1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年十二月三日(月曜日)
午後一時十三分開
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議事日程 第五號
昭和二十年十二月三日
午後一時開
第一 衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出)
第一讀會(前會の續)
第二 昭和十三年法律第八十四號
中改正法律案(大東亞戰爭に際し召集中の者の選擧權及被選擧權等に關する件)(政府提出)
第一讀會(前會の續)
第三 昭和二十年勅令第五百三十七號(衆議院議員選擧法第十二條の特例に關する件)(承諾を求むる件)
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一、去一日幣原内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
法制局參事官 佐藤達夫
戰災復興院計畫局長 大橋武夫
戰災復興院業務局長 進藤武左ヱ門
第八十九囘帝國議會政府委員被仰付
外務省條約局長 杉原荒太
外務省管理局長 森重干夫
終戰連絡中央事務局部長 井口貞夫
第八十九囘帝國議會外務省所管事務政府委員被仰付
内務省國土局長 岩澤忠恭
内務省管理局長 大島弘夫
神祗院副總裁 飯沼一省
第八十九囘帝國議會内務省所管事務政府委員被仰付
第一復員政務次官 宮崎一
第一復員次官 原守
第一復員參與官 野口喜一
第一復員官 吉積正雄
同 額田坦
同 森田親三
同 大山文雄
同 遠藤武勝
同 吉本重章
第八十九囘帝國議會第一復員省所管事務政府委員被仰付
第二復員政務次官 田中亮一
第二復員次官 三戸壽
第二復員參與官 星野靖之助
第二復員官 山本丑之助
同 山本善雄
同 川井巖
同 奧三二
同 由布喜久雄
同 長澤浩
同 吉田英三
第八十九囘帝國議會第二復員省所管事務政府委員被仰付
司法省刑政局長 清原邦一
第八十九囘帝國議會司法省所管事務政府委員被仰付
文部省社會教育局長 關口泰
文部省教科書局長 有光次郎
第八十九囘帝國議會文部省所管事務政府委員被仰付
厚生省勞政局長 高橋庸彌
厚生省保險局長 青柳一郎
保護院副總裁 數藤鐵臣
醫療局長官 鹽田廣重
第八十九囘帝國議會厚生省所管事務政府委員被仰付
農林省山林局長 黒河内透
農林省水産局長 笹山茂太郎
農林省蠶絲局長 山添利作
農林省食品局長 柴野和喜夫
農林省畜産局長 蓮池公咲
農林省開拓局長 西村彰一
第八十九囘帝國議會農林省所管事務政府委員被仰付
商工省商務局長 岡村武
商工省工務局長 奧田新三
商工省纖維局長 松田太郎
商工省鑛山局長 北野重雄
第八十九囘帝國議會商工省所管事務政府委員被仰付
運輸省企畫局長 小野哲
鐵道監 岡田信次
運輸省海運總局海運局長 有田喜一
運輸省港灣局長 後藤憲一
第八十九囘帝國議會運輸省所管事務政府委員被仰付
一、去一日衆議院規則第十五條に依り議長に於て議席を左の通指定せり
七 高木義人君
一、去一日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を左の通變更せり
五八 埼玉縣第三區選出議員
四三〇 福島縣第二區選出議員
四五八 木下郁君
四五九 三宅正一君
一、去一日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第六部選出豫算委員 花村四郎君
一、去一日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第八部選出
豫算委員 小山亮君(松本忠雄君補闕)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=0
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001・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 是より會議を開きます、日程第一、衆議院議員選擧法中改正法律案、日程第二、昭和十三年法律第八十四號中改正法律案、右兩案を一括して第一讀會を開き、前會の議事を繼續致します――質疑の通告があります、順次之を許します――上田孝吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=1
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002・会議録情報2
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第一 衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出)
第一讀會(前會の續)
第二 昭和十三年法律第八十四號中改正法律案(大東亞戰爭に際し召集中の者の選擧權及被選擧權等に關する件)(政府提出)
第一讀會(前會の續)
〔上田孝吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=2
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003・上田孝吉
○上田孝吉君 私は只今上程されました衆議院議員選擧法中改正法律案に付き數箇の質疑を總理大臣竝に内務大臣に致したいと存じます
先づ總理大臣に御尋ね致したいことは、第一本改正案は根本的のものであるか、或は應急的、臨時的のものであるかと云ふことであります、政府の提案理由説明に依りますると、本改正案は全面的ではないけれども、新時代に即する根本的のものであると申されて居ります通り、婦人參政權の實施、選擧年齡の引下げ、大選擧區制の採用等悉く是れ選擧法の根幹をなすものでありまして、今囘の改正は恐らく大正十四年の普通選擧の實施にも優る大改正であると存じます、今や我國は「ポツダム」宣言受諾に依り、民主主義の障碍となる一切のものを除去する爲め、先づ議會政治の民主化を圖らんとして、政府は本案を提出されたるものであると存じます、果して然らば本案のみで其の目的を達することが出來るのでありませうか、如何でせうか、憲法の改正が必要ではありませぬか、特に少くとも議院法の改正及び貴族院の改革等を最も必要とすると存ずるのでございます、現行貴族院制の存在は國民に直接の繋りを持たず、其の内容に於て華族議員と言ひ、勅選議員と言ひ、或は多額議員と言ひ、全く封建制度の遺物であると申しても毫も差支へないのではありませぬか、之を改革し、貴族院令の改正なくして議會制度の民主化は不可能であります、既に今臨時議會に於きましても貴族院の中から此の聲が出て居るではありませぬか、如何に選擧法の改正がありましても、是と竝行せなければならないのであります、又議院法も之を改正せなければ、選擧法の改正が出來ましても議會運營宜しきを得ないことになります、例へば繼續委員制、或は豫算の議定に關する事項及び議院法第十四章の各條項等、一々條項を指定は致しませぬけれども、御存じの通りに速かに改正をなすべき事柄が多々あるのでございます、然るに政府は是等一聯せる法案を今議會に御提出にならないやうであります、組閣匆々にして其の時日がなかつたからであると申さるるかも知れませぬけれども、今日の一箇月は一箇年にも優る貴き日時であります、政府が眞に肚を定めて能率を極度に増進して以て事に當り、政治を行はれんとするならば、間に合はないことは斷じてないと存じます、現に食糧の問題でも、其の他經濟行政の諸問題でも、聯合國司令部の指令を待つて初めてやるやうなのろいことで、今日の急に處することが出來ますか、勿論聯合國司令部と十分打合せをしなければなりませぬが、更に積極的に政府の計畫を樹立して、其の諒解を得て事柄を迅速果敢に取運んで行かなければ、今日の諸般の情勢と即應しないものがあると存ずるのでございます、又假に政府は是等の法案を本議會に出すことが出來なかつたと致しましても、其の腹案はどう云ふやうに御持ちになつて居るか、又少くとも其の改正の御用意がある筈であると存ずるのでございますが故に、其の腹案及び御用意を承りたいのでございます
第二に承りたいことは議會制度改正審議會の問題であります、前内閣に於きまして議會制度改正審議會が設けられたのでございまするが、未だ一囘も開かずして、現内閣は之を廢止せられたのでございます、而も本法案を政府の意見のみに依つて作成提出されました、何故に政府は審議會を廢止されたのでありませうか、或は審議會に掛けて居つては時日を遷延して間に合はないことがあると云ふやうなことから、廢止になつたと致しまするならば、全く思違ひであると存ずるのであります、從來官僚内閣に於きまして何々委員會と稱するやうなものを幾十百設けまして、以て委員會に責任を着せ、唯形式的に政治を行はうと致しました場合には、委員會の審議亦遲々として進まないこともありました、それが官僚的だと申すのであります、審議會を設けましても、今日の新時代に即しまして、臨時議會に間に合ふやうにやらうと考へるならば、幾らでも早く審議を進めることが出來るではありませぬか、多數の知識を集め、衆智に依つて以て此の重大なる議會制度に關する問題、議院法改正の問題を御出しにならうとせずして、政府の意見のみに依つて御出しになる、而も審議會を廢されたと云ふことは、全く官僚的なる御考へ方が脱し切らないと思ふのであります、現に世間には幣原内閣には官僚臭の紛々たるものがあると稱して居るではありませぬか、果して政府の御所見如何、承りたいのであります
第三の質疑は政治の安定に關する問題であります、終戰後國民は全く虚脱状態に陷つて居る者も相當多いのであります、仕事も手に付かない、失業者數百萬を數へましても、就職の程度は一割にも滿つるか滿たないやうなことである、今日國民は選擧も大切であるけれども、食糧をどうして呉れるか、榮養失調に陷つて居る、飢餓は相次いで街頭に見られる、冬を迎へて戰災地に於ては住むに家もないやうな状態である、僅かの貯蓄を持つて居りましても、既に此の數箇月の闇の生活で、殆ど使ひ果してしまつた、斯う云ふ際に於て將に選擧が行はれんと致して居ります、而して今度の選擧法の改正では、今まで政治に比較的無關心でありました婦人や低年齡者が有權者となりまして、有權者の數は三千九百萬人にも及び、在外邦人及び軍人の歸還復員が終りまするならば、四千四百五十萬人にも上らんと致して居るのであります、從來政治教育が十分に施されて居らない、公民教育に至つては尚更さうである、斯う云ふ際に於て更に各種の政治の論議の中でも、天皇制すら論議されるやうになつて來た、全く嵐の中に今囘の選擧が行はれんと致して居るのであります、そこに政治の昏迷が起りはせぬか、政府は之に對處する如何なる御意見を御持ちになつて居るかを承りたいのであります、尚又政府は新時代に即しました政治教育及び公民教育に對しまして、如何なる御方針を御持ちになつて居るかと云ふことをも併せて承りたいのでございます、以上が總理大臣に對する質疑であります
次に内務大臣に御尋ねを致します、第一に我が國の家族制度の問題及び年齡引下げのことであります、私は婦人參政に反對をするものではありませぬが、我が國は從來婦人は家庭を司る、内助の功を讚へられて來ました、所謂我が國の家族制度の醇風美俗が存在して居つたのでございます、此の家族制度、醇風美俗と婦人參政權との調和が最も必要であると存ずるのでございまするが、政府は此の調和に付て如何なる御對策を御持ちになつて居るかと云ふことを承りたいのであります
次に又年齡低下に付きまして、各國では二十一歳の國もあります、又十九歳の國もあるのでございますが、之を本法に於きましては二十歳と御定めになつた、多分是は我が民法の成年制に依られたものであると存ずるのでございまするが、我が民法の二十歳成年と云ふことは尚將來持續すべきものであるかどうか、或は之を十九歳又は十七、八歳に下げることも、今日の文化の進歩と共に必要ではないかどうか、其の他親族法上の家族の地位の問題もあるのでございますが、斯くの如く民法上の諸問題と選擧年齡の低下と云ふものを睨み合せて、以て本案を御出しになつたものであるかどうかと云ふことを承りたいのでございます、要するに我が國の家族制度及び之を基本としたる民法と、婦人參政權、又年齡の引下と云ふものに付ては、十分なる調節を必要とするが、之に對して政府はどう云ふ御意見を御持ちになつて居るかと云ふことを御聽き致したいのでございます
第二に内務大臣に御聽き致したいことは、制限連記投票制に付てであります、政府は本法案に制限連記制を御採りになつたのでありまするが、制限連記制に付きましては幾多の疑義があります、私は今此の制度に付て茲に其の贊否を申上げようとするのではありませぬが、其の疑義を御尋ねすると云ふことを特に御斷り致して置きます、其の一つは、國民の選擧權の内容に差等を生じはしないかと云ふことであります、或る選擧區は一人、他の選擧區は二人又は三人を、定員の差に依り投票し得ると云ふが如きは不合理がありはせぬかと云ふことであります、或は又選擧は各選擧區に於ての條件が同一であるならば差支へがないと云ふ見方もあるやうでありまするけれども、是では選擧權の平等を無視することになると思ふのでありまするが如何でありませうか、其の二は、第五十二條の一と二との不釣合の問題であります、制限連記の場合に於て――單記の場合には一投票中二名以上の候補者を記載致しました時には、其の投票は無效となるのであります、二名を書きましても、其の末尾の候補者だけが無效になるのではなくして其の投票が無效になる、然るに二名以上連記の場合に於て、人數の超過記入がありましても、定員までは有效となるのであります、是では單記――所謂一人記入致しました場合と、二人以上記入致しました場合に於ての非常な不釣合が生ずると思ふのでありまするが、御所見如何と云ふことを御聽きしたいのであります、其の三は、民主主義議會政治の運用は何としても政黨を基本とせなければならないと存ずるのであります、連記に當りまして、主義政策の異つた政黨の候補者を連記することが出來ると云ふことは、政黨政治と甚だしき矛盾を來すものであると存ずるが、如何であるか(拍手)或は共産黨の候補者と、天皇制を絶對支持して居る政黨の候補者とを連記して差支へないと云ふことは、洵に政治上の不合理ではないかと思ひまするが、如何でありますか(拍手)其の四は、制限連記は暫定的のものであるかどうかと云ふことであります、新時代に即しまして採用された大選擧區制は、比例代表に依るべきものでありますることは定論であります、併しながら政黨が未だ確立鞏固とならず、其の主義政策を國民が知るに暇がないから、暫定的に連記制としたと云ふのでありまするならば、從來通りの單記無記名でも差支へがないのではないか、更に或は又それでは投票が偏在するから困ると言はれるかも知れませぬが、暫定的である場合、投票が偏在致しました所で、何等運營に差支へは生じないと思ふのでありまするが、御所見如何でありまするか、其の五は、國民は斯くの如き不慣なる選擧方法に於ては、戸惑ひをする嫌ひがありはせぬかと云ふことであります、一人の候補者、此の人を入れようと確かに心の中で決めて居る、所が連記の場合に、二人或は三人と、其の投票場に臨みまして、ほんの其の時の思付で名前を書く、或は又名前を書かないと云ふことが起りはせぬかと云ふことでありまするが、之に對して内務大臣は何と御考へになつて居りまするか、是等五つの點を制限連記制に付ては承りたいのでございます
第三には、選擧公營に付て承りたいのであります、選擧は飽くまでも公正でなければなりませぬ、況や民主主義政治を具現せんとする來るべき總選擧に於きましては特に然りであります、此の場合に候補者の人格、識見、主義、政策を基礎として選擧が行はれなければならぬのでありまするが、其の他の條件に付きましては、成るべく之を等しからしむることを必要とするのでございます、特に今日の場合は紙の入手に於て、勞務者の食糧の點に於て印刷の點に於て、其の他諸般の問題に於て最も困難を感じて居る際に、公營を強化徹底せしむることこそ、選擧の公正を期待し得るものであると存ずるのでありますが、如何でありませうか、闇で多くの物資を得た者が利益であり、當選し易いと云ふやうなことでは、洵に憂ふべき結果を生ずると存ずるのでございます、元來選擧は國家の重要なる公事であります、政府は最も熱意を以て之を施行しなければならないのに、此の改正案に依りますると、公營としては僅かに公報と、演説會場に公共の建物を使用せしむると云ふこと以外にはやらないのであります、是では政府は寧ろ選擧を厄介視し、恰も候補者の爲に選擧をなすものであるかの如く考へて、何等そこに熱意の見るべきものがないやうに思ふのでありまするが、御所見如何、之を承りたいのであります
第四には、選擧運動及び取締に付き御伺ひを致したい、選擧運動は成べく自由にして無用なる取締を避くることは贊成でありますが、徒らに簡素化の名の下に責任を免れんとし、逃避的態度に出で、選擧を投やりにしてはならないのでございます、選擧運動は自由にしても、選擧の公正を害することのないやうな、嚴正さを保たなければならないと存ずるのでございます、本案に依りますると、立候補屆出前の選擧運動を自由ならしめて、其の名の下に無謀なる選擧運動を年中連續的に行うても差支へがないことになつて居るのであります、更に又選擧期日公布日前の運動費用を、法定費用に加算せないことに致して居ります、幾十百萬圓の戰時成金の金を其の費用に使つても、公布前であれば一向差支へがないと云ふやうなことでは、選擧運動の惡化を來しはせぬかと云ふことであります、選擧の神聖を害し、民意を表現し得ざる結果ともなる、既に世間には解散を豫想致しまして、斯くの如き事前運動を猛烈に行ひ居る者もあるやに聞くのでありますが、是等に對して政府の所見如何を承りたいのであります、更に文書圖畫の頒布又は掲示に關する制限、選擧事務所の數に關する制限、休憩所等設置に關する禁止等の撤廢は、今日の情勢に合せざるものがありはせぬか、唯徒らに選擧をお祭り騷ぎに陷らしめて、候補者を卑屈ならしむることになりはせぬかと思ふのでありまするが、御所見如何でありませうか
次に罰則に關し御伺ひを致します、選擧に關し氣勢を張る行爲に對する罰則、選擧に關し不正行爲を煽動する者に對する罰則等の撤廢をなさいましたが、一體是はどうしたのですか、是等の撤廢は全く選擧運動の亂雜を來し、無秩序ならしめ、或は遂に刑法上の罪にまでも波及せしむる虞が多分にあるのであります、人心に及ぼす影響實に甚大なるものがあると存じまするに拘らず、敢て政府は斯くの如き案を御作りになりましたのは、政府は全く選擧から自分を出來るだけ免れて、以て善い子にならうとするやうな、さう云ふ中間内閣的な御考へに依つたものであるかどうかを承りたいのでございます、其の他幾多詳細に關する質疑を持つて居りますが、是は委員會に讓ることに致しまして、大體以上の諸點に付きまして、總理大臣及び内務大臣の御答辯を御願ひ致したいと存じます(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=3
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004・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今上田君の御質問の第一點は、選擧法改正の問題の外に、何故に憲法改正、貴族院改革の問題と併せて、全體の改正案を提案しなかつたのかと云ふ點であります、選擧法の改正と併せて憲法改正、貴族院改革の問題を考慮致しますことは、極めて必要なことと存じて居ります、併し是等の諸問題は何れも國家組織の根本に關する重要問題でありまして、凡ゆる角度から愼重に檢討し、考究しなければならぬ問題であります、唯選擧法を改正して新事態に即應した自由闊達なる選擧を行ひ、國民の總意を暢達せしむるの途を開くことは、國政運營の前提として最も緊急を要することでありまするから、取敢ず本件に付て提案致したのでございます、而して憲法改正及び貴族院改革の問題に付きましては、政府に於て目下鋭意研究を進めて居るのであります、併しながら未だ其の結論を公表し得られる段階に達して居りませぬ
御質問の第二點は、選擧法を改正するに際し、議會制度審議會を活用しなかつた理由如何と云ふことであります、前内閣に於きまして議會制度審議會を設け、貴衆兩院の組織及び運營に付て審議を行ふことと致して居りましたことは御話の通りでありまするが、我が民主政治の發達を期するが爲には先づ國民の總意を反映する議會を成立せしむることが焦眉の急と存ずるのであります其の爲め衆議院議員選擧法の改正に付きましては、至急成案を得る必要が生じましたので、政府に於きましては右の如き手續に依らず各界の意見を參酌致しまして、成案を取急ぎ議會の御審議を俟つことと致したのであります、尤も時日の關係もあり、選擧法の全面に亙つて研究を盡すことが出來ませぬでしたから、今囘の改正は新事態の要求に合する最も緊急なる問題に重點を置いて改正を立案致した次第であります
それから第三點は、今日民心が昏迷して歸一して居ない際に選擧を行ふに付ては、正しく民意を反映せしむることを要すると思ふが、之に具體案ありや否やと云ふことであります、新選擧法に基きまして自由闊達、明朗公正なる選擧が行はるることは政府の最も熱望致して居る所でありまして、政府と致しましては今次總選擧の眞義と、新選擧法の趣旨を徹底せしむることが必要と認めまして、民間の諸團體の努力を煩はし、至急に是が趣旨徹底に努めたい所存であります、尚ほ個性の完成に依る國家社會への奉仕を教育の目標とし、殊に公民教育の劃期的改正を圖るの必要なることは、只今上田君の御話になつた通りでありまして、其の點に付ては政府も同一の趣旨に依つて只今百方努力致して居る所であります
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=4
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005・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 女子に參政の道を開きました結果、古來の我が國の傳統であります醇風美俗を損ひはしないかと云ふ第一の御尋ねでありますが、婦人參政権の附與に依りまして家庭内の平和を紊り、醇風美俗が壞れるが如き虞は毛頭ないものと考へて居る次第であります、寧ろ之に依りまして却て婦人の地位を高め、其の知識を向上し、妻としても眞に近代的な教養を備へた女性となりまして、夫婦それぞれの立場を理解し合ふ、本當の意味の新道徳觀が完成されるのではないかと考へて居る次第であります
年齡引下げに付て、民法上と合はせたのかどうかと云ふ御話でございますが、是は民法上の丁年と合はして考へた次第でございます、民法上の能力から申しましても、民法上十分の行爲能力があると判斷されました二十歳以上の者に對しまして選擧權を與へますことは、其の政治上の判斷力に於きましても、其の責任に於きましても、何等差支へはないものと考へまして、民法上の丁年と合はせた次第でございます、上田君の御引きになりましたやうな、各國に於きます例は、二十一歳から選擧權を與へて居るのが最も多いやうでありますが、各國の例を調べて見ましても、やはり是は民法上の丁年と合はせて居るやうであります、民法上行爲能力ありと認められました二十歳以上の者は、政治上の十分の能力を持つて居ると考へた次第であまりす
第二に制限連記に付ての色々な御質疑でありました、其の中の第一、選擧權の内容に差等を生ずるものではないか、平等と云ふことを無視するものではないかと云ふ御懸念でありますが、さう云ふ御懸念はないものと存じます、やはり制限連記の制を執りましても、一人一票の原則はあるのでありまして、而も若し却て制限連記を採りませぬければ、五人の選擧區に於きましては、其の有權者は定員の五分の一を決定する權利を持つて居る譯でありますが、單記でありますれば、十人の所になりますれば十分の一、十四人でありますれば十四分の一の決定權しか持つて居ない結果になりまして、之を六人以上十人までに付きましては二人、十一人以上十四人までの所は三人を書かせると云ふことが、却て投票の平等を來すものであると考へるのであります
其の次に單記と連記との場合に於て無效にするやり方に違ひがあるのは不釣合ではないかと云ふ御説でありました、一應左樣にも考へられるのでありますが、單記の場合に付きましては現行法通りに致しまして、此の建前には何等變更は必要を認めませぬので、現行法通りに致した次第であります、連記の場合に於きましては多數の氏名を記載してあるのでありまして、其の場合に於きまして其の二人三人の記載を總て無效とすると云ふことは、餘りにも選擧人の意思を蹂躪することになることを顧慮致しまして、成べく之を活かさうと考へまして、嘗て我が國に於きまして明治二十二年當初の選擧法に於きまして、制限連記を認めました時に作られました其の立法例を踏襲致した次第でございます、政黨との關係に於て、色々な立場を異にする政黨に所屬する人を書くと云ふことは、面白くないではないかと云ふ御説でございます、さう云ふこともあり得るかと存じます、併し是は政黨の政綱政策が十分に選擧民に徹底致しますならば、さう云ふことは起らないことと存ずるのでありますが、未だ選擧民の方にさう云ふ政治的の訓練が十分でありませぬ時には、今のやうなことも起ることかと思ひます、併し是は起りましても差支へないことではないかと思ふのでありまして、それは其の選擧人が個人に重きを置きまして、色々な人の名前を書くと云ふことは、必ずしも排斥しないでも宜いことではないかと考へるのであります
連記の制度は暫定的のものであるか、單記無記名で差支へないではないかと云ふ御説でありますが、是は昨日も提案の際に説明を申上げ、又今上田君の御説にもありましたやうに、或る一人二人に投票の非常な偏在を來し、非常な集中を來すと云ふ場合を考慮したのでありまして、さう云ふ風な場合に於きましては差支へないとも考へられるのでありますが、一方から考へますれば、それは詰り死票が非常に多くなる結果になるのでありまして、折角の有權者の投票が非常に或る人に偏在集中致します爲に役に立たない、其の效果を發揮しない死票が非常に多くなると云ふことは洵に遺憾なことと存じますので、之を調整したいと考へまして制限連記を提案致しました次第でございます
次に何人も連記を許せば思付きを書くやうなことが起つて來はしないかと云ふ御説であります、此の御懸念も洵に御尤もで、政治的訓練のない有權者にありましては、さう云ふことが起るかも知れないと思ふのでありますが、是は十分に公民教育を徹底致させたいものと思ふのであります、思付きを書きはしないかと云ふことを心配致しますれば、單記の場合に於きましても同じであると思ひます、政治的訓練があり、政治的判斷が十分でありますれば、思付きで二人目、三人目を書くと云ふことも防ぎ得るものと考へる次第でございます
次に選擧公營は今日の如く物資の關係の非常に不足して居る場合に於ては、選擧運動の公平を得させる上から、之を擴張すべきではないかと云ふ御説でありまして、如何にも御同感に存ずる次第でございます、考へ方と致しまして、公營を擴張すると云ふことは、其の考へ方は我々も決して之に反對する積りは持つて居りませぬ、唯其の公營の方法に關しまして、各候補者の間に極く公平なる、そして又適切なる方法が若しありますれば、我々は之を採用するに吝かでない積りで居るのでありますが、色々な方法を研究致しまして、今日までの所まだ最も公平に、そして又實行され易い方法を發見することが難かしくありましたので、原案のやうに致しました次第であります
次に事前運動をする者があるではないか、餘りに運動が自由になり過ぎて居ると云ふ御話でありましたが、是は決して當局と致しまして取締に對する責任を逃れ、逃避的態度に出でようとは毛頭考へて居りませぬ、買收饗應其の他惡質の取締るべきものに付きましては、嚴重なる取締を加へる積りで居るのでありますが、提案の際に説明致しましたやうな趣意から、色々な細かな運動は之を自由に致しまして、選擧をして最も明朗に、最も活溌に行はれるやうに期待致しました次第であります、事前運動を既にやつて居ります者も所に依りあるかのやうに聞くのでありますが、是は此の改正法が通過致しませぬ間は、やはり現行法に依つて取締るべきものでありますので、是等に對しましては各地方にも注意を致しまして取締つて居る次第でございます、尚ほ最後の罰則に關しまする點は司法大臣の方から御答へを申上げます
〔國務大臣岩田宙造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=5
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006・岩田宙造
○國務大臣(岩田宙造君) 上田君の御質問に對しましては、只今の内務大臣の答辯で大體盡きて居るかと考へますが、私からも一言御答へを申上げて置きます、此の罰則を簡單に致しました其の著しい例は、選擧に關して氣勢を張る行爲を自由にしたのでありますが、氣勢を張るの行爲と言へば、例へて申しますと、都會で旗でも立つて、候補者の後に大勢運動者でも附いて勢ひを張ると云ふやうなことでも一寸考へられるのでありますが、さう云ふやうなことは靜肅に紀律正しく行はれるのであれば敢て禁止する必要もないであらう、殊に集會言論等が自由にされました今日に於て、斯樣なことまで餘りやる人もないかも分りませぬが、やる場合に禁止する程の必要もないであらうと考へるのであります、それが一歩程度を越えまして騷擾に至る、治安を紊すと云ふ程度になりまするならば、只今でも他の百二十條でありますかに依つて之を取締ることが出來るのでありますから、簡單な氣勢を張る程度のものは罰する必要はなからうと考へたのであります、それからもう一つの例は選擧法で禁止してございまする違反行爲を煽動する、それは現行法では罰してあるのでありますが、是も罰する規定を削除したのであります、是は從來とも餘り是で罰せられた例はないやうに記憶して居ります、違反行爲を文書等に依つて煽動すると云ふやうなことは宜くないことには違ひありませぬが、實際そんな馬鹿なことをする人は餘りないのであります、或は新聞に廣告したり、其の他「ビラ」でも配つて、買收をしろとか、暴行をしろ、脅迫をしろと云ふやうなことを煽動すると云ふやうなことは、是は一寸考へられないことでありまして、そんな馬鹿な運動をする人はないのでありますから、是は削除しても少しも差支へないのであります、是が隱密の間に犯罪を教唆して、不正行爲を教唆すると云ふ教唆罪の成立つやうな場合には、是は他の規定に依つて罰することになつて居りますので、只今申しました違反行爲を煽動すると云ふやうな行爲を禁止した規定を削除することは、少しも差支へないのであります、左樣に、今度の改正法に於きまして、從前の禁止行爲を許すことに致しました規定は、多少ございますが、是は毫も選擧の自由、公正を害する虞のない規定でございますから、左樣御承知を願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=6
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007・上田孝吉
○上田孝吉君 簡單でございますから自席から御許しを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=7
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008・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=8
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009・上田孝吉
○上田孝吉君 簡單に申しますが、内務大臣の只今の御答辯中に、私は婦人參政權は日本の家族制度を害すると斷言したやうに御答辯になりましたけれども、さう云ふ御尋ねは斷じてして居らぬのであります、婦人參政權には反對しない、贊成であるけれども、日本の婦人は從來家庭の人であつたから、其の内助の功に依つて生活して來た婦人と、婦人參政權との調和をどう云ふことにして行くかと云ふことを御尋ねしたいのでありますから、此の點はしつかり私は訂正して置きます
それから總理大臣及び内務大臣、司法大臣の、其の他の私に對する御答辯は何れも的を外れて不十分であります、併しながら詳細なることは委員會に於て質疑をすることに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=9
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010・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 江口繁君
〔江口繁君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=10
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011・江口繁
○江口繁君 私は先づ第一に總理大臣に御尋ねしたいと思ひます、民主的政治實現、文化日本建設への劃期的使命を有して居りまする此の選擧法改正の意圖なるものが、十分に貫徹せられると云ふことが、現下の日本に於ては最も重大なる關心事であるのであります、首相は此の點に對して十分なる確信と其の用意を有せらるるや御尋ねしたいのであります
先づ第一に此の選擧法を改正し、此の選擧を尊重し、民意の實現を圖ると云ふことになりまするならば、一體現内閣は此の選擧の結果如何なる態度に出でらるべきであるかと云ふことは、是は全國民の最も聽かんと欲する所であります、現内閣の性格如何と云ふことは國民はそれぞれの立場から判斷を致して居るのでありまするが、少くとも現内閣は民主的に生れたるものとは國民は考へて居らぬのであります、又民主的なる基盤に立つて居るものとも考へられないと思ふのであります、然らば此の民主主義政治の實現の爲の此の選擧法改正に依り總選擧を行つたとしましたならば、茲に出て來たる所の多數黨なるものが國民の輿望を持ち、國民の支持を受け、眞に民主的なる政策を行ふ所の資格を有するものと言はなくてはならぬのであります、此の點に付きましては先般齋藤君が本議場に於て、總理大臣の新聞記者團との問答に付ての質疑を行はれたのでありまするが、承りますれば其の後内閣記者團との紛議の結果、政府に於ては遺憾の意を表明せられたと云ふことでありますから、本議場に於て其の眞相を明確にして置きたいと思ふのであります、齋藤君に對する答辯を見ますと、私が或る特定の問題に付て政府が攻撃を受けた時、それが民意でないと思つたら民意に問ふことがあるかも知れぬと言つたものであると云つた風な趣旨に解せられたのでありまするが、政府が攻撃を受けるとか、受けぬとか云ふ餘地があり得る筈はないと思ふのであります、此の點に付て政府が民主的なる政治、それに對して先づ第一に實踐すべきものであると云ふ責任を負ふものであると云ふ觀點から、率直明確なる總理大臣の御答辯を要求したいのであります
第二には此の選擧法改正の目的を達しまするには、少くとも國政全般の運營機構に付ての一大革新がなされなければならぬと思ふのであります、此の點は今の上田君の質問に依りまする憲法の改正、其の他重要な法案の改正もありませうが、少くとも茲に民主主義政治實現の爲に、此の改正選擧法案なるものを出されたに付きましては、政府としての構想なるものがなくてはならぬと思ひます、例へば貴族院を根本的に改革をして、衆議院中心の政治の一元的な運營をなすべきものであると云ふことは、是は當然なことであると思ひます、又樞密院なる所の存在に付きましては、是は天皇と國民との間の中間的存在として、曾ては若槻内閣の臺灣銀行救濟等の問題に付て、樞密院の反對に依りまして内閣が退陣したと云ふ風な例等から考へまするならば、之を存在せしめて置く所の意義なるものは、民主主義實現の上からは寧ろ弊害こそあれ、存在の價値はないものであらうと思はれるのでありまするが、是等に對する所の政府の所見を承つて置きたいと思ふのであります、又政府は十一月十三日官吏制度改正に付ての閣議決定をせられて居るやうでありまするが、如何に立派な選擧法を作り、自由公正なる選擧をさせましても、現在のやうな官界の制度竝に官吏の頭所謂官吏の思想なるものが、根本的に刷新、一新せられざる限り、民主主義政治の實現には、過去の官僚的なる所の政治の殘滓なるものが、十分に拂拭さるることは出來ないと思ふのであります、是等官界刷新、官吏思想の国民への公僕としての出直し、是等に對する所の政府の確乎たる所の御方針を承りたいと思ふのであります
次に内務大臣に御尋ねしたいと思ひますることは、現行法の第十條に依りますると、議員と政府の當路に立つ官吏との職を兼ねることが出來ないと云ふ制限の規定があるやうであります、是等は最近國民の要望する所、知事公選の聲が大きいのであります、又更に知事公選の實現の結果は、道州制の必要も考へらるるのではなからうかと思ふのであります、然るに現行法の第十條に一指も染めることなくして、茲に改正案を出されたる所以のものは、如何樣なる御考へでありまするか、私の考へを以てしまするならば、國民の自治權能を擴充して行くと云ふこと、而も此の自治擴充と、政治の運營とが密接なる關聯を持つて行くと云ふことが、民主主義政治實現の爲に、非常に大事なことであると思ふ、然らば公選されたる知事とか、或は道州の長官とか云ふ風なものに付ては、是は當然議員と兼ねさせて宜いのではなからうかと思ふのでありまするが、是等に付て將來に對する政府の御方針がありまするならば、此の機會に承つて置きたいと思ふのであります
次に此の改正案を以てして果して政府の望んで居りまする、又國民の強く熱望致して居りまする所の多くの新人、又有爲の適材を十分輩出させることが出來るかどうかと云ふ點であります、選擧區は大選擧區になりました、併し選擧の取締或は選擧の運動と云ふやうな點に付きましては、非常に解放的になりました、其の反面現實の我が國内の情勢は、戰災に因る所の凡ゆる困窮が益益深刻を告げて居る時であります、選擧區は大きくなり、運動は自由になり、取締は寛大になつて來て、さうして選擧費用は茲に増大致して來ました、之に備ふるに徹底的なる選擧公營の構想を此の選擧法改正に盛らずして、どうして新人、有爲の人材を多く輩出し、而して新日本建設への溌剌たる所の新議會を茲に望み得ることが出來るでありませうか、是等の點に付きまして上田君からも選擧公營に付ては質問がありましたが、更に選擧の改正を意圖する所の趣旨、目的を貫徹することに大きな憾みを存して居ると云ふ點に付きまして、私は不滿の意を表しながら、尚ほ内務大臣の此の點に關する所見を承つて置きたいと思ふのであります
次に選擧の方法でありまするが、是は比例代表制が理想であると云ふことを言はれて居る、然るにまだ是は時期尚早であると言はれて居る、一體此の選擧法の内容を見てみますると、年齡は二十歳に下げ、而も二十歳以上の婦人にまで與へると云ふやうな劃期的なる、思ひ切つた徹底的なる改正をしながら、茲に理想と稱せられる所の比例代表制を採られなかつたのは、洵に隔靴掻痒の感があるのであります、若し制限連記の制を以てするとしまするならば、選擧權なるものが公權である、此の公權は人權の平等なる尊嚴を確立すると云ふ、民主政治の本質に照して、國民一人々々が或る者は一人を投票し、或る者は二人、三人と差別的なる内容を持つと云ふことは、此の選擧權の本質に照して許すべからざることであらうと思ふのであります、此の點に付きまして内務大臣は選擧區の定員の數から、逆に算數的に出されて合理性があるが如く言はれまするが、是は全く詭辯である、所謂選擧權の本質、國民の平等なる所の選擧權の行使、是から考へまするならば、假に今日過渡期として本法案の如き内容を盛るとしまするならば、國民一律に一人々々が二名まで、或は三名までの候補者を投票なし得る、此の平等なる處置を執ることが合理的ではないでせうか、此の點に對する所見を重ねて伺つて置きたいと思ふのであります
次に司法大臣に御尋ねして置きたいと思ふのでありまするが、往々にして選擧場裡に於きまする所の政黨或は新舊の對立等に依りまして、又は不都合なる妨害的行動に依りまして、選擧違反に對する不當なる嫌疑を掛けられたり、或は當選を妨害するの擧に出る爲に、選擧運動中に色々の檢擧を見たり、仍て以て公正自由なる所の選擧を妨害するの例が、過去に於ても少くなかつたのであります、今日の選擧民が新たなる國民を加へて、又此の敗戰下思想動亂の此の時に於きまして、殊に今日悲しむべきことは、日本國民にして日本國民を外國に賣るの人なきやを疑はしむる現状でありまする時に、選擧の公正を保持する所の檢察、裁判當局の司法部は、儼然として自由公正なる選擧を保護助長するの態度――取締と云ふ觀點よりも、之を保護すると云ふ寛容なる氣持に於ける所の態度、是が私は非常に必要ではなからうかと思ふと共に、一面に於ては不正なる策謀に乘ぜられて選擧の自由を惑亂せられざるの用意も亦必要であらうと思ふのであります、是等に對する司法部の用意を伺つて置きたいと思ふのであります
次に婦人參政權に關聯して文部大臣に御尋ねして置きたいと思ふのでありますが、成程先刻内務大臣の答辯に依りまして、婦人に參政權を與へたることに依りまして、斷じて我が國の家族制度を破壞するものでない、寧ろ其の内容を充實するものであると云ふ點に付きましては大いに共鳴するものでありまするが、併しながらまだまだ我が國の女子の、現實なる所の能力の程度と云ふことに付きましては、必ずしも私は樂觀を許せないと思ふ、是は私が多くを申上げるまでもないのであります、隨て女子の棄權防止、違反豫防、是等に對する所の十分の配意が必要であると共に、十分なる社會教育と、今後に於ける女子教育の擴充徹底と云ふことに對しては、一段の用意なきを得ないと思ふのであります、進んで男女共學の體制、或は女子の高等學校、大學への開放、是等の點に付きましては此の際急速に其の處置を執らるべきものであらうと思ふのでありますが、文部大臣の之に對する御所見を承つて置きたいと思ふのであります、殊に今日二十歳以上の男子が選擧權を有すると云ふことになりますならば、一般の青年竝に多くの學生、此の學生が政治上に於ける所の立場を持つ、其の學生の政治的思想の涵養と云ふことに付きましては、是は決して私は忽せにすることの出來ない問題であらうと思ふのであります、但し公正なる選擧には正しい思想の裏付がなくてはならぬと思ふ、此の正しい思想の指導涵養と云ふことに付きましては、政府が責任を持つて徹底的なる處置を執らなくてはならぬと私は思ふのであります、是等に對する文部大臣の御意見を承つて置きたいと思ひます
最後に私が總理大臣に重ねて一點御尋ねして置きたいと思ひますることは、政府は選擧に關しまして十一月二十日の閣議に於て全國に政治教育を實施せられる旨の決議をせられたやうでありまするが、其の内容、方針に關聯して私は御尋ねするものであります、現在日本の政治、日本國民の生活と云ふものは、國際的の政治の動向の埓外に斷じてあり得ないと私は思ふのであります、隨て萬世に太平を開くとの御聖旨を奉體しまして、我が日本國家、国民は世界の恆久的平和確立に如何なる理念、如何なる方法を以て寄與せざるべからざるかと云ふことに付きましては、少くとも日本民族を指導する上に於きまして、此の國際的平和保障に關する確乎たる所の方針なるものがなくてはならぬ、唯國内に於ける選擧法改正の區々たる所の説明や、民主主義政治の言葉的解説を以て終るべきものではないと思ふのであります、世界の平和確立、世界の政治の動向と日本の政治、日本の國民の生活とが密接一體であると云ふことは、現に百八十萬人の邦人が、北鮮竝に滿洲に於て飢餓と凍死に迫られて居ると云ふ現状、或は食糧の三合配給を要求するの國民の聲澎湃たるに對して、外米の輸入を要請するの態度に出られて居ると云ふやうなこと、全く世界政治と一環の運命を持つて居るものと思ふのであります、私の此の點に付きましては、少くとも國民が此の世界的政治情勢に對する所の一つの知識と、世界の恆久平和に對する所の方針なるものに對する認識なるものが私は必要ではなからうかと思ふ、此の點に付きましては、私の意見を以てしまするならば、少くとも現代の平面的な、現状維持的な、保守獨善的なる平和と云ふ觀念から、進歩的な、立體的な、生成發展をする所の進化的平和主義なるものに、國民が深き理解を持つて行くべきであらうと私は思ふのであります、永い民族の歴史、人類の遠き將來を考へる時に、戰爭の一時的勝敗なるものに依つて、其の領土と、其の資源と、其の生活とが差別をされ、區分をさるべき筈のものではないと思ふのであります、私は此の點に付きましては、少くとも全世界の國家を單位としたる所の、合同世界國家なるものが將來構成せらるべきであり、所謂進化的世界聯邦なるものを組織せられると云ふことになつて行くべきではなからうかと思ふのであります、隨て其の世界聯邦の理想とする所は、地球は全人類の共有共存の天地である、資源は均等に開發されなくちやならぬ、通商と交通は自由である、文化は世界の共通である、人類は互助共榮の幸福を保有すべきであると私は申したいのでありますが、少くとも此の世界聯邦に於て單一なる所の軍備を以て世界各國が、それぞれに濁自の軍備を持つと云ふ體制は、速かに排除せられて行くべきが、世界人類を戰爭の慘虐から救ふ唯一の途ではないかと思ふのであります、從來に於ける所の武力的戰爭を文化的闘爭に世界を切替へて、所謂國際的なる文化競爭「シヴィリゼーション・オリンピック」之を世界が認めて、さうして世界各民族、各國家の文明、文化の水準――其の文明、文化の競爭に依る得點を標準として世界聯邦に於ける所の政府竝に代議員の數の割合を決めて行くと云ふ風にして、世界を合理的、平和的議會的なる所の運營に導いて行くことが、我々が萬世に太平を開き、日本民族が進んで世界平和保障に寄與して行く方法の一つではなからうかと思ふのであります、私は是等の點に付て、我が國の此の選擧法改正に基く國民の政治的識見を高め、國際的政治常識を高めて行くと云ふ上から、我が日本國として、日本民族として、戰爭を絶滅して、人類の眞の幸福を招來する爲に、此の世界の平和保障の爲に、政府は如何なる方針を以て進まれる御意圖であるかと云ふことを終りに承つて置きたいと思ふのであります
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=11
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012・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 一昨日本議會に於きまして、齋藤君から先般私と新聞記者諸君との話、及び之を材料としての御質問がありました、本日も豫算總會に於きまして、同一の問題に付きまして御質問がありました、之に對して私が答辯として申上げましたる所は、要するに理論上憲政の運用は斯くあるべしと云ふ私の所見を申述べたのであります、現實の總選擧の後に於ける現内閣の進退と云ふことに付きましては、其の際の情勢に依つて決すべきことと考へます、唯私は決して政權に戀々とするやうな者ではありませぬ、此の際ははつきり此のことだけを申上げて置きます
それから第二點に政治の一元化に付ての御質問であります、是は先刻上田君の御質問に御答へ申上げました通り、民主政治を確立し、之を強力に推進致します爲には、選擧制度の改正のみならず、憲法問題、樞密院問題、貴族院問題と云ふやうな諸問題も綜合する一元的な研究が望ましいことであまするが、是等の諸問題は何れも國家組織の根本に關する重要問題でありますから、總ての角度から、檢討して、最も愼重なる考量を遂げなければならぬ問題であります、唯選擧法の改正の問題は、今後に於ける我が國國政運用の前提として最も急を要する問題でありまするが故に、取敢ず本件に付て成案を取急いで本案を本議會に提出致した次第であります、固より他の問題に付きましても及ぶ限り速かに結論を取纒めたい考へで居ります
其の次に革新を行ふ爲には官界の獨善的、官僚的思想を刷新すべきものであると云ふ御意見であります、如何にも民主政治の徹底を期し得まする爲には、從來の獨善的官僚思想を一擲することが極めて緊要であります、政府と致しましては官界の一新の爲に、先般官吏制度の刷新を決定致し、民間有識者の登用を圖り、新鮮なる空氣を官界に注入すると共に、官紀の振肅を嚴正にし、信賞必罰を明かにすることと致し、著々官界の積弊を打開致したいと努めて居る次第であります
最後に平和の問題に付きまして大體の方針を御質問になつたのでありまするが、御話の如く、國際的の平和を確立すると云ふ根本要件は、何としても教育の刷新であります、先づ是が爲には軍國主義及び極端なる國家主義的の跡を拭ひ去ることが必要であります、是と同時に、個性の完成に依る國家社會への奉仕を以て教育の目標とし、公民的教育の振興を圖らんとするものでありまして、是が即ち「萬世の爲に大平を開かむ」との詔勅中に仰せられました其の御趣旨を徹底する途であらうと私は考へて居ります
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=12
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013・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 現行選擧法第十條の議員と或る官吏との兼職の範圍を擴めて、地方長官とも之を兼ねさせて差支ないではないかと云ふ趣旨の御質疑であります、現行法の第十條の規定の設けられてありますのは、御承知の如く官吏と議員と相兼ねまする時には、其の兩方の職務に支障を生じます、一方の仕事に專らでありますれば、他の方の仕事が疎かになることは明瞭でありますので、お互ひに職務の遂行に妨げを生じます關係から、原則として兼職禁止の規定がありまして、唯内閣と進退を共にする或は官職だけに付て之を認められて居るのであります、又考へて見まするに民主政治の思想は三權分立の思想と通ずるものと思ひます、三權分立の思想の上から考へますれば、立法と行政とを紛淆させると云ふことは好ましくないことであると考へます、それ等の點から致しまして、此の第十條の規定は愼重に考慮檢討すべきものと考へまして、此の際此の改正には觸れなかつた次第であります
次に今度改正法に依つて新人を輩出せしめると云ふことは難かしいのではないかと云ふ御質疑でありますが、選擧區を大きく大選擧區に致しましたと云ふことは、從來の地盤と異つた地盤に立つことになりまするし、投票人の選擇の範圍も廣くなりますので、大選擧區の制度は新人の輩出に有利であると云ふことは言つて差支へないことと思ふのであります、又一方從來の規定が選擧運動等に付きまして非常に詳密なる規定を設け、此の道の玄人でなければ直ちに選擧違反になると云ふやうな現在の規定、大體此の運動の制限に關する規定を撤廢致しましたことは、新たに打つて出る新人の輩出に都合の好いことであると考へるのであります、唯御指摘のやうに費用が相當増額することは認めなければなるまいと思ひますが、運動の方法に、又新たなる工夫を凝らしますれば、其の間に又途もあるのではなからうかと思ふのでありまして、例へば演説のやうなことは全く自由に相成ります、別に演説會場でなくても、大道演説でも差支へなく出來る譯でありますから、それ等の色々な點から致しまして、今度の改正法は、新人の進出には都合が好くなつて居ると考へて宜いと思ふのであります
次に、なぜ比例代表制を採らなかつたかと云ふ御質疑であります、此の點に付きましては立案の際に十分に研究を致したのであります、御承知の如く比例代表制を採ると致しますれば、單記移讓法に依るか、名簿式に依るかと云ふ問題でありますが、單記移讓の方法は、數十萬の投票のある際には實行不可能であるやうに思ふのであります、移讓を致します爲の計算が非常に複雜でありまして、又非常に時間を要します、其の爲に此の方法は、投票數の少い場合には割合にやり得るのでありますが、數十萬の投票を計算する場合には、投票の計算に非常に長い期間を要することになりまして、事實上採用不可能ではないかと思はれるのであります、名簿式の比例代表の方法は採り得るのでありますが、是は御承知の如く各政黨政派の政綱政策が、十分國民に徹底して居なければなるまいと思ふのであります、此の點から考へまして、間もなく是は考へ得ることとは思ひますが、此の際の方法と致しまして、まだ時期少しく早いのではないかと判斷致しました次第でありまして、制限連記の方法を採りましたに付きましては、上田君の質疑に對して御答へ申上げたやうな次第でありますが、單純に考へて參りますれば、或る人が一人を投票し、或る人は三人まで投票出來ると云ふことは、一見不平等のやうでありますが、さうでないことは前にも申上げた通りであります、要するに是は各選擧區で選擧をするのでありますから、其の選擧區が違ひ、其の選擧區に於ける、定員數が違つて居るのであります、其の基礎條件が違つて居るのでありますから、之を不平等の選擧なりと云ふことは當らない説と考へて居る次第であります
〔國務大臣岩田宙造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=13
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014・岩田宙造
○國務大臣(岩田宙造君) 只今江口君の述べられました通り、從來の選擧に於きましては往々にして司法官憲に於きましても、選擧に不當なる干渉を致しまして、或は辭柄を設けて運動員、甚だしきは候補者を引張つて來て、不當な拘束を加へて、選擧の自由公正を妨害した事實のあることも考へまして、私も亦期くの如き許すべからざる行爲に對して、江口君と同樣に痛憤を禁ずるを得ない一人であります、將來の選擧、此の選擧法が改正せられまして、次に行はれまする選擧に、若し私が此の地位に居りまするならば、斯くの如き行爲が、少くとも司法權に關係して居る方面に於きまして繰返されないやうに、私は全力を盡す考へで居りまするから、又諸君の御協力をも願ひたいと思ふのであります
〔國務大臣前田多門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=14
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015・前田多門
○國務大臣(前田多門君) 江口君の御質問の中にございました女子の選擧權の附與と同時に、今後女子教育を刷新しなければならない、之を擴充しなければならないと云ふ御趣旨には全然同感でございます、其の爲に只今考へて居りますることは、若し今囘の選擧法が議會を通過致すことと相成りますれば、其の際に於きまして特に此の新しい女子の有權者、又若き有權者に對しまして、教育上の立場から、公民啓發運動と云ふやうなものを試みまして、投票の尊重すべき所以を教育致させたいと云ふ風な感じを持つて居る次第であります、又女子教育の水準を高めなければならぬと云ふ御説に對しましても全然同感でございまして、此のことは既に文部省の新教育方針として發表致しました聲明の中にも、入れてあるのでありますが、更に其の具體策に付きましては、只今折角案を練つて居ります、恐らくは近き將來に於きまして其の成案を發表することが出來るであらうと考へて居る次第であります、此の女子に對しますると同樣青壯年に對しまして、公民教育を刷新し擴充致さなければならないことは勿論のことでございまして、此の點に付きましても、特に青年が批判力を持つて、兎角政治運動等に於て陷り易い雷同の弊を戒め、同時に自分と反對な意見を持つて居る者に對して、寛容な態度を持つと云ふやうな所に重點を置きまして、折角教育を進めて參りたいと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=15
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016・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 今井嘉幸君
〔今井嘉幸君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=16
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017・今井嘉幸
○今井嘉幸君 開院式の 御勅語にも、特に衆議院議員選擧法を擧げられまして、首相の施政方針の演説中にも、此の御趣旨を奉戴致しまして選擧法改正の必要を強調し、本議會の劈頭法案として議に上せたのであります、首相及び内相より特別の御説明がありました、併し私は議題の重要性に鑑みまして殊に其の内容の根本論に付きまして、數點質問を試むることを光榮と致す次第であります
先づ第一點は總理大臣に御伺ひを致したいのであります、總理大臣は御演説中に國民の總意を反映する議會と言はれました、總意とは國民各自が一樣な資格で表現する意志であつて、經濟的に申しますると消費者として、それから社會的に申しますると所謂地縁社會の一構成分子として表現するものでありまして、彼の特別なる産業或は特別なる階級の利害に依る所の意志の表現は問題にならぬと思ひます、それは例へば舊「ドイツ」の經濟會議の如く、特別の構成に依るべきものであると思ふのであります、そこで我が貴族院も亦特殊なる階級代表でございまして、首相の所謂國民の總意の反映するものではありませぬ、そこで國民の總意は此の選擧に依りまして、所謂庶民院たる衆議院に反映するものであります、民主政治は議會中心の政治と言はれまするが、國民の總意が衆議院に反映するのであるならば、政治の中心は衆議院でなければなりませぬ、新日本の政治が眞に民主主義の活動を要すると云ふならば、衆議院を基礎として、衆議院を樞軸として活動すべきものである、外國でも段々一院制度になりつつある、二院に於きましても第一院は庶民院であると云ふことに學説は相成つて居るのであります、苟くも此の庶民院たる衆議院が、政治の中心にならなければならないと云ふのならば、此の意味に於て障碍のある貴族院の制度に對しては、固より大改革を加へる必要があるのであります、斯く致しまして活動すべき新日本の民主政治こそ、元元我が肇國の大精神に適ふものと思ふのであります、大陸の高原より出たる我が天孫民族の優越性は、合議を尊重することを以て特色と致して居ります、彼の天安之河原の會合に徴しましても是が明瞭である、萬機公論と云ふことは此の精神を宣明せられたのであります、而も此の精神の中には、夙に婦人の參政さへも包含を致して居ります、のみならず一般國民の直接の參政である「レフェンレンダム」の觀念をも、廣く此の中に包含を致して居るのであります、而して是等國民の總意の反映には、家族主義に依る相互扶助の高き徳義を本位と致しまして、彼の歐米諸國に於ける如き、單に階級利害の相剋摩擦を調和することを狙ひとするものとは、非常に趣きが違ひます、况や階級闘争を目的と致して居る所の集會などとは雲泥の相違があるのであります、此の精神を廣く世界に及ぼし、人類の新文化開拓の信條と致すべきものと私は信ずるのであります、政府の御所見は如何でございませうか、之を第一に御伺ひ致したい
次に第二點も亦總理大臣に御伺ひ致したいのであります、總理大臣の御演説中に、國民の總意を反映する爲に公正自由なる選擧を必要とす、言はれました、自由にして公正とは何であるかと申しますると、其の道程に於きましても、結果に於きましても、不純ならざることを意味するのでございます、政治は所謂生物であります、或は政治は力なりと言はれたことがあります、其の爲め兎角不純な分子が加味せられる、殊に我が國會開設以來、選擧にはそれが甚だしきことを遺憾と致します、選擧と云ふものは運動に依るのでございまするが、其の運動の結果も道程も、自由公正なる爲には、其の運動戰術は言論殊に演説に依らなければなりませぬ、何となれば候補者の政見は言論、殊に演説に依りて詳かにせられます、且又其の人物風貌にも接觸することが出來るのでございます、之に依つて候補者の適否を判斷し、撰擇投票を決する建前と相成るのでございます、そこで一朝選擧の時期が始まりますると、各候補者は運動の正面主要の戰術と致しまして、各地に演説會を設けまして演説を試みるのでありまするが、而もそれが他面に於て二つの重要なる政治上の意義を持つのであります、其の一つは、之に依りて國民の國政、政治に對する感興と感激を煽ります、日頃政治に冷淡なる連中でも、是が始まりますると投票場に狩出されるのであります、それから其の一つは、それが國民に對する政治教育の好機會と相成るのであります、即ち選擧に於て、其の演説と云ふものは所謂一石三鳥の政治的重寶物であると云ふことになります、洵に言論は民主政治の華であります、堂屋の内、青天井の下、都鄙到る處百花爛漫たるものが、先進諸國に於ける選擧情景であります、斯かる形勢に於きましては、其の言論の旺盛さと公明正大さに壓倒せられまして、不正不純なる戰術は施す餘地がなく、自ら影を潛めて來るのであります、故に私は申す、言論の振起昂揚に努むると云ふことは、選擧の自由公正を圖る所以であると思ふのであります、所が從來我が國に於ける状態は如何でござるか、候補者は政見發表の演説をやることはやりますが、一般に頗る振はないと言はなければならぬ、演説、言論はほんの申譯、裝飾であつて、選擧の當落を決するものが外にある、因縁、情實、買收、請託而して最も力のあるのは干渉であると今まで言はれて居るのであります、選擧の前後になりますると、投票「ブローカー」が全國に網を張ります、所謂五當三落とか、七當五落とか云ふやうな通り相場が出來ます、選擧取締法は選擧干渉法と相成るのであります、外國のやうに選擧に勝つて政權を握るに非ずして、政權を先づ握つて選擧で勝つと云ふのが今までの常道に相成つて居るやうに見える、是等は制限選擧時代の有樣であり、又政黨萬能の時代に始まつたのでありまするが、併しながら普通選擧になりましても、軍閥の時代になりましても、決して改まらぬのみならず、益益其の猛威を甚だしくしつつあるではありませぬか、此の積弊を打破せずして、民主政治、國民の總意の反映などと申しましても、それは恰も木に據つて魚を求むるやうな類でございますので、此の要所を突かずして、百の法規の改正を企てましても、それは畢竟徒勞であると私は感ずる、否今度の改正條文を見ますると、幾多の煩瑣なる無用の制限が、成程除かれたことは除かれて、それは結構でございますが、具さに考へて見ますると、必要なる制限さへも撤廢せられて居るのであります、私共は多年普選運動をやる際に鬪つて獲得致したる制限さへも、自由である、明朗であると云ふことの爲に、犧牲に相成つたのであるかと云ふやうな感じがありまして、非常に遺憾に思ふのであります、而して一方屡屡問題になつて居りまするやうに、物資の頗る不足した經濟の現状に照しまして、此の間に於きまして不正なる、不純なる戰術が潛入跋扈する虞はないでありませうか、殊に金權候補が此の間に跳梁を逞しうするやうなことがないでございませうか、此の際に於きまして之を防遏し、之を抑ふるの途は、先程申上げました公明正大なる言論戰術を振起昂揚するを以て良策と致す、否それより外方法はないと私は確信をするのでございますが、當局の御所見は如何でございませうか、且つ之に對する對策が何かございませうか、是は總理大臣竝に岩田司法大臣より御所見を伺ひたいと思ふのであります
それから第三點以下は内務大臣に御尋ねを致したいのでございますが、先づ第三點と致しまして、大選擧區制度に付て御伺ひを致すのであります、大選擧區制度は制限連記投票法の採用と共に、今囘の改正の主眼點であるのでございまして、是が通らなければ、此の改正法と云ふものは骨拔と相成るのであります、議員諸君に取りましては、所謂地盤が變更せらるるのでありますから、恐らく一抹の不安の念を各自御持ちになることは免れますまい、併しがら國民一般は、政界の一新を要望致して居る其の心持に考へまして、多少不便でございましても、是は贊成せらるるに吝かならざらんことを、私は當年の普選運動同志の一人として皆樣に御願ひを致したいのであります、而も此の大選擧區制度は、御承知の通り新規のものではありませぬ、曩に業に已に、二十餘年の實驗を經たものでございますので、政黨の猛者原敬氏に依りまして、小選擧區制度に置き換へられて、又今日の中選擧區制度と相成つたのであります、唯併しながら今囘の改正案を見ますると、曩年のものに比較致しまして頗る解し難いものが一つあるのであります、即ち其の主義の一貫して居ない點であります、曩年のものに於きましては、其の區域は自治體を以て單位として、是で一貫を致して居つたのであります、即ち道府縣に獨立の都市を配合致したものであつたのでありますが、其の市と云ふものの中には成程大小があつて、ピンからキリまであり、定員には大いに不同がありましたが、併しながら政治的、經濟的、社會的の一單位を標準と致して、それを以て區域を劃して定員を配置して居る點に於きましては、合理的の一貫性がそこにあつたのであります、所が今囘の制度に於きましてはどうでありませうか、此の合理的の一貫性と云ふものが全然打破せられまして、大なる道府縣が分劃せられて、區域を設けたのは是はどう云ふ譯でございませうか、いや、それは廣過ぎるから、其の廣さを揃へんとして分けたのだと言ふならば、然らば何故小なるものを一緒にしなかつたか、小さい隣接したものを加へてもそれが出來る話ではありませぬか、元來普選の精神より申しますると、廣ければ廣い程宜いのであります、なぜかと申しますれば、有權者の數が夥しくなります、即ち運動の對象と云ふものが夥しくなりまして、そこに不正手段を用ひる餘地が非常に少くなる、そこで不正戰術の一掃をすると云ふ狙ひ所に適ふのであります、それでありますから、實例に於きましても「スイッツル」の「カント」では三十何名でありましたか、兎も角數十名の一選擧區があるのであります、普選の妙用は區域の大なる所に存するのであります、區域が大にして益益其の效用を發揮するのであります、尚ほ又現代の政治に於きましては、機能代表或は職能代表と稱せられるものが段々重要性を持つて來ましたので、大選擧區制度は此の意義より言ふも甚だ必要であると私は思ふのでありますが、現代の社會組織に於きましては、地方本位の利害關係が互に相錯綜致して居ります、是等の利害關係は數箇の地方に跨つて居ります、大きなものは全國に是が擴つて居るのであります、若しも選擧區が小さく區劃せられる場合に於きましては、是等の機能的勢力と云ふものが分割せられます、何れの區域に於ても劣勢となりまして、遂に議會に代表者を一人も送れぬ、或は送つても其の勢力に比較して甚だ少數に相成ります、所が我が國に於ける道府縣は多年自治體の單位として取扱つて來たのでございまして、其の因縁に依つて其の間に生み出されたる機能的效用と云ふものが、中々大きなものがありまして、決して之を看過してはならないのであります、此の種の意義の深い單位を、其の府縣を譯もなく分割するのは、恰も牛馬の胴を眞中から斷切つてしまふのと同樣であつて、其の機能と云ふものは害せられます、蜥蝪や蚯蚓などとは違ひますので、一つの「オルガニゼーション」として、之を眞二つに分けるなどと云ふことは、甚だ私は採らざる所であるのであります、私は此の見解より考へて見まして、此の點は本法案の規定を改めて、舊年の道府縣を以て一貫する制度に復活して貰ひたいと思ふのであります、政府の御所見は如何でありませうか、之を承はりたい
それから第四點と致しまして、是は今まで問題となつて居ります制限連記法に付て内務大臣に承りたいことがあるのであります、併し先づ以て申上げて置きますが、私は制限連記に大贊成であります、でありますけれども、あなたの申せられることに、少し私は分らない點があるから御説明を伺ひたいのであります、大選擧區制度と一緒に、此の制限連記投票法と云ふものは、我が國に於きましても、國會開設の初めにはやつて來た經驗があるのであります、又今日は變りましたが、此の間まで各地の商工會議所の選擧等に於きまして用ひられた、現に辯護士會の選擧等に於きましても是が用ひられたのでありまして、相當の實效を擧げて居ります、是は單記投票の不合理、不便より考案をせられた制度でありますので、單記投票の不合理に付きましては政府の強調せらるる通りであります、投票が一方に偏在するのです、さう云ふ危険があるのであります、極端に申しますると、投票は一人にばかり集まつて來るのであります、言換へれば神戸で楠公さんが御立ちになつたら、一人で取つてしまふ、あとは皆押されてしまふのであります、それから又或る場合に於きますると、其の一番偉い人は大丈夫だらうと思つて、先づ二番目の人を助けてやらなければならぬと云ふので、二番目に皆投票が集まつて、却つて第一番目の人を落すやうな結果を生ずるのでございます、政黨がある場合に、黨の取つた全體の得票と、當選の率と云ふものが洵にうまく行かない、一人で取つてしまへば、投票は澤山取つても外のものが落ちる、神戸に於きまして野田君が曾て一人で取つてしまつて、外のものを落した例があるのであります、さう云ふやうなことでありまして、全く此の廣い區域に單記無記名投票法を採りますと、それは其の時に於ける所の出來工合で、全然偶然の出來事と相成るのでありまして、是はさう云ふ制度を採つて居る國は、古今東西何處もないのであります、珍無類の、是は日本特有の投票法であるのであります、でありますから、斯う云ふものは早く變へなくちやならぬと思ふが、そこで比例代表法と云ふことが問題と相成るのでございます、それに付きまして政府に御伺ひ致したいのでありますが、政府の御説明を聽いて居りますると、何だか是は經過規定であつて代用品である、「スフ」入りであるかの如き御説明があります、けれども私は考へます、制限連記投票法にも是は絶對連記法と同樣に、獨特の長所、獨特の宜い所があるのであります、でありますから古來各地に是が行はれたのであります、此の間まで南米諸國にも是が行はれて居つたのであります、今日は是等に名簿式比例代表と云ふものが流行りで變つて居りまするけれども、其の簡便なることは、移讓式の比例代表よりも數等優つて居るのであります、名簿式と雖も、其の種類の優劣の間には議論區々でございます、殊に私の茲に強調致したいのは、今日學者の説に依りますと、制限連記投票法と云ふものは、其の結果は比例代表法に依りたる場合と、略略同一の結果と相成ると云ふのであります、換言を致しますると、比例代表法も亦一つの連記であります、何人かを書くのでありますから、制限連記法であります、比例代表法に依る一種の制限連記法と、今日問題になつて居る制限連記法は、投票して居ると云ふと、計算すれば當落の結果に於て略略同樣になると云ふのであります、是は高等數學の計算から出て來るのでございますので、「コンビネーション」、「プロバビリテイー」、等の原理を適用したら、是は出て來る筈なのであります、どうか政府は此の點の御研究を煩はしたいのであります、唯經過規定、代用品などと云うて之を輕蔑しないで、制限連記法の採用に御遠慮なく猛進せられんことを希望致します(拍手)然れども私の茲に制限連記法を強調致し、單記投票法を排斥しようとするのは、まだ外に大なる理窟があるのであります、それはどう云ふことであるかと申しますると、抑抑我が國選擧に於きまして、先程聲を嗄らして申上げましたやうな言論が振はない其の癌、其の淵源は奇妙天烈なる今日の單記投票にあるのであります、之をやつて居る日には、何時まで經つても言論は振はぬと私は信ずる、之に鋭利なる「メス」を施さざる以上は此の病弊は除かれないと思ふのであります、何を以てさう言ふか、是は斯う云ふことになるのであります、單記投票法をやるが故に、各候補者は此の一つの投票を得ようとして、各自が別々に獨立して演説會を開くのであります、人と一緒にやつたら危ない、取られる、皆が一人自體演説會をやる、そこで會場の數が區域内に夥しく初めから出來る、候補者は其の澤山出來た各自の演説會場を經廻つて、さうして其の自分のやる前後を應援辯士などと云ふものに助太刀を頼む、さうして之を補ふ、會場には何々候補者の政見發表演説會と貼出しが出て居りますけれども、入つて見ると聽衆は其の實應援辯士の駄辯饒舌にうんざりさせられるのであります、斯くて當初より演説會は聽衆を惹付ける力が非常に少い、さうして人がやつて來ない、人がやつて來ないから、こんな少い人數ではいかぬから會場を殖やす、會場を殖やすと云ふと又人が益益やつて來ない、人がやつて來ないから又會場を殖やす、人の來ぬのと會場を殖やすのとが、競爭致した現象でありまして、遂に會場には閑古鳥が鳴く、寒い日に會場に入つて見ると、其處に候補者の外聽衆はたつた一人と云ふやうな、珍無類な殺風景を演ずるやうなこともあつたと云ふことを聞いて居りますので、言論の振はざること洵に國會開設以來今日の如く甚だしきものはないのであります、普選が行はれたら言論が彈む筈であると云ふのに言論が振はない、是は普選が惡いと云ふけれども、是は普選の罪にあらずして、單記無記名投票法の罪なりと私は考へるのであります、そこで之に今問題になつて居りまする制限連記法と云ふものを一旦行ふことになりますると、此の形勢は私は一變すると信ずる、何故かと申しますると、選擧人は投票に數名を書くと云ふことになるのが建前でございまするから、候補者は何れも安心を致しまして、成るべく同志と聯合演説會を開くのが便利であります、私も若し出たらさう致します、其の方が便利です、同志と一緒にやれば宜いのです、聽衆は纏めて各候補者の政見を聽取、比較することが出來ることを又喜びます、そこで當初より演説會は人氣が出て來る、言論の繁榮は期して待つべきであらうと思ふのであります、それは今日に於きましても、時々新聞社などが催す候補者立會演説などと云ふものを見ると云ふと人が雲集します、會場を取卷く盛況であるのを見ましても、思ひ半ばに過ぐるものが私はあると思ふのであります、制限連記の長所は私は茲にあると思ふのでございます、そこで之をやりますと、首相の所謂自由公正の選擧の實を擧げる爲に、言論の振起昂揚が出來るのでございまして、是程結構なる方法は私は他にありはしない、之を斷行するに勇敢なれと私は思ふのでございます、でありますから政府は此の趣旨に於きまして、言論昂揚の意味に於きまして之を強調致し、さうして其の效用を益益發揮せられんことを希望致すのであります、此の點に對する政府の御所見は如何でございませうか、之を承りたいのであります
それから次に第五點でございますが、是も内務大臣に御伺ひ致したいのでございます、先程或る同僚に依りまして此處で一言觸れたやうでございますが、選擧は國家の大事でございまして、國政の要目とせられるものでございますから、本來公營にするのが私本義ではなからうかと思ふ、今日に於きましても投票とか、選擧會は公營でやつて居ります、言論戰に於きましても文書に依るものは公報でありますが、是は公營に相違ない、それから口頭に依りますものでも將來「ラジオ」を用ひることになりますれば、是れ亦公營に依るより外仕方がないのでございますが、さう云ふことならば百尺竿頭一歩を進めて、演説會も總て公營主義を採つたら如何でござるか、公營主義を擴張したならば洵に是は妙策であると思ふのであります、國家若くは自治體の手に依りまして演説會場を設け、言論戰の準備、管理、後片付等、是等の事務を總て斯う云ふものにやらすのは勿論、其の費用は國民自ら、若しくは自治體自ら之を支辨を致し、さうして丁度此の際制限連記投票法を採用するのでございますから、其の下に於きましては聯合演説會が其處に開かれる、聯合演説會が盛んに行はれる、それと相俟ちまして、公營にして其の聯合演説會を開くと云ふことは、洵に其の妙用を發揮する所以であります、尚ほ進んで考へますれば、其の演説會場のみに限る、他でやつては相成らぬと云ふ譯で、之を禁止しても宜からうと思ふのであります、金權候補が跋扈せんとする此の時代に於きましては、私是れ亦一つの妙策であると思ふのであります、それ位の自由の制限は此の際やつて宜しいと私は考へるのでございますが、如何でございますか、此の點に於きましても政府の御所見御對策を伺ひたいのでございます
第六點と致しまして、私は選擧權の擴張と婦人參政權に付きまして一言御尋ねを致したいのでございます、今囘從來の千五百萬から四千五百萬、大體に於きまして有權者が三倍に殖えると云ふことになりますが、唯數が三倍になつたと云ふことだけでは大いなる變化はありますまい、以前に納税額を下げた時にもそれに近い増加はありましたけれども、政界に於きまして大いなる變化はなかつたのであります、併しながら今囘の擴張は、私は相當の變化があると思ふのであります、千五百萬が其の約五割青年層に擴張せられたのでございますが、此の五割の増加と雖も、私は相當の變化を來すものと思ふのであります、それは感激に滿ちて居る清新溌剌たる其の青年層に擴張せられるのでありますから、必ずや私は變化を來すものと思ふのであります、相當の效果があるものと思ふのでありますけれども、私の考へる所に依りますと、それよりも重大なる意義のあるものは、女性の政治に參加することであります、其の重大性あるが故に、我々普通選擧の時代に於きましても、同志の中には反對論或は尚早論がありました、私は同志と共に其の當時より婦人參政權には贊成を表して居つたのでありますが、唯直ちに此の運動の實現に取掛らなかつたのは何故かと申しますれば、其の當時普通選擧にさへも相當に反對阻止の運動があつたのでございますので、此の足弱の連中を連れて行けば普選其のものの妨害になる、一足お先に失敬と云ふ所で、男子の普選運動のみをやつたのでございます、所が其の後に世の中の形勢は大變化を致しました、それは御承知の通り、普通選擧其のものさへも實は危く相成つて來たのでございます、いや、議會其のものさへも傷め付けられつつあつたのであります、千載の怪傑「ヒトラー」の颯爽たる其の武者振りには、男と雖も惚れたのであります、然るに私は「マイン・カンプ」を讀んで、「ヒトラー」の普通選擧に對する惡口を見て厭やになつたのであります、所が日本に於ける「ヒトラー」かぶれの、殊に軍人の連中に於きましては、普通選擧に對して頗る覺えが目出たくない、或は惧る、我我同志は生命を賭しても普選の爲に鬪ふ時期が、或は來りやせぬかと云ふことを考へたのであります、けれども世の中の形勢は再轉を致しまして、今日のやうな洵に「デモクラシー」の世の中と相成り、圖らざりき此の婦人の參政權さへも實現を見ることに相成つたのであります、洵に今昔の感に堪へぬ次第でございます、併しながら今日婦人參政が實現せられる時期に當りまして、以前を囘顧して考へて見ますると云ふと、當時の婦人參政の理由と大分違ふものがある、當時の婦人參政權に贊成を致しました譯は、害がないと云ふことに歸著するのであります、男子に皆蹤いて行く、恐らく夫の言ふ通りになるだらう、唯數が二倍になるだけで、結果に於ては何等の違ひがない、だからして許しても宜からうと云ふので、尚早論をも教育説で抑へてしまうたのであります、然るに今日の婦人の參政と云ふものは、それとは違ふ、更に更に重大なる意義があるのであります、此の事變竝に戰爭中に於ける隣保組織に關して、婦人の活動は實は目覺しきものがあつたと私は思ふのであります、婦人に媚びるのではない、事實さうであります、殊に消費經濟面に於ける所の活動は、婦人の獨壇場であつたのでございます、而も一方に於きまして消費經濟に於ける政治的意義と云ふものは、益益加つて來ます、「ギルドソーシャリズム」に依れば、國家と云ふものさへも單なる消費經濟機構に過ぎない、國家は消費經濟だけやれば宜い、外のものは組合でやつたら宜いと云ふことが「ギルドソーシャリズム」の思想だ、それ程國家と消費經濟と云ふものは關係がある、隨て此の際近來得た所の婦人の持つ此の隣保竝に消費經濟に於ける貴重なる知識經驗は、是非とも之を政治に取入れる必要があると思ふのであります、之を取入れれば固より相當の政治上の變化はあるに相違ないのであります、英國は第一次世界大戰の後に於きして「マクドナルド」内閣が出來ました、今日に於きましても、戰勝宰相「チヤーチル」を裏切りまして、政變があつたことは諸君御存じの通りであります、我が肇國の理想である所の「デモクラシー」は、夙に婦人の參政を包容致して居ると云ふことは冒頭に申上げた通りであります、それで今之を還元致しまして、天下に先だつて新文明の建設に當るべきであると思ふのであります、唯私憾むらくは、彼の女等に果してそれだけの資格が出來て居りませうか、それだけ政治に關心があるでありませうか、用意が十分であらうかと云ふことで、それが問題であるのであります、具體的に言へば、今日之を許しましても、果して投票に出て來るだらうか、投票率がどれ位になるだらうか、棄權率は如何であらうかと云ふ危懼の念があるのであります、政府は此の點に對しましてどう云ふ御所見を持つて居りませうか、如何なる對策を講ぜられつつあるでございませうか、此の點に付きまして内務大臣の詳細なる御答辯と、又併せて文部大臣に御意見があつたならば承りたい次第であります、是で私の質問の大體を申上げた次第でございます(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=17
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018・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 今井君は豫て普通選擧の制度を最も早く唱道せられたる先覺者と承つて居ります、只今の御演説も同一の根本精神に基き、民主主義の健全なる發達を期して居らるる御趣旨に出たるものと拜察致しまして、私の深く推服する所であります(拍手)御趣旨の大體に對しましては、私は御同感を表するのに躊躇致しませぬ、民主主義が確立せられる爲には、政治、經濟、思想、文化、百般の點に付きまして、自由活溌なる言論、論議が展開せられることは極めて望ましいことであります、政府と致しましては既に言論、集會、結社に關する各般の取締法規を撤廢致したのでありまして、新日本再興の目的を以てする建設的且つ眞摯なる言論は、私等の最も歡迎する所であります、只今今井君が次の總選擧に關して注意すべき事項を御指摘に相成りました、其の諸點は私の篤と拜承致しました所であります、政府と致しましては從來の選擧に往々行はれたるが如き弊風は、總て一掃したい決心を以て、今度の選擧に臨まんとするものであります
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=18
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019・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 大選擧區は大いに宜いが、なぜ之を徹底しないか、一つの都道府縣をなぜ二つに分けたかと云ふ御質疑であります、是は御説の如く大選擧區は大選擧區としての非常な長所を持つて居る譯でありますが、餘りに議員の定數が多くなりますると、候補者の數も從つて非常に多くなり、東京都とか北海道のやうな二十數人の定員の所に於きましては、候補者の數も恐らく數十人を數へることになるだらうと存じます、さう云ふやうな所に於きましては、餘りに候補者が澤山ありますと、選擧權者の方で其の候補者の選擇に、多過ぎて困ると云ふやうなこともあるだらうと考へます、又餘りに廣範な區域であります爲に運動が困難になる、或は又費用が増大すると云ふやうなこともあると考へましたので、此の度の案に於きましては大體十五人に基準を置きまして、十四人以下を一つの府縣とし、十五人以上を二つに分けたやうな次第であります
制限連記のことに付きまして色々洵に有益なる御説を拜聽致しました、比例代表と制限連記とが略略同一の結果になる、高等數學の結果さう云ふことになると云ふ御説を拜聽致しまして、非常に參考になる次第であります、此の點に付きまして内務省と致しましても十分に研究を遂げたいと存じて居ります、制限連記の結果、選擧運動は數人聯合して運動することになり、是が隨て非常に自由濶達な言論の運動が盛んになるであらうと云ふ御説でありますが、是は確かにさうであると思ひます、制限連記の一つの理由、又其の長所と致しまして、三人連記でありますれば、三人の同志が聯合して一緒に運動をやつて行くと云ふ方法に依りまして、運動自體も活溌になり、又費用の節約にもなると云ふやうな利益があると存じます、同志相聯合して運動して行くと云ふことに依りまして、御説の如く言論が非常に活溌に、自由に展開されるであらうと云ふことは期待されるのであります
次に公營に付きまして、演説會場を公營にすべし、と云ふ御意見であります、是は前にも申上げましたやうに、公營の制度は各候補者の間に公平に、さうして機會均等を得まするやうに出來ます方法でありますれば、非常に是は結構なことであると思ふのであります、現在に於きましても演説會に付きましては、或る程度公營と申して差支へない方法が採られて居ると思ふのでありますが、之を大いに徹底させて、他の運動方法を禁止してはどうかと云ふ御説でありますが、他の方法を禁止すると云ふ所まで進むことは如何であらうかと考へて居る次第であります
終りに婦人に關してのことでありますが、婦人が今日選擧に對して十分の自覺を持つて居るか、關心を持つて居るかと云ふ御心配であります、成程多數の婦人の間には未だ其の自覺が十分でなく、又或る方面に於きましては政治に對しての關心が男よりも十分でない點があるだらうと云ふことを十分に懸念致される次第であります、隨ひまして此の儘で置きましては、危險が相當多くなりはしないだらうかと云ふことを心配致されますので、政府と致しましては、文部省と共に、内務省も一緒になりまして、公民啓發運動をやつて行く積りでありますが、此の公民啓發の運動は特に婦人に對しましては、棄權防止の點に最も重きを置いてやつて行くやうに、文部省と相談を致して居るやうな次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=19
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020・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 星島二郎君
〔星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=20
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021・星島二郎
○星島二郎君 政府は此の選擧法の通過を待つて議會を解散され、民主化したる政治を實現せんが爲に、新しき議會の成立を見られんと欲するのであります、仍て此の選擧法の改正竝に今囘の選擧は、我が民主主義政治がうまく行くか行かないかと云ふ基をなすものでありまして、重大なる影響をすることと思ふのであります、殊に此の改正案の骨子が「マッカーサー」司令部より指示されたる點に付きましても、此の選擧がうまく行くか行かぬかと云ふことは、進駐軍に早く歸つて貰へるか貰へぬか、巷間傳ふる所五年の期間が又延びる結果になるかと云ふことをも思はしめる重大性を帶びる選擧と思ひますので、之に對しましては政府は固より、同僚諸君も多くの候補に立たれることと思ひますが、選擧人たる國民諸君も、共々に此の選擧を立派にやつてのけると云ふ心構へを初めから持つて掛らなければならぬことと思ふのであります、お互ひは一つ「フェア・プレイ」で行きたい、選擧民諸君も棄權なく、眞の意義を理解してやつて貰ひたい、斯う云ふ見地から私は先づ政府に其の心構へのことに付きまして、前の多くの質疑者に對して答へられたことではまだ滿足を致さない、本來から言ひますと、是は私の受ける感じでありますが、此の議場を見ましても熱がない、政府の今囘の此の改正案に對しまする色々なことを伺ひましても、只今内務大臣、文部大臣から色々公民教育其の他に付きましての御計畫もあると承つて稍稍安心を致しましたが、全體の受ける感じが熱がない、是は今の政府の有體が、此處に御竝びになつて居る中にも、成程田中運輸大臣、松村農林大臣、芦田厚生大臣、小笠原商工大臣は衆議院の出身であられるから、恐らく此の選擧法が閣議に出た時には相當發言があり、熱意があつたことと思ふのであります、内閣諸公の中には八人の貴族院の方が居られる、一面から見ますれば、まあ貴族院内閣とも言へるやうな風に見えるのでありまして、是はやはり爭へぬことであつて、そこに私は熱意が缺けて居るのぢやないかしら、是は私の僻みかも知れませぬ、本來ならば此のやうな大法典を出して國民に愬ふる以上は、全閣僚が立候補する位の熱があつて然るべきだと私は思ふ(拍手)さうすればやはり考へ方が變つて來る、前に政友會で高橋是清翁が貴族院議員を辭し、子爵を辭して自ら衆議院に出られたことがある、さうなれば全體の熱がそこに出て來る、幣原男爵自ら爵位を辭し、貴族院議員を辭して立候補するのだと云ふ熱意を示されるならば、茲に民主的なる空氣が出て來る、私は實はさう云ふことを望みたかつたのです、併し元來が現内閣の出來たてが、或は消極的には公平を期せられるかも知れませぬ、此の選擧を公平にやつて、只今言明はされぬけれども、立派な選擧を行はれた後は、其の多數黨に讓るのだと云ふことを曾て言明されたことも新聞に見えましたが、私はさう云ふ概念から何となしに熱が見えない、是が甚だ遺憾なのであります、殊に内務御當局は一面から見ますと先般來「マッカーサー」司令部から締出しを食つて、或は警察部長の罷免となり、なつたばかりの警察部長が罷免される、一面同情に堪へない、特高も無くなる、前途官僚として希望を失はれたやうな場合に、とても難かしい此の選擧法の立案を事務的にされたことに付きましては、一面御同情に堪へませぬ、けれどもやはり之に熱が加はつて居らぬから、何となしに只今制限連記制に付きましても、質問的贊成演説で今井氏の補足的な説明があり、比例代表が宜いと思ふけれども今日はそれが出来ないから、せめてそれに近いやうな制限連記をやるのだと云ふやうな御氣持があり、兎も角も充がひ扶持であるから、體裁好くやつて行かうと云つたやうな氣分が滿ちて居る所に、私は此の立案の中に熱のある將來性の、日本の政界をどうして行かうと云ふやうなことの仄見えぬ所に私共の不滿があるのであります(拍手)
そこで私は重ねて總理に此の點に付きまして御伺ひしたいのです、此の選擧法を通過して一體總理は何時解散なさる、私は今日の新聞に新潟縣會が選擧よりも食ふ問題だ、食の問題が落着かないで選擧には出られぬ、投票にも出られぬと云つたやうなことの決議があつて、總理大臣を訪ねると云ふ記事が載つて居りましたが、私は一面それは無理からぬことと思ふ、故に十日、二十日を急がないで立派なる選擧法を作つて、十分の準備をして、自分が安心して任せるやうな政黨、議會を作つて、之を引渡すのが本當ではないかと云ふやうな見地から、今少しく私は此の選擧に臨む態度としまして、唯お座なりに此の職責を消極的に全うされると云ふのではなしに、積極的に此の民主政治をうまくやるかやらぬか、其の基をなす最初の選擧であるからと云ふ意味で、閣僚諸公がもつと各方面に色色な手を打つて貰ひたいと思ふのでありまするが、總理大臣は此の點に付きましてどう御考へでありますか、最初に上田君竝に江口君からも觸れられましたが、將來憲法が改正され、其の憲法の改正案成るや、新しく成立する議會に依つて色々なことが論議されることは、其の新しき議會を作らんが爲の今囘の選擧法の改正である、私は再び御尋ねしたい、衆議院だけを目當として日本の政界の革正は出來ない、「マッカーサー」司令部に於きましても官僚、軍閥、財閥而して門閥を清算しなければ、日本の政治は明朗にならないと申して居ります、門閥の牙城である此の貴族院の改革を斷行せざる上に於ては、單に新しき選擧法に依つて衆議院のみを以て、日本の政界全部を淨めようと云ふことは到底望まれない、故に總理は此の選擧法改正を以て解散をして、新しき議會を構成せんとされるならば、どうしても此の際貴族院に對する一つの方針を明示されなければ完全ではないと私は思ふのであります(拍手)右等の點に付きまして總理大臣の御所見を再び承りたいと思ひます
次に私は今囘言論、集會凡ゆる方面が自由となりまして、政界、思想界は非常に明朗となりました、所が一面私は非常に殘念に思ふことがある、お互ひに是は國民性の缺陷と申しませうか、一國一黨論が流行ればそれに直ぐ蹤いて行く、今囘是が自由になればいきなり三十、四十と云ふ政黨が出來つつある、新聞で色々な廣告を見まして、又斯う云ふ政黨が出來たか、是は外國から見まして私は日本人の常識を疑はれはせぬかと考へて居ります、元來議會政治は小異を捨てて大道に就く、一面から言ひますれば妥協政治、話合ひ政治である、さう三十も四十も政黨が出來るやうではお互ひの常識を疑はれる、今内務大臣が比例代表制をいきなり採用出來ぬと云ふのは、斯う云ふ點から見ますれば御尤もな話である、併し治安警察法の撤廢は私共多年唱道した所で、それに依つて久々と言ひますか、思つたことを其の通りやれると云ふ意味に於きまして、急に三十三と言ひまするか、今日は屆出がないのでありますから、幾つ出來たか分らぬと仰つしやるかも知れませぬが、大體此の政黨が幾つ位出來たか、若し御調べがあれば此の席で承りたい、少くとも先般新聞ではもう三十三、四出來て居るやうに書いてありましたが、強ひて贔屓目に見れば是も政治意識の發達と云ふか、國民が政治に熱心であると、斯う諦めれば宜いかも知れませぬけれども、私の憂ふる點は將來日本の政界は小黨分立の徴候があることであります、是が心配なのである、先般我が黨の鳩山總裁は此の席に於きまして「デモクラシー」の脆弱性を論じられました、洵に御尤もである、日本の國民性から見まして特に脆弱性を感ずるのです、私は「ドイツ」と日本が色々な點に付て似通つて居る、さう云ふ點に付てお互は警戒をしなければならない、再び「ドイツ」の苦い經驗を繰返して眞似をしてはならない、戰爭に眞似をして敗けた、戰爭に敗けた後で「ドイツ」がやつて失敗したことを、今日本が眞似をせんとする傾向がある、是は注意しなければなりませぬ、第一次歐洲大戰に於きまして「ドイツ」が敗れて、其の軍國主義を改めて平和の「ドイツ」を打ち樹てたい爲に、彼等は法律に非常に堪能でありますから、「プロイス」博士を中心に「ワイマール」の新憲法を作りました、あの憲法は稀に見る民主的な立派な憲法だと私は思ふ、併し如何に立派に憲法が出來ましても、其の運用を誤つた爲に再び「ドイツ」は軍國主義に還つたではありませぬか、小黨分立して政局が安定しない、さうなくても戰爭に敗けた結果色々な困難が出て來た、其の戰爭の敗因から行はれた色色な悲慘なことが時の當局――政黨が惡い、政府が惡い、一寸内閣が出たら直ぐ倒れる、結局其の時の政權に不滿を抱いて全政府を怨む聲、呪ふ聲が澎湃として「ドイツ」國内に漲つて、其の結果「ヒトラー」が出現したのではありませぬか、此の明かなる事實、十年ではない、極く最近の此の例をお互が見せ付けられながら、尚ほ日本では今正に小黨分立の弊が既に出て居る、此の議場に於きましてももう三個、四個の政黨が既に生れて居る、新聞で見ると三十幾つの政黨が生れて來た、そこで私は此の點を、選擧法を建直す場合に、お互ひ國民性の弱點を見て、之を考慮しなければならない、之に對する用意が今囘の改正案に盛られてない、寧ろ小黨分立をせるやうな傾向にある、今今井博士は普選以來の鬪士として色々述べられたが、確かに制限連記でも只今今井君の申されたやうな美點もありませう、大選擧區にして行くことは少數の代表者を選ぶに便利でありませう、併しお互ひの國民性の弱點として、まだまだ日本は地方的に固まつて、同じ島から二人の候補者が、相反した政黨の人が立候補致しましても、自分の島からだと云ふので、政黨のことは忘れて二人を出したい、地方代表を出したいと云ふ意味から二人とも書いてしまうと云ふことが、是はもう目に見えるやうであります、此の連記制は決して政黨の發達を尊重するやうな制度とは言はれませぬ、私はやはり比例代表の制限單記制が宜いと思つて居りまするが、殊に日本の國民性は、青年男子に致しましても、女子に致しましても、本來お互ひ國民が全部集まつて相談する代りに、其の代表者を議會に送ると云ふ純眞なる建前から致しますれば、二人の代表者はあり得ない、どうしてもそこに不純性が出て來ると私は思ふ、今日は質問でありますから、討論は致しませぬが、今井君の議論でも、此處に若干考へなければならぬ點があると私は考へるのであります、さう云ふ技術的な問題は別に致しまして、政黨を尊重し、小黨分立にならぬやうに、政界が安定するやうに、如何にすれば日本の國民性をうまく捉へて、さうして選擧をやつて行けるかと云ふことを頭に描きながら、此改正案の立案に當られたかどうか、是は私も其の點が見えないのであります、斯う云ふやうな點に付きまして、いや確かに考へて居ると云ふ御氣付きの點がありますれば、内務大臣より承りたいと思ふのであります
次に私は從來の選擧が餘り取締法に過ぎまして、實に陰鬱なる選擧でありました、是は先刻總理大臣の仰せの通り、今度は是が餘程明朗化されることと思ひまして、澤山の取締法規が除去されたことは洵に慶賀に堪へませぬ、是は實は正面から言へば、議員側にも責任があると思ふ、選擧の費用を少くしたいと云ふやうな點から色々な取締をしまして、つい選擧費用が高まれば費用の立替、費用を出す人の「ボス」政治に陷つて行く弊があるから、それを除去したいと云ふ親切なる意味から出たのでありまするか、段々承つて見ると云ふと、餘りにも取締法が多くありましたことは、一面我々も責任があります、併しながら之を全部取外して宜いかと云ふと、私共お互ひ國民の一つの缺點と致しまして、主義、政策の外に、色々な人を中心としたる色々な地區で政黨が生れたり、或は選擧に立つたりするやうな點がまだないではありませぬ、そこで選擧に於て人身攻撃をやる、或は虚僞の事實を以て陷れんとする、斯う云ふことが、無統制に取締法規をうんと取りますと云ふと、必ず出て參る、是はお互ひに國民の修練で、修養で直して行かなければなりませぬけれども、假に虚構の事實ならば、刑法で名譽毀損の訴も出來ませうし、色色ありませうけれども、選擧が濟んだ後では何もならない、殊に前囘の選擧のやうに、警察が立會で以て、實に官製の演説會をするやうなこと、是はいけませぬけれども、全部を野放しにするやうなことは、私はさう云ふ見地から非常なる危險を伴ふ、殊に天皇制の論議さるるやうな場合に、つい興奮から民衆の中から色々なことが出來ぬとも限らない、そこで法律は撤廢したが、是は政府として相當――國民も注意しなければなりませぬが、考慮しなければならぬと思ふ、私は先年「ロンドン」の「ハイドパーク」で共産黨の人が、「マーブル・ゲート」の所で演説するのを聽きました、靜かに聽いて居る、其の演説會が終ると、直ぐ一方の門の所で、前の演説會の反對の攻撃演説會をやつて居る、同じ聽衆が兩方を聽いて居る、私は英國民の常識に敬意を表した、あれが日本で行はれませうか、甚だ私は不安に思ふのであります、故に政談演説會等を盛んにして、選擧と云ふものは一面陽氣を伴ひ活氣があつて、民主主義政治は陰鬱であつてはいけない、陽性でなくてはならない、積極的でなくてはならない、故に私は總理大臣が自ら本當に日本を民主政治に返さうと云ふならば、自ら立候補されて堂々とやられる、さう云ふ活氣を私は念願するのであります、けれどもそれが度が過ぎて今申しましたやうな人身攻撃、虚構の事實を以て陷れ、或は不敬に亙る色々な事件が起ることを憂へるものでありまするから、今より當局はそれに心されまして、相當なる御用意がなければならぬと思ひまするが、是等に對して内務當局は如何に御考へでありませうか、之を伺ひたい
次に是は主として内務、文部、厚生大臣等に御伺ひしたいのですが、大體先に同僚諸君より色々觸れられて居りまするから重ねて多くは伺ひませぬが、結局前段申したやうに選擧をもつと明朗にして、此の選擧をうまくやるかやらぬかが、日本の民主主義政治をしてうまく行くか行かぬかと云ふ基となる、それに御留意願つて色々の手を打つて貰ひたい、今承りますれば公民教育運動を大いになさる、内務、文部互ひに連繋しておやりになると云ふことを聞きまして、稍稍安心したのでありますが、是は單り政府のみに任されてはなりませぬ、お互ひ政黨も率先して色々な手を打つて、國民の啓蒙運動に掛らなければなりませぬ、新聞社の諸君も大いに其の手を打つて戴かなければなりませぬ、殊に婦人參政權の實施に付きましては、日本的なる婦人の參政權を最も立派に行使して、若干不安を持つて居られる、それを寧ろ裏返して、日本の女子は斯くの如く立派に選擧を行つた、私は多年唱道して來た故に責任を感じて居る、最近戰爭中隣組の運動と言ひ、もんぺ姿で町會長の所に行く、町内會に出頭すると云ふ、さう云ふ好い習慣が付いて居りますから、是等をうまく善導しますれば、政治と臺所とが直結する、政治と教育、是が婦人の務めだと自由黨が逸速く婦人參政權を唱へるや、色々な投書が參ります、氣の付かぬことを言つて居ります、先般京都へ行きますと、日本は戰爭が始まると英語を廢止した、「アメリカ」は戰爭が始まると日本語をやり出した、是はやはり違ひます、色々な話の際に國民學校に英語を是非教へて貰ひたい、國民學校の教師は、大部分女子で行つて居るが、さう云ふ意味に於きまして、是非とも國民學校に英語を學ばしめたいと云ふ陳情の如きは、男子の黨員に氣が付かないことであつた、之を京都の支部で容れた、成程さうだと云ふやうなことが直ぐ感じられる、婦人が眞に目覺めて、生意氣でない意味の、眞に日本の將來を思つて之を使用しまするならば、若し是が十年、二十年前に實現して居たならば、或は此の慘澹たる戰爭も若干防止出來たかも知れぬと思ふ程に、私は熱心に之を主張する者でありますが、今囘最初に行はれる婦選の實施に付きまして、殊に厚生大臣は色々の社會團體を率いて居られますが、それ等を動員して目先の色々な食事の問題、住宅問題、衣料の問題等、衣食住の問題も、大切だけれども、此の選擧を立派にやるやらぬは、將來の日本の長き民主主義政治の基本ともなるべき重大事項であるから、共に竝行して之を考へて行かなければならぬ、さう云ふ點に付きまして私は文部當局が單なる公民教育運動のみならず、現在の國民學校の校長を通して、或は女學校の校長を通して、直接に實施されたい、從來政府は餘り選擧に干渉し過ぎたり、或は肅正選擧とか、推薦選擧とか云ふことで、取締の方をやり過ぎると、そこに弊害がありますけれども、選擧の事前に此の種の運動をされることは單り政府に任すのも、是は又多少日本の官尊民卑の空氣になりますけれども、お互に大いに宣傳して弊を矯めんとすると同時に、政府御當局は斯かる立法を企圖せらるるに於きましては、大いに御努力を願ひたいと思ふのでありまするが、内務、文部、厚生大臣はどう考へて居られるか、殊に先程江口君の御質問にもありました如く、單り婦選を實施したのみではうまく行きませぬで、婦人が今日辯護士ともなり、或は女醫として、色々な點に於きまして段々地位を獲得して參りましたが、まだまだ他國の例に見ますやうな調子になつて居ない、大學の教育を開放されまして、色々な學問をされ、段々婦人自身が或は官公吏として、檢事にも、高等文官にも、色々の點に於きまして段々進んで行かれると同じやうに、凡ゆる點に於きまして、私は生意氣ならざる女子の權利が擴張されることが、日本をより平和にし、日本をより民主化することの多いことを信ずるのでありまして、是等に對する色々の手を打つて貰ひたいと思ふ、殊に先般新聞にも出て居りましたが、之を此の機會に明瞭にされたい、此の法律が通過した後に於きましては、當然都道府縣の所謂自治參畫の權、俗稱公民權と稱しまするものの與へられますることと信じまするが、是は何時頃御立案の意思なりや、寧ろ婦人には中央の參政權よりも都道府縣、市町村の選擧資格を得まして、それに參畫することの方が、もつと婦人により相應はしいのであるとの信念を持つて居るのでありまするが、之に對する御用意を承りたい、私は如上數個の點に付きまして――微細な點に付きましては委員會に於きまして、色々制限連記等に關しまする問題に付ての御質疑を申したいと思ひますが、選擧に臨む根本の心構へに付きまして、特に總理大臣より御答辯を得たいと思ふのであります(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=21
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022・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今星島君より現内閣は其の行動に熱がないと云ふ御話がありました、斯かる御批評に對しまして私は深く考へなければならぬと考へて居ります、事實に於きまして、現内閣成立以來、極めて重要なる問題が山積致して居るのであります、一刻も解決を遲らすことが出來ないやうな問題が、犇々と目の前に迫つて居つたのであります、今日程國歩の艱難なる時機は從來なかつたことと私は考へて居ります、此の秋に當りまして、我々は是等の問題を處理せんが爲に滿幅の熱心を以て日夜苦心し、盡力、努力致して居るのであります、併しながら只今星島君の申述べられましたる所は、私等も十分注意する所がなければならぬと考へて居ります
貴族院問題に付きましては、先刻御答へ申上げました通り、我々の研究が未だ完成の域には達して居ないのであります、隨て先づ差當り衆議院議員選擧法の改正案を諸君の御協贊に供して居る次第であります
選擧法の改正法案が成立致しましたる上は、解散を奏請して總選擧に進むや否やと云ふことの御質問もありました、此の點に付きましてはまだ御答へを申上げ得るやうな時期には達して居りませぬ、是だけは御諒承を願ひます
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=22
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023・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 只今星島君から此の度の改正案は政黨尊重を考へて居るかどうかと云ふ御質疑でありまして、小黨分立に付ての弊を伺つたのであります、此の度の改正案に於きましては特に政黨尊重に付て考へて居りませぬ、此の點に付ては從來の選擧法と考へ方は同じであります、小黨分立の弊に付きましては、御説のやうな點もあると思ひますが、併し此の際、今此の轉換期に於きまして、政黨の結成も容易でありませぬ、其の間に、今將に起らんとする新しい政黨に對しまして、之を選擧法の力に依つて其の芽生えを摘むと云ふことは決して適當でないと考へて居る次第であります、芽生えんとするものは之をやはり芽生えさして行く方が宜いのではないかと考へて居るやうな次第でありまして、是等の觀點から此の度の選擧法に付きましては、政黨尊重と云ふことに付て特別の考慮を運らさなかつた次第であります
言論に對しまして色々な制限を撤廢致しました、此の結果今日に於きましても各種の言論が盛んに行はれて居りまするし、殊に選擧に相成りますれば、候補者の諸君は、凡ゆる方面から大いに言論戰を展開されることであらうと存じます、是は今日の時局の下に於きまして、洵に結構なことであり、大いに候補者は各各の立場から、それぞれ國民に向つて其の主張、政見を愬へられて、言論戰が大いに盛んになりますことは、又國民に對して最も好い判斷の機會を與へるのでありまして、非常に結構なことだと存じて居る次第であります、唯餘りに自由に走りまする結果に付ての御心配でありますが、是は尚ほ刑法其の他の存して居る法令の取締に依りまして、嚴重に取締をする考へで居る次第であります
公民教育のことに付きましては、十分に力を盡す積りでありまして、婦人の事に付ても色々御考へを伺つた次第でありますが、婦人の公民教育に付きましても、出來るだけの力を盡したいと考へて居ります、我々の聞きました所では、婦人に參政權を與へました外國に於ての結果は、婦人の投票は大體に於て極左、極右に行かないと云ふことを聞いて居るのでありますが、此の非常な變亂の激しい目下の状態に於きまして、此の婦人の投票權の持つ保守的漸進性と申しますか、是の政治に及ぼします影響は、是は相當期待して宜いのではないかと考へて居るやうな次第であります
終りに地方自治制度に對しての公民權を如何に考へるか、何時改正するかと云ふ御話でありますが、是は此の選擧法が通過致しますれば、是と同じ趣旨に依りまして、年齢も、婦人の選擧權、被選擧權に付きましても同樣に考へまして、此の次の議會に之を提案する積りであります
〔國務大臣前田多門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=23
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024・前田多門
○國務大臣(前田多門君) 公民啓發運動に付きましては、既に内務大臣の述べられた所でございまして、其の通りでございますが、聊か蛇足を加へて置きたいと思ひますることは、先刻星島君が此の運動を御鞭撻下されました際に、校長等を集めてさう云ふ趣旨を言つたら宜からう、斯う云ふ御説があつたやうでありますが、期せずして我々も左樣なことを考へて居るのでございます、此の運動を致しまするには、先刻御説のありました通り、實は成るべく官製運動は致したくないので、政府が斯う云ふことを致さないでも、民間に斯う云ふ運動が盛り上ることが、最も望ましいことでありまするけれども、さりとて今日早急の場合でございまするから、政府としても袖手傍觀して居ると云ふことは出來ない、併しながらやはり民間團體に出來るだけ呼掛けて、さう云ふ方に働いて貰ひたいと云ふので、差詰めの所各地方に於きましての教育界などの方に呼掛けて、教育界の諸君に教育上の見地から致しまして、公民啓發運動をやつて貰ひ、殊に其の棄權を防止する、投票權は尊重しなければならないと云ふ點に最も重點を置いて戴きたい、さう云ふ運動をやつて貰ひたいと、折角考へて居るやうな次第でありますので、其のことを一寸附加へて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=24
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025・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 田万清臣君
〔田万清臣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=25
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026・田万清臣
○田万清臣君 私は日本社會黨を代表致しまして、只今上程されて居ります衆議院議員選擧法中改正法律案に付きまして、聊か質疑を致したいのであります、最前江口君の質問、即ち現内閣は此の度の總選擧が終るならば如何に進退するか、此の質問に對しまして、其の時の情勢に依つて決すると御答へになつたのであります、又只今星島君の何時議會の解散を奏請するかとの質問に對しまして、未だ其の域に達して居ないとの御答辯があつたのであります、此の二つの御答辯を通して考へて見ますと、分つたやうな分らぬやうな、洵に現内閣の性格に基く御考へ、軈て來るべき總選擧の持つ意義と云ふものに付て、頗る不明瞭な印象を國民に與へる結果と相成ると考へるのであります、現在改正選擧法律案を前に置きまして、深甚の注意を拂うてお互ひが考へなければならぬことは、現内閣の性格と其の使命、軈て來るべき總選擧の意義、是でございます、そこに於きまして私は更に其の點に付きまして、總理大臣の御所信を承りたいのであります
只今星島君の御尋ねに對しまして、議會を何時解散するかに付ては其の運びに至つて居ないと云ふ御答辯があり、それに伴ふ總選擧に付きましては、固よりそれから類推して考へなければならぬと思ふのでありますが、幣原内閣總理大臣は組閣の當初に於きまして、軈て議會を解散し、總選擧を行ふ旨を、はつきり新聞紙を通じて國民に公約を致したのであります、然るに拘らず本日の答辯は、官僚臭を脱しないと申しますか、或は眞の官僚の御考へから出たと申しますか、洵に遺憾に存ずる次第であります、組閣の當時には之を明瞭にし、内閣を組織して今日に至ります其の道行きに於てぼんやりすると云ふことは、國民に對しまして、現内閣の執るべき態度ではないと考へるのであります(拍手)併しながらお互ひの政治常識と申しますか、現内閣出現、現在の國内事情から生れて來る此の常識と申しますか、是等から判斷を致して見まするならば、現内閣は第八十九議會が終了致しまするならば、恐らくは解散を奏請するでありませう、之に伴ふ總選擧を行ふでありませう、是はなぜかと申しますと、「ポツダム」宣言の履行として、政治の民主主義化を徹底させようとするのに外ならないのでありまして、其の使命を以て生れて居る現内閣の措置としては、當然のことと言はなければならないのであります、果して然らば、此の場合政治の徹底的民主主義化とは何であるかと申しますと、總選擧に依つて民意に基く政黨内閣を完全に實現さすことでなければなりませぬ、現内閣の歴史的使命は、實に茲にありと申さなければならぬと考へるのであります、即ち現内閣は單なる經過的、暫定的存在でありまして、政黨内閣生誕の産婆役に過ぎないと申して宜いと思ふのであります、我が國の憲法は運用如何に依つて或は獨裁的となり、或は民主主義となると言ひますけれども、眞の立憲政治を行ふ爲には、それが欽定憲法でありませうとも、協定憲法でありませうとも、是が運用に當りましては飽くまでも「デモクラシー」を以て貫き、民意を基盤とする政黨内閣に依つてなされなければならぬと信ずるのであります(拍手)從ひまして超然内閣、軍閥内閣、官僚内閣等々の如き天降り内閣の存在は斷じて許されないのであります(拍手)然る所現内閣は確かに組閣の大命を拜されたことは間違ひございませぬが、一面又明かに國民の選ぶ所でないことは明かであります、言ふまでもなく現内閣は國民の意思には何等の根據を持たない、全くの天降り内閣と云ふべきであります、私達は民主主義政治發展の爲め、天降り内閣は現内閣を以て永久に最後のものたらしめなければならぬと考へるのであります(拍手)仍て御尋ね致しますが、内閣總理大臣は今後行はれます總選擧が終了すると同時に、其の重大なる使命に鑑みまして總辭職を決行せられて、政黨内閣に席を讓られる御決心があるかどうか、國民の前に明瞭に御答辯願ひたいのでございます(拍手)
第二に制限連記選擧制に付て御尋ね致したいのでありまするが、上田君からも此の點に付て尋ねられ、其の後同僚議員に於ても尋ねられましたが、要するところ定員の多寡に依りまして、同じ國民でありながら或る者は二票、或る者は三票と云ふが如き差異を設けることは何等の根據がない、何等の理由がない、是が其の一點でございました、其の次の點は、現在の如き單記投票の場合でも、投票場内に入りまして議員候補者を選擇するのに相當に思ひ煩ふ人もあるに拘らず、或は二人を書き、或は三人を書くと云ふことに相成りますならば、議員候補者以外の人の氏名を書くこともありませうし、或は他事を書くこともありませう、斯の如き結果としまして投票の目的を達せざるに至るのみならず、却つて投票の混亂を來す虞ありと云ふのが、其の次の理由であると考へるのであります、私はいま一つの理由を之に附加へたいのでありますが、それは現在政府が提出されて居ります制限連記投票制に依りますと、斯う云う結果になりはせぬかと思ひます、一票は確かに政黨の性格或は其の政策を考へて投票すると云ふことに相成ると思ひます、次の一票二票がどう云ふ風に行使されますかと云ふことを考へて見ますると、人間でありますから人情と云ふものがあります、隨ひまして議員候補者中に、或は情實關係、或は感情等の關係から投票せられる有權者が、可なり出て來るのでないかと考へるのであります、斯樣に相成りますならば、一票だけは政黨本位の投票が行はれると致しましても、他の二票三票と云ふものは、個人本位の投票が行はれる結果と相成りまするから、民主主義の政治其ものが政黨内閣を要望する上から考へて見まするならば、此の點に於て著しい不合理があると申上げなければなりませぬ、殊に情實利害、或は感情と云ふことで投票致すとするならば、依然として舊議員各位に投票が集まりまして、新人出でよ、青年出でよと斯う申しましても、其の目的を達することは絶對出來ませぬ、斯樣な三つの難點のある制限連記投票制と云ふものは私は贊成し難いのでありまするが、然らばどう云ふ投票制が宜いかと申しますると、是は我々多年出張して居ります所の、單記移讓式の比例代表制と云ふものが一番宜いと考へて居るのであります、政府に於きましては、制限連記投票制と云ふやうなものを此の際一擲して、今私が申上げた單記移讓式比例代表制に變更せられる意思があるかどうか、特に内務大臣から御答辯願ひたいのであります
第三には選擧區制の問題であります、政府原案の選擧區制に對する建前は、大選擧區の建前を採つて居ります、之に付ては何等の異議を持つて居るものではございませぬ、唯選擧區を四國、九州と云ふ風に、數個の眞の大選擧區制にしなかつたことは、洵に遺憾に存ずる所であります、政府は選擧法改正に當り、不徹底ではありますが、兎に角茲に大選擧區制を採用したのでありますから、東京都、大阪府、兵庫縣、新潟縣、愛知縣、福岡縣、北海道と云ふ是等のものを、何故に二個の選擧區に分割したか、理解に苦しむものであります、政府は恐らく定員が多いから、之を分割したと辯明せられるでありませう、併し定員數から言ふならば、東京都は二十二人、大阪、兵庫、愛知等々は十八人、新潟縣は十六人、北海道は二十三人でありまして、大選擧區制の建前から申しますならば、是れ位な數は當然なことでございまして、之を二つの選擧區に分割しなければならない程多數の定員と認めることは出來ませぬ、他の一府縣一選擧區の定員と比較して見ましても、大同小異であるのであります、而して二個の選擧區に分割した跡を見ますと、茲に於ても依然として舊議員の地盤たる現行選擧區には一指も觸れて居りませぬ、其の儘現状維持に努めて、其の現行選擧區を二、三集めて、原案の如き一府縣内に二個の選擧區を作つて居るのでありまするから、要するに之に依り今までの舊議員の當選を一層確實にする結果となりまして、新人の議會に進出するのを非常に困難ならしめて居ると申上げても過言でございませぬ、折角大選擧區制を採用して居りながら、以上の如き缺陷がある以上、百尺竿頭一歩を進めまして、右の七つの都道府縣の二選擧區制を一選擧區制に改め、大選擧區制の眞義を徹底される意思ありや否や、以上の點に關しまして内務大臣の所信を承りたいのでございます
第四には選擧公營の問題に付て御伺ひ致したいのであります、一口に民主主義、民主主義と申しまするが、御承知の如く「ブルジヨア・デモクラシー」もありますれば「ソーシヤル・デモクラシー」もあるのであります、金の掛る選擧は「ブルジヨア・デモクラシー」には好都合でございますか知れませぬけれども、「ソーシヤル・デモクラシー」の政治には洵に致命的打撃であると申上げなければなりませぬ、又金の掛る選擧は必然的に政界の「ボス」の存在を長からしめて、往年の軍閥官僚等の進出の原因となりました政黨の腐敗墮落を再び繰返すことに相成りまするので、此の點洵に深憂に堪へない所でございます、現在進行して居りまする惡性「インフレ」の下に於きまして、選擧費用と云ふものを考へて見ますると、候補者其の他の車馬賃は固よりであります、一人の人夫をどう使ふか、一片の食糧品をどう求めるか、一枚の「ポスター」をどう云ふ風にするかと云ふやうなことまでを仔細に考へて見ますると、國内事情と物價關係とより見まして、未曾有の困難に逢著すると言はなければなりませぬ、私達は勞働者や農民や、「サラリーマン」や「インテリゲンチャ」や、其の他廣汎なる勤勞大衆の中から、多くの青年や新人が議會に進出して來ることを待望して已まないのであります、而して又それ等の人々が更に進んで政黨内閣を組織することを熱望して已みませぬ、是が眞の民主主義であり、是が眞の「デモクラシー」の確立であると固く信ずる者であります、選擧費用のあるかないかと云ふことが、政治を左右すると云ふが如きは斷じて許されない所であります、政界を淨化し、清新なる政黨内閣を確立するのには、是非金の掛らぬ選擧に依るべきであります、故に私達は選擧の全面的公營を要求する者であります、就中次に申上げることは、此の度の選擧より直ちに實行して戴くことを政府に御約束が願ひたいのであります、一立候補者の立看板「ポスター」の公營、二、選擧中の演説會場の設備竝に其の告知方法の公營、三、第三者の推薦状を禁止して選擧公報を擴充すること、四、「ラジオ」及び新聞紙を公平且つ有效に利用せしめる途を開くこと、以上のことは是非とも次の選擧から公營で行つて戴きたいのでありまして、以上の私の卑見に對しまして、内務大臣、總理大臣――尤も最初の第一の御尋ねに對しましては、特に總理大臣から明瞭に御答へが願ひたいのであります、それ以下の二、三、四の質問に對しましては内務大臣から御答辯が願ひたいのであります(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=26
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027・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今田万君より私に對する御質問の點に付きまして御答へを申上げます、一般論と致しまして、解散に依り總選擧の行はれた結果、國民の信頼を博する政黨が衆議院の多數を制したる場合、之に政權の移つて行くと云ふことは、是は自然の勢ひであります、又國家の前途の爲にも最も望ましいことであると信じて居ります、私は將來日本の政治が斯樣な方角に向ふことを深く期待致して居るのであります、現内閣が何時總辭職をするかと云ふやうな問題は、今日に於て言明出來ないことは御諒察を願ひます
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=27
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028・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 連記の方法に付きまして、或る者は一人に投票が出來るし、或る者は二人、三人に投票が出來ると云ふことは不合理ではないかと云ふ御説に對しましては、前に説明を申上げましたやうに、其の選ぶべき選擧區が違ひ、其の選擧區に於ける定員數が違ふのでありますから、其の定員數に應じて多い所は二人、三人を書くことが出來ると云ふことに致しますことは、寧ろ平等であると考へて居る次第であります、次に投票の第一は政策本位に投票するが、第二、第三は個人本位になりはしないかと云ふ御説でありますが、是はさう云ふ場合もありませう、又或は同志の人、同じ政黨にある人が二人なり三人なり聯合して選擧運動を致しますれば、其の同じ政黨の人が書かれることも多いと思ひます、政黨本位に書いた投票が良くて、個人本位となるのはいけないと云ふことは如何であらうかと考へて居る次第であります、隨つて單記移讓式の比例代表制に變更する意思がないかと云ふ御尋ねでありますが、之を變更する意志は持つて居りませぬ、先刻も申上げましたやうに、單記移讓の方法は票數が餘り多くない場合に行はれる方法でありまして、數萬票或は數十萬票の投票があります場合に、之を一箇所に集め、而して之を移讓すると云ふことに付ては非常な手數を要するのでありまして、長い時日を要すると思ひます、隨ひまして此の方法は只今の所實行不可能であらうと考へて居る次第であります、大選擧區制を採りながら、一つの府縣を二つに分けたのは不合理ではないかと云ふ御話でありましたが、是も先刻説明を申上げましたやうに、候補者が非常に多數になりますれば、投票する者の間に於きまして、其の選擇に非常な不便を感じます、又選擧運動に付きましても、非常な不便を來すことと相成りますので、特に定員數の多い府縣に付きましては之を二つに分けた次第であります、大選擧區制を採りながら、從來の選擧區を分たないで、從來の選擧區を合した選擧區の作り方をしたと云ふことは、舊人に利益であつて、新人に不利益ではないかと云ふ御説でありますが、從来の區を分けますと云ふことは、地勢、交通其の他各般の事情を勘案致しまして中々難かしいと考へましたので、從來の區は之を分たないことに致しました次第であります、新人の進出と云ふことに付きましては、選擧の基盤が中選擧區より大選擧區に變つたと云ふことで以て、新人に對して相當有利なものと考へて居る次第であります、隨ひまして此の點を變更する意思も持つて居ない次第であります、公營に付きましては、是も前に申上げましたやうに、各候補者の間に公平に、機會均等に出來、實行可能の方法でありますれば、之を考慮するに吝かではないのでありますが、今色色御述べになりました立看板「ポスター」とか其の他の具體案に付きましては、十分に考慮して見たいと思ひます、只今の御例示の方法に付きましては、尚ほ委員會に於きまして更に詳細に伺ひもし、又申上げたいと思ふ次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=28
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029・田万清臣
○田万清臣君 議席から發言を御許し願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=29
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030・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=30
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031・田万清臣
○田万清臣君 總理大臣に御尋ね致しました中に、此の臨時議會が終了致しますれば、議會を解散して總選擧を行はれるかどうかと云ふことに關しましては、星島君よりも、質問がありましたが、最前から御聽きの通りの御答辯であります、内閣を組織されました直後に、明かに國民に御約束になつて居ることでありますけれども、正式に此の議場に於てはつきりして戴きたいと思ひますので御尋ね致したのであります、此の點に關する御答辯が脱けて居りまするから、重ねて御尋ね致します
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=31
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032・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 其の問題に付きましては先刻も御答へ申上げた通りでありまして、今日私の立場として必ず議會の解散を奏請する、總選擧を行ふと云ふやうなことは明言を得られる時機ではないのであります、其の點は能く御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=32
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033・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 是にて質疑は終了致しました、各案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
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034・金井正夫
○金井正夫君 日程第一及び第二の兩案を一括して議長指名四十五名の委員に付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=34
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035・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 金井君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=35
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036・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました――日程第三、昭和二十年勅令第五百三十七號、承諾を求むる件を議題と致します――堀切内務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=36
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037・会議録情報3
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第三 昭和二十年勅令第五百三十七號(衆議院議員選擧法第十二條の特例に關する件)(承諾を求むる件)
昭和二十年勅令第五百三十七號
勅令第五百三十七號
昭和二十年十二月二十日以後昭和二十一年十二月十九日迄の間に行はるる衆議院議員の選擧に用ふべき選擧人名簿の調製に關しては衆議院議員選擧法第十二條第一項中其の日迄引續き六月以上其の市町村内に住居を有する者とあるは其の市町村内に住居を有する者とす
附 則
本令は公布の日より之を施行す
〔國務大臣堀切善次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=37
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038・堀切善次郎
○國務大臣(堀切善次郎君) 只今御上程になりました昭和二十年勅令第五百三十七號(衆議院議員選擧法第十二條の特例に關する件)に對し帝國議會の承諾を求むる件に付きまして、提案の理由を説明申上げたいと存じます、本年九月十五日の選擧人名簿の調製期日當時に於きましては、恰も戰災、疎開等に因る人口の異動が、全國に亙り極めて夥しき數に上つて居りました爲め、名簿に登録せられまするに必要なる六月以上の住居に關する要件を充たし得ず、名簿に登録せられ得ない者が甚だしく多數に相成つて居たのであります、隨ひまして戰災者等の大多數は、選擧權行使の機會を奪はれる結果となるのでありまして、終戰後最初の重大なる意義を有する總選擧を控へ、到底之を放任致し難いと存ぜられたのであります、仍りまして臨時の措置として、名簿の登録には六月以上の住居に關する要件を要せざるものとし、是等の戰災者等をも齊しく名簿に登録し、其の選擧權行使に支障なからしむることが緊要なりと認められたのであります、而して當時恰も帝國議會閉會中でありまして、而も名簿の調製期日たる九月十五日前に、緊急に善後措置を講ずる必要があつたのであります、以上の理由に依りまして、憲法の規定に依りまして本勅令の制定を見ることと相成つた次第であります、何卒宜しく御審議の上速かに御承諾を與へられんことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=38
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039・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 本件の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=39
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040・金井正夫
○金井正夫君 本件は政府提出衆議院議員選擧法中改正法律案外一件委員に併せ付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=40
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041・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 金井君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=41
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042・勝田永吉
○副議長(勝田永吉君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、是にて議事日程は議了致しました、次會の議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後四時五十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X00619451203&spkNum=42
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