1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
生活保護案(政府提出)
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昭和二十一年七月二十五日(木曜日)午前十時十五分開議
出席委員
委員長 庄司一郎君
理事 小柳富太郎君 理事 齊藤行藏君
理事 原捨思君 理事 吉川兼光君
竹内茂代君 大島定吉君
長谷川保君 川越博君
小池政恩君 富田ふさ君
坪川信三君 日比野民平君
澤田ひさ君 松尾トシ君
平川篤雄君 久保猛夫君
田中重弥君 山口好一君
中山たま君 有馬英二君
永井勝次郎君 松谷天光光君
川野芳滿君
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
法制局事務官 井出成三君
外務事務官 山中徳二君
内務事務官 郡祐一君
大藏政務次官 上塚司君
大藏事務官 江澤省三君
大藏事務官 石原周夫君
厚生政務次官 服部岩吉君
厚生事務官 勝俣稔君
厚生事務官 葛西嘉資君
厚生事務官 加藤精一君
農林事務官 笹山茂太郎君
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本日の會議に付した議案
生活保護法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=0
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001・庄司一郎
○庄司委員長 それでは是より開會致します──齊藤行藏君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=1
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002・齊藤行藏
○齊藤(行)委員 私は初め農林省當局に御尋ねしたいことがあるのですが、まだ御見えになつて居らないやうでございますから、極く簡單に本當に二、三の點を厚生當局に御尋ねして見たいと思ひます
此の第三條の扶養義務者が扶養をなし得る者には、此の法を適用しないと云ふやうな條文があるのでありまするが、憲法が改正されまして家族制度に變革がありましたる場合に、此の扶養義務者と云ふものの性格に、多少今の考へと違つた考へが挿入されるのではないかと云ふやうな疑念もあるのでございまするが、此の扶養義務者と云ふのは、今はどう云ふことを現行の民法を基礎にして御考へになつて居るのか、其の點を一點御伺ひ致したいと思つて居ります
其の次に第二條の問題でありますが、從來の醫療保護法みたやうなものでやりまする場合に、其の醫療費が他の醫療費に比較致しまして洵に低廉である、さう云ふことから使ふ方も非常に肩身の狹い思ひをして使つて居るし、又其の治療に當る醫者の方面も、何となしに之を嫌厭すると云ふ傾向がてつたのでありまするが、今回此の尨大な豫算を以て御始めになる此の法案に依つて、醫療の費用の點はどのやうなことを基準にしておやりになるのか、此の二點を御伺ひ致したいと思つて居ります、唯それだけであります、何れ農林當局が御見えになりましたら、農林當局に御尋ねしたいことがあるのでありますが、唯其の二點を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=2
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003・葛西嘉資
○葛西政府委員 御答へ申上げます、扶養義務者は、御指摘になりましたやうに、現行民法を基礎にして考へて居ります、御承知のやうに、夫婦、直系血族或は戸主、兄弟姉妹と云ふやうなものの間に於ける扶養義務の關係が民法で規定してありますので、此の範圍のことを一應考へて居ります、何れ民法等で此の扶養義務者の範圍が變つて參りますれば、自然此の方もそちらの方の關係で變つて參ると思ひますが、只今の所では現行民法を基礎として扶養義務者のことを考へて居ります、是は國が責任を以て生活困難な状態にある者を保護すると云ふ建前になつて居るのでありますが、御承知のやうに、民法に於ける扶養義務の關係がありまして、それと此の法律との調和を此の點で圖つて行かうと云ふやうな考へ方で、現行民法を基礎にして居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=3
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004・服部岩吉
○服部政府委員 齊藤さんの第二點の御尋ねに對しまして御答へ申上げます、醫療報酬に關する現在の取扱方針と致しましては、醫師會、齒科醫師會等に於きまして、總會の決議を以て醫療報酬標準の額を決定して、之を各會員に遵奉せしむることと致して居ります、政府は著しく不當な醫療報酬を請求する場合に必要なる監督取締をなすことと致して居りますし、現行の社會保險診療料金は、日本醫師會及び日本齒科醫師會等と社會保險當局との間に於きまして協定を致しました上に、且又日本醫師會及び日本齒科醫師會一般の所謂慣行料金を右の社會保險料に一致せしめるやうに致して居る次第であります、隨て今回の保護法に依りまする診療費の建前と致しましては、此の國民健康保險組合の醫療報酬と申しますか、料金を基礎と致しまして算定致して居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=4
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005・庄司一郎
○庄司委員長 齊藤委員はそれで宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=5
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006・齊藤行藏
○齊藤委員 宜いです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=6
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007・庄司一郎
○庄司委員長 農林關係がまだ見えませぬから、一應保留なされては如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=7
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008・齊藤行藏
○齊藤(行)委員 保留致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=8
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009・庄司一郎
○庄司委員長 それでは日比野民平君に發言を許します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=9
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010・日比野民平
○日比野委員 私は本法、國民生活保護の消極的方面に於ては稍稍是で目的を達するであらうと思ひますが、政府の意圖が、國民生活安定の根本方策に如何なる所見を持つて居られるかを御尋ねしたいと思ひます、私はそれには先づ第一、人口問題の解決が一番の根本であると思ふのでありますが、徳川時代には、御承知の通り凡そ我が國には千五百萬位の人口があつて、それすら時々飢饉に襲はれまして、國民は非常な餓死をしたと云ふやうなことが歴史に明かであります、然るに我が國の現状は敗戰の結果、領土は殆ど徳川時代と同じやうなものになりまして、もう植民地も失つて、資源の主産地も失ひ、此の狹小な國土に只今七千數百萬の國民が、此の食糧難と物資難に非常な苦惱を續けて居りますが、之をどうして養ふか、今後の講和に於きましてどうなりますか、大體船舶は取られてしまひます、工業設備の大部分も取られます、交通設備の一部分も取られる、貿易も許されない、科學は日本は世界の水準より貧弱だ、其の時に於きまして、私は工業立國で此の國内の人口を養ふのも頗る困難であると思ふのであります、然るに食糧増産の方はどうであるかと云ふと、最早私は如何に農民が努力しても、限界點に達して居ると思ふ、然らば移民はどうであるかと云ふと、最早今引揚げて來るやうな状態で、移民は將來殆ど見込はない、植民地の獲得などと云ふことは、夢にも想へないやうな時代になつて來たのであります、此の狹小な國土に七千數百萬若しくは八千萬の人間が互ひに生存競爭の激甚な中に居りまして、道義は頽る、食ふ物は足らない、之に對して政府には大いなる國策がないのであります、私はどうしても此の食糧難の我が國に於ては、是れ以上人口を殖やすと云ふことは到底許さるべきことではない、「マッカーサー」司令部は曾て日本の人口は四千五百萬位が適當ではないかと言つて居られたのであります、所が今居ります七千數百萬を四千五百萬程度に減らすと云ふことは出來ぬのでありますから、私は政府は優生學的に早く此の日本の人口問題解決の爲に産兒の制限をする必要がある、之に對して政府は立法して産兒を制限するの意思があるかないかと云ふことであります只今、戰後の一時的現象として人口が減りつつありますからさう云ふ必要はないと仰せになるかも知れませぬけれども、私は大和民族の人口増加が只今停頓して居るのは、唯食糧問題や敗戰の結果の一時的現象であつて、我が民族はまだどしどし殖える見込があると思ふのであります、之に對して政府は根本對策として人口問題の解決に熱意がないのでありますが、如何なる御所存であるかを第一に御伺ひ致します
次に近頃國土計畫を見ますと、政府の發表せられた所に依ると、農村に五千萬の人口を、都市に三千萬の人口を配分すると言つて居られますが、農村は御承知の通り今日最早飽和點に達して居るのであります、都市から農村へ左樣な人口を移轉させれば、農村の平和は破壊せらるると思ふのでありますが、政府はそれをおやりになるのか、如何なる構想に於ておやりになるのか、それを御伺ひしたいと思ひます、先づ順次一つづつ御聽き致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=10
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011・服部岩吉
○服部政府委員 御答へ致します、只今の御尋ねは尤もな御尋ねでありまして、戰後に於ける人口政策に付ては、現在幾多の議論が鬪はされて居るのであります、そこで戰後の人口政策の要點は二つの點にあると考へて居ります、一つは急激に縮小した國土に多數の人口を如何に收容するかと云ふ問題、即ち如何にして人口の收容力を高めるかと云ふことであると思ひます、現在の内地人口約七千四百萬人に引揚者、復員者及び戰後の出産増加數を加へますと、戰後には約八千萬人に近付くであらうと考へられるのであります、之に對しましては次の對策が必要であると考へて居ります、第一には、國土の開發に依りまして食糧生産を増大すると共に、農業人口の收容力を擴大して行くと云ふこと、それから次は工業人口の收容力を高めると云ふこと、此の爲には平和産業の再建と共に、公共事業の實施が必要である、斯樣に考へて居るのであります、次に資質の保持向上を圖ることが必要である、終戰後の國民生活の窮迫に因る死亡率の上昇、國民體力の低下、結核等に因る所の國民保健の惡化が考へられるのでありますが、此の爲に致は公衆衞生知識の向上を中心としまして、衞生醫療對策の強力な遂行を圖つて行くと同時に、生活保護竝に失業對策の適切な運營が認められるのであります、以上の情勢に鑑みまして産兒制限を認める必要なきや否や、人口輕減の方法と致しまして産兒制限を公然と認めることは、政府と致しましては愼重なる考慮を拂つて居る次第であります、即ち産兒制限は極めて容易に人心に瀰漫する傾向がある爲に、政府が之を放任すれば出生率の甚だしい低下を招き、而も一度人口漸衰の傾向を辿りますと、之を防止することが極めて困難であると考へられる、「フランス」等の例を示すことが出來るのであります、即ち低腦、精神病者或は病的性格者等、精神缺格者は産兒制限を行はず、隨て一般の出生減に反しまして、寧ろ劣惡者が増加致しまして所謂逆淘汰の結果を見ることがあるのであります第三と致しまして、失業問題に關しましては、今後出生する乳幼兒が職業年齡に達するまでは産兒制限の效果は現はれず、又食糧難も少くとも生後一年までは、食糧事情の緩和に付てさう大きな效果を期待することが出來ないやうに考へられるのであります、廣義の産兒制限に對する政府の取扱方針と致しましては、産兒制限の方法と致しましては、妊娠中絶、或は手術又は「レントゲン」照射に依りまする不妊及び避妊の三つのものが擧げられるのであります、妊娠中絶は刑法に依つて堕胎罪、手術又は「レントゲン」照射に依る避妊は、優生法に依つて禁止されて居るのであります、但し母胎に危險を生ずる虞のある場合、即ち優生法第十六條に依つて除外例が認められて居るのでありますが、此の適用に付ては成べく寛大に、成るべく容易に取扱はれるやうに今後運營を圖つて行きたい、斯樣に考へて居ります、避妊に付ては、國民保健上有害な避妊用器具等の販賣が現出致しますので、現在是は相當に取締つて居る次第であります、以上御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=11
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012・日比野民平
○日比野委員 次に私は戰災保險の打切りに付て御尋ねしたいのであります、是は、戰災者の起ち上る上に非常な影響がありますが近頃噂に依りますと、三萬圓を程度として、あとは全部打切ると云ふ説が流布せられて居りますが、それが事實かどうか御尋ねしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=12
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013・服部岩吉
○服部政府委員 是は大藏省關係に屬しますので、私の方から答辯を申上兼ねますから、左樣御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=13
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014・日比野民平
○日比野委員 次に私は引揚民の對策に付て、先般本會議に於きまして決議案が上程になりましたが、其の後政府が御打ちになつた手を承りたいのであります、今滿州に於きまして同胞が非常な苦しみを受けて居るに付て、政府は「ポッダム」宣言の條項に依りましても、又人道的見地から言ひましても、もう少しく外事的に宗教的に大きな交を御打ちになつたらどうか、あの後新聞を見ましても、何等政府の手が打つてないやうでありますが、私は之を日本赤十字社なり或は「ローマ」法皇なり、色色の方面へ外交的手段を以てあの苦難に喘いで居る所の同胞引揚に對して、政府はもう少しく積極的な手を御打ちにならぬか、又一方に於きまして政治的に「ソ」聯と非常な親しみのある共産黨日本にもがありますから、さう云ふ人を「ソ」聯へ送りまして、我が同胞引揚に對する所の對策を政府は御樹てになつても宜からうと思ふのでありますが、あの後如何なる手を御打ちになつたか御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=14
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015・服部岩吉
○服部政府委員 只今御尋ねの問題は外務省關係に屬しますので、一寸私の方から答辯を致し兼ねます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=15
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016・庄司一郎
○庄司委員長 此の際各委員御一同に御參考の爲に申上げて置きます、質問の順位に宛てられました方は、答辯を求める關係各省の局長なり政務次官なり大臣なり、委員長の方に當初に於て御申込を願ひ、委員長の方は事務當局をして成べく各質問者に對し滿足に御回答の出來得る主管官廳の政府委員を當らしめたいと考へて居りますので、豫め答辯御要求の政府委員等の御註文を御願ひ申上げて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=16
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017・日比野民平
○日比野委員 次に御尋ね致しますのは、軍人軍屬の恩給は全部廢止になりまして、殊に御氣の毒なのは、遺家族、傷痍軍人の恩給であります、然るに一方に於きましては、戰爭中軍部の手先となつて相當活躍しました官吏諸君の恩給はまだ現存して居るやうでありますが、一方軍人と比較致しまして官吏のみ恩給を受くると云ふのは甚だ不合理であると思ふ、政府は之に對して官吏も恩給を廢止するのが當然であると思ふが、所見如何発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=17
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018・服部岩吉
○服部政府委員 只今御尋ねの問題は、一般官吏の恩給に關しますので、恩給局の管理に屬します、唯御説の傷痍軍人其の他の恩給が失はれたり、或は遺家族に對する扶助が失はれたと云ふのは、御承知の國際關係から已むを得ない、實に忍び難い點と我々は感じて居りますが、官吏の恩給に付きましては恩給局の方から御答辯を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=18
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019・日比野民平
○日比野委員 次に私は國民健康保險に付て御尋ね致しますが、只今國の民健康保險はどうも日本の國情に合はないのか、醫者が喜ばず、患者も喜ばず、之に掛かるものは丸損と云ふことでありまして、開店休業にまで陷つて居る始末であります、是はなぜかと云ふと、町村單位の組合でありまして、危險分散の範圍が狹いのであります、私は國民健康保險をやるならば、一歩進めまして國營でやるのが一番正しいのではないかと思つて居りますが、政府は國營の意思はないか、又若しそれが出來ないとすれば、只今の組合でやる場合僅かの補助の増額位では、私は到底此の國民健康保險の健全なる運營は出來ないと思ひますが、政府は之に付て餘程思切つた増額の意思があるかどうか、大藏省にも關係しますが、一つ厚生省の方面の御決意を承りたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=19
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020・服部岩吉
○服部政府委員 國民健康保險組合の問題に付て御尋ねになりましたが、國民健康保險組合の不振の原因は多々あると存じます、第一に、危險分擔の區域が町村では餘りに狹過ぎて一般の者が歡迎しない、之を國營にする考へはないか、是は非常に剴切な御質問と思ふのであります、私個人と致しましては、今日日本の國民全體の健康を完全に保持して行く爲には、寧ろ國營に持つて行つた方が宜いと思ひます、現在に於きましては、調査會に於きまして其の點は審議を致して居ります、次に國營に移るか移らないか分りませぬが、現在の町村單位の健康保險組合が現在全く行詰つて居りますることは、財政難の結果が第一に擧げられると思ふのであります、第二の點としては、之に對する醫者の協力が極めて薄いと云ふことが考へられると思ひます、而も開業醫の相當完備して居りまする地方は一層不振の状態にありますが、開業醫に惠まれないやうな地方に於きましては、健康保險組合と云ふものは相當に重要視されて、而も唯一の醫療機關として居る譯であります、隨て現在の醫療費が極めて低廉でありました爲に、本年の三月頃に相當の値上げを致したのでありまするが、是が爲に簡易健康保險組合に於きましては、一時に保險料を増額することは、却て保險組合を壊してしまふ結果になりますし、どうしても是は國家として一歩進んで補助を増額しなければ、到底此の儘持續することは出來ないと云ふ状態にあるのであります、私と致しましては、是は出來るだけ政府の方に補助を多く出させ、さうして此の保險組合を益益發展させ進展させて行くやうに持つて行きたい、現在大藏省方面に對しましても折衝致して居る状態でありますからして、何れ適當な機會に大藏省方面からも之に對して御答へを願へると思つて居りますので左樣に御承知を願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=20
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021・庄司一郎
○庄司委員長 日比野君に一寸申上げます、只今あなたの第三問に關する御答辯の該當者に當ります外務省管理局長山中政府委員がお見えになつて居りますから、此の際御答辯を願ふことに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=21
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022・山中徳二
○山中政府委員 御答へ致します在滿同胞の引揚促進に付きましては、過般院議を以ちまして御鞭撻を受けました外務省と致しましては、從來よりも色々現在の事情で許されまする手段を講じまして、其の引揚の促進を圖つて居る譯であります、殊に御承知のやうに、在滿同胞の現状より致しまして、更にもう一冬越しますることは、一層多くの犧牲を見ることでありまして、私共としては洵に忍び難い所であります、出來るだけ本年内に引揚を完了させたいと云ふことで、引續き關係方面等に折衝致して居ります、御承知のやうに、只今の我が方の立場と致しましては、直接他の機關に連絡を致しますことは許されて居ないのであります、總て「マッカーサー」司令部を通じまして懇請をすると云ふ建前になつて居ります、其の他の第三國等と直接交渉し懇請することは許されない、「マッカーサー」司令部を通じまして懇請を致して居ります、尚ほ現地に人を派遣致しますことも只今關係方面より認められて居ない、唯御承知の通り「マッカーサー」司令部に於かれましては、本件に付きまして非常な關心と御同情を得て居りまして今月の上旬にも特に文書を以ちまして、私共の方に「マッカーサー」司令部としては、本件に付ては絶えず念頭を去らず研究して居る、研究と言ひますか、引揚を促進することは檢討して居る問題だ、凡ゆる方法と手段とを講じて一刻も早く引揚が完了出來るやうにしたいものだと云ふことを文書を以ちまして回答して下さつて居るのであります、此の方面の色々な機會に於ける熱心なる御協力に付きましては、新聞紙上等でも御承知のことと思ひます、私共の方と致しましては、只今申上げました在滿同胞の窮状に鑑みまして、引揚の急速促進に對しまして更に一層の努力を引續き拂ひたい、斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=22
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023・庄司一郎
○庄司委員長 此の際齊藤委員の保留されました農林關係に對すが質問は、農林省開拓局長笹山茂太郎君が御見えになつて居りますが齊藤委員、此の際御希望ならば如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=23
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024・齊藤行藏
○齊藤(行)委員 農林大臣なり農政局長の御見えになるまで保留して置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=24
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025・日比野民平
○日比野委員 次に、醫藥分業に付ては固より厚生省で相當の計畫が出來て居ると思ひますが此の際政府は醫藥分業の勇斷を持つて居られるかどうか、御伺ひしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=25
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026・勝俣稔
○勝俣政府委員 醫藥分業の問題は多年の問題でございまして、それだけやはり難かしい問題でございます、目下研究中でございまして、此處で申上げることの出來ないことを洵に遺憾とする次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=26
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027・日比野民平
○日比野委員 醫藥分業は二十年以來の問題で政府で未だ肚が決つて居ないのは甚だ遺憾でありますが、此の際私は藥品も足らぬ時には、醫藥を分業して、各其の能率を發揮させるのが一番適當と思ひますが、至急御研究願ひたい
次に國民健康保險組合は、組合立の自分の病院を持ち醫者を持つのが一番理想的であると思ふが、之に對する政府の所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=27
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028・服部岩吉
○服部政府委員 民主主義の下に於きましての今日に於ては、醫療の社會化と云ふことが極めて必要であると私は痛感を致して居ります、隨て此の健康保險組合が一つの醫療機關を持つと云ふことは、最も大切な問題で、私は時宜に適して居ると考へます、唯國民健康保險組合と限つた問題でなく、出來るだけ所謂公的の病院、或は町村營であるとか、或は又市營であるとか、斯う云ふやうな所謂公的な意味を持たせた所の醫療機關の増設を圖つて行くと云ふことが一番必要である、唯此の保險組合と云ふ單なる一つのものに限らずして、公的な病院を出來るだけ數多くする、但し此の國民健康保險組合と云ふものの維持の上から申しますと、寧ろ醫療機關と云ふものを設けまして、之を徹底的に利用することが自ら國民健康保險組合を發展せしめる唯一の方法であると云ふことを考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=28
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029・庄司一郎
○庄司委員長 日比野君の先刻の第四の御質問、官吏のみに恩給云云の件に關しまして、恩給局長は政府委員になつて居りませぬので法制局第一部長が只今御臨席でございまして、御答辯をなさるさうでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=29
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030・勝俣稔
○勝俣政府委員 先程御質問の場合に出席致しませぬでしたので、他の政府側の者から御質問の御趣旨を承りまして、大體それに依つて御答へ致しますから、若し誤つて居りましたら改めて御追究を願ひたいと思ひます、先程政府委員の方から御答へ致しました通り、軍人恩給の廢止に付きましては、聯合軍側からの指令が出まして、其の結果廢止致したのでございます、此の場合に一般官吏の恩給問題も、向ふの指令はないけれども、當然研究をすべきものであるとしまして政府部内では之に付て相當な研究を遂げた次第でございます、此の官吏の退職後の問題に付きまして、現在一般の給與者に付ては勞働年金とか船員年金と云ふやうな制度がございますが、官公吏に付ては一應適用致して居りませぬ、今後さう云ふ社會保險の制度と關聯しまして、官吏或は官廳使用人も全部さう云ふものに入れることにしたらどうかと云ふ點に付まして、現在厚生省の中に設けて居ります社會保險の研究の調査會が目下研究を致して居る次第でございますが、只今の所と致しましては、官吏は恩給制度だけを取上げて簡單に結論が付きませぬので、民間の使用人と比べまして在職中の給與、退職時の給與其の他が區區でございます、是等の問題を一諸に考究致しませぬと、簡單に年金保險の方だけにどう斯うすると云ふ譯にも參らないのでございます、其の民間の年金保險に統合すると云ふ問題を止めて置いて、ではすつぱり官吏の恩給を止めるかと云ふことになりますと、在職中の給與をうんと上げる、或は退職時に一時に金を與へると云ふやうな色々の問題を解決しなければなりませぬ、之に付きましては財政の状況もありますし、或は又他の官吏制度一般の問題等もございまして只今軍人恩給が止つたから、直ちに是と均衡を取つて直ぐに止めると云ふやうな結論に至つて居りませぬ、此の問題は今後憲法改正の實施に伴ひまして、官吏法と云ふものは將來相當に檢討されると思ひますが、其の場合に於て一つの問題として取上げたいと思ひます、只今の所政府側と致しまして、文官一般の恩給を止めると云ふ考へを持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=30
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031・日比野民平
○日比野委員 私は國民生活の上から食糧問題に付て御尋ねをしたいのでありますが、農林大臣が見えないやうでありますから是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=31
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032・庄司一郎
○庄司委員長 日比野君は農林關係の御質問を保留なさるのでありますか、全然撤回なさるのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=32
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033・日比野民平
○日比野委員 留保して打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=33
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034・庄司一郎
○庄司委員長 保留がなされたことに了承致します、長谷川委員の御發言に移ります──長谷川君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=34
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035・長谷川保
○長谷川委員 私は少しく長くなるかとも思ひますが自分自身も長い間社會事業に打込んで來たものでありますし、今後全生涯を打込むものである、殊に今日の質疑に付きましては、全國の社會事業をやつて居りまする人々の意圖をも含め御質問申上げるのでありまして、委員諸君及び政府當局に於かれましては、恐縮でありますが、其の御積りで少しく忍んで戴きたい、又十分懇切なる御説明を願ひたいと思ふのであります
第一に御尋ね致したいことは、本法の根本精神であります、先般本會議に於かれましても此の點は質問があり、政府に置かれましても單なる救貧的なものではないと云ふやうな意味の御答辯があり、昨日本委員會に於ける懇談に於きましても、關係方面から仁惠主義に陷らないやうにと云ふ御注意があつた趣きを伺つたのでありますが、昨日戴きました資料の此の本法の對象となります八百萬の内譯を拜見致しましても、本法の對象となります方々が、戰災者或は引揚者、或は戰歿者の遺家族、或は母子、或は失業者と云ふやうな方方でありまして、謂はば戰爭の犧牲者であります、實に歸る當てのない父親を待つて居りまする子供や、或は又夫を待ちまする婦人や死んだと云ふ通知を受けても、どうしても死んだと思ふことの出來ぬ、杖とも頼む子供を取られました兩親達、是等の人々のことを考へますると、無一物になつて參りました引揚者と共に、是等の人々の生活をどうしても國家は保障し、是等の方々の生活を確保する所の責任がある、其の責任が本法とならなければならないと私は確信するものであります、飽くまでそれ等の人々の生活を保障すると云ふ責任が國家にあると云ふ考へ方が本法の根本精神とならなければならないと思ふのでありますが、私は本法を熟讀致しまして、どうしても此の中に教育性、或は指導性と云ふものが見えないのであります、成程口では仁惠主義ぢやない救貧法ぢやないと仰しやいますけれども、やはり母子保護法或は救護法等々を之に依つて廢するのであると、斯う言うて居られまする其の言葉の中に、其の文章の中にどうも單なる保護的な、或は慈惠的な臭みと云ふものを感ぜざるを得ない、或は又本法を讀みまして更に厚生省で用意をして居りますと申しまする民生委員令の案、私はそれを拜見したのでありまするが、其の附則にありまする現在の方面委員が其の儘一應民生委員になると云ふ考へ方等から推しましても、或は又市町村の吏員等が果して在來の救貧的な、或は慈惠的な考へ方から頭の切替が出來るであらうか、是は本法實施に當りまして、其の點を餘程徹底させませぬければ、是は不可能だと思ふ、是等の、實に歸る當てのない子供を待つて居りまする兩親達や、歸る當てのない夫、否死んでしまつた夫や親を戀ひ慕ふ所の人々の心情と境遇とを考へまする時に、是等の人々が今までの被保護者のやうな、如何にも肩身の狹い思ひを以て今後生活なさることを思ひます時に、是はどうしても徹底的に政府當局に於かれまして、此の草案の書直しをされると共に、又其の實施に當りましては、其の方途を十分に執つて戴きたい、隨て私は此の第一條に、是等の人々が生活を保障されるのは當然であると云ふ意味のことを書いてはどうか、第一條でなくても結構です、此の第一章の總則の中に、是等の戰爭犧牲者の方々が生活を保障されるのは當然である、それは國家の義務であると云ふことを當然書入れるべきであると云ふことを私は主張するのである、政府に其の意思があるかないか、其のことを伺ひたいのであります
次に第二條及び第三條は、私は是は例外だと思ふ、本法の目的とすることから考へると、こんなものは例外だと思ふ、此のやうなことを書く必要はないと思ふ、總則に於ては只今申しましたやうなことを高調して、こんなものは施行令に書けば宜しいのであると私は考へる、斯う云ふものを此處に置いたことに依つて、却つて本法の精神を實際に行ふ妨げになりはしないかと云ふことを思ふものであります
次に本法と社會事業法との關係はどうなつて居るか、殊に本法の第七條、第十一條などと社會事業法の第一條、第二條などとの關係は一體どうなつて居るかと云ふ點に付て御答へを願ひたい
更に憲法草案の第八十五條の公の支配を受けると云ふ條文でありますが、あの條文と本法に依る補助を受けまする施設、或は又社會事業法に依つて補助を受けまする施設との關係はどうなつて居るか是は全國の社會事業課長が多少心配して居りますから、此處で明確に御答へを願ひたいと思ふのであります
更にもう一つ伺つて置きたいことは、本法は一體個人を對象にして行ふのであるか、それとも又一家庭と云ふやうなものを對象にして行ふものであるか、其の點を根本的な問題として伺つて置きたい、先づそれだけを第一項目として御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=35
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036・河合良成
○河合國務大臣 只今の長谷川さんの御質問に御答へ致します、此の生活保護法の根本方針に付きましては、只今の御説御尤もでございまして、全面的に私共も左樣に考へて居ります、是は道徳的に申しますれば、人道を基本にした──人道主義を人間と云ふものは行はねばならぬと云ふ意味に私共は考へて居ります、之を法律的に申しますれば、國家の義務である責任であると云ふ風に解釋して居ります、併し御承知の通り、日本と云ふものは今將に移りつつある所であります、さうして今までの社會事業、社會施設、社會改良と云ふものは大體どう云ふ線に於て行はれたかと云ふことは、是は長谷川さんも能く御承知の通りであります、私も色々な關係で此の面のことに間接に關係を持つて居りまして、能く存じて居ります、どうしても今までの日本の思想と申しますか、今までの日本の建て方と云ふものは、やはり仁惠的な部類が非常に多かつたのであります、是は否定出來ぬことであります、是は今民主主義國家への轉換期にあるのでありますから、そこで頭を切替へねばならぬ、私自身の頭も毎日私共は鍛へつつあります、是ではいかぬ、是ではいかぬと氣持を取直して、さうして此の明るい民主主義の線に今切替へて居る所であります、總て是は國民全體がさうであると云ふことを認めなくではならぬと思ひます、其の間の法律でありまするから、理想的にはもう全面的に國家の義務であると云ふ所へすつかり持つて行かなくてはならぬことは申すまでもありませぬが、やはり此の移り變りの時節と云ふ「ファクト」を是非御念頭に御置き願ひたいと思ひます
そこでさうしまするとどうだと云ひますると、問題は主として運用に懸つて參ります、今御指摘の通りに、方面委員を中心にするので、それが果して理想的であるか市町村の委員を斯う云ふ風に使つて居るので、果して元の因習を百パーセント拭ひ取られるかと云ふ御質問でありましたが、私も是は「百パーセント」拭ひ取られるとは思つて居りませぬ、中々殘渣は殘ります、殘るけれども、此の殘る殘渣を如何にして取るかと云ふことが我々の努力の中心であります、又政府も國民全般も議會も、全部其の線に向つて進んで行かなくてはならぬ、是が努力の中心であらう、運用の方針も勿論さう云ふ風に行かなければならぬのであります、先日も各府縣から厚生課長が參つて、三百名ばかり集まつて居る席上でも申したのでありますが、是は非常な大變なことであります、非常な我々の義務である併しながら一面に於て、我々は此の戰爭の不幸な後の仕事をして居るけれども、又人間と生れて、此の廣い世の中、此の時と云ふものは、是だけ流れて居る間に、此の時に生れ合はせて國民的の斯う云ふ大きな仕事をすると云ふことの誇りを持ち、それに對する感謝を持つて、中々人間と云ふものは斯う云ふ立派な仕事をする機會はないものであると云ふことを私は高調致して居る次第であります、運用の面に付ては出來るだけ努力をしまして御期待に副ふ決心で居ります
それで法規の形の上に於ての御議論がありましたが、之に付きましては、大體私共は本法に於て十分だと思つて居ります、第一條に付て國家の責任であると云ふことを明示するのも一つの方法でありませう、併しながら其の點は憲法第二十三條に於て明示されて居る所でありまして、法律は生活の保障の爲に立案せられねばならぬと云ふ趣旨が明瞭に書いてあります、それを承けて此の法律は當然出來るのであります、勿論憲法は草案でありまして、未だ出來て居りませぬ、是も草案であります、未だ出來て居りませぬ、相呼應して之を承けて來て居ることでありますから、決して其のことは重複して書く必要はない、憲法の條章に依つて當然政府の責任としてやるべきことであると云ふことは明瞭なりと信じて居ります、又其の次に第二條の問題に付て、此處に置くのはどうかと云ふ御説もありました、是も一應御尤もの説でありまするけれども、此の法律に於て最も警戒しなければならぬのは、濫救、徒食、結局之に依存して人間本來の働かなくてはならぬと云ふ積極的な生産意欲、勤勞意欲をなくしては大變なことであります、國民の租税からなつた金で衣食をして何もやらぬと云ふことになると、是では國は滅びます、是はどうしても重要な點である、さう云ふ意味に於て緊まる所は緊まらなければなりませぬから、勿論相當な程度に於て重要さを持つた規定であると云ふ風に私共は考へて居ります
それから本法は個人を目標にするか、家族を目標にするかと云ふ問題でありますが、是は個人を目標と致して居ります、尚ほ本法と社會事業法との關係に付ての御質問がありましたが、此の點に付きましては本法と社會事業法は並行的なものであると云ふ風に考へて居ります、各條項との關係に付きましては政府委員から答辯致させます、左樣御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=36
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037・葛西嘉資
○葛西政府委員 大臣から御答辯がなかつた點に付て申上げますが社會事業法と本法の關係は、大臣が御話のやうに重複致すのであります、隨ひまして補助金等の關係に於きましても、理論の上から申しますれば重複して出すことは差支へないことになつて居ります、唯此の生活保護法關係の保護施設から出します經費に付きましては收容されて居ります者の生活保護の費用も國の方から出すやうになつて居りますし、施設の方に付きましても若干のものを出すことになつて居りますので、他の此の適用を受けない施設の方が困つて居るやうなこともありまするから、實際の運用に於きましては、そちらの方に重點を注いで、社會事業法の施設であつて本法の施設でないものの方に、社會事業法の補助金は餘計流れるやうにはなつて居りますが、是は實際の運用の場合に、彼此れ調整をしてやつて行きたいと云ふ風に思つて居る次第でございます
それから現在の方面委員が其の儘民生委員になると云ふ原則に對しての御意見がありましたが、私共は今方面委員をしておいでになります方々は中には大變御熱心に能くやつて戴いて居る方々のあることも能く承知をして居ります、又長谷川さんが御述べになりましたやうに、中には此の際此の法律を第一線に於て執行して戴きます關係に於きましても、お年の關係であるとか其の他の關係から御代りを願ふことが適當であると云ふ方も、僅かではあるがあると云ふことを實際問題として承知致して居ります、さうして若し出來ますれば、民生委員令を改正致しました機會に、全部選任し直すと云ふことも一應考へられるのでございます、併しながら何と致しましても、三十億と云ふ大金を運用致しまする第一線機關を、今此の大事の時に全部さう云ふ爲に替へんと云ふ風な方針を制度として執りますことは、ゴタゴタを起しまして却て困ると云ふ風なことがあるのではなからうかと云ふ考へ方から、國の制度法制の上に於きましては、一應其の儘方面委員が民生委員になつて戴くと云ふことに致したのであります、併し地方の實情等に依りまして、或は改選期が近い時であるとか、或は左程の心配がない、適當の時期を御選び願ふことが出來ましたやうな場合に於ては地方々々に於て改選をして、若くて立派に働ける方に代つて戴くと云ふ風なこともやり得るやうな途を御承知のやうに開いてありますので、運用の方でさう云ふ風にして參りたいと考へて居ります
それから此の點も大臣から御答辯ございましたが、本法は個人を對象に致して居るのでございますが、金を給與致します實際面に於きましては、御承知のやうにやはり何と言ひましても經濟單位が一家で成立つて居るやうな關係から法律の建前と致しましては個人を對象に致して居りますけれども、金錢物品等を給與致します場合には、御承知のやうに世帶單位に物が渡つて行くと云ふやうなことに相成つて居ります
次に憲法の第八十五條と本法の保護施設竝に社會事業法に基く社會事業施設との關係に付てでございますが、此の點は先般本會議に於て大臣から既に御答辯があつたのでありまして、御承知かと思ひますが、もう一遍大臣が申されました趣旨を申上げて見ますれば、國の支配に屬せざる施設に付ては公金が出せないと云ふやうなことに相成つて居るのでありまするが、社會事業法にも、御承知のやうにやはり適當の監督を致し、監督に從はないやうな場合に對する色々な規定もございます、本法の施設に付きましても、斯樣な色々な規定が御承知のやうにございまして、社會事業法竝に生活保護法に基きます施設が國の公の支配に屬すると云ふやうに相成る譯であります、隨ひまして公金を是等の施設に對して出しますことは憲法の規定する所ではありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=37
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038・庄司一郎
○庄司委員長 長谷川さん少々御待ちを願ひまして、御諒承願ひたいと思ひますが、日比野委員の第二質問の、戰災者の戰災保險三萬圓程度云々の御質問に對しまして、先程より大藏省銀行局長江澤政府委員竝に大藏政務次官上塚さん、石原さん等が御見えになつて居りますが、此の際御答辯を御求め願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=38
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039・日比野民平
○日比野委員 戰災者に至大な關係のある戰災保險に付きまして、近頃の噂に依りますと三萬圓で打切ると云ふ説がありますが、それは事實であるかどうかを御伺ひしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=39
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040・上塚司
○上塚政府委員 御答へ致しますが、其の點はまだ今日此處に發表致す時機に達して居りませぬ、併し極めて近い將來に於きまして議會に法案が多分提出せられると考へて居ります、其の時まで御待ちを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=40
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041・長谷川保
○長谷川委員 先程の大臣其の他の御答辯で、大臣は仁惠主義からの移り變りの過程であると云ふ事實を考へるやうにと云ふ御話でありますが、私は例へば軍事扶助法に依つて、只今まで扶助されて參りましたやうな洵に氣の毒な、戰爭の爲に、國家の爲に、夫を或は息子を捧げて苦しんで居り、さうしてそれ等の人々を失つて居るやうな人々の生存を飽くまで保障するかどうか、私は後に色々申上げますが、本法の施行に付て色々修正して戴かなければならぬ點は多分にあると思ひますが、其の根本をなすことに付て伺つて置きたい、一體本法に依つてさう云ふやうな本當に國家の犧牲になられた人々文字通り犧牲になられた人々の生存權を飽くまで保障するか、それとも又場合に依つては或る程度の救助を與へて、後は見殺しにする積りであるか、其の點を本當の根本問題として聽いて置きたい
それから濫救と云ふ點では、私は他にも方法があると思ふ、他に濫救を防ぐ方法があると聞いて居りますが、其の點も後に申上げたいと思ひます、寧ろ濫救をする位に行かなければ、肩身の狹い思ひを其の遺族達に、被保護者達にさせなければならないと云ふ點を深く考へて戴きたいと思ひます、それ位にならなければ──豫算の點もありますけれども、精神としてはそれ位に行かなければ、市町村吏員にしても、或は民生委員諸君にしても、それ位の積りで行かなければ、それ等の本當の戰爭の犧牲者である所の孤兒や老人等に、如何にも肩身の狹い思ひをさせるのだと云ふことを私は考へますけれども、其の點もう一度大臣の御考へを伺ひたいと思ひます
それから先程の「リミット」の問題であります、それは豫算の總額に付ての問題であるか、それとも個人々々に對して保護の金を與へる、其の額の「リミット」であるか、それを伺つて置きたい
それからもう一つ、社會事業と本法との關係でありますが、社會事業法に依つて届出をして居ります事業──社會事業法の第二條を見ますると、其の一、二、三、四までは本法と全く同じ對象でありますが、此の社會事業法に依つて屆出ましたものが、又もう一度本法に依つて屆出をするのであるか、其の點を伺ひたいと思ひます、御答辯を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=41
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042・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致します、どう云ふ人に對して保障するか、どう云ふ人に對して生活保護法を適用するかと云ふ問題に付きましては、是は戰爭に因る色々な意味の犧牲者と云ふものが、御指摘の通り殆ど大部分であらうと云ふことは、私共も御同樣に考へます、併しながら建前は戰爭に因る人だけではありませぬ、横に一つの線を引きまして、其の線を中心にして、働く意思はあるけれども、どうしても生活が出來ぬ、又働く意思はあつても、働く能力がないと云ふやうな人を總て網羅する意味であります、其の點が第一に申上げなくてはならぬ點だと思ひます
それから飽くまでさう云ふ人々の生存を保障するかと云ふ御尋ねでありましたが、是は憲法にも生存權を認めて居ります、法律もそれに依つて動かなくてはならぬのでありますから、國家は生存を保障しなくてはならぬと云ふ點に付ては問題はないと思つて居りますけれども唯其の飽くまでと云ふ御言葉に對しまして──文字に付て申すやうでありますけれども、人間が生存しますと云ふことは此の保護法だけの關係ではありませぬ、色々外の制度もありますれば、又外の方法もある、是は非常に複雜な問題になりまするので、此の法律で、何でも彼でも飽くまで徹底的に百「パーセント」人間が生きる爲に責任を持つて行かなくてはならぬと云ふことだとすれば、少し強過ぎるやうにも思ひます、が大體是は、其の線から推して生活困難なる人の生存の爲に、金を上げたり、物を上げたりするのであると云ふことに付ては疑ひありませぬけれども、是だけで人間は總て生存するものでありませぬ、其の點も御考慮願ひたいと思ひます、勿論是は財政上の都合もありませう、例へば只今は東京と云ふやうな大都市に付ては、五人家族一月三百圓見當と云ふ風な補助額を考へて居りまするけれども、三百圓と云ふことで何處まで生活が出來るかと云ふことになりますと、それは其の御方の色々の環境、事情特定的に申しますれば、それで足らぬ方もあるしそれでどうやらやれる人もあると云ふ風になりまして、個人々々に當つて見ますれば飽くまでと云ふ譯には中々判定も付け難いと云ふやうな事情もあらう、さすれば一人々々の救護の程度、保護の程度と云ふものをずつと考へなくてはならぬことであつて、さう云ふことは事實問題として出來ることでありませぬ、それから又國家の財政としましても、もつと深く保護すれば宜からうと云ふことも考へられる場合もありませうし、是もやはりさう云ふ風にして餘り餘計金を使ふことになると、國自體も、「インフレ」促進其の他の點から、一體旨く立つて行くかと云ふ點から考慮しなければなりませぬ、兎に角日本は、今物にしろ、何にしろ、足らぬで苦しんで居る國でありますから、苦しんで居る國が起ち上らんとして居る矢先きであると云ふ、此の客觀的事情もやはり考慮しなければならぬと思まひすので、御趣旨の程は私共能く拜承出來ますけれども、飽くまでと云ふ御言葉に對して、はつきりした御答辯の出來ぬことは甚だ殘念に思ひます、併しながら見殺しにするつもりかと云ふ御話、さう云ふ考へは絶對に持ちませぬ、出來るだけ救つて行かなければならぬと云ふことに努力することは、是はもう疑ひないことであります
それから尚ほ保護と云ふことに付きまして、金で保護する場合もあり、物で保護する場合もある、又住宅などをどうする、着物はどうすると云ふやうな色々の問題がやはり生存と云ふことに伴つて來ることでありまして、此の法律としましては、主として金と幾分かの物と云ふことの線に沿つて居ると云ふことも御諒承願ひたいと思ひます
それから此の濫救と云ふことに付て、濫救する位に行かなくてはならぬと云ふ點、是は御氣持ちとしては御尤もであります、併し國家の仕事は、一面に於てやはり公正に行かなくてはならぬと云ふ、一つの國家的の仕事の制限を持つて居りますることも御考へ願ひたいのでありますが、兎も角も今までは殆ど行なかつたものを、今度は三十億の豫算を以て行くと云ふ所に、非常な飛躍的の性格があることを御考へ下されば、恐らく是は今の御趣旨と相遠からぬものに行くだらうと云ふことの事實の豫想は私持つて居ります
それから豫算の總額に付ての御質問がありましたが、是は一寸聽き洩らしましたけれども、大體は此の豫算は補充費の性質を持つて居りまして、此の豫算で足らない書には、豫備費なり、追加豫算なりで請求しなくてはならぬ、結局法律實施の爲に必要な經費は國家が持つのだと云ふ建前になつて居りますことを御諒承願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=42
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043・葛西嘉資
○葛西政府委員 社會事業法の届出を致したものが、本法に依る保護施設になります際には、もう一遍認可が必要であるかと云ふ御質問でありますが、結論を先に申上げますと、要る譯でございます、と申しますのは、本法に依る保護施設は、大臣から御話がございましたやうに、國が責任を持つて保護して參ると云ふことであります、斯樣になりますると、是等を收容致します保護施設に付きましては、其の施設或は人的な設備、それ等の點は國が責任を持つてやるものとして適當であるかどうか、十分な保護が行届くかどうかと云ふ風な點を見る爲に、認可を致しまして、公營のものと同樣にやつて行くと云ふやうな建前から、設備や人的な方面を加味さす爲に、もう一遍認可が要ることになります、御承知の通りに、社會事業法の方は、届出を致しまして地方長官が受理致しますれば、社會事業法の施設と云ふことになりますが、此の方はもう少し大きく考へて居りまして、地方長官の認可を受けて保護施設になる、斯樣なことになります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=43
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044・長谷川保
○長谷川委員 質問を第二の項目に移します、本法は實に劃期的な大保護事業の法律でありますが、本法施行に付きましては、私は餘程準備機關、推進機關が必要だと思ふのであります、それ等のことに付て一つ承りたいと思ひます、大體本法法案を見まして、私は今までの法律から見ますと非常に進歩的であると云ふことは認めます、併しながら此の法律を行ひますに付て、先程申しましたやうに、相當まだ根本的に直して戴かなければならぬ點があると思ふのであります、私は寡聞にして伺つて居ないのですが、此の法案を作るに付きましては、民間の御意見を相當聽いて下さつたのでありませうかどうか
それから此の法律を行ふに付きまして、早急に而も相當十分な、準備を要すると思ふのでありますがさう云ふ實施計畫に付ての準備を致しますやうな機關を、官民から適當な人を選んで作る意思があるかどうか、更に其の立てました計畫を實施するに付きまして、中央地方に相當綜合的な推進機關を作らないと、是は實效が擧らないと思ふが、其の御用意があるか、あれば具體的な其の御計畫に付て承りたいのであります、更に此の際さう云ふやうなものに備へる爲に、全國の社會事業の統制連絡研究機關、例へば中央及び各地にあります社會事業協會と云ふやうなものを統合致しまして、其の綜合推進機關にする意思はないか、是等の點に付て伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=44
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045・河合良成
○河合國務大臣 只今の民間の意見を聽いたかと云ふ問題に付きましては、政府委員から其の經過を御説明致します
それから實施計畫に付てどう云ふ考へを持つて居るか、殊に綜合的の機關を作るかと云ふ御尋ねでありましたが、此の點に付きましては、只今社會事業委員會と云ふものが官制上にありまして、それが活用されて居りませぬ、それで是は此の問題だけではありませぬが、失業對策の問題にしましても引揚援護の問題にしましても、厚生省としまして色々現下最も重大な急迫した問題があります、それ等に付て民間の意見を普く聽く積りで委員會を作つても居るのであります、或は參與制度などを作つても居るのでありますが、偖て今日委員會を作りますことに二箇月位掛つてしまふ、それは實際のことを申しますと、委員になる御方の「パージ」の關係なども色々審査しなければならぬと云ふやうなことで、さう云ふ制度の如き最近作つて見ましたら、結局今の時勢に合はぬやうな感じがすると云ふやうなこともありまして、と云ふのは、ずつと前に計畫し、それが出來上つた時と、此の「テンポ」の早い斯う云ふ時ですから、客觀的情勢に變化が來て居ると云ふことで實は其の點も困りまして、それで官制などは拔きにしまして、端的に問題の實際に觸れた協議會でも作つて行かうと云ふことに實は方針を變へまして、今それに對して努力をして居る所であります、併し此の問題に關する限り、幸に社會事業委員會と云ふものが官制の上に認められてあります、之を直ちに活用しまして、中央に於ては中央の委員會を作り、地方に於ては地方の委員會を作り、之を中心に考へまして、之を中心に考へまして、之に依つて民意を反映し、又民間の盛上る力を以て行くと云ふ考へで居ります、それから社會事業協會其の他を只今統合するかと云ふ御話でありましたが、是は只今の所統合する意思は持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=45
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046・葛西嘉資
○葛西政府委員 此の法案を作りますまでに民間の意見を聽いたかと云ふ御質問だつたと思ひますが、或は外でやつて居りますやうに、公聽會を開きますとか、或は大々的な協議會なり或は委員會などを特別に作つて、やると云ふことは御承知のやうに致しませぬでしたのでございますが、昨日も申上げましたやうに、本法案の制定に着手致しましたのは本年の初めからでございます、と申しますのは、十二月末に既に關係方面に對しまして、各種の救護法令等を統制して一本に纏めて行くと云ふことを申出ましてから、ずつと議會に提案を致すまで準備機關がなかつた譯でございます、其の間に於きまして、或は中央の社會事業關係の團體でありますとか、或は民間の社會事業家等を此の方面の爲に囑託致すと云ふやうなことを致しまして、實際に合ふやうにと云ふ譯で、十分に意見を聽いた積りであります、實は最近議會に提案直前まで、法案の作成を致さなかつたのでありまして、内容等に付きましては、御承知のやうに議會等で説明を致しました後からも御覽のやうに、直つた箇所もあるやうな譯でありまして、斯樣に實際は皆の方々の御意見を十分採入れた積りでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=46
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047・長谷川保
○長谷川委員 第三に私は第一線の機關、即ち第一線に活躍する人竝に殊に私設社會事業のことに付て政府の御所見を承りたいのであります、元來保護事業、社會事業と云ふものは「ビジネス」ではありませぬ、愛の事業であります、要保護者に對しまして、一切の愛を盡し、親切を盡して、而も必ずしも感謝を以て報いられるものではありませぬ、一切の親切を盡した後に尚ほ怨まれるやうなことが屡屡あるのであります、一切の親切を盡し、愛を盡した後に、怨まれて尚ほ心秘かに自ら愛の業をなし得たことを感謝し、又怨む人に向うて其の祝福を祈ると云ふやうな心でなければ、眞の社會事業、保護事業は出來るものではありませぬ、眞の社會事業家、或は保護事業家になれるものではないのであります、斯う云ふ點を考へまする時に、私は人の問題が非常に大事であると云ふことを考へ、本會議でも色々言はれましたが、實際第一線に活躍する人が所詮法案の成否を決するであらうと私は思ふのであります、又斯う云ふ點から見まして、今まで民間の私設社會事業が、實に貧弱なる施設にも拘りませず、大いなる功績を今日まで殘して參つたのであります、然るに之に對する政府の從來の態度と云ふものは、非常に遇するに薄いのであります、寧ろ冷酷と稱すべきであります、例へば昨日戴きました資料に依りましても、社會事業に對しまする補助費は其の豫算の約百分の一であります、平均して百分の一と云ふことを見まして、私は寧ろ意外に多いなあと思つた位でありまして、例へば私の關係して居る或る診療所の如き、常時三百人から收容して居りまして、無料患者だけで百數十名、それから其の他のを合せて三百人ばかりになつて居り、其の外に外來の人も無料診療して居りますが、此の事業に對する社會事業費の補助と云ふものは──此の事業は豫算が二十萬圓位でありますが、僅かに一年八百圓であります、それは經營費に對する補助でありまして、施設に對しては何もない、僅かに三井報恩會、慶福會等から謂はば雀の涙程の補助金を戴いて施設を擴大して參つたのであります、此の社會事業に從事致します人々に對する政府の處遇は實に慘憺たるもので何もない、社會事業從事者の生活の實相と云ふものは慘憺たるものであります、實例を擧げることは如何程でも出來る、例へば其の生涯を社會厚生事業に捧げました十時キクの如き、或は竹田女史の如き、八十有餘歳の一切を社會事業に盡した後は、八十有餘歳の身を置く場所もなく、自ら要保護者、被保護者と致しまして、養老院に、或は行く所なくして親戚に身を委ねたと云ふことであります、現在でも私設社會事業に從事して居る人々は一旦其の從事して居りまする所の事業の結核或は癩感染者と云ふことになる、或は其の他の不治の病に罹つたと致しますと、其の人々は忽ち所謂「カード」階級の中に轉落せざるを得いな自ら被保護者としての「カード」を戴いて保護されなければならない、斯う云ふやうなことであつて一體宜いのか、留岡幸助氏は其の最後の病床に於て、下積みの米は虫食ひ鼠食ひと云ふ悲慘なる言葉を遺したと申しますが、洵に下積みの社會、公共の爲に一切を擲つた所の其の從業員、職員諸君の生活と云ふものは、正に下積みの米であつて、虫に食はれ、鼠に食はれ、而も慘憺たる行路病者の如く死んで行つて居るのであります、斯う云ふ實情を私は斷乎として政府に愬へたい、此の際本法を施行するに當りまして、私はどうしても私設社會事業家の蹶起を促さなければならない、政府はそれ等の事業家に對して、もつと十分な補助を與へ、十分に之を重用する意思はないかと云ふことを伺つて置きたいのであります、
次に此の事業の遂行に、當りまして、非常に重大な役目をするのは民生委員であります、此の民生委員の人選に於きましても、十分方法を考へて戴かなければならない、今までの方面委員の中で、果して本當に本來の職務を完うして居る人がどの位あるであらうか、私は遺憾ながら其の數は全體から見まするならば、其の「パーセンテージ」は少いと思ふのであります、それはやはり人選を誤つたからだと思ふ、今回の民生委員の人選に當りましては銓衡委員會或は推薦委員會を作つてやると云ふことでありますが、此の銓衡委員會或は推薦委員會等を運用致しますに付きまして、私は是非とも、此の民生委員を選びますのに、今までのやうにお旦那樣或は御隱居樣程度の者を選ぶのではなく、もつと十分に、本當に働ける人を選んで欲しい、それには勿論さう云ふ方面に十分理解のある人でなければならぬことは當然でありますけれども、先づ私設社會事業家を必ず選ぶ、私も二十年社會事業をやつて居りますけれども、まだ方面委員になつたことはないのであります、社會事業家を選ぶ、社會事業家と云ふものは斯う云ふ方面に付きましては謂はば氣違ひである、常識を外れて熱中するのであります、それから宗教家や元學校長中の適當な人を選ぶ、或は又更に最近あの引揚者の援護に各「ステーション」に於てやつて居る青年團の活躍を見まする時に、青年團の中から適當な人を起用してはどうか、更に又一般の勤勞大衆の中から任侠を選ぶ、更に一歩を進めて要保護者の中から適當な人を選んで、さうして民生委員にし、民生委員會に加はらせると云ふことを私は主張するものであります
更にもう一つ本法に關聯して伺つて置きたいのでありまするが、本法第二章の保護機關の所を見ますと、保護は市町村長がやると云ふことであります、さうして民生委員が市町村長を補助すると云ふことが書いてありまするが、さうすると、社會事業に對して素人である所の市町村長や民生委員が、社會事業に對しては專門家である所の私設社會事業家を支配するやうな恰好になると私は思ひます、是では駄目だと思ふ、でありますから、今申しましたやうに、社會事業家を必ず民生委員の中に入れると云ふ條項をはつきりさせるか或は又市町村長と共に社會事業家が、其の保護に付ての、何と申しまするか、支配的な位置に就くやうに條項を變へなければ駄目だと思ふ、さうしなければ、素人が專門家を支配するやうな恰好にきつとなる、さうして事業の實が擧らないと云ふことになると私は思ひます、序ででありますから、先般本會議に於きまして大臣は社會事業從事者の養成機關を作ると云ふ御話でありましたが、其の案がありましたならば具體的な計畫を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=47
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048・河合良成
○河合國務大臣 只今從來の社會事業家の非常な尊い氣持でおやりになつたことの御説がありましたが、御尤ものことで、それに對する國家の補助の極めて薄かつたことも私共は率直に認めます、併し是は其の時代と色々の關係がありまして、個人の自覺の其處まで行つて居りませぬ時代には、色々さう云ふ問題が起る、宗教上に於きましても、殉教者の如きことは、もう歴史上にもあちらこちらに顯著な事實であります、又是は社會事業家のそれだけの犧牲が報いられぬかと云ひますと、それが人心に與ふる影響は中々大きいものもあるし、時代にも又影響しませうし、さう云ふことが色々積り積つて今日の個人の自覺を中心とした民主主義に轉換すると云ふ機運になつたものとも言へると思ひます決して私は是は無駄になつたのではない、尊い犧牲は尊い犧牲として相當に報いられたものだと云ふ考へで私は居ります、それで尚ほ之に對する豫算的措置に付きましては將來は出來るだけ努力を致します、併しながら是も此の保護法などの運用と私設社會事業との關係をどう云ふ風に調整して行くかどの面にどう云ふ力を入れて行くかと云ふことは、是から色々研究も致しますし、又民間の意見も能く聽いて、其の歸趨に從つて善處致したいと思つて居ります
又民生委員の人選等に付きましても、やはり社會事業の經驗家などを活用すると云ふことに付きましては、之を怠ると云ふやうなことはない積りで居ります
市町村長を責任者にしたと云ふことに付きましては、是はやはり只今の總ての環境から見まして、斯う云ふ大きな事業であり、殊に全國に亙つた事業であり、其の上に又各個々々に亙つて色々調べなくてはならぬやうな性質を持つた事業であり、金も非常に巨額なものを用ひると云ふやうな性質から考へまして、今日の状態に於ては市町村長を責任者とすることが適當なりと云ふ風に考へて居ります、其の他の點に付ては政府委員から御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=48
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049・葛西嘉資
○葛西政府委員 只今御質問のありましたのは、市町村長或は方面委員などは素人ではないか、是が私設社會事業の方を、支配と仰しやいましたが、支配すると云ふやうなことになつては不都合ではないかと云ふやうな御意見だつたと思ふのでございますが、實は市町村長は大變御忙しい方でありますから、或はさう云ふことがあらうかと思ふのでございますが、民生委員なり方面委員なりの方は、大體講習會等を致しますとか、或は日々さう云ふことを取扱つて居つて戴きますものでありますから、是は可なり專門的な方でありまして、民生委員に市町村長を補助して戴きますれば、市町村の行政も必ずしも仰しやつたやうな風に、惡い意味で私設を壓迫して行くとか何とか云ふやうな風には相成るまいと思つて居ります、民生委員會の中にも、私設の社會事業等と極めて密接な連絡を執るやうにと云ふ一項目も實は入れたいと云ふ風に考へて居るやうな次第でございまして、御指摘のやうな御心配の點は、運用では先づないのではないかと云ふ風に考へて居る次第でございます
次に社會事業關係者の養成機關の計畫があるやうだが、大體の構想を話せと云ふやうな御話でありました、是は私共も大變必要だと思つて居りまするし、民間の社會事業の方々に於きましても、是はもう是非必要だと云ふ風なことげございまするので、私共と致しましても之を是非作りたいと云ふ風に考へて居つたのであります、丁度現在の所は、財務當局或は關係方面とも此の點に付て御話が旨く進んで居りまして、具體的な案を今練つて居る譯でございます、大體今考へて居ります試案は、專門學校令に依る社會事業專門學校と申しますか、さう云ふやうなものを一つ作つて、中等學校を出たやうな者を約三年箇位養成するものと、もう一つは大學專門學校を出ました者を一箇年位やつて、學術竝に技術の實際の訓練をやつて戴くと云ふやうなことに主力を置きまして、みつちりやつて戴いたならば立派な方が出來るのではないか、それに併せて附設を致しまして行ふ短期の講習會等も、此の法律の實施と云ふやうなことになれば極めて必要でありまするので、そんなものも致して行きたいと云ふ風に考へて居ります、尚ほ御心配でございました此の民生委員の方々が新しく選任せられました場合には、講習會とか、斯う云ふ法律の實施の趣旨等を能く呑込んで戴く爲に、若干の經費も用意致して居りまして、本年御議決を戴きますれば、直ちに其の實施の準備に取掛つて行きたいと云ふ風に考へて金も用意を致して居るやうな次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=49
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050・長谷川保
○長谷川委員 尚ほ私は重大なる四項目を持つて居りますが、本日既に豫算の本會議があるやうでございますので、後は明日に讓りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=50
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051・庄司一郎
○庄司委員長 一寸御相談申上げたいですが、あなたの御質問に對する御答辯の準備の關係上、大藏省から三名御待ちになつて居りますが、本日では御都合が惡いのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=51
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052・長谷川保
○長谷川委員 續けてやるとするとまだ數時間を要しますが、續けて午後やりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=52
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053・庄司一郎
○庄司委員長 此の後數時間もやられては、此の委員會は運營上困難でございますので、大抵お互ひの常識の上から此の委員會の御質問の御申込みが十六名ございますが、御一人當り一時間位が好い鹽梅な所と思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=53
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054・長谷川保
○長谷川委員 其の點私先程豫め御願ひして置いたのでありまして、尚ほ簡單に致しますが、少くとももう一時間位は掛ると思ひます、午後續けてさして戴けるか、出來るならば、豫算の方が大事でありますし、厚生大臣も出る必要がありませうし……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=54
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055・庄司一郎
○庄司委員長 今理事の方に御諮りして見たいと思ひます、あなた御一人だけ優先的に、差別的に長い時間を御與へ申上げると云ふことは、委員會の平和を害する虞もあります、既にあなたの御質問は一時間三十五、六分に相成つて居ります、此の上數時間と云ふことは少々困難かと思ひますが、尚ほ理事各位とも御相談申上げて善處したいと思ひます、本日は本會議がございますので、午後は此の委員會はやれないと考へて居ります、是亦理事各位と一應御相談したいと思ひますが、午後の本會議には重要な財政の問題が上程されますので、委員會を中止して出たいと考へて居ります、併し是は委員長一個の考へでございますので、今に御相談申上げて善處したいと思ひます、唯當面の問題は折角あなたの御質問に對して御答辯せんが爲に、大藏省より三名の方が二時間前から御待ちして居られることは、委員長としては御氣の毒でならないのであります──只今理事各位との御諮り致しました結果本日は此の程度で散會したいと思ひます、後のことは公報で御知らせ申上げます
午後零時二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00319460725&spkNum=55
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