1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年八月二十九日(木曜日)
午後二時二十六分開議
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議事日程 第三十六號
昭和二十一年八月二十九日
午後一時開議
第一 復興金融金庫法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 臨時物資需給調整法案(政府提出) 第一讀會
第三 商工協同組合法案(政府提出) 第一讀會
第四 地方競馬法案(小笠原八十美君外四名提出) 第一讀會
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〔朗讀を省略した報告〕
一、去二十七日貴族院から受領した政府提出案は次の通りである
電氣事業法の一部を改正する法律案
石炭及コークス配給統制法の一部を改正する法律案
一、議員から提出された議案は次の通りである
民主主義に依る風教取締法制定に關する建議案
提出者
今井はつ君 木村チヨ君
本多花子君
日本教育會の擴充強化に關する建議案
提出者
中田榮太郎君 堤隆君
平川篤雄君 北村徳太郎君
稻葉道意君
(以上八月二十八日提出)
一、去二十七日貴族院に於て、本院から送付の次の政府提出案を可決した旨、同院から通牒を受領した
所得税法の一部を改正する等の法律案
臨時租税措置法を改正する法律案
地方税法及び地方分與税法の一部を改正する法律案
一、議員の異動
東京都第二區選出議員河野密君の補闕として山花秀雄君が當選された
一、去二十七日議長に於て次の通り常任委員辭任の許可があつた
第三部選出
請願委員 近藤鶴代君
一、昨二十八日吉田内閣總理大臣から次の通り發令があつた旨の通牒を受領した
外務事務官 朝海浩一郎
同 下田武三
第九十囘帝國議會外務省所管事務政府委員被仰付
外務事務官 木村四郎七
第九十囘帝國議會外務省所管事務政府委員被免
一、昨二十八日衆議院規則第十五條に依り議長に於て議席を次の通り指定した
三〇二 山花秀雄君
一、昨二十八日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を次の通り變更した
四〇六 竹内克巳君
一、昨二十八日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した
第三部選出
請願委員 布利秋君(近藤鶴代君補闕)
一、昨二十八日次の通り特別委員の異動があつた
林業會法案(政府提出)委員
辭任 仲子隆君 補闕 磯田正則君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是より會議を開きます
此の際新たに議席に著かれました議員を御紹介致します──第三百二番、東京都第二區選出議員山花秀雄君
〔山花秀雄君起立〕
〔拍 手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=1
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002・山崎猛
○議長(山崎猛君) 日程第一、復興金融金庫法案第一讀會の前會の議事を繼續致します、質疑の通告があります、順次之を許します──青木孝義君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=2
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003・会議録情報2
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第一 復興金融金庫法案
第一讀會(前會の續)
〔青木孝義君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=3
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004・青木孝義
○青木孝義君 私は、今囘政府の提案に係ります復興金融金庫法案に對しまして、次の數點に付き、日本自由黨を代表致しまして質問を致します
先づ第一に融資計畫乃至基準の問題でありまするが、本法律案の提案理由を見まするのに、「經濟の復興を促進するため必要な資金の供給を確保し、以て國民生活の安定に資するため」とあります、即ち戰後經濟の再建、より直接的には、戰時補償の打切りに伴ふ經濟再建の諸施設の一環として提案されたものと考へられるのであります、隨ひまして本金庫の運營は、經濟安定本部の經濟再建計畫の策定と密接不可離の關係に立つものでなければなりませぬ、具體的に申しますれば、本金庫は、經濟安定本部の經濟再建計畫とは獨立に無關係に運營さるべきでなく、常に是と睨み合つて融資乃至資金計畫が樹立せられ、斯かる計畫に基いて其の運營がなされなければならぬと考へるのであります、そこで問題となりまするのは、融資の順位、即ち何が最も優先的に融資さるべきかと云ふことと、融資順位を規定する基準となるべき經濟再建計畫でありますが、政府は之に對して如何なる計畫と用意とを持つて居られるか、此の點に付て膳國務大臣竝に大藏大臣に御答辯を煩はしたいと存じます
第二に本金庫の所管の問題でありまするが、本金庫は大藏大臣の所管となるのでありまするか、又は關係各省の所管となるのでありまするか、特に産業對金融の問題でありますから、大藏、商工共同管理に依つて是が行はれて行くものでありまするか、何れに致しましても、此の管理の關係に關して膳國務大臣の御答辯を煩はしたいと存じます
第三點は五つに分析致しまして質疑を致します、先づ第一に復興金融金庫の資本金を百億圓と定め、存立期間を三箇年に限りましたことは、此の程度の期間内に此の程度の資金を以てすれば、日本經濟の再建が可能であると考へられた結果であると承知して宜いかどうかと云ふ點であります、又此の程度の資金を以て此の期間内に遂げられる日本經濟再建が、どの程度のものと豫想せられて居るのであるかを、具體的、數字的に御説明を願ひたいと思ひます、唯漠然と此の程度の資金を注入すれば此の程度の期間内には何とかなるであらうと云つた、安易な目安の下に出發して居るものであるとしますれば、政府の斯かる經濟再建の非科學的態度に對しては、國民は危惧の念を抱かざるを得ないと思ふのであります(拍手)
第二は復興金融委員會は如何なる役割を果すのであるか、又それは如何なる「スタッフ」から構成されるかと云ふ問題であります、傳へられる所に依りますれば、委員長には大藏大臣、副委員長には經濟安定本部長官、さうして委員には商工、農林等各關係大臣、日銀總裁、復興金融金庫の理事長及び民間學識經驗者と云ふことでありまするが、本金庫の性質上、資金を需要する側の代表者をも之に加へることがより合理的であると御考へにならないかどうか(拍手)尤も委員會の構成が如何に理想的のものでありましても、其の間に政治的な馴合が行はれ、そちらの融資を承認する代りには、こちらの融資も承認して貰ひたいと云つたことが萬々ないとは存じますが、若しあると致しますれば、經濟再建上必ずしも必要でない企業に融資される虞がある(拍手)此の點に付て政府は如何に御考へになり、如何に對處せられる積りであるか
第三は融資の査定の問題でありまするが、法案第一章總則第一條には、「復興金融金庫は、經濟の復興を促進するため必要な資金で他の金融機關等から供給を受けることが困難なものを供給することを目的とする。」とあります、此の條文では擔保力が十分であり、隨て市中金融機關に於て是が融資をなし得る企業は本金庫の活動範圍外に屬し、斯かるものに對しては本金庫は融資をしない建前であるのかどうかと云ふことに付ては必ずしも明瞭ではないのであります、一般金融機關は言ふまでもなく其の性質上、企業要素に缺けて居り、擔保力の薄弱なものに對して融資すると云ふことは不可能であります、本金庫が一般金融機關の融資し得ざる、而も經濟再建上必要な産業に對してのみ融資をし、擔保力が十分で企業要素に何等缺くる所のないものに對しては融資をしない建前となつて居るならば問題はない、併し若しさうでない場合、例へば擔保力の十分なものに對しても亦融資をすると云ふことになれば、一般金融機關と勢ひ競合關係に入ると云ふことになる、或る程度避け難い競合關係は兎も角として、此の場合政府は之を如何に調整して行く御考へであるか、更に又貸付の申込に對して現實に査定をなす場合、それは一切金庫側の任意に任せられて居るのであるかどうか、此のことが非常に重大な問題であると考へるのであります、例へば戰時中の臨時資金調整法に於ける資金調整準備の如き、査定に關する確定的な基準がなく、それが専ら金庫側の申請に委ねられて居るとすれば、戰後經濟の再建上必要であるか否かの判定に關して、國家の要請と金庫側との見解の間に食ひ違ひが生じ、斯くては經濟再建の進行に對して支障を生ずる虞なしとしない、而して此の査定を通じて國家資本の企業支配と云ふことが考へられるのでありまして、此の間に處する政府の對策を伺ひたいのであります
第四の問題でありまするが、融資の條件竝に囘收の方法に關してであります、本金庫の性格上、融資の條件が一般金融機關的な囘收の安全性と云ふ見地からのみ規定せられるとしますれば、所斯の目的に到達し得ないことは明かであります、場合に依りましては、注文見返り、或は無擔保貸付も避け得られないと思ひまするが、之に對して政府は如何なる考へを持つて居られるか、次に貸付の金利、期限、最高限度及び囘收の方法でありますが、貸付金利に付ては、現在日本興業銀行が代行致して居るのは一錢四厘と云ふことでありまするが、是は其の儘維持されるのであるかどうか、更に貸付金利に付ては、企業の性質に依つて低利資金の融通と云ふが如きことは考へて居られるかどうか、又固定資金の融通に關しては、期限は相當長期に亙る必要があると思ふが、融資の最高限度に付ても如何なる程度に決められる御考へであるか、殊に個々の企業に對する最高限度は如何なる基準に依つて決定せられるのであるか、又囘收に付ては一定期間の据置後、年賦或は月賦償還と云ふ方法を考へて事られるかどうか、更に又擔保力が最も薄弱であり、支拂いは新圓、收入は封鎖、事業資金は認めて居ない現状にある所の中小工業、其の經營に安定性を缺いて居る是等の工業及び農村工業に對する融資に對しては、格別の考慮を拂ふ必要があると考へまするが、政府は之に對して如何なる具體策を用意して居られるか、殊に零細企業に對する融資の場合に考へられる所でありまするが、是等は銀行との取引關係を持つて居ないものが多い、隨て從來は是等の零細企業は金融機關の融資の對象とはなり得なかつた、尤も組合が結成されて居る所では、商工中金より融資を仰ぎ得る譯でありまするが、零細企業には此の組合を結成して居ないものが可なり多い、是等は自己資金か高利貸資本に依存する以外に資金を獲得する途がなかつたのであります、隨て是等零細企業に對しても、一錢四厘内外の低い金利を以て復興金融金庫が其の門戸を開くと致しますれば、零細企業は本金庫に蝟集すると云ふことが考へられるのであります、併し此の場合考慮されねばならぬことは、零細企業に對してばかりでなく、一般にも言ひ得る所でありまするが、金庫の融通した資金が、正常の生産資金として用ひられずに、生活資金として、或は流通資金、即ち商業利潤の獲得を目的として、場合に依つては高利貸資本として用ひられる虞が少くないと云ふことであります、隨ひまして政府と致しましては、融通せる資金の使途に付て嚴重に監視を怠つてはならないと思ふのであります、從來の經驗に徴しますれば、國家金融機關は此の點に付て極めて「ルーズ」であり、無責任であつた、貸出はしたが最後、それは最早既に金融機關とは縁が切れたもとのして、其の行方を最後まで見究めると云ふことをしなかつたのであります、斯かる「ルーズ」な無責任な態度が復興金融機關の融資に對しても尚ほ採用されるものと致しますれば、本金庫を通ずる融資は、生産を促進せしむるよりも、寧ろ「インフレ」を激化せしむる以外の何ものでもない、此の問題に付ては政府は如何に考へて居られるか、所見を承りたいのであります
第五は復興金融債券の額面金額、償還期限、募集の方法でありまするが、特に募集の方法に付ては、公募の手段に愬へるのでありまするか、それとも市中金融機關をして引受けさせるのか、或は日銀又は預金部をして引受けさせる御考へであるかどうか、日本銀行をして引受けさせることになりますと、直接な「インフレ」促進劑となる、又市中金融機關に引受けさせましても、手許資金の涸渇して居る金融機關の現状としましては、直ちに之を擔保として日銀の信用供與を得ることとなるのでありませう、結局是も「インフレ」促進に役立つこととなる譯であります、政府は如何なる方法を選ばれる御考へであるか、今囘の復興金融金庫の構想は、「アメリカ」の復興金融會社の制度に倣つたものと考へまするが、「アメリカ」の復興金融會社は、所謂「ニラ」政策の一環として、即ち景氣振興政策の一環として考へ出されたものであります、復興金融金庫の設立が問題となつた我が國の經濟的基盤とは、根本的に事情を異にして居ると云ふことを考へるのであります、即ち當時の「アメリカ」に於きましては、物の面から、換言致しますれば生産の過剩、商品「ストック」の増大に依つて所得との均衡が破れ、競合不景氣が襲來致したのであります、そこで「アメリカ」の政府は通貨の面から此の兩者の「バランス」を圖り、景氣の振興を圖らうと致したのであります、即ち「インフレ」政策に依つて、不景氣を克服する手段として復興金融會社を設けたのであります、然るに日本の現状は當時の「アメリカ」と全く事情を異にして居るのであります、我が國では既に「インフレ」が相當程度に進昂し、現に國民經濟を破局へと押進めつつあるのであります、周知の如く我が國の生産基底は永年に亙る戰爭に依つて消耗され、破壊され、物の裏付けを喪失した通貨のみが擬制化した存在となつて居るのであります、斯くて招來されました物價高が、國民經濟の安定を消失せしめつつあるのであります、我が國では物の過剩に依る通貨との「アンバランス」が支配して居るのではなくて、物の過少に對する通貨の過剩に基く兩者の「アンバランス」が支配して居るのであります、最近發表されました國民經濟研究所の調査に依りましても明かな如くに、我が工業生産は、通貨が戰前の數十倍に上つて居るのに對しまして、戰前の僅かに二割内外に顛落して居ります、殊に原料資材の涸渇と設備の消耗と破壊とに基く生産財、生産部門の不振は、我が經濟の再建に對して極めて憂ふべき惡條件を提供して居るのであります、斯かる特殊の條件下にある我が經濟に對して、一樣に從來の如く専ら資金の面から、即ち「インフレ」的景氣振興策に依つて其の再建を圖らんとすることは、既に進昂して居る「インフレ」を一層加速度的に激化せしめ、却て所期の目的に矛盾する結果に陷る危險性が多分にあると考へるのであります、隨ひまして私は、政府が本金庫の運營に當りまして特段の考慮を拂はるべきことを警告したいのであります、復興金融金庫の資本金は百億圓であり、それが三箇年間に生産再開乃至促進資金として放出される譯でありまするが、今日の事情の下に於て、是だけで十分に復興金融が賄ひ得られるとは考へられないのであります、不足となる場合は結局資本金が増加され、豫算の負擔となるか、復興金融債券の増發が講ぜられることとなり、其の何れの場合に於きましても、本金庫を通じて行はれる復興金融の大部分は、通貨の増發を招來するのであります、通貨の増發を招來するものは、單り復興金融金庫を通ずる金融だけではない、新圓預金の増大が不活發であるに拘らず、他方生活資金の引出しが繁忙を極め、金融機關の手許資金が逼迫を告げて居る今日、一般金融機關に依る信用の供與も、亦通貨の増發を激化せずには置かないのであります、此の事は從來事業資金として放出されたものが、新圓の増發となつた事實に徴しましても洵に明かな所であります、加ふるに他方に於きまして、厖大なる財政資金の撒布に依る通貨購買力の投入が控へて居ります、而も政府は通貨面よりする「インフレ」抑壓對策に對しては、無關心であるかの如くであります、斯くて「インフレ」は一路破局への道を急いで居るのでありまするが、斯かる事情の下に於て藏相は、通貨の増發が「インフレ」を激化するものであると云ふことを否定されて居ります、藏相の見解に依れば、通貨の増發が生産の再開を促進せしめる爲に使用せられる場合には、増發された通貨は物に依る裏付けを持つが故に、「インフレ」とはならないと言はれて居ります、事柄を單純に平面的に考へまする場合には、確かに斯かる理解は一應の眞理を持つて居りませう、併しながら事柄は平面的にのみ考へるべきではない、之を立體的に考へ、且つ時間的要素を考慮に入れなければなりませぬ、生産の再開乃至促進の爲の通貨の増發が「インフレ」を激化させない爲には、少くとも増發された通貨が正常の生産「ルート」に乘せられると云ふこと、原料資材が豐富に存在すること、直ちに稼働出來る遊休設備が存在して居り、通貨が増發されてから、生産が増大し商品流通量がそれに對應的に増加するまでの時間的距離が極めて短いと云ふこと、此の三つの條件が少くとも與へられて居らなければならないのであります、然るに現實には、生産資金として放出されたものが、假令「インフレ」に乘ぜられた商業利潤の獲得、換物に依る財産の固定化に用ひられることなく、正常な生産資金として使用されると致しましても、其の大部分が、消耗され破壊された設備の復舊の爲の固定資本として投下されざるを得ない現状の下に於きましては、其の固定設備が完成して現實に生産が増大し、商品の流通量が増大するまでには、相當の期間が必要とされる實情にあるのであります、而も其の上に原料資材の涸渇は、設備があつても之を十分稼働せしめ得ないと云ふ事情にあり、斯かる原材料の絶體量の不足は、現状の下に於ては輸入に俟つ外に、追加購買力の投入に依つて之を獲得すると云ふことは不可能なのであります、されば現状の下に於きましては、追加信用の造出、通貨の増發は、假令それが生産の再開促進の爲の正常な「ルート」に乘せられたものでありましても、所期の目的に到達する以前に「インフレ」を激化させることに依つて、却て所期の目的への到達を阻碍すると云ふ虞が十分に考へられるのであります(拍手)況して直接再生産に寄與することのない財政資金の撒布が巨額に上りまして、是が收縮を遽かに期待し得ない今日、斯かる危險は、現實性を以て我が經濟再建の上に重壓を加へて居るのであります、隨ひまして政府は復興金融金庫の運營に當りましては、斯かる戒心を常に十分に持つて、融通した資金の使途を嚴重に監視致しますと共に、擬制資本の拂拭を徹底的に行ひまして、通貨面よりする「インフレ」對策を斷行し、同時に他方に於きましては生産の再開促進に關する資金的條件以外の物的條件の急速なる整備を圖つて、通貨の増發と商品流通量の増大の時間的距離を最小限度に短縮せしめる一切の有效にして適切なる處置を、時期を失せず講ぜられんことを切望して已まないのであります(拍手)斯く後半に於ける「インフレ」に對する多少の所感を述べまして、特に大藏大臣の御答辯を煩はしたいと存じます(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=4
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005・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 青木君から大分詳しい色々の御質問がありました、先づ融資計畫でありますが、大體御承知の通りの經濟事情でありまして、是から復興して行くのでありますから、一錢一厘違はないやうな計畫は中々出來ませぬが、只今の見込では實は八月一日から日本興業銀行をして暫定的に同じ種類の金融を行はしめて居るのであります、是は開店勿々であるからでもありませうが、現在の所では案外申込が少いのであります、十分普及して居ないと云ふこともありませう、只今の所で興銀の本店に兎に角相談に來て居りますのが百八十四件、此の中に一寸大額のものがありますが、兎に角金額は七億六千七百萬圓、支店に申込が百三件、二億六千七百萬圓、其の外日銀の方に申込が十三件で千百萬圓、是は只今の所では調査をして居りますが、大體相談の程度でありまして、是だけ資金が要る計畫だがと云ふ程度であります、斯う云ふ譯で、比較的今の所では少うございますが、政府と致しましては、今後來年の三月位までに大體六十億圓位の産業資金を放出する必要があるのではないか、それは色々銀行の今までの融資の状況等から推算致しまして、左樣な計畫を立てて居ります、併し實效は、やつて見なければ分らない譯でありますが、計畫は左樣な譯であります、斯う御考へを願ひます
それから資本金を百億圓、拂込を四十億圓にしましたこと、それから之を三箇年間に致しましたことは、御承知のやうに此の金融機關は、復興の時期に於ける特殊の金融を行ふのでありますから、大體是から三年程あれば日本の經濟も常態に復するだらう、斯う云ふ見込であります、此の百億圓は、是で或は足りないかも知れませぬ、足りなければ是は追加せざるを得ない、斯う云ふやうな譯であります
それから所管省の問題でありますが、是は色々事務的に厄介なことでありますが、共管と云ふことは事務上種種なる不便がありますが、併し又斯樣な一時的な臨時の特別な金融機關でありますから、必ずしも之を大藏省だけが所管をする必要はなし、又實際商工省等に十分の協力を願はなければならぬ譯でありますから、事務の簡素化を圖りまして、さうして大藏、商工兩大臣の所管に致さうと只今考へて居ります(拍手)
それから委員會の構成の問題でありますが、是は御話のやうに關係閣僚も委員に入りますが、其の他は産業界の人、それから金融界の方からの人、其の中には中小企業に對しても十分に理解のあるやうな人を加へて委員を構成しようと今計畫して居ります、此の委員會に殆ど全部の權能があると申しても宜い位なのであります、大藏大臣、商工大臣の監督下にはありまするが、先般の説明にも申上げましたやうに、金融金庫の一般政策は、無論委員會の決議に依つてやりますが、更に稍稍大口の貸出、或は特別に考慮を要するが如き貸出は、總て此の委員會の議を經て行ふことに致したいと思ひます、之に依つて御話の如き種々なる弊害を防ぎ得ると確信して居ります
それから普通一般金融機關との競爭が起らないかと云ふ御話でありますが、是は絶對に起らないと思ひます、と云ふのは、此の金庫で以て融資致します場合は、必ず其の前に普通の金融機關で是は融資が出來るか出來ないか、なぜ出來ないかと云ふことを檢討致しまして融資致すことに致して居りますから、普通の金融機關がやつて呉れるやうな金融は、無論普通の金融機關に、寧ろ金庫の方から御願ひしてやつて貰はうと考へて居る次第であります
それから貸付の査定等の方法でありますが、是は從來斯樣な機關は兎角査定に暇取りまして、時期に間に合はないと云ふ弊があつたのでありますが、是は今囘は或る程度の金額までの裁量は各地方の窓口に與へまして、さうして敏速な活動を致すやうに取計らふ積りで居ります、又中央に於きましても、委員會は比較的小人數で構成致しまして、常に其の委員會の議を經ることが出來るやうに致して居る積りでありますから、貸付査定の爲に時間が非常に遲れると云ふことは防ぎ得ると考へて居ります、併しそれならば非常に「ルーズ」な貸出をするのではないかと云ふ心配も亦起る譯でありますが、其の點は是れ亦申しましたやうに、主なるものは委員會の議に掛ける、此の金庫の理事長一人の裁量とか、或は又大藏省とか、商工省の勝手なやり方とか云ふものは許さないことに致して置きますから、左樣な弊も避け得るものと信じて居ります
それから金利其の他の條件でありますが、是は可なり廣い幅を認めて置きたいと考へて居ります、大體百萬圓以下、是は金利のことでありますから、無論變化を致しますから、今日之を決定したからと言つて、申上げることが此の儘で何處までも行くと云ふ意味ではございませぬが、色々研究致しました所、大體現在の状況では、金額に依りまして、或は期限に依りまして、金利の差を付けなければならぬ譯でありますが、大體日歩一錢三厘程度から一錢五、六厘と云ふことで、其の業態或は其の他の種々なる條件に從ひまして定めるのが、今日の金利状態から言へば適當ではないかと考へて居ります、其の外の條件に付きましては、只今申上げました所で大體御答辯になつて居るかと思ひます
それから中小企業、或は農村工業等に付ては、言ふまでもなく中々難かしい金融でありますが、是は今の計畫でも全國に百六十幾つかの窓口を設ける、其の外必要に應じまして全國にもつと窓口を設けまして、さうして中小企業及び農村工業等に對しては敏活な行動を執りたいと考へます、尚ほ金融金庫それ自身の中にも、或は其の専門の「デパート」を作る必要があらうと云ふやうに考へて居る次第であります
それから監督に付きましては、無論大藏省、商工省等が嚴重に監督を致しますが、其の外に繰返して申上げますやうに委員會なるものがありまして、十分に監督を致しますから間違ひはありませぬと思ひます、それから金を貸し放しで以てあとの世話を餘りしないと云ふやうな御話でありましたが、之に付ては又別に考慮をして居りまして、例へば相談部とか或は指導部とか云ふやうなものを、やはり金庫の一つの仕事としてやつて貰ひたいと私は今考へて居る譯であります、さうして殊に中小企業などに付ては、豫てから問題がありますが、經營其の他に付て思はしくないと云ふやうな憂ひが今まであつたのであります、さう云ふことに對して指導をするとか、或は相談を受けるとか云ふやうなことで、親切な取扱をするやうにして行きたいと考へて居ります
それから復興債券は、是は此の法律にもありますやうに、此の金庫自身の新しい事業は取敢ず三年と云ふことになつて居りまして、短いものであります、さうして結局豫算に全部貸付金も上げることになる、即ち政府の歳出として貸付金が出る譯であります、此の復興債券は餘り長期のものを出す必要はないと考へて居ります、其の條件或は額面と云ふやうなものは、現在の日本興業銀行の興業債券に大體準じて發行するのが宜しいと考へて居る次第であります、それを何處へ賣るかと云ふ問題でありますが、是は中々難かしいことであります、例へば日本興業銀行が長期の興業債券を發行すると云ふことがあれば、其の興業債券を發行したそれに依つて興業銀行に引受けて貰ふと云ふことも出來ませう、或は市中銀行に、其の金融の状況に依つては引受けて貰ふこともしたいと思つて居ります、それでもどうしても融通が付かぬと云ふ場合には、已むを得ませぬから日本銀行に一時立替へて貰ふと云ふことも起るのであります
あとは色々「インフレ」に付ての御論がありましたが、御話の中にもありますやうに、今の日本の状況は所謂普通の「インフレ」でもない、さうかと言つて、非常に不景氣であるけれども、普通の「デフレ」でもない、要するに物が足りない、物の生産が興らないと云ふことであります、ですから其の物の足りない、少いと云ふ點から申せば、「デフレ」政策を執つて通貨を引締めれば宜しい譯でありませうが、それでは生産は興らぬのでありまして、御話の中にもありましたやうに、一面に於ては資金を大いに融通しなければならぬと云ふ御論も出て來る譯であります、ですから今は一面に於ては資金を融通しなければ生産が興らぬ、併しながら資金を融通すれば「インフレ」になるだらうと云ふ非難が起る、是は譬へて申せば、醫者が、何か食物をやらなければ助からぬと云ふ病人であるが、非常に衰弱して居るから、其の人に食物をやるには餘程注意して、其の容態を見ながら食物を漸次供給すると云ふのと同じことであつて、今日の日本の經濟界は公式論では出來ませぬ、でありますから、詰り我々は此の經濟界の容態を見ながら適當に資金を供給し、其の生産を興して行くと云ふ以外にはやり方はないと考へて居ります、要するに此の「インフレ」は、御話のやうに非常に資金を固定して──將來の生産には役立つと雖も之を固定して、さうして資金がどんどん出る、其の資金が賃金、俸給になつてばら撒かれると云ふことになれば、而して一方生産財でない消費財が足りなければ、是は直ちに消費財の方面から物價騰貴を起す、是は私が始終申すやうに、今日の日本に於ては消費財と生産財の「バランス」が必要である、それ等のことも見合ひつつ資金を適當に供給して、さうして生産を興して行くと云ふ以外に適當な方法がないと考へて居るのであります、以上甚だ簡單でありますが、大體御答へが出來たかと存じます(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=5
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006・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 私の所管致しまする經濟安定本部の關係しますることに付て、青木君の御質問に御答へ申上げます、私に對しまする御質問は、一は、安定本部の安定方策と此の復興金融金庫との關係如何と云ふことに付ての御質問と、もう一つは、此の金庫の所管が誰にあるかと云ふ問題だつたと思ひますが、所管の問題に付きましては、既に大藏大臣から御答へがあつたやうでありまするから、第一の問題に付てのみ申上げようと存じます
經濟安定方策と此の復興金融金庫とが密接不可分の關係のあることは申上げるまでもないことであります、經濟安定方策は如何なる方面に計畫を持つて居るかと申しますると、先づ根本的には日本の近き將來に於ける人口、又我が國に供給され得べき資材、又我が國の貿易の可能性等々の事情を考へつつ、我が新日本の國民生活の安定に必要なる衣食住を確保するの方策、又食糧及び將來の復興の建設、生産資材の獲得に必要なる見返り輸出の産業、又それ等の資材及び國内資材を以ちまして、平和日本の永遠の建設に必要なる基礎産業の確立、斯う云ふ方面に基礎的の調査研究をなしまして、統一のある綜合性のある計畫を樹つることが安定本部の仕事であります、併しながら現下の日本の状況は、是等の根本方策を徐ろに考へて居られない事情のあることは申上げるまでもありませぬ、補償打切りに伴ひまする色々の緊急方策、又來るべき賠償物資の撤去に基きまする色々の經濟上の變動、斯う云ふやうな變動は計畫的に豫見の出來ないものが多々あるのであります、即ち經濟上の通常の現象に基くものでもありませぬ、又政府の計畫的の政策に基く現象でもありませぬ、全く日本の戰後の特殊の國際的情勢に基きまして、客觀的に受入れなければならぬ已むを得ない色々の經濟事情が出來て參るのであります、是等の事情に即しまして誤りのないやうに、日本經濟の再建をば永遠の計を睨みつつ指導しまするのが、經濟安定本部の仕事となつて參るのであります、金融の部面から申しますると、單に復興金融金庫のみが經濟安定の金融機關ではありませぬ、全國の凡ゆる金融機關をば總動員するのでありまして、さう云ふ點から申しますると、復興金融金庫の作用は、經濟安定方策の一部分にしか過ぎませぬ、併しながら此の金庫が、補償打切りに伴ひます眼の前に迫る諸情勢の變化に伴ひまして、日本産業の覆滅を防ぎ、之を再建に導く大きな役割のあることは、勿論申上げるまでもないことでありまして、此の點に付きましては、安定本部は主管省と協力致しまして、機宜の方策に金融が向けられることに努めることは申上げるまでもないことであります、此の金融金庫の金融の方針に付きまして事前に一々──何と申しまするか一定の方針を定めて置くと云ふことは──如何なる情勢が今後日本の經濟に起きるかと云ふことは、先程申上げまする通り計畫的に出來るものではありませぬので、多くのものが客觀的に已むを得ず起きるやうな情勢が多いと思ふのでありまして、是等に對しまする應急的の措置を講ずる上に、餘りに當初より計畫を定めて、斯く斯くの線に斯く斯くの順序で斯く斯くのことを定めると云ふやうなことは、却て有害であらうと私は考へるのであります、此の點はよく金融の責任省、又産業の指導省、斯う云ふやうな方面と連繋を致しまして、機宜を誤らざるやうに措置をして行くのが私共の使命と思ふのでありまして、其の爲に委員會の設置其の他の適當なる應急的の施策をなす施設が講ぜられて居ると思ふのであります、此の點に於きまして安定本部は、此の金庫と相當密接な關係を保ち、機宜の處置を誤らない積りであります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=6
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007・青木孝義
○青木孝義君 只今の政府の御答辯は必ずしも私の質問に總て妥當して居るとは申されませぬ、更に政府としては今日只今の所では、尚ほ色々御考へにならなければ御答辯が出來ないやうな節もあると思ひまするので、爾餘の質問は委員會に讓りまして、今日は以上の質問に止めるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=7
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008・山崎猛
○議長(山崎猛君) 北村徳太郎君
〔北村徳太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=8
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009・北村徳太郎
○北村徳太郎君 只今上程されました復興金融金庫法案に付きまして、簡單に若干の所感をを述べて質疑を致したいと思ふのであります
滿身創痍の重患者とも言ふべき我が財界に、思ひ切つた整理の「メス」が加へられまして、所謂補償打切りが斷行せられましたことは、それ自體敗戰日本の大きな惱みと又深い反省との表現であると思ふのであります、領土、資源の喪失、爆撃に依る生産力の徴底的破壊、外地人口の歸還に依る絶對量の増加、生活物資の缺乏等々は、結果として國内に失業と飢餓と「インフレ」の危機とを齎しまして、我々は今苦しい宿命を擔つて遠い道を行くやうな思ひがするのであります、斯うした中で問題の補償打切りが行はれまして、擬制資本の壓縮、産業の整理が行はれようとして居りますことは、是は缺乏經濟の現状に於て當然行はれなければならないことが行はれたのであります、補償打切りから齎されまする産業整理は、元來合目的的な整理とは違つて、殘さなければならないものが倒れ、又必ずしも殘す必要のないものが殘ると云つたやうな不合理も免れ得ないのであります、隨て後に述べようと致しまする更に第二段の整理が極めて緊要なのであります
偖て復興金融金庫は、以上のやうな財界整理に伴ひまして、復興の必要にして而も復興の容易ならざる我が産業經濟の現状に對し、個々の企業に付て能く之を診斷致しまして、有效適切に金融的輸血を行ひ、それで以て生産再開の途を開かうと云ふのが狙ひであります、隨て産業界と致しましては、此の際速かに整理すべき事業は勇敢に之を整理し、生かすべき事業は生かすと云ふ態勢を定めねばなりませぬ、是が又復興金融金庫の前提要件であると信ずるのであります、然らば日本の産業をどう整理するか、殊に最近新聞の報道に依りますと、我が國多數の重要生産工場が賠償引當として撤去されようとして居ります、是は固より已むを得ないことでありますが、併し事は極めて重大であります、是は「フル・エンプロイメント」と云ふやうな考へ方から致しますと、全く資本の失業であり、企業の失業であり、必然の結果として勞働の大量失業を生ずる譯であります、實は私は帝國憲法の當議會通過に依りまして、我が民族の新たに生きる方向と意義と根據とが與へられたことを喜び、又渾沌の中に新しい秩序と希望とを見出し得た感激を持つて居つたのでありますが、其の直後に新聞に現はれました此の多數の有力工場の撤去追加の記事で、實はどきんと強い衝撃を受けたのであります、あれは勿論決定したものではないでありませう、併し既に方向を明かにせられたのであります、此の賠償と補償打切りに依る我が財界、産業界の各般の影響打撃から、今差迫つてやらねばならないことは、日本産業經濟の構造全體を愈愈速かに整理更新すると云ふ點であります、即ち補償打切り以後、我が國産業のあり方と共に、賠償撤去と對應して我が經濟的規模は當然相當大幅に縮小されなければなりませぬ、單り量的の問題のみではなく、重工業、化學工業への或る制限も受ける譯でありますから、此の際産業構造の根本的建直しを急がなければならぬと思ふのであります、又賠償工場は元來個有の資産なのでありますから、之に對して國家は如何なる對策があるか、國家の執るべき方針の決定を急がないと、是れ亦徒らに心理的影響を益益大きくする虞が多分にあるのであります、今後の日本産業の構圖──日本の産業は當然縮小されなければならないし、整理しなければならない、如何なる程度に整理されるのであるか、國民と致しましては、次々に重大な問題が起つて來る、是で宜いのかと思つて居ると、又更に大きな問題が起つて來る、いつまで經てば一體此の問題が全部解消するのか分らない、國民の切に願つて居るのは、全體としての根本的な日本經濟の設計圖であります(拍手)速かに斯かるものが出て來なければ國民は助からない、さう云ふ思ひを洵に深くするのであります、此の點は政府當局も十分御承知の所であると思ふのであります、是等の諸點を勘案、綜合致しまして、我が國生産の規模、系列、能力、分布等の問題を急速解決しなければならないと思ふのであります、是が促進に對しましては、此の度の復興金融金庫の持つ一面の任務は重い、復興金融金庫は單なる金融機關ではなく、日本産業の重大なる整理過程に於て、而も生産復興に資金の價値力を導入致しまして、其の上最も良き「ビジネス・ドクター」としての指導力を、謙遜に而も公正に發揮しなければならない、斯樣に考へて參りますと、單に法律が制定せられ、政府出資の拂込が終つて、それで店開きが出來るとは思はないのであります、茲に運營の問題がある、運營は主として運營に當る人の問題に歸するのであります、特に此の法案に於て、先程も御話が出たのでありますが、復興金融委員會なるものに實に廣汎なる權限が與へられて居るのであります、謂はば政府は此の金庫に關する限り、委員會に白紙の委任状を渡して居ると云ふやうな状態なのであります、隨て本法の死命の鍵を握る此の委員會の構成如何が、將來金融金庫が果して所期の目的を達するかどうか、其の岐るる所であることは何人も疑はないのであります、本法の提案に先だちまして、新聞の報道する所では、極めて限られた範圍で少數の委員を任命する政府の方針だと傳へられて居るのであります、之に付ては既に大藏大臣から只今の説明がございましたから、私は深く觸れませぬけれども、補償打切り、賠償工場の撤去等に依り、産業界は相當深刻な打撃を受け、今や總てが全く新たな「スタート」に立たなければならぬのであります、而して斯くの如き實情の下に、整理と復興とに大きく働き掛けるべき復興金融金庫の運用經營の中心である委員會は、單に金融のことに精通して居ると云ふだけでは駄目である、廣く産業界の實情を把握し、裏も表も鋭く見透し得る人物を配せねばならぬと思ふのであります、殊に大工業は殆ど壊滅の運命にありますから、今後は必然的に中小企業の復興に主力を傾倒しなければなりませぬ、温かい心で中小企業者の相談相手となり、手を取つて導き得るやうな知識經驗者を委員に選任することは極めて必要であります、從來の所謂顏とか、或は或る勢力間の「バランス」とかで任命したり、お役所の古株に椅子を與へたりすることのないやうに戒めねばならないと思ふのであります(拍手)以上の根本精神は、又當然直接仕事をする當務者にも實務者にも一貫されねばなりませぬ、國營の弊は既に目に餘るものがあります、一般に極く高い又清い意味に於ての「サービス」が缺如して居る、仕事がお役所的であつてはならぬ、又一般からお役所銀行と言はれて居る特殊銀行的であつてはならない、産業日本、生産日本の或る意味での死活の鍵を握る此の復興金融金庫の最も大切な人的構造に付て、私は尚ほ念を押して──御答辯がありましたけれども、どうか其の點に付ては一層深い御考慮を拂はれんことを希望するのであります
次の質問は資金竝に資材に關してであります、四十億圓の政府出資の外に、更に未拂込資本六十億を見返りとして、其の額まで復興債券の發行又は債務の引受保證が出來ると言ふ建前であります、所謂新圓は金融機關に還流しない、殆ど貨幣資本の蓄積のない現在の實情から見まして、復興債券が市場で消化されないことは明かであります、先程大藏大臣は、萬已むを得なければ日銀の引受と云ふ御話がございましたけれども、恐らく是は從來の赤字公債の場合と同樣、殆ど全部が日銀引受の結果となるのではないかと云ふことを惧れるのであります、隨て若し左樣になりますると、それだけ通貨の増發となることは明かである、而も一切の復興金融を全部此の金融金庫が賄ふと云ふのではなく、本金庫は他の金融機關から融資することの困難な者に資金を供給することが目的なのでありますから、一般金融機關からも勿論復興資金が供給される、そこで通貨は愈愈増發される結果となるべきことは明かであります、然るに復興金融金庫の對象となるべきものの多くは、戰時中の所謂がむしやらな掠奪生産に依りまして、生産設備はひどく荒されてしまつて居る、其の他戰災又は疎開等で破壊されて居るものが甚だ少くないのであります、放出される資金が、破壊された生産設備の復舊等に使はれる、即ち相當に固定性のものになることは免れ得ないと思ふのであります、一方又生産の資材原料が甚だしく拂底して居りますから、生産資金が結局設備の維持費や人件費に流用される可能性が多分にあるのであります、要するに「インフレ」の惡循環を生産に依つて斷ち切らうとして資金が生産の爲に放出されても、現實の生産は一向に實績を上げ得ない、隨て「インフレ」を抑へる筈の資金の放出も、結果としては益益「インフレ」を促進すると云ふ危險を包藏して居ると思ふのであります(拍手)「インフレ」が生産を刺戟し、「インフレ」が生産を促進すると云ふ一部の考へ方もありますが、是は決して觀念論ではなく、我々の現實の前に展開されて居る事實はさうではなくて、明かに「インフレ」が阻碍して居る(「ヒヤヒヤ」拍手)是は儼然たる事實であります、理論的には通貨量が如何に増加致しましても、生産物の流通量が同時に増加致しますならば、勿論「インフレ」にはならない、併し現在の此の事情では、資金の放出が假に全部生産性のものであると致しましても、それが實際の生産となるまでには、相當に時間の距離があり、其の間に「インフレ」の方はどんどん進行する虞があるのであります(拍手)特に極めて乏しい資材原料が、資金の力で追駈けられると、愈愈生産は行詰る、又資材原料の關係から繼續生産が難かしい、生産が斷續する、資材が切れた爲に、一應煙突から煙を吐いたけれども、又止めなければならぬと云ふやうな仕事の斷續は、結局赤字を大きくする、此のやうな事實は現在産業界にざらにあるのであります、現有資材原料の管理と、公正有效な重點配給と、及び仕事が續いてやつて行けるやうに出來なければ、生産復興は單なるお題目に終る虞が多分にあるのであります、是は復興金融金庫の發足と極めて大きく深く關係する所があるのであります
此の場合特に一言致したいのは、終戰後殆ど虚脱状態となつて居る國民貯蓄運動を、今一度新しく出直しをさせる必要があるのであります(拍手)戰時中國民の間から購買力を吸收して、専ら國債消化に大きく貢獻を致しました所の全國の金融機關は、從來は實に吸上「ポンプ」の作用をして居つた、上の方へ大衆の金を吸上げて居つた、然るに今は下からの吸上でなく、逆に上から通貨を大衆の中へ撒散らして居る、即ち下へ流す機關の如くになつてしまつて居ります、一旦流し出たものは環流しない傾向になつて居る、勿論一時は我々に飢餓が迫つて居たのでありますから、貯蓄どころではないと云ふやうな考へ方が官民にあつたことは無理ではない、而も貯蓄の重要性の再認識が今日程緊要な時はないと思ふのであります、戰時とは違つた新しい時代的意義を明かにし、貯蓄方法等の工夫を此の際何とかしなければならぬ、新圓が環流しないで購買力が甚だしく偏在して居る、大衆の飢餓を他所に一部では相當浪費も行はれて居る、幸ひに今年は米も豐作であるらしい、又最近土木建築關係等から放出される資金が頗る巨額に達して居るのであります、それ是れのことを考へまして、此の際社會正義に基き、社會正義を強調する所の救國運動的な、大きな新しい貯蓄運動の展開が極めて必要であると思ふのであります、勿論之には通貨に對する信頼感、安心感と云ふものが與へられねばなりませぬ、隨て又一方に前に申上げました根本的、綜合的經濟計畫の確立、特に價格體系の整備、物價對策の出直し等々が相關聯することは申すまでもないのであります、以上の點に付きまして大藏大臣、商工大臣、膳國務大臣より其の所見を伺ひたいと思ふのであります、
質問の第三點は、元來斯かる金融機關を生れ出でしめた原因として、補償打切りがあり、更に賠償工場問題があり、何れも財界の大きな整理であります、又謂はば敗戰の贖罪でもあります、隨て相當の犧牲を忍ばねばなりませぬ、此の場合其の犧牲の負擔を誰がするのであるか、犧牲負擔の比率──株主、社債權者、一般債權者等々、政府は如何なる順序、程度で犧牲を拂はせようとするのであるか、又最大の間接債權者たる日本銀行は、如何なる犧牲を負擔するのであるか、市中銀行の犧牲と相關聯致しまして、是等の點は恐らく國民の最も聽かんとする所であると信ずるのであります(拍手)大藏大臣の御答辯を願ふ次第であります
第四の點は財界の整理に當まりして、各企業體の資産を如何に評價するかの點であります、是れ亦此の復興金融金庫と一聯不可分の關係があるのであります、巷間傳へる所に依りますると、是は時價に依るとのことでありますが、政府の方針が果して時價主義なのであるかどうか、私は重大問題として特に之に付て政府のはつきりした御答辯を望むものであります、と申しまするのは、果して時價に依ると言ふのなら、其の時價とは何を指すのであるか、「インフレ」進行の現段階に於きまして、物の價値の實體と尺度とを一體どう決め、どう把握するのであるか、時價なるものをどう測定するのであるか、是が問題でありますが、それよりも更にもつともつと大きな問題は、元來擬制資本を殺す爲に軍需補償の打切りを斷行した筈である、然るにも拘らず、一方に於ては既に十分に「インフレート」されて居る其の資産價格と云ふものを以て、評價の標準とすると云ふやうなことでありましたならば、右の手で擬制資本を否認しながら、左の手で擬制資本を是認すると云ふことになる(「ヒヤヒヤ」拍手)斯う云ふやうなことをやつて居たのでは、一部の資本家は助かるかも知れないけれども、國民は救はれませぬ、徒らに巷に大きく整理の「ラッパ」を吹き鳴らしながら、事實は整理をしないと同樣の結果になり、一時を胡麻化すことになる譯であります、(「ヒヤヒヤ」)此の點に關しまして石橋大藏大臣、膳國務大臣より御答辯を得たいのであります
之を要するに本法案は、現下我が國の實情に於て其の成立を急がねばならぬものと信ずるのであります、而も本法を生み出す背後には、國民の大きな犧牲──全く生々しい血を搾るやうな犧牲が拂はれて、財界各般の戰爭贖罪的な大整理が行はれ、之に伴ふ此の復興金融金庫であります、今後更に整理の進行に伴ひまして、幾多の社會的、經濟的摩擦も、日本經濟新發足の前には忍ばねばならぬと思ふのであります、而も本法の關する所は、單に一大藏省だけではなく、最も深く商工省と關聯し、農林、運輸、厚生各省とも交渉する所が多いのであります、隨て産業政策と金融政策とが十分に「マッチ」しなければならぬ、關係當局は、苟くも縄張主義や分捕主義、其の他「セクショナリズム」の弊に陷ることなく、嚴肅なる使命感に基き、一日も早く、又少しでも多く生産復興が實現するやう十分の協力をせられねばならぬことを痛感するのであります(「其の通り」拍手)而も事の性質上、敏速果敢なる機動性を要すること又洵に切實なのでありますから、苟くも瀕死の病人を前にして、悠々と醫學論に耽ると云つたやうな愚かさに墮してはならない、血の通つた、分りの宜い機動性を十分に發揮する要があるのであります、資金の放出が放漫に流れてはならないと同時に、安全性に力を入れ過ぎて、復興生産の機會と意欲と、又其の實現を阻むやうな結果に陷ることも戒めねばなりませぬ、或は金融金庫のみの成績や安全に注意が傾き過ぎて、復興せしむべき中小企業への融資を澁つたり、資金の囘轉率を重視して、事業の本質を輕視すると云ふやうなことがあつては、此の復興金融金庫は本來の使命に反することになる譯であります、而して産業政策と金融政策とが完全に融合して、眞に國家目的に副ふ爲には、關係各省間に先づ眞に虚心坦懷な協力がなければならぬ、「セクショナリズム」を完全に追放して、眞に協力態勢を確立することが、此の復興金融金庫をして國民の期待に副はしむる第一の、又唯一の途であると信ずるのであります、此の點に付て私は特に政府當局の責任のある答辯を要求したいのであります、之を以て私の質疑を終ります(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=9
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010・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 北村君の御質問に御答へ致します、日本の今後の産業構造を建直すと申しますか、其の構圖を必要とすると云ふことは、御説の通りであります、但し此の構圖は、極く輪廓的には「ポツダム」宣言に依つて其の輪廓が定められ、又其の後「ポーレー」大使の賠償に關する聲明に依つて其の輪廓が定められて居りますから、自ら其の行ふべき道ははつきりして居ると思ひます、其の中に於て政府は其の構圖を定めて參ります、隨て此の金融金庫が如何なる方面に如何なる融通をするかと云ふことも、亦之に依つて自ら定まると考へて居ります、委員其の他の人選を十分に氣を付けなければならぬと云ふことは、是は申すまでもなく御説の通り政府も其の心得であります、それから御役所主義を排斥しろと云ふことも、同感であります、其の積りであります
其の次に「インフレ」問題を北村君も言はれましたが、是も先程青木君に御答へしたと同樣でありまして、一面に於ては機動性を以て大いに融通をしろと云ふ要求と同時に、又其の融通に依つて「インフレ」が起るだらうと云ふ虞がある、其の間をどう縫つて行くかであります、尚ほ資材等に付ては他の關係大臣から御答へすると思ひます、國民貯蓄運動を新しく見直して起せと云ふこと、是も私が屡屡申上げます通り、同感であり、やる積りであります、但し是は、なぜそれでは愚圖愚圖して居るかと言はれるでありませうが、それには其の前に多少の工作を要すると私は考へて居ります、是も屡屡申上げましたが、蠅を此の部屋に放つても逃げて行く、飯粒を置けば自ら蠅が來ると云ふ、二宮尊徳の言葉を想ひ起すのであります、飯粒を置いて蠅が來るやうにして手を打たなければ、貯蓄奬勵運動を起しても、私は餘り效果がないと思ひます、でありますから、最近の色々の整理其の他の處置を一應講じまして、強力に國民貯蓄運動を起さうと思ひます
それから補償打切りに因る損害の負擔、或は企業の評價方法をどうするかと云ふ御尋ねでありますが、是は本日御答へを致し兼ねます、但し今北村君の御言葉の中に擧げられましたが、企業の評價を所謂時價にする、それに依つて水膨れをすれば、一部の資本家を援ける、確かにさうであります、評價を低くすれば其の會社の保護になります、さうして同時に金融機關に損害を與へるのであります、それ等の色々複雜な關係があることだけは、是は北村君は専門家でありますから能く御承知と存じますが、さう云う點で是は中々難かしい問題であると云ふことだけを申上げて置きます、具體的には私からは今日御答へが致し兼ねる次第であります、以上簡單でありますが御答へと致します
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=10
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011・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 北村君の只今の御質問は、御質問と云ふよりも寧ろ當金庫運用に關する御警告として、謹んで承ります、洵に至れり盡せりの御諫めでありまして、殆ど私は同感する所であります、殊に補償の打切り、賠償の問題に依りまして、愈愈大企業と云ふものは日本から影を沒するやうなことになりますので、今後日本の再建には、中小企業を中心としなければなりませぬ、それを興す爲には、どうしても今囘の此の復興金庫を十分に運用して行きたい、斯樣な考へから、特に單純な從來の金融機關ではありませぬから、大藏當局と話合つた結果、是は共管として、何處までも産業本位に之を働かせて行きたい、斯樣な考へが、自ら如何に今後の運用をして行くかに付きましての方針を物語つて居るだらうと考へます、爾今、本日の御警告に對して十分之に意を用ひて行きたいと思ひます(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=11
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012・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 御答へ申上げます、産業再建の構想に付きましては、大藏大臣の御答へもありましたが、實は之を立てますのは經濟安定本部の最後の目的であります、私が豫め構想を持つて居つたのではいけないのであります、何時も申上げまする通り、之には科學的、統計的の基礎が先づ欲しいのであります、從來の政策が或る企畫性を持つて居つたやうに見えまするけれども、是は希望的の數字を集めた企畫であります、又或は腰だめの企畫であります、斯くの如きものは宜しくありませぬので、是か爲に經濟安定本部では、第一の基礎事業と致しまして、今統計調査の基礎的工作、是も準備ではありませぬ、既に人口に關しまする推計の統計は濟みました、是から物資の需給其の他の基礎的の研究を續けて居ります、此の上に各方面の實際の知識、學問を集めまして、經濟安定本部は一箇年の中には必ずお目に掛けたいと存じて居ります、只今此の國際情勢の變化の激しい間、殊に日本の差當りの經濟再建に付きましても、賠償の範圍は大體に於て分りましたけれども、まだ確定したものは私共には分りませぬ、又補償打切りの影響等に付きましても、どう云ふ風な影響がどう及ぼすかと云ふことは、今直ちに豫測を確定して置くことは甚だ危險でございまして、是等の情勢を見合ひつつ、私共は徐ろに、確實に、而も出來るだけ早急に經濟再建の構想を描いて、皆樣に御報告を申上げたいと存じて居ります
尚ほ其の次に賠償物資の補償の問題でありまするとか、或は今の評價の問題に付きましては、大藏大臣の仰せられましたる通り、今私何も申上げることができませぬ、左樣に御諒承願ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=12
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013・北村徳太郎
○北村徳太郎君 各大臣の御答辯には、まだ問題が殘つて居ると思ふのであります、特に膳國務大臣の只今の御答辯では、色々な畫策を一箇年位掛つてやると云ふやうな御答へでございましたが、科學性ある綜合的な計畫實行を要するのでありませうけれども、現在の日本の現状は、一箇年の時を待つには、餘りに切迫して居ると思ふのであります(拍手)私は相當意見がございますけれども、本日は此の程度で質問を打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=13
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014・山崎猛
○議長(山崎猛君) 島田晋作君
〔島田晋作君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=14
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015・島田晋作
○島田晋作君 私は日本社會黨を代表致しまして、只今上程されて居りまする復興金融金庫法案に付きまして、若干の質問を致したいと存ずるのであります、申すまでもなく此の復興金融金庫法案は、軍需補償打切りに伴ふ、政府の意圖する財界整理方策の一環をなすものでありますので、是のみを切り離して論ずることは、本質的には大した意味を持たぬのであります、まだ是から色々な關係法案が出て參るのであります、其の意味に於きまして、私は財界整理の全體的構想に付て先づ以て經濟安定本部總務長官たる膳國務大臣に對して質問致したいと存ずるのであります
聯合軍總司令部、經濟科學部物價統制割當課長の「W・S・エゲクヴィスト」氏は、經濟安定本部の機能に付きまして、次のやうなことを述べられて居るさうであります、即ち日本經濟の復興を圖り、健全な經濟計畫を推進する爲には、單一の機關を設置し、之をして一切の適正な事實を統合せしむることが極めて望ましい、日本では軍需省が軍需品の生産に強力な統制を實施して居た、戰時中よりも今日こそ健全な經濟計畫を必要として居る、經濟安定本部が生産増強と必需品の公平な配給を行ふ爲め、經濟統制を有效に行使し得る緊急對策機關となることを希望する、斯う云ふのであります、又續けまして、經濟安定本部は物資の生産、配給、消費、勞力、價格、金融、輸送の如き國家經濟に對し、基本方策を樹立する責任を有すると共に、經濟問題に關しては各省の行動を統一監督する權限を有すると申して居るのであります、そこで私は先づ膳長官に質問致したいのであります、經濟安定本部は日本經濟復興の爲め、一體如何なる經濟計畫を持つて居られるか、先程の御答辯中にはありましたけれども、大變抽象的でありまして、どうも具體的にはつきりしませぬ、是は初めから經濟計畫はないのか、又一年後でなければ樹てられないのか、又現に樹てて居る範圍内に於てはどの程度のものか、斯う云ふ點を一つもう少し具體的にはつきり我々に示して貰ひたいのであります、是がはつきりしませぬと、我々は現在與へられ、或は與へられんとする一聯の財界整理法案が、具體的に如何なる基本方策の上に立ち、如何なる方向へ、如何なる速度を以て、如何なる手法を以て推進されるのか、皆目分らぬことになるのであります、土臺が一向決まつて居らぬ、土臺がぐらぐらして居るのに、而も設計圖さへも出來て居ない、さうして唯漫然と兩三年の間には何とか目鼻が付くだらうと云ふやうな氣持で、而も床の間を背負つて居る所の極く少數の資本家や地主を助ける爲に、全國民の九割五分を占める勤勞大衆の犧牲に依つて、日本と云ふ家の建直しを強行すると云ふのでは、我我は斷じて承服することは出來ないのであります(拍手)併しながら膳國務大臣は斯樣に答へられるかも知れませぬ、經濟安定本部は開店勿々まだ準備が足りない、併し軍需補償打切りに伴ふ財界整理は急がねばならぬから、安定本部としては、政府が既に決定した財界整理案を鵜呑みにして、其の線に沿うてやる、唯具體的細目に付て今後立案し、施策して行くのだ、斯う答へられるかも知れませぬ、若し是が事實ならば、安定本部の機能は關係筋の暗示しましたものとは非常に違つて來るのではないかと、私は左樣に考へるのであります、是では經濟安定本部は、内閣の運命に超然たる計畫經濟樹立の單一機關でもなければ、又經濟問題に付て各省の行動を統一監督する權限もをかしなことになるのであります、我我の考へと致しましては、日本經濟再建の爲には、生産と金融の兩面に亙つて徹底的な整理と最も合理的な再組織化が絶對に必要と信ずるものであります、之を逆に申せば、生産と金融の兩面に亙る整理が不徹底なものであり、又其の再組織化が舊態依然たる資本主義的なものであつては、日本經濟の復興は絶對不可能であると信ずるものであります(拍手)是れ即ち我々が民主的な基盤の上に立つ最高經濟會議の下に、基本的な重要産業の國家管理乃至國營、金融機關の全面的な國家管理、眞の意味での社會化と云ふものを、單なる「イズム」や「イデオロギー」からではなくして、日本經濟再建の極めて現實的な、而も不可缺な條件であると主張する所以なのであります(拍手)而も我々は此の生産と金融の兩面に亙る再組織化を、決して上から天降り的に齎らさんとするものではありませぬ、筋肉勞働と頭腦勞働とを問はず、眞に働く勤勞大衆を中心とした、下からの盛上つた民主的な組織化を期待して居るのであります、然るに膳國務大臣は、去る八月二十四日新聞記者團との會見談に於きまして、經濟再建の問題に關し頗る重大なることを述べて居るのであります、私は之を朝日新聞紙上で拜見致しましたが、此の中で斯う云ふことを膳國務大臣は申して居ります、「補償打切りに伴つて數十萬の離職者が出るが、勞働者が企業整理の重要性を認識せず、唯解雇絶對反對を唱へて整理再建に協力しないと云ふやうなことでは困る」、又斯う言つて居ります、「企業内部で勞資雙方の協議で人員整理が決定しても、資本家側の力が弱い爲に人員整理が妥協的になる惧れが多い、生産設備に適合した勞務調整を確立する必要上、政府としては、斯う云ふ不徹底な整理は認可出來ない、安定本部は各産業部門に付て現在及び將來、大體此の位の勞働者が必要であり、それ以上は整理すべきだと云ふ合理的な基準を數字的に決定する、其の際勞働者側の反撃も考へられるが」云々と申して居るのであります、私は此の新聞記事を見まして、資本家階級の代表的な「ブレーン」であり、而も最も精悍な鬪士であつた膳桂之助なる人物の、面目躍如たるものがあることを痛感したのであります(拍手)此の人物の考へ方は洵にはつきりして居ります、徹頭徹尾資本家的であり、隨て反勞働者的であります、併し勞働者が企業整理の重要性を認識しないと云ふ膳長官の言葉は、餘りにも獨斷的であります、勞働者が反對するのは資本家的な企業整理に付てであります、勤勞者の負擔と犧牲に依る企業整理に反對するのであります、隨て斯かる資本家的な企業整理の行き方が結果する所の解雇首切りに絶對反對することは又當然であります、眞に民主的な勤勞者本位の企業整理或は産業合理化に付ては、勤勞者は寧ろ積極的に自律的に努力する決意と用意とを持つて居るのであります、又人員整理に付て膳長官は、資本家側の力が弱い爲め、人員整理が妥協的になる虞が多いと觀測して居りますが、如何に資本家陣營の代辯者とは言へ、經濟安定本部總務長官の言葉としては、餘りにも亂暴な言葉ではなからうかと私は考へて居ります、斯かる挑發的な言辭に對しては、我々勤勞大衆は斷乎抗爭することを改めて茲に宣言するのであります(拍手)人員整理の合理的な基準は、政府や資本家の一方的な判斷で決定さるべき性質のものではありませぬ、是は前申しました日本經濟全體の徹底的整理と再組織化の見地から、民主的に決定されるべきものだと思ふのであります、然るに膳長官は、企業資産評價の方法に關しまして、甘い評價を行ひ、水膨れを今後に持越すやうなことは十分避けたいと、一應天下の輿論を尊重しながらも、最後の決定は評價委員會で行ふと云ふ風に逃げて居るのであります、所が此の評價委員會なるものは、民間企業と金融關係者を含めたものでありまして、勤勞者は直接積極的に參加出來ない仕組になつて居るのであります、又評價の順序に付きましても、膳長官は暫定評價を行つて一應出發し、後で本格的な評價をすると云ふ二段の方式も宜いと云ふ見解を述べられて居ります、是は極めて「ルーズ」な見解でありまして、從業員の首切りには今大だんびらを振り廻はす勇敢なる膳長官でありますが、事、金融資本家や産業資本家の懷ろに直接影響する企業資産の評價の段になると、斯樣に曖昧模糊となり、少しでも時を稼がうと云ふ餘りに、「インフレ」の昂進を豫定し、時を稼ぐことに依つて、補償打切りに依る資本家の損失負擔を輕減しようとする魂膽に外ならぬと考へるのであります、以上日本經濟復興に關する經濟安定本部の經濟計畫、或は經濟表と云つた基本的なものがあるならば、之をはつきり茲に示して貰ひたいし、持合せがないならば、經濟安定本部と云ふものはそれで宜いものかどうか、斯うした點を膳國務大臣から明確に答へて戴きたいのであります、又之に關聯しまして、先程の人員整理其の他に關しまして、河合厚生大臣からも御見解を承つて置きたいと存ずるのであります
次は主として石橋大藏大臣に質問致したいと存ずるのであります、私の質問は三點であります、第一點は「インフレ」の今後の見透しに付てであります、先程から大分「インフレ」論がありまして、私共も半ば以上同感でありましたが、此の點に付きましては、先般豫算總會に於きまして、我が黨の水谷委員と大藏大臣との質疑應答中に能く現はれて居りますが、大藏大臣は、「インフレ」の前途に付きまして可なり樂觀的は見解を持つて居られるのであります、大藏大臣は、現在の通貨數量が大體「マキシマム」に達して居ると述べて居られます、大藏大臣は寧ろ「デフレ」化を惧れて居る、即ち斯う云ふことを豫算總會で述べて居ります、今度の整理は經濟界の非常な整理であつて、若あしも此の儘で整理を仕放しにして置けば、言ふまでもなく通貨は收縮致すべきものと考へます、併しながらそれでは困るのでありまするから、さうでなく經濟界が維持されて行く、さうして維持されて行くどころぢやない、寧ろどんどん生産を増して行くやうに致す爲には、少くとも現在の通貨の數量位は維持すると云ふ方策を執つて行かなければならぬと私は考へて居ります、斯う申して居るのであります、此の大藏大臣の考へ方を分析致しますと、第一に、此の儘整理を仕放しにして置けば「デフレ」化は必定である、第二に、「デフレ」化しては經濟界は維持されない、第三に、隨て此の際「インフレ」政策を打切るべきではないと云ふことになるのであります、而も大藏大臣は、「インフレ」は今が頂上だと云ふ風に觀測されて居るやうであります、石橋大藏大臣が個人と致しまして抱かれて居る、獨特な、一種奇妙な「インフレ」理論に付きましては、私は此處で理論鬪爭をする時間も興味もありませぬが、唯併し責任のある所の大藏大臣として、現實に即しない、寧ろ希望的とも稱すべき「インフレ」前途觀に立つて、色々な財政金融經濟施策をやられたのでは、我々勤勞大衆は洵に迷惑千萬と言はざるを得ないのであります(拍手)我々の考へでは、今囘の財界整理案を此の儘に仕放しにして置けば、「デフレ」化どころか、「インフレ」の再昂進は避け難いと思ふのであります、而して其の結果はどうなるかと申せば、勤勞大衆の生活は愈愈窮迫し、其の反面資本家は、時價主義を原則とする資産再評價の値上りに依つて、企業整理は上つ面だけで、場合に依つては赤字どころか黒字になるものも出て來ませう、假に個々の事業家とか、銀行の經理は結局赤字になると致しましても、金融資本或は産業資本全體として考へれば、少しも痛くも痒くもない整理に終る危險が十分にあるのであります、隨て資本家的整理方式としては巧妙なものかも知れませぬが、現有の生産力と見合せて、徹底的整理を行はぬと云ふと、本當の意味での財界整理は胡麻化されてしまふ、詰る所、擬制資本の整理を擬制資本で行ふと云ふ「ナンセンス」に終つてしまふのであります、併しそれでも生産の再開が可能となり、今日の縮小再生産の状態が擴張再生産に移行すると云ふならば、一應我慢も出來ませうが、併し今日の日本經濟は凡ゆる角度から見て、「インフレ」昂進に依つて、生産を増大させる可能性を完全に失つて居るのであります、否、是れ以上に「インフレ」が昂進したならば、「ノミナル」な生産は殖えるであらうが、縮小再生産に拍車を掛けることは明々白々でありまして、是では日本經濟は、再建どころか、二度と再び立てなくなることを覺悟しなければならないのであります、假に財政上の國庫支出の面を拔きに致し、整理途上に於ける金融機關の追加的信用の面のみを考へましても、「インフレ」の再昂進は必至であります、現に此の復興金融金庫法案に依る復興金融金庫のみでも、百億圓の新資金が放出される、又一般の金融機關に付ても、第一封鎖預金と預貯金合計、總額約二千四百億圓の中の七割七分、千八百四十億圓と云ふ巨額なものとなつて居るのでありますから、此の潜在通貨がいつ何時顯現して通貨膨張を促進しないとも限らぬのであります、少くとも先般の金融緊急措置令の改正は、通貨膨張の抑制とはならないのであります、況や財政支出に付て言へば、今後出る所の巨額の追加豫算を考へるだけでも、「インフレ」促進の傾向を助長することは明白であります、最近食糧事情の好轉の氣構へがあつて、物價の騰勢を若干停滯させて居りますが、來春の通貨發行高一千億圓説と云ふものは、強ち架空の豫想とは片付けられないのではないかと思ひます、さうなつては如何に大藏大臣が新圓の再封鎖をせぬとか、或は新々圓を作らぬとか言明されても、新圓への危惧の念は驅逐出來ないのであります、以上の點、新圓「インフレ」の見透しに付て石橋大藏大臣の責任ある答辯を伺ひたいのであります
第二點は、先般の金融緊急措置令施行細則の改正に付てでありますが、當時我が黨の聲明したやうに、一世帶一銀行毎に一萬五千圓乃至三萬二千圓を第一封鎖とする建前、あれは何と言つても不當であり、不公平であります、是は既に輿論となつて居りますし、又自由黨や進歩黨の諸君は、大多數は同感であらうと考へるのであります、是は宜しく金融手帳一本に改むべきであります、大體一口一萬五千圓以下の預金者が、口數のみならず金額に於て、總預貯金額の大部分を占めて居ると云ふことは、常識上信ぜられないことでありまして、是は大口預金者の小口分散が、豫想外に巧妙に行はれた證據だと私は言ふのであります、此の際「インフレ」抑制の點から見ましても、即時同令の施行細則を再び改正しまして、小口分散に依る不當利益を防止するべきであると考へます(拍手)此の點大藏大臣は、輿論に從つて、再改正の意思ありや否や、是も率直に答辯されたいのであります
第三點、是は本復興金融金庫法案自體に付ての若干の質問であります、第一に本法案を通讀致しまして、最も重大と考へられる一つは、復興金融委員會の機能と構成であります、此の點は先程も多少觸れられて居りましたが、此の委員會に關する規定は總て勅令に讓られて居りますが、傳へられる所に依りますと、此の委員會の構成分子中には、國民の代表たる衆議院議員から一人も豫定されて居ないと聞いて居ります、况や勞働者や農民や中小商工業者の代表の選出は、夢にも考へられて居ないのであります、どう云ふ意味で衆議院議員からの選出を致す意思がないのであるか、理由をはつきりして貰ひたい、又復興金融委員會が復興金融金庫の運用に關して占める地位の重要性から考へまして、此の運用委員會は眞に民主化したものにする、それに付ては今言つた衆議院議員、或は勞働者、農民或は中小商工業者の代表を入れる、斯う云ふ意思が大藏大臣にあるかどうか、是も伺ひたい、是は又獨り復興金融委員會ばかりでなく、復興金融金庫自體の人的構成に於きましても、大藏大臣は豫算總會に於きまして産業人も包含したいと述べて居りますが、此の産業人と云ふ概念は、所謂産業資本家のみならず、技術者や勞働者を含めた意味でなければ、本當の意味の産業人と言へないと思ふのであります、此の點に付きましても大藏大臣はどう云ふ風に御考へになつて居るか、はつきりして戴きたいと思ひます、第二に中小商工業者の資金融通の點でありますが、本法第一條にもありまするやうに、「復興金融金庫は、經濟の復興を促進するため必要な資金で他の金融機關等から供給を受けることが困難なものを供給することを目的とする。」、斯う明記されて居りますから、中小商工業者、特に戰災に遭つた人々に對して、擔保の有無に拘らず、十分に必要なる資金を供給する必要があると考へますが、此の點に付きましては本法案に特別の規定がありませぬが、政府としまして、何等かの形で中小商工業者に、優先的に資金融通を保證する意思があるかどうか、是も伺ひたいのであります、第三に、本金庫からの貸付は、只今申しましたやうに特別なものでありますから、場合に依つては囘收不能に陷る場合があると思ひます、其の時に政府としては如何なる對策で行くのか、又百億圓の資金が不十分な場合は、必要に應じて政府は増資する意圖を持つて居るかどうか、第四に、本法第十七條には、復興金融金庫は設立の日から三年を經過した後は新規の業務は出來ないとあります、是は略略三年程度で財界整理が終了すると云ふ政府の見透しに立つものと理解されますが、先程も大藏大臣が之に付て一言されましたが、是は具體的に如何なる根據に基く豫想であるか、此の點も明確に伺ひたいのであります、第五に本法の金融金庫と最も密接な關係にあります日本興業銀行、日本勸業銀行の合併は云々と云ふ新聞記事がありましたが、さう云ふ意向が政府にありますかどうか、又本金庫と興銀との關係は將來どうなつて行くか、全然關係がなくなつて行くのか、關係があるのか、斯う云ふ點に付てであります
大體私の質問は以上で盡きます、要するに財界整理の基礎としての經濟計畫の全貌と云ふやうなもの、又企業整備に關する新聞記者團との會見談、之に付きまして膳國務大臣の御答辯を煩はしたい、又之に關聯しまして河合厚生大臣の御答辯、又時價評價の問題に付きましては、大藏大臣から改めて御答辯を戴きたいと思ひます、最後には「インフレーション」問題、又金融緊急措置令の再改正をする意思はないかどうか、それから只今申しました復興金融金庫法に關する五つの問題、之に付て率直明快なる御答辯を煩はしたいと思ひます、私の質問は之を以て終ります(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=15
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016・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 島田君の御質問に御答へ申上げます、先づ最初の御質問は經濟安定本部の是からのやり方と言ひますか、仕事の仕方に付ての御尋ねのやうでありますから、暫く其のことに付て申上げます、經濟安定本部の使命、是は先程御朗讀なされましたやうな經緯もあるやうであります、官制に依りますると、經濟安定本部は生活竝に生産物資の生産配給、又物價、金融、輸送、勞務等に關しまする經濟の再建に必要な國家の根本方策の樹立と云ふことと、是等の問題に關係のありまする各省の事務の統一及び其の事業の監査、促進と云ふやうなことが、經濟安定本部に命ぜられたことでありまして、積極的方面と消極的方面とを持つて居ります、消極的方面のことは暫く申上げませぬ、積極的の方面に付きましては、私共の今計畫して居りまするものは、根本の方策と應急の對策であります、先程一年内にと申上げましたことは、其の根本の方策であります、先程申上げました通り、我が國の人口及び原料等の關係、又輸出入等の豫想、是等を數學的、科學的基礎の上に見極めまして、尚ほ補償打切り或は賠償設備の撤去等に依りまする國内の經濟の變動をも見極めまして、是等の現實なる基礎及び將來の見透しの上に、國の進んで行くべき經濟の再建方策如何を樹立して御答へするのが、經濟安定本部の第一番の役目であります、但し二千六百年、國民が理想を以て打樹てて來た其の理想が、中頃にして誤れることを發見しまして、此の敗殘日本の有樣であります、從來の色々の考へが拂拭されまして、茲に新しい平和日本の確立の構想が行はれるのであります、若し私が就任一箇月にもならない此の席に於きまして、斯く斯くの方策、斯く斯くの方針などと云ふことを申上げたならば、甚だ私は自分の職責に不忠なるものであると考へるのであります、私は就任勿々の時に、色々の委員會や何かで申上げました此の問題は、「イデオロギー」から來る問題ではない、此の問題は主義から來る問題ではない、凡ゆる主義、凡ゆる「イデオロギー」を超越しまして、日本のありの儘の姿を見て、若しそこに採用するに良い主義があるならば、どの政黨政派、どの主義のものでも結構であります、苟くも日本の將來の經濟の安定を圖ります上に宜しいことでありますならば、喜んで之を入れたいのであります、是が爲に經濟安定本部は獨斷をば非常に防いで居ります、それが故に經濟安定會議は軈て開かれます、又差當りの問題は應急の措置に追はれて居ることも事實であります、私共は大體斯う考へて居ります、約半年は應急措置、言葉を換へて申しますれば、補償打切りに伴ひまする色々の變動に對する應急の措置、賠償物資の撤去、之の明確になるに連れて起ります色々な問題に對する對策、是等の問題で如何樣に動くかと云ふことを先づ見極めると同時に、是等に對する應急策を講じます、此の機關に──是からでは間に合はないものもありまするけれども、私共は今まで日本の各方面にありまする調査、或は統計を廣く集め、多くの衆智を集めて準備を致します、私共は日本の是から三千年、五千年の永遠の計の先づ其の第一歩を定めるのに、膳桂之助の貧弱なる知識或は官廳の今持合せて居りまする狹い見解、是等のものを以て直ちに繪圖を描いて、之を皆樣の前に申上げると云ふことは餘りにも僭越に過ぎ、又私のやるべからざることと考へまして、此のことは改めて皆樣に御相談申上げます(拍手)但し現在の應急の措置に付きましても、私共に樣々な問題が與へられて居ります、と申しますのは、内外の情景の變りに依りまして、實は正直に申しますと、昨日私共が考へて居らない問題で、今日私共の緊急にやるべき問題として提供されて居る問題の幾つかがあるのであります、私共は其の一々は、それ等に關係のある法案等の色々の調査會に於て、必ずや皆樣方に色々申上げる機會が出來やうと思ひます、今此の席で申上げることを避けます
其の次に朝日新聞の記事にありますことで、私に對して色々の仰せがありました、私が何か至らぬ話をした爲に誤解が出たとすれば、甚だ相濟まぬと思つて居りまするが、改めて此の問題に付ては、二つのことに付て御諒承置きが願ひたいのであります、よく今までに御論議の中に、私が過去に於てどう云ふ仕事をして居つたと云ふことに關聯せられまして、豫め何か斷定的の御考へを置かれて私を批判することは、是は私切に御容赦が願ひたい、と申しますのは、是からの日本の再建に(「言譯は要らないよ」と呼ぶ者あり)言譯は申しませぬ、唯私の申しますことは、要するに是からの私のすること、言ふことに付て、御批判を願ひたいと云ふことが一つであります、もう一つは、只今御讀上げになりました新聞紙の御讀上げのなされ方に付て、私少し腑に落ちない所がございます、勿論私が執筆したものではありませぬ、併し大體今申したやうなことに付て、新聞社の方々と會見談を致しましたことは事實であります、併しながら只今御讀上げの部分は、實は言葉の末の枝葉末節だけを御讀上げになつたやうに心得ます、と申しますのは、私の問はれた問題は斯う云ふことであります、補償打切りの企業整備に關聯して、或は解雇に付ての問題が起きるが、「ストライキ」を禁止すると云ふやうな法律を出す御考へは持つて居られるかと云ふことが質問の本旨でありました、私は毛頭左樣なことは考へて居らぬ、然らばどう云ふ風にして問題を解決する積りかと云ふやうな御質問、それは私は話せば分る、と云ふのは、此の人員整理の問題は企業主の責任に依る問題ではないのだ、何も企業主の事業のやり方が惡いので起きるのではないのだ、國が已むを得ざる事情に依り、將來の國の發展の爲に思ひ切つて今までの經濟の建直しをする已むを得ざるに出づることなので、此の問題は勤勞者諸君に能く話せば必ず分るのだ、そこで此の問題は、先づ組合が工場にある場合には組合に相談をする、又ここに經營協議會の如きものがあるならば、そこで相談をするのだ、さう云ふものがあるなしに拘らず、若し後ろに組合と云ふものがある場合には、能く組合の諸君と熟議して、それでやるべきことはやるんだ、其の際に人間の問題に付て緩いかきついかと云ふ話が起きたと思ひます、其の際に私は今度の企業整備は企業の根本的の整理なんだ、此の際に總ての企業の資本其の他のものだけが完全に掃除されても、唯一時的の勢力の爲に要らない人がうようよして──うようよと云ふ言葉は惡うございます、兎に角工場内に水脹れして居つたならば本當の整理は出來ないぢやないか、それこそ泰山鳴動して鼠一匹ではないか(「簡單に願ひます」と呼ぶ者あり)どうぞ御聽き下さい、御質問があつたから御答へ致します、そこで私は斯樣に申上げたのであります、其の時にどう云ふ標準があるのかと云ふやうな御尋ねに對しまして、兎角事業家は妥協したがる、強い力で壓迫されれば、自分で損にならない計算ならばそれは直ぐ折れる、と云ふのは、企業整備に依つてどれだけの人を殘すかと云ふことは、結局金融機關──本日問題になつて居りまするやうな、斯う云ふ金庫の融通する資金、詰り生産に向くべき資金が、先程も御話にありました、唯食はんが爲の「インフレ」助長の金に向いては大變なんだ、そこで後で仕事をやる失業對策なり其の他の方策で、さう云ふ人達を道に就けることは十分にやらなければならぬけれども、一時の其の力の壓迫の爲に、若し本當に業界を一度綺麗に、此の前總理大臣の聲明にありましたすつきりした姿の産業にしなければ、何の爲に是だけ大騷ぎした企業整備だか分らなくなるから、そこで其の際には或は冷酷と云ふことではありませぬけれども、詰り一つの目を瞑るべき斷もあるであらう、其の斷の標準はどうかと云ふ御尋ねもありまして、私が決めるべきではないが、要するに是は合理的に其の事業を將來使ふ場合、或は何割か必要な人を殘すであらう、或は又勞働時間其の他の企業の適正化を圖る場合に考慮する點もあるであらう、併し唯力に壓迫されて、それで本當にすつきりした姿にすべきものをしなかつたならば、又もう一度企業整備と云ふことが起きたならば、是だけ大きな國民の犧牲に於てやるものが意味をなさなくなる、斯う云ふやうな意味を申上げた積りであります、恐らく今御讀上げになつた新聞の中に、其の全部は載つて居らぬかも知れませぬけれども、「ストライキ」をやる積りかと云ふことに對して、それをやるとか、或は其の問題に付ては組合と協議するとか、或は經營協議會と云々と云ふことは必ず書いてあると思ひます、所が其の點を讀まないで、何か知れませぬけれども、非常に刺戟的に聞える點だけを御讀み下さる、それはどうか堪忍して下さい、私共は誠心誠意、如何なることに付きましても本當のことをやりたいと思ふのでありますから、どうぞ部分的の片言隻句を讀んで私を非難して下さることは、平に御容赦あらんことを御願ひ致します(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=16
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017・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の島田君の私に對する御質問は、軍需補償打切りに伴ふ企業整理に對して如何なる勞働政策を執るかと云ふやうな點であつたと思ひますから、其の意味に於て御答へ致します
それで此の具體的のことに付きましては、各關係方面と協議をして居ります、それで出來るだけ早い機會に於て具體的なことを申上げる積りで居ります、唯極く抽象的の氣持を申上げますと、先づ第一番に近い將來に於て企業が勃興するだらうと思ふ方面の整理は、成べく少し殘して置いて呉れと云ふ積りであります、それから時間短縮を生産に支障のない限り考へたい、殊に資材燃料が許せば從業員の交替制も採つて欲しい、具體的な整理案に付て勞働組合の意見を徴して貰ひたい、經營協議會もある時には出來るだけ之を善用活用して欲しい、それから勞働組合の指導者であると云ふ故を以て解雇をしてはいかぬ、出來るだけ合理的の方法で整理方針を進めて欲しい、それから解雇手當などの問題に付ては、規定のあるものは規定に依るが、規定のない部分に付ては或る程度の標準を示す、それから九月、十月、十一月、あたりの賃金だとか、俸給などの支拂に困る事業會社があるかも知れぬから、さう云ふ方に對しては復興金融金庫等で融通をする、それから解雇手當の最小限度を拂ふことが出來ぬやうなものは、政府で融通の方法を講ずると云ふやうな線に沿ひまして、只今具體的の問題を解決しつつあるのであります、それで近い中に解決をしましたならば、又申上げる機會があらうと思つて居ります(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=17
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018・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 島田君の一つの御質問は、やはり「インフレ」問題であつたやうに思ひます、私の考へ方を分析して下さいまして大變能くはつきり致しましたが、唯併し最後の其の結果、私が「インフレ」の政策を打切るべきでないと云ふ結論に達したと云ふ點は、少し間違つて居ります、私は先刻から此處で申上げる通り、今日は謂はば日本の經濟と云ふものは、重病人の囘復期にならうか、或は囘復の途中とも言へない位でありませう、でありますから、之の醫療と云ふものは中々簡單でありませぬ、唯一般に言ふ──是はいつも言ふことでありますから此處で繰返しませぬが、一般に言ふ「インフレ」對策なら、「デフレ」で片付くけれども、それでは片付かぬ、斯う云ふことを申して居るだけなのであります、それから序に最近の通貨の増發が非常に多いと云ふので、「インフレインフレ」と言はれる、是は通貨の多いと云ふことを「インフレ」と呼べば、其の通りでありますが、案外物價は落著いて居るやうに見えます、と云ふのは、東京露店市場の物價指數でありますが、二月末が一一九、是は二月十四日を一〇〇にしたものでありますが、二月二十七日頃が一番高かつたやうでありまして、約一二〇であつたものが、六月の末は八二・五、詰り八三足らずであります、八月一日からは御承知のやうに露店市場と云ふものは一應廢めましたから、後は分りませぬ、是は又別の指數でありますから、今のには繋がりませぬが、三月十四日を一〇〇にしまして、七月三十一日には一〇二・八、約一〇三、三%上つて居ります、併しながら六月末に比較しますと二%下つて居ります、さう云ふ風で、案外自由市場に於ける物價は落著いて居るやうに見えます
それから次に擬制資本の整理を徹底的にやらなければならぬと云ふやうな御質問であつたやうに思ひますが、それは出來るだけ整理したら宜しいと思ひます、但し是は必ずしも「インフレ」對策にはならないと云ふことだけは申上げて置きます、と云ふのは、擬制資本の整理は全體の物價水準は下げます、併しながら生産が興らない限りは、其の上に更に物價が騰貴すると云ふことは必然でありますから、是は單にそれだけで所謂「インフレ」が終熄すると思うては間違ひと私は考へます
それから金融措置令の改正でありますが、是は此の間措置令の施行規則を改正致しましたが、それを改めて改正する意圖はありませぬ、それから今度の金融金庫の委員會に議員を入れるかと云ふやうな御質問であつたやうでありますが、是は入れませぬ、私は委員會は成べく議員中心でやると云ふ方針で、さう云ふ風に願ひたいと思つて居りますが、是は特に金融に關するもので、政治面と切放すと云ふ必要を認めました爲に、特に議員として議員の諸君を煩はさない積りであります、それから中小企業の金融に付て何か特別の處置があるかと云ふ御尋ねでありますが、是は先程もどなたかの御質問に對して申上げた通り、中小企業と云ふものに付ては特に注意致し、それに付て必要な何等かの處置を講ずる積りであります、それから百億圓の資本を尚ほ増資することがあるかと云ふ御尋ねだつたと思ひますが、是も先程どなたかに申上げたと思ひますが、必要があれば百億圓を更に増します、それから三年の期限のことは、是れ亦先程御答へ致しましたが、大體三年程度で一應經濟界の整理が濟み、安定をするものと見越して居る譯であります、それから勸業銀行と興業銀行が合併するとか云ふことが新聞に出て居る、私も今朝でありましたか、昨日でありましたか、何かの新聞で見ましたが、全然左樣な考へはございませぬ、それから今囘の金融金庫と興業銀行とどう云ふ關係になるかと云ふ御尋ねでありますが、是は全然別物で、獨立したものであります、無論興業銀行あたりの窓口は使ふ、勸業銀行の窓口も使ふ、或は其の人も使はなければならぬことは當然起りますが、全然別個の機關として作るものでございます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=18
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019・島田晋作
○島田晋作君 只今三大臣の御答辯を伺ひましたが、大體豫想通り不滿足な答辯であります、殊に膳長官の御答辯中、朝日新聞の記事に拘泥するのではありませぬが、決して私は言葉尻を取つて言つたのぢやありませぬ、あの朝日新聞の記事の大半を私は引用したのであります、其の點は御諒承を願ひます、それから大藏大臣の御答辯中に、私が大藏大臣の「インフレ」論を分柝して褒めた後に、第三番目の「インフレ」政策は打切るものではない、打切らないと言つたことは、慥か豫算總會の速記録に出て居りまして、私はあれは自分で言つたのではなくて、大臣の御答辯中から拾つたのでありますから、どうか此の點は御諒承を願ひます、他は後の機會に質疑を讓りまして、今日は是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=19
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020・山崎猛
○議長(山崎猛君) 藤井正男君
〔藤井正男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=20
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021・藤井正男
○藤井正男君 本法案に付きましては、既に同僚諸君に於かれまして、色々なる觀點より質問致されましたので、私は最早質問する多くを持たないのでありまするが、政府の御答辯に於て少し不明瞭なる點があると存じますので、私は此の際協同民主黨を代表致しまして、以下數點に付きまして御説明を願ひたいと思ふのであります
第一に御尋ねしたい點は、政府の日本産業復興に對する根本的立場であります、即ち今日まで政府の執り來つて居りまする産業復興に對する立場は、先程も色々同僚各位より御質問がありましたるやうに、明かに「インフレーション」政策に依る復興であると思ふのであります、去る三月に執られました緊急金融非常處置に致しましても、一時は確かに「インフレーション」の速度を鈍化致しましたが、其の後六箇月經つか經たざるの今日、既に發令當時に於ける通貨發行高に將に達せんとして居るのであります、今後政府は本年度の改正豫算に依る五百六十億圓、數百億に達せんと豫定されて居りまする追加豫算、是等に依る財政の支出と云ふものは、「インフレーション」に益益以て拍車を掛けるであらうことは、私が今更喋々するまでもないことであります、而も政府は今日、今後の基本的産業の復興金融は、本法に依る信用の造出に依つてなし遂げる、斯う云ふ風に思つて居られるやうでありまするが、是れ亦「インフレーション」促進の要素になることは疑ふ餘地がないのであります、第一次世界大戰直後に於ける彼の「ドイツ」が、「インフレーション」政策に依つて産業復興に成功致しました歴史的事實はあるのでありまするが、貿易が自由に許され、「クレヂット」の容認致されて居りました當時の「ドイツ」と、今日の日本の現状と云ふものは、大いに異なる事情があるのであります、今日の日本に於ては、「インフレーション」が日本の産業復興を促進するどころか、色々大臣に於て説明はありましたが、私は申上げたいのである、寧ろそれは逆に、日本の一切の經濟を正に不安と混亂に陷れて居るではないか、隨て計畫ある産業復興の推進を阻止するものこそ、正に此の「インフレーション」であると申上げたいのである、是に於て私は、今日政府の「インフレーション」政策に依る日本の産業復興、經濟再建の企圖が、實に重大なる危險性を孕んで居ると云ふことを申上げたいのであります、其の點、只今も答辯があつたのでありまするが、政府は如何なる確信を持つて居られるのであるか、「インフレーション」政策に於て危險性はないのであらうか、此の點に付て國民の納得の行くやうに、大藏大臣に御説明を伺ひたいと思ひます
其の第二點は、本法と産業復興計畫との關係に付てであります、日本の經濟再建が、綜合的計畫の下に推進められて行かなければならないと云ふことに付ては、最早茲に私が説明するまでもなく、輿論に於て異論はないと思ふのであります、政府は金融的處置を第一番に採上げまして、之に重點を置かれて居るやうでありまするが、それのみで生産の増強が圖られるものでありませうか、先程も同僚の諸君から縷縷御質問があつたのでありまするが、此の點強く私は申上げたいのであります、少くとも産業の復興と生産の増強が圖られると云ふに付ては、其の前提には、必ずしつかりとした産業復興の計畫がなければならない、今日國際經濟が意識的に調整運用されんとする今次終戰後の顯著なる世界の事實の動向と云ふことも、十分勘案せなくちやならない、日本産業の復興を確立するのには、茲に大いなる重點が存在して居るのではないか、之に伴ふ金融でなければ、其の場其の場の必要に應じて行くと云ふやうな、實に無計畫なる金融であつては、到底日本の産業の復興は期しても望めない、色々膳國務大臣より説明はあつたのでありまするが、私はいま一度強く申上げたいのであります、一年後に於ては、はつきりする、或は當面の問題として斯く斯く考へて居る、併し詳細なる説明はもう少し待つて戴きたい、併し私は申上げたいのである、既に金融面に於ける本案上程されて居るではないか、國民は今其の上程と共に、何を望み何を要求して居るか、少くとも産業別にも考へて、膳國務大臣が此の重責を國民と相見えて引受けられる限りに於ては、少くとも重工業は、化學工業は、或は纖維工業は、此の程度まで復興すると云ふやうな一應の計畫を、豫めでも國民に御示しになることが當然ではなからうかと私は思ふのであります(拍手)斯くしてこそ初めて最も效率的な資本の運用は出來るものである、隨て政府に於ては、それが果して國民に示し得るのであるかないのであるか、それの抱負があるのかないのか、最も納得の行くやうに、いま一度御説明願ひたいと思ふのである
もう一點は今日生産を阻んで居る大きな原因の一つは、申上げるまでもなく破壊され消耗された生産設備の復舊に要する資材の不足であります、先程同僚の各位からも此の點を申されたのでありまるすが、そこで政府は如何に金融的處置を執りましても、之に伴ふ物の裏付けがなければ、徒らに是れ亦「インフレーション」を激化せしめるのみではないか、政府は本法と物資需給關係を如何に關聯させ、如何なる調整をせんとするのであるか、其の基本的方途に付て御伺ひしたいのであります、更に日本の産業復興に付ては、今後大體どの程度の資金需要を見込んで居られるのであらうか、産業別の對策を御提示願ひたいと思ふのである、要は日本の再建が綜合的計畫を必要とする以上は、産業復興の計畫、物資需給の計畫、資金計畫の荒筋を、膳經濟安定本部長官に承りたいのであります、是が私の第二點の質疑の中心であります
第三點は、復興金融委員會の構成に付て伺ひたいのでありまするが、既に同僚諸君より詳細に質問がありましたので、或る程度省略さして戴かうと思ふのであります、唯私は此の構成に付て御尋ね致したいのは、先程も御話があつたのでありまするが、聞く所に依れば、委員會は或は會長には大藏大臣が之に當り、經濟安定本部長官が副會長、其の他商工、農林各大臣、日銀、復興金融金庫の關係役員、學識經驗者が此の構成に當られるやうな構想であると云ふやうなことを伺ふのでありまするが、少くとも兩院議員は勿論、各民間の専門家──私が申上げる専門家は、上の層と下の層と、實際の金融面のみならず、此の産業に對する豐富なる經驗を持つて居る此の専門家を網羅して、少くとも民主的──同時に其の運營に當つても、國民の納得し得る民主的運營がなされなくてはならないと云ふことを強く強調して、其の點を御伺ひしたいのであります
第四點と致しまして、本金庫の實際の運用に付てであります、本金庫が資金を供給する場合には、第一條に規定する通り、他の金融機關より資金の供給を受けることの困難な場合に限られて居るのであります、最近の會社及び金融機關經理應急措置法に依つて、從來よりの取引銀行からの融資は極めて窮屈になつて居るのであります、本金庫設立までの暫定處置としては、只今大臣より説明がありましたやうに、既に興銀に於て代行の任に當つて居るのでありますが、其の貸付の状況が、物的擔保を問題とせず、對人的信用に重點を置かれて居ると云ふことに對しては、之を諒とするのでありまするが、其の銀行を通しての貸付に於て、動もすると裏付け保證を必要とするやうな感が多々あるのであります、元來銀行業者と云ふものは、極めて保守的な性格を持つて居るのであります、それが今日經濟界の不安定なることの一因であると云ふことは、申上げるまでもないことであります、是に於て、若しも保證の裏付けを必要とすると云ふやうな感がありとせば、其の實際の運用に當つて、極めて官僚的な運用であると云ふことを申上げたいのであります、今日眞面目なる商工業者は、此の特別融資の利用の途がなく、復興不能となつて、徒らに手を組んで居ると云ふのが今日の現状であります、此の間にあつて、要領の宜い者が之を利用し、或は金融機關と特殊な關係を持つ者のみが此の便宜を得られると云ふやうな實情が多々あるのであります、若し然りとせば、是こそ非民主的な金庫のやり方と相成るのであります、本金庫設立の曉は、斯かる惡弊を根絶せしめねばならぬことは、私が申上げるまでもなく國民が強く要求して居る所であります、政府に於ては此の點に於て如何なる用意を御持ちになるのか、又此の金庫の貸出に於て、どう云ふ標準を定めて居られるのであるか、斯う云ふ點に付て十分なる御説明を今一度伺ひたいと思ふのであります、尚ほ本案は、此の委員會の構成と共に、一切を擧げて委員會に一任すると云ふやうなことに見受けられるのである、若し然りとせば、其の委員會に對する總括的な指示は、如何なるものに依つてなされるのであるか、此の點に對しまして大藏大臣の抱負を承りたいのであります
第五點は、本金庫の資本金に付てでありまするが、既に此の點に對しましても同僚の諸君から質問がありましたので、省略致しまするが、唯一點と致しまして、若し此の金庫にして資金の不足の場合は、どう云ふ方法に依つて之を償ふのであるか、此の點に對して確實なる御答辯を願ひたいと思ふのであります
最後に私は第六點と致しまして、中小工業者の金融に付て伺ひたいのであります、今後財閥の解體、賠償などに依りまして、日本の産業構成の重點が、中小工業、農工業に轉移しつつあると云ふことは、語るまでもない明瞭なる事實であります、而も過般の新聞の發表に依りまして、御承知の如く賠償範圍を云ふものが、國民の豫想以上に廣範圍であつたと云ふことが窺はれるのであります、そこで私が申上げるやうに、今後の日本の再興は、中小工業、農工業に重點が置かれなくてはならない、而も本法案を通して、果して斯かる面が金融面に於てうまく行けるのであるか、先程も色々なる答辯があつたのでありまするが、私の觀察に依りますると、恐らく此の金庫に依つては不可能ではないか、別途な方法を考へなくてはならないのではないか、尚ほ今一つ私が伺ひたいのは、多くの戰災工場がある、家を燒かれ、資材を燒かれ、どうして工場を復興し、どうして産業復與に寄與しようか、斯う云ふ面に對して、どうしても別途の方法が講ぜられなくてはならない、此の點に於てどう云ふ御考へを持つて居られるのであるか、今少し詳細な御説明を商工大臣、大藏大臣に伺ひたいのであります、私は以上を以ちまして質問を終りと致します
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=21
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022・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 藤井君の御質問に御答へ致します、藤井君も「インフレ」問題を非常に御心配になつて居りましたが、先程から繰返して述べます通り、一方にはやはり資金難を喞ち、銀行の保守性を御攻撃になるのでありますが、資金はやはり要るのであります、ですから、是は中々難かしい問題と先程申上げましたが、唯資金を出せば宜いのではありませぬので、そこに其の容態を見つつ、生産が起るやうに資金を出して行くと云ふ必要があるのであります、それから尚ほ先般も一寸申上げたのでありますが、非常に「インフレ」問題が盛に論ぜられるのは御尤もでありますが、一方から見ますと、「インフレ」が來る來ると云ふことも如何かと思ふのであります、是は中々内外に大きな反響があると云ふことも一應御諒承を願ひたい
それから復興金融金庫は、是は先程島田君の御質問の中にもありましたが、政府のやらうとする事柄の唯一つなのでございます、金融金庫だけ見ますと、此處から通貨が出て、と云ふことになりますが、さうではございませぬ、全體の産業計畫等の中の一環として、一つの必要上復興金融金庫が出來る譯でありますから、無論是だけで何も彼も片付くと云ふ意味ではございませぬ
産業計畫のことに付きましては、先程膳國務大臣からも申上げましたが、當面の問題としては、先程私が申上げましたやうに、「ポツダム」宣言及び「ポーレー」大使の聲明に依つて既に相當はつきりして居るのであります、又肥料はどう、石炭はどうと云ふことも、是もはつきりして居るのであります、ですから、大きな計畫は膳國務大臣の言はれる通り、是から一年も掛らなければ出來ないと思ひますけれども、當面の經濟政策は一向差支へありませぬ
それから委員會を非常に廣範圍に、多人數にと云ふ風な御意見がありましたが、是は私の考へる所では斯樣な金融上の、さうして何處にどう云ふことに幾ら貸すと云ふやうな──此の委員會はさう多人數で以て評議すべきでないと考へます、やはり是は信用し得べき者が、出來るだけ小人數で討議すべきものと考へて居ります、無論之の監督は主務大臣、即ち大藏大臣及び商工大臣が嚴重に致すのでありまして、それは法案の監督の章を御覽下されば大體御分りになると思ひます
それから貸出の方法はどうか、餘り嚴重にしては資金が十分に廻はらないと云ふ御言葉でありました、先程實は是は青木君の御質問に對して御答へするのを落したのでありますが、年賦償還或は無擔保等も──無論年賦償還での貸付も致しますし、又場合に依つては無擔保の貸付も致します、併しながら所謂嚴にして寛、矛盾する言葉でありますけれども、一方では生産に寄與するものでなければ貸さないと云ふ方針を一應嚴に執ります、同時に其の見込のあるものなら相當寛大に貸す、斯う云ふ方法を執る以外にありませぬ、所謂銀行の保守性と云ふやうなものも必要なのであります、是がなければ放慢になりますから必要でありますが、それだけでやる意圖は抱いて居らないと云ふことは、委員會の中にも現に産業家を入れたい、而も産業家の割合を多くすると云ふ考へを抱いて居ることに依つて御諒承を願ひたいと思ひます、それから委員會の權限は相當廣い、私共政府の者としては、出來るだけ委員會の裁量に依つて致したいと思つて居りますが、併し是は委員會に任せ切りではないのであります、先程申上げる通り、主務大臣が是等の監督を致す、金融金庫委員會は主務大臣が之を監督するとなつて居りますから、監督は嚴重に致します、それから資金百億圓の問題は、是れ亦先程御答へしたのでありますが、是は必要があれば増加致します
それから中小企業其の他に對する金融に付ても御答へ致した譯でありますが、是は特段の注意を致して、先程も申上げましたやうに、具體的に細かいことは、金融金庫の首腦者が決まりましてから能く御相談致さなければ、勝手に今決めると云ふことも如何かと思ひますが、例へば中小企業の爲には、其の部を特に設ける、是等の指導或は相談機關を附設するとか、種々なる對策を講じて行きたいと考へて居る次第であります(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=22
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023・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 御答へ申上げます、私は經濟安定本部の全體の構想に付て申上げたのでありますが、左樣に申上げましたからと言つて、差當りの緊急の問題に付て全く無關心で居る譯でないことは、先程も申上げた通りでありまするが、即ち緊急の問題と致しましては、どうしても國民の生活安定、殊に食糧の増産に關係し、又物資の輸入の爲の見返り物資の生産の爲に、又將來の産業の囘復の爲の基礎産業、是等に付て將來のことを見つつ、現在の應急的のことを考へなければならぬと云ふことも、今まで申上げたことで御聽取り下さつたことと思ふのでありまして、安定本部として差當り金融金庫の御世話になるべきものは、さう云ふ觀點から見まして、一例を申せば、或は食糧増産の關係から申せば、肥料の問題もございませう、又根本的の基礎材料のものから言へば、石炭の問題もございませう、見返り物資の問題から言へば、綿業の問題もございませう、又是等の總てを通じまして、やはり政府で出來るだけ育成して戴きたいことは、先程からも度々御話のあります中小工業の再興問題であります、併しながら大體斯う云ふやうなものを如何樣にするかと云ふことは、それぞれ主管省である商工省で、細心の御計畫になつて居ることでありまして、安定本部は、商工省の御計畫をば之を短期日に、而も有効に實現する爲に私共も協力することに、最近の緊急の私共の施策の一つとして考へて居る譯であります、又私共が今度の金融金庫に對しまする希望は、先程も申上げましたやうに、餘りに初めから何々に斯く斯くと云ふやうな計畫を作つて、之に餘りこびり付くと云ふと、思ひ出すのも厭なことでありますが、機動性のない爲に、「サイパン」戰鬪以來日本の海軍がどうにもならなくなつたと云ふことを聞いて居りますが、此の色々の動きの多い時に、餘りに早く色々の基本計畫を決めて金融金庫に御願ひすると云ふことは、機動性を失はせる所以と思ひまして、安定本部は色々の觀點を申上げましたが、是等の觀點──諸省の施策に策應致しまして、安定本部としては、今度の金庫の運營方針に付て色々の御協力も申上げ、又色々の御注文もする、斯樣に考へて居ります、今まで御答へ申上げましたものを、補足として一言附加へて答辯と致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=23
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024・藤井正男
○藤井正男君 御答辯に於て少しく觀點の違つた點がありはしないかと云ふことを思ふのでありまするが、次の委員會に於て詳細に質問致したいと思ひますので、本日は是で打切つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=24
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025・山崎猛
○議長(山崎猛君) 笠井重治君
〔笠井重治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=25
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026・笠井重治
○笠井重治君 只今上程されました復興金融金庫法案に付きまして、無所屬倶樂部を代表して質問します、既に各方面から論議されて居りまするから、私は簡單に數言申上げたいと思つて居ります
敗戰日本の復興再建と云ふことは極めて至難の事業であつて、政府も國民も全力を傾倒せなければならぬと思ひます、本案は過日議會を通過致しました法案に依れる戰時補償の全面的打切りの結果に伴ふ我が國經濟の整理再建上、恆久的措置の一環とする金融機關の設立の爲であつて、本案は我が國産業及び經濟の復興に重大なる使命を持つて居るものと思ひます、本案の特徴を見ますると、先づ以て一つは、資本金を百億圓とするが、其の中の四十億圓を出して、未拂出資額六十億圓を見返りとして、復興金融債券を發行し、又は債務引受を保證すること、第二は經濟復興促進に必要なる資金を、他の金融機關から融資を受けることの困難なものに供給すること、第三には運營の實際的權限を復興委員會に委ねること、第四には社債の應募引受はするが、株式は引受けないこと、此の點にあると思ひます、過日議會を通過した戰時補償の全面的打切りは、終戰後既時斷行すべきものでありましたが、歴代の政府は遷延日を曠しうして、遂に今日に至り、其の被害は非常に廣範圍に及んだものでありますることは遺憾であります、戰爭中莫大の利益を得た幾多の軍需工業の會社と云ふものは、金融措置令の出る前に既に是等のことを察知して、さうして彼等自身に有利の對策を講じたのであります、隨て其の被害を受けたるものは、中小企業家や中産階級及び庶民階級の國民であります、故に政府は經濟復興を目標とする本案通過の曉に於きましては、少數の戰時成金や、資本家の復興に對して便宜を與ふるにあらずして、多數の中小企業家の復興を助成し、壊滅に瀕せんとして居る我が經濟界をして、速かに復興するやう努力せられんことを要望して已みませぬ、此の點に付て次の數點を大藏大臣に御伺ひ致します
復興金融金庫は其の資本が百億圓であるが、どうして百億圓と定めたか、既に此の點は各方面から論議をされて居りますから、大體政府の意向も分つて參りましたが、此の問題は三年間の後には之をどうするか、政府は三年間の後には結局囘收不能と見て居られるのでありますか、又如何にして之を引繼ぐるのであるか、此の點を伺ひます
第二には、復興金融金庫の設立に至るまで、暫定措置として八月一日から日本興業銀行をして復興資金を出させました、既に大藏大臣の説明に依りますると、五億乃至六億が出て居りまするが、先づ今後の目標はどの點にまで是が及んで行くのであるか、それを伺ひたいと思ひます、さうして政府が金融機關を作つたのであるから、自身で運營すべきであつて、其の運營の宜しきを望みます、唯此の場合に於て之を銀行に委託するならば、特定の一つの銀行に止めずして、全國の信用のある銀行を利用することが必要ではないかと思ひます
第三は、既に社會黨の島田君からの質問もあつたのでありますが、過日來新聞紙に傳へられて居る所の、復興金融金庫と日本興業銀行とは表裏一體であると云ふことであります、此の點は世間の誤解を招く點が相當にありましたが、既に大藏大臣から此の點に付ては説明がありましたから了承致します
第四は戰犯銀行を解散する考へはなきかを伺ひたいと思ひます、去る一月四日、「マッカーサー」司令部發表の公職追放令に依つて、日本の侵略的發展に寄與した所の滿洲、朝鮮、臺灣を中心とする拓殖銀行其の他の會社と云ふものは解散を命ぜられました、之に伴つて我が國に於ては、戰犯銀行として戰時金融金庫が解散を命ぜられたと思ひます、同時に横濱正金銀行が改組を命ぜられました、戰時金融金庫の解散は當然であると思ふ、然るに過去六十年間我が國の外國貿易金融機關であつた横濱正金銀行が、經濟的侵略の擔當者として普通銀行に改組せられたと云ふことは遺憾千萬である、是は「マッカーサー」司令部からの命令であると思ひますが、今後の日本が、平和産業の爲に、又貿易進展の爲に努力しようとして居る時に、國民生活の安定を確保せんとするには、海外發展及び貿易より外にはないのである、而して近き將來に於て、我が國が外國貿易を開始しなければならぬ時に當つて、貿易及び國際金融に經驗を持つて居ります所の横濱正金銀行の如きは、繼續せしむることが當然であると思ふ、私思ふに、是は結局政府が聯合軍當局者に對して此の重大なることを諒解せしめなかつたと云ふ所にあると思ひます(拍手)復興金融金庫法案に付ても數箇月に亙つて聯合軍司令部は研究したのであります、────────────我が國民の考へて居ることを率直に聯合軍司令部に之を傳へ、又聯合軍司令部の意のある所を速かに國民に徹底せしむることが政府のなすべきことであります、然るに此の點に於て缺けて居りますることは實に遺憾の至りに堪へませぬ、そこで戰時金融金庫の如き、或は正金銀行の如きものが戰犯銀行であるとして解散せられて居るならば、過日來新聞紙にも傳つて居る通り、政府が勸業銀行、或は興業銀行を合併するのであると云ふ噂がある、火のない所に煙は立たぬと言ひますが、日本興業銀行は戰爭中に於て、軍需金融の専門中樞として百七十五億と云ふ巨額の貸出をなし、其の中の七割八分と云ふものは厖大なる軍需工業に出資して居る所の銀行である、是は直ちに解散をすべきものであらうと思ふが、政府の所見は如何であるか、即ち此の際、總ての不良銀行又は會社を一掃されんとして居る時でありますから、政府は英斷を以て斯かる不健全なるものを解散をさせる必要があると思ふのであります
其の他「インフレ」の點に付て伺ひたいと思ひますが、社會黨の島田君の御質問もあり、復興金融委員會に付ては自由黨の青木孝義君、進歩黨の北村徳太郎君の質問もあり、大體私が質問致したい、ことは「カバー」して居りますから、私は之を省略致します、唯此の委員會の構成に付て一言致したい、委員會構成の點に付ては、今日までのやうな官僚的委員會を發しまして、常識あり、金融に經驗あり、且又實業界に經驗のある人を任命して戴きたい、只今大藏大臣が仰しやるやうに、衆議院議員任命しないとのことであるが、政治的になると言ふのならば又當然でありませう、但し議會の中に於ても金融、財政經濟に通曉して居る人があるならば、それ等を起用しても一向差支へないではないか、斯う云ふ點に付ては十分政府が注意を致して、以て萬全の策を講じて戴きたいと思ひます
次は大藏大臣及び星島商工大臣に伺ひたいことであります、或は「ポーレ」使節に依つて、或は「ポツダム」宣言の要綱に依つて、我が國の重要工業は壊滅に瀕しました、我が國の現存せる主要工業の大部分の施設は、賠償として撤去されなければならぬ、既に發表されたるものが五百に垂んとして居ります、今後の我が國の復興及び平和日本建設の使命は、懸つて中小商工業の復活にあることは當然である、故に政府は此の方面に對して十分融資をするのが當然であり、又指導せねばならぬ、今囘の復興金融金庫を通して、中小企業家を立派に復活させて戴きたいと思ひます、此の點に付て私は星島商工大臣、石橋大藏大臣に伺ひたい、且つ御願ひしたいことがある、それは本法案に關聯しての問題である、特に政府の注意を促したいことは是である、それは戰爭中に企業整備の名の下に、機械及び設備の強制的供出を命ぜられた全國百萬に達する中小商工業者の處遇である、彼等が五箇年間の据置き特殊預金として受取つた金額は三十億圓に達して居る、彼等は父祖傳來の工業を閉鎖せしめられ、營業權及び機械設備は喪失せしめられて居る、之を今日復興せんとしても中々出來ない、三千圓で供出した所の織機が、今之を復興せんとするならば三萬圓掛る、のみならず之に對する資材は一つもありませぬ、斯樣に悲慘なる状態である、此の種の工業は主として平和日本建設に必要なる纖維工業であつて、全國各方面、關東一帶、東海一帶、東北、關西、日本海方面、九州に至るまで、百萬に達して居るのであります、然るに是等企業整備に遭つた所の企業家は、最近の戰時補償全面的打切りに依つて、彼等の最後の希望と恃んで居る所の特殊領金は吹つ飛んでしまつた、さうして之を軍需補償と混同せられんとして居るのは何と云ふことでありませうか(「ヒヤヒヤ」)今や此の全滅の状態に沈淪して居る所の我が國工業を、政府は速かに救濟しなければならぬと思ふが故に、企業整備に依る所の特殊預金三十億圓を復活して戴くと同時に、又本復興金融金庫を通して十分に彼等を援助せられんことを希望致すのであります(拍手)大藏大臣及び商工大臣に對して、此の點に付ての言明を願ひたいと思ひます、私は先般「マッカーサー」司令部を訪問して、是は非常に不公平であると言つた所が、専門家曰く、それならば正規の方法を取つて、「セントラル・リアイズン・オフィス」を通して歎願すれば考慮する、と言ひました、故に政府は十分に此の點に付て考慮を願ひたいと思ひます(拍手)
私は此の外尚ほ重要な「ポイント」に付て總理大臣に伺ひたいと思ひますが、本日は總理大臣がお見えになりませぬからして、他日に讓つて、本日の私の質問を打切りたいと思ひますが、其の點は是れであります、────昨年の四月六日に、聯合軍總司令官「ダグラス・マッカーサー」元元帥は、四國委員會に於ける演説に於て、聯軍が日本を占領管理するに當つての占領政策なるものは、現存日本政府の機構を通して行ふと言はれた、────幸ひに「マッカーサー」元帥は日本國民を能く理解し、又日本の歴史、日本の人情風俗を理解し、我々日本國民に深き同情を有せられて居り、我が日本國民が期待するやうな幾多の善政を布いて呉れました、又「マッカーサー」司令部には中々多數の有能な「エキスパート」が居り、日本人よりも、日本の或ることに付ては知つて居る人が澤山あります、けれども若し不幸にして我が國の政府と司令部當局者との密接な關係が缺けて居るならば、司令部が如何に善政を布かんとしても不可能であります、我々國民が如何に彼等に愬へんとしても、言葉は即ち日本語にあらずして英語である、此の點に付て遺憾の點があります、私自らが經驗したことに依りますと、大藏省の官吏の諸君が行つて、或る問題に付て兎に角之を説明しようとする、自分は經濟的の問題に付ては専門家であるけれども、言葉が出來ない爲に、外務省の人を連れて行つて説明する、若し其の外務省の人が専門的知識がないと、向ふは之を諒解しない、さうして間違つた見解の下に、思はず間違つた結果を齎すこともありませう、今日までの日米交渉に於て、言語の相違の爲に斯かる點が相當にありはしないかと非常に心配を致して居ります、是に於て「セントラル・リアイズン・オフイス」、即ち終戰事務局と云ふものの完璧を期する必要があらうと思ふ、之に對しては、官界の有爲の人材を拔擢し、且つ民間の實業家其の他の立派な人をも採用して十分の理解を得られんことを切望します、それには政府が十分給料を支給して終戰事務局の内容を充實せられたいと思ふ、終戰事務局のみが終戰事務局であるのでなく、政府全體が終戰事務局であると云ふ考へを以て、大藏大臣も、商工大臣も、總理大臣も、皆合體して、さうして我々國民の意思のある所を「マッカーサー」司令部に傳達し、司令部の政策を速かに我々國民に徹底せしむるやうにして戴きたいと思ひます、斯樣な點に付て私は總理大臣にもつと込入つた質問を致したいと思つて居りましたが、本日は宮中に參内せられた爲にお出でがないさうでありますから、質問を他日に讓ります、願はくは大藏大臣、商工大臣は、以上私が伺つた點に付て御答辯下さつて、本案實行の上に付ては、我が國民が速かに復興が出來るやうにして戴きたいと思ひます、之を以て私の質問を終ります(拍手)
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=26
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027・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 笠井君の御質問中、三年後の處置をどうするかと云ふことであつたやうでありますが、それは法案の中に「復興金融金庫は、設立の日から三年を經過した後は、あらたに資金の融通、債務の引受若しくは保證又は社債の應募若しくは引受をすることができない。」と云ふことがありまして、詰り新たなる事業はしない、併しながら復興金融金庫は尚ほ存續致しまして、無論三年經てば斯うしたものも皆棒引にしてそれでお終ひにするのではありませぬので、全部之を囘收致すのであります、併しながら「前項の期間は、復興金融委員會の承認を受けて、これを短縮し、又は延長することができる。」と云ふのでありますから、場合に依れば三年經たなくても、必要がないと云ふならば廢める場合もあるかも知れませぬし、必要があると云ふならば、もつと延ばすことが出來る、兎に角新たなる事業は一應三年だけ、後は其の整理に入ると云ふ譯であります、それから先程私が、現在の興業銀行が復興金融金庫の代りに暫定處置として是だけの金額の申込を受けたと云ふことを申上げましたが、それは申込を受けたのでありまして、未だ七億何千萬圓を貸して居る譯ではございませぬ、それから戰時金融金庫などはまだ解散をして居りませぬ、事業を廢めまして、さうして委員會に掛けられて今調査をして居る譯でありまして、整理を致さう、斯う云ふ譯でございますが、まだ解散は致して居りませぬ、それから正金銀行は名前は何となりますか、追つて第二正金が出來る筈でありますが、是れ亦未だ出來て居りませぬ、無論正金銀行みたいな經營、今までのやうな特殊銀行としての正金と云ふものは、存在の必要はないだらうと思ひますけれども、あの外國爲替に付ての經驗と云ふものは、無論活かして行かなければならぬのでありますから、是は十分活かして行くやうに致す積りであります
それから復興金融金庫は、御話では、何か司令部で以て長いこと研究して────────────────無論之を作るまでには緊密なる連絡を取つて居りますけれども、日本の案として是は前内閣時代に申出して、それから研究を續けて居るものであります────────────────私は左樣に理解して居りませぬ
それから戰時中に軍需融資をした銀行は解散してしまへと云ふやうな御話であつたかと思ひますが、是は今囘の補償問題に關聯した整理に依つて、金融機關にもそれぞれの整理が行はれますが、戰時中に軍需融資を多くしたからと言つて、其の爲に解散をすると云ふことは、必要もなければ、又左樣なことを致す積りはございませぬ
それから委員會の構成に付きましては、先程から何囘か申上げましたやうに、公正な人物を選擇して組織することになつて居ります
それから戰時中に企業整備をした人達に對して厚き援助をしろと云ふ御言葉、是はもう同感であります、併し其の援助の方法は色々あらうと思ひますが、要するに斯樣な事態になりましたのでありますから、お互ひは一應素つ裸になつた積りで、過去に囚はれずに再建をすると云ふ意氣に燃える必要があるのでありまして、其の意氣ある企業者に對しましては、政府は十分の援助を致す積りで居ります、是等の問題は補償の中に入る譯でありますから、何れ此の法案の出ました時に御覽を願ひます
それから最後は總理への御質問のやうでありますから、私から御答へする必要はないかと思ひますが、唯大藏省は英語が出來ないから、大藏省が交渉に行く時には外務省の役人を連れて行くと云ふことは、事實誤りであります、大藏省の中にも英語の出來る者が居りますから、其の點はどうぞ御心配下さらぬやうに御願ひ致します、以上甚だ簡單でありますが、之を以て私の答辯と致します
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=27
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028・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 藤井君又は笠井君から重ねて、今囘の軍需補償の打切り又は賠償等に依りまする非常な打撃の爲に、殊に中小企業者が困るだらうと云ふことを御心配の上で、色々御懸念下さることを有難く思ひまするが、只今大藏大臣より御答辯申した如く、出來るだけのことは致したいと思ひます、殊に是は何れ其の金庫が出來た上で、十分相談して實行出來るかと思ひまするけれども、少くとも商工當局と致しましては、假に擔保がなくても、今囘出來まする協同組合法等を利用して、協同の信用力に依りまして是が貸出が出來ると云ふやうなことも十分其の中で運用されたい、斯樣に思つて居る譯であります、殊に先程の御趣旨の實際今度の打切りの中で隨分無理と思はれる點は、只今の企業の整備の打切りと、それから品物の代金の請求權の點、是は實際無理と私は思ふ、併し是は大部分は救はれさうでありますから、まだ最後の結論には達しませぬけれども、それ等の人に對して、今後、只今大藏大臣説明の如く、本當に起ち上る意思のある人に對しては、十分之を助けて行くと云ふことを考へて行きたい、斯樣に思つて居る譯でございます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=28
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029・笠井重治
○笠井重治君 殘餘は委員會で質問を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=29
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030・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是にて質疑は終了致しました、本案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=30
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031・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名二十七名の委員に付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=31
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032・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=32
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033・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=33
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034・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 議事日程變更の緊急動議を提出致します、即ち此の際日程第四を繰上げ上程し、其の審議を進められんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=34
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035・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=35
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036・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、政府は此の議事日程變更に同意せられました、仍て日程の順序は變更せられました──日程第四、地方競馬法案の第一讀會を開きます、提出者の趣旨辯明を許します──提出者小笠原八十美君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=36
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037・会議録情報3
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第四 地方競馬法案(小笠原八十美君外四名提出) 第一讀會
地方競馬法案
地方競馬法
第一條 都道府縣を區域とする馬匹組合聯合會(縣を區域とする馬匹組合を含む。以下これに同じ)は、臣馬事の振興を圖るため、主務大の許可を受けて、この法律により、競馬を行ふことができる。
第十二條の馬事團體は、命令の定めるところにより、主務大臣の許可を受けて、前項の競馬を行ふことができる。
第二條 競馬施行者が、この法律により、競馬を開催しようとするときは、命令の定めるところにより、地方長官に屆出でねばならない。
第三條 この法律により、競馬を行ふ競馬場の數は、北海道三箇所以内、都府縣各各一箇所以内である。
第四條 この法律により競馬に出すことのできる馬は、施行者たる馬匹組合聯合會の區域及び命令の定める區域に、命令の定める期間飼養せられる馬に限る。
第一條第二項の競馬については、前項の區域に關する規定は、これを適用しない。
第五條 競馬の開催は、競馬場毎に數へて、年四囘を超えることはできない。但し、主務大臣の許可を受けた場合は、年四囘を超えて競馬を開催することができる。
第六條 競馬開催の期間は、一囘につき、六日以内である。
第七條 競馬を開催するときは、入場者から入場料を取らねばならない。但し、地方長官の認可を受けて、無料入場者と定めた者からは、入場料を取らなくてもよい。
第八條 競馬施行者は、入場者に對して、一口の金額十圓以下の優勝馬票を、額面金額で賣出すことができる。
第九條 その競馬を開催する法人の役員又はその競馬の開催執務委員、騎手その他競馬の事務に從ふ者に對して、優勝馬票を賣出すことはできない。
第十條 競馬施行者は、優勝馬票の的中者に對して、命令の定めるところにより、その競走についての優勝馬票の賣得金の額を超えない範圍内において、拂戻金を交付する。但し、その金額は、優勝馬票の額面金額の百倍を超えることはできない。
優勝馬票の的中者の無い場合における賣得金又は前項但し書の規定によりできた超過金は、命令の定めるところにより、これを優勝馬票を買つた者に拂戻しをする。
前二項の拂戻金の債權は、一年間これを行はなければ、時效によつて消滅する
第十一條 競馬施行者は、主務大臣の認可を受けて、優勝馬票の賣得金額の百分の二十五以内の金額を、自己の收入とすることができる。
第十二條 前條の場合には、競馬施行者は、命令の定めるところにより、納付金を馬匹組合聯合會の組織してゐる公益法人たる全國區域の馬事團體に納めなければならない。
第十三條 競馬場の開設又は維持、競走馬の出馬登録又は出場、競馬の觀覽、優勝馬票の賣出又は買入、拂戻金又は競馬賞金の支拂又は受取、その他競馬の施行又は開催に關しては、地方税を課することはできない。
第十四條 主務大臣は、公益上必要ありと認めるときは、第一條の許可を受けた者に對して、競馬場の設備の變更その他競馬の施行又は開催に關して、必要な事柄を命ずることができる。
第十五條 主務大臣は、競馬施行者又はその役員若しくは開催執務委員の行爲が、法令若しくはこれに基いてなす處分に違反し又は公益を害し若しくは害する虞があると認めるときは、次の處分をなすことができる。
一 第一條の許可の取消
二 競馬の停止
三 優勝馬票發賣の停止又は制限
四 開催執務委員の職務執行の停止
第十六條 左の各號の一に該當する者は、三年以下の懲役若しくは五千圓以下の罰金に處し、又はその刑を併せ科する。
一 第一條の許可を受けないで、優勝馬票を發賣したり、又はこれに類似の行爲をなした者
二 第十五條第三號の停止又は制限に違反して、優勝馬票を發賣した者
三 この法律による競馬の競爭に關し、職業として、多數の者に對して財物を以て賭けごとをなした者
四 第九條に掲げる者にして、前號に規定する行爲の相手方になつたもの
第十七條 開催執務委員が、職務を執行するにあたり、これに對して、暴行又は脅迫を加へた者は、二年以下の懲役又は二千圓以下の罰金に處する。
團體若しくは多衆の威力を示し、團體若しくは多衆を假裝して威力を示し、又は兇器を示し若しくは數人共同して前項の罪を犯した者は、三年以下の懲役又は三千圓以下の罰金に處する。
第十八條 左の各號の一に該當する者は、二千圓以下の罰金に處する。
一 第九條に掲げる者に對して、同條に掲げる者なることを知つて、優勝馬票を賣出した者
二 第九條に掲げる者にして、優勝馬票を買入れ又は讓受けたもの
三 第十條第一項の規定による制限に違反して、拂戻金を支拂つた者
四 第十六條第一號乃至第三號に規定する行爲の相手方となつた者
第十九條 左の各號の一に該當する者は、二百圓以下の罰金又は科料に處する。
一 第四條に規定する馬でない馬を、出場せしめた者
二 第十條第一項の規定による制限に違反して、拂戻金の支拂を受けた者
第二十條 その競馬を開催する法人の役員又はその競馬の開催執務委員が、その職務に關して、賄賂を取り、又はこれを要求若しくは約束したときは、二年以下の懲役に處する。因つて不正の行爲をなし、又はなすべき行爲をなさないときは、五年以下の懲役に處する。
前項の場合において、受け取つた賄賂はこれを沒收する。若しその全部又は一部を沒收することができない場合には、その價額を追徴する。
第二十一條 前條第一項に掲げる者に對して、賄賂を支拂ひ、提供し、又は約束した者は、二年以下の懲役又は二千圓以下の罰金に處する。
前項の罪を犯した者が、自首したときは、その刑を減輕し、又は免除することができる。
第二十二條 競馬施行者である法人の役員又は開催執務委員が、第十五條第四號の規定による主務大臣の命令に違反したときは、千圓以下の過料に處する。
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條の規定は、前項の過料にこれを準用する。
第二十三條 競馬施行者が、この法律により收得する收入に對しては、所得税及び營業税を課せない。
附 則
この法律は、公布の日からこれを施行する。
馬券税法の一部を次のやうに改正する。
第一條中「競馬法」の下に「又は地方競馬法」を加へ、「又は軍馬資源保護法に依る鍛錬馬競走」を削る。
第二條中「軍馬資源保護法」を「地方競馬法」に、「優等馬票」を「優勝馬票」に改める。
第三條中「優等馬票」を「優勝馬票」に改める。
第四條第一項中「競馬法に依る」を「第一條に規定する」に改め、「又は軍馬資源保護法に依る鍛錬馬競走」及び「又は鍛錬馬競走」を削る。
第五條中「又は鍛錬馬競走」を削る。
第六條及び第七條中「競馬法に依る」を「第一條に規定する」に改め、「又は軍馬資源保護法に依る鍛錬馬競走」を削る。
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〔小笠原八十美君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=37
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038・小笠原八十美
○小笠原八十美君 私は今囘各派から共同提案になりました地方競馬法案に付きまして、提出者を代表致しまして提案の理由を簡單に御説明致したいと思ひます
我が國現下の情勢上、食糧問題の解決は、國民生活の安定と平和新日本の建設上最も重要な問題でありますが、是が爲には肥料の増産と耕地面積の擴張が急務中の急務とせらるる所であります、元來我が國の耕地は、戰爭開始以來年一年肥料の不足を告げ、所謂掠奪農業となり、地力は愈愈減退して、寧ろ土地は人間より以上の榮養失調に陷つて居りますので、今後相當の肥料を施さねば、増産どころか、更に減産の虞さへ感ぜられるのであります、而して此の必要なる肥料増産に付きましては、硫安其の他の化學肥料は、原料供給難其の他に制約せられまして、急速なる増加を望むことは出來ないのであります、隨て此の缺陷を補ひ、否、寧ろ化學肥料を以てなし得ざる地質の改良をなし、食糧増産を推進し得るものは、厩肥を基本となす自給肥料に依るの外はありませぬ、厩肥の肥料價値に付ては、愛知縣農事試驗場が科學的に稻作に付て、無機肥料區と厩肥區とに分つて、收量に付き比較した結果は、七箇年間一箇年の平均收獲量は、無機肥料區に於て二石四斗九升三合、厩肥區に於て二石七斗四升四合となり、厩肥區が毎年平均二斗五升餘の増收を擧げて居るのであります、又同樣の比較試驗が奈良縣農事試驗場に於て大麥に付てなされたのでありますが、此の場合にも一箇年の平均收量は、無機肥料區に於て一石五升八合、厩肥區に於て一石四斗一合となり、厩肥區の方が毎年平均三斗五升の増收を示して居ります、青森縣を初め屡屡冷害に襲はれる東北地方に於ても、厩肥に依つて地力を維持することが立證され、是等に依つて見ても、食糧増産上厩肥が如何に重要であるかは言ふまでもありませぬ、即ち地力問題の調節は、厩肥生産の指導如何に懸るのであります、然らば厩肥の生産量はどの位あるかと言へば、馬體重八十貫、牛體重九十貫のものに付き科學的に調査した所に依りますと、一頭一年間の糞尿中に含まるる肥料成分は、硫酸「アンモニア」に當るもの馬百貫、牛六十四貫一、過燐酸石灰に當るもの馬四十八貫六、牛三十二貫七、硫酸加里に當るもの馬三十七貫三、牛二十八貫二でありまして、若し馬百五十萬頭を飼育するものとすれば、其の肥料生産量は、硫酸「アンモニア」に當るも、五十六萬二千「トン」、過燐酸石灰に當るもの二十七萬三千「トン」、硫酸加里に當るもの二十一萬「トン」となります、更に牛二百五十萬頭を飼育するものとすれば其の肥料生産量は、硫酸「アンモニア」に當るもの六十萬「トン」、過燐酸石灰に當るもの三十萬六千「トン」、硫酸加里に當るもの二十六萬四千「トン」で、我が國の工場で生産せらるるものより遙かに多いのであります、尚ほ牛馬の外に豚、緬羊等を加ふるならば、莫大な數字となるのであります
次に食糧増産上耕地面積の擴張は、開墾干拓等に新たに多大の勞力を要すること勿論でありますが、少くとも田畑四町歩を經營するに、牛馬一頭を要する計算に當りますので、若し百五十萬町歩の新開墾、干拓をなすものとすれば、從來の田畑の勞力の外に、新開墾、干拓分として新たに馬牛三、四十萬頭の増加を必要とする次第であります、實際問題としても、終戰後、海外引揚者、戰災者等に依り、國内各地方に亙り新開墾や干拓が實施せられましたが、之に肥料が伴はざるのみか、特に肥料の根幹をなす畜産が伴はない爲め、到る處に開墾無收穫の憂目を見て居るのであります、是等開墾に從事した人々は、其の經營に心血を注ぎ、家族を擧げて生産に從事したのでありますが、多くの者が素人の爲め、畜産の價値が分らず、指導者も眞に畜産の必要を認識せず、有畜農業の指導をなすことを忘れ、多くの開墾者を見殺しにし、深刻なる失敗の結果を生じつつあるのであります、加之食糧問題としては、牛馬羊豚鷄の總てがそれ自體主要なる國民の食糧であり、榮養資源でありまして、特に牛乳、鷄卵に至つては、乳幼兒、病人等になくてはならぬ重要食糧であることは勿論、又緬羊に至つては、國民の重要なる衣料資源であることは御承知の通りであります、斯くの如く國民食糧の解決、國民生活の安定上、畜産なくしては其の基礎を作り難く、是れなくしては新日本の建設は不可能であると言ふも過言ではありませぬ、畜産を織込まない土地開墾も、食糧、衣料の解決案も、所詮は畫餅に歸し、徒勞に終るのであります、之を要するに食糧の増産は家畜の増産であり、何れが因か何れが果か分らぬが、家畜の増産なくして食糧の増産は絶對あり得ないのであります、然るに此の家畜中に於ても、食糧増産上最も重要なる牛馬豚鷄の類は、近年其の保有數著しく低下し、馬に付て言へば、戰前約百五十萬頭位あつたものが、現在は約百萬頭、牛も約二百四十萬頭位あつたものが現在二百萬頭、豚も戰前約百萬頭位あつたものが現在僅か二十萬頭位になり、鷄に至つては、五千萬羽位あつたものが一千七百萬羽位になつて居ると云ふ状態であります、是は統計に現はれた數字でありますが、實際は密殺其の他で相當の減少を見て居ることは御想像の通りであります、之を復舊し、更に増大するには、非常なる努力を必要とされて居るのであります、然るに是が奬勵に付ては從來國庫補助等もあつたのでありますが、今後は之を多く期待することは出來ないので、是が奬勵資源を自主的に畜産自體に求めねばなりませぬ、此の意味に於て地方競馬を開催し、共の收益を以て畜産奬勵の資源に充てると云ふことが、最も緊要なことと思ふのであります(拍手)隨て地方競馬の速かなる開始は刻下の急務であります
更に馬の利用方面に付て一言致しますれば、馬は今や全然軍馬たるの性質を拂拭して、農用、輓曳其の他産業用として利用さらるることになつたのでありまして、謂はば馬の武裝解除が行はれた譯であります、隨て今後の馬政方針も、之に適應すべく改變せられねばならぬのでありますが、是が爲には、從來民間が非常な苦痛として居た各種の制限拘束を撤廢して、民間の希望する自由な馬産に移らねばなりませぬ、而して斯くするには、之に適應すべき種馬を繋養し、産業用に適する馬を生産し、産業に適する育成調教をなさねばなりませぬ、是等の目的達成の爲には、地方競馬に、輓曳其の他産業用馬調教に適當なる競走種目を加へ、産業用馬の能力増進を圖ることが最も大切なので、是は競馬にあらざれば能くなし難き所であります(拍手)此の意味に於ても速かに地方競馬を開催することが必要であります、家畜を飼育することは、單に自給肥料を作るばかりでなく、動物愛に依つて人情を和げ、且つ昔から「馬産地に結核なし」と言はれる程で、人情を和げて平和國家建設に役立ち、結核豫防にも役立つことは、馬産地の特に體驗しつつある通りであります、而して馬産意欲の向上と云ふものは、必ずしも採算の良否に左右されるものではなく、馬産家特有の馬に對する熱情を昂揚することが最も大切なのであります、即ち馬産熱の昂揚は地方競馬に及ぶものはありませぬ
政府は曩に昭和二年八月地方競馬規則を制定し、地方競馬を施行し、爾來地方競馬は健全なる發達をなし、我が國馬産の爲め貢獻しつつありましたが、昭和十四年七月鍛錬馬競走を施行することとなり、地方競馬は一時廢止になつたのであります、然るに今や軍用馬造成の必要なき爲め、鍛錬馬競走も亦昭和二十年十一月廢止になつたのであります、そこで現在は競馬を實施する何等の方途もなく、産業用馬の生産にも、能力増進にも支障を來すのであります、更に競馬は、馬券を發賣することに依りまして新圓を吸收し、浮動購買力を減少し、「インフレ」對策致としましても最も有效適切であります(拍手)加之馬券税の徴收に依り、國庫收入の増加を圖ると共に、競馬の施行に依りまして得たる剩餘金は、畜産奬勵、社會事業資金等に使用せられ、國庫の負擔を少くする點に付ても重大なる役割を果すのであります、競馬は一面に於て健全なる大衆娯樂でもあります、今や地方競馬の實施は、國民一般の熱烈なる要望でありまして、此の結果は、何等法規なきに拘らず各地に地方競馬類似の競馬が開催せられ、其の收入は前に述べましたやうな方法に使用せらるることなく、勿論國庫收入もなく、其の多くは濫費せられて居ると云ふ状況でありまして、此の儘に放任する時は、收拾すべからざる結果に到ることは、火を賭るよりも明かなることであります、此の情勢に應ずる爲にも、地方競馬法の制定は最も緊要のことであります
次に地方競馬法案中に規定せられました重要なる點を少しく申上げますれば、第一に地方競馬の施行者は、從前通り地方の馬匹組合聯合會又は縣區域の馬匹組合を原則と致しますが、地方の馬匹組合聯合會で施行することが不適當な場合、例外として中央馬事會で施行するのであります、第二に地方競馬を施行する競馬場の數は、是も從來通り北海道三箇所以内、都府縣各一箇所以内であります、第三に競馬に出場し得る馬は、命令の定むる所に依り限定する規定でありますが、實際は競馬場所在都道府縣及び其の隣接都道府縣に二箇月以上飼養せられたる、四歳以上八歳以下の馬とする豫定であります、第四に競馬開催の囘數は年四囘以内で、一囘の開催期間は六日以内であります、第五に地方競馬競走の種類は法律には明示して居りませぬが、産業用馬の能率増進に重點を置きまして、輓曳競走、駈歩競走、速歩競走及び障碍競走と致す積りであります、第六に馬券を優勝馬票と稱し、其の額面金額を十圓以下とし、是が購買は無制限としたのであります、第七に勝馬の的中者に對する拂戻金は、優勝馬票額面金額の百倍まで拂戻をなすことが出來ることとしたのであります、第八に、地方競馬の施行者は、優勝馬票賣上金の百分の二十五以内の金額を自己の收入とすることが出來ることとしたのであります、此の金は一般畜産事業奬勵費、競馬施行者たる馬匹組合聯合會の馬事奬勵事業費、社會事業費及び中央馬事團體への納付金等に使用せらるるのであります、而して社會事業費は、戰災者、海外引揚者、病院費等に使用せらるる豫定であります、第九に競馬施行者は、前に述べました收得金の内一定額を中央馬事會に納付せねばなりませぬ、中央馬事會に納付せられた金は、地方競馬を施行しても損失をなしたる馬匹組合聯合會に對する助成、一般畜産奬勵費等に使用せらるるのであります、尚ほ現行馬券税法に於ては、從來鍛錬馬競走に當り發行する優等馬票の發行金額の百分の四を課税し、又優等馬票の的中者が拂戻を受くる場合、其の拂戻すべき金額より馬券購入金額を差引きたる金額に對し、百分の十の馬券税を拂ふ規定でありますから、本法案の附則として税率は其の儘にして、本法案の名稱にそれぞれ改正を致した次第であります、以上が提案の理由であります、御審議の上滿場の御贊成を希望致します
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=38
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039・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名十八名の委員に付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=39
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040・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=40
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041・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=41
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042・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 殘餘の日程を延期し、本日は是にて散會せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=42
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043・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=43
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044・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、次會の議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後五時五十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03719460829&spkNum=44
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