1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
付託議案
勞働組合法案(政府提出)(第一八號)
―――――――――――――――――――――
昭和二十年十二月十三日(木曜日)午前十時十八分開議
出席委員左の如し
委員長 添田敬一郎君
理事 小浦總平君 理事 米田吉盛君
理事 永山忠則君
安藤覺君 泉國三郎君
逢澤寛君 黒田巖君
小林鐵太郎君 下出義雄君
角猪之助君 中川寛治君
長井源君 野田武夫君
野本吉兵衞君 廣野規矩太郎君
松村光三君 薩摩雄次君
吉川大介君 稻葉圭亮君
小山亮君 菅野和太郎君
赤尾敏君 船田中君
信正義雄君 星島二郎君
本多市郎君 山口喜久一郎君
正木清君 山崎常吉君
同日委員原口純允君辭任に付其の補闕として赤尾敏君を議長に於て選定せり
出席國務大臣左の如し
内閣總理大臣兼第一復員大臣第二復員大臣 男爵 幣原喜重郎君
厚生大臣 芦田均君
運輸大臣 田中武雄君
商工大臣 小笠原三九郎君
出席政府委員左の如し
法制局長官 楢橋渡君
戰災復興院次長 松村光磨君
厚生政務次官 矢野庄太郎君
厚生省勞政局長 高橋庸彌君
商工政務次官 木暮武太夫君
商工省總務局長 菅波稱事君
商工省工務局長 奧田新三君
商工省燃料局長 岡松成太郎君
委員長の許可を得て出席したる者左の如し
運輸書記官 山崎小五郎君
━━━━━━━━━━━━━
本日の會議に上りたる議案左の如し
勞働組合法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=0
-
001・添田敬一郎
○添田委員長 開會を致します――信正君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=1
-
002・信正義雄
○信正委員 簡單に御伺ひ致します、本法案は其の冒頭に於きまして目的とする所を記載して居るのでありますが、其の中に「本法は團結權の保障及團體交渉權の保護助成に依り勞働者の地位の向上を圖り經濟の興隆に寄與することを以て目的とす」斯う云ふ風になつて居ります、此の中の「經濟の興隆に寄與することを以て目的とす」と云ふ此の點に付てでございます、是は組合の直接の目的を書いて居るのでございませうか、或は勞働者の地位を向上する結果として經濟の興隆を齎すと云ふ意味のことを書いて居るのか、此の點に付て御伺ひ致したいのであります、組合が經濟の興隆に寄與することを以て直接の本務とすると云ふことになりますれば、組合の行ふべき事業と云ふのは相當廣範圍に亙ることに相成りまするし、それでなくて經濟の興隆と云ふことを勞働者の地位の向上の結果として當然に齎すと云ふことのみに止まりますならば、組合の事業範圍に付ても、自ら制限が出來て來る、斯樣に考へます、のみならず其の第一條の第二項に於きまして「刑法第三十五條の規定は勞働組合の團體交渉其の他の行爲にして前項に掲ぐる目的を達成する爲爲したる正當なるものに付適用あるものとす」斯う云ふ風になつて居りますから、此の所謂地位の向上と云ふものだけが目的か、或は經濟の興隆と云ふことが直接の目的となるのかと云ふことに觸れまして、此の刑法三十五條の適用に付ても、やはり自ら影響を來す譯であります、地位向上以外に經濟の興隆と云ふものの範圍が廣くなりますが、それ等のことに付ての行ひであるならば、刑法三十五條に依つて罪とならない、斯う云ふことに解釋して行くことになりまするから、此の第一條に見る所の組合目的と云ふものが、地位向上と云ふこと、及びそれと竝んで經濟の興隆と云ふことの兩者が何れも直接の本務とするか否かと云ふことに依りまして、將來此の法を運營する上に於て非常な開きを生ぜしめると考へまするので、此の點に付て御伺ひ致したいのでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=2
-
003・芦田均
○芦田國務大臣 信正君の御質問は重要な點に觸れての御疑念と思ひます、第一條及び第二條を書き分けました理由は、第二條は主として勞働組合の本質を規定して居るのであります、第一條は勞働組合法其のものの目的を書いて居るのでありまして、隨て第一條に於て本法は經濟の興隆に寄與することを以て目的とすると言へば、必ずしも主として勞働組合のみを意味するものでなくて、使用者側、又本法を制定せんとしたる政府の心持、さう云ふものを全部含んで經濟の興隆に寄與すると云ふ字を使つたのであります、勞働組合が第二條の目的の爲に邁進する際の心構へ、之に對處する使用者側の心構へ、又此の兩者の間に立つて産業の平和を企圖せんとする政府の心構へ、是等を一括して第一條に掲げたのでありまして、其の點が第二條と趣きを異にして居るのであります、隨て第一條に於ける經濟の興隆と云ふ言葉は、單に勞働者の地位の向上の結果として經濟の興隆に寄與すると云ふ意味ではありませぬ、もつと廣い意味で、本法制定の趣旨がそこにある、斯ふ云ふ意味に解釋すべきものと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=3
-
004・信正義雄
○信正委員 能く分りました、そこで更に御伺ひ致しまするが、今の御言葉の通りに、第一條の第一項はさう云ふ御精神であると云ふことは能く分ります、所が第一條第二項に「刑法第三十五條の規定は勞働組合の團體交渉其の他の行爲にして前項に掲ぐる目的を達成する爲爲したる」云々、斯う云ふ風になつて居るのであります、此の第二項に所謂「前項に掲ぐる目的」と云ふことの「前項に掲ぐる」と云ふことは地位の向上と云ふ點だけを指して居るのでございませうか、或は經濟の興隆に寄與すると云ふことを指して居るのでございませうか、是は將來斯う云ふ問題が起りました時には、必ず疑問となつて來ると考へられまするので、此の點に付て重ねて御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=4
-
005・芦田均
○芦田國務大臣 先程御答へをしました如き趣意に於て第一條を設けたのでありますから「前項に掲ぐる目的」と云ふ文字は單に勞働者の地位の向上と云ふ言葉に掛るのみならず、更に經濟の興隆と云ふことをも圖らしむる意味でありまして、其の點に付て一々具體的の場合を細かく洩れなく此處に擧げることは困難と思ひますが、大體普通一般の社會通念に依つて、斯樣に廣く總てのものを含むと云ふことに致したのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=5
-
006・信正義雄
○信正委員 次に此の組合の事業でございまするが、此の組合の事業に付きまして何かの限界があるのでありますか、例へて言へば組合の事業と致しまして學校の經營をする、或は社會事業を行ふ、文化事業を行ふと云ふ風なことは、何れも組合或は勞働者の地位向上と云ふことに關聯して當然すべきことでありますが、さう云ふ事業に付きまして、何等かの制限がありますのか、將來命令などに依りまして制限を附せられる御意圖でございませうか、此の點に付て伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=6
-
007・芦田均
○芦田國務大臣 勞働組合の事業に多くの制限を設ける考へは持つて居りませぬ、唯茲に勞働組合が、例へば主たる目的として政治運動をなし、主たる目的として社會運動を行うやうな場合は勞働組合とは認めないとの制限をして居りますけれども、今指摘致しましたやうに、組合病院を作り學校を作る如き仕事は、當然許さるべきものでありまして、勞働組合に斯樣な事業の制限を行ふ趣意ではありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=7
-
008・信正義雄
○信正委員 勞働組合法制定の目的は大體に於て分つては居りますが、是は更に國民組織の基盤たらしめんとするやうな企圖もあるでございませうか、若し左樣なりと致しますれば、單に勞働者が企業家或は資本家と云ふものを相手としての考へ方のみならず、全社會に關聯する考へ方を以て行かなければならぬと云ふことにもなつて參りまするし、それ等に付きましての指導其の他に付て何か考へられて居るのでありませうか、其の點に付て伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=8
-
009・芦田均
○芦田國務大臣 勞働組合運動は自然發生的のものでありまして、其の現はれた社會現象を勞働組合法と云ふ一つの「レール」の上に載せて、之を圓滑に運用し得るやうな法律を作る趣意でありますが、信正君の只今御話になつた國民組織の基盤として勞働組合を運用するやうに考へて居るかどうかと云ふ御質問に對しては、成程勞働組合に依る秩序あり統制ある勞働者の團結は、確かに國民組織の一基盤であることは間違ひないと思ひますが、勞働組合法が國民組織の主たる基盤であると云ふ考へで作つたと云ふ譯ではないのでありまして、それは自ら自然の條件若しくは其の時の政治情勢等に依つて組合が主たる基盤になつて居る國もありませう、又主たる基盤でない國もありませう、其の邊のことは法律に依つて規定すべき問題ではなくて、自然社會上の勢力、政治的勢力に依つて決定される問題だと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=9
-
010・信正義雄
○信正委員 尚ほ政府は之に關聯致しまして、企業者側の企業合同と云ふことに付ては、是は制限を加へない御意圖でございまするか、如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=10
-
011・芦田均
○芦田國務大臣 此の點は曩に質問に御答へ致しました通りであります、即ち企業の自由なる活動に俟つて産業の復興を圖りたいと考へて居ると囘答したのでありますが、實際の問題と致しまして公正なる産業の競爭を阻碍する如き獨占或は「トラスト」、或は公正ならざる市場の支配等を生ずる虞ある企業の合同は、目下の所出來るだけ許さない、斯樣に考へて居るのでありますが、併しさう云ふ結果に至らない程度の企業の合同及び産業の合理化の目的に副ふ如き企業の合同を阻碍する意圖は持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=11
-
012・信正義雄
○信正委員 現在の本法に謂ふ所の勞働者と云ふものの數は幾ら位になつて居りませうか、殊に其の中で商業、工業とか或は官公吏と云つたやうな内譯は如何樣になつて居りませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=12
-
013・芦田均
○芦田國務大臣 現在組合法の對象となる勞働組合に參加した勞働者の數は、昨日までの報告に依りますと、七萬七千名内外と云ふことになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=13
-
014・信正義雄
○信正委員 勞働組合に參加した者だけでなく、本法に謂ふ賃金給料其の他之に準ずる收入に依つて生活する者の數は、凡そ幾ら位の御見込でありますか、詳しい數字が分らなければ、全國民の凡そ何割位に相當するのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=14
-
015・芦田均
○芦田國務大臣 最近の數字は調査を致しますれば無論判明致しますが、御承知の通りに、終戰後に於ける軍需工業の閉鎖及び廢止工場等が多數に上つて居りまして、其の從業員の何人を正確に解雇したかの數字が非常に變動して居りまして、只今直ぐに御報告する正確な數字を持合せて居りませぬ、成べく正確な數字を調査しまして、御答へすることに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=15
-
016・信正義雄
○信正委員 細かくなりますが、此の法案第二十三條に依りますと「一の工場事業場に常時使用せらるる同種の勞働者の數の四分の三以上の數の勞働者が一の勞働協約の適用を受くに至りたるときは當該工場事業場に使用せらるる他の同種の勞働者に關しても當該勞働協約の適用あるものとす」斯う云ふことになつて居る、そこで御尋ね致したいのでございまするが、四分の三以上の勞働者が勞働協約を致して居ると、其の勞働協約の内容に付て他の四分の一の者が當然束縛せられると云ふことになる、從來斯う云ふことで問題になりましたのは、勞働者の面に於きまして、四分の三以上の人――一部の人が勞働爭議をやる、それに對應して企業者の方で工場閉鎖をやる、斯う云ふ風なことがある、其の場合に殘りの四分の一の勞働者の方では、工場閉鎖をしたのは工場側の行ひであるから、閉鎖の爲に勞働に從事することが不要となりましても、其の間の勞働賃銀と云ふものは、勞働は休んで居るけれども、勞働賃銀と云ふものは請求し得た筈である、此の事に付て度々紛爭が起つたやうでありまするが、併し大體に於て賃銀を申受けることが出來ると云ふやうになつて居る、所が今度のやうに二十三條の規定を設けますると、其の勞働協約に於て勞働爭議の結果「ストライキ」をやる、色々なことをやると云ふことになつて其の間の仕事が出來なければ、仕事が出來ない部分に付て損害賠償を請求せられる、是は無論だけれども、併しながら勞働賃銀の請求と云ふものはしないと云ふやうな協約が當然出來さうである、其の協約の影響を受けて他の四分の一の人も、やはり同じやうに勞働賃金を請求することが出來ないと云ふやうなことになるのでは、此の四分の一の勞働者を保護すると云ふことの所以ではない、斯樣に考へられるが、斯う云ふ風な場合には如何樣に取扱はれるのであるか、又此の二十三條を如何樣に御解釋致される御意見でありますか此の點を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=16
-
017・芦田均
○芦田國務大臣 只今信正君の御指摘になりましたやうな場合は、多くは勞働協約の中に規定を設けて居るのが例でありまして、四分の三が同盟罷業の決議をする、他の四分の一が是と同じ態度に出ると云つた場合でも、罷業の決議に加はらなかつた者に付ては休業手當を出して業を休ませると云ふ勞働協約の條項が出來る場合が多いと思ふのであります、隨て左樣な場合には、其の協約に從つて休業手當を受取ることが出來る、斯樣に一應解釋して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=17
-
018・信正義雄
○信正委員 此の點に付ては、將來能く御考慮願ひたいと存ずるのであります、實際問題と致しまして、出來るだけ組合に參加させる、一工場全部の勞働者が悉く參加する氣持を持つて居るのは當然で、其の結果參加した者だけが同盟罷業をした結果、其の他の人にも迷惑を及ぼすと云ふやうなことになり易い、勞働協約自體が、爭議の起つた時には、其の間の賃金請求はしないのだと云ふやうな協約を勿論結びたいと思ひます、さうすると其の影響を受けるから、他の人も勞働組合に入る、私は組合に入ることに付て兎や角言ふ意味で申上げるのではありませぬけれどもさう云ふ風な事態が起ると思ふのです、詰り入つて居ない人が思はざる犧牲を拂はなければならぬと云ふ風なことになるかも知れぬと思ひます、此の點に付きましては、何か良い方法を御考慮願ひたいと思ひます
次に勞働委員會の委員でありますが、是は何も制限を加へないと云ふ御意見でございますが、極端なことを言ひますると、前科のある人でも破産者でも――是は今まで禁ぜられて居りますが、さう云ふことに付ては一切制限はないと云ふ建前で出來て居るのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=18
-
019・芦田均
○芦田國務大臣 御懸念の點も御尤もな所があると思ひますけれども、從來の經歴が芳しくない代表者を選ぶことになれば、組合側としても世間の信頼を失ふ譯でありますから、結局組合側に於ても斯樣な代表者を選ぶことは自肅されることと思ひます、又假にさう云ふことがあれば、其の結果は組合に不利益なことになるのでありますから、恐らく長く左樣な事態が續き得るものとも思ひませぬ、隨て此の法律の中には如何なる人間を使用者として選ぶかの點に付ての制限は設けない建前になつて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=19
-
020・信正義雄
○信正委員 其の勞働者の地位を向上すると云ふこと、殊に勞働者の從屬性關係、是は先般來盛んに御議論があつたやうに、結局企業の所有と云ふことが物を言つて居る、或は事業經營者と云ふことが、勞働者をして從屬せしむる所以になつて居る、それに對して勞働者が、經營に參加する或は企業の所有を獲得すると云ふ所に立至りました時に、本法の第二條一項一號「使用者又は其の利益を代表すと認むべき者の參加を許すもの」は勞働組合とは扱はない、是と照し合せてどう云ふ關係を有するか、企業經營に參加する或は企業所有の一部に付て共有の關係に立つて居ると云ふ時に、それ等のものが勞働組合の組合員となつて居ると認められる場合、是は單なる勞働者ではなく、企業者と云ふか、さう云ふものが歸屬して居る組合を勞働組合として扱はれないことになるか、或は其の者を組合に參加せしめないことになるか、私は大體差支へないと思ひますが、少しく疑問があるので御伺ひ致します、之に關聯して、一つの同じ工場で勞働者が其の株主になつた場合、其の勞働者の參加して居る組合を勞働組合として認めるか、或は其の株主は其の勞働組合に參加出來るかどうかと云ふことも念の爲に御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=20
-
021・芦田均
○芦田國務大臣 御指摘の場合は、實際問題としては非常に色々の形で現れて來ると思ひます、例へべ從業員全部が事業の株主であると云ふ如き企業に於ても、やはり使用者側の立場にある人間と、之に經濟的に從屬した地位にある勞働者とがあり、其の間に、使用者、從業員と云ふ關係がはつきり出て居る場合には、使用者の代表的立場にある地位をはつきりと認めることが出來る者は組合員たり得ないのであります、尤も濃厚に協同組合的性絡の出て居る事業に於きましては、最早や此の法律に定めて居る如き勞働組合を作る必要がなくなるのではないか、斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=21
-
022・信正義雄
○信正委員 其の他は法制局長官に御伺ひ致したいと思ひますが、御見えになりませぬから、法制局長官に對する私の質問を保留致しまして一應打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=22
-
023・添田敬一郎
○添田委員長 山崎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=23
-
024・山崎常吉
○山崎(常)委員 厚生大臣に御尋ね致しますが、私は本法案の第一章第一條の「本法は團結權の保障及團體交渉權の保護助成に依り」此處までは非常に我々が永年の間主張して來ましたことが、此の法案に依つて初めて認められることになりますので、非常に勞働者の爲に、又國の爲に慶賀すべきことであると深く考へて居る次第であります、更に續いて「勞働者の地位の向上を圖り經濟の興隆に寄與することを以て目的とす」此の點で一寸御尋ねしたいと思ひますが、勞働者の地位の向上と云ふことであります、本法案は大體只今申上げました團結權の保障及び團體交渉權の保護と云ふやうなことで勞働者個々の地位の向上と云ふやうなことが、此の法案の中に具體的に盛られて居らぬと思ひます、唯勞働者の地位の向上と云ふことは賃銀の問題のみに依つて解決の出來ないことは申上げるまでもないことでありますので、どうもさう云ふやうな點に付て何かそこに勞働者の地位の向上を圖り或は經濟の興隆に寄與することを以て目的とすると、茲に具體的に題目が現はれて居る以上は、其の中の案に何か具體的に個々の勞働者の地位の向上と云ふやうなことを實現化すべき具體的のものが現はれなければ、滿足が出來ないやうな感じがします、此の點に對しまして、本法案より別に將來にさう云ふやうな勞働者の地位の向上或は文化的方面に進むやうな途が何か講ぜられて居る法規がありませうか、此の點を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=24
-
025・芦田均
○芦田國務大臣 先程信正君の御質問に御答へした通りに、勞働組合のなすべき事業に付ては、極めて廣範に之を許してありまして、主として政治運動をする、主として社會運動をすると云ふこと以外に勞働者の地位の向上を圖る爲に各般の施設をなすことを妨げないのであります、是は寧ろ勞働組合自身が具體的に適當な事業を考へて行ふべきものであつて、一々之に對して政府が指圖をしたり、法律若しくは實質上の干渉がましいことをなす限りでない、一に勞働組合の自發的創意に依つて適當な措置を講ぜられることにしたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=25
-
026・山崎常吉
○山崎(常)委員 只今の厚生大臣の本案に結付けましての御説明は一應分りました、此の法案の立法化に依りまして、勞働者が之に基いて色々の施設を自由にやつて行くと云ふ點は一應肯けましたが、厚生省と致しましては、此の案に凭れるのみでなく、色々勞働の部面に對してなすべきことがあるだらう、私は過日來ずつと厚生大臣の御答辯、或は勞働局長の御答辯を承つて居りますと、どうも何か慊らないやうな感じが致しますので、敢て勞働者に對する地位の向上を圖るやうな計畫があるかどうかと云ふことを御聽きしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=26
-
027・芦田均
○芦田國務大臣 勞働部門に對する行政に於きましては、厚生省に於て各方面に亙つて關係を持つて居るのでありまして、例へば勞働者の就業時間に付ては工場法を出來るだけ近代的に改める、或は賃金統制令を時宜に適した如く改める、或は衞生保健の施設に付てそれぞれの方途を講ずる、或は失業者に對しては、之に相應する對策を執ること是等は今日既に行つて居るのでありまして、殊に失業對策の中で日傭勞働者の失業救濟等の事業は今後一層之を擴充強化して行かうと考へて居りますが、それ等の施設は必ずしも勞働組合法と一つの面ではないのでありまして、勞働組合法の中に是等諸般の行政問題を織込むことは、本法の性質上如何かと思ふのであります、併し組合法に書いてないからと云つて、何もしないと云ふ主義ではないのであります、それはお分り下さると思ひますが、厚生省の、其の他の諸般の施設が慊らないと云ふ御意見は能く參照致しまして、今後一層此の方面に力を盡す決心であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=27
-
028・添田敬一郎
○添田委員長 山崎君、今法制局長官が見えまして、大分御急ぎのやうでありますから、先程の信正君の保留された質疑に入りたいと思ひますから、暫く御讓り願ひます――信正君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=28
-
029・信正義雄
○信正委員 法制局長官に御尋ね致したいのは、此の勞働組合法案に依りますと、官公吏などは總て勞働組合に加入することが出來ることになつて居ります又、警察官、消防官吏、監獄に勤務する者、或は命令に依つて制限せられる者以外は、一般の勞働者と同じやうな行動を執れることになつて來て居るのであります、そこで從來の官公吏に對する吏道觀と云ふものと、將來の吏道觀と云ふものとの間に差異、變更が加へられるのでありますか、今日の吏道觀はどう云ふ風に見て居られますか、此の勞働組合法と睨み合せて、官公吏に臨む所はどう云ふ風でございますかと云ふ點に付て御伺ひ致したいのであります、元來官公吏と一般の勤勞者と異なる所は、本來から言ひますれば一方は私法上の雇傭關係であると云ふことから發足致して居ります、一方は國家の任命に依るものであつて、そして其の本體とする所は定量でない無定量の國家事務に從事するものである、或は從順の義務であり、忠實の義務であると云ふことを特に説いて來られたのであります、是が他の勤勞者と異なる特異性だと云ふ風に見られて居つた譯であります、そこで勞務に服するのに付きましても、定量でないと云ふ觀念で掛り、從順に法令は勿論のこと、上官の指揮命令に從つて絶對の服從をして行くのが、それが官吏の本質なんだ、斯う云ふ風に考へて來た、それが爲に濫りに職を離れることは出來ない、濫りに缺勤をすることは出來ない、甚だしきは住所の制限まで受ける、是が而も官公吏の本來の性質であり生命である、斯う云ふ風に今までは見て來られたのであります、そこで此の官公吏と云ふものが同盟罷業も行ふことが出來るのか出來ないのかと云ふことに付きましては、從來屡屡論議せられて來て居つた所なのであります、所が今度此の法案に依つて見ますと云ふと、警察官とか云々と云ふやうな特別の者は封じてありますが、一般の官公吏は特殊の制限のない限り、命令などが出ない限りは罷業も怠業も手段として行ふことが出來る、斯う云ふことになつて居ります、そこで從來の吏道觀と云ふものと、今後の吏道觀と云ふものに付ては其の間に何等かの變る所がなければならぬ、尤も今までに於きましても、官吏と雖も、公吏と雖も上官に對して國の爲になる本當の意見であるならば、それは意見を申述べることが出來ると云ふことになつて居りました、であるけれども、團體行動を取つて斯う云ふ風なことをやるのはどうか、是までは忠實の義務、從順の義務、或は無定量の國家の事務を執るのが官公吏の建前だと云ふことを言はれて來て居つた、そこで私は此の際御伺ひ致したいのは、先程も申上げたやうに、新しい吏道觀はどうであるか、此の勞働組合法と睨み合せて今後の官公吏に對して臨む所はどうであるか、此の點に付て御伺ひ致したいと存ずるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=29
-
030・楢橋渡
○楢橋政府委員 御答へ致します、信正委員の申されましたやうに、勞働組合法が出來て、官吏が加入出來、且つ同盟罷業と云ふやうな問題も起り得ることが豫想されるのであります、其の爲に在來の服務紀律、忠順の義務と云ふ本質と、それから此の勞働組合法の行動との間にどう云ふ關係になるかと云ふ御質問は、御尤もな御質問であると同時に、非常な難かしい問題であり、又此の勞働組合法に依つて官公吏が加入することが出來ると云ふそれ自體が、官界に於ける一つの大きな革命であると云ふことに見られるのであります、就きまして私の考へて居りますことは、在來の官吏服務紀律と云ふものは、今日の敗戰後、假に敗戰しなくても根本的に其の精神を變へなければならぬと考へて居るのであります、其の變へることは何であるかと云へば、是は官吏が 陛下の官吏である、勿論 陛下の官吏であると云ふ觀念が、今日官僚の通弊を非常に齎して、國民側から見ますと、嫌惡の情を以て迎へられて居る、併し私は官吏と云ふものの根本精神は國民の官吏である、言ひ換へて見れば公僕精神に官吏は還らなければならぬ、是が本質である、而してそれが 陛下の大御心に應へ奉る所以であると云ふことにならなければならない、斯う云ふことに考へて居るのであります、隨ひまして官吏の服務紀律の根本的の精神の建替へと申しますか、是は日本が新しい民主主義國家を作る上に於て、其の中核を成すと申しますか、其の機構の中核を成す官吏それ自身が公僕精神に還ると云ふ方向に持つて行きたい、而して官吏と勞働組合との關係に於きましても、官吏が眞に公僕と云ふ一つの精神に規律されると云ふことになりますれば、自ら勞働組合に官吏が入りましても、そこに彼等を是正し調整する一つの線がはつきりとして來ると私は思ふのであります、それで勞働組合の出來ました今日に於きまして、官吏が之に加入の出來ると云ふ此の事態は、正に今申上げました官吏が公僕に還ると云ふ大きな線に沿つて、初めて勞働組合にも加入が出來、自分達の生活改善も出來る、斯う云ふことになるのではないか、そこで私は最近下僚に命じまして、各般の所謂官吏服務紀律に關する根本的の物の考へ方の建直しをやらうとして、現に著手して居るやうな次第であります、以上御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=30
-
031・信正義雄
○信正委員 有難うございました、法制局長官に御尋ね致しますことは以上で終了致します、併せて此の際厚生大臣にもう一言御伺ひ致したいと思ひます
今日日本が斯う云ふ風な事態になりまして、國際關係の貿易と云ふことは殆どなくなつて居るやうな有樣であります、併しやはり經濟問題と致しましては、今後の日本と雖も直接間接に非常な關係がある、從來から日本は國際勞働機關に加盟して居つたのでありますが、今後國際勞働機關と日本との關係はどんな風になるのでございませうか、どう云ふ風に計畫せられて居るでありませうか、其の點に付て御伺ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=31
-
032・芦田均
○芦田國務大臣 今信正君の指摘されました問題は、將來に非常に重大な問題となるのでありますが、御承知の通り「ヴェルサイユ」條約が調印されました時に、日本が五大強國の一員として之に參加して、勞働協約に調印し、又「ジュネーヴ」に於ける國際勞働事務局の有力なる構成員として之に參加し、年々開かれる國際勞働會議にも、代表を出して居つたのであります、國際聯盟を脱退するに及んで、其の關係は斷絶致しましたけれども、それは一時的の現象でありまして、日本が正常なる國際關係を再開する時期に至れば、一日も早く此の機關に參加する機會を掴まなければならぬ、斯樣に考へて居る譯であります、其の時期が何時到來するかと云ふことは、今後聯合國側と我が國との間に結ばるべき各種の條約に依つて制約される譯でありますから、今日から明確なる見透しを付けることは困難であらうと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=32
-
033・信正義雄
○信正委員 私の質問は是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=33
-
034・山崎常吉
○山崎(常)委員 只今私の質問申上げて居りました點に付きましては、最後に厚生大臣に對しまして具體的の注文がございますので、是は一應其の程度に止めまして、次に御伺ひしたいと思ひますのは、此の勞働組合法案の狙ひは、大體今までの工場經營状態に對する勞働者と經營者との間の種々なる團結權、交捗權之に盛られて居る方面を狙つて居るのであると思ふ、所が敗戰後日本の過去のやうな工業形體は、殆ど破壞せられ或は禁止せられまして、此の法案の對象になるやうな大きな工場が、段々少くなつて行くと云ふ傾向になります、反對に食糧事情或は資材事情から、事實上是からの工業と云ふものが中小工業に移行する、同時に又家庭的手工業が益益盛んになり、又盛んにならしめねばならない、さう云ふ點から考へます時に、手工業的の請負業或は中小工業、斯う云ふやうなばらばらに切離されました所の勞働者と云ふものが組合を作ると云ふ場合には、團結權とか、交渉權と云ふやうなものは、どう云ふ状態になりませうか、此の點を一應伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=34
-
035・芦田均
○芦田國務大臣 山崎君の今御指摘になりましたやうな場合に於ても、勞働組合法の精神は少しも變化は受けないのでありまして、大工場が中小工場の形に變つたと云ふ場合に於ても、第二十四條に定むる一定の地域に於て從業する同種の勞働者の組合の如きものが、恐らくは出來るのではないかと考へます、隨て工場の規模の大小に依つて、勞働組合法の適用に差別を生ずる如きことは、豫想して居ない譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=35
-
036・山崎常吉
○山崎(常)委員 手工業的業務に對しましては、どう云ふやうな關係でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=36
-
037・芦田均
○芦田國務大臣 手工業と言はれるのは、どう云ふ形の手工業でありますか、主として使用者と賃金若しくは給料に依つて勞働關係が成立つて居る場合に於ては、手工業たると機械工業たるとを問はないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=37
-
038・山崎常吉
○山崎(常)委員 原生大臣は其の實情を知らないと私は思ひます、私の狙ひは是から私の考へて居るやうな手工業が益益盛んにならなければ日本は向上しない、其の手工業とはどんなものか、例へて言へば下駄の鼻緒を作る、或は婦人の頭の道具を作ると云ふのは、一つの大きな製造業者があつて、それから一箇幾らづつに請合つて來て、妻もやれば自分もやる、子供にも手傳はす、斯う云ふ業者が將來うんと殖えて來ます、さう云ふのが一つの部落或は一つの町に何十人、何百人と云ふ工合に殖えて行く、それが一つの海外貿易品となつて現はれて來ると私は斯う確信をして居ります、さう云ふものが十軒或は二十軒、百軒と云ふやうな工合に組合を作つた場合に、其の關係はどうなるかと云ふことを御聽きして居るのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=38
-
039・芦田均
○芦田國務大臣 それを先程御答へしたのでありまして、一つの工場で鼻緒を作つても、多數の家で作つても、其の關係はちつとも違はないのでありまして、それがどう云ふ譯で違ふと御考へになるか、それを寧ろ私は聽きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=39
-
040・山崎常吉
○山崎(常)委員 是は斯うなります、一つの工場で日給幾ら、月給幾らと云ふやうに一つの工場内に立籠つて働く、此の手工業の請負と云ふものは、一箇幾らで請合つて來て家でやる仕事です、品物の製造を出す所は一つなのです、だが併し是は時間も制限せられずに一箇幾らで請合つて來てやる所の請負業者です、其の點御分りでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=40
-
041・芦田均
○芦田國務大臣 それは必ずしも小さな工業ばかりではありませぬ、大工場でも出來高拂と云ふのがあります、石炭山に於もありませうし、軍需工場に於てもあつた、出來高拂であるとか、時間拂であるとか云ふことに依つて、組合法の適用が變るとは考へられないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=41
-
042・山崎常吉
○山崎(常)委員 それでは最後に止めを刺して置きますが、さう云ふ個々の請負業者が物を作つて交渉する場合には團結權も認めて下さる、交渉權も認めて下さる、斯う云ふ工合にはつきり考へて居て差支へございませぬでせうね発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=42
-
043・芦田均
○芦田國務大臣 御解釋の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=43
-
044・山崎常吉
○山崎(常)委員 次に御尋ねしたいと思ひますのは、昨日川崎委員からも政府委員に對しまして質問がありました國際勞働會議の問題であります、聞く所に依りますれば、世界の五十六箇國の國々が過日「パリ」で開かれました國際勞働會議に參加して、我が國と「ドイツ」がそれに參加して居ないと云ふやうなことを新聞紙上で見ました、更に昨日川崎委員が其の質問をして居りますが、それに對する政府委員の御答へに依りますと、我が國は敗戰の結果國際場裡に進出することを禁ぜられて居ります、さう云ふやうな結果、結局我が國としては國際勞働會議に參加の出來ないことを遺憾とすると云ふやうな御答へであつたのです、私思ひますのに、世界が國際的の平和を要望して居る、是からの國際的の平和の根幹となるのは何としても勞働者と勞働者の國際的の團結、所謂國際勞働會議と云ふやうなものに參加することに依つて、それが成立つと思ひます、遺憾なことには我が國は國際勞働會議に參加することを此の度は許されなんだのでありますけれども、世界の人類が國際的の平和を要望して居ると致しますなれば、日本が敗戰の結果、國際關係を絶たれて居るからと云ふやうな工合に、私は安閑として居るべきではないと思ふ、進んで「マッカーサー」に、或は「マッカーサー」に依る以外の方法に依りましても、日本が國際勞働會議に出席をさせて貰ふべく努力をせねばならぬぢやないかと云ふことを私は痛切に感じます、考へますのに、最初此の世界戰爭は日本をなくする、日本の民族をなくする爲の戰であると云ふやうなことを私共は指導者に度々聞かされました、併しながら英國の勞働組合が世界の平和を唱へ、さうしてあの總選擧に勞働黨が勝つたと云ふことも、是は新聞に現はれました大きな問題であります、「アメリカ」初め各國に「イギリス」の勞働組合の世界平和論が唱へられて、日本に對しましても、日本の國をなくする、日本民族をなくすると云ふやうな無謀なことはいけない、兎に角戰爭を一日も早く止めると云ふやうな方法に出ねばいけないと云ふことが、段々と廣く反響致しまして、今日の状態になつたと云ふやうなことを、私は概略でありますけれども承つて居ります、是からの世界平和は、何と致しましても、勞働組合が根幹になるのではないか、又ならねばいけないと云ふやうな確信を持つて居る者であります、それで昨日の政府委員の御答へは、私は頗る遺憾に思ひます、さう云ふやうな熱のない程度であつたなれば、飽くまでも「マッカーサー」から總てのことに押込められ、進出の機會はちつともないぢやないかと云ふやうなことを痛切に考へますが、之に對しまして厚生大臣は如何なる御考へを持つて居るかと云ふことを御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=44
-
045・芦田均
○芦田國務大臣 只今世界で新しき世界秩序を建設する爲に出來て居る機關は二、三に止まりませぬが、其の主なるものは御承知の通りに國際聯合、それから今山崎君が御話になつた國際勞働會議等色々のものがありますが、何れも所謂平和愛好國と稱するものの會合であります、彼等自ら認めて平和愛好國なりと云ふものだけが集まつてやつて居る、然し彼等が認めて平和愛好國家にあらずと云ふものを除外し其の除外の中に「ドイツ」、日本が主なるものとなつて居る所が、平和愛好國家なりと云ふ認定は、不幸にして我々が下すのではない、平和愛好國家と稱するものが、日本民族は從來の軍國主義を一掃して平和愛好國民になつたと云ふ確信を得なければ仲間に入れない、是が現實の事實でありますから「マッカーサー」の所へ英語の出來る人が五人十人駈付けて話をしたと云ふのでは、解決の付かぬ問題であります、世界に向つて、本當に日本は從來の軍國主義的、侵略主義的な心持から平和愛好國家になつたと云ふ其の事實を目の前に出さなければ、國際聯合に加入させないと云ふのが、今日の冷嚴な事實であります、それは政府だけの手で出來ることではありませぬ、日本國民全體が打つて一丸となつて、本當に改過遷善の實を擧げる、斯樣な時に初めて出來るものだと私は考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=45
-
046・山崎常吉
○山崎(常)委員 勿論今までの日本と「ドイツ」は戰爭愛好國民であると云ふやうに、其の國々が自らさう云ふ態度を執りましたから、今國際勞働局方面から、日本が本當に平和愛好の國になつたと云ふ工合に考へられないのは、まだ日も淺いので無理からぬことであると思ひますが、或は「マッカーサー」の所へ頼みに行つた所でいけない、心からさうならなければいけないと云ふ御意見、是は御尤もであります、併しながら政府のみの力ではいけない、全國民も共にと御答へになりましたが、厚生大臣は日本の勞働行政を扱つて居る所の中心になる御方である、厚生大臣自らが先頭に立つて其の叫びを上げて戴かなければ、此の目的を達成することは出來ませぬ、國民に呼掛ける、又勞働組合を通ずるなり其の他に依つて、全勞働者に呼掛けるのも勿論でありますが、厚生大臣それ自體、或は其の衝に當る所の勞政局長其の他の諸君全體に、其の熱意があるかどうかと云ふことを私は御伺ひするのであります、熱意の程を御聽かせ願ひたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=46
-
047・芦田均
○芦田國務大臣 御答へ致します、勞働行政に對してどれ位の熱意があるかと云ふ御質問に對しては、私は全力を擧げて勞働行政の爲に最善の途を歩みたいと思つて居ります、但し勞働組合、若しくは勞働階級の爲に「マッカーサー」の所に行つて愬へよと云ふ御要求であれば、是は姑く研究をさせて戴きたい、併しあなた方の御手許に、日本の勞働階級が、特に他の階級以上に平和愛好の爲に今日まで鬪つた、軍國主義、帝國主義の戰爭に反對して熱意を持つて起ち上つたと云ふ事實を御持ちになるならば、是は非常に有力な證據になりますから、是非私の方に御提出を願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=47
-
048・山崎常吉
○山崎(常)委員 其の御言葉を承りまして、我々は協同組合其の他の方面へ呼掛けまして、我が國が一日も早く世界平和の根幹となるべく、國際勞働會議に參加の出來るやうに働きたい、斯樣に考へて居ります
次に只今の厚生大臣の御熱意を承りまして、尚ほ此の上私は御伺ひしたいと思ひますのは、勞働部門が是からの新しい日本を建設致しますものの根幹になると云ふことは申すまでもないことであると思ひます、今日或は是からは勿論でありますが、過去に於てもさうでなければならない、私共は戰爭に勝つも敗けるも、働く者の雙肩にあるのだと云ふやうな工合に呼掛けて來ましたが、不幸にして斯樣な結果になりました、併し顧みてあの産業の振はなかつたのも、口先で勞働階級、工員或は勤勞者或は産業戰士と云ふやうに扱つて來た結果、色々な事情もあつたでせうが、段々と産業能率の低下を來したのだと云ふことは、今更申上げるまでもないと思ひます、そこで私共は曾て今の厚生省が社會局であつた時代、或は又名が變りまして厚生省となつてからも、常に勞働省と云ふ一省を設けなければならない、國を強くするのも弱くするのもここにあるのだ、なぜ政府は勞働省と云ふ一省を設けて、そこで國内の勞働行政と共に、國際的な勞働組合への進出も圖ると云ふ決意を持つて呉れないかと云ふことを常に叫んで來たのであります、所が同僚西尾代議士が本會議で厚生大臣に質問をした場合には、まだ勞働省を設ける意思はないと御答辯をなさつて、私は實に情けなく考へた、厚生大臣は思ひを一轉致しまして、勞働省を將來は設ける意思があるのだと云ふ御答へが得られれば私は結構であると思ひますが、尚ほ此の點に對しまして、厚生大臣の御意見の程を承りたいと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=48
-
049・芦田均
○芦田國務大臣 先般本會議に於て幣原總理から、目下の所政府に於ては特に勞働省を設ける意向を持たない、斯う云ふ答辯を致した筈であります、現在の所、政府の方針はさう云ふことになつて居ります、將來或は變更する機會があるかと思ひますけれども、現在の所では、其の程度と御承知置きを願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=49
-
050・山崎常吉
○山崎(常)委員 厚生大臣に對しまする私の質問は此の程度で打切ります、次に總理、農林、商工の三大臣に質問をすることを保留致しまして、私の質問を一應打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=50
-
051・添田敬一郎
○添田委員長 本多君――居られぬから小林君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=51
-
052・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 本法の第一條に「本法は團結權の保障及團體交渉權の保護助成に依り勞働者の地位の向上を圖り經濟の興隆に寄與することを以て目的とす」斯うございますが、畢竟是は日本の再建の一環として本法を御提出になつたものと存じますので、先つ私の質問は本法に入る前に、少しく勞働の基本的な問題に付て政府の所信を質して見たいと思ひます、第一點は國家再建の基礎は國民の勤勞にあり、と私は考へて居るのであります、御承知の通り敗戰に依り領土は奪はれ、國内の資源及び其の他の設備は燒かれ、只今日本に殘された物は極めて少いのであります、此の限られた環境、限られた資源に於きまして、どうして日本を再建するかと云ふことが、實に大きな問題であると思ひます、つい此の間までは日本の人口は一億にしなければいかぬ、いや近き將來に於て二億にしなければいかぬと言つて居つたに拘らず、今度は國外に居ります七百萬の在外同胞を迎へると、此の狹い土地でどうして之を養つて行けるか、曾ての人間の少いことを憂へて居つた問題が、今度は人間が再び過剩になつた、どうして之に食はして行かうかと云ふ風なことは共通の惱みでございます、併しながら此の少い限られた土地、限られた資源の中で何が一番大事なものであるかと云ふと、私は勤勉な七千五百萬の國民であると存じます、此の國民の勤勞力こそは、國家再建の基盤である、斯う云ふ風に私は勤勞觀を基本的に考へて居るのであります、囘顧すれば私は一九二三年、第一囘の世界戰爭後の「ドイツ」に參りまして、勞働局長に會ひました、丁度其の時私は今の添田委員長の下で職業紹介事務局次長のやうな仕事をして居りましたから、職業紹介に關する問題を聽きたいと思ひまして、勞働局長に會つたのであります、其の時「ドイツ」國勞働局長は申しました、我が國は敗戰に依つて領土は奪はれ、炭礦も奪はれ、軍備は此の通り縮小されました、そこで唯一つ殘つて居る國家の寶「スターツ・シェッツェ」は何かと言ふと、我が優秀なる「ゲルマン」民族の勤勞其のものである、勤勞こそは「スターツ・シェッツェ」だ、今までは寶物は資源だと思つて居つたが、人的資源に優る資源はない、勤勞こそは國家最高の資源であり基盤であると云ふ考へに依つて、勞働行政の運營をやる決心である、唯單に失業者を他に世話をすると云ふことではなく、勤勞を管理して適材を適所に就職せしめ、國家興隆をしなければいかぬと思ひますと云ふ堂々たる職業指導の原理を聞かされました、私非常に感激したのであります、日本は今不幸にして二十數年前の「ドイツ」國と丁度同じやうな事態に只今直面して參つたのであります、家貧にして初めて貧乏中に燦然たる兒寶を發見する、「銀も金も玉も何せむにまさる寶子に如かめやも」と萬葉の歌人が詠つたやうに、此の殘された七千五百萬の大和國民こそは、國家最高最上の基盤である、斯う私は思つて居るのであります、此の考へは當然國民皆勞の思想に直結します、勞働神聖の思想に直結します、此の間米國史を讀んで見ますと、あの「アメリカ」獨立戰爭に參加して非常に貢獻をしました「フランス」の「ラファイエット」伯爵が後年「アメリカ」に再び行つて非常に當惑したと云ふことが書いてあります、なぜかと云ふと、あれだけの佛國貴族が、米國では到る處であなたは何をして居るかと云ふことを無遠慮に「アメリカ」人に聽かれて非常に當惑した、斯う云ふことが書いてございます、此の國民皆勞なくして、國家の再建は出來ないと考へますが、厚生大臣の御所見を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=52
-
053・芦田均
○芦田國務大臣 只今小林君の御述べになりました國民皆勞の必要、竝に現在最も強調すべきものが、國民に對する勤勞觀念であると云ふ點に付きましては、全く同感であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=53
-
054・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 御同意を得まして非常に滿足を致します、然らば第二に勤勞に關する動機であります、私は以前述べましたやうな考へを以て、勤勞は金を儲ける爲でない、報酬を受ける爲でない、所謂至上命令である、國家に對する國民最高の道徳であり、義務であり、光榮である、斯う云ふ風に勤勞觀を考へて居ります、終戰後國民總懺悔と言つて居りますが、懺悔すると云ふと、何か惡いことをしたならば申譯ありませぬと何人かに向つて謝罪すれば足りると云ふやうに考へられて居ますが、本當に懺悔するならば口でばかり懺悔するのでなくて、其の償ひをしなければならない、罪の償ひをして初めて懺悔の道は得られるのであると思ひます、我々は我々の指導者がやりました、世界人類に加へたあの大罪惡、又は三千年の傳統を亡國に導いたあの罪惡に對する懺悔は、生易しいことではいけない、畏多くも終戰の御詔勅にも 陛下が、是から國民の受くべき苦難は益益大であらうが、忍び難きを忍び耐へ難きを耐へて新日本を建設せよ、而して朕常に爾臣民と共に在り、汝等にばかり苦勞はさせない、朕常に汝等と共に苦勞してやるのであると斯う仰せになりました、あの玉音の放送を聽きましては國民たるものは、誰しも心の中で「いやさうではありませぬ、私達の努力が足らなかつたのであります、 陛下にだけさう云ふ御苦しい御思ひを御させ申して置かれませぬ、我々が至らなかつたのであります」と御詑び申上げる氣持になりましたのであります、其の罪の償ひをどうしてもしなければならぬのであります、其の懺悔の心を具現する爲には、必ず勤勞しなければなりませぬ、償ひの爲に我々は勤勞をしなければならぬと云ふ懺悔奉仕の勤勞觀に落付かざるを得ないと思ふのであります、更に又他の方面から考へますと、謝恩奉仕の勤勞觀であります、あの終戰の御聖斷がもう二、三週間遲れましたならば、日本國民は全部死滅してしまつたでありませう、此の議事堂も我等の住宅も悉く全部灰燼に歸したのでありましよう、我々の此の財産此の生命があると云ふこと自體が御聖斷の賜でなくて何でありませう、是は非常な感謝であり感激であります、其の聖恩の萬一に報ずる爲に、どうして時間を空費することが出來ませう、報酬はあつてもなくてもと、斯う云ふ意味の勤勞觀を持つて居るのであります、新生日本の勤勞觀は斯くなくてはならぬと信ずるものであります、勤勞は賃銀、給料乃至對價を得る爲の手段であつてはなりませぬ、本當の懺悔の爲の奉仕、或は謝恩奉仕の爲に勤勞すべきものなりと云ふ所まで敗戰日本は徹しなくては嘘だと思ふのであります、此の點に對する大臣の御所見を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=54
-
055・芦田均
○芦田國務大臣 只今御述べになりました所は頗る傾聽すべき點があると思ひます、恐らく自覺のある人間であるならば、過去を顧みて懺悔すべき點は十分懺悔して居ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=55
-
056・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 然らば第三に此の勤勞の本質が奉仕であり報酬にあらずと云ふことになると、それだけ仕事がないではないかと云ふことが問題になると思ひますが、私は仕事は無限であると思ひます、仕事は無限である、但し報酬ある仕事は有限であるに過ぎないのだと思ひます、東京の現状を見ましてどこに仕事が無いと言ふか、仕事は幾らでもある、燒跡の片付けだけでもどれだけ大きな仕事であるか、唯あれをやつた所で只今誰が報酬を與へるか判然としないだけであらうと思ひます、あの大きな「アメリカ」と雖も、報酬ある仕事と云ふものは限りあります、無限にある譯がありませぬ故に私は「トルーマン」が言つて居ります、完全雇傭と云ふことは理想であつて、實行は斷じて不可能だと思ひます、先日本會議で厚生大臣も失業問題の御答辯の中に米國の失業問題も軍備擴張になるまでは解決出來なかったと云ふ御話がありましたが、さう云ふ譯でありまして、「アメリカ」のやうな所であつても、完全雇傭は不可能だと思ひます、但し完全就業は可能である、報酬を受けない所の仕事ならば幾らでもあるのでありますから、是は國民皆勞は不可能ではありませぬ然らば報酬なくして如何にして生活出來るか所が勤勞奉仕する所必ず生活は保證せらるるのが、古今東西に間違なく行はる、社會事實であります、此の考へ方を根本的に考へて戴きたい、先づ働け、然らば報酬を得らるべし、此處まで掘下げて行かなければならぬと思ひます、此處まで掘下げて來れば、一道の光明を認むることが出來ると信じます、古語に謂ふ「稼ぐに追付く貧乏なし」とは古今東西を通ずる變らざる眞理であると思ひます、二宮翁夜話の中に面白い實驗話が載せてございます、二宮翁が叔父の家を出まして、實家に歸つて自分の家を再興しようと思ひました時に、隣の家もやはり叔父さんの家であつたさうでありますが、「叔父さん今度私は家へ歸つて仕事をしようと思ひますが、どうか鍬を貸して下さい」、斯う言つて頼んださうであります、所が叔父さんは不機嫌な顏をして、いや貸す譯には行かない自分の家でも今日は畑を作る日だから、と斯う言つたさうであります、金次郎青年は「はあさうですかそれでは私が御手傳して上げませうと言うて、直ぐ其處に在つた鍬を取つて屋敷内の畑を耕したさうであります、畑が出來上りましたら叔父さんはお前は朝飯を食べたのか、「いやまだでございます、」「ああ丁度食事の用意が出來たから食べて行つたが宜しい」、斯う言つて温かい御飯と温かい味噌汁を十分御馳走になつたそして言ふには、自分も新世帶を持つた經驗があるが、新世帶と云ふものは兎角物が不自由なものだから、農具で足りない物があつたら何時でも貸して上げるから申出るが宜しい、いやそればかりではない、世帶道具でも買はないで間に合はして、何時でも自分の方で貸して上げるからと云ふことを言はれた、此の事實、先づ働く、先づ奉仕をする、さうすれば必ず報酬がある仕事が先で、奉仕的に仕事をすれば必ず生活は保障せられると云つたこと、是は恐らく日本ばかりでなく、世界を通ずる一大眞理であると思ひます、然るに此の事實を知らない人は仕事があるか、幾ら幾らの仕事がある、此の報酬は幾らだと云ふことを認めてからでなければ働く氣にならない、腰を上げない、仕事をしないと云ふ所に、此の大きな失業問題の困難さがあると思ひます、之を如何に行政的に持つて行くかと云ふことは、非常な技術を要することであらうと思ひますが、斯うなりますと、全く從來の資本主義世界で發達致しました法制とか、制度とか云ふものをいぢくつて居つたのでは、どうしても解決不可能であります、さりながら民衆が默々として眞面目にやつて居る如上の如き勤勞觀に徹すれば、必ず國民皆勞は可能である、隨て生活は保障せられる、斯う云ふ風に私は考へる、尚ほ進んで行けば所謂無一物中無盡藏、報酬を求めるからないのでありまして、報酬を求めなければそこに必ず報酬があつて、何千萬人の人でも養つて尚ほ餘りある光明世界が顯現するのであります、昔の人も祿其の中にあり、先づ仕事をしろ、さうすれば必ず報酬があると言つた、茲に勤勞の本質を持つて行きたい、斯くして御指導が願ひたいものだと思ふのであります、斯う云ふやうなことに對する大臣の御所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=56
-
057・芦田均
○芦田國務大臣 只今小林君が御述べになりました人世觀と云ひますか、哲學觀と云ひますか、共に當代に於て緊切な御意見だと思ひます、其の精神を養ふことが厚生行政の手に依つて果して目的を達し得るかどうか、稍稍私自身疑ひを持つて居ります、此の點に關しては更に政府全體として、文部省なり或は其の他の方面に於ても十分努力すべき問題であると思ひますが、御精神は洵に其の通りで、私は同感の意を表する譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=57
-
058・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 第四には分配論であります、私は必要に應じて分配さるべきものと信じます、私はどうも政府を支配して居る社會立法の指導方針が間違つて居るのではないかと思ひます、それはどう云ふことであるかと申しますと、先程來申上げました通りに、勤勞は國家再建の基盤である、總ての財産、總ての富の本は勤勞にありと云ふことは、社會黨の諸君と私は所見を同じくするものであります、だからと云つて出來上つた收穫物を全部取らなくてはならぬ、詰り、資本家、地主に之を分與することを肯ぜざる思想には反對であります、「オーストリア」の「アントン・メンガー」博士が、此の社會主義の思想を法律的には勞働者には勞働全收權と云ふ權利がある筈だと云ふ言葉で表現して居ります、資本家に搾取されることなく、成べく之を奪ひ返さなくてはならない、勞働者には勞働全收權と云ふ權利があるから、勞働の效果は之を奪ひ返さなくてはならぬ、斯う去ふ考へが本になつて居ります、然るに生産と云ふものは決して勞働だけで出來るものではありませぬ、經濟學の初歩の第一頁にも、土地と資本と勞働、此の三つが合さつて生産と云ふものが出來ると書いてあります、今度の農地調整法に於きましても、只今の米價問題に於きましても、是は勞働全收權を主張する傾向が濃厚である、耕作者が働いたのだから大部分之を與へなくてはならぬ、斯う云ふやうな線に沿うてあの立法が出來て居ると思ひます、是は大變な間違ひであると私は思ふのであります、「クロパトキン」は理想社會の原則を要約しまして、「能力に應じて働き必要に應じて分配される社會が理想の社會である」と言つて居りますが、是は疑ひもなく勞働全收權の否認であります、私曾て外國の法律學者に會ひました時に、日本には共産黨はないか、社會黨はないかと云ふ話が出たとき、私はあなたの國には共産黨はあります、併し共産の事實は何處にあるか、私の國には共産黨はありませぬ、併し共産の事實はありますよ、日本の家庭と云ふものは完全なる共産團體であつて、共産の事實が存する、能力のある者は働き能力なくして年取つた者、或は又幼年者、不具者、さう云ふ者は必要に應じて總て必要なだけ何不自由なく分配せられる、日本の家庭其のものがさうなって居る、其の人は「ヒューゴー・プロイス」博士で「ワイマール」憲法の起草者であります、博士は慥か日本の民法を飜譯したこともあると云ふことで、日本の民法を見ると、夫婦財産制度と云ふものがあつて、やはり個人主義の立法になつて居るぢやないかと云ふことを反駁致しました、私は「あれは民法の法律の上だけで、實際はさうなつて居りませぬ、妻のものは夫のもの、又主人と雖も家の財産、家と云ふ共産團體の爲に働いて居るので、私が働いたから全部主人のものであると云ふ考へ方は日本では許されないと云ふ話を致したのであります、所謂勞働全收權を認めざる所の和氣靄々たる團體である……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=58
-
059・添田敬一郎
○添田委員長 小林君、一寸質問の結論を成べく急いで下さい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=59
-
060・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 私はさう云ふ譯で勞働全收權と云ふものを前提としたやうな今日の國家諸施設には幾多の誤謬があると考へて居るのであります、斯う云ふことに對して、能力に應じて働き必要に應じて配給を受けられる、分配せられると云ふことが、厚生行政の根本義である、斯う云ふ風に私は考へるのでありますから、此の點に付ての御所見を承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=60
-
061・芦田均
○芦田國務大臣 厚生行政の根本は必要に應じて配分する、能力相應に働くと云ふ趣意に副うて實行致して居る積りであります、其の他色々御話になりました學説に對しましては、私は十分研究致して居りませぬので、之を批判するだけの力はありませぬが、頗る有益な御説として傾聽致した次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=61
-
062・小山亮
○小山(亮)委員 本案を審議致しますに私は資料を要求したい、第一に「アメリカ」の勞働組合法及び「イギリス」の勞働組合法、斯う云ふやうなものを本案を審議致しますのに比較對照して檢討致したいと思ひますから、其の資料を御出し願ひたいのであります、是だけの法案を政府が御出しになるのに、少くとも「アメリカ」、「イギリス」等の勞働組合法位の資料を添へて御出しになる位の御親切があつて欲しいと思ひます、それ故に此の審議に當りましては、其の法案の資料として「アメリカ」の勞働組合法及び「イギリス」の勞働組合法の概要のものを御示しを願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=62
-
063・芦田均
○芦田國務大臣 「アメリカ」、「イギリス」だけで宜いですか、世界全般の必要はございませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=63
-
064・小山亮
○小山(亮)委員 私は手數を省く爲に言つたのであります、それだけの御用意があれば全部戴きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=64
-
065・芦田均
○芦田國務大臣 手數を省く爲めならば、議院圖書館にもございますから、若しどうしても手數を省かなければならぬと云ふことならば、今持つて來て御目に掛けますが、併しもう既に勞働法の質疑終結も迫つて居りますから、一々印刷して皆さんに御出しして居りますと、一寸時間を取りますから、何か便宜な方法を考へて戴く譯に行きませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=65
-
066・小山亮
○小山(亮)委員 厚生大臣の只今の御言葉は、見たかつたら圖書館に行つて見たら宜しいと云ふ風に解釋して宜いのでありますか、如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=66
-
067・芦田均
○芦田國務大臣 私が申しましたのは、若し今必要でおありになれば、圖書館からでも取つて來てお目に掛けますが、それとも一々印刷してお配りするのでせうかと言つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=67
-
068・小山亮
○小山(亮)委員 だからこそ私が言つて居る、世界中のものを持つて來いと言つては御迷惑だらうと思ひますから、差當つて「イギリス」、「アメリカ」位の概要のものを「プリント」にしてお出し願ひたい、斯う云ふことを言つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=68
-
069・芦田均
○芦田國務大臣 此處に飜譯したものがありますから、今早速お目に掛けても結構ですけれども、之を皆さんに配付するだけの部數が殘つて居るかどうか、それが分らなかつたので……午後三時頃には配付出來ますさうであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=69
-
070・小山亮
○小山(亮)委員 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=70
-
071・添田敬一郎
○添田委員長 一寸御相談致しますが、商工大臣が今見えて居ります、小林君如何ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=71
-
072・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 第五に前段申述べました當然の結果として低賃金、低利潤の原則に付てであります、本會議でも屡屡議論になりましたが、日本の産業のあり方であります、第一公式として資本主義の時には高能率低賃金、さうして人手を少くし利潤を多くし、多量生産をする、斯う云ふ方式で行つたことは間違ひないと思ひます、然るに第二公式では、「アメリカ」の「ニュー・ディール」であります、高能率高賃金で人手を少くし、利潤を多くして多量生産をすると云ふのでありますから、どうしても是は市場を擴張する爲に侵略的にならざるを得ない、所が先程から私申しましたが、此の限られた資材資源を以てする日本の産業のあり方は、第三公式で行かなくてはならないと信じます、即ち低賃金、高能率で多數の人が就業出來るやうに、さうして利潤を少くする、低利潤、さうして多量生産、斯う云ふことにならなければならぬと思ひます、日本の將來の産業の行き方は、勞資一體、即ち賃金を安くして成べく澤山の人が就業出來るやうに、資本家も利潤を最小限度で我慢をする、低利潤と云ふことで行かなくちやいかぬと私は思ふのでありますが、之に對する兩大臣の御所見を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=72
-
073・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 私共は其の主義として高賃金、高能率と云ふか、或は低賃金、低利潤と云ふか、さう云ふことを主義的に決めるよりも、實情に即して決める方が宜しいのぢやないかと云ふ風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=73
-
074・芦田均
○芦田国務大臣 商工大臣の答辯した通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=74
-
075・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 御答へにならないと思ひますね、日本では何處までも低賃金で行かう、「ニュー・ディール」では高賃金で行かう、社會黨の諸君も高賃金で行かう、是では追駈つこになつてしまひます、私は資本主義とは違つた意味で低賃金、隨て日本人の生活費の實質を低下させぬやうには努力すべきも、如何樣にしても生活費を引下げなければならぬ、同時に資本の利潤をも引下げると云ふ方針で行かなければ、どうして一體日本産業の再建が出來るのですか、私は一寸そこの所をはつきりして置いた方が宜いと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=75
-
076・芦田均
○芦田國務大臣 御答へ致します、高賃金、短時間勞働、高能率と云ふことは、「アメリカ」方面では頻りに主張されて來たのであります、殊に勞働過剩になる虞のある今日、そして生活費の益益昂騰せんとする今日、必要に應じては短時間勞働にすることが望ましい場合が多いと思ひます、又物價騰貴の趨勢の甚だしい時でありますから、此の時代に低賃金を實行すると云ふことも相當實情に副はない點があると思ひます、が最も我々が注意すべきことは、能率の點だと思ひます、短時間勞働、高賃金であつても、高能率と云ふ條件が伴はない場合には、日本の産業は結局破綻に陷ることはないか、隨て高能率の項目が能く實行出來ると云ふ見据ヱが付けば、短時間勞働と同時に高賃金を支出しても、日本の産業はやつて行ける、其の點をどうするか、斯う云ふことが今日我々の當面して居る重大な問題になつて居ると、斯樣に私は考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=76
-
077・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 一般論は是で止めまして、本法に即した御質問を二、三申上げて私は質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=77
-
078・添田敬一郎
○添田委員長 大分時間が過ぎましたので、是で休憩に致します、午後は本會議の劈頭、戰災復興の決議案が出るさうでありますから、其の決議案の終了次第、此の委員會を再開致します、休憩致します
午後零時十二分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=78
-
079・会議録情報2
――――◇―――――
午後二時四十一分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=79
-
080・添田敬一郎
○添田委員長 開會を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=80
-
081・高橋庸彌
○高橋政府委員 昨日信正委員から御尋ねがありました現在に於ける本法の適用の對象となるべき人の數と云ふ御尋ねでございましたが、此の目的の爲に正確な調べのないのを遺憾と致しますが、終戰時に於ける有業者の概數から推定致しました極く概數を申上げることに依つて御諒承を戴きたいと思ひます、大體終戰時に於ける有業者の數が全國で三千萬人、斯う推定されました、其の中千五百萬人が農業竝に水産業に從事するものと見て居ります、殘りの千五百萬人が鑛業、それから工業、それから商業、交通業、公務、自由業、家事其の他と云ふやうなもので、之を合せて殘りの千五百萬となります、只今申しました殘りの千五百萬の中には、使用者竝に其の利益を代表する者、獨立營業者、それから失業者其の他が約七百萬居りまして、殘りの八百萬と云ふものが、大體本法の適用を受くべき對象である、斯う云ふやうに推定して居ります、結論は約八百萬でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=81
-
082・信正義雄
○信正委員 此の際正確な數字が分り得ないと云ふことに付きましては、私も無理からぬことと存じまして、了承致す次第であります、私の推定する所に依りますと、只今の御言葉にありまする數字は相當少きに失するのではないか、斯樣に存じて居ります、日本の國民の中の農業者を除いて、其の他の國民中働き得る者の凡そ、七、八割は本法の對象になる人員に相當するのではないか、私は斯樣に存じて居ります、若し私の推定する程に達しないと致しましても、只今政府の御答辯中にありました數字だけだと致しましても、活動し得る人の中の相當數を占めて居りますから、先刻も質問致しました通りに、私は將來に於て事實上是が日本國民組織の基盤たる運命を擔つて居るものだと、斯樣に信ずる、それで其の心を以て指導のことに付て考へて行かなければならぬのではないかと存じて居りまする次第であります、是だけを申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=82
-
083・添田敬一郎
○添田委員長 小林君、午前に引續いて願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=83
-
084・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 法案自體に關する質問に移ります、第一に勞働管理の責任はどちらに此の法律に於てはなるのでありませうか、生産責任者は使用者だと思ひますが、此の法律が出來ますと、其の管理は勞働組合の幹部に移るのでありませうか、此の點に對する御所見を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=84
-
085・芦田均
○芦田國務大臣 勞働管理の責任はやはり使用者であります、さうして其の管理事務の主任省は厚生省になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=85
-
086・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 さうしますと勞働者の任免を掌る人事權、是も勿論使用者側にあるのでありますか、其の點如何ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=86
-
087・芦田均
○芦田國務大臣 勞働協約を結ぶ場合には、協約の定め方如何に依つて勞働組合の意見を徴することは出來ます、さう云ふ自由は認めてある譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=87
-
088・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 第二點として、勞働者の規律の維持、訓練、教育と云ふやうなものは、やはり使用者側で從來通りやると云ふことになるのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=88
-
089・芦田均
○芦田國務大臣 從來通りと申しますと、戰爭中の意味ですか――協約に書いたもの以外は場合に依つて勞働組合が教育施設をすることもありますし、或は使用者が特に其の工場附屬の教育機關を設けることも出來ます、其の邊の所は餘り窮屈に考へないで、其の場所、其の時に應じて適當な施設を執ることが出來る、極めて自由な立場にある譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=89
-
090・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 第三點、組合員の資格に付てであります、只今頂戴致しました資料に依りますと、組合員の資格が英國及び佛國では規定ございますが、米國では何にも書いてございませぬ、日本では資格には何にも觸れて居りませぬが、之に付ては別な命令か何かに出る譯でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=90
-
091・高橋庸彌
○高橋政府委員 立法の際に英國のやうに年齡の制限等を如何にすべきかと云ふことを委員會に於きましても考へ、又政府當局としても考へて見た譯でありますが、此の邊は全部自由にして置いて、意思決定、法律行爲等の未成年者に對する補充、親權者其の他の補充は、民法其の他の既存の法規に依り、本法としては自由にする、何等制限を置かないのが適當であると云ふ結論に達しまして、敢て何等の制限を置かなかつた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=91
-
092・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 何にも制限がないとなりますと、生産の責任は生産者側にある、何等資格のない者が或る一定の標準の勞働條件で入つて來る、是は今進駐軍に對して勞働供給をやつて居る状況を見ますと、最低賃金が十圓なら十圓を拂ふ、所が殆ど一人前の者は來て居りませぬ、精々青年學校生徒か、甚だしきに至つては子供が行つて居りますが、是から先の産業經營に當つて、組合がさう云ふ組合員の資格、技能等に付て、もう少し責任を持つて呉れなければ、所期の作業能率を上げることが出來なくなるのではないか、斯う云ふ風に考へられますが、其の點に付てはどつちが一體責任を負ふのでせうか、使用者側で勝手にこんな者は駄目だと言つては爭議になる、それから向ふから出て來た者が資格に合はない、其の技能とか、能率とか、勤務振りとか、規律とか云ふものに對して、勞働組合が義務責任を負擔して呉れなかつたら、どうも日本の經濟の興隆に寄與すると云ふ譯に行かない、却て本法が出來ました爲に、日本の經濟の興隆を阻碍されると云ふ結果になるのではないだらうか、其の點に對する御所見を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=92
-
093・高橋庸彌
○高橋政府委員 御尤もの點と存じます、本法自體に御話のやうな點は決めなかつたのでございますけれども、さう云ふ風な點は勞働協約に、工員の訓練教養、能率の向上と云ふ風なことを組合々々で決めまして、さうして組合側もさう云ふやうなことに付て誠意を以て努力すると云ふ風なことは決められんことを期待して居るものであります、過去に於ける勞働協約にも、さう云ふ風な事例が相當多かつたやうに承知して居ります、斯う云ふ風な困難の時に、經濟復興を緊急の必要とする時は、尚更さう云ふ風な責任を組合側に於ても持つて、さうして産業の興隆に貢獻して行くやうに致して行きたいと念願して居るやうな次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=93
-
094・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 それはどう云ふ方法で此の點を締めて戴くか、出來るならば私は勞働基本法と云ふやうなものが出來まして、先に私多少抽象に亙つたか知りませぬが、基本法――勞働は國家に對する最高の義務であると云つたやうな根本理念をはつきりして、此のだらけ切つた今日の生産意欲と申しますか、勤勞意欲と云ふものを引締めて行くと云ふことでなかつたならば、軍隊のなくなつた今日、一體日本人を「フイリッピン」人にしてしまふのかどうか、今日相當訓練を受けた者ですらも、殆ど締りと云ふものがございませぬ、職權を以て帶劍をして居る警察官ですらも、朝鮮人の暴れるのすら取締ることが出來ない、斯ふ云ふことで、どうして一體産業を囘復し、國家の再建なんか出來ませうか、非常に殘念に思つて居ります、あなた方は規則を作つてさうして國家が監督する、斯う言へば出來るやうに御考へでありますが、此の終戰以來の地方あたりの官吏の自信を失つた態度と云ふものは、中央で想像出來ないと思ひます、でありますから、そこの所を是非根本的に考へて戴きたい、之を勞働者の組合と使用者側の勞働協約に一任すると云ふことでは、私は一寸不足だと思ひます、出來るならば勿論準則のやうなものが御出來になるのでありませうが、進んで軍紀軍律にも當るべき勞働基本法と云ふやうなものの御制定を急がれんことを希望致します
第四點は、組合代表者の資格に付て伺ひます、法第十條を拜見致しますと、「勞働組合の代表者又は勞働組合の委任を受けたる者は」云々と勞働協約の所謂團體交渉權が是に規定してございますが、其の資格、詰り勞働組合指導者の資格に付て何等制限がございませぬ、從來は語弊があるか知りませぬが、所謂勞働「ブローカー」がある、一遍も「ハンマー」を振つたこともなし、勞働の經驗も持たず、實情に即して居らない、全く産業の實情に通じない所の者が、一つの觀念論で以て突當つて來る、使用者側に交渉して來ると云ふことで、實情に副はざる所の協約が出來るのではないかと云ふ風に考へられるが、一體是等に付ては其の必要はないと御認めになりませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=94
-
095・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御質問は所謂勞働「ブローカー」と稱するものが跋扈して困ることはないか、斯う云ふことに歸すると思ふのであります、其の點は本會議に於ても質問がありまして、一應私から答辯を致した譯でありますが、無論仲介の任に當る者の中に惡質の者があつたと云ふ過去の事實はありますけれども、反對に、極めて誠實に熱心に勞働者の代表として勞働協約締結の任に當つたのもあります、問題は惡質の者が出ては困るではないかと云ふやうなことでありますが、さう云ふ者は段々勞働階級の知識、判斷が向上し、社會の制裁が嚴重に行はれることになれば、到底存在し得ないものになると思ひます、隨て極めて勞働者側に信頼の厚い代表者をも排斥すると云ふやうな立法をすることは、角を矯めて牛を殺さんとする弊に陷り易い、左樣に考へて、特に資格等の問題を此の法文の中に掲げなかつた理由であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=95
-
096・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 了承致しました、第五點は公共事業從事員のことであります、第四條の二項に「前項に規定するものの外官吏、待遇官吏及公吏其の他國又は公共團體に使用せらるる者に關しては本法の適用に付」云々と云ふことがございますが、是は本會議で慥か御答辯になつたやうに思ひますけれども、もう一度御示し願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=96
-
097・高橋庸彌
○高橋政府委員 今事務當局と致しまして、御尋ねの命令案の頭に描いて居るものを申上げて御質問に代へたいと思ひます、大體の要點は、同盟罷業其の他の爭議行爲の點と、それから政治運動の點の二點が、先つ重要な點ではないかと思ひます、前段の點に付きましては、二つの點を大體考へて居ります、其の一つの點は、調停若しくは仲裁に付することなくして、而も付して或る成案が加はることなしに、出し拔けに爭議行爲に出てはいけないと云ふことが第一點、さうして又「ストライキ」等の爭議行爲が起らんとし、又は起つた場合に於ては、行政官廳は之に對して必要なる場合は中止命令、其の他の必要な命令が出せると云ふこと、此の二つになつて居ります、政治運動に付きましては、勞働委員會の決議に依つて、行政官廳で禁止、又は制限をすることが出來ると云ふ風な命令を置きたい、大體こんな風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=97
-
098・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 只今のやうな御趣旨でありますと、「官吏、待遇官吏及公吏其の他國又は公共團體に使用せらるる者」と、者の方から規定して居りますが、其の特例は事業に屬するからだ、斯う云ふ特別な「別段の定を爲すことを得」と云ふことは、公共性から來て居るやうに思ひますが、果してさうだとするならば、如何でありませうか、東京都の都電の交通組合の爭議の如きは、之に當るやうに思ひます、但しそれと、現に今やつて居ります京成電軍の爭議と、何處が違ふか、違はぬやうに思ふのです、若し違はぬとするならば、此處の所にもう一つ御入れになつて、「國、又は公共團體に使用せらるる者」、の次に「又は公共事業に從事する者」、として交通事業とか、水道とか、瓦斯とか公共事業に從事する者をも包含するやうに一句を御加へになつた方が、今の御趣旨が通るやうに思ひますが、如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=98
-
099・高橋庸彌
○高橋政府委員 洵に御尤もの御説であります、現行法の爭議調停法と云ふ法律がございますが、此の調停法の規定に依りますと、只今御述べになりましたやうな京成電車と云ふ風な公共事業に付ては、或る程度の行政調停の規定がございます、現行法としては之に依りまして爭議の調停を致したいと存じて居ります、尚ほ現行の爭議調停法だけでは、只今御述べになりましたやうな、都電と京成電車と云ふ私鐵との本質上の差異がないに拘らず、本法の四條の命令と相徑庭があるやうに思ひます、御述べの通り不合理だと存じます、隨て近き將來に、出來ましたならば此の次の議會に爭議調停法の改正案を、只今御述べになりました趣旨に基いて提案致しまして、御協贊を得たい、斯う云ふ風に存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=99
-
100・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 御趣旨は御同意のやうでありますが、法文の體裁から言ひますと、此の項はさう云ふ風に御訂正になつた方が宜くはありませぬか、御考慮を煩はして御研究を願ひます
第六に、京成電車の爭議に付て御尋ね致します、京成電軍の爭議の如き、新聞には片鱗だけ出て居るやうですが、突如として罷業をやつて、新手段を用ひて居る、即ち怠業をやつて、只乘をさせる、さうして民衆から爭議團が反感を受けることを防いで居るやうな話でありますが、只今新井政務次官の御話に依りますと、只乘させるのもあるけれども、實は切符はどんどん料金を取りまして、さうして自分達で給料を勝手に拂つて居ると云ふ事實もあるさうでありますが、斯くの如きものは一體どう云ふ風に御取締になりますか、此の公共性に鑑みまして、具體的にさう云ふものはどう云ふ風に御取扱になるのかと云ふことを、ざつくばらんに大臣から御示しを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=100
-
101・芦田均
○芦田國務大臣 其の場合は刑法の規定の適用があると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=101
-
102・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 刑法の適用になりますかな、どうも折角斯う云ふ法律が出來て、爭議調停法も出來、組合法も出來て、それで刑法と云ふことではどうでせうか、さう云ふことをなからしむる爲に、此の立法の必要があるぢやありませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=102
-
103・芦田均
○芦田國務大臣 御説の通り成べく爭議を未然に防ぎたい、爭議のあつた場合は、成べく圓滑に之を終了させたいと云ふのが勞働爭議調停法竝に勞働組合法の精神であります、併しながら爭議行爲が其の度を越えて、或は暴行、脅迫に亙り、或は騷擾罪に亙り、若しくは横領になり、委託金消費になると云ふ場合には、必然其の法規の適用を受けるのが當然でありまして、各國とも左樣にして居ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=103
-
104・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 さう仰せになればそれで話は濟むのでありますが、さうならぬやうに、尚ほ一段の御工夫が願ひたいと思ひます
次に第七點は工場委員會と本組合との關係であります、第五條に依りますと、「勞働組合の代表者は組合設立の日より」云々と云ふ登記規定がございます、「規約竝に役員の氏名」云々と云ふのがございます、さうしますと、此の役員と使用者側の代表者と一定の時期に始終會議をすると云ふやうなことは、爭議を未然に防ぐに非常に良い方法になると考へます、世に所謂工場委員會、「ショップ・コミティー」と云ふ風に致しますことが、産業平和の上に幾多の貢獻をなしたことは、御承知の通りであらうと思ひます、まだ實際の所日本の大部分の勞働者は、團體交渉權と云ふことすらも知らないのであります、恐らく知りませぬ、ですからやはりさう云ふ使用者側と、組合の顏役、幹部と、始終話合ふ機會があれば、意思が疏通致します、丁度政府の當局者と人民の代表者とが、斯樣な機會に於て始終質問應答することに依つて、國政が圓滿に運營されて行くと同じやうな形で、勞働者が直接經營に參加しなくても、さう云ふ代表者と使用者側の幹部と、始終委員會で顏を合せると云ふことが、工場立憲制の具現であつて、非常に必要なやうに考へまするが、政府ではどう云ふ風に御考へでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=104
-
105・高橋庸彌
○高橋政府委員 御尋ねのやうに、使用者の側の者と、勞働者の側の者とが相寄つて色々相談すると云ふことは、洵に望ましいことと存じます、本邦に於ても勞働組合の盛んでありし頃には、さう云ふ風な事例も多々あつたやうに存じます、本法に於きましても、それを希望して居る譯であります、其の一つの現はれと致しまして、二十二條に「當該勞働協約に依り規準決定の爲設置せられたる機關の存するときは其の定めたる規準を含む」、斯う云ふ風な括弧書がありますが、此の括弧書のある所以も亦、さう云ふもののあることを希望し、あつた場合には斯うする、斯う云ふ風なこともあります、洵に御意見の通り望ましいことと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=105
-
106・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 第八に價値の安定せる賃金支給の必要に付てであります、賃金は始終物價と竝行しなければ、其の意味を成さぬことは申すまでもございませぬ、そこで物價の昂騰と云ふことと、賃金と云ふことと竝行するやうに、所謂「スライヂング・スケール」と云ふやうな方法を採ることが必要だと思ひますが、是はやはり勞働協約に御任せになる積りでありませうか、是から政府がどんなに御盡力になりましても、「インフレーション」の進行が殆ど避け難いやうに考へられます、さうすると始終爭議を繰返さなければならない、それを「スライヂング・スケール」にして置けば、爭議を避けることが出來るやうに考へますが、其の點はどうでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=106
-
107・芦田均
○芦田國務大臣 只今小林君の御意見の通り、「スライヂング・スケール」を採用することは、各國の立法例等にもある例でありまして、極めて公平な適當な案であると思ひます、之を勞働協約の中に定めることも望ましいと思ひますが、現在まだ勞働契約等の制度が、普遍的に行はれて居りませぬ關係から、或る場合には政府に於て一定の基準を示すことも有益かと思ひます、又實際問題として、現在の生活費の一定の基準を取ることが、非常に困難な状態にあります、それは小林君も御承知の通りであります、斯う云ふ際に都市及び地方に依り非常な生活費の差が出て居ります、又其の高低の變化が非常に激しいのであります、米一升の闇相場にしましても、所に依り、時に依り非常な變動がありますが、斯う云ふ際に果して確實な生計費の計算が出來るかどうか、、まだ確實に生計費の統計を握つて行くだけの政府の施設が出來て居らぬと思ひます、無論それは將來やらなければならぬことと思ひますが、今直ぐに之を實行することが困難があるやうに考へられるのであります、併しながら御話の「スライヂング・スケール」の案は、非常に進歩的な公平な案と思ひますから、此の方法の採用に付ては、十分研究して、出來れば實行に移したい、斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=107
-
108・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 それから第九點は株主たる勞働者に付てであります、此の案に依りますと、使用者又は其の利益を代表すと認むべき者の參加を許すものは、本法に於ける勞働組合とならない、斯う云ふことになりますが、會社の職員なり勞働者なりに株主が居る、斯う云ふやうな場合があるのでありますが、それは差支へございませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=108
-
109・芦田均
○芦田國務大臣 株主と云ふだけでは直ぐそれが使用者の代表と見ることは、無理があるのではないかと思ひます、例へば全從業員が一株づつ持つて居る、或は二株づつ持つて居ると云ふ例もあります、隨てやはり同じ株主でありましても、其の株主の中の或る職員は使用者を代表すると見らるべきものもあり、又或る株主は全然從業員と看做さるべきものもあると思ひますから、個々の場合に具體的に見て、之を決定することが正しいのであつて、株主であるかどうかと云ふだけの基準では、其の點は必ずしも實情にそぐはないのぢやないかと考へられます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=109
-
110・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 さうすると斯う云ふことが惡質な資本家ではあり得ると思ふのであります、組合の中にさくらを入れると申しますか、株の一部を與へて、さうして買收をしたやうな形で、其の組合の中に入れて置くと云ふやうなことがあり得ると思ひます、從來はさう云ふ手で屡屡組合の内部を攪亂されたと云ふ例は多々あるのであります、鐵道などでは雇員、傭員は組合を作つても宜しいと云ふことになりますと、其の中で頗る元氣の好い「リーダー」になる人を、直ちに資格を變更して官吏にして組合の代表者たる資格をなくしてしまふ、斯う云つたやうなことが、私は必ず行はれると思ふ、さう云ふやうな點に付きましては、此の勞働組合内部の自肅に任せて御置きになる、斯う云ふ大體御見込でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=110
-
111・芦田均
○芦田國務大臣 無論自肅に俟つことは非常に結構であります、又さうであるべきだと思ひます、併しそれがどうしても解決が付かない場合には、やはり勞働委員會が仲介に出まして、勞働委員會の決定に俟つ、其の決定の場合、例へば斯樣な使用主の代表者と認められるものが入り込んで頬被りをして居るやうな場合は、之を果して適法な勞働組合と認めるかどうかと云ふ最後の決定は、裁判所で之をすることになつて居りますから、救濟の途は十分開かれて居ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=111
-
112・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=112
-
113・添田敬一郎
○添田委員長 山崎君、商工大臣が見えましたから、あなたの留保してある點を一つ御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=113
-
114・山崎常吉
○山崎(常)委員 私が商工大臣に御尋ねせんとする所は頗る簡單でございますが、唯我が國の是からの商工行政に付き、又食糧問題の解決に付きましても、重大意義を持つものでございますから、商工大臣の所見を御伺ひしたいと思ふのでございます、先づ第一に申上げるまでもなく御承知のやうに、街路上到る處に充滿して居ります所のあの闇市場を商工大臣は御見學なさつたことがあると思ひます、あの闇市場の解決を一體どう云ふ工合に御考へになつて居るか、此の點を一應先づ以て御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=114
-
115・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 闇市場が出て居りますることに付て、私共は政府の行政がまだ力が足らぬと云ふことを實は感じて居るものであります、此の闇市場をなくする爲には、やはりもつと配給が圓滑に行はれ、物資が多く出廻らなければならぬと云ふやうに考へて居るのでありますが、終戰後に於ける各方面の立上り方が少し後れて居つて、十分物資が出廻らない、又當業者も非常に生産をやらないと云ふ所から、ああ云ふ市場が生れて來て居るのではないか、是はやはり我々の行政力をもつと十分にやらなければいかぬと云ふ風に考へて居るのであります、唯問題はやはり價格とか統制とか云ふものがあります、統制は出來るだけ其の枠を外したいと云ふ考へで居りますが、聯合軍司令部からの命令の次第もありまして、まだ全部の枠を取外す所の諒解を取付けるに至りませぬ、又價格等も山崎君も御承知のやうに、何十萬も價格があると云ふことは、實は價格がないと大體私は同樣だと思ふのであります、何故かと云ふと、其の實情に即して價格をどんどん變へて行くと云ふことは、價格を一つ變へるのでも、どう云ふ資材がどうなつて、どう云ふ條件がどうだ、だから變へるのだと云ふことで委員會を開いてやらなければならぬ、何十萬もあるのだから、委員會を開いてやるなどと云ふことは、それは不可能なんです、さう云ふことをやつては半年も一年も掛る、假に價格を變へても、官報に一々載せるだけでも、一年も半年も掛る、隨て實情に副つて居らない、然らば何故即刻さう云ふことをやらないか、斯う云ふ御質問だと思ひます、私共は聯合軍司令部に對して、是等に付て折角諒解を求めつつあるのでありますが、只今の所まだ諒解を取付けるに至つて居りませぬ、隨ひまして左樣に考へて居りますが、實行致し兼ねて居る次第であります、斯う云ふことが漸時改善されて參りますれば、品物が澤山出廻ることにもなり、又生産業者の勵みも出て來まして、ああ云ふ闇市場と云ふものは、其の點から實際上の必要がなくなつて來るだらうと思ひます、只今闇市場が出來て居ることは、今申上げたやうな事情で、是はやはり政府の行政力の不足だ、率直に申せばさう考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=115
-
116・山崎常吉
○山崎(常)委員 商工大臣は率直に行政力の不足だと申しましたが、確かに其の通りであります、それかと云つて、一應あの闇市場の整理の爲に何かの手を打たないことには、國民は生活出來ませぬ、闇をして又闇と云ふやうな工合に、闇から闇を辿つて居りまして、洵に見苦しい共食ひなんです、過日の新聞でも書かれて居りますやうに、實にひどい闇値段である、日本の政府が之を此の儘に捨て置くならば、「マッカーサー」の方では之に斷乎と手を入れると云ふやうな新聞記事も出て居りますが、總てのことが後手々々になつて居ると私は思ひます、其の點で今商工大臣の御答へに依りますれば、殆ど施す術がないと云ふやうな御答辯のやうに承ります、是では國民は困ります、商工大臣が左樣な言を吐かれては、一體是からどうなるかと云ふことになりはせぬかと思ふ、何かの手を打つと云ふ方針があるかどうかと云ふことを、重ねて承つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=116
-
117・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 闇市場の發生をどう見て居るかと云ふことでございましたから、ああ云ふ風に御答辯致したのでありますが、政府と致しまして施策すべきことは施策を致して居るのであります、言葉を換へて申しますと、優良品を多量に製造すると云ふことに付て、資材の割當等も其の工場に出しまして、優良品が出廻るやうに努力致して居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=117
-
118・山崎常吉
○山崎(常)委員 其の是正の方法をどう云ふ風に講じておいでになるか、是は私具體的に承りたいと思ひます、唯抽象的でなく、斯う云ふ方針で斯う云ふ手を打ちつつあるのだ、どう云ふことが執られて居るのか、私の方も具體的に申上げますが、ああ云ふものを路上に於て無盡藏に許すと云ふ闇市場の形體は、實に恥の上の恥です、あれに對する手を先づ打たなければならないと云ふ氣が致しますが、商工大臣の方で何かそれに對する具體的の方針を考へて居られますれば、それを承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=118
-
119・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 今申上げた通り、商工省の方では優良品を作る者の方に資材を餘計振向けて、優良品を多數出すことに依つて、ああ云ふ闇市場をなくしたいと考へて居ります、具體的に言へば、例へば電熱器であります、電熱器一つにしても、闇市場に電熱器が色々現はれて居りますが、商工省の方に於きましては、電熱器の規格を決めて、又之に商工省の「レッテル」を貼つて優良品を出すことに努力して居ります、是は能く御承知のことと存じます、さう云ふ方法以外に、それでは闇を皆なくしてしまふのも宜い方法かも知れませぬが、それが出來るかどうかと云ふと、今品物がまだ出廻はらぬ時に、さう云ふ風に闇市場をなくしてしまふことが宜いかどうかに付ては、私共まだ少し考へる餘地があるのではないか、そこで私共出來るだけ優良な品物を出して、それに依つて此の闇市場と云ふものをなくするやうに持つて行きたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=119
-
120・小林鐵太郎
○小林(鐵)委員 一寸關聯して――只今の闇市場の問題に付きまして、一つの案と致しましては、市町村長に經濟警察權を與へることが考へられると思ひます、私は地方の市長を致して居りまして、熟熟それを感じて居ります、外國では御承知の通り市長がさう云ふ警察權を持つて居りますのに、日本ではそれがないものですから、向ふから進駐した部隊長は、よくそれを聽きます、なぜ君は警察權を發動しないかと聽かれます、そこで遺憾ながら斯う云ふ事情であると説明して居りますが、此の間十二月五日附東京新聞に、小田原市に於ては虚脱の市民へ自治の活を入れて配給品が四倍になつた、市長が警察權を持つて居る、斯う云ふ記事が出ましたから、私は五日の日に議會を一日休みまして、小田原に行つて實情を聽いて參りました、小田原の市長は前代議士鈴木英雄氏であります、どう云ふ状況だつたかと申しますと、進駐軍が參りまして丁度三週間目に十月二十日午後二時米進駐軍の部隊長「ヒュース」大尉は「コウイ」憲兵中尉「ネルソン」副官を同伴して、市役所に正式訪問して魚類、蔬菜類の横流闇取引取締の勵行に依る市民生活の明朗化を指示したのであります、そして曰く私共が此處に進駐して來てから三週間になるが、どうも市民の顏が非常に暗い、さうして殆ど食糧を漁るに汲々として居る状態で、是は進駐の目的に反すると思ふ、何とかして此の市民の生活を明るくしてやりたいと思ふから、試みに私の責任に於て市長に經濟に關する警察權を與へるから、どうか思ふ通りにやつて貰ひたい、斯う云ふ話であつたさうであります、私は聽きました、それぢや何か書いたものでも持つて來ましたか、いや口頭です、口頭でありましたが、自分の考へて居つたことと一致しましたから、之を受諾致しました、多分神奈川縣廳ではびつくりしたことでせうが――さうして市中の指導者――市會議員、町内會長、商工經濟會の役員、統制會の役員、さう云ふ人を集めまして愈愈市長が經濟警察を實行する、さうして「エム・ピー」米軍憲兵隊が市長に協力する旨を附加へて置いた、だからどうかあなた方は闇をやらないやうに御願ひしたい、先づ第一に、市外に野菜物若しくは生鮮魚の買出に行かぬことにして貰ひたい、斯う云ふことを嚴重に申渡しました、尚ほ附加へまして、闇は自殺行爲である、高く賣つても生活品が高くなれば結局同じことなんだから、此の際「インフレ」を防止する意味に於て、お互ひに犧牲を忍び合はなければならない、成べく金の掛らないやうに、犧牲を忍び合ひませう、斯う云ふ市民生活確立に關する申合せをした、所が二日程は配給品が十分に間に合はなかつたものですから、市長に對しての囂々たる非難があつたさうです、所が市當局は是れと同時に手を打ちまして、市外町村の農業會、水産團體に呼掛けまして、大量に品物を獲得しまして市民に配付をした、是が爲に其の結果は毎日附近の横濱、横須賀、熱海等の市に公報で以て、聞合せて居る、此の通りですと表を見せられました、私は今日其の表を持つて參りませぬでしたが、大凡分量に於て四倍、丁度私が參りました其の日現在の各都市一人當りの魚は一匁何ぼしかありませぬでしたが、小田原では一人一日當り五十匁以上もありました、さうして價格は例へば烏賊に例を取つて見ると、各周邊の都市に於ては一貫目でせうか、百匁でせうか一寸單位を知りませぬが、兎に角二十八圓乃至三十五圓である、所が小田原に於ては八圓幾ら、丁度三分の一位にしか當りませぬ、それから鰮は斯うである、大根は斯うであると、詳しい統計を見せて呉れました、それらの例を考へて見ましても、やはり只今商工大臣は日本の行政力の稀薄であることを率直に御自白になりましたが、今の程度でも市町村、詰り國民生活に最も直接關係のある、又信頼を持つて居ります、市町村當局に經濟取締のやうな市民生活と密接な關係のある警察權を授與すると云ふことは、今の政府の建前、今の警察の建前で出來ることなのでありますから、斯う云ふ手を試みに一つ打たれたらどうか、小田原は進駐軍から授けられたのでありますが、此處に市長をやつて居る代議士だけでも十五人居りますが、さう云ふ人々にだけでも、闇を撲滅する爲に警察權をせめて與へて戴きたいと思ひますが、御意見を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=120
-
121・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 大變示唆に富む御話でありまして、可なり實情に副ふ場合が多いと思ひます、但し地方自治體に警察權の一部を與へるかどうか、或は「アメリカ」等の如き地方自治體に警察權を與へて居る所のやうにするかどうかと云ふことになりますと、日本の警察行政の根本に觸れる問題でありますので、内務大臣も大分考へて居られるやうでありますが、まだ結論に達して居らぬと云ふのが實情だらうと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=121
-
122・山崎常吉
○山崎(常)委員 次に御尋ね致したいのは、中小商工業の問題であります、商工大臣御存知だと思ひますが、最近東京を中心と致しまして、各縣下に中小商工業者が、我々の將來は一體どうなるのだと云ふやうな工合に、闇に迷つて居ります、此の中小商工業者が軈て商工大臣の所へ陳情に來るだらうと私は見て居りますが、さう云ふ問題が東京を中心と致しまして、全國的に起つて居ります、實際どうして宜いのかさつぱり方針が付いて居ない、それが街頭の闇の商人となり、或は其の中へ勞働者が又闇の商人となつて仕事を探して居る、斯う云ふ傾向もある、是は別と致しまして、中小商工業のことは根本方針を立てて戴かなければならぬぢやないか、之を考へるものです、それは私の考へて居る理由は、食糧問題の解決が高く取上げられて居ります、是は當然のことと思ひますが、將來食糧問題が我が國の農村に於て解決が出來るとは考へられない、茲で中小工業を盛んならしめ、手工業的の仕事をうんと興して貰つて、優良な輸出品を作ると云ふ方面の指導を與へて貰はなければいかぬのぢやないか、或は商人の方面も、中小工業が盛んになつて來れば、商人の部門も自づと茲に生れて參る、此の點に付きまして、食糧問題の解決ともなり、失業問題の解決ともなり、中小商工業に對する前途に光明を與へる根本の問題ともなりますので、是は是非商工大臣の前途に對する御考はどうであるかを御尋ね致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=122
-
123・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 山崎君が仰せの通りに、中小商工業は將來極めて大切なものであります、特に今山崎君が御指摘になつたやうに日本は如何に全力を盡して食糧政策をやりましても、復員或は海外から引揚げて來る者、及び自然に増加する人口を之を以て賄ふことは出來ませぬ、食糧が賄へないから其の不足分は何とかして輸入に俟たなければならぬ、輸入に俟つとすると、之に對する見返り物資が要るのであります、其の見返り物資と言へば、中小商工業の手に掛る各種の製品に負ふ所が多いのでありまして、特に山崎君の一の宮とか名古屋とか、あの附近はさう云ふ物資を作る、中小商工業者の手で澤山作つた所では、相當大きな生産額を擧げて居り、大きな働きをなして居るのであります、斯う云ふことは最も望ましいことであり、又今の賠償物資等、色々な關係がありまして、大體日本の將來のさう云ふ見返り物資の生産は、主として中小工業の手に俟たなければならぬと私は考へて居るのであります、隨ひまして中小商工業の維持育成には、全力を盡して之に當りたい、是が日本の將來の一つの行くべき大きな道である、斯樣に考へて居るのであります、或は協同組合を作るとか云ふ考へ方もありまするが、又資金其の他に付きましても、簡易な方法で融通し得るやうな途を講ずるとか、凡ゆる助成方法を執つて、中小商工業者の前途に光明を與へたい、斯樣に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=123
-
124・山崎常吉
○山崎(常)委員 此の問題に付きましては、商工大臣、大變熱意を持たれて居るやうな御答辯を伺ひまして、さう云ふことが現在迷つて居る中小商工業者の耳に入りますれば、非常に前途に明るみを感ずることになると思ひます、どうか此の中小商工業を盛んならしめて、我が國の將來の食糧解決の方面に向けて戴く、其の他色々之には理由がございますけれども、他の委員諸君の質問の邪魔になりますので、私は此の程度で打切りますが、どうか此の點は誠意を以て御研究下さいまして、前途に明るみを與へて下さいますことを切に御願ひします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=124
-
125・正木清
○正木委員 私も商工大臣に二、三點質問をして見たいと思ふのであります、只今同志の山崎君がえらく商工大臣を褒めたやうでありますが、私は只今の答辯では滿足致し兼ねます、と云ふのは今議會を通じて、本會議に於ても各種の委員會に於ても、私は大藏大臣竝に商工大臣から、日本の「インフレ」防止に對する根本方針、隨て現段階に於ける所の全國の勤勞階級が犇々と感じて居る賃金俸給に對する根本方針と云ふやうなものが、明確にされて居りませぬ、更に政府が「マッカーサー」司令部から原則的に三百萬「トン」の米穀の輸入の許可があつたと云ふことは、「ラジオ」、新聞、議會を通じて明かにはされて居りまするが、然らば其の三百萬「トン」の内、どれだけの總量の買付を許可になつたのか、又一體買付先は何處であるかと云ふことすら明確にはならぬのであります、同時に買付先が明確になりましたと致しましても、然らば見返り物資に於てはどうか、是は二十九日の本會議に於て商工大臣から一應六品目に對して三十億圓と云ふことだけは明かになりました、併しながらそれが果してどう云ふ順序で、どう云ふ方法で完全に出來るのかと云ふ具體的なことが明確にされて居らないのであります、隨て私が只今簡單に申上げました全體のことを綜合して見ますと、是は極端かも知れませぬが、殘念ながら終戰後に於ける日本の産業政策に對する基本方針とでも申しませうか、此の方針が政府に於て未だ完全と確立されて居ないのではないかと云ふ不安があるのであります、どうもあるやうな氣が致します、そこで「マッカーサー」の指令に依つて、財閥は一應解體を命ぜられました、昨日は更に其の財閥に所屬して居ります一切の重要な會社に對して、更に指令が發せられたやうであります、隨て日本に於ける各種の財界人、事業家等は、是等の急速な他力からの重壓に依つて、前途に對する見透しと云ふものを失つて居るのではないか、そこで縱んば政府に確乎たる指針がないとしても、大體是等の人々の見透しに對する指針だけでも與へることが、現在の生産意欲を昂める大きな「ポイント」になりはしないかと云ふことを考へるのであります、そこで此の點に付て先づ御伺ひしたい
それから第二に御伺ひしたいのは、只今同志の山崎君に終戦後に於ける日本の中小商工業者の果すべき役割と云ふものに付て、一應御話がございましたが、私も其の點に付ては同感であります、將來日本に於て果すべき所の中小商工業者の役割と云ふものは非常に大きいものである、然らば私はあなたに御伺ひしたい、其の大きな役割を果すべき所の中小商工業者に對する基本的な方針を立てて、政府はぐんぐん力強く指導して居るかどうかであります、と云ふのは、現在の中小商工業者が己れの事業を通じて前途に對して一つの指針を失ひ、現實に困つて居るものは何であるかと言へば是は大臣お分りの通り先づ第一に金融が完全に梗塞致して居ることであります、其の次には勞務が完全に梗塞状態に置かれて居ることであります、巷には失業者が充滿して居ります、併しながら偖て募集致します場合に勞働者が寄り集まつて來るかと云へば來て居りませぬ、第三には資材關係であります、資材の中にも色々な點がありませうが、取分け現在に於ては石炭其の他の燃料が完全に行詰つて居ります、君等の諸問題に對して、政府が敏速的確に物事を決めないで、大臣が唯單に抽象的に中小商工業者の戰後に於ける日本産業に於ける重大性を御説きになつても、私は問題は解決しないのではないかと思ふ、隨て此のことを一應明瞭にして貰ひたい
そこで第三にあなたに御伺ひすることは、過日の本會議であなたが全國民に堂々と聲明された見返り物資の六品目、此の三十億と云ふものが、政府の方で考へて居るやうに、手際好く一體果して生産されるかどうか、國民は花より團子であります、死んでしまつてからの三合よりも今の一勺を爭つて居ります、若し此の見返り物資に付て、「マッカーサー」が買入先を明かにし、而して其の總量を明かにした場合に於て、日本政府に於て此の六品目約三十億圓の纖維製品、化學製品、機械類、雜貨、是はあなたが議會に於て明かにした、是が順序好く計畫的に生産して行けなかつた場合には完全に行詰りはしないか、此の心配が多分にある譯であります
最後に御伺ひするのでありますが、是が非常に重大な關係を持ちますから、序に御伺ひします、過日の本會議であつたかと私は記憶して居るのであります
〔委員長退席、米田委員長代理著席〕
私の控へ帳を見ますと、商工大臣は石炭増産に對する大體の國家の方向を御示しになつたやうに記憶して居ります、所謂二十年度は五百萬「トン」、二十一年度は二千五百萬「トン」二十二年度は三千萬「トン」二十三年度は三千五百萬「トン」大體斯う云ふ數字を明かに御示しになつたやうに記憶致して居ります、さう致しますと、日本の一切の一口に言ふ生産に關聯する總ての基礎的原料の大宗を成す石炭と云ふものの國家生産目標が、二十三年度に於て三千五百萬「トン」と云ふことであるならば、此の三千五百萬「トン」と押へた此の基礎と、同時に今後日本が産業政策の面に於て、或は中小商工業の基本方針に於て、どう云ふ關聯性を持つて此の石炭の總「トン」數が現はれて來たのか、何かしら我々の目の前に政府が現はして參りますものは、一つ一つ切離れて出て來ます、或は聰明な優れた學者であるならば、之を總體的に呑込むことが出來るかも知れませぬが、不幸にして私には呑込めませぬ、恐らく多くの國民も非常な疑問を持つて居ると思ひます、隨て此の機會に一應斯う云ふ綜合的な見地に立つて、私も納得し又、國民も納得するやうな御答辯を願ひたい、以上であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=125
-
126・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 順序が少し違ふかも知れませぬが、御答辯申上げます、先づ見返り物資の點を申上げる爲に、食糧輸入事情を一寸申上げます、食糧輸入のことは原則として許可があつたことは、正木君御承知の通りであります、但しこちらとしては朝鮮より米を何石、滿洲より雜穀を何「トン」、臺灣より幾ら、或は「カナダ」より幾ら、「アメリカ」より幾ら、斯う云ふやうな工合に申込んで居るのでありますが、之に對してまだ正確な事柄が參つて居りませぬ、隨ひまして目下それ等に付て交渉中であります、向ふも日本の食糧事情は能く分つて居りますので、同情的でありますが、船繰とも相俟つ關係がありまして、只今の所では何處の地域からどれだけのものを入れる、私共の出して居るものには細かく計數が出してございますが、併しそれに付ての話はまだ纏まつて居りませぬ、併し是は一刻を爭ふ問題でありますので、日々其の方面に努力を致して居ります、尚ほ御承知の如く最近貿易廳も出來て、もう官制も決まりましたから、近く其の方面からももつと熱心に交渉を續けさせることに致しますが、併し貿易廳が出來る出來ぬに拘らず、是は今熱心に政府側としては、凡ゆる問題の中心點であると云ふ考へ方からして、先方に交渉を致して居ります、之に對する見返り物資として、先般私が一寸議會で申しました通り、手許にあるもので即時出し得るものは四億六七千萬圓位の物があります、併し來年度に於ては凡ゆるものを通じまして三十億見當のものを豫想致して居ります、但し其の中には來年の春、夏、秋等の繭から採れる生絲が含まれて居るのであります、それから若干棉花其の他を入れまして、之に依る製品も含まれて居りますが、國内で賄へるものが相當ありますので、是は私は責任を以て申上げるのでありますが、此の食糧を入れますだけの見返り物資は十分にございます、尚ほ一例を一寸申上げて見ますれば、あの終戰後特殊鋼と云つたやうなものが五六十萬「トン」あります、あれでも相當出し得るものがあるのでありますが、それはほんの僅かしか見込んで居りませぬ、正木君は北海道のことを御承知と思ひますが、あそこに亞麻がある、あれは國内で使ふのには勿體ないやうなものでありますが、あれから布を作りまして亞麻製品を「アメリカ」に出すと、以前は相當賣れたものであります、優良なるものでありますが、是は見込まれて居りませぬ、さう云ふものもあり、又今申上げたやうな特殊鋼に關するものもありますので、此の點だけは私が此處で三十億圓の見返り物資があるかと云ふことに對しましてはありますと云ふことだけははつきり申上げて置きます、此の點だけは御安心願つて宜いと存じます
それから中小工業のことを仰せになりましたが、是は洵に御尤もであります、併し日本の産業の行き方に付きましては、御承知の通り賠償物資がどうなるものか、どう云ふものを持つて行かれるのか、どの程度まで日本の産業基礎が殘されるのかと云ふ問題がはつきり致しませぬので、一應の方針は立てましても、的確なる指導方針が立てられなかつたことは、是は正木君御諒承願へるだらうと思ひます、幸ひに今度「ポーレー」大使が中間的にでありますが、ああ云ふことをはつきりされました、あれは隨分手嚴しいものでありまして、日本産業の全體から申しまして、洵に手嚴しいものであります、併しながらあれで分りますことは、日本人の最低生活を維持する爲の産業は殘すと云ふことでありまして、例へば鐵に付て申せば、あれでは日本の將來は迚もやつて行けませぬが、併し二百五十萬「トン」と云ふことを向ふから言つて居ります、あれは中間的のものでありますから、まだ決定的のものではありませぬ、隨ひまして今後一層能く日本の實情を諒解して貰ひ、日本産業に付て理解をして貰へば多少變更されることがあるのではないかと思ひまするが、併し私共と致しましては、あれで大體の輪廓が分りましたから、今後日本の産業をどう持つて行くかと云ふことが具體的に出來るのであります、只今までの所は、どれがどう持つて行かれるかと云ふことが分りませぬから、具體的にやれなかつたのであります、先づ國内の國民生活の安定とそれに必要なる物資を入れる爲の見返りの物を作る、斯う云ふ位しか大體の方針が置けなかつたのでありますが、あれに基きまして綜合的な對策が立ちますから、今後は綜合的産業對策を立てて、國民の御協力を求めたい、斯樣に考へて居る次第でありす
中小工業に付ては是は正木君が仰せの通りでありますが、併し私共も金融的措置に付ては、既に大藏省とも話濟みであります、唯石炭の如くに現實に此處に是だけのものが補修の爲に要る、是だけのものが復舊の爲に要ると云ふものには、金額で約三億圓の金を出しませうと云ふことになつて、大藏省と話が付いて現實に具體化されて居りますけれども、中小商工業の分は、正木君も御承知の通り小さいのでありますから、其の便宜を圖ると云ふことに意見が一致をして居りますが、個々の場合には、まだ十分でない點があらうと思ひます、併し資金上の援助は左樣にして參ることになつて居りますから、今後中小商工業者も金の面に付ての援助は得られることと私は信じて居り、又それが不自由になれば尚ほ一層努力することに致します
それから其の他に付きましては、或は業者の共同的なものをやつて行くと云ふことがいいんぢやないか、例へば共同して自動車を持つとか、共同して倉庫を持つとか、共同仕入をするとか云ふやうなことが、非常にいいんぢやないかと思つて、さう云ふ考へ方も私共は致して居り、此の次の議會にはさう云ふ法案を出すことにして一應の手配を了して居りますが、唯只今までの所まだ色々關係方面との聯關もありますので、此處で其の全貌を申上げるまでに至つて居りませぬ
それから石炭に付ての御話でございます、是は私共は當業者とも能く相談しまして、正木君も御承知のやうに、あれは價格を決めまするのに、今の價格で決めたのでは大變であります、今のやうな生産高を以て價格を決めたら、それは何百圓にも決めなければなりませぬと云ふこともありますので、價格を決めます關係上、責任を執れる數字を各炭礦業者に出させたのであります、其の責任を執れる數字に付ても、或は昔は六千萬「トン」も取れたのに何故此の二十三年度には三千五百萬「トン」なのかと云はれるかも知れませぬが、是が責任の執れる數字でありますので、私共は一應ああ云ふやうな案の下に八十五圓と決めたやうな次第であり、又それに基いて價格差補給金等も遞減して參り、二十四年度には全部價格一本で行けると云ふことに致して居る次第であります、唯石炭の状況は、是は正木君は非常に熱心に御心配下さつて、先般も色々御意見の御開陳があつて、私も大變感謝して居るのでありますが、北海道ではまだ米が行渡りませぬ、だから新潟から出しましたが、是が向ふへ行けば、少し事情が良くなるかと思ひますが、一日も早く良くなつて貰ふやうに衷心から祈つて居るのであります、他の地方は大變良くなつて參りました、一例を擧げて申しますれば、常磐の如きは是は十一月の中旬に比べまして下旬は餘程良くなり、特に此の上旬から今日に於きましては、殆ど平常に近い所まで囘復しつつあります、例へば坑内夫の入坑率に付て申上げますと、一番ひどい時には三〇%を割つて居りましたが、今日は山に依つて非常に良い所は七九%と云ふやうな所があります、大體平均して七〇%と云ふ所へ戻つて來たやうな工合でございますので、今後一層努力致したいと考へて居るのでありますが、石炭に致しましても、總ての産業は綜合的に物を見なければならぬことは正木君仰せの通りであります
〔米田委員長代理退席、委員長著席〕
一つ一つを切離して考へられないことは御説の通りでありまして、私共も總てを商工行政全般を通じて綜合的に考へるのみならず、關聯のある農林省なり、運輸省なり、又例へば勞務の問題に付ては厚生省と相談をするとか、或は今後正木君あたりが非常に熱心に希望されて居りました此の組合法が生れれば、企業者と斯う云ふ勞務者の間の團體交渉權が認められて、そこに事が旨く運んで行くと云ふ風な工合に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=126
-
127・正木清
○正木委員 私は時間がないので商工大臣と殘念ながら一問一答をすることが出來ませぬ、商工大臣の雄辯にすつかり感心して聽くやうな始末です、併し私は非常に物足らない、だが時間がありませぬので如何ともすることが出來ませぬ
最後に結論に付て一、二具體的に御伺ひを致します、本日の新聞を見ますと、礦山勞働者に對して米六合を増配する、それが爲に最高司令部に向つて朝鮮から十萬石ですか、輸入許可の申請をしたと云ふことが出て居ります、今あなたが言はれたやうに、全國的に見て石炭出炭の上に於て非常な役割を果して居る北海道の鑛山勞働者には、未だ政府が屡屡言明した米の加配すら行はれて居らない、今港へ著いたであらう、斯う云ふことなのであります、隨て私の聽きたいことは、今朝出た新聞のあの記事を見て、全國の礦山從業員の諸君は、從來まで政府が言明した箇所で少しでも加配になつた所は或は信用するかも知れないが、政府の屡屡の言明に依りまして、私共北海道の各地の小さい礦山主、其の他の團體へ電報で以て、政府は加配をするから、礦山從業員を激勵鞭撻して石炭を出すやうに努力して呉れと云ふことを言つたのですが、此の私の打つた電報は、向ふから言はせれば嘘なんです、まだ港へ著いたかどうかと云ふのですから、そこで私問題を明確にして貰ひたいと思ふことは、今朝新聞に發表になつたあの十萬石と云ふものは、本當に目當があつて發表された記事なのかどうか、此の點を明かにして貰ひませぬと、私は非常に大きな問題が捲起ると思ひます
もう一つ聽きたいことは、政府は礦山の勞務者に向つて地下足袋とか、作業衣の特配をなさると云ふことで非常な努力をして下さいました、恐らくなさつた所があらうと思ひます、所が實際は當局は礦山の實體を御存知ないのではないかと思ふのです、と云ふのは、今の礦山の勞働者に對して地下足袋、作業衣を配給されますが、今の礦山勞働者に移動の禁止を致して居るかどうか、私は禁止がしてないと聞いて居ります、又現にしてありませぬ、さうすると甚だ此の點がをかしくなるのです、私共東京へ來て居りますと、凡ゆる手を變へ品を替へて、甚だしきに至つては街の「ルンペン」まで驅り立てて礦山へ送り込まうと努力して居る、私から言はせると、是程馬鹿げたことはない、礦山なんてそんな生易しいものではない、私は時間の關係で極端に中心しか申上げませぬが、驅り立てて行つた其の勞働者が、行つた限りに於ては飯を食ふのです、地下足袋を貰ひ、作業衣を貰つて、氣に喰はなければ飛んでしまふ、斯う云ふことを實際に御調査の上で手を打つて居るかどうかと云ふことであります、私は千人の街の「ルンペン」や不慣れな勞働者よりも、長年其の山に踏止つて頑張り拔いた百人の勞働者の方が、遙かに大きな力を持つて居ると考へます、だから戰爭の期間に一番眞面目な國民が馬鹿を見たと同じやうに、今の政府の打つ手に付て、一つの礦山の例を取つて見ても、本當に眞劍な眞面目な勞働者が何處までも馬鹿を見ると云ふことである、米の加配があるやうになつてから、礦山へ行けば飯が食へるのだ地下足袋が貰へるのだ、作業衣が貰へるのだと云つて、御飯を食べて、地下足袋を貰つて、作業衣を貰つて、移動が禁止されて居ないから飛んでしまへばそれだけです、私蒲田の闇市場へ再々行つて調べるのですが、地下足袋一足買はうとすれば百圓です、軍の拂下の上着に「ズボン」を合せて六百圓、一つづつ買ひますと三百圓で、澤山賣つて居ます、それから下着一枚が百五十圓で、是は白の「シャツ」です、それを商工省の公定價格で戴くと地下足袋一足が二圓までしませぬ、一圓七十何錢の筈です、それから作業衣が上下で以て十六圓何がし、それを公定價格で貰つて、山を下りて町へ出ると、右から左に、地下足袋、作業衣其の他で四、五百圓儲かる、斯う云ふ具體的な事實を政府が完全に御調査なさらないで、妙な手を打つから、親子代々山で働いて居る勞働者が、政府に向つて大きな不滿を抱くのです、私は斯う云ふ點なども商工省としては篤と考へられなければならぬのではないかと思ふ、又厚生省としては勞働行政の面から餘程考へなければいけないのではないか、私は斯う思ふのです
更に私の御伺ひしたいのは、さう云ふ點で過日社會黨が決議文を以てあなた方に御陳情申上げた時の一項にあるのですが、購買組合と云ふものを、あなたは過日の委員會であつたかと記憶致しまするが、兩方から委員を擧げて管理したら宜からうと云ふことを話された、私は大體其の點で妥協致します、併し急速に商工省の意思として、どうか資本家の御指導を願ひたいと思ひます、是が全國各地の礦山に於て非常な問題になつて居るのですから、石炭を出す爲に配給物資を公平に流すと云ふことは、是は重大なことです、之に付て私は改めてあなたの御言明を願ひたいと思ふのです
更にもう一つ私は此の點を大臣として篤と御考へを願へないかと云ふことでありますが、今後の日本の國力を囘復する爲に、勞働者、農民を主體とする所の勤勞力が基盤となると云ふことは、是は議論の餘地がないと思ひます、隨て戰爭に敗けたと云ふ冷嚴な事實の下に於ける日本の今後の見透しに付ては、資本と企業と勞務との關係に於ても、今民主主義的な革命の線に沿うた一つの行き方を致さなければならぬと云ふことも、是も否定の出來ない事實であらうと思ひます、そこで私は今囘事京に於ける讀賣新聞社の爭議が、爭議調停委員會の努力に依つて勞資稍稍圓滿に解決を致したのであります、そこで見逃してはならない一つの大きな示唆を受けて居るのであります、それは從業員側と社長側との間に會社の經營に當つて、所謂勤勞者の企業の參加と云ふ形を具體化して、經營協議會なるものを組織致して居るのであります、是は契約の一つの條項として經營協議會を作つて、勞資一體となつて、是から新聞の公器としての經營に當らうと云ふことだらうと思ふのであります、屡屡厚生大臣も、商工大臣も、勤勞者の企業の參加と云ふ言葉で現はして居つたのでありますが、讀賣新聞の爭議を通じて、斯う云ふことが具體的になつて來た譯です、そこで假に石炭山を例に採つて見ますと、私共が申上げるのは此の點です、急速に勞働組合を作りなさい、政府も消極的でなく、積極的におやりなさい、さうして勞働組合と事業者側との間に、勤勞者が企業に參加すると云ふことは、資本主義から社會主義へ行く過程に於て、其の資本主義を否定するのではないのだ、剥奪するのではないのだ、現在の日本の民族を助ける爲には、資本主義を否定するのではないのだ、何と言つても礦山に於ては石炭を掘ると云ふことが先決なんである、そこで讀賣新聞が實際に行つたやうな經營協議會的な機關を作つて、勞働組合が勞働行政の面に全責任を持ちますと、先程私が指摘したやうな、政府は何も事情を知らぬから鉦や太鼓を叩いて「ルンペン」まで驅り立てて炭山へ送り込む、送り込んだのは作業衣と地下足袋を貰へば逃走してしまふ、之を礦山では尻を割つたと云ふ、それを町で賣れば数百圓で賣れる、勞働組合が實質的に力を持つと、斯う云ふものは未然に防げる、ですから是は少數の勞働力を以て最大の能率を上げることが出來る、最大の能率を上げると云ふことは、同時に工賃を得ることになる、是は國家の爲にも、資本家の爲にも、勤勞者の爲にも幸福を齎す、さう云ふ點は今の政府のやり方を見て居ると非常に消極的で、僕はさう云ふことでなく、積極的に斯うやれ、斯うすれば、斯うなると云ふ一面に積極性があつて宜いのではないか、斯う考へますので、此の點を御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=127
-
128・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 最初に朝鮮米の輸入關係に付て申上げます、其の前に今の食糧のことでありますが、是は常磐及び九州等はそれぞれさうなつて居ります、唯北海道は正木君御承知の如く、北海道自體に於ては米がないので、それを持つて行く爲に、新潟等の米の配船の手配を致しましたので、少し遲れて居ることは、私共申譯ないと存じて居りますが、併しもう著いて居ります、今後は米を目前に見て大いに御働きを願へることと考へて居るのであります、今朝朝鮮米の輸入に付て新聞記事に出たことは、是は當局の發表ではございませぬ、何處から出たものか私は存じませぬ、但し事實を私は申上げます、あれはどう云ふ筋からどう云ふ風に出たのか私は承知致して居りませぬが、實際は來年二月までに六萬石入れて貰ひたいと云ふことを懇請して居るのであります、さうしまして之に對する見返り物資と申しますと、是は十分用意してございます、全部用意濟みでございます、是は此處に持つて居りますが、細かく申上げませぬでも、例へば絹とか、人絹織物とか、朝鮮鐵道用の「ピツチ」であるとか、陶磁器、「ストーヴ」等、さう云ふものが用意してございますので、見返り物資は向ふの同意を得次第積出す、斯う云ふ状況に相成つて居ります、之に依りまして米が參りますれば、若干現在より加配を行ひたいと考へて居りますが、六合にするとか、家族を三合にするとか云ふことは何等決めて居りませぬ、入つて來ないのでありますから、入つて參りました節には機宜の處置を執りたい、斯樣に考へて居るのであります、今朝の新聞記事は、當局は全然關知しないことでありますから、御諒承を願ひます
それから今あとに仰せになりましたこちらからやる物資の配給の問題であります、是は私共委員會を作らすが宜いと思つて居ります、是は指示するのも如何かと思ひますが、勸奬して見たい、斯樣に考へて居ります、正木君が仰せられた通り一生懸命に今までやつて居つた人間が、何等報いられることなくして、其處らの「ルンペン」を連れて行けばそんな妙なことになると云ふことは、是は事情通の正木君から見ましてさうだと思ひます、假初にも政府の政策が、一生懸命に努力して居る者に報ゆることなくして、何も效果のない者にそれが渡ると云ふことは、是非避けたいと思ひますので、さう云ふ措置は講ぜしむるやうに勸奬致します
それから勞働組合の件でございますが、是は今度勞働組合法も出來ましたし、又私共の方も勞働組合と云ふものは結構だと考へて居ります、當業者の方も、此の間うち色々の人に會ひましたが、勞働組合結構ですと言つて居りますが、何れも健全なる勞働組合の發達を冀つて居ります、隨ひまして、今後は勞働組合に依つてやつて行けることと考へて居るのであります
尚ほ其の他色々炭礦に付きまして仰せになりました件は、洵に御尤もでございますから、出來るだけ私共の方も御希望に副ふやうに努力して參ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=128
-
129・正木清
○正木委員 最後に簡單に一つ御尋ね致しますが、是は厚生大臣に御尋ねする方が適當か、商工大臣に御尋ねする方が適當であるか分りませぬが、どちらでも宜しうございますから、御答辯を願ひたいと思ひます、是は私が相當具體的に調査した所に依りますと、何と云つても、全國的に見て礦山に於て極端に困つて居るのは大體に於て先山夫です、所が未だ海外に復員せざる皇軍兵士の中で永年礦山に働いて、礦山の先山夫として非常な技術經驗を持つて居る者が約十二、三萬人あると聞いて居ります、之に對して何等かの手を打つて、一日も早く技術者の充足を御圖りになる御意思があるかないか、此の點を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=129
-
130・小笠原三九郎
○小笠原國務大臣 此の件に付きましては、聯合軍側が今石炭増産に非常に力を入れて援助して呉れて居ることは、正木君も御存知だらうと思ふのであります、隨て色々向ふにも御頼みして居る一方に、やはり復員軍人等の先山夫であつた者を早く歸して貰ひたいと云ふことを頼んで居りまして、幸ひに向ふも能く諒解して呉れ、こちらの復員省の側に於きましても、さう云ふ風にやつて居ります、大體私の方の調べたのでは、南方に六萬人、支那に四萬五千人位居るのでありますから、それで約十萬五千人ばかり先山夫だけが居ると思ひます、それを出來るだけ早く――新聞にも一寸出て居りましたから、御承知でせうが、漸次さう云ふ風に具現化されることを信じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=130
-
131・正木清
○正木委員 私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=131
-
132・添田敬一郎
○添田委員長 薩摩君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=132
-
133・薩摩雄次
○薩摩委員 私は時間もありませぬし、又今日初めて委員に交替になつたので、前の質問と重複するかも知れませぬが、ほんの重點だけ四つ厚生大臣に承つて見たいと思ひます、第一は本法と「マッカーサー」司令部との關係です、具體的に言ふと、本法を制定するに際して、「マッカーサー」司令部と其の内容に於て或は趣旨に於て御諒解があつたのかどうか、それから本法が實施されるに際して、今後起き得る問題に付て、聯合軍司令部が如何なる干渉權を持つて居るか、是は一つの例を申しますると、本法が制定される前でありますが、磐城炭礦に於て朝鮮人の勞働爭議が起きた、其の時に日本の官憲は如何にもすることが出來ずして、拱手傍觀して居つた時に、「マッカーサー」司令部に屬する一中佐に依つて、是が解散を命ぜられたと云ふ例がありますので、今後勞働爭議が起きた場合に於けることを言ふのであります、其の點を一つはつきりして戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=133
-
134・芦田均
○芦田國務大臣 薩摩君の御質問に係る第一點は、此の委員會開會以來一、二御質問がありまして、其の際答へたことでございますが、御承知の通りに、幣原内閣が成立した二日目に、幣原總理が「マッカーサー」元帥を訪問した際、口頭を以て政府に勸告をした五項目と云ふものがあります、其の五項目の中に、勞働者の幸福を増進し、過去の如き官權壓迫の事實を除去する爲に、成べく速かに勞働組合法を制定するが宜からうとの話がありましたので、旁旁終戰後の「ポツダム」宣言に基く轉換と相俟つて、此の組合法を一日も早く制定しようとの決心を致しまして、主な點に付ては先方と意見の交換を致しまして、此の案が出來たのでありますが、さうかと云つて議會の審議權を無視すると云ふのではありませぬ、議會の修正權は十分に維持されて居るのであります、唯其の修正案が「ポツダム」宜言の線に沿ふ方針と著しく背馳して居る場合は、先方がどう云ふ處置を執るかと云ふことは未知數でありますが、さう云ふ場合には、或は其の點に對する「ディレクティヴ」を出すやうなこともあるかと存じます
第二點は勞働爭議が秩序維持を害するが如き場合に、進駐軍がどう云ふ態度を執るであらうかと云ふ問題でありますが、其の點は必ずしも勞働爭議と云ふことばかりではありませぬ、其の他日本の警察力が秩序維持の能力がないと云ふ場合が起れば、進駐軍は當然日本國内の治安維持に對して、最後の責任を取つて居るのでありますから、何等かの手段に出ることは豫想されるのであります、併し是は勞働組合法の制定に依つて、過去に見るが如き爭議行爲を越えた暴行或は騒擾等が起らないやうに、事前に之を防ぐ、或は爭議が起つた場合にも、雙方との話合ひに依つて、調停又は仲裁に依つて、出來るだけ圓滿に解決する方向に向ふであらうとの期待を以て、此の法案を出した譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=134
-
135・薩摩雄次
○薩摩委員 今の問題に關聯しまして、讀賣新聞の爭議で感じたのでありますが、爭議中に、爭議を指導して居る人間が、一々「マッカーサー」司令部を訪問して、其の内容を話し、或は種種内通と云ふと語弊がありますが、樣子を話して居るやうでありますが、さう云ふ問題が今後起きたと假定した場合に、それに對する取締は如何なる方法をなさりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=135
-
136・芦田均
○芦田國務大臣 爭議の當事者が一々「マッカーサー」司令部に事情を通報すると云ふ場合に、政府としては之を取締る如き事例が起るかどうか、唯其の時々の事情を通報する程度のことならば、特に之を取締るやうな方法もないと思ひます、但し通報した事實が虚僞な事實に富んで居つて、我が國の安寧秩序を紊亂するが如き事項に亙つた場合には、自ら他の法規に依つて取締ることは可能であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=136
-
137・薩摩雄次
○薩摩委員 次に本案の内容に入つて行きたいと思ひますが、一つの會社若しくは工場に、勞働組合が幾つも出來ると云ふ可能性があるのでございますが、其の性格或は仕事の關係上幾つも出來ると思ひます、私個人としては單一組合の方が宜いと思ひますが、幾つも出來た場合に、それはやはり御認めになるのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=137
-
138・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御話の通り、さう云ふ小組合が濫立することが望ましいとは思ひませぬが、併し之を政府の手で以て合同をさせるとか、或は統制を命ずるとか云ふことは考へて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=138
-
139・薩摩雄次
○薩摩委員 それに關聯しまして、今日の法律に依りますと、株主でなくとも取締役になることは出來るのでありますが、勞働者にして取締役になつた場合には、其の勞働者は組合の中に入り得る性格を持つのでせうか、取締役になつた場合には組合員でないと云ふことになるのではないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=139
-
140・芦田均
○芦田國務大臣 それは後の方の御見解の通り、代表取締役の如き會社を代表する地位に立つた場合には、其の人が組合を脱退するのでなければ、其の勞働組合が成立條件を缺くのでありますから、恐らく脱退をすると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=140
-
141・薩摩雄次
○薩摩委員 第十三條に勞働組合の經費の問題が書いてありますが、「勞働組合は共濟事業其の他福利事業の爲特設したる基金を他の目的の爲に流用せんとするときは總會の決議を經べし」となつて居りますが、總會の決議を經た場合は、其の金を政治資金に使つても宜いのでせうか、具體的に言へば、或はそれを選擧の費用に使ふかと云ふやうなことは、其の議決を經た場合には宜いことになりませうか、若しさう云ふことになりますと「ブローカー」が暗躍することが必至だと思ひますので、此の點は政府の見解を一つはつきりさして置いて戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=141
-
142・芦田均
○芦田國務大臣 勞働組合の主たる目的は、勞働者の經濟的生活條件を向上させると云ふことになつて居るのでありますが、併しながら其の從屬の目的としては、或は福利施設を行ひ、若しくは文化的施設を行ふ、又或る程度の政治運動を實際行ふことが多數の例でありまして、政治に關係することを一切勞働組合に禁止することは實情に適しない、又それを或る程度認めても害はない、斯樣に考へて居るのでありますから、勞働組合が從屬的な政治運動をなす場合に、其の福祉に用ひんとする基金を、總會の決議を以て政治資金に流用することは、之を認めた譯であります、之を禁止した所で、本當に勞働組合の總會の多數を占めるやうな人が、政治資金を必要とする場合には、他の方法に依つて之を集め得ることが實際には多いと思ひます、隨て今御話のやうに、或る勞働組合が、支持せんとする政黨の選擧費用に、其の基金の一部を總會の決議を以て寄附したとしましても、必ずしも不適當とは認めない、斯う云ふ趣意であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=142
-
143・薩摩雄次
○薩摩委員 それから第十五條で「勞働組合屡法令に違反し安寧株序を紊りたるときは」云々と書いてありますが、此の屡屡と云ふ意味はどう云ふ風に解釋して居られますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=143
-
144・芦田均
○芦田國務大臣 屡屡と云ふ言葉は、一般社會通念に依つて解釋する外はないのでありますが、一囘では屡屡でない、少くも二囘以上でなければならぬ、斯う云ふ程度の言葉でありまして、其の邊は必ずしも一囘はどうだ、二囘はどうだと云ふ嚴格な意味では用ひて居らぬのであります、度々と言ふ言葉と同じで、其の邊の所は其の當時の事情に依りまして、本當に手違ひで法令に違反したと云つたやうな場合はさう云ふ中に含ませない、謂はば屡屡法令に違反して安寧秩序を紊ると云ふことは、故意にさうやつて居ると云ふ場合が多いと思ひます、屡屡と云ふのは、何囘以上を言ふかと云ふ風に嚴格な意味で書いたものではないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=144
-
145・薩摩雄次
○薩摩委員 此の屡屡と云ふ言葉を社會通念的に考へると厚生大臣は言つて居られますが、さうしますと、安寧秩序を紊りたる行爲が一囘位あつた時はそれは見逃される譯でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=145
-
146・芦田均
○芦田國務大臣 其の屡屡と云ふのは「法令に違反し安寧秩序を紊りたるとき」と云ふ所に掛るのでありますから、それは二つに續けて解釋し得ることと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=146
-
147・薩摩雄次
○薩摩委員 それでは一囘は法令に違反しても宜いと云ふことになるのでありませうか、今の厚生大臣の御答辯を其の儘受取りますと、一囘は法令に違反しても構はぬ、それから又安寧秩序を紊ると云ふことも、所謂法令に違反したことになる……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=147
-
148・芦田均
○芦田國務大臣 それは斯う云ふ譯です、安寧秩序を紊つた個人の責任と、安寧秩序を紊つた組合の責任と云ふものと、別に考へて居る譯であります、相當愼重な手續を執らなければ、勞働組合としての解散を命じないと云ふのが、此の場合の規定でありまして、勞働組合の解散を命ずるには、勞働委員會の申立も必要であるし、其の理由としては、屡屡法令に違反して安寧秩序を紊る、斯う云ふ條件を必要とする、併し其の安寧秩序を紊つた場合に於ける事犯に依りまして、個人として或は責任を執らなければならぬ場合があると思ひます、それは此の規定とは又自ら別に責任を生じて來るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=148
-
149・薩摩雄次
○薩摩委員 決して此の問題で議論を鬪はさうと云ふ意味ではありませぬが、此の法案は個人の法案ではなくて、勞働組合の法案なのである、厚生大臣の御答辯を聽いて居りますと、此處にある屡屡と云ふ字一字の爲に一囘位法令に違反し、安寧秩序を紊しても構はないのだ、併しそれが度々になつた時には解散を命ずる、斯う云ふやうなことになりまして、其の一囘の安寧秩序を紊したる行爲の大小と云ふやうな――こんな小さな問題は安寧秩序を紊して居ると觀念してやるのだ、大きい安寧秩序を紊した問題があつても一囘は宜いだらう、此の次紊したら承知しないぞと云ふやうなことになりまして、此の屡屡と云ふ字たつた一字が、勞働組合の解散されるかされぬかと云ふ非常に重大なる問題になりますので、之をもう少しくはつきりして戴くことが出來ませぬでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=149
-
150・高橋庸彌
○高橋政府委員 此の屡屡と云ふ文字は中々解釋が難かしいと存じます、要するに此の第十五條を設けました所以のものから、一つ御話を申上げて御諒解を得たいと思ひます、御承知のやうに、治安警察法が最近撤廢されまして、結社はそれが政治結社であらうと、其の他の結社であらうと、結社に對しては如何なる場合に於ても其の解散を命ずると云ふことは、日本の現行の法令に於てはない譯であります、併し本法が兩院を通過致しまして御裁可を經て公布されますと、勞働組合のみ解散の事實が生れる譯であります、隨ひまして結社の解散と云ふことは原則としては日本にはありませぬが、唯此の第十五條だけが例外としてあると云ふことであります、隨ひまして其の解散を命じ得る條件は嚴重にする必要がある、斯う云ふ譯で、其の條件と致しまして、安寧秩序を紊ると云ふことが第一、其の次には勞働委員會の申立がある時と云ふのが第二、第三には地方長官にあらずして、裁判所と云ふ司法機關がやると云ふ場合、此の三つの條件に依つて解散が出來る、斯う云ふ風な嚴重な條件を置いたのであります、而して第一に申上げました安寧秩序を紊ると云ふことは一囘であります、其の紊る方法は、屡屡法令に違反すると云ふ、法律に依つて安寧秩序を紊ると云ふことが必要だ、斯う云ふ譯であります、然らば安寧秩序を紊る場合には、法令違反なしに安寧秩序が紊れるかと云ふことを想像して見た譯でありますが、安寧秩序を紊る場合には、必ず法令違反がなければ安寧秩序は紊れない、斯う云ふ譯であります、そこで法令に一遍違反した場合はどうであるかと云ふ風な議論があるのでありますが、過去の例を見て申しますと、組合に解散を命ずるやうな場合には、必ず二遍以上屡屡法令に違反すると云ふ事實があつて、初めて安寧秩序が紊れると云ふのが大部分の例でありますので、是で屡屡と云ふ文字を入れまして、條件を嚴重にしたやうな次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=150
-
151・薩摩雄次
○薩摩委員 只今の御答辯は十分に納得出來ませぬが、議論をするのではありませぬから、是で此の問題は止めます
最後に此の法案が實施される場合には、今後色々の事情に依つて勞働爭議が頻發する、此の日本の當面せる重大問題を處理して行く上に於て、先程商工大臣が仰しやつたやうに、見返り物資をどんどん造らなければならないと云ふ時に、勞働爭議が頻發して生産の上に影響すると云ふやうなことがありました場合には、其の責任は政府にあるのですか、經營者にあるのですか、それとも調停することが出來なかつた謂停委員にあるのですか、それとも勞働組合にあるのであるか、其の點を承つて置きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=151
-
152・芦田均
○芦田國務大臣 將來日本の産業界には尚ほ勞働爭議が頻發することを豫想しなければなるまい、勞働爭議の頻發に伴つて生産が減少することの責任は果して何人が負ふべきか、斯う云ふ御質問のやうであります、其の問題は結局個々の爭議の實情を能く調査して、果して如何なる原因から起つたかと云ふことに依つて、責任の所在を決めることが、事の眞相を最も明かにするものであつて、爭議が起つたから直ぐに生産の減退するのは誰の責任かと云ふことを抽象的に一率に決めることは困難な事情がありはしないか、併しながら國家の安全と民族の繁榮に對して責任を持つものが政府であると云ふことならば、無論斯樣な場合にも政府に幾分の責任ありと云ふことは一般に言ひ得る議論であると思ふ、其の場合に於ても果して政府のみの責任であるか、或は其の他の部門にも責任の負ふべきものがあるかと云ふことは、爭議の原因に依つて判斷すべきものである、斯樣に私は考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=152
-
153・薩摩雄次
○薩摩委員 責任の所在がさう云ふ風になつて來た場合に、其の責任に對する法律上ではないに致しましても、刑罰と云ふものは當然考へられなければならぬ、所謂今日此の敗戰の責任がどこにあるかと云ふやうなことを言はれて居ると同樣に、若し生産力が減退して見返り物資も出來ないと云ふやうな場合に、それを個々に調査してどこに責任があつたかと云ふことがはつきりされた場合に、其の責任を負ふ人々が刑罰と云ふ刑法がないから、それに對してどう云ふ責任を取るかと云ふやうなことは、政府としてはどう考へて居られるか、其の人々が社長を辭職するとか、或は政府が責任を帶びて辭職するとか、或は勞働組合の幹部が責任を帶びて辭職するとか、自發的に其の人々に任して置かれますか、それとも自發的に責任を帶ぶやうな處置に政府が出られますかどうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=153
-
154・芦田均
○芦田國務大臣 常識で考へれば刑法其の他の法規に依つて責任を定めることは不法行爲でない限り困難であると思ふ、隨て政府は道義上の責任、政治上の責任を執ると云ふこと以外に方法はないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=154
-
155・薩摩雄次
○薩摩委員 私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=155
-
156・添田敬一郎
○添田委員長 小山君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=156
-
157・小山亮
○小山(亮)委員 厚生大臣に伺ひますが、先達て厚生大臣は、此の席に於ても貴族院或は衆議院の豫算總會に於ても、百數十萬の失業者、離職者が出ると云ふやうな御話でありました、其の中には船員、海上に働いて居る勞務者の失業者も算入されてありますかどうか伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=157
-
158・芦田均
○芦田國務大臣 御答へ致します、先般貴族院の委員會等で私が報告しました數字は、大體復員者の數であります、復員者と云ひますと、内地に於ては軍隊、軍屬、それから各工場の廢止又は休止に依つて職を離れた者、海外から復員し來る軍人軍屬及び海外に在留した者にして日本内地に引揚げて來る者、それを概算して千三百二十四萬人と言つたのでありますから、船員の職を離れた者に付ては恐らくは含んで居なかつたらうと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=158
-
159・小山亮
○小山(亮)委員 失業問題は實に重大問題だと考へますが、此の問題に對する對策は、或は「ダム」を作るとか、やれ産業を振興さしてそこに使ふとか云ふ御話しがございますが、それでは差當つての今の生活に困つて居る者がありましたならば、それを救濟する方法はないと思ひますが、何か適當な機關を現内閣はお作りになる御積りでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=159
-
160・芦田均
○芦田國務大臣 小山君の御話は、朝野一般に憂慮して居る所でありまして、先般來政府で案を作りまして、實は明日の閣議に掛ける程度に進行して居ります、之に必要な豫算も大藏當局と打合せを終りました、まだ此處で政府の決定案を申上げる程度に至つて居りませぬが、閣議の決定でも決まりますれば、政府の方針として御披露することが出來ると思ひます、精々政府としては是等の人に新しい救護の手を伸べなければならぬと痛切に感じて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=160
-
161・小山亮
○小山(亮)委員 さうしますと、今期議會の中に、さう云ふ失業者對策に對する何等かの豫算を計上して機關を御作りになる、斯う心得て宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=161
-
162・芦田均
○芦田國務大臣 豫算技術としては新しく豫算を請求しなくても、豫備費其の他の項目に依つて賄ひ得る計畫になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=162
-
163・小山亮
○小山(亮)委員 それに付て厚生大臣に伺ひたいと思ひますのは、現在各官廳共に戰前、戰爭中非常に人手が澤山に必要だつた、それが戰後になつて人手が少くなる、だから之を減員をすると云ふことは、私も其の事情は一應分ります、併し實際に鐵道の從業員であるとか、或は郵便の遞送夫であるとか云つたやうな特殊の勞務關係に居る者の手は、只今のやうに諸種の交通が破壞され交通が非常に不便であつて、さうでなくても更に以上の人手を要さなければならぬ時に、之を減少するよりも寧ろ増加しなければならぬと私は思つて居りますが、それを私が伺ひます所に依りますと、大體通信勞務者に於て三割、鐵道勞務者に於て三割減をやると云ふうな御方針のやうでありますが、各官廳が皆負けず劣らず失業者を段々と殊更に一生懸命拵へて參りますと、到底生易しい失業對策では、此の失業者に對して生活の保障をすることは困難だと私は思ひますが、此の點政府のやつておいでになることに、非常に矛盾がありはしないかと思ひますが、厚生大臣の御所見を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=163
-
164・芦田均
○芦田國務大臣 今御話の點は、矛盾と言へば正に矛盾であります、併しながら政府は財政の現状に考へ、竝に粒々辛苦になる金から租税を納めて居る國民諸君の立場に考へて、行政費は出來得る限り削減して行くことの必要を感じて居る、隨て自分の子供を自分で家の外に抛り出すやうな行政整理の任に當ることが衷心苦痛であることは、小山君も御諒承下さることと思ふが、只今御述べになつた通信事業、運輸事業等に三割に亙る現業員の削減を行ふことは、何等かの誤解ではないかと思ひます、政府としては官業の現業員諸君に、それ程多大の削減をする考へは持つて居ないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=164
-
165・小山亮
○小山(亮)委員 唯數字の上だけで、豫算の面だけで御考へにならないで、實際戰後の日本の各般の構成をどうするかと云ふ面から考へますと、或る面には寧ろ人を殖やさなければならぬ面もある、或る面には人を減少しなければならぬ面がある、斯う私は思ひます、そこで唯豫算の面から見て、一率にどれだけ減せば宜いと云ふやり方は古い時代のやり方であつて、今日の實情に即しないと私は思ひます、隨て官廳でありましても、仕事をして居る其の仕事の性質に依つては、寧ろ人をうんと殖やさなければならぬ復興の事業等があります、或る面には大いに減少しなければならぬ面があると思ひます、それを大藏省の方から割當があると云ふので、割當てて徒らに減少しますと、例へば今日でも郵便や電信は中中時刻通りには參りませぬが、人手が不足すれば更に其の通信が遲れて來る、或は電線其の他の通信關係の復興も今でさへ中々人手がなくて出來ないものを、更に是から人手が減少すれば益益出來ないことになる、斯う云ふ結果になりますので、現業關係の仕事、特殊の仕事を持つて居りまする面に於ける所の減員と云ふものに對しては、是は特に政府當局が御考慮なさる必要があると思ひます、此の點に付て今一應厚生大臣のはつきりした御意見を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=165
-
166・芦田均
○芦田國務大臣 今囘の行政整理の方針としましては、基準を滿洲事變前の官吏の數と終戰當時の官吏の數とを比較したものを取りまして、其の増加した分に付て縮減を考へると云ふのが第一の方針であります、併しながら戰爭終了に伴つて國家が必要とする各種の事業が數々あります、さう云ふものは行政整理とは離れて、必要な人間を新しい部局に採用して宜しいと云ふ方針で進んで居りますので、具體的に厚生省のことで申せば、厚生省全體としての從來の機構には或る程度の削減を加へます、併しながら軍病院を陸海軍から厚生省の手に移した爲に必要とする約三百に餘る病院の爲に、新たに醫療局を設けて、鹽田博士を其の長官に任じたのは、つい一、二週間前のことであります、尚ほ先程御答へしました戰災に因つて困窮して居る者、或は在外同胞にして内地に引揚げて來る者、此の何百萬人に上る人々に對して援護の手を延べることは、今日までの程度では不十分である、此の上とも行渡つた世話をしなければならぬ、それが爲には必要な職員を増員しなければならぬことは當然のことでありますから、是等の新しき職員の増員には、大藏省竝に内閣方面に於ても、十分諒解が與へられて居るのでありますから、其の點には支障なく運行が出來ると考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=166
-
167・小山亮
○小山(亮)委員 離職者が千三百數萬人出ると云ふ推定でありますが、私は今日の實情は不思議な現象であつて、失業したからと云つて、必ずしも其の人は生活には困らない實情にあります、一例を申しますと、寧ろ今日では安い月給を貰つて働いて居るが爲に食へない人が多い、失業すれば、其の失業した人は何をするかと云へば、直くに闇屋になる、闇屋になつて背中に「リュック」を背負ひ込んで、藷の子を洗ふやうに混雜して居る汽車に乘込んで、闇で何か買つて來る、例へば靜岡から一貫匁六圓で蜜柑を買つて來れば二十圓で賣れる、南京豆でも一握りか二握り持つて來れば、何圓と云ふ金で賣れる、斯う云ふ状況でありますから、役所を休んでも買出しに行つて物を買つて來て、之を賣つた方が儲かる、先般長野縣に於きまして――運輸大臣が居られますから、一例でありますから御參考までに申上げますが、長野縣長野市に於て林檎の買出が澤山に行はれた時に、此の車内檢査をしました所が、一つの滿員の客車の中に百六十何人が「パス」を持つて居る人達である、鐵道關係の從業員もありませうし、或は軍需會社其の他に關係して居つて「パス」を持つて居つた連中が、其の買出には相當來て居る、本當に金を出して乘つて居る者は、其の車の中の六割しかなかつたと云ふやうな笑へない事實があります、そこで私共戰災地邊りの工場の樣子を聞いて見ますと、工場も軈て復興しなければならぬ、併しながら資材の關係等で直ちに復興は難かしいが、軈て復興する、其の復興する爲には、熟練職工は是は確保して置かなければならぬと云ふことから、馘にしない、馘にしないが、毎日來て居られては金が掛つてしやうがない、又毎日來て遊んで居ると職工がだらけてしまふ、そこで職工に一日交代で休むことを許した、職工は安い日給で來るよりも大喜びで休んだ、休んで何をするかと云ふと、買出に行く、闇の商賣をする、今日は寧ろ眞面目に働いて居る者が苦痛であり、失業して居る者が寧ろ生活が樂で、金をうんと持つて居る、斯う云ふ現状であります、厚生大臣は失業對策を御立てになると言ふが、私は今働いて居る人間の對策を立てて戴きたいと考へます、失業者の方が豐かに暮して居ると云ふのは、今まで曾てなかつた現象であります、併しながら是は事實であります、此の點を御考へにならないと、さうでなくても仕事に來る者が休んで、さうして買出にばかり行つて、怠けて出て來ないと云ふことが多い、だから更に其の人員をどんどん馘切つて、殘つて居る者に對する所の待遇の根本的改善をやらざる限り、是は結局能率が低下するだけだらうと私は思ふ、其の結果日本中で益益闇の買出其の他が多くなつて、物價が昂騰して、國民の生活が皆苦しいことになるだらうと思ひます、此の點に對する厚生大臣の御見解は如何でありますか、御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=167
-
168・芦田均
○芦田國務大臣 世相は今小山君から御話になつた通りと思ひます、隨て今日街に氾濫して居るのは失業者でなく、怠業者である、失業對策より怠業對策を立てることが緊急かも知れぬ、それと同じ意味に於て、賃金若しくは給料で生活して居る多數の勤勉なる國民の生活問題は此の儘ではいけないとの御説だと思ひます、私も全く同感であります、政府に於てもそれ等の事情が分らない譯ではありませぬ、今囘行政整理を發表する際には、今後官吏若しくは公吏として働く人々に對しては、相當待遇を改善して行かうと云ふので、之を同時に決定する方針でありまして、唯官吏や公吏の數を減すと云ふことばかりでなく、殘つて國家社會の爲に働く人には出來るだけ豫算の都合をして待遇を良くして行く、斯う云ふ方針で今案を作つて居ります、それが果して今日の物價騰貴の情勢に對應するだけのものであるかどうかは確信は出來ませぬけれども、國家としては出來るだけのことを致して居る、斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=168
-
169・小山亮
○小山(亮)委員 只今失業者が闇の買出などして居ないと仰しやいましたが、闇の買出をやつて一番横暴を極めたのは朝鮮人、次は殘念であるが歸還兵、次は各工場から離職した工員が仕樣がないから闇をやる、此の所謂怠業者は恐れながら見付からないやうに、制服を着て居る者はそれを隱しながら街頭でやつて居るやうな有樣である、公然とやつて居るのは失業者ではない、此處で大臣の答辯を求めませぬが、此の失業對策は今までの平和時代の失業對策ではない、戰後而も財政が昏迷状態になつた場合の失業對策は、別個の考へ方をしなければならないと思ふ、勿論賢明な厚生大臣は、斯樣なことは百も御承知であらうと思ふ、此の點篤と御留意を御願ひしたい、次に海上に於て默々と働いて居る海上勞働者のことであります、戰前は御承知の通り六百三十七、八萬「トン」の船腹を持つて居りましたが、今日では非常に減少し修理を要する船を、含めて約四百五十隻、七十八萬「トン」現在船員の失業は、大型船の乘組船員、是は高級の方でありますが、其の約半數で機帆船を入れると全體の三分の二位になると思ひます、是は陸上の失業者と違つて、陸に上つても直ぐ何の仕事をやらせると云つても一寸役に立たない、之に對する適當な對策を立てなければなりませぬが、只今厚生大臣は失業對策として豫算を計上して居ると仰しやいましたが、先程離職者の中に船員は入つて居らぬと云ふ御話でありましたが、今囘の豫算の中には船員は入つて居るかどうか、御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=169
-
170・芦田均
○芦田國務大臣 數字は各府縣廳から集まつた者を取つて一應發表したのでありますから、入つて居ないと明確に返答出來ませぬ、恐らく入つて居なからうと思つて答辯致しました、併しながら失業對策と云ふ以上は、入つて居ると居ないとに拘らず、失業全般に及ぶことは當然でありまして、陸上に上つて居る船員が職を離れて居る以上、之を除外することは勿論考へて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=170
-
171・小山亮
○小山(亮)委員 此の場合運輸大臣に御伺したい、船員と云ふ特殊の立場に居る者に對して特別な失業對策の必要があるのではないか、政府が此の戰爭の爲に徴用した船員の總數は十二萬七千三百名である、中には徴用を受けないで船に乘つて居る者もあるから、實際の數は是より多くなる、然るに戰爭期間中に敵の攻撃に因り、或は危險海面を突破する爲に起つた事故に因り、或は無理をして航海した爲に起つた遭難に因る戰死若しくは海沒をした總數は實に十一萬六千名に上つて居ります、徴用海員十二萬五千三百人に對比すると、實に九一%の死亡率であります、此の戰爭を通じて凡ゆる職業の人達が國家の爲に相當の犧牲者を出しましたが、船員の此の犧牲位深刻にして率の多いものは外に曾てないのであります、而も船員は戰が終つてからも、日本近海の海面に投下されて居る多くの機雷と危險を冒して、尚ほ默々として航海を續け、或は石炭の輸送、或は食糧の輸送、或は復員將兵の輸送の爲に、長年月働かなければならぬ實情であります、終戰後今日まで實に戰爭後の平和なる海面に於て、機雷に觸れて撃沈された船舶は十五萬「トン」を超えて居ります、斯樣な状況下に船員は尚ほ戰鬪状態にあるのであります、是等船員に對しては、特別なる御處置と、特別なる機關を御設けになる必要があると私は思ふのでありますが、運輸大臣の之に對する御見解を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=171
-
172・田中武雄
○田中國務大臣 御答へ申上げます、船員が寸鐵も帶びずして尚ほ戰爭後も戰前に劣らぬ危險な航行をして居られることに對しては、小山君の仰しやる通りでありまして、それに對しまして、勿論特に考慮して其の方法を講じなければならぬものと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=172
-
173・小山亮
○小山(亮)委員 それに付て厚生大臣に伺ひたい、本法の適用を受ける船員、由來、船員と云ふのは、船員法に依つて船に乘つて居る間は船員であるが、下船したら其の翌日から船員でないと云ふことから、船員法の適用を受けない、其の代りに保護も受けないと云ふ状況なんでありますが、此の場合本法を適用しまする船員は、どう云ふものを以て勞働者と看做されますか伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=173
-
174・芦田均
○芦田國務大臣 やはり船員として船に乘つて居る限り、他の勞働者と同一に勞働組合を結成することは自由であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=174
-
175・小山亮
○小山(亮)委員 是は實例を申さなければ分りませぬが、船員は船に乘船を致します時には雇入雇止の契約を致します、船長と雇入契約が成立ちまして船に乘るのであります、さうして下船します時にやはり雇入雇止契約を解除致しまして、船員は下船して來る、さうすると船員ではないのです、乘るまでは船員でなくて雇入を受けて船員法に述べられた船員となる、又下船をして雇止をされて初めて船員法に依る船員でなくなるのです、そして實に此の法令の爲に非常な幾多の悲劇を生んで居ります、例へば「ガダルカナル」に陸兵を輸送して行つた船が「ガダルカナル」で敵の爲に襲撃されて撃沈された、撃沈されて船がなくなつた、なくなつた時に、雇入をした船がなくなつたのですから、法律上の船員ではなくなる、それが救助されて「ラバウル」ならば「ラバウル」に連れて來られる、一千、二千と云ふ船員が「ラバウル」に待機して居る、さうして新たなる船に乘せて内地に輸送して來る、其の途中で撃沈された、其の時には陸軍及び海軍は、是は船員でない、だから軍屬でない、軍屬でないから靖國神社に祀ることは出來ぬと言うて祀られて居らぬ、斯う云ふ實例がある、是は隨分長い間陸軍と海軍と折衝致しまして、或る期間から特別な取計らひに依つて靖國神社に祀らうと云ふことになりましたが、法令から言ふとさうでない、でありますから、本法に於ては「勞働者とは職業の種類を問はず賃金、給料其の他之に準ずる收入に依り生活する者を謂ふ」と云ふことになつて居ります、さうしますと船員が豫備になります、豫備になりますと、最初の一箇月か二箇月は本給を呉れるが、それから引續いて長く病氣其の他で休む者は給料は半分になる、さうして何箇月かすると會社にちやんと籍があつて、會社の雇人でありながら、給料は一文も受けない、斯う云ふのは勞働者とは言はれないのでありますか、郵船會社ならば郵船會社に籍があつて、又其の船に乘らなければならぬ、是はどう取扱ひますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=175
-
176・芦田均
○芦田國務大臣 此の勞働組合の組合員は主として勞働者が加入するのでありまして、勞働者でなくとも組合員たることは妨げないのであります、例へば我々の同僚の議員諸君の中にも、勞働組合に入つて居る方があります、併し其の方々は勞働者ではありませぬ、それでも入れるのです、隨て只今の小山君の御指摘の場合は、賃金及び給料を現實には受けて居りませぬが、假令現實に船を下りて船員たる身分を船員法に依つて失つた時と雖も、必ずしも組合を脱退する必要もなければ、それから除外されることもない、是に書いて居りますのは、勤勞に從事して居つた者が給料を受けなくなつたら直ぐ勞働者でなくなると云ふやうな窮屈な解釋ではないのであつて、其の過去の仕事の經歴を見て、大體賃金若くは給料に依つて生活して來た者は、一時之を離れても、やはり勞働者たる身分は急に變化はないものと、社會通念で考へられます、社會通念に反した取扱ひは決してしない、私は斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=176
-
177・小山亮
○小山(亮)委員 此の勞働組合が出來ると云ふことになりますと、我々が考へることは、組合側と資本家側との折衝が決裂をします場合、話が旨く行かない場合には、勞働爭議をやると云ふことになります、併しながら此の勞働爭議は如何なる時に如何なる場所に於て行つても差支へがないと云ふ風に解釋しても宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=177
-
178・芦田均
○芦田國務大臣 此の法律には勞働爭議に關する調停法が入つて居りませぬ、勞働爭議調停法は、現行のものは今日の事態に即應しないので、遠からず新しき法律案を起草して、來るべき議會に御協贊を仰ぐ筈でありますが、今御話のやうに、船員等の如く公共事業に從事して居る者に付ては、多くは爭議調停法に特別の規定があります、公共の安全に對して重大な責任を持つて居るものは、爭議行爲に對しても制限を受けて居るのが從來の例でありますから、今の御話のやうな場合は、爭議調停法に依つて相當の制限を受けることになる筈であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=178
-
179・小山亮
○小山(亮)委員 さうしますと爭議調停法を本法と同時に御出しにならなければならないものだと思ひますが、御用意はおありでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=179
-
180・芦田均
○芦田國務大臣 只今勞務法制審議會で新しき爭議調停法を審議して居ります、併しながら大體の方針だけは立てて居りますから、若し必要とあらば其の方針を此處で説明することは、少しも意に介しない譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=180
-
181・小山亮
○小山(亮)委員 第四條の末項に「待遇官吏及公吏其の他國又は公共團體に使用せらるる者に關して本法の適用に付命令を以て別段の定を爲すことを得」とありますが、「別段の定」と云ふのはどんなものがあるのか、其の外郭を御示しを願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=181
-
182・芦田均
○芦田國務大臣 此の點は本會議に於きましても、又此の委員會に於ても、既に質疑がありまして、一應の御話をしたのでありますが、小山君の御質問に對して御答へ致します、是に擧げてあります官吏其の他公共團體に使用せらるる者は、調停又は仲裁に付し、調停又は仲裁が成らなかつた場合の外は爭議行爲をしてはならぬ、斯う云ふことを決めたいと思ひます、第二に爭議行爲をなし又はなさんとする虞ある場合には、行政官廳は必要に應じて爭議の中止命令其の他必要な命令を發することが出來る、第三として政治運動に付ては勞務委員會の決議に依つて行政官廳に此の禁止又は制限をすることが出來る、大體此の三つの點を中心にして組合法第四條に附隨する命令を出したい、斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=182
-
183・小山亮
○小山(亮)委員 船員の中の船長は本法に依る所の勞働者と取扱はれるのでありますか、伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=183
-
184・芦田均
○芦田國務大臣 廣い意味に於て、肉體勞働でなくとも勞働者として此の法案に規定して居るのでありますから、船長の身分は勞働者と言へば勞働者だと思ひます、併しながら其の船長が使用者を代表して居る立場にある場合には、使用者の代表者として組合に入ることが困難になります、斯樣に思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=184
-
185・小山亮
○小山(亮)委員 さうしますと、苟くも船長として船に乘つて居る以上、使用者を代表しない船長はない譯なんですから、さうしますと船長は絶對に勞働組合には入れない、今まで勞働組合員でありましても、船長になりました途端に組合から脱退する、斯う云ふことになるのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=185
-
186・田中武雄
○田中國務大臣 私から申上げます、私は入れることになると解釋致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=186
-
187・小山亮
○小山(亮)委員 此の船長が勞働組合員であるかないかと云ふことは、海上の問題では極めて重大なことであります、船長は商法に依つて船主の代理として代理權を行使することが出來る廣汎なる權限を與へられて居ることは御承知の通りであります、隨て賃金の問題であるとか、食糧の問題であるとか云ふことで、船長對乘組員との間に紛議が起るのであります、之に對して船長が勞働組合に參加出來るか出來ないかと云ふことは、今日まで非常に惱みになつて來た問題でありますが、只今運輸大臣の御話から申しますと、入れると云ふやうに仰しやつたのでありますが、第二條の第一項を見ますと、使用者又は其の利益を代表すと認むべき者の參加を許すものは此の限りにあらずと云ふことになつて居ります、さうしますと、是が入れば勞働組合ではなくなるのですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=187
-
188・田中武雄
○田中國務大臣 御答へ致します、是は重役だとか何とか云ふやうな解釋のやうに思つて居りますのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=188
-
189・小山亮
○小山(亮)委員 さうしますと一つの船で――船と云ふものは一つの社會、一つの會社と同じやうなものである、而もそれが一定の場所に居らないで、海の水のある所何處へでも行く、其の場合に船員對資本家との間に色々な勞働條件其の他の問題が起つた場合には、船長も勞働者と一緒になつて船主と交渉をすることが出來る、斯う云ふことに解釋して宜しいのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=189
-
190・田中武雄
○田中國務大臣 左樣に解釋されます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=190
-
191・小山亮
○小山(亮)委員 さうしますと、商法上船長は船主の代表者である、船主の利益を代表し、船主の代理としての權限を委託されて居りますが、其の場合はどうなるのでありますか伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=191
-
192・田中武雄
○田中國務大臣 御答へ申上げます解釋的には二重の性格を持つことになる譯でありますが、差支へないのぢやないかと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=192
-
193・小山亮
○小山(亮)委員 若し是がさうであるとすれば、恐らく船は動かなくなるのぢやないかと斯う思ふ、例へば或る外國の港或は日本を離れた場所に居つて、さうして資本家と色々な交渉をしなければならぬやうな問題が起つた場合に、船長が一緒であれば、其の港で船中が一團になつて船主に對抗された場合には、船主は其の船を動かすことが出來ないやうな状態になりはしないかと思ひます、それが爲に船長に對しては、乘組員の賃金を支拂ふ場合とか、或は乘組員の食糧を買入れる場合とか、さう云ふ凡ゆる一切の場合に、船を擔保としてまでも外國の銀行から、或は其の土地の銀行から金を借出して來て、乘組員に假に支拂ふだけの權限すら與へられて居るのであります、それに依つて初めて現地に於て解決の付かなかつたものを、一時費用の假拂ひをして置いて現地に於て適當の解決を付けて、日本内地まで歸つて來て改めて之を裁判なり何なりに依つて解決をすると云ふ方法もあるのでありますから、若し船長が船主の代理でなくして勞働組合員であつて、全乘組員と一緒になつて爭議をした場合には一體船が動くか動かないか、此の點は私は重大な問題だと思ひます、是は大臣の御解釋が違つて居るんぢやないかと思ひますが、御所見は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=193
-
194・山崎小五郎
○山崎説明員 一寸私から御説明申上げます、是は審議會の時にも非常に問題になりまして、其の時の末弘委員や何かの御意見でも、大體從來の觀念から船長は組合員に入つて居る、此の規定の精神も主として今仰しやいましたやうな仕事の業務の関係と云ふよりも、資本家對勞働者の一つの經濟的關係を中心にした問題であるので、今小山さんの仰しやいましたやうな船の運航と云ふことに、非常に重大な影響を持ちますが、勞働爭議が待遇問題等で非常に尖鋭化して起つた時に、さう云ふ障碍を受けることは或る程度已むを得ない、此の組合が認められた以上は、已むを得なくなるのぢやないかと云ふ解釋であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=194
-
195・小山亮
○小山(亮)委員 私は其の點は説明員の御説明は非常に曖昧だと思ふ、私の考へから申しますと、只今運輸大臣が言はれましたやうに、一個の個人の船長としては此の勞働組合員に入れる、併しながら一度或る一船の船長としての職權を持つて臨んだ場合には、是は船主の代理であつて勞働組合員ではないと解釋すべきが至當だと思ふのでありますが、此の點は重大な問題でありますから、重ねて御説明を願ひたい、私の申すことが違ふなら違ふで宜しい、説明員の仰しやることが正しければそれで宜しい、私が只今考へて居るやうに、船長と云ふものは一つの職であります、免状を與へられた職を持つて居りますから、其の職を持つて居る者が勞働組合に入つても自由であるが、一度或る一定の限られた船に、どの船に轉船するか分りませぬが、或る一定の船に乘つて其の職を執る場合には、是は商法に決められたる船主の代理人として取扱はるべきものであつて、勞働組合員として取扱はるべきものではないと私は思ふのでありますが、重ねて政府委員の御答辯を煩はしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=195
-
196・山崎小五郎
○山崎説明員 是は法律の規定がさう云ふ風に出来て居りますが、今後海員の勞働組合運動の政策としまして、船長を組合員に入れるが宜いか惡いかと云ふことは、政策問題として今小山代議士から深甚の御注意がありましたやうに、重大な問題だと思つて居ります、隨ひまして、是は今後さう云ふ人を入れるが適當かどうかと云ふことは、政府だけで決定するのでなくて、勞働委員會――色々な諮問機關或は委員會等もございまして、其の組合員に入れる人の範圍と云ふものを決定されるやうに、此の法律案でもなつて居るのでありまして、船長の問題に付きましては、政府と致しましても十分研究致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=196
-
197・小山亮
○小山(亮)委員 是は勞働組合法案の中には唯單に陸上勞働者のみでなく、廣く海上勞働者も當然入つて居ることだらうと思ふ、殊に海國日本と言はれる位な日本の此の勞働法の中に船員が入つて居らない譯はない、寧ろ船員組合は極めて重大に考へて貰ひたい、そこで此の法案を一旦出す以上は、第三條の勞働者と云ふ限界、是は船長が入るか入らぬかと云ふことは、今までも屡屡議論されて重大なことなのでありますから、之をはつきり御決めにならないで、さうして此の法案を呑めと仰しやることは、少し無理ではないかと私は思ふ、併しそれも只今問題が茲に起きまして、此の問題に付ては急速に諸外國の例等をどうか御考慮になつて、是は速かにどちらであるかと云ふことを御決定になることが、私は一番宜いと考へる、どうか此の點は急速に御研究あらんことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=197
-
198・田中武雄
○田中國務大臣 承知致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=198
-
199・小山亮
○小山(亮)委員 更に運輸大臣に伺ひますが、只今申しました戰死しました船員の遺家族は非常な窮境に落ちて居ります、現役軍人の遺家族等は或る程度まで救濟の手は差伸べられましたけれども、獨り船員のみに限つては、實に慘憺たる状況にあります、殊に戰爭が突然として終りました爲に、終戰後の第一、第二復員省關係に於ては、書類等を燒いたり色々致しました爲に、海沒した、戰死しました船員等に對する遺家族の扶助其の他の手續が、非常に困難であるやうに私は推察致します、隨て第一、第二復員省に飽くまで、之を處置をせよと言つて追究しましても、可なり私は困難な點があるのではないかと考へます、隨て船員問題は、飽くまで海運總局等が本當に眞劍になつて此の問題を取上げてやらなければならぬと思ひますので、若し第一、第二復員省等に交渉致しまして、書類が燒かれて居るとか、或は中々其の調査が今では出來なくなつて居ると云ふ現状、是は無理からぬことと考へて、御交渉の上、海運總局の方が此の問題を引受けて、運營會であるとか或は直接船主であるとか、船員を能く知つて居る者等に連絡を執りまして調査を進めれば、少しは早く出來ることと考へますので、寧ろ此の際進んで第一、第二復員省關係の、船員關係の一切の書類は、海運總局でやると云ふ風に御措置をおやりになる方が私は良いと考へますが、運輸大臣の御所見は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=199
-
200・田中武雄
○田中國務大臣 御答へ申上げます、左樣な第一、第二復員省との連絡がどう云ふ風は行はれますか、恐らく實際問題として今あなたが仰しやつたやうなことが出て來ると思ひます、是は十分考へて行きたいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=200
-
201・小山亮
○小山(亮)委員 更に船員の子弟でありますが、船員の子弟は英國邊りの例を見ますと、お祖父さんが船長であつて親が船長、又其の子供も喜んで船長、船に乘ると云ふのが「イギリス」邊りの例でありますが、日本は海運に對する一般認識が低いと共に、社會的取扱も非常に低いし待遇も惡い爲に、船員になる者がないのであります、先般「ガダルカナル」の攻撃の際に陸兵を輸送し、海兵を輸送して參りました一萬「トン」型の輸送船が、約六十隻程彼處で敵の爲にやられまして、之に乘組んで居りました乘組員が、「ガダルカナル」の或る一角に生きて居つたのであります、所が「ガダルカナル」から愈愈陸海軍の將兵が引揚げろと云ふ命令が出ました時に、それまでに食糧がなくなつて、蜥蝪を取つたり、蛇を取つたり、木の根を噛んだりして生活をして居つたさうでありますが、愈愈最後に引揚げると云ふ時に、軍人は先に乘れと云ふ命令だつた、軍屬は後にしろと云ふ命令の爲に、此の船員は不幸にして大部分が置いて來られたのであります、此の爲に生殘つて參りました者が八百人中僅か六名であります、其の六名の生殘つて來ました船員が東京に參りまして、其の實際の状況を我々に話したのを聽きました、其の時に或る二名の船長が榮養失調状態になつて倒れて居つた、さうして若い元氣な者は先に歸つて呉れと言ひながら、自分の故郷に歸つたら是だけは言傳をして呉れ、孫子の代までも忘れても間違つても自分等の子孫は海員にしないやうにして呉れ、私は船長になつて長い間船に乘つて國の爲に前線に出たが、是が最後、自分のやり方が間違つて居つたと云ふことを泌々考へるから、孫子の代まで船員にはして呉れるなと、それが遺言であります、それで此の状況をどうか日本に歸つたならば誰と誰とに實情を話して呉れと云ふのが遺言であります、八百人中六人生殘つて來た船員が今日本に居りまして、此の海員組合に入つて盛んに今海員の爲に動かうとして居りますが、之を見ましても如何に日本の船員と云ふものが、戰爭中でも氣の毒な立場にあつたか、只今御話しましたやうに、船員が海上に於て敵の爲に撃沈されながら、是が自分の船に乘つて居らなかつたと云ふことの爲に靖國神社に其の英靈が祀られなかつのであります、澤山斯う云ふ例があります、今日は海上に働いて居つた者が、それ程の苦痛を嘗めながら、而も日本に居りました所の其の家族はどうか、未だに終戰以來何等の手當もない、中には海軍、陸軍の方に問合せましても、船諸共に何處に行つたか分らないと言うて返事すら呉れないし、俸給すら呉れない、而も阪神地方に大勢住んで居りましたそれ等家族が、空爆の爲に家は燒かれて居るのでありますから、頼るに頼る所がない、愬ふるに愬ふる所がない、非常に口では言へなとやうな家族が仕事をしながら生活をして居る者があります、之に速かに温い手を差伸べて、さうして是等の人々に後顧の憂ひをなからしむるやうにすることが、新たに船に乘らうと云ふ人人に對して、非常な感激を與へることになると思ふ、そればかりではありませぬ、生きて居りさへすれば其の子供は學校に行かれるでありませう、高等學校や大學に通つて居る子供を持つて居る所の船員、或は中等學校にやつて居る所の船員たる父が死んで收入の途が杜絶えて、而も陸軍や海軍の方で尚ほ未だに遺族扶助其の他の手當を一年も二年もになつても寄越さぬと云ふ現状でありますので、學校をどんどん止めて居ると云ふ子弟があります、其の子弟をどうして學校の學資を續けてやるか、是は實に重大なことである、將來の日本の海員が喜んで出で來るか出て來ないかと云ふことは、懸つて是にあるのであります、もう軍事費もなくなるのでありますから、其の金は成べく育英教育と云ふやうな方面に廻してやつて、さうして兎にも角にも海上に於て殪れた所の人々が、其の魂が安んじて眠れるやうに、一つ特別なる御處置を運輸大臣にして戴きたい、是は長い日時を置いては駄目なのでありますから、急速に而も勇斷を以てやつて戴きたいと考へますが、御所見は如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=201
-
202・田中武雄
○田中國務大臣 御尤もな次第でございまして、戰爭前、戰爭中の時代から敗戰後と云ふ只今の時代になりましては、無論其の點は角度を變へて十分考へて、而も速かにやらなければならぬことと固く信じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=202
-
203・小山亮
○小山(亮)委員 もう一點伺ひます、終戰後と雖も、尚ほ海上には澤山の機雷があるのであります、終戰後此の機雷に觸れて船が遭難をして居りますが、此の機雷に依る所の沈沒船舶も相當に多いが、之に依つて死亡し或は傷害を受けたる者に對しては、政府としては是は戰時中と同樣に御取扱をなさるべきが至當だと考へますが、御所見は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=203
-
204・田中武雄
○田中國務大臣 御答へを申上げます、是は勿論仰せの通りに計らつて居る積りでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=204
-
205・小山亮
○小山(亮)委員 終りました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=205
-
206・添田敬一郎
○添田委員長 山崎君、總理大臣が見えましたから……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=206
-
207・山崎常吉
○山崎(常)委員 私は質問の要領が下手でございますので、其の點を御酌取りなさいまして御答辯を願ひたい、斯樣に考へます、先づ第一に、妙なことを御伺ひするやうでありますけれども、總理大臣に御聽きしたいのは、現時局下に於きます總理大臣は、此の君の下此の國を護りて我れ往かん、斯う云ふ決意を御持ちでございませうか、如何でございますか、私は先づ此の點を御伺ひして御尋ねに入りたい、斯樣に考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=207
-
208・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 一寸其の御言葉ははつきり私は今御聽きしなかつたのでありますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=208
-
209・山崎常吉
○山崎(常)委員 もう一度申上げます、此の君の下、此の君の下、此の國を護りて我れ往かん発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=209
-
210・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 其の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=210
-
211・山崎常吉
○山崎(常)委員 然らば御尋ね致します、私共日本國に生を享ける國民と致しまして 天皇に歸依しない者は一人もないと、私は斯う考へる、併しながら現今の世情は如何でございませう、都市或は農村、各方面で 天皇はなくとも宜いと云ふ共産主義者の運動が擡頭して居ります、又私共の聞く所に依りますと、最近は神社の神官或はお寺の僧侶、斯う云ふやうな人達が隣組の會合或は社會問題の會合あたりに出席を致しまして、 天皇陛下はなくとも宜いぢやないか、是は私畏多いことでございますので、斯う云ふ言葉を使ひますけれども、それ以上な不態な言葉を使つて、色々な會合が催されて居ると云ふことも聞きます、洵に申譯のない次第でないかと云ふことを私共は考へます、斯う云ふやうな運動、其の種の運動に對しまして、總理大臣は斷乎たる處置を執ると云ふやうなことを屡屡申されて居るやうな風でありますけれども、其の實績は私共は認められませぬ、斯う云ふやうな運動が今後續けられて行く上に於きましては、如何なる状態になるかと云ふことは洵に申譯のない次第ぢやないかと考へます、此の點に付きまして、一應総理大臣の御覺悟を御伺ひしたいと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=211
-
212・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 御答へを申上げます、「天皇は國の元首にして統治權を總攬し此の憲法の條規に依り之を行ふ」と云ふ憲法第四條の規定、是は儼として動かすべからざるものだと私は存じて居ります、是は私の信念であります、之に反對して天皇がなくても宜い、天皇制を否認すると云ふやうな意見は、是は極く一部分が持つて居るかも知れませぬ、持つて居る者があるかも知れませぬけれども、決して日本國民の纏まつた數を代表したものではないと、私は確信致して居ります、如何なる言論がありましても、國民の多數は必ず天皇を奉戴し奉つて、從來の如く、忠義の心を發揮すると云ふのが、私は國體の精華であり、是は動かすべからざることと解釋致して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=212
-
213・山崎常吉
○山崎(常)委員 總理大臣の御信義の程は、私も今の御言葉に依りまして、又本會議の御言葉に依りましても御察しすることが出来る、出來ますけれども、今も申上げましたやうな工合に、左樣な運動が行はれて居ると云ふことは、總理大臣は部下の方々から御聽きのことであると思ひます、私共も各方面で之を耳にして居ります、或は天皇に對する所のびらまで、どうでも宜いんだと云ふやうなびらまで都内各所に貼られて居ることも御存じでございませう、或は農村、或は地方都市に至るまで此の演説が行はれ、此のびらが貼られて居る現状を御存じであらうと思ひます、私の御尋ねせんとしまするのは、是等の此の種の運動、此の種の行動、言動に對しまして、如何なる方針を御執りになるかと云ふことなのです、其の御尋ねせんとする所の眞意は此處にあります、私共は直接には聽く術もございませぬ、聽く方法もございませぬが、新聞を通じて屡屡見る所に依りますと、「アメリカ」は共産主義は嫌ひだ、期う言ふ、洵に申譯ないことでございますが、日本は天皇あつて天皇の權威は殆どない、内閣總理大臣あつてなきが如き現在の状態、其の日其の日の食糧の問題に至るまで、内閣に頼らうとはしないで、「マッカーサー」に言ふ、「マッカーサー」に訴へる、言葉の上のみでなくして、上野の山から數旒の旗を立てて、「マッカーサー」司令部に歎願に行くと云ふやうな實情も御存じのことと思ひます、飜つて又申上げまするが如くに、左樣に天皇廢止の共産主義の運動が頻々として――數は少いと雖も頻々として行はれて居る、「アメリカ」は共産主義は嫌ひだ、と言ふけれども、「マッカーサー」の治下にある日本の國内に、さう云ふ運動が起されて居ると云ふことに付きましては、私共は一向是は合點が行きませぬ、「ポツダム」宣言に依りましても、又屡屡現れます所の新聞の或る場合の論調に依りましても、日本の天皇制は國民の總意に依ると云ふやうなことも言はれて居ります、私は斯う云ふやうな問題を此の儘に放置して置きます時には天皇に對し善からぬ考へを持つ所の國民が段々増加すると云ふことを憂ふるのであります、現在の日本の法律に依つてそれを取締ることが出來ぬと致しますなれば、何か打つべき手がなければならない、只今此の君の下此の國を護りて我れ往かん、其の決意があると内閣總理大臣は仰しやつた、其の言葉の手前何かの手を打つべきではないでせうか、打つべき手がないでせうか、其の點をはつきりと御尋ねしたいと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=213
-
214・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 私の解釋致して居ります所に依りますれば、聯合國側の方針は、日本の國體と云ふことに付ては、日本國民の自由なる選擇に任さうと云ふことが方針であると私は解して居ります、隨て今日政府が一つの方針を決めて、それで以て國民に對して壓迫を加へると云ふことであれば、自由なる選擇ではないと解せられる虞があります、さう云つたやうなことは全く人民の自由なる發言に任して置きましても、日本の國民は決して之に盲從するものではないと信じますから、却て政府が壓迫を加へ、さうして其の權力に依つて一定の意見を人民に強ひるものだと云ふ感じを與へない方が宜からうと、私は思つて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=214
-
215・山崎常吉
○山崎(常)委員 更に問題を具體的の問題に進めて見たいと思ひます、故意に一般國民に壓迫を加へると云ふやうなことは、勿諭民主主義を是から確立しなければならぬ日本の現状として執らざる所でございませう、併しながら日本國民が天皇を推戴して進んで行く上に於きまして、それが日本國として正しく、日本國民としてさう行くことが絶對に正しいと云ふ確信があるなれば、それを破壞せんとする所の思想に對し、又それを破壞せんとする運動に對しましては、日本政府として執るべき方法がなければならぬではありませぬか、是が示されて居らない、私は是は命を捨ててもやらなければならない問題だと思ふ、それに依つて日本國民がはつきりするのではないでせうか、天皇を推戴して天皇と共に歿すると云ふ決意が國民の中になければならない、それが今ぐらついて居るではありませぬか、それを呼び覺ましてやるのが内閣總理大臣としての職務ではございませぬか、今日本國民は數はないでせうけれども、其の運動が放縱に行はれて居る結果がどう云ふ工合に參つて居るでせうか、若き青年の人達は天皇を推戴することが正しいなんと云ふ言葉は現在よう出しませぬ、此の實情の打開の方法を何とか講ぜねば、臣として申譯がないぢやありませぬか、重ねて此の點を御伺ひしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=215
-
216・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 只今の實に熱烈なる、誠實なる御意見、私には能く了解し得られます、併しながら反對意見を持つ人に對し壓迫を加へると云ふことは考へものであらうと思ひます、思想に對しては、思想を以て對抗すると云ふのが政治の常道であらうと考へますから、私は反對意見を持つ人に政府の方針は斯く斯くであるから、此の通り蹤いて來いと、それを力を以て強制すると云ふことは、是は政府としてやるべきことでないと思ひます、併しながらさうだと云つて、日本の國體は儼として動くべきものではない、私は斯う確信して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=216
-
217・山崎常吉
○山崎(常)委員 左樣でありますれば、別の方面から別の問題に付て御尋ねしたいと思ひます、最近多數の人々が戰爭犯罪人として逮捕を命ぜられました、洵にお氣の毒ではありますが、其の中に宮樣も加はつて御見えになる、是は宮樣が御加はりになるのは今度が初めてでありましたが、我々の常識を以て考へます場合に、今度加はりました所の宮樣のみではない、まだ他の宮樣の方へもそれが及びはしないかと云ふことを考へるのでございます、更に又外電に依ります新聞の傳へる所では、日本の天皇にも其の責任があるのだ、第一番に天皇に責任があるのだと云ふやうな論調も傳へられつつあります、總理大臣はどの程度までに及ぶかと云ふことを御存じか知りませぬが、私共は其の程度が分りませぬ、新聞を通じ、世間の噂を聞く時に、或は 天皇にまで及びはしないかと云ふやうなことも考へられるのであります、若しさう云ふ事態がありと致しますならば、政治の尖端に立つて居ります我々と致しましては直ちに其の進退を決しなければならぬのではないかと云ふやうなことも考へられます、更に解散後に總選擧が行はれると致しましても、若し其の間にさう云ふことありとするならば、新たに現在の議員が選擧に當選した後と雖も、さう云ふことありとするならば、 天皇と共に此の職を退かなければならぬのではないかと云ふやうなことも私共は考へられます、さう云ふやうな事態に對し、又此の議員の職を退く云々と云ふことに付きまして、どう云う御見解を御持ちでございませうか、此の點を御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=217
-
218・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 今囘多數の人々に戰爭責任者として逮捕命令を聯合軍司令部から出したのであります、斯う云つたやうな戰爭責任者の範圍は何處まで及ぶかと云ふことは、是は聯合軍司令部の決定することでありまして、未だ司令部に於てはさう云ふ點の範圍に付て意見を明白に致したことはありませぬ、隨て今日私が之を豫測すると云ふことは出來ないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=218
-
219・山崎常吉
○山崎(常)委員 是は御尋ねするのが無理かも分りませぬが、今申上げました、若しさう云ふ事態ありとするならば、議員としての立場は職責と云ふ點に付ては、何か御考へでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=219
-
220・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 それは全く今日に於きましては架空的の御質問でありますから、さう云ふ場合にはどうするかと云ふことは、私は言明出來たものではないと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=220
-
221・山崎常吉
○山崎(常)委員 其の問題は一應打切りまして、次に簡單に御尋ね致しますが、現在の國内の國民の窮乏状態は既に御聽きではございませうが、豫想以上でございます、殆ど國民は此の寒空に飢えと寒さで刻一刻と倒れつつある現状でございます、東京上野の地下道にひもじさと寒さで凍えて死んだ死人が俵に詰められて、始末も出來ず何人も積まれて居ると云ふことを御聽きでございませう、各都市に左樣な状態が見受けられ、其の死骸を始末することが出來ない現状でございます、現内閣は之に對して何か積極的の方法を執られなければならないと思ひます、東京を初め大阪其の他の小さい都市々々に至るまで、其の死骸の始末さへ出來ないと云ふやうな、斯樣な有樣でございます、斯う云ふやうな問題に對しまして、内閣總理大臣はどう云ふ御考へを御持ちになつて居りますか、何か對策がおありになるか御聽きしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=221
-
222・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 今日我が國民生活に於て洵に惨憺たる状況がありますることは、私が自ら見聞もし、又深く日夜心を痛めて居る問題であります、之に對して如何なる對策を執るか、衣食足つて禮節を知ると云ふことを謂ひますが、衣食は今足つて居ないのでありますから、どうかして此の衣食を足るやうにしなければいかぬ、是が詰り根本問題であらうと考へて居るのであります、其の見地から致しまして、本議場に於きましても、又色々の委員會に於きましても、私は其の策に付て申上げて居るのであります、即ち食糧に付きましては斯く斯くの對策を執る、衣料に付ては斯く斯くの對策を執る、又住宅の問題に付ては、今戰災地に付ては、戰災復興院で以て對策を執つて居る、斯う云つたやうな具對的な對策は既に度々政府も闡明致した所でありまして、どうか其の闡明致した所に依りまして御諒承を願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=222
-
223・米田吉盛
○米田委員 折角大臣のおいでを願つて居るのでありますから、一寸御質問致します、實は現在に於て下級の俸給生活者は幾らで月々生活が出來ると政府は御判斷になつて居りますか、厚生大臣もいらつしやるのですから、はつきりした數字で御答へ願ひたいと思ひます、總理大臣の御考へがあれば、今度官吏の増俸もあると云ふことでありますから、民間の諸會社も事業團體も之に倣ふと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=223
-
224・芦田均
○芦田國務大臣 先程他の委員の方からも生活費の問題に付て質問がありました時に御答へしたのでありますが、今日の情勢は御承知の通り公定價格、闇價格、非常な差があり變動があります、それが又場所に依り時に依つて常に變動して居るのでありまして、最低生活水準に於て現在幾ら掛るかと云ふことは、其の人が公定價格に依つて生活をして居るか、又闇の物をどうしても買はなければならないかに從ひ、家庭の状況、土地の状況に應じて非常に變るのでありまして、若し多少でも事實に即した數字を擧げようと思へば、恐らくは日本國中の各地に亙つて大都市、小都市、農村、海岸、山奧、それぞれ違つた生活費を基礎にして計算をしなければならないと思ひますので、直接其の仕事を扱つて居る厚生省に於ても、一定の標準を示すことに非常な困難を嘗めて居るのであります、併しながら勞働者に付きましては、略略礦山勞働者と工場勞働者とは、はつきりした生活の立場が分りますので、礦山勞働者には坑内で幾ら、坑外で幾ら、工場勞働者には幾らと云ふ賃金令に依り一定の賃金を決めて居る譯であります、其の他の地方に於ては、現状から見て一律の生活費を示すことは非常に困難なる事情は、米田君に於ても御諒承下さることと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=224
-
225・米田吉盛
○米田委員 政府が狙つた今度官吏に増俸せられると云ふ點も、今のやうなことから割出して行くと、幾らに上げて宜いか分らぬと云ふ結論に達せざるを得ないと思ふのであります、特に全國の津々浦々まで公正な評價をと云ふ譯ぢやありませぬ、大都市に付て例へば巡査、國民學校の教員、斯う云ふ程度の生活水準と云ひますか、或はもう少し下に下つても結構です、是は大體三百圓とか四百圓とか云ふやうな數字がはつきり常識的にも考へられるだらうと思ひます、勿論月に依つて違ふでせう、今の「テンポ」が速い爲に二箇月、三ケ月違ふだらうと思ひますが、それ位の狙ひは分つて居る筈なんだ、是は國家が一つの大きな示唆を一般國民に與へるものであり、而も年の瀬を控へてのことですから、民主的の政治だと仰しやるのだから、是非はつきり言はれて宜いぢやないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=225
-
226・芦田均
○芦田國務大臣 御説の通り出來るならばさう云ふ實際に即した數字を作り上げて、それを基準にして官吏公務員等の俸給を決めることが科學的であります、所が御承知の通りに配給其の他の公定價格に依つて生活をする場合と、それから闇の物を已むを得ず買ふ場合、其の闇の物を買ふ分量、それ等の事情を標準的に定めることが非常に困難なことは御分り下さると思ふ、其の邊の事情から考へまして、今囘行政整理に伴つて増給をしなければならぬ、其の増給は今日の國家の財政状態に顧みて、相當政府として思ひ切つた増給をすることに決めて居るのであります、まだ之を直ぐに御披露する程度に至つて居りませぬが、政府としては今日の實情に即して出來るだけのことをする積りであると云ふ程度に御諒解を願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=226
-
227・米田吉盛
○米田委員 大變しつこいやうですが、國務大臣として總理大臣、厚生大臣に其の立場の御見解でも結構だと思ふのですが、是は重要な問題だと思ふ、そんなことが分らぬで厚生大臣が勤まる筈がないのですから、はつきり分つて居らなければならぬ、巡査が幾らで食へる、それで幾らの給料を渡してある、其の差額はどれだけ足らぬか、それをどうして食つて居るか、斯う云ふことがはつきり分つて居なかつたら、一日も仕事は出來ぬ筈だと思ふ、強ひて政府全體としての意思決定として承らぬでも、國務大臣一個の御考へとして折角總理大臣も御臨席になって居るのですから、御二方の御見解を數字で私は承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=227
-
228・芦田均
○芦田國務大臣 厚生省として調べた數字はあります、其の數字を申上げることは、もつと早く申上げても宜かつたと思ふのですが、大體工場では生活費の水準を一應取上げまして、京濱地方では一箇月に百五十圓から百七十圓程度に支給をして居ります、それは大體現在の生活費と睨み合せて出して居る、さう云ふ風に工場とか礦山は比較的生活費を掴むことが樂であります、それで先程申上げましたやうに、工場に付ては何程、礦山に付ては何程と決めて居ると申したのですが、其の他の職業に於ける生活費の水準は千差萬別で困難でありますので、的確な數字は十分にまだ調査致して居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=228
-
229・米田吉盛
○米田委員 餘り長くなりますから、私は是で遠慮致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=229
-
230・添田敬一郎
○添田委員長 それでは次に赤尾君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=230
-
231・赤尾敏
○赤尾委員 申すまでもなく今日我が國體は重大な危機に瀕して居ると思ふのです、それに付きまして總理大臣に私の意見を申上げまして、御意見を承りたいと思ふのであります、國體護持とお役人さん方も言つて居る、一方には共産主義が殖えて行き、鵺的社會主義がはびこつて居り、色々國民が迷つて居ります、國體護持と云ふことが空念佛になつて居るのは、國體觀が徹底して居ないからであると思ふのであります、それで國體主義者は國家主義者だと言はれ、殊に極度に熱心な者程極端な國家主義者だと云ふので誤解を受けて居るのであります、是は重大なことでありますので、私は申上げずには居られないのであります、私は國體を斯う考へて居るのです、國體の精神と云ふことは「イエス」の道、釋迦の心と一つのものである、皇祖皇宗が親心を御説きになつた御仁愛の精神である、釋迦の教と云ふものは結局慈悲なんだ、「キリスト」の教は愛と云ふことに盡きる、私は日本の國體精神と云ふものは大御稜威とか、或は大御心とか色色表現されて居りますが、親の子を愛する至情を以て人類に臨む、「キリスト」の愛と通ずるものである、同じだ、或はそれ以上のものだ、其の道を皇祖皇宗が御説きになつた、釋迦や「キリスト」は一代で死んでしまつて其の血筋が絶えたのでありますが、日本の其の道を御説きになつた御先祖の御血筋が今日に至るまで尚ほ續いていらつしやる、隨て 天皇陛下は其の愛の道をば耶蘇の如く或は慈悲の道を釋迦の如く御説き遊ばさるる宗家である、私は斯う解釋して居るのであります、國體とは愛なり、慈悲なり、「イエス」に通じ釋迦の道と一つのものである、故に日本の國體は尊い、其の道は人類に及ぼして悖らざるものだ、此の道こそ今日世界混亂の時全國民の熱意に依つて發揚しなければいかぬと思ふ、然るに今日受太刀になつて居つて、國體と云ふことを言ふと國家主義のやうに言はれるので遠慮して居る、さうして共産主義者や社會主義者のみが日本の民主主義の如く大きな面をしてのさばつて居る、斯う云うことは恐るべきことだと思ふ、寧ろ今日こそ國體を明徴にし、國體の道を明かにする爲に、全國民が總立ちにならなければならぬ時だと思ふ、私は國體の精神を斯樣に考へて居りますが、總理大臣の御所見を伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=231
-
232・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 只今御述べになりました御意見は、私は深き感興を以て傾聽致しました、日本國民が之に對して如何なる反對論があり又如何なる論議を致して居るに致しましても、是は日本國民の全體から言へば極めて小部分でありまして、先刻も申しました如く、思想は思想を以て之に對すと云ふことに致して置いて宜い、私はさう思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=232
-
233・赤尾敏
○赤尾委員 國體の精神が仁愛の心である、「イエス」の愛だと云ふことになりますれば、そこから總てが出發して來る、今日色々改革される所の法律やら組織がどんどん出來ますけれども、其の指導精神に魂が打込まれて居ない、是では徒らに斯う云ふ勞働組合法案なんか作つても混亂を増すのみであつて、共産主義や社會主義の足場にされて「ボルシェヴィーキ」革命の爲に禍されると云ふ危險すら起きて來る虞があるから、思想戰對策として、武装が解除され丸腰になつた日本としては、今後此の思想を以て世界に臨んで行くより外に途はない、其の思想の基準を何處に置くかと云ふと、國體を明かにすると云ふことであります、然るに一方には國體を覆滅しようと云ふ陰謀が色々の手で行はれて居る、新歴史研究會などと云ふものが出來まして、日本の國體なんかいんちきだ、總て造られたよたなものだと言つて、國體破壞の尤もらしい看板の下に、厖大な資金を以てやつて居ると云ふことも聞いて居る、私は此の際やはり国體の科學的研究を政府が御考へになつて、國體と云ふものを世界に能く分らせるやうに、聯合國に能く分るやうに、又日本人にもはつきりと分るやうにする爲に御努力がありたいと思ふのであります、又私と致しましては、此の國體を護る爲に一番大事なことは、やはり宮中が國體の精神に徹底して戴かなければいかぬと思ふ、日本は天皇中心である、天皇絶對、天皇中心と云ふことで來て居る、是が源である、此の宮廷勢力が、或は天子樣の周圍が若し溷濁して居りますならば、枝葉の事を如何に致しましても、是は清まらぬ、日本の新しい發足に當りまして、第一番に肅清し改革しなければならぬことは、宮中の民主化だと云ふことだと思ふ、宮廷勢力の中の腐敗して居る所では、國體の精神に則るやうに、大膽なる改革を入れることが私は必要だと思ふのでありますが、宮中の民主化と云ふことに付て、肅清と云ふことに付て總理大臣の御意見を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=233
-
234・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 宮廷内の改革のことに付きましては、私は此の際何も申上げることはありませぬ、是は私として左樣なことを申上げるべき立場でないと考へます、併しながら赤尾君が、其の御信念を以て國民に愬らへられると云ふことは、何等私として異議があるべき譯はありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=234
-
235・赤尾敏
○赤尾委員 私は天皇制と申しますか、國體と申しますか、國體を護持せんが爲に命を懸けてやつて居るのであります、又之に最も尖鋭に對峠して居りますのは、今日共産黨の勢力でありますが、此の共産黨も油斷がならぬ、相當大きな力であると思ふ、昔の共産黨と違つて居る、日本は弱體化されて、政府もないものと同じやうな状態なんだ、軍隊もありませぬし、重大な危局に際會して居る、其の國體を護持する立場から申すのでありますが、今日の上の方の方々のやり方と云ふものは、國體の精神に反して居る、殊に宮廷に巣食つて居られる所の偉い人達は、最も甚しく國體精神を蹂躙するものである、だから敗戰をした、だたら共産黨も蔓延つて來た、眞先に國體を蹂躙する者は宮廷に巣食つて居る所の偉い人達だ、此の人達の重大なる反省を促さなければならぬと思ふ、私の國體觀から申しますると、天子樣は大御親樣であり、臣民は子である、隨てそれはお釋迦樣も一切の衆生は我が子なりと仰しやつて居られる、さうして其の道を徹底して行つて居られる、敗戰の結果大勢の失業者が出て來た、是等の餓鬼道に墮ちて居る、地獄に墮ちて居る、食ふ物がない、然るに皇室の財産が十五億七千萬圓あると云ふことを此の間發表になつた、之を此の儘にして置いて宜いであらうか、釋迦は持てる一切を投出して、衆生を救ふ爲に、出家得度をし、裸になつて仁愛の道を説いて居る、だから掌を合せて拜むのです、「キリスト」が、衣一枚になつて愛の思想を説いた、日本も皇祖皇宗の御遺訓に從つて仁愛の道を行ずる、國體の精神を茲に徹底すると云ふことにならなければならぬ、大勢の赤子が惱んで居る時に、大御親樣の所に財産が十六億近くあると云ふことが發表されて居る、是は臣民から見ますると何かをかしな感じがする、でありますから 陛下の周圍に居る重臣諸君は能く御考へ下さいまして、私は皇室の御財産は此の際國民と申しますか、戰災者と申しますか、憐れむべき餓鬼道地獄の底に落込んで居る所の多數を御濟度遊ばされる爲に、御開放なさるのが本當ではないか、さう又御願ひをして戴くやうに御取計らひ願ふのが、君に大忠を盡す所以かと思ふのであります、天子樣は斷じて皇室の御財産や、或は濠やあの番兵に依つて守られて居る譯ではない、天子樣は我々國民の中に在る、常に我々の魂の中に生きておいでになります、皇室は何も財産は要らぬと思ふ、さう云ふ財産に依つて守られ、濠に依つて守られ、衞兵に依つて守られると云ふ考へ方は、それは間違つた考へ方であつて、國體的な考へ方ではない、だから此の問題は――殊に甚だしきは今日一世の非難を俗びて、聯合國から解體命令を受けて居る所の利潤追求の營利會社の株を皇室が御持ちになつて、配當を御受け遊ばされて居ると云ふことは、日本の國體の立場から考へて大なる矛盾です、日本國土、國民全部 陛下の御物と云ふ建前になつて居りますのに、其の中に小さな垣を結うて、會社の株を御持ちになつて配當を御受け遊ばされると云ふやうな考へ方と云ふものは、此の際私は宮中の民主主義化と申しますか、國體から、皇祖皇宗の御教へに徹底する爲に、さう云ふことは此の際止めた方が宜い、營利會社の株などは此の際御持ちになることは御止めになつた方が宜い、皇室財産の開放などと云ふことも、私は進んで御願ひするやうな御取計ひ願ひたいと思ふのであります、其のことが國體を守ることになつて行く、天子樣と臣民との間を本當に親子の情に、親愛の情に結び付けて行くことにしないかと思ふ、お釋迦樣ならきつとさうします、「キリスト」ならきつとさうすると思ふ、總理大臣の御所見を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=235
-
236・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 皇室財産の處理のことに付きまして、赤尾君の御意見は私も承りました、赤尾君の御意見としては承りますが、之に對する私の意見と云ふことになりますれば、私は其の問題に關して論議すると云ふことは、私として出來ないことは能く御諒承を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=236
-
237・赤尾敏
○赤尾委員 今囘の戰爭でもさうです、我々國民は區々たる重臣や東條さんの命令に依つて動いたのではない、我々の絶對信仰の中心であります 陛下の御名に依つて號令が出たのであります、だから生命も財産も捨てて全國民は戰場に赴いたのであります、隨て此の戰爭の責任と云ふことに付ても、私は今茲に餘りに自分の考へて居りますることを率直に申述べることを控へますが、神の道がある、國體の精神に照し、道理に照して、嘘僞りがあつては斷じてならぬ、何人と雖もさうでなければならぬ、だから宗教的に道徳的に是は考慮を致しまして、考へて戴きまして、偉い方々に、お上の方々にも御考へを願ひまして、善處せられんことをば私は草莽の微臣の眞心と致しまして祈念する次第であります、又新聞など見ましても、畏くも 陛下の御退位などと云ふことがちよいちよい出ます、外國などでも色々さう云ふ點が論議されて居るやうでありますが、國體を護ると云ふこと、天皇制を擁護し奉ると云ふこととさう云ふこととは別の問題でありまするから、人間は退くべき時は退かなければならぬ、退くことが守ることになる、退くことが勝つことになり、又國體の大義を明かにすることにも相成ると思ふのであります、だから宮中の側近の偉い人達が、目覺めて、悔ひ改めて禊祓ひをして出直して戴くと同時に、私はお上にも眞理に基いて、此の難局を突破する爲に宜しく御取計らひを御願ひしたいと思ふのであります、我々と致しましては 陛下に申上げる途がありませぬ、塞がれて居る、我々は共産主義と戰つて、居る、何時殺されるかも知れぬ、さうして 天皇陛下を護つて居る、其の護つて居る我々が 天子樣に手紙を差上げることも、勿論會ふことも出來ぬ、意見を申述べることも出來ぬ、 陛下に本當のことを申述べようと思つても、周圍に附いて居る連中が揉み消してしまつて、決して通じない、途は非常に狹い、こんな不自然な話はない、天子樣は大御親だと思つて居る、我々は心から子が親に意見を申述べる途を與へられて居ない、而も國體が危急存亡の秋に於て尚ほ然り、だから私は今日斯う云ふことを申上げる積りではなかつたのだが總理大臣の顏を見て、又前の委員が國體のことを御話になりましたので、つい申上げずに居れぬ氣持になつて申上げるのでありますが、私と致しましては斯う云ふ機會で是だけの話も實はしたくないのだ、併しさうしなければ通ずる途がないのです、何とも彼とも仕樣がない、斯う云ふ點を一應お考慮願ひまして、我々の氣持が天子樣に通ずることの出來るやうに途を御開き願ひたい、至急願ひたい、明日にでも私が天子樣に御目に掛ることの出來るやうに途を御計らひを願ひたいと思ふ、何と云ふことですか、外國の新聞記者に御會ひ下さつて、生命を賭けて日本の國家主義の爲め、日本國體を擁護する爲に、天皇制を護持する爲に戰つて居る我々は近付くことも出來ない、手紙を差上げることも、御目に掛ることも出來ない、悲しいことではありませぬか、さうして此處で言うて宜しいか惡いか知らんと思ふやうなことを言はざるを得ないのです、それ程是は重大な秋です、甘く考へて居つてはいけませぬです、戰爭だつてさうでせう、誰も敗けると思つてやつたものはないそれが敗けた、「ロシヤ」が出て來たことだつて皆瞞されて居る、だから一度共産黨の問題になれば、私は總理大臣の演説中であらうと、外務大臣の演説中であらうと、馬鹿、貴樣達は瞞されて居るのだと言つて居つた、其の通り出たぢやありませぬか、出るか出ぬかと云ふことを政府の人も、軍の人も、外務省の人も誰も言つて居らぬ、それと同じやうに國體は是は中々危險な所に來て居る、だから眞劍に考へて、小さな忠義の問題でなく、大忠に行かなければならぬ時が來て居ると思ふのであります、此の邊も總理大臣能く御承知下さいまして、私が申上げるまでもなくどうか御善處を御願ひしたい、殊に我々臣民と 陛下との間に途を開いて戴きたい、もつと何とか親しく御言葉を戴けたり、或は我々が考へて居りますることをば申述べるやうな機會をも與へて戴けると云つたやうな途を一つ御開き下さるやうに、總理大臣の御努力を願ひたいと思ふのですが、如何でせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=237
-
238・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 只今も申しました如く、それは赤尾君の御意見として私は承つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=238
-
239・赤尾敏
○赤尾委員 それでは勞働組合法案のことに關聯して御尋ね致しますが、此の法案を見ますると、唯組合と云ふ容れ物を作るだけで、之に日本的性格――私から申しますると、國體主義的な性格がちつとも出て居ない、是なら共産黨の連中が之を踏臺にして組合を作らうと、無政府主義者が作らうと宜いので、亂雜なことになつてしまふ、「ソヴィエト」の勞働組合は赤色勞働組合と言はれて居る、共産主義の指導原理の下に統一されて勞働組合が結成されて居る、「ドイツ」は亡びましたけれども、「ナチス」の勞働組合は「ナチス」の指導精神で統一されて居つた、然るに日本の國體の下に勞働組合が出來るのに、勞働組合の指導精神と云ふものがない、佛造つて魂が入れてない、無責任極まる、而も思想昏迷の時代に政府は一體考へがないのか、馬鹿なのか、無精神なのかと云ふことになる、何と云ふ無責任なことか、勝手に勞働組合だけ作つて勝手に暴れ放題暴れろ、是は私は御考へを願はなければならぬと思ふ、何とか國體を護持し、日本の良い所を世界に發揚する、其のことに寄與することが勞働者の幸福の根源にもなりますので、勞働組合法案の中に日本的性格――日本的性格と申しますと、語弊があるかも知れませぬが、最初申しましたやうな國體觀に基く何か特殊性を――「ソヴィエト」の勞働組合などを見ましても、其のことは相當はつきりして居ります、さう云ふやうな要素をば少し含めて戴きたい、斯う實は考へるのであります、殊に今後民主主義の運動と申しますると、此の儘の所では社會主義や共産主義だけが民主主義の運動のやうな顏をして威張つて居つて、國家主義なんかと云ふやうなものは丸で問題にならぬ、非常な誤解をされて居る、何を生意氣なことを言つて居ると私共は思つて居ます、日本の國家主義――此のことに付ても總理大臣に伺ひたい、聯合國では極端な國家主義者を罰すると云ふやうなことを言つて居りますが、一體極端な國家主義とはどう云ふことか、私は日本の國家主義は何處の國にもある國家主義とは違ふ、それは日本の國家主義にも色々ありませうが、純粹な日本の國家主義は日本の國體主義なんです、日本の國體護持主義なんです、日本の皇道精神主義なんです、此の皇道精神を護持する爲に熱心なる者が、極端なる國家主義者と言つて罰せられることになつたら、日本の國體は覆滅してしまふ、だから聯合國の言ふ極端なる國家主義と云ふことは一體どう云ふことなのか、私には實は能く分らぬ、それで下手をしますと我々が其の極端な國家主義者だと云ふやうに何時も仲間に入れられてしまふ、飛んでもない話で、忠義を盡す者程極端な國家主義者として首になると云ふやうなことでは、それは大變なことに相成つて來ると私は考へるのでありますが、極端な國家主義と云ふことに付て、總理大臣はどう御考へになつて居らつしやいますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=239
-
240・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 さう云ふ問題に付きまして、學理的の科學的の解釋を與へると云ふことは、中々困難なことであらうと思ひます、唯常識的に考へまして、極端な國家主義と云ふのは「ファッショ」であるとか、「ナチ」とか云ふやうなものを頭に置いて書いた規定であらうと私は思つて解釋して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=240
-
241・赤尾敏
○赤尾委員 所が聯合國は日本の國情を能く知らないで、逮捕命令が最初來ました時にも、死んでしまつて居ない中野正剛さんや、内田良平さんに逮捕命令が來た、是れ程日本の國情は知らない、又一方爲にせんとする政治謀略がありまして、中傷する奴が澤山ある、そして眞に日本の國家の爲になる、日本の國體を護持する、此の日本の精華と言はれるべき要素を持つやうな人々をも、極端なる國家主義だ、「ファッショ」だと惡宣傳し中傷して、之を聯合國の手に依つて始末しようと云ふやうな傾向も見受けられるのでありますが、政府は日本の國家主義運動とか、或は國家主義に付て色々ある、併し本當の純正なる日本の國家主義と云ふものは斯う云ふものであつて、聯合國が誤解して居るやうな軍國主義や、帝國主義や、侵略主義ではない、道義主義だ、宗教的な深さを持つて居ると云ふことを、日本の國體を能く御説きになつて、日本の純眞なる、眞面目なる國家主義をば守つて行くと云ふ御態度を一つ御執り願ひたい、さうでないと聯合國に誤解をされて行つてしまふ、是は相當大事なことだと思ふのですが、總理大臣の御所見を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=241
-
242・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 是も私先刻度々申しました如く、赤尾君の私に對する御希望であらうと思ふのでありますが、それは御意見として承つて置くと申すしか、私は外に御答へ申すことはないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=242
-
243・赤尾敏
○赤尾委員 それでは總理大臣に御尋ねすることは是で止めまして、厚生大臣に一寸御伺ひします、勞働者の指導方針に付て何か御計畫があつても宜いんぢやないか、勞働組合を作り、今後の勞働者を導いて行く上に於て、其の邊は放つて置いて宜いものか、或は何か日本的な民主主義を確立するとか、大成する指導方針と云ふやうなものを、はつきりしないまでも何とか御定めになつて、御努力をなさると云ふ風になさるのが宜いんぢやないか、唯放つて置いたんでは餘り無責任ぢやないかと思ふのですが、其の邊何か御考へがないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=243
-
244・芦田均
○芦田國務大臣 現状に照して見て、赤尾君がさう云ふ心配を感じられることは能く理解が出來ます、併しながら政府の方針として勞働階級を指導すると云ふ行き方が、果してあの人達の氣持にそぐふやり方であるかどうか、殊に從來の政府竝に官僚に對する反感が相當強い際に、又しても役所が旗を振つて右向け左向けと言ふのが、果して效果ある教育方針であるかと云ふことも篤と考へなければならぬと思ふ、さう云ふ問題は寧ろ社會教育とか、學校教育とか、或は勞働組合内に出來上る修養團體とかに中心を置いて切磋琢磨させることの方が、近代の傾向から言つて效果が擧るのではないか、斯樣に考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=244
-
245・赤尾敏
○赤尾委員 それぢや濟みました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=245
-
246・添田敬一郎
○添田委員長 逢澤君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=246
-
247・逢澤寛
○逢澤委員 大分時聞が遲くなりましたので、私は簡單に御尋ね致します、失業對策に付きまして先程厚生大臣から抽象的な御答へがありましたので、大體私はそれで諒承するのでありますが、其の對策の根本方針に付てもう少しく詳細に承りたいと思ふのであります、それは「ポツダム」宣言を忠實に履行すると云ふことになりますと、總ての國民の仕事の分野と云ふものが國内に限られてしまふ、それに加へまして、在外の邦人、在外の復員軍人などが歸つて參りますから、それ等に對する食糧關係のもの、即ち農村に對する人口の配置を如何にするか、更に國内産業、生産方面の分野を如何にするかと云ふことで、大體其の見透しが厚生省にはあると思ふ、其の見透しがありませぬと、失業對策をやると云つて見ましても、是は極めて抽象的になつて來ると思ひますので、若しさうした大體の日本の人口の配置と云ふものはどう云ふやうな方法に依つて今後やるか、斯う云ふやうなことに付て何か數字を擧げたものがありましたら、一つ御教へを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=247
-
248・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御質問は誰しも正確に掴みたいと思つて居る點でありまして、而も之を今日直ぐに具體的に案を立てることに於て困難を感じて居る點であると思ひます、失業對策と人口政策、此の二つは絡み合つた問題であります、隨て人口政策は今後一層日本の將來の歩むべき道と睨み合せて、しつかりしたものを立てなくてはならぬと思ひます、其の點に付ては既に調査を始めて居ります、御承知の通り從來の人口問題研究所と云ふのは、戰時の要請に應じて、産めよ殖やせの一本でやつて來た、然るに終戰と同時に、從來の行き方では問題の解決が付かないと云ふので、更に再檢討をしなければならない、隨て今後の人口政策はどう云ふ途で行かなくちやならぬか、折角今研究を始めて居ります、それに伴つて必要なのは、我が國全體の國土計畫、産業を如何に再編成すべきか、農村人口をどうすべきかと云つたやうな廣い問題であります、一面又今御話の失業問題が、至急解決しなければならぬ重要な案件になつて居ります、私と致しましては、主として失業對策に付て御答へを致したいと思ふのですが、此の問題は本會議に於ても既に論じられ、又其の他の委員會に於ても論じられたことでありますから、餘り詳しく御答へをすることは避けたいと思ひますが、第一には目標はどうしても完全雇傭、總ての人に職業を與へることが最も完全な失業對策であることは申すまでもありませぬ、併しながら若し今後の失業者が數百萬の多きに上る如き場合に、果して完全雇傭と云ふそれだけの職が與へられるか、さう云ふ場合にはどう始末して行くか、或る部分は失業保險も考へられませう、又或る場合には失業手當で一時救濟することも考へられませう、併しながら是は專ら日本の國力、經濟力に對應する程度にしか實行出來ぬのであります、とは言へ職にあぶれて衣食に窮するものをうつちやつて置く譯には行きませぬ、そこで貧窮階級に向つて救護事業を行ひ、之に衣食に必要なる物資を配分するとか、或は住宅の一定の場所に收容するとか云ふ救貧制度を――現状の儘では極めて不完全でありますから、出來るだけ強化擴充して行かなければならぬ、之に付ては先程小山君の御質問に對しても答へました通り、最近に案を立てまして、恐らく明日の閣議で一應の決定を致すことになると思ひますが、相當の金額を以て是等の洵に氣の毒な惠まれない人々に、出來るだけの救護を與へて行きたいと考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=248
-
249・逢澤寛
○逢澤委員 厚生大臣の御考へになつて居りますことは洵に結構であります、併し只今御答辯になりました通りであると致しますれば、極めて御考へ方が消極的であると思ふのであります、私は此の大國難に處して人口問題を解決し、さうして非常に溢れて參ります失業者を處理して行きますには、消極的方面と更に積極的に、是等の人人に今後如何なる仕事を與へるか、如何なる技術を施して再教育をして、如何なる分野に之を配置するか、斯うした積極的の御考へ方を私は非常に要望する者であるのであります、例へて申しますと、今復員の方々に致しましても、一つの技能を持つて居ない、技術を持つて居ない、若し技術がありとすれば受入態勢は幾らでもある、併しながら遺憾ながら技術がない、技能がない故に失業するのだ、斯う云ふ人々が非常に多いのであります、是は特に厚生大臣は一番能く御承知のことであらうと思ひます、若し斯樣な人々が技能がある、例へて申しますれば大工だとか、或は左官だとか云ふ技能があると致しますれば、此の程度の實行をすることは簡單に出來る、而も失業することなしに、片方には復興も出來、片方には直ちに其の技能が生きて來ると思ひます、併しながら遺憾ながらさうした技能を持たぬ、技術を持たぬから、さうした失業群に陷ることになると思ふ、此の故に私は一面消極的に救濟をすると同時に、大きなさうした消極的な方面に投ぜられる金があれば、積極的に半ばを割いて技能の再教育を施す、斯う云ふやうな方面に對して施設をやると云ふ御考へ方があるか、今さう云ふやうな準備を進めて居られることが若しもありますれば承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=249
-
250・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御意見は至極御尤もでありまして、其の通りであります、御承知の通り復員者の數は相當數に上ります爲に、陸海軍に於きましても軍人補導會と云ふものを作つて、相當大規模の職業教育をする計畫を持つて居りましたが、不幸にして此の補導會は事業を始めるに至らずして、進駐軍の命令に依つて解散されました、併しながら單に復員軍人ばかりではない、街に溢れて居る失業者に於ても、職業教育を施すべき必要のある人は相當多數に上つて居ります關係上、是等の事業を擧げて厚生省の手に移すことに致しまして、まだ確定は致して居りませぬが、却て御驚きになる位の經費を以て職業教育を始めることに今案を立てて居ります、一例を申せば全國で要求されて居る大工の數は約二十萬だと云ふことであります、二十萬の大工を養成すると致しましても、第一之を收容する場所、之に充がふ木材、大工のお師匠さん、大工道具、之を揃へて掛らなければ計畫は實現出來ないのでありますから、現在の問題としてどの位お師匠さんがあるか、どの位大工道具があるかと云ふことも、只今調査中であります、農業部面に於ても、農業教育を與へるにはやはり施設がなければ之を收容することも出來ませぬ、水産方面亦然り、各方面の工場も同樣であります、一々に當つて此の工場に於てはどの位の徒弟を世話して呉れるかと云ふことを、當つて見なければ具體案は立たないのであります、さう云ふことを目下熱心に交渉させて居ります、遠からず具體的の案が實行出來ると思ひますが、是は差當つて新たなる豫算を必要としないのであります、それに必要な金は既に準備してありますから、新規に議會の協贊を經る必要はありませぬが、御話の通り計畫を相當大規模に立てて居る所であります、恐らく年内には其の計畫の全貌を發表することが出來ると考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=250
-
251・逢澤寛
○逢澤委員 洵に剴切なる計畫があることを聽きまして、非常に喜びとする者であります、是は一寸簡單に御尋ね致します、新聞で拜承したことではつきりしたことは分らぬのでありますが、從來の補助政策は之を一應打切つてしまふのだ、「マッカーサー」司令部はさう云ふやうな指令をやつて居るのだ、期う云ふことを傳へて居りますが、是は無論一律に補助政策を打切ると云ふことはないと思ひますが、從來厚生省がやつて居りました補助政策の中で、打切られるとすればどう云ふやうなものが打切られますか、分りますれば簡單に承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=251
-
252・芦田均
○芦田國務大臣 既に御承知の通り政府の補助と云ふものは、各方面に亙つて非常な煩雜なものであります、小さな村役場でも補助費の數が何十と來る、而も其の補助費たるや小さいものは三圓五十錢、十五圓と云つたやうな補助費が數々參つて、是の整理をするのだけでも煩に堪へない實情は、恐らく御承知のことと思ひます、厚生省の管轄内に於ても各方面に補助が出て居る、詳細の數は持ち合せて居りませぬが、其の中でどうしても將來維持して行かなくてはならぬ補助もあり、ものに依つては一層増加しなければならぬものもありますが、併し今日の國情に顧みて、出來るだけ是等の補助を整理して、煩瑣な手數がなく實效の擧るやうなものに集中したいと考へて居ります、若し必要とあらばそれ等のものを後日此の委員會の閉會後にでも、御手許に差出すことに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=252
-
253・逢澤寛
○逢澤委員 終戰後民主政治を實行する上に於きまして、厚生省關係の凡ゆる勞務統制規定を撤廢せられると云ふことは、是は洵に當然のことであると思ふのであります、併しながら此の勞働規定を取外す爲に、現下の非常な難局に際しまして無理が起つて來て居る、それが爲に國務の遂行が出來ない、國内情勢が非常に不安に陷つて居る、斯う云ふやうなことがあると思ふのでありますが、それに對しまして聞く所に依りますると、是は「マッカーサー」司令部からの色々の指令に依つてやつて居るものだから、遺憾ながら斯くもしなければならぬのだ、實は是は困るのだ、斯う云ふやうな話も聞くのであります、私共が議會人として見て居りましても、さう云ふことが段々見えるのであります、それは交通の問題にしましても、先程色々論議されました石炭の事情にしましても、數へて來ますれば幾多の數があります、又只今復興院から見えて居ります松村さんも御承知でありませうが、是は復興院の關係もありますが、假設住宅の問題もあります、是等も一つには技術が足らぬと言ひますが、其の根本を言ひますと材木が足りない、木材が足りない、なぜ足りないかと云ふと輸送力がない、輸送力はどうしてないかと云ふと人がない、斯う云ふやうなことになつて原因は多くが人の問題に禍ひされて來て居ると思ひます、是は凡ゆる統制を一遍に外してしまつた、斯う云ふやうな所からさう云ふことが起つて來ると思ふのですが、之に對して厚生省は、「マッカーサー」司令部の要求に依れば何事も默々として其の儘應じて居る、或は之に對しては斯く斯くの事情である、日本の勞務階級が斯う云ふやうな性格を持つて居るのだから、之に對しても斯くやらなければいけないと云ふ事情を能く話されました結果、斯う云ふことになつて居ると云ふことに付きましては、私は非常に不安を持つて居るのであります、若し此の事情を話しても尚且つ「マッカーサー」司令部が之をやらなければいかぬと云ふやうに仰せられるのでありまするか、此の點に付きまして一應御伺ひ致して見たいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=253
-
254・高橋庸彌
○高橋政府委員 勞務統制の改廢其の他をやる場合に、「マッカーサー」司令部との關係交渉の點の御質問でありますが、或る指令の出んとする場合、或は出た場合、日本國の事情を知らざるが故に斯樣な指令が出んとするのではないかと云ふ風に思はれる場合に於きましては、或は終戰連絡事務局を通じ、或は厚生省直接係りの方に參りまして、巨細に力を極めて話合ひをして居ります、さうして能く事情を話した結果、向ふが諒解してさうして直すと云ふ風なことと、色々の事情を話した結果、最後に意見が分つて向ふの命に從ふと云ふこともあります、何れにしても厚生省勞務關係の法規を動かす場合に於ては、力を極めて事情の説明に當つて居ると云ふことを御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=254
-
255・逢澤寛
○逢澤委員 前囘勞務報國會を解散し、更にそれに續いて勞務協會と云ふものを作られたのでありますが、其の勞務協會も一昨日本議會に於ける大臣の説明を聽きますと、是も近く解散する、斯う云ふ御話であつたのでありまするが、さう云ふやうにやつて尚且つ先程御尋ね致しましたやうに國内の諸事情、諸般の勞務状態がうまく行くやうな見透しでありますか、其の見透しに付て一應御尋ね致して見たいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=255
-
256・芦田均
○芦田國務大臣 今日勞務を得ることの困難なのは、必ずしも勞務供出の組織の問題が主となつて居るものではない、主たる問題はやはり食糧、其の他の資材、さう云ふことが原因をなして居るのであつて、勞務協會を解散して、之に代ふるに主として日傭勞務者の職業斡旋に當るべき機關を全國各地に設けまして、從來の勞務協會の支部に代るやうなものを置き、其の他必要なる箇所に機關を設けたい、期う云ふ考へ方で現在進行中であります、尚ほ勞務協會に付きましては色々考へました結果、之を解散することに決定致したのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=256
-
257・逢澤寛
○逢澤委員 進駐軍に對する勞務の供給などに付きましても、各府縣とも相當困難を感じて居ると思ふ、是は其の自由なのを其の儘にして置きますと、先程も斷片的な話があつたやうでありますが、巷にある勞働に堪へないやうな頭を揃へて、詰り頭數だけ揃へて行くものだから能率が上らぬ、隨て進駐軍の方々から見ると、日本の勞働者はさつぱり詰らぬぢやないか、何も仕事にはならぬぢやないか、斯う云ふやうな非難を受ける場合が多い、それは何故さうなるかと言ひますと、結局適當な人材を其處に供給しない、適材を出さないからさう云ふやうな結果になる、それで日本全體の自由勞務者の信頼を落す斯う云ふやうになる虞が非常に多いと思ふ、それは結局何か適當な機關を通じて出す所に、さうしたことが滿足に行くやうな供出方法が出來ると思ふのであります、之を自由に致しますると、其處に誰でも引つ張つて來る、頭數さへ揃へれば宜いと云ふやうな虞があると思ふのでありますが、今後聯合軍に對して我が國の勞務界の信用を維持して行く上に付きましても、何かの機關、相當信頼し得る所の機關を通じて出しませぬと、益益其の傾向が私は多くなることを憂慮する者でありまするが、之に對して何か御考へがありましたら拜承致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=257
-
258・芦田均
○芦田國務大臣 只今の御質問は、主として日傭勞務者のことであらうと思ひます、其の點は御話の通りに勞務者の素質を良くすること、又良き勞務者を集めること、何れも極めて重要な問題でありまして、心配致して居るのでありますが、御承知の通り今日は過渡期でありまして、從來の強權的なやり方から、出來るだけ自發的の勤勞意欲を昂揚して能率を上げて行かうと云ふ時代に移る最中でありまして、豫期の如き成績を擧げることが出來ない部門が相當あつたと思ひます、併し今御話の御趣意は私共能く諒解致して居ります、新しく勞務協會に代つて出來る日傭勞働者の勤勞署に付きましては、經驗のある有能な人間を之に配置して、必要な勞務供給に萬全の策を講じたい、斯樣に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=258
-
259・逢澤寛
○逢澤委員 過渡期の便法としまして、適當な、我が國勞働界の信用を維持するに足る供出の出來るやうな方法を講じておやりになることが、國家の爲に非常に必要だと思ひますから、さう云ふやうに御願ひ致したいと思ひます
それから之に關聯致しまして、只今假設住宅のことに付きまして申上げたのでありまするが、是は今議會でも先程小林國務大臣から御報告があつたのであります、先づ假設住宅三十萬戸を越冬對策としてやらうと御計畫なさつたものが、漸く今月中に二萬戸位出來る、斯う云ふ御報告を受けたのでありまするが、戰災者の爲に洵にお氣の毒な次第であります、此の原因はどう云ふやうな所にあつたのでありますか、分りますれば其の原因を一つ御知らせを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=259
-
260・松村光磨
○松村政府委員 假設住宅三十萬戸の計畫を致したのでありますが、是は山元其の他製材所等に於きまして大量的に製材をして、それを簡易に組立てると云ふ方式で、大量生産の方法を執つてやらうと云ふことでやつたのであります、所が終戰後の各種の事情から木材の供出も非常に惡くなり、又食糧事情等の爲に勞務の方が中々旨く參りませぬ、又製材所等が例へば束京都に於きましては殆ど燒けてしまつたと云ふやうな状況でありまして、製材の能力にも意の如く行かないものが多かつたのであります、又此の三十萬戸の計畫は、住宅營團其の他府縣市町村等に於ても之を行ふことに相成つて居つたのでありまするが、是等の機關が山元或は簡易住宅の材料を切込みまする場所との連絡が惡かつたと云ふこともあります、又或は山元には澤山製材した、而も切込んだ組立住宅が出來たけれども、鐵道輸送が旨く行かない、或は船舶の輸送が旨く參りませぬ爲に積んで仕舞つてあると云ふやうなものもございます、只今でも北海道等に於きましては、相當の切込みをした組立住宅があるのでありまするが、船舶等の關係で之を東京に持つて來ることが困難だと云ふことの爲に、空しくまだ工場にあると云ふやうな状況のものもございまして、輸送が意の如く行かなかつたと云を點も其の原因でございますが、さう云ふ事情の爲に遲れましたことは甚だ遺憾に考へて居ります、是は終戰後の非常な混亂した事情が最も重要な理由であると思ひますが、尚ほ其の際三十萬戸の計畫が相當周密に出來て居れば――或は其の點も少かつたかと思ひますけれども、非常に急いで作りました事情の爲に、それ等の終戰後の事情等を十分考慮に入れてなかつた點等もあつたらうと思ひますが、さう云ふ各種の事情の爲に非常に遲れましたことは甚だ遺憾であります、併し其の後漸次體制も整備して參り、又住宅營團、各市町村共に非常な努力を致して居りますから、年末までには相當成績を擧げるし、尚ほ小林總裁が申されました通り、半分位は三月頃までには是非やりたい、やれるだらうと云ふ見透しもあるのでございます、此の點は甚だ遺憾に思つて居りますが、全力を盡して努力致して居る次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=260
-
261・逢澤寛
○逢澤委員 越冬準備の爲に三十萬戸の計畫を立てたが、出來たものは約二萬戸と云ふやうなことでは、實に國民に對して申譯がないと思ふのでありまするが、實はさうした點が所謂お役所的なやり方ではないかと思ふのであります、一昨々日の新聞でありましたかを拜見しましても、只今松村政府委員は材料の蒐集にも困り、其の輸送にも困つたと云ふやうな御話もあつたのでありますが、實は材料は力を入れればないことはない、東京にも相當手持がある、新聞にも進駐軍の方で指摘したものだけでも數十萬石のものが河岸にある、ああ云ふものも使へば使へる、それは魂を入れてやればやれないことはないと思ふのです、そこで私は過去のことは言つても仕方がないのでありまするが、此の際あの氣の毒な戰災者の爲に、一日も早くやつて上げねばいけないと云ふことに付きまして、一言申上げて置きたいと思ふのでありまするが、それは規則づくめでなしに、もう少し魂の入り血の通つたやり方をやつて戴きたいと思ふ、政府が本當に戰災者を氣の毒と思ふ氣持がありましたならば、又戰災に遭うて居ない者も其の氣持があるのでありますから、戰災に遭うて居ない人の其の氣持を手繰り出して、氣の毒な者の越冬準備の爲にやつて貰はうぢやないか、此の氣持が出て來れば、それは私は出來ないことはないと思ふ、是は私の縣のことを申上げて甚だ失禮でありますが、岡山縣では此の戰災住宅の施行に付きまして、一つ氣の毒な人の爲に一肌脱がうぢやないかと云ふことを、御承知でありませうが安積知事から話がありまして、さうして建築業者の方にも、此のことには一つ營利を無視して戰災者の爲にやつて貰はうぢやないか、斯う云ふ話があつた、其の結果もう既に千二百戸と云ふものを業者關係にやらしたのでありまするが、業者關係では二千五百圓と云ふ低廉な價格である、住宅營團でやつて居るのは三千五百圓であるが、それよりも遙かに良いものを二千五百圓で供給しよう、それには千人からの人間が居りますけれども公定賃金十二圓五十錢、普通の場合は三十圓も四十圓も五十圓も取つて居るが、それを十二圓五十錢で働くから、隨て二千五百圓と云ふ非常に安いもので出來上つて居る、斯う云ふことで出來て居る例もある、それは結局其の關係の方が力を入れ魂を入れて、戰災者の爲に一つ皆の協力に依つてやつて呉れぬか、斯う言ふ所に皆の話に血が通ひ、そこに氣持が動いて、それだけの結果を得て居るのであります、だから私は全國の斯うした關係業者、特に此の土建の關係の業者は、從來から仁侠を以て任じて居る者でありますから、それに一片の指令でなしに、是は本當に諸君の力で出來るのだから是非やつて呉れと云ふ、一般の業者の血の動くやうなことをどうして時の關係の方がやらなんだかと私は思ふ、若しそれを言つてやらなんだら是は業者の恥なんであります、其の一遍の相談がないと云ふことは、私は政府の方に於ても其の熱意が缺けて居るのぢやないかと云ふことを憂慮して居るのであります、私は今からでも遲くはないと思ひますが、長い間の諸君の仁侠だ、此の戰災住宅だけは此の仁侠に愬へて一日も早くやらなければいかぬ、越冬の爲にやるのだからやつて呉れ、と云ふことを關係の者に話して戴きましたならば、必ず私は解決するだらうと思ふ、其の話がないと云ふことは、どうもお座なりになつて居るのではないかと云ふことを私は心配して居るのであります、特に小林國務大臣は其の道の權威であります、さうした方面に付き非常に理解もあり、業者も亦信頼する人なんでありますから、さう云ふことを是非此の際やつて戴きたいと思ふのであります、是は私の希望なのであります
それから是は厚生大臣に御尋ね致したいと思ふのであります、先程も正木君の方から話があつたのでありまするが、自由勞務者に限らず、今後の日本を再建して行くのには、どうしても全國民の勤勞意欲を向上しなければいかぬ、是より外に方法はない、斯う云ふことは私が申上げるまでもないのでありますが、此の勤勞意欲を昂揚するのには、唯一片の法令だけを以てやつたのでは、決して勤勞意欲は昂揚しないと思ふ、勤勞意欲を昂揚して、眞に勤勞救國感とでも云ひますか、斯う云ふやうな氣持を作ることに付て何か厚生省で御考へになつたことがありますか、若しありますれば御聞かせを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=261
-
262・芦田均
○芦田國務大臣 逢澤君が此の際の急務は勤勞意欲の昂揚であると云ふことを御話になりましたが、我々も夙に此の點に付て心配を致して居るのであります、併しながらどうして勤勞意欲を昂揚するかと云ふ問題になりますと、先刻も申しました通り、やはり人間と云ふものは腹が減つて來ると働く氣力に乏しくなるやうな關係がありますから、やはり物の方面と精神方面と兩方から考へて對策を執らなければならぬと思ひます、そこで物の方面に付ては商工省其の他とも相談を致しまして、出來る限りのことは致して居ります、精神的には、例へば石炭の勞務にしましても、或は波止場の荷揚人足の場合にも、其の都度厚生省から適當な人間に「ラジオ」或は新聞を通じて、實情を出來るだけ天下に知らせることにして居ります、何故に石炭は必要であるか、何故に此の際荷揚の能率を上げなければならぬかと云ふ事情を、出來るだけ是等の人々に知らしめて、さうして此の事實を前にして奮起せざるを得ないやうな氣持になつて貰はう、斯う云ふことを致して居ります、其の他は一般の教育とか、社會教育に俟つ外には一寸方法はなからう、斯樣に考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=262
-
263・逢澤寛
○逢澤委員 色々御考へを下さることを感謝するのでありますが、只今厚生大臣からの御話がありましたやうに、勤勞意欲を昂揚するには、やはり精神的の方面と物質的の方面とがあるのでありませうが、特に屋外勞務者に關係致しましては、あの安い公定賃金で、而も闇で買へば非常に高い食糧に依つて生活しなければならぬ、斯う云ふ者に對しましては出來るだけ物資の配給を適切にやつてやると云ふことが一番必要だらうと思ひます、曩に厚生大臣は工場方面の生活費に付ては、大體百五、六十圓と云ふやうな御話があつたのでありますが、是は全く其の通りなんで、推定がし易いのであります、其の理由は、比較的生活必需品と云ふやうなものは、基礎の確實な工場方面では金の外に物を呉れてやると云ふ途があります、そこで生活費も大體安定することが出來ると思ひます、豫測することが出來ると思ひます、それが物に對する公定價格と闇價格との差の甚しい所程、其の生活費の推定は困難である、是は申上げるまでもないのであります、物を配給しない方面に於きましては、推定は無論出來ないことになつて來る、そこで私は本論に戻るのでありますが、此の氣の毒な生活をやつて居る連中に對しては、努めて物にして之を配給してやる、斯う云ふことが一番能率を上げる上に於て必要であらうと思ひます、無論勤勞意欲を昂揚する上に付きましては、政府の思ひやり、其の事業家の思ひやりと云ふことが、はつきり關係者に認識が出來ると思ふのです、是は中々難かしいことでありますけれども、併しながら勤勞意欲を昂揚して行かうとするのには、さう云ふやうな所にも氣持を費されまして、施策する所に勤勞意欲は非常に昂揚して來る、又政府の親心と云ふものが其處に反映して來ると思ふのであります、どうか此の點は商工省、或は農林省の方とも關係のあることでありまするから、是等の方面とも御協議の上然るべく御配慮を願ひたいと思ふのであります、之に對しまして何か厚生大臣の御考へがありますれば一つ拜承致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=263
-
264・芦田均
○芦田國務大臣 從來とも商工省、農林省に對しては勞務關係に關する限り、極力其の立場を説明して、色々御配慮を願つて居るのであります、加配米の問題にしましても、或は地下足袋、作業衣等の問題に付ても、出來るだけの努力は致して居ります、尚ほ今後引續いて十分手配を致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=264
-
265・逢澤寛
○逢澤委員 最後に一言御尋ねしたいのであります、賃金統制令のことはどう云ふやうになるのでありませうか、今囘企畫されて居ります所の官公吏に對する年末の手當とか云ふやうなことが論議されて居る時でありまするが、勞務者に對する賃金統制令に付きましては格段の考へ方がありますか、如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=265
-
266・高橋庸彌
○高橋政府委員 賃金統制令は、大分戰後の事情に適しませぬので、段々改正して參りたいと思ひます、それから本會議に於て大藏大臣からも御説明がありましたが、官公吏、竝に會社經理統制令の關係の職員、それから勞務者關係に付きまして、年末に相當の手當を支給すると云ふことで、聯合軍司令部の方と話合中であるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=266
-
267・逢澤寛
○逢澤委員 私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=267
-
268・添田敬一郎
○添田委員長 質問は之を以て終了致しました、明日は午前十時に豫算委員室に於て開會致します
午後七時二十四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008913766X00319451213&spkNum=268
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。