員長ノ氏名左ノ如シ
資格審査委員會
委員長伯爵溝口直亮君
副委員長男爵松岡均平君
懲罰委員會
委員長侯爵大久保利武君
副委員長男爵高木喜寛君
同日分科會ニ於テ當選シタル正副主査ノ氏
名左ノ如シ
請願委員會
第一分科
主査男爵中川良長君
副主査竹內可吉君
第二分科
主査子爵高木正得君
副主査男爵中御門經民君
第三分科
主査伯爵柳澤保承君
副主査男爵八代五郞造君
第四分科
主査平塚廣義君
副主査男爵神山嘉瑞君
決算委員會
第一分科
主査子爵土岐章君
副主査男爵明石元長君
第二分科
主査山川端夫君
副主査男爵山川建君
第五分科
主査男爵山中秀二郞君
副主査子爵安藤信昭君
同日委員長ヨリ決算委員第一分科擔當委員
橋本辰二郞君ヲ第五分科兼務委員ニ選定シ
タル旨ノ報〓書ヲ提出セリ
去ル二十三日內閣總理大臣ヨリ左ノ通第
七十六囘帝國議會政府委員仰付ラレタル旨
ノ通牒ヲ受領セリ
鐵道省所管事務政府委員
鐵道省需品局長堀木鎌三君
同日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
請願文書表(第一囘報〓)
去ル二十四日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
民法中改正法律案
非訟事件手續法中改正法律案
戶籍法中改正法律案
同日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
時艱克服ニ關スル決議案(公爵大山柏君
外六名發議)
一昨二十五日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
陸軍軍人軍屬違警罪處分例中改正法律案
海軍軍人軍屬違警罪處分例中改正法律案
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通第七十六囘帝
國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受
鐵道省工作局長德永晋作君
鐵道省電氣局長魚住朝治君
厚生省所管事務政府委員
保險院總務局長川村秀文君
保險院社會保險局長木村〓司君
保險院簡易保險局長前田穣君
軍事保護院援護局長曾我梶松君
軍事保護院業務局長櫻井安右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=1
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002・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、請暇ノ件ニ付御諮ヲ致シマ
ス、侯爵鍋島直映君、樺山資英君、孰レモ
病氣ニ付會期中、請暇ノ申出ガゴザイマシ
ク、許可ヲ致スコトニ御異議ハゴザイマセ
ヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=2
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003・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=3
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004・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 議事日程變更ニ
付御諮ヲ致シマス、此ノ際日程第五、時艱
克服ニ關スル決議案ヲ議題ト爲スコトニ御
異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=4
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005・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=5
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006・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程變更ニ付政
府ノ同意ヲ得マシタ、時艱克服ニ關スル決
議案、公爵大山柏君外六名發議、會議、發
議者ニ對シ其ノ趣旨御說明ノ發言ヲ御許シ
致シマス、一條公爵
〔左ノ案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ
タメ玆ニ載錄ス以下之ニ倣フ〕
時艱克服ニ關スル決議案
右提出候也
昭和十六年一月二十四日
發議者
公爵大山柏公爵一條實孝
伯爵酒井忠正男爵千秋季隆
內田重成塚本〓治
倉知鐵吉
贊成者
公爵桂廣太郞侯爵大隈信常
侯爵中御門經恭侯爵德川賴貞
侯爵四條隆德伯爵橋本實斐
子爵大久保立子爵谷儀
子爵高橋是賢子爵松平康春
松井茂芳澤謙吉
小原直河井彌八
出淵勝次岡喜七郞
柴田善三郞男爵前田勇
男爵黑田長和白根竹介
男爵矢吹省三男爵大森佳一
男爵柴山昌生男爵飯田精太郞
男爵中村謙一。男爵松平外與麿
中川望山岡萬之助
次田大三郞古島雄
小坂順造澁澤金藏
瀧川儀作野村德七
光永星郞江口定條
佐々木八十八岩田宙造
平沼亮三小野耕
大西虎之介
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
時艱克服ニ關スル決議
政府ハ東亞安定ニ關シ屢次賜レル勅語
ヲ遵奉シ内外ノ情勢ヲ洞察シ全力ヲ傾注
シテ帝國不動ノ國策ヲ遂行シ以テ上ハ
叡慮ヲ安ンジ奉リ下ハ國民ノ輿望ニ乖カ
ザラムコトヲ期スベシ
右決議ス
〔公爵一條實孝君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=6
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007・一條實孝
○公爵一條實孝君 只今上程セラレマシタ
ル時艱克服ニ關スル決議案ノ提案理由ヲ申
述ベタイト存ジマス、支那事變勃發以來第
五年ヲ迎ヘ、其ノ間歐洲戰亂ノ發生ヲ見ル
ニ至リ、世界ヲ擧ゲテ混亂益〓甚ダシク、今
ヤ我ガ國內外ノ情勢ハ、愈、、多事多難ヲ加フ
ルニ至リマシタ、畏クモ今期議會ノ開院式
ニ方リテ賜リマシタ御勅語中ニモ、「世局ハ
曠古ノ騷亂其ノ底止スル所ヲ知ラス」ト宣
ハセラレテ在ルノデゴザイマシテ、聖慮深
遠誠ニ恐懼措ク能ハザル次第デゴザイマ
ス、我々國民ハ、國ヲ擧ゲ全力ヲ傾倒シ
テ支那事變ヲ處理シ、東亞ノ新秩序ヲ建設
シテ之ガ安定ヲ確保シ、延イテハ世界平和
ヲ招來シ、人類福祉ヲ增進セムガ爲ニ、腐
心致シツヽアル次第デアリマスガ、此ノ事
タルヤ、屢〓賜リマシタル御勅語ノ中ニモ明
カナルガ如ク、旣ニ一貫シタル帝國ノ國策
トシテ微動ダモ致サヌ所デアリマス、然ル
ニ世界各國ノ中ニハ、固ヨリ我ガ帝國ノ眞
意ヲ了解シテ、我ガ國ガ東洋ニ於ケル指導
者的地位ニ立チ、東亞安定ノ推進力トナリ
ツヽアルコトヲ是認シテ居ル國ガアリマス
ルト同時ニ、尙帝國ノ眞意ヲ了解スルニ至ラ
ズ、所謂敵性行爲ヲ露呈致シマシテ、帝國
ノ使命達成上ニ多大ノ障碍ヲ與ヘツヽアル
國モアリマスルコトハ、眞ニ遺憾ニ堪ヘナ
イ次第デアリマス、政府ニ於カレマシテハ
我レニ好意ヲ持ツモノトハ彌〓提携ヲ緊密ニ
シテ事ニ當ルベキコトハ勿論デアリマスル
ガ、未ダ我ガ眞意ヲ了解セザルモノニ對シ
マシテモ、遽ニ之ヲ敵國ト看做スガ如キコ
トナク、省ミテ己レノ努力ノ足ラザル所ヲ
憂ヘ、進ンデ我レノ眞意ヲ了解セシムルヤ
ウ一段ノ努力ヲ拂ハレマシテ、能フ限リ外
交手段ヲ以テ此ノ多難ナル時局ヲ打開スル
ニ努メラレタイノデアリマス、而モ尙且不
幸ニシテ我ガ眞意ヲ解セズ、飽ク迄モ我ガ
國策ノ遂行ヲ阻害スルモノガアリマシタナ
ラバ、須ラク斷乎トシテ之ヲ排擊シナケレ
バナリマセヌ、由來、世界ニ於テ國ヲ成スモ
ノ數多クゴザイマスガ、何レモ自國ノ利益
ノ爲ニハ他國ノソレヲ顧ミル所無キヲ常ト
スルノデゴザイマス、眞ニ國際正義ヲ强調
スル帝國ノ意圖ヲ曲解スル所以モ、亦實ニ
此ニ在ルモノト考フルノデアリマス、加之、近時
洋ノ東西ヲ問ハズ、徒ニ聲ヲ大ニシテ恫喝
ヲ事トスルモノ、前後ノ思慮ナク輕擧妄動
スルモノガ增加致シタノデアリマス、此ノ
際、政府トシテハ毅然タル態度ヲ以テ事ニ臨
ミ、徒ニ眼前ノ事象ニ眩惑セラルヽコトナ
ク、光輝アル我ガ二千六百年ノ歷史、就中
明治維新以來ノ近代國家的躍進日本ノ發展
過程ニ鑑ミマシテ、能ク內外ノ情勢ヲ洞察
シ、政治力ヲ强化シテ國民ヲ率ヰ、諸般ノ
畫策施設ハ、悉ク之ヲ東亞安定ノ大理念ニ
歸一セシムルコトニ專念セラレタイノデア
リマス、幸ニ只今ハ帝國議會開會中デアリ
マス、貴族院ト致シマシテハ、憲法ノ條章
ニ循ヒ、政府ニ對シ質スベキハ質シ、述ブ
ベキハ述べ、全力ヲ擧ゲテ御協力申上グル考
デアリマスルカラ、政府ニ於カレマシテモ、
議會ヲ通ジテ國民ニ對シ、知ラスベキハ之
ヲ知ラシメテ其ノ嚮フ所ヲ統合シ、國民ヲ
シテ君國ノ爲眞ニ一身ヲ挺スルノ覺悟ヲ固
メシムルヤウ、從來トテモ十分御盡力ノアッ
タコトトハ存ジマスガ、此ノ際一層ノ御
努力アラムコトヲ切望致スノデゴザイマス、
斯クシテ國民精神ヲ〓揚シ國ヲ擧ゲテ熱火
ノ一團ト化セシメ、以テ國家總力ヲ十二分
ニ發揮スルコトガ出來マシタナラバ、此ノ
時艱ヲ克服シ、以テ上宸襟ヲ安ンジ奉リ、
下國民ノ輿望ニ副ハレルコトモ、亦難カラ
ザルコトト考フルノデアリマス、是ヨリ決
議案ヲ朗讀致シマス
時艱克服ニ關スル決議
政府ハ東亞安定ニ關シ屢次賜レル勅語
ヲ遵奉シ內外ノ情勢ヲ洞察シ全力ヲ傾注
シテ帝國不動ノ國策ヲ遂行シ以テ上ハ
叡慮ヲ安ンジ奉リ下ハ國民ノ輿望ニ乖カ
ザラムコトヲ期スベシ
右決議ス
何卒全會一致ヲ以テ御賛成アラムコトヲ希
望致シマス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=7
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008・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モナ
イト認メマスルカラ、是ヨリ採決ヲ致シマ
ス、本決議案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマ
ス
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=8
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009・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 全會一致ト認メ
そう、此ノ際、內閣總理大臣ヨリ發言ヲ求
メラレテ居リマス、近衞內閣總理大臣
(國務大臣公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=9
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010・近衞文麿
○國務大臣(公爵近衞文麿君) 只今可決セ
ラレマシタ決議ノ御趣旨ニ付キマシテ
ハ、政府ニ於キマシテモ、組閣以來特ニ意
ヲ用ヒテ來夕所デアリマス、今後一層全力
ヲ傾注致シマシテ、御趣旨ニ副フベク努メ
タイト存ジマス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=10
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011・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 此ノ際日程ヲ變
更シテ、第二、第三、第四ヲ一括シテ議題
ト爲スコトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=11
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012・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=12
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013・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第二、民法
中改正法律案、日程第三、非訟事件手續法
中改正法律案、日程第四、戶籍法中改正法
律案、政府提出、第一讀會、柳川司法大臣
民法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十六年一月二十四日
內閣總理大臣公爵近衞文麿
司法大臣柳川平助
民法中改正法律案
民法中左ノ通改正ス
第七百四十九條第三項中「若シ家族カ其
催告ニ應セサルトキハ戶主ハ之ヲ離籍ス
ルコトヲ得」ヲ「若シ家族カ正當ノ理由ナ
クシテ其催告ニ應セサルトキハ戶主ハ裁
判所ノ許可ヲ得テ之ヲ離籍スルコトヲ得」
三四八
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
非訟事件手續法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十六年一月二十四日
內閣總理大臣公爵近衞文麿
司法大臣柳川平助
非訟事件手續法中改正法律案
非訟事件手續法中左ノ通改正ス
目錄及第二編中「第六章隱居、廢家、子
ノ懲戒、家督相續人及ヒ親族會ニ關スル
事件」ヲ「第六章離籍、隱居、廢家、子
ノ懲戒、家督相續人及ヒ親族會ニ關スル
事件」コンスタ
第二編第六章中第九十條ノ前ニ左ノ一條
ヲ加フ
第八十九條ノ二離籍ノ許可ハ離籍ヲ爲
サントスル戶主ノ住所地ノ區裁判所ノ管
轄トス
裁判所ハ裁判ヲ爲ス前離籍セラレント
スル家族ヲ審訊スルコトヲ要ス
離籍ノ許可ヲ與ヘタル裁判ニ對シテハ
前項ノ家族ニ限リ卽時抗告ヲ爲スコト
ヲ得抗告ハ執行停止ノ效力ヲ有ス
第七十八條ノ規定ハ前項ノ抗告ニ之ヲ
準用ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
戶籍法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和十六年一月二十四日
內閣總理大臣公爵近衞文麿
司法大臣柳川平助
戶籍法中改正法律案
戶籍法中左ノ通改正ス
第十四條第四項ヲ第五項トシ同項中「原
本ト相違ナキ旨」ノ下ニ「及ヒ請求ニ因リ
除籍者ニ關スル記載ノ謄寫ヲ省略シタル
トキハ其旨」ヲ加ヘ同條第三項ノ次ニ左
ノ一項ヲ加フ
謄本ハ請求ニ困リ除籍者ニ關スル記載
ノ謄寫ヲ省略シテ之ヲ作ルコトヲ得
第十四條ノ二戶籍ノ謄本又ハ抄本ノ記
載事項ニ變更ナキコトノ證明ヲ受ケン
トスル者ハ手數料ヲ納付シテ之ヲ請求
スルコトヲ得
前條第二項、第三項及ヒ第五項ノ規定
ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十四條ノ三戶籍ニ記載シタル事項ニ
付キ證明ヲ受ケントスル者ハ手數料ヲ
納付シテ之ヲ請求スルコトヲ得
第十四條第二項、第三項及ヒ第五項ノ規
定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣柳川平助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=13
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014・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 只今議題ニナリ
マシタ民法中改正法律案及非訟事件手續法
中改正法律案ニ付キマシテ、提案ノ趣旨ヲ
御說明申上ゲマス、現行民法ニ於キマシテ
ハ家族ハ戶主ノ意ニ反シテ其ノ居所ヲ定
ムルコトヲ得ズ、若シ家族ガ戶主ノ指定シ
タル居所ニ在ラザルト」キハ、戶主ハ之ニ對
シ相當ノ期間ヲ定メテ、自己ノ指定シタル
場所ニ居所ヲ移スベキ旨ヲ催告シ、家族ガ
之ニ應ゼザルトキハ、之ヲ離籍シ、其ノ家
ヨリ除クコトガ出來ルコトニ相成ッテ居
ルノデアリマス、此ノ離籍ハ極メテ重大
ナル制裁デアリマシテ、一家統率ノ必要
上、已ムヲ得ザル場合ニ於テノミ之ヲ行
フベキコトハ勿論デアリマスガ、實際ニ
於キマシテハ、是ガ不當ノ目的ヲ以テ濫
用セラレルコトガ往々アルノデアリマシ
テ、爲ニ忌ムベキ紛爭ヲ惹起スルガ如キ事
例ガ近時特ニ著シク增加政シマシタコトハ、
甚ダ遺憾ニ存ズル次第デアリマス、此ノ民法
中改正法律案ハ、斯クノ如キ弊害ヲ防止ス
ル爲、家族ガ正當ノ理由ナクシテ戶主ノ居所
移轉ノ催告ニ應ゼザル場合ニ、戶主ハ裁判
所ノ許可ヲ得テ之ヲ離籍スルヲ得ルモノト
改メ、卽チ果シテ右正當ノ理由アリヤ否ヤ
一付先ヅ裁判所ノ適正ナル判斷ヲ受ケシ
メムトスルモノデアリマス、次ニ非訟事件
手續法中改正法律案ハ、右民法ノ改正ニ伴
ヒマシテ、右離籍ノ許可ニ關スル手續規定ヲ
同法中ニ設ケムトスルモノデアリマス、何
卒十分御審議ノ上、本案ニ對シ御協賛ヲ與
ヘラレムコトヲ切望致ス次第デアリマス、
次ニ戶籍法中改正法律案ニ付キマシテ、其ノ
提案ノ趣旨ヲ御說明申上ゲマス、今次事變勃
發以來、戶籍事務ハ著シク繁忙ノ度ヲ加へ、
特ニ諸般ノ身分證明ノ用ニ供スル爲戶籍ノ
謄本、又ハ抄本ノ交付ヲ申請スル件數ガ、
年每ニ激增致シマシテ、全國各地ノ戶籍吏
員ハ其ノ處理ニ忙殺セラレ、延イテ之ガ處
理ニ迅速ヲ缺キマシテ、一般國民ニ迷惑ヲ
及スガ如キコトモ尠カラザルハ、甚ダ遺憾
ニ存ズル次第デアリマス、本案ハ此ノ實情
ニ鑑ミマシテ、戶籍法ニ改正ヲ加へ、戶籍
ノ謄本ハ、請求ニ依リ除籍者ニ關スル記載
ノ謄寫ヲ省略シテ之ヲ作ルコトヲ得ルモノ
トシ、又既ニ有スル戶籍ノ謄本若シクハ抄
本ノ記載事項ニ其ノ後變更ナキコトノ證明
ラ受ケ、又ハ戶籍ニ記載シタル事項ニ付證明
ヲ受ケテ、謄本又ハ抄本ノ交付ヲ受クルニ
代フルノ途ヲ拓キマシテ、以テ事務ノ簡捷
ト關係人ノ便益トヲ圖ラムトスルモノデア
リマス、何卒十分ニ御容議ノ上、本案ニ御
協賛アラムコトヲ切望致ス次第デアリマス
爵松平賴壽君)別ニ御質疑モナ
ケレバ、三案ノ特別委員ノ氏名ヲ朗讀致サ
セマス
〔高山書記官朗讀〕
兵役法中改正法律案外二件特別委員
=シユ一三う一不二五百三三
侯爵官政君子爵立見豐丸君
木シロ·モモヨコ村春巻三
男傳達日〓逸君男爵渡邊汀君
男毎ちはヨ三皇卿方かつ〓
君擧由牛摩君
三山〓三
丸錦標2安次君
庸幸君〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=14
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015・議長(伯爵松平賴壽君)
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第一、國務
大臣ノ演說ニ關スル件、通〓順ニ依リ質疑
ヲ御許シ致シマス、下村宏君
〔下村宏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=15
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016・下村宏君
○下村宏君 私ハ質問ニ先ダチマシテ、
言所懷ヲ述ベタク存ジマス、此ノ重大ナル
非常時議會ニ直面シテ、衆議院デハ本合議
ノ質疑ハ取止メニナッテ居リマス、貴族院
ニ於テモ、質疑ノ通〓ヲ取消サレタル方モ
アリマシテ、極メテ少數ガ質問ヲ致スコト
ニナッテ居リマス、恐ラクハ今日程、國民ガ
問ハムトシ、又知ラムト欲スル時ハナイト
思ヒマス、政府ニ於カレマシテモ、有ラユ
ル機會ヲ捉ヘテ其ノ意田心ヲ傳ヘタイ筈デア
ルト信ジテ居リマス、現ニ開會ノ前後、政府
當局ガ時局ノ眞相ヲ傳ヘラレタル熊度ニ付
テハ、非常ニ效果的デアッタト存ジマス、私
自身モ新タニ啓發サルヽ所多ク、又更ニ感
銘ヲ深メタノデアリマス、同時ニ差支ナ
イ限リハ、出來ルダケ斯ウシタ眞相、之ヲ
國民一般ニ傳ヘルコトガ、所謂一億一心ノ
實ヲ促進スル所以ナリト信ズルノデアリマ
入、私ハ甚ダ不德不敏デ、斯ク少數ノ質疑
者ノ中ニ入ッテ、到底一般ノ國民ノ聲ヲ傳ヘ
ルコトハ出來ナイノデアリ、マス、併シナガ
ラ、私長イ官界ト新聞ノ生活トヲ終ッテ、今
ハ一介ノ浪人デアリマス、何等ノ利害ニ囚
ハレズニ、斷ニズ地方ヲ廻ッテ、色々事情
モ聽ケバ亦私ノ所懷モ述べ極メテ微力ナ
ガラ、所謂上下ノ意思ノ疏通ト云フ上ニ努
メテ居ル積リデアリ、從ッテ私ハ出來ルダケ
此ノ國民ノ聽カムトシ問ハムト欲スル點、
又私共浪人ガ左樣ニ考ヘテ居ル點ヲ述ベタ
イト思ッテ居リマスガ、一部ハ旣ニ過般ノ當
局ノ御話デ、或ハ重複スルカモ知レマセス、
又私ノ話スコトハ、〓念的ナ理論的ナ言葉
ヲ避ケテ、成ルベク通俗ニ、成ルベク事實
ヲ擧ゲテ、御尋ネシタイノデアリマス、ソ
レガ國民ノ気持ニ映リ、又同時ニ政府カラ
モ極メテ通俗ニ、平易ニ、御答辯アラムコ
トヲ期待スル者デアリマス、尙私ノ今日述
ベマスル心持ハ、現時ノ時局ニ對處スルト
云フ外ニ、此ノ時局ノ濟ンダ後ガドウナル
ノノカ、我ガ國ノ將來ハ悠久デアリマス、我
我子孫ニ對シテ今カラドウ云フ心構ヘデ居
ラナケレバナラヌカト云フ氣持ラ、此ノ樽
會ニ申シタイノデアリマス、今日カラソレ
ダケノ對笑ガナケレバ、私ノ申ス多ク
ノ質問ハ將來ニ於テ之ガ遂行ヲ見ル
コト極メテ難イト思フノデアリマス
最初ニ外交ニ付テ申シマスルガ、是モ
大分ハ祕密會デ承知モ致シマシタ、又今
衆講院ノ豫算總會ニ於テ質問應答ガ重ネ
ラレテ居リマスルカラ是モ私ガ異ッタ觀
點カラ見タ或一點ダケヲ申スニ止メマス、
更ニ他ハ、主トシテ厚生、文部、陸軍、
商工、是等ノ方西ニ付テノ質疑ヲ續ケ
テ、終リニ總理大臣ヨリ又御答ヲ得ルコト
ニ致シタイト思フノデアリマス、申ス迄
モナク紀元二千六百一年ノ春ヲ迎ヘマシ
テ、廣大無邊ナル御稜威ノ下ニ、我ガ國ノ
國運ハ年ト共ニ隆昌ニ趨キ、更ニ大東亞新
秩序建設ノ步ヲ進メルト云フコトハ、誠
感激ニ堪ヘヌ次第デアリマス、併シナガラ
申ス迄モナク歐洲ノ戰祠ハ次第ニ擴大シテ
居リマス、東亞ニアリテモ、中華民國ト基
本條約ノ締結ハ見マシタガ、重慶ノ政權尙
殘存シ、聖戰ハ玆ニ第五年ヲ迎ヘルコトト
ナッタノデアリマス、更ニ昨年ハ日獨伊ノ
同盟條約ニ依ッテ、我ガ國ハ又歐洲ノ大戰
ニ繫ガリマシテ、日本ガ大東亞新秩序建設
ノ指導者タルコトガ、此ノ條約ニ依ッテ謳
ハレタノデアリマス、同時ニ之ヲ契機トシ
テ、英米ノ援蔣行爲ハ增大シ、我レニ對ス
ル敵性ハ露骨トナリ、事態極メテ急ナルモ
ノガアリマス、此ノ際外ニ對シテ處スベキ
對策ハ、實ニ複雜多岐ニ亙ッテ居リマスル
ガ、是ハ當局デモ話サレタ如ク、此ノ支那
事變ノ解決ト云フコトニ重點ヲ置クベキモ
ノト思ッテ居リマス、私ハ、將來ドウ云フ
形デ此ノ支那事變ガ終局ヲ〓ゲルカ、平和
ノ克復ヲ見ルカ、是ハ分リマセヌガ、根柢ニ
於テ執ルベキ方針ハ、我ガ國ノ民族ト民國
ノ民族ガ、將來互ニ理解シテ手ヲ繫イデ行
クト云フコトデアリマス、南京政權或ハ重
慶政權、其ノ衝ニ當ル者ト我ガ政府ト、互
ニクタビレテ平和ニナルト云フコトハ何時
カアリ得ルノデアリマス、併シ其ノ後デ、
此ノ兩民族ガ互ニ敵性ヲ深メテ、常ニ此ノ
國交ガウマク行カナイ、又先デ戰サヲスル
ノダト云フヤウナ、所謂此ノ兄弟牆ニ鬩グ
ヤウナコトガアッテハ、今囘ノ事變、幾多尊
イ犠牲ヲ拂ツタ是ガ、總テガ唯無意味ニナル
ト云フダケデハ濟マナイノデアリマス、此
ノ心構ヘハ、國民擧ゲテ心カラ建直シテ行
カナケレバ、東亞ノ將來ト云フモノハ必ズ
シモ樂觀出來ナイノデアリマス、南京ニ於
ケル新政權ガ出來マシタ、何トシテモ之ヲ
守立テヽ立派ナモノニ仕上ゲルト云フコト
ガ何ヨリデアリマス、之ニ對シテハ幾多ノ方
策モアリマセウガ、要スルニ南京政權ハ、
東亞ノ將來ヲ達觀シ、世界ニ於ケル地理的
ノ分布、或ハ人種ノ差別、色々ノ觀點カ
ラ、將來不祥事ヲ繰返スデハナイ、今ニシ
テ互ニ手ヲ握ラナケレバナラヌト云フ觀點
デ立ッテ居ルノデアリマス、此ノ政府ヲ支
持シテ守立テヽ行クコトガ、自ラ又重慶政
府ノ崩壞ヲ導ク所以ト思ヒマス、支那ノ民
衆ヲシテ安居樂業、其ノ職ニ安ンジ、其ノ
業ヲ營ミ、其ノ治下ニ悅服セシメルト云フ
コトガ何ヨリト思ヒマス、此ノ觀點カラ、在
來トテモ近衞聲明其ノ他ニ於テ屢〓此ノ趣旨
ハ述ベラレテ居マスルガ、此ノ心持ヲ、內
地ニ於テハ一般ノ國民ニ十分徹底サス、現
地ニ居ル軍隊ト云ハズ、其ノ他ノ總テノ內
地人ガ、其ノ氣持ニナッテ居ラナケレバ、
唯上ニ立ッタ少數ノ人ガ如何ニヤキモキシ
テモ、其ノ效ハ擧ラナイノデアリマス、此
ノ基本條約ノ締結ト共ニ、サウシタ觀點デ
政府ハ積極ニ如何ニ之ヲ支持シテ行クノカ、
又尙日本ノ手ニ依ッテ處理サレルト申シマ
スルカ、マダ民國ノ手ニ移ラナイモノモ亦
アリマセウガ、サウ云フ事態ハ、次第ニ民
國ノ人ニ引移ス、詰リ積極ニ消極ニ、民國
ノ民衆ヲシテ其ノ業ニ樂マシメル、此ノ新
シイ政權ニ悅服セシメルト云フコトニ付テ、
ドウ云フ處置ヲ執ッテ。居ラレルカ、其ノ
方針ナリ、又方策ニ付テ承知ヲ致シタイノ
デアリマス、次ニ內政ノ問題デアリマスガ、
私ハ日露戰役ノ當時ニ較ベテ、ドウモモ一
ツ時局ニ對スル認識ガ國民一般ニ徹底シテ
居ラヌヤウニ思フノデアリマス、日露ノ戰
役ハ、日本ヨリモ當時强大デアッタ露國ト
戰ッタノデアリマスルカラ、乘ルカ反ルカ
ト云フ立場デアル爲ニ、國民皆緊張セザル
ヲ得ナカッタノデアリマス、今囘ハ戰ヒ其
ノモノハ常ニ我ガ國ガ優勢ヲ占メテ居ル、
先方カラ我ガ國ヲ攻メルト云フコトハ想像
ダモ出來ナイ、併シ其ノ實質ニ於テハ、所
謂總力戰、經濟戰、日露ノ時ニ多クノ外國
ガ日本ヲ援ケタガ如ク、今度ハ又重慶政權
ヲ援ケテ居ル、從ッテ一般國民ガ此ノ時局
ニ對スル認識ガ十分デナイノデアリマス、
我々地方ヲ廻リマスト、新體制ト云フモノ
ハ支那事變ニ依ッテ出來タモノダ、支那事
變ガ濟メバ又止メニナルンダト云フガ
如キ解釋ヲ取ル者モアリマス、或ハ又歐
洲大戰ガ始マルト、此ノ前ノ大戰ノヤウ
ニハ行クマイガ、或程度ノ成金時代ト云
フモノガ來ルノデハナイカト夢ミル者ス
ラアルノデアリマス、言フ迄モナク、是
カラ我ガ國ハ高度ノ國防國家ヲ完成シナケ
レバナラナイ、支那事變ハ終局ヲ告ゲ、平和
ノ克服ヲ見マシテモ、滿洲ト云ハズ民國ト
云ハズ、所在尙治安ヲ維持スル爲ニ相當ノ
軍隊モ駐屯スルデアリマセウ、更ニ是等方
面ニ文化ノ工作、產業ノ開發、有ラユル方
面ニ限リナク我ガ國ヨリ人ト物ヲ需メルノ
デアリマス、況ンヤ大東亞新秩序ノ建設
ニ足踏ヲシテハナラヌ、從此ヲ支那事變ガ
解決シ、又其ノ他ノ國ト不祥事ガ起ラズ
ニ濟ンデモ、謂ハヾ半永久的ニ、我ガ國ハ
此ノ限リアル人、限リアル物ヲ、ヨリ必要
ナ方面ニ振尙ケテ行ク、更ニ其ノ人ノ能率
ヲ極度ニ高メル、其ノ物ノ利用率ヲ極度ニ
上ゲル、是ガ所謂新體制ノ標的デアラウト
思フノデアリマス、サウシタ觀點カラ、先ヅ
人ノ方カラ見マスルト、玆ニ二ツノ大キナ
國策ガアリマス、是ハ主トシテ厚生省ニ關
聯シマスルガ、拓務、外務、陸海軍各方面
ニ、元々人ノ問題デアリマスルカラ、何處
ノ省ニモ關聯ヲ致スノデアリマス、岩倉公
爵ガ矢張リ質疑サレルヤウニ承知シテ居リ
マシタガ、御取止メニナリマシタカラ、此
ノ極メテ重大ナ問題ニ付テ其ノ大要ダケヲ
述ベタイト思ヒマス、日本ノ民族ノ將來ヲ
通ジテ最モ大ナル缺陷ハ、日本人ノ平均壽
命ガ、歐米ノソレニ比シテ十年モ十五年モ
短イト云フコトデアリマス、二十歲頃迄ハ、
所謂準備時代ハ同ジヤウニ掛ッテ、ソレカ
ラ愈〓、積極ニ社會デ働クト云フ時ニ、十年
モ十五年モ開キガアルト云フコトハ由々シ
イコトデアリマス、而モ其ノ平均壽命ガ年
年延ビテ行クカト云ヘバ必ズシモサウデ
ナイノデアリマス、是ハ申ス迄モナク乳幼
兒ノ死亡率ガ歐米ノソレニ比シテ殆ド倍モ
高イ、結核ガ益〓蔓延シテ靑少年ノ死亡率ガ
非常ニ高イ、サウシタコトガ日本人ノ平均
壽命ノ短イ原因ニナッテ居リマス、故ニ近頃
ハ陸軍ノ徵兵檢査デモ、甲種、乙種ノ率ハ、
其ノ合格率ハ年ト共ニ低下シテ居ッタノデ
アリマス、サウシタ理由ガ、第一次ノ近衞
內閣ノ時ニ厚生省ヲ新設スル大キナ理由デ
アッタト存ズルノデアリマス、偶〓支那事變ガ
起ッテ立消エトナリマシタガ、併シ此ノ支那
事變ガ起ッタガ故ニ一層其ノ切實ノ度ヲ加ヘ
タノデアリマス、戰地ニ於テ、或ハ戰死シ、
病死シ、或ハ傷ツキ、病ミ、又國內デハ殷賑
產業其ノ他ニ依ッテ、過度ノ勞務ニ依ッテ體
位ヲ落シ、更ニ夥シイ若イ人達ガ現地ニ出
征シテ居ル爲ニ、內地ニ於ケル出生ノ數ガ
激減スル、斯クノ如キコトハ何モ我ガ國ニ特
有ナコトデナクテ、戰ヒノ時ニハ必ズ起ル
問題デアリマス、唯歐洲大戰ノ當時ニ比較
シテ、非常ナ疫病ガ流行ッテ死ヌ、或ハ食糧
ノ封鎖ニ依ッテ餓死ヲスル、サウ云フ事態
ガマダナイノガ非常ナ仕合セデアリマス、
問題ハ、此ノ缺陷ヲ現在何處迄喰ヒ止メ得
ルカト云フコトト、戰後之ヲ如何ニ恢復ス
ルカト云フコトトデアリマス、申ス迄モナ
ク、第一次ノ歐洲大戰デ「ドイツ」ハ戰ヒニ敗
レマシタ、戰ヒハ勝ッタノダガ、所謂經濟
封鎖ノ爲、二百萬ノ壯丁ヲ失ヒ、八十萬ノ
餓死者ヲ出シ、遂ニ四年半ノ後ニ降伏シタ
ノデアリマス、併シ其ノ負ケタ「ドイツ」ガ
何故ニ勝ッタ英佛ニ今日非常ナ優勢ヲ示シ
テ居ルカト云ヘバ、今ノ缺陷ハ大キカッタガ、
此ノ恢復ニ對シテ非常ナ努力ヲ拂ッタカラ
デアリマス、其ノ拂ツタ證據ハ、私度々申シ
マスルガ、四年前ノ「ベルリン」ノ「オリムピッ
ク」大會ニ、五十二ノ參加國ノ中デ「ドイツ」
ガ第一位ヲ占メタト云フコトガ、旣ニ「ドイツ」
ガ人ト云フ問題ニ於テ英佛ヨリモ恢復ヲ早
メテ居ル、「ドイツ」民族ノ精神力、肉體ノ
力ト云フモノノ恢復ガ早カッタト云フコト
ヲ證據立テテ居ルノデアリマス、昨今聞ク
所ニ依リマシテモ、今「ドイツ」デハ「イタ
リー」其ノ他ト手ヲ戮セテ、歐洲ニ於ケル
「スポーツ」ノ聯盟、其ノ行事、東ノー「ドイ
ツ」ニ於ケル各「スポーツ」ノ全國選手大會ノ
決行、更ニ「フランス」ノ新政府ニ對シテ體
育奬勵、「スポーツ」奬勵ノ爲ニ、現ニ捕虜
ニナッテ居ル者カラ、ソレ等ノ選手ヲ特ニ皆
釋放シテ歸シテ居ルト云ラヤウナ事實ガ傳
ヘラレテ居リマス、此ノ缺陷ヲ成ルベク輕
メ、又是カラ此ノ恢復ニ努メル、是ハ過般
厚生省カラ人口政策ノ對策トシテ既ニ出テ
居リマス、明治······デナイ、昭和三十五年
迄ニ人口一億ト云フ標準デ、此ノ案ガ立ッテ
居ルノデアリマス、其ノ中ニ、私ガ質問ヲ
致シタイノハ、此ノ外地ノ人口ハ別ニ之ヲ
定ムトナッテ居リマス、ソレカラ最後ニ、統
計調査〓究ノ機構ノ整備充實、ソレカラ人
口政策ノ企畫促進及實施ノ整備充實ト云フ
項ガアリマスルガ、是等內容ニ付テデアリ
マス、唯此ノ內地ニ於ケル前カラノ大和民
族其ノモノニ付テノ幾多ノ對策ハ總テノ中
心ニナリマスルガ、齊シク日本ノ國民デア
ル臺灣、朝鮮等ノ現地ノ人口問題、此ノ政
策ガ亦極メテ肝要デアリマス、更ニ此ノ內地
ノ民族ガ臺灣ナリ朝鮮へ行ッタ時ニ、其ノ精
神力ナリ體力ガドウ變ッテ行クノカ、殊ニ日
滿一如トナッタ今日、滿洲ニハ尠カラヌ移民
モ參リマス、開拓民ガ參リマス、又有ラユル方
面ニ尠カラヌ人モ出テ居レバ其處ニ又非常ニ
多數ノ軍隊モ駐屯シテ居ルノデアリマス、
是等ノ内地民族ノ體位ガドウナッテ行クノ
カ、又其ノ土地ノ風土氣候等ニ、如何ニ順應
シテ行ッテ之ニ耐ヘ得ルノカト云フコトガ、
非常ナ大キナ問題デアリマシテ、若シ是ガ
見込ガナイト云フナレバ、此ノ北ノ方面ニ
對スル我ガ國策ハ總テ御破算ニナルノデア
リマス、今後中華民國ニ於テ、或ハ今度暑
イ南洋方面ニ於テ、一體我ガ民族ガ之ニ耐ヘ
得ルノカドウナルノカ、是等ニ對スル調査
ハ、不斷カラ年ヲ逐ウテ其ノ遷リ變リヲ見テ
行カナケレバナラナイノデアリマス、更ニ臺
灣朝鮮ハ、帝國ノ領土トナッテカラ之ニ對
スル施設ハ、歐洲各國ガ異民族ニ對スル植
民政策トハ違ッテ居ル、彼等ハ其ノ植民地ヲ
亡ボス、ト云フハ語弊ガアルカハ知レマセ
ヌガ、植民學者ノ諺ニモ、白色人種ガ異民
族ニ對スルト其ノ土地ノ異民族ガ皆枯レテ
行ク、又サウシタ事例ヲ到ル處デ見ルノデ
アリマスガ、臺灣、朝鮮デハ、產業ノ開發
ト云ヒ、衞生其ノ他ノ向上ニ因ッテ、如何ニ
是等ノ土地ノ人口ガ激增シツヽアルカ、恐
ラクハ滿洲モ、今後如何ニ此ノ滿洲ノ民族
ガ激增シテ行クカ、又是カラ後中華民國ノ
民族モ如何ニ增シテ行クカ、此ノ滿洲或ハ
中華民國或ハ蒙疆方面、殊ニ「ソ」聯、是等各
國ノ人口問題ニ付テモ亦極メテ周密ナ〓究
ヲ要スルノデアリマス、今日迄我々ハ「スラ
ヴ」民族ガ最モ增加率ガ强イト云フコトニ
聞イテ居リマス、勿論最近ノ國勢調査ノ結
果ハ、「ソ」聯デハ之ガ發表ヲ止メマシタ、
或ハ豫定ダケノ增加ヲ見ナカッタノカモ知
レマセヌガ、兎ニ角是等各國ノ民族ノ消長
ヲ見ルト云フコトガ極メテ必要デアリマ
ス、是ハ「スラヴ」民族トカ、或ハ東亞ノ
民族ニ限ラズ、英米其ノ他歐洲各國ノ
民族問題ニ付テモ、十分考究ヲ要スル
ノデアリマス、是ハ學者ノ調デアリマスカ
ラ、又長イ間ニドウ變ルカ知レマセヌガ、
今迄ノ經過ヲ以テ專門ノ學者ハ、百年經ツト
「イギリス」ノ人口ハ半分ニナル、「フラン
ス」ノ人口ハ三分ノ一ニナルト言ッテ居ルノ
デアリマス、少シ長ク放ッテ置ケバ、長ク經
テバ、是等ノ國ノ民族ハ非常ニ激減シテシ
マフノデアリマス、從ッテ今囘ノ戰ヒデ入
ギリス」ハ非常ナ打撃ヲ受ケタガ、是ガ契
機トナッテ立直ルト云フコトニナレバ、謂ハ
バ「ヒトラー」總統ニ依ッテ活ヲ入レテ貰ツ
ク、此ノ戰ヒハ長イ目デ見レバ、非常ナ劇
藥ダガ藥デアッタト云フコトモアリ得ルノデ
アリマス、デ各國ノ民族ノ問題ヲ考究スルト
云フコトハ、私ハ此ノ歐洲ノ事變ガ濟ミマ
スト、再ビ國際人口會議ト國際移民會議ガ起
ルト思ヒマス、御承知ノ國際聯盟ニ於テ開カ
レテ居ッタ國際人口會議モ、ソレカラ「ロー
マ」カラ「ハヴァナ」ト續イテ開カレタ國際移
民會議モ、何時モ持テル國ハ自分達ニ不利
益ニナリマスカラ、皆中絕ニナッテ居リマ
ス、今度「イギリス」ガ敗レル、獨伊側ガ勝ツ
ト云フコトニナレバ、將來ノ世界ノ平和ヲ
保持スル爲ニ、國際ノ人口會議又移民會議
ハ必ズヤ開カレルモノト思ヒマス、之ニ對
シテモ、今日カラ世界中ノ總テノ民族ニ付
テ其ノ消長ヲ調ベテ置イテ、之ニ對處スル、
又平素ニアッテモ、在外公館ト言ハズ有ラユ
ル方面デ、貿易トカ何トカ云フモノノ方ノ
調査モ必要デアルガ、是ハ各方面ガ協力シ
テ、此ノ人ト云フモノニモ著眼ヲ重クシナ
ケレバナラヌ、是等ノ點ニ付テ、無論當局
ハ考ヘテ居ラレルト思ヒマスルガ、今カラ
此ノ諸點ニ付テ十分ノ考慮ヲ要シタイ、今
日ニ於テモ日本ノ國ノ約十二倍ノ北米合衆
國ハ一「キロ」平方ニ十六七人、日本ノ內地ハ
百八十七人、日本帝國全體デモ百五十一人
デアリマス、我ガ國ノ十分ノ一ノ密度シカ
ナイ北米合衆國ガ、今カラ二十年以前ニ移
民ノ制限ヲシ、而モ有色人種ニハ絕對ニ其
ノ移民ヲ禁止シテ居ルノデアリマス、世界
ノ陸上ノ四分ノ一ヲ占メテ居ル大英帝國ノ
自治領ノ「カナダ」、是ハ日本帝國ノ十四倍デ
アリマス、濠洲、是ハ十一倍デアリマス、其
ノ何レモ十倍以上ノ面積ヲ持ッテ居リナガ
ラ、其ノ土地ニハ、所謂白人濠洲、白人「カ
ナダ」トシテ、異人種ヲ入レナイノデアリマ
ス、一「キロ」平方ニ我ハ百八十五人、彼ハ只
ノ一人デアリマス、從ッテ此ノ戰亂デ假ニ、
假ニデス、「イギリス」側ガ勝ッタトシテモ、
將來ノ平和ヲ樹ツル爲ニハ必ズヤ國際ノ
人口及移民會議ト云フモノガ起ルト思ヒマ
ス、從ッテ是等ノ方面ニ對シテ、今カラ十分
ノ關心ト考慮ヲ持ッテ戴キタイノデアリマ
ス、ソレカラ次ニ、是ト相伴ウテ文部省ノ
主トシタ問題ニナリマスルガ、人間ノ頭ノ
食糧デアル智慧ヲ得ル爲ニ、我々ハ言葉ト
文字ガ必要デアリマスルガ、此ノ日々ノ我
我ノ最モ使ヒ慣レテ居ル國語ト、ソレヲ表
ス國字ニ付テ、今日程之ガ對策ヲ樹テテ斷
行スベキ時ハナイト思フノデアリマス、今
迄モ鐵道デ驛名ヲドウ云フヤウニ書クトカ、
或ハ司法省デ判決文ガ口語體ニナルトカナ
ラヌトカ、殊ニ昨今陸軍デハ用語ノ改正ヲ
スルトカ、各省ソレ〓〓問題ハアリマス、併
シ是ガ相關聯シテ系統立テテ思ヒ切ッタ玆ニ
對策ヲ講ジ之ヲ決行シナケレバ所謂百年ノ
悔ヲ貽スト思フノデアリマス、言葉ガ亂雜
デアル爲ニ、小學校ナリ、中學校ナリ、學
校デドレダケ無駄ナ時ヲ使ッテ居ルノカ、又
社會ニ出テ如何、我々ガ迷惑ヲシ、誤ヲ喚ビ
起シテ居ルカ、サウ云フコトハモウ私ハ
切此處デ申スノヲ避ケマスガ、此處デ私ノ
申シタイコトハ、前申シタ日本ノ將來ハ、
大東亞ニ於テ相近キ者、相隣レル者、相似
タル者ガ手ヲ握ッテ行カナケレバイケナイ、
日本ト民國ノ民族ガ互ニ結託シテ行カナケ
レバイケナイト云フコトガ大キナ標的デア
ルナラバ、此ノ民國ト我ガ國トノ間ニ、意
思ノ疏通ガ正確ニ簡易ニ行ハレナケレバナ
ラナイノデアリマス、今迄歐米ノ文化ヲ吸收
スルニ急ナルガ爲ニ、外國語ト云ヘバ英語
デ、一番實用ニ供セネバナラヌ隣國ノ支那
語ト云フモノハ非常ニ閑却サレテ居ッタノ
デアリマス、此ノ英語ニ偏重シテ、非常ニ
澤山ノ時間ヲ使ッテ、我々ガ扨、其ノ英語ヲ
ドレダケ實用ニ供スルカト云フト、サウ外
人ト接觸スル機會モナシ、又其ノ〓ヘ方ニ
モ不備ガアラウシ、又之ヲ練習スル機會モ
少イカラデモアリマセウガ、私ナドノヤウ
ニ長イ間英語ヲ學ンデ、而モ私程話セナイ、
書ケナイ、聽ケナイ者ハナイノデアリマス、
而モ一方デ實用ニ供サレ得ル支那語ニ付テ
ハ一般ニ關心ヲ持タナカッタ爲ニ、私共ノ
子供ノ時分ニハ、當時ノ〓國チヤンコロト
云フヤウナ氣持ガ國民全體ヲ支配シテ居ツ
タ、私共明治三十一年カラ約二十年近ク〓
壇ニ立ッテ居リマシタガ、民國ノ留學生ヲ
私共何千人手ニ掛ケタカ知レヌケレドモ、
オ恥カシイガサウ云フ人達ト今日文通ヲシ
テ居ルト云フノハ僅カニ三四人デアリマス、
ソレカラ同ジ〓場ニ於ケル學生モ、日本ノ
學生ト民國ノ學生ハ水ト油ノ如クデ何等ノ
接觸ヲ持タナイ、サウシテ皆故國ニ歸ッタ
留學生ハ、日本ニ對シテ必ズシモ好感ヲ持
タナカッタノデアル、是ニハ矢張リ支那ノ
言葉ト云フモノニ習熟シナイト云フコトガ
一ツノ原因デアッタト思ヒマス、今日ハ同
種同文ダト云フコトヲ能ク言ヒマスガ、私
共支那へ旅ヲシテ親シイ友達カラ、此ノ同
種同文ト言ハレル程、マア不愉快ナトモ言
ヒマセヌガ、有難迷惑ダ、返上スルト云フ
コトヲ能ク聞カサレルノデアリマス、殊
同種ト云フコトハ、是ハオ互ノ顏ヲ見テモ
同ジデアッテ問題ハアリマセヌガ、同文ト云
フコトハ利益モアリマスルガ、害ハ可ナリ
多イノデアリマス、其ノ害ヲ除クト云フ
コトガ、單リ東亞ニ於ケル民族ノ共存共
榮日本ノ將來、大東亞ノ將來ヲ支配ス
ル上ニ非常ナ大キナ影響ヲ持ッテ居ルノ
ミナラズ、無論日本自體ガ、此ノ改善ニ
依ッテ如何ニ時ト勞力ト金トヲ節約シ得
ルカ分ラナイノデアリマス、此處デ私ガ
文字トカ、國語ノ講釋ヲスルコトハ憚リ
アリマスルカラ避ケマスルガ、唯其ノ害
ガアル、何故アルノカト言ヘバ、同ジ漢
字ヲ支那デハ支那讀ミヲシ、日本デハ日
本讀ミヲスルト云フ點デアリマス、ソレ
モ支那デハ大體一色ニ讀ミマス、蔣介石、
是ハ「チヤン·カイシー」ト今言ッテ居リマス
ガ、「チヤン·カイシー」ノ「カイ」ハ廣東讀ミ
デアッテ、北京ノ方デハ「チヤン·チヱンシー」
ト言ッテ居リマスカラ、「チヱン」ト「カイ」ノ
違ヒデアリマス、ソレ位ノ違ヒハ、日本デ
モ東北ト九州トデハ違ヒガアルノデアリマ
スガ、大體ハ變ラナイノデアリマス、ケレ
ドモ日本ノ方デハ支那ノ漢ノ時代、唐ノ時
代或ハ吳ノ時代、有ラユル時代ノ違ッタ
發音ヲ取揃ヘテ日本デ亂雜ニ使ッテ居ルノ
デアリマス、爲ニ今日本ノ言葉、日本ノ
文字ト云フモノヲ、滿洲ナリ民國ノ人達ガ
學バウトシテモ、殆ド手ニ付カナイノデア
リマス、甚ダ禮ヲ失スルヤウデアリマスガ、
是ハ實例ヲチヨット二三申シマセヌト、何デ
ソンナニ困ッテ居ルカト云フコトガ分ラヌ
ト思ヒマスカラ玆ニ添ヘマスルガ、支那デ
假名ガ無クテ、過般蔣介石ガ始メタヤウニ、
注音字母ト言ッテ支那デモ假名ヲヤルコト
ニナリマシタガ、假名デ書ケバ誰ガ讀ンデ
モ外ニ讀ミヤウハ違ハナイノデアリマス、
處ガ漢字ダケデアルト、支那デハ「チヤン·
カイシー」ト言ッテ居ッテモ、日本人ダケデハ
ソレヲ「ショーカイセキ」ト言ッテ居ル、又
支那ナリ又無論歐洲、世界到ル處「ワン·
チヱンウヱー」ト言ッテモ、ソレヲ日本デハ
「オウセイヱイ」ト言ッテ居ル、ソレデハモウ
話ハ通ジナイノデアリマス、處ガ同ジ文字
デアルカラトテ、今度ハ日本ノ我々ノ書イ
タ文字デモ、支那ノ人ハ我々ノ讀ムヤウニ
ハ讀ンデ吳レナイノデアリマス、近衞內閣、
此ノ字ヲ見レバ彼等ハ「コノヱナイカク」ト
ハ讀メナイノデアリマス、「チンウヱー·ネ
ーコー」ト云フ、前ノ米內內閣、是ハ私共、デ
モ初メハ「ヨナイ」トハナカ〓〓讀メナイ、
支那人ハソレヲ見レバ「ミーネー·ネーコー」
ト言フノデアリマス、猫ヲ見ヨト云フノデ
アリマス、其ノ「ミーネー·ネーコー」ト言
フノヲ、今度ハ支那人ガ、是ハ「ミーネー」
ト言フノヂヤナイ「ヨナイ」ト言フノダ、「チ
ンウエー」ト言フノヂヤナイ「コノエ」ト言
フノダト云フコトヲ、ヤットノコトデ覺エ
テ見テモ、今度ハ外ノ場合ニ、其ノ近衞ノ
ㄱ近」ト云フ字ガ出タ時ニ、ソレハ「チカイ」ト
讀ムノダ、ソレハ遠近ノ「キン」ダ、右近、
左近ノ「コン」ダ、イヤ近江ノ國ノ「オー」ダ
(笑聲)、斯ウナルトモウヤリ切レナイノデ
アリマス、米內內閣デモ彼等ハ「ミーネー·
ネーコー」、、其ノ「ミーネー」ト云フノハ、日
本ノ「ヨイ「ナ」ノ「ヨ」ト云フ字ダ、米ト云フ
字ハ「ヨ」ト覺エテ居ルト、サウヂヤナイ「ヨ
ネ」ダト言フ、イヤ「コメ」ダト言フ、イヤ白
米ノ「マイ」ダ、イヤ米國ノ「ベイ」ダ、ソレ
デハ殆ド彼等ハアグネテ手ガ付カナイノデ
アリマス、或ハ米內ノ「ナイ」ト云フモノガ、
サウ覺エテ居ルト「ナイ」ノ下ニ裏ト云フ字
ヲ書クト「ダイリ」或ハ「ナイリ」ト云フ字ダ、
今度ハ赤穂ノ義士傳デモ讀ンデ居ルト、其ノ
「ナイ」ト云フ字ガ淺野內匠頭ノ「タク」ニナ
ル、イヤサウヂヤナイ、アレハ大石內藏之
助ノ「ク」ダ、ト云フノデアリマス、(笑聲)
日本人同志デハ、長イ間ニ色々讀ミ分ケ
テ、マア喜ンデ居ルカ居ラヌカ分リマセヌ
ガ、ソレデ濟ミマスガ、ソンナコトデ、日
本ノ言葉、日本ノ文字ヲ東洋ノ民族ニ皆推
シ擴メヨウ、殊ニ我々ヨリモ文化ノ低イ南
洋ヤ各方面ノ人達ニ、日本ノ事ヲ一體ドウ
シテ推シ擴メルコトガ出來ルノデアリマセ
ウカ、私共ハモ的子供ノ時カラ······私ハ和
歌山ノ產レデ、省グ此ノ和ノ字ガ大和ノ)
「ト」ニナリ、和泉ノ「イ」ニナルト云フコト
ヲ知ッタノデアリマスガ、此ノ一ツノ文字ヲ
種々雜多ニ讀ム、生レルト云フ字、平生······
「ヘイゼイ」ノ「ゼイ」ト云フ字、平生······「ヒ
ラオ」ノ「オ」デスガ、アノ「生」レハ百六十五
通リ讀ムサウデアリマス、從ッテ今滿洲ナリ
支那デハドウシテ居ルカト云フト、其ノ漢
字デ書クトオ互ニ誤解ヲシ、間違フカラ、
皆假名ヲ使フノガ多イノデアリマス、昨年
ノ春、私海南島ヲ廻ッタ時デモ、軍隊ノ看
板ハ、山口部隊ト言ヘバ、其ノ山口部隊本
部ト云フノハ皆假名デ書イテアル、日本人
ノ作ッタ假名デサヘ書イテ居レバ、「ヤマグ
チブタイ」ト書ケバ誰ガ讀ンデモ「ヤマグチ
ブタイ」デアリマス、平生カラ此ノ亂雜ナ
文字ヲ整理スルト云フコトガ、誰シモ氣ニ
ハ付イテ居ル、新聞ハ新聞デ一々振假名ヲ
付ケナケレバ「ルビ」ヲ付ケナケレバヤ
リ切レヌ、此ノ文字ヲ整理スル、成ルベク
ムヅカシイ字、獻上ノ「獻」トカ、「鹽」トカ、
鼈トカ、龜トカ言フモノハ、今日ナカノ
本格ナ字ヲ書ケナイノデアリマスガ、蔣介石
ハ總テ略字ノ方ヲ今度ハ行フベシ、ト云フ
命令ヲ出シテ居リマス、成ルベク簡單ニス
ル、成ルベク紛ラハシクナクスル、斯クノ
如クニシテ假名ヲ主トシ、成ルベク漢字ハ
通俗ニシ、制限シ、更ニ其ノ又文字ノ音ナ
リ訓ナリノ讀ミ方ヲ出來ルダケ少クシテ行
ク、此處デモ有爵者ノ諸君ノ御名前等ガ、
一番斷エズ皆迷惑スルノデアリマスガ、是
等モ讀ミ方ヲムヅカシイ方ニ讀マサヌデ、
ヤサシイ方ノ、誰デモ使フ讀ミ方ニスルト
云フヤウニ整理スルコトガ、我々モ必要デ
アルガ、サウシナケレバトテモ滿洲、民國、
其ノ他ノ人々ニ、日本ノ言葉、文字ヲ擴メル
コトハ出來ナイノデアリマス、歷代ノ內閣
デ法令ナリ其ノ他ニ付テ文字ヲ一ツ整理ス
ル、ドレダケ是デ學校ダケデモ助カルカ知
レヌ、世ノ中ノ仕事ニドレダケ便宜ヲ得ル
カ知レヌト云フコトヲ言ッテ居リマシタガ、
文部省ノ國語ノ審議會ハ、私ニ言ハシムレ
バドウモ活動ガ鈍イ、餘リ玄人ガ寄リ過ギ
テ居ルト思ヒマス、今却テ陸軍デ用語ノ改
正ヲシマシタガ、更ニ進ンデ假名遣ヒナリ
或ハ漢字ノ制限ニ迄〓究ヲ續ケテ居リマシ
テ。實ハ本日此ノ時間ニ私モ陸軍ノ當局カ
ラ、其ノ改正ニ參加スルヤウト云フ案內ヲ
受ケテ居ッタノデアリマス、此ノ問題ハ、誠
ニ斯ウ云フ時期切迫シタ時代ニ、非常ニ閑
日月ナコトヲ言フガ如クニ見エマスガ、悠
久タル日本ノ將來ヲ考ヘ、更ニ大東亞ノ指
導者トナルノダ、殊ニ今ハ同文ト言フ、殊
ニ民國ト聯繫ガ深クナッテ來ルト云フ時ニ、
私ハ、政府ハ徹底的ニ各省ヲ動員シテ或政
策ヲ樹テテ、此ノ簡易化ノ運動ニ是非著
手シテ戴キタイノデアリマス、更ニ序デ
アリマスルガ、昨今ハ外國語ト云フモノ
ヲヤルトイケナイヤウニ言フ人ガ一部ニ
アリマス、デ條約ノ明文モ、日本ハ日本
デ日本側ノ文字デ書ク、外務省ノ情報部
モ遠慮ナシニ日本語デ言フコトハ結構デ
アリマス、ケレドモソレト、外國ノ言葉
ヲ知ラナクテモ宜イト云フ、或ハ知ッチヤ
イカヌト云フガ如キコトハ無論脫線デアリ
マス、況ヤ相手ノ國ガ憎イカラヤッチヤイカ
ヌトカ、或ハ味方ダカラヤルノダ、或ハ强
イ國ダカラ習フ、弱イ國ナラバ習ハナイ、
サウヂヤナイ、必要ガアルカナイカト云フ
問題デアリマシテ、爲ニ彼ヲ知ルコトガ薄
クナルト、是程ノ害ハナイト思ヒマス、「ア
メリカ」デハ、「ニューヨーク」ノ「ベルリッ
ツ·スクール」デハ、近頃「ドイツ」語ヲ學ブ
者ハ無クナッタト云フコトデアリマス、成
ル程「アメリカ」人ハ感情ニ强イナト云フ感
ジヲ私モ持ツノデアリマス、處ガ「ドイツ」
デハ、「イギリス」ト戰ッテ居ルガ、今國民ト
言ハズ、軍人ト言ハズ、英語ヲヤレ、英語
ヲヤレト言ッテ居ル、是ハ敵國ニ攻メ入ッテ
モ、植民地ヲ貰ッテモ、英語ヲ知ラナケレ
バナラヌト云フノデ、今「ドイツ」デハ非常
ニ英語ノ奬勵ヲシテ居ルト聞イテ居リマス、
デ私ハ日本ハ今迄、支那語トソレカラ「ソ」
聯ノ言葉ニ餘リ關心ヲ拂ハナカッタコトガ
非常ナ缺陷デアッタ、今日デモ「ソ」聯ト云フ
モノニ對シテ、大キナ「エッキス」トシテ、
ドウモ是ガ分リニクイト云フコトハ、「ロシ
ア」語ト云フモノニ對スル國民ノ關心ガ、「フ
ランス」語ヤ「ドイツ」語其ノ他ニ比シテ著
シク劣ッテ居ッタト云フコトニ、大キナ原因
ガアラウト思フノデアリマス、更ニ此ノ科
學ノ振興ト云フコトデアリマスルガ、今
自然科學モ人文科學モ、ソレ〓〓獨リ步キ
ヲスル氣味ガアル、是等ガ矢張リ精神的ニ
綜合セネバナラヌト云フコトハ諄ク申スマ
デモアリマセヌガ、恐ラクハ姊崎博士ガ病
氣デナクテ登院サレタナラバ是等ノ問題
ニ付テモ大イニ論ゼラレタト思ヒマス、私
ハ只總テノ學問ガ相互ノ間ニ綜合的ニ〓究
サレタイ、殊ニ人ノ問題ニ付テハ內閣ニ統計
局ガアル、陸軍デハ徵兵ノ關係デ調ベル、
內務省デハ元ノ衞生局、今ノ厚生省デハ體
力局或ハ勞働局、色々ナ各局デソレ〓〓ノ
觀點デ見ル、農林省ハ〓糧ノ點カラ見ル、
文部省ハ又學生ノ體育ト云フ點カラ見ル、
オ醫者サンハオ醫者サンノ見方デ見ルト云
フガ如クニシテ、綜合的ニ是ガ纏ツテ〓究サ
レヌト云フコトモ私大キナ缺陷ト思ヒマス、
學術振興會デ我々櫻井錠二博士ニ述べ、又
非常ニ御同意デアリマシタガ、又此ノ振興
會デモ、有ラユル方面カラノ綜合ノ〓究ト
云フコトガマダ遺憾ノ點ガアルノデアリマ
ス、デ今私共ガ自然科學デ其ノ專門ノ人達
カラ斷エズ聞カサレルコトハ、無論先方デ
モ祕密ガ守ラレルニシテモ、次第ニ近頃海
外ノ留學ガ少クナッテ、海外ニ於ケル科學ノ
日進月步シテ行ク、之ニ對シテ〓究シ、之
ヲ知ル機會ガ、非常ニ乏シクナッタト云フコ
トデアリマシテ、國內デハ是非研究室ニ残ツ
テ幾多ノ〓究ニ沒頭シテ貰ヒタイ人ガ、此
ノ時局ノ爲ニ皆其ノ方ヘ攫ハレテ行ク、肝
腎ノ基礎的ノ〓究ト云フコトガ餘程遲レテ
來ルノデヤナイカ、此ノ點ヲ非常ニ苦慮シ
テ居リマス、私ハ後進國デアッタ日本ガ、今
迄海外ノ幾多ノ文化ヲ吸收シタ、種痘ヲス
ル爲ニ天然痘ヨリ助カッタト云フヤウナ醫
學的ノ方面モ隨分アリマスガ、更ニ有ラユ
ル文化ハ、多クハ先進國ノ發明ノ餘澤ヲ受
ケテ居ルノハ專實デアリマス、ソレダケニ
今日デハ日本カラ幾多ノ世界ノ平和ノ爲
ニ、世界ノ文化ノ爲ニ、今度ハ癌ダトカ結
核ダトカ、色々ナモノノ豫防方ニ對スル發
明ガアル、モウ石炭トカ石油ト云フモノハ
餘リ先ハナイト思フ、然ルニ玆ニ太陽ノ熱
ガアル、地球ノ熱ガアル、電子ノ分解ト云
フコトデ、幾多ノ力ガ出テ來ルカラ、是等
ヲ是カラドウ利用シテ行クカ、更ニ戰時ノ
場合ヲ考ヘマスト、是ハ私ハ其ノ方ハ全然
門外漢デアリマスガ、隨分戰サニナル前ニ
「ドイツ」デハ、「パリ」ノアノ「メトロポリ
タン」ノ地下室デ毒「ガス」ノ試驗ヲシテ居ッ
タトカ云フコトガ傳ヘラレテ居リマス、第
一次ノ歐洲戰爭ト今次ノ歐洲戰爭デハ、空
中戰、立體戰ニナッテ、戰線ノ上ヲ乘リ越ニ
テ「ロンドン」ナリ「ベルリン」ノ上ニ爆彈ヲ
落シテ來テ居リマスガ、更ニ是ニ毒「ガス」
トカサウシタモノガ、マダ使ハレテナイノ
カ、無イノカ、ドノ程度カ、此ノ程度モ私
ニハ分リマセヌ、併シ是カラ何年カ經テバ
必ズ平和ハ克復スル、ソレデモウ世界ノ
平和ハ絕對ニ將奈代障サレルカト云ヘバ
私ハサウデナイト思ヒマス、其ノ規模ハ
次第ニ大キクナリマス、更ニヨリ科學的
ナ戰サニナッテ、或ハモウ戰サガ始マッタ
ト云フト、一擧ニシテ直グ縣敗ガ決スル
ト云フヤウナコトガ、ドウモ此ノ次ニハ起
ルヤウナ豫感ヲスルノデアリマス、斯ウ云
フ方面ニ、今日自然科學ノ上ニモ何處迄モ
研究ヲ續ケネバナラナイノデ、又ソレニハ
斷ニズ彼ヲ知ラナケレバナラナイ、故ニ思
想ノ鎖國ニナラヌヤウニ、殊ニ知識ヲ吸收
スル上ニ鎖國ニナラヌヤウニ、政府ノ十分
ナル戒心ヲ求メタイノデアリマスガ、是等
ニ對シテハドウ云フ方針ヲ執ッテ居ラレル
カ承知シタイノデアリマス、是カラノ日本
ハ今迄ノ日本精神ノ〓育ノ外ニ、大東亞建
設ト云フコトニ依ッテ、モウ一ツ高所ニ
立ッテ其ノ氣宇ヲ大ニシ、餘リニ敏感過ギ
ズ、餘リニ浮動的デナイ、非常ナ堅忍ナ、
而ヲ他ノ民族ヲ皆包容シテ行クト云フ謙抑
ノ德ニ富ンダ國ヲ造ッテ行カナケレバナラ
ナイ、是等ハ總理大臣ガ、曩ニ施政演說ノ
中ニモ〓學ニ付テ御述ニナッテ居リマスル
ガ、私ハ氣宇ヲ大ニスル、他ノ民族モ包容
スルト云フ氣持ヲ今後ノ〓育ノ中心ニ置イ
テ戴キタイノデアリマス、次ニ前申シタヤ
ウナ觀點カラ見テ、陸軍大臣ノ御答辯ヲ得
タイノデアリマスガ、何トシテモ滿洲、支
那各地ニ夥シイ軍隊ガ居リマス、戰爭其ノ
モノニ付テハ私共ハ全然門外漢デアリマス
ガ、斷エズ其ノ現地ノ人々ニ接觸スル心構
ヘデアリマスガ、軍隊ノ將校ナリ兵士ガ、
其ノ土地々々ニ於テ戰ヒハ戰ヒデアリ、又
一般ノ民衆ニ接スル態度ハ態度トシテ、無
論玆ニソレ〓〓ノ心構ヘガナケレバナラナ
イノデアリマスルガ、此ノ心構ヘハ延イテ其
ノ土地ニ居ル又内地人ニ尠カラヌ影響ヲ與
ヘルト思ヒマス、言葉ヲ換ヘルト、一方デ
宣撫班ナリ其ノ他ノ人々ガ非常ナ努力ヲス
ル、隨分其ノ土地ノ人々ト所謂共存共榮、
互ニ明ルイ氣持デ附合ッテ行ク中ニ、又可
ナリ不良ナ質ノ惡イ內地人モ尠クナイノデ
アリマス、サウシタ少數ノ異民族ニ對スル
態度ガ、折角ノ政府ノ方針又軍隊ノ方針
ヲ相當毀シテ行クノデアリマス、此ノ軍隊
ニ於ケル心構ヘガ、現地ノ內地人ト言ハズ、
又朝鮮人然リ臺灣人然リデアリマスガ、內
地ノ人々モ無論其ノ氣持ヲ持タナケレバナ
リマセヌガ、現地デモ矢張リ片言デモ何デ
モ現地ノ言葉ヲ習熟スルト云フコトガ、斥
候ニシテモ徵發スルニシテモ戰サノ時モ必
要デアリマセウガ、平時ニ於テモ彼我ノ氣
持ヲ和ヤカニ通ジル上ニ非常ニ效果的デア
ラウト思ヒマス、又相當言葉ヲ覺エテ居ッタ
コトガ緣ニナッテ、土地ノ人々トモ知リ合ヒ
ニナリ、除隊ノ後モ其處へ腰ヲ据エルト云
フヤウナコトモ相當考ヘラレルノデアリマ
ス、殊ニ現地ニ於ケル軍隊ガ、其ノ風土氣
候ニ順應シテドウ維持サレ向上サレルカ、
是モ頗ル大キナ問題デアリマス、又是ハ私
此處デマダ質問ニ上ボス迄ノ用意ハアリマ
セヌガ、過般ノ學術振興會デモ話ガ出マシ
タノハ、兵役法ノ一部ニ於テ、適齡ノ年齡
ガ、今日ノガ宜イノカモウ少シ變ヘルベキ
デアルカドウカト云フコトデアリマス、之
ヲ十九歲ナラ十九歲ニスルト云フコトハ、
動員ノ時ノ兵隊ノ數ヲ多クスルト云フコト
ハ直グ直感サレマスガ、民族學會ナゾデ我
我ガ討議シテ居ッタノハ、サウシタ問題ノ外
ニ、人間ハ兵營ニ入ッテ其處デ訓練ヲ受ケ
テ體位ガ上ルノニハ年ヲ取レバ取ル程其
ノ上リ方ガ遲レテ來ル、言フ迄モナク十二
三歲カラ十五六歲ガ最モ發育期デアリマス
ガ、年ガ先キヘ行ケバ行ク程、其ノ訓練ニ
依ッテ向上サレル程度ガ遲レルト云フコト
ハ是ハ當然考ヘラレルノデアリマス、ド
ノ邊カラ訓練スルコトガ一番效果的デアル
カト云フコトガ一ツノ問題デアリマス、併
シ是ハ學校ノ制度デアルトカ、其ノ他各
般ニ非常ナ影響ヲ持チ、民法、商法、各方面ニ
引掛ッテ來マスカラ、私輕々シク此處デ言フコ
トモドウカト思ヒマスガ、併シ此ノ人ノ問題ト
云フコトヲ〓究スル時ニ、此ノ日本人ノ體位ガ
ドウ動クカト云フコトガ、矢張リ是等ノ問
題ニモ觸レテ來ヨウト思フノデアリマス、
更ニ前申シタ用語ノ改正、漢字ノ制限、假
名遣ノ改善、是等ニ付テ今陸軍當局ハ熱心
ニ其ノ步ヲ進メテ居ラレルヤウデアリマス
ルガ、ドウカ私ハ此ノ問題ハ各省ヲ通ジテ、
前申シタヤウニ統一シテ改善ノ一步ヲ踏ミ
出スヤウ希望ニ堪ヘナイノデアリマス、是
等ノ諸點ニ付テ御答ヲ得レバ仕合セト思フ
ノデアリマス、次ニ物ノ問題デアリマスル
ガ、是ハ商工、農林、遞信、大藏、司法、
各方面ニ矢張リ自ラ關係ヲ持チマスルガ、
時間モ進ミマシタカラ極ク端折ッテ申上ゲ
マス、私共現在日本ノ物資ハマダ彈力アリ、
餘力ハ非常ニ多イト思ッテ居リマス、ト言フ
ノハ私共ノ日常ノ生活ヲ顧ミテモ、自分達
ガ子供ノ時分ノ生活ト今日ヲ比較スレバ、
窮屈ニナッタトハ言ヒナガラモ、マダ非常
ナソコニ開キガアリマス、又現在ノ狀態デ
モ、戰ヒニ勝ッテ居ル「ドイツ」ト比ベテモ、
御承知ノ「ドイツ」ハ戰ヒヲ始メル前カラ生
活ノ必需品ハ切符制ヲヤリマシタ、諄イコ
トハ申シマセヌガ、例ヘバ日本人ヨリモ脊
ガ高イ、目方モ重イ、又非常ニ餘分ニ消費
スル「ドイツ」人ガ、一週間ニ卵ハ一ツデア
リマス、牛乳ハ乳呑子カ、病人カ、或ハ姙娠
ヲシテ居ル婦人ガ使ヒ得ルノデ、一般ニハ
割當テラレナイト聞イテ居リマス、サウシ
タ消費規正ト較ベタナラバ、是ダケノ大軍
ヲ動カシテ、聖戰既ニ第五年ヲ迎ヘテ居ル
ニ拘ラズ、尙今日ノ程度デ我々ガ生活ヲ續
ケ得ルト云フコトハ、如何ニマダ彈力ニ富
ンデ居ルカト云フコトヲ立證スルモノデア
リマス、併シナガラ確カニ益〓生產ノ擴充
ヲ必要トスル、又配給消費ノ規正ヲシナケ
レバナラヌ、此ノ點ニ於テハ私ハ長ク中央
物價委員會ニ席モ置キ、又物價審議會ニモ
居リマシタカラ、隨分此ノ點ニ付テハ私ハ
當初カラ幾多ノ所見ヲ持ッテ居リマシタ、
米ノ切符制ナドハズット前カラヤッテ、訓
練ヲスル、之ニ依ッテ先ヅ民心ヲ引締メル、
之ニ依ッテ低物價政策ヲ維持スル、訓練ハ
防空訓練ダケヂヤナイ、サウシタ意味デ、
是ハ石黑農相モ屢〓私カラ御聽キニナッ
タト思ヒマスガ、私ハ前カラ此ノ米ノ切
符制ヲ唱ヘテ居ッタノデアリマスガ、同
時ニ又經濟ノ犯罪、之ニ對シテ、今日デハ
如何ニモ府縣廳デモ多數ノ人ガ、此ノ經濟
ノ犯罪者ニ對スル取調トカドウトカ云フコ
トデ非常ナ繁忙ヲ〓ゲテ居リ、恐ラクハ又
其ノ中カラ起訴サレテ、司法省ノ方デモ
相當忙シイコトト思ヒマスガ、私ハ是ハ
矢張リ初メカラ重罰主義デ、思惑デ大量
ニ買ッテ暴利ヲ貪ルノハ、ソレニ依ッテ結
局物價ガ非常ニ又騰ルコトニモナリマス
カラ、是ハ極刑ニ處スル、處ガ今迄ハ財
產刑モ、所謂罰金モ限リガアリ、儲カッタ
一部ヲ吐キ出セバ後ハ殘ルノダト云フヤ
ウナコトガ、餘程物價ノ統制ニ害ガアッタ
ト思フ、此ノ重罰主義ト云フコトヲヤッ
テ、其ノ初メニ二三ノ人ガ極刑ニ處セラ
レヽバ、後ハモウ總テ收マッテ行クノデハナ
イカ、併シサウ云フコトハ物動ノ方ノ改正
ニナル、或ハ議會ヲ俟ツト云フヤウナコト
デ、私共數囘委員會デ申シタガ成立タナカッ
タノデアリマス、今度ノ提案ノ中ニハ出
ルヤウデアリマスガ、今日ハ非常ニ遲キニ
失シテ居ルト思ヒマス、サウ云フ爲ニ此ノ
緊急勅令ト云フ制ガ設ケラレテ居ルノダト
思フノデアリマス、此ノ生產擴充ト低物價
ト云フコトガ斷エズ是ハ一面ノ摩擦ガアリ
マス、私ハ〓糧品ノ專門物價委員會ノ委員
長ヲシテ居リマシタカラ、殆ド議セラレル
問題ノ總テガ、其ノ生產ヲ擴充シタイ爲ニ
ハ値段ヲ上ゲタイト云フ農林當局ノ氣持ト、
低物價ノ爲ニ矢張リ下ゲナケレバナラヌト
云フ商工省ノ氣持ト、斷エズ總テノ寄リ合
ヒニ於テ、兩者ノ立場ニ付テ、私ハ痛切ニ
其ノ氣持モ分レバ、其ノ間ノ摩擦ヲドウ避
ケテ行クカト云フコトニ苦心ヲ續ケタガ、
甚ダ私無能デ、今日ニ至ルモマダ私トシテ
ハッキリシタ判斷ハ出來マセヌガ、併シ兎ニ
角今日ニナルト、私ハドウモ總テガ重點主
義ニ依ルノガ宜イノデナイカ、兎ニ角今迄
ノノデデハイケナイ、玆ニ再檢討スル必要ア
リ、是ハ細カイコトハ皆略シマスルガ、サ
ウシタ感ジヲ持ッテ居ルノデ、地方ヲ皆廻リ
マスト、ドウモ事業慾ガ滿足出來ヌ、働イ
テ儲カッタモノガ租稅ニ取ラレテモドウデ
モ宜イガ、ドウモ値段ガ抑ヘラレル、税、
宜イトシテモ、幾多ノ煩瑣ナ監督ガアル爲
ニ、一部デハ人心ガ倦怠スル、人心ガ逃避
氣分ニナルト云フ爲ニ、生產ノ擴充ガ却テ生
產ノ縮少ニナルト云フ意味ノアル所モアリ
せい、デ餘リニヤリ方ガ煩瑣ニナリ、又其
ノ積極的ニ擴充シタイト云フ氣分ヲ削グ時
ニ、、恰モ此ノ租稅ノ中デ賦課徵收ノ費用
ノ方ガ高クナッテ、本當ノ純收入ハ少クナ
ルト云フガ如クニ、生產擴充ノ爲ニ計ルコ
トガ却テ縮小ニナルト言フ弊ガ少クナイノ
デアリマス、殊ニ統制ニ付テハ、何處デモ
彼處デモ、彼モ統制シヨウ是モ統制シヨウ
ト云フ統制熱ニ誘ハレテ、〓究ガ十分ニ屆
カズニ統制ヲスル、ソレハ必要ハナカッタノ
ダ、ヤラナクテ濟ンダンダト云フモノガ統
制サレル、此ノ席デ私ハ申スコトハ避ケマ
スガ、物ニ依ルト、或物ヲ統制シタ、何故
統制シタカト言ヘバ、其ノ原料ハ非常ニ少ク
ナッタカラ統制セザルヲ得ナイノダ、處ガ統
制シタ爲ニ今度ハ非常ニ「ローズ」ニナッテ、
折角ノ原料ガ出來テ居ル物ガ今度ハ無駄ニ
ナルノダ、ソレヂヤ後ノ物ガ出來ルノカト
云フト、ソレハ又出來ナインダト言フ、前
ニモ後ニモ動キノ付カヌモノガアルノデア
リマス、無論數多イ物ノ中ニハ、幾多ノ出
來不出來ガアリマセウ、私ハ餘リ威信トカ
行掛リトカ云フコトニ捉ヘラレズニ、澤山
ヤッテ居ル中ニハ、イケナイモノガアレバソ
レハ變ヘルノデアリマス、「ドイツ」ナドデ
ハ、尻カラ尻カライケナイト云ヘバ變ヘテ行
クサウデアリマスガ、ヤッテ見テ成ル程此ノ
點ハイカヌト言ヘバソレハ變ヘルベキデア
ツテ、爲ニ故ラ平地ニ波ヲ起スト言フコト
ハ非常ニ避クベキモノト思ヒマス、同時ニ、
是ハ今度統制スルノダラウナト總テノ人
ガ期待シテ居ッテ、マダサレヌモノガアリマ
ス、例ヘバ婦人團體ノ如キハ、此處デ私ガ
諄ク申上ゲズトモ、地方ヘ行ッタレバ到ル
處デ私共ガ聞クノハ、婦人團體ノ重複對立
ニ伴フ惱ミデアリマス、是ハ私諄クハ申シ
マセヌガ、一般ノ民衆ハ統制サレテ、白米
ヲ手ニ入レル爲ニ半日掛ッタト云フコトモ
出來ルガ、今度ハ統制ニ依ッテ助カラウト
思フ、一方ハ一向助ラナイ、是ヂヤ差引キ
ドウナルンダト云フ如キ聲モ聞クノデアリ
マス、更ニ國策會社ニ付テ是モモウ殆ド私
ガ此處デ辯ヲ弄スル迄モアリマセヌガ、統
制シテ國策會社ニシタ以上ハ、信賴シテ十
分ニ其ノ機能ヲ發揮セシムベシト云フコト
デアリマス、今日ハ大キク統制サレテ、更
ニ在來ヨリモ煩瑣ナ監督トカ手續ニ依ッテ、
折角ノ生產擴充ノ目的ガ思フヤウニイカヌ
ト云フ事例ガ少クナイノデアリマス、是等
ノ點ハ尙色々申シタイコトハアリマス
ルガ、或ハモウ委員會ノ席ニ讓ルカモ
知レマセヌガ、赤池君ガ經濟統制ニ付
テ又質問サレサウデアリマスカラ、私
千疋、此ノ一ツ書キノヤウナ程度ニ止
メル次第デアリマス、最後ニ總理大臣
ニ質問ヲ致スノデアリマスルガ、新體制ニ
對スル國民ノ認識ヲ深メル、之ヲ普及スル
ト云フ點デアリマス、今日迄ハドウモ說明
ガ足リナイト云フコトガアル、或ハ甲ノ話
ト乙ノ話ト、ソレガ多岐ニ分レルト云フヤ
ウナコトモアリマス、是ハ政府ノ側ニモア
レバ、大政翼贊ナゾニモサウ云フ氣味ガア
リマス、ソレカラ一般ノ說明、ヤリ方ガド
ウモ理論鬪爭ノヤウニナツテ居ツテ、話
シタコトモ聞イタガ矢張リ分ラナイ、又現
在雜誌等ニ於テモ殆ド今大部ヲ占メテ、是
等ノ問題ニ付テ色々說イテ居リマスガ、理
論鬪爭ニ偏シテ、實ハ私共ガ讀ムダケデモ
骨ガ折レル位デ、ドウモ分リニクイ位デア
リマスガ、ドウモ一般民衆ニハ解セナイノ
デアリマス、私ハ地方へ參リマシテ、一般
民衆ニ、新體制ト言ヘバ分ラヌモノノ符牒
ダ、新體制ト言ヘバ面倒臭イモノノ符牒
ダ、厄介ニナル、面倒臭クナルト、新體制
ト云フガ如キ言葉ヲ使フ者ガアリマスカラ、
是等ニ對シテ、私ハ、諸君ハサウ言フガ、
今日迄新體制ニ依ッテ非常ニ得ル所ガアル
ヂヤナイカ、人間ハ自分ノ都合ノ好イコト
ハ兎角忘レ勝チデアリ、餘リニ其ノ方ハ氣
ガ付カナイガ、困ッタ方ハ尾ニ鰭ヲ附ケテ
愚痴ヲコボスンダ、今日新體制ト云フコト
ニナッタカラ、結婚ノ時デモ葬式ノ時デモ
ソコニ披露目ヤ何カセヌ無駄ガ省ケタ、或
ハ活花、造花トカ色々ナ物ヲ贈ルコトガ、
良クナイトハ思ヒナガラモ因習ノ久シキ止
メラレナカッタ、今度ハ止メラレタカラ、
一方デハ物ガ高ウナッタトコボシテ居ルガ、
併シ一方デサウシタ爲ニ、可ナリ時ガ掛リ
金ガ掛ッタモノガ皆省ケテ來テ居ルヂヤナ
イカ、デ我々ノ生活上ノカラ見テモ七·七
禁令ノ時ナゾモ、其ノ過渡ノ際ノ適用ニハ
一部ニ手違ヒモアリマシタラウガ、兎ニ角
奢侈ハイカヌ、贅澤ハ止サウ、斯ウ云フ氣
持ニ依ッテ自ラ銘々ノ生活ガ相當改善サレ
テ居ル、是ハ何モ國ノ爲ニ犠牲的ニ俺ハ節
約シテ居ルト云フノヂヤナイ、實ハ助カッ
テルト云フモノガ一面相當アルノデアリマ
ス、併シ何ト言ッテモ此ノ新體制ノ趣旨ガ、
地方一般ニハモウ一ツ徹底ヲ缺イテ居リマ
ス、私ハ寫眞週報トカ週報ト云フヤウナモ
ノガマット廣ク行ハレ、更ニ尙平易ナモノ、
通俗ノモノガ擴ガリ、又之ニ依ッテ所在所
在デ其ノ士地ノ人々ニ說明ヲスル何等カ方
法ヲ講ズルナリ、是等ノ點ニ一面力ヲ入レ
ルコトト、ソレカラ此ノ程ノ總理大臣、又
他ノ閣僚各位ノ時局ニ付テ話サレタ點カラ
考ヘテモ、ドウモ一般國民ニマダ知ラシメ
ル程度ガ足リナイ、モウ少シ知ラシメナキ
ヤナラヌ、新聞デ言ヘバ禁止事項ナゾモウ
一ツ之ヲ狹クシ、更ニモウ少シ知ラシメル、日
本國民ハ一難增ス每ニ勇氣百倍スルノデ、知ラ
ナイコトガ疑惑ヲ增シ、不安ノ念ヲ起シ、
又ソコニ幾多ノ「デマ」ガ橫行スルノデアラ
ウト思フノデアリマス、ソレカラ大政翼贊
ニ付テハ、私ハ準備委員會ガ出來、此ノ機
構ガ出來上ッテ後ニ總務ノ一人ニナッテ居リ
マスルガ、前後三囘程之ニ出席モシマシタ
ノデ、多少內部ノ側ノ事情モ承知シテ居リ
やっ、如何ニモ新規ナ寄合ヒ世帶デアレダ
ケノ大キナ仕事ヲヤラウト云フノデアリマ
スカラ、自體容易デナイノデアリマス、過
般ノ協力會議ヲ見テモ、私共地方ヲ廻ッテ
見テモ、地方デハ縣廳ト云ハズ其ノ土地ノ委
員其ノ他ハ可ナリ熱心ニヤッテ居ルノデア
リマス、私共實ハ申譯ガナイト思ッテ歸ルコ
トモアリマス、新體制ノ有ラユル事柄ニ對
シテ、東京トカ大阪トカ云フ大キナ中ニ居
ルト、色々ナル雜音ガアッテ分リ難イガ、地
方ニ參リマスト、此ノ物資ノ問題デモ、中
央ヲ待チ兼ネテ、米デモ「マッチ」デモ砂糖デ
モ、切符制ヲヤルモノハドン〓〓ヤッテ居
ルノデアリマス、大政翼贊ノ仕事デモ、處
ニ依ルト或町村デハ可ナリ熱心ニ、身錢ヲ
切ッテヤッテ居ルノサヘアルノデアリス、處
ガ中央ノ方ハ、何ト言ッテモ大キナ寄合ヒ世
帶、而モソレガ新規デアリ、其處ニハ有ラ
ユル方面ノ人ガ入ッテ居リマスカラ、ナカナ
カ進行ガ遲々トシテ居リマス、從ッテ今頃ニ
ナッテ尙ソレガ違憲デアルカドウカ、其ノ性
格ガドウカト云フコトガ、現ニ衆議院デモ論
議サレテ居リマス、恐ラクハ私ハ此ノ機會
ニ總裁トシテ總理大臣カラモ御話ガアルト
思ヒマスガ、私トシテハドウシテモ中心ニ
立ツ者ガ、ヨリ犠牲的精神ヲ發揮スルコト、
更ニ此ノ幹部ノ陣容ガモウ一ツ固マルコト、
更ニ地方ニ對シテ、此ノ經費ノ內譯ハ申シ
マセヌガ、全國ノ町村ニ對シテ、此ノ運動
ヲナス爲ニハ成ルベク中央ノ費用ヲソレニ
振リ向ケテ行クト云フコト、更ニ翼贊會ノ
仕事ハ矢張リ總テニ亙ッテ居ルガ、是モ重點
主義デ、是非是ハヤラネバナラヌト云フモ
ノニ重キヲ置イテ、之ニ全力ヲ集注シテ行
クト云フガ如キコトガ考ヘラレルノデアリ
やく、是等ニ對スル所見モ承知シタイノデ
アリマス、私ガ總理大臣ニモ御伺ヒシタイ
問題ノ中心ハ、斯ウ云フ時局ニナッテ、所謂
擧國一致、一億一心デ進ム時ニ、詰リ官廳
自體ガ其ノ範ヲ示シ、自ラ之ニ律セヨ、之
ニ對シテドウサレルカト云フコトガ私ノ質
問ノ重點デアッタノデアリマス、是ハ總理
大臣ノ施政演說ノ中ニモ、官廳自體ノ革新
ト云フコトハ旣ニ明言サレテ居リマス、又
衆議院デモ此ノ點ニ付テ豫算總會ノ質問ニ
對シ、總理大臣ハ不急不要ノ事務ノ整理、行
政機構ノ改革、事務ノ簡捷、是等ヲ擧ゲテ
居ラレマス、官吏制度ハ旣ニ濟ミマシタガ、
一般ノ國民ノ期待シテ居ルコトハ、先ヅ官
廳自體ガ如何ニ律シテ行クカ、民間ノ仕事
ハ統制々々ト言ッテ相當ノ革新ヲ加ヘラレ
テ居ルガ、政府自體デハ每年々々豫算ハ殖
エルバカリデアリ、其ノ組織モ增スバカリ
デアリ、玆ニドウモ所謂規正ト云フ實ガ擧
ラヌノデハナイカ、之ガ矢張リ問題ノ中心
デアラウト思フノデアリマス、私共長ク官
吏ヲ致シタ經驗カラ見マシテモ、御承知ノ
每年新規豫算ハ各省ノ分取リノ競爭デア
リ、又旣得權トナッタ既定ノ豫算ト云フモ
ノハ、先ヅズット据置ニナッテ居リマス、併シ
恰モ民間デ無駄ナモノハ止メ、ヨリ必要ナ
仕事ニ集注スルガ如クニ、各官廳ノ仕事デ
モ先ヅ此ノ際ハヨリ必要ナ方ヘ、此ノ官界
ノ中デモ所謂此ノ轉業ト云フモノガアルベ
キデハナイカ、言フ迄モナク此ノ戰ヒハ何
時濟ムカ知レマセヌ、此ノ時局ハ何時克服
サレルカ知レマセヌガ、此ノ後ハ、我等ノ
後ヲ繼グ人ハ、豫算ノ整理ト云フ上ニ於テ
非常ナ苦勞ヲサレルコトト思ヒマス、赤字
公債ハドン〓〓增シテ行ク、濟ンダ後ハ必
ズヤ反動時代トシテ大整理ヲ要シマス、戰ヒ
ニ非常ニ儲カッタト云フアノ「アメリカ」合衆
國ガ、「フーヴアー」大統領ノ時ニドレダケ
ノ財政整理ニ努力ヲ致シタカ、「イギリス」
デハ當時約三分ノ一ノ豫算減ト云フコトヲ立
テタケレドモ、政府ノ力デハ到頭出來ナクテ、
有名テ「ゲヂス·コンミッテイ」ト云フモノガ
開カレタノデアリマス、デ將來ノ爲モ爲デ
アリマスガ、兎ニ角時局ノ間ダケデモ、總
理大臣ノ述ベラレタ不急不要事務ノ整理ト
云フコトハ是非勵行シテ戴キタイノデアリ
マス、私共ハ役人時代ニ數次此ノ行政整理
ニ出喰ハシテ、一割減、二割減ト云フノデ
色々其ノ時局ニ當リマシタ、是ハ問題ハ課
長連ガオ互ニ自制シテ局長ニ累ヲ及ボサヌ、
局長ハ局長デオ互大局ヲ考ヘテヂヤ〓〓張
ラズニ、大臣ヤ次官ノ氣持ニナッテ之ニ當ル
ト云フヤウニ、順次各省ノ大臣ハ又總理大
臣ノ氣持ニナッテ之ニ從フト云フノデナケ
レバナカ〓〓是ハ實現ハ骨ガ折レルト思
フノデアリマス、玆ニ私ハサウ云フ場合ニ、
マア處ニモ依リマセウガ、外地關係ニナル
ト、或ハ南支那方面ニナルト、ソコニ外務關
係、陸軍關係、海軍關係、拓務關係或ハ臺
灣總督府關係、興亞院關係、隨分煩雜トナッ
テ居ッテ、折角其ノ方面デ時局ニ應ジテ極
メテ敏活ニ行動ヲ取ルベキ仕事ガ、相當澁
滯シ惱ンデ居ルコトモ承知シテ居リマス、
是等ノ點ニ付テハ私昨年ノ豫算總會デモ既
ニ述ベマシタカラ、是ハ略シマスルガ、內
地ノ分ニ付テ唯一ツノ例ヲ茲ニ參考迄ニ申
上ゲタイノデアリマス、ソレハ例ヘバ此ノ
府縣ノ行政區劃ノ問題デアリマス、今日程
交通ガ發達シテ來ルト、在來ノ府縣ノ區劃
デハモウ狹イノデアリマス、私ガ府縣ノ行
政區劃ニ付テ何等カノ革新ヲ必要トスルト
云フ念ヲ起シタノハ日露戰爭ノ當時デアリ
マスルガ、其ノ當時私ハ電氣事業ノ監督ノ
仕事ヲ執ッテ居リマシタ、桂川ノ水力電氣、
此ノ東京電燈ノ水力ノ源ニナル山梨縣ノ都
留郡駒橋ノ發電所、アレカラ東京へ送電サ
レルアノ事業ノ時ニ、山梨縣ハ、時ノ佐竹
作太郞君ガ東京電燈ノ社長デ、縣廳モ力ヲ
入レテヤッテ居リマシタガ、是ガ駒橋ノ發
電所カラ東京迄運ンデ來ルト云フ時ニハ、ソ
コニ猿橋ノ方面ニ、僅カナ點ガ神奈川縣ニナッ
テ居リマス、此ノ神奈川縣ニ其ノ檢査ヲ願フコ
トニナッテ、其ノ當時ノ神奈川縣デハ、サウシ
タ役者ガ足リナイデナカ〓〓檢査ニ來テ吳レ
ナイノデアリマス、詰リ是ガ一週間デモ、或ハ
半月デモ遲レレバ、ソレダケ其ノ仕事ガ完成
ガ遲レ、又一般ニ是ノ利用スル時期ガ延ビル
ノデアリマス、今度ハ宇治川ニ行キマスト、
宇治川電力ハ滋賀縣ト京都府ト大阪府トニ
跨ッテ居リマスルカラ、一ツノ地區ニ對シテ
モ唯三倍ダケノ時ヲ要スルト云フノデナク
テ、其ノ水位トカ水利トカ云フ議論ヲ始メ
マスカラ、滋賀縣ト京都府トノ間ニ意見ガ
又纏ラナイトカドウトカ云フコトデ、是ハ可
ナリ長イ間此ノ地區ハ延ビタノデアリマス、
丁度ソレハ皆、京濱電車デ川崎カラ先ハ煙
草ハ喫ンデモ宜イ、ソレカラコッチハ喫ンデ
ハイカヌト云フ、古イ時代ノ話デアリマス
ルケレドモ、二十年程經ッテ、私ガ朝日新
聞ニ在社シテ居ル頃ニ、甲子園ノ野球大會
ノ映畫ノ檢閱ヲ求メルト云ヘバ、皆各府縣
ニソレ〓〓檢閱ヲ求メナケレバナラヌ、今
度ハ朝日デ演劇ヲヤル、「シエークスピア」
ノ有名ナ「ハムレット」ヲ上演スル、此ノ決ツ
タ脚本ヲ出シテモ、今度ハ大阪ナラ大阪ノ
府廳デハ此ノ脚本ヲ認可シナイノデアリマ
ス、何カト云ヘバ、是ハ國交ヲ害スルト云
フ、結リ區々ニ亙ッテ居ルノデ、有ラユ
ル方面ニ幾多ノ支障ヲ來スト云フコトハ今
更私ガ申ス迄モナイノデ、若シ三重縣ト愛
知縣ガ、玆ニ統一サレタ機關ガアッタナラ
バ、四日市ト熱田トノ築港ニ餘リ競爭ハナ
カッタト思フノデアリマス、或ハ關門ニ於
テモ、門司ト馬關ト云フモノガ一ツノ組織
ノ下ニ入ッテ居ッタナラバ、ドレダケアノ關
門ノ總テノ仕事ガ捗ルカ知レナイノデアリ
マス、更ニ和歌山縣ト三重縣ノ境ニ熊
野川ガアリマスガ、新宮市ノ其ノ岸ヲ流レ
テ居ル熊野川ニ最近迄橋ガ架ラナカッタノ
デアリマス、或ハ千葉縣ノ我孫子ト茨城縣ノ
取手ノ宿ノ間ノ、アノ利根川ニ橋ガ架ッタノハ
極ク最近デアリマス、茨城縣デハ東京へ用
ガアルカラ橋ヲ架ケタイガ、千葉縣ノ方デ
ハ費用ヲ受持ッタッテ茨城ヘノ用ハ少イト
云フノガ、アノ橋ノ出來上ルノガ非常ニ遲
レタ原因デアリマス、熊本縣ト大分縣ガ若
シ同ジデアッタナラバ、國立公園ノ阿蘇カ
ラ久住別府ヘ向ケテ、ドレダケ交通ノ道ガ
拓ケテ居ッタカ知レナイノデアリマス、今日
デハ益〓統制ノ爲ニ各府縣ノ間ニ打合セヲス
ルコトガ非常ニ頻繁ニナリマシタ、私共地
方何處ヲ旅シテ居ッテモ、東北ハ東北、九州
ハ九州ト其ノ土地々々デ、其ノ縣ノ經濟部
長或ハ警察部長、サウ云フ人達ガ殆ド三日
ニアゲズニ寄合ヒヲシテ居ルノデアリマス、
或縣ニ行ッテモ、此ノ縣デ知事カラ各部長ガ
皆揃ッタコトハナイト云フコトヲ能ク聞ク
ノデアリマス、ソレ程御互ニ打合セガ必要
ニナッテ來テ居ルノデアリマス、從ツテ斯ウ
シタ「ブロック」ヲモウ一ツ組織化シテ、ソ
コデ集ッテ決メタナラバ其ノ事業家ガ各官廳
ヲ一々廻ラナイデ濟ムト云フヤウナコトガ
出來ルト、ドレダケ生產ノ擴充ガ出來ルカ
知レナイノデアリマス、今日、四國ト九州
ト臺灣ト尙二三縣集メタ位ノ北海道ニ、
ツノ道廳ガアリマス、何モ府縣ノ併合ト云
フト荒立ツナラバ、唯其ノ上ニ道廳トカ州
廳ヲ置クコトガ、大東亞ニ迄日本ノ總テノ
格ガ上ッテ行ク、我々ノ立場ガソレダケ大所
高所ニ上ル以上ハ、是等ノ點モ私ハ悠久ナ
ル日本ノ將來ノ上ニ考ヘナケレバナラナイ、
唯茲ニ一ツノ挿話デアリマスガ、斯ウ云フ
問題ハ今迄ノ內閣デモ時々問題ニナッテ居
リマス、私ノ聞ク所デハ、原內閣デアリマ
スカ西園寺內閣デアリマスカ承知シマセヌ
ガ、此ノ問題ノ起ッタ時ニ、之ニ斷然贊成シ
テ立ッタノハ松田正久翁デアリマス、申ス迄
モナク、佐賀縣ト長崎縣ハ今日モアノ狹イ
所デ對立シテ居リマスガ、是等ハ今ノ府縣
ガ手ヲ握ルト云フコトニナレバ、眞ッ先キニ
其ノ手本トナルベキ場所デアリマス、其ノ
佐賀縣カラ選出サレタ松田正久翁ハ、斷然
ヤラウト主張サレタ一人者ト聞イテ居リマ
ス、ドウカ此ノ官廳ノ新體制、斯ウ云フ時
デナケレバナカ〓〓ヤレナイノデ、私ノ申
シタノハ、是非之ヲヤッテ行キタイトカドウ
トカ云フノデハナク、唯一例ヲ此處ニ申上
ゲタノデ、各方面ニ通ジテ此ノ際決行シテ
戴キタイト思ヒマス、以上ハ大體私ノ質問
ノ大要デアリマシタガ、尙最後ニ一言附加
ヘサシテ戴キマス、御承知ノ通リ、五·一五
事件、二·二六事件、支那事變、歐洲戰爭、
三國同盟、大東亞ノ建設、隨分此ノ日本ノ
立場ハ極メテ重大ニナッテ參リマシタガ、此
ノ際新體制ノ聲ガ起リ、政黨ノ解消ガアリ
マシタ、我々學生時分カラ藩閥政府ト鬪ッ
テ居ッタ此ノ政黨ノ過去ノ動キヲ思フト、
實ニ感慨無量デ、斯樣ナコトニナラウト云
フコトハ私共夢ニモ思ッテ居ラナカッタ、更
ニ又私共ノ非常ニ豫期ニ外レタコトハ、內
閣ノ政變デアリマス、現近衞內閣ハ確カ第
三十九代ノ內閣ト承知シテ居リマス、憲政
布カレテ五十年、玆ニ三十九代ト申シマス
ト、一代ガ先ヅ一箇年ト三箇月足ラズデア
リマス、デ其ノ短イ間ニモ、日〓戰爭ノ時
三、時ノ伊藤內閣ハ約四年ト思ヒマス、
次イデ日露戰爭ノ時ニハ、時ノ桂內閣ハ四
年ト七箇月デアリマス、一番長イ記錄ヲ殘
シテ居リマス、詰リ平時ニ於テ議會ト政府
ハ、或ハ不信任ノ決議或ハ豫算案ノ否決、
色々ナコトデ可ナリ政變ハ頻繁デアリマシ
タガ、一旦緩急アレバ擧國一致ノ實ヲ擧ゲテ、
時ノ內閣ハグット根ニ足ヲ据エテ其ノ時難
ニ當ッタノデアリマス、從ッテ第一次近衞內閣
ガ出來マシテ間モナク支那事變ガ起リマシ
タカラ、ソレ迄ハ可ナリ政變ガ頻繁デアッタ
ガ、今度ノ近衞內閣ニナッテ、少クトモ此ノ事
變ガ解決スル迄ハ近衞內閣ハ續クデアラウト
私共ハ豫期シテ居ッタノデアリマス、然ルニ
一昨年ノ春第一次ノ近衞內閣ガ辭メラレテ
カラ第二次ノ近衞內閣ニナル迄一年半バカ
リノ間ニ、詰リ第五囘目ト云フコトニナッ
テ現內閣ヲ見ルニ至ッタノデアリマス、此ノ
間無論民間デ政府ニ對シテ輿論ノ反對ガ
アッタト云フデモナク、又議會ガ豫算案ヲ否
決シタ、或ハ不信任ノ決議ヲシタト云フノ
デモナイニ拘ラズ、内閣ガ屢〓送ルト云フコ
トハ、如何ニ時局ガ重大デアルカ、今迄ト
マルデ違フノダ、ドウシテモ此ノ現狀デハ
イケナイノダト云フコトヲ現實ニ證明シテ
居ルノデアリマス、斯クノ如ク重大時局ニ
政變ノ屢〓起ルト云フコトハ、何トシテモ外
ニ侮リヲ招キ、內ハ國民ノ不安ヲ來スノミ
ナラズ、何ト申シテモ、我々ハ、上御一人
ニ對シ奉リ實ニ恐懼ノ外ハナイノデアリマ
ス、第二次ノ近衞內閣ハ、組閣ノ徑路ト云
ヒ、大本營トノ聯繫ト云ヒ、或ハ新體制、
或ハ大政翼贊會、著々ト在來ト違ッタ立場
デ此ノ時局ノ大キナ動キニ適從スベク、
今其ノ職ニ努メラレテ居ルノデアリマス、
デ私共ハ滅私奉公、國民總親和、或ハ一億
一心ト申シマスルガ、是ハナカ〓〓實情ヲ
見ルトマダ其ノ實ハ擧リ得ナイノデアリマ
ス、無論明治維新ノ幕末カラ西南ノ役ニ至
ル迄ノ徑路ヲ顧ミテモ、憲法ノ下デモ、流
血ノ慘ヲ見ズシテ幾多ノ革新ヲシヨウト云
フコトハ容易デハナイノデアリマス、極メ
テ困難デハアリマセウガ、今日ニ至エテテ
我々ハ好キ〓ヒモ何モニロッテ居レナイノデ
アリマス、ドウシタレバ此ノ時局ニ處シ得
ルカ、之ニ對シテ唯手ヲ拱イテ見テモ居ラ
レナイ、唯心配バカリシテ居ッテモ、是モ限
リハナイノデアリマスガ、萬民皆ソレ〓
其ノ力ニ應ジテ、所謂擧國一致ノ實ヲ擧ゲ
ナケレバナラナイト思ヒマスガ、ソレニハ
何ヨリモ中央政府ノ熱ト力ト云フモノデ重
點主義ニ依リ總テヲ卽決シテ行ク、更ニ官
廳先ヅ其ノ範ヲ示スト云フコトニ依ッテ、此
ノ大キナ任務ガ果サレテ行クノデハナイカ
ト思フノデアリマス、總理大臣ハ一死以テ奉
公ノ誠ヲ致ス覺悟デアルト云フコトヲ言明
サレテ居ルヤウニ承知シテ居リマスガ、其ノ
決意ガ一般ノ民衆ニ知ラレ、其ノ決意ニ依ッ
テ又官廳自體カラ其ノ實ガ擧ッテ行ケバ、玆
ニ一億一心ノ實ヲ見、國民モ皆足ヲ地ニ付
ケテ行キ、苦勞ヲセズニ明ルイ氣持デ愉快
ニ持久戰ニ對處シ得ベキカト存ジマス、甚
ダ意餘ッテ言葉足ラズ、又言葉モ言ヒ過ギテ
禮ヲ失シタコトガアラウカト思ヒマスガ、
ドウカ此ノ稀ナル機會ヲ利用サレマシテ、
私ハ営局ガ極メテ解リ易ク懇切ニ答辯アラ
ムコトヲ望ミマス、長ク〓聽ヲ煩シマシ
テ······(拍手)
〔國務大臣松岡洋右君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=16
-
017・松岡洋右
○國務大臣(松岡洋右君) 下村サンノ御質
疑ノ中デ、外交ニ關スル部分ニ付テ御答ヘ
致シマス、一般國際情勢、特ニ支那事變及
支那問題ニ付テ御述ニテリマシタ所ハ、全
然御同感デアリマス、旣ニ下村サンノ御指
摘ニナリマシタ通リノ方針デ政府ハ進ミツ
ツアルノデアリマス、ソレカラ方策ニ付テ御
質問ニナリマシタガ、一々ノ方策ニ付テハ述
ベル時機ニ達シテ居ラヌモノモアリマスシ、
又述べ得ナイモノモアルノデアリマスノデ、
其ノ點ハ御諒察ヲ願ヒタイノデアリマス、ガ
殊ニ御指摘ニナリマシタ工場其ノ他ノ管理、
是ハ私カラ說明申上ゲル迄モナク、戰鬪上實
ニ已ムヲ得ズシテ支那側ノ工場其ノ他ヲ管
理シタモノモゴザイマスガ、是ハ南京政府
む
ヲ中華民國ノ正蠶政府トシテ認メマスル可
ナリ以前ニ於キマシテ、我ガ皇軍ノ方デ既ニ
其ノ管理ノ必要ガ去ッタト認メラレタモノ
ハ、隨時支那側ニ返還ヲシテ居ルノデアリ
マス、時ニ持主ヲ搜シテモ申出ル者ガナイ
ト云フ場合ハ、寧ロ皇軍ノ方デ困ッテ居ルヤ
ウナ次第デアリマス、尙引續キ此ノ點ニ付
テハ飽ク迄中華民國人ノ物ハ、戰鬪行爲ニ
絕對必要トスルモノヲ除イテ、出來ルダケ
持主ニ返還シテ行キタイト云フ考デ步ヲ進
メテ居ルノデアリマス、又中華民國人ノ民生
問題ニ付テハ特ニ重キヲ置キマシテ、南京
政府ニ於テ有效適切ナル處置ヲ講ゼムコト
ヲ熱望シテ居ルノデアリマシテ、我ガ軍初
メ、帝國ノ支那ニ於ケル諸機關ハ、極力此
ノ問題ニ付テハ南京政府ヲ支援シ、又其ノ
政策ニ協力セムコトヲ期シテ居ルノデアリ
マス、之ヲ要スルニ旣ニ汪精衞氏ヲ首班ト
スル新政府ヲ民國ノ正統ナル中央政府トシ
テ認メマシタ以上、從來ニ比シテ更ニ一段
ノ力ヲ致シマシテ、一日モ速カニ一般民生
ノ安定ト、新政府ノ政治力ノ浸透ニ付キマ
シテ、帝國政府ハ飽ク迄支援協力ヲ期シテ
居ル次第デゴザイマス
〔國務大臣東條英機君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=17
-
018・東條英機
○國務大臣(東條英機君) 御答ヘ致シマス
前ニ、御斷リヲ致シマシテ置キタイト思ヒマ
スノハ、私先程宮中ニ參リマス關係上中席
ヲ致シマシタ、其ノ間ニ於キマスル御話ヲ
次官カラチヨット大筋ダケ承リマシタガ、細
カイ點ヲ聽キ漏シマシタノデ、或ハ申上ゲ
ルコトガ御尋ネニナルコトトピタット一致
セヌト云フコトモアルカトモ考ヘマスガ、
大體承リマシタコトニ付キマシテ御答ヲ申
上ゲマス、第一ガ、當初ニ御尋ネニナリマシ
タ此ノ支那事變ノ遂行ニ當ッテ、兩民族、卽
チ支那民族竝ニ日本ノ國民ト云フモノガ、
眞ニ親シク提携シテ行クト云フコトヲ考ヘ
テ行カナケレバナラヌノヂヤナイカ、サウ
云フ點ヲ能ク內地ノ國民ニ徹底ヲサセ、外
地ニ於ケル軍隊ノ末梢迄徹底サセル必要ガ
アルガ、其ノ點ハドウシテ居ルノカト云フ
御質問デアッタヤウニ記憶シテ居リマス、又
第二ノ點ト致シマシテ、滿洲或ハ戰地ニ於
ケル軍隊將兵ガ他ニ接スル場合ニ於テハ、
如何ナル心掛ヲ以テヤッテ居ルノカト云フコ
トモ御話中ニゴザイマシタ、之ヲ總括シテ
御答ヲ致シマス、御趣旨ハ全然御同感デゴ
ザイマス、凡ソ皇軍ハ言フ迄モナク勅諭ノ
御精神ヲ本旨ト致シマシテ、八紘一宇ノ大
義ニ基キマシテ有ラユル行動ヲ致シテ居リ
マス、皇軍ノ一カラ十マデノ行動ハ皆之ニ
歸結ヲ致シマス、現ニ戰地ニ於キマシテハ、
作戰的ニハ敵ヲ控ヘテ有ラユル手段ヲ盡シ
テ之ノ擊滅ヲ期シテ居リマス、併シナガラ
是ハ膺懲ノ爲ノ手段デアル、親心ヲ以テ子
ヲ折檻スル所ノ氣持デアリマシテ、之ガ參ッ
タト言ッタ場合ニ於テハ欣ンデ左手ヲ出シ
テ之ヲ抱クト云フ、抱キ上ゲテヤルト云フ
所ノ氣持デ居ルノデアリマス、是レ卽チ當
初ニ申上ゲマシタ御勅諭ノ精神デアリ、八
紘一字ノ御精神デアルト拜察スルノデアリ
マス、又此ノ日支事變其ノモノノ本質ニ鑑
ミマシテモ、當然然ルベキコトト考ヘテ居
リマス、更ニ之ヲ具體的ニ申シマスナラバ、
卽チ戰ヒト云フモノ、其ノ氣持ト云フモノ
ヲ具體的ニ申シマスルナラバ、皇軍ニ抗ス
ル所ノ敵ガアッタナラバ、烈々タル武威ヲ振
ツテ斷乎之ヲ排擊セヨ、假令峻嚴ノ威克ク敵
ヲ屈服セシムトモ、服スルハ擊タズ從フハ
慈シムノ德ニ缺クルアラバ、未ダ以テ全シ
トハ言ヒ難シ、武ハ驕ラズ仁ハ飾ラズ、自
ラ溢ルヽヲ以テ尊シトナス、是ハ過般戰陣訓
ト云フ名ニ於テ全軍ニ示達ヲ致シタノデア
リマスルガ、其ノ一節デゴザイマス、具體的
ノ考ヘト致シマシテハ、斯クノ如キ積リヲ
以テ行動ヲ致シテ居リマス、第一ノ問題ハ
ソレデ以テ終リマス、第二ハ、戰地ニ於ケ
ル壯丁ノ體格低下ヲ防止スル爲ニ、醫療衞
生等ニ關シテ軍ハ如何ニ留意ヲシテ居ル
カト云フ御尋ネガアッタヤウニ承リマス、今次
事變ノ作戰地域ガ、寒暑共ニ激シク極メテ非
衞生的ナル環境裡ニアルノデゴザイマシテ、
此ノ關係上、兵員ノ體力保持ニ付キマシテ
格別ノ考慮ヲ要スルモノガアルト云フコト
ハ御說ノ通リデゴザイマス、固ヨリ戰鬪ハ
生死ヲ超脫ヲシ、且有ラユル困苦缺乏ニ堪
ヘ、假令ソコニ飮マズ食ハズデモ、石ニ嚙
リ付イテデモ任務ノ達成ニ邁進スベキデア
ル、故ニ戰鬪間ノ給養ト云フコトハ之ヲ本
旨ト致シマスルノデ、十分トハ申シマセヌ
ガ、從ッテ戰鬪ノ中止、或ハ駐留間、斯ウ云
フ場合ニ於キマシテハ十分ニ此ノ間ヲ利用
シテ、極力體力ノ恢復ヲ圖ッテ、成ルベク現
地ノ生物等ヲ豐富ニ供給スルノ外、或ハ追
送ヲ活潑ニスル等ノ方法ニ依リマシテ、全
力ヲ擧ゲテ榮養ノ補給ニ遺憾ナカラシメテ
居ル所ノ次第デゴザイマス、特ニ近時健兵
對策、卽チ兵ヲ强クスル健兵對策ヲ、軍ト
致シマシテハ確立ヲシマシテ、殊ニ幹部ノ
衞生保育ニ對シマスル所ノ熱意ナリ、或
士氣ノ向上ヲ圖ッテ、其ノ完全ヲ期シツヽア
ルノデアリマス、又被服ニ付キマシテハ、
事變地各方面ノ氣候ノ狀況ニ應ズル如クソ
コニ細心ノ考慮ヲ拂ヒマスルト共ニ、修理
ナリ、洗濯ナリ、消毒ト云フヤウナ施設ヲ
十分充實ヲサセ、成ルベク充實ヲサセ、尙
又防疫トカ給水ト云フコトヲ擔任スル部隊
ニ依リマシテ、至嚴ナルソコニ防疫ヲ實施ス
ル外、常ニ無菌無毒ノ淨水ヲ供給スルト云
フコトニモ十分ナル注意ヲ拂ッテ居リマス、
又各種ノ豫防施設等ノ徹底ヲ圖リマシテ、
是等ニ依リマシテ細心ナル指導ノ下ニ惡疫
流行ヲ未然ニ防止シツヽアル狀況デゴザイ
マス、最近陣中醫學ノ飛躍的進步ト併セテ、
幸ニシテ現在迄ノ所ニ於キマシテハ、旣往
ノ戰役ノミナラズ、外國軍ニ比シマシテモ、
良好ナル衞生ノ成績ヲ收メツヽアル次第デ
ゴザイマス、唯玆ニ附言シテ申上ゲタイノ
ハ有ラユル方法ヲ盡シテ居リマスルガ、
此ノ問題ニ付キマシテハ、根本ハ國民體位
ノ向上ガ根本問題デゴザイマス、此ノ點ニ
付キマシテ、政府ハ十分ナル所ノ考慮ヲ
囘ラシ施策ヲ盡シテ居ルノデアリマス、
此ノ點モ併セテ附言ヲ致シテ置キマス、第
三點、國民ノ支那語知識ヲ向上セシムルコ
トハ、今後日滿支ノ親善、親和ニモ裨益ス
ル所ガ大デアル、現在我ガ國ノ多數ノ壯丁
バ戰地ニ於テ支那語ノ實地習得ニ便ナル
機會ニ置カレテ居ル、軍ニ於テハ此ノ點如
何ニ留意ヲシ、如何ナル現況ニアルカ、ト
云フ意味ノ御質問ト拜承致シマシタ、其ノ
點ニ付キマシテ御答ヲ致シマス、在滿、
在支ノ軍隊ニ於キマシテハ軍自體ノ任務
達成ノ見地ヨリ致シマスルモ、支那語〓育
ノ必要ヲ認メテ居ルノデゴザイマシテ、在
滿部隊ニ於キマシテハ特ニ此ノ點ニ意ヲ用
ヒマシテ、其ノ普及〓育ヲ實施シツヽゴザ
イマス、尙又在支部隊ニ於キマシテシテハ、
各師團ニ依ッテ異リマスルケレドモ、歸還時
ニ於テハ、將兵等モ〓ネ日用語ヲ辨ジ得ルバ
カリデハナクシテ、特ニ優秀ナル者ハ簡單
ナル通譯モ爲シ得ル程度ニ達シタル者モ相
當多數アルト云フヤウテ實情デゴザイマス、
第四ハ、陸軍ニ於ケル用語、漢字ノ整理、
簡易化ニ付テハドウ考ヘテ居ルノカト云フ
意味ノ點デゴザイマスルガ、軍隊〓育ニ於
キマシテ、直接戰鬪ニ影響ナイ事項ハ、努メ
テ之ガ簡易化ヲ園リマスルコトガ必要デア
ルト云フコトハ申ス迄モナイト考ヘマス、
是ガ爲兵ノ〓育ニ當リマシテ、難解ナル字
句用語等ハ努メテ之ヲ廢シマシテ、〓育能
率ノ向上ヲ圖リマスルト共ニ事務能率ノ敏
活ヲ期スルコトガ必要デアルト考ヘテ處置
致シテ居リマス、從ヒマシテ、軍用語、特
ニ兵器ノ名稱等ニアリマシテハ、陸軍省ヲ
中心ト致シマシテ、委員ヲ作ッテ、努メテ
此ノ標準語或ハ通俗語ヲ用ヒマシテ、尋
常小學卒業者ガ之ヲ讀ミ且之ヲ書キ得ル
ヲ目途ト致シマシテ、其ノ撰擇ヲ爲シ、
又其ノ使用ヲ制限致シテ居リマス、今後
標準ノ漢字字數ヲ更ニ制限致シマスルト共
ニ、片假名等ノ改善ヲ圖リマシテ、且又邦
文「タイプライター」等ヲモ戰場使用ニ便利
ナル如ク改善ヲシマシテ、ソコニ戰鬪敏活
化ノ一端ト致シタイト考ヘテ居ル次第デゴ
ザイマス、一般國民〓育ニアリマシテモ、
逐次本趣旨ノ改善ヲ圖ッテ實質的〓育ノ向
上ヲ圖ラムコトヲ希望シツヽアル次第デアリ
マス、之ヲ以チマシテ私ノ關係致シマスル
點ニ付キマシテノ答辯ヲ終リマス
〔國務大臣金光庸夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=18
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019・金光庸夫
○國務大臣(金光庸夫君) 下村君ノ御質疑
ニ御答ヘ申上ゲマス、只今下村君ヨリ人口
對策ニ對スル御造詣ノ深イ御高說ヲ拜聽致
シマシテ、大イニ得ル所ガアッタ次第デア
リマス、御高說ニ對シテハ全然御同感デゴ
ザイマス、高度國防國家體制ヲ整ヘテ、東
亞共榮圈ノ確立ヲ期スル爲ニハ、我ガ國ノ
人的資源ソ確保增强ヲ圖ラネバナラナイコ
トハ誠ニ御說ノ通リデゴザイマシテ政府ニ
於キマシテモ其ノ必要ヲ痛感致シマシテ、
先般閣議ニ於キマシテ、人口政策確立要綱
ヲ決定シマシタノデ、速カニ適切ナル對策
ヲ實施シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス、
人口ノ數ニ於ケル增强ハ、仰セノ如ク出生
ノ增加ト死亡ノ減少ト兩々相竝ンデ考〓ス
ベキモノデアリマスガ、出生增加ヲ阻害シテ
居リマス各種ノ原因ノ中デ、婚姻年齡ガ最
近顯著ニ遲レテ居ルコトニ對シマシテハ速カニ對
策ヲ實行致ス考デアリマス、死亡ノ減少ニ付
キマシテハ、是亦仰セノ如ク乳幼兒ノ死亡率
ノ多イノニ鑑ミマシテ、乳幼兒ノ檢診、保育施
設ノ普及ニ力ヲ注イデ參リマシタ、又我ガ
國ニ於ケル結核ニ因ル壯年時代ノ死亡率ノ
如キハ、歐米ニ比シテ四五倍ノ高率ニ上ッテ
居リマス程デ、從來結核豫防ニハ、多クノ
力ヲ注イデ相當ノ成績ヲ擧ゲテ居ルト存ジ
マスガ、今後一般ノ努力ヲ致シタイト存ジ
マス、又國土計畫ノ遂行ニ依ル人口ノ權成及
分布ノ合理化ヲ固ルコトモ必要ナルコトト
存ズルノデアリマシテ、大都市集中ノ抑割、
農村人口ノ確保等ニモ力ヲ注ギタイト存ジ
テ居ル次第デアリマス、要スルニ何ヨリモ
日本民族ハ悠久ニ發展スベキ民族デアルト
ノ自覺ト衿恃トヲ持ッテ、個人主義思想ヤ產
兒制限ヲ是認スル享樂的ノ風潮ヲ一掃致シ
マシテ、家ト民族トラ基調トスル思想ヲ確
立スルコトガ急務デアリマシテ、之ガ爲ニ
國民ノ信念、自覺ヲ喚起スル一大精神運動
ヲ展開シナケレバナラナイト存ズルノデア
リマス、次ニ滿支方面へノ移植民ノ體力、
精神力ニ付テ御懸念ガアラセラルヽヤウニ
伺ヒマシタガ、御承知ノ通リ內原ニ於ケル
訓練、其ノ他相當ノ準備ヲ致シ、其ノ成績
モ相當良好デアリマシテ、尙此ノ上調査〓
究モ進メテ居ル次第デアリマスカラ、左シ
テ御心配ニモ及ビマスマイト存ジマス、南
洋方面ニ對シテハ今後十分ノ〓究ヲ致シタ
イト存ジマス、次ニ外地、就中朝鮮、臺
灣ニ付テ申上ゲマス、朝鮮ノ增加率ハ人口
千人ニ付テ十七人、臺灣ハ二十五人、是ハ
出生率ト死亡減少率トヲ差引キマシク純增
加率デアリマシテ、內地ノ增加率ノ最近ノ
九人ニ比シテ相當ノ高率デアリマス、皇國
精神ノ昂揚モ十分行キ渡ッテ居ルヤウニ存
ジマス、內地人ノ移住餘力ハ左程覽富デハ
アリマセヌガ、技術ヤ職業等ノ種類カラ見
マシテ、之ガ聞發ノ爲ニ尙內地人ノ相當數
移住ハ可能デアルト存ジマス、先殼政府ニ
於キマシテ、決定ヲ致シマシタ人口政策確
立要綱ハ、內地人口ヲ主眼トシタモノデア
リマスガ、外地ヤ滿支、南洋方面ノ分布對
策ニ付キマシテモ、大體ノ腹案ハアリマス
ガ、尙此ノ上トモ調査〓究ヲ致シタイト存
ジマス、唯先住者トノ後妙ナ關係モアリマ
スノデ、立入ッタコトハ差控ヘタイト存ジマ
ス次ニ仰セノ如ク戰亂ノ終結後、國際移
民及人口會議等ガ開カレルコトアルベキハ
豫想シ得ルコトデアリマスノデ、之ニ對シ
テハ萬全ノ準備ヲ致シテ置カナケレバナラ
ナイト考ヘテ居リマス、御尋ノ調査〓究機
構ノ如キモ之ヲ整備致シマシテ、人口問題
ノ調査〓究ニ付テハ、統計局ニ於テモ、厚
生省ノ人口問題〓究所ニ於テモ、亦企畫院
ニ於テモソレ〓〓調査〓究シツヽアル所デ
アリマスガ、是等ノ間ノ關係ヲ調整整備致シ
マシテ、之ヲ充實スルコトニ關シテモ目下考
究中デゴザイマス、尙人口政策ノ企畫實施
ニ付テハ、厚生省ノ各關係局課ニ於テソレ
ゾレ當ッテ居リマスガ、之ヲ綜合シタル機構
ヲ目下考究中デアリマシテ、例ヘバ厚生省
內ニ於テモ機構ノ再編成ト併セテ人口局ノ
如キモ考慮致シテ居ル次第デアリマス、之
ヲ以テ御答ト致シマシス
〔國務大臣橋田邦彥君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=19
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020・橋田邦彦
○國務大臣(橋田邦彦君) 先刻ノ下村君ノ
御質問ニ對シテ御答辯申上ゲマス、國語竝
ニ支那語、竝ニソレ以外ノ外國語及科學振
興等ニ關スル御意見ニ對シマシテハ、全ク
同感デゴザイマシテ、從來トモ文部省ニ於
キマシテ旣ニ專變以前ヨリ、或ハ事變ニナ
リマシテカラ、其ノ方面ニ愈〓カヲ盡シテ參ッ
テ居ルノデゴザイマス、殊ニ强調サレマシ
タ國語ノ問題コソハ、御說ノ通リ最モ現下
重大ナル問題ト存ズルノデアリマシテ、此
ノ點ハ御趣旨ニ副フヤウ殊ニ考察ヲ十分ニ
シテ、一日モ早ク國語ノ整理統合ノ行ハレ
ムコトヲ目指シテ畫策致シタイト存ジテ居
リマス、支那語等ニ於キマシテモ、既ニ普
及等ニ力ヲ用ヒテ居リマスガ、是モ尙一層
力ヲ用ヒタイト存ジマス、外國語尊重ト云
フコトハ、外國ノ知識情勢ヲ獲得スル上ニ
於テ必要缺クベカラザルモノデアルコトハ
申ス迄モナイコトデゴザイマシテ、唯從來
ノ外國語習得ノ方法ヲ以テシテ、果シテ其
ノ目的ニ到達サレルカドウカト云フコト
ハ玆ニ問題ガアルト存ズルノデアリマ
シテ、外國語〓育ノ問題ハ殊ニ注意シテ
適當ナ方策ヲ樹テタイト存ジテ居ルノ
デアリマス、科學ノ振興ハ是モ亦現下
時局下ニ於テノミナラズ、國家百年ノ
大計ニ向ヒマシテ是非共必要ナコトデゴザ
イマスガ、其ノ際ニ、下村君カラモ御話ノ
アリマシタ通リ、所謂自然科學グケノ振興
ニ止マラズ、人文科學或ハ精神科學ノ振興
ヲモ同時ニ企圖シテ居ルノデゴザイマス、
殊ニ我ガ國ノ使命ト致シマシテ、世界ノ文
化ヲ集メテ集大成シナケレバナラテイ我々
ガ、外國ノ科學、文化ヲ出來ルダケ習得ス
ル爲ニ方策ヲ樹テナケレバナラヌコトハ勿
論ノコトデゴザイマス、併シナガラ事變以
來其ノ點〓ダ不十分ニシカ行ハレナイコト
ハ甚ダ遺憾ニ存ジテ居リマスケレドモ、其
ノ點ニ於キマシテモ極力出來ルダケノ方策
ヲ樹テマシテ、御趣旨ニ副フヤウニ致シタ
イト存ズル次第デアリマス、就キマシテ唯
一言此處デ申上ゲテ置キタイコトハ、國語
ノ問題、外國語ノ問題、或ハ科學振興ト云
フヤウナ問題ガ、唯所謂利世、效用、實利
ト云フ目的ノ爲ニダケ行ハレテハナラナイ
ト存ズル次第デゴザイマシテ、是等ノモノ
ガ一丸トナッテ我ガ國威ヲ宣揚シ、我ガ日本
精神ヲ海外ニ宣布スル爲ニ十分役立ツヤウ
ナ方策ノ下ニ行ハレナケレバナラヌト云フ
コトヲ考ヘテ居ル次第デゴザイマス、之ヲ
以テ御答ト致シマス
〔國務大臣公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=20
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021・近衞文麿
○國務大巨(公爵近衞文麿君) 第一ニハ、
新體制ノ趣旨ノ徹底ヲ缺ク憾ガナイカト云
フ御尋デゴザイマシタガ、此ノ點ハ私ト致
シマシテモ一應御同感デゴザイマス、今後
政府自ラ此ノ新體制ノ趣旨徹底ニ付キマシ
テ遺憾ナキヲ期シタイト存ジテ居リマス、
次ニ大政翼賛會ノ運營ニ付キマシテ御意見
ガゴザイマシタガ、是モ篤ト承リ置キマス、
御意見ノ程ヲ十分ニ參考ニ致シマシテ、翼
賛會ノ運營ノ改善ヲ致シテ參リタイト考ヘ
テ居リマス、次ニ官界ノ新體制ニ付キマシ
テハ、現內閣ノ最初ノ聲明ニモ揭ゲテ居リ
マスルノデアリマシテ、之ニ付キマシテハ
極力實現ヲ期スル覺悟デアリマス、尙只今
下村君ガ御演說ニナリマシタ事柄ハ、政府
ノ將來ノ施設ノ參考ニ資シテ參リタイト存
ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=21
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022・下村宏
○下村宏君 簡單デアリマスカラ此ノ席カ
ラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=22
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023・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=23
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024・下村宏
○下村宏君 只今總理大臣始メ閣僚各位ノ
御答辯ヲ得マシテ滿足ニ存ジマス、ドウ
カ本日ノ決議案ニアリマス通リ、是カラノ
國際事情ハ時々刻々ニ非常ニ動イテ參リマ
スカラ、勅語ノ御趣旨ヲ遵奉スルコトト、
廣ク苦言直言ヲ聽カレルコトト、毀譽褒貶
ノ外ニ立ツ、サウシタ心持デ此ノ時局ニ對
シテ自重自愛、君國ノ爲ニ奉公ノ誠意ヲ效
サレムコトヲ切望シマス、茲ニ感謝ト希望
トヲ申上ゲテ私ノ質問ヲ終リタイト存ジマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=24
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025・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ニテ休憩ヲ致
シマス、午後ハ二時ヨリ開會致シマス
午後零時四十八分休憩
午後二時七分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=25
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026・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報告ヲ致サセマ
ス
〔白木書記官朗讀〕
本日兵役法中改正法律案特別委員會ニ於テ
當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
委員長侯爵池田宣政君
副委員長子爵立見豐丸君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=26
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027・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ体憩前ニ
引續イテ會議ヲ開キマス、是ヨリ通〓順ニ
依リ水野甚次郞君ニ質疑ヲ御許シスル筈デ
ゴザイマスルガ、水野君ハ議席ニ居ラレマ
セヌカラ、質疑ノ通〓ヲ抛棄セラレタモノ
ト認メマス、赤池君ニ發言ヲ御許シシマス
〔赤池濃君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=27
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028・赤池濃
○赤池濃君 是ヨリ總理大臣ニ施政ニ關シ
テ御質問ヲ致シタイト思フノデアリマスル
ガ、ソレニ先ダッテ私ハ、平沼大臣ノ御就任
ニ對シテ、心カラノ喜ビヲ以テ御祝ヲ申上
ゲタイト思フノデアリマシテ、其ノ點御許
シヲ願ヒマス、平沼大臣ハ嘗テ總理大臣ノ
重任ヲ拜辭サレル際ニ、聲明書ヲ天下ニ發
シテ其ノ責任ヲ明カニシ、臣道實踐ノ範ヲ
示サレタノデアリマス、屢次奏問シタル所
ヲ變更シ、再ビ聖慮ヲ煩シ奉ルニ至ッタコト
ハ、誠ニ恐懼ニ堪ヘナイカラ闕下ニ伏シテ
謹ンデ骸骨ヲ乞フト云フ文デアリマス、是
レ程責任感ヲ以テ進退ヲ決シ、臣道ヲ實踐
シタ例シハナイノデアリマス、全天下ヲ擧
ゲテ齊シク讚美致シマシタノハ、決シテ偶然
デハアリマセヌ、蓋シ近來內閣ノ更迭ハ頻
繁ヲ極メテ居リマスルガ、其ノ退却ノ理由ガ
少シモ國民ニ分ラナイ、唯政策實行難ニ陷ッ
タ爲ダラウト推測スルノ外ハナイ狀況デア
リマス、九重ノ奥ハ雲深ク、總理以下各國
務大臣ガ何ヲ奏上シタカ、御下問ニ答ヘタ
カト云フコトハ一般ノ者ニハ知ル由モア
リマセヌガ、政綱又ハ政策ヲシテ、天下ニ發
表シタコトハ、必ズ奏土シ奉ッタモノト推測
致シマス、果シテ然ラバ歷代內閣ノ幾多ノ
聲明ハ、殘念デアリマスルシ遺憾デアリマ
スルケレドモ、〓ネ反古トナリ、其ノ施設
ノ多クハ失敗ニ歸シ、中ニハ民ヲ苦シメ、
國ヲ害シタモノモ少クアリマセヌ、然ルニ
罪ヲ關下ニ謝シテ骸骨ヲ乞ウタ者ハ、前後
獨リ平沼總理ノミト云フニ至リマシテハ、
責任感ノ衰ヘタコトハ今日ヨリ甚シイコト
ハナイト嘆ゼザルヲ得ナイノデアリマス、
噫政道何處ニアリヤ、眞ニ歎カハシイ至リ
デアリマス、近來政府ハ頻リニ國民ニ、或
ハ時局ヲ認識シロトカ、或ハ國民再組織ノ
必要ガアルトカト申サレマス、再組織ノ必
要モアッタナラバ、ナサレルモ宜シイト思ヒ
マス、併シナガラ再組織ト云フ所ノ意味ガ、
「新體制早ワカリ」、是ハ昨年ノ十月ノ週報
デアリマスガ、「新體制早ワカリ」ニ揭ゲタ
ヤウナモノトシマスナラバ、政府ノ解釋ハ
珍無類ノ解釋デアリマス、公私混淆スルノ
ミナラズ、我ガ國ノ精華、古來ノ美風ヲ無
視スルコト甚シイモノト思フノデアリマス、
古ノ人ハ言フ、「其ノ身正シカラザレバ令ス
ト雖モ行ハレズ、其ノ身正シケレバ令セズ
ト雖モ行ハル』ト、政府ハ國民ヲ責メル前
ニ先ヅ自ラ省ミラレル必要ハナイデアリマ
セウカ、大臣無責任ト云フ所ノ感ヲ社會カ
ラ一掃スルデナケレバ、民ハ信服スルモノ
デハアリマセヌ、命令ガ前後矛盾抵觸スル
ヤウナモノデアリマシタナラバ、民ハ從フ
所ニ惑フモノデアリマス、大臣ガ臣節ヲ動
ミ、臣道ヲ實踐サレタナラバ、自然下ハ之
ニ從ウテ風ヲ成スモノデアリマス、近衞總理
ハ近來頻リニ臣道實踐ヲ强調サルヽノミナ
ラズ、身ヲ以テ範ヲ示サレル所ノ平沼男爵
ヲ國務大臣ニ迎ヘラレマシタ、我々一億ノ
者ハ、平沼大臣ニ絕大ノ信用ヲ繋ギマシテ、
必ズヤ官界カラ無責任ノ風ヲ一掃サレルダ
ラウト期待シテ居ルノデアリマス、殊ニ平
沼大臣ノ廉直ハ必ズヤ信賞必罰ヲ厲行シテ、
以テ官公吏ノ責任ヲ匡スニ遺憾ノナイモノ
ト確信致シテ居ルノデアリマス、平沼大臣
ノ任ヤ實ニ重ク、其ノ望ヤ實ニ高シ、幸一
蹇々匪躬ノ誠ヲ效シテ、上ハ聖恩ニ應へ、
一億同胞ノ期待ニ副ハレムコトヲ切ニ希望
スル次第デアリマス、扨是ヨリ聊カ總理大
臣ニ對シテ質問ヲ致シタイト思ヒマス、是
ハ全ク已ムヲ得ザルニ出デタモノデアルコ
トヲ先ヅ御諒承ヲ願ヒタイト思フノデアリ
マス、私ハ事變以來、斯樣ナ重大ナル際ニ
於キマシテハ、局外者ハ遠慮シテ固クロヲ
愼ンデ、當局者ヲシテ自由ニ手腕ヲ揮ハセ
ルガ宜シイ、當局者ガ何等ノ掣肘ヲ受ケナ
イデ、渾身ノ力ヲ揮ッテ事ニ當ルヤウナ風ニ
シナケレバナラナイモノダト、サウ思ッテ居
リマシタモノデアリマシタカラ、時局以來
ハ一切沈默ヲ守ッテ今日ニ及ビマシタ、雄昨
年ノ議會ニ於キマシテ、祕密會ノ席上、或
問題ニ付テ二日ニ互ッテ質問ヲ試ミマシタガ、
是ハ全ク巳ムヲ得ナカッタ爲デアリマシテ、
而シテ其ノ當時痛論致シマシタコトハ、今日
愈〓ソレガ深刻ニナッテ來テ居ルニ拘ラズ、
依然トシテ政府ハ別ニ爲ス所ガナイト云フ
ノハ、誠ニ遺憾千萬デアリマス、斯樣ナル
信念ノ下ニ只管沈默ヲ守ッテ居ッタノデアリ
マスガ、不幸ニシテ今日ハ言論ノ取締ガ實
ニ嚴重ヲ極メテ居リマシテ、政府ノ政策ヲ
批判シタリ、其ノ施設ヲ論議スル如キコト
ハ一切許サレマセヌノデアリマス、僅カ
ニ許サレル所ハ、政府ヲ禮讚謳歌スルト云
フコトノミデアリマス、聖代ノ今日、此ノ
議會ヲ除イテハ正論ヲ唱ヘル場所ハ殆ドナ
イ、政府ハ殆ド忠言ヲ聽ク機會ガナイヤウ
ナ情勢デアリマス、民ノロヲ塞グコトノ度
ヲ過ゴシタナラバ、如何ナル事態ヲ生ズル
デアリマセウカ、實ニ測リ難キモノガアリ
マス、斯カルガ故ニ私ハ不肖ヲ顧ミズ、玆
ニ總理ノ所信ヲ伺ヒタイト思フ次第デアリ
マス、併シ事苟モ軍機ニ亙ルモノ、及ビ國
交ニ關スルモノニ付テハ此ノ際質問致シマ
セヌ、假令一億ノ同胞ガ齊シク心臟ヲ鳴ラ
シマシテ聽カムト欲シテ居リマシテモ、事
變處理ニ關スルコトハ一切伺ヒマセヌ、唯、
只管政府ノ當局者ガ良心ヨリ迸ル所ノ勇斷
果決ヲ以テ、有終ノ美ヲ濟サムコトヲ望ム
ノミデアリマス、「從ッテ質問ノ範圍ハ內
政上ノ一局部ニ止マルコトハ已ムヲ得ナイ
次第デアリマス、言往々率直ニ過ギマシ
テ、時ニ或ハ禮ヲ缺クコトガアルカモ知レ
マセヌガ、其ノ點ハ御容赦下サイマシテ、
唯丹心一片報國ノ誠ヲ以テスルト云フコト
ダケヲ御酌取ノ上ニ御答辯アラムコトヲ御
願ヒスル次第デアリマス、第一ニ御尋ネシ
タイコトハ、政府ハ昨年ノ十二月二十五日
ノ週報ニ於テ、企畫院ノ名ヲ以テ所謂新體
制ガ矢敗シタコトヲ公表サレマシタ、其ノ
理由トシテ、一ツハ官僚ノ統制技術ガ拙劣
デアッタコト、二ツニハ統制經濟其ノモノニ
根本的缺陷ガアッタト云フコトヲ、大膽率直
ニ言明サレタノデアリマス、果シテ然ラ
バ、技術拙劣ニシテ民衆ヲ苦シメ、國家ニ
大害ヲ與ヘタ所ノ官吏ヲ懲罰ニ附シタカ、
第二ハ根本的ニ缺陷ガアッタ此ノ新體制ヲ
立案シテ、國家ヲ危ウセシメタ所ノ官吏委
員ヲ懲罰ニ附シタカ、此二點ヲ伺ヒタイノ
デアリマス、以下少シク其ノ理由ヲ述ベマ
シテ御答辯ノ御參考ニ供シタイノデアリマ
ス、所謂新體制ヲ强行シタ結果ハドウデア
リマセウ、何萬トモ知レナイ多數······此ノ
數字ハ私ハ態ト差控ヘマシテ、何萬トモ知
レナイ所ノ多數ノ失業者ヲ出シマシタ、又
株ノ値下リダゲ見テ居ッテモ百數十億圓ト
カ言ハレテ居リマス、實ニ想像モサレナイ
數字デアリマシテ、凄絕慘絕身ノ毛モヨダ
ツバカリデアリマス、而シテ失業者ヲ、政
府ハ之ヲ轉業者ト言ハレテ居リマスケレド
干、實ハ失業者デアリマス、生計ノ手段方
法ヲ失ヒ餓ヲ待ツ失業者ガアルノデアリマ
ス、此ノ中ニハ、時局自然ノ推移ノ爲ニ失
業シタ者モアリマスガ、政府ノ官吏ノ强要ニ
依ッテ失業ヲ餘儀ナクサレタ者モアリマ
ス、殊ニ恐懼ニ堪ヘナイノハ陛下ノ赤子ガ
闇取引罪人トシテ處罰セラレマシテ、尊キ戶
籍ヲ汚シタコトデアリマス、而モ其ノ數ハ
日ニ〓〓增加シツヽアルニモ拘ラズ、政府
ハ此ノ上更ニ現行ノ刑罰ヲ以テ尙足ラナ
イトシテ、重刑嚴罰ヲ考慮シテ居ラレルト
云フ噂デアリマス、政府ハ天ヲ仰イデ嘆キ、
地ヲ叩イテ哭スル所ノ民ノ聲ヲ御聽キニ
ナリマセヌカ、日夜神佛ニ祈ツテ其ノ加護
ヲ求ムル所ノ民ノ悲シミヲ御存ジナイノデ
セウカ、而シテ此ノ悲哀ハ、法律ノ缺陷
ト官吏ノ失敗ノ結果デアツテ、全ク人爲ノ
災デアリマス、天災デモナク、又不可抗力
デナッタモノデモアリマセヌ、信賞必罰ハ官
紀ヲ維持スル所以、人ヲ害シ國ヲ危ウシタ
所ノ者ガ、平然職ニ在ルヤウデアッテハ、政
道ハ相立チマセス、民ハ常ニ罰セラレテ、役
人ハ毫モ問ハレナイト云フヤウナコトデアリ
マシタナラバ、決シテ是ハ國家ヲ泰山ノ安キ
ニ置ク所以デハナイト考ヘマス、政府ハ今
日迄之ニ對シテ何ヲナスッタカ、又將來何ト
ナサル御積リデアリマセウカ、御明答ヲ願
ヒタイノデアリマス、第二、昨年ノ十二月
二十五日ノ週報ニ於テ、政府ハ從來ノ新體
制ガ失敗シタカラ、新タニ經濟新體制ヲ制
定シテ、國內ノ全企業ヲ綜合統一シ、其ノ
全企業ノ運營ヲ一元的ニ統轄スルコトヲ公
表サレマシタ、而シテ之ヲ民間ニ割當テテ
國家ノ必要ノ下ニ經營サセルト云フコトデ
アリマス、「マルクス」主義者、共產主義者
ノ標榜スル所ノモノハ國家ニ依ル一元的
計畫經濟ノ實現デアリマス、國家ニ依ル
一元的經濟ノ實現デアリマス、國家ニ全
企業ヲ歸屬セシメテ、之ヲ一元的ニ運營
スルト云フノガ其ノ眼目デモアリ其ノ骨
子デアリマス、其ノ手段トシテ民有國營
ニスルカ、又ハ國有國營ニスルカト云フ
ガ如キコトニナッテハ、是ハ敢テ問フ所デ
ハアリマセヌ、又之ニ對スル爲ニ、暴力
革命ヲ行フコトモ、或ハ社會民主的「マルク
ス」主義ヲ以テスルト云フコトモ、ソレハ何
レデモ彼等ハ問フ所デハナイノデアリマ
ス、果シテ然ラバ、「マルクス」派ノ主張ト、
今囘ノ經濟新體制トハ非常ニ類似シテ居ル
モノデアリマス、我々ニハチヨット區別ガ付
カナイヤウデアリマス、政府ハ此ノ際、新體
制ハ「マルクス」派ノ共產主義トハ本質的ニ
違ッテ居ルモノデアル、所謂赤デナイト云フ
コトヲ、詳細明瞭ニ說明スル義務ガ御有リダ
ラウト思ヒマス、言フ迄モナク我ガ國ハ多
年「マルクス」派共產主義ヲ以テ、國家ヲ害
スルモノトシテ、又國體ニ副ハザルモノト
シテ嚴重ニ之ヲ取締ッテ來タノデアリマス、
之ニ依ッテ革命ヲ企テル者ハ勿論、最高學府
ニ於テ此ノ種ノ學說ヲ講ジタ者ヲモ檢擧シ
テ、以テ其ノ害毒ノ蔓延ヲ防イデ居ッタノ
デアリマス、從ツテ此ノ國家非常時ニ際シ
マシテ、最モ是等ノ取締ヲ嚴ニスルノガ肝
要デアル今日、赤ニ紛ラハシイト云フヤウ
ナモノニ對シテハ、最モ其ノ正體ヲ明カニ
シ、本質ヲ判然ナラシムル義務ガアルト思
ヒマス、故ニ此ノ點ニ關シテ政府ノ明瞭ナ
ル御說明ヲ願ヒタイノデアリマス、第三ニ
御尋ネシタイノハ、政府ハ、本年一月ノ週
報ニ於テ、翼贊會ノ政策局ハ、政府ノ現ニ
採リ上ゲテ居ル政策ト云フヨリモ、モット根
本的ナ恆久的重要國策ノ檢討ニ重點ヲ置
ク、ト發表サレマシタ、モウ一遍申上ゲマ
ス、翼贊會ノ政策局ハ、政府ノ現ニ採リ上
ゲテ居ル政策ト云フヨリモ、モット根本的ナ
恆久的重要國策ノ檢討ニ重點ヲ置イテ云々
ト、斯ウ發表ニナッタノデアリマス、此ノ意
味ハドウ云フコトデゴザイマセウカ、政府
ノ機關ガ、根本的ナ恆久的重要國策ヲ檢討
スル能力ガナイト、或ハ能力ガ不足シテ居
ルト云フコトカラシテ、翼贊會ヲシテ之ヲ
爲サシメルノデアリマセウカ、將又翼贊
會ノ政治能力ガ政府以上デアル爲ニ、斯
カル大任ヲ負ハセルノデアリマセウカ、
事ハ國務大臣ノ輔弼ノ責任ニ關スル重大
事デアリマスカラ、又我ガ政治機構ニ關ス
ル大問題デアリマスカラ、敢テ政府ノ御明
答ヲ求ムル次第デアリマス、他ニ色々御尋
ヲシタイコトモアリマスケレドモ、御答辯
ノ御都合モゴザイマセウカラシテ、取敢ズ
此ノ三點ニ付テ御明答ヲ伺フコトト致シマ
ス(拍手)
〔國務大臣公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=28
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029・近衞文麿
○國務大臣(公爵近衞文麿君) 只今赤池君
ヨリ、誠ニ憂國ノ至誠ニ基ク熱心ナル御質問
ガゴザイマシタ、之ニ對シテハ深ク敬意ヲ
表スル次第デアリマス、統制經濟ト云フコ
トニ付キマシテ、是迄ノ統制ガ失敗デアッタ
ト云フコトヲ週報ニ於テ認メテ居ル、然ル
ニ是迄ノ經濟統制ニ依ッテ國民ハドレ程苦
シメラレテ居ルカ、此ノ國民ノ犠牲ニ對シ
テ官吏ガ何等ノ責任ヲ執ラヌノハ甚ダ不都
合デハナイカト云フ御考ノヤウデアリマス、
是ハ私、此ノ週報ト云フモノヲ見テ居リマ
セヌカラ、詳シイコトハドウ云フ趣旨デサ
ウ云フコトガ書カレマシタカ、此處デチヨッ
ト御答辯ヲ致シ兼ネマスルガ、併シナガラ何
分此ノ物資ノ不足ノ際デアリマシテ、此ノ
物資ノ不足ヲ克服致シマシテ、軍需ノ充足
ヲ圖リ、又一面ニ於キマシテ國民生活ノ安
定ト云フコトモ考ヘナケレバナラヌト云フ
爲ニハ、ドウシテモ可ナリ强度ノ統制ヲ必
要トスルコトハ、是ハ已ムヲ得ナイノデア
リマス、而モ此ノ統制ト云フコトハ、今日
迄官吏ノ側ニ於キマシテモマダ經驗日尙淺
イノデアリマシテ、其ノ爲ニ隨分思ハザル
行キ過ギモゴザイマセウシ、行キ違ヒモゴ
ザイマセウシ、色々ト不行屆、行キ過ギ等ノ
事柄ガ各所ニ於テ行ハレテ居ルト云フコト
ハ、私モ耳ニ致シテ居ルノデアリマス、從ヒマシ
テ、之ニ付キマシテハ、政府ニ於キマシテモ其ノ
責任ヲ痛感致シテ居リマス、今後モ此ノ統制ノ
行キ過ギ、或ハ行キ違ヒト云フコトニ付キ
マシテハ、嚴ニ官吏ノ行キ方ヲ戒飭致シマ
シテ、萬遺憾ナキヲ期シタイト思フノデア
リマス、人事ニ付キマシテハ、所謂信賞必
罰、官紀ノ振肅ヲ圖リマシテ、出來ルダケ
御期待ニ副ヒタイト考へテ居ル次第デア
リマス、經濟新體制ニ於テハ一元的計畫的
統制經濟ト云フコトヲ唱ヘテ居ルガ、見疋
所謂「マルキシズム」ト何等變リハナイデハ
ナイカト云フヤウナ御話ニ承ッテ居リマス、
色々新體制ト稱セラレル中ニハ、其ノ用語
等ニ於キマシテ、偶々「マルキシズム」等ガ
用ヒテ居リマスル用語ト一致シテ居ルト云
フヤウナコトモゴザイマセウガ、決シテ政
府ト致シマシテ此ノ新體制ハ、「マルキシズ
ム」或ハ「ソヴィエト·ロシヤ」ノ機構ヲ模倣
スルト云フヤウナ考ハナイノデアリマス、
此ノ新體制ノ根本理念ハ、先日此ノ議場ニ
於テモ申述ベマシタヤウニ、飽ク迄モ日本
精神ニ立脚シタモノデナケレバナラヌト信
ズルノデアリマシテ、此ノ新體制ニ依ッテ
我ガ國體ノ本義ヲ益〓發揚シ、所謂臣道實踐
ノ實ヲ擧ゲルト云フコトニ主眼點ヲ置イテ
居ルノデアリマス、何ト申シマシテモ、今
日最大ノ急務ハ國防ノ充實、之ニ伴フ生產
力ノ擴充ト云フコトデアリマス、如何ニシ
テ生產力ヲ擴充スルカ、此ノ爲ニ最モ
實際的ノ見地カラ考ヘマシテ、如何ニ
スルコトガ今日ノ此ノ時局ヲ突破スルニ
最善ナル方途デアリ、最善ナル生產擴充ノ
途デアルカト云フコトカラ出發スルノデア
リマシテ、所謂「イデオロギー」ト云フガ如
キハ、是ハ二ノ次デアリマス、從ヒマシ
テ生產力擴充ノ爲ニ必要ナル革新デアルナ
ラバ、是ハ革新ヲヤラナケレバナラヌ、併
シ所謂革新ノ爲ノ革新ト云フガ如キコトハ、
是ハ此ノ際ヤルベキコトデナイ、斯樣ニ考
ヘテ居ルノデアリマス、尙又御尋ニ依リマ
シテ御答ヘ致シマス
〔赤池濃君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=29
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030・赤池濃
○赤池濃君 只今總理大臣ヨリ御答辯ガア
リマシテ、總理大臣ノ御心持ハ大體諒承ス
ルコトガ出來マシタノデアリマスルガ、私
ガ御尋ネシタ所ノ三點ニ付キマシテハ、不
幸ニシテ第一點ノ半分ヲ除クノ外、第二點、
第三點ニ付テハ御答辯ガアリマセヌ、第
一點ニ付キマシテハ、信賞必罰ニ依ッテ官
吏ヲ戒飭スルト云フ御話デアリマシテ、私
ハ其ノ程度デハ濟ムベキモノデアルカドウ
カ、更ニ一考ヲ願ハナケレバナラヌモノデ
ハナイカト云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリ
さく、ソレカラ第二、第三ノコトニ付キマ
シテハ、御心持ハ分リマシタケレドモ、「マ
ルクス」派ト云フモノガドウ云フモノデア
ルカ、又我ガ國ガ數年來、或ハ十數年來、
之ガ爲ニドノ位惱マサレ、之ガ取締ニ付テ
苦心シテ居ッタカト云フコトヲ御考ヘ下サッ
タナラバ、之ニ類似スルヤウナモノニ對シ
テハ、何處迄モ是ハ「マルキシズム」デナイノ
ダ、此ノ點ガ違フノダ、ソレダカラオ前達
ハ安心シテ居レ、斯ウ云フヤウナコトヲハッ
キリ仰シャラナイト國民ハ安心ガ出來マ
セヌ、兎ニ角今迄週報ニ現ハレタ所ノモノ、
或ハ新體制トシテ其ノ當時ノ新聞雜誌ニ現
ハレタモノヲ見マスルト云フト、ドウモ我
我ニハ「マルクス」派ノ主義ト、差ハドノ位
デアルカト云フコトニ付テ、幾多ノ惑ヒガ
アルノデアリマスカラシテ、此ノ點ニ付キ
マシテハ、モウ少シ明瞭ニ御說明ヲ願ヒタ
イノデアリマス、ソレカラ第三ノ問題ニ付
キマシテハ、私ハ是ハ容易ナラザル問題ダト
思フノデアリマシテ、翼贊會ガドウ云フ地
位ニ立ッテ居ルモノデアルカ、政府トノ關
係ガドウ云フモノデアルカト云フコトニ付
テ、モット突込ンダ所ノ御說明ヲ願ヒタイノ
デアリマス
〔國務大臣公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=30
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031・近衞文麿
○國務大臣(公爵近衞文麿君) ドウモ私ノ
御答ガ甚ダ不十分デアリマシテ恐縮ニ存ジ
マス、只今仰セラレマシタ第一一ノ點ニ對ス
ル御答ト致シマシテ、政府ノ考ヘテ居リマ
スル此ノ所謂經濟新體制ト云フモノノ目的
ハ如何ナル所ニアルカト云フコトニ付キマ
シテ、大體ノ輪郭ヲ申上ゲテ置キマス、ソ
レニ依リマシテ「マルキシズム」ト云フヤウ
ナモノト如何ニ異ルカト云フコトハ、自ラ
御諒解ガ戴ケルト思フノデアリマス、此ノ
内外非常ノ時局ヲ克服シテ參リマスル爲ニ
ハ巨額ナル物資ト又莫大ナル人力ヲ必要ト
スルコトハ申ス迄モナイノデアリマス、
此ノ際、此ノ限リアル物資、限リアル人力
ヲ以テ此ノ必要ニ應ジマスルガ爲ニハ、總
テノ人力、物資ヲシテ其ノ最大能率ヲ發揮
セシメテ、サウシテ國防目的ニ向ツテ、之ヲ
重點ニ集中活用致シマシテ、國家經濟ノ總力
ヲ擧ゲテ此ノ難局ノ突破ニ努メナケレバナ
ラナイノデアリマシテ、經濟新體制ノ目的
トスル所モ玆ニアルノデアリマス、ソレデ然ラ
バ其ノ内容ハドウ云フコトカト申シマスル
ト、只今申述ベマシタヤウナル目的ヲ達成
スルガ爲ニハ、第一ニ國家經濟ノ色々ナ部
門ニ屬シマスル企業ヲシテ、企業ノ公益性
ト云フモノノ自覺ノ下ニ、其ノ自主性ヲ保
持シテ、積極的ナル創意ト努力トヲ十二分
ニ盡シテ、各自ノ最大能率ヲ發揮セシムル
ト云フコトガ必要デアルノデアリマス、次
ニ同一重要生產部門ニ屬スル企業ハ、其ノ
運營ニ付キマシテ相互ニ密接ニ協力聯繫致
シマシテ、有機的一體トナッテ生產能力ノ
昂揚ニ努ムベキ組織ヲ整ヘナケレバナラヌ
ノデアリマス、而シテ此ノ組織ハ、主トシ
テ重要ナル產業部門ニ付キマシテ、緊急ナ
ルモノカラ必要ニ應ジテ逐次之ヲ實施スル
ト云フコトニ致サウト云フノデアリマス、
第三ニハ、政府ニ於キマシテハ內外諸般ノ
情勢ニ應ジテ、經濟ノ各部門ニ亙ル綜合的
ノ計畫ヲ樹立致シマシテ、之ニ基イテ物資、
勞務、資金等ニ付キマシテ、國家目的ニ卽
シテ其ノ總力ヲ發揮セシムルヤウニ適切ナ
ル配分ヲ行ハナケレバナラナイノデアリマ
ス、尙又經濟新體制ノ運營ニ當リマシテハ、
官民ハ單ナル監督、被監督ト云フヤウナ對
立關係カラ脫却致シマシテ、官民各〓其ノ
分ニ應ジテ生產增强ト云フ此ノ目的ノ達成
ニ進ムベキコトニ重點ヲ置イテ居ルノデア
リマス、是ガ爲具體的ニハ、第一ニハ各企
業ノ自主的ノ活動ニ期待スルト共ニ、各企
業ヲシテ國家經濟ニ於ケル其ノ公益的職責
ヲ自覺セシムル必要ガアルノデアリマス、
第二ニハ官廳ノ指導監督ト云フコトハ是
ハ大綱ニ止メ、經濟ノ運營ト云フモノヲ民
間ノ團體竝ニ各企業ノ活動ニ俟ツト云フ
コトガ本旨デアリマス、第三ニ、政府ノ
經濟計畫ノ設定ニ當リマシテモ、實際ノ運
營擔當者ノ意嚮ヲ之ニ參畫セシムルト云フ
コトデアリマス、斯ウ云フ方途ヲ講ジマシ
テ、官民一致、無用ノ摩擦ガ生ズルコトヲ
出來ルダケ避ケマシテ、相携ヘテ之ニ當ラ
ムトスルモノデアリマス、ソレカラ公益優
先ト云フ言葉ヲ使ッテ居リマスルガ、之ニ付
キマシテモ色々誤解ガアルヤウデアリマス
ルガ、公益優先ト云フコトハ私益ヲ認メナ
イト云フコトデモナケレバ、又固ヨリ利潤
ヲ否定スルモノデモアリマセヌ、此ノ點ハ
先般發表致シマシタ經濟新體制確立要綱ニ
於キマシテモ明カニ示シテ居ルノデアリマ
ス、經濟新體制ニ於キマシテハ、各企業ガ
其ノ自主的責任ニ於キマシテ運營セラレ、
十分ノ創意ト工夫トヲ盡シマシテ生產ノ增
强ニ努メマシテ、サウシテ利潤ノ增加ヲ圖
ルト云フコトヲ期待シテ居ルノデアリマス、
併シナガラ利益ノ追求ト云フコトヲ最高至
上ノ目的トシテ之ニ專念シテ他ヲ顧ミナイ
ト云フガ如キコトハ、決シテ許サルベキコ
トデハナイト思フノデアリマス、各企業者
ハ、其ノ企業ノ運營ニ當リマシテハ、常ニ
公益的責任ヲ自覺シテ、其ノ企業活動ニ依ツ
テ國家ノ爲ニ御奉公スルト云フコトガ、其ノ
最高ノ目的トシナケレバナラヌト考ヘマス、
特ニ我ガ國現下ノ事態ニ於キマシテハ、此ノ
點ヲ强ク要請サレテ居ルト思ヒマス、更ニ又
今囘ノ經濟新體制ノ趣旨ノ如ク、經濟ノ運營
ニ付キマシテハ、企業ノ自主的活動ヲ尊重
シテ、官ノ指導監督ハ大綱ニ止メ、綜合的
經濟計畫ノ樹立ニ當リマシテモ、成ルベク
民間企業者ノ意嚮ヲ參畫セシメマシテ、此
ノ點ニ於テ一層之ヲ强調スル必要ガアルト
思フノデアリマス、第二ノ御尋ニ付キマシ
テハ之ヲ以テ御答ト致シマス、次ニ翼贊會
ノコトニ付キマシテ御尋ガゴザイマシタ
ガ、先程赤池サンノ御讀ミニナリマシタ週
報ハ、私ハ讀ンデ居リマセヌガ、是ハ翼贊
會ガ何カ或政策ヲ考ヘ、其ノ政策ヲ翼賛會
ノ力ニ依ッテ政府ニ强要スルト云フヤウナ
風ニ御讀ミニナッテ居ルヤウニ拜聽致シタ
ノデアリマスガ、翼賛會ト云フモノハ、決
シテ斯カル性質ノモノデハナイノデアリマ
ス、翼贊會ハ屢、申述ベマシタヤウニ、所謂
上意下達、下意上達ノ機關デアリマシテ、
翼贊會自身政策ヲ或ハ樹立シ、或ハ政策ヲ
實行スルモノデハナイノデアリマス、其ノ
點ガ政黨ト違フ所デアリマシテ、政黨ト云
フモノハ獨自ノ政治的意見ヲ持ッテ行動ス
ル所ノ團體デアリマス、翼贊會ハ自ラ政策
ヲ決定シ其ノ政策ニ依ッテ行動スルノデハ
ナイノデアリマス、政府ノ定メマシタル政
策ヲ國民ニ徹底セシムルヤウニ政府ト協力
スル、是ガ上意下達デアリマス、又民間ニ
於ケル或ハ希望或ハ不平、是等ヲ調査〓究
致シマシテ、之ヲ政府ニ傳ヘテ政府ガ政策
ヲ立テル場合ノ參考ニ資スルト云フ、所謂
下意上達、此ノ點ニ於キマシテ政府ノ政策
樹立ノ參考ニハナリマセウガ、翼贊會自身
ガ政府ニ强要シテ、或政策ヲ實行セシムル
ト云フガ如キコトハ絕對ニナイノデアリマ
ス、此ノ點ニ付キマシテハ翼贊會ノ性質ニ
鑑ミマシテ、能ク御了承ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス
〔赤池濃君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=31
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032・赤池濃
○赤池濃君 只今總理閣下ヨリ誠意ヲ御籠
メニナッタ所ノ御答辯ヲ承リマシテ、御心持
ハ分リマシタノデアリマス、御心持ハ分リ
マシタケレドモ、問題ノ重點ハ依然トシテ
矢張リ私ニハ解シ兼ネルノデアリマス、水
ヲ「コップ」ニ盛ラウガ德利ニ入レヨウガ、水
ニ於テ變リハナイノデアリマス、「マルク
ス」派ガドウ云フモノデアルカ、卽チ國家ノ
經營ニ於テ一元的ニ綜合的ニ計畫經濟ヲス
ルト云フコトガ「マルクス」ノ本體デアリマ
シタナラバ、ソレハドウ云フ風ノモノヲ容
レ物ニ入レヨウト、何カシヨウト、其ノ本
體ハ私ハ變ラナイト思フノデアリマス、今
總理閣下カラシテ運用ニ關スル所ノ御心持
ハ承ッタノデアリマスルガ、然ラバ新體制
デ考ヘテ居ルコトトハ本質的ニ何處ガ違フカ、
本質的ニ何處ガ違フカト云フコトニ付キマ
シテハ、我々ハ了解スルコトガ出來ナイノ
デアリマシテ、矢張リ「マルクス」ト云フモ
ノガ、何處カニ臭ヒガシテ居ルンヂヤナイ
カト云フコトノ疑ハ多分ニ拔ケナイノデア
リマス、何トカ此ノ點ハモウ少シハッキリ御
話ニナラヌト云フト、天下ニ惑ヒヲ懷ク者ガ
尠クナイト思フノデアリマス、確信ヲ以テ事
ヲ遂行スルト、疑ヒナガラヤルノトニ於テ
ハ、熱意ガ違フノデアリマス、成績モ自ラ違フ
ノデアリマス、苟モ世間ニ疑惑ヲ懷カセル
ヤウナモノデアリマシタナラバ、ドウシタ
所ガ本當ニ魂ヲ打込ンデ眞劍ニ遂行スルコ
トハ出來ナイノデアリマスルカラシテ、政
府ガ新體制ヲ實行爲サルナラバ、爲サルヤ
ウナ風ニ、モット御心構ヘヲ御決メニナル
必要ガアリハシナイカ、此ノ點ハ吳々モ私
ハ御願ヒスルノデアリマス、ソレカラ尙
自主的々々々ト仰シヤイマスケレドモ、私共
ハ今囘ノ經濟新體制ノ要綱ヲ見タリ、若シク
ハ此處ニアリマスル所ノ週報ノ色々ノ說
明ヲ見ル度ニ、尙疑ヲ增シマスノハ、經濟
要綱ニ於テ、今囘ノコトハ民有民營ヲ以テ
本體トスルト云フコトガ書イテアリマス、
ソレカラ又企業者ヲシテ其ノ創意ト責任ト
ニ於テ當ラセルンダト云フコトモ謳ッテア
マリス、若シモ民有民營ガ本體デアルト、
而シテ企業者ガ創意ト責任トヲ以テヤルト
云フコトニナリマシタナラバ、從來ノ企業
ト何處ガ遠フ所ガアルカ、民有ト云フ言葉
トカ、創意ト云フ言葉トカ、若シクハ責任
ト云フ言葉ガ、從來ト用法ノ違フモノデア
ルナラ格別デアリマス、之ヲ違ッタト云フコ
トヲ言ハナイ以上、從來ノ用法ニ付テ考へ
テ見マスルト、從來ト何處ガ違フカ、サウ
スルト卽チ從來通リヤッテ宜イヂヤナイカ
ト云フコトニナルデアリマセウ、而シテサ
ウ云フコトヲ謳ヒナガラ、一方ニ於テハ生
產ヲスル時分ニ、生產ノ原料モ當テガハレ、
勞力モ政府ガ皆割當テテサウシテヤラセル、
企業者ハ割當テラレタ所ノ範圍內ニ於テノ
ミヤルト云フコトヲ週報ニ於テ繰返シ謳ツ
テアルノデアリマス、卽チ尙言フノハ、從來
ミタイナ風ノ、企業家ガ其ノ自己ノ目的ヲ
以テヤッテハイケナインダ、自己ノ目的ヲ
以テヤッテハイケナインダ、民有民營ト云フ
コトヲ言ヒナガラ、自己ノ目的ヲ以テヤッ
テハイケナインダ、ソレカラ創意、責任
ト言ヒナガラ、政府カラ原料モ當テガハ
レ、勞力モ當テガハレ、ヤリ方モスッカリ
指圖サレテ居ッテ、此ノ通リヤレト言ッテ
拔キ差シナラヌヤウニ命ジラレテ居ッテ、ソ
コニ判意ト責任ガ何處ニ出マセウカ、名前
ハ謳ッテアリマスガ、實際ニ於テハ、全ク限
定サレタ所謂機械トシテ働ク外ナイヤウナ
風ノ組織ニナッテ居ルノデアリマス、之ガ所
謂計晝經濟デアリマシテ、私共疑ッテ居ルノ
ハソコニアルノデアリマス、總テ當テガッタ
通リデアル、當テガハレタ通リヤル、其ノ
方法モ何モ絶テ當テガッタ通リデアッテ、玆ニ
創意ト云フコトハ何處ニアリマセウカ、要
スルニ創意トカ責任トカ云フコトハ、美文
麗句トシテ形容シタニ過ギナイコトニ相成ッ
テ居ルノデアリマス、先程カラ總理ニ於テ
ノ御心持ハ分リマシタガ、併シ不幸ニシテ
御心持ハ要綱ナリ、或ハ週報ニ傳ハッテ居ラヌ
ノデアリマス、若シモ總理ノ御話ノヤウデアッ
タナラバ、此ノ週報ナリ總テノ發表ヲ御取消
ニナリマシテ、是ハ斯ウダトハッキリ御示シ
ニナラナケレバ、天下ハ大イニ惑ツテ居リマ
ス、御取消ニナリマスカドウデアリマスカ、
責任ト云フコトニ付テモ盛ンニ言ヒマスケ
レドモ、是ハ普通ノ觀念ニ於キマシテハ
一切ノ計畫ヲ立ッテソレヲ命令シタ者ハ責
任者デアルノデアリマス、チヤント命令ヲ
受ケテ其ノ範圍ヲ一步モ出ルコトノ出來ナ
イト云フ風ノ受命者ガ責任ヲ持ツト云フコ
トハ、先ヅナイト思フノデアリマス、ソレハ
要スルニ機被デアリマス、其ノ人間ニ責任
ヲ持タセルト云フコトハ、是ハ私ハ甚ダヲ
カシナコトデアルト思フ、此ノ新體制ノ要
綱ヲ見マシテモ、直覺的ニ閃イタ所ノ問題
ハソレデアル、企業者モ殆ド何等ノ意思ヲ
挾ム餘地ハナイ、斯ウ云フ情勢デアッテ、
色々ナ創意トカ若シクハ責任トカ文字ハ飾
ラレマスガ、是ハ働ク餘地ガナイヤウデア
ル、所謂其ノヤリ方ト云フモノハ、「マルク
ス」派ノヤリ方ト殆ド違ハナイヤウニ思フノ
デアリマス、是デ宜イデアリマセウカ、閣
下ノ御意思ハ分リマシタガ、サウダッタナ
ラバモット之ヲ變ヘル必要ハアリマセヌ
カ、就中週報ノ書キ方ハ餘程訂正爲サラヌ
ト云フト、少シモサウ云フヤウナ風ノ御考
ハ實行出來ナカラウト思フ、ソレカラ偶、〓
翼贊會ノコトニ付キマシテ御話ガアリマシ
ク、紀理閣下ハ一月ノ週報ヲ御覽ニナラナ
イト云フコトデアリマスルカラシデ、是ハ
更ニ御覽ニナッテモウ一遍御考ヘ直シヲ願
ヒタイト思フノデアリマス、此處ニ週報ニ
書イテアリマスコトハ、決シテ唯ノ希望ミ
タイノモノデハアリマセヌノデ、一々此處
ニ組織部ハドウデアルトカ、政策局ハドウ
デアルトカ、チヤント企畫局、議會局ハド
ウデアルトカ、項目ヲ擧ゲテ書イテ、其ノ
中ニ特ニ斯ウ云フコトガ書イテアリマス、
之ヲ見マスルト云フト、政策局ニ於テハ何
カ大キナ事ヲ考ヘテ居ルト云フコトヲ疑ハ
ザルヲ得ナイノデアリマス、私新體制ノ
翼贊會ノ綱領、規則ミタヤウナモノガ發表
サレマシタ時ニ於テ、私ハ「ソヴィエト」政府
ニ於ケル所ノ政府、共產黨、ソレノ關係ヲ
見マシタカラシテ、ハット考ヘタコトガア
ルノデアリマス、無論形ニ於テハ大分似テ居
リマスカラ·····精神ガ違ッテ居ルコトハ言フ
迄モアリマセヌガ、我ガ國ハ皇道翼贊ヲ主ト
スル所デアリマスルシ、向フニ於テハ革命ヲ····
「マルキシズム」ニ於ケルモノデアリマスカラ、
此ノ精神ニ於テハ全ク違フモノデアルト云
フコトハ、皆サンモ御承知デアリマセウ、
併シナガラ何ゾ其ノ形ニ於テ相似タルノ甚
ダシキヤ、是ハ閣下ハ十分御承知デアラウ
ト思ヒマスガ、「ソ」聯ニ於キマシテハ、國
家ハ黨ニ從屬スト云フ建前ニナッテ居リマ
シテ、黨ガ國家ヲ支配スル譯デアリマス、
是レアルガ故ニ、共產黨ノ黨首デアル所ノ
「スターリン」ガ「クレムリン」宮ノ奧深ク入ッ
テ居ッテ、政府ニ指圖スル譯デアリマス、
其ノ組織ガ、玆ニ中央會ナルモノガアッテ、
其ノ下ニ監督局トカ云フモノガアリマシテ、
其ノ下ニ色々ノ、監督局ガアリマスルシ
〔副議長候爵佐佐木行忠君議長席ニ著
乞
政策局ガアリマスルシ、企畫局ガアリマス
ルシ、是ガ丁度今度ノ翼贊會ノ組織ト頗ル
似テ居ルノデアリマス、翼賛會ノ中央本部
ノコトヲ「スターリン」ノ所ニ當テ嵌メテ來
ル、其ノ下ニアル組織部、政治部ヲ直グ當
テ嵌メテ來ル、組織ハ全ク同ジデアリマ
ス、何デ斯樣ナ風ニ相類似シタルモノヲ御
作リニナッタカト私ハ思フノデアリマス、而
シテ「ロシア」ニ於テハ、政府ト云フモノハ
丁度我ガ國ノ翼贊會ニ於ケル所ノ協力會議
ニ當ルヤウニナッテ居ルノデアリマス、卽チ
政府ハ黨ニ從屬スルト云フコトガ表看板ニ
ナッテ居ルノデアリマスカラ、丁度政府ガ此
ノ通リニナッテ居ル、協力會議ト甚ダ相類似
スル形ニナッテ居ル、ソレカラ其ノ下ノ方ニ
區々ニ分レテ居リマスガ、之ヲ日本風ニ譯
シマシタナラバ、或ハ內政部トカ財政部ト
カ靑年部トカ訓練部トカ皆其ノ通リニナツ
テ來ルノデアリマス、私ハ何デ斯樣ナ風ニ
相似タル組織ヲ御採リニナッタカト云フコ
トヲ先ツ疑ッテ居ルノデアリマス、然シテサウ
思ッテ見マスルト云フト、此ノ政策局ニ於テ
斯ウ云フヤウナコトヲ翼賛會ガ宣言シテ居ル、
此ノ文字ハ輕々ニ私ハ看過スベキ文字デハ
ナイト思フノデアリマス、翼贊會ノ組織カ
ラ見マスルト、私ハ翼贊會ト此ノ「ソ」聯ノ組
織ヲ見マシテカラシテ、精神ハ全ク違ッテ居
ルコトハ言フ迄モナイガ、形ハ似テ居ル、同
時ニ形ガ似テ居ルト云フコトハ思想的ニ何
カ影響ヲ受ケテ居リハシナイカ、或ハ暗示
ヲ受ケテ居リハシナイカト云フ疑ガアリマ
ス、而シテ政策局ガ「ロシア」ノ中心デアル
ノデ、「ロシア」ノ政治ノ中心デアルト云フ
コトヲ思ヒマシタ時ニ、盛ニ翼賛會ニ於テ
高度ノ政治力ヲ主張シテ居ルノデアリマ
ス、高度ノ政治力ガ欲シイト云フコトヲ要
求シテ居ルノデアリマス、此ノ聲ト云フモ
ノハ、唯サウ云フ形ダケナモンダ、別ニ他
意ガナイノダト云フコトデ、ソレダケデ以
テ看過スルコトガ出來ルカドウカ深ク疑ヒ
ツヽ又大イニ憂慮スル譯デアリマス、之二
反シテ一方「ドイツ」ノ組織カラ見マスルト
云フト、「ドイツ」ノ組織ニ於テハ御承知ノ
通リ、初メ「ヒットラー」ハ「ナチス」ヲ提ゲ
テ、或ハ「ナチス」ニ依ッテ天下ヲ取ッタノデ
アリマスケレドモ、一旦政權ヲ執ルヤ、黨
ソ人間ヲシテ政治ニ容喙ヲサセハシナイ、
所謂黨ハ國家ニ融ケ込ム、「ツェルシュメル
ツェン」スルンダ、國家ニ融ケ込ムノデア
ルト云フノデアリマス、官吏ハ黨人デアル
ケレドモ、黨人ハ國務ニ一切容喙シテハナ
ラヌト云フ制度ヲ採リマシテ、內政ニハ勿
論「ガウ」「ゲマインド」ノ末ニ至ル迄、悉ク
黨人ヲシテ國務ニハ容喙サセナイヤウナ組
織ニナッテ居リマス、從ッテ黨ガ强度ノ政治
力ヲ持ツトカ持タヌトカハ全然問題デナイ、
又サウ云フコトヲ固ク戒メテ居ッテ許サ
ナイノデアリマス、唯黨ノ首領デアル所ノ
「ヘッス」ヲシテ政府ト連絡ヲ取ラセル爲ニ、
無任所大臣トシテ連絡サシテ居ルノデ
アリマス、所謂無任所大臣、サウ云フコ
トハシマスケレドモ、黨ノ關係ト云フモ
ノハ黨ヲシテ政治ノ方ニ力ヲ持タサセナイ
ヤウニシテ居ル、此ノコトヲ思ヒマスル
ト「ソ」聯ノ組織ト「ドイツ」ノ組織トハ非
常ニ違ッテ居ルコトヲ明カニ感ジナケレバ
ナラヌノデアリマス、我ガ翼贊會ノ情勢ヲ
見マスルト云フト、「ドイツ」ノ組織ト相似
テ居ル所ノモノハ、指導原理ヲ主張スルコ
下、ソレカラ政府ト連絡ノ爲ニデアリマセ
ウカ何デアルカ分リマセヌガ、兎ニ角無任
所大臣ヲ置イテ居ルコトモアリマスケレド
毛、アトハ「ドイツ」ガ嘗テやッテノケタヤ
ウナコトヲ······是ハ取消シマス、其ノ指導
精神ト、無任所大臣トノ連絡ノ外ハ、「ドイ
ツ」ノヤリ方トハ大分違ッテ居リマシテ、其
ノ形ノ上ニ於テハ「ソ」聯ノ形ト大分似テ居
ルノデアリマス、斯樣ナ組織ガ、今日ノ我
ガ國ニ於テ必要デアルカドウカト云フコト
ヲ私ハ深ク考ヘザルヲ得ナイノデアリマス、
同時ニ政治力ノ强化ヲ主張スル所ノ理由ニ
付キマシテ、唯ソレヲ一應ノ事トシテ受取ッ
テ宜イカト云フコトヲ、更ニ檢討シナケレ
バナラヌヤウナ風ニ思フノデアリマス、私
ハ左樣ナ疑ヲ持チマス、憂慮ヲ持ッテ居リ
マスノデアリマスカラシテ、翼賛會ノ此ノ
發表ニ對シテ御意見ヲ伺ッタ次第デアルノ
デアリマス、若シ閣下ノ御意見ノヤウナ風
デアリマシタナラバ、此ノ週報ニアル所ノ
翼贊會ノ文字ヲスッカリ御訂正ナサルコト
ガ必要ダト思フノデアリマス、御訂正ナサ
リマスカドウデアリマスカ、ソレカラ尙遡ッテ
デアリマスケレドモ、先程此ノ物資不足、人
モ不足ノ時ニ於テデアルカラ、斯ウ云フ强
度ノ計畫經濟ヲ採ラナケレバナラヌト云フ
御話ガアッタノデアリマス、私ハソレニ
付キマシテ、閣下ハモウ少シ御附加ヘ
ニナル言葉ガナイダラウカドウカ、卽チ自
分ハサウ思フノダ、思ッタト云フ三字ヲ御
附加ヘニナル必要ガナイカドウカト云フコ
トヲ更ニ伺ヒタイ、言フ迄モナク今日ニ於
テハ物資ガ不足、人ガ不足、有ラユルコト
ニ付テ不足勝チデアリマス、之ヲドウ運用
シナケレバナラヌカト云フコトハ、是ハ誰シ
モ考ヘルコトデアリマシテ、閣下ガ日夜御
苦心ニナッテ居ルコトニ付キマシテハ、我
我ハ滿腔ノ敬意ヲ以テ感謝シテ居ル次第デ
アリマス、併シナガラ斯ウ云フ制度ヲ採ラ
ナケレバ此ノ際切拔ケルコトガ出來ナイカ
ドウカト云フコトニ付キマシテハ、自ラ問
題ガアルノデアリマス、今閣下ハ是ガ必要
ダカラ斯ウ採ッタト言ハレマスケレドモ、
是レ以外ニ途ガナイカ、必要ダト思ッタト
云フコトニ付テハ、私ハ何ヲカ言ハムヤデ
アリマス、現ニ「ドイツ」ハ嘗テ計畫經濟ノ
少シ眞似ヲシタコトガアリマス、卽チ共產
政府ガ「ドイツ」ノ政權ヲ握ッテ居ッタ時ニ於
テハ、動モスルト統制ト計畫經濟トヲ混ジテヤ
ラウト云フ形ガアッタノデアリマスガ、「ヒッ
トラー」ガ政權ヲ執ルニ及ンデカラ、全然
計畫經濟ヲ排斥シテ、サウシテ尙日本ニモ
人ヲ寄越シテ、「ドイツ」ガ計畫經濟ヲ採ルト
云フコトハ間違ッテ居ルト云フコトヲ辯明
サシテ居ルノデアリマス、是ハ閣下御承知
ノコトデアルト思ヒマス、サウシテ統制
經濟ニ依ッテ、此ノ大戰爭ヲシ得ル所ノ準
備ヲシテ居ッテ、赫々タル所ノ勝利ヲ獲テ
居ルノデアリマス、計畫經濟ニ依ラナケ
レバ、此ノ大事件ハ遂行出來ナイ、斯ウ
仰シヤルコトハ少シク斷定ニ過ギハシナイ
デセウカ、「ドイツ」ノヤッテ居ルコトハ計
畫經濟デナク統制經濟デアル、「ドイツ」ミ
タイナヤリ方ヲシテ居ッテモ出來ルンダト
云フ專實ガアル、之ニ反シテ「ソ」聯ノ狀況ヲ
見マスト、「ソ」聯ハ最初ノ革命以來極端ナル
計畫經濟ヲ採ッタノデアリマスガ、到ル所
ニ於テ行詰リヲ生ジテ、後退又後退、後退
リヲシマシテ、段々後退シマシテ、到頭昔
ノ影ハ今無イヤウニナッテ居リマス、私ノ
所ニ其ノ當時ノ法令ノ蒐メタモノガアリマ
スカラ、御參考ニ供シテモ宜イト思ヒマス
ガ、兎ニ角後退シテ居ルノデアリマス、今
我ガ國ガ此ノ戰時ノ一番大事ナ時ニ於キマ
シテ色々ナ事ヲ〓究シテ、他山ノ石ヲ以テ
我ガ玉ヲ磨クベシ、我ガ玉ヲ磨クニハ成功
シタ所ノ國ノ例ヲ以テ磨クコトガ一番私
ハ宜カラウト思ヒマス、失敗シタ國ノ例ヲ
以テヤルト云フコトハドウカト思フ、現
成功シテ居ル所ノ「ドイツ」ノ方ノコトハ我
我ハ參考ニスベキモノガ多イダラウト思
フ、「ソ」聯ノ失敗ノ跡ヲ見テ、何カノ參考ニ
ショウトスルノハ、ソレヲ採ラナイト云フ
參考ナラバ宜シイノデアリマスケレドモ、
多少デモ採ラウト云フコトデアリマシタナ
ラバドウデアリマセウカ、而モ有ラユルモ
ノヲ以テ之ヲ强化ショウト云フ風ナコトニ
ナリマシタナラバ、私ハドウカト思フ、政
府ノ御考ハ、之ニ依ッテ經濟的秩序ヲ維持シ
ヨウト云フ御考デアリマセウケレドモ、現
ニ御覽ニナッタ所ノ社會ハドウデアルカ、寧
ロ經濟的秩序ノ維持デナク、經濟秩序ノ紊
亂經濟秩序ノ破壞ト云フ風ナ聲ガ、隨分
ソコラ中ニ聞エテ居ルノデアリマス、秩序
ガ段々良クナッテ居ルカ、破壞ノ方ニ傾イ
テ居ルカト云フコトハ、是ハ能ク御調ベ
ニナツタナラバ大體御分リダダラウト思フ、
ソレカラ又事業合併々々ト云フ御言葉、御
話ガアリマシタケレドモ、合併ニハ自ラ合
併ノ方法ガアリマセウ、人ノ和ガナクテ、
ソレデ唯無理ヤリニ抑ヘテ合併シタ所ガ、
ソレデソレニ依ツテ國ガウマク行ク筈ガア
リマセヌ、矢張リ合併スルニ付テハ合併ス
ルヤウニ下拵ヘヲシ、其ノ人ヲ選ビ、色々
ナコトヲ計畫シテ、初メテ效ヲ奏スルノデ
アリマセウケレドモ、今日ノ合併ノ狀況
ハ、合併ノ爲ノ合併デアル、殊ニ下ノ方ノ役
人ノ方ニ於キマシテハ、自己ノ成績ヲ街フ爲
ニ、無理ヤリニ色々ナコトヲヤッテ居ル所
ガ隨分アル、私ノ耳ニ入ッテ來ル所デモ、非
常識ノ例ガ澤山入ッテ來ルノデアリマス、斯
クノ如キコトハ決シテ國家ノ爲ニ利益ノコト
デアリマセヌ、國家ヲ害スルコトガ多ク
アッテモ、國家ヲ利スルコトハ少カラウト
思フノデアリマス、是等ノコトニ付キマシ
テハ、政府ハモット御考ニナラナケレバ相
成ラヌノヂヤナイカト思フノデアリマス、
先ヅ以上ノコトニ付キマシテ御尋ヲシマ
ス、ソレカラ更ニ私ハ、國民再組織ノ點ニ付
テサッキ一言觸レテ置キマシタガ、御答辯
ガナカッタノデアリマスルケレドモ、再組
織ノコトニ付テハ新體制早ワカリト云フ所
ニ於テ、實ニ妙ナコトガ書イテアルノデア
リマス、是ハ政府ガ御取消ニナリマスカ、
御訂正ニナリマスカ、要スルニ翼贊會カラ
發表シマス文書其ノ他ノコトニ付キマシテ
ハ、企畫院、翼贊會ノ發表シマス文書ニ付
キマシテハ、我々ハ斷エズ之ヲ讀ミツヽ
一種ノ疑惑ナリ、或ハ憂慮ノ念ヲ禁ズルコ
トガ出來ナイト云フコトヲ玆ニ申上ゲテ置
イテ御參考ニ供シマス
〔國務大臣公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=32
-
033・近衞文麿
○國務大臣(公爵近衞文麿君) 政府ノ考ヘ
テ居リマスル經濟新體制ノ本旨ナリ精神
ナリガ、兎角誤解セラレマスルコトハ、誠ニ
遺憾トスル所デアリマス、其ノ本旨ハ、先
程私ガ申上ゲマシタコトニ依ッテ御了解ガ
戴ケルト思フ、週報其ノ他ニ於キマシテ、
之ヲ一般世人ヲシテ誤解セシムルガ如キ文
書等ガゴザイマシタラ、尙私モ能ク讀ミマ
シテ、取調ベマシテ、今後斯クノ如キ誤解
ガ起リマセヌヤウニ、努メテ注意ヲ致シテ
參リタイト考ヘテ居リマス
〔赤池濃君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=33
-
034・赤池濃
○赤池濃君 只今總理大臣閣下ヨリ御鄭重
ナル御挨拶ガアリマシタガ、ドウゾ私ハ更
ニ、政府ノ發表セラレル所ノ文書デアリマ
スルカラシテ、ソレヲ御覽ニナリマシテ、
サウシテ十分ナ御〓究ノ上、モウ一遍御答
辯ヲ願ヒマス、私ハ新聞雜誌トカ其ノ他ニ
付テ、私人ノ意見ナラ何デコンナコトヲ申
シマセウ、政府ノ機關ノ雜誌ナリ、政府ノ
意見トシテ出スモノデアリマスルカラシ
テ、是ハ捨テ置ケナイト思フ餘リニ色々ナ
コトヲ申上ゲタ譯デアリマス、ドウゾ其ノ點
ヲ御了承ノ上デ以テ御答辯ヲ願ヒタイト思
ヒマス、實ハ私ハ新體制ニ付キマシテ、農
業ナリ商工ノ狀況ニ付キマシテ、非常ニ澤
山伺ヒタイノデアリマス、ケレドモ本日ハ
餘程時間モ取リマシタノデアリマスルカ
ラ、其ノ他ノコトハ別ニ豫算委員會ニ於テ
色々伺フコトニ致シマシテ、此ノ質問ハ是
デ打切リタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=34
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035・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 本日ハ此ノ
程度ニ於テ延會致シタイト存ジマス、御異
議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=35
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036・佐佐木行忠
○副議長(侯爵佐佐木行忠君) 御異議ナイ
ト認メマス、明日ハ午前十時ヨリ開會致シ
マス、議事日程ハ彙報ヲ以テ御通知ニ及ビ
マス、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後三時十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X00419410127&spkNum=36
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