1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年九月二十三日(月曜日)午前十時九分開議
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議事日程 第三十五號
昭和二十一年九月二十三日
午前十時開議
第一 復興金融金庫法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第二 臨時物資需給調整法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 地方競馬法案(衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 去る二十日鏑木忠正君、杉山茂君、松尾嘉右ヱ門君、瀬川彌右衞門君、貴族院令第一條第六號に依り貴族院議員に任ぜられました、就きましては、部屬を、鏑木君を第五部に、杉山君を第六部に、松尾君を第七部に、瀬川君を第八部に、各各編入致しました、又一昨二十一日深田武雄君、貴族院令第一條第六號に依り貴族院議員に任ぜられました、部屬を第九部に定めました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=1
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002・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 其の他の報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=2
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003・会議録情報2
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〔參照〕
一昨二十日本院に於て可決したる左の政府提出案は即日裁可を奏請し又可決の旨を衆議院に通知せり
東京都制の一部を改正する法律案
市制の一部を改正する法律案
町村制の一部を改正する法律案
府縣制の一部を改正する法律案
衆議院議員選擧人名簿等の臨時特例に關する法律案
勞働關係調整法案
同日委員長より左の報告書を提出せり
請願委員會特別報告第六號
昨二十一日昭和十九年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)特別委員會に於て當選したる正副委員長の氏名左の如し
委員長 男爵 高崎弓彦君
副委員長 子爵 藤井兼誼君
同日衆議院より左の政府提出案を受領せり
復興金融金庫法案
臨時物資需給調整法案
同日内閣總理大臣より左の通第九十囘帝國議會政府委員仰付られたる旨の通牒を受領せり
政府委員
内閣事務官 伊藤佐君
商工省所管事務政府委員
石炭廳長官 菅禮之助君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=3
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、日程第一、復興金融金庫法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=4
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005・会議録情報3
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復興金融金庫法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する。
昭和二十一年九月二十一日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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復興金融金庫法案
復興金融金庫法
第一章 總則
第一條 復興金融金庫は、經濟の復興を促進するため必要な資金で他の金融機關等から供給を受けることが困難なものを供給することを目的とする。
復興金融金庫は、法人とする。
第二條 復興金融金庫は、主たる事務所を東京都に置く。
復興金融金庫は、復興金融委員會の承認を受けて、必要の地に從たる事務所を設置し、又は銀行その他の者に業務の一部を取り扱はせることができる。
復興金融委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第三條 復興金融金庫を資本金は、百億圓とする。
第四條 政府は、百億圓を復興金融金庫に出資しなければならない。
政府は、その出資額に對して、設立の當初において四十億圓を拂ひ込み、その殘餘は、復興金融委員會の定めるところにより、これを拂ひ込むものとする。
第五條 復興金融金庫は、定款を以て、左の事項を規定しなければならない。
一 目的
二 名稱
三 事務所の所在地
四 資本金額及び資産に關する事項
五 役員に關する事項
六 業務及びその執行に關する事項
七 復興金融債券の發行に關する事項
八 會計に關する事項
九 公告の方法
定款の變更は、復興金融委員會の承認を受けなければ、その效力を生じない。
第六條 復興金融金庫は、勅令の定めるところにより、登記しなければならない。
前項の規定により登記を必要とする事項は、登記した後でなければ、これを以て第三者に對抗することができない。
第七條 復興金融金庫には、所得税、法人税及び營業税を課さない。
都道府縣、市町村その他これに準ずるものは、復興金融金庫の事業に對しては、地方税を課することができない。但し、特別の事情に基いて内務大臣及び大藏大臣の認可を受けた場合は、この限りでない。
第八條 復興金融金庫について解散を必要とする事由を發生した場合において、その處置に關しては、別に法律でこれを定める。
第九條 復興金融金庫でない者は、復興金融金庫又はこれに類似する名稱を用ひることができない。
第二章 役員
第十條 復興金融金庫に、役員として、理事長副理事長各一人、理事二人以上及び監事一人以上を置く。
第十一條 理事長は、復興金融金庫を代表し、その業務を總理する。
副理事長は、定款の定めるところにより、復興金融金庫を代表し、理事長を輔佐して復興金融金庫の業務を掌理し、理事長に事故のあるときはその職務を代理し、理事長が缺員のときはその職務を行ふ。
理事は、定款の定めるところにより、復興金融金庫を代表し、理事長及び副理事長を輔佐して復興金融金庫の業務を掌理し、理事長及び副理事長共に事故のあるときはその職務を代理し、理事長及び副理事長共に缺員のときはその職務を行ふ。
監事は、復興金融金庫の業務を監査する。
第十二條 理事長、副理事長、理事及び監事は、復興金融委員會の推薦に基いて、政府が、これを任命する。
理事長、副理事長、理事及び監事の任期は、復興金融委員會の定めるところによる。
第十三條 理事長、副理事長及び理事は、定款の定めるところにより、主たる事務所又は從たる事務所の業務に關し一切の裁判上又は裁判外の行爲をする權限を有する代理人を選任することができる。
第十四條 理事長、副理事長及び理事は、他の職業に從事することができない。但し、復興金融委員會の承認を受けたときは、この限りでない。
第三章 業務
第十五條 復興金融金庫は、第一條に掲げる目的を達成するため、左の業務を行ふ。
一 資金の融通
二 債務の引受又は保證
三 社債(特別の法令によつて設立された法人で會社でない者の發行する債券を含む。以下これに同じ。)の應募又は引受
四 前各號の業務に附帶する業務
前項第一號の資金の融通は、復興金融金庫を振出人とする約束手形の交付又は爲替手形の引受により、これをすることができる。
復興金融金庫は、復興金融委員會の承認を受けて、第一項の業務の外、復興金融金庫の目的達成上必要な業務を行ふことができる。
第十六條 復興金融金庫は、業務開始の際、資金の融通に關する條件その他業務の方法を定め復興金融委員會の承認を受けなければならない。これを變更しようとするときも同樣とする。
第十七條 復興金融金庫は、設立の日から三年を經過した後は、あらたに資金の融通、債務の引受若しくは保證又は社債の應募若しくは引受をすることができない。
前項の期間は、復興金融委員會の承認を受けて、これを短縮し、又は延長することができる。
第四章 復興金融債券
第十八條 復興金融金庫は、復興金融債券を發行することができる。
復興金融債券の發行額と第十五條第一項の規定により引き受け、又は保證した債務の現存額の合計額は、復興金融金庫の未拂込資本金額を超えることができない。
第十九條 復興金融金庫は、復興金融債券の借換又は第十五條第一項の規定により引き受け、又は保證した債務の履行のため、一時前條第二項の制限によらないで、復興金融債券を發行することができる。
前項の規定により復興金融債券を發行したときは、發行後一箇月以内に、その發行額面金額に相當する舊復興金融債券を償還し、又は當該債務を履行しなければならない。
第二十條 復興金融債券は、割引の方法を以てこれを發行することができる。
第二十一條 復興金融金庫は、復興金融債券を發行しようとするときは、復興金融委員會の承認を受けなければならない。
第二十二條 復興金融債券の消滅時效は、元本については十五年、利息については五年で完成する。
第二十三條 この法律に規定するものを除く外、復興金融債券に關して必要な事項は、勅令でこれを定める。
第五章 會計
第二十四條 復興金融金庫の事業年度は、四月から翌年三月までとする。
第二十五條 復興金融金庫は、毎事業年度の事業計畫及び經費の豫算を定め、事業年度開始までに、これを復興金融委員會に提出して承認を受けなければならない。これらに重大な變更を加へようとするときも同樣とする。
第二十六條 復興金融金庫は、毎事業年度に財産目録、貸借對照表、損益計算書及び復興金融委員會の定める統計書類を作成し、毎事業年度經過後二箇月以内に、これを復興金融委員會に提出して承認を受けなければならない。
復興金融委員會は、前項の規定による承認をしたときは、その財産目録、貸借對照表、損益計算書及び統計書類を附して、その旨を主務大臣に報告しなければならない。
復興金融金庫は、第一項の規定による復興金融委員會の承認を受けたときは、その財産目録、貸借對照表及び損益計算書を公告し、且つこれらの書類及び第一項の統計書類を各事務所に備へ置かなければならない。
第二十七條 復興金融金庫は、剩餘金を處分しようとするときは、復興金融委員會の承認を受けなければならない。
第六章 監督
第二十八條 復興金融金庫及び復興金融委員會は、主務大臣が、これを監督する。
第二十九條 主務大臣は、必要があると認めたときは、當該官吏に復興金融金庫の業務及び財産の状況を檢査させることができる。
第三十條 政府は、復興金融金庫の役員が法令若しくは定款に違反し、又は公益を害する行爲をしたときは、これを解任することができる。
第三十一條 主務大臣は、必要があると認めたときは、勅令の定めるところにより、左の各號に掲げる者からその業務及び財産の状況に關し報告を徴し、又は當該官吏にその業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を檢査させることができる。
一 復興金融金庫から資金の融通を受けた者
二 復興金融金庫により債務を引き受けられ、又は債務を保證された債務者
三 復興金融金庫により應募され、又は引き受けられた社債の發行者
第七章 罰則
第三十二條 前條の規定に違反して報告をせず、若しくは虚僞の報告をし、又は檢査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、これを六箇月以下の懲役又は五千圓以下の罰金に處する。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者がその法人又は人の業務に關して前項前段の違反行爲をしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對しても同項の罰金刑を科する。
第三十三條 左の場合においては、復興金融金庫の理事長、副理事長、理事又は監事を五千圓以下の過料に處する。
一 この法律により復興金融委員會の承認を受けなければならない場合において、その承認を受けなかつたとき。
二 この法律に規定されてゐない業務を行つたとき。
三 第十八條第二項の規定に違反して復興金融債券を發行し、又は債務の引受若しくは保證をしたとき。
四 第十九條第二項の規定に違反して復興金融債券を償還せず、又は債務の履行をしなかつたとき。
五 第二十九條の規定による當該官吏の檢査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。
第三十四條 左の場合においては、復興金融金庫の理事長、副理事長、理事又は監事を二千五百圓以下の過料に處する。
一 この法律又はこの法律に基いて發する勅令に違反して登記をすることを怠り、又は不正の登記をしたとき。
二 第二十六條第一項の規定による書類に記載すべき事項を記載せず、又は不正の記載をしたとき。
三 第二十六條第三項の規定による公告をすることを怠り、若しくは不正の公告をし、又は同項の規定による書類を備へ置かなかつたとき。
第三十五條 第九條の規定に違反して復興金融金庫又はこれに類似する名稱を用ひた者は、これを一萬圓以下の過料に處する。
附 則
第三十六條 この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第三十七條 政府は、設立委員を命じ、復興金融金庫の設立に關する事務を處理させる。
第三十八條 設立委員は、定款を作成して復興金融委員會の承認を受けなければならない。
前項の承認があつたときは、設立委員は、遲滯なく出資の第一囘の拂込を政府に稟請しなければならない。
第三十九條 出資の第一囘の拂込があつたときは、設立委員は、遲滯なくその事務を復興金融金庫理事長に引き繼がなければならない。
理事長が前項の引繼を受けたときは、理事長、副理事長、理事及び監事の全員は、設立の登記をしなければならない。
復興金融金庫は、設立の登記をすることに因つて成立するものとする。
第四十條 復興金融金庫の初事業年度は、第二十四條の規定にかかはらず、成立の日から昭和二十二年三月までとする。
第四十一條 復興金融金庫は、日本興業銀行から第十五條の規定による資金の融通に相當する資金の融通を受けてゐる者に對して、この法律施行の際におけるその融通に因る債務の現存額と同額の資金の融通をしなければならない。
第四十二條 復興金融金庫でない者でこの法律施行の際現に復興金融金庫又はこれに類似する名稱を用ひてゐるものについては、この法律施行後六箇月を限り、第九條の規定を適用しない。
第四十三條 金融緊急措置令の一部を次のやうに改正する。
第八條中「國民更生金庫、」の下に「復興金融金庫、」を加へる。
第四十四條 登録税法の一部を次のやうに改正する。
第十九條第七號中「戰時金融金庫、」の下に「復興金融金庫、」を、「戰時金融金庫法、」の下に「復興金融金庫法、」を、同條第十八號中「庶民金庫、」の下に「復興金融金庫、」を加へる。
第四十五條 印紙税法の一部を次のやうに改正する。
第五條第六號の二の三の次に左の一號を加へる。
六の二の四 復興金融金庫の業務に關する證書帳簿及復興金融債券
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〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=5
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006・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました復興金融金庫法案に付て提案理由を御説明申上げます、去る八月十四日會社經理應急措置法及び金融機關經理應急措置法の兩案の御審議を煩しました際に申述べました如く、政府は今般戰時補償問題の徹底的解決を行ふことに決した次第であります、之に關する法案は色々準備の都合がございまして、提案が遲れて居りますが、其の大體の構想は課税の方式に依り大幅に各種補償の打切りを行ふのでございます、此の處置の目的は、申す迄もなく是等補償に關係ある諸企業から經理上不安の要素を一掃し、以て其の再興の基盤を確實にすることにございます、即ち是等の企業は孰れも其の經理を新舊の二つの勘定に分離致します、そして一切の不良資産と債務とは總て舊勘定に棚上げ致しまして、整理をし、企業其のものは全く舊勘定からの束縛を絶ちまして、堅實なる資産のみを以て構成する新勘定に依り經營されるのであります、從つて斯かる新勘定に依つて經營致されます、謂はば更生せる企業が金融の梗塞を來した爲に經營の困難を生ずるが如き理由はない筈であります、併し何と申しましても今囘の補償整理は劃期的處置でありますし、且亦それは急激に行れますので、經濟界に與へる物質的及び心理的影響は單純でございませぬ、況んや其の整理の餘波は一般金融機關にも及びますので、それ等の整理が一段落致す迄の過渡期に於て、意外な金融梗塞状態が經濟界に發生しないとも斷言が出來ないのであります、のみならず、今日の我が國の産業界は、以上申上げました整理問題から生ずる影響は別と致しましても、斯かる戰爭に依りまして蒙つた打撃が甚だ甚大でありまして、謂はば灰燼の中より再出發を致さなければならぬ状態にございます、斯かる場合の企業は假令平和經濟の維持に必要であり、前途有望なものでありましても、或は直ちに採算の引合はないものもございます、或は多額の資金を一時固定しなければならないものも存する譯であります、特に中小企業、或は今後育成を圖らなければならない農村の工業の如きに至りましては、特段の注意を要する次第でございます、政府は斯かる見地から豫て特殊の金融機關を設けまして、以て産業の復興を促進する意圖を抱いて、其の研究を續けて居つた次第でありますが、今囘之が成案を得ましたので、茲に此の法案の御審議を願ふ次第でございます、本法案に依ります復興金融金庫は其の第一條に記して居ります通り、經濟の復興を促進する爲必要の資金で、他の金融機關等から供給を受けることが困難なものを供給することを目的とする次第であります、固より是は整理機關ではありませぬ、又救濟機關でもございませぬ、又從來の金融機關、例へば興業銀行でありますとか、普通銀行でありますとか等と競爭の立場を占むるものでもございませぬ、本金庫は飽く迄金融機關でありますと同時に、一般の金融機關の爲し得ない金融を國家的見地から之を分擔し、企業の再建育成に努める使命を持つものでございます、本金庫は以上の如き性質を有するものでございますから、其の新たな業務を行ふ期間は設立の時から三年に限りまして、さうして其の一時的機關であることを明かに致します、而して其の資本金は取敢ず百億圓と致しまして、其の全額を政府より出資致しまして、内四十億圓を設立と同時に拂込むことに致す次第であります、但し本金庫の必要とする資金は以上の拂込資本金四十億圓の外、資本金百億圓の限度内に於て復興金融債券等を發行致しまして之を賄ひます、又金庫の運營に關しましては、別に復興金融委員會を設けまして其の基本方策を決定すると共に、役員の選任及び日常の金庫に關する監督等も殆ど擧げて之を同委員會に委ねまして、以て其の民主的經營を確保せむと致す次第であります、尚此の法律案の提案に先立ちまして、既に八月一日から日本興業銀行をして本金庫が行ふのと同趣旨の特別の融資を實施させて居ります、是は復興金融金庫が設立致されました曉には、其の機能を本金庫に引繼ぐことに相成る次第であります、而して日本興業銀行から特別融資の融通を受けて居ります債務者に對しましては、本金庫から其の債務の現存額と同額の融資を本金庫から致しまして、日本興業銀行からの特別融資の辨濟に當てしむる次第でございます、以上復興金融金庫の性格と同法案の提案の理由を簡單でございますが、御説明申上げました次第でございます、何卒御審議の上速かに御協贊を賜はらむことを御願ひ致す次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=6
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007・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 質疑の通告がございます、男爵西酉乙君
〔男爵西酉乙君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=7
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008・西酉乙
○男爵西酉乙君 只今上程になりました復興金融金庫法案は、我が國の經濟界の再建を促進する爲必要な資金を確保し、供給し、以て民生の安定に資することを目的とすると云ふことでありまするが、吉田内閣は民主主義の新日本建設を以て其の重要なる目的とせられて居る筈でありまするから、經濟再建に當つても其の施策は民主的方向に副つてせらるべきものと思ひまするが、本金庫の構想と其の運營方針は今日迄新聞紙上、其の他で伺つて居りまする政府の御説明に依りますると、民主主義とは縁が遠く、依然として獨善的官僚統制の色彩が濃いやうな感じが致しまするし、殊に其の出資が全部政府の出資になつて居りまするので、其の運營如何に依つては、再び日本興業銀行や、戰時金融金庫、其の他戰時中の軍需金融の過去の損失を國民の負擔に於て尻拭ひをしなければならぬやうになる懸念が非常にあると思ふのであります、殊に今後も不良貸出が生じた場合には、國民の負擔で之をしなければならぬ懸念があるのであります、其處で是等の觀點から、此の法案の内容に付きまして若干の政府の御所見を伺ひたいと存ずる次第でございます、第一に復興金融金庫は、日本興業銀行と表裏一體をなして居ると云ふ御説明を私は新聞紙上等で拜見して居るのでありまするが、言葉を換へて申しますれば、第二日本興業銀行が政府の出資に於て作られると云ふ風にもなるのでありまするが、殊に石橋藏相は日本興業銀行だけは助けたいと云ふやうな御意見を持つて居られると云ふことも仄聞して居りまするが、勿論此の日本興業銀行が救濟せられることは、日本の財界の爲にも、亦此の銀行の爲にも非常に結構なことではございますが、戰時中軍閥官僚と一體となつて軍需金融を專念し、果は民間の普通銀行をも道連にして之を行つて來た日本興業銀行が、若し軍需金融が惡いものとするならば、又それが處罰的な意味に於て補償打切をしたものとするならば、民間の銀行に優先して之が救濟せられる理由がないものと思ふのでありますし、或は「インフレーション」の問題から申しましても、此の戰時補償の打切になつたと云ふ建前から、此の運用の如何に依つては其の目的を達しないやうになる懸念もありまするので、此の復興金融金庫の運營に付ては餘程今迄の御説明とは違つた方法でやつて戴く方が、其の目的を達するのぢやないかと私は考へるのであります、即ち從來の接觸面の廣さ、或は日本の財界に對する影響力から申しましても、經濟的にも社會的にも先づ第一に注がなければならぬのは、民間の普通銀行の救濟にあるのだと思ふのであります、復興金融金庫は銀行其の他のものに業務を一部取扱はせることが出來ることになつて居りますが、其の煩雜な事務を無償で銀行の窓口に代行させて居るのが現在の實情でありまするが、それは利用ではなくして搾取であると私は思ふのであります、將來若干の手數料を拂ふと云ふやうな御考もあるやうに聞いて居りまするが、手數料で濟ますのでは眞に是等の人と機構とを心から協力させる所以ではないと思ふのであります、國民の税金から成つた此の金庫の出資金を日本興業銀行の機構に唯獨占せしめるやうなことがなく、金庫をして大藏省預金部の如く、其の資金を全國に有力な、而して廣範な機構と練達せる、熟練せる從業員を持つて居ります普通銀行にも供給して、是等を活力して、而して新日本建設の爲の産業の活溌なる復興に役立てるやうにせられることは出來ないでありませうか、其の點を伺ひたいと思ひます、第二に復興金融金庫は、他の金融機關等から供給を受けることが困難なるものを供給することを目的とするとありまするけれども、他の金融機關が供給することの出來ない金融と云ふのは一體どう云ふものでありませうか、先づ他の金融機關に資金が足りないと云ふ場合であります、此の場合には金庫が大筋の方針を定めて、他の金融機關に資金を供給し、其の詳細に付ては、當面の機關が自己の責任と判斷に依つて、それ等の機關が直接取引先の事情にも通じて居りますのでありますから、極めて迅速妥當な金融が出來る筈であります、又其の方が、官僚的な繁文褥禮を省いて、迅速に、妥當に其の目的を達することが出來るのではないかと思ふのであります、次に採算困難なもの、と云ふ場合でありまするが、既に補償に類するものは全部打切になつた筈であります、經濟的に成立たない金融は、斯う云ふ金庫のやうなものの取扱ふ性質のものではないと思ふのであります、抑抑今日迄國策の名に於て政府が採算の取れぬ無理な事業に資金を供給することを、民間の金融機關或は特殊銀行に強ひた爲に、今日の大きな國民の負擔になつて居る事實も多くあるのであります、又日本の金融史を顧みましても、從來國策の名に依る不良貸出が、政府や政黨の手に依つて、民間の其の他金融機關に押付けられる爲に、預金者である大衆にどれだけ迷惑を掛けたか枚擧に遑がない次第であります、混亂の日本は永世平和を國是とするに至つたのでありまして、農業に於ても適地適作を理想と致して居ります、他の産業に於ても固より斯くあるべきだと思ふのであります、採算を無視して自給自足を固執することは、決して平和的産業政策ではありませぬ、況して其の爲に當然覺悟すべき損失を、國民の負擔に於て爲すやうな結果になりますことは、最早國民の承服し得る所ではないだらうと思ふのであります、又政府は衆議院の委員會に於て將來輸出貿易等に必要な事業だけれども、差當り有利でない、採算の取り難い事業へ先に融資すると云ふやうな例を擧げて説明して居られますが、私は斯う云ふ考は官僚獨善の良い例ぢやないかとさへ思ふのであります、明治維新以來の日本の産業史を見ましても、如何に民間の金融事業に從事する者は、政府の産業の育成、保護政策に劣らず、多くの事業を長い間年月を掛けて育てて來たかを明にされるであらうと思ふのであります、一つの事業が、其の將來如何になるか、其の將來性に付て、經濟的に又國際的に有利であるかどうであるかを、有望であるかどうであるかを判斷することに於て、民間の經濟人の良識を餘り低く評價されないやうに願ひたいと思ふのであります、殊に此の復興金融金庫の存續年限は三箇年となつて居るのでありますが、三年や五年で事業の將來の有望性を判斷出來ると思はれることが抑抑をかしいと思ふのであります、更に政府が屡屡言明された如く、最も力を注がなければならない中小商工業に對する金融、或は農漁村、殊に水産金融、それ等のものに至つては、是等と直接接觸し、其の事情に能く精通して居る者でなければ、迅速に、さうして妥當な融資の資金の運營は出來ないのであります、形式上は一應或限度を限つて代行機關の權限に委せると致しましても、結局中央集權的である官僚的である是等の復興金融金庫のやうな性質の機關では、迅速に妥當に金融をすることは不可能であります、それは今迄も幾らもあつた例でありまして、融資を受ける方が非常に惱まされて居つた次第であります、此の、他の金融機關等の供給困難なもの、と云ふ此の一點は、本金庫の最も大きな危險な穴でありまするから、禍根を將來に貽し、國民の負擔と再びならぬやうに其の判定の基準を明かにして戴きたいと思ふのであります、第三に復興金融金庫は復興金融委員會を設けて、其の運營上の大きな權限を與へることになつて居るのでありまするが、凡そ委員會と云ふものは如何に達識練達の士を集めて構成されましても、實行機關に取つては結局責任囘避の具となり、能率的運營の障碍となることは、今迄の、又現在の例に照しても明かな所であります、日本の金融機關の經營者の責任は明治以來多くの金融界の波瀾を經まして、漸く昭和二年の金融恐慌以後初めて重役の私財提供と云ふ不文律が出來て、金融機關經營者の放漫を抑制し、金融機關を牽制し、金融機關の信用を増すのに役立つて居るのであります、然るに爾來未だ二十年も經ぬ今日此の不文律は無視せられ、今日の金融界の趨勢では金融機關經營者の無責任が通らうとして居ることは、眞に我が金融界の指導部が終戰以來舊態依然として、甚だしきに至つては、過去十數年財閥の指導者であつた人々が今尚其の地位に晏如たるを見ても明かであると思ふのであります、此の際政府自ら斯くの如き責任の明かでない委員會制を採用し、之に運營の權限の重點を置かれることは、金融機關經營者無責任の範を示されるやうなことになりはせぬかと思ふのであります、復興金融金庫の最終の責任は誰が負ふべきものでありませうか、さうして金融機關の責任者である以上は、退職後も其の在職中の不良貸付に對する責任は終身負ふべきものと規定せらるべきではないかと思ふのであります、第四に復興金融金庫の如きものの存在は飽く迄應急的のものである筈でありまして、是は石橋藏相の御説明にもありまして、一時的のものだと云ふ御話でありますが、さう致しますれば、我が國の産業界を根本的に復興せしめる爲には、全國に五千餘の店鋪を有し、三十萬人以上の從業員を持ち、千億圓に垂んとする預金を吸收する能力を持つて居りました普通銀行を再建する所にあるのだと思ふのであります、此の普通銀行の再建と之に伴つて當然改革せねばならぬ將來の銀行法の形態に對する政府の御豫想は如何なものでありませうか、今日我が國の普通銀行が直面して居ります問題は、我が國産業資金の需給の事情から、從來も甚だ困難であつた英國式商業銀行主義を、更に今後も墨守して行つて、果して存續して行くことが出來るかどうかと云ふ問題であります、御承知の如く我が國の普通銀行の運營資金の大部分は、普通預金と云ふ短期資金に依存して居るのでありまして、其の内五十「パーセント」以上を占めまする比較的安定のある定期預金に主力を注いて居た點が我が國普通銀行、即ち商業銀行の特徴であります、然るに今日日本の大衆が直面致しました貨幣價値に對する信頼の喪失は、今後の定期預金の吸收を困難ならしめるのみならず、一般の預金も其の安定性は從來の如くではないと思ふのであります、即ち今後の日本の經濟界を、從來の如き關税障壁を設けるとか、其の他の保護政策に依つて、世界市場から絶つことは出來ないのでありませうし、又國民も經濟的に世界の事情に目覺めて參りませうし、貨幣價値に對する一遍受けました大きな打撃は、今後世界の爲替市場の日本通貨に對する影響力に對して、非常に敏感になると思ふのであります、さうして大衆の貨幣價値に對する觀念が、從來とは甚だしく違ふものとなると致しますれば、若し普通銀行が、今後の經營を從來の如く、其の資金の大部分を預金に依存して行かうと考へて行くならば、それは餘りに安易な考へ方に過ぎるだらうと思ふのであります、更に我が國の資本主義經濟の發達が未熟であつた爲か、まだ日本には眞の資本家と云ふものがなく、大小財閥を初め、事業資金の供給者が、孰れも金主的の觀念を持つて居りまして、事業を私物化する傾向があつたのであります、是が日本經濟の封建性の重大な原因であつたらうと思ひます、此の金主的觀念は民間ばかりでなく、官僚の間に於ても、強く資本と經營の分離を唱へた彼等の間に於て、有らゆる國策會社、營團統制會社等へ、國家資本を背景にして相率ひて入り込んで、能率的な日本經濟活動の運營を妨げて居つたのも、實に此の金主的な錯覺に陷つた結果だらうと思ふのであります、今や大小の財閥が力を失ひまして、資金が餘り筋の善からぬ方に偏在しつつあります時、特に健全なる事業が民主的資金の供給を民間の銀行に期待するや切なるものがあるのであります、金融界をして速かに官僚統制の覊絆から脱せしめると同時に、今日の事態を招きました指導者の全面的更迭を必要とすることが、金融整備、再建整備であります、それ等の法案に依つて或は實現するやうにも想像せられるのでありますが、更に特殊銀行と云ふが如き特權的存在を廢止しまして、全國の銀行に一律平等に債券の起債を許し、證券事務の取扱が出來るやうなことに致しまして、以て長期資金の給源を與へて、活溌なる産業の復興に資するやうにせられることが、民主的日本經濟再建の要諦であらうと思ふのであります、政府は金融機關再建整備に當りまして、其の本ともなる現在の銀行制度の改革、銀行法改正法案を速かに御提出なさる御用意がありませうか、最後に私最も不思議に思つて居りますのは、戰時中蔭では不平を言ひながらも、軍閥官僚の願使に甘んじて居りました現在の金融界指導者の不甲斐なさは兎に角と致しまして、斯く迄強壓を加へて今日の事態を惹き起しました實質的責任者である當時の中堅官僚に依つて、再び斯かる官僚統制的な構想の法案を作られることであります、元來日本に於ける産業「トラスト」の特徴は國運の發展、數次の戰勝に依つて起つて參りましただけに、財閥が軍閥官僚と一緒になつて居る點が特徴でありまするが、今若し再び金融界が獨善的官僚統制の殘滓を見逃して居りまするならば、資本の民主化は期することが出來ないと思ひまするし、資本の民主化なくして産業の民主化は絶對にあり得ないと思ふのであります、勿論此の困難な敗戰後の經濟界再建には、好むと好まざるとに拘らず、益益計畫性を必要とするに至ることは明かでありまするが、其の計畫性は飽く迄民意の發動に基かなければならぬと思ひます、具體的には官僚勢力の温存に過ぎない特殊銀行、統制會社、營團等を、單に現在行はれて居りまする如く、看板だけを塗り變へて濟ますと云ふやうなことをせずに、人事に於ても官僚色を一掃して、以て經濟界の民主化に徹せられることが必要であらうと思ひます、前述の四項目に亙る私の質疑も、此の資本民主化の考を基調として、復興金融金庫を運用して戴くことが出來ませぬかと云ふ點を、政府の御方針を伺つて居る次第であります(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=8
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009・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今の西男爵の御質問の第一點は、復興金融金庫と日本興業銀行等が表裏一體だと云ふことだがどう云ふ譯かと云ふ御尋でありましたが、是は新聞にどう云ふ、何處からどう出たのか知りませぬが、何か日本興業銀行と表裏一體だと云ふ新聞記事が暫く以前に出たことを私は見ましたが、政府から未だ曾て復興金融金庫と日本興業銀行とが表裏一體に經營されると云ふやうなことを申したことはございませぬし、又左樣な經營を致す積りはございませぬ、況して此の復興金融金庫に依つて日本興業銀行を救ふとか云ふやうな意圖は全然持つて居りませぬ、又私が日本興業銀行だけは救ひたいと申したと云ふやうな御言葉がありましたが、私は左樣なことを申したことはございませぬ、金融機關の再建は提案が遲れて居りますが、單に日本興業銀行だけと云ふことでなく、御話の如く最も重點を置くのは現在の普通銀行等でございまして、是等のものを速かに整備し再建致したいと云ふのが政府の念願でございます、日本興業銀行も若し存續するとすれば、或は日本興業銀行自體に第二銀行が出來るかも知れませぬが、それは復興金融金庫とは全然別個のもので、出來たと致しましても別個のものでございます、復興金融金庫が日本興業銀行の第二銀行になると云ふやうなことは全然ございませぬから、其の點は若し左樣な誤解があるとしたらば御一掃願ひたいのであります、從つて復興金融金庫の資金を利用することを興業銀行に獨占せしめると云ふやうなこともございませぬ、と申しても、無論他の銀行、興業銀行にも勸業銀行にも、色々窓口等に於て手傳つて貰はなければならぬと云ふことは、是は事實であると思ひますが、其の外普通銀行等に付ても必要の限り手傳つて貰ひたいのでありまして、其の場合には無償でそれ等の銀行を利用すると云ふことは、無論致さない積りでありますが、何れに致しましても、斯樣な復興金融金庫の經營をどうするか、どう云ふ窓口を使ひどうするかと云ふことは、無論政府に於て大體の案を持つて居りますけれども、併し尚それ等の方針に付きましては復興金融委員會に於て決定することに致して居る譯であります、其の委員會の委員に適當な方に御就任を願ふことになりますれば、私は今の御尋の第一點の如き缺點は之を解除することが出來るものと信じて居ります、次に復興金融機關は、他の金融機關等から供給を受けることの出來ない金融をすると云ふことはどう云ふことだと云ふ御尋でございます、是は先程の説明の中にもちよつと申上げて置きましたやうに、國家の經濟上必要であり、又將來有望である事業でありましても、今日の如き場合でありますから、其の事業の育成に相當の時日を要するとか、或は資材其の他の關係で差當つては操業度が低いとか、又先程御質問の中に御指摘がありましたやうに、實際に於て今日の状況は將來貿易が再開された場合に海外の商品に壓倒されると云ふ懸念のあるものもあるのであります、實際今日は必要であるけれども、左樣な懸念のあるものはないではございませぬ、是は必ずしも自給自足經濟を目途としての意味ではなく、差當つての經濟上に於て事實左樣なものが存するのであります、例へば肥料の如きでも其の一つの例かと思ふのであります、是は無論今後の經營を宜くして、左樣な懸念のないやうに致さなければならぬ譯でありますが、現状に於ては相當さう云ふ懸念を抱く人があるのであります、斯樣なものがあり、又中小企業の如きも從來うまく行つて居つたか、從來普通の金融機關で以て中小企業の金融がうまく行つて居つたかと云ふと、行つて居つた部分も無論あるのでありますけれども、行かない部分もあつたと云ふことは事實でありまして、さるが故に中小企業者から屡屡金融上の苦情も生ずる譯であります、況んや斯樣な經濟が不安定な、遺憾ながら未だ不安定でありますから、其の際に於て矢張り一般の金融機關では金融の出來ないと云ふ事業の生ずることが十分想像出來ると考へるのであります、從來の斯樣な經濟界の波瀾の場合を考へて見ましても、甲乙丙丁、同じ普通銀行でありましても幾つかの銀行があることに依つて、やうやつと救はれたと云ふ事業は隨分ございます、三つ四つの銀行と取引して居つたが、其の中の大部分は取引を停止して、僅かに一つの銀行が特別に面倒を見て呉れたと云ふことで、漸く救はれたと云ふ相當立派な企業も、今日ある企業で左樣なものもある譯であります、私は左樣な立場から左樣な經驗からして銀行は相當數の多い必要があると考へて居るのであります、復興金融金庫も左樣な時機に於て、私は今迄の普通の金融機關以外に存すべきものであり、又存することに依つて、先程から申上げるやうな、將來日本に必要な産業にして、或は現在必要な産業にして、普通の金融機關で金融の出來ないものがあり、それの面倒を見てやると云ふことが必要だと考へるのであります、第三は復興金融委員會と云ふものは、元來委員會なるものが餘り役に立たないものである、從つて此の委員會も役に立たずに却て責任がはつきりしなくなると云ふ御言葉でございましたが、確かに委員會なるものには左樣な弊害も從來あつたと存じます、併し是は委員會の運營如何に依るものと考へるのでありまして、御言葉の中にも御指摘がありましたやうに、復興金融金庫と云ふやうなものが動もすれば官僚化する危險があると云ふことも事實であります、それを避けて本當に此の復興金融金庫が目的とするが如き金融を過ちなく行ふ爲には、私は有能な人達に依つて組織される委員會があつて、是が復興金融金庫の直接の經營者を監督し、又はそれに參畫し全體の經營に良き方針を與へることが必要であると考へる譯でありまして、斯樣な意味で委員會を特に此の復興金融金庫には附設せむと致すものであります、尚今後金融制度をどうするかと云ふ御尋でありますが、御話の中にありましたやうに、如何にも今日の日本の状況は貨幣價値が未だ不安定でありまして遺憾な次第であります、併しながら今後國際經濟に日本が自由に參加し得る時期には言ふ迄もなく同時に「ブレトン・ウツヅ」協定にも參加致すべきものと考へますので、貨幣價値は其の場合には安定せざるを得ぬ、只今は政府と致しましては、國際經濟に參加する日を一日も早からしむる爲に、種々なる方法を講じて貨幣價値の安定を圖らむと致して居る次第であります、其の事業が成功し、國際經濟に參加し得るに至りますれば、私は日本の貨幣價値なるものは無論安定するものと考へて居ります、それで特殊銀行其の他を整理する、又普通銀行等をどうするか、又普通銀行等に總て債券の發行をせしめたらどうかと云ふ御尋でありますが、特殊銀行を含めまして日本の金融制度に付ては、前内閣に於きましても金融制度調査會なるものを設けまして、其の案を練つて居つたのでありますが、是は中途で以て中止になりました、それで政府は出來るだけ早き機會に此の金融制度調査會を再興致しまして、さうして日本全體の、日本銀行其の他の特殊銀行、又普通銀行等を含めましての金融制度全般に付ての調査を致し、其の成案を得まして、銀行制度全般の改革を施したいと考へて居る次第であります、從つて未だ政府として金融制度を如何にするかと云ふ案を茲に申上げる時機ではございませぬけれども、只今私の考へる所では、御質問のやうに全體の銀行に債券の發行權を與へると云ふことは是は如何なものかと考へて居ります、政府としては未だ總ての銀行に債券を發行させると云ふ考は持つて居りませぬと云ふことだけ御答へ申上げて置きます、最後に復興金融金庫が官僚統制になると云ふ御話でありますが、復興金融金庫は實は所謂官僚が作つたものではございませぬので、久しく懸案になつて居りましたが、兎に角繰返して申上げますやうに、今囘の措置、又今囘の措置がなくとも、斯樣な經濟界の大きな變動期に於て、何等か復興金融金庫の如きものを必要とすると云ふことで立案されたものでありまして、決して官僚が自分の勢力を伸ばす爲に強ひて斯樣な金庫を作ると云ふやうなものではございませぬ、併し先程も申上げましたやうに兎角所謂官僚統制になり勝ちのものであります、そこで所謂復興金融委員會を設けまして、其の官僚化を避けむと致した次第であります、尚それ等の人事に付きましては只今銓衡中でございますが、御趣旨に副ひまして、十分民主的なものに致したいと考へて居る次第であります、以上甚だ簡單でありますが御答を申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=9
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010・西酉乙
○男爵西酉乙君 簡單でありますから此の席から申述べさせて戴きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=10
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011・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=11
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012・西酉乙
○男爵西酉乙君 只今の御答辯を承りまして、尚重ねて御質問申上げますと細かいことになりまして、結局運營の問題になりますので、私の質問は是で打切りまするが、何時も政府の議會に於ける御答辯には、運營の場合に之を誤りなくやると云ふ御辯明が最後の御言葉のやうでありまするが、如何にも其の通りでありまして、此の復興金融金庫の如きものの存在も私は今日必要と思つて居るのでありまして、それがいかぬと言ふのではなく、其の運營の宜しきを得ることを切望して其の爲に多少復興金融金庫に對する見解を申述べた譯でありますが、矢張り此の法案に付ても今後の運營に期待するより外に方法が無いと思ふのであります、幸ひ石橋藏相は純粹の在野の出身であられますので、極力是が民主的な方向に進みますやうに御努力願ひたいと思ひます、私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=12
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013・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました復興金融金庫法案は其の特別委員の數を二十五名とし、委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=13
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014・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=14
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015・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=15
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016・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔宮坂書記官朗讀〕
復興金融金庫法案特別委員
公爵 徳川慶光君 侯爵 嵯峨實勝君
侯爵 西郷吉之助君 伯爵 金子武麿君
子爵 高橋是賢君 子爵 瀧脇宏光君
子爵 水野勝邦君 子爵 稻葉正凱君
男爵 伊藤文吉君 長谷川赳夫君
男爵 長基連君 男爵 中村貫之君
男爵 杉溪由言君 男爵 村田保定君
黒田英雄君 板谷順助君
石川一郎君 橋本辰二郎君
野村茂久馬君 名取和作君
河西豊太郎君 山地土佐太郎君
片倉兼太郎君 栗栖赳夫君
大野木秀次郎君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=16
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017・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第二、臨時物資需給調整法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、星島商工大臣、発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=17
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018・会議録情報4
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臨時物資需給調整法案
右の政府提出案は本院において修正議決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年九月二十一日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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臨時物資需給調整法
第一條 主務大臣は、産業の囘復及び振興に關し、經濟安定本部總裁が定める基本的な政策及び計畫の實施を確保するために、左に掲げる事項に關して、必要な命令をなすことができる。
一 經濟安定本部總裁が定める方策に基く物資の割當又は配給
二 經濟安定本部總裁が定める方策に基く物資の生産(加工及び修理を含む。以下同じ。)若しくは工事の施行又は物資の生産若しくは工事の施行の制限若しくは禁止
三 經濟安定本部總裁が定める方策に基く物資又は設備の讓渡、引渡又は貸與
政府は、勅令の定めるところにより、前項第二號又は第三號に掲げる事項に關する命令により生じた損失を補償する。
第一項の規定による命令をなす場合に於ける擔保權の處理その他必要な事項は、命令でこれを定める。
第二條 主務大臣は、前條第一項第一號の割當の實施について必要且つ適當と認めるときには、民主的に組織された産業團體に、その構成員の議決に基いて、その構成員及びその構成員以外の同業者で物資の割當を請求する者に對する物資の割當を行はせることができる。
前項の産業團體は、主務大臣が、告示により、これを指定する。
前項の規定により指定された産業團體から、第一項の規定により物資の割當を受ける者で、その産業團體の行つた物資の割當の決定に不服のある者は、遲滯なくその旨を主務大臣に申し出ることができる。この場合には、主務大臣は、事案について公正な調査及び審議を行つた上、公益に適した決定をなすことを要する。
前項の決定にその産業團體が從はない場合又は第二項の規定により指定された産業團體の行ふ物資の割當を經濟安定本部總裁が定める方策に適合させるために必要がある場合には、主務大臣は、その産業團體に對して、その行ふ物資の割當の決定の變更を命ずることができる。
第三條 主務大臣は、第一條の規定の適用に關して必要な事項につき、關係者から報告を取り、又は當該官吏に必要な場所に臨檢し、業務の状況若しくは帳簿、書類その他必要な物件を檢査させることができる。
前項の規定により、當該官吏に臨檢檢査させる場合には、その身分を示す證票を携帶させなければならない。
第四條 第一條第一項の規定による命令に違反した者は、これを十年以下の懲役又は十萬圓以下の罰金に處する。
前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
第五條 左の各號の一に該當する者は、これを六箇月以下の懲役又は五千圓以下の罰金に處する。
一 第三條第一項の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をした者
二 第三條第一項の規定による檢査を拒み、妨げ、又は忌避した者
第六條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務に關して第四條第一項又は前條第一號の違反行爲をしたときには、行爲者を罰するの外、その法人又は人に對して各本條の罰金刑を科する。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
この法律は、經濟安定本部の廢止の時に、その效力を失ふ。但し、その時までになした行爲に對する罰則の適用については、この法律は、その時以後もなほその效力を有する。
この法律の效力を失ふ際における損失の補償、擔保權の處理その他必要な事項に關する經過規定は、勅令でこれを定めることができる。
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〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=18
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019・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 臨時物資需給調整法の提案理由に付て御説明申上げます、我が國の産業の現状を見ますと、戰災に因る工場設備の甚大な被害、各種設備の老朽荒廢、原材料、資材の不足、物價高に因る生産原價の昂騰、終戰に伴ふ産業秩序の混亂等、諸般の惡條件が競合致して居りますと共に、相次いで生起する勞働爭議に依る不安も加りまして、有ゆる努力にも拘らず、其の囘復は遺憾ながら滿足すべき歩調を示して居ない状態であります、他方戰爭に依つて極度に逼迫せしめられた國民生活は終戰後益益其の困窮の度を加へ、社會秩序の維持の爲にも其の乏しきを救ふと共に、少いながらも必需物資の適正な配分を確保しなければならないのであります、以上の點から考へまして、現在直面して居る經濟危局を克服して産業の囘復及び振興を圖ります爲には、どうしても各産業の基礎資材、見返り物資、食糧其の他民生の安定の爲必要な物資に關しては重點的な計畫生産を實施して行くと共に、此の計畫生産を完遂し、國民生活を安定させる爲に、物資の合理的な配分を行ふことが緊要なのでありまして、之が爲には先づ物資の需給に關する基本的な綜合計畫を策定し、之に基き各種の施策を法的な裏付を以て臨機應變に實施する必要があると考へるのであります、之が本法案を提出するに至つた所以でありまして、本法は、此の經濟危機を克服する爲に已むを得ぬ、併し絶對に必要な臨時措置であると考へて居る次第であります、本法案は、御覽の通り實體的な規定は第一條と第二條との二箇條に過ぎず、其の體裁は極めて簡單であります、此の點が衆議院に於て問題となりまして、本法案を提出せねばならなくなつた政府の立場は、現在の物資需給の状況から見れば能く理解されるが、其の形式が包括的、委任立法である結果、主務大臣の權限が廣汎に過ぎ、一體どんな方法で、どんな内容の統制を實施するのか不明であることと、經濟安定本部と主務大臣との關係を明確にし、各省割據の惡弊を是正する爲、政府提出の原案に對して必要な修正を加へることとなり、政府も之に對して同意したのであります、次に法案の内容に付て若干申上げますと、先づ統制の範圍でありますが、第一條に規定してあります事項に付て、經濟安定本部總裁の同意を得て主務大臣が必要な命令を出して行くことを其の内容と致して居ります、即ち物資の割當、配給、生産、出荷及び使用に付て統制を行ふことを中心として、工事の施行遊休設備の讓渡、引渡、又は貸與等に關しても、命令を發し得ることと致して居るのであります、次に統制の實施に付きましては、本法は經濟民主化の理念に一貫して居るのであります、即ち本法に基く命令の發動は、總て最も民主的な組織を有する官廳である經濟安定本部總裁が定めた方策に基くことを絶對の要件とし、戰時中に於けるやうな統制の弊を排除すると共に、原材料資材の割當に付ては十分に民間の創意と經驗とを尊重する必要があり、民間の産業團體等を極力活用して行くことが適當であると考へまして、第二條の規定に依つて民主的に組織せられた産業團體に對して當該産業の運營に必要なる物資の割當を實施せしむる方針を宣明致して居るのであります、尚政府の産業團體に對する關係に付きましては、民間當事者の自主性と責任とを尊重し無用の干渉に陷らないやう留意して居る點は、戰時中の諸法令と全く趣を異にして居る次第であります、何卒愼重御審議の上御協贊あらむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=19
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020・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 質疑の通告がございます、川上嘉市君
〔川上嘉市君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=20
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021・川上嘉市
○川上嘉市君 只今御提案になりました臨時物資需給調整法の最終の目的とする所は、重點的に必需物資の生産を促進し、之に依つて現在不足缺乏して居りまする諸物資の補充を企て、延いて物價の低落を圖らうとするのであると私は信じます、然るに此の目的達成の爲には、根本に於て政府が現に執りつつあられます食糧品竝に工業品に對する價格政策及び工業政策竝に賃銀政策に大なる改訂を行はなければ到底所期の效果は擧げ得ないと私は信ずるものであります、從つて私は以下是等に對しまして政府の所信を質問致しまして、明確懇切なる御答辯を要求申上げたいと存じて居ります、今日國民の經濟生活形態は有らゆる方面に混亂して居ります、今其のどう云ふ風な混亂を來して居るかと云ふことに付て數個の例を擧げまして御話申上げたいと思ひます、最近に自分の知つて居ります鐵道關係の驛長さんが三十五年勤務の後に退官を致しました處が、其の退職手當が一萬五千圓と云ふ話を聞いて居ります、本人の話を聽くと、一萬五千圓では源泉課税を取られると云ふと後一萬三千圓しか殘らぬ、只今八人家族で月々千圓掛る、さうすると此の費用は僅かに十三箇月を過すに足るのみだ、斯う云ふ述懷を洩らして居りました、此の一つの例は「サラリーメン」に同樣に適用するのでありまして、私の知つて居る或地方裁判所の所長が、又次席檢事が最近辭められましたが、矢張り殆ど同程度、もつとそれよりも低い程度の退職手當しか貰つて居りませぬ、斯う云ふ風な收入で、而も現在の恩給額、是は到底老後を養ふことを許さないやうな程度でありまして、其の收入が結局今の物價と非常に不均衡を來して居ると云ふ一つの例であります、之に反して農漁山村の收入は近來非常に増して居ります、例へば馬鈴薯を作る、其の馬鈴薯を四月に蒔きますと云ふと、六月には收穫が出來る、僅かに二箇月半で以て收穫が出來るのでありますが、其の收穫が今年の春の値段に依りますと云ふと、是は闇値でありまするけれども三十五圓、三十五圓と致しまして一反歩が二萬圓になります、是は平均收穫であります、其の場合で申しますと云ふと、僅かに二箇月半の馬鈴薯の七畝歩の收穫が其の「サラリーメン」が一生の間、三十年、三十五年勤務した其の總收額と殆ど匹敵すると云ふことは、どう考へて見ても各方面に於ける物價の均衡が得て居らぬと考へられるのであります、過般七月六日の新聞に依りますと云ふと、靜岡税務署管内の十萬圓以上の本年度の所得額の決定がありました、之に依ると農家で以て六十一人、漁村と申しましても漁業家、是は確か船を持つて居る人と思ひます、漁業家の收入が十萬圓以下の人は僅かに三人しかないと、斯う云ふ風なことが新聞に出て居ります、之を考へると云ふと、矢張り農漁山村の收入が他の「サラリーメン」、勤勞者、廣い意味の勤勞者、勤勞者の收入に較べて非常に比較が取れて居らないと云ふことを物語るものだと考へられます、それで一方に於きまして、食生活のみならず住宅の方は、此の方面も非常に物價が高くなつた爲に、例へば戰前に五萬圓で建ちました所の國民學校が今日建てますのに二百五十萬圓掛るやうな現状であります、新聞で見ますと云ふと慶應大學が復興する爲に二億圓の豫算が要ると云ふことを見て居ります、是等は到底今の物價で其の儘やつて行けないと云ふことを證する二三の例であると考へられます、それで今日國民は食ふに追はれまして、實際には文化生活とは殆ど離れてしまひ、食はむが爲に奔命に疲れて居ると云ふやうな状態でありまして、如何程働きましても其の收入が殆ど大部分が其の儘食はむが爲に農山漁村の方に橋渡しをされると云ふやうな状態にあると考へます、而も工場に働いて居ります勤勞者は差當り手取早く自分の職場から收入を殖やして貰ひ、其の取りました收入が何處に行くかと云ふと、それはそつくり其の儘殆ど自分の生活を豐富にする爲に使ふ餘地がない、皆食べる方に費すと致しまするならば、結局其の人達は自分の職場を段々崩して、唯でさへひよろひよろになつて居ります其の職場から、こちらの方を崩して、さうして農山漁村に取次をすると云ふやうな風な現状ではないかと私には考へられる、只今此の議會で以て決められたか、或は決められ得ると言はれる米一石が、消費者價格が四百圓と斯う致しましても、一升の米が四圓、是が一人當りが日に三合と致しまして一人で四十圓、六人家族と致しますれば二百四十圓、是では今度政府で以て決められます生活保護法で一人が二百五十圓と云ふのに較べても、單に米だけで以て其の費用が殆どなくなつてしまふ、どうして暮せるかと云ふことになると誠に寒心に堪へないやうな次第であります、況んや失業者老人等に於きましては、是から先どうして行くかと云ふことが非常に前途暗澹として居ると云ふ感じを持つだらうと考へます、現に我々の知つて居る官僚の人方に御尋して見ても全く今の状況では前途暗澹である、假に三十五年勤めて其の先がどうなるか、昔ならば恩給を貰ひ退職手當を貰つて是で家を建て、どうにか暮す、處が、今日退職手當を一萬五千圓貰つてもそれは僅かに三坪の乞食の住むやうな家しか出來ない、さうして此の食糧を支へるに足りぬやうな恩給であると云ふと、是はどうしてもやつて行くことが出來ぬと云ふやうな感じを持つのであります、是等色々を考へて見ると云ふと、今日の物價と云ふものを、之を根本に直さないと云ふと、矢張り只今問題になつて居りまする生活保護法案の目的を達する上にどうしてもむづかしいのではないか、而も勞銀なんかは、只今の勞銀は食ふことを保障しろと云ふやうな意味からして、眞の意味の勞働に對する報酬でありませぬ、例へば家族が多勢居る、家族の澤山居る所の未熟練工は、家族が少い何十年勤めた熟練工よりも收入が多い、詰り眞の意味の勞働に對する報酬でなくなつて居る、さう云ふ風な状態であります、工業の方も誠に生産の進捗し難いのが今の状況であると思ひます、それから生産方面に付て申しますと云ふと、此の方面には自ら價格の線があります、英語の「プライス・ライン」、値段の或點迄は生産が出來ますけれども、それを超すと云ふと手が出ない、需要者が手が出ない、詰り國民の收入と生活の程度と懸離れた値段になりますと云ふと、是は能く省線の中に書いてある「オフ・リミッツ」、近寄るべからずと云ふ所に品物が立籠ると云ふと、どうしても之を買ふことが出來ない、今其の例を採りますと云ふと、全波「ラヂオ」機械、是は「アメリカ」で以て三十「ドル」乃至三十五「ドル」、それが日本で三千五百圓である、或は私の知つて居る工場は全波に主力を盡して製造を始めましたけれども三千五百圓では手を出す人がない、其の爲に到頭此の方針を止めました、手が出ない、さうすると云ふと其の工業と云ふものは成立たぬやうになるのであります、尚外の例を申しますと、電氣冷藏庫です、それを「アメリカ」で以て九十「ドル」乃至百五十「ドル、」是が一萬圓餘致します、それから電氣蓄音機の如き、是は自動的のものであります、十二枚の「レコード」が自動的に掛けられる、さうして全波の「ラヂオ」も兩方組合せた機械でありますが、是は「アメリカ」で百二十「ドル」…日本で一萬二千圓の電氣蓄音機は自動的でありませぬ、斯う云ふことを考へて見ると云ふと、此の生産を促進しようと云ふ意味から考へましても、若し物價が非常に高くて之に手が出ないと云ふ所になりますと云ふと、結局工業は成立たぬと云ふことになつて來るのであります、從つて本法案で、如何に之の生産を増進してさうして重點的にやらうと斯う致しましても、本當の物價と云ふものの解決が出來ない限りは結局或仕事は成立たぬと云ふやうなことになるのであります、其處で之に關聯致しましてまだ一つあるのは物品税であります、物品税が、此の高物價に拍車して居ります、例へば家具類も百五十圓以上のものでも今四割税が掛つて居ります、本當に必要な戰災者が入り用なのに對しても矢張りさう云ふ風な税が掛つて居るのであります、それから蓄音機とか、樂器とか云ふやうなものも、蓄音機は五十萬箇が燒けたと言はれて居りますが、さう云ふものが矢張り十割の税があります、百「パーセント」の税があります、樂器もさうであります、是等は殆ど日常の文化生活を營むに必要なものでありまして、何とかして此の税を止めたらどうかと私は考へるのであります、私は政府の方に斯う云つた物品税を將來廢止、或は低下する御意嚮があるかないか、是も第一に御伺ひしたいと思ひます、其の次に斯う云つた此の物價の不合理を起す原因は其の根本は何處にあるかと申しますと、結局食糧品の値段が高過ぎる、高過ぎると申しましても、是は必ずしも公定値段が非常に高いと云ふ譯ではありませぬ、ありませぬが、併しそれが我々の手に入る、消費者の手に入る時に高過ぎる、是は現實であります、丸公は斯うぢやないかと斯う仰しやつても、我々の手に入るには丸公で入らない、入らないと云ふことは結局配給の不圓滑、其の結果から起る所の闇相場、斯う云うことの爲に手に入らないのであります、其處で此の食糧品の價格決定、食糧品其の他の價格決定の規準であります、之を私は大藏大臣に御尋ねしたいと思ふ、嘗て新聞で終戰前の十倍位の所に物價を落著けたいと云ふ大藏大臣の御話が出て居つたやうに記憶して居りますが、其の十倍と斯う云ふことを目標にされました基本的の面と其の根據、斯う云ふものがどう云ふ點にあられますか、私は實は此の物價の上げ方、所謂倍數、倍數と云ふものは品物に依つて非常に違ふべきものであると斯う考へて居るのであります、其の一つの例を申しますと、例へば茲に三千萬圓の會社がある、其の三千萬圓の會社が假に一億圓の仕事をして居ると假定致します、さうして茲に工業家の値段に付ては一割、一割或は一割一分をやかましく言ひます、ですから若し一割を上げて貰ひますれば、一億圓の一割は千萬圓、さうすると三千萬圓の會社が僅かに千萬圓上げて其處に「マージン」が出ますれば、之に依つて尤に其の工場は經營が出來るのであります、それが農産物に付て申しますと云ふと、本年の春新茶、御茶の公定値段が決められて、其の値段は昨年の六倍であります、其の六倍と云ふ上げ方が私は間違つて居ると思ふ、六倍に致しますと、假に今の三千萬圓の會社の製品の六倍にした場合を考へると六億圓の賣上になる、さうすると假に一億圓が原價であると假定致しましても、殘りは五億圓、三千萬に對して資本の十七倍程の利益が一度に出る、斯う云ふ結果になるのでありまして、其の倍數と云ふことは考へ方に於て私は根本に間違つて居りはせぬかと思ふのであります、昨年來色々の農産物、或は生鮮食料品と云ふやうなものが大抵六倍位に上げられて居るのが多いと考へますが、是等の上げ方に付てもう少し本當の上げ方をする必要がないか、若しさうでないと云ふと今迄のやり方は他の割の良いものが何倍になつて居る、だからしてこちらの割の惡いものを同じ倍數に上げようと云ふ傾向が多分にある、併しながらさう致しますと結局比例的に値上をして段々に軒並に物價高になることを恐るるのであります、何故に此の高過ぎる方を下げないのであるか、私は是は今日は農林大臣が御見えになりませぬから質問は後から御願ひしたいと思ひますが、農漁村の生産は生鮮食料品、其の價格決定の基本的の面と基準をどう云ふやうに置いて居られるか、此のことを御伺ひしたいと思つて居るのでございます、今迄新聞で、或は議會で以て問題になります所を見ますと、結局農山漁村の此の生産意欲と云ふことが非常に高調されて居ります、誠に結構であります、又豐富に生産せられなければ日本人はやつて行けないのでありますから誠に結構でありますが、併しながら一方に於て、工業方面に付ての生産意欲と云ふことに付て殆ど言及されたことを聞かないのであります、私は元々農村出身でありまして、農家の見方でありますからして、決して農山漁村に惡かれと思つて申上げるのではありませぬけれども、今日は農漁村の方々の國民全體の爲、特に困窮のどん底にある勤勞者に對して、或は又國家の再建の爲に、或點迄辛抱して戴かなければならぬと考へて居るのであります、さうでなければ到底國の再建は覺束ないと信じて居ります、それで私の商工大臣に御伺ひしたいことは、工業家、勤勞者の生産意欲と云ふことに付てどう御考になつて居るか、税のことをちよつと申上げますと云ふと、會社に對する法人税、之を勘定して見ますと、驚くべき數字が出る、資本に對する法人税が千分の三であります、普通所得に對する三十五「パーセント」、それから超過所得、資本に對し八「パーセント」以上十五「パーセント」以下三十「パーセント」、十五「パーセント」以上二十五「パーセント」以下四十「パーセント」、二十五「パーセント」以上に對しては五十「パーセント」、其の外に營業税が純益に對して二・五「パーセント」、それに營業税の附加税が縣と市が各各二百「パーセント」迄許される、都市計畫税が五十乃至六十「パーセント」、此の純益に對しまして…それで最高で以て資本に對して二十五「パーセント」以上の利益に對しまして、總計が九十九「パーセント」あります、さうすると茲に或一つの事業があつて、如何に經營を良くして、如何に能率を良くしてやりましても、二十五「パーセント」以上のものに對しては九十九「パーセント」税になつてしまふ、僅かに一「パーセント」しか殘らない、それで其の二十五「パーセント」と云ふ最高の時にどれだけ一體殘るかと斯う申しますと、其の利益として殘るのは六・七五「パーセント」、後は皆税であります、假に千萬圓の會社があつて、一億圓の利益がありましても、手に殘りますのは六十六萬五千圓、斯う云ふことになつてしまひます、茲に生産者の生産意欲が無視されて居るやうに感ずるのでありまして、是ではなかなか産業が起らない、近來に於ける「アメリカ」などの償却の率を見ましても、非常に日進月歩の機械に對して償却を能くやらなければならない、其の償却さへやることが出來ない、六・六五「パーセント」では…私が御伺ひしたいのは、政府は將來法人税を引下げる意思はないか、又五「パーセント」の配當制限がありますが、之を撤廢なさる意思はないか、五「パーセント」配當と申しますのは、是はどうかと申しますと、假に百萬圓の會社がある、其の會社が五「パーセント」の利益と云ふことは五萬圓であります、只今色々家族手當とか色々手當があります爲に、假に小使一人、小使一人の收入も大抵年に一萬圓になります、さうすると僅に小使を五人を使ふか使はないかと云ふ所です、百萬圓の資本をかけて…是では幾ら努力しても、其の範圍の利益であると云ふことは、恐らく將來金を投じてやらうと云ふやうな意欲がなくなりはせぬかと云ふことを私は危ぶむのであります、從つて將來工業を經營する人が自分で利益を出して、幾ら利益を出して働いて見ても、千萬圓の會社で以て、五千萬圓儲けようが一億圓儲けようが、利益は二十五「パーセント」以上は同じになつてしまふ、斯う云ふことを以て、どうして工場の經營を良くして、能率を良くして、本當の良い品物を作つて、國民に安く賣ると云ふ意欲は、殆ど起ることは不可能ぢやないかと云ふ感じがするのであります、從つて只今申しました法人税の引下、或は配當の制限を撤廢する、税も或程度重いのは此の時局柄當然であります、併しながら殆どみのんな取つてしまふと云ふ税は間違つて居るのではないかと自分は信ずるのであります、それでは其の根本になるものは、食べる物に金が掛る、其の食糧品の値段が高過ぎる、其の高過ぎると云ふ意味は必ずしも丸公でありませぬ、我々の手に入るのに高過ぎる、食糧品を低下する方策があるかと云ふと、私はないことはないと思ふ、最近食糧調整委員會と云ふものが出來まして、供出量等をそれで定めることにした、それには生産者の外に消費者を一枚加へる、又中立である例へば市長であるとか、色々の公職にある人を加へる、さう云ふ委員會で決めることになつたのであります、其の外に農業會或は漁業組合とか、色々な集荷組合とか、色々な集荷買上機關とか、或は發送の機關、配給の機關、さう云ふものをもう少し民主的にする意思が政府にないか、是は農林大臣に御尋ねしたいのです、今迄の農業會、みんな是は生産者だけでありまして、從つて消費者の利益を代表するものはない、値段は皆高くすることに贊成でありますし、さうして又供出を出來るだけ少くすることに贊成するやうな立場にある人々から成立つて居る、是では到底公平な、本當に適正な配給は極めてむつかしいと考へます、之をやりませぬと云ふと、結局丸公は安いぢやないかと、斯う仰しやいましても、我々の手に現實に入らない、そこで政府の責任と云ふものは丸公を決める、其の看板だけを掲げるのでなく、それが遂行される最後迄見屆ける責任があると考へます、今日それが出來て居りませぬ、若し今申上げましたやうな何かの方法に依つて闇を取締ると云ふ方法がありまするならば、之を私は御伺ひしたい、又闇で買はないでも都市勤勞者が生活し得るやうな方法を保障し得る何かの具體的の案がありましたら、是も御伺ひしたいと考へるのであります、それから尚一つの御質問申上げたいことは、現内閣が組閣された最初に於きまして、此の供出だとか其の他の點に付て、國民的の總運動を起すと云ふことを新聞で拜見したのでありますが、其の後、杳として斯う云ふことを聞きませぬ、私は此の國民總運動をやつたらどうかと云ふことを自分で最も早く考へた一人であります、さうして今日の如くに、供出もなかなか出し澁るとか、或は闇をやつてはいかぬ、斯う言ふのに拘らず闇が行はれる、其の他、あちこちで色色の罪惡が澤山起る、斯う云ふやうな状況を見まする時に、何とかして之を救はなければならぬ、日本人をもう少し文化的な、世界に對して決して恥しからぬ國民にする爲に茲に國民的總運動を起す、それは只今申上げましたやうな供出の問題もありませうし、又闇を止めると云ふ問題もありませうし、又精神的の道義を高くする、斯う云ふ精神作興運動と云ふやうなものも必要ぢやないかと思ひます、それ等の運動を政府で以て、前に新聞で御話になりましたけれども、今日も尚それを或機會に於て御實行になる御意思があるかどうか、是も一つ御伺ひしたい、尚併せまして、精神の作興運動と云ふものをやつたらどうか、是は私の愚見として申上げるのであります、要するに今の物價、特に食糧品の價格を是正せずしては、如何に賃金を引上げましても、それは丁度自動車に乘つて走るものを後から追駈けるやうなもので到底追付くものではありませぬ、一生働きましても生活の安定は望むことが出來ないで、一軒の住宅すらも建てられぬ、斯う云ふのが官吏、公吏、それから總ての「サラリーメン」、工員、勤勞者、總てを含みました所謂廣義に於ける勤勞者の生活の實情であると考へるのであります、私は政府は是等の爲に、本當に安定し得るやうな方策を立てられる、それには本法案にありますやうな、尚是は具體的の方法として一つの試みに相違ありませぬが、其の根本をなす物價問題、それを解決しない限りは、到底物價問題と工業の振興、此の二つの問題を解決しない限りは困難ではないかと考へるのであります、私が今日此處で申しましたのは、四千萬人の都市の勞働者竝に失業者、是等の鬱結した輿論に代りまして、以上の御質問を提起した所以であります、御當局の誠意ある且信念に基く御囘答を希望致します
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=21
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022・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 川上さんの御質問でありますが、本法は物價とは直接、實は無論結果に於ては關聯致しますけれども、目的と致す所は、不足物資の割當や配當、それ等のものを公正にしたい、又重點的に生産をさす爲にやりたいと云ふのが本法の主とする所であります、併しながら仰せの如く結局、結果に於きまして、物價面とうまく行きませぬと云ふと、折角の重點配給も、重點割當も意義を成さすことになるのでありますが、結局、今囘經濟安定本部の長官が物價局長官を兼ねましたのも、表裏一體となつて其の邊の調整をして行かう、斯う云う關係でありますので、只今經濟問題に御造詣の深い川上さんの御意見御尤でありまして、それ等に對しましては十分政府と致しまして注意して行きたいと思ひます、殊に物品税とか或は其の他の點に付ては、大藏大臣より御答辯があると思ひますが、商工當局と致しましては、努めて從來の戰時型の物品税は改廢して貰ひたい、何れ次の議會其の他に於きまして、御協贊を願ふやうな時もあらうと思ひます、殊に法人税の如き、勿論此の利潤追求のみで生産意欲を増すと云ふことは、今日の形から考へますと、少し改めなければならぬけれども、此の觀念を離れて矢張り生産意欲は起きぬと思ひまするから、それ等に對する調整は、今後に於きましても改正を要すべきことと思ふのであります、殊に最後に、今日石炭の増産が少し九州で出來ましたが、それ等は矢張り勞務者と資本家が眞に國家の急を思うて精神的に目醒めた結果が、増産の原因となつて居ります點を考へますれば、曩に食糧問題に付きましても、衆議院に於きまして食糧對策委員會が開かれましたし、今囘又石炭問題を中心に各政黨が率先しまして推進委員會を設けむと致して居ります等の如きも、仰せの通りに、此の日本の敗戰の後始末を受けた、是は單なる目先の物價問題等より離れて、精神的にお互ひが起ち上らなければならぬと云ふことを痛切に感ずるのでありまして、今後政府は、此の國民運動には十分の一つ意を用ひて掛つて行きたい、又現に一つ一つ實行して居るやうな次第であります、闇の防止等に付きましては、或は税金の問題に付きましては、他の閣僚より御答辯があると存じます
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=22
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023・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 物價の基準等に付きましては、膳國務大臣から御答を申上げると思ひます、唯大藏大臣へ物價の問題に付てちよつと御質問があつたやうでありますから、自分の意見を申上げたいのでありますが、結局今日の物價問題は、生産が減つて居る所から來て居り、生産が減つて居るから、結局國民の生活水準を下げなければ、現状に於ては解決を致し得ない經濟状態にあります、其の生活水準を下げる爲の經濟的動きが、即ち物價高になつて現れて居るものでありますから、是は單に物價を下げよう、斯う致しましても、下るものではないと考へるのでありまして、結局、物の供給が殖えなければいかぬ、それには御言葉のやうに、食糧の供給が殖えると云ふことが第一と思ひます、其の他、石炭の供給が殖えると云ふやうなことが一方に行はれて初めて、此の物價問題は解決するものと考へて居ります、で、租税のことは、物品税に付きましては、先般議會に於て税制に付ての法案を御審議願つた場合にも申上げた次第でありますが、成るべく早い機會に、戰時中に出來ました物品税等に付きましては、十分な改革を行ひたいと云ふ考で居る次第であります、尚又一般の勤勞者からは、勤勞所得の問題、是の引下げが提議され、又今川上さんからは法人税等に付ての御尋がありましたが、是も物價と同じことで、生産が斯樣に減少して居りますのに對抗する方策としては、生産が起らない限りは自然増收と云ふものを得ることが困難でありまするので、自然税率が高くなると云ふ傾きを持ちます、併しながら是は決して好ましきことでございませぬから、今後の物價政策、或は食糧政策、石炭政策等と見合ひまして、法人税等に付ても適當の考慮を拂ひたいと思ひます、併し是は政府だけの考でなく、廣く專門家等の御意見を伺つて、日本の税制を今後如何にすべきかと云ふ問題も檢討する必要があると考へますので、先程申上げました金融制度調査會と竝びまして、税制制度調査會を近く設けたい考であります、其の税制制度調査會に於て専門家の御意見に依つて何等かの成案を得られましたら、それを基として政府は税制に對する改革案を成るべく早い機會に議會に提出して、御協贊を願ひたいと考へて居る次第であります、以上
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=23
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024・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 川上さんの御質問に對しまして、私物價廳長官として御答へ申上げます、物價に付きまして御例示のやうな非常な、何と申しますか、凸凹が出來、又不均衡が出來、殊に現在の物價高と、過去の勤勞の集積でありまする貯蓄、或は恩給、手當、退職金などとの間に非常な不均衡の出來て居りますることは、仰せの通りであります、要するに此の經濟の混亂期に當りまして、斯う云ふ物價の面に非常な不均衡の出來て居ると云ふことは悲しむべきことでありまするが、是は、是から行はれまする經濟再建に伴ひまして、漸次に均衡の取れましたる物價に立て直す必要があり、其の面に既に機運も向き、政府も是から努力を更に一層重ねる積りで居るのであります、一體此の食糧品の價格をどの點の水準に置いて考へるかと云ふ御尋でありました、又其の御尋の中に、農産物は農業關係の人が一方的に値段を決めて押し附けるのではないかと云ふやうな意味合の御意見もありました、又收入に鑑みて農産物が非常に高いから、之をもつとずつと押し附けたらどうかと云ふやうな意味合の御話もございました、是等の物價水準をどう云ふ風に定めて參るかと云ふことは、是から決めると云ふよりも、自然に定つて參る問題だと存じます、併しながら既に諸般の經濟事情で、生産費も如何に合理的のものを考へて見ましても、相當事情が違ひますので、事變前、戰前の價格を中心に物を考へることは出來ないと存じます、矢張り是からは物價を強ひて押し附けようと致しましても、需要供給の理もあり、經濟上の生産費の問題もあり、之を強ひて押し下げると云ふことは、却て物資の需要供給の「バランス」を破ることとなると思ひますので、矢張り是からの物價の水準は、現在の有樣を見まして、是よりも物價が騰らない、又此の程度にして置くと云ふことが、總ての是等物價の「バランス」を定めるに適當だと云ふ所に標準を付けて定めて參るべきものだ、斯う私は考へて居ります、政府の物價政策をどうするかと云ふ問題でありますが、此の物價の問題に付きましては、單に政府が獨善的に標準を定めて參らうとも考へて居りませぬ、物價廳には物價委員會を組織することになつて居りまして、是は來月には發足し得ると思ひます、朝野の權威者を集めまして、物價の水準竝に物價の「バランス」のこと等に付きまして、委細衆智を集めて研究するのでありますが、只今迄私共の考へて居りますることは、是等の物價の水準は先づ米を以て總ての標準の出發點と致したい、米價を以て出發點と致したい、米價を中心に致しまして、食糧其の他の日用品の價格の適當な調整の取れた一聯の價格の標準を作つて參りたい、之を又中心に致しまして賃銀の標準を定めて參りたい、生活費竝に賃銀、之に伴つて賃銀が或標準に定まりますれば、之に依りまして工業諸原料の價格の根本を、標準を定めて參りたい、之に基きまして諸工業生産品の價格を定めて參りたい、大體斯樣な構想を以て研究致して居ります、御質問の中に賃銀の問題に付ても御意見がありまして、現在の賃銀俸給は唯生活を送つて行くのみに足りるか足りないものであつて、國民の文化的の生活を爲す餘裕もないと云ふやうな御話もあり、又現在の賃銀の定め方が工業品の生産費を適正ならしめるに不適當だと云ふやうな意味合の御意見もあつたやうに存ずるのでありまするが、物價の問題を決定しまするに連れて、賃銀を將來どう云ふ風に考へて參るかと云ふことも、是亦物價問題に直接關係のある重大な問題でありまするが、現在は殘念ながら食糧品の不足及び食糧品の價格の、配給の不適當でありまする爲に、闇取引が食糧品等に起きまして、其の爲に生活費が非常に膨脹する、現在の賃銀は正當なる賃銀とは考へられませぬ、唯本當の其の時々の生活を維持せむが爲の要求を滿すに足りないやうなものであると云ふことは其の通りであります、併しながら斯う云ふやうな唯生活せむが爲の賃銀、何等能率にも、工業の生産費の中に正當なる位置を占むべき賃銀でない形が續くのは、好ましからぬことでありまして、結局是等の賃銀は矢張り出來高と言ひますか、能率と言ひますか、單純な働く者も働かない者も同じやうな一つの生活を維持すると云ふやうな生活賃銀と云ふよりも、寧ろ是から能率賃銀に改めて行くと云ふことが必要と存じて居ります、是は從前は食糧が不足の爲、又闇取引等がありますので、已むを得ず從來のやうな形になつて居りますけれども、今囘補償打切りに伴ひます企業再建、是で總ての工業に根本的の建直しが行はれます、斯う云ふやうな合理的の建直しの際に賃銀制度の合理化を圖りたいと考へて居ります、從前は食糧品の供給の不足、又配給の適當ならざる爲に、賃銀も生活を維持するに足りないと云ふやうなこともありまするが、幸ひ天候に惠まれて本年の是からの食糧品の供給も相當苦痛を逃れるやうにも豫想せられ、尚聯合軍の好意に依りまして食糧の輸入も之に頼つて今懇請中でもあり、それ等が見合ひまして今の食糧品の供給に從來のやうなことがなくなりますれば、自然と闇を漁ることもなくなり、又其の爲に生活費の何と申しますか、「バランス」を失ふと云ふやうなことも段々なくなりまするので、茲にそれ等の事情と相俟ちまして、賃銀の合理化も行はれ、是等が相俟ちまして、是から工業の生産に賃銀制度が貢獻、何と申しますか其の生産の増加をば圖ることに適當な賃銀制度も考へ得られようと思ひます、此の賃銀制度の問題も一つ物價水準と見合ひまして、賃銀水準の問題及び賃銀制度の問題も物價廳竝に經濟安定本部で關係各省と協力致しまして是から研究して參り、實行に移したいと思つて居ります次第であります、斯樣なことでございまして、從來のやうな物價の不均衡は漸次訂正されつつあり、又左樣に致したいと存じて居ります次第であります、唯從來の勤勞の蓄積と、是からの物價水準との見合ひの問題になりますると、是は矢張り其の間に、何と申しますか、是からの勤勞に基づく收入に依りまして、或水準は保たれましても、過去の勤勞の蓄積と是からの生活費の間に付きましては、此處に相當困難な問題がございますので、此の問題は要するに、是から國民の勤勞に依つての國民の勤勞に依る生活、此處に考を致さなければならぬかと存じます、只今物價に關しまする一般的の御質問でございますが、御質問に對しまして御答申上げました
〔國務大臣大村清一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=24
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025・大村清一
○國務大臣(大村清一君) 闇の問題に付きまして取締り當局と致しまして一言御答へ申上げます、闇が何故に行はれて居るかと云ふ點に付きましては、川上議員が御指摘になりました如く、結局物の配給が不圓滑であり、從つて公定價格は低過ぎると云ふことに歸すると思ふのであります、闇は國民生活乃至國民經濟上の必要から警察に於きまして極力之を取締つて來て居るのでございまするが、併し取締りに依つて闇の根本を解決することは所詮不可能であります、今後政府の適切な施策と國民の遵法精神の復活振作に依りまして、闇の根本が速かに解決せられむことを望んで居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=25
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026・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今上程せられました臨時物資需給調整法案の特別委員を二十五名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=26
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027・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=27
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028・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=28
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029・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔宮坂書記官朗讀〕
臨時物資需給調整法案特別委員
公爵 桂廣太郎君 侯爵 廣幡忠隆君
侯爵 徳川頼貞君 伯爵 壬生基泰君
子爵 森俊成君 子爵 柳澤光治君
子爵 交野政邁君 子爵 鳥居忠博君
子爵 京極高鋭君 長岡半太郎君
男爵 伊藤一郎君 男爵 奧田剛郎君
男爵 加藤成之君 男爵 古市六三君
男爵 田中龍夫君 大木操君
川上嘉市君 三橋四郎次君
正田貞一郎君 松本勝太郎君
中山太一君 片岡直方君
河端作兵衞君 岩淵辰雄君
上野喜左衞門君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=29
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030・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第三、地方競馬法案、衆議院提出、第一讀會の續、委員長報告、委員長西尾子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=30
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031・会議録情報5
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地方競馬法案
右可決すへきものなりと議決せり依て及報告候也
昭和二十一年九月十七日
委員長 子爵西尾忠方
貴族院議長 公爵徳川家正殿
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〔子爵西尾忠方君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=31
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032・西尾忠方
○子爵西尾忠方君 只今上程になりました地方競馬法案の特別委員會の經過竝に結果を御報告致します、本案は去る十日特別委員に付託せられまして、委員會を開催すること四囘、愼重審議の結果原案通り可決致したのであります、本案は衆議院提出でありまして、委員會に於て衆議院の提案理由の説明書竝に參考書等の配付を要求且政府委員より詳しく説明を聽取致したのであります、仍て茲に提案理由の概要を御紹介致したいと存じます、其の理由、第一は食糧増産の爲に必要であると云ふのであります、即ち我が國現下の食糧問題解決の爲に肥料の増産と耕地の擴張改良とが急務であります、然るに硫安、其の他の無機肥料の生産は、原料其の他に制約せられて思ふ通りの生産が出來ないのである、然るに厩肥は無機肥料たる硫安、過燐酸石灰、硫安加里等の不足を補ひ、地力を増進し、食糧増産上大なる效果があるのであります、更に又、食糧増産の爲に耕地の擴張改良、即ち開墾、干拓耕耘等を要するのでありまして、之が爲には馬の力を要する所頗る大きいのであります、馬は近年著しく減少して既墾地の耕耘上にも極度に不足を告げる状態でありまして、馬の生産増加は、食糧増産上密接なる關係があると言はなければならないのであります、仍て之が目的遂行の爲には地方競馬を施行して馬事思想を普及し、馬の生産意欲を昂揚すると共に、産業用の優良馬を造ると云ふことが適切であります、故に地方競馬の開催は食糧増産上の緊急事項であると云ふ事由でございます、第二には畜産振興資金獲得の爲と云ふ理由でありまして、牛馬其の他家畜の生産、育成及び利用を増進せしむる爲には種々の奬勵金を自主的に畜産自體に求めねばなりませぬ、此の意味に於て地方競馬を開催し、其の收益を以て畜産奬勵の資源に充てると云ふことが一番適切であらうと云ふ理由でございます、第三には浮動購買力を吸收して「インフレ」防止の對策に資せむとするのであります、地方競馬開催の場合の馬券の購入は新圓で買ひ、賣上代金の約三割は施行者の收得金及び馬券税として控除せられますので、少くとも是だけの金は新圓の吸收即ち「インフレ」防止として役立つ譯であると云ふのであります、第四には國民に健全なる娯樂を與へると云ふのであります、競馬の觀覽は大衆娯樂として最も健全なるものの一つであります、之が爲に今日競馬の開催が全國民より要望せられて居りまして、既に無統制に行はれて居る所もある状態であります、そこで速かに之に統制を加へ、其の收益を馬事振興に使用し、健全娯樂として發達を期する必要があると云ふのであります、以上が提案理由の大體の説明でございます、尚配付せられました提案の説明書に依りますと、地方競馬の意義に付て述べてありますので聯か申上げたいと存じます、それに依りますと日本に於て競馬は二種類に分けてあります、一つは現行競馬法に依る競馬であります、他の一つは昭和二年八月より地方競馬規則に依り、地方競馬と云ふ名稱の下に行はれて居りましたが、それが昭和十四年に廢止せられ、軍馬資源保護法に依り鍛錬馬競走の名稱の下に行はれるやうになつたのであります、然るにそれが更に昭和二十年十一月に廢止せられたのでありまして、今囘此の地方競馬法案の提出に依りまして、地方競馬の名稱の下に再開せられむとする競馬であります、そこで競馬法に依る競馬と、此の法律案に依る地方競馬との差異は何であるかと申しますれば、第一に目的に於て前者は馬匹改良上必要とする基本的の種馬、之には種牡馬も種牝馬も含まれて居りますが、此の種馬の能力實力を競走に依つて檢定して所謂品種改良上必要なる原原種としての資格のある最優秀なるものを選び出すと云ふことが主要な目的であります、之を農事試驗場に譬て申しますれば、恰も中央の農事試驗場のやうなものでありまして、日本全國に普及せしめる植物の基本的な品種の改良せられました原種を造るやうな仕事であります、之に反して後者の地方競馬の目的は地方に於ける産業用役馬、即ち地方的實用馬の能力増進と馬事思想の普及に依る馬産の奬勵と其の收益金を地方の馬事施設に使ひ、斯くして食糧増産其の他産業の發達を期することを目的として居るのであります、恰も府縣の農事試驗場、或は試驗所支所の仕事の如くでありまして、改良せられたる基本的植物を地方的環境に順化せしめて、地方地方の増産を圖ると言つたやうな意味を持つものでありまして、多分に地方の實用的の效果を擧げむとするのであります、從つて綜合的に觀ますと同じく馬の改良、馬事の振興と云ふことになりますが、具さに檢討して見ますと兩者の間に自ら任務がありまして、兩々相俟つて我が國馬産の進展を圖るに必要なる施設と言ひ得るのでございます、第二は競馬に用ひる馬は競馬法に依る競馬にありまして、競馬專門のものでありまして、日本全國の競馬場、即ち法律に規定してある全國十一箇所の執れの競馬にも出走し得るのであります、之に依つて全國的に最優秀なるものを選び出さうとするのであります、然るに地方競馬にありましては主として産業用の實役馬でありまして、定められた一定の地方にしか出走が出來ないのであります、是は法案の第四條の規定であります、此の區域を限定することに依りまして、地方競馬が、其の地方の馬産と密接なる關係を保つて地方の産馬の能力を檢定して、其の改良増殖に資せむとするのであります、元來我が國の如き地勢上狹隘なる國柄で、殊に畜産に對する熱情の薄い國民性に於きましては、馬産經濟は頗る困難でありまして、放任して置けば自然と其の能力が退化し、實用に堪へない纖細菲薄なる體躯の馬に化して行くことは多年の實績に徴して明かなる所であります、家畜に理解を持ち、家畜の心理を能く把握して、是等を自由に驅使する所の米英等に於てすらも、此の競馬が盛に行はれまして馬の改良に努めて居るのであります、況んや日本の如き元來馬の素質が非常に惡い國情に於きましては、此の競馬の施設に依りまして、常に馬産に刺戟を與へて馬の優劣を淘汰して馬産の維持を計らなければ軍事的要求の場合は勿論でありますが、今日平和日本の馬産に於きましても、到底産業上に使つて價値ある馬の生産を爲すと云ふことは期待し得ないのであります、今囘衆議院が法案を提出した根本の精神も此處にあるのでございます、第三に競馬の施行者は競馬法に依る競馬の場合は全國一個の日本競馬會に限りますが、地方競馬の場合には原則として各都道府縣の馬匹組合聯合會が施行者となるのでありまして、地方の實情に應じて馬産の特色を發揮せむとするものであります、次に本案の内容に付て少しく御説明を申上げます、先づ第一に地方競馬を行ひ得る者は原則として都道府縣を區域とする馬匹組合聯合會であります、例外として公益法人たる全國區域の馬事團體を認める場合もあるのであります、競馬を開催する目的は馬事振興を圖る爲に限定してあります、尚以上の圍體が競馬を行ふ爲には主務大臣の許可を必要とすることになつて居ります、以上は法案第一條に規定してあります、馬事團體が一旦主務大臣の許可を受けましても、現實に競馬を開催する場合には地方長官に屆出を要することが第二條に規定してあります、競馬場の數は北海道三箇所以内、都府縣各各一箇所以内に限つて居ります、競馬に出られる馬は、其の團體の區域内に一定の期間養はれて居つた馬に限定して居るのであります、馬券の發賣に付ては、第八條に於きまして一枚金額十圓以下の馬券を賣ることが出來ることになつて居ります、此の法案は馬券の枚數に付ては、從來の一人一枚の制限を撤廢してありますから、何枚でも是亦賣ることが出來ることになつたのであります、尚又馬券の的中者に對しては拂戻金を從來の制限の十倍を今囘は百倍迄に擴張せられたのであります、競馬の施行者は主務大臣の許可を受けて、馬券の賣得金額の百分の二十五以内の金額を收得し得ることに第十一條で規定されてあります、此の場合に馬匹組合聯合會の組織する公益法人たる中央の馬事團體に一定の納付金を納めることに第十二條で規定されてあります、尚本法に依り競馬が嚴正に行はれる爲に、主務大臣は必要なる命令を發し得る規定とか、或は又本法違反の行爲に對する處分等の規定があります、是は從來の地方競馬規則、軍馬資源保護法等と大體同じやうなものであります、尚附則は競馬に關する他の法律との關係を整備した規定でございます、是より委員會に於きます質疑應答の主なる點の御紹介を致します、本法案は衆議院の提出案であるが、政府は同意を表さるるのであるかとの問に對し、答は、軍馬資源保護法に依る鍛錬馬競走が廢止せられたる今日、各地に法的根據なくして色々なる名稱で競馬が行はれて居る状態であるから、本法を制定して是等に一定の取締を行ひ、其の賣得金の處分に付ても馬事の振興や、社會事業に寄與せしめむとするものであつて、本案の速かなる成立を希望するものであるとの御答辯が政府委員よりございました、次に本案に規定する優勝馬票は、其の發賣數竝に拂戻金の制限等に付て競馬法と異りまして、其の間均衡が取れないのであるが、其の點は如何に考へるかとの問に對しまして、政府は現行競馬法の改正を當臨時議會に提出して、其の間の均衡を保つやうにする爲に目下準備中であるとの御答でございました、我が國の馬産は從來軍馬中心の建前であつたが、終戰と共に軍事上の要求がなくなつた今日に於ては、馬産方針も當然變更さるべきものと思ふ、而して此の新たなる馬産方針が決定せられて後、初めて馬の改良手段として競馬が檢討せらるべきものと思ふ、而して新馬政方針の發表以前に、地方競馬法案が提出せられたと云ふのはどう云ふ譯であるかと云ふ問に對しまして、答は、今後の馬産は専ら産業馬として適當なるものを多數生産する必要があるのである、新たに馬政計畫を立てるに當つては國内耕地面積、人口の配置及び主要畜産の國内保有頭數等の關係を十分研究する必要があるので、それ等の具體的成案を近く得て發表する機會があると思ふ、尚此の競馬は農村に於て飼つて居る實用馬の能力、或は素質を檢定する爲に競馬に出すのである、此のことは即ち直接に馬の改良増殖の奬勵になることは勿論であるが、のみならず現在日本の馬の頭數が非常に減少して居る際、今後百六十萬町歩に亙る耕地の擴張の爲にも數十萬頭の大家畜を必要とするのであつて、馬だけでも約三十萬頭近くの増産をしなければならないやうな次第である、尚從來馬の生産育成の爲に國庫より多額の費用が計上せられて居つたのが、今後は之を期待し得なくなつたのであるから、此の地方競馬の收益に依つて、地方馬事團體の活動に經濟的援助を與へむとするのである、假令馬政計畫が新たに改變せられても、競馬を存置する根本の方針には何等變りはないと信ずるとの御答でありました、馬券の發賣と云ふことは、馬産の改良が國防上の絶對要請であると云ふ理由の下に支持せられたやうに思ふ、然るに軍馬の生産は今日從來以上に枚數制限撤廢、拂戻金制限の擴張をすると云ふことは納得が行かないと云ふ問に對しまして、今囘是等の制限に付て變更を加へむとするには、戰爭以來幾多の債券の募集、公債の募集等に非常なる變化があつて、今日一人一枚とか、十倍以内と云ふ程度に於ては到底國民の嗜好に投ずることが出來ない、興味を惹かないと云ふことになれば、競馬を折角開催しても經濟的に打撃を受け、馬産奬勵上障碍とならぬとも限らない、只今の時勢の推移に相應じて適當なる制限の變更が行はれるものではないかと思ふとの御答でありました、馬券の發賣は法律上賭博、富籤の性質を持つものと考へるかと云ふ問に對し、馬券發賣は賭事であると云ふことは從來競馬法に於ても認めて居るのである、併し普通に所謂賭博、例へば丁半とは考へて居らないのである、競馬の馬の能力の鑑定は科學的の研究が出來て、大體勝負の結論を得る方法があるのである、一六勝負のやうな運否天賦に依り、自分の考へ方や研究が何等の價値がないやうな勝負とは違ふのである、併しながら賭事であると云ふことは、認めて居ると云ふ答でありました、賭事である馬券の發賣を此の本法案に於て未成年者に對する制限を撤廢したのはどう云ふ理由であるかとの問に對しまして、未成年者に對する制限は細則或は施規則に依つて制限し得る場合があると思ふ、此の法律の運營に當つては、秩序の上から見て、或は國民思想の上から見て惡影響があると認めらるる場合に於ては、施行細則に於て相當の制限を加へて取締つて行く考であるとの御答でありました、更に重ねて然らば學生未成年者に對しては細則か何かに依つて禁止なさるものと了解して宜しいとの答でありました、馬券税が「インフレ」防止になると云ふ點に付、實籤が十圓の一萬倍、即ち十萬圓の當り籤であることと馬券との關係に付きまして詳しく論議せられ、政府の意嚮を質したのであります、之に對し大藏省政府委員より御答辯がありましたが、細い數字に亙りますからして省略を致します、政府納付金及び馬券税の課率は賣得歩合金の控除額として現れるのであつて拂戻金額に影響するのである、政府は收入を増さむが爲に屡屡法律を改正せられたが、其の結果として馬券が賣れなくなり、從つて増收の目的を達せられないのみならず其の半面闇の行爲、俗に言ふ呑屋の横行を自然に招來するに至り、之が取締に當事者は非常に苦心をするのである、それが爲に競馬場内に暗影を投ずるに至り、誠に遺憾である、今後競馬が正直に行はるるが爲には、拂戻金額と賣得歩合金額の控除額との密接なる關係が直ちに發賣に影響すると云ふ微妙なる作用に付きましては、十分認識をせられ、且又取締監督等に當つても農林當局は勿論、司法、内務の兩省に於かれましても、綜合連絡ある取締に依つて、競馬場にもつと明朗なる雰圍氣を釀成するやうにして、青空の下に於て外氣に接して眞に勇壯なる「スポーツ」を味はふことが出來る娯樂場たらしむるやうに導いて貰ひたい、尚又競馬を明朗化するには、開催者に於ても十分努力しなければならないので、即ち入場者をして樂に愉快に觀覽し得るやうに設備の改善をすることに依つて、多數の人の集る所の雜沓を緩和して、自然と秩序が保たれ、上品な「スポーツ」化し得るのであつて、所謂「フアン」の待遇には最も意を用ひなければならないと云ふ御意見等を熱心に述べられまして、當局の之に對する意嚮を質されたのであります、之に對して農林、司法、内務の各省政府委員より、それぞれ質疑者と感を同じうする意味の御答がありました、殊に司法省政府委員よりは、法的根據のない地方競馬類似の競馬に付ては、十分取締をしたいと云ふ御答へがございました、最後に委員外の議員より特に發言を求めて質疑をせられた點を御紹介を致します、全國に地方競馬が行はれるやうになると、其の賣得金は相當巨額に上ると思ふが、其の收入の一部を以て乘馬方面にも奬勵して貰ひたい、而して多額の收入の使途に付ては、十分なる監督を要すると考へるが、政府の意嚮如何と云ふ問に對しまして、兎角弊害が起り易いからして内務、司法兩省と協議して相當なる監督を行つて行きたいと云ふ御答でございました、最後に他の委員外議員よりの御質問は、現行競馬法は其の制定の動機が第一に軍事目的を主眼とするものであつた、大正十二年陸軍軍備縮小の爲、軍馬方面に軍の多額の費用を割くことが出來ないので、馬券賣上に依つて其の利益を馬の改良方面に賄ふことにしたと云ふのが其の根本理由である、此の軍事目的を更に強化したものは、昭和十一年競馬法の劃期的な大改正、又之に依る日本競馬會の設置であつて、獨占的機關が生れたのである、日本は「ポツダム」宣言を受諾し、降伏條件に調印し、憲法に戰爭抛棄を明記し、一切の戰力と訣別した筈なるに、何故非民主的にして軍國的な競馬法を存置し、日本競馬會と云ふ獨占的機關を存續せしめんとするのであるかと云ふ質問に對しまして、答は日本競馬會の存在は全然軍事的關係を持たないと言はないが、單純なる軍事關係のみを以て成立して居るのではない、内地馬政計畫上馬の必要性は、戰時たると平時たると變りはない、今日終戰後日本は戰爭を抛棄し軍事關係がなくなつても、馬の重要性には變りはないのである、日本國民生活上に於ける耕地面積と睨み合せて、百五十萬頭の馬を育成飼養し、更に今日耕地の擴張を要すると云ふことになると、馬の必要性は益益加つて來る、軍馬中心に奬勵を受けた馬は、必ずしも産業馬として適當なるものばかりではないのでありまして、漸次之を適當なる産業馬に改めて行かなければならないので、矢張り其の基本的なる所のものは、種牡馬、種牝馬にありまして、それ等の能力を能く檢定して馬匹の改良を行ふと云ふことになると、其の基本を成す種馬の生産の爲に、日本競馬會が重要なる役割を持つことになるので、其の存置を認める必要があるのである、唯將來日本競馬會の機構の根本改正に付ては、更に調査研究を進めて、近き機會に提案したいと云ふ答でございます、以上が質問の大體の要領でございまして、斯くして質疑を終り討論に移りました處、一委員からして贊成の意見が左の如く述べられたのであります、即ち競馬法制定以來二十數年間競馬法は原原種ら拵へることに努め、日本の氣候風土に馴れた「サラブレット」と云ふ原原種を造り出したと云ふことは、競馬法の功績の一つである、第二に競馬法制定以來昭和十八年迄府政の收入せる約三億に達する金を一般馬事の振興に向けられたのである、故に矢張り此の地方競馬が出來れば、同じく馬事の振興に好成績を擧げるものと信じて、此の原案に贊成すると述べられたのであります、尚他にも一人の贊成意見がありまして、最後に採決に入りました處、全會一致を以て原案通り可決致しました次第であります、以上を以て委員會の經過の御報告を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=32
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033・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御發言もなければ本案の採決を致します、本案の第二讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=33
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034・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=34
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035・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=35
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036・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=36
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037・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=37
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038・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=38
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039・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第二讀會を開きます、御異議がなければ全部を問題に供します、本案全部委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=39
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040・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=40
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041・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=41
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042・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=42
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043・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=43
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044・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=44
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045・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=45
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046・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、次會の議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後零時二十九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X03519460923&spkNum=46
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