1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年十二月十二日(水曜日)
午後一時二十七分開議
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議事日程 第十一號
昭和二十年十二月十二日
午後一時開議
第一 國民貯蓄組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二 防空法廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三 大日本航空株式會社法廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四 石油業法外十三法律廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一、昨十一日貴族院より受領したる政府提出案左の如し
國民貯蓄組合法中改正法律案
防空法廢止法律案
大日本航空株式會社法廢止法律案
石油業法外十三法律廢止法律案
一、議員より提出せられたる議案左の如し
衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出)に對する修正案
提出者 西尾末廣君
衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出)に對する修正案
提出者
松野鶴平君 安藤正純君
紫安新九郎君 牧野良三君
星島二郎君 松岡俊三君
北れい吉君 藤生安太郎君
大口喜六君 木村武雄君
箸本太吉君 松山常次郎君
三木武吉君
世界邦聯建設に關する決議案
提出者 尾崎行雄君
(以上十二月十一日提出)
一、昨十一日委員長及理事互選の結果左の如し
勞働組合法案(政府提出)委員
委員長 添田敬一郎君
理事
伊藤東一郎君 小浦總平君
米田吉盛君 喜多壯一郎君
鹽專賣法中改正法律案(政府提出)外一件委員
委員長 崎山嗣朝君
理事
田村秀吉君 西川貞一君
小野秀一君
一、昨十一日議長に於て選定したる委員左の如し
昭和二十年勅令第五百四十二號(「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件)(承諾を求むる件)(貴族院送付)委員
伊豆富人君 今牧嘉雄君
内ヶ崎作三郎君 江口繁君
柏原幸一君 木下信君
北村又左衞門君 窪井義道君
小山谷藏君 佐久間渡君
清水留三郎君 角猪之助君
宗前清君 中井一夫君
中川重春君 中西敏憲君
南雲正朔君 三好英之君
森下國雄君 山口忠五郎君
依光好秋君 米田吉盛君
渡邉健君 喜多壯一郎君
竹内俊吉君 中谷武世君
濱田尚友君 船田中君
本領信治郎君 三田村武夫君
石田善佐君 木村武雄君
岸井壽郎君 花村四郎君
河野密君 三宅正一君
一、昨十一日に於ける特別委員の異動左の如し
農地調整法中改正法律案(政府提出)委員
辭任小笠原八十美君 補闕河野一郎君
農業團體法中改正法律案(政府提出)外一件委員
辭任加藤宗平君 補闕唐橋重政君
入營者職業保障法及國民勞務手帳法廢止法律案(政府提出、貴族院送付)委員
辭任高岡大輔君 補闕三田村武夫君
勞働組合法案(政府提出)委員
辭任小高長三郎君 補闕羽田武嗣郎君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=0
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001・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 是より會議を開きます
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=1
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002・松永東
○松永東君 議事日程變更の緊急動議を提出致します、即ち此の際一宮房治郎君外五十名提出食糧輸入促進決議案を議題となし、其の審議を進められんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=2
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003・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=3
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004・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、政府は此の議事日程變更に同意せられました、仍て日程は變更せられました、食糧促進決議案を議題と致します、提出者の趣旨辯明を許します――提出者小平權一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=4
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005・会議録情報2
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食糧輸入促進決議案(一宮房治郎君外五十名提出)
食糧輸入促進決議案
食糧輸入促進決議
食糧供給に關して政府は各般の施策を實施しつつあるも其の多くは未た肯綮に中らす而も本年の米穀は未曾有の減收を來し加ふるに終戰の結果米穀供給地域は著しく縮減せられて啻に現行の配給二合一勺を持續せんとするも遂に一千八百餘萬石の不足を招來せんとす之か爲米穀藷類等の闇價格は極端に昂騰して庶民は糧食を得るの途なく今や塗に餓ひょうを見るに至れり而して此の危機を克服せんには強力に拔本的増産供出退藏米麥の徹底動員等百方力を竭して其の萬全を期すると共に尚且不足する食糧補填に付ては已むを得す之を海外よりの輸入に俟たさるへからす
仍て政府は既に米穀輸入の要請に對して原則的承認を得たりと雖も今後更に之を現實に確保する爲速に剴切なる機宜の措置を講すへし
右決議す
〔小平權一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=5
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006・小平權一
○小平權一君 私は只今議題となりました食糧輸入促進決議案の趣旨を辯明致します、先づ決議案を朗讀致します
食糧輸入促進決議
食糧供給に關して政府は各般の施策を實施しつつあるも其の多くは未た肯綮に中らす而も本年の米穀は未曾有の減收を來し加ふるに終戰の結果米穀供給地域は著しく縮減せられて啻に現行の配給二合一勺を持續せんとするも遂に一千八百餘萬石の不足を招來せんとす之か爲米穀藷類等の闇價格は極端に昂騰して庶民は糧食を得るの途なく今や塗に餓ひょうを見るに至れり而して此の危機を克服せんには強力に拔本的増産供出退藏米麥の徹底動員等百方力を竭して其の萬全を期すると共に尚且不足する食糧補填に付ては已むを得す之を海外よりの輸入に俟たさるへからす
仍て政府は既に米穀輸入の要請に對して原則的承認を得たりと雖も今後更に之を現實に確保する爲速に剴切なる機宜の措置を講すへし
右決議す
今や我が國は洵に食糧危機に直面して居るのであります、總ての問題の解決は一に懸つて食糧供給如何にあるのであります、例へば石炭の増産の問題に致しましても、或は木炭、木材の増産の問題に致しましても、又都市の復興建築の問題に致しましても、食糧が増給されなければ到底之を解決することは出來ませぬ、食糧が足らない爲に勞働力が鈍りまして、石炭の増産も、又木炭或は木材の増産も、都市の復興建築も出來ないのであります、又更に近頃各地の學校に於きましても、食糧が足らない爲に休校せざるを得なくなつた實例もございますし、或は又食糧が足らない爲に、食糧のあるやうな地方に轉校させるやうな方針を採つて居る學校もあるのであります、洵に由々しい問題であると存ずるのであります、況や食糧不足の爲に榮養失調を來し、是が爲に思はざる病魔に侵されて、是が中々治りませぬ、或は又食糧が足らない爲に、行倒れのやうなこともあるやうに、報告されて居るのであります、又闇は益益高騰しまして、一般庶民階級はなけなしの貯金を出して之を買はなければならぬやうなことになつて居ります、又收入の少い庶民階級は、到底斯かる高い闇で買ふことは出來ませぬので、益益困難な状態に陷つて居ると存ずるのであります、又一面に於ては是が爲に勞賃や俸給を上げねばなりませぬ、此の年末に際しまして各方面で年末の色々な手當を澤山出さねばならないやうになつて來て居るのでありまして、食糧の爲に惡性の「インフレーション」は益益拍車を掛けるのではないかと存ずるのであります、我が國の「インフレーション」を防ぐには、どうしても此の食糧問題を解決しなければならぬと存ずるのであります、我が國は眞に食糧危機に瀕して居ると言わなくてはなりませぬ、政府の本年の米穀の收穫高の豫想に依りますと、第一囘は四千六百六十餘萬石、第二囘は四千二百九十七萬石となつて居るのであります、併し實收は恐らくもつと少いのではなからうかと思ふのであります、全國の約一千の町村の情報員から取りました實際の情報に依りまして推定致しましても、どうも四千二百九十七萬石よりも尚ほ減つて居るやうに觀察されるのであります、實に本年は未曾有の凶作でありまして、而も本年の藷の生産高は薩摩芋に於きましても三千萬石の目標が二千萬石と相成つて居るやうな事情で、薩摩芋の増産目標が二十億萬貫でありましたのが、十三億萬貫の收穫高に相成つて居るのでございます、又一方に於ては各地からして歸還される復員の人々は、益益増加して居るやうな事情であります、斯くの如き状態でありまして、到底四千萬石程度の國内の生産の状況に於きましては、主要食糧の二合三勺の配給も、殆ど困難ではなからうかと存ずるのであります、米や麥や甘藷、馬鈴薯、藷蔓等の色々な物を集めて、全部漁つて來て見ても、現在の二合一勺を配給するだけにても、尚ほ一千八百萬石の不足を生ずるやうな状態でありますのに、二合三勺を配給するとすれば二千四、五百萬石の不足となるのであります、而も政府の主要食糧の配給は二合一勺とか、二合三勺とか申しますけれども、それは米の外の副食物であります、麥やや藷や、雜穀を廻して來て辻褸を合せるだけでありまして、從來の副食を減らして主食とするだけでありまして、全體の數量には差異はないのであります、右の手で配給するのを、左の手で配給すると同じことであります、七千數百萬の人口に對して戰前でありますれば、米七千數百萬石を要したのであります、更に戰前に於ては米七千五百萬石の外に藷だの、色々なものが副食物として供給されたのであります、斯樣な戰前の状態を考へて、其の標準で計算致しますと、本年の如きは米が三千五百萬石なくてはならぬやうなことに相成るのであります、而も戰前に比べまして米麥等は、殊に米に於きましては相當な減收を續けて居り、今年は特に非常なる凶作であります、併しお芋の方は多少増加して居りますけれども、それでも甘藷の如きは、戰前に比べて政府及び民間の非常なる努力があつたにも拘りませず、本年は四億貫の増加でありまして、是は米の二百五十萬石に相當するだけであります、其の上に終戰後の今日に於きましては、食糧の供給區域が非常に減縮されまして、朝鮮、臺灣等は全然別の關係と相成つたのであります、斯くの如き状態でありますからして、我が國の食糧、正に危機に瀕して居ると言はなくてはならぬのであります、政府は米の三千萬石の供出を決定致しまして、各地方に割當てて居るのでありまするが、之を完遂することは容易ではないと存ずるのであります、農家の中には既に九月初めより飯米が不足致しまして、新米を既に相當消費して居る農家もあるのであります、從來は新米の出る季節に於きましては、數百萬石の持越米があり、多い時には一千萬石の持越があつたのでありますけれども、今申上げましたやうに、今年は既に持越どころではありませぬで、九月初めより新米を食べて居る農家が相當あるやうな状態でありまして、米穀の三千萬石の供出は農家としては非常な努力を拂ひつつあるのでありまするけれども、此の完遂は容易ではないと存ずるのであります、政府は米の供出に付ては凡ゆる手段を講じて其の目的を貫徹するやう、萬遺憾なきを期する必要があると存ずるのであります、更に藷蔓だの、團栗だの、其の他の未利用資源の囘收に依つて、此の米の危機を幾らかでも緩和しようと云ふ政府の御考へのやうでありまするけれども、此の未利用資源の囘收の方針が決つたのが非常に遲れまして、隨て既に東北地方や、或に北信地方に於きましては、藷蔓等が枯れてしまつて、蒐集出來ないやうな事情にある農村も多々あるのでありまして、隨て未利用資源を米百萬石に換算して需給に入れてあるのでありますけれども、此の蒐集、集荷の完遂は容易でないと存ずるのであります、總ての問題は既に今年の農産物の生産時期まで押詰つて來た状態に於きましては、何としても現在ある物を總動員して工夫するより外に方法がないのであります、若し食糧の退藏物でもあるならば、之を隈なく搜して食糧の増給に充てなければならないのであります、政府は此の問題に付て十分萬全策を講ぜられんことを希望する次第であります、併し如何に努力をし、凡ゆる手段の限りを盡しても、米穀の四千萬石と云ふ未曾有の凶作に直面して居る今日でありまして、到底國内生産だけでは供給を十分にすることは出來ないと存ずるのであります、四千萬石と云ふ米の生産高は、明治三十年頃の我が國の人口が四千萬臺にあつた時の數字でありまして、今日の如き人口が七千數百萬人に達して居る時に於きましては、何としても海外から食糧を輸入しなくては、此の食糧危機を脱することは出來ないと存ずるのであります、是は觀念論や抽象論ではありませぬ、全く現實の問題であります、政府は又百五十萬町歩の開拓を致しまして相當の増産を計畫されて居られるのでありますけれども、是は昭和二十二年度以降の供給に歸屬するのでありまして、來年の食糧危機には全く間に合はぬのであります、而も此の事業を遂行する爲には、本年の冬に於て約四十萬人を動員して農業土木事業を起さなければなりませぬ、四十萬人が延べにして四千萬人位になります、是だけの仕事をするには更に是だけの人に對して食糧の相當の増強をしなければならぬのでありまして、逆に米が足りなくなるやうな現象にもなるのであります、又自作農の創設を計畫されて之に依つて數十萬石の増産を豫想されて居りますけれども、是も數年後の話でありまして、來年の米の危機には間に合はぬのであります、之を要するに、來年の六、七月頃までに國内に於ける食糧増強の手段としては、最早農業増産の餘地はないのでありまして、どうしても海外よりの輸入に俟つより外に方法がないどん詰りまで、押詰つて來て居ると存ずるのであります、或は相當闇相場が高いから、相當數量が闇に依つて取引されて居ると言はれるのでありますけれども、米麥の方は闇取引で取扱はれて居る數量は甚だ私は少いと存ずるのであります、それでありますから、闇の相場が非常に高いのではなからうかと思ふのであります、現在の段階に於きましては、食糧の絶對數量が莫大なる不足を來して居るのでありまして、此の危機を脱するには、何としても海外から輸入することが、洵に已むを得ざる最後の手段と存ずるのであります、幸ひ「マッカーサー」司令部に於かれましても、食糧の輸入の原則に付きましては、之を承認されて居りますので、洵に感謝に堪へない次第であります、併し海外よりの輸入は、輸送の問題もありまして、中々相當の期間を要するのでありまして、之を一日も速かに具體化しなければ、洵に不安に堪へない次第であります、仍て政府に於かれましては、國内に於ける食糧供給に對する凡ゆる手段を、徹底的に講ぜられるのは勿論でありますけれども、此の際食糧の輸入の要請に對して、國内に於ける食糧不足の具體的事情を十分に明かにされ、「マッカーサー」司令部に對して十分なる資料を提供して、我が國の食糧事情を明かにして、從來の如く後手に陷ることがなく、逡巡することがなく、晝夜兼行輸入に必要なる諸條件を整備せられ、總力を擧げて速かに具體的に輸入の實現を見らるるやう最善の努力を拂はれ、以て現下最大の危機に喘ぐ國民生活の安定を確保せられんことを切望して已まない次第であります、以上は本決議案の趣旨であります、何卒滿場の御贊成あらんことを望む次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=6
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007・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 討論の通告があります、之を許します――松山常次郎君
〔松山常次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=7
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008・松山常次郎
○松山常次郎君 只今の決議案に對し、私は自由黨を代表しまして、贊成の趣旨を述べたいと思ふのでございます、小平君は只今差當りの食糧不足の事情を詳細に述べられましたから、此の決議の中にある政府の増産計畫と云ふものは不十分である、肯綮に中らないと言つて居ります、其の方面のことに付きまして、私は聊か所見を述べて見たいと思ふのでございます
先づ米の需要の見透しでございますが、二十一年度のことに付きましては、小平君から詳細に御説明がありました、又今政府が考へて居ります所は、二合一勺の配給であるとか、二合三勺の配給であるとか云ふことに付て、考へて居られるのでありますが、今日各政黨が殆ど共通とも云ふべき状態に於て要求致して居りますることは、是非三合の配給をして貰ひたいと云ふことでございます、二合三勺から三合の配給に進めんが爲には、約千九百萬石の米が要るのでございます、私は尚ほ是れ以上に付て自分の所見を少しく述べたいと思ふのでございますが、今日の國情に於て日本が新日本の建設復興と云ふものをやるには、國民全體が働かなければならぬ、國民の勤勞と云ふことは、今日日本の經濟の基礎でございます、さう云ふやうに働くには三合では足りない、どうしても四合以上食はさなければいかぬ、私はそれは確信するのであります、もう一合殖やす爲には、約二千七百萬石の米が要るのでございます、尚ほ我々は海外から歸つて來る人々のことを考へなくちやならぬ、五百萬人の人間が歸つて來ると見て、それに七百三十萬石の米が要るのでございます、尚ほ人口の増加のことを考へなくちやならぬ、今後十箇年間に約一千萬人の人口が増加すると致しまして、千四百六十萬石と云ふものが要るのでございます、以上を合はせますると、約四千八百萬石と云ふものが要るのでありまするが、政府の増産計畫と云ふものは、向ふ十箇年間に二千萬石を殖やさう、政府の緊急開墾五箇年計畫と云ふものは、昭和三十年に於て二千萬石の増收を得ようと云ふ計畫でございます、其の二千萬石引いて、四千八百萬石と云ふものが足らぬのでございます、茲に私共は非常な不安を持つて居る、政府の此の増産計畫では足りないと思ひます、それではお前は具體案を持つて居るのか、私は茲に立體農業の振興と云ふことを提唱致したいと思ふのでございます、日本は大體平坦な所はもう拓いてしまつた、今後食糧の大増産をやらうと思へば、傾斜面に向つて行かなければならぬ、それには米ではいけない、其の傾斜の急な所には栗を植える、谷間には胡桃を植える、下の傾斜の緩かな所には薩摩芋を植える、それから澱粉を造る、澱粉粕が出來る、是は家畜の飼料になるから、そこに家畜を飼ふ、飼ふには尚ほ藁が要る、大體米の多量に産する平野地に於きましては燃料が不足致して居ります、山間から燃料を供給して貰ふ、家畜の厩肥で薩摩芋なり、栗を作つて供給する、即ち立體農業であります、此の立體農業に向つて、國民的大運動を起す必要があると私は思ふのでございます、政府は今度農地調整法の改正案を提出せられました、先日私は社會黨の杉山元治郎君と會つて、あの改正案では地主がちと可哀さうぢやないか、期う云ふことを話した所が、杉山君は地主は自作農にならうと思へばなれるのぢやないか、斯う云ふのでありますそれで委員會で政府に聽いて見ますると、政府は斯う云ふのです、地主が自作農になると云つて小作人を追出したら、小作人は困るぢやないか、斯う云ふことを聽いて見ますると、斯う云ふのです、小作人に作らせるよりも、地主に作らした方が増産になると思ふ場合にそれは認める、誰が判定するのか、地方の町村の農地委員會がそれを判定する、斯う云ふのです、今まで專門に小作人が作つて居るものを、地主が歸つて來て作らうとしても、増産出來る筈はない、其の場合でなければ認めぬと云ふことは、地主は歸れぬと云ふことになる、歸れないで地主の土地を取上げると云ふことになる、それが今の農地委員會でございます、そこで私は其の自分の土地の、自作農にならうと思ふてもなれない地主が新しい開墾に向つて進む、即ち立體農業の開墾に向つて進める道を開いてやれと云ふのでございます
更に私が諸君の御注意を喚起致したいことは、今度軍人、官吏の恩給が廢止せらるることになるでございませう、是等の人も此の立體農業の方面に新たな道を進めるやうにすることが賢明の途であると私は思ふ、既に其の運動は始まつて居る、私の同僚の松永壽雄君は山形縣で開墾を始めて居ります、私は此の事柄は大きな問題になつて來ると思ふ、一寸私今其の人數は此處で分りませぬが、新聞に依りますと、其の恩給の金額が約二十億圓である、年々二十億圓貰ふ、其の恩給が停止される、是は餘程重大な問題であると思ふ、此の軍人が新たに進むべき道、軍人なり、官吏の恩給を停止せられた人が新たに行くべき道は、此の立體農業であると私は思ふのでございます、尚ほ軍需工業から解雇せらるる人、又海外に領土を多く失ふが爲に、其の仕事をやれなくなる會社が澤山ございます、其の會社から解雇せらるる人々、多くの「インテリ」層が此の敗戰の結果職を失ふことと思ふのでありますが、それ等の人々が、此の立體農業に進むべきであると私は思ふのでございます、今度十五財閥を初めと致しまして、財閥が非常な彈壓を喰ひます、謂はば手も足も出ぬやうにされるのである、併し之をじつと追込めて置いた所で何もならない、是等をして新しい行くべき道を開いてやると云ふことは、國家の爲め社會の爲に宜しいことであると思ふのであります、是等の人も亦此の立體農業の方面に向つて進むべきであると思ひます、斯う云ふことを考へ合せまして、私は此の方面に一大國民的運動が起るべきものである、政府は相當に其の世話をすべきものであると私は信ずるのでございます、今日一千三百萬人の失業者が出來るだらうと云ふ、政府の緊急開拓計畫では二、三百萬人の人間より使ふことにはなつて居りませぬ、さうすれば後に一千萬人の失業者が出來るのである、是は私共は餘程考へなければならぬことであると思ひます
殊にもう一つ私が非常に憂へて居りますことは、都市對農村の對立でございます、或る思想方面の人は、近頃盛んにそれを煽動して居るやうである、其の結果は私は結局都市が自ら生産に向つて手を出さなければならぬ時が來るんぢやないかと思ふ、既に其のことは始まつて居る、我々の同僚の中井一夫君が、神戸の市長である、神戸市から一千萬圓の金を託されて、新たに何處かで生産の仕事を始めて呉れと云ふことを言はれて居ると云ふことを聞いて居るのであります、都市對農村の關係であります、斯う云ふやうな總てのものを以て、私は茲に立體農業と云ふものを大いに日本に於て盛んにすべきものであると思ふのでございます、そこで或る人は言ふかも知れぬ、そんな素人が寄つて開拓事業が出來るものかと、「アメリカ」合衆國の拓殖事業は素人に依つて成功したものである、農業の專門家ぢやない、「ヨーロッパ」で或は英國で百姓をしておつた者が渡つて、あれを開拓したのぢやない、「ボストン」の博物館に行きますと、其のことを事實を以て能く説明して居る、相當の文化を持つて居る文化人が信教の自由を求めて新大陸に渡つて、さうして「アメリカ」合衆國を開いたものである、先年朝鮮に於きまして朝鮮の産米増殖をやりまする時に問題が起つた、ああ云ふ素人ぢや到底成功しないだらうと云ふのです、其の時に新渡戸博士が其の素人で宜いのだ、百姓が行つたつて朝鮮では増産は出來ないのだ、「アメリカ」合衆國は其の素人が今までの規格を破つてあの機械農業と云ふものをやり出した、其の素人で宜しいんだと、新渡戸博士が申しまして、後には總督府が乘出して、或は總督府の技師が乘出して、産米増殖計畫はやりましたけれども、あの初めをなして、其の前例を開いたものは素人の手でございます、斯ふ云ふやうな譯で、私は寧ろ素人の手でこそ此の立體農業と云ふものが開けるのであると信じて居る、我々は血みどろな苦難の國民生活の中に磨かれたる叡智――比叡山の叡と智識の智(笑聲)、其の叡智に依つて我々は新日本を建設すべきものである
〔「簡潔に願ひます」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=8
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009・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松山君に御注意致します、決議案の趣旨に副うて討論を進められんことを望みます
〔「ヒヤヒヤ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=9
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010・松山常次郎
○松山常次郎君 (續)宜しうございます、さう云ふ意味に於きまして、此の叡智を働かして、私共は食糧の増産を大いにやらなければならぬと思ふのであります、それには私共は此の立體農業の一大國民運動を起すと云ふことが今日極めて必要なことであると思ふ、政府がやつて居りまする緊急開拓計畫と云ふやうなものは不十分である、私共は此の決議案に於て「各般の施策を實施しつつあるも其の多くは未だ肯綮に中らす」と謳つて居るのは其の點であります、斯う云ふ趣旨に於きまして、私は此の決議案に贊成の意を表する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=10
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011・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 是にて討論は終局致しました、採決致します、本案に贊成の諸君の起立を求めます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=11
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012・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立總員、仍て本案は全會一致可決致しました(拍手)此の際農林大臣より發言を求められて居ります――松村農林大臣
「國務大臣松村謙三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=12
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013・松村謙三
○國務大臣(松村謙三君) 本決議に對する政府の決意を申上げたいと存じます、只今決議案にありました通り、今日の食糧事情は曾てない窮迫せる状態にございまして、政府と致しましては今日まで萬端の施策を施し、國民も亦出來るだけのことを致して戴いて居るのでございますが、現に今囘の議會に於きましても相當の豫算も御審議を願つて居るやうな次第でございます、併しながら何と申しましても、原則的には輸入の許しを得ましたが、此の上進んで好意ある聯合國側の急速なる許しを得まして、實際に食糧の輸入を致しませぬと、此の食糧問題の解決は絶對に不可能であらうと存じます、本決議案が成立致しました以上は、私共は此の決議の御趣旨に從ひまして、此の上とも全力を擧げて食糧問題に對する凡ゆる施設を徹底致しますと共に、聯合國側に對する輸入の要請に付きましても、政府を擧げて其の達成に努力することを御誓ひ申す次第でごさいます、以上政府の考へ方を申述べます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=13
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014・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 日程第一、國民貯蓄組合法中改正法律案の第一讀會を開きます――澁澤大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=14
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015・会議録情報3
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第一 國民貯蓄組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
國民貯蓄組合法中改正法律案
國民貯蓄組合法中左の通改正す
第一條中「戰時(戰爭に準ずべき事變の場合を含む)に於ける」を削る
附 則
本法は公布の日より之を施行す
〔國務大臣子爵澁澤敬三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=15
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016・澁澤敬三
○國務大臣(子爵澁澤敬三君) 只今議題となりました國民貯蓄組合法中改正法律案に付きまして提案の理由を御説明致します
戰後財政經濟の運營に當りましては、惡性「インフレーション」の發生を防止致しますることの肝要なることは多言を要せざる所であります、是が爲には各般の施策と竝行しまして、戰後に於きましても、自主的運營を主眼とする國民貯蓄組合を存續し、以て國民貯蓄の増強に力を致さねばならぬ次第でありまして、國民貯蓄組合法中「戰時」なる文言を削除する爲に茲に本法律案を提出致した次第であります、何卒御審議の上速かに御協贊あらんことを希望致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=16
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017・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
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018・松永東
○松永東君 本案は政府提出鹽專賣法中改正法律案外一件の委員に併せ付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=18
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019・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=19
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020・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました――日程第二乃至第四は便宜上一括議題となすに御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=20
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021・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、日程第二、防空法廢止法律案、日程第三、大日本航空株式會社法廢止法律案、日程第四、石油業法外十三法律廢止法律案、右三案を一括して第一讀會を開きます――川崎内務政務次官発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=21
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022・会議録情報4
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第二 防空法廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三 大日本航空株式會社法廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四 石油業法外十三法律廢止法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
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防空法廢止法律案
防空法は之を廢止す
附 則
本法は公布の日より之を施行す
防空法第五條の五の規定に基く命令にして本法施行の際現に存するものに付ては本法施行後六月間を限り同法第五條の五の規定及第十九條の二第三號の規定中第五條の五に關する部分は仍其の效力を有す此の場合に於ては同法第五條の五の規定中防空上建築物の分散疎開を圖る爲必要あるときはとあり又は防空上空地を設くる爲必要あるときはとあるは都市計畫上必要あるときはとす
本法施行前に發生したる事由に因る扶助金、本法施行前に爲したる處分に係る移轉費、損失補償、實費辨償、費用の負擔及補助竝に本法施行前に施行したる防火改修工事に要したる費用の辨償に關しては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
━━━━━━━━━━━━━
大日本航究株式會社法廢止法律案
大日本航空株式會社法は之を廢止す
附 則
本法は公布の日より之を施行す
舊法は舊法に依り爲したる命令に係る損失補償及租税の免除其の他課税に付ては本法施行後と雖も仍其の效力を有す
━━━━━━━━━━━━━
石油業法外十三法律廢止法律案
左の法律は之を廢止す
石油業法
自動車製造事業法
人造石油製造事業法
製鐵事業法
工作機械製造事業法
航空機製造事業法
輕金屬製造事業法
有機合成事業法
重要機械製造事業法
石油專賣法
戰時行政特例法
軍需會社法
昭和十二年法律第九十二號
昭和十七年法律第十五號
附 則
第一條 本法施行の期日は勅令を以て之を定む
第二條 本法施行前に爲したる行爲に對する罰則の適用に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第三條 自動車製造事業法、人造石油製造事業法、製鐵事業法、工作機械製造事業法、航空機製造事業法、輕金屬製造事業法、有機合成事業法又は重要機械製造事業法に依る所得税又は所得に對する法人税及營業税の免除竝に課税の禁止に付ては個人の事業に在りては昭和二十年分、法人の事業に在りては本法施行前に終了したる事業年度分を限り舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第四條 人造石油製造事業法、工作機械製造事業法、航空機製造事業法、輕金屬製造事業法、有機合成事業法又は重要機械製造事業法に依る土地の收用又は使用にして其の收用又は使用の時期が本法施行前のものに付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第五條 本法施行前製鐡事業法第十四條又は有機合成事業法第十二條若は第二十一條の規定に依り交付したる獎勵金の返還に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第六條 工作機械製造事業法第三條の許可を受けたる株式會社の設備の償却金額の補給及補給金の償還又は返還竝に同法第十條第一項の認可を受けたる株式會社の利益金の處分に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第七條 石油專賣法第七條の規定に依る賠償金に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第八條 本法施行前軍需會社法第八條、第九條、第十一條又は第十二條の規定に依り政府の爲したる命令又は處分に因り生じたる損失の補償に付ては舊法は本法施行後と雖も仍其の效力を有す
第九條 本法施行の際現に存する昭和十二年法律第九十二號に基く命令又は處分に付ては本法施行後六月間を限り舊法は仍其の效力を有す此の場合に於ては大東亞戰爭に關聯し國民經濟の運行を確保する爲とあるは終戰後の事態に對處し國民生活の維持及安定を圖る爲とす
前項の規定に依り效力を有する命令は其の規定する事項の範圍内に於て之を改正することを妨げず
第一項の規定に依る期間内に爲したる行爲に對する罰則の適用に付ては舊法は同項の規定に依る期間經過後と雖も仍其の效力を有す
第十條 燃料局特別會計法中左の通改正す
第一條及第十條中「軍需省」を「商工省」に改め「及石油」を削る
第二條第一項中「及石油」を削り同條第二項中「一億五千萬圓」を「一億三千萬圓」に改む
第十一條 本法施行の際燃料局特別會計に屬する石油に關する收入及支出の未濟額は之を燃料局特別會計の收入及支出の未濟額とす
第十二條 軍需金融等特別措置法中左の通改正す
第二條中「軍需會社其の他」を削る
第二十二條第一項中、「軍需會社法」を削る
〔政府委員川崎末五郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=22
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023・川崎末五郎
○政府委員(川崎末五郎君) 只今議題と相成りました防空法廢止に關する法律案に付きまして、其の提案の理由の概略を御説明申上げます
終戰に伴ひまして民防空は全く其の必要なきに至りましたので、茲に本案を提出致しました次第であります、併しながら既に防空法に依り行政官廳のなしましたる處分に依つて給すべき移轉費、同法に依り行政官廳のなしたる處分又は命令に基く損失補償竝に損失補償に關する訴訟、實費辨償、費用の負擔、費用の補助及び防火改修工事に要しまする費用の辨償等の如きは、本法廢止後と雖も金錢の支拂、其の他の措置を講ずる必要がございまするので、それが爲には附則に於きまして經過規定を設けました次第でございます、尚ほ防空法第五條の五の規定に基きまする命令に付きましては、都市計畫上の要請に基き、都市計畫法に之を繼承せしむる必要がありまして、是が爲には都市計畫法の改正を準備中でありますので、暫く其の效力を存置せしむることと致しまして、必要な經過規定を設けた次第であります、何卒御審議の上速かに御協贊あらんことを切望致す次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=23
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024・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 田中運輸大臣
〔國務大臣田中武雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=24
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025・田中武雄
○國務大臣(田中武雄君) 只今議題となりました大日本航空株式會社法廢止法律案に付きまして、其の提案の理由を御説明申上げます
御承知の通り大日本航空株式會社法は、昭和十四年第七十四帝國議會の協贊を經て制定せられましたものでございまするが、本法に依りまして設立せられましたる所の特殊會社大日本航空株式會社は國家の特別なる助成と指導監督の下に我が國内外航空輸送事業の振興を圖りますると同時に、大陸航空輸送事業の興隆を助成するの目的を有するものであります、然るに帝國今次の敗戰に因りまして、聯合國は我が國に對し凡そ航空に關する國民の活動は、原則として一切之を禁止するの方針を執つて居るのでありまして、右目的を有する大日本航空株式會社は到底其の存立を許されざる事態に立到りましたので、同社は去る十月三十一日を以て解散し、目下清算手續を進行中なのでございます、是に於きまして、政府は大日本航空株式會杜法を廢止するを適當と認め、同法廢止法律案を提出致しました次第でございます、何卒御審議の上速かに御協贊あらんことを切望する次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=25
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026・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 小笠原商工大臣
〔國務大臣小笠原三九郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=26
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027・小笠原三九郎
○國務大臣(小笠原三九郎君) 商工省關係の提出法律案たる石油業法外十三法律の廢止に付て御説明致します
先づ第一に石油業法外九事業法の廢止の問題に付て説明致します、所謂事業法の内容は、各種事業法に付き殆ど共通でありまして、事業の開始に付き許可制を採用して居ることと、免税其の他の經濟上の特典を與へられて居ること、及び必要なる監督規定を置いて居ることが、其の骨子をなすのでありまして、其の狙ひは各軍需事業の發達を助成せんとするにあつたのであります、併しながら終戰と共に經濟の基調に變化を來し、法律の規定を以て許可制度を採用することは、是等事業に付ては不適當でありまするのみならず、免税其の他の經濟上の保護も、企業の自由なる活動を基本とする今後の經濟の下に於きましては、當然撤廢すべきものでありますので、此の際一括して廢止することと致したいと存じます
第二として軍需會社法の廢止に付き御説明申上げます、本法は御承知の通り戰時中、就中既に情勢極度に逼迫し來れる昭和十八年十月末軍需省の設置と歩調を合せて制定せられたのでありまして、其の内容は軍需生産増強の爲め軍需企業に付き、生産責任體制を確立せんとするにあつたのでありますが、戰爭終結と共に、斯かる戰時中のみに存續の意義を有する法律は、之を存置するの必要は全然失はれましたので、既に昭和二十年八月十五日付を以ちまして、軍需會社の指定取消を實施致しました結果、本法は現に死文と化して居るのでありまして、此の際之を廢止せんとするものであります
次に輸出入品等臨時措置法の廢止の問題でありますが、是は別に提案されました國家總動員法の廢止と歩調を合したものでありまして、戰爭中經濟統制の基本を成した此の兩法律が、終戰と共に廢止されるのは寧ろ當然の措置と考へるのであります、唯俄かに何等の見透しもなく、統制を撤廢して混亂を招來することのないやう、總動員法の場合と揆を一にし、六箇月間の期間を限り、一應既に爲された命令又は處分の效力は、經過的に存續せしむることと致しましたが、撤廢するも支障のない規則に付きましては、今後と雖も逐次廢止する方針で進む次第であります
尚ほ總動員法廢止と關聯致しまして、昭和十七年法律第十七號、即ち重要産業團體令に依る統制會に行政官廳の職權を行はしむることを規定した法律の廢止に付て一言申上げます、統制會廢止に付ては未だ聯合國側とも打合せ中でありまして、斷定的なことは申上げられませぬが、權限委讓の對象となつた各種の事業法、統制法規等は逐次撤廢せられつつあるのでございまして、各統制會自身もそれぞれ自主的團體に改組せんとする機運強きに鑑みまして、總動員法廢止の此の機會に戰時統制の殘滓たる權限委讓の法律をも撤廢するものであります
次に多少毛色の違つた問題でありますが、石油專賣法の廢止に付き御説明致します、戰時中極度に不足せる石油を、軍需産業等に迅速的確に配給する爲め、專賣制度を採用するに至つたのは御承知の通りであります、併しながら斯かる措置は戰時中の必要に基く變則的なものでありまするので、終戰と共に能ふ限り官治統制を廢し、自治統制に移行する爲め、國家專賣の方式は之を撤廢し、石油配給統制規則を中核とする石油配給統制株式會社の運用に依り今後の統制を行ふこととし、茲に石油專賣法の廢止を提案致した次第であります
最後に各省共通に關係ある事項でありますが、戰時行政特例法の廢止に付て申上げます、本法は大東亞戰爭中、生産力擴充其の他綜合國力發揮の爲には、第一に必要に應じ法規に基く禁止又は制限の解除をなし得ること、第二に甲の行政廳又は官吏の職權を乙の行政廳又は官吏をして之を行はしめ得ることを其の内容とするのでありますが、是は戰爭中の非常事態を前提とするものでありまして、終戰と同時に徹廢すべきことは論を俟たぬものと考へます
以上多岐に亙る商工省關係法律の廢止に付き申述べましたが、要するに其の内容は、戰時色濃厚な法律及び存置する必要のない法律の廢止と云ふことに落著く譯でありまして、今後の經濟組織をどうするかと云ふ基本問題に付きましては、聯合國側、民間其の他關係各方面の意見を十分に徴して、愼重に立案する必要がありまする關係上、今議會には提案するの運びに至らなかつた次第であります、以上を以ちまして私の説明を終りたいと存じまするが、何卒愼重御審議の上御協贊あらんことを希望致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=27
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028・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 各案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=28
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029・松永東
○松永東君 日程第二乃至第四の三案は一括して政府提出入營者職業保障法及國民勞務手帳法廢止法律案委員に併せ付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=29
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030・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=30
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031・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=31
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032・松永東
○松永東君 議事日程追加の緊急動議を提出致します、即ち此の際一松定吉君外五十五名提出刑事訴訟法中改正法律案を議題となし、委員長の報告を求め其の審議を進められんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=32
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033・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=33
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034・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て日程は追加せられました、刑事訴訟法中改正法律案の第一讀會の續を開きます、委員長の報告を求めます――委員長一松定吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=34
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035・会議録情報5
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刑事訴訟法中改正法律案(一松定吉君外五十五名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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報告書
一刑事訴訟法中改正法律案(一松定吉君外五十五名提出)
右は本院に於て別紙の通修正すへきものと議決致候此段及報告候也
昭和二十年十二月十一日
委員長 一松定吉
衆議院議長島田俊雄殿
〔別紙〕
刑事訴訟法中左の通改正す
第二百七十八條に左の三項を加ふ
刑法第百九十三條乃至第百九十六條の罪に付ては辯護士會も亦公訴を行ふことを得此の場合に於ては辯護士會は檢事と同一の權限を有す
辮護士會か前項の權限を行ふには辯護士會の決議に依り辯護士會長又は其の指定したる辯護士をして辯護士會を代表せしむ
辯護士會か公訴を提起する場合は司法大臣の認可を受くへし
第二百八十條に左の一項を加ふ
辯護士會か公訴を行ふ場合に於ては同會か指定したる者に付亦同し
〔一松定吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=35
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036・一松定吉
○一松定吉君 只今上程せられました刑事訴訟法中改正法律案の委員會に於ける審議の經過竝に結果を御報告申上げます
先づ前提に御報告致して置きたいことは、本案は委員會に於て一部修正せられましたから、先づ其の修正の箇所を豫め御報告申して置くことが經過竝に結果を御報告するに便宜なりと思料致しますから、其の點を茲に申上げます、同法の「第二百七十八條に左の二項を加ふ」と云ふ「二」を「三」に變へまして、「三項を加ふ」と云ふことに致します、さうして第二項の次に「辯護士會か公訴を提起する場合は司法大臣の認可を受くへし」と云ふ此の一項を加へたのでございます、會議は本月八日より昨十一日の三日間愼重に審議せられたのでありまするが、會議劈頭に當りまして先づ委員長竝に理事の互選を行ひました、委員長には不肖私が當選し、理事には伊藤清君、今成留之助君、田中伊三次君の三君が御當選に相成りました、引續いて審議に入りましたが、先づ提案者であります江口委員から提案の理由を詳細御説明申しました、之に對しまして司法當局が事務の方面から此の提案に付きまして質問を致したのでございます、其の質問の要旨は、辯護士會が檢事の職務を行ふと云ふことになると、檢事は裁判所構成法の八十二條に依つて長官の指揮命令を受けると云ふことになつて居るが、辯護士會の長官は誰か、誰の命令を受けるのかと云ふ質疑があつたのであります、そこで提案者側では辯護士は檢事ではない、檢事ではないが故に、上官の命令を受くべきものではない、斯樣に答へたのであります、それから檢事は犯罪を搜査するに當つては、司法警察官若くは警察吏と云ふ手足を持つて居るのであるが、辯護士會はさう云ふ手足を持たないのであるが、是はどうするかと云ふ質疑がありましたのに對して、提案者の方では、辯護士は檢事と同一の權限を行ふのであるが故に、檢事は司法警察官、警察吏を指揮命令をする、それと同じ權限を持つのであるが故に、同じく司法警察官、警察吏を指揮命令するのである、が併しながら辯誰士會が公訴を行ふ場合には、多く其の辯護士會長の指定したる辯護士が辯護士會を代表して犯罪の搜査、證據蒐集等に當るから、直接司法警察官や警察吏を指揮、命令して證據の蒐集をすると云ふやうなことはないであらうと答へました、それから辯護士會が全國には幾つも、幾つもある、其の辯護士會がお互に權限爭をすると云ふやうなことがあつた場合には、どうするのかと云ふ質疑がありました、成程全國には辯護士會が數十ありまするが、お互に其の地域々々に於て辯護士會が設立せられて居りまするから、原則としては、地域々々の辯護士會が其の公訴權を行ふことになるのであるから、互に權限を侵すことはあるまい、斯う云ふ御答へでありました、然らば公訴權を行ふ時に、檢事が之を行ひ、辯護士會が之を行ふと云ふ時に衝突するやうなことはないかと云ふ問がありましたが、それは辯護士會は、檢事が是等の人權蹂躪の官吏を檢擧しないが故に活動を始めるのである、故に辯護士會の活動を始める前に、若くは同時に檢事が活動を始めて呉れれば、それで目的は達するのであるが故に、さう云ふやうな場合に紛淆を生ずるやうなことはないと思はれる、斯う云ふ答辯があつたのであります、そこで司法大臣が此の案に付きまして大體根本的の御質問をされたのであります、元來刑事訴訟法の建前は、檢事と云ふものをして公訴權を專行せしむる建前になつて居るのである、他の者をして公訴權を行はしめると云ふ建前ではない、故に此の主義が首尾一貫して刑事訴訟法の中に流れて居るのであるが故に、新たに辯護士會に公訴權を行はしめると云ふことになれば、其の機構を紛淆せしむるが故に、是はどうだ、斯う云ふことであつたのであります、併しながらそれは成程刑事訴訟法の現行法は、其のやうになつて居るけれども、之に刑法百九十三條乃至百九十六條の職權濫用、人權蹂躪の罪に限つて辮護士會に公訴を行はしめると云ふことの法案が通過すれば、何にも不都合を生じないのであると提案者の方で答へられて居つたのであります、又司法大臣の御問は、元來辯護士會と云ふものは、犯罪人を辮護する立場にあるのである、人權を擁護する立場にあるのである、それが檢事や警察官を糺彈する立場に置くと云ふことは、不合理ではないかと云ふ御趣旨の御質問があつたのであります、それは成程不合理ではあらう、あらうけれども人權蹂躪をし、職權濫用をした官吏を其の儘に放任して置いて、今日まで其の儘になつて居ると云ふことを是正する爲には、所謂人權擁護の立場にある公法人である辯護士會をして公訴權を行はしめると云ふことは、何にも不合理ではない、斯う云ふ答辯があつたのであります、所が司法大臣の方では、若し辯護士會が人權を蹂躪した時分には、誰を犯罪人として處罰するのかと云ふことがあつたのであります、辯護士會は所謂公法人として其の辯護士會を組織して居る辯護士が總會を開いて、果して此の官吏に人權蹂躪の行爲ありしや否やと云ふことに關して愼重審議して、證據が確實なものでなければ起訴すると云ふが如きことはしないだから、人權蹂躪の問題は起らないのである、斯う云ふやうな答辯であつたのであります、そこで司法大臣は、實は人權蹂躪と云ふことは、検事や司法警察官が強制權を持つて居ないから起るのである、故に強制權を持たせて合法化して犯罪の搜査に當らしめるならば、人權蹂躪と云ふことはなくなるのであるからして、辯護土會に公訴權を持たす、持たせぬと云ふのは關係ないではないかと云ふ趣旨の御質問があつたのであります、之に對しまして、成程檢事や警察官に強制權を持たせれば、法律に違反して逮捕監禁すると云ふことはなくなるであらう、併しながら暴行凌虐を加へると云ふことの阻止は出來ないではないかと云ふ答辯があつたのであります、次に司法大臣の質問は、只今司法制度改正審議會と云ふものを設けて、之に學識經驗のある人を參集して戴いて、是等の人權蹂躪等に關する根絶の事柄を今審査中であるから、それが成案を得て法律となつた曉には、人權蹂躪と云ふことはなくなるのだからして、此の法案に付て暫く事遠慮を願ふことはいけないだらうかと云ふ御趣旨の質問がありました、所が其の所謂司法制度改正審議會の人權蹂躪根絶の法案が、議會を通過して實施せられた曉に於ても、此の法律と竝行して何にも弊害はないではないか、假に弊害があるとすれば其の時に此の法律を廢止すれば、それで宜しいのではないかと云ふ答辯がありました、そこで司法大臣は、實は斯う云ふやうなことをやれば、公訴權が二元的になつて甚だ面白くないから、成たけ一元的に致したい、斯う云ふ趣旨でありましたが、一元的にして居ればこそ今日人權蹂躪が行はれるのである、故に其の一元的の弊害を除去する爲に、此の法律を提案致したのであると云ふ答へがあつたのであります、尚ほ司法大臣は、自分は就任以來斯う云ふ方面に付ては、熱心に斯くの如き弊害を除去することに努力して居る、此の法案が出なくても、全國の知事、警察部長、檢事正に、人權蹂躪をすることは出來ないと云ふ嚴重な訓令を發する積りであるから、此の法案に付ては暫く御猶豫を願はれまいかと云ふやうな趣旨もあつたのであります、之に對しまして提案者側では、さう云ふやうなことは從來司法大臣、内務大臣に於て再三行はれて、全國の知事、警察部長に人權蹂躪を犯罪搜査の爲にしてはいけない、行政執行法竝に違警罪即決令を濫用してはいけないと云ふことを何囘も訓令をしたにも拘らず、其の當座暫くの間は人權蹂躪はないが、暫くすれば直ちに人權蹂躪が起るではないか、それでは根絶は出來ないからと云ふ答へがあつたのであります
次には委員側から司法當局に向つて質疑を致しました、其の質疑の要點は、一體あなた方は檢事若しくは司法警察官に人權蹂躪の事實があることは御認めになるのですかと云ふ問ひがありました、所が司法當局は、それは以前は往々にしてさう云ふこともありましたが、今では餘り澤山ないやうに思ひますると云ふ答辯であつたのであります、そこで委員側から何故に此の人權蹂躪の根絶が出來ないのでありますかと云ふ質問があつた、それに對しましては、それは制度の罪もあらうし、其の取調の任に當る者が熱心で、其の線を超えるやうなこともあらう、さう云ふことに付ては、將來はさせないやうにする積りであると云ふことがあつたのであります、そこで委員側から、然らばさう云ふことが根絶しないならば、根絶させる爲に本法案を通過せしめて、法律とすると云ふことが必要ではないかと云ふ問ひがあつたのでありまするが、それに付ては今まで申上げたやうに、直ちに贊成はし兼ねると云ふ意味の御答辯があつたのであります、そこで八月十五日以後に於て所謂彼の「ポツダム」宣言の中には、我が國に對して五つの重大な事項を要求した、例へば婦人參政權だ、或は選擧年齡の低下擴張だ、或は言論の自由だとか、宗教の自由だ、或は財閥の解體だ、或は基本人權の尊重だとか云ふことを要求せられて居るが、それ等の中で人權尊重に關する以外のことは、政府が既に手を着けて居るぢやないか、それでぼつぼつそれが實行されて居るぢやないか、然るに基本的人權の尊重と云ふことに關して、今唯司法制度改正審議會と云ふものを設けて、審議して居ると云ふことは生緩いぢやないか、急速に其の人權蹂躪の根源を撲滅すると云ふ必要があるではないか、そればかりではない、それは檢事と云ふものが、公訴權を一手に握つて居るが故に斯う云ふことがあるのだ、故に民主主義政治を強調し、大いに我が國を民主主義國家として、新日本を茲に發展せしむるならば、其の第一過程として人權擁護と云ふこと程大きい仕事はない、それを國民の一部に其の公訴權を持たせて、さうして所謂通風路を拵へる、此の搜査陣の濁れる空氣を清新なものにすると云ふことは、急務中の急務ではないか(拍手)斯う云ふ質問があつたのであります、それに對して司法當局は、決して「ポツダム」宣言の基本的人權尊重と云ふことを無視して居る譯ではない、それが爲に司法制度改正審議會を拵へて、頻りに其の成案を急いで居るやうな譯であるからと云ふやうな趣旨の答辯があつたのであります、そこで委員側から、一體辯護士會に斯くの如き公訴權を持たせると云ふことが、何か惡い所があるのか、辯護士會と云ふものは所謂人權擁護の立場に居るのだ、それがどうしても是正の出來ない此の禍根を除く爲に、斯う云ふ權限を行使すると云ふことは、其の法律が通過したと云ふことだけで、今までの如き人權蹂躪は跡を絶つではないか、即ち本法の通過、公布は傳家の寶刀である、此の傳家の寶刀が飾り付けられたと云ふことだけで、檢事、警察官の人權蹂躪がなくなるではないか、其のやうに威力のある此の法案に、なぜに司法當局は進んで贊意を表しないのかと云ふ質疑があつたのであります、それに對しましては、色々今まで申上げた事情に依つて、直ちに贊成し兼ねるのである、斯う云ふ答辯であつたのであります、之を要しまするに、司法當局は自分から進んで議會に出す法案の通過には盡力するけれども、議員提出の司法省に關係する法案に付ては、何時も之を阻止する態度があるではないか(拍手)さう云ふやうな態度は宜くない、殊に司法省案は何時も豫算にも關係するであらうが、貴族院に先に出して、衆議院を後廻しにすると云ふことがあるやうに思ふ、斯う云ふ人權尊重に關する法案を喜んで御贊成に相成るべきが相當の處置である、斯樣な質問もあつたのでありますが、政府は明快なる御答辯はなかつたのでありまして、唯公訴權を二元的にすることは宜しいから、即ち之を改めるならば刑事訴訟法を改正する時に改むべきであつて、一部の改正は紛淆を生する虞がある爲に贊成出來ないと云ふ意味の御答辯があつたのであります
是に於て質疑應答は終りまして、今成委員から一部修正の動議を提出致したのであります、それは只今冒頭に申上げたやうに「辯護士會か公訴を提起する場合は司法大臣の認可を受くへし」此の修正動議を出したのであります、此の動議の趣旨は本案に付て何も我々は不都合だとは思はないが、唯愼重に愼重を加へる意味に於て、辯護士會が感情などに趨つて其の人權躁躪の檢事或は警察官を訴訟すると云ふやうなことがあつてはならぬから、辯護士會は所謂辯護士法の三十四條に依つて司法大臣の監督を受けて居る立場にあるのだから「司法大臣の認可を受くへし」と云ふことにすれば辯護士會の決議も愼重であるし、司法大臣も之を認可するかしないかと云ふことに付て、記録を手にして一々之を精査して、成程此の檢事は人權蹂躪をして居る、成程此の司法警察官は人權蹂躪をして居ると云ふことが明かになれば、司法大臣は部下の檢事に起訴の命令をする場合もあらうし、辯護士會に向つて、まあお前の公訴は待て、俺の方で適當の處置を執ると言つて、或は起訴命令を出すこともあらうし、或は懲戒處分に付すると云ふこともあらうし、斯くの如くすれば所謂辯護士會が公訴權を行ふと云ふ目的が完全に達成されるのであつて、人權蹂躪根絶には非常な效果があるが故に此の修正を入れる、斯う云ふ趣旨であつたのであります、之に對して、林委員から、それは最も良い方法であるからと言つて贊成意見があり、茲に動議は、成立し、滿場一致此の動議を可決したのであります、そこで原案が此の修正案に代りまして、此のことに付て討論を行ひまして、討論は進歩黨を代表して江口委員、無所屬を代表して田中藤作君から原案贊成の意見を述べ、採決の結果、滿場一致此の修正案が通過致したのであります、どうぞ皆樣に於かれましても、只今の提案者竝に政府當局雙方の質問應答を十分御翫味賜はりまして、此の案が速かに通過して基本人權の尊重が茲に確立して、新日本建設の爲に貢獻せられるやう御努力御盡瘁あらんことを御願ひ致しまして、委員長の報告を終る次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=36
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037・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 討論の通告があります、之を許します――伊藤清君
〔伊藤清君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=37
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038・伊藤清
○伊藤清君 私は只今上程になりました刑事訴訟法中改正法律案に對しまして日本進歩黨、日本自由黨、日本社會黨及び無所屬倶樂部の各派に所屬する法曹議員の七十餘名を代表して贊成の意を表するものであります
從來我が國に於ては官公吏の職權濫用、人權蹂躪が頻々として行はれて居りましたから、在野法曹は絶えず人權擁護を叫び、政府當局も亦常に人權を尊重すべき旨を訓示して居りますけれども、警察官及び檢事の人權蹂躪は中中其の跡を絶ちませぬ、其の原因を探究して見まするに、歸する所我が國の刑事訴訟法に於ては公訴權、即ち裁判所に刑事事件を起訴する權能を檢事が獨占して居るからであります、由來裁判所は檢事より起訴を受けた犯罪事實のみを取調べ得るのであります、假令判事は犯罪事實の存在を知り、之を處罰すべきであると思ひましても、檢事からの起訴がなければ、自發的に自ら進んで裁判することは出來ませぬ、謂はば判事は檢事から据膳をして貰はなければ、如何に食指は動いても箸を取れないのであります、然るに檢事は犯罪を搜査することが自由であるばかりでなく、其の發見した犯罪を裁判所に起訴すべきや否やを決定することも亦、全然檢事の自由であります、例へば茲に一つの犯罪事實があつて、それに對しては一般國民は固より、裁判所も亦是非處罰すべきものであると思ふ程證據歴然にして、且つ惡性顯著なるものでありましても、若し檢事が、是は起訴しない方が公益上宜しいと思料するならば、其の事件は裁判所に廻されず、隨て其の犯人は刑罰を免れ得るのであります、そこで警察官又は檢事が人權蹂躪行爲をなした時に、被害者が加害者たる檢察官を處罰せられんことを求むるに當り、直接其の事件を裁判所に訴へ出づることが出來ませぬ、檢察官に告訴するより外はないのであります、然るに檢事は御承知の如く檢事同一體の原則に依り、上は檢事總長より下は區裁判所檢事に至るまで上下一體、對外一體の關係の下に全國的に一大組織體をなし、緊密機敏にして脈絡系統ある共同動作をなしつつあるのであります、さうして警察官は檢事の部下として其の指揮を奉じて、犯罪の搜査に當るのでありますから、實質的には兩者も亦一體となつて有機的に活動して居るのであります、故に檢事は其の同僚たる檢事又は部下たる警察官の人權蹂躪事件に付き告訴を受けても、其の擔當檢事は成るべく同僚や部下の非違を保護し、證據を隱蔽するやうになるのは人情の常であります、假令證據歴然たるものと雖も、之を起訴すれば却て公益上害がある、即ち法律秩序を維持する所以でないと云ふ口實の下に、不起訴處分に付する傾向があるのであります、下級檢事の不起訴處分に對して上級檢事に抗告を致しましても却下されるならば、結局は被害者である被告人は泣寢入りに終り、裁判所も指を咥へて見て居るより外はないのであります、斯くて檢察官は人權蹂躪をしても滅多なことでは刑罰を受ける心配がないと云ふ、特別な身分地位を持つて居るのであります、斯くの如く一般國民の非は何事でも自由に發ける、併し自分等の人權蹂躪行爲は、仲間の者から自發的に進んで裁判所に訴へ出でざる限りは、絶對に何人よりも法律的に有效に責められると云ふことがないと云ふ、特權階級として檢察陣營が現存することが、何程我が國民生活を暗鬱ならしむるかと云ふことに付きましては茲に論ずるまでもありませぬ(拍手)
他國の刑事訴訟法は皆檢察官が人權蹂躪をした時には、檢事以外の者から直接裁判所に訴を提起することが出來るやうな仕組になつて居ります、現に日本に於きましても、民權自由の思想が旺盛でありました明治十三年に公布されました治罪法に於ては、被害者から直接裁判所に訴へ出でられるやうになつて居つたのであります、然るに其の後民權萎靡し、官權跋扈するに至つて今日見るが如き檢察官の人權蹂躪行爲に付ても、檢事より外には何人も之を起訴し得ないと云ふやうな不合理極まる官權萬能、檢事獨善の刑事訴訟が捏つち上げられたのであります、斯くの如く徹底的に檢事をして公訴權を獨占せしめ、何等其の弊害を除去する途を講ぜざる封建的、專制的なる刑事訴訟法を有する國は世界中日本以外には見出し得ないのであります、是は私が淺學寡聞にして知らないのかと思ひまして、念の爲め先日本案の特別委員會に於きまして、政府委員に對して他國に其の類例ありや否やを質問致しました所、司法當局も亦知らない由でありました、此の世界に類を見ざる不合理にして非立憲的なる法律を是正するの途は本改正案の如く、人權蹂躪事件に付きましては、檢事の外に辯護士會にも公訴權を與へるが一番宜しいのであります、兎に角日本の現行刑事訴訟法は檢事獨尊、官權萬能なる點に於きまして世界無比でありまして、所謂民衆生活を恐怖に陷れるが如き制度であることは遺憾ながら認めざるを得ないのであります(拍手)是れ日本が曩に聯合國から人權蹂躪の常習國であると見做され、彼の「ポツダム」宣言に於て基本的人權尊重の確立を要求されたる所以であります、我が國は此の宣言を受諾することに依りまして、自ら人權蹂躪の存在する事實を認め、且つ之を根絶すべき旨公約したのであります、我々は此の公約を安全に履行するにあらずんば、日本の安全なる獨立を取戻すことは出來ないのであります(拍手)是に於て從來單なる人道問題、法律問題に過ぎなかつた人權蹂躪根絶の問題は、俄然緊急にして重大なる政治問題となつたのであります、私は衆議院議員各位は是が重大問題たることを深く認識されたればこそ、曩に本改正案の提出に當り政黨政派を超越して殆ど全員御贊成に相成つたことと信ずるのであります
何卒滿場一致本案を通過せしめられ、其の強き熱意を以て貴族院議員各位の共鳴を贏ち得て、本改正案が直ちに法律化することを切望する者であります、此の意味に於きまして私は本改正案に雙手を擧げて贊成する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=38
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039・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 是にて討論は終局致しました、本案の第二讀會を開くに御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(島田俊雄君〉御異議なしと認めます、仍て本案の第二讀會を開くに決しました
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=39
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040・松永東
○松永東君 直ちに本案の第二讀會を開き、第三讀會を省略して、委員長報告の通り可決せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=40
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041・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=41
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042・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに本案の第二讀會を開き、議案全部を議題と致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=42
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043・会議録情報6
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刑事訴訟法中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=43
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044・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 別に御發議もありませぬ、第三讀會を省略して委員長報告通り可決確定致しました(拍手)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=44
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045・松永東
○松永東君 議事日程追加の緊急動議を提出致します、即ち此の際(第一號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案、(第二號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案及び(特第一號)昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案の三案を一括議題となし、委員長の報告を求め其の審議を進められんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=45
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046・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 松永君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=46
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047・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て日程は追加せられました――(第一號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案(第二號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案、(特第一號)昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案、右三案を一括して議題と致します、豫算委員長の報告を求めます――豫算委員長中島彌團次君
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(第一號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案
(第二號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案
(特第一號)昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=47
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048・会議録情報7
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報告書
一(第一號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案
右は本院に於て可決すへきものと議決致候此段及報告候也
昭和二十年十二月十二日
豫算委員長 中島彌團次
衆議院議長島田俊雄殿
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報告書
一(第二號)昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案
右は本院に於て可決すへきものと議決致候此段及報告候也
昭和二十年十二月十二日
豫算委員長 中島彌團次
衆議院議長島田俊雄殿
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報告書
一(特第一號)昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案
右は本院に於て可決すへきものと議決致候此段及報告候也
昭和二十年十二月十二日
豫算委員長 中島彌團次
衆議院議長島田俊雄殿
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=48
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049・中島彌團次
○中島彌團次君 只今議題となりました第一號、昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案外二件に付きまして、委員會に於ける經過竝に結果を御報告申上げます
豫算委員會は去る十二月三日より審議を開始致しまして、以來會議を重ねますること、本日まで九囘に及びまして、各委員とも熱心に審議を盡されました、委員會に於きましては、現下深刻なる世相を反映致しまして、變局せる國政の各般に亙りまして、熱心なる質疑應答が繰返されたのでありまするが、今其の要綱に付きまして概略を申上げます
第一には今囘豫算委員會に付議されました豫算案は一般會計の追加豫算二件、特別會計の追加豫算一件、計三件でありまして、一般會計の追加第一號は、歳入歳出共に十八萬二千餘圓であります、一般會計の追加第二號は歳入歳出共に二億五百四十四萬圓でありまするが、之を曩に第八十六帝國議會に於きまして成立しました昭和二十年度豫算二百八十九億五千餘萬圓に合計致しますると、本年度一般會計豫算の總計は二百九十一億五千六百餘萬圓となる譯であります
次に特別會計の追加豫算は、公債金特別會計の追加でありまして、是は一般會計の追加第二號は其の財源の全部を公債金に仰ぐ爲め、之に要する公債金特別會計の歳入歳出を追加計上したものであります
委員と政府との質問應答に付きましては、先づ民主主義的政治體制の確立の問題であります、委員から民主主義的政治體制の根本は、議會中心政治にあると思ふが、如何と云ふことを政府に質問致しました所が、幣原總理大臣は、米國流に言へば人民の政治、人民に依る政治、人民の爲の政治でありまするが、英國流に言へば、國會に於ける君主の政治である、我が國では天皇統治の下、議會中心政治が行はれることを意味するとの答辯がありました、憲法改正の問題に付きましては、委員の方から憲法の改正は民主主義的に行はんければならぬと思ふが、政府の方針はどうであるか、之に對しまして松本國務大臣は、一、天皇が大權を總攬すると云ふことは改正する所の必要は認めない、二、議會の承認すると云ふ事項は擴充する必要がある、隨て大權事項は、或る程度まで制限せざるを得ない、三、國務大臣は其の責任は國務の全般に亙つて有せなければならない、殊に國務大臣の責任は帝國議會に對して責任を持たなければならぬ、議會が信任を問はれた時には、國務大臣は其の地位を保てないことは當然である、即ち間接には國民に對しまして責任を取るやうに改正せんければならぬ、從來の如く憲法が歪曲されたる事實がなくなるのでありますと、頗る明快透徹なる答辯があつたのであります、それから民權の確保保護を強化することが必要である、我が現行の憲法では是が足りませぬ、議會と關係のない法規で制限を加へ得るの餘地をなくしてしまはなければならぬ、又人民の權利自由が侵害された場合に於て救濟の方法が現行憲法では不完全だ、之を完全にしなければならぬ、斯う云ふ點に付きまして詳細に答辯があられました
次に財政問題に付きまして質問應答の結果を御紹介致します、第一が財政の見透し如何と云ふ問題であります、委員の方から財政支出となるべき諸項目の支出金額が現はれ盡した後でなければ、確乎たる財政計畫は立たないじやないか、先づ軍需會社に對する損失の賠償はどうなつて居るか、又海外企業の救濟の問題、現物賠償に對する補償金の問題、是等に關する政府の支出は大體どれ位に見積つて居るのか、恐らくは是は二千億圓以上に達するかも知れない、それだけの公債發行を要する、政府は財産税、戰時利得税を創設して、茲に假に一千億圓取つて見た所が、恐らくは千億取れるものぢやない、七、八百億しか取れぬかも知れない、之に付て藏相はどう云ふ風に御考へになつて居るのか、現在千億餘圓の公債がある、其の公債を減ずるとするも、財産税や、戰時利得税を起して、其の公債を減らすとしましても、軍需會社の損失の賠償、海外企業の救濟及び現物賠償の補償等の支出に依つて、又巨額の公債を發行せんければならぬことになる、而も財産税、戰時利得税と云ふものは非常に巨額のものであつて、たつた一囘しか取るべきものではない、屡屡之を實行することは出來ない、巨額の支出の出現の必然性があるのに、此の二大増税を行はんとする理由は何處にあるか、是等の財政の將來を見透して後に、始めて重大なる租税を課すべきものではないか、之に對しまして大藏大臣は軍需會社の損失の賠償は、公開の委員會を作つて、非常に嚴重に調査して最小限度の賠償しかやらない、尚ほ軍需會社に利益の含みがあれば財産税として取上げる、今豫定して居る金額の數字と合ふか合はぬか分らないが、兎に角も徹底的に取れるものは取つてしまふ、與へるべきものは與へる、海外企業損失賠償とか、聯合國に對する賠償金等は考慮に入れて居るが、其の金額は見當が付かない、隨て其の額も言へないし、又財産税及び戰時利得税で千億圓は取れるか取れぬか分らぬが、是は研究中である、強度の課税をすると云ふことは課税の方法如何に依つては、國民經濟の基盤を破壞する、此の點も十分考慮してやりたい、斯う云ふ答辯がありました、それから又委員から財政支出の見透しが付かぬのに、劃期的の増税をやることは無謀ぢやないか、二千億圓の公債の半分を減すも、後から後からと公債の發行が出て來るやうなことがあつたならば、此の増税をやることはをかしいぢやないか、政府はどう考へるか、大藏大臣は千億は一囘限りである、是は惡税であるが、今日の場合惡性「インフレーション」を防止し、富の偏在を矯正する、是等の點から考へまして之をやる外途はない、財政五箇年計畫を立てまして、徹底的に經費を緊縮致し、其の一方に於きましては産業を盛んに致しまして、財政の餘裕を生ぜしめ、是で賄つて行きたく考へる、唯増税をやるだけでない、一方に於ては増産もやつて行く、それで財政の辻褄を合せて行きたい、斯う云ふ答辯がありましたが、委員から又政府は新圓を發行されて、通貨の收縮を圖る御考へを持つて居るらしいが、其の現金封鎖の方法竝に新圓發行は何時やるのか、又俗に所謂平價の切下と云ふことをやるのか、之に對しまして大藏大臣は、新圓發行の準備は目下計畫中である、來年度中にはやりたい、成るべく早い機會に於てやりたい、併し新圓は等價と等價とを以て交換するのでありまして、平價切下の如きことは斷じてやらない、現金の封鎖も考へて居りまするが、此の點に付きましては、此の場合何とも發表することは出來ないと、斯う云ふ答辯でありました、更に進みまして委員の方から「インフレーション」對策に對しましては、政府はどう云ふ考へを持ち、又手段を持つて居るか、具體的に之を述べて貰ひたい、大藏大臣は之に對しまして、財政上では一般會計其の他に於きましても、相當の節約をやつて「インフレーション」を起さないやうな方針を執つて居る、又臨時軍事費に付きましても大藏省に移管する等、極力節約に努める、又金融上では「モラトリアム」は絶對やらないと云ふ所の聲明を致しまして、政府の支拂は特殊決濟制度を採つて現金の封鎖をする等、幾多財政金融的處置を執つた、斯う大藏大臣は説明されましたが、委員の方から、現内閣の「インフレーション」對策に對しましては頗る不滿足なものがある、大體「インフレーション」の責任は何處にあるか、内閣の誰が責任を執るのか、どの省かと云ふ質問がありましたが、大藏大臣は、内閣全體が其の責任を負ふのであると云ふ答辯でありました、又委員の方から藏相の説明に依りまするも、政府は「インフレ」防止に付て、財政上是ぞと言つた思ひ切つた整理節約を行つて居ない、然るに國民に對して財産税であるとか、戰時利得税であるとか云ふやうな、非常に大きな重い税を課すると云ふことはをかしい、先づ政府の方が先に財政行政の整理節約を行つて、國有財産でもあれば之を賣拂つて、丸裸になつて國民に協力を求めて來ると云ふことが當然ではないか、政府が裸にならない前に於て大増税をやると云ふことはをかしい、斯う警告を與へたのであります
更に進みまして價格差補助金の問題に付て、委員の中から是が「インフレーション」の大きな原因となつて居る、非常な巨額に上つて居る價格差補助金を、政府は此の儘存置して置くのか、又是は廢止するのか、どう云ふ考へを持つて居るかと云ふことでありまして、大藏大臣は之に對しまして、價格差補助金は財政上宜くない、是が重なり重つて「インフレ」の原因になつて居る、併し非常に急激に之を廢止することは物價に影響するので、石炭の價格差補助金の如きは直ちに打切る譯には行かない、石炭の價格が直ちに十倍にも暴騰致しまして、産業經濟は固より、國民經濟に對しましても、重大なる影響を及ぼすからして、昭和二十三年度までは据置いて、二十四年度以降に全廢したいと云ふ答辯がありました
更に委員の方より物價體系の新しき基準を何處に置くか、今日の物價状態と云ふものは恰も無政府状態である、闇が横行し、公定價格は守られず、大藏省に物價部と云ふものを設けられましたが、物價體系の新しき基準を何處に置いてやつて行くか、之に對しまして大藏大臣は、今日の物價問題は非常に心配して居るが、今は物價變動の甚しい時であつて、直ぐ是と云ふ政策を立てるよりも、多少の時日と物資の動きを見て居つて、適當に決定したいと云ふ答辯でありました、更に委員より戰爭が終る前よりも、戰爭の終つた後が臨時軍事費の支出が非常に多い、是はをかしいぢやないか、軍需會社が半製品を完製品にする等、不正の事實が行はれて居りはしないか、臨時軍事費の使ひ方に付ては國民齊しく之に疑問を持つて居る、此の場合に於きましてどう云ふやうに使はれて居るか、政府に於きましては、之を十分に國民に徹底する責任があると思ふと云ふ質問に對しまして、大藏大臣は終戰前よりも生産力は非常に低下したが爲に、臨時軍事費は割合に支出されなかつたが、戰爭後に於ては復員が實施されて、是が爲に、百三十八億圓もの大きな金が出た、又軍需會社との契約解除等の爲にも金が出た、或は一部には不正若しくは不當の支出が行はれて居つたかも知れませぬ、是等に對しましては軍の當局とも連絡を執つて十分なる修正若しくは監督をやつて居りますと云ふ答辯でありました、更に委員から臨時軍事費が打切られ、其の整理が大藏省に移管されても、それだけでは直接の臨時軍事費の整理とはならぬ、舊陸海軍工廠に於ける所の工廠會計の跡始末は一體どうなつたか、舊陸海軍に屬して居つた國有財産はどうなつたか、是は相當澤山なものがあると思ふ、之に對しまして大藏大臣は、舊陸海軍の國有財産と云ふものは、帳簿價格では六十億圓餘ある、併し是は拂下げてから役立つて生産力が伴ふやうになるには相當の長日月を要する、急に拂出す譯には行かぬ、又委員の中から政府は巨額の國有財産を持つて居るのだが、之を大規模に拂下を行ふ考へはあるかないか、之に對しまして大藏大臣は、國有財産を拂下げる方針である、昭和二十年度以降毎年度五億圓を拂下げる計畫である、尚ほ此の上とも拂下げることには努力するが、大きな工廠等は直ちに運轉出來ないので、相當の長日月を要すると云ふ答辯でありました、委員から又戰爭が終了した以上は、之に屬する經費は本費のみに限らず、豫算外契約も亦不必要である、之を如何にするか、是も打切らねばならぬぢやないか、殊に又南方開發金庫に對しましては、期限もなければ、金額の制限も付けて居ない、實に無責任極まる豫算外契約を結んで居る、此の豫算外契約は一體どうするのか、政府は重大なる負擔と責任を負はなければならぬ、是は一體どうするか、大藏大臣から、斯かる豫算外契約は打切る、併し南方開發金庫に對する豫算外契約は今の所では全く見透しが付かない、斯う云ふ答辯がありました、委員より南方開發金庫の豫算外契約の見透しが付かなくては、戰費の跡始末が付かぬぢやないかと云ふ質問がありましたが、大藏大臣は其の答辯が曖昧でありました、委員から、公債の償還に三つの方法がある、繼續的に元利を償還するのも一つの方法、二は一擧に多額の財源を得て之を償還するか、三は一切の公債を破棄してしまふ、公債破棄に關しては、大藏大臣は之を實行をしないと言はれて居るのであるが、一、二に關してどう云ふ御考へを持つて居るか、大藏大臣から、半分は財産税を以て償還し、殘りの半分は毎年償還計畫を立ててやつて行く、斯う云ふやうな御答辯がありました、財産税は物納を認めて居るのでありまするから、一擧に政府に對して株や、其の他の有價證劵を以て納めて來た時には株は暴落する、さう云ふ場合はどうするか、大藏大臣から、財産税の課税方法は極力研究中である、又株や有價證劵が下らぬやうに凡ゆる力を盡してやつて行く、斯う云ふ答辯がありました、それから又委員の方から、新しい圓を發行した後に於ては購買力は制限せられてしまふ、それから一方に於きましては、金が支拂制限をやられてしまふのでありますから、物々交換が後に氾濫をして來る、さう云ふやうな時に於ては唯新圓を發行しただけではいけない、物の裏付けをした新圓を發行する考へはないかと云ふ質問でありましたが、大藏大臣は「インフレーション」と云ふものは通貨の吸收のみでは抑へられない、一方増産を行ひまして、是で通貨と物との「バランス」を合せて行かなければならぬ、我々は眞向から「インフレーション」に取組んで、必死で鬪ふ考へで、此の方面のことは萬全を期したいと云ふ答辯でありました
其の次に經濟民主主義化の問題であります、委員の方より、經濟民主主義化の爲には營利的資本主義體制を排斥して、協同組合的經濟主義でやつて行つたらどうか、殊に生活必需品の如きは協同組合を作らし、中小工業の生産、農業の生産、消費者への配給を行はしめたらどうか、此の組織と竝行致しまして、官僚統制の組織は絶對に之を排撃すべきである、尚ほ大産業の經營に付ては資本と經營を分離せしめ、勞働者をして經營に參加せしむる所の方法を執つたらどうか、政府の答辯と致しましては、財閥の解體は廣汎なる獨占的支配組織の廢止であり、一方個個の事業は出來るだけ多くの人に參加の機會を與へたい、併し直ちに之を中小企業に分立せしむることは宜くない、物に依つては大資本で大きな仕事をやらす必要もあるが、究極に於ては協同組合的なやり方に移行することが宜いと思ふ、今直ちに之を實行することは難いと云ふ答辯でありました、其の次に委員の方より、農業會を改正致しまして、農民の生産組合を作らしめ、消費者に對しては消費組合を作らしまして、官僚的な食糧營團を廢止してはどうか、農林大臣の答辯に依りますと、協同組合の考へ方は宜いが、長い間の歴史を持つた農業會を今潰すと云ふことは宜くない、農業會を農民の手に返しさへすれば宜いぢやないか、斯う云ふ答辯がありました
食糧、肥料、石炭、其の他民需品に對しましても非常に重要なる質問應答が行はれました、委員から、國民が二合一勺では到底生きて行けない、二合一勺さへ滿足に供給はして呉れない、どうして是で生きて行けるのか、主食を何とか増配の途はないかと云ふ切實なる叫びがありましたが、之に對しまして農林大臣は、一勺増すと二百五十萬石を要する、三合配給すると二千二百萬石を要する、さうすると忽ち大穴が開いて先が行詰り、先になれば一層買出しが盛んになつて來る、聯合國へ輸入の許可を要請して居る量は、二合三勺を確保する建前である、是でも少いが、輸入があるまでの處置として二合一勺の内容を充實致しまして、副食物の出廻りを良くし、生鮮食料品等の價格の統制を撤廢し、尚ほ水産物の増産に努め、是が確保に努力する、斯う云ふ答辯でありまして、是れ以上の要求は望まれぬやうな状況でありました、更に委員より、米は生産者より買上の價格を一石百五十圓に引上げたが、盛んに横行して居る闇値を打消すことに效果はない、闇値を引下げる方法を講じなければならぬ、米の供出と云ふものは政府の期待するが如く到底行はれない、之に對する所の政府の政策はどうであるか、農林大臣は、生産を直接管理する外に横流れを防止する方法はない、此の食糧難を突破する爲にはさう云ふ無理なことも出來ない、又米價は他の物價に非常に影響を及ぼし、米價を引上げると、他の物價が直ちに暴騰し、又米價を引上げなければならぬことになつて來る、斯くの如くして一般物價の循環高を來し、其の速度は、益益甚だしくなる、故に米價を餘り高く引上げる譯に行かない、百五十圓位が適當であると思ふと云ふ答辯でありました、更に委員より、農林省のやつて居る所の供出の方法は間違つて居る、是では米が出廻りやうがない、收穫高割當の方法を廢めて地方割當を行ひ、それ以上の努力をして收穫を得た者には自由價格で販賣させれば宜いぢやないか、政府は一定の數量さへ握つて之を消費者に賣るやうになれば宜いぢやないか、外は自由販賣にさせれば、農家の生産意欲を増しまして、益益米は出て來ると思ふ、之に對しまして農林大臣は、只今では米の供出の中途である、今日其の中間に於て方針を變更することは出來ない、今米穀年度は現在の方法でやつて貰つて、其の目的を是非達したい、農民に對しては同胞愛に愬へて、所定の供出量を出して貰ひたい、供出制度の惡い所があれば明年度から之を改めたい、斯う云ふ答辯でありました、肥料に付きましては委員より、供出も大切だが、肥料も非常に大切である、肥料に對する所の對策は一體どうなつて居るか、之に對しまして農林大臣は、何分肥料工場がやられて殆ど用をなさない、來年の秋の稻作では十分でないが、來年の秋の麥からは大體平年作なみにやる豫定だ、即ち明後年中には二百萬「トン」出來るやうな豫定である、來年の秋の麥作から平年作に戻したいと云ふ答辯がありました、それから又委員より石炭の飢饉が甚だしく、此の儘置いたならば、一切の生産及び國民生活は破壞される、之に對しまして政府は勞力資材、食糧輸送等に關して萬全の處置を果敢に講じなければならぬと思ふが、其の對策如何、政府の答辯と致しましては、現内閣は組閣以來關係官廳に於て凡ゆる努力をして來たが、何分石炭飢饉の隘路と云ふものは非常に複雜多岐でありまして、效果を擧げて居ないのは遺憾である、勞力に付ては年末までに六萬人を要するが、成るべく任意の募集をしたい、巳むを得なければ徴用をやる、斯う云ふ答辯であります
其の次は俸給生活者の俸給給與及び教員、特に國民學校の教員は非常に窮乏に陷つて居る、是等の月給を引上げてやらなければならぬではないか、斯う云ふ委員の質問がありましたが、政府に於きましては、俸給生活者が非常な窮乏のどん底に陷つて居ることは能く分つて居る、官吏等に付きましては、年末に際しまして加俸に付て考慮したい、隨て一般俸給者に付きましても亦之に準じて萬遺憾なきを期したいと云ふ答辯がありました
最後に治安の維持の問題、現下の情勢は戰後の人心不安に加ふるに、食糧不安等も加はりまして、治安は將に紊れんとして居る、之に對しまして政府はどう云ふ對策を執つて居るか、殊に武力のない我が國に於きましては、現在の警察官吏に其の責任を執つて貰はなければ仕方がないが、果して是でやれるか否や、頗る國民一般が不安に驅られて居る、斯う云ふ質問に對しまして内務大臣は、聯合國に對しまして警察官の數を殖やして呉れと願つた、又武裝もせんければ、兵隊のない今日に於ては治安は維持されない、其の許可を願ひましたが、聯合國から之を拒絶された、今日の状態では少數の警官を以て治安に當る外はない、數量と武裝の足らない所を補ふ爲には警察官の質を向上しなければならぬ、是が爲には又警察官の再教育を行ひ、人格を向上せしめ、挺身職務に當る所の精神を強化し、加之警官の優遇をもして、名實共に面目を一新する考へであると云ふ答辯があられました、以上の外復員問題、在外同胞救濟の問題、失業問題其の他重要な問題に付きまして、委員と政府との間に質問がありましたが、詳細は速記録に依つて御覽を願ひたいのであります
斯くの如く致しまして委員會は本日午前質疑を終了致しまして討論に入りました、討論に於きまして進歩黨を代表致しまして眞鍋儀十君、無所屬を代表致しまして池田正之輔君、自由黨を代表しまして田中好君、社會黨を代表しまして水谷長三郎君、各各各派を代表致しまして各案とも原案に贊成の發言がありました、採決の結果各案とも何れも全會一致を以て原案の通り可決致しました、此の段御報告申上げます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=49
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050・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 採決致します、三案を一括して委員長報告の通り決するに贊成の諸君の起立を求めます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=50
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051・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立總員、仍て三案とも委員長報告の通り全會一致可決確定致しました(拍手)
是にて議事日程は議了致しました、明十三日は定刻より本會議を開きます、議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後三時三十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01219451212&spkNum=51
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