1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年九月三日(火曜日)
午後一時三十八分開議
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議事日程 第三十八號
昭和二十一年九月三日
午後一時開議
第一 臨時物資需給調整法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 商工協同組合法案(政府提出) 第一讀會
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〔朗讀を省略した報告〕
一、議員から提出された議案は次の通りである
少年法改正に關する建議案
提出者
地崎宇三郎君 犬養健君
田中萬逸君 成島勇君
林連君
勤勞青年の教育振興に關する建議案
提出者 佐伯忠義君
八幡濱港修築工事速成に關する建議案
提出者
高橋英吉君 安平鹿一君
藥師神岩太郎君 林田哲雄君
馬越晃君 關谷勝利君
稻本早苗君 布利秋君
八幡濱驛より三瓶町經由卯之町間省營自動車運行實現に關する建議案
提出者
高橋英吉君 安平鹿一君
藥師神岩太郎君 林田哲雄君
馬越晃君 關谷勝利君
稻本早苗君 布利秋君
八幡濱臨港鐵道敷設に關する建議案
提出者
高橋英吉君 安平鹿一君
藥師神岩太郎君 林田哲雄君
馬越晃君 關谷勝利君
稻本早苗君 布利秋君
八幡濱市、三崎村間省營自動車運行實現に關する建議案
提出者
高橋英吉君 安平鹿一君
藥師神岩太郎君 林田哲雄君
馬越晃君 關谷勝利君
布利秋君
雪國開拓農民の副業及び家屋の緊急措置に關する建議案
提出者
圖司安正君 大久保傳藏君
石黒武重君 山木武夫君
北陸線柳ヶ瀬、今庄間の隧道電化改良に關する建議案
提出者
今井はつ君 青木清左ヱ門君
奧村又十郎君 坪川信三君
堂森芳夫君
高知、宇佐、須崎を結ぶ鐵道敷設に關する建議案
提出者
佐竹晴記君 氏原一郎君
寺尾豊君
飼料政策確立に關する建議案
提出者
永井勝次郎君 佐伯忠義君
宮村又八君 鈴木周次郎君
野溝勝君 小川原政信君
松本六太郎君 岡田勢一君
福田繁芳君
(以上八月三十一日提出)
都道府縣市町村に於ける讀書施設の普及徹底に關する建議案
提出者 今井はつ君
(以上九月二日提出)
一、去三十一日委員長理事互選の結果次の通り當選した
地方競馬法案(小笠原八十美君外四名提出)委員
委員長 瀧澤濱吉君
理事
厚東常吉君 鈴木仙八君
五坪茂雄君 金井芳次君
一、昨二日特別委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した
地方競馬法案(小笠原八十美君外四名提出)委員
理事 小川原政信君
(理事厚東常吉君昨二日委員辭任に付其の補闕)
一、昨二日次の通り特別委員の異動があつた
復興金融金庫法案(政府提出)委員
辭任 松川昌藏君 補闕 高橋泰雄君
地方競馬法案(小笠原八十美君外四名提出)委員
辭任 厚東常吉君 補闕 小川原政信君
辭任 香川兼吉君 補闕 松本六太郎君
─────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是より會議を開きます、日程第一、臨時物資需給調整法案の第一讀會の前會の議事を繼續致します、質疑の通告があります、順次之を許します──田中源三郎君
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第一 臨時物資需給調整法案(政府提出)第一讀會(前會の續)
〔田中源三郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=1
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002・田中源三郎
○田中源三郎君 只今上程中の法案に對しまして、總理大臣竝に經濟安定本部長官、商工大臣、厚生大臣、關係閣僚に質疑を致さんとするものであります
質疑の第一點は、本法案は強力なる國家權力と命令權とを持つ委任立法でありまして、私は聊か現行憲法に抵觸を致すのではないかと云ふ疑ひを持つものであります、隨て私の私見を交へつつ總理竝に膳國務大臣に質疑を致したいと思ふのであります、元來本法案は商工省所管として提出されて居ります、併し商工省の所管として之を提出致すべき手續上のものか否かと云ふことを考へて見まするならば、當然是は經濟安定本部、即ち内閣が提出致すべき手續を執るものであらうと考へるのであります、隨て此の法案の内容を見ますると、經濟安定本部總裁が我が國産業の囘復及び振興に關し定めたる基本的な政策及び計畫の實施を確保する爲の法律であります、而して最も強力なる國家權力と命令權とを有する法案であります、之を大きく考へて見まするならば、曾ての戰時立法でありました國家總動員法と變りのないものと考へられるのでございます、申すまでもなく本法案は商工省所管として提出されて居りますが、先程申上げました通りに、提出の手續の上に於きましても、私は内閣所管であると考へるのであります、尤も敗戰後の日本の重要なる國家經濟の再建に關しましては、經濟安定本部の總裁が自ら本法案の立法の趣旨を説明し、我が國の産業の復興と振興の基本的の政策及び計畫の内容と實施方法とを具體的に明示すべきものであらうと私は考へるのであります、此の法案は非常に強力なる命令權と國家權力とを規定致して居ります、而して勅令の委任事項を規定致して居るのであります、政府は新しき憲法草案を提出されまして、既に本議院を通過致しました、新しき憲法に於きましても、勅令に委任すると云ふことは、なし得られない筈であると思ふのであります、現行憲法の上から考へて見ましても、私は勅令に委任すると云ふことは、從來取扱はれて來て居りまるすけれども、其の勅令に規定すべきものを提示して、議會の協贊を受けることが當然であらうと思ふのであります、況や民主主義國家の健全なる經濟再建を企圖する時に於きまして、勅令に委任するが如き委任立法を提出せられると云ふことは、之を見ましても、私は憲法上本法案に對して疑義が存在致して居るのではあるまいかと思ふのであります、政府は勅令に委任すべき所の事柄を、此の際に本法案の提出と同時に規定致して、議會の協贊を受くべき筋合のものであらうと私は考へるのであります(拍手)法案を見ましても、一條から極く簡單なる法文を以て綴られて居ります、而して其の中には、實に厖大な、強力な權力及び命令權が含まれて居ると云ふことは申すまでもないことであります、斯樣に委任立法を──勅令に委任致します爲に、過去に於ては官僚統制の經濟と云ふものは、此の強力なる法の中に隱れて、さうして之を濫用した過去のことを考へて見まする場合に於きましては、我々と致しましては斯樣に簡單なる法案、而も委任立法──委任されるべき所の勅令の事項の規定のないものに對しては、御同意申上げることは洵に困難なことであらうと思ふのであります、申すまでもなく日本の經濟界の再建に當りまして、政府は軍需補償打切りを斷行致しまして、今後經濟の再建に關する所の幾多の措置法案が出て參ると思ひます、現に政府は既に一部其の善後措置法案を提出されて居るのであります、然らば此の提出されて居ります所の法案、竝に今後に殘つて居ります善後措置法案と云ふものを提出されて參りまして、是が通過の上に於て、政府の官僚の諸公達が經濟再建の中核をなす場合に於きまして、其の工作が果して民主的に積極性を持し、勞働大衆の負擔の輕きに於てなし得られるや否やと云ふことを私は非常に疑ふのであります、私は此の勅令に其の儘委任する場合には、經濟再建の上に多くの危險を伴ふものと信ずるのであります、又あの法案を通讀致しまするならば、法案第二條に「物資」と書いてあります、此の物資と云ふものは廣い意味の物資であらうか、又其の物資なるものの割當に對しては、産業團體の構成員が決議を致して割當を決定する、之に對して不服のある者は、不服を申出ることが出來ると云ふことが書いてあります、今日の如く中央に於て、或は地方に於て、或はそれが時期々々に於て割當てられる所の多數の物資が、構成員の不服に依つて、一々公正なる審議をなすと云ふことはなし得られぬのである、結局官僚の机上「プラン」に陷る虞がある、要するに物の割當よりも、物の裏付けを今日各産業團體は望んで居ると云ふことを政府は考へて戴かなければならぬ、私は此の意味からして、あの法案の中に幾多の疑義が存在致すのみならず、あの法案を以て致しまするならば、決して滿足なる産業團體の統制割當が出來るものでないと云ふことを考へるのであります、先程申しましたやうに、私は現行憲法の上から考へて見ましても、當然之に疑點を持つものであります、政府は此の立法の根據、手續、將來執らんとする所の勅令の例示、及び如何にして之を運用するかと云ふことを詳細に御説明を願ひたいと思ふのであります
第二點は、我が國の經濟再建に關する政府の意圖する經濟綜合施策と、補償打切りに伴ふ善後處置に付て御伺ひ致したいのであります、大藏大臣の出席を特に議長より御願ひを申上げます、私は此の善後處置を一日でも長引かして行くと云ふ時に於きましては、産業の復興上國民の安定感を失はしめて、却て財界を混亂に陷れ、以て國民の自主創造性を失墜するものであると懸念致すのであります、申すまでもなく戰後經濟を本格的に再建する爲には、財界の整理を斷行致すことは當然のことであります、財界の整理方針と經濟の再建方針とを具體的に政府は定めて議會を通じて國民の納得の行くやうに詳細説明する所の義務もあり、而して國民の總意からなる協力と忍耐を、政府は求むべきであらうと思ふのであります、經濟安定本部が發足致しまして人的機構が出來るまでには、相當の年月を費して居ります、私共の考へますのには、經濟安定本部が開廳と同時に、其の基本的政策と綱領を發表致すべきであらうと思ふのであります、從來豫算總會に於ても、本議場に於きましても、安定本部の長官は具體的な施策には觸れて居られませぬ、抽象的に其の施策の一端及び構想の一部を御話になつて居ります、私は開廳致すと同時に基本的な政策を發表致すべきが當然であらうと思ふのであります、唯閣僚が徒らに、何れの委員會に於ても、何れの本會議に於ても、經濟安定本部が出來たならば其處に於てやります、勿論施策の決定には時日を要することは當然でありまするが、今日まで荏苒日を重ぬるならば、先づ以て安定本部に於て構想を整へて、其の基本的政策を發表して、之に向つて實施を致して行くと云ふことが私は當然であらうと思ふのであります(拍手)申すまでもなく今日我が國の經濟界の再建に對しまして、安定本部の持つ役割と申しますものは、恐らく日本の經濟界再建の鍵を握つて居ると申しても私は過言でないと思ふ、日本の經濟の再建と申しますものは、何としても「インフレ」を克服して行かなければならぬ、此の「インフレ」の問題と密接に結付いて居ると云ふことは申すまでもない、隨て補償問題の處理と關聯して行かなければならぬ、補償問題に付ては政府は既に打切りを斷行されましたが、是は補償問題の打切りを斷行されましても、今後に於きましては國債の處理、財産税の問題と見合つて、此の補償問題を打切つて行かなければならぬと思ふのであります、隨て結局は綜合施策の決定に於て、財政と經濟を通ずる根本的な施策の立場を一貫せしめて行かなければなるまいと私は思ふのであります、今一般補償契約打切りを斷行されまして、産業、金融兩界の全面的な、根本的な再編成を行うて行かなければならぬことは當然であります、政府は之に對して、金融緊急措置令施行規則改正、會社經理應急措置法、復興金融金庫法、金融機關經理應急措置法等の提出を致されて、既に實施を見て居るものもあり、今や審議の半ばにあるものもあらうと思ふのであります、併しながら其の根本的施策を行ひますことに付ては、十分なる用意を整へて行かなければならぬが爲に、まだまだ殘されたる所の重要な法案があり、措置があらうと思ふのであります、即ち企業體制を急速に確立する措置法でありますとか、殘存企業の指定でありますとか、戰時特別税、財産税、企業再建整備、金融機關再建整備、個人及び公益法人の債權債務に關する等の重要なる措置法が未だ提出を見て居ないのであります、就中企業再建整備に關する特別決算方法、資産評價に關しては、特に政府の明快なる御説明を願ひたいと存ずるのであります
第三に質したいことは、日本經濟の囘復及び振興の基本的政策であります、言換へれば、政府の考案されて居る日本經濟の基礎的構想であります、先に私が申述べました如く、政府と致しましては、須らく國民に希望と協力を促す爲に、經濟再建に關する正確なる見透しを立てて、之を國民に公表すべきであります、申すまでもなく日本は一切の植民地を失つて居ります、原料資材の大量輸入が困難であり、空襲に於て生産設備の大量は破壞されて居ります、賠償に依る設備撤去などを計算致しまする時に於きましては、日本の經濟の基礎的構想が、戰前より一變致して居ることは申すまでもないことであります、軍備の爲の非生産的な要素が消滅致しましたことは、僅かに我が國の産業界に「プラス」を與へたのみであります、併しながら御承知の如くに、聯合軍の占領費の負擔に依りまして、是は相殺されて居ります、私共は戰前、昭和十年から十二年に至る三箇年間の平均生産實績を一〇〇とした、製造工業指數の主なるものを掲げて見まするならば、石炭四六・九、鐵鋼業八・八、非鐵金屬一二・六、機械工業三八・五、電氣機械二二・七、車輛工業四六・七でございまして、戰前の對比に於ては、非常に慘めな收縮が基礎産業に現れて居るのであります、申すまでもなく鐵鋼業の不振は、それを原料とする工業の、循環的縮小生産を導く趨勢を示して居ります、化學工業に於きましても二二・四、化學肥料は三一・三、曹達工業は七・八、油脂工業は一八・五でございまして、戰前に比して洵に潰滅の状態であると言つても過言でないやうな有樣でありまして、鐵、石炭、「セメント」、工業塩の不足は、致命的な障碍となつて居るのであります、鐵、石炭、「セメント」、工業鹽の基本原料の供給状態が改まらない限りに於きましては、生産増強どころか、手持原料の消耗と共に、生産は或る點に來れば遂に麻痺状態に曝されるのであります、申すまでもなく現實に其の樣相が現はれて居ります、國の經濟は、企業的に各各の部門の生産物を、通貨を媒介として相互に交換しつつ、循環的に營まれて行くのでありますから、鐵なり、石炭なり、「セメント」なり、工業鹽なりの供給不足で生産不振に陷れば、軈ては農村に於きまする所の農業生産物に不可缺なる資材の缺乏を來すことは當然でありまして、之に伴つて農村の生産物が減退致して行くと云ふことは、當然のことであらうと思ふのであります、此の時に當つて日本の經濟と云ふものは、基本的轉換を致さなければならぬのであります、基本的な轉換は、即ち國民生活に重大な問題であります、補償打切りに伴うて企業の整理は行はれつつあると申しましても、先程私が申しましたやうな幾多の善後處置が殘つて居るのであります、日本經濟の基本的の轉換に對しまして、八月二十四日の聯合軍發表の賠償撤去工場を見まするならば、即ち第二次發表に依りまして、八工業、五百五工場の撤去物件に對して、保全命令が來て居るのであります、故に是等は將來我が國より撤去せられるものでありますから、撤去せられたる後の、將來の我が國産業の再建的の基本を茲に樹てて、斯う云ふものがなくなつた後に於て、如何にして我が國の産業を再建して行くかと云ふことの基本政策を樹立して行かなければならぬのであります、賠償がどう云ふ風になるか分らぬと云ふ點もございましたでせうが、今日に於ては概ね其の全貌が明かになつたと申しても宜いと思ふのであります、日本の經濟の轉換は、申すまでもなく今後に於ける賠償とも見合せて行かなければなりませぬが、恆久的な産業の政策と云ふものを、先程申したやうに打立てて行く、さうして行かなかつたならば、日本の經濟と云ふものは今後成立つて行かない、産業五箇年政策を茲に立てる、さうして之をどう云ふ風にしてやつて行くかと云ふことを考へなければならぬ、從來のやうな南方圈を含んだ自給經濟「ブロック」の體制と云ふものは、今日はもう破れて居ります、關税の障壁も撤廢されて居ります、斯う云ふ時に於て全商品の需給が、國内的の需給關係のみで解決されると云ふことは全然ないと考へて行かなければならぬのであります、隨て産業の再編成に當つては、國際的の需給關係まで考慮に入れて整備する必要があると共に、一方我が國が工業國として立つて行く所の、産業構成の有機的な面を十分に採入れて、單に輕工業のみに重點を置いた跛行的産業構成では、健全なる工業の發達は不可能であると思ふのであります、茲で我々が考へて行かなければならぬことは、石橋大藏大臣は五日の時事新報に於て、必要なる所の産業の金はどんどん出して行つても差支へないと云ふことを述べて居られます、申すまでもなく本議會に於て通過致しましたる一般會計の豫算、特別會計の豫算、今後政府の放出せんとする所の金額を合せまするならば、其の金額は非常に大きな額に上つて行くであらうと思ふのであります、私は物の生産よりも、兎に角通貨の方が先へ走つて行くと云ふ心配を持つて居る、是は今申上げましたやうに、我が國の産業の再建を致します前には、どうしても日本の從來の國内資源の状態を勘案して行かなければならぬ、日本の國が海外より幾多の工業原料を輸入して居つた時代のことを考へなければならぬ、即ち昭和五年以前のことを考へて行かなければならぬ、隨て日本の産業の外國への依存程度と云ふものを考へて行かなければならぬと私は思ふ、私が申すまでもなく大藏大臣も御承知の通り、我が國の今日の國内資源に於て、如何に政府が金を放出されましても、現在の企業の状態で是が囘復は私は不可能であると思ふ、どうしても先程申したやうに基本的な政策を茲に立てて、さうして國外に一定の「クレヂット」を組んで、物の輸入を圖り、さうして放出さるべき通貨を少くして、「インフレ」を防いで行くより外に途があるまいと、私は斯樣に考へるのであります、此の點に關しまして、日本の國の根本的な、政府の持つて居られる産業の基本政策に付て、私は關係閣僚から特に詳細なる説明を願ひたいと共に、斯くして將來我が國が國際協定に參加する準備を如何になしつつあるか、國際協定に對して參加する準備を整へて行かなければならぬ、此の點に付て政府の意圖せられて居る計畫内容、是等の政策を具體的に、詳細に御説明願ひたいと思ふのであります
次に御伺ひ致したいことは、企業整理に依つて放出さるべき失業者の受入態勢であります、屡屡此の議場に於きましても各方面から此の問題に付て論議され、或は委員會等に於ても論議されたのでございます、勿論大量の失業者に對して、援護の方策を十分考慮すべきであることは申すまでもないことであります、現在の物價から考へて見まするならば、私共は特に此の失業救濟と云ふ勞務行政が、非常に重大なる部門を占めて居ると考へるのであります、通貨の整理、所謂擬制資本の打切りに依る企業の整理は、單なる經濟的の處置のみではないと考へる、大なる政治的の意義が茲に生じて來ると云ふことを考へなければならぬと思ふのであります、四月二十二日以降の統計局の調査に依りますると、完全失業者百五十九萬、内就業七日未滿の者が九十六萬、同二十日未滿が三十九萬、引揚失業者が百五十萬、企業整理に於て百萬、斯う云ふ失業者が出て居ると統計に現はれて居りますが、私の考へる所に依りますと、潛在失業者を合せますならば、現今七百五十萬程度のものがあるのではなからうかと思ふのであります、過去の委員會竝に本會議に於て、厚生大臣から此の失業救濟に對する色々なる施策及び豫算等に付て説明がありましたから、今日は省略を致して置きますが、私は單なる從來の御答辯のやうなことで、今日此の失業者を救濟すると云ふことは困難であらうと思ふ、よく社會黨の諸君が仰せられる如くに、完全雇傭と云ふ言葉を使はれる、完全雇傭致すと云ふことは──尤も致さなければならぬ、それを理想として進めて行かなければならぬ、併し世界各國の統計を見ましても、中々完全雇傭と云ふものは難かしいものであります、併しながら之を目標として總ての施策を決定致して行かなければならぬのであります、隨て企業の整理を致し、まだまだ擬制資本を打切つて行かなければならぬと云ふ時に於て、一面に於て失業對策、其の受入對策を茲に作り、一面に於ては打切られた資本の更生政策と、各各が三本建で竝んで進んで行くやうなやり方を執つて行かなければならぬのであります、隨て是に於て私は考へるのに、先づ日本の人口其のものを大體幾らに押へて行くのであるか、日本の人口を幾らに押へて、其の中の失業者が幾らあるか、之をどう云ふ風に配分して行くか、斯う云ふ基礎を立てて行かなければならぬと思ふのであります、私は此の意味から考へまして、先づ日本の農業部門に於きましては、屡屡農林大臣が、開墾其の他の耕地の整理に於て斯く斯く致すと云ふことを言はれて居りますけれども、それが内閣の綜合的な基本政策から流れ出て居る政策でないと考へる、隨て内閣の綜合的な基本政策から此の人口問題を處理し、失業問題を處理して行かなければならぬと思ふのであります、其の中に於て、農業部門にはどれだけの人口配分を行ふ、工業部門に於てはどれだけ配分を行ふ、産業別の部門に於てどれだけ配分を行ふ、配分を致すならば、其の受入態勢を一方に整へて置いて行はなければならぬと思ふのであります、隨て此の配分の上に於て、工業部門に於きましては、只今申上げました通りに日本の今日の企業状態を如何にして行くか、將來如何にして行くかと云ふことの計畫を立てて、それが出來上つて、それに依つて、私は配分を致して行かなければならぬと思ふのであります、政府は是等の點に關して如何なる意圖を以て此の失業救濟を行はれるか、或は又人口配分に對して、如何なる受入態勢を以て如何に配分するかと云うことに付きまして、關係閣僚の詳細なる御答辯を煩はしたいと思ふのであります
私は今日の「インフレ」に對しては相當の疑問を持つて居りますが、時間の關係上省略致します、唯大藏大臣に伺ひたいことは、一方に於ては「デフレ」政策を執つて居る、一方に於ては資本主義的復興のやうな、所謂通貨に依る所の政策を執つて居られる、「インフレ」政策を執つて居られるのではないかと思ふ、私は資本主義的復興か、或は社會主義的復興かと云ふやうな、さう云ふ意味で御尋ねをするのではなくして、敢然たる信念を持つて、其の信念の下に一つの政策を斷行して戴かなかつたならば、一面に於ては通貨は膨張して行く、物の生産は成立つて行かない、一面に於ては財産税を取つて「デフレ」政策のやうな恰好が見える、丁度片方は「デフレ」に突込み、片方は「インフレ」に突込んで居るやうな恰好が見られるのであります、左樣なことは大藏大臣は、資本主義的でもなければ、社會主義的でも何でもないので、其の時に適應した最も必要なる手を打つて居ると仰せられたのでございまするが、我々と致しましたならば、今日政府に確乎たる──もう一つ大藏大臣は信念を持つて此の政策をはつきりと國民に徹底をさせて戴きたいと思ふのであります、それは申すまでもなく今日世上に於ては非常に新圓の問題に付て疑念を持つて居る、新圓の再封鎖が來ないか、或は百圓札を十圓札と取替へて置く方が宜いとか、色々な風評が世上に傳はつて居るのであります、大藏大臣は屡屡新圓一本槍の政策で行くと云ふことを唱へられて居りますけれども、市井に於て斯くの如き疑點の生ずると云ふことは、大藏省の執つて居る政策に私は弛みがあると思ふのであります、確乎たる一つの信念を──茲に議會を通して大藏大臣の所信を明かにされることが必要であらう、それは私が今最後に御尋ねをする所の問題と深い關係があるからであります
補償打切りに依つて、國民の國家に對する信頼感が薄らいで來て居る、例へば農地法を提案しても、農地證券を貰つて先祖代々の田地を取られて、其の農地證券が又反古になりはすまいかと云ふ心配を、地主の一部に持つて居る者がないとは言へないのであります、是は一例を引いたに過ぎないのでありまするが、一般信用組織が、信用と云ふものが、政府に對する信頼感が薄らぐと云ふことであつたならば、容易ならざることであらうと私は考へるのであります、信用組織の崩壞を齎す危險が、私は補償打切り後に於て極めて大きいと考へて居ります、而して一度破壞されたる信用組織の再建と云ふものは、中々容易でないと私は考へるのであります、私は此の問題は、今後政府が失業救濟に於て必要な公債發行、或は資本の調達、預金の吸收等、事業資金の調達は、此の信用に依つて其の總てのものが左右されると考へるのであります、隨て此の國民の信頼感を政府に惹き付けて行くと云ふことは重大ではないかと思ふのであります、其の惹き付けるに付ては、大藏當局の持つ所の確乎たる財政方針を徹底的に國民に周知せしむると云ふことである、之に依つて國民が安心をして、さうして政府を信頼せしめると云ふことが洵に私は緊要な問題であらうと思ふのであります、特に此の點に付て、此の議場を通して大藏大臣は明確に國民に答へられんことを切望致すのであります、之を以て私は質疑を終ります
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=2
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003・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 私の所管に關しますることに付て答辯申上げます、
第一に此の法案は安定本部の關係事項として内閣から提出すべきではないかと云ふ御尋ねがございましたが、法案にもありまする通り、主務大臣は決まつて居ります、主務大臣は商工大臣であります、内閣に於きまする經濟安定本部の役は、一種の企畫廳でありまして、實行廳ではございませぬ、斯かる法案は、やはり實行しまする各省に於て立案提出するのが至當と存じて居ります
次に此の法案は非常に廣汎な委任事項があつて、又昔の官僚獨善統制に陷るのではないか、斯う云ふ御心配の御尋ねがあつたのでありまするが、此の點は從前の國家總動員法に基きまする諸法令のものとは、全然趣きを異にして居るやうなものと存じます、第一番に從前の統制は、戰爭目的に國民を驅り立てる爲の法制であります、今囘の立法は、國民の生活安定、それが爲にする經濟安定を目的とする立法でございます、隨て同じやうな形を取つて居るやうに見えますけれども、根本に於て軍國主義的と民主的との相違がございます、第二には、從來の統制法令に於きましては見られない特色を、今囘の法案は持つたのでございます、之を運用するに致しましても、第一番に産業各般の根本問題を決めまする其の本は何かと申しますると、經濟安定會議であります、此の安定會議が民主的に組織せられました其の組織の上に根本方針をば定めます、又此の安定會議の基礎的の機關でありまする經濟安定本部も、從來のやうな全く官僚的の組織でないことは、從來委員會、本會議に於きましても數次繰返して申上げて居ることでございます、又是の統制をば實行しまする諸産業團體も、從來とは違ひまする民主的の組織を以て運用することに相成つて居ります、且つ此の變轉極りなき經濟事象を見まする際に、詳細の事項を豫想して法律を決めると云ふことは洵に困難かと存ぜられまするので、此の臨機に應じまする爲に、斯くの如き簡素なる法律の形式を採つたものでございます、又此の法律は永久に存する法律ではございませぬ、經濟安定本部が緊急の施策に應じて諸般の施設をしまする其の間、此の經濟安定本部の設置に相伴つて居りまする臨時の法制でございます、是等の點に於きまして、從前の官僚獨善的な統制經濟に陷るが如き心配はないと存ずるのであります
次に補償打切りに關係しまして、補償打切りの跡始末の法案が遲れて、大分世間の人心が平穩でないが如何であるかと云ふ御尋ねでございましたが、此の補償打切りに伴ひます證法案、殊に企業再建整備法、金融機關再建整備法、其の他の法令は、目下經濟安定本部が中心と相成りまして、關係各省と相連絡しまして、尚ほ關係方面と諸種の點に付て打合せ中でありまして、不日是は當議會に提出されることと思ふのであります、唯種々困難な問題がありまして、是が研究に手間取りまして案外提案が遲れて居ることは、甚だ私共も殘念に思つて居る所でございます
次に安定本部は如何なる構想を以て、如何なることを爲すかと云ふ御質問でありまするが、是はもう數次此の席で御答へ申上げましたが、我が國の是からの經濟の再建は何で定まるかと申しますると、繰返して申しまする通り、私共の計畫通りには參らないのであります、客觀的情勢が之を支配するのであります、我が國の天然資源は荒れ果てました、殘る物は農地と水面及び動力、又僅か殘された天然資源であります、外國の力を借りるにあらずんば、中々此の經濟再建の困難なることは申上げるまでもないことであります、又國内の事情と致しましては、補償打切りに伴ひまして、經濟界に如何なる樣相を呈するかと云ふことは、政府も之を豫測しようとしましても、中々補捉し難い樣相が出て來る場合もございます、況や賠償問題の輪郭は分りましたけれども、此の賠償物資の決定に伴ふ産業諸般の影響等に付きましては、尚ほまだ未確定のものがございます、斯う云ふやうな際に、細かい構想の下に豫め總ての畫策を決めると云ふことは、甚だ危險であると申さなけばなりませぬ、併しながら斯く申せばとて、安定本部の今やつて居りますことは、或る目標に對して進んで居ります、是は申上げるまでもないことでありまして、我が國の經濟の安定に先づ大事なことは衣食住の安定にあります、衣食住を増加せしむる諸産業の振興にあります、同時に諸物資の輸入をば促進せしむべき見返り物資の生産産業にあります、又基礎産業としては、總ての産業の根本である石炭鑛業の振興であります、又國民の中堅層を形作るべき中小工業をも再起せしむる方針であります、是等の問題に付きましては、企業補償打切りの後の樣相を見まして、一方には金融的に、又一方には物資の供給に依り、是が再建を圖ると云ふことが焦眉の急であると云ふことは申上げるまでもないことでありまして、是等の點に付ては、安定本部は關係諸省と緊密なる連絡を保ちながら、諸般の施策を畫策して居るものであります、是と同時に大切なことは物價の安定であります、此の物價の安定あつて、初めて經濟の安定の基礎が出來るのでありまして、此の點に付きましても、新たなる構想の下に、一つの新しい物價水準を定めて、經濟の安定を圖ることに孜々として準備を致して居ります、併しながら何を申しましても、經濟安定本部及び是と兄弟のやうな物價廳も出來まして、まだ二十日間であります、二十日の間に、若し一部の官僚が、又私共が、僭越にも日本の諸産業を指導すべき考案があるとして發表したならば、是は申上げるまでもなく甚だ僭越のことでありまして、是が爲に經濟安定本部では、安定會議が一方にあり、又其の下には或は學者或は實務家或は關係各廳の有識者を集めて、是が根本問題を考へて、此の施策に誤りなきを期して居るのでありまして、尚ほ今申します應急の措置をやつて居ります間には、補償打切りに伴ひます經濟の動搖をどう云ふ風に收拾すべきかと云ふことの目標も定まります、又自ら對外關係に於ても、如何なる物資が外國に希望出來るかと云ふことも漸次相定まります、是等の諸情勢を相見まして、尚ほ國の衆智を集めまして、是等の、或は三年計畫と申しますか、五箇年計畫と申しますか、兎に角國民擧つて産業再建、經濟安定、國民生活の安定に向ふべき目標をば、徐々ではありまするが、確實に定めて參りたいと存じて居ります
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=3
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004・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 田中君から色々廣汎な御質問を受けました、私の關係する所に付て簡單に御答へ申上げます
第一は、大藏大臣は經濟再建の爲には資金を出すと云ふやうに言つて居るが、併しながら通貨の増加が生産の増加よりも先に行きはしないか、其處に問題はないかと云ふ意味の御尋ねだつたかと存じますが、是は御尤もでありまして、假に通貨政策だけでやると致しますれば、所謂「リフレーション」政策になる譯でありますが、詰り沈滯して居る生産を通貨の増發に依つて、言換へれば購買力の増大に依つて、其の生産を刺戟して増産をさせると云ふ政策であるとすれば、是は所謂「リフレーション」政策になります、其の場合には無論通貨の増加が生産の増加よりも稍稍先に參ります、併しながら先に參りましても、若し其の増産が非常に長い先のことでないならば、生産増加を來して、而して「リフレーション」の目的を達すると云ふのが普通の公式でございます、併しながら今日は屡屡申上げますやうに、單に通貨を經濟界に注入して、それに依つて處理が出來るやうな簡單な時代ではございませぬ、併しながら一面に於ては必要な場合には、通貨の注入に依りまして生産を助けると云ふことも、是は是非必要でありますが、それと同時に今日の日本の生産状態に鑑みまして、生産其のものに對しての強力な處置を要することは言ふまでもございませぬ、是は商工、農林其の他の各生産に關係する所管省に於てそれぞれやつて居る譯でありますが、殊に公共事業の如きに於ては、今政府の計畫して居る──是は經濟安定本部を中心にして今計畫し、殆ど纏まつて實行に掛つて居る譯でありますが、其の方法も、時間、資材、勞力と云ふものに付て非常に嚴密な査定を致しまして、時間の關係から非常に延びるものは後廻しにする、それから資材が其の場所にあると云ふもの、或は勞力が其處に餘つて居ると云ふ判斷の下に嚴密な査定を行ひまして、逐次實施することに致して居ります、是は一例でございますが、左樣な政策と同時に、大藏省と致しましては、必要があれば其の場所に資金を注入する、斯樣な方法で問題を解決して行きたいと考へて居る次第であります
次に國際經濟への參加の必要及び其の準備を如何にして居るかと云ふ意味の御尋ねであつたかと考へます、御説の通り日本は過去に於ても、單に資源のみならず、「マーケット」をも亦國外に大いに之を求めなければ、日本の經濟の維持或は日本國民の生活の水準の維持が出來ないと云ふことは、過去の我が國の經濟が證明する通りでございます、況んや今日は過去に於ける領土が更に縮小したのであります、益益以て國際經濟への自由なる參加が必要である譯であります、同時に又此の國際經濟への自由なる參加が可能であるならば、是が許されるならば、私は日本が今囘の戰爭に依つて領土を縮小しましたことは、何等憂ふるに足らないと考へて居る譯であります、純經濟的に申しますならば、自分の領土であつても、或は領土でなくても、若し貿易が自由であり、經濟の關係が自由であるならば、是は同じことでありまして、例へば朝鮮、臺灣から過去に於て只で物を持つて來たのではなく、やはり内地で國民が消費するものは、それだけの代價を朝鮮、臺灣に拂つて持つて來たのでありますから、朝鮮、臺灣が外國になりましても、純經濟的に見れば同じことであります、問題は唯此の國際經濟への自由なる參加が何時許されるかと云ふ問題であります、私共は、是は無論希望的意見が入る譯でありますが、此の參加は成べく早く許されることを望み、又許されるであらうと信じて居る譯であります、隨て政府と致しましては此の準備を少しも怠つて居りませぬ、最近經濟界の整理を致し、今後まだ其の仕事が續いて、色々の關係で多少遲れて居りますが、其の仕事を續けて參りますのも、要するに國内經濟に於ける不安定要素を一掃致しまして、殊に大藏省の所管と致しましては、通貨價値の安定を出來るだけ早い時期に齎したい、其の爲には屡屡問題になります新圓舊圓の區別と云ふが如きは撤廢致さないことには、撤廢致し得る時期に至らないことには、國際經濟への參加を、假令政治的には許されても、經濟的には許されないと云ふ事情にある譯でありますから、其の事情を考へて、目下其の施設を考へて居る譯であります
第三は、是は或は私から申上げることではないかも知れませぬが、企業再建に付て如何なる具體策を持つて居るか、例へば人口配分或は失業對策等に付て、如何なる具體策を持つて居るかと云ふことであります、是は只今膳國務大臣から御答へがありました通り、大きな計畫と云ふものは無論出來るだけ急いでやらなければなりませぬけれども、目下それを檢討中であります、併しながら先般も此の席から申上げましたやうに、日本の産業經濟のあり方と云ふものは、少くも其の輪廓に於ては、「ポツダム」宣言其の他に於て明白に示されて居るのでありまして、其の中に於て如何なる施策をなすべきかと云ふことは自ら明かであり、政府は其の「ライン」に沿うて目下やつて居る次第らあります、失業對策の如きも、先程申上げましたやうに、公共事業のやり方と云ふものに付て、種々なる、寧ろ細かい點まで檢討を致して對策を立てて居る譯でありまして、企業整理後の少くとも當面の經濟政策と云ふものは明白であり、又其の明白なる線に沿うて着々實行を致しつつある次第でありまして、其の點に於てはどうか御安心を願ひたいのであります
それから最後に、今囘の補償整理等の爲に、政府に對する信頼感が動搖して居る、或は減退をして居る、其の爲に大藏大臣は新圓を再封鎖するが如きことは斷じてないと言ふに拘らず、世間では之を信じないではないかと云ふ意味の御質問であつたかと思ひます、洵に遺憾でありますが、御言葉の通りでございます、私は是に於て、所謂知らしむべからず由らしむべしと云ふ言葉を思ひ起すのでありまして、知らせようと思ひましても、中々人が知つて呉れないものであります、實際の事實に依つて示せば、即ち由らしむれば、それに依つて初めて本當の信頼感が現はれるのであります、私が先般來屡屡新圓の問題に付きまして、是は如何に力を以て追掛けてやりましても、一時は效能があるかも知れないけれども、結局半年も經てば又元に戻る、蝿を部屋に飼はうとしても、中々飼へないで逃げて行くが、飯粒を置けば自ら蝿が集まつて來ると云ふ、二宮尊徳の言葉を思ひ起す譯であります、私は今日本の經濟界に一つ飯粒を置きたいと考へて居る譯であります、それにはどうするかと言ふと、先づ第一に今日の整理を徹底させる、是は經濟界の眞理でありますが、總て物は底に來れば必ず違ふ傾向を持ちます、又天井を打てば下つて來る、是はどう云ふ「サイコロジー」かと申せば、結り是で事が徹底した、もう此の上には惡材料は出ないと云ふことが世間に分れば、必ず良い方に向つて來ると云ふ次第であります、今日の整理は同じことでありまして、此の整理を徹底させて、此處でどん底だと云ふことが感得されるやうになりますれば、即ちそれが所謂飯粒を置くと云ふ譬に類するのでありまして、追はずとも自ら新圓は集まる所に集まる、金融機關に集まる、其の上に更に又そこまで來れば、種々なる對策が立て得ると考へるのでありまして、今日私が今やらうとして居りますことは、即ち先づ以て整理を徹底させる、さうして國民の信頼感を、唯口で言ふのではなくて、事實に於て之を呼び戻す、斯う云ふことにある次第であります、甚だ簡單でありますが、以上御答へ致します(拍手)
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=4
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005・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 田中君の御質問に對しましては、當面私より直接御答へする資料も示されて居ないのでありますが、唯此の法案に主管として初めから關係致しました關係上、一言此の機會に御答へしたいと思ふのであります、率直に申しますれば、田中君の仰せの如く、經濟安定本部が假に半年程前に出來て居つたらば、是はやはり經濟安定本部で立案を願ふべきものだ、斯樣に思ふ筋もあるのです、併しさう固く考へないで、隱退藏物資に致しましても、是は各省皆關係があるのです、けれども商工省が比較的一番關係が多かつたから、あれは商工省で預かつて居る、今囘の此の問題に致しましても、今主務大臣は商工大臣であると仰しやつたのは、是は膳さんの一寸言ひ間違ひでありました、是は農林大臣も大藏大臣も皆あるのでありまして、其の中でも少くとも九〇%位は商工省關係のものが多いだらうと思ふのです、それで之を商工省で預かつたのでありまして、斯う云ふ所謂全體的に影響するやうなものは、或は今後は安定本部等でお預かり下さることが妥當であるのぢやないか、斯う私は思ひますので、田中君の御意見に對して率直なる自分の感想を申上げる譯でありますが、併し全體と致しまして、實は私自身も此の法律は少し無理ぢやないかと初めから思つて居つたのです、併し七月十五日で輸出等臨時措置法はもう期限が切れてしまひました、九月の終りで總動員法はなくなつてしまふ、此の二つの法律がなくなつた後で、果してやつて行けるかと言へば、どうしても此の法律の裏付けがなければ、今日のやうな物資の需給の不均衡ではやつて行けない、肥料に致しましても、生産の計畫性を十分徹底しなければなりませず、或は少い物資の配給を適正にする爲には、どうしても政府に或る程度までの權力を與へて貰はなければならぬ、從來は總動員法或は輸出臨時措置法の如きは、全く戰爭の爲にあれは作つたやうなものである、併し今度のは是は企業再建の爲に作るのでありまして、而も先程膳國務大臣より仰せの如く、全く主務大臣がさう勝手には出來ないのでありまして、全部安定本部の會議の議を經て、さうして安定本部總裁の命ずるものであつて、それからやる仕事の方は、全部民主的なる産業團體を通じてやるのでありますから、從來とはすつかり變つた形となりますから、其の點は御安心を願ひたい、斯樣に思ふ譯であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=5
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006・田中源三郎
○田中源三郎君 厚生大臣の答辯が殘つて居ります
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=6
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007・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 田中君の御質問に御答へ致しますが、私は丁度貴族院の豫算委員會へ行つて居りまして、一寸聽き洩らしましたので、或は答辯がぴつたり來ないかも知れませぬが、御諒承願ひます
今年内に於ける失業者の數でありますが、今まで私は此の議場でも約五百萬と申して居りましたが、最近段々調査致しまして、少し減りました、今の見當は四百十六萬位の見當で居ります、それはどう云ふ譯かと申しますと、海外から引揚げて來る人が四百四十萬人と見まして、それから百五十萬人の失業者があると云ふ推定だつたのですが、滿州の方の人が遲れますので、それで二百五十四萬人歸る豫定になります、さうしますと、百五十萬人が八十六萬人位の數に減ります、是が一つ、それからもう一つは、軍需補償打切り、賠償撤去に伴つて約百萬と云ふ推定で居りましたが、段々調査を進めますと、軍需補償打切りに依り、機械工業、金屬工業、窯業、製材、合板のやうな事業が影響を受けますが、其の影響を受ける事業の現在の就業者數は二百九萬人あるのです、其の二百九萬人の中からどの位の失業者が出るかと云ふことを色々な標準で檢討するのですが、中々難しい檢討でありまして、それで已むを得ず石炭の使用量で算定を付けるのであります、石炭の使用量は、昭和十五年に比しまして約三割九分しか使つて居りませぬ、それで算盤を置きますと、約五十萬人と云ふ失業者がそこから出て來る計算になります、尚ほ其の他銀行、金融業方面から三萬五千人ばかり出る豫定でありますので、彼此れ五十九萬位になるのであります、そこへ賠償撤去に依つて十五、六萬出來ますので、總計は七十五萬位になります、其の點に於て又二十五萬程減りました、彼此れ合せまして約百萬近くが減じまして、四百十六萬と云ふ推定で居ります、是も全く推定に過ぎませぬ、其の他に潜在潛在的失業者と云ふものは勿論相當ある見込である、それをどう云ふ風に受入れるかと云ふ御質問の趣旨と拜承致しましたが、是は甚だ漠然として居ります、中中精細のことは分りませぬ、是は何れ安定本部で正確に決めることになるのでありまするが、只今安定本部に引繼ぐ爲に厚生省として作つて居りまする材料に依りますると、約百四十萬人ばかりは一般民需産業方面に行くのぢやなからうか、又やりたいものだと云ふ考へで居ります、其の細かいことは、工業、例へば日用品工業とか或は纖維工業、肥料其の他の化學工業、金屬機械工業のやうな方面、或は石炭其の他の鑛山業、或は交通運輸業、土木建築業、一般商業、斯う云ふ方面に約百四十萬人ばかりを入れたいものだと思つて居ります、併し此の問題の一番中心問題は石炭です、石炭を増産しなくちや斯う云ふ問題は中々解決困難、石炭は失業者對策に對する特效藥であると云ふ風に考へて居ります、それから第二番目に進駐軍の住宅關係でありまするが、住宅、道路、兵舍等に約四十萬人ばかり豫定して居ります、それから三番目は一般の公共事業、例へば開拓、林道、造林、漁港、道路、河川、砂防、北海道拓殖、斯う云ふ方面でありますが、之に約九十五萬人ばかり失業者を送りたいと云ふ見込であります、それから都市に於きまする所の公共事業としまして、戰災復興、港灣、道路、河川、それから日傭勞務を機動的に「プール」すると云ふやうな設備で、約二十萬人ばかりと思つて居ります、それから賠償施設の撤廢、兵器破壞等の作業には相當數が要りますが、まだ見込が立ちませぬ、職業補導、授産施設等に五萬人ばかり、共同作業等に十萬人ばかり、それから知識階級の救濟に二萬六千ばかり、合計三百二十萬前後の失業者の受入態勢を豫定して居ります、其の外尚ほ在村勞力にも、勿論此の外に相當使へるのであります、併し是は唯豫定でありまして、斯う云ふ線に向つて具體的に段々進みたいと云ふ見當でありまするから、其のことをどうか御諒承を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=7
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008・田中源三郎
○田中源三郎君 此の席から御許しを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=8
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009・山崎猛
○議長(山崎猛君) 許します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=9
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010・田中源三郎
○田中源三郎君 只今の安定本部の大臣の御答辯は、洵に抽象的であり、私の質問した要點から外れた御答へを致されて居るのであります、根本的な政策を樹立して、其の枠へ皆入れて行くと云ふ政策が出來て居るかどうかと云ふことを尋ねましたのに對しまして、只今のやうな抽象的な御答へがあつたのであります、物價の問題に致しましても、物價の安定を圖ると仰しやいますが、然らば如何にして物價の安定を御圖りになるのでありますか、具體的な一つの方法を茲に御示しを願ひたい
尚ほ價格政策に對して一體如何なる價格政策を今後御執りになるのであるか、物價を一定の水準で安定を圖ると仰しやられますが、占領地區にある所の國内に、如何にして物價の水準を御圖りになるのでありませうか、私は物價の水準は、到底あなたが仰しやるやうなことは出來得ない、日本は今日占領されて居る、隨て占領軍の必要なるものに於ての需給は多くなりませう、國内需給のものは下るに決まつて居る、私はあなたが仰しやるやうに簡單に物價の水準が安定せられると云ふやうな、左樣な生温い考へは持ちませぬ、如何にして此の點に付て安定をなさるのであるか、此の點の詳細な御説明を願ひたい
尚ほ大藏大臣は退席されて居りまするが、新圓、舊圓の撤廢を出來るだけ急いで早くやりたい、それを以て國際協定の參加の準備をすると仰しやつたのでありまするが、此の撤廢の時期は何時頃であるか、大體の見透しを此處にはつきり申述べて戴きたい
それから今厚生大臣が御話になりました戰災失業者と云ふものは相當あります、あなたは今豫想と仰しやられましたから確定的には私は追究は致しませぬ、數字の異同のあることは認めます、併しながら今あなたの仰しやつたやうなことでは、受入態勢は出來ない、なぜならば賠償物資の撤去に依る所の失業者は、あなた方の豫想されて居るより餘計出ます、我我の方に於て算定がなし得られます、然らば大體に於て撤去される工場の總てのものは分つて居る、見透しを立てて具體的な受入政策を立てて行くべきであらう、未だに政府が左樣なことを仰しやつて居つたならば、安定本部は机上倒れであつて、決して日本の産業と云ふものは安定出來ないと云ふことを私は斷言する、もつとしつかりした、信念に充ちた御答辯を願ひたい
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=10
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011・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 此の國際情勢の下に於きまして、我が國が完全なる獨立を持つて居らない今日に於きまして、經濟の安定を圖ると云ふことの困難なることは申上げるまでもないことであります、今御尋ねのありました物價の問題に付きましても、非常な困難のあることは覺悟をせねばなりませぬ、併しながら進駐軍の管理下にあるが故に物價の安定を得ないとは私は感じませぬ、如何なる方針を以て物價を安定するか、今までは總ての經濟の活動に非常な不自然がありました、一方に資本の擬制を打切る爲の思ひ切つた措置も既に執られて居るのであります、總ての經濟現象に不自然なものを出來るだけ取去りまして、ありの儘のもので、是からは我々は直面する經濟政策に向ふのであります、勿論直ちに、一箇月、二箇月の間に物價の水準を定めて是が安定するとは私も考へて居りませぬ、併しながら如何にしても是はなさねばならない事業であります、私共は一つは先づ米を中心とします主要食糧の物價を中心と致しまして、之に見合ふ勞銀の標準を定める、尚ほ一方には總ての工業の中心でありまする石炭の價格の安定を圖る、是等の三つのものを中心と致しまして、諸物價に「アンバランス」のない──是は勿論一擧にして出來るとは存じませぬ、併しながら私共は之に衆智を集めて努力し、此の物價安定に對する諸施策をば、各省と關聯して致す積りでございます
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=11
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012・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 田中君からの重ねての御質問は、新圓、舊圓の撤廢の時期如何と云ふことのやうに伺ひましたが、是は何月何日とは申上げ兼ねます、併し今日の整理を行ひまして、此の一聯の政策が濟みまして、例へば財産税の徴收等も濟みますまでの間に然るべき時期を見定めて、適當に處理致したいと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=12
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013・田中源三郎
○田中源三郎君 簡單ですからもう一點だけ…発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=13
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014・山崎猛
○議長(山崎猛君) 簡單に願ひます
〔「委員會でやれ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=14
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015・田中源三郎
○田中源三郎君 では委員會に讓ることに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=15
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016・山崎猛
○議長(山崎猛君) 鈴木明良君
〔鈴木明良君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=16
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017・鈴木明良
○鈴木明良君 只今上程中の臨時物資需給調整法案に對して、私は數點の重要なる問題に亙り、政府の所信を質さんとするものであります
今日凡ゆる物資は極度に缺乏し、供給の僅少なる時、物資の需要と供給の調整を必要とすることは今更言を俟たざる所であります、唯問題とする所は、如何にして合理的に民主的に此の目的を達するかと云ふ點であります、本法案は、産業の囘復及び振興に關し經濟安定本部總裁が定める基本的な政策及び計畫の實施を確保する爲に、一、物資の割當又は配給、二、物資の生産若しくは工事の施工竝に是等の禁止、三、物資又は設備の讓渡、引渡又は貸與に付て、主務大臣に必要なる命令をなす權限を付與することを企圖するものであります、仍て私は其の第一の質問と致しまして、物資需給の權限を主務大臣に白紙委任すると云ふ點に付て御尋ね致します、本法案は、前に申した事項に付て、斯くも廣汎なる權限を主務大臣に白紙委任するものでありまするが、斯くの如きは民主的議會政治の原則に相反するものであります(「ヒヤヒヤ」拍手)又産業の囘復及び振興の爲め凡ゆる物資の調整が必要である場合にも、此のやうに廣汎なる權限を主務大臣に白紙委任する必要がどうしてあるのでありませう、是が私の疑問とする所であります、我々は曾て戰力増強の美名の下に、或は又軍機の秘密保持に名を藉りた此の種の立法、即ち廣汎なる權限の白紙委任を内容とする法律が行はれたことを忘れては居ないのであります、過去數年に亙り、民意を蹂躙せられましたことは諸君御承知の如くであります、是が即ち「ファッショ」政治、軍人官僚専制政治の法律上の根據となつたのであります、此の最も極端なるものが國家總動員法であります、而して只今問題として居りまする臨時物資需給調整法案は、大體に於て國家總動員法第八條、第十條、第十六條が、再び此處に衣更へをして登場するの疑ひを多分に有するのであります(拍手)更に掘下げて言ふならば、我々八千萬國民より無條件にて白紙委任状を徴收するが如きものであります、斯かる法案は、指導者原理乃至全體主義的「イデオロギー」に基礎を置く時代錯誤のものにして、自由主義、民主主義の方向に逆行する惡法であると言はざるを得ないのであります(拍手)今日の如き物資不足の時に於きましては、寧ろ金錢に關する政府の行爲よりは、物資に關する行爲の方が、却て國民の生活に重大なる影響を及ぼすものであります、戰時中は金錢に付ても、臨時軍事費として軍部に對し其の使途を白紙委任したものでありまするが、終戰と共に斯かることは行へないのであります、如何なる金を、如何なる方法で徴收して、如何なる使途に向けるかに付ては、政府は細目に亙り、議會の檢討を經、協贊を得なければならないのであります、即ち一圓の金と雖も、議會の協贊なくば使へないと云ふ民主的政治となつたのであります、どうして此のことが今日物に付て行へないのでありませうか、議會は物に付てだけ依然として戰時中の如く此の處分を白紙委任しなければならないのでありませうか、私は固より今日の如き時代には統制經濟の必要なることは勿論のこと、産業の囘復及び振興の爲に物資需給の調整の必要なることを認むるに吝かではありませぬが、是が爲に此の權限を主務大臣に白紙委任せねばならぬとは、どうしても思はれないのであります、私の考へを率直に申すならば、何如に政府、殊に經濟安定本部總務長官は、具體的に且つ詳細に所謂基本的な政策及び計畫の内容を前以て發表しないのでありまするか(拍手)斯く斯くの基本的の政策を遂行する爲に、是れ是れの物資の調整割當又は配給若しくは生産、工事の施行が必要であるから、此の權限を主務大臣に認めて貰ひ、或は是れ是れの基本的な計畫の實施を確保する爲に、斯く斯くの物資の讓渡、引渡、又は貸與を主務大臣に認めて貰ひたいと言はないのでありますか、民主的議會政治の原則を守る爲には、少くとも基本的な政策及び計畫の大綱を示して後に、最も必要なる一定の物資調整の權限を認めるやう提案の順序を按配すべきだと思ふのであります、然る場合には、我々も亦此の權限を認めることが妥當であるかどうか、是が國民生活に果して好き影響を與へるか否かを檢討することが出來ると思ふのであります、我々はなぜ、基本的な計畫の内容の片鱗をも知らず、且又それぞれの場合の物資需給調整の範圍、方法等に付き、少しも關知する所なく、國民生活に至大の關係ある物資需給の權限を主務大臣に白紙委任する必要があるのでありませうか、政府の誠意ある御答辯を求むるものであります
次に第二の質問としまして、本法案の民主的性格に關して御尋ね致します、本法案と共に、なぜ附屬の命令、施行規則等の全貌を示さないのでありまするか、此の點に付きましても、非民主的な政府の態度を疑はざるを得ないのであります、御承知の通り形式的には僅かに三箇條の條文が我々の前に示されて居ります、恐らく之に附隨して數十條又は百條に上る命令、施行規則が存在し得ると推定されるのであります、又之に依つて此の法律の適用される範圍、其の峻嚴の程度等が決定されると思ふのであります、私は法律の運用に付きましては、多少の不便とぎこちなさがあつても、民主的議會の法律はもつと多くの條文を持ちつつ内容を確定し、若し又何かの理由に依つて命令、規則に是が任されるならば、是等を同時に示すべきだと思ふのであります、所謂法三章的立法は、啓明的専制君主の立法であつて、民主的議會の立法であるとは思はれないのであります、之に付ての政府の御意見を承りたいと思ふのであります
第三には、經濟安定本部の構成の内容と、民主的に組織された産業團體との關係に付て御尋ね致します、本法案第二條に於きましては、「割當の實施について必要且つ適當と認めるときには、民主的に組織された産業團體」云云の條文があります、此の法律案の作成者にも、民主主義が考慮されて居る所は聊か私の滿足する所であります、併しながら此の割當實施の本元である經濟安定本部其のものの構成は、民主的のものとなるでありませうか、既に申上げました通り、金に付ては細目詳細に議會が檢討し得るやう、民主的議會政治の法令が具備されて居るのでありまするが、我々の生活の上には金よりは物、寧ろ金を離れて物の處分が重要であることは稀有の事例であります、且つ最近の戰爭に依つてのみ出現した現象であります爲めか、議會が之に係はり得る如く法令が未だ整備されて居ないのは洵に遺憾と存ずる所であります、隨て經濟安定本部の構成運用に付ても十分此のことを注意しつつ、是が民主的なるが爲め、即ち國民代表の意見を徴して決定する爲め、特別の工夫を凝らす必要があると思ひます、膳長官が曾て發表されましたる經濟安定本部の構成に付きましては、總理大臣、各省大臣、各省官僚、産業界の有識者、學識經驗者とから構成されるとのことでありますが、一言に申上ぐるならば、是は官僚と少數の「エキスパート」とが主體となるやうに窺はれるのであります、國民の聲、國民代表の意見を如何にして考慮されるのでありませうか、換言致しますならば、政府は政策計畫を議會に諮つて決定する意思と其の用意があるかどうかと云ふ點であります(拍手)例へば物資需給調整の爲の物動計畫、生産力擴充計畫を議會に諮つて決定し、
〔議長退席、副議長著席〕
又此の策定運用に付て、國民代表を最高諮問機關として任用する考へがあるかどうか御尋ね致します、更に又民主的に組織されたる産業團體とは、如何なるものでありますか、具體的に統制會とか、或は農業會、商工經濟會等は之に該當するものでありませうか、政府の所信を伺ひたいのであります
第四に、本法が如何に國民生活に影響するかは、基本政策計畫の内容の良否に至大の關係があるのであります、政府は眞に良き綜合計畫を策定し、適當なる政策を遂行する用意があるのでありませうか、今日に於きましても、國民生活必需品とか、見返り品等の生産力が中心になつて綜合的に計畫し、物動は其の補助的計畫の一つだと思ふのでありますが、併し茲に眞先に、而も單獨に物資の需給調整法を提出されたのは、一體如何なる理由でありますか、私は依然として物動中心の官僚的癖が拔け切れない結果だと思ふのであります、此の點に付て政府の御所見を承ります、斯樣に綜合的見地が缺けて居りまするが故に、例へば第四條に謂ふ所の「第一條第一項の規定による命令に違反した者は、これを十年以下の懲役又は十萬圓以下の罰金に處する。」と云ふ罰則規定を勵行致すに付ても、是が無意義又は無理なものとはならないでありませうか、生産の命令を受けた者は必要なる資金、勞働力等を何處で得るのでありませうか、又各部門の間の生産の振興の調和が保障されて居るのでありませうか、結局産業の囘復及び振興に關しては、物資需給の調整のみならず、資金、勞働力、生産の調整等に付て、綜合的計畫の爲の各種の立法が必要なのであります、而して各種の立法に付て此の臨時物資需給調整法の如く、各各主務大臣に廣汎なる權限を白紙委任することを規定すれば、茲に再び國家總動員法が薄化粧をして復活するのでありまして、民主的議會政治は重大危機に瀕するのであります、政府はなぜ物資需給調整法だけを提出したのであるか、又順次に勞働基準法を來る議會に提出するとのことでありまするが、是等は同時に提出すべきだと思ひます、この場合同樣に先づ政策計畫の内容を示し、之に附隨してそれぞれ必要なる一定の調整權限を認めさせることを妥當とは思はないかどうか、此の點明確に御答へ願ひたいのであります
最後に御尋ね致したい點は、安定本部の性格と新憲法との關係に付てであります、戰時中の統制團體は官僚退陣の姥捨山なりしことは何人も認むる所であります、權力の蔭に隱れたる官僚の見えざる力に、民間の隱れたる力は完全に封鎖されて、封建制度其のものであつたのであります、今般創立の經濟安定本部は、莫大なる豫算を計上して居るが、之を如何樣に消費せんとするのか、軈て數百萬人にも及ばんとする失業者を餘所に、官僚退陣の失業救濟費なのか、それとも又民生安定の爲の綜合計畫實施機關に最も有效に消費せんとするものか、其の性格の大要と、併せて軈て實施されんとする新憲法との關係に付て、率直に而も明確に宣明されんことを求むるものであります、以上を以て私の質問を終ります(拍手)
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=17
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018・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 先程田中君の御質疑に對して私より申上げた次第でありまして、其の心構へに於きましては一應鈴木君と同感する點が多いのです、併しながら鈴木君も御承認の如く、今日の物資の需給不均衡の點、是は何とかせなければならない、其の調整はやらなくちやならぬと云ふことの前提は御認め下さつた、唯それを一々に付て法制化して議會に諮れ、出來るものならば私もさうしたいと思ふのであります、併し如何せん今日の物資を品目順に竝べて見ますれば、數千、或は數萬を以て算へます、併し其の中、貿易は今日は國家管理でありまして、輸入を懇請しましても、何時どう云ふ物が輸入されるか分かりませぬので、さう云ふものに付きまして之を生産の上に計畫性を持たせ、配給の上に適正を堅持せんと致しますれば、どうしても或る種の法律を必要と致します、そこで本來から言ひますれば、私は電氣事業と石炭、「コークス」は獨立した法律で皆樣の御協贊を仰ぎたいと思うて居ります、其の他のものも事々物々に付て皆樣の御協贊を求むることが本當は民主的かも知れませぬ、併し是は不可能のことに屬するのです、七月十五日を以て輸入等の臨時措置令はもう消えて居りますし、先程申したやうに總動員法もなくなつてしまつた今日は、何かしら之に代るものがなければならぬ、代るに付ては、從來のやうな官僚統制、指導者原理、斯かるものは一掃しなければならぬことは鈴木君仰せの通りであります、そこで安定會議に掛けまして、其の安定會議には少くとも各位の代表者が加はる譯であります、それに依つて基本を決めまして、之を實際に行ふのは主務大臣でありまするが、而もそれは勝手には出來ない、それぞれ民主的の團體に託して之を實施する、斯樣な所までやり、そこまで用意をして行きますれば、私は此のやうな非常時には決してそれ自體もいかぬと云ふことは言へないのではないか、民主的政治と云ふものは、或る程度までは信頼政治でなくちやならぬ、議長を選擧して一旦信任しましたからには、其の議長の命令は、現議員全部の人が議席でそれを守ると云ふことが、私はやはり民主政治であらうと思ひます、政府も、一體政黨政治であつて、選擧に依り力を決したものに依つて作られると云ふ、其の本來の姿から考へますれば、餘り好ましくない法律ではありますが、私はやはり此の程度の委任は今後の民主政治にも行はれて然るべしと考へる(拍手)ですから、やりたくはないけれども、斯う云ふ非常時には私は斯う云ふものが必要だと考へますので、どうぞ其の點は鈴木君も諒と致されまして、是は決して舊來の戰時中のやうな型ではやらない、常に御相談をしつつやるものである、斯樣な考へで御願ひしたいと思ふのであります
尚ほ此の民主的の團體とはどんな團體だ、今後出來ます産業民主的團體とは、少くとも加入脱退が自由である、其の幹部は選擧に依つてやる、之を原則と致して居ります、昨今統制會社其の他が段々解消されまして、其の中心人物、經營者は全部選擧に依つて決めますし、加入脱退は自由となつて行く、一つの例を擧げて見ますれば、纖維協會とか、石炭業會とか、段々改組されまして、本當の民主的團體ならば之に割當等をやる、斯樣な考へでありますから、全體の人が眞に心構へが直つて來まして、それ自體の團體が本當に民主的になつて參りますれば、私は從來のやうな、所謂戰爭中の弊害は除去出來るのである、併し鈴木君の御尋ねの心構へに付ては、十分注意してやりたいと思ひますから、どうぞ惡しからず御諒承願ひます(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=18
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019・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 御尋ねの本法の性格等に付きましては、既に商工大臣が申上げましたので、私は繰返して申しませぬ、又安定本部の性格等に付きましても、度々此の席で申上げましたので、同じことは容赦をさせて戴きます、唯如何に民主的性格をば此の法律の運用の上に保つかと云ふ點に付て、附言を致したいと存じます、本法を動かしますに付きましては、安定會議を經て、如何なる品種に付て、如何なる場合に、如何なる統制を行ふかと云ふことは、事毎に掛けるのでありまするが、此の安定會議の性格をば極く民主的にする爲には、單純に是が官廳の責任囘避の諮問機關に堕することのないやうに、其の構成の部分に於きましても、貴衆兩院の議員、又所謂學識經驗者と云ふやうな方面、是は勿論實際の事業に當る人も入りますけれども、尚ほ其の他に、例へば新聞等の輿論を代表する機關の代表者、又勞働を代表する方々、又使用者を代表する人人、斯う云ふやうな人達をも網羅致しまして、此の運用が或は官廳の獨善に流るることなきを期する積りでございます、尚ほ安定本部の性格及び運用に付きましても御尋ねがございましたが、是も數次御答へを致してありますので、重ねて申上げませぬ
此の安定本部で研究しました結果に付て、議會に諮るかと云ふ御尋ねがございましたが、勿論本法の運用に付きましては、安定會議に付議致しまして之を運用するのでありまするが、安定本部が研究しまして施策を要する事項に付きまして、議會に諮るべきものは勿論之を議會に諮つて具體化したいと思ふのでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=19
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020・鈴木明良
○鈴木明良君 必ずしも滿足する答辯ではありませぬが、他は委員會に讓り、私の質疑を打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=20
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021・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 加藤鐐造君
〔加藤鐐造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=21
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022・加藤鐐造
○加藤鐐造君 私は日本社會黨を代表致しまして、只今上程中の臨時物資需給調整法に付て質疑を致したいと存じます
本法案は既に前質問者も申されました通り、全文僅かに六條、實質的には三條に過ぎない所の極めて簡單な法案であります、併し其の企圖する所は日本の全物資を動かし、全生産を指導しようとする所の、極めて廣汎な權限を持つた委任法であります、隨て再建日本の運命は僅か此の三條の法文の上に託されて居ると言つても宜いと思ふのであります、戰時の總動員法すら百條に餘る所の條文を具へて、其の内容に於きましてもより具體的でありました、併し此の法案は極めて抽象的で、一囘や二囘讀んで見ただけでは、其の眞意を捕捉することが困難であります、例へば中に何を容れるか分らないのに箱を造れと云ふやうなもので、中に容れるものの性質が分らなくては、どんな大きさの箱を造つて宜いか見當が付かないのであります、實に斯うした極めて奇怪な非民主的な法案であります、併し私は、此の點に付きましては既に二人の質問者に依つて質問されて居りまするので、質問を省略致しまして、以下數項の點に付きまして政府に質問を試みて、其の眞意を質して見たいと考へるのでございます、私は膳國務大臣、商工大臣、農林大臣、厚生大臣、内務大臣に質問致したいと存じまするから、議長に於かれましては、出來るだけ大臣の出席を御要求願ひたいと思ふのであります
第一に膳國務大臣に御尋ねを致しまするが、經濟安定本部は如何なる方針を以て産業振興の基本的な方策を立てようとして居らるるかと云ふことであります、此の點に付きましては既に質問がありましたが、多少觀點が違ひますので、改めて質問致して見たいと考へるのであります、日本の再建は産業の再建であるのであります、隨て日本再建の目的の爲に、最も有效適切なる産業振興の根本對策を樹てなければならないのであります、膳國務大臣は、先般來機構よりも生産が第一だとか、或は「イズム」に因はれることなく實際的にやつて行きたい、斯う云ふやうなことを屡屡言つて居られるのでありますが、私をして言はしめるならば、是は革新を否定する所の遁辭としか思はれないのであります(拍手)「イズム」とは、決して現實を離れた高遠な理想を言ふのではなく、一つの體系を言ふのであります、隨て生産を第一とする爲には、最も有效な機構を作ることが先決問題であると私は考へるのであります、そこで其の生産體制を作るには二つの方法があると思ひますが、一つは、自由主義的資本主義的經濟を根幹として、それに多少の掣肘を加へて、即ち修正資本主義でやつて行くか、或は一つは社會主義的計畫經濟でやつて行くか、其の何れかを選ばなければならないと思ふのであります、私は敗戰日本が、狹隘な國土に於て、乏しい資源を以て國家の再建を圖らうとするには、日本の經濟は高度な計畫性を持つたものでなければならぬと思ふのであります、併し計畫經濟は、資本の安定、即ち資本家擁護の爲にもやることが出來るのであります、又國民生活の安定の爲にやることも出來るのである、先程膳國務大臣は國民生活の安定の爲にやるのだと云ふことを仰しやいました、然りと致しますならば、私は今日執るべき政策は、社會主義政策を徹底させる以外にはないと考へるのであります(拍手)政府は先づ是等の根本の問題を決定して掛らなければならないと思ふのであります、終戰後自由主義經濟に戻せと云ふ要求が一部にあります、併し自由主義經濟と云ふものは、先程も申しましたやうに、物の豐富な國でなければ成立たないのであります、戰勝國である所の「イギリス」に於てさへ、今日計畫經濟を強化しつつあるではありませぬか、日本のやうな物資の乏しい、而も敗戰國として莫大な生産力の負擔を負はされて居る國に於て、自由主義經濟を謳歌する所の議論と云ふものは、是は全く兒戲に等しい議論であると考へるのであります(拍手)例へば極端な例と致しましては、米の統制をやめて自由販賣にせよと云ふやうな議論が、此の議會に於きましても自由黨の諸君から主張せられたのでございます、併しさうしたならばどうなります、一部の人は滿腹出來るでありませうけれども、國民の多數は餓死しなければならないのであります、現在の日本に於て自由主義經濟でやつて行かうとすることは、一部少數の資本家に利潤追求の自由を與へる代りに、大多數の勤勞大衆に餓えることの自由を與へる以外の何ものでもないのであります、私は、政府が斯うした點に付きまして、果して何れの方針を執らうとして居られるかと云ふことを先づ御伺ひ致したいのであります
第二に産業の形態と規模を如何にするかと云ふ點に付きまして、是は商工大臣と農林大臣、内務大臣に御伺ひ致したいのであります、將來の日本の工業を國内資源の範圍にのみ限定されたならば、最早日本は工業國としては立つて行けないのであります、のみならず國民生活の維持すら出來なくなるのであります、隨て或る程度の原料の輸入を外國から仰がなければなりませぬが、其の場合に輕工業的加工工業を主としてやつて行くか、或は精密機械工業、工作機工業、更に一般重工業等も許されるのであるかどうか、其の見透しに付て御伺ひ致したいと思ひます、日本は輕工業に於きまして、幾多世界に誇るべきものを持つて居つたのであります、例へば綿糸業を以て立ち得ると致しましたならば、之を以て日本の經濟の支柱とすることが出來ると私は思ひます、又陶磁器、和紙等も、今後相當長きに亙つて日本獨得の産業となり得るのであります、自轉車工業、時計等も、其の技術に於ては既に世界最高水準に達して居つたと私は考へるのであります、併し私は高度な文化國家の建設と云ふ面から考へまする時に、單に斯うした輕工業、或は家内工業式な工業のみではなくして、更に精密機械工業、工作機工業、重工業等も大いに發達させなければならないと思ふのであります、固より是等のことは聯合國の諒解なしには計畫は立てられないのであります、併しそれに藉口して荏苒日を空しくして居つたならば、日本は再び起つ所の力を失つてしまふのであります、隨て一日も早く是等の基本的な方針を決定することが必要であると思ひまするが、之に對する所の政府の御所見を御伺ひ致します、又食糧の自給計畫を樹立すると云ふ上から、農村工業の發展を圖らなければならないと思ふのでありまするが、政府の此の點に對する所の計畫を御伺ひ致したいと思ひます、從來工業は餘りにも都市偏在でありまして、隨て其の爲に都市と農村は常に對立すると云ふ結果になつて來たのであります、此の工業の都市集中を抑制して、工業の地方分散を圖り、農業と工業とが並立する所の新農村計畫と云ふものを立てることが必要であると思ふのであります、農家が其の經濟の基礎を米價にのみ置くと云ふ從來の農家經濟の危險と云ふものは、從來屡屡起つた所の農業恐慌の經驗に徴しても明かであります、今囘の政府の開墾計畫に付きましても、熟農が寧ろ懷疑的であるのも、米が出來過ぎた爲に首を縊つて死んだ百姓があると云ふ、資本主義經濟下に於ける所の農家經濟の矛盾と云つたものを彼等が知つて居るからであります、農業生産は其の性質上、社會主義經濟下に於きましても、完全な需給の「バランス」の上に立つと云ふことは出來ないのであります、それでありますから私はさう云ふ農家經濟の安定化と云ふ上からも、農村工業の發達と云ふことが必要であると考へるのであります、農林大臣がおいでになりませぬから、膳國務大臣或は其の他の農林省の政府委員から、此の點に付きまして具體的な御答辯を御願ひしたいと思ひまするが、農村に於ける工業がどの程度まで成立つかと云ふ點であります、農村の工業化は必然的に農村技術の向上と機械化が伴はなければならないのでありまするし、又農村の經濟組織の根本な變革が必要であると思ふのであります、それには農村に於ける所の生産協同體の組織と云ふものを確立しなければならないと私は思ふのである、それに依つて農村の副業的工業を高度な工業生産へと發展させて、さうして初めて農工一體となつた所の日本經濟再建の安定せる基礎が確立すると思ふのである(拍手)此の問題に付ての具體的な詳細な御意見が承りたいと存ずるのであります、又其の點に付きましては、國土計畫の上から此の問題をどう云ふ風に取扱はうとして居られるか、都市と農村の人口の配分、先程の御質問にもありましたが、斯うした點に付て内務省はどう云ふ方針を執つて居られるか、又其の方針を立てる上に於きまして、産業計畫と睨み合せて、商工、農林其の他の各省と緊密な連絡を執つてやられるかどうかと云ふ點に付て御伺ひ致します
第三の質問は、是も商工大臣に御伺ひ致しますが、現在生産に向け得る所の物資がどれだけあるかと云ふことであります、物資の生産が殆ど停止されて居る今日、現在ある所の物資を出來るだけ生産面に動かして行かなければならないと思ひますが、此の點から私は摘發された隱匿物資の稼働率と云ふものが問題であると思ふのである、先般政府は隱匿物資の數量を發表されましたが、其の何割が再生産に向け得るかと云ふことを御伺ひ致したいのである、それと同時に隱匿物資の摘發がまだ不十分である、徹底して居らない、實態調査まで行はなければ隱匿物資の正確な數字と云ふものは現はれて來ないと思ふのでありまするが、政府はそれを行ふ所の意思があるかどうかと云ふ點を御伺ひ致します
第四に膳國務相に御伺ひ致しまするが、經濟安定本部總裁は、物資の割當又は配給、物資の生産若しくは禁止、物資又は設備の讓渡、引渡又は貸與等に關する廣汎な方策を決定することになつて居りまするが、是は實に國民經濟の運命を決する所の重大な仕事であります、政府は之を如何なる組織方法に依つて行はんとして居るのであるか、戰時中の總動員法の如く、單なる官僚の指導に依つて之を行つて行くと致しましたならば、再び失敗を繰返すのみである、私は國民の衆智を集めて、最も民主的な方法に依つて行はなければならぬと思ふのであります、先程も民主的にやつて行くと言つて居られましたが、其の民主的にやつて行く所の具體的な方法と云ふものが問題であると思ふのである、第一に秘密主義を捨てて、事實と數字を正確に國民の前に發表し、國民全體の協力を求めると云ふ方法でなければならないと思ふのであります、政府は之を實行するに當つて經濟安定會議を設けると云ふことを只今仰しやいましたが、それは單なる從來のやうな諮問機關では駄目だと私は考へるのであります、強力なる執行權、監督權と云ふものを持つたものでなければならぬと思ひまするが、其の點に付ての政府の方針を御伺ひ致します
第五に民主的に組織された團體とは如何なるものか、是も膳國務相に御伺ひ致します、既に先程此の點に付ての質問がありましたが、私は問題は戰時に於ける所の統制經濟の經驗に徴しますると、只今法文に載つて居る所では、民主的に組織された團體に物資の割當を委任するとなつて居りますが、此の種の團體と云ふものが常に大衆の利益を蹂躙し、屡屡統制經濟を歪曲して、極めて非能率的なものにして、來て居るのであります、幾多の統制會社や統制組合は、一部の官僚と惡徳業者の結託に依つて、不正利得の巣窟となつて、大衆を搾取して來たことは周知の事實であります(拍手)隨て問題は、政府は此の種の團體の不正逸脱行爲を如何にして防止せられるかと云ふ點にあると思ふのでありますが、其の點に付て御伺ひを致します
第六に膳國務大臣に御伺ひ致しまするが、法文の中に主務大臣は「物資の割當の決定の變更」を命じ、又「當該官吏に必要な場所に臨檢し、業務の状況若しくは帳簿、書類其の他必要な物件を檢査させることができる。」とありまするが、私は之を行ふには、生産査察が十分に正しく行はれなければならないと思ふのであります、戰時中此の査察が不徹底であつたと云ふことが、生産減退の大きな原因であつたことも公知の事實であります、能力のない一部の官吏、軍部に依つて是が行はれ、而も事業家の懷柔政策に依つて、全く骨拔きにされて來たのであります、此の査察は實際に能力のある者をして極めて良心的に行はせなければならないと考へるのであります、此の仕事は單に官吏にのみ任せず、先に述べましたやうな、官民を以て組織された所の監督機關に依つて嚴重に行はせなければならないと思ひまするが、政府の所見を御伺ひ致します
第七にやはり膳國務相に御伺ひ致しまするが、本法案の中には、生産された物の配給に關する規定がないのであります、是は私は片手落ちではないかと思ひます、如何に物資の割當又は配給が統制されて居りましても、生産された物の規正が行はれなかつたならば、産業全體の計畫性と云ふことは保てないと思ひまするが、此の點政府は如何に考へられるか、御伺ひを致したいと存ずるのであります
第八に、是は膳國務大臣と厚生大臣に御伺ひを致しまするが、物資の生産制限若しくは禁止及び物資又は設備の讓渡、引渡又は貸與より生じた損害を國家が補償すると云ふことを言つて居りまするが、是は事業家の損失の補償のみを意味するのか、或は是が爲に失業其の他の損害を蒙つた勞働者の損失をも此の中に含んで居るのかどうか、若し含まないと致しますならば、別に之に對する施策を政府は考へて居るかどうか、此の場合の對策と致しましては、單に失業手當を支給するばかりではなくして、出來るだけ新たな生産事業に向けなければならないと考へるのであります、場合に依つては其の爲に新しく事業も起さなければならないと思ひますが、此の點に付ての御所見を承りたいと存ずるのであります
第九に、是も膳國務相と厚相とに御伺ひ致しますが、産業の民主化を如何にして徹底させるかと云ふことであります、今まで御質問の中にも民主化と云ふことは屡屡申されました、又御答辯の中にも民主化と云ふことが屡屡ありました、併しながら如何にして民主化するかと云ふ具體的な御答辯は、政府からはなかつたやうに思ふのであります、只今も總動員法とは目的が違ふから官僚的にはならぬ、民主化される、斯う云ふことを仰しやいましたが、私は目的が違ふだけでは民主化にはならないと思ふ、民主化する所の手段方法と云ふものが、具體的に執られなければならないと思ふのであります、又一方には官僚的統制經濟と民主的な計畫經濟とを混同して批判する人々が往々にありますが、私は是も甚だしい認識不足であると考へるのであります、私は既に前段の質問に於きまして、過去の官僚統制の弊を斷片的に指摘して參りました、官僚統制の缺陷と云ふものは色々ありますが、第一に技術の貧困と云ふことであります、體系だけは整然として整つて居りますけれども、技術面の指導力と云ふものが缺けて居る爲に、些末な規定にのみ囚はれて、徒らに書類行政に堕してしまつたと云ふ點に、私は官僚統制の大きな缺陷があると思ふのであります、斯うした弊害を一掃して、眞に計畫經濟の成果を擧げる爲には、徹底的な産業の民主化を圖らなければならないと思ひますが、從來の統制は官僚が指導するものだ、或は國營事業は役人が仕事をするのだと云ふ概念を棄てて、全國民の協力を求める爲の體制を確立しなければならないと思ふのであります(拍手)生産第一主義を執るならば、先づ第一に勞働者の協力を求めなければならないと思ふのであります、勞働者の經營參加と云ふことが屡屡問題になつて居りますが、私は勞働者の經營參加と云ふことは、單に爭議の場合のみではなくして、恆常的な參加權を認めなければならないと思ふのであります、勞働者が經營に參加すると云ふことは、成程大きな經濟的な變革であるのであります、併し古來經濟的變革を伴はない所の革命はなかつたのであります、日本の今日の民主革命は、當然經濟革命から始まらなければならないと思ふのでありますが、口に民主主義を唱へながら、經濟問題になると、口を拭つて居る所の人々の言と云ふものは、是は所謂口頭禪に過ぎないと私は考へるのであります(拍手)日本の經濟革命は勞働者を經營に參加させる、さうして生産に對する所の責任を勞働者にも負はせる、生産第一主義を執るならば、私は是れ以外には方法はないと斷言しても宜いと考へるのでありますが(「經營協議會がある」と呼ぶ者あり)政府は之を行ふ意思ありや否や、若しありとするならば、單に經營協議會と云ふやうな諮問的機關ではなくして、法律にそれを確立する所の方法を執らなければならぬと思ふ、即ち法律の改正にまで及ばなければならない、商法の改正、株式會社法等の改正を致しまして、さうして法律的に之を確立しなければならないと思ふのでありますが、其の點に付ての御所見を承りたいと思ふのであります、以上を以て私の質問を終ります(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登場〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=22
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023・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 御答へ致します、第一番の私に對しまする御質問は、一體經濟安定本部は「イデオロギー」を持つて居るか、社會主義で行くのか、資本主義で行くのか、之を決めなければ行く道は決らぬではないかと云ふやうな意味合の質問と承りました、私自身の個人の意見はございますが、是は申上げませぬ、經濟安定本部と致しましては、日本の現在の状態を見て、之をどう動かすかを考へるのであります、今、日本の社會は、社會主義の實現された社會でもなく、まだ資本主義の形が殘つて居る、是れが修正されつつある状態だらうと思ひます、隨て資本主義が社會主義的に、社會政策的に修正されつつある此の現實の姿を見て、そこで如何なる方策を執るべきかと云ふことを決定するのが安定本部の任務だと存じます、私の個人の意見は他の機會に申上げることがございませう
次に物資の割當、配給等は民主的に行ふと言ふが、どう云ふ方法でやるか、斯う云ふ御尋ねであつたと思ひます、先程申しました通り、如何なる物資を統制するかと云ふことは安定會議で定めます、此の安定會議の組織の極めて民主的であると云ふことは先程申上げました、尚ほ之に付議すべき原案は、官僚の所産ではないやうにする積りで居ります、現在も物資の割當、配給の所謂物動計畫が行はれて居りまして、恐らくは安定本部で之を引繼ぐものと存じます、此の計畫を致します時の構想と致しましては、今私共は學者及び實際の統計、斯う云ふやうな學者の學術的の研究をば基礎に致しまして、其の上に安定本部には、色々の部に部長初め部員或は參與の名前を以て各方面の實際家を多く入れて居ります、斯う云ふ人達の實際的の檢討を經まして、豫め一定の計畫を立てまして、尚ほそれを廣く集めましたる安定會議に付して決定する積りで居ります、或る一部分の官吏の一群、或は一部分の人士が所謂官僚的にものを定めて、之を按分すると云ふやうなことはなさない積りで居ります
それから生産の點に付ても統制を行はないか、斯う云ふ御質問でありまするが、今囘の物資需給調整は出來た物の割當、配給を行ふので、割當、配給に付ては、強權と申しますか、命令を致しまするが、生産を命令すると云ふことは、又別個の特別の場合と存じます、第一條の第一項の第二號に生産を命令し得る場合が書いてありまするが、是は容易に使用すべきものでなく、色々の事象を考へた上に行ふべきものでありまして、安定本部の決定するものと致しましては、割當及び配給をば第一義的の仕事と致す積りでございます、次に設備の讓渡をする場合には、設備の物的のものばかりに賠償するのでなくて、之に附屬して居る勞務者の失業のあつた場合に之をどうするかと云ふ御尋ねでありまするが、此の第三號も普段に使ふ問題ではありませぬ、或は隱退藏或は死藏されて居りまする物資或は設備を有效に働かせる場合の、謂はば傳家の寶刀的の規定であります、斯う云ふものは無闇に使ふべきものではないと存じて居ります、隨て斯う云ふものを使ふ場合には、死藏或は遊休の施設を動かすので、別に勞働問題は起きないと存じます
それから最後にもう一つ勞働者の經營參加問題をどう考へるかと云ふことでありますが、是は私の御答へする直接の問題ではないかも知れませぬけれども、經濟安定本部の、恆久的とも申す程でもありませぬけれども、相當重大に今研究し掛つて居る問題に、經濟民主化と云ふ問題がございます、是は何れ是が爲に特別の委員會を作りまして、私の方で研究を進めたいと存じて居りますが、此の經濟民主化と云ふ問題は、大體財閥其の他の大企業をば平民化すると云ふことが主たる目的ではございまするけれども、進んで經營の内容をば民主化すると云ふことも相當重大なことと考へて居ります、殊に是からの日本は、如何に勞力が日本の經濟囘復に大事な要素であるかと云ふことが一層明かになつたと云ふことは申上げるまでもありませぬが、燃え上る勤勞意欲をば生産の面にはつきりと現はすと云ふことの必要だと云ふことも申上げるまでもありませぬ、併しながら現在まで所謂經營參加と號し、所謂經營協議會とか、或は團體協約などと申しますものの中には、良いものも澤山ございまするけれども、唯集合的の意欲で、唯徒らに經營者を牽制すると云ふやうな傾きのあるもの、或は却て企業の規律を紊ると云ふやうなもの、或は勤勞意欲をば抑へて、却て懶惰の風を現はすと云ふやうな色々の弊風もございます、私は此の所謂從業者の經營參加と云ふ問題は、是から日本の産業の執るべき一つの形態としまして、もつと眞面目に如何なる方法に依つて之をやるべきか、殊に大事なことは、經營に參加する者は、徒らに自らの權利のみを振廻すのではいけないのであつて、義務を感じ、責任を感じさせる、さう云ふ一つの形態及び責任感をば本としなければならぬと思ふのでありまして(拍手)是が爲には經濟安定本部に於きましても、經濟民主化の一つの大きな問題として、所謂企業參加の問題をば研究する積りで今準備を致して居ります(拍手)
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=23
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024・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 加藤君仰せの如く、日本再建の爲には原料の輸入を圖りまして、之に依つて工業をやつて日本が食つて行く、是が私は日本の所謂産業立國の基本だと思ひます、さうして順位から致しましても、先般も此の席で申上げた如く、先づ纖維産業第一、化學工業、それから輸出物資、斯樣な順位で以て行きますにも、纖維に致しましても、生絲の外は殆ど全都がそれぞれ輸入でありますから、其の原料を輸入致しまして、さうして之を加工して行く、斯う云ふやうな建前になる譯でありまするが、それに付きましても、今囘の賠償のあの線はまだ確定は致しませぬけれども、大體に於てああ云ふ線が引かれる所を見ますと、相當重工業と云ふ方面は駄目になる、そこで主として中小工業をやるのでありまするが、是は戰爭抛棄を憲法に於て宣明してやつて行きまする日本は、どうしても産業に依つて此の八千萬の人口を食はして行くのだと云ふことを、率直に司令部の方に愬へますれば、相當の數量は輸入して貰へると思ひまするし、又今聯合軍の方に於きましても、日本が戰爭の目的の爲にする仕事さへ壞はしてしまへば、産業の爲の日本が食つて行く爲にやる仕事に付きましては、相當寛大に總てのことが考へて貰へると思ひまするから、それ等のことに付きましては、私共は率直に聯合軍の方に申出を致しまするし、又日本の貿易が平和に還りました時には、大いに其の方針の下にやつて行きたい、斯樣に考へて居る次第であります、それに付きましても御心配の如く、工業と農業とが此の日本の姿は實に巧く調和を致しまして、所謂農村工業、農村の中に工業が鏤ばんで、さうして互ひに相助け相補つて行く、調節を巧くやつて行きたい、斯樣に思つて居る譯であります
御尋ねの終戰當時の色々な物資──先般隱退藏物資の問題は此處で數字を發表致しました、まだあれから上には多少あるかも知れませぬが、再び政府は斯樣な法律を出してあら探しをすると云ふやうなことは致したくありませぬ、併しながら終戰直後、特殊物件と致しまして大體數字に現はれて居りますものは、假に極く僅かなものを拾つて見ますと、鋼材が二十萬八千「トン」、非鐵金屬が二萬五千「トン」、輕金屬が五萬一千「トン」、石炭が九萬二千「トン」、石油が九萬七千「トン」、斯う云ふ物が特殊物件として其の當時占領されて居つたのでありまするが、みな民需用に解放されまして、それぞれの機關を通して是が割當てされて居る譯であります、併し鋼材の如きは、まだ使ふ爲に伸ばす作業が全部終つて居ないやうな譯であります
其の他の御尋ねに付きましては、概ね膳國務大臣より御答辯があつたのでありまするが、民主的な産業團體に對しましては、割當と配給をやりまして、本案の二條の三號と致しましては、主務大臣と致しましては命令を致す譯であります、又直接に勞働代表が、其の民主團體として直接には關係致されませぬけれども、其の團體の中には自然勞働代表の意見が加はることを期待するものであります、國家の補償問題に付きまして、失業者の手當等が之に加はつて計算さるべきことは當然のことと思ひます
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=24
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025・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 農村工業と人口配置の問題に付て御尋ねがありましたが、御承知の通りに只今食糧を増産しなくちやならぬから、農村に相當澤山の勞力を持つて行くことは、是は當然のことであります、併しながら世界の大勢から見まして、今後世界の食糧の非常な増加などがありますと、どうしても是から餘り關税の障壁を高くすると云ふことは、一寸出來にくいぢやないかと云ふことで、農村の勞力が餘る懸念があると思ひますから、さう云ふ意味に於て農村工業と云ふものを餘程根本的に考へて置かなくちやならない、色々の方面に於て此の國策の準備をしてやつて置かなければならぬ、さう云ふ風に考へて居ります
それから第二の問題でありまするが第一條、是は經營者に對する補償でありまして、勞働者に對する補償は其の儘の意味に於て入つて居らぬのであります、併しながら是は經營者と勞働者との間に解決すべき問題であります、併し政府の勞働政策としましては、斯う云ふ面に對してどう云ふ風に勞働を解決するか、或は失業手當が正當に行つて居るかと云ふことに付ては、常に監視の眼を以て見なくちやならぬと思ふ、又是が社會問題化するやうな、大きな勞働の移動とか失業とか云ふ問題が起つて來れば、それに對する適當の方法を執らなければならぬと思つて居ります
それから最後の御尋ねの經濟の民主化と云ふ問題でありまするが、是は言ふまでもなく勤勞、勞働と云ふことを昂揚すると云ふことが非常に重大な點だと思つて居ります、併し大體此の民主化と云ふことを私は餘り固苦しく考へませぬで、例へば健全な社會化も一つの民主化である、階級鬪爭を避けて協同精神で進むのも一つの民主化である、財産權不可侵の原則の下に契約の自由的を尊重して、個人的の「イニシア「ティーヴ」を伸ばして行くのも一つの民主化である、それで大體に於て國民全體が不自然な拘束を免れて、伸び伸びとした愉快な氣持で産業をやつて行くのが、是が一等の民主化である、斯う考へて居ります
〔國務大臣大村清一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=25
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026・大村清一
○國務大臣(大村清一君) 政府は近く國土計畫審議會を設けまして、衆智を集めて民主的なる國土計畫の策定を致すべく、目下著々準備を進めて居る次第であります、而して此の國土計畫の内容と致しましては、農村工業の振興に關しましても、適切なる計畫を織込まなければならぬと思ひます、又國土計畫の一部と致しまして、適切なる計畫が織込まれることを期待致して居る次第であります
〔政府委員大石倫治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=26
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027・大石倫治
○政府委員(大石倫治君) 加藤君の御質問の農村工業の關係、食糧需給の關係に付て、農林大臣が出席致し兼ねますので、私より御答へを致したいと存じます
御質問の如き我が國の食糧の自足自給は最も好ましいことでありまして、是が爲には總ての計畫を集中して其の實現を期さねばならぬのであります、又農村經濟を安定致しまして、農村の基礎を確立致しますることは、隨て食糧の生産、食糧自給自足の基本ともなるのでありまするから、是等に對しましても十分なる方途を講ぜねばならぬのであります、戰爭前に於きましては、農村に於ける工業と致しまして二通りのものが奬勵され、一時普及の途を辿つたのであります、例へば純工業的の下請工場であるとか、部分品製造に關係のあると云ふやうな工業部面の奬勵發達であり、一面は農村に於ける生産物加工に關する奬勵普及でございます、例へば緬羊を飼育し、其の毛を以て「ホームスパン」を生産すると云ふやうな工業も相當普及致したのでありましたが、戰爭以來今日は殆ど是等のものは荒廢せられまして、農村工業として今日見るべきもののないのは甚だ遺憾とする所でございます、政府に於きましては、此の農村經濟安定の一面から申しましても、又工業の都市偏重の調和から致しましても、やはり農村に於ける工業を大いに奬勵普及致すべき必要を認めて居るのでありますけれども、未だ其の具體的なる方策、具體的なる方針は決定を致して居りませぬ、要するに農村に於きましては過剩勞力を極度に活用するの方法、又農閑期に於ける所の利用、是等のものを以て農業と工業との調和を圖るやうな計畫を樹てたいと存じて居ります、隨て其の奬勵の方途も、やはり生産物の加工工業、又資材の配給運搬、生産製品の搬出等、運輸交通の關係と、生産費の關係、或は工場施設の關係、斯う云ふ幾多の方面から之を調査研究致しまして、將來御趣旨に副ふやうな農村工業を普及致したいと思ふのであります、併しながら我が國には耕地と云ふものに制限がございまして、食糧の自給自足を致すと云ふことは、此の面に全力を擧げなければ容易に其の目的を達成することが出來ませぬので、隨て農村に於ける工業の奬勵の限度範圍も、それを忘れてはならないであらうと云ふ建前を以て、此の計畫を實現致したいと調査を進めて居る次第であります
〔副議長退席、議長著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=27
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028・加藤鐐造
○加藤鐐造君 自席から發言を御許し願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=28
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029・山崎猛
○議長(山崎猛君) 許します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=29
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030・加藤鐐造
○加藤鐐造君 膳國務大臣を初め各大臣の御答辯は、甚だ意に滿たないものがあります、尚ほ仰しやることの能く分らない點もあります、更に質問に對する答辯の落ちて居る點もありましたが、あとは委員會に讓りまして、私の質問は之を以て打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=30
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031・山崎猛
○議長(山崎猛君) 石原登君
〔石原登君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=31
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032・石原登
○石原登君 私は主として總理大臣に御尋ね致したいのでありますが、只今御出席がございませぬので、適當な大臣から御答辯を戴きたいと思ふのであります
敗戰後の國情に見ましても、只今議題になりました臨時物資需給調整法案の立法竝に經濟安定本部の設置は當然でありまして、私は此の趣旨に對しましては滿腔の贊意を表するものであります、併しながら此のことを今日一般國民が常識で考へるまで、政府が何等の策もなさぬで放置せられて居たと云ふことを極めて遺憾に思ふものであります、而も此のことは政府自體の案ではなくて、聯合軍司令部の慫慂に依つてなされたと云ふに至つては、洵に言語道斷、政府の怠慢は十分に責めらるべきものであると思ふものであります、今日の日本の政府が何事も自分達でそれを決めることの出來ないと云ふものもありませう、併しながら一から十まで總て司令部に依存すると云ふやうな今日の態度は、丁度日本の政治ではなくて、何か「アメリカ」に委託した政治の感を私は持つものであります、先づ政府は速かに自主性に立つて、率先再建日本に先驅するの決意を全國民に明かにされんことを要求するものであります、私は、本法案が僅か六箇條の構成ではありまするが、嘗ての總動員法にも比肩すべき重大なる委任立法でありますが故に、本法案の趣旨が十二分に徹底されまして、間違つても從來の官僚統制の前轍を履むことなく、一日も早く今日困つて居りまする所の國民が救ひ上げられるやうに希望致しまして、以下數點の質疑を致さんとするものであります
第一點は、今日の國政を施行するに當りまして、政府は如何なる基本精神を以て臨んでおいでになるかと云ふことであります、八千萬國民は國家の興隆と民族の福祉を衷心より希望致して居ります、是が故に政府に對しまして絶大なる權限を附與致しまして、其の生命財産を擧げて御預けして居るのであります、此の國民の信頼に對しましては、當然政府は其の施政に付ては命懸けでなくてはならないと私は思ふものであります、而して之に依つて生じました責任は十二分に執られなくてはならぬことは申すまでもないのであります、併しながら最近の日本の政治は軍國主義的方向へ誤り導かれまして、國民は史上曾てない屈辱と慘憺たる境遇に轉落せしめられて居るのであります、此の痛苦は敗戰國民として當然甘受すべき國民的運命ではありませうが、大體政府の責任はどうなるでありませうか、國策に協力せしめられて國民の被りました損害に對して、政府が責を負ふのは當然であり、可能なる限り誠意を以て當らなくてはならないのであります、此の保障のない限り、今後國民は眞に安心して政府の施設に協力することは私は出來ないのであると思ふのであります(拍手)政府は戰時中國體護持の名の下に、數々の術策を弄して、幾多有爲なる青年を徒死せしめたのであります、其の結果は、今日餘りにも多くの悲慘な遺家族と、餘りにも多くの可哀想な戰災者達が、あちらこちらに泣いて居るのであります、然るに政府は誠意を以て之を救濟しないのみか、一部の社會的現象を見まして、復員軍人などを痛罵するが如きは、斷じて私の許さない所であります、而も一方では國内治安維持の窮餘策と致しまして、警察官を治安第一線の勇士と尊重し、殉職に對しては十萬圓の弔慰金、異例の昇進を發令するなど、丁度戰時中に執りました軍閥政府のそれとちつとも變らないのであります、斯かる御利用主義、御都合主義の政治は、道義的にも許されることではなく、況して國家悠久の策と致しましては、絶對に執らるべき手段ではないと確信するものであります、政府は深く反省されまして、此の御利用主義、御都合主義を排し、全國民の納得と理解に依りまして國民總力を結集し、日本再建に當るべきだと思ひまするが、果して政府に斯かる誠意と勇氣がありますか、總理大臣に承りたいのであります
第二點は日本の現状に對する認識に付て伺ひたいのであります、日本の再建方策は、勿論嚴肅なる事實の認識の上に檢討されねばならぬことは申すまでもありませぬ、果して政府に此の眞の認識があるかどうか私は疑ふものであります、此の眞の認識がない限り日本の再建は期せられませぬ、私が斯かる質問を致しまする理由は、政府が輿論の反對を押切つて鐵道運賃竝に通信費の大幅の値上げを斷行し、其の收益金はそれぞれ職員の待遇改善費に充當するの外、本年度豫算を見まして顯著なのは、驚くべき人件費の増額であります、今日の物價高では待遇の改善も必要ではありませうが、先づ政府も國民も、今日の日本が如何なる實情にあるかと云ふことを深く考へねばならぬと思ふのであります、今日の生活苦は單り官廳從業員のみではなく、全日本人の深刻なる問題であります、最近起つた引揚民の學校占領問題、例へば貧しくとも毎日働ける人達を羨望して居りまする數百萬の失業者の切實なる心情を思ひますならば、國家は先づ斯かる人達の救濟こそ早急に講ぜらるべきものだと思ふのであります、斯かる際に於きまして、政府が斯かる人達に先んじて、而も一般國民の犧牲に於て、役人や官業從業員の待遇改善を第一番に取上げられると云ふことは、私の最も諒解に苦しむ所であります、一體負けて破産しました日本の何處に是等の要求に應ずるものがありませうか、民政維新の今日、尚ほ所管の事務に重點を置き、下僚の要求は何でも取上げて、閣議で押切ることが大臣の政治的手腕とでも思つて居るのではないか、指導者の認識不足に、今日の不愉快なる官業勞働者の餘りにも逸脱した行動の存する所以があると思ふのであります、敢て鐵道大臣の御所見を求めるものであります、現下の政治の要諦は、理窟拔きに、如何に苦しくとも、如何に辛くとも、徹底した同胞相愛の精神、勤勞と克己と犧牲と努力を、政府役人自らが身を以て國民に示さるべきだと思ふのでありますが、政府は戰後の斯かる状況に於て、此の精神と努力を如何なる部面に如何に反映されて居たのでありまするか、今後如何に反映せしめんとせられるのでありますか、膳國務大臣に御尋ねを致したいのであります、總理大臣に率直に御伺ひ致したいのでありますが、世界の強國として國製隆隆たる時の日本の官廳機構と、敗戰日本のそれと同一で宜しいのか、詰り事業に失敗しました破産者が、從前通り書生や女中を使つて行けるのかどうか、此の上役所を殖さうなんて、政府は戰前の感覺で今日の政治を見て居られるのではないかと疑ふものであります、此の點は日本再建の基本條件として最も重大であります(「簡單々々」と呼ぶ者あり)特に責任ある答辯を要求するものであります
御伺ひ致したい第三點は、經濟安定本部の構成に付てであります、五月十七日の聯合軍司令部渉外局の發表に依るまでもなく、本法に依る物資の需給統制は、是までの官僚獨善統制の全面的否定であることは言ふまでもありませぬ、先づ官僚諸君は、此の點を本當に、理窟でなしに十二分に認識さるべきであります、今日政府の施政に對して一般國民が熱誠と期待を持たぬ所以は、是までの官僚政治の所謂獨善に基因するものであるのであります、即ち「デスク・プラン」的のものを廢して、眞に國民が救はれる方向に向つてやつて戴きたいのであります、斯かる意味に於きまして經濟安定本部の構成は特別の考慮が拂はれ、此の國民的不信の是正に付き十二分の努力が拂はれねばならぬのであります、即ち民主主義の下に於ける計畫經濟の指導的責任者は役人ではなくて、國民代表である所の議會政治家でなくてはならないのであります、斯かる意味で私の希望を率直に申上げるならば、經濟安定本部の構成員は議會人を中心と致しまして、國民の利益を眞に代表するそれぞれの實務者、之に若干の事務官僚を配して、今度こそは一つ民間人の手竝を官僚諸君に示したかつたのであります(「ヒヤヒヤ」)然るに政府發表に依りますと、本機關の構成員たる國民代表は、僅か三名の議員の參加を見たのみであります、此の僅少なる議會人を通じ、民主主義の絶對的要請であります所の一般國民の總意を、如何に採入れようとされるのでありますか、膳國務大臣の御答辯を望むものであります(拍手)此の際申上げたいことは、民主主義の假面の下に、政府官僚が中心となり、之に一脈相通ずる特別の利害關係を有する統制團體を民主主義團點と稱して、官僚主義の温存を圖らんとすることは、絶對に許されないことであります(拍手)
尚ほ此の機會に希望して置きたいことは、今後の民官人事の交流、敢て官民ではない、民官人事の交流は、從來のやうな古手官僚の重役や社長への天降りや、民間「エキスパート」の生殺し的政府機關への一部參加ではなく、寧ろ今後日本を背負つて立つべき青年社員、青年官吏の大量交流に依りまして、相互理解の念を深からしめ、民官協同の最も有力なる繋がりにまで發展せしめたいと思ふのであります、是が爲に現在の官吏任用制度の撤廢等も考慮せられねばならぬのでありまするが、政府に斯かる御意思ありや否や、總理大臣の御答辯を承りたいのであります
第四點は經濟安定本部の運營に付てであります、經濟安定本部の運營に付ては、聯合軍の協力が得られることは洵に喜ばしいことでありますが、是が成功は、是までの日本の過去を顧みまして樂觀が許されないのであります、特に下部組織を持つて居ない經濟安定本部が諸政策を策定實施するに當つては、當然各省の資料に依存し、或は其の機關を通じて行はれることになり、斯くの如くでは到底官僚主義の弊を打破することは出來ないのであります、經濟安定本部の基本構想に於ても、昨日か本日の新聞に見ましても、新米價價格決定に端を發して、閣内の意見の對立を惹起し、今日の閣議に於て更に本格的討議が行はれる旨が報ぜられて居るのでありますが、既に斯くの通り、是まで割據の弊風ある各省との微妙なる關係を如何に調整されんとするのでありますか、肥料問題を繞る商工、農林兩省の對立の表面化など、其の運營には將來幾多の困難が豫想されて居るのでありますが、政府は此の點に付き如何なる用意と決意を持つて居られるのでありますか、膳國務大臣の御答辯を求むるものであります
第五點は、綜合計畫廳を經濟安定本部と物價廳の兩建に致した理由であります、政府は戰時中官僚の計畫に基き、遂に日本を今日の悲劇に導いたのであります、今でも然りです、今でも官僚の頭の中に、戰時中の物動、殊に物價政策を重要視した偏見が拔け切つて居ないのではないかと思ふものであります、不適當でもあり、且又不可能でもある全商品の公定價格の體系を依然として維持構成する線に沿つて、物價政策の構想がなされて居るのではないか、物價政策は、公定價格に依る價格體系を改めて、生産の増強と、他方餘剩購買力の調整、政府支出、銀行貸出の選擇制限等に依りまして、價格水準の操作に改訂せらるべきであると思ふのであります、經濟再建計畫の策定實施に當つて不可分一體にある計畫政策と物價政策を、一は經濟安定本部に、一は物價廳に、それぞれ兩建としたる理由はどうでありますか、膳國務大臣の御答辯を求むるのであります
御尋ね致したいと思ふ第六點は、本法運營に伴ふ政治的責任に付てであります、經濟安定本部の總裁竝に長官は、それぞれ總理、國務大臣が當られるのであります、故に内閣の更迭に依り、政策の一貫性が期せられないのではないかと憂慮するものであります、政策の全部が經濟に繋がる以上、同時に政黨の經濟政策が經濟安定本部に大きく影響することは當然でありませう、かと云つて統制計畫の恆久化を圖る爲に、個々の内閣の運命に拘はらず、經濟安定本部が獨自の官僚統制的經濟計畫を樹立し、實施しますならば、政治的立憲的責任の所在が不明化するばかりでなく、それぞれの經濟政策を持つ政黨政治を妨害し、再び官僚政治の本據と化する危險が生ずるのであります、斯かる意味に於ても、内閣は經濟安定會議を通じて議會と國民に對し責任を負ひ、其の人事も政策も最後の決定權は議會にあると云ふ、民主主義の原則に立たねばならぬと思ふのでありまするが、政府は如何に御考へでありまするか、膳國務大臣の御所見を承りたいのであります
最後に今一つ農林大臣に御尋ね致したいのであります、目下の食糧難に鑑みまして、是が増産の爲め開墾、開拓に努力せらるることは私共も能く了解する所でありますが、最近では失業者の歸農への増加も拍車を掛けまして、今後の農家經濟の大恐慌を招來するであらうことが想像されるのであります、特に講和條約締結後に於きまして、貿易再建に依り、外國食糧の國内輸入は當然實現すべく、農産物價格の暴落に依つて農家經濟の維持は不可能になるのではないか、此の場合現在著しく對立惡化して居ります所の都市、農村の關係に於て、將來の農村救濟に對する萬全なる方策が講ぜられてあるかどうか、一部惡農の言動に禍ひされて、多くの善良なる農民が誤解されて居るものであると私は思ふ、是等農民は勿論のこと、平和日本の將來に對し大いなる憂慮を感ずるものであります、此の點に付き農林大臣は如何なる處置を執られつつあるか、如何なる保障の用意を有せらるるか、明確な、責任ある御答辯を戴きたいのであります
以上を以て私の質疑は終了致したのでありまするが、最後に今一つ憂國の赤誠を披瀝して、總理大臣以下全閣僚竝に全政府機關の各位に對して其の奮起を切望するものであります、私が最も尊敬する先輩政治家が、國は敗戰に於て滅びず、經濟の貧困に依りて滅びる、指導者は自信を失ひ、國民が其の歸趨に迷ふ時、國は滅びるのであると言つて居る、蓋し至言であります、深刻なる敗戰の痛苦と經濟不安の裡に、辛うじて耐へ忍んで居る國民を眼前にして、あなた方は確乎たる救國の大方針がおありでありますか、本當に救民の自信を御持ちになりまするか、國民は既に歸趨に迷つて居りますことを大きく叫びたいのであります、之を以て私の質問を終ります(拍手)
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=32
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033・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 御答へ申上げます、經濟安定本部の機構をば議會中心として、之に若干の事務的人員を付して、事の大小を其處に於て決定するやうな機構にしてはどうか、斯う云ふ御尋ねでありました、さう云ふ御構想もあらうと存じますが、現在立法府と行政機構が左樣な風になつて宜しいものかどうか、是は研究問題であらうと思ひますが、政府は左樣な方法は執つて居りませぬので、別に從來ありまする、今まで私が説明申上げましたやうな機構を採つて居る次第であります、尚ほ是は私の答辯する限りのものでもないかと存じます
又其の次に各省と經濟安定本部との關係如何、内閣の運命と經濟安定本部との關係如何と云ふやうな意味合の御尋ねがございましたが、經濟安定本部と各省の施設が區々にならないやうに、之を統一的綜合的な性質を與へると云ふことが一つの職務になつて居ります、又各省に共通の經濟安定の根本方策を立てることが、又積極的の一つの任務となつて居りまして、各省との關係は、經濟安定本部の總裁でありまする總理大臣が、各省に必要と認める事項を指揮命令することが出來るのでありまして、經濟安定會議に依つて定まりました事項は、當然之を各省に命じ得るものと考へて居るのであります、
又内閣と經濟安定本部との關係でありまするが、一つの政治的工作としては、考案としては、經濟安定本部は内閣の更迭に關係なきものでありたいと云ふ希望的意見がございますことは事實でありまするが、之を如何に取扱ひまするかと云ふことは、要するに帝國憲法の解釋から出る問題でありまして、其の希望が實現するや否やは、實際の問題として、其の場に於て考究するより外はないものと存じます
物價廳との關係に付きましては、物價廳と安定本部が何故別のものになつたか、是は色々の考へもございます、物價廳の出來まする前に、物價廳は安定本部の一部局たるべしと云ふ意見もございました、物價の安定は要するに經濟安定の根本であり、又經濟安定の方策として、其の一部を擔ふものである關係から申しますると、是は一體にして不可分のものであることは當然であります、併しながら安定本部の性格は飽くまでも實行廳でなくして、企畫廳でありたいと云ふ考へ、物價廳は、定めました物價政策をば、地方地方の隅々まで之を實行する、實施の機關であります、隨て現在の構想に於きましては、經濟安定本部に第五部と云ふ部を置きまして、此の第五部の職員は物價廳の職員が之を兼任致します、斯樣なことと、安定本部の長官が物價廳の長官を兼任することに依りまして、此の連絡は保つて居りまするが、官廳の性格としては飽くまでも安定本部は計畫の廳であり、物價廳は實施の廳である、斯樣な見解から、此のものをば二つに分けて居る次第でございます
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=33
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034・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 石原君の前段の御質疑は大體に於て綜合して考へますのに、兎に角物資の需給調整は物の面ばかりでなしに、日本の再建は精神的な作興が要りはせぬか、斯う私は總てを綜合して拜聽致しました、其の通りでありまして、日本の再建の鍵は、本當に道義の廢頽から起ち上つて、敗けたのだが起ち上るのだと云ふ歸魄に燃えて、今後に處して行きたいと考へて居ります
〔政府委員大石倫治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=34
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035・大石倫治
○政府委員(大石倫治君) 只今の石原君からの御質問は、ご趣旨をはつきりと私聽き兼ねたのでありますが、大體輸入食糧の過剩になつた場合に於て、農村が疲弊に傾く虞がある、それに對する對策をどう考へるかと云ふ御説のやうに承つたのでありますが、現在の食糧管理法は、御承知の如く戰時中に制定された法律でありますけれども、平戰兩時に用ゆる所の恆久的法律でございまして、生産費を「カバー」すると云ふ所に重點があるのでありまするから、今後食糧過多の場合がありましても、農村の收入に對しましては保障付けられて居るものであります、又相當の超過がありましても、全國に設置せられて居ります米穀倉庫、農業倉庫等を十分に利用致しまして、相當に貯蓄を致す、さう云ふものに於きまして供出を致すと云ふやうな立て方を致したいと思ふのであります、尚ほ輸入に對しましても、之に代替品がなければさう無限に輸入致すことは出來ないのでありまするから、日本の生産原料に於きましては、さう御心配になるやうな農村の疲弊は近く來るものと考へられないのでありまするけれども、それに對しては右樣の對策を持ちたいと存ずるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=35
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036・石原登
○石原登君 運輸大臣の答辯を要求します
〔國務大臣平塚常次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=36
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037・平塚常次郎
○國務大臣(平塚常次郎君) 鐵道運賃の値上のやうに承つたのでありますが、國有鐵道は獨立會計になつて居りまして非常に大きな損失が起きて居りますので、運賃を上げることは好ましくないのでありますけれども、上げる以外に方法がないことになつて居るのであります、以上御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=37
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038・石原登
○石原登君 答辯は非常に不滿足でありますが、あとは委員會で御伺ひすることに致しまして、之を以て質疑を打切ります
──────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=38
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039・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案に對する殘餘の質疑は他の日程と共に延期し、明四日定刻より特に本會議を開き、之を繼續することとし、本日は是にて散會せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=39
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040・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=40
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041・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後四時五十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X03919460903&spkNum=41
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