1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○罹災都市借地借家臨時處理法案
○訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=0
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001・会議録情報2
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委員氏名
委員長 子爵 高木正得君
副委員長 男爵 肝付兼英君
侯爵 東郷彪君
侯爵 嵯峨實勝君
伯爵 東久世通忠君
子爵 森俊成君
子爵 大久保教尚君
霜山精一君
男爵 林忠一君
男爵 村田保定君
竹下豐次君
原泰一君
中島徳太郎君
作間耕逸君
寺田甚吉君
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昭和二十一年七月十一日(木曜日)午前十時八分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=1
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002・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 是から開會致します、本委員會は「罹災都市借地借家臨時處理法案」竝に「訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案」兩件を付託されました、是より兩案に付きまして司法大臣よりの提案理由の御説明を御願ひ致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=2
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003・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 昨日本會議の席上に於きまして二件の提案理由を説明申上げたのでありますが、或は重複する所あるかも分りませぬが、重ねて其の理由を申上げます、今次の戰爭に於ける空襲其の他の災害に依りまして被害を蒙りました色々の都市に付きましては、其の借地關係を調整する爲、特別措置と致しまして戰時罹災土地物件令が制定されましたことは各位の御承知の所と存じます、然るに同令は戰時中に於ける臨時應急の立法でありまして、終戰後の今日の状態には副はぬ點が多々あるのであります、此の勅令の根據法でありまする、戰時緊急措置法は、御承知の通り、先の議會に於て廢止されました、從つて此の戰時罹災土地物件令は早晩失效するの運命に置かれて居るのであります、仍て此の際同令を廢止すると共に、それに伴ふ所要の善後措置を講ぜむとするのが、本案の第一の眼目でございます、次に現下の住宅拂底、罹災都市の復興遲延其の他の状況に鑑みますると、罹災土地及び疎開跡地の借地借家關係に付きまして、更に進んで其の調整、整理を圖る必要がございます、それと共に又戰災者の保護、罹災都市の復興促進等の爲に、特別の立法的措置を必要と存ずるのでございます、是が本案の目途とする第二の點でございます、以下其の内容と致しまする主なる諸點を擧げて御説明申上げたいと思ひます、第一に、戰時罹災土地物件令に基いて、罹災土地に「バラック」其の他の建物を築造して、現に其の土地を使用して居る者に付きましては其の敷地の確保を圖るの緊要なることは申す迄もない所でございます、仍て斯かる者には同勅令の廢止後も引續いて一定の期間其の敷地の使用を認めました上に、此の期間内に其の敷地に付き借地權を取得し得る途を拓き、以てそれ等罹災者等の居住の安定を圖らむと致したのであります、而して此の措置は、更に廣く罹災建物若しくは疎開建物の從來の借主又は疎開跡地に於ける從前の借地權者にも之を及しまして、其の保護を圖ると同時に、延いては罹災都市に於ける住宅建設の促進をも期して居る次第でございます、第二に、前述のやうに、罹災者等に借地權を取得し得る途を拓きました關係上、其の半面に土地所有者又は借地權者は、自己の意に反して賃借權の設定又は借地權の讓渡を強制されると云ふ結果を生ずるのでありまするから、斯樣な土地所有者又は借地權者の爲に、特に先取特權を取得し得る途を拓きました、又其の後此の土地に建物が建築されない時には、先に強制された賃借權の設定又は借地權の讓渡を解除し得ることと致しまして、以て兩者間に於ける衡平の維持と建物建設の促進を圖つた次第であります、第三、戰時罹災土地物件令に基きまして、罹災土地に菜園を設けて、多少とも食糧自給を圖りつつある者に付ては、同勅令廢止後も一定期間其の土地の使用を認めまして、現に菜園に生育致して居りまする野菜等の收穫を確保致しまして、幾分なりとも現下の窮迫せる食糧事情の緩和に資することに致した次第であります、第四、罹災土地に於ける借地權は戰時罹災土地物件令に依りまして、其の存續期間の進行を停止せしめられて居ります、現在其の借地權者に於ては、其の權利を行使するに由ない状態に置かれて居るのでありますが、斯かる借地權に付きましては、戰時罹災土地物件令に基き、現に其の土地を使用する者がある場合を除きましては、直ちに之を本來の姿に復活致しまして、借地權者をして、其の有する借置權に基き、建物を建設する等土地を利用し得るの途を拓くこととしたのであります、第五、罹災土地又は疎開跡地の借地權は、登記なくしても第三者に對抗し碍る措置を講じて其の保護を圖りますと共に、其の存續期間が十年未滿のものは、之を十年に延長致しまして、其の借地權に基く住宅の建設を容易ならしめようとした次第であります、第六、併し他方斯かる罹災土地又は疎開跡地に借地權を有しながら、之を利用する意思のないものと認められる借地權者、殊に其の所在さへも明確でないものに付きましては、土地所有者に於て一定の催告を爲した上、其の借地權を消滅せしめ得る途を拓きまして、借地關係の調整を圖らうとした次第であります、第七、罹災建物又は疎開建物の從前の借主に付、今後其の敷地に貸家が築造せられまする場合には、其の建物に對しまして、他の者に優先する所謂先借權を認めまして、其の保護を圖ることに致したのであります、第八、罹災都市に於ける借地借家の條件が、著しく不當な時は、之が改訂を命じ得ることと致しまして、其の適正化を圖ることに致した次第であります、第九、以上申述べました色々の措置を實施するに當りまして、當事者間に紛議を生じ、又は協議が調はない場合には、裁判所に於て、鑑定委員會の專門的意見を徴しました上で、非訟事件手續法に依りまして、簡易迅速に事案を處理し得ることと致したのであります、第十、戰時罹災土地物件令に依りまして設定されました公法上の使用權に付きましては、神奈川縣に其の事例を見るのみでありますが、其の土地は、住宅、宿舍等の建物の敷地に使用せられて居りまする關係上、今後五箇年間其の使用權の存續を認めることと致した次第であります、尚最後に、先の關東大震災に於ける借地借家關係の調整を目的として制定されました借地借家臨時處理法は既に其の目的を十分に達成致しまして、現に裁判所に繋屬して居る事件は皆無となりましたから、此の際同法を廢止せむと致した次第であります、以上が本法案を提出する理由の概要でございます、次に訴訟費用等臨時措置法中改正法律案の提案理由を御説明申上げます、民事刑事の訴訟費用及び執達吏の手數料等はそれぞれ民事訴訟費用法、刑事訴訟費用法及び執達吏手數料規則中に規定され、其の後經濟情勢の變遷に應じまして、數次の改正を致しまして、最近では、昭和十九年訴訟費用等臨事措置法に依りまして、戰時中の暫定特例として増額の措置が執られまして、同年四月一日以來實施されて居るのであります、併しながら其の後二箇年の經濟情勢の變遷と云ふものは眞に甚だしきものがあります、例を日本銀行調の東京小賣物價指數に採つて見ますると、本年二月現在の物價は、昭和十九年同期に比しまして約三倍強の暴騰を致して居ります、先の暫定措置に依る増加額も全く實情に副はぬものとなつた次第であります、其の爲に民事刑事の訴訟關係者は非常に重い犧牲を強ひられるに至り、又執達吏は其の生活上非常な困窮に陷つて居るやうな状況でございます、更に延いては、其の爲に民刑訴訟及び強制執行制度の圓滑な運行を阻害致しまして、戰後經濟の復興にも支障を來すやうな處があるのであります、仍て政府と致しましては、此の際暫定的に是等の額を増額して、現在の窮境を打開する爲に此の法律案を提出した次第であります、以下改正の要點を簡單に申上げますると、第一は、民事刑事の訴訟費用及び執達吏の手數料立替金等を現状に即するやうに増額致したのでございまして、今囘の改正の是が眼目であります、増額の程度は、大體物價指數に依り三倍程度に致したのでございまするが、書記料、飜譯料及び執達吏の旅費等右の標準に依り難いものに付ては、若干の例外を設けてございます、第二條乃至第四條の改正規定が即ちそれであるのであります、第二は、執達吏の差押及び競賣手數料の計算方法を改めたのであります、此の手數料は、債權額又は競賣金額の多寡に應じて定まるのでありまするが、從來債權額又は競賣金額を千圓以下六段階に分けて、各段階毎に手數料を定めてあるのでありまするが、其の段階の分け方が餘りに細か過ぎて、且千圓を超ゆる場合に段階がない爲に、現在では手數料の算定に適正を缺く憾みがあつたのであります、それで今囘の改正に依りまして、一萬圓以下を六段階に分けまして、各段階毎に手數料額を規定することと致したのでございます、第四條第二項及び第三項の改正規定がそれでございます、第三は本法の性格であつた戰時特例としての建前を改めまして、之を當分の間の臨時措置とした點でございます、本法は既に述べましたやうに戰時に於ける特例として制定されたのでありまするが、戰爭終了後の經濟情勢の推移は俄かに即斷を許しませぬ、今囘の措置は當分之を繼續する必要がありまするので、本法を暫定的立法として其の措置を改めたのであります、即ち民事訴訟費用法等の基本法に手を觸れなかつたのも、今囘の措置が臨時の措置であつて、恆久法の改正は經濟の安定した後に之を期すべきものと考へたからであります、第一條の改正及び附則第三項の削除は此の點を明かにしたものであります、以上が本改正案の提案理由であります、何率愼重御審議の上速かに可決せられむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=3
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004・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 只今兩案の提出理由を大臣より御説明を得ましたが、御手許に兩案に關する參考資料が配付になつて居りますが、それ以外に於て、何等か兩件に關する參考資料を御希望の方は、此の際御申出を願ひたいと存じます、別に御希望はございませぬでございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=4
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005・竹下豐次
○竹下豐次君 戰災地の一覽表を此處に載いて居りますが、今日迄復興された程度に付きまして、一つ表を戴きたいと思ひます、尚來年度の建設計畫も既に立つて居ることと思ひますが、それも一つ御願したいと思ひます、それから住宅だけでありませぬ、罹災都市の住民の歸還の状況等に付きましてそれも調べが出來て居る筈でありますから一緒に表を出して戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=5
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006・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 竹下君の只今の御希望は司法當局に御傳へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=6
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007・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 寧ろ復興の方は我々の方の管轄に屬して居りませぬので、司法省だけでは分りませぬから、其の方の詳細な調書と云ふものは、司法關係としてはない譯であります、他の内務、厚生兩省の方と連繋を保たないと分らないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=7
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008・竹下豐次
○竹下豐次君 司法大臣の御話を承りましたが、司法省として御尤もと思ひます、併し政府としては、今註文致しました資料が整つて居る筈だと思ひますから、他と連絡を取つて成るべく早く御願したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=8
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009・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 畏まりました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=9
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010・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 御希望はないやうでございますから次に進みまして、今度は兩案を分割致しまして最初に罹災都市借地借家臨時處理法案に付きまして民事局長から御説明を受けたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=10
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011・奧野健一
○政府委員(奧野健一君) それでは只今大臣から提案の理由を説明至しましたのでありまするが、私からそれを補足致しまして少しく條文に付て御説明を申上げたいと思ひます、罹災の跡地の關係に付きましては、現在どうなつて居るかと言ひますと、其の跡地の關係を規律する法令は御承知のやうに戰時罹災土地物件令と云ふのが勅令で出て居ります、是は戰時緊急措置法に基いて其の委任勅令として出た勅令でございまして、戰時罹災土地物件令と云ふのは御手許に差上げて居ります御參考の書類の中にあるかと存じますが、之に依りますと、其の第三條に依りまして罹災土地に存する借地權は現在停止の状態になつて居ります、即ち存續期間は進行を停止して居りまして、其の停止期間中は借地權者は其の權利を行ふことが出來ない、又地代借賃と云ふやうなものの支拂義務もない、要するに借地權者の權利は權利を行使することが出來ない、と同時に義務である地代借賃の支拂の義務もない、停止状態になつて居ります、さうして第四條に於きまして建物の滅失當時其の建物に居住して居つた者は其の今言つた借地の停止期間中使用が出來ることになつて居ります、即ち本建築所有者以外の者であつても其の敷地の使用が出來る所謂建物に住まつて居つた居住者が其の燒跡の敷地を使用することが出來ることに相成つて居るのであります、それから其の居住者が自から使用しない時は第四條の第四項と云ふので土地の所有者が自から使用するか、或は所有者が他人をして使用せしむることが出來ると云ふことに相成つて居ります、即ち罹災建物の敷地は結局其の當時の居住して居つた者か、さうでなくば、土地の所有者自から、若しくは第三者に使用せしめて居ると云ふ關係に法律的に言へば相成つて居ります、即ち今「バラック」等を持つて居るのが此の三つの場合のどれかに該當して居らなければ不法占據と云ふことに相成る譯であります、此の建物の居住者か、或は土地の所有者か、土地の所有者から使用を許された者、此の三つの中どれかと云ふことになつて居ります、而して此の前の議會に於きまして、戰時緊急措置法と云ふのが廢止になりまして、唯之に基く勅令、即ち罹災土地物件令は六箇月間、即ち九月の三十日迄は其の效力を有することに致したのでありますので、九月三十日になりますと、其の燒跡の法律關係が全然それを規律すべき法規がないことに相成りますので、此の際それをどう云ふ風に處理して行くか、後どう云ふ風に受繼いで行くかと云ふことを規定しなければならないことに相成りますので、本議會に是等の後始末の意味竝に其の他にも色色理由がありますが、其の意味も罩めまして、茲に新らしく罹災都市借地借家臨時措置法と云ふのを御審議願ふことに致した次第でありまして、之に依りまして、罹災土地物件令に基く假の法律關係を受繼いで之を處理して行くと云ふこと、竝に現在の状態から致しまして、どう云ふ風に尚借地借家其の他の罹災の後の關係を處理して行くかと云ふやうな問題に付きまして本法を規定したのであります、是は關東大震災の當時に借地借家臨時處理法と云ふのを作りましたと同じやうな構想に依りまして、罹災都市借地借家臨時處理法案を提出致した譯でございます、そこで此の法案に依りますと只今申しました物件令の第四條第一項、第四項に依つて土地を使用して居るものに付ては先づどう云ふ風に處理して居るかと申しますと、此の條文で順序は下の方から參りまして恐縮でありますが、是は罹災土地物件令を廢止する關係で、其の關係は附則に依つてしなければならないと云ふ建前になりましたので、終りの方から申上げることになりますが、第二十九條で「罹災建物の敷地につきこの法律施行の際現に存する、舊令」舊令と申しますのは先程讀みました罹災土地物件令の四條の一項即ち居住者であります、それから其の四項の分に付ては後に規定をして居りますが、此の二十九條の一番末項と舊令第四條第四項即ち所有者自ら、若しくは所有者から使用を許されて居る者が一番末項に規定して居ります、即ち第二十九條の一項では建物の居住者、其の當時の居住者の賃借權と云ふのは建物所有を目的として居る所謂「バラック」を持つて居ると云ふ者に付ては一年間尚存續せしむることにして置きまして、其の他の者、即ち菜園等に利用して居る者に付ては六箇月間尚存續することに致して居ります、此の關係は四項即ち舊令の第四條第四項の規定に依つて、所有者自ら使用する、或は所有者に依つて使用を許されて居ると云ふやうな關係に付きましても同樣に取扱つて居ります、是が末項に前二項の規定を準用して居る譯であります、即ち舊令に依りますものは一年間、建物所有の目的の爲使用して居るものは一年間、其の他耕作菜園等の爲のものは六箇月間一應存續せしむることに致しました、而してさうすると一年間で、或は六箇月間で全部消滅するのかと云ひますと、最も土地に利害關係を有する罹災者の居住權を保護すると云ふ建前から、第三十二條に於きましてそれ等のものは一年間に自ら其の建物敷地の借地權の設定を受けることを認めて居るのであります、即ち第三十二條で本法の第二條以下ずうつと準用致したのであります、即ち其處に借地權がない場合は、新らしく地主から借地權の設定を受けることが出來るのであります、他に借地權者がある場合は其の借地權の讓渡を受けることが出來ると云ふ途、それが第三十二條に準用の結果、さう云ふことが出て參るのでありますが、さう云ふ途を拓いて居ります、併し此の場合でも地主、或は借地權者に正當な事由がありまして、借地權の設定を拒むとか、或は借地權の讓渡を拒むことが、正當な事由があれば出來ると云ふことになつて居りますが、さう云ふ正當な事由に依つて拒まれた場合には、其の「バラック」を持つて居る者は、其の「バラック」を相當な對價で買ひ取つて貰ふことが出來ることに致したのであります、是が第三十二條の終り、末項であります、さう云ふ風に舊令に依りまして、居住者或は所有者或は所有者から使用を許された者に付ての權利を保障すると共に、前の建物の居住者ではなかつたが、其の燒けた健物の借主は、是は矢張り其處に非常に居住して居りたいと云ふ利害關係を最も持つ者でありまするから、借主にも、今言ひましたと同樣借地權の設定或は讓渡を受ける途を拓いた譯であります、即ち結局本法に依りますと、罹災建物の借主と、それから罹災建物に居住して居つた者、それから所有者自ら或は所有者から使用を許された者、それ等の者の生活權居住權を保障しようと云ふ建前になつて居る譯であります、それで第二條以下は所謂建物の借主と云ふものを出して、之に借地權を持たすと云ふ建前にして居りますが、實は先程申しましたやうに、是は物件令の居住者等も同樣であるので、それは準用の形にして居りますが、表の建前としては建物の借主恐らく借主と居住者は一致する場合が多からうと思ひますが、一致しない場合、居住者でなかつた、所謂自分が疎開して居つて、留守居番に留守居をされて居つたと云ふやうな借主が二條に當嵌まる譯であります、多くは居住者と借主は一致して居ると思ひますが、さう云ふ者に借地權の設定を求めることを認めたのでありまして、即ちそれが第二條であります、即ち其の燒跡の土地に、敷地の上に誰も借地權を持つて居る人がないと云ふ場合には、其の建物の借主は土地の所有者に對して土地の、借地の優先的に申出をすることが出來る途を拓いたのであります、併しそれは餘り長くさう云ふ申出の機會を認めて居ることは、土地の權利關係の安定を阻害致しますので、本法施行の日から一年以内に限つて敷地の借地權の借受を申出ることを認めました、其の申出に對しては、正當な事由がなければ斷れない、即ち第三項に土地の所有者は、建物所有の目的で自分が其の土地を使用したいのだ、さう云ふ必要があると云ふこと、或は其の他さう云つたやうな正當な事由がなければ此の申出を拒むことが出來ないと云ふ、半強制的な、借地權の設定に應じなければならないと云ふことに致したのであります、唯第二條の第一項の但書に、もう既に其の土地を權原に依つて現に建物所有の目的で使用して居る者がある時には出來ない、即ち例へば居住者の方が先に「バラック」を建てて、權原に基いてと云ふのは正當な法律上の根據があつて、所謂先程申しましたやうに、物件令等に依つて、もう既に居住者が「バラック」を持つて居つたとか、或は居住者が使用しないので、土地の所有者が自ら建物を建てて使用して居ると云ふやうな場合には、罹災建物の借主は借地權の設定を求めることが出來ないのでありますが、所謂更地になつて居つて、さう云ふものがない、建物が建つて居ないと云ふやうな場合は、地主に借地の設定を認めることが出來ることに致したのであります、次に其の敷地に外の借地權者があつた場合、其の場合にはどうするかと言ひますと、借地權の讓受を、優先的に受けしめると云ふ途を講ずることに致したのであります、それが第三條であります、其の借地權の讓渡の申出があつた場合に、それに對する關係は、丁度第二條と同じやうに、正當な事由がなければ其の申出を拒むことが出來ないことに致したのであります、それから借地權の讓渡は現行民法に依りますと地主の承諾がなければ適法に有效になりませぬ、それで此の場合は、半強制的に借地權の讓渡を受ける途を拓いたのでありまするから、其の場合に地主の方でそれに反對すると云ふことがあつては、折角の借地權の讓渡を認めても、效果がないことになりますから、此の點は地主の方で承諾をしなければならない、言ひ換へれば承諾があつたものと看做すと去ふことにして、借地權の讓渡を有效ならしめて居るのが第四條の規定でございます、それから只今申しましたやうに罹災の建物の借主或は居住者と云つたやうな者が、借地權の設定を受けることに致したのでありまするが、其の借地權はどれだけの期間のものにするかと云ふと、是は唯借地權法の規定に依る、借地權に致しますと、大體まあ堅固な建物であれば六十年、普通の建物であれば三十年と云ふことになつて、三十年では餘り長過ぎて、所有者の所有權を制限することが多くなると考へまして、唯併し二年や三年や五年と云ふのでは、折角それが燒跡に建物を建てようと云ふ人が、三年五年で之を壞さなければならないと云ふのでは、十分な建築も出來ない、又建築意欲も阻碍することになりますので、色々考へました結果、十年の存續期間を認めることに致したのであります、是は一般の借地法ならば、少くとも三十年であるのを十年と云ふ短期間に致した譯であります、勿論之に關しては合意に依つて別段に十年以上の定めをすることは自由になつて居ります、是は新らしく借地權の設定を受ける場合の、借地權の存續期間を十年と致して居りますが、借地權の讓渡を受ける場合に、其の受けた借地權の期間が若し十年未滿であると云ふやうな場合に、さう云ふ少い借地權の期間しか讓り受けられないと云ふことは、借地權の設定を受ける場合と比較して不利益になりますので、此の點に付きましては第十一條で、即ち敷地に借地權ある場合に、殘存期間が假令十年未滿であつても、之を十年に延長すると云ふことに致しまして、借地權の讓渡を受ける場合も、矢張り十年の讓渡を受けると云ふことになつて居ります、尚申しましたやうに借地權の設定、或は借地權の讓渡を受ける途を拓いたのでありますが、現に其處に菜園を作つて居る者がある場合、是は矢張り所有者から許され、或は所有者自らが作つて居るとか、さう云ふ風に現に正當な權原に基いて耕作して居る者があつた場合には、此の耕作だけは或程度認めてやらなければ、折角植付けた野菜等に付て、建物を建築するからと言つて直ぐ其の耕作者の權利を消滅せしめることは氣の毒でありますので、食糧事情の現況に照しまして、此の場合は六箇月間だけは、尚其の土地を耕作の目的の爲に使用することを認めたのであります、其の期間は尤も裁判所が、申立てに依つて其の期間を伸縮する、短縮したり延長することが出來る途を拓いて居ります、さう云ふ風に耕作の目的で、現に使用する者がある場合には借地權の設定、或は讓渡を受けても、其の間直ぐには、六箇月間は利用出來ないことになりますので、其の期間は借地權の存續期間を停止して、或は其の權利の行使を中止せしめて置くのが相當であらうと思ひまして、丁度其の間は借地權を眠らせる爲に第二項を設けたやうな次第であるのであります、斯う云ふ風に前の居住者なり前の建物の借主が、借地權の設定を受ける、或は借地權の讓渡を受ける途を拓きましたが、折角借地權の設定を受け、讓渡を受けても、いつ迄經つても建物を建てないで、ほつたらかして置くと云ふのでは、地主なり借地權者を保護する所以でもありませぬし、又復興の目的から言つても不適當でありまするから、第七條で借地權の設定或は借地權の讓渡を受けながら、六箇月を經過しても正當な事由なくして、建物の建築を始めないと云ふ場合には、地主なり借地權者の方で、其の契約を解除することが出來ることにして、地主の方でそれを取上げる、或は前の借地權者の方で、取戻すことが出來る途を拓いたのであります、即ち正當な事由なくして六箇月間も建築に著手しないでほつたらかして置くと、前の借地權者なり或は所有者なりが之を取戻すことが出來る途を拓いたのが、第七條の規定でございます、第八條に於きましては、さう云ふ風に借地權者なり或は地主は半強制的に借地權の讓渡を認めなければならない、或は借地權の設定を承諾しなければならないと云ふことになつて居りますので、之に對應して地主なり或は前の借地權者を保護する意味で、其の敷地に建物が建つた場合には之に自分の借地權の讓渡の對價、或は借地料の全額に關して先取特權を持たすことに致したのであります、是が第八條の規定でございます、以上は罹災した建物の關係に付ての事柄でありますが、疎開建物も、罹災建物と大體同樣に見て宜いのではないかと考へまして、第九條に於きまして、「疎開建物が除却された當時におけるその敷地の借地權者」は、或は補償等に依つて、疎開の時に、一應借地權がなくなつて居つたことがあるかと思ひますが、其の場合でも前の敷地の借地權者、或は借地權以外の方法で使用貸借等に依つて持つて居つた者、さう云ふ建物を適法に所有して居つた者、或は其の當時の疎開建物の借主是だけの者に對しては前七條の規定を準用して借地權の設定を求めることが出來る途を拓いた譯でございます、それから次に第十條と致しまして、現に建物が罹災した場合、或は疎開して建物がなくなつて居る場合には、建物の登記が出來ない關係上、登記があれば借地權の對抗要件も備つて參るのでありますが、只今建物がない結果登記が出來ない、從つて借地權を第三者に對抗する對抗要件を備へることが出來ないので、一時的にさう云ふ風な登記等の對抗要件がなくても矢張り土地に付て權利を取得した者に對しては第三者に對しては對抗出來ると云ふ途を第十條で拓きまして、是は此の前の震災當時の借地借家臨時處埋法でも同樣な措置を講じて居りますが、それと同樣な規定を致したのであります、第十一條は、先程申しましたやうに、借地權の殘存期間が十年未滿のものも十年と延長すると云ふ規定でございます、それから次に第十二條でありますが、是は新らしい規定でございますが、空襲等に依つて借地權者が何處へ行つたか判らない、或は死亡した者もありませうし、何處へ行つたか判らない、處が借地權がある結果、地主は自分で家を建てることも人に貸すことも出來ない、借地權者が判つて居ればどうするかと云ふことを聽き合して處理することは出來ますが、何處に居るか判らないと云ふやうな場合があつて非常に困つて居る事例が澤山ございまして、新聞紙等でも借地權の申し出がなければ消滅することと看做すと云ふ風な新聞廣告を能く拜見するのでありますが、それは現在では法律上の根據のないことでありますから、あれは無效であると考へますが、さう云ふ要望がありますので、茲に改めてさう云ふ途を法律的に許したのであります、即ち今後一年間の間に、餘り長い期間さう云ふ途を拓いて置くことは法律關係の安定を害しますので、本法施行の時から一年以内に借地權者に對して一箇月の期間を定めて、其の期間内に借地權を存續せしむる意思があるかどうかと云ふことを問合すことが出來る、若し其の期間内にさう云ふ存續せしむると云ふ風な積極的な申し出のない場合は借地權は消滅することに致したのであります、若し其の居所が判らないと云ふ場合には、第二項、第三項で公示送達の方法に依つて裁判所の掲示板竝に新聞紙に二囘掲載することに依つて借地權を存續せしむる意思があれば一箇月の間に申し出て貰ひたいと云ふ公告をすることに依つて、若し其の間に申し出がなければ借地權は消滅せしむることが出來ることに致したのであります、即ち消滅すれば地主の方で自由に自ら使ふなり第三者に使用せしむることが出來る、所謂借地權の整備をする途を設けようと云ふのが第十二條でございます、第十三條は又貸、即ち轉貸借の場合に、轉貸人が轉借人に對して借地權の整備をすることが出來る途を拓いたのであります、次に第十四條は、是は震災當時の借地借家臨時處理法にもある規定でありますが、罹災建物、疎開建物の借主が今言つたやうに借地權の設定なり讓渡を受ける途を拓いて居りますが、借地權迄は自分で持つ資力もなし、又意欲もないが、其の上に借家でも建てれば其の借家を矢張り從前通り借りて置きたいと、さう云ふ風な、何と言ふか、場所的にさう云つた利害關係を持つて居るものに先借權を認めようと云ふのが第十四條であります、即ち其の敷地なり換地の上に新らしく前の地主なり借地權者が家を建つた場合に前の罹災建物の借主は其の新たに造られた貸家を他の者に優先して相當な條件で借りることが出來ると云ふ途を拓いたのでありますが、實際の實情から言ひますと、他人に貸すやうな借家が出來るかどうか、なかなか疑問ではなからうかと思ひますが、兎に角さう云ふ居住者の保護の規定を設けたのであります、此の場合に付きましても、第十四條の二項で正當な事由がなければ、其の優先借受の申出に對して拒み得ないことに致したのであります、以上借地權の設定なり借地權の讓渡なり、或は建物の先借と云ふ風なことに付きまして、若し當事者が、協議が整つて圓滿に行けば宜しいのでありますが、そこに紛爭等が生じた場合には、之を裁判所が非常に簡易な迅速な方法に依つて其の法律關係を決定して行かうと云ふのが第十五條であります、此の場合には裁判所は鑑定委員會と云ふ專門家の意見を聽いて、借地料其の他を決めて行くと云ふ建前を採つた譯であります、是が第十五條であります、第十六條は細かい規定になりますが、借地權の申出、或は借家の申出が直ぐにあるやうな場合、例へば先程ちよつと御話しましたやうに、疎開建物の場合には、其の敷地の借地權者或は其の建物の借主、是等が借地權の設定を受けることが出來ることになつて居りますので、それ等が共謀して數人が借地權の設定を受けたいと云ふ風なことを申出て來る場合もある譯で、又或は借主と云つても數人一緒で借りて居つたと云ふやうな場合等に數人がさう云ふ權利を持つて共謀して申出て來る場合がある、さう云ふ場合の割當等に付て裁判所が先程申しましたやうな簡易な手續で之を決定して行かう、此の規定は震災當時の借地借家臨時處理法にもございました規定でございまして、其の規定を踏襲したのが十六條の規定であります、尚更に進んで一般的に地代、借地敷金、さう云つたものの借地權が著しく前から不當である場合、或は今後不當のやうなものに付ては、裁判所が當事者の申立に依つて鑑定委員會の意見を聽いて借地、借家關係を衡平にする爲に其の條件の變更を命ずることが出來ると云ふ規定が十七條であります、是も震災當時の借地借家臨時處理法に規定がある、其の規定に倣つた譯であります、十八條はさう云ふ裁判をやるに付ての管轄は何處であるか、其の手續はどう云ふ法規に依つてやるかと云ふことを規定致したのであります、十九條は先程申しました鑑定委員會に關する規定でありまして、二十條、二十一條、二十二條も鑑定委員會に關する規定でございます、二十三條は先程申しましたやうに紛議があつた場合に裁判所が非訟事件手續法に依つて鑑定委員會の意見を聽いて簡易迅速に、裁判するのでありますが、裁判するよりも、矢張り當事者の話合で調停で纏める方が妥當と思ふ場合に、さう云ふ裁判を求めた場合に先づ調停に付して、調停をやつて見ようと云ふ途を拓くことが出來るし、拓くのが適當と思ひまして、二十三條に於きましてさう云ふ根本に基く裁判の申立があつた場合に必要があると認める場合には借地借家調停法の調停を試みることが出來る、即ち調停をしようと云ふことを決定することが出來ます、其の調停に付すると云ふ裁判に對しては不服を申立てられないと云ふことにして居りまして、さう云ふ場合には調停でずつと進んで行く、調停が不調になれば又本法の裁判で裁判することが出來るのでありますが、一應調停に依つて事件を圓滿に解決する途を拓くと云ふのが二十三條でございます、二十四條は本法に依る裁判に對しては即時抗告の途を拓いて、一應不服の途を拓いて愼重を期するが適當と考へまして、不服の途を拓いたのが第二十四條であります、第二十五條は先程來申しましたやうに地代を決定したり或は其の他色々な法律關係を決める、それで決めた裁判は裁判上の和解と同一の效力を持たして、即ち確定力を與へると同時に執行力も與へて、強制執行等をそれに基いてやり得る途を拓かうと云ふのが第二十五條でございます、是が大體本法の説明でございまして、尚其の外にも公法上の使用權の設定と云ふのを前の戰時罹災土地物件令で認めて居ります、其の公法上の使用權は先程大臣から御話がありましたやうに、神奈川縣下に其の例があるだけでありますが、其の關係を尚五年間存續して行かうと云ふのが三十三條の規定でございます、三十四條の規定も公法關係の土地物件令に關する規定を尚經過的に效力を有せしめようと云ふのが三十四條であります、三十五條は先程言ひましたやうに、先取特權を地主なり、或は借地權なりの讓渡した借地權者に持たせて居ることは第八條にある通りでありますが、其の登記をした場合に於ける登録税の關係に付きまして、三十五條に規定を設けた次第であります、甚だ簡單でありますが、大體逐條に御説明を申上げた次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=11
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012・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 御諮り致しますが、本日は此の程度で散會致したいと思ひます、明日は司法省の方の御關係でちよつとこちらの會が開かれないやうな譯でありますので、明日は休みまして土曜日十三日の午前十時から開きたいと思ひます、如何なものでございませうか
〔「異議なし」と呼ふ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=12
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013・高木正得
○委員長(子爵高木正得君) 御異議ないと認めます、今日は是で散會致します
午前十一時四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=13
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014・会議録情報3
出席者左の如し
委員長 子爵 高木正得君
副委員長 男爵 肝付兼英君
侯爵 東郷彪君
侯爵 嵯峨實勝君
伯爵 東久世通忠君
子爵 森俊成君
子爵 大久保教尚君
霜山精一君
男爵 林忠一君
男爵 村田保定君
竹下豐次君
原泰一君
中島徳太郎君
作間耕逸君
寺田甚吉君
國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
政府委員
司法事務官 奧野健一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009003795X00119460711&spkNum=14
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