1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十九年二月五日(土曜日)午後一時三十四分開議
議事日程 第九號
昭和十九年二月五日
午後一時三十分開議
第一 昭和十七年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第二 昭和十七年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第三 昭和十七年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第四 昭和十八年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第五 昭和十八年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第六 昭和十八年度特別會計豫備金外豫算外支出の件(承諾を求むる件(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第七 所得税法外二十九法律中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 大日本育英會法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 青年學校教育費國庫補助法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十 公立學校職員年功加俸國庫補助法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十一 戰時特殊損害保險法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=0
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001・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 報告ヲ致サセマ
ス
〔寺光書記官朗讀〕
昨四日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出
案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院
ニ通知セリ
鐵道敷設法戰時特例案
郵便法中改正法律案
昭和十九年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル等ノ爲ノ公債發行ニ關スル法律案
學校特別會計法案
厚生保險特別會計法案
農業家畜再保險特別會計法案
簡易生命保險及郵便年金特別會計法案
臺灣事業用品資金特別會計法案
作業會計法外十法律中改正法律案
國有財產整理資金特別曾計法外三法律ノ
廢止ニ關スル法律案
臨時資金調整法中改正法律案
戰時喪失無記名國債證劵臨時措置法案
煙草專賣法及鹽專賣法中改正法律案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
所得稅法外二十九法律中改正法律案可決
報〓書
戰時特殊損害保險法案可決報〓書
昭和十七年度第一豫備金支出ノ件、昭和
十七年麻性別會計第一豫備金支出ノ件、
昭和十七年〓特別上旨計務備費支出ノ性、
昭和十八年度第二豫備金支出ノ作、昭和
十八年度特別曾計第二豫備金支出ノ件、
昭和十八年度特別會計豫備金外豫算外支
出ノ件(承諾ヲ求ムル件)可決報〓書
註願委員會特別報告第一號発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=1
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002・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、一昨三日、議員正四位勳三
等男爵安場保健君卒去セラレマシタ、誠
哀悼ノ至リニ堪ヘマセヌ、就キマシテハ
弔辭ヲ贈リタイト存ジマス、御異議ハゴザ
イマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=2
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003・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=3
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004・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 議事日程ニ移リ
マス、日程第一、昭和十七年度第一豫備金
支出ノ件、日程第二、昭和十七年度特別會
計第一豫備金支出ノ件、日程第三、昭和十
七年度特別會計豫備費支出ノ件、日程第四、
昭和十八年度第二豫備金支出ノ件、日程第
五、昭和十八年度特別會計第二豫備金支出
ノ件、日程第六、昭和十八年度特別會計豫
備金外豫算外支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、
衆議院送付、會議、委員長報告、是等ノ六
件ヲ一括シテ議題ト爲スコトニ御異議ハゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=4
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005・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御昇議ナイト認
メマス、委員長東〓男爵
左ノ報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參照
ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ
昭和十七年度第一豫備金支出ノ件、昭
和十七年度特別會計第一豫備金支出ノ
件、昭和十七年度特別會計豫備費支出
ノ件、昭和十八年度第二豫備金支出ノ
件昭和十八年度特別會計第二豫備金
支出ノ件、昭和十八年度特別會計豫備
金外豫算外支出ノ件
右承諾スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十九年二月四日
委員長男爵東〓安
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔男爵東〓安君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=5
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006・東郷安
○男爵東〓安君 只今議題ト相成リマシタ
六件ニ關スル特別委員會ノ審査ノ經過竝ニ
結果ニ付テ御報〓致シマス、昨日午前、本
議場ニ於キマシテ大藏大臣ヨリ說明ヲ聽取
致シマシタガ、引續キ午後委員會ハ會議ヲ
開キマシテ、更ニ政府ノ詳細ナル說明ヲ聽
取致シマシタ、其ノ內容ハ、昨日午前大藏
大臣ヨリ御聽キニナリマシタト略〓同ジデゴく
ザイマスルカラ、玆ニ重複シテ申上ゲルコ
トヲ省キマス、唯昭和十七年度及昭和十八
年度ニ亙リマスル第一豫備金、第二豫備金等
ノ支出ニ亙リマス重要ナ事項ニ付テ二三御紹
介申上ゲマス、卽チ昭和十七年度ノ第一豫
備金ニ付キマシテハ、防空監視費、製鐵事
業奬勵金、軍事扶助費、又第二豫備金ニ付
キマシテハ、生產增强竝ニ低物價維持ニ關
スル經費、食糧增產ニ關スル經費、科學及
技術ノ振興ニ關スル經費、海運對策ニ關ス
ル經費等デアリマス、又大東亞戰爭ノ爲及
ビ大東亞共榮圈建設ノ爲支出シタル昭和十
八年度第二豫備金ニ於キマシテハ、防空緊
急强化諸費、損害保險國營再保險特別會計
ヘ繰入、興亞協力運動費補助、日泰文化會
館建設費補助等々、頗ル時節柄緊急重要ナ
モノガアルノデアリマス、委員會ハ直チニ
質疑ニ入リマシテ、昨年當貴族院ニ於ケル
同種ノ委員會ノ席上、政府ノ豫備金支出ニ
關スル提出書類ノ中、計算書竝ニ調書ノ形
式ヲ今少シク簡素化シ、比較對照ニ便ニス
ル方法ヲ講ゼラレタイト云フ希望ガアッタ
ニ對シマシテ、其ノ後本年ニ至リマス迄、
當局ハ如何ナル用意改善ヲセラレタカ、ト云
フ質問ガゴザイマシタ、之ニ對シテ、政府
ニ於テモ御趣意ヲ體シテ其ノ後若干ノ改善
ヲ行ッタ積リデアル、殊ニ御希望ノアッタ特
別會計等ニ關スル書類ニ付テハ相當ノ考慮
ヲ加ヘタ積リデアルト云フノデ是ガ調書ヲ
提示セラレマシタ、次ニ近時官廳、學校等
ニ於ケル災害費、特ニ火災ニ因ル豫備金支
出ガ多クナッタカノ如キ傾向ガアルヤウデア
ルガ、事實果シテ如何、又是等ノ災害ニ對
スル事前ノ豫防方法ニ付テ、何等カ政府ト
シテ考慮手配セラレテ居ルカ、ト云フ質問ニ
對シ、政府トシテハ別段此ノ種ノ災害ガ近
時特ニ多クナッタトハ考ヘテ居ラナイ、併シ
時局下貴重ナ資材ノ保護ノ見地カラ、又人手
ガ急速ニ減少シテ居ル所カラシテ、特ニ嚴重
ナル訓令ヲ與ヘテ居ル、又之ガ取締ノ實效
ヲ期スル爲ニ、結果カラ見テ、サウ云フ事
態ニ對シテハ相當嚴罰主義ヲ以テ臨ンデ居
ル、ト云フヤウナ答辯ガアリマシタ、斯ク
シテ質疑ヲ終リ、何レモ戰時下緊急巳ムヲ
得ザル支出經費デアルノミナラズ、之ガ支
出ニ當リマシテ、大藏省始メ當該取扱機關
ニ於テ十分ナル審議ヲ盡サレ、愼重周到ナ
ル手續ヲ以テ支出セラレタルモノデアルト
云フコトヲ確認致シマシテ、委員會ハ、全
會一致承諾ヲ與フベキモノナリトノ意見ニ
結著致シマシタ、此ノ段御報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=6
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007・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モナ
ケレバ、是等ノ六件ヲ一括シテ採決致シマ
ス、六件共、委員長ノ報告通リ承諾ヲ與フ
ルコトニ御異議ゴハザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=7
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008・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴言君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=8
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009・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴喜君) 日程第七、所得
稅法外二十九法律中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、
委員長二荒伯爵
所得稅法外二十九法律中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十九年二月四日
委員長伯爵二荒芳德
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔伯爵二荒芳德君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=9
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010・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 只今議題トナリマシタ
所得稅法外二十九法律中改正法律案ニ付キ
マシテ、委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓致
シマス、本委員會ハ去月三十一日及二月一
日、二日、三日、四日ノ五日間ニ亙リマシ
テ、頗ル詳細ニ審議ヲ續行致シ、去ル四日
正午ヲ以テ討論ヲ終リ、採決ノ結果、本法
案ハ可決スベキモノト決定ヲ致シタノデア
リマス、本委員會ニ付託セラレマシタ法案
ノ骨子ハ、戰局ノ苛烈化ニ伴フ臨時軍事費
ヲ中心トスル財政需要ノ膨脹ニ對處致シマ
シテ、極力租稅收入ノ增加ヲ圖リ、以テ戰
時財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシメマスト共ニ
現下ニ於ケル經濟情勢等ニ顧ミマシテ、購買
力ノ吸收、消費ノ抑制ヲ圖リ、之ニ依ッテ決
戰下ニ於ケル國民生活ヲ確保致シツヽ物
資、勞力、資金等凡ソ國家經濟ノ總力ヲ擧
ゲテ、戰勝獲得ノ目的ニ集中スル爲ニ、必
要ナル措置ヲ執ッタノデアリマス、卽チ臨時
軍事費ノ財源ノ一部ニ充テル爲、所得稅等
ノ直接稅ヲ中心ト致シマシテ、增稅ヲ行フ
ト共ニ、併セテ生產ノ增强、產業ノ再編成、
貯蓄ノ强化等、戰時下重要ナル經濟諸政策
ノ遂行上必要トスル租稅上ノ措置ヲ講ジタ
モノデアリマス、又國民所得構成ノ時局ニ
因ル變動ニ伴ヒマシテ、之ガ適正課稅ノ方
法ヲ講ジ、官民相互ノ手數ヲ簡便ナラシメ
マス爲、稅制及賦課徵收ノ制度ノ全般ニ亙
リマシテ、極力之ガ簡素化ヲ圖リマシテ、
同時ニ又課稅ノ適正充實ヲ期スル爲、必要
ナ改正ヲ行ヒマシタモノデアリマス、案ノ
內容ニ付キマシテハ、政府カラ詳細ナ說明
ガゴザイマシタガ、大體ニ於テ本議場ニ於
ケル說明ニ相似タモノガゴザイマスノデ、
玆ニハ之ニ言及ヲ致シマセヌ、今主ナル質
問ノ條項ニ付キマシテ御報告ヲ致シタイト
存ジマス、或ル委員カラハ、根本ノ問題ニ
付キマシテ、次ノヤウナ質問ガゴザイマシ
ク、卽チ戰局ノ苛烈化ニ伴ヒマシテ、將來
我ガ國ノ財政ノ需要ハ一層增大スルモノト
見ラレルガ、今次增稅ノ方針、又將來ニ於
ケル財政等ニ付テハドウ云フ見解、見透シ
ヲ持ッテ居ルカ、其ノ場合ニ於テ新ラシイ稅
ヲ創設スルト云フ御考ガアルカドウカ、ト
云フノニ對シマシテ、政府カラハ、大東亞
戰爭ガ決戰段階ニ突入致シマシタ今日ニ於
テ、國庫收入ノ增加ヲ圖ルト共ニ、消費ノ
節約、購買力ノ吸收ニ資スル爲ニ、經濟情
勢其ノ他各般ノ見地カラシテ、今囘ノ增稅
ヲ適當ト認メタ次第デアルガ、戰局ノ進展
推移ニ依ッテ、將來ノ財政需要ガ相當又增加
スルモノトスレバ、更ニ增稅ヲ必要トスル
情勢モ考ヘナケレバナルマイト思フ、增稅
ニ當ッテハ一面經濟情勢、又國民ノ擔稅力
ニ愼重ナル檢討ヲシナケレバナラナイカラ、
今之ヲ具體的ニ述ブルコトハ困難デアル、
ト云フ答辯デゴザイマシタ、尙之ニ附加ヘ
マシテ、政府ト致シマシテ、皇國ノ興隆、
東亞民族解放ノ企圖ヲ持ツ所ノ大聖戰下ニ
於テ、皇國民デナケレバ發揮ノ出來ナイ偉
大ナ精神力ノ昂揚ガアル此ノ必勝ノ信念
ノ牢乎タル見地ニ基イテ、他方精神力ノ力
强イモノヲ見返リツヽ、財政上ニ愼重ナル考
慮ヲ拂ッテ施策ヲシタイト思フ、ト云フ答辯
デゴザイマシタ、更ニ他ノ一委員カラ、低
物價政策ニ付テ質問ガゴザイマシタ、之二
付キマシテハ、所謂新興所得階級ノ擔稅力
ニ付テモ言及セラレマシタガ、速記ヲ止メ
マシテ懇談ヲ致シマシタ次第デアリマス、
更ニ相續稅ノコト、竝ニ都民稅、市民稅ヲ
基礎トシテ多クノ公課負擔ヲ國民ニサセ
ルト云フコトハ不合理デアル、ト云フ質問
ニ對シマシテハ、此ノ委員會ノ最後ニ於キ
マシテ各委員カラ希望ヲ述ベラレマシタノ
デアリマス、其ノ方ニ讓リマシテ十分御報
告ヲ致シタイト存ズル次第デアリマス、又
他ノ一委員カラハ一般國民生活ノ限界ト
シテノ所謂生活線ト云フモノハドノ邊ニ求
メルカ、ト云フ質問ガアリマシタノニ對シ
テ、政府ハ之ニ答ヘマシテ、一言以テ蔽ヒ
盡シ難イ問題デアルガ、少クモ各人ノ健康ヲ
保全シ、第二ノ國民ノ〓養遂行ニ缺クル所
ナキ點ヲ考慮シテ、衣食住ノ問題ヲ確保ス
ベキモノデアルト云フ答辯ガゴザイマシタ、
更ニ二三ノ委員カラ、中堅階級ガ實ニ日本
興隆ノ基礎デアル、然ルニ若シ是ガ滅亡シ、
或ハ衰退スルト云フコトデアルナラバ、國
家ノ前途ニ對シテ甚ダ憂フベキモノガアル、
政府ハ之ニ對シテ如何ナル對策ヲ有スルカ、
ト云フ質問ガゴザイマシタ、之ニ政府ハ答
へマシテ、個人トシテ如何ニ收入アリトス
ルモ、其ノ生活ハ、今日ニ於テハ人々各〓〓ガ最
少限度ニ生活シ、而シテ其ノ餘剩ハ擧ゲテ
國家ノ爲ニ奉仕セシムベキガ當然デアル
此ノ觀點ノ徹底ニ付テハ、目下一層其ノ考
ヘ方ヲ徴底セシムル必要ガアル、尙中間階
級ガ沒落スル虞アリトスル觀方ハ、一面ニ大
イニ警戒スベキ問題デアルガ、他ノ一面カ
ラ見ルナラバ、此ノ中間階級ガ此ノ大戰ヲ
契機トシテ育成セラレツヽアル現狀ヲモ考
ヘナケレバナラナイ、卽チ嘗テハ農村等ニ
於テ、非常ナ農村ノ貧困ヲ招致シテ居ッタケ
レドモ、今日ニ於テハ、斯カル方面ニ於テ
皆、或程度ノ收、入ヲ確保シツヽアルヤウナ狀
況デアル、ト云フ答辯デゴザイマシタ、次
ニ又他ノ委員カラ、戰時生產計畫ノ〓揚ニ
付テ、創意工夫ヲ豐カニシテ資材產出ニ努
力スルヤウ、政府ニ希望セラレル所ガアリ
マシタ、政府ト致シマシテハ、資材ノ效率
ヲ最大限ニ發揮スルコトハ、單ニ經濟問題
タルノミナラズ、精神問題トシテ、最モ强
ク叡智ヲ働カシ、意力ヲ十分ニ强メテ、技
能管理兩方面ニ充實シタ效果ヲ擧ゲルヤ
ウニ努力スベキデアリ、而シテ之ヲ激勵シ
テ居ルト云フ答辯デゴザイマシタ、更ニ他
ノ委員ハ、我ガ國ノ過去及現在ノ稅法ヲ囘
顧シテ見レバ、曾テハ資本主義ノ色彩ヲ帶
ビタ稅法デアッテ、現在ニ於テハ稍〓無產的
傾向ニ類スル稅法デハナイカト思ハルヽ節
ガアル、中產者、小產者ガ無產トナル場合
ハ、甚ダ憂慮スベキコトガ國家ノ前途ニ豫
想セラレルト思フ、之ニ對スル方策如何、
之ニ對シマシテ政府ハ、所謂國民總テ皆勞
致シ、總テガ勤勞ヲ致シマシテ、サウシテ
人々ノ職能ヲ通シテ最善ニ働クヤウニ仕向
ケナケレバナラナイ、若シ斯クノ如ク各人
ガ其ノ職域ニ於テ最善ヲ盡スナラバ、中間
階級ノ消滅ト云フヤウナコトハ寧ロ少クナ
ルノデハナイカト思ハレル、ト云フ答辯ニ
對シマシテ、更ニ其ノ委員カラ、其ノ方面
ノ觀方ハ非常ニ樂觀ノ方面ヲ强調セラレテ
居ルヤウデアルガ、尙然ラザル方面モ多々
アルガ故ニ、十分其ノ抱負ノ徹底方ニ對シ
テ注意ヲシテ貰ヒタイ、斯ウ云フ希望ガゴ
ザイマシタ、次ニ又他ノ委員カラ、强調貯
蓄ノ質問ガゴザイマシテ、法律ヲ以テ貯蓄
ヲ强制スル點ニ付テハ當局ト致シマシテ
ハ未ダ今日考ヘテ居ラナイ、デ專ラ國民
性ノ優秀ナルニ愬ヘテ、忠勇至誠ノ念ヲ以
テ出來得ル限リ自發的ノ貯蓄ヲ奬勵シテ居
ル、斯ウ云フ說明デゴザイマシタ、其ノ他
法人稅ニ付キマシテモ、又相續稅ニ付キマ
シテモ、更ニ物品稅ニ付キマシテモヽ或ハ
遊興飮食稅、又地方財政ノ諸問題ニ付テモ、
國債利子及山林所得ニ對スル課稅問題、企
業整備ニ依ッテ轉用シタル所ノ設備ニ對ス
ル減價償却ノ問題、酒稅、砂糖消費稅等ニ
關スル質問、又海外企業ニ對スル課稅問題
等ニ付キマシテ質問ガゴザイマシタガ、此
ノ點ニ付テハ時間ノ關係モゴザイマスノデ、
暫ク玆ニ御報告申スコトヲ差控ヘタイト存
ジマス、最モ重大ナ問題ト致シマシテ、各
委員ガ關心ヲ持チ、又議論ノ中心ニナリマ
シタノハ、所得稅法中改正法律案ノ第八十
二條ニ一項ヲ附加スルト云フ問題デゴザイ
マス、卽チ所得稅法ノ第八十一一條ニ新シク
一項ヲ設ケマシテ、「稅務署長又ハ其ノ代理
官ハ調査上必要アルトキハ納稅義務者ノ組
織スル團體又ハ町內會部落會其ノ他此等ニ
準ズル團體ニ對シ其ノ團體員ノ所得ニ付
質問スルコトヲ得」ルト云フ、此ノ點ニ付キ
マシテハ、色々ト各方面ノ事實ヲ提示サレ
マシテ、各委員カラ熱心ナ御質問ガアリマシ
タ、是等ノ質問ヲスル權利ヲ持タセルコト
ハ、隣保相助ノ點ニ於テハ頗ル微妙ナ結果ヲ
生ズル方面ガアル、此ノ點ニ付テハ如何セ
ラルベキモノデアルカ、ト云フコトノ質問
ガアリ、斯ウ云フヤウナコトヲ、更ニ要約
シテ一委員カラ此ノ質問ガアッタ譯デアリ
ツイ、卽チ所得稅法第八十二條第二項ノ規
定ニ依リマシテ、同項所定ノ團體ニ對シ質
問スル事項ハ、團體員及其ノ家族ソ住所、
氏名、其ノ他團體ノ役員ガ特ニ調査ヲ遂グ
ルコトナクシテ答申スルコトヲ得ベキ範圍
ニ限ラレルモノデアッテ、答申スル爲ニ家々
ニ就イテ調査質問ヲ爲スガ如キコトハナキ
ヤウニ十分注意ヲスベキ旨ノ訓令ヲ發スル
コトガ必要デハナイカ、サウシテ其ノ訓令
ハ嚴ニ之ヲ遵守セシムルヤウニシ、又適當
ナ方法ニ依ッテ之ヲ公ニ示ス必要ガアルノ
デハナイカ、此ノ點ニ付テ大藏大臣ノ所見
如何、又之ニ關シテ町內會部落會ノ指導監
督ニ當ッテ居ラルヽ內務大臣ノ所見如何、ト
云フ質問ガゴザイマシタ、之ニ對シマシテ
大藏大臣ヨリハ、今囘ノ增稅ニ當ッテハ、課
稅ノ適正充實ヲ圖リ、以テ稅務行政ノ圓滑
ナル遂行ニ資スル爲ニ本規定ヲ設ケタモノ
デアルガ、所得稅法第八十二條第一一項ノ規
定ニ依リ、同項所定ノ團體ニ對シ質問スル
事項ハ、團體員及其ノ家族ノ住所、氏名、
其ノ他團體ノ役員ガ特ニ調査ヲ遂グルコト
ナクシテ答申シ得ベキ範圍ニ限リ、答申ノ
爲ニ、各家々ニ就イテ調査質問ヲスルガ如
キコトナキヤウニトノ御意見ハ、政府ノ意
圖スル所ト全ク同ジデアル、從ッテ本規定ノ
施行ニ當ッテハ、此ノ點十分注意スベキ旨ノ
訓令ヲ發シ嚴ニ之ヲ遵守セシメルコトトシ、
右ノ訓令ハ官報登載等ノ方法ニ依リ之ヲ公
示スル考ヘデアル旨ノ答辯ガアリマシタ
又內務大臣ヨリモ、町內會部落會ノ指導監
督ノ方法ニ付テハ十分遺憾ナキコトヲ期ス
ル旨ノ言明ガアッタノデアリマス、次ニ稍、≧是
ト聯關ヲ致シテ居リマスガ、納稅施設法ニ
關シマシテ、納稅團體ノ事業ヲ行ヒマス町
內會部落會ニ於キマシテ保管シテ······部落
會ガ納稅組合トシテ保管シテ居ル資金ガ若
シ無クナッタ場合、此ノ救濟方法ニ付テ、
行政ノ實際ノ運用ニ於テドウ云フ方法ヲ講
ジテ居ルカト云フコトガ、問題ニナッタノデ
アリマス、是ハ說明致シマスレバ是等ノ
團體ガ現金ヲ扱ヒマス結果、思ヒ及バナイ亡
失、ソレハ善意ニ依レ惡意ニ依レ、非常ナ
危險ノアル場合ノコトヲ想像シテノ質問デ
アリ、又豫想サルベキ危險ハ決シテ有リ
得ナイ危險デナイコトモ、各委員ガ實
見ヲセラレテ居ル所デアルノデアリマス、
是ニ付テ政府ハ色々ト、其ノ亡失ト云フモ
ノニ對スル危險ナキヤウニ考慮シテ居ル旨
ノ說明ハゴザイマシタガ、其ノ委員カラ、
次ノヤウナ特ニ全體的ノ質問ガアッタ譯デ
アリマス、資金亡失ト云フコトノナイヤウ
ニ企テルト云フコトニ付テハ固ヨリノコト
デアルガ、併シ此ノ亡失ガ生ジタ場合ニハ
救濟ノ途ヲ講ズル必要ガアル、併シ其ノ亡失
ノ生ズルニ先ダッテ、寧ロ斯ウ云フヤウナ事
故ノ發生セザルヤウニ防止シ得ル規定ヲ定
ムルコトガ必要デハナイカ、卽チ質問者ノ
聞ク所ニ依レバ、全然現金ヲ取扱フコトナ
ク又利用者ニ於テ稅種ヲ選擇シテ加入シ
テ、比較的多額ノ稅金ヲ自身直接納入スル
方法ヲ採ッテ居ルモノモ存スルト云フコト
デアルカラ、其ノ實情ニ卽シテ、最モ適當
ナル模範的規約ト云フモノヲ茲ニ數種關係
當局ガ作ッテ、之ヲ周知檢討サシテ、事故發
生ノ豫防措置ヲ指導シテハドウダ、要スル
ニ納稅施設法第一條ノ精神ニ基イテ、租稅
公課ノ納付ヲ容易確實ナラシムルヤウニ納
稅團體ヲ組織セシメ、之ガ爲却テ不便不確
實ナル結果ヲ誘致セシムルガ如キコトノナ
イヤウニ、徹底的ニ指導利用セシメラレタ
イト思フガ、此ノ點ニ付テ政府ノ所見如何
ト云フ質問ガアリマシタ、之ニ對シマシテ
政府カラハ、町内會部落會ニ於テ保管スル
納稅資金ノ亡失ノ場合ニ於ケル責任問題ニ
付テハ、其ノ規約ニ定メタルトキハ之ニ依
リ、又豫メ規約ナキトキハ、利用者タル會
員ノ協議ニ依ッテ決定セシムルコトトナル
ベキデアルガ、實除ノ問題トシテハ、市町
村ヲシテ徴稅交付金ノ一部ヲ以テ補塡セシ
ムルコトトシ、善良ナル納稅者ニ迷惑ヲ及
スガ如キコトナキヤウニ善處スル考デアル、
尙是等ノ點ヲ者慮シテ、從來町內會部落
會ノ納稅ニ關スル事業ニ加入スルコトヲ强
制セザル方針デアルガ、今後ニ於テモ、此
ノ强制セザルト云フ方針ニ準據シテ行ク者
デアル、卽チ絕對ノ强制ト云フヤウナコト
ヲ避ケルト云フ所存デアル、又資金亡失ノ
未然防止ニ付テハ、適當ナ方途ヲ講ズルコ
トノ肝要デアルコトハ誠ニ御質問ノ通リデ
アル、此ノ爲ニハ御話ノ如ク實情ニ卽スル
模範的ノ規約ヲ數種作ッテ、廣ク一般ニ周知
ヲセシメテ事故發生ノ豫防ニ努メルコトト
シ、納稅團體ノ組織ガ實情ニ適セザル爲ニ
却テ不便不確實ナル結果ヲ誘致スルガ如キ
コトハ之無キヤウ十分ニ指導監督スル考デ
アル、トノ答辯ガゴザイマシタ、斯ク致シ
マシテ質問ヲ終了致シ、討論ニ入ッタノデア
リマス、一委員ヨリハ、今次ノ增稅ハ相當
多額デアルガ、決戰下ニ於ケル現下ノ情勢
トシテハ誠ニ已ムヲ得ザルモノデアル、國
民ハ喜ンデ之ガ負擔ニ任ズルト思フ、併シ
ナガラ各方面ニ與フル影響モ著シキモノガ
アルト認メラレルガ故ニ、其ノ實施ニ付テ
ハ、圓滿ニシテ適正ナル施行ニ付特ニ留意
セラレムコトヲ希望スル旨ノ童見開陳ガゴ
ザイマシタ、之ヲ以チマシテ討論ヲ終リマ
シテ、採決ニ入リマシタガ、全會一致ヲ以
チマシテ原案通リ可決確定致シマシタ次第
デアリマス、以上簡單デアリマスガ、御報
〓ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=10
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011・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モナ
ケレバ、本案ノ採決ヲ致シマズ、本案ノ第
二讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴサイマセヌ
カ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=11
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012・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=12
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013・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=13
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014・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=14
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015・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=15
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016・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=16
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017・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀會
ヲ開キマス、御異議ガナケレバ、全部ヲ問
題ニ供シマス、本案全部、委員長ノ報告通
リデ御異議ハゴサイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=17
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018・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=18
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019・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=19
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020・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=20
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021・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=21
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022・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=22
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023・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀會
ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決議通
リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=23
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024・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=24
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025・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 日程第八、大日
本育英會法案、日程第九、靑年學校〓育費國
庫補助法中改正法律案、日程第十、公立學
校職員年功加俸國庫補助法中改正法律案、
政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員
長報〓、是等ノ三案ヲ一括シテ議題ト爲ス
コトニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=25
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026・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス、委員長野村子爵
大日本育英會法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十九年二月三日
委員長子爵野村益三
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
靑年學校〓育費國庫補助法中改正法律
案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十九年二月三日
委員長子爵野村益三
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
公立學校職員年功加俸國庫補助法中改
正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和十九年二月三日
委員長子爵野村益三
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔子爵野村益三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=26
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027・野村益三
○子爵野村益三君 大日本育英會法案外二
件ニ付テ御報告ヲ申上ゲマス、先ヅ以テ大
日本育英會法案ニ付テ申上ゲマス、本法案
ガ過日上程セラレマシタ際ニ、文部大臣ヨ
リ、育英施設ノ緊要ナルコト、本施設ハ朝
野ノ切ナル要望ニ依リシコト、是ニハ國家
的施設ノ加ヘラルベキコト、本法人卽チ大
日本育英會ハ特別法ニ依ル特殊法人タルコ
ト等ニ付キマシテ、大體ノ御說明ガゴザイ
マシタ、玆ニ本法案三十八箇條ヲ通覽致シ
テ見マスルト、第一條ニハ、大日本育英會
ノ目的トシテ、優秀ナル學徒ニシテ經濟的
理由ニ因リ修學困難ナルモノニ對シテ學資
ノ貸與、其ノ他之ガ育英上必要ナル業務ヲ
行ヒ、斯クシテ國家有用ノ人材ヲ育成スル
コトヲ目的トス、斯樣ニ規定シテゴザイマ
ス、其ノ第十六條ニハ、本會ノ業務ヲ述べ
マシテ、學資ノ貸與、學資ノ貸與ヲ受クル
學徒卽チ所謂奬學生ノ輔導、修學上必要ナ
ル施設ノ設置及經營、其ノ他是等ニ附帶ス
ル業務ト云フコトヲ規定シテゴザイマス、
其ノ第三條ニハ、政府ハ本會ノ基金トシテ
百萬圓ヲ支出ス、其ノ第十七條ニ於テハ、
本會業務ニ要スル資金、是ハ主トシテ貸與
金デアリマスガ、此ノ資金ハ大藏省預金部
ヨリ借入ルヽコト、其ノ他又寄附金ヲモ受
入ルヽコトヲ得ル、又第二十七條ニ於キマ
シテハ、借入金ノ中二億七千四百萬圓ヲ限
度トシテ、政府ハ、元本ノ償還竝ニ利息ノ
支拂ニ付保證スルコトヲ得ルコト、又第二
十八條ニ於キマシテハ、貸與金竝ニ學資ノ
返還金中、是ハ又貸與金トシテ用ヒラルヽ
ノデアリマスルガ、其ノ返還金中ノ一定額
九千百萬圓ニ對シ、政府ハ三分二厘ニ相當
スル補助金ヲ交付スルコト、其ノ上ニ每年
豫算ノ範圍內ニ於テ補助金ヲ交付スルコト
ノ出來得ルヤウニ規定ガシテゴザイマス、
其ノ他第十條ヨリ第十六條ニ於テハ、職員
ニ關スルコト竝ニ監督ニ關スルコトヲ規定
サレ、而シテ尙第二十九條、第三十條ニ於
テハ罰則、過料ニ關スル規定ヲ揭ゲテアル
ノデアリマス、以上ハ本法案中ノ主要ナル
部分デアリマシテ、所謂本法案ノ骨子デア
リ、從ヒマシテ昨年十月暫定的ニ設立サレ
タル所ノ大日本育英會ニ代リ、近ク此ノ法
律ニ依ッテ發足スベキ新シキ大日本育英會
ノ主要ナル內容デアリマス、以下此ノ主要
ナル條文ニ付テノ質疑應答ノ〓略ヲ御報告
申上ゲタイト存ジマス、先ヅ現在設立サレ
テ居ル育英事業ノ情勢デアリマス、事業數
ハ合計六百四十五、此ノ內學校直營ノモノ
ガ二百四十一、殆ド三分ノ一デアリマス
貸給費生ノ數ハ七千三百五十一名、而シテ
又資金ノ總額ハ六千五百八十一萬餘圓ノ多
キニ達シテ居リマス、但シ貸給費生、所謂
奬學生ノ中、中等學校ニ屬スル者ハ一一千餘
名、ソレヨリ以上ノ高等〓育機關ニ屬スル
者ガ五千二百餘名、大體ノ數ハ斯樣デア
リマスガ、之ヲ全學生生徒ノ數ニ比較シ
テ見マスルト、割合ハ甚ダ少イノデアリ
やっ、卽チ中學校生徒ニ對シテハ〇·四、
中笑學校ノ生徒ニ對シマシテハ僅カニ〇·
ㄱパーセント」最モ多シト稱セラルヽ所ノ
ソレヨリ以上ノ學校ノ學徒ニ對シマシテハ
二·四ㄱパーセント」タルニ過ギナイノデア
リマス、勿論女子ノ奬學生ノ數ハ誠ニ寥々
タルモノデアリマス、斯樣ナ狀態ノ育英事
業ニ付テ玆數年來ノ趨勢ハ如何、大體ノ趨
勢ト申シマスト、出願者モ採用者モ等シク
減少ノ傾向ニアリマス、此ノコトハ、ッ
ハ基本金ニ對スル收入ノ減少ト云フコトモ
アリマセウシ、又一ツニハ景氣ノ好キ爲ニ
貸給費ヲ申出ル者モ以前程デハナイト云フ
ヤウナ事情モアルト思ハレマス、次ニ第一
條ニ規定シテアリマスル「優秀ナル學徒」ト云
フ其ノ「優秀」ト云フ意義デアリマス、是ハ所
謂天才トカ俊才トカ云フ意味デハナクテ、
品行ハ方正、志操堅實、身體ハ强健、而シ
テ學術優秀ナルモノト云フコトヲ條件トス
ルモノデアッテ、總ジテ本事業ノ都合好ク
行ハルヽニハ、所謂奬學生ノ素質如何ト云
フコトガ重要ナル根柢ヲ成スガ故ニ、之ガ
素質ニハ深キ注意ヲ拂フコトハ最モ肝腎ノ
コトデアリマス、然ラバ所謂「修學困難」ト云
フコトハ如何、困難ノ標準ヲトスルノニ、
或ハ一定額ノ納稅ヲ基準トシテ、ソレ以上
デアレバ採用シナイト云フガ如キコトモ、
是モ一ツノ標準ニハナリマセウ、玆ニハ左
樣ナ嚴重ナル規定ハ設ケマセヌ、須ク實情
ニ適シ且裕リノアル方法ニ依リタイ卽チ
實際上修學困難ナルモノノ外ニ、相當ノ身
分デアッテモ子女ガ多ク從ツテ學資ノ支出ニ
苦シム向キニ對シマシテモ、子弟ノ〓育ヲ
全ウセシムルト云フ見解ノ下ニ、其ノ子弟
ノ奬學生タルノ資格ヲ認メテヤリタイ、然
ラバ奬學生選擇ノ方法ハ如何、中等學校ノ
生徒ニ對シテハ、在學學校長ヨリ推薦セシ
メ、之ヲ地方推薦委員會ニ於テ銓衡シ、又之ヲ
中央ノ推薦委員會ニ移シ、結局理事長ニ於テ
之ヲ決定スル、高等程度ノ學徒ニ付テハ
學校長ノ推薦セル者ノ中ヨリ中央ニ於テ銓
衡決定ヲスル、尙奬擧生ノ範圍及ビ其ノ數ハ
如何、之ニ付キマシテハ各種中等學校、
男女子專門學校、高等學校、大學豫科、各
大學ニ及ンデ、勿論私立ニモ及ブノデアリ
マス、而シテ奬學生ノ豫定數ハ、十九年度
ヨリ年々一萬人、此ノ內譯ヲ申シマスト、
中等學校ニ於テ六千、專門學校ニ於テ千五
百、高等學校及大學豫科ニ於テ千三百、大
學ニ於キマシテ千二百人、但シ此ノ中等學
校ノ六千人ト申シマスル中ニハ、前ニ申上
ゲマシタ趣旨ニ依リマシテ、其ノ中ノ一千名ハ
兄弟多ク進學困難ナル者ノ數ヲ見込ンダモ
ノデアリマス、尙此ノ以上ノ計算中ニ、特ニ
女子ノ數ハ計上致シマセヌガ、以上ノ數ハ
相當ノ餘裕ヲ存スルモノデアリマスカラ
之ニ依ッテ相當數ノ女子ノ奬學生ヲモ得べ
キ積リデアル、尙奬學生タル者ハ、內地ニ
在學セル外地人ヲモ包括スル進ンデ奬學
生ノ選擇ノ容易ナラザルコト、貸費ノ休止、
返還金ノ滯納、返還金ノ督促、返還金ノ免
除等々ニ付キマシテハ、從來育英事業關係
者ノ最モ頭腦ヲ惱マシタ點デアリマス、殊
ニ之ニ加フルニ、其ノ素行、學業及思想ニ
對スル監督、其ノ監督モ一般的デ且公平ニ
行屆カシムルト云フコトハ、是亦ナカ〓〓ノ
難事デアリマス、斯ウ云フ點ニ付テドウ云
フ風ナ取扱ヲセラルヽカ、之ニ對シマシテ
ハ死亡、返還不能、又返還困難ニ對シテ
ハ、本法案ニ補償ノ制アルガ如ク、可ナリ
ノ裕リヲ有シテ居リマス、本法案ニハ之ニ
關スル嚴重ナ所謂法的ノ規定ハ特ニ定メマ
セヌケレドモ、之ヲ奬學生ノ側ヨリ言フナ
ラバ、最モ眞面目ノ意向ト眞劔ナ態度ヲ以
テ考フベキモノト思ヒマス、而シテ當事者
ハ斯樣ニ指導ヲ致シタイ、卽チ斯クセシム
ルコトハ理事者ノ態度、卽チ茲ニ所謂輔導
ノ力ニ俟ツベキモノト考ヘル、最モ貸費ニ
付キマシテハ保證人ヲ立ツル筈デアリマス、
尙素行、學業、思想上ノ監督ニ付テハ、學校
當局トモ協調、協力ヲ致シテ、常住坐臥萬
事所謂親心ヲ以テ奬學生ニ臨ム積リデアル、
但シ是等ノコトガ十二分ニ實行セラルヽヤ
否ヤト云フコトハ、尙今後ノ工夫ニ俟ツベ
キモノモ多クアリマセウ、要ハ最初ノ出
發卽チ銓衡ノ能ク行ハルヽカ否ヤト云フ
コトガ前提ニナルノデアリマス、因ニ申上
ゲマスガ、此ノ貸付金額ハ人當年額平均、
中等學校ノ生徒ハ二百四十圓、專門學校
及ビ高等學校竝ニ大學豫科ノ學生ハ六百圓、
大學ノ學生ニハ八百圓、斯樣ナ規定デアリ
マシテ、十九年度カラ始メテ、年々一萬人
ヅヽ四十箇年、卽チ昭和五十七年度ニ至リ
マシテハ、人數ニシテ累計約二十九萬餘人、
貸費總額トシテハ三億六千四百萬圓ナル巨
額ニ達スルノデアリマス、尙返還期限ハ二
十五箇年、之ニ五箇年ヲ据置キ得ルヤウニ
シテアリマス、次ノ質疑デアリマス第十六
條中ニアル「修學上必要ナル施設ノ設置及
經營」、玆ニ申シマスル「必要ナル施設」ト云
フノハ如何ナルモノデアルカ、旣ニ論者ノ
中ニハ、育英會ノ仕事ハ貸費ノミニ限ルベ
シトノ意見モアリマス、サリナガラ其ノ外
ト申セバ、例ヘバ寄宿舍デアルトカ圖書館
デアルトカ食堂デアルトカ、或ハ〓事ノ配
給デアルトカ云フヤウナモノモアリマセウ、
假令是等ノモノニ手ヲ染ムルト致シマシテ
モ、之ヲ奬學生ノミニ限定スルト云フコト
ハ如何デアラウカ、之ニ對シマシテハ、目
下ノ所、卽チ暫定的ニアル所ノ大日本育英
會ノコトデアリマス、其ノ方面ニモ寄附金
ハ相當ニゴザイマス、將來トテモ相當數ハ
アラウト思ハレルノデ、斯樣ナ場合ヲ豫想
シテ、將來行ヒ得ルモノノ爲ニ揭ゲタモノ
デアッテ、目下必然的ニ行フト云フノデハア
リマセヌ、斯樣ナ說明ニ對シテ、寄宿制ヲ
確立スベキモノデアルト云フ御主張、貸費
ヨリモ寧ロ給費、卽チ渡シ切リデアリマス、
貸費ヨリモ寧ロ給費制ニナスベシト云フ論、
尙本會ノ組織ノ中ニ勤勞作業ノ属行ト云フ
コトヲ織リ込ンデハ如何カト云フ御希望モ
アッタノデアリマス、尙本會ノ如キ國家的意
義ヲ含ミ且〓育的ニ經營セラルベキ法人ニ
付テハ、民間ノ寄付、助力ヲ恃ミトスルト
云フコトハ好マシカラヌ、寄付ノ奬勵ノ如
キハナサザルニ爾カズ、尙定款ヲ作成サル
ル場合ニ當ッテハ、本會ノ尊嚴ヲ維持スル爲
ニ總裁ヲ戴クヤウニ考究アリタイ、、此ノ他、
類似ノ名稱ニ關スルコト等ニモ言及サレタ
ノデアリマスガ、奬學生ノ範圍ヲ擴張シテ、
靑年學校ノ生徒ニモ、又之ヲ外地ニ迄モ及
ボシタイ等ノ御話モアリマシタ、斯樣ニ質
疑應答ガ進ンデ、結局現在團體ニ對スル處
置如何ト云フ質疑ニ到達致シタノデアリマ
ス、由來現在ノ團體ニハ、或ハ舊藩主トノ
關係、或ハ〓友ニ對スル因緣等ヨリ成ッテ
而モ十數年又數十年ノ沿革ヲ有シ、傳統的
ニ發達シ來タレルモノガ多イ、而モ斯カル
モノノ數年來ノ趨勢ヲ見ルト事業ハ漸ク
縮小ノ憂キ目ヲ見ツヽアルノデアリマス
斯カル所ニ本會ノ設立ヲ見テ、貸費額ハ多
イ、親身ノ世話モスル、又多人數ノ奬學生
ニスル、而モ其ノ多數ノ奬學生ハ、從來動
モスレバ肩身ノ狭イ思ヒヲシタニ引換へ、
之ヲ名譽トシテ寧ロ誇ル、斯樣ナ態度ニ出
デラルヽトスルナラバ、現在團體ノ將來ハ
如何ニナルデアラウ、否今日ニ於テ、現在
團體ノ處分ハ如何ニスベキカ、尙又其ノ傳
統的價値ヲ如何ニスベキカ、是等ノコトハ
等シク關係者ノ心配スル所デアル、之ニ對
シマシテ當局ハ學校直營ノモノハ自然ニ
本會ニ合流スルカ、若シクハ解消スルコト
ニナリマセウ、一般的ノモノ、又個人經營
ノモノニシテ合流ヲ望ムモノハ、之ヲ歡迎
致シマス、其ノ然ラザルモノニ付テハ、出
來得ルダケ事業上ノ連絡聯繫ヲ圖ル積リデ
アル、尙又由緒アリ傳統的沿革ヲ有スルモ
ノニ付テハ益〓其ノ特色ヲ發揮サレテ愈〓
其ノ任務ヲ盡サレムコトヲ望ムモノデ、決
シテ之ヲ吸收スルトカ若シクハ統合ヲ圖
ルトカ云フヤウナ意思ハ毛頭持ッテ居ラナ
イノデアリマス、以上ノ答辯ニ對シテ、現
在及ビ殘存團體ニ對シテハ、宜シク速カニ
當事者ヲ招集シテ能タ政府ノ意ノアル所
ヲ示シ、是等ヲシテ安心セシムルヤウニナ
サレタイト云フ、切實ナル希望ガ開陳サレ
マシタ、次ニ最モ重要ナル質疑ト考ヘラル
ル事項ヲ御報告申上ゲマス、其ノ一ツハ、本
來育英事業ハ財團法人タルコトヲ以テ足レ
リトスル、從來又斯クノ如クニシテ經營セ
ラレ、又發達モ爲シ來ッタノデアル、然ルニ今
之ヲ特ニ法律ヲ以テ制定致シテ、而モ民法ノ
公益法人ニモ非ラズ、寧ロ公法人ニ近キ特
殊法人タラシメル理由ハ如何、且殆ド公法
人タルベキ性質ヲ有スル本會ニ臨ムニ罰
則ノ規定ト云フモノヲ設ケタノハ、或ハ檢
討ノ不十分ナリシニ非ズヤ、之ニ對シマシ
テ、第一ニハ基金、資金ヲ確保スルコト、第
二ニ長期ニ亙ル貸借關係ヲ見、第三ニハ國
庫ヨリノ利子補給アルコト、之ヲ要スル
ニ本事業ハ國家的事業ノ性格ヲ帶ブルガ
爲、法律ヲ以テ制定シタルモノデアリマス、
尙罰則ニ附シタルニ對シテハ、或ハ私法人
タルノ色彩濃厚デアッテ云々ト云フ論モア
ラムカナレドモ、是トテモ各種公法人ニ加
ヘラレタル程度ノモノデアッテ、又此ノ程度
ノ罰則ヲ附シタレバトテ、本會ノ趣旨ヲ損
フモノデモナケレバ、尙本事業監督上寧ロ
必要デアルト考ヘルノデアル云々、其ノ二ハ、
本會事業ノ如ク最モ嚴肅ニシテ且最モ普遍
的ナルモノハ、宜シク國家自ラ之ヲ經營ス
ベキモノデアル、之ニ對シマシテハ、學資ノ
貸付ニハ給費ト貸費トガアリマス、給費卽
チ與ヘ切リノモノデアルナラバ國家直營デ
事足ルモ、本育英事業ニ付テノ考ヘ方ハ、元
元子弟ノ〓育ハ親ノ義務、其ノ義務ノ完成
サレナイモノニ國家ガ助成ヲスル、親ハ子
ヲ育テルト云フ根本精神ニ立脚シタモノ、
親ノ力ノ足ラザル所ヲ國家ガ之ヲ助成スル
ト云フコトヲ建前トシテ、從ッテ特別ノ機關
ニ依ルヲ適當ト致シタノデアル、其ノ上ニ
給費ニ非ズシテ貸費制ヲ採ッタルコトハ、第
一、本事業ハ多數三十萬ニモ達スルモノヲ
對象トシテ而モ長期ニ亙ルモノデアルカ
ラ、返還滯納等ノ事情ハ少ナカラズ複雜多
岐ナルモノガアル斯ウ云フモノヲ取扱フ
點第二ニハ死亡者ニ關スル保險計算、
斯ウ云フヤウナコトヲ考ヘテ見ルト、法人
ノ方ガ工合ガ宜シイ、要スルニ國家ガ直接
ニ必要トスル軍人ノ養成ノ如キハ是ハ格別、
一般子女ノ〓育ハ親ノ資力ニ依ルヲ本體ト
シテ、親ノ資力ノ及バザルモノニ國家之ヲ
援助スト云フ建前ニ依リ、且彼ノ所謂頭
腦ノ國家管理ト云フガ如キ嫌ヒヲ避ケタシ
ト云フコトヲモ考慮シタノデアル云々、以
上ハ大日本育英會法案ニ付テノ質疑應答ノ
大略デアリマスルガ、是ト併託セラレタ二
法案中、從來職員ニ對スル諸給與中、俸給
及年功加俸等ガ每年豫算ノ範圍內ニ於テ一
部ガ國庫ヨリ支出セラレテ居リ、其ノ俸給
ニ付キマシテハ國庫ハ市町村ニ、又其ノ年
功加俸ニ付テハ之ヲ都道府縣ニソレ〓〓補
助シテ參ッタノデアリマス、ソレヲ今囘ハ、
其ノ俸給、年功加俸及諸給與ノ中ヲ、都道
府縣ノ負擔ニ移スコトニ相成ッタノデアリ
マス、斯樣ニ致スノデアリマス、仍テ國民
學校ノ例ニ倣ッテ、是等ノ爲ニ都道府縣ニ於
テ要スル經費ノ半額ヲ國庫ヨリ補助スルコ
トニ致ス、是ガ靑年學校〓育費國庫補助法
ノ改正デアリマス、斯ク致シマスルト、公
立學校職員年功加俸國庫補助法ノ中ヨリ、
靑年學校職員ヲ取除クコト、是ハ當然デア
リ、又今般ノ靑年學校〓員養成所ハ十九年
度カラ官立ノ靑年師範學校ト改マリマスル
ノデ、從ッテ本法第一條中ニアル「靑年學校」ト
云フノハ、「靑年學校(道府縣立靑年學校及勅
令ヲ以テ定ムル靑年學校ニ限ル)」ト改メ、竝
ニ「靑年學校〓員養成所」ト云フノヲ削ルト云
フノデアリマス、以上ノ改正ハ、靑年學校
〓育ヲ整備擴充セムガ爲ニナサレタルモノ、
竝ニ地方財政上ノ見地ヨリ企圖サレタルモ
ノデアリマス、靑年學校ノ〓育ハ近時大ナ
ル發達ヲ爲シ來リマシテ、其ノ數モ二萬ニ
近ク、〓職員モ二十餘萬、生徒ノ數モ數百
萬經費モ莫大、但シ之ニ對スル補助金モ
三千萬圓ヲ超エテ居ル現況デアリマス、之
ニ關スル質疑ハ、斯樣ナ狀態デアルガ、更
ニ其ノ內容ヲ檢討致シマスルト、從來トハ
餘程變ッタ態樣ヲ表ハシ來ルノヲ見マス、卽
チ工業方面ノモノハ激增シテ、農業殊ニ商
業方面ノモノハ激減シテ居ル、斯ウ云フ變
態ニ付テ、當局ハ根本的對策ヲ以テ臨ムベ
キモノデハアルマイカ、是ガ第一次ノ質疑
デアリマス、之ニ對シテハ、斯ウ云フヤウ
ナ現象ハ時勢上巳ムヲ得ナイモノデアラウ
ト思ハレルガ、此ノ事態ニ卽應シテ努メテ
改善スベキモノデアルト思ハレル、改善ス
ル積リデアル、例ヘバ工場方面ニ於テハ
坐學ヲ減ジテ工場實習ヲ主トスルガ如キモ
其ノ一例デアル、今囘法律ヲ改正シテ、〓
育者ノ〓育機關ヲ擴充强化シヨウトスルノ
モ、畢竟其ノ整備擴充ノ意圖ニ出デタノデ
アリマス、更ニ進ンデ、然ラバ其ノ〓育者
ノ〓育機關、卽チ新シク拵ヘラレル所ノ靑
年師範學校ノ內容ハ如何、男子ニハ農業、
工業、水產業等ヲ含ム所謂職業科ヲ置ク、
女子ニ對シテハ主トシテ家政科ヲ設ケル
其ノ學校ノ數ハ四十七校、生徒ノ數ハ一萬
餘〓員ノ數ハ六百餘人、經費約七百萬圓
ヲ支出スル考デアル、尙工場內ニ於ケル靑
年學校ノ中ニハ未ダ十分ナラザルモノガア
リマス、サウ云フモノハ、畢竟工場經營者
ノ意圖ヲ反映シタモノト思フ、戰力增强ノ
實現ハ殊ニ良質ナル勞務者ノ力ニ俟ツ所ガ
多イ、且生產ト〓育ノ具體化ト云フコトモ
考ヘナケレバナラナイ、斯ウ云フ點ヲ見ルト、
工場ニ對シテモ所謂〓育的經營ト云フモノ
ヲ要求スベキモノデハナイカ、尙所謂行學
一念ハ、行學一念ト云フコトハ至極結構デ
ハアルガ、ナカ〓〓此ノ行學一念ニ徹スル
ト云フコトハムヅカシイ、往々、否多クハ
行學分離ノ虞ガアル、其ノ他所謂篤農家ニ
短期ノ〓育ヲ施スト云フコトモ一法デアラ
ウケレドモ、要ハ現狀ニ適スベク〓育スル
コトヲ肝要ト致ス、凡ソ靑年〓育ニハ〓
授要綱ヲ定メ、〓科書ヲ國定ニシ、及ビ講
習ヲ行フト云フコトモアリマセウガ、文部
當局ハ須ク的確ナル方針ヲ示シテ積極的ニ
進出セラレルノガ宜シカラウ、以上ハ付託
サレマシタル三案ニ付テノ質疑應答ノ大要
デアリマス、但シ委員會ノ質疑ハ以上ニ止
マリマセヌ、廣ク文政ニ關シテ多數ノ、而
モ熱心ナル、尙重要ナルモノガアッタノデア
リマス、委員長ノ不敏ナル、之ヲ一々詳シ
ク御披露申スコトハ叶ヒマセヌノデ、詳細
ハ之ヲ速記錄ニ讓リタイト存ジマスガ、玆
ニハ其ノ極メテ大綱ヲ申述ベルコトニ致シ
マス、ドウゾ各位ニ於カレテモ、委員諸君
ニ於カレテモ御了承ラ御願ヒ致シマス、又
今暫クノ御辛抱ヲ願ヒマス、一般論卽チ文
政論ト致シマシテハ、戰時下ニ處スル文部
大臣ノ〓育上ノ經綸如何、是ガ第一段デア
リマス、之ニ對シテ文部大臣ノ答ヘラレタ
コトハ、第一ハ學徒ノ軍事奉公、第二ハ同
ジク學徒ノ勤勞奉仕、第三ハ思想ノ善導、
第四ハ〓育、文化、〓化團體ノ活動、第五
ニ法文科系統ノ學科整備等ノ條項ヲ擧ゲラ
レマシタガ、尙學問其ノモノニ付テノ考へ
方モ此ノ際更新スルノ要アル旨ヲ答ヘラレ
マシタ、其ノ他ニ、義務〓育年限延長ノ中
止、〓員ノ素質向上、待遇ノ改善、〓育界
ニ人材ノ招致、〓員ノ事務ヲ簡素化スルコ
ト、理科思想ノ普及、理科〓育ノ改善、施
設ノ整備、中等學校〓科書ノ改訂改善、〓
科書ノ配給、修鍊科及武道科ノ徹底、私立
中等學校ノ補助育成、私立學校〓員ニ對ス
ル恩給手當ノ支給、中學校入學試驗ニ付テ、
夜間學校生徒ノ援助、法文系學校關係者ノ
活用、病院ノ宿舍トシテノ利用、勤勞學徒
ノ取扱ノ統一、思想善導對策、思想善導ニ
對スル統一機關ノ設置、偉人烈士ノ顯揚、
神社ノ修改築、行過ギタル文化運動等、何
レモ熱心ナル質疑ニ對シテ、又懇篤ナル答
辯ガアリマシタ、以上ノ外ニ大東亞共榮圈
內ノ內地留學生ニ對スル〓育ニ付キマシテハ、
特ニ大東亞省當局ノ出席ヲモ求メ、又適切
ナル質疑應答ガ行ハレマシタ、以上多數ノ
質疑、希望ニ對シテ、當局亦大方ハ諒解、
了承セラレタノデアリマス、斯クシテ前後
四日ニ亙ル愼重ナル審議ノ末、一昨日午後
型ノ如クニ討論ニ入リマシタ、三委員ヨリ
次ノヤウナ贊成章見ノ開陳ガゴザイマシタ、
其ノ一、凡ソ本事業ハ元社會的事業トシテ
考ヘラレ、又出發モシ、經營モセラレ來ッタ
モノデアリマスガ、今日ニ至ッテハ全ク世間
一般ノ要求スル所トナッタモノデアリマス
本法案中ニハヽ或ハ更ニ檢討スベキモノア
リトモ思考セラレマスルガ、本會ノ事業、
貸費制度、本會ノ事業ハ極メテ重要ナルヲ
認メ、而シテ又努メテ精神的指導ヲ以テ之
ニ臨マルヽト云フコトデアルノデ、之ニ依ッ
テ奬學生ヲ自肅感奮セシムルコトモ出來、
國家ノ爲ニ大慶ノコトト存ズルガ故ニ、玆
ニ當局ノ措置ニ信賴ヲ置イテ贊成スル、其
ノ二、本會ノ重要性ニ鑑ミ、定款作成ノ場
合ニハ本委員會ノ意嚮ヲ酌ミ、及ビ時局ノ
見透シヲモ吟味シテ愼重ニ考慮セラレタク、
又本會ノ運營如何ハ、卽チ本法ノ死活ヲ左
右スルモノデアルカラ此ノ點モ注意サルベ
ク、尙從來ノ例ヲ見ルト、往々ニシテ理事
者ノ或者ガ先ヅ所謂橋頭堡ヲ作ッテ、之に
依ッテ爲ス所アラムトスルガ如キ事例ガア
ル、依ッテ理事者ノ選任ノ如キモ一層愼重ニ
セラレタキモノデアル、其ノ三、本委員會
ニ於ケル委員諸君ノ發言ハ、何レモ重要ニ
シテ且熱心ナモノデアッタ、當局ハ十分ニ之
ヲ尊重セラレ、文政ノ參考ニシ、又計畫ニ
取入レ、著々實行セラレタイモノデアル、
惟フニ文政ノ要諦ハ、國民思想ノ堅實ヲ求
メ、且〓育者ノ魂ヲ振起セシムルニ在ル、
是等ノコトハ今日ノ機會程急ヲ要スルモノ
ハナイ、尙文相トシテハ情勢ニ卽シ、平
時ニ於テハ豫想シ得ザリシモノニ對シテモ、
尙且早急ニ施設セザルヲ得ザルコトモアル
デアラウ、其ノ御困難ハ御察シ申スニ餘リ
アルガ、斯ウ云フコトニ對シテハ周到且實
際的ノ考究ヲ加ヘラレ、尙積極的ノ指導ヲ
吝シマレザラムコトヲ望ム、尙本事業ノ國
家經營ト云フコトニ付テモ一段ノ御考究ヲ
願ヒタイ、斯樣ナ希望意見ガアリマシタ、
斯ク致シマシテ、結局出席者一致ヲ以テ三
法案共可決スベキモノト決定致シタノデア
リマス、是ニテ御報〓ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=27
-
028・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言モナ
ケレバ三案ノ採決ヲ致シマス、三案ノ第
二讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌ
ソン
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=28
-
029・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=29
-
030・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=30
-
031・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=31
-
032・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴサイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=32
-
033・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=33
-
034・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 三案ノ第二讀會
ヲ開キマス、御異議ガナケレバ全部ヲ問
題ニ供シマス、三案全部、委員長ノ報〓通
リデ御異議ハゴサイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=34
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035・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=35
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036・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ各案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=36
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037・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=37
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038・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴサイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=38
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039・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=39
-
040・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 三案ノ第三讀會
ヲ開キマス、三案全部、第二讀會ノ決議通
リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=40
-
041・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=41
-
042・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴臺君) 日程第十一、戰
時特殊損害保險法案、政府提出、衆議院送
付第一讀會ノ續、委員長報〓、委員長東
〓男爵
戰時特殊損害保險法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報〓候也
昭和十九年二月四日
委員長男爵東〓安
貴族院議長伯爵松平賴壽殿
〔男爵東〓安君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=42
-
043・東郷安
○男爵東〓安君 只今議題トナリマシタ戰
時特殊損害保險法案ニ關シマスル特別委員
會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、本
委員會ハ五囘ニ亙ッテ愼重審議ヲ致シマシ
タ結果、原案ヲ可決スベキモノト決定致シ
マシタ、今其ノ法案ノ內容ト審議ノ經過ニ
付キマシテ簡單ニ御報告申上ゲマス、本法
案ハ、現行ノ戰爭保險制度ヲ擴充致シマス
ト共ニ、新タニ戰時ニ於ケル地震保險制度
ヲ設定セムトスルモノデアリマス、今日ノ
如キ大規模ナ戰爭遂行途上ニ於キマシテ、
空襲其ノ他ノ戰鬪行爲又ハ地震ノ如キ、其
ノ被害ガ相當廣汎且甚大ナモノガアルト豫
想セラレル場合ニ於キマシテ、豫メ國家ノ
經濟秩序ノ維持ト國民生活ノ安定トヲ確保
スル爲ニ、是等必要ナル施設ヲ爲スコトハ、
誠ニ喫緊ノ要務デアルノデアリマス、而シ
テ現ニ戰爭保險臨時措置法ニ依ッテ戰爭保
險制度ハ行ハレテ居ルノデアリマスケレド
モ、今日迄ノ實績ヲ見マスルト、其ノ普及
ガ甚ダ思ハシクナイノデアリマス、ソコデ
今囘ノ改正ニ依リマシテ、普通ノ火災保險
契約ト同時ニ自動的ニ契約ガ成立スルヤ
ウニ致シマシテ、又或場合ニ於キマシテハ、
卽チ或特定ノ地域ヲ限ッテ、特ニ其ノ方面ニ
空襲等ノ危險ガ多イ場合ニ於キマシテハ、
政府ガ强制的ニ契約ノ締結ヲ命ジ得ル方法
ヲモ講ジテアルノデアリマス、而シテ其ノ
保險料率モ、今囘ハ出來ルダケ低率ト致シ
マシタ結果、現行ノ料率ニ對シテ大幅ノ引
下ゲヲ致スコトト相成ッテ居リマス、一方今
囘新タニ設定セラレマスル地震保險ハ、若シ
此ノ戰時中ニ大キナ地震ガ起リマシテ經濟
界ニ大混亂ヲ生ジ、延イテ國民生活ノ動搖
ヲ來シ、民心ノ安定ヲ失フガ如キコトガア
リマスナラバ、是ハ國家トシテ由々シキ大
事デアリマスルカラ、豫メ萬全ノ對策ヲ講
ジテ置ク必要ガアルノデアリマス、而シテ
是ハ戰時中ノ特別ノ國家的ノ措置ト致シマ
シテ、戰時中發生致シマシタル地震ニ因ル
火災、損壞等ヲ各〓、保險事故トスル特殊ノ損
害保險ノ制度ト考ヘラレテ居ルノデアリマ
ス、而シテ此ノ兩種ノ保險共、之ヲ普通ノ
一般損害保險會社ノ業務トシテ行ハシメマ
スルケレドモ、此ノ保險ノ簡易且迅速ナル
普及ヲ圖リマスル爲ニ、先程モ申シマシタ
如ク、戰爭保險ニ付キマシテハ、空襲等ノ危險
ガ特ニ大ナリト豫想セラルヽ地域ニ於テ、
又地震保險ニ付テハ內地一圓ニ亙リマシテ
火災保險等ニ附帶シテ自動的ニ成立セシム
ルコトト致シ、又別ニ公益上ノ必要ガアリト
認メラレマスル場合ニ於キマシテハ、本保險
ニ加入スルコトヲ政府ニ於テ强制シ得ルト云
フ規定ヲモ設ケテアリマス、以上ガ本案ノ大
體ノ構想デゴザイマス、扨之ニ對シマシテ、
然ラバ風水害ノヤウナモノニ對シテ何故考ヘ
及バナカッタカト云フ質問ガ當然出ルノデア
リマス、之ニ答ヘマシテ、誠ニソレハ御尤モ
ナ御考ト思ヒマス、實ハソレニ付テハ段々〓
究モ致シテ見マシタ、併シ事實地震ヲ保險
ニ取入レルコトヨリモ、技術的ニハ相當困難
ガアルヤウニ認メラレマス、卽チ風水害ニ於
キマシテハ、比較的事故ノ起ル地域ガ、局
部的ニ偏在シテ居ルト云フコト、又季節的ニ
偏ッテ居ルト云フ關係モアリマス、又或程度
迄ハ損害ノ發生ヲ豫知シ得ルヤウナ狀態ニ
アルコトモアル、又愈〓風水害ノ損害ガ起ッ
タ場合ニ、之ガ査定ヲ如何ニスルカ、其ノ
保險金額ノ決メ方モドウスルカ、ト云フヤウ
ナ問題ニ付テ相當困難ガアリ、又此ノ點ニ
付テハモウ少シ〓究ノ步ヲ進メテ見ル必要
ガアルカラ、今度ノ法案ノ中ニハ採リ入レ
ナカッタノダト、斯ウ云フ答辯デアリマシ
タ、ソコデ次ニ、ソレナラ其ノ物ニ關スル
保險制度ヲ、左程迄ニ手厚ク豫メ國家ノ施
策トシテ御定メニナルヽナラバ、何故生命
ニ付テ今少シク御保護ノ施策ヲ爲サラナイ
ノカ、卽チ保險制度設定ヲ爲サラナイノデ
アルカ、ト云フ質問ガ出タノデアリマス、
之ニ對シマシテ、誠ニ御指摘ノ點ハ御尤モ
デアルト思フ、既ニ此ノ戰爭ニ因ル死亡傷
害ニ付キマシテハ、戰時災害保護法、防空
從事者扶助令ニ依ル給與及ビ軍人等ノ戰死
傷ニ對スル給與制度等ノ國家制度ガ備ッテ
居ルノミナラズ、普通生命保險金及ビ簡易
生命保險金ノ支拂モ行ハレテ居ル狀況デア
ルカラ、目下ノ所、戰爭死亡傷害保險ヲ强
制スルコトハシナイ積リデアル、卽チ國民
ノ時局ニ對スル認識ヲ基礎トシテ、今後益〓
普及宣傳ノ方法ニ依ッテ目的ヲ達セムト
スル積リデアル、斯ウ云フ答辯デアリマシ
タ、ソコデソレナラバ、サウ云フ國家ノ大
損害ノ場合ニ於テ、政府卽チ國庫ガ大イナ
ル負擔ヲ爲スヤウナコトヲ想像セラレルガ、
財政上果シテサウ云フコトガ國家トシテ堪
へ得ラレルノデアルカドウカ、ソレニ對ス
ル御考ハ如何デアルカ、ト云フ質問ニ對シ
マシテ、元來保險ノ經營ハ、純理論カラ言
くべ、一定ノ計算ニ基イタ保險料ノ收入デ
保險金ガ賄ハレベキ計畫ノ下ニ行ハレルガ
當然デアル、併シ此ノ種ノ特殊ノ保險ニ付
テハ、危險率ノ算定ハ殆ド不可能ニ屬スル、
卽チ今日ニ於テハ政府ニ於テ豫定シテ居ル
所ハ、保險料金ト云フモノハ年額千圓ニ付
テ僅カニ二圓程度ヲ考へ、地震保險料ニ付
テハ年額五十錢程度ノコトヲ考ヘテ居ルニ
過ギナイ、ホンノ是ハ客觀的常識的ナ考ヘ
方ニ過ギナイノデアル、從ッテ若シ現實ニ大
キナ損害ガ發生シタ場合ニハ、到底ソレ迄
ニ政府ガ收入シ得タ保險料金ヲ以テシテ莫
大ナル支出ヲ賄ヒ得ルモノトハ考ヘテ居ナ
イ、ソコデ所謂實質上ニ於テハ此ノ保險ハ
眞ニ國家性ヲ持ッテ居ルモノデアル、、準國營
ニスルノモ亦此ノ所ニ基イテ居ル次第デア
ル、從ッテ此ノ種ノ特殊ノ戰時保險ノ狙ヒ所
ハ戰時中ニ於テ斯ウ云フ災害ガ起ッタ場合ニ
於テハ、ドウシテモ經濟ノ秩序ヲ維持スル
トカ、民政ノ保護安定ヲ期スルトカ、銃後
民心ノ動搖ヲ防グトカ云フ國家目的ヲ充タ
スヨリ外ニ方法ハナイト思フ、併シナガラ
若シ現實ニ、一時ニ左樣ナ災害ノ場合ニ於
テ、巨額ノ保險金ヲ國庫ヨリ支拂フ場合ニ
於テハゝ又一面ニ於テ注意ヲ要スル點ガア
ラウカト想像シテ居ル、卽チ其ノ事白體ガ、
又他面國家經濟ノ秩序ヲ紊シ、財界ヲ混亂
セシムル原因トナル虞ガアルノデ、左樣ナ
場合ニ於ケル保險金ノ支拂ハ凡ソ三千圓程
度ニ止メテ、其レ以上ハ適當ナ限度ニ於テ
特殊決濟ノ方法ヲ以テ封鎖スルコトヲ考ヘ
テ居ル、決シテ「インフレ」其ノ他ノ憂ヲナ
カラシムル積リデアル、斯ウ云フヤウナ御
答辯デアリマシタ、斯クシテ委員會ハ質疑
ヲ終ヘマシテ、討論ニ入リマシタ處ガ、何
等ノ御意見モゴザイマセヌ、直チニ採決ニ
入リマシテ、全會一致ヲ以チマシテ本案ヲ
可決致シマシタ、右御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=43
-
044・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 別ニ御發言ガナ
ケレバ本案ノ採決ヲ致シマス、本案ノ第
二讀會ヲ開クコトニ御異議ハゴザイマセヌ
カ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=44
-
045・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 異議ナイト認メ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=45
-
046・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=46
-
047・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=47
-
048・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=48
-
049・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=49
-
050・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第二讀會
ヲ開キマス、御異議ガナケレバ、全部ヲ問
題ニ供シマス、本案全部、委員長ノ報告通
リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=50
-
051・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=51
-
052・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀
會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=52
-
053・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=53
-
054・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=54
-
055・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=55
-
056・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 本案ノ第三讀會
ヲ開キマス、本案全部、第二讀會ノ決議通
リデ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=56
-
057・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=57
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058・松平頼壽
○議長(伯爵松平賴壽君) 次會ノ議事日程
ハ決定次第彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、
本日ハ是ニテ散會致シマス
午後三時十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008403242X00919440205&spkNum=58
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