1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年十二月十五日(土曜日)
午後一時五十分開議
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議事日程 第十四號
昭和二十年十二月十五日
午後一時開議
第一 衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出、貴族院囘付)
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一、昨十四日貴族院より囘付ありたる政府提出案左の如し
衆議院議員選擧法中改正法律案
一、昨十四日貴族院に於て本院の送付に係る左の政府提出案を可決したる旨同院より通牒を受領せり
昭和十三年法律第八十四號中改正法律案(大東亞戰爭に際し召集中の者の選擧權及被選擧權等に關する件)
又同日貴族院に於て本院の送付に係る左の議案に對し承諾することを議決したる旨同院より通牒を受領せり
昭和二十年勅令第五百三十七號(衆議院議員選擧法第十二條の特例に關する件)(承諾を求むる件)
一、議員より提出せられたる議案左の如し
農業團體法中改正法律案(政府提出)に對する修正案
提出者
松野鶴平君 安藤正純君
紫安新九郎君 牧野良三君
星島二郎君 松岡俊三君
北れい吉君 藤生安太郎君
大口喜六君 木村武雄君
箸本太吉君 松山常次郎君
三木武吉君
農業團體法中改正法律案(政府提出)に對する修正案
提出者 川俣清音君
司法制度改革決議案
提出者
一宮房治郎君 今井健彦君
加藤鐐五郎君 作田高太郎君
齋藤隆夫君 田邊七六君
高橋守平君 東郷實君
中井川浩君 八角三郎君
愛野時一郎君 猪野毛利榮君
小山倉之助君 金井正夫君
窪井義道君 久山知之君
小平權一君 小高長三郎君
小山邦太郎君 豐田收君
濱野徹太郎君 松永東君
松村光三君 前田房之助君
肥料増産に關する決議案
提出者
一宮房治郎君 今井健彦君
加藤鐐五郎君 作田高太郎君
齋藤隆夫君 田邊七六君
高橋守平君 東郷實君
中井川浩君 八角三郎君
愛野時一郎君 猪野毛利榮君
小山倉之助君 金井正夫君
窪井義道君 久山知之君
小平權一君 小高長三郎君
小山邦太郎君 豐田收君
濱野徹太郎君 松永東君
松村光三君 前田房之助君
國内産大豆増産に關する建議案
提出者
河盛安之助君 保利茂君
一、議員より提出せられたる質問主意書左の如し
文化政策に關する質問主意書
提出者 阿子島俊治君
(以上十二月十四日提出)
一、昨十四日幣原内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
農林書記官 安孫子藤吉
第八十九囘帝國議會農林省所管事務政府委員被仰付
文部省科學教育局長 山崎匡輔
第八十九囘帝國議會文部省所管事務政府委員被仰付
一、昨十四日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を左の通變更せり
八五 島根縣第二區選出議員
四五一 渡邊泰邦君
一、昨十四日に於ける特別委員の異動左の如し
昭和二十年勅令第五百四十二號(「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件)(承諾を求むる件)(貴族院送付)委員
辭任石田善佐君 補闕信正義雄君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=0
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001・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 是より會議を開きます、議員江藤源九郎君より辭表が提出されて居ります、之に付き御諮り致したいと思ひます、先づ其の辭表を朗讃致させます
〔書記官朗讀〕
辭職屆
私儀
敗戰の責任に對し衆議院議員一致の行動を採り度努力致候も遂に其の目的を達し得ず候に付茲に衆議院議員を辭任致度此の段奉願候也
昭和二十年十二月十五日
衆議院議員 江藤源九郎
衆議院譏長島田俊雄殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=1
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002・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 採決致します、江藤源九郎君の辭職を許可するに御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=2
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003・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て許可するに決しました
日程第一、衆議院議員選擧法中改正法律案、貴族院囘付案を議題と致します、討論の通告があります、之を許します――金井正夫君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=3
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004・会議録情報2
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第一 衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出、貴族院囘付)
衆議院議員選擧法中改正法律案
衆議院議員選擧法中改正法律案中貴族院囘付の箇所左の如し
第二十七條第一項を左の如く改む
選擧人は投票所に於て左の區分に從ひ投票用紙に自ら議員候補者○の氏名を記載して投函すべし
一 選擧すべき議員の○數十人以下の選擧區に於ては二人以内
二 選擧すべき議員の數十一人以上の選擧區に於ては三人以内
第五十二條 左に掲ぐる投票は之を無效とす
一 成規の用紙を用ひざるもの
二 議員候補者に非ざる者の氏名を記載したるもの
三 議員候補者の氏名の外他事を記載したるもの但し官位、職業、身分、住居又は敬稱の類を記入したるものは此の限に在らず
○左に掲ぐる氏名の記載は之を無效とす
一 ○選擧すべき議員の數を超え記載したる末尾の氏名
二 被選擧權なき議員候補者の氏名
三 自書せざる議員候補者の氏名
四 議員候補者の何人を記載したるかを確認し難き氏名
五 衆議院議員の職に在る者の氏名
前項第五號の規定は第七十五條又は第七十九條の規定に依る選擧の場合に限り之を適用す
第五十二條の二 投票に同一議員候補者の氏名の二以上の記載あるときは之を一の記載と看做す
附 則
本法は次の總選擧より之を施行す
陸海軍軍人にして現役中のもの及召集中のものの選擧權及被選擧權に付ては仍從前の規定に依る
本法に依り初て議員を選擧する場合に於て衆議院議員選擧法第十八條の規定に依り難きときは勅命を以て別に總選擧の期日を定むることを得
前項の規定に依る總選擧に必要なる選擧人名簿に關しては勅令を以て特別の規定を設くることを得但し其の選擧人名簿は次の選擧人名簿確定迄其の效力を有す
戸籍法の適用を受けざる者の選擧權及被選擧權は當分の内之を停止す
前項の者は選舉人名簿に登録せらるることを得ず
昭和二十年十二月二十日以後昭和二十一年十二月十九日迄の間に行はるる選擧に關しては選擧人名簿に登録せらるることを得ざる者選擧人名簿に誤載せられ投票を爲すも之を理由として衆議院議員選擧法第八十一條又は第八十三條の規定に依る訴訟を提起することを得ず
衆議院議員選舉法第百四十條第一項の規定は次の總選擧に限り之を適用せず
沖繩縣、北海道廳根室支廳管内國後郡、沙那郡、擇捉郡、蘂取郡及色丹郡竝に花咲郡齒舞村水昌島、勇留島、志發島、多樂島及秋勇留島竝に海上交通杜絶其の他特別の事情ある地域にして勅令を以て指定するものに於ては勅令を以て定むる迄は選擧は之を行はず
前項に掲ぐる地域に於て初て行ふ選擧に關し選擧の方法其の他必要なる事項は勅令を以て之を定む発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=4
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005・金井正夫
○金井正夫君 只今議題となりました貴族院囘付案は、曩の本院議決の趣旨に反するものではないと信じます、仍て私は本院を代表して貴族院の修正に同意の意思を表明致します
〔「贊成々々」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=5
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006・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 採決致します、本案の貴族院の修正に同意の諸君の起立を求めます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=6
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007・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立總員、仍て全會一致貴族院の修正に同意するに決しました
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008・長野高一
○長野高一君 議事日程追加の緊急動議を提出致します、即ち此の際、政府提出農地調整法中改正法律案を議題となし、委員長の報告を求め其の審議を進められんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=8
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009・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 長野君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=9
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010・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て日程は追加せられました、農地調整法中改正法律案の第一讀會の續を開きます、委員長の報告を求めます――委員長村上國吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=10
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011・会議録情報3
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農地調整法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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報告書
一農地調整法中改正法律案(政府提出)
右は本院に於て別紙の通修正すへきものと議決致候此段及報告候也
昭和二十年十二月十五日
委員長 村上國吉
衆議院議長島田俊雄殿
〔別紙〕
農地調整法中改正法律案中左の通修正す
第九條の二 小作料は金錢以外の物を以て又は金錢以外の物を基準として之を契約し、支拂ひ又は受領することを得ず
前項の規定に違反する契約に付ては命令の定むる所に依り金錢に換算せられたる小作料の額又は減免條件(金錢に換算せられたるものが第九條の三各號に掲ぐる小作料の額又は減免條件に比し農地の賃借人又は永小作權者に不利なる場合に在りては同絛各號に掲ぐる小作料の額及減免條件)を以て契約を爲したるものと看做す
第十五條の二 市町村農地委員會は會長及委員十五人を以て之を組織す
會長は委員に於て互選し其の選に當りたる者を以て之に充つ
委員は○左の各號の區分に從ひ各號の一に該當し被選擧權を有する者に就き當該各號に該當し選擧權を有する者之を選擧す
一 農地の所有者にして當該市町村の區域内に於て所有する農地に付耕作の業を營まざるもの又は當該市町村の區域内に於て所有する農地の面積が其の區域内に於て耕作の業を營む農地の面積の二倍を超ゆるもの
二 耕作の業を營む者にして當該市町村の區域内に於て農地を所有せざるもの又は當該市町村の區域内に於て耕作の業を營む農地の面積が其の區域内に於て所有する農地の面積の二倍を超ゆるもの
三 當該市町村の區域内に於て農地を所有し且耕作の業を營む者にして前二號に該當せざるもの
前項各號の規定に依り選擧せらるべき委員の定數は各五人とす
委員は名譽職とす
第十五條の八 委員に當選したる者は正當の事由なくして之を辭することを得
第十五條の九 委員の任期は選擧期日の屬する月より一年とす
補闕委員は其の前任者の殘任期間在任す
委員は其の任期滿了したるときと雖も後任の委員就任する迄仍其の職務を行ふ
第十五條の十 ○委員被選擧權を有せざるに至りたるとき又は其の屬したる第十五條の二第三項の區分に屬せざるに至りたるときは其の職を失ふ
第十五條の十四 都道府縣農地委員會は會長及委員を以て之を組織す
會長は地方長官を以て之に充つ
委員は左に掲ぐる者を以て之に充つ
一 郡(北海道に在りては支廳長の管轄區域)毎に町村農地委員會の會長たる者の中より一人を互選し其の選に當りたる者
二 市農地委員會の會長たる者の中より一人を互選し其の選に當りたる者(市農地委員會一なる場合に於ては其の市農地委員會の會長たる者)
三 學識經驗ある者の中より主務大臣の選任したる者 五人乃至十人
〔村上國吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=11
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012・村上國吉
○村上國吉君 只今上程されました農地調整法中改正法律案委員會の經過竝に其の結果を御報告致します
先ず順序と致しまして此の改正案の主要なる内容に付て極く簡單に概略の御説明を致します、即ち其の第四條乃至第四條の十二は自作農創設竝に未墾地の開發を圖る爲に、市町村農業會、市町村農地委員會の申請に依つて、都道府縣農地委員會が土地の譲渡の裁定をなし、協議成立と同樣の法律上の效果を生ぜしめる規定であります、第五條及び第六條は農地の潰廢、移動を統制する爲め、農地の所有權、賃借權等の設定又は移轉は自作農創設維持の事業に依り是等の權利を取得する場合等の例外を除いて、地方長官又は市町村長の認可を受けねば無效と致す規定であります、第六條の二乃至第六條の四は農地の價格の統制に關する規定でありまして、農地の價格は自作者收益價格を基準として田は賃貸價格の四十倍、畑は四十八倍を以て統制致す訳であります、第九條の二乃至第九條の七は小作料の金納化及び其の統制に關する規定でありまして、物納及び代金納小作料は認めず、現存の物納小作料は一定の換算基準、即ち米ならば一石五十五圓で金納に換算すると共に、其の引上げを禁止致す訳であります、又第十五條乃至第十五條の十八は、市町村農地委員會及び都道府縣農地委員會に關する規定であります、此の兩委員會とも現行農地調整法に規定せる所でありまして、委員は總て官選でありますが、改正案に依りますと、市町村農地委員會の委員は、地主、小作、自作農の階層別に各各五名づつを選擧し、會長は委員の互選に依つて定めることになつて居りまするし、都道府縣農地委員會の會長は地方長官であり、委員は市町村農地委員會の會長の互選に依るものの外、學識經驗者より農林大臣が任命することとなつて居りまして、此の兩委員會をして農地に關する諸般の問題の解決に當らしむる譯であります、此の法案は之を大きく申せば、土地制度に關する戰後日本民主主義の進まんとする方向を、廣く世界環視の舞臺に示さんとするものであります、而して此の改正に關して政府の意圖する所は、第一次世界大戰の後「ヨーロッパ」諸國に土地制度の著しく變革せられたる事實にも鑑み、此の制度を基調として食糧其の他の農産物の増産を圖り、敗戦に依つて國土の縮小されたる我が國の民生を安定すると共に、國本を培養し、戰後の農業者、農業及び農村の地位竝に經濟の安固を期し、以て新日本建設の礎石たらしめんとするものでありまして、敗戰日本に取り極めて重要且つ重大なる意義を持つ法案でありまするが故に、委員會は終始最も愼重に又熱心に其の審議を盡したのでありまして、委員會は本月八日より十三日まで六日間に亙り連日開會、質疑者も二十數名の多きに達したのであります
右委員會に於て審議されたる問題の中、主要なりと認むるものを御紹介致しますれば、此の法案と憲法の關係でありまして、過日本會議に於て自由黨の紫安君より論ぜられたる土地の所有權を此の法律に依つて強制的に拘束することは、憲法に抵觸するのではないかとの御質疑があつたのでありまするが、委員會に於ては其の意味の質疑はなかつたのであります、即ち委員會は本會議に於ける此の問題に對する政府の答辯を以て、憲法に抵觸せずとの意を十分に諒解したものと存じます、次に政府が此の法案を此の臨時議會に提出するに至つたことは、何處からか此の提出を餘儀なくされた爲めではないかとの意昧の質問は數囘展開されたのでありますが、政府は決してさうではなく、全く政府獨自の見解を以て急速なる其の制度改正の必要を認めて提出したるものであるとの答辧でありました、而して委員會の審議の半ばに至り聯合國總司令部から農地制度に關する指令があつたとの報告に接しましたが、委員會としては政府が其の指令に基いて此の問題に關し、其の態度又は方針に變化を來さざる限り委員會の當初來の態度又は其の審議方針を變更すべきものではないとの見解を執つて進んだのであります、是は委員會が右總司令部からの指令があつた爲に其の態度に變更を來したのではないかとの疑問を生ずることがあつては甚だ遺憾でありますから、特に此の次第を報告致して置くのであります、以上二點を先づ明かに致しまして是より法案の内容實質に關し重要と認むる諸點を申上げます
其の第一は小作料の金納化問題であります、我が國の小作料は、畑作物に付きましては、或る程度金納契約のものもありまするが、田は殆ど例外なくと申しても宜しい程其の契約は物納であります、是等田畑の小作料を此の法令一本で一擧に金納制に改めんとするのが、此の法案第九條の二の規定であります、金納制の是非に付きましては、委員會に於ては必ずしも意見一致しては居なかつたのであります、政府の見解と致しましては、貨幣經濟の今日に於ては、物納小作料では物價の變動等に伴ひ、地主、小作者共に之に煩はさるることが多く、農業の經營、農業者の經濟の安定を缺くが故に、明治の初期、地租條例を公布して、土地に關する貢税を悉く金納に改めたるが如くに、農地に關する小作料を金納化せんとするにありと解せられます、又此の問題に關し、之に依つて封建的な因襲の存在を匡さんとするにあるのであらうとの見方もありましたが、農林大臣は封建と云ふ言葉を用ゆることを避けて居られますけれども、其の考へ方の底流にはさうした部分も相當にあるのであらうと、是は私が推量致したのであります、此の問題は我が國多年の傳統を一擧にして改革せんとするのでありますから、既に今日相當程度金納化して居るものありとは申しながら、其の關係する所極めて深刻なる感じを起し易く、又物を金に換ゆる基準價格の取り方如何に依りましては、地主及び小作人に及ぼす影響も少くありませぬ、更に將來に於ける經濟及び物價の變動如何に係はりなく、永年に亙つて其の料金を釘付にすることは不當なりとの意見もあり、或は現在の通りに物納小作料主義を是とする主張もありまして、要するに此の問題に關する委員會の空氣は贊否兩論と云ふ、状態でありましたが、極めて重大な問題でありますから、固より斯くの如きは當然のことであると思ひます、又金納制にすれば其の結果は米の供出が減るとの意見が可なり強く主張されましたが、此の點に關する政府の見解は反對であつたことを特に御披露申上げます、殊に小作料の總てを金納にする結果と致しまして、耕作をなさず、又は行ひ得ざる地主は折角農地を持ちながら、忽ち自家の食糧にも困ると云ふ事實を招來し、農村に種々の波紋を惹起し、小作者にも影響を及ぼすと云ふ事實は現に眼前に展開して居りますので、委員會に於ける之に關する論議は熾烈を極めたのであります、而して其の結果は遂に法案第九條の二に委員會としては修正を加へるに至つたのであります
問題の第二點は自作化せんとする農地の讓渡價格の問題であります、此の讓渡價格の限度は法律の面に於きましては、第六條の二に於て其の農地の賃貸價格に主務大臣の定むる率を乘じて算出せる額と云ふことを建前に致して居るのでありますが、其の主務大臣の定むる率なるものは、之を田に付て申せば自作農として經營が成立ち得る價格の、土地の賃貸價格に對する割合と云ふことになるのでありまして、此の計算法に依り算出したる率は政府の計算に依りますれば田にありては、賃貸價格の四十倍、畑にありては四十八倍であり、價格は報奬金を加へれば中庸の田一反歩が九百七十八圓餘、畑一反歩が五百七十七圓餘になると云ふことであります、右の價格算出方法は委員會に於ては格別意見はなかつたのでありますが、率の算出に適用する所謂基準小作料なるものに妥當ならざるものがあり、又小作料現物の時價に相當意見があつたのであります、即ち基準小作料でなく現實の實收小作料に依るべきものであり、又所謂時價なるものを採擇するに當つて更に適正なる考慮を拂ふべきものなりとする見地から、農林大臣が之を決定するに當りましては、最も愼重であるべきことを希望致したのであります
問題の第三は平たく申せば在村地主の保有し得る農地の最大面積の保有問題であります、即ち法案に於て都道府縣農地委員會が其の農地の讓渡をなすべき旨の裁定をなすべからずと拒否して居る農地の面積の問題であります、其の面積の限度は本案に於ては勅令を以て定むる面積と云ふことに致して居るのでありますが、其の説明に依れば全國平均五町歩までを認めると云ふのでありますから、都道府縣に依れば五町歩以上の所もあれば、又以下の府縣もあることになるのであります、此の問題は全國の農地所有者中最も多數に存在する中小地主の財産的觀念に重大なる關係があり、又適正規模農家の造成と云ふことにも觀念的に關聯する問題でありまして、委員會に於ては極めて多くの意見があつたのであります、尤も其の意見は五町歩では少くないと云ふ立場からの主張ではなくして、平均五町歩の其の平均と云ふ點が問題となつたのでありまして、結局之に關する勅令を定むるに當つて、先づ農地審議會に諮問し、何れの府縣と雖も四町歩近くを下らないやうにするとの言明であつたが、もう一つ明確に申しますれば、委員から指摘せる三町八反歩を下ることなきやうになるとの考をも含めて政府の右言明を以て終結致した次第であります、又之に關聯致しまして、不在地主の所有農地は此の制限のないものと雖も、強制買收の對象になると云ふ點に於て問題がありました、即ち學校の教員、官吏其の他公務に從事する者達が其の市町村に不在なるが爲に農地の所有から離れざるを得ざる場合をどうするかと云ふ問題でありますが、是は法案第四條の四の五號の適用を受けるものには問題はありませぬが、然らざるものに付ては政府に於て最も適當なる處置を講ずると云ふことであつたのであります
次に問題の第四は、右の農地保有面積と關聯を持つ問題でありますが、個人が開墾又は干拓事業を行つて農地を造成する場合、其の面積の制限をも五町歩と限定することは不可なりとする意見でありましたが、政府は既墾地の場合と同じく事業者が自作する場合には何程廣くとも宜しい、又其の農地が廣い場合には、初めの間はどうしても其の小作を認むると云ふことでなくてはならないのであるけれども、之を自作地化して小作農地の再發生を防止すると云ふことに致さなければならない、斯うした見地から致しまして、之に付ては政府が適當なる措置を講ぜられることに相成るのであります
又問題の第五は、市町村農地委員會の構成の問題でありまして、此の法案に依れば市町村農地委員會は地主、小作及び自作より各各五名の委員を投票に依つて選擧すると云ふのでありますが、それでは農地委員會の決定に公正を缺くではないかとの見地から種々の意見があつたのであります、即ち此の問題は最終の委員會に於て修正を加へることに相成つたのであります
更に申上げて置きたいと思ひますことは、今日政府が財産税を新設すると云ふのでありますが、其の財産税は自作農地として授受された土地に對する所の課税の點であります、之に付きましては自作農地として讓受けたものに付ては委員會に於ては問題にならなかつたのであるが、自作農地として讓り渡したものに對する所の財産税の關係に付きましては、其の爲に自作農の創設の上に支障を來すが如きことがあつては相成らないと云ふ特殊の見地から致しまして、所謂地主價格等各般の事情を斟酌して斯くの加きことにならないやうに十分考慮して努力致さうと云ふ意味の答辮が大藏大臣より致されたのであります
以上の外に第七條の二、第十七條の四などに付ても意見がありましたが、此の場合一言御報告致して置きたいと存ずることは、適正規模農家造成の問題であります、適正規模農家の造成は農業經營上頗る望ましいことであることは申すまでもありませぬ、政府の此の法案に依つて農地の再分配を意圖せる中には其の意味も含まれて居ると見るべきでありますが、斯くする爲にはそれに相當するだけの農地の面積がなくてはなりませぬ、政府の計畫に依る百五十五萬町歩の開墾と、十萬町歩の干拓事業が成功するとしても、全国の農業經營を適正規模のものに致す爲には尚ほ夥しき農地の不足を見る訳でありまして、全國的に適正規模の農家を造ると云ふことは實現不可能に歸するのであります、此の點に關する委員會での質問に對する政府の答辯は其の事實を肯定致して居りますが、結局政府の言ふ所の適正規模農家造成の獎勵と云ふことは出來るだけさうした方向に導いて行くと云ふことに相成るものであつたと云ふことを此の議會に申上げて置く次第であります、右の外諸々の觀點から食糧の供出問題其の他諸般の農政問題に亙つて有益なる質疑應答が繰返されましたが、一々御報告申上げる暇を持ちませぬから、それ等は何卒速記録に付て御精覽下さるやうに御願ひ致し、此處ではそれを省略することに致します
斯くて委員會の質疑を終了致しましたが、本日の委員會に於きまして若干の總括的質問などがあつたのであります、之を以て其の質疑を完了致し、直ちに討論に入つたのであります、討論に入りますと、日本進歩黨よりは森肇君、日本自由黨よりは池本甚四郎君、日本社會黨よりは杉山元治郎君、此の三君からそれぞれ修正意見の提出があつたのであります、此の修正意見の内容は暫く後に致しまして、採決の結果を先に申しますと、日本社會黨の修正意見は少數で否決になり、日本自由黨よりの修正意見も亦少數で否決になりまして、森君より提出せられましたる日本進歩黨の修正が多數を以て可決になつたのであります、其の修正の内容を此處で申上げます
第九條の二に但書を加へ「但し小作料債務が辨濟期に在るとき債務者が債權者の承諾を以て其の支拂に代へて他の給付を爲す場合は此の限に在らず」此の但書を入れるのであります、又第十五條の二に「市町村農地委員會は會長及委員十八人を以て之を組織す」と云ふことに修正するのであります、さうして委員は、原案に依れば「左の各號の區分に從ひ各號の一に該當し被選擧權を有する者に就き當該各號に該當し選擧權を有する者之を選擧す」とありますのを「委員は當該市町村の區域内に於て住所を有する者にして徳望經驗あるものの中より地方長官の選任したる者三人及左の各號の區分に從ひ各號の一に該當し被選擧權を有する者に就き當該各號に該當し選舉權を有する者の選擧したる者十五人を以て之に充つ」と云ふことに修正せんとするのであります、又第十五條の八「委員に當選したる者は正當の事由なくして之を辭することを得ず」とありますのを、「委員は正當の事由なくして其の職を辭することを得ず」と修正するのであります、又第十五條の九「委員の任期は選擧期日の屬する月より一年とす」とありますのを「委員の任期は一年とす但し十五條の二第三項の規定に依り地方長官の選任したる委員に在りては特別の事由あるときは任期中と雖も之を解任することを妨げず」と修正するのであります、第十五條の十「委員被選擧權を有せざるに至りたるとき又は其の屬したる第十五條の二第三項」云々とありますのを「第十五條の二第三項の規定に依り選擧せられたる委員被選擧權を有せざるに至りたるとき」云々と修正をせんとするのであります、次に第十五條の十四の第三項に於きまして「郡(北海道に在りては支廳長の管轄區域)毎に町村農地委員會の會長たる者の中より一人を互選し其の選に當りたる者」とあるのでありますが、更に「(郡の區域内に町村農地委員會一なる場合に於ては其の町村農地委員會の會長たる者)」と云ふ字句を加へることに修正せんとするのであります
討論に入りまして、無所屬倶樂部の吉田賢一君より發言がありましたが、それを以て討論は終結を致しました、そこで愈愈採決を致したのでありまするが、日本社會黨の修正意見及び日本自由黨の修正意見は各各少數を以て否決になりました、森君より提出せられましたる日本進歩黨の修正意見は多數を以て可決に相成つたのであります、そこで此の修正部分を除きたる他の部分、即ち政府の原案に付て最後に採決を致したのでありますが、是は全會一致を以て可決されたのであります、尚ほ日本社會黨及び日本自由黨から各各附帶決議を提出されたのでありますが、是は何れも少數を以て否決に相成つたのであります、斯くの如くにして委員會の意見は决定を致した次第であります、何卒委員會の決定に對して御贊成あらんことを希望致しまして、委員長の報告を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=12
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013・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 本案に對しては山口喜久一郎君及び杉山元治郎君よりそれぞれ成規に依り修正案が提出されて居ります、討論は便宜上第二讀會に於て修正案の趣旨辯明を聽きたる上之をなすことと致します、本案の第二讀會を開くに御異義ありませぬか
〔「異義なしと」呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=13
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014・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て本案の第二讀會を開くに決しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=14
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015・長野高一
○長野高一君 直ちに本案の第二讀會を開かれんことを望みます
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=15
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016・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 長野君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=16
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017・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに本案の第二讀會を開き、議案全部を議題と致します、此の際順次修正案の趣旨辮明を許します――山口喜久一郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=17
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018・会議録情報4
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農地調整法中改正法律案 第二讀會
農地調整法中改正法律案に對する修正案(山口喜久一郎君提出)
農地調整法中改正法律案中左の通修正す
第四條の四第五號の次に左の一號を加へ第六號を第七號に改む
六 新に開墾する農地
第九條の二 小作料は金錢若は金錢以外の物を以て又は金錢若は金錢以外の物を基準として之を契約し、支拂ひ又は受領することを得
前項の場合に於ける當事者間の協議調はざるときは市町村農地委員會之を決定す
第十五篠の十四第三項第一號中「郡」の下に「若は之に準ずべき區域」を加ふ
第十七條の四中「第九條の二第一項」を削る
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農地調整法中改正法律案に對する修正案(杉山元治郎君提出)
農地調整法中改正法律案中左の通修正す
第六條第三號を削り第四號を第三號に改め以下順次繰上く
〔山口喜久一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=18
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019・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 只今上程の農地調整法中改正法律案に對し、日本自由黨の修正案及び附帶決議に付き其の趣旨の辯明を致します
先づ修正案及び附帶決議の案文を朗讀致します、修正案「第四條の四の六を新たに開墾する農地と改め六を七に移項す」是は新たに開墾さるる土地に對し、其の所有を認め、農民の開墾意欲を昂揚して、倉糧増産に寄與せんとする案であります、第九條の全部を削除致しまして、第九條の二を「小作料は金錢若は金錢以外の物を以て又は金錢若は金錢以外の物を基準として之を契約し、支拂ひ又は受領する事を得」と改めます、本法案では金納以外を認めない建前になつて居りまするが、舊來の習慣や、地方の事情に依つて物納制をも併用すると云ふのが此の改正の狙ひであります、而して其の附則と致しまして「前項の場合に於て當事者間の協議調はざるときは市町村農地委員會之れを決定す」斯う附加へます、從來の行き方から致しますれば、之を命令すとか或は之を罰すとか云ふのでありますが、そんな官僚的な鹿爪らしさを取除きまして、民主主義的に改めたやうな次第であります、第十五條第三項の一の「郡」の次に「若は之れに準ずべき區域」と插入すること、右は法の不備を補ふ點であります
次に附帶決議を朗讀します
本法施行に依り創設せられたる自作農家の負擔を輕減し之を維持する爲め第六條の二に規定する農地價格に關し主務大臣の定むる率、田四十倍を三十五倍に、畑四十八倍を四十三倍に改め地主採算價格と前掲價格との差額は之の國庫に於て増額負擔する事
以上であります
徳川三百年は勿論、明治、大正、昭和と久しきに亙つて、日本農民程虐げられたものはございませぬ、特に支那事變以來、大東亞戰爭へと我が日本農民は其の強健なる多數の子弟を軍隊に驅り出されても、一言の不平もなく、銃後生産に血みどろに活躍したのであります、さうして加ふるに徳川時代の惡代官のやうな權柄づくな木つ葉役人共が警察官と一緒に、天皇陛下の御命令であるぞと言つてまで威嚇されて、米を供出させられたのでありました、私は世の中に日本の農民程從順なものはなかつたと思ひます、都會の人から見ますれば、百姓は腹一ぱい飯でも食つて居るやうに御覽になる方もありませう、併し百姓は主食物、特に白米の量に於て決して都會の人より餘計食つては居ないのであります、況や小作農民階層の生活水準に至つては、私が此處で今更御披露する必要はないと思ひます、是等貧窮な日本の農民の爲に、戰爭中は事毎に生産を阻碍するやうな法案を拵へて、農民の生産意欲を萎縮せしめた農林省が、縱し「マッカーサー」司令部の指令に依るとは言へ、今般會期の短い所の此の臨時議會に、是は又我が國産業の一大革命とも云ふべき農地調整法の一大改革を企圖されましたと云ふことは、其の勇斷に對しましては心から敬意を表せざるを得ませぬ、全く選擧法改正どころか、此の改正法律案こそは農政の無血革命であると私は信じて居ります、正に是れ我が國農業の「ターニング・ポイント」である、是で私の憂慮した佐倉宗五郎も出ないで濟むことになつたと喜んで居るやうな次第であります、都會では能く此の頃暴動々々と云ふことを聞くのでありますが、私はさう云ふ暴動は一つも怖くないと思ふ、若し此處らで暴動でも起きたら、ものの百人か、二百人も寄つたら、進駐軍の「トラック」か「ジープ」に轢き殺されるのが關の山であらうと思ふ、先日も縣の馘になつた特高課長が、山口さん大變な世の中になつた、暴動ものですよと言ふ、(「止せ止せ」と呼び、其の他發言する者あり)なに…何の暴動だい、思想が惡いから惡化しました、何の思想が惡いか、君等が馘になつたり、在りし日の軍閥や官僚の不平不滿が昂じて暴動が起るぞと云ふのかいと、私は反問した、そんな暴動であれば、太平洋で清算されてしまつて居る、萬一是等の人人が煽動する暴動が起きたとしても、其の暴動の狙ひ所は、日頃の鬱憤を晴らす爲に縣廳に行くか、食糧營團に行くのが私は關の山であらうと思ふ、其の結果は曾て在りし日の「フィリピン」の二の舞になるだけであつて、縱し萬一起つたとしも、そんな「インテリ」暴動なんてあり得る筈はない、先年の米騷動のやうに、富山縣の井戸端會議の悲痛な叫びが暴動になる、勞働者や農民の已むに已まれぬ不平不滿が昂じて、斯うした時に危險である、此の意味に於て今般政府提出の勞働法案や、農地法案は私は一種の暴動防止法案であるとさへ思つて居るやうな次第であります、此の農地法案を勇敢に提出されまして、農林當局の空氣が終戰前の農林省とは全く別人の感があるのは、何か新しい血液が注入されたやうな氣がして喜ばしい次第であります、結局政治は人であると私は思つて居ります、同じ煎じ藥に何遍湯を差替へても、煎じ藥は濃くはならぬ、結局舊態依然たる頭の主、退嬰固陋な役人はびしびしと頭を刎ね、我が國農政改革の爲にすつかり人の入替をやつて戴きたいと私は農林大臣に御願ひしたい、是に於きまして我が黨と致しましては、自作農創設は既に政策にも掲げられてありますので、全面的に贊意を表したいのでありますが、畫龍點晴と申しますか、折角の農林黨局の御苦心にも拘りせまず、肝腎な所で何か蜜柑箱の釘が一本拔けて居るやうな気がするのであります、即ち本法案の施行に對する農林黨局の御説明に依りますれば、政府原案の第六條の二に於ける主務大臣の定むる率とは、畑に於て地租法に依る賃貸價格の四十倍となつて居ります、田に於ては四十八倍と定められて居りまするが、此の率を以て致しますれば、田畑の一反歩平均が九百八十圓となり、之に對し政府より反當り百九十圓の報獎をなすことに定められて居りまするが、之を本法の施行に依り、買上げられたる總面積百五十萬町歩として、政府の支出される金は二十八億五千萬圓になると思ひます、我が黨の河野委員が委員會に於て力説しました通り、世界的に主要食糧品が若し平年化された場合、即ち講和條約が締結されたる場合、或は其の日を待つまでもなく、日本農業が戰爭に依り歪曲されたる鎖國的な、自給自足體制から解放されることに至りますれば、松村農林大臣も委員會に於て御説明になつた通り、曾て英國が關税廢止に依つて英國農業が、非常に困窮したと仰しやつたのでありますが、斯くの如きことを彼此れ考へ來りますならば、日本農業の前途は、今日を以て明日を律することは出來ないのであります、極めて危險であると言はなければならぬのであります、此の故に我が黨に於きましては、日本小作農民が「マッカーサー」司令部の指令にもあるが如く、再び今日の水呑百姓に轉落することのなきやうに、日本農民の行くべき農業形態を思ひ合はせまして、一面には本法の實行を、即ち自作農創設と云ふ劃期的な大事業が速かに、又「スムース」に運ぶやう、小作農民の讓り受價格に對する政府報奬金を附帶決議に於て小作農民の負擔を輕減する爲に賃貸價格の倍率を變更致しまして、政府報奬金を田畑平均約百圓の増加追加せんとするのであります、此の反當り百圓、即ち百五十萬町歩に對し國庫より小作農民の爲に合計十五億圓支出せよと云ふのでありまするが、此の十五億圓の報奬金の増額は一見厖大な感も致しますが、我が國の國債が支那事變以來百五億から敗戰に注ぎ込まれた量が千二百三十三億圓となり、或は又國家財政が昭和十二年度の五十五億圓から昭和二十年度の臨時軍事費を含めて千三十八億圓となり、日本銀行劵が十四億圓より四百五十億圓に激増されたことに比較すれば、正に是れ九牛の一毛である、其の間に餘り上つても下つても居りはしないのは、我々議員の歳費位なものだらうと思ふ、斯くて日本農民が永き桎梏から解放されて、此の大變革の下に新たなる輝ける生活過程に入る爲の十五億圓は、それ程大きな「プレゼント」ではないと思ふ、否寧ろ若し本筋から申せば、斯くの如きことは、此の際全額國庫から負擔する位の勇斷を以て、此の農地調整法の改革をしなければならぬとさへ私は思つて居る次第であります(拍手)我々議會側としては、此の時此の際こそ大乘的見地から日本小作農民、否日本農業再建の見地からも我々の主張は、妥當であると信じて居る次第であります、之に對する政府の御考へも一應承りたいのであります(「何を言つてるんだ」と呼ぶ者あり)段々質問をやるんだ、東條の殘黨默つてろ――委員會及び本會議に於ける松村農相の應答の模樣を一見致しまするのに、中々松村さんは弱さうに見えるが、さうぢやない鐵の棒に羊羹を卷いたやうな人だと私は拜見した、此の人に終戰以後の再建農政を託するには十分だと私は拜見致しました、「音頭取る人橋から落ちた、橋の下でも太鼓叩く」と言ふが、ともすれば戰爭前に其の無爲無策を嗤はれた農林省であるが、うんと松村さんに依つて泥塗れになつて、橋の下で太鼓を叩いて貰ひたいと思ふ、何と云つても政黨出身の大臣でなくてはぴんと來ない、役人出身では線香みたやうなもので、横から一寸突けばぽきんと折れる、役人が官界を游ぐと言へば、大概そこらの鯉か鮒か、せめては鮎が激流に遡るか、或は立身榮達の爲に鯉が瀧に上る位のことしか考へて居らぬ、私は松村さんの態度を考へて、是は蘭鑄が金魚鉢でぢつとして居るやうな靜けさと、醍醐味を持つて居ると思ふ、是からの日本は此の逆境に育つた英雄でなければならぬと思ふ、此の故にこそ我が黨の鳩山總裁が、靜かに輕井澤で隱忍したあの辛抱が、日本再建の礎になるのである、澁澤さんが何處かの總裁か、副總裁に擔ぎ上げられて居るさうであるが、是は洵に御氣の毒な話である、澁澤さんたる者、澁澤榮一翁の遺訓でも、もう一遍讀み直したら宜いと思ふ、是からの日本は波風が荒い、紀の國屋文左衞門のあの意氣を必要とするのである、船縁に疵を付けて劍を探したり、舊株を占して狡兎を待つて何になるか、斯う云ふ人々は時勢の荒波に浚はれてしまふのである、私は此の意味に於て日本共産黨の將來なども決して甘く見てはいかんと思ふ、眞に強き者が榮え、弱き者が亡びるのは當り前のことである、國民の嚴正な批判の下に亡びて行くに違ひない、盛者必滅會者定離である、もうそろそろ議會も解散になるだらう、總選擧になるだらうと言うて…発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=19
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020・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 山口君、山口君、問題の趣旨を外れないやうに願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=20
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021・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 (續) 草莽の中から、草澤から英雄が出て來る、僕のやうな爆彈男もどんどん出て來る、しつかりやつて貰ひたい、本來から言へば、只今上程の農地法案の如き重大な問題は、此の新たに選ばれたる議會に於て論議さるべきが當然であるとさへ私は信じて居る次第である、若し夫れ我々の主張する修正案が敗れて、多數黨の威力を以て是が可決されたと致しますか(「さうだよ」と呼ぶ者あり)さうだよで宜しい、さう云ふことになる、餘り慌てて修正して、又選擧法のやうに戻らぬやうにして貰ひたい、此の意味に於て此の正々堂々たる小作農民の將來の爲を深く慮つて居る所の、我が黨の修正案に何卒御贊同あらんことを切望する次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=21
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022・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 杉山元治郎君
〔杉山元治郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=22
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023・杉山元治郎
○杉山元治郎君 私は只今議題となつて居ります農地調整法中改正法律案に付き、日本社会黨を代表しまして修正案竝に附帶決議に付て簡單に趣旨の辯明を致したいと存じます
私共の修正案は極く簡單でありまして、第六條の三號を削徐し、後の號を繰上げると云ふことに外ならないのであります、第六條の三號は「農地を耕作の目的に供する爲前條に掲ぐる權利を取得する場合」斯うありまして、第五條では「農地の所有權、賃借權、地上權其の他の權利の設定又は移轉は命令の定むる所に依り當事者に於て地方長官又は市町村長の認可を受くるに非ざれば其の效力を生ぜす」斯う云ふやうに權利の設定竝に移轉に付ては地方長官竝に市町村長の認可を受くることに相成つて居るのであります、此の條項は以前の農地管理令等に於きましても規定されて居つたのでありまして、簡單に土地の設定、移動の出來ないやうに致して居つたのであります、所が第六條は其の除外例でありまして、其の除外例の中でも、第一號であるとか、第二號であるとか、第四號、第五號と云ふのは公共的に關することでございますから、當然と存じますけれども、第三號のやうな唯個々に於て、農地を耕作の目的に供すると云ふことに依つて、其の認可を得ずして設定又は移動を致しますると云ふと、色々と移動が多くなり、或は其の他の弊害が生ずるであらうと云ふことから致しまして、之を削除する、斯う云ふことに致したのであります、其の他の附帶決議に付ては後から色々と説明を申上げて見たいと思ひます
偖て我が日本が「ポツダム」宣言の完全な履行をする爲には各方面に於て民主主義を實行せなければなりませぬ、所が從來の農村に於きましては封建的な農地制度があり、其の經濟的な基盤の上に地主勢力が旺盛に頑張つて居りますから、農地制度の根本的な改革なしには、農村の民主主義化と云ふことはあり得ないのであります、此の新情勢に押されて、政府が此の法案を提出するに至りましたことは、前に山口氏も申述べたが、其の勇斷と努力に對しては我々も敬意を表する者であります、我々が多年農地國家管理法と云ふものを提案致し、小作地を全部國有にし、小作農家をして自作農家たらしめるやうにと努力して參りました者に取りましては、感慨なきを得ないのであります、さればと申しまして此の政府案が完全なものであると云ふのではありませぬ、我々の理想と一致して居ると云ふのでございませぬ、從來より一歩或は二歩前進して居るが、中にはまだ封建性を殘存して居る部分もあり、農村の民主化の阻碍する點もあることを感ずるのであります、我々が削除を要求した第六條の三號は、其の最も尤なるものであります、先程も申述べましたやうに、第五條では「農地の所有權、賃借權、地上權其の他の權利の設定又は移轉は命令の定むる所に依り當事者に於て地方長官又は市町村長の認可を受くるに非ざれば其の效力を生ぜず」と、是等の權利の設定又は移轉を簡單に且つ勝手に自由氣儘にせぬやうに規定して居るのであります、所が第六條は其の除外例でありまして、先程も申述べましたやうに一號乃至二號、四號乃至五號は已むを得ないものと存じますが、但し第三號のやうに「農地を耕作の目的に供する爲前條に掲ぐる權利を取得する場合」斯う云ふやうに致しますと、耕作の目的に供すると稱して農地の移動が頻繁になるのであります、從來の小作人を差措いて、或は縁故者に讓渡をするとか、或は當事者間で色々と譲渡を致しますることでありまするから、内面的に如何樣なことがやられるか、或は價格に於ても闇値等の不正はないとは斷じ得ないのであります、又農地の移動を繞つて小作人を不安に陷れますのみならず、計畫的な自作農創設、或は農地の交換分合と云ふやうなものを果し得ない結果になると存ずるのであります、第五條に於て農地の移動を禁止して置きながら、第六條の三號に於て之を許しますと致しますならば、右手で閉じて置いて、左手で之を開いて居ると云ふやうな矛盾が起つて來ると存じますので、斯うした矛盾をなくすると云ふ意味合に於て、私共は之を削除すると云ふ修正案を提出致した次第であります、以下私共の附帶決議として提案致しました點を簡單に申述べて見たいと存じます
其の一は、第四條の第二號にありまする「勅令を以て定むる一定面積」と云ふ、即ち地主の農地保有限度に關する問題であります、農地に依存して居りまする封建性を根本的に打破するにあらずんば、どうして見ても農村の民主化があり得ませぬ、地主の土地保有限度と申しまするものは、私共から致しまするならば最低限度にすべきものであつて、或は三町或は五町、斯う云ふやうに殘しまするならば、尚ほ又封建性のものを殘存すると云ふことになり、又其の上の經濟に立つて農村を支配すると云ふやうな、從來のことが相變らず殘つて來ると存ずるのであります、さう云ふ意味合から致しまして、我々が三町と聞いた時に於ても、果して是は本當の農民解放にはならない、斯う云ふやうに感じて居つたのでありまするが、然るに尚ほ閣議に於ては、平均五町に決定したと云ふことを聞きました時に、尚ほ是は逆轉である、地主勢力の強いと云ふことを私共は強く感じたのであります、そこで私共は農地と云ふものは、「ワイマール」憲法にありまするやうに、所有する者には義務を生ずると云ふやうに、本當に農地を活用し、農地からより多くの生産を上げると云ふやうな者が、初めて持つ權利があると存ずるのであります(「ヒヤヒヤ」拍手)斯う云ふ意味合から致しまして、三町とか、五町とか云ふやうなことに決定せず、出來るだけ最小限度にすると共に、不耕作地主の土地は、全部小作人に開放すべしと申上げたいのであります(「ヒヤヒヤ」拍手)
其の二は農家の宅地の問題であります、零細農の大半の宅地は、地主から借りて居るやうであります、斯う云ふやうに宅地を賃借致して居ると云ふ關係で、今日まで如何に壓迫を受けて來たか、又其の爲に凶作等の場合減免を致したいと云ふやうなことがあつても、地主の顔を見ながら之をやり得なかつた、或は假に之を申した場合に家を持つて出て行け、斯う云ふやうな實に蝸牛のやうな――家を持つて出て行くと云ふことは出來ないと云ふことから致しまして、泣く泣く服從したと云ふやうな場合が多々あつたのであります、斯う云ふやうな意味合から致しまして、農家の賃借致しまする宅地は、農業を營む爲に致して居るのでありまするから、此の法案に於ける農地と同樣に取扱つて、此の際全部開放するやうに致すことが必要であると存ずるのであります(「ヒヤヒヤ」拍手)
其の三は土地價格と小作料の適正の問題であります、田地が以前は賃貸價格の三十三倍であつた、所が今度は四十四倍に直さうとするのであり、畑は四十倍であつたものを四十八倍にしようとするのでありまするが、私共の眼から見まするならば、以前の價格でございましても、即ち國債利子に廻つて居るのであります、此の國債利子に廻つて居るのに拘らず、より以上の利廻りになるやうに、其の價格を尚ほ上げようとする所に如何なる理由があるのであるか、私共は土地の價格が今日のやうな價格になつて參つたと云ふことも、是は決して地主個人の爲に上つたのでなくして、寧ろ是は社會全體の爲に上つたことであると考へて居ります、斯う云ふやうなことを考へます時に、今日のやうな國家が改革を致すべき時に、此の土地の問題に付て是程に自分達一個の爲に價格の維持をすると云ふやうなことを圖るべきではないのではないか、斯う云ふ意味合に於て、私共は土地價格の問題に付ては、從來の價格に於ても適當ではないかと云ふことを考へて居るのであります、又本改正案に依つて小作料は金納になりました、其の結果豐凶の如何に依つて減免をすることが出來なくなります、それで現行小作料よりも相當に引下げた適正小作料を設定せねばならぬと存じます、此の場合に土地價格を如何程にするか、現行小作料を如何程に見るか、又地主米價に見るか、消費米價に見るかと云ふことに依つて、非常な差が出て參ると存じまするが故に、是等の標準を決定致します時に、何れから見ても公正妥當なる標準案を決定し、之を天下に明示すべきであると存ずるのであります
其の四は、自作農の轉落防止に付てでありますが、今日まで政府が努力して參りましたに拘らず、其の成績が芳しくなかつたと云ふことは、既に皆さんの御承知の通りであります、斯う云ふことから致しまして、今度の「マッカーサー」司令部からも其の指令の中に、小作人たりし者が再度小作人に轉落することないやうに、合理的に防止することを規定したものを農地改革案に盛つて差出すやうに、斯う云ふやうに申述べて來て居るのであります、其の自作農の轉落防止に付て五つの點が擧げられて居ることは、既に新聞に依つて御承知の通りでありますが、第一は合理的な利率と云ふことであります、今日の農村に於きまして長期貸付、或は證書貸付等に依つて見ますと云ふと、尚ほ六分、七分と云ふやうな利率になつて居りまして、今日の利率から見ますならば、相當高い利率であらうと思ひますから、是等の點に付ては、引下げなければならないであらうと存じて居ります
第二の點は加工業者、配給業者に依つて搾取されて居ると云ふことでありまするが、御承知のやうに我々が小麥を製粉致しました時にどれだけ搾取されて居るか、小麥粉から今度は乾麺になつた時にどれ程高くなつて居るか、斯う云ふことは能く御承知のことだと思ひます、又生絲に致しましても、染めた場合にどうなつて居るか、之を織物にした時に如何に高くなつて居るかと云ふやうなことを考へて見ますと、加工業に依つて農業者が如何に搾取されて居るかと云ふことが分つて來るのであります、又配給業に致しましても、各種の統制會社に依つて、又營團に依つて、我々農民が如何に搾取されて居るかと云ふことが能く分つて居るので、是等の點を十分防止するにあらずんば、自作農の轉落防止と云ふことは難かしいのであります、其の外農産物價格の安定の問題、技術上の啓發普及の問題、協同組合の維持育成の問題であります、斯う云ふ問題が「マッカーサー」司令部から命令されて居りますが、此の命令を待つまでもなく、政府は自作農が今のやうに轉落することのないやうに十分の御注意と、又色々の施設、方策をなすべきであると思ふのでありまして、此の點に付て、政府の十分の努力を要求したいと思ふのであります
其の五は、農地委員會の運用の問題に付てであります、御承知のやうに農地委員會は重要な役割をするものであります、市町村農地委員會は地主五人、自作五人、小作五人、斯う云ふことになつて居つたのでありますが、只今委員長報告のやうに、進歩黨の修正に依つて、此の十五人は十八人になり、其の三人は地方の名望家と申しますか、名譽職と申しますか、さう云ふ者を附加すると云ふことに相成つたのであります、此の農地委員會の選擧を見ますると、地主五人、自作五人と云ふやうになつて居りますから、表面的には如何にも公平のやうでありますが、我々が今日まで斯うした委員會の實際の性格、實際の成績を見て參ります時に、表面は如何に是が公平のやうに見えましても、事實は地主的であつたと云ふことの申上げるに躊躇しないのであります(拍手)斯う云ふ意味合から致しまして、私は寧ろ本當に公平と云ふ意味合から致しまするならば、地主五人、自作五人、小作十人と云ふやうな比率にして、初めて公平が期せられるのではないかと存じて居るのであります(拍手)此の點に付ても政府は十分に留意し、運用に間違ひなきやう公正を期するやうに、是等構成員のことに付ても、尚ほ一段の注意を願ひたいと存ずるのでありまして、名望家三名を加へると云ふことは、一寸考へますると中立的であり、又さう云ふやうな知識經驗者であると云ふことから、公平を期するであらうと存ずるのでありますが、今日までさうした名望家、徳望家と云ふやうな者の結果を見ますると、殘念ながら何れも地主的であつたと云ふことを考へるのであります(拍手)斯う云ふ意味合に於て、私共は多數の修正に依つて決定されまする以上、是は已むを得ないことでありますけれども、今後實際に農地委員會の運用を致して參りまする時には、どうか十分に公正を期するやうに、之を特に注意をして、戴きたいと云ふことを申述べたいと存ずるのであります(「ヒヤヒヤ」)
以上、私の修正案竝に希望條項に付ての説明を終ります、どうか公平に虚心坦懐に考へて、我が社會黨の修正案竝に希望意見に付て多數の御贊成を得たいと存ずる次第でございます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=23
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024・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 討論の通告があります、之を許します――赤城宗徳君
〔赤城宗徳君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=24
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025・赤城宗徳
○赤城宗徳君 私は無所屬倶樂部を代表致しまして、自由黨の修正案及び社會黨の修正案に反對し、委員長報告の中農地委員會の構成に付ては贊成致しまするが、金納問題に關する但書に付ては贊成致し兼ねる立場に於て、其の他は政府の原案に贊成致す譯でありまするが、それに付ては相當の希望、相當の警告を發して贊意を表したいと思ふのであります
本法案の内容とする主眼點でありまする第一點、地主の土地所有制限の如きことは、曾て北一輝の日本改造法案の土地制度改革案と致しまして、時價十萬圓以上の農耕地に付ては國家が買上げるべし、斯う云ふ思想と同じやうな日本土地制度の革命的改革案であります、にも拘らず政府は其の提案理由書に、現下の農村事情に鑑み自作農創設の強化、小作料の金納化等を圖る爲め、農地調整法中改正を要すとあります如く、從來より繼續されて居ります自作農創設の強化案として、即ち農地調整法中改正法律案として「カモフラージュ」して居りますことは、甚だ遺憾であります、斯くの如く農地調整法中改正法律案として提案されて居りまするが故に、此の法律には幾多の矛盾撞著を内藏して居るのであります、農地調整法第一條を見ますと「本法は互讓相助の精神に則り農地の所有者及耕作者の地位の安定及農業生産力の維持増進を圖り以て農村の經濟更生及農村平和の保持を期する爲農地關係の調整を爲すを以て目的とす」とあるのでありますが、本改正案の第一主眼は、農地の所有を永久に一定限度に制限せんとするものでありまして、第一條に謂ふ所の農地の所有者の地位の安定とは全く懸け離れることになるのであります、勿論私は此の際地主の土地所有に制限を加へることは贊成でありまするが、其の方法を農地調整法中改正法律案としてなすに於ては、同條第一條に示す法の目的と背反し、如何に政府が陳辯努めましても、納得致し兼ねる點があるのであります、強ひて邪推致しますれば、土地制度改革案として提案致しますれば、議會及び社會に刺戟を與ふることが強いと考へまして、農地調整法中の自作農強化の法律案として提出致しまして、議會の風當り等を避けんとしたと推察されないでもありませぬが、私は政府が斯かる意圖の下に本法律案を提案されたとは存じませぬ、假に斯かる意圖が政府の何れかの一部にでも存したと致しますならば、甚だしく不明朗であります、其の不公明な態度は、民主主義的國家として再出發せんとする新生日本の爲に、執るべき態度ではなかつたと考へるのであります、さうして又地主の土地保有を一定限度に制限するのでありまするが、其の一定面積は何程であるか、此の重大なる事實は、此の農地調整法中改正法律案の何處にも規定されて居らないのであります、唯纔かに第四條の四第一項第二號に、自作農創設の爲に強制買上をなし得ない面積は勅令を以て定むる一定面積以下なりとして居るのであります、即ち地主の所有土地を永久に一定面積以下に制限せんとする此の法律に於きまして、其の一定面積は勅令に讓つて居るのであります、只今委員長からも御報告がありましたが、此の面積に付ては、どの位であるかと云ふことに付て色々臆測もあつたやうでありますが、結局平均五町歩と云ふことであります、而して其の一定面積の決定は、農地審議會の諮問を以て決定すると云ふことになつて居るやうであります、私から申上げるまでもなく、戰時中に於きまして議會の神聖なる審議權を無視致しまして、重要なる立法權を勅令に讓り、開戰直前の如きに於きましては、戰時緊急措置法に依りまして、議會の立法權を全面的に政府に委任致した如き態度は、政府の下に議會を從屬したるが如き態度、此の態度が下から盛り上る國民の熱意を奪ひまして敗戰の今日に導き、更に遡りましては、無謀なる戰爭に導いた結果にもなつて居りますることを反省致しまする時に、斯くの如き重大なる立法事項を勅令に讓り、それが又審議會なる政府の一機關の諮問に依つて決定されると云ふことには、相當に危惧の念を抱かざるを得ないのであります、是は明かに戰時中の惰性の繼續でありまするが、私は斯う云ふ時でありますので、委員會及び本議場に於ける委員長の報告に信頼致しまして、其の措置に對しましては萬遺憾なきを要求するものであります
第三に本法案の内藏して居りまする缺陷は、耕地の交換分合に關しまして何等の措置、何等の強制力を與へて居りませぬ、依然として市町村農地委員會の斡旋等に任せて居るのであります、本法律に依りまして所有權は耕作者に移轉するのでありますが、唯それだけで如何にして適正規模農家の創設をなすか、本法律と姉妹關係にあるべき適正規模農家の創設に關しましては、何等の具體策、何等の法律案も用意して居ないのであります、尤も政府は戰時中に於きまして、皇國農村の確立、適正規模自作農の創設等を企圖致しまして、次官通牒を發したこともあります、併し敗戰後の今日事態は全く一變して居ります、滿洲、朝鮮、臺灣、支那、南方等へ自由に行く方法はないのであります、千數百萬の失業者群、復員軍人、是等の人々は一割五分程度しか復舊して居りませぬ所の平和産業に吸收し得ることは、出來ない現状であります、此の巷には三合配給を絶叫致して居りまする所の飢餓線上の人々が彷徨して居ります、是等の相當部分が歸農することを豫想致しますれば、此の法律に依つて地主の所有地が小さく細分化されるに止まりませぬ、勢ひの赴く所、現在の耕作地が更に細分化され、零細化されることは明かであります、聯合國司令部は十二月九日に農地改革に付て、日本政府に指令して來ましたが、日本の封建的、經濟的桎梏の病根と致しまして、其の第一に極端なる零細農形態を指摘して居ります、此の極端なる零細農形態を除去すべき何等の具體的政策が此の法律案中に、或は又是と竝行して提案されなければならないのでありまするが、其の具體案がないのであります、本法律の施行に依りまして、政府の意圖如何に拘らず、事實は耕作地の零細化に拍車を掛ける結果に思ひを致さざるを得ないのみならず、今現に其の趨勢を助長しつつあることを認めざるを得ないのであります、政府は速かに零細農形態を脱却せしむべき方策を講ずるにあらずんば、虎を描いて猫になる虞なしと致しませぬ、私は此の點に關しまして嚴重なる警告を發して置きたいと存じます(拍手)
第四は問題になつて居りまする所の小作料の金納化の問題であります、物納よりは金納の方が小作者の地位の安定になるとの議論もありまするが、此の點に關しましては、幾多の疑問があります、日本農業の形態は由來小農の形態であります、大農經營の如く營利を目的とする資本主義的經營たり得ないのであります、昔から米を作り、麥を作る、もつと端的な表現を致しますれば、田を作り畑を作ると言つて居りまするが、決して金を作るとは言つて居らないのであります、金を取ることだけが日本農業本來の目的であつたならば、經濟の原則に從つて生産を多くすることを控へ、逆に澤山の金を取ることに自然に動く傾向にもなるのであります、日本人口の四割近く、曾ての農業恐慌の嵐の中に其の生産を續け、戰時中の凡ゆる惡条件の中に、勝つ爲に勝つ爲にとあの重勞働、あの苛酷なる供出に如何に耐へ忍んで來たか、物を生産する喜び、母が子供を育てるやうな親心があればこそ、日本農民は凡ゆる惡条件を忍びつ、生産に從事して來たのであります(拍手)耐へ難きに耐へ、忍び難きを忍んで來たのは正に日本農民であります、然るに貨幣經濟の波が駸々乎として農村を襲ひ、如何に増産しても金錢の收入に追付かなくなるに至りまして、農民も亦金錢追求の餘儀なきに至つたのであります、曾ての農民の離村も其の一つの現はれであります、耕作農民の地位の安定は安んじて生産に從事し得ることであります、少しでも多くの増産がなし得らるる政策の即時斷行であります、其の爲には封建的身分關係を打破することが第一に必要でありまするが、と同時に速かに物を與ふることであります、肥料を與へることであり、農機具を、生産資材を與へることであります、是等のものを無茶の闇價格で農民が手に入れねばならない間は、食糧の闇賣は停止困難でありまするし、如何に政府が國民運動とやらに愬へんと致しましても、供出を押し進めることは困難であります(拍手)金を與へずに生産せよと云ふのは無理であります、でありまするが、金を與へさへすれば増産が出來ると考へるのも大きな誤謬であります、多年に亙る農林省の補助政策が其の效力薄く、戰時中の年々の減産が勞力の不足にあつたことは勿論でありまするが、増産に必要なるものを與へることが出來なかつたこと、茲に重大なる原因があつたことは爭はれませぬ、農民と雖も今日貨幣經濟を營んで居るのでありまするから、其の獲得する金の益益多からんことを望み、多多益益辨ずるのは申すまでもありませぬ、併しそれは出す金が益益多くなつて居るからでありまして、出すべき金が少なければ、入るべき金のそれ程多からんことを望むものではありませぬ、此の小作料に致しましても、それが低額であるならば、物納の方が寧ろ原則的には宜しいのであります、之を一々金に換へて金納にすると云ふことは、物價の變動に際會致しましては、寧ろ不安定であるのみならず、金で納めると云ふことで、其の收穫物を益益高く賣ると云ふこと、或は賣らねばならないと云ふ傾向を助長することになる場合もあるのであります、小作料が高い、高額小作料であるが故に、是が物納を金納に代へて、其の適正化を圖らんと致しまする所の農林當局の方針、是は十數年來小作料の適正化に乘出して居りながら、其の適正をなし得ないで、今日に至つて金納化に依つて適正化を圖らんとするものでありまして、其の無能を自ら暴露する以外の何ものでもないのであります(拍手)併し私は此の提出されました本法律案の金納、之に對しましては今贊成を致さんとするのであります、と云ふのは此の法律が施行致されまして、其の場合に日本の今まで謂はれた所の地主と云ふものは、殆ど日本の農村から影を沒するに至るやうになると思ふのであります、大體平均五町歩程度の地主と云ふものは、自作すれば自作し得る程度の地主でありまして、是は在來の地主と云ふ觀念とは餘程違つたものになつて來るのであります、でありますので私は百歩を譲りまして、此の金納制を認めんとするものであります、でありまするからして、自由黨の案の如く金納でも、物納でも宜しいと云ふことは、此の法律案が通らぬ前でありまするならば兎に角、此の法律案が通つた後に於ては、寧ろどつちか一方的にした方が宜しい、而も從來の地主と云ふものは殆どなくなつて來ると云ふ状態であると致しまするならば、是ははつきり金納なら金納と云ふことに決めた方が宜しい、其の點に於きまして、私は政府原案に此の點は贊成致します、進歩黨の今の委員長の御報告の中に、但書を加へて金納を原則とする、併しながら小作者の方から小作料を納入する場合に、物で持つて來た場合には、是は認めても宜いぢやないか、斯う云ふ但書を入れると云ふことでありまするが、此の金納制の問題に付きましては、此の農地調整法律案の中に、之に違反したる者は二年以下の懲役、一萬圓以下の罰金と云ふ重い刑罰の規定があるのであります、假に小作人が自分の方から申出でて地主が承諾した、さう云ふ場合には物納でも宜しいと云ふことになつて居りまするが、今度地主の方から持つて來いと云ふことになつた場合に、厭や厭やながら物で持つて行つた、實際に承諾したのか、承諾しないのか、どつちから申出たのか分らぬと云ふやうな事態も相當出て來ると思ひます、其の場合に、一々是が二年以下の懲役、或は一萬圓以下の罰金の虞ありと致しまして、檢擧されるやうなことになりますると云ふと、非常に不明朗になります(拍手)斯う云ふ點から考へまして、此の但書を附加へて、小作人の方から申出た場合には、之に對しまして物納でも宜からう、斯う云う進歩黨の御意見に對しましても私は贊成致し兼ねるのであります
偖て第五に、本法律案の成立に依りまして、増産と供出が期待し得らるるや、此の點に關しても種々の問題があるのでありまするが、それは省略致します
第六は、過般日本政府に對して發せられました農地改革に對する聯合國司令部よりの指令と、本法律の關係に付て一言したいと思ひます、私は聯合國司令部からの指令があれば何でも彼でも贊成する、指令があつたから直ちに本法案に贊成すると云ふ訳には行きませぬ(拍手)假令降伏後の日本、「ポツダム」宣言受諾後の日本は其の忠實なる履行に依つて我々の誤れる考へ方、誤れる政策を是正し、改革致しまして、民主主義日本再建に邁進せねばならぬと致しましても、其の内容に付きましては我々が盛らなければなりませぬ、聯合國の指令がありましても、認識の誤れるものありと致しましたならば、自ら進んで之を説明し、諒解を求め、眞に日本的内容を盛上げることが我々の義務であり、又世界平和への貢獻に寄與し、且つ又納得の行く民主主義的行き方であると考へるのであります(拍手)此の點に付きまして、本法律案は過般發せられた指令の一部分を成すと云ふことは爭はれませぬし、牴觸致して居りませぬので、贊成致すのであります
之を要しまするに本法律案に内藏する所の矛盾は、到る所に潛在伏在致して居るのでありまするが、土地制度の改革は多年の懸案であります、解決し得べくして解決し得なかつた大問題であります、勝利の日に、勝利の爲に解決すべき本問題が、敗戰の今日解決せねばならないことは、洵に悲痛ではありますが、是が又再建日本の出發點ともなり、農は國の本であると云ふ所から始められなければなりませぬ、幾多の缺陷はありまするが、此の際に解決すべき根本精神を酌み取りまして、政府の原案に贊成し、先程申上げました通り自由黨、社會黨の御意見に對しましては、贊成し兼ねる所であります、私の討論を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=25
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026・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 是にて討論は終局致しました、是より採決に入りますが、念の爲め其の順序に付て一言して置きます、先づ山口喜久一郎君提出の修正案に付きまして採決致します、次に杉山元治郎君提出の修正案に付て採決致します、次に委員長の報告に係る修正に付て採決致します、最後に委員長の報告に係る修正を除きたる原案に付き採決することと致します、是より探決致します、山口喜久一郎君提出の修正案に贊成の諸君起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=26
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027・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立少數、仍て修正案は否決されました
次に杉山元治郎君提出の修正案に贊成の諸君の起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=27
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028・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立少數、仍て修正案は否決されました、次に本案の委員長報告に係る修正に贊成の諸君の起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=28
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029・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 起立多數、仍て委昌長の報告に係る修正は可決されました(拍手)其の他は原案の通り御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=29
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030・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て其の他は原案の通り決しました(柏手)是にて本案の第二讀會は終了致しました
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=30
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031・長野高一
○長野高一君 直ちに本案の第三讀會を開かれんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=31
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032・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 長野君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=32
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033・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに本案の第三讀會を開き、議案全部を議題と致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=33
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034・会議録情報5
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農地調整法中改正法律案(政府提出) 第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=34
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035・島田俊雄
○議長(島田俊雄君) 別に御發議もありませぬ、本案は第二讀會議決の通り確定致しました(拍手)議事日程は終了致しました、明後十七日は定刻より本會議を開きます、議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後三時五十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913242X01519451215&spkNum=35
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