1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十六年二月二十日(木曜日)
午後一時九分開議
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議事日程 第十五號
昭和十六年二月二十日
午後一時開議
第一 刑法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二 治安維持法改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 昭和十四年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第三 昭和十四年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第三 昭和十四年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)
第三 昭和十五年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第三 昭和十五年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第三 昭和十五年度特別會計豫備金外豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
第四 大正十二年法律第五十二號中改正法律案(司法官試補及辯護士の資格に關する件)(手代木隆吉君外九名提出) 第一讀會
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一昨十九日貴族院より受領したる政府提出案左の如し
刑法中改正法律案
一昨十九日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
帝都高速度交通營團法案
日本發送電株式會社法中改正法律案
關税定率法中改正法律案
昭和十二年法律第五十七號改正法律案(鐵の輸入税免除に關する件)
相續税法中改正法律案
臨時利得税法中改正法律案
國税徴收法中改正法律案
關税法中改正法律案
健康保險法中改正法律案
一議員より提出せられたる議案左の如し
高原寒冷地帶開發に關する建議案
提出者
深澤吉平君 松浦周太郎君
開拓地に必要なる醫師養成の機關特設に關する建議案
提出者
中原謹司君 今井新造君
高橋熊次郎君 三宅正一君
大都市塵芥利用の獎勵指導及助成に關する建議案
提出者
助川啓四郎君 濱地文平君
山川頼三郎君 紅露昭君
川崎巳之太郎君 吉植庄亮君
稻田直道君 三宅正一君
(以上二月十八日提出)
人的資源活用に關する建議案
提出者 庄司一郎君
(以上二月十九日提出)
一去十八日近衞内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
食糧管理局事務官 石井英之助
第七十六囘帝國議會農林省所管事務政府委員被仰付
一去十八日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第一部選出請願委員 長野長廣君
第七部選出請願委員 熊谷五右衞門君
一去十八日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第九部選出
決算委員 加藤鐐造君(山崎釼二君補闕)
一去十八日議長に於て選定したる委員左の如し
借地法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外一件委員
吉川吉郎兵衞君 江原三郎君
庄司一郎君 山本粂吉君
青木作雄君 菊地養之輔君
紅露昭君 津倉亀作君
中野治介君 仲井間宗一君
野口喜一君 福田關次郎君
朴春琴君 本田義成君
眞鍋儀十君 牧野賤男君
松永東君 行吉角治君
一去十八日に於ける特別委員の異動左の如し
昭和十二年法律第九十號中改正法律案(米穀の應急措置に關する件)(政府提出)委員
辭任村上元吉君 補闕岩瀬亮君
木材統制法案(政府提出)委員
辭任紅露昭君 補闕松川昌藏君
辭任北勝太郎君 補闕渡邊泰邦君
一昨十九日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第四部選出決算委員 淺沼稻次郎君
一昨十九日委員長及理事互選の結果左の如し
借地法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外一件委員
委員長 吉川吉郎兵衞君
理事
江原三郎君 庄司一郎君
山本粂吉君
一昨十九日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第一部選出
請願委員 仲井間宗一君(長野長廣君補闕)
第七部選出
請願委員 山川頼三郎君(熊谷五右衞門君補闕)
一昨十九日に於ける特別委員の異動左の如し
昭和十六年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出)外一件委員
辭任小野謙一君 補闕青木作雄君
東亞海運株式會社法案(政府提出)外一件委員
辭任岡崎憲君 補闕米窪滿亮君
昭和十二年法律第九十號中改正法律案(米穀の應急措置に關する件)(政府提出)委員
辭任渡邊健君 補闕小畑虎之助君
辭任馬場元治君 補闕平野力三君
木材統制法案(政府提出)委員
辭任松川昌藏君 補闕紅露昭君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=0
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001・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、日程第一、刑法中改正法律案ノ第一讀
會ヲ開キマス-柳川司法大臣
第刑法中改正法律案(政府提出、貴
族院送付)第一讀會
刑法中改正法律案
刑法中左ノ通改正ス
目次中「第七章犯人藏匿及ヒ證憑湮滅
ノ罪」ノ次ニ「第七章ノ二安寧秩序ニ對
スル罪」ヲ加フ
第四條第三號中「第百九十七條ノ罪」ヲ「第
百九十七條乃至第百九十七條ノ四ノ罪」
三段人
第十八條第一項中「一日以上一年以下」ヲ
/
「一日以上二年以下」ニ改メ同條第三項ヲ
左ノ如ク改ム
罰金ヲ併科シタル場合又ハ罰金ト科料
トヲ併科シタル場合ニ於ケル留置ノ期
間八三年ヲ超ユルコトヲ得ス科料ヲ併
科シタル場合ニ於ケル留置ノ期間ハ六
十日ヲ超ユルコトヲ得ス
第十九條第一項第三號中「又ハ之ニ因リ
得タル物」ヲ「若クハ之ニ因リ得タル物又
ハ犯罪行爲ノ報酬トシテ得タル物」ニ改
メ同項ニ左ノ一號ヲ加フ
四前號ニ記載シタル物ノ對價トシ
テ得タル物
同條第二項ニ左ノ但書ヲ加フ
但犯罪ノ後犯人以外ノ者情ヲ知リテ其
物ヲ取得シタルトキハ犯人以外ノ者ニ
屬スル場合ト雖モ之ヲ沒收スルコトヲ
得
第十九條ノ二前條第一項第三號及ヒ第
四號ニ記載シタル物ノ全部又ハ一部ヲ
沒收スルコト能ハサルトキハ其價額ヲ
追徵スルコトヲ得
第二編第五章中第九十六條ノ次ニ左ノ二
條ヲ加フ
第九十六條ノ二强制執行ヲ免ルル目的
ヲ以テ財產ヲ隱匿、損壞若クハ假裝讓
渡シ又ハ假裝ノ債務ヲ負擔シタル者ハ
二年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ
處ス
第九十六條ノ三僞計若クハ威力ヲ用ヒ
又ハ談合ニ依リ公ノ競賣又ハ入札ノ公
正ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタル者ハ二年
以下ノ徵役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處
ス
第百五條ノ次ニ左ノ一章ヲ加フ
第七章ノ二安寧秩序ニ對スル罪
第百五條ノ二人心ヲ惑亂スルコトヲ目
的トシテ虚僞ノ事實ヲ流布シタル者ハ
五年以下ノ黴役若クハ禁鋼又ハ五千圓
以下ノ罰金ニ處ス
銀行預金ノ取付其他經濟上ノ混亂ヲ誘
發スルコトヲ目的トシテ虚僞ノ事實ヲ
流布シタル者ハ七年以下ノ懲役若クハ
禁錮又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第百五條ノ三戰時、天災其他ノ事變ニ
際シ人心ノ惑亂又ハ經濟上ノ混亂ヲ誘
發スヘキ虛僞ノ事實ヲ流布シタル者ハ
三年以下ノ懲役若クハ禁鋼又ハ三千圓
以下ノ罰金ニ處ス
第百五條ノ四戰時、天災其他ノ事變ニ
際シ暴利ヲ得ルコトヲ目的トシテ金融
界ノ攪亂、重要物資ノ生產又ハ配給ノ
阻害其他ノ方法ニ依リ國民經濟ノ運行
ヲ著シク阻害スル虞アル行爲ヲ爲シタ
ル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者ニハ情狀ニ因リ
十萬圓以下ノ罰金ヲ併科スルコトヲ得
第百十六條第一項中「三百圓以下ノ罰金」
ヲ「千圓以下ノ罰金」ニ改ム
第百十七條ノ二第百十六條又ハ前條第
一項ノ行爲カ業務上必要ナル注意ヲ怠
リタルニ因ルトキ又ハ重大ナル過失ニ
出テタルトキハ三年以下ノ禁錮又ハ三
千圓以下ノ罰金ニ處ス
第百五十七條第一項中「二年以下ノ徵役
又ハ百圓以下ノ罰金」ヲ「五年以下ノ徵役
又ハ千圓以下ノ罰金」ニ、同條第二項中
「六月以下ノ〓役又ハ五十圓以下ノ罰金』
ヲ「一年以下ノ徵役又ハ三百圓以下ノ罰
金」ニ改ム
第百九十七條公務員又ハ仲裁人其職務
ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若ク
ハ約東シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ
處ス請託ヲ受ケタル場合ニ於テハ五年
以下ノ黴役ニ處ス
公務員又ハ仲裁人タラントスル者其擔當
スヘキ職務ニ關シ請託ヲ受ケテ賄賂ヲ
收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シタル
トキハ公務員又ハ仲裁人ト爲リタル場
合ニ於テ三年以下ノ黴役ニ處ス
第百九十七條ノ二公務員又ハ仲裁人其
職務ニ關シ請託ヲ受ケテ第三者ニ賄賂
ヲ供與セシメ又ハ其供與ヲ要求若クハ
約束シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ處
ス
第百九十七條ノ三公務員又ハ仲裁人前
二條ノ罪ヲ犯シ因テ不正ノ行爲ヲ爲シ
又ハ相當ノ行爲ヲ爲ササルトキハ一年
以上ノ有期懲役ニ處ス
公務員又ハ仲裁人其職務上不正ノ行爲
ヲ爲シ又ハ相當ノ行爲ヲ爲ササリシコ
トニ關シ賄賂ヲ收受、要求若クハ約束
シ又ハ第三者ニ之ヲ供與セシメ其供與
ヲ要求若クハ約束シタルトキ亦同シ
公務員又ハ仲裁人タリシ者其在職申請
託ヲ受ケテ職務上不正ノ行爲ヲ爲シ又
ハ相當ノ行爲ヲ爲ササリシコトニ關シ
賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束
シタルトキハ三年以下ノ黴役ニ處ス
第百九十七條ノ四公務員其地位ヲ利用
シ他ノ公務員ノ職務ニ屬スル事項ニ付
斡旋ヲ爲シ又バ爲シタルコトニ關シ賄
賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シ
タルトキハ三年以下ノ懲役ニ處ス
第百九十七條ノ五犯人又ハ情ヲ知リタ
ル第三者ノ收受シクル賄賂ハ之ヲ沒收
ス其全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハ
サルトキハ其價額ヲ追徵ス
第百九十八條第百九十七條乃至第百九
十七條ノ四ニ規定スル賄賂ヲ供與シ又
ハ其申込若クハ約束ヲ爲シタル者ハ三
年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ
處ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣柳川平助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=1
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002・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 只今議題トナリ
マシタ刑法中改正法律案ノ提案理由ヲ申述
ベマス
現行刑法ハ施行後相當長年月ヲ經過シ、
其ノ後ノ人心ノ趨向、犯罪ノ情勢、其ノ他
社會ノ實情ニ鑑ミマシテ、急速ニ改正ヲ要
スル部分ガアルノデアリマス、卽チ益〓官紀
ノ肅正及ビ公務ノ執行ノ適切ヲ期シ、又人
き
心ノ惑亂、經濟上ノ混亂ヲ誘發スルコトヲ
防止シ、以テ治安ノ確保ヲ圖ル等ノ爲ニ、
規定ヲ改正又ハ新設スルノ必要ガアルノデ、
本案ヲ提出致シマシタ次第デアリマス、何
卒愼重御容議ノ上速カニ御協賛アランコト
ヲ切望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=2
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003・小山松壽
○議長(小山松壽君) 質疑ノ通〓ガアリマ
ス、順次之ヲ許シマス-庄司一郞君
〔庄司一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=3
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004・庄司一郎
○庄司一郞君 諸君、私ハ只今議題トナツ
テ居リマスル所ノ刑法中改正法律案ニ關シ
マシテ、又關聯ヲ致シマシテ、二、三ノ極
メテ簡單ナル質問ヲ司法當局、竝ニ關聯ノ
アル事項ニ關シマシテハ、內務大臣ニ御伺
ヒヲ申上ゲタイト思フノデゴザイマス
第一ハ我ガ國現下ノ內外ノ情勢ニ卽應サ
レマシテ、國內ニ於ケル所ノ治安ノ保持ノ
爲ニ、政府ハ本議會ニ對シテ色々ナル刑罰
·法規ノ伴フ法律ヲ御提案ニナラレマシタ、
例ヘバ國防保安法案、或ハ治安維持法ノ改
正、總動員法ノ改正、又只今上程サレマシ
タ所ノ刑法中ノ改正等々ノ多クハ、極メテ
刑罰法規ヲ擴大强化サレマシテ、見樣ニ依
リマシテハ、相當嚴罰土義ヲ國民ニ對シテ
執ラレテ居ルヤニ拜察サレルノデアリマス
ルガ、統制經濟ガ强化サレ、統制經濟ニ關
スル所ノ措置法、其ノ他ノ法律ガ施行サレ
マシタル場合、國民ノ多クガ未ダ統制經濟
ニ關スル法律或ハ法令ヲ能ク會得シマセヌ
前ニ、內務省或ハ司法省等ノ檢察檢擧ノ關
係ノ諸君ニ於カレテハ、檢擧第一主義ヲ執
ラレマシテ、徒ラニ國民ヲフン縛ル所ノ、
左樣ナル態度ノミニ勇往邁進サレマシタ結
果、每日ノ新聞ニ依レバ、闇取引或ハ非國
民、斯樣ヲ汚名ノ下ニ幾多ノ違反者ヲ出シ
テ居ルノデアリマス、洵ニ銃後ニ於ケル、
此ノ國民ノ愛國尊皇ノ精神ガ燃エテ居ル場
合ニ於テ、此ノ上ナキ遺憾至極ノコトデアラ
ネバナリマセヌ、只今申上ゲタヤウナ、幾多
ノ嚴罰主義ノ刑罰法規ガ制定サレ、又制定サ
レントシテ居ル今日ニ於テ、普ク國民ノ間ニ
能ク立法ノ精神、法令ノ趣旨ノアル所ヲ納得
サセ、會得サセルコトガ、極メテ緊要事デア
ルト考ヘテ居リマスルガ、政府ハ如何ナル
對策ヲ以テ一億國民ノ中ニ、以上申上ゲタ幾
多ノ嚴罰法規ノ立法ノ精神、或ハ法律法令ノ
趣旨ヲ、國民ノ間ニ之ヲ普遍化セントスルモ
ノデアルカ、其ノ對策ニ關シテ先ヅ以テ司法當
局ノ御所見ヲ何ヒタイト思フノデアリマス
第二ノ質疑ハ、明治天皇樣ノ御製ニ關ス
ル內務當局ノ取締ニ關スル質問デアリマ
ス、是ハ司法省ト密接不可分ノ關聯ヲ持ツ
テ居ル所ノ問題デゴザイマス、明治天皇
ハ天性和歌ヲ御好ミニナラレテ、其ノ御
一生ニ於テ御吟味ナサレタル所ノ御製ハ
約九万六千餘首ニ上リ、之ヲ吾々國民ノ前
ニ御示シ下サレマシタ、此ノ御製ハ一ツ一
ツ吾々國民ノ魂ノ中ニ尊イ〓訓ヲ御與ヘ下サ
ツテ居ルコトハ、今更呶々喋々ヲ要セヌノ
デアリマス、カルガ故ニ明治天皇樣ノ御製ニ
對シ、飽クマデ之ヲ尊重シ、飽クマデ取締
上ニ於テ手落ノナイ措置ヲ執ルベキコトハ、
是亦今更申上ゲルマデモナイノデアリマス
ルガ、昭和十五年二月二十二日ノ日附ヲ以
テ、內務大臣ハ道府縣ノ特高警察、檢閱關
係ノ課長等ニ對シテ通牒ヲ發セラレテ居リ
マス、其ノ通牒ハ文部省發行、宮內省藏版、
內閣印刷局ノ印刷ニ係ル明治天皇御集、
全、此ノ御集ニ編纂サレテ居ル御製ダケガ、
明治天皇樣ノ絕對ノ御製デアラルルガ故
ニ、他ノ幾多ノ御製ハ、御製トシテ、之ヲ
新聞雜誌其ノ他ノ出版物、單行本等ニ發表
サセテハナラナイ、之ヲ嚴重ニ取締ラナケ
レバナラナイ、此ノ文部省發行ノ御集以外
ノ御製ヲ公ニ發表シタ者ヨリハ、或ハ請書
ヲ取レ、或ハ將來再ビ其ノ事ナキヤウニ始
末書ヲ取レト云フ意味ノ通牒ヲ發セラレテ
居リマス、斯樣ヲ通牒ヲ發セラレマシタ所
以ノモノハ、蓋シ御製ヲ尊重スル思想ヨリ
出デタルモノトハ想像サレマスケレドモ、
其ノ結果ト致シマシテ、國民ノ中ニハ從來
幾十年ノ間ニ刊行サレマシタル所ノ、明
治天皇ノ御製集ヲ拜讀シテ居リマスル者ハ、
文部省發行ノ御集ヲ全然未ダ拜讀シテ居ナ
イ者ハ、文部省ノ編纂ニ係ハル御集以外ノ
御製ヲ、或ハ新聞ニ、雜誌ニ、或ハ單行本
等ニ之ヲ發表シテ、御製ヲ心ヨリ拜誦ヲ致
シテ居ルノデアリマス、然ルニ道府縣ノ特
高課、檢閱課ハ、內務大臣ノ一片ノ通牒ニ
依ツテ之ヲ嚴重ニ取締ツテ居リマス、喚
出シヲシテ始末書ヲ取ツテ居リマス、
明治天皇ノ御製ニ關シテ始末書ヲ取ラレルト
云フコトハ、國民ニ大イナル精神的ノ苦痛ヲ
與フルコトデナクテ何デアリマセウカ、是
ニ於テ私ハ內務大臣ニ御伺ヒヲ申上ゲタ
イ、例ヘバ「罪アラバワレヲトガメヨ天ツ
神民ハワガ身ノ產ミシ子ナレバ」此ノ
明治天皇樣ノ御製ハ、國民ノ齊シク拜誦シテ
感激措ク能ハザル所デアリマシテ、特ニ司
法保護事業ノ關係者ノ如キハ、此ノ御製ヲ
以テ金科玉條トシテ、受刑者或ハ釋放者ヲ
指導誘抜スル上ニ於ケル所ノ有難イ御製ト
シテ、只今マデ公ケニシテ拜誦シテ參ツタ
ノデアリマス、此ノ「罪アラバ」ノ御製ハ、
最近ニ於キマシテハ「刑事政策ノ新動向」ト
云フ著書、著者ハ東京地方裁判所判事、安
平政吉氏、「大日本天皇紀」、著者ハ朝倉尙綱
氏、「再生」ト云フ傳記本ノ著者齋藤弔花氏、
「明治天皇御製護註」、東京女子高等師範學
校〓授、亘理章三郞氏、「明治天皇御製讀
本」、陸軍中將古江由之助氏等々ノ編纂ニ係
ハル御製ノ中ニハ、此ノ「罪アラバ」ノ御製
ノ如キハ、洵ニ有難キ感激ヲ以テ編纂ヲサ
レテ居ル所ノ御製デゴザイマス、司法大臣
ハ司法省ノ官吏デアル所ノ、判事ノ現職ニ
アル安平氏ノ著書ノ中ニ現ハレテ居ル罪
アラバ」ノ御製ハ、明治天皇樣ノ御製デ
アルト云フ御信念ト御確信ヲ御持チニナツ
テ居ルカト云フコトヲ御伺ヒ致シタイノデ
アリマス、次ニハ內務省ニ於キマシテハ、
只今申上ゲタヤウナ通牒ヲ、道府縣ノ長官
ニ出サレマシタ所以ノモノハ、其ノ根本ノ
精神ガ一體郡邊ニアルカ、只今申上ゲマシ
タヤウナ著書ニ對シテハ、如何ナル取締或
ハ制裁ヲ與ヘツツアルカト云フコトヲ、參
考ノ爲ニ伺ヒタイノデアリマス
私ノ質問ノ第三項ハ、司法保護上ノ根本
義ニ關スル所ノ質間デアリマス、悲シイ哉、我
ガ大日本帝國ハ、或ハ世界ノ三大强國ヲ誇
リ、東亞共榮圈ヲ指導スル所ノ强大ナル國
ニナリツツアリマススルガ、其ノ半面ニ於
テ年々歲々犯罪者ガ殖エテ居リマス、卽チ
刑餘者ガ殖エテ居ル、其ノ事ハ司法當局ニ
於カレマシテハ、能ク其ノ〓計數字ノ關係
ハ御承知デアラウト思フノデアリマス、最
近ニ於キマシテハ一年間平均百三十万人デ
アリマス、司法省ニ於カレマシテハ、保護
課ヲ俣謹局ニ昇格サレマシテ、全國ニ五千
人ノ司法保護委員ヲ任命サレマシテ、釋放
サレタル所ノ刑餘者ヲ飽クマデモ推輓シ、
或ハ資金ヲ與ヘ、或ハ職業ヲ世話シ、或
疾病ヲ癒シ、凡ユル觀點ヨリ刑餘者ニ對シ
テ溫情ノ手ヲ仲ベラレツツアルコトハ、洵
ニ結構ナコトデハアリマスケレドモ、而モ
年々歲々犯罪者ガ殖エル、刑餘者ガ殖エル
ト云フ、其ノ根本的ノ原因ハ一體那邊ニ
アルカ、是ハ我ガ國ガ特ニ戰時體制下
ニ於テ直面致シテ居ル所ノ重大ナル社會問
題デアリマス、私ノ思フニハ、如何ニ司
法保護委員ガ防犯第一ノ方針ヨリ、保護ノ
力ニ依リ、他力ニ依リ、客觀的ノ力ニ
依ツテ保護推輓ヲ致シマシテモ、彼等刑餘
者ニ對シ、彼等釋放者ニ對シ、內カラ燃ユ
ル所ノ希望ト光明トヲ與ヘズンバ、五千
人ノ司法保護委員ヲ倍加シ、或ハ三倍加
致シマシテモ、到底其ノ效果ヲ擧ゲルコト
ハ出來マセヌ(拍手)、斯樣ニ私ハ考ヘテ居
ル、刑餘者、釋放者ノ內ナル魂ニ此ノ感激
ヲ與ヘル、斯ノ如キ私ノ質疑ノ根本ハ、現行
法規卽チ刑事訴訟法ニモ、第二百八十一條
以下ニ於テ、此ノ公訴ノ時效ト云フモノガ
アル、刑法ノ三十一條以下ニ於テハ、刑ノ
時效ト云フモノガ現行法律トナツテ居リマ
ス、然ルニ刑務所ヲ理放サレテ、其ノ後眞
面目ニ一生懸命精進邁進、精神的更生ノ生
活ニ入リ、二十年、三十年、五十年ヲ經過
致シマシテモ、其ノ身許證明書ヲ町村役場
デ取ル場合ニ於テハ、彼ハ前科一犯デアル、
彼ハ前科二犯デアル、刑法上ノ犯罪デアラ
ウト、選擧法違反デアラウト、狩獵法違反
デアラウト、漁業法違反デアラウト、新聞
雜誌ノ出版法違反デアラウト、其ノ他幾多
ノ刑罰法規ニ依ツテ罰金以上ノ刑ニ處セラ
レタル者ハ、依然トシテ前科一犯デアル、
二十年經ツテモ、五十年經ツテモ前科一犯
デアル、ソコニハ何等赦免ガアリマセヌ、
犯罪ニ對スル許シガアリマセヌ、「ドイツ·ナ
チス」ノ御承知ノ通リ行刑法原理ノ第二十四
條ハ、此ノ刑ヲ受ケ、此ノ刑ヲ終ツタ者ハ
罪ヲ贖ツタノデアル、卽チ贖罪ヲシタノデ
アルト云フ意味ニ於テ、釋放後ニ於テハ、
凡ユル軍需工場ニモ其他ノ公職ニモ、適格
者ハ之ヲ選ンデ働カス所ノ指導方針ヲ執ツ
テ居ルコトハ、司法當局能ク御承知デアラ
ウト思フノデアリマス、斯樣ナ觀點ヨリ致
シマシテ、檢察官憲ニ於テモ起訴猶豫ノ制
度アリ、裁判所ニ於テハ刑ノ執行猶豫ノ恩
典アリ、受刑者ノ中ノ成績ノ擧リマシタ者
ハ假釋放ノ恩典アリ、或ハ累進處遇令ト云
フモノガ實施サレテ居リマス、而シテ行刑
上ノ成績モ擧ツテ居ル、然ルニ此ノ前科者
ノ烙印ヲ受ケタ者ハ、一生涯墓場マデ前科一
犯者デアルトシテ、凡ユル公職、名譽職、
社會ノ表面ヨリ差册待遇ヲ受ケテ、明ルク
明朗ナル所ノ公ナル生活ガ出來ナイ、其不
合理ヲ是正スル爲ニ、司法當局ハ如何ナル
考ヘヲ持ツテ居リマスカ(拍手)吾々ガ文學
書生ノ時代ニ讀ンダ彼ノ「ヴィクトル·ユー
ゴー」ノ「レ·ミゼラブル」ノ主人公「ジャンヴァ
ルジャン」ハ前科ガアリマシタ爲ニ、如
何ニ波潤萬丈ノ曲折極マル悲慘チル生活ヲ
彼ガ送ツタカ、立派ナル人間ニ更生ヲシ
テ「マドレーヌ』市長トナリマシテ、凡ユル
善事ヲナシタ名市長ノ「ジャンヴァルジャ
ンニ對シマシテモ、長イ間凡ユル迫害ヲ
與ヘタ「ゲーベル」探偵長ノアツタコトヲ吾
吾ハ忘レテハナリマセヌ、皇恩無邊、皇恩
無限デアリマス、歷代仁慈ノ御精神ヲ以テ、
一人ダニ其ノ所ヲ得ザル者アラシメテハナ
ラナイト云フ御聖旨ヲ奉戴スル時ニ、一疋
年限ヲ經過セル所ノ釋放者或ハ刑餘者ニ對
シテ、其ノ過去ノ過チヲ根本的ニ抹消シ、
之ヲ許シテヤル所ノ單行法律或ハ勅令ヲ發
布サレマシテ、氣ノ毒ナル現下我ガ日本ニ
於ケル約三百万ニ近イ同胞ノ中ニ於テ、立
派ニ更生シテ、立派ニ精進シ、職域奉公シテ
居ル所ノ固胞ノ缺格者ヲ選バレテ、聖恩ヲ
普ク是等ノ人々ニ浴セシムル爲ニ、適當ナ
ル所ノ單行法律、或ハ勅令ヲ發布セラレル
所ノ御意思ガアルカナイカ、願ハクハ左樣
ニシタイト云フコトヲ最後ノ質間ト致シマ
シテ、私ハ之ヲ以テ終ル者デアリマス拍 白
手)
〔問務大臣柳川平助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=4
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005・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 只今ノ御質疑ニ
御答へ致シマス、本議會ニ國防保安法案其
ノ他重要ナ法案ヲ出シマシテ、其ノ罰則ヲ
モ嚴ニシナケレバナラヌヤウニニナリマシ
タノハ、現下ノ時局已ムヲ得ザル事情ノア
ルコトヲ、御讀承ヲ御額ヒ致シマス次第デ
アリマス、斯ノ如ク多數ノ法ヲ、能ク國民
ヲシテ周知セシムル所ノ方法手段、如何ナ
ル方法ヲ執ルカト云フコトガ、御質疑ノ第
一點ト思ヒマス、中央地方、諸官公衙等ヲ
經テ國民ニ知ラシムル手段ヲ執ルコトハ
勿論、其ノ他重要ナ事項ヲ週報、新
聞「ラヂオ」等ヲ通ジ、凡ユル手段ヲ通シ
テ、國民ニ周知セシムル手段ヲ盡シタイト
考ヘテ居リマス、尙ホ之ヲ取扱フ所ノ司
法官、警察官等ニ對シマシテハ、或ハ合
同ノ講習會、或ハ印刷物等ニ依リマシテ、
運用宜シキヲ得ルヤウニ示達シタイ考ヘデ
アリマス
多く明治天皇ノ御製ニ關スルコトデゴザ
イマスガ、御擧ゲニナリマシタ御歌ハ、御
製ト考ヘテ居リマスケレドモ、若シ過ツト
恐懼スベキコトデアリマスカラ、能ク調べ
テ後デ御答ヘ申上ゲタイト存ジマス
次ハ司法保護事業ニ關シマシテノ御意見、
刑餘者ニ對シテ御國ノ御恩ノ有難イコトヲ
能ク知ラシメテ、其ノ心ノ底ニ能ク感銘セ
シメルコトニ努力セナケレバナラヌト云フ
御意見ハ、全ク御同感デゴザイマス、隨ヒ
マシテ今仰セラレタヤウニ、刑ニ服シテ放
釋後多年ニナル者ニ對シテ、前科抹消ニ關
スル立法ニ關シテモ、〓究ヲ致シテ見マシ
タ所デアリマスガ、旣存ノ法規トノ關係、
其ノ他尙ホ幾多〓究ヲ要スル點ガアリマス
ルノデ、此ノ度ハ提案スル運ビニ至ラナカ
ツタ事情デゴザイマス、此ノ點御諒承ヲ御
願ヒ致シマス、以上簡單デゴザイマスガ、
御答ヘ申上ゲル次第デアリマス(拍手)
〔政府委員萱場軍藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=5
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006・萱場軍藏
○政府委員(萱場軍藏君) 御製集ノ取扱ニ
關シマシテ、昨年通牒ヲ出シマシタ趣意ハ、
御說ノ通リ御製集ノ取扱ニ付キマシテハ
最モ鄭重ヲ期サネバナラヌト云フ趣意ニア
ルノデアリマス、尙ホ具體的ノ取扱ニ關シ
マシテハ、今後關係方面トモ十分ノ連携ヲ
執リマシテ、此ノ趣旨ノ達成ニ努メタイト
思フ次第デアリマス、簡單デアリマスガ、
以上ヲ以チマシテ御答へト致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=6
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007・小山松壽
○議長(小山松壽君) 佐竹晴記君
〔佐竹晴記君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=7
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008・佐竹晴記
○佐竹晴記君 司法大臣ニ御尋ネ申上ゲマ
ス、一小部分ノ刑法改正法律案ガ提案サレ
マシタガ、何故今少シク徹底致シマシタ廣
範圍ノ改正案ヲ御出シニナラナカツタノ
カ、恐ラク政府ハ時局ニ直接關係ノ薄イ法
案ノ提案ヲ取止メマシタ關係デ、刑法ニ付
テモ全面的改正ニ觸レズ、時局ニ密接ナ關
係ヲ有スル一部分ノ改正案ラ提案スルニ止メ
タト仰シヤルデゴザイマセウ、併シソレニ
致シマシテモ、玆ニ提案サレマシタ程度ノ
改正デハ、此ノ時局ニ對應致シマスルニハ、
餘リニモ不十分デアルノミナラズ、刑法改正
ノ議ハ遠ク大正十年ノ十月ニ臨時法制審議
會ノ諮問ニ付セラレタノニ始マリマシテ、
大正十五年十一月綱領四十項ガ決定セラ
V、昭和二年三月ニハ草案脫稿、同年六月
刑法改正起草委員會ノ議ニ付セラレマシテ、
委員會ヲ開クコト三百五十九囘、總會會開
クコト三十七囘ノ多キニ及ビ、綱領決定以
來實ニ十三年ト二箇月ノ長年月ヲ費シマシ
テ、昨年遂ニ成案ヲ得テ、刑法改正假案ト
題シテ之ヲ公ニシ、一般學者經驗家ノ意見
ヲ問ウテ居リマスル次第デアツテ、其ノ後
更ニ一箇年ヲ經過致シテ居リマスル今日、
提案ノ出來ナイ筈ハナイト思フノデアリマ
ス、假ニ總則竝ニ各論全般ニ亙ル改正ニ付
テ、尙ホ〓究シ準備スルコトヲ要スルモノ
ガアツテ、直チニ之ヲ提案スルコトガ出來
ナイト致シマシテモ、少クトモ現下時局ニ
對應スル爲ニハ、今少シク廣範圍ノ改正ヲ
企テナケレバナラナイデハナイカト思フノ
デアリマス、例ヘバ今囘ノ改正ハ、總則中
デハ僅カニ罰金ヲ完納シテイ場合ノ勞役場
留置期間ノ延長ト、沒收ノ範圍擴大及ビ追
徵ノ規定新設程度ノモノデアリ、各論ニ付
テハ極メテ狹イ範圍內ニ止マリマシテ、殊
ニ第七章安寧秩序ニ對スル罪ニ付テハ、時
局柄洵ニ其ノ改正ハ適切デゴザイマスガ、ソ
レハ昨年公ニ致シマシタ改正刑法假案ノ第十
三章中ノ一部分ニ過ギマセヌ、同案ノ二百三
十九條以下ノ重要ナル數箇條ガ、悉ク削除
セラレテ居リマスルコトハ、洵ニ物足リナイ
次第デゴザイマス、私ハ各論ハ先ヅ第二ト
致シマシテ、總則ノ改正ダケデモ此ノ際之ヲ
望マシカツタノデアリマス、一方總則ハ啻ニ
刑法所定ノ各犯罪ニ適用アルノミデハゴザ
イマセヌ、國家總動員法及ビ之ニ基イテ發
スル所ノ勅令ニ依ル經濟違反事件等、總テ
ノ刑事案件ニ適用セラレマスコトハ、私ノ申
上ゲルマデモナイ所デアリマシテ、刑法總則
ハ謂ハバ凡ユル罰則ノ總元締デアリマス、
然ルニ此ノ總元締デアリマスル刑法ハ、明
治四十年ノ制定ニ係リ、大正十年ニ改正サ
レマシテ以來、今日マデ舊態依然タル有樣
デアリマス、固ヨリ今次支那事變ニ伴フ刑
事事案ヲ、如何ニ處理スルカナドト云フコ
トハ、夢ダニ考ヘテ居ナイ所デアリマス、
戰時下特別法規ニ依ツテ檢擧セラレテ居リ
マス所ノ經濟事犯等ハ驚クベキ多數ニ上
リ、次第ニ激增致シマスル所ノ形勢ニアル
ニ拘ラズ、之ヲ處理スベキ總元締デアリマ
スル刑法總則ガ舊態依然タル有樣デアリマ
シテ、是デドウシテ本當ニ時局ニ對應致シ
マスル刑事政策ガ立テ得ラレマセウ、醫、
バ手足ハ急速ニ發達進步ヲ致シマシテ、極
メテ進步的デアルガ、頭ハ依然ト致シマシ
テ昔ノ儘デアルト云フ狀態デ、是デハ駄目
デアル、私ハ少クトモ此ノ際刑法總則ダタ
デモ、急速ニ全面的改正ヲナスノ要ガアル
ト考ヘタノデアリマスルガ、政府ハ何ガ故
ニ此ノ御提案ヲナサレナカツタノカ
第二ニ御尋ネヲ申上ゲタイノハ、私ハ更
ニ少シク問題ヲ掘下ゲテ考ヘテ見タイト思
フノデアリマス、今日所謂經濟事犯ナルモ
ノハ非國家的行爲ダ、國賊デアルト呼バレ
マシテ、其ノ理由ノ如何ニ拘ラズ嚴罰ヲ以
テ臨ンデ居ルノガ實情デアリマス、洵ニ文
字通リ非國家的行爲、國賊的事案モアルニ
ハアリマスルガ、併シ中ニハ洵ニ氣ノ毒ナ
案件モゴザイマシテ、必ズシモ非國家的行
動ダ、國賊デアルナドトハ言ヒ難イモノモ數
多イノデアリマス、斯ウシタ時ニ、昨年公
ニサレマシタ改正刑法假案ノ第十一條ノ如
キ改正ガ、若シ行ハレテ居ルト致シマシタ
ナラバ、寛嚴宜シキヲ得タ、時局ニ對應ス
ル適切ナ裁判ヲ下スコトガ出來、戰時下急
造サレマス所ノ罰則ノ缺陷ヲ補ヒ、官民離
間ヲ防グ調和劑トモナツテ、洵ニ適切ナコ
トデハナカツタカト思フノデアリマス、私
ハ今十分ノ御理解ヲ願フ爲ニ、玆ニ一、二
ノ實例ヲ申上ゲマシテ御勘考ヲ願ヒ、且ツ
切實ナル御答辯ヲ戴キタイト思フノデアリ
マーク、私ノ縣デハ肉類ヲ行商致シテ居リマ
スル者ガアリマス、何レモ九·一八ノ「ストッ
プ」令ニ依リマシテ價格ガ釘付ケニサレ
マシタ、所ガ此ノ肉類ト云フモノハ、九月
ノ十八日頃ニハマダ需要ガ少イノデアリマ
ス、隨ヒマシテ、價格モ安イ、十二月、
月、二月頃ノ寒イ時期ニ相成リマスルト、
需要モ大變激增シテ參リマス、自然ニ價格
モ上ツテ參リマス、例ヘバ九月ニ百匁八十
錢致シマシタモノガ、冬ニ相成リマスルト
一圓ニモナルト云フノガ實情デアリマス、
所ガ此ノ肉類ヲ行商致シテ居リマシタ連中
ハ、右九·一八ノ「ストップ」令ハ、値ヲ上
ゲラレヌモノダト云フコトハ承知ハ致シマ
シタモノノ、値ヲ上ゲラレヌト云フコトハ、
舊來ノ取引以上ニ値ヲ上ゲテハナラナイト
云フコトニ呑込ンデ居リマシタ、從來賣ツ
テ居リマシタ以上ニ高ク賣リサヘシナケレ
バ構ハナイト、彼等ハ理解シテ居ツタノデ
アリマス、ソコデ其ノ商人ハ舊來通リ九月
頃ニハ八十錢、一、二月頃ニナリマスルト
一圓ト云フ工合ニ、昨年通リ商賣ヲシテ居
ツタ、スルト警察ハ之ヲ咎メマシテ、九月
ノ十八日ノ値段デ八十錢ニ停止ヲシテ居ル
ノダ、一月ニナツテ之ヲ超エテ一圓デ賣ル
トハ怪シカラン、闇取引ダト云フノデ、之
ヲ檢擧致シマシテ、罰金數百圓ヲ申付ケタ、
結局舊來以上ニ儲ケテハナラナイト云フド
コロカ、舊來ヨリモ損ヲシロト命ゼラレマ
シテ、而モ國賊扱ヒヲセラレタ次第デアリ
マス、是ハ少々無理デハアリマスマイカ、
ソレノミデハゴザイマセヌ、マダ酷イノニ
ナリマスト、同ジ肉類行商人ノ間ニ於キマ
シテモ、以前カラ非常ニ暴利ヲ貪ツテ高
ク賣ツテ居リマシタ連中ハ、九·一八
ノ「ストップ」令デ何ノ打擊モナク、又檢
擧ヲセラレルコトモナカツタノデアリマス
ルガ、舊來カラ安ク勉强ヲシテ商賣ヲ
致シテ居リマシタ者ハ、皆此ノ法規ニ
引掛ツテシマツタノデアリマス、ドツ
チガ國賊カ、サツパリ理解スルコトガ出來
ナイ、ソレニ又先日或ル村ノ善良ナ農民ガ
數珠繫ギニナリマシタ例ヲ、私共ハ目ノ前
ニ見セ付ケラレタ、其ノ村ノ農民ハ、自分ノ
山ノ雜木ヲ伐ツテ薪ニ致シマシテ、之ヲ町ニ
出シテ居タ、社會ノコトナドハ一向分リマセ
又、此ノ善良ナ樵夫ハ一生懸命ニ斧ヲ打下
ス以外ニ餘念ガナカツタノデアリマス、唯
需要期ニナリマスト、町ノ商人ノ方デ買手
ガ餘計ニ出テ來ル、自然ニ値モ上ル、樵夫
モ精ガ出ル、此ノ自然ノ現象ヲ、其ノ樵夫
ハ唯自然ノ姿デアルトシカ考ヘテ居ナカツ
タノデアリマス、所ガ何時ノ間ニ出マシ
タカ、此ノ農民ノ知ラヌ間ニ商工省告示ガ
出テ居ツタ、公定價格ガ決メラレテ居タ、
違反ニナルト云フ廉デ、村民ノ多數ガ數珠
繋ギニサレマシテ、數百圓ノ罰金ニ處セラ
レタノデアリマス、私ハ斯ウシタ一、二ノ
例ヲ拾ツテ見タダケデモ、痛切ニ感ジマス
コトハ、今日支那事變ニ伴フ經濟統制ノ諸
法規中ニハ、相當無理ノ行クモノガアリ、
又其ノ法規ハ複雜多岐デアツテ、專門家デ
サヘモ之ヲ知ルニ容易ナラヌモノガアル折
柄、一般無知ナ商工業者ヤ、善良ナ農民、
漁民ニ十分之ヲ知ラシメ、十二分ニ之ヲ徹
底セシムル方法ヲ講ズルコトナシニ、是台
リ先ニ或ハ勅令ガ出タ、省令ガ出タ、公示ガ
出タト云ツテ、容赦ナク檢擧シ、嚴罰ニ處ス
ルト云フコトハ、果シテドンナモノカ、私ハ
考ヘサセラレザルヲ得ナイノデアリマス、
併シ今ヤ考ヘル餘地モゴザイマセヌ、統制
法規ニ觸レタ限リ、事ノ如何ニ拘ラズ容赦
ナク引張ラレマシテ、ピシ〓〓ト極メ付ケ
ラレル、剩ヘ國賊呼バハリセラレテ居リマ
スコトガ普通デアリマス、是ハ一體如何ナ
ル考ヘ方カラ來テ居ルデゴザイマセウカ、
畢竟スルニ刑法三十八條ノ精神ガ强ク現ハ
レタノデハナイカト私共ハ思フ、刑法三十
八條ニハ何トアルカ、「法律ヲ知ラサルヲ以
テ罪ヲ犯ス意ナシト爲スコトヲ得ス」トアル、
洵ニ其ノ氣持ハ能ク分リマス、法律ヲ知ラ
ナカツタカラト云フノデ、逃ゲテシマハレ
マシタナラバ、ソレハ治マリガ付キマセヌ、
併シ實際問題トシテ、本當ニ法律ヲ知ラナ
イデ、全ク善意デ行ヒマシタコトガ、思ヒ
掛ケナイコトデ引掛カリマシテ、淚ニ暮レ
テ居リマス向モ多數ニ上ツテ居ルト云フコ
トニ付テハ、相當考ヘテヤラナクテハナラヌ
ト思フ、農民ガ米ヲ作リ、芋ヲ栽培スルニ
致シマシテモ、肥料ノ買入カラ、資材ノ仕
入ニ致シマシテモ、漁民ガ漁リヲシ、漁具、
漁網ノ手當ヲスルニ致シマシテモ、或ハ其
ノ農漁民ガ生產品ヲ出荷スルニ致シマシテ
モ、神樣ノヤウナ氣持デ職域奉公ノ精神ニ
燃エツツヤツテ居リマス中ニ、何時何處デ
思ヒ掛ケナイ點デ引掛カルカモ分ラナイト
云フ不安ニ曝サレテ居リマシタノデハ、生
產擴充ノ上ニ及ボス影響モ大デアリ、爲政
者モ愼重ニ考慮スベキデハナイカト私ハ信
ズル者デアリマス、斯ク觀察シテ參リマシ
タ時ニ、洵ニ殘念ニ思フノハ、今囘ノ刑法
改正ニ當リ、何ガ故ニ昨年成案ヲ得テ居リ
マシタ所ノ改正草案、第十一條ノ如キ改正
案ヲ提出サレナカツタノカ、卽チ其ノ草案
第十一條ニ依リマスレバ斯樣デアリマス、
「法律ヲ知ラザルヲ以テ故意ナシト爲スコト
ヲ得ズ、但シ情狀ニ因リ其刑ヲ減輕又ハ免
除スルコトヲ得、法律ヲ知ラザル場合ニ於
テ自己ノ行爲ガ法律上許サレタルモノト信
ジタルコトニ付キ、相當ノ理由アルトキハ
其刑ヲ免除ス」トアリマス、時局柄洵ニ適切
ナ改正デハナイカト私ハ思フ、固ヨリ惡辣
ニシテ暴利ヲ貪ルガ如キ輩ニ對シマシテハ、
假藉ナク徹底的ニ嚴罰ヲ以テ臨マナケレバ
ナリマセヌ、サレドモ善良ニシテ善意ナル
國民ガ誤ツテ法規ニ觸レマシタ場合ニハ、
之ヲ救フノ途ヲ開イテヤラナケレバナラヌ
ト私ハ思フ、强キ法律ガ出レバ出ル程、又
一面之ニ伴フ所ノ缺陷ヲ補ヒ、國民ヲ救ヒ
導クノ用意ガナクテハナラヌト私ハ信ズル
者デアル、斯クテコソ少々無理ナ檢擧ガア
リマシテモ、國民怨嗟ノ府トナルコトナク、
官民離間ヲ防ギ、眞ニ一億一心國家總力發
揮ノ體制ガ整へ得ラレルモノデアルト私共
ハ思フノデアリマス
更ニ今一ツ重大ナ問題ハ、今日經濟違反
事件ハ文字通リ十把一束一律ニ、或ハ利得
額或ハ超過額ノ二倍トカ三倍トカノ罰金ヲ
申付ケマシテ、其ノ他ノ情狀ニ付テハ殆ド
何等斟酌サレナイト云フ實情ニアルコトデ
アリマス、併シ假ニ百圓ヲ儲ケタモノト致
シマシテモ、國民ノ弱點ニ付入ツテ、國民
ヲ苦シメテ自分ガ儲カラウト云フヤウナ場
合ニ於キマシテハ、犯狀憎ムベキモノト致
シマシテ、五百圓ノ罰金ニ處シテモ宜カラ
ウト思フ、ト同時ニ假令千圓ノ超過額違反
ガアリマシテモ、國民生活ヲ害スルコトナ
〃、自分モ亦何等利得スルコトモナカツタ
ト云フヤウナ案件ニ付テハ、百圓ノ罰金デ
モ尙ホ高イデハナイカト私共ハ思フ(拍手)
私ハ此處ニ切實ナル實例ヲ擧ゲテ御考察ヲ
願ヒタイ
昨年私ノ方ノ高知縣ニ於キマシテ、米ガ
非常ニ窮屈ヲ來シマシタ時分ニ、私ノ方ノ
玄米ハ公定價格四十二圓九十錢デゴザイマ
シタ、白米ノ小賣相場ガ四十五圓五十錢デ
ゴザイマシタ、所ガドウシテモ右公定價格
デハ玄米ガ米屋サンノ手許ニ入リマセヌ、
隨ヒマシテ其ノ御得意先ハ殆ド飢餓ニ瀕ス
ルノ實情ヲ呈シタノデアリマス、是ハ米ノ
在高ガ少カツタト云フコトモ、一ツノ原因
デハアリマスガ、今一ツ茲ニ譯ガアル、ソ
レハ何カ、縣ノ方針ト致シマシテ、產業組
合卽チ信用組合聯合會ヘハ農民カラ委託
販賣ヲ許シタノデアリマス、是ニ於テ委託
ヲ受ケマシタ縣信聯ニ於キマシテハ、委託
ヲ受ケマシタ玄米ヲ精白シ白米ニシテ之ヲ
賣ツタ、四十五圓五十錢デ賣レマス、實費
ヲ差引イタ殘リハ全部之ヲ農民ヘ返シマシ
タ、實費ガ假ニ玆ニ一圓要ツタト致シマス
ナラバ、四十五圓五十錢デ賣ツテ、實費一
圓ヲ差引イタ四十四圓五十錢ヲ農民ニ返
シマシタ、然ルニ一方玄米ノ公定價格ハ四
十二圓九十圓デゴザイマスノデ、百姓ハ全
部縣信聯へ委託販賣ヲ致シマシテ、米穀商
人ノ手許ヘ入リマセヌ、米屋サンノ手許ヘ
入ラヌ、隨ヒマシテ米屋サンノ御得意ハ飢
餓ニ瀕スル程ノ實情ニ曝サレタ、是ニ於テ
米屋サンノ方ハ御得意樣ヲ餓ヤカシテハナ
ラヌト云フノデ、農民ニ手ヲ廻シマシテ玄
米ヲ買ヒマシタ、縣信聯ノ方カラハ實費ヲ差
引イテ、四十四圓五十錢手許ニ入ルカラ、
私ハ五十錢値良ク買ヒマセウ、四十五圓ニ
買ヒマセウト云フノデ、四十五圓ニ買ツテ
來マシタ、而シテ之ヲ精白シテ四十五圓五
十錢、元ノ白米公定價格通リニ一般需要者
ニ賣却シタ、スルト警察ハ其ノ商人ガ玄米
四十二圓九十錢ヨリ超過致シマスルコト二
圓十錢、四十五圓デ買ツタカラト云フノデ、
經濟違反トシテ之ヲ引張ツタ、米屋サンハ
珠數繫ギトナツテ、高イノニナリマスルト
二千圓モ三千圓モノ罰金ニ處セラレタノデ
アリマス、所ガ一面前カラ在庫品ガ澤山ニ
ゴザイマシテ、米ガ窮屈ニナツタノニ乘ジ
テ、一ツボロ儲ケヲシテヤラウト云フノ
デ、或ル白米商ハ四十七圓デ賣リマシタ、
スルト四十五圓五十錢ノ公定價格ニ對シ、
四十七圓ニ賣ツタカラト云フノデ、其ノ差
額一圓五十錢、オ前ハ一圓五十錢利得シタ
カラト云フノデ、一圓五十錢ノ利得ヲ基準
ニ致シマシテ、ボロ儲ケヲ致シマシタ白米
商人ハ罰金ニナツタ、所ガ前ニ言ツタ通リ
自分ガ損ヲシテ配給シタ商人、四十五圓デ
買ツテ四十五圓五十錢デ賣ツタノデハ引合
ヒマセヌ、其ノ損ヲシテ御得意樣ノ犠牲ニナ
ツテ米ヲ配給シタ米屋サンハ、公定價格ト
買入値段トノ開キガ二圓十錢ト云フノデ、石
當リ二圓十錢ノ基準デ以テ罰金ヲ受ケマシ
タ、ボロ儲ケヲ致シマシタ者モ、或ハ犠牲
ニナリマシタ者モ、十把一束、劃一的ニ利
得額モ超過額モ同一視シ、謄寫板デ刷ツテ
書記ガ書入レタラ宜イヤウナ工合ニシテ居
ル、是ガ本當ノ裁判デゴザイマセウカ、是
ハ今少シク本當ノ實情ト云フモノヲ十分ニ
洞察シテ、刑事政策ヲ御立テニナラナケレ
バ、相當ニ重大ナル問題デアルト私ハ考ヘ
ル、若シモ昨年公ニサレマシタ刑法改正草
案ノ第五十七條、第五十九條ノヤウナ改正
ガ今回提案サレテ居ツタト致シマスナラバ
斯ノ如キ弊害ハ根柢カラ是正セラレタデア
リマセウ、其ノ草案ニハドウアルカ、斯樣
ニアリマス、第五十七條「刑ノ適用ニ付テ
ハ犯人ノ性格年齡及境遇竝犯罪ノ情狀及犯
罪後ノ狀況ヲ考察シ特ニ左ノ事項ヲ參酌スベ
シ」トアリマシテ、中略、第三號ニ「犯罪ノ
動機ガ忠孝其ノ他ノ道義上又ハ公益上非難
スベキモノナリヤ否ヤ、又ハ宥恕スベキモノ
ナリヤ否ヤ」之ヲ考察シテ、之ヲ酌ンデ罰金
ノ額ヲ定メヨトアリマス、又第五十九條ニ
ハ「罰金ノ適用ニ付テハ犯人ノ資產、收入、
信用及犯罪行爲ニ因リ又ハ犯罪行爲ノ報酬
トシテ得タル利益ヲモ參酌スベシ」トアルノ
デゴザイマス、洵ニ適切ナル改正案デアリ
マシテ、何ガ故ニ今囘ノ改正ニ於テ、斯ウ
シタ法律案ヲ御取入レニナラナカツタノ
カ、私ハ解スルニ苦シムノデアリマス
以上私ハ僅カニ二、三ノ點ヲ援用致シタ
ニ過ギマセヌガ、刑法改正草案總則ノ規定
ノ大半ハ、之ヲ實施スルコトガ時局柄極メ
テ適切デアルト考ヘル者デアリマス、併シ
此處ニハ其ノ詳細ヲ論ズルコトハ省略シタ
イ、仍テ以上二、三ノ點ヲ中心ト致シマシ
テ、政府ノ御意向ヲ質スニ止メテ置キタイ
ト考ヘマス
卽チ之ヲ要約致シマスルナラバ、先ヅ經
濟事犯トアレバ、何デモ彼デモ無差別ニ國
賊呼バハリヲシテ居ル向キガアルガ、是一
愼ムベキコトデハナイカ、我ガ國ガ悠久二
千六百一年ノ歷史ヲ誇リ得ル所以ノモノハ、
上陛下ノ御稜威ノ下、忠勇ナル國民ノ
致團結致シテ參リマシタコトニ依ルモノ
ト、私共ハ思フノデアリマス、我ガ國民ハ
左樣ニ國賊ノ集團デハナイ、時ニ法律ヲ知
ラズシテ罪ニ陷ルコトガアツタト致シマシ
テモ、眞ニ善意ナリシ者ニ對シテハ、之ヲ
寛恕スル所ノ大度量アツテ然ルベキデアル
ト私ハ思フ、又十把一束的劃一主義ハ此ノ
際之ヲ排シ、眞ニ犯人ノ性質、動機、其ノ
他諸般ノ狀況ヲ酌ンデ、個別的ニ適當ナル
斟酌ヲ加ヘルヤウ、適切ナル方針ヲ御立テ
ニナルベキモノデアルト思ヒマスガ如何、
更ニ法規ノ普及徹底ニ意ヲ用ユルト同時ニ、
時局下頻發セラレマスル所ノ、如何ナル刑
罰法規ニ對シマシテモ、遺憾ナク之ヲ運營
シ得ラレルヤウニ、刑罰法規ノ總元締タル
刑法總則ノ總般的改正ガ喫緊ノ要務デアル
ト思フ、政府ハ近キ將來ニ於テ、是ガ改正
案ヲ提案ナサイマス御意思ガアルカドウカ、
右諸點ニ付テ熱意アル御答辯ヲ希望スル者
デアリマス
最後ニ、今囘提案ノ內容ニ立入ツテ御尋
ネヲ申上ゲタイト考ヘテ居リマシタガ、時
間ガゴザイマセヌカラ、委員會ニ於テ詳細
御尋ネヲ中上ゲルコトト致シマシテ、只一
點ダケ簡單ニ御質問申上ゲテ置キタイ、本改
正案ノ第百九十七條ノ四ニ「公務員其ノ地位
ヲ利用シ他ノ公務員ノ職務ニ屬スル事項ニ
付斡旋ヲ爲シ又ハ爲シタルコトニ關シ賄賂
ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シタルト
キハ三年以下ノ徵役ニ處ス」トゴザイマス
ガ、是ハ如何ナル場合ヲ想定セラレタモノ
デゴザイマスカ、例ヘバ玆ニ代議士ガアル、
地方團體ノ陳情ニ參加幹旋ヲ致シマシテ旅
費ヲ受ケタ、或ハ御苦勞樣デアルト云ツテ
晩餐ニ招バレタト云ツタヤウナ時ニ、之ヲ
處罰スル所ノ御考ヘナノカ、又代議士ガ會
社ノ顧問トナツテ居リマシタ時分ニ、常時
官廳ニ對スル交涉斡旋ノ任ニ當ツテ居リマ
シタ場合ニ、顧問料ヲ貰ツテ居タヤウナ場
合デモ、是ハ皆觸レルト云ツテ御取締ニナル
ノカ、サウ云ツタ御考ヘノ下ニ是ガ提案サ
レタモノデアルカドウカ、其ノ要點ヲ御示
シ願ヒタイト存ズル次第デアリマス、以上
質問致シマス(拍手)
〔國務大臣柳川平助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=8
-
009・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 御答ヘ致シマス、
第一點ハ刑法改正ヲ此ノ度ノ案ヨリモモツ
ト廣範圍ニ、全般ニ亙ル改正案ヲナゼ提出
シナカツタカトノ質疑デアリマス、御說ノ
通リ現行刑法ハ明治四十一年ニ施行シテ以
來中ニ僅カニ一囘一箇條ヲ改正シタノニ
過ギマセヌノデ、御說ノ通リニ全般ニ亙ツ
テ改正スルノ要ガアル次第デアリマシテ、
刑法改正委員會ニ於キマシテモ、昨年四月
末一應ノ假案ヲ得テ發表致シタノデアリマ
ス、實ハ其ノ端シ書ニモアリマス通リニ、
一應ノ假案程度デアリマシテ、發表後モ尙
ホ委員會ハ繼續シテ審議ヲ行ツテ居ツタノ
デアリマスガ、昨年十月此ノ委員會ハ廢セ
ラレタノデアリマス、併シ委員會ニ現ハレ
マシタ各委員ノ意向トシテ、各則ノ部分ハ
總則ノ審議終了ヲ俟ツテ更ニ再檢討シナケ
レバナラヌ點モアリマスケレドモ、大體ニ
於テ審議ガ終リニ近付イテ居ツタノデアリ
マシテ、總則ノ部分ハ、總則ノ中デ最モ重
要ナル部分タル共犯、未遂犯等ニ關スル規
定、其ノ他全般ニ〓究ヲスル部分ガ多イト
云フヤウニアルコトヲ承知致シテ居リマス、
隨テ未ダ委員會カラ司法省ニ對シテ答申モ
ナイヤウナ次第デアリマス、右樣ノ次第デ
アリマシテ、全部改正ノ案ヲ提出シ得ル程
度ノ法案モ得テ居ラズ、又内外ノ情勢カラ
考ヘマシテモ、取急イデ法案ヲ作リ、今議
會ニ全部改正ノ案ヲ提出スルコトモ如何カ
ト考ヘマシテ、全部改正ノ案ハ提出スルニ
至ラナカツタ次第デアリマス、此ノ點御諒
承ヲ願ヒマス
次ニ經濟事犯ニ付テ、非常ニ憐レナル、
又事情ニ合ハヌヤウナ事柄ガ多々アルト云
ツテ例ヲ御示シニナリマシタガ、或ハ法ノ
周知ガ行渡ラナカツタリ、或ハ色々ナ事情デ
左樣ナコトガアツタカモ知レマセヌガ、御說
ノ通リ寛嚴宜シキヲ得、法ガ强ケレバ强イダ
ケ事情ニ能ク適合シナケレバナラヌト云フ
コトハ、御意見ノ通リノ次第デアリマスカ
ラ、國家ノ綱紀ノ肅振ヲ害セザル範圍ニ於
キマシテ、酌量ノ出來ルダケハ酌量ヲシテ、
事情ニ適合セシムルヤウニ努メテ居ルノデ
アリマスガ、將來一層サウ云フ取扱ヲシタ
イト思ツテ居ル次第デアリマス、法律ヲ知
ラナイ場合ニ於キマシテモ、犯罪ノ成立ス
ルコトハ御說ノ通リデアリマスガ、情狀ニ
依リマシテ檢事ハ之ヲ起訴セザルコトモア
リ、又一旦起訴セラレマシテモ、裁判ニ於
テ十分酌量スルヤウニ取扱フコトニ致シタ
イト考ヘテ居ル次第デアリマス、要スルニ
經濟事犯ニ關シマシテハ、是マデ諸方面カ
ラ色々國民ノ困ツテ居ル事情ヲ承リマシテ、
尤モノコトモ多イノデゴザイマスカラ、司
法當局ト致シマシテハ、能ク行政官廳及ビ
〓育官廳トモ連繫ヲ致シマシテ、豫防竝ニ
制裁ニ十分努メマシテ、法ノ運用寛嚴宜シ
キヲ得ルコトニ、全幅ノ努力ヲ致シタイト
存ジテ居ル次第デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=9
-
010・小山松壽
○議長(小山松壽君) 北浦圭太郞君
〔「答辯ガ殘ツテ居ル」ト呼ビ其ノ他發
言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=10
-
011・小山松壽
○議長(小山松壽君) 一寸北浦君、御待チ
下サイ-佐竹君、何カ御質疑ガアリマス
カ-司法大臣
〔國務大臣柳川平助君登高븐発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=11
-
012・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 答辯ガ盡シテ居
リマセヌカラ尙ホ申上ゲマス、將來成案ヲ
得タナラバ、全般ニ亙ル刑法ノ改正ヲスル
考ヘガアルカドウカト云フノガ、質問ノ第
二點デアリマシタ、是ハサウ云フ風ニ考ヘ
テ居リマス、出來次第ニ成ベク早ク完全シ
タ刑法ノ改正案ヲ提出致シタイト考ヘテ居
リマス
次ニ本改正案第百五十七條ノ件ハ、事項
ニ亙ツテ申上ゲマシテモ何デゴザイマスカ
ラ、是ハ委員會ニ於テ詳細申上ゲルコトニ
致シタイト考ヘテ居リマス、御諒承ヲ願ヒ
マス(拍手)
〔「委員會ハ官報ニ載ラヌ」「司法次官答
辯シロ」ト呼ビ、其他發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=12
-
013・小山松壽
○議長(小山松壽君) 北浦君、一寸御待チ
下サイ-佐竹君、何カ御質疑ガアリマス
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=13
-
014・佐竹晴記
○佐竹晴記君 只今ノ點ニ付テ、司法次官
カラデモ結構デアリマスカラ、御答辯願ヒ
タイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=14
-
015・小山松壽
○議長(小山松壽君) 司法次官
〔政府委員三宅正太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=15
-
016・三宅正太郎
○政府委員(三宅正太郞君) 最後ニ御尋ネ
ニナリマシタ、公務員ガ他ノ公務員ノ職務
ニ關スルコトニ付テ瀆職罪ヲ行ツタ場合、
其ノ事例ヲ示セト云フ御尋ネデアリマシタ、
其ノ點ニ付キマシテ事例ヲ申上ゲマスト、
從來ハ公務員ハ其ノ職務ニ關シテ賄賂ヲ收
受シタ場合ニ罪トナルノデアリマシテ、其
ノ職務ノ範圍·外ニ亙リマシテ、其ノ事項ニ
付テ賄賂ヲ取リマシテモ處罰ヲ受ケナイノ
デアリマス、然ルニ御承知ノ通リ公務員ガ
他ノ公務員、例ヘバ同ジ官廳ニ勤メテ居リ
マシテモ、自分ノ職務權限以外ノ權限ヲ持
ツテ居リマス同僚ノ職務範圍ニ付テ、他ノ
者カラ請託ヲ受ケ、ソレニ付テ幹旋ヲ致シ
マシタト云フ爲ニ、其ノ斡旋ニ付テ賄賂ヲ
取ツタト云フ場合ニ於テハ、自己ノ職務ニ
關シテ賄賂ヲ取ツタノデハアリマセヌケレ
ドモ、併シナガラソレヲ處罰スル價値ノア
ルコトハ、自己ノ職務ニ付テ賄賂ヲ取ツタ
場合ト同樣デアリマスノデ、今囘ノ改正ニ
於キマシテハ、其ノ點ニ付テモ處罰シヨウ、
斯ウ云フコトデ規定シタ次第デアリマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=16
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017・小山松壽
○議長(小山松壽君) 佐竹君、宜シウゴザ.
イマスカ-北浦君
〔北浦圭太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=17
-
018・北浦圭太郎
○北清〓太郎君 私ハ本日議題トナリマシ
夕刑法中改正法律案ハ、過日上程致サレマ
シタ總動員法中改正法律案ト、審接ナル關
係アルコトヲ深ク信ズル者デゴザイマス
何トナレバ、今囘ノ刑法中改正法律案ニハ、
沒收ト云フ附加刑ヲ擴大强化サレテ居ルコ
トニ依ツテ明白デゴザイマシテ、ソコデ時
局ト深イ關係ヲ持チマス所ノ、此ノ刑法中
ノ瀆職罪ノ刑罰モ、亦非常ニ重加サレテ居
リマスガ、近來頻發サレテ居リマス所ノ制
裁法規ハ、ドレモ是モ其ノ刑罰ガ例外テク
重加サレテ居リマス、私ハ重刑必ズシモ惡
イトハ申シマセヌガ、併シナガラ此ノ傾向ハ
「ドイツ」ノ「ナチス」ノ刑罰ヲ模倣シタガ如
キ感ヲ與ヘルノデゴザイマス、或ル若イ檢事
ハ法廷ニ於テ論告ヲスル際斯ウ云フ、t 3
トラー」ハ靴一足ノ違反者ニ對シテ死刑ヲ
科スル、此ノ被〓ノ罪狀カラ見タナラバ、
體刑四筒月ハ輕キニ過ギル、是ハ實際體驗
シタ所ノ檢事ノ論〓ノ調子デゴザイマス、
併シナガラ斯ノ如キ思想ハ、實ニ誤レルノ
甚ダシキモノデアツテ、一體「ドイツ」ハ八
百億ノ償金ノ爲ニ、國民奴隷ノドン底生活
カラ、二十五年ノ悲痛ナル訓練ヲ積ンデ、
今日ノ經濟統制ヲ完成致シタノデアル、而
モ今尙ホ統制ヲ破ル者ハ「ユダヤ」人カ、或
ハ其ノ手先ノ者デ、謂ハバ「ドイツ」ノ准敵
國人デゴザイマス、隨テ靴一足ノ違反デ之
ヲ死刑ニ處シマシテモ、「ナチス」ニ於キマ
シテハ道理アル處刑デゴザイマスガ、我ガ
日本ニ於キマシテハ、全國民齊シク陛下ノ
赤子デアルコトヲ思ヒマスルト、此ノ議論
ハ斷ジテ通ルモノデハナイ、徒ラニ刑罰ノ
ミ重ク致シマシテ、罰金ナラ五万圓、體刑
ハ十年以下ト致シマシテ、國民ヲ傷ツケル
ト云フコトハ、大イニ考ヘナケレバナラナ
イ、國民ハ萎縮致シマシテ、明朗濶達ノ氣
ヲ失ヒ、銃後ノ陣營ガ暗クナルノヲ惧レル
ノデゴザイマス、仍テ私ハ是等違反者ヲ嚴
罰ニ處スルニ先ダチマシテ、國民ヲシテ違
反ナカラシムル爲ニ、政府ハ如何ナル豫防
方法ヲ講ジテ居ルカ、此ノコトニ關シ御伺
ヒヲ致シ、併セテ卑見ノ一端ヲ申述ベント
欲スルノデゴザイマス、、而シテ私ノ茲ニ御
伺ヒヲ致シタイノハ、單ニ刑法ニ支配サレ
ル犯罪ダケデハナク、苟クモ時局ニ關係ア
ル犯罪豫防ニ關スル總動員法ノ範圍ニマデ
及ビタイト考ヘテ居リマスカラ、司法大臣、
商工大臣、內務大臣カラ、ソレ〓〓御意見
ヲ御發表下サランコトヲ切望致シマス
先ヅ第一ハ各種統制違反、所謂闇取引デ
ゴザイマスガ、此ノ犯罪動機ハ必ズシモ利己
的慾心ノミニ基因スルトハ限リマセヌ、中ニ
ハ政府ノ朝令暮改、各種法令ノ頻發ニ基ク
場合ガ多々アルノデゴザイマス、例ヲ擧ゲ
テ申シマスト、酒ニ付キマシテハ、ご依頼人
年ノ三月四日、慥カ是ハ商工省告示デアツ
タト思ヒマスガ、所謂酒ノ釘付價格ヲ決定
致サレマシテカラ、昨年ノ十一月ニ至ルマ
デノ間ニ、酒ノ適正價格ヲ變〓致サレルコ
ト實ニ前後五囘ニ亙ツテ居リマス、卽チ
同年四月一日商工省告示第七十號ニ依リマ
シテ、酒ノ釘付價格ヨリモ樽詰、罎詰ニ限
リ金五圓也ノ增額販賣價格ヲ決定シテ、次
ニ九·一八ノ諸物價停止令ニ依リマシテ、再
ビ酒ノ販賣價格ヲ釘付ニ致サレマシタ、第
四囘ハ各府縣〓示デアリマスガ、ソレハ昭
和十四年十二月二十二日デ、桶物一樽ハ百
二十圓ニ値上ゲヲサレテ居リマス、更ニ昭
和十五年ノ四月一日ニナリマスト、今度ハ
商工省ト大藏省トガ聯合告示ヲ出サレマシ
テ、實ニ上等酒桶物販賣價格石百二十五圓
カラ百五十圓ニ變更サレタノデゴザイマ
ス、卽チ府縣告示カラ三箇月餘ニシテ一躍
三十圓以上ノ價格吊上ゲデゴザイマス、然
ルニ同年十一月一日ニ其ノ價格ヲ桶物石ニ
付キ百三十五圓ト改訂シテ、實ニ前後五囘、
法令ノ改廢ノ頻繁ナル、不適正價格ノ發表
是ヨリ甚ダシキハナイ(「ヒヤ〓〓」)所デ玆
ニ注意シナケレバナラヌノハ、酒ノ闇ガ此
ノ價格變動ノ間ニ行ハレルノデアツテ、確
カニ政府モ大イニ反省シナケレバナラヌ點
ガゴザイマスル、卽チ政府ノ役人ハ是等ノ
不適正價格、時ニハ適正價格ヲ決定スルニ
際シマシテ、失禮ナ申分カハ知レマセス
ガ、酒ニ關スル知識ガナイ、適正價格ヲ
決定スルニ付テノ基本觀念ガナイ、ソコデ
オ役人サンハ酒屋ノ幹部或ハ組合ノ役員ヲ
呼出シニナツテ、原料米ガ何程カ、搗減
リガドレ程カ、防腐劑ヲ混入致シマスル
ト、價格ニドレ程影響スルカト云フヤウ
ナコトヲ、是等ノ業者カラ聽ク、オ役人サ
ンハ業者ニ色々〓ヘテ貰ツテ、玆ニ初メテ
所謂酒ノ最高販賣價格ト云フコトヲ決定ナ
サル、隨テ商工省ヤ大藏省ガ共同〓示ヲ出
スニ先ダツテ、例ヘバ百五十圓ト〓示ヲナ
サル一箇月モ前ニ、業者ノ方デ之ヲ知ツテ
シマフ、サウ致シマスルト、小賣業者ハ猛
然トシテ之ヲ買ヒ漁ル、何分百三圓乃至百
五圓ノ酒ガ目ノ前デ百二十五圓ニナル、又
百二十五圓ノ酒ガ百日以內ニ百五十圓トナ
ルノデアリマスルカラ、買ハナイ者ハ馬鹿
ダト云フノデ、今度ハ酒造家ノ酒庫ニ出テ
行ツテ、前金ハ勿論ノコト酒樽マデ突付
ケテ、百二十五圓ノ公定價格デアルノニ、
百三十圓、百四十圓、百五十圓ト買進ム、
而シテ甘言ヲ弄シマシテ、次ニ發表サレル
公定價格ハ、小賣ニ付テハ百七十圓デアル
カラ、私ノ方デ賣出ス時ニハ勿論公定價格
以內ニ相成リマスルカラ、決シテ違反ニ問
ハレル心配ハナイト、言葉巧ミニ欺イテ之
ヲ買取ル、而シテ其ノ事實ガ檢事局ニ發覺
シテ捕ヘラレタ時ニハ、此ノ無理ニ買取ツ
タ所ノ小賣業者ニハ罪ガナクシテ、無理無
理賣ラサレタ所ノ酒造家ハ片端カラ檢事局
ニ引張ラレル、是ハ單ニ酒ノミニ付テノ例
ヲ擧ゲタノデゴザイマスルガ、今日諸物價
統制ニ付テ政府ノ法令ガ頻發シ、適正價格
ノ改廢ガ頻繁デアルト云フコトハ、大容院
ノ判例ガ之ヲ證明致シテ居ルノデゴザイマ
ス、卽チ昨年八月和傘「ス·フ」ニ付テモ判
例ガゴザイマスルカラ、私ガ玆ニ申上ゲル
マデモナク、司法當局ハ御承知ノ點デゴザ
イマス、此ノ法令ノ頻繁ナル變改ハ、單一二
法ノ威信ヲ保ツ上ニ大害アルバカリデハナ
〃、實ニ犯罪誘發ノ動機トナル、政府ノ役
人ガ總テノ物資ニ付テ、是ガ最高販賣價格
ヲ決定スルニ付テノ知識ノ持合セガナイコ
トハ無理ハナイ、寧ロ是ハ當然デゴザイマ
ス、隨テ知ラナイモノハ知ラナイトシテ、
輕々ニ百二十五圓カラ百五十圓、百六十圓
ト、一足飛ビニ飛バシタリシナイデ、愼重
ナル態度ヲ以テ之ニ臨ミ、苟クモ一旦決メ
タ以上ハ、ソンナニドギマギシナイデ、國
民ヲシテ適從スル所アラシメ、少クトモ闇
ヲヤル機會ナカラシメルヤウ、御注意願ヒ
タイト思フノデアリマス(拍手)此ノ點ニ付
キマシテ、商工大臣ニ御意見ガアツタナラ
バ、御伺ヒ致シタイノデゴザイ、マス
次ハ司法大臣、內務大臣ニ御伺ヒ致スノ
デゴザイマス、只今申述ベマシタコトハ、
業者ガ法令告示ヲ知リ過ギテノ違反デアル
ガ、今度ハ少シモ知ラナカツタガ爲ニ罪ト
ナル場合デゴザイマス、是ハ只今司法大臣
モ仰セラレタ通リニ、法律ヲ知ラナイカラ
ト云ウテ、罪ヲ犯スノ意ナシト云フコトハ
出來ナイ、卽チ知ツテモ知ラナクテモ罪ハ
罪ト云フコトニ相成ルノデゴザイマスガ、
ソコガ善政ト惡政トノ分岐點デゴザイマシ
テ、民ヲシテ知ラシメル、知ツテ犯セシ者
ニモ尙ホ愛國心ハアル、日本人固有ノ愛國
心ニ愬ヘテ、犯罪豫防ニ全力ヲ盡スベキダ
ト信ズルノデゴザイマス、今日ノ如ク法令
ガ頻發サレマシテハ、判事ト雖モ、檢事ト
雖モ、亦吾々辯護士ト雖モ、之ヲ知ルト云
フコトハ困難ト言ハンヨリハ、寧ロ不可能
デゴザイマス、假ニ價格統制令第七條ダケ
ヲ讀ンデ見マシテモ、實ニ厖大ナル一册ノ
書物ガ出來マス、現ニ過日上程致サレマシ
タ總動員法中改正法律案ニ於キマシテモ、
大部分ノ條文ハ總テ其ノ具體的條項ヲ勅令
ニ讓ツテ居リマスカラ、定メシ又厖大ナル
改正法ト相成ルデアリマセウガ、是等ノ法
令ノ總テヲ國民ニ知ラシメルト云フコト
ハ、大ナル難事業ニハ相違ゴザイマセヌ、
併シ政府ハ盛ンニ制裁法規ヲ出シ、國民ハ
何モ知ラナイ、「ホテル」ノ「サービス」料ヲ
今マデ通リ貰ツテ居ル、部屋代等モ何モ知
ラナイデ貰ツテ居ル、ソコヘ警察ガ喚ビニ
參ル、何ノ用カト思ツテ行ツテ見スマト
オ前ハ豚箱ニ入ツテ居レト、サウシテ五
日モ十日モ留置サレ、取調ヲ受ケテ、初
メテ自分ノ貰ツタ「サービス」料ガ違反デ
アルト云フコトヲ知ルノデゴザイマス、
斯クテハ斷ジテ銃後ノ大切ナル國民ヲ待
遇スル途デハゴザイマセヌ(「ヒヤ〓〓」)
ソコデ私ハ簡單ニ實例ヲ以テ申上ゲマス
ガ、今日大豆ノ統制價格ハ石三十五圓デア
ル、地方ノ農民ハ左樣ナコトハ知リマセ
ヌ、然ルニ昨年ノ十一月頃、一大字百戶ノ中
實ニ七十戶程ト云フモノガ自作ノ豆ヲ持寄
リマシテ、石五十圓デ之ヲ賣却シタ、是ガ
警察ノ耳ニ入リマシテ、チヨツト來イト喚
バレ、其ノ主ナル者ハ二十日間モ警察ニ留
置サレ、一大字大騷ギヲヤツタト云フ事實
ガゴザイマス、然ルニ其ノ七十戶ノ大部分
ハ、大豆ノ最高販賣價格ヲ知ラナカツタ者
デアルコトハ勿論デゴザイマスガ、玆ニ司
法當局ノ御注意ヲ願ハナケレバナラヌノ
ハヽ是ガ一旦刑事記錄トシテ公表サレル場
合ニハ、總テ前カラ存ジテ居リマシタ、知
ツテ居リマシタト必ズ記錄ニ載ツテ來ル、
ソレハ檢事ヤ警察ノ訊問ニ對シテ、斷然抗
爭スル力ガナイカラデアツテ、今地方ノ農
家ガ總テノ物品價格ヲ知ツテ居ルト斷定ス
ルノガ無理デゴザイマス、是ハ一例ニ過ギ
ナイノデゴザイマシテ、コンナ例ハ他ニ幾
ラモアリマスガ、此處ニハ省略致シマス、
ソコデ是等ノ被〓人ニ對シ、必ズ利得ノ何
倍カニ相當スル罰金ヲ科セラシルノデゴザ
イマスルガ、而モ今日ノ所デハ、罰金ノ最
高額ガ五千圓ト相成ツテ居リマスルカラ、
闇ノ利得一万圓、二万圓ト增加スルニ連レ
マシテ、檢事ニ於キマシテハ例外ナク體刑
ヲ求刑スル、今日以後ハ此ノ刑罰ガ益〓重ク
ナリ、國民ノ刑務所ニ叩キ込マレル者ハ、
愈〓多クナルニ相違ゴザイマセヌ、ソコデ私
ハ政府ニ對シ、先ヅ國民ヲ處罰スルニ先ダ
チマシテ、之ヲ十分ニ知ラシメル、單ニ知
ラシメルダケデハイケナイ、立法理由モ併
セ知ラシメテ、國民ノ愛國心ニ愬ヘ闇行
爲ヲ絕滅セシムベキダト申スノデゴザイマ
ス、ソレニハ立法理由ヲ知ラシメナケレバ
ナリマセヌ、何故ニ從來ノ總動員法ヲ改正
シテ、其ノ統制ヲ擴大致サナケレバ相成ラ
ヌカ、祖先傳來ノ土地家屋デモ、如何ナル
必要ガアツテ收用セラレルノデアルカ、德
川時代カラノ家業デモ、不急要ノ事業トシ
テ整理サレルノモ、是亦國家ノ爲ニ斯ウ云
フ必要ガアルカラダト云フコトヲ、戰爭ニ
勝ツ爲ニハ勞働者ノ賃金モ、「サラリーマ
ン」ノ俸給モ統制サレナケレバナラナイノ
ダト云フコトヲ、最初其ノ立法理由ヲ懇切
丁寧ニ〓ヘ込ミ、而モ尙ホ敢テ法令ヲ犯ス
者ヲ處罰スルト云フ風ニ致サナケレバナラ
又、無暗ニ罪人バカリ拵ヘマスルト、銃後
ガ暗クナリ、洵ニ痛心ニ堪ヘナイモノガ
ゴザイマス、一體漫リニ被告人呼ハリヲ
致シマス官僚ノ人達ノ心ガ私ハ分ラヌ、或
ル警察部長ハ米ノ闇ヲヤツタ人々ヲ捕ヘ
テ、愧死スベシト云フコトヲ新聞ニ公ニ致
シテ居リマシタガ、是等ハ一體同胞ニ對シ
テ使用スベキ言葉デゴザイマセウカ、ソコ
デ私ハ政府ニ對シテ提案ガアルノデゴザイ
マスル、我ガ日本ハ到ル處ニ、大抵ノ田舍
ニ一人デモ二人デモ判事ヤ檢事ガ居ラレマ
ス、又辯護士モ澤山居ラレマス、警察官等
法令ニ明ルイ者ガ多數居ラレマスカラ、御
多忙中洵ニ恐縮デハゴザイマスルガ、是亦
國家ノ爲メデゴザイマスルカラ、一制裁法
規ノ發布每ニ、全國民ニ對シテ、ナゼ此ノ
法律ガ必要デアルカト云フ立法理由ヲ說明
シ、理解セシメテ、國民ノ愛國心ニ愬ヘ
テ、締制違反豫防ノ策ヲ講ゼラレンコトヲ
切望スルモノデゴザイマス(拍手)卽チ司法
大臣、內務大臣ハ、立法理由ニ認識深キ判
檢事、辯護士、司法警察官等ヲ總動員致サ
レマシテ、全國民ヲシテ新法令ノ發令每ニ
之ヲ知ラシメ、之ヲ理解セシメテ、先ヅ違
反豫防ニ力ヲ盡スベキ機構ヲ整備セラレル
意思ナキヤ否ヤ、此ノ點ヲ御伺ヒ致シマス
第三ハ、刑法上ノ時局犯デゴザイマスル
ガ、是ハ內務大臣、文部大臣ニ御伺ヒ致シ
タイノデゴザイマス、刑法上ノ時局犯ニ付
テデゴザイマスルガ、近時靑年職工强盗事
犯ト云フモノガ非常ニ多イ、此ノ種ノ犯罪
ハ東京ヤ大阪等ノ大都會ニ多イノデゴザイ
マスルガ、(大阪デハ之ヲセンブリヲ掛ケル
ト言フ、東京デモ亦一種ノ「テクニック」ガ
ゴザイマス、戰前大抵二、三圓ノ小遣ヲ貰
ツテ居ツタ靑少年ガ、戰時工業ノ旺盛トナ
ルニ從ヒマシテ、一寸旋盤ノ「ハンドル」ヲ
握リ、又ハ「シカル」盤ノ使用法ヲ知リマス
ト、優ニ月五六十圓カラ百圓、百二、三十圓
モノ金ヲ貰フ、小人壁ヲ懷イテ罪アリデ、
彼等ハ最初ノ程ハ「カフエ」ニ入リ浸ツテ居
リマスガ、段々增長致シマシテ、惡イ機會
ニ惡イ場所ニ臨ミ、時ニ職長アタリカラ連
レラレテ、色々ナコトヲ覺エテ、次第ニ
墮落シテ參リマシテ、工場ヲ休ミ惡友打連
レテ流連デモスルヤウニナリマスルト、オ
定リノ遊興資金ニ困ツテ參リマシテ、道之
惡事ヲ働クヤウナコトニ相成ルノデゴザイ
マス、最初ハ冗談混リニ相團結致シマシテ、
町ノ少年少女ヲ街頭ニ捉ヘ、一寸賴マレ
テ吳レト稱シテ、人通リノ少イ場所ニ連レ
テ行ツテ、小遣ヲ出セ、時計ヲ貸セト申シ
テ脅喝シテ居リマスガ、何分少年少女ガ相
手デハ大シタ金モ手ニ入リマセヌ、ソコデ
段々大膽ニナツテ參リマシテ、大人ヲ襲擊
スルヤウニナリマス、然ルニ大人ノ中ニハ
可ナリ手强イ者モ現ハレテ參リマスカラ、
遂ニハ白晝小刀ヲ忍バセテ人ヲ脅カスヤウ
ニナリマシテ、遂ニハ人ヲ傷ケ金品ヲ强奪致
シマス、彼等ガ現ニ犯シツツアル犯罪ガ、
如何ニ恐ルベキ大罪ナルカヲ知リマセヌ、
捕ヘラレテ監獄ニ入リ、公判廷デ檢事ノ求
刑ヲ聞イテ、愕然トシテ夢カラ覺メタヤウ
ニ改悛致シマスガ、モウ其ノ時ハ旣ニ遲イ、
サウシテ懲役三箇年或ハ四年ヲ言渡サレ、
刑務所ニ送ラレテ行クノデアリマスガ、看
過シ得ナイコトハ是等ノ靑少年ハ大抵入營
前後ノ靑年デアツテ、名譽アル戰士トシテ
出征スベキ靑年ガ、フトシタ出來心カラ刑
務所ニ入ツテ、國家ノオ役ニ立ツコトガ出
來ナイ、是ハ國家トシテモ大ニ考ヘナケレ
バナラヌノデアリマス、戰前ニ於キマシテ
ハ大抵ノ大工場ニハ夜學校ノ設備ガアツ
テ、是等靑年勞働者ヲ〓育シテ居ツタノデ
アリマスガ、戰時ニ入ツテ此ノ事ガ頗ル怠
慢ニナツテ參ツタヤウニ感ゼラルルノデア
リマス、殊ニ今日ノヤウニ旋盤ノ二、三臺モ
アレバ收入ノ十分ナル時代ニ於キマシテハ、
到ル處ニ小工場ガ設立セラレマシテ、工
場デ一夜學校ハ設備ガ出來マセヌ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=18
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019・小山松壽
○議長(小山松壽君) 北浦君ニ御注意致シ
やく、モウ打合セノ時間ガ過ギテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=19
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020・北浦圭太郎
○北浦圭太郞君(續) 私ハ時間ノ打合セノ
コトハ聽イテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=20
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021・小山松壽
○議長(小山松壽君) アナタニ與ヘラレタ
時間ヲ七分過ギテ居リマス、簡單ニ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=21
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022・北浦圭太郎
○北浦圭太郞君(續) 私ハ時間ノコトハ聽
イテ居リマセヌガ、宜シウゴザイマス、ソコデ
政府ハ大工場ハ獨立致シマシテ、小工場ハ
聯合致シマシテ、已ムヲ得ナケレバ小學校
ヲ利用致シマシテ、是等靑年ニ軍國〓育ヲ
施スベキ〓育所ヲ設置スルコトガ、此ノ種
犯罪ノ豫防法デアルト同時ニ、靑年〓育ニ絕好
ノ機會ヲ與ヘルモノト信ジマスルガ、内務大
臣又ハ文部大臣ノ御意見如何デゴザイマスル
カ、尙ホ私ハ質問シタイコトガ二項バカリア
ルノデアリマスガ、七分時間ヲ過ギタト云フ
コトデアリマスカラ、是デ終リマスガ、以上
三點ニ付テ各關係當局ノ御答辯ヲ願ヒタイ
ノデアリマス(拍手)
〔國務大臣柳川平助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=22
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023・柳川平助
○國務大臣(柳川平助君) 質問ノ第一點
ハ、嚴罰ヲ伴フ法規ガ多ク制定セラレルガ、
之ヲ罰スルバカリデハイケナイ、如何ナル
豫防方法ヲ講ズルカト云フ御尋ネデアリマ
ス、是ハ次ノ質問ニモ關聯シテ居リマスガ、
固ヨリ〓化、注意等ニ依リマシテ、過チヲ
犯ス心ヲ直スト云フ外ニ、法ヲ周知セシメ
ルコトニ依ツテ、豫防スル必要ガアラウト
存ズルノデアリマス
次ニ經濟事犯ハ政府ノ朝令暮改ニ依
ツテ起ルコトモアツ云、獨リ事犯者ノ
ミノ罪デハナイ、又其ノ中ニハ隨分實
情ニ適セザル取扱モアルガ、之ニ對シ
テノ考ヘハドウカト云フコトノヤウデア
リマス、而シテ法ヲ知ラザル者ニ對スル、
法ノ運用ノ適切デナイ等ノコトニ關スル、
司法當局トシテノ所見ヲ尋ネラレタノデア
リマスガ、曩ニモ御答ヘ致シマシタヤウニ、
此ノ經濟ノ統制ニ關スル諸法規ハ、戰時下
事情已ムヲ得ズ制定セラレタモノガ多イノ
デアリマシテ、中ニハ御述べノヤウニ、法
ガ國民ニ周知セラレズ、又避ケントシテ避
ケラレナカツタヤウナ事情ノアルコトハ、
尤モデアルト思フノデアリマス、仍テ其ノ取
扱ニ付キマシテハ、十分ニ事情ヲ酌量シ
テ、無理ノナイヤウニ運用致シタク努メマ
スガ、御述べニナリマシタ立法ノ理由ヲ、
併セテ國民ニ知ラシムル方法ニ付キマシテ
ハ、萬般ノ手段ヲ執リタイト存ジテ居リマ
ス、只今北浦サンノ述べラレマシタ警察官、
地方ニ在ル司法官、或ハ辯護士等、各方面
ノ人ヲ合同若クハ協力セシメ、立法ニ當ツ
テ制定前カラ其ノ事由ヲ國民ニ徹底セシム
ル、斯ク如キ手段ヲ盡シテ、之ヲ國民ニ知
ラシメテ過チノナイヤウニ致シタイト考へ
テ居ル次第デアリマス、以上短簡デゴザイ
マスガ御答ヘ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=23
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024・小山松壽
○議長(小山松壽君) 萱場内務次官
〔政府委員萱場軍藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=24
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025・萱場軍藏
○政府委員(萱場軍藏君) 北浦サンノ御質
問ノ第二問及ビ第三問ニ付キマシテ御答ヘ
致シマス、新タニ經濟法規殊ニ統制經濟ニ關
スル制裁法規ガ制定サレタ場合ニ、之ヲ一
般ニ周知徹底セシムル具體的ナ方法ニ付テ
御說ガアツタノデアリマス、甚ダ御同感デ
アリマスガ、政府ト致シマシテハ、マダ斯
樣ナ方法ハ執ツテ居リマセヌ、內務省ニ關
スル限リニ於キマシテ、此ノ經濟警察ニ付
テ、知ラズシテ法ヲ犯ス如キコトナカラシ
ムル爲ニ、今年カラ新タニ全國ノ各警察署ニ
經濟生活相談所ヲ設ケマシテ、出來ル限リ
法ノ周知徹底ヲ期シテ居ル次第デアリマス
次ニ第三ノ御質問デアリマス、時局以來
靑少年ノ犯罪ガ非常ニ增加シテ居ル、之二
對シテ政府ハドウ云フ對策ヲ講ジテ居ルカ
ト云フ御質問デアリマス、御說ノ通リ靑少
年犯罪ノ增加ノ趨勢ハ事實デアリマシテ、
洵ニ憂慮ニ堪ヘナイ次第デアリマス、之h
對シマシテ成ベク其ノ豫防ヲ期スル爲ニ、
警察ト致シマシテ色々方法ヲ講ジテ居ルノ
デアリマスガ、御承知ノ通リ唯警察ノ力バ
カリデハ是ハ及ビマセヌ、現在警察ト致シ
マシテ、或ハ工場ノ關係者、或ハ保護者其
ノ他ト萬全ノ連絡ヲ取リマシテ、此ノ絕無
ヲ期シテ居ル次度デアリマスガ、事柄ガ中
中廣汎ニ亙ツテ居ルコトデアリマシテ、今
後一層ノ努力ヲ必要ト致シマス、政府各方
面トモ連絡ヲ取リマシテ、十全ノ努力ヲ致
シタイト思フ次度デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=25
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026・小山松壽
○議長(小山松壽君) 小島商工次官
〔政府委員小島新一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=26
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027・小島新一
○政府委員(小島新一君) 北浦サンノ御質
疑ノ第一點、卽チ經濟統制違反ノ防止ニ關
シマシテ、產業統制法規ノ制定實施ニ付テ
ノ御質問デゴザイマスルガ、最近經濟事
情ノ急速ナル變化ニ卽應スル爲ニ、各種ノ
經濟統制ノ法規ガ頻發セラレマシタコトハ、
事情洵ニ餘儀ナイ次第デアリマスガ、今後
是等ノ統制法規ノ制定ニ當リマシテハ、出
來得ル限リ民間ノ知識經驗ニ聽キマシテ、
實情ニ卽シタル法規ヲ制定スルヤウニ、最
善ノ努力ヲ致シタイト考ヘテ居リマス、其
ノ實施運用ニ當リマシテモ、商工省ト致シ
マシテハ、經濟統制强化ノ必要ナル事情、
統制法規ノ具體的ノ內容等ニ付キマシテ
ハ、出來得ル限リ徹底ノ行キマスヤウニ、
注意致シテ參リタイト考ヘテ居ル次第デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=27
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028・小山松壽
○議長(小山松壽君) 文部省政府委員
〔政府委員藤野惠君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=28
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029・藤野惠
○政府委員(藤野惠君) 北浦サンノ第三
問、靑少年工ノ德性上遺憾ガアル、之ニ對
シテ夜間ノ〓育施設充實等ノコトニ付テ、
當局ノ所見ヲ聽キタイト云フ御質疑ニ御答
ヘ申上ゲマス
御述ベノゴザイマシタ通リ、輓近靑少年
職工等ノ方面ニ於キマシテ、殊ニ工場密集
地帶等ニ於テ、段々御述ベノゴザイマシタ
ヤウナ傾向ノアリマスコトハ、當局ト致シ
マシテモ洵ニ殘念ナコトニ存ジテ居リマス、
殊ニ現下ノ事情ノ下ニ於キマシテハ、此ノ
種ノ傾向ニ付キマシテ、〓育上特段ノ留意
ヲ要スルモノト考ヘマスルノデ、御意見ノ
アル所ハ當局ト致シマシテモ全ク御同感申
上ゲル所デアリ、今後モ十分ノ注意ヲ致シ
テ參リタイト存ジマス、尙ホ之ニ付キマシ
テハ、幸ヒニ致シマシテ靑年學校義務制ノ
實施モ、御協賛ヲ經マシテ逐年學年ヲ增備
致シテ居リマス、靑年學校義務制實施ノ振
興ト、又一面ニハ家庭〓育ノ上ニ於キマシ
テ、是非是等幼少年ノ職工等ニ付キマシテ、
過チニ陷ルコトノナイヤウニ、是ガ振興ヲ
圖ルコトノ必要ヲ認メマシテ、本年度ニ於
キマシテモ、特ニ是ガ振興ニ關スル若干ノ
經費ヲ計上致シマシテ、御協賛ヲ得マシタ
ヤウナ次第デゴザイマス、尙ホ靑年學校、
家庭〓育等ト相俟チマシテ、校外指導ノ各
種ノ〓化機關、譬ヘテ申シマスルナラバ、
補導聯盟等ノ機關トモ十分連繫ヲ致シマシ
テ、此ノ點ハ御趣旨ノアル所ヲ尊重致シ、
御憂慮ヲ戴クヤウナコトノナイヤウニ、今
後十分ニ〓育各方面ノ德性涵養ノ實ヲ收メ
ルヤウニ努力致シタイト考ヘマス、簡單デ
ゴザイマスガ御答辯申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=29
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030・小山松壽
○議長(小山松壽君) 是ニテ質疑ハ終了致
シマシタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ
選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=30
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031・服部崎市
○服部崎市君 本案ハ政府提出、借地法中
改正法律案外一件委員ニ併セ付託サレンコ
トヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=31
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032・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ8
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=32
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033・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第
二、治安維持法改正法律案、第一讀會ノ續
ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス-
委員長服部英明君
第二治安維持法改正法律案(政府提
出第一讀會ノ續(委員長報〓)
報〓書
一治安維持法改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十六年二月十九日
委員長服部英明
衆議院議長小山松壽殿
〔服部英明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=33
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034・服部英明
○服部英明君 諸君、私ハ只今議題トナリ
マシタル治安維持法改正法律案特別委員會
ノ經過竝ニ結果ニ付テ御報〓致シマス
本委員會ハ去ル十日委員長及ビ理事ノ互
選ヲ行ヒ、十二日ヨリ審議ニ入ツタノデア
リマス、本委員會ノ議題ト成ツタ治安維持
法改正法律案ハ、其ノ內容國體ニ關スル重
要事デアリマスノミナラズ、現行法ニ其ノ
全般ニ亙ル重大ナル改正ヲ加ヘントスルモノ
デアリマス、啻ニ新タナル罰條ヲ設クルニ
止マラズ、特別刑事手續及ビ豫防拘禁ニ關ス
ル規定ヲモ加ヘテ居ルノデアリマスカラ、本
委員會ハ特ニ愼重審議ノ必要ヲ認メ、去ル
十二日ヨリ十九日マデノ間、七囘ニ亙ツテ
審議ヲ重ネマシタ、其ノ間祕密會ニ於テハ、
内外地ノ思想情勢及ビ改正ヲ必要トスル實
際的事情等ヲ詳細ニ聽取致シマシタ、熱心
ニシテ且ツ忌憚ナキ質問應答ヲ行ツタ上、
本月十九日採決致シマシタ所、全會一致ヲ
以テ政府原案ニ贊意ヲ表シタノデアリマス、
本案ハ極メテ重要ナル法案デアリマシテ、
一タビ之ニ觸レマスト忽チ引括ラレルト云
フ恐ロシイ法律デアリマスカラ、只今改正
ノ要點ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス
刑罰規定ニ關シマシテハ、一、國體ヲ變
革スルコトヲ目的トスル犯罪ト、私有財產
制度ヲ否認スルコトヲ目的トスル犯罪トヲ、
各別條ニ規定スルト共ニ、國體變革ニ關スル犯
罪ニ付テハ、禁錮刑ヲ廢シテ懲役刑ノミト
致シ、且ツ刑ノ短期ヲ高メタコト、二、國體
變革ヲ目的トセル結社ノ支援結社、卽チ所
謂外廓團體ニ關スル處罰規定ヲ新タニ設ケ
タコト、三、國體變革ヲ目的トセル結社ノ
組織ヲ準備スルコトヲ目的トセル、所謂準
備結社ニ關スル處罰規定ヲ新タニ設ケタコ
ト、四、國體變革ヲ目的トシ、又ハ其ノ目
的ヲ以テ組織セラレタ結社ヲ、支援又ハ準
備スルコトヲ目的トセル集團ニ關スル處罰
規定ヲ新タニ設ケタコト、五、結社又ハ集
團ニ關係ナキ個人ノ行爲ニ付キ、宣傳其ノ
他國體變革ノ目的遂行ニ資スル行爲ヲ取締
ル爲メ包括的規定ヲ設ケタコト、六、類似
宗〓團體等ニ關スル處罰規定ヲ新タニ設ケ
タコト等デアリマス
而シテ刑事手續ニ關シテハ、普通ノ刑事
訴訟法ニ對スル特則ト致シマシテ、一、檢
事ニ對シ相當廣汎ナル强制搜査權ヲ附與
シ、二、辯護士指定制度ヲ新設シ、三、裁
判管轄移轉ノ請求ヲナシ得ル場合ヲ擴張
シ、四、第一審ノ判決ニ對シ控訴ヲ許サザ
ルコト等ヲ規定致シテ居ルノデアリマス、
更ニ所謂非轉向ノ思想犯人ヲ社會ヨリ隔離
シ、且ツ其ノ改悛ヲ促スコトヲ目的トスル
豫防拘禁制度ヲ新設シタ點ニアルノデアリ
マス
本委員會ニ於キマシテハ、本案ノ內容ハ
勿論、廣ク各般ノ事項ニ付キ、熱心ナル討
議ガ行ハレタノデアリマス、改正ノ必要性
及ビ原案ノ內容ニ關シテハ、委員間ニ殆ド
異論ヲ見ナカツタノデアリマスガ、最近ノ
國內情勢殊ニ國民思想ノ現狀ニ鑑ミ、之ヲ
繞ツテ極メテ活發ナル質疑應答ガ行ハレタ
ノデアリマス、其ノ詳細ニ關シテハ速記錄
デ御覽ヲ願フコトニ致シマシテ、此處ニハ
其ノ中特ニ重要ナル應答ヲ御紹介スルニ止
メタイト存ジマス
先ヅ第一ニ、對「ソ」國交調整問題ト、共產
主義運動取締ノ方針ニ關スル質問デアリマ
シタ、日「ソ」ノ國交調整ニ惡影響アルヲ慮
リ、共產主義運動取締ニ關スル當局ノ方針
ガ緩和セラルルニアラズヤト、危惧ノ念ヲ
抱ク者アルニ鑑ミマシテ、此ノ際政府ハ其
ノ取締方針ヲ闡明シテ、斯カル危惧ヲ一掃
スベシト云フ委員ノ意見ニ應ジマシテ、政
府ハ從來ノ方針ニ何等變更ヲ加フル意思ヲ
有セズ、苟クモ治安維持法ニ抵觸スル思想
ニ對シテハ、斷乎タル處置ニ出ヅル方針ヲ
堅持スルモノナルコトヲ、力强ク言明致サ
レタノデアリマス
二ニハ憲法ノ解釋問題ニ關シ、委員ヨ
リ最近ニ於ケル言論界ノ風潮トシテ、動モ
スレバ我ガ憲法ノ條章ヲ至曲セントスル傾
向ガアルヤニ見受ケラレ、殊ニ學者中ニハ、
憲法ノ發展的解釋論ヲ唱へ、時流ニ阿護ス
ルノ說ヲナス者アルハ、寒心ニ堪ヘナイ所
デアルガ、之ニ對スル政府ノ所信如何ト質
シマシタルニ對シ、政府ハ憲法ヲ歪曲シテ
自說ヲ主張スルガ如キハ斷ジテ許容セズ、
若シ左樣ナ言論ヲナシ、學說ヲ唱フル者ノ
意圖スル所ガ、我ガ國體ヲ變革シ、又ハ私
有財產制度ヲ否認セントスルニ存スル場合
ニ於テハ、本法ニ依リ嚴重取締ルベキコト
ヲ表明致サレタノデアリマス
次ニ委員猪野毛利榮君ヨリ天皇機關說
ハ我ガ尊キ國體ノ本義ニ反スルコトノ明
言ヲ要求セラレタルニ對シマシテ、司法、
內務、文部各大臣、及ビ陸軍當局ヨリ、
天皇機關說ガ我ガ國體ノ本義ニ反スルモ
ノナリト、力强ク明答致サレタノデアリマ
ス仍テ從來政府ノ明答ヲ缺イテ居タ本問
題ガ解決致シマシタルコトハ、國民トシテ
洵ニ御同慶ニ堪ヘナイト存ズルノデアリマ、
ス(拍手)
次ハ二、三ノ委員ヨリ政體ノ變革ニ關ス
ル處罰規定ヲ、此ノ改正案ニ設クベシトノ
希望的意見ガ開陳セラレマシタ、政府ハ之
ニ對シ、第五十囘帝國議會ニ提出セラレタ
ル治安維持法案ニハ、國體變革ト竝ベテ、
政體變革ヲ處罰スル旨ノ規定ヲ設ケタノデ
アルガ、當時議會ハ、政體ナル用語ノ意義ガ
不明確ナリトシテ、之ヲ削除シタルニ依リ、
議會ノ意思ヲ尊重スル意味ニ於テ、其ノ處
罰規定ヲ設ケザリシモノニシテ、政體ヲ變
革セントスルガ如キハ多クノ場合國體變革、
又ハ私有財產制度否認ノ目的ヲ達スル手段
トシテ行ハルルモノナルヲ以テ、取締上支
障ナカルベシト應答セラレ、委員モ大體政
府ノ意見ニ贊同致サレタノデアリマス
次ニ問題トナリマシタノハ、私有財產制
度ノ否認ノ意義如何、產業奉還、土地國有
ヲ主張スルハ、私有財產制度ノ否認ニ該當
スルヤ否ヤノ質問デアリマス、政府ハ此ノ
質問ニ對シ、次ノ通リ答辯致サレタノデア
リマス、卽チ私有財產制度ノ否認トハ、私
有財產制度ト相容レザル制度ノ實現ヲ圖ル
コト、換言スレバ、該制度ヲ根本的ニ變更
スル、或ハ根本的ニ破壞スルコトヲ意味スル
ノデアル、抑〓私有財產制度トハ、私人ガ財
物ニ對シテ有スル所有權ヲ基礎トシ、所有權
ノ有スル機能ヲ發揮セシムベク、法ノ保護
シ且ツ規律スル所ノ制度デアツテ、國民生
活ノ基礎ヲ成ス一ノ制度デアル、而シテ之
ヲ思想的ニ申シマスナラバ、歷史的、國民
的ニ拔クベカラザル信念ノ存スル、國民共
存共榮ノ律則ヲ包含スルモノト解スベキデ
アル、隨テ私有財產制度ノ否認ハ、我ガ國
家ノ組織ニ動搖ヲ及ボシ、我ガ國體ヲ變革
スルニ至ル虞アルモノト言ハネバナラヌ、
私有財產制度ハ、斯樣ニ重要ナル基本的制
度デアルカラ、憲法ハ之ヲ保護シテ居リ、
本案ニ於テ之ヲ否認スル思想ヲ處罰スル所
以モ、亦玆ニ存スルト申サレタノデアリマ
ス(拍手)
次ニ產業奉還論、土地國有論ト言ツテモ、
其ノ内容必ズシモ明確デハナイガ、若シ凡
ユル資本ノ私有ヲ禁ゼントスル政治上ノ主
張ノ下ニ、產業奉還又ハ土地國有ヲ主張ス
ル場合ニ於テハ、私有財產制度ノ否認ニ該
當スル、但シ土地ハ最モ重要ナル生產資本
デアルカラ、其ノ公有ヲ主張スル場合ハ、
凡ユル財貨ノ私有ヲ禁ズル主張カラ出發ス
ル場合ガ多カラウト考ヘルト云フノデアリ
マス
次ニ本案ニハ憲法中直接國體ニ關セザル
條章否認ニ關スル規定ナキカ如何トノ問ニ
對シ、政府當局ハ憲法ノ條章否認ニ關スル
行爲ニ付テハ、他ニ刑法、新聞紙、出版等
ニテ關スル法規、治安警察ニ關スル法規ニ
依ツテ處斷セラルルノデアリマス、併シ若
シ其ノ範圍ヲ逸脫シテ、國體ノ變革、又ハ
私有財產制度否認ノ域ニ觸レテ來レバ、直
チニ本法ニ依ツテ處斷スルノデアリマス、
要スルニ本法及ビ他ノ法規ニ依リ、治安維
持ノ完璧ヲ期シタイト思ツテ居リマストノ
趣旨ヲ御答ヘニナリマシタ
次ニ本委員會ニ於テ、大政翼贊會乃至其
ノ構成員ノ思想的性格等ニ關シ、最モ活潑
ナル質疑ガ行ハレ、之ニ關聯シテ〓學刷新
ノ急務ガ具體的ニ主張セラレタコトデアリ
やっ、其ノ質疑ノ內容ハ極メテ多岐ニ亙リ
マスノデ、之ヲ省略致シマスガ、之ニ對シ
政府ハ、翼賛會ニ對スル疑惑ハ至急之ヲ
掃スル處置ヲ講ジ、翼賛會ノ健全ナル成長
ニ努力シタイ、〓學刷新ニ關シテハ、具體
的ニ調査中デルト應答セラレタノデアリマ
ス
次ニ委員世耕弘一君ヨリ、本法ハ國體ノ
變革、私有財產制度否認ニ關スル重要法案
デアリマスカラ、實施ノ上ハ、政府ニ於テ
極メテ嚴肅ニ取扱ハレタシトノ希望趣旨
ヲ、委員長ハ委員會ヲ代表シテ述ベラレタ
シトノ提議ガアリマシタ、仍テ委員長ハ政
府當局ニ對シ、本法ハ國體ノ變革、私有財
產制度否認ニ關スル所謂重要法案デアリマ
スカラ、本法實施ノ上ハ、極メテ嚴肅ニ適
用セラレタシ、是ト同時ニ本法刑事手續ハ、
普通刑事訴訟法ニ對スル特法トシテ、檢事
ニ廣汎ナル權限ヲ附與シテ居リマスカラ、
檢事ガ之ヲ行フニ當リ、職權濫用等ノ弊ニ
陷ラザルヤウ、嚴肅ノ態度ヲ以テ臨マレン
コトヲ要望致シマシタ、之ニ對シ政府ハ、
本法ハ重要ナル法案デアリマスカラ、實施
ノ上ハ愼重ニ、且ツ嚴肅ナル態度ヲ以テ、
又檢事ニ於テモ職務執行ニ際シ、他ヨリ非
難ナキヤウ十分注意シテ行フヤウニ致シタ
イトノ旨趣ヲ明確ニ答辯セラレマシタ
斯クシテ質疑終了セントスルニ當リ、委
員泉國三郞君ヨリ、是ニテ質疑打切ノ動議
出デ、更ニ同委員ヨリ討論ヲ省略シテ採決
アランコトノ動議ガアリマシタ、何レモ別
ニ異議ナク成立シマシタ、仍テ直チニ採決
ニ入リ、委員長ハ本法案成立ニ贊成ノ委員ノ
起立ヲ求メマシタ、起立總員、全會一致ヲ
以テ本案ハ可決セラレタノデアリマス
以上本案委員會ノ經過及ビ結果ヲ御報〓
申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=34
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035・小山松壽
○議長(小山松壽君) 本案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=35
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036・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=36
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037・服部崎市
○服部崎市君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=37
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038・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=38
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039・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直テニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
治安維持法改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=39
-
040・小山松壽
○議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通
リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=40
-
041・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際、政府提出、國民
貯蓄組合法案、國民更生金庫法案、日本勸
業銀行法中改正法律案、北海道拓殖銀行法
中改正法律案、及ビ農工銀行法中改正法律
案、右五案ヲ一括議題トナシ、委員長ノ報
〓ヲ求メ、其ノ家議ヲ進メラレンコトヲ望
ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=41
-
042・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=42
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043・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ-國民
貯蓄組合法案、國民更生金庫法案、日本勸
業銀行法中改正法律案、北海道拓殖銀行法
中改正法律案、農工銀行法中改正法律案、
右五案ヲ一括シテ第一讀會ノ續ヲ開キマス、
委員長ノ報〓ヲ求メマス-委員長菊池良
一君
國民貯蓄組合法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
國民更生金庫法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
日本勸業銀行法中改正法律案(政府提
出第一讀會ノ續(委員長報〓)
北海道拓殖銀行法中改正法律案(政府
提出)第一讀會ノ續(委員長報告)
農工銀行法中改正法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長長告)
報告書
一國民貯蓄組合法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノヽ語致
候此段及報〓候也
昭和十六年二月十九日
委員長菊池良
衆議院議長小山松壽殿
報告書
一國民更生金庫法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十六年二月十九日
委員長菊池良.
衆議院議長小山松壽殿
報告書
一日本勸業銀行法中改正法律案(政府提
巴
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十六年二月十九日
委員長菊池良、
衆議院議長小山松壽殿
報〓書
一北海道拓殖銀行法中改正法律案(政府
提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十六年二月十九日
委員長菊池良
衆議院議長小山松壽殿
報告書
一農工銀行法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十六年二月十九日
委員長菊池良
衆議院議長小山松壽殿
〔菊池良一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=43
-
044・菊池良一
○菊池良一君 只今議題トナリマシタ國民
貯蓄組合法案、國民更生金庫法案、日本勸
業銀行法中改正法律案、北海道拓殖銀行法
中改正法律案及ビ農工銀行法中改正法律案
ノ五法律案ニ付キマシテ、之ヲ一括シテ委
員會ニ於ケル經過竝ニ結果ヲ御報告致シマ
ス
委員會ハ二月十四日開會、委員長竝ニ理
事ノ互選ヲ行ヒマシタ、爾來前後五日間ニ
豆リマシテ、各法律案ニ付キ愼重審議ヲ重
ネタノデアリマスガ、此ノ間委員諸君ト關
係各省ノ政府委員トノ間ニ、色々ノ觀點カ
ラ、各般ノ問題ニ亙リ、非常ニ熱心ナル質
疑應答ガ交ハサレタノデアリマス、而シテ委
員諸君ノ質問ハ、何レモ甚ダ適切ニシテ且
ツ有益ナルモノデアリマシタ、玆ニ逐一御
報告致シタイノデアリマスルガ、時間ノ關
係上之ヲ割愛セザルヲ得ナイノハ洵ニ遺憾
デアリマス、隨テ詳細ノ點ハ速記錄ニ依リ
御承知ヲ願ヒマス、此處ニハ各法律案ニ付
キマシテ、其ノ內容ノ〓略竝ニ主要ナル質
疑應答ヲ紹介スルニ止メタイト存ジマス
先ヅ國民貯蓄組合法案ニ付テ御報告致シ
マス、政府ヨリ國民貯蓄組合法案提案ノ理
由ニ付テ詳細ナル說明ガアリマシタ、卽チ
政府ニ於キマシテハ、近時內外情勢ノ推移
ニ伴ヒマシテ、貯蓄奬勵徹底ノ要益〓、緊切ノ
度ヲ加ヘテ參リマシタノデ、此ノ際國民貯
蓄組合ノ整備擴充ヲ圖リ、之ヲシテ貯蓄奬
勵運動ノ核心タラシメントスル趣旨ヲ以
テ、本法案ヲ提出シタト謂フノデアリマス、
而シテ本法案ノ骨子トスル所ハ、國民貯蓄
組合ノ機構、指導監督及ビ助成ノ三ツデアリ
マス、先ヅ組合ノ機構ニ關シマシテハ、現在
存スマ組合ノ實情ニ卽シ單ニ、其ノ形態ヲ整備
スルニ止メ、次ニ組合ノ指導監督ニ付キマ
シテハ、組合ノ斡旋スル貯蓄ノ種類ヲ限定
シ、又組合ノ成立解散等ノ場合ニ屆出義務
ヲ課シ、其ノ他報〓ノ徵取等、監督上必要
ナル措置ヲ講ズルコトトシ、又組合ノ助成
ニ關シマシテハ、第一ニ組合ノ斡旋ニ係ル
一定ノ貯蓄ニ付キ、甲種ノ配當利子所得ニ
對スル分類所得稅ヲ免除スル、第二ニ貯蓄
銀行以外ノ銀行ニ對シ、組合ノ斡旋ニ係ル
モノニ限リ、複利貯金及ビ据置貯金ノ受入
ヲ認メル、第三ニ國民貯蓄組合ニ補助金又
ハ奬勵金ヲ交付シ得ル途ヲ開イタト云フノ
デアリマス、之ニ對シマシテ委員諸君ヨリ
質問ガアリマシタ、其ノ質問ノ要旨ニ付テ
二、三御紹介申上ゲマス
第一ハ、組合ノ斡旋シタ貯蓄ハ、引出ニ
制限ヲ受ケルフデハナイカト云フ點デアリ
マシタガ、之ニ對シテハ、現在多クノ組合
ニ於テハ、組合規約ヲ以テ、〓ネ巳ムヲ得
ザル場合ノ外ハ、一定期間引出サナイト云
フ申合セノ下ニ貯蓄ヲ行ツテ居ル狀況デア
ツテ、本法案施行後ニ於テモ、此ノ點ニ付
テハ從來通リ組合ノ自律ニ委ネルノデアル
ガ、免稅ノ場合ニハ、一定期間引出サナイ
コトヲ條件トスル見込デアルトノ答辯ガア
リマシタ、第二三、本法案ハ組合代表者ニ
屆出義務、報〓義務等ヲ課シテ居ルガ、種々
煩瑣ナル手續ヲナサシムルコトハ、却テ組
合ノ發達ヲ阻碍スル虞ガナイカト云フ點デ
アリマシテ、之ニ對シテハ此ノ種ノ屆出、
報告等ハ現在行ツテ居ルモノデアツテ、新
タナル負擔ヲ組合ニ課スルモノデナク、組
合ノ助成竝ニ監督上最小限度ノ必要ニ基ク
モノデアルガ、本法案ノ運用ニ當ツテハ、
質問ノ趣旨ヲ十分尊重シタイトノ答。辯ガア
リマシタ、第三ハ、第六條ハ如何ナル趣旨ニ
依リ規定セラレタモノカト云フ點デアリマ
スガ、之ニ對シマシテハ、政府ハ今次事變
勃發以來、全國的ニ貯蓄奬勵運動ヲ展開
シ、組合ノ組織ヲ勸奬シ來ツタ所、大體良
好ノ成〓ヲ收メ、旣ニ全國相當ノ廣範圍ニ
亙リ、組合ノ結成ヲ見ルニ至リ、今日組織
命令ヲ發セザルヲ得ザルガ如キ事態ニ逢着
シタ譯デナク、又今後ニ於テモ同樣愛國運
動トシテ勸奬ニ依リ、組合ノ結成ヲ促進シ
テ行ク方針デアルガ、今日ニ於テ稀ニ結成
ヲ見ザル向キニ對シテハ、國家ハ單ニ道義
的ノミナラズ、法律的ニモ組合ノ結成ヲ通
ジテ國策ニ協力スベキ旨ヲ要請シテ居ルコ
トヲ、明カニシタモノデアルト云フ答辯ガ
アリマシタ
次ニ國民更生金庫法案ニ付テ御報〓致シ
そう、國民更生金庫法案ハ、最近ニ於ケル
中小商工業等ノ狀況ニ顧ミマシテ、轉業又
ハ廢業ヲナス者ノ資產及ビ負債ノ整理ヲ促
進ジ、其ノ更生ヲ圖ル爲ニ、新タニ國民更
生金庫ト云フ特別法人ヲ設立セントスルモ
ノデアリマシテ、本金庫ハ轉廢業者ノ爲ニ、
資產ノ管理處分ノ引受、又ハ之ヲ擔保トス
ル資金ノ融通等ノ業務ヲ行ヒ、舊業務用資
產ヲ有利ニ換價スルコトニ依リ、是等ノ者
ノ轉廢業ヲ容易ナラシメントスルノデアリ
やっ、現下ノ經濟情勢ニ顧ミマシテ、轉廢
業問題ハ甚ダ重要ナルモノト認メラレマス
ルノデ、委員諸君モ終始熱意ヲ以テ質疑ヲ
重ネラレマシタ、之ニ對シテ政府當局モ甚
ダ誠意アル答辯ヲセラレタノデアリマシテ、
今其ノ主要ナルモノヲ若干申上ゲテ見タイ
ト思ヒマス、第一ニ、國民更生金庫ノ業務
上ノ損失ニ對スル政府ノ補償金總額ハ豫
算外契約ニ依レバ六千五百万圓デアルガ、
本金庫ヲシテ十分ナル活動ヲナサシメル爲
ニ、右程度ノ損失豫定額デ足リル見込デアル
カトノ質問ガアリマシタ、之ニ對シマシテ政
府當局ヨリハ、本金庫ガ業務上蒙ルベキ損
失額ハ、今後ニ於ケル物資需給關係ノ如何
ニ依リ影響セラルルモノデ、今日的確ナル
見積リヲナスコトハ困難デアルケレドモ、
差當リ六千五百万圓程度ノ金額ヲ豫定スレ
バ、當面昭和十六年度ノ事業ノ遂行上支障
ヲ生ズルコトハナイ見込デアル、併シ右ノ
金額ヲ以テ不足スル時ハ、勿論之ヲ增額シ
タイト考ヘテ居ル旨ヲ答辯サレマシク、第
二ニ國民更生金庫ハ、其ノ業務ノ內容ヨリ
見テ、是ガ監督ハ商工省專管トセズ、大藏
賓商工省等ノ關係各省ノ共管トスベキモ
ノデハナイカトノ質問ガアリマシタ、之二
對シマシテハ政府當局ヨリ、本金庫ハ各種
轉廢業ノ事態ニ卽應シテ、特ニ敏速ナル活
動ヲナサシムル必要ガアルノデ、之ヲ大藏
省專管トシタガ、業務ノ內容ハ商工省トモ
關係ガ深イノデ、關係各省ト十分ノ密接ナ
ル關係ヲ保ツベキコトハ當然デアルト考ヘ
ル、斯ウ云フ答辯ヲサレマシタ、第三ニ國
民更生金庫ハ、轉廢業者ノ資產トシテ、有體
動產、不動產等ノ外ニ、營業權ノ存在ヲモ
認メルコトガ望マシイト思フガ、政府ノ方
針ハ如何デアルカト質問致シマシタ所ガ、
之ニ對シテ政府當局ヨリハ、國民更生金庫
ガ資產ノ處分ヲ引受クル場合ノ評價ハ、
應營業ヲ繼續スルモノトシテ妥當ナル價額
ニ依ルノデアツテ、實際ノ處分價額以上ト
ナルノガ普通デアルカラ、營業權的ノモノ
ガ加味サレルコトトナルモノト考ヘラレル、
斯ウ云フ答辯ヲサレマシタ、第四ニ轉廢業
者中ニハ資產ノ全ク無イ者モ少クナイト思
ハレルガ、國民更生金庫ハ斯カル無資產ノ
者ヲ救濟シナイノカト云フ質問ニ對シマシ
テ、政府営局ハ、國民更生金庫ハ、轉廢業
ノ結果不用トナツタ舊業務用ノ資產ヲ有利
ニ換價スルコトヲ目的トスル施設デアル、
併シナガラ苟クモ轉廢業ト言フ以上ハ、若
干ノ動產ナリ何ナリ、多少ノ資產ヲ有スル
モノト考ヘラレル、尙ホ轉廢業ニ對スル施
設トシテハ、本金庫ノミナラズ、他ニ色々
ノ機關ナリ施設ナリガアルカラ、ソレ等ノ
機關乃至ハ施設ヲ利用スルコトモ出來ルコ
トト思フカラ、御諒承ヲ願ヒタイ、斯ウ云フ
政府ノ御答辯デアリマシタ、第五ニハ中小
商工業ニ對スル政府ノ方針如何トノ質問デ
アリマス、之ニ對シテ政府當局ヨリ、政府
ハ中小商工業ニ對シテハ、之ヲ維持育成ス
ルノヲ本旨トスルノデアルガ、是ガ爲ニハ
經營規模ノ合理化ト能率ノ向上トヲ圖ルコ
トヲ必要トスルモノデアリ、又各業種業態
ニ應ジ、企業ノ合同又ハ經營ノ共同化ヲ行
フト共ニ、下請制度ノ活用ニ付テモ考究シ
テ居ル次第デアル、併シナガラ已ムヲ得ズ
轉廢業ラナスノ餘儀ナキ者ニ對シテハ、適
當ニ是ガ轉業又ハ轉職ヲ指導致シタイト考
ヘテ居ル次第デアルト答辯致サレマシタ
次ニ日本勸業銀行法中改正法律案、北海
道拓殖銀行法中改正法律案及ビ農工銀行法
中改正法律案ニ付テ御報〓致シマス、此
ノ三法律案ハ何レモ日本勸業銀行、北海
道拓殖銀行又ハ農工銀行ノ業務ニ對スル法
律上ノ制限ガ、是等銀行ノ現狀竝ニ現下
ノ一般經濟情勢カラ考ヘマシテ、相當ニ
之ヲ緩和シ、是等不動產銀行ヲシテ、一層
時局ニ卽應セル活動ヲナサシメントスルモ
ノデアリマス、改正ノ主ナル點ハ、第一ニ
ハ貸付ノ擔保トナシ得ルモノノ範圍ヲ擴張
スルコト、第二ニハ貸付ノ方法及ビ期間ニ
關スル制限ヲ緩和スルコト、第三ニハ市街
地貸付及ビ預リ金ニ關シ制限ヲ緩和スルコ
ト、第四ニハ有價證劵投資ノ範圍ヲ擴張ス
ルコト、第五ニハ賣出債劵ニ關スル登記手
續ノ簡易化ヲ圖ルコト等ノ諸點デアリマス、
而シテ是等不動產銀行ノ今日ノ時局下ニ於
テ擔當スベキ任務ハ、甚ダ重要ナルモノト
認メラレマスノデ、委員會ニ於キマシテモ、
委員諸君及ビ政府當局、何レモ熱心ニ質疑
應答ヲ續ケラレマシタ、今其ノ論議ノ主ナ
ルモノニ付テ御紹介致シマスレバ、第一日本
勸業銀行等ノ貸付利率ハ、尙ホ相當高率ニ
過グルヤウニ認メラレルガ、之ヲ引下ゲル
必要ハナイカトノ質問ニ對シ、政府當局ヨ
リ、不動產資金ハ出來ル限リ之ヲ低利ナラシ
ムル必要ノアルコトハ勿論デアルカラ政府
トシテモ、從來トテモ資金「コスト」トノ關係ヲ
モ考慮シ、極力是ガ引下方ヲ指導シテ來テ
居リ、現ニ昭和十六年上期分認可最高利率
ニ於テモ、一分ノ引下ヲ實行致シ居ル旨ノ
答辯ガアリマシタ第二ニ日本勤業銀行ノ
鑑定ハ嚴格ニ過ギルヤウニ認メラレルガ、之
ヲ改善スル必要ハナイカトノ質問ガアリマ
シタガ、之ニ對シ政府當局ヨリ、是等不動產
銀行ノ鑑定ニ付テハ、特ニ最近數年來種々
ノ方法ヲ講ジテ、極力其ノ改善方ニ付キ指
導シテ居リ、最近ニ於テハ改善ノ跡著シキ
モノアリト認メラレマスルガ、尙ホ今後ト
モ十分監督指揮致シタイト思フ旨ノ答辯ガ
アリマシタ
斯クシテ二月十九日ノ委員會ニ於キマシ
テ質疑ヲ終了致シマシテ、直チニ右五案ヲ
一括シテ議題トナシ、討論ニ入リマシタ所、
委員伊東岩男君ヨリ贊成ノ意見ヲ述ベラレ、
採決ノ結果、滿場一致ヲ以テ五案トモ原案
通リ可決致シマシタ、以上簡單ナガラ御報
告申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=44
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045・小山松壽
○議長(小山松壽君) 五案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=45
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046・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ五案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=46
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047・服部崎市
○門部崎市君 直チニ五案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=47
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048・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=48
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049・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ五案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
國民貯蓄組合法案第二讀會(確定議)
國民更生金庫法案第二讀會(確定議)
日本勸業銀行法中改正法律案
第二讀會(確定議)
北海道拓殖銀行法中改正法律案
第二讀會(確定議)
農工銀行法中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=49
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050・小山松壽
○議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、五案トモ委員
長報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=50
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051・服部崎市
○門部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際政府提出、委員
會等ノ整理等ニ關スル法律案ヲ議題トナシ、
委員長ノ報告ヲ求メ、其ノ審議ヲ進メラレ
ンコトヲ望ミマスノ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=51
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052・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=52
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053・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ-委員
會等ノ整理等ニ關スル法律案、第一讀會ノ續
ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス-
委員長小谷節夫君
委員會等ノ整理等ニ關スル法律案政
府提出)第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一委員會等ノ整理等ニ關スル法律案(政
府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十六年二月二十日
委員長小谷節夫
衆議院議長小山松壽殿
〔小谷節夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=53
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054・小谷節夫
○小谷節夫君 私ハ只今議題トナツテ居リ
マスル委員會等ノ整理等ニ關スル法律案ノ
委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓申上ゲマス
本法律案ハ內閣初メ各省ニ所屬スル委員
會及ビ調査會等ノ中、旣ニ設置當時ノ任務
ヲ終了シタルモノ、新機構ニ任務ヲ移讓
スルコトヲ適當ト認メルモノ、或ハ有名
無實ノモノ等ヲ整理改廢セントスルモノデ
アリマシテ、内閣關係デハ米穀自治管理委員
會外務省關係デハ對支文化事業調査會、
內務省關係デハ都市計畫中央委員會、映
畫委員會、著作權審査會、補償審査會、大
藏省關係デハ外貨評價委員會、特別融通審
査會、農林省關係デハ米穀統制委員會、米
穀處理委員會、蠶品種容査會、商工省關係
ニ於テハ重要鑛物委員會、工作機械製造事
業委員會、輕金屬製造事業委員會、有機合
成事業委員會、不當廉賣審査委員會、統制
委員會、自動車製造事業委員會、貿易審議
會統制協議會、百貨店委員會、製鐵事業
委員會、液體燃料委員會、遞信省關係ニ於
テ航空機製造事業委員會、船員職業紹介委
員會、航路統制委員會、造船事業委員會、
航空機技術委員會、政府航空出資評價委員
會、鐵道省關係ニ於テ小運送業審査委員會、
厚生省デハ國立公園委員會等ヲ廢シ、尙ホ
以上ノ中補償關係ニ付テノミ存續スルモノ
ガ七ツアリマス、更ニ十七ノ委員會ノ二ツ
乃至五ツヲ合併シテ、六ツノ審査會及ビ委
員會トナサントスルモノデアリマス
斯クシテ法律ニ依ツテ設置セラレタ委
員會及ビ審査會總數八十二ノ中、廢止セラ
レルモノハ四十六デアリ、殘ルモノハ合併ニ
依ルモノ共ニ四十バカリ、約半數トナルノ
デアリマス、是ハ法律ニ依ルモノノミデア
リマスガ、此ノ以外勅令ニ依ルモノ、閣議
ニ依ルモノ、各省ニ於ケル委員會、審査會
等ヲ合算致シマスレバ、其ノ數實ニ內地ニ
於テ二百七十、外地ニ於テ百五十、合計四百
二十ノ驚クベキ數ニ上ツテ居ルノデアリマ
ス、今囘此ノ法令執行ト共ニ內地ノ分百
七十、外地ノ分六十ヲ整理統合シテ、百
九十ヲ殘ス豫定デアリマス、委員會ハ審
議ノ結果其ノ改廢ハ妥當ナルモノト認メマ
シタガ、存置スルモノ及ビ將來設置スルモノ
ニ對シテハ、官僚獨善ノ弊ニ陷ルコトノナ
キヤウ、又近時議會人ハ廉價ニ評價セラレ
テ居リマスガ、今日ノ如キ非常時ニ於テ、特
ニ上意下達シテ國論ノ統一ニ資シ、下情ヲ
上通シテ國內ノ相剋摩擦ヲ減ズル爲ニハ、
最モ有用ナル存在デアリ、大政翼贊會ノ如
キモ、其ノ出發點ニ於テ、此ノ存在ヲ輕視
シタコトガ非常ナ失態デアツタコトハ、決
シテ私共ノ自晝自讚デモ、我田引水デモナ
イコトヲ力說シ、議會人ヲ無視スル近時ノ
此ノ傾向ハ、政府ハ勿論國家ノ爲メ頗ル遺
憾デアル旨ヲ警告シ、政府側ニ於テモ其ノ
點ヲ諒トシ、同感ノ意ヲ表スル所ガアツタ
次第デアリマス
斯クテ本日質問ヲ打切リ、大野委員ノ討
論ヲ用ヒズシテ採決スベシトノ動議ガ成立
致シマシテ、採決ノ結果全會一致本案ヲ可
決致シタ次第デゴザイマス、以上御報告申
上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=54
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055・小山松壽
○議長(小山松壽君) 本案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=55
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056・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=56
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057・服部崎市
○服部崎市君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通リ
可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=57
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058・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=58
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059・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
委員會等ノ整理等ニ關スル法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=59
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060・小山松壽
○議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通
リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=60
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061・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際政府提出、郵便
貯金法中改正法律案、及ビ船舶保護法案ノ
兩案ヲ一括議題トナシ、委員長ノ報〓ヲ求
メ、其ノ審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=61
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062・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=62
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063・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ-郵便
貯金法中改正法律案、船舶保護法案、右兩
案ヲ一括シテ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委
員長ノ報告ヲ求メマスー-委員長平川松太
郞君
郵便貯金法中改正法律案(政府提出、貴
族院送付)第一讀會ノ續(委員長報告)
船舶保護法案(政府提出、貴族院送付)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報〓書
一郵便貯金法中改正法律案(政府提出、貴
族院送付)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十六年二月二十日
委員長平川松太郞
衆議院議長小山松壽殿
報〓書
一船舶保護法案(政府提出、貴族院送付)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十六年二月二十日
委員長平川松太郞
衆議院議長小山松壽殿
〔平川松太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=63
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064・平川松太郎
○平川松太郞君 郵便貯金法中改正法律案
竝ニ船舶保護法案ノ委員會ニ於ケル經過ト
竝ニ結末ヲ御報告申上ゲマス
先ヅ郵便貯金法中改正法律案ニ付テ大體
提案ノ趣意ヲ述ベマス、現在郵便貯金法ノ
第三條ニ規定シテアリマス所ノ、郵便貯金
ノ最高制限額ガ二千圓デアリマス、之ヲ三
千圓ニ引上ゲルコトト、一度ノ預入レ金額
ガ十錢以上トアリマスノヲ、五十錢以上ニ
引上ゲルコトト、此ノ二點デアルノデアリ
マく、政府ハ事變下財政經濟政策ノ圓滿ナ
ル運行ヲ圖ル爲メ、國民貯蓄奬勵運動ヲ進
メ、長期ニ亙ツテ是ガ强化實踐ヲ期シテ居
ルノデアリマスガ、郵便貯金ニ於キマシテハ、現
在最高ガ二千圓ト制限セラレテ居リマスノ
デ、此ノ制限額ヲ適當ニ引上ゲ、サウシテ國
民貯蓄ノ增加ヲ圖ルコトハ極メテ緊要ナコ
トデアル、次ニ最近ニ於ケル郵便貯金ノ取扱
狀況ヲ見マスノニ、五十錢未滿ノ小額預入レハ
總口數ガ三〇%ヲ超エテ居ルノデアリマス
ガ其ノ金額ニ於キマシテハ、總預入レ金
額ノ僅カニ〇、五七%ニ過ギナイノデアリ
さい、斯ウ云フ點カラ見マシテ、最低制限
ハ五十錢トスルノガ滴當デアル、是ガ大體
ノ趣旨デアルノデアリマス、改正案ノ內容
ハ只今申上ゲマシタ通リデアリマスガ、其
ノ委員會ニ於ケル質問ニ付キマシテハ、二、
三點御紹介ヲシテ置キタイト考ヘマス
第一點ハ、最高額ノ制限二千圓ヲ三千圓
ニ引上ゲルノデアルガ、併シ今日ノ國民經
濟ノ狀況カラ見マスレバ、モウ少シ大幅ニ
引上ゲテモ宜シイデハナイカ、斯ウ云フ質
問ニ對シマシテ、政府ノ答辯ハ、尤モデア
ルガ、併シ戰時國民貯蓄奬勵等全體的ニ考
ヘル時ニハ、郵便貯金ダケヲ急ニ引上ゲマ
シテ、他ノ方面ニ動搖不安ヲ來スヤウナコ
トガアツテハ相成ラナイ、之ヲ避ケナケレ
バナラヌ、今一ツハ、貯蓄銀行及ビ信用組
合ノ預金ハ三千圓ヲ超ユルト課稅ヲセラル
ルコトニナツテ居リマス、是等ノ關係ヲモ
考慮シテ三千圓トスルノガ妥當デアルト云
フ答辯デアリマシタ
次ニハ、郵便貯金最高制限ヲ引上ゲルコ
トニ依リマシテ、民間ノ貯蓄機關ニ惡影響
ヲ來サナイデアラウカ、斯ウ云フ質問ニ對
シマシテ、政府ハ斯ウ云フ答辯ヲシテ居ル
ノデアリマス、郵便貯金ハ農業、學生生徒、
無業等ヲ主ナル利用者ト致シテ居ルノニ反
シマシテ、民間貯蓄銀行ハ商工業者ヲ主ナ
ル利用者トシテ居ル、卽チ前者ト後者トノ
間ニ於キマシテハ、各預金者層ヲ異ニシテ
居ル、尙ホ民間貯蓄機關ハ郵便貯金ニ比シ
〓シテ高イ利廻デアルノミナラズ、今囘ノ
引上ゲ限度決定ニ當リマシテ、民間貯蓄機
關ノ免稅點ガ現在三千圓トナツテ居ル、斯
ウ云フ點トノ權衡ヲ考慮シテ、郵便貯金モ
三千圓ニ止メタ次第デアルカラ、質問ノヤ
ウナ虞ハナイ、又既往明治三十八年度及ビ
大正九年度兩度ノ制限引上ゲヲ致シマシタ
其ノ際ニ於キマシテモ、實際ニサウ云フヤ
ウナ懸念ハナカツタ、斯ウ云フ答辯デアリ
マス
ソレカラ今一點ハ、現在三等郵便局、殊
ニ無集配郵便局ノ從業員ノ待遇ガ他ニ比シ
テ非常ニ劣惡デアル、ソコデ此ノ待遇改善
ト云フコトハ、多年唱道セラレテ居ツテ、
而シテ尙ホ未ダ是ガ改善ヲセラレナイ、近
頃軍需工業其ノ他ノ方面ニ、此ノ郵便局ノ
從業員デ轉職スル者ガ多イ、事業ノ支障ヲ
來スヤウナコトガアツテハ相成ラヌガ、此
ノ點ニ付テ政府ハ改善ヲスル考ハナイカ、
之ニ對シマシテ政府ノ答辯ハ、本年ノ二月
一日カラハ郵便局ノ等級ヲ撤廢致シマシテ、
等等二等、三等ト云フ名稱ガナクナツ
タ、獨リ此ノ名稱ヲ廢シタノミナラズ、從
業員モ皆同樣ナ待遇ニスルコトニシテ、集配
人ノ服裝ノ如キモ、全部之ヲ官給ニスル建前
ニナツテ居ル、待遇改善ニ付テモ大イニ其
ノ必要ヲ感ジマシテ、本年ノ豫算ニハ、十分
デハナイケレドモ、其ノ費用ヲ計上シテア
ル、斯ウ云フ答辯デアツタノデアリマス
質問ヲ打切リマシテ討論ニ入リマシテ、
小林君ノ發議ニ依リマシテ討論ヲ打切ツテ
採決ニ入リマシタガ、滿場一致可決シタノ
デアリマス
次ニ船舶保護法案ニ付テ極ク簡單ニ說明
ヲ申上ゲマス、此ノ提案理由ハ、過日ノ本
會議ニ於テ海軍大臣ヨリ詳細ニ御述ベニナ
ツテ居リマスルカラ、是ハ省略致シマス、
大體ドウ云フ法案デアルカト云フ骨子ヲ申
上ゲルト三點ニ歸着スルノデアリマス、
第一點ハ、戰時事變又ハ外國間ノ交戰等ノ
場合ニ於キマシテ、船舶保護ノ要アル時ニ、
海軍官憲ハ船舶保護上必要ナ指示ヲナシ得
ルコト、第二點ハ、運航業者又ハ船舶所有
者ニ對シ船舶ノ設備又ハ乗組員ノ整備ニ關
シ、海軍大臣ハ關係各大臣ト協議ノ上ニ、
船舶保護上必要ナル指示ヲナシ得ルコ
ト、第三點ハ、船舶保護上必要アル時ニ
ハ、所要事項ニ關シ報〓ヲ徵シ、又ハ船舶
其ノ他必要ナル場所ニ立入リ檢査ヲシ得ル
コト、是等ノ三點デアリマシタ、サウシテ
各〓罰則ヲ設ケタ次第デアリマス、是ガ法案
ノ大體ノ骨子デアリマシテ、之ニ對シテ質
問應答ガアリマシタガ、其ノ中ノ二點ヲ申
上ゲテ見タイノデアリマス、一點ハ、兵役
法ヲ改正シテ商船乘組員ヲ海軍豫備兵ニス
ル考ヘハナイカト云フ質問デアリマス、之
ニ對スル政府委員ノ答辯ハ、關係各省ト能
ク協議ヲシテ、サウ云フ風ニ取計ヒタイト
云フコトデアリマシタ、更ニ現在ニ於ケル
商船〓育ハ、遞信省ト文部省トニ分レテ居
リマシテ統一シテ居ナイ、實際上甚グ不都
合デアルガ、之ヲ統一スル考ヘハナイカト
云フ質問ガアリマシテ、之ニ對スル文部省
ノ政府委員ノ答辯ハ、現在ニ於テハ文部省
ノ管轄ニ屬シテ居ル所ノ商船〓育ヲ遞信省
ニ移管スル考ヘハナイ、併シ文部大臣トモ
能ク協議ヲシテ、書面ヲ以テ囘答ヲスルト
云フ答辯デアリマシタ、之ニ反シテ遞信大
臣ノ答辯ハ、是ハ是非統一シタイト云フ希
望ヲ述ベラレテ居リマス、而シテ質問者ハ、
海軍大臣ガ今出席シテ居ラレナイカラ、何
レ海軍大臣ヘノ質問ハアトデ書面ヲ以テ囘
答シテ貫ヒタイト云フ希望ヲ開陳セラレマ
シタ、斯樣ナ質疑ガアリマシテ、質疑ヲ終
了シテ、討論採決ニ入リマシタガ、討論ヲ
省略シテ滿場一致可決致シマシタ、、此ノ段
御報告申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=64
-
065・小山松壽
○議長(小山松壽君) 兩案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=65
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066・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ兩案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=66
-
067・服部崎市
○服部崎市君 直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開
キ。第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=67
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068・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=68
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069・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
郵便貯金法中改正法律案
第二讀會(確定議)
船舶保護法案第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=69
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070・小山松壽
○議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、兩案トモ委員
長報告ノ通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=70
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071・服部崎市
○服部崎市君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際政府提出、蠶絲
業給制法案ヲ議題トナシ、委員長ノ報〓ヲ
求メ、其ノ寒議ヲ進メラレンコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=71
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072・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=72
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073・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ-蠶絲
業統制法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委
員長ノ報告ヲ求メマス--委員長高橋熊次
郞君
蠶絲業統制法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一蠶絲業統制法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノ
ト議決致候此段及報〓候也
昭和十六年二月二十日
委員長高橋熊次郞
衆議院議長小山松壽殿
〔別紙〕
(小字ハ委〓會修正)
蠶絲業統制法案中左ノ通修正ス
第二十九條社長及副社長ハ主務大臣之
ヲ命ジ其ノ任期ヲ四年トス
理事ハ株主總會ニ於テ之ヲ選任シ主務
大臣ノ認可ヲ受クルモノトシ其ノ任期
ヲ三年トス
監事ハ株主總會ニ於テ之ヲ選任シ其ノ
任期ヲ二年トス
蠶絲業ヲ監督スル官廳ノ官吏タリシ者ハ其ノ職ヲ退キタ
ル後五年間日本蠶絲統制株式會社ノ役員ト爲リヌハ其ノ
給與ヲ受クル事務ニ從事スルコトヲ得ズ但シ主務大臣ニ
於テ特ニ必要アリト認メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
附帶決議
-繭絲價ノ安定ヲ確保シ蠶絲業統制ヲ
徹底セシムル爲政府ハ速カナル機會ニ
於テ一元的統制ヲ完成スベシ
二農林大臣ノ指定ヲ受ケタル製絲業者
ガ輸出向生絲ヲ輸出シ又ハ販賣セント
スルトキハ日本蠶絲統制株式會社ヲ通シ
主務大臣ノ許可ヲ受クベシ
三前項ノ製絲業者ガ輸出向生絲ヲ輸出
シ又ハ販賣シタルトキハ一定基準ヲ定
メソノ販賣價格ト生產價格トノ差額ヲ
日本蠶絲統制株式會社ニ納付セシムベ
シ
四日本蠶絲統制株式會社ノ組織ニ際シ
テハ政府ハソノ官僚化ヲ嚴ニ戒メ事業
運營ニ關シ紊リニ拘束ヲ加フルコトナ
ク敏速機宜ノ措置ヲ講ジ得ル如クスベ
シ
五本法ノ施行ニ際シテハ乾繭倉庫、繭
市場ヲ買收又ハ利用スルト共ニ繭絲業
者蠶種販賣業者及其ノ團體ヲ活用シ
以テ失業ノ防止ニ留意スベシ
六養蠶ノ違作ニ對シ之レガ救濟策トシ
テ保險事業其他適當ナル施策ヲ講ズベ
シ
〔高橋熊次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=73
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074・高橋熊次郎
○高橋熊次郞君 只今議題トナリマシタ蠶
絲業統制法案ニ關シ、委員會ニ於ケル經過
竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス
本案ハ我ガ國蠶絲業ノ統制ニ關スル劃期
的立法デアリマシテ、一面ニハ最近ニ於ケ
ル國際情勢ノ緊迫ニ對應シ、他面ニハ國內
ニ於ケル纖維ノ需給狀況ニ照シ、從來輸出
ニ偏シテ居リマシタ我ガ國ノ蠶絲業ヲシテ、
其ノ重點ヲ國內纖維ノ補給ニ置カシメ、生
產配給、消費ノ全般ヲ通ジテ計畫化ヲ圖
リ、以テ如何ナル事態ニ立至リマシテモ聊
カモ動ゼズ、永遠ニ安固ナル基礎ノ上ニ、
其ノ安定及ビ發達ヲ圖ルノ態勢ヲ整ヘシメ
ントスルモノデアリマシテ、其ノ主タル內
容ハ
第ニ蠶種、繭及ビ生絲等ノ蠶絲類ニ對
スル生產計畫ノ設定デアリマス、卽チ今後
事態ニ卽シタル一定ノ用途別生產計畫ノ下
二、生產割當制ヲ實施シ、蠶絲類ノ計畫生
產ヲナスコトデアリマス
第二ニハ日本蠶絲統制株式會社ノ設立デ
アリマシテ、之ニ依リ原則トシテ蠶種、繭
及ビ生絲ノ一手買入及ビ賣渡ヲ行ハシメ、
以テ消費計畫ニ卽シタ供給ヲ確保セントス
ルノデアリマス
第三ハ蠶絲類ノ價格デアリマスガ、從來
輸出生絲ノ市價ノ騰落ニ依リ、其ノ相場ノ
變動常ナキ狀態デアリマシタガ、今後ハ日
本蠶絲統制株式會社ノ行フ配給ノ管理等ニ
依リマシテ、一定價格ニ依ル取引ヲ行ハシ
メントスルノデアリマス
第四ハ蠶絲類ノ檢査デアリマスガ、從來
ノ檢査制度ヲ擴充シ、原則トシテ繭及ビ生
絲ノ總テノ取引ヲ檢定又ハ檢査ニ依ラシメ
ントスルノデアリマス
第五ハ桑園ニ關スル施設デアリマスガ、
桑園ガ養蠶經營ノ基礎デアリマスト同時ニ、
農業生產ノ全體ニ於ケル重要ナル要素ヲ成
スモノナル點ニ徵シマシテ、桑園面積及ビ
其ノ配置ノ適正化ヲ圖ル爲メ、其ノ新設、
擴張等ニ付キマシテ、許可制度ヲ設ケント
スルモノデアリマス
第六ハ絲價安定施設特別會計ノ資金ノ擴
充デアリマシテ、政府ハ絲價安定ニ對スル
措置ノ萬全ヲ期スル爲メ、統制會社ヲシテ
最低價格ニ依ル輸出向生絲ノ買入ヲ行ハシ
メ、是ガ補强策トシテ一定ノ場合、政府ハ
統制會社ヨリノ生絲ノ買入又ハ會社ニ對ス
ル賣渡ヲナシ得ルコトト致シテ居ルノデア
リマスガ、是ガ爲メ必要ナル資金竝ニ當面
ノ絲價維持對策ニ要スベキ資金ヲ考慮シ、
絲價安定施設特別會計法ノ資金七千万圓ヲ
二億五千万圓ニ增額セントスルノデアリマ
ス
第七ハ蠶絲委員會ノ設置デアリマシテ、
政府ガ蠶絲類ノ生產計畫、價格等蠶絲業統
制ニ關スル重要事項ヲ定メマスニ付キマシ
テ、蠶絲委員會ヲ設置シ、之ニ諮問ヲ致サ
ントスルノデアリマス、本案ノ主タル內容
ハ以上ノ如クデアリマスガ、本委員會ニ於
キマシテハ、本案ノ重要性ニ鑑ミ、去ル十
二日以來九日間ニ亙リ各委員ニ於テ熱心且
ツ精細ナル質疑ヲ重ネテ來タノデアリマス
各委員ノ質疑ノ行ハレマシタコトヲ要約シ
テ申上ゲマスルト、大體次ノ二ツノ問題ト
ナルノデアリマス、其ノ一ツハ輸出生絲ノ
統制ニ關スル問題デアリマシタ、輸出生絲
ニ付キマシテハ、政府ハ需給ノ情勢ニ應ジ
マシテ、一定ノ製絲業者ニ對シ生產ノ割當
ヲスルノデアリマスルガ、其ノ販賣ハ從來
ノ方法ニ依ラシメルノガ、現在ノ事態ニ於
テ、外貨獲得ノ上ニ於テ得策デアルト云フ
意向デアリマスガ、之ニ對シマシテ其ノ一
點ハ、ソレデハ完全ナル蠶絲ノ統制ハ期セ
ラレナイ、折角多年ノ要望デアル所ノ統制
法案ガ出來ルノデアルカラ、輸出生絲ヲ除
外シテハ畫龍點晴ヲ缺クノ憾ミガアル、斯
ウ云フノデアリマス、其ノ二點ハ、輸出生
絲販賣ヲ自由トシクノデハ、ドウシテモ價
格ガ不安定トナルノデアツテ、海外ノ絹業
關係者ノ要望ニモ副ハズ、輸出ノ仲張モ期
セラレナイノデアル、斯ウ云フノデアリマ
ス、其ノ三點ハ、養蠶、製絲、機業、輸出
等ヲ通ジ、全般的ニ〓絲業ハ危險ナル產業、
投機的產業トセラレマシテ、業者ノ經濟ヲ
不安ニ置キ、國民經濟ニ禍ヒシタノデアリ
マシタガ、依然トシテ投機性ヲ拂拭スルコ
トガ出來ナイノデアル、斯ウ云フコトデア
リマス、其ノ四點ハ、支那生絲ニ付キ、日
支共存共榮ノ立場カラ今後經濟ヲ强化スル
要ガアルガ、之ニ付テハ日本ニ於テモ一元
的統制ヲ行フノデナケレバ、日支蠶絲業ノ
圓滑ナル調整ハ期セラレナイノデハナイ
カ、斯ウ云フコトデアリマス、其ノ五點
ハ、輸出生絲ノ價格ガ不安定デアツテ、絲
價ガ下落スルヤウナ場合ニ於テハ、延イテ
ハ繭價ニモ惡影響ヲ及ボスノ虞ガアル、斯
ウ云フコトデアリマス、其ノ六點ハ、國內
生絲ノ生產者ハ、其ノ製造セル生絲ヲ悉ク
統制會社ニ販賣セネバナラヌ、斯ウ云フコ
トニナツテ居ル、然ルニ輸出生絲生產者ハ
或ル統制會社、或ハ輸出業者等ニ販賣スル
コトガ出來ル上ニ、又直輸出モ出來ル、〓
算取引所ニ於テ賣繫ギモスルコトガ出來ル、
斯ウ云フコトデハ、國內生絲ヲ製造スル製
絲家ト、輸出生絲ヲ製造スル製絲家ト、兩
者ノ間ニ甚ダシキ不公平ガアルノデハナイ
カト云フノガ其ノ六點デアリマス
其ノ七點トシテハ、輸出生絲ヲ自由ニシテ
置クコトハ、此ノ蠶絲業統制ヲ遂ニ破綻ニ導
クノ虞ガアリ、ソレガ全國養蠶家ニ多大ノ不
利益ヲ蒙ラシムルノ懸念ガアルト云フノデ
アリテス、大體以上ノヤウナ意見ガゴザイマ
シタ、之ニ對シテ政府ノ御說明次ノ通リデ
アリマシタ、第一、輸出生絲ニ付テモ國用絲
ニ於ケルガ如ク一元的ニ會社ニ於テ一手買
取ヲスルコトハ、理想トシテハ決シテ異論
ガアル譯デハナイガ、唯現在ノ狀勢ニ於テ
之ヲ行フコトニハ種々ノ懸念ガアル、卽チ
絲價ノ低下、絲格ノ偏倚ヲ來ス虞ガアル、
又生絲ノ荷溜リヲ生ズル懸念モアル、斯ウ
云フノデアリマス、第二ニハ、生絲輸出〓
爲ニ絲價ノ安定ヲ圖ラネバナラスコトハ
勿論デアルガ、ソレニ付テハ生絲ノ生產數
量ノ割當ニ依ツテ、絲量調節ノ方面カラ絲
價維持ヲ圖ルト共ニ、制高制低ノ値幅ヲ縮
マセルコトト致シ、更ニ統制會社自體ノ買
入賣渡、及ビ絲價安定施設特別會計ノ擴
張ニ依リ、其ノ目的ヲ達成シ得ラレマス、
隨テ輸出製絲家ノ經營モ安定スルノデアル、
斯ウ云ブノデアリマス、第三ハ繭價ニ付キ
マシテモ、常ニ生產費ヲ基準トシテ買上ヲ
スルノデアツテ、輸出生絲ニ付テハ絲價ノ
安定ヲ確保致シマスルガ故ニ、繭價ノ安定
モ之ヲ確保スルコトガ出來ルト云フノデア
リマス、第四トシテ支那生絲トノ間ニ調整
ヲ圖ルコトハ勿論デアルガ、現在ノ所是非
日本ニ於テ一元統制ヲナサネバナラヌト云
フ段階ニハ到達シテ居ラナイノデアリマス、
第五トシテ國用ニ重點ヲ置クト言ツテモ、
現在ニ於テハ、平戰兩樣ノ構ヘトシテ、外
貨獲得ノ使命達成ヲモ同時ニ考慮セネバナ
ラヌカラ、一定價格デ押通スコトハ不適當
デアル、要スルニ以上ノヤウナ考ヘカラ、
輸出生絲ニ付テハ現在ニ於テハ統制會社ノ
一手買入トセズ、其ノ一部ヲ製絲業者ノ直
輸及ビ自由取引ヲ行ハシムルコトトシ、多
少ノ可動性アル安定値ニ於テ統制シテ行ク
コトガ、外貨ノ獲得上宜シイノデアルト云
フコトデアツタノデアリマス
次ノ問題ハ繭絲商、繭市場、蠶種賣買業
者等ノ處置ニ關スル問題デアリマス、是等
ノ所謂中間取扱業者ハ、本制度實施ノ結果
失業スル虞ガアルノデアルガ、之ニ對シテ
政府ハ如何ナル考慮ヲ拂フ積リデアルカト云
フ質問デアリマシタ、之ニ對シテ政府當局
ノ答辯ハ、第一、繭ノ賣買業者ニ對シテハ、
玉繭、中下繭ノ集荷ニ當ラセルト共ニ、統
制上支障ノナイ限リハ配給ノ取扱ヲモナサ
シメルヤウ考慮ヲシタイ、二ニ、繭市場ハ
之ヲ統制會社ニ買收其ノ他適當ニ設備利用
ノ方法ヲ講ズル、三、蠶種賣買業者ニ付テ
ハ俄カニ失業セシムル如キコトナキヤウ
適當ノ措置ヲ講ズル等、地方的事情ニ應ジ
考慮スル積リデアル、以上ノ如ク出來得ル
限リ失業者ハ生ゼシメヌヤウ努力スルト云
フ答辯ガアリマシタ
本日ノ會議ニ於キマシテ、農林大臣ヨリ
保留サレタル答辯ヲ最後ト致シテ質疑ガ打
切ラレマシク、直チニ討論ニ入リ、理事小
山邦太郞委員ヨリ修正案及ビ附帶決議ノ提
出ガアリマシタ、修正案ハ第二十九條末項
ニ
蠶絲業ヲ監督スル官廳ノ官吏タリシ者
ハ其ノ職ヲ退キタル後五年間日本蠶絲
統制株式會社ノ役員ト爲リ又ハ其ノ給
與ヲ受クル事務ニ從事スルコトヲ得ズ
但シ主務大臣ニ於テ特ニ必要アリト認
メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
附帶決議ヲ朗讀シマス
附帶決議
一繭絲價ノ安定ヲ確保シ蠶絲業統制ヲ
徹底セシムル爲政府ハ速カナル機會ニ
於テ一元的統制ヲ完成スベシ
二農林大臣ノ指定ヲ受ケタル製絲業者
ガ輸出向生絲ヲ輸出シ又ハ販賣セント
スルトキハ日本蠶絲統制株式會社ヲ通
シ主務大臣ノ許可ヲ受クベシ
三前項ノ製絲業者ガ輸出向生絲ヲ輸出
シ又ハ販賣シタルトキハ一定基準ヲ定メ
ソノ販賣價格ト生產價格トノ差額ヲ日本
蠶絲統制株式會社ニ納付セシムベシ
四日本蠶絲統制株式會社ノ組織ニ際シ
テハ政府ハソノ官僚化ヲ嚴ニ戒メ事業
運營ニ關シ紊リニ拘束ヲ加フルコトナ
ク敏速機宜ノ措置ヲ講ジ得ル如クスベ
シ
五本法ノ施行ニ際シテハ乾繭倉庫、繭
市場ヲ買收又ハ利用スルト共ニ繭絲業
者蠶種販賣業者及其ノ團體ヲ活用シ
以テ失業ノ防止ニ留意スベシ
六養蠶ノ違作ニ對シ之レガ救濟策トシ
テ保險事業其他適當ナル施策ヲ講ズベ
シ
以上デアリマス
之ニ對シテ井野農林次官ヨリ、石黑農林
大臣ハ只今他ノ委員會ニ於テ發言中デアル
カラ、私ガ政府ヲ代表ヲシテ發言スル旨ヲ
明カニ致サレテ、次ノ如ク述ベラレマシタ、
修正案ニ對シマシテハ「第二十九條ノ修正
ニ關シマシテハ、貴族院ニ於テモ同樣修正
セラレマスル場合ニハ、政府ニ於キマシテ
モ同意致シタイト存ジマス」附帶決議ニ對
スル答辯ハ「附帶決議ニ關シマシテハ、御
趣旨ノ存スル所モ能ク了解出來マスノデ、
本法運用ニ際シマシテハ善處致ス積リデア
リマス」斯ノ如クデアリマシタ、玆ニ政府
ト委員會ノ意見ガ全ク一致ヲ見マシテ、修
正案竝ニ爾餘ノ原案及ビ附帶決議ハ滿場一
致ヲ以テ可決致シタノデアリマス、以上御
報告申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=74
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075・小山松壽
○議長(小山松壽君) 本案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=75
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076・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=76
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077・服部崎市
○服部崎市君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報〓ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=77
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078・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=78
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079・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
蠶絲業統制法案第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=79
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080・小山松壽
○議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリア
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通
リ確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=80
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081・服部崎市
○服部崎市君 本日ハ日程第三ヲ延期セラ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=81
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082・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=82
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083・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシター日程第
四、大正十二年法律第五十二號中改正法律
案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者ノ趣旨辯
明ヲ許シマス-堤出者手代木隆吉君
第四大正十二年法律第五十一一號中改
正法律案(司法官試補及辯護士ノ資
格ニ關スル件)(手代木隆吉君外九名
提出)第一讀會
大正十二年法律第五十二號中改正法律
案
大正十二年法律第五十二號中左ノ通改正
ス
第一項中「昭和十六年十一一月三十一日迄」
ヲ「昭和二十一年十二月二一十一日迄」ニ改
ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔手代木隆吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=83
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084・手代木隆吉
○手代木隆吉君 大正十二年法律第五十二
號中改正法律案ノ趣旨ヲ極ク簡單ニ說明ヲ
申上ゲマス
大正十二年法律第五十二號ハ數囘改正ヲ
セラレタノデアリマスガ、昭和十二年ニ改
正サレタ現行法ハ「明治二十六年司法省令
第九號辯護士試驗規則ニ依ル試驗ノ受驗ヲ
出願シタル者ニシテ昭和十六年十二月三十
一日迄ニ勅令ヲ以テ定ムル試驗ニ合格シタ
ル者ハ辯護士法第三條ノ規定ニ拘ラス辯護
士試補タルコトヲ得」ト現在ナツテ居ルノ
デアリマス、之ヲ今囘此ノ第一項中ノ昭
和十六年十二月三十一日迄」トアルノヲ「昭
和二十一年十二月三十一日迄」ト改メマシ
テ、尙ホ附則ト致シマシテ「本法ハ公布ノ
日ヨリ之ヲ施行ス」斯樣ニ致シタイト云フ
改正案デアリマス、御承知ノ通リ所謂法律
第五十二號ニ依リマス所ノ辯護士試驗ノ受
驗者ハ、尙ホ千數百人殘ツテ居ルノデアリ
マスルガ、是等ハ旣ニ相當ナ年配ニモ達シ
テ居リマシテ、今更方針ヲ變ヘルコトノ困
難若シクハ不可能ナ者ガ大多數ナノデアリ
マス、然ルニ此ノ試驗制度ハ本年十二月三
十一日デ切レル譯デアリマス、隨テ多數ノ
今マデ其ノ志ヲ變ヘズニ刻苦勉勵致シタ者
ガ救ハレナイコトニナルノデアリマシテ、
洵ニ本人達ニ取ツテモ氣ノ毒デアリマスシ、
若シ是等ノ者ノ將來ヲ阻止スルヤウナ結果
ニナリマスレバ、思想上ニモ面白カラザル
影響ガ生ズルコトデアツテ、國家ノ爲ニ決
シテ利益デハナイト思ヒマスノデ、之ヲ更
ニ五年間延長致シマシテ、昭和二十一年十
二月三十一日マデハ受驗シ得ル所ノ機會ヲ
與ヘタイト云フノデアリマス、左樣ナ趣旨
デアリマシテ、是非御贊成ヲ御願ヒ致シタ
イノデアリマス
玆ニ尙ホ一言申シ添へタイコトハ、御承
知ノ如ク今期議會ハ政府ニ於キマシテモ法
案ヲ出來得ル限リ縮減致シタノデアリマス、
又議員提出ノ法律案ハ是ガ提出サレタ中ノ
唯一ノモノデアリマス、私モ此ノ議會ニ鑑ミ
マシテ提案ヲ躊躇致シタノデハアリマスガ、
御承知ノ通リ本年十二月三十一日デ受驗シ
得ザルコトニナルノデアリマスカラ、ヤハ
リ緊急ニ此ノ法律ノ改正ヲナスノ必要ヲ痛
感致シタ爲ニ、敢テ玆ニ提案ヲ致シタ次第
デアリマス、之ニ對シマシテハ議員倶樂部
ノ總會竝ニ政務調査會デモ御理解ヲ得テ提
案ヲ認メラレタノデアリマス、ドウゾ此ノ
法案ニ對シマシテ御贊成ヲ得、更ニ是ハ政
府ノ御同情モ得ナケレバ成立ヲ致サヌノデ
アリマシテ、是等ヲ得マシテ、是非本案ノ
成立ヲ見タイノデアリマス、御賛成ヲ御願
ヒ致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=84
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085・服部崎市
○服部崎市君 本案ハ政府提出、民法中改
正法律案外二件委員ニ併セ付託セラレンコ
トヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=85
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086・小山松壽
○議長(小山松壽君) 服部君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=86
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087・小山松壽
○議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、是ニテ議
事日程ハ終了致シマシタ、次會ノ議事日程
ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ是ニテ
散會致シマス
午後四時十六分散會
衆議院議事速記錄第十三號中正誤
一五三頁三段軍需重要鑛產物竝山林開發ノ爲
鐵道敷設ニ關スル調査會設置ニ
關スル建議案
提出者〓水留三郞君木檜三四郞君ハ
〓水德太郞君木檜三四郞君
ノ誤発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007613242X01619410220&spkNum=87
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