1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十八年二月六日(土曜日)午前十時十九分開議
出席委員左の如し
委員長 矢野庄太郎君
理事 大橋清太郎君 理事 南鐵太郎君
赤間徳壽君 伊藤五郎君
長内健榮君 金光邦三君
坂口平兵衞君 鈴木忠吉君
田部朋之君 高木義人君
中西敏憲君 松田正一君
森川仙太君 森部隆輔君
出席國務大臣左の如し
大藏大臣 賀屋興宣君
出席政府委員左の如し
内務省管理局長 竹内徳治君
朝鮮總督府財務局長 水田直昌君
臺灣總督府總務長官 齋藤樹君
臺灣總督府財務局長 中嶋一郎君
樺太廳長官 小河正儀君
大藏次官 谷口恒二君
大藏省國民貯蓄局長 氏家武君
大藏省理財局長 田中豐君
大藏書記官 河野一之君
大藏書記官 加藤八郎君
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本日の會議に上りたる議案左の如し
昭和十八年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出)
營繕用品資金特別會計法案(政府提出)
造幣局の資金に關する法律案(政府提出)
昭和十五年法律第六十九號中改正法律案(大東亞戰爭に關する一時賜金として交付する爲公債發行に關する件)(政府提出)
樺太内地行政一元化に伴ふ樺太廳特別會計と他の會計との關渉に關する法律案(政府提出)
昭和十二年法律第八十號改正法律案(通信事業特別會計に於ける簡易生命保險及郵便年金の事務の取扱に要する經費に關する件)(政府提出)
朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出)
朝鮮簡易生命保險及郵便年金特別會計法案(政府提出)
臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出)
臺灣官設鐵道用品資金會計法中改正法律案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=0
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001・矢野庄太郎
○矢野委員長 是ヨリ會議ヲ開キマス、前
會ニ引續キマシテ質疑ヲ續行致シマス-南
君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=1
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002・南鐵太郎
○南委員 私ハ先ヅ臺灣ノ事業公債法ノ審
議ヲスルニ當リマシテ、臺灣ニ關スル御尋
ネヲ致シタイト存ズルノデアリマス、其ノ
內容ニ現ハレテ居ル高雄ノ築港ト云フコト
ニ付キマシテ、一ツドウ云フヤウナ現況ニ
ナツテ居リマスカ、或ハ又其ノ他ノ港灣ノ施
設狀況ハドウ云フ風ニナツテ居リマスカ、-
般ノ臺灣トシテノソレ等ノ點ニ關スル知識ヲ
得タイノデアリマス、ソレカラソレニ關聯
致シマシテ、鐵道ノ狀況ハ現在ドノ程度ニ
ナツテ居ルカ、如何ナル程度ニ臺灣ガ開發
セラレテ居ルカト云フコトヲ知リタイノガ
趣旨デゴザイマス、ソレカラ別ニ詰問スル
ト云フヤウナ意味デナイノデスカラ、豫メ
御尋ネシタイコトヲ列擧シテ置キマス、
ツハ南方ニ對スル我ガ國ノ發展ノ基地トシ
テノ臺灣ノ任務ハ、極メテ重大ナモノデア
ルト考ヘテ居リマス、從來ドノ程度ニ南方
ニ對スル其ノ任務ヲ果シテ來タカト云フコ
トニ付テ、〓略ノコトガ伺ヘレバ仕合セト
思ヒマス、ソレカラ更ニ進ンデ今日ノ段階
ニ於テ我ガ國ガ旣ニ躍進シテ、南方ノ各地
ヲ占領シテ居ル狀況ニナリマシテ、尙且ツ
臺灣ト云フモノハ、南方發展ノ基地トシテノ
任務ガ必要デアルノカナイノカ、內地デ見
テ居ルト最近デハ內地ノ首腦部ト直接南方
ノ占領各地トノ間ニ、各種ノ關係ガ出來テ
居ルヤウデアリマス、サウスルト從來ノヤ
ウニ臺灣ト云フモノハ南方發展ノ基地トシ
テノ任務ハナクナルノカ、「オミット」サレ
ルノカ、サウデナクテ、何カ其ノ間ニ處シ
テモヤハリ重大ナル任務ヲ殘サレテ居ルノ
カドウカ、其ノ點ニ付テノ〓念ヲ得タイノ
デアリマス
ソレカラ最後ニ、是ハ一般ノ〓況ヲ伺ヒ
タイト云フ意味ナンデスガ、殊ニ人心ノ動
向ト云フヤウナコトニ付テ、同化ノ程度ハ
ドウ云フ風ニナツテ居ルノカ、旣ニ志願兵
制度モ布カレルト云フヤウナコトデアリマ
スガ、朝鮮ノヤウニソレガ更ニ又徵兵制度
ヲ布キ得ルト云フヤウナ狀態ニナルノハ何
時ノコトカ、朝鮮ヨリモ前ニ領土ニ入ツテ
來テ、尙ホ今日朝鮮ヨリ進ンデ居ナイト云
フ程度ハ一體何處ニ原因ガアルノカ、其ノ
同化ノ狀況ヲ伺ヒタイ、殊ニソレニ關聯シ
テハ高砂族ハ一體ドノ程度ニ今日ハ同化セ
ラレテ居ルノデアルカ、內地人ハ存外行ツ
テ居ラヌヤウデアリマスガ、內地人ハ臺灣
ヘ行ケバ結局皆退化スルト云フカ、旣ニ勢
力ノ微々タルモノニナツテシマツテ、領臺
以來ノ日本ノ統治ノオ蔭ヲ蒙ツタモノハ、
本來ノ本島人デアツテ、詰リ支那系ノ人々
デアツテ、非常ナ發展ヲシテ、非常ナ恩惠
ニ浴シテ居ル、皇恩ノ厚キニ感泣スベキ筈
デアリ、又サウシテ居ルデアリマセウガ、
實際臺灣統治ト云フモノハ各國ノ植民政策
カラ行ケバ、非常ナ成功ダト言ハレテ居リ
マスケレドモ、ソレハ財物ノ關係ニ於テノ
成功デアツテ、實際國民ノ發展トカ、或ハ
民族ノ發展トカ、或ハ本當ニ大和民族ノ進
出ト云フヤウナ點カラ行クト、ドウモ遺憾
ノ點ガアツタノヂヤナイカト云フヤウナコ
トモ批評セラレル人ガアルノデアリマス、
今日ハ此ノ大東亞戰爭ヲ契機トシ、或ハ更
ニ前ノ支那事變カラデモ、モウ格段ナ違ヒ
ガアルト思ヒマスガ、島民ノ心持ト云フモ
ノハ、ドノ程度ニ變ツテ居ツテ、ドノ程度
ニ吾々ガ信賴シ得ル程度ニ進ンデ居ルカト
云フ點ニ付テノ〓念ヲ得タイノデアリマス、
ソレカラ更ニ特產物ト認メラレル所ノ砂糖
トカ或ハ又從來臺灣ニ若干依存シテ居リマ
シタ米トカ云フモノノ產業ノ狀態ハ、現在
ハドウナツテ居ルカ、又更ニ進ンデ直接ニ
戰爭ノ爲ニ如何ニ寄與シテ來タカ、此ノ點
ニ付テ十分ニ吾々ノ認識ヲ新タニシテ戴ク
コトガ出來マスレバ結構ト思ヒマス、是ハ別
ニ問答ト云フ意味デハナシニ、一般的ニ臺
灣ノ狀況ヲ知リタイ、內地化シテ、內務省
ノ管轄ニ屬シタト云フヤウナ機會ニ於テ、
一應臺灣ノ實際ノ狀況ヲ知リタイ、斯ウ云
フ趣旨デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=2
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003・齋藤樹
○齋藤(樹)政府委員 御尋ネノ順序ニ從ハ
ズニ、一般ノ臺灣ノ現況ヲ知ツテ戴ク目的ヲ
以チマシテ、此方カラモ極メテ〓論的ナ御
答ヘヲ申上ゲル方ガ、御質問ノ趣旨ニ却テ
適合スルカト存ジマスノデ、御尋ネノ順序
ヲ一應超越シテ申上ゲルヤウニ致シタイト思
ヒマス、臺灣領有以來約半世紀ニ相成リマ
シテ、臺灣ノ民心ノ動向ニ付テノ御尋ネニ
接シタノデアリマスルガ、內臺通ジテ一視
同仁ノ聖旨ニ基キ、臺灣統治ガ五十年近ク
行ハレマシタ今日、特ニ日支事變ノ始マリ
マシテ以後、更ニ最近大東亞戰爭ノ開戰後
ニ於ケル本島人ノ所謂日本ニ對スル觀念ハ、
全ク帝國ノ一部分トシテ大體ニ於テ遺憾ナ
キ所マデ同化セラレテ居ルト存ジテ居リマ
ス、此ノ點ニ付キマシテ個々ノ事實ヲ羅列
致シマスレバ際限ノナイコトデアリマスガ、
唯一ツ特ニ著シイ例トシテ申上ゲタイト存
ジマスル事ガ二ツゴザイマス、其ノ第一ハ
多年翹望シ來リマシタ志願兵制度ヲ發表セ
ラレマシタル際ニ於ケル島民ノ感激ノ狀態
デアリマス、又之ニ基イテ昨年第一囘ノ募
集ヲ致シマシタ際ニ、約一千人餘ノ採用ニ
對シテ、志願者ガ四十二万人ノ多數ニ上リ
マシタコトハ御承知ノ通リデアリマス、併
シナガラ昨年ハ第一囘ノコトデモアリマス
ルノデ、趣旨ノ徹底セザル所ガアリマシテ、
或ハ親ト子ト共ニ志願スルト云フヤウナ風
景モアリ、相當年輩ノ進ンダ志願者モアツ
タノデアリマス、只今第二囘ノ募集着手中
デゴザイマスガ、本年ハ單ニ數ノ多キヲ望
ムヨリハ實質的ニ募集ヲ致シタイト云フ
考ヘカラ、兵役法關係ノ年齡ヲ考慮致シマ
シテ、三十七歲以上ノ者ノ志願ハ、之ヲ受
付ケナイト云フ方針ヲ執ツテ募集ニ着手致
シタノデアリマス、當初年齡ノ制限カラ志
願者ノ數ハ、昨年ニ比較シテ相當減ズルデ
アラウト豫想シテ居ツタノデアリマスガ、
事實ハ之ニ反シマシテ、二月十日ガ志願ノ
期限デアリマスガ、一月末日ノ志願者總數
ガ五十一万ニ達シテ居ルノデアリマス、之
ハ何ヲ示スカト申シマスレバ、本島人靑年
ノ忠良ナル臣民ニナリ切ラウトスル熱意ノ
現ハレデアルト、私共ハ見テ居リマス、又同
樣ニ例ヘバ高砂族ノ靑年、或ハ本島人ノ靑
年ヲ義勇奉公隊、若シクハ高砂義勇隊ト云
フ名ヲ以テ「フィリッピン」ノ戰線等ニ送ツ
タノデアリマスガ、是等ノ志願狀況竝ニ向
フニ參リマシテカラノ活動狀況ノ如キハ、
之ヲ直接指導セラレマシタ軍ノ幹部カラ絕
讚ヲ浴ビテ居ルヤウナ狀態デアリマス、試
ミニ申上ゲマスルト、是ハオ孃サン方デア
リマスガ、-名ヲ採用致シマス爲ノ看護
助手ノ募集ニ對シマシテ、五千六百人ノ志
願者ガアリマシタ、又俘虜監督トシテ各地
ヘ送ル者ヲ三百名募集致シマシタノニ對シ、
二千百五十名ノ應募ガゴザイマシタ、是ハ何
レモ選リ拔キノ靑年デゴザイマス、又憲兵
補ヲ本島人靑年カラ募集致シマシタ際ニ、
採用數ノ百二十倍程ノ應募者ガアツタノデ
アリマス、其ノ他島民ノ忠良ナル皇國民ニ
ナリ切ラウトスル熱意ハ、色々ナ現象ニ於
テ現ハレテ居リマスルノデ、特ニ皇國民ト
シテノ鍊成ニ付キマシテハ、大東亞戰爭開
始ニ先ダツ一年足ラズノ皇民奉公運動ノ效
果ガ、相當全島ニ浸ミ込ミマシテ、到ル處
忠良ナル臣民ニナリ切ラウトスル熱意ハ
老若男女各層ニ認メラレルノデアリマス
尙ホ第二ノ事實トシテ御聽キヲ願ヒタイ
ト存ジマスルノハ、御承知ノヤウニ漢民族
ハ算盤高イ民族ト、吾々ハ承知シテ居リマ
ス、事實日支事變ノ始リマシタ際ニ、臺灣
ニ於キマシテハ相當程度ノ金融機關ノ取付
ト云フ現象ガ起ツテ居リマス、又一昨年一
月頃、日米關係ノ危機ガ傳ヘラレマシタ際
三·ヽ、相當程度ノ取付ハ起ツテ居ルノデア
リマス、併シナガラ大東亞戰爭ノ開始セラ
レマシタ後ハ、開戰直後ノ赫々タル戰果ニ
依リマシテ、本島人ノ氣分ガ完全ニ落付イ
タコトガ、第一ノ原因デアリ、又約一年近
クノ間ノ報公運動ノ滲透ノ結果トシテ、民心
ガ日本ニ對シテ絕對ニ賴ル氣持ヲ持ツテ參
リマシタ結果ト見ルベキコトガ、第二ノ原
因デアラウト存ジマスルガ、大東亞戰爭ノ開
始ニ當リマシテハ、吾々ハ相當程度ノ取付ノ
起リマスルコトヲ豫想シテ、一年前カラ拂
出シノ爲メノ準備ヲ、臺灣銀行ヲシテセシ
メタノデアリマス、ソレニモ拘ラズ大東亞
戰爭開始ノ際ニハ、取付ト名付ケ得ベキ現
象ハ、全ク起ラナカツタノデアリマス、此
ノ點ハ特ニ本島人ノ性格的ナ觀點カラ致シ
マシテ、吾々ハ非常ニ大キナ喜ビヲ持ツテ
此ノ事實ヲ見タノデアリマス、是等ノ點カ
ラ判斷致シマシテ、本島人ノ民心ハ極メテ
安定シテ居ルト云フコトヲ申上ゲ、又忠誠
ナル皇國臣民ニナリ切ラウトスル熱意ガ、
所在ニ現ハレテ居ルト云フコトヲ申上ゲテ
差支ヘナイヤウニ存ジマス、高砂族ニ付キ
マシテモ、純ナ者デアリマスノデ、之ニ對
シマシテノ〓育ガ漸次進ンデ參リマスニ連
レテ極メテ能ク同化セラレマシテ、今日ニ
於キマシテハ治安上其ノ他ニ於テ憂慮スベ
キ事柄ハ少シモナイト存ジマス、殊ニ高砂
族義勇隊ノ活動ニ付キマシテハ、御聞及ビ
ノコトト存ジマスケレドモ、行ク先々非常
ナル賞讚ヲ浴ビテ、或ル地方ノ參謀長名儀
ノ感謝ノ電報ニ依リマスト、此ノ表現ハ如
何カト存ジマスルケレドモ、極メテ勇敢デア
ツテ、高砂族ノ存在ガ皇軍ノ士氣ヲ鼓舞ス
ル爲ニ、相當役立ツテ居ル、ト云フコトス
ラ書カレテアツタヤウナ狀態デゴザイマス、
臺灣ノ民心ノ安定ト云フ點ニ付キマシテ
ハ今後ト雖モ御心配ヲ煩ハスヤウナコト
ハナイト存ジマスルガ、御承知ノヤウニ臺
灣ハ地理的ニ見マスレバ、日米開戰トナリ
マシタ曉ニハ先ヅ第一ニ空襲ヲ覺悟セナ
ケレバナラヌノデアリマスシ、又場合ニ依
リマシテハ、內地トノ交通ガ杜絕狀態ニ陷
ルコト相當日數ニ及ブヤウナ場合モ覺悟セ
ナケレバナラヌノデアリマス、併シナガラ
左樣ナ最惡ノ狀態ニ陷リマシタ場合ニ、臺
灣住民トシテ如何ニ處スベキカト云フ點ニ
付キマシテハ、戰前約一年間相當各種ノ方
法ニ依ツテ、島民ノ間ニ訓練ハ重ネラレテ
居ツタノデアリマス、殊ニ皇軍ノ戰果ニ依
リマシテ、彼等ノ氣持ガ益〓落着キ、公司は、
本臣民ニナリ切ラウトスル熱情ガ〓マリツツ
アルト云フコトヲ申上ゲタ次第デゴザイマス、
特ニ徵兵制度ノ點ニ付テ御述ベニナリ
マシタガ、志願兵制度ガ實施セラレテ今
年ハ第二年デアリマス、此ノ志願兵制度ノ
實施第一年ノ訓練所ニ於ケル訓練ノ成績等
カラ鑑ミマシテモ、徵兵制度ヲ施行致シマス
ルコトニ、決シテ危險ヲ感ズルヤウナコト
ハナイト存ジテ居リマス、入營後ノ成績ヲ
更ニ數囘考ヘマシタ上デ、軍ノ意向ノ如何
ヲ十分ニ伺ヒマシテ、是等ノ制度ノ實施ノ
爲ニ邁進シテ行キタイト考ヘテ居リマス
尙ホ臺灣ノ產業ノ躍進ニ付キマシテ、是
モ各種產業ニ亙ツテ詳細ニ申上ゲマスレ
バ、中々大變ナコトデゴザイマスルガ、大
體ニ於キマシテ、只今臺灣ノ生產額ハ約二
十億近クニ達シテ居リマス、多分十八億位
ダト記憶致シテ居リマス、米ニ付キマシテ
ハ大體-程度ヲ內地ニ移入致シマス爲ノ增
產計畫ガ立テラレ、現實ニ年ニ依リマシテ
ハ-ヲ超過シテ移入セラレタコトモゴザイマス
砂糖ノ生產額ハ昨年度ハ-、大體ニ於
キマシテ此ノ-ノ砂糖ハ內地、朝鮮、滿
洲程度ノ需要ヲ滿タスニ足リル數量デゴザ
イマス、一般的ニ申シマシテ治安上ノ關係
モ、產業上ノ關係モ、臺灣住民ハ鼓腹擊攘
ノ狀態ト申上ゲテモ差支ナイカト存ジマス
ルシ、今後ニ於キマシテモ本島人ノ帝國ニ
對スル忠誠ニハ、相當ノ信賴ヲ置イテ誤リ
ガナイカト存ゼラレマス
ソレカラ南方關係デゴザイマスルガ、今
囘ノ戰爭ニ當リマシテ、臺灣ハ完全ニ作戰
上ノ基地タルノ役目ヲ果シ得タト云フコト
ヲ申上ゲテ差支ナイト思ヒマス、南方基地
トシテノ任務ヲ果シマスル爲ニ、臺灣ハ然
ラバドレ程ノ仕事ヲ、從來ヤツテ來テ居ツタ
カト申シマスルト、多少諄クナルヤウデゴ
ザイマスルガ、沿革的ニ一寸一言觸レサセ
テ戴キマスレバ、臺灣ノ施設ノ中ニ、南方ヲ考
慮致シマスル事業ノ初メテ現ハレマシタノハ、明
治三十三年ノ豫算デアリマス、明治三十三年
ニ南支那及ビ南洋施設費ト云フ費目ガ設ケ
ラレマシテ、主トシテ對岸各地ニ於ケル、或ハ學
校病院等ノ經營ノ爲ノ經費ガ計上サレタノデ
アリマス、當時御承知ノヤウニ、臺灣ハ全ク未
開ノ狀態デアリ、又臺灣ノ動向ガ今日ノ如ク
我ガ國ノ國力ノ進展ニ寄與シ得ルヤウニナ
ルト云フコトモ、恐ラク見透シハ大部分
ノ方ハ持ツテ居ラレナカツタト存ジマスシ、
又帝國ノ國力モ、或ハ國際的ナ情勢モ、帝
國ノ發展方向ガ如何ニナルカト云フヤウナ
點ニ付キマシテモ、十分ナルハツキリシタ
認識ト云フモノハナカツタヤウニ存ゼラレ
マスルノデ、當然一般的ニハ臺灣ノ地位ガ
重要視サレ、或ハ臺灣ガ南方ニ對シテ何等
カノ施策ヲスルト云フヤウナ點ニ付キマシ
テハ寧ロ反對ノ氣分ガ濃厚デアツタノデ
ハナイカト存ゼラレルノデアリマスルガ、
是ハ一ニハ本島人ヲ統治致シテ參リマスル
必要カラ、又一ニハ將來臺灣ガ今日ノ如キ
南進ノ基地タル使命ヲ負フベキ時ガアルト
云フ見透シカラ、當時ノ總督府當局ガ南支
那及ビ南洋施設費ヲ計上サレタノデアツタ
ト存ジマシテ、此ノ點ニ付テハ吾々ハ先人
ノ此ノ明ヲ、今日ニ於キマシテモ頭ノ下ル
思ヒヲシテ振リ返ルノデアリマス、爾來年
年南支那及ビ南洋施設費ハ擴充增額セラレ
マシテ、幾多ノ施設ガ講ゼラレテ參ツタノ
デアリマス、ソレ等ノ個々ノ施設ニ付キマ
シテ、一々申上ゲルコトハ省略サセテ戴キ
マスルガ、或ハ學校、病院若シクハ新聞ノ
經營、今日ニ於キマシテハ新聞ハ「タイ」國マ
デ及ンデ居リマス、又島內ノ施設ト致シマ
シテモ、當時ノ臺灣トシテハ、場合ニ依リ
マシテ分不相應ト批評セラルルカモ知レナ
イト思ハレマスルヤウナ試驗所、若シクハ
〓究所、各種ノ南方ヲ考慮ニ入レテノ施設
ヲ致シテ來テ居リマス、或ハ熱帶醫學ノ
〓究デアリマスルトカ、熱帶農林業ノ試
驗デアリマストカ云フ點ニ付キマシテノ
努力ハ、相當大キナモノデアツタノデア
リマス、又臺北ニ帝國大學ガ設ケラレマ
シタ場合ニ於キマシテモ、帝國ニ於ケル
南方大學トシテノ〓究ヲ、臺北帝國大學ヲ
シテ當ラシメルト云フ狙ヒガ主タル點デ
アツタヤウニ聞キ及ンデ居リマス、十八
年度ノ豫算ニ於キマシテモ、南方關係ニ付
キマシテハ、相當ノ新タナル事業モ計上致
シテ居リマス、特ニ一々ハ申上ゲマセヌガ、
南支那及ビ南洋施設費ハ八百万圓餘ニ上ツ
テ居リマスノデ、此ノ狀態ニ於キマシテ、
臺灣ハ帝國ノ南方開發ノ爲ニ、或ハ南方建
設ノ爲ニ、十分中央政府ノ意圖ニ從ツテ協
力ヲシテ行クト云フ考ヘノ下ニ、總テノ施
策ヲ進メテ居ルノデアリマスルガ、御話ノ
如ク現地ニ於ケル幾多ノ要求ガ、今日ノ此
ノ組織ニ於キマシテハ直接中央ニ致サレ、
中央ノ方針ニ依ツテ問題ノ多クガ決定セラ
レル狀態デゴザイマス、併シナガラ臺灣ハ
決シテ臺灣自體ノ狹イ考ヘヲ以テ、國策ノ
遂行ニ關與シヨウト云フコトヲ考ヘテハ居
ラヌノデアリマシテ、中央政府ノ指示ニ從
ヒ、中央政府ノ方針ニ從ツテ、初メテ臺灣
ニ要求セラレマスル協力ヲ果シテ行キ、サ
ウシテ臺灣ノ責任ヲ十分ニ盡シテ行カウト
云フ大體ノ考ヘヲ持ツテ進ンデ居ルノデア
リマス
臺灣ハ御承知ノヤウニ、昨年內外地行政
ノ一元化ニ依リマシテ、內地ノ一部分ト云
フコトニ完全ニナツタノデアリマス、併シ
吾々ハ臺灣ノ二重性格ト云フコトヲ常ニ申
シテ居リマスルガ、住民ノ皇民化ニ付キマ
シテノ成績、或ハ產業上ノ開發ノ治績等カ
ラ考ヘマシテ、今日ノ臺灣ガ既ニ內地ノ一
部分ヲ形ヅクル程度ニナツタト云フコトヲ
喜ビトシ、又內地ノ一部分ニ編入セラレマ
シタ昨年秋ノ行政改革ヲ、大ナル進步トシ
テ喜ンデ居ルノデアリマスルケレドモ、其
ノ喜ビマスル所、要スルニ政治的ニ見テ、
或ハ文化的ニ見テ內地ノ一部分トシテ取扱
フベキモノデアリマシテ、產業的ニ申シマ
スルナラバ、臺灣自身ガ熱帶圈ニ屬シテ居
リマスル關係カラ、農林業ノ如キハ南方各
地ト、全ク其ノ形態ヲ同ジウシテ居リマス、
或ハ工業部面ニ於キマシテモ、原料製品等
ノ交流ニ付キマシテハ、南方各地ノ方ニ寧
ロ密接ナル關係ヲ有スルト云フ立場ニゴザ
イマス、距離カラ致シマシテモ、內地トノ
距離ヨリモ却テ南方地域ノ方ニ近接シテ居
ルト云フヤウナ條件モアリマスルノデ、產
業的經濟的ニ見マスレバ、寧ロ南方圏ノ一
環タル地位ヲ占メ、或ハ又南方圈ノ中核體
トモ稱スベキ立場ニ置カレテ居ルモノト存
ジテ居リマス、此ノ半世紀ニ亙リマスル南
方ニ關スル各地ノ調査〓究、或ハ島內ニ於
テ得マシタル技術經驗、是等ノモノ一切ヲ
擧ゲテ、此ノ際帝國ノ南方建設ノ爲ニ臺灣
ガ協力致シマスルコトガ、臺灣ノ當然ノ責
務デアルト存ジテ居リマス、此ノ點ニ付キ
マシテハ、中央政府ノ指示ノ下ニ臺灣ハ今
日十分ナル協力ヲ致シテ居ルノデアリマス
ガ、御尋ネノ今日以後ニ於テモ、尙ホ臺灣
ハ從來通リ、南方ニ對スル基地タルノ立場
ニアルカト云フ點ニ付キマシテハ、以上申
上ゲタヤウナ意味ニ於テ、帝國ノ一部分ト
シテノ臺灣ノ南方基地トシテノ任務ハ、今
後益〓、加重サレテ行クノデハナイカト存ジ
テ居リマス
尙ホ新高築港ノ點ニ付テノ御尋ネガゴザ
イマシタガ、臺灣ガ南方圏ノ中核體的ナ立
場ヲ取ツテ、十分ニ其ノ任務ヲ果シテ行キ
マスル爲ニハ、臺灣自體ノ港灣設備ガ先ヅ
大キナ彼割ヲナスベキモノデアラウト存ジ
マス、御承知ノ如ク臺灣ノ港灣ト致シマシ
テハ、北ニ基隆、南ニ高雄、東海岸ニ花蓮
港此ノ三ツノ港ガ謂ハバ一ツノ港トシテ
ノ働キヲ、互ニ補助港的ノ立場ニ於テナシ
テ居ルノデアリマスルケレドモ、島內產業
ノ發展狀況、又對岸若シクハ南方トノ物資
ノ交流ノ見透シ等カラ致シマシテ、此ノ施
設ヲ以テ十分ナリトシナイ爲ニ、小林前總
督ガ新高築港ノ計畫ヲ御立テニナリマシテ、
昭和十五年度以降其ノ工事ガ行ハレテ居ル、
最近ニ至リマシテ物資其ノ他ノ關係カラ、
若干工事ノ遲延ハゴザイマシタケレドモ、
大體ニ於テ順調ニ進ンデ居リマシテ、十八
年度中ニハ第一期計畫ノ內容ヲ成シテ居リ
マスル-一寸ハツキリシタ數字ヲ申上ゲル
コトヲ遠慮サセテ戴キマスガ、相當程度ノ
荷役能力ガ出來上ルヤウニ、只今進行致シ
テ居リマス、鐵道ニ付キマシテモ、臺灣ノ
鐵道ハ有名ナ惡イ鐵道トシテ相當喧傳サレ
テ居リマスルシ、事實改良ノ手ハ相當長イ
間施サレテ居ラナカツタノデアリマスケレ
ドモ、輸送能力ヲ增强シテ參リマス爲ノ、
或ハ操車場ノ建設若シクハ貨車ノ增强ト申
シマスカ、左樣ナ點ニハ十八年度ニ於テモ
相當ノ豫算ヲ計上致シマシテ、漸次改良ノ
手ヲ進メテ行クコトニ致シテ居ルヤウナ狀
態デアリマス、尙ホ若シ御答ヘ洩ラシタ點
ガゴザイマスナラバ、御尋ネヲ戴キマスレ
バ御答へ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=3
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004・矢野庄太郎
○矢野委員長 南君ニ御相談申上ゲマス、
大藏大臣ガオ見エニナリマシタガ、大臣ハ
增稅、豫算等デ非常ニ御多忙ノ中ヲ割イテ
御出席下サツタモノト存ジマスノデ、此ノ
際大藏大臣ニ對スル質疑ヲ續ケタイト思ヒ
やっ、南君ト松田君、長內君此ノ三君ガ通
告サレテ居リマスガ、南君ニ質問ヲ許シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=4
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005・南鐵太郎
○南委員 私ハ大藏大臣ニ對シマシテ、少シ
國策ノ根本ニ付テ御意見ヲ伺ヒタイノデア
リマス、從來ノヤウニ金本位制ガ兌換制度デ
アルト致シマシテモ、兎ニ角金其ノモノニ
價値ヲ持ツテ居ツタト云フヤウナ制度ニ於
キマシテハ、是ハ金其ノモノヲ吸收シナケ
レバナラヌトカ、或ハ金其ノモノヲ民間ニ置
イテハイカヌ、サウ云フコトニ重點ヲ置イ
テ、色々國策ト云フモノガ考ヘラレテ居ツ
タノハ當然デアリマセウ、併シ今日ハ
兌換制度ガナクナツテシマツテ、露骨ニ言
ヘバオ金ト云フモノハ切符ニナツテ居
ル、一般的ノ切符デアリ、個々ノ特定ノ
モノニ對スル切符ハ別ニアル、併シ一般的ノ
モノデハ物ガ手ニ入ラヌ、斯ウ云フヤウナ
段階ニ進ミツツアルノデアリマスカラ、消
費規正ヲ强化スルト云フコトニ依ツテ、金
ノ使ヒ途ヲヤハリ防イデ行ク、又資金ヲ抑
ハト金融ノ統制ヲ强化スルコトニ依ツテ、
ヤハリ金ノ使ヒ途ガナイ、斯ウ云フヤウナ
コトニ依ツテ、各種ノ施策ヲ强化シテ行キ
マスト、結局從來ノヤウナヤリ方デ公債ヲ
發行シテ、民間ニダブ付イテ居ル購買力ヲ
吸收スルト云フヤウナコトヲヤツテ、自由
經濟時代ノ、又貨幣其ノモノニ價値ガアツタ
時代ノヤリ方ヲ、舊態依然トシテヤツテ居
ルノハドウカ、斯ウ云フ風ニ思ハレルノデア
リマス、從來ノヤリ方ヲ見ルト、先ヅ公債
ヲ發行シテ資金ヲ吸收スル、其ノ公債ヲ財
源トシテ政府ガ各般ノ施設ヲスル、歲出ト
ナツテ現ハレテ來タ金ガ、結局民間ニバラ
撒カレテ、ソレ等ガ國民ノ所得ニナリ、國
民ノ所得ノ中カラ貯蓄セラレタモノヲ、ソ
レヲ狙ツテ公債ヲ發行シテ貯蓄ヲサセル、
又其ノ公債ガ歲出トナツテ現ハレテ來ル、
斯ウ云フヤウナ循環ニ依ツテ、總テノ財政
ヲ切盛リシテ居ルト云フコトハ、是ハ從來
ノヤリ方カラ言ヘバ當然ノコトデアツテ、
ソレヲ圓滑ニヤルコトガ財政ノ上手ナンデ
アル、斯ウ云フ風ニ見ラレテ居ルノハ、是
ハ當リ前デアリマセウ、所ガ其ノ政策ヲ實
行スル爲ニハ、今日デモ公債ヲ消化スルト
云フコトニ非常ニ骨ヲ折ツテ居ラレル苦心
ノ程ハ能ク分ル、ヒドイノニナルト、全體
ノ公債ノ消化カラ行ケバ、僅カナ部分デア
ラウト思ヒマスケレドモ、ソレニシテモ隣
組マデ動員シテ、無理ニ力ノナイ者マデ、
假令五圓ノ小額ノ債劵デモ持タスト云フヤ
ウナ建前デ、食フニ困ル者モ恥ニナルカラ
シテ-オ前サン所ダケ何時マデモ債劵ヲ
買ヒマセヌト言ツテ責メラレルト、仕方ガ
ナイカラ質ヲ置イテ金ヲ拵ヘテ來テ、五圓
ノ債劵ヲ買フ、買ツテ、直グ其ノ足デ質屋ニ
持ツテ行ツテ金ニ換ヘル、或ハ三割位引カ
レテ損ヲシテ直グ金ニ換ヘル、下層ノ部面
ニ於キマシテハ、家賃モ拂ヘナイヤウナ者
ニデモ、サウ云フヤウナコトヲヤツテ相當
强硬ナ政策ヲ事實上ハ執ツテ居ル、ソレ程
マデシテ國債、公債ヲ持タス、貯蓄ヲ奬勵
スルノハ結構デアリマスガ、ソレデモウ公
債ガ消化セラレタト考ヘテ居ツタノデハ、
ドウカト思フ、唯一時手ヲ通ル、其ノ手ニ
一時渡シテヤルト云フダケノ場面ガ相當ニ
アル、公債、國債、社債、債劵デ以テ賞與
ヲ二割モ渡ス、ソレデエラク消化セラレタ
ト思ツテ居ルカモ知レヌケレドモ、直グ金
ニ換ヘラレル、困リ拔イテ居ル人間ハ賞與
ヲ當ニシテ生活シテ居ル、サウ云フ者ニ保
持スルダケノ能力ガアレバ結構デアリマス
ケレドモ、本當ノ能力ノナイ者マデモ無理
ニ社債ヲ持タシテ見ル、ソレガ又隣組ニ來
ルト、又隣組デモ債劵ヲ持テト云フヤウナ
コトデ、非常ナ苦痛ヲシテ生活ニ困ツテ、
ソレガ結局一時的ニ手ニアツテモ、直グニ
又何處カヘ行ツテシマウ、結局金融業者ノ
所ニ入ツテ行ク段取ニナルト思ヒマスガ、
サウ云フヤウナ苦心マデシテ公債ノ消化ニ
努メテ居ラレル苦心ノ程ハ能ク察シマスガ、
ナゼソンナ公債ヲ消化スルト云フヤウナ骨
折ヲシナケレバ、財政ガ賄ヘナイノカト云
フコトニ、先ヅ疑ヲ懷クノデアリマス、殊
ニ多額ノ公債ヲ發行スルト云フコトニナル
ト、私ハ印刷スルダケデモ大變ダラウト思
フ、一遍印刷シタ公債ガ、何時モ永久ニ殘
ツテ居ツテ、其ノ公債ヲ又新タニ買フ人ニ
渡シテ行ケルト云フノナラ、是モ亦經濟的
デアルカモ知レマセヌ、紙幣ノ如ク使フノ
ナラ宜イガ、新タニ公債ヲ發行スルト又新
タニ印刷シテ居ル、一箇年假ニ百五十億ト
カ百六十億ト云フ公債ヲ發行スルトナレバ、
一體ドレダケノ資材ヲ要シ、ドレダケノ勞
力ヲ使フノデアルカ、國家ノ爲ニドレダケ
ノ損害ガ、ソコニ起ツテ居ルカト云フコト
ヲ疑フノデアリマス、國債ヲ保管サス、政府ノ
方デ保管ヲシテ、廻ツテ來タ公債ヲ置イテ
オクカト云フト、サウデハナイ、燒イテシ
マツテ居ルラシイ、ドウセ保管シタモノ、
現物、特定物ヲ渡スノデナクテ、融通物デ
アリマスカラ、同ジ額ノ他ノ物ヲ渡セバ宜
イト云フコトデ以テ、相當燒却シテ居ルト
云フコトヲ伺ツテ居リマスガ、ソレモ一ツノ
扱ヒ方デアリマセウガ、洵ニ勿體ナイ話ダ、
每年サウ云フヤウナコトヲシテ行カナケレ
バナラヌ、サウ云フ苦心ヲシテ、ナゼソン
ナ公債ナント云フモノヲ發行シナケレバヤ
ツテ行ケナイノカ、ソコデ此ノ際ニ考ヘテ
戴キタイト云フノハ、一體兌換制度ソレ
自身ガ止ツタノデスカラ、紙幣ソレ自體ニ
ハモウ價値ガアル譯デハナイ、唯物ヲ手ニ
入レントスル時ノ切符トシテノ、一般的普
遍的ノ切符ト云フダケノ作用シカナイ、
自由經濟ノ時代ナラバ、ソレデ總テノ物ガ
手ニ入ツタカ知レマセヌガ、統制經濟ノ世
ノ中ニナツテ來ルト、其ノ切符ダケデハ物
ヲ手ニ入レルコトハ出來ナイノダカラ、貨
幣ト云フ切符ダケデハ物ハ買ヘナイ、物ハ手
ニ入ラヌ、ソコニ特殊ノ切符ト云フモノガ
必要ニナツテ來ル、例ヘバ衣料ナラ衣料ヲ
買ハウト思ヘバ、普遍的一般的切符デアル
所ノ貨幣ヲ持ツテ行ツタダケデハ間ニ合ハ
又、衣料切符ト云フモノガ必要ダ、勿論衣
料切符ノ中デモ又更ニ二重的ニ制限小切符
ト云フモノガナケレバ、手ニ入ラヌヤウナモ
ノモアリマス、例ヘバ又汽車ニ乘ツテ行カ
ウト云フ場合デモ、是ハ交通ノ方ノ點ニ付
テ唯具體的ニ例ヲ以テ考ヘテ見ルト、乘車
劵ヲ買ツテモ急行列車ニ乘レナイ、更ニ急
行劵ヲ買ハナケレバナラヌ、急行劵ヲ買ツ
テモサア座席ハナイ、特急ナラバ特急ノ座席
劵ト云フモノヲ、又特別ニ買ハナケレバナ
ラヌ、此ノ急行劵ト云フモノハ組織ハ二重
ニハナツテ居リマセヌケレドモ、兎ニ角座
席ハ座席トシテノ劵ガ必要デアル、或ハ又
乘ル日ナリ時間ヲ指定スルト云フヤウナコ
トモアリ得ルノデアル、サウ云フヤウナコ
トヲスルト、一々切符ト云フモノノ各種ノ
段階ニ依ツテ、唯金ヲ持ツテ行ツタカラ物
ガ買ヘル、或ル事柄ガ出來ル、人ガ傭ヘル
ト云フモノデハナイノデアリマシテ、總テ
ノ組織カラ言フト切符制度デアツテ、結局
貨幣ト云フモノハ其ノ中ノ一番普遍的一般
的ナ切符デアルト云フダケノ性質シカ、今
日ハ持ツテ居ラヌト思フノデアリマス、其
ノ上金融ノ統制ト云フモノガ、非常ニ强化
セラレテ居ル今日、銀行ニ預金ガ幾ラ集ツテ
來テモ、其ノ金ハ自由ニ使フコトハ出來ナ
イ、デアルカラ銀行家ハ、ドウモ此ノ頃ハ銀
行ト云フモノハ少シモ仕事ニ味ガナクナツ
タト云フコトヲ言ツテ居ル、金ヲ勝手ニ運
轉シテ面白イ運轉ノ仕方ガ出來ナイカラデ
アル、ソレ位統制ガ强化セラレテ居ル、又
投資ヲスル側カラ言ツテモ、企業ノ許可ガ
ナケレバ幾ラ以上ノ金ヲ使ヘヌ、或ハ資金
調整法ナリ、企業許可令ナンカデ、色々ノ
制限ガアル、又オ前ハソツチノ方ニ金ヲ貸
シテヤレ、或ハ公債ヲ持テ、ト言ウテ、積
極的ニ持ツテ居ル金ノ使ヒ途ヲ指圖セラレ
ル、サウ云フヤウニ金融ノ方ノ面ニ於テ統
制ガ段々强クナツテ來ル、强クナレバ强ク
ナル程、其ノ觀念ガ私共トシテハ固クナル
ノデアル、サウシテ他面ニ於テハ消費ノ規
正ガ强化セラレル、ヤハリ切符制ナリ、或ハ
割當配給ト云フヤウナ場面ガ、段々增シテ
來ルト云ヲコトニナツテ、終ヒニハ切符制
度ハ物ノ切符ダケデハナシニ、或ハ旅行ヲ
制限スル意味デ、宿屋ニ泊ルノハ一年ニ何
日分シカ切符ハナイ、或ハ溫泉ニ行ケバ、
溫泉ニ泊ルノハ一人ニ付テ何囘デ、何日分
シカナイトカ、或ハ芝居ヲ見ルノニハ、一
年ノ切符ハ何囘トカ云フヤウナコトモ、將
來ハ考へ得ルト思フ、サウ云フ切符制度ト
云フコトニ依ツテ色々ノ消費ヲ規正シ、金
ノ出途ト云フモノヲ押ヘ、金ガアツテモ使
ヘナイ、金ガアツタダケデハ物ハ買ヘナイ
ト云フヤウナ場面ガ、益、、强クナルダラウト
思フ、又强クスベキモノデアラウト思フ、
サウシテ計畫經濟ガ段々强クナレバナルダ
ヶ、ソコニ自由經濟時代ノヤウナ、所謂惡
性「インフレ」ト云フモノハ起ル餘地ハナ
クナルノヂヤナイカト云フコトヲ疑フノデ
アル、計畫其ノモノニ破綻ヲ生ズレバ是ハ
別デス、或ハ計畫ガ思ヒ違ヒヲシテ、物資
ノ釣合ガ取レナイト云フヤウウコトガ出來
タラ、是ハ又別デアリマスガ、計畫サヘ旨
クヤツテ行ケバ、消費ノ規正ヲ十分ニヤ
リ、金ノ使ヒ途ヲ抑ヘテ行クト云フコトニ
ナレバ、ソコニ所謂惡性「インフレ」ト云
フヤウナモノガ起ル餘地ハナイノヂヤナイ
カ、今日ハ既ニ其ノ段階ニ近イノヂヤナイ
カ、斯ウ云フ風ニモ考ヘラレマスガ、斯ウ
云フ點ニ付テモ一應大藏大臣ノ所見ヲ、序
デニ伺ツテ置キタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=5
-
006・矢野庄太郎
○矢野委員長 南君成ベク簡潔ニ御願ヒ致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=6
-
007・南鐵太郎
○南委員 簡潔ニ致シマス、併シ假ニ公債
ヲ持タスト云フコトニ依ツテ、購買力ノ吸
收ガ本當ニ出來タカト云フト、ソレハ購買
力ノ吸收ガ出來タノヂヤナイト私ハ思フ、
要スルニ潜在的購買力ト云フモノハ殘ツテ
居ルノデアリマスカラ、金ガ欲シイト思へ
バ公債ヲ賣レバ直グ金ニナル、其ノ金デ物
ガ買ヘルノデアルカラ、公債ヲ持タシタト
云フダケデ、購買力ガ吸收サレトタ言ツテ安
心スルコトハ出來ナイ、本當ノ購買力ノ吸收ハ
稅金デ取ツテシマフカ、富籤デ取上ゲテシマ
フト云フコト以外ニハナイ、單ニ一時的ノ中
休ミデアル、ソンナコトナラバヤハリ公債
ヲ持タスト云フヤウナ姑息ナ手段デナシニ、
他ノ方法ハナイカ、先ヅ其ノ點ニ付テ購買力
ノ吸收ニハ、完全ニナラヌト云フコトヲ信
ジテ居ルガ、其ノ點ニ付テモ序デニ伺ツテ
置キタイ、ソコデ最後ニ之ヲドウシタラ宜
イカト云フ點デスガ、公債ナンカト云フマ
ドロツコシイコトヲセズニ、之ニ代ル方法
ハナイカト云フコトヲ伺ヒタイノガ、私ノ主
要ナ要點デアル、一體所得ニナツタモノヲ
懷ロニ握ツテ居ル者ハ今日ハナイ、郵便局
ヘ貯金スルカ、銀行ヘ入レルカ必ズ金融機
關ヘ入ツテ來ル、國民所得ト云フモノハ、
昔ノヤウニ硬貨ガ流通シテ居ルヤウナ時代
ナラバ、固ヨリ金ヲ死藏シテ地ノ底ニ埋メ
ルト云フヤウナコトモアルカモ知レマセヌ
ガ、今日ハ金ガアレバ必ズ何處カニ預ケル、
必ズ金融機關ニ集マルコトニナツテ居ル、
自由ニ使ヘナイダケノ結果ガ保テレバ、ソ
レデ宜イノヂヤナイカ、卽チ消費ヲウント
規正スル、又金ヲ使フ途ヲナクスル、斯ウ
云フコトサヘシテ置ケバ、アトハ金ハ皆金
融機關ニ集マツテ居ルノデアルカラ、其ノ
金ヲドウスルカト云フコトヲ考ヘレバ宜イ、
改メテ公債ヲ發行スルナドト云フマドロツ
コシイコトヲスル必要ハナイノヂヤナイカ
ト思ハレル、其ノ金ヲドウスレバ宜イカト
云フ方法ハ、金融機關ニ集マツテ居ル金ヲ、
其ノ金融機關ノ力ニ應ジテ、オ前ノ銀行ハ
百万圓出セ、オ前ノ銀行ハ一千万圓出セ、
オ前ノ所ハ小イカラ十万圓出セト云フ風ニ
シテ、オ前ノ銀行ハ是ダケ公債ヲ持テト云
フノト同ジ意味合デ、現金デ出サセル、御用
金ヲ仰セ付ケル、公債ヲ全然發行セズニ、
其ノ出サシタ金ニ對シテ預リ證劵ト云フモ
ノヲ發行スル、預リ證デイケナケレバ借入
金デモ宜シイ、ソレハ技術的ニドウデモ宜
シウゴザイマスガ、兎ニ角金ヲ公債トシテ
持タスト云フ方法ヲ止メテ、現金デ以テ集
マツテ來タ金ヲ政府ヘ召上ゲテ、政府ニ要
ルダケノモノヲ使フ、サウシテ預リ證劵ナ
ラ預リ證劵トシテ、ソレヲ若シ政府ニ召上
ゲラレテシマツタナラバ、イザト云フ時ニ
金ニ詰ツテ困ルヂヤナイカト云フナラバ、
ソレニ或ル程度ノ融通性ヲ持タセル、公債
ヲ持ツタト同ジ程度ノ融通性ヲ持タセテヤ
ル、之ヲ一々裏書讓渡スルコトニナレバ、
融通性ガ强クナツテ「インフレ」ノ懸念ガア
ルト云フナラバ、裏書讓渡ト云フヤウナ性
質ニセズ、單ニ許可ヲ得テ移轉シ得ルト云
フ程度ノ制度ニスレバ宜イト思フ、丁度投
資ノ制限ヲスルトカ、或ハ指導シテ斯ウ云
フ方ヘ投資シロトカ云フヤウナ指導ヲスル
形ヲ取ル時ニ、公債ヲ持ツテ居ル者ハ、ヤ
ハリ考慮ニ入レテヤルデセウカラ、公債ヲ
持ツテ居ルト同ジヤウナ形デ其ノ預リ證劵
ヲ持ツテ居ルコトニ指導シテ行ケバ宜イヂ
ヤナイカ、サウスレバ假令一千万圓デモ、
一億万圓デモ一枚ノ證書デソレダケノ公債
ヲ發行セズニ公債ノ代リノ役目ヲ果スコト
ガ出來ルダラウ、僅カ少額ノ公債ヲドウス
ル斯ウスルト云フコトハ問題ヂヤナイト
思フ、總テ金融機關ニ集マツタモノヲ對象
トシテ、國家ノ財政ヲ切盛シテ行ケバ宜イ
ヂヤナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘル、今日出
テ居ル臨時資金調整法ノ改正案ヲ見マスト、
國債貯金トカ、貯蓄證劵トカ、色々施策ガ
アリマスガ、結構デアリマス、今日ノ制度
其ノ儘デヤラレルナラ、アレハ結構ナ話デ
ス、併シ私ノ考ヘ方ヲ以テ一遍ニピシヤツ
ト金融機關カラ金ヲ召上ゲルト云フ方法ヲ
執ルナラバ、國債ノ消化ナンテ必要ハナイ、
國民其ノモノヲ目標ニスル必要ガアル、銀
行其ノモノヲ目標ニスレバ足リルノデアリ
マスカラ、斯ウ云フ資金調整ノ方法ハ必要
ハナイトモ言ヘル、又公債ノ消化ヲ間接ニ
助長スル意味デアリマセウ、公債ノ買上制
度ト云フモノガ出來ルヤウデアリマスガ、
ソレハ結構デアリマス、先程隣組ノ例デ申
上ゲタヤウニ、直グ金ニシナケレバナラヌ
時ニ非常ニ損ヲスル、サウ云フモノヲ防グ
ニハ結構デアリマスガ、公債ナンテ云フモ
ノヲ使ハナケレバコンナ制度ハ要ラナクナ
ル、公債ヲ登錄スレバ長イコト持ツ程、時
局稅金ヲ免除サレルト云フヤウナ恩典マデ
與ヘテ、公債ヲ持タスト云フコトニ努力シ
テ居ル、是モ結構デアリマスガ、ソンナ必
要ハナイ、金ヲ持ツテモ使ヒ途ガナケレバ
銀行ナリ、郵便局ニ領ケルノデスカラ、金
融機關ニ集マツタ金ヲ、其ノ際國民ガ無暗
ニ使ヘナイヤウナ方法ヲサヘ考ヘテ置ケバ、
アトハ自由ニ集マツテ來タ金ヲ政府ガ使ヒ
得ルト、斯ウ云フコトニナリヤセンカト思
フ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=7
-
008・矢野庄太郎
○矢野委員長 南君ニ申シマス、モウ三十
分位御演說ニナツテ居リマスガ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=8
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009・南鐵太郎
○南委員 一々區切ツテ伺フノハ面倒デス
カラ、一遍ニ申シテ一遍ニ御答ヘヲ得タイ
ト云フ質問ノ簡素化デアリマス、卽チ私ノ
結論ト致シマシテ、今日ノヤウニ貨弊ノ本
質ガ變ツタ時期ニ於テ、消費規正ガ强化サ
レ、又金融ノ統制ガ非常ニ强クナツテ居ル
ト云フコトニ鑑ミマシテ、公債政策ト云フ
ヤウナ舊態依然タル財政ノヤリ方ヲ止メ
テ、公債ノ代リニ金融機關ヲ十分ニ活用シ
テ、モツト進メバ金融機關ノ國家管理ト云
フコトニナルカモ知レマセヌガ、ソコマデ
行カナクテ、現在ノ狀態其ノ儘ヲ活用シテ、
金融機關ニ集マツテ居ル金ヲ、預リ證デ以
テ召上ゲテ行ク、昔ノ御用金ヲ仰付ケタノ
ト同ジコトニナルガ、サウ云フ方法デヤレ
バ、煩雜ナ公債ノ消化ト云フヤウナコトデ
骨折ル必要ハナイヂヤナイカ、斯ウ云フ風
ニ考ヘラレルノデアリマス、一體今日ノヤ
ウナ段階ニ進ンダ計畫經濟ノ時代ニ於テハ、
自由經濟ノ頭デ以テ財政ヲ運用スルト云フ
コトハ、ドウカト思ハレマスノデ、若シ今
日突然御伺ヒシテ、直チニ根本ノ政策ニ付
テノ御意見ヲ伺フコトハ無理カモ知レマセ
ヌカラ、御答ヘヲシテ戴ケル機會ガアルナ
ラバ、今日直チニ御答辯ヲ願ハナクトモ宜
シイガ、簡單ニ御伺ヒ出來レバ一應御所見
ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=9
-
010・賀屋興宣
○賀屋國務大臣 通貨ノ本質ガ變ツタト、
是ハ關係アリマセヌ、元カラ金ヲ準備ニシ
テ居ツテ-十億カ二十億ノ金ヲ準備シテ
居ツタ所デ、通貨ハ金ニ換ハルカラト云フ
ノデ値打ハナイ、金ヲ貰ツテドウスルカ、
外國ヘ送ツテ物ヲ買ハナケレバ何ニモナリ
マセヌ、金本位ヲ離脫シタシナイナンテ云
フコトハ、昨今ノ經濟ニ何等關係ガナイノ
デアリマス、ソレカラ切符制度ノ御話ハ、
是ハ非常ニ御趣旨ハ私能ク分リマス、唯現
在ノ切符制度デ、又現在カラ數段階進ンダ
切符制度ニ於テ完全ニ購買力ハ規正出來マ
セウカ、切符制度ト云フモノハ、日本デハ
最近數年ニ發達シタノデゴザイマス、稅法
ナンカハ數百年ノ財政理論ヲ持チ、稅法理
論ヲ持チ、徵稅機構ノ發達ノ沿革ヲ持ツテ
居ルガ、マダ安全ニ行カナイ、一生懸命ヤ
ツテ居リマス、此ノ數年ノ切符制度ナンカ
デ中々-ソレハ有力ナ一ツノ國民ノ消費
規正デアリマスガ、全般ノ國民ノ消費、計
畫經濟ノ目的ニ合フヤウニ、全規正ヲ任シ
タラ大變ナコトニナル、ソレモヤラナケレ
バナラヌ、是モヤラナケレバナラヌト云フ
コトニナル、ソレデ何處デモ全面的ニ、ア
ナタノ御話ノ一般購買力デアル貨幣ヲ出來
ルダケ吸收シテ、國民經濟ノ計畫上購買力
ガ大體合フヤウニシナガラ、又部分的ニハ
切符制度デ行ク、此ノ兩方ヤリマスコト
ハ、丁度戰爭デ機關銃モ射ツガ重砲モ射ツ、
空カラ飛行機モ行クガ、下カラ潜水艦モ行
ク、是ハ一ツデイカヌカラ立體戰術デ、各
種ノ兵器ガ出テ來ルノト同ジデアル、段々
切符制度ガ發達シマシタナラバ-或ハ御
話ノヤウニ是ハ遠イ將來カ知レマセヌガ、
今ノ切符制度デ個々ノ人間ノ消費ヲ、皆規
正スルト云フコトハ大變ナコトデアル、現
在デモ色々御說ガアリマス、酒デモ一人幾
ラデアルカト云ツテ飮マス人モアルシ、
飮ム人モアル、總テサウ云フ風ニナル、切符
制度ハ廢スルコトハ出來マセヌ、益〓改善
シナケレバナリマセヌガ、是ノミニ賴ツテ
居リマシタラ又非常ニ破綻ガ起ル、全面的
ニ購買力ヲ吸收シナガラ、一個々々ノ物資
面カラ行キ、資金面カラ行キ、法律的ニ行
キ、道德的ニ行ク、凡ユル綜合戰術デ目的
ヲ達シナケレバナラヌ、斯ウ云フ時代デア
リマス、ソレデ購買力ノ規正ニ付キマシテ
ハ、十八年度ニナルト尙ホ其ノ樣相ガ深刻
ニナリマスガ、十七年度ニ於キマシテモ國
民ニ四百五十億ノ所得ガアル、一應平時的
ナラ全購買力ガ、ソコニアル譯デアリマス
ガ、ソレヲ國家ノ資金ト生產擴充ニ三百億
向ケル、三分ノ二ハソチラノ方向ニ集メナ
ケレバナラヌ、ソレデ今御話ニナリマシタ
資金調整法ト云フモノハ詰リ金ガ金融機
關ニ集リマシタ場合ニ、ソレガ三百億ハ國
家目的ニ充テナケレバナラヌカラ、他ヘ散
ラサヌヤウニスル爲ニ資金調整法ヲ拵ヘ
タ、是ハ昭和十二年ノ九月ニ作リマシタ、
所ガ是ハ全金融政策ノ続制ノ半面デアリマ
ス、之ニ集メナケレバナラヌノデス、ドウ
シテモ三百億ト云フモノヲ金融機關ナリ、
ソレニ準ズルモノニ集メナケレバナリマセ
ヌ、ソレガ何カト云フト、貯蓄奬勵及ビ租
稅ナノデアリマス、ソレデ四百五十億ヲ擧ゲ
テ自由ニシマシタラドウナルカ、着物ヲ買フ、
何ヲ買フ、平時ノ何倍カノ購買力ガ出來マスカ
ラ、消費物資ノ生產ヲ直グ助長シテシマフ、サウ
シテ凡ユル鐵デモ何デモ戰爭ニ必要ナ資材ハ、
民ノ消費資材ノ生產ニ行ツテシマフノデア
リマス、ソレデアリマスカラ、金ヲソチラ
ヘ行カナイヤウニスルト同時ニ、此ノ三百億
ノ金ヲ集メテ來ナケレバナリマセヌ、其ノ
金ヲ集メルコトト、集メタモノヲ他へ散ラ
サヌヤウニスル、是ガ金融ノ立體統制デア
ル、資金統制ハ其ノ半面デアリマス、其ノ
統制ク金ヲ集メル方ヲ、私ハ强制デヤラナ
カツタ、强制デアリマセヌカラ統制デナイ
ヤウニ申シマスガ、私ハ日本デ一番大キナ
貯蓄增强ハ統制ダト思フ、ソレデ以テ皆集
メル、集メルト云フト、然ラバ消費面ハ逆
二、サウ云フ風ニ集メレバ、切符制度ヲヤ
ラヌデ放ツテ置ケバ宜イカト云フト此ノ
集メルト云フコトニ潜ツテ、自分デ使ヒタ
イト云フ力ガ働キマシテ、金ノアル者ハ勝
手ニ物ヲ皆自分ノ方へ集メルヤウニナリマ
スカラ、切符制度ノ必要ガ起リマス、ソレ
カラ切符制度ガ出來マシテモ、例ヘバ衣料
切符ガ出來マシテモ、アレダケ全部國民ハ
使ツテモ、物資需給政策ハ宜イカト云フト
宜クナイノデアリマス、モウ少シ狹メナケ
レバナラヌ、サウ云フ作用マデヤラナケレ
バナラヌ、ソレナラサウヤツタラ宜イデハ
ナイカト云フト、各人各樣ノ違ヒガアル、
オ互ニ吾々ハ衣類モ多少昔カラ持ツテ居リ
マスカラ、三十點デモ五十點デモ宜イノデ
アリマスガ、用意ノナイ者ハ持ツテ居リマ
セヌ、何處デ切ルカ中々難カシイカラ、
樣ニ百點ノ切符ヲ出シテ居リマス、之ヲ皆
百點使ツタラ宜イカト云フト、サウデハナ
イサウ云フ面モアリマスカラ、ドウシテモ
一面切符制度、或ハ切符制度類似ノ消費規
正ヲヤルト同時ニ、購買力ノ吸收ヲシナケレ
バナララヌ、斯ウ云フ觀點ガアリマスカラ
兩面デヤラナケレバナラス、ソレデ是ハ一般
ニ出テ行ク時ニモ言フノデアリマスガ、私共
ノ考ヘデハ、今ノ三百億集メマス、租稅デ七十
億取リマス、アト二百三十億ハ國民貯蓄ニ依
ルト申シテ居リマス、要スルニ國民ノ所得ノ
蓄積ニ俟ツ、貯蓄ニスル、ソレガ何ニ使ハレ
ルカト云フト、公債ニ使ハレ、株式、社債、或
ハ銀行ノ產業資金トシテノ貸出、大キク申
セバ此ノ四通リニナル譯デデアリマシテ、
ソコデ一應金融機關-是ハ郵便局、ソレ
カラ保險會社或ハ銀行ニ皆集マリマシテ
ソレヲ斯ウ云フ風ニ分ケル手モアリマス、
ソレカラ直接ニ公債ヲ皆ニ買ハセ、株式ニ
應募サセ、ソレカラ社債ニ應募サスト云フ
行キ方モアラウト存ジマス、併シ是ハ全體
ノ國民經濟ノ維持發達ノ程度ニ於テ色々好
ミモアリマス、ソレデ直接國債ヲ買ヒ、社
債ヲ買ヒ、株劵ヲ買フ、斯ウ云フコトヲ好
ム面モアリ、銀行預金等ニ集マル面モアリ
マス、免ニ角國民所得ノ三分ノ二モ集メル
ノデスカラ、政府ノ方針トシマシテハ、其
ノ方向ハ兎ニ角集メルダケハウント集メナ
ケレバナラヌガ集メル上ノ方向ト云フモノ
ハ割合ニ强制ヲシナイ、銀行ヘ持ツテ行キ
タイ人ハ銀行ヘ持ツテ行ツテモ宜イ、保險
ニ入リタイ人ハ保險ニ入ツテモ宜イ、郵便
局ニ持ツテ行キタイ人ハ郵便局ニ持ツテ行
ツテモ宜イ、斯ウ云フ觀點ニ致シマス、ソ
コデ御話ノヤウニ、銀行ニ集マリ、又大部
分ハ金融機關ニ集マツテ居リマスガ、直接
ニ持タスト云フ面モ亦必要デモアルト思ヒ
マス、ソレカラ、御質問ガ多岐デシタカラ
話ハ多岐ニ分レマスガ、銀行ニ集マリマシタ
場合ハ、實ハアナタノ御話ト略〓同ジヤウニ
ナリマス、ト云フノハ國債證書ハ皆銀行ハ
日本銀行ヘ登錄シテ居リマスカラ、國債證
劵ハ出シマセヌ、ソレデ丁度證書モ同ジコ
トダガ、直グソレハ欲スル時ニハ欲スル額
面ニ分チ得ルト云フコトガ手續ヲ取ラヌデ
モ出來ル、唯日本銀行ヘ行ツテ證劵ヲ貰ヘ
バ宜イ、是ダケノコトデ、詰リ登錄シテ-
是ハ御話ノヤウニ今トナリマスト、中々國
內ノ銀行劵ノ印刷、滿洲ノ銀行劵ノ印刷、
北支ノ聯合準備銀行劵ノ印刷、中央儲備銀
行劵ノ印刷、南方通貨ノ印刷等非常ニ通貨
量ガ混ンデ居リマス、ソレデ印刷力ノ能率
的使用ト云フコトカラ、出來ルダケ證劵ヲ
少クシヨウ、ソレデ最近モ所謂高級印刷、
銀行劵、株劵、社債等ノ能率的使用ノ爲ニ統
制ノ方法ヲ講ジマシタ、是ハ御話ノ如ク極
力避ケタイ、銀行ナド大ロハサウデアリマ
ス、兎、ニ登登錄公債ヲ特ニ勸メテ參ツテ居
リマス、ソレガヤハリ色々ナ微妙ナ點デ、
是ハ今ノ御話ノヤウナ構想モ、私ハ今他ノ場
面デハ斯ウ云フコトヲ考ヘテ居リマスガ、
普通ノ分リ易イヤウニスル爲ニ、登錄公債デ
行ケバ大體同ジデアリマスカラ、サウスル
トカ云フヤウナコトヲヤツテ居ルガ、ソレ
デ殘ル場合ハ、ナゼ直接ニ民衆ニ公債ヲ買ハ
スカト云フ問題デアリマス、是ハ斯ウ云フ
コトデアリマス、徹底スレバ皆郵便貯金ニ
入レテ貰ヘバ十分目的ヲ達シマス、又銀行
預金ニ入レテ貰ツテモ十分目的ヲ達シマス、
所ガ實際只今ノ貯蓄奬勵ノヤウニ、國民全
般ニ亙リマシテ、本當ニ國家ノ爲ニ、戰爭
ニ勝ツ爲ニ吾々ガ貯蓄シナケレバナラヌ
ノダト云フコトハ、洵ニ近年ノコトデア
リマスカラ人々ノ頭ニ入リニクイ、又人
ノ頭ニ分ツテモ、ソレハ郵便貯金ヘ皆入レ
テ置カウト云フ人モアリマスガ、又國債ト
云フモノヲ見ル爲ニ、是ガ戰費ニナルノダ
ト云フ感ジカラ、之ヲ欲スルト云フ人ノ心
理狀態ハ樣々アルノデアリマス、ソレカラ
又ソレニ依ツテ郵便貯金ダト、貯金ト云フ
觀念ガアリマスガ、國債ヲ見ルト國債ニハ
大東亞戰爭國債ト書イテアル、之ヲ見ルコ
トガ戰時意識ヲ涵養スル元ニナル場面モ相
當ニアリマス、ソレカラ同ジサウ云フモノ
デモ報國債券モ出シマス、割引債劵モ出シ
マスガ、是等ハ何レモ割增金ガ附キマシテ
千、或ルモノハ當リ籤ノ數ハ多イガ割增金
ハ額ガ少イ、或ルモノハ額ガ多イガ當リ籤
ノ數ガ少イト云フ違ヒガアリマス、是等ハ皆
好ミガアリマス、農村ナドハ割合ニ堅實ト
申シマスカ、金額ガ少クテモ當リ籤ガ多イ
方ガ好イト云フノガアルシ、イヤ相當高イ
金ガ當ラナケレバ面白クナイト云フノモア
ル、是ハ樣々ナ心理狀態ガアル、其ノ樣々
ノ心理狀態ニ應ズルヤウニヤツテ行カナケ
レバナラヌ、中ニハ保險ニ入ルト云フ考
ヘヲ持ツ人モアルガ、ソレガサウ云フヤウ
ニハツキリシナイモノハ外ノモノニ行クト
云フ色々ノ手ガ必要デス、ソレデヤハリ國
債ノ民衆消化ト云フ方法モ今ノ資金蓄積ノ
場面ノ色々ナ方途ノ一ニシタイ、ソレデ實
ハ今問題ハ、他ノ機會ニモ申上ゲテ居リマ
スガ、假ニ三百億集メヨウト致シマスト、
初メノ百億位ハ放ツテ置イテモ出來ル、次
ノ百億ハ一寸ヤレバ出來ル、一番難カシイ
ノハ其ノ次ノ五十億、三十億、十億、五億
ト云フ終ヒガ一番難カシイ、或ル方法ノミ
ニ賴ツテ居リマスト大體出來ルガ、二割
三割ガ出來ヌ、今デモ五十億ノ購買力ノ吸
收ガ殘ツテ居ルト云フコトハ大變大キナ問
題デス、ソコデ色々ナ方法ヲ講ジナケレバ
ナラヌ、サウ云フ場面ニナル、私ガ法律ニ
依ツテ强制的ニヤラヌト云フノモソレデア
リマシテ、サウ云フ最後ノ場面ヲ巧クヤル
ノニ、右カラ左ニ賣ラナケレバナラヌト云
フサウ云フ人ニモ持ツテ行ク、サウ云フ人
マデ一生懸命ニヤツテモサウ云フ狀態デア
ルカモ知レナイト云フヤウナ判別ハ實ハ附
ケ手ガナイ、判別ノ附カヌ所ヘデモ持ツテ
行カナケレバナラヌ、ソレヲ一々容赦シテ
居ツタラ私ハ最後ノ五十億ガ出來ヤシナイ
カラ、サウ云フ所マデ行カナケレバナラヌ
ト云フ位ノ場面ニナリマスカラ、ソコハ簡
易保險モ持ツテ行ケバ債劵モ持ツテ行クト
云フヤウニ、戰爭デ言ヘバ一ツノ總攻擊
ヲヤルヤウナ工合ニ行カナイト出來ナイ、
ソコヲキチントヤツテ、一生懸命ニヤルヤ
ウニナレバ宜イ、私共ハ東京ノ全區ノ町內
會長ト話ヲシタガ、色々意識ノ進ンダ人カ
ラ、ナゼサウ云フヤウナモノヲヤルカト
言ハレル、ソレ位ノ意識ノ人ハチヤントヤ
ツテ吳レル、所ガ同ジ區內ニ於テ、熱心ナ
町內會長ノ成績ノ十分ノ一、二十分ノ一位
ノヤウナ低イ成績ガアル、是ハ一囘位ナラ
色々ナコトデ已ムヲ得ナイガ、確カニサウ
云フ段階ガアル、サウ云フ層ハマア簡易保
險ヲ勸メニ來タカラ入ル、來ナカツタラ入
ラヌ、國債ヲ持ツテ來タカラ買フガ、持ツ
テ來ナカツタラソレダケ郵便貯金ヘ持ツテ
行クカト云フト持ツテ行カヌ、ソレガ中々
マダアル、ソレデスカラ眞面目ナ人ハ一體
今日ハ債劵ナドハ無駄デハナイカ、アレヲ
印刷スル力ヲ「セーブ」シタラ宜イデハナイ
カ、其ノ人カラ見ルト憤〓ノ種デアル、私
カラ言ハセルト、ソレヲ見タカラ買フガ、
見ナケレバ外ヘ使ツテシマフ人ガアル、段
段ニ御話ノヤウニ持ツテ行キタイト云フ考
人ハ、之ヲ別ノ言葉デ言ヒマスレバ國民ノ
意識ガ戰時的ニ徹底シテ、凡ユル施策部面
ガ統制經濟ニチヤント對應スル方策ガ出來
マシテ、政府ノ統制ノ仕方モ、モウ實ニ立
派ニピシヤツト行ク時代ナラ宜イガ、ソコ
ニハ現段階デハ達シテ居ナイ、數段ノ躍進ヲ
シテ行カナケレバイケナイ、ソレデ今ノヤ
ウナ凡ユル方策ヲ考ヘナケレバナラヌ、是
ハ洵ニ無駄デアリマス、五圓ノニ一枚債劵ヲ
印刷スル、實ニ無駄デアリマス、サウ云フ風
デヤル部面ガマダ三百億ノ中ニハ何十億カ
アル、併シソレモヤラザルヲ得ナイ、斯ウ
云フヤウナ考ヘ方ヲ致シテ居ルノデアリマ
ス、結論的ニ申上ゲレバ、今ノ切符制度モ、
單一ナ購買力規制ト云フコトデ、全部ヲ今
ソレニ依存スル譯ニハ行カナイ、ドウシテ
モ一般購買力ノ吸收ト併用シテ行カナケレ
バナラヌ、ソレニハ單一方法デ行キ得ルカ
ト云フト、ソレガ理想デアリマスガ、現狀
ハマダ行カナイ、尙ホ只今私共ハ、貯蓄運
動ニシマシテモ、非常ニ巧クヤツテ居ルモ
ノハ段々單一的ニシテ、簡易保險モ突ツイ
テ行ク、何モ突ツイテ行クト云フコトヲヤ
ラヌヤウニシテ行キタイガ、差當ツテハ色
色ナ方法ヲ以テ進ンデ行ク、ソレヲ段々ニ
集積シテ行ク、斯ウ云フ考ヘ方ヲ致シテ居リ
マス、無理ニ買ハスカラ右カラ左ニ賣ツテ
行クノダ、實際ソレハ洵ニ遺憾デアリマス
ガ、前申上ゲルヤウニ、ソンナコトガアル
カナイカト云フ判斷ハ、中々東京ナドデハ
出來ナイ、東京ナドハ從來カラ隣保組織ハ
發達シテ居リマセヌ、此ノ戰時下デ初メテ
出來タノデアリマスカラ、分リマセヌ、或
ル意味デハ形式的ニヤルカラサウ云フ弊ガ
出來マスガ、併シソレデハサウ云フモノガ
數量的ニ多イカト云フト、只今ノ貯蓄ノ成
績ヲ申上ゲルト、何時デモ差引增加シテ居
ル、部分的ニハサウ云フコトモアリマスガ、
大局ハヤハリ非常ニ增加シテ居ル、一方今
モ御話ノアリマシタヤウニ、損ヲサセヌヤ
ウ買上制度ヲ執ル、買上制度ニ付テモ反對
ノ意見モアル、賣ツタモノヲ買ツタノデハ
何ニモナラヌヂヤナイカト云フ意見モアリ
マス、私ニ言ハセルト、賣ツタモノヲ買フ
カラ人ハ安心シテ持ツテ居ル、之ヲ持ツタ
ラ最後ドウニモナラヌ、持ツタラ百圓ノモ
ノガ七十圓ニナルト云フ場合ニ於テハ
是ガ八十圓ニ賣レル場合ガアツタラ之ヲ賣
ツテ置カウト云フノハ、マア人情デス、百
圓ノモノガ百圓デ賣レルトスレバ、却テ安
心ヲスルカラ本當ニ困ル時マデハ持ツテ居
リマス、ソレデ私ハ適正ナ價格ノ買上制度
ト云フコトヲ、郵便局デモヤツテ貰ツテ居
リマシタガ、ドウモアレダケデハ足ラヌノ
デ、今度ハ簡易ナ買上制度ト云フモノヲ拵
ハハ是ハ私ハ逆ニ步留リガ多イト思ヒマ
ス、其ノ方ガ結局安心ダ、株式ニシマシテ
モ、餘リ暴落スレバ必ズ買フト云フ斷乎タ
ル決心ヲ致シマスト、暴落シマセヌ、
億シカ買ハヌ、二億シカ買ハヌト云フト、
八千万圓九千万圓買ツタ時ニハ、モウ是レ
以上買フ力ガナイト云フト、ドン〓〓下リ
マス、私ハ百億デモ買ハウト言ツテ居リマ
スカラ、却テ一億モ買フ必要ハナイ、サ
ウ云フ譯デ、買上制度ヲヤツテ、賣ル所モ、
何處へ行ケバ賣レルカト云フコトガ分ルヤ
ウニスレバ、マア〓〓本當ニ金ガ要ルマデ
ハ賣ラズニ居リマス、ソレカラ又サウ云フ
層ハ眞面目デアリマスト、五圓、十五圓ト
云フ債劵ガ溜ル、是ガ溜ツテ來ルト貯蓄心
ガ起リマス、私ハ今度サウ云フ小サイ債劵
ヲ百圓ナラ百圓ノ公債ニ換ヘルコトヲ簡易
ニ出來ルヤウニシヨウト思フ、サウスルト
ソコデ以テ漸次小額債劵ト云フモノガ餘計
出ナクテモ濟ムヤウナ方向ニ向フ、結局今
申上ゲタヤウナ一番終點ノ何十億ト云フ所
マデ考ヘナケレバナラヌ、ソレデ御話ノ如
ク證劵ニ無駄ガアリ、手數ニ無駄ガアリ、
混雜ガアルト云フ場面モアリマスガ、ソレ
ヲ今捨テテ行ク譯ニ行カヌ狀態ニアルノデ
スカラ、大體今ノヤウナ行キ方ヲシテ居リ
マス、大キナモノハ登錄公債ニスル、新シ
ク公債ト云フモノヲ考ヘル層ニハ、唯イ
キナリ登錄デハ感ジガ出マセヌカラ、ド
ウシテモソレハ初メハ債券ヲ買フ、ソレ
ヲ漸次全公債發行額ノ中ノ大部分ヲ登錄
公債ニシマシテ、紙ノ消費ノ無駄ノナイ
ヤウニスル、斯ウ云フ行キ方ヲシタイ、政
府ノ公債ト云フモノハ一ツノ債務證書デ
アリマス、證書ト違フノハ非常ニ流通性ガ
樂ニナル、是ダケノ差異ニナリマス、流通
性ガ樂ニナルト云フコトハソレデハ貯蓄
ガ確定シナイカト云ヘバ、私ニ言ハセルナ
ラバ、サウシテ置イタ方ガ却テ安心シテ貯
蓄ニ入ツテ來ル、斯ウ云フ考ヘデアリマス、
今ノ惡性「インフレ」ノ話デアリマスガ、統
制經濟ガ完全ニ行ケバ惡性「インフレ」ハア
リマセヌ、然ラバ今統制經濟ヲヤツテ居ル
カラ惡性「インフレ」ハ起ラヌカト云フト、
是ハサウデハナイノデ、今ノ統制經濟ト云
フモノハマダ完全デハアリマセヌ、謂ハバ
戰局ノ大體ヲ抑ヘテ居リマスガ、部分的ニ
ハ敵ニ攻擊サレタリ、後ロへ〓ラレタリト
云フ狀態デ、現ニ物價ヲ公定シテモ闇取引
ガアルト云フ譯デ、完全ニ行ツテ居ナイノ
デアリマスカラ、私共ハ凡ユル點ニ統制經
濟ノ補强ヲ考ヘテ行カナケレバナラヌ、斯
ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=10
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011・矢野庄太郎
○矢野委員長 長內君ニ質問ヲ許シマスガ、
順位ハ松田君デゴザイマスノデ、成ルベク
簡潔ニ御願ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=11
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012・長内健榮
○長內委員 政府ノ赤字公債ニ關聯シテ
應御伺ヒシタイト思ヒマス、政府ハ軍需工
場トカ、又鑛山從業員、斯ウ云フ方面ニ配
給酒ヲ特別安價ニ配給スルト云フコトヲ聞
キマシタガ、ソレハ何級酒ナルモノヲ配給
シ得ルノデアルカ、又安價ト言ウテモ一升
ノ價格ガ幾ラデアルカ、第一ソレヲ承ツテ
置キタイノデアリマス、又其ノ安價ノ酒ヲ
配給スルトシテ、サウ云フ方面ニノミ限定シ
タル理由ハ何處カラ生レテ來タノデアリマ
スカ、一應御說明ヲ承リタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=12
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013・賀屋興宣
○賀屋國務大臣 並等酒デ、今度ノ稅法改
正後ノ小賣價格ハ三圓五十錢、三圓三十錢
ト云フ酒デアリマス、是ハ現在幾ラデアリ
マスカ、一寸今分リマセヌガ、ソレヲ稅ヲ
上ゲナイ、詰リ現在ノ價格カラ上ラナイ所
デ配給ヲ致シタイ、斯ウ思ツテ居リマス、
煙草ニ付キマシテモ同樣ナコトヲ致シタイ
ト思ツテ居リマス、之ヲ致シマシタ趣旨ハ、
今ノ戰力增强ニ非常ニ緊切ナ事業ニ從事シ
テ居リマス勞務者方面ニ出シタイ、是ハ其
ノ方面ニ於キマシテ或ル程度ノ酒ノ要リマ
スコトハ能率增進上已ムヲ得ヌ狀態デアリ
マス、併シ其ノ分量ハ色々アリマセウガ、
今囘ノ煙草デモ酒デモ相當ナ增稅デアリマ
ス
〔委員長退席、大橋委員長代理着席〕
其ノ負擔ヲ成ベク掛ケル程度ヲ薄クシタイ、
只今デハ生活費ガ膨脹スルト云フコトハ賃
金ノ値上ノ原因ニモナリマス、賃金ガ値上
ニナレバ、色々ナ價格モ上ルト云フ譯デア
ルカラ、賃金水準ヲ成ベク動カス原因ヲ避
ケタイ、ソレニハ萬全デハアリマセヌガ、
或ル數量ヲ限ツテ出シマスコトガ效果モア
リマスシ、又氣持ノ上カラモソレガ現ハレ
マス、斯ウ云フヤウナ觀點カラ其ノ措置ヲ
致シマシタ譯デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=13
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014・長内健榮
○長內委員 只今ノ御說明ハ能ク分リマシ
タ、現在ノ價格ニ依ツテ配給スルトスレバ
ソレヲドウシテ農山漁民方面ニモ與ヘナイ
カ、ソレヲ洵ニ私ハ不思議ニ思ツテ居ルヤ
ウナ譯デアリマス、申スマデモアリマセヌ
ガ、今日ノ大東亞戰爭ノ完遂ハ是ハ何ト云
ツテモ前線將兵ノ旺盛ナル精神力ノ賜モノ
デアリマスケレドモ、軍需生產ノ擴充ガナケ
レバ勝利ハナイ、其ノ生產力ノ擴充ハ又農
民ノ〓糧ノ確保ガナケレバ出來ナイ、ソコデ
前線、銃後一體トナツテ完成シナケレバナ
リマヌガ、農民ノヤル食糧ノ確保ト增產、
ソレカラ人口定有ト云フモノハ最モ重大デ
アル、今日ハ船腹ノ不足ダトカ又ハ遠距離
カラノ外米ノ輸入ハ甚大ナ危險、困難ヲ伴
フモノデアルカラ、先ヅ國內ノ自給自足ニ
專念スルコトノ必要ナナコトハ論ヲ俟タナ
イ話デアリマスケレドモ、然ラバ政府ハ
ドンナ風ニヤツテ居ルカト云ヘバ、先ヅ食糧
ノ確保增產ヲスル、ソレハ自作農維持トカ
創設トカ、耕地ノ改良トカ、用排水新設改
良トカ、有畜農業トカ、色々ノ施設ヲナス
コトハ洵ニ時宜ニ適シタコトデアルケレド
モ、私ヲ以テ考ヘサセルナラバ、單ニソレ
ノミヲ以テ離農防止トカ、食糧ノ確保、增
產ト云フコトハ決シテ出來ルモノデハナイ、
斯ウ云フ考ヘヲ持ツテ居ルノデアリマス、
サウシテ農民ハ米價ノ不均衡ヲ忍ンデ、國
力增進ノ爲ニ朝カラ晩マデ農事ニ勵シムモ
ノデアルガ、此ノ農民ノ辛勞ヲ御考ヘニナ
リマシテ、休息慰勞ヲサセ、翌日ノ勞働
ノ爲ニ安眠ヲ許シ、生產力昂揚ノ源泉デア
ル自家用〓酒否濁酒ノ許可ガナケレバ、勞
働能率ノ向上トカ離農防止、自作農維持
ト云フコトハ出來ナイモノト考ヘルノデ
アリマス、是ハ政府ハ如何ナル御考ヘデア
リマスカ知レマセヌガ、十八年度ノ政府ノ
需給ノ方面ハ差引供給不足トナルモノガ六
百七十六万六千石トナルト云フコトヲ聽イ
テ居リマス、斯ウ云フ悲シムベキ數字ヲ現
ハスト云フコトハ將來ドウ云フモノデアリ
マセウカ、順次是ハ此ノ數字ガ消エテ、段
段增產ニナツテ行クモノデアルカ、現在ノ
離農者ハ段々增加ノ傾向ヲ辿ツテ居ルヤウ
ナコトデアリマス
〔大橋委員長代理退席、委員長着席〕
農學博士、農林小作官ノ田邊勝正氏ノ調査
ニ依レバ、我ガ國ノ農家戶數ハ約五百五十
万戶アル、事變勃發以後ニ於テハ農家戶數
ノ減少ハ約十二万戶出來タ、事變前ノ同期
間ノ減少率ノ三倍ニ達シタ、斯ウ云フヤウ
ナ譯デアリマス、是ハ食糧確保上洵ニ寒心
スベキ問題デアリマス、此ノ時代ニ於テ、
我ガ國人口ノ四割ヲ占メル農民ハ此ノ大東
亞戰爭完遂ノ爲ニ、勞力ノ不足トカ金肥ト
カ、農器具トカ、其ノ他生產資材ノ入手難
デ非常ニ困ツテ居ル、斯ウ云フ惡條件ノ下
ニ於テ默々トシテ國難打開ニ精勵シツツア
ルケレドモ、然ラバト云ウテ人ハ二六時中齒
ヲ喰ヒシバツテ緊張ノミノ生活ヲシテ、勤勞
シテモ、增產スルモノデハナイト私ハ思フノ
デアリマス、國家總力ヲ擧ゲテ戰フベキ大
東亞建設ノ基底ヲ爲ス農民ニ動勞ノ效果ヲ
擧ゲル所ノ休息ヲ與フル、息付ク暇ヲ與フル
構想ノ下ニ、明朗性ヲ與へナケレバナラヌト
深ク考ヘテ居ルノデアリマス、然ルニ政府ニ
於テハ食糧確保增產上農民生活ノ實相ヲド
ウ云フ風ニ見テ居ルノデアリマスカ、米價ノ
不適正ニ依ツテ他物價トノ均衡ガ得ナイ、
然ルニ僅カニ一石ニ對シテ五圓ノ助成金ヲ
下附セラレテ居リマスケレドモ、是ハ又强
制貯蓄ニ振向ケラレテ居ルヤウナ狀態デア
ル、更ニ農村ニハ娛樂機關卽チ映畫トカ芝
居トカ寄席、音樂、サウ云フモノハナイノ
デアツテ、然ラバト云ツテ一方〓酒ノ配給
ハ今日不圓滑デアルカラ、先ヅ以テ休息慰
安ノ途ハナイト云ツテ宜イト思ヒマス、先
ヅ晨ニ曉天ノ星ヲ戴イテ出テ、夜ハ冷タイ
月影ヲ踏ンデ我ガ家ニ歸ル農民ト云フモノ
ハ、其ノ生命トモ謂フベキ疲勞ヲ慰スル酒、
其ノ一ツノ酒ガアル爲ニ默々トシテ働イテ
居ル、其ノ酒ガ我ガ家ニ歸ツテナイト云フ、
コトヲ見タ時ニ、ドウ云フ氣持ニナリマス
カ、私ハ同情ノ念已ムコトガ出來ナイノデ
アリマス、又東北、北海道ノ寒冷地帶ニ於
テハ、中ニモ其ノ感ヲ深ウスルノデアツ
テ.発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=14
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015・矢野庄太郎
○矢野委員長 長內君ニ申上ゲマス、御發
言中デアリマスケレドモ、時間ガ切迫シテ
參ツテ居リマシテ、本委員會ハ午前中ノミ
ト云フコトニナツテ居リマス、成ベク簡潔
ニヤツテ戴キタイ、若シナンデシタラ、マ
ダ此ノ委員會ハズツト續キマスカラ、後日
ニ質問ヲサレテモ結構デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=15
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016・長内健榮
○長內委員 餘リ內部ニ亙ツテオ話スルト、
委員長ヨリ長クナルト云フ注意ガアリマシ
タカラ、極ク簡略ニ致シマス、斯ウ云フ東北、
北海道ノヤウナ寒冷地帶ニ於テハ、酒ガナ
ケレバ勞力ノ充實ガナイト云フヤウナ狀態
デアルノデアリマス、然ラバ此ノオ酒ノ配
給ガ圓滑デアレバ萬事解決スルカ、是ハ解
決スルト云フコトハ、又非常ニ誤ツタ見方
デアツテ、決シテサウデハナイ、一升二圓、
三圓スル、今度ハ三圓以上ニナリマスガ、
サウ云フ髙價ナ酒ノ爲ニ、破產者ガ續出ス
ルト云フコトハ、私ガ申スマデモナイト思
ヒマス、昔ハ隨分破產者ガアツタ、中ニモ
貧農者ガサウデアリマス、其ノ結果却ツテ
s
雜農者ガ多クナル、是ハ〓糧確保上洵ニ由
由シイ問題デアリマス、ソコデ現在ノ狀態
ヲ見マスト、農村ニ於キマシテハ濁酒ヲ密
造スル者ガ漸次多クナツテ居ルヤウナ譯デ、
時々之ヲ處罰シマスガ、更ニ密造者ガ減
少ヲ來サナイ、益〓增加ヲシテ居ルト云フ現
狀デアル、其ノ原因ハ何處ニアルト云フコ
トハ、賢明ナ大藏大臣ハ御承知ノコトト思
ハレマスガ、若シモ之ニ峻嚴ナル取締ヲ以
テ臨ンダ時ニ於キマシテハ、人心ガ極度ニ
不安ニナツテ來ル、勢ヒ思想惡化ハ免レナ
イ、サウシテ雜農者ガ又續出スルト云フコ
トニ相成ルト思フノデアリマス、濁酒ハ明
治三十一年ニ自家用製造ヲ廢止セラレマシ
タケレドモ、其ノ以前ニ於テハ、一箇年一
石以内ノ製造ニ對シテ、自家用トシテ慥カ
酒造稅八十錢ヲ取ツタト思ツテ居リマシタ
ガ、又明治二十九年ノ十月施行ノ酒造稅法
ノ三十六條ニ於テハ、神社ニ於テ之ニ依ツ
テ明治十三年以前ヨリ引續キ酒類ヲ製造シ
タルトキハ、一年ノ製造石數一石以下ノ場合
ニ限リ總テ無稅トス、斯ウ云フヤウナ譯ニナ
ツテ居リマシテ、其ノ神社ハマダ全國ニボ
ツボツアルサウデスガ、是ハ明治三十一年
一月ニ自家用濁酒ノ製造ガ廢止ニナツタ後ニ
於キマシテモ、ズツト引續キヤツテ居ルサ
ウデアリマス、サウスルト神社ハ例祭ノ時ニ
ハ御神酒ヲ上ゲテソレヲ戴ク、斯ウナツテ
來ルト農民ハ神社デナイカラ許サヌトスレ
バ甚ダ面白クナイ、農民モ日本人ノ一人デ
アツテ敬神思想ガアル、若シ農民ニ濁酒ヲ
造ラセルトスレバ、第一神社ニ御神酒ト
シテ上ゲテソレヲ戴クト同ジデアツテ、少
シモ變リハナイト私ハ思ヒマス、ソコデ密
造ガ斷エナイ、サウシテ若シモ此ノ密造ガ
永續シテ居ツタ時ニ於テハ、ドウスレバ宜
イカト言ヘバ、ドウモ私等トシテハ、之ヲ如
何ニスルト云フ所ノ名案ガナイノデアリマ
シテ、寧ロ家族ノ年少者ガ此ノ惡習ヲ自然
ノ間ニ覺エテ、段々大キクナツタ時代ニ、
思想ガ惡化スル基ヲ作ルノデアル、斯ウ云
フ惡條件ガ伴フ、昔ノヤウニ一石以内ヲ公
許スルガ宜イ、無稅ナラバ之ニ越シタコト
ハアリマセヌケレドモ、先ヅ無稅デナイト
シタナラバ、農民ノ生活ヲ脅威シナイ最低
課稅ヲ以テヤツテ貰ヒタイ、斯ウナツテ來
ルト、密造防止モ出來ル、又離農者ヲ少カ
ラシムルコトモ出來ル、又一面極ク僅少ノ
課稅ト云フケレドモ、國家歲入ノ一助トナ
ル效果ガ生レテ來ルノデアリマス、是ハ政
府ニ餘程考ヘテ貰ハナケレバナラヌ所デア
ルト、私ハ思フノデアリマス、公然密造
ヲヤツテ居ルト、斯ウ申上ゲテモ宜シイヤ
ウナ現狀ニ立至ツテ居ル場合ニ於キマシテ、
若シ之ヲ公許シナイデ將來ドウナルカ、公
許スレバ益〓志氣旺盛トナル、昔ノ文獻ナ
ドニ見エテ居ル所ノ文句ハ、我ガ國デハ志
氣ヲ旺盛ニスル一種ノ藥劑トシテ、其ノ目
的ノ爲ニ使用シテ來タモノデアル、適度ノ
飮酒ハ精神ノ-意思ノ抑制力ヲ減ズル、
其ノ結果トシテ輕度ノ興奮ヲ伴ツテ、生理
的ニモ良結果ヲ得ル、斯ウ云フヤウナコト
ヲ書イテ居リマスガ、戰爭ニ臨ム前線ノ將
兵モ意氣ガ盛ンデナケレバナラヌ、此ノ意
氣ヲ盛ンニシ、サウシテ一日ノ疲勞ヲ醫シ、
安眠シテ翌日ノ活動力ヲ得ルト云フノハ
衞生上ノ方面カラモ、體力ノ方面カラモ其
ノ點ニ付テ考ヘテ貰ハナケレバナラヌ、農
民ハ工場方面ト違ツテ、安イ酒ガ配給ニナ
ラヌカラ自分デ造ル、造ルノモ宜イガ、食
ベルモノヲ酒ノ方ニ使フカラ、不足ニナルノ
デハナイカト云フ異論モアルヤウデアリマ
スガ、是ハ政府ヘノ供出米十俵ニ對シテ、
一俵ノ層米ガ出來ル譯デアリマス、其ノ屑
米ヲ以テヤルト、何等差障リハナイノデア
ツテ、又萬一其ノ自家保有米ヲ利用致シマ
シテモ、其ノ自家ノ食米ニ影響ヲ與ヘナイ
ト云フコトハ、是ハ農民ガ殆ド皆認識シテ
居ル所デアツテ、下酒以下ノ濁酒デアリマ
スカラ、オ腹ガ一杯ニナツテ飯ヲ食ハナイ
ト云フノガ、一般ノ批評デアリマシテ、農
民自身ガサウ言ツテ居ル、サウナルト自家
食米ニハ影響ガナイト言ツテ宜シイト考ヘ
テ居ルノデアリマス、若シ此ノ問題ヲ御取
上ゲニナラナイトシタナラバ、思想惡化、
離農防止ヲ如何ニシテヤルカ、離農防止ト
增產問題ハ、私ニ言ハシムルナラバ、凡ユ
ル方面ノ施設ヲ考ヘマシテモ、此ノ偉大
ナル農民ノ精神ノ慰安ト云フコトヲ考ヘ
テ、之ニ增シタルモノハナイ、斯ウ考ヘラ
レルノデアツテ、先ヅ政府ハ農民ニ一掬ノ
御同情ヲ寄セテ戴キタイ、サウシテ農民魂
振起ノ魁トシテ、多大ノ關心ヲ持ツテ之ヲ
檢討シテ貫ヒタイサウナツテ來ルト、若
シ是ガ出來ルト、農民ガ資材不足難ヲ克服
シ、ソレヲ超越シテ增產ニ邁進スルト云フ
コトハ、火ヲ賭ルヨリ明カナ問題デアリ
マスノデ、私ハ敢ヘテ之ヲ要望スル次第デ
アリマスガ、政府ニ於キマシテハ、農民ノ斯
カル實際ノ苦衷ヲ御考へニナラレマシテ、
サウシテ十分御檢討スルト云フ意思ガアリ
ヤ否ヤヲ承リタイノデアリマス、又衞生方
面ニ於テモ、或ハ不適當ナ酒ガ出ルノヂヤ
ナイカト云フコトモ言ハレテ居リマスガ、
是ハ適當ニ檢査ヲスレバ宜イ、ソレカラ更
ニ密造スル者ガナイカ、ソレモ檢査シテ差
支ヘナイ、或ル場合ニ於テハ警察官ニ取締
ラシテモ宜イヤウナ譯デ、別段是ハ苦シイ問
題デハナイト思フノデアリマス、斯ウナツ
テ來ルト、初メテ此ノ赤字公債約十四億幾
ラト云フ厖大ナ額モ、農民ハ更ニ苦ニシナ
イデ消化スルコトガ出來ル、サウデナイト徒
ラニ農民ノ娛樂、又農民ノ明日ヘノ活動ノ
源泉力トモナル酒ヲ止メテ、一方デ公債ヲ
買ヘト言フテモ、是ハ戰時ノ場合ダカラ、
或ハ泣ク〓〓買フデセウガ、內心或ハ國ヲ
怨ムト云フコトニナツテハ恐ルベキ問題デ
アル、ソコデ私ハ此ノ法規ヲ改正シテ貰ヒ
タイ、若シ是ガ實際ニ於テ面白クナイト云
フコトガアツタナラバ、町村ガ製造ノ主體
トナルカ、部落ガ主體トナルカ、或ハ組合
ガ主體トナツテモ宜イノデアリマス、何レ
ニシテモ極ク安價ナ酒ヲ所謂生活ノ糧トス
ルヤウニ、モウ少シ多ク配給スル爲ニ、斯
ウ云フ自由製造ノ許可ヲ與ヘテ貰ヒタイ、
斯ウ云フ御願ヒデアリマスガ、政府ノ方針
ヲ一應承ツテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=16
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017・賀屋興宣
○賀屋國務大臣 農民ノ戰時下ニ於ケル食
糧確保其ノ他ノ努力ハ、洵ニ吾々モ多トシ
考ヘテ居ル所デアリマシテ、初メニ御質問
ニナリマシタ酒ノ特別ノ價格デノ配給ハ、
重要產業ト云フ中ニハ農業ヲ別ニ致シテ居
ル譯デハアリマセヌ、含メテアリマス、唯
申上ゲテ置キマスノハ、數量ノ配給ト價格
ノ特別配給トハ、一致スル譯ニ參リマセヌ、
非常ニ多量ノモノヲ配給致セバ、ソレダケ
稅收入ハナクナリマスカラ、農村ニ行クモ
ノモ無論特價デ行クノハ一部デアリマス、
是ハ他ノ重要產業等ニ付テモ、略〓同樣デア
リマス、是等ノドノ方面ニドノ量ヲ特價デ
配給スルカハ、關係方面寄リマシテ協議ヲ
致シテ、配給致ス積リデアリマス
次ニ農村ノ自家用酒ノ特許ノ問題デアリ
マスガ、是ハ色々御話モアリマシタガ、本
年酒ガ非常ニ少クナルト云フノモ、米ノ需
給計畫、米ノミナラズ麥、甘藷其ノ他ノ主
食品ノ需給計畫全體ヲ見マシテ、其ノ上カ
ラ平素ノ半分以下ノ酒造米約百三十万石ト
致シタヤウナ次第デアリマス、先ヅ簡單ニ
申シマスト、私モ酒ヲ飮マヌ譯デアリマセ
ヌガ、御話ノヤウナ酒ヲ飮メバ飯米ノ需要
モ減リマスケレドモ、是ハトン〓〓ニ行ク
ナラバ酒ヲモツト造ラシテモ宜イ譯デスガ、
サウモ行カズ、酒米ヲ殖ヤセバ飯米ヲソレ
ダケ殖ヤス譯ニ行カナイ、ドウシテモ需給
關係カラ是レ以上イケナイコトニナルノデ
アリマス、其ノ觀點カラシテモ自家用酒ヲ
許スコトニ依ツテ、結局酒造米ガ自家用酒
及ビ普通ノ方法デ、現在以上ニ殖エマスコ
トハ結局今ノ主食品ノ需給ノ上カラ認メニ
クイコトニ相成リマスルシ、又租稅ノ負擔
ノ上カラ申シマシテモ、一方其ノ點デ租稅
負擔ヲ緩和シマスレバ、逆ニ他ノ方面ニ尙
ホ增稅シナケレバナラヌト云フコトニモ相
成リマシテ、非常ニ困難デアリマス、一四
御趣旨ハ御尤モデアリマスガ、ドウモ此ノ
問題ハ考ヘニクイ問題デアルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=17
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018・長内健榮
○長內委員 只今大藏大臣ガ考ヘニクイ問
題デアルト言ハレマシタガ、先刻來私ガ縷〓
申上ゲマシタ通リ、是デハ離農防止ヲス
ルコトガ出來ナイ、之ニ依ツテ益〓離農者ガ
多クナツテ來ル、其ノ結果國家興亡ノ岐レル
問題ニナツテ來ルノデアリマス、農業方面
モ安イ酒ヲ配給スル重要產業ノ部面ノ中ニ入
レテ居ルト云フ御話デアリマスガ、從來一
升二圓以上ノ酒デアルカラ、トテモ其ノ量
ヲ假ニ多クシタ所デ、之ニ依ツテ第一ニ貧
農ガ一番先ニ倒レル、小作人ノ破產者ガド
シ〓〓出來ルコトハ間違ヒナイ、斯ウ云フ
高イモノナラバ配給酒デ却テ迷惑スルカモ
知レナイ、其ノ意味ニ於テ私ガ話シタノデ
アツテ、農民ノ造ル濁酒ト云フモノハ、ソ
レニ依ツテ食糧ニ影響ガナイ、其ノ粕ノ儘
飮メバ宜イノデスカラ、オ腹ガ一パイニナ
ル是ハ農民ニ御聞キニナルト分ルコトデ
アツテ、決シテ食糧ニハ影響ガナイ、影響
ガアルトシテモ保有米ヲ賣ツテヤルノデハ
ナク、屑米ヲ賣ツテヤルノデス、屑米ハ先
刻申シタ通リ、供出米十俵ニ對シテ一俵出
來ルノデアリマス、屑米デアルカラ何等差
支ヘナイ、保有米デヤツテモ食糧ニ影響ガ
ナイ、斯ウ云フ譯デアリマスカラ、ドウカ
之ヲ十分御〓究ニナツテ、此ノ食糧增產ノ
爲ニ、又戰力擴充ノ爲ニ、モウ少シ深ク御
考ヘアランコトヲ御願ヒスル次第デアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=18
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019・賀屋興宣
○賀屋國務大臣 是ハ甚ダ農民ノ御苦痛ノ
多イ時ニ、恐縮ナ御願ヒデアリマスガ、屑
米ガ出マシタラ自分ノ食糧ニ充テラレル
カ、或ハ家畜ノ飼料ニ充テラレルトカシ
テ、供出米ヲ殖ヤシテ戴キタイ、現在デ
モ困ル狀態デアリマスカラ、屑米ダカラ
宜シイト云フコトデナク、モウ少シ私ハ
深刻ニ御考ヘヲ御願ヒ致シタイト思ヒマス、
色々御尤モト存ジマスルガ、併シ現在デハ
高イ酒デ生計ガ御困リノ程酒ノ配給ハ出來
マセヌ、ソコマデ多ク配給出來レバ結構デ
アリマス、農村ノ政策ノ確立ニ付キマシテ
ハ、或ハ自作農創設デモ、其ノ他皇國農村
ノ確立ニ農林省ノ方デモ色々オ骨ヲ折ツテ
居ラレマス、洵ニ農民ノ御苦痛モ察シマス
ガ、此ノ際デアリマスカラ、新聞デモ御覽
ニナリマスルヤウニ、「ドイツ」モ「イタリア」
モ、愈〓決戰體制、全部ノ禁酒ダト云フヤウナ
時代ニ入ツテ居ル、マダ日本ハ有難イコト
ニ餘裕ガアルノデアリマス、色々御希望御
尤モト思ヒマスルガ、中々此ノ問題ハ難カ
シイ所ガアルノデアリマシテ、其ノ點モ十
分ニ御諒承願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=19
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020・矢野庄太郎
○矢野委員長 松田君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=20
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021・松田正一
○松田(正)委員 時間ヲ大分過シマシタノ
デスガ、私ガ大臣ヲ要求シタノデハナイノ
デアリマシテ、外ノ方ガ大臣デナケレバイ
カヌト云フノデ、ソレデ大臣ニ來テ戴クコ
トニナツタノデスガ、色々質問ヲ承ツテ居
テ、或ハ大臣デナケレバイカヌ質問應答カ
モ知レマセヌケレドモ、大分時間ヲ過シテ
シマヒマシテ、大臣ガ一時カラ御差支ガア
ツテ、相當用意ガアルヤウデアリマスカラ、
此ノ委員會ガ濟ムマデニ、大臣ニモウ一囘
御出デ下サルコトガ出來ルカドウカ、御確
カメ願ヒマシテ、若シ御出デ下サルコトガ
出來レバ、アトノ機會ニ讓ツテ宜シイノデ
ゴザイマスガ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=21
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022・矢野庄太郎
○矢野委員長 只今御聞キ及ビノ通リデア
リマスルノデ、大藏大臣ニ此ノ委員會ノ質
疑ガ繼續中ニ、今一度御出席ヲ願ヒタイト
云フコトデゴザイマスガ、如何デゴザイマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=22
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023・賀屋興宣
○賀屋國務大臣 出來ルダケ都合致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=23
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024・矢野庄太郎
○矢野委員長 松田君、御聞キ及ビノ通リ
デアリマス-本日ハ是ニテ散會致シマス、
次會ハ月曜日午後一時カラ開會ヲスル豫定
デアリマスガ、重ネテ公報ヲ以テ御通知ヲ
申上ゲマス
午後零時二十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008111734X00519430206&spkNum=24
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