1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年十月六日(日曜日)午前十時十八分開議
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議事日程 第四十號
昭和二十一年十月六日
午前十時開議
第一 帝國憲法改正案(衆議院送付) 第一讀會の續
第二 競馬法の一部を改正する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 貿易資金特別會計法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 産業復興營團法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 恩給法臨時特例案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 自作農創設特別措置法案(政府提出、衆議院送付)第一讀會
第七 農地調整法の一部を改正する法律案(政府提出、衆議院送付)第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=0
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 報告を致させます
〔宮坂書記官朗讀〕
昨五日衆議院より左の政府提出案を受領せり
自作農創設特別措置法案
農地調整法の一部を改正する法律案
同日議員より左の議案を提出せり
帝國憲法改正案に對する修正案(牧野英一君外一名發議)
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=1
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002・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、日程第一、帝國憲法改正案、衆議院送付、第一讀會の續、昨日に引續き討論を繼續致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=2
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003・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 私の昨日の發言中、速記録に載せまして差支のあるやうな所がございましたら、どうぞ御削を願ひたうございます、其の削除の部分竝に方法を議長に一任致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=3
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 只今大河内子爵より申出の通り、議長に於て取計らふことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=4
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005・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、三土忠造君
〔三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=5
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006・三土忠造
○三土忠造君 私は此の憲法改正案に付きまして、委員長の報告に贊成致す者でありますが、其の理由として、先づ大局論より申述べたいと存じます、申す迄もなく、我が帝國は、短見にして驕激なる少數者の爲に惹起されましたる無謀なる戰爭の爲に、可惜多數の人命を失ひ、國帑、國富を傾け、經濟機關は甚だしく破壞せられ、帝都を初め、全國多數の都市は灰燼に歸せしめられ、遂に世界孤立の地位に陷りました、所謂刀折れ矢盡きて、彼の最も峻嚴なる「ポツダム」宣言を受諾するの已むなきに至つたのであります、此の「ポツダム」宣言の包含する條項は多數に上りまするけれども、其の主要目的とする所は、我が國の國防力を完全に撤廢せしむると共に、民主主義を復活強化致しまして、極端なる軍國主義者、超國家主義者等の跳梁跋扈を根絶せしめ、將來再び戰爭をすることが出來ないやうにするにあると思ひます、而して此の「ポツダム」宣言を受諾致しましたる以上は、其の義務履行の第一歩として、帝國憲法に大改正を加ふるの必要あるのであります、是と同時に、此の無理なる戰爭、慘澹たる敗北の爲に、國内に於きまして、政治上、社會上、思想上、經濟上、急激なる變化が起つたのであります、此の混沌、此の廢墟の中から國家再建の途を開きまするに付きましても、政治機構に大改革を加ふるの必要が起つたのであります、此の義務の履行及び政治機構改革の觀點から考へましても、我が帝國憲法の精神、理想とする所を十分に理解して居る識者の間には、此の際帝國憲法を基幹として、之に相當思ひ切つた改正を加へますれば、それで足りるのではないかと考へて居つた人が少くなかつたと存じます、然るに其の後聨合諸國の輿論の向ふ處、要路の人々の希求する處が段々明瞭になるに及びまして、我が政府と致しましても、寧ろ此の際拔本的改革を斷行することが、内外の要請に應ずる所以なりと致されまして、殆ど新憲法と申すべき此の憲法改正案を起草するの大英斷に出でられたのであります、此の間に政府の態度に飛躍的變化のあつたことは事實であります、之に付きまして、本院に於きましても、其の理由を質された人がありまして、吉田總理大臣は、一には國際情勢の變化に依ると御説明になりましたけれども、國際情勢の變化と申すよりも、國際情勢に對する我が方の認識の變化と申す方が事實に合するかと思ひます、何れに致しましても、此の憲法改正案は、斯くの如き内外の情勢に即應せむが爲に愼重考慮の上に起草されたものであります、此の眞情を立法府としては十分に了解して其の態度を決定すべきものと思ひます、我々は豫てより斯樣な見地からして、此の憲法案には大體に於て進んで協贊を與ふべきものと決心して居るのであります、衆議院に於きましては、二箇月の長きに亙りまして熱心に審議を遂げられまして、又本院に於きましても、一箇月餘を費しまして、憲法案の各條章に亙りまして、最も愼重周密なる審査を致したのであります、政府に於きましては、豫てより此の憲法改正の重大性に鑑みられ、勅選議員補充の機會に於きまして、努めて廣く斯界の權威者を選ばれまして、之を本院に送られました爲に、我々は此の一堂の下に是等の諸大家と相集りまして、其の御意見を拜聽するの機會を得まして、啓發せられたることが少くなかつたことを感謝致して居ります、本會及び委員會を通じまして、政府の御意見を質すことに全力を注がれたやうであります、固より此の憲法の提案者たる政府の御意見を質すことは、我々の判斷の參考として最も重要であることは申すに及びませぬ、併しながら政府が如何なる解釋を取られようとも、それに依つて此の憲法の解釋が一定するものではありませぬ、政府が迭れば、次の内閣、又次の内閣が、各各別個の見地より別な解釋を取りますることは自由であります、若し行政法の如きものならば、政府が政策遂行の爲に提案されるのでありまして、一度是が法律となりますれば、其の實施は政府に一任されるのであります、而して其の政府の所見如何と云ふことが、直ちに國家國民の利害に關係すること重大なるものがありまするが故に、立法府と致しましては、政府の意見の存する所を十分に質さなければ、之に協贊を與へることは出來ませぬ、併しながら憲法なるものは全く是と性質を異にするのであります、憲法は政治、經濟、社會、思想、教育、宗教等頗る内容が廣汎に亙り、極めて複雜なるものであります、即ち全般に亙る根本法でありまするが故に、其の各條章に付て解釋を確定するなどと云ふことは、到底不可能であります、現行憲法は、御承知の通り、發布以來五十七年の星霜を經て居ります、此の間に於て、此の憲法に對する學者の意見が種々雜多に岐れて居ります、種々なる學者が簇出致しまして、今日尚主なる條章に付てすらも意見の一致を見ることは出來ませぬ、其の極端なるものに至りましては、氷炭相容れざるものさへあるのであります、時には又曲學阿世、實に唾棄すべき學者も現れまして、我が憲政を毒したことも諸君の御承知の通りであります、(拍手)斯樣な次第でありまするから我々は政府の御意見は十分に承りまするけれども、政府の御意見をさう尊重する必要はないと思ふのであります、我々獨自の判斷に依つて協贊を與ふべきものは與へるのであります、此の憲法案審議の間に於ける專門家の諸君の御意見を承りましても、諸大家の間に色々意見の相違があります、故に我々は前に申しまする通り、此の諸大家の意見を承つて裨益する所は少くなかつたのでありまするけれども、率直に申しますると云ふと、是亦唯一個の參考として承つたに過ぎませぬ、本會議及び委員會を通じて最も重要なる中心問題として論究されましたものは國體問題であります、即ち此の憲法改正に依つて我が國體は變更されるや否やと云ふのが大なる問題でありまして、是亦國民諸君も共に倶に聽かむと欲する所であらうと思ひます、國體なる言葉は現行憲法にも見えて居りませず、新憲法案にもない言葉であります、此の言葉が初めて法律語として用ひられましたのは、彼の治安維持法であります、而して大審院の判例に依りますと云ふと、國體とは萬世一系の天皇が統治せらるること、天皇が統治權を總攬せらるること、此の二つを内包とする概念と云ふことであります、處が今囘の改正に依りますと云ふと、天皇が統治權も有せられず、統治權の總攬者たる御地位でもなくなるのでありまするから、之を法理上より見ますれば、明かに國體は變更されると主張されるのであります、併し此の治安維持法の中にある國體と云ふ言葉は、此の特定法に用ひられた其の言葉は、如何なる意味に使はれて居るのであるかと云ふことを大審院で判決したのであります、又此の特定法が何を目的とするか、其の目的に合致せむが爲の解釋でありまして、即ち法律的解釋でありまして、我々が茲に論究せむとする國體問題とは別個のものであります、即ち我々の論究せむとする國體概念を明瞭にする目的を以てしたものでありませぬ、又新憲法に依りますと云ふと、主權は國民に在ると云ふことを明記されて居るのであります、帝國憲法は主權在君主義を基本として出來て居つたのでありまするが、其の主權在君主義が改つて、主權在民主義になつたのでありまするから、政治學上より申しましても、明かに國體は變更されたと論ぜられるのであります、併しながら凡そ憲法なるものは何れの國の例を見ましても、政體を規定するものでありまして、其の他に及ぶものではありませぬ、獨り我が國にのみ此の國體と云ふ概念があるのでありまして、茲に議論の紛更が生ずるのであります、其の國體なるものは統治權とか或は主權とか云ふものの外にあり、後ろにあり、奧にあるのであります、故に我々は此の憲法の改正に依りまして、政體は變化すると致しましても、國體其のものには何等の變化がないと云ふ政府の解釋を是認するものであります、唯金森國務大臣の御説明中には、或は憧れの中心とか、心の繋がりと云ふやうな稍稍神祕的に聞える言葉が用ひられましたので、幾分明瞭を缺くやうな氣が致しますが、今少しく之を簡單明瞭に表明することが出來ると思ひます、即ち國體とは、國の基本的本質であつて、其の基本的本質とは、萬世一系の天皇が國民統合の中心である國柄を言ふのであります、斯う解釋致しますれば、最も適切にして事實にも合し且俚耳にも入り易いと思ふのであります、金森國務大臣の或場合に於きまする説明に於きましても、丁度左樣な言葉を用ひられたことが度々あつたと思ひます、故に國體問題に付きましては、私共は左樣に解釋して本案に贊成するのであります、之を國史の跡に稽へて見ましても、天皇の大權は、時に依つて非常なる變化があります、伸縮消長があります、或時代に於きましては大權武門に歸して、天皇は全く虚位を擁するに過ぎなかつた時代もあります、それに致しましても、天皇が國民統合の中心と云ふ我が國體には何等の變化はなかつたものであります、明治維新の改革に依りまして、王政は復古せられ、大權は遽かに擴大強化されまして、帝國憲法にも之を明記されたのであります、併しながら明治、大正、昭和を通じて、天皇大權の行使は、一に國務大臣の輔弼に御任せになると云ふ方針を嚴守せられまして、未だ曾て天皇親ら大權を行使せられたことはなかつたのであります(拍手)新憲法に於きましては、聖旨に依りまして、大權は又復甚だしく縮小されることになつたのであります、併しながら新憲法案の第一條にも、天皇は、國の象徴であり日本國民統合の象徴であると明記してあるのでありまして、昔ながらの我が國體には何等の變化がないと云ふことを私共確信して疑はないのであります、(拍手)此の信念がありまする爲に我々は此の憲法に贊成するのであります、諸君、此の際私は昨年八月十四日、彼の悲痛なる終戰の聖斷が降りました時の國民の感慨を諸君が想起せられむことを希望致します、あれ程敗戰の憂き目を見て居りましても、尚以て執拗に頑強に戰爭を繼續せむと致しましたる陸海軍幾百萬の將卒、又軍部の宣傳を盲信して戰爭の繼續を冀つて居つた多數の國民も、一度聖斷が降るや、血涙を呑んで之に服從致したのであります、是れ抑抑何が故でありませう、統治權を總攬せられる天皇陛下の御意思であるからとか、最高統帥者たる大元帥の御命令であるからとか云ふやうな法的根據に依る理知的判斷に出でたものでは斷じてありませぬ、悠久の昔より我々の祖先竝に我々が最大最高の尊敬を拂つて居りまする天皇の現實の權威に打たれて、其の御意思には絶對に背くことが出來ないと云ふ國體觀念に支配されたものであると私共の確信致します、(拍手)而して此の國體觀念こそは、實に皇祖皇宗國を肇むること宏遠に、徳を樹つること深厚なる歴史の精華であると云ふことを考へなければなりませぬ、大權の縮小に付きましては、久しき傳統に育まれたる情緒の執著から蝉脱し難い人情の常と致しまして、何となく忍びない氣が致します、又何となく不安な感じも致します、併しながら深く思を致しますると、從來輔弼の重任に當る者にして、動もすれば袞龍の袖に隱れ、憲法を曲解し、濫用して政治上の責任を天皇に歸し奉り、至尊をして獨り社稷を憂へしむるが如き行動に出でたる人々の心境に付て屡屡眉を顰めた我々、殊に最近、戰前戰時を通じて十數年間に亙る軍閥野心家が官僚を技師として憲法を曲解し、濫用し、蹂躪して國家を今日の破局に導いた此の經緯に付て憤慨し戰慄致して居りまする我々と致しましては、寧ろ聖旨に依つて此の大權を縮小致しまして、將來天皇を政治上の御責任から超然たる御地位に置き奉ることが、我が國體を永遠に護持する所以なりとして、愼重、遠謀深慮の上に此の案を決定されたものと考へます、雙手を擧げ贊成致したいのであります、國體問題の外に皇室典範は申すに及ばず、參議院の構成、最高裁判所の裁判官の任命、皇室財産其の他内閣制度、裁判所構成法に付きまして相當考慮を要する問題が多々あります、併し皇室典範に付きまして、今日之を論議致しますることは未だ其の機會に非ずと存じます、參議院の構成に付きましては、要するに參議院の定員と選擧方法の問題であります、此のことを憲法の改正と共に明瞭に致しますることは頗る困難であります、裁判官の任命、皇室財産等の問題に付きましては、衆議院に於きましては熱心に審議せられ、或程度の修正が加へられたのであります、其の他憲法附屬法に付きましては、皇室典範と共に政府に於て只今折角愼重に審議し、研究して居るやうでありますから、次の議會に是等の提案を待つて、同時に總てを見合せて決定することが最も時宜に適すると私共は信ずるのであります、偖、愈愈此の新憲法が成立致しますれば、我々は不磨の大典と信じて、其の有終の美を濟すに精進致して參つた帝國憲法と永遠に訣別を致さなければなりませぬ、發布以來明治天皇始め、先輩元老諸公等の最も苦心慘澹の下に出來ました憲法、さうして我々は守り護つて來た此の憲法と別れるのでありまするからして、今日我々は實に之を思へば感慨無量であります、佐々木博士の如き此の現行憲法を守つて新憲法に反對される御心境は十分に分ります、唯、佐々木博士と我々とは時局の認識に於て聊か距離があります、(拍手)其の距離が因となつて、結論に於て大なる差が生ずるのでありますが、誠に遺憾なことでありまするけれども、致し方ありませぬ、佐々木博士の御議論は傾聽に足ります、我々は非常に敬服致して聽いたのであります、十分に御心事は首肯されることを茲に申上げて置きます、帝國憲法は歴史を經として、理想を緯とし、雄渾にして宏大、之を何れの國の憲法に比べましても遜色はありませぬ、運用宜しきを得れば、之に依つて民主主義も育成せられ、完成せられ、之に依つて國利民福を増進し、世界の平和に貢獻する上に於きまして何等不備なることはないと私共は信じ來つたのであります、然るに此の理想を解せず、經緯を知らざる人々の爲に是が曲解せられ、濫用せられ、蹂躪されまして、國家を之が爲に今日の破局に導いたことを考へますと云ふと、誠に浩歎長息轉た斷腸の思に堪へないのであります、(拍手)併し今日となりましては如何に憧れても、如何に惜しんでも、如何に歎いても、所謂死兒の齡を數へるに過ぎませぬ、我々は寧ろ此の際豁然大悟し、過去は過去として、新たに生じて來る憲法を育成し、此の憲法を規範として、國家國民の安寧幸福に邁進するの外はないと思ふのであります、新憲法は民主主義を基調とし、人權の擁護には頗る徹底致して居ります、此の人權の徹底的擁護に依つて個人を完成すると共に、國家社會の健全なる發達を期して居るものであります、併しながら國民多數が此の新憲法の意圖する所を十分に理解し、之を育成し、之を堅持するの決心と叡智がなかつたならば、彼の最も民主的憲法と稱せられました「ワイマール」憲法が「ナチス」黨の爲に蹂躪せられて、國家を滅亡の深淵に陷れた「ドイツ」の如き事態さへも起り得るのであります、固より我々は將來如何なる國に於きましても、「ドイツ」の覆轍を蹈むが如き事態の現れることは夢想だも致しませぬ、けれども、大政黨の出現に依りまして多數横暴の弊害に陷るが如き事態の發生に至りましては、全く是れなきを保し難いのであります、而して是等の不祥なる事態の發生を防止するのも、打破するのも一に國民の堅實なる輿論の力に俟たなければなりませぬ、而して輿論の力の根柢を成すものは、眞の民主主義の理解と堅持でなければならぬと思ふのであります、然るに熟熟帝國憲法制定以來五十七年の憲政の跡を稽へて見、且現在に於ける人心の趨向、社會情勢等を考へて見ますると云ふと、國民多數が此の憲法を理解し、民主主義を理解し、之が普及し徹底するに至りますることは、前途頗る遼遠なりとの感を懷かざるを得ないのであります、私の觀察する所を率直に申しまするならば、我々日本人は概して常識が乏しい、判斷力が低い、短見であり、淺慮であります、熱し易く冷め易い、浮華輕佻にして附和雷同し易いのであります、故に一時の風潮に驅られて、擧世滔滔として思想、言論、行動が極端から極端に走つたことが度々あるのであります、其の最も顯著なる事例は戰時と戰後との對蹠的なる國民の思想の動きに於て之を見ることが出來ませう、若し我が國民が今少しく常識に富み、冷靜なる判斷力を有し、容易に附和雷同しなかつたならば、如何に少數の軍閥が專恣横暴を極めむと致しましても、此の慘澹たる戰禍を見る程に、此の戰爭を繼續することは許さなかつたでありませう、戰時に於きましては極端なる軍國主義、超國家主義の宣傳に協力致して居りました同じ人間が、今日掌を飜すが如く急變して、一知半解なる民主主義宣傳に狂奔して居るではありませぬか、(拍手)又他人の自由を尊重せず、義務を閑却して自己の自由のみを主張し、權利のみを要求して居る者が頗る多い今日の世相ではありませぬか、斯樣な世相を毎日目のあたり見て居りまする我我と致しましては、此の新憲法が本當に理解せられ、圓滿に運用されて、さうして平和日本、文化日本の建設が我我の理想とする通り出來ますと云ふことは、頗る難事であると云ふことを考へなければなりませぬ、或は又其の發達の過程に於て民主主義を履き違へ、我が儘放縱を以て民主主義であると云ふやうな誤解に陷りまするならば、國家の再建、經濟の復興等はおろか、或は社會の秩序を紊り、國家を危殆に瀕せしむるの虞なしとしないのであります、然らば之が對策如何と云ふことになりまするが、世間多くの人々は直ちに之に答へて、一にも教育、二にも教育と云ふやうに申されます、固より此の教育なる言葉が廣義の意味で用ひられまするならば、或は此の一語に盡きるかも知れませぬ、併しながら多くの人々が考へて居るやうに、主として學校教育を意味するものでありまするならば、それはほんの一部の任務を果すに過ぎませす、何としても天下識者の一致團結の力に依らなければなりませぬ、天下の識者が經國濟民の志を一にして、共に倶に手を携へて國民を指導するの覺悟を致さなければなりませぬ、殊に政府の要路に立ち、國政の重任に當り、憲政運用の實際を掌る所の人々、我々帝國議會の議員、地方自治團體の首腦者、地方自治團體の議員、官公吏等は申すに及びませぬ、社會の木鐸を以て任ずる言論機關を掌る人人、勞働運動を指導する勞働組合の幹部、是等の諸君を初めと致しまして、いや、宗教家も、教育家も、學者も、苟も社會の先覺を以て任ずる人々は、各各其の自己の責任を考へまして、熱誠と勇氣とを以て國民を指導し啓發せずんば已まざるの決意を要するのであります、不肖私の如きも此の老躯を提げて諸君の驥尾に附し、專心此の事に從ひまして、最後の御奉公を效さむことを覺悟致しました、之を諸君に誓ひ、以て此の憲法案に贊成致す者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=6
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007・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 松本學君
〔松本學君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=7
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008・松本學
○松本學君 私は憲法改正案の委員長報告の修正に贊成の意を表する者であります、現行の明治憲法が私共子供の時から不磨の大典であるとして尊重を致して來て居りました、其の憲法が殆ど全面的に此の度改正せられなければならぬと云ふやうな情勢に相成りましたことは、誠に遺憾に堪へないことでありまして、涙なくして考へられないことであります、併し是も今日の情勢已むを得ないことで涙を呑んで之を忍ばなければならぬ、茲に新らしい憲法の此の改正案と云ふものを我々が茲に涙を以て審議をせなければならぬことに相成つたのであります、此の度の憲法改正に付きまして、「マッカーサー」司令部の示されました理解ある態度、國際情勢の複雜多岐である此の時に、此の憲法改正をするに當つて、非常な苦心をされ、御努力をなさつた政府の御盡力に對しては、滿腔の敬意を表し感謝致す次第であります、此の御苦心に依つて出來ました憲法改正の草案を先般來質疑應答の結果、私共必ずしも完全なものとは考へられないのであります、色々な點に於てまだまだ十分でない、もつと、斯うあつて欲しい、解釋に於きましても十分滿足の行かないと云ふやうな點もあります、或は字句に於きましてもまだ如何にも生硬である、不熟であると云ふやうなものもありまして、必ずしも完璧ではありませぬ、併しながら兎に角此所迄の憲法が出來て、而も此の情勢下に於て此の程度の憲法が出來たと云ふことは、恐らく後世我々の子孫は、昭和に於ける我我の祖先はあの情勢の下に能くも是だけのものを作つて呉れたと言つて感謝をして呉れはしないかと云ふことを考へて、一つの慰めと致して居るのであります、完全ではありませぬが、私は此の完全でない、完璧でない所の憲法改正草案に贊成を致します所以のものは、此の改正憲法の中に日本的な性格、我が國本來の面目が相當見出されると云ふことにあるのであります、さうして此の憲法は世間では摸倣憲法である、昨日もどなたか此の壇上に於て「アメリカ」の新聞を御讀上げになつて、日本の憲法でなくして、「アメリカ」から與へられた憲法の如き批評あることを承つたのであります、左樣な批評もあるやうに思ひます、併し私は決して是は摸倣憲法ではない、欽定憲法の第七十三條の手續に依つて、陛下の御思召に依つて、此の議會に御提案になり、其の御思召に從つて我々が愼重に之を審議した日本の憲法である、決して摸倣の憲法ではない、無論外來の思想も入つて居ります、外から來る色々な良い點を採り入れては居りませうけれども、決して強ひられた憲法ではないと云ふことを私は確信致して居ります、そこで私が此の憲法が決して摸倣憲法でなく、強ひられた憲法でなく、我々の憲法であると云ふことを私が考へ、私が解釋する點に於て、日本的の性格、日本本來の面目を發揮して居ると云ふことを此の中に見出すことが出來ますので、此の憲法改正案を贊成致す譯であります、其の點が四つあります、先づ第一に主權が國民に在ると云ふことが前文及び第一條に明記されて居ることであります、現行憲法に於きましては御承知の通りに、主權が何處に在るかと云ふ所在は明文には載つて居りませぬ、其の爲に主權所在と云ふことを國體論の基本と致します爲に、現行憲法の解釋に於ては統治權の總攬者が誰であるかと云ふことを以て國體論を進めて居ると云ふ状態であつたので、憲法の中に主權の所在が明記されて居なかつた、其の爲に國體論が紛糺し、色々な變論が起つたと私は考へるのであります、而も今日迄の憲法に於ける國體を論ずると云ふ時に、此の憲法、法律學と云ふ唯、一部局だけの改正の議論として此の國體を論じて居ると云ふ所に過ちの根本があつたと私は思ふのであります、然るに此の改正憲法に於きましては、主權ははつきりと國民に在りと明かに書いてあるのであります、此のことが私は日本の本來の面目を發揮して居ると申し、言葉を換へて申すならば、之に依つて我が國體がはつきりしたと云ふことを感ずるのであります、現行憲法に於きまして、國體は統治權の總攬者と云ふことを基本に於て論ぜられて居りますが、若し假にあの國體の總攬者、即ち現行憲法の第一條、第四條のあの條項を基礎にして主權が君主に在り、主權在君と云ふ其の國體を論ずると致しますならば、そこに過ちの因があるのであつて、統治權の總攬と云ふことは政體を意味して居ると思ふのであります、若し統治權の總攬者の變更と云ふことに依つて國體が變革したと云ふことになるならば、幕政時代に於て、徳川幕府が統治權を總攬して居りましたが、明治維新に依つて此の幕政が倒れて統治權の總攬者が變つた時に、一體日本の國體は變革したものでありませうか、我々はそれを理解することが出來ないのであります、主權が國民に在り、即ち主權在國民と云ふことは日本の國體を明確に示したと云ふことに私は信ずるのであります、之に依つて少しも此の改正憲法が國體變革の憲法であると云ふことでなく、却て日本の國體を明かに憲法の條章の上に明示したものであると云ふことを考へるのであります、然らば國體とは何でありますか、茲で謂ふ國民と云ふのはどう云ふ意味であらうかと思ふのであります、第一條の「主權の存する日本國民」、此の「日本國民」と云ふことは私はあの第三章の「國民」とは意義が違つて、此處の第一條の「日本國民」と云ふものは過去、現在、未來を通じた歴史的に存して居る其の歴史的存在である國民を意味するのであつて、此の國民の中に天皇を含むと云ふ説明であるならば、政府の説明を私は納得して聽くのであります、併し政府の説明は、國民の中に天皇を含むと云ふ其の天皇は、個人の資格に於ける天皇であると云ふ御説明を承つたので、私は其の點に於て納得が行かないのであります、併し私の解釋としては、此の歴史的な存在である過去、現在、未來を通じた一貫した日本國民と云ふ觀念の中には、君民一如の形、君民一如と云ふ其の境地に於ける國民と云ふ意味でありまして、さう云ふ意味に於ては、天皇を含むものと解釋が出來ると思ふのであります、即ち君民一如の境地にある此の歴史的な過去、現在及び將來を一貫した日本國民と云ふ其の君民一如の境地に主權が存在して居る、斯う云ふことをはつきりと憲法の第一條及び前文に書き示して居るものと、私は解釋を致すのであります、此の解釋を若し誤つて居ないとするならば、此の度の憲法改正に依つて主權在國民と云ふことを規定したからと云つて、決して日本の國體が變革されたと云ふ議論は成立たないと思ふのであります、兎に角主權が國民に在るか、君主に在るかと云ふことに依つて國體を決めようとするやうな議論は、要するに君民對立の觀念に立つて居るものであります、西洋の所謂近代國家觀念の發達の過程を見ますれば、君主對人民と云ふ二元的な對立的な事實を示して居るのであります、此の對立的な對立觀の上に君と民との對立觀の上に近代國家と云ふものは發達し、「イギリス」の憲法の發達、憲政の發達も其處にあると思ふのであります、此の君民對立と云ふ對立觀の此の議論を根據にして、我が國の國體を論ずることは出來ないのではないか、そこで私は我が國の國體は法律論としても、亦世界觀的な、哲學的な見地から見て、之を考へて見ましても、此の改正憲法に依つて、即ち主權國民に在りと云ふ此の規定があると云ふことだけに依つて、我が國の國體が變更されたもので絶對にないと云ふことを信ずるものであります、即ち國體の事實は儼として不變不動のものであります、唯國體を論ずる國體論と云ふものは、色色に變化します、是は色々な政府の御説明に依つても認識の變化、認識は如何に變つても仕方がありませぬ、國體論は如何に變らうが、國體の事實は儼として變るものでない、古い歌に「見る人のこころごころに任せ置きて 高嶺に澄める秋の夜の月」と云ふ歌がありますが、私は是が只今私が申上げました國體のことを誠に能く言ひ現して居るものだらうと思ふのであります、(拍手)即ち第一の點、最も日本的な性格、最も日本の本來の面目、國體を其の儘に言ひ現して、率直に第一條及び前文に掲げられたと云ふことに付て私は滿腔の贊成を表する者であり、是が私の申す日本的性格の現れだと云ふ第一の點であります、其の第二の點は九條の規定であります所の戰爭放棄と云ふあの平和宣言、私はあの九條は憲法に規定せられたる一箇條ではありますけれども、我が國が世界各國に向つて堂々たる平和宣言をしたものだと解釋致すのであります、戰爭を放棄して恆久の平和を維持すると云ふことを、捨身になつて世界に宣言をして居る是は大宣言であります、處が、或は之を評して日本は全部武裝を解除し、軍備を持たない國でありながら、今更戰爭放棄と云ひ、世界平和を宣言するなんと云ふことは「ユートピヤ」に過ぎない、引かれ者の小唄である、負けた者の負け惜しみぢやないかと云ふことで評せらるるかも知れませぬ、又我々が侵略國民である、或は帝國主義的な、好戰的な國民であると云ふことを世間から、之を是迄世界各國から思はれて疑はれて居つたから、其の疑を解く爲に戰爭放棄と云ふやうなことを箇條として書き上げて居ると云ふが如き考の方もあるかも知れぬと思ふのであります、そこで私は決して左樣な意味でなく、此の戰爭を放棄して平和日本を作り、而も日本が平和であり、文化國であると云ふだけでなく、世界に向つて此の平和の大きな旗を飜へして呼び掛けて行くと云ふ其の根本には、先刻申上げました所の私の申す日本的性格、日本本來の面目が存して居ると云ふことを信ずるのであります
〔議長退席、副議長著席〕
それはなぜかと申しますれば、皆樣も御承知の通りに古典に國々の思想と云ふものを我々は持つて居ります、今日此の壇上に於て神話を説くならば、彼は神祕的な神懸りを言ふと云ふ批評があるかも知れませぬ、併しながら神話は國民に取つて最も大切なものであります、神話のなき國民程氣の毒なものはないと思ふのであります、古典の中に、二柱の神に依つて神々が生れ、國國が生れて居るのであります、此の國を生むと云ふ思想は決して他の國を侵略し、他の國を奪ひ、其の國民を虐げ、或は是から搾取して自分のみが利益を得ようとするやうな、さう云ふ侵略的な、帝國主義的な思想では絶對にないのであります、生むと云ふ思想、或ものを生み出して之を育てる、即ち生生發展すると云ふ思想こそ、日本國民の民族性であり、我々が祖先傳來持つて來て居る所の心の奧底に在る日本精神であると思ふのであります、只今此の國生みのことを此處で私は長々と申上げる迄もないことであります、皆樣も御承知の通りでありまして、此の思想こそ日本民族の持つて居る平和思想、平和愛好の國民であると云ふことをはつきりと示す事實ではないでありませうか、生むと云ふことは決して他所のものを奪ひ取るのでなくして、其の土地に於て或ものを生し出し、其の生産されたものを以て世界人類福祉の爲に之を用ひると云ふ意味に生々と云ふことが考へられると思ふのであります、又我が國は尚武の國であると申します、武を尚ぶ國である、其の爲に往々にして我が國民が好戰國民である、戰を好む國民であると云ふ風に言はれるのでありますが、一體我が國の武と云ふ觀念はどう云ふことでありませうか、中國に於ては、武を文字に依つて戈を止めるに在りと申しますけれども、我が國の方は、それ等の考へ方よりももつともつと深刻な、もつと深いものであります、是は大江匡房卿の作と傳へられて居る所の我が國の古來の武經の一つに斯う云ふことが書いてあります、我が武は天地の初に在りて一氣天地を分つこと雛の卵を割るが如し、故に我が道は萬物を根源にして百家の權興なり、是が第一章に書いてあるのであります、雛の卵を割るが如し、此の言葉をゆつくりと玩味して見ましたならば、初めて我が國の神武の本當の心持が分り、決して武と云ふものは唯無暗に力を用ひるものではない、總ての力の根源をなして居るものである、小さい雛が今生れ出ようとする、其の卵の殻を小さいあの嘴で以て突き破つて出て來る、あの力、あの氣持、あの氣合、それが我が國に謂ふ所謂武であります、斯くの如き哲學的な非常に深い意味を持つて居る此の精神其のものを我々は尊ぶのであります、そこで我々日本國民は尚武の國民と言ひ得るのであります、是等のことが若し外國の、西洋各國の人々に十分に徹底して、十分に理解を深めることが出來ましたならば、恐らく今日迄我々が疑はれた所の色々な疑問は釋然として解けるのではないかと思ふのであります、是が私の第二に擧げました平和宣言の基本に於て、我々はあの九條の基本に於て日本的な本來の面目を發揮し、日本的性格を十分に表して居ると云ふことを申上げたいのであります、
〔副議長退席、議長著席〕
第三に申上げたいことは、憲法改正案の第三章の規定に付てであります、即ち國民の權利義務の規定であります、此の第三章の規定は私は非常に良く出來て居ると感服致すのであります、是こそ本當に日本の「デモクラシー」を其の儘に言ひ表して居るものであるとして、非常な贊意を表する者であります、此の種の規定に付きましては議論がありませう、或は十八世紀から十九世紀に掛けての人權宣言、「フランス」革命に起つた人權宣言に過ぎぬぢやないか、或は國家に對する個人の要求であり、國家が個人の自由を保障する、即ち個人から言ふならば、國家に對しての要求權を是は認めたものであるとか、斯う云ふ議論が行はれて居るやうであります、成る程個人固有の權利自由が認められて居り、それが規定されて居ります、併しながら第十二條を讀んで見ますと、「この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。又、國民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」と書いてある、是が原則であらうと思ひます、個人の自由、個人の權利を十分に尊重し、人權を尊重するが、同時に又公共の福祉、即ち社會生活の秩序を尊重すると云ふことに付て個人の責任を求めて居る規定であります、現行憲法に於きましては、臣民の權利義務の中に個人の自由權利が認められて居ります、併しながら私は考へまするのに、此の現行憲法の規定では、まだ人權宣言の域をさう十分に脱して居ないやうな感が致すのであります、さうして現行憲法では所謂法治主義を採つて、殆ど全部のものを法律に依つて、法律の範圍内に於て之を保障するやうな規定になつて居ります、然るに此の改正案に於ては憲法自體に於て全體に於て全體への奉仕、及び個人の自由と云ふことが憲法自體に於て規定されて居ると云ふことに特色があるやうに思ふのであります、即ち第三章は個人の權利を尊重し、其の自由を認めると同時に、全體への奉仕、全體への責務と云ふことを定めて居るやうに見えるのであります、是こそ本當の「デモクラシー」であります、自己を主張する、大いに自己の權利自由を主張すると同時に、他人の立場を十分に理解し、之を尊重して、他人に對して寛容であると云ふことが「デモクラシー」の本義であります、此の「デモクラシー」の本義が第三章の此の規定の中に十分に認められると云ふことを私は喜ぶのであります、自由と云ふと或者からの自由と云ふことと、それが發展してもつと進んで、或者への自由と云ふ所迄、其の境地に迄進まなければ、本當の人間完成は出來ないのではなからうか、壓迫とか、壓制等から自由を主張して、それから逃れ出ようとする自由、人權宣言の程度の自由は、私は或者からの自由を要求して居るものだと思ふのであります、「ドイツ」語で申す、「フオム・エトワス・フライ・ザイン」と云ふ其の境涯に止つて居ると思ふのであります、然るに人權宣言程度のものでない、是がもつと進んで社會公共福祉の爲に、自分の自由を或程度犧牲にしてでも責任を負ふと云ふ、社會公共の福祉への自由と云ふもの、「ツーム・エトワス・フライ・ザイン」と云ふ所迄到達しなければ、本當の人間完成は出來ないではなからうか、斯う云ふ意味に於て私は此の第三章を解釋を致すのであります、而も斯う云ふ個人が十分に權利を尊重し、自由を主張しながら全體へ奉仕し、全體に對して責任を負ひ、全體の發達に貢獻をすると云ふやうな、さう云ふ境地、境涯に立つことが眞の「デモクラシー」であり、是こそ我が國本來の「デモクラシー」であると思ふのであります、決して第三章は「イギリス」や「アメリカ」から貰つて來た「デモクラシー」を規定して居る規定ではないのであります、明治天皇が、一人も所を得ざる者あらば朕が罪なりと云ふ御言葉を賜はつたことがあります、一人でも所を得ざる者があれば之を嘆いて下さると云ふ、さうして所を得ると云ふこと、一人々々が皆所を得ると云ふことが、是こそ本當の日本の「デモクラシー」であります、無論我が國の「デモクラシー」は歴史を見ますれば度々曲げられて居ります、必ずしも此の理想通りの「デモクラシー」が我々の生活に實現したと云ふことは度々はありませぬ、常に曲げられ、常に雲に依つて蔽はれて居るのでありますが、併し日本の本當の面目である所の「デモクラシー」は、只今申上げたやうに一人々々が所を得ると云ふことであらうと思ひます、所を得ると云ふことは、各各がすくすくと自由に自分の能力を十分に發揮して、人の爲、世の爲に盡し得る状態に置かれて居ると云ふことであります、例へて申せば假に鍋釜と云ふものがあれば、鍋釜と云ふものは臺所に置かれて初めて所を得て居るのであります、掛軸とか、花活けだとか、置物、香爐の如きものは床の間に飾られて所を得るのであります、若し鍋釜が床の間に置かれ、掛軸が臺所に掛けられるならば、決して所を得たものではありませぬ、即ち自分の立場に置かれないで、人の立場を侵して居ることになるのであります、斯う云ふ意味に私は解しまするから、第三章の規定は我が國の「デモクラシー」を實に良く言ひ表した規定であるとして、此の點に贊意を表する次第であります、唯、私が前にも申上げましたやうに、此の憲法は完璧でない、色々な點に缺點もあると申上げましたが、其の一つの殘念なことであると思ふ缺點として考へられますことは、我が國の社會生活として最も重要であります人間の共同生活として、所謂我が國の社會生活として最も大事であります所の家の生活、家族の生活と云ふことが、此の第三章の中に尊重をせられると云ふが如き規定のないことであります、第二十四條を讀んで見ますと、二十四條の婚姻から始つた家の關係、家の生活のことと云ふものは、是は何と見ましても、西洋の家庭生活を規定したものに過でませぬ、茲で私が日本の家の生活と、西洋の家庭の生活との比較をする時間を持ちませぬが、我が國の家の生活と云ふものは祖孫一體の血の縱の繋がりでありまして、あの家庭の生活と云ふものは、自墮落な、氣樂な、暢氣な生活の中に、何とも言へない秩序が存して居る、親子、兄弟、夫婦、皆分を守つて居る、分を守ると云ふ生活をして居ると云ふ、此の生活形態と云ふものは、恐らく何處の國にもない人類の共同生活形態だらうと私は思ふのであります、此の日本獨得な家の生活、此の家の生活と云ふことが、先刻來私が申上げたやうに、如何にも日本的な日本の「デモクラシー」を掲げて呉れたと思ふ此の第三章の中に脱けて居ると云ふことは、返す返すも殘念なことに思ふのであります、而も此の修正の案が委員會に於て、或委員から提出されましたが、ほんの僅かの差を以て、是が敗れたのであります、私は之を非常に遺憾と致して居ります、若し此のことが規定されて居つたとするならば、一層此の第三章と云ふものに日本的な光が輝いて來るのではなからうか、斯んな風に私は考へて居ります、第四に日本的な性格と申しますか、日本本來の面目を發揮して居るものと考へられますことは、第八十八條及び第八條の二つの關係にあります皇室財産に關する規定であります、第八十八條は皇室無財産と云ふことが規定された事項であります、成る程、一部少數者は我が國の皇室の財閥たることを防がむとして、我が國の皇室に財産を與へないやうに努力して、さう云ふ風に考へて居る人々があるやうであります、併し此の議論は勝手であります、皇室無財産と云ふことに付て、是等の議論に拘らず、私共日本人は我々の信念として皇室無財産であると云ふことを私は考へるのであります、我が國體が世界無比であると云ふことを申します、此の國體の世界に類例ないと云ふことの事實としましては、萬世一系であると云ふこともあります、併しながら私は、それ等の色々な條件があらうと思ひますけれども、世界無比である一つの大きなる事柄は何であるか、他に類例のない事柄は何であるかと申せば、私は考へますのに、皇室に姓氏がないと云ふことであると思ふのであります、源平藤橘ではありませぬ、我々日本國民は源平藤橘に分れて居ります、我々は松本であるとか山田であるとか云ふ氏を持つて居ります、然るに皇室には姓氏がありませぬ、一體世界に姓氏なき存在と云ふものが文明國にあるでありませうか、或は歐洲に於て「ホーフェン・ツオレルン」だとか、「オーストリア」の「ハプスブルグ」だとか、或は「ハノーヴァー」だとか、「ロマノフ」だとか、是等は皆姓氏を持つて居る、でありますが、皇室には姓氏がありませぬ、姓氏がないと云ふことは、私は是こそ絶對的な存在だと思ふのであります、相對であれば茲に姓氏を分つて二つのものを比較すると云ふ立場に立たなければなりませぬが、姓氏のないと云ふことは、是は絶對なものであります、比較するものがない、是は無であり、無色透明であり、無比であります、でありますから、此の無色無比、無色透明である絶對的な存在である所の皇室が、他と比較せらるべきものを御持ちになると云ふことはない筈であります、又日本の歴史を見ましても、決して皇室が私有の財産を御持ちになり、皇室の財産として御持ちになつて居つたと云ふことはないと私は存じて居ります、即ち古い詔勅の中に、是は私、つい調べることが十分でありませぬので、或學者の友人から聞いたのでありますけれども、古い詔勅の中に天子に私財なしと云ふ御言葉があると云ふことであります、幕政の時に於きましても、皇室は決して、財産を御持ちになつて居つたのではありませぬ、此の皇室無財産と云ふ規定を此の憲法に置かれて、而も第八條に於て皇室と國民との間の財産の交流に付ての規定も定められて居ります、此の二つの規定を運用することに依りまして、本當に日本の本來の面目であり、言葉を換へて申すならば、日本の國體の中心であるとも謂ふべき事柄が實現することに相成つたと云ふことは、私の欣びに堪へない所であります、八十八條の規定に於きまして、將來恐らく皇室の費用は豫算に計上せられて、國會の議決を經ることに相成ると思ふのであります、政府の質問に對する御答辯に依りますると、此の八十八條に於ける皇室の費用と云ふものは、天皇の公の費用であり、又皇室財産と云ふ、此の八十八條の皇室財産と云ふのも、公の意味に於ける財産を申すのであつて、天皇の私的の御財産は此の中に含まぬと云ふ御説明であります、私は多少見解を異にして居ります、政府の此の憲法を通じての御説明の中に、我々が聽き取ります所に依りますと、天皇、即ち憲法上の天皇と云ふことと、御一人々々々の天皇陛下と云ふことを混同して居られるのではないかと云ふやうな感じが致すのであります、憲法上の天皇と云ふことは、是は觀念であります、御一人御一人の天皇陛下と云ふ、あの御肉體を御持ちになつて居られる陛下、其の御一人をどうも混同して考へてはならないのではないでせうかと私は思ふのであります、でありますから、國民の中に個人としての天皇を含むと云ふやうなことは、苟も憲法の解釋としては成り立たないのではないだらうか、憲法以外に於ける何と申しますか、私の生活の上に於ては、私の天皇とか、公の天皇と云ふことが考へられるかも知れませぬが、憲法上の天皇と云ふことは、是は私の無き、即ち無色無比の天皇と云ふ、即ち歴史を一貫して、悠久の昔より天壤無窮、永劫將來に亙つて萬世一系の皇祚を踐まれ、天壤無窮の皇位に即かれる其の天皇と云ふ觀念が憲法上の天皇でなくてはならないのではないかと思ふのであります、從つて憲法の上に於て私の天皇を考へる、即ち八十八條に於ても皇室財産の中に私の天皇の財産を考へるなどと云ふことは間違ひではないか、天皇の私の御生活と云ふやうなことは憲法上の問題ではないので、而も私は第八條の規定に依つて是等のことは解決が附くのではなからうか、即ち憲法上の天皇と云ふことは、能く申されます所の「義は君臣にして」と云ふ此の意味であつて、御一人々々々の天皇陛下に對する我々の心持、私生活を遊ばす天皇陛下、私有財産を御持ちになる、御手許の物を御持ちになると云ふ天皇陛下と云ふ此の考へ方は、即ち情は父子と云ふ氣持の天皇であるのではなからうか、從つて私は八十八條の皇室財産に付ても、毎年計上せられまする所の皇室費に付ても全部公の憲法上の天皇の御財産であり、御費用であると云ふことに御解釋を願つて、將來議會に、毎年國會に出て來まする所の費用等に付ての御考へ方も政府に於て左樣に御取扱ひを願ひたいと考へて居ります、其のことは先刻來申上げましたやうに無色無比であり、絶對的な姓氏なき御存在であるからして、他と比較さるべき財産を御持ちになるものでない、又御持ちになるべきものでもない、事實上無財産で、此の無色無比であり、絶對的の存在である所の天皇を中心にして、我々は二千數百年來、日本國民が團結して來た、此の國柄であると云ふことを申すのであります、此の四つの點に付きまして私は日本的な色彩が濃厚に出て居り、又日本本來の面目を發揮して居ると云ふことに付て大いなる贊意を表すると云ふことを申上げる次第であります、殊に最後に申上げました皇室財産のことに付きましては、昨年の末陛下から有難き大御心の程も仰せ出されて居ることを洩れ承つて居るのであります、是等のことは國民として感激に堪へない所であります、偖、私が只今迄申上げました意味に於て、此の憲法改正案を贊成を致すのでありますが、只今申上げましたやうな意味に於ける此の改正憲法と云ふものは、私は斯う考へます、即ち内に向つては、即ち國民に向つては此の憲法が據るべき指針を示して居るのであります、外、諸外國に對しては我が國の本當の姿を明かにして、同時に正義と秩序を基調とする國際平和を熱心に希求して居ると云ふことを宣言して居るものであると解釋を致すのであります、此の二つの意味を以て國内及び國外に向つての大きなる意義を此の憲法改正案が持つて居ると致しますならば、先づ世界平和に貢獻せむとし、恆久の平和を希求して戰爭の放棄と云ふ思切つたる處置を採つて、之を第九條に規定して居ると云ふ以上は、何か世界に向つて日本國から世界平和を招來すると云ふ何かの具體案を提案すべきではないでありませうか、此のことは私は委員會に於て、總理大臣に御質問をしたのでありますが、恐らく政府は何か具體案を御持ちになつて居るだらうと申したのであります、それは何故さう申すかと言へば、唯、漫然と戰爭を放棄するとか、平和主義であると云ふことを言ひ放しにしたのでは何を言つて居るのか、「ユートピア」だ、或は負け惜みだらうと言はれる虞があるのであります、でありますから、是だけの決心をして、憲法に此の條項を堂々と御書きになつた以上は、世界に向つて何か具體案を御示しにならなければならぬでありませうし、恐らく御持ちになつて居るだらうと云ふことを申したのであります、適當な時機に於てさう云ふことを考へると云ふ御答辯でありました、私は當然さうであらうと思ひます、然らば如何なる具體案であるべきでありませうか、現在國際聯合と云ふ組織で以て世界各國は世界の平和を維持せむとして努力を致して居ります、是は一つの方法であります、併しながら政治、經濟と云ふやうな各國の利害關係の非常に深刻である事柄を基礎に置いた國際聯合の此の組織と云ふものが是亦必要でありませう、併しながらそれよりももつと根本的な、もつと奧底を行く所の各國の文化を基礎とした、即ち世界各國が互の國の、各國の文化を十分に理解し、之を互に尊重し合つて、さうして文化を基礎にして、互に理解し、尊重し合ふと云ふやうな、何か國際的な組織があつて宜いのではないか、現在國際聯合として政治、經濟、外交、所謂各國が今日迄、國際聯盟としてやり來つたやうなやり方を行つて居りまするが、別に我が國から、文化國際聯合とでも言ふべき組織を世界に向つて呼び掛けてはどうでありませうか、實は只今から十年程前、昭和十一年に私一個の渺たる一個人が、其の當時國際聯盟があんな状況になつて居りましたので、別に文化國際聯盟の提唱、それから對立觀に對する一如觀を基礎とした所の、奇拔なる名前でありますが、第五「インターナショナル」の主張と云ふものを世界の知識人、學者、思想家等に呼び掛けたことがあるのであります、其の時に其の反響は非常に大きかつた、小さい一個人がやつた此の運動が相當大きな反響を呼んだのであります、其の中の一つに「ハーバート」大學の政治學の教授の「ブルース・シー・ホッパー」教授が私に手紙を寄越して、其の手紙の中に丁寧な言葉で自分のやつて居ることに非常な贊意を表して、さうして「チャペール・サービス」に於て之を私は學生に話して居る、其の「チャペール・サービス」に於て話した講義をして居る内容を此處に送つて來たのでありますが、其の中に、滿洲事變、國際聯盟離脱後、日本人は自己辯護より、自己反省をして、固有の政治哲學への序曲として、西洋文化の本質的なる再檢討に向はむとして居ると、斯う書いて居ります、さうして、最後に附加へて我々米國人の役目は、日本の行動を徒に傍觀したり、軍艦を造つて對抗することではなくして、忍耐を以て、日本人を研究し、そこに創造されつ、ある新政治哲學を研究することであらうと云ふことを附加へて參つて居るのであります、私は小さい一個人が微力を以て思ひ切つてやつたことに、世界各國から相當に反響があつたのでありますから、現在新らしい世界を造らうとして、世界各國が惱み拔いて居り、如何にして平和に向はむかと努力して居る、此の機會に於て我が國は戰爭を放棄して、平和の國を建てる宣言と共に、何か一つ、斯う云ふ具體的なものを以て、世界に臨まれむことを切望して已まないのであります、政府御自身としては、或はむづかしいかも知れませぬが、日本の國の中に、斯う云ふ運動が起ることが焦眉の急ではなからうかと思ふのであります、次に國内に向つての、此の憲法の役目は、國民に指針を與へると云ふことであります、今日の國内状勢を見れば、終戰後、虚脱から今日では昏迷の状態になつて居ると思ひます、國民は今迷ひ拔いて居ります、日本國民は今何處に行かむとするか、指針を求めて居ります、新たなる國民の時代を造ると云ふ此の機會に於きまして、日本の正しい姿を認識すると云ふことに依つて、此のことが出來るのではないかと思ひます、即ち先程申上げましたやうに、第三章の國民の權利義務、あの規定を十分に其の眞價を發揮するやうに、此の第三章の規定の正しい理解を國民に與へるやうに努力することが大切ではないかと思ひます、新らしい世界を茲に建てて新たなる國民の時代を造らうと云ふ以上は、今日の此の日本に於て、斯くの如き状態に持つて來た其の原因が何處にあるかと云ふことを探究することが、先づ第一に必要ではなからうか、今日此の状態に日本を陷れたと云ふ其の原因は何でありませうか、互に責任をなすり合つて他人を責めることを止めて、靜かに日本國民が反省して見なければならぬではないでありませうか、明治の末、昭和、大正に掛けて、我々日本國民の態度が常に無反省なる模倣であつたやうに思ふのであります、或は左に於て「マルクス」が盛になれば、無反省に「マルクス」を謳歌し、之に心醉し或は或外國を祖國と呼ぶが如き心持に迄なり、又「ナチス」、「フアッシヨ」が盛になれば、「ナチス」に心醉して、「ナチ」の全體主義こそ、我が日本精神であると云ふことを臆面もなく演説した人もあるのであります、左にも右にも、常に今日迄の日本が、自分の本當の値打を探究することを止め、自ら反省することをしないで、輕輕しく外來の色々な思想や制度等を摸倣をし、之を心醉して來たと云ふ所に、今日の此の日本の國状を來した大きな原因があるのではなからうかと思ひます、此の憲法の改正が成り立ちました今日以後に於て、此の無反省なる模倣と云ふことを止めて 本當に日本の面目を發揮するやうに、即ち日本本來の面目に歸り、日本に歸つて、日本人への囘歸と云ふことを念願をして、而も自主的でありたいと云ふことであつて、それに依つてのみ今日以後の日本が救はれるのではありますまいか、而も相當良く出來た此の憲法と云ふものが、實際に國民の中に生命を發揮して行くと云ふのも、此の基礎的な國民の考へ方、反省を求めなければ、何の效果もないことになるのではないかと思ふのであります、先達て私共少數の集りの時に、皆樣御承知の、京都、奈良の文物を戰火から救ふことに盡力をされたと云ふ、あの「アメリカ」の「ワーナー」博士が、藝術生活と云ふ題で座談的な講演をされたのであります、其の中に、現代の日本人は後世の子孫に恥ぢないやうに、此の窮窟な、苦しい慘澹たる此の現状に於て、尚日本の傳統を活かし、日本の良いものを益益發揮すると云ふやうな努力をして行かなければならぬと云ふことを言ひました後で、斯う云ふことを申したのであります、若し「アメリカ」人が、今日日本で造られて居るあのやうな劣惡な品物を、米國で賣らして貰ひたいとあなたに頼んだ場合には、あなたは一體彼が民主主義の根本原理を心得て居るかどうかと云ふことを反問すべきでありませう、民主主義の根本原理とは各人が自己の良心に從つて行動すべく、先づ自己の心を吟味しなければならないと云ふことなのであります、誠に聽くべき言だと思ふのであります、次に申しますのに、私が日本を批評する場合は、同時に米國をも批評して居るのであります、我々米國人は機械的發明と巨大なる生産力と云ふ二つの點で、大きなる成功を收めて來ました、從つて日本の心なき人々は、之に對し羨望の念禁じ難く、米國式の機械的生活方式が幸福への道であるかのやうに思ひ込んで來くのであります、併し米國の聖者とも謂ふべき「エマーソン」は、七十五年前に、羨望は無智であり、摸倣は自殺である、只管汝自身を信頼せよ、人の心は自信と云ふ鐵の琴線に觸れて振動するものであると謳つてあります、而して私は嚴肅に是が正しいと確言致したいのでありますと申して居ります、私は是は今日の日本人に取つて頂門の一針であり、大いに聽くべき言葉であらうと思つて居ります、只今迄申上げました四つの點に於て、日本的な性格が十分に現はれて居ると云ふことを、私自身の解釋でありますが、左樣に解釋を致しまして、憲法草案に贊成する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=8
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009・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 木下謙次郎君
〔木下謙次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=9
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010・木下謙次郎
○木下謙次郎君 本憲法に於ての審議が、既に天下の才を集め二箇月に亙つて、專門家、學者より精密詳細なる研究の御議論を拜聽致し我々素人に於ては啓發する所少からず、深く感謝する次第であります、私は憲法上の學問には全然素人でありまするからして、斯く論議された後に何等申上げることはないのであります、唯純素人の立場として、私一個の感想に付て本案を批評し、之を批評することに依つて、本案に贊成の意思を表明致したいと考へます、茲に御許しを願つて置きたいことは、私は老人でありまして、私の感想には支那の文學の生噛りや、或は支那の古典の受け賣りに似たことがないとも限りませぬから、其の點に付ては極めて古臭く、且御聞き苦しい點があるかも存じませぬが、どうか此の老人に免じて特に御容赦を願つて置きます、昨日來本案贊否の御議論を承りまするに、多くは此の憲法は何だか舶來の臭がする、日本製の物ではないやうであると云ふ點を、議論された方々が大分多いのであります、反對論者は無論、贊成論者もさうであります、是はどう云ふことから來て居るかと云ふに、先程三土君からも略略御話があつた、又今の松本さんからも略略其の問題に付て御話があつた、私は之に付て深く共鳴することを避けて、唯成る程我々も舶來臭いやうな臭を感ずることは、餘り良い氣持は致しませぬが、内容が良かつたならば、先づ其の臭を暫く避けて、内容の良い點に滿足して、私の御話の筋を進めたいと考へるのであります、(拍手)然らば君は内容が良いと云ふが、どの點が良いのか、さう云ふ御尋を假定するとすれば、私の最も傾倒致して居りますのは、此の憲法は世界の平和を祈念し、人類愛の目標を以て構成せられて居ると云ふ、其の點に付て私は傾倒致して居るのであります、甚だ物識り顏のことを申上げて恐縮でありまするけれども、「キリスト」の博愛の思想から見ても、佛教の慈悲の觀念から見ても、或は孔孟の仁義禮智の觀念から見ても、此の憲法には共鳴すべき美點が數數看取せられるのであります、從つて此の憲法は國家統治の大憲章であると同時に、一面人類の生活の根本を教へたる尊重すべき教典であるとも考へられます、世界列國の成文憲法は此の憲法程良く行き屆き、又内容の充實して居るものはないであらうかと私は考へて居る程であります、昨日、澤田君の御話では、此の憲法は憲法の本領を逸して、要らぬ世話迄行き屆き過ぎて居ると云ふ御非難がありましたが、私は此の憲法の内容の充實致して居ることに贊成をするのでありまするから、是は御意見の相違であります、斯くの如く此の憲法は新たな構想を以て、可なり革新的なものでありまするから、我が國從來の制度、典章、文物、法令、有らゆる百般のものに亙つて改革、或は急激の變化を來すことは誠に已むを得ぬ、是は澤田君の御話の通りであります、現に此の貴族院の如きも廢止の運命に逢著致したのであります、其の結果として時代の儀表として多年院内に活躍せられたる公侯伯子男の名流諸公も、或は國家の功勞者、學識、經驗の誇りを持つ勅選の諸君も、學界を代表する名譽ある諸君も、我が國の富豪階級を代表する互選の議員も、總て同じ運命に逢著せられるのであります、斯くして、政界の表面より姿を消される方々も少くないと考へまする、世界の表面より姿を消された方々は、或は范蠡を學んで江湖の外に放逸し、或は東陵公を學んで瓜を青門外に作る方もあるでありませう、人生滄桑の變、誰か感慨の情なからむやであります、(拍手)併し我々は國家の現在の事情に直面して、一切の私情、一切の考を捨て去らなければなりませぬ、茲に古いことを申上げて甚だ恐縮でありまするが、私は唐の魏徴の感慨の言葉を借用することの御許しを得たいと思ふ、「豈艱險を憚らざらむや、深く國士の恩を懷ふ、人生意氣に感ず、功名誰か又論ぜむ」、我々此の憲法の嵩高なる人類愛に感激したる者、功名富貴、一身一個の利害得失、誰か言ふに足るものがありませうか、成る程澤田君の御話の通り、世の變革に遭ひ、或は不愉快のことに直面することもありませう、或は迷惑を感ずることもありませう、豈艱險を憚らざらむや、深く國士の恩を懷ふ、我々は赤裸々の眞つ裸となつて、全國民と一心同體、新日本の建設に努力すべきであると考へて居るのであります、現在我我が直面致して居る此の國の状況に付ては私より申上げる迄もなく、三土君よりも詳しく御話があつたやうでありまするが、敗戰の結果、我々は總ての物を失つて居る、計算すべからざる莫大な損害、名状すべからざる莫大な犧牲、其の犧牲を拂ひ、今尚拂ひつ、あるのであります、國民の多數の中には、居るに家無く、著るに衣無く、食ふに物無く、政府は其の威信を失墜し、道徳倫理は頽廢し、人心適從する所なく、暗黒昏迷の間に彷徨致して居ると云ふ今日の現状であります、此の際に當つて、此の新憲法の誕生は正に一條の光明を國民に與へたものと言うて然るべきであります、(拍手)併し光明は現實ではありませぬ、光明は現實ではありませぬ、新憲法は如何に立派なものであつても、是は現實の日本の再興の姿ではありませぬ、其の點に付ては三土君よりも先刻詳しい御話があつたやうでありまするが、此の新憲法の良き精神に副うて現實の再興、文化日本を造るには、國民は非常な努力を拂はねばならぬものであると云ふ御話があつた、私も極めて同感、極めて同感、我々が文化新日本の再興に努力するとなれば、第一番に我々は舊日本の長い間の惡い夢から醒めて、眼を擦つて活眼を開いて世界竝に人生と云ふものを見直さねばならぬ、我々の過失に因つて招いた今日の恐るべき此の罪業を第一、之を清算しなければならぬ、言葉は惡いかも存じませすが、小國民根性、是も三土さんから先刻御話がありました小國民根性とも謂ふべき利己的の利慾心、自負心、獨善、輕擧、淺慮、我々の過失を招いた原因を成したものと思はれる一切の迷妄を拂ひ除けなければなりませぬ、迷妄と云ふ言葉が若し惡かつたならば、妄想でも宜しい、拂ひ除けなくちやならぬ、或は諸君の中に御氣に障るかも存じませぬが、我々が始終使ひつけて居ります日本精神、大和魂、日本魂、總て是等も再檢討の爼の上に乘せて先づ見直しをしなければならぬと考へるのであります、總て是等の妄想上の思想を一掃することも容易ならぬことでありまするが、凡そ文化の暢達、文化日本の再興に付ての文化の暢達、其の暢達に於ては、或程度の高い文化の保障が伴はなければならぬことは御承知の通り、生活無くしては文化無し、衣食足らずして禮節無し、文化の暢達には衣食が必要條件となつて居る、衣食の基本たる我が國の産業状態はどうであるか、其の産業の復興、再開に付ては、其の組織も時期も混沌としてまだ目鼻の附いて居らぬと云ふ今日、凡そ文化の進展に付て之を發達向上するには總て反對、反對と云ふ言葉が惡ければ逆手、逆手が惡かつたらば都合好くない惡條件に取圍まれて居ると云ふ悲しむべき状態にあるのであります、併し、我々は如何に困難があらうとも、之を乘切つて新日本の建設に成功する以外には斷じて我が日本の活路は無いと信じます、我我は聰明なる良識と眞劍なる努力に依つて、飽く迄難關を克服打開して文化日本の彼岸に達することに邁進しなければならぬと私共は考へて居るのであります、是迄申上げて、時間が大分過ぎますので、私は直ぐ結論に急ぎたいと存じて居ります、結論、私の結論を明確にする爲に、又甚だ古いことで恐縮を致しますが、孔子先生の言葉を借用するの御許しを得たいと思ひます、孔子先生の御弟子に、御承知の通りでありますが、子貢と云ふ人があつた、是は當年ちやきちやきの政治家であつたが、其の政治家たる子貢が先生に伺ひを立てた言葉に、國が破れて愈愈行詰つて、國の再建をしなければならぬと云ふ時には、どう云ふ事から先に手を著けたならば宜しいかと云ふ御尋をした、丁度二千五百年後の日本の今日の現状を子貢が想定して先生に御尋ねしたものと見える、處が孔子は、是は皆樣御承知の通りでありますが、論語にある「兵を去れ食を去れ古より人皆死あり信なくば立たず」と云ふ名句を吐かれた、兵を去れ、軍備を撤廢せよ、今の言葉で言へば戰爭放棄をやれ、是が一番、其の次に食糧問題も大事であるが、併しそれより先づ信を立てて、國の信を立てて國の内外の信を繋げ、是が國家再建の第一條件である、信と云ふものは御承知の通り、儒教に於ける政治の根本義である、此の信を分解して、或は演繹するか、或は歸納するかして、之を成文に書いたものが、今我我が言ふ憲法である、今我々が戰爭放棄を翳して、國家多事の際に斯くも憲法審議に熱中し取急いで居ることは、孔子先生の言葉と思ひ合せて、人生の眞理は萬古を一貫したる不變のものであると云ふことに深い感銘を覺えるものであります、尚、毎度先生を借用して恐縮でありまするが、論語の中に、「之を東隅に失ひ、之を桑楡に收める」と云ふ格言がある、是も御承知の通りに、色々な解釋がありまするが、東隅で何か過ちがあつて損をしたらば、如何に犧牲が多大であらうと、損害が莫大であらうと、過去は過去に葬り去れ、之に愚痴を殘すな、未練を殘すな、負け惜みを言ふな、其の代りに桑楡の間に立派な別なものを作り上げて、東隅に失つたものを取返せ、之には相當深い哲學上の意味が籠つて居ると考へますることは、東隅と云ふのは東の方、桑楡と云ふのは西方を象つた意味に字の上から考へられまするが、併し此處には一つの哲學がある、一方で損をしたものを一方で取返せば宜いではないかと云ふ意味ばかりでなしに、東隅は物質を意味し、桑楡は精神的のもの、我々が領地を失ひ、軍艦を失ひ、陸軍を失ひ、多少の物質を失つたが、桑楡の間に精神的な立派なものを再建が出來ればそれで宜いではないか、此の意味に當て嵌めて、或は今日の現状に大いなる示唆を與へるものがあり、尚又、此の言葉に含まれたる、負けて勝を取れ、此の寓意も我々の胸底に深く響くものを感するのであります、斯くして二千五百年前の古聖人の教へが今日我々の今議定しつつある最も新らしき此の新憲法の精神と契合融和する點を深く玩味することに於て、我々は東洋人として大いなる感激を覺える者であります、而して此の感激は、新日本の建設に付て一層の熱情を加へるものがあります、此の感激と熱情に依つて我々は新日本の建設に依り、外は列國の信用を博し、内は國民の安寧を保ち、進んで世界の平和に貢獻し、人類の幸福に寄與することあるべきことが、我我今日の理想であります、此の理想を飽く迄達成すべく努力せねばならぬことが、日本國民に課せられたる一大責務であると我々は覺悟を致して居る次第であります、而して新憲法の目指す意圖も、蓋し之に外ならざることを信じまして、此の意味に於て、新憲法の前途を祝福し、茲に私は本案贊成の意思を表明する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=10
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011・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是にて討論は終結致します、採決を致します、本案の第二讀會を開くことに贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=11
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012・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て第二讀會を開くことに決しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=12
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013・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=13
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014・植村家治
○子爵植村家治君 休憩後直ちに第二讀會を開くの動議に贊成を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=14
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015・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=15
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016・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、休憩を致します、午後は一時三十分より開會致します
午後零時二十七分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=16
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017・会議録情報2
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午後一時五十七分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=17
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018・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 休憩前に引續き、會議を開きます、帝國憲法改正案の第二讀會を開きます、先づ山田三良君外一名より提出せられました修正案を議題と致します、發議者に對して趣旨説明を許します、高柳賢三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=18
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019・会議録情報3
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{左の提出文及修正案は朗讀を經さるも參照のため茲に載録す以下之に倣ふ}
帝國憲法改正案に對する修正案
右議院法第二十九條に依り提出候也
昭和二十一年十月五日
發議者
山田三良 高柳賢三
贊成者
公爵 岩倉具榮 侯爵 小村捷治
伯爵 二荒芳徳 伯爵 橋本實斐
男爵 白根松介 子爵 入江爲常
長岡半太郎 小山松吉
姉崎正治 林春雄
平塚廣義 中田薫
村上恭一 男爵 飯田精太郎
塩田廣重 長谷川赳夫
男爵 團伊能 中川望
三浦新七 田所美治
澤田牛麿 坂田幹太
稻畑勝太郎 有馬忠三郎
岸本彦衞 山本勇造
高木八尺
貴族院議長公爵 徳川家正殿
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帝國憲法改正案中左の通修正す
第七條第五號中「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状」を削り、同條第六號中「認證すること」を「行ふこと」に改め、同條第八號中「批准書及び」を「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」に改め、「その他の」を削り、同條第九號中「外國の大使」の上に「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」を加へる
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〔高柳賢三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=19
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020・高柳賢三
○高柳賢三君 私は山田三良議員と私との名前で提出されました、帝國憲法改正案に對する修正案を簡單に説明させて戴きます、修正案のそれは條約の批准の問題と、大公使の任命の問題と、恩赦の問題と、三つの問題に關聯するものでこざいます、大公使の派遣と接受及び條約の批准と云ふやうなことは、國際法上の元首、即ち君主國ならば君主、民主國ならば大統領と云ふものが行ふと云ふことが、之が國際慣例になつて居るのであります、で、或國では元首と行政府の長とが結合して居る場合がございます、例へば「アメリカ」合衆國に於きましては、大統領は行政府の長でありますと同時に元首なのでございます、又「スイス」に於きましては、七名の委員から成る聯邦會議と云ふものが元首でありまして、此の七人の委員は同時に行政長官でございます、それが毎年順番で聯邦會議の議長どなることになつて居ります、是等は寧ろ例外的な場合でございますが、斯うした場合でも、元首の資格で右のやうな國際的な行爲と云ふものをするのでございます、多くそ國に於きましては、元首と行政府の長と云ふものが別々になつて居ります、例へば「フランス」では、内閣總理大臣の上に大統領と云ふものがございます、又中華民國に於きましては、行政院長宋子文の上に國民政府主席の蒋介石と云ふ者がございます、「ソ」聯でも、「スターリン」首相の上に「ソ」聯最高會議幹部會議長「シュベルニック」と云ふ者がございます、是等元首と行政府との長と云ふものが分離して居る場合、大公使の派遣と接受、又條約の批准と云ふものは皆、首相ではなく、元首が行ふことになつて居るのでございます、改正案の下に於きまして、國際法上日本の元首は天皇でございまして、内閣總理大臣ではないことは、委員會に於きまして私の質問に對して金森國務大臣が之を御認になつたのでございます、又其のことは外國人の眼から見まして、天皇を「エンペラー」、内閣總理大臣を「プライム・ミニスター」と云ふ風に譯しまするならば、兩者の關係と云ふものが、國内的な規定で色々新規なことが規定されて居るに致しましても、矢張り元首は「エンペラー」、即ち天皇であると見ると云ふのが、是が當然なことでございます、從つて國際慣例に從ひまするならば、大使の派遣、或は接受と云ふもの、又は條約の批准、是等は元首たる天皇がなされると云ふことが國際法の常道であります、改正案の下に於きましても、外國の大使及び公使を接受する方は元首たる天皇がせらるることに定めてありまするが、是は國際法の常道に從ふのでございまして、大使公使の接受と云ふことを、元首ではなく行政府の長が行ふと云ふやうな國は、世界に一つもないのでございます、處が、我が國から外國に派遣致しまする大使及び公使の任命は、天皇がせられないで内閣が之を任命し、天皇は内閣の出す信任状に認證をなすと云ふことになつて居るのでございます、是は國際慣例に反し、從つて信任状の作成などに付て隨分と無理なことをしなければ、國際慣例、或は又日本國憲法に合致しないこととなる虞があるのでございます、そればかりでなく、元首があるのに、元首からでなく、内閣總理大臣から、外國の元首に宛てて書面を送ると云ふことは、外國を蔑視して居るやうでありまして、國際禮讓の上でも失禮なことだと受取られる虞も多分にあるのでございます、序でありまするが、斯うした國際慣例と云ふものは、單なる慣例、意味のない慣例、仕來りではないのでございます、重要な意味合が其處にあるのでございます、大公使は國を代表し、且、元首を個人的に代表する者でございます、又條約は行政府のみを拘束するものではなく、國其のものを拘束するものでございますから、度々更迭を致しまする内閣ではなく、元首の名で結ぶと云ふことが適當であると云ふ風に考へられて居る譯でございます、斯うした譯から致しまして、國内的に特に重大な不都合と云ふもののなき限り、此の國際慣例と云ふものを尊重致しまして、之に合致するやうに憲法の規定を定めると云ふことが、望ましいことであると考へるのでございます、飜つて改正案第七條の規定を見ますると、天皇が天皇御自身の意思で、又は何人かが天皇の大權を濫用して、國政を左右し、延いて天皇の御責任の問題が起らないやうに、極めて入念に、念には念を入れて規定されて居ります、此の目的を達する爲の技術の一と致しまして、改正案は天皇の「認證」と云ふ新規な先例のない制度を造り出し、此の認證制と云ふものを外交關係にも使つたのでございます、大公使は内閣が之を任命して、天皇は内閣の任命及び信任状を認證されるだけだと云ふことになつて居ります、又條約は、天皇ではなく、内閣が之を締結するものとし、又全權委任状とか批准書の認證だけを、天皇がなされると云ふこととしたものであります、此の天皇を政治の世界から遮斷して、如何なる場合でも、野心のある政治家が天皇の大權を利用して、其の結果、責任が天皇に及ばないやうにと苦心せられた政府の意圖に對しましては、甚大の敬意を私は表するものでございます、大河内子爵は、此の同じ尊敬すべき動機から、政府案に滿足せず、委員會に於きまして改正案の第四條、第五條、第六條、第七條を全部削除し、又第三條を削除致しまして、之に換ふるに、「天皇は國政に關する權能を有しない。」と云ふ規定を以てすることを提案せられたのでございます、是は例へば第六條の規定に依りまして、天皇が内閣總理大臣を任命せらるることと致しますると、假令國會の指名に基いてそれがなされることとなつて居りまするとしても、そこに責任問題が生ずる虞がある、又例へば認證と云ふものは、總て皆内閣の助言と承認に依つてなさるるにしても、一定の行爲が最終的な法律上の效果を發生せしむるのには、認證と云ふものを要件とする關係上、矢張り責任問題が起りはしないかと云ふ御心配なさつたからだらうと推察致しまして、子爵に對して大いに敬意を表するものでございます、併し私は憲法改正案には、天皇無答責の原則と云ふものを明定しては居りませぬが、第三條には「天皇の國務に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」と云ふ規定があり、此の規定と云ふものは、第六條、内閣總理大臣任命にも、又第七條國事に關する行爲をなさるる場合にも適用があるのでありまするから、天皇には責任は及ばないのであると、斯う云ふ政府の見解が正しいのであると考へます、又さう解釋することが君主制、立憲君主制に於ける一般的常識に合致するものであると考へるのでございます、從つて、改正案に從つて天皇が國事に關する行爲を行はれましても、天皇に責任が及ぶと云ふやうなことは全然ないものと信ずるのでございます、從つて不幸にして、此の點に於ては大河内子爵と見解を異にし、政府と見解を同じうするものでございます、改正案の第七條の規定に於きまして、政府の御苦心のある所は十分に私は諒とするものであります、否、大いに敬意を表する次第でございます、尤も憲法學者の權威の方々の中には、天皇の責任なきことを明かにする爲に、斯うした認證と云ふやうな先例のない制度迄設ける必要があるかどうかと云ふことに付て、寧ろ否定的な意見を懷かれて居る方も相當あるのでございます、又一般人も公證人の認證と云ふものを想ひ出させまする此の認證制と云ふものは天皇の「ディグニティー」、尊嚴を傷つけることに稍稍不快な感じを懷く者も相當あるのでございます、此の點は大いに考慮しなければならないことではあります、併し私は、今政府の採用されました天皇に依る認證制と云ふ技術の根本問題迄立入ることは致しませぬ、寧ろ一應政府提出の原案と云ふものを大いに尊重する、實際的の建前で考を進めて行きたいと存じます、そこで、斯う云ふ問題が提出されるのでございます、改正案の立法技術を一應尊重することと致しまして、言ひ換へれば天皇の大權と云ふものを少しも増大することなく、さうして大公使の任命や、條約締結に付きまして、國際間の一般慣習に合致し、餘り無理をせず、又國際間の禮儀作法に反する虞のないやうにする方法はないものであらうか、斯うした見地から私達の作つたのが、左の二つの修正案なのでございます、第一の修正案は第七條の八を次の如く改めることでございます、「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに法律の定める外交文書を認證すること」改正案に依りますれば、批准は内閣の權限でありまするが、假令内閣に依る批准と云ふものがありましても、天皇の認證がなければ、批准の交換又は寄託などに依りまして、對外的に之を表示し得ないのでありますから、條約の效力を發生せしめ得ないのでございます、從つて批准がなされないと等しいのであります、此の修正案に依りますれば天皇が批准をせられ、又批准書に署名せらるることになるのでございます、原案及び修正案孰れも此の點天皇の一定の行爲がなされなければ、條約は最終的な效力を發生しないのでありまするが、孰れの案に依りましても、天皇が勝手に一定の行爲をせられたりすると云ふ譯にはいかないのでありまして、一に内閣の助言と承認に依つて、内閣の責任に依つてなされるのでございます、從つて實際上の效果は同じでございます、それ故斯う改めましても、それは單に形式的な改正でございまして、實質的には天皇の權限は増加しないのでございます、尤も此の場合に於きまして、批准と云ふものを無條件に天皇の權限と致しますると云ふと、或誤解が生ずるので、批准と云ふものは天皇がせられるが、其の批准は國會の承認に依つて内閣が締結した條約を批准するに過ぎないと云ふ趣旨を明文で特に表示することとしたのでございます、天皇の批准は内閣の助言と承認に依ることを必要とすることは、第七條の冒頭で明白なのでありまするが、批准と申しますると、一般人にも又専門家にも、直ちに米國大統領の行つて居る所謂「ヴィートー」、拒否權と云ふものを想ひ起させまする虞がありまするので、重複を厭はず、斯うした誤解を囘避する爲に之を明示したのでございます、又内閣の條約締結及び國會の承認に關する第六十九條第三號との或程度の重複をも厭はなかつたのでございます、それに依つて、天皇の大權の範圍と云ふものを實質的に増すのだと云ふやうな誤解と云ふものを一掃せむとしたのでございます、第二の提案は、第七條の九を次の如く改めることであります、「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに外國の大使及び公使を接受すること。」大使、公使、全權委員の任命と云ふものも、第六條の最高裁判所の長たる裁判官の任命と同樣、天皇は内閣の指名に依つて行ふことに致しますれば、天皇の任命が勝手に行はれると云ふものでないことが明かになるのでございます、此の任命は第六條の内閣總理大臣及び最高裁判所の長たる裁判官の任命と同樣、天皇の任命でありまするが、之に依つて大使、公使と云ふものを内閣總理大臣又は最高裁判所の長たる裁判官と同格にすると云ふ意味ではなく、此の任命と云ふものは、單に對外的に日本國及び天皇を代表する外交使節たる國際慣例上の特別の性質に基くものでございます、尤も第六條に内閣總理大臣及び最高裁判所の長と列べて之を規定致しますると、是と同格となるやうに見え、國務大臣などに此して權衡を失すると云ふやうな誤解を避ける爲に、第七條の九に、外國の大公使の接受と列べて之を規定したのでございます、是ならばそれが國際慣例と云ふものに基礎を置いた大公使の特別の性格に基くものであると云ふ趣旨が明かになると考へたからでございます、尚信任状及び全權委任状の附與は、任命の中に當然含まれまするから、特に之を置く必要が無くなるのであります、從つて第七條の五の中から「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。」に關する規定を削除したのでございます、右の二つの修正に依りまして、本改正案を通ずる趣旨、即ち天皇の大權と云ふものを實質的に増すことに依つて、政治的を野心家の非立憲的な活動を爲すことを封じ、又天皇に責任が及ぶことなきやうにと云ふ政府原案の趣旨を少しも傷つけることなく、同時に無理をしないで一般國際慣例に依つて外交を行ふと云ふことが出來るやうにしたのでございます、此の修正に依りまして、外國に對する關係で、天皇の尊嚴、「ディグニティー」と云ふものを増し、延いて日本國及び天皇の代表として派遣される外國使節の、外國に對する尊嚴を増すことにはなりませう、併しながら任命は内閣の指名に依り、内閣の責任で爲すのでありまするから、天皇の責任には影響を及さないのでございます、又條約の批准を、屡屡更迭を見る内閣ではなく、日本國の象徴であらせられる天皇がなされることに依つて、條約が行政府のみではなく、日本國を拘束し、條約への尊重の趣旨にも寄與することになるのでございます、併し批准に對する責任と云ふものは、是は内閣が負ふのであつて、天皇が負ふべきものでないことは、憲法の明文からも、立憲君主制の通念からも明々白々であると考へるのでございます、以上は外交關係に付ての改正案の二三の條項に對する修正でございますが、更に、もう一つ修正案と云ふものを提出したいのでございます、それは第七條の六、恩赦に關する規定の中で、「認證すること」とありまするのを、「行ふこと」と改めることでございます、改正案第七條の七、榮典の授與と云ふものは天皇が行はれることになつて居ります、是は結構でございます、此の規定は英國憲法で所謂「プレロガティヴ・オブ・オーナー」と云ふものに相當するのでありまするが、第七條の六は「プレロガティヴ・オブ・マーシー」に關するものでございます、御承知の如く「イギリス」では「キング」の特權と云ふもの、「プレロガティヴ」と云ふことは實際的に不都合がございますれば、何時でも國會の制定した法律で之を奪ふことが出來るのでありまする、併しながら榮典と恩赦と此の大權には多年の經驗上何等不都合と云ふものを認めず、之を奪ふやうなことはして居らないのでございます、否、榮典と恩赦は、是は「キング」の名を以て與へる方が宜いと一般に考へられて居るのでございます、斯うした榮典とか恩赦とか云ふ所謂有難味と云ふものに、其の意味合がある行爲と云ふものは、政治的な對立と云ふものを、必然的に伴ふ政黨内閣の名に於て與へらる、よりも、日本國の象徴である天皇から直接戴くと云ふことに依つて、有難味と云ふものを増すのであります、政治の世界に於きまして、斯うした考慮と云ふものが必要なのであると考へます、さうして榮典に付きましては、直接天皇が與へられる建前になつて居りまするのですから、是と極めて類似する恩赦に關して同じ原則を採用して、天皇が之を行はれると云ふことに致しましても、政府原案の建前が崩れると云ふことには少しもならないのでございます、而も天皇が恩赦を行はれるのは、是は内閣の助言と承認に依り内閣の責任で行はれるのでありまするから、修正案に依つて齎さる、變化は形式だけでございまして、認證の場合に比して實質的に少しも天皇の大權を増すことにはならないのでございます、而も此の形式と云ふことが、恩赦のやうな場合には榮典の場合と等しく、特に重要なのでございます、以上の三つの提案は極めて合理的な修正であると信じます、それは一般の國際慣例にも合致し、立憲君主制の基本原理にも合致し、又民主主義憲法の精神にも少しも背反しないものであります、從つて内外共に其の妥當なことを認めることを確信するのでございます、私は此の修正案に對して皆樣の御贊成を御願ひしまして、私の説明を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=20
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021・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 討論の通告がございます、子爵大河内輝耕君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=21
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022・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 私は討論前に本案に對する政府の御意見を伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=22
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023・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 金森國務大臣
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=23
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024・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 高柳議員より詳細を籠めての修正案に付ての御主張がございました、伺ひますれば、仰せになりますることは、一々御尤もの如くに伺はれまするけれども、政府の考へまする所は、全然態度を異にして居る譯であります、今御修正にならうとする所は、此の憲法の持つて居る所の根本の原理を直ちに全部的に破壞するものであらうと私は信じて疑はないのであります、試みに申しまするが、第一に國際關係上、條約其の他のことに付て、特殊なるものを取らなければならぬ、私は固より國際關係を尊重致しまする、國際關係と云ふものは、國あつての國際關係であつて、國内秩序を先づ第一に考ふべきものであらうと思ひます、次に國内關係に於て、我々は度々色々な機會に於て申上げましたやうに、我々の過去の經驗、國民的な傳統的な忠君の思想を基礎と致しまして、天皇を飽く迄も御安泰の地位に御置き申上げなければならぬと信ずる次第であります(拍手)然るに斯樣な修正を致しまするならば、どうなりますか、過去の我々の經驗を再び繰返すことになることを信じて疑はない次第であります(拍手)更に是が國際關係にどう云ふ累を及すかと言へば、新らしき國内秩序を、日本が大いなる抱負を以て、新たなる國内政治を作りますならば、之に伴つて必要な國際慣例を發することを信じて疑はない次第であります、次に恩赦と榮典のことに付て仰せになりましたが、是は私は違ふのであります、榮典は天皇の御榮光を分ち與へると云ふ思想が、相當強き根源をなして居りますが故に、天皇が行はれるやうに此の憲法に於ては決めてある次第であります、併しながら特赦に付きましては、是は冷やかに言へば、立法權と司法權との間に於ける特殊なる偶然、或は其の他の事情に依つて起る諸關係を調節するものでありまして、全く政治的と云ふことが主眼である、勿論沿革的に言へば、特赦大赦は其の名の示すが如く、特殊なる意味はありまするけれども、冷やかに言へば、裁判所が間違つた場合之を是正する、或は一般の法規が特殊の場合に不合理であつた、之を是正する、其の他國に特別な、特殊な事情があつて、人心に特に影響を及すやうな場合に於て、恩赦をして犯罪の持つ或效果に大いなる影響を與へると云ふやうなことは、是は全く政治現象でありまして、之を以て若しも天皇の直接なる大權の御發動に委せまするならば、相次いで外の權能も亦悉く天皇の御大權に持つて來なければならぬ、我々が何を苦しんで此の憲法を改正せむとするかと云ふことが沒却されるのでありまして、是はどうか政府原案の如く御認を願ひたいと御願ひする次第であります(拍手)
〔子爵大河内輝耕君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=24
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025・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 度々御邪魔を申上げて相濟みませぬ、只今高柳博士から、非常に私に對する同情ある御言葉を頂戴致しまして、茲に感謝致します、又政府からは率直に意見を述べられまして、是亦感謝致す次第でござります、今政府から述べられましたので、私は何も申す必要はないのであります、併し一通り私は私としての意見もございます、少しの時間を拜借して茲に述べさして戴きたいと思ひます、先づ私は第六號の大赦、特赦、減刑の方から參ります、大赦、特赦、減刑と云ふものは、山田博士の御話でしたか、政治に關係がないと云ふ御話でありましたが、飛んでもない御話で、大赦、特赦、減刑をやり損へば、非常に社會に大問題を起して來ます、どうも此の前も何時でしたか、豫算が足りないからと云ふので、まだ餘り改悛の情十分でないやうな囚人を放つたことがあつて、非常に社會に惡い影響を與へました、斯う云ふやうに非常に政治上に惡い影響を與へる以上、之を天皇が遊ばすと云ふことになれば、世間の口に戸は立てられませぬ、どうしても事實は國體に惡い影響を與へることは、是は申す迄もないことと存じます、尚其の外に許されなかつた人の立場から見たら、どうでございませうか、外の人はどんどん許されても自分は許されないことになれば誰を怨むでせう、行ふ方はどなたでございませうか、怨まれる方はどなたでございませう、申す迄もないことであります、現に是は最近の例もございます、治安維持法の違反者の某は十七年も置かれて、外の者はどんどん出られるのに自分だけは出られなかつた、其の爲に怨み骨髓に達して、さうしてあの放送をした、あれは皆さん御聽きになりましたでせう、どれだけ國體に惡い影響を及したかと云ふことは、此の一事を以て明かであります、どうか一つ高柳博士にも、もう少し外部の影響を御考になつて、さうして此の惡い憲法を議する、此の困つた憲法を議する、涙を以て此の憲法を議する所のことを少し考へて戴きたい、なかなか手續だけの問題ぢやございませぬ、容易ならぬ影響を國體に及して參ります、幸ひにして第一條に於て國體は嚴として認められましたけれども、之を現行の憲法に比れば、大分異る所があるやうでございます、次に批准の方に入ります、只今高柳博士は、此の修正案は天皇の責任を加重するのぢやない、天皇の權限を擴めるのぢやないと仰せられましたが、私は小委員會に出席致しまして、皆さん方の御問答を聽いて居りました、大分高柳博士に對しては學者方から、専門家の方々から反對論がありました、是は天皇の權限を擴張することになる、さうして外交に於ける天皇の建前をすつかり變へてしまふことになると云ふやうな御議論もあつた、是は學者の間には意見が一致しないと云ふことを申上げても宜い、さうして是が世間に出ましたらどうでございませうか、學者は必ずしも高柳博士のやうな方ばかりはない、反對する人も大分あらうかと思ひます、殊に學者はそれで宜いと致しましても、世間の一般の議論はどうでございませう、世間の口には戸は立てられませぬ、それで憲法と云ふやうなものは、外の民法とか、刑法とか云ふものと違つて、世間の人の色々な議論で決るのが、是が通例でございます、それで世間の人は常識から考へてもさうだ、「認證」と言つても、「認證」と云ふ字は政府が餘程注意して考へて書いた、事實を御認めになることだけですから、それで宜しうございますが、それが「批准」になつたと言へば、是はどう考へても外交權は天皇に歸したと云ふやうに常識では考へられる、外のことを幾らうまく書いても駄目だ、何故かと云ふと、現行憲法でもちやんと「天皇は神聖にして侵すへからす」、「國務各大臣は天皇を輔弼し其の責に任す」と立派に書いてあつても、今度どれだけ國體に惡い影響を及したか、それを考へれば、はつきりした話であります、それで殊に此の頃は、世論が宜しくございませぬ、御承知の通り、熊澤某と云ふ者は、あんなことを申したが不起訴になつて居ります、それから休戰から少し間を置きまして、隨分えらい放送があつて、我々をして悲憤せしめた所の事件もございましたが、是も不起訴になつた、さう云ふやうな調子でございます、どうか一つ、此の案を議するに於きましては、如何に此の國體に惡い影響を及して居つたかと云ふことを一つ御反省になつて戴きたい、昨日も佐々木博士、其の他から御説明になりましたやうに、實に此の憲法と云ふものは、涙なくしては讀めない憲法でございます、現行憲法の一條から四條迄は無慚にも破壞された、併しそれは第一條がございますから宜しうございますが、國體に大なる影響を及したと云ふことは爭ふべからざる事實でございます、佐々木博士の歎ぜられる所も其處であらうと思ひます、私もそれに對しましては、昨日も申上げた通り、熱血胸の中に沸き返る覺えなきを得ない、此の思ひさへあれば、國際法の儀禮がどうであるとか、不便であるとか云ふやうな議論なんぞは一飛びに飛んでしまふ、詰り泣き樣が足りない、一口に言へばもつと泣かなければならぬ、此の憲法に對して、何故かさう云ふことを言ふ人は、斯うした喉元過ぎれば熱さを忘れるで、どうかなるだらうと云ふやうなことを言つて、又天皇の責任を重くするやうになるやうな、理論上なるかならぬかは姑く別と致しましても、なるやうな結果になるやうなことをおやりになれのはどう云ふ譯であるか、國内の世論のどうだ、其の通り外國關係を御考になつて見たらどうか、外國人には戸は立てられませぬ、外國は之を以て、定めし今度又、外交權は天皇に復歸して來たと云ふやうに考へるかも知れない、又都合の好い場合は…、さう云ふやうに理窟を附ければさう云ふことは始終ある、さうして天皇を目掛けて、惡い場合には攻撃して來る、斯う云ふことは、さう云ふ外國はありますまいが、國際關係に依つてどう云ふことが生じて來るか知れない、其の時に、是は國務大臣の責任を規定して居るから、天皇には責任はないよと言つた所で、そんな議論は通用致しませぬ、今度の戰爭で分つて居る、國務大臣の責任は歴然と書いてあるが、皆天皇が御責任を多少、ぢやない、大いに御受けになつて畏多い結果になつたことは、皆さん御承知の通りであります、同じ譯になります、どうしてこんなことを又繰返さうとするのであるか、例を擧げて見ますれば、今度の講和條約に、斯うなれば國民は天皇が講和條約をおやりになる、斯う云ふ風に考へる、さうして天皇に向つて色々な御願ひ、要求と云ふことをやるに違ひない、赤旗が坂下門を潛る時代である、何事か起るであらう、さうして外のものと違ひます、國際關係のものでございます、條約を總ての人が滿足するやうな、さう云ふ條約は出來やしませぬ、是には國民が皆不滿を持つ、條約に付ては、是は當り前のことで、相手あつての仕事ですから、政府が我々の考へてる五割なり、七八割行けば成功だ、是は條約の性質上當り前でせう、若しさう云ふやうな場合は、それはどなたに責任があるか、さう云ふ風に考へれば、必ず聖上に責任が歸する、事實どうしても畏多い所に持つて行つて、責任を歸し奉つて、それに對して何か言ふ者も出ようし、事に依つたら或一部の者などは、それを利用して何を始めるか分らない、誠に畏多い結果、國内はそれで宜いにしても、講和條約に限らないでも、どんな條約にしても、萬一第三國、外國に不信望な條約を結んだらどうでせう、外國に於ては遠慮なく、其の講和すべからざる所の、鉾先を向けて來るに相違ない、防ぎやうがありませぬ、さうしてどんなことを持ち出さぬとも限らぬ、是が政府の考へたやうに、「認證」であれば、唯事實其の儘認めただけだから、是で宜いと言ひます、それが「批准」としてしまつたらば、是は防ぎやうがない、水掛論になつてしまつて、結局向ふから押されるだけの話であります、非常に畏多い結果にならうかと存じます、御承知の通り今度の三國同盟條約、又其の他の其の後に於ける外交交渉は、憲法の命ずる如く、それは國務大臣の責任ではありますけれども、外國はさう見て居りませぬ、如何に此の條約が國體に累を及したものかと云ふことは明かなのであります、こんな憲法を議さなければならぬやうな、こんな所迄落されてしまつた、少し考へて見たら分る話ぢやございませぬか、それから今御話のやうに、日本の各國大使、公使は天皇を代表しなければ仕事がしにくい、出來ないと云ふことを仰しやる、國家を代表して仕事が出來ないと言ふ、大間違ひです、國家を代表して堂々とやれば宜い、萬一其の大使、公使がしくじつたらどうしますか、どなたが責任を負ひますか、天皇陛下の代表なりと言つた者が飛んでもないことをやつたらどうなりますか、現に例は駐獨の某大使にあります、此の方のやつた事が良いか惡いかは此處に論ずる限りではありませぬ、兎に角一般から戰犯の第一の責任者と見られて居る、如何に天子樣に惡い影響を及したらうか、是は言ふ迄もないことである、同樣に任命もさうです、任命を陛下に移さうと云ふやうな御案もありますけれども、ああ云ふやうな大使を御任命になつたら、責任は何處に歸著するでありませう、ああ云ふ方を御出しになるなんて甚だ怪しからぬと列國は言ふに違ひない、さう云ふ地位に陛下を陷れて、どうして我々が濟むでございませう、之に依つても状態は分つて居ります、實情を御覽になればすつかり分る、實情を無視して、さうして何でも法律の理窟ばかり、高柳博士の仰しやる通り、あの法律の理窟が世間一般に、誰にも彼にも通るのだと、斯う前提してしまへば、それきりでありますが、併しさうは參りませぬ、斯う云ふ風なことになつて來れば、決してさう云ふことには參りませぬ、國の内外を通じて、さう云ふ都合の好いやうな風に人を説得する譯には行きませぬ、なかなか學校の生徒が先生の答案を書くやうな譯に、皆一致して同じ文句など出る筈がありませぬ、それでは今手續があつて、そんなことは外國に對して失禮ぢやないか、斯う云ふ御話がある、天皇を代表にしないで、國家代表にしたら失禮ぢやないか、斯う云ふ御話もございますが、是は何が失禮なんでありますか、現に元首と云ふ御言葉も御使になりましたけれども、是は私は政府に度度尋ねましたが、元首とは申上げられない、元首と言へば、政治上の意味が大分深く入つて居りますから、元首とは申上げられない、併し私は政府からさう云ふ答を得て居るのです、併しそれは何れと致しましても、元首でない者が信任状を出して居る例、批准を出して居る例が「スイス」にあると云ふことは、今高柳博士も言明されて居る、それから日本と國情が違ひますが、「イギリス」を例として私は申上げませう、「イギリス」は「キング・イン・パーリアメント」が統治權を總攬するのであつて、即ち君民同治國であります、國は「ヴイートー」の權を持つて居ります、批准しよとしまいと勝手でございます、唯事實、行はなかつたと云ふだけであります、さうすると日本の統治權の總攬者は誰であるかと云ふことになりますと、是は政府にも御尋ねしましたし、又色々な著書でも私は參照致しましたが、統治權の總攬者と言ひ、主權者と言ふのは、或は最高權者と言つても宜いが、是は憲法の改正權を持つて居る機關がそれであるのだ、憲法の改正權さへ持つて居れば何でもやれます、之を統治權の總攬者と見るのが當り前である、是は何處の著書にも書いてあることであります、さうして日本の新らしい憲法を見ますると、「この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。」、此の改正憲法第九十六條に明定してありまする通り、議會と國民とが最高權者、詰り元の言葉で言へば、統治權の總攬者になつた、斯う見るより外仕方がない、それでありまするから、「イギリス」と日本とは國情が違ひますが「イギリス」は、「ヴイートー」の權を持つて居られる政府と議會と一緒に統治權を總攬して居られる、所謂元首の地位に居られる「キング」が之を出される、日本は議會國であります、君民同治國ではありませぬ、君臣同治國でない議會國でありまする以上、議會で指名された總理大臣、是が批准をしようが、信任状を出さうが、何もそれは失禮なことでもなければ何のこともない、當り前の話であります、今又、總理との御比較があつた、總理の任命を天皇が遊ばすやうになつて居るぢやないか、それならば責任は同じぢやないか、一應御尤もです、併し私は年來の主張、又此の憲法の上から言つて、此の前文にも、「國會における代表者を通じて、行動し、」、斯う云ふ風に一般に書いてありますやうに、議會政治を前提として居ります、議會政治である以上は、其の政黨の領袖が立つて内閣總理大臣になられることは分つて居る、さうである以上は、大概なる人は分つて居るのです、もう吉田總理がなられる前に、自由黨の總理になられるであらうと云ふことは、誰にも分つて居つたのです、縱令吉田總理はさう云ふことはなくても、さう云ふ方が非難を受けても、天皇陛下があ、云ふ人を御任命になつたから惡いなんと言ふ人はありませぬ、從來政黨の總裁で總理になられた、原總裁にしても、濱口總裁にしても、それは多少の非難はありました、非難はありましたが、ああ云ふ人を陛下が御任命になつたから惡いと言つた人は一人もありませぬ、あれが官僚内閣では、それは高柳さんの仰しやる通り危うございます、政黨内閣ではさう云ふことは斷じて起りませぬ、是が立憲政治、政黨内閣の有難い所で、今後それで行かなければならぬ、我々が憲政擁護を主張するのは、單に憲政擁護を主張するのぢやない、國體擁護を主張するのだと云ふことは、繰返し繰返し、度度述べて居る通りであります、殊に總理大臣は國内關係で、外國の大公使と云ふものは國際關係である、此の國際關係が一番恐いのです、國内關係の方は、まあ少しは累を及すやうなことがあつても、何とかなりますけれども、國際關係で累を及して來ると、何事が起つて來るか分りませぬ、其の點に於て大公使の任命と云ふことは決して御觸りになるべきものぢやない、さう私は信じます、以上の理由に依りまして、私は國體擁護の立場から天皇陛下をより御安泰な地位に御置き申したい、長く、長くぢやない、未來永劫第一條の國體が擁護されるやうにと云ふ、此の見地から、此の修正案に反對する者でございます、どうぞ宜しく御願ひ致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=25
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026・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 次の通告者は秋田三一君でございますが、秋田君は議席に居られませぬから、通告は放棄せられたものと認めます、子爵植村家治君
〔子爵植村家治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=26
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027・植村家治
○子爵植村家治君 私は簡單に今只の議員提出の本修正案に對しまして、極く簡單に贊意を表したいと思ふ者であります、此の度の憲法改正案は更正日本國に、新憲法の創定とも申すことになりまして、今日の時流下已むを得ず一日も早く原案の儘でも宜い、其の成立を早めて日本の誠意を見せるべきではありまするが、併し飜つて靜かに考へて見ますることも、是は國民の義務でありまして、今日の日本、假令完全なる獨立國でないとしましても、一國の憲法を制定する以上は篤と再考して、天皇の御地位を過去の誤りにのみ見過ぎまして、全法文、何れの條項にも天皇に其の責を歸し奉らむとして、餘りに物扱ひに致し、無能力化さすことのみに成文化し、其の御安泰を圖ることは徒に極端に過ぎまして畏多いと思ひます、(拍手)就いては本案の修正を私は見まして、せめて今日後の日本の外交上だけにでも權威附けられたるに其の意を強くするものであります、決して權限を擴大する意ではありませぬ、即ち日本の外交上其の儀禮を受くる、送くるの上に、對等の御地位に天皇を置き奉ることが誠に相應しいことでありまして、是が又國際慣例であらうと信じます、(拍手)是は或は提案者の趣旨御説明に重複を致しまするが、御許を願つて置きます、卑近な一つの例を申上げて甚だ恐れ入りまするが、我々の私交際上に於て、先方が其の主人より命ぜられたる代表を客として受ける、こちらは家令、家扶の命じた代表を送ると云ふことはどうもをかしな感じが致します、所謂交際慣例に反して、其の儀禮を紊して居ると思ふものであります、仍て天皇の御場合に於きましても、外國の元首が任命した大公使を御接受なさるならば、之を送る上にも日本の元首、御主と申しますか、其の象徴であらせらるる天皇が自ら先方の外國と同等の御鄭重さをなさることが當然でありまして、是が所謂國際儀禮、慣例を果す上には妥當なる御仕打と存じます、或は言ふ、此の條項中にも、天皇の任命により萬一、大公使に過あらば、一に天皇に其の責を歸し奉ることにならば大變であらうと申さるる方もあります、此の御考は、立憲國に於きましては非常識な御話であらうと私は思ひます、何でもかんでも其の責を天皇に歸一し奉ることのみに心配せらるるならば、本憲法第七條の、天皇は、内閣の助言と承認とに依りまして國務を行ふことの、此の條項の一つの中にでも、萬一誤りが生じますれば、全部其の責を御負ひ遊ばすことに或はなりはすまいかと思ひます、其の御心配の除去には、第七條全部を削つてしまはなければ御氣が濟まぬと云ふことになりはすまいかと思ひます、(拍手)仍て私は第七條が存する以上は、錦上に花を添へて、本修正案の如く、天皇の象徴たる御地位に相應はしく、せめて外交上だけにでも其の慣例を盡し得たる一定の事項を修正したるものとしての本案には私は滿腔の贊成を表する次第であります、(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=27
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028・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是にて討論は終結したるものと認めます、是より修正案の採決を致します、本修正は、二つに分けて採決致します、先づ問題と致しますことは、第七條第五號中「竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状」を削り、同條第八號中「批准書及び」を「國會の承認により内閣の締結した條約を批准すること竝びに」と改め、「その他の」の四字を削り、同條第九號中「外國の大使」の上に「内閣の指名に基いて大使、公使及び全權委員を任命すること竝びに」を加へる點でございます、以上の修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者少數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=28
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029・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 起立者三分の二ないと認めます(拍手)
〔子爵植村家治君發言の許可を求む〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=29
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030・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 植村子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=30
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031・植村家治
○子爵植村家治君 異議がございます
〔其の他「議長、異議あり」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=31
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032・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 異議がございました以上は、記名投票を以て表決を致します、先程問題に致しました修正に贊成の諸君は白票を、修正に反對の諸君は青票を、九條公爵より順次御登壇の上に、御投票を願ひます
〔投票執行〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=32
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033・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 投票漏はございませぬか……投票漏ないと認めます、是より投票を計算致させます
〔書記官投票を計算す〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=33
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034・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 投票の結果を報告致します、投票總數三百票、投票總數の三分の二は二百票でございます、可とするもの、白票七十二票、否とするもの、青票二百二十八票、右の結果可とするもの、三分の二以上に達しませぬ、即ち修正案は否決せられました(拍手起る)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=34
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035・会議録情報4
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〔參照〕
贊成 七十二名
反對 二百二十八名
贊成者氏名
公爵 岩倉具榮君 伯爵 二荒芳徳君
伯爵 清閑寺良貞君 伯爵 柳澤保承君
伯爵 橋本實斐君 伯爵 黒田清君
伯爵 大木喜福君 男爵 白根松介君
子爵 高橋是賢君 子爵 植村家治君
子爵 本多忠晃君 子爵 入江爲常君
子爵 伊集院兼高君 子爵 藤井兼誼君
子爵 齋藤齊君 子爵 稻葉正凱君
子爵 稻垣長賢君 子爵 井上勝英君
長岡半太郎君 白澤保美君
小山松吉君 山田三良君
姉崎正治君 林春雄君
中田薫君 河井彌八君
牧野英一君 荒川文六君
松村眞一郎君 羽田亨君
村上恭一君 下條康麿君
塩田廣重君 慶松勝左衞門君
男爵 松岡均平君 長谷川赳夫君
男爵 内海勝二君 高柳賢三君
男爵 岡俊二君 男爵 島津忠彦君
男爵 團伊能君 男爵 田中龍夫君
中川望君 三浦新七君
松嶋鹿夫君 田所美治君
澤田牛麿君 坂田幹太君
竹下豐次君 諸橋襄君
田島正雄君 稻畑勝太郎君
結城安次君 松尾國松君
瀧川儀作君 田島道治君
中島徳松君 三橋四郎次君
山隈康君 山地土佐太郎君
有馬忠三郎君 中島徳太郎君
水野甚次郎君 塩田團平君
中山太一君 岸本彦衞君
秋田三一君 上野喜左衞門君
長島銀藏君 岩元達一君
橋本萬右衞門君 高木八尺君
反對者氏名
公爵 九條道秀君 公爵 島津忠承君
公爵 桂廣太郎君 公爵 三條實春君
侯爵 細川護立君 侯爵 廣幡忠隆君
侯爵 中御門經恭君 侯爵 徳川頼貞君
侯爵 中山輔親君 侯爵 嵯峨實勝君
侯爵 黒田長禮君 侯爵 池田宣政君
侯爵 西郷吉之助君 侯爵 四條隆徳君
侯爵 鍋島直泰君 侯爵 大炊御門經輝君
侯爵 淺野長武君 侯爵 大久保利謙君
侯爵 前田利建君 侯爵 佐竹義榮君
伯爵 林博太郎君 伯爵 奧平昌恭君
伯爵 前田利男君 伯爵 後藤一藏君
伯爵 徳川宗敬君 伯爵 南部利英君
伯爵 宗武志君 伯爵 金子武麿君
伯爵 久松定武君 伯爵 東久世通忠君
伯爵 壬生基泰君 三土忠造君
男爵 幣原喜重郎君 子爵 西大路吉光君
子爵 今城定政君 子爵 岩下家一君
子爵 秋月種英君 子爵 大河内輝耕君
大谷正男君 子爵 加藤泰通君
子爵 秋元春朝君 子爵 松平乘統君
子爵 富小路隆直君 子爵 黒田長敬君
子爵 秋田重季君 子爵 森俊成君
子爵 戸澤正己君 子爵 織田信恒君
子爵 細川興治君 子爵 北小路三郎君
子爵 實吉純郎君 子爵 西尾忠方君
子爵 梅園篤彦君 子爵 安藤信昭君
子爵 内藤政光君 子爵 京極高修君
子爵 柳澤光治君 子爵 交野政邁君
子爵 高木正得君 子爵 大久保教尚君
子爵 永井直邦君 子爵 三島通陽君
子爵 六角英通君 子爵 瀧脇宏光君
子爵 北條雋八君 子爵 綾小路護君
子爵 仙石久英君 子爵 松平銑之助君
子爵 田中薫君 子爵 七條光明君
子爵 梅溪通虎君 子爵 錦小路頼孝君
子爵 水野勝邦君 子爵 松平親義君
子爵 土井利章君 子爵 鳥居忠博君
子爵 日野西資忠君 子爵 青木重夫君
子爵 朽木綱博君 子爵 伊東祐淳君
子爵 榊原政春君 子爵 三浦矢一君
子爵 京極高鋭君 子爵 三宅直胖君
子爵 植松雅俊君 子爵 牧野忠永君
田中館愛橘君 桑木嚴翼君
平塚廣義君 永井松三君
佐々木惣一君 出淵勝次君
男爵 久保田敬一君 男爵 今園國貞君
吉田久君 男爵 飯田精太郎君
霜山精一君 川村竹治君
男爵 高木喜寛君 男爵 高崎弓彦君
副島千八君 男爵 伊江朝助君
男爵 周布兼道君 白根竹介君
寺尾博君 安倍能成君
長世吉君 男爵 北島貴孝君
村上義一君 男爵 松本本松君
金森徳次郎君 男爵 徳川誠君
男爵 沖貞男君 男男 伊藤一郎君
男爵 奧田剛郎君 南原繁君
男爵 長基連君 男爵 松平外與麿君
男爵 稻田昌植君 男爵 鶴殿家勝君
男爵 尚琳君 男爵 松田正之君
男爵 中御門經民君 男爵 佐竹義履君
男爵 平山洋三郎君 男爵 八代五郎造君
男爵 中村貫之君 男爵 渡邊修二君
男爵 三須精一君 男爵 杉溪由言君
男爵 肝付兼英君 男爵 加藤成之君
男爵 岩村一木君 男爵 山根健男君
男爵 坊城俊賢君 男爵 松平齊光君
男爵 毛利元良君 男爵 内田敏雄君
男爵 多久龍三郎君 男爵 水谷川忠麿君
男爵 林忠一君 男爵 倉富鈞君
男爵 古市六三君 男爵 山名義鶴君
男爵 紀俊忠君 男爵 坂本大造君
男爵 北大路信明君 男爵 西酉乙君
男爵 小原謙太郎君 男爵 斯波正夫君
男爵 前島勘一郎君 男爵 宮原旭君
男爵 明石元長君 男爵 中村徹雄君
黒田英雄君 中村藤兵衞君
種田虎雄君 赤木正雄君
瀬古保次君 大木操君
飯沼一省君 大村清一君
入江俊郎君 木下謙次郎君
山崎延吉君 野村嘉六君
松本學君 井川忠雄君
木内四郎君 我妻榮君
古島一雄君 河合良成君
板谷宮吉君 安田伊左衞門君
石川一郎君 奧村嘉藏君
合田健吉君 井上篤太郎君
磯貝浩君 橋本辰二郎君
熊谷三太郎君 名取和作君
河西豐太郎君 小山完吾君
鹿島精一君 高橋龍太郎君
馬場恆吾君 田部長右衞門君
徳田昂平君 竹中藤右衞門君
伊藤傳七君 板倉卓造君
藍澤彌八君 作間耕逸君
中山壽彦君 畠山一清君
小野耕一君 片岡直方君
町村敬貴君 片倉兼太郎君
原田讓二君 河端作兵衞君
松岡潤吉君 齋藤万壽雄君
杤木嘉郎君 小汀利得君
名古屋三吉君 渡邉覺造君
岩淵辰雄君 飯塚知信君
佐々木長治君 野田六左衞門君
栗栖赳夫君 淺井清君
寺田甚吉君 江口文雄君
渡邊甚吉君 渡部信君
太田半六君 渡邊三郎君
佐藤惣之助君 萱野長知君
鏑木忠正君 杉山茂君
松尾嘉右ゑ門君 瀬川彌右衞門君
深田武雄君 伊藤豐次君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=35
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036・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 次に問題と致しますことは、第七條第六號中「認證すること」を「行ふこと」に改むる修正でございます、右修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者少數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=36
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037・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 起立者三分の二ないと認めます
〔子爵植村家治君發言の許可を求む〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=37
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038・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 植村子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=38
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039・植村家治
○子爵植村家治君 異議あります
〔「異議あり」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=39
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040・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議がございましたから、修正に反對の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=40
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041・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 宜しうございます、反對者の起立、三分の一以上と認めます、仍で修正案は否決せられました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=41
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042・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 次に牧野英一君外一名より提出せられました修正案を議題と致します、發議者に對し趣旨説明を許します、牧野英一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=42
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043・会議録情報5
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帝國憲法改正案に對する修正案
右議院法第二十九條に依り提出候也
昭和二十一年十月五日
發議者
牧野英一 田所美治
贊成者
侯爵 淺野長武 伯爵 清閑寺良貞
伯爵 柳澤保承 伯爵 黒田清
伯爵 後藤一藏 男爵 白根松介
子爵 西尾忠方 子爵 植村家治
姉崎正治 中田薫
河井彌八 村上恭一
男爵 飯田精太郎 下條康麿
男爵 松本本松 長谷川赳夫
男爵 肝付兼英 男爵 松平齊光
中川望 三浦新七
黒田英雄 中村藤兵衞
大木操 澤田牛麿
坂田幹太 松本學
諸橋襄 稻畑勝太郎
結城安次 松尾國松
瀧川儀作 菅澤重雄
中山太一 秋田三一
貴族院議長公爵 徳川家正殿
…………………………………
帝國憲法改正案中左の通修正す
第二十四條に第一項として左の如く加へる
家族生活はこれを尊重する。
━━━━━━━━━━━━━
〔牧野英一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=43
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044・牧野英一
○牧野英一君 私の提案は第二十四條に第一項として「家族生活は、これを尊重する。」と云ふのを加へて戴きたいと云ふのであります、其の理由としては既に御承知のことでありまして、今更特に申述べることは必要がないと考へます、委員會に於ける審議の次第は委員長の報告の如くであります、誠に遺憾ながら極めて少數の差で可決を見ることが出來なかつたのでありますが、其趣旨に於ては各委員の方々から厚意を持つて戴けたと私は信じて居るのでございする、それに又此の問題は衆議院に於ても大いに考慮せられた所であることは御承知の如くであります、此の第二十四條が婚姻に關して規定を設けて居ります、其の規定の趣旨は固より結構なことではございまするが、更に親子の關係も亦憲法の上に明かにして置かれることが希望に堪へないのでございまする、此の憲法改正案には指導的な規定、原理的な規定、教訓的な訓示的な規定が色々ありまして、是が此の改正案の顯著なる特色の一つを成して居るのであります、斯樣に色々各方面から周到な規定が設けられて居るにも拘らず、不幸にして家族生活の全體に亙る規定が漏れて居るのでございまする、是は固より民法に規定を置けばそれで足りるのではないかと云ふ風にも考へられる次第でございまするけれども、それならば婚姻に付ても同樣と云ふことになり得るものではありますまいか、而も婚姻に關する規定があつて、親子乃至家族生活全體に亙る規定が缺けて居りまする爲に、既に世上の一部には誠に意外にも粗暴な言語を以て遺憾なる思想を發表する人達が、而もそれを憲法改正案の精神であるとして、公然放言して居ると云ふやうなことになつて居るかに聞き及んで居りまする、のみならず不幸にも更に法律家の間にさへ其の誤解が相當に廣く行はれて居るやうに見受けて居りまする次第でござりまする、茲に申す迄もなく「父母に孝に兄弟に友に夫婦相和し」と云ふことが家族生活の本質であり、本體であり其の一つを缺いても既に家族生活を理解すると云ふことは出來ないことと心得ます、それで幸に家族生活の全體に亙つて之を尊重すると云ふ趣旨の規定が此の第二十四條の第一項に設けられまするならば、それを承けて更に次に、特に婚姻に關して規定を設けたと云ふことが、獨り其の趣旨に於て明白になるばかりではなく、其の精神に於て一層光を放ち、其の倫理的、社會的及び法律的意義を發揮することが出來ることになるのではないかと存じまする、是は獨り法律問題であるに止まりませぬ、更に教育上の問題であり、思想上の大きな問題と考へられます、教育勅語に付て委員長から報告がありました、あの報告の次第のやうに、若し考へて行かねばならぬと致しまするならば、此の規定が今憲法に於て明かにせられると云ふことは、餘程重大な意味があるものと考へて然るべきではござりますまいか、固より現行民法の戸主權中心の制度、是は所謂、封建的な色彩の濃厚なものでありまするし、又甚だしく實情に副はない點もありまするので、是は憲法が新たにせらる丶と共に、斷然改められねばならない譯でござりまするけれども、併し家族生活其のものは之を平和的に、之を民主的に保持し、矢張り依然十分之を尊敬し續けると云ふことがなければなりますまい、是は我が國の美風として考へられるばかりではござりませぬ、先進諸國に於ても此の點は矢張りやかましく論ぜられて居るのでありまして、實に人類普遍の法則であると言はねばなりませぬ、委員會に於て政府の所見として伺つた所では、斯樣な家族生活の尊重と云ふことは其の實體に付ては固より異存がないが、併しそれは餘りにも當然なことで、特に規定を設けて之を明かにすると云ふ必要はないであらうと云ふ御答であつたかに承知致して居ります、さりながら現に人心が兎角に荒んで居ります今日、忌はしいことの多い世相の眞中に於て、右述べましたやうな一種の誤解が、此の憲法改正の精神であるとして世に行はれて居るのでござりまするし、尚將來に亙つても斯樣な思想の世に蔓延るであらうと云ふことに對しては相當な用意を致して置くべきではなからうかと考へられるのであります、斯樣な問題は正に貴族院として特に考慮して置くべき問題なのではありますまいか、(拍手)尚斯樣な提案を申出でまするに付ては、心を配らねばならぬ方面のことも十分考へねばなりませぬが、此の點に付ては心配を致す必要なしと信ずる理由を持つて居りまするのでござります、今新たに憲法が出來上ります、新しい憲法が出來上りませうとするに付ては、是非それを完璧たらしめるが爲に此の修正案に付て滿堂の御贊成を切望致しまする次第でござります、尚此の問題に付きましては、委員會に於て政府の御所存を度々伺ひましたことでござりまするけれども、今日迄内閣總理大臣の御考を伺ふ機會がござりませぬでした、今日は幸ひ御出席になつて居りまするから、此の席で伺ふことが出來れば甚だ幸福に存じまする次第でござります(拍手起る)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=44
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045・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 金森國務大臣
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=45
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046・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 牧野委員から總理大臣に對して御尋になりましたのを私から御答へ申上げますることは恐縮でございまするが、是は實は衆議院に於て若干の關係を持つて居る問題でありまして、其の場面を存じて居りまするのは固より私の方が當面者でありまするが故に、暫く御言葉に對しまして私の言葉を以て一つ御返事を申上げて置きます、そこで仰せになりましたことは前々から敬承を致して居りました、第一に現在の夫婦制度を決めて居りまする第二十四條の規定があるならば、家族制度を規定に入れるが宜いではないか、斯う云ふ點でありまするが、是は非常に事情が違ふのでありまして、第二十四條の夫婦に關しまする規定は、是は全く憲法に書かなければ趣旨の貫かない規定でありまして、即ち婚姻に付ては合意のみに基礎を置く同等の權利を男女が持つて居る、或は又兩性の本質的なる平等と云ふやうな從來の思想と稍稍異る所の權利をはつきり憲法に決める、斯う云ふ點に於て非常に意味があるのであります、處が、此の家族制度の尊重に付きましては、是は日本在來の考が傳統的に變化はありまするにしても變化の仕方を自然に適ふやうに維持しつ、自ら適當なる所に行くものであらうと思ひまするが故に、此の際之を憲法に特に採入れる迄の必要はないと考へて居る次第であります、大體仰せの通り家族制度を尊重しますること自身に付て、現在の所に於て政府に於て何等の反對の意見のないことは固よりでありまするが、問題は之を憲法の規定の中に採入れるが良いか惡いかと云ふ問題になる譯であります、今囘御示しになりました案文に依りますると、家族生活を尊重すると云ふ御趣旨は誠に適當のやうに考へまするけれども、それが憲法の上にはつきりありましても、現在國民の持つて居る考と格別の差はないのであります、又それが憲法の中にありましても、將來の國民思想に對して確乎たる標準を與ふるだけの具體性はありませぬ、斯樣な問題は之を法律其の他の方法に依りまして、詳細に時代々々に適應して、今後十分なる規定を設けますることが妥當であると思つて居る次第であります、尚此の憲法の中に類似のことをもう少し入れたらどうかと云ふ論は澤山ございまして、それを入れますれば、此の憲法は相當内容を變化させなければなりませぬ、先程仰せになりました勅語の言葉を引いて「父母に孝に、兄弟に友に、」と云ふやうな風に仰せになりましたが、是は家族生活ばかりではありませぬ、家族生活を越えましても、尚それ等の徳目は守らなければならぬことは當然であります、それは憲法にははつきり規定致して居りませぬ、若しそれを規定致しまするならば勢ひそれに及ばなければなりませぬ、憲法に入れるが善いか惡いかと云ふことは、自然別問題であらうと考へます、尚もう一つ此の衆議院との關係に於て申上げたいのでありまするが、衆議院に於きまして此の趣旨の系統の色々な御質疑もあり、又之を以て修正の項目にしろと云ふやうな動きもあつたのであります、芦田委員長が衆議院本會議に於て報告されました中に付ても、是と稍稍類似の文字の規定でありまするが、此の家庭生活を保護すると云ふ案が出たらしいのであります、家庭生活と家族制度とは言葉は似て居りまするけれども、相當趣旨は違つて居るのでありまして、其の家庭生活と云ふ規定は、衆議院に於ては政府の申しまする所を御聽取になつたであらうと存じまするけれども、是は法律に依つて解決すべしと云ふ御結論になつて居ります、して見れば家族制度の方も同じやうな御取計らひを得ました方が是から先の憲法の成立に付きましての手順等から申しましても、非常に願はしい次第である、詰りは此の儘御通しを願つたら政府としては都合が好い、都合ばかり申上げては恐縮でございますが、左樣なことが私の考であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=46
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047・植村家治
○子爵植村家治君 議事進行に付て……、只今發議者は總理大臣、日本の首相としての御考はどうかと伺つて居られるのではないでせうか、國務大臣の代辯は多く聽いて居らる丶と思ひます、議長は首相に對する御考の答辯の御取計らひはなさらぬのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=47
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048・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=48
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049・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 御答へ致しますが、只今金森國務大臣の御答へ致しましたことは、即ち政府を代表しての御話でありまして、無論私に於ても同意見であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=49
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050・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 討論の通告がございます、子爵大河内輝耕君
〔子爵大河内輝耕君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=50
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051・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 度々色々な修正案が出ますので、私が度々此處で皆樣に御迷惑を掛けるので、何とも相濟みませぬが、どうか暫く一つ御待ちを願ひます、「父母に孝に、兄弟に友に、夫婦相和し、」何人も之に異議を挿むものは日本人一人もございますまい、又是は「之を古今に通して謬らす、之を中外に施して悖らす、」恐らく海外各國に於きましても、古今を通じて守られて來た道徳であらうと存じます、併しながら家族制度と云ふことになりますと、是はちよつと別な話でございます、何も西洋の眞似をしろと云ふ譯ではございませぬが、西洋では家族制度はございませぬ、「ホーム」と云ふのは誠に愉快にやつて居ります、「ホーム」、家庭と云ふものは愉快にやつて居りますが、家族制度はございませぬ、是は其の時々の國の風に依り、時代に依つて、國に依つて違ふのでございます、それで此の案はどう云ふ案かと拜見して見ますると云ふと、詰り家族制度を維持すると云ふことの案です、處が、今日本の状態はどうでございませうか、家を維持するとか、家をどうとかと云ふ觀念はずつと薄らいで居ります、殆ど私はもう大部分の人にはさう云ふ考はないと思ふ、尤も農村の一部、或は大きな華族さんの御家庭などには斯う云ふものはございます、まあ華族さんの御家庭などは此の爲にどの位御迷惑になつて居るか分りませぬ、そんなことは別として、そんなことは彼此言ふのぢやございませぬ、兎に角存じて居ることは事實なんだから、殘して置いて貰ひたい所は殘して置いて宜いぢやございませぬか、(「制度ぢやありませぬ」と呼ふ者あり)農村で殘して御置きになりたいと御考になれば殘して御置きになれば宜い、又御家庭に於て年來さう云ふ御風でやつて居られる方があれば、決して之を打壞すと云ふのではありませぬ、それであるから法律を以て之を打壞すと云ふことはいけない、我々も贊成致しませぬ、さうかと云つて法律を以て強ひて之を保存して永遠に迄傳へて行かうと云ふことは少し無理ぢやございませぬか、餘りに人爲的ではございませぬか、餘りに不自然ではございませぬか、是が將來にそれぢやどうなるかと云ふことを見ますと、民法改正案の内容に付て伺つて見ますると、戸主權は排除せられる、それから相續は均分相續になつて居る、家督相續は廢められる、それから財政上から見ますと、家を保つには相續税を置いちや駄目だ、どうしたつて五十萬から百萬位家産として置かなければ家を保てるものぢやない、併し相續税を減らすと云つても到底行はれるものではない、どんどん加重されるばかりだ、今度の財産税で皆が十萬圓位に減されてしまつては家を保つどころのものぢやない、極く大きな方は別として普通の家ぢや出來やしませぬ、斯う云ふ風な傾向が多い、家と云ふものは到底保ち得ないと云ふ風に大勢がどんどん行つてしまつて居る、現在保てと言つても保てやしない、是は「ピーアス」の制度も、是も大變同情の御方があつて保存して置いたら宜からうと云ふ御話がございましたけれども、どうも社會の大勢上是は許されない、善い惡いは別として保存することは出來ないし、我々も之を廢止することに贊成致しましたのですが、同じやうな理窟で之を段々にどうも維持しにくくなる、現に今日と雖も世間に行はれて居ない、無理に之を行はせようとすれば、世間の實情と遊離した立法をしなければならぬと云ふやうな始末でございますから、まあまあこんな問題は憲法などでは構はないで置いて、さうして民法以下の規定に於て時勢に應じ、所に從つて相當な規定を設けられたら宜からうと思ひます、此の意味に於きまして私は本案に反對を致します(「「ロヂック」が通りませぬ」と呼ふ者あり)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=51
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052・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是にて討論は終結したるものと認めます、是より修正案の採決を致します、修正案に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者……〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=52
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053・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 確認致し難うございますから、記名投票を以て票決を致します、就きましては只今の修正案に對し贊成の諸君は白票を、修正に反對の諸君は青票を九條公爵より順次御登壇の上御投票を請ひます
〔投票執行〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=53
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054・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 投票漏はございませぬか、……投票漏ないと認めます、是より投票を計算致させます
〔書記官投票を計算す〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=54
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055・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 投票の結果を報告致します、投票總數三百票、投票總數の三分の二は二百票でございます、可とするもの白票百六十五票、否とするもの青票百三十五票、右の結果可とするもの三分の二に逹しませぬ、即ち修正案は否決せられました(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=55
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056・会議録情報6
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〔參照〕
贊成 百六十五名
反對 百三十五名
贊成者氏名
公爵 九條道秀君 公爵 島津忠承君
公爵 岩倉具榮君 公爵 桂廣太郎君
公爵 三條實春君 侯爵 廣幡忠隆君
侯爵 中御門經恭君 侯爵 徳川頼貞君
侯爵 中山輔親君 侯爵 嵯峨實勝君
侯爵 黒田長禮君 侯爵 池田宣政君
侯爵 西郷吉之助君 侯爵 四條隆徳君
侯爵 鍋島直泰君 侯爵 淺野長武君
侯爵 大久保利謙君 侯爵 前田利建君
侯爵 佐竹義榮君 伯爵 清閑寺良貞君
伯爵 柳澤保承君 伯爵 橋本實斐君
伯爵 黒田清君 伯爵 後藤一藏君
伯爵 大木喜福君 伯爵 南部利英君
伯爵 宗武志君 伯爵 久松定武君
伯爵 東久世通忠君 伯爵 壬生基泰君
大谷正男君 子爵 白根松介君
子爵 秋元春朝君 子爵 松平乘統君
子爵 富小路隆直君 子爵 細川興治君
子爵 北小路三郎君 子爵 高橋是賢君
子爵 西尾忠方君 子爵 植村家治君
子爵 梅園篤彦君 子爵 安藤昭信君
子爵 内藤政光君 子爵 本多忠晃君
子爵 六角英通君 子爵 綾小路護君
子爵 藤井兼誼君 子爵 田中薫君
子爵 齋藤齊君 子爵 七條光明君
子爵 梅溪通虎君 子爵 錦小路頼孝君
子爵 稻垣長賢君 子爵 日野西資忠君
子爵 三浦矢一君 子爵 三宅直胖君
子爵 植松雅俊君 子爵 牧野忠永君
子爵 井上勝英君 田中館愛橘君
長岡半太郎君 白澤保美君
小山松吉君 山田三良君
姉崎正治君 林春雄君
中田薫君 河井彌八君
牧野英一君 松村眞一郎君
羽田亨君君 男爵 今園國貞君
村上恭一君 男爵 飯田精太郎君
下條康麿君 塩田廣重君
男爵 松岡均平君 男爵 伊江朝助君
男爵 周布兼道君 男爵 北島貴孝君
男爵 松本本松君 長谷川赳夫君
男爵 内海勝二君 高柳賢三君
男爵 奧田剛郎君 南原繁君
男爵 稻田昌植君 男爵 尚琳君
男爵 平山洋三郎君 男爵 八代五郎造君
男爵 三須精一君 男爵 肝付兼英君
男爵 加藤成之君 男爵 岩村一木君
男爵 山根健男君 男爵 松平齊光君
男爵 毛利元良君 男爵 岡俊二君
男爵 島津忠彦君 男爵 水谷川忠麿君
男爵 倉富鈞君 男爵 古市六三君
男爵 山名義鶴君 男爵 紀俊忠君
男爵 村田保定君 男爵 前島勘一郎君
男爵 宮原旭君 男爵 明石元長君
男爵 田中龍夫君 中川望君
三浦新七君 黒田英雄君
中村藤兵衞君 大木操君
田所美治君 澤田牛麿君
坂田幹太君 松本學君
竹下豐次君 井川忠雄君
諸橋襄君 板谷順助君
田島正雄君 稻畑勝太郎君
結城安次君 松尾國松君
瀧川儀作君 板谷宮吉君
磯貝浩君 橋本辰二郎君
山隈康君 河西豐太郎君
田部長右衞門君 竹中藤右衞門君
伊藤傳七君 山地土佐太郎君
有馬忠三郎君 藍澤彌八君
中島徳太郎君 水野甚次郎君
塩田團平君 中山太一君
畠山一清君 小野耕一君
町村敬貴君 岸本彦衞君
松岡潤吉君 齋藤万壽雄君
渡邉覺造君 佐々木長治君
野田六左衞門君 秋田三一君
栗栖赳夫君 江口文雄君
上野喜左衞門君 長島銀藏君
岩元達一君 渡部信君
太田半六君 渡邊三郎君
佐藤惣之助君 橋本萬右衞門君
高木八尺君 杉山茂君
反對者氏名
侯爵 細川護立君 侯爵 大炊御門經輝君
伯爵 林博太郎君 伯爵 奧平昌恭君
伯爵 二荒芳徳君 伯爵 前田利男君
伯爵 徳川宗敬君 伯爵 金子武麿君
三土忠造君 男爵 幣原喜重郎君
子爵 西大路吉光君 子爵 今城定政君
子爵 岩下家一君 子爵 秋月種英君
子爵 大河内輝耕君 子爵 加藤泰通君
子爵 黒田長敬君 子爵 秋田重季君
子爵 森俊成君 子爵 戸澤正己君
子爵 織田信恒君 子爵 實吉純郎君
子爵 京極高修君 子爵 柳澤光治君
子爵 交野政邁君 子爵 高木正得君
子爵 大久保教尚君 子爵 永井直邦君
子爵 三島通陽君 子爵 瀧脇宏光君
子爵 北條雋八君 子爵 入江爲常君
子爵 仙石久英君 子爵 伊集院兼高君
子爵 松平銑之助君 子爵 水野勝邦君
子爵 松平親義君 子爵 稻葉正凱君
子爵 土井利章君 子爵 鳥居忠博君
子爵 青木重夫君 子爵 朽木綱博君
子爵 伊東祐淳君 子爵 榊原政春君
子爵 京極高鋭君 犬塚勝太郎君
桑木嚴翼君 平塚廣義君
永井松三君 佐々木惣一君
出淵勝次君 吉田茂君
荒川文六君 男爵 久保田敬一君
吉田久君 霜山精一君
川村竹治君 男爵 高木喜寛君
慶松勝左衞門君 男爵 高崎弓彦君
副島千八君 白根竹介君
寺尾博君 安倍能成君
長世吉君 村上義一君
金森徳次郎君 男爵 徳川誠君
男爵 沖貞男君 男爵 伊藤一郎君
男爵 長基連君 男爵 松平外與麿君
男爵 鶴殿家勝君 男爵 松田正之君
男爵 中御門經民君 男爵 中村貫之君
男爵 渡邊修二君 男爵 杉溪由言君
男爵 坊城俊賢君 男爵 内田敏雄君
男爵 多久龍三郎君 男爵 林忠一君
男爵 坂本大造君 男爵 北大路信明君
男爵 西酉乙君 男爵 小原謙太郎君
男爵 斯波正夫君 男爵 中村徹雄君
種田虎雄君 瀬古保次君
松嶋鹿夫君 飯沼一省君
大村清一君 入江俊郎君
木下謙次郎君 山崎延吉君
野村嘉六君 木内四郎君
我妻榮君 古島一雄君
田島道治君 安田伊左衞門君
石川一郎君 中島徳松君
三橋四郎次君 奧村嘉藏君
合田健吉君 井上篤太郎君
熊谷三太郎君 名取和作君
小山完吾君 鹿島精一君
高橋龍太郎君 徳田昂平君
板倉卓造君 作間耕昂君
中山壽彦君 片岡直方君
原田讓二君 河端作兵衞君
山本勇造君 杤木嘉郎君
小汀利得君 名古屋三吉君
岩淵辰雄君 飯塚知信君
淺井清君 寺田甚吉君
渡邊甚吉君 萱野長知君
鏑木忠正君 松尾嘉右ゑ門君
瀬川彌右衞門君 深田武雄君
伊藤豐次君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=56
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057・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より委員會の修正に係る部分を採決致します、先づ前文を問題に供します、委員會の修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=57
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058・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て委員會の修正通り決しました、次に第十五條を問題に供します、委員會の修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=58
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059・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て委員會の修正通り決しました、次に第五十九條を問題に供します、委員會の修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=59
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060・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て委員會の修正通り決しました、次に第六十六條を問題に供します、委員會の修正に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=60
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061・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て委員會の修正通り決しました、是にて委員會の修正に係る修正案全部の採決を終りました、次に只今迄に可決せられました修正箇所を除く殘り全部を問題に供します、殘り全部原案即ち衆議院送付案に贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=61
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062・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、仍て原案通り可決せられました(拍手起る)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=62
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063・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是にて第二讀會を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=63
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064・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=64
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065・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=65
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066・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=66
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067・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=67
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068・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部第二讀會の決議通りに議決することに贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=68
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069・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 起立者三分の二以上と認めます、仍て第二讀會の決議通り決しました(拍手起る)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=69
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070・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 内閣總理大臣より發言を求められて居ります、吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=70
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071・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 只今本院に於て憲法改正案が可決せられました、此の機會に政府を代表致しまして一言御挨拶を申述べたいと思ひます、去る八月二十六日衆議院より送付せられました憲法改正案が本院に上程せられまして以來、本會議委員會等を通じ、議員各位が終始愼重且熱心な御努力に對しましては、心から政府と致しまして敬意を表する次第であります、申す迄もなく本案は新日本建設の礎石を築き、世界平和を招來せむとするものでありまして、本院に於ける議員各位の御發言は、即ち國民の知識階級の總意を代表するものとしまして、内外に反響をし、本案の意義特色を能く内外に了解せしめたことと確信して疑はないのであります、誠に欣快に堪へない所であります、本案は是より更に衆議院の審議に付せられることとなるのでありまするが、茲に議員各位の御努力に對して、政府と致しまして感謝の意を表する次第であります(拍手起る)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=71
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072・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是にて帝國憲法改正案を議了致しました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=72
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073・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第二、競馬法の一部を改正する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、和田農林大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=73
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074・会議録情報7
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競馬法の一部を改正する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議員法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月三日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵 徳川家正殿
…………………………………
競馬法の一部を改正する法律案
競馬法の一部を次のやうに改正する。
第四條第二項及び第三項を削る。
第六條第一項中「十倍」を「百倍」に改める。
第三十五條第一號中「第一項又は第二項」を削る。
第三十六條第一號中「第一項又は第二項」を削り、同條中第三號を削り、第四號を第三號とする。
第三十八條第一項中「三百圓」を「二千圓」に改める。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
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〔國務大臣和田博雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=74
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075・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 只今提案せられました、競馬法の一部を改正する法律案の提案理由を御説明申上げます、御承知のやうに競馬の施行は、馬事思想の普及と共に、浮動購買力を吸收致しまして、通貨の縮小に資する所が極めて大きなものがございます、從ひまして此の觀點から殊に現下の經濟事情に鑑みまして、現行競馬法の中の馬券の發賣及び讓渡に關する制限を緩和致しますると共に、拂戻金の限度を擴張し、以て刻下の通貨對策の一翼としまして、競馬法を活用致しまする爲に、今囘競馬法の一部を改正致したいと存ずるのでございます、即ち改正の第一點は、馬券の一人當り發賣枚數を一枚と云ふ制限及び其の讓渡禁止を撤廢せむとするものでございます、第二は、拂戻金を從來、券面金額の十倍でありましたのを、百倍に致したいと存ずるのでございます、第三は、第一に關聯致しまする罰則の廢止、第四點は、日本競馬會の役員に對しまする贈賄罪の罰金三百圓以下を二千圓以下と改正することでございます、以上が、此の法律案の内容であります、尚以上の改正は、過日、本議會を通過致しました地方競馬法の内容と歩調を一にする爲でございます、何卒御審議の上、速かに御協贊あらむことを御願い致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=75
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076・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案に付きましては、政府より議院法第二十七條但書、及び第二十八條但書に依り緊急議決の要求に接して居ります、三讀會の順序を省略するの件に付御諮りを致します、讀會の順序を省略することに同意の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=76
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077・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 三分の二以上と認めます、委員の審査は、政府の要求に依り、之を行はざることに致します
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=77
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078・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御發言もなければ是より採決を致します、本案全部を問題に供共します、全部原案通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=78
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079・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=79
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080・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第三、貿易資金特別會計法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=80
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081・会議録情報8
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貿易資金特別會計法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
貿易資金特別會計法案
貿易資金特別會計法
第一條 貿易資金を置き、その歳入歳出は、これを一般の會計と區分して、特別會計を設置する。
第二條 貿易資金は、昭和二十年法律第五十三號第二條の規定による貿易資金を以て、これに充てる。
貿易資金に不足を生じたときは、政府はこの會計の負擔で大藏省預金部又は日本銀行から借入金をして、一時これを補足することができる。但し、その金額は、五十億圓を越えることはできない。
前項の借入金は、一年以内にこれを償還するものとする。
第三條 貿易資金は、これを貿易物資及びその取引に基く請求權に運用するの外勅令の定めるものに運用することができる。
政府は、貿易資金の運用に關する事務を、日本銀行に取り扱はせることができる。
第四條 貿易資金の運用によつて、利益を生じたときは、これを翌年度の歳入に繰り入れ、損失を生じたときは、これを翌年度の歳出を以て補填する。
第五條 この會計においては、前條の規定による運用益金、第六條の規定による借入金、第七條の規定による一般會計からの繰入金及び附屬雜收入を以てその歳入とし、命令で定める貿易物資の管理及び處分に要する特別經費、事務取扱費、資金運用手數料、第六條の規定による借入金の償還金、第七條の規定による一般會計への繰入金、借入金の利子、前條の規定による資金補填金及び附屬諸費を以てその歳出とする。
第六條 この會計で、前條に規定する貿易物資の管理及び處分に要する特別經費、事務取扱費、資金運用手數料、借入金の利子及び附屬諸費を支辨するため必要があるときは、政府は、同會計の負擔で大藏省預金部又は日本銀行から借入金をすることができる。
前項の借入金は、一年以内にこれを償還するものとする。
第七條 この會計において、損益計算上過剩を生じたときは、これを一般會計の歳入に繰り入れ、不足を生じたときは、これを一般會計の歳出を以て補填する。
第八條 政府は、毎年この會計の歳入歳出豫算を調整して、歳入歳出の總豫算とともに、これを帝國議會に提出しなければならない。
前項の歳入歳出豫算には、貿易資金の當該年度の運用計畫表及び貿易資金の前年度の豫定損益計算表を添附するものとする。
第九條 この會計の收入支出竝びに第四條の規定による運用による利益又は損失及び第七條の規定による過剩又は不足の計算に關する規程は、勅令を以てこれを定める。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
昭和二十年法律第五十三號は、これを廢止する。
前項の法律廢止の際、同法の貿易資金に關する權利義務は、これをこの會計に歸屬せしめ、同法廢止の際、現に存する同法第三條第一項の規定による借入金は、これを第二條第二項の規定による借入金でこの法律施行の日に借り入れたものとみなす。
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〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=81
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082・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました貿易資金特別會計法案提出の理由を御説明申上げます、現在政府で行つて居ります貿易の經理に付きましては、昨年十二月に貿易資金設置に關する法律を制定致しまして、貿易資金を設け輸出物資の買入及び輸入物資の賣拂等を此の資金の運用として行ひました、之に伴う歳入歳出を爲替交易調整特別會計の所屬と致して居つたのでありますが、之を今囘貿易に關する經理を一層圓滑に致すと共に、其の明確を期します爲に、從來の貿易資金設置に關する法律を此の際廢止致しまして、新たに獨立の特別會計を設け貿易の運營を一層圓滑にするのを適當と認めまして、茲に此の法律案を提出致しました次第であります、何卒御審議の上、速かに御協贊を與へらむことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=82
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083・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました貿易資金特別會計法案は其の特別委員を二十五名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=83
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084・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=84
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085・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=85
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086・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます、
〔根本書記官朗讀〕
貿易資金特別會計法案特別委員
公爵 桂廣太郎君 公爵 三條實春君
侯爵 前田利健君 伯爵 大木喜福君
子爵 植村家治君 子爵 入江爲常君
子爵 伊集院兼高君 子爵 土井利章君
子爵 三浦矢一君 姉崎正治君
男爵 肝付兼英君 男爵 山名義鶴君
男爵 坂本大造君 男爵 小原謙太郎君
男爵 田中龍夫君 中村藤兵衞君
井川忠雄君 川上嘉市君
合田健吉君 中山太一君
畠山一清君 太田半六君
渡邊三郎君 鏑木忠正君
松尾嘉右衞門君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=86
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087・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第四、産業復興營團法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、星島商工大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=87
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088・会議録情報9
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産業復興營團法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
産業復興營團法案
産業復興營團法
第一章 總則
第一條 産業復興營團は、經濟安定本部總裁の定める基本的な産業政策及び産業計畫に從ひ、産業設備又は資材の整備又は活用を圖り、以て産業の速かな復興を促進することを目的とする。
産業復興營團は、法人とする。
第二條 産業復興營團は、主たる事務所を東京都に置く。
産業復興營團は、主務大臣の認可を受けて、必要の地に從たる事務所を設ける事ができる。
第三條 産業復興榮團の資本金は、二億圓とする。
第四條 政府は、二億圓を産業復興營團に出資しなければならない。
第五條 産業復興營團は、定款を以て、左の事項を規定しなければならない。
一 目的
二 名稱
三 事務所の所在地
四 資本金額に關する事項
五 役員に關する事項
六 業務及びその執行に關する事項
七 會計に關する事項
八 公告の方法
定款は、主務大臣の認可を受けて、これを變更することができる。
第六條 産業復興營團は、勅令の定めるところにより、登記しなければならない。
前項の規定によつて登記を必要とする事項は、登記の後でなければ、これを以て第三者に對抗することができない。
第七條 産業復興營團には、所得税、 法人税及び營業税を課さない。
都道府縣、市町村その他これに準ずるものは、産業復興營團の事業に對しては、地方税を課することができない。但し、特別の事情に基いて、内務大臣及び大藏大臣の認可を受けた場合にはこの限りでない。
第八條 産業復興營團が第十五條第一號又は第二號の業務のため、不動産に關する權利の取得又は所有權の保存について登記を受けた場合には、その登録税の額は、不動産の價格の千分の一・五とする。
第九條 産業復興營團について解散を必要とする事由が發生した場合において、その處置については、別に法律でこれを定める。
第十條 産業復興營團でない者は、産業復興營團又はこれに類似する名稱を用ひることができない。
第二章 役員
第十一條 産業復興營團に、役員として、理事長副理事長各一人、理事二人以上及び監事一人以上を置く。
理事長は、産業復興營團を代表し、その業務を總理する。
副理事長は、定款の定めるところにより、産業復興營團を代表し、理事長を輔佐して産業復興營團の業務を掌理し、理事長に事故あるときにはその職務を代理し、理事長が缺員のときにはその職務を行ふ。
理事は、定款の定めるところにより、産業復興營團を代表し、理事長及び副理事長を輔佐して産業復興營團の業務を掌理し、理事長及び副理事長に事故のあるときにはその職務を代理し、理事長及び副理事長が缺員のときにはその職務を行ふ。
監事は、産業復興營團の業務を監査する。
第十二條 理事長、副理事長、理事及び監事は、政府がこれを任命する。
理事長、副理事長及び理事の任期は三年、監事の任期は二年とする。
第十三條 理事長、副理事長及び理事は、定款の定めるところにより、主たる事務所又は從たる事務所の業務に關して一切の裁判上又は裁判外の行爲をする權限を有する代理人を選任することができる。
第十四條 理事長、副理事長及び理事は、他の職業に從事することができない。
第三章 業務
第十五條 産業復興營團は、經濟安定本部總裁の定める基本的な産業政策及び産業計畫に基いて主務大臣のなす指導及び監督に從ひ、左の業務を行ふ。
一 經濟安定本部總裁が定める方策に基く産業設備の建設及びその貸付又は賣渡
二 經濟安定本部總裁が定める方策に基く産業設備又は資材の買受及びその貸付又は賣渡
三 經濟安定本部總裁が定める方策に基く産業設備營團の所有する産業設備又は資材の貸付先又は賣渡先の決定
第十六條 産業復興營團は、業務開始の際、業務の方法を定めて、主務大臣の認可を受けなければならない。これを變更しようとするときも同樣である。
第十七條 産業復興營團は、毎事業年度の初において事業計畫を定め、主務大臣の認可を受けなければならない。これを變更しようとするときも同樣である。
第十八條 産業復興營團が第十五條に規定する業務を行ふため必要とする資金は、復興金融金庫から、その融資に關する規定に從つて融通を受けなければならない。
産業復興營團は、前項の規定にかかはらず、復興金融金庫の承認を受けて、復興金融金庫以外の者から資金の融通を受けることができる。
産業復興營團は、昭和二十三年四月一日以後、あらたに前二項に規定する資金の融通を求めることができない。
第四章 會計 第十九條 産業復興營團の事業年度は、毎年四月から翌年三月までとする。
第二十條 産業復興營團は、毎事業年度に財産目録、貸借對照表及び損益計算書を作成し、毎事業年度經過後二箇月以内に、これを主務大臣に提出して承認を受けなければならない。
産業復興營團は、前項の規定による承認を受けたときには、その財産目録、貸借對照表及び損益計算書を公告し、且つこれを定款とともに、各事務所に備へて置かなければならない。
第二十一條 産業復興營團が剩餘金を處分しようとするときには、主務大臣の承認を受けなければならない。
第五章 監督
第二十二條 主務大臣は、必要があると認めるときには、産業復興營團に對して、監督上必要な命令をなすことができる。
主務大臣は、必要があると認めるときには、産業復興營團又は産業復興營團から産業設備若しくは資材の貸付を受ける者に對して、報告をさせ、又は當該官吏に、必要な場所に臨檢し、業務の状況若しくは帳簿、書類その他必要な物件を檢査させることができる。
前項の規定により、當該官吏に臨檢檢査させる場合には、命令の定めるところにより、その身分を示す證票を携帶させなければならない。
第二十三條 産業復興營團は、役員の給與に關する規程を作成し、主務大臣の認可を受けなければならない。これを變更しようするときも同樣である。
産業復興營團は、前項の認可を受けたときには、その旨及び當該規程の内容を公告しなければならない。
第二十四條 政府は、産業復興營團の役員が法令若しくは定款又はこの法律に基いてなす命令に違反し、又は公益を害する行爲をしたときには、これを解任することができる。
第六章 罰則
第二十五條 第二十二條第二項の規定に違反して報告をせず、若しくは虚僞の報告をし、又は檢査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、これを六箇月以下の懲役又は五千圓以下の罰金に處する。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者がその法人又は人の業務に關して第二十二條第二項の規定に違反して報告をせず、又は虚僞の報告をしたときには、行爲者を罰する外、その法人又は人に對しても前項の罰金刑を科する。
第二十六條 左の場合においては、産業復興營團の理事長、副理事長、理事又は監事は、これを五千圓以下の過料に處する。
一 この法律によつて主務大臣の認可又は承認を受けなければならない場合においてその認可又は承認を受けなかつたとき。
二 この法律に規定されてゐない業務を行つたとき。
三 第二十二條第一項に規定する主務大臣の監督上の命令に違反したとき。
第二十七條 左の場合においては、産業復興營團の理事長、副理事長、理事又は監事は、これを二千五百圓以下の過料に處する。
一 この法律又はこの法律に基いて發する勅令に違反して登記をすることを怠つたとき。
二 第二十條第二項の規定に違反して書類を備へて置かないとき、又はその書類に不正の記載をしたとき。
三 第二十條第二項又は第二十三條第二項の規定による公告をすることを怠り、又は不正の公告をしたとき。
第二十八條 第十條の規定に違反して、産業復興營團又はこれに類似する名稱を用ひた者は、これを一萬圓以下の過料に處する。
附 則
第二十九條 この法律施行の期日は、各規定について、勅令でこれを定める。
第三十條 産業設備營團法(以下舊法といふ。)は、これを廢止する。
但し、産業設備營團の清算について、及び舊法廢止前に舊法に基いてなした行爲に關する罰則の適用については、舊法は、その廢止後もなほその效力を有する。
第三十一條 産業設備營團は、舊法廢止の時において、解散する。
産業設備營團の清算は、産業復興營團理事長が、その清算人となり、これを行ふ。
産業設備營團に、會社經理應急措置法又は企業再建整備法の規定を準用した場合において必要があるときは、準用した會社經理應急措置法又は、企業再建整備法の規定につき、勅令で別段の定をなすことができる。
前二項に定めるものの外、産業設備營團の清算に關し必要な事項は、勅令でこれを定める。
第三十二條 政府は設立委員を命じて、産業復興營團の設立に關する事務を處理させる。
第三十三條 設立委員は、定款を作成して、主務大臣の認可を受けなければならない。
前項の認可があつたときには、設立委員は、遲滯なく出資の拂込を禀請しなければならない。
第三十四條 出資の拂込があつたときには、設立委員は、遲滯なくその事務を産業復興營團理事長に引き繼がなければならない。
理事長が前項の事務の引繼を受けたときには、理事長、副理事長、理事及び監事の全員は、遲滯なく設立の登記をしなければならない。
産業復興營團は、設立の登記をすることによつて成立する。
第三十五條 産業復興營團でない者で、この法律施行の際現に産業復興營團又はこれに類似する名稱を用ひてゐるものについては、この法律施行後六箇月を限り、第十條の規定を適用しない。
第三十六條 登録税法の一部を、次のやうに改正する。
第十九條第七號中「産業設備營團、」の下に「産業復興營團、」を、「産業設備營團法、」の下に「産業復興營團法、」を加へる。
第三十七條 印紙税法の一部を、次のやうに改正する。
第五條第六號の五の次に、左の一號を加へる。
六の五の二 産業復興營團の業務に關する證書帳簿
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〔國務大臣 星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=88
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089・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 産業復興營團法案の提案理由を御説明致します、戰後に於ける産業の速かな復興は、當面焦眉の急務でありますが、多年の戰爭經濟に伴ひまする民需産業の全面的な衰頽竝に廣範圍に亙る産業施設の戰災等に依りまして、當面緊要な生産の達成を圖りまする爲にも、産業設備の補修、改造、復舊、更新等、之が整備竝に擴充を急速に必要と致す實情にあるのであります、一面軍需産業等に殘存致して居りまする産業設備及び資材に付きましては、其の大部分が必ずしも未だ十分活用の道を講じられて居ない現状でありまして、是等の設備、資材に付きましても、其の活用配分等の爲強力な操作を行ふの必要があるのであります、然るに是等の設備資材の整備活用は、現下の經濟情勢下に於きましては、必ずしも企業の自發的な創意活動のみに俟つことを許さない實情が見受けられるのでありまして、特に財閥の解體等に依る大企業の倒壞の後を承けまして、健全且清新な中小企業の出現を育成致しまする爲には、茲に強力なる産業振興の方途を講ずる必要があるのであります、仍て之が爲一方に精密且果斷の政策及び計畫を策定致しますると共に、小此の方策を擔つて産業設備の整備活用に挺身すべき機關を創設致しまして、以て必要とせられむとする産業振興方策の具體的な實現を期したいと存ずる次第であります、茲に提案致しましたる産業復興營團法案は專ら右の趣旨を體しまして戰時經濟の終結に伴い一應任務の完了致しました産業設備營團は之を整理解散致しますると共に、新たに之に代へて産業復興營團を設立致し、以て戰時補償特別措置法──等別に提案致しました一連の特別措置に伴ふ經濟界整理の後を承けまして産業の復興助成を圖らしめようとするものであります、即ち産業復興營團は、事業者に於ては建設改修等を行ふことの著しく困難な産業設備を建設致し、之を適當なる企業者に貸付けて運營を行はしめ、以て生産の振興達成を圖りますると共に、經濟界の整理に伴つて多量の放出が豫想せられまする遊休産業設備、資材を吸收し、之が效率的且計畫的な配分を行ふ等、産業設備及び資材の綜合的な調整と其の活用を圖ることを以て目的として居るのであります、産業復興營團の是等の業務は、經濟安定本部總裁の定める基本的な政策及び計畫の線に從い、專ら産業設備及び資材の面に於て、強力なる國家機關として、政策の遂行に協力せしめることを目的として行はれるものでありまして、曩に御贊同を得ました所の金融面に於ける復興金融金庫の活動と相俟つて、戰後産業の復興に對する雙輪の役割を演ずるものと期待致して居るのでありまして、本産業復興營團の出立、其の實效のある活動の一日も速く開始せられむことを希望致して居る次第であります、何卒本法律案は會期切迫して甚だ恐縮でございますけれども、御協贊を與へられむことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=89
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090・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今上程せられました産業復興營團法案は、貿易資金特別會計法案の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=90
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091・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=91
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092・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=92
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093・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=93
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094・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第五、恩給法臨時特例案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、入江法制局長官発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=94
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095・会議録情報10
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恩給法臨時特例案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
恩給法臨時特例案
恩給法臨時特例
第一條 恩給法第十八條の規定の適用については、當分の間、同條中「百分の二」とあるのは、「二百分の一」、「百分の一」とあるのは、「四百分の一」、「二百分の一」とあるのは、「八百分の一」と讀み替へるものとする。
恩給法第五十九條の規定の適用については、當分の間、同條中「百分の一」又は「百分の二」とあるのは、「二百分の一」と讀み替へるものとする。
第二條 恩給法第五十八條第一項第四號の規定による普通恩給の停止については、當分の間同號の規定にかかはらず、恩給年額が千圓以上で、その恩給外の所得の年額が一萬圓を超える者について、左の區分によつて、これを行う。
一 恩給年額と恩給外の所得の年額と合計額が一萬二千圓以下であるときは、一萬一千圓を超える金額の一割五分の金額に相當する金額。但し、恩給の支給額は、年額千圓を下ることはない。
二 恩給年額と恩給外の所得の年額と合計額が一萬二千圓を超え一萬五千圓以下であるときは、一萬一千圓を超え一萬二千圓以下の金額の一割五分の金額と一萬二千圓を超える金額の二割の金額との合計額に相當する金額。但し、恩給の支給額は、年額千圓を下ることはなく、その停止年額は、恩給年額の二割を超えることはない。
三 恩給年額と恩給外の所得の年額との合計額が一萬五千圓を超え二萬圓以下であるときは、一萬一千圓を超え一萬二千圓以下の金額の一割五分の金額と一萬二千圓を超え一萬五千圓以下の金額の二割の金額と一萬五千圓を超える金額の二割五分の金額との合計額に相當する金額。但し、恩給の支給額は、年額千圓を下ることはなく、その停止年額は、恩給年額の二割五分を超えることはない。
四 恩給年額と恩給外の所得の年額との合計額が二萬圓を超えるときは、一萬一千圓を超え一萬二千圓以下の金額の一割五分の金額と一萬二千圓を超え一萬五千圓以下の金額の二割の金額と一萬五千圓を超え二萬圓以下の金額の二割五分の金額と二萬圓を超える金額の三割の金額との合計額に相當する金額。但し、恩給の支給額は、年額千圓を下ることはなく、その停止年額は、恩給年額の三割を超えることはない。
第三條 普通恩給の年額又は一時恩給若しくは一時扶助料の金額は、當分の間、退職又は死亡當時の俸給の額にかかはらず、別表第一號表に掲げる給與俸給の額に夫夫對應する假定俸給額によつて、これを、計算する。
第四條 恩給法第六十五條の規定の適用については、當分の間、同法別表第二號表にかかはらず、別表第二號表による。
第五條 恩給法第六十五條の二の規定の適用については、當分の間、同法別表第三號表にかかはらず、別表第三號による。
恩給法第六十五條の二第一項但書の規定の適用については、當分の間、同項但書中「十分の七・五」とあるのは、「十分の七・九」と讀み替へるものとする。
第六條 恩給法第七十五條の規定の適用については、當分の間、同法別表第五號表にかかはらず、別表第四號表に、同法別表第六號表にかかはらず、別表第五號表に、同法別表第七號表にかかはらず、別表第六號表に、同法別表第八號表にかかはらず、別表第七號表による。
附 則
第七條 この法律は、昭和二十一年七月一日から、これを適用する。
第八條 昭和二十一年六月三十日までに給與事由の生じた増加恩給(昭和二十一年勅令第六十八號第五條に規定するものを除く)若しくは傷病年金又は恩給法第七十五條第一項第二號乃至第四號に規定する場合の扶助料を受ける者には、當分の間、昭和二十一年七月分以降、その恩給年額の三十五割に相當する年額を支給する。
第九條 昭和二十一年六月三十日までに退職して、増加恩給又は傷病年金を受けた者が、再就職し、同年七月一日以後退職した場合に、恩給法第五十五條又は第五十五條の二の規定を適用するについては、當分の間、同法第五十五條第二項各號中に「差額」とあるのは、差額の三十五割に相當する額とする。
第十條 此の法律の適用を受ける恩給の額の計算については、昭和七年法律第十三號は、これを適用しない。
第十一條 昭和二十一年勅令第四百三十五號附則第四項の官吏に、この法律を適用するについては、勅令で、特別の定をなすことができる。
第十二條 この法律の施行に關して必要な事項は、勅令で、これを定める。
(別表)
第一號表
甲 一級、二級若しくは三級の者又は同待遇者
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〔政府委員入江俊郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=95
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096・入江俊郎
○政府委員(入江俊郎君) 只今議題と相成りました恩給法臨時特例に關する法律案に付きまして、其の提案理由を御説明申上げます、終戰後の事態に即應して、恩給法の規定を整備する爲に、曩に恩給法の一部を改正する法律案を本議會に提出し、既に其の御協贊を經たのでありまするが、最近更に官吏に俸給令、所得税法等に改正が加へられるに至りました結果、是等に關聯のある恩給法の諸規定に付きまして、若干の臨時的措置を講ずる必要を生ずることとなつたのであります、茲に急遽此の法案を提出することと相成つた次第であります、此の法案に依りまして、恩給法の特例を認めようと致しまする事項は、大略次の三點であります、即ち其の一つは官吏俸給令の改正に依る本俸増額に拘らず、一般恩給金額及び國庫納金の額を原則として、從來の程度に止めようとするものであります、即ち今囘官吏俸給令が改正せられました結果、從來臨時手當、物價手當等の名目を以て支給して居りましたものを、本俸に組入れることに致しました爲、本俸の増額を來すこととなつたのでありまするが、抑抑恩給の金額は、原則として、退職當時の俸給を基準として定められ、國庫納金の額等も、在職中の俸給を基準として算出することになつて居りまするが爲に、之を其の儘に致しまする時は、當然に恩給金額竝に國庫納金の額等に増加を來すことになる譯であります、然るに財政的見地其の他の諸點から考へまするに、恩給の金額を俸給の増加に伴つて、今直ちに増額致しますることは、どうも適當とは認められませぬので、是は今後の各種の情勢と睨み合せて速かに檢討することとし、此の際と致しましては、引續き從來程度の金額を支給することに止めることと致したのであります、之が爲に恩給の基準となる退職當時の俸給に付きましては、假定俸給を設けることと致しまして、同樣に國庫納金等に付きましても、原則として從來程度の額を維持するやう臨時的措置を講じて居るのであります、唯警察、監獄職員及び國民學校等の教職員に付きましては、其の給與の改善に伴ひまして、國庫納金に關する從來の一般文官との差等を徹廢して、一律に文官竝と致しました、此の法案の第一條及び第三條は、以上の諸點に付ての特例に關する規定であります、改正の第二點は公務傷病關係の恩給、即ち増加恩給、傷病年金及び公務傷病を起因して死亡した者の遺族に對する扶助料の増額の點であります、第一に述べました通りの事情から、恩給の金額は原則として、一般的には、從來通り据置くことと致したのでありますが、公務の爲傷病に殪れ退官退職した者及び公務に起因して死亡した者の遺族に付きましては、昨今の社會事情から見て、一般の恩給受給者に比較して、其の生活上の苦痛は特に甚だしいものがあると考へられ、一般に恩給の金額改訂の時期迄猶豫することは誠に忍び難い事情にありますので、是等の恩給に限つて、特に臨時増額の措置を講ずることと致したのでありまして、此の法案の第四條乃至第六條及び附則第八條が、此の點に關する特例を定めて居るのであります、第三は所謂多額所得者の恩給停止に關する特例でありまして、現行恩給法に依りますと、恩給年額が千圓以上で、恩給外の所得の年額が四千圓を超える者に付ては、其の合算額の多寡に應じて、恩給年額の内一定の割合の金額の支給を停止することになつて居るのでありますが、恩給外の所得の年額を四千圓と致して居りますのは、所得税法の綜合所得税の免税點が三千圓であることに照應するのであります、即ち此の所得の調査は、全國の税務署に於て行ふことになつて居ります關係上、綜合所得税の免税點以下の所得者に付ては、事實上調査が極めて困難なことに因るものであります、然るに、最近、綜合所得税の免税點が三千圓から一萬圓に引上げられることになりました爲、現行法の儘では四千圓以上一萬圓以下の所得者に付ては、恩給停止の措置を講ずることが、實際上不可能な状態となりましたのみならず、斯かる免税點の引上を必要とする實質上の理由に照應して、恩給の停止せらる、所謂多額所得者の範圍に付檢討を加へることを相當と認めました、仍て此の際、多額所得者の停止は、恩給年額が一千圓以上で、恩給外の所得が一萬圓を超える者に付てのみ、之を行ふことと致した次第でありまして、此の法案の第二條が此の點に關する規定であります、尚此の特例は本年七月分以降の支給に付て適用することと致して居ります、以上が此の法律案を本議會に提出致します理由の概要であります、何卒御審議の上、速かに御協贊を賜らむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=96
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097・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今日程に上りました恩給法臨時特例案は、其の特別委員の數を十五名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=97
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098・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=98
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099・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ごさいませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=99
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100・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔根本書記官朗讀〕
恩給法臨時特例案特別委員
侯爵 東郷彪君 侯爵 小村捷治君
伯爵 宗武志君 子爵 梅園篤彦君
子爵 仙石久英君 子爵 朽木綱博君
小山松吉君 永井松三君
羽田亨君 吉田久君
男爵 近藤滋彌君 男爵 岡俊二君
男爵 紀俊忠君 藍澤彌八君
岩元達一君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=100
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101・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第六、自作農創設特別措置法案、日程第七、農地調整法の一部を改正する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、是等の兩案を一括して議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=101
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102・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、和田農林大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=102
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103・会議録情報11
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自作農創設特別措置法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月五日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
自作農創設特別措置法案
自作農創設特別措置法
第一條 この法律は、耕作者の地位を安定し、その勞働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ廣汎に創設し、以て農業生産力の發展と農村における民主的傾向の促進を圖ることを目的とする。
第二條 この法律において農地とは、耕作の目的に供される土地をいふ。
この法律において、自作地とは、耕作の業務を營む者が所有權に基きその業務の目的に供してゐる農地をいひ、小作地とは、耕作の業務を營む者が賃借權、使用貸借により權利、永小作權、地上權又は質權に基きその業務の目的に供してゐる農地をいふ。
前項の規定の適用については、耕作の業務を營む者の同居の戸主若しくは家族又は耕作の業務を營む者の戸主若しくは家族で命令で定める特別の事由に因りその者と同居しなくなつたものが有する同項に掲げる權利は、これをその耕作の業務を營む者の有するものとみなす。
この法律において、自作農とは、自作地に就き耕作の業務を營む個人をいひ、小作農とは、小作地に就き耕作の業務を營む個人をいふ。
第三條 左に掲げる農地は、政府が、これを買收する。
一 農地の所有者がその住所のある市町村の區域(その隣接市町村の區域内の地域で市町村農地委員會が都道府縣農地委員會の承認を得て當該市町村の區域に準ずるものとして指定したものを含む。以下同じ。)外において所有する小作地
二 農地の所有者がその住所のある市町村の區域内において、北海道にあつては四町歩、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める面積を超える小作地を所有する場合、その面積を超える面積の當該區域内の小作地
三 農地の所有者がその住所のある市町村の區城内において所有する小作地の面積とその者の所有する自作地の面積の合計が、北海道にあつては十二町歩、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める面積を超えるときは、その面積を超える面積の當該區域内の小作地
前項第二號又は第三號に規定する都府縣別の面積は、その平均面積が同項第二號に規定するものにあつては概ね一町歩、同項第三號に規定するものにあつては概ね三町歩にはるやうに、これを定めなければならない。
都道府縣農地委員會は、特に必要があると認めるときはきは、中央農地委員會の承諾を得て、當該都道府縣の區域を二以上の區域に分け各區域別に第一項第二號又は第三號の都道府縣別の面積に代るべき面積を定めることができる。但し、各區域別の面積は、その平均面積が概ね同項第二號又は第三號の當該都道府縣別の面積になるやうに、これを定めなければならない。
第五條第七號に規定する農地で命令で定めるものの面積は、第一項第二號又は第三號に規定する小作地又は自作地の面積にこれを算入しない。
第一項の農地の外左に掲げる農地で、都道府縣農地委員會又は市町村農地委員會が、命令の定めるところにより、自作農の創設上政府において買收することを相當と認めたものは、政府が、これを買收する。
一 自作農でその者の營む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地の面積が第一項第三號の面積を超える場合、當該面積を超える面積の自作地
二 自作地で當該自作地に就いての自作農以外の者が請負その他の契約に基き耕作の業務の目的に供してゐるもの
三 法人その他の團體でその營む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地
四 法人其の他の團體の所有する小作地
五 農地で所有權その他の權原に基きこれを耕作することのできる者が現に耕作の目的に供してゐないもの
六 前各號に掲げるものを除く外農地でその所有者が市町村農地委員會に對し政府において買收すべき旨を申し出たもの
第四條 前條の規定の適用については、農地の所有者の同居の戸主若しくは家族又は農地の所有者の戸主若しくは家族で第二條第三項に規定する特別の事由に因りその者と同居しなくなつた者が當該農地の所有者の住所のある市町村の區域内において所有する農地は、これを當該農地の所有者の所有する農地とみなす。
前條第一項の規定の適用については、農地の所有者で第二條第三項に規定する特別の事由に因りその所有する農地のある市町村の區域内に住所を有しなくなつたものは、これを當該市町村の區域内に住所を有する者とみなす。
第五條 政府は、左の各號の一に該當する農地については、第三條の規定による買收をしない。
一 國又は公共團體が公共用又は公用にに供してゐる農地
二 都道府縣、市町村、都道府縣農業會、市町村農業會、農事實行組合、農地開發營團その他命令で定める團體の所有する農地で自作農の創設又は共同耕作の目的に供するもの
三 試驗研究又は農事指導の目的に供してゐる農地で地方長官の指定したもの
四 都市計畫法第十二條第一項の規定による土地區劃整理を施行する土地又は都市計畫による同法第十六條第一項の施設に必要な土地の境域内にある農地で地方長官の指定する區域内にあるもの
五 近く土地使用の目的を變更することを相當とする農地で市町村農地委員會が都道府縣農地委員會の承認を得て指定したもの
六 自作農が疾病その他の命令で定める事由に因つてその自作地に就き自ら耕作の業務を營むことがきでないため賃貸借又は使用貸借により一時當該自作地を他人の耕作の業務の目的に供した場合、市町村農地委員會が、その自作農が近く自作するものと認め、且つその自作を相當と認める當該農地
七 新開墾地、燒畑、切替畑等收穫の著しく不定な農地その他命令で定める農地で市町村農地委員會が政府において買收することを不相當と認めるもの
第六條 政府が第三條の規定による買收をするには、市町村農地委員會の定める農地買收計畫によらなければならない。
農地買收計畫においては、買收すべき農地竝びに買收の時期及び對價を定めなければならない。
前項の對價は、當該農地につき地租法による賃貸價格があるときは、田にあつては當該賃貸價格に四十(農地調整法第六條の三第一項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)、畑にあつては當該賃貸價格に四十八(同條同項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)を乘じて得た額(同條同項の規定により地方長官の定めた額があるときは、その額)の範圍内においてこれを定め、當該農地につき地租法による賃貸價格がないときは、市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて定めた額による。但し、特別の事情に因つて市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて當該農地につき額を定めたときは、その額による。
市町村農地委員會は、農地買收計畫を定めるには、左の事項を勘案してこれをしなければならない。
一 自作農となるべき者の農地を買ひ受ける機會を公正にすること。
二 自作農となるべき者の耕作する農地を集團化し、且つ當該地方の状況に應じて當該農地につき田畑の割合を適正にすること。
市町村農地委員會は、農地買收計畫を定めたときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 買收すべき農地の所有者の氏名又は名稱及び住所
二 買收すべき農地の所在、地番、地目(土地臺帳の地目が現況と異なるときは、土地臺張の地目及び現況による地目以下同じ。)及び面積
三 對價
四 買收の時期
第七條 前條の規定による農地買收計畫に定められた農地につき所有權を有する者は、當該農地買收計畫について異議があるときは、市町村農地委員會に對して異議を申し立てることができる。但し、同條第五項の縱覽期間を經過したときは、この限りでない。 市町村農地委員會は、前項の申立を受けたときは、前條第五項の縱覽期間滿了後二十日以内に決定をしなければならない。
前項の決定に對して不服ある申立人は、都道府縣農地委員會に訴願することができる。但し、同項の期間滿了後十日を經過したときは、この限りでない。
都道府縣農地委員會は、前項の訴願を受理したときは、同項但書の期間滿了後二十日以内に裁決しなければならない。
第八條 第六條の規定により農地買收計畫につき同條第五項の期間内に前條第一項の規定による異議の申立がないとき、同項の規定による異議の申立があつた場合においてそのすべてについて同條第二項の規定による決定があり、且つ同條第三項但書の期間内に訴願の提起がなかつたとき、又は同項の規定により訴願の提起があつた場合においてそのすべてについて同條第四項の規定による裁決があつたときは、市町村農地委員會は、遲滯なく當該農地買收計畫について都道府縣農地委員會の承認を受けなければならない。
第九條 第三條の規定により買收は、地方長官が前條の規定による承認があつた農地買收計畫により當該農地の所有者に對し買收令書を交付して、これをしなければならない。但し、當該農地の所在者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときは、命令の定めるところにより、第二項各號に掲げる事項を公告し、令書の交付に代へることができる。
令書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第六條第五項各號に掲げる事項
二 對價の支拂の方法及び時期
三 その他必要な事項
地方長官は、今書の交付又は第一項但書の公告をしたときは、遲滯なく令書の交付又は同項但書の公告の際における買收の目的たる農地につき先取特權、質權又は抵當權を有する者に對してこれを通知しなければならない。但し、先取特權、質權又は抵當權を有する者が知れないとき、その他通知をすることができないときは、命令の定めるところにより、公告をし、通知に代へることができる。
第十條 第三條、第六條及び前條の規定の適用については、農地の面積は、土地臺帳に登録した當該農地の地積による。但し、市町村農地委員會が當該農地につき土地臺帳に登録した地積を以てその面積とすることを著しく不相當と認め、別段の面積を定めたときは、當該農地については、その面積による。
第十一條 第六條乃至第九條の規定によりした手續その他の行爲は、第三條の規定により買收すべき農地の所有者、先取特權者、質權者又は抵當權者の承繼人に對してもその效力を有する。 第十二條 地方長官が第九條の規定による手續をしたときは、令書に記載し、又は同條第一項但書の規定により公告した買收の時期に、當該農地の所有權は、政府が、これを取得し、當該農地に關する權利は、消滅する。
前項の規定により政府が取得した農地につきその取得の當時賃借權、使用貸借による權利、永小作權、地上權又は地役權があるときは、その取得の時に當該權利を有する者のために從前の同一の條件を以て當該權利が設定されたものとみなす。但し、その權利の存續期間は、從前の權利の殘存期間とする。
前項の場合において、從前の權利の上に先取特權、質權又は抵當權があるときは、その先取特權、質權又は抵當權は、同項の規定により設定された權利の上にあるものとみなす。
第十三條 第三條の規定による農地の買收については、政府は、その對價を買收の時期における當該農地の所有者に支拂はなければならない。但し、當該農地の上に先取特權、質權又は抵當權がある場合において、當該權利を有する者の請求があるとき、又は當該權利を有する者が知れないときは、その對價を供託しなければならない。
當該農地の上に先取特權、質權又は抵當權を有する者は、前項の規定により供託した對價に對してその權利を行ふことができる。
政府は、第三條の規定により買收する農地の所有者に對して、その農地の面積(その農地の面積が同條第一項第三號の當該都道府縣別の面積又は同條第三項の規定により當該區域につき定められた當該都道府縣別の面績に代るべき面積を超えるときは、當該都道府縣別の面績又は當該都道府縣別の面積に代るべき面積)に應じて報償金を交付する。
前項の報償金の一段歩當りの額は、田にあつては二百二十圓、畑にあつては百三十圓を基準とし、當該農地の收量、位置その他の状況を參酌して、主務大臣が、これを定める。
第三項の規定の適用については、第十條の規定を準用する。
第十四條 第三條の規定により買收した農地の對價に對して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、令書の交付又は第九條第一項但書の公告のあつた後一箇月を經過したときは、この限りでない。
第十五條 第三條の規定により買收する農地に就き自作農となるべき者又は當該農地につき所有權その他の權利を有する者が左に掲げる農業用施設、土地又は建物を政府において買收すべき旨の申請をした場合において、市町村農地委員會がその申請を相當と認めたときは、政府は、これを買收する。
一 第三條の規定により買收する農地の利用上必要な農業用施設
二 第三條の規定により買收する農地に就き自作農となるべき者が、賃借權、使用貸借による權利若しくは永小作權を有する採草地、貸借權、使用貸借による權利若しくは地上權を有する宅地又は貸借權を有する建物
前項の場合には、第六條第一項、第二項、第五項、第七條乃至第十二條、第十三條第一項第二項及び前條の規定を準用する。 前條において準用する第六條第二項の對價は、採草地にあつては、命令の定めるところにより、當該採草地の近傍類似の農地の時價を參酌し、採草地以外のものにあつては時價を參酌してこれを定める。
第十六條 政府は、第三條の規定により買收した農地及び政府の所有に屬する農地で命令で定めるものを命令の定めるところにより、その買收の時期において當該農地に就き耕作の業務を營む小作農その他命令で定める者で、自作農として農業に精進する見込のあるものに賣り渡す。
政府は、特別の事情があるときは、第三條の規定により買收した農地を市町村農業會その他命令で定める團體で自作農の創設の事業を行ふものに賣り渡すことができる。
第十七條 前條に規定する者で同條に規定する農地を買ひ受けようとするものは、市町村農地委員會に對してその申込をしなければならない。
第十八條 政府が第十六條の規定により賣渡をするには、市町村農地委員會の定める農地賣渡計畫によらなければならない。
農地賣渡計畫においては、賣り渡すべき農地竝びに賣渡の相手方、時期及び對價を定めなければならない。
前項の賣渡の相手方は、前條の規定による買受の申込をした者でなければならない。
市町村農地委員會は、農地賣渡計畫を定めたときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 賣渡の相手方の氏名又は名稱及び住所
二 賣り渡すべき農地の所在、地番、地目及び面積
三 對價
四 賣渡の時期
農地賣渡計畫については、第八條の規定を準用する。この場合において、同條中「同條第五項」とあるのは、「第十八條第四項」と、「前項第一項」とあるのは、「第十九條第一項」と讀み替へるものとする。
第十九條 第十七條の規定による買受の申込をした者は、前條の規定による農地賣渡計畫について異議があるときは、市町村農地委員會に對して異議を申し立てることができる。但し、同條第四項の縱覽期間を經過したときは、この限りでない。
前項の場合には、第七條第二項乃至第四項の規定を準用する。この場合において、同條第二項中「前條第五項」とあるのは、「第十八條第四項」と讀み替へるものとする。
第二十條 第十六條の規定による賣渡は、地方長官が第十八條第五項において準用する第八條の規定による承認があつた農地賣渡計畫により賣渡の相手方に對し賣渡通知書を交付して、これをしなければならない。
通知書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第十八條第四項各號に掲げる事項
二 對價の支拂の方法及び時期
三 その他必要な事項
第二十一條 前條の規定による賣渡通知書の交付があつたときは、その通知書に記載された賣渡の時期に、當該農地の所有權は、その通知書に記載された賣渡の相手方に移轉する。
前項の規定により取得した農地の對價については、第十四條の規定を準用する。
第二十二條 第十六條の規定による賣渡があつた農地につき第十二條第二項の規定により設定された權利がある場合において、その權利を有する者が當該農地の賣渡の相手方でないときは、當該權利(當該權利が地役權であるときは、市町村農地委員會が當該農地を耕作することの妨げになるものと認定した地役權に限る。)は、當該農地の賣渡の時期に消滅する。
政府は前項の規定により消滅する權利を有する者に對してその權利の消滅に因つて生じた損失を補償しなければならない。但し、その者が第六條第五項の規定による公告のあつた後第十二條第一項の規定により消滅した權利を取得した者であるときは、この限りでない。
前項の規定により補償すべき損失は、第一項の規定による權利の消滅に因つて通常生ずべき損失とする。
第二項の補償金額は、市町村農地委員會が、地方長官の認可を受けてこれを決定する。
市町村農地委員會は、前項の補償金額を決定したときは、遲滯なく第二項の規定により補償を受けるべき者に對してこれを通知しなければならない。
第四項の補償金額の決定に對して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、前項の通知を受けた日から二十日を經過したときは、この限りでない。
第一項の規定により消滅する權利の上に先取特權、質權又は抵當權があるときは、第十三條第一項及び第二項の規定を準用する。
第二十三條 政府が第十六條の規定により農地を賣り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員會は、地目、面積、等位等が當該農地と近似する小作地と當該農地との交換に關し、當該小作地の所有者に對して、必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換により當該小作地の所有權の取得すべき農地及び政府の取得すべき農地についてその所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による指示を受けた者は、その指示を受けた日から十日以内に當該指示に係る交換に關して市町村農地委員會と協議しなければならない。
前項の場合において、協議が調はないとき、又は協議をすることができないときは、市町村農地委員會は、都道府縣農地委員會の裁定の申請をすることができる。
前項の規定による裁定があつたときは、その定めるところにより、交換の契約が成立したものとみなす。
第二十四條 前條の規定による交換においては、同條第三項の協議又は同條第四項の裁定において定められた日に農地の所有權の移轉の效力が、生ずるものとする。
前項の規定による所有權の移轉の際當該小作地の上にある先取特權、質權又は抵當權には、當該小作地の所有者が交換に因り取得した農地の上にあるものとする。
第二十五條 政府が第十六條の規定により農地を賣り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員會は、政府の賣り渡すべき農地につき賃借權又は永小作權を有する者及び地目、面積、等位等が當該農地と近似する農地で政府の買收しないものにつき賃借權又は永小作權を有する者に對して當該賃借權又は永小作權の交換に關し必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換に因り移轉すべき賃借權又は永小作權の目的たる農地の所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による交換については、賃借權又は永小作權の移轉は、民法第二百七十二條但書及び第六百十二條の規定にかかはらず、これをすることができる。
市町村農地委員會が第一項の指示をしたときは、遲滯なくその旨を當該指示に係る農地の所有者及び所有者でない賃借人に通知しなければならない。
前項の通知を受けた者は、第一項の指示に異議があるときは、市町村農地委員會に異議を申し立てることができる。但し、前項の通知を受けた日から十日を經過したときは、この限りでない。
第一項の規定による交換には、第二十三條第三項乃至第五項及び前條の規定を準用する。この場合においては、第二十三條第三項中「市町村農地委員會と協議し」とあるのは、「協議し」と、同條第四項中「市町村農地委員會は、都道府縣農地委員會の裁定」とあるのは、「第一項の指示を受けた者は、市町村農地委員會の裁定」と讀み替へるものとする。
第二十六條 第十六條の規定により賣り渡した農地の對價の支拂は、支拂期間三十年(据置期間を含む。)以内、年利三分二厘の均等年賦支拂の方法によるものとする。但し、當該農地を買い受けた者の申出のあるときは、その對價の全部又は一部につき一時支拂の方法によるものとする。
第二十七條 第十六條の規定により賣り渡した農地の對價を命令で定める支拂の方法により支拂ふものとした場合における年賦金額と當該農地の公租公課の金額の合計額が當該農地の通常收穫物の價額の一定の割合を超えるときは、政府は、當該農地の對價の支拂につき年賦金額を減免し、年賦金額の支拂を猶豫し、その他對價の支拂に關する負擔を輕減するため、必要な措置を講じなければならない。
前項の一定の割合は、中央農地委員會が、これを定める。但し、三分の一を超えてはならない。
前項に規定するものの外第一項の規定の施行に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十八條 第十六條の規定による農地の賣渡を受けた者又はその相續人が當該農地に就いての自作をやめようとするときは、政府は、命令の定めるところにより、その者に對して當該農地を買ひ取るべきことを申し入れなければならない。
前項の申入があつたときは、その時にその申入において定めた條件によつて當該農地の賣買が成立する。この場合における當該農地の對價には、第六條第三項の規定を準用する。
第二十九條 第十六條の規定により農地の賣渡を受けた者で命令で定めるものは、第十五條の規定により政府が買收した農業用施設、土地又は建物を買ひ受けようとするときは、市町村農地委員會に對して申込をしなければならない。
第十五條の規定により政府が買收した農業用施設、土地又は建物の賣渡については、第十六條、第十八條乃至第二十二條及び第二十六條の規定を準用する。この場合において、第十八條第三項中「前條」とあり、又は第十九條第一項中「第十七條」とあるのは、「第二十九條第一項」と讀み替へるものとする。
第三十條 政府は、自作農を創設するため必要があるときは、左に掲げるものを買收することができる。
一 農地以外の土地で農地の開發に供しようとするもの
二 政府の所有に屬する土地で農地の開發に供しようとするものに關する所有權及び擔保權以外の權利
三 第一號又は前號の土地附近の農地で當該土地と併せて開發するのを相當とするもの
四 第一號又は第二號の土地の上にある立木又は建物その他の工作物
五 漁業權
六 水の使用に關する權利
七 開發後における第一號又は第二號の土地の利用上必要な土地、立木又は建物その他の工作物
前項第六號又は第七號に掲げるものは、政府が、これを使用することができる。
第三十一條 政府が前條の規定による買收又は使用をするには、都道府縣農地委員會が命令の定めるところにより定める未墾地買收計畫によらなければならない。
未墾地買收計畫においては、買收し、又は使用すべき土地、權利、立木又は建物その他の工作物、買收の時期又は使用の時期及び期間竝びに對價を定めなければならない。
前項の對價を定める場合には、農地にあつては、第六條第三項の規定を準用し、農地以外の土地にあつては、命令の定めるところにより、當該土地の近傍類似の農地の時價を參酌し、土地以外のものにあつては、時價を參酌する。この場合において、同項中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
都道府縣農地委員會は、未墾地買收計畫を定めるときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から二十日間前條の規定により買收し、又は使用すべきものの所在地の市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 買收し、又は使用すべき土地、權利、立木又は工作物の所有者の氏名又は名稱及び住所
二 買收し、又は使用すべき土地については、その所在、地番、地目及び面積、權利についてはその種類、立木については、その樹種、數量及び所在の場所、工作物については、その種類及び所在の場所
三 對價
四 買收の時期又は使用の時期及び期間
未墾地買收計畫については、第七條及び第八條の規定を準用する。この場合において、これらの規定中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と、「都道府縣農地委員會」とあるのは、「地方長官」と、第七條第一項及び第八條中「同條第五項」とあり、又は第七條第二項中「前條第五項」とあるのは、「第三十一條第四項」と、第八條中「承認」とあるのは、「認可」と讀み替へるものとする。
第三十二條 都道府縣農地委員會は、前條の規定による未墾地買收計畫を定めるため必要があるときは、その委員又は委員會の事務に從事する者に、他人の土地に立ち入つて、測量し、檢査し、又は測量若しくは檢査の障害となる物を移轉し、若しくは除却させることができる。但し、これに因つて生じた損害は、これを補償しなければならない。
政府が第三十條の規定による買收又は使用をするため必要がある場合には、前項の規定を準用する。この場合において、同項の規定中「その委員又は委員會の事務に從事する者」とあるのは、「當該官吏」と讀み替へるものとする。
第三十三條 政府は、第三十條の規定による買收又は使用に係る土地(同條第一項第二號に規定する土地を含む。)又は工作物にある物件の所有者又は占有者に、その物件を收去させることができる。
前項の場合において、當該物件を收去することに因つて當該物件を從來用ひた目的に供することができないときは、當該物件の所有者は、命令の定めるところにより、政府に對してその買收を請求することができる。
前項に規定する買收の對價は、地方長官が、時價を參酌してこれを定める。
第二項に規定する買收については、第九條、第十一條、第十二條第一項、第十三條第一項第二項及び第十四條の規定を準用する。この場合において、第九條第二項第一號中「第六條第五項各號」とあるのは、「第三十一條第四項各號」と、第十一條中「第六條乃至第九條」とあるのは、「第三十三條第四項において準用する第九條」と讀み替へるものとする。
第三十四條 第三十條の規定による買收又は使用については、第九條乃至第十一條、第十二條第一項、第十三條第一項第二項及び第十四條の規定を準用する。この場合において、第九條第二項第一號中「第六條第五項各號」とあるのは、「第三十一條第四項各號」と、第十一條中「第六條乃至第九條」とあるのは、「第三十一條第一項乃至第四項(第三十八條第二項において準用する場合を含む。)若しくは同條第一項、第三十一條第五項若しくは第三十八條第二項において準用する第七條及び第八條竝びに第三十四條において準用する第九條」と讀み替へるものとし、第十條中「市町村農地委員會」とあるのは、當該買收が第三十八條に規定するものである場合を除いて、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
第三十五條 政府が、第三十條第二項の規定により、權利、土地、立木又は工作物を使用する場合においては、前條において準用する第九條第一項の令書に記載し、又は同項但書の規定により公告した使用の時期に、政府は、常該權利、土地、立木又は工作物の使用權を取得し、當該權利又は當該土地、立木若しくは工作物に關する權利は、使用の期間その行使を停止される。但し、使用を妨げないものは、この限りでない。
第三十六條 第三十條第二項の規定により權利、土地、立木若しくは工作物の使用が三年以上に亙るとき、又はその使用に因つて、當該權利、土地、立木若しくは工作物を從來用ひた目的に供することが著しく困難となるときは、當該權利を有する者又は當該土地、立木若しくは工作物の所有者は、命令の定めるところにより、政府に對して當該權利又は土地、立木若しくは工作物の買收を請求することができる。
前項に規定する買收の對價は、地方長官が、これを定める。
第一項の場合には、第三十一條第三項前段及び第三十三條第四項の規定を準用する。この場合において、第三十一條第三項前段において準用する第六條第三項中「市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて」とあるのは、「地方長官が」と讀み替へるものとする。
第三十七條 政府は、第三十條の規定により土地の買收をする場合において、特に必要があるときは、その買收の當時當該土地に關し所有權、貸借權、使用貸借により權利、永小作權、地上權又は入會權を有する者に對し當該土地に代るべき土地として賣り渡し、又は賃貸するため必要な他の土地(當該土地の上にある立木を含む。)を買收し、又は使用することができる。
前項の場合には、第三十一條乃至前條の規定を準用する。
第三十八條 政府が第三十條第一項の規定による買收をする場合において、その買收に係る同項第一號の土地の面積が主務大臣の定める面積を超えないときは、政府は、第三十一條第一項の規定にかかはらず、市町村農地委員會の定める未墾地買收計畫により第三十條第一項の規定による買收をすることができる。
前項の場合には、第七條、第八條、第三十一條第二項第三項前段第四項及び第三十二條第一項の規定を準用する。この場合において、第七條第一項及び第八條中「同條第五項」とあり、又は第七條第二項中「前條第五項」とあるのは、「第三十一條第四項」と、第三十一條第四項及び第三十二條第一項中「都道府縣農地委員會」とあるのは、「市町村農地委員會」と讀み替へるものとする。
第三十九條 政府は、第三十二條第一項(同條第二項、第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による行爲、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定により收去、第三十三條第四項(第三十六條第三項及び第三十七條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十四條(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十二條第一項の規定による權利の消滅又は第三十五條(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による權利の行使の停止に因つて生じた損失を補償しなければならない。
第三十二條第一項(同條第二項、第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による行爲に係る補償の場合を除いて、前項の規定による補償を受けるべき者は、第三十條若しくは第三十七條の規定による買收若しくは使用又は第三十三條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十六條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による買收の場合にあつては、當該土地、權利又は立木、工作物その他の物件に關し所有權及び擔保權以外の權利を有した者、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による收去の場合にあつては、當該物件に關し擔保權以外の權利を有した者に限る。但し、その者が第三十一條第四項(第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後當該權利を取得した者であるときは、この限りでない。
第一項の補償金額については、第二十二條第三項乃至第七項の規定を準用する。この場合において、「市町村農地委員會」とあるのは、第三十二條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する同條第一項の規定による行爲、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による收去又は第三十三條第二項若しくは第三十六條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による買收に係る補償については、「地方長官」と、その他の補償については、前條の規定による買收に係る場合を除いて、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
第四十條 第三十條の規定により政府が買收した土地又は同條第一項第二號に規定する土地の開發については、他の法令中命令で定める制限又は禁止の規定は、これを適用しない。
第四十一條 政府は、第三十條第一項の規定により買收した土地(同條第一項第二號に規定する土地を含む。)、權利、立木若しくは工作物又は同條第二項の規定により使用した權利、土地、立木若しくは工作物を自作農として農業に精進し得る見込のある者その他命令で定める者に賣り渡し、又は賃貸することができる。
前項の規定による賣渡又は賃貸については、第十七條、第十八條第一項乃至第三項第五項、第二十條、第二十一條及び第二十六條の規定を準用する。この場合において、第三十一條の規定による未墾地買收計畫により買收し、又は使用した土地(第三十條第一項第二號に規定する土地を含む。)、權利、立木又は工作物の賣渡又は賃貸については、第十七條及び第十八條第一項竝びに同條第五項において準用する第八條中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と、「都道府縣農地委員會の承認」とあるのは、「地方長官の認可」と讀み替へるものとする。
第一項の規定により第三十條第一項第一號乃至第三號に規定する土地を賣り渡す場合には、前項において準用する規定の外、第二十七條及び第二十八條の規定を準用する。 第四十二條 第六條第五項(第十五條第二項において準用する場合を含む。)又は第三十一條第四項(第三十七條第二項及び第三十八條第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後は、當該買收計畫において定められた土地、農業用施設、工作物又は立木に關する權利を有する者は、買收又は使用に支障を及ぼす虞のない場合を除いて、地長方官の許可を受けなければ、當該土地の形質を變更し、又は當該農業用施設、工作物若しくは立木を損壞し、若しくは收去してはならない。
第四十三條 第三條、第十五條、第三十條、第三十三條第二項、第三十六條又は第三十七條の規定により買收し、又は使用する土地、權利又は立木、工作物その他の物件の對價、第十三條第三項に規定する報償金及び第二十二條第二項又は第三十九條第一項の規定による補償金は、三十年以内に償還すべき證券を以てこれを交付することができる。
前項の規定により交付するため、政府は、必要な額を限度として證券を發行することができる。
前二項の規定により交付する證券の交付價格は、時價を參酌して、大藏大臣が、これを定める。
第二項の證券に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四十四條 第三條、第十五條、第三十條第一項、第三十三條第二項、第三十六條若しくは第三十七條の規定による買收、第十六條(第二十九條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第四十一條の規定による賣渡若しくは賃貸、第二十三條若しくは第二十五條の規定による交換又は第二十八條第一項(第四十一條第三項において準用する場合を含む。)の規定による買取をする場合における登記は、勅令の定めるところによる。
第四十五條 主務大臣又は地方長官は、必要があると認めるときは、農地その他の土地又は物件に關し必要な報告を徴することができる。
第四十六條 政府が、第三條、第十五條、第三十條、第三十三條第二項、第三十六條又は第三十七條の規定により買收し、又は使用する土地、權利又は立木、工作物その他の物件の管理に關する主務大臣の權限の一部は、命令の定めるところにより、市町村長、市町村農地委員會その他命令で定めるものにこれを行はせることができる。
第四十七條 主務大臣又は地方長官は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により市町村農地委員會の權限に屬させた事項を都道府縣農地委員會に處理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により都道府縣農地委員會に處理させる事項に關しては、この法律により都道府縣農地委員會の權限に屬させた事項は、地方長官が、これを處理し、この法律により市町村農地委員會に對してすべき異議の申立は、都道府縣農地委員會に對し、都道府縣農地委員會に對してすべき訴願の提起は、地方長官に對してこれをするものとする。
主務大臣は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により都道府縣農地委員會の權限に屬させた事項を地方長官又は中央農地委員會に處理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により地方長官又は中央農地委員會に處理させる事項に關しては、この法律により地方長官の權限に屬させた事項は、主務大臣が、これを處理し、この法律により都道府縣農地委員會に對してすべき異議の申立は、地方長官又は中央農地委員會に對し、地方長官に對してすべき訴願の提起は、主務大臣に對してこれをするものとする。
第四十八條 この法律中市町村農地委員會に關する規定は、地區農地委員會の設けられてゐる市町村の地區にあつては、地區農地委員會にこれを適用する。この場合において、第三條第一項中「市町村の區域」とあるのは、「地區農地委員會の設けられてゐる地區」と、同項第一號中「隣接市町村の區域」とあるのは、「隣接市町村の區域内の地域又は他の地區農地委員會の設けられてゐる地區で當該地區に隣接する地區」と讀み替へるものとする。
第四十九條 この法律中町村又は町村長に關する規定は、町村の事務の全部又は役場事務を共同處理する町村組合のある地にあつては町村組合又は組合管理者に、町村制を施行しない地にあつてはこれに準ずるものに、市又は市長に關する規定は、東京都の區のある區域、京都市、大阪市、横濱市、名古屋市及び神戸市にあつては地方長官の指定する區又は區長にこれを適用する。
第五十條 左の各號の一に該當する者は、これを六箇月以下の懲役又は五百圓以下の罰金に處する。
一 第三十二條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する第三十二條第一項の規定による當該官吏の測量、檢査、移轉又は除却を拒み、妨げ又は忌避した者
二 第四十二條の規定に違反した者
三 第四十五條の規定に違反して、報告を怠り、又は虚僞の報告をした者
第五十一條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務に關し前條第二號又は第三號の違反行爲をしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對して同條の罰金刑を科する。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第三條第一項の規定による農地の買收については、市町村農地委員會は、相當と認めるときは、命令の定めるところにより、昭和二十年十一月二十三日現在における事實に基いて第六條の規定による農地買收計畫を定めることができる。
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農地調整法の一部を改正する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月五日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
農地調整法の一部を改正する法律案
農地調整法の一部を次のやうに改正する。
第一條 本法は耕作者の地位の安定及農業生産力の維持増進を圖る爲農地關係の調整を爲すを以て目的とす
第四條 農地の所有權、賃借權、地上權其の他の權利の設定又は移轉は命令の定むる所に依り當事者に於て地方長官の許可又は市町村農地委員會の承認を受くるに非ざれば之を爲すことを得ず
前項の許可又は承認には條件を附することを得
第一項の許可又は承認を受けずして爲したる行爲は其の效力を生ぜず
第四條の二乃至第五條を削る。
第六條中第二號及び第三號を削り、第四號を第二號とし、以下順次二號づつ繰り上げ、同條を第五條とする。
第六條 農地の所有者、賃借人、永小作人其の他權原に基き農地を耕作することを得る者其の農地を耕作以外の目的に供せんとするときは命令の定むる所に依り地方長官の許可を受くべし
前項の許可には條件を附することを得
第七條第一項中「第四條第一項又は第六條の」を「命令を以て定むる」に、同條第二項中「第四條第一項又は第六條の」を「同項に規定する」に改める。
第七條の二を削る。
第九條第一項及び第三項中「解約」の上に「解除若は」を、同項の次に左の一項を加へる。
前項の承認を受けずして爲したる行爲は其の效力を生ぜず
第九條の八を第九條の九とする。
第九條の八 小作料の額が田に在りては通常收穫せらるる米の價額、畑に在りては通常收穫せらるる主作物の價額の一定割合に相當する額を超ゆるときは農地の賃借人又は永小作人は當該農地の賃貸人又は所有者に對し其の一定割合に相當する額に至る迄小作料の減額を請求することを得
前項の一定割合は中央農地委員會の定むる基準に從ひ都道府縣農地委員會之を定む但し田に在りては二割五分、畑に在りては一割五分を超ゆることを得ず
前項に規定するものの外第一項の規定の施行に關し必要なる事項は命令を以て之を定む
中央農地委員會に關する規程は勅令を以て之を定む
第九條の十 耕作の目的に供する爲にする農地の賃貸借又は永小作に付ては書面に依り小作料の額、支拂條件及減免條件、賃貸借又は永小作の存續期間、敷金、修繕費、用排水費及有益費の負擔其の田賃貸借又は永小作の内容を明ならしむべし
第十五條第二項第一號中「本法」の下に「其の他の法律」を加へる。
第十五條の二 市町村農地委員會は會長及び委員を以て之を組織す
會長は委員に於て互選し其の選に當りたる者を以て之に充つ但し委員に於て會長を互選すること能はざるときは第八項の規程に依り選任せられたる委員の中より地方長官の選任したる者を以て之充つ委員は左の各號の區分に從ひ各號の一に該當し被選擧權を有する者に就き當該各號に該當し選擧權を有する者の選擧したる者を以て之に充つ
一 耕作の業務を營む者にして農地を所有せざるもの又は耕作の業務を營む農地の面積が其の所有する農地の面積の二倍を超ゆるもの
二 農地の所有者にして其の所有する農地に付耕作の業務を營まざるもの又は其の所有する農地の面積が耕作の業務を營む農地の面積の二倍を超ゆるもの
三 耕作の業務を營み且農地を所有する者にして前二號に該當せざるもの
前項の規定の適用に付ては耕作の業務を營む者の同居の戸主若は家族又は耕作の業務を營む者の戸主若は家族にして命令を以て定むる特別の事由に因り其の者と同居せざるに至りたるものの所有する農地は之を當該耕作の業務を營む者の所有する農地と看做す
第三項の規定の適用に付ては同項各號の一に該當する者の同居の戸主又は家族は之を當該各號に該當する者と看做す
第三項の規定に依り選擧せらるべき委員の定數は同項第一號の區分に屬する者に在りては五人、同項第二號の區に屬する者に在りては三人、同項第三號の區分に屬する者に在りては二人とす
地方長官必要ありと認むるときは特定の市町村農地委員會に付第三項の規定に依り選擧せらるべき委員の定數を増加することを得此の場合に於ては同項第一號の區分に屬する者に就き増加すべき委員の定數は同項第二號及第三號の區分に屬する者に就き増加すべき委員の定數の合計と等しきことを要し且増加すべき委員の定數の合計は十人を超ゆることを得ず
地方長官必要ありと認むるときは第三項の規定に依り選擧せらるる委員の外三人を限り委員を選任することを得
前項の委員を選任するには第三項の規定に依り選擧せられたる總委員の同意あることを要す但し第二項但書の規定に依り會長に充つべき委員を選任せんとするときは此の限に在らず
委員は名譽職とす
第十五條の三 市町村の區域内に住所を有し命令を以て定むる面積の農地に付耕作の業務を營む者若は當該市町村の區域内に於て命令を以て定むる面積の農地を所有する者又は此等の者の同居の戸主若は家族は市町村農地委員會の委員の選擧權及被選擧權を有す
前條第四項の規定は前項の場合に之を準用す
第十五條の四 左に掲ぐる者は選擧權及被選擧權を有せず
一 未成年者
二 禁治産者
三 六年の懲役又は禁錮以上の刑に處せられたる者
四 六年未滿の懲役又は禁錮の刑に處せられ其の刑の執行を終り又は執行を受くることなきに至る迄の者
左に掲ぐる者は被選擧權を有せず
一 準禁治産者
二 破産者にして復權を得ざるもの
第十五條の六第三項但書中「未成年者及禁治産者に在りては法定代理人、」及び同條第四項を削る。
第十五條の九第一項中「一年」を「二年」に改め、同項但書を削り、同項の次に左の三項を加へる。
第十五條の二第三項各號の區分の一に屬し選擧權を有する者は當該區分に屬し選擧權を有する者の二分の一以上の同意を得て當該區分に屬する者に就き同項の規定に依り選擧せられたる委員の全員の改選を市町村長に請求することを得
地方長官は特別の事由あるときは第十五條の二第八項の規定に依り選任したる委員を解任することを得
第十五條の二第九項本文の規定は前項の場合に之を準用す
第十五條の十中「又は其の屬したる第十五條の二第三項の區分に屬せざるに至りたるとき」を削る。
第十五條の十一に左の二項を加へる。
市町村農地委員會の會議は公開す
會長は議事録を作成し之を縱覽に供すべし
第十五條の十三第二項第一號中「本法」の下に「其の他の法律」を加へる。
第十五條の十四第三項を次のやうに改める。
委員は左に掲ぐる者を以て之を充つ
一 第十五條の二第三項の規定に依り同項第一號の區分に屬する者に就き選擧せられたる委員に於て互選し其の選に當りたる者 十人
二 第十五條の二第三項の規定に依り同項第二號の區分に屬する者に就き選擧せられたる委員に於て互選し其の選に當りたる者
六人
三 第十五條の二第三項の規定に依り同項第三號の區分に屬する者に就き選擧せられたる委員に於て互選し其の選に當りたる者
四人
四 學識經驗ある者の中より主務大臣の選任したる者
五人乃至十人
第十五條の十五 第十五條の二第十項、第十五條の六乃至第十五條の八、第十五條の九第一項乃至第三項第五項第六項及第十五條の十乃至第十五條の十二の規定は都道府縣農地委員會に之を準用す但し第十五條の九第二項中市町村長とあるは地方長官、同條第三項中地方長官とあるは主務大臣、第十五條の二第八項とあるは第十五條の十四第三項第四號とす
第十五條の十六中「委員をして」を「委員若は委員會の事務に從事する者をして」に改める。
第十六條第一號中「第四條第一項の團體が第三條又は第四條第一項」を「第七條」に、同條第二號及び第三號中「第四條第一項又は第六條」を「第七條」に改める。
第十七條の二 第十五條の二第三項各號の區分の何れかに付被選擧權者の數同條第六項に規定する定數に滿たざる市町村に設置せらるべき市町村農地委員會に關しては勅令の定むる所に依り特例を設くることを得
特別の事情ある市町村には勅令の定むる所に依り市町村農地委員會を置かざることを得此の場合に於ては本法に依り市町村農地委員會の權限に屬せしめたる事項は當該市町村の隣接市町村に設置せられたる市町村農地委員會にして地方長官の指定するもの之を處理す
地方長官特に必要ありと認むるときは命令の定むる所に依り市町村の區域を二以上の地區に分ち市町村農地委員會に代へ各地區に地區農地委員會を置くことを得
本法中市町村農地委員會に關する規定を除くの外前項の地區農地委員會に之を適用す
第十七條の三第一項中「町村又は町村長に關する規定は」の下に「町村組合にして町村の事務全部又は役場事務を共同處理するものの存する地に在りては町村組合又は組合管理者に、」を加へ、同條第二項を削る。
第十七條の四中「第六條の二第一項」の上に「第四條、」を加へ、「第九條の八」を「第九條の九」に改める。
第十七條の五中第二號を第三號とし、第一號を第二號とし、同條に第一號として左の一號を加へる。
一 第六條の規定に違反したる者
第十七條の六中「前條第一號若は第二號」を「前條第一號、第二號若は第三號」に改める。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第四條の改正規定は、この法律施行前從前の第六條第三號の規定により從前の第五條の規定による認可を受けないでした農地に關する契約で當該契約に係る權利の設定又は移轉に關する登記及び當該農地の引渡のいづれもが完了してゐないものについてもこれを適用する。
この法律施行後勅令で定める時期までは、第九條第三項の規定中「市町村農地委員會の承認」とあるのは、「地方長官の許可」と、同條第四項の改正規定中「承認」とあるのは、「許可」と讀み替へるものとする。
登録税法の一部を次のやうに改正する。
第十九條第八號の二中「第四條、第六條」を「第七條」に改め、同條第九號中「第六條」を「第七條」に改め、「若は第四條」及び「第四條、」を削り、同條第九號の二中「第四條の團體か同法第三條又は第四條」を「第七條」に、同條第九號の三及び條十二號中「第四條、「第六條」を「第七條」に改める。
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〔國務大臣和田博雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=103
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104・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 自作農創設特別措置法案と農地調整法中の一部を改正致しまする法律案に付きまして、其の提案理由の大體を御説明申上げたいと存じます、今日我が國の當面致して居りまする最も大きな問題は、「ポツダム」宣言の趣旨に則りまして、國内の各分野に於きまする民主化を促進致しまするのみならず、此の基盤の上に生産を再開致しまして、其の社會的な生産力を高め、以て民主的日本再建の方途に遺憾なからしむるにあると存ズるのでございます、誠に社會的な生産力の發展の裏附なくしては、日本の民主主義も其の豐かなる實を結ぶことは出來ませぬ、斯く考へまする時に、我が國産業構造の基盤を成す我が農業にして、其の生産力の發展は停滯致して低く、其の構造は近代化されない儘に止りまするならば、再建日本の基盤は誠に脆弱でありまして、從ひまして日本の民主主義の發展も亦歪められざるを得ないでありませう、此の結果を避けまする爲には、農業制度の基本でありまする農地制度の根本的な改革を、不可缺の條件と致すのでございます、即ち農地の所有分配利用の關係を合理化することに依りまして、耕作しまする農民の手に剩餘の蓄積の餘地を與へまして、之を其の經營に再投資することに依りまして、農業の近代化、社會的生産力發展の途を開きまして、以て農村の民主化を促進致しますることこそ、鞏固なる地盤の上に民主的な日本を再建するの途であると考へるのでございます、其の觀點から致しまして、政府は去る第八十九囘臨時議會に、自作農創設の強化、小作料の金納化、農地委員會の民主化竝に強化等、一聯の第一次農地制度の改革を内容と致します、農地調整法改正法律を提出致しまして、之が成立を見たのでございまするが、其の實施後の諸情勢の推移と變遷とに依り、完全な改革を必要とするに至つたのでございます、されば、第一次農地改革を更に愼重に檢討致しまして、此の基本線に沿つて其の強化徹底を圖つて參ることに致したのでございます、即ち第二次の改革に依りまして、我が國小作地の大半は國家自らの手に依りまして、短期間に強力に、且公正に農民に開放されますのみならず、分散致して居りまする耕地は交換分合に依りまして、集團化されることに依りまして、經營の合理化が期待されますると共に、未墾地に付きましても、國家自身が迅速に之を取得致し、開發するの途を開きまして、既墾地の開放と相俟ちまして、農地改革の效果を全うすることと致したのでございます、斯くして今囘の農地制度の改革に依りまして、我が國農村の社會の構成は變貌するに至りまして、自作たる中小農民が其の構成の主流をなすに至るでありませう、勿論此の農地制度の改革の結果を以ちまして、直ちに農村の民主化成れりと速斷致すものではありませぬ、併しながら今囘の農地制度改革に依りまして、彼等の地位は強化され、彼等は其の公正なる勞働の成果を享受致し、生産方法を近代化し得るの途を開かれますると共に、民主的な教養を身に附け得るの機會を得ましたことは、明日の明朗なる農村の發展の基礎を確立するに至つたと信ずるものでありまして、斯かる發展性に富みます變貌された民主的な農村の基盤の上にのみ壯麗なる平和日本の再建は可能であると確信致すのであります、是が今囘第二次農地制度の改革を實施致します爲に必要な、自作農創設特別措置法案及び農地調整法中の一部を改正致しまする法律案を提出致しました所以でございまするが、以下兩法案の主要ナる内容に付きまして、概略御説明を申上げます、先づ自作農創設特別措置法案の内容に付きまして御説明申上げますと、第一は自作農創設に必要な農地は、農地委員會の計畫に從ひまして、國が自ら土地所有者から強制的に農地の買收を行ひまして、自作農となるべき者に之を賣渡すことと致したのでございます、買收の對象となりまする農地と致しましては、不在地主の所有しまする農地の外、在村地主の所有する小作地に付て、從來は全國平均五町歩迄保有が認められて居りましたのを、今囘は内地では概ね一町歩、北海道では四町歩に引下げまして、之を超えまする小作地全部を買收することと致しまして、自作地に付ては從來通り原則として、買收は致さないことと致したのであります、之に依りまして、約二百萬町歩以上の小作地を國は買收致しまして、概ね二箇年間で自作農を創設致す所存でこざいます、農地の買收價格は現行通りでこざいますが、農地の買收を受けたる土地所有者に對しましては、一定の面積、即ち内地は三町歩、北海道は十二町歩を限度としまして、現行通りの額の報償金を交付することと致して居るのでございます、唯買收代價の支拂に付きましては、現下の金融事情に鑑みまして、農地證券の交付に依ることと致して居るのであります、又農地を買受けた農民は、可能の限度で農地代價を一時拂を致し、其の殘額は低利で長期償還の途を確保されて居りますると共に、將來經濟事情の激變に依りまして、假に農産物價が著しく低落致すと云ふ場合がありましても、其の年賦償還額は、土地の購入者に取りまして、過大な負擔となることのないやうに、政府に於て之を減免する保證をも與へて居るのでございます、又未墾地に付ても既墾地に準じまして、之を買收することと致して居るのであります、次に農地調整法中改正法律案に付きましては、自作農創設特別措置法案の制定に照應致しまして、自作農創設事業の實際に當りまする農地委員會を民主的に改組致し、土地の所有者及にび小作人同數を以て組織することと致して居るのでございます、又自作農創設を圖りますると共に將來農地の兼併を防止致しまする爲に、農地の移動統制及び小作地取上げの制限を一層強化致すことと致したのでございます、尚右の自作農創設に關しまする措置と相俟ちまして、殘存しまする小作關係に付きましても、小作料の最高額の制限、小作契約の文書に依る締結等必要なる措置に依りまして、小作關係の適正と、小作人の地位の向上とを圖ることと致したのでございます、以上が兩法案の主要な内容でございまするが、何卒愼重御審議の上速かに御協贊あらむことを切望する次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=104
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105・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました自作農創設特別措置法案他一件の特別委員の數を二十五名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=105
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106・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=106
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107・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=107
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108・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔根本書記官朗讀〕
自作農創設特別措置法案外一件特別 委員
公爵 島津忠承君 候爵 細川護立君
候爵 中山輔親君 伯爵 久松定武君
子爵 安藤信昭君 子爵 三島通陽君
子爵 北條雋八君 子爵 土屋尹直君
子爵 井上勝英君 牧野英一君
松村眞一郎君 寺尾博君
男爵 内海勝二君 男爵 稻田昌植君
男爵 岩村一木君 男爵 毛利元良君
男爵 多久龍三郎君 赤木正雄君
竹下豐次君 我妻榮君
松尾國松君 菅澤重雄君
松本勝太郎君 原田讓二君
飯塚知信君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=108
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109・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 議事の進行でちよつと御發言を御許し願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=109
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110・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=110
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111・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 私は總理大臣の御出席を機と致しまして、議事の進行で總理大臣の御意見を伺ひたい、此の議會は此の儘濟みませうけれども、引續いて憲法の附屬法規其の他を議する爲に、臨時議會を召集されると言ふことに相成らうと思ひます、併しつくづく考へて見ますと、如何に臨時議會を御急ぎになりましても、此の通常議會の時迄にあの重大な憲法の附屬法案を議了すると言ふことは無理だと思ひます、それよりも、いつそ早く通常議會を御召集になつて、直ぐにでも通常議會を御召集になつて、ずつと御續けになつては如何でございませうか、それに致しましては會計法の改正と、召集の四十日と云ふ規定を此の議會で直さなければなりませぬが、直すのは直ぐに出來ようと思ひます、其の方が議事の圓滿な進行を圖るのに宜からうと思ひます、政府の御考は如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=111
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112・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登檀〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=112
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113・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 御答へ致します、只今の處では、臨時議會を更に召集して各種必要な法律案を提出する考で居りまするが、今大河内子爵の御提案に付ては、尚閣議に於きまして同僚とも協議致した上で、御答を致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=113
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114・大河内輝耕
○子爵大河内輝耕君 それでは結構でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=114
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115・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 報告を致させます
〔宮坂書記官朗讀〕
本日衆議院より左の政府提出案を受領せり
戰時補償特別措置法案
金融機關再建整備法案
特別和議法案
大藏省預金部等損失特別處理法案
厚生年金保險法及び船員保險法特例案
企業再建整備法案
財産税法案
財産税等收入金特別會計法案
企業整備資金措置法を廢止する等の法律案
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=115
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116・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 只今報告致しました戰時補償特別措置法案、金融機關再建整備法案、特別和議法案、大藏省預金部等損失特別處理法案、厚生年金保險法及び船員保險法特例案、企業再建整備法案、財産税法案、財産税等收入金特別會計法案、企業整備資金措置法を廢止する等の法律案を此の際議事日程に追加して一括議題となし、第一讀會を開きたいと思ひます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者とあり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=116
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117・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、吉田内閣總理大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=117
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118・会議録情報12
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戰時補償特別措置法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
戰時補償特別措置法案
戰時補償特別措置法目次
第一章 總則
第二章 課税價格、控除、免除及び税率
第三章 申告及び納付
第四章 課税價格の更正及び決定
第五章 審査、訴願及び行政訴訟
第六章 代位納付
第七章 雜則
第八章 罰則
第九章 補則
戰時補償特別措置法
第一章 總則
第一條 この法律において戰時補償請求權とは、政府に對する請求權及び特定機關(國の施策に協力する法人その他の團體で命令で定めるものをいふ。以下同じ。)に對する請求權(政府の財政的保障のある範圍内のものに限る。)で左に掲げるものをいふ。但し、政府又は特定機關の通常の業務に關して生じた請求權を除く。
一 辨濟期が昭和二十年八月十五日以前のもので、同日以前に決濟(辨濟、代物辨濟、相殺又は更改をいふ。以下同じ。)がなかつたもの(一部の決濟があつた場合には決濟があつた部分を除く。)及び同日以前に企業整備資金措置法第五條に規定する更改による決濟の方法(これらに準ずる決濟の方法で命令で定めるものを含む。)によつて決濟があつたもの(決濟のため設定された政府特殊借入金、債務者特殊借入金、特殊預金、特殊金錢信託その他命令で定める債權について、同日以前に償還、拂戻若しくは解除又は混同に因る消滅があつた金額に相當する部分を除く。)
二 辨濟期が昭和二十年八月十五日後のもので、同日以前に生じた損害若しくは損失(同日において現に存した契約に關し同日後に生じたものを含む。)又は同日以前になされた給付(同日において現に存した契約に因り、同日後になされたものを含む。)若しくは施設に因るもの
前項の政府とは、國、都道府縣、市町村その他命令で定める公共團體をいふ。
第一項第一號の規定の適用については、政府特殊借入金の債權を銀行に讓渡して命令で定める預金を取得した者の當該豫金につき、昭和二十年八月十五日以前に拂戻のあつた金額は、これを政府特殊借入金につき同日以前に償還のあつた金額とみなす。
第一項但書の通常の業務に關して生じた請求權の範圍は、命令でこれを定める。
第二條 この法律施行の際現に戰時補償請求權(金錢の給付を目的とするものに限る。以下第六十五條に規定する場合を除く外同じ。)を有し、又はこの法律施行前に戰時補償請求權について決濟を受けた者には、この法律により、戰時補償特別税を課する。
第三條 戰時補償特別税は、都道府縣、市町村その他命令で定める公共團體には、これを課さない。
第四條 左に掲げる請求權については、戰時補償特別税を課さない。
一 國債、地方債及び特定機關の發行した債券の請求權
二 死亡又は傷害に關する保險金又は補償金の請求權
三 救恤制度に基き生ずる請求權
四 その他命令で定めるもの
第五條 戰時補償請求權について決濟を受けた者について、この法律施行前に相續の開始があつた場合においては、被相續人が戰時補償請求權について受けた決濟は、相續人がこれを受けたものとみなして、この法律を適用する。
第六條 戰時補償請求權について決濟を受けた法人が、この法律施行前に合併に因り消滅した場合においては、合併に因り消滅した法人が戰時補償請求權について受けた決濟は、合併後存續する法人又は合併に因り設立された法人が、これを受けたものとみなして、この法律を適用する。
戰時補償請求權について決濟を受けた甲法人が、この法律施行前に乙法人となつたときは、甲法人は合併に因り消滅した法人、乙法人は合併に因り設立された法人とみなして、前項の規定を適用する。
戰時補償請求權について決濟を受けた法人について、この法律施行前に分割があつた場合においては、命令の定めるところにより、分割に因り消滅した法人が戰時補償請求權について受けた決濟は、分割に因り設立された法人が、これを受けたものとみなして、この法律を適用する。
第七條 戰時補償請求權について決濟を受けた法人が、この法律施行前に解散に因り消滅した場合においては、その法人から政府特殊借入金(戰時補償請求權の決濟のため設定された政府特殊借入金で命令で定めるものをいふ。以下第四十五條及び第六十三條に規定する場合を除く外同じ。)の債權又は特殊預金等(戰時補償請求權の決濟のため設定された特殊預金、特殊金錢信託、債務者特殊借入金その他命令で定める債權をいふ。以下同じ。)の讓渡を受けた者が、その讓渡を受けた政府特殊借入金又は特殊預金等の金額の限度において、戰時補償請求權について決濟を受けたものとみなして、この法律を適用する。
第二章 課税價格、控除、免除及び税率
第八條 戰時補償特別税は、この法律施行の際現に存する戰時補償請求權の價額又はこの法律施行前に戰時補償請求權について決濟のあつた金額を課税價格として、これを賦課する。
この法律施行の際現に存する戰時補償請求權の價額は、請求金額の確定してゐる請求權についてはその金額、請求金額の確定してゐない請求權については權利者の請求しようとする金額の全額による。
前項に規定するものを除く外、戰時補償請求權の價額又は戰時補償請求權について決濟のあつた金額の算定について必要な事項は、命令でこれを定める。
第九條 別表一、別表二又は別表三に掲げる請求權以外の戰時補償請求權については、この法律施行前に決濟のあつた金額(企業整備資金措置法第五條に規定する更改による決濟の方法によつて決濟があつた場合においては、この法律施行前に政府特殊借入金又は特殊預金等について償還、拂戻若しくは解除又は混同に因る消滅があつた金額に限る。)は、これを課税價格に算入しない。
第十條 別表一に掲げる請求權については、一請求權ごとに一萬圓が課税價格から控除される。
前項の規定は、別表一第十號に掲げる請求權については、課税價格のうち、この法律施行前に決濟がなかつた金額には、これを適用しない。
別表二に掲げる請求權については、左に掲げる金額が課税價格から控除される。
一 納税義務者が個人の場合においては 五萬圓
二 納税義務者が法人の場合においては 一請求權ごとに 一萬圓
個人が別表二に掲げる請求權の二以上について戰時補償特別税を課せられる場合においては、その請求權の價額又はその請求權について決濟のあつた金額を合算し、その總額について、前項第一號の規定を適用する。
前四項の規定により、課税價格から控除される金額は、各納税義務者につき、その總額が十萬圓を超えることができない。
前項の規定の適用について必要な事項は、命令でこれを定める。
別表三に掲げる請求權については、五萬圓が課税價格から控除される。
第四項の規定は、個人又は法人が別表三に掲げる請求權の二以上について戰時補償特別税を課せられる場合に、これを準用する。
前二項の規定は、この法律施行の際現に別表一又は別表二に掲げる請求權を有し、又はこの法律施行前に別表一又は別表二に掲げる請求權について決濟を受けた者については、第一項乃至第六項の規定による控除金額の總額が五萬圓以下である場合に限り、これを適用する。この場合における前二項の規定による控除金額は、五萬圓から第一項乃至第六項の規定による控除金額の總額を控除した金額とする。
第五條又は第六條の場合において、課税價格から控除される金額の算定については、命令で第一項乃至前項の規定に對する特例を定めることができる。
戰時補償請求權の讓渡があつた場合において、課税價格から控除される金額の算定については、第一項乃至第九項の規定にかかはらず命令の定めるところによる。保險の目的の讓渡なくして保險契約に因り生じた權利の讓渡があつた場合において、課税價額から控除される金額の算定についてもまた同じ。
第一項乃至前項の規定は、戰時補償請求權で在外資産たるものには、これを適用しない。
第一項及び第三項第二號の一請求權竝びに前項の戰時補償請求權で在外資産たるものの意議は、命令でこれを定める。
第十一條 前條の規定は、第十四條に規定する申告期限内に同條の規定による申告書の提出がない場合には、これを適用しない。但し、課税價格が前條に規定する控除金額以下の場合においては、この法律施行前に戰時補償請求權について、金錢で支拂はれた、又は特殊預金等について拂戻、解除若しくは償還若しくは混同に因る消滅のあつた金額については、申告書の提出がない場合においても、同條の規定は、これを適用する。
前項但書に規定する場合を除く外、第十四條の規定による申告書の提出なくして、しかも前條の規定を適用すべき場合は命令でこれを定める。
第十二條 民法第三十四條の規定により設立した法人その他の營利を目的としない法人又は團體で命令で定めるものが、この法律施行の際現に別表二第一號に掲げる請求權を有し、又はこの法律施行前に同號に掲げる請求權について決濟を受けた場合においては、政府は、命令の定めるところにより、戰時補償特別税審査委員會の諮問を經て、戰時補償特別税を輕減又は免除することができる。
政府は、前項の場合において、同項の規定による輕減又は免除に關する處分が確定するまで、命令の定めるところにより、税金の納付を猶豫することができる。
戰時補償特別税審査委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第十三條 戰時補償特別税の税率は、百分の百とする。
第三章 申告及び納付
第十四條 納税義務者は、命令の定める日(以下一般申告期限といふ。)までに、命令の定めるところにより、課税價格その他必要な事項を記載した申告書を政府に提出しなければならない。
納税義務者が左の各號の一に該當するときは、納税義務者は、命令の定めるところにより、當該各號の定める金融機關を經由して、(該當する金融機關が二以上ある場合においては當該金融機關を經由して各別に、)前項の申告書を提出しなれけばならない。この場合において、金融機關が申告書を受理したときは、その申告書は、同項の規定により政府に提出されたものとみなす。
一 この法律施行の際現に特殊預金等を有してゐる者であるときは、その特殊預金等の預入先の金融機關(特殊金錢信託については受託者たる金融機關、債務者特殊借入金については債務者たる金融機關をいふ。以下同じ。)
二 この法律施行前に政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を金融機關に讓渡した者であるときは、その讓渡先の金融機關
三 第三十四條第一項又は第二項の規定に該當する者であるときは、その者から債務の決濟を受けた金融機關
通信、交通その他の状況により、一般申告期限内にその申告書を提出することができない者の申告については、命令で特別の定をなすことができる。
この法律において金融機關とは、銀行、信託會社その他命令で定める法人をいふ。
第十五條 納税義務者は、命令の定めるところにより、前條の規定による申告期限内に、戰時補償特別税を納付しなければならない。
納税義務者が前條第二項の規定により申告書を提出したときは、同項に規定する金融機關は、納税義務者から戰時補償特別税を徴收し、一般申告期限の屬する月の翌月末日までに、これを政府に納付しなければならない。
第十六條 第三十三條又は第三十四條に規定する場合においては、納税義務者が納付すべき税額は、課税價格について第十條乃至第十三條の規定を適用して算出した戰時補償特別税の額から、第三十三條又は第三十四條の規定により戰時補償特別税を納付する義務がある者が納付すべき税額を控除した金額とする。
第十七條 この法律施行の際現に納税義務者の有する戰時補償請求權は、戰時補償特別税額を限度として、第十四條の規定による申告書の提出と同時に、(同條に規定する申告期限内に同條の規定による申告書の提出のなかつた場合においては、同條に規定する申告期限の經過した時において、)消滅する。
前項の場合においては、その消滅した戰時補償請求權については、その消滅と同時に、戰時補償特別税の納付があつたものとみなす。
第十八條 第十五條の場合において、納税義務者がこの法律施行の際現に政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を有するときは、納税義務者は先づ、その政府特殊借入金の債權を政府に讓渡し、これを以て戰時補償特別税の納付に充て、又はその特殊預金等について、期限前の拂戻、解除若しくは償還を受け、これにより取得した金錢を以て戰時補償特別税を納付しなければならない。
第十九條 納税義務者が政府特殊借入金の債權を有する場合において、一般申告期限内に第十四條第一項の規定による申告書を提出しなかつた場合その他命令で定める場合においては、政府は、一般申告期限の翌日に、その政府特殊借入金の債權を以て戰時補償特別税を徴收する。
納税義務者が、特殊預金等を有する場合において一般申告期限内に第十四條第一項の規定による申告書を提出しなかつた場合その他命令で定める場合においては、特殊預金等の預入先の金融機關は、命令の定めるところにより、一般申告期限の翌日に、その特殊預金等について期限前の拂戻、解除又は償還をなし、これにより納税義務者が取得すべき金錢を以て戰時補償特別税を徴收し、一般申告期限の屬する月の翌月末日までに、これを政府に納付しなければならない。
第二十條 前二條の規定は、政府特殊借入金の債權又は特殊預金等について擔保權(國税徴收法第三條に規定する擔保權を含む。以下同じ。)が存する場合又は強制執行手續、國税徴收法による強制徴收手續その他これらの手續に準ずるものが進行中である場合においても、その適用を妨げない。
政府特殊借入金の債權について擔保權が存する場合において、第十八條又は前條第一項の規定によりその政府特殊借入金の債權が戰時補償特別税の納付に充てられたときは、その擔保權は、戰時補償特別税の納付と同時に、消滅する。
前二項に規定するものを除く外、前二條の場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十一條 第十四條の規定による申告書を提出した者が、同條に規定する申告期限内に、戰時補償特別税を完納しなかつたときは、政府は、國税徴收法第九條の規定により、これを督促する。
前條の規定は、第十二條第二項の規定により徴收を猶豫された戰時補償特別税を、國税徴收法により、特殊預金等を以て徴收する場合について、これを準用する。
第二十二條 第十五條又は第十九條の場合において、金融機關が、別表一第十四號又は別表二第一號若しくは第二號に掲げる請求權の決濟に必要な資金を損害保險會社又は損害保險中央會に融通したため、貸付金の債權を有するときは、第十五條第二項又は第十九條第二項の規定により金融機關が納付すべき税額のうち當該請求權に對する税額に相當する金額の貸付金の債權は、命令の定めるところにより、一般申告期限の翌日に、消滅する。この場合においては、金融機關は、その消滅した貸付金の債權の金額に相當する税額について、第十五條第二項又は第十九條第二項の規定による税金納付の義務を免除される。
前項の規定は、金融機關が、別表三に掲げる請求權の決濟に必要な資金を國民更生金庫又は産業設備營團に融通したため、貸付金の債權を有する場合に、これを準用する。
前二項の場合においては、金融機關は、命令の定めるところにより、その消滅した貸付金の債權の金額その他必要な事項を政府に届け出るとともに、損害保險會社若しくは損害保險中央會又は國民更生金庫若しくは産業設備營團にこれを通知しなければならない。
第二十三條 納税義務者が金錢を以て戰時補債特別税の全部又は一部を納付すべき場合において、その完納を困難とするときは、納税義務者は、戰時補債特別税の物納を申請し、又は擔保を提供してその延納を申請することができる。
前項の場合において、物納に充てることができる財産の種類その他物納に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第一項の場合において、延納の期間は、これを一般申告期限後二箇年以内とし、擔保の種類その他延納に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
政府は、第一項の申請があつた場合において、必要があると認めるときは、税金の納付を猶豫することができる。
第一項の規定により延納を許可された場合においては、當該延納税額については、命令の定めるところにより、命令の定める期間に應じ、當該税額に年百分の十の割合を乘じて算出した金額に相當する税額を加算して、これを納付しなければならない。
第二十四條 第五條の場合において、相續人が二人以上あつたときは、相續人は、相續財産の價額(相續に因り債務を承繼したときは、相續財産の價額からその債務の金額を控除した金額)のうち、各自その受けた利益の價額の占める割合に應じて戰時補償特別税を納付しなければならない。
前項の場合において、相續に因り承繼した債務の金額が相續財産の價額を超えてゐたときは、各相續人の納付すべき戰時補償特別税の税額は、命令の定めるところによる。 前二項の場合においては、相續人は、他の相續人の納付すべき戰時補償特別税について、連帶納付の責に任ずる。
第五條の場合において、その相續が財産を留保した家督相續であつたときは、被相續人は、相續人の納付すべき戰時補償特別税について、連帶納付の責に任ずる。
分割に因り設立された法人は、分割に因り設立された他の法人が、第六條第三項の規定により、納付すべき戰時補償特別税又は分割後存續する他の法人が、分割前に取得した戰時補償請求權につき、納付すべき戰時補償特別税について、連帶納付の責に任ずる。
前三項の規定は、戰時補償特別税のうち、政府特殊借入金の債權を以て納付すべき額及び特殊預金等につき期限前の拂戻、解除又は償還を受け、これにより取得した金錢を以て納付すべき額に相當するものについては、これを適用しない。
第二十五條 納税義務者は、戰時補償特別税を納付するため必要があるときは、命令の定めるところにより、命令で定める預金、貯金その他の債權の全部又は一部について、期限前の拂戻を請求し、又はこれらに關する契約を解除し、若しくは變更することができる。
前項の場合において、その契約の相手方が納税義務者に給付すべき金額その他必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十六條 第十四條第二項、第十五條第二項、第十九條第二項、第三十五條第二項、第三十六條第二項、第三十八條第二項及び第四十五條の規定の適用については、産業設備營團は、これを金融機關とみなす。
第四章 課税價格の更正及び決定
第二十七條 第十四條の規定による申告書が提出された場合において、その申告された課税價格が政府において調査した課税價格と異るときは、政府は、その調査により、その申告された課税價格を更正する。
政府は、納税義務があると認められる者が第十四條の規定による申告書を提出しなかつた場合においては、政府の調査により、その課税價格(第十七條の規定により消滅した戰時補償請求權の課税價格を除く。)を決定する。
政府は、前二項の規定による課税價格の更正又は決定後、その更正し又は決定した課税價格について脱漏があることを發見したときは、政府の調査により、その課税價格を更正することができる。
前三項の規定による課税價格の更正又は決定は、この法律施行後五年間に限り、それを行ふことができる。
第二十八條 政府は、前條の規定により、課税價格を更生し又は決定したときは、これを納税義務者に通知する。
この法律の施行地に住所及び居所又は營業所若しくは事務所を有しない納税義務者が納税管理人の申告をしてゐないときは、前項の通知に代へて公告をなすことができる。この場合において、公告の初日から七日を經過したときは、その通知があつたものとみなす。
第二十九條 政府は、第二十七條の規定により、課税價格を更正し又は決定した場合においては、前條の通知をなした日から一箇月後を納期限とし、その不足税額又はその決定による税額の戰時補償特別税を徴收する。
前項の場合において、第十九條の規定によつて徴收した税金があるときは、その税額は、前項の規定により徴收すべき戰時補償特別税の税額から、これを控除する。
第五章 審査、訴願及び行政訴訟
第三十條 納税義務者は、第二十七條の規定による課税價格の更正又は決定に對して異議があるときは、その通知を受けた日から一箇月以内に不服の事由を具し、政府に審査の請求をなすことができる。
政府は、前項の請求があつた場合においても、税金の徴收を猶豫しない。
第三十一條 政府は、前條第一項の請求があつたときは、これを決定し、納税義務者に通知しなければならない。
第三十二條 前條の決定に對し不服がある者は、訴願をなし又は行政裁判所に出訴することができる。
第六章 代位納付
第三十三條 納税義務者以外の者でこの法律施行の際現に政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を有するものは、その政府特殊借入金又は特殊預金等の金額を限度として、納税義務者に代位して戰時補償特別税を納付する義務がある。
前項の場合において、この法律施行の際現に納税義務者の有する政府特殊借入金の債權又は特殊預金等の金額と、納税義務者に代位して戰時補償特別税を納付する義務がある者(以下代位納付義務者といふ。)の有する政府特殊借入金の債權又は特殊預金等の金額との合計額が、課税價格につき第十條乃至第十三條の規定を適用して算出した戰時補償特別税の額を超える場合においては、代位納付義務者は、戰時補償特別税の額から納税義務者がこの法律施行の際現に有する政府特殊借入金の債權又は特殊預金等の金額を控除した金額について、戰時補償特別税を納付する義務がある。この場合において、代位納付義務者が二人以上あるときは、各代位納付義務者の納付すべき戰時補償特別税の税額は、命令の定めるところによる。
第三十四條 企業整備資金措置法第四條又は臨時資金調整法第十條の二の規定の適用があつた場合において、納税義務者が金融機關に對する債務を決濟することを理由として、戰時補償請求權について、企業整備資金措置法第五條に規定する更改による決濟の方法(これらに準ずる決濟の方法で命令で定めるものを含む。)以外の方法により決濟を受け、その金融機關に對する債務を決濟したときは、その金融機關は、決濟を受けた金額を限度として、納税義務者に代位して戰時補償特別税を納付する義務がある。
戰時補償請求權の決濟のため特殊預金等の設定を受けた者又はその特殊預金等の讓渡を受けた者が、この法律施行前に、金融機關に對する債務を決濟することを理由として、特殊預金等について、期限前の拂戻、解除若しくは償還を受け、その金融機關に對する債務を決濟し、又は金融機關に對する債務の決濟のため、特殊預金等をその金融機關に讓渡した場合においては、その金融機關は、決濟を受けた金額(その金融機關が當該特殊預金等を讓渡した場合においては、その讓渡した特殊預金等の金額を除く。)を限度として、納税義務者に代位して戰時補償特別税を納付する義務がある。
前條第一項の規定は、前項に規定する特殊預金等の讓渡を受けた金融機關については、これを適用しない。
前條第二項の規定は、第一項及び第二項の場合に、これを準用する。
第三十五條 代位納付義務者は、一般申告期限内に、命令の定めるところにより、第三十三條第一項に規定する政府特殊借入金の債權又は特殊預金等の金額、前條第一項又は第二項に規定する決濟を受けた金額その他必要な事項を記載した申告書を政府に提出しなければならない。
この法律施行の際現に特殊預金等を有する代位納付義務者は、その特殊預金等の預入先の金融機關を經由して、前項の申告書を提出しなければならない。この場合において、預入先の金融機關が申告書を受理したときは、その申告書は、同項の規定により政府に提出されたものとみなす。
第十四條第三項の規定は、第一項の規定による申告について、これを準用する。
第三十六條 代位納付義務者は、命令の定めるところにより、前條の規定による申告期限内に、戰時補償特別税を納付しなければならない。
前項の場合において、代位納付義務者が前條第二項の規定により申告書を提出したときは、同項に規定する金融機關は、代位納付義務者から戰時補償特別税を徴收し、一般申告期限の屬する月の翌月末日までに、これを政府に納付しなければならない。
第三十七條 第十條の規定は、納税義務者が第十四條の規定による申告書を提出しなかつた場合においても、代位納付義務者が第三十五條の規定による申告書を提出した場合においては、代位納付義務者の納付すべき戰時補償特別税の税額の計算について、これを適用する。
第三十八條 この法律施行の際現に政府特殊借入金の債權を有する代位納付義務者が一般申告期限内に第三十五條第一項の規定による申告書を提出しなかつた場合その他命令で定める場合においては、政府は、一般申告期限の翌日に、その政府特殊借入金の債權を以て戰時補償特別税を徴收する。
この法律施行の際現に特殊預金等を有する代位納付義務者が一般申告期限内に第三十五條第一項の規定による申告書を提出しなかつた場合その他命令で定める場合においては、その特殊預金等の預入先の金融機關は、命令の定めるところにより、一般申告期限の翌日に、その特殊預金等について期限前の拂戻、解除又は償還をなし、これにより代位納付義務者が取得すべき金錢を以て戰時補償特別税を徴收し、一般申告期限の屬する月の翌月末日までに、これを政府に納付しなけけばならない。
第二十條第一項及び第二項の規定は、前二項の場合に、これを準用する。
前項に規定するものを除く外、第一項及び第二項の場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十九條 第三十六條又は前條の場合において、代位納付義務者が、別表一第十四號又は別表二第一號若しくは第二號に掲げる請求權の決濟に必要な資金を損害保險會社又は損害保險中央會に融通したため、貸付金の債權を有するときは、第三十六條第二項又は前條第二項の規定により代位納付義務者が納付すべき税額のうち當該請求權に對する税額に相當する金額の貸付金の債權は、命令の定めるところにより、一般申告期限の翌日に、消滅する。この場合においては、代位納付義務者は、その消滅した貸付金の債權の金額に相當する税額について、同條の規定による税金納付の義務を免除される。
前項の規定は、代位納付義務者が、別表三に掲げる請求權の決濟に必要な資金を國民更生金庫又は産業設備營團に融通したため、貸付金の債權を有する場合に、これを準用する。
前二項の場合においては、代位納付義務者は、命令の定めるところにより、その消滅した貸付金の債權の金額その他必要な事項を政府に届け出るとともに、損害保險會社若しくは損害保險中央會又は國民更生金庫若しくは産業設備營團にこれを通知しなければならない。
第四十條 第十八條及び第二十一條の規定は、代位納付義務者の納付すべき戰時補償特別税について、これを準用する。
第二十二條の規定は、代位納付義務者が金融機關に特殊預金等を有する場合において、その特殊預金等の預入先の金融機關について、これを準用する。
前二章の規定は、代位納付義務者の納付すべき戰時補償特別税額の更生若しくは決定又は審査、訴願若しくは行政訴訟について、これを準用する。
第四十一條 第三十三條の規定により戰時補償特別税を納付した代位納付義務者が、戰時補償特別税の納付に充てた政府特殊借入金の債權又は戰時補償特別税を納付するため期限前の拂戻、解除若しくは償還を受けた特殊預金等を、納税義務者その他の者から有償で取得した者である場合においては、代位納付義務者は、その政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を讓渡した者に對し、命令の定めるところにより、その取得に要した對價に相當する金額の範圍内において、求償をなすことができる。
前項の場合において、讓渡人が求償に應じて履行したときは、當該讓渡人は、その政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を有償で取得した者である場合に限り、その政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を讓渡した者に對し、命令の定めるところにより、その取得に要した對價に相當する金額の範圍内において、求償をなすことができる。
前項の規定は、同項に規定する讓渡人以外の者でその政府特殊借入金の債權又は特殊預金等を讓渡したものが求償に應じて履行した場合について、これを準用する。
第一項の場合においては、代位納付義務者の有する政府特殊借入金の債權又は特殊預金等について存する擔保權は、同項の規定による求償權により、代位納付義務者が受くべきものに對しても、これを行ふことができる。
第四十二條 第三十四條の規定のより戰時補償特別税を納付した代位納付義務者は、納税義務者その他同條に規定する債務の決濟をなした者に對し、命令の定めるところにより、その納付した税額の範圍内において求償をなすことができる。
前條第二項乃至第四項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第七章 雜則
第四十三條 納税義務者は、第三十三條又は第三十四條に規定する場合においては、命令の定めるところにより、課税價格その他必要な事項を代位納付義務者に通知しなければならない。
代位納付義務者は、命令の定めるところにより、第三十三條第一項に規定する政府特殊借入金又は特殊預金等の金額は、第三十四條第一項又は第二項に規定する決濟を受けた金額その他必要な事項を納税義務者に通知しなければならない。
第四十四條 法人が解散した場合において、戰時補償特別税を完納しないで殘餘財産の分配を終了したときは、その税金については、清算人は、連帶して納税の義務があるものとする。
第四十五條 金融機關が、第十五條第二項、第十九條第二項、第三十六條第二項又は第三十八條第二項の規定により、その徴收した戰時補償特別税を政府に納付する場合において、金融上の都合により、金錢による納付を困難とするときは、命令の定めるところにより、金融機關は、政府に申請して、その有する政府特殊借入金の債權を政府に讓渡し、これを以て戰時補償特別税の納付に充てることができる。
第四十六條 命令で定める法人は、命令の定めるところにより、戰時補償請求權に關する調書を政府に提出しなければならない。
第四十七條 收税官吏は、戰時補償特別税に關する調査又は戰時補償特別税の徴收について必要があるときは、納税義務者若しくは納税義務者と認められる者又は代位納付義務者若しくは代位納付義務者と認められる者に質問し、又はその戰時補償請求權に關する帳簿書類その他の物件を檢査することができる。
第四十八條 收税官吏は、戰時補償特別税に關する調査又は戰時補償特別税の徴收について必要があるときは、左に掲げる者に質問し、又はその戰時補償請求權に關する帳簿書類その他の物件を檢査することができる。
一 第四十六條の規定に基く命令により調書を提出すべき者
二 納税義務者又は納税義務者と認められる者に對し、戰時補償請求權に關係のある財産を讓渡したと認められる者
三 納税義務者又は納税義務者と認められる者から、戰時補償請求權に關係のある財産を取得したと認められる者
第四十九條 收税官吏は、戰時補償特別税の調査に關し必要があるときは、官吏その他の公務員又は特定機關の職員であつた者で戰時補償請求權に關係のある事務に從事してゐたものに質問することができる。
政府は、戰時補償特別税の調査に關し必要があるときは、命令の定めるところにより、前項に規定する者の出頭を命ずることができる。
前項の規定による命令に從ひ出頭した者には、命令の定めるところにより、手當及び旅費を給する。
第五十條 戰時補償特別税は、個人についてはその住所地、この法律の施行地に住所のないときは居所地、法人についてはその本店又は主たる事務所の所在地をその納税地とする。但し、個人は、政府に申告して、居所地を納税地とすることができる。
この法律の施行地に住所及び居所のない個人又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所を有しない法人は、命令の定めるところにより、納税地を定めて政府に申告しなければならない。その申告のないときは、政府が、その納税地を指定する。
第五十一條 納税義務者若しくは代位納付義務者たる個人が納税地に現住しないとき、又は納税義務者若しくは代位納付義務者たる法人が納税地に營業所若しくは事務所を有しないときは、第十四條又は第三十五條の規定による申告書の提出その他戰時補償特別税に關する一切の事項を處理させるため、納税地に居住する者の中から納税管理人を定め、政府に申告しなければならない。納税義務者又は代位納付義務者たる個人がこの法律の施行後に住所及び居所を有しないこととなるとき竝びに納税義務者又は代位納付義務者たる法人が納税地に營業所又は事務所を有しないこととなるときもまた同じ。
第五十二條 都道府縣、市町村その他の公共團體は、戰時補償特別税の附加税を課することができない。
第五十三條 納税義務者が讓渡を受けた戰時補償請求權(保險の目的の讓渡なくして讓渡を受けた保險契約に因り生じた權利に因るものを含む。)について戰時補償特別税を納付した場合又は第四十一條第一項乃至第三項竝びに第四十二條第一項及び第二項の規定により、求償に應じて履行した場合において、その戰時補償請求權が有償で取得したものであるときは、納税義務者は、讓渡人に對し、命令の定めるところにより、その取得に要した對價に相當する金額の範圍内において、求償をなすことができる。
第四十一條第二項及至第四項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第五十四條 個人の所得税法による所得、營業税法による純益又は舊臨時利得税法による利益のうちに、事業の收益で戰時補償請求權に因るものが算入されてゐるときは、命令の定めるところにより、當該年分の所得税、營業税、營業税附加税又は臨時利得税の税額と當該年分の所得、純益又は利益の金額から當該事業の收益の金額を控除した金額により計算した所得税、營業税、營業税附加税又は臨時利得税の額と差額に相當する税額を、所得税、營業税、營業税附加税又は臨時利得税について免除する。
第五十五條 法人の法人税法による各事業年度の普通所得、營業税法による各事業年度の純益、舊臨時利得税法による利益又は特別法人税法による各事業年度の剩餘金のうちに、戰時補償請求權に因る益金が算入されてゐるときは、命令の定めるところにより、當該事業年度分の法人税、營業税、營業税附加税、臨時利得税又は特別法人税の税額と、當該事業年度の所得、純益、利益又は剩餘金から戰時補償請求權に因る益金を控除した金額により計算した法人税、營業税、營業税附加税、臨時利得税又は特別法人税の額との差額に相當する税額を、法人税、營業税、營業税附加税、臨時利得税又は特別法人税について免除する。
第五十六條 法人の納付すべき戰時補償特別税は、法人税法による各事業年度の普通所得、營業税法による各事業年度の純益又は特別法人税法による各事業年度の剩餘金の計算上、これを損金に算入しない。
法人の資産(商品その他命令で定めるものを除く。)の評價換又は讓渡に因る益金、債務の消滅に因る益金、資本の減少に因る益金その他命令で定める益金については、その合計金額が戰時補償特別税額から戰時補償請求權に因る益金の額を控除した金額に達するまでの金額は、命令の定めるところにより、法人税法による各事業年度の普通所得、營業税法による各事業年度の純益又は特別法人税法による各事業年度の剩餘金の計算上、これを益金に算入しない。
前二項の規定の適用については、第五十三條第一項の規定により戰時補償請求權の讓渡人が求償される場合において、その求償される金額は、これを戰時補償特別税とみなす。
第五十七條 この法律施行前に相續の開始があつた場合において、相續財産(相續開始前一年以内に被相續人が贈與した財産を含む。以下同じ。)のうちに戰時補償請求權、政府特殊借入金の債權又は特殊預金等が含まれてゐたときは、命令の定めるところにより、當該相續税額と、當該相續税の課税價格から當該戰時補償請求權について課せられる戰時補償特別税額の全部又は一部を控除した金額によつて計算した相續税の額との差額を、當該相續税について免除する。
前項の規定は、この法律施行前に開始した相續の相續財産のうちに、政府特殊借入金の債權又は特殊預金等により取得した財産が含まれてゐた場合について、これを準用する。この場合において課税價格から控除する戰時補償特別税額は、その取得した財産の課税價格から當該戰時補償請求權について第十條の規定による控除金額を控除した金額を超えることができない。
第五十八條 この法律施行前に相續の開始があつた場合において、その相續財産につき生じた戰時補償請求權について戰時補償特別税が課せられたときは、當該相續について昭和二十年八月十五日後に納期限を定められた相續税に限り、命令の定めるところにより、當該戰時補償特別税額のうち命令で定める金額の、當該相續についての課税價格に對する割合を、當該相續税額に乘じて算出した金額を免除する。
第五十九條 改正前の戰時特殊損害保險法第十六條の規定(損害保險中央會法第五十六條の規定による改正前のものをいふ。)による戰爭保險の業務に關する保險會社に對する損失の補償については、第二十二條(第四十條において準用する場合を含む。)又は第三十九條の規定により消滅した貸付金の債權の金額に相當する金額を、その補償すべき損失の額から控除する。
第六十條 國、地方公共團體若しくは特定機關に對して土地若しくは建物(土地又は建物に定着する物を含む。以下本條中同じ。)又は鑛業權若しくは砂鑛權を讓渡し又は國、地方公共團體若しくは特定機關に土地若しくは建物を收用された場合において、その對價の請求權について戰時補償特別税を課せられたときは、國、地方公共團體又は特定機關は、この法律施行の際現に當該土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權を有する場合に限り、舊所有者又は舊鑛業權者若しくは舊砂鑛權者の請求により、當該土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權を、現状において、これらの者に對し、讓渡しなければならない。
前項の規定により土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權の讓渡を受けようとする者は、當該土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權の讓渡又は收用の對價の價格に相當する金額からその對價の請求權に課せられた戰時補償特別税額を控除した金額に相當する對價を、國、地方公共團體又は特定機關に支拂はなければならない。
前項の場合において國、地方公共團體又は特定機關が當該土地又は建物につき有益費を出したときは、舊所有者は、その費用の額に相當する金額を、前項の金額に加算して支拂はなければならない。
第一項の規定により地方公共團體又は特定機關が土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權を舊所有者又は舊鑛業權者若しくは舊砂鑛權者に讓渡した場合においては、政府は、當該土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權の讓渡又は收用の對價の請求權に課せられた戰時補償特別税に相當する金額の全部又は一部を、地方公共團體又は特定機關に交付しなければならない。
第一項の規定により土地若しくは建物又は鑛業權若しくは砂鑛權の讓渡を受けようとする者は、一般申告期限後三箇月以内に、その旨を國、地方公共團體又は特定機關に申出なければならない。
前項に規定するものを除く外、第一項乃至第四項の場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第六十一條 鑛業權又は砂鑛權が國、地方公共團體又は特定機關に讓渡された後に消滅した場合その他命令で定める場合いおいて、その對價の請求權その他命令で定める請求權について、戰時補償特別税を課せられたときは、舊鑛業權者又は舊砂鑛權者は、鑛業法第三十三條の規定にかかはらず、前に鑛區又は砂鑛區の存した土地に關し、同一鑛物を目的とする鑛業又は同一砂鑛を目的とする砂鑛業の出願について優先權を有する。
鑛業又は砂鑛業の出願について前項の規定の適用を受けようとする者は、命令の定めるところにより、一般申告期限後三箇月以内に、政府に出願しなければならない。
前項に規定するものを除く外、第一項の場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第六十二條 雙務契約に因り生じた戰時補償請求權について戰時補償特別税を課せられた場合において、その戰時補償請求權の對價る給付で、この法律施行前すでに履行されたものがあるときは、納税義務者は、前二條に規定する場合を除く外、他の法令又は契約にかかはらず、戰時補償特別税の課税を理由として物の返還その他何等の請求をもなすことができない。
雙務契約に因り生じた戰時補償請求權について戰時補償特別税を課せられた場合においては、納税義務者は、他の法令又は契約にかかはらず、その戰時補償請求權の對價たる給付で、この法律施行の際にまだ履行されてゐないものについては、これを履行する必要がない。
納税義務者以外の者で最初に戰時補償請求權を取得したものは、前二項の規定の適用については、これを納税義務者とみなす。
第六十三條 戰時補償特別税の納税義務者又は代位納付義務者が戰時補償特別税の納付後において有する政府特殊借入金の債權(第十條の規定の適用の結果戰時補償特別税を納付しないこととなつた者の有するものを含む。)及び戰時補償特別税の納付の義務のない者が有する政府特殊借入金の債權は、命令の定めるところにより、これを當該債權の金額と同額の登録國債となすものとする。
第六十四條 政府は、命令の定めるところにより、戰時補償特別税の納付後において存する戰時補償請求權(第十條の規定の適用の結果戰時補償特別税を納付しないこととなつた者の有かるものを含む。)で政府に對するものの決濟を、國債證券の交付により、行ふことができる。
前項の規定による決濟のため交付する國債證券の交付價格は、額面金額による。
政府は、第一項の請求權の決濟のため必要な金額を限り、公債を發行することができる。
第六十五條 この法律施行の際現に存する戰時補償請求權で金錢の給付以外の給付をその目的とするものは、この法律施行の日に、消滅する。
第六十六條 會社その他の法人が昭和二十年八月十五日以前においてなした資金の融通、有價證券の應募、引受若しくは買入又は債務の引受若しくは保證に因り生じた又は生ずべき損失で、政府において補填すべきものは、他の法令又は契約にかかはらず、これを補填しない。但し、命令で定めるものはこの限りではない。
第六十七條 政府が會社その他の法人のためになした保證(命令で定めるものを除く。)は、この法律施行の日において、その效力を失ふ。
第八章 罰則 第六十八條 詐僞その他不正の行爲により、戰時補償特別税を逋脱した者は、これを一年以下の懲役又は十萬圓以下の罰金に處する。
第六十九條 左の各號の一に該當する者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
一 正當の事由なくして第四十六條の調書を提出せず、又は同條の調書に虚僞の記載をなしてこれを提出した者
二 第四十七條又は第四十八條の規定による帳簿書類その他の物件の檢査を拒み、妨げ又は忌避した者
三 前號の帳簿書類で虚僞の記載をなしたものを呈示した者
四 第四十七條、第四十八條又は第四十九條第一項の規定による收税官吏の質問に對し答辯をなさない者
五 前號の質問に對し虚僞の答辯をなした者
第七十條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關して、第六十八條又は前條第一號若しくは第三號乃至第五號の違反行爲をなしたときは、その行爲者を罰する外、その法人又は人に對し、各本條の罰金刑を科する。
第七十一條 第六十八條の罰を犯した者には、刑法第三十八條第三項但書、第三十九條第二項、第四十條、第四十一條、第四十八條第二項、第六十三條及び第六十六條の規定は、これを適用しない。但し、懲役刑に處するときは、この限りではない。
第七十二條 第十四條又は第三十五條に規定する申告期限内に第十四條又は第三十五條の規定による申告書の提出を怠つた者は、これを五千圓以下の過料に處する。
第七十三條 第四十九條第二項の規定による出頭を命ぜられた者が、正當の事由なくして、出頭しないときは、これを千圓以下の過料に處する。
第九章 補則 第七十四條 皇室の財産に係る戰時補償請求權の特別措置に關し必要な事項は、この法律の定めるところに準じ、皇室令を以て、これを定める。
附 則
この法律の施行の期日は、勅令で、これを定める。
この法律は、本州、北海道、四國、九州及びその附屬島嶼(勅令で定める地域を除く。)に、これを施行する。
(別表一)
一 舊軍需會社法第十三條(同法に基く命令において準用する場合を含む。)の規定に基く補助金、損失補償金又は利益保證の請求權
二 舊國家總動員法第二十七條又は第二十八條の規定に基く補償金(別表二第三號に掲げるものを除く。)又は補助金の請求權
三 舊兵器等製造事業特別助成法第四條の規定に基く設備建設費の請求權
四 舊兵器等製造事業特別助成法第五條の規定に基く設備の買上代金請求權及びこれに代るべき請求權
五 舊防空法第十六條第二項の規定による補助金で工場の疎開に關するものの請求權及び工場の疎開に關する國のその他の補助金の請求權
六 政府(第一條第二項に規定する政府をいふ。以下別表中同じ。)に對する物資、勞務若しくは利益の供給又は政府の注文に係る仕事の完成に對する對價の請求權
七 政府に對する物資、勞務若しくは利益の供給又は政府の注文に係る仕事の完成に關する契約を政府が解除した場合の損害賠償請求權又は仕掛半製品のまま引き取つた場合その他これに準ずる場合の對價の請求權
八 政府に徴傭された船舶の原状囘復及び修理に關する費用の請求權
九 政府に對する損害賠償請求權で財産上の損害に因るもの(別表一のうち別號に掲げるもの及び別表二に掲げるものを除く。)
十 今次の戰爭の遂行に關して、政府が法令の特別の規定に基かずに處分をなしたことに因る損失補償請求權
十一 産業設備營團と事業者との間の設備建設契約に基く産業設備營團に對する設備建設費の請求權又は産業設備營團と事業者との間に設備建設契約の豫約がある場合において、事業者の建設した設備につき、産業設備營團が豫約を履行しないことに因る損害賠償請求權
十二 産業設備營團が終戰に因り船舶、機械等の製造又は購入の契約を解除した場合の損害賠償請求權
十三 日本倉庫統制株式會社に對し倉庫用建築物を讓渡した場合の代金請求權(當該建築物が除却された場合のものに限る。)
十四 舊戰爭保險臨時措置法若しくは舊戰時特殊損害保險法又は、これらによる旨を定めた勅令(南洋群島戰爭保險臨時措置令を含む。)に基く戰爭保險契約による戰爭保險金の請求權で、この法律の施行地外にある財産を保險の目的とするもの
(別表二)
一 舊戰爭保險臨時措置法又は舊戰時特殊損害保險法に基く戰爭保險契約による戰爭保險金の請求權(別表一第十四號に掲げるものを除く。)
二 舊損害保險國營再保險法に基く勅令に掲げる戰爭保險金の請求權若しくは從前の損害保險中央會法第十八條第一項に掲げる海上保險金(木船保險の保險金を含む。)の請求權又は漁船保險法施行令第二條第二項に掲げる保險金の請求權
三 舊戰時海運管理令第二條の規定により使用された船舶の、戰爭に關する事故に因る損失に對する補償金の請求權
四 政府に徴傭された船舶の、戰爭に關する事故に因る損害賠償請求權
五 舊防空法第五條の五第二項の規定により指定された地區内に存する建築物(工事中のものを含む。以下同じ。)を除却する場合における補償金及び當該建築物(その存する土地を含む。)の賣買代金の請求權
(別表三)
國民更生金庫、産業設備營團、帝國鑛業開發株式會社又は日本石炭株式會社その他命令で定める者に對する請求權で企業整備に關するもの
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金融機關再建整備法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
金融機關再建整備法案
金融機關再建整備法目次
第一章 總則
第二章 資産及び負債の調査
第三章 資産及び負債の評價
第四章 舊勘定の資産及び負債の移換
第五章 舊勘定の最終處理
第六章 整備の促進
第七章 決算の特例
第八章 監査及び監督
第九章 雜則
第十章 罰則
金融機關再建整備法
第一章 總則
第一條 この法律は、戰時補償の特別處理等に伴ひ金融機關に生ずべき損失を適正に處理し、國民生活の安定を確保し、金融機關の速かな再建整備を促進し、以て戰後經濟の安定及びその健全な發達を圖ることを目的とする。
第二條 この法律において、金融機關、指定時又は預金等とは、金融機關經理應急措置法に定める金融機關、指定時又は預金等をいふ。
この法律において、新勘定又は舊勘定とは、金融機關經理應急措置法第一條第一項の規定により設けられた新勘定又は舊勘定をいふ。
この法律において、經濟再建整備委員會とは、企業再建整備法に定める經濟再建整備委員會をいふ。
第三條 金融機關の舊勘定の資産及び負債は、金融機關經理應急措置法及びこの法律の定めるところにより、これを整理する。
第二章 資産及び負債の調査
第四條 金融機關の指定時における舊勘定の負債に關する債權者(その承繼人を含む。以下同じ。)で勅令で定めるものは、命令の定めるところにより、主務大臣の指定する日までに、その債權を當該金融機關に申し出なければならない。
前項の債權者が同項の期限内に、その債權を申し出ない場合においては、その債權者は、舊勘定の整理から除斥される。
第一項の期日において知れてゐる債權者は、これを舊勘定の整理から除斥することができない。
第五條 金融機關の舊勘定の負債又は指定時における新勘定の負債のうちで、その債權につき異議のあるものその他不確定なものがあるときは、第七條の評價基準の決定されたものを除く外、その確定に至るまでは、金融機關は、命令で定める金額を、假にその負債の確定金額として、舊勘定の整理を行はなければならない。
第六條 金融機關は、命令の定めるところにより、指定時における新勘定及び舊勘定について、各勘定別に、財産目録及び貸借對照表竝びに資産及び負債の明細書を作成し、主務大臣の指定する日までに、これを主務大臣に提出しなければならない。
第三章 資産及び負債の評價
第七條 金融機關の舊勘定の資産及び負債竝びに指定時における新勘定の資産及び負債のうち、命令で定めるもの以外のものについては、評價基準が設けられる。
前項の評價基準は、暫定評價基準及び確定評價基準の二とし、命令で定めるところにより、主務大臣が經濟再建整備委員會の議を經て、これを決定する。
主務大臣は、暫定評價基準又は確定評價基準を決定したときは、これを公告する。
第八條 金融機關は、主務大臣の指定する時において、その時における舊勘定の資産及び負債竝びに指定時における新勘定の資産及び負債について、命令の定めるところにより、暫定評價基準による評價を行はなければならない。この場合において、その資産及び負債のうち確定評價基準の決定したものがあるときは、これについては、確定評價基準による評價を行はなければならない。
金融機關は、前項の評價を行つたときは、命令の定めるところにより、同項に掲げる資産及び負債について、各勘定別に財産目録、貸借對照表及び損益の計算書(損益の計算書は舊勘定の分に限る。)を作成し、主務大臣の指定する日までに、これを主務大臣に提出しなければならない。
第九條 金融機關は、前條第一項の評價を行つた後、各月末における舊勘定の資産及び負債竝びに指定時における新勘定の資産及び負債のうちに、その月末までに決定されてゐる確定評價基準による評價が行はれてゐないものがあるときは、その資産及び負債について、その月末において、確定評價基準による評價を行はなければならない。
第十條 金融機關は、指定時における新勘定の資産及び負債について、第八條第一項又は前條の評價を行つた結果、評價益が生じたときは、その評價益に相當する金額を新勘定の舊勘定に對する借として整理し、又、評價損が生じたときは、その評價損に相當する金額を新勘定の舊勘定に對する貸といて整理する。
金融機關は、前項の場合においては、新勘定の舊勘定に對する借として整理すべき金額に相當する額は、これを舊勘定の評價益として整理し、又、新勘定の舊勘定に對する貸として整理すべき金額に相當する額は、これを舊勘定の評價損として整理する。
第十一條 金融機關は、舊勘定の資産及び負債について、第八條第一項又は第九條の評價を行つた結果、評價益が生じたときは、これを舊勘定の評價益として整理し、又、評價損が生じたときは、これを舊勘定の評價損として整理する。
第四章 舊勘定の資産及び負債の移換
第十二條 金融機關は、第五章に規定する場合を除く外、本章の定めるところにより、舊勘定の資産又は整理債務を移し換へることができる。
前項の整理債務とは、舊勘定に屬する債務(責任準備金及び支拂備金に關する債務を含む。)のうち、主務大臣の指定する債務(以下指定債務といふ。)以外のものをいふ。
第十三條 金融機關は、第八條第一項の評價が行はれる前においても、第一號の金額が第二號の金額を超え、且つ、その超過額の整理債務の金額に對する割合が主務大臣の指定する割合を超えるときは、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、その超過額の範圍内において、整理債務を舊勘定から新勘定に移すことができる。
一 舊勘定の資産の總額から主務大臣の指定する舊勘定の資産の金額を差し引いた殘額
二 資本(出資金、基金及び保險業法第六十五條の積立金を含む。以下同じ。)の金額の一割に相當する金額と、指定債務の金額と、舊勘定の新勘定に對する借があるときはその金額との合計額
前項の規定による主務大臣の認可があつたときは、その指定する時において、認可に係る整理債務は、新勘定に屬するものとする。
第一項の規定により舊勘定から新勘定に移した整理債務の金額に相當する金額は、これを舊勘定の新勘定に對する借として整理する。
金融機關は、第一項の規定による主務大臣の認可があつたときは、命令の定めるところにより、遲滯なくその旨を公告しなければならない。
第十四條 金融機關は、第八條第一項又は第九條の評價を行つた結果、第一號の金額が第二號の金額を超え、且つ、その超過額の整理債務の金額に對する割合が主務大臣の指定する割合を超えるときは、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、その超過額の範圍内において、整理債務を舊勘定から新勘定に移さなければならない。
一 舊勘定の資産(舊勘定の新勘定に對する貸があるときは、これを除く。)の評價額(確定評價基準があるものについては、確定評價基準により評價した金額を以て、その他のもののうち暫定評價基準があるものについては、暫定評價基準により評價した金額に對し主務大臣の指定する割合を乘じた金額を以て、各各評價額とする。)と舊勘定の新勘定に對する貸があるときはその金額との合計額
二 前條第一項第二號に掲げる金額
前條第二項乃至第四項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第十五條 第四十條第一項又は第四十一條第一項の規定により新勘定の事業の全部若しくは一部を他の金融機關に讓渡し又は新勘定の保險契約の全部若しくは一部を他の金融機關に移轉した金融機關(以下舊金融機關といふ。)は、第八條第一項又は第九條の評價を行つた結果、前條第一項第一號の金額が同項第二號の金額(第四十二條第二項の規定により、又は前に本條第二項の規定により債務を負擔したときは、その金額を含む。)を超える場合において、その超過額の整理債務に對する割合が主務大臣の指定する割合を超えるときは、前條の規定にかかはらず、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、その超過額の範圍内において、整理債務を、舊金融機關から新勘定の事業の全部若しくは一部の讓渡又は新勘定の保險契約の全部若しくは一部の移轉を受けた金融機關(以下新金融機關といふ。)に移すことができる。但し、新金融機關の同意を得なければならない。
前項の場合においては、舊金融機關は、命令の定めるところにより、新金融機關に移した整理債務の金額に相當する金額の債務を、新金融機關に對して負擔する。
銀行法等特例法第一條の規定は、命令の定めるところにより、第一項の規定により整理債務を移す場合に、これを準用する。
第十六條 金融機關は、舊勘定の新勘定に對する借がある場合においては、命令の定めるところにより、その借の金額の範圍内において、舊勘定の資産のうち、第八條第一項又は第九條の規定により確定評價基準により評價したものを、その評價額を以て舊勘定から新勘定に移し、その評價額に相當する金額を、舊勘定の新勘定に對する借の金額から控除しなければならない。
前項の規定により、確定評價基準により評價した資産で命令で定めるものを舊勘定から新勘定に移す場合においては、金融機關は、主務大臣の承認を受けなければならない。
第十七條 第十五條第二項又は第四十二條第二項の規定により、舊金融機關が新金融機關に對し債務を負擔した場合において、舊金融機關に、金融機關經理應急措置法第九條第一項の規定により、舊勘定に屬する現金(小切手を含む。)を生じたときは、舊金融機關は、同法第十條の規定にかかはらず、命令の定めるところにより、これを新金融機關に對する債務の辨濟に充てなければならない。
第十五條第二項又は第四十二條第二項の規定により、舊金融機關が新金融機關に對し債務を負擔した場合においては、舊金融機關は、前項に規定する場合の外、金融機關經理應急措置法第十六條本文及び前條の規定にかかはらず、命令の定めるところにより、その債務の金額の範圍内において、舊勘定の資産のうち、第八條第一項又は第九條の規定により確定評價基準により評價したものを、その債務の辨濟に充てることができる。但し、新金融機關の同意を得なければならない。
前二項の場合においては、新金融機關は、金融機關經理應急措置法第十七條本文の規定にかかはらず、辨濟を受けることができる。
第五章 舊勘定の最終處理
第十八條 金融機關は、左の各號の一に該當する場合においては、本章の定めるところにより、舊勘定の最終處理を行はなければならない。
一 第八條第一項の評價を行つた結果、同項の規定により主務大臣の指定する時の現在により、左のイに掲げる金額がロに掲げる金額を超える場合において、その超過額の舊勘定の資産の總額に對する割合が主務大臣の指定する場合を超えるとき
イ 舊勘定の第八條第一項の評價による評價益の額と、その他の益の額と、積立金(保險業法第六十五條の積立金を除く外、特別準備金その他名稱の如何を問はず積立金であるものを含む。以下同じ。)の額との合計額
ロ 舊勘定の第八條第一項の評價による評價損の額と、その他の損の額と、繰越損の額との合計額
二 舊勘定の資産及び負債竝びに指定時における新勘定の資産及び負債のうち命令で定めるものについて、確定評價基準が決定されたとき
第十九條 前條第一號に規定する場合において、舊勘定の第八條第一項の評價による評價益の額と、その他の益の額との合計額(以下暫定益の額といふ。)が、前條第一號のロに掲げる金額(以下暫定損の額といふ。)以上であるときは、金融機關は、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、舊勘定の最終處理を完了しなければならない。この場合において、暫定益の額が暫定損の額を超えるときは、その超過額は、これを舊勘定の特別準備金として整理しなければならない。
第二十條 第十八條第一號に規定する場合において、暫定益の額が暫定損の額に不足するときは、金融機關は、左の各號に定める順序により、暫定損を填補しなければならない。
一 暫定損の額に對し、暫定益の額の全額を充當して填補する。
二 前號の規定の適用後における暫定損の殘額に對し、舊勘定の積立金を、特別準備金(金融機關經理應急措置法又はこの法律による特別準備金をいふ。以下同じ。)、退職積立金以外の任意積立金、退職積立金及び他の法令(金融機關經理應急措置法を除く。)による積立金の順序により、順次に取り崩して填補する。
前項第二號の場合において、同順位の積立金が二以上あるときは、均等の割合でこれを取り崩して填補する。
前二項の規定により暫定損の全額を填補したときは、金融機關は、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、舊勘定の最終處理を完了しなければならない。
第二十一條 金融機關は、第十八條第二號の規定に該當する場合においては、同號の規定に該當するに至つた日の屬する月の月末における舊勘定の資産及び負債竝びに指定時における新勘定の資産及び負債について、命令の定めるところにより、各勘定別に、財産目録、貸借對照表及び損益の計算書(損益の計算書は舊勘定の分に限る。)を作成して、主務大臣の指定する日までに、これを主務大臣に提出しなければならない。
第二十二條 金融機關は、前條の規定により作成する舊勘定の財産目録、貸借對照表及び損益の計算書には、命令の定めるところにより、主務大臣の承認を受け、舊勘定の最終處理に必要な費用に充てるため、最終處理費引當金を計上するものとする。
第二十三條 第二十一條に規定する月の月末において、左の各號の一に該當する場合においては、金融機關は、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、舊勘定の最終處理を完了しなければならない。
一 確定益(舊勘定の第十條第二項及び第十一條の評價益及びその他の益を總稱する。以下同じ。)も、確定損(舊勘定の第十條第二項及び第十一條の評價損、繰越損及びその他の損を總稱する。以下同じ。)もないとき
二 確定益と確定損とがあつて、確定益の額と確定損の額とが同額であるとき
三 確定益があつて確定損がないとき
四 確定益と確定損とがあつて、確定益の額が確定損の額を超えるとき
前項第三號の場合における確定益の額、又は同項第四號の場合における確定益の額の確定損の額を超える額は、これを舊勘定の特別準備金として整理しなければならない。
第二十四條 第二十一條に規定する月の月末において、舊勘定に確定損があつて、確定益がないとき、又は確定損と確定益とがあつて確定損の額が確定益の額を超えるときは、金融機關は左の各號の順序により、確定損の整理負擔額を計算しなければならない。
一 確定益があるときは、確定損に對し、確定益の全額を充當するものとする。
二 確定益がないときは確定損の全額に對し、又、確定益があるときは前號の規定の適用後における確定損の殘額に對し、舊勘定の積立金を充當するものとする。
三 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、資本の金額の九割に相當する金額まで、株主(出資者、基金醵出者その他これに準ずるものを含む。以下同じ。)において確定損を負擔するものとする。
四 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、整理債務(第十三條第一項、第十四條第一項又は第十五條第一項の規定により舊勘定から新勘定又は新金融機關に移した分を含み、命令で定める分を除く。以下第二十五條まで同じ。)のうち、法人(法人でない社團又は財團を含む。以下同じ。)の預金等で一口五百萬圓を超えるものの、五百萬圓を超える部分の金額の七割に相當する金額まで、その預金等の債權者において確定損を負擔するものとする。
五 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、整理債務のうち、法人の預金等で一口百萬圓を超えるものの、百萬圓を超え五百萬圓以下の部分の金額の五割に相當する金額まで、その預金等の債權者において確定損を負擔するものとする。
六 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、整理債務のうち、法人の預金等で一口十萬圓を超えるものの、十萬圓を超え百萬圓以下の部分の金額の三割に相當する金額まで、その預金等の債權者において確定損を負擔するものとする。
七 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、整理債務のうち、前三號の規定の適用後における法人の預金等の殘額と、その他の整理債務の金額との七割に相當する金額まで、整理債務の債權者において確定損を負擔するものとする。
八 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、第三號の規定の適用後における資本の殘額に相當する金額まで、株主において確定損を負擔するものとする。
九 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、第七號の規定の適用後における整理債務の殘額に相當する金額まで、整理債務の債權者において確定損を負擔するものとする。
十 前號によるもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額に對し、指定債務(命令で定めるものを除く。)の全額まで、指定債務の債權者において、命令で定める順序により、確定損を負擔するものとする。
前項第三號又は第八號の場合における各株主の負擔額は、その所有する株式(出資及び基金を含む。以下同じ。)の金額に應じて均等とする。金融機關が數種の株式を發行してゐる場合においてもまた同じ。
第二十五條 前條の規定により算出した確定損の整理負擔額の處理のため金融機關は、左の各號の定める措置をなさなければならない。
一 前條第一項第一號の場合においては、確定損の額から確定益の額を差し引く。
二 前條第一項第二號の場合においては、舊勘定の積立金を、特別準備金、退職積立金以外の任意準備金、退職積立金及び他の法令(金融機關經理應急措置法を除く。)による積立金の順序により、順次に取り崩す。
三 前條第一項第三號乃至第八號の場合においては、資本に未拂込金があるときは、勅令の定めるところにより拂込をなさしめた後、又、資本に未拂込金がないときは直ちに、前號の措置をなした上、同條第一項第三號又は第八號の規定により株主が負擔すべき金額の合計金額だけ資本を減少する。但し、第二十六條に規定する場合は、この限りでない。
第二十條第二項の規定は、前項第二號の場合に、これを準用する。
前條第一項第四號乃至第十號の場合においては、整理債務又は指定債務の債權は、當該各號の規定によりこれらの債務の債權者が確定損を負擔すべき金額に相當する金額だけ、新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日において消滅する。
前項の場合においては、保險會社、生命保險中央會又は損害保險中央會の舊勘定に屬する責任準備金又は支拂備金に對應する保險金(年金を含む。以下同じ。)の債權は、責任準備金又は支拂備金に關する權利の消滅の割合と同一の割合により、新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日において消滅する。
第一項第三號の規定による拂込の場合に關しては、他の法令又は定款にかかはらず、勅令で特別の定をなすことができる。
第二十六條 第二十四條第一項第八號の規定により、株式が資本の全額に相當する金額の確定損を負擔しなければならないときは、金融機關は、第二十七條第一項の認可を受けた後(第三十三條第一項の規定により補償を受くべきときは、その補償を受けた後)、遲滯なく舊勘定の資産と、確定損を負擔しない整理債務又は指定債務があるときはその整理債務又は指定債務とを舊勘定から新勘定に移さなければならない。舊勘定の新勘定に對する借は、この措置と同時に消滅する。
前項の場合においては、金融機關は、同項の措置をなした後、主務大臣の指定する日までに、新勘定の事業の全部を他の金融機關に讓渡し、又は新勘定の保險契約の全部を他の金融機關に移轉しなければならない。
金融機關は、前項の讓渡又は移轉について對價を取得した場合においては(第三十三條第一項の規定による政府の補償があつたときは、先づ、その額まで、これを政府に納付し、なほ殘額があるときは)、命令の定めるところにより、これを處分しなければならない。
金融機關は、第二項の期限内に新勘定の事業の全部の讓渡又は新勘定の保險契約の全部の移轉を終つたときはその讓渡又は移轉を終つた日において、又、同項の期限内にその讓渡又は移轉を終らなかつたときは同項の期限を經過した日において解散する。この場合においては、新勘定及び舊勘定の區分は、解散の日において消滅する。
第三項の規定は、前項の規定による解散の場合に、これを準用する。
前項に定めるものを除く外、第四項の規定による解散の場合に關し必要な事項は、他の法令にかかはらず、命令でこれを定める。
第二十四第一項第八號の規定により、舊金融機關の株主が資本の全額に相當する金額の確定損を負擔しなければならない場合において、第十五條第二項又は第四十二條第二項の規定により、舊金融機關が新金融機關に對し負擔した債務があるときは、舊金融機關は、第一項の措置をなす前に、命令の定めるところにより、先づ、舊勘定の資産をその債務の辨濟に充てなければならない。但し、現金(小切手を含む。)以外の資産を債務の辨濟に充てるには、新金融機關の同意を得なければならない。
銀行法等特例法第一條の規定は、命令の定めるところにより、第二項の規定による事業の讓渡の場合に、これを準用する。
第二十七條 金融機關の取締役又はこれに準ずる者(以下理事機關といふ。)は、第二十四條第一項に規定する場合においては、命令の定めるところにより、最終處理方法書を作成し、主務大臣の認可を受けなければならない。
前項の場合において、當該金融機關について、第四十七條の監査委員があるときは、理事機關は、前項の規定による認可の申請前、豫め最終處理方法書につき、その承認を受けなければならない。
第二十八條金融機關の理事機關は、前條第一項の規定による認可があつたときは、舊勘定の最終處理を行ふべき旨を公告し、最終處理方法書及び第二十一條の書類を本店又は主たる事務所及び支店又は從たる事務所に備へ置かなければならない。
金融機關の株主及び舊勘定の負債に關する債權者は、營業時間内、何時でも前項に掲げる書類を閲覽することができる。
第二十九條 金融機關は、第二十七條第一項の認可を受けたときは、最終處理方法書に定めるところにより、遲滯なく、舊勘定の最終處理を行はなければならない。
第三十條 第二十七條第一項の認可があつた後、舊勘定の最終處理の完了までに、舊勘定の資産若しくは負債又は指定時における新勘定の資産若しくは負債について、舊勘定の最終處理の結果に影響を及ぼすべき變更を生じたときは、金融機關の理事機關は、その變更に基いて、最終處理方法書を改訂しなければならない。
第二十七條乃至前條の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第三十一條 第二十七條第一項の認可があつたときは、金融機關が舊勘定の最終處理を行ふためになす資本の減少、定款の變更その他の手續については、他の法令又は定款にかかはらず、株主總會若しくはこれに準ずるものの決議又は政府の認可等は、これを必要としない。
商法第三百八十條の規定は、前項の資本の減少については、これを適用しない。
第一項の資本の減少については、資本の減少の日から命令で定める日までの間を限り、他の法令中資本又は株式の金額の制限に關する規定は、これを適用しない。
前三項に定めるものを除く外、第一項の資本の減少に關し必要な事項については、他の法令又は定款にかかはらず、命令で特別の定をなすことができる。
第三十二條 前條第一項の資本の減少の結果、金融機關の債券の發行又は資金の借入若しくは融通の額が、他の法令に規定する債券の發行又は資金の借入若しくは融通に關する制限額を超えるに至つた場合においては、當該資本の減少の際現に存する債券又は資金の借入若しくは融通(その更改に因る債權又は債務を含む。)に限り、他の法令中これらの債權又は債務の金額の制限に關する規定は、これを適用しない。
第三十三條 第二十四條第一項の規定により、確定損の整理負擔額を計算するもなほ確定損の殘額があるときは、その殘額は、命令の定めるところにより、政府において、これを補償する。但し、その補償の金額は、勅令で定める金額を限度とする。
政府は、前項の補償の決濟を、國債證券の交付により行ふことができる。
前項の規定による決濟のため交付する國債證券の交付價格は、大藏大臣がこれを定める。
政府は、第一項の補償債務の辨濟のため必要な金額を限り公債を發行することができる。
金融機關が前章に定めるところにより、整理債務を舊勘定から新勘定又は新金融機關に移した場合においては、第一項の規定は、これを適用しない。
第一項の規定による政府の補償の金額は、大藏省預金部等損失特別處理法による補償金の額と合計し、百億圓(第二十六條第三項その他の規定により政府に納付した金額があるときは、その額を加算した金額)を限度とする。
第三十四條 金融機關は、舊勘定の最終處理を完了したときは、遲滯なくその旨を公告しなければならない。
金融機關の新勘定及び舊勘定の區分は、前項の公告(二囘以上公告をなしたときは最初の公告)の日において消滅する。
金融機關は、第一項の公告をなしたときは、その公告(二囘以上公告をなしたときは最初の公告)の後、本店又は主たる事務所の所在地においては二週間以内に、又、支店又は從たる事務所の所在地においては三週間以内に、新勘定及び舊勘定の區分の消滅の登記をしなければならない。
前項の登記に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十五條 第四條第一項の規定により債權の申出をなすべき債權者でその申出をしなかつたものが、同項の期限後新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日までにその債權を申し出たときは、第十九條若しくは第二十三條に規定する場合又は第二十條第一項第二號若しくは第二十五條第一項第二號の規定の適用後なほ舊勘定の積立金が殘る場合に限り、舊勘定の積立金の金額の範圍内において、その債權の金額に應じ均等の割合で、その債權の辨濟を、金融機關に請求することができる。
前項の場合においては、金融機關は、債權者に對し、その債權の辨濟の請求ができる金額を通知しなければならない。
第四條第一項の規定により申出をなすべき債權で、同項の期限までにその申出のなかつたものは、第一項の規定により辨濟の請求ができる金額を除く外、新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日において消滅する。
第一項の場合においては、金融機關は、他の法令又は定款にかかはらず、同項の規定により辨濟の請求を受くべき金額だけ、積立金を、退職積立金以外の任意積立金、退職積立金及び他の法令による積立金の順序により、順次に取崩すことができる。
第二十條第二項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第三十六條 金融機關の舊勘定の負債又は指定時における新勘定の負債に關する債權(責任準備金及び支拂備金に關する權利を含む。以下第三十七條まで同じ。)で、舊勘定の最終處理の完了の際不確定であつたものが、舊勘定の最終處理の完了後確定したときは、金融機關の理事機關は、その確定の結果に基いて、第二十四條の規定に準じ、當該債權が確定損を負擔すべきであつた金額を計算し、その金額を當該債權者(責任準備金及び支拂備金に關する權利者を含む。以下第三十八條まで同じ。)に通知しなければならない。
前項の場合においては、當該債權は、同項の規定による通知のあつた時において、その通知に係る金額だけ消滅する。
第二十五條第四項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第三十七條 第二十四條第一項第四號乃至第八號の規定により、金融機關の整理債務の債權者において舊勘定の確定損を負擔した場合において、新勘定及び舊勘定の區分の消滅後、當該金融機關に屬する資産で命令で定めるもののうち、前に舊勘定に屬してゐたものにつき、第八條第一項又は第九條の規定による評價額に比し、價額の増加があつたとき、又はその資産を處分して得た對價が第八條第一項又は第九條の規定による評價額を超えたときは、その増價額又は處分益の額に相當する金額については、當該金融機關は、他の法令にかかはらず、命令の定めるところにより、これを處分しなければならない。
金融機關の舊勘定の負債又は指定時における新勘定の負債に關する債權のうち、舊勘定の最終處理の完了の際不確定であつたものが、舊勘定の最終處理の完了後、初から存在しなかつたものと確定した場合における第一號の金額の處分、又はその確定した金額が第五條の規定に基く命令で定める金額よりも少い場合いおける第一號の金額から第二號の金額を差し引いた殘額の處分についても、また前項に同じ。
一 その負債に關する債權について、第五條の規定に基く命令で定める金額に對する第二十四條第一項第四號乃至第十號の規定の適用後における殘額
二 その負債に關する債權について、確定した金額に對する前條第一項の規定の適用後における殘額
第三十八條 舊勘定の最終處理が完了したときは、債權者及び株主の權利は、最終處理方法書の定めるところによつて確定する。但し、第三十六條の場合においては、當該債權者の權利は、同條の定めるところによつて確定する。
舊勘定の整理が法令に違反して、債權者又は株主に損害を及ぼしたときは、當該金融機關の理事機關は、當該金融機關と連帶してその損害を賠償しなければならない。但し、當該理事機關で、その業務の執行について過失がなかつた者については、この限りでない。
前項の規定は、第二十六條第四項の場合における清算に關する清算人の責任について、これを準用する。
第一項(前項において準用する場合を含む。)の損害賠償の請求權は、新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日から五年を經過したときは、時效に因つて消滅する。
第六章 整備の促進
第三十九條 第二十五條第一項第三號の規定により、金融機關が資本の減少を行はなければならない場合においては、その理事機關は、命令の定めるところにより、舊勘定の最終處理の完了後における當該金融機關の事業に關し整備計畫書を作成し、主務大臣の認可を受けなければならない。
前項の規定による整備計畫書の認可があつた場合において、金融機關が主務大臣の指定する日までに、前項の整備計畫書に定める整備計畫を實行することができなかつたときは、その理事機關は、遲滯なくその旨を、書面を以て主務大臣に届け出なければならない。
第四十條 金融機關は、指定時における新勘定の資産及び負債のうち命令で定めるものについて確定評價基準が決定し、且つ、新勘定の舊勘定に對する借がない場合に限り、命令の定めるところにより、書面を以て主務大臣の認可を受け、新勘定の事業の全部若しくは一部を他の金融機關に讓渡し、又は新勘定の保險契約の全部若しくは一部を他の金融機關に移轉することができる。
前項の規定による認可があつたときは、同一の事項については、同時に他の法令による認可等があつたものとみなす。
第四十一條 主務大臣は、金融機關の整備を促進するため必要があるときは、經濟再建整備委員會の議を經て、新勘定及び舊勘定の區分の存する金融機關に對し、新勘定の事業の全部若しくは一部を他の金融機關に讓渡し、又は新勘定の保險契約の全部若しくは一部を他の金融機關に移轉すべきことを命ずることができる。
主務大臣は、金融機關の舊勘定の最終處理の完了後における事業の状況により、特に必要があると認めるときは、他の法令に規定する場合を除く外、經濟再建整備委員會の議を經て、新勘定及び舊勘定の區分の消滅した金融機關に對し、合併若しくは資本の増加を命じ、その事業の全部若しくは一部を他の金融機關に讓渡すべきことを命じ、又はその保險契約の全部若しくは一部を他の金融機關に移轉すべきことを命ずることができる。
第一項又は前項の規定による主務大臣の命令があつた場合において、命令を受けた日から六箇月以内に、その命令に係る事項に關する契約が成立せず、又は資本の増加に關する株主總會その他これに準ずるものの決議がなかつたときは、命令を受けた金融機關の理事機關は、遲滯なくその旨を、書面を以て主務大臣に届け出なければならない。
第四十二條 第四十條第一項又は前條第一項若しくは第二項の規定により、金融機關が合併、事業の讓渡又は保險契約の移轉をなす場合においては、當該金融機關は、その合併、事業の讓渡又は保險契約の移轉の相手方を、新勘定及び舊勘定の區分の存しない金融機關(金融機關經理應急措置法第二十七條第二號の金融機關の場合においては、相手方たる者は當該金融機關と同種の法人で金融機關たるもの以外のものを含む。)のうちから選ばなければならない。
第四十條第一項又は前條第一項の場合において、舊金融機關に舊勘定の新勘定に對する借があるときは、命令の定めるところにより、新金融機關に對して、その借の金額に相當する金額(事業の一部を讓渡し又は保險契約の一部を移轉した場合においては、借の金額のうち、その讓渡に係る事業又は移轉に係る保險契約に關する部分とし、又、事業の讓渡又は保險契約の移轉の對價があるときは、その對價の金額を控除したものとする。)の債務を負擔する。
銀行法等特例法第一條の規定は、命令の定めるところにより、第四十條第一項又は前條第一項若しくは第二項の規定により合併又は事業の讓渡をなす場合に、これを準用する。
前三項に定めるものを除く外、第四十條第一項又は前條第一項若しくは第二項の場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第四十三條 主務大臣は、金融機關の整備を促進するため必要があるときは、金融機關に對し、命令の定めるところにより、事業費の支出その他經理に關し必要な事項を命ずることができる。
第七章 決算の特例
第四十四條 金融機關の決算は、當該金融機關に新勘定及び舊勘定の區分の存する間は、新勘定及び舊勘定について、各別に、これを行はなければならない。
他の法令の適用のため必要な金融機關の財産目録、貨借對照表、損益計算書その他の商業帳簿及び營業に關する書類に關しては、命令の定めるところによる。
第四十五條 金融機關は、毎事業年度において、新勘定又は舊勘定に利益金を生じたときは、他の法令又は定款にかかはらず、これを當該勘定の特別準備金として積み立てなければならない。
金融機關は、毎事業年度において、新勘定又は舊勘定に缺損を生じたときは、當該勘定の特別準備金を取り崩して填補し、なほ不足があるときは、これを當該勘定別に繰り越さなければならない。
第四十六條 金融機關の新勘定及び舊勘定の區分が消滅したときは、他の法令又は定款にかかはらず、その區分の消滅した日を含む事業年度は、その區分の消滅した日までで終了するものとし、その事業年度に續く事業年度は、命令で定める日で終了するものとする。
金融機關の新勘定及び舊勘定の區分の消滅の際、現に新勘定又は舊勘定に特別準備金がある場合において、當該金融機關に、商法第二百八十八條第一項の準備金(その他の法令によるこれに準ずる準備金を含む。以下法定準備金といふ。)があるときは、當該特別準備金は、法定準備金に併せられ、又、法定準備金がないときは、當該特別準備金が、そのまま法定準備金となるものとする。
第八章 監査及び監督
第四十七條 金融機關の舊勘定の整理の適正を圖るため必要があるときは、經濟再建整備委員會は、主務大臣の認可を受け、當該金融機關について、その債權者その他の利害關係人(國、公共團體その他の法人である場合においては、代表者その他の職員)のうちから、五人以内の監査委員を選任することができる。
主務大臣は、金融機關の舊勘定の整理の適正を圖るため必要があるときは、經濟再建整備委員會に對し、當該金融機關につき監査委員を選任すべきことを命ずることができる。
金融機關の監査委員は、當該金融機關の役員と相兼ねることができない。
第四十八條 監査委員は、金融機關の舊勘定の整理を監査することをその職務とする。
監査委員は、前項に規定する職務を行ふため、何時でも金融機關の理事機關に對し舊勘定に整理に關する報告を求め、又は舊勘定の整理の状況を調査することができる。
監査委員の職務及び權限は、第二十七條第二項及び前二項に規定するものを除く外、勅令でこれを定める。
第四十九條 經濟再建整備委員會は、主務大臣の認可を受け、監査委員を解任することができる。
主務大臣は、必要があるときは、經濟再建整備委員會に對し、監査委員を解任すべきことを命ずることができる。
第五十條 主務大臣は、金融機關の役員が金融機關經理應急措置法若しくはこの法律又はこれに基く命令若しくは處分に違反したときは、金融機關に對し、その役員を解任すべきことを命ずることができる。
主務大臣は、金融機關の役員の行爲が公益を害する虞があると認めるときは、當該役員に對し、その職務の執行を停止すべきことを命ずることができる。
主務大臣は、必要があるときは、經濟再建整備委員會の議を經て、金融機關に對し前項の規定により職務の執行を停止した役員を解任すべきことを命ずることができる。
第五十一條 主務大臣は、この法律の施行に關し必要があるときは、金融機關に對し、監督上必要な命令をなすことができる。
主務大臣は、この法律の施行に關し必要があるときは、金融機關をしてその業務及び財産の状況に關して報告せしめ、又は當該官吏をして帳簿、書類その他の物件を檢査せしめることができる。
主務大臣は、前項の規定により、當該官吏をして檢査せしめるときは、その身分を示す證票を携帶せしめなければならない。
第九章 雜則
第五十二條 金融機關經理應急措置法第十四條の規定は、第十條第一項、第十三條第三項(第十四條第二項において準用する場合を含む。)又は第十六條第一項の規定により、新勘定の舊勘定に對する貸又は借として整理さるべき金額について、これを準用する。
第五十三條 金融機關の新勘定又は舊勘定の資産で暫定評價基準又は確定評價基準により評價したものを財産目録に記載する場合においては、その價額については、商法第二百八十五條(保險業法第六十七條において準用する場合を含む。)の規定は、これを適用しない。
第五十四條 金融機關經理應急措置法第十八條第二項の規定により中止された金融機關の財産に對する強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續は、その財産が新勘定に屬するに至つたとき、又は新勘定及び舊勘定の區分が消滅したときは、その日からこれを續行する。但し、新勘定及び舊勘定の區分の消滅前においては、その債權に關する債務の全部又は一部が舊勘定に屬する間は、この限りでない。
第五十五條 金融機關の新勘定及び舊勘定の區分が消滅するまでは、その金融機關に對して破産の宣告、整理開始の命令文は和議開始の決定をなすことができない。
金融機關の新勘定について支拂不能又は債務超過の事實が生じた場合における措置については、勅令の定めるところによる。
金融機關の新勘定及び舊勘定の區分の消滅後においては、その金融機關には、金融機關經理應急措置法第二十二條第二項の規定は、これを適用しない。
第五十六條 舊勘定に屬する責任準備金に對應する生命保險金に關する保險契約(以下舊生命保險契約といふ。)につき指定時後拂ひ込まれた保險料のうち、第二十五條第四項の規定により債權の消滅した生命保險金の部分に對應するものについては、その保險契約をなした生命保險會社又は生命保險中央會(以下生命保險會社等といふ。)は、命令の定めるところにより、當該保險契約者との間に保險契約が現に存する場合においては、これを當該保險契約の保險料に充當するものとし、保險料に充當してなほ殘額がある場合又は當該保險契約者との間に現に保險契約が存しない場合においては、これを當該保險契約者に返濟しなければならない。
新勘定及び舊勘定の區分の消滅の日までに、舊生命保險契約について保險事故が發生した場合において、金融機關經理應急措置法第二十四條第一項の規定により拂ひ込むことを要しなかつた保險料で拂ひ込まれなかつたものがあるときは、生命保險會社等は、命令の定めるところにより、その支拂ふべき生命保險金の額からその保險料に相當する金額を控除した殘額を、保險金受取人に交付する。
第五十七條 地方農業會、市街地信用組合その他命令で定める金融機關の會員(組合員その他これに準ずるものを含む。以下本條中同じ。)で出資の義務を有するもののうち、指定時までに出資をしてゐないもの及び指定時後出資の義務を有する會員となるものは、當該金融機關に新勘定及び舊勘定の區分が存する間に限り、命令の定めるところにより、出資の拂込に代へ、これに相當する金額の保證金を拂ひ込まなれけばならない。
前項の保證金の拂込をなした者は、資金の貨付、施設の利用その他當該金融機關の會員の受ける利益に關する他の法令の規定の適用については、出資をなしたものとみなす。
前項に定めるものを除く外、第一項の規定による保證金の拂込をなした者に關し、必要な事項は、命令でこれを定める。
第五十八條 金融機關で昭和二十年大藏 外務 内務 司法省令第一號別表に掲げるものの舊勘定の整理及びその者の債權又は債務の處理については、勅令で特別の定をなすことができる。
第五十九條 第二十五條第三項若しくは第四項又は第三十六條第二項若しくは第三項の規定により、金融機關の整理債務又は指定債務の債權の全部又は一部が消滅した場合において、當該金融機關の發行に係る債券その他命令で定める證券の引換その他に關し必要な事項は、命令でこれを定める。金融機關經理應急措置法第二十條の金融債券の引換その他當該債券に關し必要な事項についてもまた同じ。
第六十條 舊金融機關が、この法律の定めるところにより、新金融機關に對し、不動産、有價證券その他の資産を讓渡する場合においては、その讓渡に關する證書及び帳簿に關しては、印紙税は、これを課さない。
第六十一條 この法律に規定する主務大臣の職權の一部は、命令の定めるところにより、これを地方官衙の長をして行はれめることができる。
第六十二條 金融機關經理應急措置法及びこの法律に規定するものの外、戰時補償の特別處理等に伴ひ金融機關に生ずべき損失の處理及び金融機關の再建整備に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第十章 罰則
第六十三條 左の場合においては、その行爲をなした金融機關の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第十三條第一項又は第十五條第一項の規定による認可の申請書に虚僞の記載をなして提出したとき
二 第十四條第一項、第十九條、第二十條第三項又は第二十三條第一項の規定に違反して認可の申請を怠り、又はその認可の申請書に虚僞の記載をなして提出したとき
三 第二十六條第三項(同條第五項において準用する場合を含む。)の規定に基く命令に違反して同項に規定する對價の處分を怠り、又はその處分をなしたとき
四 第二十六條第六項の規定による命令に違反したとき
五 第二十七條第一項(第三十條第二項において準用する場合を含む。)規定に違反して最終處理方法書の認可の申請を怠り、又は虚僞の記載をなした最終處理方法書を提出して認可の申請をなしたとき
六 第二十七條第二項(第三十條第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して監査委員の承認を受けることを怠り、又は虚僞の記載をなした最終處理方法書につき監査委員の承認を受けたとき
七 第二十九條(第三條第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して最終處理方法書に定めるところによる舊勘定の最終處理を行はないとき
八 第三十七條第一項の規定による命令に違反して増價額又は處分益の額の處分を怠り、又はその處分をなしたとき
九 第三十七條第二項の規定による命令に違反して同項に規定する金額の處分を怠り、又はその處分をなしたとき
第六十四條 監査委員がその職務に關して、賄賂を收受し、要求し、又は約束したときは、これを三年以下の懲役又は三千圓以下の罰金に處する。
前項の賄賂を供與し、又はその申込若しくは約束をなした者もまた前項に同じ。
犯人又は情を知る第三者の收受した賄賂は、これを沒收する。その全部又は一部を沒收することができないときは、その價額を追徴する。
第六十五條 左の場合においては、その行爲をなした金融機關の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
一 第六條の規定に違反して財産目録、貸借對照表若しくは資産及び負債の明細書の提出を怠り、又は虚僞の記載をなした財産目録、貸借對照表若しくは資産及び負債の明細書を提出したとき
二 第八條第二項又は第二十一條の規定に違反して財産目録、貸借對照表若しくは損益の計算書の提出を怠り、又は虚僞の記載をなした財産目録、貸借對照表若しくは損益の計算書を提出したとき
三 第三十九條第一項の規定に違反して整備計畫書の認可の申請を怠つたとき
四 第四十三條の規定による命令に違反したとき
五 第五十條第一項又は第三項の規定による命令に違反して役員の解任の手續をなさなかつたとき
六 第五十一條第二項の規定による報告を怠り、又は虚僞の報告をなしたとき
第六十六條 第五十條第二項の規定による命令に違反して職務の執行を停止しない者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第六十七條 第五十一條第二項の規定による檢査を拒み、妨げ、又は忌避した者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第六十八條 第五十九條の規定による命令に違反した者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第六十九條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關し、第六十三條、第六十五條又は前條の違反行爲をなしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對し、各本條の罰金刑を科する。
第七十條 左の場合においては、金融機關の理事機關は、これを五千圓以下の過料に處する。
一 第十三條第四項(第十四條第二項において準用する場合を含む。)又は第三十四條第一項に規定する公告を怠り、又は不正の公告をなしたとき
二 第十七條第一項若しくは第二項又は第二十六條七項の規定に違反して舊勘定の資産を債務の辨濟に充てることを怠つたとき
三 第二十八條第一項の規定に違反して公告を怠り、書類を備へ置かず、若しくは虚僞の記載をなした書類を備へ置き、又は同條第二項の規定に違反して正當の事由なくして書類の閲覽を拒んだとき
四 第三十四條第三項に規定する登記を怠つたとき
五 第三十六條第一項の規定に違反して通知を怠り、又は虚僞の通知をなしたとき
六 第三十九條第二項の規定に違反して届出を怠り、又は虚僞の届出をなしたとき
七 第四十一條第一項の規定による命令に違反して事業の讓渡又は保險契約の移轉に必要な手續をなさなかつたとき
八 第四十一條第二項の規定による命令に違反して合併若しくは資本の増加、事業の讓渡又は保險契約の移轉に必要な手續をなさなかつたとき
九 第四十一條第三項の規定に違反して届出を怠り、又は虚僞の届出をなしたとき
十 第四十五條第一項の規定に違反して特別準備金を積み立てず、又は同條第二項の規定に違反して特別準備金を取り崩したとき
十一 第四十八條二項の規定による報告を怠り、若しくは虚僞の報告をなし、又は同項に規定する調査を妨げたとき
十二 第五十一條第一項の規定による命令に違反したとき
附 則
この法律の施行の期日は、勅令でこれを定める。
戰時補償特別措置法第十五條第二項、第十九條第二項、第三十六條第二項又は第三十八條第二項の規定により金融機關が戰時補償特別税として徴收した金錢(證券を以て徴收した場合における證券を含む。)及びその徴收した戰時補償特別税を政府に納付すべき義務、同法第三十四條の規定により納税義務者に代位して戰時補償特別税を納付すべき義務竝びに同法第四十一條、第四十二條又は第五十三條の規定により求償をなす權利及び求償に應じて履行をなすべき債務その他命令で定める財産上の權利及び義務は、金融機關經理應急措置法第九條第二項の規定にかかはらず、當該金融機關の舊勘定に屬する。
金融機關經理應急措置法の一部を次のやうに改正する。
第二十五條第一項中「指定時においてその新勘定に屬する責任準備金に對應する保險金額と新契約の保險金額との合計額」を「新契約の保險金額」に改める。
第二十七條第一號中「及び市街地信用組合」を「、市街地信用組合及び産業組合(産業組合法第一條第一項第一號に掲げる事項のみを目的とするものに限る。)」に改める。
租税特別措置法の一部を次のやうに改正する。
第十八條第四號中「會社」を「法人」に、「資本増加」を「資本(出資又は基金を含む。)の増加」に、「株金」を「株金(出資金又は基金を含む。)」に改める。
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特別和議法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
特別和議法案
特別和議法
第一條 この法律は、今囘の戰時補償に關する特別措置に關聯して經濟上多大の損失を受ける債務者のため、その損失を債權者及び債務者間に衡平に分擔させ、以て個人生活の安定又は健全な法人事業の維持を圖ることを目的とする。
第二條 前條に規定する債務者は、破産の原因たる事實のある場合、破産の原因たる事實のある疑のある場合又は破産の原因たる事實の生ずる虞のある場合には、特別和議開始の申立をすることができる。
第三條 特別和議開始の申立及び和議開始又は破産の申立があつたときは、和議手續又は破産手續は、これを中止する。
第四條 特別和議開始の申立があつたときは、特別和議債權につき、債務者の財産に對し、強制執行、假差押、假處分又は競賣法による競賣をなすことができず、又、即になされてゐる強制執行、假差押、假處分又は競賣法による競賣手續については、裁判所は、申立により又は職權を以てその中止を命ずることができる。
特別和議開始前特別和議債權につき債務者の財産に對しなした競賣法による競賣手續については、和議法第四十條第二項の規定を準用する。
第五條 特別和議の條件が各特別和議債權者について平等でないときでも、裁判所は、債權の額、債權發生の時期、擔保權の有無、戰時補償特別措置法の施行に因つて生じた諸般の事情等を斟酌し、債權者間に差等があつても衡平を害しないものと認めるときは、特別和議開始の決定又は特別和議認可の決定をすることができる。
第六條 左の債權は、これを特別和議債權としない。
一 給料その他の定期的給與の債權(命令で定める限度を超える部分を除く。)
二 事務員、雇人等からの預り金その他これに準ずる債權(命令で定める限度を超える部分を除く。)
三 退職金その他の臨時的給與の債權(命令で定める限度を超える部分を除く。)
四 法令の規定に基いてなされる業務上の傷病又は死亡に因る扶助の債權(命令で定める限度を超える部分を除く。)
五 一口千圓未滿の債權
前項の債權は、第十四條において準用する和議法第五十六條の規定の適用については、これを一般の先取特權のある債權とみなす。
第七條 破産の場合において別除權を行ふことのできる權利を有する者の當該權利に係る債權は、その全額につき、これを特別和議債權とする。
第八條 裁判所は、事情により、自ら勸解をなし、又は適當と認める者に勸解をさせることができる。
前項の場合においては、裁判所は、必要と認めるときは、第十四條において準用する和議法第五十九條第二號の期間を伸長することができる。
第一項後段の規定により勸解をなした者には、勅令で定める額の旅費、日當及び止宿料を支給する
第九條 債務者は、債權者集會において、特別和議債權につき意見を述べなければならない。裁判所は、債務者の述べた異議を債權表に記載しなければならない。
特別和議債權者は、特別和議認可の決定が確定した後、債務者が、債權者集會において異議を述べなかつた債權につき、債務者の財産に對し債權表の記載に基いて強制執行をすることができる。この場合には、民事訴訟法第六編の規定を準用する。
第十條 裁判所は、必要があると認めるときは、債權者及び債務者の利益を著しく害せず、且つ特別和議の成立を容易ならしめるものと認める場合に限り、債權者集會において、管財人及び整理委員の意見を聽き、職權を以て特別和議の條件を變更することができる。
第十一條 債權者集會において特別和議を可決するには、議決權を行ふことのできる出席特別和議債權者の過半數でその債權額が届出をした特別和議債權者の總債權の半額を超える者の同意があれば足りる。
債權者集會においては、特別和議債權者は、決議の目的たる特別和議の條件につき、書面を以て同意を表はすことができる。この場合においては、その債權者は、前項の規定の適用については、これを出席特別和議債權者とみなす。
第十二條 裁判所は、特別和議の條件が、衡平で、且つ特別和議債權者の一般の利益に合致するものと認めるときは、債權者集會において特別和議を否決したときでも、管財人及び整理委員の意見を聽き、特別和議認可の決定をすることができる。特別和議の手續又は決議が法律の規定に反し、且つその欠缺が追完することのできない場合、債權者集會が特別和議に關する決議をしなかつた場合及び債權者集會が成立しなかつた場合にも、また同樣である。
第十三條 特別和議認可の決定が確定したときは、第三條の規定により手續を中止した和議又は破産の申立及び第四條の規定により中止した強制執行、假差押、假處分又は競賣法による競馬手續は、その效力を失ふ。
第十四條 特別和議については、この法律に別段の定のない限り、和議法の規定を準用する。但し、同法第九條、第十六條及び第六十四條の規定、同法第五十七條の規定中破産法第三百四十二條の規定を準用する部分竝びに和議法第六十二條の規定中破産法第三百三十條の規定を準用する部分は、この限りではない。
第十五條 この法律は、金融機關經理應急措置法に規定する金融機關、會社經理應急措置法に規定する特別經理會社及び同法第三十九條第一項の特別經理會社以外のものにはこれを適用しない。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
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大藏省預金部等損失特別處理法案右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
大藏省預金部等損失特別處理法案
大藏省預金部等損失特別處理法
第一條 政府は、命令の定めるところにより、金融機關經理應急措置法に定める指定時(以下指定時といふ。)における預金部資金に屬する運用資産を評價する。
第二條 前條の規定による評價により評價損を生じた場合において、評價益があるときは、政府は、先づ、その評價益を以て評價損を填補する。
第三條 前條によるもなほ評價損の殘額があるときは、その殘額に對し、政府は、大藏省預金部特別會計の積立金(同會計の昭和二十年度の決算上生ずべき剩餘を含む。以下同じ。)をその全額まで充當して評價損を填補する。
第四條 前條によるもなほ評價損の殘額があるときは、政府は、一般會計から大藏省預金部に、評價損の殘額に相當する金額の範圍内において勅令で定める金額の補償金を繰り入れる。
第五條 前條の規定による補償金の金額が、同條の評價損の殘額より少ないときは、指定時における郵便貯金のうち命令で定めるものの債權は、その差額に相當する金額の範圍内において、勅令の定めるところにより、消滅する。
第六條 前五條の規定は、指定時における簡易生命保險及郵便年金特別會計法による積立金の運用資産の評價及びその評價損の處理竝びに郵便年金の債權に關する措置について、これを準用する。この場合において第三條の規定により評價損の填補に充てるため使用さるべき積立金は、その總額から責任準備金及び支拂備金の額を控除した殘額に相當する金額の積立金に限る。
第七條 指定時において現に存する大藏省預金部特別會計の積立金は、大藏省預金部特別會計法第四條第二項の規定にかかはらず、これを以て同會計の決算上の不足を補足することができない。
指定時において現に存する簡易生命保險及郵便年金特別會計法による積立金のうち、責任準備金及び支拂備金の額を控除した殘額に相當する金額の積立金は、同法第七條第二項の規定にかかはらず、これを以て歳計の不足を補足することができない。
第八條 預金部預金の支拂のため必要があるときは、政府は、大藏省預金部特別會計の負擔において、借入金をなすことができる。
附 則 この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
大藏省預金部特別會計法の一部を次のやうに改正する。
第二條中「運用利殖金」の下に「、借入金」を、「營繕費」の下に、「、借入金償還金、借入金利子」を加へる。
第四條の二 本會計に屬する經費及減價償却金を支辨する爲不足あるときは本會計の負擔に於て借入金を爲すことを得
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厚生年金保險法及び船員保險法特例案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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厚生年金保險法及び船員保險法特例案
厚生年金保險法及び船員保險法特例
厚生年金保險法第四十八條第一項本文及び船員保險法第四十六條第一項本文の規定による脱退手當金は、當分の間、被保險者の資格を喪失した後一年を經過しない場合においても、これを支給する。
附 則 この法律は、公布の日から、これを施行する。
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企業再建整備法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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企業再建整備法案
企業再建整備法目次
第一章 總則
第二章 特別損失
第三章 整備計畫の立案
第四章 整備計畫の實行
第五章 舊勘定及び新勘定の併合
第六章 經濟再建整備委員會
第七章 雜則
第八章 罰則
企業再建整備法
第一章 總則
第一條 この法律は、會社經理應急措置法の適用を受けるものについて、戰時補償特別税を課せられること等に因り生じた損失を適正に處理し、その速かな再建整備を促進し、以て産業の健全な囘復及び振興を圖ることを目的とする。
第二條 この法律で、特別經理會社、指定時、在外資産、會社財産、舊勘定、新勘定又は特別管理人といふのは、會社經理應急措置法の特別經理會社、指定時、在外資産、會社財産、舊勘定、新勘定又は特別管理人をいふ。
第二章 特別損失
第三條 特別經理會社である株式會社(以下特別經理株式會社といふ。)は命令の定めるところにより、指定時現在で、左の計算をしなければならない。
一 左の各號に掲げる額(計算の際、額が確定してゐないものについては、その豫想額)の金額を合計する。
イ 戰時補償特別税を課せられることに因り生ずる損失額
ロ 在外資産についての損失額
ハ 會社經理應急措置法第五條の財産目録(以下財産目録といふ。)に記載した金融機關に對する預貯金等が金融緊急措置令施行規則第一條の三の規定により第二封鎖預金等となり、支拂を受けることが不能となることに因り生ずる損失額
二 前各號に掲げるものを除くの外、終戰又は戰時補償特別措置法の施行に伴ひ生ずる損生額
ホ 會社經理特別措置令第二條第三號、企業整備資金措置法施行令第六條第三號竝びに商法第二百八十六條、第二百八十七條及び第二百九十一條第三項の規定により、會社經理應急措置法第五條の貸借對照表(本條中以下貸借對照表といふ。)の資産の部に計上した金額の會計額
ヘ 貸借對照表の資産の部に計上した指定時を以て終了する事業年度の缺損及び繰越缺損の額
ト 前各號に掲げるものを除くの外、指定時後舊勘定及び新勘定の併合(舊勘定のみを設ける特別經理株式會社については、舊勘定の廢止。以下同じ。)の時までに舊勘定に生ずる總損金の額
チ その他命令を以て定める額
二 左の各號に掲げる額(計算の際、額が確定してゐないものについては、その豫想額)の金額を合計する。
イ 貸借對照表の負債の部に計上した指定時を以て終了する事業年度の利益金及び繰越利益金の額
ロ 貸借對照表の負債の部に計上した積立金で、命令を以て定めるものの額
ハ 指定時後舊勘定及び新勘定の併合の時までに舊勘定に生ずる總益金の額
二 その他命令を以て定める額
第四條 前條第一號の規定による合計金額が同條第二號の規定による合計金額を超える場合における超過額は、これを特別損失の額といふ。
第三章 整備計畫の立案
第五條 資本金百萬圓以上の特別經理株式會社、昭和二十年勅令第六百五十七號第一條の二の規定による指定會社である特別經理株式會社及び第七條第二號の規定により舊債權の負擔額の計算をなし、第八條の規定により會社財産につき評價換をなし又は第三十四條第一項の規定による處理をなす特別經理株式會社の特別管理人は、命令の定めるところにより、整備計畫を立案し、命令の定める期間内に、主務大臣の認可を申請しなければならない。
昭和二十年勅令第六百五十七號第一條の二の規定による指定會社である特別經理株式會社及び昭和二十一年 商工 文部省令第一號第一條第一項の規定による經營者又は昭和二十一年運輸省令第三十二號第一條第一項の規定による經營者等である特別經理株式會社が、その整備計畫に、これらの法令に基いて認可を受けなければならない事項について定をなす場合の前項の規定による認可の申請は、これらの法令の適用については、これを、これらの法令に基く認可の申請とする。
第六條 整備計畫には、命令の定めるところにより、左に掲げる事項に關して定をなさなければならない。
一 會社の存續又は解散の別
二 存續する場合には、整備計畫を行ふに當つて、商法の會社の整理によるか、否かの別
三 存續する場合には、今後の會社の事業計畫及び資金計畫竝びに役員の氏名
四 解散する場合には、解散の時期及び清算又は特別清算の何れの手續によるかの別
五 合併する場合には、合併の相手方、方法及び期限
六 合併に因り會社を設立する場合には、その會社の事業計畫及び資金計畫竝びに株主、役員及び債權者の氏名又は名稱
七 その營業の經營の全部若しくは一部を委任し、又はその資産の全部若しくは一部を賃貸し、出資し、若しくは讓渡すべき會社をあらたに設立する場合には、その計畫の大要、株主及び役員の氏名又は名稱、第十條の規定による債務の承繼に關する事項竝びに株式の賣出その他處分に關する事項
八 舊勘定に所屬する資産の處分の方法に關する事項
九 前二號に係るものの外、資産の處分の方法に關する事項
十 特別損失の額、特別損失を負擔する知れたる債權の總額及び特別損失を負擔する知れたる債權の總額と第七條の規定により舊債權の負擔額として計算する額との割合竝びに第八條の規定による評價換に關する事項
十一 會社經理應急措置法第十四條第一項の舊債權(同項但書の債權を除く。以下同じ。)についての條件の變更に關する事項
十二 未拂込株金の拂込に關する事項
十三 第十一條の規定による株式の發行に關する事項
十四 第十三條の規定による議決權の制限に關する事項
十五 第二十四條乃至第二十六條の規定による利益の歸屬に關する事項
十六 第三十四條第一項の規定による繰越缺損としての處理に關する事項
十七 第三十四條第二項の規定による資本の減少に關する事項
十八 整備計畫を行ふについての計畫に關する事項
十九 その他命令の定める事項
第七條 特別經理株式會社は、特別損失の額について、左の順序により、その負擔額を計算しなければならない。
一 特別損失の額について、資本金の額の十分の九に相當する額(資本金が十萬圓を超え五十萬圓未滿の特別經理株式會社については資本金の額から五萬圓を控除した額、資本金が十萬圓以下の特別經理株式會社については資本金の額の二分の一)まで、株主の負擔額として、これを計算する。
二 前號によるもなほ特別損失の額が殘るときには、その殘額は、會社經理應急措置法第十四條第一項の舊債權のうち知れたる債權(以下知れたる特別損失負擔債權といふ。)の額の十分の七に達するまで、知れたる特別損失負擔債權の債權者の負擔額として、これを計算する。
三 前號によるもなほ特別損失の額が殘るときには、その殘額は、資本金の額の十分の一に相當する額(資本金が十萬圓を超え五十萬圓未滿の特別經理株式會社については五萬圓、資本金が十萬圓以下の特別經理株式會社については資本金の額の二分の一)まで、株主の負擔額として、これを計算する。
四 前號によるもなほ特別損失の額が殘るときには、その殘額は、知れたる特別損失負擔債權の額の十分の三に達するまで、知れたる特別損失負擔債權の債權者の負擔額として、これを計算する。
第八條 特別經理株式會社の特別管理人は、會社財産についての命令を以て定める評價換を行はうとするときには、これを整備計畫に定めなければならない。
前項の規定による命令を以て定める評價換に關しては、他の法令の規定又は定款の定は、これを適用しない。
第一項の規定により評價換を行ふ場合には、その評價換によつて生じた益金は、特別損失の計算については、これを第三條第二號の合計金額に加算しなければならない。
第九條 特別經理株式會社は、命令の定めるところにより、第三條及び第七條の規定による計算を明かならしめる書類を作成し、特別管理人の承認を受けなければならない。
前項の會社は、命令の定めるところにより、遲滯なく、同項の承認を受けた書類を當該會社の知れたる債權者に提出すると共に、公告をなし、且つその書類を本店及び支店に備へ置き、利害關係人の閲覽に供しなければならない。
第一項の會社は、前項の規定により知れたる債權者に提出する書類には、第一項の承認を受けたことを證明する書類竝びに前條の規定による評價換を行ふ場合にはその評價換を行はずしてなした第三條及び第七條の規定による計算を明かならしめる書類を添附しなければならない。
第十條 特別經理株式會社が新勘定に所屬する資産の全部又は一部を出資する場合においては、その出資を受ける者は、命令の定めるところにより、指定時後特別經理株式會社の新勘定の負擔となつた債務を承繼する。
前項の債務の承繼については整備計畫において、これを定めなければならない。
第十一條 整備計畫たに議決權のない株式であつて議決權のある株式に轉換することを請求することができるものを發行することを定めた場合には、當該會社については、商法第二百四十二條第二項の規定は、これを適用しない。
前項の場合における轉換の請求の期間については、命令を以てこれを定める。
第十二條 整備計畫の定めるところによつてなす未拂込株金の拂込の場合に關しては、他の法令又は定款にかかはらず、命令を以て別段の定をなすことができる。
第十三條 特別經理株式會社が、第六條第七條の規定による會社(以下第二會社といふ。)の株式の相當多數を當該會社その他の者が所有する場合に、その議決權を受託機關を設けてこれに行使せしめ、その他議決權の行使の制限をしようとするときには、整備計畫にその旨を定めなければならない。
第十四條 特別經理株式會社の特別管理人は、第五條第一項の規定による認可を申請したときには、遲滯なく第六條第十號に掲げる事項を公告し、且つ當該整備計畫を記載した書類を當該會社の本店及び支店に備へ置き、利害關係人の閲覽に供しなければならない。
株主及び債權者は、當該整備計畫に定める事項に異議があれば、前項の規定による公告の日から一箇月以内に、事由を具して主務大臣にその旨を申し出ることができる。
第十五條 主務大臣は、第五條第一項の規定による申請があつた場合には、當該整備計畫が適正でその實行に支障がなく、且つ公益に反しないか否かを審査し、前條第二項の期間經過後文書によつて認可又は不認可の處分をなす。
主務大臣は、前條第二項の規定による申出のあつた場合において必要があると認めるときには、整備計畫に定める事項を變更して認可することができる。
主務大臣は、前項の規定により整備計畫に定める事項を變更して認可したとき、前條第二項の規定による異議を採用しなかつたとき、又は不認可の處分をなしたときには、第一項の規定による認可又は不認可の文書に、その理由を附記することを要する。
第十六條 第五條第一項の規定により認可を申請した特別經理株式會社の特別管理人は、前條第一項の規定により不認可の處分を受けた場合には、同條第三項の規定により不認可の文書に附記された理由に基き、當該整備計畫に所要の修正を加へ、不認可の處分の日から一箇月以内にあらためて第五條第一項の規定による認可を申請しなければならない。
第十七條 主務大臣は、第五條第一項の規定に適用を受ける特別經理株式會社の特別管理人が同項の命令の定める期間内又は前條の期間内に整備計畫の認可を申請しない場合及びふたたび整備計畫の不認可の處分を受けた場合には、當該會社に對しその解散を命ずることができる。
前項の規定による命令を受けた特別經理株式會社は、同項の規定による命令に因り解散する。
第十八條 特別經理株式會社の特別管理人は第十五條第一項又は第二項の規定による認可があつた場合には、命令の定めるところにより、遲滯なく第六條第十號に掲げる事項を公告し、且つ認可を受けた整備計畫(以下決定整備計畫といふ。)を記載した書類を當該會社の本店及び支店に備へ置き、利害關係人の閲覽に供しなければならない。
第十九條 會社經理應急措置法第十四條第一項の舊債權は、決定整備計畫に定める第六條第十號の割合を乘じた額に相當する額だけ、第十五條第一項又は第二項の規定による認可を受けた日に消滅し、その債權の額は、その認可に因り確定する。
前項の場合においては、社債の種類竝びに留置權、先取特權、質權及び抵當權の有無にかかはらず、すべての債權者の負擔の比率は、平等とする。
第二十條 己むを得ない事由により、決定整備計畫に定める事項(前條の規定による債權の消滅及び確定に關する事項を除く。)を變更する必要を生じたときには、特別管理人は、命令の定めるところにより、命令の定める期間内に、決定整備計畫を變更し、主務大臣の認可を申請しなければならない。但し、命令の定める場合はこの限りでない。
第十四條乃至第十八條の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第二十一條 第五條第一項の規定の適用を受ける特別經理株式會社以外の特別經理株式會社の特別管理人は、必要があると認めるときには、整備計畫を立案し、命令の定めるところにより、主務大臣の認可を申請することができる。
第五條第二項、第十四條、第十五條、第十八條及び前條の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第一項の規定により認可の申請をなした特別經理株式會社の特別管理人は、前項において準用する第十五條第一項の規定により不認可の處分を受けた場合においては、前項において準用する第十五條第三項の規定により不認可の文書に附記された理由に基いて、當該整備計畫に所要の修正を加へ、不認可の處分の日から一箇月以内に、あらためて第一項の規定による認可を申請することができる。
第四章 整備計畫の實行
第二十二條 特別經理株式會社の特別管理人が、第十五條第一項又は第二項の規定(第二十條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。以下同じ。)による認可を受けたときには、當該會社は、決定整備計畫に從ひ遲滯なく整備を行はなければならない。
第二十三條 主務大臣は、商法の會社の整理又は特別清算の手續による旨の定のある整備計畫を認可したときには、その旨を裁判所に通告することを要する。
前項の規定による通告は、決定整備計畫の定めるところに從ひ、會社の整理又は特別清算の開始の通告とみなす。
第二十四條 特別經理株式會社は、決定整備計畫の定めるところに從ひ、第六條第七號乃至第九號に定める會社の資産を處分する場合において處分益又は處分損を生じたときは、命令の定めるところにより、その處分益又は處分損を夫夫假勘定として貸借對照表の負債の部又は資産の部に計上しなければならない。
第二十五條 特別經理株式會社は、決定整備計畫に定めた特別損失の額が増減した場合においては、命令の定めるところにより、その増加額又は減少額を夫夫假勘定として貸借對照表の負債の部又は資産の部に計上しなければならない。
第二十六條 特別經理株式會社は、前二條の規定により、假勘定として經理すべき額が確定した時において、當該假勘定として負債の部又は資産の部に計上した額の合計差引計算をなし、負債の部に計上した額の合計金額が資産の部に計上した額の合計金額を超える場合においては、その超過額に相當する金額を決定整備計畫に定める方法により、第十九條の規定により消滅した債權の額の限度において、會社經理應急措置法第十四條第一項の舊債權に歸屬せしめなければならない。
特別經理株式會社は、前項の規定による假勘定の合計差引計算の結果、負債の部に計上した額の合計金額が資産の部に計上した額の合計金額を超える場合において、その超過額から同項の規定により債權者に歸屬せしめる額を控除してなほ殘額があるときには、その殘額を假勘定の額の確定した日の屬する事業年度の益金として經理し、負債の部に計上した額の合計金額が資産の部に計上した額の合計金額に滿たない場合においては、その不足額を假勘定の額の確定した日の屬する事業年度の損金として經理しなければならない。
第二十七條 決定整備計畫に定める事項については、行政官廳の認可、許可、免許その他の處分を要する旨を規定する他の法令(昭和二十年勅令第六百五十七號、昭和二十一年 商工 文部省令第一號及び昭和二十一年運輸省令第三十二號を除く。)の規定はこれを適用しない。
第二十八條 特別經理株式會社は、決定整備計畫に定める資産の處分を行ふについては、工場抵當法第十三條第二項若しくは第十四條第二項の規定(鑛業抵當法第三條及び漁業財團抵當法第六條において準用する場合を含む。)、鐵道抵當法第四條若しくは第二十條の規定(明治四十二年法律第二十八號第一條及び運河法第十三條において準用する明治四十二年法律第二十八號第一條において準用する場合を含む。)及び自動車交通事業法第四十四條の規定にかかはらず、これを行ふことができる。
前項の規定は、新勘定に屬する會社の資産については、これを適用しない。
特別經理株式會社は、決定整備計畫に定める資産の處分を行ふについては、會社經理應急措置法第二十二條の規定、物資の配給の統制に關する法令の規定、定款の定又は既存の契約の條項にかかはらず、これを行ふことができる。
前項の場合においては、資産の處分の相手方の行爲についても、決定整備計畫に定める事項については、物資の配給の統制に關する法令の規定は、これを適用しない。
第二十九條 特別經理株式會社は、決定整備計畫に定める事項については、法令の規定又は定款の定にかかはらず、株式總會又は社債權者集會の決議を經ることを要しない。
第十三條の規定による決定整備計畫の定は、第二會社の株主である特別經理株式會社以外の者をも拘束する。
第三十條 整備計畫の認可があつたときには、會社經理應急措置法第十五條第三項の規定によつて中止した強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續は、決定整備計畫の實行に牴觸しないものはこれを續行し、牴觸するものは決定整備計畫の認可の時からその效力を失ふ。
前項の規定により效力を失つた強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續の費用の負擔については、命令を以て、これを定める。
第三十一條 特別經理株式會社が、決定整備計畫に定めるところにより、第二會社を設立する場合においては、商法第百六十五條、第百七十三條、第百八十一條、第百八十四條第二項及び第百八十五條乃至第百八十七條の規定は、これを適用しない。但し、決定整備計畫に定めた方針を變更しない範圍の定款の變更については、この限りでない。
第三十二條 特別經理株式會社は、決定整備計畫に定める解散の事由に因り解散する。
第三十三條 決定整備計畫に從つてなす特別經理株式會社の行爲については、民法第四百二十四條の規定は、これを適用しない。
第三十四條 特別經理株式會社は、命令を以て定める場合には、整備計畫の定めるところに從ひ、特別損失の額の全部又は一部を繰越缺損として處理することができる。
第五條第一項の規定による認可を申請し特別損失の額の全部を繰越缺損として處理する旨を定めた整備計畫の認可のあつた場合を除くの外、特別經理株式會社は、決定整備計畫に定める特別損失の額から會社經理應急措置法第十四條第一項の舊債權の負擔額として計算した額と前項の規定により繰越缺損として處理する額との合計額を控除した額を下らない額の資本を、減少しなければならない。
前項の場合においては、商法第二百二條第二項の規定は、これを適用しない。
第二項の規定による資本の減少により、株式の金額が商法第二百二條第二項に規定する金額を下る場合においては、特別經理株式會社は、資本減少の登記の日から一年以内に、同法第三百七十七條乃至第三百七十九條の規定に準じ、株式の併合をなし、株式の金額を同法第二百二條第二項に規定する金額以上に上せなければならない。
特別經理株式會社は、その株式の金額を商法第二百二條第二項に規定する金額以上に上せなければ、その資本を増加することができない。
特別經理株式會社が第三項の規定により、資本を減少する場合においては、その登記の日から一年を限り資本金額の制限に關する他の法令の規定は、これを適用しない。
第二項の規定により株式の金額が商法第二百二條第二項に規定する金額を下る場合においては、第四項の規定により同法第二百二條第二項に規定する金額以上に上せられない間において行はれた當該株式の讓渡は、命令の定める場合を除くの外、その效力を生じない。
第二項の規定による資本の減少に關し必要な事項は、命令を以て、これを定める。
第五章 舊勘定及び新勘定の併合
第三十五條 第二十一條第一項に掲げる特別經理株式會社でその特別管理人が整備計畫を提出しないものは、命令の定めるところにより、命令の定める期間内に、舊勘定及び新勘定の併合について、主務大臣の認可を申請しなければならない。
前項の規定により認可を申請する場合には、特別經理株式會社は、命令の定めるところにより、第三條及び第七條第一號の規定による計算を明かならしめる書類を作成し、特別管理人の承認を受けなければならない。
第九條第二項、第十四條第二項及び第十五條第二項の規定は、前二項の場合に、これを準用する。
第一項の規定の適用を受ける特別經理株式會社が同項の命令の定める期間内に同項の認可を申請しない場合には、主務大臣は、當該會社に對し、期限を定めて第一項の規定による認可の申請をなすベきことを命ずることができる。
前項の規定による命令を受けた特別經理株式會社が同項の期限までに第一項の規定による認可の申請をしなかつた場合には、當該會社は、その期限到來の日に解散するものとする。
第三十六條 特別經理株式會社の舊勘定及び新勘定は、左に掲げる日に併合するものとする。
一 特別管理人が第十五條第一項又は第二項の規定による認可を受けた特別經理株式會社においては、その認可を受けた日、但し、決定整備計畫において、第二會社を設立し、又は新勘定に所屬する會社財産で決定整備計畫に定める相當部分を出資し、讓渡し、賃貸し、若しくはその營業で決定整備計畫に定める相當部分の經營を委任する旨を定める場合においては、第二會社の設立の登記をした日又は決定整備計畫に從ひ出資、讓渡、賃貸若しくは營業の經營の委任をした日(これらの日が二以上あるときはその最も遲き日)
二 第五條第一項の規定により整備計畫の認可を申請しなければならない特別經理株式會社の特別管理人が、同項の規定により、命令の定める期間内に認可を申請しなかつた場合においては、その期間滿了の日
三 第十六條の規定によりあらためて整備計畫の認可を申請しなければならない特別經理株式會社の特別管理人が、同條の規定により、命令の定める期間内に認可を申請しなかつた場合においては、その期間滿了の日
四 第二十一條第三項の規定によりあらためて整備計畫の認可を申請することができる特別經理株式會社の特別管理人が、同項に定める期間内に認可を申請しなかつた場合においては、その期間滿了の日
五 第十六條又は第二十一條第三項の規定によりあらためて整備計畫の認可を申請した特別經理株式會社の特別管理人が、不認可の處分を受けた場合においては、その不認可の處分を受けた日
六 前條第一項の規定による認可を受けた特別經理株式會社においては、その認可を受けた日
七 前條第五項の規定の適用を受ける特別經理株式會社においては、その解散の日
特別經理株式會社は、前項の規定により舊勘定及び新勘定の併合があつた後においても、第二十四條乃至第二十六條の規定による經理に係る資産については、特別の帳簿を作成し、その他の資産との區別を明確にしておかなければならない。
第三十七條 特別經理株式會社は、舊勘定及び新勘定の併合があつたときには、遲滯なくその旨を公告し、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、舊勘定及び新勘定の併合の登記をなし、且つ會社經理應急措置法第八條第六項の規定による登記又は登録を抹消しなければならない。
前項の規定によつて登記又は登録しなければならない事項は、登記又は登録の後でなければ第三者に對抗できない。
第三十八條 會社經理應急措置法第七條乃至第十一條、第十三條乃至第十五條、第十六條第一項乃至第三項及び第五項、第十九條竝びに第二十一條乃至第二十三條の規定は、第三十六條第一項第一號の特別經理株式會社について、舊勘定及び新勘定の併合の日から、これを適用しない。
第三十九條 第八條の規定による命令を以て定める評價換により附せられた價額は、當該財産については、これを商法第二百八十五條に定める取得價額若しくは製作價額又は平均價額とみなす。
第八條の規定による評價換に係る營業用の固定財産の償却、その他に關し必要な事項は、命令を以てこれを定める。
第八條の規定による評價換に伴ふ利益は、命令の定めるところにより、法人税法による所得、營業税法による純益の計算上これを益金に算入しない。
第四十條 特別經理株式會社が第十五條第一項又は第二項の規定による認可を受けたときには、財産目録に記載した價額は、會社經理應急措置法第九條及び第十條の規定の適用については、當該會社財産を新勘定に所屬せしめた日において第八條の規定による評價換の額にあらためられたものとする。
第四十一條 特別經理株式會社(決定整備計畫の實行により特別經理株式會社が消滅する場合においては、命令の定める者)は、命令の定めるところにより、決定整備計畫の全部の實行を終つたときには、遲滯なく主務大臣にその旨を報告し、命令の定めるところにより、公告しなければならない。
主務大臣は、前項の規定による整備計畫の全部の實行を終つた旨の報告を受ける以前において、整備計畫の迅速且つ公正の實行を確保するため、必要な命令をなすことができる。
主務大臣は、特別經理株式會社が、決定整備計畫に違反した行爲をしたときには、これを取消すことができる。
特別經理株式會社の利害關係人は、特別經理株式會社に對して、整備計畫の迅速且つ公正の實行を確保するため、必要な措置を要求し、又は主務大臣に對して、前二項の規定による主務大臣の命令を申請することができる。
第四十二條 會社經理應急措置法は、第三十六條第一項第一號の特別經理株式會社については、前條第一項の規定による實行を終つた日から、其の他の特別經理株式會社については舊勘定及び新勘定の併合の日からこれを適用しない。但し、その日までになした行爲に對する罰則については、この限りでない。
特別經理株式會社は、前項に規定する日から、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、會社經理應急措置法第十七條第三項の登記を抹消し、資本金が二十萬圓未滿の特別經理株式會社は、同法第三條第一項の登記を抹消しなれればならない。
第四十三條 主務大臣は、特別經理株式會社、その債權者その他の者が特別經理株式會社又は第二會社の株式を取得して、當該會社の經營を支配する虞がある場合において、必要があると認めるときには、當該株式の所有者に對し、必要な事項を指示して株式の讓渡を命じ、又は當該株式の議決權の行使を命令の定める者に委任すべきことを命ずることができる。
第六章 經濟再建整備委員會 第四十四條 この法律の圓滑な運營を圖るため、經濟再建整備委員會を置く。
第四十五條 主務大臣は、この法律の運營に關し、重要な事項の決定をなす場合、第十五條第一項又は第二項の規定による認可、第十七條第一項又は第四十三條の規定による命令及び第四十七條の規定による裁定をなす場合には、經濟再建整備委員會に諮問することを要する。
第四十六條 この法律に定めるものの外、經濟再建整備委員會に關し必要な事項は、勅令でこれを定める。
第七章 雜則
第四十七條 特別管理人がこの法律による職權を行ふについては、その過半數を以てこれを決する。但し、可否の意見が同數の場合には、特別管理人の申請により、主務大臣がこれを裁定する。
第四十八條 主務大臣は、特別經理株式會社がこの法律施行の日(この法律施行後會社經理應急措置法第一條第一項第二號の指定を受けた特別經理株式會社については、その指定の日とする。以下同じ。)前四箇月以内に公正なる再建整備を妨げることを知つてなした行爲があるときには、この法律施行の日から一年を限り、これを取消すことができる。
第四十九條 主務大臣は、必要があると認めるときには、特別經理株式會社に對して、監督上必要な命令をなすことができる。
主務大臣は、この法律の施行に關し必要があると認めるときには、關係者から報告をとり、又は當該官吏に、必要な場所に臨檢し、業務の状況若しくは帳簿、書類その他必要な物件を檢査させることができる。
前項の規定により、當該官吏に 臨檢檢査させる場合には、命令の定めるところにより、その身分を示す證票を携帶させなければならない。
第五十條 主務大臣は、この法律に規定する職權の一部を地方官衙の長をして行はせることができる。
第五十一條 主務大臣は、命令の定めるところにより、この法律の施行に關する事務の一部を、日本銀行をして取り扱はせることができる。
第五十二條 この法律の中必要な規定は、命令の定めるところにより、左に掲げるものに、これを準用する。
一 株式會社以外の特別經理會社
二 特別經理會社以外のもので會社經理應急措置法の準用を受けるもの
前項の規定によりこの法律の規定を準用するにつき必要な事項に關しては、命令で特別の定をすることができる。
第五十三條 特別經理株式會社が、第三條、第七條若しくは第二十四條乃至第二十六條の規定に違反し、又は不正の評價をなし、債權者又は株主に損害を及ぼしたときには、當該會社の業務を執行する役員、清算人、商法第三百九十八條の管理人若しくは破産管財人又は特別管理人は、當該會社と連帶してその損害を賠償しなければならない。第三條、第七條若しくは第二十四條乃至第二十六條の計算又は第八條の評價換に關し過失がなかつた者については、この限りでない。
前項の損害賠償の請求權は、第十五條第一項又は第二項の規定による認可の日から五年を經過した時、時效によつて消滅する。
第五十四條 破産手續中の特別經理株式會社については、この法律の適用に關し、命令を以て特別の定をなすことができる。
第五十五條 この法律に定めるものの外、登記その他企業の再建整備に關し必要な事項は、命令の定めるところによる。
第八章 罰則
第五十六條 左の各號の一に該當する者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第三條及び第七條の規定による計算を明かならしめる書類に虚僞の記載をした者
二 第六條第十號に掲げる事項を定める整備計畫の書類に虚僞の記載をした者
三 決定整備計畫に違反して整備を實行した者
四 第四十三條の規定による命令に違反した者
第五十七條 左の各號の一に該當する者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
一 第四十一條第二項の規定による命令に違反した者
二 第四十九條第二項の規定による報告を怠り、又は虚僞の報告をした者
三 正當な事由がなく第四十九條第二項の規定による檢査を拒み、妨げ、又は忌避した者
第五十八條 特別管理人が第五條第一項、第十六條又は第二十條第一項の規定に違反して、認可の申請を怠つたときには、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第五十九條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者がその法人又は人の業務又は財産に關して第五十六條又は第五十七條第一號若しくは第二號の違反行爲をしたときには、行爲者を罰する外、その法人又は人に對しても、各本條の罰金刑を科する。
第六十條 左の場合においては、その行爲をなした特別經理株式會社の取締役その他これに準ずる者又は特別管理人は、これを五千圓以下の過料に處する。
一 第九條第二項、第十四條第一項若しくは第十八條(第二十條第二項及び第二十一條第二項において準用する場合を含む。以下同じ。)、第三十七條第一項又は第四十一條第一項の規定による公告をせず、又は虚僞の公告をしたとき
二 第九條第二項、第十四條第一項又は第十八條の規定に違反して書類を備へ置かず、又は正當の事由なくして書類の閲覽を拒んだとき
三 第九條第一項又は第三十五條第二項の規定に違反して特別管理人の承認を受けなかつたとき
四 この法律又はこの法律に基いて發する命令に違反して登記又は登録を怠つたとき
五 第三十四條第四項又は第五項の規定に違反して株式の併合をなさず、又は資本の増加をしたとき
六 第三十九條第二項の規定に基いて發する命令又は第四十九條第一項の規定による命令に違反したとき
七 第四十一條第一項の規定による報告を怠つたとき
第六十一條 第五十六條乃至前條の規定は、第五十二條の場合に、これを適用する。但し第六十條中特別經理株式會社とあるのは、第五十四條の規定による特別經理株式會社以外のものとする。
附 則
この法律の施行の期日は、勅令でこれを定める。
會社經理應急措置法の一部を左のやうに改正する。
第一條第一項第一號中「財産目録に記載した動産、不動産、債權その他の財産の指定時における價額(株式會社、株式合資會社又は有限會社の營業用の固定財産及び取引所の相場のある有價證券については、商法第二百八十五條又は同法第四百五十八條第二項若しくは有限會社法第四十六條第一項において準用する商法第二百八十五條に定める價額を超えることができない。)が當該財産目録に記載した價額を超える場合におけるその超過額」を「貸借對照表に記載した指定時を以て終了する事業年度の利益金額」に改める。
第四條第一項中「第一條第一項第二號」を「第一條第一項第一號本文の會社又は同項第二號」に、「同號」を「この法律施行の日前まで又は同項第二號」に改め、同條第三項中「指定時から」の下に「この法律施行の日前まで又は」を加へる。
第八條の二 特別經理會社が新勘定に所屬せしめた會社財産のうちで舊勘定に所屬せしめることを必要とするものを生じたときには、特別管理人の決定に基き主務大臣の認可を受け、これを舊勘定に振り替へることができる。この場合においては、當該會社財産は、舊勘定に振り替へられた日において、舊勘定に所屬せしめられたものとし、第十四條第五項の規定を準用する。
第八條第一項乃至第四項及び第六項の規定は、新勘定から舊勘定に振り替へた會社財産についてこれを準用する。
第三十八條 削除
第三十九條第二項中「前項において」を「前二項において」に、「前項の特別經理會社以外の者」を「第一項の特別經理會社以外の者又は前項の會社その他の者」に、「前項の規定」を「前二項の規定」に改め、同條第一項の次に左の一項を加へる。
この法律のうち必要な規定は、命令の定めるところによつて、命令の定める日以後命令の定める損失に因り債務超過又は支拂不能に陷る虞のある會社その他の者に對し、これを準用することができる。
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財産税法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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財産税法案
財産税法目次
第一章 總則
第二章 課税價格、免税點及び税率
第三章 財産の評價
第四章 申告
第五章 納付
第六章 課税價格の更正及び決定
第七章 審査、訴願及び行政訴訟
第八章 物納及び延納
第九章 雜則
第十章 罰則
第十一章 補則
財産税法
第一章 總則
第一條 左に掲げる者(その一般承繼人を含む。)は、この法律により、財産税を納める義務がある。
一 昭和二十一年三月三日午前零時(以下調査時期といふ。)において、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有してゐた個人
二 前號の規定に該當しない個人で、調査時期においてこの法律の施行地に財産を有してゐたもの
前項に掲げる者の外、戸籍法の適用を受ける個人で、調査時期後二年以内に、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有することとなつたもの(その一般承繼人を含む。)は、この法律により、財産税を納める義務がある。
第二條 財産税は、命令で定める外國人には、これを課さない。
第三條 民法第千五十一條に規定する法人(以下相續財團といふ。)で、調査時期において現に存したものについては、これを個人とみなして、この法律を適用する。
前項の規定の適用に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四條 調査時期において、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有してゐた個人で、戸籍法の適用を受けるものについては、調査時期において有してゐた財産の全部に對し、財産税を課する。
前項の規定に該當しない個人で、調査期期においてこの法律の施行地に財産を有してゐたものについては、調査期間においてこの法律の施行地に有してゐた財産に對し、財産税を課する。
第一項の規定に該當しない個人で、戸籍法の適用を受けるものが、調査時期後二年以内に、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有することとなつた場合においては、前項の規定にかかはらず、調査時期において有してゐた財産の全部に對し、財産税を課する。
調査時期後この法律施行前に相續の開始があつた場合においては、被相續人が調査時期において有してゐた財産に對しては、相續人又は相續財團に、財産税を課する。
前項の場合において、被相續人が調査時期において有してゐた財産に對する財産税は、被相續人が第一項又は第三項の規定に該當する者があつたときは、調査時期において有してゐた財産の全部に對し、被相續人が第二項の規定に該當する者(第三項の規定に該當する者を除く。)であつたときは、調査時期においてこの法律の施行地に有してゐた財産に對し、これを課する。
第四項の規定により相續財團に財産税を課する場合において必要な事項は、命令でこれを定める。
第五條 左の各號に掲げる財産の所在は、當該各號に規定する場所による。
一 動産若しくは不動産又は不動産の上に存する權利については、その動産又は不動産の所在但し、船舶については、船籍の所在
二 鑛業權又は砂鑛權については、鑛區の所在
三 漁業權若しくは入漁權又は漁業權を目的とする權利については、漁場に最も近い沿岸の屬する市町村又はこれに相當する行政區劃
四 金融機關に對する預金、貯金、積金又は寄託金で命令で定めるものについては、その預金、貯金、積金又は寄託金をなした營業所又は事業所の所在
五 合同運用信託に關する權利については、その信託をなした營業所の所在
六 前各號の外、この法律の施行地に營業所又は事業所を有する個人の、その營業所又は事業所の營業上又は事業上の權利については、その營業所又は事業所の所在
前項に掲げる財産以外の財産の所在は、權利者の住所の所在による。
第六條 調査時期において現に存した信託については、その時における受益者が、信託財産を有してゐたものとみなして、この法律を適用する。但し、合同運用信託については、その時における受益者が、信託に關する權利を有してゐたものとみなす。
前項の場合において、調査時期までに、元本若しくは收益の受益者がその元本若しくは收益を全然受けてゐなかつたとき、又は受益者が特定してゐなかつたとき若しくはまだ存在しいゐなかつたときは、委託者又はその相續人を受益者とみなす。
前二項の場合において、受益者が二人以上あつたときは、これらの受益者が、各自その受くべき利益の價額の占める割合に應じて、信託財産又は信託に關する權利を有してゐたものとみなす。
第七條 調査時期において現に存した郵便年金契約で、その時までにまだ年金支拂事由が發生してゐなかつたもの又は調査時期において現に存した生命保險契約で、その時までにまだ保險事故が發生してゐなかつたものについては、契約者が、その契約に關する權利の全部を有してゐたものとみなして、この法律を適用する。但し、契約者が他人のために契約をなし、且つ、その他人が現實に掛金又は保險料の全部を負擔してゐた場合その他命令で定める場合については、命令で特別の定をなすことができる。
第八條 昭和二十年十一月十五日以後調査時期前に、贈與の契約とその履行とがあつた場合又は財産を留保する家督相續があつた場合においては、その贈與財産(その贈與財産に係る債務及び公租公課を含む。以下同じ。)又は相續財産(その相續に係る債務及び公租公課を含む。以下同じ。)は、命令の定めるところにより、調査時期において贈與者又は被相續人が、これを有してゐたものとみなして、この法律を適用する。
前項の規定は、同項に規定する贈與が國又は命令で定める公共團體に對する贈與、贈與財産の價額三千圓以下の贈與その他命令で定める贈與であつた場合及び同項に規定する相續が相續財産の價額一萬圓以下の相續であつた場合においては、これを適用しない。
第一項の期間内に著しく低い價額の對價が財産の讓渡の契約とその履行とがあつた場合においては、その對價の價額と契約の時における讓渡財産の時價との差額に相當する金額について、贈與があつたものとみなして、前二項の規定を適用する。
第九條 前條第一項の期間内に他人をして信託の利益を受くべき權利を有せしめ、且つ、同項の期間内に、その受益者をして元本若しくは收益の全部又は一部を受けしめたときは、信託の受託者を贈與者、受益者を受贈者とみなし、その信託の利益の價額に相當する金額の贈與があつたものとみなして、前條第一項及び同條第二項の規定を適用する。
前條第一項の期間内に契約期間の滿了する生命保險契約について、同項の期間内に契約者が保險金受取人を變更したとき(調査時期前にその契約の解除があつたときを除く。)は、生命保險契約の契約者を贈與者、變更後の保險金受取人を受贈者とみなし、その保險金額に相當する金額の贈與があつたものとみなして、前條第一項及び同條第二項の規定を適用する。
前條第一項の期間内に他人を年年受取人とし、且つ、同項の期間内に年金支拂事由が發生する郵便年金契約をなしたとき(調査時期前にその契約の留除があつたときを除く。)は、郵便年金契約者を贈與者、年金受取人を受贈者とみなし、その郵便年金契約に關する權利の價額に相當する金額の贈與があつたものとみなして、前條第一項及び同條第二項の規定を適用する。
前三項の規定は、前三項に規定する行爲が無償で行はれた場合又は著しく低い價額の對價で行はれた場合を除く外、それを適用しない。
第十條 左に掲げる財産については、財務税を課さない。
一 生活に通常必要な家具、什器、衣服その他の動産で、命令で定めるもの
二 墓所及び靈廟
三 簡易生命保險契約に關する權利
四 厚生年金保險法及び船家保險法に規定する年金又は一時金に關する權利竝びに共濟組合の支給する年金又は一時金に關する權利
五 戰爭又は災害に起因して死亡し又は傷痍を受け若しくは疾病に罹り、それに因り支給を受ける増加恩給その他これに準ずる年金で、命令で定めるものに關する權利
六 その他命令で定めるもの
第十一條 この法律において合同運用信託とは、信託會社(信託業務を兼營する銀行を含む。以下同じ。)が引き受けた金錢信託で、共同しない多數の委託者の信託財産を合同して運用するものをいふ。
この法律において同居家族とは、戸主及びこれと同居する家族又は戸主と別居して同居する二人以上の家族をいふ。
前項の場合において同居の事實の有無は、調査時期の現況による。但し、特別の事情がある場合については、命令で特別の定をなすことができる。
第二章 課税價格、免税點及び税率
第十二條 第四條第一項又は同條第三項の規定に該當する者については、調査時期において有してゐた財産(第十條に掲げる財産を除く。以下同じ。)の價額から、調査時期において現に存した債務(公租公課を含む。以下同じ。)の金額を控除した金額を、課税價格とする。
前項の場合において、同居家族のうちに、債務の金額が財産の價額を超過する者があるときは、その超過額を、命令の定めるところにより、他の一人又は數人の同居家族の財産の價額から控除して、その同居家族についての課税價格を算定する。
第十三條 第四條第二項の規定に該當する者(同條第三項の規定に該當する者を除く。以下制限納税義務者といふ。)については、調査時期においてこの法律の施行地に有してゐた財産の價額から、左の債務で調査時期において現に存したもののか金額を控除した金額を、課税價格とする。
一 その財産に係る公租公課
二 その財産を目的とする留置權、特別の先取特權、質權又は抵當權で擔保される債務
三 前二號の外、その財産を取得、維持又は管理するために生じた債務
四 その財産に關する贈與の義務
五 前四號の外、その者が、調査時期において、この法律の施行地に營業所又は事業所を有してゐた場合においては、その營業所又は事業所の營業上又は事業上の債務
制限納税義務者で、調査時期において、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有してゐたものいついては、前項の規定にかかはらず、調査時期においてこの法律の施行地に有してゐた財産の價格から、前項に掲げる債務の金額及び左の債務で調査時期において現に存したものの金額の合計額を控除した金額を、課税價格とする。
一 前項第一號に掲げるもの以外の公租公課で、この法律の施行地で納付すべきもの
二 調査時期において、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有してゐた個人に對する債務
三 調査時期において、この法律の施行地に營業所又は事業所を有してゐた法人に對する債務でこれらの營業所又は事業所との間に生じたもの
前條第二項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第十四條 前二條の規定により、その金額を控除すべき債務は、確實と認められるものに限る。
第十五條 左に掲げる金額は、課税價格の算定上、これを調査時期における財産の價額とみなす。
一 戰時補償特別措置法第四十一條、第四十二條又は第五十三條の規定により求償をなし得べき金額
二 調査時期前に納付した相續税につき、戰時補償特別措置法第五十七條又は第五十八條の規定により免除がなされる場合におけるその免除税額
第十六條 左に掲げる金額は、課税の價格の算定上、これを調査時期における債務の金額とみなす。
一 不動産所得、乙種の配當利子所得、甲種若しくは乙種の事業所得、乙種の勤勞所得、山林の所得、乙種の退職所得又は清算取引所得に對する昭和二十一年分の分類所得税額、同年分の綜合所得税額及び同年分の臨時利得税額
二 戰時補償特別税額(戰時補償特別措置法第六十條の規定の適用を受ける場合については、命令で定める税額を除く。)
三 戰時補償特別措置法第四十一條、第四十二條又は第五十三條の規定により求償に應じて履行をなすべき債務の金額
調査時期において相續税納付の義務があつた場合において、戰時補償特別措置法第五十七條又は第五十八條の規定により相續税を免除されるときは、調査時期における財産の價額から控除さるべき相續税額は、課税價格の算定上、その免除後の税額による。
第十七條 昭和二十年十一月十五日以後に贈與の契約がなされて、調査時期までにその履行がなかつた場合においては、贈與の義務の金額及び受贈の權利の價額は、課税價格の算定上、命令の定めるところにより、調査時期における贈與者又は受贈者の債務の金額又は財産の價額には、これを算入しない。
第八條第二項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
昭和二十年十一月十五日以後に著しく低い價額の對價で財産の讓渡の契約がなされて、調査時期までにその履行がなかつた場合においては、その對價の價額と契約の時における讓渡財産の時價との差額に相當する金額について、贈與の契約がなされたものとみなして、前二項の規定を適用する。
第十八條 戰爭又は災害に起因して死亡し又は傷痍を受け若しくは疾病に罹り、これに因り、調査時期前五年以内に、一時金たる恩給、扶助金、救恤金その他の給付で命令で定めるものの支給を受けることとなつた場合においては、命令の定めるところにより、その給付金額に相當する金額を、調査時期前にその給付を受けた者又は調査時期において現にその給付を受ける權利を有してゐた者について、課税價格から控除する。但し、その控除金額は、一萬圓を超えることができない。
第十九條 戰災者又は引揚者については、一人につき五千圓を、課税價格から控除する。
第十二條第二項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第一項の戰災者及び引揚者の範圍は、命令でこれを定める。
第二十條 前二條の規定は、制限納税義務者(調査時期において、この法律の施行地に住所を有し又は一年以上居場所を有してゐた者を除く。)には、これを適用しない。
第二十一條 第十八條乃至前條の控除に關する規定は、第三十七條第一項又は第三十八條第一項に規定する申告書の提出期限までに、控除に關する明細書を添附した第三十七條第一項又は第三十八條第一項の規定による申告書の提出がない場合には、これを適用しない。
第三十八條第一項第二號に掲げる事由に因り、第三十九條第一項の規定による申告書の修正をなすべき者につき、同項に規定する申告書の修正期限までに、控除に關する明細書を添附した同項の規定による申告書の修正がない場合もまた同じ。
前項の規定は、政府において巳むを得ない事情があると認めるときは、これを適用しない。
第二十二條 課税價格(第十八條乃至前條の規定による控除をなす場合においては、控除後の價額をいふ。以下特別の定をなす場合を除く外同じ。)が十萬圓以下である場合においては、財産税を課さない。
同居家族については、課税價格を合算し、その總額について、前項の規定を適用する。但し、第二十條に規定する制限納税義務者については、この限りでない。
第二十三條 財産税は、課税價格を左の各級に區分し、遞次に各税率を適用して、これを賦課する。
十萬圓を超える金額
百分の二十五
十一萬圓を超える金額
百分の三十
十二萬圓を超える金額
百分の三十五
十三萬圓を超える金額
百分の四十
十五萬圓を超える金額
百分の四十五
十七萬圓を超える金額
百分の五十
二十萬圓を超える金額
百分の五十五
三十萬圓を超える金額
百分の六十
五十萬圓を超える金額
百分の六十五
百萬圓を超える金額
百分の七十
百五十萬圓を超える金額
百分の七十五
三百萬圓を超える金額
百分の八十
五百萬圓を超える金額
百分の八十五
千五百萬圓を超える金額
百分の九十
前項の場合において、同居家族については、課税價格を合算し、その總額に對し前項の規定を適用して算出した金額を、各各その課税價格に按分して、各各その税額を定める。
第二十條の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第二十四條 第四條第四項の規定に該當する場合においては、命令の定めるところにより、被相續人が調査時期において有してゐた財産及び相續人の調査時期において有してゐた財産は、各各これを區分し、その各各について、第五條乃至前條の規定を適用して、その財産に對する財産税の額を算出し、その額の合計額を以て、相續人の納付すべき財産税額とする。
第三章 財産の評價
第二十五條 この法律の施行地にある土地又は家屋の價額は、その賃貸價格(地租法第八條又は家屋税法第六條に規定する賃貸價格をいふ。以下同じ。)に一定の倍數を乘じて算出した金額(命令で定める場合においては、命令で定める金額を加算した金額)による。
借地法に規定する借地權(以下借地權といふ。)の價額は、その目的となつてゐる土地の賃貸價格に一定の倍數を乘じて算出した金額による。
所有權以外の權利の目的となつてゐる土地又は家屋の價額は、その價額から當該權利の價額を控除した金額による。
第二十六條 前條第一項の一定の倍數は、命令で定める區域ごとに、その區域内において標準となるべき土地又は家屋について、取引價額を參酌して、政府において算定する價額の、その調査時期における賃貸價格に對する倍數に比準して、これを定める。
前條第二項の一定の倍數は、命令で定める區域ごとに、その區域内において標準となるべき借地權について、取引價額を參酌して、政府において算定する價額の、その借地權の目的となつてゐる土地の、その調査時期における賃貸價格に對する倍數に比準して、これを定める。
前二項の倍數は、命令の定めるところにより、政府において、不動産評價委員會に諮問して、これを定める。
第一項及び第二項の倍數を定めたときは、政府は、命令の定めるところにより、これを公告し、又はこれを記載した書類を縱覽に供する。
不動産評價委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第二十七條 左に掲げる土地若しくはこれを目的とする借地權又は家屋の價額については、第二十五條第一項又は同條第二項の規定によらず、命令の定める價額による。
一 無租地、減租年期地及び免租年期地
二 鑛泉地、池沼、牧場及び雜種地
三 地租法第百二條の規定の適用を受ける土地
四 賃貸價格が設定されてゐない家屋
五 前各號の外、通常の土地又は家屋とその状況が著しく異なる土地又は家屋
第二十八條 地上權(借地權たるものを除く。)及び永小作權の價額は、その目的となつてゐる土地の價額に命令で定める割合を乘じて算出した金額による。
第二十九條 命令で定める金融機關に對する預金、貯金及び積金その他これに準ずるものの價額は、調査時期における預金額、貯金額、積金の掛金額等による。
第三十條 公債(外貨債及び借入金を除く。)の價額は、その發行價格による。但し、利率四分以上の國債及び國債以外の公債で利率四分五厘以上のものの價額は、その發行價格、利率、償還期限等を參酌して定めたものによる。
社債その他これに準ずる財産の價額は、命令の定めるところにより、その發行價格、當該法人の資産及び收益の状況等を參酌して定めたものによる。
株式その他の出資の價額は、命令の定めるところにより、その取引價額、當該法人の資産及び收益の状況、類似の他の法人の株式その他の出資の取引價額等を參酌して定めたものによる。
第一項但書及び前二項の價額は、命令の定めるところにより、政府において、株式等評價委員會に諮問して、これを定める。
第二十六條第四項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
株式等評價委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第三十一條 調査時期において現に存した左に掲げる定期金の給付の契約で、その時までに定期金の給付事由が發生してゐたものに關する權利の價額は、左に掲げる金額による。
一 有期定期金については、殘存機關に受くべき給付金額に、その殘存機關に應じ、命令で定める割合を乘じて算出した金額但し、一年間に受くべき金額の二十倍を超えることができない。
二 無期定期金については、一年間に受くべき金額の二十倍に相當する金額
三 終身定期金については、一年間に受くべき金額に、目的とされた人の年齡に應じ、命令で定める倍數を乘じて算出した金額但し、一年間に受くべき金額の二十倍を超えることができない。
前項に規定する定期金の給付を受ける權利を有してゐた者が、調査時期後この法律施行前に死亡し、その給付が終了した場合においては、當該定期金の權利の價額は、前項の規定にかかはらず、その權利者が調査時期後給付を受けた又は受くべき金額(權利者の遺族が權利者の死亡に因り給付を受けるときは、その給付を受ける權利の價額を加算した金額)による。
前二項に定めるものの外、定期金に關する權利の價額の算定に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十二條 調査時期において現に存した郵便年金契約で、その時までにまだ年金支拂事由が發生してゐなかつたもの及び調査時期において現に存した生命保險契約で、その時までにまだ保險事故が發生してゐなかつたものに關する權利の價額は、調査時期までに拂ひ込まれた掛金又は保險料の合計額に、命令で定める割合を乘じて算出した金額による。
第三十三條 調査時期において物價統制令による統制額の定のあつた財産の價額は、その統制額を基準として命令で定める金額による。
調査時期後この法律施行前に、物價統制令により統制額をあらたに定め又は改訂した財産の價額は、その統制額を基準として命令で定める金額による。但し、その統制額をあらたに定め又は改訂する前に讓渡した財産については、この限りでない。
第三十四條 調査時期においてこの法律の施行地外にあつた財産その他命令で定める財産の價額及び命令で定める債務の金額については、諸般の状況を勘案し、その算定をなすことができることとなつた際に、命令でその算定方法を定める。
第三十五條 第二十五條乃至前條に定めるものを除く外、調査時期における財産の價額は、その時における時價により、調査時期における財産の價額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
第三十六條 調査時期における財産のうち家庭用動産以外の財産の價額から、第十二條又は第十三條の規定により、債務の金額を控除した金額(以下一般財産の價額といふ。)が五十萬圓(同居家族については一般財産の價額の合計額が五十萬圓)以下の者については、その家庭用動産の價額は、前三條の規定にかかはらず、一般財産の價額に命令で定める割合を乘じて算出した金額によることができる。
家庭用動産の前三條の規定による價額が、前項の規定により算出した金額を一萬圓以上超過する場合においては、家庭用動産の價額は、前項の規定にかかはらず、前三條の規定による價額によらなければならない。
前二項の家庭用動産の範圍は、命令でこれを定める。
第四章 申告
第三十七條 第一條に規定する者(第二條に規定する者を除く。)は、課税價格(第十八條乃至第二十一條の規定による控除前の課税價格をいふ。)が十萬圓を超える場合(同居家族については、その合計額が一萬圓を超える場合を含む。)においては、命令で定める日(以下第三十七條の申告期限といふ。)までに、命令の定めるところにより、課税價格(第十八條乃至第二十一條の規定による控除後の課税價格をいふ。)その他必要な事項を記載した申告書を政府に提出しなければならない。
前項の規定による申告書には、命令の定めるところにより、第十八條乃至第二十一條の規定による控除に關する明細書を添附しなければならない。
第三十四條に規定する財産の價額及び債務の金額については、同條の規定に基く命令の定めるところにより、その算定をなすことができることとなるまでは、これを除外して、第一項に規定する課税價格を算定しなければならない。
第三十八條 前條第一項に規定する申告書を提出しなかつた者について、第三十七條の申告期限後、左に掲げる事由に因り、課税價格(第十八條乃至第二十一條の規定による控除前の課税價格をいふ。)が十萬圓を超えることとなつた場合(同居家族については、その合計額が十萬圓を超えることとなつた場合を含む。)においては、第一條に規定する者(第二條に規定する者を除く。)は、命令で定める日(以下第三十八條の申告期限といふ。)までに、命令の定めるところにより、前條第一項に規定する申告書を政府に提出しなければならない。
一 前條第三項の規定により、課税價格の算定の際、除外された財産の價額及び債務の金額について、第三十四條の規定に基く命令の定めるところにより、その算定をなすことができることとなつたこと。
二 その者が第四條第三項の規定に該當することとなつたこと。
前條第二項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第三十九條 第三十七條第一項又は前條第一項の規定による申告書を提出した者について、第三十七條の申告期限後又は第三十八條の申告期限後、前條第一項に掲げる事由に因り課税價格が増加することとなつた場合においては、その者は、命令で定める日(以下第三十九條第一項の修正期限といふ。)までに、命令の定めるところにより、政府に申し出て、その申告書を修正しなければならない。
第三十七條第二項の規定は、前條第一項第二號に掲げる事由に因り、前項の規定により申告書を修正する場合について、これを準用する。
第一項に規定する場合を除く外、第三十七條第一項若しくは前條第一項の規定による申告書を提出した者又は第一項の規定により申告書を修正した者が、第三十七條の申告期限後若しくは第三十八條の申告期限後又は第三十九條第一項の修正期限後、その申告又は修正に係る課税價格について脱漏があることを發見したときは、直ちに政府に申し出て、その申告書を修正しなければならない。
第一項及び第二項の規定は、第四十六條の規定による課税價格の更正又は決定があつた者について、前條第一項に掲げる事由に因り課税價格が増加することとなつた場合における課税價格に修正について、これを準用する。
第三項の規定は、第四十六條の規定による課税價格の更正又は決定があつた者が、更正又は決定に係る課税價格について脱漏があることを發見した場合における課税價格の修正について、これを準用する。
第五章 納付
第四十條 左の各號に掲げる財産税は、當該各號に定める期限内に納付しなければならない。
一 第三十七條第一項の規定による申告書に記載された課税價格に對する財産税については、第三十七條の申告期限後一箇月
二 第三十七條の申告期限後又は第三十八條の申告期限後課税價格の申告書の提出があつた場合において、その申告書に記載された課税價格に對する財産税については、その申告書提出後一箇月
三 第三十八條の規定による申告書に記載された課税價格に對する財産税については、第三十八條の申告期限後一箇月
四 前條第一項の規定による申告書の修正又は同條第四項の規定による課税價格の修正があつた場合において、その修正に因り増加する税額に相當する財産税については、第三十九條第一項の修正期限後一箇月
五 前條第三項の規定による申告書の修正又は同條第五項の規定による課税價格の修正があつた場合において、その修正に因り増加する税額に相當する財産税については、その申告書の修正後又はその課税價格の修正後一箇月
納税義務者が、前項各號に掲げる財産税を、當該各號に定める期限内に完納しなかつたときは、政府は、國税徴收法第九條の規定により、これを督促する。
第四十一條 第四條第四項の規定に該當する場合において、その相續が戸主の死亡以外の原因に因る家督相續であるときは、被相續人は、命令の定めるところにより、同項の規定により相續人の納付すべき財産税について、連帶納付の責に任ずる。
第四條第四項の規定に該當する場合においては、國籍喪失に因る相續人又は限定承認をなした相續人は、相續に因つて得た財産の限度において、財産税納付の責に任ずる。 第四十二條 第六條第一項の規定の適用があつた場合においては、委託者は、命令の定めるところにより、受益者が納付すべき財産税額のうち、その課税價格中當該信託財産又は當該信託に關する權利の價額が占める割合に應じて按分した金額に相當する財産税について、連帶納付の責に任ずる。
第四十三條 第八條第一項の場合において、受贈者又は相續人は、命令の定めるところにより、贈與者又は被相續人の納付すべき財産税額のうち、その課税價格中同項に規定する贈與財産又は相續財産の價額が占める割合に應じて按分した金額に相當する財産税について、連帶納付の責に任ずる。
第八條第一項の場合において、贈與者又は被相續人が財産税を納付したときは、贈與者又は被相續人は、命令の定めるところにより、その納付した財産税額のうち、その課税價格中同項に規定する贈與財産又は相續財産の價額が占める割合に應じて按分した金額を、受贈者又は相續人に對して請求することができる。
昭和二十年十一月十五日以後調査時期前に贈與の契約がなされて、調査時期後その履行があつた場合において、贈與者が財産税を納付したときは、贈與者は、命令の定めるところにより、その納付した財産税額のうち、その課税價格中贈與財産の價額が占める割合に應じて按分した金額を、受贈者に對して請求することができる。
第四十四條 調査時期後贈與、遺贈又は寄附行爲に因る財産の移轉があつたときは、受贈者、受遺者又は寄附行爲に因り設立された財團法人は、命令の定めるところにより、その受けた利益の限度において、贈與者、遺贈者の相續人若しくは相續財團又は寄附行爲者が納付すべき財産税について、連帶納付の責に任ずる。
第八條第三項の規定は、前項の場合について、これを準用する。この場合において、同項中「第一項の期間内に」とあるのは、「調査時期後」、「前二項」とあるのは、「前項」と讀み替へるものとする。
第四十五條 納税義務者は、財産税を納付するため必要があるときは、命令の定めるところにより、命令で定める預金、貯金その他の債權の全部又は一部について、期限前の拂戻を請求し、又はこれらに關する契約を解除し、若しくは變更することができる。
前項の規定は、財産税につき連帶納付の責に任ずる者(國税徴收法第四條の三第一項但書の規定により財産税を徴收される者を含む。以下同じ。)について、これを準用する。
前二項の場合において、その契約の相手方が、納税義務者又は財産税につき連帶納付の責に任ずる者に給付すべき金額その他必要な事項は、命令でこれを定める。
第六章 課税價格の更正及び決定
第四十六條 第三十七條第一項若しくは第三十八條第一項の規定による申告書が提出された場合又は、第三十九條第一項若しくは同條第三項の規定による申告書の修正があつた場合において、申告又は修正に係る課税價格が、政府において調査した課税價格と異るときは、政府は、その調査により、財産調査委員會に諮問して、その課税價格を更正する。第三十九條第四項又は同條第五項の規定による課税價格の修正があつた場合において、修正に係る課税價格が、政府において調査した課税價格と異るときもまた同じ。
前項の規定は、第四十八條第一項の規定により、課税價格の更正の請求があつた場合について、これを準用する。
政府は、納税義務があると認められる者が第三十七條第一項又は第三十八條第一項の規定による申告書を提出しなかつた場合においては、政府の調査により、財産調査委員會に諮問して、その課税價格を決定する。
納税義務者が、第七十三條に規定する納税管理人の申告をなさないで、この法律の施行地に住所及び居所に有しないこととなるときは、前三項の規定にかかはらず、政府は、その調査により、その課税價格を更正し又は決定することができる。
政府は、前四項の規定による課税價格の更正又は決定後、その更正し又は決定した課税價格について脱漏があることを發見したときは、政府の調査により、財産調査委員會に諮問して、その課税價格を更正することができる。
前五項の規定による課税價格の更正又は決定は、この法律施行後五年間に限り、これを行ふことができる。
財産調査委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第四十七條 第三十七條第三項の規定により、課税價格の算定の際除外された財産の價額及び債務の金額については、第三十四條の規定に基く命令の定めるところにより、その算定をなすことができることとなるまでは、政府は、これを除外して、前條の規定による課税價格の更正又は決定をしなければならない。
第四十八條 第三十七條第一項若しくは第三十八條第一項の規定による申告書を提出した者、第三十九條第一項若しくは同條第三項の規定により申告書を修正した者又は同條第四項若しくは同條第五項の規定により課税價格を修正した者が、その課税價格が過大であつたことを發見したときは、第三十七條の申告期限後若しくは第三十八條の申告期限後、第三十九條第一項の修正期限後若しくは同條第三項の規定による申告書の修正後又は同條第四項若しくは同條第五項の規定による課税價格の修正後一箇月間を限り、政府に對し、その課税價格の更正を請求することができる。
前項の請求があつた場合においても、政府は、税金の徴收を猶豫しない。
第四十九條 政府は、第四十六條の規定により、課税價格を更生し又は決定したときは、これを納税義務者に通知する。
政府は、前條第一項の請求があつた場合において、その請求を理由なしと認めるときは、その請求をなした者に、その旨を通知する。
この法律の施行地に住所及び居所を有しない個人が、第七十三條に規定する納税管理人の申告をしてゐないときは、前二項の通知に代ヘて公告をすることができる。この場合において、公告の初日から七日を經過したときは、その通知があつたものとみなす。
第五十條 政府は、第四十六條の規定により課税價格を更生し又は決定した場合においては、前條第一項の通知をなした日から一箇月後を納期限として、その追徴税額(その不足税額又はその決定による税額をいふ。以下同じ。)を徴收する。但し、第四十六條第四項に規定する場合においては、直ちに追徴税額を徴收する。
第七章 審査、訴願及び行政訴訟
第五十一條 納税義務者は、第四十九條第一項の規定により政府の通知した課税價格又は第六十七條第一項の規定により政府の通知した税額に對して異議があるときは、通知を受けた日から一箇月以内に不服の事由を具し、政府に審査の請求をなすことができる。
前項の規定は、第四十九條第二項の規定による政府の通知に對し納税義務者に異議のある場合について、これを準用する。
第一項(前項において準用する場合を含む。)の請求があつた場合においても、政府は、税金の徴收を猶豫しない。
第五十二條 政府は、前條第一項(同條第二項において準用する場合を含む。)の請求があつたときは、財産審査委員會に諮問して、これを決定し、納税義務者に通知しなければならない。
財産審査委員會に關する規程は、勅令でこれを定める。
第五十三條 第五十一條第一項(同條第二項において準用する場合を含む。)の請求があつた場合において、評價について、納税義務者に異議のある財産が、納税義務者の所有に屬してゐるときは、命令の定めるところにより、政府は、當該財産の全部又は一部について、審査の請求の際納税義務者の申し立てた價額に相當する對價を以て、これを政府に讓渡すべきことを、納税義務者に命ずることができる。
前項の規定により當該財産が政府に讓渡されたときは、當該財産の價額については、納税義務者の申し立てた價額により、審査の決定があつたものとみなす。
前項の讓渡に對する對價の支拂は、國債證券の交付により、これをなすことができる。
前項の規定により交付する國債證券の交付價格は、大藏大臣がこれを定める。
第五十四條 第五十二條の決定に對し不服がある者は、訴願をなし、又は行政裁判所に出訴することができる。
第八章 物納及び延納
第五十五條 調査時期における財産のうちに、金融機關經理應急措置法により、金融機關の舊勘定に屬することとなつた預金、貯金その他の債權で命令で定めるもの(以下舊勘定預金等といふ。)に相當すると認められる財産(以下舊勘定財産といふ。)があるときは、納税義務者は、その納付すべき財産税額と、課税價格から舊勘定財産の價額を控除した金額により計算した財産税の額との差額に相當する税額について、舊勘定預金等による納付を申請することができる。
財産税につき連帶納付の責に任ずる者が、當該財産税に關する舊勘定財産に相當する舊勘定預金等を有するときは、その者は、命令の定めるところにより、舊勘定預金等による納付を申請することができる。
前二項の舊勘定財産の範圍その他前二項の規定に適用について必要な事項は、命令でこれを定める。
第五十六條 前條に規定する場合を除く外、納税義務者は、その納付すべき財産税額のうち、金錢で納付することを困難とする金額について、物納(舊勘定預金等による納付を除く。以下同じ。)を申請することができる。
前項の規定は、財産税につき連帶納付の責に任ずる者について、これを準用する。
前二項の場合において、物納に充てることができる財産の種類その他物納に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第五十七條 前條第一項の場合において、財産税の物納を困難とする特別の事由があるときは、納税義務者は、物納を困難とする金額を限度として、擔保を提供し、その延納を申請することができる。
前項の場合において、延納の期間は、これを第四十條第一項各號に掲げる期限後又は第五十條に規定する納期限後一年以内とし、已むを得ないと認められる場合においては、二年以内とすることができる。
前項に定めるものを除く外、擔保の種類その他延納に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第五十八條 政府は、前三條の規定により、財産税の舊勘定預金等による納付、物納又は延納の申請があつた場合において、必要があると認めるときは、税金の納付を猶豫することができる。
第五十九條 第五十五條第一項若しくは同條第二項又は第五十六條第一項若しくは同條第二項の規定の適用を受けて納付した財産税につき過誤納があつた場合の還付に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第九章 雜則
第六十條 納税義務者が、災害に因り著しく資力を喪失して、納税困難と認められるときは、政府は、命令の定めるところにより、財産税を輕減し又は免除することができる。
政府は、前項の場合において、同項の規定による輕減又は免除に關する處分が確定するまで、税金の徴收を猶豫することができる。
第六十一條 納税義務者の舊勘定財産に相當する舊勘定預金等について、金融機關再建整備法による舊勘定の最終處理の結果、その債權の全部又は一部が消滅した場合における財産税の課税に關し必要な措置は、勅令の定めるところによる。
第六十二條 第三十七條第一項又は第三十八條第一項の規定による申告書を提出した納税義務者で、その申告書に記載された課税價格が五十萬圓を超えるものについては、政府は、第三十七條の申告期限後又は第三十八條の申告期限後四箇月以内に、申告書の記載に從ひ、氏名、課税價格、税額竝びにその財産及び債務に關する事項を公告する。
前項の規定による公告に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第六十三條 納税義務者の提出した申告書又は課税價格の更正、決定若しくは修正に關する書類を閲覽しようとする者は、命令の定めるところにより、政府に、その閲覽を請求することができる。
第六十四條 納税義務があると認められる者が申告書を提出しなかつた事實又は課税價格に脱漏があると認められる事實を政府に報告した者がある場合において、政府がその報告に因つて課税價格を決定し又は更正したときは、政府は、命令の定めるところにより、その報告者に對し、課税價格の決定又は更正に因り、徴收することができた税額の百分の二十五以下に相當する金額を、報償金として交付することができる。但し、報償金の金額は十萬圓を超えることができない。
前項の規定は、その報告をなした者が官吏又は待遇官吏であるときは、これを適用しない。その報告が官吏若しくは待遇官吏の知得した事實、公務員(官吏及び待遇官吏を除く。)の職務上知得した事實、又は不法の行爲に因り知得した事實に基くものである場合もまた同じ。
第六十五條 納税義務者は、第四十條第一項第二號又は同項第五號に掲げる財産税については、同項當該各號に掲げる期限内に、命令の定めるところにより、命令で定める期間に應じ、當該税額に年百分の十の割合を乘じて算出した金額に相當する税額を加算して納付しなければならない。
第四十條第二項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第一項の規定は、政府が、第五十條の規定による追徴税額又は第五十七條第一項の規定による延納税額に相當する財産税を徴收する場合について、これを準用する。
第六十六條 第四十條第一項第二號若しくは同項第五號に掲げる財産税の納付があつた場合又は第五十條の規定による追徴税額に相當する財産税を徴收することとなつた場合においては、第三十七條の申告期限内若しくは第三十八條の申告期限内に申告書の提出がなかつたこと、第三十九條第一項の修正期限内に申告書の修正若しくは課税價格の修正がなかつたこと又は納税義務者の申告若しくは修正した課税價格が政府の調査した課税價格と異ることについて已むを得ない事由があると認められる場合を除く外、政府は、命令の定めるところにより、命令で定める期間に應じ、當該税額に一箇月を經過するごとに百分の五の割合を乘じて算出した金額に相當する税額の財産税を追徴する。但し、この金額は、當該税額に百分の五十を乘じて算出した金額を超えることができない。
前項の規定により追徴する税額については、第五十七條第一項の規定は、これを適用しない。
第六十七條 政府は、前條第一項の規定により追徴する税額を決定したときは、これを納税義務者に通知する。
第四十九條第三項の規定は、前項の場合について、これを準用する。
第六十九條 株式會社以外の法人で出資證券を發行しないものは、命令の定めるところにより、調査時期における出資について、出資者別の調書を政府に提出しなければならない。
年金たる恩給又はこれに準ずる給付の支拂をなす者は、命令の定めるところにより、調査時期におけるその給付の債務について、受給者別の調書を政府に提出しなければならない。
信託會社は、命令の定めるところにより、調査時期における金錢信託及び有價證券信託以外の信託について、受益者別の調書を政府に提出しなければならない。
保險會社は、命令の定めるところにより、昭和二十年三月三日から調査時期までの間に契約をなした動産を目的とする損害保險契約について、契約者別の調査を政府に提出しなければならない。
前三項に規定するものを除く外、法人は、命令の定めるところにより、調査時期における命令で定める債務について、債權者別の調書を政府に提出しなければならない。
第六十九條 法人税又は特別法人税を課せられる法人は、命令の定めるところにより、命令で定める日における資産及び負債に關する明細書その他株式その他の出資の價額の算定上必要な事項を記載した書類を、政府に提出しなければならない。
第七十條 收税官吏は、財産税に關する調査又は財産税の徴收について必要があるときは、左に掲げる者に質問し又はその財産若しくはその財産に關する帳簿書類その他の物件を檢査することができる。
一 納税義務者又は納税義務があると認められる者
二 第六十八條の調書又は前條の明細書若しくは書類を提出しなければならない者
三 納税義務者又は納税義務があると認められる者に對し、債權若しくは債務を有してゐたと認められる者又は債權若しくは債務を有すると認められる者
四 納税義務者又は納税義務があると認められる者が出資者であつたと認められる法人又は出資者であると認められる法人
五 納税義務者又は納税義務があると認められる者に對し、財産を讓渡したと認められる者又は財産を讓渡する義務があると認められる者
六 納税義務者又は納税義務があると認められる者から、財産を取得したと認められる者又は財産を取得する權利があると認められる者
七 納税義務者又は納税義務があると認められる者の財産を、保管したと認められる者又は保管すると認められる者
八 納税義務者又は納税義務があると認められる者が、その營業又は事業に關し加入してゐたと認められる團體又は加入してゐると認められる團體
第七十一條 收税官吏は、財産税に關する調査又は財産税の徴收について必要があるときは、公證人の作成した證書の原本及びその附屬書類竝びに法令により公證人の調製した帳簿を閲覽し、又はその内容について公證人に質問することができる。
第七十二條 財産税は、納税義務者の住所地、この法律の施行地に住所のないときは居所地をその納税地とする。但し、納税義務者は、政府に申告して、居所地を納税地とすることができる。
この法律の施行地に住所及び居所のない納税義務者は、命令の定めるところにより、納税地を定めて政府し申告しなければならない。その申告のないときは、政府が、その納税地を指定する。
第七十三條 納税義務者が、納税地に現住しないときは、この法律による申告書の提出その他財産税に關する一切の事項を處理させるため、納税地に居住する者のうちから納税管理人を定め、政府に申告しなければならない。納税義務者が、この法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときもまた同じ。
第七十四條 同族會社の昭和二十年十一月十五日以後の行爲又は計算で、その株主若しくは社員又はこれと親族、使用人等特殊の關係がある者について、課税價格を減少せしめると認められるものがあつた場合においては、政府は、課税價格の更正又は決定に際し、その行爲又は計算にかかはらず、その認めるところにより、課税價格を算定することができる。
前項の同族會社とは、法人税法第十七條第三項に規定する法人をいふ。
第七十五條 都道府縣、市町村その他の公共團體は、財産税の附加税を課することができない。
第十章 罰則
第七十六條 詐僞その他不正の行爲により財産税を逋脱した者は、これを三年以下の懲役又はその逋脱した税金の三倍以下に相當する罰金又は科料に處する。
前項の罰金は千圓を下ることができない。
第一項の罪を犯した者には、情状に因り、懲役及び罰金を併科することができる。
第一項の場合においては、政府は、直ちのその課税價格を決定し、その税金を徴收する。
第七十七條 左の各號の一に該當する者は、一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
一 正當の事由なくして、第六十八條の調書、又は第六十九條の明細書若しくは書類を提出せず、又はその調書、又は明細書若しくは書類に虚僞の記載をなして、これを提出した者
二 第七十條の規定による財産又はその財産に關する帳簿書類その他の物件の檢査を拒み、妨げ、又は忌避した者
三 前號の帳簿書類で虚僞の記載をなしたものを呈示した者
四 第七十條の規定による收税官吏の質問に對し答辯をなさない者
五 前號の質問に對し虚僞の答辯をなした者
第七十八條 財産税に關する調査、評價若しくは審査の事務に從事してゐる者又はこれに從事してゐた者が、その調査、評價又は審査に關して知得した祕密を漏泄し、又は竊用したときは、これを二年以下の懲役又は二萬圓以下の罰金に處する。
第七十九條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關して、第七十六條又は第七十七條第一號若しくは同條第三號乃至第五號の違反行爲をなしたときは、その行爲者を罰する外、その法人又は人に對し、各本條の罰金刑を科する。
第八十條 他人の財産税について、政府に對し、第六十四條に掲げる事實に關する虚僞の報告をなした者は、これを三年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第八十一條 第七十六條第一項の罪を犯した者には、刑法第三十八條第三項但書、第三十九條第二項、第四十條、第四十一條、第四十八條第二項、第六十三條及び第六十六條の規定は、これを適用しない。但し、懲役刑に處するときは、この限りでない。
第十一章 補則
第八十二條 皇室の財産に對する財産税に關し必要な事項は、この法律の定めるところに準じ、皇室令を以て、これを定める。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
この法律は、本州、北海道、四國、九州及びその附屬島嶼(勅令で定める地域を除く。)にこれを施行する。
納税義務者が、財産税の納付に關し立木を讓渡した場合(立木を伐採して讓渡した場合を含む。)又は立木を財産税の物納に充てた場合においては、命令の定めるところにより、納税義務者の調査時期における財産の價額のうちその讓渡し又は物納に充てた立木の價額が占める割合を、財産税額に乘じて算出した金額を、所得税法による山林の所得から控除する。
前項の規定は、財産税につき連帶納付の責に任ずる者について、これを準用する。
調査時期後この法律施行前に開始した相續については、財産税額は、命令の定めるところにより、相續税法第三條又は第三條の二に掲げる公課とみなす。
金融緊急措置令の一部を次のやうに改正する。
第三條第一項に次の但書を加へる。
但し財産税法第五十五條の規定に依り同條第一項に規定する舊勘定預金等を以て財産税を納付する場合其の他命令を以て定むる場合は此の限に在らず
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財産税等收入金特別會計法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
財産税等收入金特別會計法案
財産税等收入金特別會計法
第一條 財産税法及び戰時補償特別措置法に基く收入金に關する會計は、これを特別とし、一般の歳入歳出と區分して經理する。
財産税法及び戰時補償特別措置法に基いて收納する國債(政府特殊借入金を含む。以下同じ。)以外の物納の財産(以下物納財産といふ。)財産税法に基いて讓り受ける財産(以下讓受財産といふ。)及び財産税法に基いて收納する金融機關經理應急措置法により金融機關の舊勘定の負債に屬することとなつた預金その他の債權(以下舊勘定預金等といふ。)は、これをこの會計の所屬とする。
第二條 この會計においては、財産税及び戰時補償特別税の收入金、物納財産及び讓受財産から生ずる收入金竝びにこれらの財産の處分に因る收入金、舊勘定預金等の拂戻金、公債募集金、借入金竝びに附屬雜收入を以てその歳入とし、一般會計又は國債整理基金特別會計への繰入金、地方公共團體又は特定機關への交付金、公債及び借入金の償還金及び利子、財産税及び戰時補償特別税の還付金その他の諸費を以てその歳出とする。
財産税及び戰時補償特別税の國債による收納の額は、これをこの會計の歳入とみなし、第三條第一項の規定による國債の所屬換の額は、これをこの會計の歳出及び國債整理基金特別會計の歳入とみなし、又、同條第三項の規定による當該國債の償却の額は、これを國債整理基金特別會計の歳出とみなして、整理するものとする。
第三條 この會計において、財産税及び戰時補償特別税を國債を以て收納した場合においては、その收納價額を以て、當該國債を國債整理基金特別會計の所屬に移さなければならない。
前項の規定により國債を國債整理基金特別會計の所屬に移した場合においては、國債整理基金特別會計法第二條第一項の規定により、一般會計から當該國債の收納價額に相當する額の國債元金償還資金の繰入があつたものとみなす。
國債整理基金特別會計で第一項の國債を受け入れた場合においては、直ちに、當該國債を償却しなければならない。
第四條 この會計に屬する經費を支辨するため必要があるときは、政府は、この會計の負擔において公債を發行し又は借入金をなすことができる。但し、公債又は借入金の額は、この會計に屬する資産(現金及び讓受財産を除き財産税及び戰時補償特別税の延納許可額を含む。)の現在額に七割五分の割合を乘じて算出した額を超えてはならない。
讓受財産の對價として國債を交付するため必要があるときは、政府は、前項の規定による外、この會計の負擔において公債を發行することができる。
物納財産の區分に因る收入金及び舊勘定預金等の拂戻金は、先づ、當該收入の收納の時に存する第一項の公債又は借入金の償還に充て、讓受財産の處分に因る收入金は、これを先づ、前項の公債の償還に充てるものとする。
第五條 この會計で支拂上現金に餘裕があるときは、これを大藏省預金部に預け入れることができる。
第六條 この會計において決算上剩餘を生じたときは、これを翌年度の歳入に繰り入れる。
第七條 政府は、毎年この會計の歳入歳出豫算を調整して、歳入歳出の總豫算とともに、これを帝國議會に提出する。
前項の歳入歳出豫算には、當該年度及び前年度における財産税及び戰時補償特別税の徴收豫定表竝びに物納財産、讓受財産及び舊勘定預金等の處分豫定表を添附しなければならない。
第八條 この會計の收入支出に關する規程は、勅令でこれを定める。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
この會計は、昭和二十六年度限り、これを廢止するものとする。
國有財産法の一部を次のやうに改正する。
第二十八條の二 財産税法及戰時補償特別措置法に依り收納したる財産は第五條又は第十六條の規定に拘らず之を讓與し又は勅令を以て定むる場合の外之を無償にて貸付することを得ず
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企業整備資金措置法を廢止する等の法律案
右の政府提出案は本院において修正議決し、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月六日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
企業整備資金措置法を廢止する等の法律案
第一條 企業整備資金措置法は、これを廢止する。
第二條 臨時資金調整法の一部を次のやうに改正する。
第十條の二 削除
第十條の十二第三項中「、營業税法及臨時利得税法」を「及營業税法」に、「、營業税及臨時利得税」を「及營業税」に、「、營業税法に依る純益及臨時利得税法に依る利益」を「及營業税法に依る純益」に改める。
第十八條第二號を次のやうに改める。
二 削除
第三條 日本勸業銀行法の一部を次のやうに改正する。
第三十四條第一項中「十五倍」を「二十倍」に改める。
第四條 生命保險中央會法の一部を次のように改正する。
第二十四條第一項中「受くることを得」を「受け若は生命保險會社に保險契約を移轉することを得」に改める。
附 則
第五條 この法律は、公布の日から、これを施行する。
第六條 企業整備資金措置法(以下舊法といふ。)第三條の規定による命令若しくは舊法第四條の規定に基いて設定された特殊預金、特殊金錢信託、債務者特殊借入金、戰時金融金庫特殊借入金若しくは政府特殊借入金又は舊法第六條第三項(舊法第七條第二項及び第九條第二項において準用する場合を含む。)の規定による命令に基いて融通された資金については、舊法は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
第七條 舊法第二條第一項、第十三條第一項若しくは第四項又は第二十四條第二項の規定に基いてなされた損失の補償、補助金の交付又は債務の保證の契約については、舊法は、この法律施行後においても、命令の定めるところにより、なほその努力を有する。
第八條 舊法第十九條第一項に規定する會社が、同項の規定による命令に基いてなした資金の信託又は資産の管理の委託、同條第四項の規定による命令に基いてなした役員の數の減少及び當該會社につき、同條第五項の規定に基き、株主總會又は社員總會の招集に關し別段の定をなした勅令については、舊法は、當該資産の信託又は資産の管理の委託の契約の終了するまでは、なほその效力を有する。
第九條 舊法第二十條に規定する會社が、同條の規定に基き、其の經理についてなすことができる必要な措置については、この法律施行の日の屬する事業年度の分の經理に限り、舊法は、なほその效力を有する。
第十條 舊法第二十三條第二項の規定により、裁判所の許可を受けた法人財産の換價その他の處分及び殘餘財産の分配については、舊法は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
第十一條 從前の臨時資金調整法第十條の二第一項の規定による命令又は從前の同條第二項の規定に基いて設定された特殊預金、特殊金錢信託若しくは政府特殊借入金については、なほ從前の例による。
この場合において、從前の同條第三項において準用される範圍内においては、舊法第六條乃至第十六條及び第二十八條の規定は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
第十二條 從前の臨時資金調整法第十條の十二第一項の規定による證票を發賣する法人が、臨時利得税を課せらるべきものであつたときは、同項の賣得金、當籤金竝びに從前の同條第二項の經費及び納付金に關する舊臨時利得税法による利益の計算については、なほ從前の例による。
第十三條 この法律施行前(舊法及び從前の臨時資金調整法第十條の二の規定が效力を有する場合においては、その效力を有する間)になした行爲に關する罰則の適用については、この法律施行後(舊法及び從前の臨時資金調整法第十條の二の規定が效力を有する場合においては、その效力消滅後)においても、なほ舊法及び從前の臨時資金調整法の例による。
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〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=118
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119・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 只今議題となりました戰時補償特別措置法案等一聯の法律案に付て、其の提案の理由を説明致したいと思ひます、終戰後の我が國經濟の再建の爲に所謂戰時補償を如何に處理するかが最も重要な問題であります、戰時中國民に公約致しました補償、契約した代金支拂等を打切ることは誠に政府と致しまして忍び難い所でありますが、數百億圓に及ぶ戰時補償を此の際全額を支拂ひますことは、敗戰後の財政に於て到底許すことの出來ない所であります、茲に於きまして政府は、現に直面して居る内外各般の事情を考慮致しまして、愼重なる檢討を加へた結果、課税の方法に依つて之を打切ることが、我が國經濟再建の爲にも、亦國民生活安定の爲にも最も適切であり、且永遠の福祉を齎す所以であると考へまして、戰時補償の打切り竝に之に續く經濟界の再建整備に關しまして、此の度一括しまして法案を提出致しました次第であります、今囘の措置は謂はば重大なる病根に對しまして一種の切開手術を施して、以て我が經濟界の急速なる復興安定を圖らむとするものであります、健全なる生産活動は此の措置を執ることに依つてのみ促進せられ、又今囘の措置に當つては、各般の點に於きまして成るべく無理を少くして目的を達したいと思つて居る次第であります、併しながら直接間接に其の國民經濟に及す影響、特に各人の個人經濟に及す影響は、甚だ深刻なるものがあることは明瞭でありまするので、政府と致しましても誠に懸念に堪へなく存じて居る譯でありますが、之を忍んで我が國民經濟の將來の爲に、此の際之を斷行するのでなければ國民經濟の建直しは益益遲れ、又平和日本の明るい將來はそれだけ遠くなるのであると考へるのであります、政府は茲に思を致しまして、今囘の措置を斷行することと致した譯であります、之を發足點と致しまして、引續き經濟再建の施策を強力實施して行く積りで居ります、是等の諸法案の提案に依つて再建に必要なる非常時的法案は總て出盡した次第であります、幸に各位が何故に斯かる非常措置を今日我が國が必要とするかの理由を十分御理解下すつて、其の理解協力の下に其の趣旨目的を徹底致すやうに御協力を願ひたいと思ひます、尚世上には我が國財政經濟の前途に不安を懷き、種種の流言風設が横行致しまして、或は現金を預貯金することを躊躇する等の向があるやうに聞いて居りまするが、斯かる懸念は全く理由のないものであります、發行せる通貨を再び封鎖し、或は金融機關の預貯金等に對して、更に新たなる措置を行ふが如き考は絶對にございませぬ、各法律案の内容に付きましては、關係大臣より説明致しまするが、各位に於かれましても、以上の趣旨を御了解下すつて、御審議の上、御協贊あらむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=119
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120・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 膳國務大臣
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=120
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121・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 只今上程されました戰時補償特別措置法案、其の他之に關聯致しまする一聯の法律案の提案の理由は、内閣總理大臣より御述べになつた通りでありまするが、私は其の内、戰時補償特別措置法案、企業再建整備法案、金融機關再建整備法案、大藏省預金部等損失特別處理法案、特別和議法案竝に厚生年金保險法及び船員保險法特例案、此の特に關係の深い六つの法案に付きまして、聊か提案の趣旨を敷衍して申上げたいと存じます。政府と致しましては、假令其の原因が戰爭に基くものであると致しましても、一旦國民に對して約束致しました補償の支拂、國民から提供を受けました物資施設等の代金の支拂を打切り、又場合に依りましては、既に支拂つた補償金或は代金をば取戻しをすると言ふことは、誠に躊躇せざるを得ないことであります、從ひまして政府に於きましては、去る五月下旬組閣後直ちに此の問題に付て研究を致しまして、十分なる檢討を重ねて參つたのであります、而して是等の問題を處理する爲の考へ方と致しましては、補償、或は軍需品の代金等の支拂は、先づ一旦之を實行致しまして、其の代りに相當額の財産税、或は戰時利得税等を増徴すると云ふやうな案と、補償或は軍需品代金の支拂は之を打切りまして、其の代りに財産税に依る徴收を適度の額に止める、斯う云ふ二つの途を考へることが出來るのであります、前者は比較的負擔の公平は期し易いのでありまするが、千數百億圓に上る多額の財産税を徴收し得て、果して所期の目的を達し得るや否かに聊か不安があります、後者は負擔の公平を保つ上に於きましては、聊か憾みを殘す點がございまするが、比較的確實性が多く、且日子を多く要せずして迅速に處理を完了し得る長所があるのであります、政府は此の二案を仔細に檢討の結果、此の際財政經濟の再建を第一義と考へますると共に、尚我が國が當面する内外の情形に鑑みまして、後者の案に依ることに決定致した次第であります、我が國産業經濟の現状を見まするに、戰爭に依り既に厖大なる資材と生産力とを消粍し、其の上に敗戰に依りまして、廣汎なる資源、市場等を失つたにも拘らず、名目上の資産のみが徒に膨張した儘で殘存して居るのであります、斯かる状態を其の儘に放置致しますることは、企業の堅實化を圖り得ないのみならず、惡性「インフレーション」を助長する原因ともなる憂ひもありまして、結局戰後經濟の速かな囘復を齎す所以ではありませぬ、政府は是等各般の事情を愼重に考慮致しました結果、戰後財政の確立、企業再建の前提と致しまして、此の際幾多の困難を排しましても、補償打切りを斷行し、以て今後の我が國經濟の健全なる發達の基礎を固めることを決意致しました次第であります、以上申述べました理由に依りまして、戰時補償特別措置法案を提案し、且補償打切りに伴ひ經濟界の再建整備を圖ると共に、打切りの影響を適切に處理致す爲に、企業再建整備法案、金融機關再建整備法案、特別和議法案等の立案を致した次第であります、以下各法律案に付きまして、其の内容の主なる點を説明申上げたいと存じます、先づ戰時補償特別措置法案でありますが、今囘の補償打切りの措置の中心をなすものは、戰時補償請求權に對する課税であります、之終戰以來補償打切りの問題がやかましく朝野の間に論ぜられて參りましたが、其の目標は大體に於て軍需會社に對する補償打切りの問題に集中せられてあつたと存じます、併しながら政府が今日執らむとする措置は、單に此の範圍に止りませぬ、要するに苟も戰爭に起因して發生致しました請求權は、原則として一切之を打切らむと致すのであります、其の請求權中には政府に對するものもあります、地方公共團體に對するものもあります、又産業設備營團、國民更生金庫、損害保險中央會のやうな國の施策に協力する特定機關に對するものもあるのであります、而して戰時補償請求權の範圍を定義的に一言で之を申上げますれば、戰爭に起因して發生した所の政府、地方公共團體、又は特定機關に對する請求權であつて、其の支拂期日が昭和二十年八月十五日以前に到來して居るが、同日迄に支拂の濟んで居らなかつたもの、竝に請求權の發生した原因が八月十五日以前に生じた損害、納入された物資、施行された工事等に基くものでありまして、尚其の支拂期日が昭和二十年八月十六日以後に到來致したもの、之を言ふのであります、此處で支拂が濟んで居ると申しますのは、嚴格な現金に依る支拂が濟んで居ると云ふことの意味でありまして、特殊借入金や特殊預金等の形で支拂のなされたものは、昭和二十八年八月十五日以前に解除等に依つて現金化されるか、或は混同するかして消滅して居るものでありませぬければ、支拂濟とは認められないのであります、以上のやうに戰時補償請求權の範圍は非常に廣汎でありまして、政府、公共團體等の日常の業務に關して發生した請求權は除外されて居ります、又特に例外と致しまして、人道上の見地に基いて戰爭死亡傷害保險の保險金や、軍事扶助の軍事扶助料等は除かれて居りますが、其の他は總て打切りの對象となるのであります、從つて軍需品の製造、海陸運輸等の會社に對しましては、補償金は勿論、納入物資の代金も打切られます、又土木請負業者が既に下請等に支拂濟の工事代金等も課税に依つて取戻されることもあります、又陸海軍に納入した物資の代金が打切られる中には、地方の農事實行組合や漁業會等の納めた馬糧用の雜穀、薪炭、松根油、魚介等の代金も之に含まれる譯であります、又沈沒した船舶に對する保險金、補償金等の中には、何千「トン」の船舶も含まて居りまするが、數「トン」の小漁船も亦含まれて居るのであります、尚其の外、一般的に企業整備の補償金、建物の強制疎開の補償金、戰爭保險に依る火災保險金のやうなものも打切りの範圍内に屬して居るのであります、以上のやうな次第で、補償打切りの影響は相當廣汎な範圍に及ぶ譯でありまするが、政府は中小産者や中小商工業等に對する影響を出來る限り暖和致したいと考へまして、控除金額に付ては特に考慮を拂ひました、即ち控除金額と致しましては、原則としては一請求權毎に一萬圓が課税課格から控除されるのでありまするが、個人の戰爭保險金等や個人、法人の企業整備補償金等に付きましては、各人毎に五萬圓が控除されることになつて居ります、但し控除の總額は全體の請求權を通じまして、個人も法人も十萬圓を超ゆることは許されませぬ、而して戰時補償請求權の中には、金錢給付を其の目的とするものと、金錢以外の給付を其の目的とするものとの二種類がございまが、前者は課税の方法に依つて打切られ、後者は本法施行の日に請求の權利を消滅せしむることと致しました、尚銀行等資金融通令に基く命令融資等に依ります損失の補償竝に社債等の元利保證に付きましても、未だ請求權が具體化して居りませぬから、課税の對象にはなりませぬが、本法に依つて是亦打切ることに致されたのであります、而して戰時補償請求權の打切りを課税の方法に依つて措置致す理由は、此の方法に依ることが、比較的正確確實を期することが出來、最も適當と考へた次第であるからであります、本税の税率は百分の百でありまして、要するに戰時補償請求權の金額から控除金額を差引いた殘りが、全部課税に依つて打切られることになるのであります、次に申告及び納付に付きましては、從來通例の税金の場合のやうな賦課課税の方法には依りませぬで、新たに申告納税の方法を採用することと致しました、尚本税は地方公共團體には課せられないことになつて居ります、又慈善、教育、醫療、其の他の公益を目的とする法人及び團體の戰爭保險金請求權に付ては、一定の條件の下に課税を減免する例外を設けて居ります、次に企業再建整備法案に付て説明致します、政府は曩に御協贊を得ました企業經理應急措置法を制定致し、本法施行迄の準備を致しましたが、同法の適用を受ける特別經理會社の本格的な再建設備を行はむが爲に、茲に本法案が立案せられたのであります、企業は補償打切り措置の影響を直接に蒙むるのでありまして、本法は此の企業の損失をば適正に處理致すと共に、所謂擬制資本の切捨を斷行致しまして、現實に有效な資産内容の上に健全な經營形態を有せしめ、先づ經理面からする産業再建への基礎の確立を試みたものであります、勿論、現下の生産不振の原因は、或は食糧問題、或は勞働問題等々に基因するものが少くありませぬ外、尚賠償問題、或は將來の貿易等に付きまして、見透しの不明確等の事情もあります、尚是等企業の經理面以外の幾多の問題もあるのでありまするが、其の中には我が國の獨力では之を解決し得ない性質のものもあるのでございますが、先づ企業の經理面に付て徹底した整理を行うことが、今後に於ける企業の健全なる活動、延いては産業の復興の爲に、第一に爲すべきことと考へられるのであります、本法案の内容の第一は、補償打切り等に伴ひまして、企業に生ずる特別損失の負擔方法であります、特別損失は、其の大部分が經營者の責任にのみ歸すべからざるものでありますから、其の損失をば企業者のみに負はせることは適當でありませぬ、從つて出資者も債權者も公平に之を分擔すべきものと考へるのであります、是が爲に商法の原則にも拘らず、次のやうな順序で特別損失の銷却をさせることと致したのであります、先づ第一に、企業の繰越益金及び積立金をば全額迄銷却に充てます、次に資産の再評價が許されます場合に於ては、其の評價益の全額迄之に充てます、次に資本金の九割迄、次に債權の七割迄、次に殘りの資本金の全額迄、次に殘りの債權の全額迄、以上のやうな順序に銷却せられるのでありますが、資本金の小さい會社に付きましては、資本金の負擔割合を五割に止めることと致しました、資産の再評價は整備計畫に記載して、主務大臣の認可を受けて之を行ふのであります、尚繰越益金、積立金及び再評價益迄、此の損失の銷却に充てて、尚銷却し切れず、資本金に負擔が及ぶ場合には、未拂込金の徴收を致させる譯であります、内容の第二は、整備計畫の立案及び認可に付てであります、企業の再建整備は、企業と債權者との緊密な協力と理解の下に初めて實行せられるものでありますから、企業と債權者との代表者から成る特別管理人をして整備計畫を立案せしめ、主務大臣の認可を受けることと致しました、企業整備計畫に記載すべき重要事項は、會社の存續するや否や、解散するや否や、合併、減資、第二會社の設立、特別損失の全額、及び負擔の方法、命令で許された範圍内の資産の再評價、未拂込金の徴收に關する事項等であります、又法律の内容の第三點は、整備計畫の實行に付てであります、會社は整備計畫の認可を受けましたときは、其の計畫に從つて遲滯なく整備を行ふことを要するのでありまして、之を圓滑に行う爲に、商法、財産抵當法等の法令や、定款の規定や、既存の契約如何に拘らず、會社は認可を受けました特定の事項を行ふことが出來るやうに致して居ります、内容の第四は、經濟再建整備委員會に關してであります、本法の圓滑な運營を圖る爲に、各界からの人物を以て、經濟再建整備委員會と云ふものを設けまして、本法に依る重要な處分又は命令を爲すに當りまして、之を諮問することと致して居ります、次に金融機關再建整備法案に付て説明を申上げます、補償打切り等に依りまして、企業の蒙る巨額の損失に對應致しまして、金融機關に於きましても少からざる損失を蒙ることは、蓋し巳むを得ない所であります、此の金融機關の負擔すべき損失を、其の儘放置致しますることは、信用機構を根抵から動搖せしめまして、國民生活の不安を増大し、産業復興を阻害するに至る虞が大きいのであります、曩に實施せられました金融機關經理應急措置法及び金融緊急措置の改正は、金融界の混亂を未然に防止する爲の措置でありましたが、此の準備の上に本法を制定し、之を實行せぬとするものであります、即ち金融機關が今囘の補償打切り等に依りまして蒙るべき損失は、之を株主、預金者、保險契約者等の債權者との間に適正に分擔せしめまして、其の整理を完了し、以て金融機關の再建を圖り、將來の積極的の發展を期せむとするものであります、而して此の場合、一定限度以下の預金、保險金等に付きましては、其の支拂ひを確保致しまして、國民生活の安定の爲必要なることと認められますので、之に要する措置を講ぜむと致して居ります、以下本法に付きまして、其の内容の主なる點を説明を申上げたいと存じます、先づ第一に、金融機關の損失處理の前堤と致しまして、新勘定及び舊勘定の資産及び負債の状況を調査確定して、爾後の整理の基礎と致しますると共に、之を一定の評價基準に依り、評價致しますものであります、此の評價の基準は、暫定評價基準と確定評價基準との二つでありまして、先づ暫定評價基準に依る評價に依り、次いで逐次決定を見らるべき確定評價基準に依る評價に依りまして、二段に分けて、其の進捗を圖る方針でありまするが、此の評價基準は主務大臣が經濟再建整備委員會の議を經て、之を決定することと相成つて居ります、第二に資産を暫定評價基準及び逐次決定されます確定評價基準に依つて評價致しました結果、其の内容が概ね良好であるとの見透しの付いた場合に於きましては、徒に整理の完了を將來に俟つことなく、整理過程の中途に於きましても、隨時舊勘定の資産及び預金等の一部を新勘定に移すことを得せしめまして、預金者等の便益に資し、且は新營業の活動力の強化を圖ることを考慮致して居るのであります、次に舊勘定の整理を可及的速かに完了致しまする爲、最初に暫定評價基準等に依りまして資産を評價した結果、其の内容が良好であることが確實となりました場合に於きましては、爾後の手續を要することなく、直ちに舊勘定の最終處理を完了し得る如く措置致したのでありまするが、其の他の通常の場合に於きましては、整理實施の爲必要なる部分の資産の評價の確定を持つて、始めて舊勘定の最終處理を行ふことと致して居ります、此の場合窮極に於きまして、舊勘定が利益となつた場合に於きましては、直ちに舊勘定の最終處理は完了致すのでありますが、若し損失を見た場合に於きましては、債權者、株主等の利害關係人間に於きまして、損失負擔の割合を公正妥當ならしめ、且整理の實施を的確、迅速ならしめます爲に、其の負擔の方法をば次のやうに致しまして、此の損失をば分擔するのであります、即ち先づ評價益の全額迄、次に積立金の全額迄、次に資本金の九割迄、次に法人の預金等の中、五百萬圓を超える部分の七割、百萬圓を超え、五百萬圓以下の部分の五割、十萬圓を超え、百萬圓以下の部分の三割迄、次に法人の預金等の殘額及び其の他の整理債務の七割迄、次に殘りの資本金の全額迄、次に、指定債務の全額迄、斯う云ふやうな順序に損失を負擔せしめて參るのであります、而して、減資の必要のあります場合には、損失負擔の爲必要なる金額迄未拂込金の徴收を致すのであります、又是と同時に舊勘定の債權も負擔額に相當する金額だけ消滅し、新勘定及び舊勘定の區分の消滅に際しまして、舊勘定は充實した資産内容を以て新勘定の營業と合一することと致したのであります、尚損失負擔の爲資本金の金額を喪失する際には、所謂第二銀行等を設立致しまして、新勘定の事業は之に讓渡する等の方法に依りまして、舊會社を解散することと致したのでありますが、此の場合、前に述べました順序に依つて損失を負擔して、尚損失が殘つた場合に始めて政府は之を補償することと致したのであります、是は新舊勘定分離に際し、優先的に新勘定に屬することとなりました所の自由預金、第一封鎖預金等の債務の支拂を確保する爲のものであります、次に金融機關は舊勘定の機關は舊勘定の整理手續中に於きましても、一定條件の下に第二銀行等を設立することが出來、又は資産内容の堅實な他の金融機關に新勘定の事業をば讓渡することが出來ることと致しまして、整備の促進を圖りました外金融機關の整備を促進する爲必要な場合には、主務大臣は金融機關の合併、資本の増加、事業の讓渡等を命じ得ることと致しまして、金融機關の再建整備の迅速を期して居る次第であります、次に大藏省預金部等損失特別處理法案に付て簡單に説明申上げます、今囘の戰時補償特別措置等に伴ひまして、郵便貯金、簡易生命保險及び郵便年金等の制度に依つて吸收致しました資金を運用して保有して居りまする資産に付きましても、相當の損失を生ずるのであります、此の損失額は曩に述べました一般の民間金融機關の例に傚つて、先づ評價益、積立金等の順序を以て補填致しまして、尚殘存する額に付きましては、適正な基準に依つて一般會計から補償金を受入れると共に、状況シ依りましては、一部は此の資金の債權者の負擔と致させませる等、一方には國民生活の安定を確保しつつ適正なる處理を行う爲に本法を制定致さむとするものであります、次に特別和議法案に付て説明を申上げます、今囘の戰時補償特別措置に關聯致しまして、直接に補償打切りの結果として、又間接に預金の打切り、取引先の債務打切り、又は債務の履行不能等の結果と致しまして、經濟上多大の損失を受けまして、破産に瀕する個人、公益法人等が出來て參るのであります、是等を放置して破産をなさしめますることは、今囘の措置の性質上適當ではありませぬので、其の者の債權者にも損失を衡平に分擔させ個人生活の安定、又は健全な法人事業の維持を圖り、以て今囘の諸施策の圓滑な遂行を期することが本法案の目的とする所であります、其の方法と致しましては、右のやうな債務者を救濟する爲、裁判所が關與致しまして、其の債權者等との間に期限の猶豫、分割辨濟、債權の一部放棄、其の他を内容とする和議を成立させることを内容とする特別和議制度を創設することと致したのであります、其の手續は原則として現行和議制度に準ずるのでありまするが、和議の成立を促進し、其の内容を衡平、妥當ならしめる爲、種々の特例を設けてあるのであります、尚此の措置は、專ら會社經理應急措置法及び金融機關經理應急措置法等の適用のない債務者を對象として實施するものであります、最後に厚生年金保險法及び船員保險法特例案に付て一言申上げます、終戰後に於きまする失業問題は極めて重大でありまして、政府は鋭意産業の復興を圖ると共に、公共事業を實行致しまして、是等の解決に努力致して居ります、失業者の増大は誠に悲しむべきことでありまするが、今囘の戰時補償特別措置に關聯致しまして、或程度の離職者を生ずることは蓋し巳むを得ないことと存じます、此の場合に於きまして、現行の厚生年金保險法及び船員保險法等に依りますと、脱退手當金の支給を受ける爲には、離職後一年を經過致さなければ之に支給のないことと相成つて居りまするが、是は今囘の措置の性質上適當でありませぬので、離職後直ちに支給の出來るやうに致しますのが本法案の目的でございます、以上述べました所に依りまして、上程されました六法案の説明を終るのでございます、曩にも申述べました通り、今囘の措置は、我が國經濟を再建する爲に、是非其の遂行を期さなければならないものであります、之に依つて一時は國民各層に相當な影響を與へることになりまするが、輝かしい將來の日を迎へる爲の巳むを得ない措置であると存じます、國民各位の協力を得て、所期の目的を達成することを、願つて巳まない次第であります、何卒御審議の上、速かに御協贊あらむことをば、御願ひ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=121
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122・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 大藏大臣
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=122
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123・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました一聯の法案の中、財産税法案、財産税等收入金特別會計法案及び企業整備資金措置法を廢止する等の法律案に付きまして、便宜上私から御説明致させて戴きます、先づ財産税法案の提案の理由を申上げますが、本法案は終戰處理に必要なる國庫歳入を確保し且戰時補償特別税と併せまして、戰後財政の負擔を輕減し、其の基礎を確定する爲、個人の財産に付高率の累進税率に依る財産税を課さうとするものであります、本年度の財政需要は御承知の如く、相當の巨額に達して居りまして、而も遺憾ながら此の支出を國民の經常所得を税源とする收入を以て賄ひ得ないやうな状況にございます、と申しまして、此の歳入の不足を純然たる赤字公債を以て補填致しますことも、甚だ危險なことであることは、申す迄もありませぬ、そこで其の財源を國民の財産を税源と致しまする所の財産税に求めむとする次第であります、財産税を以て財政支出を賄ひますことが決して理想的の方法でないことは曩に私が本院に於きまして強調致した所であります、政府は茲に深く顧みまして、嚴に歳出の效果を監査致しまして、之を統制し、以て其の財源より來る缺點を補ふ積りでございます、併しさうは申しましても、財産税は勿論赤字公債ではございませぬ、財産税の課徴は假令所得税の課徴程には效果がないと致しましても、矢張り直接或は間接に國民の消費を抑制致します、是れ財産税を以て本年度財政支出の一部の財源と致す所以でございます、曩に前内閣に於きまして、法人戰時利得税及び個人財産増加税を創設致しまして、是よりして主として戰時利得を徴收し、又個人及び法人に對する財産税を設けまして、之に依り所謂擬制資本の處理、戰後財政の再建等を圖る構想の下に、財産税等三新税法案要綱を作成致しまして、之を當時發表致したのであります、併し現内閣は其の後に於ける内外情勢の變化と實行上の確實性とに顧みまして、別に戰時補償特別税を設け、同時に財産税に根本的修正を施した次第であります、即ち政府は、一方に於て戰時補償請求權に對しては、一定限度の控除額を除いては、百「パーセント」の税率に依る戰時補償特別税の課税を爲しました、其の代りに法人戰時利得税、個人財産増加税及び法人財産税は之を取止めまして、個人財産税のみを課徴することと致し、是等兩税に依り約千百億圓の課税を行はむとするものであります、次に財産税法案の内容に付て大要を申上げます、第一に、財産税は昭和二十一年三月三日午前零時を調査時期と致しまして、此の調査時期に此の法律の施行地に住所を有し、又は一年以上居所を有して居た個人、調査時期に此の法律の施行地に財産を有して居た個人及び戸籍法の適用を受ける個人で、調査時期後二年以内に此の法律の施行地に住所を有し、又は一年以上居所を有することとなつた者を、納税義務者と致して居ります、是等の納税義務者の中、戸籍法の適用を受ける個人でありまして、調査時期に於て此の法律の施行地に住所を有し、又は一年以上居所を有して居た者及び二年以内に此の法律の施行地に住所を有し、又は一年以上居所を有することとなつた者に付きましては、調査時期に於ける財産の全部に對し課税を致すことと致しました、それ以外の個人に付きましては、此の法律の施行地にある財産のみに對し課税することと致して居ります、併し生活に通常必要なる家具什器、衣服等に付きましては、其の性質上、非課税と致して居る次第であります、次に財産税の課税價格は、以上の非課税財産を除きまして、調査時期に於ける財産の價格から債務の金額を控除した金額に依ることと致して居りますが、此の課税價格の計算に當りましては、昭和二十一年分の賦課課税に依る所得税及び臨時利得税竝に戰時補償特別税等は調査時期に於ける債務と看做します外、昭和二十年十一月十五日以後、調査時期迄に贈與等がなされました場合には、其の贈與財産等は贈與者等の財産と看做しまして、課税する措置を講ずることと致して居ります、更に是等の課税價格から、戰災者及び引揚者に限りまして、一人に付五千圓控除することと致し、更に戰爭又は災害に基因する死亡傷害等に依り支給を受けた一時金等に付きましては、一萬圓を限度として其の給付金額を課税價格から控除することと致して居ります、次に免税點でありますが、現在の國民生活の實情、物價事情、又本税の目的等に顧みまして、之を十萬圓と致すを適當と認めた次第であります、又税率に付きましては、同樣の考慮の結果、十萬圓を超え十一萬圓以下の金額に付て百分の二十五、それから最高千五百萬圓を超える金額に付きましては、百分の九十二至る累進税率を設けることと致した次第であります、次に財産の評價でありますが、土地又は家屋に付きましては、取引價格等を標準と致しまして、賃貸價格に一定の倍數を乘じて算出した金額に依ることと致します、又公債は原則として其の發行價格に依りますと同時に、株式、出資、社債等の價額に付きましては、戰時補償特別税課税後の實情に應じまして、政府に於て適正な評價を致す處置を講ずるのであります、尚不動産、株式等の評價に付きましては、評價委員會を設置し、廣く一般の意見を參酌して、其の評價の適正を期することと致して居ります、次に申告及び納付でありますが、從來の政府に依る賦課徴收の方法に代へまして、納税者は自己の申告した課税價格に依つて税金を納付することと致します、若し其の申告がありませぬか、或は申告された課税價格が政府の調査と異る時に限りまして、政府に於て課税價格を更正又は決定して税金を追徴することと致して居ります、次に財産税の納付に付きましては、金錢等で納付することを困難とする額に付きましては、國債其の他金錢以外の財産に依る物納を認めます、更に物納を困難とする場合には、相當の利子を付けまして、最長二年以内の延納を認めることを致します、又調査時期に於ける財産中に舊勘定預金等となつたものがあります場合には、當該財産に對する税額は、舊勘定預金等で納付することが出來る措置を致します、尚政府に於きまして、課税價格を更正又は決定を致す場合には、課税の適正公平を期する爲、豫め財産調査委員會に諮問して、其の意見を徴することと致して居ります、次に本税の重要性に顧みまして、第三者が他人の財産税に關して政府に報告を致しました場合には、其の報告に依つて追徴が出來ることとなりました税額の中一定額以下を其の報告者に報償金として交付することが出來ると共に、逋脱犯等に對する罰則に付きましては、相當之を強化することと致した次第であります、最後に財産税は皇室の御財産に對しても課税することとなつて居ります、之に付きましては、必要な事項は本法案に準じ、皇室令を以て之を定めることと致して居ります、以上申上げました所に依り、免税點を十萬圓とした場合の財産税の收入は、概ね四百三十五億圓となる見込でありますが、此の程度の收入は、終戰處理、戰後復興等の爲、是非とも必要とする所でありまして、萬一實際の收入額が此の見込額に比し著しく不足するやうな場合には、更に五萬圓以上、十萬圓未滿の者に對しても、改めて財産税を課する必要を生ずる場合もあらうかと存ずる次第であります、財産税法案の大要は以上の通りでありますが、曩に經常税に付きまして、相當の増税を行ひ、今囘戰時補償特別税の課税も亦行ひまして、更に本税に依つて個人財産に對して高率の課税を行ひますことは、敗戰後の我が國民に取りましては、非常な負擔でありますが、終戰後の事態を處理し、急速に新日本の再建、國民生活の安定を圖る爲には巳むを得ない次第であります、政府は從つて本税の實施に付きましては、國民各位の深き理解と協力とに期待致しますと共に、税務機構等を整備致し、適實公正な税務の運營に付きましては、有らゆる努力を盡す覺悟で居る次第であります、次に財産税等收入金特別會計法案に付きまして申上げます、只今上程致されました戰時補償特別措置法案及び財産税法案に基きまして、收納致します財産税及び戰時補償特別税は何れも特別の收入金であります關係上、之に關する歳入歳出を一括經理致しまして、其の明確を期することが最も適當と存ぜられます、仍りまして之が爲に特別會計を設置致したいと存ずる次第であります、是が此の法律案を提出致しました次第であります、次に企業整備資金借置法の廢止等に關する法律案に付申上げます、企業整備資金措置法は戰時に際し、企業整備の促進を圖り、浮動購買力の發生を防止し、國家經濟の秩序を維持する目的を以て制定致されたものであります、從つて此の措置法は戰爭の終結に伴ひ、既に其の存在を不適當とするに至りましたのみならず、更に金融緊急措置令が實施され、又今囘の戰時補償の處理及び之に伴ふ一聯の政策の實施に依りまして、最早全く其の存在理由を失つたのであります、仍て此の際之を廢止することと致したのであります、次に臨時資金調整法第十條の二の規定は、企業整備關係以外の金錢債務の決濟に付きまして、企業整備資金措置法の規定を準用致して居つたのでありますが、企業整備資金措置法の廢止と同樣の理由に依りまして、之を削除することと致したのであります、又日本勸業銀行に付きましては、今後の事業遂行上、勸業債券の發行限度を擴張する必要がありますので、日本勸業銀行法の一部を改正致しますと共に、生命保險中央會の現状に鑑み、生命保險中央會法の一部を亦改正することと致したのであります、尚衆議院に於きまして本法案に關し一部修正を見たのであります、其の修正の要旨は實籤の發行は現行法に於きましては、國に於てのみ、之を爲し得ることとなつて居るのでありますが、今後戰災復興、其の他の公共事業資金を調達する爲に必要がある時には、都道府縣に於きましても、之を爲し得ることとするものでありまして、資金吸收上有效なる手段と認められます次第であります、從つて政府に於きましても此の修正に贊意を表すものであります、以上財産税法案外二件に付きまして簡單でありますが、御説明を申上げた次第であります、會期逼迫の際でありますが、何卒特別の御審議を以て御協贊下さらむことを御願ひする次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=123
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124・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました戰時補償特別措置法案以下八件の委員を三十六名とし、其の委員の指名を議長に一任する動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=124
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125・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=125
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126・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=126
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127・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔根本書記官朗讀〕
戰時補償特別措置法案外八件特別委員
候爵 池田宣政君 候爵 西郷吉之助君
候爵 鍋島直泰君 伯爵 二荒芳徳君
伯爵 黒田清君 三土忠造君
子爵 大河内輝耕君 子爵 京極高修君
子爵 瀧脇宏光君 子爵 綾小路護君
子爵 梅溪通虎君 慶松勝左衞門君
男爵 高崎弓彦君 男爵 周布兼道君
長谷川赳夫君 男爵 八代五郎造君
男爵 中村貫之君 男爵 林忠一君
男爵 倉富鈞君 男爵 宮原旭君
黒田英雄君 板谷順助君
橋本辰二郎君 名取和作君
河西豊太郎君 小山完吾君
高橋龍太郎君 有馬忠三郎君
中島徳太郎君 片岡直方君
片倉兼太郎君 河端作兵衞君
岸本彦衞君 松岡潤吉君
小汀利得君 上野喜左衞門君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=127
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128・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 過日衆議院より送付の帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案、復興金融金庫及び産業復興營團出資拂込金支辨のための公債發行に關する法律案、自作農創設特別措置特別會計法案を此の際議事日程に追加し、三案を一括して第一讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=128
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129・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=129
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130・会議録情報13
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帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議員法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案
帝國鐵道會計收益勘定又は通信事業特別會計業務勘定における昭和二十一年度の經費支辨のため、政府は、それぞれ當該特別會計の負擔において借入金をなすことができる。但し、その金額は、帝國鐵道會計にあつては五千八百萬圓、通信事業特別會計にあつては四億四千萬圓を超過することができない。
前項の規定による借入金は、これを昭和二十四年度までに償還するものとする。
第一項の規定による借入金は、帝國鐵道會計收益勘定又は通信事業特別會計業務勘定の歳入とし、當該借入金の償還金及び利子は、それぞれ當該勘定の歳出とする。
第一項の借入金に因り、帝國鐵道會計收益勘定又は通信事業特別會計業務勘定において、昭和二十一年度の決算上歳入總額の歳出總額に超過する金額を生じたときは、帝國鐵道會計法第九條又は通信事業特別會計法第十條第一項の規定にかかはらず、これをそれぞれ當該勘定の翌年度の歳入に繰り入れるものとする。
帝國鐵道會計又は通信事業特別會計の昭和二十一年度における國債償還資金の繰入は、帝國鐵道會計法第三條第二項、通信事業特別會計法第三條第二項及び國債整理基金特別會計法第二條第一項の規定にかかはらず、これを停止することができる。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
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復興金融金庫及び産業復興營團出資拂込金支辨のための公債發行に關する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
復興金融金庫及び産業復興營團出資拂込金支辨のための公債發行に關する法律案
復興金融金庫及び産業復興營團に對する出資拂込金を支辨するため、政府は、四十二億八千六百萬圓を限り、公債を發行し、又は借入金をすることができる。
前項の規定による公債の利率は、年三分五厘、その發行價格は、額面金額百圓につき九十八圓、その償還期限は、十八年以内とする。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
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自作農創設特別措置特別會計法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十月四日
衆議院議長 山崎猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
自作農創設特別措置特別會計法案
自作農創設特別措置特別會計法
第一條 自作農創設のため政府の行ふ土地、權利又は立木、工作物その他の物件(以下農地等といふ。)の買收、使用、賣渡、賃貸、交換等に關する歳入歳出は、これを一般會計と區分して特別會計を設置する。
第二條 この會計においては、農地等の賣渡代金及びその利子、農地等の賃貸料、一般會計からの繰入金、借入金竝びに附屬雜收入を以てその歳入とし、農地等の買收代金、第三條又は第四條第一項の規定による他の會計への繰入金、報償金、農地等の使用料、補償金、事務取扱費、自作農創設特別措置法に基いて政府の發行する證券(以下農地證券といふ。)及び借入金の償還金及び利子、一時借入金の利子、農地證券の發行及び償還に關する諸費その他の諸費を以てその歳出とする。
第三條 毎年度における農地等の賣渡代金及び利子の合計額に相當する金額に、當該年度までに他の會計の所屬からこの會計の所屬に移した農地等で賣り渡したものの受入價額の、當該年度までに賣り渡した農地等の受入價額に對する割合を乘じて得た額に相當する金額は、毎年度この會計から當該他會計にこれを繰り入れるものとする。
第四條 農地等でその賣渡價額がその受入價額を超えるものの、毎年度における買渡代金及び利子の合計額に相當する金額に、當該超過額の合計額の當該賣渡價額の合計額に對する割合に乘じて得た額に相當する金額は、毎年度この會計から一般會計にこれを繰り入れるものとする。
農地等の賣渡代金は、農地等の買收代金、農地證券及び借入金の償還金竝びに前條又は前項の規定による繰入金の財源にのみこれを充てるものとする。
第五條 農地證券は、これをこの會計の負擔とする。
農地證券及び借入金の償還金及び利子、一時借入金の利子竝びに農地證券の發行及び償還に關する諸費の支出に必要な金額は、これを毎年度國債整理基金特別會計に繰り入れるものとする。
第六條 この會計において支拂上現金に餘裕があるときは、これを大藏省預金部に預け入れることができる。
第七條 この會計において支拂上現金に不足があるときは、この會計の負擔で、大藏省預金部若しくは日本銀行から一時借入金をし、又は國庫餘裕金を繰替使用することができる。
前項の規定による一時借入金又は繰替金は、當該年度の歳入を以てこれを償還しなければならない。
前項の場合において、當該年度の歳入減少のため一時借入金又は繰替金を償還することができないときは、政府は、その償還できない金額を限り、この會計の負擔で大藏省預金部又は日本銀行から借入金をすることができる。
前項の規定による借入金は、一年以内にこれを償還しなければならない。
第八條 この會計において決算上剩餘を生じたときは、これを翌年度の歳入に繰り入れるものとする。
前項の規定による繰入金は、農地等の買收代金竝びに農地證券及び借入金の償還金の財源にのみこれを充てるものとする。
この會計において、農地等の賣渡代金及び第一項の規定による繰入金を以て農地等の買收代金、農地證券及び借入金の償還金竝びに第三條又は第四條第一項の規定による繰入金にを支辨するのに不足する金額と、農地等の賣渡代金、第一項の規定による繰入金及び借入金以外の收入金を以て農地等の買收代金、農地證券及び借入金の償還金竝びに第三條又は第四條第一項の規定による繰入金以外の經費を支辨するのに不足する金額との合計額に相當する金額は、豫算の定める所により、一般會計からこの會計にこれを繰り入れるものとする。
第九條 政府は、毎年この會計の歳入歳出豫算を調整して、歳入歳出の總豫算とともに、これを帝國議會に提出しなければならない。
前項の歳入歳出豫算には、當該年度及び前年度における農地等の賣渡及び買收計畫表竝びに前前年度末現在における農地證券の發行額及び償還額表を添附するものとする。
第十條 この會計の收入支出に關すり規程は、勅令でこれを定める。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
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〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=130
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131・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案外二法律案提出の理由を御説明申上げます、先づ帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案でありますが、此の兩特別會計に於きましては、終戰後に於ける諸物價の昂騰に基く事業經營用品費の増嵩、從業員に對する諸給與の増加等、歳出面の著しい増加の實情に顧みまして、政府は極力兩事業の經營の合理化に努力致して居るのでありますが、尚事業經營上不可缺の經費は増嵩の傾向にありまして、今囘も官廳職員の給與制度の改正の實施に基く經費等相當多額の追加經費を必要とするに至つたのであります、而して是等經費の財源は、原則として事業收入を以て支辨すべきものと存ずるのでありますが、兩會計の財政運營の現状より致しましては、其の一部は借入金財源に求めるの餘儀なき實情にあるのであります、
而して此の追加經費は、兩事業の圓滑なる運行を確保する爲に、己むべからざるものであります關係上、此の措置も亦缺き難いものと認めまして、本法律案を提出致した次第であります、次に復興金融金庫及び産業復興營團出資拂込金支辨のための公債發行に關する法律案に付て申上げます、先般御協贊を經て成立致しました復興金融金庫法に依りまして、政府は同金庫の設立當初に四十億圓の出資拂込を爲すことに相成つて居ります、又只今御審議を願つて居ります産業復興營團法案に於きましては、政府は同營團に對して二億圓を出資致すことと相成つて居るのであります、是等の出資拂込に要する經費の財源は、一般會計收支の現状に顧みまして、之を公債財源に求める外なき状況にありますので、此の法律案を提出致した支第であります、最後に自作農創設特別措置特別會計法案に付て申上げます、是も只今、本院に於て御審議を願つて居ります自作農創設特別措置法に關する經理上の措置と致しまして、自作農創設の爲、政府の行ひます土地等の買收、使用、賣渡、賃貸、交換等に關する歳入歳出は之を一般會計と區分致しまして、特別會計を設置し、其の經理を明確に致しますことが適當と考へられますので、之が爲法律の制定を必要と致します次第でありまして、本法律案を提出致した譯であります、以上の三法律案は、孰れも他の法律案と關聯致したものでありますので、何卒御審議の上、御協贊を與へられむことを御願ひする次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=131
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132・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました帝國鐵道會計又は通信事業特別會計における昭和二十一年度の經費支辨のための借入金等に關する法律案外二件は、戰時補償特別措置法案外八件の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=132
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133・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=133
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134・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございますぬか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=134
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135・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、明日は午後一時三十分より開會致します、議事日程は決定次第彙報を以て御報告に及びます、本日は是にて散會致します
午後五時四十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003242X04019461006&spkNum=135
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