1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
財産税法案(政府提出)
財産税等收入金特別會計法案(政府提出)
企業整備資金措置法を廢止する等の法律案(政府提出)
戰時補償特別措置法案(政府提出)
金融機關再建整備法案(政府提出)
特別和議法案(政府提出)
大藏省預金部等損失特別處理法案(政府提出)
厚生年金保險法及び船員保險法特例案(政府提出)
企業再建整備法案(政府提出)
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本委員は昭和二十一年九月二十八日(土曜日)議長の指名で次の通り選定された
石原圓吉君 江藤夏雄君
大内一郎君 大塚甚之助君
花月純誠君 菊池長右エ門君
近藤鶴代君 坂本實君
田中重彌君 高橋英吉君
平岡良藏君 廣川弘禪君
本多市郎君 松永佛骨君
森曉君 天野久君
金光義邦君 喜多楢治郎君
北村徳太郎君 九鬼紋十郎君
小池新太郎君 小坂善太郎君
鈴木明良君 寺田榮吉君
苫米地義三君 舟崎由之君
武藤嘉一君 上田清次郎君
奧村又十郎君 川島金次君
澁谷昇次君 鈴木茂三郎君
田村定一君 中崎敏君
前田榮之助君 水谷長三郎君
森三樹二君 赤澤正道君
鹿島透君 木下榮君
駒井藤平君 三木武夫君
久保猛夫君 笹森順造君
穗積七郎君
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九月三十日(月曜日)午前十時四十五分委員長理事互選の爲次の委員が參集した
石原圓吉君 江藤夏雄君
大塚甚之助君 菊池長右エ門君
近藤鶴代君 坂本實君
田中重彌君 高橋英吉君
平岡良藏君 廣川弘禪君
本多市郎君 松永佛骨君
森曉君 金光義邦君
喜多楢治郎君 北村徳太郎君
九鬼紋十郎君 小池新太郎君
小坂善太郎君 寺田榮吉君
苫米地義三君 舟崎由之君
武藤嘉一君 奧村又十郎君
川島金次君 澁谷昇次君
鈴木茂三郎君 中崎敏君
前田榮之助君 水谷長三郎君
森三樹二君 赤澤正道君
鹿島透君 木下榮君
駒井藤平君 三木武夫君
久保猛夫君 笹森順造君
穗積七郎君
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〔年長者石原圓吉君投票管理者となる〕
昭和二十一年九月三十日(月曜日)午前十一時十五分開議
出席委員
委員長 本多市郎君
理事 石原圓吉君 理事 菊池長右エ門君
理事 森曉君 理事 舟崎由之君
理事 武藤嘉一君 理事 鈴木茂三郎君
理事 木下榮君 理事 久保猛夫君
理事 奧村又十郎君
江藤夏雄君 大塚甚之助君
近藤鶴代君 坂本實君
田中重彌君 高橋英吉君
平岡良藏君 廣川弘禪君
松永佛骨君 金光義邦君
喜多楢治郎君 北村徳太郎君
九鬼紋十郎君 小池新太郎君
小坂善太郎君 寺田榮吉君
苫米地義三君 川島金次君
澁谷昇次君 中崎敏君
前田榮之助君 水谷長三郎君
森三樹二君 赤澤正道君
鹿島透君 駒井藤平君
三木武夫君 笹森順造君
穗積七郎君
同日委員鹿島透君及び三木武夫君辭任に付其の補闕として秋田大助君及び伊東岩男君を議長に於て選定した同日鈴木茂三郎君理事補闕に付其の辭任として奧村又十郎君が理事に當選した
九月三十日財産税法案(政府提出)財産税等收入金特別會計法案(政府提出)及び企業整備資金措置法を廢止する等の法律案(政府提出)の審査を本委員に付託せられた
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
商工大臣 星島二郎君
大藏大臣 石橋湛山君
國務大臣 膳桂之助君
出席政府委員
内閣事務官 平田敬一郎君
大藏政務次官 上塚司君
大藏事務官 福田赳夫君
大藏事務官 池田勇人君
大藏事務官 愛知揆一君
司法事務官 奧野健一君
厚生政務次官 服部岩吉君
商工事務官 三木秋義君
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本日の會議に付した議案
戰時補償特別措置法案(政府提出)
金融機關再建整備法案(政府提出)
特別和議法案(政府提出)
大藏省預金部等損失特別處理法案(政府提出)
厚生年金保險法及び船員保險法特例案(政府提出)
企業再建整備法案(政府提出)
財産税法案(政府提出)
財産税等收入金特別會計法案(政府提出)
企業整備資金措置法を廢止する等の法律案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=0
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001・石原圓吉
○石原投票管理者 先例に依りまして私が年長の故を以て投票管理者となり、是より委員長の互選を行ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=1
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002・高橋英吉
○高橋(英)委員 投票を用ひず委員長に本多市郎君を御推薦致したいと思ひます、御贊成を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=2
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003・石原圓吉
○石原投票管理者 高橋英吉君の御意見に御異議はありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=3
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004・石原圓吉
○石原投票管理者 それでは本多市郎君を委員長に推薦致します、御異議ないものと認めます、仍て本多市郎君は委員長に御當選になりました、委員長本多市郎君に此の席を讓ります
〔拍 手〕
〔本多市郎君委員長席に著く〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=4
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005・本多市郎
○本多委員長 只今不肖私が本委員會の委員長に御決定を戴いたのでありまするが、本委員會に付託せれて居りまする所の諸法案は御承知の如く今後日本の經濟的基盤を再建する所の重要法案でありまして、而も會期の關係は短時日の間に審議を盡さなければならぬことになつて居るのであります、此の重大なる委員會の委員長として果して私が其の職責を全うし得るや否や憂慮なきを得ないのでありますが、全力を盡しまして委員各位の御支援と御協力に依つて大過なきを期したいと思ふのでございます、どうか宜しく御願ひ致します(拍手)引續いて理事の互選を行ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=5
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006・奧村又十郎
○奧村委員 理事は其の數を九名とし委員長に於て御指名あられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=6
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007・本多市郎
○本多委員長 奧村又十郎君の意見に御異議はありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=7
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008・本多市郎
○本多委員長 御異議なきものと認めます、それでは
石原圓吉君 菊池長右エ門君
森曉君 舟崎由之君
武藤嘉一君 上田清次郎君
鈴木茂三郎君 木下榮君
久保猛夫君
を理事に指名致します
就きましては今後の審議方針を協議する爲め理事會を開催致したいと思ひますので、暫く休憩致します
午前十時四十九分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=8
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009・会議録情報2
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午前十一時六分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=9
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010・本多市郎
○本多委員長 休憩前に引續き會議を開きます、本委員會に現在付託せられて居りまする法案は、戰時補償特別措置法案、金融機關再建整備法案、特別和議法案、大藏省預金部等損失特別處理法案、厚生年金保險法及び船員保險法特例案、企業再建整備法案であります、之を一括議題と致します、先づ政府の説明を求めます──膳國務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=10
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011・膳桂之助
○膳國務大臣 本委員會に付託せられました戰時補償特別措置法案、企業再建整備法案、金融機關再建整備法案、大藏省預金部等損失特別處理法案、特別和議法案竝に厚生年金保險法及び船員保險法特例案の六つの法律案に付きまして、何れ各主務大臣から御説明もある筈でありますが、私が先づ總括的に其の趣旨をば申上げたいと存じます、此の六法案は相互に相關聯して一聯の施策をなすものでございまして、其の發足點となりまするのが、補償打切りの問題でございます、抑抑我が國は戰爭に依りまして莫大な生産力を喪失致しました、其の中領土の喪失に伴ひまするものは、到底囘復することの出來ないものでございますが、然らざるものに付きましても、其の囘復には眞に容易ならざるものがあるのであります、而も他方現實の生産力と見合つて居ない所謂擬制資本は著しく累積せられまして、是が動もすれば「インフレーション」を誘致する一原因をなすものであります、我が國財政經濟の整理と建直しとは正に焦眉の急を要する問題と存ぜられます、是が爲には主として財産税の特に大幅な徴收に依る方法と、補償の打切りに依る方法との二つが考へられるのでございますが、政府は組閣以來愼重檢討の結果、内外各般の事情を考慮致しまして、補償の打切りを斷行することに致しましたことは、曩に本會議に於て説明申上げました通りでございます、此の補償打切りを課税の方法に依つて行はんと致しますのが、戰時補償特別措置法案の骨子であります、而して一般の企業は之に依つて直接に影響を蒙むるのでありますが、是等に依る企業の損失を適正に處理致しまして、擬制資本の切捨てを行ひ、之を健全なる企業として再建せしめんとするのが、企業再建整備法案の根本の趣旨であります
次に金融機關は補償打切りに依りまして企業の蒙むる巨額の損失に對應致しまして、其の融通致しました資金や保有して居ります社債、株式等に少からざる損失を生ずることが豫想せられるのであります、之を又適正に處理致しまして金融機關の再建整備を圖り、堅實な信用機構を維持して、我が國經濟の復興發展に備へようとするのが、金融機關再建整備法案の趣旨でございます
又大藏省預金部等損失特別處理法案は、特殊の金融機關として大藏省預金部等に關しまする今囘の措置等に依る損失を、是れ亦適正に處理致す爲に立案せられたものであります
次に今囘の補償打切りに伴ふ直接間接の結果と致しまして、個人や公益法人等に多大な損失を蒙つて破産に瀕するものが出て參る心配があるのでありまして、之を放置して置きますると、國民生活に多大の不安を呼び起し、且つ有益な公益法人の事業を阻碍することとも相成りますので、特別の和議手續に依つて債務の適正の處理を致させるのが、特別和議法の精神でございます
最後に厚生年金保險法、及び船員保險法特例案は、今囘の措置に關聯致しまして生ずることを豫想せられまする離職者に對しまして、離職後直ちに脱退手當金を貰ふことの出來るやうに致すやうに仕組んである譯でございます、以上が本委員會に付議せられました一聯の法律案の趣旨の大綱でございます
次に今囘の措置の根本ともなり、出發點ともなりまする補償打切りの範圍に付て聊か説明を加へたいと存じます、補償打切りの問題を處理するに付きましては二つの見方があると存ぜられます、第一は專ら財政經濟再建の見地に立つものでありまして、此の見地から致しますれば、主として軍需會社に對する補償の打切りを中心として、大掴みに目的を達しようとする方法であります、第二は、勿論財政經濟再建が重要な目的ではありまするが、此の外に、凡そ戰爭に起因して生じた請求權は一切打切られねばならぬと云ふ一つの思想を以て處理致すものでありまして、此の見地からすれば苟くも戰爭に起因して生ずる請求權である限り、細大洩らさず打切ると云ふことに相成るのであります、昨秋來、補償打切りの問題として朝野の間に論ぜられましたものは、殆ど第一の考へ方に依るもののやうに存ぜられまするが、政府が今囘執らんとする措置は第二の考へ方に依るものでありまして、要するに戰爭に起因して發生致しました請求權は、原則として總て之を打切ると云ふ方針を徹底的に貫かんとするものであります、而して問題となります請求權は、第一には軍需會社法、國家總動員法等に基く補償金や、陸海軍に納入した物品の代金等、政府に對する請求權であります、第二は、防空法に基く一般建物の強制疎開の補償金のやうな、地方公共團體に對する請求權でありまして、第三には建設工事費代金、企業整備補償金、戰爭保險金のやうな、産業設備營團、國民更生金庫、損害保險中央會のやうな準政府的な特定機關に對する請求權であります、而して戰時補償請求權の範圍を定義的に申しますると、戰爭に起因して發生した所の政府、地方公共團體又は特定機關に對する請求權であつて、其の支拂期日が昭和二十年八月十五日以前に到來して居るものであつて、當日までに支拂の濟んで居なかつたもの、竝に請求權の發生した原因が八月十五日以前に生じた損害や引渡した物資や、施行せられた工事等に基くものでありまして、其の支拂期日が昭和二十年八月十六日以後に到來するものと云ふことに相成ります、但し此の請求權の範圍は、元々戰爭に起因して發生したものを目途と致すものでありますから、政府等の通常の行政事務、官公營事業、其の他の業務に關して發生しました日常の請求權は、之に含まれて居らぬことは申すまでもございませぬ、尚ほ其の他にも請求權に若干の例外を設けました、即ち國債、地方債及び特定機關の發行した債權に關する請求權が其の一であります、戰爭死亡傷害保險の保險金、竝に是と趣旨を同じくする補償金の請求權が其の二であります、軍事扶助等の救恤制度に基の扶助料其の他の請求權が其の三であります、是等を除外しました理由は、國債等の問題は本來補償打切とは全然別箇の問題でありまするから、其の趣旨を明確に致したに過ぎませぬ、又戰爭死亡傷害保險金、軍事扶助料等を除きましたのは、全く人道上の見地から出でたものであります、右に申述べました定義の中で、支拂が濟んで居ると申しましたが、是は現金に依る支拂が濟んで居ると云ふことの意味でありまして、特殊借入金や特殊預金等の形式で支拂はれたものは、昭和二十年八月十五日以前に解除等の方法に依つて現金化されるか、又は混同に依つて消滅して居ります場合の外は支拂濟とは認められないのであります、尚ほ前渡金に付きましてでありますが、此の前渡金は其の支拂の目的となつて居た物資が、八月十五日以前に實際に引渡されて居た場合に限つて、其の物資に付て支拂が濟んで居るものと認められるのでありまして、其の以外の物資等の代金に充當したり、又は契約解除に基く損害賠償金等と相殺すると云ふことは許されないのであります
戰時補償請求權の範圍は以上申述べましたやうに、甚だ廣汎のものでありまして、軍需品製造、海陸運輸等に關係のある諸會社に對する相當巨額の補償金、土木請負業者等の工事代金等が打切られて居るのは勿論でありまするが、他方農山漁村等から納めた食糧馬糧、薪炭、松根油、魚介のやうなものの代金、又中小商工業者の納入した用度品等の代金、又小さいものになりましては、軍服裁縫の加工賃の如きものにまで此の補償の打切りは及ぶのでありまして、又徴用された漁船の沈沒に對する補償金、企業整備の補償金、強制疎開の補償金の如きものも、一律に之に包含されることに相成ります
以上のやうな次第で、補償打切りの影響は國民の各層に亙り相當廣汎に及ぶのでありまするが、政府は中小産者、或は中小商工業者等に對する影響を出來る限り緩和致すことを考へて、控除金額に付て特に考慮を拂つた次第であります、控除金額と致しましては、一般の補償金や、物資の納入代金等に付きましては、請求權一口毎に一萬圓、戰爭保險金等に付きましては、個人は請求權者一人毎に五萬圓、法人は請求權一口毎に一萬圓でありますが、總て是等を通じて控除總額は一人又は一法人毎に十萬圓を限度と致すことに致したのでございます、又個人、法人の企業整備の補償金に付きましては、一般の補償金や、戰爭保險金の控除が五萬圓に滿たない場合に限り、其の控除金額と合算して、五萬圓の控除となるのであります、此の結果實際上は中小産者、竝に中小商工業者に對する影響は相當緩和されるものと信ずるのであります、尚ほ戰爭補償請求權には控除を受けない種類のものがあります、其の主なるものを擧げて見ますると、國外に於て發生した請求權、政府の交付する各種の補助金の中戰爭に關係のあるものの請求權などであります、此の種類の請求權に對しましては昭和二十年八月十六日以後に支拂はれたものでありましても、本法施行前に既に支拂濟みのものに付きましては課税に依つて之を取戻さないことに致して居ります、尚ほ地方公共團體には本税の課税が免除されることになつて居ります、尚ほ又慈善團體、教育團體、醫療團體、其の他專ら公益を目的とする團體の持つて居りまする戰爭保險金請求權に付きましては、戰時補償特別税審査委員會に諮問致しまして、其の課税をば輕減又は免除することが出來るやうに相成つて居ります、尚ほ戰時補償請求權の中には、金錢以外の給付を其の目的とするものもありますが、之に付きましては戰時補償特別措置法施行の日に法律上其の權利を消滅せしむる方法で之を打切ることに致しました、最後に戰時補償請求權に對する課税と同時に此の際打切るべきものもあるのであります、即ち銀行等資金運用令に基く命令融資に依りまする金融關係の損失の補償等竝に會社の社債等の元利補償でありますが、之に付きましては未だ請求權が具體化して居りませぬから課税の對象にはなりませぬが、特別措置法の規定に依りまして、其の義務をば消滅せしむることに致しました次第であります、但し資金融通等の損失補償に付きましても、社債の元利補償に付きましても、平和的の目的の爲にありまするものに付きましては、之を命令の規定に依りまして除外することに致して居ります
以上御聽取の如く補償打切りの範圍は、其の及ぼす範圍竝に其の及ぼす程度は相當徹底したものと相成つて居りますが、斯くの如き措置に出でますることは、此の際政府の財政上の負擔を輕減し、同時に所謂擬制資本を切捨てまして、企業の健全性を圖り、財政經濟の基礎を堅實ならしめんとする意圖に出でたるに外なりませぬ、要するに平和日本の建設は一度荊棘の途を突破して初めて之を達成することが出來るものと信じます、斯くの如き意味を御諒承の上、本法案の趣旨を御諒解戴きたいのでございます、何卒御審議の上速かに御贊成あらんことをば御願ひ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=11
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012・石橋湛山
○石橋國務大臣 私から戰時補償特別措置法案、金融機關再建整備法案及び大藏省預金部等損失特別處理法案の三件に付きまして若干の御説明を申上げます、先づ戰時補償特別措置法案でございますが、此の法案提出の理由に付きましては、只今膳國務大臣から御説明がありましたので詳細は略します、要するに終戰後の事態に對應致しまして、我が國財政經濟の再建を圖る爲め此の處置を執ることが、即ち、戰時補償を打切ることが必要であることに出づるのでありまして、政府と致しましては累次申上げます通り、一旦約束致しましたものを打切る等は甚だ忍び難いものがありまするが、諸般の情勢に鑑みまして、大局的見地に立つて此の際此の特別の措置を斷行する決心を致した次第であります
次に本法案の内容に付き其の主なる點を申上げます、先づ本法案の内容とする所は、大別して次の三項目に分けられる次第であります、即ち第一は戦時補償請求権、即ち政府又は特定機關に對する請求權中一定範圍のものでありまして、金錢の給付を目的と致すものは百分の百の税率を以て、課税を致しまして、之を原則として消滅致します、又金錢の給付以外の給付を目的と致すものに付きましては、本法施行の際に消滅させる次第であります
第二は終戰前の命令融資等に依る損失に對する政府の補填、是は本法施行後は原則として之を行はないことと相成る譯であります
第三は政府が會社等の爲になした補償、是は本法施行の日に於て原則として其の效力を失ふ次第であります、以上の如く本法案は戰時補償に對し課税等の方法に依りまして之を打切ることを内容とするものでありますが、其の規定の主なる部分は第一の戰時補償特別税に關するものでありますから、以下主として戰時補償特別税に關して申上げようと思ひます
只今申上げましたやうに、本法に依り戰時補償特別税を設けまして戰時補償請求權を原則として課税に依り消滅せしむるのでありますが、茲に所謂戰時補償請求權は既に只今膳國務大臣から詳細なる説明がありましたやうに、政府又は特定機關、即ち國の施策に協力する法人と、例へば産業設備營團、國民更生金庫、損害保險會社等に對する請求權でありまして、其の辨濟期が昭和二十年八月十五日以前のもので同日以前に決濟がなかつたもの、及び同日以前に企業整備資金措置法第五條に規定する方法等に依りまして決濟があつたもの、又は辨濟期が昭和二十年八月十五日後のもので同日以前に生じた損害又は同日以前になされた給付等に依るものであります、但し政府又は特定機關の通常の業務に關して生じた請求權は除外されるのであります
次に課税の方法でありますが、先づ納税義務者は本法施行の際現に戰時補償請求權を有し、又は此の法律施行以前に戰時補償請求權に付て決濟を受けたものであります、此の法律の施行以前に相續の開始があつた場合には、戰時補償請求權に付て被相續人の受けた決濟は相續人が之を受けたものと看做して此の法律を適用することと致して居ります、尚ほ法人が合併に依つて消滅した場合にも同樣の趣旨の規定を設けてございます、課税價格は本法施行の際現に有する戰時補償請求權の價格又は本法施行前に戰時補償請求權に付て決濟のあつた金額であります、控除に付きましては是れ亦只今膳國務大臣から説明がありましたが、所謂狹義の軍需補償竝に之に類する請求權に付ては個人、法人共に一請求權毎に一萬圓、戰爭保險金或は強制疎開に付ての請求權に付きましては個人は一請求權者毎に合せて五萬圓、法人は一請求權毎に一萬圓を課税價格から控除致します、但し是等を通じ控除總額は一個人又は一法人に付て十萬圓を超え得ないと云ふことになつて居ります、又企業整備關係の請求權に付きましては、個人法人共狹義の軍需補償、戰爭保險金等の請求權の控除が五萬圓未滿である場合に限りまして、それ等の控除額と合算して五萬圓が課税價格から控除されることになつて居ります、尚ほ控除は納税義務者が申告期限内に申告した場合に限つて之を行ふことになつて居りますが、課税價格が控除金額以下である場合であつて本法施行前に現金拂を受けたもの等に付ては、申告がない場合にも控除を受け得ることと致しました
此の控除に關聯して一言致しますが、戰時補償特別税の課税の對象となる特殊預金等の中、只今述べました所に依り控除せられました部分は之を第一封鎖預金とする方針でありまして、是が爲め金融緊急措置令に若干の改正をなす豫定であります、又現に存する政府特殊借入金の中、戰時補償特別税の納付の後尚ほ殘存するものに付きましては、之を登録國債に致すのであります、尚ほ地方公共團體には本税は課せられないことになつて居り、又公益法人等に對しましては、別に設置を豫定されて居ります戰時補償特別税審査委員會の諮問を經て、戰爭保險に基く請求權に對する課税を輕減又は免除することが出來ることになつて居ります、本税の税率は百分の百であります
次に納税義務者は原則として一定の申告期限内に課税價格其の他必要な事項を政府に對して申告することになつて居りますが、納税義務者が本法施行の際戰時補償請求權に對する決濟として設定された特殊預金等を有して居る者であります時は、其の預入先の金融機關を經由し、又本法施行前に戰時補償請求權に對する決濟として設定された特殊預金等を金融機關等に讓渡した者であります時は、其の金融機關等を經由してそれぞれ申告をすることに致してあります
次に納付に付て申上げます、納税義務者は原則として申告期限内に政府に對し税金を納付することになつて居りますが、併し申告を金融機關を通じてなすことになつて居ります場合に於きましては、金融機關を經由して税金を納付するのであります、金融機關は徴收義務者として其の税金を徴收し、申告期限の屬する月の翌月末日までに之を政府に納付するのであります、尚ほ納付すべき税額は後に述べます代位納付義務者が納付した税額を控除した金額となつて居ります
尚ほ本法施行の際現に納税義務者の有する戰時補償請求權は申告と同時に又申告のない場合には申告期限に於て消滅することになつて居り、其の消滅と同時に本税の納付があつたものと看做して居るのであります、更に納税義務者が本法施行の際戰時補償請求權の決濟として設定された政府特殊借入金又は特殊預金等を有して居る時は、先づ其の政府特殊借入金又は特殊預金等に依つて本税を納付致さなければならないのでありまして、此の場合それ等の政府特殊借入金又は特殊預金等に擔保權を有して居る者がありましても、其の納付を拒み得ず、又強制執行手續等の手續が進行中である場合に於きましても、徴收又は納付に關する規定の適用を妨げられないことに致して居ります、納税義務者が申告しなかつた場合には、戰時補償請求權の決濟として設定せられた政府特殊借入金に付ては、申告期限の翌日に政府がそれを以て本税を徴收するのでありますが、特殊預金等に付ては、其の預入先の金融機關は申告期限の翌日に其の特殊預金等を本税として徴收し、之を政府に納付することになつて居ります
尚ほ金融機關が戰爭保險等の戰時補償請求權の決濟に必要な資金を損害保險會社等に對し融通した爲め貸付金を有して居ります場合には、其の金融機關が政府に納付すべき税額の中、當該請求權に相當する貸付金は申告期限の翌日に消滅することとし、其の限度に於て税金納付の義務も免除さるることになつて居ります
尚ほ納税義務者が金錢で納付すべき場合に於て完納が困難であります時には、物納を申請することが出來ます、又二年間を限つて延納を申請することも出來ます、尚ほ延納の場合には年百分の十の割合で加算税が徴收されるのであります
次に課税價格の更正又は決定でありますが、申告がない時、又は申告が不相當であると認めた時は、政府は課税價格を決定又は更正致して、不足税金又は決定税金を徴收することとして居ります
次に納税義務者は政府の課税價格の更正又は決定に對し異議がある時は審査請求を致し、又其の審査の決定に對し不服がある者は訴願をなし、又は行政裁判所に出訴することが出來ることに致して居ります
次に本税には代位納付の規定が設けてありますが、是は納税義務者に代位して本税納付の義務を認めたものであります、即ち納税義務者以外の者で本法施行の際戰時補償請求權の決濟として設定された特殊預金等を有して居る者は、其の特殊預金等の金額を限度として納税義務者に代位して本税を納付しなければならないのであります、又納税義務者が金融機關に對する債務を辨濟する爲に戰時補償請求權に付て現金拂を受け、又は特殊預金等の拂戻を受け、之に依つて債務を決濟した場合等に於きましては、決濟を受けた金融機關は其の決濟を受けた金額の限度に於て代位納付しなければならないことに致しました、代位納付義務者の申告、納付、課税價格の更正若しくは決定、審査、訴願又は行政訴訟に付ては、納税義務者の場合に準じて規定を設けたのでございます、此の代位納付義務者が特殊預金等を有償で取得したものである場合に於きましては、其の納付に充てた特殊預金等の取得に要した對價に相當する金額に付て納税義務者等に對して求償權を持つこととなつて居ります、又納税義務者が有償で取得した戰時補償請求權に付て課税を受けた時も同樣に其の讓り渡人に對し求償權を持つこととされて居るのであります、尚ほ政府は特定機關に對し調書提出を命じ得ることとし、又收税官吏は納税義務者等に質問をなし、又は其の戰時補償請求權に關する帳簿書類其の他の物件を檢査することが出來ることと致して居ります、次に所得税、法人税、相續税等の諸税との調整に付きましては、それぞれ特別に規定を設けまして、本税に依る負擔の過重を極力囘避致した次第であります、尚ほ政府又は特定機關に對して土地又は建物等を讓渡した場合等に於きまして、其の對價の請求權に付て本税を課せられました時は、政府又は特定機關は原則としてそれ等の物を舊所有者に讓渡しなければならないことと致しまして、本税に依り生ずる無理を出來るだけ最低限度に止めることと致したのであります
次に罰則に付きましては、本税創設の趣旨に鑑みまして、詐僞、其の他の不正の行爲に依る逋脱等に關しましては、嚴重に之を處罰することと致して居ります、尚ほ皇室の財産に係る戰時補償請求權の特別措置に關しましては、皇室令で規定をすることになつて居ります
最後に本税の對象となる戰時補償請求權の總額は約八百九億圓でありまして、控除額約百四十億圓を差引致しまして、總額約六百六十九億圓が課税されることになつて居ります
以上御説明致しましたのが、戰時補償特別税に關する規定の主なる内容でございます
次に金融機關の再建整備法案に付き申上げます、戰時補償等の特別處理を斷行致しますことは、戰後經濟の安定を圖り、新日本經濟建設に相應しい平和産業を再建し、更に進んで其の健全なる發達を庶幾致しまする爲、我が國經濟界の現状に照らし、最も緊要にして且つ其の要請に應ふる所以と考へるのであります、併しながら是が實施に當りましては、何分にも我が國産業界竝に是と密接不可分の關係にあります金融界に及ぼす影響は廣汎且つ深刻に亙らざるを得ないのでありまして、其の結果は先づ第一に戰時補償金、戰爭保險金等の交付の對象たる企業に對し、直接に數百億圓を以て數へる損失を生ぜしめ、是は又必然的に金融機關に波及致すのであります、此の金融機關の蒙むるべき損失は、其の金額に於ても、割合に於ても、場合に依りましては、金融機關の基礎を直接脅威するに至るものと豫想せられるのでありまして、之を其の儘放置致しまするならば、不知不識の間に信用機構の根柢を動搖せしめまして、國民の貯蓄心を消磨し、生産の澁滯を招來致しますのみならず、萬一にも不測の事態を發生致しまする時には、國民生活の不安を増大し、産業復興の端緒をも崩壊せしめ、延いては社會秩序の維持にも萬全を期し得ないことにならぬとも限らないのであります、曩に施行致しました金融緊急措置令施行規則の改正竝に金融機關經理應急措置法は、此の戰時補償等の特別處理に伴ふ金融界の混亂を未然に防止し、爾後の經濟再建施策の遂行に支障なからしむる爲の、差當り必要とする應急の措置でありました、而して金融機關に於きましては、此の軍需補償等の特別處理を轉機と致しまして其の再建を圖り、將來の健全なる發展の基礎を築く爲め、先づ其の整理に徹底的對策を講ずべきであります、即ち金融機關と致しましては、此の際先づ其の生ずべき損失を迅速的確に處理致しまして、金融機關自體の整理竝に整備を促進し、速かに堅實なる資産内容を有する金融機關として再出發しなければなりませぬ、此の場合株主は勿論、預金者、保險契約者、社債權者其の他の債權者に於きましても、整理進捗の状況に依りまして、それぞれの負擔力に應じ其の損失を負擔致すべきことは經濟再建の國家的要請の前に、事情洵に已むを得ない次第と存じます、併しながら何分にも其の損失の性質は特殊事情の下に於て、戰時補償等の特別處理に伴ひ生ずる特別の損失でありまして、其の損失負擔の金額、關係者の範圍、其の利害關係等の廣汎且つ錯雜せる點に鑑みまして、具體的に損失負擔の割合、順序方法等を定め、整理實施の公正、迅速、確實を期することが特に必要であると考へます、又此の際金融機關の預金等の中、國民生活の安定を保持する為め、最低限度の必要なものに付きましては、其の支拂を確保致しまする爲め、國家としましても金融機關に對する補償の措置を講ずる必要があるのであります、尚ほ金融機關の速かなる立直しの爲には、其の整理進捗の状況とも睨み合せ、或は整理完了後の諸般の情勢に依りまして、金融機關の合併、増資、事業の讓り渡し等の措置を講じ、其の速かな再建整備を促進する必要もあるのであります
以上申述べました理由に依りまして、金融機關再建整備法案を提出致した次第であります
以下本法案に付て主なる點を簡單に申上げます、第一に金融機關には曩に金融機關の經理上の應急措置として、指定時即ち八月十一日を以て新勘定及び舊勘定が設けられ、資産及び負債はそれぞれ舊勘定及び新勘定に屬せしめられて居るのでありますが、金融機關は先づ此の指定時に於ける資産及び負債の状況を調査確定致し、爾後の整理の基礎と致しますると共に、一定の基準に依つて之を評價致すのであります、此の評價基準は、暫定評價基準竝に確定評價基準の二つと致しまして、先づ暫定評價基準に依る評價を行ふのであります、さうして其處で整理に一段落を劃しまして、次いで逐次確定評價基準に依る評價を行ひまして、整理を完了する方針でありますが、此の評價基準は金融機關に生ずべき損失額の決定、將來に於ける金融機關の整備、延いては戰後經濟の再建等に關し影響する所が極めて多大なるものがあります、又其の決定に際し、物價の趨勢其の他の經濟條件とも睨み合せて愼重なる態度を以て臨む必要がありますので、主務大臣は經濟再建整理委員會の議を經て之を決定することと相成つて居ります
次に舊勘定の資産及び負債の評價を逐次確定して參りました結果、金融機關の資産の内容が概ね良好なりとの見透しが付いた場合に於きましては、徒らに整理の完了を待つことなく、負債の状況とも睨み合せ、隨時資産及び預金等を新勘定又は新金融機關に移すことが出來るやうに致しました、さうして預金者等の便益に資し、且つは新營業の活動力の強化を圖ることを考慮して居るのでありますが、更に暫定評價基準等に依り評價した結果、資産内容の良好なることが確實となりました場合には、爾後の手續を要せず、直ちに舊勘定の最終處理を完了し得ることと致しまして、金融機關をして可及的速かに完全なる一個の營業體として、再出發せしめ得る如く措置致して居るのであります
次に整理實施の爲め必要なる部分の資産に付て、確定評價基準が決定致しました時は、資産内容の如何に拘らず、舊勘定の最終處理を行はなければならないことと致しました、此の場合究極に於て舊勘定が利益となる場合に於ては、直ちに舊勘定の最終處理は完了致すのであります、併しながら損失となる場合に於きましては債權者、株主等の利害關係人間に於て公正妥當なる割合を以て、其の損失を負擔することを要するのでありまして、金融機關の如く多數の預金者等を含む債權者がありまして、之に更に立場を異にする株主等を加へました場合に於きましては、其の處理を當事者間の任意の解決に委ねることは適當と致しませぬので、其の損失負擔の順序、割合、方法等を法定致した次第であります、即ち評價益及び積立金を以て損失が補填出來ない場合には、第一には先づ資本の金額の九割に相當する金額まで株主等に於て負擔を致し、次に舊勘定の整理債務の中、所謂法人預金等の債權者で五百萬圓超の部分の七割、百萬圓超五百萬圓以下の部分の五割、十萬圓超百萬圓以下の部分の三割と云ふ順序で、多額のものから順次に高率で以て負擔を致します、次に法人預金等の殘額と、其の他の整理債務の金額の七割に相當する金額まで、整理債務の債權者に於て負擔を致します、更に尚ほ損失に殘額がありますときは、其の殘額を株主等に於て負擔し、更に其の殘額は整理債務の債權者等に於て負擔するものであります
以上のやうな順序に依りまして負擔額を計算致しました結果、資本の減少を必要とする場合に於きましては、そして資本に未拂込金がありますときは、未拂込金を徴收し、資本の減少を致すことと致しました、尚ほ是と同時に舊勘定の債權も負擔額に相當する金額だけ消滅し、新勘定及び舊勘定の區分の消滅に際して、舊勘定は充實せる資産内容を以て新勘定の營業と合一することとなるのであります、尚ほ株主が資本の全額を以て舊勘定の損失を負擔すべきときは、所謂第二銀行等を設立し、新勘定の事業を之に讓渡する等の方法に依りまして、解散することと致したのでありますが、此の場合前に申述べました順序に依り損失を負擔して未だ損失に殘額がある時には初めて政府に於て、之を補償することと致したのであります、此の殘額は實質的に新舊勘定分離に際し、優先的に新勘定に屬することとなりました預金等の債務を擔保するものでありまして、之に依り少額預金者等を保護し、國民生活の安定と金融機關に對する信用の維持を圖つたものであります
次に金融機關は舊勘定の整理手續中に於きましても新勘定の資産の確定評價の付き次第第二銀行等の設立に依り、又は他の資産内容の堅實なる金融機關に對して、新勘定の事業を讓渡し得ることと致しました、又主務大臣は金融機關の合併、資本の増加、事業の讓渡等に關し、經濟再建委員會の議を經て之を命じ得ることとして、整備の促進を圖る次第であります
尚ほ此の法律に依る整理は、一般會社等の整理の特例となり、其の他新勘定及び舊勘定の設定せられる等のこともありまするので、監査委員會の設置、決算の特例、資本減少手續の特例等所要の措置を定めました外、舊勘定の整理實施に伴ふ各般の民事手續上の特例、資産評價上の特例等に關し若干の規定を設け、其の他保險契約、所謂閉鎖金融機關、金融債券等に關し所要の規定を設けた次第であります
以上を以ちまして金融機關再建整備法案提案の理由竝に主なる内容の説明を終ります
第三に大藏省預金部等損失特別處理法案に付き説明致します、只今申述べました如く、戰時補償の特別處理等に伴ひ一般の金融機關に生ずべき損失は、金融機關再建整備法を制定致しまして、之を適正に處理することと致した次第でありますが、政府自らが郵便貯金、簡易生命保險及び郵便年金の制度に依り國民大衆より吸收致しました資金の運用資産に付て生ずべき損失をも此の際一般の民間金融機關の例に傚つて適正に處理する必要があるのであります、而して是等の資金は國民大衆の比較的零細なる貯蓄より成るものでありまして、且つ政府自らが債務者の立場に立つ點を考慮致しまして、其の支拂に付ては特に萬全の措置を講ずる必要があるのであります、以上申し述べました理由に依りまして本案を提案致した次第でありますが、以下簡單に其の内容を説明致します
先づ第一に、金融機關が先頃制定されました金融機關經理應急措置法に依りまして新勘定及び舊勘定の區分を致しました時に於て、大藏省預金部の資金竝に簡易生命保險及び郵便年金特別會計の積立金に依つて運用されて居りました資産も、金融機關の資産の評價に準じて評價して其の損失額を確定致します、以上に依つて確定しました損失は、評價益、積立金の順序に依り填補致しまして、尚ほ殘存する損失額に付きましては、國民生活の安定と郵便貯金、簡易生命保險金及び郵便年金の特異性等を考慮致しまして、適正なる基準に依り一般會計から補償金を受入れて之を填補することとし、更に損失額が殘存する場合に於て初めて其の一部を是等の債權者の負擔とすることに致したのであります
次に以上の整理を行ふ爲め、積立金の使用方法を制限し、又郵便貯金等の預金部預金の支拂を確保する爲め、大藏省預金部が借入金をなし得る途を開くことと致したのであります、尚ほ簡易生命保險及び郵便年金に付ても以上に準じた整理方法を行ふこととしたのであります
以上戰時補償特別措置法案外二件に付き甚だ盡しませぬが御説明申上げた次第であります、是等三法案は事柄の性質上何れも特に急速なる實施を必要とするものでありますから、何卒特別の御配慮を以て速かに御審議あらんことを切望致す次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=12
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013・本多市郎
○本多委員長 司法大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=13
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014・木村篤太郎
○木村國務大臣 私から特別和議法案に付て提案理由を御説明致したいと思ひます、今囘の戰時補償に關する特別措置に關聯して金融機關及び企業體の被る損害に付きましては、別に提案の金融機關再建整備法案及び企業再建整備法案等に依り必要な對策を講ぜんとするものでありますが、今囘の措置は單に是等の事業體のみならず、直接間接に廣く一般國民に影響を及ぼしまして、之に關聯して經濟上多大の損失を受ける多數の債權者が生ずることは必然の理であります、之を放置して多數の破産者を出すが如きは國民經濟の圓滑な運行を圖る所以ではなく、且つ是等の損失は敗戰の結果として關係者間に於て廣く之を分擔すべきであり、單に直接の損失者のみ其の犧牲を強要する如きは、社會正義の上からも是認し難い所であります、隨て是等の損失を債權者及び債務者間に衡平に分擔させ、個人生活の安定と健全な法人事業の維持を圖る爲め此の法律案を提出した次第であります、此の法律案に於ては、右の目的を達成する爲め、從來の和議制度に準じまして、且つ右に述べましたやうな債務者の爲め和議の成立を容易にするやうな各種の特例を設けた特別和議制度を設けまして、極力破産を防止することと致しました、其の概要は概ね次の七點に歸著致します
第一點は和議開始の申立を爲し得る場合を擴張したことであります、現行法の下では、破産の原因たる事實がある場合に限り和議開始の申立が出來るのでありますが、此の法律案では之を擴張して、破産の原因たる事實のある疑のある場合又は破産の原因たる事實の生ずる虞のある場合にも和議開始の申立が出來ることと致しまして、破産の防止に遺憾なからんことを期した次第であります
第二點は和議條件に關する法定要件の緩和であります、即ち上述の債務者に對する債權には其の額、成立の時期、擔保權者の有無等に付て、各種の態樣があり、之を機械的に一率平等に取扱ふ時は、却て正義に合致しないやうな場合を生じますので、斯樣な場合には、衡平を害しない限り、和議條件に於て債權者間に差等を設けることを許した次第であります
第三點は裁判所に和議條件の變更權を認めたことであります、和議條件は債務者から提供するのでありますが、其の内容が適當でない時に、之に若干の修正を加へることに依り、之を適正なるものとし、和議の成立を容易にすることが出來るやうな場合には、裁判所に斯樣な修正をする權限を與へやうとするものであります
第四點は債權者集會の決議を容易にしたことであります、即ち和議を可決する場合に關しまして、定足數の規定を若干緩和し、且つ書面に依つて同意を表する途を開いた次第であります
第五點は債權者集會に於て和議の可決を得られなかつた場合にも、尚ほ和議を成立させる途を開いたことであります、即ち裁判所が和議條件を衡平で、且つ和議債權者の一般の利益に合致すると認めた時は、債權者集會が成立しなかつた場合、成立しても決議させず、若しくは和議を否決した場合、又は和議の手續若しくは決議が法律の規定に反したやうな場合でも、和議を認可することが出來るものとしたのであります
第六點は和議で定めた讓歩の取消及び和議の取消を止めたことであります、現行制度に依りますると、債務者が和議の履行を怠つた場合には、讓歩の取消又は和議の取消に依りまして、債權者の債權額が舊に復することとしてあるのでありますが、今囘の和議に於きましては、終戰後の新たな事情に應じて、舊債權債務を調整した次第でありまして、假令債務者に不履行があつても、其の爲め舊債を復舊させることは不適當と考へますので、讓歩の取消又は和議の取消を認めないことに致した次第であります
第七點は和議債權者の爲め一定の範圍内で、強制執行及び破産申立をなし得る途を開いたことであります、現行制度の下に於きましては、和議に參加したことだけでは、債權者は債務者に對し將來強制執行をすることは出來ないのでありますが、此の法案では債務者が債權者集會で異議を述べなかつた債權に付ては、將來強制執行をなし得ることと致しました、又現行制度の下では、和議債權者は債務者に對し破産の申立をなすことが出來ないことになつて居るのでありますが、此の法案では債務者が和議條件の履行を怠つた場合、債權者は破産の申立をすることが出來るものとしたのであります
以上が本法案の要點であります、何卒御審議を御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=14
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015・本多市郎
○本多委員長 次に商工大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=15
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016・星島二郎
○星島國務大臣 私より企業再建整備法案に付きまして、提案理由を御説明申上げたいと思ひます、政府は曩に御協贊を得て、企業經理應急措置法を制定致し、本法施行までの準備を致しましたが、國法の適用を受ける特別經理會社の本格的な再建整備を行はんが爲に、茲に本法案を提案致す次第であります
企業は補償打切措置の影響を直接に蒙るのでありますが、本法は此の企業の損失を適正に處理致すと共に、所謂擬制資本の切捨を斷行し、現實に有效な資産内容と釣合ひの取れた資本の下に、健全な經營形態を有せしめて、先づ經理部面からする産業再建への基礎を確立せんとするものであります、即ち本法の目的と致しますのは、第一條に掲げて居りますやうに、補償打切等に依り企業の蒙りました損失を適正に處理し、其の速かな再建整備を促進し、以て産業の健全な囘復及び振興を圖る所にあります
此の目的の爲に本法の規定して居ります事項を要約致しますならば、第一に終戰に伴ふ損失の特殊の負擔方法を規整し、第二に負擔決定竝に爾後の經營方針等に付きまして、詳細に規定を致します所の整備計畫の立案、第三に認可を受けた整備計畫の實行を促進する爲め、各種法規の廢除等、簡易手續を設けると共に、其の迅速確實な實行に付き、所要の監督指導を行ふものとしたこと、第四に本法の圓滑なる運營を確保する爲め、經濟再建整備委員會を設けること等であります、以下本法の内容中、重要な事項に付き、其の大要を御説明申上げます
先づ損失の負擔原則に付てでございますが、今囘の諸措置に伴ふ損失を中心と致しまする企業の特別損失は、第一次には株主が資本金額の九割相當額まで負擔致しますが、それだけでは尚ほ特別損失の全額が補填出來ませぬ時には、債權者が債權額の七割まで、それでも尚ほ特別損失が殘る時は更に資本の一割まで、最後に債權者が債權額の三割まで負擔することと致してあります、茲に特別損失と申しますのは、戰時補償特別税の課税、在外資産の喪失、第二封鎖預金、其の他の債権の囘收不能、其の他終戰に伴ひ不要遊休となつた設備資材の値下り等に依る損失等、終戰又は今囘の諸措置に伴ふ特殊の損失は勿論、帳簿上では一應資産として計上されて居りまして、繰延經理額等實質の伴はない資産、竝に從來の經營損等をも含めまして、苟くも企業に取つて損金であるべきものの一切の額と、利益として觀念されべき一切の額とを控除した差額を言うて居るのでありまして、斯かる特別損失に付きまして、商法の一般原則と異なり、全面的な債權者優先を認めず、以上のやうな特別負擔原則を法定致したのは、要するに今囘の計算に於ける損失の大部分が、終戰と云ふ特殊の原因に基く損失でありながら、斯かる特殊の損失は、之を企業のみに負擔せしむべきではないと云ふことに基くものであります、又之を國家的見地から考へて見ましても、徒らに商法の一般原則を固執して、企業を再起不能に陷らしめることは、戰後産業の再建の爲め策を得たものではなく、茲に株主及び債權者に對し特殊の負擔方法を定めて、其の間の衡平を期した次第であります、尚ほ其の際必要な場合には、資産に付て適正な再評價を認めることとなると思ひますが、どの程度の再評價を認めるかは、愼重に決定致したいと思ふのであります
次に特別經理會社は、以上の負擔原則に依つて特別損失を處理すると共に、之を基礎として自己經營の經理面の建直しと、今後の經營方針に關して、實際に即しつつ具體的な整備計畫を立案しなければなりませぬ、即ち會社の存續解散の別、合併、第二會社設立の有無、事業計畫、資金計畫等の詳細を記載致しました整備計畫を主務大臣に提出し、其の認可を受けなければならないこととなつて居りますが、斯樣な企業再建の整備計畫の立案は、企業と其の債權者との緊密な協力、理解の下にのみ可能であると考へたからでありまして、當該會社の理事者及び債權者の代表から成る特別管理人が、其の責任を負うて之を立案することと相成つて居るのであります、整備計畫の立案に當つては、會社の設備、資産等の稼働状況、製品轉換の能力、原材料の獲得及び製品販賣に付ての豫想、資金、勞務等に關する計畫、更に是等の諸點に關する將來の見透し等に基いて、愼重且つ堅實に設定さるべきものであることは申すまでもございませぬが、更に其の適正を期する爲には利害關係人の異議の申出も認めた上、主務大臣は斯かる異議の申出をも參酌しつつ、愼重に檢討を加へ、經濟再建整備委員會の諮問を經て、之に對する認可、修正認可又は不認可の處分を決定することと相成る譯であります
整備計畫には以上の外、特別經理株式會社の將來の再建に當り尚も必要と思はれる重要事項は、總て之を記載して主務大臣の認可を受けることに依つて、其の效果及び實行が確保せらるることと相成つて居ります、例へば第二會社を設立する等の場合に於きましては、第二會社の設立に當つては其の資産と共に新勘定に生じた債務をも承繼することとしなければ、新勘定の經濟活動に對する融資に圓滑を缺く虞もありますので、之を整備計畫に記載することに依つて、第二會社も亦舊會社から債務を承繼し得ることが出來ることとせられて居ります、其の他或は未拂込株金の徴收でありますとか、議決權のない株式の發行、議決權の制限、處分益の割戻、資本の減少等に付ても亦總て整備計畫に集約して記載せられることに相成つて居ります
斯くして整備計畫は、今後、當該會社再後の爲の憲章とも言ふべきものでありまして、之に付き主務大臣の認可を得ましたならば、會社は之を忠實に且つ迅速に實行し、自らの再建整備を圖ると共に日本産業の再生復興の一翼とならねばならぬのであります、隨ひまして整備計畫の實行に當りましては、其の迅速簡易化を確保致します爲に、事業開始、資産の處分等に付きまして他の法令の適用を排除し既存の契約、定款の定等の拘束をも脱し得ることと致して居りますし、又株主總會等の議をも要しないものとする等、法令其の他の手續に對し簡易迅速な便法を認むることと致したのであります、それのみならず整備計畫の迅速確實な實行は、産業の急速なる囘復の見地から、國家としても無關心たり得ない重要な問題でありますので、整備計畫が實行の豫定時期を定めしめて、之に依り計畫の迅速確實な實行を要求し、主務大臣は適宜所要の指導監督に任ずる方針であります
斯くて本法の運用に當つては、整備計畫の認可から始まつて其の實行の適正確保に至るまで、企業に對する主務大臣の強力な監督指導が定められて居りますので、その圓滑な運營を圖る爲に各方面の技能學識あり練達有能の士を以て、官民一體の經濟再建整備委員會を組織し、重要事項は之に諮問しつつ處理することとなつて居ります
以上が本案の骨子でありますが、所謂擬制資本の切捨てに依つて戰爭に基く企業の過大な負擔を除去し、現實に有效な設備資産の上に堅實な經營内容を以て企業を再出發せしめることに依つて、一刻も早く産業全體の復興、民生の安定を圖りますことが、我が國當面の要求でありまして、是が爲に以上に述べましたやうな本法の措置が是非共必要と考へられるのであります、何卒愼重御審議の上御贊同賜はらんことを御願ひする次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=16
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017・本多市郎
○本多委員長 服部政府委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=17
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018・服部岩吉
○服部政府委員 大臣に代つて御説明を申上げます、厚生年金保險法竝に船員保險法の臨時措置に對する法律案の御説明を致します、今囘軍需補償の打切り等に隨伴致しまして、離職する者は相當の數に上るものと豫想されますので、是等のものに對する脱退手當金の支給に當りましては、離職者の便宜と現在の經濟事情をも考慮致し、一年間の待期を當分の間停止致しまして、即時支給し得ることと致したいと存じます、何卒速かに御審議の上御可決あらんことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=18
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019・本多市郎
○本多委員長 以上を以て現在付託せられて居りまする各法案の政府の一應の御説明を終つたのでありますが、本日の本會議に於て財産税法案其の他本委員會に併託せられる豫定になつて居りますので、本日は特に本會議散會直後本委員會を開いてそれ等の法案に對する政府の一應の説明を全部聽取致したいと思つて居るのでございます、理事會に於てもさう云ふ申合せになつて居りますので、どうか本會議散會直後に委員會を再開致しますから御參集を願ひます、是にて休憩致します
午後零時十七分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=19
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020・会議録情報3
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午後五時十六分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=20
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021・本多市郎
○本多委員長 休憩前に引續き會議を開きます、此の際御諮り致すことがあります、理事鈴木茂三郎君より理事辭任の申出がございますが、之を許可し、補闕を委員長に於て指名するに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=21
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022・本多市郎
○本多委員長 御異議なしと認めます、それでは奧村又十郎君を理事に指名致します
次に本日本委員會に付託せられました財産税法案、財産税等收入金特別會計法案、企業整備資金措置法を廢止する等の法律案を一括議題に加へます、是より以上の三法案に付き政府側の説明を求めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=22
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023・石橋湛山
○石橋國務大臣 只今本委員會に付託となりました財産税法案、財産税等收入金特別會計法案及び企業整備資金措置法を廢止する等の法律案、此の三案に付きまして提案の理由を御説明申上げます
先づ財産税法案でありますが、本會議に於きましても申上げましたやうに、本法案は終戰處理に必要なる國庫收入を確保し、且つ戰時補償特別税と併せて戰後財政の負擔を輕減し、其の基礎を確立する爲に、個人の財産に付き高率の累進税率に依る財産税を課さうとするものであります、御承知のやうに本年の財政支出は相當巨額に上つて居りまして、之を國民の經常所得を税源とする收入を以て悉く賄ふことは、殘念ながら不可能な次第であります、と言ふて、此の歳入缺陷を純然たる赤字公債を發行して補填致しますことも亦、財政經濟上に甚だ危險な結果を生ずる次第であります、仍りまして其の財源を國民の財産を税源とする財産税に求めんとする次第であります、勿論財産税を以て財政支出を賄ひますことは、健全財政の建前から申しまして、決して理想的な方法とは申せませぬ、此の事は豫て私から申上げて居るやうな次第であります、政府と致しましては、此のことに深く思ひを致しまして、本年度の財政を施行致すに付きましても、其の支出に對しましては、其の支出の效果を十分に檢討を致しまして極力それが「インフレ」を發生するが如きことがないやうに努め、さうして此の財源から來る所の缺點を補ひたいと思ふのであります、併し左樣に申しましても財産税は勿論純然たる赤字公債を發行致し、それを日本銀行に持たせて使ひますのとは趣きを甚だ異にするのでありまして、兎にも角にも國民からそれだけの財産の徴税を致すのでありますから、所得税を取つて參る程の效果はないに致しましても、やはり直接間接に納税者の消費を抑制すると云ふ效果があることは明瞭であります、隨て財産税を以て本年度の財政支出の一部の財源と致しました理由がそこにあるのであります、赤字公債の發行を極力避ける方法としては斯く致す外なかつた、又是が相當の效果を持つと信じて居る次第であります、財産税法案を立案致しました經緯に付きましては本會議に於て申上げましたが、御承知のやうに前内閣當時法人戰時利得税、及び個人財産増加税を設けまして、是に依つて主として戰時利得を吸收する、又個人及び法人に對する財産税を創設致しまして、之に依つて所謂擬制資本の處理、戰後財政の再建等を圖ると云ふ構想の下に、財産税等三つの新税法案要綱を決定して之を發表致したのであります、併し之に對しましては現内閣が出來ましてから、其の後の内外の情勢は大分變化を致しました、又前内閣の構想に依る財産税の實行上の確實性と云ふことを顧慮致しまして、御承知のやうに別に戰時補償特別税と云ふものを設けまして、それと見合ひまして財産税其のものには根本的の修正を施した次第であります、即ち政府は別途に御審議を願つて居る通り、戰時補償請求權に對して一定限度の控除金額を除いてはそれに一〇〇%の課税を致します、さうして其の代りに前内閣案に於て豫定せられました法人戰時利得税、個人財産増加税、及び法人財産税は之を取止めるのであります、財産税の方は個人財産税のみを課徴すると云ふことに相成りました、隨て此の考へ方は、戰時補償特別税と今囘の財産税、二つ合せたものが一つの效果を現はす譯でありまして、其の兩税に依つての收入は約千百億と豫定して居る次第であります
次に財産税法案の内容に付きまして主なる點を申上げたいと思ひます、是も大體本會議で申上げた所を繰返すのでありますが、第一に納税義務者是は大別致しまして三種に分れます
其の一つは、昭和二十一年三月三日午前零時、即ち調査時期に於きまして此の法律の施行地に住居を有し又は一年以上居所を有して居た個人、其の二は、調査時期に於きまして此の法律の施行地に財産を有して居た個人、其の三は、右の外戸籍法の適用を受ける個人で調査時期後二年以内に此の法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有することとなつたもの、此の三者であります、尚ほ一定の外國人に對しましては財産税は之を取らないと云ふことになつて居ります
以上の戸籍法の適用を受ける個人で調査時期に於て此の法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有して居た者及び調査時期後二年以内に此の法律の施行地に住所を有し又は一年以上居所を有することとなつたものに付ては、其の調査時期に於ける財産の全部に對し課税を致すのでありまして、それ以外の個人に付きましては調査時期に於て此の法律の施行地に有して居た財産のみに對し課税を致すのであります
次に非課税財産に付きましては、生活に通常必要な家具、什器、衣服其の他之に準ずる財産等に付きましては、其の性質上非課税として居るのであります
それから課税價格の算定に付きましては、調査時期に於ける財産の全部に對して課税されるものに付きましては、調査時期に於ける財産の價額から、調査時期に於ける債務の全額を控除した金額を以て課税價格と致しました、調査時期に於て此の法律施行地に有して居た財産に課せられるものに付きましては、是等の財産の價額から是等財産に關係のある債務で調査時期に現に存しもたのの金額を控除した金額を以て課税價格と致すのであります、此の場合、昭和二十一年度分の賦課課税に依る所得税及び臨時利得税は之を調査時期に於ける債務と看做します、又戰時補償特別税等も之を調査時期に於ける債務と看做すことと致して居ります、又昭和二十年十一月十五日以後調査時期前に贈與等がなされた場合に於きましては、其の贈與財産等は贈與者等の財産と看做し、贈與者等に納税義務があるものとし、贈與を受けた者等は贈與者等の納税義務に付て連帶納付の責に任じますと共に、贈與者等は贈與財産等に對し財産税を納付した場合には受贈者等に對し其の納付した税額に付き請求し得ることと致して居ります、以上の課税價格から戰災者及び引揚者に付きましては一人五千圓を控除致します、又戰爭及び災害に基因する死亡傷害等に付き支給を受けた一時金等に付きましては一萬圓を限度として其の給付金額を課税價格から控除する等の措置を講ずることと致した次第であります、而して是等の控除は申告期限内に申告書を提出した場合に限り之を行ふこととなつて居ります
次に免税點及び税率でありますが、先づ免税點に付きましては、本税の目的、國民生活の實情、物價事情等を勘案致しまして、之を十萬圓に致すのを適當と認めた次第であります、之に依りて課税を受くべき者は相當多額の財産を有する者に限られる譯でありまして、其の課税人員も比較的少數であります、隨て本税に依り國民生活に脅威を與へるが如きことは、先づないと考へられる次第であります、又税率に付きましても所要收入額、國民生活の實情、本税の趣旨等に顧みまして、相當高率の超過累進税率に依ることを適當と認めまして、最低十萬圓を超え十一萬圓以下の金額に付き、百分の二十五、それから最高千五百萬圓を超える金額に付きましては百分の九十に至る累進税率を設けることと致しました、此の結果本税に依る租税負擔は、特に多額の財産を有する者に付きましては相當嚴しいのでありますが、本税の趣旨に鑑み、眞に已むを得ないものと存ずる次第であります
尚ほ戸主及び同居家族の課税價格は、之を合算致しまして、其の總額に付き免税點及び税率の規定を適用致す考へであります
次に財産の評價に付きましては、原則として新物價體系に依る價格を基準と致して、可及的適正な評價を致したいと存じて居ります、即ち土地又は家屋に付きましては、取引價格を基準と致しまして、賃貸價格に一定の倍數を乘じて算出した金額に依ることと致します、又公債は原則として其の發行價格に依りますと共に、株式、出資、社債等の價格に付きましては、戰時補償特別税納税後の實情に即應致しまして、政府に於て適正な評價を致すのであります、此の場合不動産の評價に付きましては不動産評價委員會を、又株式等の評價に付きましては株式等評價委員會を設置致しまして、廣く一般の意見を參酌して、其の評價の適正を期することと致したのであります、尚ほ兩委員會共其の委員の人選に當りましては、貴衆兩院議員其の他、廣く民間各界の權威者を御願ひ致す所存であります、尚又保險契約に關する權利の價格は、拂込濟保險料の合計額に一定の割合を乘じて算出した額に依ることと致しました、年金其の他の定期金の權利の價格は年金現價を基準として定めることと致して居ります、尚ほ調査時期後物價統制令に依る統制額を定めた財産の價格は、其の統制額を基準として定めることになつて居ります、又書畫骨董等をも含めました家庭用動産の價格の算定に付きましては、色々困難が伴ひますので、家庭用動産以外の一般財産の價格に一定割合を乘じて算出した金額に依り得ると云ふ特別の措置を考慮致して居ります
次に申告でありますが、財産税法案は廣く申告納税の制度を採用致して居る次第であります、即ち納税者は申告期限内に課税價格其の他必要なる事項を記載した申告書を政府に提出することと致しまして、さうして其の申告書には控除に關する明細書を添附することとしたのであります、尚ほ在外資産等に付きましては、其の算定をなすことが出来ることとなるまでは之を除外して申告することと致したのであります
次に納付に付きまして御説明申上げます、納税義務者は原則として申告期限後一箇月以内に自己の申告した課税價格に對する財産税を政府に納付しなければならないのであります、次に財産税納付の方法でありますが、第一に金錢等で納付することと致します、金錢等で納付することを困難とする金額に付きましては、國債其の他金錢以外の財産に依る物納を認めることと致して居ります、物納をも困難とする特別の事由がある場合には、物納を困難とする金額の限度に於きまして、年一割の利子を附けまして、最長二年以内を限り延納を申請し得ることと致した次第であります、尚ほ調査時期に於ける財産の内、舊勘定預金等に相當するものと認められる財産がある場合には、當該財産に對する税額に限り舊勘定預金等で納付が出來る措置を講じて居ります
次に課税價格の更正又は決定でありますが、今囘の財産税に於きましては、從來の政府に依る一方的な賦課徴收の方法に代へまして、申告納税の制度を採用致しました結果、申告のない時、又は申告された課税價格が政府の調査と異なる時に限りまして、政府に於て課税價格を更正し又は決定して、不足税額又は決定税額を徴收することとした次第であります
而して課税の適正公平を期する爲め、政府に於て課税價格の更正又は決定をなす場合には、豫め財産調査委員會に諮問して、其の意見を徴することと致して居ります、此の委員會は税務署毎に之を設置致し、さうして其の委員には民間の實情に通じた方々を任命する所存であります
次に納税義務者は、政府の課税價格の更正又は決定に對して異議があります時は、審査の請求をなし、又審査の決定に對し不服がある者は訴願し、又は行政裁判所に出訴することが出來る途が開いてあります、而して審査の決定をなす際は、財産審査委員會に諮問することに致して居ります、尚ほ審査の請求があつた場合に、評價に付て納税者の異議がある財産を政府に讓渡すべきことを命じ得ることと致して居ります
次に本法案は申告納税の適正を期する等の爲め、二、三の規定を新たに設けて居るのであります、其の一つは、課税價格が五十萬圓を超える納税義務者に付きましては、其の申告された課税價格を公表致しますと共に、申告書等の書類を一般の閲覽に供することと致して居ります、其の二は、他人の財産税に關して、政府に報告した者には、其の報告に依つて追徴出來ることになつた税額の中、一定額以下を報償金として交付することが出來ることと致して居ります、此の制度に付きましては、弊害が伴はぬやうに特に其の運用に萬全を期する方針であります、其の三は延納其の他通常の納期限後に納税する場合に付きまして、年一割程度の税額を加算すると共に、理由なくして期限内に申告を致さず、又虚僞の申告をなした場合には相當程度の税額を追徴することと致して居ります、尚ほ政府は、調書其の他の書類の提出を命じますと共に、收税官吏は納税義務者等に質問し、又は其の財産、若しくは財産に關する帳簿書類等を檢査することが出來ることとなつて居ります
次に罰則に付きましては、本税の重要性に顧み、詐僞其の他不正の行爲に依る逋脱等に關しまして、嚴重に之を處罰することに致して居ります
最後に、財産税は皇室の財産に對しても課税されることになつて居りますが、之に付きまして必要な事項は、本法案に準じまして皇室令を以て、之を定めることとなつて居ります
以上申述べました所に依りまして、免税點を十萬圓とした場合に財産税の收入は概ね四百三十五億圓となる見込でありますが、此の程度の收入は、終戰處理費、戦災復興等の爲に是非共必要とする所でありまして、萬一實際の收入額が見込額に比し、著しく不足するやうな場合には、更に五萬圓以上十萬圓未滿の者に付ても改めて財産税を課する必要が生ずる場合もあらうかと存じて居る次第であります
以上を以ちまして財産税法案提案の理由、竝に其の主なる内容の説明を終ります、本税に依つて個人の財産に對して高率な課税を行ひますことは、前にも申しましたやうに、終戰後の國民に對しては非常な負擔であります、政府と致しましては又甚だ忍び難いものがある次第でありますが、終戰後の事態を處理し、急速に新日本の再建、國民生活の安定を圖る爲には、眞に已むを得ない次第と考へる譯であります
次に財産税等收入金特別會計法案に付きましては、是れ亦本會議で申上げた所でありますが、目下本院に於て御審議を願つて居りまする戰時補償特別措置法案及び財産税法案に基きまして、收納致します所の財産税及び戰時補償特別税は、何れも特別の收入金であります、隨て之を一括して其の經理を明瞭に致しますことが適當と考へる譯でありますのみならず、財産税及び戰時補償特別税は何れも物納を許すことと相成りますので、物納財産の收納の状況、及び其の處分の状況も一括して經理することが必要であります、斯樣な譯でありまして、特別の經理を致しますに付きましては、會計法第三十九條の規定に基きまして、特別會計法を制定する必要がありますので、此の法律案を提出致しました次第であります
次に企業整備資金措置法を廢止する等の法律案に付きまして御説明を申上げます、企業整備資金特別措置法は戰時に於きまして企業整備の促進を圖り、浮動購買力の發生を防止し、國家經濟の秩序を維持すると云ふ目的を以て制定せられたものでありますが、戰爭の終結に伴ひ其の存在を不適當とするに至りましたのみでなく、終戰後金融緊急措置令の實施、戰時補償の打切り及びそれに伴ふ一連の諸措置の實施せられるに至りましては、全く其の存在理由を失ふものと考へられますので、此の際之を廢止することと致したのであります
又臨時資金調整法第十條の二の規定は戰爭保險金支拂の債務等、即ち企業整備關係以外の金錢債務の決濟に付きまして企業整備資金措置法の規定を準用致して居るのでありますが、企業整備資金措置法廢止と同樣な趣旨に依りまして、此の際同條を削除することと致したのであります
又日本勸業銀行の勸業債券でありますが、此の發行限度は拂込資本金の十五倍と只今相成つて居るのでありますが、其の發行餘力は極めて僅少となつて居りますし、而も今後の日本勸業銀行の資金供給に支障なからしめる必要がありますので、此の發行限度を擴張致したいのであります、日本勸業銀行法の一部を改正し其の限度を現在拂込資本金額の「十五倍」と規定致して居りますのを「二十倍」とすることと致したいのであります
次に生命保險中央會でありますが、是は目下の状況に鑑みまして、生命保險會社に生命保險契約を移轉し得ることとする必要が認められますので、生命保險中央會法の一部を改正することと致したのであります
以上が財産税法案外二件に付ての大體の内容でございます、何卒御審議の上速かに御贊成下さらんことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=23
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024・本多市郎
○本多委員長 本日は此の程度に於て散會致します、次會は明一日十時より第十委員室に於て開會致しますから、どうぞ御出席を御願ひ致します
午後五時四十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009012048X00119460930&spkNum=24
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