1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年六月二十四日(月曜日)午前十時六分開議
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議事日程 第三號
昭和二十一年六月二十四日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第三日)
第二 特別都市計畫法案(政府提出) 第一讀會
第三 右議案の審査を付託すべき特別委員の選擧
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 報告を致させます
〔小野寺書記官朗讀〕
從三位勳二等 男爵 矢吹省三君
去る十九日願に依り貴族院議員の辭職御允裁あらせらる
一昨二十二日委員會に於て當選したる正副委員長の氏名左の如し
豫算委員會
委員長 伯爵 林博太郎君
副委員長 男爵 久保田敬一君
請願委員會
委員長 子爵 高木正得君
副委員長 男爵 近藤滋彌君
決算委員會
委員長 男爵 周布兼道君
副委員長 子爵 梅園篤彦君
同日本院の議決に係る議員子爵細川利壽君に對する弔辭は即日之を贈れり
同日政府より左の議案を提出せり
特別都市計畫法案
同日内閣總理大臣より左の通第九十囘帝國議會政府委員仰付けられたる旨の通牒を受領せり
政府委員
内閣事務官 中田政美君
内務省所管事務政府委員
内務政務次官 世耕弘一君
大藏省所管事務政府委員
大藏事務官 河野一之君
同 阪田泰二君
同 窪谷直光君
同 正示啓次郎君
農林省所管事務政府委員
農林次官 楠見義男君
農林事務官 安孫子藤吉君
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002・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、請暇の件に付御諮りを致します、佐藤助九郎君病氣に付、會期中請暇の申出がございました、許可を致して御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=2
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003・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 去る二十二日請願委員佐藤助九郎君病氣に付、委員辭任の申出がございました、許可を致すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=4
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005・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、就きましては、第五部に於て其の補闕選擧を行はれむことを望みます
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006・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 第八部理事大橋八郎君議員辭職に付き、闕員を生じましたから、第八部に於て其の補闕選擧を行はれむことを望みます
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007・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より議事日程に移ります、日程變更に付御諮りを致します、此の際、日程第一を後に廻すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=7
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008・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
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009・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第二、特別都市計畫法案、政府提出、第一讀會、阿部戰災復興院總裁
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(左の提出文乃案は朗讀を經さるも參照のため茲に載録す以下之に傚ふ)
特別都市計畫法案
右
勅旨を奉じて帝國議會に提出する。
昭和二十一年六月二十二日
内閣總理大臣 吉田茂
…………………………………
特別都市計畫法案
特別都市計畫法
第一條 この法律は、特別都市計畫に關し、都市計畫法の特例を定めるものである。
この法律で特別都市計畫とは、戰爭で災害を受けた市(東京都の區の存する區域を含む。第十八條を除き第二條以下これに同じ。)町村の區域により行ふ都市計畫をいふ。
前項の市町村は、主務大臣が、これを指定する。
特別都市計畫事業は、行政官廳は、これを執行しない。
第二條 この法律で宅地とは、勅令により公共の用に供するものと定める土地以外の土地をいふ。
この法律で借地權とは、借地法にいふ借地權をいひ、借地とは、借地權の存する宅地をいふ。
第三條 主務大臣は、特別都市計畫上必要と認めるときは、第一條第三項の市町村の區域内において又はその區域外にわたり、特別都市計畫の施設として緑地地域を指定することができる。
第一條第三項の市町村の區域外にわたり緑地地域を指定しようとするときは、區域外關係市町村の意見を徴しなければならない。
第一項の規定により指定する地域内における建築物又は土地に關する工事若しくは權利に關する制限で特別都市計畫上必要なるものは、勅令でこれを定める。
第四條 行政廳が執行する特別都市計畫事業に必要な費用を、都市計畫法第六條の規定により、公共團體が負擔する場合には、國庫は、勅令の定めるところにより、その費用の全部又は一部を補助する。
第五條 行政廳が、特別都市計畫事業として施行する土地區劃整理については、耕地整理法(都市計畫法第十二條第二項で準用する同法をいふ。以下これに同じ)。第四十三條第一項の規定にかかはらず、同項に掲げる土地(名勝地、舊蹟地及び古墳墓地を除く。)は、同項但書に定める認許又は同意を得ないでもこれを土地區劃整理施行地區に編入することができる。
前項の土地區劃整理については、耕地整理法第三十一條の規定にかかはらず、整理施行地の全部について工事が完了する前においても、換地處分をなすことができる。
第六條 前條第一項の土地區劃整理の施行地區に編入された土地について、所有者(その土地に地上權、賃借權又は永小作權がある場合は、これらの權利者を含む。)の同意があつた場合には、勅令の定めるところにより、換地を交付しないで金錢で清算することができる。
前項の規定により換地を交付しないで金錢で清算する場合において、同項に掲げる權利者があるときは、その權利についても金錢で清算する。
第七條 第五條第一項の土地區劃整理について、宅地地積の規模を適正ならしめるために必要があるときは、土地區劃整理委員會の意見を聞いて、過小宅地に對し、地積を増して換地を交付し、又は換地を交付しないで金錢で清算することができる。
前項の規定により、過小宅地に對し、地積を増して換地を交付するために必要があるときは、大なる宅地に對し地積を減じて換地を交付することができる。
前二項の規定により、地積を増し又は減じて換地を交付する場合に、その換地について存する地上權、賃借權又は永小作權に對し、又、第一項の規定により換地を交付しないで金錢で清算する場合に、從前の土地について存するこれらの權利に對しては、各各これらの權利の全部又は一部について、金錢で清算することができる。
第八條 第五條第一項の土地區劃整理について、借地地積の規模を適正ならしめるために必要があるときは、土地區劃整理委員會の意見を聞いて、過小借地の借地權に對し、その地積を増して權利の目的たる土地若しくはその部分を指定し、又は従前の權利を消滅せしめて金錢で清算することが出来る。
前項の規定により、過小借地の借地權に對し、その地積を増して權利の目的たる土地又はその部分を指定するために必要があるときは、所有者を同じくする土地について存する他の地上權、賃借權、永小作權又は地役權について、その地積を減じてこれらの權利の目的たる土地若しくはその部分を指定し、又これらの權利を消滅せしめて金錢で清算することができる。
前二項の規定により、地積を増し又は減じて權利の目的たる土地又はその部分を指定する場合に、その増減のあつた部分については、金錢で清算する。
第九條 第七條の過小宅地及び大なる地積の宅地竝びに前條の過小借地の意義その他前二條の場合に關して必要な事項は、勅令でこれを定める。
第十條 第五條第一項の土地區劃整理を施行する場合において、換地に關する事項及び第十六條の規定による補償金の配當割合に關する事項は、土地區劃整理委員會の意見を聞いてこれを定める。
第十一條 土地區劃整理委員會は、土地區劃整理施行地區毎にこれを置き、行政廳がこれを監督する。
土地區劃整理委員會は、會長及び委員若干人を以てこれを組織する。
會長は、委員の中からこれを互選する。委員は、土地區劃整理施行地區内の土地の所有者及び借地權者が、各別にこれを選擧する。
土地所有者及び借地權者は、勅令の定めるものを除いて、その土地區劃整理施行地區にある土地區劃整理委員會の委員の選擧權及び被選擧權を有する。
第十二條 この法律に定めるものを除いて、土地區劃整理委員會に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第十三條 第五條第一項の土地區劃整理のために必要があるときは、換地豫定地を指定することができる。
前項の規定により換地豫定地を指定したときは、換地豫定地及び從前の土地の所有者にその旨を通知し、且つこれらの土地の全部又は一部について地上權、賃借權、永小作權又は質權を有する者その他命令で定める者(以下關係者といふ。)があるときは、これらの關係者にもその旨を通知する。
第十四條 從前の土地の所有者及び關係者は、前條第二項の通知を受けた日の翌日から、第七條第一項若しくは第二項又は耕地整理法第三十條第一項の規定による換地處分が效力を生ずるまで、換地豫定地の全部又は一部について從前の土地に存する權利の内容たる使用收益と同じ使用收益をなすことができるが、從前の土地ついてはその使用收益をなすことができない。
從前の土地の關係者が、前項の規定により使用收益をなすことのできる換地豫定地の範圍は、前條第二項の規定による通知と併せて、これらの關係者にこれを通知する。
第一項の場合に、換地豫定地に建築物その他の工作物が存するときその他特別の事情があるときは、換地豫定地について、別に使用開始の日を定めることができる。この場合には、從前の土地又は換地豫定地の所有者及び關係者にその旨を通知する。
換地豫定地の所有者及び關係者は、前條第二項の規定による通知を受けた日の翌日若しくは前項の規定による使用開始の日から、第七條第一項若しくは第二項又は耕地整理法第三十條第一項の規定による換地處分が效力を生ずるまで、換地豫定地の使用收益をなすことができない。この場合において、その換地豫定地の所有者及び關係者がその使用收益をなすことができないために損害を受けたときは、通常生ずる損害に限り、これを補償する。
第三項の規定により換地豫定地については別に使用開始の日を定めたために、從前の土地の所有者及び關係者が、損害を受けたときは、通常生ずる損害に限り、これを補償する。
第十五條 第五條第一項の土地區劃整理のために必要があるときは、土地區劃整理施行地區内に存する建築物その他の工作物について、三箇月を下らない期限を定めて、所有者に對してはこれらの工作物の移轉を命じ、占有者に對しては立退を命ずることができる。
前項の規定により工作物の移轉を命ずる場合には、第十三條第一項の規定により、換地豫定地を指定しなければならない。
第一項の工作物の移轉又は立退に困り損害を受けたときは、勅令に特別の定のある場合を除いて、通常生ずる損害に限り、これを補償する。
第十六條 第五條第一項の土地區劃整理の施行により、土地區劃整理施行地區内における施行後の宅地の總地積が、施行前の宅地の總地積に比し、一割五分以上減少するに至つたときは、その一割五分を超える部分について、土地所有者及び關係者に對して、勅令の定めるところにより、補償金を交付する。
前項の土地區劃整理で主務大臣の指定するものについては、その土地區劃整理施行地區を數區に分ち、各區について、前項の規定を適用する。
第十七條 第十四條第四項及び第五項、第十五條第三項竝びに前條の規定による補償金は、補償審査會が、これを決定する。
前項の規定により、補償金額の決定があつたときは、地方長官は、その金額を補償金の交付を受ける者に通知する。
第十八條 補償審査會は、都道府縣又は主務大臣の指定する市毎にこれを置き、地方長官が、これを監督する。
補償審査會は、當該都道府縣の區域内(その區域内に主務大臣の指定する市があるときは、その市の區域を除く。)又は當該市の區域内にある土地について、前條に掲げる權限を行ふ。
補償審査會は、會長及び委員若干人を以てこれを組織する。
會長は、地方長官(第一項の規定により主務大臣の指定する市においては市長、以下これに同じ。)を以てこれに充てる。
委員は、關係各廳の一級又は二級の官吏、都議會、道府縣會又は市會の議員及び學識經驗ある者の中から、地方長官が、これを命じ、又は委囑する。
補償審査會に臨時委員を置き、地方長官が、關係市區町村長及び關係市町村會議員の中から、これを委囑することができる。
臨時委員は、關係市區町村に關しない事項については、議事に參與することができない。
補償審査會に關する費用は、公共團體の負擔とする。
第十九條 この法律に定めるものを除いて、補償審査會に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十條 清算金を納付する義務ある者に對し、土地區劃整理施行地區内の土地に關する權利について、第六條、第七條第一項若しくは第三項、第八條又は耕地整理法第三十條第一項但書の規定による清算金又は第十六條の補償金を交付する場合には、その交付する清算金又は補償金は、その者から徴收する清算金にこれを充てることができる。但し、その補償金が耕地整理法第二十五條の規定により供託する必要のあるものであるときは、その補償金を交付すべき土地に關する權利について徴收する清算金にのみ、これを充てることができる。
第二十一條 第五條第一項の土地區劃整理について徴收する清算金については、勅令の定めるところにより、利子を附してその分納を認めることができる。
前項の利子は、これを清算金とみなす。
第二十二條 第五條第一項の土地區劃整理について、清算金に剩餘を生じたときは、その剩餘金は公共團體に歸屬する。
第二十三條 第五條第一項の土地區劃整理において、土地に關する權利について、清算金を徴收又は交付さるべき場合に、その土地に關する權利を讓渡したときは、當事者雙方は、連署して、遲滯なく、土地區劃整理施行者に、その旨を屆出なければならない。
前項の屆出をしない場合には、清算金の徴收又は交付に關し、その讓渡は、これを以て土地區劃整理施行者に對抗することができない。
土地に關する權利について清算金を徴收又は交付さるべき場合に、その土地に關する權利の分割讓渡について第一項の届出があつたときは、土地區劃整理施行者は、遲滯なく、各當事者に對しその者から徴收すべき清算金額又はその者に交付すべき清算金額を通知しなければならない。
第二十四條 第五條第一項の土地區劃整理において、土地に關する權利について、清算金を徴收又は交付さるべき場合に、その土地に關する權利が消滅したときは、前條の規定を準用する。
第二十五條 第十四條第四項若しくは第五項、第十五條第三項又は第十六條の規定により補償を受くべき者が、補償金額の決定について不服があるときは、その決定の通知を受けた日から三箇月以内に、通常裁判所に出訴することができる。この場合においては、訴願し又は行政裁判所に出訴することができない。
第二十六條 都市計畫法第二十三條乃至第二十六條の規定は、この法律又はこの法律に基いて發する命令によりなす處分について、これを準用する。
第二十七條 耕地整理法第二十五條の規定は、第六條、第七條第一項及び第三項、第八條、第十四條第四項及び第五項、第十五條第三項竝びに第十六條の規定により拂ひ渡すべき金錢について、これを準用する。
第二十八條 第五條第一項の土地區劃整理について、耕地整理法を準用し難い事項に關しては、勅令で必要な規定を設けることができる。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。神宮關係特別都市計畫法は、これを廢止する。
神宮關係特別都市計畫法に基き、この法律施行前に發生した自由に因り交付する補償金、この法律施行前に行政官廳のなした處分に基く損失補償及び費用の負擔竝びに補償に關する訴訟に關しては、同法はこの法律施行の後においても、なほその效力を有する。
この法律施行の際現に公共團體が都市計畫事業として施行してゐる土地區劃整理は、命令の定めるところにより、これを、第五條第一項の土地區劃整理とみなすことができる。
農地調整法第四條の四、第四號中「都市計畫法」の下に「又は特別都市計畫法」を加へる。
〔政府委員阿部美樹志君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=9
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010・阿部美樹志
○政府委員(阿部美樹志君) 只今議題となりました特別都市計畫法案に付て提案の趣旨及び内容を申述べます、今囘の戰災は全國に亙り百二十餘の都市に及び、其の燒失面積は一億六千萬坪と云ふ有史以來のものであります、是等戰災都市の復興計畫を確立致しまして、其の事業を迅速に遂行を致しますことは、將來の新日本建設の爲には申すに及ばず、當面の民生安定、産業振興の點から申しましても、誠に緊要のことと存ずるのであります、政府に於きましては、終戰以來是等戰災都市の復興の一日も速かならむことを期し、復興に關する都市計畫の決定を著々進めつつあるのでありますが、是等の復興の計畫乃至事業に付きまして、現在は都市計畫法に基き、所謂都市計畫及び都市計畫事業として行はれて居るのでありますが、戰災都市の急速なる復興を圖るには、現行の都市計畫法では不十分な點が尠くないのであります、特に戰災地の土地區劃整理は他の復興事業の基礎を爲すものでありまして、之急速に且つ徹底的に施行する必要が認められるのでありますが、之に付きまして、都市計畫法は今囘のやうな大戰災の場合を豫想して制定せられて居りませぬが爲に、同法の規定だけでは此の事業の迅速徹底を期することは困難であります、茲に主として戰災都市の土地區劃整理に關しまして新たに立法する必要を認めまして此の法案を提案致した次第であります、而して此の法案は戰災復興の特異性に鑑みまして、戰災都市の復興計畫と其の事業に限つて適用する臨時的立法とし、此の法律に規定する事項の外は現行の都市計畫法を適用することになるのでありまして、第一條に都市計畫法の特例と致しまして制定する旨を明かにした次第であります、第五條以下に於きましては、土地區劃整理の施行上必要な規定を設けたのでありますが、其の規定を設くるに當りまして、努めて公共の利益と個人の利益の調和を圖ると云ふことを致しましたが、將來の理想的都市建設に備へまして、公共的見地から必要な限度に於きまして個人の權利を制限することも亦已むを得ないことと考へて居る次第であります、尚附則と致しまして、神宮關係特別都市計畫法の廢止を規定致してありますが、神宮關係施設整備事業は昭和十四年度より具體的調査を進め、式年御遷宮に當る昭和二十四年度迄に、關係施設の主要なものを完成せしむる爲に、昭和十五年度より同二十四年度に至る、十箇年繼續の政府直轄工事として、宇治山田市の都市計畫及び神域等の改良を施行して參つたのでありますが、諸般の事情に鑑み之を中止することが妥當であると考へますので、此の機會に神宮關係特別都市計畫法をも廢止致したいと思ふのであります、尚宇治山田市の戰災復興に付ては、此の特別都市計畫法に基いて、之を行ふこと勿論であります、何卒御審議の上速かに協贊を與へられむことを希望する次第であります
————◇—————発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=10
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011・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御質疑もなければ、日程第三特別委員の選擧に移ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=11
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012・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました特別委員の選擧は、本會期中特別の場合を除き、其の委員の數を九名とし、其の指名を議長に一任するの動議を提出致し、且つ只今上程せられました特別都市計畫法案の特別委員の數を十九名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=12
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013・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=13
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014・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=14
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015・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔小野寺書記官朗讀〕
特別都市計畫法案特別委員
侯爵 黒田長禮君 侯爵 鍋島直泰君
伯爵 二荒芳徳君 子爵 岩下家一君
子爵 松平乘統君 子爵 保科正昭君
男爵 松平外與麿君 男爵 山根健男君
男爵 坊城俊賢君 男爵 内田敏雄君
松尾國松君 奧村嘉藏君
下出民義君 小野耕一君
渡邉覺造君 奧主一郎君
宮澤俊義君 竹中藤右衞門君
山地土佐太郎君
————◇—————発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=15
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016・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第一國務大臣の演説に關する件第三日、通告順に依り質疑を許します、水野甚次郎君
〔水野甚次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=16
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017・水野甚次郎
○水野甚次郎君 去る三月勞働法の制定を見ましてより、夥しき組合竝に百數十萬と云ふ組合員が出來ましたことは、誠に結構でございます、私は、「アメリカ」其の他各國の「デモクラシー」とか、自由主義とか云ふものの知識はございませぬ、併し日本は日本的な自由主義であらねば相成らぬと存じます、私の見解に依れば、勞働法なるものは、所謂筋肉に依る勞働であり、組合は收支と不可分の關係にあるものと存ずるのであります、近來雨後の筍の如く發生する組合の中には、全然是と相反したものが多數にあるやうに思はれます、例へば官公吏の組合の如きも、政府の鐵道從業員、又は自治體の之に類する者等は、勞働法の適用が當然でありませうけれども、收支を伴はざる其の他の官公吏、筋肉勞働に依らざる官公吏が、勞働法を適用し、組合若しくは爭議團を組織するが如きは、誤れるも甚だしいものではございますまいか、殊に教職員の爭議の如きは最も戒むべきものなりと、本員は確く信ずるのであります、日本の國民道徳は父母を尊び、師を尊ぶにあり、「三尺下がつて師の影を踏まず」と、教へ導かれたのであります、將來の日本を支配し、指導せねばならぬ少年少女をして、忌はしき通念を懷かしむることは、由々しき且つ憂ふべき問題ではありますまいか、自ら範を子弟に示さねばならぬ教職員にして、自己の權利を徒らに主張するが如きは、日本道徳の破壊の因ともなると思ふのであります、筋肉を勞せざる官公吏は國民に自ら範を示すべきであつて、義務を忘れた權利の主張は、是亦國民の師表たる資格を失ひ、疑惧の念を懷かしむるに至りはしますまいか、昔「武士は食はねど高揚子」と唱へ、當時の國民の師表を以て任じたことも、日本國民の精神的指導に大なる效果があつたと思はれます、八月六日廣島の原子爆彈に因し、陛下の一大御決意の下にあの悲壯極まる御勅語がありませぬでしたならば、恐らく日本國民の其の殆どが死滅したでありませうことを考ふる時、此の誤れる義務の伴はざる「デモクラシー」自由主義は、如何なる方法を以ても政府は之を日本的のものに導かれなければ相成りますまい、吉田總理大臣は其の施政方針演説に於て、國民の道義廢頽を論ぜられましたが、誠に同感でございます、之に對して誤れる「デモクラシー」を、日本道徳に依る純日本「デモクラシー」に教化せられることが急務中の急務なりと存じまするが、總理大臣の御所見を伺ひます、次に婦人の革新に付て御尋ね致します、徳川幕府は三百年間鎖國を固持し、日本の所在を世界に知らしめなかつたのであります、此の鎖國の殻が外から破れて、同時に憂國の志士の血に因つて明治維新が出來ました、斯くて歐米に派遣された役人は、尚日本の最大禮服である裃を着て洋行したさうであります、然る處、歐米の文明は著しきもので、洋裝の便利なことは勿論、其の他目を驚かすべき幾多の物を見學し、此處に急遽先進國の指導の下に、日本文明が出來上つたのであります、然れ共幕府の長年月に亙る陋習「武士に非ざれば人に非ず」との觀念は、容易に去らなかつたのであります、私共の少年時代に、今の國民學校即ち小學校制度が設置されまして、之に通學の際、偶偶武士の家庭に生れた子弟の爲に「こら百姓、こら土百姓」と言はれたやうな、侮蔑の語を聞かされ、誠に子供ながらの不快の念に燃えたのであります、明治時代より改善せられたる武裝は、國民の大部分である農民の子弟が軍人となり、昔日の武士に代つたのであります、之を以て四海平等なりと誤認したのでありました、斯くて武力政治と化し、「軍人に非ざれば人に非ず」と一般國民をして疑念を懷かしむるに至りましたことは誠に遺憾であります、併しながら之に依り日本は世界に認められ、遂に五大強國、或は三大強國の列に加へられるに至り、自己の本性が全く分らなくなつた程燃え上つたのであります、私の敬慕して居る濠軍派遣の學界の偉人とも言ふべき「ルービツシユ」氏は私に話されました、「人間には四つの疑問がある、其の一つに、世界で一番強い人は誰ですか」之に對する答は、「自分の欲望を制することの出來る人が一番強い人であります」と云ふので、私は之を聞かされました時慄然と致しました、日本が此の欲望を或程度に於て制し得て居たならばと感じました時、覺えず知らず涙が出るのを止めることが出來ませぬでした、併しながら今更斯樣な泣言を唱へて居つても及びませぬ、茲に於て私は奇矯と呼ばれるかも知れませぬが、四海平等を唱へたる際全然忘却されて居た婦人の革新を促したいのであります、婦人に對しては、從來有らゆる部面に於て之を制限し、殊に教育に對して迄之を制限し、法律を以て高等學校入學も阻止し、其の天稟の才を育英するの道を塞いだのであります、今や敗戰の結果、女子參政權を認めざるを得なくなりましたが、百尺竿頭一歩を進めて一切の支配權を讓渡し、男子は宜しく暫時引退の擧に出づべきではありますまいか、其の理由は、世界平和の魁となるべき責任を持たねばならぬ日本の運命を實現する捷徑であると存じます、今囘の戰爭の責任者は、唯僅かに二十八人の目下東京裁判に於て聯合軍に依り審判を受けつつある諸氏のみではありますまい、極端に申せば、全日本の男性悉くが其の責任者であります、開戰を喜ばざる大部分の國民も一度開戰となるや、日本國民の服從心を其の儘其の指導者の命ずる儘に勝つべく終始したのであります、早く戰爭を止めて貰ひたい、早く講和をして貰ひたいと云ふ觀念も殆ど全國民の通念でありましたが、遂に悲しむべき終りを告げ今日の状態に移りました、昔から女子は平和の神とさへ唱へられたことから考へましても、此の際、幸に憲法の改正もあり、一大決意の下に全政權を婦人と交代し、以て二十歳以上の男子は悉く其の責任を鑑み引退遠慮し、聯合國に謹愼の意を表すべきであると信ずるものであります、或人は明治維新の昔に還れと言ひ、又或人は二千六百年の昔に還れと言はれますが、私は日本の始祖天照大神樣の昔に還り、以て男子は其の罪科を大神樣に謝し奉るべく此の際引退謹愼し、婦人に全政權移讓すべきであると思ふのであります、天照大神樣は御婦人であらせられ、忍從の美徳を日本婦人に御示し遊ばされたことは、日本婦人の美徳として世界に知らるるに至つたのであります、或外人の話に、住宅は「アメリカ」式、料理は支那式、妻は日本婦人、是が人生の大理想だと云ふことを聞きました、誠に肯綮に當つて居ると思ふのであります、若し私の言ふことが實現せらるる場合、三千年の昔より育英せられたる天照大神樣の直系血族たる日本婦人は斷じて男性を壓迫し、侮辱し、子女の教育を怠り以て其の家庭を破るが如きことは絶對にないことを私は信じて疑ひませぬ、戰犯者、追放者等に付きましても、自ら獨善を期せむが爲か進駐軍司令部に對し、同じく日本國民であり、又兄弟である身でありながら、事實を捏造し以て他を傷けむが爲投書を敢てする現状の男性は、總理の所謂「道義廢頽の極」であります、是等の男性に依つて日本の再建は、斷じて出來ませぬ、唯日本婦人の革新に依り天照大神樣の大詔を奉じ、之が實現を求むる外はございませぬ、日本の再生を念願するの餘り敢て首相の決意を質し、政府竝に國民諸君の批判を仰がむとするものであります
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=17
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018・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 只今の御質問に御答へ致します、質問の第一は教職員、官公吏等が勞働爭議に參加するの可否に付ての御尋と思ひます、御質問の御趣意は御尤に拜聽致しました、唯勞働組合の結成を認められて居る今日、勞働爭議が發生した場合、教員、官公吏が理論上之に參加することが出來ないとは言ひ難いと思ひますが、併しながら國民の師表たる重要なる地位と其の責任に願みまして、自ら其の行動には嚴格なる規律と、理性とが要求せらるることは當然であります、之に關聯しまして、團體權の禁止、又は制限に亙らざる程度で、勞働法の適用に特例を設けることが出來るか、出來ないか、成るべく御趣意に副うて研究致します積りで居ります、質問の第二の點は婦人の地位の向上と云ふことに御質問の趣意はあるかと考へられますが、其の向上の具體案に付きましては尚研究致します、一應の御答を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=18
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019・水野甚次郎
○水野甚次郎君 總理大臣の御答辯は全然滿足をすると云ふ程ではございませぬが、先づ私は之を以て稍稍滿足致します、又委員會等で質疑應答を試みたいと思ひます、之を以て私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=19
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020・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 佐々木惣一君
〔佐々木惣一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=20
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021・佐々木惣一
○佐々木惣一君 私は我が國が今日國家の革新の斷行に著手して居りまするに際し、政府は如何なる用意を以て之に臨んで御出になるかと云ふことに付きまして、其の大局から見た御意見を伺ひ、由つて以て國民が之に協力するの態度を定むること、且協力の必要から正しい批判を持つことの出來るやうに致したいと存じまして、茲に少しく質問を試みる譯であります、どうか總理大臣の御答辯を御願ひ申上げます、尚總理大臣以外に於きましても、政府に於きまして、他の國務大臣諸君の御答辯をも必要と認められるやうな場合が出て參りましたならば、總理大臣の御答辯に併せて其の大臣の御答辯を得ることが出來まするならば幸ひであります、申しまする迄もなく、我が國今日の急務は破壊されたる我が國家の再建に努力することであります、處が此の國家の再建と云ふことは、唯破壊されなかつた、破壊前の状態に復すると云ふことに止まるのではありませぬ、破壊前の状態其のものに必要なる革新を加へるものでなくてはならないのであります、元來國家の革新と云ふことは實は我が國に於きましては相當長い間國民の間に要求されて居たのでありますが、色々の事情に依りまして、それが行はれないで戰時になつたのであります、戰爭があのやうな悲慘な情況を以て終局致し、延て國家全般が此のやうな停頓を來たして居りますことは、實に我等國民の心を傷ましめることではありまするけれども、併しながら之に依つて多年の要求でありました所の我が國家革新の斷行に著手するの機會を得たと致しますれば、是は寧ろ喜ぶべきことと思ふのであります、是れ全く戰勝聯合國が彼の「ポツダム」宣言に於て原理的に我が國家の向ふべき所を示し、又總司令部より隨時具體的の指示があると云ふことが與つて大いに力があるのであります、我々は深く此の點に彼の人々に感謝して居る次第でありますが、併しながら是と同時に我々國民の側に於きましても、今後自分自身で努力する所を誤つてはならぬと思ふのであります、國家の革新と云ふやうなことは今日に於きましては、永久に努力しなくてはなりませぬ、一時的に努力すればそれで事が終ると云ふやうなものではありませぬ、今日は唯我々は之に著手したと云ふことに過ぎませぬ、でありまするから、今日我々が之に著手しました場合に執りまする所の態度は、永く我が國家の革新の方向を決定するものであります、我々の今日の態度は單に今日のこととして之を考ふべきではなく、實に永く我が國家の運命を左右するものとして考へなくてはならないのであります、それでありまするから、今日國家革新に著手するに當りましては、只今申しましたやうな我が國の永久の運命を決定するものであると云ふやうな見地からして、一般國民は固よりさうでありまするけれども、政府に於かせられましては、特に御用意があるべき筈と思つて居るのであります、故に私は今私が特に重要と考へまする所の數項に付きまして、政府の所見を伺ひたいと思ふのであります、第一に今後總司令部の好意を得て活動するに當り、我等は自主的の立場に於て如何なる信念を持つて居るべきものでありますか、此の點に付て政府の御意見を伺ひたいと思ふのであります、今後我が國が活動するに當りまして、聯合國及び總司令部の好意に依らなくてはならないことは申す迄もありませぬ、聯合國は我が國が終戰前に軍國主義的行動を取り、反平和的行動を取つて居たことを批難しまして、今後同樣のことの無からしむることを目的として居るのであります、其の爲に一切の戰爭犯罪人に對しましては、正義に基く嚴重なる處置を爲さむとして居るのであります、併し我々日本人を民族として奴隸化し、又は國民として破壊しようとするものではありませぬことは、明かに「ポツダム」宣言に明言されて居るのであります、故に我等日本人が今後我が國の平和的進展をなすべく努力するに當りましては、固より彼の「ポツダム」宣言に依る所の責務を盡さなければならぬことは勿論でありまするけれども、併しながら其のことは決して我が國の自主的の立場を否定されて居ると云ふものではないのであります、却て我が國は我が國として自主的立場を以て、彼の「ポツダム」宣言の示す所に從つて今後の活動をなすべきものであると云ふことは、總司令部が隨時に種々の事項に付て發表せられた所の意思に依つて明かにせられて居るのであります、斯う云ふ風な根本見地から、私は更に是から此のことを發展致しまして、次の如きことを御尋ねして見たいと思ふのであります、先づ政府御自身では右の自主的態度と云ふことに付て如何なる心構を御持ちになつて居るのであらうか、是は政府御自身のことであります、政府が諸般の政策を樹立せられ又之を執行せられるに當りまして、事前に於て、又事後に於て如何なる心構を以て事に當つておいでになるでありませうか、唯總司令部の指令に基いて、さうしてそれに忠實であるべきだけでは十分でありますまい、固より「ポツダム」宣言其の他之に基いて發せられましたる所の法的義務の履行と云ふことを忠實に守るべきことは疑ひない、併しながら其の以外に於て政府の裁量に依つて選擇することが出來る範圍があるべき筈であります、即ちそれは義務關係以外の事項でありまするが、さう云ふ場合に政府は固より非常な御苦心のあることと察しまするのでありまするが、如何なる程度迄其の自由の裁量を認められておいでになるのでありませうか、之を知りたいと思ふのであります、次に政府のみではありませぬが、我々一般國民の心構に付きましても、同樣の感じが致すのであります、今後我々一般國民は、我が國の將來に付きましては、將來よりも一層強い關心を持つと思ひます、關心を持つならば即ち意見がなくてはならない、意見があるならば即ち之を言論として表現しなくてはならないのであります、其の場合に國民の意見は悉た總司令部の意嚮と合體するや否やは、國民自身は少しも知り得ない所であります、斯う云ふ場合に即ち我々國民の側に於きましては如何なる心構を持つて其の意見を言論として發表して宜いであらうかと云ふことは、我々國民としては我が國の將來の爲に努力するに當つて先づ以て知つて置かなければならぬことと考へるのであります、固より彼の聯合國及び總司令部の占領の目的を害するが如き言論の許されざることは言ふ迄もありませぬ、又其の政策を、彼の人々の占領の目的の爲にする政策を濫りに批評してはならないことも明かであります、併しながら其の限界を守る範圍に於きまして、我々國民が我が國家の發展の爲に自由に言論を爲して宜いと云ふことは、是は彼の「ポツダム」宣言の認めて居ります所の言論の自由其のものの原則の結果であると思ふのであります、でありまするから、斯う云ふことは國民に於きましては、固より法的の義務に忠實であり、又敗北者としての徳義を守らなければならぬことは當然でありまするけれども、併しながら如何なる範圍に於てか言論の自由と云ふものがなくてはならぬかと思ふのでありまするが、是は實は却て總司令部或は聯合國側の喜ぶ所であるかと察するのであります、若し我々が眞に言はむとする所を……併しながら先刻申しました如き聯合國及び總司令部側の目的に反せざる範圍内に於てでありますけれども、言はずして、唯肚の中でぐずぐず思つて居つて、蔭に於て之のごとごと言つて居ると云ふやうなことに相成りますと云ふと、聯合軍の諸君に於きましては却て我が國民の眞意の存する所を疑ふでありませう、所謂面從腹背、面從腹背の國民であると云ふやうな、さう云ふ不信の念を懷くことがないとも限りませぬ、斯くの如きことに相成りますならば、眞に我々尠くとも一般多數の國民は、今囘のことに付て聯合國及び總司令部に感謝して居ります所の、其の眞の意と云ふものが誤られて解せられる虞があるかと思ふのであります、でありまするから、私共一般國民と致しましては、此の點に付きましてははつきりと心構と云ふものを定めて置かなくてはならない、故に此の點に付て、是は固より、我が國の政府其のもののことではありませぬけれども、聯合軍側と御話になるやうなことが固より屡屡あるのでありまするから、只今申しましたやうな點に付て聯合軍の眞に意の在る所を御察しになつて、さうして國民に知らしめて戴くと云ふやうなことがありまするならば、非常に幸ひかと思ふのであります、それから第二には憲法の改正に關して、それと「デモクラシー」、即ち私は之を民意を重んずる所の民意政治と譯して居るのでありまするが、此の「デモクラシー」即ち民意政治との關係に付て、政府は如何に理解しておいでになるであらうかと云ふことを知り、延いて我が國家の政治的性格の基本的のものを、之を略して便宜上政治的基本性格と申して置きまするが、政治的基本性格を變更することをも、憲法改正の爲には妨げないと云ふ御考でありますか、此の點をはつきり伺ひたいと思ふのであります、尤も茲に私が國家の政治的基本性格と申しましたのは、我が日本の政治的性格であつて、それあるが故に從來我が日本國であると我々一般國民が考へて居たと云ふさう云ふ性格を言ふのであります、でありまするから、此の意味の政治的基本性格が變更致すことに相成りますならば、我が國家其のものが變更したと云ふことに相成るのであります、斯う云ふ意味の政治的基本性格と云ふものは我が國に於てはあります、其のことを茲に詳しく申上げるのではありませぬが、要するに唯天皇が君主たる地位を有せられて居る、さうして其の地位を有せられて居りまする所の根據は、唯萬世一系の特定の血統に出でさせられると云ふこと其のことにあるのであります、其の他のことは、決してあの御一人が天皇たる地位に御出でになる所の根據ではない、況んや天皇を除外しましたる所の一般國民の授權に依る一般國民の意思と云ふものに依つてさう云ふ地位を授けられたと云ふやうなことは將來は知りませぬが、今日迄は我が國の基本的の性格では斷じてなかつたのであります、斯くの如き意味に於ける所の政治的基本性格と云ふものを即ち變へると云ふことを、さう云ふ程度に迄至つて憲法の變更を爲すと云ふことが差支ないと云ふ御意見でありまするかどうか、之を伺ひたいと思ふのであります、で固より私は此のことに付きましても、茲で總理大臣の方と議論を鬪はすと云ふ氣持はありませぬ、斯う云ふ問題に付きまして、茲で總理大臣と議論をすると云ふやうなことは私は妨げませぬけれども、遠慮したい氣持で居りまするから、敢て議論をする必要はありませぬが、唯さう云ふ政治的基本性格を變更することをも妨げないと云ふ御意見であるかどうかと云ふことだけを知つて置けばそれで十分なのであります、何となれば是は憲法改正案に於ける所の他の個々の規定を審議する上に於きまして前提となるべきものであります、故に此の點を曖昧にして置いて、所謂妥協的に、所謂事務的に憲法の改正を審議すると云ふやうなことは到底出來ないのである、さう云ふことは恐らく總司令部の諸君に於きましても決して望む所ぢやない、從來の總司令部諸君の示されたる態度に依れば、事の明かにすべき所ははつきりと明かにして、而して其の上で是非辨別を議論すると云ふことが、是は非常に尊敬すべき「アメリカ」風の性格でありまして、實は私自身もさう云ふことを私の態度の「モットー」として居るのでありまするから、それ故に斯う云ふ點を曖昧模糊に附すると云ふことは我が國の國民の態度でないのみならず、實は聯合國總司令部諸君が決して喜ぶ所ぢやないと信ずるのであります、元來憲法の改正と云ふ問題は彼の「ポツダム」宣言と云ふことの受諾實施と云ふ事柄に關聯して起つたのであります、此の宣言が私が茲に喋々致す迄もなく、我が國が今後再び軍國主義的、極國家主義的の行動を爲すことなく、平和主義的行動を爲すことを要求し、之が爲に政治的機構と云ふものを變更して今日迄の如く軍國主義的、極國家主義的の思想を持つ者が政治權力を擔當すると云ふやうなことの將來出來ないやうにすると云ふことが「ポツダム」宣言の我々に要求せられて居る所であります、それは即ち私が先刻用ひました言葉の民意主義、民意政治と云ふものの眞に實現をしろと云ふことにあるのであります、君主國、君主政治と云ふやうな、さう云ふ言葉に對して言はれて居りまする所の我が國に於て民主國、民主政治と云ふやうなものを決して「ポツダム」宣言は要求して居るのではありませぬのです、唯其の政治に於てそれが君主政治であらうが、民主政治であらうが、其の政治に於て所謂民意と云ふものが徹底的に實現されるやうな、さう云ふ民意政治と云ふものを要求して居ると云ふことが「ポツダム」宣言の趣旨であるのであります、それ以上にですな、君主國に對する民主國と云ふやうな、さう云ふことは「ポツダム」宣言に正式に示されたる限りに於ては何等問題となつて居ないのであります、此の點は非常に明かにせなくてはならない、先刻申しましたやうに、我が國の政治的基本性格でありまする所の、即ち君主たる御一人が居られて、さうしてそれが萬世一系の特定の御血統に出でさせられるの故、單に其の故に其の君主であられると云ふこと、其のことをですね、若し假に天皇制と申しますならば、其の天皇制の廢止と云ふやうなことは「ポツダム」宣言其のものに付きましては毫も要求して居る所ではないのであります、唯其の天皇の下に於きまして天皇に協力する所の諸諸の力がありまするが、さう云ふ天皇に協力する所の機構、政治機構と云ふものを改正せらるる、さうして即ち天皇が其の政治、軍國主義的或は反平和主義的權力擔任者の、まあ實質上強要する所となられて、さうして軍國主義的、反平和主義的の國家行動の出來るやうなことのないやうにしろと云ふことを言うて居るのてある、それは即ち天皇と云ふ其の制度其のものの變革とは無關係のことでありまして、天皇と云ふものの制度其のものを變革しなくとも、天皇と云ふ制度其のものと相竝んで決められて居る所の協力者の政治機構と云ふものを變革したらそれで十分出來るのであります、茲に即ち今囘の憲法改正と云ふことの根本的著眼と云ふものがあらうと思ふのでありまするからして、此の點は我々が憲法の改正と云ふことに付きましては、先ず以てはつきりとして置かなくてはならないことであります、重ねて申上げますれば、今囘の憲法の改正に當りましては我が國の基本的の政治性格をも變更すると云ふやうな必要はない、併しながら「ポツダム」宣言と云ふものと無關係に、我が國の基本的政治、基本的性格を變更することが宜いとするならば、それは別の議論であります、併し今囘の「ポツダム」宣言に依つて我々に要求せられて居ります所の民意政治を實現すると云ふこととしては、さう云ふ必要はないと云ふことを寧ろ私は言ふのでありまするが、そこで私はですな、此の點に付きまして總理大臣の許されまする範圍に於きましてですな、憲法の改正と云ふことに當つては我が國の只今申しましたやうな政治的基本性格をも變更しても構はないと云ふ御意見であるかどうかと云ふことを伺ひたいと思ふのであります、尤も總理大臣が去る二十一日に本院で施政演説をなされた中に、憲法改正案の提出のことに言及せられ、其の直後に速かに民主主義と平和主義とに依る政治の運營の實行せむことを期せらるる旨を述べられたのでありますが、是は此の趣旨は總理大臣の仰せられた御趣旨は分つて居りまするが、併しながら御趣旨を誤まる者がありまして、それでは我が國の君主國と云ふことを廢して、民主國にすると云ふことの趣旨であると云ふ風に誤解する者がありましたならば大變なことであるのです、是は恐らく總理大臣御自身に於きましても御迷惑を感じられることと思ふのであります、故に私は此の點に付きまして總理大臣の御意見を伺ひたいと斯う云ふのであります、私は今此處に總理大臣の施政演説に示されました所の此の點に關する御意見を批評して、それを論議して居るのではありませぬ、誤解のないやうに御願ひ致します、又等しく本院に於けることでありまするが、去る二十二日に總理大臣は山田三良博士に對する御答辯の中で、今日日本の地位が自由なる立場に在るのではないと云ふこと、及び皇室の御安泰を願ひ奉ると云ふ點から、憲法改正のことに付て非常に御苦心のある所を、言葉は短くでありまするけれども御述になりました、私は之を拜聽致しまして、實に御同情に堪へなかつたのであります、其の御苦心のことは、我々何も事情に通じて居りませぬ所の一老書生でありますけれども、其の御言葉だけから拜察することが出來て、實は非常にどうも何と申して宜いか、申上げやうのない所の御同情を禁じ得なかつたのであります、が併し、寧ろ其の御同情を申上げる故にこそ、其の御苦心を無にしたくないのであります、凡そ公人間の同情と云ふやうなことは、唯夫婦別れとか云ふやうな時の同情と云ふやうなものとは違ひまして、即ち眞に同情をする時には、其の同情を捧げて居りまする所の人をして、公人として誤ることなからしむることを望むのが、眞の同情であると斯う私は信ずるのでありまするから、それで只今申上げましたやうに、御苦心は固より御同情に堪へませぬのでありまするけれども、「ポツダム」宣言其のものは、決して我が國の基本的の政治的性格を變更することを要求するものではないと云ふことを申上げて、聊か御參考に供するのであります、又皇室の御安泰を願はせらるること、實に是も私の如き聊か古い人間でありませうが、誠に能く分る、是も何と申上げやうもない御苦心を察するのでありまするが、唯即ち所謂天皇の存續と云ふやうなことは、天皇と云ふ名稱の存續ではないのでありまして、天皇の本質の存續でなくてはならぬ、其の名稱の如何は暫く之を寧ろ問はぬでも宜いのであります、さう云ふやうなことから、私は即ち今囘の憲法と云ふやうなものに付きましては、非常に眞劍に之を考へると云ふことを覺悟して居る譯でありまするから、此處で總理大臣の如き實際問題、實際の事情に御通じになつて居る方に對しまして申上げるのは、甚だ失禮とは存じますけれども、併しながら眞に同情するの餘り、即ち「ポツダム」宣言と云ふものは、此の點に關する限りに於てさう云ふ意味のものであると、私の解釋を御參考に申上げるのであります、此處で議論をすると云ふ氣持ではちよつともありませぬ、それから第三には政黨を活用すると云ふことに付て、政府は如何なる程度の確信を持つて居られるであらうかと云ふことを御尋ね致したいと思ふのであります、立憲君主政治たると民主政治たるとを問はず、凡そ民意政治と云ふものの運用に付て政黨が必要であると云ふことは、此處に喋々する迄もないのであります、でありまするから國家は政治に關しましては、政黨を活用しなくてはならない、但し之に付きましては、最近迄政黨に反對する意見が可なり多く、又可なりの有力者の間にあつた、私は一箇の學究と致しまして、古くから政黨尊重論者である、而して即ち其の極は政黨内閣と云ふものでなくてはいかぬと云ふことを主張し來つて、寧ろそれが爲に色々な方面から反對を受けて居つたこともある譯でありまするが、さう云ふ意味に於きまして、私は政黨と云ふものは、どうしても活用しなくてはならないものと思ふのであります、此處で諄々しく申上げませぬ、政黨活用の第一歩は、何と申しましても、衆議院の選擧に於きまして、其の政黨と云ふものをして眞に民意を代表せしむるやうにすると云ふことでありませう、其のことは今申しませぬ、更に其の活用の方法が進みまして、第二と致しまして、即ち所謂政黨を基礎とする所の内閣、政黨内閣と云ふものが出來るのでありまするが、是も政黨は我が國に於きまして可なり歴史がありまするけれども、殘念なる哉、即ち或時代に所謂新體制の運動と云ふものが起りまして、さうして一夜にして政黨を壊してしまつた、政黨は一朝にして出來たものではありませぬ、實に我々の先人が、或は時に財産を抛ち、或は生命をも抛つて出來たものであります、固より長い間の經過に於きましては、政黨の態度と云ふものに付ては、非難すべきものがあつたことは言ふ迄もありませぬ、併しながらそれが爲に政黨を一夜にして潰すと云ふが如きことは、實に我々の先人に對して濟まないと云ふ氣持を私は持つたのであります、私は黨人でありませぬけれども、一般に政黨を重んずべしと云ふ議論の他に、さう云ふ先人に對する所の忘恩の行爲であると云ふ點からも、私はあの當時の態度に付ては、私かに第三者として反對をして居つたのであります、併しそれは別と致しまして、それからしてずつと戰時に入りましたが、終戰になりまして、即ち是も亦「ポツダム」宣言の御蔭であつて、實際感謝せざるを得ない、即ち選擧に入りまして、さうして政黨と云ふものが非常に復活して盛になつて來た、其の時の政黨に關する議論に於きましては、私から見ますれば、隨分間違つた議論と思ふものがありましたけれども、それは此處では言ふ必要はない、要するに政黨と云ふものが尊重せられると云ふ大體の機運と云ふものが出來たのであります、さうして其の結果、皆さん御存じのやうに、即ち政黨を基礎とする内閣と云ふものが出來なければならぬと云ふことに相成りまして、前内閣の首相の幣原男爵が其の點で非常に御努力になりまして、遂に自ら政黨に御入になりましたことは、何人も知つて居る所であります、是は一に政黨を基礎とする所の内閣を成立せしめなければならぬと云ふことの御努力と私は思つて居るのでありまして、私かに其のことに關する限りに於て、敬意を表して居つたのであります、現内閣の吉田首相に於きましても、世人は色々のことを言ふことは暫く別と致しまして、兎に角自ら政黨に御入黨になりまして、さうして今囘の内閣を組織せられたと云ふことは、兎に角私の如き政黨を尊重すると云ふ論者より致しますれば、即ち政黨内閣と云ふものの組織に努力せられたと云ふことに付ては、誠に敬意を表せざるを得ないと思つて居るのであります、唯併しながら、是だけを以て、今囘の内閣が政黨内閣の本質を持つて居ると云ふことは、どうも私は申上げ兼ねるのであります、言ふ迄もなく内閣が政黨内閣であると云ふやうなことは、唯衆議院に於きまして議員の多數を制すると云ふことが出來るとか、或は又其の大臣の數が、即ち政黨者が相當あると云ふやうな、さう云ふことだけではないのでありまして、其の内閣に依つて其の實現せられむとする所の政策が、それが其の政黨の主張したものであると云ふことでなくては本當の意味の政黨内閣ではないと、斯う思ふのでありまするが、其の點から申しますると云ふと、今囘は政黨以外の方が可なり内閣坐につておいでになるのであります、さうして其の地位と云ふものは可なり重要なる所の政策に關係して居る、殊に政黨が選擧に際して國民に向つて掲げて居りました所の政策に關係して居ると云ふやうな、さう云ふ方面に御就職になつて居る政黨外の御方がさう云ふことにまあ相成つて居るのでありまするが、是ではどうも本質的に見て政黨を基礎とする所の政黨内閣だと云ふやうなことはどうも言ふことは聊か遠慮せなくてはならぬかと思ふのであります、殊に從來から…此の内閣に限りませず…從來から或は司法とか、或は文部と云ふやうなことは、是はどうも公正なるべきことを必要とするものであるからそれで政黨人はいけぬと云ふやうな議論が可なり多かつた、是は私の考では可なり俗見と思ふのでありますが、さう言うことが許さるれば、それは政黨と云ふものは性質上公正にやらぬものであると云ふことを前提として居る考へ方である、公正なるべき、公正たることを必要とする地位に政黨者を就けぬと云ふことに相成りますると、政黨者と云ふものは公正にはやらぬものであると云ふことを前提として居るものと云はざるを得ませぬが、是は私は間違つた考へ方であらうと思ふ、將來は文部大臣だらうが、司法大臣だらうが政黨者から之をどしどし任用すると云ふことに何等世人に向つて憚かる所がないと云ふ状況に來た時に初めて本當の意味の政黨内閣が出來ると私は固く信じて居るのでありまするから、それで甚だ申上げにくいのでありまするが、政黨を活用すると云ふことに付て、今囘の政府の確信と云ふことに付て如何なる程度のものであるかと云ふことが實はどうもはつきりと分らない、但し是は決して私は今のことを申すのではありませぬ、將來我が國が「デモクラシー」の政治をすると云ふことに相成りまする以上は、どうしても政黨と云ふものを非常に良くして確立しなくてはならぬ、でありまするから今囘の革新に著手した此の時に政黨の活用と云ふことに付て固き信念と云ふものがなくては將來政治をすると云ふことは出來ないと思ふのであります、それでさう云ふことを言ふのであります、又此處で誤解を避ける爲に申上げて置きますが、先刻申上げましたのは皆政黨と云ふものを全體的に見たのでありまして、個人のことを言ふのではありませぬ、今政黨外から入つておいでになりまする所の方々の中には私の知友があります、さうして又知友として非常に尊敬して居る人があります、併しながらそれは別のことだ、それでありますから私は寧ろさう云ふ人はいつそどちらかの政黨にお入り下さる方が宜いかと思つて居る、さうして將來政黨政活の爲に活躍して戴くのが宜いと思つて居る、決して個人のことを云ふのではありませぬ、それから私は第四に、政治に於ける人間性の尊重と云ふ妙な言葉でありますが、政治に於ける人間性の尊重と云ふことに付いて政府は如何なる御意見を持つて居られるかと云ふことを少し御尋して見たいと思つたのでありまするけれども、是はまだ後に質疑者がおいでになるやうでありまするから、説明は避けまするが、是も唯項目だけ申して置きます、と申しまする譯は、從來の軍國主義的、或は極國家主義的の政治を行ひました所の權力擔當者と云ふものは色々の點から批評出來ますけれども、結局此の人間性の尊重と云ふことに付てどうも缺けて居つたと云ふことが一般に言へると思つて居るのであります、今でも云ふ迄もなく政治は人間を相手にするものでありまするから、人間性の尊重と云ふことに考のない人が眞に政治をすると云ふことは出來ないと云ふことは當然でありまするが、それで色々説明することは略しまして、私の考に於きましては、人間は人間として取扱はれなくてはならない、物として取扱つてはならない、是が政治に於て人間性と云ふことに付て考ふべき第一點であるのであります、是等のことは説明は略して置きます、又人間は凡人として取扱はれなくてはならない、聖人君子として取扱はれてはならない、是が政治に於て人間性と云ふことに付て考ふべき第二點であります、是も説明を略して置きます、又人間は常に希望を與へられなくてはならない、是が政治に於て人間性に付て考ふべき第三點であるのであります、それから又、併し人間は時に軌道を外れて歩むことがあるものとして取扱はれなくてはならない、斯う云ふことであります、是が政治に於て人間性と云ふことに關して注意すべき第四點でありますが、是等のことを一々説明することを止めまして、要するに今日例へば動議廢頽と云ひ、或は秩序の紊亂と云ひ、是等は或は道義の廢頽に基くと云ふやうなことを能く云はれますが、それは能く分りますけれども、併しながら所謂道義と云ふものを我々の人間の本當の性質に基礎附けたる所の政治、人間生活と云ふものと無關係に道義を説いたりしても、それは到底政治ではない、固より教育に於きまして、其の目標を君子聖人に置くと云ふことは差支ありませぬけれども、併しながら元來是は私を通じて觀て言ふのでありますが…皆さんには失禮かも知れませぬけれども、元來凡人である、聖人君子ではない、聖人君子たることを希望して居りますけれども、現實は凡人でありますから、政治は我々の凡人であると云ふことを前提として政治をしなくてはならない、而も亦同時に理想を持つて居る、凡人でありながら又或方面に向はむとする理想を持つて居ると云ふやうな者として取扱はなければならぬと云ふやうなことを申上げまして、多少の例を以て、今日の政治に於きましてはさう云ふ點から非常に吟味すべき事柄があると云ふことを、法制なり行政上の處置に付て申上げて見たいと思ふのでありますけれども、時間がありませぬから止めますが、さう云ふことの根本のことを申上げるのであります、それから最後に第五點として、將來我が國家の世界平和へ貢獻する使命を遂行することに付て何か政府に御計畫があるのであらうか、ありはしないかと云ふことを御尋して見たいと思ふのであります、軍國的、軍國主義的生活を排除して、平和的生活を爲さなければならぬと云ふことは、今日我が日本の再建の目標であることは申す迄もないのでありまするが、併し此のことは獨り我が日本と云ふ、さう云ふ國家の共同生活に付てのみ言ふべきことではないのでありまして、世界と云ふ共同生活を爲す場合に付きましても同樣であります、世界は我が日本のみならず、軍國的共同生活を捨てて平和的共同生活をなすやうな、常にさう云ふ生活のみ行へるやうなことにならなければならぬと致しますれば、我等日本人は我が國自身をさう云ふ共同生活にすることに努力すると共に、世界の生活と云ふものをさう云ふ風な平和的の生活にすると云ふことに努力すると云ふことが許さるると思つて居るのであります、是が即ち我が國家としての世界的の使命であるのであります、我々は今日國際關係に於きましては言ふ迄もなく世界的に活動することは許されては居りませぬ、併しながら我々は我々の本來の世界に於ける通有なる所の平和を愛好すると云ふ人間性に基く所の行動をなしまして、さうして此の世界の平和に貢獻すると云ふやうな行動をなすことは、決して禁止されて居るのではありませぬ、又さう云ふ筈はないのである、そこで我々は今日は我が國家的生活と致しましては、世界的の活躍を禁止されて居るのでありますけれども、併し世界の平和を是から益益向上せしめると云ふことに付て、何等か世界的に活躍すると云ふ方法がありたいと思ふのであります、それに付きましては固より色々なこともありませう、色々な國民の間に色々な行動を執り、運動をなしまして、さうして世界と自らの平和的氣分と云ふものを超すやうなこともありませうし、又目下問題となつて居りまする所の世界的の平和を齎す爲の平和憲章と云ふやうなものに付ても、我々は盛に何處かに其の意見を申出ると云ふやうな方法もありませう、其の他色々あるとは存じまするが、茲に私は一つ御尋ねし且又場合に依つては御願ひしたいこともあります、それは我々日本人が、先刻來申しましたやうな意味に於ける即ち世界的使命に貢獻すると云ふ爲には、どう云ふ一體方法を執るべきであるかと云ふことを調査し、工夫をすると云ふやうな、さう云ふ公の國家的の機關と云ふものが作られたらば宜いと斯う思ふのであります、現在既にさう云ふ機關が政府部内に置いてあるかも知れませぬ、それは私事情を一向知らぬから、あれば結構でありますが、若しなかつたならば我が國が將來世界的平和に貢獻するの使命を遂ぐる爲に、どう云ふ方法を以てしたら宜いかと云ふことを色々の方面から、今日色々なことをやつて居る連中が部分的に、勝手に自分の仕事としてやつて居るが、さうでなしに色々な方面から考へられたる所の事柄をそこに一つ纏めて考へて、さうして然らば斯う云ふことを一つやつて貰ひたい、やらう、斯う云ふやうな我が國が世界的平和に貢獻するの使命を遂行することはどう云ふ方法を以てしたらば宜いかと云ふことを工夫すると云ふ、さう云ふ一つの調査工夫機關と云ふものを政府の方で、或は國家で作つて戴くことは出來ないものであらうかと、斯う云ふことを一つ御尋ねして見たいと思ふのであります、之に依つて我が國は或は今日迄出ました所の軍國主義的、或は反平和主義的國家であると云ふやうな汚名を取返して、一層世界の平和に貢獻をする所の道義國家であると云ふやうなことが、抽象的に唯讚辭を受けるのではなくして、我々の現實の行動に依つて讚辭を受くると云ふことに相成ることが出來るかとも私は思つて居るのであります、以上私は我が國家が今や我が國家を再建する爲に、革新と云ふことを斷行することに著手して居りまするに際しまして、考へて置くべき用意と自分で思つて居ることを少し述べたいのであります、之に付きまして甚だ御手數でありますけれども、政府が其の御所見を唯私に對する所の答辯と云ふ意味ではなしに、此の壇上から一般の國民に聽かせると云ふやうな意味に於て御答辯を下さることが出來るならば幸ひと思ふのであります(拍手)
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=21
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022・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 御質問に御答へ致します、只今の佐々木博士の第一の御質問は「ポツダム」宣言の下に於ける日本…受諾後の日本政府として自主的に政治をする信念があるか、と云ふ御尋と思ひますが、第一「ポツダム」宣言の條項に依りましても、又降伏條項等に依りましても、博士が御示の如くに日本に於ける政治は日本政府が自主的にすべきものである、聯合國が致すのではなくして、日本政府自身がするのであると云ふことは甚だ明瞭であります、又御考の通りであります、此の點は「ドイツ」に於ける事態とは餘程相違致して居るのでありまして、日本に於ける日本の政治は、日本政府が自己の責任に於てすると云ふことになつて居りますことは御考の通りであります、又政府と致しましても其の觀念を以て、其の信念を以て自己の責任に於て日本の政治に當ると云ふ考を以て致して居ります、唯日本政府の現在の地位に於て「ポツダム」宣言及び降伏條項に依つて制約せらるると云ふことは勿論であり、又「ポツダム」宣言を受諾致しました以上は、之に依つて生ずる義務を飽く迄も誠實に履行すると云ふ制限の下に、日本政府は自主的觀念を以て日本の政治に當る考で居り、又當つて居る次第であります、又所謂言論の自由等に付ての御尋がございましたが、是も矢張り同じことであります、「ポツダム」宣言に於ては御承知の通り言論の自由を束縛致して居らないのみならず、日本に於ける「デモクラシー」の發達と云ふことを主として居ります、從つて又「デモクラシー」であつて、而して言論の不自由があるべき筈がなく、不當なる制限があるべき筈がない、從つて又言論は政府の立場と同じやうに、「ポツダム」宣言其の他の制約の下に言論は飽く迄も自由であり、無制限である、但し其の自由を誤解致しまして徒に多數を以て他の言論の壓迫をすると云ふやうなことは、是は近來往々にして見る所でありますが、是は宜しくないと思ひます、從つて又不當に言論の壓迫を試みるが如きことがありましたならば、是は飽く迄も禁止致します、是は言論尊重から來る結果でありますと御承知を願ひたいと思ひます、第二の御尋は、新憲法に限つて日本の從來の政治的生活の變更するのであるかどうか、是は御意見の通りに、決して日本國民の從來の政治的生活を變更する考へでは毛頭ございませぬ、御承知の如く日本の憲法は決して壓制的政治の憲法ではないのであります、又軍國主義の憲法ではないのであります、是が不幸にして近年誤解せられ、或は歪曲せられて、憲法の原則が歪曲せられて、恰も封建的憲法であり、壓制的憲法であり、軍閥的憲法であるかの如くに誤解せられましたが、日本の明治天皇欽定憲法なるものは、明治の初年に於ける所謂五箇條の御誓文に基いて其の原則が表現せられたものでありまするから、決して壓制的性質を持つものでもなければ、又軍國的憲法でもないのであります、從つて又明治天皇欽定の憲法に依つて形作られたる日本の政治性格なるものは、今日の言葉を以てすれば大なる民主的であり、大なる非軍國的のものであると斷言して憚からないのであります、從つて又新憲法の趣意と私は毛頭相背馳する所のものがあるとは考へられませぬ、從つて又新憲法が出來たが故に日本國民の政治的性格が變更するとは斷じて考へて居りませぬ、第三は政府は政黨の活用に付てどう考へて居るか、閣僚の中には政黨出身にあらざる閣僚が重要なる地位を占めて居るではないかと云ふ御指摘でありますが、御承知の如く今日は政黨政界官界を通じて、非常な變革を起しまして、政黨の間にも色々な異動があり、或政黨のみから人を採ると云ふことは、閣僚を悉く充たすと云ふことは、現實に於て出來ないことであつたのであります、少くとも私が組閣を致します時に於ては、閣僚を悉く政黨出身に求めることが出來れば求めたかつたのでありますが、是は出來なかつたのであります、適材を適所に求めると致しましても、又此の非常な時局、非常な危機を突破する此の際の組閣に於きまして、悉く政黨から人を求めると云ふことが出來なかつた事情から、其の他の政黨以外から人を求めましたが、入られた閣僚に於ては悉く政黨の何ものかを了解し、又政黨に依る政治の必要なることも了解し、我々と志を同じうした諸君が閣僚として入られたのであります、從つて政治の運用に於きましても、政策の實施に於きましても、閣僚の間に何等の疎隔若しくは意思の疎通を缺いて居る所はなく、且又兩政黨とも十分なる了解連絡を執つて現に政策の構成を致して居ります、此の點に付ては御安心を願ひたいと思ひます、第四に政治に於ける人間性の尊重と云ふことに付て御指摘がありましたが、私も御同感であります、唯此のことは言ふべく易くして事實に於て往々にして之に反する場合があるのでありますから、若し此の原則に反するやうな、人間性を尊重せざるやうな具體的事實がありましたならば、其の都度御遠慮なく御指摘を願ひたいと思ひます、第五に、將來我が國の世界的使命を達成する爲に、何か適當な機關を設けてはどうかと云ふ御提議でありますが、此の御提議に付きましては、尚具體的の御話を承つた後に決したいと考へまするが、即座の御答と致しましては、從來日本に對しまして隨分列國、殊に聯合國から誤解があります、日本は軍國主義であつた、或は超國家主義であつた、又何時再軍備を致して再び戰爭を起す危險がありはしないかと云ふやうな日本に對する疑惑、是は疑惑であります、或は全くの誤解であります、にも拘らず此の空氣は相當に世界に瀰漫して居るやに考へられます、日本國が此の世界の平和に貢獻するに先立て、先ず第一に努めなければならぬことは、斯かる誤解を一掃することであると思ひます、其の爲に特殊の機關を設けると云ふことも一案でございませうが、是は一に其の機關の構成、性質、方法等、具體的の御提案を俟つて審議致したいと思ひます、一應御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=22
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023・佐々木惣一
○佐々木惣一君 私は只今の内閣總理大臣の御答辯の内容に付て反駁するのではなく、更に私の意見を述べたい所がありますけれども、併し是は他日に讓ることと致しまして、誠に詳細御懇切なる御答辯を戴きましたことを非常に滿足に思ひ、感謝致します、それだけを申上げて置きます
〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=23
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024・田中耕太郎
○國務大臣(田中耕太郎君) 只今の佐々木博士の御質問は、一般國政が中心となつて居りますけれども、併し各項目に付て考へて見ますると教育の方面にも可なり深い關係を持つて居る事柄だと思ひますので、私の各項目に付きましての所見を申上げて御答辯と致したいと思ふのでございます、第一の聯合國側の援助を得て今日國策を遂行して居る、殊に文教の方面に付きましても聯合國側は多大な關心を持つて我々に援助、協力して居られるのでありますが、それに付きまして文教當局と致しまして、どう云ふ態度を執つて參つて居るかと云ふことを御答へ申上げたいと思ふのであります、本來我が國の教育は、明治以來或は近くは非常時局發生致しまして以來、必ずしも理想的なものとは申上げ兼ねるのであります、特に此の非常時局以來は軍國主義的、極端な國家主義的の方向に非常に歪曲せられて參つたのでございます、更に遡りまして明治の初年に至る迄のことを考へて見ましても、必ずしも理想的の教育だとは申されないと思ふのであります、其處には多々改革を要する所の問題が、或は教育理念にしろ、或は教育制度にしろ多々あつたのであります、從つて今日我々が斯う云ふ悲慘な目に遭つて居ると云ふことも、教育の誤りに基いて居ると云ふことが非常に多いのであります、我々は日本國民と致しまして、斯う云ふ悲慘な事態に直面しない前からもつと早く教育を其の本質的使命に照して改革して居なければならなかつたのであります、併しながら遲しと雖も今日早急に行はなければならないのでありまして、從つて此の事は假令敗戰であらうが、或は萬々一さう云ふことはありませぬけれども、常識からして考へられないことでありますけれども、戰ひに勝つたとしても、教育の改革を實行しなければならなかつた譯であります、從つて先刻佐々木博士が御指摘になりましたやうに、我々は「ポツダム」宣言が法律的義務を課して居るからとか、或は聯合國側が我々に對して要求するから、指令を出したからと云ふやうなことではなくして、教育の本來の使命に照して、教育と云ふものは斯う云ふ風にしなければならないと云ふ本質からして、今日教育の改革に付て考へなければならないと思ふのであります、幸にして聯合國側に於きましては、此の日本の教育の良い意味の民主化と云ふことに非常な熱意を持ち、又示される所の方針と云ふものも我々に取つて承認出來るものばかりであります、唯具體的の問題に付きましては、或は今日早急に行はれないこともありますし、或は一層具體的の事情を考慮して、抽象的には宜いが、併しながら實行する段になつて見ますると、一層の研究を要すると云ふやうなこともないではありませぬ、さう云ふ場合に於きましては、こちらも主張すべきことは主張し、協調的の態度を以て、十分さつき御話の自主性を保ちながら共同的に研究し、又立案して參つて居るやうな次第でございます、で、此の點に付きましては、或は一般的に誤解もあり得るかと思ひまして、附加へました次第であります、要するに私共は權力に對して盲從する譯のものではないのでありまして、我々が眞理に從つて行動しなければならないのであります、教育政策に於て眞理は一體何處に在るのかと云ふことを考へまして、それに從つて方策を立てるのが、是が眞の民主主義的教育政策と言へるのぢやないかと思ひます、次に天皇制の維持と「ポツダム」宣言との關係の問題でございますが、是は教育上非常な重大な問題でもあるのであります、此の點に付きまして、先程佐々木博士が仰せになりました所は、私文教當局と致しましての確信にも合致するものであります、民主主義のさう云ふものであるかと云ふことに付きましては、色々學説もあるかと思ひますが、さう云ふ問題に立ち入りますことは適當ではないと思ひます、併しながら要するに實質的の意味の民主主義とは、平等の福祉が尊重され、人權が保たれ、自由が發揮せられると共に、秩序が守られ、國民が他の國民の爲の單なる手段としては取扱はれない、それ自身目的として考へられなければならない、又國民が自己の所屬する所の團體の單なる手段として取扱はるべきではなく、それ自身人格者として取扱はれなければならないと云ふやうなことが、實質的の民主主義の理想ではないかと思ひます、さう云ふ點に於きまして、決して此の天皇制自身が牴觸するとは考へられないのであります、又民主主義を政治技術的に考へて見ますると、議會政治、或は民意を政治に反映させると云ふやうな事柄は、是は矢張り一般に世界人類が、以て此の民主主義實現の最も適當なる方法と認めて居る所でありまして、此の精神は從來の憲法の精神でもありますし、又是から新たに改正せられようとして居る所の憲法草案の精神でもございます、さう云ふ意味に於きまして、我々は天皇制自身が此の政治的の一種の「テクニック」と申しますか、其の「テクニック」と牴觸するとも考へられないのであります、さう云ふ意味に於きまして、文部省と致しましては、或は公民教育に於て、或は修身に於きまして、天皇制の問題に觸れなければならないやうな場合があつたと假定しまして、さう云ふ氣持で以て態度を決したいと思つて居る次第でございます、第三の政黨内閣と文部大臣の地位の問題でございますが、是は先程總理大臣が御答になりました所に讓りたいと思ふのであります、第四の政治に於ける人間性の尊重の問題でありまして、是は教育上非常に重要なる意味を持つて居る事でございます、被教育者を、勿論教育の面に於きまして人間として取扱はなければならないのでありますが、併し何しろ、被教育者と致しましては完全な人間ではないのでありまして、是から教育されなければならない、卒業して社會に出て、初めて一人前の行動を爲し得る人間であります、此の點は先程も御話がありましたやうに、凡人として取扱ふ、其の凡人の中に於ても、未完成なる凡人として被教育者を見なければならないと云ふことは、是は已むを得ない譯であります、併しながら教育は其の民主主義的形態の下に、精神の下に於きましては、被教育者は矢張り人格者として取扱はなければならないのでありまして、決して從來の極端な國家主義的、軍國主義的教育の下に於ける如く、一種の手段、奴隸と、さう云ふ風に取扱ふべきではないと云ふ風に考へて居るのであります、又道義の頽廢、秩序の紊亂に對しまして、我々は決して抽象的の理念を呼號する、大聲疾呼して軍人的に命令すると云ふやうなことは、是は極力避けなければならないと思ひます、若しさう云ふ風なことに陷りますると、從來の神憑り的の態度を再び執ると云ふことになりますのでありまして、決して教育を權威あらしめるものではないのであります、從來の公民とか、或は倫理の教育は非常に抽象的過ぎる、人間の本性を尊重しない、唯抽象的言辭、口頭禪を繰返して居るに過ぎなかつた、其處に國民道徳頽廢の深い原因があると云ふことを信じて居る次第であります、併しながら此の人間性は一體どう云ふものでなければならないかと云ふことになりますると云ふと、一派の人々の考へるやうな、單に「パン」だけを喰つて生きて居る動物に近い人間と云ふ風に解釋することは出來ないのでありまして、人間には高貴なる倫理的の使命がある、人間は道徳を守り、又社會の秩序に從はなければならない、其の秩序と申しますと、直ぐ軍國主義的、極端な國家主義的秩序を想ひ出しまして、それに對して、或は反動的であるとか、或は封建的であるとか云ふやうな批評を浴びせ掛ける者もないではございませぬ、さう云ふ意味でない本當の人間の本性に即した道徳的の秩序があると云ふ信念の下に、今後の教育をやつて行きたいと思つて居る次第でございます、第五の世界平和の貢獻の使命の實現に付きまして、教育が非常に重大なる責任を負擔して居る譯であります、從來の我が國の教育は日本とか、或は日本民族とか云ふやうなことのみを念頭に置いて居つたやうな嫌ひがあります、殊に外國の人々にはさう云ふ印象を與へて居りますことは事實であります、我々は教育の理念として眞理の認識、眞理に對する尊重の念及び眞理を愛するの念を基調に致しまして、さうして其の方向に向つて進みまする時に、自然に我々は國際的、世界人類的の精神に合致するものがあると思ふのでございます、さうなりましてこそ、極めて「ナチュラル」に從來の狹隘なる國家主義的、軍國主義的教育を拂拭することも出來るのであります、我々は「アメリカ」に於て教育の「モットー」が二つある、何であるかと云ふと、それは眞理であり、平和であると云ふことを聽いたことがございます、我々は敗けたから今仕方がないから、眞理と平和を教育の「モットー」とすると云ふのではなくして、本來眞理と平和が追及せられ、愛好せられなければならないことは、世の初めから世の終り迄變らない眞理であると云ふ信念の下に、今後の教育計畫を樹て、理想を其處に置きまして其の理想に向つて邁進したいと云ふ風に考へて居る次第でございます、事柄は極めて重要であります、又一朝一夕に爲し遂げられないことが澤山ございます、併しながら文教當局と致しまして、微力のあらむ限りを出し盡して此の爲に努力したいと考へて居る次第であります、どうか各位に於かれましても何分御鞭撻、御激勵を御願ひ致す次第でございます、之を以て私の御答辯を終りたいと思ひます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=24
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025・佐々木惣一
○佐々木惣一君 田中文部大臣から大變詳細なる御答辯を戴きまして、それは豫期せぬことで、大變有難うございました、ちよつと御禮を申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=25
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026・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本日は此の程度に於て延會を致したいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=26
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027・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、明日は午前十時より開會致します、議事日程は彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午前十一時五十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X00319460624&spkNum=27
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