1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十九年一月二十五日(火曜日)午後一時三十七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=0
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001・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 是ヨリ委員會
ヲ開會致シマス、引續キ御質疑ヲ願ヒマス
ガ、本日ハ農林中央金庫特別融通及損失補
償法中改正法律案外一件、兩案ヲ議題ト致
シマス、兩案ニ付テ御質疑ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=1
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002・三須精一
○男爵三須精一君 私ハ此ノ機會ニチヨツ
ト御尋ネ致シタイノデゴザイマスガ、蠶種
製造組合工場ガ全國ニ亙リマシテ整備サレ
タノデアリマスルガ、先般私ハ埼玉縣下ニ
於ケル所ノ蠶種業者施設組合工場ヲ視察シ
マシタ、其ノ折ニ、埼玉縣ニ於テハ三十箇
所ノ組合工場ガ現在九箇所ニ整備サレタサ
ウデアリマスガ、併シナガラ此ノ生產サレ
タ蠶種ト其ノ同地方ニ於ケル所ノ養蠶ノ事
業トガ、非常ニ均衡ヲ失シテ、常ニ需要量
ニ不足ヲ生ジテ居ルノデ、其ノ爲ニ三重縣、
靜岡縣或ハ長野縣等カラ蠶種ヲ補充シテ居
ルサウデアリマス、最近御承知ノ通リ非常
ニ運輸關係ガ窮屈ニナリマシテ、非常ニ長
ク掛ル關係上、途中デ以テ其ノ蠶種ガ非常
ニ痛ム、爲ニ短期中ニ養蠶家ニ蠶種ヲ頒ツ
コトガ困難デアル狀況デアリマス、其ノ爲
ニ養蠶家ト云フモノガ、非常ニ迷惑ヲ掛ケ
ラレテ居ル實情デアルサウデアリマス、尙
埼玉縣內ニ於ケル需要ト供給トノ關係ヲ調査
シマスノニ、矢張リ非常ニ割當ガ不圓滑ニ
行ッテ居ルサウデアリマスガ、之ガ是正ニ
對シテ當局ノ御所見ヲ伺ヒタイノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=2
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003・石黒武重
○政府委員(石黑武重君) 只今ノ御質問デ
ゴザイマスガ、御話ノ如ク是ハ色々ノモノ
ニ付キマシテモ左樣デゴザイマスガ、今日
ノヤウナ事態ニナリマスルト、輸送ノ關係
ト云フモノガ非常ニ大キナ問題ニナリマス
ノデ、同ジコトナラバ矢張リ成ルベク近マ
デ賄ヒヲ付ケルト云フヤウナコトガ必要デ
ゴザイマス、唯其ノ場合ニ於キマシテ一番
困リマスコトハ、從來ノ矢張リソレ〓〓ノ
產業ニ於ケル此ノ事業活動ガ、必ズシモソ
レニ應ジテ居リマセヌノデ、今申シマシタ
ヤウナ輸送關係ノ考慮ト云フコト、之ヲ決
定致シマスルト、ソコニ業界ニ色々混亂ヲ
生ズル虞ガアルト云フコトデアルノデアリ
マス、御話ノ點ニ付キマシテハ具體的ノ事
情ヲ、審カニ致シテ居リマセヌデシタガ、·御
話ニ依リマシテ判斷致シマスルニ、御承知
ノヤウニ此ノ日本蠶絲製造株式會社ノ設立
ニ依リマシテ、獨リ製絲ノ團體ノミナラズ、
種製造ノ團體ニ付キマシテモ、相當程度ガ
此ノ會社ノ中ニ統合致サレマシテ、是ガ幸
ニ致シマシテ全國ニ亙ッテ大キナ一ツノ仕
事ヲヤッテ居リマスノデ、此ノ會社内部ニ
於キマシテハ、地域的ナ色々ノ其ノ事情ニ
卽應シタ是正ト云フヤウナコトガ出來ル譯
デゴザイマス、ソコデ是ハ若シ成ルベク近
マデ供給スル必要ガアルト云フヤウナコト
デアリマスレバ、此ノ埼玉縣自體ニ於テ生
產サレナイ不足ノ部分ト云フヤウナモノガ
アリマスレバ、今申シマシタ製造會社等ノ
種ノ製造力、之ヲ成ルベク矢張リ全國ノ地
域的ナ狀況ニ應ズルヤウニ生產ヲサセルヤ
ウニ致シマシテ、サウシテ其ノ方面カラ此
ノ不足ノ分ヲ補給スル、ソレガ必ズシモ、
例ヘバ三重ト云フヤウナ遠方デナイ所カラ
補給ヲスルト云フヤウナコトモ出來ルノデ
ハナイカト云フ風ニモ存ジマスノデアリマ
ス、尙聞キマス所ニ依リマスト、現ニ埼玉
縣下ノ共同施設組合ガ、御話ニ三十ノ製造
工場ガ九ツニナッタト云フコトデアリマスガ、
是ハ其ノ業者自體ガ自發的ニサウ云フ風ニ
整備ヲ致シタモノダサウデアリマス、將來
尙能ク實情ヲ究メマシテ、養蠶ノ圓滑ニ出
來マスヤウニ極力努メタイト思ッテ居リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=3
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004・三須精一
○男爵三須精一君 尙一點ハ此ノ蛹ト云フ
モノガ、昨今非常ニ榮養上其ノ他利用價値
ノアル重要ナル副產物デアルト云フコトハ
御存ジノ通リデアリマスガ、現在此ノ蛹ノ
處理ト云フモノハ統制會社ノ子會社ガ一切
取扱ッテ居ルサウデアリマスガ、最近燃料
ノ不足ヤラ、或ハ乾燥設備ノ不備ノ爲ニ、
會社ガ手ガ〓ラナイ結果、腐ラセルコトガ
非常ニ多イト云フヤウナコトヲ聞クノデア
リマス、斯ウ云フ重要ナルモノヲ腐ラセルト
云フコトハ誠ニ殘念ニ思ヒマスガ、現在ノ
實情ハドウ云フ風ニナッテ居リマセウカ、
其ノ點ヲ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=4
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005・石黒武重
○政府委員(石黑武重君) 或ハ私ノ承知シ
テ居ル所ガ誤リカモ知リマセヌケレドモ、
大體私ノ承知致シテ居リマスル所ニ依リマ
スルト、此ノ蛹ヲ餘リ古クナラナイウチニ
能ク集メマシテ、サウシテ今御話ノサウ云
フ方面ノ利用開發會社ト云フ統制會社ノ子
會社ガゴザイマスガ、其ノ方面へ持ッテ參リ
マスナラバ、是ハ軍需其ノ他ノ方面ヘノ用
途モ非常ニ廣ウゴザイマシテ、需要ノ面ハ是
ハマア非常ニアル譯デアリマス、寧ロ原料
ガ十分集マラナイト云フヤウナ所ニ困ッテ
居ルヤウナ風ニ承知致シテ居リマス、問題
ハ此ノ蛹ノ出マスソレ〓〓ノ工場等カラ之
ヲ集メテ、ウマクサウ云フ方面へ供給スル
コトデアリマスガ、ツイ輸送其ノ他ノ關係カ
ラソレガ十分敏速ニ參リマセヌデ、其ノ爲
ニ特ニサウ云フ優レタ榮養食糧ヲ作ル、例
ヘバ藥品ヲ作ルヤウナ原料ニハ向カナイト
云フコトデ、地元々々デ或ハ餌デアルトカ云
フヤウナモノニ處分サレル、又地元ニ於テハ
從來カラサウ云フヤウナ處分ノ方法デ大體
ヤッテ參リマシタモノデスカラ、寧ロソレヲ
需要スル方面デハ、ソレヲ好ムト云フヤウ
ナコトデ、此ノ蛹ノ利用全體ニ亙リマシテ
ハ、ナカ〓〓今ノ利用開發會社ヘ全部集メ
ルト云フヤウナコトハ困難ノヤウナ狀況
ニナッテ居ルヤウデアリマス、私ノ承知シ
テ居ル所ニ依リマスト、此ノ會社ガ自分
ノ手ニ入ルコトニナッタモノヲ、ムザ〓〓
配ラズニ腐ラシテシマフト云フヤウナコ
トハナイヤウニ存ジテ居リマシタノデア
リマスガ、御話ニ依リマシテ尙能ク事情ヲ
調ベマシテ、善處致スコトニシタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=5
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006・稻垣長賢
○子爵稻垣長賢君 丁度好イ機會デゴザイ
マスカラ、此ノ兩案ニ實ハ直接關係ナイコ
トデアリマスガ、チヨット伺ヒタイト思ヒマ
ス、最近食糧ニ付テ闇ガ行ハレタリ、又買
出シ部隊ガ出掛ケルト云フヤウナコトハ
一部分ニハ食糧ガ或部分ニマダ〓〓相當ア
ルヤウニモ解サレルノデアリマス、是等ノ
中ニハ輸送其ノ他ノ關係カラ致シマシテ、
腐敗スルモノモアルト云フヤウナコトモ聞
クノデアリマスルガ、若シ是ガ事實デアリ
マスレバ誠ニ由々シイ問題デアルト考ヘル
ノデアリマスガ、此ノ問題ニ付テ現在ドウ
云フヤウナ處置ヲサレテ居ラレルカ、チヨッ
ト伺ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=6
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007・石黒武重
○政府委員(石黑武重君) 只今ノ御質問
ハ、問題ト致シマシテ相當廣イ意味合ノア
リマス問題デゴザイマスガ、今ノ腐敗ノ一
點ニ付テ先ヅ申上ゲマスルト、今年アタリ
ハ餘程改善致シタト存ズルノデアリマスガ、
例ヘバ甘藷ノヤウナモフニ付テノ腐敗ノコ
トヲ能ク聞クノデゴザイマス、大體例ヘバ
此ノ甘藷ノ處理ト云フヤウナコトニ付テノ
政府トシマシテノ考ヘ方ヲ申シマスルト、
元來此ノ甘藷ト云フモノハ生ノ儘デ置キマ
シテハ腐敗シ易イ、殊ニ此ノ溫度ノ非常ニ
低イ冬期ノ嚴寒ノ候ニハ腐敗シ易イモノデ
アリマス、ソコデ斯ウ云フヤウニ昨年カラ
特ニ甘藷ノ增產ニ力ヲ注ギマシタノデアリ
マスガ、其ノ際ニ增產ノ實ヲ擧ゲタナラバ、
其ノ後收穫シタモノヲ如何ニ有效ニ使フト
云フコトヲ色々考ヘマシテ、先ヅ第一點ト
シマシテハ、何トシテモ嵩張ッタモノデ輸送
ガ大變デアル、而モ輸送ノ狀況ハ御承知ノ
通リデアリマスノデ、是ハ或程度ハ矢張リ
生產サレタ地元デ以テ消費シテ貰フ、寧ロ
之ヲ消費シテ、米デアルトカ其ノ他ノ嵩張
ラズ而モ腐敗ノ虞ノナイ穀類ノヤウナモノ
ヲ農村カラ成ルベク供出シテ貰フト云フヤ
ウナ風ニ致シマス爲ニ、御承知ノヤウニ芋
ニ付テモ勿論供出ハ求メマスガ、其ノ供出
ノ求メル分量ヲ全國ニ亙ッテ見マスルト、全
體ノ生產豫想量四割程度ニ止メル、六割位ハ
ソレ〓〓地元ノ農家、農村自體デ消費ヲシ
テ貰フト云フヤウナ方法ヲ執リマスヤウナ
譯デアリマス、ソレカラ供出ヲ求メルモノ
ニ付キマシテモ、之ヲ全部生デ以テ集メル
ト云フコトハ、今申シマシタヤウナ譯デ、
色々ト輸送ノ上カラモ、或ハ腐敗ノ上カラ
モ不便デゴザイマスノデ、相當程度ノモノ
ハ農家自體デ切干甘藷ニシテ、サウシテ供
出ヲ求メルト云フコトノ爲ニ、特ニ此ノ切
干ニスル爲ニ勞力其ノ他ノ費用ニ付テ十分
之ヲ見マシテ、特ニ價格ノ上ニモ考慮ヲ加
ヘマシテ、サウ云フヤウナコトヲ奬勵ヲ致
シテ居リマス、又同時ニ冬分ノ最モ腐敗ノ
虞アルト云フ場合ニハ、寧ロドチラカト云フ
トサウ無暗ニ芋ヲ出シテ來ナイ方ガ良イダ
ラウ、其ノ間ニ取扱ヒマスト、自然腐敗シ
易イト云フコトデ、ソコデ生產スル農家ニ
ハ適當ナ貯藏ノ方法、地面ノ中ニ穴ヲ掘リ
マス、其ノ穴ノ掘リ方モ色々アルノデアリ
マスガ、サウ云フヤウナ方法モ盡クシテ、
全國ニ亙ッテ練習ヲ致シマシテ、適當ナ方法
デ以テ貯藏ヲサセル、價格ノ面ニ於キマシテ
モ、特ニ此ノ腐敗ノシ易イ一二月ノ交ハ寧
ロ値段ヲ抑制シマシテ、三月ニナリマスレ
バ、是ハ溫度ノ關係デ腐敗ガ比較的シニク
クナリマスノデ、出スノガ遲レタラ、ルター
コトニサウ云フ時期ニ、三月ニ出スト云フ
風ニ價格ノ點ニ於テモ嚴寒ノ候ハ抑制スル
ト云フヤウナ色々ノ方法ヲ執リマシテ致シ
テ居ルヤウナ譯デゴザイマス、處デ現實ノ
問題トシマシテハ、左樣ナ譯デ、餘程腐敗
ト云フコトニ付キマシテハ事實割合ニ今年
ハナカッタノデハナイカ、以前ニ致シマシテ
モ、サウナカッタノデハナイカト云フ說ガア
リマスケレドモ、少クトモ以前カラ較ベマ
スレバ、ナクナッタト思ヒマスガ、唯輸送ノ
途中ニ於キマシテアヽ云フ重イモノデアリ
マスカラ、又取扱上壓迫ヲ加ヘタリ擦レタ
リスルヤウナ所ガ品傷ミモスルコトハ、是
ハ免レナイコトダト思ヒマス、サウ云フヤ
ウナモノガツイ家庭配給ニナルト云フヤウ
ナコトデ、ソレ〓〓其ノ分量ヲ家庭へ割當
テラレテ受取リマシテモ、受取ッテ見タ所
ガ品傷ミヲシテ居ルト云フヤウナコトデア
リマシテハ、是ハ消費者トシテモ迷惑デア
リマスノデ、サウ云フモノヲ受取ッタ場合
ニハ、若シサウ云フ腐ッタトカ、或ハ品
傷ミデ使ヒモノニナラヌト云フヤウナモノ
ニ付テハ、殊ニ大都市デアリマスガ、サウ
云フモノニ付テハ遠慮ナク取換ヲ求メテ
貰フ、其ノ場合ニハ別ナモノト取換ヲス
ルト云フヤウナ風ニ致シマシテ、一面ニ於
キマシテハ消費者ニハ成ルベク迷惑ヲ掛ケ
ナイヤウニ、又取扱ヲスル方面ニモ、サウ
云フモノヲ家庭ニ持込ンダ場合ニハ結局取
換ヘナケレバナラヌト云フヤウナコトニ致
シマシテ、サウ云フモノヲ持込マナイヤウ
ニ氣ヲ付ケサセルト云フヤウナコトヲ色々
致シテ居ルヤウナ譯デゴザイマス、左樣ナ
譯デ腐敗ノ問題、殊ニ芋ニ付テアルノデア
リマスガ、之ニ付キマシテハ、ソンナ風ナ
色々處置ヲ講ジテ居ルノデアリマス、尙本
年ノ實際ノ經過ニ徵シマシテ今後更ニ一層
氣ヲ付ケテ參リタイト思ヒマス、ソレカラ
魚類ニ付キマシテハ、是ハ冬分ハ割合ニナ
イノデアリマスガ、夏分ハドウモ遠方カラ
來ル魚ハ腐リ易イ、之ニ付テハ、以前ハ輸
送ノ途中ニ於キマシテモ、十分ニ貨車ノ中
デ氷ヲ入レテ腐敗ヲ防グトカ、或ハ又陸揚
ヲサレテモ直グニソレハ急イデ貨車ニ載セ
テ消費地迄持込ンデ來ルト云フヤウナ努力
ガ拂ハレテ居ツタノデアリマスガ、今日ハ
ソレガ兎モスレバ怠リ勝デアル、或ハ東京
ナラ東京ノ市場ニ荷物ガ著イテモ、偖ソレ
ガ愈〓、分ケラレテ家庭配給ニ行ク迄ニ相當ノ
時間ガ掛ツテ、其ノ間ニ腐敗ヲシ易イト云
フヤウナコトモ色々聞クノデアリマス、例
ヘバ貨車輸送ガ從來ヨリモ時間ガ掛ルト云
フヤウナコトニ付キマシテハ、是ハ輸送ノ
逼迫其ノ他ノ關係カラ、或程度鐵道自體デ
場合ニ依リマスト、以前ノヤウナ譯ニ總テ敏
速ニ運ブト云フコトガ出來ナイコトモアル
ノデアリマス、其ノ間ニ成ルベク腐敗ヲ防
グヤウナ方法ヲ執ルコトニ付キマシテハ
是ハ特ニ必要デアリマスノデ、夏分ハ市場
或ハ其ノ他ノ方カラ特ニ輸送上ノ氷ノ供給
ニ付テノ助成ヲシ、成ルベク氷ヲ使ハセル
ヤウニ致シマシタリ、又場合ニ依リマスト、
市場ニ於テ價格ノ評定ヲスル場合ニ品傷ミ
ノ物ニ付テハ、是ハ最高販賣價格デハ仕切
ヲヤラナイ、傷ンダ程度ニ應ジテ値段ヲ下
ゲルト云フヤウナコトヲ致シマス、之ニ付テ
ハ時ニ依ルト出荷地ノ方カラ、東京デ例
ヘバソレヲ致シマスト、東京ノ市場ハドウ
モ出荷地虐メヲスル、非常ニ不深切ダト云
フヤウナ非難ヲ受ケルノデアリマシテ、サ
ウ云フ今申シマシタヤウナコトニ依ルサウ
云フ非難ニ付テハ、非常ニ東京ノ市場ハ氣
ノ毒デアルト私共思ッテ居ルノデアリマス、
サウ云フヤウナコトモ昨年ノ夏季アタリハ
致シマシタ、其ノ爲ニ非難モ受ケテ居ルノデ
アリマス、ソレカラ又市場カラ家庭ヘノ輸
送其ノ他荷分ケ等ニ付テモ、之ガ統制ニナッ
テカラドウモ手數ガ掛ルト云フヤウナコ
トニ付テハ、例ヘバ目方ヲ量ルコトヲ何度
モヤラナケレバナラナイ、サウ云フヤウナ
コトモ、成ルベク目方ヲ量ラナイデ濟マセ
ルヤウニト云フ譯デ、容器ノ規格ヲ統一シ
テ、量ラナイデモ其ノ中ニ一杯入ッテ居レバ
大體幾ラト云フヤウナコトガ分ルヤウニ容
器ノ統一ヲ致シマシタリ、ソレカラ尙取扱
ノ手順ノ上ニ、成ルベク簡單ニ、色々ナ手
續ヲ省略ヲシマシタリト云フコトデ、多少
去年アタリモ何時間カ以前ヨリモ短クスル
ト云フヤウナコトモ致シテ居ルノデアリマ
ス、尙今後ハ矢張リ此ノ魚ノ方面ニ付キマ
シテハ、例ヘバ鹽干魚ノ値段ハ全般的ニ鮮
魚ニ抑ヘラレテ居ルト云フヤウナコト是
ハ從來ノ慣例カラ申シマスレバ成ルベク
同ジヤウナモノナラ鮮魚ノ儘デ食ベタ方ガ
宜イノヂヤナイカ、態〓〓魚魚〓〓ベラレルモ
ノヲ鹽干魚ニスルト云フコトハ、手數モ掛ッ
テ、而モ業者ニモ喜バレナイト云フコトガ
アッテ、多少値段ヲ抑ヘ氣味デアリマシタ
ガ、最近ニ於キマシテハ、將來ノ空襲ノ場
合トカ、色々ノ非常ノ事態モ考ヘルト、寧
ロ今日ノ場合デモ、サウ云フ考ヘヲ採ルベ
キデナイト云フヤウニ考ヘマシテ、値段其
ノ他ニ付キマシテモ、色々ト其ノ點ヲ現ニ
處置シタモノモアリ、又今後ニ於テモ色々
考ヘテ行キタイト云フヤウニ存ジテ居ルノ
デアリマス、マアソンナヤウナ風ニ致シマ
シテ、狀況ヲ見ナガラ逐次アレ是ト出來ル
ダケノ處置ヲ講ジテ參リタイト思ヒマス、
ソレカラ買出シノコトニチヨット御觸レニナ
リマシタガ、買出シモナカ〓〓ムツカシイ
問題デアリマシテ、其ノ土地ノ狀況ニ依リ、
又一般情勢ヲ考ヘマシタリ色々シマシテ、
濫リニ、一〓ニ善イ惡イトハ言ヘナイノデ
アリマスガ、最近ノ東京附近ノ或一一一ノ縣
ニ於キマシテハ買出シニ人ガ入ルコトヲ
スッカリ止メテ居ルト云フヤウナ所モアリ
やくり、サウ云フ或縣ノ事情ヲ聽イテ見マス
ルト、農村指導者ト言ヒマスカ、農村方面
自體ガ買出シノ弊ニ堪ヘ兼ネタ、嘗テハ東
京都ニ對シテ寧ロ行商ヲ許シテ吳レ、賣リ
ニ入ルコトヲ許シテ吳レト云フヤウナ風ニ
色々交涉シタ縣ニ於キマシテ、今日ハ逆ニ
モウ買出シニ人ノ入ルコトノ弊害ニ堪ヘ兼
ネタ、相當色々ノ弊害ガ起ッテ居ル、ソコデ
是ハ寧ロ東京ナラ東京へ出荷ヲ十分能クヤ
ル爲ニモ寧ロ買出シヲ止メテ貰ヒタイ、農
村自體、農家ガ眞面目ニ生產ニ最善ノ努力
ヲ拂ッテ、サウシテソレヲ東京へ數量多ク出
サウトスルコトノ爲ニハ、寧ロ買出シヲ止メ
テ貰ヒタイト云フヤウナコトデ、ソレ〓〓其
ノ府縣廳ノ任サレタル權限ニ於テ、或縣ニ
於テハ買出シヲ止メルト云フ處置ヲ採リマ
シタヤウデアリマス、其ノ前後ノソレニ依ル影
響ト云フヤウナモノヲ聞キマスノニ、禁止前
十日ト禁止後十日ノ出荷ノ狀況ハ、確カ一
日二十數萬貫ノ蔬菜ノ出荷ガ禁止後十日間
ノ平均ハ四十萬貫臺ニ上ッテ居リマス、其ノ
場合ニハ平均一日一萬數千人ノ人ガ買出シ
ニ入ッテ來タト云フ調査ニナッテ居ルノデア
リマスガ、ソレガ禁止ノ前後デ今申シマシ
タヤウニ、一日々々ノ出荷量ガ殆ド倍加シ
テ。居ルト云フヤウナ狀態デアリマシテ、其
ノ事自體ニ付テハ禁止ヲシタコトガ東京ニ
對スル出荷ニ良好ナ結果ヲ擧ゲテ居ルト云
フヤウナ風ニ其ノ縣トシテハ見テ居ルヤウ
ナ次第デアリマス、唯是ガ結局物ニ於テ農家
モ一生懸命ニ成ルベク多クノ物ヲ生產シ、
サウシテ是ガ都會ヘマア如何ナル方法ヲ採
ルニシロ、成ルベク入ッテ來ルト云フ結局目
的ヲ遂ゲル爲ニ、是ハ地方ノ土地ノ狀況ニ
依ッテ色々考ヘナケレバナラヌノヂヤナイ
カト思ッテ居リマス、今東京ノ如キ大消費地
ニ於キマスル行キ方ト致シマシテハ、現在
ノ行キ方ガ、是ガ一ツノ矢張リ色々是迄ノ
經驗ニ徵シテ、サウシテ地方ナリ其ノ他關
係ノモノガ考ヘテ、玆ニ到達シテ居リマス、
現狀ヲ暫ク經驗致シマシテ、更ニ我々トシ
テドウ云フ方法ニ是ガ進ンデ行クベキカト
云フコトヲ又十分考ヘナケレバナラヌヂ
ヤナイカト考ヘテ居リマス、唯地方ノ方ハ
割合ニ小サイ都市デ以テ、往々ニシテ東京
ナゾノ例ヲ見マシテ、何カキチントシタ統
制ノヤウナコトヲヤッテ見ル、其ノ結果ソレ
迄ハ蔬菜ナドモ相當多量ニアッタ小サナ町
ガ忽チドウモ配給デ以テ十分物ガ入ラナク
テ困ル、近邊ノ農家モ何カ窮屈ナコトヲ感
ジテ、其ノ位ナラ蔬菜ノ生產ヲ止メテシマ
フト云フヤウナコトガ起ル弊モナキニシモ
非ズデアルヤウデアリマス、是ハサウ云フ
ヤウナ場合ハ勿論サウ云フヤウナコトハヤ
ラヌ方ガ宜イノヂヤナイカト我々モ思ッテ
居ルヤウナ譯デアリマシテ、是ハ一般ノ事
情ト云フモノガ色々ナ面カラ食糧ノ上ニ影
響シテ參リマスノデ、狀況々々ニ應ジマシ
テ、玆ニ必ズシモ終局ノ目的ガ何カキチン
トシタ統制ヲ執ルノガ良イトカ惡イトカ云
フノデハナイノデアリマシテ、ソレハ結局
手段デアッテ、食糧生活ヲ成ルベク良イ便利
ナ狀況ニ置クト云フコトデアリマスカラ、
サウ云フコトヲ狙ヒニシマシテ、我々トシ
マシテハ今後トモ狀況ニ應ジテ、中央地方
十分實情ヲ窮メ協議ヲシテ、サウシテ善處
シテ參リタイト斯樣ニ考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=7
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008・稻垣長賢
○子爵稻垣長賢君 大變御親切ナ御答辯デ
誠ニ有難ウゴザイマス、唯一方食糧增產ヲ
行ヒツヽ、他面ニサウ云フヤウナ結果ニナル
ト云フコトハ單ニ食糧ノ腐敗トカ利用トカ
云フヤウナ問題ノミナラズ、思想問題ニモ
非常ニ影響スルコトガ大キイト思ヒマスノ
デ、今後增產奬勵ニ當ッテハ斯樣ナコトニ付
テ、齟齬ノナイヤウニ一層御注意ヲ願ヒタ
イト希望ヲ述ベテ質問ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=8
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009・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 他ニ御質問ハ
ゴザイマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=9
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010・二瓶泰次郎
○二瓶泰次郞君 私チヨット··只今蛹ノ
御話ガアリマシタガ、チヨット御尋ヲ致シ又
希望ヲ申上ゲテ置キタイノデアリマス、事
變以來蛹ノ利用ハ非常ニ增大シテ參リマシ
テ、先ヅ油ヲ採ル、醬油ヲ釀造スル、更ニ「バ
ター」ヲ採ル、藥ヲ作ルト云フヤウニ非常ニ
利用ガ多イノデアリマス、殊ニ最近蛹ヨリ
〓ビターミン·ビー」ヲ製造スルコトガ相當盛
ニナッテ參リマシテ、是ガ軍需民需ノ方面ニ
非常テ偉大ナル貢獻ヲ致シテ居ルノデアリ
マス、殊ニ其ノ「ビターミン·ビー」ヲ採ッタ其
ノ後ノ殘滓ハ鯉ニ食ハセルトカ、或ハ一般
ノ家畜ニ食ハセルトカ、或ハ軍用馬ニ食ハ
セルトカ云フヤウニ飼料ニナルノデアリマ
ス、最初ハ蛹ノ滓ダケデハ家畜ハ〓ハナカッ
タノデアリマスガ、最近ハ殘桑ナドト混ゼ
テ食ハセマスト、非常ニ喜ンデ食ヒマス、
斯ウ云フヤウナ狀態デアリマシテ蛹ノ利用
價値ト云フモノハ非常ニ增大シテ參ッタノデ
アリマス、ソコデ最近軍トノ關係ヲ見マス
ト、製絲工場ナドガ大分軍ノ工場ニ接收セ
ラレテ居ルヤウデアリマスシ、先ヅ今後モ
相當接收サレルノデハナイカト考ヘルノデ
アリマスガ、少クトモ蛹ノ利用ニ依ッテビ
ターミン·ビー」ト云フヤウナ軍需、民需ニ
最モ必要ナモノヲ製造スル工場、サウ云フ
モノニ對シテハ軍ガ接收スル場合ニ於テモ
相當此ノ點ヲ考慮ニ入レテ、大分同情ノア
ル御處置ニ出テ戴キタイ斯ウ考ヘテ居リマ
ス、農商省ノ御當局ト致シマシテモ、此ノ
點ニ付テドウ云フ御考ヲ持ッテ居リマスカ、
出來得レバ陸海軍御當局ニ對シ機會ノアリ
マシタ場合ニ於テ、此ノ點ニ觸レマシテ相
當御考慮ヲ願フヤウニ御協力ヲ願ヒタイ、
斯ウ考ヘルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=10
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011・石黒武重
○政府委員(石黑武重君) 此ノ蠶絲類ノ生
產ノ確保ニ付キマシテハ、前會ニモ申上ゲ
マシタノデアリマスガ、今日ト致シマシテ
ハ、此ノ繭ヲ取リマス上ニ、大體モウソロ
ソロ此ノ邊ガ底デアリマシテ、餘リ生產ヲ減
退サセルコトハ誠ニ軍民需兩方面トモ困ル
ヤウナ譯デアリマス、ソコデ今後ハ最近多少
低調ナ嫌ヒモゴザイマシタノデスガ、改メ
テ一ツ生產確保ニ付キマシテモ、色々ト處
置ヲ致シテ參リタイト思ヒマス、マア是デ
繭ガ相當ニ確保サレレバ、ソレニ應ジテ蛹
ノ生產モ確保サレル譯デアリマス、生絲工
場等ノ軍關係ノ轉換ニ付キマシテハ、大體
御承知ノ如ク日本ノ全國ニ亙ッテ、略〓〓其ノ
大體ノ整備ヲ濟マセテ居ルヤウナ譯デアリ
マス、假ニ製絲工場ノ數ガ多少減リマシテ
モ、其ノ工場自體ニハ數ガ減ッタカラ云トッ
テ、其ノ爲ニ產繭ヲ減少サセルト云フヤ
ウナコトハ今申シマシタヤウナ譯デ、此ノ
生產ヲ確保セネバナラヌヤウナコトデアリ
マスカラ致シマセヌト云フヤウナ譯デアリ
マシテ、自然蛹ノ生產ノ分量ノ方ニハ、工
場ノ轉換ニ依ッテハ影響サセナイ積リデ居
リマス、唯此ノ工場ノ配置ト云フモノガ矢
張リ其ノ地方々々ノ養蠶ノ興ルカ衰退スル
カト云フコトニモ相當響キガアル譯デアリ
マス、ソコデ同ジ轉換ニシマシテモ、成ル
ベク養蠶トノ關聯ヲ考ヘテ、サウ云フヤウ
ナコトノナイヤウニ努メテヤッテ參ルト云
フコトニ出來ルダケ努力ヲ拂ッテ居リマス、
唯今日ノ急ヲ要スル軍ノ方ノ必要ト云フヤ
ウナコトノ爲ニ、多少ソレガ曲ゲラレル場
合モ或程度アルノデアリマスガ、努メテサ
ウ云フヤウナコトノナイヤウニシマシテ、
サウシテ必要ナ產繭ノ確保ニハ努力シテ參
リタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=11
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012・石黒忠篤
○石黑忠篤君 養蠶ノ問題デ一言御伺ヒシ
テ置キタイト思ヒマス、支那ノ蠶絲業ハ非
常ニ大キナモノデアリマシテ、支那ノ、殊
ニ中支ノ復興ニ對シマシテハ相當之ニ負フ
モノガ多イト思フノデアリマス、是等ニ對
シマシテハ戰時中及ビ戰後ノコトヲ十分ニ
御考ニナッテ、サウシテ從來ノ米支ノ間ノ關
係ガ、支那絲ヲ通ジマシテ甚ダ緊密ニ結バ
レテ居ッタ事情ヲモ御考ニナッテ、戰時中及
ビ戰後支那蠶絲業ニ對スル方針ヲ御確定ニ
ナッテ置ク必要ガアルノヂヤナイカト思フ、
對支政策ノ新方針ノ下ニ、從來帝國ト致シ
マシテ皇軍占據ノ間ニ、相當手ヲ御打チニ
ナッタコトモ今日ニハ變ッテ來テ居ルト思フ、
是ハ變ヘナケレバナラヌモノハ變ヘテ宜シ
イト思ヒマスガ、併シ變ツタナラバ其ノ後
ニ於テ將來起ルベキコトニ對スル要點ノ所
ニハ手ヲ打ッテ置カナケレバナラヌト思フ、
ソレ等ニ關シマシテ一ツ十分ノ御〓究アル
コトト存ジマスガ、時機ヲ失シナイヤウニ
適當ナ手ヲ御打チニナラムコトヲ御願ヒシ
テ置キタイト思ヒマス、私ノ發言ハ或ハ速
記カラ除イタラ宜イト云フ御考ガアリマシ
タラ、當局ノ方カラ適當ニ御除キヲ願ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=12
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013・石黒武重
○政府委員(石黑武重君) 此ノ問題ニ付キ
マシテハ餘リ確實ナコトヲ申上ゲル何モゴ
ザイマセヌケレドモ、事柄ノ性質上速記ヲ
止メテ戴キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=13
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014・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 速記中止
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=14
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015・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 速記ヲ始メテ、
他ニ御質問ゴザイマセヌカ、御質問ナイヤ
ウデゴザイマスカラシテ、是デ質問ハ終了
致シタモノト認メマス、續イテ討論ニ入リ
タイト思ヒマス、御意見ガアリマシタラド
ウゾ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=15
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016・今井五介
○今井五介君 私ハ絲價安定施設法ノ廢止
ニ付テハ結局贊成ノ意ヲ表スルモノデアリ
マスガ、蠶絲業統制法中改正法律案ニ付テ
モ亦贊成ヲ表スルモノデアリマス、唯討論
デナクテ、私ハ自分ノ茲ニ私見ヲ述ベテ政
府ノ善處方ヲ要望シタイト思ヒマスガ、御
許シヲ戴ケマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=16
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017・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=17
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018・今井五介
○今井五介君 絲價安定施設法ハ生絲ノ價
格ノ異常ナル騰貴、又ハ低落ヲ防止シ、蠶
絲業ノ安定及發達ヲ圖ル爲ニ、昭和十二年
三月制定サレタ所ノ法律デアリマスルガ、
幸ニ此ノ目的ヲ達成シテ、同法ヨリモモット
進步シ、且强力デアル蠶絲業統制法ニ其ノ
席ヲ讓ルコトニ至リマシタコトハ、蠶絲業
ノ爲ニ、又國家ノ爲ニ慶賀ニ堪ヘナイト思
フノデアリマス、併シナガラ蠶絲業ノ統制
ガ出來夕以上ハ、絲價安定施設法ノ精神及
機構ハ全然無用ニナッテシマッタカト云フト、
決シテサウデハナイノデアリマス、殊ニ絲
價安定施設法ト併立スル所ノ絲價安定施設
特別會計法ハ、蠶絲業統制法ニ依ル蠶絲價
格安定機構トシテモ、現ニ有力且缺クベカ
ラザル所ノ機構トナッテ居ルノデアリマシテ、
之ヲ今日廢止致シマスルト、現在ノ蠶絲價格
安定機構ノ一ツノ支柱ヲ失フコトニナ
リマスノデ、政府ハ此ノ點ニ付テ、今
後ノ蠶絲業統制法運用上十分御注意セラ
V、〓絲價格ノ安定竝ニ之ガ安定資金ノ
造成等ニ付テ一層萬全ヲ期セラレタイト希
フモノデアリマス、其ノ理由ニ付テ此ノ機
會ニ於テ簡單ニ申述べタイト思ヒマス、現
在ノ蠶絲價格ノ安定機構ハ大體三段構ヘト
ナッテ居リマス、第一段ハ主務大臣ニ依ル蠶
絲標準價格ノ公定デアリマス、第二段ハ日
本蠶絲統制會社ニ依ル買入及賣渡ト同會社
ノ繭絲價格安定資金デアリマス、而シテ第
三段ハ政府ノ特別會計卽チ今將ニ廢止セラ
レヤウトシテ居ル所ノ絲價安定施設法ノ特
別會計デアリマス、此ノ絲價安定施設特別
會計ハ昭和十六年迄七千萬圓デアリマシタ
ガ、同年ニ蠶絲業統制法ノ制定ト共ニ二億
五千萬圓ニ增額セラレタノデアリマス、斯
クノ如ク蠶絲價格ノ安定ニ付テ頗ル愼重ナ
構ヘヲ政府ニ於テ御設ケニナリマシタ趣旨
ト云フモノハ、蠶絲ノ輸出ハ明治以來最モ
重要ナ外貨獲得ノ資源デアッタシ、又繭及生
絲ハ我ガ國農村經濟ニ缺クベカラザル產業
トナッテ居ッタ、處ガ此ノ繭生絲ノ價格ガ、
外國經濟ノ變動其ノ他ノ關係カラシテ每年
著シイ變動ヲ繰返シマシテ、ソレガ爲ニ國
民經濟上至大ノ惡影響ヲ及ボス一方、又外
貨獲得ノ上ニモ重大ナ影響ガアッタノデア
リマス、ソコデ此ノ蠶絲價格安定ノ爲ニハ
明治以來深キ注意ガ拂ハレテ、大正年代ニ
ハ帝蠶會社ト云フヤウナ救濟機關モ設ケラ
レ、昭和年代ニ入ッテハ絲價安定融資補償
法モ御制定ニナリ、更ニ其ノ後〓究ニ〓究
ヲ重ネテ出來上ッタノガ此ノ絲價安定施設
法デアッタノデアリマス、此ノ絲價安定施
設法ノ建前ハ、制高價格ト制低價格トヲ決
定シ、政府ハ其ノ特別會計七千萬圓ヲ以テ
制低價格ニ於テハ生絲ヲ買入レ、制高價格
ニ於テソレヲ賣渡シ、以テ此ノ二ツノ價格
ノ範圍內ニ絲價ヲ所謂自動的ニ安定セシメ
ル所ノ仕組デアリマス、現ニ此ノ法律ノ下
ニ於テ政府ハ先ヅ昭和十二生絲年度ニ於テ
生絲九千九百二十俵ノ補充買入ヲ爲シ、十
四生絲年度ノ絲價暴騰期ニ於テハ、此ノ九
千九百二十俵ノ外ニ、從前カラ政府ガ所有
シテ居タ所ノ昭和四年度生產生絲ノ內、二
萬三千八百俵ヲモ市中ニ向ッテ賣渡シヲ爲
シ、以テ價格ノ異常ナル騰貴ヲ抑制スルコ
トニ寄與スルト共ニ、政府ノ特別會計モ相
當ノ利益ヲ擧ゲタノデアリマス、現ニ今囘
此ノ特別會計カラ一般會計ヘ繰入レラレル
豫定ニナッテ居ル二千八百萬圓ハ、主トシ
テ右ノ利益カラ成立シタモノト思ハレマス、
更ニ昭和十五年度ニ於キマシテハ國際不安
ト內地消費ノ抑制カラ絲價ガ低落シタ爲ニ、
政府ハ五萬七千俵ノ買入ヲ行フ外、帝蠶會
社ヲシテ六萬八千六百俵ノ買入ヲ行ハシ
メ、以テ絲價ヲ千三百五十圓ニ於テ維持ス
ルコトニ成功シタノデアリマス、斯クノ如
ク政府ノ操作ニ依ッテ絲價ノ安定ヲ圖リ、延
イテ外貨獲得ノ上ニ貢獻スル所ガアッタ、此
ノ原動力ハ何カト申シマスルト、先ニ申述
ベタ絲價安定施設特別會計ノ七千萬圓デア
リマス、此ノ資力ガ若シナカリセバ如何ニ
法律デ標準賣渡價格ダノ、標準買入價格ダ
ノヲ設ケタ所デ、政府モ操作ノ仕樣ガアリ
マセヌノデ、ソコデ此ノ資力ヲモット增大
シナケレバナラヌト云フノデ、蠶絲業統制
法ノ制定ニ際シテ二億五千萬圓ニ增額シタ
ノデアリマス、現在ノ蠶絲業統制法ニ依ル
價格安定機構デハ、曩ニ申シタ如ク、第一ニ
主務大臣ノ蠶絲價格ノ公定ガアリ、第二ニ
ハ日本蠶絲統制株式會社ノ買入及賣渡ガア
リマス、ソコデ一應價格安定ガ萬全デアル
ヤウニハ考ヘラレマスルノデスガ、成ル程
主務大臣ニ依ル價格ノ公定ハ、以前絲價安
定施設法ダケノ場合ノ制低價格及制高價格
トハ其ノ趣ヲ異ニシテ居ルノデアリマシテ、
今日ノモノハ大臣ガ〓示サレタ標準價格ヲ
基礎トシテ現實ニ蠶絲統制株式會社ガ、單
ニ生絲バカリデハナク、蠶種モ繭モ生絲モ
短纖維モ、有ラユル蠶絲類一切ヲ現實ニ買
入レルノデアリマス、又ソレヲ賣渡スノデ
アリマス、從ッテ蠶絲價格ハ公定價格ヨリ
一厘モ安カラズ、又一厘モ高カラズ、全ク
公定價格ノ一本ニ安定シテ居ル譯デアリマ
ス、併シナガラ蠶絲價格ガ此ノヤウニ完全
ニ安定シテ居ル譯ハ、唯單ニ農商大臣ガ標
準價格ヲ決定サレ、ソレヲ告示シタダケニ
據ルノデハナイト信ズルノデアリマス、卽
チ其ノ價格ニ基イテ蠶絲統制會社ガ現實
ニ蠶絲一切ノ買入及賣渡ヲ行フカラダト思
フノデアリマス、而シテ又蠶絲統制會社
モ其ノ賣買ノ機能ダケデ價格安定ノ職責
ヲ全ウスルコトハ出來ナイノデアリマス、
何故カト云フト、時ニ或ハ需要ヨリモ多
イモノヲ買入レナケレバナラナイカモ知レ
マセヌ、又反對ニ需要ガ旺盛デ當年ニ買入
レタモノ以上ノ數量ヲ賣ラナケレバナラヌ
必要ガ生ズルカモ知レマセヌ、卽チ需給ノ
調整ヲ行フ必要ハ屢〓起ルノデアリマス、
是ハ今日輸出ガ杜絕致シマシテ所謂內需
轉換ヲナシ、全ク內地ダケデ經濟ヲ取ッテ居
ル現在ニ於キマシテモ、斯ウシタ需給ノ調
整ハ常ニ必要ナノデアリマス、サウ致シマ
スト、統制會社ハ先ヅ相當ノ資金ノ餘裕ヲ
持ッテ居ル必要ガアリマス、次ニ又相當數量
ノ蠶絲ヲ手持シテ居ル必要ガアリマス、ソ
レデナケレバ統制會社ハ法律ノ規定スル職
責ヲ安全ニ果スコトハ全ク出來ナイノデア
リマス、幸ヒニ政府ハ此ノ點ヲ御認メニナ
リ、蠶絲統制會社ニ對シテハ資本金ノ半額
四千萬圓ヲ御出資ニ相成ルト共ニ、又蠶絲
業統制法第四十二條ニハ、繭又生絲ノ價格ノ
安定ヲ圖ル爲、繭絲價格安定資金ヲ設定ス
ルコトヲ規定サレテ、蠶絲統制會社ハ此ノ
規定ニ基イテ今日一億餘圓ノ資金ヲ設定シ
テ居ルノデアリマス、詰リ此ノ價格安定資金
ハ、先ニ申述ベタヤウナ蠶絲ノ需給ノ調整
ヲ圖ル必要ガ起ッタ場合ニ、何時デモ相當數
量ノ蠶絲ヲ手持シテ價格ノ安定ヲ圖ル爲ノ
資力トナル、サウ云フ用意ガアレバコソ、現
ニ蠶絲價格ガ全ク安定シテ居ルノデアリマ
シテ、若シサウデナカッタナラバ、供給ガ需
要ヲ超過シタ場合ニハ、何トモ致シ方ノナ
イコトガ起ルト思ハレルノデアリマス、處
デ蠶絲統制會社ノ繭絲價格安定資金ダケデ
十分カト申シマスト、決シテ十分トハ言ヘ
ナイノデアリマス、統制會社ノ資金ハ、先
程申上ゲタ如ク、第二段ノ構ヘニ過ギナイ
ノデアリマス、其ノ金額モ假リニ一億圓ガ
其ノ儘使ヘルト致シマシテモ、現在ノ買入
價格八百五十八圓デハ生絲約七萬三千俵ヲ
買ヒ得ルニ過ギマセヌ、而モ此ノ安定資金
モ、本年度ニ於テハ繭ヲ養蠶家カラ七十五掛
デ買ヒ入レ、製絲家ニ七十掛デ賣ル爲ニ五
掛ダケ統制會社ガ損ヲ負擔シナケレバナラ
ナイノデアリマス、或ハ又指定生產織物ノ
原料生絲ヲ特ニ安イ値段デ供給スル爲ニ、
十貫ニ付百圓ダケ統制會社ガ拂戾シテヤル
等ノ、所謂低物價政策ノ趣旨ニ副フ政策ヲ實
行シテ居リマスルガ爲ニ、此ノ繭絲價安定
資金カラ、年額約四千萬圓バカリヲ支出ス
ル豫定トナッテ居リマス、現ニ之ガ爲ニ昨
年五月末ニハ、約一億二千萬圓近クニ上ッテ
居ッタ安定資金ガ、今日デハ旣ニ一億圓ヲ
割ッテ居ル現狀デアリマス、斯クノ如クナリ
マスルト、將來蠶絲ノ需給調整ノ爲ニ、會
社ガ擔當數量ノ繭生絲ノ手持ヲ致サナケレ
バナラヌ場合ガ起リマシテモ、其ノ必要ナル
手持ガ出來ナクナリ、延イテハ法律ノ規定
スル所ノ蠶絲ノ需給調整ト、價額ノ安定ヲ
圖ルコトガ困難ニナル虞ガ起ルノデアリマ
ス)世上動トモスルト、今日ハ最早絲價安
定ノ施設等ハ不必要ダ、價格ノ公定サヘス
レバ安定ハ出來ル、輸出ハナクナッタノダカ
ラ安定資金ハ必要デナイト云フヤウナ論ヲ
スル者ガアリマス、併シ是ハ唯現在ノ表面
ダケヲ見タ所ノ議論ニ過ギナイト思ヒマス、
現在ノ表面ノ安定ハ、先程申述ベマシタ通
リ、蠶絲統制會社ガ公定價格ヲ間違ヒナク
蠶絲ノ買入及賣渡ヲ行フ結果ニ外ナラナイ
ノデアリマス、又其ノ資金ガ足リナイ場合
ニハ繭絲價格安定資金カラ支出シ得ル體制ニ
ナッテ居ル結果ニ外ナラヌト存ズルノデアリマ
ス、ソコデ何人モ之ニ信賴シテ、其ノ結果
トシテ蠶絲價格ガ安定シテ居ルノデアリマ
ス、然ルニ此ノ安定資金ハ私共カラ見ルト
現在マダ十分トハ言ヘマセヌ、一億圓足ラ
ズニ過ギナイ、ソレモ益〓減少シテ行ク有樣
デアリマス、ソコデ私見ヲ率直ニ申上ゲマ
スルナラバ、政府ガ是迄御設ケニナッテ居ラ
レタ絲價安定施設特別會計ノ二億五千萬圓
ヲモ引續キ存置シテ戴キタイノデアリマス、
是迄ノ價格安定機構デハ曩ニ申上ゲタ如
ク、統制會社ノ資力ダケデハ足リナカッタ場
合ニハ、政府ノ此ノ特別會計ガ前面へ出テ來
テ、二億五千萬圓ノ威力ヲ示スト云フ建前
ニナッテ居タ、卽チ第三段ノ構ヘニ是ガナッ
テ居タノデアリマス、表面的ニハ絲價安定
施設法ハ〓絲業統制法ノ蔭ニ隱レテ居ッタ
ガ併シ蔭ニ居ッテモ隱然タル力ヲ持ッテ
居タノガ實際ノ實情デアッタノデア
リマス、今日政府ノ御說明ヲ伺ヒマス
ルト云フト此ノ蔭ニ隱レテ居タ絲價安定施
設法ヲ廢止サレルノモ全ク已ムヲ得ナイコ
トデアルコトヲ伺ッテ居リマシテ、此ノ廢
止ニハ贊成ハ致シマスルガ、併シナガラ私
ハ此ノ法律ガ最早無用ニナッタカラ其ノ廢
止ニ贊成ヲスルト云フ趣旨デハ毛頭アリマ
セヌ、決シテ無用ニナッテ居ルノデハナイ
ノデアリマス、唯蔭ニ隱レテ居ルニ外ナリ
マセヌ、此ノ蔭ニ隱レテ居ルモノヲ今囘
廢止致シマスト、蠶絲業ノ安定ニハ唯蠶絲
業統制法ダケガ之ニ當ルト云フコトニナリ
やく、然ラバ是迄二本建デアッタモノノ中
ノ一本ガ無クナルト云フ結果ニナルノデア
ルカラ、政府ト致シマシテハ恐ラク殘ッタ
一本ノ柱デアル蠶絲業統制法ヲ今日ヨリモ
一層强化サレル御積リデアラウト想像致シ
マスシ、又サウアラネバナラヌト確信スル
者デアリマス、今玆ニ提出サレテ居ル同法
第十三條乃至第十五條ノ削除ダケデハ到底
物ニナラヌト存ズル次第デアリマス、玆
於テ私ハ政府御當局ニ一ツノ希望ヲ申上ゲ
タイト思フノデアリマス、其ノ希望ノ要點
ハ今日生絲ノ輸出ハナクナッテ居ル時デモ、
蠶絲價格ノ安定及需給ノ調整ト云フコトヲ
決シテ輕視サレナイヤウニ御願ヒシタイト
云フコトデアリマス、本案ノ御說明ヲ蔭ナ
ガラ伺ヒマシテ、絲價安定施設法廢止ノ理
由ハ、「蠶絲業統制ノ進展强化ニ伴ヒ、絲價
安定施設法ニ依リ、政府ノ行ヒ來レル生絲
ノ需給調整及價格安定方策ハ其ノ必要性ヲ
失ヒタルヲ以テ」云々トアリマスルガ、假
リニ政府ノ行フ所ノ生絲ノ需給調整及價格
安定方策ハ、其ノ必要性ヲ失ッタト致シマ
シテモ、ソレハ其ノ必要ガ此ノ世ノ中カラ
消エテナクナッタノデハナクシテ、唯政府ガ
直接行フコトノ必要ガナクナッタト云フ意
味ニ過ギナイト私ハ信ズルノデアリマス、
政府御當局モ恐ラクハサウ云フ御趣旨デア
ラウト信ズルノデアリマス、果シテサウト
致シマスレバ、政府ガ自ラ行ハナクナッタ
代リニモ、政府ニ代ッテ何等カノ機關ガソレ
ヲ行ハナケレバナラヌバカリデナク、其ノ
機關ノ實行力ハ、以前ニモ增シテ之ヲ强化
スル必要ガ一層增大シタト言ハネバナラヌ
ノデアリマス、サウシテ此ノ政府ニ代ッテ行
フ所ノ機關トシテハ、蠶絲業統制法ニ依ッテ
恐ラクハ日本蠶絲統制會社ガ之ニ當ルコトニ
ナッテ居ルノデハナカラウカト思フノデア
リマスカラ、具體的ニ申シマスルト云フト、
此ノ會社ノ需給調整及價格安定施設ト云フ
モノヲ今後一層强化擴充スルノ必要ガ玆
ニ生ズル次第デアリマス、デハ此ノ統制會
社ノ蠶絲需給調整及價格安定施設ト云フモ
ノヲドウ云フ具體的方法ヲ以テ强化擴充ス
ベキデアルカト申シマスルト、無論色々ノ
方法ガアルト思フノデアリマス、ソレヲ一
一詳細ニ述ベルト時間ガアリマセヌカラ、
他日機會ガアッタ場合ニ申述ベルコトト致
シマシテ、私ハ唯玆ニ次ノ一事ダケヲ申上
ゲテ、政府ノ御注意ヲ御願ヒシタイト思フ
ノデアリマス、ソレハ統制會社ガ現在積立
テテ持ッテ居ル繭絲價格安定資金ヲ濫リニ
消費シテシマハヌヤウニ御指導ヲ願ヒタ
イ、成ベクハ之ヲモット增强スルヤウナ政
策ヲ御採リヲ願ヒタイコトデアリマス、此ノ
資金ノ重要性ハ先程カラ段々申述ベタコト
デ盡キテ居ルト思ヒマスガ、絲價安定施設
特別會計ヲ廢止スルコトニナルト、一層重
要ナモノトナッテ來タノデアリマス、今日
世上ヲ窺ヒマスルト、此ノ資金ノ存在ヲ無
用視シタリ、又ハ斯ウ云フ資金ヲ積立テル
爲ニ、統制會社ハ特ニ安ク生絲ヲ買ッテ之
ヲ高ク賣ッテ居ルヤウニ誤解シテ居ル者ガ
アリマスガ、是ハ全然事實ノ眞相ヲ知ラナ
イ人ノ誤解デアル繭生絲ノ買入價格ハ政
府ニ於テテ直接御調査ニナラレタ繭生絲ノ
生產費調査ニ基イテ、其ノ生產費ヲ基準ト
シテ政府自ラ御決定ニナッタ所ノ價格デア
ルノデアリマス、從ッテソコニハ何等强ヒテ
安ク買入レルト云フ意思モ事實モナイコト
ハ明白デアリ確實デアリマス、一方又賣渡
價格ノ方ハ蠶絲ノ需給狀況及內外經濟事情
ヲ參照シテ、是亦主務大臣ガ蠶絲委員會ニ
諮問シテ御決定ニナルノデアリマシテ、特
ニ之ヲ高ク決定サレルト云フヤウナ道理ハ
ナイ筈デアリマス、蠶絲業統制法實施ノ際
ノ實情ヲ申上ゲマスト、其ノ賣渡價格ハ輸
出市場ノ時價ヲ基準トシテ決定サレタヤウ
デアリマスガ、是ハ全ク至當ナル決定方法
デアリマシテ、若シモ之ヲ時價ヨリモ安イ價格
デ決定シマスド、生絲全體ノ價格ニ影響シ
テ、海外カラ獲得スル外貨ガソレダケ減少
スル結果ヲ招來シタノデアリマス、ダカラ
シテ此ノ時價ヲ以テ賣渡價格ト致シタコト
ハ、結局外國人ニ奪ハレタモノヲ我ガ國白
ラソレヲ獲得スルコトニナリ、而シテソレ
ヲ蠶絲統制會社ガ御預リヲシテ置クト云フ
結果ニナッタノデアリマス、今日輸出ハナ
クナッテ、內地ダケデ消費スルコトニナッタ
カラ、外國ニ利益ヲ奪ハレル心配ハナクナ
リマシタケレドモ、旣ニ賣渡價格ガ內地絲
價ノ基準トナリ、其ノ基準ノ上ニ織物價格
ガ公定セラレ、國內物價機構ノ一環トナッテ
居リマス、加フルニ生絲ノ價格ニハ闇ハ一
切アリマセヌ、他ノ物價ニ比較シテ寧ロ廉
價デアルト言フモ過言デナイト信ジマス
更ニ又此ノ賣渡價格ト買入價格トノ差額カ
ラ統制會社ハ繭絲價格安定資金ヲ積立テテ
居リマスガ、此ノ安定資金ハ、先程申上ゲ
マシタ通リ、蠶絲業全體ノ安定發達ノ爲ニ使
ハレルノデアリマスカラ、他ノ所謂中間機
關ノ中間利潤トハ其ノ性質ヲ全然異ニシテ
居ル公共性ノモノデアリマス、生絲ノ價格
ノ單位ハ十貫匁ト云フヤウナ大キナ數量デ
アリマスカラ、賣渡價格ト買入價格トノ差
額ガ現在百四十二圓ト云フヤウナ比較的大
キイ數字ニナッテ居リマスガ、世間ノ何モ御
知リニナラヌ人々ハ此ノ數字ダケヲ聞イテ、
是ハ會社ガ取リ過ギルト云フヤウナ感ジヲ
持タレルカモ知レマセヌガ、之ヲ若シ百匁
單位ニ直シマスルト、僅カニ一圓四十二錢
ニ過ギナイノデアリマス、而シテ生絲百匁
アリマスルト、相當ノ絹織物ガ大體一反作
レルノデアリマス、銘仙ノ如キハ百匁ヲ要
シナイノデアリマス、織物ノ場合ニシテ一
反當リ一圓四十二錢位ノ口錢ト云フヤウナ
モノハ、從來ノ商業組織デハ、實、ニ極メテ
薄イ口錢ニ過ギナイト思ヒマス、織物モ今
日デハ統制組織ニナッタカラ、以前ノヤウナ
利潤ハ貪ラナイコトト存ジマスルガ、併シ
現在ノ織物公定價格カラ伺ヒマスト、卸賣
業販賣價格デモ、小賣業者販賣價格デモ
尙相當ノ差益ガ見積ラレテ居ルモノト伺へ
マイク。決シテ繭絲ノヤウニ、生產者モ統制
會社モ原價カス〓〓ノ價格デ生存シテ居ル
モノトハ譯ガ違フノデアルト存ジマス、而
モ繭絲ノ場合ニハ、生絲コソ百匁當リ一圓
四十二錢ノ賣買差額ヲ取リマスガ、目下軍
需用トシテ缺クベカラザル原料トナッテ居
リマス繭短纖維ニ付キマシテハ、繰繭式ノ
モノデ十貫當リ三十圓、開繭式ノモノデ同
ジク十貫當リ二十五圓、卽チ百匁ニ致シマ
スト僅カニ三十錢若シクハ二十五錢ニ過ギ
ナイノデアリマス、是デハ會社トシテ實際
ノ取扱手數料ヲ償フニモ足リマセヌ、何ガ
シカノ持出ヲシテ居ルヤウナ實情デアリマ
ス、更ニ又繭ノ如キハドウカト申シマスト、
是ハ賣渡價格ノ方ガ買入價格ヨリモ五掛ダ
ケ安ク決メラレテ居リマスカラ、大體生繭
一貫當リ七十錢バカリ統制會社ハ持出ノ勘
定ニナッテ居リマス、此ノ生繭一貫カラ生絲
カ約百四十匁取レマスルカラ、結局生絲百
四十匁カラ手數料一圓九十八錢オ預リシテ、
繭ノ方へ七十錢バカリ御返シスルカラシテ繭短
纖維ノ方ヘハ何ガシカヲ返上シテ、更ニ又生絲
ノ中デモ、指定生產織物ニ使フモノニ對シテハ十
貫匁當リ百圓、卽チ百匁當リ一圓方御返シス
ルヤウナ次第デアリマス、恐ラクハ一圓九十
錢以上ニ出ルトモ、ソレヲ下ルコトハナイ
ト存ジマス、然ラバ統制會社ニ利益トシテ
殘ル所ハ殆ド絕無デアルバカリデナク、生
絲ノ生產計畫ハ年々減少シ、短纖維ノ計畫
ハ年々增加スルノデアリマスカラ、會社ハ
結局損ヲスルコトトナリ、折角積立テタ繭
絲價格安定、資金ヲ崩シテ居ル有樣デアリ
てい、繭ニ對スル五掛ノ補償及指定生產織
物ニ對スル生絲十貫匁當リ百圓宛ノ補償、
更ニ又繭短纖維ノ價格ヲ現狀ニ据エ置イテ
行ク限リ、繭絲價格安定資金ハ、年々ト言
ハズ、月々喰ヒ潰サレテ行ッテ恐ラクハ今
後二三箇年位デ元ノ木阿彌ノ丸裸ニナッテ
シマフコトヲ想像致シテ居ルノデアリマス、
是モ亦國策デアルト仰セラレルナラバ、私
ハ何ヲカ言ハンヤデアリマス、繭絲價格安
定資金ハ、蠶絲統制會社ノ私有物デハ決シ
テナイノデアリマシテ、國家公共ノ資金、
蠶絲業ノ働キニ依ッテ積立テタル所ノ資金
デアルノデアリマスカラ、國家ノ爲、蠶絲
業ノ爲ニ使用スルノデアレバ、ソレガ皆無
ニ歸シタ所デ毫モ惜シム理由ハナイノデア
リマス、併シナガラ現在ノヤウニ生絲ダケ
ニ蠶絲業全體ガ凭レ掛ッテ居ルト云ッタヤウ
ナ蠶絲價格ノ決メ方ニ付テハ、一考ヲ要ス
ルノデハナイカト私ハ思フノデアリマス、
卽チ生絲ダケニ比較的ニ餘裕ノアル賣買差
額ヲ與ヘテ置イテ、繭ヤ短纖維ナドニ付テ
ハ逆ニ買値ノ方ガ賣値ヨリモ高イト云フ
ャウナコトヤ、又多少ノ差額ヲ與ヘテモ、
ソレハ經費ヲ償フニ足リナイト云フヤウナ
建テ方ハ、決シテ健全ナル價格形成方法デ
ハナイト信ズルノデアリマス、以前產繭ノ
全部ガ生絲ニナリ、生絲ガ蠶絲業ノ最終ノ
生產物デ、其ノ盛衰消長ヲ支配シテ居タ當
時ニ於キマシテハ、蠶絲業全體ガ生絲ニ凭
レ掛カルヤウナ價格體制ヲ採リマシテモサ
ウ無理ハナイカト考ヘラレマス、併シ現在
デハ生絲ノ外ニ短纖維ガ出來、絹毛生絲
ガ出來、サウシテ短纖維ノ方ガ生絲ヨリモ
重點的ナ存在ニナッテ來ルト云フ今日ノ實
情ノ下ニ於キマシテハ、生絲ダケニ凭レ掛
カルト云フ體制ハ、最早舊體制デ時勢ニ副
ハナクナッテ居ルノデアリマス、此ノ事實ヲ
政府御當局ニ於キマシテモ直視セラレ、蠶
絲價格ノ決メ方ヲ本然ノ軌道ニ御戾シニナ
ラレルヤウ特ニ御配慮ヲ御願ヒシタイト思
フノデアリマス、ソレカラ又繭絲價格安定
資金モ、現在ノ表面ダケヲ見ルト、一見不
必要ノ如ク御考ニナルカモ知レマセヌガ、
先程來申述ベタヤウニ、此ノ資金ガアルノ
デ蠶絲ノ需給ノ調整ガ出來ルノデアリ、現
ニ本年ノヤウニ蠶絲製造機構ノ大改革等ノ
關係カラ、一時繭、生絲ヲ統制會社ガ手持
チシナケレバナラヌヤウナ必要ガ起ッテモ、
直チニソレニ應ジ得ルノデアリマスルカラ、
價格安定資金ノ必要性ハ今日ト雖モ毫モ減
ジテハ居ラナイコトヲ、十分ニ御考察願ヒ
タイノデアリマス、蠶絲業者トシテモ、此
ノ資金ガマダ一億圓足ラズ有ルト云フノデ
安心シテ居リマスガ、此ノ安心感ガ價格安
定ノ上ニ大イナル作用ヲシテ居ルト思フノ
デアリマス、是ハ心理上ノコトデアリマス
ルカラ數字的ニ申上ゲルコトハ出來マセヌ
ガ、決シテ馬鹿ニハナラナイ要素デアルノ
デアリマス、況ヤ玆ニ絲價安定施設法ガ廢
止セラレ、其ノ特別會計モ廢止スルコトニ
相成リマスト價格安定ノ資金ト云フモノハ
全然皆無トハナッテ來テ、蠶絲業心理上ニ必
ズヤ大キイ影響ガ、將來ヤッテ來ルコトヲ私
ハ信ズル者デアリマスルカラ、國家ノ法律ニ
依リ、特別會計法ガ無クナルトスレバ、ソ
レニ代ルベキ統制會社ノ繭絲價格安定資金
ハ、之ヲ一層大切ニセラレ、寧ロ今後ハ其
ノ增强ヲ圖ラレルヤウナ御方針ヲ御執リニ
ナラレルヤウ切望シテ止マナイノデアリマ
ス、以上絲價安定施設法ノ廢止及統制蠶絲業
法中改正法律案ガ玆ニ上程サレマシタ機會
ニ於テ、本案ニ私ハ贊意ヲ表スル者デアリ
マスルガ、何卒將來蠶絲業ノ國策上重要ナ
要點ニ關シテ玆ニ私見ヲ申上ゲテ、且一言
希望ヲ申述ベタ次第デアリマス、特ニ私ハ
山崎農商大臣ニ於カレマシテハ、其ノ御高
邁ナル御識見ニ依リマシテ、篤ト御賢察ヲ
御願ヒシタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=18
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019・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 他ニ御意見ハ
ゴザイマセヌカ······ナイヤウデゴザイマス
ルカラ、討論終結致シタモノト認メマス、
採決致シマス、二案ヲ一括シテ議題ニ供シ
マス、二案共原案通リデ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=19
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020・堀田正恒
○委員長(伯爵堀田正恒君) 御異存ナイト
認メマス、原案通リ可決スベキモノト決定
致シマシタ、是デ散會致シマス
午後三時十二分散會
出席者左ノ如シ
委員長伯爵堀田正恒君
副委員長男爵三須精一君
委員
公爵二條弼基君
侯爵池田宣政君
子爵綾小路護君
子爵稻垣長賢君
松村眞一郞君
石黑忠篤君
男爵北島貴孝君
男爵岩村一木君
赤池濃君
今井五介君
吉村友之進君
片倉兼太郞君
二瓶泰次郞君
政府委員
農商次官石黑武重君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008402940X00319440125&spkNum=20
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