1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働組合法案(政府提出)(第一八號)
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昭和二十年十二月十二日(水曜日)午前十時二十五分開議
出席委員左の如し
委員長 添田敬一郎君
理事 米田吉盛君
小野義一君 川崎巳之太郎君
小林鐵太郎君 下出義雄君
長井源君 野田武夫君
野本吉兵衞君 廣野規矩太郎君
福田重清君 松村光三君
村松久義君 薩摩雄次君
吉川大介君 稻葉圭亮君
菅野和太郎君 船田中君
信正義雄君 星島二郎君
本多市郎君 山口喜久一郎君
正木清君 山崎常吉君
同日委員羽田武嗣郎君、今井新造君、喜多壯一郎君及村松久義君辭任に付其の補闕として逢澤寛君、小山亮君、永山忠則君及薩摩雄次君を議長に於て選定せり
同日理事喜多壯一郎君の補闕として永山忠則君理事に當選せり
出席國務大臣左の如し
厚生大臣 芦田均君
大藏大臣 子爵 澁澤敬三君
出席政府委員左の如し
大藏省外資局長 野田卯一君
厚生省勞政局長 高橋庸彌君
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本日の會議に上りたる議案左の如し
勞働組合法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=0
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001・添田敬一郎
○添田委員長 開會を致します――村松久義君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=1
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002・村松久義
○村松委員 進歩的なりと稱する勞働組合法が提案されまして、私共喜んで居る一人であります、確かに進歩的であることは是は言ふまでもありませぬが、唯進歩的と云ふ意味が、必ずしも其の言葉の持つて居りまする總ての意味に於て肯定し得るかどうか、是は相當疑問の點があると存じます、但し昭和六年に政府より提案せられましたる勞働組合法案に比較しての話であつて、必ずしも現在の日本經濟の變化に相應したるものであるかどうかに關しては、是から大臣に種々御伺ひ致して見たいと思ふのであります、要するに昭和六年から今日まで十幾年、其の間に經濟は基本的の變化がありました、戰爭、更に其の後に於ける我々の直面致す日本經濟の再建の問題、此の經濟の進展と申しますか、變化に相應して組合法案が成長致したのであれば、是は確かに進歩的であると私は全面的に肯定し得ると思ひまするが、悲しいかな本法は、昭和六年當時の勞働問題に關する觀念を一歩も出て居ないやうな感じがする、唯當時否認せられたる所の團體交渉權なり、或は罷業權と云ふものが復活せられたと云ふだけであつて、現在の根本的に變化したる經濟基盤に、果して相應して居るかどうかと云ふことが、嚴正に批判せられなければならぬと斯樣に私は考へます、之を批判致しまする私の立場は、勿論資本家側でもない、又勞働者側でもない、謂はば消費者、或は生活者、全國民が消費者であり、生活者であると云ふ全國民的の立場に於て、之を批判する必要があると思ひます、大臣も御承知でございませうが、日本には今日まで消費者的、或は生活者的批判と云ふものが、一切の社會運動になかつたと云ふ事實は肯定なさることと存じます、昭和六年のあの當時を顧みて見ますれば、資本家側は要するに勞働組合法案を單なる恐るべきものとして今日まで排斥して居る事實、さうして又勞働者側に於ては組合或は組合運動と云ふものを、單に鬪爭の手段と云つたやうな風に解して居つたのであつて、私共全國民的立場、消費者的、生活者的立場に於て之を見まするならば、正しい勞働問題の解釋を持つて居つたやうには之を見受けられなかつたのであります、當時の爭議の状況を考へて見ますると、事實に於て組合運動、或は爭議と云ふものも、勞働大衆自らの運動になつて居らなかつたと云ふ事實は間違ひがないであります、極端に言ひまするならば、勞働運動家の運動とも考へられる節が相當にあつたのでありまして、それ故に當時の勞働組合法案に對する考へ方と云ふものは、一部は恐れ、一部は之を強行せんとする、何かしらそこに一つの階級鬪爭の手段としての組合運動と云ふ觀念が、力強く印象付けられて居る、斯樣に考へられるのであります、そこで私は最初に、本勞働組合法案を御提案になりました政府が、どんな勞働觀、勤勞觀――理想案でも結構であります、或は現状に即したる所の過渡的なる勞働觀でも結構でありますが、どんな勤勞觀、どんな勞働觀を持つて、殊に資本に關聯する範圍に於てどんな風な御考へを持つて本法案を御提案になつたのであるか、之を最初に御聽き致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=2
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003・芦田均
○芦田國務大臣 只今村松君の御發言になりました日本勞働運動の經過、之に對する資本家側の態度竝に消費者側の聲が、一向取上げられて居ないと云ふ風な御觀察に付ては、私も同感でありまして、全く御話の通りだと思ひます、一口で申せば、昭和六年初めて政府の勞働組合法案が提出されて、審議未了に終り、さうして今日まで勞働組合法が何等の具體的進化を遂げなかつたと云ふことは、畢竟勞働運動にしても、或は資本家側の企業體制の基本にしても、或は又一般大衆が勞働問題を取扱ふ態度に於ても、足が地に付かない形でやつて來たと云ふ結果であると思ひます、然らば今日此の進歩的なる勞働組合法案に相應しき總ての客觀的條件が國内に釀成されて居るかどうかと云ふ點になると、私自身も資本家側の心構へ、勞働組合發達の現状、是等の問題に對する國民の心構へ、何れもまだ十分な發達を示して居ないと思ひます、併しながら此の状況を此の儘自然の推移に任すべきでなく、或る一定の標準を早く天下に示して、我々の向ふべき目標は斯う云ふ方面にあるのだ、席を十分に設けてあるのだと云ふ程度の指導を國民に行ふことが、此の際に於ける政府當然の任務である、斯樣に考へまして此の法案を作成した譯であります、諸外國の立法例等を見ましても、「イギリス」、「アメリカ」等の勞働組合に關する法制は、實質に於て今囘提案致しました法案と左程の逕庭はない、謂はば世界の先進國に於ける勞働立法の域に達した案であると考へて居ります、問題は此の一つの枠の中に十分充足せらるべき要件を如何に速かに作り上げるかと云ふことに懸つて居るのでありますが、其の點は獨り政府の努力では出來ないことでありまして、勞働側に於ても、又事業主の側に於ても、或は又之に對する社會一般の心構へに於ても、今後打つべき手は澤山に殘されて居る、斯樣に私は考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=3
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004・村松久義
○村松委員 御説明に相成りました點は其の通り私は了承致しますが、私の問ひ方が下手なんでありませうか、其の點に付て逸脱なされたやうに考へますので、もう一度簡單に申上げますが、私の御聽きして居るのは、本法を提案になられたる其の根柢を成す勞働觀、勤勞觀をどんな風に御考へになるか、勞資對立と云ふ宿命的の運命の下に於て、勤勞觀を御考へになつて居るか、或は又勞資一體、或は勞資の協同體と云つたやうな、大きな理想の下に御出しになつて居るのかどうか、其の勞働觀の、本法提案の根柢を成しまする御理想でも結構であります、或は現状に即したる所の過渡的なる御考へでも結構であります、其の點を明かにして戴きたい、斯う考へて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=4
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005・芦田均
○芦田國務大臣 御答へ致します、村松君がよく御承知の通り、「ヨーロッパ」に於ける産業革命以後の勞働運動は「イギリス」に於ても、又「ドイツ」其の他の大陸諸國に於ても、ひた向きに階級鬪爭の運動を驅り立てるやうな方向に向つて來て居つたのであつて、少くとも第一次世界大戰に至るまでの社會運動は、社會主義運動の眼目として階級鬪爭の觀念に左右されて來たのであります、それに對する反動は戰後に於ける「ナチス」の思想となり、或は「イタリア」に於ける組合國家の運動となつて、どちらかと言へば、強權を以て自發的なる勞働運動を抑壓した形になつて居ります、其の形態が今囘の第二次世界大戰に依つて忌憚なく缺陷を暴露して、遂に「ナチス」運動、「ファッショ」運動が斯樣な慘めな失敗に終つたことは御承知の通りであります、隨て新しき世界の勞働觀は、此の過去の二つの失敗に顧みて、新しき舞臺に飛躍して行かなくてはならない、其の背後を成す思想は、學者の説を聽けば色々難かしい言葉で發表されて居るでありませうが、我々素人の一應の心構へとしては、此の十九世紀の階級鬪爭的思想竝に其の後に現はれたる「ファッショ」に依る強權の思想、それ等のものの犯し來つた過ちを能く反省して、勞働階級も、或は資本家階級も、政府自體の心構へも、國民大衆の之に對する態度も、此の凡ゆる階級を打つて一丸としたる精神の上に樹立されなければならぬのであります、隨て本法の第一條に示して居りまする目的に於ても、決して是は勞働者の立場をのみ擁護すると云ふことに盡きて居るのではないのであつて、原案に現はれて居りました社會的、經濟的、政治的地位の向上を圖り、而して文化の發展と經濟の興隆に寄與すべきであると云ふことは、之を事業主の側から見ても、國家の側から見ても、勞働階級の權利、利益の擁護と同時に、勞働階級自體も亦社會國家の文化、經濟の興隆に寄與すべきものであると云ふ意味を示して居るのでありまして、第一條第一項の精神は其の間に何等階級的な利害關係、階級的な「イデオロギー」を含んで居るものではありませぬ、此の意味に於ても本法案は寧ろ新しく一歩を踏出して居るものであり、從來の勞働法制の觀念よりも更に積極的な精神を茲に盛込んだものである、斯樣に私は信じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=5
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006・村松久義
○村松委員 難かしい學問上の意見を私展開しようとは思ひませぬ、只今の常識的の御考への程度で滿足致しますが、要するに只今の御答辯を私綜合しますると、資本家側も勞働者側も相提携して産業の興隆と云ふ點に集中的に現はれるやうにと云ふ御希望のやうに私拜聽致しました、それはそれで分ります、そこで本法案の構成を見て居りますと、要するに資本家側に對しても産業の興隆に努むべき一つの要請をすべきではなかつたか、何かしら勞働者側の方ばかり規定致しまして、産業方面に對する資本家側に對する所の要請と云ふものは、唯第一條に産業の興隆とあり、さうして只今の御説明の範圍に於て、成程それはさう云ふ點であらうと云ふやうにしか分らぬのでありますが、それはそれとして、若し本當に階級鬪爭と云ふのではなく、勞資が産業の興隆に一體となつて盡すべき要請、盡すべき義務を其の中に盛られて居るとするならば、是はもう一歩進んで日本の經濟産業と云ふものが、御承知のやうに半封建的と言はれて居る、此の半封建的と言はるる産業關係を根本的に規正する、さうして産業自體を民主主義化して行くと云ふ方向に御進みになり、併せて勞働者側の地位向上、産業興隆と云ふ任務を課せられるならば、私成程と思ひまするけれども、本法に於ては産業の民主主義化に關しては殆ど何等謳つて居る所はないのであります、此の際日本の經濟の状況を考へて見ると、是は非常に特殊的であります、先程大臣は此の法案は先進諸國に比較して何等逕庭のないものであると言ふ、其の先進諸國が法律の上に於ては或は逕庭がないかも知れぬが、法律はそれは過去に於て作つたのでありますが、戰後と云ふ新しい經濟に突入致しました所の各國は、法律の有無に拘はらず新しい勞働運動にまで今發展せんとして居るのであります、それは「アメリカ」を例に取つて申上げるまでもなく、單なる此の程度に終つては居ないのです、寧ろもう産業方面に對しても民主主義化の運動が進んで來る、生活者として消費者としての全國民的立場に於て政策が遂行せられて居る、何年も前に作つた法案は是は別でありますが、現状は少くとも此の法案程度に於てではない、勞働運動の實際はさうではないのであります、そこに御留意なさるならば、私は本法案が世界の現在の勞働運動の現状から見て、決して進歩的ではない、寧ろ産業方面に對してもつと民主主義化運動が此の法案の中に盛られ、而も産業の興隆と云ふことを勞働者のみに課するのではなく、資本家側にも課して行くと云ふ方針で此の法案を作つたと御考へになりまするならば、どうしてもさう云ふ方面に對して大きな攻勢が展開されなければならぬことは是は理の當然、大臣の仰しやる所から結論し得るのではないかと存じます、本法案にはそれが認められませぬが、若し大臣が日本産業の民主主義化の御理想、御構想と云ふやうなものを御持ちでありますならば、此の際に於て簡單で結構でありますから、其の方向だけでも一つ御示しを願ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=6
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007・芦田均
○芦田國務大臣 只今村松君の御話の點は御尤もであります、私も全然同感でありますが、此の組合法に關する限り、資本家が勞務に關係する部門を規定したものでありまして、其の點に於ては勞働組合の團結權を認め、團體交渉權を認め、勞働協約を助成し、勞働委員會に民主主義的な機構を盛込んだと云ふ點に於て、略略資本家の勞働問題に關する部門は網羅して居ると考へて居るのであります、産業の民主化其の他企業の形態問題、勞働者の企業參加の問題、是等の問題に付ては自ら他の法律なり、或は他の指導面に於て之を取扱ふべきものであつて、勞働法制としては資本家の執るべき種々の措置に付て、略略漏れなく規定が出來て居るのではないかと考へて居るのであります、産業の民主化に付きましては昨日角委員から質問がありました、其の時に十二分とは參りませぬが、私の考へて居る大體の筋道を答辯致しました、今朝の新聞紙にも、其の梗概は掲載されて居るのであります、村松君に對して之を御答へするには、昨日の答辯を繰返す程度に止まるかと思ひますから、其の點は後日速記録に付て御承知を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=7
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008・村松久義
○村松委員 本法案が産業に於ける勞務に關する部分のみを取上げたのであると云ふ御言葉、勞務とは一體何ぞやと云ふことが今度は問題になつて來る、例へば勞働能率の増進等は、是はどう云ふ風にして解決するかと云ふやうな問題が直ちに起る、生活上の問題だけではない、そして本法案が産業の興隆に資せんとすると云ふ、産業の興隆に資せんとする時に、勞働能率の問題が問題にならぬ筈はないのである、其の勞働の能率が企業參加なり、或は生産責任の問題に觸れずして解決することもないのであります、或は又勞賃の契約に致しましても、其の産業内部の經營と無關係に是が決定せられる筈もないのであつて、抽象的に勞務だけを取上げたと言へば、言葉としては結構でありまするけれども、實際に勞働協約を締結致しまする際に、其の企業内部に何等關係なしに孤立したる勞務を考へると云ふことは、私共の觀念としては出來ないのであります、隨て本當に勞務と云ふ方面を追究して、其の範圍を論じて參りまするならば、どうしても産業内部の經營の問題に「タッチ」せずに是が考へられる筈がない、斯樣に私は考へる、併し是は此の法案に於て決定するのぢやなしに、他の方面に於て別な一つの指導をしようと、斯う言はれるのでありまするから、私は其の別な指導とは何ぞやと云ふことも實は御聽きしたい、併し結局に於て是は産業の民主主義化の方面と關聯し、それが昨日御答辯をなすつたので諒承せいと云ふことでありますから、私は此の問題は一應此處で打切りまして、次に關聯して參りまするから、後に只今の昨日の云々と云ふことに付ても申上げて見たいと思ひます
そこで私の議論は先程私の話の中に出て居りましたやうに、現在の日本の經濟と云ふものは、過去の昭和六年當時の經濟では最早ない、詰り經濟の進展と申しますか、變貌と申しまするか、戰爭及び敗戰、一切の産業が破壞し盡されたと云ふ此の根柢に立つて、經濟の再建を圖らなければならないと云ふ、其の經濟の再建と云ふことと關聯して、本法案の進歩的なる内容を一つ檢討しなければならぬと思ひまするが、是も或は昨日角君との話に何か御觸れになつたやうにも思ひまするから、私は詳しいことは申上げませぬが、現在の日本經濟の特質と申しますると、甚だ大袈裟な言葉になりまするけれども、私共生活者、消費者としての立場から考へて參りますと、現在日本の中心的の生活問題は何かと言へば、結局對内的な階級問題と云ふよりは、やつぱり敗戰に依つて破壞し盡されて居る産業の囘復と云ふこと、其の産業の囘復に依つて生活者、消費者が其の經濟を再建し得るやう、左樣な所にあるのではないかと思ひます、進んで申上げますと、現在は國内的な問題と云ふよりは、日本の經濟の在りやうは國際的の民族問題、斯う表現した方が宜いかと思ひます、人口問題、食糧問題に現はれて居りまするやうに、失はれた領土と資源と云ふことから來る生活物資の不足と云ふ問題、此の問題が中心であると思ひます、其の際に國内的に若し階級的の對立がある、而も産業内部に於て利害の對立があると云ふのでは、どうも國民的の立場に於ては腑に落ちない所があるのであります、曾ては資本と勞働と云ふものは完全な對立だと言はれて居つたやうに思ひまするが、現在の日本の何としても産業の再建をしなければならぬと云ふ立場から考へて來ると、或る場合には寧ろ利害が相反するのではなくて、利害が共通だと云ふやうに考へられて來るのであります、從來のやうに利害が相反するものであると云ふことを前提として考へられて居つたやうな、さう云ふことが清算せられて、相共に産業の興隆に向つて行くやうに、勞資雙方が一體として規正せられ、政策せられ、政治せられて行くと云ふことがなければ、本當の經濟の再建と云ふものは出來ないのぢやないか、さう云ふ押迫つた所の現状にあるのではないかと思ふのであります、勿論勞働と云ふ方面に關聯してのみ之を抽出して規定なさるのも宜しいでありませうけれども、併しそれでは何かしら片手落だ、もつと産業興隆に導き得るやうな其の態勢を勞資合せて一體として、之を政策して行くと云ふ、それがなかつたならば勞働組合法は、結局勞働者自身の要求さへ滿足に充し得ないやうな破目に陷つて來ることが、私共の眼の前にちらついて居るのであります、或は勞働者の要求は洵に結構だ、尤もだ、併し其の尤もな要求を現在の生産の上らない、現在の破壞し盡された産業に要求を貫徹して行くと云ふと、其の産業自體が滅びてしまふと云ふやうな、非常に切羽詰つた問題が眼前にあるのでありまするから、何としても勞資を一體として、産業興隆の方向に足並を揃へて進めて行くと云ふやうな其の御用意がなければ、折角の進歩的なる勞働組合法案も、勞働者の産業興隆に貢獻することに於ては、極めて稀薄なる貢獻しかないのではないかと云ふことを惧れるのであります、結局私の考へて居りまする問題としましては、例へば現在の産業資本と云ふものは、軍需産業から百「パーセント」平和産業に轉換しなければならぬが、其の轉換の資材なり或は資金なり――資金さへも實は非常な困窮に陷つて居ります、金融資本家に於ては戰時利得も相當にあつた筈である、或は社内留保も極めて多い、併し彼等は政府の補償がどうもはつきりしないのだ、だからもう現在金融が出來ないのだと言つて金融さへも阻止して居りますが、此の金融と云ふ方面一つ考へて見ましても、勞資が一體となつて此の金融方面に對して力を向けて行き、此の金融問題解決の爲に一體となつて進んで行くと云ふやうに、寧ろ利害の共通なるものがある、其の寧ろ共通なる利害と云ふものは何處から起るかと云へば、勞資が一體となつて産業の興隆に資すると云ふ所に初めて起つて來る問題なのであります、勞務者の方面からだけ規定しましたからと云つて、何か勞務者の生活の改善も出來るかの如く、或は産業の興隆が出來るかの如く御考へになり、さうして産業方面の方は一つ他の面から指導して行くのだと云ふ、其の産業方面を他の方面からどう御指導なさるか分りませぬけれども、それは産業興隆と云ふ大きな眼目を以てする所の本法案に取つて、何か非常な空虚な感じをせざるを得ないのであります、隨て私は是れ以上別に議論をしようとは思ひませぬけれども、要するに此の際に於ては勞資と云ふものの對内的の問題を解決すると云ふよりも、寧ろ一歩進んで勞資を一體として、其の對外的の問題に向つて進み得るやうに本法案が向つて居つたならば、より進歩的になるのではなかつたらうかと云ふことを痛感致します、願はくは一つ本法案の運用に於きまして、徹底的に斯う云ふ方向に力を注いで戴きたいと云ふことを希望せざるを得ないのであります、そこで若し出來ますならば、現在の此の状況にあります日本經濟再建の國家的の方針と云ふものはどんなものであるか、是は後にもどなたか御問ひになることになつて居るやうでありますが、是がどんなものであるか、日本經濟再建の方式と云ふやうなもの、或は所管違ひであるとも考へられまするが、御話下さることが出來れば御明しを願ひたいと思ひますが、如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=8
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009・芦田均
○芦田國務大臣 段々村松君から御述べになりました勞資一體の産業體系、之を基本とする我が國經濟再建の問題、何れも極めて有益に拜聽致しました、大體の御考へは私共も夙に感じて居ることでありまして、同感の點ばかりであります、唯是等の問題をなぜ此の法案の上に現はすことの出來なかつたかと云ふ點は、先程申上げました通り、勞働組合法案は事業主の勞働部門に關する規定を行つて居るのであつて、それ以外の問題は自ら他の法律なり政策に依つて規定せらるべきものであると云ふ私の考へは、一應御諒解願ひたいと思ふのであります、例へば勞働者の就業時間に付ては、工場法に規定して居る所もあり、又賃金の問題に付ては賃金統制令其の他に依つて規定せられて居ります、勞働者、企業者の利害が渾然一體である、勞働の平和なくして事業は榮えない、事業の繁榮なくして完全就業は考へられないと云ふことは、寧ろ政治教育或は政治方針として示さるべきものであつて、自覺したる勞働者は必ず此の點を知つて居る、自覺したる産業家は必ず此の點を了解を持つて居る、斯樣に考へます、さう云ふ問題は自ら他の部門に於て規定し、或は指導せらるべきものである、斯樣に一應私共は考へて、勞働組合法の中には其の程度の規定を設けなかつた次第であります、今後の日本再建の經濟政策をどうするかと云ふことは、村松君も既に御考へになつて居るでありませうが、是は我々の當面して居る一番困難な問題であります、併しながら現下の状態に於きまして、少くとも聯合軍司令部が日本國内に存在する限り、我が國の經濟生活は「ポツダム」宣言の條項に定めてある規定以外に出ることが頗る困難であります、彼等の言ふ如く、日本國民に對して最低生活の保障を與へると云ふ趣意を明かに致して居るのでありまして、今後我が國に課せらるべき賠償の問題竝に聯合軍占領費用の問題、在外資産の賠償引當、若しくは沒收に依る善後策の問題、是等の問題を算へて見れば、前途に幾多の難關が横はつて居ることは今から覺悟して掛らなければならぬ、其の範圍内に於て我々國民の經濟生活の安定を圖らうと云ふには、一應原始産業に十分の保護助成を與へて、さうして先づ以て八千萬の國民が衣食に不自由のないやうに、住むに家を持つやうに、さうして健全なる國民精神の下に將來の民族として生成發展の道を辿つて行くと云ふ大體の方針を以て、各方面に施設をする以外に途はないのではあるまいか、斯樣に考へて居ります、併し是は私の頭に持つて居る考へ方でありまして、内閣の全體の方針として徹底的に具體策を立てたと云ふ程度にはなつて居ないのであります、此の點を御諒承願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=9
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010・村松久義
○村松委員 成べく私組合法案自體に即して御尋ねをして見ようと考へて居りましたのが、經濟再建の方式などと相當脱線を致しました、然るに詳しい御考へを拜聽致して感謝に堪へませぬ、具體的に引戻して個々的に御聽をして見たいと思ふ、先程私勞働者の責任の問題に關して申上げて居つたのであります、勞働と云ふものに關聯してのみ本法案を取上げたいと仰しやるのですが、是はどうしても私腑に落ちませぬ、一體會社がどんな成績を擧げて居るのだ、又其の成績と云ふものが勞働者の勞働に依り「コスト」が低下をして居るか居らぬのか、又勞賃をどの程度に要求して行けば此の産業が成立つて行くのか、是れ以上に要求したならば此の産業が潰れるのかどうかと云ふやうなことは、是は單に産業内部にありまするけれども、經營と云ふものから離れた勞務と云ふ側だけを掴んで規正したのでは、是はどうしても分らぬ筈であります、詰り私共の一番考へますのは、何と言つても資本の最大限度の活動力も期待するが、勞働の力と云ふものを本當に活かして行くと云ふ爲には、勞働が經營の中に入る、或は深く「タッチ」すると云ふことがなければ出來ないのではないかと思ふのであつて、經營と云ふものと勞働と云ふものが何か別個にあるやうな御考へ方で、勞働の側だけを規正するのだ、其の方面だけを規定したのだと云ふ御考には、どうも承服が出來ないのでありますが、寧ろ具體的に之を御尋ねするならば、勞働協約の中に經營參加と云ふやうな方面も盛り得るかどうか、斯う御尋ねした方がより具體的でないかと思ひますが、御意見は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=10
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011・芦田均
○芦田國務大臣 御答へを致します、勞働協約の内容として勞働者の企業參加を認めることが出來るかどうかと云ふことでありましだが、其の點は全く自由であつて、何とでも雙方の合意に依つて定めることが出來るやうに致して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=11
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012・村松久義
○村松委員 其の御答へは私は滿足致します、もう一遍別な方面から考へて見ますと、今日の經濟情勢の中、殊に食糧なら食糧と云ふ點を取つて考へて見ます、其の食糧の問題を解決すると云ふことは、勞資の鬪爭の中に於ては解決出來ない問題が寧ろ多いのでありまして、是は御承知の通り、新聞に現在の生活問題を中心とする賃金の値上問題が盛んにある、此の間も私考へたのですが、北海道の鐵道從業員の要求、米の四合配給、其の他賃金の何倍の値上、年末賞與の何倍の給與、色々ありましたが、其の中で四合の配給と云ふやうな要求は、是は私共として無理からぬことであり、全く其の通りだと思ひます、思ひますが、偖て之を此の勞働組合の範圍に於て一體どう解決し得るか、賃金の値上と云ふことは、是は昭和六年當時のあの經濟情勢の下に於てならば、賃金の値上だけで解決出來た、隨て賃金の増額に應じ得るやうな産業の利潤のありまする場合に於ては、是はもう賃金の値上だけで解決し得る、併し今度の問題は別なんです、直接に一つ賃金の値上げと云ふよりも、米を提供せよ、斯う云ふ問題があるのでありまして、私は是は現在自由に勞働協約を締結し得るのだと云ふ御意見、さうして其の自由に締結し得ると云ふことだけで問題は解決しないのではないかと思ひます、他の面に於て別な指導をなさると云ふ、寧ろ其の方面を活かされる、四合の配給と云ふことになれば、私は此の際に於ては何と言つても石炭勞務者に對して政府が御執りにならんとするやうな勞働者の生活改善、勞働條件の維持改善に關する全面的の方法を御執りにならなければ、勞資の間だけで解決しようと云ふやうなことだけでは出來ない現在の經濟情勢である、斯う考へられるのでありますが、左樣な食糧の直接國家的の補給のやうな問題に關しましては、どんな風に御考へになつて居られますか、御意見を漏らして戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=12
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013・芦田均
○芦田國務大臣 日本の産業竝に勞働状態は今御述べになつた通りでありまして、洵に困難な事態にあります、併しながら終戰直後の社會情勢が斯くの如く混亂して居る際に、賃金若しくは利潤其の他の問題を、永い見透しの下に恆久對策として今日直ちに實行することは極めて困難であります、不幸にして此の物價の凸凹を其の儘にして置いて、或は食糧状況を今日の儘にして、將來久しきに亙る賃金、利潤、資本等の問題を安定する策を直ぐに實行すると云ふことは、容易ならぬことだと云ふ點に付ては村松君も十分御承知になつて居ることと思ひますが、差當り總ての道は食糧に通ずると申しますか、勞働問題も工業の能率の問題も總て繋つて食糧にあると云ふことが現状であります、其の事は今期議會始まつて以來各方面の論議の的となつて居ることでありますから、私から詳細を申上げる必要もないと思ひます、出來るならば三合の配給、四合の配給、更に進んで配給なき自由な食糧獲得の途を講ずることが理想的でありますけれども、差當つて無い袖は振られないと云ふ爲に、斯樣な配給を繼續して來て居るのであります、併しながら私の考へる所では、多少でも食糧に餘裕が出來たならば、先づ以て勞働者の食糧増配を行ふべきものである、それでなければ産業の立直しも出來ないし、國民の生活安定は到底期待出來ない、斯樣に考へて居る次第でありまして、其の點に關する厚生省の發言權は今後とも十分に主張して行きたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=13
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014・村松久義
○村松委員 御趣旨了承致しました、唯何分にも現在國家的權力の下に取上げられて居るものが澤山あるのでありまして、是は啻に食糧だけではないのです、食糧は配給と云ふことがはつきり國家的にも取上げられて居るのでありまして、勞資の範圍内だけでは解決せられないのであつて、若し勞資の範圍内だけに解決を任せてしまつて濟まして居られると、是は何にもならぬ、賃金の値上げに於きましても、是は又別な意味に於きまして別な經濟問題を惹起すのでありますが、斯樣にして場合に依つては勞資だけの範圍に解決を一任したと云つたやうなことでは、實際に於て「パン」を求めて石を與へられたと云つたやうなことに終るのでありますから、其の點は此の法案だけでそれで勞資問題が解決するかの如く御考へにならないで、國家的の權力の中に取上げられて居る各種の問題がある、それが勞働條件を規正するのでありますから、其の點にも一つ深く思ひを致されて、今後の政策を一つ推進して戴きたいと思ふのであります
更にもう一つ別な觀點から考へて見ますと、言ふまでもなく今日は大量の失業者の時であります、此の失業問題に關して「アメリカ」大統領「トルーマン」氏の放送を聽いたのでありますが、八月の末頃の放送でありましたが、要するに現在大統領はここ數週間の勞働爭議に關しては非常な憂慮を持つて居ると云ふことを放送して居ります、是は勞働者に對して呼掛けたのではなくして、消費者たる全國民に呼掛けて居る言葉でありますが、其の中に、自分はここ數週間の勞働爭議を憂慮して居る、是等の困難は産業の再轉換政策の遂行を妨害するものである、即ち歸還軍人及び軍需工業の失業者の平和時代の職業への復歸が、之に依つて大いに遲延するのである、我々はもつと物解りが良く、合理的であり、他人の立場に理解を持ち、相互の利益竝に公平を基礎とする解決策を圖るならば、困難な問題と云ふものはないと言ふことが出來る、是は「アメリカ」の勞働運動に對する觀念が、戰後の特殊事情と云ふことに依つて非常な變化をして居ることを示して居ると思ひます、隨て「トルーマン」大統領の打つた手は何であるかと云へば、賃金値上げの問題の前に、下院の支出委員會に向つて完全雇傭法案を出して居ります、完全雇傭法案を前提として次の勞働問題を考へて行くと言ふ、是は寧ろ當然ではないかと思ひます、我が日本に於ても失業者一千三百萬人と言はれる、是は厚生省の御計算は違ふやうでありますが、兎に角一時でも職を離れる者が千三百萬人ある、何か失業問題に對する手を打たなければ、單に勞資内部だけの解決に勞働問題の維持改善と云ふものを任しただけでそれで宜いんだと云ふのであれば、是は非常な失業軍人、復員者、之を平和産業に導くことの大きな妨害になることは、是は言ふまでもないのであります、斯樣な點に付て、是は勿論聯合軍の強い理解を得なければならぬことでもありませうが、失業對策に對しても相當に一つ進んで御考へになりませぬと、唯是だけでは却つて失業對策の邪魔になる場合もあるのであります、左樣な點に付ての御意見を一つ伺つて置きたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=14
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015・芦田均
○芦田國務大臣 御話の通り失業問題は、現在の日本が當面して居る最も重要な問題であります、此のことに付ては朝野共に非常な關心を有つて種々研究されて居るのでありますが、失業對策として最後の目標は完全雇傭にあることは、名國とも皆一致して居る點であります、其の完全雇傭の計畫を如何にして實現し得るかと云ふ問題が殘されて居る、隨て政府と致しましては差當り失業者が約四百萬人に達して居ると云ふ基礎の下に種々の案を考へて居るのでありますが、何よりも先づ各人が勞働意欲を昂揚することが先決問題であつて、現在の如く人を求めて居る事業の方が、職を得られない勞働者よりも遙かに多いと云ふことは、何としても甚だ常軌を逸した現象であります、世間で所謂失業問題と稱するものは、多くの場合職業を得んとして職場を持ち得ないと云ふのが、本當の意味に於ける失業であつて、人を求める所は多數にあるに拘らず、一向勞働に就かんとする希望者がない、さうして一方には街頭に職を離れた者が群をなして居ると云ふことは、何としても我が國獨特の不思議な現象であると考へざるを得ないのであります、隨て失業對策の第一は、勞働意欲の昂揚にありと云ふことは間違ひではないと思ふ、第二には之に事業を與へる、此の點に付て本會議に於ても簡單に御話を致しました如く、一面に於ては河川、道路の大築造をやつて、之に延人員約七億人の勞働力を吸收する案も進行中であります、又開拓竝に干拓事業を起して、此處に延人員約十一萬人の勞働力を吸收しよう、さうして開墾された土地、干拓された土地に少くも五十萬乃至七、八十萬の農家を移す計畫を實行しようと云ふ風な案もあります、尚ほ其の他水力電氣の開發事業であるとか、惑は水産業の跳躍的發展であるとか、各方面に考へられて居る仕事もないではありませぬ、次第に具體的な考案を立てて、折角此の失業者救濟に當りたいと思つて居ります、併しながらそれでも尚ほ失業者を全部安定した仕事に振向け得るかどうかに付ては、必ずしも自信はありませぬ、さふ云ふ場合にどうするか、其の場合には生活に窮したる者に對して或は社會保險なり、若しくは餘程困窮のどん底にある所謂「カード」階級以下に對しては、今日行はれつつある救貧制度をもつと強化して、國家として一層手厚い援護の手を伸ばさなければならぬと云ふ考への下に、目下大藏省とも豫算の交渉を致しまして、相當額の國庫負擔を以て是等の案を實行することに進行致して居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=15
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016・村松久義
○村松委員 段々伺ひましたが、要するに失業問題の解決ではない、失業救濟の問題のみ拜聽したやうに考へるのであります、第一に生産意欲を昂揚するのだ、産業なき生産意欲の昂揚も私共は考へられない、第一に生産意欲を昂揚して、次に事業を與へるのでは、まるで逆のやうな感じがする、問題は私は此の法案を今まで産業の民主化の方面から伺つた、或は勞賃の引上だけではなしに、別に一つ國家的な配給事務、其の方面も共に考慮しなければならぬと伺つた、又勞資の對内關係だけに此の解決を任せて居つてはならぬのだと云ふことも伺つた、そして今最後に失業問題も伺つたのでありますが、問題は勞働方面の側だけから考へると云ふ考へ方だけでは、是は現在の日本の經濟の實情に少くとも即しては居らない、此の實情から判斷して行く時には、是だけで濟まして居れないと云ふこと、そして今まで伺つたことが共に考慮されて行くと云ふのでなければ、如何にも勞働政策が餘り片跛に陷るのだ、片跛になつてしまふのだ、其の片跛のことが延ひては勞働組合運動の成功さへも阻害するやうなことになるのではないかと云ふ虞から私伺つたのでありますが、色々御答辯を戴きまして滿足することもあり、滿足せざる點もあり、其の儘の状態で私は次の勞働協約の締結の基準の問題に入つて參りたいと思ひます
第一に勞働協約を締結する場合はどう云ふ基準を持つてなすべきか、政府はどう云ふことを理想として居られるかを伺ひたいのでありますが、時間もないので私も個々的に御伺ひを致します、第一は最低賃金の統制令は多少訂正して存續なさると聞いて居ります、最高賃金の制定もなさると伺ひますが、此の公定賃金との關係はどう云ふ風になりますか、勞働協約が公定賃金と無關係に協定せられて宜いものかどうか、若し左樣な場合に於て政府はどう云ふ態度を執られるのであるか、伺つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=16
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017・高橋庸彌
○高橋政府委員 村松委員に御答へ致します、公定賃金の範圍内で容認されることになると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=17
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018・村松久義
○村松委員 若し範圍外の場合にあつては、どう云ふ處置を執られるのでありますか、本法案に何か規定がございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=18
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019・高橋庸彌
○高橋政府委員 本法案には其の點に付て何等規定はございませぬ、當然の解釋と致しまして無效になると考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=19
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020・村松久義
○村松委員 無效と承知して宜しいのですね、もう一つは物價政策の上から云つて、此の勞働協約は物價を引上げると云ふことが極めて明瞭だと云ふやうな場合にはどう云ふことになるのですか、此の勞働協定をした、其の賃金が物價政策全體から見てどうしても物價を引上げるのだ、引上げる效果を持つのだ、そして一面に於ては「インフレ」對策はどうしてもしなければならぬと云ふ場合に、國策としての物價政策と云ふものと相背馳するやうな場合にはどう云ふことになるか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=20
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021・高橋庸彌
○高橋政府委員 國策と反して非常に物價を引上げると云ふ風な結果を招來するやうな場合に於ては、此の三十二條に「勞働委員會は行政官廳に建議することを得」と云ふ風な色々のことを決めて居りますが、此の三十二條等の活用に依つて善處致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=21
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022・村松久義
○村松委員 現在私がそれを御尋ねしたのは、「インフレーション」の對策問題として非常に重大な問題であると云ふ見地からであります、もう一つは現在私は物價を引上げずして勞賃の値上げの出來ることはないと云ふ考へ方にあるのであります、是はもう事實の問題でありますまが、現在の状態に於て少くとも時間當りの生産量の増加と云ふものはないのである、事實もう輸送の隘路、資材難、其の他色々の方面から見まして、時間當りの生産量の増加と云ふものは、現在の企業の中にはありませぬ、隨て若し勞賃の引上げが行はれるとするならば、是は必ず其の産業に於て造り出して來る製品の價格を引上げることに依つてのみ引合ふと云ふやうな状態である、其の事が進んで參りますと、全體の物價政策に非常に大きい影響がある、此の點は現在「アメリカ」に於て非常に問題になつて居る點であつて、而も日本に於ては何と云つても生活をするのには、現在の賃金俸給を以てしてはやり切れない筈である、三倍の増額を要求するのも正當かも知れない、又一部で要求して居るやうな五倍の要求と云ふものも當然かも知れない、さうしなければ生活は引合はない、併し生活が引合はないと云ふので賃金の値上げが許されれば、是はもう必ず物價を引上げざるを得ないと云ふ状態になつて來るのでありますから、さう云ふ意味に於て若し單に是は勞務關係だけだと云つて、對内的に解決を任して居つたのでは駄目なんで、もう少し物價政策の方から勞働協約の基準なら基準と云ふものに關して、もつと明確なる指示があつても宜ささうだと考へます、現に「アメリカ」に於てのやり方なんですけれども、場合に依つては物價を引上げても勞賃の引上げは宜しい、但しそれは三つの場合に限るんだ、此の三つの場合だけは物價を引上げても許す、其の他の場合に於ては物價引上げを惹起す、或は其の産業内部に於て價格の引上げを惹起すやうな勞賃の値上げは絶對に許さない、是でこそ國を擧げての「インフレ」對策、物價對策と云ふものと勞働協約と云ふものが「マッチ」して行くのであります、それを基準なしに唯勞働協約は自主的だと云ふだけでありましては、「アメリカ」でも心配して居るやうな一つの産業興隆に對して、大きな妨害をなす場合もある、斯樣な點に關しましては此の勞働法規の中に具體的に規定は出來ますまいけれども、運用に當つては只今の三十二條結構でせう、一つ餘程見透しを立てて運營をなさらないと、大きな失敗を齎して來ると云ふことを私憂慮して御聽きしたのであります
それから勞働協約の締結の基準に關しまして、もう一つ聽きたいことがあります、それは個々の事業經營が成立たないやうな賃金の契約をした場合に、是は放任なさいますか、それとも又今の三十二條で之を無效となさるのでありますか、或は當然無效でなくても、之を訂正することを要求すると云ふやうな處置に出られるのでありますか、之を伺つて置きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=22
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023・高橋庸彌
○高橋政府委員 個々の工場に於て勞働者側から賃金の要求をする、それを容れれば其の産業が潰滅に瀕すると云ふやうな無理な要求をやると云ふ場合を想像致しますと、其の場合に於きまては使用者の方から勞働委員會に申し出て調停を依頼して、合理的な決定に基いて其の問題を解決して行くと云ふ風に指導して行きたい、斯う云ふ風に存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=23
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024・村松久義
○村松委員 勞務者に生活を維持するだけの勞賃を絶對に與へなければならぬことは言ふまでもないのでありまするが、さう云ふことと對蹠的に、それならば産業の適正利潤と云ふやうなものに付て御考へになつて居られますか、如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=24
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025・芦田均
○芦田國務大臣 産業の適正利潤をどの點に置くかと云ふ御質問でありました、是は經濟政策の根本をなす問題でありますが、其の點は例へば銀行の預金、或は公債の利率、其の他諸種の産業と相關聯して考へらるべき問題でありまして、單に工場の勞務關係其の他の問題に關聯してのみ決定することは非常に困難であると思ひます、さう云ふ問題は關係各方面と十分協議を遂げた上で、此の三十二條の適用ある場合に適當な措置を執りたい、斯う云ふ風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=25
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026・村松久義
○村松委員 さうなつて來ますと三十二條と云ふのは、非常に有力と申しませうか、凡ゆる場合に適用せられるのであります、此の適用の範圍は只今までの御説明に依ると、私共の豫想外の實に廣範圍且つ有力なものとなるのでありますが、何か是だけでは足りないものがある、或はこんなものが無暗に發動されては大變だと云ふやうな場合もあるのでありまするから、此の點は一つ將來の運用の面に當られる方々が、本當に事理に透徹した運用の方針を堅持せられんことを希望致すのであります、それから問題は別になりますが、此の組合法案には農村に於ける小作人組合を包含せられますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=26
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027・芦田均
○芦田國務大臣 小作人組合は勞働組合法の中に包含して居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=27
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028・村松久義
○村松委員 農業及び水産業の勞働者はどうでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=28
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029・高橋庸彌
○高橋政府委員 本法の第三條の定義に「賃金、給料其の他之に準ずる收入に依り生活する者」と出て居ります、農業、水産業に從事する者の中、只今御質問のありました日本の小作人は此の範疇に入らぬと思ひますので、只今大臣から御答辯のあつた通りであります、併しながら作男と云ふやうな賃金、給料に依つて生活すると云ふ形態の農業の勞働者は入ることになります、又右に準ずるやうな水産業に從ふ勞働者も入ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=29
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030・村松久義
○村松委員 水産業の勞働者が入つて小作人が入らないのはどう云ふ事情に依るのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=30
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031・芦田均
○芦田國務大臣 御承知の通り本法に於て勞働者と謂ふ中の主たるものは、雇傭關係に立つて居る者が多いのでありまして、小作人は雇傭關係とは見ないのであります、隨て工場其の他の一定の場所に於て勞力を賣ると云ひますか、さう云ふ立場に居る者と、小作人の立場とは、其の形態を異にして居るやうに考へられますから、小作人は本法の勞働組合の中には含んで居ない、斯樣に解釋して居る譯でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=31
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032・村松久義
○村松委員 法律的に雇傭であるとか賃貸借であるとか云ふことは、是は區別があると思ひますが、實質的には一定の場所に於て、或は一定の經濟關係に於て、結局勞働を賣つて行くと云ふ形になつて居ることは、もう小作人は間違ひないのであります、雇傭關係でなくして或は奴隷關係かも知れませぬ、そこまで言はれて居るのでありまして、是は共に保護して差支へないのぢやないかと云ふ風に考へられる、同じ經濟的の基盤に立ち、同じ經濟的な條件に立つて居る、法律的には雇傭と賃貸借とは違ふと云へばそれまででありますが、さう云ふことにこだはらずに、第三條の「其の他之に準ずる收入」と云つたやうな所に包含せしめて之を解釋せられてはどうでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=32
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033・芦田均
○芦田國務大臣 村松君の御説にも無論それぞれの理由はあると思ひますが、併し又一歩他の觀點から見れば、大體小作人の收入と云ふものは、年の豐凶其の他に依つて小作の收穫が皆無である時には、無論之に對して小作料を納付する必要もなし、又作柄の當否に依つて、それぞれ收穫に準じて報酬を受取ることになつて居るのでありますから、さう云ふ點から見ましても、工場勞働者とは著しく異つて居るやうに思ひます、又地主と小作の關係は數百年に亙つて續いて居るものもあり、其の他地域的の團結精神其の他に於ても、小作とか自作とか地主と云ふ精神を離れて、地方的に一貫した團結精神、隣保扶助の精神もあると云ふやうなことを考へて見ますと、工場勞働者と地方の農村との間には、餘程生活條件を異にして居る點もありますので、此の勞働組合法に依つて直ぐ其の盡小作人の今日の境涯に適當であるかどうかと云ふことも、餘程考へる餘地があると思ひます、斯樣に私は考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=33
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034・村松久義
○村松委員 只今の御説明は私滿足出來ませぬ、唯議論は致したくありませぬから此の程度に致しますが、それは大臣非常に御考へ違ひぢやないかと思ひます、先程來の工場勞働者に對する御説明、さうして勞働組合法案の精神と、只今御説明の小作人に對する場合はころつと變つて居る、さう云ふ考へ方では先程の説明が本當であつたのか、或は今度の小作人組合を認めざる理由が本當であるのか、何か知ら其處にぴつたりしないものを私は感じますが、是れ以上には追究致しませぬ、要するに私は本法案を作り放しで、自主的の名に於て之を突つ放されて行かれるのでは實效は擧らない、一つ勞働問題と云ふものをもつと廣い見地から御考へになり、廣い見地から政策することに依つてのみ是が生きて來るのでありますからして、さう云ふ意味に於てはさう云ふ視野に於て、さう云ふ考へ方に於て今後の運營を一つ是非やつて戴きたいと云ふ見地から、さうして私の立場は消費者的立場に於て、之を希望する意味に於て御質疑申上げた次第であります、どうか一つ日本再建の方式をば、廣い視野に於て進めて戴きたいと云ふことを希望致しまして、私の質疑を是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=34
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035・山崎常吉
○山崎(常)委員 委員長、議事進行に關して……思ひますのに本勞働組合法は本議會の三大法案の最も大切な一つであります、私共は本法案の特別委員とせられたことを無上の光榮として居る者であります、同時に此の法案が我が國の勞働問題を解決するのに、歴史的の使命を持つた重大法案であることは申上げるまでもないことであります、のに拘らず本委員會開會以來の特別委員の出席は、實に不成績であると云ふことを委員長も御認めのことであると思ひます、願はくは此の法案を愼重審議する上に於きまして、委員長竝に理事の諸君が、本委員會の特別委員を極力出席さすべく御努力を賜はりたい、斯樣に思ひます、是は議事の進行上、又本案を重大法案として取扱ひ、進行する上に於て、非常に重大な問題だと思ひます、敢て之を委員長に御忠告申上げる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=35
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036・添田敬一郎
○添田委員長 一寸山崎君に御答へしますが、御同感です、實は昨日以來其のことに付ては私も非常に憂慮しまして、出來得る限り手を盡して居るのでありますが、尚ほ皆さんからも一つ御協力願つて、此の委員の人に成べく定刻より出席するやうに御勸めして戴きたい、私共も極力其の方面には努める積りですが、是は皆さんと御一緒に願ひたいと思つて居りますから、一つ宜しく御願ひ致します――是で休憩を致しまして、午後一時から開會することに致します
午前十一時五十三分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=36
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037・会議録情報2
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午後一時二十九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=37
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038・添田敬一郎
○添田委員長 開會致します――正木君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=38
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039・正木清
○正木委員 私は質問に入るに先だつて、此の法案に對する社會黨としての立場、竝に委員としての私の立場を明かにしたいと思ふのであります、結論から申上げますと、社會黨竝に委員としての私は、此の法案を全面的に贊成し支持する者であります、其の由つて來る原因は、我が國が完全に戰爭に敗北致しました、而して我が國は「ポツダム」宣言を受諾致したのであります、此の「ポツダム」宣言を受諾致しました刹那に於て、我が日本國と云ふものの内部に於ける政治經濟の面には、大きな一大變革が齎されたのであります、極端に申上げまするならば、一大革命が來て居るのであります、隨て此の大きな變革期に於て、從來日本の政治經濟を支配して居りました極く少數の封建的な思想と、封建的な基盤の上に立つた人々が、好むと好まざるとに拘らず、「ポツダム」宜言の條項の中に明かに示されてありまするやうに、政治上に於ける所の民主主義の徹底化、經濟上に於ける所の産業の民主主義の徹底化が行はされる運命に置かれて居るのであります、隨て現内閣の性格思想がどのやうなものであらうとも、他動的な力に依つて今議會に政治經濟に於ける民主主義の徹底化の爲に出されたのが、本法案であり、農地調整法案であり、或は選擧法の改正案であると斯う規定致して居ります、そこで經濟民主主義化の爲に出されました勞働組合法案の意圖する所は、今日の段階に於て我が國を救ひ、我が民族を救ふ爲に果すべき産業の面に於ける勞働者の、國家的な、社會的な、政治的な地位と云ふものを一つの法の中に現はし、而も其の勞働者それ自體の日本の社會的經濟上に於ける役割を此の法の上に於て明記されてある譯であります、斯かる觀點に立つて我が黨竝に私は此の法案を絶對贊成し支持したい、斯樣に考へて居るのであります、併しながら此の勞働組合法それ自體を考へた場合に於ては、問題は或る一定のものに極限されるのでありまするが、只今私が申上げた經濟上に於ける民主主義の徹底化、政治上に於ける民主主義の徹底化を具現する爲には、私は委員長にも要求致してありましたやうに、總理大臣の御出席も願はなければならないし、商工大臣の御出席も願はなければならないし、大藏大臣の御出席も願はなければならないことになる譯であります、そこで厚生省に關する限りに於きましては、只今厚生大臣が御出席になつて居りませぬので、私は御出席になつて居る政府委員との間に質疑を重ねて見たい、斯う思ふのであります、そこで勞働組合法の各條項に付て質疑を重ねて參りまするが、第四條で一つ御伺ひを致します、第四條に於ては、組合を結成し、又は組合に加入出來ざる所の官吏を明かに規定されてあります、其の他の官吏に付きましては、勞働組合の結成竝に加入を認めて居るのでありまするが、此の「官吏、待遇官吏及公吏其の他國又は公共團體に使用せらるる者に關しては本法の摘用に付命令を以て別段の定を爲すことを得」此の「別段の定を爲すことを得」と云ふことに付ては、恐らく勅令を出されると思ふのでありまするが、其の具體的内容如何、是は非常に全國の官公吏の諸君が多大の注意を拂つて居る所であります、隨て其の具體的な内容に付て御發表を願ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=39
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040・高橋庸彌
○高橋政府委員 正木委員の御質問に御答へ致します、第四條第二項の「別段の定を爲すことを得」此の定めの内容に付て御説明申上げたいと思ひます、本命令の内容は未だ確定して居らない譯であります、何れ閣議決定を經、其の他の手續を經て決定になると思ひますが、一應今事務當局で考へて居る所を申上げたいと存じます、第一は爭議行爲の關係でございます、爭議行爲の關係に付て二點だけは規定致したい、斯う云ふ風に考へて居ります、其の内容を申上げますと、勞働組合の組合員たる官吏、公吏、其の他國又は公共團體に使用せらるる者は、調停又は仲裁に付し、而も調停又は仲裁が出來ない場合の外は爭議行爲が出來ないと云ふことを第一に規定致したいと存じます、第二の點は、前申しましたものが爭議行爲をなし、又はなさんとする虞のある場合には、行政官廳は之に對して必要を認めたる場合に於ては、中止命令其の他必要なる命令を發し得ると云ふことを規定致したいと存じて居ります、それから第三には前項のものに對して、政治運動に付ては勞働委員會の決議に依つて行政官廳に於て禁止又は制限をすることが出來ると云ふ風に、爭議の關係と政治の關係に付ては少くとも決める必要があるのではあるまいかと、斯う云ふ風に考へて居ります、爾餘の點に付きましては、勞働組合運動を助成促進すると云ふ趣旨を重んじつつも、尚且つ官吏其の他國公共團體に使用せらるる者の本質を考へつつ、制限を置く必要があれば置いて行きたいと云ふ風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=40
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041・正木清
○正木委員 次は十三條であります、「福利事業の爲特設したる基金を他の目的の爲に流用せんとするときは總會の決議を經べし」と斯う規定してありまするが、是は全國の勤勞階級が非常に聽かんと欲して居りまする一點でありまするので、特に私御伺ひするのでありますが、他の目的に流用すると云ふことが、總會の決議に依つて意思が決定された場合には、流用出來るのでありますか、其の場合に於ける流用の目的が、爭議の基金又は政治資金に流用すると云ふ決議をなしても差支へないかどうか、勤勞階級はさう考へて居るが、其の考へ方で宜いのかどうか、其の點を先づ御伺ひします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=41
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042・高橋庸彌
○高橋政府委員 正木委員の御質問に御答へ致します、第十三條の共濟事業其の他福利事業の爲特設したる基金を、爭議基金若しくは政治資金に總會の決議を經て流用出來るかと云ふ御質問でございますが、本法の規定する所は、出來ると云ふ風に解釋して居ります、併しながら第一條竝に第二條の制限のあることを御承知置きを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=42
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043・正木清
○正木委員 次は第十五條であります「勞働組合屡法令に違反し安寧秩序を紊りたるときは勞働委員會の申立に依り裁判所は勞働組合の解散を爲すことを得」と、斯う規定されて居るのでありますが、私二十五年間の勞働運動を通じて泌々感じます事柄は、此の安寧秩序なるものの定義であります、此の安寧秩序なるものは思想的に一つに私は解釋出來ると思ひます、封建的な反動的な思想に立つた少數の支配者的の思想から見た安寧秩序及び勤勞階級的な解放戰線に立つて居る所から見た安寧秩序、私は此の二つの大きな違ひがあるのではなからうかと考へますが、當局が考へて居られます安寧秩序とは如何なるものであるか、簡單に申上げまするならば、安寧秩序に對する定義の御説明を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=43
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044・高橋庸彌
○高橋政府委員 正木委員の御質問に御答へ致します、安寧秩序と申しますのは、公共の安全、經濟、社會、國家の正常なる秩序の意味でありまして、廣く人心を惑亂致し、混亂に陷れることが即ち之を紊すと云ふ意味に解釋致して居ります、さうして只今御質問の官が擅恣に之を解釋する風なことは致さず、公正な見地に於て致したいと思つて居ります、而も是も最後の認定權は裁判所にあり、而も其の前提として勞働委員會の申立てがあると云ふ愼重な手續がありますので、此の手續に依りましても最後の結論は非常に公正なものになる、斯う云ふやうに思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=44
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045・正木清
○正木委員 重ねて御伺ひ致しますが、私は具體的な例を取つて申上げた方が宜しいと思ふ、例へば國鐵以外の東京都内及び其の近郊の郊外電車の全從業員が、總「ストライキ」を行つた時、どう云ふ風な處置を御執りになるか、又は或る一定地區の鑛山從業員が、從業員の要求を不當なりとして勞働委員會が之を否決して勞働爭議を斷行した場合に、此の安寧秩序なるものはどう云ふ形で其の行動の上に表現して來るのか、之を具體的に承つた方が宜しいと思ひますが、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=45
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046・芦田均
○芦田國務大臣 御答へ致します、今例を御擧げになりましたやうな公共事業の爭議に付きましては、特に爭議調停法なるものを、現行のものを改めて、一層完璧を期したものとして近く提案することになつて居りますが、其の中に勞働爭議の事前調停を制度化すると共に、強制調停の範圍を今よりも遙かに擴大致したいと思つて居ります、更に爭議行爲の禁止、又は中止命令をも出し得るやうに考案を致したい、斯樣に考へて居ります、併しながら只今の立法に於ては、此の爭議調停機關が即刻に發動するやうなことは出來ませぬから、其の立法が出來ますまでは一定の期間を待たなければならぬかと思ひます、總罷業の時にどうするかと云ふ今の御質問に對しては、東京都其の他の交通機關を掌握して居る方面に於ては、或は臨時に市内から有志者を募つて、交通機關を運轉しなければならぬやうな必要も起るかと思ひますが、それは別に今政府が計畫的に考へて居ることではありませぬ、其の緊急の場合に應じて、さう云ふ風な對策も執り得ると云ふ理論を申上げる程度のことであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=46
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047・正木清
○正木委員 此の第十五條に依つて政府の意圖致して居ります爭議調停法の改正案の骨子なるものの全貌が私には分つたのであります、一方に勞働組合法を作つて、勞働者の自由的な團結の罷業權を認め、さうして國家と民族の福祉の爲に果すべき大きな使命を規定して置きながら、爭議調停法の改正案の中に、今厚生大臣が申されたやうなことが具體的に現はれるとするならば、是は全國の勤勞者階級に取つては大きな關心事でなければならないのでありますが、其の法案が出ました時に私は質問を致すことに致しまして、其の次の質問に移りたいと思ふのであります、第四章の勞働委員會のことでありますが、簡單に御伺ひ致します、此の第二十六條の目的は、使用者を代表する者、或は勞働者を代表する者、或は使用者、及び勞働者の同意を得て行政官廳が委囑すべきもの、此の三つに分れて居ります、そこで此の法の非常に進歩的な點は使用者團體の推薦を受けた者、勞働團體の推薦を受けた者、又は勞資の同意を得た者を行政官廳が推薦すると云ふ建前になつて居ります、洵に結構であると思ふのでありますが、そこで一つ私希望があるのであります、要するに使用者團體の推薦に基いて出て來ます委員の場合に於きまして、此の立法の建前、勤勞階級の今の民族更生の爲に果さなければならない社會的、經濟的な重大な使命に鑑みず、使用者團體が從來の觀念に立脚した反動的な考へ方から、若し代表を推薦して來るやうな場合があつたと假定致した場合に於ては、此の勞働委員會の運用と云ふものに大きな期待を掛けることは出來ないのである、委員會それ自體に大きな感情論、階級的な對立が惹起される虞がある、私は斯う考へます、此の點に付ては此の委員會の運用に當つて、篤と厚生大臣に御考へ置きを願ひたい、斯う云ふ希望を中上げたいのであります
それからもう一つは第三者でありますが、今囘の全國の報道從業員又は全國の勤勞階級に多大の關心を與へられました所の讀賣新聞の爭議の實體を見て、私は長年の經驗を通じて沁々感じたことは、未だに少數の支配的な立場に在る人々は、「ポツダム」宣言受諾後に於ける日本の此の革命期の怒濤の中にあつても、依然として支配的な、資本家的な考へ方から一歩も出て居ない、同時に之を推薦したる所の行政官廳の首腦部それ自體の頭が、依然として古い考へ方から一歩も出て居ないと云ふ強い感じを私は受けたのであります、そこで具體的に御伺ひ致しますが、行政官廳が委囑しようとしました委員を勞働者側、勞働團體がそれを拒否した場合には一體どうするのか、又は逆に使用者團體、具體的に言へば、資本家團體が拒否した場合の處置をどうなさるか、之を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=47
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048・高橋庸彌
○高橋政府委員 御答へ致します、第一點の御希望に付きまして、行政官廳の自由裁量の許される範圍に於きまして、此の勞働委員會を適正に、而も圓滑に運用し得るやうな規定で委囑するやうに致したいと思ひます、第二點の問題でございますが、私の想像する範圍は、此の委囑は勞働者を代表するものは、勞働組合の推薦に基いてやるのである、又使用者を代表するものは、使用者團體の推薦に基いてやるのでありますから、さう云ふ御質問のやうな場合は起り得ないのではないか、斯う云ふ風に考へて居ります、言葉を換へて言ひますと、勞働者、勞働組合、若しくは使用者團體の意思に反して委囑すると云ふ風なことは一寸あり得ない、斯う云ふ風に思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=48
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049・添田敬一郎
○添田委員長 一寸途中ですが、理事の喜多壯一郎君が本日委員を辭任せられましたので、其の補闕として永山忠則君が委員に選定せられました、就ては理事の補闕選擧を行はなければならぬ譯でありますが、先例に依つて委員長より指名することに致したいと思ひます、御異議はありませぬでせうか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=49
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050・添田敬一郎
○添田委員長 御異議なしと認めます、それでは永山忠則君を理事に御願ひを致します――正木君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=50
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051・正木清
○正木委員 私の質問の點は、私の申上げ方が惡かつかと思ふのでありますが、私は第三者の推薦の問題に觸れたのであります、勞働團體が承認した場合でも、使用者團體側が之を拒否した場合にはどうなるのか、逆に使用者側が推薦したものを勞働者團體が拒否した場合の御取扱ひをどうするのか、此の點を御伺ひしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=51
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052・高橋庸彌
○高橋政府委員 私の聽違ひで失禮致しました、御尋ねのやうな場合に於きましては、本文に示してありますやうに、雙方に同意を得てやることになつて居りますので、中々第三者を委囑すると云ふことが出來ないだらうと思ひます、併しながらそれは誠意を持つて、行政官廳は兩方の同意を得るやうな者を凡ゆる手段、方法を講じて得るやうに努力致したいと思ひます、さうして尚且つどうしても同意を得らない、而も一方勞働爭議は頻發して來て居りまして、勞働委員會の構成を瞬時も忽せに出來ないと云ふ場合には、前段申上げました誠意手段を盡した後に、行政官廳の公正なる判斷に基いて、之を委囑すべきものと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=52
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053・正木清
○正木委員 私の考へは、第三項に「中央勞働委員會及地方勞働委員會とす」とありまして、特別の必要ある時は一定地區、又は事項に付き、特別な勞働委員會を設けることを得る、斯う規定されて居るのであります、之に付ても全國の勤勞階級は、多大な關心を持つて居る譯であります、例へば地區の非常に廣い北海道であるとか、其の他の地區に於ては、現在も一つの勞働委員會としては、恐らく勞働委員會それ自體が、私は完全に其の機能を發揮出來ないのではないかと云ふ心配を持つて居ります、そこで特別の必要ある時は一定の地區と云ふやうに規定されてありまするが、之に付て當局は深く具體的に何か御考へになつたことがあるのかどうか、此の點を明かにして貰ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=53
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054・高橋庸彌
○高橋政府委員 特別の必要ある時は一定の地域、斯う云ふ風に非常に融通無礙の書き方をして居るのであります、隨ひまして一應は動員署の地區と云ふものを一定の地區と考へて居りますが、其の邊は融通無礙に、必要ある時は、只今御尋になりましたやうに、北海道は非常に廣いのでありますから、其の北海道の下にある勤勞署との間に或る地域を限つて、更に中間的に考へると云ふことも考へて居ります、其の他其の邊は必要に應じて融通無礙にやつて參りたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=54
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055・正木清
○正木委員 此の委員會が圓滿に運營されるかされないかと云ふことは、此の勞働組合法の生死に係ることでありますが、此の委員會の非常に重要なことは、第二十七條であらうかと私は考へて居るのであります、此の第二十七條の此の各條項を見ますと、勞働委員會の持つ所の權限と云ふものは非常に大きいのであります、而も其の委員會が權限を完全に果し、其のなさなければならない事業も非常に多いのであります、例へば勞働爭議に關する統計の作成、或は勞働事情の調査、團體交渉の斡旋、其の他勞働爭議の豫防、勞働爭議の調停及び仲裁等々でありますが、そこで私の御伺ひしたいことは、現實は全國に勞働爭議が、今後は非常に多く出て來ると思ふのでありますが、それが爲には勞働爭議の適正な調停及び勞働事情の調査機關と云ふことが必要になつて來ることは、是は議論の餘地がなからうと思ふのであります、唯私が政府に御伺ひしたいことは、どのやうな機關を御作りなる考へを持つて居られるか、又其の機關の中で働く人々はどう云ふ人を以て構成すると云ふやうに考へて居られるか、此の點を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=55
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056・高橋庸彌
○高橋政府委員 第二十七條に付きまして勞働委員會の大いなる權限の行使を適正ならしめんが爲に、委員會に調査機關其の他の事務局を設くるの必要と、如何なる人を以て構成するやとの御質問でございますが、中央勞務委員會の下に相當強き、而も能く組織された事務局を設置すべしと云ふ風なことが、勞務法制審議委員會の答申にもあることは御承知の通りでございます、旁旁少くも中央勞働委員會の事務局――其の中では調査も致す譯でありますが、相當有力な能率の良い事務局を置きたいと思つて居ります、出來れば地方の勞働委員會にも之に準ずる者を置きたい、斯う云ふ風に考へて居ります、其の具體的の内容は未だ的確ならざる點がありますので、此處では説明を差控へたいと思ひます、第二點の如何なる人を以て構成するかと云ふ問題ですが、是は出來るだけ勞働關係に知識經驗を持つて居り、而も有能な人を以て構成したい、斯う云ふ風に考へる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=56
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057・正木清
○正木委員 一應は明かになつたのでありまするが、私或は大變に心配し過ぎると思はれるかも知れませぬが、此の機關を構成する人々は、此の機關の中で熱意を以て働く人々でなければならないことは議論の餘地がありませぬ、唯從來政府の執り來つた總ての事柄を見て居りますと、極端かは知れませぬが、協調會的な、而も厚生省の出店的な人に依つて若し此の機關が確立されたとするならば、それは私は科學に立脚した冷徹な勞働事情の調査が出來ないのではないかと云ふ心配を持つて居るのであります、隨て私は重ねて聽きたいことは從來執り來つた政府のやうなことではなく、飽くまでも民間人を主體とし、資本家側も勞働者側も納得し得るやうな人物の配置をなすべきである、斯う考へるが、此の點に對する御答辯を大臣から願つて置いた方がはつきりするのではないかと思ひまするので、大臣から御答辯を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=57
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058・芦田均
○芦田國務大臣 只今正木君の御述べになりました點は私も全然同感であります、長い間世間で浪人をして、暫く振りに役人になつて見て一層其の感を深くするのでありまして、私の御約束なし得る點は精々御話のやうな方針で此の機關に適材を活動させるやうに致したいと云ふことであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=58
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059・正木清
○正木委員 私が是から質問致します點は、大臣から御答辯を願ひたいと思ふのであります、先づ第一に御伺ひ致します點は、法の第二十三條であります、第二十五條の規定を見ますと云ふと、同じ種類の勞働者の數の四分の三以上の數の勞働者が、一の勞働協約の適用を受くるに至つた時は、他の者も此の協約の適用を受けるのだ、斯う云ふ規定になつて居ります、もう一つは第三十二條であつたかと記憶致しまするが、組織のない場合には委員會の權限に基いて其の實情を調査して、改善の具體案を行政官廳に建議することが出來る、斯うなつて居ります、此の二十三條と三十二條とを考へて見て、私は具體的に御伺ひ致さなければならない點は、此の委員會の委員が政府に參考書の提出を求めた、此の中に全國の日傭勞務者の土木、建築、港灣小運送、貨物自動車、陸上小運搬、男女の總計の統計を得たのでありますが、之を見ますと、百六十八萬六千五百三十五であります、此の數字が果して的確な數字であるかどうかは私若干疑問に思ひます、更に是と關聯して考へなければならないことは、現在就職して居りまする百六十八萬――其の數字で私は一應抑へます、今政府が發表致して居りまする千數百萬の失業者の今後の救濟目標となるべきものは何かと云へば、政府が過日發表致しましたやうに「ダム」であるとか、道路であるとか、農村に於ける開墾であるとか種々のものを發表致しました、是等に動員されまする所の勞務者の數と云ふものは、是は莫大な數に上ります、是等の人々も私は日傭勞務者とは何ぞやと云ふ定義を下した場合に、一應私は日傭勞務者の定義の中に加はるものではないか、斯う云ふ風に考へて居るのでありますが、之に對する當局の御見解を先づ御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=59
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060・芦田均
○芦田國務大臣 失業者の數として只今正木君が擧げられた一千三百萬餘の數字は、正確な意味に於ける失業者の數ではありませぬ、國内に於て復員された者、軍需工場若しくは休止工場から一時職に離れた者、又海外より復員して來た陸海軍將兵、軍屬及び之に伴隨して海外に駐在して居つた者の引揚數、其の全部を含めて言ふのでありまして、それ等の者の過半は少くも或は農村に歸り、或は從來從事して居つた職に復歸し得る者であつて、差當りの失業者の數は各府縣等よりの報道に依りますれば、概數四百萬と云ふ推定を下して居るのであります、其の四百萬の中、どれだけが現實に職場を見付け得るかと云ふことになるのでありまして、只今御引きになつた百六十何萬と云ふ數字と四百萬と云ふ數字と對照の上で御考へを願ひたい、左樣に思ひます、そこでどの程度まで、之を日傭勞務者と言ふかと云ふことになると、非常に區別の困難な場合があると思ふのであります、實例を引きますれば、例へば農村に多少の勞力が餘つて居る、附近に河川の改修工事が行はれると云ふので、小作業を營む一部分農村の人が、河川の工事に出て働くと云ふ場合も可なりの數に上ると思ふのであります、又事實農村に於て小作さへも出來ないと云つたやうな農業勞働者も、是は極めて少數だと思ひますが、さう云ふ種類の人は明白に日傭勞働と云ふものに還ると思ひます、唯其の線を何處に引くかと云ふことになりますと、場所に應じ職業の種類に依つて、可なり困難な問題が起る、そこは取扱者の常識に依つて個々の場合に當つて判斷するの外はないのでありまして、之を抽象的に今どう云ふ風に定義するかと云ふことになると、一寸私としては答辯に困る問題であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=60
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061・正木清
○正木委員 そこで重ねて御伺ひするのでありまするが、只今就職致して居りまする此の百六十萬人の日傭勞務者と、今大臣が申された四百萬人の日傭勞務者、さうすると五百數十萬人の屋外勞働者に對する勞務行政、此の點に付て御伺ひを進めて行きたいと思ふのであります、過日私は意外な御相談を中央で受けたのであります、それは從來厚生省が監督致して居りました勞務報國會なるものが解體されて、其の勞務報國會と稍稍似通つた所の財團法人組織に依る勞務協會なるものが中央に出來た、而も此の勞務協會に對しては、政府が一箇年間數百萬圓の助成をする、現に三百數十萬圓は此の機關に支出してあると云ふ、而も此の勞務協會の事業の内容を見ますると、例へて言ふならば厚生省の原案に依りますると、失業保險が實施された場合には、國家の代行機關として此の勞務協會にやらせるのである、又日傭勞務者の作業衣、地下足袋其の他作業上に於ける一切の必需物資は、此の勞務協會をして一元的に配給せしめるのだと云ふこと、それから勞務者の募集も此の勞務協會をして一元的にやらしめるのだ、まだ澤山ございます、更に此の勞務協會をして共濟組合を結成せしめて、勞働者の共濟施設もやるのだと云ふことが規定されてあつたのであります、私は實は非常に驚いたのであります、政府が勞働組合法なるものを今議會に提出せんとして居る政府の意圖が何處にあらうとも、他動的な力に依つて提出せざるを得ない時機にあるに拘らず、勞働組合の精神と根本的に相反する所の、私の言葉を以て言はせるならば、反動的な、官僚的な、斯樣な財團法人を聰明な大臣を戴いて居る所の厚生省が、何が故に致さなければならないのかと云ふ所に、私は非常な疑問を抱くと同時に、中央に於て私は猛烈な反對運動を展開したのであります、北海道に歸りましても、北海道廳から勞務協會の支部設置の御相談を受けた時に、私は是の反社會的な性格を屡々説明して、北海道廳に於ては、率先して作るやうな行動に出でざらんことを強く要望致すと共に、其の會合に出て來て居りました各種の職能の代表者の多くの諸君も、もう勞務報國會で懲り懲りだ、今又斯樣な反動的な官僚的な勞務協會の設置をすると云ふことには反對であると云ふ意思表示を明かにして、北海道に於ては流産となつたのであります、そこで私の御伺ひしたい點は、過日も本會議に於て、同僚河野君が質問致しましたに對して、厚生大臣は解散をすると斯樣に言はれたやうに、私は聽き取つたのであります、其の通りであるかどうか、若し解散すると云ふのであるならば、解散を致さなければならない大きな理由がなければなりませぬ、厚生省から配付されました書類を見ますと、全國各地で相當に此の支部が結成されて居ります、實は其の事業に著手して居る向きもあるのであります、又之を逆に勞働者側から見ました場合には、斯う云ふ事實の根本に觸れて非常な問題を惹起致して居ります、仙臺に於て然り、東京都下に於て然りでありまするが、此の勞務協會の反動性の中で、最も反動的なものは何かと云ふと、勞務供給事業の助長であります、竝に反動性があると共に官僚的な所がある、勞務供給事業の助長、是は何だと云ふと、從來とも最も日本社會に於て奴隷的な典型的な立場に置かれた此の日傭勞務者を、民主主義革命の過程に於てすら、依然として奴隷的な立場に置かうとする勞務供給事業者、此の表で見ますと、勞務供給者は七萬九千六百四名あります、女にして一萬七千八百十二名、合計九萬七千、約十萬人の都市に於ける勞務供給の親方の餌食にすると云ふ所に、此の反動性があるのです、宮城縣などでは、五割も頭を刎ねられて居ります、進駐軍に働きに參ります勞務者に對して、此の勞務供給業者が、勞務協會の名に依つて、賃金の立替拂を致します、其の時でも天引五割を刎ねて居ります、東京都下に於ても然り、而も是等の日傭勞務者に物資を一元的に配給する場合に、從來の勞務供給業者及び資本家が如何なる配給方法をやつたかと云ふことは、是は私が今此處で論ずるまでもなく、勞務報國會が其の見本を示して居るのであります、私は之を廢止をする、解散をすると云ふ御決心をなさつた大臣は、恐らく此の勞務協會と云ふものが、日本の産業民主主義革命の、發展過程に於ける役割と云ふものに御氣付きになつたと思つて、解散をなさる御決心になつたと思ふのでありまするが、全國數百萬の日傭勞務者、言葉を換へて言ふならば、自由勞働者は此の勞務協會に對して非常な關心と、決死的な鬪爭を發展する態勢を今將に整へんとして居るのであります、どうか本議場を通じて、大臣の御口から勞務協會を解散する、何が故に解散するのだと云ふ所の理由を明かにして戴きたい、斯樣に存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=61
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062・芦田均
○芦田國務大臣 戰時中の勞務報國會が、終戰と同時に勞務協會の形に變つて來た、さうして相當多數の日傭勞務者の勞務供給、其の他の問題に關與して居つたことは、私も能く研究は致しませんでしたが、就任以來種々調査を致しました結果、新たなる事態に適應しない機關であるのと考へまして、勞働組合法提出以前に勞務協會解散の決定を致しました、此の點は決定濟の政府の方針と御承知下すつて間違ひありませぬ、唯今後日傭勞働者の就職斡旋其の他に付て、現在の勤勞署等の機關に依つて果して遺憾なく運用が出來るかどうか、殊に將來失業救濟の事業が必然的に強化されなければならない時でありますから、どう云ふ方向に如何に機關を強化すれば宜いかと云ふことを只今研究中でありまして、勞働協會の解散と新しき機關の運用との間に時日が餘り遲れないやうに、適當な處置を講じたいと思つて折角努力中であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=62
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063・正木清
○正木委員 能く分りました、そこで私は私の經驗を通じて大臣に私の愚見を申上げることが非常に參考にならうと思ふので申上げたいと思ひます、私は昭和の經濟「パニック」時代に於て、三年間自由勞働者の中に身を落して、自由勞働者と共に稼ぎました、隨て其の當時に於ける職業紹介所の機構、構成、運用も能く存じて居ります、此の勞務協會の通牒を出した厚生省の原案に依りますと、職業紹介法を改正して勞務者の需給調整、仕事の斡旋等は一切勞務協會を以てやらせると云ふことになつて居つたのですが、是は解散致しますからやらなくなります、そこで先づ第一になさなければならないことは是です、全國數百萬の日傭勞働者と規定さる、人が、各地區的に業種別的に勞働組合を結成して、此の屋外勞働組合が、全體の責任と名譽と義務の上に於て果すと云ふことは、是は實際問題として中々困難です、それは東京でも出來ませう、各縣とも出來ませうが、是程困難な、是程復雜多岐な勞働者の集團と云ふものはありませぬから、私は名譽と責任を持つて果すと云ふ勞働組合が出來るまでには、相當の年數が掛ると思ひます、そこで私の考へ方と致しましては、職業紹介法を改正するのではなくして、只今の動員署は一般知識階級其の他を取扱ふ機關として、昔に還つて屋外勞働者の爲の職業紹介所――動員署でも結構ですが、其の機關を別個に獨立して依るべきである、さうして出來た此の獨立した機關に、政府側の意思、それから使用者側の意思、勞働者側の意思を代表する所の、此の勞働組合法で規定されてありまする勞働委員會と云ふものを的確に利用し、應用することに依つて、私は或る程度の實績を擧げることだけは間違ひないと云ふ考へ方を持つて居ります、更に一番勞働者として問題になりますることは作業衣、地下足袋、其の他の物資の配給の問題であります、之を公平に配給するか、不公平に配給するかと云ふことは、一に懸つて勞働意欲の上に於て重大な關係を持ちます、そこで之を名譽と責任を持つて果せる勞働組合が出來ない以前に、此の勞務供給業者に渡せば、是は問題が起ることは火を睹るよりも明かであります、そこで政府の機關である此の動員署、要するに日傭勞務のみを取扱ひまする動員署と云ふ一つの政府の公的な機關を作つて、此の勞働委員會と同じ形の機關をそれに入れて、此處で適切に勞働者の登録をなさせ、其の登録の上に立つて一切の物資を配給すると云ふ途を講ずるならば、私は非常に圓滿に責任を持つて仕事が出來るのではないか、斯う云ふやうに考へます、そこで私の希望は、中央、地方に急速に是等に對する機關を先づ御作りになる必要があると思ふのでありますが、之に對する大臣の御所見はどうですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=63
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064・芦田均
○芦田國務大臣 正木君の建設的な御意見、計畫等は頗る有益に拜聽致しました、此の問題は只今急速に具體案を作ることになつて居りますから、十分御意見の程を參酌致しまして、一日も早く勞務配給に遺憾なきを期したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=64
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065・正木清
○正木委員 私は實は大藏大臣においでを願つて、物價問題と賃金の問題に付て、根本的な政府の方針と云ふものを明かにしようと思つたのでありますが、賃金問題は厚生省から聽いて貰ひたいと云ふことを只今言つて來たのであります、けれども大藏大臣の御出席は委員長から是非御願ひを致したいと思ひます、厚生大臣にどの程度まで御伺ひして宜しいのか、私にははつきり致しませぬが、問題は是です、此の法の生命とも言はるべき勞働能率を増進して、平和産業の維持に協力するのだと云ふことが、端的に言ふと是の大きな使命でありますが、それが爲には團體權を保障する、交渉權も認める、さうして勞働者の地位の向上を圖らなければいけないのだ、是が狙ひです、併しながら具體的の實際問題として、讀賣爭議が團體交渉權を獲得致しました、相當大幅の賃金の値上があつたと思ふのです、全國到る處に爭議が頻發致して居りまして、團體交渉權を獲得して居ると思ふのです、併しながらそれから一歩入つて、此の法文に明記されてありまする所の協約締結、是が果して政府が意圖するやうにすらすらと、資本家側も納得し、勞働組合側も納得するやうな協約が成立つかどうかと云ふ問題であります、此の點に付ては午前中に同僚の議員からも本質的に觸れたのでありまするが、私は法の上にはさう云ふことが明記されて居つても、實際問題としては是は不可能に近い問題だと思ふ、なぜかなれば、本日の賃金二十圓は明日の貨幣價値判斷から見て妥當ならずと云ふのが、今日の日本の物價の姿であります、そこで此の勞働協約の原始的な、初歩的な勞働者の要求と云ふものは、賃金の値上げが主體になります、此の賃金の値上げが主體になつて、自己の生活の或る一定の限度の安定を圖ると共に、更に進んで其の經營形態の中への參加、同時に人格平等に立つた發言權の要求、斯う云ふ形になつて行きますことは、爭議の「エー・ビー・シー」であります、そこで私は此の法を的確に運用して行きます場合に、一體政府が意圖して居りまする、大藏大臣も屡屡本議會の委員會に於て官吏及び勞働者の賃金、俸給は大幅に引上げるのだ、斯う言はれます、厚生大臣も言はれたやうに記憶して居りまするが、物價關係と賃金關係とに對する政府の方針は一體何處にあるのだ、此の本質的な問題が明かにならなければ、私は益益日本の勞資關係と云ふものは對立が激化し、混亂に次ぐ混亂を重ねることになると云ふ見透しを持つて居るのであります、是は大藏大臣にも聽きまするが、私は厚生大臣としての御方針を重ねて聽いて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=65
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066・芦田均
○芦田國務大臣 御話の點は私も同樣に非常な重大問題として痛心致して居ります、御承知の通り我が國の財界の現状、政治的な情勢から判斷致しまして、不幸にして物價及び賃金を安定するのに、前途幾多の障碍がある、隨て果して如何なる對策に依つて「インフレーション」を完全に防止し得るか、又物價騰貴の趨勢をどうすれば完全に抑へ得るかと云ふことは、朝野等しく考へ且つ惱んで居る所であつて、而も何人も的確な方法に付ての具體案を明示し得ない理由がそこにあると思ひます、私個人としての考へは、要するに今囘の「インフレーション」激化の根本は、食糧、物價の騰貴にある、食糧、殊に主要食糧品の騰貴が「インフレーション」の根本の問題になつて居る、勞務を得ることの困難も亦食糧問題である、多數の失業者をして勞働意欲を失はしめて居るのも、皆彼等が食糧品の闇をやる方が生活が樂だと云ふことで、工場乃至日傭勞働者になる希望者が少い、石炭の勞働者がないのも食糧問題と云ふことであつて、要するに問題は食糧不足及び食糧物價の騰貴が「インフレーション」の根本をなして居る、賃金制定の困難な所以も亦そこにあると考へます、隨て同僚の一員として、農林當局等に對しましても、食糧問題の解決が今日の急務中の急務であると云ふ風に力説致しまして、何とかここで一轉換を圖らなければならぬと感じて居ります、厚生省は厚生事務に關する限り他力本願の點が多いのでありまして、自分で食糧をどうすることも出來ませぬ、自分で必要な物資を集める權限も持つて居りませぬ、さう云ふ點で甚だ微力、力の足りないことを痛感するのですが、併し出來得る範圍に於て此の問題の解決に當りたい、賃金の問題に付ても御承知の通り賃金が先に上つて物價が上るのではない、諸物價が上るから賃金増加の運動が起るのだ、是が實情だと思ひます、隨て賃金制度如何に依つて「インフレーション」が促進されると云ふのは結果論であつて、現實に於て賃金が上つて然る後に物價が上ると云ふことは起つて居らない、如何なる國に於ても必ず物價が騰貴するから賃金の増加が行はれる、其の意味に於て月給生活者、日傭生活者が常に「インフレーション」の最も大きな犠牲者になる、最も早く生活難に追込まれると私は見て居る、さう云ふ譯で鷄が先か卵が先きかと云ふ問題になりますが、賃金問題の解決に於ても今日の如き過渡期、殊に「インフレーション」の相當拍車を掛けられたる今日に於て、非常な困難の度を加へて居ると思ひます、隨て其の都度々々生活費、物價と睨み合せて、或る程度の賃金を決めて行くと云ふ外に、私としては今良策を持たないのであります、何か良い案がありましたら、どうか御教へを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=66
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067・正木清
○正木委員 私は花より團子ですから、早速具體的な問題に付て論じて見たいと思ふのですが、今大臣が明確に指摘されたやうに、私は此の根本的な解決策が現政府にありや、斯う云ふ質問をした場合に、恐らく後で出席される大藏大臣と雖も、明確には之に對して御答へが出來ないと思ひます、恐らく大臣と同じ程度の御答辯しか出來ないと思ふ、そこで私は此の法だけに局限致すのでありますが、さう致しますと毎日の新聞を見ても、十や二十の「ストライキ」が起きて居ないことはありませぬ、京成電車などは無賃で大衆に奉仕すると云ふ新戰術を執つて、「ストライキ」に入つたやうであります、さうして賃金は三倍、五倍の値上を要求致して居ります、そこで現在政府が公的な機關を通じて配給して居りまする主食糧、其の他味噌にしても醤油にしても、過日同僚西尾君の質問に對する大臣の御答辯に於て明かになつて居りまするやうに、漸く生命を維持することは出來るが、それに依つて或る一定の職場に從事して、民族更生の爲に起ち上れるものではないのであります、そこで大なり小なり闇をやらなければ行けない、其の闇をやつてすら完全に働き得る主食物が手に入らないと云ふのが現状であります、そこで私は色々の數字的な統計を御目に掛けることも差支へないと思ひますが、時間が掛りますからそれは止めます、唯問題になるのは此の勞働委員會の運用であります、勞働者勤勞階級は生きると云ふことが原則でありますから、少數の支配階級がどのやうに考へるとも、産業民衆化を通じて、自己の生活を守る爲には賃金三倍の値上要求、五倍の値上要求の基礎は、表面に現はれた政府の公定價格の價格基準ではなくて、自分の一箇月に掛る全體の生活費が基準になります、そこで其の基準に基いて三倍の要求をし、五倍の要求をし、倍の要求を致した場合に、此の勞働委員會の執られまする調停及び仲裁、是から出るであらう所の爭議調停法の改廢等は、至大な關係を持つのです、又持たざるを得ないのです、隨て私は今の内閣の性格から見て、根本的な問題は解決出來ないではないか、出來る自信は恐らくないであらうと云ふ私は見透しを持つて居るのです、と云ふことは是は非常に御嫌ひの方があると思ひますが、結論を申しますと、「ポツダム」宣言を受諾した刹那に於て、日本の産業民主主義の面に於ては、私を以て言はしむれば資本主義か社會主義か、理念として此の線まではつきり來て居ります、資本主義の限界に立つて、現在の國難を突破することが果して出來るであらうかどうか、出來るとするならば然らば具體的にどうして出來るのか、社會主義的な理念に立つてやるとすればどう云ふ結果になつて現はれて來るか、恐らく問題の本質は此處まで掘下げなければ、實際のことが明瞭にならないのではないかと私は考へて居ります、思想に於て此の資本主義か社會主義か、此の理念の上に於て今日本の國情から考へて見た時に、どの線で資本主義と妥協しつつ此の行詰つた所の食糧増産の問題、失業者の問題、住宅の問題等を解決することが出來るのであらうか、此處が私は究極の所ではないかと考へます、隨て大臣は理念的に、思想的に聰明にして自由主義者であると私は承つて居るのであります、自由主義にも「プロレタリア」的に見た主義もありますれば、「ブルジョア」的に見た自由主義もあるのであります、「プロレタリア」的な自由主義の範疇の中で、此の本質の問題が果して解決出來るか、茲に大きな問題が残されて居るかと思ふのでありまするが、大臣の今抱いて居る勞働行政を通じての思想的な方向に付て、此の機會に承つて置きたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=67
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068・芦田均
○芦田國務大臣 只今の正木君の課題は、日本の今後の動向に關して洵に根本的な重大な問題であります、私の見る所に依れば、社會主義國家と雖も色んな形で現はれる、必ずしも現在「ソヴィエト」聯邦が執つて居る政治、社會制度のみが社會主義國家であるとは言へないと思ふ、例へば「イギリス」の勞働黨内閣が廣汎なる國有政策を提げて、既に政權を握つた歴史から言へば、一九二四年以來可なりの經驗を重ねて來た、或る期間に於ける「イギリス」の政治は、社會主義政策に依つて行はれて居つたとも言へませう、現在の「イギリス」に付ても或る程度社會主義國家であると言へないことはないと思ひます、又「ドイツ」の「ナチス」の或る期間に於て、國家社會主義の政策が相當強行されて居つた、是も或る意味に於て社會主義國家であつたと言へないことはないと思ふ、隨て丁度民主主義が世界各國、其の國々に依つて特質とする民主主義形態を現はして居ると同じやうに、少くも過去二十年間の歴史を御覽になるならば、「ソヴィエト」には「ソヴィエト」式の社會主義が行はるべき基礎があつた、あの「ソヴィエト」社會主義を何處の國に持つて行つてもあの儘を適用出來たと思ひませぬ、それと同じやうに社會主義國家と雖も、其の國々に依つて自ら異なつた形を持つて現はれて來るのであります、「ドイツ」には「ドイツ」流の國家社會主義が行はるべき地盤があつた、さう云ふ意味に於て今後日本の社會主義がどの程度まで採用されるか、今後の經過に俟つ外はありませぬが、若し今後の日本の經濟社會制度の上に社會化が行はれるとするならば、やはり日本民族の傳統と、日本國有の特質の上に築き上げられたものでなければ繼續の見込はない、斯樣に私は思ふのであります、然らば今日の日本が直ぐに社會主義國家として立つだけの基盤があり、準備があるかと云ふ點になると、まだそこまでは行つて居ない、何となれば所謂社會主義國家なるものが圓滑に運用されるとしても、やはり其の基礎となるものは個人である、個人の個性、特性、此の基礎が確實に出來なければ社會主義國家の運用は決して完全に行はれ得ない、不幸にして今日までの日本は、まだ本當に自由主義の何たるかさへも諒解しない程度のものである、自由主義の過程を經ずして、いきなり社會主義國家を實現しても、果して社會主義國家の理想が圓滑に行はれるかどうか、動もすれば斯樣な國家に於ては徒らに怠け者が得をし、勤勞意欲を持つ者が意氣沮喪すると云ふことで、其の社會進歩が或は遲滯し、停止するかも知れない危險が多分にある、故に今日の日本に於ては所謂修正資本主義と言ひますか、從來の資本主義の幾多の缺陷を社會政策に依つて極力之を是正し、社會主義の特色とする點を取入れて、然る後に徐々に此の正しい資本主義、修正資本主義の途を歩いて行くことが適正ではないか、斯樣に私は感じて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=68
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069・正木清
○正木委員 只今大臣の御答辯に依りまして、私も大體現在の日本としては其の線で行くより仕方がないのではないか、そこで勞働組合運動を通じて全國的に現はれた傾向の一つとして、要するに勞働者自身の力に依つて産業の復興を急がなければいけない、それが民族の福祉の爲に勞働階級が果すべき大きな使命であると云ふ自覺を持つて居るのです、其の自覺の上に立つて企業經營への參加と云ふ要求が、全國の各爭議の面に於て非常に強く現はれて來て居ります、企業經營への參加と云ふ、此の參加の思想的、理論的の根據は今大體大臣が述べられた範疇の中に立つての要求である、斯う云ふやうに私は考へて居ります、後で商工大臣が御見えになれば更に私質疑を重ぬるのでありますが、時間が段々詰つて參りましたから重ねて御伺ひ致します、そこで早くも此の勤勞階級の民族幸福の理念に立つて、此の企業經營への參加を惧れた少數の資本家團は、如何なる手を打つて居るかと云ふことであります、日本の産業の復興が遲々として捗らない根本の原因は、一口に言ふと資本家達の「サボタージュ」であります、勞働者の罪ではありませぬ、而も逆に、勤勞階級が自ら生産を起さなければいけないと云ふ此の努力に對する反動として、全國的に現はれて來た顯著な例は、未だ勞働階級の自覺、社會に對する適格な見透しを掴み得ない所を最も幸ひとして、資本家團に都合の好い所の御用勞働組合を全國到る處で作つて居る事實であります、北海道に於ても或る大きな三井系の炭山は、産報を其の儘勞働組合に名前を變へて、此の姿を變へた勞働組合で團體交渉を契約してしまひました、又函館の或る大きな「ドック」會社も此の手を打つて居ります、九州到る處それが散見されて居ります、東北に於ても近畿に於てもそれが散見されて居ります、是は今後の日本の産業復興の上に於て決して幸福を齎すものではない、軈て其の御用勞働組合の中に包含されたそれ等の勞働者が、會社の爲に騙されたことに氣が付いた時に、其の反感と不幸は一時に爆發致します、其の爆發した結果日本の産業の復興の上に於て、どう云ふ不幸なことを齎すかと云ふことを考へた時に、眞に極く少數の支配者である所の資本家團は自覺すべきである、自己の責任の範圍内に於て自覺すべきである、同時に政府當局も大臣の名に依つて地方長官を通じ、或は厚生省と商工省との話合に依つて、地方の經濟團體を通じて、資本家團の左樣な惡辣なる小手先を使つた處置は、政府自らの手に依つて注意を喚起すると同時に、御用團體である所の勞働組合を作るやうなことを阻止すべきである、それは偏に日本の産業を復興する爲であると共に、日本の民族の幸福を守る爲の至上處置であると考へますが、之に對する大臣の御所見を承ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=69
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070・芦田均
○芦田國務大臣 正木君が今指摘されました事實を、私まだ不幸にして實情を聞いて居りませぬ、併しながら各國の勞働組合發達の歴史を讀んで見ると、何處の國にもさう云つた時代がありますから、恐らく過渡期の日本に於ても斯樣な例を指摘し得るのだと思ひます、洵に遺憾なことでありますが、左樣な場合に政府が強權を以て資本家に臨むことが宜いのか、或は能く事態を明かにして徐々に之を指導して行くと云ふ方法が宜いのか、其の方面に付ても尚ほ考慮の餘地があると思ひますが、何れにしても斯樣な現状を其の儘に見て居ると云ふことは、今後の産業平和の上に面白くないことと思ひます、十分其の點は注意を致す積りで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=70
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071・正木清
○正木委員 厚生大臣に對する質問の最後として御伺ひ致したい點は、他働的な力に依つて軍人に對する恩給は停止を見た譯であります、之に對するのと、官公吏の恩給其の他に對して厚生省は一つの委員會を組織致しまして、是が具體的の研究に著手されました、そこで私は御伺ひ致したいのであります、厚生年金と社會保險との關係でございます、過去のことを私申上げる譯でありませぬが、日本のやうな封建的な力の多大に強かつた國に於ては、保險制度を通じて一番恩惠を受けて居つたのは誰かと云へば、是は申上げるまでもなく軍人でありました、隨て官吏であります、然るに國の基盤として、國の産業經濟の上に非常に大きな貢獻をして居られます所の勤勞階級は一體どうであるかと云へば、大臣御承知のやうに辛うじて昭和十六年度に初めて厚生年金制度と云ふものが設けられた、此の厚生年金制度の目的は、養老と傷害と遺族の三種となつて居ります、而も此の被保險者は、過去の數字でありまするが、數百萬に達して居る譯であります、是は私申上げる必要はありませぬが、其の財源としては被保險者四割、資本家四割、政府が二割斯う云ふことになつて居ります、或は私の調査した數字に間違ひがあるかも知れませぬが、政府が二割としても、一箇年間の政府の負擔額は僅に三百萬圓であつたのであります、所が此の養老保險の支給基準と云ふものは、養老年金に於て二十年であります、而も被保險者は五十五歳に達しなければ駄目だ、斯う云ふことであります、而も平均俸給の三分の一と云ふやうに規定されて居ります、此の厚生年金と從來軍人、官吏に對する現行恩給法との比較對照をして見た時に、如何にそこに封建的な思想が此の保險制度の上に露骨に現はれて居つたかと云ふことは、私申上げる必要はないと思ふのであります、そこで他方の壓力に依つて軍人に對する恩給は停止され、同時に官吏に對する恩給と云ふ問題にも、根本的な「メス」を加へなければならない現段階に於て、今政府が意圖して居る社會保險と此の厚生年金との關係をどう云ふやうに調整し按配して行くのか、此の點は全國の勤勞階級が齊しく注意を以て見て居る所であります、隨て私は此の點に關して厚生大臣から率直に御所見を承つて置きたいと存ずるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=71
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072・芦田均
○芦田國務大臣 此の問題は御承知の通り政府に於て社會保險審議會を設けまして、既に十日に第一囘の會合を開き、其の後の會合の結果、今小委員會に於て具體的の案を研究して居る最中でありますが、政府部内に於ても此の問題の取扱は社會全般に及ぼす影響極めて重大なものがあると考へ、愼重に、而も同時に急を要することでありますから、急速に具體案を作つて居るのであります、軍人恩給の廢止に伴つて、文官恩給をどうするかと云ふ點に付きましては、確定は致して居りませぬが、大體の空氣として文官にのみ恩給制度を維持することは宜しくあるまいと云ふのが絶對のやうであります、又軍人恩給の停止、文官恩給制度の廢止に伴つて之を社會保險制度に引直すとすれば、技術上どの程度に厚生年金保險と同じやうな制度が適用出來るかと云ふことも尚ほ研究中でありますが、恐らくさう云ふ途は開かれるのぢやないかと想像されます、さう云ふ場合に於きましても、恩給の若年停止と云ひますか、例へば四十歳、或は四十五歳以下の恩給權利者は其の年齡に至るまで恩給を受けることが出來ないと云ふやうな制限を設けることは、現在の情勢に於て必要なことと考へられます、又最近まで行はれて居りました軍人恩給と果して同額の保險金を支拂ふ途があるかどうか、恐らくは從來行はれて居つた恩給年金よりも低い保險支拂をするより外に途がないのではないかと云ふことも考へられます、併し是は何れも只今の空氣を申上げたのみでありまして、具體的のことは更に數日後に審議會の具體的成案を得て、政府の決定をする順序でありますから、今日直ぐに滿足に御答へすることは難かしいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=72
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073・正木清
○正木委員 商工大臣、大藏大臣、總理大臣が御見えになりませぬから、大臣に對する質問を留保致して置きまして、私の質疑を一應打切つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=73
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074・添田敬一郎
○添田委員長 今の正木君の御注文のやうに、總理、大藏、商工の三大臣には要求してありますが、只今本會議で其の方の關係の法案が上程されるさうですから、暫く遲れるさうです、隨て留保して戴きます、厚生大臣は豫算の本會議に出て來いと云ふので今呼ばれて居ります、後は政府委員でやつて戴きたいと思ひます――山崎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=74
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075・山崎常吉
○山崎(常)委員 折角の御言葉でございますけれども、大體勞働組合法に付きましての質問は同僚正木君から色々詳しく御質問下さいましたので、私は大體勞働組合法案と諸般の勞働政策に付ての御質問をしたいと思ひますので、一寸勞政局長では都合が惡いのです、厚生大臣なり、或は總理大臣なり、農林、商工と云ふ方面に申出てありますので其の方面でなければ一寸質問が出來ないのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=75
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076・添田敬一郎
○添田委員長 では川崎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=76
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077・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 私は厚生大臣に御尋ねするやうに腹案を作つて參つたのでございますが、只今本會議に參つて居られると云ふ御話であれば、厚生省の政府委員に御尋ねをして、大臣に對するものは後の機會に保留したいと思ひます、勞働組合法の内部、實質に關する二、三の點でございますが、勞働組合法を作るに付て、勞働者の範圍を官吏にまで及ぼしたやうでございますが、郵便配達夫、停車場附の小運送夫、裁判所の代書人と云ふやうな仲間にまで組合法に加入させるのでございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=77
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078・高橋庸彌
○高橋政府委員 川崎委員の御質問に御答へ致します、只今御述べになりましたやうに、郵便配達夫及び其の他の人々に對しては、本法は適用がある譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=78
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079・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 小作人及び耕作に當つて居る農業組合と云ふのも、同じくでございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=79
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080・高橋庸彌
○高橋政府委員 御答へ致します、本法に於ける農村の小作人は、御承知のやうに地主から一定の廣さの土地を賃借致しまして、獨立の經營を營んで居るのであります、隨ひまして本法の勞働者とは、其の性質が若干異ると思はれるので、本法の適用なきものとして居ますが、其の經濟上の實體は、本法に規定して居りまする勞働者と非常に近い性質を持つて居ります、隨ひまして本法の如き立法が必要であらうとは思ひますが、只今の所本法の適用はないと云ふ風に御理解願ひたいと思ひます、尚ほ附加へて申しますれば、前段の御質問に於て、代書人に付きましても本法の適用があると申しましたが、代書人は獨立の營業者でありまして、雇傭主、使用主がないので、之には適用がない、斯う云ふ風に御訂正が願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=80
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081・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 そこで消防夫、巡査等に至つては、組合員に加入してはいけないと云ふ御趣意のやうに承つて居りますが、郵便電信等の配達夫、小荷物を運んだり配達したりする仲間、是が罷業でもすると、一般の民衆、或は延いては公安を害する場合も色々あると思ひます、其の點になると消防夫や何かと餘り隔りがないと思ひますが、當局は如何に御考へでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=81
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082・高橋庸彌
○高橋政府委員 御述べになりました巡査、消防夫は、組合結成竝に加入は禁止して居りますが、郵便配達夫、小荷物の配達夫と云ふ風なものには許されて居る譯であります、許されて居るものが「ストライキ」等を起した場合には、非常な支障を起すから、警察官、消防職員との關係上之を容認すべきかと云ふ風な御話でありますが、御述べのやうに郵便配達夫、小荷物配達夫が同盟罷業を起した場合に支障のあることは、洵に其の通りでございます、併しながら斯う云ふ公益事業、郵便配達夫の如きは國家の事業でありますが、公益、公共に關する點が強いので、命令の定むる所に依つて、さう云ふ風な罷業に對しては相當の制限を加へたい、斯う云ふ風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=82
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083・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 次に團結權のことに付て御伺ひしたいのであります、團結をして勞働組合を勞働者が結成して、鑛山なり、工場なりへ、此の工場では組合員以外を使つてはいけない、斯う云ふ要求をしまする時に、所謂當該勞働組合獨占主義で以て押通さうとする時には、そんな權利を認めると云ふのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=83
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084・高橋庸彌
○高橋政府委員 只今の御質問に御答へ致します、さう云ふ風な、御述べになりましたやうな問題に付ては、法律に規定することなく、其の問題を現實の其の場合の問題に任して置くと云ふ風に致したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=84
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085・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 勞働組合の各種のものに付ては、各各基本金、運動費等が要るので、積立金を會員から徴集して、積立てることは當然やつて居ることでありますし、認めて居ることでございませうが、外國の例に見ますると、罷業をする準備の爲に、其の時の食扶持を目標として、積立てることを禁じて居る所が少くないやうに思ひます、即ちいざと云ふ時には弱者、所謂勞働者は、啻に團結して罷業するのみならず、我慢のしくら、會社が困るか勞働者が困るか、我慢のしくらをする、臑押しの痛さの怺へくらをすると云ふことが、兎角勞働爭議に有り勝ちなことでありますが、左樣な準備金の積立てをすることは、差支へないことに御解釋でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=85
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086・高橋庸彌
○高橋政府委員 罷業した場合に、其の罷業の費用として、豫め基金を置くと云ふことは、本法の禁止する所ではありませぬので、自由になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=86
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087・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 それから組合を作るには産業を別にする毎に組合を作ることも、工場別、地域別にすることも、兩方とも此の法案で見ますと許可して居るやうに見えますが、左樣に解釋して宜しうございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=87
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088・高橋庸彌
○高橋政府委員 御説の通りでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=88
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089・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 罷業に付て罷業を最も有效ならしむる手段として、同情罷業と云ふことが、歐米諸國で度々行はれることを認めます、例へば横濱の仲仕人夫の組合が罷業をすると、小運送組合も罷業をする、そこで人なり荷物なりを運んで行く電車、汽車の從業員も同情して罷業をする、さうすると横濱の荷揚なり、海外からの輸入物を運び込むなり、こちらから海上へ持出して、運び出すことがすつかり停まつてしまふ、そこで初めは仲仕組合だけの反抗と思つて、それに對抗して居つた所の使用者側、雇主側は困つてしまふ、斯う云ふ戰法を取ることが度々あり得ました、所謂第二戰線を張る、日米の戰爭だけではまだ中々我慢をして、日本でも屈しない、「ソヴィエト」が第二戰線を張る、そこで大變なことだと云ふことが出て來ますやうに、勞働條件の改善や何かには何等の關係のない、左樣な他の組合が同情罷業をすることを認めるや否や、此の點に付ての當局の御解釋を承ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=89
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090・高橋庸彌
○高橋政府委員 同情罷業に付ての合法性の問題の御尋ねでございますが、合法か非法かを判定すのは中々困難な問題が多いだらうと思ひます、第二條の勞働條件の維持改善と云ふことから、非常に縁遠いことを以て非常な廣範圍の同情罷業に陷ると云ふ場合は、是は諸般の状況上違法となる場合があり得るだらうと思ひます、先年の「イギリス」に於ける「ゼネラル・ストライキ」にならんとした同情罷業と云ふ風な場合に於ては、是は違法になり得ると思ひます、要するに違法になるか合法になるかと云ふことは、其の場合場合の諸般の事情を勘案して、社會の通念に依つて決定致したい、斯う云ふやうに思ひます、豫め右左を決定すると云ふことは中々困難と存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=90
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091・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 罷業に付ては雇主側に於て罷業された爲の損害を要請することが出來ないやうになつて居るやうに拜見します、それから雇主側で「ロックアウト」所謂閉出しを喰はした場合に、やはり勞働組合側から其の雇主に對して損害を取れない、五分々々に仕組んでございますが、此の點はどう云ふ風になつて居りますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=91
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092・高橋庸彌
○高橋政府委員 使用者側の致します「ロックアウト」に付ての損害賠償の御尋ねでございますが、是は本法に何等規定して居りませぬので、一般民法の規定に依ることと思ひます、隨ひまして社會通念上正當合法の「ロックアウト」と云ふことになれば、損害賠償の義務はないが、やはり違法、不正當のものになりますと、損害賠償を要求し得ることになる場合があると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=92
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093・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 次に協約權に付て伺ひます、勞働組合をして雇傭主と對等の立場に立つて勞働協約を締結することを得せしむる、其の立法の狙ひどころは勞働者側の方から見れば、勞働者にどうさせる爲に、どんな地位に置く爲に左樣な權利を與へるのでありませうか、所謂勞働協約權を勞働者に與へる狙ひどころ、目星はどこでありますか、伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=93
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094・高橋庸彌
○高橋政府委員 恐らく勞働協約締結の事項の主なる問題は、やはり何と云つても賃金の問題が主たるものであります、或は勞働時間の問題、或は同盟罷業、或は「サボタージュ」等の爭議行爲を起す場合の仲裁調停の事項等、色々さう云ふやうな諸般の事項が勞働協約の内容になるであらうと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=94
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095・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 今政府委員の御述べになつたことは當然含まれて居ると思ひまするが、私の考へでは目標をそこに置いてはまだ不足で、勞働者の利益を十分に保護するには足りないと考へます、賃金及び勞働條件の改善と云ふことは勿論當然の話で、一番多くある場合でありますが、近來勞働立法の精神として行く所は、段々變つて來たやうに思ひます、政府當局も能く御存じの通りに、其の大きな原則は第一次世界大戰の後に「ヴェルサイユ」會議に依り國際聯盟が出來まして、それに附帶しまして國際勞働會議があの中へ織込まれまして、其の時の原則と致しまして勞働非商品主義と云ふものが打建てられて、それが始終貫徹して此の間まで續いて居るやうに思ひます、それは何かと言へば、國際勞働機關の規約前文に斯樣にあります、其の一部分だけ朗讀致します、「國際勞働は世界平和の確立を目的とし、而して世界平和は社會正義を基礎とする場合に於ても之を確立し得べきものなり」云々から始まりまして、項目を分けて勞働は商品に非ず、「レーバー・イズ・ナット・ア・コンモデチイ」と云ふことを規定して居ります、是は御存じの如く時の米國大統領の「ウィルソン」が「アメリカ」勞働總同盟の會長「ゴンパース」と手を携へて、戰爭中始終勞働者を軍國のことに使ふことに骨を折らせ、其の代償と致しまして「ゴンパース」の仲間が、所謂「アメリカ」勞働總同盟の仲間が多年主張して居つた此の勞働は商品でないぞと云ふ主義を容れさしたやうに承つて居ります、其の意味は唯賃金とか勞働時間とか云ふことでは、勞働も亦一般商品と同じで、何時間働いて幾らの賃金を得る、さうして向ふなら「パン」を買ふ、日本なら米、味噌を買うて其の家族が生活する、斯う云ふのでありますから、そこで不景氣の時には賃金を下げられる、勞働時間も殖やされると云ふことで、商品と同じやうに勞力を使はれる、賃安で食へなくなる場合もある、が、それは間違ひだ、勞働者を一個の人格として勞働者の人權を重んずる、それで勞働者に對しては唯工場で勞力を賣つて、そこで賃金を得て家へそれを持つて行つて、日本流で言へば米、味噌を買ふ元手にするばかりでなく、そこに若干の餘裕を置いて、勞働者は、無資産家であるけれども、尚ほ人間として而も人間らしく相應の生活を營み得るやうに、家へ歸れば手風琴なり「オルガン」なり位を、自分でも子供でも弄ばせるし、學校へ行く子供は男女ともそれぞれ學校に就け得ることも出來るし、娯樂として寄席、芝居位はたまさか行ける、日本流に言へば一年中何度か正月とか節句には赤飯を炊いて持つて行ける、其の外其の國の歴史とか氣風とかを勉強する教養の時間も與へる、それまでやつて漸く子女たる人間を人間として育てることが出來るのであつて、勞働者もそこまで持つて行かなければならない、それが文明國の勞働者の立場であると言ふのです、そこに目標を置かずに、唯賃金か何かをやるのでは逆轉して低い話になる、尤も國際勞働會議の如きも、今や一寸風邪を引いたやうな恰好で、第二次世界大戰以來中休みをして居りますが、是は一時的の話であつて、あの「ヴェルサイユ」で打立てられた原則は、各國勞働運動の目標、基準として居るものと考へますし、日本としては一足飛びに大層進歩した今度の勞働組合法に對しては、多大の敬意を表しますが、そこらを狙ひどころとして下さらなければ、勞働者の結局の幸福は得られないと考へます、當局の見る所は如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=95
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096・高橋庸彌
○高橋政府委員 勞働は商品にあらず、何處までも人格を重んじて國際條約の趣旨根本にまで行つて居るかと云ふ御質問でありますが、御述べの通り單なる商品として勞働を取扱ふと云ふことは、本法の目標として居る所ではないのであります、御述べの通り人格を尊重しての上の立法でございます、洵に御同感でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=96
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097・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 更に歐米諸國の勞働立法の近年の傾向を見ますと、企業經營に勞働者の代表者を參加させると云ふことが大分進んで來たやうでございまするが、それに依つて勞資の衝突なども鎭めることも出來ますし、其の他又勞働者の方が經營をしたり、どつかの新聞社でやつて居るやうに、經營者を排除して代つてしまふと云ふやうな機會も少くなつて、兩方相助けて行くやうになります、歐米の雇主の方は段々紐を緩めて、勞働者の經營參加權を認めて來て居るやうに拜見しますが、日本でもさう云ふことは御考へになりませぬでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=97
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098・高橋庸彌
○高橋政府委員 勞働者の經營參加の問題でございます、是は大臣からも御答辯がありましたが、經營參加を法律に依つて強制することは致さないで、勞働契約其の他の契約に廻さう、而して勞働者が經營に參加することは望ましいことである、斯う云ふやうに存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=98
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099・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 それと日本内地に於て朝鮮人、支那人の勞働者が炭礦其の他に働いて居りましたが、今歸りつつあります、是が他日日本の勞働事情の要望に依りまして又來ることがあるかも知れませぬが、さう云ふ場合に華人や鮮人の間の勞働組合をも、此の法律に依つて認める御意思でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=99
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100・高橋庸彌
○高橋政府委員 御答へ致します、朝鮮人、支那人に對しましても、本法の適用を我が日本に於ては認めようと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=100
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101・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 更に此の問題に關聯致しまして、日本の勞働組合が、單に組合の聯合體を作ることは本法で認めて居る所でございますが、其の聯合體だけではまだ立ち行かぬので、外國の同種類の勞働組合若しくは其の聯合體と提携する必要が或る時には起るぢやないかと思ひます「ヴェルサイユ」で拵へました國際勞働機關の規定の前文の中にも、斯樣に其の點を謳つて居ります「一國に於て人道的勞働條件を採用せざる時は他諸國の是が改善を企圖するものに對し障碍となるべきに依り」斯樣な機關を設けると云ふことであつて、之には日本も贊成し、大正八年の「ワシントン」で開かれた第一囘の國際勞働會議に代表を派遣して參加させ、昭和十二年頃まで續いたと思ひます、斯樣に一つの國ばかりではありませぬで、國際勞働機關に連結をすることを御認めになるか、先年國際聯盟よりの脱退に於て、日本は初めは聯盟は脱退しても、勞働會議は脱退せずに居りましたが、それも止まつて居ります、是等を復活する御意思がおありでせうか、それを御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=101
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102・高橋庸彌
○高橋政府委員 我が國の勞働組合と、國際關係との繋りを持たせる意思ありや否やとの御尋ねでありますが、只今御承知のやうに、國際關係は孤立でございます、全然國際關係は遮斷されて居りますので、現在の問題にならないのであります、唯將來國交を許された場合に、而も條約を成立するとか云ふことがあり得ると思ひますが、只今は特に本法に關しては、何等それとは關係がない譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=102
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103・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 國際聯盟に附屬して居りまする國際勞働機關は、第二囘目に起つた世界大戰爭と共に、色々變つて居りまして、「スイス」から其の本部までも引揚げ、「カナダ」、米國、「イギリス」などであちらの仲間だけで會合を致して居つたやうでございます、それとは別に新しい運動が起りまして、去る十月、十一月「パリ」で大きな會合を開いたことは當局も御存知の通りであります、それには以前は外の方に立つて居りました「ソヴィエト」聯邦の代表者も加はりまして、大いに努力をして居つたやうでございます、其の議事の經過、決議の模樣等は當局御存知と思ひますから此の點は述べませぬが、其の決議の中に、是から「ドイツ」の勞働者に對しても、我々の方から手を伸べて行つて救援をする、段々と條件を引上げてやるやうにしたい、斯う云ふ項目があります、又他の項目には、「ドイツ」ばかりではない、日本の方にも左樣にしたい、斯う云ふ決議も加はつて居りますが、も少し詳しく材料を持つて居りますけれども時間の都合で止します、さう云ふ場合に向ふから手を伸べて、日本の勞働組合が相當に健全に發達しました場合、之に引入れようとする場合にはどんな風にさせる積りでありますか、今から其の豫想をすることも餘り遠くないかも知れませぬから、伺つて置きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=103
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104・高橋庸彌
○高橋政府委員 大分假定を含んでのことでありますが、悲しいことに我が日本は敗戰國でありまして、御承知のやうに外交關係を全部遮斷されて居ります、隨ひまして勞働運動と雖も其の中に入つて居りますので、國際的に正式にこちらに招請があると云ふことであつても、之を受託して交際關係を結ぶと云ふことは、聯合國司令部の承認にならない所であると思つて居ります、早く國交を囘復し加入することを希望して居るのでありますが、現在の所は已むを得ないことと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=104
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105・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 最後に罷業對策と云ふことに付て御尋ね致したいと思ひます、罷業を避ける爲に勞働委員會を設置されて、それに色々骨を折らせる仕組になつて居ることは、此の勞働組合法の大層良く出來て居る點の一つだと思つて敬意を表します、けれども是が徹底しないと云ふことを私は痛感する者であります、勞働委員會が調停すべし、或は仲裁すべしと云ふ所まではありまするけれども、調停し得なかつた時にどうすると云ふことがないのです、罷業で大騒動が起つて、軍隊まで繰出さなければならぬやうな騒ぎの時には、調停機關がないから效力を失つて手に負へなくなつて來た時の場合であります、炭礦なり運輸交通の從業員なりが、左樣なことになつた時はどう云ふ風に計らひますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=105
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106・高橋庸彌
○高橋政府委員 罷業對策の一つとして、勞働委員會が罷業に付きまして或る調停案を與へた場合に、それに從はず調停が成らなかつた場合に、何も明文がなくて罷業對策上缺くる點があるのではないかと云ふ御質問でありますが、洵に其の通りでありますが、調停等に付きましては本法はまだまだ規定に足らない點が多々あると思ひます、隨ひまして現行の爭議調停法を近い將來に於て改正致しまして、其の缺陷を補ひたいと思つて居ります、而して御述べのやうな場合をも、調停の拘束力の問題の一つとして、其の中に考へて見たいと云ふ風に思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=106
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107・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 近く御制定になればそれを待つ外ございませぬが、只今御研究中でございませうから、其の時の御參考に申上げて當局の御意向を伺ひたいのであります、北米合衆國に於ては此の場合に於ける禁止命令を、裁判所で出すやうに特定して居ります、是は御存じの所だと思ひます、所謂「インジャンクション」を掛けると言つて居りますが、此の顯著な例は一般の公益に關しまして社會不安を來し、公益を著しく害する場合に裁判所がやるのでございまして、是で名高い實例は澤山ありますけれども、先代の「セオドル・ルーズヴェルト」の次に「タフト」があの大統領の地位に就くまでには、名裁判官として名を擧げて居つたからで、「シカゴ」の鐵道大「ストライキ」をあの所轄の裁判所に居りまして、公安を害すると云ふ理由で以て禁止されたと承つて居ります、只今は食糧がなくて困る、石炭がなくて困るのでありますが、此の炭礦夫や鐵道從業員が、若し「ストライキ」をしたとしたならば、日本は一部分に食糧があつても他の所に運べない、益益飢餓に迫つて來る、又汽車や食糧を運ぶ石炭を掘つても、鐵道員の罷業で輸送力に故障が起れば又飢餓に迫る、斯樣な場合には國家の治安に關すること甚だ大なるものでございまするが、之に對して「インジャンクション」――禁止命令を出す權利を裁判所に與へるか何かしなければ纒まりが付くまいと思ふ、此の勞働法案に依ると屡屡治安を害することをした勞働組合に對しては、裁判所は解散命令を出すと云ふのでありますが、解散命令よりも、其の以前に罷業を止めさせることを最後の鍵として握つて居なければ、治安が維持されないと思ひますが、當局の御所見は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=107
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108・高橋庸彌
○高橋政府委員 只今「アメリカ」の「インジャンクション」の例を説いて、近い將來の爭議調停法の改正に付ての御意見を承りました、洵に有益なる御質問として參考に致したいと思ひます、御述べのやうな非常に限られた必要の場合に於ては、將來改正する場合に其の調停法にも禁止命令と云ふものが適用出來るやうな條文を置きたいと思つて、折角考慮中であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=108
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109・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 次に同盟罷業に依る暴動の起つた時にはどうするかと云ふ處置に付て伺ひたい、是は内務省、司法省の問題になるかも知れませぬが、便宜上厚生當局の御意見を承つて置きます、罷業が生易しい時ならば色々の解決方法もあつて解決することが出來ませうが、さう云ふ時には感情問題が雙方に起つて、是が激化し、暴動の起ることがあり得る、殊に鑛山は人里離れた山奧でありますから、特定の、小さな町などは滅茶々々にすることもある、炭礦の多い米國の中西部では之に手古摺りまして、巡査の手では及ばないので、州兵を派遣することが屡屡ある、それでも仕樣がない時には正規兵を派遣することもあるやうであります、所が日本では今や巡査は甚だ微弱であるし、憲兵はなくなり軍隊もないのでありますから、左樣な暴動の場合鎭壓に付てどう云ふ手段を執るか承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=109
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110・高橋庸彌
○高橋政府委員 暴動に付ての御話でありますが、厚生當局と致しましては、使用者の側も勞働者の側も、正しき本法の精神を能く理解して、爭議は成べく起らないと云ふことを念願して居ります、特に勞働委員會と云ふ新しい制度を設けました所以のものも、斯かることのなからんことを切願して、本法としては類例のない民間からの有力者を擧げて組織し、而も規定も非常に事細かに規定して、此の委員會の發動に依つて悲しむべき勞働界の事件が起らないやうに致したいと念願して居るやうな譯であります、それをしも押切つて尚且つ悲しむべき状況が起りましたならば、現在の警察力を以て之を鎭めると云ふ風に、出來るだけ致して行きたいと云ふ風に存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=110
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111・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 左樣な極端の場合は、想像するも甚だ縁起の惡い話で避けたいと思ひますが、實際に於ては往々餘所の國で起ることもあるので、それで申上げたのでありますが、否餘所の國ばかりではなく、日本に於てもそれに類似のものが最近起つたのではないかと思ふ、現に商工大臣が貴族院かで説明された所に依つても、終戰後華人、鮮人の暴動が炭礦等に起つて、始末に負へぬので斯く斯くと云ふ風な話がありました、そこで日本人勞働者自體の暴動も起るかも知れませぬが、華人、鮮人の勞働者も混へれば隨分それがあるだらうと思ふ、それが暴動でなくとも、今は鎭撫力が殆ど薄弱無力になつて居つて仕樣がない事情にあるので、今炭礦勞働と云ふやうなものが始末に負へなくなつただらうと思ひます、そこで現に私は澤山の事例を持つて居りまするが、茲に一つ簡單な最も小規模なものを申上げますると、茨城縣の海岸地方の常磐炭の方面に或る町があつて、其處に一、二箇月前でありますが、芝居のやうなものがあつた、所が華人勞働者が其處で大きな聲を出したりなどして暴れ廻はるので、市から特派して居る巡査がそれを制した、さうすると巡査が一人か二人でせうから暴れる方は數人でそれを聽かないで、且又戰勝國と云ふ氣になつて亂暴するものですから、巡査を酷い目に遭はした、さうすると地方事務所の所長が其處に居りまして、餘り酷いから巡査の方へ幾らか疵ふやうな態度で仲裁をした、それでも中々聽かないので、駐屯兵の米國憲兵を頼んで來て貰つたけれども、憲兵も厄介だと思つて華人勞働者を押へ付けもしなかつたので、ごちやごちやになつて解散した、所が今度華人勞働者が日本の官廳の一部分である地方事務所へ右の華人が一兩人來て、所長に面會を強要してどかどか入つて來た、所長が先刻歸つて汗を拭きながら椅子に坐つて居るのを見付けて呼子を吹いた、さうすると華人二、三十人がどかどか入つて來て、部下の大勢居る前で所長を取圍んで袋叩きにしてしまつた、それで所長は痛かつたんだらうけれども涙を笑ひ聲に紛らした、斯樣な治安の維持せられないことが既に今日起つて居るので、是から華人、鮮人を入れて勞働組合を作らせる、さうして其の山は我々の仲間だけしか是から使はぬやうにして貰ひたいと云ふ要求をして、或る村里の炭礦を占領する、そんなことをしたら今の警察力ではとても仕樣がない、警察力と云ふものは當然ありますけれども、騒擾は今當局の仰しやるやうな生易しいものではない、駐屯軍の居る所ならば、大きな暴動は駐屯軍に急報して、其のお手傳ひを得て、空中から飛行機を飛ばして威かして貰ふやうなこともありますが、其の駐屯軍をば何十里もある所から來て貰つて、日本の治安に與かつて貰ふと云ふことは、日本人として好まない所であります、警察官の手でやり得る程度ならば問題はないのですが、地方の警察では人手が僅かしか居ないのですから、坑夫が「ストライキ」を起し、多數を恃んで暴動を起す、惡性の暴動に對しては到底無力でせう、それに外國から輸入した主義者もあり、混雜した主義者も居りますから、それに日本人も居るでありませうから混亂想ふべしである、是は眞劍な問題だと思ひます、さうしてやはり現在の内務省關係だけで鎭め得る確信がありませうか、あれば其の御見込を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=111
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112・高橋庸彌
○高橋政府委員 朝鮮人若しくは華人の入つて居ります所の事業場に於ける爭議は、御述べのやうに相當深刻性を持つて居るのであります、是が取締は中々困難を感ずる點であります、隨ひまして其の見地から致しましても、朝鮮人竝に華人勞務者を一刻も早く我が國内より出すと云ふことが必要と存じます、運輸省とも協議の上聯合軍と諒解を得まして、船腹の許す限り迅速に多量に之を本國に歸す手段を今講じて居る最中であります、軈て我が日本から朝鮮人、支那人の在住の者の居らなくなることを希望するものであります、其の間に於きまして色々の深刻なる爭議の起つた場合に、我が日本の實力としては只今の所警察力より是れ以上期待すべきものはないのであります、敗戰國の現状洵に已むを得ない所と存じます、併しながら非常に事態急にして、事態重大にして、警察力のみを以てしては治安が保てないと云ふ場合に於きましては、聯合軍に御願ひして是が鎭壓に當ると云ふ風なことも、想像し得ると云ふことを御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=112
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113・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 事情は分りました、聨合軍がずつと未來永劫居て呉れればそれも出來ませうが、其の假定は一寸難かしいと思ふ、華人、鮮人の坑夫に今大急ぎで本國へ歸つて貰ふことが手續中なことも、私も見て居りますが、それでは我方で勞力不足な場合に、彼等を輸入すると云ふ御積りは只今ないのでありますか、御方針は如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=113
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114・高橋庸彌
○高橋政府委員 段々日本人の勞働者も勤勞意欲が昂揚して參りますれば、我が日本人だけで、遠き將來はいざ知らず、差當りの所は間に合ふ、斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=114
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115・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 次に勞働組合の實情でございますが、政府は大層先走りをした勞働條件を此處に出して居るに拘らず、日本の勞働運動の實情は中々そこまで行かぬやうに思ひます、と云ふのは勞働者の數と組合の數とは甚だ隔つて居つて、勞働組合に加入して居る者の數は極めて貧弱なものです、それで極く新しい所は私存じませぬが、厚生省から資料をまだ戴いて拜見して居りませぬが、昭和十三年、十四年、十五年の三箇年を見ますと、勞働者總數に對して勞働組合に加入して居る者は、十三年に於ては五分五厘、十四年末に於ては四分一厘、更に十五年に於ては二分一厘となつて居ります、是は戰が段々深刻になつて來まして、勞務報國會其の他の活動があつたので、勞働組合運動などは下火になつたのにも依りませうが、勞働者自身の立場としては餘り組合などを欲しないやうに思ふが、此の勞働法が出來たならば政府で餘程御奬勵にならなければ組合が出來ない、もりもりと下から盛上つて來て出來て居ると云ふ形と違ひますが、此の觀察は當局に於てはどう御覽になりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=115
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116・高橋庸彌
○高橋政府委員 我が日本の過去の勞働組合結成の歴史を飜つて見ますと、勞働組合の盛んであります「イギリス」等に比較すれば、必ずしも組合の結成された數竝に之に參加した勞働者の數は多くないのでありまして、其の點は御述べの通りでございます、併しながら「ポツダム」共同宣言に依つて我が日本の行くべき途がはつきりして居るのであります、斯う云ふ情勢の下に於きましては、恐らく將來は相當活溌に組合も結成され、之に加入する勞働者の數も殖えて來るのではなからうかと考へて居ります、本年十二月二十日までに厚生省に到著致しました報告を綜合致しますと、それまでに結成されました組合が六十五ございます、さうして組合員の總數は約七萬數千と云ふ風になつて居ります、併しながら結成準備中のものが其の他に簇出して居ります、隨ひまして日ならずして此の組合の數、竝に之に加入する勞働者の數はどんどん殖えて行くだらうと思ひます、大體の状況を申上げて御答へに致した次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=116
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117・添田敬一郎
○添田委員長 川崎君、まだあなたの御質問の途中ですけれども、大藏大臣が御急ぎのやうですから、暫く御譲りを願ひたいと思ひます――正木君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=117
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118・正木清
○正木委員 私は此の機會に、大藏大臣に二點に付て御所見を承りたいと存ずるのであります、一つは「ポツダム」宣言に依つて、日本の國民層の中の厖大な層を成しまする勤勞階級の解放運動に對する一つの方法として、今議會に此の勞働組合法なるものが提出されたのであります、此の勞働組合法の骨子と致しまするものは、勤勞階級の團結權を法律に依つて認め、更に團體交渉權を認めまして、社會的に其の地位の向上を圖りますと共に、經濟の興隆にも寄與せしむると云ふことが狙ひであります、隨て此の勞働組合法の骨子を成すものは、即ち團體の團結權であり、同時に交渉權であります、同時に使用者側との間に於ける團體協約權であるのであります、然らば此の團體協約をなすことに依つて、人格的にも平等の立場に立つて産業の興隆に寄與すると云ふことは、取りも直さず現在の我が民族の幸福を願ふのでありまして、日本全國に於ける勤勞階級は、斯かる意圖の下に、産業に寄與する爲に全國的に今勞働組合の結成を急ぎ、又勞働組合の結成を終つて居るのであります、唯、厚生大臣との間に於きましても私は質疑を重ねたのでありますが、此の團體の協約をなす場合に當つて、最も問題になり得るものは勞働條件であり、其の勞働條件の過半を占めるものは即ち勞働賃金であるのであります、然るに現在の内閣は價格系列に對する技術的な處置を滿足に執つて居られませぬ、「インフレ」防止に對する根本の施策も明示致して居りませぬ、隨て勞働組合が其の使用家又は使用團體と團體契約を締結致します爲に一つの基準目標、方針と云ふものが實は樹立致さないのであります、今月の十二圓の勞働賃金は、二月後に於ては必ずしも妥當にあらずと云ふのが、現實の日本の物價の状態であります、隨て又一方資本家側から見た場合に於ても、生産を再開して日本民族が要求致します生活必需品、或は農機具、或は鑛山に於て使ひます「ロープ」其の他の機械等を生産致さうと致しましても、此の「インフレ」防止に關する政府の根本的な方針が明示されず、勤勞階級に取つては俸給賃金、其の他の基本的なことを明示されない限り、屡屡大藏大臣は生産の興隆を圖ることが當面最も急を要する課題であると云ふことを仰せになられても、それは現實の問題としては不可能に近いことになつて居るのであります、隨て之に對する大藏大臣としての所信を的確に御述べ下さることは、全國の勤勞階級が今後自己の團結を通じて、日本の生産興隆の面に於ける寄與すべき方針を明示されることになると共に、資本家團體と致しましても、自己の生産事業を通じて産業の振興に寄與する方向を明かにされることにならうと思ふのであります、どうか此の點十分御諒承下さいまして、明確に斯くすれば斯くなるのだ、先程厚生大臣は斯樣に申されました、賃金の根本問題に付ては方針が立たないのだ、其の時其の時に依つて致して行くより仕方がないのだと云ふことであつたのであります、どうか明確に御所信を述べられんことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=118
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119・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 只今の御問ひでありますが、是は中々難しい問題でございまして、私自身も實はさう云ふ方面は特に勉強して居りませぬ爲に、甚だ御答へしにくい問題だと存じますが、仰せられました如くに、日本の是から先の勞働組合とそれから企業家との間の協約、是の根本を成す大きなものは勞働條件であると云ふことは御尤もであり、其の條件の特に大きな部分が賃金の問題である、それの基準如何、殊に最近のやうな「インフレーション」の過程に於ては是は決められないではないか、之に對する基本方策はどうか、斯う云ふ御話のやうに了解致しましたが、現在「インフレーション」が進行しつつあると云ふことは否定し難い所であります、終戰前に於きましては大きな一つの需要者がありました、それがどんどん需要致しますから物の生産が出來たのであります、此の殆ど全部の生産を繼續して居りました需要者と云ふものが、一遍にぽつとなくなつてしまひました、其の關係で終戰後は凡ゆる生産工場に於きましては、どうして宜いか分らなくなつてしまひ、其の繼續がなくなつてしまひました、隨て一時全く麻痺状態に入つたと云ふことは御想像の通りだと思ひます、そこでそれを何處までも「インフレーション」にならしめない爲に公定價格を作り、各種の方策を立てて戰時經濟を運行して參つたのでありますが、御承知の通り終戰の少し前から是が守れなくなり、そこに大きな破綻を來して居つたことも御承知の通りだと思ひます、そして終戰後此の僅かな期間に於きまして、直ちに公定價格を外せと云ふ聲は澎湃として起つたのであります、是は單に工業的な生産物のみならず、凡ゆる青果物を通じ、又生活必需品を通じて、其の聲は澎湃として起つたのであります、之に對しては我々としては或る意味に於きまして、政府全體が執るべき措置に對して果して萬全であつたかどうかと云ふことは、私見としては多少の疑ひを持つて居ります、終戰後こそ或は大きな意味に於ての大統制が必要であつたと云ふ風に考へて居ります、併しそれはさうであつたにしても、事實上の問題としてそれを統制するには如何に統制するかと云ふ問題と、それから曾ての物價に關しまする法令の錯雜し複雜さは實にひどかつたのであります、是が整理を先づして如何なるものを先づ統制すべきか、如何なる點に於て統制すべきか、如何なるものは放任すべきか、如何なるものは本當の自治に任して宜いかと云ふやうな點の整理を、先づしなければならなかつたと思ふのでありますが、不幸にして戰前から政府は物價に對しましては、實は統一して取扱つた所はなかつたのであります、是は甚だ率直に申上げますが、事實であつたと思ひます、自然の生産物はそちらでやる、總てが皆違ふ所でやつて居る、而も物價問題は非常に面倒臭いものでありますから、皆が本氣になつて取組まうと思はなかつたやうな所があつたのであります、此の點は洵に申譯なかつたと感じます、そこで其の點に鑑みまして實は此の内閣になつてから、農林省及び商工省と御相談を致しまして、實は共同で大藏省が幹事として、そこに物價部を造りまして、茲で愈愈本格的に物價とぶつつかつて見ると云ふことになつた次第であります、現在採つて居ります方針と致しましては――今までの物價は單に公定價格を造つたに過ぎないのでありまして、物價を如何にすべきかと云ふ本當の研究が、實はまだ日本としては足りなかつたと云ふことを告白せざるを得ないのであります、所が最近に於きまして、殊に食糧の絶對的不足と云ふやうなことが大きな原因になりまして、「インフレーション」の進行は強くなつた、其の時偶偶斯う云ふ日本としては劃期的な法案が出來、そこに勞働條件を決めなければならぬと云ふ所へ參りました爲に、此の點が非常に拙い時期に來たのであります、結局問題は「インフレ」に對して如何なる手を打つかと云ふことでありますが、是も眞に難しい問題でありまして、是は單に通貨の面からのみ押へることは、單純には出來ないことは御承知の通りであります、そこで私は始終生産々々と申して居りますが、是は大きな意味の生産でありまして、其の中に本當の生産を純粹に増加すること、或は偏在して居る物資を本當に出して貰ふこと、供給を確保すること、それから輸入の問題、それから再生産的に原料を取つて更に造つて行くこと、總てでありますが、今までの公定價格其の儘では、幾ら造れと云つても事實上經理的に合はないから出來ないのであります、それぢや之をどう外して何處へ持つて行くかと云ふことになりまして、一つ一つの問題になりますと、實は答へられないのが現状だと思ひます、そこで私達の今の考へ方と致しましては、ここ暫くの間仕方がありませぬから、公定價格なり何なりを外しまして、さうして或る段階へ持つて行つて一つの段階を造る、それ以上は上げないと云ふ所へ我我は努力をする以外手はないのであります、今茲で戰前の物價とか、今までありました公定價格へ下げようと云ふ努力は、到底無駄だと思ひます、さうでなしに、或る程度まで上げて、そこで止める、それは結局今の主要食糧の價格を基準とした所で、何處かへ持つて行つてきつちりそれに系列を造る、所謂失調を起さないやうにすることが大切だと思ひます、さう云ふ意味に於きまして是から努力をする、唯今直ぐに茲で以て物價をどう云ふ風にするかと云ふことを仰せられましても、私には今御答へが出來ない、直ぐに是は斯うすると云ふことは御答へ出來ない、唯問題は多少の期間を得まして、生産と睨み合せ、茲で以て一つの均衡を取ると云ふことが必要なのであります、此の均衡に凡ゆる努力を拂つて、均衡させてそこで止めると云ふことに持つて行かないといかぬ、斯う云ふ風に考へて居る次第であります、今の御問に對して甚だ不滿足かも知れませぬが、現在としてはさう御答へする外はないと存じます、そこで、それぢや基準が取れないぢやないかと云ふ仰せであります、さう云ふ意味から申しますと、極く短期間に於ける現在の基準の取り方と致しましては、甚だ難かしい問題であると言はざるを得ないと存じます、御滿足を得られなかつたかも知れませぬけれども、御答へと致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=119
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120・正木清
○正木委員 率直に申上げますと、何だか分つたやうな分らないと云ふ結論に實はなるのでありますが、不幸にして私學問がない爲に、大臣の今の展開されたことが或は分らないのかも知れませぬが、一寸私共には分らないのです、一口に言ふと斯う云ふことになりませうか、今大臣が言はれたやうに、私は戰後に於てこそ、私のあの當時考へた打つべき手は、高度の國家の計畫性に立つて大きな統制の枠を打つべき筈だ、斯う云ふ風に實は私考へて居つた、所が戰爭終結以前日本の政府の執つた官僚統制の諸諸の失敗が、人民の猛烈な不平と反感に遭つて、其の攻撃に依つて一たまりもなく現實の姿になつた所に、私は日本民族の上に大きな不幸を齎したと思ふのです、是は學問でなくて、實際の姿がさうだと思ふのです、そこで今全國の勞働階級と云ふか勤勞階級が自己の社會的の向上の爲に、同時に其の生活を護る爲に團結をして、而して團體の交渉權を持つて、今地方的な爭議が同時に全國的に捲起つて居るのであります、此の爭議の姿を眺めて見ると、それが其の地方、其の土地の事情にも依りませうが、區々であります、例へば俸給の五倍値上を要求して居る所があるかと思へば、三倍値上を要求して居る所もある、二倍値上を要求して居る所もある、區々であります、而も「インフレ」の進行と云ふものは急速な「テンポ」を以て進んで來て居ります、是は正確で信用するに足ると言へば足る、足らないと言へば足らないのでありますが、今東京でお米が最高七十圓して居ると言ふ人もあります、五十五圓だと言ふ人もあります、お酒一升が二百三十圓だと言ふ人もあります、種々樣々であります、併しながら聯合軍で賣つて居りまするあの煙草が三十圓であると云ふことだけは間違ひありませぬ、日本の政府が出して居りまする光が大抵十圓から十四、五圓の間を上下して居ることも間違ひありませぬ、私は月半分は北海道に歸り、半分は東京で暮しまするが、東京に居つて此の東京の物價の姿を眺めて北海道に歸ると、一箇月前の札幌の價格と云ふものは、一箇月後に行つたのでは正當な價格ではなくなつて居るのです、北海道に於ても、札幌市を中心にして物價を申上げますと、お米が一俵今千二百圓致して居ります、今年の春までは三百五十圓から四百圓でありました、五升薯所謂馬鈴薯でありますが、北海道であれだけ穫れる馬鈴薯一俵、札幌市で今百五十圓でなければ買へませぬ、隨て折角勤勞階級解放の爲の、「ポツダム」宣言に依つて規定された勞働組合法案と云ふものが出て、團體協約權を作らうとして、理解ある資本家團と理解ある勞働組合とが契約をしようとしても、此の本質の問題が解決されない限り、契約のしようがないのです、そこに資本家團から言はせるならば、平和産業に如何に寄與しようと努力しても、前途に對する見透しがない限り寄與のしようがありませぬ、勞働組合も亦前途に對する見透しが立たない限り、之に寄與することは出來ないのであります、そこで今あなたは或る一定の線で價格を抑へるのだ、斯う云はれまするが、其の時期然らば如何、是が當然私は問題になつて來ると思ふのです、隨て今の内閣は世間で言はれて居るやうに中間内閣である、此の中間内閣が果して此の行く所を知らない速急な「テンポ」で進んで行く此の「インフレ」を、根本的に喰止めることが出來るかどうか、併し世間でどのやうなことを現内閣に言はうとも、私は現内閣の責任に於て根本的に手を打たなければいけないのではないか、私のあなた方に申上げることは、率直に言へば我々日本民族は、是れ以上悲慘な目に遭ひたくないと云ふことです、もう一歩進むならば、我々民族お互ひが、互ひに喰ひ合はなくてはならぬと云ふ程悲慘な状況に追込まれるであらうと云ふことの見透しは、誰人も想像が出來るのであります、其の悲慘な状況から救ふ爲には如何にするか、此の滔々と進行する「インフレ」を喰止めると云ふことと同時に、平和産業を急速に振興する、それが爲には全國の勤勞階級が眞に民族的な意識に燃え立つて、産業の中に自ら飛込んで、勤勞階級の力に依つて産業の興隆に寄與すると云ふことでなければならぬと思ふのであります、此の考へ方は少くとも全國の自覺した勤勞階級は必ず持つて居ると思ふ、決して社會の公器たる新聞從業員の諸君が、伊達や道樂で勞働組合を組織したのではない、交通機關に從事して居る從業員の諸君が、伊達や道樂で勞働組合を作つたのではない、各各現在の民族更生の爲に、勤勞階級のなすべき責任の範圍に於てなさなければならないと云ふ、一つの名譽と責任感を以て私は作つて居るものだと思ふのであります、所が不幸にして本議會開會以來、政府から的確な責任ある「インフレ」防止に對する根本方針を承ることが出來ないと云ふことは、何れの面から言つても、私は日本民族に取つて大きな不幸なことだと考へて居ります、然らば其の時期如何と云ふ問題になりますが、御答へして戴けなければ巳むを得ませぬが、只今大臣が御述べになつた程度では、私は全國民が納得出來ないのではないか、豫算總會に於ても、本會議に於ても、此の問題が實はあなたからも商工大臣からも、明確に明示されて居らないのです、居らない爲に全國民は納得出來ないのではないか、納得出來るやうな分り易いやうな方法で御答辯を願へれば結構だと思ひますが、どうか一つ御答辯を御願ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=120
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121・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 今の非常な御熱心な、又殊に勞働組合を結成する從業員の愛國の至情に燃えた御話は、非常に感銘深く承つた所であります、現在の實情に依つて新しい物價の水準を創定すると云ふこと、それは結局物の價格の相互間、又賃金其の他との調整を取つて之を維持することに努力すると云ふことが主眼であります、之に依つて生活を安定させ、勤勞意欲が出、生産意欲が出る、斯う云ふ風にしたいと云ふのが我々の念願であります、唯仰せの如くに現在物價の激騰が所々に奔騰して居ると云ふことも事實であります、是は全く失調の爲めであります、さうして之に對しまする一番の問題はやはり食糧問題であります、食糧の問題の在り方如何が、之を根本的に解決するのであります、御話として、又政策として纒めては述べられてなかつたかも知れませぬが、政府全體の考へて居ることは、此の一點に盡きると思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=121
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122・正木清
○正木委員 私の大藏大臣に對する質問は是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=122
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123・添田敬一郎
○添田委員長 大藏大臣が御出席の間に、何か御尋ねのある方は、此の際順序に拘らず御許ししても宜いと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=123
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124・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 私は正木君の御話に對する只今の御答辯では、「インフレ」防止に付ては、色々手は打つて居るけれども、確信がないと云ふ風にしか、私共には聞えないのでありますが、「インフレ」は「インフレ」として進むものと假定致しますると、勞働者としては、協約を致しますにしても、企業者として勞働者と協約を結びますにしても、そこに一つの基準線がなければならぬと思ふのであります、それに付きましては、物價の昂騰に拘らず、實質上の賃金即ち「ノミナル」の賃金は移動致しましても、一定の生活水準を維持する爲に要する實質上の賃金を變へない爲には色々な方法がございます、御承知の通り「スライヂング・スケール」などと云ふ方法もございます、何かさう云ふ方法を採用する必要があると存じます、此の前の「ヨーロッパ」大戰後の「ドイツ」に於きましても「「インフレ」は進行しても一九二二年頃までは、唯其の進行に任せてあれよあれよと言つて居つて、別段對策を講じなかつたやうでありますが、一九二三年頃に至り、或は金本位に直した場合の比率で計算する「ゴールド・レヒヌング」、或は係數をかけて計算の基礎を明かにする「インデックス・ツァールング」さう云ふやうな方法に依つて「インフレ」が進んで物價が移動するにも拘らず或る一定の動かない水準を確保する爲に色々な方法が講じられたのであります、日本に於て果して「インフレ」の進行が避け難いものであると致しますならば、何かそこに價の變らない賃金を決める方法を今にして採用する必要があると存じます、現に今問題になつて居ります農地調整法による土地價格又は小作料金納の問題でも、現在の價格で決められて、そして實際授受する時には千分の一の價値しかなかつたと云ふやうなことがありまして、經濟秩序の破壞であります、之を防止する爲に何かそこに基準になる方法が政府に於て考へられて居るでありませうか、如何でありませうか、今の調子で無準備の儘で進んで行きますと、公債の發行等に於ても應募者がなくなるのではないか、尤もさう云ふ風になれば、其の價の非常に低落した貨幣で買收してしまへば、公債が一應なくなつてしまふから宜しいやうでございますけれども、それでは國家の財政の運用が出來なくなつてしまひます、一九二三年末に至りては、「ドイツ」では公債の應募者がなくなつてしまひました、窮餘の結果實物表示の公債、「ザハ・アンライエ」と云ふものを發行しました、例へば石炭何「トン」と明示した「コーレン・アンライエ」石炭公債、或は水力電氣何「キロワット」と表示した、「ワッサー・クラフト・アンライエ」水力電氣公債が出て盛んに工業家に歡迎され、政府が之に依つて辛うじて歳入を得るに至つたのであります、右の如き實物賃金、實物公債又は實質賃金確保に付き、又「インフレ」對策に付き何か御考へはないのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=124
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125・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 私は甚だ學問がないのでさう云ふことは存じませぬが、隨分それは面白いやり方だと思ひます、之を賃金に及ぼすかどうかと云ふ問題になりますと、寧ろ厚生省の方の問題かとも思ひますが、さう云ふことに付きましても、一つ研究して見たいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=125
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126・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 尚ほ關聯致しまして、只今政府に於ては財産税竝に戰時利得税等大幅の課税が計畫されて居るさうであります、それだけの犠牲を御拂ひになりますならば、其の本になる貨幣制度の根本に斧鉞を加へられてはどうでありませうか、あれだけ取つたとしましても、貨幣其のものの價が浮動して安定しなかつたならば、又第二段の手を加へなくちやならぬ、そこで今直ぐに金本位に還ると云ふことは到底不可能だらうと思ひますが、全然日本の責任に於て米貨表示の公債を發行する譯に行かぬものでせうか、勿論現在は國際貿易はなく、隨て眞の弗圓「レート」はないのでありますけれども、進駐軍公表の通り一「ドル」が日本の十五圓と假定致しますれば、千五百圓で百「ドル」を表示する、公債を發行するのであります、若し此の「レート」が變つたならば、「ドル」を基準にして、其の時の建値で以て返す、斯う云ふ公債を發行してはどうでせうか、又現在までの公債も此米貨公債に乘換を許すとすれば、其の「レート」で少くも通貨は安定すると思ひます、何かさう云ふことに付て往年の「ドイツ」の「レンテン・マルク」と云つたやうな方式で「ドル」と「リンク」する、直接に「リンク」することは、或は出來なくても、日本に於て米貨を以て表示して通貨を安定させると云ふやうなことは、御考へになつて居らぬのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=126
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127・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 通貨の問題は非常に重要の問題で、無論色々の點を考へて居ります、殊に今仰せられました米國との關係でありますが、結局日本の經濟それ自身は是だけ狹められた日本の國土の中で、それだけで生きて行くと云ふことは難かしいのでございます、結局どうしても海外から原料を取つて輸出する、又それには「クレヂット」が必要になる、其の「クレヂット」の取り方如何に依りまして、餘程經濟と云ふものの立直りが早くなります、私共の今考へて居りますのは、さう云ふ状態に一刻も早く持つて行きたいと云ふことであります、それには今までの戰時的な財政では承知しないのであります、兎に角一應は綺麗にして、はつきりしたい、向ふとしても其の努力を買つて貰ふ、全然滅茶苦茶にして置いて金を貸せと言つても金を貸しませぬ、さう云つたやうなこと全體を能く見ました上で、向ふとしては其の意のある所に向つて行きませうし、日本全體としてもそれで持つて行かなければならぬと思ふのであります、さう云ふ意味の一つの過程と致しましても、自分で出來るものは自分で整理すると云ふことの努力だけは必要だと考へて居ります、其の努力如何に依りましてあちらもさう云ふやうな考へになつて來ると信じて居ります、今の御考へ何れも御尤でございますので、十分研究することに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=127
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128・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 私は「クレヂット」を設定しなければ、今の米貨公債が發行されないものとは考へないのであります、現に「ドル」との建値が本當の建値でなくても、一對十五と云ふ建値があるのでありますから、それを基準にすれば何か據る所がある、今の日本の通貨と云ふものは、全然金本位を離脱して紙幣と云ふものは何も「ベース」がないのであります、裏付がないのであります、何に比較してものをやつて居るのか分らないのでありますから、それで「クレヂット」を設定しなくても、今の案のやうなことは實行されさうに私は思ひますが、如何なものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=128
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129・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 十分それは研究することに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=129
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130・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 私は簡單な事柄に付て、一言大藏大臣から御答へ願ひたいと思ひます、是は質問の性質に鑑みまして、此の問答だけは速記録に載せないこととし、又新聞記者諸君に致しましても外に發表せぬやうに、委員長の御取計ひを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=130
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131・添田敬一郎
○添田委員長 それでは速記を中止致します
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=131
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132・添田敬一郎
○添田委員長 速記を始めます、新聞社の諸君も只今のはどうぞ祕密の問題として御取扱ひを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=132
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133・赤尾敏
○赤尾委員 簡單に大藏大臣に伺ひます、經濟の問題に付きまして色々御意見がありましたが、殊に正木さんは資本主義か社會主義かと云ふことも仰しやつた、今は社會主義でなければ救へぬと云つたやうな意見が勞働組合方面や社會黨方面に於ては盛んになつて居るし、又一般大衆もそれに共鳴して居ると云ふやうに、非常に信念を缺いて居る、又社會主義を主張する者も、昨日までは皇道主義を唱へ、國家主義が盛んになると國家主義を唱へて日の丸の旗を振つて居つた、斯う云ふ時局になれば又社會主義を唱へる、是では勞働者も非常に迷ふと思ひます、私は勞働者を救ふと云ふことは單に物の面だけでは救へぬと思ふ、それは下手をすると却て墮落さして、共に亡びる道に行くだけだ、今大藏大臣は食糧の問題だけだと仰しやつたが、私も固より物と云ふものは大切だと思ふ、併し勞働者の幸福と言はず、全國民を入れて、更に大きく言へば全人類の幸福がどうしたら得られるかと云ふことを考へますと、決して物だけではいかぬ、或は組織があると云ふだけでもいかぬ、それ以上のものが大事な問題である、「イエス」でも釋迦でも、あなたの祖父さんが盛んに仰しやつた孔子樣でも言つて居るやうに、慈悲とか、愛とか、仁義とかがなければ勞働組合を作つても魂が入つて來ない、どうも唯組織だけ作つて何の指導が出來ますか、唯形だけ作つて魂を入れない、是では階級鬪爭が烈しくなつて、敗戰亡國の結果、益益産業は萎靡し悲慘なることになると私は思ふ、斯う云ふ直感がする、之に對して今後の經濟復興の途は色々經濟上、技術上のやり方の上手下手もあるでせうが、根本はあなたの祖父さんが經濟人として最後に孔子の仁を御説きになつて居る、そこまで行く、經濟は皆私は愛だと思ふ、宗教的の信念まで徹しなければ、眞の經濟の安定と云ふものはあり得ない、經濟を通じての國民の幸福と云ふものは得られぬと思ふ、それに付て一つは今課題になつて居る重大な問題、是は宜い加減なことでは片が付かぬ、私は「ボリシェヴィズム」の革命に至るか、さもなければ 天子樣を擁しての日本的の革命を斷行するか、それ以外に途はないと思ふ、今の内閣の如き無信念の宜い加減なものは吹飛んでしまふ、であるから大藏大臣も眞に國家を思ひ、あなたの天才を發揮して、日本の爲に御奉公なさらうと思ふならば、私は道義性の重大さを深く御考へ下さつて、先づ根本の肚を決めなければいかぬ、それに付て從來の「ブルジョア」的の考へ方を捨てて、而も社會主義ではいかぬ、それは日本の國體觀に徹すること、國體的信念に徹することだ、先づそれに付てはお釋迦さんでも道を説くには裸になつて居る、功利主義を其の儘にして置いてはきりがない、段々慾が深くなる、極端な功利主義をなくして滅私奉公の道に徹するやうにならなければいかぬ、大藏大臣、愛の道を説け、今大勢の者は食ふに困つて居る、暴動の前夜、革命の前夜である、其の時に經濟の先達である大藏大臣は、私は理想としては「イエス」の道、釋迦の道を經濟人として御執りになり、一切無所有、裸になり、全國民に裸になつて、俺も親の財産を受け繼いで、とんとん拍子で大藏大臣になつたのであるが、自分も難局に處して深く考へる、唯徒らにやり方の上手下手だけでは收まらぬ、皆ながいんちきをやつて 宜い加減の胡麻化しではいかぬ、斯う言つてあなたも國を愛する至誠があるならば、財産を投げ出しなさい、資本家も目覺め、勞働者も唯階級的の利己主義で團結して鬪ひ取ると云ふことだけでは駄目だと言つて、勞働者を叱りつけなさい、勞働者に迎合するやうなことでは日本は亡びる、さうなれば「ポツダム」宣言を履行することも出來なければ、國際平和に寄與することも出來ぬ、私は此の點に付て言ひたいのですが、唯勞働者の解放と云ふことは組織や物の點だけではいかぬ、さう云ふことを御考慮願つて、大藏大臣、出來れば――僕は大藏大臣が財産があるかないか知らぬが、一寸はあるだらうと思ふ、一寸はあつらもそれは多寡の問題ではない、精神の問題だから、思ひ切つてそれを投げ出す、それで裸になり、資本家の手本を示す、あなたが資本家かどうか知らぬが、まあ資本家の孫位の所でせう、さうして日本の經濟人は斯う行くべきだ、資本家は全く奉仕的の考へで、仁愛の精神に徹して此の國難に御奉公する、勞働者も權利だけを主張する取込主義ではいかぬぞ、勞働者の方もたしなめて之を「リード」する、其の根本の指導精神は資本主義ではない、西洋流の社會主義ではない、況や「ボリシェヴィズム」ではない日本の國體の指導精神に基いて、平和的な指導原理を勞働階級に對して、はつきりとあなたは經濟的の指導者の立場から御示しを願ひたいと思ふ、それが日本を復興する根本になるのではないかと私は思つて居る、其の邊の所を宜い加減にして置いては、迚も駄目だと思ふ、此の儘で行けば國體も怪しくなり、下手すれば「ボリシェヴィズム」の革命になるかも知れぬ、自由主義者は社會主義に諛り、社會主義は共産黨の温床になる、滔々たる外國の壓力と又國内に於ける人心の頽廢と相俟つて、私は「ボリシェヴィズム」の革命にならないと保障出來ないと思ふ、それ程時局は私は深刻だと思ふ、だから此の重大な立場においでになり、又さう云ふ政治的の深さも御理解願へるあなたは、良き素質を持つて居ると思ふ、大藏大臣の祖父さんの澁澤榮一氏は、仁愛の道を最後まで説かれた、今仁愛の精神に徹して政治が行はれて居るかと云ふと、實にいんちき極まる、無責任なんだ、宜い加滅なんだ、又質問する者も答辯する者も議會人皆宜い加減なんだ、何とか言へた義理はありはしない、何を言つて居るのだ、ふざけて居る、過去のことを洗つて見れば、東條内閣の時は東條に便乘してお世辭を言ひ、ちつとばかりの役割を貰はうと思つて居つた、それが敗戰亡國の今日熱を上げ、社會主義に媚を賣つて居る、實に重大な時であるから、大藏大臣出來るならば裸になつて、全國の資本家に範を示して戴きたい、是は釋迦の立場、「イエス・キリスト」の立場、或は眞に日本の國體の理想を自分が行ずる其の立場に立つて、經濟人に説き導きをして戴きたい、斯う念願するのですがどうですか、精神的な根本の問題を輕視して、唯組織なんかばかり論議して居るのは駄目だと思ふのですが、御感想を承りたい、出來れば大膽率直に裸になつてやる、さうした御言葉を願ひたいのです、さもなければ辭めて貰つた方が宜い、斷じて出來ないならば新日本は救へない、裸になつてやつて貰つてもどうだか分らない位重大な時期です 國民はそれを待望して居る、唯一人裸になると云ふことは死ねと云ふことぢやない、切腹せよと云ふのではない、裸になつて一切を捧げ、自身が眞心に徹して國家に御奉公すると云ふ其の趣旨に立つて戴きたい、それが國家を救ひ、それが光となる、私はあなたを期待するが故に、あなたの肉體の中に良き血が流れて居ることを深く信ずるが故に、希望を以て御願ひするのですが、どうか一つさう云ふやうにおやりを願ひたいのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=133
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134・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 只今の御話有難く承りました、私は或る意味に於て前から相當の決心は持つて居ります、唯實現の方法其の他總ての點に於て、私は卑怯なことはしない積りであります、それだけ申上げて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=134
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135・赤尾敏
○赤尾委員 もう一つ御尋ねしますが、此の間新聞に發表になりましたが、兒玉譽士夫と云ふ者が支那で三十三億の金を儲けたさうです、さうして三十億の財産があるさうですが、大藏省の許可を得て運んだ金が一億圓とか發表されて居る、どうして一體そんな若僧に何億萬と云ふ金が出來たのか、僕等は小遣にも困つて居るのに、呆れ果ててしまつた、我々が迷惑して居る、國家主義を看板にして居る者が何億の富を作つた、何もない我々でも少しはいんちきをやつて儲けて居るのではないかと思はれますから、我々自ら自分達の立場を辯護する上からも、又大きく言へば國民道徳の立場から考へて、是は小さなことではあるけれども、放つて置く譯に行かぬ、こんな馬鹿なことをやつて居るから戰爭に負けてしまふ、海軍がやらしたから海軍の責任であるかも知れないが、大藏省の許可を得て一億以上持つて來た、是は本人が發表したものだ、「マッカーサー」から召喚状が來てから發表して居るのだから、嘘を言へば却て不利になると思ふのです、それが本當かどうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=135
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136・澁澤敬三
○澁澤國務大臣 私は其の新聞を讀みませぬでしたが、最近に於てさう云ふことがあつたことは全然ありませぬ、餘程古いことであらうと思ひます、ずつと今全部爲替管理をやつて居りますから、さう云ふことはないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=136
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137・赤尾敏
○赤尾委員 それは重大なことです、どう云ふ譯で兒玉君だけに一億圓金を運ばしたか、どう云ふ經緯で許したか、御調べを願ひたい、私は嘘か本當か分りませぬが、嘘のやうだし本當のやうだし、どうもはつきりしない、國民の多くの話題になつて居りまして、國民思想を惡化する一つの原因にもなつて居りますから、一つ御調査を御願ひしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=137
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138・添田敬一郎
○添田委員長 川崎君、先刻に引續いて御質問を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=138
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139・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 簡單に厚生大臣に二、三の點を御伺ひしたいと思ふのであります、今囘の臨時議會は其の初めに當りまして、前月の二十七日に開院式の勅語を賜はりました、其の勅語の中に「朕は國務大臣に命して衆議院議員選擧法の改正其の他緊急なる議案を帝國議會に提出せしむ」斯う云ふ御言葉がございまして、選擧法の改正の次には、其の他緊急なる議案を帝國議會に提出するやうに御命じになつたと斯うあるのであります、そこで其の翌日總理大臣が施政方針の演説をせられました、緊急なる議案と云ふのはどんなことかを總理大臣の御言葉に依つて判斷して見ますと、斯樣なことになる、抜書を讀みます、「是等軍復員者、海外引揚者竝に産業離職者、其の他終戰に伴ふ失業者は數百萬に及ぶと豫想せられ、是が職業を保障することは極めて緊急且つ切要な國務に屬する」勅語の御言葉にあります緊急なる議案と云ふのは、之に關する議案と解するのが至當と思ひます、尚ほ續いて「此の失業問題に付ては、政府に於て復興に要する土木建築及び農林、水産の開發等諸事業の急速なる實施」云々、此の失業救濟の方法も大體此處で御示しになつたのでございます、然るに私共の手許へ提出せられたのは、是から先會期が延長になつてどんな議案を提出されるか未來のことは分りませぬが、此の儘で濟むならば所謂三大法案を提出され、あと附屬の小つぽけな豆粒のやうなものが幾つか出て居るだけです、三大法案とは選擧法以外に御存じの農地調整法と此の勞働組合法、それが果して最も寸刻を爭ふ優先的な緊急議案であらうかどうかと云ふことが、私共の疑問なのでございます、そして其の緊急な問題としては、復員軍人及び海外の引揚人とありますが、其の復員軍人と兩方合せると、其の數が七百三十萬になるさうです、之をどうするか、急いで貰はねばならぬ、是は昨日御存じの通りに衆議院の滿場一致の院議を以て決めた所でございます、そこで軍人だけの三百何十萬人のことに付ても中中捗らない、早く歸すやうにと云ふ熱望が方々に起きて居るのでありまするが、其の軍人に付ては「マッカーサー」司令部からの命令がありまして、軍人の恩給を撤廢せよと云ふ話で、是は二月一日までにそれを行はなくちやならぬことになつて居る、是は日限が限つて居るのですから、緊急中の最も緊急事と思ふのであります、先頃文部省に於ては「マッカーサー」司令部の命令に依つて何かを調査して差出せと云ふのに、えらい暇が取れた、「スピード」を好む司令部では待ち兼ねて、其の當時局長を免職したと云ふやうな事件もあるのでございます、左樣に二月一日以前に恩給停止に關する善後策を講ぜなくちやならず、其の恩給の約九割五分は軍人で、年額實に二十五億を豫想せられると云ふのが、當時情報局總裁の談話として發表せられて居りました、斯樣なことは本會議其の他に於て政府當局の答辯があり、殊に最後の日の陸軍大臣の答辯にも、其のことはちやんと手を打つて居りますから御心配ありませぬと云ふやうな御言葉もありました、然るに斯かる緊急なことに付ては、會期があともう三日しかないのにまだ出ないので、御勅語の緊急なる議案を國務大臣に命じて帝國議會に提出せしむと云ふことと、一寸副はぬやうになつて、甚だ畏多いことぢやないかと思ひますが、此のことに付ての所感を承りたい、軍人恩給のことに付ては左樣でございまするが、あとは戰爭及戰災で職業を失ひ、物價の暴騰其の他に於て國民の不安は甚だしいものですが、是は先程二、三の方から最も熱心に御述べになつたので略します、其の方の手續もまだ一向出來て居ないし、此の議會に提出されない、厚生大臣が貴族院に於て十二月四日に御説明になつた所に依ると、離職者は實に一千五百萬人ある、是は復員軍人是れ是れ、何が是れ是れ、他に官吏の縮減等に依る知職層の失業が凡そ百四十萬もある、斯う云ふ事態になつて居るのであります、是もどうするか、失業者だつて一箇月も二箇月も食事せずには居れないのでありますから、軍人の恩給の處分と共に、知識階級の失業者の恩給等にも多少何等かの影響があり、隨て何か方法を執らなくちやならなくなつて來るのであります、厚生省の立場としてそれをどうなさるか、そこで厚生省としては勞働組合法を出したのぢやないかと云ふけれども、勞働組合は大層進歩したもので、寧ろ行過ぎた位、歐米先進國の血で以て鬪つて取つた勞働條件の一番宜い所を皆之に盛つてある、大層結構なものと思つて歡迎します、選擧法も同樣でございまするし、農地法も左樣でございまするが、併し地方へ行つて見、又都會でもさうでございますが、婦人に聽けば、我々選擧權なんて云ふものよりも、それは後々で宜いけれども、今差當り一升の米、一合の食用油を貰つた方が宜いのだ、斯う云ふことを言つて居ります、勞働者にしました所が、勞働組合法もそれは結構で、後々は宜いだらうけれども、今の物價の暴騰を抑へて呉れなければ困る、成程筋肉勞働者は一日三十圓、四十圓と云ふので多くの金も取つて居りまするけれども、是が闇の物ばかり買つて居る、先刻のどなたかの御説のやうに、酒を飮みたいと云ふと一升二百圓もすると云ふやうな話で、林檎一つ買ふにも四圓、五圓と云ふやうになるし、鯖一尾が十圓にもなる、斯う云ふことで、幾ら賃金が高くても社會不安は止まぬのであります、斯う云ふことこそ總理大臣の御示しになつた所の緊急の國務に屬する措置ぢやないかと思ふのです、勞働法案を提出して下さつたのは惡いことぢやなく、非常に感謝致します、其の内容も甚だ宜いことに思つて敬意を表しまするが、それだけであつて、斯樣な緊急對策が一向に御提出もされず發表もせられないのはどう云ふ譯でありますか、其の事情を伺ひたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=139
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140・芦田均
○芦田國務大臣 川崎君の御尋ねの點は、失業對策等に付て何等法律案も豫算案も出て居ない、さう云ふ點はどうなつて居るか、斯う云ふ御質問であると了解致しますが、恩給廢止に伴ふ善後措置に付ては、豫算を多額に請求する必要のない方法に依つて善後策を立てて居ります、唯恩給廢止に伴ふ方法を執るのに、勅令とか命令を必要とするやうなことが或は起るかも知れませぬが、それも場合に依つては何等の立法手段に依らずして、其の儘社會保險制度に移すことが出來るかも知れませぬ、此の點はまだ十分研究致して居りませぬが、恐らく勅令の程度で濟むのではないかと思ひます、時間的に申しますと斯う云ふことになります、御承知の通り恩姶の支拂は三筒月毎に致して居りますが、本年末日までの恩給支拂は、來年の一月十日頃から始まるのであります、さうして若し恩給が存續するならば、來年の一月以後三月までの恩給は來年の四月以後に拂ふ、斯う云ふことであります、隨て明年一月以後に恩給を失ふ人は、三月頃までに之に代るべき何等かの方法を立てて、來年度匆々其の第一期分を支拂ふことが出來るならば、恩給が存續したと同じ時間に一定額を受取ることが出來るのであります、併し恩給停止の指令を受けましてまだ日も淺いことでありますから、社會保險審議會と云ふものを作つて、專門家の會合に於て既に前後二囘會議を開きまして、具體的の案が遠からず出來て來ると思ひます、其の案が適當なものであるならば、政府としては社會保險制度を以て恩給制度に代る方法を執る、之に必要な豫算は、來年總選擧でも行はれれば、其の總選擧以後、若し普通に帝國議會が蓋を開けることが出來るならば、明年一月以後の會期に於て必要な豫算を提出して、恐らくは三月末日までには議會の協贊を經ることが出來ますから、來年四月匆々必要な資金を出すことが出來る、斯う云ふ案で、今囘の臨時議會には其の豫算を請求する手續を執らなかつたのであります、尚ほ失業問題に付きましては、本會議に於ても極く大體の全貌を申上げたのでありますが、河川及び港灣、道路等の改修新設に伴ふ計畫は、既に内務省から立案の上大藏省の方に廻つて居ります、併し其の厖大な豫算を此の短期の議會に請求するには不適當な點もありますので、今度の議會には出さなかつた譯であります、尚ほ農林省の計畫して居ります農地開懇及び干拓計畫に於ても、相當の經費を必要と致します、數億或は十數億に亙る經費を必要とするのでありますが、是も歳入其の他と睨み合せて豫算を作る必要がありますので、此の議會には提出を致さなかつたのであります、先程御話の通り、現在失業して居ると覺しき數は、全國を通じて約四百萬にも上らうとするのでありますが、勤勞署の手を通じて職を求むる者、若しくは横須賀に行きましても、横濱でも、東京でも、到る處人を求むる貼札が出て居ります、けれども職を求めて來る人がないのであります、職を求めて來る人がなくて、職にあぶれたと云ふ現實の人を掴まへない限り、實は失業手當をやらうにも、保險を掛けやうにも方法がないのであります、是は甚だ矛盾した情勢でありますけれども、十二月一日に施行致しました戸口調査に依つて、失業状態のいま少し的確なものが程なく出て參ります、それが出て來れば、凡そどう云ふ方面にどれだけの失業者があると云ふことが分りますけれども、其の調査の完了するまでは、的確に何處にどれだけの失業者が居るかと云ふことの調査がまだ出來上らないのでありまして、必要な手を打つ基礎材料がない、斯う云ふ譯であります、併しながら現在東京市にも横濱市にも、「カード」階級以下の生活に困つて居る人が相當に居ることは、是は現實の事實であります、是は打つちやつて置く譯に行きませぬ、それが爲に最近大藏省とも話合ひを致しまして、恐らくここ數日、少くとも一週間以内に、是等の生活貧窮者に對して具體的に是だけのことをすると云ふ案を發表することに進行中であります、さう云ふやうに、一面に於ては職を興へ、一面に於ては職にあぶれて貧窮な境涯にある者には、政府として豫算の許す限り相當の援護の手を伸べる、斯う云ふやうな考へ方で居りますが、國庫殆ど破滅に瀕して居る現状に於て、十分な金額を支出することの出來ないことは、甚だ遺憾でありますけれども、併し政府として出來るだけの方策は執つて行きたい、斯樣に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=140
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141・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 恩給問題に關する厚生大臣の御説明は之を諒と致しました、併し又大臣の御示しになりましたやうに、勤勞動員署に職を求めに行く者が少いのは事實で、是等の人々が何になるかと云ふと、所謂大道の闇商人に原料を賣付けたり、運んだり、其の手傳ひをする、其の方が途方もない儲かり方をするものでありますから、其の方に趨つて居るのも一つの原因であると思ひます、併し是等只今馬鹿儲けをして居るものの先々永く續く譯でもなし、前途暗澹たるものであります、斯樣な鯖一尾十圓、或は歯磨一袋何圓もすると云ふやうな馬鹿相場を付けて居たら、賣る者も買ふ者もやがて共倒れになるので、是は甚だ不健全な現象だと思ひますけれども、之を根本的に直す途は、所謂平和産業を復興するにある、品物を充實させることにある、軍需産業を悉く破壞せられたのみで其の轉換が十分に出來ず、平和産業が起らないので、そこで正當な勞働者の勞力を發揮する場所がないことと思ひます、炭礦のやうに倍額の賃金で人を募つて居る所がありますけれども、其處には餘り行かない、それだから意を茲に致して、平和産業を急速に復興することを圖るのが、此の不健全な状態を破る一番捷徑であり確實な途であると思ひます、品物さへあれば物價が馬鹿値を呼ぶものではないのですから闇も止みます、勞働者に至るまで闇買ひまで加へて、一箇月の生活費が何百圓なければ暮せない今日の状態に於ては、幾ら勞働組合を作つて、高い賃金を取るやうに團結させて團體交渉權を與へてやつて見た所が、喉の渇いた者に鹽水を飮ませると同じで、一向に役に立たぬと思ひますが、平和産業復興の途に付て、是は厚生省の專門の仕事でもありますまいが、どう云ふやうに手を打つていらつしやるのでございませうか、之を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=141
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142・芦田均
○芦田國務大臣 川崎君の御話の通り、問題は政府全體に係ることでありまして、厚生省の所管と云ふ譯ではありませぬが、川崎君の御承知の通り、今日平和産業を開始しようとするのに一番困難なことは、前途の見透しが付かないと云ふことであります、仕事を始める人は前途の見透しが付かなければ生産意欲が起らない、前途の見透しを付けて仕事を始めようとしても、資材、燃料總てが窮迫して居る、御承知の通り石炭の問題を御考へになりましても、今普通の工場に石炭は一塊りも廻りませぬ、鐵道運輸の爲にする石炭でさへも、半減しなければならぬと云ふ状況でありますから、普通の平和産業に石炭を配給することは非常に困難である、然らば原料があるか、棉があるか、「パルプ」があるか、鹽があるか、各種の原料を尋ねても、原料の窮乏は殆ど其の極に達して居るのでございます、それでありますから原料の問題を先づ解決しなければ工場が動かない、工員が集るかと云ふと、中々工員の募集も困難であります、仕事を始める爲に金融の途が開かれて居るか、是も今日の金融界の現状から言へば、平和産業の先の見透しの付かない今日、運轉資金に相當の金を融通することさへも困難である、さう云つたやうな幾多の問題が錯綜して居るのでありまして、其の一つの條件を解決することさへも容易ならぬ事情になつて居る、必ずしも政府の簡單な施策のみで平和産業が直ぐに復興すると云ふ見透しは付かないのであります、一つ一つ徐々に困難を克服しつつ之を常軌の状態に復して行く、何しろ非常に大きな病氣に罹つたのでありますから、其の豫後は中々簡單には囘復しない、是が腹痛かなんかならば注射一本で癒りませう、併し十數年、多年に亙る長い出血を以て今日のやうな状態になつた日本でありますから、其の豫後を餘程愼重にやらなければ、元の身體に返らないと云ふことが常識としては考へ得ることであります、併し折角御話の趣意に依つて産業囘復の爲に、出來るだけの努力をしなければならぬと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=142
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143・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 時間が遲くなりましたから、私はあと一つだけ伺つて質問を打切りたいと思ひます、と云ふのは少し露骨な御尋ねになりますが、此の立派な勞働組合法案を御作りになつたに付きましては、外の農地法及び選擧法などのやうに、政府ばかりの考へでやつたのでなしに、勞働法制審議會に掛けて其の答申を俟つて更に練つて御決めになつたので、其の手續も洵に立派で之に敬意を表します、併しここで伺ひたいのは、今の産業も興らないのに先づ勞働者の方を立派な位置に付けてやると云ふことは、惡いことではないが御用意が宜過ぎることでありまして、却つてそれが運用のしように依つては邪魔にはなりはしないかと思ふのでありますが、それは偖措き、此の勞働組合法案を立法發案する趣意は、申しにくいことですが、自發的であるか他動的であるかと云ふことを伺ひたいのであります、「ポツダム」宣言に依りますれば、河野君が本會議で讀上げましたやうに「日本國政府は、日本國國民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障碍を除去すべし」斯うありますから、是は大臣御管轄の勞働問題に適用すれば、斯樣な勞働組合法を是だけでも作ることになるのは當然と思ひます、所が立法の動機が單にそれだけであるか、それとも恩給法のやうに、若しくは財産税、戰時利得税を云々せよと云ふ事柄のやうに、何處からか御指令があつて、さうして發案したのかどうであるか、御指令があれば其の指令なるものは議會の協贊權も押潰す、實際は別として……理窟になりますが、松本國務大臣は貴族院の或る會議に於て、「マッカーサー」司令部の權力は天皇及び日本政府の權力を拘束し其の權下に置くけれども、司法權は抑へられないやうに思ふと、斯う言つて居られますが、然らば立法權はどうでありませうかと云ふことが私共疑問であります、そこで若し何處か他所の力で以て命ぜられて居るのならば、詳しい第何章第何節と云ふことはそれは厚生省等で以て仕上をしたので、是は政府の御發案に違ひないけれども、何か三箇所か五箇所か骨子を示されて、それに依ると云ふことならば、それは立法府で以て修正なり否決なり手を著けることが出來ない、斯う云ふ問題になつて來ますので、左樣なことを差支へない限り私共立法府に立つ者の參考の爲に御話を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=143
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144・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御質問に御答へ致します、既に「ポツダム」宣言に依つて九月二日以後、日本の將來はあの十三項目に副うて行動する必要を生じたのでありますから、當分の間之に副はない方向に行くことが出來ないことになつて居るのは川崎君の御指摘の通りであります、隨て近き將來、出來るだけ早く所謂民主化の爲に、近代精神に則つて勞資の問題を調節する必要を生じたことは、誰も承知して居つたのであります、私が就任致しました當時に於ても、左樣な考へを持つて居つたのでありますが、殊に内閣成立の二日後に「マッカーサー」元帥と幣原總理との會見の際、必要なる改革を行ふべき五項目を先方から申出したのであります、其の五項目の一つとして、勞働階級と産業平和の維持の爲に勞働組合法を制定することが望ましい、と云ふ文句がありまして、其のことは當時の新聞で御覽になつた通りであります、併しながら此の勞働法の立案に當りまして、一々の箇條を先方から指圖したと云ふやうな事實はありませぬ、當時經濟の部門を擔任して居ります一人の「アメリカ」軍人が、勞働立法を提案する前に一應通告を受けたいと云ふことを申込んで居ります、其のことは必ずしも此の法案ばかりではありませぬ、現に衆議院に提出されて居る總ての法律案は、皆之を詳細に聯合國司令部に通報して居るのであります、通報することが義務なりとされて居る、さう云ふ意味に於て勞働法案も、衆議院議員選擧法改正案も同じ立場にあります、併しながらそれよりも、選擧法よりも一層重大な關心を持つて、勞働法案の成行に注意を與へて居るかに想像されます、さう云ふ意味に於きまして、非公式に厚生省の者と先方の者と數囘に亙り會談を重ねたことがあります、さう云ふ譯でありますから、實質的には「マッカーサー」司令部が、日本政府及び立法府の行動を拘束することになりませう、けれども此の會議に於て勞働法案に修正を加へることが出來ないかと言へば、それは議會獨自の見解に於て、修正案等を御出しになることは毛頭差支へない、唯他日「マッカーサー」司令部に於て、此の法律の一部分に適當ならずと認めるものがあれば、彼等の獨自の見解に於て修正を命じて來ることはありませう、併し議會が法律案を審議する、之に對して修正案を出し得ないとか、修正を加へ得ないと云ふことは絶對にあり得ないと私は信じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=144
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145・川崎巳之太郎
○川崎(巳)委員 事情了承致しました、そこで内容實質に關する件でございますが、是は政府委員からあなたの御不在中御答辯を得まして、又私の大きな「ポイント」に付ての説明も希望も申上げて置きましたから、それは政府委員から篤と御聽き取りを願ふことに致し、此處では繰返さぬことにして私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=145
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146・添田敬一郎
○添田委員長 それでは本日は是にて散會して、明日は午前十時より正確に御出席を願ひます
午後五時三十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00219451212&spkNum=146
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