1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働組合法案(政府提出)(第一八號)
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本委員は昭和二十年十二月十日(月曜日)議長の指名を以て左の通選定せられたり
安藤覺君 伊藤東一郎君
泉國三郎君 小高長三郎君
小野義一君 川崎巳之太郎君
黒田巖君 小浦總平君
小林鐵太郎君 下出義雄君
角猪之助君 添田敬一郎君
田中貢君 中川寛治君
長井源君 野田武夫君
野本吉兵衞君 廣野規矩太郎君
福田重清君 松村光三君
村松久義君 吉川大介君
米田吉盛君 安藤孝三君
稻葉圭亮君 今井新造君
菅野和太郎君 喜多壯一郎君
原口純允君 船田中君
信正義雄君 星島二郎君
本多市郎君 山口喜久一郎君
正木清君 山崎常吉君
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十二月十一日(火曜日)午前十時十九分委員長理事互選の爲委員參集す
其の氏名左の如し
小高長三郎君 小野義一君
小浦總平君 小林鐵太郎君
下出義雄君 角猪之助君
添田敬一郎君 中川寛治君
長井源君 野田武夫君
野本吉兵衞君 廣野規矩太郎君
福田重清君 松村光三君
村松久義君 吉川大介君
米田吉盛君 稻葉圭亮君
菅野和太郎君 喜多壯一郎君
原口純允君 信正義雄君
本多市郎君 山口喜久一郎君
正木清君 山崎常吉君
〔年長者小野義一君投票菅理者と爲る〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=0
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001・小野義一
○小野投票管理者 それでは先例に依りまして、私が年長の故を以て投票菅理者を相務めます、是より委員長及び理事の互選を行ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=1
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002・小高長三郎
○小高委員 委員長には投票を用ひませぬで添田敬一郎君を御推薦致したいと思ひます、何卒御贊成を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=2
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003・小野義一
○小野投票管理者 小高君の御意見に御異議なしと思ひます、仍て添田君が御當選に相成りました、添田委員長に席を譲ります
〔添田敬一郎君委員長席に著く〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=3
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004・添田敬一郎
○添田委員長 只今不肖私委員長に御推薦を蒙りまして甚だ不敏でありまするけれども、皆さんの御援助、御指導に依りまして、其の職務を盡したいと思ふのであります、どうぞ宜しく御願ひを致します、引續いて理事の互選を行ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=4
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005・小高長三郎
○小高委員 理事の數は四名として委員長に於て御指名あらんことを望みます
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=5
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006・添田敬一郎
○添田委員長 小高君の御意見に御異議ないと認めます、それでは理事として
伊藤東一郎君 小浦總平君
米田吉盛君 喜多壯一郎君
の四名に御願ひを致したいと思ひます、左樣御承知を願ひます、一寸此の邊で約十分間程休憩をしたいと思ひます
午前十時二十二分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=6
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007・会議録情報2
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午前十時三十七分開議
昭和二十年十二月十一日(火曜日)午前十時三十七分開議
出席委員左の如し
委員長 添田敬一郎君
理事 伊藤東一郎君 理事 小浦總平君
理事 米田吉盛君 理事 喜多壯一郎君
小高長三郎君 小野義一君
小林鐵太郎君 下出義雄君
角猪之助君 中川寛治君
長井源君 野田武夫君
野本吉兵衞君 廣野規矩太郎君
福田重清君 松村光三君
村松久義君 吉川大介君
稻葉圭亮君 菅野和太郎君
原口純允君 信正義雄君
本多市郎君 山口喜久一郎君
正木清君 山崎常吉君
同日委員小高長三郎君辭任に付其の補闕として羽田武嗣郎君を議長に於て選定せり
出席國務大臣左の如し
厚生大臣 芦田均君
商工大臣 小笠原三九郎君
出席政府委員左の如し
厚生省勞政局長 高橋庸彌君
商工省總務局長 菅波稱事君
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本日の會議に上りたる議案左の如し
勞働組合法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=7
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008・添田敬一郎
○添田委員長 それでは開會を致します、最初に私から申上げて置きますが、質問は大體申込の順序に依つて之を許可することに致しますから、左樣御承知を願ひます――厚生大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=8
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009・芦田均
○芦田國務大臣 勞働組合法案の概要に付て説明致します、本法案を提出致しました理由に付きましては、本會議に於て申述べた所でありますが、一言にして申せば、時代の要求に即應して、我が國に於ける民主主義的傾向の復活強化を促進し、勞働階級の福祉を増進して、社會進歩の法則に歩調を合せんとする爲の立法であります
曩に聯合國最高司令部より帝國政府に對し勞働組合を促進助長すべき旨の要請が發せられたのも亦右の趣旨に外ならぬものと思考致します、此の機會に於て帝國政府は我が國産業の再建の上に重要な地位を占める勞働に統一と秩序を與へ、其の勞働條件を適正にし、勞働意欲を積極的に昂揚せんが爲め、勞働組合の健全なる結成活動を保護助成せんとする意圖を以て本法案を立案致したものであります、以下簡單に法案の要旨を申述べます
第一に、本法は勞働者の團結權を保障し、團體交渉權の保護助成を行ひ、以て勞働者の地位の向上を圖り、經濟の興隆に寄與することを目的とする旨を闡明したのであります
第二に、勞働組合の團體交渉、「ピケッチング」其の他の爭議行爲にして正當なるものに付ては刑法第三十五條の適用あること、換言すれば如上の行爲を以て正當の業務に因りなしたる行爲として、刑罰法令に依り之を罰しないこととしたのであります
第三、勞働組合の定義、結成、運營、法人格の附與等の事項に付ては、組合の自主的且つ自然發生的性格に鑑み、成べく之を自由ならしめると共に、是が適正を維持する爲め、最小限度必要なる若干の規定を設けたことであります
第四に、組合の代表者等には團體交渉等の權限を附與し、又使用者に付ては、其の從業員が組合に加入することに對して不當な妨害をなさないことを保障し、同時に勞働者の正當なる爭議行爲に付ては、使用者側より損害賠償を要求し得ないこととして、組合の健全なる結成及び活動を保護したのであります
第五に、組合の經營する共濟事業其の他福利事業に付ては、産業組合に準ずる免税の恩典を與へまして、以て其の保護助長を圖つたことであります
第六、組合と使用主間に締結せらるる勞働協約は、勞働能率の増進と産業平和の維持の爲に、極めて重要な関係ある事實に鑑み、協約の締結、其の拘束力等に付き、それぞれ所要の規定を設けたことであります
第七に、勞働組合と使用者間の關係を圓滑且つ民主的に調整する爲め、勞働者側、使用者側及び中立の代用者を以て勞働委員會を設け、之を中央地方其の他に設置することとし、之に廣汎な權限を附與することと致しました
最後に、組合に對する監督權及び本法施行の上に於ける罰則を必要の最小限度に止めることとしたのは、舊來の法制と著しく異る點であります、終戰後勞働組合の結成は急速に進展の勢ひを示し、其の活動は全國に亙つて行はれつつあります、本法案は斯かる形勢に即應し、先に述べました趣旨に依つて勞働組合を法的に認めることとし、其の健全なる育成を圖らんとするものであります、何卒御審議の上速かに御協贊あらんことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=9
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010・添田敬一郎
○添田委員長 小野君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=10
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011・小野義一
○小野(義)委員 國の總力を擧げて戰爭を遂行すべしと云ふ所謂總力戰は最早過去の夢と相成つたのであります、我々の將來負ふべき使命は、所謂文化的日本の建設、隨て謂はば總力的平和建設、斯う云ふことに相成るのであります、先づ差當り我々は戰災の復興、或は失業問題、食糧増産、斯う云ふ國内的の中々深刻なる問題を背負つて居るのであります、又外に對しては厄介な賠償問題、是等内外の難局を打開するには、何としても産業の興隆と云ふことに先づ著手しなくてはならぬ、著手のみならず、それを遂行しなくてはならぬ、一面には我が國の勞務階級と云ふものは生活水準が非常に低い、多年國際勞働會議などに於て所謂「ソシアル・ダンピング」と云ふ謗りを受けて居ることは有名なことであります、我が進歩黨に於きましては、結黨式の宣言の中に、個人の經濟的自由を確保する爲に、社會政策を斷行して、貧富の懸隔を是正すべしと謳つたのであります、此の産業の興隆、社會政策の斷行、此の二つの點に丁度適合する此の勞働組合法なるものが、政府當局の御努力に依つて、昨日衆議院に御上程に相成りましたることは、洵に私として感謝に存じ、敬意を表するに吝かでないのであります、御尋ねを致したい第一點、勞働組合の狙ひ所、何を狙つて居るか、目安とする所如何、先般十一月の末でありました、其處においでの勞政局長さんから勞務法制審議會の答申案を御説明願つたのであります、其の時に勞働組合の狙ひ所は第一條に規定がある、經濟上、社會上竝に政治上の地位の向上を助長すると云ふことを謳つてあると云ふ御説明でありました、私は實はそれに付て本會議で御尋ねを致したいと思つたのでありますが、其の機會を得なかつたので今日に至つて居りまするが、今日の混沌たる國際情勢下に於ては別でありますけれども、歐米の平和時代に於きましては、御案内の如くに勞働組合は多くは、或は殆ど全部でせう、政治鬪爭に中々頭を使つて居つた、是はどうも宜くないではないか、やはり經濟上、社會上の行動と云ふことに限局する方が宜しいのだ、斯う云ふことは他國のことは餘り知りませぬが、「ドイツ」に於ける社會學者は頻りにそれを強調したものであります、所が歐米の實際に於てはさうは參らない、どうしても政治鬪爭に入る、實に歎かはしいことだ、併し心ある者は、勞働組合を統率する人士は、段々政界の方から手を引かうと云ふことに努められたのでありまするが、我が國に於ては今日新機軸として、初めて法的に勞働組合を御認めになると云ふことであるならば、政治上と云ふことは止めて貰ひたい、若し勞働者にして政治鬪争をやりたいならば、政黨に入れば宜しい、厚生大臣の屬して居られる自由黨に御入りになつても宜し、私の居りまする進歩黨でも宜し、社會黨でも宜い、それでおやりになれば宜いのだ、どうも勞働組合と云ふものはやはり經濟的、社會的、そこに行動を限りたいものだ、斯う私多年考へて居つたのであります、此の間勞政局長さんの御説明の時には、政治上があつたのであります、そこで之を一つ御尋ね致したいと思ふ所が、修正案はそれがなくなりました、昨日本會議に於て厚生大臣の御説明の通りに、寧ろ主として經濟上と云ふことになつて居る、之に付ては羽田さんから御尋ねがあり、厚生大臣からも御説明があり、洵に私本懷に存ずるのであります、併し之を今日活かす所以のものは、どうか厚生大臣に於ては、勞働組合は成るべく政治的に携はらない、一體歐米に於て政府鬪爭をやつたと云ふのは、言ふまでもなく「キャピタリスト」資本家に對する對抗と云ふことから來たのでありますから、起りは政治的であつたのです、それでついさう云ふことに致してしまつた、將來御監督の上に於ては、此の點は一つ十分に昨日の御答辯に御留意下さいまして、御覺悟願ふやうに御願ひを致したいのであります
それからやはり昨日羽田さんの御尋ねの中、私も質問致したいと思つて居つた點でありまするが、花より團子と云ふことを言はれた、洵に私結構な御言葉だと思ひます、どう云ふ意味か、今日食糧問題が洵に深刻である、法律で以て勞働組合を認めらるるよりは寧ろ勞務階級は勞銀なり、俸給なり、手當なりを増して貰つた方が宜いじやないか、其の方が先決である、斯う云ふ御尋ねがあつた、それに關聯して大藏大臣も答辯されて、官吏などに付ては手當を増す考へだ、民間では二倍上げると云ふやうなことのやうに傳はつて居ります、そこはまだ決まつてないと云ふ御話のやうである、そこで一體生活必要品の値段と、勞銀、俸給なりどう云ふ比較になつて居るか、是は生活必要品も物に依つて色々ありますけれども、先づ總體事變前に比べて二十倍、三十倍になつて居るではないか、是が殆ど定説のやうです、勞銀なり俸給なりは二倍に足らない、即ち一割に足らない、所で俸給なり勞銀なりを上げると云ふと、茲に又購買力を殖やすことになりますから、「インフレーション」を助長する、刺戟すると云ふことになる、鼬ごつこ、鰻上りになる、それが即ち從來勞銀なり俸給なりを上げると云ふことに付て反對のあつた所以であります、併し何としてももう仕方がないと云ふ時期になつて居る、そこで内閣に於てもさう云ふ御銓議に相成つて居ることと思ふのであります、之に付ては「インフレーション」問題に入るのでありまするが、所を得ませぬから私詳しいことは差控へますが、戰爭中の「インフレーション」對策と戰後の「インフレーション」對策は非常に違ふ、簡單に申しますと、戰時中の「インフレーション」對策は何としても軍費がどんどん出る、購買力が放出される、實に二千二百億圓と云ふことになつたのであります、其の中公債支辨が半分、そこで頻りに政府は貯蓄奬勵と云ふことをやつた、さうして國債の消化を圖る、是からの戰後の「インフレーション」對策と云ふことになると、餘程戰時中とは違つて來るではないか、戰爭に勝つんだから總て忍んでやれ、貯蓄をしろ、そこで國民貯蓄或は國債貯金と云ふやうな不評判なものも出た譯であります、偖て是からはどうかと云ふと、人に依つては、或る方面に於ては「デフレーション」になるではないかと云ふ解釋もあることと思ひます、けれどもそれは一時のことであつて、やはり「インフレーション」は強化すると思ふ、論より證據、大臣、局長さん皆犇々と御身邊に體驗されて居ることでありませう、容易ならぬことである、さう云ふことを申上げますると、結局勞銀なり俸給なり、手當を増すと云ふことはいかぬではないかと云ふことになりますが、併し背に腹は代へられぬ、今日の状態からして何としてもそれは實行すると云ふことになるでせう
偖て「インフレーション」問題はそれ以上申すことは遠慮致しまして、私茲に厚生大臣に御願ひしたいのは、手當、俸給、勞銀を増す、是は已むを得ない、所でよく「ギブ・アンド・テーク」と云ふことを言ふ、取らうとするには先づ出さなければならない、「ギブ」して後に「テーク」する、所が若し「ギブ・アンド・テーク」と云ふさう云ふ煩雜のことをしないで差引勘定が出來るものなら、私はそれが一番宜いと思ふ、例へば軍需會社の補償をやる、是は「ギブ」することである、併し財産税、戰時増加税だけ取ることは「テーク」するものである、與ふべきものは與へて取るべきものは取るのだ、こんなことを説明した大臣があります、それは物に依つてはそれで宜しい、併し是は洵に煩雜なことです、どうせ取るものなら初めから與へない方が宜いではないか、當然のことです、それが所謂簡素化ですから、行政に限らず何に限らず、さうあるべきものだと思ふ、だから民法でも相殺と云ふことを認めて居る、同じ條件にあるなら、債券債務の相殺をやるのだ、さうすると金の動きもなくて濟むのです、それが爲に物價が動いたり「インフレ」を起すと云ふこともない、其の一つになることを茲に厚生大臣に特に御願ひしたい、勤勞所得を上げることは止める方が宜い、勤勞所得は御案内の如く百分の五が此の春に百分の八になつた、是から財政の強化とか「インフレーション」と云ふことの爲にどうせ増税は免れない、そこで動もすれば權衡論がよく出て來る、直接税が此の割合である、だから間接税も斯うする、間接税は此の割合だから直接税をもつと殖やす、さうすると直接税の中でも色々のものを皆殖やさなければならぬと云ふやうなことで、勤勞所得も亦増すのではないか、併し百分の八位に勤勞所得を増しても幾らも取れるものではありませぬ、財政の強化にも幾らも役立ちませぬ、又「インフレ」對策にも幾らも寄與する所はない、折角勞働組合を法的に認めて置きながら、所謂經濟上の地位上進と云ふ其の眼目から考へて、此の際勞務者の租税負擔は之を減じても宜しいのであります、減ずる方が宜しい、増すことは斷じて止めて貰ひたい、之を一つ厚生大臣として、又國務大臣として將來御留意を願ひたいのであります、又斯く御實行願ひたいのであります、何れ特別議會までには政府は行政整理をやりおになるでせう、それは既に幣原内閣の八大方策の中にあつたと思ふ、そこで行政組織、此の廢合と云ふことも行はれると思ひます、其の時には今申す財政の緊縮と云ふやうな點と寧ろ反對か、或はそれに直接の交渉がないにしても、必ず財政強化と云ふやうな意味から勤勞所得も上げると云ふ議論が閣内に出るのではないか、是は先程申すやうな或る意味に於て勞働組合の抹殺です、今日の情勢に於ては折角勞働條件を良くしよう、經濟上の地位を高めようと言ひながら増税すると云ふのは全く矛盾です、「ギブ・アンド・テーク」でありますが、それを止めて貰ひたい、之を一つ厚生大臣、國務大臣として御留意願ひたいのであります
それから其の次に私寧ろ希望を述べて恐入りますが、希望的の意見です、それは先程一寸觸れました、行政機構のことであります、どうも今の厚生大臣の所屬して居られる内閣に限りませぬけれども、近頃は動もすれば何か政策を實行する上にどう云ふことをやるかとなると、直ぐ官廳いぢりをやる、例へば電力の利用開發をしなければならぬと云ふので電力省を作らうと云つたやうなことが一つ、斯う云ふことをしなければならぬと云ふので、直ぐに一つの役所を設ける、それでありますから中央官廳と云ふものは段々膨脹して來て居る、口には行政簡素化と云ふことを言ひながら、實行になると何時の間にか行政組織、中央官衙と云ふものが大きくなる、一體今日の「デモクラシー」の世の中に限らず、官廳と云ふものは成べく規模の小さいものにする、謂はば「ピラミット」型に行くべきものである、「トップ」の方が極く小さくて、小規模であつて段々下に擴大する、丁度富士山のやうな形にあるべきものである、是が正しく「デモクラシー」にもあると思ふ、官廳が馬鹿に膨れる、さうすると富士山が倒さまになる、扇をひつくり返したやうなものである、是は私はいかぬと思ふ、それではどうしても政令一途に出づと云ふことは出來ない、上の方から澤山偉い人が出て來ると云ふことになりますと、一元化ではなくて、多元化になる、政令一途に出て居ないと云ふことになる、白扇倒さまに懸る東海の天、富士山は田子の浦から見ると倒さまだが、本來は「ピラミッド」型である、さうなるべきものである、そこで勤勞の行政、是から勞働組合を監督すると云ふことを先程厚生大臣が仰しやつた、言ふまでもなく監督行政の中央官衙は厚生省です、之に付て私一つの希望と云ふか、厚生大臣兼國務大臣の芦田さんに御考へて願ひたい、言ふまでもなく厚生省なるものは、元内務省の社會局を引張つて來たものである、そこで衞生局を置いた、主として内務省の外局たりし社會局である、併しどうでせうか、行政の簡素化と云ふ點から見ても、又先程御話の如くに勞働組合と云ふものは、成べく民主的に、自主的に發達せしめて、政府としては干渉しないのだと云ふ御話、洵にさうあるべきことと思ひます、そこで私は之を内務省へ戻して社會局でやられてはどうか、其の時には芦田厚生大臣の地位はどうなるかと云ふことは直ぐ出て來るかも知れぬ、是は内務大臣におなりになつても宜しい、又あなたは外交官出だから外務大臣になられても宜い、さう云ふ一身のことは勿論御考へはありますまい、代議士であり、又法學博士で學者である、大所高所に立つて一つ御考へを願ひたい、一體日本の中央官衙は多過ぎる、外務省を廢めろ、内務省を廢めろ、それは無理でありますけれども、私が曾て本會議に於て斯う云ふことを述べたことがあります、行政の簡素化と云ふ意味から、逓信省と鐡道省を合せろ、拓務省は外務省へ持つて行け、斯う云ふことを言つたものです、そこで逓信省や鐡道省は合併されて運輸通信省となつた、近頃又之を分けようと云ふのですが、是はいけませぬ、一つ芦田國務大臣十分に御留意願ひたい、もう拓務省はなくなりました、大東亞省も外務省に合併したら宜しいと言つたが是れ亦自然消滅になりました、更に考へますと、大藏省、是は金の中央官衙です、農林省、商工省は物の中央官衙です、私は外國に例があるかないか、「ドイツ」の例を多少知つて居りますが、はつきりは致しませぬけれども、是からの「インフレーション」の對策の一つとして、大藏省と農林、商工、此の三つを一緒にして經濟省にした方が宜しくはないか、さうすると金と物の両方を經濟大臣が「キッヤチ」する、どうしても「インフレーション」對策には金だけではいかぬ、物だけではいかぬ、兩方共必要である、是も御參考までに御留意願ひたいと思ひます、今此處に大藏大臣がおいでにならないけれども、近頃大藏省に物價局と云ふものがある、どうも金のことばかり言つたつて「インフレーション」對策と云ふものは物と金の「バランス」を得ることにあるのだ、それでも物を掴まへて物價局を作つたが、それは私は間違ひだと思ふ、大藏省なるものは官制を御覽になつても物を扱ふ官廳ではありませぬ、やはり是は今まであつた内閣の綜合計畫局、此處で金と物の兩方を「キヤッチ」する、私はそれで初めて運營されるのが宜いと思ひます、まだ大藏大臣に其のことに付て御話をする機會がないのでありますけれども、是も一つ芦田國務大臣に御聽きを願つて置きたい、大正十年、十一年頃でありますが、第一次世界大戰の終つた後、日本の物價が相當に上りました、併し今日のやうな「インフレーション」そんなえらいことではなかつたけれども、兎に角物價が上つて困るやうになつた、庶民階級が第一困る、そこで物價調節と云ふ問題になつた、其の時の中央官衙は何處であつたかと云ふと農商務省であつた、勿論各省もそれには連絡を致しました、それはまだ金と云ふものがやかましくない時です、今日の如く國債が既に千三百億、賠償なんか入れたらどれ位になるか、大藏大臣は二千億と言つて居りますが、私はそれではきかぬと思ふ、さう云ふ工合に金と云ふことが非常に重大なる要素を形づくつて居る今日である、當時はさうではない、物の生産と消費、之を「コントロール」すれば宜しいと云ふことでありましたから、農商務省の所菅であつた、所が今日は先程申す通り、金と物の兩方だと云ふ大藏大臣の御見解、洵に其の通りであるが、それはやはり大藏省へ持つて來ないで、内閣の一つの局として各省に跨がるそれを「コントロール」されるのが宜いのではないか、何れ特別議會までには此の問題も閣内で御檢討になると思ふ、芦田國務大臣に特に御願ひする所であります、特別議會には私は居らないかも知れない、置土産になるかも知れない、どうぞ一つ以上の點に付きまして、芦田厚生大臣より何等か御意見を拜承致すことが出來ますれば仕合せであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=11
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012・芦田均
○芦田國務大臣 只今小野君より賃金と物價の問題、「インフレーション」の問題、勞働階級に對する課税問題、更に行政機構の根本的改革等の廣汎なる問題に亙りまして、多年の御蘊蓄と豐富なる體驗に基く極めて有益なる御意見を拜聽しました、殊に私の身の振り方に付ても御親切なる御言葉がありました、厚く感謝致す次第であります、御意見の中には洵に傾聽に値するものもあり、又既に私共に於て實行に移さうかと考へて居る諸點も多くあります、此等の問題は此の委員會と多少懸離れて居ります關係上、一々に付て私の意見を申述べることは差控へます、併し何れも極めて有益な御意見でありますから、閣僚其の他にも小野君の御意思のある所を傳へまして、折角善處致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=12
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013・小野義一
○小野(義)委員 私は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=13
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014・角猪之助
○角委員 私は本案に關係致しまして、勞働組合法の基本的な問題に付て、一、二點芦田國務大臣の所見を伺ひたいのであります、此の勞働組合法に直接の關係はないのでありますが、産業の再編成、殊に「ポツダム」宣言を中心とした賠償問題に絡んで産業の再編成、續いて勤勞大衆の生活問題、斯う云ふ點に付て質疑をしようと思ふのでありますが、後段の問題に付ては主として商工大臣に關係すると存じますので、此の場合商工大臣が御出席をして下さるやうに特に委員長から御斡旋をして戴きたいのであります、それで商工大臣の御出席なされる前に一、二點伺ひたいと思ひます
先づ本案提出に當りまして、政府と「マツカーサー」司令部の間に色々の折衝があつたやうに私共は拜承して居ります、其の折衝の經過竝に日本の國情、日本の産業状態、日本の勞働關係等に付て厚生大臣は「マツカーサー」司令部に對して如何に報告をして居るか、先づ此の問題に付て厚生大臣から説明をして戴かないと、恐らく本案の審議の進行は出來ぬのぢやないかと存じますので、私の質疑に入る前に今の問題に付て厚生大臣から御説明をして戴ければ極めて結構だと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=14
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015・芦田均
○芦田國務大臣 角君に御答へ致します、聯合國最高司令部に對して我が國の實情を詳細且つ率直に説明して、今後聯合軍と帝國政府との協力に齟齬なきやう運ばなければならないと云ふ御意見は正に其の通りであります、獨り勞働問題に限らず、財政、經濟、文化、各方面に亙る問題について政府はそれぞれ努力致します、又中央連絡事務局も專ら此の方面に努力致して居るのでありまして、今日までの所其の目的を十分に達したかどうかに付ては、意見を挿むことは致しませぬが、出來るだけの努力は致して居るのであります、尚ほ「マツカーサー」司令部と厚生當局との間に本案の議會提出に至るまでの意見の交換等の經緯に付きましては、只今資料の準備を致して居りませぬから、他日適當の機會まで説明を延期させて戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=15
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016・角猪之助
○角委員 只今の厚生大臣の御答辯、能く了承致しました、どうぞ他日の機會に詳細に御説明あらんことを希望致します
次に私が伺ひたいのは、此の勞働組合法の提案に當りまして、芦田國務大臣の説明を拜聽致しますと、どうも腑に落ちない點が多々ある、先程國務大臣の説明に依りますと、本案の提出の理由は、民主主義的傾向を促進し、助長するのにある、是は御尤もな話であります、然らば之を具體的に申しますると、民主主義的傾向を促進、助長する方法として此の勞働組合法案が提出された、斯うなりますと、此の組合法は社會秩序の民主化に重點を置くのか、それでなくて單に勞働者の地位向上を圖る經濟的の意味に限定するのか、此の點がどうも我々には分らない、總理大臣は何時かの本會議に於て日本の民主主義に付ての説明があつた、此の説明の中に、民主主義には米國流の民主主義もあるが、又「イギリス」流の民主主義もある、日本には日本特殊な民主主義を考案しなければならない、併し日本に考案さるべき民主主義に付ては特に「イギリス」流に持つて行きたいのだ、斯樣に申して居るのであります、新聞紙上に傳へる所に依りますと、畏多くも我が 天皇陛下も米國の新聞記者の質問に答へて、今後の日本は寧ろ「イギリス」流の民主主義の方が宜いのではないか、斯う云ふ風に仰せになつたさうであります、今申しましたやうに、幣原總理大臣は「イギリス」流の民主主義の發達が日本に望ましいのだと云ふことを申して居るのでありまするが、然らば此の勞働組合法と民主主義の運用との關係と云ふものは、極めて密接なものがあるのであります、私は此の總理大臣の言明から考へて、民主主義の運用と將來運用されるであらう所の此の組合の問題、是は恐らく表裏一體を成すものではないかと思ふ、「イギリス」流の民主主義とは一體何か、それは總理大臣はそこまで詳しく申されませぬでしたが、多分「イギリス」皇帝の政治上の地位と、我が日本の天皇の政治上の地位が違ふ――是は今囘憲法の改正に當つても重大問題となつて居りますが、日本の憲法では大權事項が非常に強化されて居る、「イギリス」流にするのには、此の大權を縮小しなければならない、斯う云ふやうなことの説明と私は解釋して居ります、併し「イギリス」の民主主義と云ふのは、「イギリス」の皇帝の政治上の地位にのみ限定して私は解釋すべきものぢゃないと思ふ、此の點は厚生大臣は特に閣僚の中でも外國の事情に精通された方でありますから、今更私共未熟な者が「イギリス」の政治のことに付て申上げることは、或は釋迦に説法かも存じませぬが、「イギリス」の民主主義と云ふのは「イギリス」の皇帝の政治上の地位及び關係の問題ぢやない、勞働組合と政治の關係から私は出發して居るであらうと思ふのであります、即ち「イギリス」に於ける勞働組合は政治に對して表決權を持つて居る、先般世界戰爭終了の直後に「チャーチル」内閣は議會を解散した、此の議會を解散した理由は「イギリス」の勞働組合が「チャーチル」内閣に對して不信任案を表決した、是なんです、謂はば「イギリス」の勞働組合が議會外にあつて議會を「コントロール」して居る、組合の運營と、「イギリス」全體の政治が表裏一體を成して居ると云ふ所に「イギリス」の民主主義の特質があるのであります、即ち「イギリス」の國民組織は政黨と勞働組合から成つて居る、「イギリス」の皇帝の政治上の地位如何が「イギリス」の民主主義の問題ぢやない、斯う云ふ事情から私は考へて、日本は「イギリス」流の民主主義に將來しなければならぬのだ、斯う仰せられる總理大臣の言明と、此の勞働組合の狙ひ所に矛盾を生じないか、此の點であります、そこで昨日の本會議にも是は問題になつたのでありまするが、最初答申案の第一條には、「本案は團結權の保障に依り勞働者の經濟的、社會的竝に政治的の地位の向上を圖り」、云々とあるのを、本提出案に依りまして、此の政治上の地位云々と云ふものを削除された、此の削除した理由は、昨日厚生大臣の説明に依ると、政治活動を禁止するのだ、政治活動に重點を置かない經濟法なんだ、斯う云ふ風に説明して居るのでありますが、私は此の説明振りでは、總理大臣が申して居る日本の民主主義は「イギリス」流にするのだと云ふことと、大變矛盾を生じては來ぬか、此の點に付きまして、先づ厚生大臣の所見を伺ひたいのであります
それから第二點は勞働組合と産業の民主化であります、近頃政治の民主化、産業の民主化、何でも彼でも自由主義、民主化を唱へなければ人間でないと云ふ風な風潮になつて居る、無論此の世界戰爭終了後、聯合國の大勝に依りまして、聯合國が抱く民主主義傾向に我我も沿つて行くと云ふことは、世界平和の點から申しまして、洵に私は當然だと思ふ、併しながら今申しましたやうに、政治の民主化と云ふことに付ては、一應内容に付ても納得することは出來まするが、何を以て産業の民主化と言ふのか、此の内容の問題であります、社會秩序の民主化から、當然政治には其の民主化としての具體的の構想が入用であります、と同時に、産業に付ても民主化に付ての具體的の構想と云ふものはやはり入用であります、所が此の産業の民主化の構想に付きましては、政府の方で何等の説明がない、此の産業民主化と勞働組合法の關係は一體どうなつて居るのか、此の點に付て先づ大臣の所見を拜聽致したいと存ずるのでありますが、私共の考へから申しますと、最近の勞働組合の傾向は、團體交渉權と企業參加權、産業別主義の組合、是が勞働組合の新傾向であらうと私は存じます、團體交渉權に付きましては本案に明記されて居りますから、姑く此の問題に言及を致しませぬが、此の企業の經營參加權である、勤勞者が自ら生活要求を持出して來る、此の自らの生活要求を持出すと云ふことは、日本の産業再建と産業復興に對して積極的な意欲を直結して行くのだ、産業再編成に付て勤勞者の勞働意欲と産業編成が直結せなければ、私は日本の今後の産業復興と云ふことは難かしいぢやないか、勞働者は單に從來のやうに階級鬪爭に立脚して勞働爭議ばかりをやる、資本家は勞働者を搾取すると云ふやうな從來の考へ方では、是は勞働組合は發達致しませぬが、殊に戰後の日本の産業經營、經濟經營と云ふ觀點から立つた日本の實情、況や「ポツダム」宣言を中心とした賠償問題の計畫を中心として、將來日本の産業が再編成をしなければならぬと云ふ時に、唯徒らに勞働爭議のみを繰返へす、階級鬪爭を以て資本家と勞働者がお互ひの違つた立場で鬪爭して行くと云ふやうなことでは、到底日本の戰後經營と云ふことは出來ない、そこで厚生省が本案を提出する所以のものは、民主主義傾向の促進助長だ、斯う云ふことだげを聽くと、勞働組合は社會秩序の民主化のやうにも思はれる、所が社會秩序の民主化と云ふことになると、政治行動が組合に隨伴せなければならぬ、所が政治行動は惡いのだ、唯勞働者の地位向上と云ふ一點に於て是は經濟問題だ、斯う云ふやうな説明である、一方では産業民主主義と云ふものは盛んに論ぜられる、どうも今提案されて居る此の勞働組合法が世間の風潮とぴつたり來ないのであります、そこで最近の勞働組合の傾向と云ふものは、企業の參加權にまで「タッチ」すると云ふ所にある、此の企業の參加權を拒否して何の産業民主化かと私は申したいのでありまするが、此の産業の經營に參加させると云ふことに依つて、先程から申します通りに勤勞者の勞働意欲と生産とが直結して、所謂我が國經濟の興隆に一大寄與をするのではないか、私は左樣に信ずるのでありますが、此の二點に付きまして、先づ厚生大臣の所見を拜聽致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=16
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017・芦田均
○芦田國務大臣 角君の御質問に御答へ致します、我が國の民主主義化は「イギリス」流に則る旨幣原總理大臣が言明したとのことでありました其の點に付ては政府内部でも種々意見の交換を致したのでありますが、世間に傳へられて居る所は多少誤解に基いて居るものであります、幣原總理大臣の言明は次の如くであります、民主主義には種種の形があつて、國に依つて必ずしも同じ形體では現はれて居ない、例へば、「アメリカ」は共和政治である、併し共和政治即民主主義と云ふ意味ではない、共和政治を採つて居る國にして獨裁政治に墮して居る國も南米其の他に數々ある、「イギリス」は立憲君主政治であるけれども民主主義である、君主制と民主主義とは兩立し得るのである、「ソヴィエト」も亦獨自の民主主義を誇りとして居るが、必ずしも「イギリス」「アメリカ」と同一の形體ではない、隨て日本にも日本獨自の民主主義形體がなければならぬ、又日本の君主政治は斷じて民主主義の精神と相容れないものではない、斯う云ふ風に幣原總理が、言明したと承知して居ります、それに關聯して角君は一體經濟的の民主化とはどう云ふことを言ふのかとの御質問がありました、第一條の原案に經濟的政治的社會的と云ふ文字があつたのを、昨日提案した條文の中には單に「勞働者の地位の向上を圖り」と簡單になつて居る、それには政治的の活動を全部禁止する趣意であつて、經濟上の勞働條件の維持改善のみを主としたもののやうに思はれると云ふ御話でありました、此の點は昨日本會議に於ても説明致しました通り、勞働組合の主たる目的が經濟的地位の向上にあると云ふことは、世界各國殆ど一致した意見でありまして、其のことは第二條に勞働組合の性質をはつきり定義した所に出て居るのであります、併しながら勞働組合と雖も或は福利施設を行ひ、或は圖書館を建設し、或は勞働の能率増進の研究所を設け、種々の從屬的事業を營んで居るのが現状であります、又勞働組合が其の地位の向上を圖る爲に特定の政治結社に支持を與へると云ふ決議をすることもあります、現に我が國に於ては曾て勞働總同盟が、社會大衆黨を支持すると云ふ態度を聲明した時代もあつた、隨て勞働組合と雖も其の經濟上の地位の増進を圖る爲に或る程度の政治運動をすることは、各國共通の事態であり、又之を勞働組合法に依つて禁止する必要もない、併しながら經濟的政治的社會的地位の向上と三つ之を竝べて書いて置けば、勞働組合の本來の目的が甚だ曖昧になつて來る、だから條文としては寧ろ勞働者の地位の向上と書いて、其の中には經濟的地位の向上以外にも従屬の目的を持つて居ることを明かにする方が適當である、斯う考へて本案には簡明な字句を用ひた次第であります、此の法案が勞働組合の事業として認めて居るものは、主たる目的と從屬の事業とを含んで居るのでありまして、決して政治上の運動一切を禁止すると云ふ趣旨で出來たものではないのであります、角君は所謂産業の民主化とはどう云ふことかと御尋ねになりました、無論民主化と申しましても、政治上の形に現はれる民主主義、經濟部門に現はれる民主主義、思想の上に現はれる民主主義は必ずしもそれが同じ形體を持ち同じ内容を持つものであるとは考へませぬ、政治的の民主主義とは何ぞや、一口に言つて國民の自由なる意思に依つて、政治的指導者を選ぶと云ふことであり、更に之を裏から言へば民意を尊重する政治と云ふ意味であると思ひます、産業の民主化と云へば無論此の思想に脈絡相通じて居ることは申すまでもないのでありますが、それだけでは具體的に産業の民主化と云ふ問題がはつきりして來ない、そこで一、二の特色を申せば、企業の運營、或は企業者の間の協定、企業の改善向上の爲の團體の結成等のことを原則として自由にすると云ふ問題もありませう、或は窮屈な統制的な商取引から市場を解放して、市場の機能を能率的に増進せしめると云ふ問題もありませう、又企業の公正な競爭を認めて之を阻碍する獨占、或は不公正なる市場の支配を禁止すると云ふことも産業の民主化でありませう、産業、經濟に於ては何處までも企業の自由な發展を認めて、各人に均等の機會を與へる、斯う云ふことが恐らく企業の民主化を指すものと考へます、さう云ふ意味に於て、日本の勞働組合と「イギリス」の勞働組合とを比較して、「イギリス」では勞働組合が政權を左右する地位に立つて居る、日本でもそれと同じ流儀に行くのかとの質問でありましたが、「イギリス」と雖も主たる政治運動をなすものは勞働黨であります、其の中には無論勞働組合の多數の代表者が入つて居ることは御承知の通りでありますが、併し一面に於て土地、貴族の代表者も勞働黨に入つて居り、學校の教授も入つて居る、勞働黨と勞働組合とは、其の目的必ずしも一致して居りませぬ、又其の構成に於ても全然同一のものではないのであります、我が國に於ても勞働組合が發達して、更に勞働黨を組織し主として政治活動を行ふ時代が、或は來ることも考へられます、併しながらそれを以て直ちに「イギリス」の政界が勞働組合の力でのみ左右されると、云ふ風に狹く考へたくないのであります、又此の點に於て日本の勞働組合と「イギリス」の勞働組合との間に何等矛盾もなければ著しき相違はない、斯樣に私は考へるのであります、最後の御質問は産業の民主化に伴つて勞働者を企業に參加せしめることが必要ではないかと云ふ點でありました、將來我が國の企業が勞働者の參加を認めると云ふことは望ましいことであり、又現に今日でも或る種の事業には勞働者が參加して居る、勞働者が株主となることは屡屡實現して居ります、之を妨げる法規は一切ありませぬ、自由に株主としての事業參加を認めて居るのであります、併しながら法律を以て總ての企業に必ず勞働者の參加を強要することは、今日の實情に即しない點がある、産業の自然の發達に俟ち、又勞働者の地位の改善に伴ふ實力の出來た場合には、さう云ふ方向に向つて進むことと期待して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=17
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018・角猪之助
○角委員 只今厚生大臣から極めて懇切丁寧な御答辯を得たのでありますが、御答辯の中には多少私との間に所見の違ふ點もあります、又色々申して居りますと、言葉の末に趨つて議論になるやうな點がありますので、それは差控へまして、只今幸ひ商工大臣が御出席下すつて居りますので、先程申しました質問の點に入りたいと存じます、唯芦田國務大臣に希望を申上げたいのは、敗戰日本から今後の新しい日本の再建に當りまして、勤勞行政と云ふものは極めて重要な點であります、若し此の勤勞行政に當つて見まして、一歩誤まれば、我が國の復興産業は全く目茶苦茶になる、殆ど今後の勤勞行政の巧拙如何が、新日本が成るか成らぬか、亡國の淵に陷るかどうかと云ふ大きな境目にならうと私は存ずるのであります、どうぞ一層の御健鬪を希望する所以であります
私商工大臣に伺ひたいのは、日本の戰後經營の大きな問題として、賠償支拂計畫に基く産業の再編成の問題であります、八月十五日のあの終戰の御詔勅以來今日まで國内の情勢を見ますると、全く「サボタージュ」をして居るやうな状態、勞働者もさうであるが、生産者もさうである、企業家もさうである、國内總てが復興問題に勇往邁進すると云ふやうな斯う云ふ氣力はちつともない、「サボタージュ」をして居る、一つ一つが亡國の淵に追込まれて居るやうな状態なのであります、而も政府のやつて居る仕事はどうか、甚だ言過ぎかも知れませぬが、依然として繁文褥禮の官僚の事務のみに忙殺されて、新らしい日本が起ち上らんとする具體的な政策もなければ氣魄もない、唯あるのは「マッカーサー」司令部に對し「サービス」をする點だけである、「マッカーサー」司令部に「サービス」をする點だけで政治がない、我々が東條内閣の當時あの戰爭の最中に東條内閣に對して我々は攻撃した、東條内閣には事務があつて政治はないではないか、若し政治があるとすれば憲兵政治だけである、事務があつて政治がないと云ふやうな東條内閣では、此の戰爭は出來はせぬではないか、是が敗戰の原因だと、斯う言つたら、果せる哉さうなつた、事務ばかりやつて居つた東條内閣、續いて來る内閣、總て是れ事務である、事務ばかりやつて居るから、戰爭に敗けた、戰爭を指導する者がなかつた、敗戰後の日本にはやはり大きな政治が入用であると思ふ、事務だけあつて、唯「マッカーサー」司令部に「サービス」をすればそれで宜しいと云ふやうな今までの政府の考へ方では、是は恐らく敗戰日本を背負つて立つて祖國を再建する所以でないと私は信ずる、此の風潮が、此の政府の考へ方が、企業家、勞働者に滲透して居りまして、所謂「サボタージュ」の傾向を益益助長して行く、俄かに流行つて來た民主主義傾向と自由主義に便乘する者が、唯景氣好くさう云ふことを言つて居るが、實際は復興の爲に何等の仕事もやつて居ない、御覽なさい、失業者は澤山ある、失業者は澤山あるが、勞働者がないのです、小さい工場でも勞働者の募集をやつて居る、警察署なんかでも巡査が足りない、消防署なんかでも消防夫が足りない、失業者があつて働く人がない、是は不思議な現象である、それで失業問題の對象は如何、斯うなる、所が此の失業者が闇取引の商人に化けて居る、失業者が天下御免の露店商人に化けてしまつて、工場其の他の所に入つて眞面目に働くことをしない廢頽的の樣相が段々深刻になつて來つつある所にありますが、一方實業家、企業家と云ふやうな經濟人が何も仕事をしようとしない、双方の關係が陰になり陽になつて、益益日本を亡國的な淵に押進めて居るのでありますが、是は私は先日も大阪へ參つて、色々な實業家と會つたが、實業家は再建日本と云ふ大きな眼から、何か平和日本産業に相應しいものを考案して、新日本建設の爲に協力をすべきものではないかと言つた所が、いや政府の指導、政策でどの程度仕事をして宜いか、政府がそれを言つて呉れない、所が一方では賠償問題と云ふものはまだ決まつてない、仕事をしようと云ふので仕事を始め、商品を出した、工場を拵へた、何何を設備した所へそつくりと賠償支拂計畫で持つて行かれては何にもならぬから、恐らく此の賠償問題が決まるまでは我々は手を出せないんだ、斯う云ふことを言つて居つた實業家があるのでありますが、斯う云ふ風な空氣の間に、最近「ポーレー」大使が中間報告の意味で日本に對する賠償計畫の内容に付て示唆を與へた、是は此の亡國的な淵に追込められて居る日本に取りまして、此の「ポーレー」大使の中間的の報告を兼ねた聲明は、幾らか我が國復興の前途に曙光を齎したものでないかと私は思ふ、考へますると、賠償問題が恐らく今後の日本を左右する重大問題であります、そこで「ポーレー」大使の聲明に依りますると、是は新聞紙上で具體的に出て居りまするから、我々は茲に其の内容を御紹介申上げる必要もないのでありまするが、唯之を茲に簡單に要約致しますると、鋼鐡生産の能力は滿州事變當時の生産能力に引下げる、製作機械の能力は約半分になり、二十箇所にある造船所が全部なくなる、多少修理に役立つ位のものを殘存して置いて全部なくなる、更に化學工業、輕金屬は見る影もなく持つて行かれる、電力は水力發電所は別ですが、火力の方は半分になる、斯う云ふ風な内容のやうに私は承知して居りますが、斯う致しますると、一體日本に何が殘るか、政府は此の點に付て今まで樂觀して居はしなかつたかと私は思ふのです、政府は賠償問題に對して或は一つの見透しを持つて居つたかも知れませぬが、從來政府の説明する所に依ると、財閥は解體しても設備や工場が殘るんだ、斯う云ふ説明で今まで來て居つた、所が「ポーレー」大使の説明に依ると、財閥は解體され、財閥の持つて居る設備も工場も全部移動して行くと云ふのであります、所が「ポーレー」大使は日本の國民に最低生活を補助するに足るだけのものが是で殘つて居るのだから安心して宜しい、斯う云ふことが聲明書にもあるやうに思ひますが、私共は此處で特に考へなければならぬのは、日本の人口の増加問題であります、御承知の通り日本は毎年百万づつの人口が増加して居ります、既に滿州事變以來千何百万人と云ふ人口が増加して居るのです、恐らく此の一箇年平均の百万人の人口は平均して今後も増加するかどうかと云ふことは我々には分りませぬけれども、兎に角今後とも増加の傾向にあると私は思ふ、然らば「ポーレー」大使の聲明は、日本の賠償計畫の支拂は、滿州事變以後膨れたものは全部沒收するんだ、滿州事變前のものは其の儘にして置くんだ、斯う云ふことを言つて居る、所がさう言つて居る中に、二十箇所の造船所は悉く沒收され、輕金屬は根こそぎ持つて行かれる、第一「アルミニウム」、恐らく日本に「アルミニウム」なんと云ふものを置いては、又飛行機を拵へて軍國主義化しはせぬかと云ふのが聯合國の心配であらうと思ひますが、此の「アルミニウム」は唯飛行機にだけ使ふのではない、家庭用品なんである、鍋、釜悉く「アルミニウム」製品なんである、我々の生活必需品の此の「アルミニウム」を全部國外に持つて行くんだ、更に今後の新日本の建設と云ふ大きな目から見れば、海運問題は極めて重大であります、滿州事變前は、此の海運の收入に依る國際決濟と云ふ點から見ても、海運の事業と云ふものは極めて重要な問題であつた、所が日本にはもう海運と云ふものはなくなるのです、二十箇所の造船所の閉鎖に依つて海運と云ふものはなくなるのである、現有勢力四十万「トン」餘りの船が唯浮ぶだけのことなんです、恐らく新興日本に取りましては數百万「トン」の船を要するであらうと私は思ふ、所が二十箇所の造船所がなくなつて、將來の復興日本に要する船が一體どうして出來るのか、斯う云ふ風に考へますると、此の賠償計畫が本當に日本の運命を左右するものだと私は思ふ、敢て歐洲戰後の「ドイツ」の例を言ふのぢやないが、「ドイツ」が色々な經過を辿つて「ナチス」になつたと云ふことは、歐洲戰争のあの直後聯合國側に對するあの賠償問題に原因がある、「ドイツ」國民は當時過重なる賠償の負擔に堪へられずして反動的に來たものは一體何か、政治的に見ますと、是が排外運動であつた、排外運動が變じて「ナチス」となつた、「ナチス」となつてどうなつたか、世界大戰爭に放火した、火付けをした、斯う云ふ風に考へますると、將來の世界の恒久平和維持と云ふ點から見ても、此の日本に將來課せられる賠償問題は極めて重大問題である、我々は「ナチス・ドイツ」の二の舞をやりたくない、併しながら聯合國側の日本に對する賠償計畫のやり方如何に依ると、「ナナス・ドイツ」のあの亜流を履まなければならぬと云ふ結果に陷ることを、私は大變憂慮するのであります、此の點に付きまして、政府は一體賠償問題を中心として、將來の日本の産業の編成を一體どう考へて居るのか、唯我が國の産業は今まで戰時中にあの膨れた資本と遊休設備を整理して、唯地上にそれを殘して今後運營したらそれで宜いのだと云ふ、そんな簡單な問題ぢやない、今後の日本の戰後經營の重心は、此の賠償支拂計畫を中心とした産業の編成であり、之を中心とした國民大衆の生活の問題であらうと私は思ふのでありますが、此の點に付て一體商工大臣は新日本を指導するに足る産業編成に付て、的確なる御計畫を持つて居ることと存じまするから、此の際此の問題に付て御披露を願へれば大變結構なことと私は存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=18
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019・小笠原三九郎
○小笠原国務大臣 角君が賠償問題に關聯して、今後の日本の産業の行き方に付て色々御意見を述べられ、洵に私共も傾聽致したのであります、角君の御承知のやうに、「ポツダム」宣言の趣旨に依りますると、日本の國は國民の最低生活を維持するに必要な産業は之を許容せられると云ふことが明言せられてあつたのであります、所が、然らばどの程度に許容せられるかと云ふことが、今まで分らなかつたのでございましたが、今回の「ポーレー」大使の中間發表の賠償案に依つて、稍稍其の輪郭が分つて參つたのであります、此の賠償案も「ポツダム」宣言の趣旨を考慮せられまして、あの中にありまする通り、日本の生活水準を低下することなく、軍需目的の爲に施設の擴張せられた餘剰設備を撤去する趣旨に於て案畫せられたものであることが述べられて居るのでありまするが、併しながら今日の日本は角君が仰せになつた通り、領土は縮小せられ、且つ人口は今後も増加しまするし、海外在住民の總引揚等もございますので、最低生活水準維持の爲には、輸入資金も亦相當多額を要することとなりまして、勢ひ輸出産業も含めました我が國産業と致しましては、相當程度の設備を維持培養せねばならぬことは申上げるまでもないことでございます、斯樣な日本の現状に於きまして、特殊事情を考慮致しまする時は、此の度の「ポーレー」大使の賠償案は、我が國に取りまして、仰せの如くに頗る嚴しい内容を盛つたものであつて、國民と致しましては、今後尋常の生易しい努力を以てしては、從來の最低生活を維持することすら困難であることを覺悟しなければならぬと考へるのであります、其の上に戰災に因る生産設備の甚大な被害や、食糧、石炭の不足、陸海輸送力の逼迫、其の他生産條件が非常に惡化して居る時であるのであります、併しながら此の「ポーレー」大使の發表に依りまして、日本の將來の産業の概觀を知ることが出來たのでございまして、之に基いて之を機會として、我々は平和日本を再建する爲に、産業復興に全幅の努力を致さなければならぬと考へて居る次第であります、但し賠償の問題は、角君も御承知の如く、頗る「デリケート」な問題でございまするから、今日此の内容等に付て、是れ以上立入つたことは當局者としては申上げない方が宜しいかと考へますので、其の點は問題の性質に鑑みて御諒承を願ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=19
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020・角猪之助
○角委員 商工大臣の御答辯は詰り斯うなんでせうか、日本の今後に於ける産業の再編成の具體的のことを言ふことは差控へた方が宜しいのだと云ふのでありますか、其の點をはつきりと……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=20
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021・小笠原三九郎
○小笠原国務大臣 今後の日本産業の再編成に付ての問題ではございませぬ、賠償の内容等から出て來る日本産業の再編成と云ふ意味合でございます、即ち個々に亙つて今丁度御示しのあつたやうな、例へば「アルミニウム」がどうであるとか、鐡がどうであるとか云ふやうなことも、産業再編成には何れも基礎物資でありますので、極めて重要な關係を持つて居ります、所がそれ等に基いたことを申上げるのは、今一寸差控へさせて斯いた方が、是は角君も能く御分りと存じますが、其の方が宜しいのではないか、斯樣な意味から申上げたのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=21
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022・角猪之助
○角委員 承知致しました、是れ以上は申すことを差控へまして、第二點の勤勞大衆の生活問題に關聯して、商工大臣の所見を是非私は伺ひたいと思ひます、政府の國民生活解決に付てのやり方を見て居ると、どうも現實を直視してない、現實の問題に觸れた問題は一向ないのではないかと私は思ふ。總理大臣は「ダム」の建設のことを申されました、是は洵に結構です、「ダム」の建設をして其處に失業者を澤山集めて失業問題を解決する、是も生活安定策でありませう、更に又農林大臣が申されて居る、將來今後五箇年計畫を以て農耕地の開發計畫をやる、是も結構です、「ダム」の建設結構、農耕地の開發結構、總ては是れ新興日本再建に付て役立つ問題であります、此の點に付て十分の御努力を私は願ひたいと思ひまするが、此の將來への問題と共に、現實にどうするか、御承知の通り今國民が寒さと飢えに苦しんで居る、現に勞働者諸君も、終戰後入つた僅かの手當は、今日では殆どもう使ひ盡して居ります、恐らく來春早々時分から私は社會不安の傾向が益益深刻になつて來ると思ひます、現に大阪、東京で公々然と十人組の強盜、何人組の強盜が跳梁跋扈して居る、斯う云ふ無警察状態になるまでに、強盜が白晝公々然と跳梁跋扈して居ることを、政府は御覽になつて居るか、農耕地の開發、「ダム」の建設等に依つて將來の樂園を築くことは無論結構でありまするが、現實に即して此の生活の問題を一體どうするのか、此の現實の問題を考へずして、どうして日本の再建が出來るかと私は思ふのであります、此の點に付て先づ私が聽きたいのは、日本全國に隠れた物資はまだ澤山あるのです、一々數字で申上げなくても、或は大臣が御分りになつて居ると思ふ、大臣が分らないなら、あなたの下で働いて居る事務官連中が能く知つて居ります、日本全國に是れ是れの物資は今是だけあるのだ、是れ是れの物資がまだ是だけ秘密にあるのだと云ふことは、或は大臣、次官、局長は知らなくても、事務官諸君が能く知つて居る、此の當面の問題を考へて、現實に即した生活問題を解決するのに、全日本にまだ隠匿されて居る物資を開放する必要がある、之に付て一體どう云ふ手を打つ積りなのだ、今まで政府は此の物資に付て打つ手を考へて居ると云ふことを、不幸にも私は聞いたことがない、唯聞くことは何年後に於ける食糧の増産は斯うだ、「ダム」の建設で何年後に是だけの失業問題を解決する、電力は是だけ活用させるのだと云ふ將來の御馳走をよく聞くのでありますが、腹の減つた者には將來の御馳走ではない、今直ぐ食べる茶漬飯の方が御馳走である、此の茶漬飯に付て、政府の方では一向持出して來ない、國民は餓死して宜いのか、寒さに震へ上つて死んで行つて宜いのか、斯う云ふ風に極端に政府は考へて居ないやうであるが、現實に即した問題を少しも考へて居られないことを私は非常に殘念に思ひます、先づ衣料問題、是は端的に申上げますが、極寒を前に控へて、一千万以上の罹災民が寒さに震へて居る、罹災に遭はなかつた普通國民でも、闇取引に今まで持つて居つた衣服、「シヤツ」類を悉く百姓に渡して食糧と交換して居る、日本に於て衣服の缺乏今日より甚だしきはないと私は思ひます、所が此の反物はないかと云ふとさうではない、ある、何處にあるかと云ふと、交易營團の倉庫を御調査になつたならば、はつきり分つて來ます、所が戰災援護會からせめて五万「トン」でも宜いから衣料を配給して呉れと言つても、つべこべ言つて中々呉れない、寒さに震へ上つて居ると云ふ時に、まだ交易營團の倉庫に二十万梱の衣料を蓄へて居つて、之を開放するのに政府は何の手も打たないと云ふことは、どう云ふ譯であるか、もう一つ奇怪なことは、三越、白木屋、松坂屋などの百貨店に手持ちの衣料が澤山あります、一々數字を申上げなくても能く分つて居るが、商工省から各種百貨店に向かつて新公價が出來るまでは販賣してはいかぬぞと云ふ禁止命令が出て居る、又百貨店には鍋、釜、色々の生活必需品がある、所が新公價を作るまでは、百貨店は賣つてはいかぬと云ふ命令を出して居る、是は一體どう云ふ理由であるか、生活必需品の不足で皆困つて居る、二十万梱の衣料が交易營團の倉庫にあるのに出さうとしない、又百貨店も物を賣つてはいかぬぞと云ふ、商工省は國民を飢えさせて死ね、國民に物を著せないで凍えて死ねと云ふことを奬勵して居るのではないかと、捻くれて私はものを考へざるを得ないのであります、更に紙がない、小林復興院總裁は紙がないから仕事が出來ぬのだと言つて居るさうです、直接私が聽いたことではない、今復興院總裁が此處に出席されて居ると大變結構でありますが、不幸にして出席して居らない、此の聰明な商賣人、實業家であり、大阪の寶塚で色々多角形的な事業を經營されて居る此の人が、紙がなくて役所では仕事が出來ぬと言つて悲鳴を擧げて居る、所が紙屋の倉庫を調査して御覽なさい、六百万「ポンド」と云ふ紙が現に貯藏されて居る、どうして之を開放させないのでせうか、其の他塵紙が不足だ、此の頃東京の何處へ行つても新聞賣りが氾濫する、皆新聞を讀むのかと思ふとさうでない、家へ行くとそれが塵紙の代用に使はれる、其の爲に街賣りの新聞が非常に繁昌して居る、何ぞ知らぬ、紙屋の倉庫に六百万「ポンド」と云ふ多量の紙があつて市場に一向出して居ない、天下の公器である新聞が依然として半ぺらを發行して居ると云ふ状態、而も半ぺら新聞を家庭に持つて行つて塵紙代用にしなければならぬと云ふ紙饑饉になつて居る、更に又藥の問題であります、此の頃藥がない、是も芦田厚生大臣は、篤と御承知のことと思ふ、藥がなくて何處へ行つても藥屋が開店休業の状態である、お醫者さんも遂に治療を繼續することが出來ない状態である、所が藥がないのかと云ふと、是もさうではない、現に進駐軍の手に依つて藥を押へて居つて縣なり政府から申出て來れば、何處へでも之を配分すると言つて居りますが、藥の本家本元である厚生省の方も、甚だ無關心のやうに考へる、更に日本醫師會へ行つて御覽なさい、百万圓に相當する藥をまだ持つて居る、是は恐らく厚生大臣も御承知と思ふ、是は人に依れば百五十万圓に相當するものだと言つて居るが、此の莫大な價格に相當する藥を持ちながら、市中に配給せず、藥なくして死んで行く病人の澤山あることを考へますると、一體厚生省は此の藥の問題にどう云ふ風な考へ方を持つて居るか、同仁會も今度の終戰に依つて仕事が出來なくなると思ひますが、此の同仁會も澤山の藥を買込んで居つた、所が同仁會の藥に付きましては厚生省が分けて呉れと言つても、中々何か公定相場では困る、闇なら分けても宜いと言つたとか云ふ話であるが、斯う云ふやうな關係で同仁會にある藥もまだ市中に渡つて居ない、一體藥なんて云ふものは死藏すべきものではない、藥は天下の物であり國民の物であります、醫師會だからと云つて、醫師會の倉庫に百万圓、百五十万圓に相當するやうな莫大な藥を持つて居て、今に藥は騰つて來るだらうから、病人の脉を診るよりも、此の藥で一つ一儲けしようぢやないかと云ふやうな考へ方を、若し醫師會が持つて居るとすれば、是は國を滅亡に瀕せしめるものである、所が政府は醫師會が持つて居る此の百万圓の藥に付ても、開放さすべく何等の手も打つて居ない、斯う云ふ風に考へますると、色色まだ物資がある、「タイヤ」もあります、自轉車もある、所が政府に聽くと何もない何もないと言つて居る、ない物盡しである、ない物盡しだから、何とも仕樣がないぢやないかと云ふことを言つて居るが、一體ないもの盡しだと云ふことを政府が言ふのは、死藏して居る是等の物の全國の倉庫の扉を開かす、何等打つべき手もなく考へもない、所謂政治の弱體政治の貧困をあなた方等は此の世間に暴露して居るものと私は思ふのであります、斯う云ふことで果して國民大衆の生活の問題を解決が出來るか、先程も申上げましたやうに、將來の計畫は結構です、それは政治ですから現實ばかりでは困る、將來の計畫は結構です、併しながら現實を見て是れ是れの物資はまだ其處にある、是れ是れの物資はまだ彼處にある、彼處へ行けばまだ自轉轉車がある、「トラック」がある、斯う云ふ風な事實を知つて居れば、之を開放せしめて、直ちに今日の國民生活を考へると云ふことが、最も焦眉の急なりと信ずるのであります、斯う云ふ點に付て一體商工大臣はどう考へて居られますか、あなたも代議士である、國民の生活に付ては官僚諸君より以上に能く知つて居る筈である、所が私は商工省の役人の惡口を言ふ譯ぢやありませぬが、商工省の輕金屬に關係して居る役人の方々は、今仕事がない、仕事がないと言つて、役所へ出て來て煙草を吹かして欠伸ばかりやつて居る、所が日本全國のあの軍需工場の跡を見て見ますと、鍋、釜を今澤山拵へて居る、鍋釜を澤山拵へて居るのに、それに關係して居る役人が仕事がない仕事がないと言ふ、何處の家庭へ行つてもまだ不自由をして居る、殆ど役人も「サボタージュ」をして居ると云ふやうな状態でありますが、どうぞ一つうんと活を入れて、何とか國民生活の安定に對して適切なる方法を講じなければ、將來「ダム」はどうであらうとも、五箇年後の農地開發はどうであらうとも、今打つべき手が何もないものでせうか、一體商工省の役人が、全國に死藏して居る物資に手が打てないと云ふのは、恐らく是は總動員法を撤去しなければ振興課も拵へられない、總動員法を撤去しなければ物資が廻らぬのだと云ふことを言つて居る、さうすれば一日も早く振興課を作り、さうして一日も早く總動員法を撤去する方法をどうして考へないかと云ふことを、私は先づ聽きたいのですが、一方愚圖々々して一向商工省はやらない、どうしてやらないのか、役人は經濟統制の綱にやはりしがみ付て、此の經濟統制の綱を外しては自分の地位がどうも困る、自分の首が吹飛んで行くのだ、一日も長く此の經濟統制の綱を掴んで居れば自分の首は安泰だ、欠伸をしながら仕事も出來るし、煙草を吹かしながら月給も貰へるのだと云ふ、そんなさもしい考へで商工省の役人が若し居るとすれば、國を滅ぼすもの商工省の役人なりと、私は言はざるを得ないと思ふ、どうか商工大臣も中々苦勞人です、世間の隅々の事まで能く知つて居る方です、此の苦勞人である世間の隅々まで能く知つて居られるのに、商工省の行政は尚ほ斯くの如くふしだらであり、斯くの如く尚ほ亡國に足を掛けるやうな仕事をやつて居られると云ふのであれば、恐らく國民大衆は承知を致しませぬ、どうぞ此の點に付て全國にまだ隱れて居る物資の開放、全國の倉庫の扉を開かすことに付てどう云ふ手を打たれるのか、此の問題に付て先づ商工大臣の御所見を私は拜聽致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=22
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023・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 角君が仰せの點に付て洵に傾聽する所が少くなかつたのでありますが、實情と少しく違つて居るのではないかと思ふ點がありますから、商工省當局と致しまして御返事を申上げます、先づ最初に國内に隱れた物資の點であります、是は仰せの通りと思ひます、隱退藏物資の引出しに付きましては、終戰前に御承知のやうに強權的に警察力を以て之を回収しようとしてやつたことがございます、所がそれが爲に色々紛爭等を起しまして、成績が擧らなかつたことは、角君も能く御承知だらうと存じます、隨ひましてどうも強權を以て之を引出すと云ふことは、中々難かしいと云ふ考へ方から、丸公撤廢とか、統制の廢止と云ふことに依りまして、經濟現象的に自然に之を流れ出すやうにして活用したいと云ふ考へで、之に臨んで居る次第でございます、但し丸公の撤廢に付ては、聯合軍とも相談中でございまして、まだ向ふの許可同意を得るに至つて居りませぬ、それから交易營團の所有して居る物が今二十万梱と仰せられたのでありますが、是は角君御承知でありませうが、海外から引揚げて來る者が多數あるのでありまして、此の海外から引揚げて來る者の爲に、百五十万著分が用意致してあるのであります、隨て是は倉庫に殘つて居りますが、其の百五十万著分が海外から引揚げて來る者の爲に準備してあります、其の他のものは、米を輸入する爲に向ふへ輸出する見返り物資として出すやうに殘してあるのでありまして、多くは全部が輸出品に向けられるものであります、但し若干戰災者其の他に配るものがまだ倉庫にあります、是が全部豫定されて居ります、戰災者に對する分は持合せたものを出しました外、非常準備として持つて居りましたものも全部出しました、更に又軍其の他から入りましたものも是は全部厚生省其の他と打合せまして、割當を致して居るのであります、但し極く一部分がまだ交易營團の倉庫に殘つて居りますが、是は小運送其の他の關係で殘つて居るのでありまして、交易營團にあります分は、今申上げた通り海外引揚民及び輸入物資の見返り及び其の豫定として割當をしてある戰災者用の分である譯であります
それから生活必需物資に對して、百貨店等に新しい公價が出來るまで販賣するなと云ふことで商工省が差止めたと云ふ御話がございましたが、左樣な差止めを致したことは全然ございませぬ、唯業者側が、公定價格が値上りするだらう、だからそれまで賣らぬ方が得だと言つて、賣澁る傾向のあることは事實でありまして、私の方では屡屡警告致して居るのでありますが、御趣旨に從つて一層警告することに致します
それから紙であります、紙は全體として御承知のやうに非常に需給が窮屈な状況になつて居ります、特に樺太、北海道等がああ云ふ風になりました關係上、中々窮屈に相成つて居ります、隨て今計畫的に皆紙の配給は致して居りまする譯で、其の計畫になつて居りますから、次の分の配分に相當する分が手持になつて居る分はございます、併しながら全部が計畫されて居るのでありまして、其の計畫を致しましても十分なことに參らぬことは、是は角君御諒承が御願ひ出來るであらうと思ふのであります
更に商工省官吏がどうも欠伸をしながらやつて居ると云ふやうな御話がございましたが、若し左樣なことがありますれば、是は私の監督不行屆の致す所、洵に恐縮に存じます、隨ひまして私は全力を盡して目下やつて居る積りでありますが、尚ほ力の足らぬ所のあることを今御指摘になりまして、甚だ恐縮に堪へませぬ、是は私の部下の全官吏を戒めて、全力を盡させることに致します、同時に今機構も變えまして、角君も御承知のやうに、輕金屬と云つたやうなものは、昨今になると多少仕事のない部局があります、隨ひまして左樣なことは、今度の行政整理を機會に、局課の廢合を斷行することに致して居りまするから、其の間に一時的に欠伸をして居つたやうな者が出て居つたかも知れませぬが、今後は斷じて左樣なことなく、全力を盡させることに致します、尚ほ總動員法或は輸出入の臨時措置法、斯う云ふやうなものは撤廃をすることに致しまして、既に輸出入に關する法律其の他十三件は本日貴族院でもう議決を經まして、私共の方の關係のものはもう廢めることに致して居ります、總動員法も既に廢止のことが豫定されて居ると承知致して居ります、隨ひまして是も撤廢されるのであります、併し之に依つて統制を一擧に全部外してしまふと云ふことはどうかと云ふことになりますと、既に出して居ります各種の命令、例へば軍需會社法關係等は廢しますが、それに依つて補償等の關係もありまするので、此の善後措置に關することは立てて居ります、尚ほ總動員法や輸出入品等のあの法律に付きまして今まで出して居ります命令等に付ては、六箇月間だけ其の儘效力を繼續することに致して居るのでありますが、併し效力繼續中と雖も、今申上げた方針に基いて著著之を廢止して行くと云ふ考へ方でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=23
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024・芦田均
○芦田國務大臣 只今角君から藥品の缺乏に拘らず一向藥が出ないと云ふ御話がありました、正に其の通りであります、現在實行して居ることを簡單に申上げます、軍の所持して居りました藥品にして、聯合軍側の保菅に係るものが數量にして「トラック」に一万二千臺分位あります、是は全國各地の山奧にも、海岸の洞窟にも入つて居ります、一應内務省が之を所菅することに致しまして、さうして聯合軍司令部の諒解を得て、順次之を藥品統制會社の方に先般來續々引渡して居ります、但し其の藥品の藏ひ方が、必ずしも其の土地に必要なものが其の土地に藏つてあると云ふ譯ではないのであります、一應藏つてある藥品を調べて、此の藥品を必要とする地域に配給しますまでには、地方の運送状況に依つて遲れる場合もあります、併し現に藥品會社が金の支拂に困る程、何千万圓と云ふ品物が續々と出つつある、まだ行渡つて居らない場所もあるでありませうが、至急行渡らせるやうに手配をして居ることは、御承知置きを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=24
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025・添田敬一郎
○添田委員長 それでは休憩を致します、午後は選擧法が本會議に上程されることになつて居りますので、選擧法が濟んだならば、直ぐさま此の會を再開することに致しますから、どうぞ其の御積りで御參集を願ひたいと思ひます
午後零時三十七分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=25
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026・会議録情報3
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午後四時六分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=26
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027・添田敬一郎
○添田委員長 午前に引續いて開會を致します、本日は先刻厚生大臣との間に懇談會も開いたのでありますが、選擧法の上程も今近きにあるやうな次第でありますから、本日は之を以て散會を致します、明日は午前十時より正確に始めたいと思ひますから、どうぞ皆さんも御參集を御願ひ致します、今日は是で散會致します
午後四時七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=27
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028・会議録情報4
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〔參 照〕
勞働組合法案委員會要求の參考資料(十二月十一日現在)
一、自由勞働者の各府縣に於ける職種別竝に其數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00119451211&spkNum=28
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