1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年十二月四日(火曜日)午前十時六分開議
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議事日程 第五號
昭和二十年十二月四日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第五日)
第二 國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案(政府提出)
第一讀會
第三 昭和十二年法律第七十八號廢止法律案(政府提出)第一讀會
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001・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 諸般の報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=1
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002・会議録情報2
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〔參照〕
去る一日内閣總理大臣より左の通第八十九囘帝國議會政府委員仰付られたる旨の通牒を受領せり
政府委員
法制局參事官 佐藤達夫君
戰災復興院計畫局長 大橋武夫君
戰災復興院業務局長 進藤武左ヱ門君
外務省所管事務政府委員
外務省條約局長 杉原荒太君
外務省管理局長 森重干夫君
終戰連絡中央事務局部長 井口貞夫君
内務省所管事務政府委員
内務省國土局長 岩澤忠恭君
内務省管理局長 大島弘夫君
神祇院副總裁 飯沼一省君
第一復員省所管事務政府委員
第一復員政務次官 宮崎一君
第一復員次官 原守君
第一復員參與官 野口喜一君
第一復員官 吉積正雄君
同 額田坦君
同 森山親三君
同 大山文雄君
同 遠藤武勝君
同 吉本重章君
第二復員省所管事務政府委員
第二復員政務次官 田中亮一君
第二復員次官 三戸壽君
第二復員參與官 星野靖之助君
第二復員官 山本丑之助君
同 山本善雄君
同 川井巖君
同 奧三二君
同 由布喜久雄君
同 長澤浩君
同 吉田英三君
司法省所管事務政府委員
司法省刑政局長 清原邦一君
文部省所管事務政府委員
文部省社會教育局長 關口泰君
文部省教科書局長 有光次郎君
厚生省所管事務政府委員
厚生省勞政局長 高橋庸彌君
厚生省保險局長 青柳一郎君
保護院副總裁 數藤鐵臣君
醫療局長官 鹽田廣重君
農林省所管事務政府委員
農林省山林局長 黒河内透君
農林省水産局長 笹山茂太郎君
農林省蠶絲局長 山添利作君
農林省食品局長 柴野和喜夫君
農林省畜産局長 蓮池公咲君
農林省開拓局長 西村彰一君
商工省所管事務政府委員
商工省商務局長 岡村武君
商工省工務局長 奧田新三君
商工省纎維局長 松田太郎君
商工省鑛山局長 北野重雄君
運輸省所管事務政府委員
運輸省企畫局長 小野哲君
鐵道監 岡田信次君
運輸省海運總局海運局長 有田喜一君
運輸省港灣局長 後藤憲一君
昨三日入營者職業保障法及國民勞務手帳法廢止法律案特別委員會に於て當選したる正副委員長の氏名左の如し
委員長 男爵向山均君
副委員長 子爵宍戸功男君
同日政府より左の議案を提出せり
國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案
昭和十二年法律第七十八號廢止法律案
映畫法廢止法律案
正三位勳二等 鈴木貞一君
正三位勳一等 賀屋興宣君
從三位勳一等 寺島健君
從三位勳二等 村田省藏君
同日願に依り貴族院議員を免せらる
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=2
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003・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 是より本日の會議を開きます、請暇の件に付、御諮りを致します、侯爵井上三郎君、侯爵黒田長禮君孰れも病氣に付、會期中請暇の申出がございました、許可を致して御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=3
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004・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=4
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005・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 議事日程變更に付御諮りを致します、日程第一を後に廻し、日程第二及び第三を順次議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=5
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006・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=6
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007・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 日程第二、國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案、政府提出、第一讀會、楢橋法制局長官発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=7
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008・会議録情報3
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國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案
右
勅旨を奉じ帝國議會に提出す
昭和二十年十二月三日
内閣總理大臣兼第一復員大臣第二復員大臣 男爵幣原喜重郎
司法大臣 岩田宙造
農林大臣 松村謙三
文部大臣 前田多門
外務大臣 吉田茂
内務大臣 堀切善次郎
國務大臣 松本烝治
厚生大臣 芦田均
國務大臣 次田大三郎
大藏大臣 子爵 澁澤敬三
運輸大臣 田中武雄
商工大臣 小笠原三九郎
國務大臣 小林一三
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國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案
國家總動員法及戰時緊急措置法は之を廢止す
附則
本法施行の期日は勅令を以て之を定む
本法施行の際現に存する舊法に基く勅令に付ては本法施行後六月間を限り舊法(國家總動員法第一條乃至第三條の規定を除く)は仍其の效力を有す此の場合に於ては國家總動員法中戰時に際し國家總動員上必要あるときはとあり若は國家總動員上必要あるときはとあり又は戰時緊急措置法中大東亞戰爭に際し國家の危急を克服する爲緊急の必要あるときはとあるは終戰後の事態に對處し國民生活の維持及安定を圖る爲特に必要あるときはとし國家總動員法中總動員業務とあるは國民生活の維特及安定を圖る爲特に必要なる業務とし總動員物資とあるは國民生活の維持及安定を圖る爲特に必要なる物資とす
前項の規定に依り效力を有する勅令は其の規定する事項の範圍内に於て之を改正することを妨げず
本法施行前(附則第二項の場合に於ては同項の規定に依る期間内以下同じ)に舊法に依り爲したる命令、處分又は行爲に係る優先買受、課税標準の計算に關する特例、租税減免及損失補償、本法施行前に清算を開始したる團體又は會社にして舊法に依り設立せられたるもの竝に本法施行前に爲したる行爲に對する罰則の適用に付ては舊法は本法施行後(附則第二項の場合に於ては同項の規定に依る期間經過後)と雖も仍其の效力を有す
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〔政府委員楢橋渡君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=8
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009・楢橋渡
○政府委員(楢橋渡君) 只今上程せられました國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案に付、提案の趣旨及び法案の大綱を御説明申上げます、國家總動員法は戰時又は事變に際し、國防目的達成の爲、全國力を最も有效に發揮する爲、各般の人的及び物的資源を統制、運用するの目的を以て、去る第七十三帝國議會の協贊を經て制定せられたのであります、而して本法は昭和十三年五月其の施行以來、國防目的達成の爲、爲されたる各般の統制の根幹たる法律として廣く其の適用を見て參つたのであります、又戰時緊急措置法は戰爭の最終的段階に於て、國家の危急を克服せむが爲、應機の措置を講ずる必要上、去る第八十七議會の協贊を經て本年六月に制定、公布せられ、政府に對し強力なる非常措置の權限を與へた法律であります、終戰後の今日に於きましては、總ての戰時法令は孰れも能ふ限り整理、改廢を致すべきものでありますが、特に此の二法律は戰時法令の根幹を成すものでありますから、一刻も早く之を整理することが妥當と信じ、茲に兩法律の廢止法律案を提出致した次第であります、唯終戰後の諸般の事情に即應する善後の處置を十分に講ずることなくして、直ちに是等の法律を廢止致しますならば、是等の法律に依り形成されました現状を急激に改變することとなり、却て社會秩序の動搖を來す虞がありますので、現に存する勅令に關する限り、且終戰後の事態に對應し、國民生活を維持安定せしむるに必要なる限度に於て、限定的且暫定的に六箇月を限り是等の法律の效力を認めることに致した次第であります、勿論其の間に於きましても、整理すべきものは速かに之を整理致しまして、圓滑平穩裡に戰時法令の廢止に終止符を打たむとするものでありまして、是等に關し必要なる經過的規定を、附則に於て設けた次第であります、何卒宜しく御協贊あらむことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=9
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010・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました國家總動員法及戰時緊急措置法廢止法律案は、入營者職業保障法及國民勞務手帳法廢止法律案の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=10
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011・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=11
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012・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=12
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013・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=13
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014・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 日程第三、昭和十二年法律第七十八號廢止法律案、政府提出、第一讀會、小笠原商工大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=14
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015・会議録情報4
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昭和十二年法律第七十八號廢止法律案
右
勅旨を奉じ帝國議會に提出す
昭和二十年十二月三日
内閣總理大臣 男爵幣原喜重郎
商工大臣 小笠原三九郎
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昭和十二年法律第七十八號廢止法律案
昭和十二年法律第七十八號は之を廢止す
附則
本法施行の期日は勅令を以て之を定む
紀元二千六百年記念日本萬國博覽會抽籤券附囘數入場券の模造に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
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〔參照〕
昭和十二年法律第七十八號は紀元二千六百年記念日本萬國博覽會抽籤券附囘數入場券發行に關する法律なり
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〔國務大臣小笠原三九郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=15
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016・小笠原三九郎
○國務大臣(小笠原三九郎君) 只今上程せられました法律案に付て御説明申上げます、紀元二千六百年記念日本萬國博覽會は紀元二千六百年記念事業の一つとして計畫されたものでありまするが、昭和十二年日支事變勃發等の理由に依り、之を延期中の處、大東亞戰爭の終戰を見たる今日に於きましては到底開催の見込がありませぬので、之を中止し、之に伴ひ社團法人日本萬國博覽會協會に資金調達の權限を附與する爲に制定せられました紀元二千六百年記念日本萬國博覽會抽籤券附囘數入場券發行に關する法律は、其の必要なきに至りましたので、之を廢止しようとするものであります、尚日本萬國博覽會協會の發行致しました抽籤券附囘數入場券は、協會をして一册十圓即ち發行價格を以て買戻さしむる方針でございます、何卒御審議の上速かに御協贊あらむことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=16
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017・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今上程せられました昭和十二年法律第七十八號廢止法律案は入營者職業保障法及國民勞務手帳法廢止法律案外一件の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=17
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018・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=18
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019・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=19
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020・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
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021・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 昨日政府より提出せられました映畫法廢止法律案を此の際議事日程に追加し、第一讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=21
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022・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます、川崎政府委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=22
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023・会議録情報5
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映畫法廢止法律案
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勅旨を奉じ帝國議會に提出す
昭和二十年十二月三日
内閣總理大臣 男爵幣原喜重郎
文部大臣 前田多門
内務大臣 堀切善次郎
厚生大臣 芦田均
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映畫法廢止法律案
映畫法は之を廢止す
附則
本法は公布の日より之を施行す
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〔政府委員川崎末五郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=23
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024・川崎末五郎
○政府委員(川崎末五郎君) 只今上程されました映畫法廢止法律案の提案の理由に付て御説明さして戴きます、本法は昭和十四年四月五日法律第六十六號を以て公布せられまして、同年十月一日より、我が國に於ける最初の文化立法として之が施行を見るに至つたのでございます、其の目的は、國民文化の進展に資する爲映畫の質的向上を促し、映畫事業の健全なる發達を圖るにあるのでございまして、爾來我が國に於きまする映畫事業に對しましては、本法に依りまして、指導竝に取締を行つて參つたのでございまするが、今般聯合國最高司令官より日本帝國政府に對し、映畫業に對する日本政府の取締法令の撤廢に關する件の指令に依りまして、映畫法竝に關係法令の廢止の要求がございましたので、本法廢止の法律案を茲に提出致しました次第でございます、尚今後映畫其の他興行に關する保安竝に衞生等の取締に付きましては、目下新しい立場から關係官廳に於きまして、鋭意立案を進めて居りまして、之が實施を期して居る次第でござります、何卒御審議の上速かに御協贊あらむことを希望して止まない次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=24
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025・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました映畫法廢止法律案は入營者職業保障法及び國民勞務手帳法廢止法律案外二件の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=25
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026・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=26
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027・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=27
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028・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=28
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029・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 日程第一、國務大臣の演説に關する件、第五日、通告順に依り質疑を許可致します、田中館愛橘君
〔田中館愛橘君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=29
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030・田中館愛橘
○田中館愛橘君 教育の刷新に付て質問を致します、人類の物心兩面が年を逐うて進む態勢に鑑みまして、早晩世界の一大革新の起るべきことは、東西先覺者の口にも筆にも唱へ來つた所であります、今此の東京の燒野原を眺めまして、此の位に叩かれて初めて國民全體の目が覺めて、曩に識者の説いた所が分るだらうと感じます、結局八月十五日に伺ひました有難き御聖斷に依り、世界は其の落著く所に落着くことが早められたものと存じます、大河内子爵は、「米内大臣は火消役をした」と言はれましたが、私は若し明治六年の後に學士會院長となりました西周君の國語國字の整理が行はれまして、一般教育の能率が昂められ、世界の認識が明かになつて居つたならば、初めから火消役などは要らず、國民全部火消人足であつたらうと思ひます、敗戰、否、其の戰ひを起した原因は、詰り認識の足らなかつたことは否まれませぬ、今後の世界建直しを成功し萬世平和の基を築くには、教育が其の基となることは全く總理大臣の述べられた通りであります、之に付きまして聊か所見を述べて尚當局の御意見を伺ふ次第であります、第一、正しき信念を養ふことは教育上最も大切と存じます、元來信念は自由であるべき筈で、法則で束縛することの出來ないものであります、唯信仰の現れである宗教の儀式や宣傳の仕方だけが取締られます、宗教戰爭の酷烈なりしことは歴史が示す通りであります、それが時と共に緩和せられ現代に於きましては色々の宗派も全く協調せられ、極端なる無神論者も、有神論者も、上の高尚なる所に至りますれば、殆ど同じやうに見えます、近頃有名な物理學者の「プランク」の書きました「科學及宗教」と云ふ本を讀んで見ますると、全く此の感を起さざるを得ませぬ、昔から科學と宗教を對蹠的のものと考へた時代もありまするが、之を見ますると、殆ど左樣な區別をする必要がないやうに感じます、でございまするが、中ら半端の中途のものを見ますると云ふと、なかなか肚の中はさう滑かには行つて居りませぬ、互に「我が佛尊し」と云ふ趣意で、他を排斥しまして、己が宗教に歸せしめむとするのであります、中にも言論、集會の自由に口を藉りて、淫祠、邪教が色々な形で潛んで居り、之が爲に未だ判斷力の成り上らざる青少年、或は知識の低き者に迷信を植ゑ付けますものが、相當の高き地位にある邊に迄浸み込んで居ります、其の中には醫師法に觸れるものはないかと思はるるものもあります、是等信念の自由を強迫する者に何とか處分をしなければなるまいと思ひますが、此の革新の世界を合理的に建直すに當りましては、是等迷信の氾濫は斷然排撃すべきものと存じます、第二、科學教育の普及は相當の努力に拘らず、未だ豫期に副はざる所のものあるは何に因るものでありませうか、自然科學の眞諦は、自然界の現象と相親み、其の眞相を觀る所にあります、然るに之を教へる手段を見れば、大體或現象の定義を與へ、之を説き明かすに止り、恰も南無喝ら怛那の御經を覺えるやうな、意味の分らぬ書物を覺えて居る者があります、先年御同僚の林伯爵が之が匡正に御熱心で、自ら私財を投じて小學生の上級に物理の實驗を行はせました、私も度々御供致しましたが、或時濱町の小學校で五十名ばかりの生徒を寄せまして、之に「アルコールランプ」を以て水を沸かさせました、段々水が温つて沸き上りますと、教師は立つて、今何が始つたと、斯う聽きました、處が、五十名ばかりの者で手を擧げる者は僅かに二三人外ありませぬ、之に答へさせると、何かと云ふと、「沸騰します」と、斯う云ふ、しますと教師は黒板に向つて整然と「沸騰」と二つの文字を書きます、さうすると生徒も亦丁寧に沸騰と書く、しますと段々湯氣が立つて、其處へ「ガラス」板を載せますとそれに露が置くと今度は「水蒸氣が冷却して凝集し露を結びました」と、斯う云ふことを言ふ、此の沸騰とか凝集とか云ふ沸騰の騰の字などは二十畫の漢字であります、凝集の凝の字は十六畫のむづかしい漢字であります、斯う云ふことで約一時間ばかりで濟しましたが、私は之を見まして、物理の教育は先づ二分位、八分通りは文字の教育だ、と申しましたが、湯が沸いたとか、湯氣が冷えて露になつたとか云ふことは、もう子供は皆知り切つて居る、唯知らない者はそれを書く文字を忘れるから默つて居る、默つて居れば零點を付けられてしまつて居る、斯う云ふことが實際に其の頃行はれて居りましたが、こんなことは家で湯沸しをするのにでも氣を付けて居れば何時でも分つて居るのであります、唯漢字を知らぬ爲に答へることが出來ない、答がなければ零點を付けられる、斯う云ふことになります、斯樣な有樣を一つ文部大臣に御覽を願ひたいと思ひましたが、偶には御視察の方もありまするけれども、さう云ふ時の準備をした御前講義では迚も實際に知識の食物を如何に飮取つて居るかと云ふことは分りませぬ、一體科學の研究とか、觀測とか云ふことは、必ずしも立派な機械を使ひ、立派な實驗室を備へてする必要はありませぬ、御承知の通り「ガリレオ」はお寺の釣下げ「ランプ」の振るのを見て時計の「ペンデル」を發明して居ります、何も實驗も道具も要らない、又近代に於て珍しき物質を發見されました「キュリー」夫婦、是は雨漏りのする「バラック」の中で自分で手細工をした電位計を以て長い研究の後に彼の「ピッチブレンド」から「ラヂウム」を取出したのであります、「ピッチブレンド」の中には良いので、それが三百萬分の一位しか入つて居らぬのであります、それを取出すにこんな貧弱なる施設を以てやつたのであります、尚申上げて置きたいことは斯う云ふことは全く自然界を樂しみ、自然界の内容を探らうと云ふ其の樂しみの心でやるので、成功するのであります、唯言ひ付けられてやるのでは言ひ付けられたことだけをやるだけで、當り前の雇人足が仕事をするやうなことになつてしまひますが、自分から進んで自然界を親しみ之を愛好して研究する心を起させなければなりませぬ、御承知の如く「ラヂウム」は非常な貴重なものになりまして、學界其の他總てのものを驚かして、初めて物質の崩潰することも分り、三種の放射線を出して居ることが分つたのであります、其の驚くべき珍しいものの出たことを聞いて一人の「アメリカ」人は、手紙を書いて、「あなたはどう云ふ方法で「ピッチブレンド」から「ラヂウム」を、取出しましたか、其の方法を知らせて下さい」斯う言つて寄起しました、「キュリー」は早速手紙を書いて斯う斯う斯う云ふ方法で取ると云ふことを詳しく知らせてやりました、專賣料も特許料も何もない、恰も反古紙を捨てるが如き態度を以て之を送つてやる、何か之で利益を得ようとか、名譽を博しようと云ふことは全く問題になりませぬ、唯「ピッチブレンド」から出るものは何物であるかと云ふことを詮索したのであります、斯くの如くして又「アメリカ」人も之を聞いて「ラヂウム」を造ることが出來ましたから、茲に誠に麗しき話は後に「アメリカ」が「キュリー」夫婦を招待致しまして、非常な歡待を致しまして、多量の「ラヂウム」を送つたのであります、其の時はもう相當高い値段になつて居る、それを送つたのであります、餘計なことではございますが、是からの經濟等に於きましては斯う云ふことも考へなければならぬと思ひます、次に普通教育を振興するに付きまして、教科書のことに付て一言申上げたうございます、教科書は下級の極く初めに習ふ者の用ひます本程、極めて其の道に達した所の一流の學者に書いて貰ひたいと云ふことであります、私は前世紀の終りに「コペンハーゲン」の「クリシチアンゼン」と云ふ物理學者に招かれまして、食後に書齋に於て話中に、小學校の下の方の子供の使ふやうな本を此の大家が作つて居るのを見ました、さうして僅か十歳内外の先生の子供が其の中にある實驗を其處でやつて見せました、之を見まして私は非常に感じましたことは、我が國に於きましては、其の當時小學校の本は、兒童の心理を知る者でなければならぬと云ふので、多くは師範學校卒業の教師が書いて居りました、是はずつと後になってから幾分專門家が見るやうになりましたが、今記憶して居ります所では、二三の飛んでもない間違ひが書いてあつたことを覺えて居ります、專門學校や大學で使ひますものは、是は習ふ者の方に相當の判斷力も出來て居りますから、假令先生が少しの間違ひをしつても修正することが出來ますが、初等の子供はそれが出來ませぬから、此の初等の者に確實なる知識を植付ける爲には何としても矢張り一流の專門家がそれを取扱つて書くやうにしなければなりませぬ、私は是は知識の「デモクラシー」と思ひます、此の知識の「デモクラシー」を守立てたいと希望して居る者であります、第三に、國語、國字の整理、是は今申しました物理學をやるにも漢字教育が八分位を占めて、本當の中味の所は二分位しかないのであります所から、どうしても國語、國字を整理して、當り前の不斷の言葉で言つたことが直ぐ腹に落着くやうなことにしなければ、本當の學問は出來ないと思ひまして、私も明治十八年以來之に微力を傾けて居ります、而して此の壇上より質問致しましたことは二十囘餘りございます、今度と云ふ今度こそは何卒政府に於かれましても、しつかりと腰を据えて、國語、國字の整理に大革新を見透し、遠大な企てを立てられむことを切に希望致します、之に付て現代の状況に鑑み、差當り漢字節減、字畫の簡易化、假名遣ひ改良、此の三件は既に數囘の委員審査があり、孰れも相當の原案が出來て居る筈であります、唯其の實行を爲すに當り、一部の抗議に顧みて斷行せずに居ることと思ひます、私の見ると申すよりは、一般の之に關する見透しから申しますれば、結局言語の實質を表はす表音文字、取分け其の中の音素文字としての「ローマ」字が、終局の落著であると信ずるものであります、此の將來の目標に對し、漢字、假名の整理、左横書、言葉の分ち書などは、謂はば過渡期の膏藥張りの假療治であります、自分のことを申しては甚だ濟みませぬが、先年或遞信大臣は私に向ひ「「ローマ」字は御熱心ではあるが、とても先生の御存生中にはものになりませぬよ」と言はれますから、私は之に對して、「いや、此の老耄は今日明日に亡くなるかも知れない、併し國家の生命は無限である、世界民衆の生命も同樣である、若しも人間が自分の生きて居る間だけのことを考へて居つたならば、今日の社會は如何に憐むべき有樣になつて居るでせう」と答へました、到頭どうやら永らへまして、今日文化事業に輿望を擔はる、前田文相閣下、其の人に對し、此の席上に於て愚見を申上げますことは無上の光榮と致す所であります、「ローマ」字國字論に付きましては、既に政府の特別委員が六箇年の長きに亙りまして、十六世紀の終りに「ヨーロッパ」人に接し、始めて之を知るより現代に至る迄の變遷から、各國に於ける「ローマ」字正字法の專門家の深き研究に鑑みて、審議決定し、國語の書方を其の式に統一すべきことを昭和十二年内閣訓令第三號を以て命じました、爾來學校教科書に之を編入し、現に之を教へて居ります、實は此の訓令を發する前、既に國際信號、(コード・インターナショナル)に之を用ひまして、之を國際水路中央局を通じて我が海圖には此の式を用ひることを列國に通告してあります、更に千九百三十一年の萬國地理學會に於て、我が地名の書き方を之に統一すべき希望決議を其の第六部全會一致で決議して居ります、今駐屯軍將兵の道標べに英語の慣例に從ひ、所謂「ヘボン」式で地名が記されてあります、是は道案内の爲臨時の便宜處置としては至極尤もな次第でございます、併し我が國語を書く爲の正字法の確立には駐屯軍司令部も定めし同情を以て之を助成せらるるであらうと思はれます、人に依りましては、日本式と云ふ名前を見て國家主義を強調したものと誤る者もありますが、斷じてそんなものでありませぬ、全く近代言語學に現はれたる「フォノロジー」即ち國語に於ける音意識の系統に由つたもので、英國大使館參事官日本學の權威「サンソム」君、「パーマ」博士、「ダニエルジョンス」教授、「イエスペルセン」博士等の熱心に贊成する所であります、千九百三十一年に國際聯盟は民族間の理解を昂める爲に、各民族にそれぞれの國語の「ローマ」字書を進め、國字の「ローマ」字化運動の調査報告を集めて出版することを企てました、其の序文に「イエスペルセン」教授は「フォノロジー」の發達を示し、日本式の合理的にして穩當なることが論じてあります、又千九百三十一年の「ジェネバ」に開かれたる第二十囘萬國言語學會に於ける「フォノロジー」の進歩に關する報告に「トルベリコイ」教授は「フォノロジー」の「プリンシプル」を應用したる模範的實例、「ドイツ」語で「ムステルバイシピール」としてありますが、其の模範的實例に日本式を擧げて説明して居ります、一體、綴方の改良に付て注意を要しますことは、人情の常として今迄使ひ慣れたものと違つた書き方に對する感情が合理性を覆ひまして、實行を鈍らすことが少くありませぬ、曾て「アメリカ」の「ノア・ウエブストル」があの英語の大辭書を作りました時に、英國人は之に對し少からず反感を持ちました、其の一例として政治家の「ダニエル・ウエブストル」が英國に參りました時に、之を「ノア・ウエブストル」と人違ひして、彼は英語を汚したものであると云ふことで、少からざる禮儀に反いた扱をした喜劇的な逸話が殘つて居ります、それはそれとしましても、今世紀の初めに「セオドル・ルーズヴェルト」が大統領の時、更に二百字ばかりの「スペリング」を改めて居ります、孔子は「夫れ仁者は己を立たむと欲して人を立つ、己達せむと欲して人を達す」と申しましたが、合理性を尊び改良に勇む米國人は我々の根本的國字改善に同情を以て協力せられむことを疑ひませぬ、地名の書き方に日本式と「ヘボン」式の違ひのある所は大した數ではありませぬ、東京、横濱、上野、大宮、京都、大阪、仙臺、盛岡等孰れも同じ書き方であります、唯僅かに千葉とか下田とか少しづつの違ひのある所はありますが、是等は出來得べくんば「ヘボン」式と日本式を竝べて書き、時の經つに從つて日本式に慣れたらば、それを消すやうに交渉は出來ないものでありませうか、それは兎も角と致しまして、國語教科書に「ローマ」字書きを使ふことは、既に大册の力學教科書、工學の用書も出來て使はれて居ります、是等に續いて同じ綴り方の書物がもつと續々現れまして、國字の整理改良に力を與へることは當然と存じます、少なくも文法書の教科書には「ローマ」字書きを用ひることを希望致します、大言海の著者大槻文彦氏が明治九年に「ローマ」字を用ひなければ日本文法遂に成ることあるべからずと言つて居ります、出來ないこともありますまいが非常な混雜したものになります、例へば送り假名の規則を見ましたならば、なかなか今むづかしい問題になつて居ります、假名遣ひにしましても、「ヤウ」が八通り「オウ」が十五通りもあるやうなもので、大槻氏其の人でさへ自分の作つた辭書を見なければ本當に書けないと言つて居る位です、でありまするからどうか此の機會に於きまして、教科書改正の御企があるやうにも伺ひますからして、大いに之に注意を拂ひまして、遠き將來を目途として「ローマ」字書きを奬められむことを希望致します、念の爲に茲に二つの「アメリカ」人の書きました手紙を持つて居ります、其の一つは「ハーバート」大學の近代言語學の助教授「ジョーヂ・ジップ」と云ふ人、もう一人は「エール」大學の「デンツェル・カール」と云ふ日本語に關する學位論文を書いた人であります、前の方は私の佛文で書きました、日本語の「フォノロジー」に依る音聲論と正字法と云ふ論文を面白く見て、繰返して讀んだと書いてありまして、其の後に若し私が日本人であつたら確かに日本式を採用すると書いて居ります、後の方は曩に日本に行つて日本語を習つた時に、日本語を「ローマ」字書きすることに反對した、それは「ヘボン」式は國語の正字法として明かに不適當であつたからであつた、併し日本式を知るに及んで、當時「パーマ」氏の外は總て在留人が之を喜ばなかつたが、私は「フォネーム」を知るに及んで、熱心に日本式に贊成した、今「エール」大學の「セミナル」の討論で日本式と「ヘボン」式を十分に分析研究し、日本式は百「プロセント」であつたと書いてあります、更に一言附加へて置きますことは、話をしたことを自動的に「タイプライター」に打たせることは、獨り日本式「ローマ」字書きに於てのみ可能性が認められます、此の詳しいことは理研の田口鉚三郎君の研究に依つて明かに分つて居りますが、私は千九百三十五年、今から十年前の音聲學會で「ロンドン」大學に於て之を講述しました、其の後に又「パリー」の「ソルボンヌ」大學に於ても此のことを講演致しました、兩方共英語、「フランス」語で雜誌に載つて居ります、兎に角斯う云ふことは今他の「フランス」語や「ドイツ」語、英語では出來ませぬ、唯日本式「ローマ」字書きに於て此の可能性がある、詳しいことは右の論文に譲りますが、兎に角百人一首の歌を書いて、書いた通り逆に讀んで吹込むことが出來る、蓄音器に吹込んで、さうして逆廻りをして元の通り讀むと云ふこと、斯う云ふことは他の書き方では出來ませぬ、尚「ローマ」字論として忘れ兼ぬることは、「ローマ」字調査會で日本式が決定された時に、東京の一新聞は之を評して、此のことは明治の維新に比すべき、見樣に依つてはより以上の大きな出來事であると論じました、又三十年ばかり前に或者は、今國字を改良して義務教育を二年間縮めることが出來るとすれば、年々七億圓の經費節約が出來ると論じましたが、是は小學生二年の費用を見ただけでありますが、出版事業や事務の簡素になることを顧みますならば、まだまだ之に數倍した所の經濟上の利益を得るだらうと思はれます、若し此の機會を切つ掛けとして、大英斷を以て國字變改に乘出し、成功を收むるに至るならば今から二代目、三代目の者は、是で今度の戰爭に依る損害を償ひ得て餘りありと思ひ、當時爆撃を受けて長夜の夢を覺まされたことを喜ぶに至るであらむかと思ひやられます、最後に第四、研究事項の選び方に付て一言致します、目下の情勢に於きましては出來るだけ現在の急に應ずるものを先にし、不急の純正科學に關するものは後廻しにすることが勿論適當と存じますが、之に付申上げて置きたいことは、學理的のものの中に、國際的に日本の研究が當てにされて居るものがあります、例へば水澤天文臺の緯度變化の如きは六箇所の同じ緯度觀測所の材料を集めて計算をするものでありますから、特に日本の結果が缺けたとすれば全體の計算が不正確になります、同樣に無線電信に依る經度の研究、氣象觀測の如きも其の通りであります、是等國際共同の事業は成るたけ繼續して、他日外交地位囘復の秋を待つて、我が學界の貢獻を期すべきだと思ひます、軍事に關係あるものとして、原子核研究の設備は破壞されました、是は我が平和建設の誠意を十分に聯合國に示し得ざる結果、誠に遺憾と存じます、我々は飽く迄平和建設の誠意を表揚し、其の道の專門家諸氏が速かに學界に協力して世界文運に貢獻し得る日の來らむことを希望致します、氣象と農作とは相影響する所極めて密接であります、曩に私は長期豫報の研究を進めることを望みましたが、今食物を問題として論ずるに、來年の農作は平年作と看做して居るやうであります、私もそれには十分希望は致しますが、併し、天明天保の如く、二年も三年も凶作が續いた例があります、是等は其の年に限つたことでありませぬ、何時來るか分りませぬから、常に心に留めて置かなければなりませぬ、抑抑我々が年々定つて來る二百十日の嵐に生命を託して居ると云ふことは、人間として恥づべきであると思ひます、何とかして作物の方を改良して、二百十日が如何に荒れても害を受けないやうな種物の種類の作り出すか、或は二百十日前後に收穫の出來るやうな農業の組織を變へることを考へるか致すべきだと思ひます、それ等皆見込ないならば颱風の起る中心の發生を打破り、其の發生の初期に於て雨を降して、其の生長を妨げる措置を執ることも考へられます、人工に依つて天候を制することは、燻蒸法に依つて桑畑に煙を掛けて、霜の害を防ぐことは既に長野あたりの養蠶家が早くからやつて居ります、又麥畑に雹が降つて荒されることを免れる爲には耕地の組合を作り、其の耕地の外に空砲を備へて雹を外に落してしまふことも前世紀の終り頃から行はれて居ります、暴風の發生を未然に防ぐには、其の中心部の上空に飛行隊を送り、雨を降らし其の發生の機先を制することも考へられます、新聞で「トールマン」大統領は原子爆藥を工業化して、平和の用に供せむと考へて居ることが見へますが、之を暴風發生の撃破に使用し、二百十日全發と云ふことになれば、非常な利益があると考へられます、どうか世界平和の建設に、此の天候征服の道を、物資も技術も裕かなる米國あたりで研究されむことを望んで已みませぬ、「フランクリン」は空中の雷を避雷針で導き、測り知れざる生命財産を保護しましたが、二百十日の嵐も將來は必ず人力で避け得られるものと信じます、世界革新の時機に當りまして、敢て一問題を提起致して置く次第であります、是にて大體私の質疑は終りました
〔國務大臣前田多門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=30
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031・前田多門
○國務大臣(前田多門君) 只今田中館博士より終戰後の教育の新方針に關聯致しまして、數科目に亙りまして御教を忝く致しましたことを深く感謝致します、唯其の御説に關聯致しまして、政府の考を御質し下さいました二三の點に付きまして御答辯を申上げたいと存じます、第一の點は、正しい信念を涵養する必要がある、正しい宗教の自由と云ふものは保障されなければならないと共に、所謂淫祠邪教と云ふものは斷乎として排撃されなければならない、之に付て政府は適當の措置を執るべきである、斯う云ふ御説でございまするが、全く御同感申上げる次第でございます、事柄が宗教の自由と甚だ微妙な關係を持つて居りまする次第でございまするので、是等の淫祠邪教の排撃は無論致さなければならぬことでございまするけれども、些少たりとも宗教の自由の壓迫と云ふことに取られ易いやうな事柄は、矢張り避けて參らなければならぬと思ひまする、政府と致しましては、私の考では是は内務省關係の警察の取締に先づ直接的には委すべきものでありまして、文教當局と致しましては、寧ろ第二段に御話になつて居りまする所の科學的な精神、科學的なものの考へ方を普く國民の間に涵養することに依りまして、自ら淫祠邪教などが存在する餘地ないやうに致すことが必要であらうかと考へて居る次第でございます、そこで、第二の科學教育の刷新と云ふことに付ての御説及び御尋に關聯致すことになるのでございます、殊に御教示になりました科學の研究に付て、極く手近なものを實驗材料に使つて、さうして立派な科學教育を遂げるやうにしろ、斯う云ふ御注意に付ては全く敬承致した次第でございまして、殊に最近の如く資材が缺乏を致し、又財政が極めて窮乏致して居りまする時に於きまして,科學を教へまする教師が熱意を以ちまして、さうして有り合せのものを使つて、さうして立派な科學教育を施して行くと云ふことは、極めて是は推奬致さなければならないことであると存じて居ります、文部省と致しましても終戰後科學教育局を擴充致しまして、其の首腦者にも適材を迎へまして陣容の一新が漸くなつた所でございます、只今著々と如何にして科學教育を刷新し、又普及すべきかと云ふのことに付ては折角研究致して居りまするので、先生の御垂示になりました點は、其の點に於きまして非常に有益な參考になりますることを御禮申上げる次第でございます、又最近の措置と致しまして私共の執りましたやり方と致しましては、地方の大學及專門學校に於きまして、人物中心に致しまして其の學校にありまする特に優れた立派な教授を中心と致しまして、其の學校所在地の附近の地方の中等程度以下の學校の諸教師の科學教育の元締となつて貰ふと云ふやうなやり方を致しまして、主に是は人を本位と致し、施設及び地理的環境等を勘案致しまして、全國の所在の專門學校或は大學の教授で、其の附近の地方の諸學校の科學教育の謂はば指導役をすると云つたやうなことをやらして見たいと考へて居りまして、其の方法を目下進めて居る次第でございます、第三の此の教科書の點に付きましても、御示になりました初等科のもの程之を大切にしなければならない、極く下の級のものに使ふ教科書に一流の學者をして著述せしめなければいけないのだと云ふ御示も誠に御説のやうに考へるのであります、私も常に申して居るのでございまするが、初等科の教育と云ふものは一番大切で、此の初等科の教師を決して輕く見てならないのは、丁度小兒科の御醫者さんと云ふものが、決して大人の御醫者さんに比べて劣つて居るものと世間が考へて居ないのと同じことで、初等科を教へる教師と云ふものは、或意味に於ては大學の教授にも優ると云つても宜い位大切なものであると云ふことを申して居るのでございます、全く御説と符節を合する如く私は同感の意を表し上げたいと存ずる次第でございます、第四の點の國語、國字の整理に付きましては、是は御承知の通りに國語調査會に於きまして、一應是等の、或は漢字制限でございまするとか、字畫の簡易化でございますとか、假名遣の問題等に付きましても、是は調査をされて居つたのでありまして、それを踏襲致しまして文部省も一つの方針を立てて居つたのでございまするが、此の新時局に對應致しまして、殊に此の漢字の制限の如き、或は假名遣の如きは更に再檢討を致す必要があるのではないかと考へまするので、最近に於きまして國語調査會に再び活動を願ひまして、委員會を設けて既に決つて居りまする、此の一應決りました漢字制限の問題に付て再檢討をして貰ふことに致して居る次第でございます、又此の「ローマ」字の問題に付きましては、田中館博士長年の御熱誠なる所の御主張、又極めて深淵なる所の御蘊蓄を御傾倒になりまして、此の機運を御興しになりました結果であらうと存じまするが、昭和十二年の政府の方針と云ふものが決りましたのでございまするから、私共と致しましても矢張り此の方針に則つて向後進んで參りたいと考へて居る次第でございます、さりながら御言及になりました通りに、最近進駐軍に關係がございまして、進駐軍の要望に依りますると云ふと、矢張り「ヘボン」式を道標其の他の點に付て使つて貰ひたいと云ふやうなことになつて居りまするので、是が矢張り事實上に於きましては兩建のやうな形を取つて居るのでございまする、米國人は大體に於きまして、まだ「ヘボン」式に非常な執著を持つて居りまするので、既に先生は御承知でございませうが、米國に於ける日本學を致しまする教授殆ど全體の連名で以て、曾て大東亞戰爭勃發の餘程前でございましたが、「ヘボン」式採用を一つ再吟味して呉れろ、「ヘボン」式採用を一つ考慮して呉れろ、斯う云ふやうな主張の聲明書を日本に向つて送つたと云ふやうな關係もございまするので相當米國側に於きましては、まだ「ヘボン」式に對しまする所の主張と云ふものは強いと思ふのでございまするが、併し之に對しまして、所謂日本式と云ふものは、博士の仰せになりました通りに、決して何も是は國家的な、國家主義的な意味から出て居るのではなくて、十分科學的な背景を持つて居るものである、斯う云ふ趣旨は、是は説明を致さなければならぬと思ふのでありますが、是等の點に付きましても、今後一つ田中館先生の非常な御援助を御煩し致さなければならぬと思ふのでございます、又「ローマ」字の使用に付きましては今後の展開致しまする新時代に直面致しまして、教科書等に於きまして之を用ひまする範圍も、是はどうしても擴大されて來なければならないものと思ふのでございます、それ等の點に付きましても只今色々研究を致して居る次第でございます、又殊に御説の通りに國際的關係の性質を持つて居りまする所の文書に付きましては、假令其の文字が、其の言葉が日本語でございまする場合に於きましても、「ローマ」字を以て書かれますれば、餘程國際的に親しみを持たれ、國際的に理解を得ると云ふやうな關係もございまするので、それ等の文書等に付きまして、「ローマ」字を使ふと云ふやうなことに付きましても、今後積極的に考へて參らなければならぬと思つて居るやうな次第でございます、一應私共の考へて居りまする點を申上げて御質問に御答を致しますると共に、是等諸點に亙りまして極めて有益なる御教示を得ましたことを深く感謝する次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=31
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032・田中館愛橘
○田中館愛橘君 此の席より一言申上げます、御忙しい所を詳しく御答へ下さいまして有難う存じました、唯一言御願ひして置きますのは、中で國字問題は教育の基礎工事と思ひますから出來るだけの御盡力を此の上とも御願ひ致しまして、私の質疑を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=32
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033・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 水野甚次郎君
〔水野甚次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=33
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034・水野甚次郎
○水野甚次郎君 先づ農林大臣に御尋ね致したいと存じます、食糧問題の重大性は今更論議の要もございませぬ、併しながら政府は唯粒食にのみ觀念を持つて居られるのではないかと云ふ疑があるのであります、爲に進駐軍最高司令部に對して叩頭百拜米の輸入を御願ひして居られるやうに承るのでありますが、日本國民は米麥に依つてのみ生活しなければならぬものではございますまい、由來海の幸、山の幸と謂はれて居りますやうに、寧ろ食糧は他の國々よりかも惠まれて居るのではないかとさへ存ずるのであります、粒食に重きを置いて居る習慣を打破し、粉食に轉換をする絶好の時機ではないかと思ふのでございます、然るに粉食と云ふことに關しての政府の具體的案を拜聽する機會を得ないことは、誠に遺憾千萬に存ずるのであります、仄に聞く所に依れば、或食糧關係の協會より、團栗の調査を致しました處が、一億七千萬石の團栗が日本では毎年穫れる、此の團栗を粉末にして、之を粉食の基礎にしたいと云ふので、農林省へ對して五百萬石の團栗採集を申出た處が、農林省は何の理由であるか、百萬石に之を減じた、私は實に此の事を聞きまして、事實とすれば、如何にも粉食と云ふことに對しての農林省の冷淡さに驚いたのであります、其の他籾殻に致しましても、米の二割ある、之を粉末に致しまして、粉食の基にすることも易々たる問題ではないか、唯製粉機の問題に付て彼此論議せられて居るやうでありますが、製粉機は各戸に一臺宛の配給の出來る方法もないことはないと思ふのであります、唯徒に製粉機がない、米がない、斯う言つて歎いて居る場合ではございますまい、又農林省は開墾事業を能く公表して居られます、今開墾事業も必要でございますけれども、此の危急に迫つた食糧問題の解決、五年後に幾何出來る、十年後に何百町歩出來るとか云つたやうな計畫が、此の今年、明年の大飢饉に對しての解決の役に立ちませうか、農林大臣に御伺ひしたい要點は、粒食を粉食に轉換する一大好い機會であるに拘らず、之の御考がありや否や、而も粉食にすると云ふことに依つて初めて此の食糧飢饉を救はれると本員は深く信ずるのであります、唯「マッカーサー」司令部に嘆願をして、それに依つて國民の飢饉が救ひ得られませうか、又是は確に戴けると云ふ確信があるから、粉食に轉換をすると云ふことはどうでも宜いと云つたやうな御考でありますかどうか、此の點を御伺ひ致したいと存じます、次に文部大臣に御尋ね致したいのは、國民の思想問題であります、今や國民の思想は混亂に混亂を重ねて居りは致しませぬでせうか、此の思想を如何にして統制、或は統一せらるる御考でありませうか、私は元來が「アメリカ」に對して戰ふべからざる戰を宣した一部軍閥の横暴に依つて、國民は何等米英に對して戰をしようと考へても居なかつたにも拘らず、一部軍閥が横暴を極めて斯樣な結果に導かれたのであります、從つて國民の思想は夥しい混亂に今陷つて居ると思ふのであります、元來幕政に依つて當時の國民は非常に壓迫を加へられて居りました際「アメリカ」より「ペルリ」提督が日本へ來て、日本の文明、國民の自由の其の基礎を導いて呉れたと信ずるのであります、而して日清戰爭、日露戰爭、偉大なる援助を與へて呉れたものは「アメリカ」でありました、越えて大正十二年九月一日の大震災に莫大の金と看護婦、繃帶材料迄直ちに持つて來て救濟して呉れたのも「アメリカ」であります、「アメリカ」は恩のある、大恩のある國であるにも拘らず、此の國に對して戰を宣したと云ふことは、一部軍閥の自己の滿足を得むが爲にしたのに過ぎないのであります、國民は決して謳歌したものでもなければ、之を要求したものでもありませぬ、一部軍閥の犠性にせられ、此の結果を得たのであります、其處に國民思想の混亂に陷る意味がありはしないか、佛教の所謂因果應報であります、之に關して文部大臣は宗教團體を大動員をして、國民に對して此の思想の建直し、思想の堅實化を御教へになる要はございませぬでせうか、今や幾多の名士、今や我々の同胞の先輩諸氏が續續として引かれて居りますが、誠に私は氣の毒に思ふ、何にも御關係のない、寧ろ戰爭に導くことに反對をせられて居た方々も其の中に確かに居られる、文部大臣は文教の大責任を持つて居られるのでありますが、宗教團體を大動員すると同時に、子弟の教育に、此の戰爭の結果が斯くの如くなつた其の原因、其の理由等能く教育に織り疊んで新日本の建設に邁進をする基礎を御作になる責任があるのぢやないかと思ふのであります、申す迄もなく御研究になつて居るとは思ひますが、公に御意見の御發表を願つて置きますことが、國民の思想問題改善の一助にもなりはしないかと存じまするが故に、此の質問を致した次第であります、私の質問は之を以て終ります
〔國務大臣松村謙三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=34
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035・松村謙三
○國務大臣(松村謙三君) 御答を申上げます、御質問の通り、粉食の問題に付きましては、政府は決して之を忽せに致して居るのではございませぬ、今日の場合、全力を盡して粉食の普及及び其の設備に付きまして努力を致して居るのでございます、今度の議會にも之に要する費用等に付て御協贊を得たいと存じて居るのでございます、先づ粉食の點に付きましては、非常に大きな設備を要するのでございます、此の設備が基本となりまして、粉食の普及が圖り得るのでありますが、其の基本的の設備が現在に於て缺けて居るのでございます、先の内閣の時に粉食協會と云ふものが出來まして、現在はそれを擴充致して之に是等の施設に當らして居るのでございますが、大體の考へ方と致しましては、此の協會で注文を致して、既に製作に從事致して居ります目標は、粉碎機を大凡そ八千臺、乾燥器を大凡そ二千臺、製粉機を二千臺、さうして之を取り組みまして、粉碎機を四臺、それから乾燥器及び製粉機を各各一臺、是だけを組合せたものを三百個所全國に作りまして、之に依つてずつと末端の粉食に要する粉化を致す豫定を致して居り、既に其の注文は致し、製品も今月は僅かでありますけれども、續々出來まして、之を來年の三月迄に是非仕上げたい積りで居ります、之に依つて大體大凡そ一日に六十萬貫、六十五六萬貫でありますが、之を一年に通じますと、概略二億萬貫位の品物を作り得る、此のやうなことを考へて居る譯でございます、此の外に中央の大きな都市に於きましては、更に大規模の製粉工場を起してやりますことは勿論でありまして、之に依つて得たる物を以て此の日本の食生活の少くとも一囘分は「パン」に依つてやつて行くと云ふやうな風に變へねばならないと思ふのでございます、殊に聯合國の許しを得まして小麥が入つて參ります時の用意と致しましても、製粉及び「パン」を燒く設備は非常に大きなものをやらなくてはならぬと存じまして、其の施設も致して居る譯でございます、所謂電氣竈を相當に大きなものをやる積りであります、現在東京に於ては既設の設備を十分動かしたと致しまして、一箇月に六千六百萬食ですか、即ち日に致しますと二百萬食位のもの、大阪に於きましては九十萬食位の「パン」の作り得る設備がございますが、之をうんと擴充致しまして、大體三食の中の一食は「パン」に依つてやる、斯う云ふ計畫で事を進めて居るのでございます、是とても尚十分とは申されませぬけれども、差迫つて居る所の來年の三月位迄には是等の設備を致して置きますならば、未利用資源の活用を致し、食糧問題に寄與することが出來得ると思つてやつて居ります、それに付きまして只今御質問の中に、天然資源の蒐集に農林省は甚だ消極的である、例へば團栗の如きは百萬石程度に止めて、それ以上を採集することには反對を致して居るが如き御言葉がございましたが、其のやうなことは絶對にございませぬ、百萬石と申さるるのは、大體主要食糧の綜合配給の中に加へられた團栗の目當の數字でございまして、是で足れりと云ふのでは勿論ございませぬで、其の供出以外に出來るだけ是等のものは蒐集して貰ふやうに今日農業會其の他を通じて努力をして貰つて居るのであります、さうして是等の集りましたものは此の間閣議の決定を經まして、食糧の特別會計で之を總て買入まれして、此の製粉の用途に使ひたいと思つて居るのでございます、從ひまして或は供出の面のことを間違つて御質問のやうな誤解が地方にあるかも知れませぬけれども、其のやうな次第ではございませぬから、此の機會に於きまして其の點を特に申上げて置きたいと存じます、それから各戸に小さい製粉機を置けと云ふ御話でございますが、是は其の通りでございまして、只今申しましたやうな工場を設けると共に、各戸に小さい製粉機を備へしむるやうに奬勵をし、既に相當に製品が出來て行き渡りつつあるのでございます、此のやうな次第でございまして、粉食問題は是は極めて重大でありますから、之に對しては政府と致しましては非常に努力を致す覺悟でございます、又此の粉食の問題に付きましてはまだ今後の研究…現在研究は出來て居りましても、まだそれが實行せられないもので相當の大きな餘地があるのでございまして、例へば「バクテリア」を造つて食物を糖化して食用にすると云ふやうなことなども、或程度の研究が出來て居り、之を實用化する所迄のことが努力次第に依つては出来るのであらうと思ひますので、是は一例でございますが、未利用資源の利用の範圍は相當に大きいものがあらうと思ひます、開拓等の問題に付ての御話がありましたが、勿論今應急の對策に付て是等のことをやると共に、恆久の對策に付ても、開拓等に付ても大きな施設を今から始めなくちやならぬと存じて居る譯でございます、此のやうに申上げましたが、唯最後に一つ御言葉の中にありましたから此の點だけは申上げて置かなくちやならぬと思ひますことは、是だけのことを致しましても、是で日本の食糧の不足を之に依つてのみ充實出來るものでは斷じてございませぬので、聯合國へ要請致して居ります三百萬「トン」と云ふ量は、是は絶對に一つ入れて戴きませぬと、食糧の問題の解決は絶對に出來ないと存ずるのでございます、何故かと申しますならば、此の間も申上げました通り三百萬「トン」と云ふのは本當に日本人の生命を繋ぎ或程度の活動をし得るだけの程度でございまして、即ち二合三勺を基調と致して居るのであります、而もあの要請を致しましたのは九月の中旬の問題でございまして、其の頃は米は此のやうな凶作とは見られない時期であり、從つて少くも四千八百萬石は穫れると云ふ基調の下に立てられた數字でございます、それが其の後の情勢で今日のやうに更に減退をして四千六百萬石と云ふ、而もそれが九月二十日の豫想でございますので、三百萬「トン」全部が入りましても、尚且漸く二合一勺と云ふ現在の量を維持し得るに過ぎぬ數量でございますので、之を日本として更に粉食等の出來るだけのことを致して、さうして其の當時の最低の要求であります二合三勺の量を、是等の未利用資源等を使つて補つて行かなくちやならぬと云ふのでございますので、あの司令部に對する要請は、是は絶對に必要なものであつて、未利用資源の利用に依つて外國から食糧が入らぬでも渡り得ると云ふが如きことは、是は絶對に不可能なことであることを御承知を願ひたいと存じます、即ち我々は聯合國の、あの絶對量の輸入に付て是非日本の食糧事情に好意ある援助を得て、其の輸入の許可を得、さうして其の上足りない部分は是で補つて行くと云ふやうな考であることを御了承を御願ひ申したいと思ひます、御答を申上げます
〔國務大臣前田多門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=35
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036・前田多門
○國務大臣(前田多門君) 思想問題に付きまして水野議員より御尋のありました點に付きまして御答を申上げます、終戰後の思想混亂に付きましては誠に御同憂に堪へないのでございまして、私共責任のある者も日夜此の對策に焦慮致して居るやうな次第でございます、同時に此の過渡的な混亂期を切拔けまして、健全な安定した思想潮流が出來ますやうに念願致して已まない次第でございます、之に付きましては何と申しましても青年學徒に正しい判斷力を養成させることが必要であると思ふのでございます、批判的な氣持を以て、さうしてものを唯迎合し、雷同し、唯其の時代の標語に依つて狂奔すると云つたやうな態度をなくし、自重的な態度を執らしむると云ふことが必要であると思ふのでありまして、それ等の點に付きまして有らゆる手を打ちたいと考へて居るやうな次第でございます、又御話のありました宗教團體を所謂動員致しまして、さうして此の思想界の混亂に對處せよと云ふ件、誠に御同感でございまして、實は前内閣に於きまして、其の當時私は既に文部大臣を拜命致して居つたのでありまするが、總理大臣の官邸に全國の各支部の宗教團體の代表者の會合を願ひまして、總理の宮殿下から御訓示を賜はり、文部大臣も希望を述べまして、全國の宗教家諸君に御奮起を御願ひ致したのでございまするが、是等の方針に付きましては内閣が迭りましても、只今の内閣も依然熱心に踏襲致して居ることでございますので、左樣に御承知置きを御願ひ致して置く次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=36
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037・水野甚次郎
○水野甚次郎君 極く簡單でございますから此の席で…発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=37
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038・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=38
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039・水野甚次郎
○水野甚次郎君 農林大臣竝に文部大臣より誠に丁寧且御懇切なる御答辯がありまして滿足に存じます、農林大臣に重ねて御願ひして置きたいのは、國民に食糧問題の安心感を與へることが最も必要であらうと存じまするが、餘りに依頼主義、依存主義は此の際絶對にいけない、若しも進駐軍の許可がなかつたならば、絶對にいけないと云つたやうな言葉は非常な不安の觀念を與へることと思ひます、私は信じます、先程申しましたやうに「ペルリ」提督が日本國民に自由を與へ、文明に導く基礎を造つて呉れたと同樣に「マッカーサー」元帥も日本國民を飢饉に飢ゑさせる、苦しめると云ふ信念は少しもなく「ペルリ」提督の再來と信じて居ります、私は斯樣なことは絶對にないと思ふのであります、併しながら農林省としては絶對に此の依存心、依頼心を除いて、國内に於て食糧問題は自己の力に依つて、國力に依つて解決をすると云ふ自信の下に奮勵努力を爲し、又國民を斯樣に指導せられた曉に尚飢が迫つて來ると云ふ風に「マッカーサー」元帥が考へられたならば、お頼みしないでも恐らく此の飢饉を救うて呉れるものと私は深く信じて居りますが故に、餘りに依頼心、依存心を發表になつて、國民をして安心觀を與へ、萬々一の事があつた場合に之を除くことが出來ないやうな虞があつては相成らぬと存じまするので、重ねて御願を致します、どうか國力、自力に依つて徹頭徹尾此の難關を打開すると云ふ御決意の下に御實行に移られむことを御願ひ致しまして私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=39
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040・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 中山太一君
〔中山太一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=40
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041・中山太一
○中山太一君 我が日本國民は敗戰國民と云ふ夢にも思はなかつた不名譽なる烙印を捺され、言語に盡し難い苦惱を感ずると共に、生活に、生産に、經濟に、交通に、教育に、或は政治に、總て獨立國家として嘗て例のない難局に沈湎致して居ります
〔議長退席、副議長著席〕
此のことは國民として誠に遺憾に堪へない次第であります、併しながら今更既往を責めても返らぬ繰言でありますから、大詔にも御示しあらせられました如く、忍び難きを忍び、堪へ難きを堪へまして、茲に心機一轉、禍を轉じて福と爲し、國家及び國民の前途に光明がありますやうに、新日本再建に向つて大いに發奮、努力致さねばならぬと存ずるのであります、就ては新日本の建設は其の愛國心を必要と致しますが、併し偏狹なる國家主義や排他主義は抑制せねばならぬのであります、又外に對しては國際正義に立脚し、人類の福祉増進に貢獻すると共に、世界平和に寄與貢獻すべきは勿論であります、國内に對しては平和産業の急速なる復興、國民生活の安定、正しい文化の建設等、現下の直面せる内外諸問題は孰れも國家國民の運命を決する極めて緊要なことばかりでありますから、本員は總理大臣を始め關係各大臣に其のことに付きまして、御所信を伺ひたいと存ずるのであります、第一に總理大臣に御尋ね致します、聯合國の一環であり、「ポツダム」宣言加盟國であります聯合國が、聯合軍が進駐して居らるる北鮮及び滿州其の他の地域で我が民族が言語に絶する虐待、掠奪暴行等に依つて忍び難き非人道的取扱を受け、悲慘な生活を續けて居ると云ふことが、事實之が果してあつたのでありますかどうか、若しあつたとしたならば、平和上、人道上極めて遺憾なことであり、我々敗戰國民ではありますけれども、誠に割切れない黙過爲し得ない問題のやうに考へられるのであります、是は其の地域に於ける原地人の暴行であるか、又は其の他の者の非行であるか、一切不明でありますから、責任が何れに在るか分らぬのでありますが、何れにしても正義と平和を旨とする聯合國側は總て其の一環として共同責任を以て之を圓滿に、深切に解決を速かにせらるべきものであるやうに私は考へるのであります、殊に正義と平和を念として、現に比島に於きましては、此の意味から我が方の非行を致しました多くの人々を糾彈し、正義の爲に裁判をされつつある米國聯合軍最高司令部は其の名譽と責任上からも之を能く調査され、さうして放任せずに、速かに正しい解決を爲して貰はなければならぬやうに思はれるのであります、併し是は或は風説だけであつて、事實ではないのではないか、それならば本員は何にも申上げる必要はないのでありますから、政府は事實である場合には特に速かに、而も圓滿に平和裡に之が解決するやうに盡力せられむことを熱望するのであります、「ポツダム」宣言受諾に伴ひまして、我が國は聯合軍最高司令部の指令に忠實に從ふことは當然でありますが、其の間に於きまして、先方に誤解や又は過誤のないやうに、又當方に誤りのないやうに、愬ふべきことは十分に愬へ、言ふべきことは十分に申して、誠意を披瀝して完全なる理解と公正なる解決に依りまして「ポツダム」宣言を圓滿裡に實施することが肝要であると存ずるのであります、戰勝國が憎しみの懲罰を續け、反省改悟して居る民族に對して極端な懲罰が繰り返へされると云ふことが若し萬一あつたならば、却て憎惡忿懣を來し、逆に國際正義は破壞される虞れがあると存ずるのであります、聞く所に依れば同じ聯合國の一環である支那政府は臺灣は勿論、支那本土に於きましても、報復的でなく、過去に繰返へされ、戰爭の一因ともなつた排日「ボイコット」を長く續けた國とも思はれない程公正、深切なる熊度を以て殘留同胞に對し臨んで居られると云ふことを耳にし、我々は心から尊敬すると共にそれこそ眞の永遠の平和を招來する立派な態度であり、實に喜ばしいことであると思ふのであります、我々は善隣支那の此の態度に對して深く感銘して居るのであります、支那から言へば我が國は仇であります、然るに仇に報ゆるに恩を以てすると云ふ東洋道徳の眞髓を立派に發揮せられつつありますことは實に東亞の誇りであり、又感謝すべき事柄であると思ひます、然るに滿洲及び北鮮其の他の地域に於きまして、之に相反する行爲が萬々一事實あつたとしたならば、我が政府當局は速かに之が解決に力を致さるべきものであると存ずるのであります、進駐軍關係の國家も聯合國の一環であり、又眞の平和を愛好される國家であると本員は確信致して居るのでありますから、之が今尚放任されて居ることは我が政府が此の解決に對して熱意努力が足らない爲であるのではないかと存ずるのでありますから、其の點に於て一日も棄て置かれず速かに之が解決をされるやうに御配慮を願ふと共に、政府の之に對する責任ある御答を承りたいと存ずる次第であります、次には文部大臣に御尋を申上げたいと存じます、現在我が民族は長期に亙る戰爭の慘禍、衣食住總てに亙る生活の窮乏に依る不安、加ふるに敗戰に依る精神的の打撃等に依りまして、甚だしく國民の感情は荒み、從つて戰前誇とした我が民族の美風良俗は殆ど廢らむとする悲しむべき現状であります、是では思想の惡化することは當然である、如何なる力を以ても堰止めることは至難ではないかと思はれる位であります、此の際國民の思想的崩壞を救ふ爲には、現内閣の施策に俟つべきもの甚だ大なるものがあります、世界の歴史から之を觀ましても、大戰の後には戰に勝つても思想の爲に滅びた國があります、况んや我が國は敗戰國でありますから、一層此の點は留意せねばなりませぬ、就中教育問題に付ては一層重視せねばならぬのであります、日本の將來に關しては民主主義國家として一直線に進まねばならぬことは當然でありますが、其の民主主義を履き違へ、自由を放縱と誤つて、良くない思想、良くない人格の下に、爲すが儘に放任されて居つたならば、聯合國の深切なる指令と相反する結果を見る虞がないとは言へないのであります、日本を民主主義國家として建直すことに付て、朝野に於ては種々議論も行はれ、既に一部は實行に著手されて居りますが、民主主義國家としての我が國、平和愛好國としての國民教育の刷新改善と、崇高なる國民思想が其の根幹となるものでなければなりませぬ、今日迄の日本の誤つた教育は何に原因して居るか、それは宗教を無視し、科學を輕視し、嬌慢自尊の獨善的排他的教育方法に起因した所が尠くないのであります、是を非とし、非を是とするが如き我が國民の嬌慢不遜に流れ、自己陶醉に陷り、科學を輕視し、宗教を無視したことは、單に軍の罪だけではなく、我々國民全體の責任であり、官民總てが其の責任を負ふべきものであると思ひます、從つて今後の日本は飽く迄も國民の感情を醇化し、總て正しく物を見、正しく聽き、有るが儘の世界觀を樹てて大乘的に平和の大道を一直線に進まねばならぬのであります、即ち世界各國の歴史、政治、經濟、人情、風俗、宗教等を明かにして、他國の長所を採つて自己の短所を捨て、是非善惡を靜觀して行くと云ふことが、教育の根本にならねばならぬと存ずるのであります、所謂自由人文化人は眞の文化を持たねばならぬのでありますが、我が國の教育に文化の基準が何れに置かれて居るか、哲學、科學、藝術、宗教等が渾然一體化せられずして、それが輕視されて居り、尊重されずにあつて、眞の文化國はあり得ないと思ふのであります、其の一つである宗教に付てのみ申しますれば、我我が口には信教の自由を稱へながら、實際には其の價値を輕視し、其の施策に於ても國家は甚だ不徹底であつたのであります、此の宗教に對して教育上無關心であつたことが、色々の立場に於て平和を破壞し、又非人道的な行爲が各方面に於て繰返し行はれた大なる原因であると思ふのであります、人間は宗教に依つてこそ、其の感情は淨化され、美しい情操を養ひ、人格は高められるものであります、又其の淨化された精神、美しい情操の持主である人こそ、眞の平和愛好者であり、將又人道の擁護者として、其の國民からも、又他の國民からも、優れた尊敬を受け得るものであります、信教は自由でありますから、國民は迷信や、盲信でない限り、正しい宗教を選んで、其の各各が好む所のものを、佛教でありましても、「キリスト」教でありましても、自由に選んで信仰に入り、信念を確立し、文化人としての人格を錬磨すべきでありますが、茲に民主主義、茲に自由人として眞の自由を與へられるものと存ずるのであります、之に對して文部當局に於かれましては、宗教、教育の及す所の影響の至大至高であることを鑑みられまして、從來の如き宗教に冷淡なる態度を一擲せられ、進んで之に將來普及する施策を講ぜらるべきであると存ずるのであります、又是と共に「キリスト」教や佛教がある時代に邪教の如く、又歴史上にも誤り傳へられたやうな箇所がないでもないと思ひます、それ等が若しあれば文獻から適當に抹消せらるべきものであると存ずるのであります、以上は科學及び宗教の尊重、思想の善導、文化の向上、其の他國民教育の刷新、改善等に付て、民主主義國家としての施策、御抱負を文部大臣に伺ひたいのであります、次には商工大臣に御質問を申上げたいと存じます、石炭の不足は極めて深刻なものがあります、其の爲、生産、生活、交通等、有らゆる面に重大な脅威を與へつつありますが、商工當局は斯かる緊迫した状態を招來する以前に於て此のことあるべきを豫知せられ、速かに適當なる手を打つべきであつたと思ひます、それにも拘らず其の措置を怠たられ、現在の如き深刻な石炭飢饉を招來したることは行政上無計畫も甚だしいものと云ふ外はないのであります、剩へ此の窮迫の最中に於て石炭の輸出を行ふと云ふことは如何にも了解に苦しむ點であります、此の事に付ては差當り現状の儘では輸出は不可能である實情、事實を以て前以て聯合軍最高司令部に申出でられ、十分なる好意ある了解を得て置くべきであつたと思ひます、其の間の事情がどうであつたか、此の點に付て御説明を戴きたいと存じます、又炭坑に從事して居ります朝鮮人を、彼等が言ふが儘に離職せしめて、歸國したものもありますが、中にはまだ國内にあつて徒食し、闇商人となつて暴利を稼ぎ、何等生産に從事することなくして、却て消費市場攪亂の急先鋒となつて居る者が少くないのであります、之を此の儘に放任されて居ることは如何なものでありませうか、寧ろ朝鮮に早く歸すか、又は朝鮮に送るべき石炭は茲二三箇月、是等朝鮮人勞働者の責任を以て採炭に當らしむるやう聯合軍最高司令部の了解が得られなかつたものでありませうか、石炭勞務の主體をなす朝鮮人勞働者を遊ばして置いて、勞力が足りないから石炭が採れないと云ふのは餘りに無計畫政策を證明するものと申しても過言ではないと思ふのであります、石炭飢饉の折柄、聯合軍最高司令部の了解を求められ、是等離職して居る朝鮮人中善良なる者を選んで、特定の炭坑に限つて復歸せしむるなど、適當なる措置を講ずる方法はないものでありませうか、之に對する商工大臣の御所見を承りたいのであります、尚近頃「ラジオ」に依りまして一日數囘炭坑夫の募集が放送されて居りますが、炭坑夫なる名稱が、呼び掛けながら一般大衆にぴつたり來ないのであります、如何にも耳障りに感じられますから、其の仕事の重要性に鑑みられまして、從來の先入的觀念の伴はない採鑛手とか採鑛士とか、もつと適當な上品な名稱に改められて、物質的優遇の外精神的、社會的待遇にも留意をせられることの必要はないでありませうか、之に對する御所見を承りたいのであります、尚産業道徳の昂揚、新日本の再建は産業の復興に待つ處、極めて大なるものがあることは、論を俟たない所であります、其の産業復興には、産業人が、其の使命、責務を自覺して、其の本分を正しく遂行する爲、利益のみに走らず、道義と責任を尊重する觀念がなければならぬのであります、然るに現在の實情は是と相反しまして、不當不信の行爲が平氣で行はれて、到る處闇價格で不良品や、無責任な商品が跋扈し、國民大衆の生活を脅かして居るのであります、一方眞面目な中小商工業者は、優良品を廉價に提供しようとしても、原料材料は闇價格でなければ入手が出來ませぬ、勞銀も昂騰し、生活費も上昇の一路を辿つて居るにも拘らず、其の製品は闇價格の十分の一にも達しない、不適當なる公定價格に釘付けされて居る爲に、之が生産を正しい中小商工業者は繼續しないで、悲境に陷つて居る者が尠くないのであります、斯くの如く眞面目な中小商工業者を破滅せしめ、倒産に瀕せしめて、不良品、不眞面目な闇商人や、暴利を追ふ不眞面目な産業人のみが市場に跋扈し、所謂惡貨は良貨を驅逐すると云ふ現象は、現在程如實に、露骨に現はれて居る時代はないのであります、是は産業政策の不合理と、産業道徳の頽廢の兩面から來て居るものであると思ふのでありますから、政府は國民生活の安定、中小商工業復興、民生物資生産促進の見地から、能率的施設及び生産指導、技術の向上、商品品質の改善、及び文化的價値の向上、優良製品たる責任を明かにする爲、生産者各人に商標、商號を明示せしめ、及び取引の道義觀、其の他産業道徳の確立昂揚に對し、適切なる施策を講ぜられる必要があると思ふのでありますが、之に對する商工大臣の御施策、又は御所見を承りたいのであります、最後に復興院總裁、竝に關係大臣に御尋ね致します、それは住宅の問題であります、政府は罹災者に對する越冬對策として、十二月中二三十萬戸の假設住宅建設を豫定されて居りますが、現在の建設進行状態は如何でありますか、或は其の半數の建設さへも危ぶまれて居るやうな心細い状態であるのではありませぬか、それは其の建設を、素人が支配して居る住宅營團、斯う云ふ機關に重點を置かれた所に缺點があるのではないか、住宅營團が、住宅建設に不手際であつたことは、戰時中に於ても既に各方面から問題視せられたのであります、此の際假設住宅の建設を澁滯せしめないやうに、民間建築業者に一定の責任數を請負はせしめて、それに木材業者が一體となつて、罹災、戰災に依つて住宅を失つて居られる不幸なる罹災者に住居を提供すると云ふ、所謂同胞愛の義侠的氣持を以て、一層其の建設を促進せしめることが必要ではないかと存じますが、只今の方法は如何に進みつつありますかを承りたいのであります、又建設が、希望者に依つてそれぞれ進めようと思ひましても、勅令第四百十一號の第四條にあります借地權に關するあの臨時便法、此の規定がまだ不適當であります爲に、實施上不便であり、不十分である點があります、現在利用されずに或は菜園化されず、又住宅も建てられずして、一億五千萬坪の戰炎地跡が、其の儘放任されて居る時、何等利用されて居らない所に對しては、或は三年乃至五年の短期間を限つて、其の關係都市が之を借り上げて、さうして希望する所の假設店舗、假設住宅、假設工場等を、それぞれ建設せしむるやうに便宜を與へられるならば、都市の復興、又は住宅の建設の促進等は極めて便宜を得ることと存ずるのであります、又現住者に對しては二箇月間、戰炎に遭つて二箇月間保護する規定が第四條にありますけれども、既に今二箇月を過ぎて居るから最早效力を持たないことになるのでありますから、之が救濟等に付ても考慮せられますやうに希望する次第であります、次には假設住宅、假設店舖の建設に付ては町會なり、聯合會が、集團的に建設するやうな計畫性を持たねば隣保共助、或は治安の甚だ宜しくない時に、隣保共助に依つて治安を維持する等の點も考慮する必要があると思ひます、そして又其の假設住宅に依つて戰災地跡が段々菜園化し、農園化して行く時に、是が共同耕作、或は農具の共同使用、其の他にも便する所が少くないと考へられるのでありますから、此の點等にも既に計畫せられて居ることと存じますが、如何なる方法で促進されつつありますか承りたいのであります、食糧問題其の他に付て御尋ねしたいことがありますけれども、本日は時間が餘程經過して居りますから、農林大臣に對する具體的の質問は別の機會に譲らして戴くことにして、私は御尋を終りたいと存じます、御清聽を御禮申します
〔國務大臣前田多門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=41
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042・前田多門
○國務大臣(前田多門君) 中山議員の御尋になりました事柄の中、文部省所管のことに付て御答へ申上げます、御説の如く宗教を尊重致しますることと、科學を重大視致しますることは極めて必要なことでございまして、今囘の教育の建直しに於きましても、此の二つのことには十分重きを置いて參りたいと存ずるのでございます、宗教の關係に於きましては先般來訓令を出しまして、明治三十二年の訓令以來、所謂文部省の鐵則と云はれて居りました所の、私立學校に於て教授時間の以外に於て宗教の教育をすると云ふことを今迄は禁じて居つたのでございますが、私立の學校に關する限は其の學校の自由を重んじまして、其の私立學校で以て一つの宗教の宗派に依つて教育をやりたいと云ふものは、學則に其のことさへ掲げますならば自由に教授時間外ならば宗教の儀式、宗教の教育を致して宜しい、斯う云ふやうに方針を變へたやうな次第でございます、又科學の問題に付きましては先刻田中館議員に御答へ致しましたのと大體同樣な考でございますので、左樣に御了承願ひます
〔國務大臣小笠原三九郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=42
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043・小笠原三九郎
○國務大臣(小笠原三九郎君) 中山議員に御答へ致します、石炭の問題は稍稍少しく時間を取りまするけれども、政府がやつて居ることを詳細御承知願ひたいと思ひますから、出來るだけ詳細に後から申上げます、先づ最初に中山議員の仰せになりました産業道徳の昂揚に關する件でありますが、誠に仰せの通り近來經濟道義の低下に付きましては、誠に遺憾な點が多々あるのでございます、日本經濟の再建の基礎が此の經濟道義の昂揚にありますることは申す迄もございませぬ、機會ある毎に之が昂揚を唱道致して居るのでございますが、尚商工組合中央會等をして經濟道義昂揚運動等を展開せしめるやうに今準備を進めて居ります、又中小工業の育成保護、優良商命の普及に付きましては政府と致しまして最善の方途を講じて居る次第でございます、優良品の製造工場に資材を優先配給するとか、或は又公的機關に依る優良品の認定制度を實施すると云ふやうなことに致しまして、御期待に副ひたいと考へて居る次第でございます、次に石炭の問題でございまするが、石炭の出廻りが急に惡くなつたと云ふ事柄に付きまして中山議員の御所見の中に、或は少しく事實が違つて居る點があるのではないかと思はれますので、先づ其の點を最初に申上げます、御承知の通り終戰後石炭が急激に惡くなつて參りましたのは、何と申しましても勞務者の大半を占めて居つた半島人勞務者竝に華人勞務者が、終戰後に於きまして段々と各地で暴動、騷擾を始めたのであります、其の暴動、騷擾の程度が日一日と深刻になつて參りまして、各所に於きまして、是等の者が山に入らぬのみならず、日本の勞務者も亦之に脅かされまして段々と仕事が出來なくなりまして、石炭が掘れなくなつて參つた、斯う云ふ事柄が直接な最も大きな原因でございまするので、左樣な事態は是は私が辯解を申すのではございませぬけれども、當時の事情の下に於きましては、之をどう云ふ風に處理するかと云ふ問題が、一番急務になつて參つた譯合でございます、從ひまして其の間に政府の處置に怠慢があつたと云ふやうな仰せがございましたが、私共は如何にも全力を盡して參つたと云ふ事柄を申上げます爲に、茲に事實を少し申上げて見たいと思ふのであります、先づ第一番に今申上げました炭坑治安の確保が非常に必要な第一のことになつて參りましたので、之に付きましては警察力の強化を御願を致したのでありますが、御承知の如きあの當時に於きまする、終戰直後に於きましては、日本警官の治安維持の力が甚だ乏しうございましたので聯合軍側に御打合せを致しまして、「エム・ピー」を派遣して貰ひまして、此の「エム・ピー」の派遣等に依つて治安の維持を圖つたのであります、特に北海道方面には「バラード」大佐、第八軍の經濟部長が行つて貰ふとか、其の他を初めと致しまして、各所に是等の人々が自ら行かれて、「エム・ピー」の派遣に依りまして治安の維持を確保する、又此の半島人及び華人勞務者を出來るだけ早く急速に送り還す、或は又山を離すと云ふやうな措置を執つて戴くことにした次第でございます、今申上げた通りの事情でございまするから、華人及び朝鮮人勞務者の引揚促進、斯う云ふことが最も大切な問題になつて參つたのでございまして、當時の事情を申しますると、華人勞務者が北海道に七千五十二人、九州に六千百二十人、計一萬三千百七十二人、鮮人が北海道に四萬六千、常磐に六千人、九州に九萬三千人、都合十四萬五千人、斯う云ふやうな多數に上つて居りましたので、是等を如何にして送還をするか、日本の現在の船、其の他の輸送状況から見まして此のことは最も容易でない問題であつたのであります、之に付きましては、海軍の方から軍艦も出して貰ひ、又陸軍の復員で行きます往路の場合に、北支向の分に付ては其の時に積んで行つて貰ふ、或は又聯合軍側の方から上陸用舟艇も出して貰ふ、有らゆる措置を講じまして之をやることに致したのでございます、幸なことに此の十一月末迄には略略之を送り還してしまつたと申して宜いのであります、現在最早九州には半島人勞務者は一名も居りませぬ、全部送り還しました、但し數の上では五千人ばかりは殘つて居りますが、是は自力で歸る者であり、何等騷擾等を致しませぬので、送還を豫定した者は全部送還を致してしまひました、常磐等に於きまする六千人も是は全部送還を致してしまひました、尚北海道に三萬八千人殘つて居りますが、是は日々千五百人づつ今汽車で新潟其の他の方へ出しまして、是も十二月上旬迄には全部送還を了することに相成つて居ります、華人勞務者の方も略略同樣でありまして、孰れも十二月上旬には全部是等の騷擾等の原因となり、一番炭坑治安の確保を妨げて、是が爲に減産となりました者を全部送り還すことが出來ることに相成つたのであります、此の件に付きましては特に聯合軍側の多大の支持があつたことを此の議場を通じまして感謝申上げて置きます、其の次は炭坑勞務者の緊急充足の問題であります、御承知の如くに炭坑勞務者は今のやうに半島人及び華人勞務者を向ふへ還しまして、其の減耗の外に色々の關係で自然減耗と云ふのが相當にありまするので、其の充足を圖りまする爲には、本年十二月迄に六萬人來年一、二、三の三筒月に七萬人、本年度内で申しますると、合計十三萬人の人を必要とするのであります、從ひまして此の勞務者をどうするかと云ふ問題が緊急な問題と相成つたのであります、之に付きましては後から申しまするやうに食糧の確保とか、或は賃金の引上とか、必要物資を加配するとか、色々な措置を執りまして自由募集に今努めて居るのでございますが、十一月末迄にはまだ七千八百人しか其の募集成績を擧げて居ないのでございます、けれども今政府に於きましても鑛山の關係者に於きましても全力を盡してやつて居りまする外、司法省の方の御了解を得まして、囚人を五六千人其の方へ向けると云ふやうな措置も講じて居りまするし、又文部省の方に話しまして、學徒の中進んで向ふへ愛國的に行きたいと云ふ人に付ては、さう云ふ措置を執るべく目下手續を進めて居る次第でございます、それから尚金屬山の勞務者は同じやうに矢張り坑内でやる、多少性質が違ひますけれども、是も亦若干其の道も付かうと思ひまするので、是等の措置も講じまして、又之に伴ひ豫算的措置等に付きましても…豫算と申しましても現に有る金は使へるのでありまするが、是は大藏省の同意を得て進めつつあるのであります、次に坑夫に對する食糧の確保の問題でありまするが、是は平均一日一人當り五合を確保することに決定を致したのでございます、但し北海道等は米の實物がございませぬ爲に、まだ手廻り兼ねて居りまするので、最近配船を了しまして、新潟から六千石を之に向けると云ふことに致しました、左樣なことで若干手遲れになつて居る所もございます、尚家族に付きましては二合一勺を二合三勺にすると云ふ措置を執ることに致しました、更に又生活必需物資の關係に於きましては、作業衣は一人平均一・五着づつを與へ、又地下足袋は平均六足を與へると云ふことに致しまして、是は既に其の手配を了しました、尚地下勞働の特性に鑑みまして、坑内夫の賃金は地上勞務者に比べて八割高にする、斯う云ふ措置も執ることに致したのでございます、更に又資金對策と致しましては、炭坑の復興資金及び災害の復舊資金及び企業資金等の圓滑なる融通を圖りまするが爲に、大藏省の方と打合せを致しまして、約三億圓に上る是等の資金に付きましての話合ひを著け、現にそれ等の融資を著々實行しつつある状況であります、更に又石炭對策委員會も設けまして、當時之を開いて、さうして適宜、適正なる措置を執る、斯樣なことにも致して居るのでございます、其の外最近に於きましては貯炭の強行拂出しを致して居るのでございます、貯炭が帳簿面で申しますれば、北海道に約八十萬「トン」九州に百萬「トン」宇部に二萬「トン」あるのであります、但し是はどうも色々な所に何して居りまするが爲に、大體半額位が強行拂出し得る目的に相成るのでありまして、それが爲には聯合軍より内務省に返還のありました「トラック」二百臺を使用するとか、或は運輸省の省營自動車を使用する、斯樣な方法も講じて居る次第でございます、斯樣な譯で政府と致しましても全力を傾倒致しましてやつて居るのでございまするが、何分まだ思ふやうに成績の擧りませぬことは誠に遺憾に存ずる次第でございます、併し今後とも石炭の重要性に鑑みまして、私共は全力を盡して増産に努力する考でございまするから、どうか皆樣方に於かれましても十分なる御協力を賜りまして、増産の目的を達するやうに御願を申上げたいと存じます、尚中山議員の仰せられた石炭輸出の問題でありまするが、是は朝鮮に七萬「トン」、香港に月一萬八千「トン」本月出すことに相成つて居ります、此のことに付きましてまあ私共の方でも石炭事情を色々話をして居るのでございまするが、聯合軍側に於きましても、事情已を得ざる是は最小限度の額だと云ふことでありまして、私共は今迄各方面に石炭に付ての援助を得て居りまするので、是等の點に付ては、例へば朝鮮のものは米穀と「バーター」にして貰ふと云ふやうなことから、折衝を致して居るのであります、只今の處鹽が之に付て若干入つて參つて來て居ります、尚實際問題は斯う云ふやうに、朝鮮の七萬「トン」と香港の一萬八千「トン」、都合八萬八千「トン」に月額なつて居りまするが、現實はまだ四五萬「トン」しか行つて居りませぬが、先方からの要求と致しましては斯う云ふやうな工合に相成つて居ります、尚精神的に、社會的の待遇をする爲に、どうも坑夫と云ふやうな名前は適當ではないんぢやないか、採礦手とか云ふやうにしたらどうかと云ふやうな御意見に對しましては、私共も能く考慮致しまして、之に對する適當な措置を執りたいと考へて居ります、何れに致しましても、石炭の問題は今日食糧と相竝び最も重大な問題になつて參りましたので、皆樣の御協力を得まして是非とも石炭増産の成績を擧げたいと念願して居る次第でございます、之を以て御答辯と致します
〔國務大臣小林一三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=43
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044・小林一三
○国務大臣(小林一三君) 中山さんの御質問に對して御答を申上げます、住宅營團は御話の如く誠に捗々しく進まないので恐縮して居ります、併し大體二萬戸位は出來上り出ました、今月中には六萬戸位出來上るやうに只今一生懸命になつて努力致して居ります、又地方地方に業者と話合つて自由に建築の出來るやうにしてはどうかと云ふやうな御質問も、是は私も頗る御同感で、是は順調に進んで居つて十一月二十日頃の集計に依りますと、彼此十五萬二千戸位は出來て居ります、此の分は存外早く各方面に充實することであらうと信じて居ります、尚燒跡を自由に便宜に使へるやうにしてはどうかと云ふ御注文も、是亦當局と致しましては區劃整理に伴ひ、或は地券を發行するとか何とか色々便宜の方法を不日實行したい爲に其の手續を進行中であります、簡單ながら御質問に御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=44
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045・中山太一
○中山太一君 總理大臣からの御答辯は後日適當な時に、簡單で宜しうございますから、御決意を御漏を願ひたいと思ひます、又私の質問中小笠原商工大臣に對して少し石炭問題は強く當つたかも分りませぬが、表面に現れた所ではさう云ふやうに取れたのであります、只今の説明で一層能く分りしたまから、此の事に對する御説明に對して有難く御禮を申して私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=45
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046・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 質疑通告者は全部終了致しました、總理大臣の答辯は他日適當な機會にあることと存じます、是にて國勞大臣の演説に關する件は終了致しました、次會の議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後零時五十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903242X00519451204&spkNum=46
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