1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
恩給法の一部を改正する法律案(政府提出)
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昭和二十一年八月三十日(火曜日)午前十時三十四分開議
出席委員
委員長 北浦圭太郎君
理事 小島徹三君 理事 坂田道太君
理事 小野瀬忠兵衞君 理事 冨吉榮二君
磯崎貞序君 白井秀吉君
及川規君 松尾トシ君
森本義夫君 久芳庄二郎君
布利秋君
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
法制局長官 入江俊郎君
内閣事務官 三橋則雄君
文部事務官 日高第四郎君
運輸事務官 加賀山之雄君
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本日の會識に付した議案
恩給法の一部を改正する法律案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=0
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001・北浦圭太郎
○北浦委員長 會議を開きます——森本義夫君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=1
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002・森本義夫
○森本委員 既に多くの委員から詳細に亙りまして質疑があつたので、重ねて御伺ひすることもないかと存じまするが、下級軍人に對しまする恩給が如何にも少いのでありまして、殊に傷痍軍人等の關係を見ますると、餘りにも氣の毒に堪へないと考へられまする爲に、念の爲に茲に一つ二つ御伺ひ致して見たいと思ひます
昭和二十一年勅令第六十八號に依りまして、軍人、軍屬及び其の遺族に對しまする恩給と云ふものは、殆ど全面的に抹殺せられた譯であります、唯僅かに傷病恩給とも言ふべき不具癈疾者に對する増加恩給が殘つて居る、それから傷病賜金の一部が殘されたと云ふやうな有樣でありまするが、此の勅令に依つて認められた増加恩給は、表に依つても知ることが出來る譯であります、即ち身の自由も利かないやうな第一項症に當る者は、准士官でありまするならば月百圓掛の七、即ち七百圓しか貰へないと云ふことであります、以前は増加恩給を貰ふ場合には、必ず普通の恩給も一緒に併給されて居つたのでありますが、此の規定に依りまして、單に是だけしか貰へない、即ち今の例で申しますならば七百圓しか貰へない、それが不具癈疾者に對する増加恩給であります、そこで以前、即ち普通に増加恩給が貰へて居りました時は一體どの位なものであつたか、此の開きが若し御分りになりまするならば、大體で宜しうございますから御示しを願ひたいと思ひます、此の點第一に御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=2
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003・三橋則雄
○三橋政府委員 金額は當相減額されることになりましたのでございまして、從來でございますれば、准尉で第一項症でございますれば一千八百四圓、是は増加恩給に併給せられまする所の普通恩給は最短の在籍年數、斯う云ふ前提になつて居ります、それから今度の改正の規定で計算致しますると七百圓であります、是は今度の勅令に依りまする所の、二十年以上在職した場合に於きまする下給は除いて居ります、是は大して大きい金額でもございませぬので、大體の御見當を立てて戴く上に於ては、さう大したものではないと思ひますので除いてあります、大まかに申上げまして七百七十圓前後、斯う云ふやうに御承知を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=3
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004・森本義夫
○森本委員 一口に軍人とか軍屬とか言ふのでありますが、其の中で上層階級にあつて、軍を指揮することは勿論のこと、政治にまで干與致しまして、理不盡なる戰爭に遂に導き込んだ、其の結果として國民にも非常な苦痛を與へ、又諸外國にまで對して累を及ぼした、斯う云つたやうな軍の指導者階級の罪は、當に萬死にも當ると存じます、斯う云ふ連中が恩給を失ふと云ふことの如きは當然でありまして、場合に依つては命まで失ふべきであります、併し唯是れ上官の命に服したと云ふに過ぎない所の下級軍人、其の中でも、無事で歸つて來た者は兎も角と致しまして、不具癈疾になつた者だけは、何としても國家の手に依りまして救ふべきではありますまいか、それも今後斯う云ふ方々が、まだ何處までも戰爭を企てる危險があると云ふならば、是は又別論でありますが、今や國を擧げて平和日本の建設に邁進して居る、憲法を改正致しまして、戰爭の絶滅を圖らうとして居る今日、是等下級軍人の方々は、孫子の末まで戰爭には參加させないと云ふ氣持を持つて居ることは明白であります、重い罪を犯しまして處罰され、刑務所に繋がれた者でも、食事だけは食ふに事缺かぬやうに充がはれて居るのであります、病氣であると云ひますれば醫者にも掛けて呉れるでありませう、況して國の爲めだと教へ込まれ、國の爲めだと自分も信じ込んで働いて參りました兵隊達、而も其の中でも不具癈疾となつた者だけは、何としても國家の温かい手に依つて之を救濟すべきではないか、軍人とか軍人でないとか云ふことよりも、一同胞として、國民として、斯う云ふ方々は救ふべきではないかと考へる譯であります、そこで是等の方々に對しまする傷病恩給だけは、何としても今少しく増額して貰ひたいと云ふ希望を持つて居る譯であります、此の點に付きまして、今後政府當局に於きましてはどう云ふ御考へを持つて居りまするか、先程の例に出ましたやうに、七百圓で身の不自由な人間に食つて行けと云ふことは、寧ろそれは死ねと云ふことにも當る譯ではありますまいか、政府當局は此の傷病者に對する恩給、勅令で言ひますると増加恩給となつて居りますが、此の増加恩給を何とかして増加してやると云ふ氣持はありますまいか、私は假に文官の恩給を割いても、是等の氣の毒な方方の爲には十分なる手當をすべきだと思つて居りますが、政府に對しまして此の點の所見を御伺ひ致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=4
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005・三橋則雄
○三橋政府委員 今の御質問に對して御答へします前に、どう云ふ風にして今度の勅令が出來まして、斯う云ふ風な金額になりましたかと云ふことを、一應簡單ながら申上げることが、御理解を得る上に宜いのではないかと思ひますので、此の點一寸申上げて置きたいと思ひます
昨年十一月二十四日聯合國最高司令部から發せられました覺書には、傷病軍人に對しまする恩給に付きましては、例外的に認められるやうな趣旨のことが書いてございましたが、それはどう云ふ風な表現になつて居つたかと申しますと、非軍事的な原因に基きまする所の、肉體的傷害を受けました者に對しまして、支拂はれる最低の保障の割合を超えない程度に於て支拂ふことは差支へない、斯う云ふ風な趣旨のことが明示されたのであります、そこで非軍事的な原因に基きまする所の、肉體的傷害を受けました者に對しまして支拂はれる最低の保障の割合を規定した一般的のものと致しまして、現在ありますものは厚生年金保險法でありますから、此の厚生年金保險法に規定せられて居ります所の傷害年金、傷害手當金と云ふものを基準に取りまして傷病者の恩給の金額を決める、斯う云ふ風なことに、聯合國最高司令部と色々御話を致しました結果相成つた次第でございます、此の厚生年金保險法の中にあります所の、傷害年金或は傷害手當金の金の出し方に依りまして出しますると、准士官でございますれば先程申上げましたやうな金額に大體落付く、斯う云ふことになつて參つたのであります、之に付きましては恩給の性質から言ひまして、又厚生年金保險法の性質から言ひまして、其の間に金額に於て相富の徑庭がありますことは、制度の趣旨其のものが違ひまする以上已むを得ないことでございまするので、軍人の傷病者に對しまする恩給を、厚生年金保險法の給付金額に依つて支給すると云ふことになりますれば、相當減額されることになり、私達としまして、國民感情の點からして好ましからざる結果になりますので、此の點は出來得ることならば避けたいと思ひまして、色々と苦心を重ねて來ましたのでございますが、外の方法に依りまして聯合國最高司令部の認可を懇請すると云ふことは、到底困難であると云ふ事情に立至りました結果、已むなく斯う云ふ風なことに致した次第であります、斯樣な次第でありますので、一般的な厚生年金保險法に於ける、今の傷害年金とか、或は傷害手當金と云つたものの給付の金額が増額されて來ると云ふことになりますならば、それに關聯致しまして、現在の傷病者に對しまする所の恩給の金額も増額されて來る、斯う云ふ風に大體想像は致して居りますけれども、併し今まで私達が關係の向きと相談致しました所から推すならば、厚生年金保險法の傷害年金、傷害手當金の給付金額を其の儘にして置きまして、軍人の傷病恩給だけを引上げると云ふことは、或は難かしいのぢやなからうかと思つて居ります、今御話のやうに、是からも色々と檢討を加へて行きまして、傷病者の恩給を増額をしても差支へない、又増額の認可を懇請しても差支へないと云ふやうな風の事情が認められるやうな場合に於きましては、私達と致しましては、出來る限り其のやうな風に出來るやう努力致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=5
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006・森本義夫
○森本委員 一應ここで打切つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=6
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007・北浦圭太郎
○北浦委員長 松尾君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=7
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008・松尾トシ
○松尾委員 既に皆さんが色々御聽きになつた後でもあり、政府委員も大變興味がなささうですから、簡單に御尋ねしたいと思ひます、恩給を支給される者は、大體男子が對象であるやうに思はれます、女子の場合には、色々の事情がございまして、恩給を貰ふまでお勤めがして居らないと云ふのが普通でございますが、勤勞すると云ふ立場から申しますと、現今生産再開の聲が盛な折から、夫を、或は子供を役所や工場に毎日送り出すべく、其の身の廻りを世話し、其の上重大な責任を持つて子供の教育に當るのも婦人であります、此の婦人達が家庭内にありまして、苦心と忍耐を以ての勤勞は大變大きなものであるにも拘らず、從來お鍋やお釜の臺所用具のやうな風に扱はれて居りました永い永い歴史を持つて居る日本に於て、此の婦人の家庭内の勤勞に對して、待遇どころか慰安さへも與へられて居りませぬ、此の婦人の家庭内の勤勞なくしては、男子と雖も如何なる仕事も出來ないと私は信じて居ります、此の際憲法竝に民法の改正に依つて、男女同權が確立されますので、婦人が養はれると云ふことが一掃されてしまふのでございます、萬一其の夫が無能であれば、婦人が夫や其の家庭の生活を保障しなければならない時代が參りました、過去の歴史から言ひますれば、一般家庭婦人に對する何等の制度もないので、夫の死亡後は直ちに生活に困り、寧ろ子供を生んで苦心をして育てた勤勞に對しての結果が、却つて重い負擔となつて來るばかりでございます、而も此の多數の婦人の勤勞を擁護する機關は何もなく、御役所或は工場に勤めて居りますれば、「ストライキ」等も出來るのですが、家庭婦人にはそれも出來ないのです、此の際婦人の家庭勤勞を、男子の外で働くのと同一に認めまして、只今の恩給法は一切廢して、女子も老後の生活の安定を得られるやうに、男女を込めた所の養老年金制のやうなものを御作りになれば、日本人全體が、明るい氣持で毎日を送ることが出來ると思ひますので、此の養老年金制を御設けになつたら如何でございませうか、其の點を御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=8
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009・入江俊郎
○入江政府委員 女子が男子と竝びまして、勤勞の面に於て重要な地位を占めると云ふ御考へに付きましては、全く御同感であります、而して女子の家庭勤勞に對して、從來は御話の如く國家的な、社會的な十分なる關心が拂はれて居なかつたと云ふことも其の通りであります、隨つて將來社會保險制度を十分擴張し、又之を合理的にして行くと云ふ面に於きましては、御話のやうな面の重要性を認識致しまして、之を制度に織込むやうに考へて行くのが妥當であるかと存じて居ります、唯社會保險に付きましては、現在厚生省が中心となりまして研究を續けて居りますが、先づ第一段には、或る特定の企業體に於て勤勞をして居る者を客體として、それの生活上の保護、或は又養老的な措置が考へられて居ります、それ以外に、如何なる階層を通じても、獨立の色色な活動をして居る人達に對して年金の制度を認めると云ふ所までは、まだ十分研究が行つて居ないやうに思ひますけれども、是は單に女子ばかりの問題でなく、男子に付きましても、所謂勤勞者と云ふやうなものに付て、國家が如何やうに之を認めて行くかと云ふ問題と關聯して居りますので、事は極めて重要且つ困難性を伴ふかと思つて居ります、將來社會保險を考へます時にも、私共は女子なるが故にと云ふ觀點よりは、寧ろ男女は平等でありますから、同じやうな立場にある男女と云ふものを取扱ひまして、詰り形式的でなく、本質的の平等に於て各種の制度を立てて行くやうに努力したいと思ひます、御話の家庭内に於ける勤勞に從事して居る女子に對しての年金制度と云ふ點は、洵に示唆深い御話として承つて置きまして、社會保險制度の調査も現に進められつつりあますから、此の方面にも十分御趣旨を傳へ、又我々も其の線に沿うて研究を續けて行きたいと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=9
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010・松尾トシ
○松尾委員 只今の御話に依りますと、特殊團體を持たなければ年金制度を認められないやうに伺ひましたけれども、大體私の考へでは、餘りに優遇すると働くことを忘れる者が多いと云ふ風に御考へではないかと思ひますが、人間やはり生れて來た以上、何か働きの合間に慰安を求めることが樂しみで、唯ぼやつとして毎日を過すことは好んで居らないと思ひます、政府は此の社會に對する人々一般に、男女を問はず優遇してやることに御進め願ひたいと思ひます、勤勞婦人の問題に對して色々御考へ下さると申されましたので、成べく早く具體案を御出しになつて戴きたいと思ひます、又本當に家庭婦人の日常生活と云つたら、下積みになりまして、少しも生活らしいものがないのでございますから、其の點重々考慮して戴きたいと思ひます
次に國鐵整理の問題で御尋ね申上げたいと思ひますが、係官がおいでになりませぬので一時中止をして置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=10
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011・冨吉榮二
○冨吉委員 昨日の委員會に於きまして、磯崎、白井兩員から、恩給廢止の意思の有無に付て質されたのに對しまして、入江長官、三橋局長から其の意思なしと云ふことを言明せられたのであります、併しながら私はまた疑念がございますので、先づ此の點に付て一點御伺ひ致したいのであります、言ふまでもなく、恩給なるものは其の青春の時代から壯年の時代を通じての國家に對する御奉公に對して、國家がそれを保障すると云ふやうな意味合に於て出すのでありますが、何としても、國家に對する御奉公は決して公務員だけがやつて居るのではありませぬ、生きとし生けるもの、國民悉くが國家に對して御奉公して居るのだと云ふことに付ては、よもや御異存はないと思ひます、私共は此の所謂公務員に對する恩給制度、年金制度と云ふものは一種の特權だと思ふ、特權として存在して居る、隨ひまして、一般國民思想に及ぼす影響も可なり強いものがあつて、過去に於ても恩給亡國と云ふやうなことが、國民の間に屡屡論議されたのでありますが、殊に敗戰後の今日、所謂民主日本の建設と云ふ時に、公務員だけが、其の老後を保障せられると云ふやうな特權があつて然るべきものかどうか、斯うした點から考へて見て、私は此の際思ひ切つて之を廢止する方が宜いのぢやないかと考へるのであります、「マッカーサー」司令部から、軍人の恩給年金を廢止せよと云ふやうな指令が來たからやつた、文官に付ては別に指令がないからやらない、斯う云つたやうな受身の態勢でものを考へて居つたのでは、本當に日本の再建は覺束ないと私は思ふ、何としても日本人自身が、民主主義を自分のものとして身近かに感ずることに依つてのみ、日本の再建は成立つと思ふ、此の意味から政府が茲に思ひを新たにして——軍人は既に袋叩きに遭つて居るのである、官吏も亦軍人と一緒になつて、國民を指導して此の戰爭をやつて來たのである、私は何も官吏の個人々々を咎めて居るのではありませぬ、併しながら斯う云ふ人々のみに此の恩給年金と云ふやうな、所謂特權が依然として殘されて居ると云ふことは、私は腑に落ちないと思ふ、此の點に付ては政府は御考へにならないのか、勿論現在に於ける財政上の面から言つたら、恩給亡國などと云ふ議論は起つて來ますまい、九牛の一毛です、併しながら是は昨日發表されました所謂俸給の改正に伴ふ、又此のインフレの昂進に依りまして、是等の問題にも相當な膨脹が豫定せられると思ふ、將來に於ては國家財政上の建前からも、相當考慮されなければならぬと思ふ、斯う云ふ特權を一つ御廢止になつたらどうかと私は思ふ、もう一つは、現在支給されて居る額では、昨日も色々御質問がありましたが、迚も老後の生活の保障にはなりはしない、雀の涙程の年金を貰つて、それで食つては行けない、恩給だけで食つて行くと云ふ話もありましたが、そんなことは絶對に不可能である、斯う云ふ生活の保障ともならず、貰つて居ると云ふ一種の有難迷惑と言ひますか、さう云つたやうな特權を廢止すると云ふことは、今日の時勢に於て極めて大事なことであると思ふのであります、更に從來年金制と云ふやうなものを採入れまする一つの、是は表向きのことではないが、官吏、公務員に優秀な者を入れる爲に一つの特典を設けた、是も過去に於ては一應の事實であつたのでありまするが、併しながら今後及び將來に於て、さう云ふ心配は毛頭ないと思ふのであります、殊に一般國民が此の戰爭に依つて受けました犧牲の均衡とも睨み合はせ、國民思想の動向と云ふやうなものから致しまして、本當に日本の再出發に當つて、私は此の際思ひ切つて、自らの手で自らの特權を廢止すると云ふやうな心構へが、官吏に於て、重ねて當局の御意向を承りたいと思ひます此の意味もあつて然るべきではないかと思ふ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=11
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012・入江俊郎
○入江政府委員 只今の御尋ねに御答へを申上げます、恩給を廢止するかどうかと云ふ點でありますが、是は前回にも申上げましたやうに、政府としては、恩給を文官に付て全面的に廢止すると云ふ考へは、今日持つて居らないのであります、一體恩給はどう云ふ本質のものであるかと云ふことに付きましては、色々學者の間にも議論がありますが、さう云つた議論を別にしましても、要するに恩給が、今日の制度から申しますと、公務員が其の勤務に對しまする反對給付として、退官後若くは退職後、國家又は公共團體から一定の扶助を受けるのでありますが、それに依りまして結局受給者の生計を支持し、又は之を維持して行くと云ふ爲の一時金、又は年金であると思ひます、そこで此の恩給は、要するに性質は二種類あると思ふのでありまして、恩給の一つの面の性質から申しますと、結局公務員を使用して居る所の使用者たる國家又は公共團體が、其の勤務に對する報償として、使用費としての給付をすると云ふ面があらうと思ふのであります、今一つの面から申しますと、使用せられた者が、其の勤務關係を離れました後に於ける生活を何とか支持して行く、又扶助して行くと云ふ性質があらうと思ふのであります、言換へるならば、一方は使用者としての勤務に對する手當と云ふ面と今一面は社會生活の扶助と云ふ面であらうと思ふのであります、此の前者の面、即ち使用者として勤務に對する報償として、辭めた後まで給與をすると云ふことは、是は一般の私設の企業體に於きましても屡屡あることでありまして、勤務關係の性質から見て、決して之を特權とか、或は又非常に不合理なものであると考へる必要もないのではないか、寧ろ自分の所で働いて居る間に、其の人の能力も段々と減損して行くのでありますから、そこで減損能力を將來に於て補填してやると云ふ心遣ひを、使用主としてはしてやると云ふことは、其の程度如何にも依りますけれども、十分理由があることのやうに思ひます、それから又、辭めてしまつた後で生活に困つてしまつてはお氣の毒であると云ふ點から、之を援護してやると云ふ面、是は必ずしも使用主がしなくても宜い、寧ろ社會全般の責任に於て之をやつて行くと云ふことが妥當なことかと思ひますけれども、其の場合に於きましても、從前其の者と特別な勤務關係にあつた者が、さう云ふやうな作用を分擔致しまして、老後に於けると言ひますか、退職後に於ける生活を援助してやると云ふことも、是はやはり社會生活上、或る見方から言へば美しい行き方であるやうに思ふのであります、然るに文官に付きましては、今も御話がありましたやうに、今日の状態から申しますと、一方に於きましては軍人の恩給は廢止されてしまつて居る其の爲に先程森本委員も仰しやつたやうに、洵に我々として斷腸の思ひをするやうな状態になつて居ります、のみならず、今日に於きましては多數の戰災者が充滿して居りまして、住むに家なく、食ふに食なしと云ふ御氣の氣な方々が澤山居ります、又復員者として、非常に數多い方々が今日我が國内に於て其の日其の日の生活に喘いで居ると云ふことも、我々は洵に涙なくして見られない状況と思ふのであります、さう云ふ状況の下に今日文官の恩給を考へますると、如何にも特權的であると云ふやうな感じが強いと思ひますけれども、是は今日に於ける状態なのでありまして、恩給本來の性質が特權的なものだと云ふまでのこともないのぢやなからうか、寧ろ恩給の制度に對しましては、今申しましたやうに、使用主としての給與の面と謂はば社會保險的な性質の面とを分けて考へまして、兩方とも公平に、又合理的に之を建設して行くと云ふ風に向ふべきではなからうかと思つて居るのであります、そこで將來恩給に付きましては、我々も廢止すると云ふやうなことは考へて居りませぬけれども此の制度を十分合理的に考へて行きたい、只今申しました使用主としての面、即ち辭めた時に能く民間の會社銀行等にありますやうな退職賜金を一時給與するとか云ふやうな面、どちらかと言へば一時的な給付の方は、是は主として使用主としての給與であらうと思ふのでありますが、其の方面は、やはり官吏に付きましては國家が使用主でありますから、其の面に於て今日此の恩給の制度と云ふものは維持して行くことが相當ではなからうか、併し社會保險的な面から申しますと、今日は既に厚生年金保險等の制度も發達して居りますから、それ等と合同するか、或は又合同しないにしても、同じやうな思想の下に、共通の基盤に於て之を考へて行くと云ふ風に行つたらどうであらうかと、目下研究中でありまして、まだ結論にまで到達しませぬけれども、官吏の使用主として國家が給與する面は、やはり恩給として官吏勤務の特殊性に鑑みて、之を維持して行つたらどうであるか、併しながら社會保險的な制度の面に於きましては、使用主である國家は、同時に又國家社會の利益を代表する面を持ちますから、其の面に於て國家が、やはり官吏其の他の公務員に對する社會保險的なことも自身でやつて行くが宜いか、或は今日ありまする厚生保險的に、官民を問はず社會保險の中に之を合體するが宜いか、是は十分研究して行きたいと思ひます、色々申上げましたが、要するに恩給と云ふものは、只今の感情から言ふと、如何にも文官だけが非常な旨い目を見て居るやうに見えるかも知れませぬけれども、熟熟考へて見ますと、社會保險の制度との關聯もありますので、恩給は恩給として存在の理由があるやうに考へて居ります、それから先程御話もありましたが、軍人恩給に付ては司令部の命令があつて廢めたのであらうが、文官に付ては、命令がないから好いことにして居るのぢやないかと云ふやうな風にも一寸聞えましたけれども、我々としては決してさう云ふ風な感じは持たないのでありまして、十分自主的に恩給の制度を考へ、公務員として十分な働きをするが爲に必要な制度として、之を合理化して行きたいと云ふ念願に燃えて居るのであります、尚ほ支給額の點に付きまして御話がございました、今日のやうに雀の涙のやうな金をやつて居るのでは、寧ろない方が宜いのではないかと云ふ點、此の點は實は恩給の見地から考へますならば、御承知のやうに貨幣價値も大いに下落して居ります今日でありますから、十分増額と云ふことが出來れば、することが望ましいのであります、けれども、此の點に付きましては、單に恩給のみの見地から結論を導くことは困難であります、と申しますのは、先程も申しましたやうに、今日に於きましては、我が國の國家社會生活の中に、隨分氣の毒な方々が澤山充滿して居ります、恩給だけの見地から申しましても、軍人で以て普通恩給を貰つて居る人が、是が六、七十萬あつたのが貰へなくなつてしまつた、然るに文官は普通恩給を貰ふ者が十萬内外でありますけれども、其の人達は依然として貰つて居る譯であります、そこで從前の恩給の受給者の大部分は恩給を貰へなくなつて、其の中の二、三割の者が結局恩給を貰つて居ると云ふ點、是等の點から考へますと、文官の恩給を此の際増額すると云ふことは恩給だけの見地から見るならば望ましいとも言へますけれども、社會全體の公平の見地から考へますと、如何にも忍びなとのいこやうにもなるのであります、のみならず、先程も申しましたやうに、今日は多數の戰災者、又は復員者等が居りまして、是等が洵に御氣の毒な生活をして居ると云ふ状態でありますから、國家財政の見地から申しましても、恩給の受給者たると然らざるとを問はず、本當に生活に困窮して居る者に對して出來るだけの手を差伸べて行く、又、財政的の餘裕があれば、出來るだけ其の方に金を使つて行かなければならぬ状況であります、失業救濟と云ふやうな面に付ても、出來るだけ金を使つて行かなければならぬ状況でありますので、此の受給者だけに付て、普通恩給にしても僅か十萬乃至十一萬位でありますから、金額としては大した金ではないかも知れませぬけれども、其の金を特にそれ等の人の爲に出すと云ふことは、どうも我々としても今日なし得ないやうに考へて居ります、要するに今日の金額が極めて少いと云ふ點は認めますけれども、是は國家財政の見地、及び今日の社會状況から申しまして、其の方だけに増額すると云ふことは洵に困難である、それ等の恩給金額の點も、やはり恩給制度を根本的に、先程申しましたやうな線に沿うて考へまして十分合理的に之を建直して、一般の社會保險、或は厚生年金保險等との均合ひを以て考へて行きます場合に、恩給は恩給として十分意味があるやうな金額にして行きたい、斯う云ふ念願を持つて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=12
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013・冨吉榮二
○冨吉委員 只今長官から廢止すべからざる理由に付て、縷縷御述べになつたのでありまするが、要するに恩給を與へる恩給制度其のものの根本理念と、そして又それに依つて受ける受給者の恩惠と云ふものと、一般社會に及ぼす影響との開きの問題に對する考へ方の違ひだと思ふのであります、私は依然として、此の國民の犧牲と、軍人の恩給年金廢止と、更に又今日の日本の財政状態、それ等とを睨み合せて、此の際成程恩給制度にも全然意味がないとは申しませぬ、あつて今日まで續けて來たものだけれども、こんなものは廢止しても、官吏の思想の上には大して惡い影響を與へないのぢやないか、國家の事務を遂行する上に於て、支障ないのだと云ふ考への下に御尋ねしたのでありますが、結局是は意見の相違でありまして、幾ら言つても盡きないことであります、只今長官は「マッカサー」司令部から指令がなかつたのを好いことにして、此の方だけは手を着けなかつたのぢやなくて、之に付ても自主的に考へて居るんだと云ふ御話がございましたが、是は洵に御氣分としては結構だと思ふのでありますけれども、此の恩給法の改正を見て見ると、何處にもさう云ふ積極的な面の何等の方策が現はれて居ないやうであります、改正になつた點は所謂整理である、官吏制度の改革に伴ふ所の隨伴的な改正でございまして、何等の積極的なものが織込まれて居ない、此の恩給制度に付て、何か特に此の點を日本再建の上に積極的に御考慮を御拂ひになつたと云ふやうな御言葉がありましたが、其の點はどう云ふ點でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=13
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014・入江俊郎
○入江政府委員 御話の如く、今度の改正案は洵に事務的な改正案であります、私共は恩給の制度に付て、やはり根本的な檢討を加へるべきだと思ひまして、實は今年の初め頃から、内部に於きましては屡屡會合を催し、研究もして居つたのであります、併しながら恩給の制度は先程申しましたやうな特殊の點を考慮し、社會保險と睨み合せて研究する必要があり、且又恩給は財産的な給與であります、そこで今日の如く貨幣價値が非常に浮動をし、又物價の高低が著しい場合に於きましては、中々合理的な所に之を置くことが困難であつたのでございます、例へば問題になります點は、色々ありますが、高額所得者の場合に恩給をどの程度停止するとか、或は又若い者ろは、恩給を或る年限に達するまでは停止するとか、又恩給を貰ふまでの勤務年限をもう少し長くしたらどうかと云ふやうなことも、色々研究したのでありますけれども、何分にも一方に於て合理的な、又周到な社會保險制度を考へようとして、今日色々研究を進めて居ります關係上、それ等との關聯を以て研究を進めようと云ふことで、今度の議會に於きましての恩給法改正には、實に間に合はなかつたのであります、隨て洵に事務的な精彩のない改正になりましたが、是は終戰後の状況に應ずる不可缺の整理を御願ひしたのでありまして、是と並行して、もつと根本的なことは今日考へて、來るべき適當な機會には、是非とも内容の改正を御審議を願ふ機會を實は持ちたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=14
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015・冨吉榮二
○冨吉委員 さうすると、先程の御意見では、此の際國民も困つて居るし、又色々な均衡の問題もあり、財政の都合等もあるから、恩給のみに付て増額することは出來ぬ、増額せぬと云ふやうな、御言葉であつたが、只今の御言葉を聽いて見ると、何か近い將來に、又此の内容を色々變へて行くと云ふ、それの最も主たる目的は、所謂高額所得者の停止の問題、若い者にはやらないと云ふやうなことでありませうが、實質問題として増額、詰り惡く云へば、世間のほとぼりが冷めた頃になつたら一寸増額してやらうかと云ふやうな意嚮ぢやない、多分増額されないと云ふ風に理解して宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=15
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016・入江俊郎
○入江政府委員 其の増額に付きましては、恩給だけを取上げて考へて見ますと、何と云ひましても今日貨幣價値が下落したことは歴然たる事實でありますから、何とか恩給も増額しなければならぬと云ふことも考へて居るのです、併し恒久的な制度として恩給法の中にそれを盛り込むと云ふことは、今日のやうに非常に浮動的な時には困難であると云ふことが一方ありますのと、今一つは、先程申上げたやうな意味に於て、財政的見地、社會上の見地から致しまして、之に手を付けると云ふことは今日出來なかつたと云ふことを申上げて居るのでありまして、恩給の制度を社會保險と並んで根本的に變へると云ふ場合には、勿論受給金額に付ても再檢討をして、適正なる金額にすると云ふことを申上げるので、ほとぼりが冷めた頃にぽつと出さうと云ふ意圖は全然持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=16
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017・冨吉榮二
○冨吉委員 説明を諒としましたが、私は依然としてまだ恩給を存在せしめなければならぬと云ふことに付て、十分なる納得を致さないのであります、隨ひまして、當局に於かれましても之を廢止して行くと云ふ方面も、併せ御研究になられるやうに希望致しまして、此の問題は是で打切ります
次は官吏制度の問題に付て聊か御伺ひしたいと思ふのであります私は長い間官吏制度の改革論者であつたのでありますが、今日洵に殘念な機會に於ての官吏制度の改革でありますけれども、一應此の改革に手を染められたことは、私は敬意を表するに吝かでないのであります、從來我が國の官吏制度は概して、私は學者でございませぬので、難かしい理窟上のことは分らないが、非常に身分的差異が強かつた、所謂勅任、奏任、判任と云ふやうな風に身分的な差異があった、是は身分的な差異と、今一つは給與關係に於て非常な差があつた、殊に奏任は勅任になれますけれども、判任はもう殆ど奏任にはなれない、特別任用令などがありますけれども、殆ど是は墓標の銘を刻むだけのもので、死ぬ前になつて判任を奏任になすと云つたやうな状態であつたのであります、之を俸給の面から致しましても、二十五、六、七、八で高文を通つて出て來た者と、二十年一日の如くこつこつやつて居た判任官の者と較べますと、其の若い奏任の方が給料が高くて、非常に生活の面から致しましても不合理であつた、併し此の點は今回の俸給の改正に依りまして、色々手當制度更にそれを七月案として御實施になる御見込のやうに承つて居りまして、非常に我が意を得たるものがあるのでありまするが、一體勅任、奏任、判任とあつたやつを、一級、二級、三級と云ふ又ここに區別を付けたのは、どう云ふ理由でございますか、其の點を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=17
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018・入江俊郎
○入江政府委員 官吏の制度を改正致します時に、身分的の不必要なる差異を置くことは適當でないと思ひまして、從來の勅、奏、判の區別は之を廢止したのであります、そこで事務系統の官は事務官技術系統の官は技官と云ふ名稱で統一致しましたけれども、併し何と申しましても、官吏に付きましては其の取扱ふ事務の程度、及び其の地位に就く人の能力の程度に依りまして差があることは、是は又仕方がないことであると思ひます、單に形式的に何でも平等にすると云ふことは本當の平等でないのであつて、其の者の持つ能力、或は其の者の擔任する勤務の性質に從つて、やはり秩序がなければならないと考へます、そこで一級、二級、三級と分けまして、事務官の中にも、中學校を卒業した程度、或は又普通文官を合格した程度の能力を持つた者は、先づ三級の事務官として任用する、高等試驗であるとか、或はそれを合格した位と同等の力量を持つた者に付ては、二級の官吏に任用する途を認める、さうして二級の者は一級の方に進むことが出來るやうにする、或は又三級の官吏でありましても、特別任用の途を相當廣く認めましたから、其の閲歴に依りましては、之を三級から二級の方に特別に進級させると云ふことも認めよう、斯うなつて居るので、此の一級、二級、三級の區別は身分的差異でなくして、其の者の擔任する事務及び能力の見地から區別した一つの秩序であります、それを尚ほ撤廢してしまふと云ふことは、結局官吏制度を適當に運用する上に於て支障がありますので、さう云ふ區別をしたのであつて、從來の勅、奏、判の區別に依る身分的差異とは、全く違つたものとして諒解をされて居るやうに考へて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=18
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019・北浦圭太郎
○北浦委員長 冨吉君に申上げます、河合厚生大臣が御見えになりましたから、同大臣に對する質疑を御始め願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=19
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020・冨吉榮二
○冨吉委員 私は主として恩給法から來る厚生大臣への質問でありましたが、澤山色々なことを言つてしまつたので、之を蒸返すのはどうかと思ひます、併しながら厚生大臣が常に國民生活安定、殊に勤勞階層の生活面に對して「タッチ」して居られますので、澤山言はなくても御分りと思ふのですが實は先程來法制局長官との間に恩給と云ふものを廢止してしまつて——是は官吏は特權だし、今日の國民の思想の上からも、又其の犧牲の均分の上から云つても面白くないから、民主化の爲に、此の際百尺竿頭一歩を進めてと云ひますか、思切つて恩給を廢止してしまつて、さうして所謂社會保險一本で行くと云ふ方に、改めた方が宜くはないかと云ふやうな質疑を致して來たのであります、其の結論として私は考へますることは、何と云つてもやはり養老年金制だと思ふのであります、其の名前はどうでも宜しいか、さう云ふ風な制度をどうしても我が國にも布かなければならぬ、英國に於きましても、「フランス」に於きましても、其の他の國々に於ても、既に隨分古くから斯う云ふことが實施されて居る、文明國でありながら、我が國に於ては今日まで斯う云ふやうな制度がなかつた、此の機會に一つ養老年金制を、私は恩給法の廢止と睨合はせて考へて居るのでありますが、厚生大臣はどう云ふ御考へを持つて居られますか、此の際伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=20
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021・河合良成
○河合國務大臣 恩給を厚生年金制の養老の中に噛込ませると云ふ御考へ、斯う云ふ點に付きましては、只今社會保險調査會をやつて居りますので、斯う云ふ點でも篤と研究しますけれども、私今承りました所では、一寸やはり困難性がありはしないかと云ふ氣持も致します、と云ふのは、官吏の恩給りと一時賜金と云ふものと二つあます、それだから一時賜金と云ふのは、一寸官吏の失業保險のやうな性質を持つて來なくちやならぬと思ひます、それから普通の恩給は、養老年金のやうな性質を持つて居りますから、之を此處へ包含させると致しますと、やはり失業保險的性質と、養老保險的性質と二つ入れて行かなくちやならぬのではないかと思ふ、さう云ふ點に於て、技術的にもう少し研究しませぬと、一寸困難があるのではないかと思はれる點があります、併し一面から言ひますと、是は今の御趣旨から御質問があるのか、或はあつたのではないかと思ひますが、一般の國民全體に此の養老年金制度なり、養老保險制度を普及させると云ふ問題の解決と、それから失業保險の解決と、此の二つが出來ますれば、それは全部一聯の關係になりますから、移動し得る性質のものではないかと思ひます、此の二つの前提ではないかと思ひます、此の國民全體の養老年金と云ふ制度、或は私は寧ろ是は養老保險が宜いのではないかと思ひますが、さう云ふ制度に付きましては、是は實は私就任以來其の頭を持つて居るのであります、丁度厚生大臣になりました時に、直ぐ其の日か何か、私はさう云ふことを世間にも新聞にも申したことがあるのでありますが、私の頭を端的に申しますと、「グループ・インシュアランス」の問題になるのであります、團體保險の問題になります、實は私は團體生命保險と云ふものを作りました體驗を持つて居りますのと、生命保險を十箇年ばかり經營しましたので、是は國民團體保險即ち國民全體の養老保險——養老及び癈疾ですね、斯う云ふものが適當でないかと云ふ氣持を持つて居りました、是も今社會保險調査會で調査して貰つて居りますが、私の頭に描いて居りますのは、國民全體の養老保險となりますと、國庫が補助しますと國庫の負擔が非常に大きくなる心配がありますので、やはり出來るだけ自分で負擔すると云ふ形が宜い、自分で負擔すると云ふと、負擔能力に差別を付けなければならぬ、例へばA、B、C、Dの階級で、Aから段々下げて、Dは只、或は幾らか出すと云ふ風の大まかな負擔料でも考へて、さうして國民の收入に應じてやつて行くと云ふことも、極く一つの方法ではないか、是は未定案ですが、斯う云ふ考へも持つて居るのです、さう云ふ案にはやはり二つばかりの大きな條件があります、と申すのは、養老保險と云ふのはどうも通貨の購買力がもう少し安定しませぬと、是は大體が無理なんです、だから一萬圓掛けた保險も、此の状況では實際の購買力は五百圓位、千圓位になつてしまつて居ると云ふ問題が、是は養老保險として非常に重大な問題である點と、それから富の分配が御承知の通りにすつかり變りつつある、それで結局新興階級と、段々轉落の階級との間の安定性が少し付きませぬと、今言うた收入からぽんぽん押へて、A、B、C、D「クラス」と云ふ風には中々行かぬ事情があるのではないかと云ふ點も考へなくちやならぬので、何とかやりたい方法だと考へますけれども、さう云ふ情勢から考へて、やらなくちやならぬと云ふことで、實は社會保險調査會でも調査してくれて居ると思ひます、さう云ふ氣持を持つて居ると云ふことを端的に申上げて御諒解願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=21
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022・冨吉榮二
○冨吉委員 只今厚生大臣から、それに付て社會保險調査會で考究中である、又大臣御自身の御抱負に付ても多少片鱗を伺ふことが出來ましたが、此の問題に付ては別に議論を致すのではありませぬが、さう云ふ御方針であると云ふことを承つて結構だと思ふのであります、そこで之を調査會に掛けて、色々揉んで揉んで結局揉み苦茶にして何にもならなくなつてしまふのが今まで多いのでありまするが、必ず近い機會にさう云ふやうなものを提案されるものと了解して宜いか、斯う云ふことであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=22
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023・河合良成
○河合國務大臣 國民全體の養老保險と云ふ問題は出來るだけ早くやりたいと思ひます、と云ふのは、やはり生活補助の問題と非常に重大な關係を持つて居りますし、それと貯蓄奬勵と云ふやうな思想と關聯しまして、是は是非やりたいと思つて居りますが、今申した通り少し技術的な難問がありますので、やはり財界の整理などが、一旦一寸安定せぬと工合が惡いのぢやないかと云ふ氣持を持つて居ります、併し是と關聯しまして、失業保險の方は出來るだけ早くやる考へで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=23
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024・冨吉榮二
○冨吉委員 能く了承致しました、併し保險制度に於ては、從來醫療保險に對しましても、或は農業保險制度に致しましても、非常に作る時はえらい氣構へで以て、えらい理想を持つてやつたのでありますけれども、不幸にしてどうも餘り實蹟が上つて居ないし、時代時代の——醫療保險なども現在の通貨問題とも關聯致しまして、非常に惡い結果になつて居るのでありますが、是等の點に付ては十分御檢討になりまして、理想的なものに仕上げて戴きたいと云ふことを希望致しまして、先づ之を打切りますが、更に私は官吏制度の問題に付て、法制局長官から一級、二級、三級は決して身分上の差異でない、事務取扱の都合であると云ふやうな御説を承つたのでありますが、洵にさうあつて然るべき問題だと思ふ、併し現在其の官吏自身の考へ方と致しましては、古い惰勢もありますが、依然として結局何と言ひますか、羊頭を掲げて狗肉を賣つたと云つたやうな、改革の仕甲斐のないやり方だと云つた風な感じを持つて居るやうであります、ですから今後其の運營に付ては、十分なる御注意と、官吏の教育に付て御努力を願ひたいと思ふのであります、それから私は技術者の問題に付て…発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=24
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025・北浦圭太郎
○北浦委員長 河合厚生大臣に對する質問ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=25
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026・冨吉榮二
○冨吉委員 是は法制局長官で宜しいです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=26
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027・北浦圭太郎
○北浦委員長 それでは松尾さんが十分ばかり厚生大臣に御伺ひしたいさうですから——松尾さん発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=27
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028・松尾トシ
○松尾委員 恩給に關聯しまして、國鐵の整理問題を御伺ひ致したいのでございます、是は生活保護に重大な關聯がございますので、偶偶厚生大臣が御見えになりましたから、此處で御伺ひしたいと思ひます、此の國鐵の整理が、新聞に依りますと十二萬もございますさうですが、女子の中で七萬四千と云ふ者もありますし、五萬四千と云ふ者もございますけれども、此の女子は戰爭中男子が戰地へ行きました後を、國の動脈とも云ふべき鐵道を、女の力で擔つたのでございます、所が戰爭が終つて國家の財政が窮屈になつたからと云つて、赤字補填の爲に、女は生活の主體をなして居らないから、家庭へ歸れば宜いと云ふ風にして、女が馘首の第一の槍玉に擧げられると云ふ状態でございます、女の人達は御用濟みだからと云つて表へ放り出されるやうな恰好では、餘りに良い政治が行はれて居るとは申されないと思ひます、例へば茲に國鐵從業員六十四名を基準に致しまして、調査致しました結果を申上げて見ますれば、其の中の九名は生活の主體をなして居る者でございます、又其の中の三名は自分で生活の全部をして居る人です、此の人達は身寄があつても、生活保護の該當者であつて、寧ろ偶には其の人達の面倒を見てやらなければならないと云ふやうな状態でございます、又殘り五十二名は九〇%其の收入を家へ出して居る、皆で家中が出し合つて食べて居ると云ふ状態です、尚ほ一層此の種類を調べて見ますと、從業員の娘とか姪とか云ふものが多いさうでございます、中には戰爭に行つた儘歸つて來ない方も澤山ございますさうです、さうして斯う云ふ人達が失職すると云ふことは、明日から生活に困ると云ふことになつて、政府もあの三十四億の生活保護では、そんなに多數の人を保護出來ないと思ひますから、此の際先程御尋ね致したのですけれども、一般の男女を基準とした所の養老年金のやうなものを設けるとか、或は他に是等の人達を救ふ社會制度を設けるとか云ふことが、今日ない場合に、馘首は一應出來ないのではないかしらと思ふのでございます、又此の馘首に對しまして、政府の方の御意見は如何かと申しますと、國鐵では勞働に堪へないと云ふやうなことも、一例に擧げられて居るらしうございますけれども、もう女子は未熟どころではない、戰爭中に能く仕事にも熟練して居りますし、又怠け者であるとか、或は其の任に合つて居ないと云ふやうな方々は、昨年の十一月と本年の二月に十一萬人も馘首をし、篩に掛けて、もう良い者ばかり殘つて居ると申して居ります、若しどうしても國の臺所の賄ひが窮屈で、馘首しなければならないと云ふことになりますれば、是等の人はどうしても闇の女に流れて行く虞が重々ございますし、もう昨年馘首された者の中には、大多數の者が闇の女になつて居ると云ふやうな状態でございます、それでもどう云ふ風にやり繰りをしても馘にしなければならない者を出す場合には、恩給法もなければ、又社會的に之を救濟する特別の親切なものがないからには、明日の糧に困るのでありますから、失業保險の制定とか、或は失業の手當等のことに付て詳細を御伺ひしたいと思ふのであります、恩給に關聯して斯う云ふことを尋ねるのはと申されるかも知れませぬが、女子ばかりでなく男子に取つても重大問題だと思ひます、又今度の國鐵の馘首に際しましては、男子を基盤に置いて、生活の負擔の一番輕い者から段々に馘にしたら宜いと思ふのでありますけれども、さう云つたことと睨み合はせまして、失業保險の制定及失業手當に對する詳細を知らして戴きたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=28
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029・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致します、國鐵の馘首に付きましては、實は私の所管でありませぬので、どう云ふ數字になつて、どう云ふ方面から馘首するかと云ふことは細かくは承知致して居りませぬが、馘首されましたことが、それが生活保護なり、失業救濟なりの面からどう云ふ風になつて行くかと云ふことに對する範圍に於て、御答へしたいと思ひます、只今軍需補償打切り其の他企業整備と云ふことになりますると、是は國鐵は國家の經營でありますから、其の金には困らぬと思ひますけれども、一般會社などは、やはり預金が第二封鎖などになつたりする關係で、俸給の支拂などに困るだらうと云ふこともありまするので、さう云ふ點に付きましては當分の中、俸給の支拂には困らぬやうな措置を先づ執る積りで居ります、それから辭める人に對しては、勿論やはり退職手當を日本の慣行に依り、或は約束に依つて拂ふことと思ひまするが、慣行及び約束のないものに付きまして、最低限度なり、或は大體の基準を示して、是れ位のものを拂ふべきものだらうと云ふことを、政府から明示する積りで居ります、それから失業手當と云ふ問題は、國庫からは只今出す積りはありませぬ、失業保險の問題も、是は今社會保險調査會で制度を研究して居りまして、大體成案も得られるのではないかと思ふのでありますが、成たけ早く之を法制化致したいと云ふ積りで居りまするけれども、勿論此の議會には間に合ひませぬ、さうなりますると、問題は失業對策の問題で、之をどうやつて行くかと云ふことでありまするが、此の面に付ては六十億の公共事業と云ふものが根幹になります、それから進駐軍の住宅を建てるとか云ふやうな問題、或は戰災地の跡片付をしたり、區劃整理をやつたりすると云ふ點が重點になりまするが、其の外尚ほ此の失業者の「プール」を作りまして、都會地に於きましては、其處で機動的に色々道路の修繕とか、戰災地の跡片付のやうな仕事をやらして行くとか、或は授産場を設けるとか、共同作業所を設けるとか、職業補導所を設けるとか云ふことで、出來るだけ收容をし、又知識階級の人及び技術者に對しては、特別の就業の補助をして行くと云ふやうな態勢を執りまして、出來るだけ之を吸收して行くやうにやる計畫を進めて居ります、特に都市の面に付ては餘程重大な關心を拂はなければならぬ、さう云ふ點に於て國鐵の馘首された御方などは、さう云ふ場合の失業救濟の目的になることと思ふ次第であります、尚ほ生活保護の面は、失業者なるが故に直ちに生活保護の方で扶助を與へると云ふ譯ではありませぬ、失業者でも生活の出來る人は扶助を與へませぬ、又失業者であつて働ける人——勿論身體の工合が惡いとか、或は子供が居つてどうとか云ふので、働けぬ人で生活のやつて行けない人は其の目的になりますけれども、働く意思のある人は失業救濟の面でやつて行く譯であります、併しながら働く意思は持つて居るが、どうしても働く機會がない、さうして貯蓄もなくて生活が出來ぬと云ふ者は、やはり生活保護で救濟して行くと云ふことにならうと思ひます、だから總て生活保護に來るのではなくて、生活保護に來るのは失業者の中の一部だと思ひますけれども、さう云ふ意味に生活保護法を適用して行く積りで居ります、さう云ふ風に御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=29
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030・松尾トシ
○松尾委員 只今厚生大臣の御話を聽きまして、色々な施設を以て失業對策に當つて居ると仰しやいましたけれども、茲に振當てる場合に適材を適所に當てて戴かないと、或る人には其の仕事が適當でなく、あれは怠け者だと一概に言はれて、二回目には就職させて戴けないと云ふ状態を隨分聞いて居りますから、其の點を能く御計りを願ひたいと思ひます、又今失業救濟と云ふ問題を御聽き致しましたけれども、失業を致しまして、結局の所、私が先程申しましたやうに生活保護に該當すると云ふ者は、今日失業すると明日から困るのです、其の場合には生活保護に該當しない失業救濟でやつて行くと仰しやいましたけれども、失業してから今度就職するまでの間を、失業救濟に依つて何か恩惠とか、或は救濟を受けられるのでせうか、それを御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=30
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031・河合良成
○河合國務大臣 實際は總て運用の問題になつて參りますので、是は御承知の通りに全國に亘る組織でありますので、末端まで間違ひなくやつて行くと云ふことは、實は私も此處で言明致しましても仕樣がない話ですが、出來るだけ誠意を以て、全體の運用の完全を期したいと考へで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=31
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032・松尾トシ
○松尾委員 さう云ふ點で、地方などの縣廳なんかに居ります役人は、非常に「スロー」で駄目なんです、ですから此の際新しい進歩的の官吏を入れまして、さう云ふ所に當らして戴きたいと思ひます、失業した者にして見ますと、命掛けの問題でございますから、篤と御願ひして置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=32
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033・北浦圭太郎
○北浦委員長 本日は是で散會致したいと思ひますが、如何でございませう
〔「賛成」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=33
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034・北浦圭太郎
○北浦委員長 左樣に決します、本日は是にて散會致します
午前十一時五十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009010159X00419460820&spkNum=34
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