1. 会議録本文
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000・会議録情報
委員氏名
委員長 河原田稼吉君
副委員長 男爵 久保田敬一君
公爵 岩倉具榮君
侯爵 徳川頼貞君
侯爵 中山輔親君
伯爵 橋本實斐君
子爵 立花種忠君
子爵 秋元春朝君
子爵 梅園篤彦君
子爵 高木正得君
子爵 齋藤齊君
下條康麿君
吉田茂君
大野緑一郎君
大橋八郎君
男爵 八代五郎造君
男爵 肝付兼英君
男爵 西酉乙君
男爵 村田保定君
藤沼庄平君
長岡隆一郎君
松本健次郎君
瀧川儀作君
河西豐太郎君
松本勝太郎君
奧主一郎君
秋田三一君
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昭和二十年十二月十五日(土曜日)午後一時八分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=0
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001・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) それでは是より勞働組合法案特別委員會を開きます、先づ厚生大臣の御説明を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=1
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002・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 勞働組合法案の概要に付て御説明申上げます、本法案を提出致しました理由に付きましては、本會議に於て申述べましたが、一言にして申せば、時代の要求に即應して、我が國に於ける民主主義的傾向の復活強化を促進し、勞働階級の福祉を増進して、社會進歩の法則に歩調を合せむとする爲の立法であります、曩に聯合國最高司令部より帝國政府に對し、勞働組合を促進助長すべき旨の要請が發せられたのも、亦右の趣旨に外ならぬものと思考致します、此の機會に於て帝國政府は、我が國産業の再建の上に重要な地位を占める勞働者に統一と秩序とを與へ、其の勞働條件を適正にし、勞働意欲を積極的に昂揚せむが爲、勞働組合の健全なる結成活動を保護助成せむとする意圖を以て、此の法案を立案致したものであります、以下簡單に法案の要旨を申述べます、第一に、本法は勞働者の團結權を保障し、團體交渉權の保護助成を行ひ、以て勞働者の地位の向上を圖り、經濟の興隆に寄與することを目的とする旨を闡明したのであります、第二に、勞働組合の團體交渉、「ピケッチング」其の他の爭議行爲にして正當なるものに付ては、刑法第三十五條の適用あること、換言すれば、如上の行爲を以て正當の業務に依り爲したる行爲として、刑罰法令に依り之を罰しないこととしたのであります、第三、勞働組合の定義、結成、運營、法人格の附與等の事項に付ては、組合の自主的且自然發生的性格に鑑み、成るべく之を自由ならしめると共に、之が適正を維持する爲、最少限度必要なる若干の規定を設けたことであります、第四に、組合の代表者等には團體交渉等の權限を與へ、又使用者に付ては、其の從業者が組合に加入することに對して、不當な妨害を爲さないことを保障し、又勞働者の正當なる爭議行爲に付ては、使用者側より損害賠償を要求し得ないこととして、組合の健全なる結成及活動を保護したのであります、第五に、組合の經營する共濟事業其の他福利事業に付ては、産業組合に準ずる免税の恩典を與へ、以て其の保護助長を圖つたことであります、第六、組合と使用主間に締結せらるる勞働協約は、勞働能率の増進と産業平和の維持の爲に極めて重要な關係ある事實に鑑み、協約の締結、其の拘束力等に付き、それぞれ所要の規定を設けたことであります、第七、勞働組合と使用者間の關係を圓滑且民主的に調整する爲、勞働者側、使用者側及び中立の代表者を以て勞働委員會を設けて、之を中央、地方其の他に設置することとし、之に廣汎な權限を附與することと致しました、最後に、組合に對する監督權、及び本法施行の上に於ける罰則を必要の最少限度に止めることにしたのは、舊來の法制と著しく異なる點であります、終戰後勞働組合の結成は急速に進展の勢を示し、其の活動は全國に亙つて行はれつつあります、本法案は斯樣な形勢に即應し、前に述べました趣旨に依つて、勞働組合を法的に認めることとし、其の健全なる育成を圖らむとするものであります、何卒御審議の上、速かに御協贊あらむことを希望する次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=2
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003・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 便宜御質問を願ひます、別に總括的とか或は細目的とか云ふ區別を設けぬで、適宜御質疑を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=3
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004・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 二、三質問を申上げたいのでありますが、それに先だちまして大臣に伺ひたいと思ひます、「マッカーサー」司令部の要請に應じて此の法案を御提案になつたと云ふ風に伺ひましたが、此の各條文に付ても一々司令部と連絡御交渉になつた上で、本案を決定せられたのでありますか、其の點を御伺したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=4
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005・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 梅園子爵の御質問の點は、本案の審議を進めて戴く上に極めて重要な點であると思ひますが、本日答辯の資料を用意致して居りませぬ爲に、明日適當な機會に、委員長より御指定の時間に、説明申上げることに致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=5
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006・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 只今御伺ひ致しました點は、諒承致しました、就きましては、二、三此の機會に大臣に伺つて置きたいと思ひます、先づ本法の第一條に於きまして、團結權の保障及團體交渉權の保護助成に依りまして、勞働者の地位の向上を圖ると云ふやうに出て居りまするが、此處に謂ふ勞働者の地位と云ふことは、如何なる種類、性質の地位を指すのでございませうか、此の點を先づ伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=6
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007・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御答へ致します、勞働組合の目的が主として勞働者の經濟的地位の向上に在ると云ふ點は、内外共に一致した見解でありまして、其のことは此の法案の第二條に規定して居るのであります、第一條は、勞働組合法を制定する目的を主として掲げたものでありまして、單に勞働組合の目標のみならず、之を使用者側の立場から、或は政府の立場から考へまして、如何なる氣持で此の法案を作つたかと云ふ意味を、出來るだけはつきり現れるやうに書いたものであります、從つて勞働者の地位の向上と申しますと、極く常識的に考へての地位の向上と云ふ意味でありまして、特にむつかしい法律的の意味を規定したものではないのであります、從つて勞務法制審議會の答申案の中には、經濟的、社會的、政治的地位の向上と云ふことが、三つ竝んで出て居つたのでありますが、併し其の三つの目標は、動もすると勞働組合本來の目的たる經濟的地位の向上と云ふことを、稍稍不明確にする嫌ひがありますので、寧ろ平たく勞働者の地位の向上と書くことが適當と考へました、併しながら勞働組合の目標は經濟的地位の向上に在ると致しましても、其の他に勞働組合は福利施設を行ふとか、圖書館を作るとか、學校を作るとか云ふやうな、文化的な面、社會的な面も持つて居ります、又世界各國の例を見ますと、勞働組合が或程度の政治運動をする事實は、之を認めて居るのであります、具體的に申せば、勞働組合が或候補者に政治的支持を與へる爲に運動資金を寄附するとか、或は勞働組合は是々の黨派に支持を與へると云ふ態度を決定することもあります、さう云ふ從屬的の活動を禁止する趣意ではないのであります、併しながら主たる目標が經濟的地位の向上でなければならぬと云ふことは疑を容れないのであります、即ち主たる目標と從屬したる目標との總てを併せて勞働者の地位の向上と云ふ意味であります、左樣御了承を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=7
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008・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 只今の大臣の御説明に依りまして大體了承致しましたが、此の第一條の末尾の方に、「經濟の興隆に寄與することを以て目的とす」、此の「經濟の興隆に寄與する」と云ふ文字から察しますると、經濟的地位のみの向上ではどうしても私共物足らない、矢張り政治的竝に社會的地位の向上を併せて圖る必要があると云ふ風に考へまして、御伺ひ致したのでありまするが、只今の御懇切なる大臣の御説明に依りまして、大體は了承致しました、尚もう一つ伺ひたいと存じますのは、此の法案は恰も勞働憲章にも比すべき所の第一條の規定を設けて居りまする以上、確か「ドイツ」の「ワイマール」憲法に規定して居つたと云ふやうに承知して居りますが、憲法の臣民の權利義務の規定中に、勞働の權利義務に關する規定をば、來るべき憲法改正に當りまして、新憲法に規定すると云ふやうな用意をば御持ちになつて居るのでございませうか、さう云つた御考がおありになるのでございませうか、其の點を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=8
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009・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 只今憲法の改正が問題となつて、内閣に於てもそれぞれ主任の部署を定めて研究致して居りますが、恐らく來るべき憲法の中には、勞働義務或は勞働の權利等に付ての規定を設けらる模樣であります、從つて特に其の方面に造詣のある専門家に委囑致しまして、本法案の研究を今日迄續けて居る勞務法制審議會に於て、此の問題を研究中であります、其結果の答申を俟つて、政府としては之を參考に致したい、斯樣に考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=9
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010・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 次に第四條に於きまして、警察官吏、消防職員等は、勞働組合を結成し、又は勞働組合に加入することを禁じて居るやうでありまするが、是はどう云ふ譯で禁じて居るのでありますか、伺ひたいのであります、若し「ストライキ」等の紛爭を起した場合には困ると云ふことを慮つてのことでありますか、「ストライキ」等の防止對策は他に其の途があるやうに思はれますので、寧ろ是は警察官吏、消防職員と云つたやうな者に對しましても、此の勞働組合の結成を許しても宜いのぢやないかと云ふやうに考へまするが其の點に對する大臣の御所見を伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=10
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011・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 此處に掲げました警察官吏、消防職員、監獄の勤務者、是等は主として國内の治安維持に最も緊切な關係を持つて居る官吏若しくは之に相當する人間でありまして、是等の者に爭議行爲を許すか許さないかと云ふことは、只今梅園子爵の御意見の通りであります、許しても差支ないと云ふ議論も立つと思ひます、併しながら今日我が國の状況から見まする場合に、是等の直接國の治安維持に重大な責任のある人間に、爭議行爲を公然に許すことは、幾多の場合に面白くない結果を及しはしないかと考へまして、この三種の勤務者に限つて組合の結成若しくは加入を禁止することが適切であるとした譯であります、外國に於きましても、警察官吏、消防職員等に對する組合の加入を認めて居る場合に於ても、非常に窮屈な制限を加へて居りますから、或意味に於ては、極端な制限を加へながら勞働組合を結成させる位ならば、寧ろ初めから禁じた方が至當でないか、斯樣に考へた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=11
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012・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 只今の御懇切な御説明に依りまして了承致しました、就いては、第十三條に共濟事業其の他福利事業の爲特設したる基金のことが出て居りますが、此の基金は、總會の決議を經ました場合に、政治運動に之を使用すると云ふことは出來ないのでありまするか、或は場合に依つては使用することが出來るのでございますか、此の點を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=12
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013・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 第十三條に規定して居ります趣意は、總會の決議を經る場合に於ては、福利事業の基金をも政治運動に流用することが出來る、斯う云ふ趣意であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=13
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014・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 能く分りましてございます、もう一點伺ひたいのでありますが、第十五條に「屡法令に違反し」とありまするが、此の「屡」と云ふのはどう云ふ意味であるのでありまするか、此處に謂ふ「屡」の意義に付て御説明を煩はしたいと思ひまするのと、其の下に「安寧秩序を紊りたるとき」とありまするが、其の程度はどう云ふものでありまするか、出來ましたら例示して御説明を煩はしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=14
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015・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 「屡法令に違反し安寧秩序を紊りたるとき」と云ふ一句の、「屡」が何處に係るかと云ふことがちよつと複雜に見えますが、屡屡法令に違反しと云ふ意味でありまして、「屡」と云ふ字は「法令違反」と云ふことに係るのであります、「屡」とは極めて通俗的に、一囘の場合は屡屡でない、少くも二囘以上法令に違反する、斯う云ふ意味の屡屡であります、然らば「安寧秩序を紊る」と云ふことは一體どう云ふことか、是も常識では直ぐ分る言葉であつて、而も之を適切に解釋することがむつかしい言葉だと思ひますが、普通には公共の安全、經濟、社會、國家の普通常軌の秩序、斯う云ふ意味に取つて居るのでありまして、例へば人心を惑亂するとか、或は人心を混亂に陷れるやうな場合を、此の安寧秩序の文字に盛つて居る譯であります、御承知の通り治安警察法がなくなりました結果、結社の解散は非常にむつかしくなつて居るのであります、併しながら勞働組合の場合に於ては、特に斯う云ふ手續を經て組合の解散を爲すことが出來ると云ふのでありますから、解散を爲す場合の手續は、條件に於ても、又手續に於ても相當制限して、嚴重にして置く必要があると云ふことから、勞働委員會の申立に依つて裁判所が解散を命ずる、而も其の理由として、屡屡法令に反して安寧秩序を紊す、斯う云ふ場合に限らうと云ふ趣意であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=15
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016・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 只今の御説明で大體了承致しましたが、今の屡屡の意味は、御説明では二囘でも屡屡だと云ふ風に了解致しましたが、それでも宜いのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=16
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017・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御説の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=17
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018・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 もう一點御伺致したいと思ひます、二十五條に「調停又は仲裁成らざる場合の外」とありまするが、此の「外」と云ふことを若し資本家側の方で濫用致しました場合には、結局「ストライキ」を禁止したと同じやうな結果となるやうに考へられるのでありますが、若しさう云ふ結果を生じ得る隙があると致しましたならば、其の濫用防止策と申しますか、濫用防止對策と申しますか、さう云ふ風なものがおありになるのでありますか、伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=18
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019・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 二十五條にあります調停又は仲裁の手續は、相當愼重に之を取り行ふことになつて居りまして、其の主たる役目を務めるのは、第四章にある勞働委員會が之に當る譯であります、尚此の勞働爭議の調停に付きましては、現行の勞働爭議調停法が之を規定して居るのであります、併し現在の爭議調停法は少し立法が古くなつて居りましては、今日の事態に適切でない部分もあると考へまして、目下其の改正準備を致して居ります、此の次の議會には勞働爭議調停法の改正案を提出致しまして御協贊を仰ぐことと思ひますが、さう云ふ愼重な手續を經て調停又は仲裁に付するのでありまするから、それが成功したか、しないかと云ふことは、はつきりと何人にも分るやうになつて居ります、從つて事業主が自由に、調停が出來なかつたとか、仲裁が不成立であつたからと云ふことを理由に、無理な要求を起すことは出來ないと、斯樣に解釋をして居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=19
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020・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 尚二、三伺ひたいことがございまするが、今日は此の程度に致しまして、私の質問は打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=20
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021・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 二條と四條との關係を見ますと、一般の官吏は政治運動が出來ると云ふことでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=21
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022・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 第四條の規定に書いてあります通り、「本法の適用に付命令を以て別段の定を爲すことを得」と云ふのは、詳細の事項を勅令に委任すると云ふ意味でありますが、勅令の豫定事項の中に、政治運動に付ては、勞働委員會の決議に依つて、行政官廳に於て禁止又は制限を爲すことを得るやうに定める豫定であります、從つて官吏と申しましても、公共事業に從事する現業の職員、鐵道の雇員でありますとか、遞信事業に從事して居る雇員等と、一般の行政官との間に、差別を付ける必要もあると思ひます、政治運動を爲す程度に付きましては、多少の差は必ず出來て來ると思ひますが、總てに之を禁止すると云ふ趣意には考へて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=22
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023・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 同盟罷業の點でございますが、官吏に於きまして色々種類がございまして、御承知の通り、公共事業に携つて居る者がございますが、さう云ふ者が同盟罷業が出來ることになるのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=23
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024・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御答へ致します、先程申上げました第四條の命令の豫定事項の中に、第一には是等の官吏、公吏、之に準ずる者は、其の爭議を調停又は仲裁に掛けて、それが成功しなかつた場合の外は、爭議行爲を爲すべからずと決める豫定であります、第二には、斯樣な爭議を爲し又は爲す虞がある時には、行政官廳が之に對して必要の場合に爭議の中止命令其の他の命令を發することが出來ると云ふ規定を置く考であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=24
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025・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 爭議等で問題になりますのは、賃金問題が何れ主體となつて來るのではないかと思ひますけれども、賃金問題の檢討に當りましては、生計費とか、生計費指數とか云つたやうな、各種の統計が必要になつて來るのではないかと思ひますが、在來日本の統計と云ふものは可なり杜撰なものが多いのでありまして、此の度の敗戰を喫しました裏にも、恐らく斯う云ふことがあるのではないかと思ひます、「アメリカ」に於きましては統計が非常に發達を致して居りまして、計畫經濟を致すに付きましても、活きた資料、「アップ・ツー・デート」な統計に依りまして、色々計畫がなされて居つたのだと存じます、日本に於きましては、さう云ふ「アップ・ツー・デート」な統計がないと云ふ爲に、色々な所に「ネック」が出來たり、物が溜つてしまつたり致しまして、圓滑に運營が出來なかつたのでないかと存じます、斯う云つた點でございますが、今迄は科學其のものの振興と云ふものも叫ばれたと思ひますが、政治行政の上に科學と云ふものがまだ滲透して居らなかつたと云ふ點が多々あるのではないかと存じまするが、斯う云つた法律に於きましても、さう云ふやうな部面が今後出て來るのぢやないかと存じます、其の統計の整備と云ふものをどう云ふ風に考へて居られるでありませうか、伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=25
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026・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 只今齋藤子爵の賃金問題及び之に付隨する統計に關する御意見は、御説の通りでありまして、私も全然同感であります、御承知の通りに賃金を定めますのは、中央賃金委員會に於て一應の決定を爲すのでありますが、其の基礎となるべき統計が甚だ不正確であり、又其の事態に適しないものが多いと云ふ御考も、正に其の通りであると思ひます、無論今日の如く物價の變動の非常に激しい時代に於て、又其の物價が土地に依つて、地方と中央、大都市との間に非常な差があるやうな時代に於きましては、適正賃金を決めることが非常に困難であることは、一應想像が出來るのであります、從つて勞働組合法の發布になりました以後、特に調査機關を設ける計畫を致して居りまして、其の事は、此の法文の中の勞働委員會の任務として、第二十七條の列記の中に掲げて居ります、出來るだけそれ等の調査機關に依つて適切な統計を作り上げ、賃金決定の基礎に致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=26
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027・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 速記を止めて戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=27
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028・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 速記を止めて
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=28
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029・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 速記を始めて発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=29
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030・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 統計を御使ひになります上に、在來のやうな統計の使ひ方でなく、又作成方でなく、もつと近代的な統計資料の集め方、統計の作成方法を使つて戴きましたら、如何かと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=30
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031・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 只今専門家たる齋藤子爵から、統計の問題に付て、極めて適切なる御質問を拜聽致しまして、全く御意見の通りだと思ひます、日本に於きましては、民間の一二の有力の會社で機械を据付けて居る程度でありまして、官廳方面に於ては遺憾ながら、まだ今日迄新機械を使用して居るものが小數であります、之が爲に最近の有權者調査等に於ても、相當の日子を要するやうな現實の例があるのでございます、政府と致しましても其の點は痛切に、至急施策を爲すべき必要を感じて居ります、精々之が實現に努力致す決心であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=31
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032・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 只今の大臣の御答辯に依りまして、私は滿足致す者であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=32
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033・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 御發言がないやうでありますから、一點だけもう一つ伺ひたいと思ひます、第二十四條に「一の地域に於て從業する同種の勞働者の大部分が」とありますが、此の大部分と云ふことを、前條の第二十三條には「同種の勞働者の數の四分の三以上」と云ふことに明記して居ります、此の第二十四條の分も、四分の三以上と云ふ風に明記した方が、條文の體裁上宜いやうに思ふのですが、之をわざわざ大部分とぼやかしてありますのは、何か特別の理由がございますのですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=33
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034・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 第二十四條には一定の地域に於て從業する同種の勞働者と云ふことになつて居りまして、必ずしも一の工場、事業場に使はれる勞働者と云ふのとは同じ形で出て居ないのであります、從つて、例へば横濱地域に於て同種の事業に從事して居る者が、あちらこちらに分れて仕事をして居る、さう云ふ際に之を正確に四分の三と云ふ數字に調べ上げることには、相當の時日を要する場合がありまして、事實四分の三と云ふ數字を含んで問題を決定する心持でありまするけれども、はつきり之を四分の三と書くことに多少の困難がありますので大部分と云ふ字を使つたのでありますが、併し實際の適用に於ては略略四分の三以上と云ふ數字を掴んで問題を決したい、斯樣に考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=34
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035・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 了承致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=35
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036・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 今此處に頂戴しました此の表を拜見してちよつと不審に思ふのですが、「年次別勞働組合數及組合員數調」と云ふのを今頂戴したのですが、明治四十年が組合數が四十、それからずつと殖えたり、減つたりして居りますが、昭和十四年に五百十七もあつた譯ですが、是は昭和十五年には四十九、ずつと減つて居る、それから又ずつと一番下の勞働組合の組織率と云ふものを見ますと、大正十三年ですか、五・三と云ふのが、昭和十五年には〇・一になつて居る、尚、註の所を讀んで見ますと、昭和十五年に於て殆ど壞滅した、それからあとは有名無實のものとなれり、之に付て、どう云ふ是は關係があるのですか、私一向承知しませぬが、ちよつと大略の御説明を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=36
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037・高橋庸彌
○政府委員(高橋庸彌君) 此の表の御説明を申上げたいと思ひます、我が國の勞働者が勞働組合に組織されて居ります率は、非常に少うございまして、御承知のやうに「イギリス」は約七割位入つて居るさうでございますが、本邦に於きましては非常に少うございます、一番多い年が、此の表にありますやうに、昭和六年の七・九「パーセント」が一番多うございまして、それからずつと減つて居ります、さうして昭和十五年になりましては、只今御述になりましたやうに、〇・一「パーセント」、さう云ふ風な工合に、殆ど勞働組合に加入する者がないと云ふ風なことになつて居ります、それは御承知のやうに、此の大東亞戰爭になりましてから、産業體制が産報に段々なつて參りまして、殆ど勞働組合の結成と云ふものがなくなつたのであります、さうして此處にありますやうに、勞働組合は昭和十五年に殆ど壞滅し、以來有名無實のものとなつたのであります、一面に於て此の勞働組合がずつと減つたと云ふことは、全部産報の傘下に殆ど入つたと云ふことを意味するものと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=37
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038・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 今のに關聯しまして、十九年六月の末に三つの組合が殘つて居るやうに此處にありますが、それから又本年六月と云ふのは、是は二十年のことだらうと思ひますが、此處の所はどうなつて居りますか、御伺したい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=38
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039・高橋庸彌
○政府委員(高橋庸彌君) 本年と云ふのは御述になりましたやうに昭和二十年でございます、二十年六月に其の報告がなくなつた所を見ますと、全部消滅したと、斯う云ふ風に解釋して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=39
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040・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 それから今一點御伺して見たいと思ひますのは、此の法案が出來ますと、全部皆此の法案に順次從ふ譯でありませうが、現在運輸省には現業委員會と云ふものがありますし、又遞信院の方にも、今何と言つて居りますか知らぬが、遞友會と言ひますか、海員組合とか、それから大藏省にも、多分煙草や何かの方には、女工ですか、何かの組合がある、さう云ふ風に色々な官廳の方でやつて居られ、組合法に準じたやうな諸種の規定と云ふものがあると思ひます、それと、是が今度出來ると、どんな關係になりますか、極く概略で宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=40
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041・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 第四條の規定の中には、現業官廳の勤勞者の勞働組合結成の自由を認めて居る譯であります、唯其の爭議行爲に付ては種々の制限を受けますけれども、勞働組合を組織して、之に加入する上に於ては、普通の鉱山若しくは工場の勞働者と、何等違つた點はないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=41
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042・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 了承致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=42
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043・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) それに關聯してちよつと伺ひたいと思ひます、今秋元子爵の御尋の、遞信院とか、或は運輸省であるとか、現業委員會其の他のものを、それは此の法案が出來ますれば、詰り第四條で役人などの勞働組合が出來ますけれども、今あるのを成るべくそつちの方へ向けて行くと云ふ方針でありますか、或はそれは其の儘にして、別に運輸省、遞信院に於ける勞働組合を認めて行くか、詰り是は同じ政府の統轄の下にありますから、どう云ふ御方針になりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=43
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044・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御答へ致します、まだ最後の決定には至つて居りませぬが、主務大臣との話合の結果、大體一致して居ります點は、遞信從業員、鐵道從業員は何れも相當大規模の共濟事業をやつて居り、財産を持つて居る、其の共濟事業を、遞信從業員、鐵道從業員の勞働組合の福利施設、共濟事業に其の儘引繼ぐか、或は共濟組合だけを別個のものにして勞働組合を作るかと云ふ點を色々話合つたのでありますが、只今の所では、只今結成して居る組合を勞働組合に直す場合と雖も、福利施設だけは別に共濟組合で以て行かう、斯う云ふ考へが強いのであります、まだ併し最終的の決定は致して居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=44
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045・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 序でに御尋ね致します、第一條に勞働組合と云ふものの大體目的を御擧げになりましたが、勞働組合の基本觀念と云ふものは、どう云ふ所に置いてありますか、從來勞働組合と云ふものは、要するに勞働者一人、事業主一人、資本家一人として、個人的には人間としては對等だけれども、併し經濟其の他の點に於ては比較にならぬ、そこで團體を通じて、さうして澤山の力に依つて、經濟上の力を持つて居る事業主と相對して、さうして其の間の問題を解決して行かう、斯う云ふ風に言はれて居るのでありますが、矢張り本法案御制定の根本的な御趣旨はさう云ふ所にありますか、其の邊の所を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=45
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046・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 只今御質問の通り、此の勞働組合法に於きましても、主として資本家に對して弱い立場に居る勞働者を平等の立場に於て交渉を行はしめるには、勞働者の團結權を保障しなければならぬ、其の團結權の保障に依つて、勞働條件を協定する場合に、團體交渉權を認めなければならない、さうして其の出來上つた勞働協約に基いて、兩者の間に圓滑に仕事が進行しないやうな場合、即ち勞働爭議の發生する場合には、之を成るべく發生しないやうに豫防し、又發生した場合には、公平に圓滑に爭議を解決せしめると云ふ、任務を公平な機關の手に任せることにしなければならぬ、それが勞働委員會と稱するものを設けて、勞資の雙方竝に中立の代表者から成る常設機關とし、其の權限を出來るだけ廣く規定して行かうと考へたのでありまして、只今御質問になりました趣意と全然合致して居る譯であると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=46
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047・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 序でに、第二項の方の「勞働組合の團體交渉其の他の行爲」と云ふ、「其の他の行爲」と云ふのは、どう云ふことを稱して言はれるのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=47
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048・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 此の場合特に問題になりますのは「ピケッチング」、見張、立番と申しますか、それを適法の行爲と認めると云ふことでありまして、此の點は我が國に於ても相當論議を惹起して居つたと思ひますが、極く穩和なる行爲に依つて他人を勸誘する、例へば罷業を説得すると云ふ程度の行動は、之を適法なる行爲と認める譯でありまして、特に「ピケッチング」の問題が、第二項の「其の他の行爲」の中の最も顯著なものと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=48
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049・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) さうしますと、今の「ピケッチング」と云ふやうなものは、或は勞働組合を作らない未組織勞働者が何か爭議を起した場合に、さう云ふ場合にも、さう云ふ見張行爲をやつたり何かするやうなことが起り得ると見なければならないのでありますが、さう云ふ場合には刑法第三十五條の規定は適用しない、詰りそれは勞働組合の其の行爲だけが保護される、臨時的に爭議をやつた場合のものに付ては、保護は受けないと了承して宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=49
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050・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 此處に書いてありますのは、「團體交渉其の他の行爲」とありますが、併し勞働組合ならざるものの交渉若しくは「ピケッチング」、それを特に禁じて不當の行爲、不法行爲と認めると云ふ趣意ではないのでありまして、斯樣な場合でも、第二項に定めた行爲であるならば、之を刑罰の對象とはしない、斯う云ふ意向であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=50
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051・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 私は實はちよつと今通讀しまして、今の第一條の第二項の問題、それから第十二條でありますが、「同盟罷業其の他の爭議行爲にして正當なるものに因り損害を受けたるの故を以て勞働組合又は其の組合員に對し賠償を請求することを得ず」是も矢張り想像して見ますと、勞働組合を作らない團體、所謂未組織勞働者の側に於ても臨時に「ストライキ」を起す場合がある、さう云ふ場合には、其の間に事業主側に對して及した損害とかと云ふものに對して、矢張り賠償の責任があるのかどうか、それだけで見ますと、勞働組合の所謂特權で、勞働組合以外のもののさう云ふ爭議行爲と云ふものは、十二條の保護を受けない、特權を受けないと、斯う云ふ風に解釋されるやうに思ふのでありますが、是は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=51
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052・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 第十二條の規定は、實は念の爲に置いた規定でありまして、正當なる行爲をして、それが損害賠償を要求されると云ふことは、民法の原則にもないのでありますから、本來ならば、爭議行爲が正當だと認めた以上、正當なる行爲に因つて何人も損害賠償を要求される理由はない、斯う云ふのでありますが、特に勞働組合を擁護する立場から、分り切つたことを念の爲に書いたものと御讀み下されば、其の邊の事情ははつきり分ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=52
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053・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) さうしますと、此の規定は、所謂勞働組合でないものに付ても、矢張り此の保護を受ける、斯う云ふ風になる譯でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=53
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054・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御見解の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=54
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055・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 私はちよつと通讀しまして、第一條の第二項の規定及第十二條の規定を特に勞働組合に對して設ける、さうして所謂勞働組合に對する特別の保護と云ふものを拵へて、成るべく勞働運動と云ふものは勞働組合で行け、外の組織をしないものはそれだけの保護を受けぬぞ、斯う云ふ風な御趣旨、、即ち勞働組合と云ふものを助長すると云ふ趣旨に於て、他の未組織勞働者との間に、斯う云ふ保護の點に付ての區別を設けた、斯う云ふ風に實は通讀して了解したのですが、さうではないのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=55
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056・芦田均
○國務大臣(芦田均君) さう云ふ趣意ではありませぬのです、唯勞働組合に關する法律を此處に並べたものでありますから、偶偶斯う云ふ規定が入つたと云ふに過ぎないのでありまして、未組織勞働者と雖も、第一條第二項竝に第十二條の規定に於ては、少しも差別はないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=56
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057・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) さうすると、ちよつと斯う云ふ感じがあるのですが、是は形式の問題かも知れませぬが、是は第一條の第二項と第十二條は、各各勞働爭議等に關する規定でありますので、寧ろ是は勞働組合法に規定せらるべきものでなくして、勞働爭議調停法とか或は勞働爭議法の中に、組織勞働者であらうがなからうが、是だけの保護は受けるぞと云ふやうに規定された方が適當でなかつたかと云ふやうな感じがしますが、如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=57
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058・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 成る程御説の通り、勞働爭議調停法に掲げることも適切かと思ひますが、此の法律の目的自體が、從來比較的惠まれなかつた、時として行き過ぎの彈壓を蒙つた勞働者の立場を、安心の行く程度に規定して置かうと云ふ趣意で出來たものでありますから、それ等の勞働者に將來の安心感を與へ、又希望を持たしめると云ふ意味に於て、勞働組合法の中に規定する方が適當であらうと考へた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=58
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059・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) さうしますと、矢張り將來、現行の勞働爭議調停法を改めて時勢に應じた規定を御設けになる場合に、同じやうな趣旨を矢張り其の中にも御規定になりますか、或は此の儘で御濟ましになりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=59
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060・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 勞働爭議調停法には此の種の規定を設ける必要はないと考へて居ります、現在の勞働爭議調停法にも斯う云ふ規定はないので爭議調停の手續に眼目を置く方が爭議調停法としては適當であつて、成るべく實體的の問題はあの中に取扱はない、斯う云ふ考へで進行して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=60
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061・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) さうしますと、此の勞働組合、即ち勞働團體を作つた場合の特別の利益と申しますか、保護と言ひますか、即ち未組織勞働者に比べると、どれだけの特典があると云ふやうな事項は、どう云ふことになりませうか、詰り此の勞働組合法に依らずしても、所謂集會、結社の自由と云ふものがあるのでありますから、特別に此の勞働組合法を作る場合には、特に此の勞働組合なるが故に特別の利益があつて然るべき譯と云ふやうに思ふのでありますが、此の二つの事項を除きますと、其の外組合を作ることに依る利益と云ふものは、どう云ふ所にありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=61
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062・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 勞働組合の多數のものは法人格を取得するであらうと想像します、從つて未組織勞働者と違つて、法人たるものの享有する利益、例へば免税の規定に依りまして、法人たる勞働組合は大體産業組合に準じた免税の特點を得ると云ふことが、第十八條に書いてあります、又法人たる性質上、勞働組合は團體としての財産の處分、法律行爲をすることが出來るのでありますから、所有財産等の處分に付ても、極めて明確に團體としての利益を得る譯で、未組織勞働者よりも一層財産の保全、處理等に付ても明確にすることが出來ると思ひます、又第十條の團體交渉權を行使する場合に勞働組合の代表者が使用者と勞働協約を結ぶことになつて居りますから未組織勞働者に較べて、是等各方面の利益は相當顯著に現れて居ると思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=62
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063・瀧川儀作
○瀧川儀作君 勞働組合以外の勞働者を御調べになつたものがありますか、完全なものでなくて宜しいのですが、或は戰爭中に働いた徴用工もあり、學徒もありませうが、それでなしに勞働者も相當あると思ひますが、御取調べになつたものがありますか、今日でなくても宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=63
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064・高橋庸彌
○政府委員(高橋庸彌君) ちよつと御説明申上げます、十二月十二日現在に於きます勞働組合の結成状況でありますが、只今の處十二月十二日現在で合計六十五勞働組合があります、其の中に入つて居る勞働者の數は七萬七千名であります、爾餘の勞働者は、只今の處勞働組合に入つて居ない現状であります、併しながら今殆ど結成する機運がうん釀して參りまして、準備中若しくは結成せむとする組合が相當ある模樣であります、さう云ふ意味でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=64
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065・瀧川儀作
○瀧川儀作君 さうです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=65
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066・大野緑一郎
○大野緑一郎君 今日の本會議に於て、秋田君の御質問に對して厚生大臣の御答辯がありましたが、併し疑惑を生ずるやうな虞があると思ひますので、更に私は明かに其の點を説明をして戴きたいと思ひます、私は速記録を讀みませぬから分りませぬが、使用者と勞働者側と勞働協約に於て賠償をすると云ふ協約を結んだ場合には、其の賠償をすることになるから差支ない、と云ふやうな答辯をされたやうに伺ひましたが、左樣な協約が此の勞働組合の法制の上から許さるべきものとは私は思はないのですが、何か御言葉の御間違ひではないかと思ひます、此の機會に御説明を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=66
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067・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 大野君の御發言の通り、本日の本會議に於ける私の答辯は、言葉が甚だ不完全であつたことを發見致しましたので、此の機會に、正確に其の點を重ねて御答へ致して置きます、勞働協約に於て爭議をしないと云ふ義務は、勞働者及使用者双方にある譯で、それに違反した場合に、勞働組合側のみが損害賠償の責任に任ずると云ふことは、權衡を失すると云ふことが一つの點であります、第二に其の協約の違反に付ては、當事者の協議に依りまして、自由的に制裁條項、と申しますと、法律上の損害賠償でなく、例へば何箇月間の賃金を何割引にすると云ふ如き條項を決定すれば、第二十一條、第二十二條の規定に依つて其の制裁條項は有效でありますから、特に法律を以て損害賠償の規定を設ける必要がない、斯樣に解釋致して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=67
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068・大野緑一郎
○大野緑一郎君 從つて勞働協約に於て、賠償を拂へと云ふ協約は出來ないと云ふ御趣旨ですね発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=68
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069・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御話の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=69
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070・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 先般「ジュネーヴ」に於て「ダブリュー・エフ・ユー」、詰り「ワールド・フェデレーション・オウ・トレード・ユニオン」と云ふものが結成されまして、世界五十數箇國の勞働組合が加入し、唯「ドイツ」と日本だけが入つて居らないやうでありまするが、此の組合の宣言の中に、將來「ドイツ」と日本に斯うした組合を結成すること、同時に其の勞働者の福祉を高める爲に大いに協同的に應援するのだと云ふやうな宣言を發して居るやうなことを聞いて居ります、何れは日本も將來許される場合には、此の世界勞働組合協同會とでも申しますか、之に加入する前提としての是は基礎案であると云ふ風に御考になつて居るのでございませうか、御伺したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=70
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071・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御承知の如く、只今聯合國の勞働組合聯合會が開催して居ります會議は、彼等の所謂平和愛好國に限つて招請を發して、會議を開いて居るのでありまして、聯合國の立場から言へば、「ドイツ」、日本其の他二三の國は、未だ眞正の意味に於ける平和愛好國ではないと云ふ觀點から、招請を發しないのであります、併しながら新しく生れ變つた日本が平和愛好國家であることの事實を彼等が認めた曉には、無論其の組合から招請状を發するでありませうし、又我が方としても、既に「ヴェルサイユ」條約締結後、國際勞働會議に有力な構成員として參加して居つたことに鑑み、是等の組合の國際的機關に參加すべきは固より當然のことと考へて居ります、唯それが如何なる時期に參加することになるかの點に付きましては、今日から豫め之を豫定することは困難と考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=71
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072・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 只今のやうな御話に依りますと、何れは日本の勞働組合も、世界的の勞働組合として活動すべき場面が來ると考へられますが、さうすれば、其の基準と云ふものは、自然世界的の基準に迄高められると云ふことが當然考へられるのであります、元來御承知のやうに、日本の非常に資源の少い、而も生活の程度の極く貧弱な産業の發展の過去を顧みます時に、日本の生産品が世界的に雄飛したと云ふ一つの原因は、勞働賃金が安かつたと云ふ所にあつたことは御承知の通りであります、それが勞働者の生活の安定を缺き、或は福祉増進の爲に甚だ害を爲したと云ふことがあるかどうか知りませぬが、併しながら日本の商品の發展の一面には、勞働者の賃金の安かつたと云ふことが大いに效果的であつたと云ふ事實は、確かに認められると思ふのであります、此の勞働組合法が制定されました結果としては、當然賃金を或程度迄どうしても上げなければならぬと云ふ結果になり、又資本家が上げたくなくても、此の法律の内容から見ますれば、どうしても勞働者の意思が或程度は通ると云ふ風に考へられるのでありますが、勞働者諸君も勿論最近の非常な知識の向上に依りまして、總て世界に目を通して日本の立場と云ふものを理解して居ることではあらうと思ひますが、今日の所謂民主主義的な傾向の波に乘つて、日本民族としての國家形成の上のことを考へずに、唯勞働者自身の福祉増進を主體として産業人或は使用者に挑戰して來る場合に、國家全體の綜合的見地から言へば、可なり偏頗的な結論が出て來ることは、私は起り得ると思ふのであります、從ひまして斯樣な勞働組合法を制定されるに當つては、どうしても國策其のものを綜合的に、立體的に御計畫になつて、勞働組合法を片一方で考慮すると同時に、産業に對する基礎的な法案と云ふものを同時に檢討して行くと云ふことが、當然必要な問題ぢやないかと考へるのでありますが、今囘勞働組合法のみを御制定になりまして、産業に對する基礎法案と云ふものが未だに出て來ないと云ふことは、我々が勞働組合法を檢討する上に、非常に片手落の考が致すのであります、此の點はどう云ふ風に御考になつて居りませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=72
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073・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 肝付男爵の御發言は頗る多くの問題に關聯することでありまして、私の答辯が果して其の全般に御滿足を與へ得るかどうか、甚だ心許ないと思ひまするが、御説の通りに、第二次世界戰爭以前に於きまして、「イギリス」其の他の世界的貿易國が、我が國に對する最も深刻な攻撃の武器として使つたのは、日本は常に「ソシアル・ダンピング」をして居る、勞働者を搾取して安い賃金で使つて、之に依つて他國の商品と競爭を圖つて居ると云ふ如き理由を、相當物の分つて居るべき人々が公々然と論じたのであります、其の點は歸する處、生活水準の問題でありまして、生活水準の高い國と生活水準の低い國との間には、賃金に於ても當然差別があるべきであるに拘らず、彼等は其の問題を餘り考へずに、一途に賃金の問題ばかりを論じて、日本が投賣りをして居るとの攻撃を止めなかつたのであります、從つて今後爲替の問題、及び日本國内の生活水準の問題を考へて見れば、直ぐに日本の賃金が「イギリス」、「アメリカ」の勞働階級の實質的賃金と同じ水準に上るとは、ちよつと考へられないのであります、のみならず、我が國の輸出産業の長所は、勿論只今の御話の低賃金と云ふことも與つて力がありますけれども、綿絲、綿布の輸出の如きは、それより以上に我が國の當業者が原料の買付に巧みであり、或は混棉の技術に特技を持つて居つたと云ふことも相俟つて、彼等の市場を脅威したのでありますから、必ずしも日本の輸出業の特徴が、低賃金のみにあつたと見る必要もないのではなからうか、斯う云ふ風に考へられます、併しながら勞働組合法を作ることが直ちに勞働者の賃金を引上げると云ふ結論に行くことは、全部當つて居るとは考へられないのでありまして、勞働爭議、賃金引上の交渉は、勞働組合法が存在すると否とに拘らず、自然發生的に既に世間に出て居る問題でありまして、此の組合法の制定が勞働爭議を頻發せしめるとか、或は直ちに賃金の引上に落付くと云ふ風には考へて居ないのでありまして、寧ろ今日の如き勞働爭議頻發の處ある時に於てこそ、斯樣な法律を制定して、勞働階級に秩序と統制ある行動を行はしめる、さうして彼等の將來に希望を持たせる、自發的に自ら規律する精神を養はしめる方が、爭議の發生を防ぎ、産業平和の上に有利である、斯樣に考へて本法を制定した譯であります、併しながら最後の御發言にあつた、將來に於ける日本の産業組織をどうするか、又平和産業の轉換をどうするかと云ふ重大な經濟問題を控へて居る際に、其の政策に對する政府の根本方針が明かでない時に、勞働組合法を審議することには幾多の困難であるとの御説は、或程度理由のある御説だと思ひますが、御承知の通り、今日の日本はまだ賠償問題に付ても決定的な申込を受けて居りませぬ、軍需産業の補償問題も解決して居りませぬ、海外に於て失つた資産も可なりの巨額に達して居ります、さうして海外の貿易の自由さへも持たない、原料も燃料も足りない、さう云ふ際に、今直ちに日本の産業の復活の爲に有效なる手を打つことは、可なり困難である、之に反して勞働組合法を制定することは、それ程困難な仕事ではないのでありまして、先づ易しい所から手を打つために最も敏速に勞働組合法が一應の案の成立を見た理由だと考へて居る譯であります、さう云ふ譯でありまして、此の法律を今日制定することは、産業平和の上に可なりの貢獻をするのではないかと考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=73
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074・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 仰せの通り世界的の思潮から見まして、日本も勞働組合法の制定が必要であると云ふことは當然であつて、私は決してそれを必要でないと云ふことを申上げる意味ではないのでありますが、此の勞働組合法の内容其のものが、將來の日本の産業の發展と睨み合せ得ないで、一方的に立案されて居ると云ふ所に、將來の産業の行き方と云ふものに非常な變化を生ずるのぢやなからうか、例へば今迄は低賃金であると云ふ所に基礎を置いての産業形態と云ふものを考へて居つたのでありますが、此の勞働組合法と云ふものの出現以後に於ける産業人の計畫は、必ず勞働者を成るべく使はないやうにして産業の能率を擧げると云ふ計畫を立てると云ふことは當然と思ひます、さうすれば、どうしても總てを機械化する方針に出なければならぬのは、經營者として當然と思ひます、處が此の機械化と云ふものを行ふ爲には、どうしても大量生産方式に依らなければならぬと云ふ結論になつて來ると思ひます、大量生産方式に依つて然らば多量な品物を作つたとしても、其の販路が今日のやうに非常に梗塞されて居る場合に、將來どの程度迄發展するか知れませぬが、大量生産に依つて果してどれだけの市場を贏ち得るか否かと云ふことが分らないとするならば、一面其の産業を機械化したとしても、それに依つて減らされた所の勞働者の剩餘を其の産業の生産高に應じて吸收し得ると云ふ能力がなかつた時には、勞働者は當然失業状態に入る者が非常に殖えて來ると云ふことが考へられると思ふ、そこで、斯樣に現に失業者が溢れて居り、而も將來續出しようとして居る際に、將來の産業が益益機械化されて勞働者を必要としない方面に向ふと云ふことは、失業對策の上から言つても逆の結果を招來すると云ふことになる憂も多分にあると思ひます、斯う云ふことを考へました時に、將來の産業が然らば日本の現状に於て如何なるものを採擇し、それが海外輸出の上にも、或は國内の商業の上にも最も效果的であるかと云ふことを考へる時に、偶偶それが勞働者を餘り必要としないと云ふ産業が、而も資源の關係から、或は生産の状況から寧ろ最適であると云ふことを國家的に見た時に、其の産業を助長する結果は、結局勞働者をより以上必要としなくなる、失業者を續出せしめると云ふ結果を招來する、勞働者を多數に要するやうな産業を採上げようとするならば、資源の關係に於て十分な産業の發展を望み得ないと云ふやうな結果も出て來ると思ひますので、どうしても此の勞働組合法と云ふやうなものを考慮するに當つては、將來の日本の國内の資源或は海外に俟つべき資源と云ふものを總括的に勘案して、どの産業が最も此の時代に適するかと云ふことを判定する爲には、自然勞働組合法制定後に於ける勞働者の失業状態、或は發展状態と云ふものを竝行的に考へて行く必要が當然あると考へるのであります、此の點に付てどう御考になりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=74
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075・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 肝付男爵の御指摘になりました矛盾は實際御説の通りであると思ひます、平たく申せば痛し痒しの立場に在ると云ふのが日本の經濟の現状でありまして、機械工業の發達を圖れば勞働者が溢れて、失業者が殖える傾向に在る、さりとて日本の工業が從來通りの手工業のやうな程度に依存して居つて宜いのか、戰さに敗けたのも歸する所は科學技術の發達が遲れて居つたからであることを考へれば、今迄の状態よりも跳躍して、更に機械技術の力を借りなければ世界の伍列に入ることが出來ないと云ふ風な、誠に困つた痛し痒しの立場に在ることは、只今の御意見の通りだと思ひます、併しながら差當つての失業救濟は、主として原始産業、例へば農業方面、水産業方面、或は牧畜と云つたやうな方面、若しくは道路、港灣の建設とか、其の他の方面に人力を出來るだけ振當てる計畫を致して居るのでありまして、其の失業救濟を一面に於て行ひつつ、他面に於きましては、矢張り機械工業の領域に關する限り、進歩した科學技術を應用して進まなければ、今後の日本に殘されて居る領域と云ふものは益益狹くなつて行く、斯樣に考へるのであります、それに對して明確なる政策を以て一擧に解決する途はないかと云ふ御尋になれば、極く率直に、我々の智慧ではまだ其處迄の解決案はどうにも見當りませぬと申上げる外はないやうな状態であります、どうぞ其の點を御了承を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=75
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076・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 只今厚生大臣から率直な御言葉を戴いて誠に恐縮するのでありますが、私は其の點に日本の非常な缺點があると云ふことを痛切に感じて居る一人であります、今日の日本の状態或は國策と云ふものは、總てを平面的に考へて行くと云ふ所に非常な缺點がある、御承知の通り大東亞戰爭は如何なる形で行はれたかと云ふと、全くの立體戰であります、其の立體戰に加ふるに科學戰を以てした、其の科學戰と云ふことが、一般的に言はれて居るのは、所謂單なる科學技術と云ふことにのみ基礎を置いて考へて居られるやうでありますが、私達に言はせると、決してさうぢやない、立體戰を行ふ爲に必要な化學兵器と云ふものが科學技術の上から言つて當然是は考へなければならぬ問題でありますが、是等の化學兵器を使つて立體戰をする爲に計畫さるべき作戰其のものが科學的でなければならなかつたと云ふ點に、私は非常な手拔かりがあつたと云ふことを痛切に感じて居る一人であります、戰爭其のものですら此のやうな状態である時に、敗戰の今日、日本の有らゆる國策を遂行する上に於て常に平面的に考へて居ると云ふ所に、私は非常な間違ひがあると思ふ、國策其のものを考へるに當つても、矢張り立體的に之を考へる、同時に綜合的に考へると云ふことがどうしても必要ぢやないか、一つの點と云ふものを考へて見ましても、平面の上にある一つの點を考へる場合と、空間にある點を考へる場合とは、其の點に全くの違つたものが考へられるのであります、此の點を一つ今後の國策の上にも十分反映さして戴いて、十分科學的な、立體的な立場から物を考へるやうに仕向けて戴くことが必要ぢやないかと思ひます、是は一般の人間常識では判斷の出來ない結果が常に出て來るのであります、と云ふのは其處に色々な缺陷としての「ファクター」が一つ、二つ、三つ、四つと非常に澤山出て來た時に、此の缺陷を如何に處理したら宜いかと云ふことは、常識的の判斷では判斷が付かない、是は科學的に處理しようとする時に、最も能率的な、效果的なものがあると思ひます、之を例へて申しますと、戰爭中に偶偶鐵の生産に必要な所の石炭を或所から運ぶ船が機雷に觸れて沈んだ、斯う云ふことになりますと、其の石炭は唯其の鐵の生産にのみ或程度の影響を與へたと云ふ風に解釋することは非常な間違ひであります、石炭其のものがなくなつた爲に、鐵の生産が落ちると同時に、造船の上にも、或は兵器生産の上にも、有らゆる部面にそれが重大なる影響を持つて來て、單に一般の石炭船が沈んだことからする鐵の生産ががつくり減つたと云ふことで其の他の國策を見ることが出來ないと云ふ、非常な複雜性を持つて居る、此の點をどう云ふ風に御考になるのか、それは石炭船が一つ沈んだと云ふことの爲に生ずる所の有らゆる産業に及す隘路、今迄隘路と申して居りますが、其の隘路と云ふものを此處に幾つも集めて、其の澤山集め得た程、正確なる結論が出ると思ふのでありますが、十でも十五でも基礎を出して、其の結論を綜合的に一つの、我々の方で申しますと「パラボロイド」、所謂抛物線の集合された一點に集中すると云ふ、其の一點に基礎を置いた時に、始めて其の根本原因を發見し、それの對策が考へ得ると云ふことになるのでありまして、是はどうしても高等數學的、或は微分なり、積分なりに、依つて其の點を發見するのでなければ今日の人間の常識だけでは發見し得ない、一つのそこに數字的な點と云ふものが出て來る、之を我々は痛切に考へて居るのであります、只今御説のやうに、産業の發展と、勞働組合法の制定と、或は失業者の救濟と、それから將來の食糧増産に對する對策と、色々な問題に對して色色な關聯性を有つのでありませうが、勞働組合法を制定する爲に起る所の影響と云ふものは、單なる産業に對してのみならず、それが食糧の増産と云ふ部面にも影響し、それから農村の科學化と云ふやうな點に付ても、將來農村を電化する、或は多角經營すると云ふことになつて參りますると、此の方面にも相當な勞働者を必要とする部面が起きて來ると云ふやうなことを考へます時に、色々な點に及んで考究しなければならぬ部面が殖えて來る、是等を綜合したものが如何なる點に歸するかと云ふ、其の點を求めると云ふことは、單なる理窟ではなくして、一つの方程式に依つて表さなければならぬ問題である、此の方程式に依つて得た結論其のものを基礎にして、それそれの缺陷に對する處置をされたならば、所謂今日どうすべきかと云ふ基礎的の原因と云ふものが、始めて其處にはつきりして來ると云ふことが言へるのではなからうかと思ふのであります、是等は矢張り微分、積分と云ふやうなものの性質を十分御承知の上で考へて戴きませぬと、所謂私學的處理と云ふことが非常にむつかしい問題になつて來る、此處に今迄法律萬能主義でいけないと叫ばれた原因が此の點にあると思ふのであります、今囘大東亞戰爭が負けた一つの原因は、科學智識が足らなかつたと云ふことは一般に言はれて居るのでありますが、それは單に化學兵器の生産其のものだけの問題でなくして、物の見方が科學的でなかつたと云ふ所に非常な原因がある、此の物の見方を科學的に見ると云ふことは、今日の總ての問題は立體的に考へなければならぬと云ふ時に、一番必要なことだと思ふのであります、斯う云ふ點から考へまして、此の勞働組合法の制定と云ふものは、今日必要ではあつたにしても、一方的に唯一つのものがぽこんと出て來ても、日本の今日是がどの程度に合理的であるかと云ふことを決めるのには、餘りに材料が足りなさ過ぎると云ふことを私は申上げて居るのであります、希はくば今後の有らゆる事業を遂行する上に於きましても、平面的な考へ方でなく、立體的な考へ方であり、而もそれを科學的處理、所謂「サイエンティフィック、マネージメント」と申しますか、さう云ふやうな見地から總ての國策を取扱つて行くと云ふことは、當然必要であると思ふのであります、斯う云ふ點に付て將來共、色々な國策を遂行する上に於て、さう云ふ見地から考へて戴き得るかどうかと云ふ點に付て、一應伺つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=76
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077・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 肝付男爵から色々詳細なる御意見を拜聽致しまして、頗る傾聽すべき御意見であると考へて居るのであります、私は其の方面の研究が不十分である爲に、十分之に對應する御答辯を申上げることは困難であると思ひます、私の了解致しました範圍に於て、尚閣僚にも能く説明を致しまして、精々御意見の趣意に準じて、今後の施策を致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=77
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078・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 此の勞働組合法を取扱つて行く上に一番問題になるのは、勞働委員會の問題であると思ひます、今日迄拜見致した所に依りますと、勞働委員會と云ふものの性格は、勞働者側からと、使用者側からと、同數の委員が出て、其の上に中正的な、兩方からの了解を得た同數の委員が選出されると云ふやうなことになつて居るのであります、兩方の了解を得ると云ふことが、是れ亦實際の問題として科學的に考へて、不可能な問題だと思ふのであります、例へば勞働組合としては非常に多數な人間の組合であり、使用者側から申せばほんの僅かな數であります、その僅かな數と多數の者との意見の一致したものを求めると云ふことは、實際問題として不可能な問題になると思ふのであります、斯う云ふ點に付きまして、もう少し合理的な解決を與へ得るやうな方法と云ふものを御考になつて戴かないと、將來勞働委員會と云ふものを構成する上に常に問題が起きて纒らないと云ふことが發生すると私は考へて居りますが、此の點に付てどう云ふ風な御考でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=78
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079・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 御尤もな點が多々あると思ひます、實際問題と致しましては、例へば議會を構成するに付きましても、或は選擧に依り或は貴族院の構成等の場合に於ても見られる如く、數學的に計算して非常に正確な數字を出すのに困難なことが、世間には相當多いのでありまして、大體常識的に見て、是ならば略略中正であらうと云つたやうな方法に依つて機關を作ることが多いのであります、或は専門の立場から御覽になれば、勞働委員會の構成なるものが、必ずしも純理的に正確に出て來ないと云ふ御批判もあると思ひますが、略略此の程度で滿足する以外に、更に突き進んで正確を期する途が見當らなかつたから、斯う云ふことに致した譯であります、其の邊のことを一つ世間並と云ふことで御了承を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=79
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080・肝付兼英
○男爵肝付兼英君 どうも日本人の缺點は、此の位の所でとか、所謂目の子算で事を解決しようとする所に、非常に日本民族の缺點がある、其の位で宜からうまあまあと云ふやうなことで行くから、何時でも後で問題になると思ふのであります、之をどうしても是正しなければ、日本の發展の上に脆弱性がある、特に「アメリカ」のやうに科學的に何でもやつて行く國を對象として今後やつて行く上には、基礎其のものに確實性を持たせなければなければならない、基礎がぐらついたら、何でも後がぐらついて來る、今日の豫算でも何でもさうでありますが、統計其のものが科學的に出來て居ない、統計其のものがいい加減である、其のいい加減な統計を配つて總てのものを解決しようとするから、根本の土臺がぐらついて居るから、何をやつてもぐらぐらぐらついてしまふ、せめて、一般的には兎も角も、政府御自體位は、其の基礎になるべきものを、此の位で宜からうと云ふことでなく、もつとはつきりと學理的にも、是で右にも左にも上にも下にも動かないのだと云ふ、一つの點を拵へて、其の上で總ての問題を解決するやうにして戴きたい、是が私の非常な御願ですが、今直ちに其のことを申上げても御無理だと思ひますので、是は今後の御施策の上の希望として申上げて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=80
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081・瀧川儀作
○瀧川儀作君 肝付男爵の御意見は非常に參考になりますが、何だか討論に入りつつあるやうに思ひますが、今日は初めての委員會でありまして、質問の準備もありますから、今日は此の程度で、時間を與へて戴きたいと思ひます、會期の切迫の時に時間を空費することは何でありますが、重大問題ですから、さう云ふやうに願つたらどうかと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=81
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082・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 參考書類を二つ三つ御願ひ致します、先程質問したことに關聯して居りますが、諸官廳で之に類似した組合等があるでせうが、現業委員會、遞友會と申しますか、海員組合とか、それから大藏省の方にも煙草の關係、内務省の方として都電とか何とか云ふものがありますな、さう云ふやうな會とか、名前と云ふものを列擧して戴いて、其の下に凡そどの位の員數が居るか、それから特徴を持つたものが若しもあれば、取扱つて居る福利、共濟にしても、待遇にしても、特に目立つた施設を持つて居ると云ふものが若しありましたら、鐵道なんか相當あると思ひます、遞信院の方にも、海員の方にも相當あると思ひますから、極く簡單なもので宜しうございますが、員數と種類と其の特徴と、是だけ御願して置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=82
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083・河原田稼吉
○委員長(河原田稼吉君) 本日は此の程度に止めまして、明日は午前十一時から開きます
午後二時五十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=83
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084・会議録情報2
出席者左の如し
委員長 河原田稼吉君
副委員長 男爵 久保田敬一君
委員
公爵 岩倉具榮君
侯爵 中山輔親君
伯爵 橋本實斐君
子爵 立花種忠君
子爵 秋元春朝君
子爵 梅園篤彦君
子爵 高木正得君
子爵 齋藤齊君
吉田茂君
大野緑一郎君
大橋八郎君
男爵 八代五郎造君
男爵 肝付兼英君
男爵 西酉乙君
藤沼庄平君
長岡隆一郎君
松本健次郎君
瀧川儀作君
松本勝太郎君
奧主一郎君
秋田三一君
國務大臣
厚生大臣 芦田均君
政府委員
厚生省勞政局長 高橋庸彌君
厚生書記官 中西實君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008903768X00119451215&spkNum=84
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