1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十九年一月二十八日(金曜日)
午後一時十一分開議
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議事日程 第五號
昭和十九年一月二十八日
午後一時開議
第一 所得税法外二十九法律中改正法律案(政府提出)
第一讀會の續(委員長報告)
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一、政府より提出せられたる議案左の如し
昭和十七年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
昭和十七年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
昭和十七年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)
昭和十八年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
昭和十八年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
昭和十八年度特別會計豫備金外豫算外支出の件(承諾を求むる件)
(以上一月二十七日提出)
一、昨二十七日貴族院に於いて本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
(臨第一號)臨時軍事費豫算追加案
(追第二號)豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件
一、議員の異動左の如し
東京都第一區選出議員橋本祐幸君死去せられたり
一、昨二十七日委員長及理事互選の結果左の如し
海軍刑法及海軍軍法會議法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)委員
委員長 中原謹司君
理事
安倍寛君 小澤治君
冨田愛次郎君
訴訟費用等臨時措置法案(政府提出、貴族院送付)外二件委員
委員長 谷原公君
理事
沖藏君 坂口平兵衞君
長井源君 宮崎一君
北支那開發株式會社法及中支那振興株式會社法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)委員
委員長 深澤豐太郎君
理事
小高長三郎君 大橋清太郎君
楢橋渡君 依光好秋君
農林中央金庫特別融通及損失補償法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外一件委員
委員長 深澤吉平君
理事
小笠原八十美君 杉山元治郎君
成島勇君 野村嘉久馬君
森口淳三君
石炭配給統制法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)外一件委員
委員長 久山知之君
理事
卯尾田毅太郎君 川俣清音君
勝又春一君 吉田敬太郎君
一、昨二十七日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第三部選出
豫算委員 松田竹千代君(川副隆君補闕)
一、昨二十七日に於ける特別委員の異動左の如し
所得税法外二十九法律中改正法律案(政府提出)委員
辭任 松尾三藏君補闕柳川宗左衞門君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=0
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001・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、日程第一、所得稅法律外二十九法中改正
法律案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長
ノ報告ヲ求メマス-委員長中島彌團次君
所得稅法外二十九法律中改正法律案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報〓書
一所得稅法外二十九法律中改正法律案
(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十九年一月二十八日
委員長中島彌團次
衆議院議長岡田忠彥殿
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=1
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002・中島彌團次
○中島彌團次君 所得稅法外二十九法律中
改正法律案ニ付キマシテ、委員會ノ經過竝
ニ結果ヲ御報告致シマス
今度ノ增稅案ノ目的ハ財政ノ收入ヲ上グ、
臨時軍事費財源ノ一部ニ充テ、戰時財政ノ
基礎ヲ鞏固ニスルト共ニ、財政支出ニ伴フ
購買力ヲ吸收シ、國民ノ決戰生活ニ一大切
下ヲ行ハシメ、徹底的ニ消費ノ抑制ヲナサ
ントスルノガ其ノ目的デアリマス、其ノ內
容トスル所ハ直接稅ヲ中心ト致シマシテ、
間接稅ノ殆ド全般ニ亙ツテ稅率ノ引上ヲ行
ヒ、初年度二十二億萬圓、平年度二十五億
萬圓ノ增收ヲ見込ンダノデアリマシテ、昭
和十二年度支那事變ガ始マツテ以來每年增
稅ガ行ハレマシタガ、其ノ增收金額ニ於キ
マシテ未曾有ノ大增稅デアリマス、然レド
モ今囘ノ增稅タルヤ單ニ各種ノ稅ノ稅率ヲ
引上ゲタニ止マリマシテ、新稅トシテ創設
サレタモノハナク、卽チ稅制ノ根本的ナ改
革ヲヤツタモノデハアリマセヌ、其ノ內容
ノ詳細ハ、提案ノ時ニ際シマシテ大藏大臣
ガ此ノ席ニ於テ詳シク說明サレマシタカラ
此處ニ之ヲ省略致シマス、此ノ法案ニ關シ
マシテ政府ト委員トノ間ニ於テ、決戰議會
ニ相應シイ眞劍ニシテ熱烈ナル質疑應答ガ
行ハレタノデアリマスガ、其ノ主ナルモノ
ニ付テ御紹介ヲ申上ゲマス
第一ニ增稅ノ根本目的ニ付テノ問題デア
リマス、政府ハ初年度二十二億、平年度二
十五億ノ增稅ヲ行フ目標如何、又政府ハ昭
和十九年度ノ豫算ノ編成ニ當ツテ、公債收
入ト租稅收入トノ割合ヲ如何ナル程度ニ
於テ財政計畫上適當ト認メラルヽヤ、此ノ
根本問題ニ關シマシテ賀屋大藏大臣ハ、現
在ノ我ガ國ノ經濟財政ノ狀況ヨリ見マシテ、
產業ヲ壓迫セズ、卽チ增產ニ妨ゲシナイヤ
ウナ、國民生活ヲ脅威シナイヤウナ範圍內
ニ於テ、他方又財政ノ要請ニ應ズルニハ、
此ノ程度ノ增稅ヲ以テ最モ適當ナルモノト
確信スルモノデアル、斯ウ云フ答辯ガアツ
タノデアリマス、又大藏大臣ハ戰費ハ成
ベク公債ニ依存スルコトハ避ケタイ、併シ
之ヲ賄フニ公債收入ト租稅收入トノ比率ニ
拘泥スルモノデハナイ、要ハ財政支出ガ一
方ニ於テ增產ヲ刺戟シ、他方租稅其ノ他種
種ノ手段ニ依ツテ回收サレ、之ニ依ツテ「イ
ンフレ」ニ陷ラナイヤウニスルコトガアレ
バソレデ結構デアルト信ズル、斯樣ナ御答
辯ガアツタノデアリマス、第二點ト致シマ
シテ、今回ノ如ク單ニ稅率ノ一般的ノ引上
ノミデアツテ、根本的ナ稅制改革ヲヤラナ
イ此ノ現行法ニ於テ-戰局ハ非常ニ急激
ニ變化シツヽアリ、產業ノ轉換變轉亦朝ニ
タヲ測ラレザルモノガアリマス、サウシテ
應召デアルトカ、徴用デアルトカ、增產デ
アルトカ人及ビ物ノ動キガ非常ニ激シク、
所得ノ異動激變、增減亦著シイ現在ノ經濟
界ノ狀況ニ對シマシテ、現行法ガ果シテ之
ニ適應シテ萬般ノ所得ノ變遷ヲ捕捉スルコ
トガ出來ルヤ否ヤ、此ノ質問ニ對シマシテ
賀屋大藏大臣ハ、今囘ノ增稅案ニ於テ現行
法ノ下ニハ更ニ一層ノ增稅ヲ行フト云フコ
トハ相當ニ餘地ガ縮小サレテ、將來ノ增稅
ニ當ツテハ現行稅制ノ再檢討ヲナス所ノ考
ヘヲ持ツテ居ルトノ御答辯ガアリマシテ、
暗ニ將來ニ於ケル稅制大改革ノコトヲ示唆
サレタノデアリマス、尙ホ大藏大臣ハ國民
所得ノ構成ガ近時著シク變化シテ居ルコト
ハ認メマス、併シ今囘ノ增稅案ニ於キマシ
テモ亦丙種ノ事業所得ヲ設ケテ、源泉課稅
制ノ擴充强化ヲ圖ツテ、以テ新興所得階級
ノ所得ノ捕捉ニ對シテハ極力力ヲ致ス考ヘ
デアルト云フ御答辯ガアツタノデアリマス、
第三ト致シマシテ今囘ノ增稅ハ、間接稅
ノ大幅ノ引上ハ固ヨリ、煙草ノ値上、郵便
料金ノ値上等、共ニ物價ヲ刺戟シ、低物價
政策ト矛盾スルコトハナイカ、延イテ增稅
ガ國民生活ヲ脅威スル所ノ虞ナキヤ否ヤ、
此ノ點ニ對シマシテ委員カラ熱心ナル質問
ガアツタノデアリマスルガ、大藏大臣ハ消
費稅ノ引上ニ依ツテ物價ガ騰貴スルト云フ
コトハ當然デアル、又是ハ巳ムヲ得ナイ、
之ヲ消費者ニ轉嫁セシメズシテ、生產者ニ
轉嫁セシメルト云フコトハ無理ナ話デアル、
是ハ一般物價ノ騰貴ト云フコトトハ區別ス
ペキモノデアルト云フ御答辯デアリマシタ、
隨テ國民購買力ノ吸收、消費ノ抑制ヲ增稅
ニ依ツテ行ヒ、却テ物價ノ安定ニ資スルモ
ノデアル、斷ジテ國民生活ヲ脅威スルコト
ハナイ、又脅威セシメテイヤウナ各種ノ低
物價政策ヲ講ジテ、以テ諸般ノ方法ニ依ツ
テ物價ヲ抑ヘテ行ク、此ノ點ニ付テハ安心
シテ戴キタイト云フ答辯ガアツタノデアリ
マス、第四ト致シマシテ、從來ノ租稅ノヤ
リ方ハ權利義務ノ觀念ニ囚ハレ過ギテ居ル、
差押ヘデアルトカ、滯納デアルトカ、競賣デ
アルトカ、恰モ國民ト國家トガ對立シタヤ
ウナ租稅觀念デアル、是デハ駄目デアル、
今マデノ租稅ト云フモノハ英米流ノ租稅ノ
ヤリ方デアツテ、國民ト國家ガ對立シ、租
稅ヲ中心トシテ非常ナル相剋摩擦ガ起ツテ
居ル、斯ウ云フコトデハイカヌデハナイカ、
皇國租稅理念ト云フモノヲ確立致シ、國民
ガ收入ヲ得タナラバ、其ノ收入ヲ先ヅ第一
ニ神樣ニ獻上スルヤウナ氣持ヲ以ツテ、御
初穂ノ考ヘヲ以テ國家ニ獻金スルト云フコ
トガ、是ガ皇國租稅觀念ノ基礎デナケレバナ
ラヌト考ヘル(拍手)サウシテ稅務ヲ取扱フ役人
モ亦、陰慘ナ-稅務署ト云ヘバ不愉快ナ感
ジヲ持ダスヤウナコトガアツテハナラナイ、
國民ノ納稅協力體制ヲ强化スルト共ニ、稅
務行政ノ全般ニ亙ツテ之ヲ刷新シ、所謂親
切ナ稅務ノ取扱ヲスルト云フコトガ、是ガ
今日ノ決戰態勢下ニ於ケ最モ必要ナルコト
デナイカト云フ所ノ質問ガアツタノデアリ
マス(拍手)之ニ對シマシテハ大藏大臣ハ、
洵ニ同感デアル、租稅ヲ中心トシテ國家ト
國民ガ權利義務ノ觀念ニ於テ對立シテ居ル
カラ宜クナイ、我ガ國體ニ卽應スル所ノ皇
國租稅理念ヲ明徵ニ致シ、一層此ノ點ニ努
力ヲ致シ、且ツ稅務機構ノ擴充、稅務官吏
ノ素質ノ改善、人員ノ增加ト共ニ、親切ナ
ル稅務行政ヲ厲行セシメ、苟クモ國民ノ一
人トシテ稅務ニ關シ斷ジテ不平不滿ナカラ
シムル所ノ方法ヲ講ズル、斯ウ云フ立派ナ
御答辯ガアラレタノデアリマス(拍手)其ノ
外第五ト致シマシテ豫算五百億ニ達シ、昨年
度ノ豫算ハ臨時軍事費及ビ一般會計ヲ合計
致シ三百六十億デアツタガ、昭和十九年ハ
五百億ニ達シ貯蓄奬勵ニ於テモ亦昨年ハ
二百七十億デアンタガ、今度ハ三百四、五
十億ノ貯蓄奬勵ヲ行ハナケレバナラヌ、之
ニ對シテ惡性ノ「インフレTション」ヲ起サ
ヌヤウニ如何ナル對策ヲ持ツテ居ルカ、殆
ド各委員カラ熱心ナル質問ガアリマシタガ
大藏大臣ハ今日ハ此ノ三百億ノ貯蓄デモ、
四百億ノ貯蓄デアツテモ、死物狂ヒデ國民
ノ盛上ツテ來ル所ノ力ト共ニ、其ノ協力ヲ
得マシテ、死物狂ヒデヤリマス、ソレ以外
ニ策ハアリマセヌト、斯ウ仰シヤラレマシ
タ、洵ニ其ノ決心ノ程ハ我々感心ヲ致シタ
ノデアリマスルガ、死物狂ヒデ此ノ決戰ノ
貯蓄ヲヤル外仕方ガナイト云フコトヲ大藏
大臣ハ御答辯サレタノデアリマス、其ノ他
日傭勞務者ニ對スル源泉課稅徵收ノ件、免
稅點ノ引下ノ作、銀行貯蓄預金ニ對スル課
稅ノ件、特別法人ニ對スル課稅ノ件、或ハ
農家ニ對シ自家用ノ濁酒ヲ公許シテハ如何
ト云フ如キ、或ハ物品稅ヲ生產者課稅ノ方
面ニ擴張スベシト云フ件ノ如キ、戶數割其
ノ他地方ニ獨立財源ヲ與ヘヨト云フガ如キ、
非常ニ重大ナル質疑ガアリマシタガ、詳細
ハ速記錄ニ於テ御承知ヲ戴キ、此處ニ之ヲ
省略致シマス斯クノ如ク致シマシテ、本月
二十四日ヨリ二十六日マデ三日間、白熱的
審議ヲ行ヒマシテ、二十六日午後七時質疑
ハ終了致シ、二十七日午後一時討論ニ入リ
石坂君カラ翼贊政治會ヲ代表致シマシテ贊
成ノ意見ガアリマシタ、採決ノ結果滿場一
致原案ヲ可決サレマシタ、此ノ段御報告
申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=2
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003・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 討論ノ通告ガアリマ
ス、之ヲ許シマス-船田中君
〔船田中君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=3
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004・船田中
○船田中君 私ハ只今述ベラレマシタ中島
委員長ノ報〓ニ贊成ヲ致シマス、卽チ翼贊
政治會ヲ代表致シマシテ增稅案ニ贊成ノ意
ヲ表スル者デゴザイマス、此ノ增稅案ハ本
會期中ニ政府カラ提出セラレマシタ議案ノ
中デ極メテ重要ナ法案ノ一ツデゴザイマス
ルカラ、此處ニ聊カ贊成ノ意ヲ表スル爲ニ、
其ノ理由ト政府ニ對スル二、三ノ希望ヲ述
ペタイト存ズルノデアリマス
每日苛烈ニナリマスル今日ノ決戰ニ對處
致シマシテ、戰費ノ增大致シマスルコトハ
當然覺悟致サナケレバナラナイノデアリマ
ス、隨テ此ノ增大スル戰費ヲ賄フ爲ニ、
方ニ於テ公債ガ年々增額スルト云フコトハ
巳ムヲ得ナイ所デアリマスケレドモ、併シ
只今委員長モ述ベラレマシタヤウニ、財政
ノ基礎ヲ鞏固ニ致シマシテ、此ノ決戰財政
ヲ圓滿ニ、而モ强靱ニシツカリ運營致シテ
參リマス爲ニハ、當然增稅ヲ覺悟シナケレ
バナラナイ所デゴザイマス、國民ハ誰一人
此ノ增稅ニ對シテ贊成セザル者ハナイノデ
アリマシテ、悉ク此ノ增稅ニ對シテハ十分
ナル覺悟ヲ示シテ居ルコトト信ズルノデア
リマス、併シナガラ此ノ增稅ニ付キマシテ
ハ、一面只今委員長ノ報告ニモアリマシタ
ガ如クニ、最近ノ國民所得ノ構成ノ樣相ガ
非常ナ激變ヲ來シテ居ルノデアリマス、卽
チ一方ニ於キマシテハ時局ノ影響ニ依リマ
シテ、增產或ハ其ノ他ノ爲ニ非常ニ所得ノ
增加スル階級ガ殖エルト共ニ、一面ニ於キ
マシテハ其ノ影響ニ依リマシテ物價ノ騰貴
其ノ他ノ原因ニ依リマシテ、其ノ所得ノ弱
體化ヲ來シツヽアル階級モ少クナイノデア
リマス、卽チ一定ノ俸給、給料或ハ恩給ニ
依ツテ生活ヲ致シマスル者ハ、相當弱體化
ヲ豫想サレツヽアル狀況デアルト存ジマス、
斯クノ如クニ國民所得ノ構成ガ激變シツヽ
アルノデアリマスカラ、數年前ノ基準ニ基
イテ出來テ居リマスル今日ノ所得體系ヲ以
チマシテ、果シテ此ノ負擔ノ公平或ハ課稅
ノ適正ヲ微底的ニ期待スルコトガ出來ルカ
ト云フコトニ付テハ、一ノ疑問タラザルヲ
得ナイト存ズルノデアリマス(拍手)尤モ此
ノ問題ニ付キマシテハ、大藏大臣カラ先程
委員長ノ報告ニアリマシタガ如キ御答辯ガ
アリマシタノデ、我々ハソレニ信賴致スノ
デアリマスカラ、此ノ國民所得ノ構成ノ實
相ヲ能ク把握致シマシテ、之ニ相應シキ租
稅體系ヲ完成セラレンコトヲ希望シテ已マ
ナイ所デアリマス、殊ニ新興所得階級ニ對
シマシテ、只今御話ガアリマシタガ如クニ、
事業所得ノ中ニ丙種ノ一種目ヲ設ケルト云
フコトニ依ツテ、果シテ能ク新興所得階級
ヲ摑ミ得ルヤ否ヤ、殊ニ稅務行政ノ運營其
ノ宜シキヲ得ルニアラザレバハ斯クノ如キ
難カシキ源泉課稅ハ極メテ困難デアルト存
ズルノデアリマス、隨テ稅務行政ノ運營ニ
付キマシテハ更ニ一段ノ改善工夫ヲ加ヘテ、
課稅ノ適正ヲ實現スルヤウニ最善ノ御努力
ヲ御願ヒ致シタイノデアリマス、或ハ稅務
官吏ノ待遇ノ改善、或ハ納稅相談所ノ整備、
或ハ納稅協力體制ノ整備强化ト云フガ如キ
諸般ノ施策ヲ講ジマシテ、納稅ノ適正、徵
稅ト納稅トノ圓滿ナル調整ノ行ハレマスル
ヤウニ切望致シテ已マナイ所デアルノデア
リマス、又此ノ增稅ト物價トノ關係ニ付キ
マシテモ、先程御報告ニアリマシタガ如ク
ニ、一般的ニ物價ノ騰貴ヲ來スノデアリマ
スルカラ、之ニ對シマシテ通貨ノ膨脹ニ對
應スル所ノ適切ナル施策ガナケレバ、軈テ
ハ此ノ物價ガ段々ニ騰貴ヲ致シマシテ、惡
循環ヲ來ス虞ガアルノデゴザイマスカラ、
此ノ物價對策ニ付キマシテハ十分ナル覺悟
ヲ以テ施策ヲ講ゼラレンコトヲ希望ジテ已
マナイ所デアリマス
斯クノ如ク致シマシテ今日ノ戰時經濟ニ
於キマスル此ノ消費ノ抑制、或ハ貯蓄ノ增
强勤勞ノ强化ト云フ如キ各般ノ施策ヲ綜
合調整ヲ致シマシテ、此ノ戰時財政ヲ運營
シテ參リマスルナラバ、國民ハ恐ラク此ノ
上ニ增稅ガ行ハレマシテモ十分耐ヘ忍ブコ
トガ出來ルト信ジマス、又國民ハ此ノ皇國
納稅ノ理念ニ徹シマシテ、如何ナル負擔ヲ
モ十分覺悟シテ居ルノデアリマス、要スル
所ハ其ノ國民ノ盛上ル忠誠心ニ愬ヘマシテ、
サウシテ納稅ト徵稅トノ十分ナル調整ヲ實
現シテ戴キタイト云フコトデゴザイマス、
卽チ大藏大臣ハ先般此ノ演壇ノ上カラ、納稅
ト云フコトハ金錢ノ問題デアルガ、同時ニ
思想ノ問題デアルト仰セラレタノデアリマ
ス、正ニ其ノ通リ、卽チ一方ニ於テハ金錢
ノ問題デアルガ、一方ニ於テハ精神ノ問題
デアル、卽チ國民ヲシテ喜ンデ納稅セシム
ルヤウニ、政府ガ仕向ケテ戴クト云フコト
ガ今日最モ肝要デアラウト信ズルノデアリ
マス(拍手)斯樣ナ點ニ於テ政府ハ此ノ上ト
モニ是等ノ點ニ付キマシテ、殊ニ時局的各
種ノ施策、卽チ或ハ生產力ノ增强、或ハ國
民生活ノ安定確保、或ハ企業ノ整備、或
都市ノ疎開、或ハ勞働ノ强化、國民動員ノ
强化、各施策ノ間ニ於テ十分ナル綜合調整
ヲ圖リマシテ、サウシテ此ノ納稅ガ國民ノ
忠誠心ニ依リマシテ決戰財政ニ欣然協力ス
ルト云フヤウナ風ニ、此ノ施策ノ十分ニ徹
底致シマスルヤウニト云フ希望ヲ述ベマシ
テ、私ハ此ノ增稅法案ニ贊成ヲ致ス者デア
リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=4
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005・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 是ニテ討論ハ終局致
シマシタ、本案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議チシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=5
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006・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=6
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007・森下國雄
○森下國雄君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=7
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008・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 森下君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=8
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009・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
所得稅法外二十九法律中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=9
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010・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ
通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=10
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011・森下國雄
○森下國雄君 議事日程追加ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際政府提出、大日
本育英會法案、靑年學校〓育費國庫補助法
中改正法律案及ビ公立學校職員年功加俸國
庫補助法中改正法律案ノ三案ヲ一括議題ト
ナシ、委員長ノ報〓ヲ求メ、其ノ審議ヲ進
メラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=11
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012・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 森下君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=12
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013・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ追加セラレマシタ-大日
本育英會法案、靑年學校〓育費國庫補助法
中改正法律案、公立學校職員年功加俸國庫
補助法中改正法律案、右三案ヲ一括シテ第
一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報〓ヲ求
メマス-委員長小柳牧衞君
大日本育英會法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
靑年學校〓育費國庫補助法中改正法律
案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
公立學校職員年功加俸國庫補助法中改正
法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報〓書
一大日本育英會法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十九年一月二十八日
委員長小柳牧衞
衆議院議長岡田忠彥殿
報告書
一靑年學校〓育費國庫補助法中改正法律
案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十九年一月二十八日
委員長小柳牧衞
衆議院議長岡田忠彥殿
報〓書
一公立學校職員年功加俸國庫補助法中改
正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十九年一月二十八日
委員長小柳牧衞
衆議院議長岡田忠彥殿
〔小柳牧衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=13
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014・小柳牧衞
○小柳〓衞君 只今議題トナリマシタ大日
本育英會法案外二件ノ委員會ノ審議ノ經過
竝ニ其ノ結果ニ付キ御報告申上ゲマス、
委員會ハ去ル二十四日以來開會スルコト
五囘、連日午前午後ニ亙リ委員諸君カラ熱
心ナル質疑ガアリ、之ニ對シテ政府當局ヨ
リ又詳細ナル說明ガアリマシテ、愼重審議
ヲ重ネタ次第デアリマス、右三案ノ提案ノ
趣旨ニ付キテ申述ベマスレバ、大日本育英會
法案ハ、育英ニ關シテハ現ニ暫定的措置ト
シテ、財團法人大日本育英會ニ於テ旣ニ著
手シテ居リマスガ、本制度ノ趣旨ニ鑑ミ、
之ニ事業ノ確實性ト永續性トヲ附與シ、鞏
固ナル國家的施設トナサンガ爲メ、之ヲ特
別法ニ依ル特殊法人トシテ運營セントスル
モノデアリマス、又靑年學校〓育費國庫補
助法中改正法律案ハ、市町村立靑年學校職
員ノ俸給、賞與、死亡賜金、旅費等ヲ都道
府縣負擔ニ移管シ、市町村立靑年學校職員
ノ俸給、賞與、死亡賜金及ビ赴任旅費竝ニ
從來其ノ支辨デアリマシタ年功加俸ニ對シ、
國庫ヨリ其ノ半額ヲ定率補助セントスルモ
ノデアリマス、又公立學校職員年功加俸國
庫補助法中改正法律案ハ、靑年學校〓育費
國庫補助法ノ改正ニ依リ、從來公立學校職員
年功加俸國庫補助法中ニ包含サレタ市町村
立靑年學校〓職員ヲ除外シ、且ツ靑年學校
〓員養成所ガ昭和十九年度ヨリ官立靑年師
範學校トナリマス爲ニ、其ノ職員ヲモ除外
スル要アルニ依ルモノデアリマス
而シテ右法案審議ニ際シテ行ハレマシタ
質疑應答ノ詳細ハ、速記錄ニ就イテ御了承
ヲ願フコトト致シマシテ、此處ニ其ノ主ナル
モノヲ申述ベテ見タイト思フノデアリマス、
第一ハ今囘ノ育英制度ノ根本精神ニ付テデ
アリマスガ、此ノ點ニ付テハ當局ハ、外國
ノ制度トハ趣ヲ異ニシ、我ガ國ノ家族制度
ニ於キマシテハ親ガ子女ノ〓育上ノ責務
ヲ有スルモノデアリ、國家トシテハ此ノ親
ノ責務ヲ果ス上ニ、經濟上ノ理由ニ依リ困
難アル場合ニ、必要ナル協力援助ヲ與ヘルト
云フ趣旨ニ出ルモノデアルト云フコトヲ
明カニセラレタノデアリマス、第二ニハ「優
秀ナル學徒」ノ意義及ビ是ガ銓衡ニ付テデ
アリマスガ、此ノ點ニ付テハ當局ハ「優秀
ナル學徒」ト云フノハ、中等學校以上ノ學
校ニ在學スル學生生徒ニシテ、單ニ學業成
績優秀ト云フバカリデハナク、人物、體格
等ヲ綜合的ニ判定シテ、國家有用ノ人材タ
ルベキ素質ヲ有スル者デアリ、又是ガ銓衡
ニ付テハ中等學校在學者、專門、高等、大
學等ノ在擧者ニ付キ、ソレ〓〓銓衡ノ機關
ヲ設ケテ嚴選スルトトフ說明デアリマシタ、
第三ニハ本制度ノ運營ニ當ツテハ餘リ杓
子定規ニ流レナイヤウニ、彈力性ヲ以テ能
ク所期ノ目的ヲ達セラレタイトノ熱心ナ希
望ガアリマシタガ、此ノ點ハ當局モ十分ニ
諒解セラレ、奬學生トノ關係モ冷ヤカナル
貸借關係ニ墮スルコトノナイヤウニ、當
溫カミヲ以テ之ニ當リ、又軍人遺家族又ハ〓
育者、警察官等ノ子女ニ付テモ、家庭事情
等ヲ通ジテ相當考慮ヲ用フルヤウニ致シタ
イトノコトデアリマシタ、尙ホ第十六條ノ
第一項ニ揭グル本法人ノ事業ニ付キマシテ
ハ第一號ノ學資ノ貸與ニ限定スベキデハ
ナイカトノ意見ガアリマシタガ、此ノ點ニ
付テハ當局ニ於テモ本法人ノ主タル事業ハ
正ニ第一號ノ學資ノ貸與デアツテ、第二號
以下ノ諸事業ハ特ニ必要アル場合ニノミ之
ヲ行フヤウニスルト云フ方針ヲ明カニセラ
レタノデアリマス、以上ノ外貸費人員、資
金ノ返還方法等ニ付テモ色々質疑應答ヲ重
ネテ、當局ノ意圖スル所ハ十分明カニスル
コトガ出來タノデアリマス
尙ホ本法案ノ審議中〓育一般ニ付テモ自
然論及サレ、極メテ卓拔且ツ建設的ノ多ク
ノ意見ガ發表サレタノデアリマスガ、其
ノ中直接本案ニ關聯シテ重要ト思ハルヽ
モノヲ申上ゲテ見タイト思ヒマスルガ、
第一ニハ靑年學校〓育ニ關スルコトデア
リマス、現下ノ決戰段階ニ於テ靑年〓育
ハ最モ緊要ノコトデアリ、今囘靑年師
範學校制度ノ實現ヲ見タト云フコトハ
大イニ喜ブベキコトデアルガ、政府ハ更ニ
靑年〓育ノ義務制ヲ强化スル爲メ、速力ニ
女子靑年ノ義務制ヲ實施スベキデハナイカ
トノ質疑ニ對シマシテ、當局ハ男子靑年ノ
義務制モ未ダ完成ニ至ラザル今日トシテハ
直チニ實施ハ困難デアルガ、出來ル限リ速
カニ實現スルヤウ致シタイト云フ意見デア
リマシタ、尙ホ私立靑年學校ニ付テ更ニ國
家性ヲ强化スベキデハナイカトノ主張ガア
リマシタガ、當局トシテハ今後私立靑年學
校ニ對スル指導監督ヲ一層强化シ、私立靑
年學校〓育ノ徹底ヲ期スルヤウニ致シタイ
ト云フコトデアリマシタ、第二ニハ戰意昂
揚ト國民思想指導方策ニ關シテ、決戰下國
民思想指導ガ凡百ノ戰時施策ノ根本ヲ成ス
モノデアルガ、是ガ指導ノ方針如何トノ質
問ガアリマシタガ、當局トシテハ深ク思想
ノ根源ヲ究明シテ、是ガ是正ニ努ムルコト
ハ勿論、學徒、勤勞靑年ニ對スル戰時思想
指導ヲ更ニ强力ニ、積極的ニ行フト共ニ、
各界指導層竝ニ宗〓團體及ビ宗〓家ノ活動
ヲ强化シ、直チニ戰時ニ處スベキ思想ノ確
立ヲ念トシテ、廣ク國民全般ニ之ヲ推シ進
メル所ノ意圖ヲ明カニセラレタノデアリマ
ス、尙ホ此ノ點ニ關シマシテ、大東亞宣言
ノ基調タル根本原理ニ立脚シテ、事理一體、
生成發展スベキ皇道ノ眞義ヲ根柢トスル思
想體系確立ノ要ガ强ク主張セラレ、又思想
ニ關スル行政ガ數官廳ニ分屬セル現狀ハ、
思想戰線ノ統一上面白カラザル點ヲ指摘シ
テ是ガ一體的綜合力ノ發揮ヲ要望セラレ
タノデアリマスガ、是等ノ點ニ付テモ當局
トシテハ現ニ折角努力セル所デアリ、今後
一層之ニ力ヲ致スト云フ意圖ヲ明カニセラ
レタノデアリマス、最後ニ申上ゲタイコト
ハ、今コソ時到レリト勇躍聖戰ニ弛セ參ジ
タ應召學徒ノ其ノ後ノ成績如何トノ、眞摯
嚴肅ナル質問ガアツタノデアリマス、之ノ
對シ陸海軍當局ハ、是竺學徒ガ身ヲ挺シテ
君國ニ御奉公スル現況ヲ詳細ニ說明サレ、
何レモ烈々タル軍人精神ニ燃エ、克ク其ノ
使命ノ重大ナルヲ白覺シ、職務ノ高下ヲ問
ハズ、精勵努力、學窓ニ體得セル修文練武ノ
〓養ヲ本トシテ、其ノ進步亦著シキモノガ
アリマシテ、當局トシテハ其ノ將來ニ非常
ナル期待ヲ持チ、必勝ノ信念ヲ一層强メタ
リトノ所信ヲ披瀝サレマシテ、委員一同ハ
其ノ力强サヲ感ズルト同時ニ、感謝感激ニ
堪ヘナカツタノデアリマス、此ノ點特ニ御
報告申上ゲル次第デアリマス(拍手)
斯クシテ質疑ヲ終了致シマシテ、本日ノ
委員會ニ於テ大日本育英會法案外二件ヲ
括シ、討論ヲ省略シテ直チニ採決ノ結果、
各案トモ原案通リ可決致シタ次第デアリマ
ス、右御報告申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=14
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015・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 討論ノ通告ガアリマ
ス、之ヲ許シマス-武知勇記君
〔武知勇記君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=15
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016・武知勇記
○武知勇記君 私ハ只今議題トナリマシタ
大日本育英會法案外二件委員長ノ報告ニ對
シマシテ贊意ヲ表シタイト存ジマス
申スマデモナク育英造士ノ事業タル國家
興隆ノ基礎デアリマシテ、是ガ制度ノ完備
ト運營ノ如何トハ、延イテ國力ノ消長ニ影
響ヲ及ボスモノデアリマス、然ルニ從來
我ガ國ノ〓育施設ニ於キマシテハ、國家有
爲ノ素質ヲ有スル人材モ、單ニ經濟的理由
ニ依リマシテ進學困難ナル狀態ガアツタノ
デアリマスルガ、今囘是等優秀ナル學徒
進學ノ途ヲ開クガ爲ニ、大日本育英會ノ誕
生ヲ見ルニ至リマシタコトハ、時期極メ
テ遲シト雖モ、國家ノ爲メ尙且ツ欣ビニ堪
ヘナイ所デゴザイマス(拍手)固ヨリ現在
ノ程度ヲ以テ致シマスレバ、決シテ十分ト
ハ申シ難ク、將來財政上ノ都合ガ付キ次第
更ニ萬全ヲ期スベキモノデアリ、且ツ又
是ガ運營ニ付キマシテハ、細心ノ用意ヲ怠
ルベキデハナイト存ジマス、國家育英造士ニ
營々タル不斷ノ努力ノ結晶ガ其ノ國ノ文化
學藝ノ粹トナリ、戰時ニ於ケル一大偉力ト
ナルノデアリマシテ、私共ガ日頃聲ヲ大ニ
シテ英才育成ノ急ヲ叫ビマスル所以ノモノ
モ亦實ニ是ニ存ズルノデゴザイマス(拍手)
私ハ此ノ意味ニ於キマシテ、本案ニ贊成ノ
意ヲ表スルノデゴザイマスルガ、此ノ場合
天下幾萬ノ出陣學徒ニ對シ、一言感謝激勵
ノ言葉ヲ呈シタイト存ジマス
惟フニ現在ノ修學學徒ハ何レモ皆肇國ノ
精神ニ徹シ、學藝ノ進步、文化ノ向上ヲ圖
リ、以テ帝國ノ富强ニ貢獻スベク極メテ眞
摯勵精己レノ智能ヲ啓發シ、德器ヲ成就セ
ントシテ、日夜〓鑽ヲ積マレツヽアリマス
ルコトハ、私共ノ常ニ敬服措カザル所デゴ
ザイマス、而モ國家ノ危急ニ際シマシテハ、
潔ク筆ヲ投ジテ軍ニ從ヒ、命ヲ鴻毛ニ比シ、
身ヲ鋒刄ニ寄セテ皇運ヲ扶翼シ奉ラント致
シマスルコトハ、是レ卽チ學徒進德修養ノ
本義ナリト申上ゲタイノデゴザイマス(拍手)
諸君、今ヤ戰局實ニ重大デアツテ、建國
以來二千六百有餘年、國步ノ艱難ナル蓋シ
今日ノ如キハナイノデアリマス、隨ヒマシ
テ我等一億國民ハ、其ノ一切ヲ捧ゲテ米英
擊滅ニ邁進致シテ居ルノデアリマスルガ、
此ノ秋ニ當リ、若シ學徒ニシテ奮然蹶起ス
ルコト能ハズンバ、果シテ何レノ日ニカ國
家育英造士ノ誼ミニ酬ヒ、負荷ノ大任ヲ果
スコトガ出來ルデゴザイマセウカ、顧ミマ
スレバ、彼等ガ初メ學ニ志シマシタ所以ノ
モノハ、或ハ中ニハ他日廟堂ニ立タント期
シタ者モゴザイマセウ、中ニハ一世ノ碩學
タラント志シタ者モアリマセウ、固ヨリ其
ノ才藝ニ誇リ、一身ノ美ヲ圖リ、以テ名利
ヲ射ルガ如キ所謂出世主義ニハ斷ジテ與ス
ルコトハ出來マセヌケレドモ、彼等ガ修學
ノ目標ヲ是ニ置イテ、日夜切瑳琢磨致シマ
スルコトハ、其ノ切瑳琢磨ノ結果得ラル
モノハ、是レ軈テ邦家ノ進運ニ貢獻スル素
地タルベキモノデゴザイマスガ故ニ、之ヲ
思ヒマスル時ニ、彼等ガ靑雲ノ志亦徒ラニ
排擊スベキモノデハナイト存ジマス、彼等
生レテ僅カニ二十幾年、人生行路ノ喜愁ヲ
唯書物ニ依ツテ學ベルニ過ギマセヌ、隨テ
彼等ノ中ニハ、或ハ日夕手ニセル「ペン」ニ執
著ヲ覺エ、日頃耽讀セル書籍ニ愛惜ヲ感ジ
タ者ガアッタカモ知レマセヌガ、一タビ光榮
アル御召ニ接シマスルヤ、斷乎トシテ當初
ノ志望ヲ捨テ、骨肉ノ愛撫ト學窓ノ庇護ヲ
離レ、君國ノ要請ニ應ヘテ欣然死所ヲ求メ
テ征途ニ就イタノデアリマスルガ故ニ、學
徒諸君ノ心情ヲ想起致シマスル時、感激ノ
淚ニ咽ブ者豈ニ啻ニ私一人デハナイト存ズ
ルノデアリマス、私ハ昨年晩秋ノ或ル日、
銀杏落葉ノ降リ布ク玉砂利ノ上ヲ踏締メ
テ、無言ノ〓別ヲ靖國ノ社頭ニ捧グル出陣
學徒ノ後ロ姿ヲ見テ、其ノ床シイ靜影沈壁
ナル態度ヲ跳メマシタ時ニ、思ハズ頭ヲ垂
レテ彼等ノ武運長久ヲ祈ツタノデゴザイマ
ス、斯クノ如ク彼等ガ生死一如ノ境地ニ立
ツテ、默々トシテ其ノ使命ヲ果ス所ニ新シ
イ時代ハ發芽シ、爛漫タル春ヲ豫約スルコ
トガ出來ルノデアラウト思フノデアリマス
(拍手)家〓ニ殘サレマシタル年老イタル父
ハ、祖父ハ、此ノ壯途ヲ分ツコトハ出來マ
セヌケレドモ、唯最後ノ光榮ヲ共ニセンコ
トヲ冀ウテ已マナイノデゴザイマス、幸ヒ
ニモ出陣學徒諸君ハ學窓ニ於ケル多年ノ修
學ノ結晶ヲ顯現致シマシテ、或ハ軍務ニ於
テ之ヲ活用シ、或ハ戰場ニ於テ之ヲ發揚致
シ、我ガ兵力ノ上ニ資スル所頗ル大ナルモ
ノガアルコトハ、私共ノ固ク信ジテ疑ハナ
イ所デゴザイマス(拍手)果セル哉只今ノ委
員長ノ御報告ヲ拜承致シマスルト、出陣學
徒ノ成績洵ニ見ルベキモノガゴザイマシテ、
我等一億國民ノ期待ニ背カザルハ心ヨリ敬
意ヲ表スルニ足ルモノデアルト存ジマス(拍
手)
飜ツテ私ハ理工科竝ニ醫科系統ニ屬スル
殘留學徒ノ狀態ヲ見マスルノニ、彼等ハ其
ノ專攻學科ノ性質上、已ムヲ得ズ學窓ニハ
留マツテ居リマスルケレドモ、其ノ忠誠ノ念、
其ノ烈々タル氣魄ニ至リマシテハ斷ジテ出
陣學徒ト異ナル所ハナイノデアリマス拍
手)今ハ唯第二陣出動ノ日ニ待機ヲ致シテ、
心靜カニ修學ニ專念ヲ致シテ居リマスル其ノ
眞摯勵精ノ態度ニ對シテモ、是レ亦推賞ニ値
スルモノガアルト存ジマス、而シテ御承知ノ如
ク最近徵兵適齡年次ノ低下ニ伴ヒ、更ニ年少
氣銳ナル幾多ノ學徒ハ、近ク陸續トシテ軍務
ニ服サント致シテ居ルノデゴザイマシテ、
斯クノ如ク學校ノ殆ド大部分バ、學業未ダ
終ラザルニ、第一陣若シ斃ルヽコトガアル
ナラバ、其ノ屍ヲ乘越エテ勇往猛進シ、復
讐ノ念ニ燃エル精悍ナル鬪志ト裂帛ノ氣魄
トハ、今ヤ全國學園ニ漲ルニ至ツタノデゴ
ザイマス(拍手)由來我ガ國民忠誠ノ熱血ハ
先陣ヨリ後陣ニ、而モ後陣將士ノ體內ニ滾
滾トシテ湧イテ盡キザルモノガゴザイマシ
テ、洵ニ賴モシキ限リデゴザイマスルガ、
斯ク論ジ來リマスル時、私ハ現在修學中ノ
學徒ハ勿論、今後學窓ニ進マントスル者ハ
殉國ノ決意ニ燃エル先輩諸士ノ心ヲ心トシ、
學業ニ專念シテ天下靑少年ノ儀表タルベキ
ニ努ムルト共ニ、他日其ノ所學ヲ活用シテ
君國ニ報ズル所ノ覺悟ヲ持タナケレバナラ
ナイト思ヒマス、併シナガラ皇運ヲ扶翼シ奉
リマスルノハ唯學徒ノミデハゴザイマセヌ、
一億國民誰一人トシテ其ノ然ラザル者ハナ
イノデゴザイマス、現ニ續々トシテ應召サ
レテ居リマスル出征軍人ハ申スニ及バズ、
應徵戰士ヲ初メ、其ノ他凡ユル職域ニ於テ
奉公ノ誠ヲ效シテ居リマスル全國民悉ク然
リデアリマス、然ルニ私ガ敢テ學徒ヲ中心
ニ以上縷々申上ゲマシタノハ、我ガ國〓育施
設ノ割期的法案トモ云フベキ本法上程ニ際
シマシテ、斯カル日本精神ニ徹シマスルコ
トガ國民〓育ノ本義デアリ、現ニ國民ノ全精
神デアルト信ジマシタノデ、敢テ學徒ヲ中心
トシテ一言ヲ呈シタ次第デアリマス
諸君、今ヤ我ガ大日本帝國ノ興廢ヲ決ス
ルノ大戰爭ニ際シマシテ、私ハ全國幾十萬
ノ學徒諸君ガ平素ノ修學ヲ活カシ、惟神ノ
大道ニ則リ、生死唯悠久ノ大義ニ據リマシ
テ、大東亞戰爭完遂ニ勇往邁進セラレンコ
トヲ切望シ、本案ニ贊成ヲ致ス所以デゴザ
イマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=16
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017・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 是ニテ討論ハ終局致
シマシタ、三案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=17
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018・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ三案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=18
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019・森下國雄
○森下國雄君 直チニ三案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=19
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020・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 森下君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=20
-
021・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
大日本育英會法案第二讀會(確定議)
靑年學校〓育費國庫補助法中改正法律
案第二讀會(確定議)
公立學校職員年功加俸國庫補助法中改
正法律案第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=21
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022・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ、三案トモ委員
長報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=22
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023・森下國雄
○森下國雄君 議事日程追加ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此ノ際政府提出戰時特
殊損害保險法案ヲ議題トナシ、委員長ノ報
告ヲ求メ、其ノ審議ヲ進メラレンコトヲ望
ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=23
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024・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 森下君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=24
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025・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ追加セラレマシタ、戰時特
殊損害保險法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、
委員長ノ報告ヲ求メマス-委員長山本芳
治君
戰時特殊損害保險法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一戰時特殊損害保險法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十九年一月二十八日
委員長山本芳治
衆議院議長岡田忠彥殿
〔山本芳治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=25
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026・山本芳治
○山太芳治君 只今議題トナリマシタ戰時
特殊損害保險法案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ
御報告申上ゲマス
委員會ハ提案趣旨ニ付キマシテハ大藏大
臣ノ說明ヲ聽キ、法案ノ內容ニ付キマシテ
ハ政府委員ノ說明ヲ聽キマシテ質疑應答ヲ
進メタノデアリマスガ、質疑應答ノ中、主
ナルモノヲ御報告申上ゲマスレバ、第一ニ、
政府ハ保險事業全部ヲ國營乃至營國經營ニ
スル意思ハナイカ、特ニ生命保險ニ付テ其
ノ意思ハナイカト云フ質問ニ對シテ、政府
ハ近來保險事業ハ國營ノ領域ガ漸次擴大
セラレツヽアルガ、他方民間事業ハ獨自ノ
分野ニ於テ著シキ發達ヲ遂ゲ、且ツ現在ハ
國策ノ線ニ沿ウテ適正ニ事業ヲ經營シテ居
ルノデアルカラ、之ヲ國營乃至營國經營ニ
移ス必要ヲ認メナイト云フ答辯ガアリマシ
タ、次ニ本案ノ戰爭保險、地震保險ハ國家
ノ損益ニ於テ保險會社ニ經營セシムルコト
ニナツテ居ルガ、ナゼ國家ガ直接ニ經營ス
ルコトニシナカツタカト云フ問ニ對シマシ
テ、資材ト勞力ニ制約ノアル現在ニ於テハ、此
ノ保險ヲ急速ニ實施スルガ爲ニ保險會社ノ
普及セル組織網ヲ活用スルコトガ近道ト考
ヘテ立案シタト云フ答辯ガアリマシタ、次
ニ戰爭被害ニ對シテハ保險制度ヨリモ補償
制度ヲ執ル方ガ適切デハナイカト云フ質問
ニ對シテ、政府ハ補償制度ハ恩惠的ノ制度
デモアリ、且ツ給付ヲ受ケル額ナリ時期ガ
不明確デアルカラ、契約ニ基ク權利トシテ
定額ノ損害塡補ヲ認ムル方ガ民心ヲ安定セ
シムル上ニ效果ガ多イト考ヘルト云フ趣旨
ノ答辯ガアリマシタ、次ニ地震保險ヲ平時
ニ於テモ實施スル考ヘハナイカト云フ問ニ
對シマシテ、地震保險ニ付テハ尙ホ〓究ヲ
要スル事項ガ多イノデアルガ、戰時ニ於ケ
ル經濟生活ノ安定ヲ圖ルコトガ急ナルガ爲
ニ、此ノ制度ヲ實施スルコトニシタガ、併
シナガラ平時ニモ之ヲ實施スルコトニ付テ
ハ大イニ考究ヲ要スルモノガアルト云フ趣
旨ノ答辯ガアリマシタ、其ノ次ニ本案デハ
一部强制加入制ヲ執ツテ居ルガ、戰爭保險
ヲ全面的ニ强制加入制ニシナケレバ十分ニ保
險ノ效果ガ擧ラヌデハナイカト云フ質問ニ
對シマシテ、戰爭保險ノ加入ヲ全面的ニ强
制スルコトハ、國民ニ良イ感觸ヲ持タセナ
イト考ヘテ立案シタノデアルガ、併シ事態
ノ推移ニ應ジテ强制ノ地域ヲ擴大スルコト
モ考ヘテ居ル、尙ホ事業ノ實施ニ當ツテハ
大イニ勸奬シ、事業ノ普及ヲ圖ツテ、結果
ニ於テハ全面的ニ强制加入制ヲ採ツタノト
大差ナキ成績ヲ收ムルヤウニ努力スル考ヘ
デアルト云フ趣旨ノ答辯ガアリマシタ、次
ニ地震ノ被害ハ廣範圍ニ及ブコトガアル、
隨テ莫大ナル損害ノ額ニ上ルコトガアルノ
デアルガ、其ノ爲ニ國家ノ財政ニ影響スル
所ハナイカト云フ問ニ對シマシテ、戰時ニ
於ケル人心ノ動搖ヲ防止スルト云フコトヲ
急務ト考ヘテ、財政上ノ負擔ヲ厭ハズニ本
法ヲ實施スルコトニシタト云フ趣旨ノ答辯
ガアリマシタ、尙ホ風水害ニ付テモ地震ト
同樣ニ保險ニ依ツテ損害塡補ヲ行フ意思ハ
ナイカト云フ問ニ對シマシテ、政府ハ風水
害ノ危險ハ地域的デモアリ、季節的ニ偏在
シテ居ルノデモアリ、尙ホ或ル程度豫知セ
ラレル等ノ關係モアルカラ、保險制度トシ
テハマダ成案ヲ得ルニ至ラナイノデアルガ、
今後愼重ニ〓究スルト云ス趣旨ノ答辯ガア
リマシタ、其ノ外重要ナル諸點ニ付テ委員
側ヨリ熱心ナル質問ガアリ、政府側ヨリ懇
切ナル御答辯ガアツタノデアリマスガ、詳
細ハ速記ニ依ツテ御承知ヲ願ヒタイノデア
リマス
斯クテ本日委員會ハ討論ニ入リマシテ、
委員河野密君ヨリ原案贊成ノ意見ガアリマ
シタ、其ノ章見ノ中ニ、此ノ保險ノ財政ニ
及ボス影響ニ付テハ委員ノ言ハントシテ言
ヒ得ナイ點モアルノデアルカラ、其ノ點ハ
政府ノ方デ十分ニ考慮スルヤウニ、ソレカ
ラ國家補償ノ强化ト云フコトニ付テハ總テ
ノ委員ノ希望ガ溢レテ居ルノデアルカラ、
其ノ點モ考慮スルヤウニ、次ニ地震保險ノ
政府ノ政治上ノ狙ヒ、其ノ意圖ハ十分分ル
ノデアルガ、其ノ意圖ヲ以テ一般災害ノ損
害塡補ニ付テモ政府ハ愼重ナル考慮ト萬全
ノ策ヲ執ルヤウニ希望スルト云フ、希望ヲ
含ンダ原案ニ賛成ノ章見ノ開陳ガアリマシ
テ、採決ノ結果委員會ハ滿場一致原案ヲ可
決スルコトニ決定致シタノデアリマス、以
上御報〓致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=26
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027・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 本案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=27
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028・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=28
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029・森下國雄
○森下國雄君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ
可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=29
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030・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 森下君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=30
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031・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、議
案全部ヲ議題ト致シマス
戰時特殊損害保險法案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=31
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032・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリマ
セヌ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報〓通リ
可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=32
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033・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 次ニ御報〓致スコト
ガアリマス、議員牧野賤男君ハ昨年十二月
三十日、議員橋本祐幸君ハ昨二十七日何レ
モ逝去セラレマシタ、洵ニ痛惜哀悼ノ至リ
ニ堪ヘマセヌ、牧野君ニ對スル弔詞ハ去ル
一月五日議長ニ於テ先例ニ依リ贈呈致シマ
シタ、此ノ際兩君ニ對シソレ〓〓弔意ヲ表
スル爲メ、長野高一君及ビ大橋〓太郞君ヨ
リ發言ヲ求メラレテ居リマス、順次之ヲ許
シマス-長野高一君
〔長野高一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=33
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034・長野高一
○長野高一君 前ノ本院全院委員長牧野賤
男君ガ逝去セラレマシテカラ早クモ二旬餘
ヲ經過致シマシタ、此處ニ私ハ諸君ノ御同
意ヲ得マシテ、議員一同ヲ代表シ同君ノ御
逝去ニ對シ謹ンデ哀悼ノ意ヲ表シタイト存
ジマス
牧野君ハ明治八年二月新潟縣佐渡郡相川
町ニ生レマシテ、少壯靑雲ノ志ヲ懷イテ上
京セラレ、明治大學法律科及ビ中央大學高
等〓究科ニ於テ法律ヲ專攻セラレ、卒業ノ
後ハ一旦司法官ニ任ゼラレマシタガ、後幾
許モナクシテ官ヲ辭シ、辯護士ヲ開業セラ
レタノデアリマスガ、君ノ長クシテ而モ充
實セルアノ法曹生活ハ此ノ時ニ始ツタノデ
アリマス、其ノ間君ハ帝國辯護士會理事、
東京辯護士會副會長等ニ推サレ、在野法曹
界ノ權威トシテ令名嘖々タルモノガアツタ
ノデアリマス、又去ル昭和三年ノ第十六囘
總選擧ニ當リマシテ、東京府第五區ヨリ推
サレテ衆議院議員ニ當選セラレマシタガ、
爾來今日マデ每囘衆望ヲ負ウテ堂々當選ノ
榮譽ヲ擔ハレ、囘ヲ重ヌルコト六囘、在職
實ニ十五年十一箇月ノ長キニ亙ツテ居ラレ
ルノデアリマス、而モ此ノ間ニ於キマシテ、
君ガ國家憲政ニ寄與セラレマシタル所ハ頗
ル大ナルモノガアリマシテ、或ハ拓務參與
官トシテ直接拓務行政ニ參畫セラレクルヲ
初メトシ、幾多ノ委員ヲモ仰セ付ケラレテ
居ルノデアリマス、又特ニ君ハ選擧法ニ付
キ造詣極メテ深キモノガアリマシタ、其ノ
爲メ選擧制度調査會、議會制度審議會等ノ
委員トシテ、常ニ其ノ薀蓄ヲ傾倒シテ我ガ
議會制度ノ確立ニ盡瘁セラレタノデアリマ
ス、又舊臘第八十四議會ノ開會ニ當リマシ
テハ、本院ノ全院委員長ノ重責ニモ當選セ
ラレタノデアリマス、併シナガラ君ノ足跡
ハ單ニ法曹界ト中央政界ノミニ止マリマセ
又、卽チ曩ニハ東京市會議員ニ選バレ、或
ハ東京府會議員、同參事會員、將又東京府
會議長トシテ縱橫ニ其ノ才腕ヲ發揮セラレ
マシテ、帝都自治政ノ發展向上ニ盡瘁セラレ
タル功績モ亦及スベカラザルモノガアルノ
デアリマス、斯クノ如ク君ハ終始民衆政治
家トシテ、經國濟民ノ大業ニ尊キ其ノ生涯
ヲ捧ゲラレタノデアリマシテ、其ノ熱淚ニ
富ム君ノ性格ハ、君ヲ知ル者ヲシテ常ニ感
激禁ジ能ハザラシメタノデアリマス、卽チ
本月五日靑山齋場ニ於テ行ハレマシタアノ
盛ンナリシ御葬儀ハ、流石民衆ノ父トシテ
君ガ生前ノ御德望ヲ如實ニ物語ルモノガア
ツタト信ジマス
今ヤ時局愈〓、重大ニシテ、皇國ノ興廢正ニ
其ノ岐路ニ立ツノ秋、君ノ手腕ヲ俟ツベキ
モノ頗ル大ナルモノガアリマシタノニ、今
ヤ病ノ爲メ議會半バニシテ忽焉トシテ逝去
セラレマシタコトハ、私共トシテ洵ニ哀惜
痛恨ニ堪ヘザル所デゴザイマス
玆ニ議員一同ヲ代表致マシテ謹ンデ哀悼
ノ黴衷ヲ披瀝致シマシテ、君ノ御瞑福ヲ祈
ル次第デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=34
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035・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 大橋〓太郞君
〔大橋〓太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=35
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036・大橋清太郎
○大橋〓太郞君 只今議長ヨリ御報告ニ相
成リマシタル故橋本祐幸君ノ逝去ニ對シマ
シテ、院議ヲ以テ弔詞ヲ贈呈シ、其ノ弔詞
ハ之ヲ議長ニ一任スルノ動議ヲ提出致シマ
ス
此ノ際僭越デゴザイマスガ、私ハ此處ニ
諸君ノ御同意ヲ得マシテ、此ノ度逝去サレ
マシタ議員橋本祐幸君ニ對シ、議員一同ヲ
代表シ謹ンデ哀悼ノ意ヲ表シタイト存ジマ
ス
橋本君ハ明治二十三年一月二十八日福岡
縣福岡市ニ出生セラレ、東京帝國大學文科
ニ入學セラレ、特ニ社會學ヲ專攻セラレマ
シタ、次イデ大正七年、同大學卒業ト同時
ニ高等文官試驗ニ合格、直チニ警視廳ニ奉
職セラレマシテ、少壯有爲ノ官吏トシテ其
ノ前途ヲ囑望サレ、殊ニ警視廳管下ノ警察
署長トシテ、或ハ監察官トシテ、帝都治安
ノ第一線ニ挺身從事セラレマシテ、大イニ
治績ヲ擧ゲラレマシタノデアリマス、其ノ
後志ヲ政治ニ立テラレ、官ヲ辭メテ野ニ下
リ、昭和四年東京市會議員ニ當選セラレタ
ノデアリマス、爾來東京市會參事會員ニ、
或ハ同學務委員ニ選バレマシテ市政ニ貢獻
スル所極メテ多カツタノデゴザイマス、君ガ多
年市政ノ〓究ト警察行政ニ携ハリマシタル
所ノ經驗ト、其ノ明朗且ツ圓滿ナル人格ト
ニ依リ、擧ゲラレテ東京市ノ助役トナラレ
其ノ施策ノ上ニ大イニ才腕ヲ揮ハレマシタ
ルコトハ、諸君ノ旣ニ御承知ノ通リデアリ
マス、而シテ昭和十一年第十九回衆議院議
員總選擧ニ當リ東京府第一區ヨリ立候補サ
レマシタガ、衆望君ニ集マリ、見事榮冠ヲ
獲得致サレ、又越エテ第二十一囘總選擧ニ
於テモ是レ亦當選セラレマシテ、戰時下本
院議員トシテ國家憲政ニ盡サレタル功績ハ
甚ダ大ナルモノガアルノデゴザイマス、又
大政翼贊會ノ創設セラレマスルヤ、是ガ參
與トナラレ、今日マデ國民思想强化竝ニ實
踐運動ニ對シ特ニ御努力ヲ傾注サレテ居ツ
タコトハ、世ノ齊シク認ムル所デアリマス
今ヤ、戰局ハ極メテ重大ナル段階ト相成
リ、議會ノ任務亦愈〓重ク議員ノ職責益〓大ナ
ルモノガアリマス今期第八十四議會ノ審議
正ニ酣ナル時ニ當リ、君ノ如キ資性重厚ニ
シテ、高邁、事ニ處シテ悠揚迫ラズ、而モ
識見極メテ豐カナル同僚ヲ喪ヒマシタルコ
トハ惜シミテモ餘リアル事柄デアリマシ
テ、洵ニ議會ノ爲メ、又國家ノ爲メ一大損
失デゴザイマス
曩ニ加藤、助川兩君ノ殉難ハ言フモ更ナ
リ、近ク中野君、牧野君ノ計ヲ聞キ、更に
橋本君ト同時ニ市助役トシテ同席ニアツタ
同僚故豐田君ノ上ニ想ヒヲ馳スル時、轉タ
人生ノ常ナキヲ思ヒ、惆悵トシテ感慨無量
ナルモノガアリマス、橋本君ノ逝去ハ假令
身病床ニ倒レタリト雖モ、國家多難ノ際、
議員トシテノ職責ノ重大ナルヲ痛感シ、日
夜心肝ヲ碎キ、憂國ノ至情遂ニ一身ヲ國家
ニ捧ゲテ、御奉公ノ赤誠ヲ盡シタル結果ニ
外ナラナイト信ズルモノデアリマス、洵
衷心ヨリ哀悼ノ念ニ堪ヘマセス
玆ニ一同ヲ代表致シマシテ謹ンデ哀悼ノ
弔意ヲ表スル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=36
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037・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 大橋君提出ノ動議ニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=37
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038・岡田忠彦
○議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ハ可決セラレマシタ、玆ニ議
長ノ手許ニ於テ起草致シマシタ弔詞ヲ朗讀
致マシス
衆議院ハ議員從六位橋本祐幸君ノ長逝ヲ
哀悼シ恭シク弔詞ヲ呈ス
此ノ弔詞ノ贈呈方ハ議長ニ於テ取計ラヒマ
ス
議事日程ハ議了致シマシタ、明二十九日
ハ特ニ午前十時ヨリ本會議ヲ開キマス、議
事日程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日
ハ是ニテ散會致シマス
午後二時二十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008413242X00719440128&spkNum=38
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