1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
付託議案
生活保護法案(政府提出)
—————————————————————
昭和二十一年七月三十日(火曜日)午前十時二十六分開議
出席委員
委員長 庄司一郎君
理事 小柳冨太郎君 理事 齊藤行藏君
理事 原捨思君
小池政恩君 田中重彌君
竹内茂代君 冨田ふさ君
山口好一君 大島定吉君
坪川信三君 中山たま君
日比野民平君 有馬英二君
奥村又十郎君 澤田ひさ君
永井勝次郎君 長谷川保君
松尾トシ君 松谷天光光君
川越博君 平川篤雄君
東井三代次君 久保猛夫君
川野芳滿君
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
内務事務官 谷川昇君
厚生政務次官 服部岩吉君
厚生事務官 勝俣稔君
厚生事務官 葛西嘉資君
厚生事務官 加藤清一君
━━━━━━━━━━━━━
本日の會議に付した議案
生活保護法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=0
-
001・庄司一郎
○庄司委員長 開會致します──竹内委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=1
-
002・竹内茂代
○竹内(茂)委員 私は專ら厚生大臣と内務大臣に逐次御尋ね申上げたいと存じます、生活保護法で保護される者が八百萬人あると承つて居りますが、此の該當者の性別年齡別、職業別或は健否等の調査など御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=2
-
003・葛西嘉資
○葛西政府委員 御答へ致します、保護法での對象と致して居ります者は、御説の通り一應八百萬人と云ふことに見積つて居るのでございますが、ほんの見積りでありますから、只今御指摘のやうな性別年齡別等の調査と云ふものはないのであります、極く大雜把なほんの見積りでございますから斯樣な細かく何處に何人居ると云ふやうなことにはまだ見積つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=3
-
004・竹内茂代
○竹内(茂)委員 次は申すまでもなく本法の保護政策は、其の適用を誤りますと惰民を作ることになります、老人や子供は別と致しまして、苟くも働ける者に對しては自己の生計を將來營めるやうに指導援助すべきものである、其の關係者の状況などを懇切に調査致しまして、眞に國家の本旨が徹底するやうに善處しなければならないと存じます、其の爲には授産所の經營とか、技術の養成、或は商店家内工業、農業經營とか、資金の貸出、厚生施設と云ふやうなものを設けまして、適材を適處に置いて生業に就くやう導いて行つてこそ效果的であると存じます、先程伺ひました年齡別職業別等の中に果して茲に働き得る人がどれだけあるか、さう云ふことを基準に致しまして、此の生業に就くと云ふ方向に御導きになると云ふやうな、そこまで立入つた保護指導の御計畫がおありになりませうか、伺つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=4
-
005・服部岩吉
○服部政府委員 御答へ致します、御承知の通り、本法は國民の生活を保障する爲に設けられた法案でありまして、其の保護を受ける對象は、所謂自分が働かうとしても働き得ない所の者、或は又不幸な目に出遭つて一時職業を失つた者或は又要扶養義務者、無論扶養義務者に於きましても、資力のある扶養義務者の子供は別と致しまして、さう云ふ資力のない扶養義務者があります、それ等の生活を保障して行く立法でありまするから働き得る者は是の對象にならないことになつて居ります、無論働き得ない者でも、尚ほ特別なる指導を致しまして、之を生業に就かしめることは必要でありまして、本法を通じましてもさう云ふ者に對しましては、出來るだけ保護を加へて生業に就かせるやうに努力を致して行きたいと思ひます、隨て此の爲には所謂職業輔導、或は授産所等々の設備を致しまして、之にさう云ふ者を入れまして輔導し以て其の生業を全うせしめるやうに努力して行きたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=5
-
006・葛西嘉資
○葛西政府委員 只今政務次官が御答へになりました點に付て、補足として申上げたいと思ふのでございますが、從來の保護法令に依りますると、老人や子供と云ふやうなものが非常に多いのでございます、例へば救護法になりますると、子供とか老人と云ふことを救護法で指定してありまして、それ以外の者は救護出來ないと云ふやうなことになつて居りましたが、今般は斯樣な對象を限定すると云ふやうなことに致しませぬで、廣く保護を要するやうな状態にある者を保護する、斯樣なことに相成つて居ります、法の趣旨は、只今政務次官が御答辯になりました通りでありますが、唯私共の心持と致しますると、保護の對象が、現在の状態から見ますると、子供や老人だけでは實はないのでありまして例へば單に失業者と云ふやうな者でございましても、自立して行けないと云ふやうな恰好になつた者に付きましては、本法に依つて保護をして參るのであります、斯う云ふことになりますると、今、竹内さんが御指摘のやうな部面が本法に於ても注意しなければならぬ重要な點だと思ふのであります、働き得る者がどれだけある見込かと云ふ御質問でありましたが、失業者、或は引揚民、或は戰災者と云ふやうな者が澤山になつて參りますると、從來の保護法令と比較致しますると、働き得る者が對象になる場合が非常に多いと思ひます、斯樣なことになつて參りますると、只今政務次官が御話になりましたやうな色々な施設を利用するとか何とかして自立して行くやうにする、飽くまでも公費の補助に頼らずに、自立自營をさして行くと云ふ方向に根本の指導を置かなければならぬと云ふことは考へて居ります、本法と致しましても生業扶助と云ふのが御承知のやうにございますが、是等も金額は相當ありまするし、尚ほ足りなければ他から流用致しましても、僅かではありまするが、是等の資金の融通等を致しまして、自立して行ける者には自立して戴く、さうして徒らに國家の保護に頼らないやうにして貰ひたいと云ふ風に本法も運用して參りたい、又政務次官が御指摘になりましたやうな、他の關係の色々な施設を活用することは申すまでもないことであります、本法にも斯樣な規定がございますので、一寸補足的に申上げた次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=6
-
007・竹内茂代
○竹内(茂)委員 大變御懇切な御説明で安心致しました、次は、本法第一條に、要保護者一切を差別的、優先的でなく、平等に保護すると規定されて居りますが、是れ亦度々御當局の御説明も伺ひましたけれども、子供を育てて居ります母親、是は病人や老人と違つて唯金を與へて生活をさせると云ふのではなく、先程から申上げました本當に働ける人、唯子供がある爲に働けない、さう云ふやうな人にはもつと積極的な保護指導が必要であると考へて居ります、此の母の保護と云ふものを特別に御考へを戴くと云ふことは、此の第一條で妨げられてでも居つて、出來ないものでございませうか、私共は、此の法の該當者としては、子供を連れた母親が一番澤山あつて一番重要なものだと思ひますから特に其の母の保護に付て、何か御計畫がありましたら伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=7
-
008・葛西嘉資
○葛西政府委員 子供を抱へて居ります母も、勿論無差別平等と云ふ原則から致しまして、生活に困難な状態にある者に付きましては本法の保護を受ける譯であります、特に今御話のやうに、子供を抱へました母親の保護に付きましては或は母子寮でありますとか、或は保育所でありますとか、或は授産所でありますとか、さう云ふやうなものを綜合的に附けてやつて行くと云ふことは極めて必要だと思ひまして、施設其の他の方に於きましては、各府縣に命令を致しまして、斯樣な施設を本法の施設として計畫をするやうにと云ふことは既に指示を致して居ります、各府縣から二、三參つたものに付きましても、此の母子等の保護に付きましては、相當考へた施設が、一、二ではございますが、私の見た所でも現にございますので、第一條に妨げられて母子が保護出來ないと云ふことは勿論ございませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=8
-
009・竹内茂代
○竹内(茂)委員 次に、第二條の二に素行不良な者は保護を受けられないとございます、今全國に存在して居る所謂闇の女と云ふやうな者、商賣人は別と致しまして、賣笑行爲をする若い婦人が澤山あるやうでございますが、是も此の保護を受けられない者の中に入るのでございませうか、昔源平の戰で、平家が敗北した時に、九州に落ちた平家の女達は殆ど賣女になつたと云ふやうなことが物の本に記されてございます、洵に情けないことでございますが、今もやはり敗戰の結果として、さうした女があちらこちらで、新聞に載りますだけでも相當な數でございます、若い女がここまで落ちて行くには其の生活保護を要すると云ふやうなものもございませう、結果は將來家庭の人となつて、其の家庭を破壊し、或は病氣を求め、民族將來の爲にも實に憂ふべき現象だと思ひますので、斯う云ふ女性に對して、落ちて行く前に何とか救濟の方法を御考へ戴けないものでございませうか、當局の御意見を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=9
-
010・葛西嘉資
○葛西政府委員 素行不良な者と法律で書いてありますのは、客觀的に見て誰が見ても素行不良と云ふやうなものをまあ言ふ譯であります、之を設けました趣旨は、苟くも公費の扶助を受けます以上は世間の爪彈きを受けるやうな、素行不良と言ふやうな者は此の法律で保護しないと云ふ趣旨でございます、今竹内さん御指摘のやうに闇の女にならなければならないやうな状態になる前に、本法としては、生活に困ると云ふ状態がありましたならば、市町村長或は方面委員會の方々に御願ひを致しまして、斯樣な邪道に入ります前に生活を保護してやると云ふ風にして參らなければならぬと思つて居ります、唯、端的に今闇の女を此の法律で保護するかと云ふ御質問に對しましては、現在世間の爪彈きを受けるやうな素行不良な行爲の現にあります者に付きましのは、此の法律に依つて保護をしないと云ふことになると思ひます、併し本人に不心得をよく説き聽かせまして、生業に立ち戻る、或は授産所等で働くと云ふやうなことに相成りますれば、是はもう過去のことを彼此れ言ふ譯ではありませぬので、公費の扶助を出すことも又差支へないことと思ひます、尚又警保局長お見えになりますが、原因等も──本當に生活に困つてさう云ふ風に陷るのか、或は他に原因があるのか、そこらのことも此の問題に付ては十分考へなければならぬと思ひます、生活保護法の範圍に於きましては、斯樣な所へ生活苦の爲に陷るものは、是は是非防止して參る、一人もさう云ふ生活苦の爲に闇の女にならなければならぬと云ふやうな氣の毒な者のないやうにすると云ふのが本法の趣旨でございますから、是は十分やつて行きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=10
-
011・竹内茂代
○竹内(茂)委員 生活と云ふ問題に入らないかも知れませぬけれども、ここまで參りましたので警保局長の御考へを承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=11
-
012・谷川昇
○谷川政府委員 其の點に付きまして私の方で詳しく調べたものもないのでありますが、大體多少の數字を此處に持つて來て居りますので、是で御判斷を願ひたいと思ふのであります、數次に亙ります闇の女の檢擧に當りまして其の調査を致して見たのでありますが、之を職業別、年齡別、或は學歴別或は罹病率等に付て一應御説明申上げて見たいと思ひます、大體警視廳の管轄管内に居ります、所謂闇の女、或は「パン・ガール」と言ひますか、さう云ふ者は五千人乃至六千人位は居るだらう、斯う云ふ推定を致して居るのでありますが、今まで數次に亙りまする檢擧に當つて取調べたものだけの集計でありますけれども、職業別に依りますると、無職の者が四〇%、「ダンサー」が一九%、藝妓が八%、女工、店員、露店商關係者、事務員等はそれぞれ三%づつであります、女中が二%、其の他が一九%、斯う云ふことに相成つて居るのでありまして、無職者が四〇%に達して居ると云ふことは、相當或る點を示唆して居るのではないか、さう云ふ風に考へる次第であります、次に年齡別でありますが、是は最低の者が十四歳でありまして、最高は四十二歳であつたのであります、二十歳未滿の者が三七%を占めて居りまして、二五歳未滿、即ち二十一歳から二十五歳までの者が大多數を占めて居りまして、是は四六%と云ふ數字に達して居ります、三十歳未滿の者が一四%、三十歳以上の者が三%と云ふ數字であります、次に學歴別に申上げますと、高等女學校程度以上の教育を受けて居ります者が四六%を占めて居りまして、それ以下の者が五四%を占めて居ると云ふ状態であります、罹病率は全取締を致した者の中、三一%でありまして其の内譯を申しますると、淋病が七三%、黴毒が一八%、軟性下疳が九%、斯う云ふやうな數字に相成つて居るのであります、或は今申上げました數字が御尋ねに御答へを申上げて居るかどうか、甚だ危む次第でありますが、斯樣な次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=12
-
013・庄司一郎
○庄司委員長 谷川さんに一寸申上げたいのですが、竹内委員の主たる御質問は闇の女の數字統計ぢやありませぬで、唯警視廳が檢擧しただけぢやいけないのぢやないか、之を積極的に救濟する方法如何と云ふ御趣旨のやうに委員長は伺ひましたが、如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=13
-
014・谷川昇
○谷川政府委員 御尤もの御質問でありまして、要するに檢擧致すのは最後の手でありまして、其の前に是等の者に對して救濟の手を各方面から差伸べなければならぬことは仰せの通りであります、併し内務省と致しましては、是は私の方の所管外でありまして、遺憾ながらさう云ふ事實のありました時に之を取締ると云ふのが私の方の仕事であります、願くは厚生省文部省其の他の方面の御活動に依りまして、我々の取締對象がなくなることを私共としては念願して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=14
-
015・竹内茂代
○竹内(茂)委員 只今の問題は餘り滿足でございませぬけれども、各方面に亙つたことであつて簡單に伺へないと思ひます、又時間を取りますから是でそれは止めて置きます
次に民生委員に付て御尋ね致したいと思ひます、此のことの今日まで度々他の委員の質問もあり、御説明も伺ひまして、其の運營或は選擇等に付て度々御説明を伺ひました、實は此の法律の運營に一番の立役者で大切な民生委員でございますから、十分愼重に御選擇を願ひたいと思つて居りましたが此の方は大變に深い御注意の下に選擇されるさうでございますので私も大變安心致しました、民生委員のことは、養成機關も設置されるさうでございますから、私は其の全體のことに付てはもう結構でございますが、尚ほ三つばかりの點を御尋ね申上げたいと思ひます民生委員を選定するのに、選定委員會を御設けになると云ふことでございますが、其の構成の中に婦人を御加へになりますかどうでございますかが一つ、それから今まで寮長とか病院長、工場長と云ふやうな人が前の方面委員に選ばれて居らなかつた場合、非常に不都合が多かつたと申しますが、今度の民生委員は、さう云ふ長たる者が民生委員になると云ふやうなことにして戴けるものでございませうか、それから第三は、民生委員は家庭の生活の内情まで深く立入ります仕事でございますから、婦人子供の保護に當る民生委員には過去の遺家族援護の經驗に照しまして、是非婦人民生委員を採用して戴きたいのでございますが、如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=15
-
016・服部岩吉
○服部政府委員 民生委員の選定に付きましては、民生委員が本法の運營に最も重要な機關でありますが故に、最も愼重な方法で選定をして行きますことは、大臣が度度御話し申上げた通りであります隨て只今御尋ねの、民生委員の中に婦人を取入れると云ふことは、最も大切な問題であらうと思ひます、隨て當然各市町村長に於きましても、婦人を其の中に入れられるやうに特別の取計らひを致して行きたい、斯樣に考へて居ります總て民生委員は市町村長の補助機關として活動するのでありまするが、最も第一線に在つて各家庭の内容にまでも立入らなければならぬのでありまするからして、隨て御説の通り、最も立派な人格を持ち、又他人の祕密を漏洩するやうなことのない方、或は又此の戰時中に於きましても、特に遺家族の家庭に對しまして御世話をされた婦人の方面委員、斯う云ふ方を取入れて行くことが最も適切であらうと考へて居りますからして、斯う云ふ面に對しまして特に選定に誤りないやうに努力して行きたい斯樣に考へて居ります、左樣御承知を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=16
-
017・葛西嘉資
○葛西政府委員 尚ほ殘りました點に付て申上げたいと思ひます、銓衡委員の中に婦人を入れるかと云ふ御質問でございましたが、只今政府次官から御話がございましたやうに、婦人の民生委員と云ふものは、是は相當多數入れなければならぬと云ふ風に考へて居るのであります、隨ひまして銓衡委員の中にも自然入つて來ることにならうと思ふのであります、と申しますのは、銓衡委員會はやはり最も良い人を選ぶにはどうしたら宜いかと云ふ爲には、先づ銓衡委員會に依つて、此の土地では此の人に出て貰つた方が宜いと云ふやうなものに付きましてやりたいと云ふ考へで居りましたものでありますから、自然婦人等も入つて來るやうにならうかと思ひます、第二點の寮長でありますとか、施設の長と云ふやうな者を民生委員にするかと云ふ御話であります、是は施設等が大變御忙しい場合等に於きましては、民生委員の御仕事は中々忙しい仕事でありますので、施設の長を必ず全部民生委員にすると云ふやうなことになりますとどつち付かずのやうなことになる虞もあるのであります、併し多數の要保護者を擁して居るやうな施設等に於きましては、寮長などに民生委員になつて戴く場合は、援護を徹底致します上に於て、或は老朽を防止致します上に於きましても、極めて適切なことであらうかと思ひまするので、斯樣な場合に於きましては、寮長とかさう云ふ施設の長に、是れ亦自然民生委員を選んで戴くと云ふやうなことにならうかと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=17
-
018・庄司一郎
○庄司委員長 此の際政府に統一のある御答辯を竹内委員に御願ひしたいと思ひます、即ち竹内委員は闇の女を積極的に救濟する政府の對策方法如何と云ふ意味のことを重點的に御質問になられましたそれに對して内務省當局は、内務省としては其の權限がないからやれないと云ふ意味の御答へのやうでありました、厚生省とか或は文部省とか云ふやうな管轄關係のことを御述べになつて居るのでありまするが、厚生省の葛西さんの御答辯は闇にまだ轉落しない一歩前に於て生活保護法に依つて救援してやりたいと云ふ意味の御答辯でありますが、竹内委員の御質問の中には遺憾ながら既に闇の女に陷つた女性を積極的に救ひ上げる所の政府の意圖がないか、御對策がないかと云ふ御質問であります、それに對して内務省の方は權限上ないと云ふ意味の御答辯である、厚生省の方は、本法に依つては未然に防止する意味に於ての生活扶助をやるけれども、既に闇の女に轉落した者は救ひ得ないと云ふ意味のやうに委員長は聽きましたのであります、竹内委員に於かれましても、御答辯は不十分であるやうな印象の表現がありました、此の際政府に於ては御答辯を統一されて、責任のある御回答を竹内委員に對して願ひたいと、思ふのであります、非常に曖昧な御答辯でありました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=18
-
019・服部岩吉
○服部政府委員 只今委員長から政府の答辯が如何にも不統一のやうな御叱りを受けたのでありまするが、政府に於きましては、各省とも連絡を執つて各種の委員會に臨んで居る次第であります、隨て本法に依つて闇の女が救へないかと云ふ御質問に對しましては、是は素行不良と云ふ者に對しましては、一應生活保護の對象から拔いてありますけれども、其の由つて來る所の原因が生活の不安定、或は又其の他生活上の關係から來たものでありますれば、之に生業扶助を與へ、或は職業指導を與へ等等致しまして、立派な生業に就かしめるやうにする爲に、必ずしも本法に依つて其の者が救はれぬと云ふ譯ではないのでありまして、さう云ふ者こそ本法に依つて救はうとするものであります、隨て根本的に素行不良の者に對しましては、是は遺憾ながら本法の對象と相成らぬのであります、隨て是は私の枠外でありますけれども、さうした思想的な素行不良、性質的な素行不良の者に對しては、是は既に少年救護院と云ふやうなものがありまするからして、それで以て適當に之を矯正し保護して行く途が開かれて居るのでありますから、決して内務省或は厚生省各省間の問題が不統一であるとは私は考へて居りませぬから、此の點御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=19
-
020・竹内茂代
○竹内(茂)委員 只今の御話はそれで了解致しました、次に保護施設のことでございますが、第六條に保護施設を以て本法を運營するやうにして居りますが、先程政府委員からの御話で、保護施設を十分に活用すると云ふことでございますから、それは了承致しましたが、兎に角保護を受ける人達、引揚者、罹災者、其の他遺族傷痍軍人等は皆家を持つて居りませぬ、今度は燒いたばかりではなくして家のない人が實に多うございます今住んで居る所も、燒けた者は實にひどい「バラツク」に入つて居ります、可なり家と云ふものに皆差支へて居ります、それで特に保護の對象になる中の、先程も申しました子供を連れた母の爲には、どうしても母子寮を充實させて戴くと云ふことでなければならないと思ひます、其の母子寮に、先刻も御腹案のありましたやうに、託兒所や授産所を附けて、母は子供を見守りながら働けると云ふ、さう云ふやうな母子寮をお作りになる御積りがおありになると云ふことで安心致しましたが、實は近來不良兒が大變増して參つたとも言はれます、母の手を離れた子供が一番不良兒にもなり、病氣にもなり、體質を惡く致すのでございますから、子供は母と離さないやうに保護して戴くことが一番大切であると思ひますし、もう一歩母子寮は未亡人の貞操擁護に最も役立つものでございます、東京にございました某母子寮、大變完備した良い母子寮が出來て居つたのでございますが、只今は他に利用されて居りまして、母子が入れないと云ふので大變に殘念に思つて居ります、それは今後此の母と子供の爲に母子寮と云ふものを十分に御設け戴くやうに伺ひましたから、是は是で私が安心致しまして、其の増設を御待ち申して居る次第でございます
續いて第十一條の關係で教育費のことを御伺ひ致したいのでございます、保護の種類が五つ擧げられて居りますが、子供の教育のことは別に輕つて居りませぬけれども、生業扶助に入つて居るのでございませうか、どうでございませうか、さうして其の教育費は國民學校程度のやうに伺つて居りましたけれども、中等學校以上の教育に對しては、此の保護は受けられないのでございますか、御説明を戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=20
-
021・服部岩吉
○服部政府委員 教育費の問題でありますが、例へば一世帶五人と云ふ建前で年三千圓、或は八月に百三圓と云つた中に、中等學校は別でありますが、國民學校程度の教育費は一應包含されて居るものと御諒解を願ひたいのであります、無論中等學校以上の教育費は此の生活の保護の中には含まれて居ないものと御諒承を願つて置きたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=21
-
022・竹内茂代
○竹内(茂)委員 それでは此の保護を受ける八十萬の中の子供は、國民學校教育以上のものは此の保護では受けられないのでございませうか、さう云ふ人は見て戴けないのでございますか、もう一應伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=22
-
023・服部岩吉
○服部政府委員 中等學校程度以上の教育費は一切生活保護の中には入つて居ない、斯う云ふことになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=23
-
024・竹内茂代
○竹内(茂)委員 次に十二條の育兒院の點を伺ひたい、今回の戰災で親を失つた氣の毒な乳幼兒──子供全體でございますけれども、就中乳幼兒が實に澤山各地に居ります、育兒院にも收容されて保護を受けて居りますが、未だ多數の何處にも行く所のない者が縁故者や親戚に引取られて中々可哀さうな大きくなり方を致して居ります、將來國家の礎石となるべき子供でございますから、もつと完全な育兒院がもつとございますなら、さうしてそこに費用をもつと増額して、完全に哺育することをして欲しいのでございますけれども、此の育兒院の増設とか、現在與へられて居ります費用を増して戴くとか云ふやうなことに付ては如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=24
-
025・葛西嘉資
○葛西政府委員 全く御話しの通りだと思ひます、現に國立の乳兒關係の施設もございますし、或は公共立のものも若干あると思ひます、併し非常に不足であることは只今御指摘の通りだと思ひます、地方等に於きまして、此の法律の御承知の三十億圓の中から、適當の施設を見付けて、或は母子寮であるとか、或は乳兒の育兒院と云ふやうなものを作る計畫が地方では若干あらうかと思ひます、唯何に致しましても十分と云ふ所までは至らぬのぢやないだらうかと云ふ心配を持つて居ります、斯樣な場合等に於きまして、里子にやりますとか何とか致しまして、此の第二の國民を立派に育てて行くやうにはして行きたいと思つて居ります、費用の點は十分と云ふまでには中々行かぬのぢやないかと思つて居りますが、尚ほ私共十分努力致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=25
-
026・竹内茂代
○竹内(茂)委員 大體母子其の他に付て御伺ひ致しましたが、もう一つ、私は此の對象になつて居ります所の傷痍軍人──只今傷痍軍人と申しては宜くないことでございますが、傷痍者に付きまして御伺ひ致したいと思ひます、隨分傷痍者が澤山ございまして、殊に又戰爭ばかりでなく、戰災でも傷痍者が澤山出來まして、氣の毒な人達が多いのでございます、重傷の人は、恩給も少くなりましたが、多少まだ與へられて居ります、それぞれ保護の方法が講ぜられて居るやうに存じますけれども、中でも非常な重傷、脊髓損傷とか、兩眼が見えなくなつたとか、兩手兩足の切斷、顏にひどい醜跡を殘したと云ふやうな人は、是は無差別平等とは申しながら、普通の輕い人よりか何か特別の保護があつて然るべしと存じます、此の特別扱ひと云ふことは許されないのかも知れませぬけれども、特に目の見えなくなつた人が傷痍者の中では一番數が多うございます、兩眼失明の數が多いのでございます、今日まで失明者は按摩を習ふ人が一番多かつたのでございますけれども、其の他音樂とか、機械をいぢるとか、それから事務員になつたり、百姓になつたり、色々な方面に向つて居りましたけれども、今日此の世相の變化で殆ど失業してしまひました、兩眼の見えない人は今まで音樂とか機械と云ふやうなものをいぢつて居りましたが、皆失業してしまひました、さうして今俄かにどうしても按摩でなければいけないと云ふので、鍼按希望と云ふ人が大變殖えて參りました、其の大部分はもう一遍學校に入つて勉強して鍼按を習ふと云ふ力はないのでございます、それで國費でそれを收容する失明寮、今まで宇奈月にございましたのが燒けて、其の後はどう云ふ風に補助されて居るのか、其の失明寮とか或は鍼按の學校とか、さう云ふものを御整へになる御豫定はございませぬか、さうして其の人達が起ち上れるやうに御心配願はれないものでございませうか、實はもう一つは、義肢の給與が非常に間に合ひませぬ、病院を退院するにも義肢を貰はずに出るやうな人も隨分ございます、修理が出來ないで持つて居る義肢が壊れまして、さうして闇の義肢を買つて居ります大變に苦しんで居ります、義肢給與の方法がありますなら──一人前に働ける人でも、義肢義足のない爲に働けないと云ふやうな樣子になつて居ります、さう云ふ譯でございますから、自然此の傷痍者には他の失業者よりかもつともつと澤山失業者がございます、今東京だけで本年一月現在でも三千五百七十三名ございます、丁度五一%に相當する失業者が出て居ります今日はそれから七箇月經ちましたから、もつともつと殖えて居るやうでございますが、其の統計を見ませぬでございますが、兎に角國家の爲に忠勤を擢んでて、身體を犧牲にした斯う云ふ肢體不自由の人には、失業とか物價高、生活不安さう云ふことの爲に隨分思想の惡化もございますし、自暴自棄に陷る者もございます、それで政府に對して反感を持ち、國民に對して怨みを述べ、今集まつて色々傷痍者同盟とか云ふやうなものを作つて、ぶつぶつ湧き立ちさうな形勢が隨分ございます、それで私は昔の日露戰爭後の廢兵が莚旗を議會に押し立てて來たと云ふやうな、ああ云ふやうなことが起つてはならないと思ひます、時節柄特別扱ひと云ふものは叶ひませぬでございませうが、何とか此の傷痍軍人に對する御對策を一應伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=26
-
027・葛西嘉資
○葛西政府委員 只今竹内さんから傷痍軍人、傷痍者に對しまして大變御同情ある御話を戴きまして私共實は大變感激を致した譯であります、勿論傷痍軍人でありますから特別な取計らひをする、或は其の他の傷痍者であるから、是は傷痍軍人よりは下げると云ふやうな差別的な取扱は私共致さないのでありますが、唯實情に即して援護をすると云ふ點は少しも差支へないのでありまして、只今御述べになりましたやうな、或は失明をされた方とか、或は兩手、兩足をなくされた方と云ふやうな者に對しまして、それぞれ實情に即した保護の手を伸べますことに付ては差支へはないのであります、御指摘のやうに十分やつて行く積りであります、尚ほ是等の點に付きましては、御手許に差上げました盲者の保護の概況と云ふ資料がございますが、あれに載つて居りますやうな色々な保護施設もございます、例へば啓成社でありますとかそれから傷痍者の全國的の團體としては共助會と云ふ團體がございます、斯う云ふものが今御述べになりましたやうな非常に困つて居る者を救ふと同時に、徒らに世間を呪うと云ふやうなことをしないやうにと云ふことで、精神的にも指導を致すことに相成つて居りまし、又職業輔導其の他傷痍者に適當な仕事を斡旋するやうなことになりまして、先般も全國的に此の組織を作りましてやるやうなことになつて居ります
それから失明寮の御話がありましたが、是は傷痍軍人の失明者を收容して居りして、御承知のやうに小石川にありましたが、字奈月に參りまして、先般五月末に宇奈月の火事で全部燒けてしまひました、是は彼處に數十名の失明者が居りまして按摩其の他の者になる勉強をして居りましたので非常に困ります、ですから一應彼處に居りました盲人の方は家へ歸さなければならぬものに付きましては一應家に歸させます、併し學校の設備が出來ましたら直ちに歸つて來るやうにと云ふやうに指令して置きまして、今其の候補地を選んで居るのであります、幸ひ先般皇室財産の御開放の御思召がございまして、大體鹽原の御用邸を之に充てると云ふことに政府部内では宮内省方面と御打合せを致して居ります、勿論此の點に付きましては聯合軍最高司令部の方の承認を得なければならぬので、確定と云ふまでには至りませぬが、さう云ふことにならうかと思ひます、非常に有難いことでありまして、失明者は其處で按摩等を習つて自立して行けるやうにならうかと考へます
第三點として御質問になりました義肢等が非常に傷んだりした場合に困つて居ると云ふやうな御尋ねでございましたが、此の點は生活保護法と致しましても、職業を致す爲に必要である手が駄目になつたやうな場合のものは生業扶助の方からさう云ふ金も出せますし法律の方としても費用を支出することが出來ると思ひます、尚ほ非常に高價なものになりますれば、啓成社、それから補導所關係の施設が全國にありますので、或は又民間の義肢などを作つて居る方々と連絡をしまして、安く手に入るやうなことも考へると云ふやうに思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=27
-
028・竹内茂代
○竹内(茂)委員 傷痍軍人に付て色々施設して將來を安全にして戴けるやうな御答辯を伺ひまして、非常に安心致しました、御親切の數々の御答辯に對し御禮を申上げます、私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=28
-
029・庄司一郎
○庄司委員長 中山委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=29
-
030・中山たま
○中山(た)委員 私は第十一條の醫療保護に付て若干御尋ねを致したいと存じます、此の醫療保護の問題は、日本の現状に鑑みまして結核に對する問題が最も中心になると存じます、結核は社會的疾患と呼ばれ、結核蔓延の結果が社會の不幸を釀成し、社會の經濟的發展を阻碍すると共に、其の貧困疲弊せる社會が更に結核蔓延の温床となる、即ち結核は社會疲弊の有力な一因であり、其の疲弊せる社會が結核蔓延の原因となる、斯うした社會の窮乏と結核との相關關係は私が茲に縷説を要しない所であります、實に職工事情に描き出されて居る肉體磨滅的な勞働生活の結果たる結核女工の發生を以て始まり、結核兵士、結核職工、結核學生、結核に蝕まれた國民生活を以て終末を告げた敗戰前日本の歴史が最も雄辯に之を物語つて居るのであります、而して其の收支決算として今日我々の目前に見るものは、少くとも二百萬を遙かに超えるであらう結核患者と、其の數字を瞬く内に五倍乃至十倍にする危險性を孕む國民生活の窮乏であります、再建文化日本の初めに當りまして結核の蔓延を、事情の如何は差措き、結果的には等閑に付し、否助長したとさへ言へる從來の國家施策の非科學性と、それに對して苦痛を愬へる所少かつた非合理に慣らされた國民生活とを我々は深く反省すべきであります蓋し蝕まれた肉體に自主的精神も文化の向上も期待し得ないのであります、新らしい日本の政治は、結核對策を中心とする公衆衞生の問題を慈善や社會事業のみに任せて事足れりとする態度を一擲し、國家として社會政策的に之を解決せねばならないのであります、憲法改正案第二十三條の精神も亦實に茲に存するものであります、斯かる觀點から言へば、先づ第一に本案と關聯して政府今後の結核對策の理念並に政策の全貌を承りたいと思ひます
次に此の種法案は如何に法律的構成を完璧にしても、注ぎ込む金と物と人とが貧弱であれば、繪に描いた餅になつてしまふのでありますから、政府は本法案の醫療保護に對しては、豫算上どの程度の金額を豫定して居るのか、伺ひたいのであります
もう一點、結核の社會病たる性格に鑑みまして、又結核蔓延の社會的基盤が本法案の要保護者層に於て最も多く見出されるものと存じますが、是と關聯して本法の醫療保護は、結核の豫防を領域まで當然擴長されねばならぬと思ふのでありますが、政府の所見を伺ひたいのであります
勿論豫防の問題は、法律體系から言へば結核豫防法のことに屬するのでありますが、結核に於ては治療と豫防とに截然と一線を劃することは、理論的には出來ても、結核を社會問題として取上げる限りは、實際取扱に於ては困難であります、徹底した初期治療が社會一般に對する豫防となり、徹底した初期豫防が結核發生の潛在的可能性に對する治療となるのであるから、斯かる法律的の運用上、豫算的措置等に於ては、本法と結核豫防法とは相互補充的に考へ、結核の徹底的撲滅と云ふそれ自體一個の大目的に奉仕するやう特に考慮されたいのであります、此の點厚生大臣竝に衞生局長の確實な御答辯を願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=30
-
031・河合良成
○河合國務大臣 只今中山委員から結核に對する御質問がありましたが、是は御尤も至極の點でありまして、此の無理な戰爭の爲に、又引續いた終戰後の物資不足の状況の爲に、結核に對する點、殊に結核療養所とか或は日本醫療團其の他には收容して居りまする結核患者に對する食糧配給其の他の點に付て遺憾な點があります、全體の刻下の事情とは申しながら甚だ同情に堪へぬ次第であるます、段段國勢も回復の見透しも付きまするし、食糧も段々斯う云ふ天候其の他で宜しいやうでありますし、食糧問題の解決が第一で、それがやはり結核患者に對して都合好くなつて來るのぢやないかと云ふ風に思つて居ります、大體此の結核に對しましては、只今開放性患者の隔離治療の方法と患者の早期發見及び豫防の方法の二つを中心にして施策を行して居ります、開放性患者の點に付きましては、只今の結核の病床はさう數は多くはありませぬが、幸か不幸か陸海軍の病院、國立病院を全部今度は厚生省の方へ接收しまして、それで病床が約二萬八千位増加しました、是と日本醫療團國立結核療養所及び今までの民間のものを合計しますると相當の數に達します、勿論是では不足です、不足ですけれども、開放性結核患者の隔離治療に對しましては相當の解決の兆候を得たのを喜んで居る次第であります、それから患者の早期發見に付きましては、只今健康診斷を實施して居りまして、さうして學校とか或は工場の團體、引揚民、復員軍人等に對しまして健康診斷をやりまして、御承知のBCGの豫防等をやつて居ります、勿論此の保護法に對しましては醫療と致しまして結核が一番重點的になることは疑ひないことだと思つて居ります、それでBCGの注射の如き、豫防と云ふ範圍に入るか入らぬか多少疑問でありますけれども、私は何でも法律と云ふものは生きて居るものであると云ふ解釋の下に醫療の中に入れまして、さうしてBCGを全部保護の對象となる方の、まあ歳の多い人は必要はないかも知れませぬけれども、歳の若い人には全部BCGの豫防を致す積りで居ります、尚ほ此の對象になるお方ばかりでなく、廣く一般國民に對してBCGの豫防注射をやるべきものだ、此の方向に向つて是から進めたい積りで豫算其の他を考慮する積りで居ります
〔委員長退席、小柳委員長代理着席〕
其の他發病の防止とか、或は豫防思想の昔及其の他に付ても出來るだけの手を盡して參る積りで居ります
尚ほ豫算の點は、生活保護法に於きまする醫療保護に要する豫算は約一億四千萬圓位と見當を付けて居ります、併し是は不足ならば補充費の性質を持つた豫算でありますから、豫算費其の他或は追加豫算等で請求する途があります、其の外の點は衞生局長らか御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=31
-
032・勝俣稔
○勝俣政府委員 大體大臣が結核の對策に付ては殆ど言ひ盡されて居ると思ひますが、私から一寸補充させて戴きます、從來の結核豫防に付きましては、結核患者を中心に考へて居つたやうな關係でございまするから、發病の防止、或は早期診斷、早期治療と云ふことには餘り重點が注がれて居らなかつたやうな關係がございまして、患者の處置だけをやつて參つたのでは、何時まで經つても盡きない結核患者の發生と云ふことになつて參ります、それ故、先程大臣も言はれましたやうに、發病防止に重點を置きまして、BCGの問題其の他早期診斷、早期治療に依つて、初めて結核は治り得るものと云ふ行き方で參りたいと考へて居る次第でございます、併しながら開放性結核患者の隔離治療と云ふことも亦最も大事な點でございまするから、其の三者を併行してやつて行かなければならぬ問題だらうと思つて居ります、尚ほ結核豫防の思想の普及と云ふことが最も大事な點ではなからうかと思つて居る次第であります、從來日本の衞生思想の缺如と云ふことが、凡ゆる面に於きまして例外なく起つて居るのでなからうかと思ひます殊に結核の問題に付きましては、日本だけのと申しても宜い位で、我々も皆さんに一つ此の點に付ては十分なる御盡力を願ひたいと考へて居りまの、尚ほ結核の診斷及び治療に關する技術の向上と云ふ點に付きまして、「レントゲン」の問題或は人工手術の問題等に付きまして、學界及び醫師會等に於ても此の點に付て十分なる御努力を願ひまして、我々もそれに十分な努力を致したいと云ふやうに考へて居ります、以上が結核の大體の對策の行き方でございます
それから豫算の問題に付きましても大臣から御話がございました通りでございまして、一億四千萬圓ばかりが此の方の醫療方面に使はれて居るさうでございますが、其の相當部分が、從來の醫療保護法の成績を見ますと結核に使はれて居ると云ふ話でございます
尚ほ今大臣から申されたやうに結核の豫防に付ても此の保護法の對象にされると云ふことになつて居ります、又一般の結核豫防の接種の問題に付きましては、三十歳未滿或は四十歳未滿の人に對して一つの豫防接種を徹底的に致したい、無論陰性患者に對してでございますが、徹底的に致したいと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=32
-
033・中山たま
○中山(た)委員 尚ほもう一度附加へますが、結核に關する限り於は最も重大な社會問題でありますから、是等は國民の衞生思想をもう少し確實に普及する、さうして輿論を赴さす、さうして此の第十條の「保護は、生活に必要な限度を超えることができない」と云ふことは、結核に關し此の枠を外して、大いに十分に衞生思想或は豫防施設を完全に致したいと存じます、尚ほ此の結核は國家問題でありますから、此の結核豫防に對しては、最も健康を條件にしなければならないのでありますが、今の日本の現状から言ひますると、殆どの人は結核になつて居ると云ふ位の現状でありまして、此の窮乏せる生活は益益此の結核の死亡率を高めると云ふ風になります、是等の問題を中心に結核豫防は、本當に政府としても今までのやうな少い豫算を取るばかりでなく、現在の物價高に於ても出來るやうに十分に厚生大臣、又大藏大臣の御考慮を願ひたいと存じます、尚ほ今伺ひますと、恩賜財團とか、さう云ふ財團法人の組織でございますが、是等が現状では皇室などの御下賜金もない、或は資金封鎖に依つて凍結されて、どうしても事業を擴充することが出來ないで寧ろ縮小するの傾向があります、是等は今の日本の現状から申しましたら、益益此の施設を擴充して結核を撲滅すると云ふ建前から資金を充實せなければならぬ時に、之を縮小するやうなことは如何かと思ふのでございますが、是等は政府としても大いに補助を與へまして、結核を日本から驅逐すると云ふ位にして戴きたい、厚生大臣竝に衞生局長の之に對する御施設と御考へを承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=33
-
034・服部岩吉
○服部政府委員 御答へ致します結核豫防に關しましては、本法の生活保護の問題とは多少違つて居りまするので、本法に依りまして日本の結核豫防の全貌を處理することは到底出來ないのであります隨て結核豫防に對しましては別途先刻大臣より御話になりましたやうに、是が撲滅を期するやうに努力を致して居るのであります、此の結核豫防竝に撲滅に要します所の經費に付きましては、本法ととは別途に經費を取りまして、以て結核豫防の完璧を期したいと考へて居りますから左樣御承知願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=34
-
035・中山たま
○中山(た)委員 それでは結核豫防の方は是れ位にして置きまして次に私の御尋ねするのは花柳病の問題でございますが、日本の現状に於てはどうしても平常時では想像し得ないやうな、例へば今回僚竹内先生の仰しやつたやうに、色色の原因から此の種の病氣が蔓延して居るのでございます、政府は之に對して如何なる對策を持つて居られるか伺ひたいのであります又現在の花柳病蔓延の一つの基盤となる虞のある青少年の風紀の頽廢、精神の自主性の喪失は、それ自體一つの社會問題でありますが政府としては此の對策を如何に御考へでいらつしやいますか、伺ひたいのでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=35
-
036・服部岩吉
○服部政府委員 是は非常に難かしい問題で、最近青少年其の他一般の風紀が紊れて參りまして、自然に花柳病が蔓延して居ることは現實の問題で、洵に遺憾に堪へないのであります、此の由つて來る原因は、結局生活不安から來るものが最も大きな問題であらうと存じます、隨て其の根本たる生活不安を取除くことが第一であると斯樣に考へて居ります、それで本法に依りまして最低生活だけは保障し得られまするからして、先づ最低生活の程度で之を保護すると同時に、又教育、或は其の他適切な方法を以て風紀の紊亂を防除して行くと云ふやうな方途を講じなければならぬと痛切に考へて居る譯であります、今後政府に於きましてもさう云ふ多方面に亙つて施設を講じて參りたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=36
-
037・中山たま
○中山(た)委員 此の花柳病と云ふ問題は民族の興亡消長に重大なる關係がありますから、是は本當に十分に徹底した所の豫防法を完全に講ずる、又是等はやはり道義の頽廢と青少年の風紀の問題にも大いに關係しますから、是等の點は政府の教育問題と並んで社會的に教育することも大事だと思ひます
それから次の問題に移ります、戰災地及び農村の醫療對策に付てでございます、本法の要保護者の多くは戰災地域にあるものと思はれますが、醫療保護の點から見れば、其の戰災地域こそ最も保護の困難な所であります、現在の諸情勢に於ては、開業醫の奮發のみに任して置いたならば、此の解決は資力等の點から申しましても無理であると存じますが、是は地方の實情に應じまして、どうしても開業醫の長所と國營の長所とを相互ひに取入れた醫療網の構成體系を國家として計畫する必要があると思ひますが、政府に於てはどのやうな計畫があるか、御意見を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=37
-
038・河合良成
○河合國務大臣 只今戰災地を中心とする醫療機關の不足と云ふ御尋ねでありましたが、是は御尤もの次第でありまして、現在資材、機械等の非常な不足の爲に、醫者は相當ありますけれども、設備の關係がどうも巧く參りませぬ、實際御指摘のやうな事實が各所にあると思つて居ります、政府としましても醫療網の完成と云ふことに對しては、今全力を擧げて調査をして居りまして、出來るだけ早い機會に於て之を實行したいと云ふ考へを持つて居ります、結局醫療普及の問題、又無醫村等に對する問題でありますが、其の構想に付きましては、只今の所やはり國立公營の病院制度と、それから今までの開業醫──是は勿論病院も含んでの開業醫的施設と二本建に致しまして、村とか或は戰災地の困つた所に對しましては、出來るだけ國立、公營的の機關の出張所等を作りまして、全面的の醫療網を完成したいと云ふ考へで進んで居ります
〔小柳委員長代理退席、委員長着席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=38
-
039・中山たま
○中山(た)委員 次の問題は、從來の慈善病院に對して與へられて居つた國家の補助はどうなるのでございますか、補助がなければ立ち行かないものに對して、國家としては如何なる態度を以て臨まれて居りますか、此の法案とは直接關係はないが、本法案の如き社會政策的の立法に是等の慈善事業を取入れまして、之を積極的に使用したら宜いと思ひますが、政府の御方針を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=39
-
040・服部岩吉
○服部政府委員 社會施設的な慈善事業であるとか、或は慈善病院であるとか、斯う云つたやうなものに對しましては、其の施設が、本法に依る所の要救護者を收容し或は之を指導して救護して參ります場合に於きましては其の經費は即ち本法に依つて補助を致すことになつて居りますから、それで御承知置きを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=40
-
041・中山たま
○中山(た)委員 次の問題は助産施設でありますが、現在の住宅状況、例へば醫師とか産婆の資力の點から申しましても、要保護者に對する助産は、公的産院を廣く設置するにあらざれば徹底を期し難いと思ひますが、政府の御計畫を承りたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=41
-
042・葛西嘉資
○葛西政府委員 要保護者に對しまする助産施設の不足と云ふ點は只今御指摘の通りであります、殊に戰災地等に於きましては非常に不足であらうと云ふやうな譯でありまして、本法の費用の中からさう云ふ方面にも積極的に進めまして、要援護者の助産に事缺かないやうにすると云ふ方針で進んで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=42
-
043・中山たま
○中山(た)委員 それから次は母子保護の問題でありますが、母子保護の理想的の形態は、仕事場と託兒所を兼ね併せた援産施設であると思ひますが、政府は之に對して如何なる御計畫を持つていらつしやいますか、御意見を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=43
-
044・葛西嘉資
○葛西政府委員 全く御説の通りと考へて居ります、先程も竹内委員の御尋ねに御答へ致しましたやうに、私共と致しましては、母子「ホーム」が非常に不足ではないかと云ふ風な譯でありまして、地方に指令致しまして母子「ホーム」を作る計畫をするやうにと云ふ風なことでありまして、今月の末までに本年度の地方計畫と云ふものを各地方廳から持つて參ることになつて居ります、其の中には母子「ホーム」も勿論入れてありまするし母子「ホーム」には今御話のやうに託兒所或は授産所と云ふやうなものを附設しまして、子供を其處に預け、働きながら生活が出來るやうな風にしてやらうと云ふ譯で、さう云ふ御説のやうな計畫を地方に今立てさして居る譯でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=44
-
045・中山たま
○中山(た)委員 最後にもう一問御尋ねしたいことは、只今まで色々申述べたのでございますが、今後國民の保健衞生の問題は益益重要性を加へて參りますので、施策の急速適正を期する爲には、保健衞生局を新設して保健衞生行政を專管せしめることが最も必要であると考へるのでありますが、政府の御所見を伺ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=45
-
046・服部岩吉
○服部政府委員 只今御質問の點に付きましては、目下省に於きまして是が設置に付きまして色々準備調査を致して居る次第でありまして、其の必要な程度は十分承知して居りますから、左樣御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=46
-
047・中山たま
○中山(た)委員 是で私の質疑を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=47
-
048・庄司一郎
○庄司委員長 松尾委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=48
-
049・松尾トシ
○松尾委員 質疑に不慣れな上に順位の關係から重複に似たやうなものが生ずる場合もあると思ひますが、御諒承願ひたいと思ひます
先づ私は總則から結論に至るまで五項に亘つて御尋ね致したいと思ひます、此の法案は一見社會的の法律に見えますけれども、此の裏には何か政府の熱のない片手落のやうな氣が致します、政府と致しましては、國家が國民に對する福祉、民福の主體として、當然の責任を果すことを目的として居られますかどうか、即ち文化國家觀に立脚したものでありますかどうか、御尋ね致したい
次に從來の救護法、軍事扶助法母子保護法、醫療保護法及び戰時災害保護法を全廢するとありますが、從來の是等の法律に依りまして救はれて居た者を、此の新生活保護法一本に依つてなすやうに思はれますが、十分なる御確信があるかどうかを御尋ね致したい
それから又第二條第一號に依りますと此の法律に於ては、救はれる範圍が非常に狹くなると思ひます、現在の情勢では働きたくても職がない、資本家の生産「サボ」と言ひますかそれから出て來る失業者、或は今後行はれようとして居ます軍需補償打切りから來る所の多數の失業者、是等の人々は勤勞意欲が旺盛であつて、職業を求めようとして居ながらも職業が求められないと云ふ状態でありますが、此の第二條第一項に依りますと、斯う云ふ風な廣汎な失業者を救ひ得ないと云ふやうな状態になりはしないかと思ふのですが、政府の此の案を御出しになつた熱意が少しく疑はれるやうな風に思はれます、此の法案一本に依りまして、社會の福祉を開拓しようと思ふのは全く困難ではないかと思ひます、職場の開墾を圖つて、働けば食べられるやうにすること、例へば低物價政策とか生産再開を圖ることは、此の法律と表裏一體を成して重大ではないかと思ひますが、政府の御所見を伺ひたう存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=49
-
050・服部岩吉
○服部政府委員 御答へ致します第一問の方は此の法案は文化的國家の立場より立案したものぢやないかと云ふやうに伺つたのであります、全く其の通りであります、隨て本法は國民の最低の生活を保障致しまして、其の生活を向上させ、竝に社會福祉の増進を圖つて行かうとするものであります、先づ民生の安定を向上させることを本旨とし、それに依つて國家の發展を圖つて行かうと云ふものでありますからして、全く高度──高度と申上げては甚だ何でありますが、民主的國家に立變つた以上は總て大體の方針を、斯う云ふものは國の施設に依つて、新しく出來上りました憲法の趣旨に依つて、國民の最低生活を保障して行く一つの文化的國家の立場よりの施設と、斯新に考へて居る譯であります
それから第二點の問題は從來の保護法を全部撤廢して、之を綜合して茲に生活保護法と云ふものを制定したのでありますが、本法に依つて諸種の救護法より以上に保護が出來るか、或は從來の法案よりも低下しやしないかと云ふ風に承つたのでありますが、私は本法に統一綜合した爲に、從來よりも徹底した所の所謂生活保護が出來得るものと確信を致して居ります又是が運用に付きましては萬全を盡して行くと云ふことに中心を置いて行くならば、十分に之に依つて過去の保護法以上の成績を擧げて行くことが出來ると確信を致して居ります
それから次の問題は、本法の生活を保護するものが、今後日本の發展の爲にどう云ふ關係を持つて居るかと云ふ御質問のやうに承つたのであります、先づ生産再開と申しまするか、斯うした面に積極的に進んで行く爲には、曩に申上げましたやうに、先づ國民の生活安定を期すると云ふことが第一條件であらうと思ひます、隨て本法に依つて國民の最低生活が保證されると云ふことでありますれば、是が總て生命を抛つて國家建設の爲に國民が努力すると云ふやうな面に非常に役立つものと思ひます隨て本法は生産再開の爲には非常に役立つ效果を持つて居る、斯樣に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=50
-
051・葛西嘉資
○葛西政府委員 第二條の點に限定しての御質問のやうでありましたが、大量の失業者が出た場合に此の法では救はれないぢやないかと云ふ風の御懸念の御質問かと拜察致したのでありますが、是は怠けて居つてやらない、仕事をしない者に付ては第二條で排斥をして居りますが、働かうと云ふ意思がありまして、具體的に申しますれば、勤勞署等に行つて口を探したが、口がなかつたと云ふやうな失業者に付きましては、即ち仰しやいました勤勞意欲のある者に付きましては、假令失業して居りましても、此の法律に依つて保護を與へるのであります
それから最後に、本法だけでは社會福祉の増進が期せられないのではないかと云ふやうな御意見のやうでございましたが、此の法律は先日來大臣から御話がございましたやうに、色々なる社會施設に依りまして何ともならないで生活の保護を要する状態にある者に對して、最後の線と、致しまして保護を致さうと云ふのでございますから、此の外に色々な社會福祉の増進を目的とする、例へば社會保險施設であるとか、或は公衆衞生の施設であるとか、或はもつと廣く申しますれば、産業の再開と云ふやうな、各般の施策が此の法律の上に出來まして、最後に此の法律で、只今政務次官が申されましたやうに、最後の一線で之を確保致しまして、さうして社會福祉の増進に寄與する、斯樣な建前であると考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=51
-
052・松尾トシ
○松尾委員 大變細やかに御説明願ひまして有難うございましたが御實行に移されて早く皆さんが安心出來るやうに致して戴きたいと思ひます
第二條の第二項に「素行不良な者」とありますが、是は重複する質問のやうに思はれますけれども私の研究し又質疑をしたことを角度を變へまして御尋ね致したいと思ひます、先程も申上げましたやうに、失業者も段々多くなりますし、就職も出來ないし、此の物價高では食べられないと云ふ状態でこざいます、それに又主婦の側から申しますと、現在の複雜なる配給機構、當番を持つて居りましては、迚も長い間子供ばかり家に置いて、表に出て家庭の費用を働くと云ふ譯には參りませぬので、致し方なく夜の女に轉落してしまつて居るやうな状態もあるのであります、さうしますると、其の素行不良と云ふものの規準を示して戴きたいと思ひます、例へば社會の道義頽廢から夜の女になつた人もあれば、又或は生活困窮から不良になり、そこで生活に困ると云ふ方もございますが、所謂素行不良の規準と云ふものをはつきり示して戴きたいのであります、現在夜の女と申しますのは、一寸前ですと、好奇心とか或は女性の本分を忘れて女の風上に置けない奴だと云ふやうなことを言はれて居りましたが、さう云ふことはもう過去になりまして、今は全面的に生活の困窮から闇の女に轉落して居ると云ふのが注目すべきことだと思ひます、私は廣い範圍に付て之を調べる期間がござませぬでしたので、神奈川縣だけを調べて見ました、年齡別に申しますと、十四歳二人と云ふのが特別な例でございまして、十五六歳が一〇%ございます、次に二十代の娘が絶對に多くを占めて居ります、それから又三十代、四十代とございます状態でございます、娘と云へば親と云ふ保護者があることを皆さん思はれますが、此の夜の女の二十代は家庭の中心で、家政を働かなくてはならぬと云ふ中心の人物であるのでございます、又職業別に言ひますと、無職が澤山居ります、是は戰災に依つて夫を失ひ或は子供を抱へて生活に窮して、子供の教育上、惡いと云ふことは重々承知しながら、他に途がないし、資本がないので、自分の體を資本にして稼いで居ると云ふ母も混じつて居るのでございます、其の外に女工とか女中、女給、ダンサー、偶々教育を受けました事務員とか「タイピスト」までも、一家の家計をするのには、事務員、「タイピスト」よりも、色々な意味に於て夜の女の方が收入が多いので、それに轉落すると云ふ状態でございます、又それに伴ひまして一番心配になる問題は、是等の女性は今まで商賣をして居た方は別と致しまして神奈川縣だけで千人も素人の娘さんだけであるのでございます、其の娘の中の三〇%から四〇%の罹病者を出して居ります、神奈川縣に於きまして四月に檢擧されました者二百九十名の中、百八十名の有毒者を發見致して居りました、五月は四百八十八名の中二百四十八名發見され、六月は四百十名の中百五十名と云ふ始末でございますから、全國的には驚くべき數字に上ると思ひます、從來公娼がございました頃は斯う云ふ病氣の治療は組合とか雇主等が其の費用の負擔を致して居りましたし、又專問の病院も澤山ございましたので大變樂に治療が出來ましたが、燒けました關係上此の施設も少くなりました、隨て入院費も物價高と相俟つて非常に高くなつて居ります、又女の中には強制入院をせねばならないと云ふ者が澤山ございます、是等は全治までに、重いのになりますと二萬圓も掛ると云ふ風です、其の上強制入院のあとの家族は生活扶助、此の生活保護法で保護して戴かなくてはならない状態でございます、輕いのでも二三千圓を要すると云ふのでございますから、斯うした夜の女に轉落する程の人には費用は全然なくて放置して居ると云ふ恰好であります、又假令茲に金を出して呉れる方があつて全治しましても、全治した後三箇月の經過を見て、血液檢査を行つた後でなくては完全だと言はれないやうな大變困難な治療法の病氣ださうですから、私共の縣に於きましては、是が豫防に縣費年二千五百二十圓しかないので、非常に迷つて居ります、それで神奈川縣では七月の參事會に掛けて、此の性病豫防の爲に一萬五千圓取る豫定でありますが、豫算の關係上非常に愚圖ついて居るさうです、又委託入院費を百萬圓取る豫定ださうですが、愈愈生活が苦しくなるし、又闇の女の數も殖えるし、又海外引揚の方の中にも隨分性病を持つた方も澤山あると云ふお話です、復員軍人の中にも非常に此の病氣の數が多いと云ふ話を聞きますので、此の百萬圓の費用ではどうにもならないと思ひます、先づ是等のものを豫防するのに、私は考へますのに、結核豫防と同じやうに、此の施設を國家がおやりになつては如何かと思ふでございます、又是等闇の女から生れ出て來ます所の子供の中に混血兒も混じて居るのですけれど、斯う云ふ者に對してどう云ふやうな保護を行ふか、又國際的な色々の關係もございますので、日本の恥辱を曝さないやうにすることが大變必要ではないかと思ふので、私は此の處置と保護に對して痛く心配して居るものでございます、又現在此の闇の女に對してどのやうな取締を行つて居りますか、御聽き致したいと思ふ次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=52
-
053・服部岩吉
○服部政府委員 此の問題は一寸中々難かしい問題ですが、本法の素行不良な者と云ふことに付きましては、結局本法の適用を受ける場合に於て、實際の内容を見ることが必要でありまして、今此處で此の素行不良者の程度、内容と云ふやうなことは中々申上げにくいと思ひます、實際問題に當つて民生委員などが十分に調査して、さうして是は素行不良な者であると云ふことが決まりますれば、是は所謂生活の保護が受けられない、又民生委員會が是は素行はどうもいけないけれども、今生活の保護をしなければ益益素行不良者となつてしまつて取返しが付かないと云ふやうな色々な面がありますからして、それは一に國の保護を受ける場合には、現實の問題に依つて決定して行くより仕方がないと思ひます、其の他の點に付きましては、他の政府委員から答辯をして戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=53
-
054・葛西嘉資
○葛西政府委員 素行不良の者の規準を示せと云ふ御話でございましたが、是は先程も申上げましたやうに、公費を以て保護をして參る以上は世間の非難を受けると云ふ風なものに付ては適當でないと云ふやうな觀點から規定したものでございますので、基準と申しますか、客觀的に見て斯う云ふ素行不良な者を國家が保護することが國の良風美俗に反して、社會の秩序の維持に害があると云ふやうな者は、素行不良と云ふやうなことで保護しないと申すより外は方法がないと思ひます、具體的には、政務次官の御話になりましたやうに、實際の事情に依り御判斷を願ふより外はなからうと思ふのであります、唯先程も申上げましたやうに、斯樣な闇の女にならなければならない、而も其の原因が生活苦から來るやうなものに付ては、其の前にやはり指導を致しまして保護を要すれば保護を與へると云ふやうなことで、斯樣なことに依つて生活をして行かなければならないやうな状態に立至ることを私共は防止して參りたいと云ふ考へでございます、只今御述べになりましたやうに、戰災で夫が亡くなつて、澤山の子供を抱へて居る寡婦が、其の日の生活にも困つて闇の女になるやうな場合には、是は明瞭に保護法の對象になるものであります、隨ひまして斯樣な生活苦に依つて履み間違ふと云ふやうなことがないやうに、是は市町村長竝に民生委員の方々に能く徹底を致しまして、斯樣なことに陷る前に保護をして參ると云ふ風に致して參りたいと思つて居ります
次に混血兒の保護問題に付て何か考へて居るかどうかと云ふやうな御話でありましたが、是は生れて參りました子供に付きましてはやはり社會的な保護を加へて參ると云ふことより外はありませぬので、或はさう云ふ妊婦の身上相談であるとか、或は産院、それから育兒院とか、或はさう云ふ母子を入れなければならぬ母子の收容施設と云ふ風なものに付ては、只今地方廳等と具體的に折衡を致して居ります、餘程取扱ひも面倒であらうかと思ひますので、其の收容致します人の點、或は施設の點等に付て具體的に色々私共案を練つて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=54
-
055・庄司一郎
○庄司委員長 國立か何かの花柳病救護の病院を建てる意思はないかと云ふ御質問に對する御答辯が拔けて居たやうでありますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=55
-
056・勝俣稔
○勝俣政府委員 花柳病豫防に付きましては、實は昨年の十月、司令部から日本政府宛に、花柳病對策に關する覺書が參りました、之に基きまして昨年の十一月の二十二日には生省令第四十五號花柳病豫防特例を設けまして、十二月一日より之を實施して居るやうな次第でございます、之に依りますと醫師は花柳病患者を診斷した場合に於ては、地方長官に之を届出ると云ふことになつて居りまして、一方所謂業態者の健康診斷を勵行致しまして傳染病の源を探知し、是等の患者を徹底的に治療すると云ふことを眼目にして居るのでございます、治療に付きましては、先程の御話の如く、戰災等の爲に診療施設が非常に不足になり、又藥品も不十分であります、そこで診療所の増設或は舊娼妓病院を轉用するとか、花柳病豫防法の第四條に依る代用診療所の増設などをやらうと云ふのでやつて居るのでございますが、尚ほ日本醫療團に依りまして是が爲の特別診療所を作らせる、是は現在慥か三、四十位出來て居るやうに思ひますが、兎に角數の足らないことは御承知の通りでございます、又藥品に付きましても特效藥の増産を圖つて居りますが、遺憾ながら原料の不足等で困つて居ります、併し現在では進駐軍から相當量の治療藥品の供給を受けてやつて居るやうな次第でございます、最近は「ペニシリン」の増産も日本で大いにやらう、又現に多少進みつつありますから、此の藥の點に付ては先づ順次に良い方に向いて行くのぢやなからうかと思ふのでございます而して最後の御話の國立のものを作つたらどうだらうか、斯う云ふ御話でございますが、是は實際御説の通りに、今までのやり方は地方に對しての補助費も非常に少い隨ひまして神奈川縣の豫算なんかの御説も今承りましたが、大變なことだらうと思ひまして、我々も其の補助費の點に付ても十分努力しなければならぬとは思ひますし又國立のものを作ることは理想的のことではございまするが之に付きましては尚ほ考究すべき點があると思ひまするから、今後研究致して見たいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=56
-
057・谷川昇
○谷川政府委員 取締關係に付て一寸御答へ致したいと思ひます、各種の事情並に事由に基きまして最近闇の女が非常に殖えて參りましたことは洵に遺憾と致して居る所であります、曩に政府に於きましては、全國の公娼制度を一掃的に廢止致したのでありますが、此の後を承けまして集團的の私娼は或る程度之を認める方針で進んで居るのであります、然る所是は「オフ・リミツト」となつて居りますので、非常に闇の女の跳梁と云ふことになつて參るのでありまするけれども、併し此の點に付きましては進駐軍關係からも非常に強い要望もありますので、今後我が國に於ける風教の關係或は衞生上の關係から從來通り嚴重なる取締を進める覺悟であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=57
-
058・松尾トシ
○松尾委員 次に第三條の「扶養義務者が」とございますが、是は民法の扶養義務者だと思ひます、さう致しますと、茲に扶養をなし得る者には、此の法律に依る保護は之をなさないとありますが、是では生かしたり殺したりするやうなものだと思ひます、扶養義務者が扶養をなさない場合には、此の法律の保護を受けることを得としなければ、意義をなさないやうに思はれます、一例を擧げますと、此の保護を受けなければ生活出來ぬ者でも、先づ生活の裕福な親戚とか兄弟とかが早速出頭を命ぜられて、色々の事情を聽取られたり其の擧句どうしても扶養義務があるからと説諭して、大體話が纒まつて別れても、中々履行しないと云ふ状態であります、其の上五百圓生活の今日、各自各家庭の獨特な生活の技術を活かさなくてはならないのですから親戚だとは云つても扶助しないのは普通ではないかと思ひます、それ故に扶養義務が民法上であるとか何とか云ふ問題まで惹き起しましても、之に費用を使ふばかりで、困る者は餘計に困ると云ふ状態で少しも扶養されないと云ふ状態ではなからうかと思ひます、斯う云ふ面倒な問題が起らないやうに、第三條は扶養義務者が扶養をなさない場合は、とした方が宜いのではないでせうか、其の邊を御伺ひ致したい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=58
-
059・葛西嘉資
○葛西政府委員 是は御説のやうに、扶養義務者と云ふのは皆民法に依る扶養義務の關係であります實際は御懸念のやうな色々の場合に於きまして、例へば、先般も或る席で話がありましたが、出征軍人の寡婦のやうな人が、夫が戰死を致しました後では、戸主たる扶養義務者と折合ひが惡いと云ふ風な場合に困るのぢやないかと云ふやうな御質問もあつたのでございます、多分御懸念の點も斯樣な場合かと思ふのでございますが、さう云ふ場合に於て、どうしても工合が惡いと云ふやうな時には「急迫した事情」あるものとして救助することは差支へないと思ひます本第三條に斯樣な規定を掲げましたことの意味は、民法に現在扶養義務と云ふものが規定してありまするし、此の扶養の關係を國の制度としてやはり置く必要がある、又良い所もある譯であります、それを考へまして、一應斯う云ふことに致したのでありますが、實際御懸念のやうな場合は、急迫した事情があるものとして、扶養の義務をなし得るものと云ふ風に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=59
-
060・松尾トシ
○松尾委員 それから第四になりまして、是も一寸重複の氣味がございますが、浮浪兒の問題を一寸御尋ね致したいと思ひます、是は闇の女と相俟つて非常に難かしい問題で、衣食住の惡條件が斯うしたものを段々増加させるのではないかと思ひますが、浮浪兒と云ひましても、從來とは違ひまして色色の種類があります、戰爭前から惡の仲間入りをして居りました者もあるし、又戰爭に因つて親、兄弟を失つて寄邊ない者もあるし、又兩親が揃つて居て、最近では此の浮浪兒の仲間入りをする者が澤山出て來て居ります、是等は皆衣食住の惡條件から來るものだと思ひます、なぜならば、街頭へ出て人々に物を乞うて居た方がお腹が一ぱいになるからだと言つて居ります、斯う云ふ點では家庭と云ふものが破壊されて居るのだと思ひます、是等の浮浪兒に付ては政府當局に於ては、時々新聞などで拜見致しますが、收容所へ連れて行つて唯保護すると云ふだけのやうに思はれますので、直ぐ逃出してしまふやうな恰好でございます、さうして逃出した浮浪兒は今では暑いので、畫は海岸で水浴びをしたりなどして、夕方になると三々五々連れ立つて集團的に惡いことをやり出して、お腹を肥やして居ると云ふやうな状態だと思ひます從來政府は是等の浮浪兒に對して保護、例へば檢擧を一纒めにするだけで、逃出すと云ふことは、どんな所に原因があるかと云ふことを御考へになつて居りますか、偶偶街に行きますと、街頭で頭から足の先まで泥だらけになり、裸同樣になつて、落ちた煙草を拾つて喫つて居るのを見たり、或は腐つたものをちびちび食べて居るのを見たり、電車や汽車の煙管乘りをやつて居るのを見ると、どうしても是は救はなければならぬと思ひます、敗戰したとは云ひながら日本人の恥辱を感じさせられますので、又大人の立派な考へから「プラン」を立てた所の百の施設よりも、其の内容が子供の氣持にぴつたりするものでなければいけないと思ひますので、此の浮浪兒の保護施設と云ふものは内容如何に依るものと思ひますが、政府は、敗戰後一箇年になりまして愈愈其の増加を見て居る今日、此の法律で是等の者を御救ひにならうと思ひましたなら、此の法律を出す時には、十分内容を調査し、具體的のものを計畫の上に載せていらつしやるのだと思ひますから、其の具體的なものを御聽かせ戴きたいと同時に、只今此の浮浪兒のやうなものはどう云ふ状態で救つて居るから、ああ云ふ風に逃出して行くのかと云ふことを御話して戴きたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=60
-
061・葛西嘉資
○葛西政府委員 浮浪兒の保護のことに付きまして、私共も實は大變心配を致して居るのでございます、現に東京、大阪其の他の都市に全國的に指令を出しまして、浮浪兒の保護に遺憾なきを期するやうにと云ふ譯で、さう云ふ兒童がございましたら保護施設に收容するとか、或は親許に歸らせるとか或は又種類に依りましては、少年教護院等に入れるのが適當な者は入れると云ふやうに致して、現に上野の附近等に於きましては、一週に二回位も、さう云ふ保護をする爲に係官が行つて浮浪兒を探すと云ふやうなことを實はやつて居るのであります、併し御指摘のやうに是が逃出すのでございます、此の原因が何にあるかと云ふやうな御尋ねと申しますか、どう考へて居るかと云ふやうな御話でございましたが、是は色々あると思ふのでございます、現に逃出すやうな施設もありますし、又逃出さないで、本當に親身にして家庭的な氣持でやつて居るやうな施設もあるのでございます、彼此れ比較致して見ますと、どうもやはり食糧問題が一番大きいのではないかと思ひます、又子供が住みます色々な周圍の環境がやはりぴつたり來ないやうなことがありましたり、或はそれを取扱ふ人の親切と申しますか、さう云ふ點中々難しいことだと思ひます、ここらになりますと、やはり何と申しますか、社會事業家精神を發揮して戴く方々に良くやつて戴くより外方法がないのではないかと云ふ風に思つて居るのであります、言葉を換へて申しますれば、子供の心になつて能く親切にやつてやると云ふより外ないのではないかと思ひます、具體的な此の點に付ての施策があるかと云ふ風な御尋ねでございましたが、勿論さう云ふ保護の子供を收容して居りまするものに付きましては、保護の費用を要しますれば、此の法律に依りまして保護施設と云ふことに致しまして、子供の生活の爲の費用、或は施設の事務の費用等も此の法律に依つて支出することに相成ります、尚ほ此の法律と別に、先般本會議でも大臣から御話があつたのでありますが、此の浮浪兒、或は廣く浮浪者と云ふやうな者を收容致します施設を造る必要があると云ふ譯で六百萬圓の豫算を御願ひ致して居りまして、是等を斯う云ふものの多い所に入れようかと云ふ風に考へて居る次第でございます、五月だと思ひますが、大體全國的に見た所では、保護の爲に街頭へ出張りまして、收容せねばならぬ者を見付けた場合の丁度半分位が一應保護されて居ると云ふ風な數字に相成つて居ります、まだ逃げる者もございますが、一應今のやうになつて居りまして、成べく是は徹底してやらなければならぬ、聯合軍の方からも非常にやかましく言はれて居りまして民間の施設等の協力を得まして、或は又本年度の豫算で御協賛を願ふ六百萬圓等の施設、或は民間施設等で是は十分な保護をしてやる、其の保護に付きましては、繰返して申しますが子供の氣持になつて親切な保護をしてやると云ふことが一番大切なことではないか、斯樣な意味で指導をして參りたいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=61
-
062・松尾トシ
○松尾委員 それでは結論を申上げたいと存じます、戰爭の齎らしました不幸な寡婦とか、夜の女とか、孤兒とか、或は又歸還せぬ者の家族竝に遺家族とか、其の他軍事保護法に該當する者の保護は戰爭を行つた資本主義全體が負ふべきではないかと思ひます、本法に依つて是等の戰爭犧牲者を保護救濟せんとするのは、戰爭責任の資本家の責任回避の如く考へられると同時に、斯かることに依つて保護されることを一般國民は喜んで居らないだらうと思ひます、なぜならば、貧困者だから救濟をすると云ふ建前のやうに思はれます此の法案に依りまして社會の福祉の増進は圖られないと思ひます、なぜならば、此の法案では社會事業的素質を缺いて居るやうに思はれますから、政府の當然負ふべき責任は、保護でなしに防貧する、困らないやうにすることであると思ひます、それには施設の擴大にあると存じます、故にさう云ふ爲には此の度の三十四、五億と云ふ豫算は餘りに貧弱ではないでせうか戰時成金から取る戰時利得税、之をもつと高率に上げて、それを生活保護法に振當てる御意思はないでございませうか、又生活扶助金は基本的な金と致しまして、世帶員の一人が表に出て働き、例へば五十圓働きますと、五人單位の三百圓から五十圓を差引かれて支給されると云ふ風になつて居るやうに承知して居りますが、是は今の物價高では當然三百圓では暮して行かれませぬので、此の三百圓は基本金として戴き、收入は入つても減らさないやうにして戴きたいと思ひます
又此の法案と竝立致しまして社會保險法をお出しになるやうに伺つて居りましたけれども、何時頃お出しになるのでありませうか、又其の内容はどう云ふ風なものでございませうか、例へば此の社會保險法に寡婦年金とか、或は孤兒年金のやうなものが盛られますと此の新生活保護法の解釋の仕方や範圍が違つて來ると思ひまするから、社會保險法の内容と時期が大變問題でせうと思ひます、と同時に、資本主義の代表である所の吉田内閣に、社會主義的政策を完全に遂行出來る御自信ありや否やを御尋ね致して、私の質問を終りに致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=62
-
063・服部岩吉
○服部政府委員 御答へ致します吉田内閣が資本主義内閣であるかないか、さう云ふことは私は別問題として考へます、本法に盛られた豫算が本年度は三十億圓であります、而も御話の例へば五人世帶のものが、月三百圓乃至二百五十圓の生活扶助を受ける、但し其の家族の中で月五十圓乃至百圓と云ふものを儲ける場合に於きましては、それは差引かれることになつて居ります、是は法の建前であり又それを引いた額だけでは到底五百圓の枠内に於ける所の生活が出來ないではないかと云ふやうな點でありますが、是は餘程考へて戴かねばならぬのは、最低生活でありますから、要は其の點がはつきりしないといけない、無論最低生活と雖も、經濟界の變動に依つて三百圓でやつて行ける時もありますれば、或は五百圓を要する場合もありますから、それは其の時の經濟事情に依つて、最低生活費用と云ふものは決定されて行くものと思ひますので、先づ只今の所に於きましては、此の程度で宜いのではないかと考へて、一應豫算を取つて居る譯であります、此の點は十分に御諒解が願ひたいと思ひます、さうして此の豫算は三十億圓でありますけれども、所謂補充費でありますから、豫算が足りなければ、或は豫備金から廻すなり或は又追加をするなり、色々の方法で必要な費用は全部出せることになつて居りますから、其の點は御安心を願つて宜しいと思ふのであります
それから社會保險の問題でありますが、今社會保險制度の調査會を設けまして、此の調査會で、殆ど週に一回づつ開いて急いで調査を致して居ります、今度の社會保險制度の調査會に於きましては、相當高度の社會的意義を持つたものにして行かなければならない、でありますから、今其の内容を御話申上げる所までは行つて居りませぬが、着々と調査を致して居りますから、どうか此の點で御諒解を願ひたいと思ひます、尚ほ言ひ洩らしました點は、他の政府委員より御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=63
-
064・葛西嘉資
○葛西政府委員 此の法律に依つて保護を受けることを喜ばない者がありはせぬかと云ふことを大變御懸念でございましたが、其の點も實は何遍も申上げて居りますやうに、救貧法と云ひますか、慈善仁惠的な意味のものを、救貧的と云ふ言葉で言ひ表はすならば、本法案は斯樣な趣旨のものではございませぬのであります、國家が責任を持つて國民の生活を保護して參ると云ふことを宣言して居るのでありますから、將來も私共保護されることを、保護を要する者が喜ばないと云ふやうな運用をして參りたくないと、固く心に期して居る次第であります、又法の書き方などと致しましても、貧困者とか或は生活に困るとか何とか云ふやうな文字を書くことが實はいけないのではないかと云ふ譯で、「生活の保護を要する状態にあるもの」と云ふやうな廻り諄い文句でありますけれども、本法案を作ります時にも斯樣なことが少しでも出ないやうにと、用語等に付ても私共だけでは注意して作つてある積りであります、斯樣なことはないやうに運用でもやつて行きたいと思つて居りますので、此の點は一つ御諒承戴きたいと考へて居ります
それから防貧的な方面に及ばなければならぬと云ふ御説に對しましても、全く其の通りであります防貧の施設も、本法に依つても生活の保護を要する状態になる前に於て、生業扶助でありますとか、或は先程御話のありましたやうな病氣に罹つた場合に醫療保護を加へるとか、此の點は此の法律でも致しますが、尚ほ此の法律の外に國家の色々な附帶施策と云ふものが出まして、只今御質問の中にありました社會保險制度と云ふやうなものもありまして、極力保護を要する状態に陷る者を防止して參らうと云ふ施策は、國としても當然考へなければならぬことだと思ひます
尚ほもう一點御尋ねの中にあつたかと思ふのでありますが、三百圓では暮して行けないと云ふ御言葉があつたと思ひます、是は只今政務次官から御話がありましたやうに、私共と致しましては、御手許に配付致しました資料にもございますやうに、三百圓の基準と云ふものを一應ああ云ふ風に致しまして作つた譯でございますけれども、併しそれで食つて行けないと云ふやうな事情がございます場合に於ては、是は限度を設けないのであります、必要な額だけ出す、併し出すと致しましても、政務次官から御話のありましたやうに、第十條に書いてありますやうに、生活に必要な限度を超えない、國費若しくは公費を以てやるものでありますから、必要な限度を超えない限りに於ては入用だけ支出すると云ふ建前のものでございます現に法律施行前でございますけれども、全國の厚生課長會議等に於ても此の趣旨は明かに示してあります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=64
-
065・松尾トシ
○松尾委員 必要な限度を超えないと云ふと、色々又御伺ひしたくなりますが、お時間の關係もありますから、此の邊で終りに致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=65
-
066・松谷天光光
○松谷委員 一寸委員長に御尋ね致します、本委員會に於ける發言の順序は之を通告順に依つて決めると云ふ御話があつた筈だと思ひますが、既に御發言の順序は前委員會に於て決定して居り、尚ほ委員長からも之を御認めになつた筈でありますが、今日突然に此の順序を御變更になりましたが、何等御斷りのなかつたことに對しまして一應御變更になりました理由を御説明戴きたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=66
-
067・庄司一郎
○庄司委員長 松谷さんに御答へ申上げます、過般の順序は御説の通りでございます、さりながら其の後理事會等に御諮りし、本日は特に御婦人の方々が大いに發言權を保持されて居る日でございますので、委員長として、特にそこには優先的も差別的もなく、恒例に依つて、御婦人「デー」のやうな日でございますので、各委員會、本會議等でやつて居る本院並に委員會の恒例に準據致しまして、理事會等にも御諮り申上げ、政黨順に致したやうな次第でございます以上の御答へを以て松谷さんには深い御理解と御諒解を御願ひ申上げます、前以て申上げなかつたことが或は委員長の手落ちでありましたならば、深く御詫び申上げて置きます、御諒承を願つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=67
-
068・葛西嘉資
○葛西政府委員 先程一寸申し落しましたが、收入がありました場合には、生活の限度から差引くと云ふ問題でございますが、政務次官から御話がありましたやうに、建前と致しましては差引くのでございますが、勤勞精神を鼓吹すると云ふやうな意味で、極く僅かばかりの或は内職等を致しました經費、極く輕いものに付ては取扱上差引かないでも宜しいと云ふ氣持で、是れ亦地方廳にもさう云ふ風に指示致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=68
-
069・庄司一郎
○庄司委員長 本日は是を以て散會致します
午後零時三十四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011905X00519460730&spkNum=69
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。