第76回帝国議会　貴族院　本会議　第20号　昭和16年2月27日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  昭和十六年二月二十七日（木曜日）午前十時二十三分開議
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  　議事日程　第二十號
  　　昭和十六年二月二十七日
  　　　午前十時開議
  　第一　國防保安法案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　第二　蠶絲業統制法案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　第三　木材統制法案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
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  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=0

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• 001・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　報〓ヲ致サセマ
  ス
  〔高山書記官朗讀〕
  昨二十六日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府
  提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆
  議院ニ通知セリ
  關東局、臺灣總督府、樺太廳及南洋廳ノ
  各特別會計ニ於ケル簡易生命保險及郵便
  年金ノ事務ノ取扱ニ關スル經費等ニ關ス
  ル法律案
  木炭需給調節特別會計法中改正法律案
  昭和十二年法律第九十號中改正法律案
  國民貯蓄組合法案
  國民更生金庫法案
  日本勸業銀行法中改正法律案
  北海道拓殖銀行法中改正法律案
  農工銀行法中改正法律案
  委員會等ノ整理等ニ關スル法律案
  同日本院ニ於、テ採擇スルコトヲ議決シタル
  南極地域ノ日本帝國領土權確保宣言ノ請願
  外三十件ノ請願ハ各〓〓意見書ヲ附シ卽日之ヲ
  政府ニ送付セリ
  同日大正十二年法律第五十二號中改正法律
  案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長
  ノ氏名左ノ如シ
  委員長侯爵西〓吉之助君
  副委員長子爵秋月種英君
  同日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
  國防保安法案可決報告書
  蠶絲業統制法案可決報告書
  木材統制法案可決報告書
  請願文書表(第六囘報生口
  同日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
  國防保安法案ニ對スル修正案

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• 002・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　是ヨリ本日ノ會
  議ヲ開キマス、日程第一、國防保安法案、
  政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委
  員長報〓、委員長林伯爵
  〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照
  ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
  國防保安法案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
  報〓候也
  昭和十六年二月二十六日
  委昌長伯爵林博太郞
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=2

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• 003・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　只今議題ニ上リマシタ
  國防保安法案ノ特別委員會ノ經過ニ付キマ
  申上ゲマス、モウ詳シイ政府ノ說明ナドハ
  省略ヲ致シマス、今日ノ戰時下國防體制ノ
  完璧ヲ期スルガ爲ニ、國家機密ノ漏泄、其ノ
  他國防上ノ利益ヲ害スル惡質行爲ニ對シマ
  シテ、嚴重ナル罰則ヲ設ケ、諜報、謀略ニ
  關係アル犯罪ニ特別ノ刑事手續ヲ定メタモ
  ノデアリマス、第一章ハ、第一條ヨリ第十
  五條ニ亙リマシテ、法文ガ罪トシテ述ベテ
  アリマス、第二章ハ第十六條カラ第四十
  條迄、刑事手續トシテ特別ノ手續ガ規定サ
  レテアルノデアリマス、只今極ク全體ヲ纏
  メマシテ簡單ニ要領ヲ申上ゲマスト、此ノ
  罪ノ最モ重イモノハドンナモノデアルカ、
  國家機密ヲ業務ニ因リ、卽チ自分ノ所屬シ
  テ居ル業務上ノ者ダケニ限リマシテ、業務
  ニ因リ知リ之ヲ外國ニ漏泄シ、又ハ公ニシ
  タル者、外國ニ漏泄シ又ハ公ニスル目的ヲ
  以テ國家機密ヲ探知シ、又ハ收集シタル者
  ガ、外國ニ漏泄シ、又ハ公ニシタ者ハ死刑、
  無期、又ハ三年以上ノ懲役、ナカ〓〓是ハ
  重イノデアリマス、ヽ而シテ刑事手續ノ方ニ
  入ッテ、第三十三條ニ於キマシテ、第一審ノ
  判決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得ズト
  斯ウ云フ一本勝負デ以テ處刑サレルノデア
  リマス、ソコデ問題ハデス、國家機密トハ
  何ゾヤト云フコト、此ノ法案ヲ御讀ミニナ
  ルト文字ハ明白デアリマスガ、國家機密ハ
  國家機密ナリト云フコトニ過ギナイヤウニ
  見エマス、「本法ニ於テ國家機密トハ國防上
  外國ニ對シ祕匿スルコトヲ要スル外交、財
  政經濟其ノ他ニ關スル重要ナル國務ニ係
  ル事項ニシテ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノ
  各部ノ重要ナル機密事項」ト、斯ウナッテ居リ
  マス、是ハ今日高度國防ト云フコトヲヤカマ
  シク言フダケ世界ノ世相ガ變ッテ來タノデ、
  互ニ祕密戰ヲ以テ、各國ガ他國ノ國家機密
  ヲ探知收集セムトスル現狀デアリマス、ソレ
  デアリマスカラ、玆ニ謳フ所ノ國家機密ト
  云フノハ、非常ニ高度ナ祕密事項デアルト
  云フコトハ明カニナッテ居ルノデアリマス、
  ソレヲ漏セバ國家ノ安危ニ係ル底ノモノデ
  ナケレバナラナイ、此ノ問答ハ第一條ダ
  ケデモ三日モ掛ッテ居リマス、ドウモ其ノ範
  圍ガ何處カラ何處迄ガ國家機密
  デアトヲ、國民ガ知ラナイト云
  フト歹矢ラスシテ之ヲ犯ス虞ガアリハシ
  ナイカ、ソレハ一應尤モナ質問デアリマス、
  政府ハ國家機密ト云フモノヲドウ決メヨウ
  トシテモ、大キナ枠シカ嵌メラレナイ、其
  ノ眞相ヲ摑ムヤウナ枠ヲ拵ヘタナラバ、モ
  ウソレダケデ國家機密ハ漏レテシマフ、モ
  ノニ依ッテハ、其ノ名稱ダケヲ公ニシテモ、
  ソレハ非常ナ大事ニナルコトガアル、從ッテ
  國家機密ト云フモノハ是ハ明示スルコト
  ハ出來ナイモノデアル、併シナガラ誰ガ見
  テモ後カラ考ヘレバ成ル程ソレナラ尤モ
  ナ處刑デアルト云フコトハ、無論明カデア
  リマス、サウ云フモノデアリマスガ、同時
  ニ玆ニ全體ヲ通ジテ新シイ言葉トシテ、自
  然祕ト云フコトガアル、自然ノ祕密デアリ
  W 、自然祕ト云ブノハ、誰ガ見テモ
  自然ニ見テ、作爲シナイ前ニ其ノ祕密其ノ
  モノガ客觀的ニ存在ヲシテ居ルソレダカ
  ラ、是ハ國家ノ機密デアルカドウカト云フ
  ンゴ
  コトヲ大臣ガ告示スルト云フヤウナ、其ノ
  千續ヲスル前ニ、旣ニ國家ノ極メテ祕密ナ
  ルモノガ存在シテ居ルノデアルカラ、之ヲ
  自然祕ト言フノデアル)サウシテ時局ノ變
  化ト共ニ次々ニ新シキモノモ生ジ得ルノデ
  アル、其ノ一端ガ世間ニ漏レレバ全貌ガ探
  知サレルノデアリマスカラ、最早國家機密
  ノ性能ヲ失ッテシマフ、サウ云フ重大ナモノ
  ヲ國家機密ト稱スルノデアル、マア曰ク言
  フベカラズト云フヤウナモノデアリマスガ、
  之ニ付テドウ枠ヲ嵌メルカト云フコトニ付
  テハ隨分長ク質問應答ガアッタノデアリマ
  スルガ、ソレハ後程ニ又加ヘテ置キマス、
  ソコデ一二三ハ······御前會議、樞密院會議、
  閣議ナント云フコトガ「一」ニ書イテアルガ、
  畏多クモ是ハ陛下ノ御親臨ヲ仰イデ最高
  ナル閣員ガ御前會議ヲ催ス、又樞密院會議
  二七陛下ノ御親臨ガアルト云フヤウナ
  畏多イ會議デアル、ソレヲ玆ニ竝ベマシテ、
  大臣デモ何デモ此ノ國家機密ヲ漏シタ以上
  ハ危イゾ、ト云フヤウナ感ヲ玆ニ與ヘルト
  云フコトハ、是ハ如何ナモノデアラウカ、
  ダカラ斯ウ云フ文字ハ成ルベク遠慮シテ貰
  ヒタイ、忌マハシイコトデアル、一モ二モ
  三モサウ云フ風ナコトニナルノデアルト云
  フノニ對シマシテハ0政府ハ、是ハ御前會
  議樞密院會議トアルケレドモ、御前會議
  ノ材料ハ屬僚ガ作ルノデアル又御前會議
  ニ、J或ハ「タイピスト」ノ必要ナコトガアッ
  テ入ルカモ知レナイシ、必ズシモ其ノ祕密
  ハ大臣ダケガ知ッテ居ルノデハナクテ、或範
  圍ノモノハ前以テ知ッテ居ルヤウナモノガ
  多イノデアルソレヲ外ニ漏レナイヤウニ
  スルト云フ爲デアッテ、必ズシモ是ガアッタカ
  ラト云ッテ直チニサウ云フ風ナ面目上ノ問題
  ヤ忌マハシイト云フコトハ起ルマイ、ト云
  フヤウナ譯デアリマス、マア要スルニ國家
  機密ト云フノハ、「國防上外國ニ對シ祕匿ス
  ルコトヲ要スル外交、財政、經濟其ノ他ニ關
  スル重要ナル國務ニ係ル事項」ト云フヤウナ
  譯デアリマス、今日ハ世界ノ世相ガ一變シ
  テ居ル、少クトモ第一次世界大戰ヲ以テ、
  戰爭ガ立體的トナルト共ニ、此ノ祕密戰ノ
  方面モ非常ニ有機的ニナッテ來ルノデアッテ、
  高度國防ト云フコトニ重點ヲ置クヤウニナッ
  タ武力戰デハ、勝ッタ者モ敗ケタ者モ國力ガ
  大イニ消耗サレル、此ノ故ニ祕密戰ニ依ッテ
  戰ハズシテ勝タウト云フヤウナコトノ必要
  モ起ッテ來マシタ爲ニ、各國ガ窃カニ相手國
  ノ國家機密ヲ探知セムトスルコトニナッタ、
  軍事上ハ固ヨリ、外交、經濟、財政ノ方面ニ
  亙リマシテ、國家安危ノ重大機密ヲ探知ス
  ル時代ガ來タノデアリマス、而シテ今日ノ
  文化ハ有機的綜合的ニ一體ヲ成シテ居ルノ
  デアル、デスカラ此ノ國家機密ト云フコト
  ニハ諜報、宣傳、謀略ト云フヤウナ手段
  ヲ以テ、各國ガ之ヲ探知セムトスル時代ガ
  來タト云フコトニナリマス、ソコデ今次ノ
  戰爭ハドウデアルカ、武力戰モヤッテ居リマ
  スガ、「ヨーロッパ」デハ此ノ祕密戰ガ盛ニ行
  ハレテ居ル、何レモ國家機密ヲ探知セムト
  スルノデアル、ダカラ第一條ト云フモノハ
  非常ニ是ガ重大ナモノデアリマス、御承知
  ノ通リ「ヒットラー」ガ非常ニ手ヲ仲バシテ
  居ル第五列諜報網ト云フモノガアリマス
  今日ハ高度國防デナケレバ强國トハナッテ
  居レナイノデアリマスカラ、此ノ高度國防
  ノ某國ノ國家機密ト云フモノヲ探知スルコ
  トガ、戰爭ニ勝ツト云フコトノ第一條件ニ
  ナッテ來タノデアリマス、從ッテ之ヲ探知收
  集シテ、而シテ全貌ヲ······國家機密ヲ見ル
  ト云フコトガ必要デアル、ソレニハ周到ナ
  ル訓練モ要ルシ、又專門的ノ科學的知識ヲ
  以テ之ヲ探知シナケレバ、ナカ〓〓他國ノ
  國家機密ハ分ラナイ、恰モ堪能ナル家具屋
  ノ技師ガ、此ノ机ノホンノ一角ノ寫眞ヲ撮ッ
  タダケデ以テ、此ノ机ノ全貌ト云フモノガ
  直チニ第六感ニ依ッテ直覺サレル底ノモノ
  デナクテハナラナイ、サウ云フ意味ニ於キ
  マシテ、「ドイツ」ノ或中心ニハ其ノ方面ノ
  參謀ガ出來テ、此ノ世世大戰ノ初メニ於テ、
  英國ガ多數ノ運送船ヲ以テ「ノルウェー」ニ
  送兵ヲ致シマシタ、ソレト同時ニ「ドイツ」
  ハ「イギリス」ノ本土ニ第五列ノ諜報網ヲ布
  イタ、而シテ科學的ノ準備ノアル訓練ノア
  ル「スパイ」ヲシテ、一々電報デ、卽チ暗合
  電報デセウ、本國ニ通信ヲシタ爲ニ、英國
  ノ兵力ノ輸送ト云フコトニ付テ的確ナル暗
  示ヲ得タ爲ニ、「ノルウェー」ト「デンマー
  ク」ノ間ノ場所ト思ヒマスガ、「イギリス」
  ノ輸送船ガ多數ノ兵隊ヲ乘セテ居ッタノデ
  アリマスガ、「ドイツ」ノ第五列ノ諜報網ノ
  通信ノ結果トシテ、「ドイツ」ノ隊伍ヲ組ン
  ダ大部隊ノ飛行機ガ此ノ輸送船ヲ襲撃致シ
  マシテ、非常ナル打擊ヲ英國ノ輸送船ニ與
  ヘタコトハ御承知ノ通リデアリマス、サウ
  云フ風ニ此ノ第五列ト云フヤウナモノノ手
  先、卽チ「スパイ」ハ、英國ノ本土ニ深ク潜ッ
  テ居ルト言ッテ宜イデアリマセウ、又「ヒット
  ラー」ノ「オーストリヤ」ノ無血占領、是モ諜
  報戰ノ勝利ノ結果デアル「チェッコ」ノ解
  體ヲ行ッタノモ、「ドイツ」ノ諜報網ノ結果ト
  シテ謀略ガ行ハレタノデアリマス、近クハ
  御承知ノ新聞ニ出テ居ル如ク、「ドイツ」ガ
  著々トシテ「バルカン」ニ地步ヲ固メテ居ル
  ト云フコトモ、其ノ原因ト致シマシテハ
  諜報網ノ本國トノ通謀ノ結果ト見ナケレバ
  ナラナイト思ヒマス、「ナチス」ノ周圍ニハ
  謀略員ト云フモノガ出來テ居リマシテ、非
  常ニ專門的ノ活動ヲヤッテ居ル、此ノ數年間
  ニ亙ル血ミドロノ宣傳活動ト謀略活動トノ
  實ガ今回結バレマシテ、衂ラズシテ「ヒット
  ラー」ノ政策ガ遂行サレツヽアルノデアリ
  マス、以上ノ如キ諜報、宣傳、謀略ハ一朝
  ニシテ直チニ行ヘルモノデハナイ、是ハ平
  時ヨリ周密ナル計畫ヲ以テ、科學的ニ著々
  準備實行シナケレバナラナイモノデアリマ
  ス、此ノ祕密戰ノ進攻ヲ防止シ、破摧致ス
  所ノモノガ所謂防諜、諜謀ヲ防グ··防諜
  ト云フ言葉デ現シテアリマス、國防保安法
  案ハ、此ノ防諜ノ目的ヲ完全ニ達成セムト
  スルコトヲ期シテ居ルノデアッテ、現下ノ情
  勢ニ於ケル日本ト致シテハ、極メテ重要ナ
  ル國防的措置デアル、此ノ意味ニ於テ、第一
  條ノ國家機密ノ、如何ニ重要デアルカト云フ
  コトハ御了解ラ願ヒマス、ソレカラ此ノ第一條
  ニ關聯シマシテ、全體ノ問題ニ付テ申シマスト
  ドウモ此ノ法案ハ、第一條モサウデアルガ、
  字句ニ於テモ、流布トカ情報トカ、色々今
  迄ノ法律ニナイ言葉ガ列ベテアル、ソレカ
  ラ法文ニ於キマシテモ、全ク特別ナモノデ
  アルダケニ、相當今迄ノ樣式ト違ッテ居ル、
  不滿足、不完全ノ點モ免レナイノデアル、
  サウ云フ點ガアルナラバ、他日之ヲ改善ス
  ル意思ハアルカドウカ、是ハ決シテ出シッ放
  シニハシナイ、能ク常ニ〓究ヲスル、サウ
  シテ改善ノ必要ガ起ルナラバヨリ良キモ
  ノニ改善スルト云フコトハ致シマス、ト云
  フ言明デアリマシタ、今迄ハ間諜ト云フ言
  葉ヲ使ッタノデアリマス、刑法八十五條ニ
  間諜罪ト云フモノガアルガ、是ハ「敵國ノ
  爲メニ」ト云フコトデ定義ガ擧ッテ居ルノデ
  ス、處ガ今度ハ敵國、敵性國、外國モ廣イ
  ノデアリマスカラシテ此ノ間諜ト云フ言
  葉ハ當ラナイ、ソコデドウシテモ新シイ言
  葉ヲ使フコトガ起ッテ來ルノデアリマス、ソ
  レカラ先程机ノ例デ申上ゲマシタガ、此ノ
  國家機密ト云フモノハ綜合的一體デアル
  有機體ノ部分々々ノ構成要素ヲ集メテ全體
  ヲ知ルト云フコトガ、諜報トシテハ必要デ
  アル、國家機密トハ公知ノ數字ダケデハ
  單獨ニハ祕密ニナリ得ナイ、一ツ二ツ三ツ
  四ツト漸次澤山集メテ行キマシテ、之ヲ綜
  合性ヲ帶ビルヤウニスル、綜合スレバスル
  程祕密性ガ深クナル、サウシテソレガ段々
  結晶シテ行キマシテ、國家祕密トナルノデ
  アル、最高度ノ國家祕密ガソコニ存在ヲス
  ル、此ノ故ニ國家機密ナルモノハ其ノ種
  類トカ數ニ於テハ極メテ少イモノデアリマ
  ス、ソレカラ又此ノ一條カラ七條ニ亙リマ
  スル間ニ於キマシテ考ヘテ見ルト、是ハ相
  當苛酷ナ法案デアツテ、國民ヲ戰慄セシム
  ルヤウニ思ハレルガ、其ノ點ハドウダ、之
  ニ對シマシテハ主ナル目的ハ對外國ノ關
  係ニアッテ此ノ法律ニ觸レル者ハ第一條、
  三條、四條、五條ガ最モ重ク、是ハ主トシ
  テ業務ニ因ツテ知得シタル者、國家祕密ヲ
  職務上知ラナケレバナラヌ者ガ漏スノニ限ッ
  テ居ル、ダカラ之ニ觸レル者ハ極メテ小
  部分ノ者ニ過ギナイノデアリマスカラ、
  般國民ガ恐怖スルトカ不安ノ念ヲ起スト云
  フ必要ハナイモノデアルト云フコトデアリ
  さい、ソレカラ質問ハ細カクナリマシテ、
  ドウモ餘リ國家機密ノ定義ノ範圍ガ廣過ギ
  テハドウ云フ風ニ政府ガ說明サレテモ不
  安ノ念ハ去ラナイカラ、大キナ枠デモ宜イ
  カラ一ツ枠ヲ嵌メタラドウダ、例ヲ擧ゲレ
  バ、軍機保護法ニ於キマシテモ是レ〓〓是
  レ是レト列擧事項ト云フモノガアル、祕密
  デハアルガ勅令デ定マッタ部分モアル、軍用
  資源祕密保護法ト斯ウ云フ重大ナモノデモ、
  其ノ脇ニ勅令ガ附イテ居ッテ、第二條ノ但書
  ト云フヤウナモノモアル公示ヲ適當ト思
  ハナイ時ハ、陸軍大臣、海軍大臣ガ指定シ
  タル云々ト云フヤウナコトモ書イテアル位
  デアル、成ル程今政府ガ說明スル如キ國家
  機密ト云フヤウナモノデアレバ、是ハ容易
  ニ其ノ範圍ハ明カニスルコトモ出來ナイシ、
  明カニシテハイケナイモノモアルカモ知レ
  ナイ、ケレドモ全然告示スルコトガ不可能
  ト云フコトハ言ヘナイ、主務大臣ノ認定ト
  カ或ハ勅令施行ヲ出スト云フコトデアルカ
  ラ、其ノ施行勅令ノ中ニ若干範圍ニ觸レテ
  ハドウデアラウカ、處ガ政府ハ、チヨット書
  イテモ祕密ト云フモノガ直グ暴露スルヤウ
  ナ性質ノモノモアルシ、又是ハ非常ニ少イ
  最高度ノ國家機密ナンダカラ、ナカ〓〓枠
  ノ入レ方ハムツカシクテ出來ナイ、國家機
  密ノ勅令ヲ以テ中身ヲ示スコトハ出來ナイ
  ト、斯ウ明言シタノデアリマス、併シナガ
  ラ昨日ニナリマシテ、ソレト決シテ矛盾ス
  ルノデハアリマセヌガ、省ノ〓示ヲ以テ差
  支ナキ限リ公ニスルコトハ差支ナイ、此ノ
  告示ハ官報ニモ出ルコトデアルゝ此ノ範圍
  ノコトハ出來ルト云フコトヲ申シタノデア
  リマス、勿論先程モ御前會議云々ノ時ニ申
  上ゲマシタ通リ、主務大臣ガ認定シテ之
  ヲ適當ノ部面ニ知ラセル、ドウシタッテ國家
  機密ヲ知ラセナケレバ運行ノ出來ナイヤウ
  ナ所ニハ、是ハドウシタッテ言ハナケレバナ
  ラナイ、サウ云フ場合ニハ周到ノ規定ヲ作ッ
  テ取扱者ダケニハ周知サセル方法ヲ執ルガ、
  一般ニ知ラセルト云フコトハ、マア國家機密
  ノ性質上、是ハ出來ナイコトデアルト思ッテ
  下サイト云フコト然ラバ斯クノ如キ範圍
  ヲ明記スル能ハザルヤウナ性質デアルナラ
  バ、國民ニ不安ヲ與フルト云フコトハド
  ウシテモ一部ニ殘ル、但シ政府ガ言明シタ
  ル對外關係ノモノダケデアルト云フ、本法
  ノ趣旨ヲ脫逸スルト云フヤウナコトハナイ
  カ、此ノ質問ニ對シマシテハハ當局ハ明カ
  ニ脫逸セズ、決シテ國民ニ不安ヲ與フルヤ
  ウナ所迄濫用ヲシテ、脫逸スルト云フコト
  ハナイト云フコトヲ言明ヲ致シテ居リマス、
  第三條ニナリマシテ、是ハ一言シテ置キマ
  スガ、「公ニ」スルト云フ言葉ガアリマスガ、
  是モ「公ニ」スルト云フノハ何ダト云フト
  公然ニスルコト、是ハ同ジコトデスカ
  ラ·····マア斯ウ云フヤウニ政府ハ言フノデ
  アリマス、ソレデハ自分達ノ家ニ一人ノオ
  客ガ來タ時ニ、一人ニ喋ルノハドウ云フモ
  ノダ、二人ニ喋ルト云フノカラ多數ニナル
  ノカ、三人カラガ多數ニナルノカ、公ニス
  ルト云フコトハドウ云フモノダト云フト、
  矢張リ今迄ノ慣例デヤルヨリ外仕方ガナイ
  ノデアル、大勢ノ讀ム所ノ新聞雜誌ト云フ
  ヤウナモノニ對シテハ不特定人、特定セ
  ザル人ニ言フコトダカラ公ニスルコトデア
  ル、又講演會ノヤウナ特定シタ多數ノ者ニ
  話ヲスルト云フノハ特定多數人ト云フ言
  葉ガ出來テ居ルガ、マアサウ云フコトデ解
  釋ヲシナケレバナラナイ、普通ハタッタ一人
  ニ喋ルト云フ時ニハマア問題デハナイト思
  フケレドモ、其ノタッタ一人デモ、ソレガ絲
  ヲ引イテ居ルヤウナ場合ガアルナバラ、ド
  ウモソレハ其ノ場合ニハドウシテモ常識
  ヲ以テ公ニシタモノト判斷シナケレバナラ
  又、要スルニ公ニスルト云フコトハ、ソレ
  ガ直グ外國ニ行クト云フ前提ニ於テ、是ハ
  對外國ノ法案デアリマスカラ、其ノ意味ガ
  初メカラ終ヒ迄含ンデ居ルト云フコトヲド
  ウゾ御承知ヲ願ヒマス、ソレカラ、間違ッテ本
  法ニ觸レルト云フヤウナコトガ起ラナイダ
  ラウカ、要スルニサウ云フ點ガ不安デアル
  ガト云フコトニ對シテハ)此ノ第一條カラ
  第七條迄ノ間ニ於ケルコトデアリマスガ、
  サウ云フ所迄普通ノコトデ及ブコトハナイ、
  例ヘバ要塞へ入リ込ンダ、サウスレバ直グ
  引張ラレル、軍港ノ寫眞ヲ撮ル、某軍港ガ
  汽車カラ見エナイヤウニ葦簾ガ張ッテアル、
  其ノ間カラ「キャメラ」ヲ出シテ寫眞ヲ撮ル
  ト云フヤウナコトハ、後デ申シマスガ、ソン
  ナコトハ本法デハ被疑者トシテ扱ハナイ、
  ソレハ自ラ軍機保護法ヤ外ノ法律ガ現在迄
  出來テ居ッテ、サウ云フコトハ現ニ罰スル規
  定ガアルノデアリマスカラ、ソレデ行クベ
  キモノデアル、本法ハ全ク新シキ世相ニ順
  應シタモノデアリマシテ此ノ國家機密ト
  云フコトニ關係ノアルモノニ限リ、又之ヲ
  ナス爲ノ諜報、宣傳、謀略方面ノミニ限定
  シテ此ノ法案ガアルノデアリマスカラ、而
  シテ其ノ國家機密ヲ知ラムトスル諜報網ト
  云フノガ、先程例ニ擧ゲマシタ通リ、ナカ
  ナカ大仕掛ノモノデアリマスカラ、ソンナ
  簡單ナ、ソコラデ寫眞撮ッタトカ云フヤウナ
  モノハ本法ノ問題ニハナラナイ、ソレダカ
  ラ、本法トシテハ極メテ其ノ方面ノ不安ハ
  ナイノデアル、ソコデ問題ハ第八條デアリ
  マス、是ガ又非常ニ、或ハ祕密會ニ於テハ或
  ハ色々ノ方面ニ於テ、問題トナッタノデアリ
  マスカラ、一言シテ置カナケレバナラナイ
  ノデアリマス、第八條ハ極メテ抽象的デア
  リマシテ、チヨイト是ハ分リニクイ、「國防
  上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スル目的ヲ以
  テ又ハ其ノ用途ニ供セラルル虞アルコトヲ
  知リテ外國ニ通報スル目的ヲ以テ外交、財
  政經濟其ノ他ニ關スル情報ヲ探知シ又ハ
  收集シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス」ト
  アリマス、ソコデマア大變條件ガ長イノデ
  ス、目的ヲ言ヒ現シタコトガ······サウシテ
  其ノ言葉ガ矢張リ抽象ニ過ギナイノデアリ
  マスカラ、極メテ廻リ諄イ、或委員ハ、是ハ非
  常ニ著物ヲ著過ギテルト云フ批評ヲシタ人
  モアル、處ガ斯ウ書カザルヲ得ナイ理由ガア
  リマスガ、ソレハ祕密デスカラ申上ゲラレナ
  イ此ノ法文ヲ表面カラ見ルト、如何ニモ
  誰ニデモ引ッ掛リサウナモノナンデス、又從
  來ノ警察官、檢事等ノ岡ッ引根性ト申シマ
  スカ、マア捕ヘテ來テカラ泥ヲ吐カセルト
  云フヤウナコトニ利用サレタラ、大變ナコ
  トニナル、又或ハ政黨內閣ナゾガ出來タコ
  トガアルトシマシテ之ヲ政治謀略ニュウ
  テ、アノ男ハ危險ダカラ捕へテ見ロト云フ
  ヤウナコトニナッテ、命令デモサレルト、謀
  略ニデモ利用サレテハ、大變ナコトニナル
  ノデアリマス、ソレハ併シ政府ハ、表面カ
  ラ之ヲ讀マレヽバ或ハサウ云フ不安ガ起ル
  カモ知レナイガ、此ノ四十箇條ニ亙ル全文
  ハ對外國ノ關係ノモノデアッテ、先程申シ
  マシタ高度ノ國家機密ト云フモノノ漏泄ヲ
  防グノガ目的デアルソレダカラ第八條モ
  其ノ意味ニ於テ讀マナクッテハイケナイン
  ダ、卽チ外國ニ知ラセル目的罪、情報ヲ探
  知收集スル、卽チ外交、經濟、財政等ニ關
  スル不利益ノ情報ヲ外國ニ提供スル者ヲ罰
  スルノデアル、是ハ一般人ノコトデアルカ
  ラ尙更以テ不安デアリマス、外國ノ資料モ
  知ラナケレバナラナイシ、內地ノ材料モ知
  ラナケレバナラナイ、例ヘバ鐵ノ商賣ヲス
  ルトカ、「アルミニューム」ノ商賣ヲスルト
  カ云フヤウナ人ハ、外國ニドノ位サウ云フ
  素材ガアル、ソレニハドウ云フ會社ガアッテ
  ドウ云フ風ニシテ手ニ入レナケレバナラヌ
  ト云フヤウナ、材料ハ外國ノ方カラモ知ラ
  ナケレバナラナイガ、內地ニ於テモ何處ノ
  方面ニドレダケ需要ガアルト云フコトヲ、
  數量ニ於テ調ベテカラデナケレバ輸入モ
  出來ナイ、賣先ガ分ラナクッテ買フ譯ニモ行
  カナイ、サウ云フ風ヲ譯デ特ニ貿易業者、
  マア經濟關係ノ者ハ一般デモアリマスガ、貿
  易業者ノ如キハ非常ニ此ノ法案ニ對シテハ
  不安ノ念ヲ現ニ懷イテ居ルト云フコトデア
  リマス、ウッカリ倶樂部ナンカデサウ云フ
  數量ニ亙ッタモノノ演說モ講演モ出來ナク
  ナル惧ガアル、ソレハ政府カラ言ハセマス
  ト云フト、此ノ第八條ハ對外的法律デアル、
  敵ノ謀略ヲ破壞セム爲ノ條項デアル諜報
  網思想謀略、經濟謀略等ヲ以テ、祕密戰
  ヲ我レニヤッテ來ルノデアルガ、敵國ヲシテ
  其ノ戰意ヲ失ハシメルノガ目的デアッテ此
  ノ條文ガ出來テ居ル、狙ヒ所ハ、外國ノ諜
  報網ノ手先ニナルモノヲ取締ル、之ニ付テ、
  本法ノ目的ハサウ云フ風デアルカラ、其ノ
  本來ノ目的以外ニハ使用シナイ、ソレハ司
  法大臣ハ嚴重ニ之ヲ戒メル、サウシテ一般
  人ノ不安ヲ除クコトニ十分努力スルノデア
  ル、此ノ條文ノ第一段ハ、只今申上ゲマシ
  タ通リ御覽ニナレバ分リマスガ「用途ニ供ス
  ル目的ヲ以テ」トアリマス、後段ニハ「用途ニ
  供セラレル虞アルコトヲ知リテ外國ニ通報
  スル目的ラ以テ」トアル、前段ハ惡意ノ場合、
  後段ハ虞アルト斯ウナッテ居リマスノデ、之
  ヲ司法警察官ナリ檢事ナリカラ見テ認定ヲ
  サレル時ニ、非常ナ危險ガアルデハナイカト
  云フ質問ニ對シマシテ、當局ガ言フノハ
  平素〓究シテ居ル所ノ防諜警察關係者ニ於
  テ十分ニ調査〓究ヲシテ、大仕掛ノ諜報網
  ノ人的範圍ハ明々白々ニ分ル所マデ〓究ヲ
  スル、而シテ彼等ノ行動ハ絕エズ自分ノ方
  デ科學的ニ調査ヲスル、內外人兩側カラノ
  確實ナル情報ノ一致點アル場合ヲ取ッテ、ソ
  レカラ出發ヲシテ〓究審査ヲスル、サウ云
  フ適切ナル材料ヲ平素ニ於テ蒐集シツヽア
  ルノデアリマス、斯クノ如キ科學的〓究ヨ
  リ客觀的事實ニ、確實ニ握ッテ進ンデ行クノ
  デアル、先程モ申シマシタ如ク、敵性國ニ
  ハ或所ニ中心ガアッテソレカラ大キナ網
  ガ張ラレテ、其ノ端ガ日本ニ來ルト云フノ
  ガ是ガ恐ルベキモノデアル、其ノ魔手ニ懸ッテ
  敵國ノ手先ニ使ハレルト云フ者ヲ取締ルノ
  デアリマスカラ、先程モ「ヒットラー」ノ例デ申
  シマシタ如ク、サウ云フ諜報網ト云フモノハ
  普通ノ人間ニ出來ルモノデナイ、是ハ大仕
  掛ノ極メテ、細胞組織ト申シマセウカ、有機
  的ニ出來テ居ルモノデアルノデアルカラ、是
  ハ平常ノ〓究調査デ行カナケレバナラナイ、
  チヨット寫眞ヲ撮ッタカラ彼奴ハ危イト云フヤ
  ウナヤリ方デ行クモノデハナイ、ダカラ之ヲ
  言ッテ居リマス、一般民衆カラ來ル投書密告
  ト云フモノハ相當アル、處ガ不斷的確ニ客觀的
  ニ調ベタ人的範圍ガ分リマスカラ、サウ云フ
  素人ノ密〓投書ニ依ッテ、當局ガ動カサレタ
  リ迷ハサレルト云フヤウナコトハ毛頭ナイ、
  客觀的ニ見込ヲ付ケテ、之ニ吻合セザルモ
  ノハ相手ニシナイ、目的ハ高度國防ニ關ス
  ル國家機密ノ探知ニアリマス、ソレヲ防グ、
  之ヲ碎ク所ニ要點ガアル、ソレダカラドウ
  カ、經濟界ノ人ヤ外交モアリマスガ、特ニ
  貿易ニ從事スル方々ニ於テ決シテ之ニ付テ
  不安ノ念ヲ抱カレナイコトヲ望ムト云フコ
  トデアリマス、ソレカラ、イヤサウ言ッタ
  所デ、司法警察官ト云フモノハ所謂內務省
  ニ屬シテ居ッテ、指揮ハ司法省カラ受ケル、
  內務省、ソレカラ軍ノ方ハ陸軍省、ソレカ
  ラ檢事ハ司法省、是ガ互ニ此ノ繩張ト云フ
  モノハ、今日ヤカマシイ役所ノ中デウマク
  綜合一體トシテ行クモノダカドウダカ分ラ
  ナイ、ノミナラズ今迄ノ檢事ヤ司法官ノヤ
  リロヲ見ルト云フト、マア捕ヘテカラ色々
  調ベテ行クト云フノガ普通ヤリ方デアルデ
  ハナイカ、サウ云フコトガ起リハシナイカ
  ト云フト、是ハ今迄ノ普通ノ場合ヲソレハ
  言フノデ、今日ノ此ノ世相ハ全ク變ッテ居
  ルデ國家機密ト云フコトヲモット深ク考
  ヘテ貰ハナクチヤナラナイ、例ヘバ例ヲ擧
  ゲテ見マスト云フト、春先ニナルト目高ヤ何
  カガ池ノ上ヘ一パイ浮ンデ居ル、ソレヲ子
  供ガ一匹掬ヘバ殘リノ魚ハ皆下ヘ降ッチヤッ
  テ、泥ノ中ヘ頭ヲ突込ヂヤウ、斯ウ云フ
  諜報網ノ如キモノヲ、徒ニ引張ッタリナンカ
  スルコトガ偶然アッテ、引張ッタリスルコト
  ガアッテモ、サウスレバ直チニ諜報網ハ細
  胞組織デパット下ヘ潜リ込ンヂヤッテ、實
  ニ始末ニイケナクナルノダカラ、本法ノ目
  的ヲ脫逸スレバ、敵國、敵性國ノ防諜網ト
  云フモノハ地下ニ潜伏シテシマフ虞ノアル
  場合ガアリマス、ダカラサウ云フコトヲサ
  セリヤ大變ナ損デアルカラ、ソレデ此ノ次
  ニ中上ゲマスガ、第十七條以下ニ於テ檢事
  中心ニナッテ、司法警察官ガ勝手ニ召喚勾留
  スルコトガ出來ナクシタノハ其ノ點デアル
  又其ノ〓育問題ハ、後デ申上ゲル機會ガアッ
  タラ申シマス、決シテ玉石混淆スルナント
  云フコトハナイノデアルソンナ程度ノ低
  イモノハ別ノ法律ガアルト云フ說明デア
  ルノデアリマス、ソコデ十七條カラ二十八
  條迄ノ司法警察官、檢事ノ問題ニ自然入ル
  コトニナリマス、今迄ハ司法警察官ガ先ヅ
  以テ被疑者ヲ調ベテ居ッテ、其ノ結果ヲ、檢
  事ハ手ヲ拱イテ待ッテ居ッタ、是ガ今迄ノヤ
  リ方デアル、今度ハ檢事ノ强制力ヲ强化シ
  タノデアル、司法警察官ト申シマスト云フ
  トマア巡査、警部補、警部等モサウデア
  ルガ、地方長官デアルトカ、又陸軍ノ憲兵
  ト云フモノモ之ニ準ジタモノニナッテ居ル
  コトヲ御承知ダト思ヒマスガ、司法警察官
  ガ勝手ニ召喚シ、之ヲ勾留スルト云フコト
  ハ出來ナイゾ、玆ニ十七條ニ於キマシテ明
  カニ「檢事ハ被疑者ヲ召喚シ又ハ其ノ召喚ヲ
  司法警察官ニ命令スルコトヲ得、檢事ノ命
  令ニ因リ司法警察官ノ發スル召喚狀ニハ命
  令ヲ爲シタル檢事ノ職、氏名及其ノ命令ニ
  因リ之ヲ發スル旨ヲモ記載スベシ」、斯ウナッ
  テ居ル、之ガ今迄ト大變違ッタ、面目ヲ改
  メタ結果デアリマシテ、一方カラ見レバ
  檢事ガ橫暴、斯ウ云フコトモ出來ルヂヤ
  ナイカ、ト云フ御質問モアリマスケレドモ、
  又政府ノ言明ニ依レバ、ソコニ重大ナル
  改善シタ點ガアルノダ、今迄ハ檢事ハ警察
  ヲ待ッテ居ッタ、今度ハ檢事ノ發動ヲ俟タッザ
  レバ警察ガ動ケナイ、司法警察ガ動ケナイ
  ト云フコトニナッタ、若モ岡ッ引式ニ司法警
  察官ノ方ガ先ヘ手ヲ出シテ、サウシテ檢事
  ニハ言ハナイヤウナコトガ起ッタナラバ、今
  度此ノ十七條ヲ以テ檢事ガ嚴トシテ抗議ヲ
  申込ンデ行クコトガ出來ル、ソレダケノ又
  强制權モ玆ニ載セテアルノデアル、斯ウ云
  フノデアリマス、人權蹂躙等ニ付テ色々ナ
  問題ガ起ッテ、質問應答モアリマシタガ、サ
  ウ云フコトハ是ハ決シテ無イノデアル、前
  以テ、先程申シマシタ如ク科學的搜査ヲス
  ルノデアルカラ、證據ガ客觀的ニ確實デナ
  ケレバ決シテソレハ拾ハナイノデアッテ濟
  ムノデアルカラシテ、決シテ人權蹂躪ノ虞
  ハナイノデアル、デ檢事ノ職權行使ガ軌道
  ヲ外レルヤウナコトガナイカト云フコトヲ、
  頻リニ質問サレルノデアルガ、是ハ嚴トシ
  テ軌道ニ載セル覺悟デアルト云フ言明ガア
  リマシタ、ソコデ司法警察官竝檢事ノ〓養
  訓練ノ改善ノ問題ガ出テ來ルノデアリマス、
  來年度ノ豫算ニ外事警察官ノ〓養ノ經費ガ
  取ッテアル、外事警察ノ組織ヲ擴大シテ、新
  規豫算ニ此ノ本省地方ヲ通ジ相當增員ヲス
  ル、又防諜警察ノ諸經費及其ノ科學的〓究
  ヲ爲ス職員モ拵ヘテ、サウシテ大イニ此ノ
  方面ニ進ンデ行ク、又日本ニ檢事ト云フモ
  ノハ、サウタントハアリマセヌガ、其ノ中
  ニ於テ頗ル堪能ニシテ知識ノ廣イ人モアル
  ノデアルカラ、サウ云フ思想方面其ノ他ニ
  於テ、又此ノ本法ノ檢事トシテ適切ナル者
  ヲ選ビマシテ、講習會トカ、色々又訓練ノ
  方法ヲ講ジテ、サウシテ向上サセルヤウニ
  スルト云フ意思デアリマス、又國民ノ防諜
  思想ノ普及等ニハ警防團員三百萬人ト云
  フモノガアルカラ、ソレヲ通ジテ普及ヲス
  ル言論機關等ノ懇談會デアルトカ、「ラヂ
  オ」、新聞、雜誌、그パンフレット」等ヲモ利
  用シテヤルノダ、デ防共知識ト云フモノモ
  必要デアル、巧妙ナ「コミンテルン」ノ謀略
  戰術ニ乘ゼラレヌヤウニ、國民防諜思想ヲ
  普及シマシテ、警防國員其ノ他此ノ方面ニ
  從事スル者ニ十分〓育ヲスルノデアル、此
  ノ〓育ヲシテ、訓練ヲシテ行クカラ、先程
  申シマシタヤウナ間違ヘタ岡ッ引式ノコト
  ハ、今度ハ起ル氣遣ヒハナイト、斯ウ云フ
  風ニ言フノデアリマスヽソコデ第十六條ノ
  コトガチヨット拔ケマシタカラ、遡リマシテ
  十六條ヲ申シマス、十六條ノ第二項デアリ
  マスガ、玆ニハ「本章ノ規定ハ外國ト通謀
  シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯シ
  タル左ニ揭グル罪ニ關スル事件ニ付亦之ヲ
  適用ス」トアリマシテ、外國ト通謀スル目
  的ヲ以テ次ノ範圍內ニ於テ犯罪ニナッタ者
  ハ之ヲ適用スルトシテ、軍機保護法以下此
  處ニマア大變ナ數ガ列ンデ居ルコトハ御覽
  ノ通リデアリマス、其ノ中ニハ治安維持法
  ト云フヤウナ、今囘修正ニナッテ、其ノ訴訟
  手續ニ至ル迄本法ト殆ド同樣ナモノガ此處
  ニアリ、コンナモノ迄此處ニ入レルト云フ
  ノハ一體ドウ云フ譯デアラウカ、又規定······
  只今本章ノ規定ハ云々ト申シタ、外國ノ通謀
  ト云フヤウナコトニ緣ノ遠イヤウナ法律迄
  モ列ンデ居ルノデアル、マア重複シタリ、サウ
  云フ風ニ多數ノモノガ列ビ過ギテ居ッテ、徒
  ニ國民ノ不安、國民ニ壓迫感ヲ與フルト云フ
  コトハ宜シクナイノデアル、ソレデアルカラ、
  是ハ要ラナイヂヤナイカト云フコトニ付テ
  ノ質問應答ガ相當ニアリマシタ、又斯クノ
  如ク澤山列ベテヤルト云フヤウナコトハ必
  要ガナイノミナラズ、是ハ今迄ノ法ノ體裁
  トシテモ異例デアルト云フヤウナ議論ガアリ
  マシタガ、政府ハ是ハ外國ト通牒スルト云
  フ意味ガ條件ニナッテ居ルノデアッテ、其ノ
  目的ニ副ウタモノダケヲ拾ッテヤルノダ、ダ
  カラ此處ニ列ンデ居ッテモ差支ナイト云フ
  ヤウナ譯デアリマスソレハソレニ違ヒナ
  イガ、併シナガラ、又法律家ノ專門家カラ
  見ルト、斯ウ云フ體裁ハ今迄ニモ餘リナイ
  シ、サウシテ又壓迫感ヲ與ヘテ面白クナイ
  ト云フヤウナ問答ガアッタノデアリマス、此
  ノ十六條ニ付キマシテモ、對外諜報、謀略
  等ノ二項ノ條件以外ニ脫逸スルヤウナコト
  ハナイカ、政府ハ之ニ對シテ脫逸スルコト
  ハナイ、斯ウ云フ言明ガアリマシタ、ソコ
  デ今度重大ナノハ第三十三條デアリマス
  是ハ死刑ト云フコトモ控訴ヲ許サナイ
  審切リト云フコトニナルノデアリマス、伊
  藤公ガ朝鮮ノ方面ニ居ラレタ時ニ、朝鮮ニ
  刑法ヲ布ク場合ニ、二審制度ニスルカ三審
  制度ニスルカ、モット簡略ニシタラ宜カラウ
  ト云フ議論ガアッタ時ニ、伊藤公ハ我ガ國
  ニ於テハ三審制度ガ原則デアル、朝鮮人ニ
  對シテモサウ簡略ニ扱ッテハイカヌ、三審制
  度ニセヨト云フコトデ、三審制度ニナッテ居
  ルト云フコトデアリマス、兎ニ角重大ナ事
  件ハ丁寧ニ扱フコトハ當然ナコトデアラウ、
  少クトモ死刑ニ於テ然リデアリマス、是ノ
  政府ノ言フ所モ亦理窟モアルノデアリマス、
  早ク裁判スルト云フコトモ祕密ガ漏泄スル
  上カラ必要デアルガ、ソレノミナラズ、國
  家機密ガ多數ノ人ニ漏レルト云フコトハ更
  ニ避ケタイノデアル三審迄ノ間ニハ其ノ
  祕密事項ヲ知ル者ガ相當ノ數ニナル如何
  ニ祕密ニシテモ、裁判所ニハ書記モ居ルシ
  廷丁モ居ルカラ、サウ云フ人迄モ之ヲ知ル
  ト云フコトハ、是ハ當然ノコトデアル、サ
  ウシテ又三審ニスルト云フト、甲ノ裁判所
  カラ乙ノ或地方ノ裁判所ニ移スト云フコト
  モ起ッテ來マスカラ、其ノ間ニ一箇所ダケデ
  ナク祕密ガ漏レ易イ、其ノ間ニ外國ノ魔手
  ガ入ッテ來テ、日本人デ知ラズ識ラズ引ツ掛
  ルト云フヤウナモノモ入ッテ來ル、日本ノ法
  曹界ニ於テモ三審制度ト云フノハ寧ロ陳腐
  デ、今日ハモウ三審制度ナント云フコトハ
  言フ人ガ少クテ、大正十一年以後ト大正十
  一年以前トハ、此ノ點ニ於テ非常ナ差ガア
  ル卽チ陪審法ハ二審デ以テ濟ムヤウニ
  ナッタ、又大審院ニ事實審ト云フモノヲ入レ
  タ、今囘ノヤウナ重大ナモノニ對シテハ、
  昨日斯ウ云フ風ニ言明シテ居リマス、法令
  違反ノミナラズ、事實誤認、量刑不當ノ場
  合ニハ上告シ得ルコトトシ、又上告審カラ
  移送、差戾シノ途モ開カレテ居ルカラ御心
  配ハナイト云フ風ニモ說イテ居リマス、ソ
  レデ此ノ裁判ガ餘リ長クナルト云フト、終
  ヒニハ效果ガ薄クナッテシマフ、三審制ニナ
  ルト云フト、第一審ノ時カラ、旣ニ裁判官
  ハモウドウセ後デ上司デ以テ判決ヲ變更ス
  ルニ違ヒナイト云フ頭ガ先入主トナッテ居
  ルカラ、責任感ト云フモノガ自然ドウモ減
  ズルノハ當然デアラウ、玆ニ一審ト云フケ
  レドモ、刑ノ判決ノ誤謬ヲ正スト云フコト
  ニ於テハ、大審院ニ於テ最高ノ權限ヲ有シ、
  最モ堪能ナル判事ノ事實審ガアル、寃罪ニ
  ハナラナイヤウニ十二分ノ用意ガアル、刑
  法七十三條、七十五條、七十七條、七十九
  條、卽チ大逆罪、内亂罪ノ如キモノハ國家
  ノ安危ニ繫ルノデアルガ、一審ダケデアル、
  國家機密ノ漏泄ノ罪ハ內亂罪ト匹敵スルモ
  ノト考ヘラレル、控訴ダケヲ除クト云フコ
  トニハ理由ガ十分アル、除イテモ鄭重ニヤッ
  テ行ケルノデアル、斯ウ云フ本法ノヤウナ
  問題ハ、愼重ト共ニ果斷ト云フコトモ必要
  デアル、五六年モ經ツト云フト、證據モ調
  ベテ見テモナカ〓〓分ラナイ、事件ハ成ルベ
  ク新鮮ナウチニ檢討スルノガ必要デアルト
  云フコトデアリマス、サウシテ今迄デモ
  死刑ノヤウナモノハ、マア顯著ナル手續上
  ノコトヲモウ一遍調ベルト云フ意味ニ於キ
  マシテ、大抵一審ダケデナク審理シテ
  行クト云フノガ非常ニ多イ、殆ド皆サウ
  ダト思フ、全體引括メレバ「。パーセンテイヂ」
  ハ少イノデスケレドモ、非常ニ重イ刑罰ノ
  場合ハ今サウ云フ風ニナッテ居ル、ノミナ
  ラズ、當局ノ言明ニ依リマシテ、其ノ點ハ
  控訴ガナクッテモ十分ニ裁判ノ誤リナキコト
  ヲ期スルコトガ出來ルノデアル、要スルニ
  祕密ガ漏レナイ爲ニハ早クシナケレバナラ
  ナイ、而シテソレニハ十二分ノ用意ヲスル
  ト云フコトニナルノデアリマス、尙其ノ外
  ニ質問應答ハ極メテ重大ナモノガ多數アリ
  マスガ、四十條ニ亙ッテ居ルダケニ之ヲ一々
  諸君ニ申上ゲルコトハ、會期切迫ノ際ニ於
  テ如何カト思ヒマスカラ、後ハ速記錄ニ於
  テ十分ニ御覽ヲ願ヒマシテ、此ノ邊デ割愛
  致シタイト思フノデアリマス、次イデ二十
  六日午後、當局ノ言明ガアリマシテカラ、
  討論ニ入リマシテ、本案全部ヲ問題ト致シ
  マシタ、修正案ノ動議ガ提出サレマシタ
  是ハ六ツバカリアリマスカラ、一々重要ナ
  コトデアリマスカラ、申上ゲテ置キマス、
  修正案ノ第一、「第一條本法ニ於テ國家機
  密トハ國防上外國ニ對シ祕匿スルコトヲ要
  スル外交、財政、經濟其ノ他ニ關スル重要ナ
  ル國務ニ係ル事項ニシテ左ノ各號ノニ該
  當スルモノ及之ヲ表示スル圖書物件ヲ謂フ」
  トアリマスノヲ、次ノ如ク修正スル、「第一
  條本法ニ於テ國家機密トハ國防上外國ニ對
  シ祕匿スルコトヲ要スル外交、財政、經濟
  其ノ他ニ關スル重要ナル國務ニ係ル事項及
  之ヲ表示スル圖書物件ヲ謂フ」、斯ウ云フ風
  ニ修正ヲシテ、御前會議云々、二帝國
  議會ノ祕密會議云々、三前二號云々ノ全
  部ヲ削除スル、而シテ第二項トシテ「前項ノ
  事項及圖書物件ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」、斯ウ
  云フ風ニスルト云フコトデアリマス、此ノ
  修正ハ一二三ヲ削除シマスル以上、必然的
  ニ生ズル修正デアリマス、其ノ理由トシテハ、
  第一號ノ如キハ特ニ承服スルコトハ出來ナ
  イ、御前會議、樞密院會議ハ、先程モ申シマ
  シタ通リノ意味ニ於テ、サウ云フコトヲ玆
  ニ書クノハ宜シクナイ、最高ノ官吏ガ犯罪
  ヲ犯ス虞アリト云フヤウナコトヲ、國民ニ
  聯想セシムルコトハ忌マハシイコトデアル、
  二號モサウデアル、三號モサウデアル、ダ
  カラ是ハ除ケト、斯ウ云フノデアリマス、
  是ガ第一ノ修正案、修正案ノ第二、「第八條
  國防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スル目的
  ヲ以テ又ハ其ノ用途ニ供セラルル虞アルコ
  トヲ知リテ外國ニ通報スル目的ヲ以テ外交、
  財政、經濟其ノ他ニ關スル情報ヲ探知シ又ハ
  收集シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス」トア
  リマスノヲ、「第八條國防上ノ利益ヲ害スベ
  キ用途ニ供スルコトヲ知リテ外國ニ通報ス
  ル目的ヲ以テ外交、財政、經濟其ノ他ニ關
  スル情報ヲ探知シ又ハ收集シタル者ハ十年
  以下ノ懲役ニ處ス」ト修正スル案デアリマス、
  諜報國ノ手先ニナル者ヲ取締ルト云フ、當
  局ハ之ニ觸レル者ハ極メテ少イト云フケレ
  ドモ、此ノ法文ヲ、法文ダケノ表面ヲ見タ
  ノデハ、當局ノ說明ハ出テ來ナイ、此ノ二
  通リノ目的ト云フモノガ極メテ廣過ギル、
  貿易商等ノ如キハ、材料ヲ探知收集シナケ
  レバ自分ノ業務ガ行ヘナイ、誤ラレテ被疑
  者トナラヌトハ限ラナイ、故ニ修正シテ斯
  クノ如ク制約スル必要ガアルト云フノデア
  リマス、修正案第三、是ハ第十六條第二項
  ヲ削除スル、原案ノ第二項ハ「本章ノ規定
  ハ外國ト通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目
  的ヲ以テ犯シタル左ニ揭グル罪ニ關スル事
  件ニ付亦之ヲ適用ス」、サウシテ軍機保護法
  以下澤山法律ガ列擧シテアル、此ノ全部ヲ
  削除スルト云フ意見デアリマス、サウ云フ
  修正案ガ出タノデアリマス、其ノ理由トシ
  テハ第十六條第一項第一號ハ、本法ニ
  於テ始メテ規定シマシタ特殊ノ犯罪デアル
  カラ、此ノ事件ニ付特別ナル刑事ノ手續
  ヲ規定スルコトハ、或ハ已ムヲ得マイ、又
  同項第二號ニ揭グル罪ハ、軍機保護法、軍
  用資源祕密保護法違反、外患罪等、第一號
  ノ犯罪ニ近イ性質ヲ持ッテ居ル罪デアルカ
  ラ、是等ノ罪ニ付、特別ナル刑事手續ヲ
  規定スルコトモ、或ハ已ムヲ得ナイカト思
  フガ、第二項ニ揭グル各種ノ犯罪ハ、刑法
  其ノ他ノ法規ニ亙リ其ヲ範圍極メテ廣ク、
  單ニ之ヲ「外國ト通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ
  與フル目的ヲ以テ」ト云フ條件ヲ附加シタ
  ルコトニ依ツテ、直チニ第一項ノ罪ト
  同ジク特別ナル刑事手續ニ依ラシムル
  コトハ不當デアリマス、尤モ此ノ中ニハ
  皇室ニ對スル罪、內亂罪ノ如キ、極メテ重
  大ナル罪モ含マレテ居リマスガ、是ハ現行
  刑事訴訟法上ニ於テ、特別ナル裁判手續ノ
  規定ガアル、搜査ニ關スル特別手續ハ規定
  サレテハナイケレドモ、搜査ノ實際ニ徵シ、
  支障ヲ生ズルコトハナイ、結局斯クノ如キ
  廣イ範圍ニ亙リ、特別ナル刑事手續ヲ設ケ
  ルコトハ異例デアッテ不當デアルカラ、第二
  項全部削除ノ動議ヲ提出スル所以デアルト
  云フコトヲ理由トシテ言ハレタノデアリマ
  ス、修正案ノ第四、第十七條乃至第二十六
  條ヲ削除シ、且之ニ依ッテ影響ヲ受クル部分
  ヲ修正スルコト、其ノ理由ト致シマシテハ、
  是ハ檢事ニ强制權ヲ付與スルコトヲ削除ス
  ルト云フ意味ヲ持ッテ居ル、今日迄ニ間違ガ
  多カッタ、社會ニ不安ヲ與ヘル是ハ條文デア
  ル、被疑者ニハ相當上層階級ノ者モ出テ來
  ル、檢事ノ判斷ダケデ强制權ノ行ハレルコ
  トハ、危クモアルシ又不適當デアルカラ、
  此ノ修正案ヲ提出スルノデアル、修正案ノ
  第五、十九條以下ニ於テ司法警察官ノ訊問
  等ヲ除キタイ、卽チ第十九條前段中一人、
  司法警察官」ノ七字ヲ削ル、卽チ「四十八時
  間內ニ檢事又ハ司法警察官之ヲ訊問スベ
  シ」云々トアルヲ、「四十八時間內ニ檢事之
  ヲ訊問スベシ」ト修正スル、第二十條第一
  項中、「刑事訴訟法第八十七條第一項各號ニ
  規定スル事由アルトキハ檢事ハ被疑者ヲ勾
  留シ又ハ其ノ勾留ヲ司法警察官ニ命ズルコ
  トヲ得」トアルノヲ、「檢事ハ被疑者ヲ勾留
  スルコトヲ得」ト修正スル、同條第二項「第
  十七條第二項「第十七條第二項ノ規定ハ檢
  事ノ命令ニ因リ司法警察官ノ發スル勾留狀
  ニ付之ヲ準用ス」、是ハ削除スル、第二十三
  條ヲ次ノ如ク改メル、「勾留ノ事由消滅シ其
  ノ他勾留ヲ繼續スルノ必要ナシト思料スル
  トキハ檢事ハ速ニ被疑者ヲ釋放スベシ」、第
  二十五條第一項ヲ改メテ「檢事ハ被疑者ヲ
  訊問スルコトヲ得」トスル、同條第二項ヲ
  改メテ「檢事ハ公訴提起前ニ限リ證人ヲ訊
  問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ檢事ニ囑託スルコ
  トヲ得」ト修正スル、同條第三項、第四項
  ヲ削ル、第二十六條第三項ヲ次ノ如クニ修
  正スル、「司法警察官檢事ノ命令ニ依リ押
  收、搜索又ハ檢證ヲ爲シタルトキハ其ノ調書
  ニ鑑定人、通事又ハ飜譯人ヲ訊問シタルト
  キハ其ノ訊問調書ニ命令ヲ爲シタル檢事ノ
  職氏名及其ノ命令ニ依リ之ヲ爲シタル旨
  ヲ記載スベシ」、其ノ理由トシマシテハ、警
  部、警部補、巡査部長等ニハ、今日今尙其
  ノ素質、知識、技能ニ於テ訊問勾留ナドヲ
  委セルコトハ不適當ナ者ガ多イ、此ノ今日
  ノ現狀ニ於テ行ハウトスルコトハ弊害ガ多
  イカラ、斯クノ如ク修正ヲスル、是ガ第五
  デアリマス、修正案ノ第六、第三十三條ヲ
  削除シ、第三十四條以下ニ於テ、之ニ依ッテ
  影響ヲ受クル部分ヲ削ル、理由、三審制度
  ハ明治八年ノ大審院以來傳統的ノ原則デア
  ル、刑事裁判ノ歷史上之ヲ一審ニスルコト
  ハ大變革ト言ハナケレバナラナイ、人ノ生
  命、自由、名譽、財產ヲ剝奪スル權能アル
  司直ニ誤ナキコトヲ期スル以上、ドウシテ
  モ愼重ニシナケレバナラナイ、二審ト言フ
  ケレドモ、顯著ナル事由アルトキニ限ッテ
  出來テ居ルノデ、控訴ヲ省イタ所デ漏泄ナ
  シト云フ譯ニハ行カナイ、是ハ人ニアルノ
  デアッテ、短クシタカラト云ッテ、或ハ三審
  ヲ二審ニシ、一審ニシタカラト云ッテ、漏泄
  ヲ防グト云フ譯ニ行カナイ、是ハ三審ダッテ
  モ嚴シク祕密ヲ保テバ宜イヂヤナイカ、サ
  ウシタラ宜カラウ、斯ウ云フ理由デアリマ
  ス、斯クノ如ク六ツノ修正案ガ出、マシテ、各〓
  此ノ動議ハ贊成者ガアッテ成立致シマシタ、
  其ノ各、ベニ付テ一々採決ヲ致シマシタル處少
  數ヲ以テ否決ニ相成リマシタ、ソレカラ本
  案全部ヲ議題トシテ討論ヲ致シマシタ、
  委員カラ贊成ノ趣旨ヲ述ベラレマシタ、目
  下ノ國際情勢ノ緊迫セルニ鑑ミマシテ、一日
  モ早ク本法施行ノ重要性アルコトニハ異議
  ハナイ、併シナガラ一度本法ノ運用ヲ誤ラ
  ンカ、誠ニ恐ルベキ運命ヲ招來スルモノデ
  アル、第一條ニ國家機密ノ具體的範圍ヲ、勅
  令ヲ以テスルハ不可能デアルガ、主務省ノ
  告示ヲ以テ差支ナキ限リ公ニスルト云フ政
  府ノ言ガアッタノデ滿足ヲスル、又本案ハ政
  治謀略ニ惡用サレル虞ガ多イ、政府ハ無
  イト斯ウ言フケレドモ、過去ノ事實ニ徵シ
  其ノ憂ハ十分アル、特ニ第八條ハ謀略ニ利
  用サレ易イ、唯我ガ國ノ防諜警察ガ科學的
  ニ完全ナルコトヲ云ッテ、徒ニ單純ナル密〓
  投書ニ依ッテハ拘束ハ決シテシナイ、又斯カ
  ルコトヲ行ヘバ、捜査上極メテ不利益ヲ來
  スト云フ當局ノ言明ヲ信賴シテ置カウ、此
  ノ點モ了解ヲ致シマシタ、刑事手續モ愼重ニ
  スルコトデアルカラ何等ノ憂ナイト云フ說
  明モ聽イタコトデアル、此ノ意味ヲ以テ原
  案ニ贊成ノ意ヲ表スルト述ベラレマシタ、
  次イデ本案全部ヲ問題トシテ採決ニ入リマ
  シタ、本案ヲ可決スベシトスル者十七、否
  トスル者六、仍テ本案ハ多數ニ依ッテ原案通
  リ可決ト相成リマシタ、右報告ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=3

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• 004・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　司法大臣ヨリ發
  言ヲ求メラレマシタ、許可ヲ致シマス、柳
  川司法大臣
  〔國務大臣柳川平助君演壇ニ登ル〕

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• 005・柳川平助

  ○國務大臣(柳川平助君)　本法案ノ審議ノ
  途中ニ於キマシテ、問題トナリマシタ諸
  點ニ付キ政府ノ意見ヲ申述べ、且本法成立
  ノ後ニ於ケル運用方針等ヲモ申述べマシテ、
  御協賛ヲ得タイト思ヒマス、第一、本法ノ
  內容ニ付テ、本法第一條ニ所謂國家機密ノ
  範圍ガ明瞭ヲ缺ク爲ニ、惡意ナクシテ罪ヲ
  犯スニ至ル虞アリ、此ノ意味ニ於テ國民ニ
  不安ヲ與フルニ非ズヤト云フ御意見ガアリ
  マシタガ、國家機密ハ國家ノ最高ノ機密デ
  アッテ、國民大衆ガ之ヲ知ル機會ハ殆ドナイ
  ノデアリマス、之ヲ知ル者ハ特定ノ官吏、
  其ノ他極メテ少數ノ關係者デアリマス、尙
  之ヲ表示スル圖書物件ニハ、國家機密タル
  コトノ標識ヲ付シ、口頭ヲ以テ之ヲ述ブル
  場合ニハ、範圍ヲ限定シテ、取扱者ニ之ヲ
  指示致シ、尙差支ナキ限リ之ヲ官報ニ告示
  スル豫定デアリマスカラ、國家機密ノ範圍
  ガ明確ヲ缺ク爲ニ、惡意ナキ者ガ知ラズ識
  ラズノ間ニ罪ニ陷ルト云フガ如キコトハ
  紹對ニナイト信ズル次第デアリマス、第八
  條ノ規定ガ廣キニ失シ、貿易界、經濟界其ノ
  他ニ不安ヲ與フル憂ナキヤト云フ御意見モ
  アリマシタガ、本條ハ帝國ニ取ッテ國防上不
  利益ナル情報ヲ探知收集シ、又ハ之ヲ外國
  ニ通報スル目的ヲ以テ探知收集スルコトヲ
  取締ラムトスル規定デアリマシテ、此ノ種
  ノ行爲ヲ爲ス者ハ、平素ノ査察、內偵ニ依ッ
  テ、其ノ意圖ニ付確タル證據ヲ得タル上檢
  擧致スノデアリマシテ、善良ナル經濟人、
  政治家等ガ誤ッテ檢擧セラルヽガ如キコト
  ハ絕對ニナイモノト確信致ス次第デアリ
  マス第十六條第二項ノ規定ガ廣キニ失ス
  ルニ非ズヤト云フ御意見モアリマシタガ、
  第十六條ハ、第一項ニ於テ敵性國ノ諜報活
  動ニ對抗スル爲ニ必要ナル規定ヲ設ケ、第
  二項ニ於テ、敵性國ニ依ッテ思想、宣傳、破
  壞竝ニ經濟謀略ニ利用セラルヽ虞アル罪ヲ
  揭ゲ、·是等ノ罪ニ付テ特別ナル搜査竝ニ裁
  判手續ヲ適用スルコトヲ規定致シタノデア
  リマシテ、第一項及第二項ノ兩者相俟ッテ敵
  性國ノ帝國ニ對スル諜報竝ニ謀略活動ヲ防
  止、破摧スルコトヲ得ルコトトナルノデア
  リマシテ、第一項及第二項共ニ絕對ニ必要
  ナルモノト信ズルノデアリマス、第十七條
  以下ニ於キアシテ、特別ナル捜査手續ヲ規
  定致シテ居リマスガ、之ニ對シ斯クノ如キ
  權限ヲ搜査官ニ付與スルコト少クトモ司
  法警察官ニ之ヲ付與スルコトハ、之ヲ濫用
  セラルヽ虞ガアリ、又斯クノ如キ權限ヲ付
  與セザルモ、現行刑事訴訟法ノ規定ニ依ッテ
  十分デハナイカト云フ御意見モアリマシタ
  ガ、本法第十六條ニ規定スル罪ハ、廣汎ニ
  亙ル組織的、國體的活動ヲ致シテ居ル所ノ
  敵性國ニ對抗スルト云フ極メテ特殊ナル性
  質ヲ有シ、且ソレ自體重大ナル犯罪デア
  リマシテ、之ヲ檢擧スルコトハ外交、政
  治等ニ大ナル影響ヲ及ス場合モアルノデ
  アリマス、從ッテ之ヲ檢擧スベキヤ否ヤ、
  假ニ之ヲ檢擧スルト致シマシテモ、其ノ
  時期方法等ニ付テハ愼重ナル考慮ヲ要シ
  マス、又搜査機關中、最高ノ機關ガ中心
  トナリ其ノ他ノ各雙査滯關ガ打ッテ一丸
  トナリ、其ノ指揮命令ヲ受ケテ連絡統一ア
  ル活動ヲ爲シ、以テ敏速且適正ニ捜査ヲ實
  行シナケレバナラナイノデアリマス、斯樣
  ナ必要ニ基キ、特ニ是等ノ規定ヲ設ケタ次
  第デアリマス、裁判手續ニ付キマシテモ、
  二審制ヲ採用シ、其ノ他種々ノ規定ヲ設ケ
  マシタガ、是等ハ何レモ事件ノ性質ニ鑑ミ、
  訴訟手續ノ過程ニ於テ、國家ノ機密ガ外國
  ニ漏泄スルコトヲ防止スルコト、竝ニ其ノ
  外交關係等ニ及ス影響ヲモ顧慮シテ、成ル
  ベク速カニ訴訟ヲ終結セシメムトスル目的
  ニ出タモノデアリマシテ、現在ノ裁判制度
  ニ對スル重大ナル改正デハアリマスルガ、
  事件ノ性質ニ鑑ミマシテ必要已ムヲ得ザル
  措置ト考ヘテ居ル次第デアリマス、第二運
  用ニ付テ、本法案ハ敵性國家ノ我ガ國ニ對
  スル諜報竝ニ謀略活動ニ對抗スル爲ニ設ケ
  タモノデアリマス、運用ニ當ッテハ、此ノ根
  本目的ニ鑑ミ、ソレ以外ニ脫逸セザルコト
  ニ細心ノ注意ヲ拂フ考デアリマズ、本法ガ
  國内ノ政治謨略ニ利用セラルヽ憂ガアルノ
  デハナイカト云フ御心配ヲ御持チノ御方モ
  アルヤニ承知致シテ居ルノデアリマスガ、
  若シ萬一左樣ナコトガアリマシタナラバ
  ソレハ本法制定ノ目的ニ反スルノミナラズ、
  司法部ト致シマシテモ自ラ其ノ職ヲ辱カシ
  ムルコトニ相成リマスノデ、絕對ニ左樣ノ
  コトノ起ラナイコトヲ期スル覺悟デアリマ
  ス、卽チ本法ノ適用ヲ受クル犯罪ノ捜査ニ
  當リマシテハ、其ノ著手前竝ニ處分ニ當リ、
  ソレ〓〓必ズ上司ノ指揮ヲ仰ガシムルコト
  トシ、其ノ適正ヲ期シタイト考ヘテ居リマ
  ス、尙平素カラ有ラユル方法ニ依リマシテ
  判檢事竝ニ司法警察官吏ニ對シ、本法ノ目
  的及規定ノ趣旨ヲ能ク了解セシメ、萬遺漏
  ナキヲ期シタイト考ヘマス、裁判手續ニ關
  シマシテモ、特ニ鍊達堪能ナル判事ヲシテ
  事件ニ當ラシムルヤウ豫メ其ノ措置ヲ執ル
  等、愼重ヲ期シタイト考へテ居リマス、第
  三將來ニ於ケル改廢、本法案ハ現時ノ國際
  情勢ノ機微ニ鑑ミマシテ、是非共必要ナル
  モノト認メ立案致シタノデアリマス、現下
  緊迫セルノ國際情勢ガ著シキ緩和ヲ見ザル
  限リ、本法案ノ必要性ハ何等減少シナイト
  存ジマス、併シナガラ將來情勢ノ著シキ變
  化ニ依リマシテハ、更ニ改正セラルヽコト
  モアリ得ルコトカト思ヒマス、尙本法ガ成
  立致シマシタ後ニ於キマシテモ、絕エズ〓
  究ヲ加ヘ、且本法運用ノ實績ヲ十分考察致
  シマシテ、苟モ改善ヲ必要トスル點ニ付テ
  ハ進ンデ修正ヲ加ヘ、以テ國防保安ノ完
  璧ヲ期スベク最善ノ努力ヲ致シタイト考ヘ
  テ居リマス、右樣ノ次第デアリマスカラ、
  何卒當局ノ意ノアル所ヲ御諒察下サイマシ
  テ、御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ切望スル次
  第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=5

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• 006・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　討論ノ通〓ガゴ
  ザイマス、伍堂君
  〔伍堂卓雄君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=6

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• 007・伍堂卓雄

  ○五堂卓雄君　本法ノ目的ハ、第一ニハ、
  外交、財政、經濟其ノ他ニ關スル國家機密
  ノ外國漏泄ヲ防止スルコト第二ニハ國
  防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スル目的ヲ
  以テ、又ハ其ノ用途ニ供セラルヽ虞アルコト
  ヲ知ッテ、外國ニ通報スル目的ヲ以テ外交、
  財政、經濟其ノ他ニ關シテ情報ヲ探知シ、
  又ハ收集スルコトヲ防止スルコト、第三ニ
  ハ、外國ト通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル
  目的ヲ以テ治安ヲ害スベキ事項ヲ流布シ、
  金融界ノ攪亂、重要物資ノ生產又ハ配給ノ
  阻害、其ノ他ノ方法ニ依ッテ、國民經濟ノ運
  行ヲ著シク阻害スル虞アル行爲ヲ防止セム
  トスルノデアリマシテ、刻下我ガ國ニ於ケ
  ル外國諜報機關ノ跳梁ヲ逞シウシツヽアリ
  マスル現狀ニ鑑ミマシテ、此ノ必要性ハ十
  分ニ之ヲ認メルノデアリマスルガ、一般國
  民ニ取リマシテハ、國家機密其ノ他犯罪ノ
  對象ヲ明示セラレナイデ、賣國的ノ行爲ト
  シテ重刑ニ處セラレムト致シマスル危險極
  マル法律デアリマス、本法ハ數箇ノ缺陷ノ
  缺點ヲ持ッテ居ルコトハ認メマスルガ、其ノ
  缺點ヲ忍ビマシテモ、此ノ際、此ノ非常時
  局ニ處スル我々ノ態度ト致シマシテハ、之ヲ
  贊成致シマシテ、原案ノ儘承認スベキモノ
  ト信ズルノデアリマス、以下少シク其ノ缺
  點ヲ指摘シマシテ、又成立ニ對スル私ノ希
  望ヲ述べヨウト思ヒマス、缺點ニ付テ申シ
  マスルト、第一ニ、本法ハ統制經濟ノ圓滑
  ナル運營ヲ阻止スル虞ガアルノデアリマス、
  過去ニ於ケル統制經濟ノ運營ニ於テ、幾多
  ノ失敗ガアリマシタコトハ、政府ニ於テモ
  之ヲ認メテ居ルノデアリマス而シテ昨年
  十二月七日、政府ガ發表致シマシタ經濟新
  體制要綱ニ依リマスレバ經濟團體ノ職能
  ハ、「政府ノ協力機關トシテ重要政策ノ立案
  ニ對シ政府ニ協力スルト共ニ實施計畫ノ立
  案及其ノ計畫實行ノ責ニ任ジ且必要アル場
  合ニ於テハ政府ニ意見ヲ具申ス」、ト斯ウア
  リマシテ、民間經濟團體ハ、政府ノ立案ニ
  モ參畫シマスルノミナラズ、實施計畫ノ立
  案ニ任ズルノデアリマスルカラ、現狀ニ較
  ベマスト劃期的ノ革改トナリマシテ、從來
  ノ官營統制ヲ民營統制ニ移スコトニナルノ
  デアリマスルガ、本保安法ガ實施サレルコ
  トニナリマスルト、官僚ハ勢ヒ現狀以上ニ
  祕密主義ヲ固守セザルヲ得ナイヤウニナル
  ノデアリマスルカラ、政府ノ聲明サレマシ
  タヤウナ經濟新體制ノ實施ハ、非常ニ困難
  トナル虞ガアルノデアリマス、次ニ本法ハ
  業務ニ因ルト否トヲ間ハズ、國家機密タル
  コトヲ知ラナイデ犯シタ者ハ違反者トナラ
  ナイノデアリマスルガ、併シナガラ漏泄シ
  マシタ國家ノ損害ハ最早取返シガ付カナイ
  ノデアリマス、次ニ第八條ハ、將來政治謀
  略ノ具ニ供セラルヽノ虞ガ多分ニアルノデ
  アリマシテ、情報其ノモノノ價値如何ヲ問
  ハシ、國防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供ス
  ル目的ヲ以テスル者、又ハ其ノ用途ニ供セ
  ラルヽノ虞アルコトヲ知ッテ、外國ニ通報ス
  ル目的ヲ以テスル者ヲ處罰セムトスルノデ
  アリマスルカラ、之ヲ誣〓、中傷又ハ政治
  謀略ノ具ニ惡用セラルヽノ虞ガ多分ニアル
  ノデアリマシテ、其ノ影響ハ特ニ外國人トノ
  交涉ノ多イ貿易商其ノ他ノ經濟人ニ取ッテ
  最モ重大デアリマシテ、之ガ爲ニ徒ニ業者
  ヲ萎縮セシメ、彼等ノ活動ヲ阻止スル虞ガ
  アルノデアリマス、本法ノ實施ハ、只今述
  ベマシタヤウナ重大ナ缺點ヲ包藏シテ居ル
  ノデアリマシテ、一度此ノ運用ヲ誤リマス
  ルニ於キマシテハ、傳家ノ寶刀ハ變ジテ魔
  刀トナルノ虞ガ多分ニアルノデアリママル
  ガ故ニ、尙愼重審議ヲ重ネマシテ、適當ナ
  ル修正ヲ施スベキモノト、一應ハ考ヘタノ
  デアリマスルルガ、特別委員會ニ於テノ數
  次ノ祕密會ニ於キマシテ、政府委員カラ詳
  細ニ述ベラレマシタル國家ノ極メテ切迫セ
  ル國際事情ニ鑑ミマシテ、本案ノ急速成立
  ヲ必要ト認メマスルガ、ソレニ付キマシテ
  ハ若干ノ希望ヲ申述べヨウト思ヒマス、第
  一ニハ只今司法大臣カラ言明セラレマシ
  タル通リ、官報、告示其ノ他ノ方法ニ依ッテ、
  出來得ル限リ國家機密ノ具體的範圍ヲ一般
  國民ニ周知セシムルコトデアリマス、第二
  ニハ、本法ガ將來苟モ政治謀略其ノ他ノ
  不純ナル目的ニ惡用セラルヽコトナカラシ
  ムルガ如キ適切ナル方法ヲ講ズルコトデ
  アリマス、此ノ點ガ最モ重要デアリマシ
  テ、政府委員ノ說明ニ依リマスルト、我ガ防
  諜警察ハ非常ニ發達シテ居ッテ、常ニ科學的
  調査ニ基イテ行動ヲシテ居ルノデアリマス
  カラ、此ノ種犯罪ニ關スル密告ヲ受ケマシ
  テモ、平素ノ調査ニ照合シテ其ノ報〓ノ正
  否ヲ判斷スルコトガ出來ルノデアル、假
  其ノ調査記錄ニ載ッテ居ナイ新シイ人物ニ
  付テ密〓ガアッタトシテモ、直チニ檢擧ヲス
  ルト云フヤウナコトハ斷ジテシナイ、又サ
  ウスルコトハ却テ事件ノ坤索上ニ不利益デ
  アルノダ、デアルカラ明白ニ惡意ヲ以テ犯
  シタコトガ認定セラレルノデナケレバ、決
  シテ檢擧ヲシナイノダト云フ言明デアリマ
  シタノデ、一應諒承ハ致シマシタガ、過去
  ニ於キマシテ、政黨華ヤカナル時代ニ於テ、
  歷破廉恥罪ガ政治謀略ノ具ニ供セラレマシ
  タ實例ニ鑑ミマシテ、本法ガ絕對ニ惡用セ
  ラレルコトノナイヤウニ、特ニ有效適切ナ
  處置ヲ講ズルノ必要ガアルノデアリマス、
  第三ニ、本法ノ實施ニ當リマシテ、檢事竝
  ニ司法警察官ノ職權濫用ニ關スル國民ノ不
  安ヲ一掃スルガ爲ニ、檢事竝ニ司法警察官
  ノ職務執行ニ對スル監督制度ヲ確立シテ、
  有效ナル監察機關ヲ設置スルコトデアリマ
  ス、第四ニハヽ二審制度ニ對スル國民ノ不
  安ヲ一掃スル爲ニ、特ニ第一審ノ愼重ヲ要
  スルコトハ勿論デアリマスルガ、司法大臣
  ガ特別委員會ニ於テ言明サレタ通リニ、大
  審院ニ於テ第一審ノ判決ヲ不當ト認メタル
  場合ニハ必ズ原裁判所ニ差戾シテ再審理
  セシムルコトヲ厲行スルコトデアリマス、
  第五ニ、私ハ嚴罰主義ニ依ッテ國家機密ノ漏
  泄ヲ防止セムトシマスルヨリモ、一般國民
  ニ防諜、ヽ防共思想ノ普及徹底ラ圖ルコトガ、
  今日ノ急務デアリ、先決問題デアルト存ズ
  ルノデアリマス、此ノ點ニ付キマシテ、內
  務大臣ハ、特別委員會ニ於テ私ノ質問ニ對
  シマシテ、防諜、防共思想ノ普及徹底ハ、
  或ハ〓育ニ依リ、又ハ警防團ヲ通ジテ之ヲ
  行フ旨御答ガアリマシタガ、一般國民ニ對
  シテ、何ガ故ニ防諜防共ガ必要デアルカト
  云フコトヲ、尙一層有效ナル方法ニ依ッテ宣
  傳普及スルコトガ必要デアルノデアリマシ
  テ、我ガ國ノ此ノ方面ニ於ケル施設ハ、「ド
  イツ」等ニ較ベマシテ、著シク小規模デアリ
  低級デアリマス、政府ハ本法施行ト共ニ、
  特ニ此ノ方面ノ改善充實ヲ圖ッテ、知ラズ識
  ラズノ中ニ大罪ヲ犯ス者ヲ絕滅スルヤウニ
  努力セラレタイノデアリマス、第六ハ、戰術
  發達ノ歷史、是ハ軍ノ戰術デアリマス、戰
  術發達ノ歷史ハ、·何時モ攻擊兵器ト防禦兵
  器トノ競爭ノ發達ニ外ナラナイノデアリマ
  ス、一方ニ優秀ナ攻擊兵器ガ出來ルトソ
  レニ應ズルガ爲ニ防禦兵器ガ出來ルノダ、
  防禦兵器ガ出來ルト、又此ノ防禦兵器デハ
  追ッ付カナイヤウナ攻擊兵器ガ生レテ來
  ル、卽チ攻擊、防禦兵器ノ發達競爭ノ歷史
  ニ外ナラナイノデアリマス、而シテ常ニ攻擊
  兵器ノ發達ノ方ガ先行スルノヲ原則ト致シ
  やっ、何時モ攻擊兵器ノ方ガ勝ツノデス
  デアリマスルカラ、敵ノ攻擊兵器テ對抗ス
  ルガ爲ニハ、我レ亦攻撃兵器ヲ以テシナケレ
  バナラナイコトハ戰術ノ鐵則デアリマス、ソレ
  ト同ジヤウニ、敵性國家ノ諜報戰、宣傳戰、
  謀略戰ニ對抗スルニハ、我レ亦諜報、宣傳、
  謀略ノ祕術ヲ盡シテ戰フコトガ絕對ニ必要
  デアリマシテ、本法ノ如キ、唯防禦手段ニ依ッテ
  是等敵ノ戰術ヲ完全〓ニ封鎖スルコトハ不可能
  デアルト信ズルノデアリマス、而シテ我ガ國ハ、
  諜報戰術ニ於キマシテハ非常ニ發達シテ居
  ルノデアリマスガ、宣傳戰術ニ至リマシテ
  ハ其ノ規模ニ於キマシテモ、將又其ノ
  技術ニ於キマシテモ、列國ニ較ベテ著シク
  遜色ノアリマスコトハ、政府ニ於テモ之ヲ
  認メテ居ラレルノデアリマス、是ハ我ガ國
  民性トシテ宣傳ガ下手ダ、斯ウ云フ風ニ諦
  メルヤウナ熊度ヲ執ルノハ大キナ誤デアリ
  マシテ、政府ハ此ノ際速カニ宣傳機關ノ擴
  充强化ヲ圖ラレタイト思フノデアリマス、
  其ノ他、本法成立後ニ於ケル運用竝ニ將來
  ニ於ケル改廢等ニ關シマシテ、只今司法大
  臣カラ縷々述ベラレマシタル言明ニ私ハ信
  賴致シマシテ、本法案ニ贊成スル者デアリ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=7

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• 008・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴喜君)　是ニテ休憩ヲ致
  シマス、午後ハ一時ヨリ開會致シマス
  午後零時六分休憩
  午後一時二十三分開議

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=8

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• 009・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　是ヨリ午後ノ會
  議ヲ開キマス、小山松吉君
  〔小山松吉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=9

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• 010・小山松吉

  ○小山松吉君　私ハ本案ニ贊成スル者デア
  リマスガ、本案ノ特別委員長竝ニ伍堂君ヨ
  リ御述ニナッタ如ク、本案ニハ種々ノ缺點ト
  シテ指摘スベキモノガアルノデアリマシテ、
  衆議院ニ於テモ修正意見ガ出タヤウデアリ
  マシテ、私モ此ノ法案ニ付テハ色々考ヘテ
  見又修正スベキ案等モ內々考ヘタノデア
  リマスガ、結局修正ヲセズシテ原案ノ儘デ
  是ハ成立セシムル方ガ適當ダト思ッテ居ル
  ノデアリマス、伍堂君ノ御述ニナリマシタ
  缺點ニ付テハ重複ヲ避ケテ私ハ申述ベマセ
  ヌガ、私ノ考ヘマスル所デハ本法案ハ國
  民ニ對シテ不安ノ感覺ヲ惹起サシテ居ルノ
  デアリマス、本法案ハ保護シヨウトスル國
  家機密ト云フモノガドウ云フモノデアルカ
  ト云フコトハ、甚ダ明瞭ヲ缺クノデアリマ
  ス、次ニ本法ニ依ッテ捜査ヲ爲スベキ檢事、
  場合ニ依ッテハ司法警察官デアリマスガ、搜
  査上强制力ヲ持チ得ルコトガ出來ルノデア
  リマスカラ、其ノ點ガ國民ニ不安ノ念ヲ惹
  起セシメタ譯デアリマス、加之、本法案ハ、
  國家機密ニ關係ノナキ事件デアリマシテモ、
  苟モ外國人ト通謀シ、又ハ外國ニ利益ヲ與
  ヘル目的ヲ以テ、軍機保護法其ノ他十六條
  ノ第二項ニ列記シテアリマスル殆ド枚擧ニ
  遑アラザル程ノ犯罪ニ對シテ、矢張リ强制
  力ヲ持チ得ルコトヲ許シタノデアリマス
  右ノ如ク國家ノ機密ニ直接關係ナキ事件デ
  千、外國ニ通謀スルト云フヤウナコトデアツ
  テ、ソレニ强制力ヲ持チ得ルコトヲ許スト
  云フコトニ國民ガ不安ヲ感ズルト云フコト
  ハ是ハ無理モナイコトデアルト思フ、要
  スルニ本法案ハ、甚ダ失禮デアリマスガ、
  立法技術上甚ダ不手際ナ法律デアリマス、
  凡ソ政ヲ爲ス者ハ、申ス迄モナク刑罰法規
  ニ對シテハ明快ナル規定ヲ置カナケレバナ
  ラヌノデアリマシテ、如何ニ立法者ガ明快
  ナル規定ヲ置キマシテモ、解釋上種々ナ議
  論ノ起ルコトハ御承知ノ通リデアリマス
  ソレデアリマスカラ、本法案ニ付テハ、政
  府ハ甚ダ不手際ナ案ヲ御出シニナッタト言
  ハナケレバナラヌノデアリマス、檢事ニ對
  シテ此ノ强制力ヲ用ヒルコトヲ廣ク許シマ
  シテモ、其ノ檢事ノ取調ニ付テ、世人ガ毫モ
  不安ノ念ヲ懷カナイト云フナラバ、ソレハ宜
  シイノデアリマスケレドモ、從來ノ檢事ノ
  仕事ノ仕振リハサウデナイ、動モスレバ職務
  ノ範圍ヲ超脫シタリ、又ハ種々ノ問題ヲ起
  シタコトモアリマシテ、現今ノ檢事又ハ司
  法警察官ト云フモノハ、本法ヲ運用スルニ
  當ッテハ、適當ニ運用ガ出來ナイデアラウト
  云フコトヲ、國民ハ皆心配シテ居ルノデア
  リマス、世人ノ考ヲ通俗ニ申シマスレバ
  武道ニ達セザル者ガ丁度村正ノ刀ヲ持ッタ
  ヤウナモノデ、心配デナラヌト云フヤウニ
  申シテ居ルノデアリマス、併シ此ノ法案ヲズッ
  ト讀ンデ見マスルト、此ノ法案ノ成立シマス
  迄ニハ、數多ノ年月ガ掛ッテ居ルト承ッテ居リ
  マス、サウシテ是ハ非常ナ時局上極メテ必要
  ナルモノデアルト云フコトモ疑ナイノデア
  リマス、デ法案其ノモノガ必要デアリ、缺ク
  ベカラザルモノデアルト云フナラバ、之ヲ
  運用スル官吏ガ甚ダ不安ナ事ヲシヤシナイ
  カト云フコトヲ感ジマシテモ、本案其ノモノ
  ガ惡イトハ言ヘナイノデアリマスカラ、私ハ
  本法ニ對シテハ贊成ヲ致シマシテ、將來
  本案運用ニ當ッテ世人ノ不安ヲ除去スルコ
  トニ、司法當局ニ一層ノ御努力ヲ願ヒタイト
  思フノデアリマス、私ガ本法運用ニ付テ憂慮
  致シマス所ハ二點デアリマス、第一點ハ、檢
  事ガ公訴提起前ニ於テ强制力ヲ用ヒルコト
  ヲ得マスルガ爲ニ、若イ檢事ナドハ、得意
  ニナッテ自己ノ權力ヲ濫用スルコトガアリ
  ハシナイカト云フコトヲ惧レルノデアリマ
  ス、現行刑事訴訟法ハ、御承知ノ通リ公訴
  提起前ニ當ッテ、檢事ハ、原則トシテハ被〓
  人ニ對シテ强制力ヲ用ヒルコトガ出來ナイ
  ノデアリマス、强制力ハ唯判事ノミガ用ヒ
  ルコトニ法律ハ許シテ居ルノデアリマス、
  然ルニ此ノ本法案ニ依リマスルト、檢事ガ
  必要ガアレバ何時デモ被疑者ヲ喚ビ出シ、
  訊問シ、サウシテ强制力ヲ使用スルコトガ
  出來ルト云フコトニナリマシタノデスカラ、
  詰リ檢事ハ公訴提起前ニ於テ判事ト同樣ナ
  權力ヲ持ツコトニナッタノデアリマス、是ハ
  實ニマア檢事トシテハ廣大ナル權力ヲ持ッタ
  ノデアリマス、古イ言葉デ言ヘバ、殆ド生
  殺與奪ノ權ヲ持ッテ居ルト申シテモ差支ナイ
  ノデアリマス、サウシテ從來檢事ノ取扱ヒ
  マシタ事柄ニ付テハ、御承知ノ通リ度々問題
  ガ度々起ッテ居リマス、必ズシモ世人ノ言フ
  通リノ事實デハナイノデアリマスケレドモ、
  其ノ問題ノ起ッタ每ニ、司法大臣ナリ歷代ノ
  檢事總長ハ、人權擁護ニ付テハ繰返シ〓〓
  訓示シテ居ルノデアリマス、其ノ訓示ハ一
  向效能ガナイカノ如ク思ハレルノデアリマ
  シテ、サウ云フ風ナ狀態デアリマスト云フ
  ト、此ノ法案施行ノ後モ、如何ニ司法大臣
  ガ適當ニ監督スル、運用ニ付テハ注意スル
  ト仰シヤッテモ、國民ガ不安ノ念ヲ除去スル
  コトノ出來ナイノハ、私ハ無理モナイコトダ
  ト思フ、何カ檢事ニ對シ、從ッテ司法警察官ニ
  對シテ、特別ニ運用ニ付テ注意スルト云フ
  ヤウナル施設ヲナサルコトガ必要デハナイ
  カト思フノデアリマス、是ガ第一點デアリ
  マリー第二點ハ、近頃若イ檢事ノ間ニ、私
  カラ申シマスルト少シク忌ムベキ新シイ理
  論ヲ唱ヘル人ガアルノデアリマス、其ノ弊
  害ハ何レノ邊ニ波及スルカ分リマセヌガ、
  斯ウ云フ思想ヲ持ッテ居ル者ガアリマスト
  云フト、私ハ我ガ國ノ刑事訴訟ト云フモノ
  ガ、適當ニ行ハレルト云フコトガムツカシ
  イノデハナイカト思フノデアリマス、是ハ
  餘リ廣ク傳播シテ居ナイ理論デアリマスカ
  ラ、此ノ際此處ニ申上ゲテ司法大臣ノ御注
  意ヲ請ヒタイノデアリマス、現行刑事訴訟
  法ハ御承知ノ如ク檢事ヲ原告官ノヤウナ立
  場ニ置キマシテ、被告人ハ民事訴訟法ノ被
  告人ト同ジヤウニ、被〓人ト檢事ハ對等ノ
  地位ニ立ッテ居リマス、公訴ノ實行ニ付テ
  ハ檢事ノ攻擊、被告ノ防禦、共ニ是ハ同
  等デアルト云フ建前デ、訴訟法デハ法律ヲ
  規定シテ居ルノデアリマス、取調ニ對シマ
  シテハ被〓人ニ對シテハ丁寧深切ヲ旨ト
  シ其ノ利益ト爲ルヘキ事實ヲ陳述スル機會
  ヲ與フベシト云フヤウナ、極メテ餘計ナヤ
  ウナ規定デハアリマスガ、斯ウ云フ規定ヲ
  刑事訴訟法ハ新タニ置イタノデアリマス、處
  ガ斯ウ云フ風ナ現行刑事訴訟法ノ規定ヲ、
  若イ檢事ノ或者ハ、是ハ了解シ難イ規定デ
  アル、是ハドウ云フコトデサウ云フコトヲ
  申シマスカト云フト、元來被〓人ハ國家ノ
  秩序ヲ破ッテ害ヲ加ヘタ犯罪人デアル、之ヲ
  取調ヲスルニ當ッテ、民事訴訟法ノヤウナ形
  式ニ依ル必要ハナイ、所謂昔ノ治罪ト云フ
  方法デ取調ベテ宜イノデアル、檢事ヲ原告
  トシ犯罪者ヲ被告人トシテ、對等ノ位置ニ
  置クト云フコトガ間違ッテ居ル、斯ウ云フコ
  トヲ申スノデアリマシテ、丁度是ハ昔ノ德
  川時代、其ノ他外國ノ封建制度時代ニ於テ
  ノ形式ニ依ッテ治罪ノ手續ヲスル方ガ宜イト
  云フヤウナ說ナンデアリマス、要スルニ若イ人
  ノ意見デハ、國家ノ機關ヲ分ケテ、公訴提起
  ノ機關、裁判ヲスル機關ニ分ケルト云フノガ
  間違ッテ居ル、詰リ現今ノ訴訟手續ニ依リマ
  スト、檢事ハ國ヲ代表シテ原告官トナリ、
  被〓人ノ犯罪ニ對シテハ被〓人ヲ犯罪者
  トシテ同等ノ地位ニ立ッテ居ルノデアリマシ
  テ、判事ハ其ノ間ニ立ッテ公平ナ裁判ヲスル
  ト云フ規定デアリマスガ、是ガイケナイト
  云フ議論デアリマス、是ハ御承知ノ通リ現
  行刑事訴訟法ガ只今申シマシタヤウニナリ
  マシタノハ非常ニ〓究ヲ重ネテ、斯ウ云
  フ規定ヲ置カナケレバ動モスレバ良民ヲ
  シテ寃枉ニ泣カシメルコトガアラウト云フ
  所カラ出來タノデアリマスカラ、或ハ新シ
  イ理論カラ申シタナラバ缺點ガアルカモ知
  レマセヌ、併シナガラ裁判ノ適正ヲ保ツ爲
  三、是ハ日本ノミヂヤアリマセヌ、外國
  デモ矢弱リ實際上ノ經驗カラ、訴訟ノ形式
  ヲ取ッテ裁判ヲスルコトニナッタノデアリマ
  ス、若イ檢事ノ理論ハ、ドウ云フ所カラ斯
  ウ云フコトヲ主張スルカト申シマスト、我
  ガ刑事訴訟法ハ自由主義的、個人主義時
  代ノ遺物デアル、檢事ト判事ト、國家ノ權
  力ヲ分散セシメテ、サウシテ檢事ト被〓人
  トヲ訴訟法上同等ニ取扱ッテ、當事者トシテ
  相對峙セシメテ居ル、是ガ間違ッテ居ル、斯
  ウ云フ風ニ新理論トシテ主張スルノデア
  リマス、ソレデアリマスカラ、殊ニ只今申
  シマシタ裁判所、又ハ檢事モ同ジデアリマ
  スガ、被〓人ニ對シテハ丁寧深切ヲ旨トシ
  テ其ノ利益トナルベキ事實ヲ陳述スル機會
  ヲ與フベシト云フノハ、法律ニ置ク必要ハ
  ナイ、コンナコトハ要ラチイ、又被告人ニ
  對シテハ本當ノコトヲ述ベテ自白スベシ
  ト云フヤウナ規定モナイ、自白シヨウト自
  白シマイト被〓人ノ勝手ダ、是ハ自由主義
  的ナ理論デアッテ、是ハ間違ッテ居ル、斯ウ
  云フ風ニ申スノデアリマス、此ノ議論ノ根
  據ガアル、是ハ若イ檢事ガ白分デ發明シタ
  ノデモ何デモナイノデ、是ハ「ドイツ」ノ「ナ
  チス」ガ斯ウ云フ議論ヲ唱ヘテ居ルノデアリ
  さく、昭和十年ノ八月ニ、「ベルリン」ニ於
  テ第十一囘ノ萬國國際刑法及監獄會議ガゴ
  ザイマシタガ、其ノ時分ニ司法省ノ當局者
  ガ配付シタ或書類ガアル、ソレガ「ドイツ」
  ノ刑事訴訟法ノ新理論デアリマシテ、其ノ
  理論ニ依リマスト、從來ノ刑事訴訟法ノ理、
  論ハ、理論ノミナラズ實際モ、檢事ト被告
  人ヲ對立的ニ鬪爭セシメタガ、是カラノ刑
  車訴訟法ノ新理論ハ協同的デアル、協同的
  デアルカラシテ、被告人モ判事檢事ノ事實
  ノ眞實ヲ探究スルコトニ協力スル任務ガア
  ル斯ウ云フ至ッテ巧妙ナ議論デアリマス、ソ
  レデアリマスカラ此ノ議論ニ依リマスト云
  フト、被〓人ハ、判事ノ前又ハ檢事ノ前ヘ
  出タナラバ、矢張リ其ノ裁判ヲスルコトニ
  協力シナケレバナラヌ、協力ト云フト、詰リ
  判事又ハ檢事ガ要求スル所ノ眞實ヲ言ヘ
  簡單ニ申シマスレバ犯罪ヲ白狀シロ、自白
  シロト云フコトニナルノデアリマス、自白
  ヲシナイ眞實ヲ述ベナイ被〓人ハ、不當ナ
  者デアルト云フコトニナリマシテ、マア今
  日ノ言葉デ言ヘバ、臣道實踐ヲシナイ者ダ
  ト云フコトニ結論ヲ附ケテ居ルヤウデアリ
  マス、是ハ如何ニモ巧妙ナ訴訟法理論デア
  リマスケレドモ、斯ウ云フコトハ何モ「ドイ
  ツ」人ノ新シイ理論ニ、依ッテ初メテ知ッタノ
  デハナイノデアリマス、古イ德川時代其ノ
  他ニ於テモ、現ニ江戶時代デハ、與力同心
  ナドガ人ヲ調ベル際ニ當ッテハ、御上ニ御手
  數ヲ掛ケテ相濟マヌデハナイカ、早ク白狀
  シテ御上ノ御蒸悲ヲ御願ヒシロト云フコト
  ヲ申シテ居リマス、是ハ所謂協力ナンダ、
  御上ニ協力シロト云フ理論デアリマス、併
  シナガラ一體被〓人トシテ犯罪ヲスルヤウ
  ナ者、マア被〓人デモサウ惡クナイ者ガア
  リマセウガ、兎ニ角國家ノ秩序ヲ破ッテ犯罪
  ヲスルヤウナ者ニ、判事檢事ニ協力シロト
  云フヤウナコトハ到底行ハレナイ說デアリ
  やっ、人情ヲ無視シタル所謂空論デアルト
  言ハナケレバナラヌノデアリマス、我ガ刑事
  訴訟法ハ、立法ノ際ニモ外國ノ立法モ參酌シ
  日本ノ淳風美俗ニ基ク幾多ノ有益ナ規定ヲ
  置イタノデアリマシテ、ソレガ「ドイツ」ノ訴訟
  法ニナイ、被〓人ニ對シテハ丁寧深切ヲ旨ト
  シ利益ノアルベキ事實ヲ陳述シロト云フコ
  トヲ特ニ置イタノデアリマスガ、斯ウ云フ
  コトヲ、今ノ若イ檢事ガ、聞違ッテ居ル是ハ
  新pm上マア舊磨분テアル、自由主義的ナ
  個人主義思想カラ採用シタ古キ思想デア
  ルト云フヤウナ風ニ唱ヘテ居ルノデアリ
  マスガ、是ハ御注意ヲ請ヒタイト思フノデ
  アリマス、此ノ說ヲ唱ヘテ居リマスノヲ、
  私ハ昨年ノ四月或刑法ノ雜誌デ見マシテ實
  ニ驚イタノデアリマス、其ノ刑法ノ雜誌ニ
  公然書イテ居リマス者ハ、司法省ノ刑事局
  ニ居ルノデアリマス、若イ······尤モ是ハ檢
  事ヲ永クシタ人デアリマスガ、若イ檢事ガ
  唯一箇ノ理論トシテ斯ウ云フコトヲ言フノ
  ナラバ差支アリマセヌガ、司法省ノ刑事局
  ニ居ル役人ガ、斯ウ云フ新シイ主義ヲ述べ
  テ、サウシテ被〓人タルモノハ判事檢事ニ
  協力シテ、此ノ裁判ノ執行ヲ完全ニシナケ
  レバナラヌト云フヤウナコトヲ述べマスト、
  是ハ所謂白白ヲ强要スルコトデアル、自白
  シナイノハ間違ッテ居ル、犯罪者ハ裁判所ヘ
  行ッタナラバ自白ヲシナケレバナラヌ、自白
  ヲシナケレバナラヌト云フ建前ハ、拷問ヲシ
  テモ宜イト云フコトニナル、拷問ガ適法ナ
  リト云フ結論ガ出テ來ルノデアリマス、マ
  ルデ德川時代ノ昔ニ還ルヤウナ說ヲ、新シ
  イ「ドイツ」ノ理論ノ衣ヲ著セテ述ベテ居ル
  ノデアリマスカラ、斯ウ云フ風ナ人ガ起キ
  テハ實ニ心配デナラヌト私ハ思フ、時間ガ
  掛リマスカラ餘リ多クヲ申シマセヌガサ
  ウ云フ譯デ、私ハ憂慮ニ堪ヘナイ點ガ司法
  部ノ人ニモアルト云フコトヲ玆ニ申上ゲテ
  置クノデアリマス、今ヤ新體制ノ聲ノアル
  世ノ中デアリマシテ、官吏中ニモ下剋上ノ
  思想ヲ持ッテ居ル人ガ大分アルヤウデアリ
  マス、官僚獨善、官僚ハ動モスレバ勢ヲ振
  フト言ハレテ居ルノデアリマスガ、此ノ時
  ニ當ッテ、本法案ガ通過シマシタ後、若シモ
  得意ニナッテ、若イ檢事ガ縱橫ニ手腕ヲ揮フ
  ト云フコトニナリマシタナラバ、如何ナル
  弊害ガ生ズルカハ憂慮ニ堪ヘナイ所デアリ
  マシテ、是ハ私ガ本法ノ運用ニ對シテ、殊
  ニ「法法局ニ吳々モ御監督ヲ願ヒタイト思
  フノデアリマス、唯私モ司法部ノコトハ少シ
  ク存ジテ居リマスガ、訓示ヲスルトカ訓令
  ヲスルト云フダケノコトデハモウ到底今
  ノ若イ人々ハ大臣ノ言フコトナドハ滴當
  ニ遵奉シテ實行スルカドウカ分ラヌト思フ
  ノデアル、ソレデアリマスカラ、何等カノ
  方法ヲ以テ、此ノ法案ヲ運用スルニ當ッテ
  ハ十分ナル御監督ヲ願ヒタイト思フノ
  デアリマス、詰リ此ノ法案ハ最モ畦局ニ必
  要ナル法律デアリマシテ、所謂傳家ノ寶刀
  デアリマス、伍堂君モ申サレタ如クニ傳
  家ノ寶刀ハ之ヲ拔カナイデ其ノ效力ヲ發揮
  スルヤウニシタイト私ハ考ヘテ居ルノデア
  リマス、此ノ法案ニ付テハ兎ニ角司法省
  ノ態度如何ニ依ッテ、將來ハ國民ガ安心シテ
  居ルコトガ出來ヌノデアリマスカラ、度々
  申シマシテ失禮デアリマスガ、吳々モ御監
  督ヲ十分ニ御願ヒ致シタイト思フノデアリ
  さく、私ハ此ノ希望ヲ述ベマシテ本案ニ贊
  成致シマス
  〔次田大三郞君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=10

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• 011・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　次田君ハ、ドウ
  云フコトデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=11

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• 012・次田大三郎

  ○次田大三郞君　私此ノ際、委員長ニ質疑
  ヲ致シタイコトガアルノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=12

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• 013・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　宜シウゴザイマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=13

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• 014・次田大三郎

  ○次田大三郞君　簡單デアリマスカラ、此
  ノ席カラ發言スルコトヲ御許ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=14

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• 015・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　宜シウゴザイマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=15

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• 016・次田大三郎

  ○次田大三郞君　先刻伍堂君ノ御演說ヲ拜
  聽致シマシタ處ガ、本案ハ非常ニ澤山ノ缺
  點ヲ持ッテ居ルモノデアルガ、委員會ニ於
  テ、政府ヨリ緊迫セル國際情勢ニ付テ說明
  ガアッタ、之ヲ聽取シテ見レバ、色々ナル
  缺點ヲ修正シテ居ル間ガナイ、故ニ全面的
  ニ本案ニ贊成スルモノデアルト云フ一節ガ
  アリマシタ、私ハ伍堂君同樣、本案ハ色々
  ノ不完全ナル點ガアルト考ヘマシテ、之ヲ
  修正スルコトガ議員ノ職務デアルト確信致
  シマシテ、既ニ提出シテアリマス修正案ニ
  贊成ノ署名ヲ致シタ者デアリマス、併シナ
  ガラ、果シテ伍堂君ノ御話ノ如ク緊迫セル
  國際情勢ガアリマシテ、到底之ヲ修正シテ
  居ル間ガナイ程デアルト云フコトデアリマ
  スレバ、私ハ是ハ再考シテ、矢張リ修正ヲ
  加ヘナイデ、此ノ儘贊成スルコトガ適當デ
  ハナイカト云フコトヲ考ヘルニ至ッタノデ
  アリマス、併シナガラ委員會ニ於テ、緊迫
  セル國際情勢ニ關シテ政府カラ御說明ガ
  アッタ、而シテ是ハ非常ニ重大ナコトデア
  ル、伍堂君ノ御解釋ニ依レバ此ノ案ヲ修
  正スル間ガナイ程ノモノダト云フコトニ付
  キマシテハ、委員長ヨリ御報告ガ何、モナ
  カッタ、祕密會ノコトデアリマスカラ速
  記錄ニ依ッテ承知スルコトガ出來ナイノデ
  アリマス、併シ前申シマシタ通リ、此ノ事
  ハ我々ノ態度ヲ決定スル上ニ於テ非常ニ重
  大ナル關係ガアルコトデアリマスカラ、甚
  ダ恐縮デアリマスガ、委員長ヨリ委員會ニ
  於テ果シテ斯クノ如キ御說明ガ政府カラア
  リマシタカドウカ、若シアリマシタナラ
  バ其ノ內容ニ付テ、出來ルダケ詳細ニ、
  必要ナラバ祕密會ヲ御開キ下サッテ御說明
  アラムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=16

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• 017・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　只今次田君ヨリ、今日
  ノ緊迫セル情勢デアッテ、修正ノ暇ガナイ
  カラ此ノ儘可決ヲスルノガ正當デアルト云
  フヤウナ意味ノコトハ、其ノ御言葉通リノ
  意味ヲ、强ク解釋シテ宜イカ、弱ク解釋シ
  テ宜イカ存ジマセヌケレドモ、サウ云フ御考
  ノ方モ一二アックラウト思フノデアリマス、
  併シナガラドウモ祕密會ノ問答ハ、大體ニ
  於テハ全貌ヲ御話スル譯ニハ行キマセヌ、
  政府ニ於キマシテハ今日ノ緊迫セル場合
  ト雖モ相當ニ練リニ練ツタノデアルカラ、原
  案ヲ支持スベキモノデアル、ソコデ或特別
  委員ノ御方ガ、ドウモ缺點モアルヤウデア
  ルケレドモ此ノ際ハ之ヲ可決スルノガ、緊
  迫セル情勢ニ徵シマシテドウシテモ已ムヲ
  得ナイ、此ノ故ニ贊成スルト云フ風ナ御方
  ガ一二アッタ次第デアリマス、其ノ他ノ御
  方ハサウ云フ風ノコトニ付テハ餘リ問答
  ガナカッタノデアリマスカラ、特別委員會
  ノ空氣ガドウダト云フヤウナコトハ、是
  ハ推測デアリマシテ、私ヨリ特別委員會ニ
  アック經過トシテ之ヲ綜合的ニ御報告申上
  ゲルコトハ、責任上出來マセス次第デアリ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=17

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• 018・次田大三郎

  ○次田大三郞君　只今委員長ノ御話ハ、私
  ノ申上ゲマシタコトヲ少シ誤解サレタヤウ
  デアリマスカラ、モウ一度申上ゲマス、今
  日ノ緊迫セル情勢ニ付テ、政府カラ說明ガ
  委員會ニ於テアッタ、ソレラ聽イテ見ルト
  ナカ〓〓修正ナドシテ居ル間ガナイト云
  フノハ伍堂君ノ演說ノ中ニ御述ニナッタ所
  デアリマス、ソレデ私ガ伺フノハ、果シテ
  サウ云フ說明ヲ政府ガサレタノデアルカド
  ウカ、サレタトスルナラバ、其ノ內容ヲ伺
  ヒタイ、何トナレバ其ノ內容如何ニ依ッテ
  ハ我々ハ修正說ヲ捨テテ全面的ニ本案ニ
  贊成スルコトニナルカモ知レナイ、問題ヲ
  決スル要點ニナルノデアリマスカラ、恐縮
  デアリマスガ、其ノコトノ御說明ヲ願ヒタ
  イ、若シ必要ガアレバ祕密會ヲ開イテ御說
  明ニナレバ何モ差支ナイコトダト、サウ考
  ヘマシテ御願ヒシタ次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=18

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• 019・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　先程申上ゲマシタ··
  〔「登壇ヲ願ヒマス、聽エマセヌ」ト呼
  フ者アリ〕
  先程申上ゲマシタ通リ、此ノ問題ハ、極メ
  テ重大ナル今日ノ緊迫セル情勢ニ於テ、ド
  ウシテモ一日モ早ク是ハ實施シナケレバナ
  ラナイモノデアルト云フコトハ、是ハ祕密
  會ノミナラズ全般的ノ說明ニ於テモ申サレ
  マシタ、祕密會ニ於テ更ニソレヲ細カニ申
  シタト云フヤウナコトニ付キマシテハ、私
  ハ承ッテ居リマセス、モウ是ハ緊迫シテ居
  ル狀況ニ鑑ミト云フコトデ、其ノ點ハ大體
  特別委員ガ了解シテ居ッタコトト私ハ存ジ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=19

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• 020・次田大三郎

  ○次田大三郞君　是デ宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=20

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• 021・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　他ニ御發言モナ
  イト認メマス、本案ノ第二讀會ヲ開クコト
  ニ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=21

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• 022・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=22

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• 023・西大路吉光

  ○子爵西大路言光君　直チニ本案ノ第二讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=23

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• 024・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=24

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• 025・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　西大路子爵ノ動
  議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=25

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• 026・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=26

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• 027・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　本案ノ第二讀會
  ヲ開キマス、小原君外五名ヨリ定規ノ贊成
  ヲ得テ修正案ガ提出サレマシタカラ、先ヅ
  以テ修正案ヲ議題ト致シマス、發議者ノ趣
  旨說明ヲ御許シシマス、松村義一君
  〔左ノ案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ
  タメ玆ニ載錄ス〕
  國防保安法案ニ對スル修正案
  右議院法第二十九條ニ依リ提出候也
  昭和十六年二月二十六日
  發議者
  小原直下條康麿
  內田重成建部遯吾
  澤田牛麿松村義、
  贊成者
  中川健藏河井彌八
  入江貫、岡喜七郞
  川村竹治塚本〓治
  中村純九郞橋本圭三郞
  坂野鉄次郞三浦新七
  川上親晴田所美治
  岡田文次次田大三郞
  古島雄菊池恭三
  米山梅吉三橋四郞次
  多木久米次郞小坂梅吉
  松本勝太郞佐々木八十八
  岩田宙造塩田團平
  片倉兼太郞麻生益良
  出光佐三大西虎之助
  大谷五平佐藤助九郞
  中野敏雄
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  (小字及-ハ修正)
  國防保安法案中左ノ通リ修正ス
  第一條本法ニ於テ國家機密トハ國防上
  外國ニ對シ祕匿スルコトヲ要スル外
  交、財政、經濟其ノ他ニ關スル重要ヂ
  ル國務ニ係ル事項ニシテ左ノ各號ノ
  ニ該當スルモノ及之ヲ表示スル圖書物
  件ヲ謂フ
  前項ノ事項及圖書物件ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
  御前會議樞密院會議閣議又ハ
  之ニ準ズベキ會議ニ付セラレタル事
  項及其ノ會議ノ議事
  七帝國議會ノ祕密會議ニ付セラレタ
  ル事項及其ノ會議ノ議事
  1三前二號ノ會議ニ付スル爲準備シタ
  ル事項其ノ他行政各部ノ重要ナル機
  密事項
  第八條國防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ
  供スル〓的ヲ以テ又ハ其ノ用途ニ供セ
  ラルル虞アルコトヲ知リテ外國ニ通報
  スル目的ヲ以テ外交、財政、經濟其ノ
  他ニ關スル情報ヲ探知シ又ハ收集シタ
  ル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
  第十六條本章ノ規定ハ左ニ揭グル罪ニ
  關スル事件ニ付之ヲ適用ス
  第三條乃至第十三條ノ罪
  二軍機保護法第二條乃至第七條及此
  等ニ關スル第十五條乃至第十七條、
  軍用資源祕密保護法第十一條乃至第
  十五條、第十九條、刑法第二編第三
  章、陸軍刑法第二十七條乃至第二十
  九條及此等ニ關スル第三十一條、第
  三十二條、第三十四條、海軍刑法第二
  十二條乃至第二十四條及此等ニ關ス
  ル第二十六條、第二十七條、第二十九
  條竝ニ國家總動員法第四十四條ノ罪
  本章ノ規定ハ外國ト通謀シ又ハ外國ニ
  利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯シタル左ニ
  揭グル罪ニ關スル事件ニ付亦之ヲ適用
  ス
  軍機保護法(前項第二號ニ揭グル罪
  ヲ除ク)、軍用資源祕密保護法(前項
  第二號ニ揭グル罪ヲ除ク)、要塞地帶
  法、陸軍輸送港域軍事取締法、明治
  二十三年法律第八十三號(軍港要港
  規則違犯者處分ノ件)、軍用電氣通信
  法、國境取締法、刑法第二編第一章、
  第二章、第四章、第八章乃至第十一
  章、第十五章乃至第十八章、第二十
  六章、第二十七章及第四十章、朝鮮
  刑事令第三條、陸軍刑法第二編第一
  章(前項第二號ニ揭グル罪ヲ除ク)、
  第八章及第九十九條、海軍刑法第二
  編第一章(前項第二號ニ揭グル罪ヲ
  除ク)、第八章及第百條、治安維持法、
  大正十五年法律第六十號(暴力行爲
  等處罰ニ關スル法律)、爆發物取締罰
  則匪徒刑罰令(明治三十一年律令
  第二十四號)、不穩文書臨時取締法、
  通貨及證劵模造取締法、通貨及證劵
  模造取締規則(明治三十六年律令第
  十四號)、明治三十八年法律第六十六
  號(外國ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀
  行券證劵僞造變造及模造ニ關スル法
  律)、治安警察法、大正八年制令第七
  號(政治ニ關スル犯罪處罰ノ件)、外
  國爲替管理法、關稅法、昭和十二年
  法律第九十二號(輸出入品等ニ關ス
  ル臨時措置ニ關スル法律)、船舶法、
  航空法、電信法、無線電信法竝ニ國
  家總動員法(前項第二號ニ揭グル罪
  ヲ除ク)ノ罪
  第十九條勾引シタル被疑者ハ指定セラ
  レタル場所ニ引致シタル時ヨリ四十八
  時間內ニ檢事又ハ司法警察官之ヲ訊問
  スベシ其ノ時間內ニ勾留狀ヲ發セザル
  トキハ檢事ハ被疑者ヲ釋放シ又ハ司法
  警察官ヲシテ之ヲ釋放セシムベシ
  第二十條刑事訴訟法第八十七條第一項
  各號ニ規定スル事由アルトキハ檢事ハ
  被疑者ヲ勾留シ又ハ其ノ勾留ヲ司法警
  察官ニ命令スルコトヲ得
  第十七條第二項ノ規定ハ檢事ノ命令ニ
  因リ司法警察官ノ發スル勾留狀ニ付之
  ヲ準用ス
  第二十二條勾留ノ期間ハ二月トス特ニ
  繼續ノ必要アルトキハ區裁判所檢事ハ
  檢事正ノ許可、地方裁判所檢事ハ檢事
  長ノ許可ヲ受ケ一月每ニ之ヲ更新スル
  コトヲ得但シ通ジテ四月ヲ超ユルコト
  ヲ得ズ
  治安維持法ノ罪ニ付特ニ繼續ノ必要ア
  ルトキハ檢事長ノ許可ヲ受ケ一月每ニ
  勾留ノ期間ヲ更新スルコトヲ得但シ通
  ジテ一年ヲ超ユルコトヲ得ズ
  檢專總長又ハ其ノ指揮ヲ受ケタル檢事
  刑法第七十三條、第七十五條又ハ第七
  -七條乃至第七十九條ノ罪ノ搜査ノ爲
  時ニ繼續ノ必要アルトキハ一月每ニ勾
  留ノ期間ヲ更新スルコトヲ得但シ通ジ
  テ六月ヲ超ユルコトヲ得ズ
  第二十三條勾留ノ事由消滅シ其ノ他勾
  留ヲ繼續スルノ必要ナシト思料スルト
  スベシ
  キハ檢事ハ速ニ被疑者ヲ釋放シ又ハ同
  法警察官ヲシテ之ヲ釋放セシムベシ
  第二十五條檢事ハ被疑者ヲ訊問シ又ハ
  其ノ訊問ヲ司法警察官ニ命令スルコト
  ヲ得
  檢事ハ公訴提起前ニ限リ證人ヲ訊問シ
  又ハ其ノ訊問ヲ他ノ檢事ニ囑託シ若ハ
  同法警察官ニ命令スルコトヲ得
  司法警察官檢事ノ命令ニ因リ被疑者又
  ハ證人ヲ訊問シタルトキハ命令ヲ爲シ
  タル檢事ノ職、氏名及其ノ命令ニ因リ訊
  問シタル旨ヲ訊問調書ニ記載スベシ
  第十七條第二項及第三項ノ規定ハ證人
  訊問ニ付之ヲ準用ス
  第二十六條檢事ハ公訴提起前ニ限リ押
  收搜索若ハ檢證ヲ爲シ又ハ其ノ處分
  ヲ他ノ檢事ニ囑託シ若ハ司法警察官ニ
  命令スルコトヲ得
  檢事ハ公訴提起前ニ限リ鑑定、通譯若
  ハ飜譯ヲ命ジ又ハ其ノ處分ヲ他ノ檢事
  ニ囑託シ若ハ司法警察官ニ命令スルコ
  トヲ得
  司法警察官檢事ノ命令ニ依リ
  前條第三項ノ規定ハ押收、搜索又ハ檢
  ヲ爲シタルトキハ其ノ調書ニ、○ヲ訊問シタ
  證ノ調書及鑑定人、通事又ハ翻譯人
  ルトキハ其命令ヲ爲シタル檢事ノ職、氏名及其ノ
  ノ訊問調書ニ付之ヲ準用ス
  命令ニ依リ之ヲ爲シタル旨ヲ記載スベシ
  第十七條第二項及第三項ノ規定ハ鑑定、
  通譯及翻譯ニ付之ヲ準用ス
  第三十三條第十六條第一項ニ揭グル罪
  又ハ外國ト通謀シ若ハ外國ニ利益ヲ與
  フル目的ヲ以テ同條第二項ニ揭グル罪
  ヲ犯シタルモノト認メタル第一審ノ判
  決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得ズ
  前項ニ規定スル第一審ノ判決ニ對シテ
  ハ直接上告ヲ爲スコトヲ得
  上告ハ刑事訴訟法ニ於テ第二審ノ判決
  ニ對シ上告ヲ爲スコトヲ得ル理由アル
  場合ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
  上告裁判所ハ第二審ノ判決ニ對スル上
  〓事件ニ關スル手續ニ依リ裁判ヲ爲ス
  ベシ
  第三十四條裁判所ハ外國ト通謀シ又ハ
  外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ第十六
  條第二項ニ揭グル罪ヲ犯シタルモノト
  認メタルトキハ其ノ旨ヲ判決ニ摘示ス
  ベシ
  前項ノ摘示ヲ爲シタル第一審判决ニ
  シ上〓アリタル場合ニ於テ上〓裁判所
  外國ト通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル
  目的ヲ以テ犯シタルモノニ非ザルコト
  ヲ疑フニ足ルベキ顯著ナル事由アルニ
  ノト認ムルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ
  破毀シ事件ヲ管轄控訴裁判所ニ移送ス
  ベシ
  第十六條ニ揭グル罪ヲ犯シタルモノト
  認メタル第一審判決ニ對シ上〓アリタ
  ル場合ニ於テ上〓裁判所同條ニ揭グル
  罪ヲ犯シタルモノニ非ザルコトヲ疑フ
  ニ足ルベキ顯著ナル事由アルモノト認
  ムルトキ亦前項ニ同ジ
  三十三
  第三十五條上告裁判所ハ公判期日ノ通
  知ニ付テハ刑事訴訟法第四百二十二條
  第一項ノ期間ニ依ラザルコトヲ得
  三·一〓
  第三十六條裁判所ハ本章ノ規定ノ適用
  ヲ受クル罪ニ關スル訴訟ニ付テハ他ノ
  訴訟ノ順序ニ拘ラズ速ニ其ノ裁判ヲ爲
  スベシ
  三·五五
  第三十七條第十六條ニ規定スル罪ニ該
  ル事件(陪審法第四條ニ規定スルモノ
  ヲ除ク)ハ之ヲ陪審ノ評議ニ付セズ
  三十六
  第三十八條刑事手續ニ付テハ別段ノ規
  定アル場合ヲ除クノ外一般ノ規定ノ適
  用アルモノトス
  三十七
  第三十九條本章ノ規定ハ第二十一條、
  第二十二條、第二十八條、第二十九條、
  第三十條第一項-第三十三條、第三十
  三三五
  四條及第三十七條ノ規定ヲ除クノ外軍
  法會議ノ刑事手續ニ付之ヲ準用ス此ノ
  場合ニ於テ刑事訴訟法第八十七條第一
  項トアルハ陸軍軍法會議法第百四十三
  條又ハ海軍軍法會議法第百四十三條、
  刑事訴訟法第四百二十二條第一項トア
  ルハ陸軍軍法會議法第四百四十四條第
  一項又ハ海軍軍法會議法第四百四十六
  條第一項トシ第二十四條第二項中刑事
  訴訟法第百十九條第一項ニ規定スル事
  由アル場合ニ於テハトアルハ何時ニテ
  モトス
  三·六
  第四十條朝鮮及臺灣ニ在リテハ本章ニ
  揭グル法律ハ制令又ハ律令ニ於テ依ル
  場合ヲ含ム
  朝鮮ニ在リテハ第二十二條第三項中刑
  法第七十三條、第七十五條又ハ第七十
  七條乃至第七十九條トアルハ刑法第七
  十三條、第七十五條若ハ第七十七條乃
  至第七十九條又ハ朝鮮刑事令第三條ト
  三十三
  シ第三十五條中刑事訴訟法第四百二十
  二條第一項トアルハ朝鮮刑事令第三十
  一條トス
  朝鮮ニ在リテハ本章中司法大臣トアル
  ハ朝鮮總督、檢事總長トアルハ高等法
  院檢事長、檢事長又ハ檢事正トアルハ
  覆審法院檢事長、地方裁判所檢事又ハ
  區裁判所檢事トアルハ地方法院檢事ト
  ス
  臺灣ニ在リテハ本章中司法大臣トアル
  ハ臺灣總督、檢事總長又ハ檢事長トア
  ルハ高等法院檢察官長、檢事正トアル
  ハ地方法院檢察官長、地方裁判所檢事
  又ハ區裁判所檢事トアルハ地方法院檢
  察官又ハ地方法院支部檢察官、檢事ト
  アルハ檢察官、豫審判事トアルハ豫審
  判官トス
  〔松村義一君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=27

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• 028・松村義一

  ○松村義一君　修正案ノ趣旨ヲ辯明致シマ
  ス、修正ハ多數ノ箇條ニ亙ッテ居リマスル
  ガ、要點ハ五項目デゴザリマス、其ノ他ハ
  五項目修正ノ結果ヨリ來ルモノデゴザリマ
  シテ、要點ハ只今申上ゲマスルヤウニ五項
  目ヲ出デヌノデゴザリマス、而シテ其ノ內
  容ハ、特別委員會ニ於キマシテ提出致サレ
  マシタ修正案ト全ク同樣デゴザリマス、先
  程委員長ノ御報告ニ依リマスレバ、修正ノ
  點ハ六ツデアルト云フ御說明デゴザリマシ
  タガ、是ハ觀察ノ仕樣デ或ハ六ツニナリ或
  ハ五ツニモ考ヘラレルノデゴザリマスル
  ガ、私ハ五ツトシテ觀察致シマシテ申述べ
  ルノデゴザリマス、卽チ第一ハ、法案第一
  條ノ機密ノ範圍ガ極メテ明確ヲ缺キマスル
  カラ、之ヲ明確ニ致シタイト云フコトガ一
  ツ、第二ハ、第八條ノ規定ガ又明確ヲ缺キ
  マスルガ故ニ、之ヲ明確ニ致シタイト云フ
  コトデゴザリマス、第三ハ、第十六條ノ二
  項ヲ削除スルト云フコトデゴザリマス、第
  四ハ十九條以下ニ於キマジテノ修正デゴザ
  リマスルガ、檢事竝ニ司法警察官ニ强制力
  ヲ與ヘテ居ルノデゴザリマスルガ、其ノ中
  デ司法警察官ノ勾留ノコトト、證人、被疑
  者ノ訊問ノコトト、其ノ二ツヲ取リタイト
  云フコトデゴザリマス、第五ハ、、三十三條
  ニ關係ヲ致シマシテ、二審制度ヲ廢シテ普
  通ノ原則ニ依リマシテ三審制度ニ復シタイ
  下斯ウ云フコトデゴザリマシテ、其ノ他
  ハ以上ノ項目ヲ修正致シマスル結果ニ出ヅ
  ルモノデゴザリマス、先程委員長カラモ述
  ベラレマシタヤウニ、本法案ガ現時ノ時局
  ニ鑑ミマシテ必要ナモノデアルト云フコト
  ハ、委員會ニ於キマシテモ全部左樣ニ考ヘ
  ラレタノデゴザリマス、而シテ私共モデス、
  私共此ノ修正ノ動議ヲ出シタ者モ、贊成ヲ
  サレタ御方々モ、擧ッテ此ノ法案ガ現時ノ時
  局ニ鑑ミテ必要デアルト云フコトヲ痛感致
  シテ居ルノデゴザリマス、或ハ政府ノ提出
  ガ其ノ遲カリシヲ憾ムト云フヤウナ感スラ
  致スノデゴザリマス、併シナガラ各條ノ條
  文ヲ能ク讀ンデ見マスルト、條文全體ヲ見
  マシテ練熟セラレテ居ラヌノデゴザリマス、
  推敲ガ足ラヌノデゴザリマス、政府提出ノ
  法案ニシテ是程練熟セラレナイ法案ハ極メ
  テ稀デアラウト私ハ考ヘルノデゴザリマ
  ス、少クトモ私ノ短キ經驗ニ依ッテ考ヘマ
  スルト、私自身ハ政府提出ノ法案ニシテ斯
  クノ如ク不完全ナル法案ハ未ダ曾テ見タコ
  トハゴザリマセヌ、之ガ爲ニ此ノ法案其ノ
  儘成立致シマスナラバ、國民ノ不安ヲ招ク
  コト極メテ大ナリト申サナケレバナリマセ
  ヌ、卽チ之ヲ譬ヘテ申シマスナラバ、此處
  ニ劇藥ガゴザリマス、其ノ劇藥ハ今日ノ場
  合ニ於キマシテ飮マナケレバナラヌモノデ
  ゴザリマス、健康ヲ保持スル上ニ於キマシ
  テ飮マナケレバナラヌモノデゴザリマス
  ガ、其ノ藥ハ副作用ガ極メテ多イノデゴザ
  リマス、從ッテ其ノ副作用ノ爲ニ、其ノ結
  果更ニ改メテ他ノ點ニ於テ身體ノ障害ヲ
  來ス虞ガアルヤウナモノデゴザリマス、
  從ッテ私共ハ其ノ副作用ヲ除却シテ、卽
  チ一般ノ不安ヲ去リマシテ、サウシテ之ヲ
  純化致シマシテ、サウシテ不安ヲ除キタ
  イト云フコトヲ切願致スノデゴザリマ
  ス、私共ノ修正ハ斷ジテ法案ノ目的ヲ阻害
  スルモノデハゴザリマセヌ、法案ヲ瀆ス
  モノデハゴザリマセヌ、政府ニ協力ヲ致
  シマシテ、此ノ法案ヲ純化致シマシテ、サ
  ウシテ立派ナモノニシテ成立セシメタイ
  ト云フ念願ニ外ナラヌノデゴザリマス、
  以下各項目ニ亙リマシテ大體ノ御說明ヲ致
  シマス、委員長カラモ詳シク御報〓ガアリ
  マシタカラ、成ルベク各項目ノ說明ハ簡單
  ニ致シタイト思フノデゴザリマスルガ、暫
  ク時間ヲ要スルノデゴザリマスルカラ、其
  ノ邊ハ御諒察ヲ御願ヒ申上ゲマス、先ヅ第
  一條ノコトデゴザリマス、第一條ハ國防上
  外國ニ對シテ祕匿スルコトヲ要スル外交、
  財政、經濟其ノ他ニ關スル重要ナル國務ニ
  係ル事項ノ機密ヲ保護致シテ居ルノデゴ
  ザリマス、而シテ各種ノ重要ナル會議ニ
  付セラレタル事項ノ外、其ノ會議ニ於キ
  マシテ準備セラレタル事項、其ノ他行政各
  部ノ重要ナル機密事項トナッテ居リマスルガ
  故ニ、其ノ範圍ハ極メテ廣汎デゴザリマス、
  政府ハ高度ノ機密性ヲ有スル特別ノ極ク僅
  カナモノニ指定ヲシタイト云フ御考ノヤウ
  デゴザリマスケレドモ、只今申上ゲマシタ
  ヤウニ、行政各部ノ重要ナル機密事項ト云
  フコトデゴザリマスルノミナラズ、外交、
  財政、經濟其ノ他ニ關スルトゴザリマスル
  ガ故ニ、其ノ範圍ハ極メテ廣イト申サナケ
  レバナラヌノデゴザリマス、而シテ其ノ機
  密ノ事項ガ何デアルカト云フコトニ付キマ
  シテハ、何等示ス所ガナイノデゴザリマス
  ルカラ、玆ニ國民ノ非常ナ不安ヲ生ズルノ
  デゴザリマス、先程カラモ政府當局カラ御
  證明ニナリマシタヤウニ、主トシテ業務上
  之ニ關係シテ居ル者ニ付テハ、ソレハ指定
  ヲサレテ居ルノデアルカラ能ク分ル、而シ
  テ此ノ法案ハ主トシテ業務上ノ關係者ニ
  付テデアルカラ、國民全般ノ不安ハ少カラ
  ウト云フヤウナ意味ノ御話モゴザリマシタ、
  併シナガラ、第五條ニ於キマシテハ、偶然
  ノ機會ニ依リマシテ、國家機密ヲ知得シ或
  ハ領有シタル者ガ、之ヲ外國ニ漏泄スルト
  カ、或ハ公ニ致シマストキニハ、其ノ罪ニ問
  ハレルノデゴザリマスルカラ、矢張リ國民
  全體ノ不安ガ玆ニ來ルト申サナケレバナラ
  ヌノデゴザリマス、而シテ業務ニ關係ヲシ
  テ居ラルヽ方ハ、惡意ナクウッカリト其ノ事
  ヲ申サルヽコトガナイトモ限ラヌ、又本法
  案ニモゴザリマスルヤウニ第七條ニ於
  キマシテ、過失ニ因ッテ漏ラサルヽ場合モ想
  像サレテ居ラルヽノデゴザリマスルカラ
  之ヲ偶然ノ機會ニ於テ知リマシタ者ハ、矢
  張リ此ノ機密ヲ嚴守スルト云フコトニ付キ
  マシテ、取締ヲ受ケナケレバナラヌノデゴ
  ザリマス左樣ナ次第デゴザリマシテ、而
  モ之ニ對スル罪ハ極メテ重大デゴザリマス、
  罪ハ重大デゴザリマスルノミナラズ、恰モ
  外國ノ間諜ヲ致シタヤウナ行爲ト見ラルヽ
  ノデゴザリマスルガ故ニ、其ノ行爲ハ單リ
  本人ガ責任ヲ負ハナケレバナラヌバカリデ
  ナク、實際ニ於キマシテハ、其ノ被疑者ノ
  家族子孫ニ至ル迄モ、世間ニ顏向ケノ出來
  ヌヤウナ狀態ヲ來スノデゴザリマス、ソレ
  ガ善意ニシテ、知ラズシテ此ノ罪ニ觸レル
  ト云フコトガゴザリマスルト云フコトハ
  是ハ私ハ誠ニ遺憾千萬ト申サナケレバナラ
  ヌト思フノデゴザリマス、又機密ノ事項
  ガ分リマセヌガ爲ニ、知ラズシテ之ヲ漏ス
  者ガアルト云フコトニ相成リマスト云フト、
  折角政府ガ機密ヲ保タムトシテ却テ機密ヲ
  保チ得ザルヤウナ結果ヲ生ズルコトモアラ
  ウト思フノデゴザリマス、若モ機密ノ範圍
  ガスッカリ確定致シテ居リマスルナラバ、之
  ニ觸レテハナラスト云フコトヲ十分ニ警戒
  致シマスルガ故ニ、ソコニ機密ガ確保サレ
  ルノデゴザリマスルガ、知ラザルガ爲ニ遂
  ニ機密ガ漏レルト云フ虞モ却テ生ズルノデ
  ハナイカト思フノデゴザリマス、ノミナラ
  ズ機密ノ範圍ガ決ッテ居リマセヌガ爲ニ、
  世間ノ人ハ斯ウ云フコトハ或ハ機密ヂ
  ヤアルマイカト斯ウ考ヘマシテ、實際ハ機
  密ニ亙ラザル事項迄モ之ヲ發表スルコ
  トガ出來ナイ、非常ニ恐怖ニ襲ハルヽノデ
  ゴザリマス、何事ヲ申スニ付キマシテモ
  戰々兢々トシテ非常ナ不安ヲ來スノデゴザ
  リマス、今日重大時局ニ際シマシテハ
  色々世間ノ事情ガゴザリマセウ、是等ノ事
  情ヲ能ク述ベテ、政府ニモ愬ヘ、國民ニモ愬
  ヘルコトガ、極メテ必要デアルノデゴザリ
  マスルガ、ソレ等ノ愬ヘナケレバナラス必
  要ナ事項迄モ差控ヘナケレバナラヌ、斯ウ
  云フ狀態ヲ來スノデゴザリマス、斯樣ナ次
  第デゴザリマスルノデ、此ノ機密ノ事項ハ、
  如何ナルコトガ其ノ事項ニ當ルカト云フコ
  トヲ大體決メテ戴カナケレバナラヌ、斯ウ
  考ヘルノデゴザリマス、先程委員長ノ御報
  告ノヤウニ、政府ハ昨日討論ニ入ル前ニ當
  リマシテ、機密ノ事項ハ官報ヲ以テ公示ヲ
  スル斯ウ云フコトヲ言明ヲセラレマシタ、
  此ノ言明ハ私共ノ不安ヲ去ルト云フコトニ
  付キマシテ、一段ノ改善ヲ見タノデゴザリ
  マスルガ、政府ガ公示ヲスルト云フナラバ、
  何故ニ之ヲ公示スルト云フコトヲ要件トサ
  レナイノデゴザリマセウカ、斯クノ如キ重
  大ナル事項ハ公示ヲスルト云フコトヲ要
  件トシナケレバナラヌ、卽チ私共ハ、此ノ
  修正案ニ書イテ居リマスルヤウニ、「命令ヲ
  以テ之ヲ定ム」、斯ウ云フコトニ致シマスル
  コトガ、極メテ國民ノ本當ノ安心ヲ得ル所
  以デナケレバナラヌト思フノデゴザリマス、
  而シテ此ノ修正案ノ書キ方ハ從來既ニ發布
  サレテ居リマスル軍機保護法ノ規定ニ大體
  準ジタモノデゴザリマス、軍機保護法ニ於
  キマシテモ、軍用資源祕密保護法ニ於キマ
  シテモ、矢張リ斯クノ如キ規定ガアルノデ
  ゴザリマス、尙此ノ書キ方ハ「御前會議J樞密
  院會議、閣議又ハ之ニ準ズベキ會議ニ付セ
  ラレタル事項」ト云フコトガ書イテアリ、「帝
  國議會ノ祕密會議ニ付セラレタル事項」ト云
  フコトガ書イテアリ、又「行政各部ノ重要ナ
  ル機密事項」ト書イテゴザリマシテ、此ノ法
  案ヲ見マスルト我ガ此ノ立派ナル帝國ニ
  於キマシテ國家ノ重臣、或ハ立法、豫算
  ニ關係ヲ致シマスル帝國議會ノ議員、或ハ
  行政各部ノ主ナル役人ガ、恰モ開業ノ如ク
  國家ノ機密ヲ漏ス虞ガアルノデアルト云フ
  ガ如キ觀ヲ示スノデゴザリマス、我ガ國ニ
  於キマシテハ斷ジテ私ハ左樣ナコトハナイ
  ト考ヘルノデゴザリマスガ、此ノ法案ノ體
  裁ヲ見マスト、如何ニモ我ガ帝國ニ於キマ
  シテハ、立派ナ所ニ居ル立派ナ役人ニ、立派
  ナ帝國議會ノ議員ニ、惡イ人間ガ居ルノデ
  アルト云フガ如キ感ヲ與ヘマスルト云フコ
  トハ、國家ノ恥辱ト申サナケレバナリマセ
  又、而シテ斯クノ如キ感ヲ與ヘマスルコト
  ハ國民全般ニ對シテ、是等ノ重要ナル官
  吏ニ對シテ不信ヲ招カセルヤウナ傾向ヲ生
  ズルコトノ虞ガナイトモ限ラナイノデゴザ
  リマス、斯ウ云フ抽劣ナル書キ方ハ之ヲ排
  除シテ、先程申シマシタ修正ノヤウニ致シ
  タイト思フノデゴザリマス、而モ是ハ單
  純ニ斯ウ云フ會議ニ付セラレタト云フ形式
  ダケヲ示スコトデゴザリマシテ、如何ナル事
  項ガ此ノ會議ニ付セラレタカト云フコトハ
  固ヨリ是デハ分ラナイノデゴザリマスルカ
  ラ、斯クノ如キコトヲ書キマシテモ、何ノ
  役ニモ立タナイノデゴザリマス、何等ノ益
  ナク、而シテ其ノ害ヤ恐ルベキモノガアル
  ト考ヘルノデゴザリマス、故ニ此ノ點ヲ削
  除シタイト思フノデゴザリマス、其ノ次ハ
  第八條ノ修正デゴザリマス、色々政府ノ說
  明ヲ伺ヒマシテ、第八條ノ如キ規定ガ必要
  デアルト云フヨトヲ能ク私共ハ了解ガ出來タ
  ノデゴザリマス、併シナガラ此ノ書キ方ヲ
  見マスルト、「外交、財政、經濟其ノ他ニ關ス
  ル情報ヲ探知シ又ハ收集シタル者」ヲ罰スル
  ノデゴザリマス、情報ト申シマスルト、苟モ事
  實ノ報道デゴザリマスル以上總テ情報デゴ
  ザリマス、何デモ彼デモ入ルノデゴザリマス、
  斯クノ如キ情報ガ相集リマシテ、之ヲ上手
  ニ綜合致シマスルト云フト、遂ニハ國家ノ
  機密ヲ漏ス虞ガアルト云フ意味ヲ以チマシ
  テ、斯クノ如キ規定ヲ設ケル必要ガアルノ
  デゴザリマスルガ、其ノ目的ニ付テ考ヘテ
  見マスルト、「國防上ノ利益ヲ害スベキ用途
  ニ供スル目的ヲ以テ」トゴザリマスルノハ、必
  ズシモ外國ニ通報スル目的ガナクテモ、矢張
  リ左樣ナ目的ガアレバ此ノ法案ニ該當スル
  ノデゴザリマス、而シテ私共政治ニ關係ヲ致シ
  マスル者モ、又色々實業ニ關係ヲスル人達モ、
  其ノ仕事ヲ致シマスル必要上、色々ノ情報ヲ
  集メルノデゴザイマス、固ヨリソレハ良イ
  目的ノ爲ニ集メルノデゴザリマスルガ、ソ
  レガ、場合ニ依リ。マスルト云フト、斯クノ
  如キ疑ヲ以テ取調ベラレルト云フヤウナ虞
  ガナイトハ限リマセヌ、又外國トノ貿易ニ
  從事シテ居ラルヽ人達ハ、其ノ仕事ヲ遂行
  致シマスル關係カラ、色々ノ情報ヲ集メナ
  ケレバナラヌノデアラウト思フノデゴザリ
  マス、是ハ先程色々御演說ノ時述ベラレマ
  シタ通リデゴザリマス、處ガ後段ノ目的ヲ
  見マスルト、國防上ノ利益ヲ害スベキ用途
  ニ供セラルヽ虞アルコトヲ知リテ外國ニ通
  報スル目的ヲ以テ、、「虞アルコトヲ知リテ」
  ト云フコトデゴザリマスルカラ、是ハ非常
  ニ微妙ナ問題ニナッテ參ルト思フノデゴザ
  リマス、從ッテ是等通商ニ關係ヲ致シマスル
  人達ガ、情報ヲ集メマスル場合ニ於キマシ
  テ、此ノ法案ノ此ノ八條ニ當ルト云フヤウ
  ナ疑ヲ持タルヽヤウナ場合ハ、決シテ少ク
  ナイト思フノデゴザリマス、斯クノ如ク條
  文ノ書キ方ガ餘リ網ヲ擴ゲ過ギルヤウナ狀
  態デゴザリマスルガ故ニ、之ヲモウ少シ明
  確ニシタイト云フ意味ヲ以チマシテ、「國防
  上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スルコトヲ知
  リテ外國ニ通報スル目的ヲ以テ」、斯ウ明確
  ニ致シタイ、サウシテ其ノ不安ヲ除キタイ、
  斯樣ニ考ヘルノデゴザリマス、其ノ次第
  三デゴザリマス······第三ノコトヲ申上ゲマ
  ス前ニ、第二ノコトニ付キマシテ尙附加ヘ
  テ申上ゲマス、此ノ規定ノ不安ヲ去ルガ爲
  ニ、當局ハ、先程モ本議場ニ於テ述ベラレ
  タノデゴザリマスガ、委員會ニ於キマシテ
  毛、サウ云フコトハ嚴ニ戒愼ヲスル、嚴
  戒愼ヲスル、又通商ノ妨ゲノナイコトヲ期
  スルト云フコトヲ申サレマシタ、是ハ誠ニ
  必要ナコトデアルト思フノデゴザリマスル
  ガ、當局ガ如何ニ戒愼ヲサレマシテモ、又
  通商ニ妨ゲナイコトヲ期セヨウト考ヘラレ
  テモ、苟モ斯クノ如キ茫漠タル法案ガゴザ
  リマスル以上ハ、一般國民ト致シマシテハ
  非常ナ不安ヲ招クノデゴザリマス、其ノ不
  安ガ卽チ幾多ノ行動ヲ掣肘セラレ、又貿易
  ヲ阻害スル虞ガアルノデゴザリマス、今日
  此ノ時局ニ於キマシテ、一層貿易ヲ振興シ
  ナケレバナラヌト云フ時代ニ於キマシテ、
  其ノ業者ニ對シテ不安ヲ與ヘ、而シテ貿易
  ヲ萎縮セシムルガ如キコトアリマシタナラ
  バ、是ハ其ノ害大ナリト申サナケレバナラ
  ヌノデゴザリマス、決シテ當局ノ御心掛、
  運用ノ方針ト云フコトデ、決シテ不安ヲ去
  ルコトハ出來ヌノデゴザリマス、法律ガ苟
  モ嚴トシテ存スル以上ハ、斯クノ如キコト
  ハ出來ヌノデゴザリマス、人ハ自ラ不安ヲ
  生ゼザルヲ得ヌノデゴザリマス、第三、十
  六條ノ第二項ヲ削除致シタイノデゴザリマ
  ス、卽チ第十六條ハ本法案ニ於キマシテ
  ハ先程カラ度々此ノ議場デ述ベラレマシタ
  ヤウニ、檢事竝ニ司法警察官ニ强制力ヲ認
  メテ居リマス、又三審制度ヲ二審制度ニ改
  メテ居リマス、又辯護士ノ選定ニ付テモ制
  限ヲ設ケラレテ居リマス、是等ノ事柄ニ付
  キマシテ、本法案ノミナラズ多數ノ法案ニ
  適用セムトシテ居ルノデゴザリマス、而シ
  テ此ノ第二項ハ「本章ノ規定ハ外國ト通謀
  シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ」云
  云ト書イテゴザリマス、而シテ此ノ外國ト
  云フ文字ハ、法案第三條ニゴザリマスルヤ
  ウニ、「外國ノ爲ニ行動スル者及外國人」、善
  良デアラウガ何デアラウガ苟モ外國人ト
  云フコトヲ何含ヲスルノデゴザリマス、而
  シテ其ノ政府ノ目的トセラレマスル所、惡
  性ノモノヲ取締ルト云フコトニアルノデア
  ラウト思フノデゴザリマスルガ、此ノ書キ
  方ガゴザリマスルト苟モ外國ト通謀スル、
  苟モ外國ニ利益ヲ與フル目的デ是等ノ罪ヲ
  犯シマシタナラバ、必ズ是ガ適用サルヽノ
  デゴザリマス、極メテ廣キニ亙ルト思フノ
  デゴザリマス、ソレノミナラズ、之ニ引擧
  ゲラレテ居リマス條項ハ、極メテ各法律ニ
  亙ッテ多イノデゴザリマス、多イ爲ニ、何故
  ニ是等ノ條項ガ之ニ揭ゲラレタカト云フコ
  トニ付キマシテハ私共ドウモ分リマセヌノ
  デ、度々委員會ニ於キマシテモ質問應答ヲ繰
  返シタノデゴザリマスルガ、ドウモ其ノ說明
  ハ私共ヲ領得サスコトガ出來ナイノデゴザ
  リマス、唯政府ノ說明ハ、是等ノ罪必ズシモ
  全部重イトハ行カヌノデアルケレドモ、ソ
  レガ外國ト通謀スルトカ、外國ニ利益ヲ與フ
  ル目的ヲ以テヤレバ惡イノデアルカラ、從ッ
  テ是等ノ條文ヲ揭ゲタノダ、斯ウ云フ御話
  デアルノデゴザリマス、何ガ故ニ是等ノ條
  文ダケヲ取上ゲタカト云フコトニ付テノ說
  明ハナイノデゴザリマス、而シテ私共ガ見
  マシテモ、是等ノ條文ヲ取上ゲル程ナラバ、
  他ニモ澤山取上ゲナケレバナラヌモノガア
  リハセヌカ、斯樣ニ思ハルヽノデゴザリマ
  ス、是ハ私澤山ノ例ヲ持ッテ居リマスガ、
  簡約致シマスル爲ニ一二ノ例ヲ申上ゲテ見
  タイト思ヒマス、本條ニ揭ゲラレテ居リマ
  スル條項ハ、例ヘバ刑法ダケニ付テ申上ゲ
  テ見タイト思ヒマスガ、第八章、是ハ騷擾
  ノ罪デゴザリマス、第九章、放火及ヒ失火
  ノ罪デゴザリマス、第十章ハ溢水及ヒ水利
  ニ關スル罪デゴザリマス、第十一章ハ往來
  ヲ妨害スル罪デゴザリマス、第十五章ハ飮
  料水ニ關スル罪デゴザリマス、十六章ハ通
  貨僞造ノ罪、十七章ハ文書僞造ノ罪、十八
  章ハ有價證劵僞造ノ罪、二十六章ハ殺人ノ
  異、二十七章ハ傷害ノ罪、四十章ハ毀棄及
  ヒ隱匿ノ罪デゴザリマス、是等ノ罪ヲ揭ゲ
  ラレル程ナラバ、祕密ヲ守ルト云フ必要上、
  第十三章ノ祕密ヲ侵スノ罪ノ如キモノモ、
  矢張リ入レルコトガ必要デアルト云フコト
  ヲ感ゼラルヽノデゴザリマス、又機密ノ漏
  泄ヲ防グ爲ニ、瀆職ノ罪ト云フコトモ考ヘ
  ラレナケレバナリマセヌ、固ヨリ外國ノ間
  諜タラムガ爲ニ、我ガ帝國ノ官吏ニ瀆職ヲ
  スル、賄賂ヲ受ケルト云フ人ハ斷ジテナイ
  コトヲ信ジマスルガ、少クトモソレニ對シ
  テ賄賂ヲ提供スルモノハアリ得ルノデゴザ
  リマス、斯ウ云フ者モ取締ラナケレバナラ
  ヌノデアリマス、又三十六章ノ竊盗及ヒ强
  盜ノ罪、例ヘバ機密ノ文書ラ盜ム、而シテ
  是等ノ機密ガ、本法案ノ保護スル機密ニ該
  當致シマスルナラバ本法案ノ罪ニ該當ス
  ルノデゴザリマスルガ、本法案ニ該當セザ
  ルヤウナ機密デゴザリマスナラバ、矢張リ
  考ヘテ行カナケレバナラナイノデアリマス、
  斯樣ニモ考ヘラレルヽノデゴザリマス、其
  ノ他例ヲ擧ゲ來レバ澤山アルノデゴザリマ
  スガ、最モ極端ノ例ヲ私ハ申上ゲテ見タイ、
  ソレハ本法案ニ治安警察法ニ關スル罪全部
  ガ擧ッテ居ルノデゴザリマス、治安警察法ハ
  主トシテ政治關係其ノ他ノコトヲ取締ルノ
  デゴザリマスガ、皆樣御承知ノヤウニ、其
  ノ罰則ハ僅カニ二十圓以下ノ罰金或ハ一箇
  月以下ノ禁錮トカ云フ、極メテ輕イ罪ガ多
  イノデゴザリマス、治安警察法ノ中デ最エ
  重シト考ヘラレマスモノハ祕密結社位デ
  ゴザリマセウガ、ソレデモサウ重イ罪デハ
  ゴザリマセヌ、兎ニ角輕イ罪デアル、單純
  ナ罰金刑ニ過ギテイモノガアルノデゴザリ
  やく、之ヲ擧ゲラレタコトハ何ノ故カ、私
  共全ク理由ヲ捕捉スルニ苦シムノデアリマ
  ス、若シモ之ヲ擧ゲナケバナラヌナラバ、
  モウ少シ重大ナコトヲ何故擧ゲナカッタノ
  カ、ソレハ私ハ例ヘバ出版法ノ規定ヲ申上
  ゲマス出版法ハ「第十八條、外交軍事其ノ
  他官廳ノ機密ニ關シ公ニセサル官ノ文書及
  官廳ノ議事ハ當該官廳ノ許可ヲ意ルニ非サ
  レハ之ヲ出版スルコトヲ得ス」、之ニ對シテ
  ハ相當ノ刑罰ガ規定サレテ居リマス、「二
  十一條、軍事ノ機密ニ關スル文書圖畫ハ當
  該官廳ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ出版ス
  ルコトヲ得ス」、是ハ重要ナモノデアルノデ
  ゴザリマス、只今ノ治安警察法ノ罪ニ比較
  致シマシテ、重大デアラウト申上ゲナケレ
  バナラヌ、更ニ新聞紙法ノ規定ヲ見マスル
  ト、「第二十七條、陸軍大臣、海軍大臣及外務
  大臣ハ新聞紙ニ對シ命令ヲ以テ軍事若ハ外
  交ニ關スル事項ノ掲載ヲ禁止シ又ハ制限ス
  ルコトヲ得」、是モ若シ外國人ト通謀サレタ
  ナラバ、重大ナコトト考ヘナケレバナラヌ、
  又「四十二條、皇室ノ尊嚴ヲ冒瀆シ政體ヲ變
  改シ又ハ朝憲ヲ紊亂セムトスルノ事項ヲ新
  聞紙ニ揭載シタルトキハ發行人、編輯人、印
  刷人ヲ二年以下ノ禁錮及三百圓以下ノ罰金
  ニ處ス」、是等ノコトハ今ノ治安警察法ヨリモ
  頗ル重大ト申サナケレバナヌ、ソレハ入レラ
  レテ居ラヌノデアリマス、之ヲ要スルニ十六條
  ノ第二項ノ規定ハ、極メテ整調サレテ居ラ
  ヌト云フコトヲ斷言セザルヲ得ヌノデゴザ
  リマス、何ガ故ニ斯クノ如ク整調サレテ居
  ラヌカト申シマスルト、斯クノ如キモノハ
  私共ノ考ニ依レバ擧ゲナクテ宜イノダ、從
  來ノ普通ノ手續ニ依ッテ取締ヲシテ宜イノ
  デハナイカ斯樣ニ私共ハ確信ヲ致シテ居
  ルノデアリマス苦シ其ノ行爲ガ外國人ト
  通謀シ若シクハ外國ニ利益ヲ與フルガ爲
  ニ非常ニ感情ガ惡イト云フノガアルデゴ
  ザリマセウサウ云フ場合ニ於キマシテハ
  刑法ニ御承知ノ第三章ノ外患ニ關スル罪ガ
  ゴザリマス外國ニ關スル罪ハ敵國ダケ
  ニ付テノ問題デゴザリマスガ、之ヲ擴充シ
  テ、實體法トシテ重要ナ規定ヲ置ク必要ガ
  アルノダト思フノデゴザリマス、サウ云フ
  ヤウナ實體法ニ於テ作ラレタ後ニ、更ニ手
  續ヲ考ヘルノガ至當デハナイカト、私ハ思
  フノデゴザリマス、當局ハ之ニ對シテ斯樣
  ナコトヲ申サレテ居リマス、十分ニ注意ヲ
  シテ、此ノ法案ノ目的ハ惡性ノ者ヲ取締ル
  ノデアルカラ、從ッテ其ノ目的以外ニ出ヅ
  ルコトヲ戒メル斯樣ニ御話ニナッテ居リ
  やくろ運用ニ依ッテ適正ニ行カウ、併シナ
  ガラ私ハ、ソレニ運用ニ依ッテ行カヌ問題デ
  アルドウカト申シマスナラバ十六條ノ
  二項ノ本文ハ、「本章ノ規定ハ外國ト通謀シ
  又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯シタ
  ル左ニ揭グル罪ニ關スル事件ニ付亦之ヲ適
  用ス」トゴザリマス、以下ノ手續ハ適用サル
  ルノデゴザイマスルカラ、必ズソレヲヤッテ
  行カナケレバナラヌソレガ私ハ法律ノ正
  確ナ運用ダト思フノデゴザリマス、手心
  ニ依ッテ、或場合ハ之ヲ適用シナイ或場合ハ
  之ヲ適用スルト云フコトハ出來ナイ問題
  デアルト確信ヲ致シマス、カルガ故ニ斯ク
  ノ如キ規定ハ之ヲ削除スルコトヲ適當ト確
  信ヲ致スノデゴザリマス、唯此ノ中デ刑法
  第二編第一章ノ罪、第二章ノ罪ト云フコト
  ニ付キマシテハ、是ハ大審院ノ特別權限ニ
  屬シテ居ルノデゴザリマスルガ、其ノ他本
  法案ノ規定ニ存スルヤウナ、或ハ强制ノ處
  分ト云フヤウナコトヲ必要トスルコトハ考
  ヘラレヌノヂヤナカラウト思フノデゴザリ
  マく、併シナガラ是ハ從來ニ於キマシテモ、
  斯クノ如キ犯罪ハ度々起ルベキモノデハナ
  イ、而シテ假ニ起ルコトアリト致シマシテ
  モ、從來ノ規定ニ依ッテ其ノ完璧ヲ期セラレ
  テ居ルノデゴザリマス、尙之ヲ是非必要ト
  致シマスルナラバ、本法案ハ特ニ外國ノ間諜
  又ハ其ノ他惡性ノ行爲ニ付テノ關係デゴザ
  リマスルカラ、別ノ法律ヲ以チマシテサウ
  云フ點ニ付テハ御考慮下サラムコトヲ適當
  ト認ムルノデゴザリマス、其ノ次第四デゴ
  ザリマス、是ハ檢事竝ニ司法警察官ニ對シ
  テ搜査上强力ヲ認メタモノデゴザリマス、
  先程カラモ色々述ベラレマシタヤウニ、今
  日ノ制度ニ於キマシテハ、强制力ハ判事ガ
  持った。檢事ハ原則トシテ之ヲ持ッテ居リマ
  セヌ、司法省ニ於キマスル司法制度調査委
  員會ニ於キマシテ、今日犯罪ノ搜査ヲ致ス
  ノニ、檢事、司法警察官ハ强制力ヲ持ッテ居
  リマセヌカラ、行政執行法其ノ他ノ規定ノ
  運用、運用ト云フヨリハ寧ロ其ノ濫用ニ依
  リマシテ、犯罪搜査ヲ致シテ居ル、之ヲド
  ウシテモ改メナケレバナラヌト云フコトニ
  付キマシテ、其ノ對策ニ付テ色々考究ヲサ
  レマシタノデゴザリマスガ、其ノ時ニ司法
  省側カラ出ラレタ委員ノ方々ニハ檢事ニ
  强制力ヲ持タセルト云フコトニ付テ主張ヲ
  サレタ方ガ多カッタノデゴザリマスルガ、
  サウデナイ民間側カラ出ラレタ委員ニ於キ
  マシテハ、檢事ニ强制力ヲ持タシテハイカ
  ヌ、若シ强制力ガ必要デアルトシタナラ
  バ、刑事訴訟法二百五十五條、二百五十七
  條ノ豫審判事ノ起訴前ノ强制力ヲ適用シテ行
  ケバ宜イノデアル、サウシテ今日ハ、起訴
  前ニ於キマシテハ十日間シカ强制收容ガ出
  來ヌノデゴザリマスルケレドモ、其ノ期間ヲ
  延長シテ、或ハ一箇月ニスル、或ハ二箇
  月ニスルト云フヤウニシテ、强制捜査ヲ
  シタラ宜イヂヤナイカト云フコトハ全體
  ノ會議ノ決ハ採ラレヌノデゴザリマシタガ
  特別委員會ニ於キマシテハサウ云フ決議ヲ
  サレマシテ、檢事ノ强制力ニハ反對ヲセラ
  レテ居ッタノデゴザリマス、全會纏ラナカツ
  タノデゴザリマス、検事ノ强制力ニ付キマ
  シテハ·····左樣ナ次第デゴザリマスルノ
  デ、檢事ノ强制力ト云フコトニ付キマシテ
  モ、愼重ナル審議ヲ要スルノデゴザリマス
  ルガ、併シナガラ斯クノ如キ犯罪ニ對シマ
  シテ、迅速果敢ニ犯罪ヲ檢擧スルコトハ
  當局ノ言ハレマスル通リ必要デアルノデゴ
  ザリマス、從ッテ本法案ノ如キ特別ノ犯罪ニ
  付キマシテ檢事ノ强制力ヲ認ムルコトハ
  私ハ適當デアル、斯樣ニ考ヘルノデゴザリ
  やく、唯先程モ小山サンカラ御話ニナリ
  マシタヤウニ、十分ニ注意ヲシテ戒愼ヲシ
  テヤッテ貰ヘバソレデ宜イノデアル、檢事ノ
  强制力ハゾレデ宜イノダト、斯樣ニ考ヘテ
  居ルノデゴザリマス、而シテ只今申上ゲマ
  シタ司法制度調査委員會ニ於キマシテ、從
  來實行致シテ居リマスル行政執行法ノ運用、
  言ヒ換ヘレバ濫用ヲ止メルトスレバ、司法
  警察官ニ對シテ强制力ヲ與ヘナケレバナラ
  ヌト云フコトニ付テノ御話モアリマシタ、
  併シナガラ是ハ大反對デス、唯內務當局ア
  タリニ於テ其ノ意見ガアリ、又司法當局ニ
  於キマシテモ、極メテ短期間ナラバ司法警
  察官ニ與ヘテモ宜カラウガ、長イ期間ハ無
  論イカヌ、此ノ法案ニゴザリマスルヤウニ
  四箇月モ、司法警察官ガ、檢事ノ命令ガア
  ルナラバ勾留ガ出來ルト云フガ如キコトハ、
  夢ニモ考ヘラレナカッタコトデアルノデゴ
  ザリマスガ、檢事ガ捜査ノ主管者デアリマ
  ス、而シテ司法警察官ハ之ヲ補助スルモノ
  デゴザリマス、主管者タル檢事ト補助スル
  司法警察官ト、同ジヤウナ强制力ヲ持ツト
  云フコトハ、私ハ考ヘラレヌコトヂヤアル
  マイカ、而モ今日ノ實際ノ狀況ニ鑑ミマシ
  テ司法警察官ニ、假令檢事ノ命令アリト
  雖モ、四箇月迄ノ勾留ヲ認メル、又證人ヲ
  訊問スルト云フ重大ナコト、斯クノ如キコ
  トヲ認ムルコトハ斷ジテ不適當デアルト思
  フノデゴザリマス、當局ハ警察官ノ〓養訓
  練ニ付テ十分注意ヲ致シマシテ、將來其ノ
  誤ナキコトヲ期スルト述ベラレテ居ルノデ
  ゴザリマスガ、〓養訓練ガ眞ニ完成ヲ致シ、
  立派ナ警察官バカリニナッタ場合ニ於キマ
  シテハ、或ハ其ノ點ニ付キマシテ尙考究ス
  ル餘地ガアルカモ存ジマセヌケレドモ、ソ
  レハ〓養訓練ガ本當ニ完成ヲシタル後デナ
  ケレバナラヌト思フノデゴザリマス、先ヅ
  力ヲ與ヘヨ、然ル後〓養訓練ヲシヨウト云
  フガ如キコトハ、前後撞著デアルト思フノ
  デゴザリマス、殊ニ先程申シマスルヤウニ、
  司法警察官ハ補助官デアルノデゴザリマス
  カラ、成ルベク其ノ權限ニ付キマシテハ能
  ク考ヘテ行カナケレバナラヌト思フノデゴ
  ザリマス、今日固ヨリ私、警察官ガ惡イト
  ハ申シマセヌ、立派ナ警察官ガ澤山アル、
  澤山ゴザリマスルケレドモ、全體トシテ言
  フナラバ、中ニハ左程迄ニ〓養訓練ノ出來
  テ居ラヌ人モ相當ニアルノデゴザリマス、
  從ッテ私共ハ、司法警察官ニ對シマシテモ、
  四十八時間ヲ限度トスル勾引ト云フコトハ
  認メテ宜カラウ、其ノ外證人、被疑者ヲ訊
  問スル以外ノコト、卽チ押收、搜索、檢證
  ヲスル、或ハ鑑定、通譯、飜譯ヲ命ズルコ
  トト云フガガキコトハソレハサシテ宜カ
  ラウト云フ考ヲ以チマシテ、斯クノ如キ修
  正ヲ致シタノデゴザリマス、ノミナラズ、
  是ハ將來所謂行政執行法ノ濫用ヲ全然止メ
  ルト云フコトニ致シマスナラバ、將來檢事、
  司法警察官ニ對スル强制力ノ問題ガ必ズ
  起ッテ來ルノデゴザリマス、一般犯罪ニ付
  テハ起ッテ來ナケレバナラヌ問題デゴザリ
  マス、其ノ場合ニ於テ、今日此ノ特別法、
  特別ノ法律デゴザリマスルガ、此ノ法律ニ
  於キマシテ檢事、司法警察官ヲ同樣ノ權
  力ヲ認メテ置キマスルト云フコトハ、
  將來全體ノ犯罪ニ付テ規定ヲ致シマス場合
  ニ於キマシテ、非常ニ惡イ基準ヲ殘スコト
  ニナルノデゴザリマスカラ、此ノ邊ハ最モ
  重大ニ考ヘテ行カナケレバナラヌト斯樣ニ
  思フノデゴザリマス、其ノ次ハ第五デゴザ
  リマス、第一審ノ判決ニ對シテ控訴ヲ許サ
  ナイト云フ規定ヲ削除致シマシテ、普通ノ
  犯罪ト同ジヤウニ三審制度ヲ採リタイト云
  フコトデゴザリマス、先程カラ申上ゲマス
  ルヤウニ、本法案ニ規定スル罪ハ、極メテ
  重大ナル罪デゴザリマス、從ッテ之ヲ裁判致
  シマス場合ニ於キマシテハ、本當ニ愼重ニ
  審議サルヽ必要ヲ痛感致シタノデゴザリマ
  ス、愼重ニ審議シナケバレナラヌモノヲ、
  態<控訴審ヲ排シテ二審ニスルト云フコト
  ハソレ自身矛盾撞著デアルト考ヘルノデ
  ゴザリマス、當局ノ說明ニ依リマスルナラ
  バ、此ノコトヲ規定シタ理由ハ一面カラ
  言ヘバ迅速ニヤリタイ、一面カラ言ヘバ祕
  密ヲ保護シタイ、控訴審ヲ經ルダケデモ祕
  密ガ漏レルノ虞ガ多クナルカラソレヲモ排
  除シタイ、斯樣ナ說明デアッタノデゴザリマ
  ス、併シナガラ控訴院ニ關係ヲシテ居ル人
  達ハ、矢張リ業務上此ノコトヲ知ルノデゴ
  ザリマスルカラ、若シモ祕密ヲ漏泄致シマ
  スナラバ、重大ナ責任ヲ負ハナケレバナリ
  マセヌカラ、唯控訴審ヲ經ルト云フコトダ
  ケデ、祕密ノ漏泄ヲ防止スルコトニ考ヘル
  ト云フコトハ、是ハ私ハ餘リ考ヘ過ギヂヤ
  ナイカ、斯樣ニ思フノデゴザリマス、當局
  ハ斯クノ如ク說明サレナガラ、一面ニ於キ
  マシテハ第二十一條ニ「勾留ニ付テハ警察官
  署又ハ憲兵隊ノ留置場ヲ以テ監獄ニ代用ス
  ルコトヲ得」ト云フ規定ヲ作ッテオイデニナ
  リマス、卽チ勾留ニ際シテハ憲兵隊ノ留置
  場デモ場合ニ依ッテハ宜イノデス、又警察
  官署ノ留置場デモ宜イノデアリマス、處ガ
  御承知ノヤウニ警察官署ノ留置場程亂雜ナ
  所ハナイノデゴザイマス、澤山ノ人ガ入ッテ
  居リマシテ、多クノ場合ニ於キマシテハ皆
  坐ッテ居ラナケレバナラヌ、寢ル場所モナイ
  ト云フ程詰ッテ居ルノデアリマス、サウシテ
  其ノ中ニハ色々ノ人ガ入ッテテ居ル、其ノ中
  ニ斯クノ如キ機密ヲ守ラナケレバナラヌ重
  大ナ犯人ヲ入レテ置クト云フコトハ、是程
  機密ノ漏レル虞ノアルコトハ外ニナイヂヤ
  ナイカト思フノデアリマス
  (副議長侯爵佐佐木行忠君議長席ニ著
  乞
  斯クノ如ク控訴審ヲ經ルト云フコトト、警
  察署ノ留置場ニ置クト云フコトト、ドチラ
  ガ祕密ガ漏レル虞ガ多イゴザイマセウカ、
  是ハ殆ド言ハズシテ明カナコトト申サナケ
  レバナリマセヌ、私ハ尙政府ニ於キマシテ
  ハ、場合ニ依ッテハ上告審ヨリ控訴院ニ移送
  シテ事實ノ審理ヲサスコトモ出來ルノデア
  ル、ノミナラズ第一審ニ於テ十分ナル事實
  ノ審理ヲスルカラ宜イノデアル、斯ウ云フ
  御說明ガアッタノデゴザリマスルガ、大審院
  ニ於キマシテ、事實ニ於キマシテ、事實ノ誤
  ニ於テ之ヲ是正致シマス場合ハ顯著ナ
  ル······顯著ナル事實ノ相違ガナケレバナラ
  ヌノデゴザリマス、而シテ苟モ犯罪ヲ取調ベ
  ルニ當リマシテハ、其ノ刑ヲ科スルト云フ
  コトヨリモ、本當ニ事實ハドウデアルカト
  云フコトガ、本當ニ確カニ調ベラレルト云フ
  コトガ極メテ肝要デナケレバナラヌノデゴ
  ザリマス、ソレニモ拘ラズ、態〓事實審ヲ致シ
  マスル控訴院ヲ省クト云フコトハ此ノ重
  大ナル犯罪ニ鑑ミマシテ、斷ジテ適當デア
  ラザルコトヲ確信ヲ致シマス、斯樣ナ理由
  ヲ以チマシテ三十三條ヲ削除致シタイノデ
  ゴザリマス、尙先程カラモ色々申サレタ
  コトデゴザリマスルガ、當局ハ法案全體ニ
  付テ、今日ノ時勢ガ續ク以上ハ矢張リ之ヲ
  改メル譯ニ行カヌ、併シナガラ時勢ガ變レ
  バ之ヲ改メテモ宜イ、ソレノミナラズ實際
  ノ運用ニ當ッテ常ニ〓究ヲシテ、法律ニ於テ
  誤リ、缺陷ガアルナラバ、是ハ是正ヲシテ
  行キタイ、斯ウ云フ言明ヲシテ居ラルヽノ
  デアリマス、併シナガラ既ニ誤ガアルト云
  フコトガ初メカラ分リマスナラバ先ヅ法
  律ハ修正ヲサレナケレバナラヌノデゴザリ
  一
  マス、ノミナラズ、實際一且法律ガ出マス
  ト、之ヲ改ムルト云フコトハ極メテ困難デ
  アルノデゴザリマス、而シテ改メラルヽ迄
  ハ、矢張リ國民ハ非常ナ不安ニ襲ハレナケレ
  バナラヌノデゴザリマスカラ、運用ノ如何
  ニ依ッテ改メルト云フコトハ、私ハ餘リ原案
  支持ノ理由ニナラヌト思フノデゴザリマス、
  而シテ本法案ノ委員會ニ於ケル審議ノ狀
  況ニ付テ私ノ觀察ヲ申上ゲマスレバ從來
  如何ナル法案ニ付キマシテモ、之ニ反對ノ
  意味ヲ以テ質問サルヽ人モアリ、贊成ノ意
  味ヲ以テ質問サルヽ人モアリ、一部修正ノ
  意見ヲ以テ質問サルヽ人モアリ、ソレハ色
  色デアルコトガ普通デアルト思フノデゴザ
  リマス、而シテ此ノ法案ニ付テノ審議ノ狀
  況ハドウデアッタカト申上ゲマスト、此ノ法
  案ガ時局ニ際シテ極メテ必要ナモノデアル、
  斯ウ云フコトハ擧ッテ認識サレタヤウデゴザ
  リマス、而シテ此ノ法案ガ不備ナモノデア
  ル、從ッテ不備缺陷ハ之ヲ修正シナケレバナ
  ラヌ、斯ウ云フ意味ヲ以テ質問ヲサレテ居
  ルノデゴザリマス、其ノ質問ハ、全部同樣
  ニ同ジ方向ニ向ッテ居ルノデゴザリマス、私
  モ聊カ法案審議ノ委員會ニ加ッタ經驗ガゴ
  ザリマスルガ、私ノ經驗ヲ以テ致シマスナ
  ラバ
  〔議長伯爵松平賴壽君議長席ニ復ス〕
  本法案程全會ニ於キマシテ同ジ方向ニ向ッテ
  質疑ガセラレタコトハ、未ダ曾テ見ザル所
  デアルノデゴザリマス、サウシテ懇談會ノ
  席ニ於キマシテモ修正ノ意見ガ出タノデゴ
  ザリマス、是ハ質問應答ニ依ッテ大體其ノ意
  見ハ推セラレタノデゴザリマスルガ、是等ノ
  會合ノ狀況ニ依リマシテ、大體修正ノ箇所ハ
  決ッテ居ル、唯其ノ委員ニ依リマシテ、或ハ其
  ノ細カイ內容ニ付テノ差異ガアリ、又其ノ
  範圍ニ付テ多少ノ差異ガアリマシタケレド
  モ、大體同樣ノ方向ニ向ッテ居ルノデゴザリ
  やく、從ッテ私ハ委日會ニ於キマシテハ、色
  色交讓妥協ノ精神ヲ以テ一致シテ、頗ル必
  要ヲ感ズル點ニ付テ修正ノ意見ガ纏ルモノ
  デアルト云フコトヲ、實ハ確信ヲ致シテ居
  リマシタ、併シナガラ遂ニ左樣ニ行カナカッ
  タノデゴザリマス、而シテ先程祕密會議ニ
  於キマシテ、本法案ヲ無修正デヤラナケレ
  バイカヌ、時局ノ必要ガ斯クノ如·クアルノ
  デアルト云フヤウナコトガ出タカ出ヌカト
  云フコトガ、御問答ノ中ニアッタノデゴザ
  イマスガ、本法案ガ、法案ノ成立ガ必要デ
  アルト云フコトハ、祕密會バカリデハゴザリ
  マセヌ、祕密會デナイ會議ニ於テモ、痛感
  サレルヤウナ說明ガアリ、私共モサウ考ヘ
  タノデアリマスガ、祕密會ニ於キマシテモ
  本法案ガ無修正ノ儘之ガ成立スルニ非ザレ
  バ、時局ニ對シテ極メテ困ルト云フコトハ
  私自身ハ何等感ジマセヌデシタ、明カニ申
  上ゲテ置キマス、何ガ故ニ斯クノ如ク委員會
  ニ於キマシテ同ジ方向ニ進ンデ居ツタ者ガ、
  或者ハ修正論ヲ取リ、或者ハ無修正ノ儘原
  案ヲ通過スルト云フ工合ニナッタカト申シ
  マスレバ、要スルニ本法案ノ成立ヲ希望シ
  テ、若シモ修正ヲシタナラバ、是ガ衆議院ニ
  行クカモ知ラヌ、衆議院ガ之ニ應ゼヌカモ
  知ラヌ、サウ云フ場合ニ於テ兩院協議會ヲ
  生ズル、其ノ場合ニ於テ纏ラナカッタラ、遂
  ニ此ノ重大ナル法案ガ成立セザルニ至ル虞
  ガアル、是ハ重大デアルガ故ニ、是ハ原案
  ヲ通サウト云フヤウナ工合ニ考ヘラレタノ
  デハナイカト想像ヲ致シマス、私共修正論
  ヲ致シマス者ハ、實ハ左樣ニ考ヘナイ而
  モ同樣ノ方向ニ委員會全體ガアルノデアル
  カラ、之ヲ纏メテ本當ニ修正ヲスルト云フ
  コトガ、今日ノ時局ニ鑑ミマシテモ、貴族
  院ノ本然ノ立場ニ鑑ミマシテモ、必要デナ
  ケレバナラヌト云フコトヲ痛感致シタノデ
  ゴザリマス、私ハ斯樣ニ考ヘルノデゴザリ
  マス、此ノ時局ニ際シマシテハ、本當ニ法
  案ノ審議ヲ致シマス場合ニ於キマシテモ、
  誠心誠意、國家ノ爲ニ進ンデ行カナケレバ
  ナラヌト思フノデゴザリマス、何モノヲモ
  忘レテ國家ノ爲ニ進ムト云フコトガ、此ノ
  時局ニ處スル第一ノ道ト確信ヲ致シマス、
  而シテ開院式ノ勅語ニ於キマシテモ、畏多ク
  モ天皇陛下ハ和衷審議セヨト宣ハセラレ
  テ居ルノデゴザイマス、"他ッテ私ノ考ヲ以テ
  致シマスナラバ、貴族院ト衆議院ガ此ノ重
  大ナル法案ニ付テ意見ヲ異ニシテ、ソレガ
  爲ニ法案不成立ニ終ルガ如キコトハ、斷ジ
  テナイコトヲ確信ヲ致スノデゴザリマス
  殊ニ貴族院ノ委員會ノ狀況ハ先程申上ゲタ
  通リデゴザリマスガ、衆議院ニ於キマシテ
  千、其ノ質問ノ狀況ヲ見マスルト、矢張リ
  私共ガ修正セムトスルヤウナ點ニ付キマシ
  テ、相當ナ論議ガ進メラレテ居リ、從ッテ其
  ノ修正ノ意見ヲ持ッテ居ッタ人モ少クナカツ
  タラウト想像ヲサルヽノデゴザリマス、ノ
  ミナラズ本法案ハ此ノ時局ニ際シマシテ
  是非成立セシメナケレバナラス法案デアル
  ノデゴザリマス、左樣デアリトシタナラバ、
  私共ガ誠意ヲ以テ審議シテ、其ノ結果衆議
  院ニ參リマシタナラバ、私ノ考ヲ以テスル
  ナラバ、私ノ觀察ヲ以テスルナラバ衆議
  院ハ之ニ應ズルデアラウ、若シ應ゼズシテ、
  全部衆議院ガ院議ヲ尊重スル、或ハ一部ヲ
  認メテ一部ヲ認メナイト云フ場合ニ於キマ
  シテモ、兩院協議會ヲ開キマシテ、互ニ赤
  心ヲ披瀝シテ之ヲ論ジ合ヒマスナラバ必
  ズヤ交讓妥協ノ道ガ講ゼラルヽコトヲ確信
  シテ疑ヒマセス、殊ニ政府ニ於キマシテモ、
  徒ニ原案ニ執著スルコトハ間違デアルト思
  フノデゴザリマス、貴衆兩院ニ於キマシテ、
  此ノ點ハ是正スベキデアルト云フコトヲ考
  ヘマスナラバ、ソレニ對シテ再思三考サル
  ルコトガ今日時局ニ處スル第一ノ途デナケ
  レバナラヌ、ソレガ一億一心ヲ得ル所以デ
  ナケレバナラヌコトヲ確信致シマス、斯クノ
  如ク政府ニ於キマシテモ、貴族院ニ於キマ
  シテモ、衆議院ニ於キマシテモ、三者赤心
  ヲ披瀝シテ參リマスナラバ必ズ妥協交讓
  ノ途モ講ゼラレマシテ、本案ガ立派ニ成立
  スルコトヲ信ジテ疑ハヌノデゴザイマス、
  左樣ナ意味ヲ以チマシテ、本案ノ修正案ヲ
  提出致シタ譯デゴザリマス、何率皆サンニ
  於カレマシテモ、此ノ時局ニ鑑ミマシテ、
  特ニ御贊成ヲ御願ヒ申上ゲマシテ、私ノ趣
  旨ノ辯明ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=28

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• 029・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　是ヨリ討論ニ移
  リマス、小原君
  〔小原直君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=29

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• 030・小原直

  ○小原直君　私ハ只今議題ト相成ッテ居リ
  マスル國防保安法案ニ對スル修正案ニ贊成
  スル者ノ一人デアリマスルガ故ニ、茲ニ簡
  單ニ贊成ノ趣旨ヲ申述ベテ、皆サンノ御贊
  同ヲ得タイト思フノデアリマス、支那事變
  デ戰フコト既ニ三年有半ニナッテ居リマス
  ルガ、事變解決ノ見込ハマダ遼遠デアルノ
  デアリマス、一方歐洲戰爭ハ御承知ノ如キ
  進展ヲ示シマシテ、世界ノ情勢ハ眞ニ變轉
  窮リナク、朝ニタヲ測ラレザルノ〓ガアル
  ノデアリマス、而モ日獨伊三國同盟條約ノ
  締結セラレマシタル以來、國際ノ關係ハ
  一層複雜緊迫ヲ加ヘマシテ、事態誠ニ重
  大デアルコトハ申ス迄モナイコトデアリマ
  ス、斯クノ如キ內外ノ重大ナル情勢ニ鑑
  ミマシテ、外國ノ我ガ國ニ對シテ行ヒマ
  スル所ノ諜報宣傳ヲ防遏致シマシテ、國
  防ノ完璧ヲ期シマスルコトハ、現下ニ
  於ケル我ガ國喫緊ノ要務デアルコトハ無
  論デアリマス、此ノ目的ヲ以チマシテ、
  本國防保安法案ガ立案提出セラレタノデア
  リマシテ、此ノ法案ガ時局柄適切且重要ナル
  法案デアルコトハ勿論ノコトデアリマス、ソ
  レ故ニ議會ト量シマシテハ速カニ之ニ協贊
  ヲ與フルコトガ必要デアリ、私共ト致シマ
  シテモ、固ヨリ法案ノ速カニ成立スルコト
  ニハ雙手ヲ擧ゲテ贊成スル所デアルノデア
  リマス、然ルニ本法案ノ各條項ヲ仔細ニ檢
  討致シマスルト、先ヅ其ノ第一條ヲ始メト
  致シマシテ、法案ノ各所ニ頗ル不滿足ノ點
  ガアルノデアリマス、本日委員長ヨリ御報
  告ニナリマシタ內容ヲ拜見致シマシテモ、
  此ノ法案ガ各所ニ於テ不備缺點ガアリ、或
  ハ修正ヲ要スルモノデハナカラウカト云フ
  コトヲ看取セラルヽ節ガアルノデアリマス、
  更ニ原案ノ贊成者トシテ意見ヲ御述ニナリ
  マシタル所ノ伍堂サン、小山サンノ御兩人
  ニ於キマシテモ、法案ニハ到ル處ニ不備缺
  點ガアリ、修正ノ必要ハ認ムルケレドモ、
  法案ノ成立ヲ急グ爲修正ヲ爲サズシテ原案
  ヲ可決スルコトニ贊成スルノデアルト云フ
  趣旨ヲ御述ニナッテ居ルノデアリマス、更
  ニ司法大臣ハ、此ノ壇上ニ於テ本日多クノ
  事例ニ反シマシテ、特ニ此ノ法案實施後ニ
  於ケル所ノ司法省ノ態度、法案ノ運用ニ關
  シテ縷々陳辯セラルヽ所ガアッタノデアリ
  マスルガ、其ノ御趣旨ヲ拜聽致シマシテモ、
  矢張リ私共ガ提案致シマシタル所ノ五箇條
  ノ修正點ニ關シテハ、是亦相當ニ御心配ヲ
  持ッテ居ラルヽコトヲ看取スルニ足ルノデア
  リマス、法案ニ不備缺點ガアリ修正ヲ要ス
  ベキモノデアルト云フコトハ、此ノ司法大
  臣ノ本日ノ御言明ニ依ッテモ十分ニ裏書セ
  ラルヽ所ノアルコトヲ信ズルノデアリマス、
  委員會ニ於キマシテ私共ハ各種ノ點ニ付テ
  質疑應答ヲ重ネタノデアリマス、當局殊ニ司
  法省所屬ノ政府委員、又軍ノ當局ノ方カラ、
  色々深切且熱心ニ說明答辯ヲナサッテ下サッ
  タノデアリマシテ、之ニ依リマシテ私共ハ
  色々了解シタ點モアルノデアリマスガ、併
  シ修正ヲ爲スベシトスル五箇條ノ重大ナル
  點ニ付キマシテハ、結局了解ヲ得ルコトガ出
  來ナイノデアリマス、本法案ハ防諜ヲ主旨ト
  スル法案デアリマス、防諜ノ事ハ軍當局、殊
  ニ憲兵ニ於テ之ヲ取扱バルヽハ勿論デアリ
  マスルガ、内務省ノ警察ニ於テ、防諜警察ト
  シテ專ラ之ガ取扱ヲ爲サルヽコトガ相當デ
  アルト思フノデアリマス、然ルニ法案ニハ
  幾多ノ罪ノ規定又ハ刑事手續ノ規定ガアリ
  マスル關係カラ、司法省ガ提案主務省トシ
  テ御提案ニナッテ居ルノデアリマス、委員會
  ニ於キマシテ私共ガ一種特異ノ現象トシテ
  看取シタルコトハ、防諜警察ノ本體デアリマ
  スル內務省當局ガ、相當此ノ法案ニ對シテ重
  大ナル關心ヲ持タレマシテ、我々ノ質問ニ對
  シテ答辯說明ヲ與ヘラルベキデアッタト思フ
  ノデアリマスガ、如何ナル御都合カ、司法當
  局、軍當局ガ主トシテ答辯說明ニ當ラレタノ
  デアリマス、此ノ點ニ於ケル現象ヲ見テ、法
  ガ成立シタル後ニ於ケル法ノ運用ニ於テ、
  ソゴニ何等カノ扞格支障ヲ生ズルコトナキ
  ヤヲ憂ヘシムル點ガアッタノデアリマス、而シ
  テ本法案ガ司法省ノ提案デアリ、私共一個ノ
  コトヲ申上ゲテハ甚ダ憚カル所デアリマス
  ルガ、私ハ全生涯ノ大部分ラ官吏トシテ、
  司法部ニ奉職致シテ居ッタノデアリマス、ソ
  レ故ニ情ト致シマシテハ、此ノ法案ニ幾多
  ノ缺點アリト致シマシテモ、瑣末ノコトデ
  アリマスルナラバ、彼此論議ヲ盡サズシテ
  其ノ儘成立ニ御協力ヲ申上ゲルコトガ相當
  デアルト思ッテ居ッタノデアリマス、然ルニ
  只今松村議員ヨリ御述ニナリマシタ通リ、
  五箇條ノ修正點ハ何レモ事重大デアリマシ
  テ、之ヲ其ノ儘默シテ看過致シマスルコト
  ハ却テ君國ニ對スル忠義ヲ盡ス所以デハ
  ナイ、寧ロ質スベキハ質シ、改ムベキハ改メ
  マシテ、法ノ骨子トスル所ノ效果ヲ減殺セ
  ザル限度ニ於キマシテ、而シテ法ノ作用ト
  シテ起キマスル所ノ副作用タル種々ノ法案
  不備ノ點ヲ取除キマシテ、出來ルダケ完全
  ニ近イモノニシテ、之ヲ通過致シマスルコ
  トガ議員ノ職責デアリ、現下ニ於ケル我々
  國民ノ義務デアルト確信ヲ致シマシタガ故
  ニ、敢テ委員會ニ於キマシテ、修正ノ意見
  ヲ述べ、玆ニ又修正案ニ對シテ贊成ノ意見
  ヲ述ブル所以デアルノデアリマス、世間ニ
  ハ、時局ガ重大デアルカラシテ帝國議會ハ全
  的ニ政府ニ協力スベキデアリ、政府提出ノ
  豫算案モ法律案モ、總テ原案ニ對シテハ無
  修正ニ協贊ヲ與ヘマシテ以テ擧國一致ノ
  實ヲ內外ニ示シマスルコトガ所謂翼贊議
  會ノ責任デアルト言フ者モアルヤウニ見受
  ケラルヽノデアリマスルガ、斯クノ如キ議
  論ハ、私ヲシテ言ハセマスレバ、憲法政治ノ
  精神ヲ誤解シ、帝國議會ノ權能ト職責トヲ
  誤ルモノデアルト考ヘルノデアリマシテ、
  到底斯樣ナ議論ニ與ミスルコトハ出來テイ
  ノデアリマス、然ルニ又本法案ノ修正ニ反對
  致サルヽ所ノ議員各位ノ中ニハ、此ノ法案ハ
  極メテ重要デアリ且緊急ヲ要スルモノデ
  アルカラシテ、是非共速カニ之ガ成立ヲ與ヘ
  ナケレバナラズ、若シ之ニ修正ヲ加フル
  ヤウナコトガアリマシテハ貴衆兩院協議
  會ニ於テ協議整ハザル結果、不成立ニ陷
  ル虞ナシトハセナイノデアル、ソレ故此ノ
  法案ニハ誠ニ重大ナル缺點ハアルケレドモ
  今日ノ時局柄巳ムヲ得ズ無修正デ通過セシ
  ムル外ハナイノデアル、後日ニ於テ改正ヲ
  施シテ、不備ノ點ヲ改メ不安ノ點ヲ除キ、
  嚴ニ失スルモノハ之ヲ寛ニシ、刑罰等ニ付
  テモ考慮ヲスル必要ヲ認メルト云フ場合ニ
  ハ之ヲ改メタラ宜シイデハナイカ、ト申サ
  ルヽ方モアルヤウニ見受ケルノデアリマス、
  本日司法大臣ノ御言明ノ中ニモ、此ノ法律
  ガ今日ニ於テハ是非共此ノ儘實施ヲシナケ
  レバナラヌノデアルガ、後日情勢ノ變化ニ
  依ッテハ或ハ之ヲ改メテモ差支ナイト云フ
  時期ガアルデアラウト云フコトヲ言ハレタ
  ノデアリマス、私ノ寡聞ナル所、今日迄幾
  千百ノ法律ガ制定セラレマシタガ、其ノ法
  律ニ付テ改正ハアリマシタケレドモ、法律
  ガ成立當時ヨリモ簡約ニセラレタトカ、趣
  旨ガ緩和セラレマシタトカ、刑罰法規ノ刑罰
  ガ輕イ規定ニ改メラレタトカ云フコトハ殆
  ド其ノ例ヲ見ナイノデアリマス、ソレ故ニ此
  ノ法案ニ付キマシテモ、今日ハ不完全デア
  ルガ、後日ニ於テ之ヲ改正スレバ宜シイデ
  ハナイカト云フ御議論ノ如キハ、全ク實際
  ニ常説ラナイ御意見デアルト考ヘルノデア
  リマス、本法案ニ對シマスル衆議院ノ特別委
  員會ニ於ケル審議ノ狀況等ニ照シマシテモ、
  其ノ不備缺點トシテ論議セラレテ居リマス
  ル所ハ、大體本院ノ委員會或ハ此ノ議場ニ
  現レタル缺點トシテ指摘セラレタル部分ト
  符合スルノデアリマス、ソレ故ニ先程來申
  上ゲマシタヤウニ、若シ本法案ニ本院ガ修
  正ヲ加ヘマシテ、兩院協議會ニ移ルヤウナ
  コトガアリマシテモ、旣ニ松村議員ヨリモ
  御述ニナリマシタル通リ、兩院ノ議員ガ、
  時局ノ重大ニ鑑ミマシテ、赤心ヲ披瀝シテ
  檢討致シマシタナラバ、ソコニ必ズ窮通打
  開ノ途ガ開カレルコトハ私ノ信ジテ疑ハザ
  ル所デアリマス、ソレ故ニ修正ニ依ッテ法案
  ガ不成立ニナルデアラウト云フヤウナコト
  ヲ心配シテ、爲サナケレバナラナイ所ヲ爲
  サナイト云フ如キ態度ハ本院トシテ如
  何ナモノデアラウカト云フコトヲ考ヘル
  ノデアリマス若シ御說ノ如ク兩院協議會
  ガ不調ニ終ルコトヲ心配致シマシタナラバ、
  貴族院モ衆議院モ其ノ先議案ナルト他院ヨ
  リ送付セラレタル案ナルトヲ問ハズ、結局
  之ヲ無修正ニ可決セナケレバナラヌト云フ
  コトニナルノデアリマセウカ斯クノ如キ
  議論ハ勿論ナイコトト思ヒマスルガ、今ノ
  御議論ヲ押詰メテ見ルト、此ノ處迄行カナ
  ケレバナラヌノデハナカラウカト思フノデ
  アリマス、論者ト雖モ恐ラクハ左樣ナ御考
  ハナイコトハ勿論デアラウト思フノデアリ
  やく、本院ニ於キマシテ修正ニ依ル案ノ不
  成立ヲ心配致シマスルコトハ一應考ヘラレ
  マスガ、併シ貴族院ダケガ左樣ナコトヲ心
  配致シマシテモ、衆議院ガ毫モ顧ミル所ナ
  クシテ、本院ヨリ可決送付シタル案ニ對シ
  テ修正ヲ加ヘマシタナラバ、是ハドウナル
  デアリマセウ、現ニ承ル所ニ依リマスルト、
  先日本院ヲ通過致シマシタル所ノ刑法中改
  正法律案ハ、本日ノ衆議院ノ議場ニ於テ修
  正セラルヽヤニ聞キ及ンデ居ルノデアリマ
  ス。衆議院ハ遠慮ナク、或ハ言葉ガ惡イカ
  モ知レマセヌガ、必要ヲ信ジテ修正ヲスル、
  本院ハ必要ト考ヘテ修正ヲ差控ヘルト云フ
  ヤウナコトハ、誠ニ權衡ヲ失シタル不當ノ
  處置デハナカラウカト思ヒマス、更ニ委員
  會ノ論議ニ於テ現レタル所デアリマスルガ、
  重要ノ法案デ成立ノ必要アルモノニ付テハ
  修正ヲ避ケナケレバナラヌケレドモ、重要
  ナラザルモノニ付テハ、修正シテモ宜シイ
  デハナイカト云フヤウナコトガ言ハレタノ
  デアリマス、眞面目ノ御議論トハ受取レマ
  セヌデシタケレドモ、左樣ナコトスラガ出
  テ居ル、重要ナラザル案ナラバ修正シテモ
  宜シイガ、重要ナル案ハ修正ヲ差控ヘルガ
  宜シイ、何タルコトデアリマスカ、是之
  ソ實ニ弱イ者イヂメノ議論デアル、若シ法
  案ニ不都合ノ點ガアリマシタナラバ、重要
  ナルモノモ、然ラザルモノモ同樣デアリマ
  スルガ、却テ重要ナラザルモノニ付テハ修
  正ヲ差控ヘテモ、重要ナルモノニ付テ重大
  ナル缺點ガアッタナラバ、是非共之ヲ修正シ
  テ完全ニ近イモノニスルト云フコトコソ、議
  會ノ權能デアリ、職責デアルコトヲ確信ス
  ルノデアリマス、由來此ノ數年來ニ於ケル
  我ガ國ノ狀況ヲ見マスルニ、政府ハ勿論、
  國民上下非常ノ勇氣ヲ以テ各自ガ其ノ職責
  ヲ十分ニ盡シマシテ、時局ノ打開ニ邁進
  セヌケレバナラヌト思フノデアリマスル、
  動モスルト苟且偷安、困難ニ遭遇致シ
  マスルト、忽チ難キヲ捨テテ安キニ就ク、
  或ハ言葉ガ過ギルカ知リマセヌガ、卑
  屈怯懦デアルト云フガ如キ感スラ見受ケラ
  ルヽコトガナイデモナイノデアリマス、動
  モスルト、ドウモ仕方ガナイ、斯ウナッタ
  ラ仕方ガナイカラ此ノ儘ヤラウヂヤナイカ
  ト云フヤウナ言葉ガ到ル處ニ聞カレルノデ
  アリマス、所謂長イモノニハ捲カレロ、地
  頭ト泣ク兒ニハ勝タレナイト云フヤウナ氣
  分ヲ以テ今日ノ時局ニ對處致シマスルコト
  ガ、外ニモ幾多ノ原因ハ勿論アリマスルケ
  レドモ、我ガ國今日ノ重大ナル時局ヲ織出
  シタ一ツノ原因デアルト中スコトヲ見遁シ
  テハナラヌト思フノデアリマス、ソレ故ニ
  私ハ今日我ガ國民ト致シマシテハ、正シイ
  ト信ズルコトヲ、爲サネバナラヌト信ジ
  タルコトハ何處迄モ之ヲヤリ通スダケノ
  勇猛心ヲ以チマシテ、以テ此ノ時局ノ打開
  ニ當ルヤウニセナケレバナラヌト思ッテ居
  ルノデアリマス、ソレガ卽チ私共ガ此ノ法
  案ノ成立ヲ希望シツヽモ、重大ナル缺點ヲ
  看過スルコト能ハザルモノトシテ、之ガ修
  正ヲ提案シテ居ル所以デアルノデアリマス、
  修正ノ各條項ニ付キマシテハ松村議員ヨ
  リ詳細其ノ理由ヲ熱心、且極メテ分リ易ク
  述ベテ戴キマシタノデ、私ハ之ニ附加フル
  何モノヲモ持ッテ居ラヌノデアリマス、併シ
  ナガラ松村議員ノ御述ニナリマシタコト以
  外ノコトニ亙リマシテ、尙若干之ニ附加ヘ
  テ贊成ノ理由ヲ申述べタイト思フノデアリ
  やく、修正ノ點ハ申上ゲルヤウニ五箇條
  デアリマスルガ、其ノ第一點ハ、本法案ノ
  第一條デアリマス、第一條ノ修正理由ニ付
  テハ、既ニ詳細述ベラレタノデアリマスル
  ガ、私ハ第一條ニ示シテ居リマスル國家機
  密ノ定義ガ、法文ノ儘デハ如何ニモ漠然ト
  シテ、廣キニ失スル感ガアリ、動モスルト
  知ラズシテ此ノ法律ヲ犯スノ虞ナイトシナ
  イノデアリマス、國民ノ中ニ此ノ法案ニ對
  スル不安ノ氣分ノアリマスルノハ、卽チ重
  大ナル犯罪デ、死刑、無期又ハ五年以上ノ
  懲役ヲ以テ擬セラルヽ所ノ本法案第三條以
  下ノ各罪ニ付テ、若シモ誤ッテ法網ニ觸レル
  コトガアリハスマイカ、自分ハ犯罪ハ犯サ
  ナイガ、誤ッテ犯罪アリトシテ檢擧、搜査
  ヲ開始セラルヽヤウノコトガアリハシマイ
  カト云フコトヲ心配スルノデアリマス、第
  八條ニ於テモ是ト同樣ノコトガ言ハレルノ
  デアリマス、第八條ハ所謂情報ノ探知、收
  集デアリマス、外交、經濟、財政其ノ他ニ
  關スル情報ヲ探知、收集スル行爲ガ、若シ
  國防上ノ利益ヲ害スル用途ニ供スル目的ヲ
  以テ爲サレタ場合、及ビ其ノ虞アルコトヲ
  知リテ外國ニ通報スル目的ヲ以テ爲サレタ
  ル場合ニ、犯罪トシテ處罰セラレルノデア
  リマス、私共苟モ政治ニ關心ヲ持チマスル
  者ハ、政治上ノ必要カラシテ外交、財政、
  經濟其ノ他ニ關スル情報ヲ探知若シクハ收
  集スルコトハ日常之ヲ爲サナケレバナラヌ
  ノデアリマス、其ノ他銀行、會社、;各種ノ
  事業ニ從事致シマスル者、殊ニ先程松村サ
  ンヨリモ御述ニナリマシタヤウニ外國貿易
  ニ從事シ致シマスル者ノ如キハ、最モ是等ノ
  情報ヲ探知シ若シクハ收集スル必要ガアル
  ノデアリマス、唯情報ヲ探知シ、收集スル
  ダケデハ犯罪ニハナラナイカラ、安心ナヤ
  ウデハアリマスルガ、其ノ情報ノ集ッタ結果、
  或ハソレガ國防上ノ利益ヲ害スル用途ニ供
  スル虞アリト云フヤウナコトヲ考ヘラルヽ
  コトナキニシモ非ズデアリマス、假ニ例ヲ
  擧ゲテ、私ナラ私ガ外交、經濟、財政等ニ
  關スル各種ノ情報ヲ集メル、何等ノ他ノ目
  的ハ持ッテ居リマセヌガ、集メテ居ル際ニ、
  く偶〓ソレガ或時ノ政府ナリ當局ニ、害ノアル
  ヤウナ意見ニ當ルデアラウト云フヤウナ
  モノガ集メラレタ時ニ、彼ハ政府ナリ或
  ハ政府ノ當局ノ邪魔ニナルコトヲヤッテ
  居ルノデアル、高度國防國家ニ於テ政府
  ニ害ニナルヤウナコトヲ集メル、彼ハ卽チ
  國防上ノ利益ヲ害スル用途ニ供スル爲ニ之
  ヲ收集シテ居ルノデハナカラウカト云フ
  コトヲ、疑ヘバ疑ハル、カモ知レナイノデア
  リマス、左樣ナ疑ヲ受ケタガ最期、本法案
  ニ謂フ所ノ間諜類似ノ行爲ニナルノデアリ
  きくり、第一條ニ於テモ左樣デアリマスル
  ガ、第八條ノ罪ニ於テモ矢張リ犯罪ノ範圍
  ガ不明デアリ、動モスレバ所謂今ノヤウナ
  事例ニ照ラシテ、所謂政治謀略ニ利用セラ
  ルヽ虞ナイトシナイガ爲ニ玆ニ不安ガ生ズ
  ルノデアリマス、ソレ故ニ此ノ不安ヲ除キ、
  法ノ目的トスル範圍ヲ滅殺セズシテ、而モ
  犯罪ノ範圍ヲ明確ニスル方法ガアルナラバ
  之ニ越シタコトハナイノデアリマス、第
  條及第八條ノ修正ハ卽チ斯樣ナ目的ニ依ッ
  テ修正セラレルノデアリマス、繰返シテ申
  シマスルガ、本法案ハ所謂間諜行爲ヲ取締
  ル法律デアリマス、若シ誤ッテ本法案ノ罪ヲ
  犯シマシタナラバ、犯シタル者ハ勿論ノコ
  トデアリマスルガ、罪九族ニ及ブノデアリ
  マヽ、彼ハ國防保安法ノ罪ヲ犯シタル者デ
  アル、賣國奴デアル、非國民デアルト云フ
  コトヲ言ハレマシタナラバ、一家眷屬悉ク
  社會ノ生活ヲ危クセラルヽ虞ガアルノデア
  リマス、眞ニ法ヲ犯シタル者ニ付テハ已ム
  ヲ得ズト致シマシテモ、誤ッテ檢擧セラレ、
  檢擧セラレズトモ搜査ヲ開始セラレタダ
  ケデ、其ノコトガ何處カニ漏レマシタ際ニ
  ハ、ソレガ旣ニ此ノ人及ビ其ノ家族ハ賣國
  奴ノ烙印ヲ捺サレテシマフノデアリマス、
  後ニ幸ニシテ無罪トナリ或ハ不起訴トナリ
  放免セラレマシテモ、一日捺シ付ケラレタル
  所ノ烙印ハ永久ニ消ユル時ガナイノデアリ
  マス、ソレ故ニ私共ハ斯クノ如キ不安ヲ除
  クガ爲ニ、第一條及第八條ノ犯罪ノ範圍ヲ
  明確ニシテ、而シテ法ノ效果ヲ滅殺セザル
  限リニ於テ出來ルダケ其ノ弊害ヲ除カムト
  シテ、斯クノ如キ修正ヲ與ヘタモノデアル
  ノデアリマス、實體法ニ付テハ是ダケデア
  リマスルガ、更ニ本法案ノ第二〓以下ニ
  於キマシテハ、法案第一條以下ノ犯罪ヲ犯
  シタル者ハ勿論、更ニ第十六條第二項ノ罪
  ヲ犯シタル者ニ付テ特別ノ刑事手續ヲ用ヒ
  ルノデアリマス、加之、先程來提案者ヨリ御述
  ニナリマシタ如ク、第二項ニ於キマシテハ
  一種ノ制限ヲ以チマシテ、同條ニ揭ゲタル
  所ノ幾多ノ犯罪ヲ取リ來ッテ、之ヲ本條ノ特
  別規定ニ當嵌メムトスルノデアリマス、先
  程刑法ノ條文ヲ御拾ヒニナリマシタガ、第
  十六條第二項デ援用ヲシテ居リマス所ノ刑
  法ノ犯罪ダケデモ、百六十數條ノ刑法ノ罪ノ
  內、其ノ約七十條ガ玆ニ援キ來ラレテ、特別
  手續ノ下ニ審理セラレルコトニナルノデア
  リマス、其ノ他同項ニ揭ゲテアリマスル他ノ
  法律ノ數ヲ擧ゲマスルト云フト、百數十ノ
  多キニ達スルノデアリマス、是ガ外國ト通
  謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯
  シタ時ニ、悉ク本章ノ特別手續ガ適用セラル
  ルコトニナルノデアリマス、斯樣ナ特別手
  續ヲ用ヒズトモ、是等ノ犯罪ガ若シ外國ト
  通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ
  犯サレマシタ場合ニ於キマシテハ通常ノ
  刑事訴訟手續ニ依ッテ審理シテ殆ド差支ガナ
  イト思ハレルノデアリマス、政府當局ハ、
  本法案ニ揭ゲタル所ノ各罪ノ審理ヲ出來ル
  ダケ速カニ之ヲ爲スコトガ必要デアリ)其
  ノ搜査ニ當ッテハ强制力ヲ用ヒテ嚴重ニ之
  ヲ檢擧スル必要ガアルト云フコトヲ言ハレ
  ルノデアリマスルガ、此ノ手續ヲ用ヒマシ
  テモ餘リ多クノ迅速サヲ得ルコトハ出來ナ
  イト思フノデアリマス、又强制力ヲ用ヒズ
  トモ相當ニ法ノ目的ヲ達スルコトガ出來ル
  ノデアリマス、特別ノ捜査ニ當ッテ、檢事司
  法警察官ニ强イ强制力ヲ與ヘマスルト云フ
  ガ如キ異例ヲ聞クコトハ、此ノ際ニ於テ差
  控ヘテ毫末モ差支ナイト思フノデアリマ
  ス、修正案ハ檢事ニ對シテノ强制力ハ原
  案ノ通リ認メ、唯戸法警察官ガ被疑者及證
  人ノ訊問ヲ爲シ、又被疑者ヲ訊問スルニア
  ラザレバ爲スコトヲ得ザル勾留ニ限ッテノ
  ミ、司法警察官ニ强制力ヲ用フルコトヲ許
  サナイヤウニシヨウト云フノデアリマス、
  司法警察官ノ中ニモ、憲兵將校或ハ內務系
  統ニ屬シマスル所ノ高級ノ警察官吏、例へ
  バ地方長官デアリマスルトカ、警察部長デ
  アリマストカ、警視デアリマストカ、其ノ
  素質ニ於キマシテ、其ノ見識ニ於キマシ
  テ、其ノ學識ニ於キマシテ、之ニ强制力ヲ
  持チ得ルコトヲ許シマシテモ何等差支ナイ
  者モ澤山アルノデアリマス、又司法警察官
  トシテ最モ多クノ働キヲ爲シマス所ノ警部
  警部補等ノ中ニモ、其ノ素質、識見、技倆
  ニ於テ、是等ニ强制力ヲ與ヘマシテモ毫
  末モ差支ナイ者モ澤山アルノデアリマス、
  併シナガラ今日ノ警察ノ現狀ニ照シマスト
  云フト、多數ノ警部、警部補等ノ中ニハ、
  之ニ强制力ヲ與ヘテ被疑者、證人ノ訊問ヲ
  行ハシメルコトニ於テハ適格ナラザル者
  ガ頗ル多イコトヲ經驗上知ッテ居ルノデア
  リマス、殊ニ況ヤ司法警察官ノ職務ヲ行ヒ
  得ル所ノ巡査部長ニ至リマシテハ之ニ强
  制力ヲ與フルコトハ今日ノ是等ノ官吏ノ狀
  態ニ照シマシテ、決シテ適當デナイト確信
  ヲ致シテ居ルノデゴザイマス、ソレ故ニ特
  ニ本文ニ於キマシテ、被疑者、證人ノ訊問
  及ビ之ニ伴フ勾留ダケヲ司法警察官ニ與ヘ
  ナイト云フコトニシナケレバナラヌノデア
  リマス、甚ダ遺憾デアリマスガ、將來司法
  警察官ノ〓養ガ高クナリマシテハ訓練宜シ
  キヲ得マスルナラバ、之ニ全的ニ强制力ヲ
  持チ得ルコトヲ許スモ毫モ差支ナイ時期速
  カニ來ラムコトヲ信ジテ居ルノデアリマス、
  次ニ第三十三條ノ本法案ノ手續ニ依ッテ審
  理致シマシタル第一審ノ判決ニ對シテハ控
  訴ヲ許サナイト云フコトニナッテ居ル手續
  ハ、我ガ國ノ司法裁判制度ニ於キマシテ、
  傳統的ノ大原則トシテ用ヒ來リマシタル所
  1審制度ヲ破ッテ二審制度ニスルコトニ
  ナルモノデアリマシテ、此ノ犯罪ニ爲ニ特
  ニ言法裁判ノ上ニ於テ最モ大切デアリマス
  三審制度ヲ變革シテ二審制度ニスル必要ガ
  何處ニアルカ、裁判所構成法ガ三審制度ヲ
  用ヒテ居リマス理由ハ、旣ニ發案者ヨリ說
  明ガアリマシタ通リ人ノ生命、身體、自由、
  財產ニ對シテ强大ナル權力ヲ行ヒマスル所
  ノ裁判ガ、若シモ何カノコトデ誤リガアッテ
  ハナラナイコトデアリマスルカラ、鄭重ノ
  上ニモ鄭重ヲ盡ス意味ニ於キマシテ三審ノ
  制度ヲ用ヒテ居ルノデアリマス、ソレヲ本
  法案ニ於キマシテ、第十六條第一項ニ揭ゲ
  マス罪ナラバ格別デアリマスガ、其ノ以外
  ノ廣キニ亙ッテ之ヲ行フガ如キハ更ニ不都
  合デアリマス、況ヤ私ハ第一項ノ罪ト雖モ
  之ニ三審ノ制度ヲ變革シテ二審制度ヲ適用
  スルト云フガ如キハ全ク其ノ必要ヲ認メナ
  イノデアリマス、政府當局ノ御說明ニ依リ
  マスルト、斯クノ如キ制度ノ變革ヲ行フ所
  以ノモノハヽ第一ニハ出來ルダケ此ノ種ノ
  裁判ノ審理ヲ迅速ニスル必要ガアル、第二
  ニハ國家機密ノ如キ重大ナル機密ガ審理
  ヲ重ヌル機會ノ多イ中ニ漏レル機會ガアル
  カラシテ、之ヲ二審ニスルト云フ御說明デ
  アルノデアリマス、成ル程審理ノ囘數ヲ少
  クシテ控訴ヲ許サナイナラバ、ソレダケ國
  家機密ナリ、重要ナル機密ノ外ニ漏レルコ
  トガ減少スルカモ知レマセヌ、併シ此ノ大
  原則ヲ變革セズトモ、當局ガ注意ヲ致シマシ
  テ、係員ニ訓戒ヲシテ置キマシタナラバ
  裁判ノ係員カラ斯樣ヲ機密ガ外ニ漏レルデ
  アラウト云フヤウナコトハ、十分ニ防ギ得
  ルト思フノデアリマス、況ヤ二審制度ニス
  ルコトガ審理ヲ迅速ニスル爲デアルト云フ
  ガ如キニ至リマシテハ、私ハドウシテモ首肯
  スルコトガ出來ナイノデアリマス、成ル程今日
  裁判ノ現狀ヲ見マスルト云フト、刑事裁判ニ於
  キマシテモ、民事裁判ニ於キマシテモ、誠ニ
  訴訟ノ遲延甚ダシキモノガアルノデアリマ
  ス、是ハ獨リ我ガ國ダケデハナイノデアリ
  マシテ、歐米各國ノ裁判ノ狀況ニ照シマシ
  テモ、訴訟遲延ノ弊ハ到ル處ニ叫バレテ居
  ルノデアリマシテ、何トカシテ此ノ弊害ヲ
  救ウテ、出來ルダケ審理ヲ迅速ニシタイト
  云フコトハ、我ガ國始メ各國ノ希望シ、熱
  心ニ〓究シテ居ル所デアルノデアリマス、
  我ガ國ニ於キマシテモ、兎角民事、刑事ノ
  裁判ガ遲延スルノデアリマスガ、併シ是ハ
  局ニ當ル人達ガ十分ノ注意ヲ下シマシテ
  人事ノ公正ニ於テ、或ハ局ニ當ル者ノ訓練
  ニ於キマシテ、十分ニ之ヲ監督ヲ致シテ參
  リマシタナラバ、今日以上ニ裁判ノ審理ヲ
  迅速ニスルコトハ必ズ可能デアルト思フノ
  デアリマス、ソレヲ爲サズシテ、必要ナル
  三審制度ヲ變更シテ、二審制度ニスルコト
  ニ依ッテ裁判ノ迅速ヲ來サウトスルガ如キ
  ハ己ヲ責メズシテ他ニ累ヲ嫁スルモノデ
  アルト言ッテモ、差支ナイカト思フ位デアリ
  そく、更ニ當局ハ三審制度ヲ二審ニシテ
  モ、大正十一年以來陪審制度ヲ實施シ、更
  ニ現行刑事訴訟法ノ改正ニ當ッテ、大審院ノ
  上〓ニ於キマシテ事實審理ノ途ヲ拓イタノ
  デアルカラシテ、此ノ時以來、我ガ國ノ刑
  事裁判ノ原則デアル三審制度ハ若干變更サ
  レテ居ルノデアッテ、今日改メテ之ヲ變更ス
  ルノデハナイノデアルト云フ風ニ說明セラ
  レテ居ルノデアリマス、ソレハ其ノ通リデ
  アリマス、併シナガラ陪審制度ハ、實施以
  來ドウ云フモノカ我ガ國民ノ間ニ歡迎セラ
  レナイ傾ガアルノデアリマシテ、每年陪審
  ノ裁判ヲ受ケマスル件數ハ段々ニ低下シテ
  參リマシテ、昨年ノ如キハ陪審裁判ニ付セ
  ラレタル事件ハ僅カニ四件ニ過ギナイノデ
  アリマス、四件ヤ數件ノ事件ガアルガ爲
  ニ、陪審制度ヲ行フコトニ依ッテ三審ノ制
  度ガ覆ッタノデアルカラ、今更二審制度ニス
  ルコトニ不都合呼バハリハ困ルト云フ御意
  見ハ如何ナモノデアリマセウカ、更ニ大審
  院ニ於ケル上告審理ニ、事實審理ハ許シテ
  居リマスルガ、是ハ先程松村サンカラモ御
  說明ガアリマシタ如ク、重大ナル事實ノ誤
  認アルコトヲ疑フニ足ルベキ顯著ナル事由
  アルトキ、今一ツハ刑ノ量定甚シク不當ナ
  リト認ムベキ顯著ナル事由アルトキ、斯ウ
  云フ二ツノ場合ニ限ッテ事實審理ガ開カレ
  ルコトヲ認メテ居ルノデアリマス、然ルニ
  此ノ二ツノ條文ノ適用ニ依リマシテ大審院
  ニ上告セラレマスル刑事事件ノ多數ノ中、
  現ニ事實容理ニ付セラレテ、再ビ事實上ノ
  言渡ヲ受ケマスル件數ハ、實際ニ於テ極メ
  テ少イノデアリマス、上〓件數二千件內外
  ノ中僅カニ百分ノ七內外ノモノガ、事實審
  理トシテ再ビ審理ヲセラレルニ過ギナイノ
  デアリマス、然ルニ一方飜ッテ一審判決ニ
  對スル控訴事件ノ判決ノ結果ヲ考ヘマスル
  ト、其ノ約半分ニ近イモノガ、控訴審ニ於
  テ或ハ無罪トナリ、或ハ事實ノ認定ニ誤リ
  アリトシテ、新ナル事實ノ認定ヲ下シ、又
  ハ刑ガ重キニ失スルトシテ輕キ刑ヲ言渡サ
  V、若シクハ執行猶豫ヲ言渡サレテ居ルノ
  デアリマス、斯クノ如キ重大ナル影響ノア
  ルベキ二審ヲ止メテ、控訴ヲ止メテ、サウ
  シテ本法案ノ手續ニ於テ直チニ一審判決ニ
  對シテハ上〓ノミヲ許スト云フガ如キ制度
  ヲ採ルコトハ、人權尊重ノ上ニ於テ、裁判
  ノ誤判ヲ防ギマスル上ニ於テ、ドウシテモ
  許スベカラザル所ノ暴擧デアルト言ッテモ
  差支ナイト思フノデアリマス、ソレ故ニ私
  ハドウシテモ今日司法裁判制度ノ上ニ於キ
  マシテ、此ノ法案ニ於テ一審判決ニ對スル
  控訴ヲ許サヾルガ如キ規定ヲ置キマスルコ
  トハ許スベカラザルコトデアルト思フノデ
  アリマスルカラ、之ニ對シテ修正ヲ加ヘ
  テ、現在通リ三審ノ制度ニ引戾スコトハ最
  モ必要デアルト考フルノデアリマス、以上
  ノ如ク修正ノ各點ニ付テ特ニ發案者ノ說明
  以外、私ノ必要デアルト思フ點ヲ申上ゲテ
  贊成ノ趣旨ヲ述ベタノデアリマス、殊ニ第
  一條ニ付キマシテハ更ニ他ノ議員カラ其ノ
  理由ヲ述ベラルヽコトガアルヤウニ承ッテ居
  ルノデアリマスル、此ノ一條ノ體裁ハ誠ニ不
  當ノモノデアリマシテ、先程發議者ヨリモ御
  說明ガアリマシタ如ク、樞密院會議、閣議
  迄ハマダ頭ニ響キガ薄イノデアリマスルケレ
  ドモ、其ノ冒頭ニアリマスル所ノ御前會議ヲ
  援キ來ッテ、此ノ御前會議、栖密院會議、閣
  議又ハ之ニ準ズベキ會議ニ於ケル會議ノ內
  容或ハ其ノ事項ヲ國家機密トシテ、之二
  觸レタルトキニ嚴重ナル刑罰ニ處スル、第
  三條ニハ業務上國家機密ヲ知得シ又ハ領
  有シタル者ガ、之ヲ外國ニ漏泄シ又ハ公ニ
  シタルトキニハ死刑以下ノ刑ニ處スル、第
  六條ニハ業務上國家機密ヲ知得シ又ハ領有
  シタル者之ヲ他人ニ漏泄シタルトキニハ五
  年以下ノ懲役ニ處スルト云フコトニナッテ
  居ルノデアリマス、斯クノ如ク此ノ第三條
  ト第六條ニ於テ、業務上國家機密ヲ知得シ
  又ハ領有シタル者ハ、成ル程或ハ裁判ニ關
  與致シマスル者又ハ各省ノ關係アル官吏ニ
  於テモ之ヲ知ルベキ機會ガアリマセウガ、
  直接ニ、露骨ニ御前會議、樞密院會議又ハ
  閣議ニ參列シタル者ガ、恰モ本法ノ法律ヲ
  犯スガ如キ條文ノ作リ方ト云フモノハ、他
  ニ其ノ例ヲ見ザルノミナラズ、斯クノ如キ
  體裁ノ法文ヲ作ルコトニ依リマシテ、國民
  ノ我ガ最高官吏ニ對スル信賴ヲ薄クスル虞
  ガアルノデアリマス、政府ニ於カレマシテ
  ハ昨年ノ暮我ガ國ノ官吏制度ニ大改正ヲ
  加ヘラレテ、文官任用令、文官分限令ヲ改
  正サレテ、官吏制度ノ確立ヲ圖ラレタノデ
  アリマスガ、本法案ノ第一條ノ如キ規定ヲ
  設ケテハ、折角官吏制度ヲ强化スルト云フ
  政府ノ御趣旨ヲ裏切ル行爲ニナルノデハナカ
  ラウカト心配スルノデアリマス、ソレ故
  ニ斯クノ如キ、畏多クモアリ、忌マハシク
  モ感ゼラレル所ノ條文ノ體裁ヲモ改メテ、
  何人ガ見テモ普通ノ法文同樣ニ之ニ對シテ
  嫌ナ感ジヲ起サナイヤウナ法文ヲ作ッテモ
  法ノ內容ニ變更ヲ來スコトハナイノデアリ
  マスカラ、第一條ノ如キハドウシテモ之ニ
  對シテ變更ヲ加ヘル必要ガアルト思フノデ
  アリマス、要シマスルニ以上申上ゲマシタ
  ル修正ノ點ハ、何レモ本法案ニ於テハ重大
  ナル缺點トシテ到底此ノ儘ニ存スルコトヲ
  許サナイト思ヒマス故ニ、私共ハ茲ニ此ノ
  點ニ對スル修正ヲ加ヘテ、成ルベク完全ナ
  モノトシテ本法案ノ通過ヲ速カニ致シタイ
  ト念願シテ居ル次第デゴザイマス、以上申
  上ゲテ贊成ノ理由ヲ申上ゲタ次第デゴザイ
  マス(拍手)
  〔松井茂君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=30

  ---

• 031・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　松井君ハドウ云
  フコトデスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=31

  ---

• 032・松井茂

  ○松井茂君　今ノ修正案ニ對シテ發言ヲ求
  メタイノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=32

  ---

• 033・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御意見ヲ御述ニ
  ナルノデカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=33

  ---

• 034・松井茂

  ○松井茂君　ハア

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=34

  ---

• 035・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　宜シウゴザイマス
  〔松井茂君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=35

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• 036・松井茂

  ○松井茂君　私ハ政府ノ原案ニ贊成スルコ
  トモ出來マセズ、不幸ニシテ又委員會ノ修
  正說ニモ全然贊成モ出來マセヌ立場カラ、
  玆ニ獨立ノ立場トシテ御迷惑ナガラ、此ノ
  重大ナル所ノ法案ニ對シテ默視スルニ忍ビ
  マセヌノデ、玆ニ一言致シテ置キタイト存
  ズルノデアリマス、私ハ松村議員ノ述ベラ
  レマシタ所ノ國防保安法案ノ第一條ノ修正
  說ニハ、心カラ同意ノ意ヲ表スル者デアリ
  マス、其ノ理由ハ只今松村、小原兩議員カ
  ラモ御說明ガゴザイマシタノデ明カデゴザ
  イマスガ、特ニ私ガ熱心ニ此ノ一條ニ同意
  致シマス所以ハ、今更申上ゲル迄モゴザイ
  マセヌガ、我ガ國ハ淳風美俗ノ國柄デゴザ
  イマシテ、所謂道德國家デアルノデアリマ
  シテ、法律デモ警察デモ道德ヲ維持スル手
  段トシテ茲ニ存在シテ居ルノハ今更申ス迄
  モナイノデアリマス、ソコデ斯クノ如キ重
  要ナル所ノ法案ヲ議スルニ當リマシテハ
  立法工作上、餘程我ガ國ノ淳風美俗ヲ基礎
  トシテ法案ノ御立テ方ニ注意ヲシナケレバ
  ナラヌト思フノデアリマス、然ルニ此ノ法
  案ハ、一見シテ忽チ人ヲシテ恐怖ノ念ヲ起
  サシムルモノガアリマシテ、殊ニ國民ノ第
  一線ニ立チ、而モ其ノ最モ重要ノ地位ニ居
  ル所ノ最高官吏ヲ非國民視スルガ如キ所ノ
  誤解ヲ、少シデモ與ヘルト云フコトニ相成
  リマシテハ我ガ國ノ如キ所ノ國體上實ニ
  出々シキ大事デアリマス、國體上世道人心
  ノ上ニ影響ヲ及スコトハ實ニ甚大ナルモノ
  ガアルノデアリマス、殊ニ御前會議ノコト
  ナドヲ此ノ法文中ニ明記スルガ如キコト
  ハ、日本ノ傳統的精神ニ反スルコトハ最モ
  大ナルモノガアルノデアリマス、修正說
  ハ、御前會議以下ノ列記事項ヲ削リマシ
  テ、サウシテ「國家機密トハ國防上外國ニ對
  シテ祕匿スルコトヲ要スル外交、財政、經
  濟其ノ他ニ關スル重要ナル事項及之ヲ表示
  スル圖書物件」云々、斯ウ云フ修正案デアリ
  マスガ是モ觀方ニ依レバ一目頗ル不完全
  ノヤウナ感ジガナイデハゴザイマセヌ、ガ
  國家機密ト申シマスレバ、兎ニ角國家機密
  ガ何物ナリト云フ〓念ダケハ此ノ修正說ニ
  於テ與ヘラレルノデアリマス、殊ニ第二項
  ニ於キマシテ、「前項ノ事項及圖書物件ハ命
  令ヲ以テ之ヲ定ム」斯ウ修正シマス以上修
  正說ハ原案ニ對比シマシテハ一般民ニ對
  シテ餘程心持ヲ柔カニシタカノ如キ感ヲ與
  ヘルノデアリマス、元來國家機密ナドト云
  フヤウナ言葉ノ具體的ノ說明ト云フモノハ、
  ソレハナカ〓〓出來ルモノヂヤアリマセヌ、
  ソレハ無理デス、安寧秩序ト云フ言葉ヲ昔
  カラ度々申シマスケレドモ、安寧秩序ト云
  フ內容、ハ時代ニ依ッテ解釋ガ違フノデアリマ
  ス、日本ノ安寧秩序ト、「ドイツ」ノ安寧秩序ト
  ハ違ヒマス、又日本モ時代ニ依ッテ安寧秩
  序ノ內容ハ餘程變ヘテ行カナケレバナラヌ、
  是ハ當然ノコトデアリマス、國家機密モ是
  ト同樣デアリマス、故ニ之ヲ完全無缺ニ定
  義スルト云フコトハ行ハレルベキ問題デハ
  ゴザイマセヌ、ソレヲ望ムノハソレハ無理
  デアリマス、殊ニ修正案ハ其ノ解釋ハ命
  令ヲ以テ之ヲ定ムト云フコトニ歸著スルノ
  デアリマスカラ、勅令ノ內容ニ於キマシテ
  出來ルダケ深切ニ各官憲ガ之ヲ指定スルト
  云フコトハ、最モ滴當ナヤリ方デアッテ、法
  ガ活キテ來ヨウト思フノデアリマス、斯ウ
  云フ意味ニ於テ此ノ修正案ハ最モ時宜ニ適
  シタル立法方法デアルト考ヘルノデアリマ
  ス、私ハ本法ノ第一條ハ骨子デゴザイマス
  ル故ニ、之ニ對シテハ最初ヨリ非常ニ重キ
  ヲ置イテ居ル者ノ一人デアリマス、私ハ又
  今日ノ如キ國防國家ノ時代ニ於キマシテハ、
  國民モ亦平素トハ違ヒマスルカラ、立法工
  作上ニ付キマシテモ餘程深キ考慮ヲ拂ハネ
  バナラヌト思フノデアリマス、就中問題ト
  ナッテ居リマスルノハ、先刻來モ度々御話ノ
  アリマシタ如クニ、第八條ノ末段ノ問題デア
  リマシテ、是ハ修正說モ出マシテ、私モ實
  ハ此ノ問題ニ付テハ非常ニ頭ヲ痛メマシテヽ
  一時ハ同意シヨウカトモ考ヘマスルシ、又
  多年斯ウ云フ方面ニ多少關係シテ居リマス
  ル關係上カラ、ドウモ「虞アリ」ノヤウナ言葉
  ハ警察ナドニハ能クアル言葉デアリマシ
  〒、非常ニ運用上ハ妙デアリマスルガ、又
  危險ノアルト云フコトモ能ク存ジテ居リマ
  ス、隨分此ノ八條ノ問題ニ付キマシテハ頭
  ヲ惱マシタノデアリマス、ソコデ是ガ一條
  ダト、國民ノ疑怖心ガ餘程去ルト言ヒナガ
  ラ、虞アリト云フノハ疑怖心ガ矢張リ去ラ
  ナイ、玆ニ私ハ苦痛ガアッタノデス、矛盾ガ
  アルヤウニ一條ハサウ云フ工合ニヤ
  ル、虞アリニ贊成ヲシテハ何ダカ矛盾スル
  ヤウニ思ッタノデアリマス、併シ段々考ヘマ
  シタガ、ドウモ玆ニ運用ニ付テ色々ノ條件
  ヲ附ケテ、サウシテ是非此ノ政府ノ原案ニ
  私ハ一個トシテ贊成スル決心ヲ起シマシタ、
  又此ノ八條ノ末段ノ此ノ問題ト同時ニ、私
  ノ頭ヲ非常ニ痛メマシタノハ、第十七條以
  下ノ司法警察官ノ勾引、訊問、勾留等ノ權
  限ヲ、付與スベキカ否カト云フコトヲ虛心
  坦懷ニ、國民ノ一人トシテ實ハ非常ニ考ヘ
  テ見マシタ、是迄ノ經驗上、行政執行法ノ運
  用ノ評判ノ惡イコトモ能ク存ジ上ゲテ居リ
  マス、併シナガラ今日ノ高度國防國家ニ
  於キマシテ、斷ジテ勵權濫用ハ殊ニ許スコ
  トハ出來マセヌ、併シナガラ國家ハ强クナ
  ケレバナラヌ、殊ニ斯ウ云フ時節ナラ警察
  力モ强クナクテハナリマセヌ、ソコデ非常
  ニ私ノ頭ヲ是ハ惱マシタ問題デアリマス、
  私ハ忌憚ナク申上ゲマスガ、常ニ警察官ニ
  接スル折ガ多イノデアリマシテ、ドウモ世
  間デハ評判ガ惡イゾ、餘程君、職權濫用ト
  云フコトハ氣ヲ付ケナイト權力ヲ使用スル
  ト職權濫用ヲヤルト段々剝ズラレルカラ、
  詰リ差引警察ノ損ニナルノダト云フコトヲ
  能ク言ッテ居ル一人デアリマス、ソコデ委
  員會ニ於テモ、私等ニ對シマシテモ是ハ餘
  程警察ヲ愛シテ居ル至情カラ御忠告ノ方モ
  アリマシタ、此ノ案ハ修正案ニ贊成ニ
  ナッタラ宜カラウト云フヤウナ好意ノ
  御忠告モアリマシタ、斯ウ云フヤウナ
  コトカラ、私ハ非常ニ此ノ問題デ實ハ
  頭ヲ惱マシタノデス、ソコデ結局第八條
  ノ末段ト、是等ノ二ツノ問題ニ對ジテ、私
  ハ政府案ノ左ニ同意シタ所以ハ、決シテ實
  ハ簡單デナイノデス、私ノ氣持ハ貴重ナ時
  間ヲ費シテ、度々私ハ此ノ本會議ニ於キマ
  ツテモ、豫算委員會ニ於テモ、將來色々斯
  ウ重大國家ニナッテ來ルト、警察ガ大切ニ
  ナッテ來ル、此ノ時ニ警察ノ組織ヤ待遇ヤ
  色々ナ問題ガ良クナッテ行カナイト、大變
  困ルゾト思ッタ所ヘ、今度國防法案ガ出タ
  ト云フ事態ニブツカリマシテ、ソレデ一層
  感ヲ深クシタノデアリマス、强力ナル所ノ
  國家ノ治安機關ヲ今日作リ上ゲルト云フコ
  トハ、時代ガ遲レテ居ルノデアリマス、是
  ハ私ガ度々本議會ニ於テ絕叫シタノモソレ
  ナンデアリマス、殊ニ私ハ國防法案ガ出ル
  ト云フコトヲ、治安法案ガ出ルト云フコト
  ヲ聞キマシテ、益〓感ヲ深クシマシタカラ、
  誠ニ御迷惑ダトハ萬々察シテ居ルニ拘ラ
  ズ、先般豫算委員會ニ發言ヲ求メマシテ、
  近衞首相及平沼內務大臣ニ向ヒマシテ、國
  防保安法ガ出テモ何ニモナリマセヌ、一方
  ニ治安ノ機關ガ餘程强イ一絲紊レヌ所ノ方
  策ガ立ッテ居ラナケレバイケマセヌ、內務
  大臣ハ今內地ダケノ警察デアル、豪灣、朝
  鮮デハ總督ガ各〓警察權ヲ持ッテ居ル、ソ
  レデ三元的ニナッテ居ル、總理大臣ガ警察
  ノ中心ヲ持ッテ一旦緩急アレバ忽チ命令一
  下此ノ事ヲ行ハネバナラヌ、我ガ國バカリ
  ヂヤアリマとヌ、時代ノ要求ニ應ジナイ是
  ヂヤ····ソレヂヤ其ノ實行ハ誰ガヤルカ
  ト云フト、矢張リ內務省ガシッカリシナケ
  レバナラヌト云フ問題、ソコデ官制ヲ作リ
  マシテ、總理大臣若シクハ總理大臣ノ名ニ
  於テ、内務大臣ガ一面ニ付キマシテ全國ノ、
  此フ日本ノ領土全體ノコトニ對シテノ指揮
  權ヲ持タナケレバナラヌ、是ガ此ノ國防法
  案ヲ實行スル上ニハ、最モ緊要ナ問題ト固
  ク信ジテ居ルノデアリマス、サウ云フ譯デ
  ゴザイマスカラ、此ノ必ズ戰爭ガアリマス
  ト何レノ國ニモ、我ガ國デモ思想問題ニ
  伴ッテ騒擾事件ガ起ル、起ルコトヲ覺悟シ
  ナケレバナリマセヌ、騷擾事件ガアレバ必
  ズ思想問題ト立チ竝ビマシテ防諜問題ト云
  フモノガ必ズ之ニ伴ヒ、且防空問題ト云フ
  モノモ是ト必ズ關係ノアルモノデアルコト
  ハ、今更申上ゲル迄モナイノデアリマス、
  要スルニサウ云フヤウナ問題ヲ一纏メニ致
  シマシテ、强力ナル所ノ治安機關ノ設備
  ヲ造ルコトガ最モ必要デアル、而シテ此ノ
  國防保安法案ハ、處罰スル時ニハ是ハ司法
  省ノ關係ニナリマスケレドモガ、平素ノモ
  ノノ行政上ノ性質ハ全ク內務省系統ノ是ハ
  モノデアルコトハ一點ノ疑ガナイノデアリ
  さく、中心ハソコニ持ッテ置カナケレバナ
  ラヌノデアリマス、斯ウ考ヘマスト、此ノ
  私ノ心配ヲシテ居ル所ノ八條ノ末段竝ニ司
  法警察官ニ權力ヲ附與スルト云フ問題ト、
  治安ノ機盟ヲ立派ニ造リ上ゲルト云フ問題
  ハ關聯シテ居ルノデアリマス、私ハ若ジ
  モ、斯ウ云フ問題ニ付テ早ク實行致シマセ
  ヌト、悔ヲ百歲ニ貽シハシナイカト云フコ
  トヲ國家ノ爲ニ憂ヘテ居ル者ノ一人デアリ
  マス、現ニ御承知ノ如クニ「ドイツ」ハ大分
  以前カラ、「ヒットラー」ガ總統ニナリマシ
  テカラ以來、多年ノ問題デアリマシタ所ノ
  各聯邦ノ警察權ヲ打ッテ一丸ト致シマシテ、
  一元的ニ致シタノデアリマス、殊ニ國防保
  安ニ直接關係ノ深イ所ノ「ゲシユタポ」ノ組
  織ノ如キハ、實ニ到レリ〓セリノモノデアル
  ト云フコトハ、今更中上ゲル迄モナイノデ
  アリマス、又最近「ロシヤ」ニ於キマシテハ
  内務省カラ治安省ヲ分離致シマシテ、替
  治安大臣ヲ置イテ居ルノデアリマス、餘所
  ノ國ノコトハドウデモ宜シイ、我ガ國ハ警
  察國家デハナイ我ガ國ハ我ガ國ノ長イ間
  ノ歷史ガアリマス之ヲ三考シテ又今日
  ノヤウナ時局ニハ時局相當ノ方策ヲ講ズル
  ト云フコトガ急務中ノ急務ナンデアリマスヽ
  我ガ國ノ警察ハ其ノ統一的組織ニ於キマシ
  テ、又警察官ノ廉恥心ト云フ點ニ於キマシ
  テモ、殊ニ特高警察官ノ如キハ是迄多大ノ
  貢獻ヲ致シテ居ルコトハ、淚グマシイモノ
  ガアルノデアリマス、又刑事警察ノ如キモ、決
  シテ各國ニ後レテハ居ラヌノデアリマス、併
  シ先刻小原議員ヨリモ申サレマシタ通リニ、
  時ニハ職權濫用ノコトモアリマシテ、ソレ
  ガドウモ實ニ我々モ憂慮ニ堪ヘナイ苦痛ノ
  一ツデアリマス、然ルニ警察官ノ待遇トカ、
  素質トカ、〓養ト云フヤウナ問題ノ如キハ
  先刻松村議員カラモ、〓養ノ問題ハ殊ニ御
  話ガアリマシタ如ク、最モ急務中ノ急務ナ
  ンデアリマス、ソレガウマク行カナイデ、
  國防保安法ノ制定ヲ致シマシテモ、如何ナ
  ルモノデアラウカト云フコトヲ特ニ感ズル
  次第デアリマス、以上中央治安機關ノ强化
  及警察官ノ向上問題、斯ウ云フヤウナ實行
  ヲ熱望的ニ私ハ希望條件ト致シマシテ、玆
  ニ第一條ノ修正說ニ同意スルト同時ニ、第
  一條以外ノ政府ノ原案ニ對シマシテハ贊成
  ノ意ヲ表スル次第デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=36

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• 037・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　他ニ御發言モナ
  イト認メマスカラ先ヅ第一條ノ修正案ヲ
  問題ニ供シマス、第一條ノ修正案ノ表決ニ
  付キマシテハ、伯爵黑木三次君外十九名ヨ
  リ記名投票ヲ以テ表決ヲ爲スノ要求ニ接
  シマシタ、故ニ本院規則第百十八條ニ依リ
  マシテ、記名投票ヲ以テ表決ヲ致シマス
  本院規則第百十九條ニ依リマシテ、本修正)
  ヲ可トスル諸君ハ白色票ヲ、本修正ヲ否ト
  スル諸君ハ靑色票ヲ御投票ヲ請ヒマス、尙
  念ノ爲申上ゲマス、投票ハ議席ニ備ヘテア
  リマスル名刺ヲ御使用ヲ願ヒマス、諸君ノ
  氏名ノ點呼ハ之ヲ省略致シマシテ、公爵島
  津忠重君ヨリ順次此ノ演壇ニ御登リ下サ
  V,御投票アラムコトヲ望ミマス
  〔投票執行〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=37

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• 038・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　投票漏ハゴザイ
  マセヌカ······投票漏ハナイト認メマス、是
  ヨリ開票ヲ致シマス、書記官ヲシテ投票ヲ
  計算致サセマス
  〔書記官投票ヲ計算ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=38

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• 039・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　記名投票ノ結果
  ヲ御報告ニ及ビマス、投票總數二百四十
  票、白色票ヲ投ジタル者ガ七十七票、靑
  色票ヲ投ジタル者百六十三、卽チ修正ヲ否
  トスル者百六十三、多數デアリマス、故宮
  第一條ノ修正案ハ否決セラレマシタ
  〔參照〕
  贊成七十七名
  反對百六十三名
  贊成者氏名
  公爵島津忠重君公爵一條實孝君
  公爵德川家正君公爵島津忠承君
  公爵岩倉倶榮君公爵二條弼基君
  侯爵井上三郞君侯爵久我通顯君
  關屋貞三郞君長岡半太郞君
  松井茂君水野鍊太郞君
  犬塚勝太郞君織田萬君
  字佐美勝夫君小野塚喜平次君
  光行次郞君有吉忠一君
  姊崎正治君小原直君
  河井彌八君出淵勝次君
  入江貫一君男爵小池正晃君
  有田八郎君下條庚麿君
  石渡莊太郞君內田重成君
  岡喜七郞君男爵辻太郞君
  建部遯吾君川村竹治君
  太田政弘君山川端夫君
  長谷川赳夫君男爵井上〓純君
  男爵伊江朝助君男爵安場保健君
  男爵奧田剛郞君男爵肝付兼英君
  男爵八代五郞造君男爵村田保定君
  中村純九郞君橋本圭三郞君
  倉知鐵吉君坂野鉄次郞君
  三浦新七君田所美治君
  岡田文次君澤田牛麿君
  赤池濃君次田大三郞君
  松村義一君長岡隆一郞君
  古島一雄君土方久徵君
  稻畑勝太郞君兒玉謙次君
  田澤義鋪君澁澤金藏君
  米山梅吉君三橋四郞次君
  下出民義君熊谷三太郞君
  小坂梅吉君松本勝太郞君
  岩田宙造君平沼亮三君
  塩田團平君片倉兼太郞君
  出光佐三君大西虎之介君
  大谷五平君諸橋久太郞君
  佐藤助九郞君中野敏雄君
  柴田兵一郞君
  反對者氏名
  公爵桂廣太郞君侯爵佐佐木行忠君
  伯爵松木宗隆君伯爵林博太郞君
  伯爵柳原義光君伯爵兒玉秀雄君
  伯爵樺山愛輔君伯爵二荒芳德君
  伯爵黑木三次君伯爵酒井忠正君
  伯爵山本〓君伯爵柳澤保承君
  伯爵橋本實斐君伯爵德川宗敬君
  伯爵大木喜福君男爵大井成元君
  子爵梅小路定行君子爵靑木信光君
  子爵冷泉爲勇君男爵安保〓種君
  子爵前田利定君子爵西大路吉光君
  子爵〓岡長言君子爵野村益三君
  子爵井上匡四郞君子爵今城定政君
  子爵西四辻公堯君子爵加藤泰通君
  子爵立見豐丸君子爵立花種忠君
  子爵秋月種英君子爵大河內輝耕君
  子爵八條隆正君子爵伊東二郞丸君
  子爵保科正昭君子爵岡部長景君
  子爵松平保男君子爵谷儀一君
  子爵秋元春朝君子爵松平忠壽君
  子爵米田國臣君子爵松平乘絲君
  子爵河瀨眞君子爵西尾忠方君
  子爵波多野二郞君子爵富小路隆直君
  子爵裏松友光君子爵秋田重季君
  子爵植村家治君子爵戶澤正已君
  子爵織田信恒君子爵北小路三郞君
  子爵大岡忠綱君子爵實吉純郞君
  子爵大島陸太郞君子爵梅園篤彥君
  子爵安藤信昭君子傳京極高修君
  子爵北條雋八君子爵柳澤光治君
  子爵舟橋〓賢君子爵松平康春君
  子爵土岐章君子爵綾小路護君
  子爵高木正得君子爵三島通陽君
  子爵本多忠晃君子爵入江爲常君
  子爵仙石久英君子爵牧野康熙君
  子爵酒井忠英君子爵上原七之助君
  子爵池田政銀君子爵由利正通君
  子爵錦小路賴孝君子爵水野勝邦君
  子爵京極高銳君田中館愛橘君
  小山松吉君男爵千田嘉平君
  平塚廣義君男爵東久世秀雄君
  宮城長五郞君𠮷田茂君
  河原田稼吉君廣瀨久忠君
  賀屋興宣君安井英二君
  藤原銀次郞君坂西利八郞君
  男爵小畑大太郞君男爵中川良長君
  伍堂卓雄君村田省藏君
  田邉治通君男爵前田勇君
  男傳淺田良逸君男傳山中秀二郞君
  男爵井田磐楠君男爵久保田敬一君
  男爵岩倉道倶君男爵今園國貞君
  男爵大藏公望君白根竹介君
  男爵矢吹省三君男爵大森佳一君
  男爵渡邊汀君河田烈君
  橫山助成君長世吉君
  男爵柴山昌生君男爵飯田精太郞君
  男爵伊藤文吉君男爵山川建君
  男爵松田·正之君男爵高崎弓彥君
  男爵中村謙一君男爵近藤滋彌君
  男爵北島貴孝君男爵關義壽君
  男爵三須精一君男爵松平外與麿君
  男爵稻田昌植君男爵中御門經民君
  男爵坊城俊賢君男爵深尾隆太郞君
  男爵渡邊修二君男爵杉溪由言君
  男爵加藤成之君男爵岩村一木君
  男爵神山嘉瑞君男爵山根健男君
  男爵北大路信明君男爵西酉乙君
  男爵島津忠彥君男爵水谷川忠麿君
  男爵宮原旭君男爵明石元長君
  山岡萬之助君宮田光雄君
  黑田英雄君竹內可吉君
  有賀光豐君藤沼庄平君
  大塚惟精君唐澤俊樹君
  太田耕造君堀啓次郞君
  瀧川儀作君野村德七君
  野村茂久馬君大澤德太郞君
  田部長右衞門君佐々木嘉太郞君
  中島德太郞君中山太一君
  米原章三君松井貞太郞君
  二瓶泰次郞君齋藤万壽雄君
  飯塚知信君野田六左衞門君
  岩元達一君

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• 040・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ガナケレ
  バ、其ノ他ノ修正案全部ヲ問題ニ供シマス、
  修正案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  〔起立者少數〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=40

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• 041・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　少數ト認メマ
  ス、

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=41

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• 042・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第三讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=42

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• 043・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　チヨット御待チ
  下サイ、マダ早イヤウデスカラ······只今、
  其ノ他ノ修正案全部ヲ問題ニ供シテ、起立ニ
  諮ヒマシテ少數ト認メマシタ、故ニ修正案
  ハ全部否決セラレマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=43

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• 044・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　次ニ問題ニ供シ
  マスルノハ、修正意見ノ提出ノアリマシタ
  箇條ト御承知ヲ願ヒマス、原案通リデ御異
  議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=44

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• 045・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=45

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• 046・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　次ニ殘リ全部ヲ
  問題ニ供シマス、全部、原案通リデ御異議
  ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 047・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=47

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• 048・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第三讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=48

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• 049・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=49

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• 050・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　西大路子爵ノ動
  議ニ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=50

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• 051・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=51

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• 052・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　本案ノ第三讀會
  ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決議通
  リデ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=52

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• 053・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=53

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• 054・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　日程第二、蠶絲
  業統制法案、政府提出、衆議院送付、第一讀
  會ノ續、委員長報〓、八條子爵
  蠶絲業統制法案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
  報告候也
  昭和十六年二月二十六日
  委員長子爵八條隆正
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  〔子爵八條隆正君演壇ニ登ル〕
  〔副議長侯爵佐佐木行忠君議長席ニ著
  乞

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=54

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• 055・八條隆正

  ○子爵八條隆正君　只今議題トナリマシタ
  蠶絲業統制法案ニ付キマシテ、特別委員會
  ニ於ケル審議ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓中上
  ゲマス、委員會ハ去ル二月二十二日以來四
  日間ニ亙リ開會致シマシテ、本案ガ我ガ國
  蠶絲業ノ統制ニ關スル劃期的立法デアリ、
  對外貿易竝ニ養蠶農家ヲ初メ蠶絲關係業者
  ニ重大ノ關係ヲ有シマスルニ鑑ミマシテ、
  愼重衆議ヲ重ネマシタ結果、昨二十六日ノ
  委員會ニ於キマシテ討論ヲ經、採決ノ結果
  全委員異議ナク衆議院ニ於テ修正ヲ加ヘラ
  レマシタル、衆議院送付案ヲ可決致シマシタ
  ノデアリマス、本法案ノ目的トスル所ハ、過
  日本議場ニ於キマシテ農林大臣ヨリ御說明
  ガアリマシタガ、現下ノ國際情勢ニ對應致
  シマシテ、現ニ最モ多ク海外輸出ニ依存シ
  テ居ル蠶絲業ニ對シ、萬一ノ事態ガ生ジタ
  ル場合ニ於テモ一擧ニ大ナル動搖ヲ來サシ
  メザルヤウニ、豫メ準備ヲ致シマスルト共
  ニ、海外依存ヲ脫却シテ、國內ニ於ケル諸
  種ノ纖維資源ノ不足ノ實情ニ鑑ミ繭、生絲
  ヲ國內需要ノ充足ニモ向ハシメ、又從來生
  絲ノ價格ノ變動ニ依リ、極メテ不安定デア
  リマシタ蠶絲業ノ經營ヲ確固トシタ基礎ノ
  上ニ安定セシメマス爲ニ、其ノ生產配給
  消費ヲ通ジテ蠶絲業ノ全體ヲ綜合的ニ統制
  スル體制ヲ確立セムトスルモノデアリマス、
  而シテ本案ノ主タル內容ハ一蠶種、繭
  生絲等ノ蠶絲類ノ用途別計畫、各生產者ニ
  對スル生產ノ割當等、計畫生產制ノ確立、
  二、日本蠶絲統制株式會社ノ設立ト、此ノ
  會社ノ蠶絲類ノ一手買入及一手販賣ニ依ル
  配給紛制、三、蠶絲類ノ賣買價格ノ決定、
  四、繭及生絲ニ關スル檢定及檢査制度ノ擴
  充、五、桑園ノ新設、又ハ擴張ノ許可制度
  實施、六、絲價安定施設特別會計ノ資金ノ
  擴充等ヲ規定致シテ居ルノデアリマス此
  ノ政府ノ提出ノ原案ニ對シマシテハ衆議
  院ニ於テ修正ガ加ヘラレテ居リマスルガ、
  ソレハ第二十九條第二項ト致シマシテ、「蠶
  絲業ヲ監督スル官廳ノ官吏タリシ者ハ其ノ
  職ヲ退キタル後五年間日木蠶絲絲制株式會
  社ノ役員ト爲リ又ハ其ノ給與ヲ受クル事務
  ニ從事スルコトヲ得ズ但シ主務大臣ニ於テ
  特ニ必要アリト認メタルトキハ此ノ限ニ在
  ラズ」、トノ一項ヲ加ヘラレタノデアリマス、
  是ヨリ質疑應答ノ主ナルモノヲ御紹介致シ、
  御衆議ノ御參考ニ供シヨウト思ヒマズ、其
  ノ第一ハ桑園ニ關スル問題デアリマス、桑
  園ニ付キマシテハ本法實施ト共ニ政府ハ桑
  園ノ面積ヲ減少シ、將來ノ新設、擴張ヲ許
  可制度トシ、大體ニ於テ桑園面積ノ增加ヲ
  抑止スルノ方策ヲ執ラムトスルノデアリマ
  スカ、之ニ關シマシテ種々ノ御質問又ハ意
  見ガ出タノデアリマス、卽チ桑園整理ノ目
  的ハ如何、又桑園敷理ノ結果繭ノ生產ニ及
  ス影響加何、卽チ繭ノ減產ヲ來スベシト思
  ハレルガ、繭ハ生絲トシテ外貨獲得ト同時
  ニ現畦國內纖維資源不足ノ際、國內需要充
  足ノ爲ニ寧ロ增產スベキニ非ズヤトノ御意
  見モアッタノデアリマス、又桑園整理ノ方法
  如何等ニ付テノ御質問ガアリマシタ、是等
  ノ質問ニ對スル政府ノ答辯ハ桑園整理ハ現
  在整理ヲ要スル不良ノ桑園モアルガ、今囘桑
  園整理ヲ爲サムトスル目的ハ主トシテ合糧
  增產計畫ノ爲デアッテ、或程度能率ノ劣ッタ
  桑園ヲ田畑ニ轉換シ、米、麥、甘藷、馬鈴薯等
  ノ增產ヲ圖ラムトスルノデアル、又繭ノ生
  產額ニ付テハ一時的ニ多少減少スルコトハ
  考ヘラレルガ、肥辱管理、飼育方法ノ改善ニ
  意ヲ注イデ、大體ニ於テ現狀ヲ維持シ、將來
  段當リ收繭額ノ增加ヲ圖リタイトノコトデ
  アリマシテ又委圍整理ハ主トシテ〓糧增
  產ノ爲デアル、從ッテ桑園ヲ廢シテ田畑ト成
  スモ後作不良ナルトキハ桑園整理ノ效果ガ
  ナイノデアル、故ニ桑園ノ整理ハ後作ノ適
  不適ヲ考ヘテ、實行スルモノデアルカラシ
  テ全國一律ニ平均割當ヲ爲スベキモノデハ
  ナイトノ答辯デアリマシタ、第二ハ本法ハ
  原則ト致シマシテ統制會社ニ依リ蠶絲ノ一
  手買入、一手販賣ニ依リ統制ヲスルコトニ
  ナッテ居リマスルガ、輸出生絲ハ例外ト云フ
  統制ヨリ除外シ、輸出ハ現行ノ通リ放任ス
  ルコトニナッテ居ルノデアリマスガ、之二
  關シマシテ輸出生絲モ國內生絲ト共ニ統制
  會社ニ於テ一元的統制ヲ爲シ其ノ價格ヲ輸
  出生絲ト國用生絲トニ、二本建ト爲スガ宜
  イデハナイカトノ質問ガアリマシタガ、之ニ
  對スル政府ノ答辯ハ生絲ハ供給潤澤ノ傾向
  ガアリ、統制會社ガ一手ニ物ヲ持ツ結果ハ
  需要者ニ推サレテ、價格ハ維持シ難ク、漸次
  低落シ、外貨獲得ノ必要ナルノトキ、逆結果
  ガ現ハレル虞ガアル、又會社ガ一元給制的
  ニ輸出生絲ヲモ買取ルコトトスルトキニハ其
  ノ買入僧格ハ各絲ノ格ニ依ンテ買値ヲ定ム
  ル結果、生產者ハ採算上最モ有利ナル絲ヲ
  作リ、種類、品質ガ或種ニ偏シテ、爲ニ輸
  出困難トナル虞ガアル、尙價格一定致シマ
  スレバ最モ優良ナル絲ヲ作ラムトスルノ努
  力ヲ減ジマシテ、品質ノ低下ヲ來ス虞ガア
  가、故ニ生絲ノ輸出ハ現在ノ方法ニ依ルヲ
  適當ト考フトノコトデアリマシタ、第三ニ
  輸出生絲ノ取扱ニ關聯シテ、生絲ノ〓算取
  引市場ノ在廢加何、又輸出生絲ノ生產數量
  ガ限定セラレル結果、投機思惑ガ多クナリ
  ハセヌカトノ質問ガアリマシタガ、之ニ對
  シマシテハ輸出生絲ハ前述ノ如ク從來ノ方
  法ニ依ッテ取引ヲ行ハシムル結果、〓算取引
  市場ハ之ヲ存續スルコトニナルガ、又絲價
  安定措置ヲ强化シテ、輸出生絲ノ値幅ハ相
  當ニ縮小サレル故ニ、思或的投機ノ對象ト
  ナルヤウナ虞ハ少イト云フ答辯ガアリマシ
  タ、第四ニハ蠶絲關係業者ノ失業問題ニ付
  テノ質問デアリマスガ、本法ニ依ル賃経業
  統制ノ結果、中小製絲業者、輸出商、問屋
  又ハ繭、生絲ノ中間商人等ニ失業共ノ他ノ
  不安ガアルガ、現在ノ狀況ニ急激ナル變化
  ナキヤウ知意ヲ要スベシトノ意見、又其ノ
  對策ニ付テノ質問ガアリマシタガ、此ノ點
  ニ付キマシテハ政府ニ於テモ全ク同感デ
  アル故ニ、各業者ニ不安又ハ失業等ノ是ナ
  キヤウ、極力避ケタイト思フ輸出問屋ハ
  取扱數量ガ少クナリ、營業縮小ノ心配アル
  模樣デアルガ、國用絲ノ檢査モ、主トシテ
  橫濱神戶ノ國立檢査所ニ於テ檢査セシムル
  方針デアルヲ以テ、此ノ關係ヨリシテモ、
  問屋ノ仕事ハ著シク減少セヌモノト思ハレ
  ル、又繭商人生絲商人ニ付テモ失業者ヲ出
  シタクナイノデ、今後是等ノ業者ヲ利用シ
  テ、多クノ利益ヲ得セシムルト云フコトハ
  出來ナイガ、職場ハ出來得ル限リ殘シタイ
  ト思フトノコトデアリマシタ、第五ハ、繭
  ノ短纖維用トシテノ利用ニ關スル問題デア
  リマス、卽チ短纖維用繭ハ生絲用ノ繭ト異ッ
  テ、廉價ヲ以テ配給セネバナラヌガ、其ノ
  結果春鷲農家ニ負擔ヲ强ヒルコトトハナラ
  ナイカ、又繭纖維ヲ羊毛棉花等ノ代リトシ
  テ、廣ク實用纖維トシテ使用スル爲ニハ
  將來繭ノ生產費ヲ低下セシメナケレバナラ
  ヌト思フガ如何等ノ質問ガアリ、又國內ニ
  於テ纖維不足ノ際、繭ノ生產額ヲ計畫的ニ
  限定スルノ必要ハナイ、寧ロ增產シテ纖維
  ノ充足ニ充ツベキデアルトノ意見モアリマ
  シタ、之ニ對シマシテ、政府ニ於テハ會
  社ガ繭ヲ買上ゲル時ニハ繭ノ生產費ヲ基
  準トシタル價格ヲ以テ買上ゲルノデアルガ
  故ニ、養蠶者ノ利益ハ保證サレテ居リ、會
  社ハ長纖維用短纖維用共ニ同値ニテ買入
  レ、「プール」計算ニテ處分スルコトデアル
  カラ、養蠶家ニ不利ヲ與フルモノデハナイ、
  又短纖維用ノ繭ハ特殊繭デアッテ、飼育容易
  ノモノデアルカラ、從ッテ當初ハ多少斟酌ヲ
  セネバナラヌガ、元來長纖維用繭ノ生產ニ
  比シテ生產費ハ低廉ナルベキモノデアル、
  今後努力ニ依ッテ相當安クナル見込デアル、
  又國內需要ニ應ジ、短纖維用繭ヲ增產スル
  ノ必要ハ同感デアルガ、現在ニ於テハ、設
  備ノ關係上急激ニ大量的生產ハ不可能デア
  ルガ、將來ノ問題トシテハ、出來ルダケ低
  廉ニ且多量ニ生產スルコトヲ考ヘテ居ルト
  ノ答辯デアリマシタ、第六ハ、支那蠶絲業
  トノ調整ノ問題デアリマスガ、日本ノ蠶絲
  統制ヲ强化スル場合、支那ノ蠶絲業ガ有利
  ナル地步ヲ以テ競爭スルコトトナッタナラバ、
  日本ノ統制ニ破綻ヲ來ス虞アリトシテ、政
  府ノ之ニ對スル所見ヲ質サレマシタガ、政
  府トシテモ支那ノ蠶絲業ハ我ガ蠶絲業ノ强
  敵デアル、政府ハ今後トモ現地當局トモ連
  絡ヲ取ッテ、共存共榮ノ考ヘ方ニテ、日支間ノ
  冀絲業ノ調製ヲ圖ル積リデアルトノ答辯デ
  アリマシタ、其ノ他各種ノ質問應答ガアリ
  マシタガ、此ノ程度ニ止メルコトニ致シマ
  ス、斯クテ質問ヲ終了致シ、討論ニ移リマ
  シタガ、二三ノ委員ヨリ原案贊成ノ意見ガ
  關陳セラレマシタ、其ノ中デ一委員ノ意見
  ニ依リマスレバ、本案ハ時局柄最モ適當ナ
  ル案ト存ジ、深ク敬意ヲ表スル者デアル、
  元來蠶絲業ノ統制ハ蠶絲業者十數年來翹望
  スル所デアッテ、玆ニ其ノ實現ノ機運ニ到達
  シタコトハ、業者ノミナラズ國家ノ爲大イ
  ニ意ヲ强クスル次第デアル、從ッテ徹底的統
  制ヲ行ヒ、再ビ將來ニ禍根ヲ遺スコトナキ
  ヲ期セナケレバナラヌト思フノデアル、
  然ルニ農林大臣ノ御說明及ビ委員會ニ於
  ケル質問應答ニ依ッテ稍,く了解シ得ラレタ
  ガ、未ダ遺憾ノ點ナシトセナイ、其ノ成果
  ノ如何ハ要スルニ法ノ運用ニアリト思フノ
  デアリル、輸出生絲ヲ現在ノ如ク自由取引
  ニ放任スル時ハ絲價ノ變動ノ爲ニ消費者ハ
  非常ナル困難ヲ來シ、需要ノ減退ヲ來スノデ
  アル、從來蠶絲業ハ投機的事業ナリト認メ
  ラレタモノデアルガ、玆ニ蠶絲業ノ一大革
  新ヲ圏ラムトスル以上、此ノ際最モ堅實ナル
  基礎ノ上ニ立タシムルコトガ緊要デアル
  是ガ爲ニハ輸出ヲ統制ヨリ除外セズシテ、蠶
  絲業ノ徹底セル一元統制ニ進ムベキデアル
  トノ論旨デ、輸出生絲ヲ統制ノ埒外ニ置ク
  コトノ適當ナラズトセラルヽ理由ヲ縷々開
  陳セラレマシタル上、贊成ヲ表セラレマシ
  タノデアリマス、又他ノ一委員ハ前ノ委員
  ト異リタル觀點ヨリ贊成意見ヲ述ベラレマ
  シタ、卽チ從來蠶絲業ノ困難ニ遭遇シタル
  ハ、當事者ニ於テ其ノ經營宜シキヲ得ナカッ
  タ結果デアル、當業者ハ又餘リニ政府ニ依
  賴シ過ギルノデアル、此ノ統制會社ガ國策
  會社トシテ使命ヲ全クセシメムガ爲ニハ、
  其ノ經營者ハ必ズシモ當業者デナケレバナ
  ラヌト云フコトハナイ、廣ク適材ヲ求ムル
  ガ宜イ、會社中心人物ノ人選ニ付テハ政
  府ハ深ク注意セナケレバナラヌ、蠶絲業ノ
  發達ハ全ク輪出ノ爲デアル、故ニ輸出ノ衰
  退ヲ招クガ如キコトハ愼マナケレバナラ
  ヌ、從ッテ輸出業者ノ存在ハ必要デアル、本
  案ハ此ノ點ニ留意セラレタノハ適當デアル
  ト思フ、當局ガ今日ノ時局ニ於テ米穀及生
  絲ノ如キ政策ニ努力セラルヽハ誠ニ結構デ
  アルトノ趣旨ヲ述ベラレマシテ贊成ノ意ヲ
  表セラレマシタ、討論ヲ終ヘ採決ニ附シマ
  シタ處、滿場異議ナク原案卽チ衆議院送付
  案ヲ可決シタノデアリマス、以上ヲ以テ御
  報告ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=55

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• 056・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　別ニ御發言
  モナケレバ、本案ノ採決ヲ致シマス、本案
  ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ゴザイマセ
  ヌカ
  (「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=56

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• 057・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　御異議ナイ
  ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=57

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• 058・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第二讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=58

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• 059・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=59

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• 060・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　西大路子爵
  ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=60

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• 061・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　御異議ナイ
  ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=61

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• 062・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　本案ノ第二
  讀會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ、全部
  ヲ問題ニ供シマス、本案全部委員長ノ報〓
  通リデ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=62

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• 063・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　御異議ナイ
  ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=63

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• 064・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第三讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=64

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• 065・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=65

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• 066・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　西大路子爵
  ノ耐議ニ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=66

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• 067・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　御異議ナイ
  ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=67

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• 068・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐本行忠君)　本案ノ第三
  讀會ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決
  議通リデ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=68

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• 069・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　御異議ナイ
  ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=69

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• 070・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行忠君)　報〓ヲ致サ
  セマス
  〔白木書記官朗讀〕
  本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
  昭和十五年度歲入歲出總豫算追加案第
  二號)、昭和十五年度各特別會計歲入歲出
  豫算追加案(特第二號)、昭和十五年度歲
  入歲出總豫算追加案(第三號)、昭和十五
  年度特別會計歲入歲出豫算追加案(特第
  三號)、昭和十六年度歲入歲出總豫算追加
  案(第一號)、昭和十六年度特別會計歲入
  歲出豫算追加案(特第一號)、豫算外國庫
  ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件
  (追第一號)、臨時陸軍材料資金豫算追加
  案(臨材第一號)可決報告書
  本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ノ囘付ヲ受
  ケタリ
  刑法中改正法律案

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=70

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• 071・佐佐木行忠

  ○副議長(侯爵佐佐木行息君)　十分間体憩
  ヲ致シマス
  午後五時一分体憩
  午後五時十四分開會

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=71

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• 072・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　体憩前ニ引續キ
  マシテ開會致シマス、日程第三、木材統制
  法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ
  續委員長報告、委員長德川伯爵
  木材統制法案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
  報〓候也
  昭和十六年二月二十六日
  委員長伯爵德川宗敬
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  〔伯爵德川宗〓君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=72

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• 073・徳川宗敬

  ○伯爵德川宗敬君　只今議題トナリマシク
  木材統制法案ノ特別委員會ニ於ケル寮議ノ
  經過竝結果ヲ御報〓申上ゲマス、委員會ハ
  去ル二十五日及ビ二十六日ノ二日ニ亙リ開
  キマシテ愼重ニ審議ヲ致シマシタ、本法案
  ノ要旨ハ、現下ニ於ケル木材ノ生產及需給
  ノ狀況ニ鑑ミマシテ、木材ノ生產ヲ確保シ、
  其ノ需給ノ圓滑及價格ノ公正ヲ圖ル爲必要
  ナル各種ノ規定ヲ設ケマスルト共ニ、日本
  木材株式會社及地方木材株式會社ヲ設立致
  シマシテ、之ヲシテ時局下緊要ノ特殊用途
  ニ充ツベキ木材ノ生產竝其ノ需給ノ圓滑及
  價格ノ公正ヲ圖ル爲ニ必要ナル事業ヲ營マ
  シメムトスルモノデアリマス、委員會ニ於
  テハ熱心ナル質疑應答ガ重ネラレ、又建設
  的ナ意見ノ開陳ガアッタノデアリマス、今玆
  ニ其ノ主要ナルモノニ付キマシテ、簡單ニ
  御紹介申ゲ上タイト存ジマス、先ヅ第一ニ
  本法案ハ其ノ第二條ニ立木ノ强制賣渡命令
  ヲ規定シテ居リマスガ、其ノ發動ハ森林所
  有者ノ愛林思想ニ對シ打擊ヲ與ヘ森林行
  政上惡影響ガアルモノト考ヘラレルガ、政
  府ノ所見ハ如何デアルカトノ質疑ニ對シマ
  シテ、政府ハ立本ノ賣渡命令ハ必要已ムヲ得
  ナイ場合ニ於テノミ之ヲ發動スル考デアツ
  テ、且其ノ發動ニ關シテハ勅令ヲ以テ詳細ナ
  ル規定ヲ設ケ、苟モ其ノ發動ニ依ッテ愛林
  思想ノ涵養ニ不安ヲ與ヘ治山治水ニ惡影
  響ヲ與ヘルコトノナイヤウニ、特ニ愼重ナ
  ル考慮ノ下ニ之ヲ行フ考デアル旨ノ答辯ガ
  アリマシタ、第二ニ日本木材株式會社ニハ
  政府出資ヲ爲スベキデハナイカ、又親會社
  ニ配當ヲ保證スルナラバ、子會社ニモ配當
  ノ保證ヲ爲スベキデハナイカトノ質疑ニ對
  シマシテハ、政府ハ現下ノ財政事情等ニ鑑
  ミテ、日本木材株式會社ニ政府出資ヲ爲ス
  コトハ困難デアルガ、民間出資ノミヲ以テ
  十分成立シ得ル見込デアルガ、又之ニ對シ
  配當保證ヲ行フコトニ依ッテ、親會社、子會
  社間ノ配當調整ニ付キ、善處シテ實效ヲ擧
  ゲタイ旨答辯ガアリマシタ、第三ニ本法案
  ノ實施ニ依ッテ、旣存ノ業者ハ其ノ營業ノ基
  礎ヲ失ヒ、窮況ニ陷ルノデハナイカトノ質
  疑ニ對シマシテ、政府ハ旣存ノ業者ハ一面
  會社ノ出資トナルト共ニ、之ニ吸收サレル
  モノガアルノ外、會社ノ株ノ協力機關トナ
  ルベキモノデアリ、尙會社ノ取扱ハナイ木
  材ニ關シテハ既存業者ノ活動ニ俟ツベキモ
  ノガ多イノデアッテ、本法案ノ實施ニ依ッテ
  是等旣存業者ノ營業ニ急激ナル混亂ヲ來タ
  サナイヤウ十分留意シタイ、殊ニ消費地ニ
  於ケル木材業者ノ統制ニ關シテハ、地方木材
  株式會社ニ準ズル株式會社又ハ組合等ニ依ッ
  テ、木材荷受配給統制機構ヲ調整セシメル
  モノデアル旨ノ答辯ガアリマシタ、第四ニ、
  本法案ハ現在アル木材ヲ統制スルコトヲ目
  的トシテ居テ、積極的ニ木材資源ノ增殖ヲ
  圖ルコトヲ目的トシテ居ラヌヤウニ考ヘラレ
  ルガ、伐採跡地ニ對スル强制造林ヲ法律的
  ニ規定シテ、森林資源ノ保續ヲ圖ルノ意思ハ
  ナイカトノ質疑ニ對シマシテハ、政府ハ伐採
  跡地又ハ無立木地ノ造林ニ付テハ森林法
  ノ適正ナル運用ヲ圖ルト共ニ、尙來年度以降
  十箇年間ニ百二十三萬町步ノ大造林計畫ヲ
  樹立シ、將來ノ木材資源ノ增殖竝ニ治山治
  水ノ確保ニ關シ遺憾ナキヲ期シテ居ル旨ノ
  答辯ガアリマシタ、第五ニ、國策會社ノ事業
  ノ成否ハ一ニ其ノ運營ノ衝ニ當ル人ノ如何
  ニ繫ガルモノト思フガ、木材會社ノ陣容整
  備ニ對スル政府ノ所見如何、トノ質疑ニ對
  シマシテ、政府ハ日本木材株式會社及地方木
  材株式會社ノ陣容ノ整備ニ當ッテ、中央地方
  ノ業者ノ中ヨリ最モ卓越シタル者ヲ集メタ
  イト考ヘテ居ル旨ノ答辯ガアリマシタ、第
  六ニ、國策會社ガ多額ノ手數料ヲ取ル爲ニ、
  其ノ統制ヲ受クルモノハ非常ナ迷惑ヲ蒙ム
  ル場合ガ多イガ、政府ハ木材會社ノ手數料
  ヲ尙低廉ニスル意思ガアルカトノ質疑ニ對
  シマシテハ、政府ハ本會社ノ手數料ハ會社
  運營上必要ナル最小限度ニ於テ之ヲ徴收ス
  ルコトトシ、出來ルダケ其ノ引下ヲ圖ル考デ
  アル旨ノ答辯ガゴザイマシタ、最後ニ、內
  外地國有林民有林ヲ通ジテ伐採ノ均衡ヲ保
  持スル必要ガアルト思フガ如何、トノ質疑
  ニ對シマシテ、政府ハ内外地及官民ヲ通ジ伐
  採ノ均衡ヲ保持シ、森林生產ノ保續ヲ圖ル
  コトニ關シテハ、政府モ其ノ必要ヲ認メテ
  居リ、統一アル林政ノ實施ニ基キ適當ナル
  施策ヲ講ジタイ旨ノ答辯ガアリマシタ、以
  上ノ外木材會社ノ組織竝ニ運營、其ノ他本
  法案ノ運用ニ付キマシテ、尙色々ト質問應
  答ガ行ハレタノデアリマスガ、是等ハ長ク
  ナリマスカラ、速記錄ニ讓リタイト存ジマ
  ス、斯ク致シマシテ討論ニ入リマシタ處、
  一委員ヨリ、戰時經濟ニ於テ木材ガ軍用材
  ヲ始メ各種用材トシテ、生產擴充、住宅營
  團等ニ必要缺クベカラザルモノデアリ、從ッ
  テ木材需給ノ圓滑ヲ圖ル爲ニ木材統制ノ必
  要ナルコトヲ認メルガ故ニ、本案ニ贊意ヲ
  表スルモノデアルガ、日本木材株式會社竝
  ニ地方木材株式會社ノ運營ニ當ッテハ、地方
  ノ事情ヲ十分ニ考慮シテ、業者ニ對シ不安
  ナカラシムルコトヲ切望スル、殊ニ地方木材
  統制株式會社ノ設立ニ關シテハ、行政區域
  ニ準據スル適切ナル配置ガ望マシイ、而シ
  テ會社ノ組織竝ニ監督ニ關シテハ、十分ニ
  注意ヲ拂ハレ、特ニ法案第二條ニ關スル勅
  令施行ノ際ニ於テハ、當局ノ言明ニ依ッテ旣
  53Johnstonできそば*みゼミヤ
  ニ之ヲ諒トスルモノデハアルケレドモ、尙立
  木價格竝ニ伐期ノ査定ニ留意セラレ、生產
  ノ確保ニノミ重點ヲ置イテ國土計畫上治山
  治水、森林資源ノ培養ニ對シテ百年ノ大計
  ヲ誤ラザルヤウ、殊更ニ愛林思想ノ涵養ニ
  意ヲ用ヒラレタイトノ趣旨ヲ述ベラレマシ
  テ、贊成ノ意ヲ表サレタノデアリマス、次
  デ採決ノ結果、原案通リ全會一致可決スベ
  キモノト決定致シマシタ、尙一言附加ヘマ
  スガ、只今玆ニ原案ト申上ゲマシタノハ
  衆議院ノ修正送付案デアリマシテ、法案中
  ノ第十五條ノ末項ニ「木材事業ヲ監督スル官
  廳ノ官吏タリシ者ハ其ノ職ヲ退キタル後五
  年間日本木材株式會社ノ役員トナルコトヲ
  得ズ但シ主務大臣ニ於テ特ニ必要アリト認
  メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ」ト加へ、第三
  十四條第四項ノ次ニ「地方木材株式會社ノ
  社長及副社長ハ株主總會ニ於テ之ヲ選任シ
  主務大臣ノ認可ヲ受クルモノトシ其ノ任期
  ヲ四年トス」ヲ加ヘ又第六十二條第二項ノ
  次ニ「創立總會ニ於テハ第十五條及第三十
  四條ノ規定ニ準ジ社長、副社長、理事及監
  事ノ選任ヲ行フベシ」ト加ヘラレタモノデ、
  其ノ他之ニ附隨スル字句ノ改訂ニ對シ衆議
  院ニ於テハ修正追加シテ居ルノデアリマス、
  之ニ對シ政府トシテハ貴族院ニ於テ衆議院
  ノ同修正送付案ヲ可決サレマスナラバ、政
  府モ亦同意ヲ表スルモノデアルトノコトデ
  アリマシタ、以上簡單ナガラ御報告申上ゲ
  マス

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• 074・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　別ニ御發言モナ
  ケレバ、本案ノ採決ヲ致シマス、本案ノ第
  二讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 075・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

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• 076・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第二讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

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• 077・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

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• 078・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　西大路子爵ノ動
  議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 079・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

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• 080・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　本案ノ第二讀會
  ヲ開キマス、御異議ガナケレバ、全部ヲ問
  題ニ供シマス、本案全部委員長ノ報〓通リ
  デ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 081・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

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• 082・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第三讀
  會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス

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• 083・植村家治

  ○子爵植村家治君　贊成

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• 084・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　西大路子爵ノ動
  議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 085・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

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• 086・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　本案ノ第三讀會
  ヲ開キマス、本案全部第二讀會ノ決議通リ
  デ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 087・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

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• 088・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　本日委員長ヨリ
  報〓書ノ提出セラレマシタ昭和十五年度歲
  入歳出總豫算追加案第一一號、昭和十五年度
  各特別會計歲入歲出豫算追加案特第二號、
  昭和十五年度歲入歲出總豫算追加案第三
  號昭和十五年度特別會計歲入歲出豫算追
  加案特第三號、昭和十六年度歲入歲出總豫
  算追加案第一號、昭和十六年度各特別會計
  歲入歲出豫算追加案特第一號、豫算外國庫
  ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スルノ件
  追第一號、臨時陸軍材料資金豫算追加案臨
  材第一號、是等ノ八案ヲ此ノ際議事日程ニ
  追加シ、一括シテ議題ト爲シ會議ヲ開キ、
  委員長ノ報〓ヲ煩シタイト存ジマス、御異
  議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=88

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• 089・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス、委員長井上子爵
  一昭和十五年度歲入歲出總豫算追加案
  (第二號)
  一昭和十五年度各特別會計歲入歲出豫算
  追加案(特第二號)
  一昭和十五年度歲入歲出總豫算追加案
  (第三號)
  一昭和十五年度特別會計歲入歲出豫算追
  加案(特第三號)
  一昭和十六年度歲入歲出總豫算追加案
  (第一號)
  一昭和十六年度各特別會計歲入歲出豫算
  追加案(特第一號)
  一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
  スヲ要スル件(追第一號)
  一臨時陸軍材料資金豫算追加案(臨材第
  一次、
  右衆議院ヨリ受領シタル各案ヲ審査シ總
  テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリ
  ト議決セリ依テ及報〓候也
  昭和十六年二月二十七日
  委員長子爵井上匡四郞
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  〔子爵井上匡四郞君演壇ニ登ル〕

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• 090・井上匡四郎

  ○子爵井上匡四郞君　只今議題トナリマシ
  タ昭和十五年度歲入歲出豫算追加案第二號
  外七案ニ付キマシテ、委員會ニ於ケル審査
  ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、先ヅ
  追加豫算各案ノ大要ヲ御紹介致シマス、第
  一ハ昭和十五年度歲入歲出總豫算案第二號
  デアリマス、本案ニ計上致シテアリマスル
  金額ハ、歲入千八百七十餘萬圓、歲出五千
  七百四十萬餘圓デアリマシテ、差引三千八
  百六十餘萬圓ノ歲出超過トナッテ居リマス、
  此ノ歲出超過額ハ昭和十五年度豫算歲出ノ
  節約ニ依ル所ノ歲入超過額ノ中ヨリ充當ス
  ルモノデアッテ、而シテ歲入追加額ノ主要ナ
  ル事項ハ、森林收入ノ增加千七百四十餘萬
  圓デアリ、又歲出追加額ノ主要ナルモノハ、
  主要食糧農產物增產確保施設ニ要スル經費
  ノ增加二百九十萬餘圓、重要肥料供給確保
  施設ニ要スル經費ノ增加千九百餘萬圓、臨
  時米穀管理施設ニ要スル經費六百十餘萬圓、
  鐵鋼原料ノ補償ニ要スル經費ノ增加千八百
  餘萬圓、石炭增產對策ニ要スル經費ノ增加
  三百七十餘萬圓、轉廢業對策ニ要スル經費
  總額二百餘萬圓等デアリマス、第二ハ昭和
  十五年度各特別會計歲入歲出追加豫算案特
  第二號デアリマス、是ハ大藏省預金部、關
  東局、帝國大學、官立大學、學校及圖書館、
  通信事業、帝國鐵道、朝鮮總督府、臺灣總
  督府、樺太廳及郵便年金ノ各特別會計ニ關
  スルモノデアリマス、第三ハ昭和十五年度
  歲入歲出總豫算追加案第三號デアリマシテ、
  本案ニ計上シテアリマスル金額ハ歲入九十
  餘萬圓、歲出八百九十餘萬圓、差引八百十
  餘萬圓ノ歲出超過トナッテ居リ、是亦昭和十
  五年度豫算歲出節約ニ伴フ歲入超過額ヨリ
  充當スルモノデアリマス、而シテ歲入追
  加額ハ、輸出補償收入ノ增加ヲ計上致シテ
  居リ、又歲出追加額ハ衆議院議員歲費ノ
  增加二十餘萬圓、大政翼賛會補助ニ要スル
  經費六十餘萬圓、北支那開發及中支那振興
  特殊會社補給金六百九十餘萬圓、農業保險
  實施ニ要スル經費ノ增加百餘萬圓ヲ計上致
  シテ居和ノデアリマス、今囘ノ追加豫算ニ依リ
  マシテ、昭和十五年度一般會計豫算ノ總額ハ、
  歲入六十一億千六百八十餘萬圓歲出六十一
  億七千三百七十餘萬圓トナルノデアリマス、此
  ノ歲出ノ額ニ前囘議會議決セル臨時軍事費豫
  算ノ追加額及過日議決致シマシタ臨時軍事費
  豫算追加臨第一號ノ額ヲ加ヘマスレバ、百十
  六億三千三百七十餘萬圓ニ達シ、是ヨリ一
  般會計及臨時軍事費特別會計間ノ重複勘定
  トナッテ居リマスル一般會計ヨリ臨時軍事費
  特別會計ヘノ繰入額六億圓ヲ控除致シマス
  レバ、其ノ純合計額ハ百十億三千三百七十
  餘萬圓ト相成ルノデアリマス、第四ハ、昭和
  十五年度特別會計歲入歳出豫算追加案特第
  三號デアリマス、是ハ農業再保險特別會計
  ニ屬スルモノデアリマシテ、再保險金支拂
  ニ要スル經費ノ增加ヲ計上致シタモノデア
  リマス、第五ハ昭和十六年度歲入歲出總
  豫算追加案第一號デアリマスガ、是ハ歲入
  歳出共ニ十一億三千百八十餘萬圓デアリマ
  ス、而シテ歲入追加額ノ內譯ハ、普通歲入
  ガ、港灣改良費納付金ノ增加百萬圓、輸出
  補償收入ノ增加四百八十餘萬圓、其ノ他百
  二十餘萬圓、計七百十餘萬圓デアリ、公債
  金ガ十一億二千四百六十餘萬圓トナッテ居
  リマス、又歲出追加額ノ主要ナル事項ヲ申
  上ゲマスレバ、兵備改善ニ要スル經費ノ增
  加一億七千七百八十餘萬圓、航空防空兵力
  充備ニ要スル經費ノ增加九千四百五十餘萬
  圓、國防充備費ノ追加三千九百九十餘萬圓、
  艦艇製造費ノ追加八千七百十餘萬圓、水陸
  整備費ノ追加一億七千二百七十餘萬圓、軍
  需品整備費ノ追加四千百十餘萬圓、食糧增
  產確保施設等ニ關スル經費三千四百餘萬圓、
  重要肥料供給確保ニ關スル經費ノ增加千八
  百五十餘萬圓、臨時米穀管理施設ニ要スル
  經費千九百六十餘萬圓、石炭增產對策等ニ
  要スル經費ノ增加三千五百六十餘萬圓、轉
  廢業對策ニ關スル經費總額千三百十萬餘圓、
  國民學校及靑年學校〓員臨時手當補助ニ要
  スル經費三千八百萬圓、大政翼贊會ノ補助
  ニ要スル經費八百萬圓、國庫豫備金ノ增加
  一億五千萬圓等デアリマス、本案計上額ヲ
  昭和十六年度總豫算ノ額ニ加ヘマスレバ、
  昭和十六年度一般會計豫算ノ總額ハ、歲入
  歲出共各七十九億九千五百十餘萬圓トナリ、
  之ヲ今期議會ニ提出セラレマシタ追加豫算
  ヲモ含メマシタ前年度豫算額ニ比較致シマ
  スレバ、歲入ニ於テ十八億七千八百二十餘
  萬圓、歲出ニ於テ十八億二千百三十餘萬圓
  ノ增加トナッテ居リマス、此ノ昭和十六年度
  一般會計豫算ノ總額ニ、今期議會ニ於テ議
  決致シマシタ臨時軍事費豫算追加臨第二號
  計上額四十八億八千萬圓ヲ加ヘマスレバ百
  二十八億七千五百十餘萬圓ニ達シマスガ、
  是ヨリ一般會計ヨリ臨時軍事費特別會計ヘ
  ノ繰入額六億七千萬圓ヲ控除致シマスト、昭
  和十六年度ニ於ケル一般會計ト臨時軍事費
  トノ純合計額ハ百二十二億五百十餘萬圓ト
  ナリ前年度ノ純合計額ニ比較致シマシテ
  十一億七千百三十餘萬圓ノ增加トナル次第
  デアリマス、第六ハ昭和十六年度各特別會
  計歲入歲出豫算追加案特第一號デアリマス
  ガ、是ハ造幣局、國債整理基金、公債金、
  金資金、政府出資、關東局、陸軍造兵廠、陸
  軍製絨廠、海軍工廠資金、海軍火藥廠、海
  軍燃料廠、帝國大學、官立大學、學校及圖
  書館、米穀需給調節、農村再保險、損害保
  險國營再保險、通信事業、朝鮮總督府、
  臺灣總督府、臺灣官設鐵道用品資金、樺太
  廳及南洋廳ノ各特別會計ニ關スルモノデア
  リマス、第七ハ臨時陸軍材料資金豫算追加
  案、臨材第一號デアリマシテ、是ハ事變地
  ニ於ケル軍需品ノ材料及原料購入ニ要スル
  經費ノ增加ヲ計上シテ居リマス、最後ニ
  豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲、ス
  ヲ要スル件、追第一號ハ臨時軍事費豫算
  追加臨第二號ニ關聯スル軍ノ需要充足ノ
  爲ノ豫算外契約ノ外、河川其ノ他災害復
  舊土木費補助、外國爲替損失補償金、國
  民更生金庫補助及損失補償、開墾助成金、
  用排水幹線改良事業費補助、重要肥料供給
  確保施設助成金、輸出補償金、中小商工
  業者轉廢業共助資金利子補給、石炭買取價
  格補償金ニ關スルモノ等デゴザイマス、
  尙昭和十六年度ニ於ケル公債ノ發行豫定額
  ハ今囘ノ追加豫算ニ於テ、一般會計ノ分ガ
  歲入補塡公債十一億二千四百六十餘萬圓、
  政府出資特別會計分ガ七千六百三十餘萬
  圓合計十二億百餘萬圓デアリマスノデ、
  之ヲ本豫算及臨時軍事費豫算追加臨第二號
  ニ於ケル發行豫定額ニ加ヘレバ、其ノ總
  額ハ七十五億七千四百九十餘萬圓トナリ、
  昭和十五年度ノ發行豫定額ニ比較致シマシ
  テ五億五千三十餘萬圓ノ增加トナッテ居ル
  次第デアリマス、豫算委員會ハ去ル二十四
  日午前十時ヨリ開催致シマシテ、先ヅ政府
  ノ說明ヲ求メ、爾來連日開催致シマシテ、本
  日午前討議ニ入リ、八案ヲ一括シテ議題ト
  致シ、一委員ヨリ贊成ノ御意見ガアリマシ
  タ又一委員ヨリ希望決議ノ動議ガアリマ
  シテ、之ニ贊成者ガアリ動議ガ成立致シ
  マシタ先ヅ豫算案全部ニ付テ採決致シマ
  シタ結果、全會一致ヲ以テ可決致サレマシタ、
  次デ希望決議案ニ付キ採決致シマシタガ、
  是亦全會一致ヲ以テ可決致シマシテ、是ヨ
  リ委員會ニ於ケル質疑等ノ主要ナルモノ
  ノ〓要ニ付テ御報告ヲ申上ゲマス、經濟新
  體下ニ於テハ、產業統制團體ノ持ツ一般的機
  能ニ付テノ質疑デアリマス、此ノ質疑ノ事
  項ハ數項ニ分レテ居リマスガ、之ニ對シテ
  政府ノ答辯ヲ一括シテ御報告ヲ申上ゲマス、
  各產業團體ノ基本的大綱ニ付テハ政府ガ之
  ヲ決定スル、而シテ其ノ決定ニ當ッテハ統
  制團體ノ調査ヲ參考トシ、又出來ルダケ其
  ノ立案ヲ基礎トシテ其ノ實行ヲ圓滑ナラシ
  メムトス、其ノ監督ニ付テハ大綱ニ止メ、
  出來ルダケ當業者ノ自主的ノ協力圍體トシ
  テノ職責ヲ果サシムルヤウ致サセタイト考
  ヘテ居ル、而シテ其ノ生產ニ對スル具體的
  ノ實施計畫ヲ遂行シテ行ク場合ニ於テハ
  當該團體トシテハ業主ニ於テ其ノ實施計畫
  ヲ圓滑ニ實施スル責ニ任ジ、最善ノ努力ヲ
  爲サシムルヤウニスル、其ノ監督ハ總動員
  法ニ依リ勅令ヲ制定スル場合、其ノ勅令上
  ノ監督內容ニ付、篤ト調査〓究ノ上決定セ
  ムト思ッテ居ル、其ノ生產ニ付テハ數量ノ基
  本ニ付テ、政府之ヲ決定シ、其ノ決定セシ
  數量ニ基キ、各業者間ニ於テ如何ニシテ之
  ヲ分擔シ、圓滑ニ生產ヲ遂行スルカト云フ
  コトハ、當該團體ニ於テ調査シ決定スル、
  價格ニ付テハ政府ガ最後ノ決定ヲ爲ス、又
  各統制團體ハ其ノ所屬ノ企業者又ハ各團體
  ニ對シ、綺制團體ノ機能ヲ發揮スル意味ニ
  於テ强力ナル指導權ヲ持タネバナラヌ、
  之ニ付テハ或程度迄總動員ニ基ク勅令ニ於
  テ規定スル必要ガアル事項モ生ジテ來ルト
  思フガ、大體ニ於テハ當該團體ノ統制規定
  ニ於テ、其ノ組織員ノ行爲ニ關スル規律ヲ
  定メ得ルト考ヘテ居ル、次ニ生產擴充ニ關
  スル物資、勞務、資金ノ供給ニ付テハ其
  ノ當該產業ニ關スル限リ、其ノ團體ハ其ノ
  實施上ノ責任ヲ持チ、而シテ物資、勞務、
  資金ニ付テハ、他ノ部門ト橫ノ調整ヲ爲ス
  コトガ必要デアル、是ハ政府自ラ調整ニ當ル
  コトガ必要ト考ヘル、此ノ意味ニ於テソレ
  ゾレノ計畫ヲ政府ガ立ツルコトニナルト考
  ヘテ居ル、次ニ物動計畫ヲ決定スルニ當リ
  統制團體ノ首腦部ヲ如何ニ關與セシムルカ
  トノ點ニ付キマシテハ物動計畫ノ實行性
  ヲ確保スル點ニ於テ、統制團體ノ首腦部ニ
  其ノ調査立案ヲ委囑シ、出來ル限リ之ヲ參考
  トシテ物動計畫ヲ決定スル要ガアル故ニ、
  當該產業ニ關スル限リ、物動計畫ニ關スル
  準備的數字ハ之ヲ知ラシムル必要ガアル、
  次ハ重要產業團體ニ對スル統制ノ具體的實
  況ニ付キマシテ、特ニ鐵、石炭、非鐵金屬
  ニ村テノ現狀及將來ノ計畫ニ付テノ質疑應
  答ガアッタノデアリマスガ、餘リ詳細ニ亙
  リマスカラ是ハ省略致シマス、次ハ大政翼
  贊會ト憲法第四條トノ關係ニ付テノ質疑デ
  アリマス、質疑者ハ此ノ關係ニ付キマシテ
  今少シ明瞭ニシテ置キタイ點ガアル故ニ質
  疑スルノデアル是ハ旣ニ言明ヲ得タル同
  會ノ改組刷新ニ影響ヲ及スモノガアルト考
  ヘルカラ質問スルノデアルト前提セラレマ
  シテ、大政翼賛會ガ何等法令ニ依ラズシテ
  統治權ノ行使ニ關與シテ居ルト云フコト
  ハ、憲法第四條ニ違反スルモノナラザ
  ルカトノ質疑ニ對シ、政府ハ、違反ス
  ルモノニ非ズトシテ、其ノ理由トシテハ大
  政翼贊會ハ唯政府ノ事實上ノ補助機關ノ意
  味デ關與スルニ過ギナイ、帝國議會ガ統治
  權行使ニ協賛ヲ與フルト云フコトトハ違ッ
  テ何等法的ノ效果ハ少シモナイノデアル、
  全然事實上ノ唯作用ニ止マルノデアルカラ
  統治權行使ニ關與スルモ憲法第四條ニ違反
  スルモノデナイト云フ說明デアルガ、質疑
  者ハ、憲法第四條ハ統治權ノ行使ハ必ズ憲
  法ノ條規ニ依ラナケレバナラヌト云フコト
  デアルカラ、或機關ヲ設ケテ統治權ノ行使
  ニ關與セシムル場合ハ憲法ニ根據ヲ持ツ法
  令ニ依ラネバナラヌ、此ノ憲法ニ根據ヲ持
  ツ法令ニ依ラネバナラヌト云フコトハ其
  ノ統治權ノ行使ニ關與スル效果ガ法的ノ效
  果ヲ生ズルヤウナ場合ニ限ルノデアッテ、何
  等法的ノ效果ヲ生ゼズ、唯事實上ノ作用ニ
  影響ヲ及スニ過ギナイ場合ハ必ズシモ憲法
  ニ根據ヲ持ツ法令ニ基カナクテモ宜シイト
  云フ趣旨デアルカト云フ意味ノ質疑デアリ
  マシタ、之ニ對シテ政府ノ答辯ハ統治權
  ノ行使ハ憲法ノ條規ニ依ッテ之ヲ行フ、大政
  翼贊會ノ行動ハ所謂職分奉公、萬民翼贊デ
  アル、其ノ翼贊ト云フコトハ廣イ意味デ憲
  法ノ條規ニ從フ、翼贊ハ最モ重要ナルモノ
  デアルガ、萬民翼贊ハ總テ國民ガ其ノ職分
  ニ依リ翼贊シ奉ルト云フ意味デ、大政翼贊
  會ハ此ノ方面ノコトニ關與スル、此ノ方面
  ニ於テハ固ヨリ之レ根據ヲ持ツ法規ヲ要シ
  ナイ、質疑者ハ更ニ進ンデ、大政翼贊會ガ
  如何ナル行爲ヲ爲スカハ今暫ク措キ、統治
  權ノ行使ニ付大政翼贊會ヲ政府ガ利用セラ
  レル、廣キ意味ニ於テ矢張リ統治權行使ニ
  關與ヲ持チ、或役割ヲスルト云フコトヲ假
  ニ前提トシテ、其ノ役割ノ範圍ガ唯事實上
  ノ範圍ニ止ッテ、法的ノ效果ヲ生ジナイモノ
  デアルナラバ憲法第四條ニ違反セズトノ意
  見ナリヤ、之ニ對シテ政府ハ、關與ト云フ
  意味ハ統治權行使ノ一ツノ形式ニナルソ
  レハ法令ニ定メタル機關デナケレバ出來ナ
  イ唯事實上是ハ事實ニ於テ影響ノアルコ
  トハ、是ハドウ云フ事柄デアリマシテモ、
  色々世ノ中デ議論スルコトモ是モ事實上或
  ハ起ルカモ知レマセヌ、其ノ意味ノ統治權
  行使ニ參與スルト云フコトハ考ヘテ居ラヌ、
  大政翼賛會ハ統治權行使ノ內容ニナル形式
  ヲ踏ムト云フコトデハ是ハ性質ニ反スル
  ト思フト云フ答辯デアリマシタ、質疑者ハ
  此ノ政府ノ答辯ハ諒解シ兼ネル旨ヲ述ベラ
  レテ、更ニ政府ハ八百萬圓ヲ費シ大政翼贊
  會ヲ設ケラレルト云フコトハ、是ハ廣イ意
  味ニ於テ政治ノ便宜ニ出ヅル、卽チ國務遂
  行ノ便宜ニ供セラルヽト云フコトハ疑ナイ
  コトデアル、而シテ此ノ便宜ニ供スルト云
  フコトガ、是ガ何等カ大政翼贊會ノ協力ガ
  ナケレバ國務ノ或部分ガ法律上行ヘナイト
  云フヤウナ法的ノ效果ガアルナラバ、憲法
  第四條ニ依ッテ何等カ法律上ノ根據ガナケレ
  バナラヌ、之ニ反シ此ノ大政翼贊會ノ强力
  ナ法的ノ效果ヲ生ゼズ、唯事實上ノ行爲ヲ
  生ズルニ止マルノデアレバ、是ハ何等憲法第
  四條ニ反スル所デナイト云フノデアルカト
  云フ質問デアリマス、之ニ對シ結局統治權行使
  ノ內容ニナリマセヌモノデアリマシテモ、是ハ
  國家統治權ノ行使ニ影響ヲ及スノデハゴザ
  イマセヌ、是ハ社會ニ於ケル各種ノ團體ノ行
  動ニ付キマシテモサウ云フコトガアラウト
  存ジマス、是ハ差支ナイト申シタノデアリ
  マス、質疑者ハ自分ノ問フ所ニ對シ、明瞭ニ
  答辯ナキ旨ヲ述ベラレテ、是以上質疑應答
  ヲ繼續スルコトノ無益ナルヲ述べ、以後兩
  樣ノ意味ニ於テ自分ハ質疑ヲ繼續スルト述
  ベラレテ、只今迄ノ政府ノ答辯ニ依レバ、
  大政翼贊會ハ政府ノ政策、其ノ他國務ノ遂
  行ニ協力スルノデアルガ、併シナガラ其ノ
  協力ハ何等法律上ノ效果ハナイノデアッテ、
  唯事實上ノ效果、作用ガアルノミデアル、
  其ノ點ガ帝國議會ノ場合ト大變違フ、從ッテ
  何等法律上ノ根據ヲ必要トセズ、此ノ解釋
  ニ付キマシテハ)質疑者ハ特ニ法制局長官
  ノ同意ヲ得ラレテ質疑ヲ繼續セラレタノデ
  アリマス、而シテ質疑者ハ斯クノ如キ解釋
  ヲ採ルコトハ、憲法第四條ヲ全然無意味ハ
  スルモノナリト思フ、法律上何等カノ效果
  ヲ生ズルト云フ爲ニハ其ノ行爲ガ何等カ
  法令ニ基イタ行爲デナケレバ絕對ニアリ得
  ナイト考ヘル、單純ナ法令ニ依ル事實上ノ
  行爲ガサウ云フ法的ノ效果ヲ生ズルコトハ
  ナイノデアル、故ニ若シ法的ノ效果ヲ生ズ
  ル場合ニノミ憲法第四條ガ働クノデアルト
  シマスレバ、換言スレバ統治權ノ行使ニ關
  シ、法令ニ基イタ行爲ヲスルニハ法令ニ依
  ラナケレバナラヌト云フ意味ニナル法的
  ノ效果ヲ生ズルノハ法令ニ基イタ行爲ニシ
  ,テ初メテ法的ノ「效果ヲ生ズルノデアルカラ、
  若シ法的ノ效果ヲ生ズル場合ノミガ憲法
  ノ條規ニ依ルコトヲ要求スルモノデアルト
  云フコトニナレバ法令ニ依ッタ行爲ハ法令
  ニ依ラネバナラヌト云フコトト同ジコトニ
  ナッテ、憲法第四條ハ全然無意味トナルト考
  八從ッテ憲法第四條ハ決シテサウ云フ
  意味デハナイ、法的效果ヲ生ジヤウト生ジ
  マイト、ソレハ問フ所デハナイ、苟クモ統
  治權ノ行使ニ關係スルモノアルナラバ、其
  ノ行使ノ全體ガ法令ニ基カナケレバナラ
  又、唯事實上ノ效果ヲ生ズルコトデアッテ
  モ、苟クモ統治權ノ行使デアッタナラバ
  法令ノ規定ニ根據シナケレバナラヌト云フ
  コトガ憲法第四條ノ趣旨デアルト自分ハ考
  ヘルガ如何ト云フ質疑デアリマス、此ノ質
  疑ニ對シ、法制局長官ハ左ノ如ク答辯ヲサ
  レテ居リマス、此ノ問題ハ大政翼贊會ガ如
  何ナルコトヲスルノデアルカト云フコトヲ
  頭ニ入レテ考ヘナイト說明ガ出來ナイ、大
  政翼贊會ノ目的ハ一億一心、職域奉公ノ國
  民組織ヲ作リ上ゲルト云フコトガ大政翼贊
  運動ノ眼目デアル、此ノ國民運動發展ノ
  中心ガ必要デアル、是ガ大政翼贊會デアル、
  卽チ戰時施設ガ全國隅々迄行渡リ、其ノ效
  果ヲ作リ出ス所以デアル、政府デ色々ノ施
  設ヲスル場合ニ民間ノ方デハ臣道實踐體制
  ヲ作リ出スコトニ色々働キヲスルト云フコ
  トハ卽チ法的效果ヲ伴フ行爲デハナイノデ
  アッテ、斯クノ如キモノヲ國民運動トスルコ
  トハ少シモ差支ナイ、其ノ意味ニ於テ大政
  翼贊會ハ其ノ働キノ上カラ見テ法律上差支
  ナイト思フ、是ヨリ質疑者ハ法制局長官ト
  ノ間ニ大政翼贊會ノ行爲ニ關シ大政翼贊會
  ノ政策樹立ニ關シ、其ノ政治性ニ付テ議論
  ガ繰返サレマシタ、政府ハ終始大政翼贊會
  ノ政策樹立ハ會ノ本旨ニアラザル旨ヲ繰返
  サレタニ對シマシテ、質疑者ハ大政翼贊會
  ノ現況ニ言及セラレマシテ、中央協力會
  議ニ於ケル政策局長等ノ演說ヲ引用セラレ、
  頗ル强度ノ政治性ヲ有スルコトヲ現實的事
  實ニ於テ主張サレタルニ對シマシテ、政府
  ハ大政翼贊運動規約第一條、「本運動ハ全國
  民ノ運動ニシテ、之ヲ大政翼賛運動ト稱ス」
  云々ト云フガ如キ頗ル抽象的ノ觀點ヨリ之
  ニ應酬セラレマシタ、續イテ再ビ質疑者ハ
  大政翼贊會ノ本分ナラズト雖モ政策ヲ樹立
  シ政府ニ進言スル場合ニ於ケル質疑者ト政
  府トノ間ニ其ノ觀念ニ付テ議論ガ繰返サレ、
  政府ハ飽ク迄、大政翼贊會ノ〓究樹立セル
  政策ハ單ニ政府ノ參考ニ止マルト主張セラ
  レ、質疑者ハ、政府ノ言フガ如ク無關心ナモ
  ノデアルナラバ、政府ハ何ノ要アッテ之ヲ用ユ
  ルカ、ソンナコトデハ初メヨリ國費ヲ以テ措置
  スベキ價値ノナイモノデアル、政府ノ答辯ニハ
  同意シ兼ネルト云フ意味ヲ終始表示セラレマ
  シタ、又地方協力會議ハ各府縣ニ支部ヲ設
  ケテ居ル、其ノ支部長ト地方長官トノ關係
  ニ付テハ憂慮ニ堪ヘナイ、地方長官ハ其ノ
  地方ヲ陛下カラ御預リシタ氣持デ以テ職
  務ニ從事シテ居ルノデアル、然ルニ其ノ地
  方ノ一億一心、職域奉公ノ運動ガ地方長官
  ノ手ニ依ラズ、又町村長モ信賴セラレザル
  建前ニ於テサウ云フ運動ガ行ハレル現狀ニ
  於テ如何ニシテ地方行政ノ圓滑ヲ期シ得ベ
  キデアルカ、又大政翼贊會ハ生活指導部ヲ
  作ッテ種々良イコトヲシテ居ラレル、併シ其
  ノ中ニ挺身隊ト云フヤウナモノヲ組織シ、
  之ヲ訓練シテ居ラレル、是ハ或ハ私生活ニ
  迄立入ルガ如キコトガアレバ將來警察トノ關
  係ニ於テ非常ニ憂慮スベキ狀態ニ立到ルト
  思フガ如何ト云フヤナ質問デアリマシタ
  是等ニ對シテハ政府ハ何レモ質疑者ト憂慮
  ヲ共ニセラレマシテ、適當ニ之ヲ處置スル
  ト云フヤウナ御答辯デアリマシタ、其ノ他
  追加豫算案中ニ多額ノ豫備金ガ計上セラレ
  テアル件ニ付テノ質疑、都市防空ニ關スル
  質疑、殊ニ火災防止ニ關シテ又防空資材ニ
  對スル特殊取扱ニ關スル質疑、國策會社ガ
  不成績デアル、ソレニ對スル政府ノ所說、
  考外國爲替損失補償ニ關スル質疑、特別
  都制ニ關スル質疑等ガアッタノデアリマスガ、
  是ハ速記錄ニ讓リマス、是ヨリ希望決議案
  ニ付テ申上ゲマス、希望決議案ノ案文ヲ朗
  讀致シマス
  大政翼贊會ハ其性格ニ鑑ミ之レニ適應ス
  ルヤウ速ニ部局等ノ機構ヲ改廢シ人的構
  成ニ留意シ其純化ヲ計リ以テ翼贊運動ノ
  方向ヲ明瞭ニシ又其行動ニ就テハ徒ラニ
  經濟組織及國民ノ私生活ニ對スル脅威壓
  迫ヲ加フルカ如キコトナカラシメンコト
  ヲ望ム
  提案者ハ此ノ希望決議ニ付キマシテ下ノ
  如キ趣旨ヲ演說セラレマシタ、自分ハ大
  政翼贊會ニ對シ徒ニ非議、批判ヲスル
  モノデハナイ、又政府ニ對シテ勿論、反對
  攻擊ヲスルモノデハナイ、此ノ非常時ヲ克
  服センガ爲ニ完全ニ翼贊運動ガ行ハレテ行
  クト云フコトヲ希望スルモノデアル而シ
  テ此ノ希望決議ノ內容ハ自分個人ノ意思ノ
  ミデナクシテ、大體數日來豫算會ニ現
  ハレタル質疑應答ノ中ニ現レタル其ノ趣
  旨ヲ要約シタル積リデアル、又大政翼贊會
  ハ其ノ設立當時外界ノ批判ヲ嚴格ニ避ケラ
  レタ警保局長ノ通牒等ガ出テ居ッテ、嚴格
  ニ批判ヲ避ケラレタ其ノコトガ今日累ヲ
  爲シテ居ルノデハナイカト思フ、又議會ニ
  於テ種々大政翼賛會ノコトガ論議サレテ居
  ル中ニ翼贊會ノ言動ガ聊カ不謹愼ノ感ガア
  ルヤウデアル、現ニ有馬總長ハ議會ニ於テ
  如何ナルコトガ論議サレヨウトモ、翼贊會
  ハ翼贊會ノ行クベキ途ヲ行クノデアルト云
  フコトヲ言ウタト云フコトガ、或雜誌ニ出
  テ居ッタト云フコトデ、衆議院ニ質問ガ出テ
  居ル、之ニ對シ內務大臣ハ、政府ハ政府ノ
  方針ヲ以テ監督セラレルト云フノデアルカ
  ラ、間違ハナイコトト自分ハ信ズル、如何デ
  アラウトモ、政府ト議會、翼贊會ト云フ三
  ツヲ竝ベテ、之ヲ圖解シテ論說シテ居ルヤ
  ウナモノヲ屢〓、見ルガ、議會デ翼賛會ノコ
  トヲ論議シテ居ル間ニ、斯クノ如キコトガ
  其ノ首腦部ノ間カラ出ルト云フコトハ、是
  ハ憂慮ニ堪ヘナイ、故ニ自分ハ議會ニ於ケ
  ル言論ヲ政府ヲ通ジ、又世間ニ此ノ議會內
  ノ論議ヲ明カニシタイト云フコトガ、此ノ
  希望決議ノ趣旨デアルノデアル、希望決議
  ノ內容ヲ詳細ニ述ベル必要ハナイガ、其
  ノ大要ハ大政翼賛會ハ政策ヲ樹テ、之ヲ實
  行スルモノデハナイ、下意上達ノ場合モ參
  考ニ供スルニ止ル、故ニ政府ノ補助機關ナ
  リト云フノデアルガ、自分ハ大政翼贊會ノ
  議會部ガ設立サレル時ニ、其ノ御世話ヲシ
  タノデアルガ、其ノ時ドウモ議會トノ關係
  ニ付テハ明瞭シ兼ネテ居ッタ、畢竟種々ノ政
  策ガ議會ニ掛ラナイ前ニ翼贊會デ議案等ヲ
  寮議スルト云フコトハ、何カ疑義ガアリサ
  ウニ其ノ時モ考ヘ、今尙自分ハ考ヘテ居
  ル、又翼贊會ノ政策局及ビ企畫局ニ付テモ
  自分ハ疑義ヲ解キ得ナイ、政府ハ、併シ憲法
  ハ嚴トシテ存在シ、違憲ナカラシメルト云
  フノデアルカラ、必ズ是等ニ付テハ改廢セ
  ラルヽモノト自分ハ信ズル、ドウカ將來憲
  法上ノ疑義ヲ生ズルコトガナイヤウニ、又
  法律上ノ取締等ガ起ラザルヤウニ善處セラ
  レムコトヲ望ム、政府ハ大政翼贊會ノ政策
  ハ參考ニスルト言ハレルガ、併シ大政翼贊
  會ノ政策ハ、國民ノ心理ニ映ルコトハ頗ル
  重大デアルト思フ、翼賛會ノ首腦部ハ何ト
  カ深甚ノ注意ヲ拂ッテ貰ヒタイ、又現實ノ政
  治ニ影響ヲ及サナイト言フガ、大政翼贊會
  ハ政治的ニ高度ニ進メラレ、又其ノ會ハ非
  常ニ强大ニナレバ其ノ聲モ大ニナリ、之ヲ宣
  傳スル場合ニ於テハ政治ニ影響スルコトガ
  少ナイト思フ、此ノ點ハ自分ハ今尙サウ感
  ジテ居ル、ドウカ斯クノ如キ感ジガ起ラナ
  イヤウニ改組シテ戴キタイ、又大政翼贊會
  ノ構成員ヲ純化セラレタイ、隨分イカガハ
  シイト云フカ、或種ノ運動ヨリ轉向セラレ
  夕人、又ハ其ノ疑アルヤノ人モ中ニアル、
  會ノ構成賞時新人ヲ糾合サレタ、新人ハ口
  ヲ開ケバ革新ヲ唱ヘル、革新ハ必要デアル、
  然レドモ求メテ革新ヲ叫ブ必要ハ何處ニア
  リヤ、舊人ト新人ノ差ハ何處ニアルノ
  カ、自分ハ臣道實踐、職域奉公ハ必ズシモ
  新人ニ非ズト雖モ之ニ専念セラルヽコト
  ト思フ、又求メテ新人ヲ入レムトスルガ爲
  二、往々ニシテ疑アル人ヲ入ルヽコトニナ
  ル、故ニ純化ニ付テモ此ノ點ニ付テ十分御
  留意ヲ願ヒタイ、次ハ私的生活ノ脅威、壓
  迫ガ起リ易イト思フ、政府ハ節米、勤儉貯
  蓄ヲ奬勵シテ居ラレル、翼贊會ノ生活指導
  部ガ或ハ行キ過ギテ、老人、子供ハ一日一
  食デ宜イトカ云フヤウナ行キ過ギタコトヲ
  サレルコトヲ心配スル、又サウ云フ事例ガ
  屢〓アルノデアル、或個人ガ山ヲ賣ル契約ヲ
  シタガ、村民ガ其ノ下草ヲ採ル爲ニ、公益
  優先ノ理念ニ依ッテ山林ノ賣買ヲ中止シナ
  ケレバナラナイト云フヤウナ事例ガ起ッテ
  居ルノデアル、私的警察權ノ如キモノガ或
  ハ恐ルベキ結果ヲ生ズルノデハナイカト云
  フ自分ハ憂ヒヲ持ツ、何卒宜シク斯ウ云フ
  コトノナイヤウニ取締ヲ願ヒタイ、又翼贊
  會ノ豫算ハ髓分餘裕ガアルヤウニ考ヘル、
  例ヘバ會場ノ如キモ、東京會館ヲ二十四萬
  圓デ以テ借リテ居ラレル、同館ハ東京市
  民ノ總テノ階級ノ者ガ之ヲ利用シテ居ッタ所
  デアル、何モ此ノ堂々タル建物ノ必要ハナ
  イノデアラウ、又金錢上之ヲ借リルコトガ
  利益デアルトシテモ、國民ノ心理ニ影響ス
  ルコトハ決シテ宜シクナイト思フ、本部ガ
  斯クノ如キ堂々タル構ヘヲスルナラバ支
  部モ亦必ズ之ニ做ッテ行クデアラウ、臣道實
  踐職域奉公ノ運動ハ、願ハクバ手辨當デ
  働クヤウナ御方ニ御願ヒシタイト思フ又
  有爲ノ人士ニシテ喜ンデ御務メスル人ガア
  ルト思フ自動車ノ使ヒ拂ヒノ如キモ大分
  大マカノヤウニ聞イテ居ル、何トカ斯クノ
  如キコトニ付テハ監督ヲシテ戴キタイ、又
  疑ハシキ人ハ之ヲ純化シテ、採用ノ場合ニ
  於テハ適當ノ方法ヲ立テテ採用スルヤウナ
  コトニ願ヒタイ、又此ノ希望ハ成ルベク
  ハ此ノ議會開會中ニ政府ガ適當ニ處理セラ
  レムコトヲ自分ハ望ムノデアル之ガ實ニ
  一億一心ノ實ヲ擧グル所以デアルト自分ハ
  考ヘルノデアル最後ニ提案者ハ、昨今言
  論ノ自由ガ非常ニ壓迫セラレテ居ルヤウデ
  アル是ハ政府ノ機密、軍機等ニ關スルコ
  トハ勿論デアルガ、然ラザル部分ニ於テモ
  非常ニ壓迫サレテ居ルヤウデアル、大政翼
  贊會ノ論議ノ如キハ政府モ之ヲ聽カレル
  方ガ宜シイノデハナイカ、又出來ルダケ國
  民ニ之ヲ知ラシメルコトガ政治ノ要諦ト思
  フ、近衞總理ハ過般各種ノ會合ニ於テ時局
  ヲ詳シク述ベラレタ、是ガ國民及ビ議會ニ
  非常ニ影響ヲ與ヘテ、皆政府ノ努力ニ付テ
  發奮シテ居ル、議會モ此ノ一月ヲ餘シテ終
  了セムトスルヤウナ狀態デアル、顯ハクバ今
  後モ法局ノ推移、國際情勢ノ變化等ハ國民
  ガ關心ヲ持ツモノデアルカラ、機會アル每
  ニ國民ニ知ラシメルヤウニシテ戴キタイ
  國民ト共ニ難局ヲ突破スルヤウニセラレタ
  イ、民ト共ニ憂ヒ、民ト共ニ進ムト云フ念
  ヲ以テ進ンデ行カレタト云フ趣旨ノ御演說
  ガアリマシタ、之ニ對シテ贊成ノ演說ガアリマシ
  テ、其ノ趣旨ハ大體ニ於テ大政翼贊會ハ其
  ノ設立ノ當初ニ於ケル馨明バ非常ニ宜カッタ
  ノデアル、自分モ非常ニ之ニ贊成シタノデ
  アル併シナガラ出來タ後ノ動キハ非常ニ
  了解ニ苦シム、幹部、構成員ノ色々ノ機會
  ノ言動ハ社會ノ疑惑ヲ起シ、矯激ナルモノ
  ガアリ、寒心ニ堪ヘヌ、從ッテ世間デハ新體
  制運動ニ付テ種々ノ批判ヲ抱クヤウニナリ、
  頗ル不安ト不滿ガ滿チテ居ル、高度國防國
  家ノ要諦ハ國民ノ和ニアル併シナガラ不
  幸ニシテ今日ハ果シテ億兆一心ト云プ如キ
  實ヲ擧ゲテ居ルカドウカ、却テ一部ニ不平
  不滿ノ感ガアルト思フ、是ハ早ク近衞公ノ
  大政翼贊會設立當時ノ聲明ニ戾ッテ、而シテ
  國民ヲ早ク一致團結シテ此ノ難局ヲ破突ス
  ルヤウニジテ戴キタイト云フ趣旨ノ陳述デ
  アリマシタ、前ニ申シマシタ如ク、此ノ決
  議案ハ全會一致ヲ以テ可決致シタノデアリ
  やっく、ソレニ對シテ平沼内務大臣ハ政府ヲ
  代表シテ、下ノ如キ御言明ガアリマシタ、
  「只今ノ御決議ニ對シマシテハ政府ニ於キマ
  シテモ其ノ御趣旨ニ鑑ミマシテ、今後ト雖
  モ益〓大政翼贊會ノ監督ニ意ヲ用ヒマシテ、
  萬遺憾ナキコトヲ期スル所存デアリマス」、
  之ヲ以テ私ノ報〓ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=90

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• 091・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　是ヨリ討論ニ移
  リマス菅澤君ハ通〓ガゴザイマシタガ、
  御席ニ見エマセヌカラ、通〓ノ效ハ失ハレ
  タモノト認メマス、別ニ御發言モナケレバ
  是ヨリ採決ヲ致シマス、先ヅ問題ニ供シマ
  スルノハ、昭和十五年度歲入歳出總豫算追
  加案第三號及昭和十六年度歲入歲出總豫算
  追加案第一號ト御承知ヲ願ヒマス、兩豫算
  案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
  〔起立者多數〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=91

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• 092・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　過半數ト認メマ
  ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=92

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• 093・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　次ニ問題ニ供シ
  マスルノハ、昭和十五年度歲入歲出總豫算
  追加案第二號、昭和十五年度各特別會計歲
  入歲出豫算追加案特第一一號、昭和十五年度
  特別會計歲入歳出豫算追加案特第三號、昭
  和十六年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
  特第一號、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契
  約ヲ爲スヲ要スル件追第一號、臨時陸軍材
  料資金豫算追加案臨材第一號ノ六案デアリ
  やっ、是等ノ各豫算案ハ豫算委員長報告通
  リデ御異議ハゴザイマセスカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=93

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• 094・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=94

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• 095・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平頼壽君)　衆議院ヨリ囘付
  ノ刑法中改正法律案ヲ此ノ際議事日程ニ追
  加シテ議題ト爲シ、會議ヲ開クコトニ御異
  議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=95

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• 096・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=96

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• 097・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　刑法中改正法律
  案、政府提出、衆議院囘付、會議
  刑法中改正法律案
  右貴院ノ送付ニ係ル政府提出案本院ニ於
  テ修正議決セリ因テ議院法第五十五條ニ
  依リ及囘付候也
  昭和十六年二月二十七日
  衆議院議長小山松壽
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  衆議院囘付案ト本院ヨリ同院ニ送付シタ
  ル案ト比照シ衆議院ノ修正ニ係ル部分ノ
  ミヲ印刷シ其ノ修正ナキ部分ハ印刷ヲ略
  ス小字及-ハ衆議院ノ修正ナリ
  第四條第三號中「第百九十七條ノ罪」ヲ
  三
  「第百九十七條乃至第百九十七條ノ四ノ
  罪ご依頼/
  第九十六條ノ三僞計若クハ威力ヲ用ヒ
  又ハ談合ニ依リ公ノ競賣又ハ入札ノ公
  正ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタル者ハ二年
  以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處
  ス
  公正ナル價格ヲ害スル目的ヲ以テ談合シタル者亦同シ
  第百九十七條ノ四公務員其地位ヲ利用
  シ他ノ公務員ノ職務ニ屬スル事項ニ付
  幹旋ヲ爲シ又ハ爲シタルコトニ關シ賄
  賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シ
  タルトキハ三年以下ノ懲役ニ處ス
  四
  第百九十七條ノ五犯人又ハ情ヲ知リタ
  ル第三者ノ收受シタル賄賂ハ之ヲ沒收
  ス其全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハ
  サルトキハ其價額ヲ追徵ス
  第百九十八條第百九十七條乃至第百九
  三
  十七條ノ四ニ規定スル賄賂ヲ供與シ又ハ
  其申込若クハ約束ヲ爲シタル者ハ三年以
  下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=97

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• 098・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　別ニ御發言モナ
  ケレバ採決ヲ致シマス衆議院囘付案ニ同
  意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  〔起立者無シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=98

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• 099・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　起立者ナシト認
  メマス、仍テ衆議院ノ囘付案ニ同意ヲセザ
  ルコトニ相成リマシタ、就キマシテハ議院
  法第五十五條ニ依リ兩院協議會ヲ開クコト
  ヲ求メネバナリマセヌ、而シテ兩院協議委
  員ヲ議院法第五十六條ニ依リマシテ選擧セ
  ネバナリマセヌ御異議ガナケレバ此ノ際
  議事日程ニ追加シテ兩院協議委員ノ選擧ニ
  移リタイト存ジマス御異議ハゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=99

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• 100・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=100

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• 101・戸澤正己

  ○子爵戸澤正己君　兩院協議委員選擧ニ付キマシテハ
  數ヲ十名トシ其ノ指名ヲ議長ニ一任スルノ
  動議ヲ提出致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=101

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• 102・秋田重季

  ○子爵秋田重季君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=102

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• 103・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　ニ御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=103

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• 104・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　メマス、
  サセマス
  〔佐藤書記官朗讀〕
  刑法中改正法律案兩院協議委員
  公爵鷹司信輔君
  子爵前田利定君
  中川健藏君
  內田重成君
  男爵奧田剛郞君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=104

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• 105・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　ス
  〔佐藤書記官朗讀〕
  本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
  昭和十四年度第一豫備
  金支出ノ件
  昭和十四年度特別會計
  第一豫備金支出ノ件
  昭和十四年度特別會計
  豫備費支出ノ件
  昭和十五年度第二豫備
  金支出ノ件
  昭和十五年度特別會計
  第二豫備金支出ノ件
  昭和十五年度特別會計
  豫備金外豫算超過及豫
  算外支出ノ件
  御異議ナイト認
  只今議題トナリマシタ
  委員ノ
  戶澤子爵ノ動議
  御異議ナイト認
  委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀致
  伯爵酒井忠正君
  織田萬君
  河原田稼吉君
  男爵矢吹省三君
  山岡萬之助君
  報告ヲ致サセマ
  承諾ヲ求ム)
  ル件

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007603242X02019410227&spkNum=105

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• 106・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　只今御報〓ヲ致
  シマシタ昭和十四年度第一豫備金支出ノ
  件、昭和十四年度特別會計第一豫備金支出
  ノ件、昭和十四年度特別會計豫備費支出ノ
  件、昭和十五年度第二豫備金支出ノ件、昭和
  十五年度特別會計第二豫備金支出ノ件、昭
  和十五年度特別會計豫備金外豫算超過及豫
  算外支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、是等ノ六件
  ヲ此ノ際議事日程ニ追加シ、一括シテ議題
  ニ致シ會議ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマ
  セヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 107・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　御異議ナイト認
  メマス、河田大藏大臣
  昭和十四年度第一豫備金支出ノ件
  昭和十四年度特別會計第一豫備金支出
  ノ件
  昭和十四年度特別會計豫備費支出ノ件
  昭和十五年度第二豫備金支出ノ件
  昭和十五年度特別會計第二豫備金支出
  ノ件
  昭和十五年度特別會計豫備金外豫算超
  過及豫算外支出ノ件
  右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ
  因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和十六年二月二十七日
  衆議院議長小山松壽
  貴族院議長伯爵松平賴壽殿
  〔各案ハ浩瀚ニ付揭載ヲ略ス〕
  〔國務大臣河田烈君演壇ニ登ル〕

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• 108・河田烈

  ○國務大臣(河田烈君)　只今追加上程セラ
  レマシタ昭和十四年度第一豫備金支出ノ
  件、外五件ニ關スル事後承諾ヲ求ムル件ニ
  付、簡單ニ御說明申上ゲマス、先ヅ昭和十
  四年度一般會計第一豫備金ノ豫算額ハ三千
  萬圓デゴザイマスガ、昭和十四年勅令第六
  百三十一號ニ依リ、第一豫備金ヨリ補充致
  シマシタ主ナル事項ハ軍事扶助費、警察費
  連帶支辨金等デゴザイマシテ、其ノ總額ハ
  二千九百九十七萬餘圓デゴザイマス、各特
  別會計ニ於キマシテモ、其ノ第一豫備金又
  ハ豫備費ヨリ豫算超過ノ支出ヲ爲シタルモ
  ノガゴザイマス、次ニ昭和十五年度一般會
  計第二豫備金ノ豫算額ハ八千萬圓デゴザイ
  マスルガ、其ノ支出ノ主ナル事項ヲ擧ゲマ
  スレバ、食糧增產應急施設諸費、臨時米穀
  管理施設費、企畫院假廳舍其ノ他火災應急
  竝ニ復舊及新營費、外各種災害ニ關スル經
  費、農產物其ノ他販賣斡旋統制應急施設費、
  臨時物資販賣統制斡旋費、轉廢業對策施設
  諸費、臨時家族手當、〓員臨時家旅手當補
  助等デゴザイマシテ、其ノ總額ハ七千九
  百九十九萬餘圓デゴザイマス、各特別會計
  ニ於キマシテモ、其ノ第二豫備金ヲ以テ豫
  算外ノ支出ヲ致シタルモノト、豫備金外ニ於
  テ其ノ歲入金又ハ國庫剩餘金ヲ以テ豫算超
  過又ハ豫算外ノ支出ヲ致シタルモノガゴザ
  イマス、何卒御審議ノ上速カニ御承諾ヲ與
  ヘラレムコトヲ希望致シマス

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• 109・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　別ニ御質疑ガナ
  ケレバ特別委員ノ指名ヲ朗讀致サセマス
  〔佐藤書記官朗讀〕
  昭和十四年度第一豫備金支出ノ件外五件
  (承諾ヲ求ムル件)特別委員
  公爵山縣有道君子爵八條隆正君
  犬塚勝太郞君河井彌八君
  男爵小池正晁君三浦新七君
  松村義一君金杉英五郞君
  佐々木長治君

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• 110・松平頼壽

  ○議長(伯爵松平賴壽君)　明日ハ午後一時
  ヨリ開會致シマス、議事日程ハ決定次第彙
  報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ
  散會致シマス
  午後六時三十二分散會

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