1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年八月十四日(水曜日)午前十時八分開議
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議事日程 第十九號
昭和二十一年八月十四日
午前十時開議
第一 商工經濟會法を廢止する法律案(政府提出、衆議院送付)
第一讀會
第二 工業所有權法戰時特例を廢止する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 會社經理應急措置法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 金融機關經理應急措置法案(政府提出、衆議院送付)
第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=0
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 報告を致させます
〔寺光書記官朗讀〕
一 昨十二日議長に於て特別委員を左の如く選定せり
電氣事業法の一部を改正する法律案特別委員
公爵 徳川慶光君 侯爵 東郷彪君
伯爵 東久世通忠君 子爵 柳澤光治君
子爵 交野政邁君 子爵 六角英通君
荒川文六君 男爵 飯田精太郎君
長世吉君 男爵 八代五郎造君
男爵 杉溪由言君 男爵 田中龍夫君
種田虎雄君 中山太一君
永瀬寅吉君 奧主一郎君
秋田三一君 作間耕逸君
赤木正雄君
同日本院に於て採擇することを議決したる七尾線七尾、氷見線氷見の兩驛間に鐵道敷設の請願外三件の請願は各各意見書を附し即日之を政府に送付せり昨十三日改定豫算に關する法律案特別委員會に於て當選したる正副委員長の氏名左の如し
委員長 男爵 久保田敬一君
副委員長 子爵 保科正昭君
同日衆議院より左の政府提出案を受領せり
商工經濟會法を廢止する法律案
工業所有權法戰時特例を廢止する法律案
會社經理應急措置法案
金融機關經理應急措置法案
同日政府より左の法律案は議院法第二十七條但書及第二十八條但書に依り議定相成たき旨の要求書を受領せり
會社經理應急措置法案
金融機關經理應急措置法案
同日衆議院より本院の送付に係る左の政府提出案は同院に於て之を可決し奏上せる旨の通牒を受領せり
罹災都市借地借家臨時處理法案
訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案
辯護士及び辯護士試補の資格の特例に關する法律案
本日第八部に於て豫算委員男爵小畑大太郎君の補闕選擧を行ひしに男爵中村貫之君當選せり
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=1
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002・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、請暇の件に付御諮りを致します、中島徳松君病氣に付會期中請暇の申出がございました、許可を致して御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=2
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003・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=3
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 議事の都合に依りまして、日程第一及び第二を後に廻し、日程第三及び第四の議事に入りたいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=4
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005・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=5
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006・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第三、會社經理應急措置法案、日程第四、金融機關經理應急措置法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、是等の兩案を一括して議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=6
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007・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=7
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008・会議録情報2
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會社經理應急措置法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年八月十三日
衆議院議長 樋貝詮三
貴族院議長 公爵 徳川家正殿
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會社經理應急措置法案
會社經理應急措置法
第一條 この法律で特別經理會社とは、左に掲げる會社(金融機關經理應急措置法第二十七條第一號に掲げる金融機關及び昭和二十年大藏 外務 内務 司法省令第一號第一條に規定する指定機關を除く。以下同じ。)をいふ。
一 昭和二十一年八月十一日午前零時(以下指定時といふ。)において、戰時補償金等の交付を受け、若しくはその交付を受ける權利を有し、又は在外資産を有する資本金(出資總額、株金總額又は出資總額及び株金總額の合計額をいふ。以下同じ。)二十萬圓以上の會社。但し、主務大臣の指定する會社及び戰時補償金等の交付を受けた金額又は會社の貸借對照表の資産の部に計上した戰時補償金等の請求權及び在外資産の合計額が、指定時現在において、命令の定めるところにより計算した積立金の額及び財産目録に記載した動産、不動産、債權その他の財産の指定時における價額(株式會社、株式合資會社又は有限會社の營業用の固定財産及び取引所の相場のある有價證券については、商法第二百八十五條又は同法第四百五十八條第二項若しくは有限會社法第四十六條第一項において準用する商法第二百八十五條に定める價額を超えることができない。)が、當該財産目録に記載した價額を超える場合におけるその超過額の合計額を超えず、且つ債務超過又は支拂不能に陷る虞のない會社であつて、主務大臣の認可を受けたものを除く。
二 左の各號の一に該當する會社であつて、主務大臣の指定を受けたもの
イ 戰時補償金等の交付を受け、若しくはその交付を受ける權利を有し、又は在外資産を有する會社であつて、指定時において資本金二十萬圓未滿のもの
ロ この法律施行後、債權の取立が著しく困難となつたことその他の事由により、會社の資産の價額が減少したため、債務超過又は支拂不能に陷る虞のある會社
ハ その所有する株式、出資證券又は社債の價額が、この法律施行後、著しく下落し、又はこれを處分することが困難となつたため、債務超過又は支拂不能に陷る虞のある會社
前項第一號但書の規定によつて、主務大臣の認可を受けようとする會社は、命令の定めるところにより、この法律施行後二箇月以内に、文書を以て、主務大臣にその旨を申請しなければならない。
第一項第二號の指定を受けようとする會社は、命令の定めるところにより、この法律施行後二箇月以内に、文書を以て、主務大臣にその旨を申請しなければならない。
特別の事由があると認められる場合においては、主務大臣は、前二項の期間經過後にされた申請についても、認可又は指定をすることができる。
主務大臣は、第一項第一號但書の指定若しくは認可又は同項第二號の指定をしたときには、直ちにその旨を告示する。
資本金二十萬圓以上の會社であつて、戰時補償金等の交付を受けたことがなく、若しくはその交付を受ける權利を有せず、又は在外資産を有しないものは、この法律施行の日から三週間以内に、特別經理會社でない旨を主務大臣に屆け出るとともに、その旨を公告しなければならない。
第二條 前條第一項第一號但書に該當する會社が、同條第二項の規定による認可の申請をしない場合には、當該會社に對し、指定時において拂込株金額若しくは拂込出資金額の十分の一以上に當る債權を有する者、指定時において出資金額が資本金の十分の一以上に當る社員又は指定時において資本金の十分の一以上に當る株式を有する株主は、同項の期間經過後二十日以内に、會社に對して、同項の申請をするべき旨を請求することができる。
前項の規定は、前條第一項第二號イ乃至ハに該當する會社が、同條第三項の規定による指定の申請をしない場合に、これを準用する。
前二項の請求があつた場合には、會社は、直ちに前條第二項又は第三項の規定に準じて、認可又は指定の申請をしなければならない。
第三條 會社は、第一條第一項第一號但書の指定若しくは認可又は同項第二號の指定を受けたときには、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、登記をしなければならない。
第一條第六項の會社は、この法律施行の日から、本店の所在地においては二週間以内に支店の所在地においては三週間以内に、特別經理會社でない旨の登記をしなければならない。
第四條 指定時以前の原因に基いて生じた第一條第一項第二號の指定を受けた會社に對する債權について、指定時から同號の指定のあるまでにされた辨濟その他債權を消滅させる行爲(免除を除く。)は、これを無效とする。但し、第十四條第一項但書に規定する債權については、この限りでない。
前項の規定は第三者の權利を害することができない。
第一項の會社が、指定時から第一條第一項第二號の指定のあるまでにした不動産又は重要な財産の讓渡は、これを無效とする。
前項の場合において、讓受人の權利は、指定時以前の原因に基いて生じた債權とみなす。
第五條 特別經理會社は、遲滯なく、指定時現在における財産目録、貸借對照表、動産、不動産、債權その他の財産及び債務に關する明細書竝びに指定時を含む事業年度開始の日から指定時に至るまでの損益計算書を作成しなければならない。
第六條 特別經理會社に特別管理人を置く。
第七條 特別經理會社には、指定時において、新勘定及び舊勘定を設ける。
特別經理會社の第五條の財産目録に記載した動産、不動産、債權その他の財産(以下會社財産といふ。)は、命令の定めるところにより、會社の目的たる現に行つてゐる事業の繼續及び戰後産業の囘復振興に必要なものを、指定時において、新勘定に所屬せしめ、新勘定に所屬せしめた會社財産以外の會社財産を、指定時において、舊勘定に所屬せしめる。
前項の規定によつて新勘定に所屬せしめる會社財産の範圍は、命令の定めるところにより、特別管理人がこれを決定する。
指定時後、會社の計算は、新勘定と舊勘定とに區分經理しなければならない。
第二項の規定によつて新勘定に所屬せしむべき會社財産を有しない會社及び清算又は破産手續中の會社には、第一項の規定にかかはらず、舊勘定のみを設ける。
第一項乃至第四項の規定は、前項の會社において、新勘定及舊勘定を設ける必要が生じ、特別管理人の決定があつた場合に、これを準用する。
舊勘定に所屬する會社財産のうちで、あらたに新勘定に所屬せしめることを必要とするものを生じたときには、特別管理人の決定に基いて、これを新勘定に振り替へることができる。この場合においては、當該會社財産は、新勘定に振り替へられた日において、新勘定に所屬せしめられたものとする。
特別經理會社は、新勘定舊勘定毎に、帳簿を作成し、前各項の規定によつて、新勘定又は舊勘定に所屬する會社財産を明確にしなければならない。
第八條 特別經理會社は、前條第三項の決定に基いて、新勘定舊勘定毎に、會社財産の明細書を作成し、命令の定めるところにより、特別管理人の承認を受けなければならない。
前項の規定によつて特別管理人の承認を受けた舊勘定に所屬する會社財産の明細書は、特別管理人の承認を受けた日から二週間以内に、公證人の認證を受けなければならない。
特別の事由があるときには、主務大臣は、特別經理會社の申請により、前項の期間を延長することができる。
第二項の認證を受けなければ、前條第三項の決定は、その效力を生じない。
前條第七項の規定によつて、新勘定及び舊勘定に所屬する會社財産に變更のあつた場合においては、舊勘定から新勘定に繰り替へられた會社財産について、前四項の規定を準用する。
特別經理會社は、舊勘定に所屬する會社財産であつて、登記又は登録のあるものについては、舊勘定に所屬する旨の登記又は登録をしなければ、舊勘定に所屬することを以て第三者に對抗することができない。
前項の規定の適用を受けない特別經理會社の財産であつて、新勘定又は舊勘定のいづれに屬するか分明でないものは、新勘定に所屬するものと推定する。
前七項の規定は、舊勘定のみを設ける會社に對しては、これを適用しない。
第九條 第七條第一項の規定によつて、會社財産を新勘定及び舊勘定に區分經理した場合においては、舊勘定の貸借對照表の資産の部に、新勘定に對する未整理受取勘定を設けて、これに新勘定に所屬せしめた會社財産の第五條の財産目録に記載した價額と同じ金額を計上し、新勘定の貸借對照表の負債の部に、舊勘定に對する未整理支拂勘定を設けて、同一金額を計上するものとする。
前項の規定は、第七條第七項の場合に、これを準用する。
第十條 特別經理會社は、毎月末における新勘定の貸借對照表の負債の部の未整理支拂勘定に計上した金額に命令の定める率を乘じて得た金額と同じ金額を、翌月の初めに新勘定から舊勘定に繰り入れなければならない。
月の途中において、新勘定の貸借對照表の負債の部の未整理支拂勘定に計上した金額に増加又は減少のあつた場合においては、前月末における未整理支拂勘定に計上した金額に對して、前項の規定を適用して計算した金額に、未整理支拂勘定に増加又は減少のあつた日の翌日からその月の末日迄の日割を以て、當該増加額又は減少額につき前項の金額を計算し、これを加算又は控除したものを以て前項に規定する繰入金額とする。
第十一條 特別經理會社は、指定時後の原因に基いて生じた收入及び支出を、新勘定の收入及び支出として、經理しなければならない。
特別經理會社は、指定時以前の原因に基いて生じた收入及び支出を、舊勘定の收入及び支出として、經理しなければならない。
指定時後に退職した者に對する退職金その他指定時の前後に渉る事項に係る收入及び支出に關しては、前二項の規定にかかはらず、命令により特別の定をなすことができる。
舊勘定に所屬する會社財産の管理に要する支出は、第一項の規定にかかはらず、舊勘定の支出として、これを經理しなければならない。
特別經理會社が、指定時後舊勘定に所屬する財産の果實として收取した財産及び舊勘定に所屬する財産の處分の對價として取得した財産その他命令で定めるものは、第一項の規定にかかはらず、これを舊勘定に所屬せしめる。
第十二條 指定時以前の原因に基いて生じた特別經理會社に對する債權(以下舊債權といふ。)の先取特權、質權又は抵當權であつて、新勘定に所屬する會社財産の上に存するものは、命令により定める場合を除くの外、當該會社財産を新勘定に所屬せしめた日に、當該會社財産につき消滅する。
新勘定に所屬する會社財産が、鐵道財團、工場財團、鑛業財團、軌道財團、運河財團、漁業財團又は自動車交通事業財團に屬してゐる場合には、命令により定める場合を除くの外、當該會社財産を新勘定に所屬せしめる日において、當該財團から除かれ、當該財團に屬さないことになつたものとする。
特別經理會社の新舊勘定併合の時から、第一項の債權の先取特權、質權又は抵當權は、同項の財産について消滅せず、及び第二項の財産は、當該財團から除かれなかつたものとみなす。但し、第一項の規定によつて、これらの權利が消滅した後、當該會社財産について、これらの權利の行使を妨げる擔保權が生じた場合又は當該會社財産が當該會社以外の者の所有に歸した場合においては、この限りでない。
前項但書の場合においては、當該會社は、法令の定めるところにより、同項の債權を有する者が、當該會社からその債權の辨濟を受けることができる金額を供託しなければならない。
前項の債權を有する者は、前項の供託金に對して、先取特權、質權又は抵當權を有する者として、その權利を行ふことができる。
第十三條 指定時後の原因に基いて生じた特別經理會社に對する債權(舊勘定に所屬する財産の管理のために生じた債權を除く。以下新債權といふ。)については、舊勘定に所屬する財産に對して、強制執行、假差押又は假處分をすることができない。
第十四條 舊債權(命令で定める債權を含む。)については、辨濟をなし、又は辨濟を受けその他これを消滅させる行爲(免除を除く。)をすることができない。但し、金錢その他物若しくは有價證券の引渡を目的とする債權以外の債權又は金錢以外の物の引渡を目的とする債權であつて、その給付が特別經理會社の現に行つてゐる通常の業務に屬し、且つ新勘定の計算において履行できるもの竝びに左に掲げるものについては、この限りでない。
一 國又は都道府縣その他の地方公共團體に對する公租公課その他命令で定めるこれに準ずる債權
二 指定時以前に確定した給料その他命令で定める定期的給與の債權
三 從業員の預かり金その他これに準ずる債權(命令で定める制限を超えないものに限る。)
四 指定時以前に確定した退職金その他命令で定める臨時的給與の債權(命令で定める制限を超えないものに限る。)
五 會社の通常の業務の運營に伴ふ千圓未滿の債權
六 その他命令を以て定める債權
特別經理會社は、前項各號に掲げる債權については、これを舊勘定から辨濟することができない場合に限り、特別管理人の承認を受けて、第九條の規定によつて設けた新勘定の貸借對照表の負債の部の未整理支拂勘定に計上した金額の限度において、これを新勘定から辨濟することができる。
舊勘定に所屬する財産の管理のために生じた債權についても前項と同樣である。但し、この場合においては、命令の定めるところにより、主務大臣の承認を受けなければならない。
第一項第二號乃至第六號の債權及び前項の債權については、新勘定に所屬する財産に對して、強制執行、假差押又は假處分をすることができない。
第二項及び第三項の場合においては、新勘定から辨濟した金額と同じ金額を、舊勘定の貸借對照表の資産の部の未整理受取勘定に計上した金額及び新勘定の貸借對照表の負債の部の未整理支拂勘定に計上した金額から、夫夫減額しなければならない。
第十五條 特別經理會社については、破産の宣告をすることができない。
特別經理會社の解散、合併、組織變更又は資本(出資金を含む。)の増加若しくは減少に關する總社員の同意、株主總會の決議又は社員總會の決議は、その效力を生じない。但し、特別の事由により主務大臣の承認を受けた場合においては、この限りでない。
特別經理會社になつたものの財産に對し、既にされた強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續は、その會社が特別經理會社である間、これを中止する。但し、その財産が新勘定に所屬することとなつたときには、これらの手續は、この法律の適用の限度において、その效力を失ふ。
第十六條 特別經理會社は、會社の事業年度毎に、新勘定、舊勘定各別に、財産目録、貸借對照表及び損益計算書を作成しなければならない。
商法中財産目録、貸借對照表及び損益計算書に關する規定は、前項に掲げる書類に、これを準用する。
新勘定において生じた各事業年度の利益金額及び損失金額は、新勘定において、次の事業年度に繰り越さなければならない。
他の法令又は定款の定にかかはらず、特別經理會社の指定時を含む事業年度は、指定時に終了するものとし、これに續く期間は、次期の事業年度に屬するものとする。
指定時に終了する事業年度において生じた利益は、他の法令又は定款の定にかかはらず、これを積み立てなければならない。
第十七條 特別經理會社は、命令で定める場合を除くの外、取締役その他當該會社の業務を執行する役員のうちから二人、及び當該會社の舊債權を有する者(法人である場合においては、その代表者)のうちから二人の特別管理人を選任しなければならない。
前項の特別管理人の選任につき、時期、方法その他必要な事項は、命令の定めるところによる。
第一項の規定による最初の特別管理人の全員が選任されたときには、特別經理會社は、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、特別管理人の住所及び氏名竝びに當該會社との關係を登記しなければならない。
商法第六十七條の規定は、前項の登記にこれを準用する。
特別經理會社は、特別管理人の選任があつたときから二週間以内に、前二項の登記をしなければならない事項を、主務大臣に屆け出なければならない。
第十八條 特別管理人は、主務大臣がこれを監督する。
特別管理人の報酬その他特別管理人の職務に關し必要な事項は、命令で、これを定める。
第十九條 特別管理人が、第七條第三項の規定による會社財産の範圍の決定、第十四條第二項及び第三項の規定による辨濟に對する承認、第二十一條第一項の規定による管理についての決定、第二十二條第一項の規定による處分に對する承認及び第二十三條第二項の規定による同意をするときには、その過半數を以て、これを決する。但し、可否の意見が同數の場合には、特別管理人の申請により、主務大臣がこれを裁定する。
第二十條 主務大臣は、特別管理人が法令又は主務大臣の命令に違反したとき、公益を害する行爲をしたとき、又は特別管理人を不適當と認めるときには、これを解任することができる。
第二十一條 特別經理會社の業務を執行する役員は、舊勘定に所屬する財産の處分、保全その他の管理について、特別管理人の決定するところに從はなければならない。
特別管理人は、舊勘定に所屬する財産の處分、保全その他の管理について、特別經理會社の業務を執行する役員を監督する。
第二十二條 特別經理會社は、會社財産及び指定時後取得した舊勘定に所屬する財産を讓渡し、貸與し又は質權若しくは抵當權の目的としようとするときには、命令で定める場合を除くの外、特別管理人(特別管理人の選任されてゐないときには主務大臣)の承認を受けなければならない。
前項の規定は、第十四條第一項但書の規定の適用を妨げない。
第一項の規定によつて特別管理人の承認を受けないで、會社財産及び指定時後取得した舊勘定に所屬する財産を處分した場合においては、その處分は、これを無效とする。但し、その處分の無效は、これを以て善意の第三者に對抗することができない。
第二十三條 特別經理會社の株式を讓渡しようとする者は、當該會社に對して、承認を求めなければならない。
前項の場合において、會社が承認しようとするときには、特別管理人の同意を得なければならない。商法第七十三條(同法第百四十七條において準用する場合を含む。)若しくは第百五十四條又は有限會社法第十九條第一項の規定によつて、持分の讓渡について承諾しようとするとき又は承諾の決議をしようとするときも同樣である。
第一項の規定による承認を受けずに行はれた株式の讓渡は、會社に對して、その效力を生じない。
第二十四條 特別經理會社の舊勘定に所屬する債權については、第十四條第一項但書各號及び第二項後段に規定する債權を除き、その權利を行使できる日から一箇月以内は、時效が完成しない。
第二十五條 主務大臣は、必要があると認めるときには、特別經理會社に對して、監督上必要な命令をすることができる。
主務大臣は、この法律の施行に關し、必要があると認めるときには、業務及び財産の状況に關して報告をさせ、又は當該官吏に帳簿、書類その他の物件を檢査させることができる。
主務大臣は、前項の規定によつて、當該官吏に檢査をさせるときには、命令を定めるところにより、その身分を示す證票を携帶させなければならない。
第二十六條 主務大臣は、この法律に定める職權の一部を、地方の官衙の長をして行はしめることができる。
第二十七條 主務大臣は、命令の定めるところにより、この法律の施行に關する事務の一部を日本銀行をして取り扱はせることができる。
第二十八條 左の場合においては、その行爲をした會社の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第一條第二項又は第三項の規定による文書に、虚僞の記載をしたとき
二 第二條第三項の規定による認可又は指定の申請を怠つたとき
三 第七條第八項の規定に違反して帳簿を作成せず、又は帳簿に虚僞の記載をしたとき
四 第八條第二項又は第五項の規定に違反して明細書について公證人の認證を受けず、又は虚僞の記載をした明細書について公證人の認證を受けたとき
五 第十四條第一項の規定に違反して辨濟その他債權を消滅させる行爲をしたとき
六 第十四條第二項又は第三項の規定による特別管理人の承認又は主務大臣の承認を受けないで辨濟をしたとき
七 第二十一條の規定による財産の處分、保全その他の管理について特別管理人の決定に從はなかつたとき
八 第二十二條第一項の規定による特別管理人(特別管理人が選任されてゐないときには主務大臣)の承認を受けないで財産を處分したとき
第二十九條 第十四條第一項の規定に違反して辨濟を受けその他債權を消滅させる行爲をした者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
第三十條 特別管理人が、その職務に關して、賄賂を收受し、要求し又は約束したときには、これを三年以下の懲役又は三千圓以下の罰金に處する。
前項の賄賂を供與し又はその申込若しくは約束をした者も同樣である。
第三十一條 左の場合においては、その行爲をした特別經理會社の代表者、社員、代理人、使用人その他の從業者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
一 第五條の規定による書類の作成を怠り、又は虚僞の記載をしたとき
二 第十七條第五項の規定による屆出をせず、又は虚僞の屆出をしたとき
三 特別管理人の選任を怠つたとき
四 第二十三條第二項の規定による特別管理人の同意を得ないで、株式又は持分の讓渡を承認又は承諾若しくは承諾の決議に贊成したとき
第三十二條 第二十五條第二項の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をした者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。同項による檢査を拒み、妨げ又は忌避した者も同樣である。
第三十三條 犯人又は情を知る第三者の收受した賄賂は、これを沒收する。その全部又は一部を沒收することができないときには、その價額を追徴する。
第三十四條 法人の代表者、法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關して、第二十八條、第二十九條、第三十一條又は第三十二條前段の違反行爲をしたときには、行爲者を罰する外、その法人又は人に對しても、各本條の罰金刑を科する。
第三十五條 左の場合においては、會社の取締役その他これに準ずる者は、これを三千圓以下の過料に處する。
一 この法律又はこの法律に基いて發する命令に違反して登記を怠つたとき
二 第一條第六項の規定による屆出若しくは公告をせず、又は虚僞の屆出若しくは公告をしたとき
三 第二十五條第一項の規定による主務大臣の命令に違反したとき
第三十六條 第二十八條乃至前條の規定は、第一條第一項第一號但書の規定による指定又は認可があつた場合には、その指定又は認可があつたときまでの行爲に對しては、指定又は認可の後でも、なほこれを適用する。
第三十七條 この法律のうち戰時補償金等及び在外資産の範圍については、命令でこれを定める。
第三十八條 特別經理會社が、特別經理會社となつたときから、三箇月以内に、法令の定める企業に關する整備計畫を主務大臣に提出しない場合その他法令の定める事由に該當する場合においては、當該會社に對して、この法律の適用は解除される。
前項の規定による解除に關し、新勘定及び舊勘定の併合その他これに伴ふ必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十九條 この法律のうち必要な規定は、命令の定めるところによつて、特別經理會社以外のものに對し、これを準用することができる。
第二十八條乃至第三十六條の規定は、前項において準用する場合に、これを適用する。但し、同條中會社又は特別經理會社とあるのは、前項の特別經理會社以外のものとし、同條に掲げる條項は、前項の規定によつて準用される場合の條項を含むものとする。
第四十條 この法律に定めるものの外、登記その他に關し必要な事項は、命令の定めるところによる。
附 則
この法律は公布の日から、これを施行する。
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金融機關經理應急措置法案
右の政府提出案は本院において可決した。因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年八月十三日
衆議院議長 樋貝詮三
貴族院議長 公爵 徳川家正殿
…………………………………
金融機關經理應急措置法案
金融機關經理應急措置法
第一條 金融機關には、この法律により、昭和二十一年八月十一日午前零時(以下指定時といふ。)において、新勘定及び舊勘定が設けられる。
金融機關の資産及び負債は、この法律の定めるところにより、新勘定又は舊勘定に屬する。
第二條 金融機關の指定時における資産及び負債のうち、左に掲げるものは、新勘定に屬する。
一 資 産
イ 現 金
ロ 國債及び地方債
ハ 國又は地方公共團體に對する金錢債權で國債及び地方債以外のもの
ニ 日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合に對する資産(金融機關の發行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものについては、第三條又は第四條の規定による措置をなしたものに限る。)
ホ その他主務大臣の指定する資産
二 負 債
イ 命令で定める預金等
ロ 國又は地方公共團體の公租公課
ハ 日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合に對する負債で預金等以外のもの(金融機關の發行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる負債で命令で定めるものについては、その權利者たる金融機關から第三條又は第四條の規定により請求又は通知を受けたものに限る。)
ニ その他主務大臣の指定する負債
前項に規定する資産又は負債のうち、主務大臣の指定するものは、同項の規定にかかはらず、舊勘定に屬する。
第三條 日本銀行、金融機關及び保險事業を營む組合は、指定時においてその有する金融債券(金融機關の發行する債券をいふ。以下同じ。)で命令で定めるものについては、左の各號の區分に從ひ、その定める措置をしなければならない。
一 指定時において社債等登録法により登録されてゐる金融債券については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者たる金融機關に對し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
二 指定時において社債等登録法により登録されてゐない金融債券については、昭和二十一年九月十日までに、同法により登録した上その債務者たる金融機關に對し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
第四條 日本銀行、金融機關及び主務大臣の指定する者は、その指定時において有する日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者に對する手形等の資産(手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものをいふ。以下同じ。)については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者(手形及び小切手の支拂人を含む。)に對し、その辨濟の請求をなし又は書面を以てその種類及び金額を通知しなければならない。
第五條 金融機關の指定時における資産及び負債のうち、第二條の規定により新勘定に屬するもの以外のものは、舊勘定に屬する。
第六條 信託會社、保險會社、生命保險中央會、損害保險中央會、地方農業會その他命令で定める金融機關の指定時における資産及び負債の新勘定又は舊勘定への所屬については、命令で第二條及び前條の規定の特例を設けることができる。
第七條 金融機關の指定時における新勘定に屬する負債の總額が新勘定に屬する資産の總額を超えるときは、その超過額は、これを新勘定の舊勘定に對する貸として整理する。
金融機關の指定時における新勘定に屬する負債の總額が新勘定に屬する資産の總額に不足するときは、その不足額は、これを新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第八條 金融機關は、指定時における新勘定に屬する資産について目録を作成し、命令で定める日までに、公證人の認證を受けなければならない。
公證人法中商法第百六十七條の規定による定款の認證に關する規定(公證人法第六十二條ノ二を除く。)は前項に規定する目録の認證についてこれを準用する。
第九條 金融機關の舊勘定に屬する資産又は負債に關し指定時後生ずる財産上の權利及び義務は、命令で定めるものを除いては、舊勘定に屬する。
金融機關の指定時後生ずる財産上の權利及び義務のうち、前項の規定により舊勘定に屬するもの以外のものは、新勘定に屬する。
金融機關の指定時後生ずる役員及び職員その他の使用人に對する給與の債務の新勘定又は舊勘定への所屬については、命令の定めるところによる。
第十條 前條第一項の規定により、金融機關の舊勘定に屬する現金(小切手を含む。)は、命令の定めるところにより、これを舊勘定から新勘定に移し、その金額に相當する金額は、これを新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第十一條 金融機關が新勘定の業務を營むため舊勘定に屬する資産を使用し又は消費したときは、命令の定めるところにより、その對價に相當する金額を、新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第十二條 第九條第三項に規定する給與の支出金額は、命令の定めるところにより、これを新勘定の舊勘定に對する貸として整理する。
第十三條 金融機關は、第十六條但書の規定に基いて舊勘定に屬する債務の辨濟をなす場合においては、命令で特別の定をなす場合を除いては、その辨濟に必要な資金を新勘定から舊勘定に移し、舊勘定からその債務の辨濟に充てるために、これを支出する。この場合においては、その移した資金に相當する金額は、これを新定勘の舊勘定に對する貸として整理する。
第十四條 第七條、第十條、第十一條、第十二條又は前條の規定により新勘定の舊勘定に對する貸又は借として整理さるべき金額については、差引計算をした殘額を新勘定の舊勘定に對する貸又は借として整理する。
第七條、第十條、第十一條、第十二條又は前條の規定による新勘定の舊勘定に對する貸又は借(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定を適用した結果生ずる貸又は借)の金額には、命令の定めるところにより、利息に相當する金額を加算して整理する。
第十五條 金融機關の資産のうち、新勘定又は舊勘定のいづれに屬するか分明でないものは、舊勘定に屬するものと推定する。
第十六條 金融機關は、舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなすことができない。但し、命令の定める場合は、この限りでない。
第十七條 金融機關の舊勘定に屬する負債に關する權利者は、新勘定に屬する資産及び舊勘定に屬する資産のいづれについても、辨濟を受け又は金融機關の債務を消滅させる行爲(免除を除く。)をなすことができない。但し、前條但書の規定に基いて舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなす場合において、舊勘定に屬する資産については、この限りでない。
第十八條 金融機關の舊勘定に屬する財産に對しては、強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續は、これをなすことができない。
金融機關の財産に對し既になされた強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣手續は、これを中止する。
前二項の規定は、第十六條但書の規定に基いて、舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなす場合において、舊勘定に屬する財産についてなすときは、これを適用しない。
第十九條 金融機關の新勘定に屬する負債に關する權利者は、舊勘定に屬する資産については、辨濟を受け又は金融機關の債務を消滅させる行爲(免除を除く。)をなすことができない。
第二十條 日本銀行、金融機關及び保險事業を營む組合の指定時において有する金融債券で第三條の規定による通知のあつたものについては、命令で定める日まで、社債等登録法による登録の抹消又は變更を請求することができない。
第二十一條 日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者に對する手形等の資産で、日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者が指定時において有するものについては、辨濟を受ける場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、讓渡、讓受その他一切の處分をなすことができない。
第二十二條 金融機關については、別に法律で定めるまでは、破産の宣告をなすことができない。
金融機關の解散、合併、分割、組織變更又は資本(出資金及び基金を含む。)の増加若しくは減少は、他の法令に基く命令に因る場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
前項の規定による認可があつたときは、同一の事項については、同時に他の法令による認可等があつたものとみなす。
第二十三條 金融機關の舊勘定に屬する債務については、その債權は、その權利の行使ができることとなつた日から一箇月以内は、時效が完成しない。
第二十四條 生命保險會社又は生命保險中央會の舊勘定に屬する責任準備金に對應する生命保險金の部分(以下舊生命保險金といふ。)について、契約者が、指定時後拂込期日の到來する保險料を、命令の定める日まで拂ひ込まない場合においても、その舊生命保險金の保險契約は、一切變更を生じない。
舊生命保險金の保險契約については、保險契約の解除又は保險金額の減少その他の保險契約の條件の變更若しくは保險約款に基く貸付の請求は、これをなすことができない。
第二十五條 損害保險會社又は損害保險中央會(以下損害保險會社等といふ。)の舊勘定に屬する責任準備金に對應する損害保險金に關する保險契約(以下舊契約といふ。)について、指定時後二箇月以内に、舊契約と保險の目的及び保險者を同じくする保險契約(以下新契約といふ。)が成立した場合においては、その損害保險會社等は、先づ、指定時においてその新勘定に屬する責任準備金に對應する損害保險金に關する保險契約と新契約とに基いて損害を負擔し、その負擔額が損害の全部を填補するに足りないときは舊契約に基いて、その保險金額が指定時においてその新勘定に屬する責任準備金に對應する保險金額と新契約の保險金額との合計額を超える金額を限度として、命令の定めるところにより損害を負擔する。
前項の規定により新契約が成立した場合においては、舊契約の契約者に對しては、その損害保險會社等は、命令の定めるところにより、舊契約の保險料の一部を返還する。
第二十六條 金融機關の事業年度については、他の法令又は定款にかかはらず、その指定時を含む事業年度は、指定時までで終了するものとし、その事業年度に續く事業年度は、命令で特別の定をなす場合を除いては、昭和二十二年三月三十一日で終了するものとする。
指定時までで終了する事業年度について、利益又は剩餘金を生じたときは、他の法令又は定款にかかはらず、これを特別準備金として積み立て、缺損を生じたときは、これを繰り越さなければならない。
第二十七條 この法律において、金融機關とは、左に掲げる者(この法律施行前既に解散した者及び主務大臣の指定する者を除く。)をいふ。
一 銀行(日本銀行を除く。)、信託會社、保險會社、無盡會社、戰時金融金庫、南方開發金庫、外資金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫、恩給金庫、庶民金庫、國民更生金庫、生命保險中央會、損害保險中央會、地方農業會及び市街地信用組合
二 都道府縣水産業會、漁業會その他業として預金等の受入をなすことができる組合で指定時において預金等の金錢債務を有するもの
第二十八條 前條第二號に掲げる金融機關は、この法律施行の日から二週間以内に、主務大臣に對して、指定時において預金等の金錢債務を有した旨の屆出をしなければならない。
前條第二號に掲げる金融機關は、主たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から二週間以内に、從たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から三週間以内に、この法律の規定による金融機關である旨の登記をしなければならない。
前項の登記に關して必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十九條 この法律において、預金等とは、預金その他の金融業務上の債務で命令で定めるものをいふ。
第三十條 金融機關の業務又は財産に關し作成する帳簿は、その記載事項が新勘定又は舊勘定のいづれに關するかの區分を明らかにして、これを整理しなければならない。
第三十一條 この法律は、他の法令により金融機關に二以上の勘定があるときは、その各勘定について、これを適用する。
第三十二條 この法律の施行地内に本店又は主たる事務所を有する金融機關が、この法律の施行地外に支店又は從たる事務所を有するときは、その支店又は從たる事務所に係る資産及び負債を除いて、この法律を適用する。
この法律の施行地外に本店又は主たる事務所を有する金融機關が、この法律の施行地内に支店又は從たる事務所を有するときは、この法律の適用については、その支店又は從たる事務所を以て、(支店又は從たる事務所が二以上あるときは、他の法令にかかはらず、これを合せて、)一の金融機關とみなす。
前二項の場合において、この法律の施行地内にある店舗又は事務所のこの法律の施行地外にある店舗又は事務所に對する貸又は借があるときは、金融機關は、その貸又は借を舊勘定に屬する資産又は負債として整理するものとする。
第三十三條 この法律に規定するものの外、金融機關の新勘定及び舊勘定の分離等に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十四條 左の場合においては、その行爲をなした日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第三條又は第四條の規定による通知の書面に虚僞の記載をなしたとき
二 第八條第一項の規定による認證を受けることを怠り、又は虚僞の記載をなした目録について認證を受けたとき
三 第十六條の規定に違反したとき
四 第二十條の規定に違反したとき
第三十五條 第四條の規定により主務大臣の指定する者が、同條の規定による通知の書面に虚僞の記載をなしたときは、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
第三十六條 左の各號の一に該當する者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第十七條の規定に違反した者
二 第十九條の規定に違反した者
三 第二十一條の規定に違反した者
第三十七條 第三十條の規定に違反した場合においては、その行爲をなした金融機關の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第三十八條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關し第三十四條乃至前條の違反行爲をなしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對し、各本條の罰金刑を科する。
第三十九條 左の場合においては、金融機關の代表者は、これを三千圓以下の過料に處する。
一 第二十八條第一項に規定する屆出を怠つたとき
二 第二十八條第二項に規定する登記を怠つたとき
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
第十六條乃至第二十一條の規定は、指定時後の行爲に、これを適用する。
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〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=8
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009・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました會社經理應急措置法案及び金融機關經理應急措置法案に付きまして提案の理由を御説明申上げます、終戰後の我が國經濟の再建途上に於きまして、所謂戰時補償をどのやうに處置致しますかが、最も重大な問題の一つであることは改めて申上げる迄もございませぬ、從ひまして政府に於きましては去る五月下旬組閣後直ちに此の問題の研究に著手致しまして、幾つかの案を作りまして財政經濟の有らゆる角度から愼重なる檢討を加へて參つたのであります、併しながら何分にも戰時補償の金額は數百億圓と云ふ極めて厖大なものでございまして、之を約束通り政府が全額支拂ひますことは、遺憾ながら財政の現状の許さざる所でございます、勿論其の支拂は國債を以て致すことも出來ますが、併し其の結果は厖大なる國民負擔を後代に殘すのみでなく、現在既に過大であると批評せられて居ります名目上の貨幣的資産を更に不當に膨脹せしめることとも相成るのであります、けれどもさうかと申しまして之を俄かに打切りますと、國家の約束を破棄する譯でもありますし、又是が事業界竝に金融界の全般に深刻且廣汎な打撃を與へることは勿論でありまして、延いて一般國民の生活にも大いなる影響が及ぶ次第であります、仍て政府は是等各般の事情を慎重に考慮致しました結果、經濟秩序及び金融秩序の保持と國民生活の安定に付きまして、細心なる注意を拂ひますと同時に、課税の方法に依りまして實質的には、戰時補償を大幅に打切ることが、此の際最も公正にして且國家永遠の福利を齎す所以だとの結論に到達しました、今此の結論に基きました各種の措置の全貌を簡單に申上げますと、先づ軍需補償、戰爭、保險金等の所謂戰時補償請求權に付きましては、一定の例外を除きまして、税率十割の戰時補償特別税を課することに依りまして、實質的に之を大幅に打切ることと致します、尚此の課税は一定期日以後に既に支拂つたものにも及ぶことと致します、次に此の戰時補償特別税の實施に依りまして、企業竝に是と密接不可分の關係にあります金融機關が蒙る重大なる影響に對處致しまして、企業及び金融機關の再建整備を秩序能く且合理的に實施する爲、それぞれ必要なる措置を講じます、更に是等企業及び金融機關の再建整備を圓滑且迅速に處理致しますと共に、戰時補償特別税の實施に伴ふ事業界及び金融界の混亂を未然に防止し、今後の經濟再建の爲必要なる業務を平靜圓滑に遂行出來まするやうに致さなければなりませぬ、仍て政府は其の目的の下に、會社其の他の企業及び金融機關の經理に關しまして、それぞれ必要なる應急の措置を講ずる法律案を用意致しました、又個人及び公益法人に付きましても、戰時補償特別税の實施に依りまして、不當に蒙る影響を防止致します爲に、必要なる善後措置の法案の御審議を願ふことに致して居ります、更に又今次の一聯の措置に依りまして、金融機關の融資活動が或は沈滯し、生産金融の梗塞等を招來する虞もございますので、之に對しましては謂はば政府の代行機關と致しまして、平和産業の復興竝に國民生活の安定の爲、必要なる資金を供給致します復興金融機關を既に暫定的に設けて居りますが、更に之を正式に設立致す豫定に相成つて居ります、是等の措置に付きましては、其の成案を得次第法律案と致しまして逐次速かに本議會に提出致しますが、先づ其の中に於きまして最も緊急を要しまする企業及び金融機關の經理に關する應急措置と致しまして、會社經理應急措置法及び金融機關經理應急措置法案を茲に御審議を願ふ次第でございます、先づ會社經理應急措置法案に付て申上げますと、先に申述べました如く戰時補償特別税の課税に伴ひまして、多くの企業は直接、間接大いなる損失を蒙ることと相成りますが、此の損失を合理的に處理し、經濟の根本的な再建整備を圖ります爲には相當の期間を要すると存じます、此の過渡期に於きまして、經濟界が徒らに動搖混亂を續けますことは、其の後の經濟再建を圓滑且迅速に實現せしめる爲に非常な支障を來す虞がございます、又其の間必要な民需生産の活溌なる活動を阻害する虞も亦無しと申せないのであります、仍て是等の障碍を排除して必要な民需生産の繼續を可能ならしめる爲、企業をして過去に於ける一切の債權債務の關係に煩はされることなく、活溌なる事業活動を續行せしめ得るが如き措置を講じまして、以て産業の囘復振興を容易ならしめ、そして企業の整備を圓滑迅速且公正に行はしめると云ふことが最も必要であると存じます、本法案は此の目的を以ちまして會社の經理を一定期日に於て新舊の兩勘定に分離致しまして、爾後の民需生産の續行に必要な會社の財産を新勘定に移し替へまして、新勘定に依つて從來の事業を繼續せしめますと共に、舊勘定に屬する資産に付きましては、戰時補償税の課税等に伴ふ特別の損失を合理的に處理致しまして、會社の整備再建が完了致します迄の期間、暫く之を凍結し、公正且嚴格に管理するのでございます、以上が本法案の大體の趣旨でございますが、更に其の内容の主なる點を簡單に申上げますと、先づ第一に軍需補償、戰爭保險金等所謂戰時補償請求權を有する會社等で、今囘の課税に伴ふ措置の結果、債務超過、又は支拂不能に陥る虞ある會社は、之を特別經理會社と稱しまして、指定時即ち本年八月十一日午前零時現在に於て打切決算を行ひます、そして會社の財産及び爾後の經理を新舊の兩勘定に區分致します、其の新勘定と申します中には、今後の事業の繼續、戰後産業の囘復振興に必要なる動産、不動産、債權其の他の財産を屬せしめるのであります、但しそれぞれの會社に付きましてどんな財産を然らば新勘定に所屬せしめるかと申しますことは、後に申上げます特別管理人が實情に應じて之を決定することと致してございます、次に舊勘定に屬します會社財産に付きましては、之が散佚致しましたり、或は不當の處分が行はれまして、其の爲債權者の利益を不當に害することを防止する爲に、指定時前の原因に基きまして生じた特別經理會社に對する債權は、之を辨濟し又は辨濟を受くることは、若干の例外を除き、原則として出來ないことに致すのでございます、他方新勘定に付きましては、指定時以後事業の繼續に伴ふ債權債務關係に付て何等の制限を加へないことと致したのでありますが、唯指定時後の原因に基いて生じた債權に付きましては、舊勘定に屬する會社財産に對し、強制執行、假差押等は行ふことが出來ないことに致しました、次に新勘定に依りまして、會社が事業を活溌に遂行致します爲には、所要の資金が圓滑に供給されますことが特に緊要であります、之が爲には、本議案は若し新勘定に所屬する會社財産に指定時前の原因に基いて生じた債權の抵當權、質權又は先取特權が設定されて居ります時は、是等の擔保權は一應消滅することと致したのであります、次に本法の適用を受ける會社に付きましては、新勘定に屬せしむべき會社財産の決定、舊勘定に屬する會社財産の保全處分等に關しまして、企業の健全なる運營と一般債權者の保護を圖る必要がございまするので、會社の業務を執行する役員及び債權者中から、前に申上げました特別管理人を選任致します、右に關する重要事項の處理等に當らしめることと致したのであります、尚此の法律の中必要な規定は命令の定める所に依りまして會社以外の營團等にも適用することが出來ることと致して居ります、以上は會社經理應急措置法に付てでございますが、次に金融機關經理應急措置法案に付きまして申上げます、前にも申述べました通り、戰時補償特別税法が實施せられますと、企業に對して大いなる影響を及ぼしまして、延ひては之と密接不可分の關係にある金融機關が其の經理上重大なる影響を蒙むることは免れない趨勢でございます、之に對しまして、必要な金融機關の再建整備を圓滑且迅速に處理致しますと共に、戰時補償特別税の實施に伴ふ事業界及び金融界の混亂を未然に防止致し、業界をして平靜且圓滑の中に其の業務を遂行せしめる必要がございます、金融機關經理應急措置法は此の目的を以ちまして、前述致しました企業に於けると同樣に、金融機關にも新勘定と舊勘定を設けることと致しました、そして健全且確實なる資産及び一定範圍の負債は之を新勘定に屬せしめまして、今後の業務は其の新勘定を以て支障なく遂行せしむるのであります、それと同時に、不確實なる資産及び一般の負債は舊勘定に屬せしめまして、之を急速に整理致すのでございます、此の新勘定の中には、所謂自由預金と一定額以下の封鎖預金等を加へます、そして今次の措置に依りまして、金融機關の蒙むる影響の如何に拘らず、絶對に其の支拂を確保し、國民生活の安定と、社會の秩序の維持とを期さうと考へるのであります、御承知のやうに、一昨八月十一日を以ちまして、金融緊急措置令施行規則の一部を改正致しまして、從來の封鎖預金等を第一封鎖預金等及び第二封鎖預金等の二種に區分致したのでありますが、此の第一封鎖預金等は自由預金等と共に新勘定に屬するのであります、そして政府に於て其の支拂を補償する次第であります、殘りの第二封鎖預金等に付きましては、之を舊勘定に屬せしめまして、當該金融機關の整理の結果、其の支拂額を確定する迄は原則として其の支拂を認めないことと致すのでございます、尚以上が金融機關に關する措置法の大略でございますが、其の内容の主なる點を申上げますと、先づ第一に金融機關には、指定時即ち昭和二十一年八月十一日午前零時現在を以ちまして、新勘定及び舊勘定を設けます、そして資産及び負債はそれぞれ新勘定及び舊勘定に屬せしめられるのであります、新勘定に屬するものは、資産では現金、國債、地方債、金融機關等に對する金錢債權等でありまして、即ち確實堅實なる資産をそれに屬せしめます、負債では前に述べました如く、自由預金等、第一封鎖預金等の外、公租、公課の類、金融機關に對する金錢債務などでありましち、其の支拂を補償せらるもの又は之に準ずべきものでありまして、新勘定に屬する資産及び負債以外の資産及び負債、例へば一般の貸付金、第二封鎖預金等は一切舊勘定に屬することになります、尚指定時以後生ずる財産上の權利義務の中、舊勘定に屬する資産又は負債に關しまして生ずるものは原則として舊勘定に歸屬致し、それ以外のものは新勘定に歸屬することと相成ります、以上申述べました所に依りまして、金融機關の資産及び負債はそれぞれ新勘定及び舊勘定に屬せしめられ、金融機關は新勘定に依つて其の業務を行ひ、自由預金、第一封鎖預金等は其の支拂を確保せられることと相成りますと共に、舊勘定に屬する資産及び負債は逐次整理せられることと相成るのであります、次に舊勘定に屬する資産及び負債は近く提案致します金融機關の再建整備に關する法律案に依りまして整理せられることと相成りますので、舊勘定に對する債權者の利益を詐害する虞のあるやうな行爲は一切之を停止せしめる必要がございます、從ひまして今後は舊勘定に於きましては、特別の例外の場合を除き、其の債務の辨濟又は資産の處分を爲すことが出來ないことと致したのであります、又舊勘定に對する債權者等が新勘定又は舊勘定に屬する資産に付て勝手に辨濟を受けたり、或は相殺に依つて債務を消滅させますことは穩當を缺きますので、斯かる行爲も亦之を禁止することと致して居ります、從ひまして又舊勘定に屬する資産に對しましては、強制執行、假差押若しくは假處分等を爲すことが出來ないことと致したのであります、以上の外保險會社等に付きましては、其の資産及び負債の新舊勘定への所屬に關しまして、命令を以て前に申述べました所に對する特例を設け得ることと致しました、又舊勘定に屬すべき保險契約に關しましても、若干の特例を設くることと致したのであります、又金融機關の決算に付きましては、昭和二十一年八月十一日迄を以て一事業年度と致しまして、此處で打切り決算を爲すなど、決算に關する特例を設けることと致した次第であります、以上會社經理應急措置法案竝に金融機關經理應急措置法案に付て、其の大要を御説明申上げました次第でありますが、茲に一言附加へさして戴きたいと思ひます、それは今囘の戰時補償の打切りは各般の關聯措置にも拘りませず、其の國民經濟に及ぼす影響は場合に依つては相當深刻なものがあると考へます、即ち戰時補償の打切りは當然事業界、金融界、延いては預金者、一般債權者等に打撃を與へます、勿論現に生産活動を營み、又は將來の平和産業の建設に必要なる企業に對しましては、今囘の措置が直接の打撃を與へることはない筈であります、從つて今囘の措置の爲に特に離職者を生ずるが如きことはない筈であります、併し從來不健全な經營状態に於かれて居りました企業は、今囘の措置を機會と致しまして、其の整理が促進されることは當然豫想される所でございます、併しながら此の際種々なる困難はありましても思ひ切つた措置を斷行致すと云ふことは時勢の必須の要請でありまして、若し躊躇して之を行はず尋常の手段に依つて當面を糊塗するに於きましては、禍根を後代に貽し、遂に戰後經濟の再建も之を期し得ざることになる虞なしとしないのであります、政府と致しましては、冒頭にも申上げました如く、此處に思ひを致しまして、眞に堪へ難きを忍んで今囘の措置を斷行することと致した次第であります、終戰以來我々國民が歩いて來た途は決して安易なものではありませぬでした、前途も亦苦難に滿ちたものと考へられます、併しながら此の苦難を克服してこそ茲に初めて平和日本再建の大目的が達成せられるのでありまして、尚又此の苦難を經た後には前途に大いなる希望が輝いて居ると信ずる次第であります、以上縷縷申述べましたが、本日茲に上程されました會社經理應急措置法案及び金融機關經理應急措置法案は、何れも戰時補償特別課税の實施に伴ふ金融界竝に企業界等の混亂を未然に防止し、企業竝に金融機關の根本的再建整備を圖る爲緊急を要するものでございますので、特に其の點御配慮の上、至急に御審議の上御協贊を賜らむことを切に御願ひする次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=9
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010・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=10
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011・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) ちよつと御特ちを願ひます、兩案に付きましては、政府より議院法第二十七條但書及び第二十八條但書に依る緊急議決の要求に接して居ります、大河内子爵
〔子爵大河内輝耕君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=11
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012・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 私は簡單に質問を致します、實は質問でなく議事進行に致さうと思ひましたが、皆樣の又御意見で質問にしたら宜からうと云ふこともありましたので質問に致します、誤解があるといけませぬから申上げて置きますが、總ての質問がさうだと云ふ譯ではございませぬが、私の是から致します質問は、何か斯う政府のやり方を非難するやうな風に、政府に反對の態度を持つてやるやうな風に強ひて聽かうと思へば聽えないこともない、私は其の點の誤解のないやうに特に政府に申上げるのですが、私は此の政府は實に理想以上の立派な組織の政府だと確く信じて居る、主義と云ひ人物と云ひ此の位揃つたものは憲政布かれて以來ない、具體的なことを申上げて甚だ恐縮ですが、吉田總理はあれだけの平和主義者として鳴つた御方であり、殊に私は學習院以來の同窓と致しまして非常な尊敬を拂つて居る、幣原國務大臣は大先輩として、外交界、政治界の權威として、是も私が日夜崇拜して居る所であります、齋藤、植原兩國務大臣は非常に御懇意に願つて居つて、始終御指導を受けて居る、私はそれを甚だ光榮と心得て居る、さう云ふ御方ばかりの政府であります、政治がうまく行く行かないは人事一つである、誠に斯う云ふことは國家の慶事と言つて宜いかなんと言つて宜いか分らぬ、それなのにちよつと反對がましいことを申して誤解があるといけませぬからそれで申上げて置くのですが、それから尚ちよつと申上げて置きますが、石橋大藏大臣初め其の他の大臣は、實は露骨に申上げればまだ御話をしたこともないのでありますけれども、併し能く立憲政治のことを御理解になつて御配慮になつて居る、我々は是等の方々に對しても十分なる尊敬を拂つて居る、それで大變前置きが長くなりましたが、私は政府に伺ひたいのですが、只今緊急に之を議決しろ、斯う云ふことなんですが、是は私はどうも甚だ面白くないと思ふのです、御事情は能く分つて居ります、御事情は能く分つて居りまするが、此の文の體裁から見まして、私讀んで見たが一つも分らない、何が書いてあるか分らない、それから方々財政の權威者に持つて廻つた、或前大藏大臣にも伺ひました、其の御方も御分りにならないと仰つしやる、到る處で聞いて見たけれども一つも分らない、何のことか分らない、それぢや何故分らないのだらうと云ふと、甚だ申譯ないことですが、書き方が下手なのです、それともう一つは勅令に讓つた箇所が多い、勅令の内容が何だか分らない、勅令の内容が何だか分らないから、何のことか少しも分らない、斯う云ふものは早く事前に我々に御説明になるか、或は幾ら緊急だからと云つても今日一日位待てないことはないと思ふ、立憲的だとか何だとか云つて…、貴族院は不勉強だと社會の非難があり、殊に現内閣の諸公と我々と意見を同じうして居る、我々以上に立憲政治を重んじなければならぬ、言論の自由を重んじなければならぬ、議論は十分に盡さなければならぬと仰つしやる持論を持つていらつしやる方ばかりである、然るに斯う云ふ方法を以て我々に緊急に議決をしろと云ふのは何事であるか、それはそれで宜しうございます、少し言ひ過ぎたかも知れないが、言ひ過ぎた點は御勘辨願ひます、實は議事の進行でそれだけで降ればそれで宜しいのですが、質問するのには何か質問を致さなければならぬ、分り切つた質問で恐縮でございますが、それ迄にして之をやると云ふことはちつとをかしいやうに思ふ、私は是は決して緊急決議に反對しませぬ、事情は能く分つて居る、分つて居りますから將來御注意願つて、將來法文を御書きになる時は、もう少し能く御練りになつて、せめて我々はどうでも宜しうございます、我々は分らないから仕方がない、併し前大藏大臣をやつた方迄が分らないと云ふものを御出しになると云ふことは少し御注意願ひたい、具體的の方法としても私としては他にないことはないと思ふ、勅令に讓るのが多う過ぎて居ります、現内閣の諸公は立憲政治を重んじられるのですが、何でもかんでも勅令に讓る、勅令に讓ると云ふのは、近頃のやり方、軍閥政府のやり方で、立憲政府のやり方でない、吉田總理大臣の趣旨に反すること多大なものであると私は思ふ、斯う云ふものはちやんと細かく御書きになるのが宜い、さうしてもつと分り宜い文で御書きになれば、私はこんな苦情を言はないで濟む、是は獨り現内閣の爲のみならず、又議會の爲のみならず、國家の重大事件であります、斯う云ふものに盲目判を捺すと云ふことは…それに付ての大藏大臣の御答辯を伺ひます
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=12
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013・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今色々此の文章が惡くて非常に分りにくいと云ふ御批評を承りまして甚だ恐縮の至りであります、隨分練つた積りでありましたが、どうも甚だ分りにくいものになりまして、是は何とも申譯ないのであります、併し此の案は此の後に現れます課税法案其の他に付ては十分の御審議を煩はさなければならぬし、煩はしたいのでございますが、其の前提條件として、少し言葉が惡いかも知れませぬが、謂はば平時ならば「モラトリウム」でも布く、斯う云ふ種類の措置でございますので、出來るだけ急速に金融機關及び企業の經理を新舊勘定に分つ措置を講ぜしめまして、さうして今後現れる所の色々の法案に依つて生ずるかも知れない混亂等を未然に防ぎたい、斯樣の趣旨に出た次第でありまして、其の點に於きまして金融緊急措置令の施行規則の改正に依つて、封鎖預金等の分離を致したと云ふことも、實は政府としては好ましくないことと十分承知致して居る譯でありますが、謂はば一種の恐慌對策と申しますか、非常な緊急事態に對する對策でありますので、萬已むを得ざる次第として金融緊急措置令の施行規則の改正も致し、又本日茲に此の二法案を提出して、御無理な御審議を願ふ、斯う云ふ次第であります、どうか其の事情を御了承願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=13
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014・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 只今の御答辯で、少しまだ申上げたいこともございますが、私の趣旨は了解されたと存じまするので、質問は是で止めて置きます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=14
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015・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三讀會の順序を省略することに同意の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=15
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016・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、委員の審査は、政府の要求に依り之を行はざることに致します、討論の通告がございます、小坂順造君
〔小坂順造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=16
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017・小坂順造
○小坂順造君 私は只今議題となつて居ります此の兩法律案に贊成致す者であります、此の兩法律案に贊成致すと共に、政府の心構に關して私の希望を申添へて置きたいと思ふのであります、凡そ政治上の大改革を行ふ時には、何が最も必要であるかと申しましたならば、政府が國民の信頼を得ると云ふことであると思ふのであります、然らば如何にして信頼を得るかと申しましたならば、總ての事を超えて、有らゆる條件を超えて政府が決して嘘を言はないと云ふことでないかと思ふのであります、然るに我々國民は、過去數年來、最も嚴肅であるべき戰爭の状況の報告を初めと致しまして、重要な經濟政策の如きに至りましても、其の發表は孰れも嘘の連續であつたと云つても必ずしも過言ではないと思ふのであります、戰敗後の國運を轉換すること、又政治の改革をすること等も、第一の要諦は、此の方面の改革に在るのではないかと思うて居るやうな次第でございます、只今問題となりましたる軍需補償の打切の如きものでも、是は現内閣ばかりではない、前内閣からのことでありますけれども、政府は初めは必ず是は補償すると云ふことをずつと續けて言つて來て居つたのである、其の金額は五六百億圓と云ふことであつた、それが段々減つて百五六十億になつて、又それが段々減つて五六十億圓になつて、終りには此處で打切となつてしまつたのであります、元來此の國家補償の問題は、無論是は補償すべきものであるかないかと云ふやうなことは問題ではないのであります、我が國の現状を以て其の補償の實行が可能であるか、不可能であるかと云ふことが問題の中心であると思ふのであります、それ故茲に軍需補償の打切が決定せられましても、續いてある戰時公債千二百億圓の處理、又賠償として聯合國に引渡さるべき工場に對する投資額の數十億圓、又我が國民が對外投資として持つて居りましたる、而して此の度失ふ千數百億圓の處理と云ふものも、茲にあるのであります、然るに之を負擔すべき我が國の情勢はどうであるか、現状はどうであるか、領土は四割五分を失つてしまつた、是と共に鐵、石炭、木材、鹽等の工業の重要原料の供給源を失つて居るのであります、又内地にありましては、都市を破壊され、工場の多數を失ひ、又其の上近く賠償として工場が撤去されることになるものも相當に多いのであります、是等に依つて工業能力は著しく低減することは當然であります、其の上目前に迫る經費としては進駐軍費が多額にあります、又撤去工場の荷造運搬費も非常に多額に見積られて居ります、又戰災者、戰病傷者竝に其の遺家族に對する厚生施設にも多額の金の要ることが分つて居るのでありまして、茲に數百億圓の目前に迫る緊急支出があるのであります、斯くの如き現状を直視致しますれば、國家補償の問題は行き懸りや或は甘い計算を以てしたり、或は希望を以て現實に代へて輕く考へ、軍需補償の打切を以て解決し得たりと見るべきものではないと思ふのであります、戰時國債千二百億圓の處理に關しても政府は更に考慮さるべきものではないかと私は思うて居るのであります、私は此の際平素尊信して居る恩田木工と云ふ人のことを思ひ出すのであります、今から百餘年前に信州松代藩の財政が紊亂の極に達しました時に其の改革の任に當つたのが此の人であります、木工は其の任に當ると共に、一藩の人々に向つて、恩田木工は今日限り決して嘘を言はないと云ふことを聲明したのであります、さうして彼は家に歸るや、先づ妻子親族に集つて貰ひまして、嚴肅に細君には離縁を申渡したのであります、子供には勘當を申付けたのである、親戚には義絶を申入れたのであります、之を聞いた一同の者は非常に驚いて、木工が非常な重大任務を帶びて心配の餘り發狂したのではないか、亂心したのではないかと思つて心配致したのでありますが、併し兎に角斯樣な無理な要求には應ずることが出來ぬと云ふので、細君初め一同が異議を申出したのであります、其の時木工は斯う申しました、是はあなた方の仰しやるのは御尤もであるが、自分は今日滿座の中で今日限り決して嘘を言はないと云ふことを言明したのである、又私はどんなことがあつても是から先は嘘を言はないと決心したのである、然るに細君が嘘を言ひ、子供が嘘を言ひ、親類が請託を容れて色々取次をする、斯う云ふことであつては此の方面から自分の改革は信を失つて崩れてしまふのである、故に此處で自分は總て嘘を言ふ虞のある人と斷絶を致して頂天立地一人となつて嘘なき政治を遂行する爲に邁進せむとする者であるから了承して貰ひたいと云ふことを一同に申しました、一同も木工の志に感じて自分等も是から決して嘘を言ひませぬから、どうぞ今迄通りにして置いて貰ひたいと云ふことを言つて一家のことは收つたのであります、此のことが一藩の藩中の人に知れ渡ると共に、平素木工を輕蔑して居つた人迄も木工の精神に打たれ、一人として木工の指揮に反する人がなかつた爲に流石に紊亂したる財政も、領民の經濟も五年を待たずして立派に立直つたと云ふことであるのであります、私は此の切迫したる時局下に於て一小藩の昔話を長々と申上げるのは物好きに申上げるのではないのであります、僅か十萬石の小藩でも政治改革の衝に當る人の心組は斯くの如く烈々たる意氣があつたのであります、今戰敗後の日本の動搖期を切拔けて民主主義日本を立直さうとする大任に當られる所の閣僚諸公は如何なる御考を持つて居られるかを伺ひたいと思ふのであります、凡そ嘘なき政治には前提として正確なる現状把握が必要である、現状を正確に把握することが必要であるのであります、此の現状把握が正確でなくして問題の處理をしましたならば、今迄我々が見慣れて居るやうに嘘の濟崩しが行はれて行くのである、さうして有耶有耶の間に事が運ばれて參るのであります、是では新日本の建設などは思ひも寄らぬと思ふのであります、若し夫れ當局者の心力が人を壓する如き力を持ちます時に改革の端緒は茲に必ず開けるのであります、精神力人を壓すると云ふ言葉に語弊があれば、別に申しますれば當局者の眞實の心が國民の心に赤裸々に相觸れることが出來るやうになれば、茲に改革の端諸は自ら出來るのであります、若し斯くの如くにして人心を把握することが出來ましたならば、如何なる難問題も打開の途が自ら開いて來ると思ふのであります、政府は此の度の決斷に依る處置と共に、現實を直視致しまして同類の問題の處理に更に大英斷を下されむことを望む次第であります、只今御見えになりませぬが、吉田總理大臣は私多年御交際を致して極めて率直明朗な性格の方でありまするが、茲に私の所懷を述べて御參考に供する次第であるのであります、又私は此の機會に全國の官吏諸君に此の大難局を突破する爲に今迄の殼を脱ぎ捨て、嘘なき政治を建設することに大努力を傾注せられむことを希望して已まざる者であります、之を以て私の演説を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=17
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018・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 伯爵林博太郎君
〔伯爵林博太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=18
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019・林博太郎
○伯爵林博太郎君 私は簡單に此の兩法案に付きまして贊成の意見を述べて見たいと思ひます、明十五日此の戰爭終焉の一箇年が參りました次第でございます、皆さんと共に此の過去一箇年間を囘想致しまして誠に感慨無量でございます、能く此の間に於きまして、非常な困難時を政府も國民も倶に大なる努力と勤勉とを以て切拔けむとして來まして、聊か曙光が見えて來たと云ふことは、是は我が國民性の然らしむる處、誠に結構な次第であると思ふのでございます、勿論非常な艱難は益益今後にも重つて來はしますが、どうか此の荒波を斷ち切つて乗り進んで行きたいと思ふのでございます、只今大藏大臣よりも説明があり、小坂君から色々具體的な明かなる御意見がありましたから、さう云ふことは出來るだけ省きまして、兎に角今日の經濟界の實情を見ますと云ふと、非常に厖大な資材を失ひ、只今御話の如く海外の非常に多くの、千數百億の物も消えて無くなつてしまふし、從つて又生産力が消耗してしまひました、それから今度再建しますに付きましても非常な苦心が伏在して居ります、其の外に賠償問題も將に來たらむとして居るのであります、謂はば此の打切問題は矢張り内科的に切開手術を行はないで、出來るだけ何とかしたいと云ふことは前大藏大臣の時から問題であつたのであります、やるものはやり、取るものは取る、色々變化をしまして、額に於ても變化をきたし、其の方法に於ても變化をした、さうして現内閣となつて亦大藏は非常な苦心をしたのであります、財産税に付きましても之に關聯して居りますからちよつと申上げて見れば、此の三月三日の午前零時の指定時に個人の全財産も會社の財産も皆申請をしたのでありますが、それ等の目的は何であるかと云ふと、千數百億圓の公債を皆始末してしまはふと云ふ目的が段々變つて來まして、今度は又補償の打切の方に行くと云ふやうな風にも變つて來たのであります、私は是はまあ嘘と云ふよりは、是は内閣も一生懸命になつてやつたのだし、國民も努力したのであるが、此の財政を時局が然らしめたのであつて、どうも是は已むを得ない次第であると私は思つて居ります、例へば盲腸炎に罹りまして、之を内科的に治療しようか、外科的に治療しようかと云つて居る中に、此の八月十一日の指定時が來まして、此の儘放つて置くと化膿をして腹膜炎になると命がない、どうしても切開しなければならないから今直ぐやらなければならぬと云ふので、「メス」や「モルヒネ」等が色々集められるのが此の兩法案と云ふ譯で、どうしても已むを得なくて此處迄來たのであります、まあそれと同じことであつて、是は別に嘘を吐いたと云ふことでもありませぬが、國民の心理状態から見れば嘘を吐いたと云ふことに私は感じて居るのでありますが、それは後に申上げますが、努力に努力をした結果不可抗力で此の兩法案も出るし、先程の措置令も出たのでありまして、此の打切問題は萬已むを得ないと思つて居ります、從つてそれに依つて私は贊意を表するのであります、處で此の再建が出來るかどうかと云ふと是は非常な問題でありますが、只今大臣からの説明を承るとまあ新勘定、舊勘定に分けて、新勘定の方は極めて健全なものにして、日本銀行始め色々な方面から出來るだけの援助をして生産力が立派に出來るようにやつて行くのであると云ふやうなことであるので、聊か希望を持つて居る次第でありますが、此の點に付きましても非常に努力が要ると私は考へるのであります、世間では中小工業者等は銀行から金を借りることが出來ない、新圓で稼いで事業を擴張しなければならないので非常に困る等と色々不平を聞きますが、此の際はどうも已むを得ないことであると私は思ひます、又細かに色々聽いて見ますと云ふと、此の生命保險の補償に付きましても、保險金の壹萬圓と云ふもので、措置令では責任準備金の方からやるのが宜いと云ふことになつて居るさうでありますが、之を專門家に聽くと、是は誠に不確定な、當てにならぬ、それよりは合理的には解約返戻金と云ふもので以てやる方が宜い、そこらも此の法案に付ては大いに考へ物であると云ふことの意見を聽きましたが、それは御尤であると思ふ次第でありますから、將來に於ては是は政府に於て善處せられたいと思ふのであります、何しろ會社が打切に關係して居るのが四千四百もある次第であつて、其の損害を考へると會社の方には財産税はかけられない、故に個人にかけるのだと云ふ意見は御尤と思ふが、併し此の新勘定、舊勘定で以て今後色々再出發をさせると云ふことに付ては、是は非常な困難が伴ふことであらうと思ふ次第であります、又今度の補償に付きましても、例の三千圓問題もあれば、一萬五千圓問題もありますが、或人の如きは、下の方に強く利いて、どうも資産家の方に政府は非常に肩を持つて居ると云ふやうな議論もあるやうですが、私共は中小工業者も上中下の日本國民全體、有らゆる方面が……資産家も非常な痛手を蒙れば、一般民衆も痛手を蒙るので、是はどうも此の危急存亡、此の亡國状態から新しい國家を打建てようとする時には、國民が全部裸になると云ふことは當然のことであります、從つて皆が苦しいと云ふことにも私は感じて居る次第でありまして、決して或方面が公平とか、不公平とかと云ふことはもう此の兩案が通り、更に財産税法が通つて一般に負擔が來ますならば、矢張り私は確かに貧富の懸隔、上下左右の區別なく、全部が裸になる時代が來る、是は再出發をする時には致し方がない、併し其の再出發をされる時には命だけは續いて行かなければならぬ、個人としても、法人としても財界の生命だけは續かなければならない、財界と雖も是は一つの有機體であります、生きて居ります、之を殺すやうなことがあつてはいけないのであります、先程盲腸炎の御話もしましたが、人間の血液と云ふものは四千立方しかない、二升……たつた二升しか人間の血液はないが、此の血液が循環して居ると云ふことを所謂金融と見るべきであつて、此の有機的の財界と云ふものの中には、金融と云ふものと生産力と云ふものとが非常な力を以て循環して行かなければならない、是は先程大臣の御話の如く圓滑なる流通があり、又生産力が互ひに扶け合つて行かなければならないと思ふのであります、其の二升の血液が一升になつても人間は命が危ない、そこで輸血をしなければならない、輸血すれば一升ならば未だ助かるが、一升五合、即ち四分の三血液が無くなれば、もう如何なる方法を以ても之を救濟する途がない、今日の此の兩法案及び措置令竝に財産税の結果として國民全體の負擔力、財界の負擔力を考へると、只今の血液の状況に於て死ぬ所迄殆ど來て居ると思ふ、之を生かす輸血としては何をするか、先程言はれた如く最早破産と云ふことはさせない、和議もさせないで、出來るだけ破産させないやうにして行かなければならないし、又金錢の融通にしましても出來るだけ輸出輸入等を助けるやうにして日本銀行から「スタンプ」手形と云ふやうなものを出して行うと色々と輸血の方法は考へて居ると云ふことでありますから稍稍安心は致しますが、只今も申上げました如く動もすれば輸血の間に合はないやうな状況に迄來て居るのでありますから、此の際國民に失望をさせないやうに、希望を持つて再建の方に努力するやうにして戴きたいと思ふのであります、是は即ち此の時局上已むを得ずやつたことであると云ふことは知識階級は段々分るでありませうが、津々浦々の國民に至つては、先程小坂君の言はれた如く政府は嘘ばかり言つて居る、預金を三十萬圓迄は三割助けてやる、五十萬圓迄は斯うだ、百萬圓迄は斯うだと云ふやうなことを言つた、一生懸命になつて預金をした處が、今度は此の預金が打切られてしまふ、まあ何にも知らない庶民階級となつて見れば、どうも是は嘘を吐いたと云ふ風に心理的に考へるだらう、是は實に恐るべき道徳上の問題があると思ふ、希望どころではない、恐怖と云ふことになつて、或は漁村とか、農村では箪笥の中や行李の中に澤山の百圓札を入れて放任して居ると云ふ噂を聞いて居ります、どの位あるか知りませぬが、さう云ふ状況に今日なつて居る、又都民初めどう云ふことを恐れて居るかと云ふと、此の次に來るものは先程小坂君の言はれた如く千二百億の公債をどうする、銀行は皆潰れてしまふ、政府は公債は此の内閣では決して手を著けないのだと言はれます、併し二三日前の新聞で見ますと、利子の制限論なども出て居る、國民は政府を當にして居りませぬから、さう云ふこともあり得るのぢやないか、さう云ふ風に今度の新圓の封鎖も、千數百億圓出ると、是は政府はやらぬと言つて居るけれども、或はやりはしないかと云ふやうなことを坊間では言つて居るのであります、斯う云ふことは能く政府の言つて居ることを信頼するだけの保證の方法も矢張り講じて戴きたいと思ふ、是は將來に於ては非常なことであります、國民が希望を持つて居るから、國民が政府を信頼して居るや否や、是は大きな問題であつて、國家存亡の是は基礎になることと私は考へるのであります、それからもう一つは國民道徳に關する問題であります、今囘預金して居る者は是は兎に角後から財産税も來るし、打切も來るし、預金者は片手落に非常にひどい目に合ふ、斯う云ふ譯で、之に對して世間ではいや戰爭だ、戰爭と云ふものは彈に當れば死ぬものだ、彈に當らないで歸つて來る者、滿洲、支那から御金をすつかりなくなして歸つて來た者もある、財産税を取られても多少殘るのだし、命もある、それ等を考へると大變にあなたは幸福ぢやないか、幸福と見るのが寧ろ宜いのぢやないかと云ふことで氣休めを言ふ人もあるし、さう云ふことを言ふことがあるが、是は國民道徳の上に誠に甚大な影響を與へます、何となれば私は是は利己主義を慫慂し、勸誘するものだと思ふ、隣の人は死んだ、氣の毒だ、併しあなたは丈夫でようござんすね、お前さんは命が助かつた、自分だけは助つて幸だと云ふことを御互に喜び合ふと云ふことは、是は利己心の増長と云ふことを進めるものであつて、是は非常に今人が言つて居ることでありますが、知らず識らずの間に道徳を低くするものであります、例へば汽車に乘る時に七歳八歳の小さな子供を連れて汽車に只で乘る人はなかなか相當にあると思ふのであります、さう云ふ場合にはそれは切符を切る者は知らないから入つてしまふが、子供は頭の中で覺へて居る、親は嘘を言つてはいけない、あんな眞似をするなと眞面目なことを言つて居るが裏面では手を引いて行く時に母親は切符を買はずに只で汽車に乘ると云ふことがある、其の裏面の知らず識らずの間の感化と云ふものが集れば品性になる、品性陶冶と云ふことは教育的に何も修身の講義でばかりで行くことではありませぬ、毎日の實例、實際の行爲と云ふものが影響する所が多大でありますから、政府が色々なことを答辯する場合に於ても、知らず識らずの中に利己的の方面のことをつい述べてしまつて、氣休めのことを言ふやうなことは必ずしもないではありませぬ、私は體驗して居ることが隨分あるのであります、さう云ふことは國民道徳の上に大いに私は注意をしなければならない、益益文部省などは大いに工業には工業道徳、商業には商業道徳と云ふものは、矢張り文部省は教學の府でありますから、他の省の方面に於ても教育の屆くことは何處迄も徹底さして行くやうに今後は現實に即してやつて戴きたいと思ふのであります、それから結論と致しましては私は之に依つて先程も申しましたが民間で言つて居ることがありますから、正貨の吸收策と云ふことは大いに考へて戴きたい、さうすると此の正貨を吸收して下されば、國民は安心して新圓の封鎖などはないと思ひますからして、非常に是は生活の安定の上に役に立つことと思ふ、寶籤なぞで一年に一億圓位ではとても足りないのでありますから、何とか公債か何かでなければ仕方がないと思ふ、處が此の頃の公債は大いに國民の信を失したのは利息どころでない、公債其のものも危いし、それから國債は返せるか、返せないか分からない、色々な不信なことがありまして、さうして特にいけないのは國債の利子から所得税を取つて居ることであります、是は元來無記名でありまして、其の性質上誰にでも賣買が出來て、其の利息は税がかからないと云ふのが原則として公債の本質である、然るにそれが丸で當り前の記名の株式のやうなことになつてしまひました、甚だ是は不穩當であるし、性質が違ふ、今後出す公債は利廻りを宜くして必ず是は期限が來たら支拂ふと云ふことに政府が改めて、さうして發行して本當に實行するならば、私は茲に隨分吸收策が出來ると思ふのでありますが、餘り今迄が不信用であつた爲にちよつと骨も折れますけれども、そこは新規蒔直しで、新勘定で以て今度はやつて貰ひたいと思ふ、其の外何か方法を講じて正貨の吸收策に努めて戴きたいと思ふのであります、第二に起る問題は失業救濟と云ふことがどうしても此の問題に付ては關聯して居る、先程割合に失業者が少いと仰しやつたけれども、損害の多い會社等の舊勘定をやる場合にはどうしたつて馘首をしなければならぬだらうと思ひます、又特に女子を雇つて居る所は男子の能率の擧る者と入れ替へをするので、女子の失業は又相當に殖えることと思ふのであります、なかなか大變な數ではないかと思ふのであります、其の最も消極的の失業對策として、五人の家族に二百五十圓やると云ふ生活保護法案と云ふものが衆議院に出た、五人の家族に二百五十圓で生活が保障出來ると云ふことは、どう云ふ風なことをしたつて、考へたつて出來ない、大地に著いた議論ではありませぬ、是は誠に不自然な架空な議論でありまして、やらないより宜いか知らないが、生活の出來ない者に一人が五十圓と云ふことは如何にも現實に即さない私は法案だらうと思ふ、實物で品物でやつたつて宜いだらうと言つても、五十圓ぢや品物でもどうにも出來ないと思ふのであります、今後法案でも出すならば矢張り現實に即して本當に實行の出來るものを出して戴きたいと思ふのであります、又失業對策などに致しましても、勞働者の方ならば道普請、其の他をやる、成程是は出來ませう、併しながら知識階級、「インテリ」の失業等が餘程今度は出ると思ふのであります、それに對する對策はどうであるかと云ふことも十分に具體的に考へて戴かなければならないと思ふのであります、之にはちよつと一例を申して置きますれば、「ドイツ」に「エナ」と云ふ所がありますが、小さな小田原見たいな大學町であります、そこの店に何が列んで居るかと云ふと、店には「モーター」が澤山列んで居ります、「チューリンゲン」と云ふ所は鐵の多い所でありますから、「モーター」の工場があつてそれをずつと、列べて安い値段で賣つて居ります、日本でも日立とか、芝浦と云ふ所で作るが、其の能力が足りない爲に電車の事故が起きる結果が車を殖やすことが出來ない、保護法の二百五十圓位を掛けて見ても車の數は殖えない、と云ふのは本當の原因は「モーター」にある、暫らく前に「エナ」に行きましたが、「モーター」が特産になつて居ります、田舍の方に行くと「ツアイス」もありますから、「ガラス」に對する色々の品物が特産になつて居ります、私は日本でも名古屋に愛知時計と云ふものが出來て居りまして、時計も安くなつて居りますから、あすこの町と會社が結び付いて、女子の解傭者も出來ますから、それ等が家庭内職をして、さうして會社を助け、自分の生計も助けると云ふことにした方が配給所などに行つて半日を無駄に使ふよりも、餘程國家の爲になることだらうと思ふのであります、さう云ふやうなことを考へて見ると、地方的に商品陳列所などもありますし、又商工省も前には時々展覽會をやつて、地方の商品をこちらで展覽されて奬勵して居りましたけれども、それどころではない、もつと日本に於ても輸出對策に付ての考へ方をして、さうして失業者の頭の良い者、又「インテリ」は「インテリ」のやうな所へ持つて行つて、地方的に其の特色を加味したもので以てやつて行つたならば、非常に良い效果を來しはしないかと思ふのでありますが、それは一例です、斯う云ふやうな工合に、家庭は家庭工業と云ふもの、所謂「スイッツル」の時計が初めにやつて居つたやうな家庭と會社との結び付きのやうなこともやつたらどうかと思ふのであります、唯色々なことを打切り打切りと云つて居りましたが、今度は農地調整法など出來て、一人が一町歩とか何とか云ふことになると又隨分厄介な第二の打切りの問題が起つて來るやうな今日でありますから、尚更失業問題と云ふことは考へてやらなければならぬだらうと思ひます、尚又先程申しました如く、今度財産税法案と云ふものが之に續いて矢繼早に提出されるのでありますが、此の三月三日の指定時の財産と云ふものは何だか今度の預金問題で御破算になつて居はしまいか、どう云ふ法案が出るか知りませぬけれども、此の關係が實に論理的に行くや否や、又公平に行くや否やと云ふことは大いに注目しなければならぬと思ふのであります、此の間の預貯金の變更を禁じたことも、銀行が土曜日になると、晝は休みますから丁度零時の時にやつて、明る日は日曜で、もう間に合はぬと云ふ所で、なかなか政府の狙ひは機敏な所で發令して居ります、今度も矢張り土曜日の零時に發令したので、誠に寢耳に水と云ふやうなこともありますが、政府の方から云へば誠に當を得たことをやつて居るのでありますが、國民は誠に當を得ないと云ふやうなことをやつて居るのであります、先程小坂君も言はれた如く政府も今は色々なことが皆一つ一つ變つて來て居るが是は時局已むを得ず變るのであるから仕方がないのでありますが、國民にはさう云ふ風には響かない、それは何とかして國民が批判的になつて各各が人生觀を持つやうになつて、眞の「デモクラシー」の方に行くやうな教育をして行かなければならぬ、まあ當分の中は政府も嘘は吐かねばならず、國民も不知不識に居らなければ政府の政治が出來ないと云ふ誠に情けないことになる次第であります、今度のは不可抗力で已むを得ない、併しながら今迄の消極的なやり方、特に最も消極的な此の打切りと云ふことは大變な革命であります、どうか斯う云ふ風な非常な問題を出拔けに、拔打ちにして、さうして一擧に議會を通してしまふと云ふやうなことは、誠に是は惡例中の惡例と考へるのでありますが、どうか政府に於きましては、今度は經濟再建をして積極的になるのだから、斯う云ふやうな方面はもうないだらうと思ひますけれども、出來るだけ斯う云ふやうな拔打ちは御出にならないやうにして、國民をして何時でも後から俄然として吃驚するやうなことのないやうにして戴きたい、今囘きりに斯くの如きものは打切つて、斯う云ふ法案は出さないやうにすることの希望を述べまして、さうして私は時局已むを得ない關係から不可抗力と見まして、本法案に付ては贊成を致す次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=19
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020・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 討論の通告者は終りました、他に御發言もなければ是より採決を致します、兩案全部を問題に供します、兩案全部原案通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=20
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021・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=21
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022・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第一、商工經濟會法を廢止する法律案、日程第二、工業所有權法戰時特例を廢止する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、是等の兩案を一括して議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=22
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023・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、星島商工大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=23
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024・会議録情報3
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商工經濟會法を廢止する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年八月十三日
衆議院議長 樋貝詮三
貴族院議長 公爵 徳川家正殿
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商工經濟會法を廢止する法律案
商工經濟會法は、これを廢止する。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
この法律施行の日に現に存する商工經濟會は、この法律施行の日において解散する。
前項の商工經濟會の解散及び清算について必要な事項は、勅令でこれを定める。
この法律施行の日に現に清算中の商工經濟會の清算については、舊法は、この法律施行後も、なほその效力を有する。
この法律施行前になした行爲に關する罰則の適用については、舊法は、この法律施行後も、なほその效力を有する。
商工大臣が指定した公益法人が商工經濟會より承繼した不動産に關する權利の取得について、登記を受ける場合には、その登録税の額は、不動産の價格の千分の四とする。但し、登録税法により算出した登録税の額がこの法律により算出した税額より少いときには、その額による。
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工業所有權法戰時特例を廢止する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年八月十三日
衆議院議長 樋貝詮三
貴族院議長 公爵 徳川家正殿
…………………………………
工業所有權法戰時特例を廢止する法律案
工業所有權法戰時特例は、これを廢止する。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
査定に對する抗告審判の審決で、この法律施行の際、審決の送達を受けた日から三十日を經過してゐないものについては、この法律施行の日から三十日以内に、特許法第百十五條の規定により大審院に出訴することができる。
審判の審決で、この法律施行の際、審決の送達を受けた日から三十日を經過してゐないものについては、この法律施行の日から三十日以内に、特許法第百九條の規定により抗告審判を請求することができる。
この法律施行の際、舊法第五條の規定により現に大審院に繋屬する事件については、同條の規定は、この法律施行後も、なほその效力を有する。
舊法第五條の規定によりなした確定判決については、舊法第六條の規定は、この法律施行後も、なほその效力を有する。
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〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=24
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025・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 商工經濟會法廢止に關する法律案に付て申上げます、本法案は現在の商工經濟會法を廢止しようとするものであります、抑抑商工會議所制度は明治初年以來の長い傳統を有して居たのでありますが、今次戰爭の進展に伴ひまして、戰爭經濟遂行の國策に協力致しますことを目的とする商工經濟會に改組せられたのであります、從ひまして現在の商工經濟會は政府の經濟統制に協力し、其の地域的調整を圖ることを主眼として居り、設立は政府の命令に依り會員は地方長官が指定致しますと共に、指定された業種に該當するものは強制加入制を取り、會頭は政府が任命する等極めて非民主的な機構となつて居るのであります、是等の諸點から見まして、現在の商工經濟會を此の儘存續させて置くことは、戰後の國情から見て不適當であり、寧ろ法律の枠に拘束されぬ自由な團體にするのが適當と思はれますので、茲に商工經濟會法廢止に關する法律案を提案することと致したのでありますが、一面政府は新たな民主的な商工會議所の設立に付ては、十分の援助と便宜とを與へる方針であります、次に工業所有權法戰時特例を廢止に關する法律案に付て申上げます、工業所有權法戰時特例は、特許法、實用新案法、意匠法及び商標法に關し、戰時に於ける特例を規定した戰時法でありまして、其の内容の主たる點は次の通りであります、即ち第一は戰力増強に比較的關係の薄い意匠出願を停止したこと、第二、審査竝に審判事務の簡素化を圖る爲に、意見書徴收及び出願公告の兩制度を停止したこと、第三審査竝に審判事務の迅速化の爲に審級を二審制度としたこと、以上の三點であります、此の外に意匠出願及び出願公告の停止に伴ひまして、意匠公報及び特許公報の發行を停止したのであります、以上の戰時措置の實施は戰時中の已むを得ない措置であつたとは言ひながら、特許法其の他に依つて保護せられて居る國民の權利、利益の十分な保護と云ふ見地から見れば遺憾の點が尠くなかつたのであります、そこで戰爭終了後、出來得る限り早期に本法を廢止したいと考へ、諸般の準備を整へました結果、今次の議會に本廢止法案を提出する運びに至つた次第であります、以上商工省關係の二法律案に付て御説明申上げましたが、何卒愼重御審議の上御協贊あらむことを希望する次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=25
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026・秋田重季
○子爵秋田重季君 只今日程に上りました商工經濟會法廢止に關する法律案外一件の特別委員は議長に於て電氣事業法の一部を改正する特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=26
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027・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=27
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028・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 秋田子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=28
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029・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、次會の議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午前十一時二十九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X01919460814&spkNum=29
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