1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十一年七月十八日(木曜日)
午後一時二十五分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第十七號
昭和二十一年七月十八日
午後一時開議
第一 政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第二 生活保護法案(政府提出)
第一讀會
━━━━━━━━━━━━━
〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次の通りである
生活保護法案
(以上七月十七日提出)
一、議員から提出された議案は次の通りである
外地引揚者のための新開村建設に關する建議案
提出者 布利秋君
(以上七月十六日提出)
宗教教育に關する決議案
提出者
大野伴睦君 左藤義詮君
葉梨新五郎君 石井光次郎君
山崎猛君
(以上七月十七日提出)
一、昨十七日貴族院に於て、本院から送付の次の政府提出案の可決した旨、同院から通牒を受領した
昭和二十年法律第三十四號(衆議院議員選擧法の一部を改正する法律)中まだ施行してゐない部分の廢止に關する法律案
郵便法の一部を改正する法律案
一、議員から提出された質問主意書は次の通りである
憲法改正に關聯する質問主意書
提出者 布利秋君
(以上七月十六日提出)
帝國憲法改正案に關する質問主意書
提出者 大石ヨシエ君
勞働關係調整法案に關する質問主意書
提出者 志賀義雄君
(以上七月十七日提出)
一、去十六日吉田内閣總理大臣から次の通り發令があつた旨の通牒を受領した
農林事務官 難波理平
第九十囘帝國議會農林省所管事務政府委員被仰付
一、去十六日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を次の通り變更した
一五一 菊池長右ェ門君
二一八 綿貫佐民君
一、去十六日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した
第六部選出
豫算委員
岡田勢一君(寺島隆太郎君補闕)
一、去十六日議長に於て次の委員を選定した
勞働關係調整法案(政府提出)委員
飯國壯三郎君 今井はつ君
江崎眞澄君 大内一郎君
花月純誠君 杉田馨子君
瀧澤脩作君 竹田儀一君
原侑君 村上勇君
山田善三君 山本勝市君
逢澤寛君 岡部得三君
川崎秀二君 古賀喜太郎君
關谷勝利君 橘直治君
長尾達生君 山下春江君
赤松勇君 伊藤卯四郎君
辻井民之助君 土井直作君
永江一夫君 松岡駒吉君
安平鹿一君 山下榮二君
東隆君 木下榮君
原國君 藤井正男君
磯田正則君 穗積七郎君
久保猛夫君 疋田敏男君
一、去十六日次の通り特別委員の異動があつた
帝國憲法改正案(政府提出)委員
辭任 高橋英吉君 補闕 大久保留次郎君
辭任 赤澤正道君 補闕 中山榮一君
東京都制の一部を改正する法律案(政府提出)外三件委員
辭任 岡田春夫君 補闕 大澤喜代一君
一、昨十七日吉田内閣總理大臣から次の通り發令があつた旨の通牒を受領した
厚生事務官 富樫總一
同 加藤清一
第九十囘帝國議會厚生省所管事務政府委員被仰付(七月十一日附)
一、昨十七日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を次の通り變更した
五五 小川半次君
一二三 竹内歌子君
一、去十七日委員長理事互選の結果次の通り當選した
勞働關係調整法案(政府提出)委員
委員長 逢澤寛君
理事
江崎眞澄君 瀧澤脩作君
竹田儀一君 岡部得三君
古賀喜太郎君 伊藤卯四郎君
松岡駒吉君
一、昨十七日次の通り特別委員の異動があつた
帝國憲法改正案(政府提出)委員
辭任 加藤一雄君 補闕 木村公平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=0
-
001・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 是より會議を開きます、御報告申上げます、去る十六日本院に於て決議になりました聯合國最高司令官に對する感謝決議文は、昨十七日議長は副議長と共に本院を代表して、聯合國總司令部に「マッカーサー」元帥を訪問して御渡し致しました所、之を多とし、議員諸君に宜しく御傳へを乞ふとのことでありました
〔拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=1
-
002・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 日程第一政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案の第一讀會を開きます──石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=2
-
003・会議録情報2
――――◇―――――
第一 政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案(政府提出) 第一讀會
――――――――――――――――――――
政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案
第一條 左の法律及び勅令は、これを廢止する。
政府出資特別會計法
營繕用品資金特別會計法
陸軍作業會計法
海軍工厰資金會計法
朝鮮鐵道用品資金會計法
朝鮮簡易生命保險及郵便年金特別會計法
朝鮮食糧管理特別會計法
臺灣總督府特別會計法
臺灣食糧管理特別會計法
臺灣事業用品資金特別會計法
樺太廳特別會計法
關東都督府特別會計法
南洋廳特別會計法
大正十二年法律第七號(東京砲兵工厰及び大阪砲兵工厰の各特別會計の合併に關する法律)
昭和八年法律第十五號(海軍工厰資金の臨時補足に關する法律)
昭和十一年法律第四號(昭和十一年度一般會計歳出の財源に充てるため特別會計に屬する資金の繰替使用等に關する法律)
昭和十二年法律第九號(一般會計歳出の財源に充てるため特別會計から繰入金をすることに關する法律)
昭和十三年法律第二十二號(臨時軍事費の財源に充てるため特別會計から繰入金をすることに關する法律)
昭和十三年法律第二十三號(外地特別會計における租税收入の一部に相當する金額等を臨時軍事費特別會計に繰り入れることに關する法律)
昭和十五年法律第十四號(船員保險事業の經營に伴ふ關係各會計間の分擔及び關渉に關する法律)
昭和十七年法律第二十三號(陸軍作業會計法及び海軍工厰資金會計法の臨時特例に關する法律)
明治四十三年勅令第四百六號(朝鮮總督府特別會計に關する勅令)
第二條 地方分與税分與金特別會計法の一部を次のやうに改正する。
附則に次の二項を加へる。
本會計に屬する地租、家屋税及び營業税の收入は當分の内之を一般會計に屬せしむることを得
前項の規定に依り同項に掲ぐる收入を一般會計に屬せしめたる場合に於ては豫算の定むる所に依り一般會計及本會計間に於ける必要なる收支の調整を爲すものとす
第三條 作業會計法の一部を次のやうに改正する。
第一條第一號乃至第四號を次のやうに改める。
一 印刷局
二 専賣局
第二條第三項及び第四項を削る。
第四條 厚生保險特別會計法の一部を次のやうに改正する。
第一條第二項を削る。
第五條中「朝鮮總督府、臺灣總督府及關東局の各特別會計よりの受入金、」及び「朝鮮總督府、臺灣總督府及關東局の各特別會計への繰入金、」を削る。
第十一條中「竝に朝鮮總督府、臺灣總督府及關東局の各特別會計への繰入金」を削る。
第五條 食糧管理特別會計法の一部を次のやうに改正する。
第四條の三中「三十八億圓」を「五十二億圓」に改める。
第六條中「一般會計よりの受入金、」を削る。
第六條の二を削り、第六條の三を第六條の二とする。
附則第二項乃至第六項を次のやうに改める。
米穀の生産を確保する爲の補給金は之を本會計に屬せしむ
前項の補給金は一年内に償還すへき無記名證券を以て其の額面金額に依り之を交付す
前項の規定に依り交付する爲政府は證券を發行することを得
前項の規定に依り發行する證券は之を第三條の規定に依り發行する證券と看做す
政府は當分の内本會計の決算上の損失を補填する爲豫算の定むる所に依り一般會計より本會計に繰入金を爲すことを得
政府は本會計の負擔に屬する證券の内四十五億圓を限り一般會計の負擔に移すことを得
前項の規定に依り一般會計の負擔と爲りたる證券の借換の爲政府は公債を發行することを得
第六條 通信事業特別會計法の一部を次のやうに改正する。
第一條第二項中「竝に收入印紙賣捌」を「、收入印紙賣捌竝に電氣試驗所に於て行ふ電氣計器の檢定等」に改める。
第二條第一項中「及改良」の下に「竝に出資拂込」を加へ、「電信電話建設寄附」を「通信事業設備建設寄附」に、「電信電話設備」を「通信事業設備」に改め、同條第二項を削る。
第六條中「電信電話建設寄附」を「事業設備建設寄附」に改める。
第九條中「業務取扱數量の増加」の下に「其の他避くべからざる事由」を加へる。
第十四條の二 通信事業の經營に妨なき限り一般の委託に依り通信に關する機械器具等の製作修理を爲すことを得
前項の場合の歳入歳出は用品勘定の所屬とす
第七條 簡易生命保險及郵便年金特別會計法の一部を次のやうに改正する。
第三條中「、同事業の業務取扱に關する諸費に充つる爲の通信事業、臺灣總督府、關東局及南洋廳の各特別會計への繰入金竝に同事業の營繕費」を「竝に同事業の業務取扱に關する諸費及同事業の營繕費」に改める。
第四條中「竝に同事業の業務取扱に關する諸費に充つる爲の通信事業、臺灣總督府、關東局及南洋廳の各特別會計」を「及同事業の業務取扱に關する諸費に充つる爲の通信事業特別會計」に改める。
第六條 削除
第八條 帝國鐵道會計法の一部を次のやうに改正する。
第二條第二項中「及用品資金補足の豫算定額以内」を「、用品資金補足及出資拂込金を支辨するに必要なる金額を限度」に改める。
第九條 國有財産法の一部を次のやうに改正する。
第二十九條の二を第二十九條の三とする。
第二十九條の二 政府は第二十六條第一項の規定に拘らす同項の規定に依り帝國議會に報告すへき昭和十九年度の國有財産増減總計算書の調製を省略し同年度及昭和二十年度を通して國有財産増減總計算書を調製し會計檢査院の檢査を經て之を帝國議會に報告すへし
第十條 昭和二十年法律第十九號の一部を次のやうに改正する。
第二條第一項中「臨時軍事費特別會計への繰入金(昭和十三年法律第二十二號に依るものを除く)」を「一般會計への繰入金」に改める。
附 則
第十一條 この法律は、公布の日から、これを施行する。
第一條、第三條、第四條及び第七條の規定は、昭和二十一年度から、これを適用する。
第十二條 政府出資、營繕用品資金陸軍造兵厰、陸軍製絨厰、海軍工厰資金、海軍火藥厰、海軍燃料厰、朝鮮總督府、朝鮮鐵道用品資金、朝鮮簡易生命保險及郵便年金、朝鮮食糧管理、臺灣總督府、臺灣食糧管理、臺灣事業用品資金、樺太廳、關東局及び南洋廳の各特別會計の昭和十九年度分の歳入歳出の決算竝びに昭和二十年度分の歳入歳出の出納及び決算等については、舊法は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
第十三條 政府出資、營繕用品資金、陸軍造兵厰、陸軍製絨厰、海軍工厰資金、海軍火藥厰及び海軍燃料厰の各特別會計廢止の際にこれらの特別會計に屬する決算上の剩餘若しくは不足、資本若しくは資金又は權利義務は、これを一般會計に歸屬せしめる。
第十四條 朝鮮總督府、朝鮮鐵道用品資金、朝鮮簡易生命保險及び郵便年金、朝鮮食糧管理、臺灣總督府、臺灣食糧管理、臺灣事業用品資金、樺太廳、關東局及び南洋廳の各特別會計の廢止に關して必要とする規定は、勅令でこれを定める。
第十五條 前條に規定する各特別會計の昭和十九年度又は同二十年度の歳入歳出の決算の會計檢査院への送付及び帝國議會への提出は、これを當分の間延期することができる。
―――――――――――――――――――――
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=3
-
004・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案に付て其の提案理由を御説明申上げます
先づ特別會計法の廢止及び之に關聯する諸法令の廢止に付てでございますが、終戰に伴ひまして其の存置の必要を失ふに至りました舊陸海軍關係の陸軍造兵厰、陸軍製絨所、海軍工厰資金、海軍火藥厰、海軍燃料厰の五つの特別會計及び朝鮮總督府、臺灣總督府、樺太廳、關東局、南洋廳等の十地域の特別會計を廢止致しますと共に、此の際會計制度を簡明ならしめる目的を以て、比較的存置の理由を失ふに至りました政府出資及び營繕用品資金の兩特別會計を廢止致さうとするのでございます
尚ほ是等の特別會計法の廢止に伴ひまして、大正十二年法律第七號東京砲兵工厰及び大阪砲兵工厰の各特別會計の合併に關する法律外七法律も、此の際整理するのを適當と考へまして、併せて廢止致さうとするのであります
次に特別會計法の一部改正に付てでございますが、其の一つは前申述べました特別會計の廢止に關聯致しまして、作業會計法、厚生保險及び簡易生命保險、郵便年金の各特別會計法の一部を改正せんとするものであります、其の二は、特別會計の運營を圓滑に致す爲に、地方分與税分與金、食糧管理、通信事業及び帝國鐵道の各特別會計法の一部を改正せんとするものでありまして、其の主なる點は、食糧管理特別會計に於きましては、決算上の損失に關する措置、通信事業及び帝國鐵道會計に於て、公債支辨經費の範圍の擴張を行はうとするものでございます
次に國有財産法の一部改正法でございますが、國有財産法第二十六條の規定に依りますと、政府は毎會計年度の國有財産増減總計算書を調製致しまして、會計檢査院の檢査を經て之を帝國議會に報告することに相成つて居るのでありますが、昭和十九年度分に付きましては、戰災等に因りまして國有財産の増減の計算が著しく困難でありますのみならず、其の増減の年度區分が明瞭でありませぬなどの關係上、昭和十九年度分の國有財産増減總計算書は其の調製を省略致しまして、昭和十九年度と二十年度分とを通じて調製し得ることと致したいのでございます
最後に昭和二十年法律第十九號地方鐵道及び軌道に於ける納付金等に關する法律の一部改正に付てでありますが、同法に依りますと、地方鐵道及び軌道の納付金は帝國鐵道會計資本勘定所屬の特別の資金として經理致しまして、其の一部は臨時軍事費特別會計への繰入金に充用致して參つたのでございますが、臨時軍事費特別會計が先般廢止致されましたに伴ひまして、右申上げました納付金は、是は一般會計の繰入金に充用するのを適當と認めまして所要の改正を行はうとするものでございます、以上甚だ簡單でありますが、御説明申上げました、何卒御審議の上速かに御協贊を願ひます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=4
-
005・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
――――――――――――――――――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=5
-
006・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は政府提出會計法戰時特例廢止等に關する法律案委員に併せ付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=6
-
007・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=7
-
008・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました──日程第二、生活保護法案の第一讀會を開きます──河合厚生大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=8
-
009・会議録情報3
――――◇―――――
第二 生活保護法案(政府提出)
第一讀會
――――――――――――――――――――
生活保護法案
生活保護法
第一章 總側
第一條 この法律は、生活の保護を要する状態にある者の生活を、國が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して、社會の福祉を増進することを目的とする。
第二條 左の各號の一に該當する者には、この法律による保護は、これをなさない。
一 能力があるにもかかはらず、勤勞の意思のない者、勤勞を怠る者その他生計の維持に努めない者
二 素行不良な者
第三條 扶養義務者が扶養をなし得る者には、急迫した事情がある場合を除いては、この法律による保護は、これをなさない。
第二章 保護機關
第四條 保護は、保護を受ける者の居住地の市町村長(東京都の區のある區域においては東京都長官とする。以下同じ。)、居住地がないか、又は明かでないときは、現在地の市町村長が、これを行ふ。
第五條 民生委員令による民生委員は、命令の定めるところにより、保護事務に關して市町村長を補助する。
第三章 保護施設
第六條 この法律において保護施設とは、この法律による保護を目的とする施設又はこの法律による保護を受ける者の援護のために必要な施設をいふ。
前項の援護とは、宿所の提供その他この法律による保護を全うするため必要な事項で命令をもつて定めるものをいふ。
第七條 市町村が、保護施設を設置しようとするときは、その設備について、地方長官の認可を受けなければならない。
市町村以外の者(都道府縣を除く。以下同じ。)が保護施設を設置しようとするときは、地方長官の認可を受けなければならない。
第八條 前條第二項の規定により設置した保護施設は、市町村長が保護又は援護のため行ふ委託を拒むことができない。
第九條 この法律で定めるものの外、保護施設の設置、管理、廢止その他保護施設に關して必要な事項は、命令でこれを定める。
第四章 保護の種類、程度及び方法
第十條 保護は、生活に必要な限度を超えることができない。
第十一條 保護の種類は、左の通りである。
一 生活扶助
二 醫療
三 助産
四 生業扶助
五 葬祭扶助
前項各號の保護の程度及び方法は、勅令でこれを定める。
第十二條 市町村長は、必要と認めるときは、保護を受ける者を保護施設に收容し、若しくは收容を委託し、又は私人の家庭若しくは適當な施設に收容を委託することができる。
第十三條 市町村長は、保護を受ける者の親權者又は後見人がその權利を適切に行はない場合は、その異議があつても、前條の規定による處分をなすことができる。
第十四條 保護施設の長は、命令の定めるところにより、その施設に收容された者に對して、適當な作業を行はせることができる。
第十五條 第十二條の規定により收容され、又は收容を委託された未成年者について、親權者及び後見人の職務を行ふ者がないときは、市町村長又はその指定した者が、勅令の定めるところにより、後見人の職務を行ふ。
第十六條 市町村長は、保護を受ける者に對して、勤勞その他生計の維持に必要なことに關して指示をなすことができる。
第十七條 保護を受ける者が死亡した場合は、勅令の定めるところにより、葬祭を行ふ者に對して、葬祭費を給することができる。
保護を受ける者が死亡した場合に、葬祭を行ふ者がないときは、保護をなした市町村長が、葬祭を行はなければならない。
第五章 保護費
第十八條 保護を受ける者が、同一の市町村に一箇年以上引續いて居住する者であるときは、保護に要する費用は、その居住地の市町村の負擔とする。
保護を受ける者が東京都の區のある區域に居住する者であるときは、保護に要する費用は、東京都の負擔とする。
第十九條 保護を受ける者が左の各號の一に該當する者であるときは、その居住期間が一箇年に滿たない場合においても、保護に要する費用は、その居住地の市町村の負擔とする。
一 夫婦の一方が居住一箇年以上であるとき、同居の他の一方
二 父母その他の直系尊屬が居住一箇年以上であるとき、同居の子その他の直系卑屬
三 子その他の直系卑屬が居住一箇年以上であるとき、同居の父母その他の直系尊屬
第二十條 第十八條第一項及び前條に規定する期間の計算については、勅令の定めるところによる。
第二十一條 保護に要する費用が第十八條第一項及び第十九條の規定により市町村の負擔とならない場合は、その費用は、保護を受ける者の居住地の都道府縣の負擔とする。
保護を受ける者の居住地がないか、又は明かでないときは、保護に要する費用は、その者の現在地の都道府縣の負擔とする。
第二十二條 第十七條第一項の葬祭費及び同條第二項の規定による葬祭に要する費用の負擔に關しては、第十八條乃至前條の規定を準用する。
第二十三條 第五條の規定により民生委員が職務を行ふため必要な費用は、市町村(東京都の區のある區域に置かれる民生委員については東京都とする。)の負擔とする。
第二十四條 都道府縣が設置した保護施設及び第七條の規定により市町村又は市町村以外の者が設置した保護施設の事務費は、勅令の定めるところにより、第十八條、第十九條及び第二十一條の規定によりその施設で保護又は援護を受ける者の保護に要する費用を負擔する市町村又は都道府縣が、これを負擔する。
第二十五條 第二十一條及び第二十二條の規定により都道府縣が負擔する費用は、保護を行つた地の市町村が、一時これを繰替支辨しなければならない。
第二十六條 都道府縣は、勅令の定めるところにより、第七條第二項の規定により市町村以外の者が設置した保護施設の設備に要する費用に對して、その四分の三を補助しなければならない。
第二十七條 都道府縣は、勅令の定めるところにより、左の費用に對して、その四分の一を補助しなければならない。
一 第二十三條の規定により市町村が負擔した費用
二 第七條第一項の規定により市町村が設置した保護施設の設備に要する費用
第二十八條 都道府縣は、勅令の定めるところにより、第十八條第一項、第十九條、第二十二條及び第二十四條の規定により市町村が負擔した費用に對して、その十分の一を補助しなければならない。
第二十九條 國庫は、勅令の定めるところにより、第十八條、第十九條、第二十一條、第二十二條及び第二十四條の規定により市町村又は都道府縣が負擔した費用に對して、その十分の八を補助する。
第三十條 國庫は、勅令の定めるところにより、第二十六條の規定により都道府縣が負擔した費用に對して、その三分の二を補助する。
第三十一條 國庫は、勅令の定めるところにより、左の費用に對して、その二分の一を補助する。
一 第二十三條の規定により市町村又は東京都が負擔した費用
二 都道府縣が設置した保護施設及び第七條第一項の規定により市町村が設置した保護施設の設備に要する費用
第三十二條 保護を受ける者に資力があるにもかかはらず保護をなしたときは、保護に要する費用を負擔した市町村又は都道府縣は、その者から、その費用の全部又は一部を徴收することができる。
第三十三條 保護を受けた者が保護に要した費用を辨償する資力を有するやうになつたときは、保護の費用を負擔した市町村又は都道府縣は、保護を廢止した日から五箇年以内に、その費用の全部又は一部の償還を命ずることができる。
第三十四條 保護を受ける者に對して民法により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範圍内において、保護に要する費用を負擔した市町村又は都道府縣は、その費用の全部又は一部をその者から徴收することができる。
前項の規定による費用の徴收に關して爭があるときは、民事訴訟による。
第三十五條 保護を受ける者が死亡したときは、市町村長は、命令の定めるところにより、遺留の金錢を保護に要した費用、第十七條第一項の葬祭費及び同條第二項の規定による葬祭に要した費用に充て、なほ足りないときは、遺留した物品を賣却して、これに充てることができる。
第六章 雜則
第三十六條 保護を受ける者が左の各號の一に該當するときは、市町村長は、保護をなさないことができる。
一 この法律又はこの法律に基いて發する命令により市町村長又は保護施設の長がなした處分又は指示に從はないとき。
二 正當な理由がなく保護に關する檢診又は調査を拒んだとき。
第三十七條 第七條第二項の規定により設置した保護施設が、この法律若しくはこの法律に基いて發する命令又はこれに基いてなす處分に違反したときは、地方長官は、同項の認可を取消すことができる。
第三十八條 この法律により給與を受けた保護金品を標準として、租税その他の公課を課することができない。
第三十九條 この法律による保護金品は、既に給與を受けたものであるとないとにかかはらず、これを差し押へることができない。
第四十條 都道府縣、市町村その他の公共團體は、左の建物及び土地に對しては、有料で使用させるものを除いては、租税その他の公課を課することができない。
一 主として保護施設のために使ふ建物
二 前號の建物の敷地その他主として保護施設のために使ふ土地
第四十一條 詐僞その他不正な手段により保護を受け、又は受けさせた者は、六箇月以下の懲役又は五百圓以下の罰金に處する。
第四十二條 この法律中町村に關する規定は、町村制を施行しない地においては町村に準ずるものに、町村長に關する規定は、町村長に準ずる者にこれを適用する。
附 則
第四十三條 この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第四十四條 救護法、軍事扶助法、母子保護法、醫療保護法及び戰時災害保護法は、これを廢止する。
第四十五條 救護法第七條若しくは母子保護法第九條第二項の規定により設置した施設又は醫療保護法第六條の規定により經營する施設(都道府縣の施設を除く。)で、この法律施行の際現に存するものは、この法律施行の日から二箇月間を限り、第七條の規定による認可を受けなくても、同條の認可を受けた保護施設とみなす。
前項の施設の設置者が同項の期間内に第七條の認可を申請した場合において、その申請に對する認可又は不認可の處分の日までも、また同項と同樣である。
第四十六條 北海道舊土人保護法の一部を次のやうに改正する。
第四條乃至第六條 削除
第八條中「第四條乃至前條」を「前三條」に改める。
第四十七條 罹災救助基金法の一部を次のやうに改正する。
第十五條の二中「救護法施行」を「生活保護法施行」に改める。
―――――――――――――――――――――
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=9
-
010・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今議題となりました生活保護法案に付て提案の理由を説明致します
我が國現下の情勢を見ますると、戰災者、海外引揚者、在外者の留守家族、戰歿者の遺族、傷痍軍人、失業者等の中には、日常の生活に困窮して居る方も少くないのであります、之に一般貧困者を合せますと、生活の保護を必要とする者は相當多數に上るのであります、且つ最近の物價騰貴や食糧難の影響に依りまして、遺憾ながら其の數は逐次増加致しまして、其の困窮程度も次第に深刻化する傾向にあるのであります、此の事態に鑑みまして、政府と致しましては積極的に或は經濟の安定の方途を講じ、或は就業對策の徹底を圖る等、是等生活困窮者を減少させるやう目下努力中でありますが、他面現に生活に困窮して居る者の保護對策に付ても、急速に是が實現を期する必要があるのであります、此の點は政府としても最も重大なる責任の一つであることを深く自覺して居る次第であります、勿論今日と雖も救護法、母子保護法、醫療保護法等を實施致して居ります外、生活困窮者の緊急生活援護事業を實施して、當面の保護に當つて居るのではありますが、是等の法規は何れも限定的であります、且つ保護の内容にも程度の差別があるのでありまして、現下の實情に適せざる點も少くないのであります、そこで茲に從來の諸法規を廢止すると共に、新たに、生活保護法を制定して、現に生活保護を要する者を廣く網羅しまして、事由の如何に拘らず差別的又は優先的の取扱を廢めまして、普遍平等の立場に立つて保護の實を擧げんとする次第であります、考へまするに、基本的人權の尊重は民主主義國家に於ける最大最重の目標であり、殊に生活保障は其の焦點とも言ふべき所であります、終戰後我が國は凡ゆる經濟政治の難局渦中に立ちつつあるに拘らず、茲に國民の福祉増進の爲に本法案を議會に提出するに至りたることを政府は深く欣幸とする所であります、願はくは本法案を契機と致しまして完全なる社會保障制度が一日も速かに樹立せらるる機運に達せんことを期待して巳まぬものであります、右の次第に付き何卒御審議の上速かに協贊を與へられんことを希望致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=10
-
011・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 質疑の通告があります、順次之を許します──庄司一郎君
〔庄司一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=11
-
012・庄司一郎
○庄司一郎君 只今上程相成りましたる生活保護法案に關しまして、又關聯をして極めて簡單な、さうして概括的な二、三の疑ひを質したいのであります
只今提案者、政府の厚生大臣は、本法相成るの曉に於て、積極的に國民中に於ける所の生活の疲弊困憊者を援護保護する旨の聲明があられましたが、假令本法相成る曉と雖も、一片の法律は單なる是れ死文であります、此の保護法をより能く運營して萬遺憾なきを期する、或は系統的なる所の、それぞれ地方市町村等に至る所の保護事業が、其の人を得なければならぬのである、唯單に茲に救護法であるとか、或は母子保護法であるとか、其の他二、三の法案を綜合的に採入れて此の保護法案が相成りましても、只今のやうな幾百萬の、住むに家なく、其の肉體生命の爲に食なく、物價暴騰其の極に達し、國民の大多數が生活塗炭の苦惱に喘ぐ此の秋に於て、單なる一片の法律は國民民衆を根本的には救ひ得ないのであります、暫定的にも國民を救はんとするならば、其の機構に於てより良き事業の機構を整備し、又其の任に當る所の人に於て其の人を得なければならないのである、政府は此の愛の法律を、國民民衆に對する所の愛の立法を只今御提案になられた、其の御誠意は之を多とするけれども、本法成るの曉に於て、如何なる信念と又指導原理と、特に都道府縣市町村等に對し如何なる信念と對策を以て本法の萬遺憾なき對處をなさんとせられるのであるか、先づ第一點に於て其の御所信を承りたいと思ふのであります
第二點は本法の第一章總則には、保護を要する状態にある者の生活を保護す、と提案されて居るのである、由來保護なる此の文字は、多くの場合に於て、極めて消極的なる所の意義しか發見することが出來ないのであります、唯單に保護せんが爲の保護であつてはならない、一時苦しい境遇に陷りまして、此の政府の本法に依る保護を受けねばならない程左樣に不幸なる境遇に陷りました同胞でありましても、軈て間もなく彼の心身共に健康を囘復され、一日も速かに獨立自營の生活をなし能ふ所の、其の心からなる力と勇氣とを與へる社會事業でなければならないと思ふのであります、唯單なる「パン」を與へ、物質を與へ、若干時間に於ける生活の安定を圖るだけの消極的の生活保護法案であつてはならない、間もなく起ち上つて獨立自營の信念を持つて日本國民としての有意義な生活をなし得る所の人間教育を與へなければなりませぬ、さう云ふ方面に於て政府はどう云ふ御用意があるかと云ふことを御伺ひ申上げて置きたいと思ふのであります、即ち單なる生活扶助であつてはならない、飽くまでも彼の生業を積極果敢に援助して行く所の政策にまで展開しなければならないと考へるのであります
第三は保護經營費の問題であります、御提案の第十八條から第三十一條までは、所謂政治用語を以て言ふならば、負擔區分の問題であります、政府の御提案に依りますと、國、都道府縣、市町村、所謂三位一體化の經費の區分と云ふやうなことを御考へのやうでありまするけれども、それは現下市町村財政の極めて不如意な、困難な現状に鑑みて、市町村等よりの財源を此の保護事業費として政府が當て込むと云ふことは、甚だ以て危險性がある、一面に於て政府は地方税制の改正案を提案されて市町村の財政を強化されんとして居る、其の反面に於て市町村より國民生活に關する所の保護經費を遮二無二法律の力を以て捻出させんと御考へになつて居る、此の點に於て私は誤謬があると考へて居るのであります、町村財政不如意の場合に於て、如何に本法の精神を理解し、人類愛に目覺め、人道的見地より此の保護事業を經營せんと致しましても、それは能はざることである、砂上の樓閣であります、政府は大乘的見地に立ち、又保護事業、社會事業等の一切は常に國家事業であると云ふ所の觀點に立たれて、地方市町村等より此の保護經費の一部を捻出させんとするやうなことを御やめになりまして、全額國庫負擔になさる所の御意思があるかないか、希くは全額國庫負擔にしたいと云ふ信念ありや、政府の御所信を承りたいのであります
第四に、本法御提案と共に政府に於ては御調査があると思ふが、全國内に於て不幸にして本法の保護對象者となり得べき程度の同胞が一體何百萬人あるのであるか、生活の扶助に於て或は生業の扶助に於て、醫療の保護關係に於て一體何百萬の氣の毒な同胞が現在存在して居るのであるかと云ふことを承りたい
續いてそれに關聯して、昭和二十一年度に於て保護經費一切に於て政府はどの程度の豫算を獲得されたものであるか、又將來年度内に於て獲得されんとするものであるかと云ふことを御伺ひ申上げたいのであります、多くの貧乏は、多くの生活困難は、常に病より發することは御承知の通りであります、然るに只今農漁山村等に於て生活程度の低い者は、極端な言葉を以て申上ぐるならば、貧乏なる者は、醫療を受くることが出來ない現實の状態にある、即ち各町村には國民健康保險組合なるものが存在して居りまするけれども、其の組合員たるには餘りにも高額なる負擔を餘儀なくされて居るのであります、詰り町村に於て町村民税一箇年二十圓程度の擔税者は、國民健康保險組合の組合員たるには七十五圓を納入しなければならないのである、斯かるが故に全國一萬三千の健康保險組合は、只今まで財政の上に於て四苦八苦の状態にある、就中町村の財政の困難にある東北地方の如きは、殆ど町村の國民健康保險組合の機能と云ふものは停止の状態にあることを私は愬へざるを得ないのであります、此の際此の時期に於て、國民の醫療を完遂する爲に、政府は、特に厚生大臣は、市町村の國民健康保險組合に對して如何なる對策を以て醫療の事業を完成させんとするものであるか、是は眞劍な問題である、急迫した問題である、片端から町村の保險組合の機能が「ストップ」し、又それに續くに「ストップ」する、斯う云ふ状態を厚生大臣は何と御覽になつて居るか、又之を如何なる方途を以て應援されんとするものであるか、斯う云ふ點に付て御所見を承りたい
又本法に依る保護事業の經營主體は、本法に於ては多くは都道府縣或は市町村等に依存されて居るやうに拜見します、けれども從來所謂官公署等の官僚的なる社會事業或は保護事業と云ふものは、多くは現在まで過去のことは殆ど全部失敗であります、何となれば公共團體、官公署等の保護事業や社會事業と云ふものは、ともすれば事務的に流れ、機械的に陷り、唯單に社會事業年鑑に對して是等の統計を報告せんが爲に、極めて形容詞たつぷりの報告書を書いて居るに過ぎないのである、其の社會事業を、其の保護事業を直接第一線に於て行ふお役人には、此の氣の毒なる同胞を援護する爲の魂からの愛が爆發發散して居ないと思ふのであります、寧ろ官僚的な從來の保護事業や社會事業よりは、民間に於て理解ある篤志家、或は崇高なる宗教的信念、信仰を以て經營されて居る方々の民間に於ける保護事業や社會事業と云ふものは、大體に於て成功されて居るのである、それは心の底より其の氣の毒なる人々を此の胸に抱いて居るからであります、私は敢て官公署、公共團體等が主體となつて、是から此の後に於て保護事業や社會事業を經營されることに付て反對するものではない、けれども從來のやり方は餘りにも其の結果に於ては落第點數であつたと云ふことを、多少なりとも地方に於て多年社會事業に體驗を持つて居る不肖の見地から特に厚生大臣に申上げて、其の御反省を願はざるを得ないのであります、寧ろ民間に於ける篤志家、宗教家、宗教團體等をして之を行はしめ、適正に此の方々を助成されて行く方途を講ずる所の御意圖ありや否や、斯う云ふ點を御伺ひ申上げたい
更に本法には只今大臣が述べられたやうに、優先的にも、又差別的にも左樣なことの取扱はしない、平等に保護者を取扱ふと云ふことを述べられました、結構でございまするが、現在厚生大臣、あなたの部下、あなたのお役所のお役人達が用ひられて居る標語は何でございませうか、被保護者の諸君に對しては何と言はれて居るか、實に極端なる侮蔑的なる言葉を以て、「カード」階級なる言葉を以て差別待遇をなさせれて居るではございませぬでせうか、是は本當に一例に過ぎませぬ、差別待遇をなされない、平等愛の上に被保護者を見らるべき所のお役所が、自ら其の公文書の中に「カード」階級なる、此の人權を尊重せざる、人格平等を蔑視せる所の専門用語を用ひられると云ふことを、是からは御やめになることを一つ此の壇上より國民にはつきりと御誓約を願ひたいと思ふのである
最後にもう一つ働かざる者、怠ける者、素行治まらざる者、等々、是等は保護の對象より之を「ノックアウト」すると云ふことが本法案にございます、法律用語としては、或は厚生省の建前は左樣でございませうけれども、其の働かざる者を働かしめ、怠ける者を勤勉者に化し、素行治まらざる者を改過遷善の生活に推進せしめて行くと云ふことが根本的なる社會事業、保護事業の大なる生命ではないかと私は考へて居る、働かざるが故は「パン」を與へることが出來ない、お前には與へることが出來ないから死ね、是であつたならば、洵に是は冷い法律であつて、愛の發散する法律ではありませぬ、其の働かざる者には、働き得ない所の何等かの理由があるかも知れない、それを能く指導されて、勤勞意欲を燃燒させる所の指導精神を發揮して欲しいのであります、更に身體が丈夫で働きたくとも、働く職場を與へられて居りませぬ同胞がございます、それは何であるか、冷い言葉でございますけれども、世の所謂前科者であります、刑務所を釋放された所の同胞、現在推定の員數に於て約四百萬人、其の刑餘者、其の前科者の中の數百萬人の同胞は前科者なるが故に適當なる所の職場が與へられない、幸ひに與へられましても、軈て彼が前科者なることが發見されました場合に於ては、是は代議士だけではない、追放令を食ふのであります、即ち彼は其の職場より締出しを食ふのである、本法には素行治まらざる者は保護しないとあります、是に於て私は司法大臣に御伺ひしなければならない、昭和十四年九月より施行されたる司法保護事業法に依つて此の…
〔「言ふことが分らぬ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=12
-
013・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=13
-
014・庄司一郎
○庄司一郎君(續) 前科者が救はれる所の、刑餘者が救はれる所の司法保護事業に依つて、司法省は適當なる所の保護事業を行はれて居る、此の後此の生活保護法が本法と「タイ・アップ」されて、是等刑餘者、是等所謂前科者に對し適當なる仕事を與へる爲に如何なる連絡と調整を司法省は執られんとするものであるかと云ふことであります
最後にそれ等の前科者、刑餘者、是は根本的に其の前科を抹消する爲に如何なる方途を政府は講ぜんとするものであるか、來るべき新憲法の發布が明年紀元の佳節と傳へられて居ります、此の時に於て明治御一新に於て明治大帝が行はれたやうに、根本的な根こそぎの大祓ひを執行して、即ち大いなる所の大赦を行はれ、以て全國四百有餘萬の過去に於て虐げられたる無辜寃罪なる者、罪なくして刑餘の人となつた思想運動者或は勞働者、惡法に依つて彈壓を食ひました所の同胞、左樣な多くの人々が包含されて居る此の刑餘者、前科者の一切の前科なるものを市町村の刑名簿より根本的に抹消する所の、前科抹消法なる單行法律を速かに制定さる、所の御意思ありや否や、建議委員會に於ても請願委員會に於ても幾度か通過し、本院に於ても通過された所の此の問題に對し、改めて此の氣の毒なる同胞に職を與へ、生活の安定を與へる意味に於て、本生活保護法と「タイ・アップ」して、司法保護事業法の觀點より司法大臣の御所見を承りたいと思ふのであります、私の厚生大臣竝に司法大臣に對して疑ひを質しましたる所の質問は之を以て終ります(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=14
-
015・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の庄司君の御質問に對して御答へ致します
第一は本法運用に對してどう云ふ信念を持つて居るかと云ふ御質問でありましたが、此の法律の運用は市町村長をして行はしめて、其の補助機關として民生委員の補助を得て行くと云ふ建前になつて居ります、併しながら是は全く形のことでありまして、勿論是には魂がなくちやならぬ、只今までの官僚のやり方では斯う云ふ點は十分でないと思ひますから、將來大いに氣を付けて、さうして本法を制定しました本當の同胞愛或は人道主義の根本に基きまして、心を中心にして此の問題を處理して行くと云ふ決心で居ります
第二の問題は生業保護、生活安定に積極的に此の問題を關聯させて行くかと云ふ意味の御質問と思ひますが、是は御趣旨の通りでありまして、唯救濟すると云ふ意味では今日の日本の國は立つて行かぬのであります、だから救濟はするが出來るだけ仕事はして貰ひたい、殊に此の問題は失業對策の線と生活保護の線とは、やはり一つの線上の問題でありまして、何處でと云ふはつきりした線を引くことは困難な問題であります、同じ趣旨に依つて國家再建の爲に出來るだけやつて貰ふ、併しながら是は強制勞働的に行くと云ふ譯には行きませぬが、出來るだけさう云ふ風に働くことを指導して行つて、皆が働いて世の中を樂にして行くと云ふ精神でやつて行きます
それから第三の問題は本案と財政との關係と思ひますが、御指摘の通りに此の法案の第十八條から第三十一條までは如何にも諄々しく書いてありまして、私も讀みました時にどうかと思つたのでありますが、やはり中央と地方との此の財政關係を處理して行くには、どうしても斯う云ふ風に書かなければなりませぬので、之を一つの法案として出した譯であります、色々面倒に書いてありますけれども、結局十分の八は國庫が負擔し、十分の一は府縣が負擔し、殘りの十分の一は市町村が負擔すると云ふことであります、保護施設に付ては又別の割當になつて居ります、併しながら之を市町村自體の財政に負擔させると云ふことは、此の際どうも面白くないと思ひまして、是は内務省の方の分與金の中に入れて、此の市町村の負擔の實質は國庫から出すことになつて居ります、併し斯う云ふ問題は、やはり市町村の責任に於てやらせないと民主的に參りませぬから、それで法は市町村の責任に於て實施するが、經費は分與金を以て之を補ふと云ふ建前になつて居ります
それから其の次の第四の問題は、保護を受ける對象となる人數はどれ位かと云ふ御質問、及びそれに對する豫算の御質問でありましたが、是は只今の所では保護の對象となる全體の人數は八百萬人と推定して居ります、其の八百萬人の中、生活費の保護を必要とする者は六百五十萬人、普通の状態ではどうにかやつて行けるが、病氣になつたり、お産をしたりと云ふ時に金が足らぬで困ると云ふのが百五十萬人、さう云ふ推定で居ります、經費は只今の分與金を混ぜまして全體で三十二億圓位の豫算を提出する積りで居ります
それから其の次の第五の問題は、國民保險、健康保險との關係が主であつたと思ひますが、此の點に付きましては、國民健康保險の方は出來るだけ發達さして貰ひたい、さうして國民健康保險で醫療を受けることの出來ない場合に、此の生活保護法でやつて行くと云ふ建前で居ります、健康保險に付きましては、只今物價騰貴の關係等で療養費が餘計掛るので、中々各地の健康保險、國民健康保險の財政が非常に面倒で、困つた状態だと云ふことは政府も痛感して居る次第であります、何とか之に豫算的措置を講じたいと思つて、只今具體的に折衝を始めて居る所であります
第六の問題は餘り官僚的にやつていかぬではないか、又民間の社會事業にやらしてはどうかと云ふやうな御質問と拜承致しましたが、此の點はどうも事柄の性質が餘りに大きな豫算が要り、さうしてどうしても國家全體に亙る問題でありまするが故に、やはり政府の方針に依つて公共團體をしてやらして行くと云ふことが最も適當と思ひます、併しながら一般民間の社會事業として斯う云ふ線に沿うたことを勿論歡迎する次第でありまして、出來るだけ是は奬勵して行きたいと云ふ考へで居ります
それから第七の問題は平等に扱ふと云ふことに對する點、殊に「カード」階級と云ふ點に關する御質問でありましたやうに存じますが、此の點は普遍平等に扱ふと申しましたのは、民主主義的の思想と致しまして、是は戰爭の爲に原因したのだ、或は戰災の爲に原因したのだ、或は一般貧困の爲に原因したのだ、或は引揚其の他の事情の爲に原因したのだと云ふ一つの縱の線に沿うてやつて行くと云ふよりは、生活保護と云ふ横に一つの線を引いて、是は社會生活に御困りの方だから出來るだけ補助をして、さうして働いて貰はうではないかと云ふ風にやつて行くのが民主的だと云ふ考への下にさう云ふ方法を執りますが、勿論引揚者とか、今まで施設を色々施して來ました戰災者とか、或は其の他の色々な原因に付きましては、其の線に達するまでのことはそれぞれやつて居りますが、唯生活保護法の見地としましては、之を普遍平等的に取扱つて行くと云ふ意味であります、又「カード」階級と云ふ言葉は只今普通語になつて居るやうでありまして、是は世帶表を作成して斯う云ふ取扱ひをやつた爲に、斯う云ふ言葉が出來たのでありまするが、今後はさう云ふ言葉も觀念もなくしましてやつて行く積りで居ります
それから私に對する最後の御質問は、怠けたり其の他の事情で本法の救濟を受けぬ者に付てどう云ふ方法で救濟して行くかと云ふことでありましたが、是はやはり社會に於てどうしても怠けてしやうがないと云ふやうな者が出來るのは已むを得ぬことでありまするが、出來るだけ是は文教の方面、或は内務省の方面、又厚生行政としましても、さう云ふことの發生せぬやうに指導をして、此の保護法に漏れることを出來るだけ少くするやうな方針を執つて行きたいと思つて居ります、大體以上を以て御承知願ひたいと思ひます
〔政府委員古島義英君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=15
-
016・古島義英
○政府委員(古島義英君) 庄司君に御答へ致します、庄司君の司法省に對する質問は二つあるやうに伺ひました、一つは本法と司法保護事業との關係、一つは前科者に對する帳簿を抹殺する意思があるかないかと云ふことのやうに承つたのであります
第一の問題は御承知の通り司法保護事業法は、所謂刑餘者其の他の保護對象者の更生と圓滑な社會復歸を目標として居ります、詰り特段の保護を加ふるものでありまするから、是等の對象者が勿論一般國民と差別される筈はないのであります、何等差別的の待遇を受けるべき理由がないのでございまするから、司法保護の對象者であつて生活の保護を要する状態にある者は、本法案に依つて更生的保護を與へられるのは勿論であります、刑餘者たるの故を以ちまして、當然に本法案の第二條の所謂素行不良者等に該當するとして、本法案に依る保護對象者より除外する必要はないのであります、殊に刑餘者は他の一般の國民に比しまして特別の保護を加へなければならぬのでありまするから、其の更正が更に困難な性格、環境にあるのであります、斯樣な對象者に付きましては、本法案に依りまして生活の保護を加へて、司法保護事業法に依る保護をすると云ふことが最も適當だと考へて居るのであります
第二の刑餘者に對する前科帳簿を抹殺する意思があるかと云ふことでありまするが、善良なる前科者に對して、數十年の久しきに亙つて前科帳簿を其の儘等くと云ふことは百害あつて一利ないことであり、勿論司法當局と致しましても、是は刑にも時效があり、或は公訴にも時效があるやうに、此のものも同樣の意味に於て或る年限を經るならば抹殺することが適當だと信じて居るのであります、左樣な意味に於て目下著々其の研究を進めて居ります、近き將來に於て庄司君の御希望通りのやうなことに相成ると思ひまするから左樣御諒承を願ひます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=16
-
017・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 坪川信三君
〔坪川信三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=17
-
018・坪川信三
○坪川信三君 私は只今上程されました生活保護法案に對しまして、政府當局の御所見をば御伺ひ致す次第であります
今議會には平和日本再建の基本法ともなるべき憲法改正草案が提出されて居りますが、斯くの如く國家百年の大計を定むる憲法草案と相竝びまして、今日一日々々不安の念に脅かされつつある國民の日常生活を保護せんとする此の法案が提出されましたことに對しまして、私は心からなる政府に敬意を表するものであります(拍手)併し此の法案に依りまして直接保護を受ける者は、六百五十萬人と説明されてありますが、私は決してそれだけには限らぬと思ひます、祖國再建に喘ぐ八千萬國民に直接重大なる影響を與へるものと信じます、彼の保險制度が、保險に依りまして、直接金の給付を受けなくとも、安全感を保障されて居る多數の被保險者を對象とするものである如く、社會情勢が安定致しまして、國民一人々々の努力に依りまして、其の運命が開拓され得る平常時にありましては、舊來の救護法が言つて居りますやうに、貧困の爲め生活すること能はざる者、貧困の爲め生活困難なる者だけが生活保護の對象となるのでありますが、併し今日の如く戰災、工場の閉鎖海外の引揚、補償の打切り等、個人の力ではどうにもならぬ周圍の事情に依りまして生活の根柢が覆へされ、而も日増しに上り行く「インフレ」の波と深刻なる食糧難に依りまして、現實は悲慘なる幾多の哀話を綴りつつあるのであります、私は此の時此の際斯かる重大深刻なる不安の念と切離すことの出來ない直接八千萬國民に切實な關係を持つ法案であることを痛感致しまして、敢て政府當局に御伺ひ致す次第であります(拍手)
第一に本案は國民の生活權を保障せんとするものであるか、それとも舊來の慈善事業の延長であるか、即ち本法の據つて立つ根本理念をば質したいのであります、新憲法草案第二十三條は國民の生活保障の爲に法律が立案されなければならぬと規定してあります、本法は此の規定に對應して起草されたものと考へられますが、果してどうであるか、生活の保障と云ふ用語は、國民に生活の權利があることを前提として初めて解釋される言葉と考へます、國民の生活を前提とする國家の保障と、從來の社會事業の如く慈善事業としての保護との間には、理論の上に於て超え難い差異があるだけでなく、實際に運營される場合は、國民に及ぼす影響は霄壤も啻ならぬ徑庭が生ずると思ひます(拍手)從來の社會事業の如く、社會生活の落伍者に對する恩惠的慈善事業として此の法案が立案されて居るならば、新憲法草案に矛盾するばかりでなく、現實に國家施策の犧牲となつて生活の困窮に耐へ忍びつつある幾多の同胞に對して冒涜を敢てするものであります、此の法律は果して國民の生活權を保障せんとするものであるか、それとも舊來の慈善事業の延長であるか、政府は此の法律の據つて立つ根本理念をば明かにして戴きたいのであります(拍手)
第二には經濟再建と本法の目標に付て御伺ひ致したいのであります、吉田總理大臣は本議會の施政方針演説に於きまして、目下我が國で最も肝要なことは産業の復興、生産の増強である、其の基本をなすものは生産意欲の昂揚であると述べられました、日本經濟再建には幾多の困難な問題が包藏されて居ると云ふことは存じて居りますが、此の困難を克服致しまして、積極的に生産を再開し、而して完全就業の達成にあると私は信じます、其の理想社會を生み出す爲に活用するやうな立法でなければならないと私は思ひます、生活困窮者に對して無條件に金を與へて最低生活を保障することは大事ではありまするが、其の結果惰民を養成しては絶對にいけないと私は思ふのであります(拍手)是が爲に政府は速かに經濟復興に必要なる一切の整理を斷行されまして、迅速果敢なる對策に依つて生産を再開し、以て保障の安易に安んぜず更生の進路を開かんとする燃ゆるが如き國民の勤勞意欲に應へなければならないと私は思ふのであります(拍手)此の點に關しまして、總理大臣がおいでになりませぬでしたら、政府當局の確乎たる御所信をば御伺ひ致したいのであります
第三は本案の性格及び是が施策に要する豫算の見透しに付て質したいのであります、政府は此の法律を臨時的役割を果す法律として提案されて居られますか、それとも恒久的使命を負擔する法律として提案されて居られますか、政府の眞意を承りたいのであります、私は表面に現はれたる文字に依つて恒久的使命を負擔する法律とも考へるのでありますが、一面暫定的にも見えるのであります、現實の事態は、終戰に伴ひ國策の犧牲として幾百萬人の失業者、困窮者が此の法律の狹き門に殆ど殺到せざるを得ぬ状況になつて居ります、併し本格的なる失業救濟事業は未だ開始されて居りませぬ、又恒久的なる失業保險制度も未だ制定されて居りませぬ、併し本案に規定されて居ります生活扶助、生業扶助は從來の役割と全く異なりました失業保險的なるものでもあり、失業救濟事業的なものとも解されます、幾百萬の失業者は國家施策の上に於て何處に其の救濟策を見出すべきであるか、二兎を追ふ者は一兎を得ず、此の法律は現在に於ける國民生活の非常事態に對處すべき萬能藥の役割を負荷されて居るやうに見受けられるのでありますが、政府の眞意果して何處にありますか、御伺ひしたいのであります、政府が果して失業救濟事業竝に失業保險制度の役割をも含めて此の法律に臨時的性格を負荷され、之を中心に現下國民生活の非常事態に對處せられんとするものでありますならば、本法施行に要します三十餘億圓の豫算は決して十分なりとするものではありませぬ、今後増加を豫想される状況で、三十億圓位の金は忽ち限度に到達するものと思ひます、而も十分に保護を達成しようとするならば、國庫の赤字を増すだけであります、經濟基礎の確立せざる今日、此の矛盾解決に特定の財源を見出すに一層の努力が拂はれなければならないと思ひますが、此の方途ありや否や、私は本法の性格及び財政的御用意に對しまして承りたいのであります
第四には生活保護の内容と程度に付てであります、此の法律に依りますと、消極的には、保護は生活に必要な限度を超えることが出來ないと云ふ禁止規定があります、具體的積極的な規定に付ては、單に勅令が之を定めると云ふ規定があるだけであります、是では如何にも不親切な法律であると云ふ謗を免れ難いやうに思ひます、どの程度の保護をして呉れるかと云ふことは、國民の最も知らんとする所であります、本法の如き國民生活に深き關係を持つ法律は、議會より行政府に對しまして白紙委任をするやうな、曽つて官僚萬能時代に行はれましたる過去の立法の弊を一掃致しまして、生活保護の程度に付て積極的内容的規定を設くべきだと思ひます、當面して居ります生活困窮者に一日も早く生業の成り立ち得るやう、進んで生業に向ふやうに指導の根本方策を打建て、且つ是等の人々の地方事情、個人事情を考慮して、形式的劃一的を排しまして、支給額に付ても十分幅のある彈力性を持つて、物の裏付、即ち金と物とに依ります迅速果敢なる援護が本法の眼目であらねばなりませぬ、政府は金と物とに依る保護の方途の準備ありや否やを質したいのであります
第五に此の法律の運用に關して御尋ねしたいのであります、法律の成果は、究極に於ては運用の如何に依つて左右されます、而も運用する人の如何に係るのであります、本法は市町村長が責任者となり、民生委員が補助して之を運用することになつて居ります、保護を受ける者の生活に觸れ、本法の運用の死活に關する鍵を握る此の民生委員が、舊來の方面委員が單に看板を塗り變へたに過ぎぬものか、それとも此の法律の理念に相應しい新たなる内容を持つものでありますか、此の民生委員の實體に關しまして何の規定する所がありませぬ、問題は如何にして適當なる人物を得、官僚的獨善的を排しまして、其の運營が合理的且つ民主的にされるかであります、方面委員を民生委員に變更すると同時に、保護を受ける者の立場を代表致しまして、其の意見を反映し、本法運用に協力するやう、其の選任の方法、其の内容を民主化する用意が政府におありかどうか御伺ひしたいのであります
第六に遺家族及び海外引揚者に對する援護對策に付て質したいのであります、軍人、軍屬に對する恩給は、傷病者以外に對しては現在停止されて居る筈でありますが、戰爭の犧牲となられまして、軍人遺族或は老齡に達して居る軍人の中には、其の日の生活に窮して居る者も隨分多いのであります、政府は一時之を厚生年金保險に肩替りをさせる方針であると云ふことも新聞で散見されたのでありますが、是が救濟は放置し難いものがあると思ひます、政府は本法の制定に際しまして、老齡の軍人及び軍人遺家族竝に海外引揚者に對して、再起更生に必要な積極的なる措置に關しまして、如何に援護對策をば具體的に準備、考慮されて居られるかに付て御伺ひしたいのであります(拍手)
最後に私は日々、新聞の社會面を賑はして居る問題を捉へて、本法運用に關する政府の御決意をば御伺ひ致したいのであります、本法の規定に依りますると、素行不良な者、怠惰者には保護を行はないことになつて居ります、此の方針は嚴重に守らねばなりませぬが、併し働く意思あれども働く機會を得られない者、即ち彼の全國的に問題になつて居ります或は上野の森に、街頭に屯する不良青少年或は不良女子に對しまして其の生活を保護されないことになると思ひますが、果してどうでありますか、新聞記事に依りますと、彼等の六〇%は其の生活苦が原因になつて居ります、往年農村恐慌の折に子女の身賣が行はれましたる時に、政府は身賣防止資金なるものを設けられたと聞きますが、敗戰日本の社會立法には、是等生活苦の爲に淪落の淵に沈む者、或は孤獨の不良青少年に對しまして援護の手を差伸べる餘裕がないのでありませうか、心ある者の胸を痛ましめる此の事件は、單に警察に依りまする一齋檢擧の對象として取扱はれる外、社會行政として採上げられて居らぬやうに思ひます、之を保護の對象より除外せんとするものでありまするならば、生活保護法は餘りにも血もなき涙もなき法律となりはしないでありませうか(拍手)
私は最後に、彼の支給額に付きましても、五人の家族に對しまして一箇月二百五十圓支給されることになつて居りますが、今日此の時二百五十圓で生活が出來るものでありませうか、私は此のやうな標準を設けることは從來のお役人の通弊であると痛感致すものであります、敢て當局の本法運用に對する御決意をば御伺ひ致したいのであります(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=18
-
019・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の坪川君の御質問に對して御答へ致します
第一點は本法の根本理念をどう思つて居るかと云ふ御尋ねでありましたが、是は勿論憲法の條規に依る所の生活保障と云ふことを根柢にして作つて居ります、決して是は慈善と云ふやうなものを目標として居るものではありませぬ、唯保護法と云ふやうな字などを用ひて居るので、多少何だか一寸臭いぢやないかと云ふやうな御疑問もあるかも知れませぬが、やはり是は日本の長い間の色々な言葉を考へて見たのですが、此の言葉が宜い、それで生活保障と云ふことに付ては、是は此の保護法だけの見地でなく、失業對策、其の他色々な面と一緒になりますので、此の生活保障と云ふ面が全般に採上げられまして、此の法律を保護法としてやつた譯でありまして、決して慈善事業に堕すると云ふやうな考へは持つて居りませぬ
第二の御質問は、經濟再建と本法との關係でありましたが、御所論に全く御同感であります、是はやはり行く行くは完全雇傭、完全就業と云ふ面まで日本の社會問題は進まなくちやならぬのは勿論のことでありますけれども、何分にも民主主義に大轉換をしてからまだ數箇月のことでありまするし、現在の階梯に於て之を出來るだけやつて行くと云ふ趣旨に則つて居ります、勿論是は惰民を養成してはならぬのでありまして、出來るだけは生産面に働かして、生産意欲を向上して、國家再建をやつて行かなくちやならぬと云ふことに付ては異論ないことと存じます
第三の問題は、恆久的の目的を以て此の法律を出したか、或は暫定的のものであるか、豫算の見透しはどうかと云ふ御質問でありましたが、是は先程説明した通りに、永久的のものを目標として居ります、併しながら現在に於ては、此の階段的の經濟状態の下に於きましては、色々困つた問題も起る、又困つた人も出來たと云ふことは事實でありまするから、永久的の法律ではあるが、是は一番現在の状態を救はなくちやならぬと云ふ意味に於て、實質的には多分に暫定的の部分を持つて居ります、二兎を追ふ者と云ふ御話でございましたが、一石二鳥と云ふ風に御考へ下されば結構だと思ひます、併し是は恆久的でありまするけれども、決して此の法律の態勢だけで恆久的に日本の生活保障が完全に行はれるものとは思つて居りませぬ、社會保險の制度なり色々な制度を編み込ませ、或は之を變化させて出て行くと思ひまするから、私は、案提理由にも説明しましたが、此の法案の提出を契機として、是から完全なる社會保障と云ふ線に向つて行きたいと申したいのでありまして、色々又茲に變化があると云ふことは豫想願ひたいと思ひます
其の次にやはり第三の質問ですが、豫算が十分かと云ふ御話でございましたが、此の豫算は補充費となつて居りまして、法律を施行する爲の豫算でありまするから、只今三十二億圓豫算を提出致しまするけれども、足らない時には又豫備費からでも貰ひます、法律の實施の爲には是は置かなくてはならぬ豫算であります、補充費と云ふ性質になつて居ります、此の點に付て御諒解を願ひたいと思ひます、併しながら財源はあるかと云ふ問題になりますると、此の豫算でも中々財源は足らぬのですから、之に向つて特別の財源があると云ふことは申上げる譯には行きませぬ
第四に保護の内容、程度の問題でありましたが、是は先程も御指摘になりました通りに、大體五人家族で大都市では一箇月二百五十圓となつて居ります、是は此の法案を作ります準備をやつた時の二百五十圓でありまして、只今では一寸低いかと思つて居ります、もう少し上げるかも知れませぬ、それからそれでは之を法律で規定したら宜いではないかと云ふ御話でありますが、今日のやうな物價の變動、通貨、購買力の安定せぬ時には、法律で縛りますとどうもなりませぬから、是はやはり──に御任せを願ひたいと思ひます
(「眞面目でやれ」、「それで生活保護が出來るか」と呼び其の他發言する者多し)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=19
-
020・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=20
-
021・河合良成
○國務大臣(河合良成君)(續) それから此の二百五十圓と云ふことに付きましては、六大都市と地方の市と町村と此の三つに大體分けて居ります、其の率は大體六大都市に付ては一〇〇、市に付ては八五、町村に付ては七〇と云ふ位の、官吏の増俸の問題と同樣に扱つて之を三つに分けてやる積りで居ります、大體さう云ふ風の勅令を作つて行く積りで居りますから、其の點御諒承願ひます
其の次の第五の問題でありまするが、此の運用に付て民主的にやつて行けと云ふ御話、殊に民生委員の性質に付ての御質問がありましたが、是は民生委員の性格を、從來の方面委員の性格とは出來るだけ變へて行く積りで居ります、さうして其の名稱變更と共に、委員の選任方法等に付ても、出來るだけ民主的方法を執つて行くと云ふことに考へて居ります
第六の點でありまするが、軍人遺家族等に對して援護が薄いぢやないかと云ふ御質問でございます、軍人恩給法の廢止と云ふことに付きましては、致し方のない次第でありまして、それで、せめて遺族扶助料とも思ひまして、實は此の三、四箇月前に一應さう云ふ風に決定されるかと云ふやうな機運になりましたので、新聞にも出たことと思ひまするが、其の後やはり遺族扶助料も困難と云ふことになりました、併しながら只今尚ほ何とか遺族扶助料でも出來ぬかと云ふことで苦心致して居る次第であります、併し只今の見透しとしては困難な見透しをして居ります
第七に不良少年其の他の浮浪兒等の處置に付てのことでありましたが、此の法律を以てそれを救ひ上げて行くと云ふ譯には行きませぬ、併しながら今度六百萬圓ばかりの豫算を取りまして、浮浪兒の收容所などを作る方法も考へて居りまして、是は別の線に於て社會問題として、解決をして行くと云ふことを考へて居ります、最後の支給額の點に付きましては只今説明した通りであります、左樣御承知を願ひたいと思ひます(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=21
-
022・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 厚生大臣からもう既に全般的に御答へがありましたから、私からは極く簡單に唯豫算のことに付て御尋ねがありましたから申上げます、厚生大臣からも言はれましたやうに、大體三十億圓程のことを考へて居るのでありますが、其の他に公共事業費其の他全般に申しますと、恐らく二百億圓程度の、何と申しますか、失業對策費に當るものがあると思ひます、でありますから、是等を能く運用致しますれば、本法に依る人達は、さう今考へて居る以上に多數に上るとは考へて居りませぬ、併しながら若しも現在考へて居ります豫算で足りない場合には、今厚生大臣も申しました通りに、無論増加することを考へて居る次第であります、それだけのことを御答へ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=22
-
023・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 山崎道子君
〔山崎道子君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=23
-
024・山崎道子
○山崎道子君 私は全國の勤勞大衆、殊に保護を受けまする人達を代表致しまして、今囘上程されましたる生活保護法に付て御質問を致したいと存ずるものでございます、私は、本法案は社會史上實に劃期的な立法と考へて居るのでございます、なぜかなれば本法案は、母子保護法初め五法律が廢止されまして出來上りましたものでございまするが故に、過去の法律を統一した如き感を與へまするけれども、私は左樣に考へたくないのでございます、過去の社會事業は、總て慈善の對象と致しまして國家が救濟するものであつたのでございますが、本法は國民に生存權を承認した上に立つて立法されたものであると解釋致すのでございます、斯かる意味に於きまして立法致されました本法に於きましては、今まで慈善的な對象としてのみ救濟されて居りました國民は、生きる權利を持ちます、國民は生きる權利を持ち、國家は此の生活を保障する義務を持つものであると解釋致すものでございます(拍手)斯かる見地に立ちまして、私は以下數點に亙りまして御質問致したいと存じます
第一に、以上の見地から致しまして、第一條の趣旨が十分なる徹底を缺いて居ると存ずる次第でございます、新憲法は勤勞の權利を認めて居ります、勤勞の權利が明文化されて居るのでございます、それでありながら生存の權利が明文化されて居りませぬ、此の點は新憲法の弱點である、私は此の意味に於きまして、憲法上にはつきりと生存權の明文化を要求致したいのでございます、斯う致しまして、生存の權利と勤勞の權利は人生社會に於ける二大支柱である、此の上に立つて經濟も政治も轉換されて參らなければならないと存ずる次第でございます、そこで私は働く者に働きたくても仕事がない、働く者に完全雇傭の出來ない場合は、國家が當然其の生存を擁護すべきであります、働く意思がありながら、能力がありながら、尚ほ働くことの出來ないことは、資本主義經濟組織の下に於きましては當然のことかとも存じまするけれども、國家に取りましては大きな恥辱であると考へるものでございます(拍手)隨て食なく又衣なき人達に對しまする生活の保障を致しますることは、又國家の恥辱を取返へすことにもなるものだと考へる次第でございます(拍手)斯う致しまして國民の生存の權利を認め、新憲法の跛行を是正して參りたい、斯樣に考へる次第でございます、斯かることは本法制定の根本的原理と思料致します、且つ國民に取つて重大なる點だと存じまするので、憲法上に生存權を明文化する意思ありやなしやを總理大臣に御伺ひ致したいのでございます
次に本法の第一條に、封建的な、慈善的恩惠的な思想を拂拭致しまして、國家の義務として是が生存權を保障するものであると云ふことも亦明記して戴きたいのでございます、又次に從來は要保護者は公民權が停止されて居たのでございます、けれども生存權を保障する上に立つて立法されましたる法律であると思ひまするが故に、如何なる場合に於きましても人權を差別的に扱はないと云ふことをも亦明記して戴きたいと存ずるものでありますが、此の扱ひに對しましては政府はどのやうに御考へでいらつしやいませうか、伺ひたいのでございます
次に保護機關に付て、前質問者から既に御質問がございましたので、私は簡單に觸れて參りたいと存じまするが、如何なる法も人が運用致すのでございます、此の法律の精神を活かしますのも、殺しますのも、之を扱ふ民生委員に懸つて居ると存じまするが故に、其の選定は如何なる方法を以ておやりにならうと致されるものでございませうか、之に對しまして民主的にやりたいと云ふやうな御話でございましたが、もつと具體的な方法を伺はなければ安心が出來ないものでございます(拍手)舊來の方面委員に於きましても、私も方面委員をやつて居りました關係上、屡屡さうしたことに逢著致したのでございますが、其の人を得た地方に於きましては豫期以上の成果を擧げて居りまするにも拘らず、大多數の所に於きまては、主として名望家とか、又は御隱居さんとか、名譽職的な人が之に當られて居りまするが爲に、要保護者に對する取扱に必要以上に恩惠的な態度を執り、其の爲に其の日の生活に困つて居る人達も、方面委員の門を潛ることを躊躇致すやうな現状でございます(拍手)其の爲に、其の日の生活に困つて居ても頼み切れない其の悲しさに、遂には親子心中を遂げるやうな悲慘な事態もあつたのでございます、是からは斯うしたことのないやうに、必ず貧しい人達の心持になつて、心から愛情を持つて取扱ふやうな人を選定して戴きたいものでございます(拍手)
又保護施設に付きまして御伺ひ致したいのでございます、政府は保護に必要なる施設と規定されてございまするけれども、如何なを種類のものを行はんとされるのでございませうか、今日以後の要保護者は、從來と違ひましてお氣の毒な戰爭の犧牲者達が多く含まれることになり、其の對象もずつと變つて來るのでございますから、特に保護施設には重點を置いて戴きたいのでございます、又本法に於きましては、國家的施設に重點を置きまして、私設の保護機關は法としては認めないやうに承知するものでございますが、從來兎角國家機關は官僚的冷たさの惡評を受けて居りました、寧ろ私設社會事業に於て其の精神は活かされ、多くの人は喜んで之に依つて救はれて來たのでございます、政府は今後私設社會事業に對して如何なる方針を御執りになるものでございませうか、伺ひたいと存ずる次第でございます、又援護機關を動かす關係者は、社會事業發展史から見ましても、民間運動から起つて居るのでございます、是は眞に獻身的な人道的な見地から、社會苦に對しまして巳むに巳まれぬ愛情、社會的信念を捧げ盡して、一家をも一身をも顧みず、此の仕事に融け込んで行ひます指導者の其の信念、其の人格が、其の施設の下部組織にまでも滲透致しまして、さうして直接被保護者を扱ふ人達に其の人格が反映致しまして、其の施設全體に温かい愛情が流れて來るものでございます、此の精神を活かしたい、果して國家的な施設になりました時、此の冷たさを──何と申しますか、官僚的、機械的な扱ひでなく、何處までも從來の此の社會施設の中に生きて來た社會愛を活かし、涙あり、愛情ある、温かい精神を活かし得る自信がおありでいらつしやいませうか、私は其の點を伺ひたいのでございます、如何なることがございましても、此の愛情、此の精神を冷却したならば意義をなさない、今日多くの戰災孤兒達が、幾ら收容所に收容しても逃げて行くと云ふことで放置して置かれることに對しましては、私は滿腔の怒りを感ずるものでございます、なぜ其の子供達が施設を逃げて行くのでございませうか、私立のさうした孤兒を收容致します機關に於きましては、子供は喜んで、嬉々として其の母親的な愛情に、父親的な愛情に甘へて生きて居るのでございます、獨り國家的收容所に於きまして成績の擧らないと云ふのは、何處かに缺陷があるので、此の缺陷を是正して戴きたいと思ふのでございます(拍手)そこで如何なる施設も人が運用する、斯う云ふ意味に於きまして、私は社會施設に從事致します人達の育成機關を設置される御用意がありや否やを伺ひたいものでございます、例へば看護婦學校とか、或は保健婦養成學校のやうなもので、社會事業に從事する人達に本當に其の精神を植付ける施設が欲しいと思ふものでございます
次に生活補助に對しまして、今後の生活保障の對象には多くの戰爭に因る犧牲者が含まれることを思ひまする時、戰爭さへなかつたら、誤まれる戰爭さへなかつたら、愛する者と共に樂しい家庭が營まれて居た筈でございますのに、唯一つの働き手でございます愛する夫、愛し子、同胞を、樂しい我が家を、財産を失つた人々の其の心持になりまして、親も肉親も家もなくなりました憐れな孤兒達の氣持、海外から總ての財を一つの「リュック」に納め、身一つで歸つて來た引揚者の人達、終戰後未だに生死も分らない肉親の上を明暮れ案じ暮して居ります未復員家族の人達、其の生活が唯一本の本法に依つて救はれることを思ひまする時、立法の精神を何處までも正しく生かし、其の生存權を脅かさないやう、温かい注意が必要であると存じます、是等の人々は家もない、衣料もない、仕事もない、でございまするので、從來の如く居宅保護に重點を置くのでなくして、收容保護機關を強化擴充致しまして、集團的生活に依つて社會性と協同精神を育成し、共に不幸を慰めながら生産面への再起の希望を持たせるやう努力すべきだと思ふが、政府の所見は如何でございませうか、御伺ひ致したいのでございます、それから先程の質問者も觸れて居られましたやうに、金や物品を與へるのみでなく、精神的勤勞意欲の涵養へと導くやうに努められたいことを切に希望するものでございます
醫療保護に關しましても既に質問がなされたのでございます、併しながら此の醫療保護、助産補助は最も重大なものでございますので、政府は特に留意して戴きたいと思ふ次第でございます、今色々な社會保險制度が分立致しまして、中々其の法の精神を發揮し得ない状態にありますることを十分御反省戴きまして、もつともつと是が役立つやうに、貧しい人達が安心して是等の機關を利用することの出來るやうに御配慮が願ひたいのでございます、殊に國民健康保險でさへ色々な難點がございまする時、醫療救護に依りまして醫者へ參りましても、中々要救護者が思ふやうな取扱を受けることが出來ない現實に屡屡逢著致して居るのでございます、此の際凡ゆる保險制度を統合擴充致しまして、さうして此の生活保護法と二本建に依つて、此の法律の二本建ががつちりと出來上りました時、少しは働く者、貧しい者も精神的に救はれるのではないか、暫定的な措置と致しましては、是より外に方法がないと存じまするが故に、十分なる政府の御努力が願はしいのでございます
それから助産保護に關しまして御伺ひ致したいのでございますが、私は保護施設の中へ母子「ホーム」の設置や、子供の家、託兒所等と共に産院を設置して戴くことを要求致します、さうして普段生活苦に喘いで居ります貧しい母達も、せめては出産の時位は安心致しまして、衞生的な取扱の下に之をなすことの出來まするやうに、温かい親心が欲しいのでございます
又是と併せて御伺ひ致したいことは、今御産の時に脱脂綿や消毒藥の配給がございませぬ、産婆の許にも是がない爲に、貧しい人達は慄然とするやうな非衞生的な状態に於て之をなし、母體を害はれて居る現状は多々散見致すものでございます、此の意味に於きまして、國内消費を四割許されて居ります米棉を割いても、之を出産用の脱脂綿として確保して戴けますやるう母性の立場から強く要求致すものでございます(拍手)と同時に私が此處で御伺ひ致したいことは、今日貧しい母や子が無醫村其の他地方に於きましては非常な惡條件の下に放置されて居りまするので、産後出血の時に一本の止血劑の注射がございましたならば、尊い母の命は救はれるのでございます、又假死の状態で生れ出でました赤ちやんが一本の「ビタカンフル」の注射が産婆に許されて居りましたならば、其の尊い幼い命が救はれるのにも拘らず是が許されて居りませぬが故に、あたら命を落して行く現場に逢著致しまする度に、私は醫師法を斷然改正致しまして、此の際産婆に應急處置として止血劑、強心劑注射の權利を與へられまするやう御配慮が願ひたいのでございます
次に費用の點でございますが、生活扶助に付きまして六大都市と市町村との差額は、何處に科學的な根據が置かれて居るのかを承りたいのでございます、今日の物價情勢に於きましては、都市に於きまして一人三圓、地方に於きまして二圓十錢──一日九十錢の幅はないと私は考へるものでございます、時間がございませぬので實態調査を申上げることは省略致しますが、一日九十錢の差は絶對にない、此の點を何とか御考慮が願ひたい、都會に於きましては配給がないないと申しましても、稀には副食物の配給がございまするけれども、都市に近接致して居ります町村に於きましては殆ど配給がございませぬ、而も闇で買出しに來られる人達が買煽りました爲に物價が非常に高い、副食物の點に於きましては、却て地方の人達の方が餘計に掛つて居ることが明かになつて居るのでございます、又本法が最低生活を保障すると言つて居りながら、一日三圓で食つて行けない現實であるにも拘らず、厚生大臣は伸縮性を持たしてある、時には物資で之を補ふと云ふやうな御言葉を聽きましたけれども、それを私はどうも御信用が出來ないのでございます、其の理由は曾て私達が母の權利を主張致しまして、最も信頼致しまする所の先輩、先覺者の方々が母子保護法の制定の運動を致しました時、政府は長年の血の出るやうな運動に遂に動きまして、母の權利を認めることに依りまして母子保護法が制定致されましたけれども、其の時從來の救護法ではなくて、是は母の權利を認めた上に於て出來たものであるから、其の精神は根本的に違ふ、又費用の點に於ても伸縮性を持たせるとはつきり御約束して置きながら、今日尚ほ其の制定當時と聊かも變つて居ない一日二十五錢、一人子供が殖える度に二十五錢、一世帶三十圓を超ゆることを得ず、斯うした死文に等しい法律に於きまして、果して母や子の生活が維持出來るでございませうか(拍手)斯うしたことを恬として放置してある政府に對しまして、私は費用の點に伸縮性を持たせるとか、又は足らざる時には物資に依つて補ふとか、漠然とした御返答では、此の保護大衆の氣持になりまして、とうしても安心が出來ませぬので、はつきり此の際増額を認め、物價水準に依つて之を審議機關か何かを通じてやる方針かどうか、それを御伺ひしたいのでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=24
-
025・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 山崎君に申上げます、豫定の時間も非常に過ぎて居りますから、簡潔に結論を御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=25
-
026・山崎道子
○山崎道子君(續) 最低生活が配給で保障されてさへも中々やつて行けない、而も今現在の配給だけでございましたならば、餓死する自由より許されて居ない現状であることは、皆樣も御承知のことと存ずるのでございます、私の手許へ「買出しに行けば物資は手に入り、一方自由市場には主食は固より甘い物、辛い物、總ての物資が山の如く賣られて居る、之を見て幼兒の飢ヱに泣く聲を聞きながら、何一つ買つてやれない母の氣持、いつそ靖國の父の許へ連れて行かうかと死を決意しても、子供を頼むと言はれた亡き夫の聲が耳に付いて私はどうしても死なれない、強盜になり、闇屋になり、又闇の女に轉落して行く人の氣持が能く分る」と愬へて來る手紙は實に山積して居ります、斯うした人達のことを思ひまする時、何とか農林大臣に御考慮願へないものでございませうか、闇で買へば手に入る物資を、何とか配給の「ルート」に乘せて、貧しき者の生活を保護して戴きますことは、是は農林大臣の義務であると私は考へるのでございます(拍手)又正規の配給の「ルート」に乘せて國民生活を護ることは、米本國に於て食糧を節約致しましても、尚ほ敗戰國である日本に食糧を給與して呉れて居る其の努力に對しましても、聯合國に對する信義と致しましても、是はなすべきことであると私は存ずる次第でございます(拍手)
〔議長退席、副議長著席〕
總てを省略致しますが、最後に一點御伺ひ致したいのでございます、今日生業資金と致しまして四百圓を保障すると言はれて居りまするけれども、私は此の點ももつと生きた法律にして戴きたいのでございます、今日庶民階級の唯一の金融機關として設定されて居りまする公益質屋法に於きましても、今其の法律が一人十圓一世帶五十圓、知事の認可ある時百圓までを貸出すと言はれて居りますけれども、私は斯うした死文に等しい法律で放置されることに對し、どうか生きて行きたい人達の氣持を代表致しまして、何とか此の點を改正して戴きたいことを大藏當局に御願ひ致すものでございます、以上甚だ質問は不徹底でございましたけれども、如何なる問題も生活の安定なくしてはあり得ないと存ずる次第でございます、明るい社會、明るい日本の建設も是なくしては絶對にあり得ないと確信致す次第でございます、以上の質問に對しまして御懇切なる御答辯を御願ひ致したいのでございます(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=26
-
027・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の山崎君の御質問に御答へ致す前に一言取消致します、先程──に一任せいと申しましたのは、政府に一任を願ひたいと云ふことであります(拍手)
それから山崎君の御質問の第一に御答へ致します、此の生存權と云ふことを憲法に明記したら宜からう、及び此の保護法第一條に生存權の保障と云ふ意味のことを明記したらどうかと云ふ御説でございましたが、憲法には其の趣旨があると思ひます、それかを保護法はさう云ふことをやる爲に憲法二十三條に依つて生活保障をやるのでありますから、それに明記しなくても其の趣旨は明瞭なりと存じて居ります、それから公民權の點は、差別的に取扱ふことは致しませぬ
それから民生委員の選擧方法に付きましては、市町村毎に詮衡委員會を設けまして、そこで詮衡したものを知事が推薦しまして厚生大臣が任命すると云ふ方法を執りたいと思ひます、是は一寸普通の選擧のやうな風に、民生委員は唯投票だけでも行かぬ點がありまするので、やはり詮衡委員と云ふ制度を執るより外に方法はないと思つて居ります
それから保護施設の問題でありますが、生活扶助を目的とする者には養老院、育兒院のやうなもの、醫療、助産を目的とするやうなものには救療病院、産院等、それから生業保護には授産所、それから其の外母子寮、託兒所と云ふやうな線に沿うて出來るだけのことを致したいと思つて居ります
それから私設社會事業の問題に付きましては、是は社會事業法の適用を受けるものが大部分と思ひますので、憲法第八十五條の制限には違反せぬから、補助も相當出來る、政府も此の線に沿うて出來るだけのことは致したいと云ふ考へで居ります
それから社會事業從業者の養成機關を作る、是は具體的にどう云ふ方法でやるかと云ふことに付て今具體的に進行して居ります
それから社會保險、殊に健康保險のやうな問題を統一して、生活保護法と二つの線で行つたら宜からうと云ふ御考へでございまするが、是は社會保險其の他の奬勵は出來るだけやりまして、それでも仕方がない、其の給付を受けぬ方を是でやりたいと云ふ精神で居ります
それから産婆其の他の助産のことに付きましての御尋ねでありましたが、是は産婆を直接醫師にすると云ふ譯には行きませぬけれども、臨時救急の手當は此の限りにあらずと云ふ風になつて居りまするから、此の運用で大體目的は達するぢやないかと思つて居ります
それから脱脂綿等の問題に付きましては、今度「アメリカ」から輸入しますものが四〇%以上國内使用が出來ると云ふことになりますれば、脱脂綿の方は間違ひなく參ることになると思ひます、多分さう云ふことになると思ひます
それから現物給與を考慮せよと云ふ御話で、御同感でありまするが、是は各省とも協議しまして、出來るだけ斯う云ふ困つた場合には現物で補給をする途を開きたいと云ふ考へで進んで居ります、以上で大體御答へしたと思ひます(拍手)
〔國務大臣和田博雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=27
-
028・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 山崎さんの御質問に御答へ致します、御承知のやうに「アメリカ」は國内に於きまして消費の規制を行ひまして、高い人道的な精神から日本にも食糧を輸入して呉れて居るのであります、隨ひまして我我と致しましても何處までも氣を弛めることなく、日本國民として盡すべき義務は全力を擧げて盡さねばならないのは言ふまでもないことでありまして、主食糧の闇取引に付きましては、是は嚴重に取締りまして、之を正當な配給の「ルート」に乘せまして配給致す考へで居ります、斯うした國内でやり得ることをやりますことに依りまして、我々と致しましては聯合軍の厚意に報いたいと思ふのあります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=28
-
029・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 平川篤雄君
〔平川篤雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=29
-
030・平川篤雄
○平川篤雄君 本日提案せられました本法を手に致しまして、第一番に私考へましたことは、先般社會黨の片山さんの質問に對する總理の御答辨、それから我が黨の木下さんの質問に對する厚生大臣の御答辨を思ひ合せるのであります、一體あの御考へは、時間がありませぬので具體的には申上げませぬが、簡單に申せば、今は火の付いたやうに色々やらなければならない激しい仕事のある時であつて、根本的に如何なる態度を以て臨むとか何とかと云ふことは考へては居れない、或は協同組合でやると云ふのは是は理想論である、斯う云ふやうな御答へであつたのでありますが、私は此の度の法案が唯此の法單獨に行はれます時には、如何なる先程以來の御言葉がありませうとも、要するに救貧的な慈善事業とならざるを得ないと思ふのであります、他の種々なる社會政策と共にあつて初めて眞實に社會を改良して行く立派な法案となることが出來ると思ふのであります、只今日本は確かにあちらこちらに雨漏りが出來て、一軒の家に百箇所も水が漏つて居ると云ふやうな時でありますが、私は政府の諸君が「バケツ」や盥を持つて駈けずり廻ると云ふやうな態度で居つて戴きたくないのであります、激しい時代であればある程、風吹けども動かず天邊の月、斯う云ふやうな態度を以てゆつくり考へて、根本的に社會政策を打立てて、其の一環として本法を實施されることを望んで已まない次第なのであります(拍手)具體的には厚生大臣は一體此の養老保險とか、失業保險とか其の他の生活保障の保險制度を何故に先行せしめなかつたか、其の理由及び將來の御方針に付て明かにして戴きたいのであります、尚ほ同じことになるかと思ひますが、本法を中心としての社會改良の政治構想を一つはつきりと御尋ね申したいと存じます
次に現在の状態と致しましては、失業對策と本法との關聯と云ふものは見逃すことは出來ないと思ふのであります、本年度計上せられる豫算に、失業對策に付て六十億圓の豫算を以てしては、一部分、殆ど半數の三百二十萬人の失業者しか救ひ得ないと云ふことを言はれて居るのであります、さう致しますと殘りの半數は、兎も角も本生活保護法の範圍の中に轉がり込むことになるのであります、さう致しますと、此の六十億圓の豫算と三十二億圓の豫算との間に、其の運營に本來的な此の關聯性をどう云ふ風に反映せしめて居られるのであるか、此の點に付て御聽き致したいと思ひます
次に此の救護を要する人達は、實は社會の不平等不調和から起つて來て居るのであつて、本來生産者としての人格を何處までも尊重して行かなければならないものと考へます、斯樣な意味で失業或は其の他の救護を要する問題と云ふもの、其の責任と云ふものは個人個人にあるのではなくて、實は是は國家にあると云ふやうな觀點で、此の度ああ云ふ風な國營に近き制度を執られたものであるかどうか、私は多分左樣な考へに於てやつて居られるものだと思ふのでありますが、尚ほ此の點を明かにして戴きたいと思ひます、隨ひまして最も大切な問題は先程來屡屡言はれますやうに、御惠みを受けて居ると云ふ卑屈な感情を、保護を受ける人達に持たせないと云ふことが一番大きな問題でなければならぬと思ふのです、然るに現在のやうな状態でありますと、斯うした救護を受けました者は、總て公民權を喪失するやに承つて居ります、八百萬人にも及ぶ莫大な我が國民が、選擧權も持ち得ない、公民權を喪失してしまふと云ふことは、實に由々しき問題でありまして、如何に憲法十三條があらうと申しましても、或は生活權と云ふものは、是は本來的に人間が主張すべきものであると云ふやうなことが言はれましても、其のこと一つだけで、此の問題は救護を受ける人達に取つては實に嬉しくない、殘酷なものとならざるを得ないと思ふのであります(「違ふぞそれは、能く讀み給へ、公民權を奪はぬことになつて居る」と呼ぶ者あり)此の點に付きまして憲法の改正までに如何なる方法を御執りになるか、一つ御聽きをしたい點であります
〔副議長退席、議長著席〕
最後に此の運營處理の問題でありますが、大體先程來申されたことでありますけれども、最も大切な問題は、此の問題は唯精神運動であるとか、或は斯く斯くの傾向を作るとか云ふやうな問題でなくして、國民の誰某、例へば平川なら平川と云ふ者が、只今御飯が食べられないと云ふのを解決する問題なのであります、隨て今までの澤山見られたる例から申しますと、各省で色色立派な立案をせられるのでありますが、それが個々の現實の生活に具體的な姿となつて現はれて來ないと云ふ憾みを到る處に見て居るのであります、先般廣島附近の戰災で實に澤山な被害者を出したのでありますが、其の病人に對して三十圓づつの當座の小遣と云ふものが支給をせられた、或る老婆の所に私は持つて參りました、所が、御覽の通りに足も立ちませぬ、口も十分にきけない、三十圓貰つても私は使ひ途がないからお返しします、斯う言ふのです、又有難がつて本當に御世話になりますと喜んだ者達も、軈てそれがばたばたと斃れまして、死んだ後には枕の下に其の儘十圓札が三枚重なつて殘つて居る、斯う云ふ有樣を見て私は暗澹とせざるを得なかつたのであります、斯樣なことが結局今までの色々なお役所仕事であつたのである、一つ此の法案を實施せられるに當りましては、各省の聯繋を極めて緊密になさつて、さうして本當に具體的なものに現はれ出るやうな運用をして戴きたいのでありますが、此の點に付て厚生大臣の御努力の御決意を承りたいのであります
又此の法案を實施致します時に、本當に具體的な創意工夫と、機を逸せざる處置と云ふものが一番狙はれなければならないと思ふのです、所が現在の會計法に依りましては、どうしても末端組織の機動性ある適切なる處置を執り得ない所があるのでありますが、此の法案の追求致します目的の重大性に鑑みまして、救濟金支出に付きましては特別の處置を執るやうに、會計法の一部分を御改訂になる御意思があるかどうか、此の點を御伺ひ致したいと思ひます、以上の點に於きまして此の法案に對する私の質問と致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=30
-
031・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 一寸御報告申すことがあります、只今米國下院議員「ホリフィールド」さんと、「アンダーソン」さんとが本院の傍聽に參られて居ります、御知らせを致します
〔拍 手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=31
-
032・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 河合厚生大臣
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=32
-
033・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の平川君の御質問に御答へ致します、第一點は社會改良法に對しどう云ふ政治構想を持つて居るかと云ふ御話でございましたが、是はやはり完全雇傭、完全なる社會保障法と云ふ線に向つて前進しなくてはならぬと考へて居ります、唯御承知の通りに日本の現状は色々政治上、經濟上變化の時にありまするので、差當つて色々の方面に失業救濟なり、或は生活保護なりを急に致さなくてはならぬやうな次第になつて居りますから、やはり大體のことが一巡しまして、日本の足らぬものは足らぬ、餘るものは餘る、日本は斯くあるべき姿だと云ふことを捉まへた上でそれに對する萬全の方途が進められる、それまでは漸を逐うて、其の急に應じて色々な施設をやつて行く外仕方がない、斯う云ふ風に大體の構想を考へて居ります
それから失業保險其の他をなぜ先行しなかつたかと云ふ御尋ねでありましたが、是は前にも本議場に於て御答へ致しました如く、失業保險は實はまだ間に合はぬのであります、それで今頻りに委員會を開いて研究を進めて居る次第であります
それから第三に失業救濟の豫算と本法の豫算との間に融通性を認めてはどうかと云ふやうな御趣旨の質問だと拜承致しますが、是は實際の運用に付ては、先程も申しました通りに一つの線のやうなもので、何處で切つて宜いか分らぬやうな事態ではありますが、豫算面に於きましては、やはり國家の會計から二つ別にしたが宜いと思つて居ります、さうして此の生活保護の豫算は先程申しました補充費の性質を持つて居りますから、多少の彈力を持つて居りますので、必ずしも失業救濟と融通をする必要はないと信じて居ります
それから公民權に對する問題は、先程も御答へしました通り、地方制度改正案に於きましても公民權は認めて居ることになりまするから、此の點は心配ないと思ひます
次に此の問題に付て各省と完全な連絡を取つて旨くやつて行けと云ふ激勵の御言葉でありましたが、出來るだけ創意工夫を働かせまして、迅速な措置を執つて御期待に副ふ決心で居ります
又會計法改正の要があるかと云ふ御尋ねでありましたが、會計法は此の爲に改正する必要はない、法の運用を巧みにやつて行けば目的を達する、左樣に考へて居ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=33
-
034・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 紅露みつ君
〔紅露みつ君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=34
-
035・紅露みつ
○紅露みつ君 私は無所屬倶樂部を代表致しまして、只今上程されて居りまする生活保護法案に對しまして、數點に付き關係各大臣に御尋ね申上げたいと存じます、併し先刻來同僚の方々に依りまして大體盡されて居りまするので、私は重複を避けまして、別な角度から簡單に伺ひたいと存じます(拍手)
此の度政府が從來の援護事業法でございました所の五つの法律を纒めまして、生活保護法一本にされましたことは、取扱の簡素化を圖る上に於きましても、又救護の公平を期する上に於きましても洵に結構なことだと存じます、且つ援護の範圍も擴大され、給與の額も増加されまして、從來よりは遙かに優れた法律になると云ふことに付きましては、勿論贊意を表するものでございます、併しながら憲法を改正致しまして國家が再出發を致さなければならないと云ふ程の大轉換期に際會致しまして、尚又國民生活が窮乏其の極に達して居りまする現在の時代に改正されまする援護法と致しましては、尚且つ遺憾の點なきを得ないと存ずるのでございます(拍手)
先づ第一に御尋ね申上げたいと存じますることは、政府は現在の要救護階級にのみ目を注いで居られまするけれども、是は平常の場合に於ける觀念ではなからうかと存じます、何分にも國家が未曾有の危機に直面し、國民生活亦極度の不安状態に置かれて居るのでございますからして、政府に於かれましても亦之に對應する所の異常の熱意と英斷とを持たれまして、此の生活保護の概念を更に廣義に解釋されまして、要救護階級以外に生活苦に喘ぎます所の庶民階級に對しましても、そこに何等かの援護的な積極政策が樹立されなくてはならないのではなからうかと存じます(拍手)即ち一度目を轉じまするならば、今日は獨立の生活を營み得て居ましても、明日は危く要救護層に轉落しようとする實に危險極まりない、而も夥しい庶民階級のあることを見逃してはならないと存じます(拍手)今にして此の階級に何等かの手を差伸べることなくして此の儘の推移に任せませうか、是等の人々は滔々として要救護層に轉落して參ると存じます、さうして政府は遂に如何とも手の施しやうがないと云ふやうな事態を現出しはすまいかと私は眞に憂慮致すものでございます(拍手)そこに轉落するのを待つて初めて救護の手を伸べると云ふが如きは、決して策の得たものではないと存じます(拍手)政府は果してどう御考へになられますでせうか、要救護階級への轉落を防止すべき根本對策に付て、總理大臣及び厚生、大藏、農林、商工の各大臣に御所見を伺ひたいと存じます
尚ほ此處で御尋ね申上げたいと存じまするのは、生活保護法の目標は、飽くまでも産業復興を中心と致しまする所の失業救濟に重點が置かれなければならないと存じまするが、それと竝行して配給體制の整備確立がなされなければならないと存ずるのでございます、産業の復興を急ぎまする餘り、配給機構を顧るの暇なしと致しまするならば、それは洵に誤れる考へであると存じます、産業の復興未だ成らず、物資の缺乏日に甚だしき今日に於てこそ、乏しきを公平に配分されなくてはならないと考へます(拍手)此の點に付きましては農林大臣及び商工大臣の之に對する對策を伺ひたいと存じます
第二に御尋ね申上げたいと存じますることは、生活扶助の給與の問題でございます、固より救護を受けまする程の者は、其の最低生活に甘んずべきでありませうし、殊に問題になつて居りまする五百圓生活の枠も未だに撤廢されませぬ今日に於きまして、此の上の増額を望みますることは困難なことであらうと存じまするが、實際問題と致しまして、日毎に惡化しつつありまする今日の食糧事情下に、配給のみに頼つて居りまする所の人々が如何に悲慘な運命を辿りつつあるかと云ふことは、私が茲に申上げまするまでもなく、悲しい幾多の事實が之を證明して居る所でございます、そこで是等の人々の生活費と云ふものを考へて見まするのに、其の大部分は食生活に向けられて居ると思はれるのでございまするが、其の食糧の値段は、主食を別に致しましても、一皿の魚が、或は一椀の野菜が、何れも十圓を單位とするやうな昂騰を示して居ります、隨て此の程度の給與金を以て致しましては、其の給與金の金額を費しましても、尚ほ前述の如き僅かの食糧さへも手に入れることが出來ない状態になつて居ります、是しきのことが政府の方々に御分りになつて居らない筈はないと存じまするし、殊に厚生大臣は其の道に十分の御經驗を積まれました權威者であられまするので、斯うした豫算しか御組みになれなかつたと云ふ御苦心の程は十分想像が出來まするけれども、さうかと申しまして、救護事業にして救護の實を擧げ得ないのでは是は何等の意味をもなしませぬ、それで是は何としてももう一段の御工夫を願はなければならない問題であると存ずるのでございます(拍手)之に對して政府は、物價に應じて増額出來る仕組になつて居るから、是で差支へないと云ふことを發表して居られまするが、救護對象八百萬を數へ、其の日の生活に窮する者六百萬を擁しまして、果して此の三十二億を以て救護に萬全を期し得るでございませうか、私は不安なきを得ないと存じます、仰せの如く六十億の中から多少の融通を認められましても、それには自ら限度があることと存じまするが、それはどの程度に許されて居ることでございませうか、伺つて置きたいと存じます、尚ほ風聞に依りますと、六十億の殘餘の三十億に對しましては、各省間に是が配分に關して爭奪が行はれて居ると云ふやうに傅ふる向もございまするが、若し左樣なことがございまするならば、折角の聯合軍司令部からの御厚意の六十億の豫算も、結局散り散りに各省に分散されまして、何等纒まつた成果を收め得ないのではなからうかと存じまするが、其の使途に付きまして範圍、限度及び相互關係等に付きまして、此の際大藏大臣から御説明を伺ひたいと存じます(拍手)
更に給與の本問題に立戻りまして、私の研究はまだ洵に貧弱なものでございますけれども、此の點に付きましては、豫てから少額の援護金を支給しても效果は擧らない、どうしても給與には現物を以てしなければ其の實は擧げ得られない、斯樣に考へて居りまするので、此のことは既に當局にも進言して參つたのでございまするが、幸ひ厚生大臣は先月二十八日の本議場に於きましての御答辨中に、六十萬「トン」の輸入の中若干を割いて給與に當てられる旨を御述べになり、次いで翌二十九日の新聞紙上には、現物給與の目的を以てニ千九百萬圓の豫算が編成された旨の發表がございましたので、其の一部が實現致しましたことに付て非常な喜びを持つて居るのでございまするが、政府にして現物給與の必要性を御認めになりまするならば、此の際更に一歩を進めて、給與金の金額を現物に替へて支給される御意思はないかと云ふことを御尋ね申上げたいと存じます
第三に御尋ね申上げまするのは、前述の如く生活扶助には現物給與が是非必要であると云ふことになりまするならば、其の供給の基礎を如何にして、又何處に求めるかと云ふ問題になつて參ります、之に付きまして聊か私案を申上げまして政府の御意見を伺ひたいと存じます、此の私案の計畫書は既に政府當局にも提出して其の實現方を希望致して居りまするが、此の席上に於きまして其の詳細を申上げまするのは、煩雜に亙りまする上に時間の制限もございまするので、是は別な機會に讓ると致しまして、其の輪廓だけを申上げますならば、私は此の現物給與の基礎を確實なものに致しまする爲には、一般援護事業と共に産産の事業をも含めました所の厚生事業營團とも申すべき營團を設立することが、此の際最も適當なる施設であると考へるのでございます、即ち開墾、開拓、製鹽、漁業等の生産事業の一部を一般から切離して營團に直屬させまして、援護事業と竝行して生産を行ひ、又援護事業中に含まれて居りまする授産所の生産品等をも之と合せて給與に充てましたならば、生活必需品の殆ど大部分は自給自足で賄つて行けると考へるのでございます、(拍手)此の生産事業が失業救濟の意味を持つて居りますることは勿論でございまするし、又此の施設は緊急對策でありますと同時に、援護と云ふ事業の性質上からして、將來に於きましても、物價の變動などに左右されることなく、其の使命を遂行する上に極めて必要な施設であると考へるのでございます、幸ひにして此の營團が實現致しまするならば、現物給與の外に、もう一つ重大な利用面があるのでございます、それは第一に御尋ね申上げました所の、要救護階級に轉落せんとしつつありまする所の庶民階級に對して、是等の物資を以て公設市場、簡易食堂などを經營致しまして、極めて低廉に生活必要品を供給することが出來まして、轉落一歩手前に之を食止め得ると信ずるのでございますが、關係各大臣の御所見を伺はせて戴きます、尚ほ其の他に庶民階級への施設と致しましては、共同浴場、共同宿泊所等も計畫されて居りまして、又一部の文化事業をも包含して居りまするが故に、是等の事業よりは必然的に事業收入も計上し得られまして、之を以て營團の經常費の一部を負擔する計畫になつて居ります
次に第四として御尋ね申上げまするのは、此の生活保護法の精神の徹底と末端組織竝に其の待遇問題でございまする、先づ此の改正に當りまして思はれますることは、此の適用を受けまする所の對象でございまするが、是は從來の要救護階級とは其の質に於て必ずしも同じでないと云ふことでございます、即ち戰災に因りまして家を燒かれ、財を失ひ、其の上に肉親を失ひ、職に離れ、或は負傷をし、又は心身の衝撃に依りまして病に斃れ、或は又海外からの引揚に依りまして折角の雄圖も空しく、粒々辛苦の結果築き上げました資産をも捨てて、身一つで故國に歸りまして、生活の途を失つた人、又同じく境遇の激變に依りまして病に斃れた人々、及び引揚を待ち詫びる所の家族の人々、或は又惡性「インフレ」の犧牲となりまして、蓄財は使ひ果し、將來の計畫も一朝の夢と化して、思ひも掛けず此の階級に轉落した人々等々是れでございます、其の外に傷痍軍人があり、軍人の遺家族がございます、是等の人々は、戰爭さへなかつたならば、立派に獨立の生活を營み得る素質を持つた人々でございまして、此の意味に於きまして、是は當然國家の責任に於て其の生活を保障さるべきものであると存じます(拍手)幸ひ此の救護方法にして當を得たものでございまするならば、是等の人人は軈て心身の健康を囘復し、生活の途も開拓致しまして、再び國家社會に貢獻する所の所謂再起の日も期待し得ると考へられるのでございます(拍手)ここまで參りまして、初めて此の法の精神が生きることになるかと考へるのでございます、隨ひまして救護に當りましては、單に貧困者に捨扶持を與へると云ふやうな考へであつては斷じてならないと私は存じます、此の點に付きましては政府に於かれましても十分なる御理解を持つて居られることと存じますが、要は此の精神を末端まで完全に徹底せしめると云ふことが結局大切なことでございまして、而も是は言ふべくして中々行はれにくいことでございまして、多くの法律が其の實施に當りまして、末端に行くに從つて精神が歪められて行くと云ふことは、往々にして經驗する所でありまするので、此の點に鑑み政府は此の際専門の指導員を置かれまして、直接救護の衝に當りまする所の民生委員をして常に間違ひなからしめる爲に指導監督して行く必要があると存ずるのでございまするが、此の點に付ての御用意を伺ひたいと存じます(拍手)尚ほ末端組織の人選、待遇等に付きましては重複の嫌ひもございまするので、私は之を省略致しまするが、唯一點、此の事業に最も適任であると思はれまする婦人の民生委員を多數起用されまして、其の待遇も之を思ひ切つて改善され、是までの片手間仕事であると云ふやうな觀念を拂拭されまして、安んじて救護に専念出來まするやうに萬全の策を講ぜられたいと存じまするが、此の點の御用意も伺つて置きたいと存じます(拍手)
最後に第五として御尋ね申上げまするのは、此の生活保護法案中には物資的方面の援護のみでございまして、精神的方面には殆ど觸るる所がございませぬが、是は此の法案の一大缺陷ではなからうかと存ずる次第でございます(拍手)其の由つて來る所の原因は、餘りにも物的生活が逼迫して居りまする爲に、精神的方面が閑却されて居るのであらうとは存じまするが、私は物質面が未曾有の窮迫状態に置かれて居りますると同樣に、或る意味に於きましては、或はそれ以上に精神的方面の動搖も亦見逃し難いものがあると存ずるのでございます、殊に青年層に於きましては、戰爭中最も是なりと信じて居りました自分達の行動が、實は誤れる指導に依つて支配されて居つたことを知りまして、狼狽と失望の極、思想の混亂に陷り、それ以來特に地方青年層に於きましては是が適當なる指導機關に乏しく、又其の心境を和らげます何等の慰安施設にも恵まれて居りませぬ所から、其の荒むが儘に任せて今日に至つて居ります、其の結果と致しまして、農村青年の風潮芳ばしからずと云ふやうな見出しを付けられまして、近頃社會の問題になつて居りまするのは御承知の如くでございます、是は獨り農村に限られた問題ではないと存じまするが、先づ都會地は姑く措くと致しまして、私は是等の人々の爲に地方町村に健全な娯樂の機關を設置し、先づ其の明朗化を圖り、併せて簡易圖書館、巡囘文庫等に依りまして教養を高め、正しく自然と高尚な方向に導くと云ふやうな施設を致しますることが、此の際早急に必要であると存ずるのでございます、斯くてこそ初めて物心兩面よりする所の生活保護の實を擧げ得ると考へるのでございますが、此の點厚生大臣及び文部大臣に御所見を伺ひたいと存じます
尚ほもう一つ伺ひたいと存じまするのは、最近發表されて居りまする公民館の問題でございます、是は過日文部大臣が本議場に於て御答辨中言及されました社會教育振興の一端であると存ぜられまするが、尚ほ此の際文部大臣に社會教育の振興對策に付きまして其の全貌を御伺ひ申上げて置きたいと存じます、又前述の如く地方青年層に對しましては格段の指導と保護とを必要と致しまするが故に、此の公民舘の如きも地方自治體のみに之を任せず、國家が全責任を以て指導に當らるべきであると存じまするし、又本生活保護法との間にも何等かの有機的な關聯を持たせました方が適當ではなからうかと考へますが、此の點も厚生大臣及び文部大臣の御所見を併せ伺ひまして私の質疑を終ることに致します(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=35
-
036・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の紅露君の御質問に御答へ致します、第一は生活保護法を庶民階級にまで及ぼしてはどうかと云ふ御質問と存じますが、此の法律は大體最低生活保障と云ふ消極的性格を持たして居ります、と申すのは、社會經濟に對してやらなくちやならぬことは色々あると思ひますが、それは又向々がありまして、例へば失業對策の面で行く部類もありますし、配給面の是正で行く部類もありませう、又各種の經濟政策で行く面もありませうし、或は中小工、或は物價問題と云ふ風に、政府は凡ゆる方面に向つて色々な施策をやりまして、それを統合的にして經濟問題、社會問題を解決して行くと云ふ線に沿つて居りますから、此の生活保護法の分野は、大體消極的にやるのが適當なりと思つて居ります、唯生業扶助の如く、是はやはり引揚者とか或は戰災者其の他で生業がなくて困つて居ると云ふ面に對しましては、失業問題と竝び合つて生業扶助と云ふ面には相當力を盡して行きたいと思つて居ります、さうしますと自然是は今申しました消極的分野を多少脱するやうな所もあると思ひます、是は國家經濟の再建上已むを得ぬから、さう云ふ點に向つてやつて行く積りで居ります
それから第二は生活扶助の限度の二百五十圓と云ふことに付ての御質問のやうに伺ひますが、是は先程申しました通りに、此の豫算は生活保護法と云ふものを實施する爲に必要な豫算でありますから、隨て此の法律實施の爲に餘計金が要る時には政府は餘計出すと云ふ建前の豫算になつて居ります、それが補充費と申す所以であります、隨て二百五十圓では迚も是は足らぬと判斷を下します時には、増さざるを得ないのであります、其のやうに御諒承願ひたい、且つ是は六十億、三十億と云ふ御話がありましたが、是は私の分野でありませぬけれども、失業對策の費用の點だつたかと思ひまするが、是は今内閣に於て其の方法を査定して居ります
それから第三は現物給付の問題と思ひます、全部現物でやれぬかと云ふ御尋ねでありましたが、只今の物資不足の情勢では全部現物で給付すると云ふことは出來ないと思つて居ります、現に農民の米其の他に對する現物の給付でも、中々農林省で苦心慘憺して居るやうな状況でありますから、其の點を御諒察願ひたい、併しながら食糧其の他に付て或る場合には現物給付でやる方が便利であり、それが良法と思ふ點もありますので、出來るだけは其の點も考へて行くと云ふ積りで居ります
それから其の次の問題は、援護事業と竝行して營團的にやつてはどうかと云ふ御意見のやうにも拜承致しました、此の點は篤と考慮致すことに致します
それから監督の吏員も相當増加する積りで居りまするし、婦人方面委員の如きも勿論相當任命する積りで居ります
其の次に精神的の分野に付て缺けて居るぢやないかと御言ひになりましたが、やはり法律と云ふものは大體物、金の線に沿うて規定して居るものでありまして、此の裏に流れて居る脈々たる人道主義と云ふことは、是はもう言ふまでもないことであります、勿論此の線に沿うてやつて行く積りでありまして、一番先にやはり此の問題を處理する人に向つて、親切と云ふことを第一の「モットー」としてやつて行く積りであります、又文化面に付きましても我々として出來るだけのことは之と關聯性を持たして行く積りで居りまするし、方面館、即ち今度變へますれば、民生館と申します、それをやはり六大都市に設けてやる積りで居ります、左樣御承知願ひます(拍手)
〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=36
-
037・田中耕太郎
○國務大臣(田中耕太郎君) 御答へ申上げます、只今御觸れになりました地方青年の教育竝に社會教育の問題の全貌を示すやうにと云ふ御話でございますが、是は極めて廣範圍に亙りますので簡單には御答辨致し兼ねますが、併し努めて簡單に要領だけ申します、地方の青年層の道義頽廢に付きましては、是は洵に憂ふべきものがあります、是は都會でも同樣でございますが、其の點に付きましては、公民教育の内容、殊に倫理教育の内容を深めまして、此の倫理教育に從來の形式主義を改めまして、それに本當の活を入れる人間の、人格の教育、人格の涵養と云ふことに重きを置きまして、此の點に付て大いに從來の形式主義的の倫理教育を改めたいと存じて居ります
次に青年に職業教育を授けます、それから一般の教養を向上すると云ふことに向って行きたいと思ひます、所謂青年學校の改革の問題も、此の線に沿うてやつて行きたいと存じます、尚ほ此の地方青年の教養の向上と云ふやうなことに付きましては、部落別の青年團、是は從來のやうな戰時中のものと違つた、自發的の發刺たるものを育成して參りたいと存じて居ります、それから附帶して公民館の問題でございますが、是は現在勸奬する程度になつて居ります、併しそれでは不完全ではないか、國がもつと補助をすべきではないかと云ふ御考へでありますが、是は御尤もと存じます、國家の經費の許す限り漸次さう云ふ方向に向つて努力致したいと思ひます
最後に社會教育振興の問題でございますが、公民館及び圖書館、博物館と云ふやうなもの、特に圖書館は非常な被害を受けて居ります、博物館も同樣でありますが、是等を出來るだけ速かに復興致しまして、一般の社會教育に資したいと思ひます
それから大學の擴張講座、又専門教授を招聘して講習會を開くとか、或は文部省に於きまして出來るだけ有益な講義録を配布すると云ふやうな方法を以て、努めて社會教育の徹底に努力致したいと思ひます、尚ほ教養の向上に付きましては、音樂、美術と云ふやうな方面にも力を入れたいと存じて居る次第であります、是で以て御答辨を終ります(拍手)
〔政府委員大石倫治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=37
-
038・大石倫治
○政府委員(大石倫治君) 紅露議員の農林省に對する御質問は三點であると存じます、之に御答へ致したいと存じます
第一は農林省としての庶民階級の轉落防止に關する事柄でございますが、此の主管事務は御承知の通り厚生省が行ふのでございますけれども、農林省と致しましては、此の防止に關しては厚生省は勿論、或は内務省、或は商工省と協力致しまして、先づ第一に生活必需品の増産、又それ等の生活費の低減と云ふやうな方面に力を用ひ、又勤勞階級、農民階級等に對する、或は小作制度の調整であるとか云ふやうなものの運用を致しまして、御趣旨に副ふやうに致したいと存じます
第二は偏在せる物資を公平に配給することに付きましての御質問であつたと存じます、是は先刻農林大臣からも山崎さんに御答へをしたやうに、現在行はれて居ります配給制度は萬全であるとは申し兼ねる點がありますから、此の配給制度に關しまして、或は運用に關しまして、一段の改良を加へる必要を認めて、目下それ等の準備を進めて居ります、又斯う云ふ問題は獨り政府が致しましても中々巧く參りませぬので、國民各位に於かれましても、此の日本の今日の立場を認識せられまして、互ひに自制自肅をして戴きまして、闇取引であるとか、無暗な、公定價格を上廻るやうな取引等をしないやうに致したいと存じます、政府と致しましても是は公平なる「ルート」に於て、公平なる配給を致すことに努力致す積りであります
第三は厚生事業の營團を作つてはどうかと云ふ御尋ねでありました、成程御説は御尤もと存じます、併しながら此の法律の建前から考へまして、斯樣な積極的、或は其の他の資本、設備等を要します所の事柄を此の法律に含めますることは、現在の場合に於ては如何かと存じまするが、併し是れ亦御意見御尤もと存ずる點がありまするから、能く研究して決定致したいと存じます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=38
-
039・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 紅露君に申上げます、大藏大臣に對する御質疑の點は、政府委員も今居られませぬから、適當な機會に答辨があるやうに取計らひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=39
-
040・紅露みつ
○紅露みつ君 それで宜しうございます、又の機會に讓ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=40
-
041・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 久保猛夫君
〔久保猛夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=41
-
042・久保猛夫
○久保猛夫君 本案に對しては既に相當多くの質問がありまして、殘された主要なる問題は、私の考へる所では極く僅かとなつたやうであります、時間の關係もありまして、全部或は一部に亙つてでも重複することは總て避けて、又小さい問題は委員會に讓りたいと思ふのであります、私は三つの問題に付て主として厚生大臣に質問して見たいと思ふのであります
此の生活保護法案を一應調べて見ますと、私は三つの不滿と、さうして不安とが湧いたのであります、それは何であるかと申しますと、此の法案が曾ての救護法或は母子保護法等の場合の如く、戰爭前の社會政策の精神を以て立案されて居るやうであると思ふのであります、併しながら私が考へます所では、此の生活保護法の對象となる所のものは、例へば戰災者或は引揚者或は戰歿者の遺族等、其の他今後益益企業整備等で殖えるでありませう所の失業者等を合せたら、恐らく私は五百萬以上に上るであらうと云ふ、此の人達を對象として考へねばならないと思ふのであります、さう考へて見ました時に、何が本質的に過去の斯うした法律の對象となつた者と異なるかと申しますと、今私が擧げました所の恐らくは數百萬に上るであらう我我同胞は、是は總て今度の戰爭に依つて不幸に陷つた方なのであります、決して是等の人々は總て個人の責任に於て不幸を招いたのではありませぬ(拍手)悉くが是れ或は戰災に遭ひ、或は身内の者が戰歿をし、或は戰敗の結果として富も權利も總て棄ててしまつて引揚げて來た是等の人々であります、隨て本質的に其の對象となる人々は異なつて居ると私は思ふのであります、さうした立場に於て此の生活保護法は立案されなければならない、何處に違ひがあるが、私は斯くの如く其の本人の責任に依らずして、戰爭に依つて不幸を招いた所の人々は、是は當然政府が國民と共に救濟してやると云ふ建前でなければならない、其の不幸を取戻してやると云ふ建前でなければならないと思ふのであります、さう云ふ觀點から考へて見た時に、先づ大臣に質問したいことは三十三條であります、三十三條では、保護を受けた者が一應建直つて自立出來るやうになつた場合には、其の間に於て市町村が負擔した所のもの、或は道府懸が負擔した所のものを五箇年以内に於て之を辨償せしめることが出來ると云ふのである、是は私の考へから見るならば、當然削除されねばならないと思ふのであります、之に對して厚生大臣の御考へを伺ひたいのであります、即ち此の無謀なる戰爭に依つて、全く本人に罪なくして斯くの如き不幸を招いたに拘らず、折角起ち上つた時に、更に其の間に於て保護された所の費用を全部又返せと言ふのである、是は私は根本的に誤りではないかと思ふのであります(拍手)
次に同じ立場と、今一つの別の立場から、第三十五條に付て質問したいのであります、それは今日終戰後歴代の内閣或は地方官吏に至るまで、國民の信頼感が極めて薄くなつて來たと云ふことは事實である、此の根本原因は色々考へられるのでありますけれども、其の一つは、政治の中に含まつて居る所の愛情の缺如だと私は思ふのであります、政治と云ふものは、國民の上を思ふ所の常に博大なる愛情を以て法律を立案され、或は行政が實施されねばならないと思ふ、然るに此の愛情の貧困さこそ、今日の國民から寄せられる信頼感が極めて乏しくなつた原因ではなからうかと私は思ふのである、此の生活保護法と云ふのは、是こそ最も愛情の發露として現はれた所の法律ではありませぬか、此の生活保護法と云ふものが果してさうであるとするならば、此の第三十五條は私は何たることかと思ふのであります、即ち第三十五條には斯う云ふ規定をしてあるのである、保護を受ける者が身寄がなくて其の儘死んで行つた場合に、其の死んで行つた人の殘した所の金、是は乏しい金に違ひない、それから遺留された所の品物を賣拂つて、今まで負擔させられた所の費用に充てることが出來ると云ふのである、斯くの如き冷たい精神を以て、どうして此の生活の保護と云ふことが出來ませうか(拍手)生活の保護と云ふことは、もつと温かい心で以てなされなければならない、隨て此の立法と云ふものは、其の温かい精神を以て立案されなければならないと思ふのであるます、其の死んだ者の殘された乏しい金、殘した所の僅かな品物を賣拂つて、それを葬式の費用に充て、或は今まで給與した費用を支辨して宜いと云ふのである、是はどうした氣持で斯う云ふことを御規定になつたのであるか、私は其の點を御伺ひ致したい
第三の點は、此の案の生活保護の運營に付てである、それは本案に依りますと、第二十五條に、第二十一條乃至第二十二條の規定は之を市町村が繰替支辨することが出來ると云ふ、唯繰替支辨の事項に付て、其の點だけに可能なやうに出來て居るのであります、前に質問された方も色々斯うした點に觸れられたとは思ふのでありますが、過去の斯う云ふ問題、其の他の問題に於て、運營の場合に最も實績の擧らない點は何處にあるかと言ひますと、此の官廳事務の煩瑣な點にあるのであります、隨て此の生活保護法に於きましては、其の保護の對象となる事實を其の衝に當る人が發見したならば、直ちに時を移さず其の日に於て、或は其の翌日に於て、之に基く保護が加へられねばならないのである、だとするならば、市町村に於て、其の末端に於て、實際の仕事をする所に於て、相當國庫の金が常に其處に預けて置かれて、總て直ちに此の保護が出來ると云ふことにされるか、さもなければ此の繰替支辨と云ふことが全面的になされると云ふ風になされない限り、到底生活保護の徹底と云ふことは私は期せられないものだと思ふのであります、此の點に付て厚生大臣は實際の其の運營に於てどう云ふ風に御考へになるか、特別な考慮が拂はれない限り、私は到底過去の斯うしたものの成績から見て、安心して是で滿足だと思ふことが出來ないのであります
以上三つの點に付て質問したのでありますが、最後に厚生大臣の御答辨に付て一つ御願ひがあるのであります、數日前私の同僚である石田君の質問に對して、餘りに不誠意と見えるやうな簡單な答辨をなされたのであります、私は今日時間の制限もあつて、十分具體的に述べたいことも述べることが出來ない、どうかああした不誠實な態度を御執りにならないで、十分納得の行くまで御説明を願ひたいのであります、以上(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=42
-
043・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の久保君の御質問に對して御答へ致します、第一の問題の、第三十三條及び第三十四條を削除してはどうかと云ふ御趣旨の御質問でありましたが、是はやはり保護を受けた人の獨立心と申しますか、自立心と申しますか、さう云ふこと、及び扶養義務者の義務精神と云ふものを涵養する爲に必要であると云ふ見地に於て書かれたのであります、併し必ず之を返せと云ふことではありませぬ、事情に應じ、又状況を見まして返すことを命ずることを得と云ふ風になつて、實際問題に處して行きたい積りでございます
それから第三十五條の規定も必要がないぢやないかと云ふ御説でございましたが、是はやはり公費支辨の計算方法として大體慣例的に斯う云ふ風に行つて居るやうでございまして、其の線に沿つて作つた法律でございます、隨て深い根本的の思想を否定したやうな意味を以て書いた規定ではございませぬ
それから第三の御質問の第二十五條の點でありますが、是はやはり兎角官廳の仕事の遲れ勝ちだと云ふことは御尤もでございますが、末端の市町村が直接行ふことでありますから、相當迅速に進めることが出來るとも考へては居りますが、其の上に概算前渡と云ふやうな制度を入れまして運行の迅速化を圖つて行く積りであります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=43
-
044・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 是にて質疑は終了致しました、本案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
―――――――――――――――――――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=44
-
045・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名二十七名の委員に付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=45
-
046・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 山口君の動議に御意議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=46
-
047・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、是にて議事日程は議了致しました、次會の議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後四時二十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01819460718&spkNum=47
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。