1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年十一月二十八日(水曜日)午前十時四分開議
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議事日程 第一號
昭和二十年十一月二十八日
午前十時開議
第一 全院委員長の選擧
第二 常任委員の選擧
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001・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 第八十八囘議會閉會後に於ける諸般の事項報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=1
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002・会議録情報2
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〔參照〕
第八十八囘議會閉會後に於ける事項報告
去る九月二日卒去せられたる議員朴澤相駿君に對する弔辭は九月十五日之を贈れり
正三位勳三等公爵 山縣有道君
去る九月八日薨去せらる依て十日弔辭を贈れり
正三位勳一等 松井茂君
去る九月九日薨去せらる依て十月九日弔辭を贈れり
正四位勳二等 赤池濃君
去る九月十日卒去せらる依て二十日弔辭を贈れり
正三位勳一等 小泉親彦君
去る九月十三日薨去せらる依て十六日弔辭を贈れり
從三位勳三等 小日山直登君
從三位勳二等 津島壽一君
正三位勳一等 豊田貞次郎君
正三位勳一等 伊藤述史君
正四位勳二等 大木操君
從五位勳四等 松本健次郎君
去る十月五日貴族院令第一條第四號に依り貴族院議員に任せらる
勳三等 大藪守治君
去る十月十五日死去せらる依て二十二日弔辭を贈れり
正四位子爵 梅溪通虎君
正五位子爵 土屋尹直君
去る十月二十五日子爵議員補闕選擧に當選せらる
從二位勳一等男爵 白根松介君
正四位男爵 岡俊二君
從四位男爵 斯波正夫君
正四位勳三等男爵 大倉喜七郎君
去る十月二十七日男爵議員補闕選擧に當選せらる
從二位勳二等公爵 三條公輝君
去る十日薨去せらる依て十四日弔辭を贈れり
勳三等 鈴木幸作君
去る二十一日死去せらる依て二十五日弔辭を贈れり
正四位勳二等 小林次郎君
從六位 大平駒槌君
去る二十四日貴族院令第一條第四號に依り貴族院議員に任せらる
從五位勳六等 井坂孝君
同日願に依り貴族院議員を免せらる
一昨二十六日本院成立の旨を政府及衆議院に通知せり
同日衆議院より同院成立の旨の通牒を受領せり
昨二十七日政府より左の議案を提出せり
昭和二十年勅令第五百四十二號(承諾を求むる件)
同日議員より左の質問主意書を提出せり
國務大臣輔弼の責任に關する質問主意書(子爵大河内輝耕君提出)
同日内閣總理大臣より左の通第八十九囘帝國議會政府委員仰付けられたる旨の通牒を受領せり
政府委員
内閣副書記官長 三好重夫君
法制局長官 楢橋渡君
法制局次長 入江俊郎君
情報局總裁 河相達夫君
情報局次長 赤羽穰君
遞信院總裁 松前重義君
遞信院次長 新谷寅三郎君
戰災復興院次長 松村光麿君
外務省所管事務政府委員
外務政務次官 犬養健君
外務參與官 松浦周太郎君
外務省政務局長 田尻愛義君
終戰連絡中央事務局總裁 兒玉謙次君
終戰連絡中央事務局次長 西山勉君
内務省所管事務政府委員
内務政務次官 川崎末五郎君
内務參與官 中助松君
内務省地方局長 入江誠一郎君
内務省警保局長 小泉梧郎君
大藏省所管事務政府委員
大藏政務次官 田谷義治君
大藏參與官 山本粂吉君
大藏省主計局長 中村建城君
大藏省主税局長 池田勇人君
大藏省金融局長 久保文藏君
陸軍省所管事務政府委員
陸軍政務次官 宮崎一君
陸軍參與官 野口喜一君
陸軍中將 吉積正雄君
陸軍主計中將 森田親三君
海軍省所管事務政府委員
海軍政務次官 田中亮一君
海軍參與官 星野靖之助君
海軍主計中將 山本丑之助君
海軍少將 山本善雄君
司法省所管事務政府委員
司法政務次官 手代木隆吉君
司法參與官伯爵 渡邊昭君
司法省民事局長 奧野健一君
司法省刑事局長 佐藤藤佐君
文部省所管事務政府委員
文部政務次官子爵 三島通陽君
文部參與官 森田重次郎君
文部省學校教育局長 田中耕太郎君
厚生省所管事務政府委員
厚生政務次官 矢野庄太郎君
厚生參與官 田中和一郎君
厚生省衞生局長 澤重民君
厚生省社會局長 栗原美能留君
厚生省勤勞局長 佐伯敏男君
軍事保護院副總裁 數藤鐵臣君
農林省所管事務政府委員
農林政務次官 紅露昭君
農林參與官子爵 北條雋八君
農林省總務局長 楠見義男君
農林省農政局長 和田博雄君
食糧管理局長官 並川義隆君
商工省所管事務政府委員
商工政務次官 木暮武太夫君
商工參與官男爵 山根健男君
商工省總務局長 菅波稱事君
商工省燃料局長 岡松成太郎君
商工省整理部長 吉田悌二郎君
運輸省所管事務政府委員
運輸政務次官 新井堯爾君
運輸參與官 白川久雄君
鐵道監 滿尾君亮君
同 伊能繁次郎君
運輸省海運總局長官 福原敬次君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=2
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003・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 是より本日の會議を開きます、昨日開院式に於きまして賜りました 勅語に對する奉答書案を、議長に於て起草致しましたから、茲に朗讀して御諮りを致します
貴族院議長臣徳川圀順恐誠惶謹て叡聖文武 天皇陛下に上奏す
爰に第八十九囘帝國議會開院の盛典を行はせられ優渥なる
勅語を賜ふ臣等謹て
叡旨を奉體し愼重審議協贊の任を竭し以て
皇猷を贊襄せむことを期す 臣圀順恐懼の至に任へす謹て奉答す発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=3
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004・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 只今朗讀致しました奉答書案に、同意の諸君の起立を願ひます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=4
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005・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 總員起立と認めます、仍て奉答書案は全會一致を以て可決せられました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=5
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006・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 是より議事日程に移ります、日程第一、全院委員長の選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=6
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007・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました全院委員長の選擧は、此の際、成規の手續を省略致し、前會の委員長で在られました公爵島津忠重君を全院委員長に推すことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=7
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008・島津忠彦
○男爵島津忠彦君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=8
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009・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=9
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010・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます、即ち公爵島津忠重君が全院委員長に決定致しました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=10
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011・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 日程第二、常任委員の選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=11
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012・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました常任委員の選擧も、此の際、成規の手續を省略致し、總て前會と同一の委員を推すことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=12
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013・島津忠彦
○男爵島津忠彦君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=13
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014・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=14
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015・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます、就きましては第五部選出豫算委員公爵山縣有道君、第八部選出豫算委員赤池濃君、第三部選出懲罰委員松井茂君、第五部選出決算委員大藪守治君は孰れも逝去に付、又第一部選出請願委員井坂孝君は議員辭職に付、孰れも闕員を生じて居りますから、選出の各部に於て其の補闕選擧を行はれむことを望みます
〔議長退席、副議長著席〕
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=15
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016・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 請暇の件に付御諮りを致します、公爵西園寺八郎君、公爵毛利元道君、子爵冷泉爲勇君、阿部信行君、男爵本多政樹君、男爵原田熊雄君、麻生益良君、孰れも病氣に付會期中、小倉正恒君在支中に付會期中、森山鋭一君病氣に付十一日間、請暇の申出がございました、許可を致しまして御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=16
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017・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=17
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018・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 次に御諮り致しますることは、今議會は短期の議會でありまするから、議案配付後及び各讀會間に於ける成規の日數は之を經ずして議事を開くことに致したいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=18
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019・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=19
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020・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 尚本會議の開會中に委員會を開くの要求がありました場合には、議事に差支なき限り、議長に於て許可することに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=20
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021・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=21
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022・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 内閣總理大臣より發言を求められて居ります、此の際許可致します、幣原内閣總理大臣
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=22
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023・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 不肖揣らずも未曾有の難局に際しまして組閣の大命を拜し眞に恐懼に堪へませぬ、唯偏に粉骨碎身、以て聖明に應へ奉らむことを期して居る次第であります、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、去る十一月の十三、十四日の兩日、伊勢神宮、畝傍、桃山兩山陵に、又同十七日には、多摩山陵に、御親拜あらせられ、親しく終戰を御奉告あらせられたと承ります、行幸に當つて御警衞は努めて簡素にすべき旨仰せ出されましたが、沿道の地方民が眞心を籠めて奉迎申上げ、到る處其の眞情の溢れ出でたる幾多の麗はしき實例は、何人にも深い感銘を與へたのであります、現下の變局に當りまして、内治外交の有らゆる政策を決定する者も、又之を批判する者も、常に考量の中に加へなければならぬ一つの基礎的事實があります、今や我が國と聯合國との間に於て戰鬪行爲は全く終止することとなりましたけれども、平和の正常關係が恢復せらるるに至る迄には尚程遠い感があります、我々は對外問題の處理上、自ら正義なり、公平なりと信ずる政策は、飽く迄之を主張すべきが當然の事理でありまするけれども、唯之を徹底する爲に必要なる實質的國力を失つて居るのが現状であり、又敗戰國として避け得られない事實であります、固より人類社會には普遍的正義感が儼存し、侵し難い輿論の審判權も實在致しませうが、是さへも終戰に伴ふ世界各國の異常なる世相の下に未だ活溌には働いて居ないことは、諸君の容易に諒察せられる所でありませう、併しながら結局に於て世界の人心を制し、國内及び國際關係の羅針盤たるものは銃劍の力ではなく、徳義の力であり、合理的精神の支配でなければなりませぬ、世界の輿論も亦之を承認するでありませう、此の際國民は屈せず迷はず、終始正義公平の基準に則り、新日本の建設に努力することが、我々の進むべき唯一の目標であり、是こそ我が國運の前途に一條の光明を與へる燈臺でありませう、此の信念を以て私は國政の燮理に當らむと欲するものであります、我が國は「ポツダム」宣言の受諾に依り我が國民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障礙を除去するの義務を負ふものであります、我が國民の間に於て近代的民主主義傾向は明治時代から漸次芽生えつつあつたものが、近年反動的勢力に壓せられて發育を阻止せられて居たのであります、幸にして其の思想の根は枯れ失せたのではなく、今囘反動勢力の壓迫から解放せらるると共に、比較的容易に生活力を恢復致して、再び芽を吹くものと期待せられます、我我は今後共斯かる傾向の發達強化に何等の障礙を來すものがないやうに、特に意を用ひむとするものであります、之が爲には先づ議會をして、國民の總意を正しく反映するの機能を發揮し得しめなければなりませぬ、議會が民意の反映の機能を確保せむが爲には、先づ全然自由公正なる選擧に俟つの外はないのであります、現行の衆議院議員選擧法は、此の見地から檢討致しまして、時局の要求に適しない所があると認められまするから、同法改正案の準備を急ぎ、之を本議會に提出して、御審議を煩さむとするものであります、今囘本臨時議會の召集を奏請致しましたる主なる理由も亦實に茲に存するのであります、次に近代的民主主義傾向を復活強化する根本の要件は、教育の刷新であります、政府は軍國主義及び極端なる國家主義的教育を拭ひ去り、教育の目標を以て個性の完成に依る、國家社會への奉仕に置くこととし、特に公民教育の劃期的振興を期するものであります、又申す迄もなく民主主義の基盤となるものは、國民の毅然たる自由獨立の精神であります、今日我が國民の中には、物心兩面に於ける最惡條件に壓倒せられて、自暴自棄に陷るの傾向なしとしないのであります、近來公私の道徳共に著しく頽廢の状あるのを見て、我が國の將來の爲に誠に寒心に堪へませぬ、是は何としても社會教育の刷新強化に依り道義の昂揚を圖り、自由獨立の精神と、再起復興の意氣込とを失はないやうに致さなければならぬと考へて努力を致して居る次第であります、政府は組閣以來、言論、思想、結社の自由を確保せむが爲に、政治的、公民的、宗教的自由を拘束する、各種法規を撤廢すると共に、特高警察を廢止して、民衆の信頼と協力とを博するに足るべき明朗なる警察の運營に付て、格段の注意を加へて居る次第であります、自由主義の完成は常に個人の責任觀に依つて裏付けらるべきものでありまして、決して放縱無節制の事態を意味するものではありませぬ、公の秩序や善良な風俗を紊すが如き言論行動は、當然法令の假借する所なき制裁を受くべきものであります、我が國當面の急務は、國民生活の安定であります、滿洲事變以來引續いて、十數年に亙る戰爭に依り、生産力の大部分を消盡し、民力も極端に疲弊致して居りまする現状に於きまして、民生の安定には有らゆる手段を考究し、且急速度を以て之を實行しなければなりませぬ、殊に最も緊切なる處理を要するものは食糧の問題であります、本年の産米は、大正、昭和を通じて比類の稀なる大減收を豫想せられ、現状の推移に任して置きまする時には、誠に容易ならざる事態に立到るものと認めまして、同問題の解決を以て施策の中心とし有らゆる努力を集中致して居るのであります、即ち一方に於きましては本年の産米を確保せむが爲に供出制度の改善、米價の引上等の措置を講じ、又未利用資源の食用化に付きましても、急速に之が實現を圖ることと致して居るのでありまするが、斯かる百般の國内對策を講じましても、食糧の需要供給間の大いなる不均衡は到底掩ふべくもありませぬ、其の不足數量の補填の爲には何としても國外からの輸入に仰がなければならぬのでありますから、之に關しましては聯合國側の同情ある考慮を求めて居りました處が、今囘原則的には其の承認を得ましたので、今後更に其の具體化に付て適當なる結果を得らるるやう努力する所存であります、他の一方に於きまして、我が國は敗戰の結果、食糧生産地たる諸方面の領土を失ひ、且國内人口の著しき集約を見るに至りましたから、今後の食糧問題は別に根本的解決を圖る必要があるのでありまして、政府に於ては之が爲農地制度の改革と開拓計畫の實現とを強力に推進致したい考であります、即ち從來久しきに亙つて農業停滯の因を爲したる現在の農地制度に根本的改革を加へ、健全なる農家を育成して農業生産力の培養を圖ると共に、大規模の開墾及び干拓を急速に遂行する考であります、尚水産物其の他の蛋白資源の格段なる開發を期して居る次第であります、更に民生の安定上重要なる問題は戰爭に依る犧牲者の救護、在外同胞及び復員者の援護竝に冬季を眼前に控へて生活必需品の補給の問題であります、是等の問題に付きましては、有らゆる機關を動員して全力を擧げ之に對處致して居るのであります、殊に住宅の問題は最も深刻でありまするので、簡易住宅の建設、罹災せる堅牢建設物の補修、及び工場寄宿舍、兵舍等の改修を促進し、又非常措置として住宅緊急措置令の制定に依り、住宅對策に遺憾なきを期することと致した次第であります、朝鮮、臺灣樺太、滿洲等に於ける在住同胞の生命財産の保障、生活の確保、竝に之に伴ふ情報の入手等に付きましては、百方力を盡して居るのでありまするが、終戰後に於ける、交通連絡の不如意、其の他現地の混亂状態等の爲、我が目的の達成は事實上容易ではありませぬ、多數の在外同胞は眞に同情痛心すべき状態にあるものと想像されまするので、何とか速かに改善の實を擧げたく努力を續けて居る次第であります、復員者、海外同胞の本國引揚に付きましては、既に南朝鮮、北支那、太平洋諸島等より漸次同胞の歸還を見て居る次第でありまするが、之が輸送、受入、及び援護に關しましては、萬全の措置を講じつつあります、是等軍復員者、海外引揚者竝に産業離職者、其の他終戰に伴ふ失業者は數百萬に及ぶ厖大なる人員を豫想せらるるのでありまして、之が職業を保障することは極めて緊急且切要なる國務に屬するのであります、此の失業問題に付きましては、政府に於て復興に要する土木、建築及び農林、水産の開發等、諸事業の急速實施、民需産業の振興、各種文化施設の整備充實の措置と關聯せしめつつ所要の對策を講じて居る次第であります、斯かる民生安定の問題と相竝んで重要なるものに戰後復興の問題があります、政府は曩に戰災復興の諸施策を強力一元的に遂行する爲に戰災復興院を設けまして、産業の立地及び人口の配分に關する國土計畫を統一ある構想の下に立案すると共に、之を基礎として各都市の再建を計畫し、以て全國に亙つて一億五千萬坪に及ぶ戰災地の復興を圖ることと致したのであります、戰災地の復興は産業の復興に依つて可能となるのでありまするが、之が爲には必需品輸入の支拂資金の確保に要する輸出産業の發展竝に國内に於ける民生必需品の増産は極めて緊要なことであります、斯かる産業政策は民間經濟人の自由なる創意と、活溌なる活動に俟たなければなりませぬ、從つて之が障礙となるが如き從來の諸統制は、事情の許す限り之を廢棄しつつあるのであります、併しながら物資の不足甚だしく、又戰爭に因る損壞の著しい現状に於きましては、民生の安定を確保し、經濟の再興を促進するが爲に、鐵、石炭、纖維品等、産業上又は民生上の基本的物資に付きましては、尚相當の統制を必要とするのでありまして、統制は此の種の物に局限し、而も其の統制の實施に付きましても、努めて民間の創意工夫を土臺とし、其の自治的なる運營に委ねたい方針でありまするが、今後に於ける我が國の産業は主として中小商工業に依存するものと考へられまするので、國家としても積極的なる指導援助は極めて重要であると考へます、之に對應して民主主義的に勤勞問題を解決する爲には、勞働組合の健全なる結成活動は極めて望ましい所でありまして、之に必要なる法令の立案に努めて居る次第であります、民生の安定と戰後の復興に付きまして、海陸輸送力の急速なる増強と、通信連絡の復興は一切の根柢をなすものでありまするから、現在許される有らゆる手段を盡して輸送、通信の力を成るべく昂めるやう鋭意努力致して居るのであります、殊に軍の保有に係る自動車は聯合國軍の好意に依りまして、民間に開放せらるることになりましたから、小運送を通じて國土の復興、民生の安定に多大の貢獻を期待し得られましたことは誠に御同慶の至りであります、多年に亙る戰爭に因る國力の消耗、甚大なる國庫負擔の累積、敗戰に因る國土の喪失、賠償の實行等に伴ひまして、戰後の我が國の財政状態は眞に憂慮すべきものがあります、此の際經濟秩序の破綻を防止し、惡性通貨膨脹の發生を防遏し、以て經濟活動の促進と通貨價値の安定を圖ることは極めて緊要であります、政府に於ては大幅な行政整理の斷行、恩給制度の再檢討、價格差補給金制度の原則的廢止等の絶對的緊縮方針を斷行すると共に、他面物價の安定と財政の建直し等を圖る爲、一囘限りの財産増加税、及び財産税を創設し、以て國債の大幅償却に充つると共に、戰時利得に依る國民所得の不均衡を是正するの方途を講ずる考であります、尚是と照應して軍需企業等に對する補償に付きましては、有らゆる角度から愼重に檢討致しましたる上、之を嚴正に處理する方針であります、又臨時軍事費特別會計に付きましては、海外に於ける經理の内容を短期日内に明確ならしめることが出來なかつた等の事情の爲に、之が打切りを實現し得られなかつたのでありますが、終戰事務の進捗に伴ひ、愈愈十二月一日を以て臨時軍事費特別會計の所管を大藏省に移管し、且明年三月三十一日を以て其の支出を打切り同會計を終結せしむることと致した次第であります、最後に大東亞戰爭敗績の原因及び實相を明かにすることは、之に際して犯したる大なる過誤を將來に於て繰返すことのない爲に必要であると考へまするが故に、内閣部内に大東亞戰爭調査會を設置し、右の原因及び實相の調査に著手することと致しました、以上施政の大體に關する政府の所信を述べたのでありますが、萬世の爲平和の基礎を固むるやう軫念あらせられる 聖慮に應へ、官民は一體となつて旺盛なる建設精神を發揮せむことを切望するものであります(拍手起る)
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=23
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024・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 總理大臣の演説に對し質疑の通告がございます、是より許可する筈でございまするが、先程政府より提出せられました昭和二十年勅令第五百四十二號承諾を求むる件を議事日程に追加し此の際之が會議を開くことに致したいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=24
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025・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 御異議ないと認めます、楢橋法制局長官
〔左の提出文及案は朗讀を經さるも參照のため茲に載録す以下之に傚ふ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=25
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026・会議録情報3
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昭和二十年勅令第五百四十二號
右帝國憲法第八條第二項に依り承諾を求むる爲
勅旨を奉じ帝國議會に提出す
昭和二十年十一月二十七日
内閣總理大臣 男爵 幣原喜重郎
海軍大臣 米内光政
司法大臣 岩田宙造
農林大臣 松村謙三
文部大臣 前田多門
陸軍大臣 下村定
外務大臣 吉田茂
内務大臣 堀切善次郎
國務大臣 松本烝治
厚生大臣 芦田均
國務大臣 次田大三郎
大藏大臣 子爵 澁澤敬三
運輸大臣 田中武雄
商工大臣 小笠原三九郎
國務大臣 小林一三
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昭和二十年勅令第五百四十二號
朕茲に緊急の必要ありと認め樞密顧問の諮詢を經て帝國憲法第八條第一項に依り「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件を裁可し之を公布せしむ
御名 御璽
昭和二十年九月二十日
内閣總理大臣 稔彦王
國務大臣 公爵 近衞文麿
海軍大臣 米内光政
運輸大臣 小日山直登
大藏大臣 島津壽一
司法大臣 岩田宙造
農林大臣 千石興太郎
國務大臣 緒方竹虎
内務大臣 山崎巖
商工大臣 中島知久平
厚生大臣 松村謙三
文部大臣 前田多門
國務大臣 小畑敏四郎
陸軍大臣 下村定
外務大臣 吉田茂
勅令第五百四十二號
政府は「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ聯合國最高司令官の爲す要求に係る事項を實施する爲特に必要ある場合に於ては命令を以て所要の定を爲し及必要なる罰則を設くることを得
附 則
本令は公布の日より之を施行す
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〔政府委員楢橋渡君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=26
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027・楢橋渡
○政府委員(楢橋渡君) 只今上程せられました昭和二十年勅令第五百四十二號「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件に對し、帝國議會の承諾を求むるの件に付きまして、其の提案の理由を説明申上げます、本年九月二日調印を了りました降伏文書に依りますれば、爾後帝國政府が聯合國最高司令官の要求に從ひまして、「ポツダム」宣言受諾の施行實現の爲必要なる一切の措置を執るべきことと相成つたのであります、而して右最高司令官の要求に付きましても、必要に應じ強制力を行使し得るやう萬遺憾なき態勢を整ふることが必要と相成つたのであります、而も最高司令官よりの要求の處理は、御承知の如く時に極めて急速を要することがありますので、政府は帝國憲法第八條第一項の規定に基き、本件勅令の制定を仰ぎ、聯合國最高司令官の發する要求に係る事項を實施致す爲、特に必要ある場合に於ては隨時命令を以て所要の事項を改訂することを得る旨の御定めを願つた次第であります、何卒御審議の上速かに御承諾下さらむことを希望致します
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=27
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028・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 此の際、議案の審査を付託すべき特別委員の選擧に移ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=28
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029・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました特別委員の選擧は、本議會中特別の場合を除き、其の特別委員の數を九名とし、其の指名を議長に一任するの動議を提出致します、而して只今上程せられました昭和二十年勅令第五百四十二號の特別委員の數を十九名とし其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=29
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030・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=30
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031・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=31
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032・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 御異議ないと認めます、特別委員の指名を書記官をして朗讀致させます
〔河野書記官朗讀〕
昭和二十年勅令第五百四十二號(承諾を求むる件)特別委員
公爵 二條弼基君 侯爵 西郷吉之助君
伯爵 黒田清君 子爵 八條隆正君
子爵 土岐章君 子爵 松平親義君
山田三良君 松村眞一郎君
村上恭一君 大野緑一郎君
男爵 中川良長君 男爵 東郷安君
男爵 關義壽君 男爵 明石元長君
竹下豊次君 唐澤俊樹君
中島徳太郎君 松井貞太郎君
大谷五平君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=32
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033・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 是より國務大臣の演説に對する質疑を通告順に依り許可致します、松村眞一郎君
〔松村眞一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=33
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034・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は食糧問題に關聯致しまして、總理大臣及び農林大臣に御質問を致すのであります、食糧事情が極めて緊迫の事態にありまして、之に對して緊急なる施設を爲すことの必要なることは、只今總理大臣の御演説中にもあつたことでありまして、國民は今日食糧問題に對しまして、政府の最善の御努力に對して、深く感謝致して居るのであります、此の度食糧の輸入の途の開けましたことは、誠に御同慶の至りであります、併しながら此の食糧に對しまする國民の不安と申しまするか、未だ安定の氣分には落著いて居らないやうに私は考へるのでありまして、其の對策として何處に重點を置くべきやと云ふことは、誠に大切なる問題であると考へるのであります、政府は食糧に對しまする對策を定めるに當りまして、從來十一月の一日から翌年の十月三十一日に至る迄の滿一年を、以前は米穀年度と稱し、今日に於ては食糧年度と定めまして、其の間に於ける需給推算を樹て、さうして食糧配給の基準を定めて居るのでありますが、現在配給基準として定められて居るのが二合一勺と云ふことになつて居るのであります、併しながら從來此の標準に付きましては二合三勺と云ふことに依りまして、長く實行し來つたのであります、國民の食糧配給の常識としては二合三勺と云ふことになつて居るのであります、本年七月政府が配給に關しまする年度末迄の見透しを更に考へられた結果、其の配給量を二合一勺と云ふことに定められたのであります、是は長く行ひ來りました慣例を此處に改められたのであります、それが爲に色々な方面に於て食糧不安の感を與へる結果となつたやうに私は感じるのであります、其の後、都市に生活致して居ります者は、附近農村に對しまして買出に出掛けると云ふ状態が著しく増して參つたのであります、闇値段に依る取引が其處に横行して參つたのでありまして、其の結果農村自身に於きましても亦闇取引と云ふやうな關係から、色々な物資を求めなければならないやうな事態に循環して參つたのであります、其の因は一般人の配給基準が減じたと云ふ所に出發があると云ふやうに感じるのであります、農村に於きましては政府に供出を致し、其の供出は殆ど百「パーセント」に近いだけの努力を致して居るのであります、僅かに自家保有米として有して居りまするものの中からそれを交換物資として、或は提供し、都市の人々から求めらるるが爲に、已むを得ずして之を賣渡して居ると云ふやうな事態が、生じ來つて居るものと私は考へるのであります、一般の都會の人が農村に向つて食糧を求めまするが爲に已むを得ず賣出すことの結果になることが多いと私は思ふのであります、さうして例へば農村の人々が或は農具の修理であるとか、自轉車の修繕であるとか、或はお醫者さんにかかると云ふやうな場合に、何卒米を持つて來て戴きたいと云ふやうなことがあるやうに聞くのであります、それは一般人である所のお醫者さんであるとか、或は農機具の修理者であるとか、自轉車の修繕に從事して居る人々が配給量が少きが爲に自己の生活を維持する關係上農村に向つて斯かる要求をすることも生ずるのでなからうかと思ふのでありまして、即ち一般人の配給基準が少きが原因であつて、是が農村自身の自家保有米の中を割いて交換物資に使ふことになり、都市に對する供給をなさざるを得ざるが如き状態に迄入るやうな工合になるのであらうと私は思ふのであります、事態斯くの如き場合に於きまして其の原因の方を能く救ふことをせずして、茲に闇取引の取締を嚴重に致すと云ふやうなことで、此の現象を停止せむと欲しましても、是は非常に不可能なことであり、或は無理を強ふると云ふが如き感を國民に與へることなきやを私は心配致すのであります、併しながら政府としては實際の需給關係から、及び政府の力の及ぶ關係から考察されまして、そこに二合一勺と云ふ基準が設けられて居るのでありまするか、其の根本の不足を補ふが爲に政府は三百萬「トン」を標準として外國より食糧の輸入を求めることの御努力に相成つたのであります、此の度其の輸入の途が開かれましたことを機會と致しまして、政府は配給基準の常識である所の二合三勺と云ふ所に早く復舊をしたい心持であると云ふことを、茲に國民に對して明かにせられることが色々な弊害を止める最も適當な方策でないかと考へるのであります、直ちに之を實現することは、或は政府に於て色々な數量上の關係、其の他の手續上色々な問題もあらうと考へまするけれども、其の心持を國民に對して明かにせられ、之を機會として國民と共に其の二合三勺を維持し得るやうに、農村に向つて無理なる要求をすることを都會人は愼しみ、さうして農家は安心して本年の供出米をも提供し得るやうに致すのが、最も宜いことでないかと思ふのであります、農村に於きましては、自家保有米に對しまして大變に重きを、今日は置いて居るのであります、或は政府割當の供出が其の關係から豫期の效果を擧げざるが如きことを見ましたならば、將來の配給上色々な支障を生じ、國民生活上に不安定を來すことと考へられますので、私は其の意味に於きまして、政府は速かに二合三勺に復すると云ふことを、茲に聲明せられ、尚速かに之が實行をせられむことを望むのであります、次に本年度の需給關係の調節上、如何に致しましても政府割當の供出は、農村からして戴かなければならぬのでありまするが、農村に於きましては、政府の割當に對しては、出來るだけの努力を致し、其の職責を盡すことに努めて居るのであり、事實さう云ふやうに現れて居るのでありますが、之が供出を十分に致しまする爲には、農業資材を政府の方面に於きまして、確實に提供せられることが最も必要なことと考へるのであります、肥料に對する割當を農家が通知を受けましても、其の通りの配給を得て居ないと云ふやうなことを農村の方では申すのでありまするから、斯かる方面に於て十分に政府に於て御努力あらむことを希望致すのであります、食糧事情を裕かに致します爲には、如何に致しましても生産の増加を爲すことが必要でありまするが、此の増加の爲には地力の維持、増産の爲に、政府の配給されまする無機肥料の外に、有機肥料の確保を農家をして努めしむることが、非常に必要なることであると存ずるのでありまするが、此の自給肥料の給源である所の厩肥、堆肥であるとか、緑肥の栽培であるとか云ふ方面に於て、政府に於きまして一段の御努力を願ひたいと思ふのでありまするが、厩肥に付て重點を置くと共に、都市の屎尿問題に付て政府は一段の御指導をせられることが私は必要であらうと思ふのであります、都市と農村との結付きに於きまして、都市の必要と致します所の蔬菜の供給が、今日の都市計畫の状態に於きましては、水洗の設備を以て、徹底的に施設することの出來ない状態にある屎尿の處理は、都市として最も考慮を拂はなければならぬのでありまするが、之を單に都市に於ける汚物を除却するのであると云ふ考でなく、附近農村に對しまして、有機肥料の給源を供給するのであると云ふ意味に於きまして、都府縣密接なる關係に結付けると云ふことも、今日の場合必要であると思ふのでありまして、京都市と滋賀縣に於ては斯くの如き状態が既に生じて居るのであります、東京都の如きは、都の經費と勞力とを以て、附近の千葉縣であるとか、埼王縣であるとか云ふが如き所に貯溜槽の如きものを、都の費用を以て建設し、さうして其處迄都の費用を以て送り屆けると云ふことが如き、深切なる態度を農村に示し、さうして農村の方から蔬菜の供給を受けると云ふ如き施設を徹底的に政府が御奬勵になる必要があると思ふのでありまするが、それに對しましてどう云ふやうに御考へでありませうか、次に畜力を利用致しまして、特に馬耕の奬勵の如きことを致すことは、農耕の勞苦を輕減し、適期耕耘を助くる所以でありまするが故に此の農村の人の力を以て耕作致して居りまする状況を成るべく畜力化し、機械化することに依つて、農村に餘裕の時間を與へ、さうして文化向上の爲にも時を得、地方自治の爲にも盡し得るやうなことに、出來るだけ政府の方で御援助せられる必要があると思ふのでありまするが、此の點に關しまして政府は特に奬勵をせられる御考があるかどうかと云ふことを伺ひたいのであります、厩肥の問題、或は馬耕と申しまするが如き馬の利用と云ふやうなことを奬勵するに付きまして、茲に必要なる經費の源を考へる必要があると思ふのでありまするが、私は競馬法に依る政府納付金を之に當つるのが適當であらうと考へるのであります、競馬法には政府納付金の用途は馬の爲、社會事業の爲と云ふことになつて居るのでありまするから、此の規定に依りまして、社會事業としては罹災者救護の爲に之を用ひ、馬の爲には馬耕、厩肥と云ふが如き奬勵をせられることが非常に適切であると考へまするのみならず、馬劵税の繼續に依りまして、之が收入は「インフレ」防止に御使ひになることも出來ると考へるのであります、政府は寶籤なるものを發行せしめられて居りまして、一人一枚と云ふのでなく何枚でも買ふことを認められ、さうして十圓の劵面で一等籤十萬圓と云ふが如き方法を以て發行せしめられて居るのでありまするが、競馬の馬劵は二十圓の劵面であり、拂戻金は十倍の二百圓を限度として居るのであり、一人一枚と云ふ如き制限を以て發行せしめられて居るのでありまするから、社會に對する僥倖心を挑發すると云ふが如き弊害は餘程低きものであると考へるのでありまするが、此の競馬場の施設を軍事の爲に用ふることを必要なりと政府がせられまして、競馬の施行を停止して居るのでありまするから、今日軍事上の問題のなくなりました場合、速かに再開せしめられることを私は適當なりと考へるのであります、さうして此の再開を速かにせられ、只今申しました馬劵税の收入、政府納付金、其の用途を以て食糧の増産にも貢獻せられることが出來ると考へるのでありまするが、尚政府は此の米の問題に付きまして、生産者價格と消費者價格と、二重價格制度として存續せられて居る關係上、生産者に對しまして特別の奬勵金を交付する場合、之が財源に付ての問題が、農林大臣としては御就任の當時に於きましても御話のあつたやうな状態でありまするから、私は適當な機會に於て競馬法を改正せられ、競馬法の政府納付金は食糧増産、其の他農事振興の爲にも使用すると云ふことに改められるが適當なりと考へるのでありまして、其の場合改正を行はるるならば、先程申しました馬劵に關する金額の制限であるとか、拂戻金額の制限であるとか、或は枚數制限であると云ふが如きものは撤廢せられ、今日の事態に適當な方法に改められることを然るべしと考へるのでございます、私は此の競馬法の馬劵或は寶籤と云ふやうな問題に關聯致しまして、例へば嘗て「ソ」聯邦が行つて居りました如き無利息の公債を發行せられ、そして富籤を附けて之を賣出す、政府自らがさう云つた事柄を行はれて「インフレ」防止に貢獻されることも私は適當ぢやないかと考へるのでありまするが、政府は既に映畫であるとか、劇場であるとか云ふ方面の屋内の娯樂は既に認めて居られるのでありまするから、屋外に於ける明朗娯樂として競馬を認められることは、私は適當なりと考へるのでございます、政府の考は如何でありますか、次に食糧の綜合配給の爲に農産物のみならず、水産物、畜産物に至る迄の問題を綜合して取扱ふ行政機構を茲に定められることを私は適當なりと思ふのでありまするが、政府はどう云ふ風に御考になるでありませうか、農産物で申しますると云ふと、私は政府の施設と致しましては、米、麥、甘藷、馬鈴薯、大豆と云ふが如き大量生産の物に行政を集中せられ、水産物に於きましては鰮、鰊、鱈、鯖、鰺、烏賊と云ふが如き物、或は淺海養殖と致しましては淺蜊、淡水養殖と致しましては鯉、畜産物と致しましては豚と云ふが如き、大量的の公衆向の物に付ての大綱に付ての行政を中央政府に於ては司られ、色々な未利用資源の利用であるとか、其の他種々の食糧品に付きましては、或は他方團體であるとか、公共の團體であるとか云ふが如きものに任せられることも適當でないかと思ふのでありまするが、之が爲には從來の如き委員會であるとか云ふ片手間の組織でなく、茲に專屬の綜合的行政機構を設けられまして、食糧に對する全般的の考察をせられ、榮養的の見地から一段の考慮を加へることにせられまして、且食糧に關する調査資料を充實し、之を國民一般に公示せられ、政府は國民と共に食糧問題に付て方策を確立し國民と共に食糧問題を解決するの態度に出でられることが適當なりと考へるのでありまするが、從來政府に於きましては食糧に關する種々の資料を世間に公表せられることが餘り度々でないのであります、私は、一昨日の朝日新聞に食糧に關しまする統計的の記事が載つて居つたのでありまするので、食糧管理局に就きまして其の掲載事項に付ての説明を承りたいと思ひまして、伺つたのでありましたが、是は政府から直接に公表したものでないと云ふことを承りまして、實は寧ろ失望した次第であります、それは昭和二十一年度政府所有主要食糧月別需給、需要量は二合三勺、三百三十「グラム」を基礎とする計算と云ふ非常に精密なる表が見えて居るのであります、是は世間から見ますると云ふと、政府の方に於て斯くの如き資料を提供せられたる如き感を與へる程、極めて精密なる調査に出來て居るのであります、私は斯くの如き程度の資料は政府に於て時々公表せられ、國民が食糧事情を十分に了解し得るやうにせられむことを希望する意味に於きまして、綜合行政機構に於て斯くの如き事項に付きましても、十分なる施設をせらるるやうに致したいと考へるのでありまして、政府に於て調査研究されます所の色々な資料は、是は國民の資料である、此の資料に依つて國民自らが色々な方策を考へ、さうして國民全體の爲に此の方策が行はるべきでありまして、「リンコルン」の言つて居ります「オヴ・ザ・ピープル、バイ・ザ・ピープル、フオア・ザ・ピープル」と云ふ此の民主主義的政府の施設と云ふものは、先づ食糧問題より始めると云ふことを政府に御願ひ致したいのであります、私は最初に申しました二合一勺を二合三勺に致しまする問題に付て斯くの如く考へて居るのであります、政府は外國よりの食糧の輸入が出來ました場合に、其の食糧は先づ農家の生産者の希望に依りまして、農家の保有米の一部に對して還元配給をすると云ふことの考へ方は如何であるか、それは此の窮迫致して居ります米穀食糧事情に於きまして、都市の方方が農村に行かれまして、色々な食糧を求めて來られて居る、其の部分を政府に於て一手に纏めて、農家をして供給せしめられ、政府の手に於て配給せられると云ふ方法を茲に確立せられましたなれば、都市の個々の人々は自ら交通機關の混雜を惹き起すが如き状態に於て農村に出掛けて行く必要がなく、交通は極めて圓滿に參るのでないかと思ふのであります、今日農村の方で無理をして自家保有米の一部をも割いて居ると云ふ事情を考へますならば政府は農村に對しまして自家保有米の一部でも緊急提供の意味に於て政府に供出せられました場合、特別な價格を以て之を政府は買入れ、さうして其の特別の價格よりも低き價格を以て外國より輸入しました所の食糧を農村に優先的に希望に依つて之を又賣渡す、此の還元賣渡の代金は政府が買取られた場合の代金よりも低き代金を以て農家に譲渡すと云ふことにせられたならば、農家も事情の許します限り自家保有米の一部を提供し得るのでなからうかと思ふのであります、是は食糧事情が年度の初めに於きましては豐かでありまするけれども、此の食糧年度の状況に於きましては、三月、四月、五月六月と云つたやうな時期に於て窮迫の事態を生ずるが如き計算に出て參るのでありまするから、それより以後に充つべき部分の食糧品が農家に於て存在するものなりとすれば、豫め政府に於て之を買取られると云ふ意味の自家保有米買入れと云ふことを今申して居るのであります、さうして外國より食糧品の輸入がありました場合、之を消費者に賣渡す場合に於きましては、政府の二重價格制度の關係上安く拂下げることになるのでありまするから、寧ろ農家の方に農家の希望に依つて還元譲渡を致した方が却て政府の財政上には有利なる關係を生ずる譯であります、只今申しました如き方法を以て、或は二合一勺の標準を二合三勺の標準に速かに改め得るのではなからうかと考へるのでございまするが、政府に於かれましては其の點に付てどう云ふやうに御考慮になつて居るのでありませうか、其の點を御伺ひ致したいと思ふのでございます
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=34
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035・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今松村君の御質疑中御述になりました諸點は、誠に建設的御意見として深い興味を以て拜聽致したのであります、其の中で委細な點は農林大臣から御答辯があると存じまするが、食糧問題に付きましては、政府より萬事を打明けて、國民の了解を求め、國民と一緒になつて解決しなければならぬと云ふ御意見に付きましては至極同感であります、政府は同一の趣旨に依りまして百方努力致して居る次第であります、仰せの如く此の問題に付きまして國民の十分なる理解なく、眞劍なる努力なくして、協力なくして到底此の重大問題の解決は出來るものではありませぬ、唯御述になりました一點として、食糧の綜合行政機構を設置するやうにと云ふ御意見に付きましては、現に農林省は實質上には一元的に食糧行政を擔任致して居るのでありまして、別に綜合的行政機構を拵へると云ふ者は政府は持つて居りませぬ、是だけのことを一言御答へ申上げて置きます
〔國務大臣松村謙三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=35
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036・松村謙三
○國務大臣(松村謙三君) 御答を申上げます
第一に主要食糧増配の問題でございますが、御話通りの事情でございまして、二合三勺と云ふのは近年それで大體慣れて參りました數字でございまして、之に是非還元を致したい、是でも十分ではありませぬけれども、少くとも此の程度に還元を致したいと存じて居りましたが、併しながら御承知のやうな如何にも惡い食糧の需給状態に於きまして、此の復元と云ふことが容易なことではございませぬで、若し之を將來の見据が付かないのにやりました時には、後日大きな食糧不足の穴があきまして收拾の出來ない事態になることを虞れて、只今迄二合一勺と云ふことで國民の御辛抱を願つて參つて居つたのでありますが、今度幸に聯合國の司令部より食糧の輸入の原則的の許しを得ましたことは、是は何と申しましても、此の非常に陰慘な食糧問題の前途に明るい光明を與へましたものでございまして、本當に國民と共に欣快に堪へない所でございます、併しながら只今は尚輸入せらるべき數量、時期等がまだ決つて居りませぬので、政府と致しましては直ぐさま其の量及び時機の要請に全力を盡したいと思うて居ります、此の數量が見据が付き、前途の豫期が出來ますならば、只今御話の通りに二合三勺の點迄は是非還元致したいものと存じて居る次第でございます、併しながら此の二合三勺迄還元致しますのには、單に海外の輸入が豫定通り入つたと云ふだけでは出來得ませぬので、本當に國民の此の食糧問題に對する心からの協力を得まして、消費者の側に於きましても十分消費を規正し、又闇等の自分だけが活きると云ふが如き考を捨てて、消費の規正に努められ、又生産者の側に於きましても十分供出に努力をして、同胞を救ふ氣持を以て供出を致して戴きませぬならば、此の二合三勺と云ふ最低の線に還元も容易に出來ないことでございまして、私は國民の協力を期待致しまして、是非出來るだけ近い將來に二合三勺に還元を致したいものと心得て居るものでございます
〔副議長退席、議長著席〕
第二には肥料の問題でございますが、肥料が今日食糧の確保に非常に重大な、殆ど決定的の要素でありますことは御話の通りでございまして、今年の凶作の如きも、天候の關係はございますけれども、地味の枯渇と云ふことが大きな原因を成して居ることに鑑みまして、政府と致しましては肥料の増産に全力を盡してやりたいと存じて居るのでございます、終戰當時には、窒素肥料の、化學肥料の生産の如きは殆ど全滅と云ふに近い數字迄、日に僅かに七、八千「トン」位の所迄下つたのでございますが、其の後鋭意囘復に努めて居りまして、生産も漸次向上の線を辿り、明年度には七十四、五萬「トン」、明後年度には殆ど平時に復して二百萬「トン」程度のもの迄擧げたいと存じて、豫定をして努力を致して居る次第でございます、唯過燐酸肥料に至りましては、原料を今日得ることが出來ませぬので、見据は付きませぬが、燐鑛石の輸入を聯合國側へ懇請致し、それが達せられるならば此の方面の生産にも馬力を掛けたいと思うて居ります、御話通りの自給肥料、其の他に付きましては、從來も非常な努力を致して參りましたが、何分農家勞力の不足の爲に成績を擧げて居りませぬけれども、今日は段々農家勞力も殖えて參りましたので、更に政府と致しましても一段の努力を傾けまして、此の自給肥料の増産に努力を致したいと考へて居ります、畜力の御話でございますが、是は御話通りの次第でございまして、日本の國に是だけの戰争を致して、牛や馬と云ふやうな大動物が今日幸に左迄減少しないで殘り得ましたことは是は非常な幸ひのことと存じます、之を基礎にして、うんと奬勵を致したい、増産を致したいと存じますが、只今の處、其の飼料等の點に制約を受けまして、思ふ通りには參りませぬけれども、御趣旨のやうに努めたいと存じて居る次第でございます、競馬の點に付きまして、私は御話のやうに考へまして、之を再開することに方針を決めて居るのでございます、唯其の時機に至りましては、交通機關の今日のやうな状態、其の他の事情に制せられまして、直ぐ之を實行することが出來ない、是等の要件が大體整ひました時に競馬の再開を致したいと存じます、又競馬法を御趣旨のやうに改めるかどうかと云ふことに付きましては、今日研究を致して居りまして、成案を得ましたならば次の議會へ提案を致したいと存じて居る譯でございます、食糧の綜合體制機關のことに付きましては總理大臣から御答がございましたが、唯資料の公開が甚だ緩慢であると云ふ御言葉に對しましては、私共と致しましても出來るだけの資料は之を公表するに努めて參りまして、出來るならば國民と共に此の食糧問題の解決に當りたいと存ずる方針の下に、今日迄はもう有らゆるものを隱さずに、殆ど赤裸々に、新聞其の他に發表を致して居るのでございますが、尚此の上とも努力を致しまして、調査致しました資料等は隱さず世間に發表する心得で居ります、大體御答辯を申上げます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=36
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037・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 議長は本日午前十一時、勅語奉答書を携へまして參内致し、表拜謁の間に於きまして拜謁を賜り、御前に於て奉答書を朗讀の上捧呈致しました、然る處重ねて勅語を賜りました、是より勅語を捧讀致します
〔總員起立〕
朕貴族院の深厚なる敬禮を嘉す
〔一同敬禮〕
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=37
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038・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 松村眞一郎君
〔松村眞一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=38
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039・松村眞一郎
○松村眞一郎君 只今總理大臣及び農林大臣の御懇切なる御答辯に對しましては深く感謝致します、唯二合三勺の問題でありまするが、外國よりの輸入と云ふ點にのみ重點を置かれない方が宜くはないかと思ふのであります、それは二合三勺と申しますけれども、政府に於ては現實に米、麥では配給を致して居られないのが現状である、二合三勺に對しても甘藷、馬鈴薯は勿論、高梁であるとか、玉蜀黍であるとか、脱脂大豆であるとか云ふやうな物を混合して配給されて居るのであります、それでありまするから、先づ二合三勺と云ふ目標にして、それに國民と共に協力すると云ふことが私は必要であらうと思ひます、其の意味は水産物なり、其の他の物を以て生産の方にも努力をして、其の目標に至るやうに各方面から努めると云ふことを致されたいと云ふのが私の趣旨でありまして、外國よりの輸入は是は確實なる源でありませう、併しながら「カロリー」と云ふことを標準にしまして、其の「カロリー」に充つる物を各方面から國民と協力して増強することに致さうではないかと云ふ態度を政府が御示しになり、總ての材料が整つてから二合三勺にすると云ふ態度でなく、二合三勺は實現すると云ふ積極的の目標に致されたいと云ふのが私の要望であります、例へば魚類は冷血動物であつて、體温を維持する爲の榮養を必要として居ないのでありまするから、食糧を吸收すればそれは直ちに魚の成長と繁殖とになるのである、是れ程簡單な食糧給源は私はないと思ひます、さうして戰爭中は或は集魚燈の使用を禁止し、油が無き爲外に出ることが出來ない、綿絲が足りないが爲に漁網が出來ないと云ふので、隨分漁獲物が減つて居る、即ち魚族は非常に増加して居るのでありまするから、さう云ふやうな方面に政府が力を盡されたなれば、非常に容易に「カロリー」給源は私は得られると考へまするから、もう少し積極的に政府は御考慮をせられたいと思ふのであります、餘り安全に總ての資料が出來てから二合三勺にすると云ふのであれば、是は何人も出來ることなのである、さう云ふことでなく少しはどうかと思ふけれども、兎に角國民と共にそれに漕著けようではないかと云ふことを私は望ましい、此の度輸入の途が開けました中には、綿と云ふことがあります、石油と云ふことがあります、鹽と云ふことがあります、是は皆例へば水産物の増強の爲に何等かの考慮を拂はれたならば、綿は綿絲に依つて茲に漁網が出來る驛であります、石油は重油に依つて機船底曳網と云ふ漁業が直ぐ實行出來る、さう云ふやうな次第でありますから、鹽に依つて之を鹽藏すれば宜い、さうすれば大變に「カロリー」の給源が増加する、さう云ふ所に少し重點を置かれたい、唯輸入が確實になることが非常に重大なる要素であることは認めますけれども、餘りにそれに重點を置かれないで、努力の方で一つ二合三勺にしてみようではないかと云ふことを私は希望するのでありまして、寧ろそれは目標である、結果ではなくして努力の目標として國民と共に無駄な買出なぞをしないことにしよう、さうして今大臣の申されました如く餘計な買出もしなければ農家の方でも亦さう云ふ方面に付ての注意を十分され、政府に信頼して、さうして政府と共に國民が食糧の確保をすることに致したい、積極的に是から進んで參りたい、さう云ふ趣意に於きまして、尚農林大臣に於かれましては出來るだけ努力を願ひたいと云ふことを茲に希望を申述べまして、私の質問を終ることに致します
〔國務大臣松村謙三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=39
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040・松村謙三
○國務大臣(松村謙三君) 只今は御質問ではありませぬで私に對する……政府に對する御鞭撻でございましたが、私御答に申漏した所がございますから旁旁もう一度御答をさせて戴きます、それは水産物等のことでございまするが、之に付きましては、實は御話通りに主要食糧に「プラス」するに蛋白質の給源を添へると云ふことに依つて食糧事情が非常に良くなつて來ることは御話通りと存じまして、只今漁船が非常に消耗を致し、それから漁網がありませずしますので、其の方面に最善の努力を致して其の増加、供給を圖つて居るのであります、又御承知の通りに油が漸次少しづつではありますけれども出廻りましたので、全國的に見まして漁獲高が殖えて參つて居ります、是と漁獲高の増加と相伴ひまして大切なることは配給の問題、統制の問題であらうと心得て、先般下部の配給は從來通りでございますが、集荷の面に於て統制價格を廢し、一面生産を刺戟し、集荷を容易ならしむるやうにやつて見ましたが、是の結果はまだ分りませぬ、どう云ふことになるかと思うて心配を致して居りますが、最初蓋を開けました時から今日迄の經過を見ますと、漸次魚類も亦野菜類も、集荷が多くなつて參り、從つて價格も落著いて參りまして、最初の日から見ますと半額乃至三分の一位迄に値が落著いて參つて居ります、只今の處では十分の安心は出來ませぬけれども、此のやうにして魚類が廻り、さうして主要食糧等を補ふことが出來、野菜も同樣になりますならば、まあ野菜の問題は是から冬枯の時になりますから大きな期待は持てませぬけれども、魚類の方は相當に私共は期待を持つて居る譯でありまして、此のやうなことで進み得ますならば食糧事情の或程度の安定は爲し得るものと期待致しまして、只今御注意下さいました通りの方向に努力を致して居る譯でございます、是だけちよつと御答がてら申上げて置きます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=40
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041・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 尚質疑の通告がございますが、本日は議事の都合上、此の程度に於て延會致したいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=41
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042・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=42
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043・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 此の際御諮り致すことがございます、本日資格審査委員松本烝治君、豫算委員子爵北條雋八君、同じく堀切善次郎君、同じく男爵山根健男君、同じく次田大三郎君、同じく岩田宙造君、請願委員伯爵渡邊昭君、決算委員兒玉謙次君より職務上の都合に依り、委員辭任の申出がございました、又請願委員寺島健君、都合に依り委員辭任の申出がございました、孰れも許可致して御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=43
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044・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます、就きましては選出各部に於て、其の補闕選擧を行はれむことを望みます、明日は午前十時より開會致します、議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、是にて散會致します
午前十一時四十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00119451128&spkNum=44
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