1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働關係調整法案(政府提出)
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昭和二十一年七月二十日(土曜日)午前十時二十一分開議
出席委員
委員長 逢澤寛君
理事 江崎眞澄君 理事 瀧澤脩作君
理事 竹田儀一君 理事 古賀喜太郎君
理事 伊藤卯四郎君 理事 松岡駒吉君
飯國壯三郎君 今井はつ君
花月純誠君 杉田馨子君
原侑君 山田善三君
山本勝市君 川崎秀二君
關谷勝利君 長尾達生君
辻井民之助君 今村等君
安平鹿一君 山下榮二君
木下榮君 藤井正男君
磯田正則君 穗積七郎君
野本品吉君 疋田敏男君
同月十八日委員永江一夫君辭任に付其の補闕として今村等君を議長に於て選定した
出席國務大臣
文部大臣 田中耕太郎君
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
文部事務官 柴沼直君
厚生政務次官 服部岩吉君
厚生參與官 佐藤久雄君
厚生事務官 吉武惠市君
厚生事務官 富樫總一君
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本日の會議に付した議案勞働關係調整法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=0
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001・逢澤寛
○逢澤委員長 それでは前日に引續きまして是から開會致します、一寸此の際御報告を申上げて置くことがあります、それは本委員會に使ひます色々の參考資料の請求があつたのでありますが、出來るだけ皆樣の要望に副ふことにして居るのでありますが、其の中で外國官吏待遇状況の資料は取集めに困難なさうでありますから、是は御諒承を願ひたいと存じます──瀧澤脩作君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=1
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002・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 二、三御尋ね致したいと思ひます、本案が救國日本の爲に發布されますなれば私は大いに賛成致します一人でありますが、本案の目的の條項であります第一項に關しまして政府に於て修正を加へる意思ありや否や、此の第一條が全く貧弱であるやうに私には見受けられるのであります其の目的と致します趣意が缺けて居る爲め現實國民全體に兎角の感動を與へつつあることは事實であります、亡國日本の深淵から起ち上る爲の現實條件は生産の増強を措きまして他に何ものもないのでありまして、其の生産の根元であります事業と勤勞とは渾然一體でなくてはならないにも拘りませず國民の一部の者は民主主義をどう取り間違へたものか、民主戰線とか勤勞戰線とか云ふ名の下に非合法的な運動が盛んに行はれて居るやうであります、私は、戰と云ふ聲だけ聞きましてもぞつとするのであります、よもや此の戰と云ふ此處に使はれて居ります言葉は國民同士戰ふと云ふことではないと思うて居りますが、實に氣持が惡いのであります、尚又敗戰國の大和民族の生活上一番大切である人民の道義の如きは廢頽の極に達して肉親相殺の所まで押進んで來て居るではありませぬか、此の儘半年か一年を經る中には事業と勤勞とが遊離致しまして、再建日本の根源であります所の生産の昂揚が出來るでありませうか、政府に於きましては此の點如何に御考へでありませうか、御尋ね致す次第であります
又偶偶此の法案が本議會に上程されますや現實國民の或る一部の人達や勤勞組合側では此の法案を單なる締木と解して、事業側を援助するものと又曲解して、本法制定に反對を唱へつつあることは事實と聞いて居りますが、其の點政府に於てはどのやうに感ぜられて居りますか、御感想を御聽かせ願ひたいのであります、此の法案が特別の考へを持つて居る人とか組合とかに喜んで迎へて貰はなくてはならないと思ふのであります、其の人達や組合等が現實日本が敗戰國であることを認識不足して居るからであると私は思ふのであります、故に本法目的の條項でありまする第一條をもう少し強く且又再建日本の今日を再認識さす爲に大改正を行つて貰ひたいのであります
尚重ねて申上げますが、政府に於きましては英斷的に本法斷行の御意思かも知れませぬが、國民の大半を占めて居ります所の勤勞者の理解を茲で十分に求めて戴くと共に、其の意見をも聽取して戴きまして、日本再建の重大條件であります生産昂揚の爲の勤勞大衆の生産意欲を向上さすべき強い字句を挿入して戴きたいと思ふのであります、以上であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=2
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003・河合良成
○河合國務大臣 只今の瀧澤さんの御質問に對して御答へ致します此の終戰後に於きまする勞働問題の行き方に付きまして、只今色々御話がありましたが、私共も或る部類には行過ぎたのではないかと云ふやうな感を持ちましたことは全く御同感であります、併し大體は此の終戰と同時に今までのやり方を日本全體として根本的に變へなくてはならぬと云ふ建前、即ち言ふまでもなく、民主主義の線に沿うて進んで行くと云ふ風に、申さば國是と云ふものに一つの大變革があつたと申して差支へなからうと思ひます、それで此の國是の移り變りと云ふ時には、中々萬事が滿足には行かぬものでありまして勿論總理大臣の本會議に於ける説明の如く、日本の憲法制定當時其の他古い時代には相當民主的の建前であつたのであります、けれども其の後軍國主義に禍ひされて變つた、それを今度又其の本然の姿に還へるのだと云ふ御説もありましたが、私達も勿論さう云ふ傾向は相當顯著なことと思ひますが兎にも角にも終戰後は相當な變り方であつた、其の中で一番重大な問題は言ふまでもなく勞働權、勤勞權の問題でありまして、人間本來の自覺、個人の自覺に基いての個人の展開、是が非常に重要なことで、さう云ふ線で多くの點が「クローヅアップ」されたと云ふことでありますから多少の行過ぎもあつたのを、大きな思想の流れ國の前進の態度から見て是は已むを得ざる所として我慢をしなければならぬ所であるかとも私は考へるのであります、さう云ふ從來の一つのやり方、戰爭中に於ける或る程度までの強壓的なやり方と今度解放されたやり方との間の移り變りの間に起つた物事に付きまして、色々只今御話のやうな點のあつたことは、是は已むを得ぬことであります、勿論或る運動の一部には、破壞的とさへ認められるやうな運動があつたことも私共は認めます、併しながら是は大局として已むを得ぬことだと云ふ點に御諒承を願ひたいと思ふのであります、それで此の法案はさう云ふ大體の線に沿ひまして勞働問題に對する實行を容易にする、其の展開を健全にすると云ふ面を主として表はして居ることは言ふまでもないことでありまするが、一面只今申しました個人の自覺、個人の權利の主張と云ふものにも、自ら一つの限度がある、それは結局公共の福祉である、公共の福祉と云ふものは、是はどうしても個人の權利の主張と完全なる調和を保たなければならぬと云ふ意味を持つて居りますから、其の意味に於て爭議行爲の制限と云ふことも併せて此の法律で規定せんとする譯でありまして、謂はば終戰後に起きました混沌たる進み方に對して一つの規律を與へる、さうして之を本當の産業復興と申しますか、國家再建の線に沿はして行かうと云ふことが目標でありまして、只今御質問の趣旨と全く同じ趣旨を以て此の法律で進みつつある譯であります、特に第一條に於て其の點を強調致しませぬでも、特別の文字を用ひませぬでも、勞働法規──組合法も此の法律も經濟興隆と云ふことを主眼にして居りますし、大體は分つて居ることであります、から特別に此の意味を高調する必要はないと云ふ風に私共は考へて居ります
それから第二の點でありますが組合其の他が此の法律に一部反對して居るぢやないかと云ふ御議論もありまして、之を政府はどう思つて居るかと云ふ點の御質問でありますが、是は御承知の通り生活困難或は「インフレーション」と云ふやうな問題が非常に熾烈に起きて居ります爲に、勞働者全般としまして或る部分には勿論生活が相當やつて行ける勞働者階級も多いのでありますが、又或る部分にはどうしてもやつて行けぬと云ふやうな階層もありまして、それに對する非常な要求が出て居ることは、是は已むを得ぬことである、それでさう云ふ線のことが非常に強く出て居りまする爲に、やはり政府のやり方が拙いと云ふやうな非難も出て來るのではないかと思ひます、是は松岡君が此の間本會議で御指摘なさつた如くに、此の法案自體の内容と云ふよりも、政府に對する不信と云ふことが問題になるのではないかと云ふ御話がありましたが、私はそれを其の儘取入れるのではないが、其の言はやはり一面に於て一つの方向を示して居るのであります、是は此の法案に付て政府に對する不信と云ふよりも何年間の政府に對する不信と云ふものが此處に流れて來て其の煽りを喰つて居るのだと私共は考へて居ります、本當の意味の政府のやること、殊に此の勞働問題に對する態度、又此の法案の内容と云ふものが何であるかと云ふことを勞働者の方で能く理解して貰へば、此の法案には決して何人と雖も反對がないと云ふ風に私共は確信を持つて居ります、其の點に付きまして、政府も出來るだけの努力をして行く積りで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=3
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004・逢澤寛
○逢澤委員長 瀧澤君もうありませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=4
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005・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 ありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=5
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006・逢澤寛
○逢澤委員長 それでは文部大臣が見えて居りますから、先日の質疑を繼續を致します──川崎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=6
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007・川崎秀二
○川崎委員 私は本日文相が出席されましたので、發言を留保してありました勞働者と「スポーツ」、勤勞大衆と「スポーツ」と云ふ問題に付て、若干御尋ねを申上げたい、私は勞働運動の先輩、先覺者が、各種の問題に付て深い造詣を持たれて居るに拘らず、此の勞働者と「スポーツ」と云ふ問題に付て、從來まで傾聽するに足る何等の意見が示されて居らないと云ふことに付て、甚だ殘念に思つて居る一人であります、そこまで勞働者に慰安を與へなければならぬ、健全な娯樂を與へなければならぬと云ふことは、今日最も大きな問題ではないかと思ふのでありますが、從來までの勤勞者と「スポーツ」と云ふものは、餘りにも懸離れた存在のやうに考へられて居つたのであります、又さう云ふやうに遇せられて來たのではないかと考へます、何故ならば、今まで「スポーツ」と云ふものは學生或は一部の富裕階級のみが之を獨占して居ると云ふような傾向が、なかつたとは言へないのではないかと私は思ふ、隨て勤勞者、勞働者と云ふものは、常に「スポーツ」を行ふ側ではなくして、偶に野球か水泳の競技を見せて貰ふ、觀る側の立場に立つて居つたと云ふことは非常に殘念なことである、今後の「スポーツ」と云ふものは此の傾向は徹底的に是正されて行かなければならぬ、「スポーツ」の大衆化を圖らなければならぬ、特に勤勞青少年から愛されなければならぬと考へます、又勤勞青少年が最も求めて居るものは健全なる娯樂の内、特に普遍的なものは私は「スポーツ」ではないかと考へるのでありますが、從來のやうなやり方を此の際是正して行くに付てどう云ふ方策が文部當局におありであるか、又之に關聯して、從來體育行政と云ふものは厚生省もやつて居り、文部省もやつて居つたのでありますが、是が最近一元化されて、強力な體育行政が發揮されることを私は期待して居る、隨ひまして一元化されたことは結構でありますが、厚生大臣は勞働者と「スポーツ」、勞働者の體位向上と云ふ問題に付て、一體どう云ふ風な御考へを持つて居られるか、例へば勞働組合や、其の他に對して「スポーツ」を普及させる爲の手段方法と云ふものを考へて居られるかと云ふことも、是も一つ御伺ひを致したいと思ひます、最近農村の青少年の傾向を見ますと、素人の演劇會、素人芝居と云ふものが非常に流行つて居つて、是が全國的に瀰漫して居りますが、素人芝居の内容を見て居りますと、國定忠治、或は森の石松と云ふやうな、今までの封建的な考へを中心にした芝居をやつて居ると云ふのは、洵に殘念であると思ふ、私は是等の傾向と云ふものはどうしても是正をして行きたいと思ふ、それにはやはり健全なる演劇、又新しい時代に即應した演劇を普及させて行くのも一つの策でありますが、同時に農村の青少年に健全なる「スポーツ」を與へて行くと云ふことが、彼等をして平和國家建設に感激的なものを持たし得ると云ふことに、私は肉體的な躍動を若い青少年が好むが故に、最も適策ではないかと考へて居る一人であります、文部大臣は新たな時代に對して大きな理解を持たれる方であり、又非常な人格者であると私は考へて居るのでありますから、是等の問題に付ても十分な御意見があると思ひますが、此の際日本の青少年と「スポーツ」と云ふやうな問題に付ても御明示を願ひたいと思ひます
尚ほ此の際私は長年來「スポーツ」の關係者として育つて來た關係上、色々と御尋ねを致したいと思ひまするけれども、本委員會の性質上、餘り多岐に亘ることは避けまして、「スポーツ」の方向と云ふものは今後どう云ふ線を辿らなければならないかと云ふ私の私見を、之を具體的に簡單に申上げて文部大臣が此の線に賛成であるかどうかと云ふことを御尋ねを致したいと思ひます
私が持つて居ります方向としては、大體日本の「スポーツ」界の方向は五つの原則があるだらうと思ふのであります、第一には軍國主義的の「スポーツ」と云ふものを徹底的に芟除しなければならぬ拂拭しなければならぬと云ふことであります、是は私は多くを申上げる必要はないと思ひますが、然る筋の人々が地方を巡られて、まだ中等學校の雨天體操場の倉庫の中に銃劍道の道具が置いてあつたと云ふやうなことでは、是は洵に困るのではないかと私は考へて居ります、どうぞ軍國主義的「スポーツ」の殘滓を一切一掃することに努められたいと思ひます
第二には日本の「スポーツ」界と云ふものは、今後官僚主義的な統制と云ふものから完全に脱却しなければならぬ、即ち「スポーツ」を民間の手に返せと云ふことが強く出て行かなければならないと思ふのでありますが、何分にも日本の「スポーツ」團體と云ふものは非常に經濟的に窮迫をして居る、隨て之を指導するだけの財源を持たないのでありますから、政府は之を助長して、金だけはどしどし出してやつて、自主的に民間から「スポーツ」復興の氣風を作るやうに進められたいと思ふのであります、此の點に付て特に注意を要すべきことは、國家が「スポーツ」の統制に乘出すと云ふことが如何に誤りであつたかと云ふことは、第二次世界大戰の勃發前に於ける「ドイツ」の「スポーツ」統制、或は「イタリー」の「スポーツ」統制、全體主義的な國家に現はれたる大きな問題があるのでありますから、此の點十分に御注意が肝要ではないかと思ふのであります
第三には、文教の政策の面に於て從來極めて智育偏重の教育が行はれた、之を一掃して圓滿なる人格を有し、個性を完成させる爲にどうしても伸び伸びした「スポーツ」に依つて之を涵養して行くことが必要ではないか、隨て智育一本槍の方針や戰時中の劃一主義、或は體力酷使に屬したやうな、ああ云ふやうな政策は一切拂拭されなければならないと云ふことが、私が持つて居る第三の「スポーツ」の行き方であります
更に第四には「スポーツ」の民主化、特に私が今日御尋ねを致して居りまする重點である所の「スポーツ」の勤勞大衆への浸潤と云ふことを考へなければならない、是は最早餘り饒舌を要しないと思ひますので省きますが、同時に「スポーツ」が大衆に滲透して行くと云ふことと、階級鬪爭の具に供せられると云ふことは、是は十分に警戒をして行かなければならぬと思ふのでありますが、文部大臣の考へは如何であるか、此の點を特に御答辯を戴きたいと思ひます
更に最後に私は、我が國が將來獨立國となつた曉、此一時に最も強く國際的文化の交流の魁になるものは、私は「スポーツ」の交驩ではないか、斯樣に考へるのでありますが、「スポーツ」の國際的文化交流と云ふことになりますと、一番大きな問題になるものは御承知の如く「オリンピック」大會への參加と云ふことの問題であります、「オリンピック」大會は一九四八年に「ロンドン」で次回開かれると云ふことが決定になつて居りますが、日本と「ドイツ」の招請に付ては、未だ最後的段階に達して居らないと云ふ「オリンピック・コンミッテイ」の決定であります私は出來得るならば速かに「オリンピック」大會へ參加したいと云ふのが、日本の青少年の希望ではないかと考へるのでありまして、是等の五點が今後の「スポーツ」界の行くべき途である、殊に勤勞大衆と云ふものと「スポーツ」と云ふものと結付けた行き方が行くべき途ではないかと思ひますが、文部大臣竝に厚生大臣は如何御考へになりませうか御尋ね致したいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=7
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008・田中耕太郎
○田中國務大臣 川崎さんの御質問に御答へ申上げます、文部省が今後の「スポーツ」に付てどう云ふ風な根本的觀念を持つて居るか又其の振興の具體的方策如何と云ふことに付て先づ御答へ申上げます、今後の學校教育なり、社會教育、勤勞大衆を含めまして之に對する教育に於て、智的教育、倫理的教育と竝んで體育、特に「スポーツ」が非常に重要なる意味を持つと云ふことは、是は此の文化國家、平和國家を再建しようと致して居ります際に、はつきり確認して置かなければならない事柄であると存じます、文部省も此の根本的精神に則りまして努力致したいと存じて居ります、申すまでもなく今日に於きまして、勤勞大衆の體位は非常に以前と比較しまして低下致して居ります、更に非常時局中健全なる娯樂を失つて參りました、さう云ふ點に於きまして、體位の回復と健全なる娯樂の見地からして非常に有意義であり、又其の目的を達するのに最も適當である「スポーツ」を奬勵しなければなりませぬ、尚ほ、併し此の「スポーツ」は、單に體位の向上とか娯樂とか云ふやうな意味よりも、更にもつと人格を作る、精神を本當の意味に於て健全にし、又鍛錬する、錬成的の意味ではありませぬ、本當の意味に於て人間を作ると云ふ意味に於て、私はそこに倫理的の意義を認めるのであります詰り「フェヤ・プレー」の精神を通じまして、公民教育と云ふことにやはり「スポーツ」が役に立つと思ふのであります、昔から或は「ギリシヤ」なり、或は「ローマ」に於て、或は東洋に於て、日本に於ても形は色々違ひ、種類も同一でありませぬが、併し「スポーツ」が常に文化の重要なる一環として奬勵せられて參つたのはそこにあると存ずるのであります、隨て今後の民主主義的、平和主義的教育の缺くべからざる一環として「スポーツ」を大いに奬勵し、學校教育に於ても、又勤勞大衆の方面に於きましても、大いに奬勵致したいと思ふのであります、所で具體的方策になりますと、殊に地方の農村の青年達の間に健全なる「スポーツ」をどう云ふ風にして滲透させるかと云ふことになりますと或は青年團を、詰り戰時中存在して居つたやうな意味の青年團でない、自主的の青年團が今後益益發達して參ると思ひますから、それに働き掛けまして便宜を出來るだけ與へて、さうして健全なる「スポーツ」を農村方面に普及させる又會社其の他の職場に於きましても、同じやうなことが行はれ得るやうに努力致したいと思ひます、又農村に於きましては、最近勸奬致して居ります所の公民館と云ふやうなものも、是も單なる精神的文化、知識的の文化とか、教養とか云ふ狹い意味の活動に止まらず「スポーツ」の方面にも一つの「センター」となると云ふやうなことを期待して居る次第であります、所で今日甚だ資材が不足して居りまして、運動具の如き生産の方面が遲々たる状態にあるのは甚だまどろかしいことでございますが、併しながら此の方面に付きましては、文部省と致しましては、例へば運動靴の如き配給量を益益殖して參る、唯此の點に付きましては先づ學童の需要を充さなければなりませぬので、學童に付きましては此の年度内一ぱいで一人一足と云ふやうな見越しで今努力致して居る次第でありますが、さう云ふ方面の需要を充すことが出來ますならば、漸次又一般勤勞大衆に運動靴の如き出廻るのではないかと存じて居ります
次に、最後に簡單に意見を述べろと云ふ意味で御擧げになりました所の五つの項目に付て御答へ申上げますが、戰時中の軍國主義的色彩を徹底的に「スポーツ」の方面から拂拭すること、全く是は焦眉の急でありまして、徹底的に行はなければならないと云ふことは御同感であります、それから「スポーツ」を民衆の手に返す、政治の官僚的統制を行はない、是も御尤も至極でありまして、「スポーツ」を文化の一環として、詰り民間から湧き出なければならないものと存じて居ります、今まで行き過ぎた官僚的統制を拂拭して、是からは詰り助長すると云ふ立場に立還る、所で、助長すると云ふことになると、そこに監督なり干渉なりが加はり易いのでありますが是は將來「スポーツ」のみならず他の方面に於ても文部省に於て氣を付けまして、助長はするけれども干渉はしないと云ふ建前で進みたいと思ひます、それから智能偏重を排し個性を完成すると云ふ文教の畫一政策に付ては、是も此の線に副ひまして努力致して居る次第でありまして、御質問の點極めて御尤もと存じます
それから「スポーツ」の大衆化と同時に、政治的に「スポーツ」が利用せられると云ふことは極力避けなければならない、是は「スポーツ」にしても文化にしてもさうでありまして今後我々は教育の自主性、文化の自主性を堅持しなければならないと思ふのでありまして、他の政治的の目的に利用してはならないと云ふことは、將來特に斯う云ふ時勢に於きまして御同感至極でございます
又最後の我が國が將來平和國家の仲間入りを致します際に於きまして、「スポーツ」か民間外交として如何に重用な役割を努めて參つたかと云ふことは、既往の經驗に徴して明瞭でございます、特に「オリンピック」大會に對する將來の見透しがどうなるか分りませぬけれども、是が開かれる曉に於ては我が國も此の「スポーツ」の方面に於て重要なる役割を演ずると云ふことに付きまして大いに我々は努力し、又其の爲に準備を致さなければならないと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=8
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009・河合良成
○河合國務大臣 只今川崎君から「スポーツ」と勞働者の關係に付て御質問がありましたが、是は言ふまでもなく、民主々義國家の最終の目的は、端的に言へば文化生活だと思つて居ります、文化生活勿論物質的面ばかりでなく、精神的面だと思つて居ります、其の中に於て「スポーツ」面は非常に重大なる役割をなすものだと思ひます、是はやはり國家の國是として進んで行かなければならぬ、憲法に社會の福祉或は公衆の衞生を強調して居る所以も勿論「スポーツ」が重大なる「ファクター」の一つだと云ふことが明かであります、それで「スポーツ」に依つてやはり反面から勞働者の公正なる精神の自覺を促して、勿論生活難其の他窺迫した事情で「ストライキ」など起るのですから、何だか其の間「スポーツ」と合はぬ氣持もありますけれども、それは其の時に起すので、普段起らない時には濶達なる精神を「スポーツ」に依つて養つて行かなければならぬ、さう云ふ意味に於て私は勞働者と「スポーツ」と重大なる關係があると深く信ずるものであります
それから農村勤勞と「スポーツ」との關係に付て御尋ねがありました、只今の素人芝居と云ふのは、是は軍國主義の一つの反動であります、是は其の點に於て御見逃しになつたら宜いと思ひます、此のことは──一寸餘談ですが、例へば十七世紀の「オランダ」の「チューリッヒメニア」、是は日本の大本教と同じで、一種の黴菌のやうに非常に傳播した、斯う云ふことは何處の國にもあることで直ぐ收まる、收まつた所で健全なる農村「スポーツ」を普及さす、是は厚生省に於ても出來るだけやりますが、文部省に於ても責任を以てやつて呉れると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=9
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010・川崎秀二
○川崎委員 一寸一言だけ……、只今文部大臣竝に厚生大臣から體育を國是として行はなければならぬと云ふ言質を戴きまして、私は大變滿足に思つて居ります、そこで現下の食糧事情と關係して、「スポーツ」問題は非常に微妙なことになつて居りますけれども、此の秋多少でも食糧事情が緩和する時には、全國民の體育大會を開きたいと云ふ聲が「スポーツ」界全般に亙つて非常に強い、そこで其の大會を開くことに御賛成であるかどうか、或は若し此の國民體育大會が開かれれば、それに付ての豫算は十分に計上されて行くかどうか此の點に付て文部大臣の御答辯を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=10
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011・田中耕太郎
○田中國務大臣 其の點事務當局と色々研究致しまして御趣旨に副ふやうに努力致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=11
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012・逢澤寛
○逢澤委員長 辻君に前回の文部大臣に關する質疑を許します──辻君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=12
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013・辻井民之助
○辻井委員 文部大臣に御伺ひしたいと思ふのでありますが、先達の本議會に於きまして、教員が爭議をやることは、私はつきり言葉は覺えませぬが、面白くない、或は不穩當であると云ふ意味の御言葉があつたと記憶致します、併し不穩當ではあると思ふが、法律に依つて爭議を禁止しようとはしないのである、併し不穩當であると考へると云ふやうな御言葉があつたと記憶するのであります、私も教員として學童に對する影響を考へまする場合に、或は「デモ」をやり或は要求書を突付けて爭議をやると云ふことは確かに面白くないと考へます、併しながら爭議が若し惡いのなら、之をやらさないやうな十分な對策或は待遇をば御講じになる必要があると思ひます、つい最近まで、度々要求を出したり或は地方に於ては國民學校の教員が連袂辭職をしようとしたと云ふやうな穩かでない報道もあり、又文部大臣の所に代表が所謂へばり込みを掛けたと云ふやうな穩かでない出來事が相當續いたのであります、併し斯う云ふ爭議を起さなければ何等最低生活を保障して貰へなかつた、是が彼等をして已むを得ず不穩當なる行動に出でしめたのであります、若し默つておとなしく爭議をやらないで居つたら一體どうなつたか、殊に終戰以來組合を作つて遠慮なしに爭議をやりました一般の勞働者、勤勞者に比べまして、最も劣惡な状態に抛棄せられて居つて、其の結果若し爭議をやつてあの要求をしなかつたならば──私は京都の市政或は政府に多少關係して居つて、絶えずさう云ふ陳情を受け、事實も承知して居るのでありますが、どうしても俸給だけではやつて行けない爲に、或は同窓會であるとか、或は父兄會でありますとか、或は奬學會と云ふやうなものを作つたり、教育援護會と云ふものを作つたりして、當然國家が負擔しなければならぬ所の俸給の援助、場合に依つては相當多額の援助をば是等の同情に依つて得て居つた、それですらも十分生活の保障が得られない爲に、此の間も文部大臣が申されたやうに、此の尊い教育の任に携はつて居りましても、總てが聖人君子を以て律することは出來ない、食へなければ段々卑怯になり、或は兒童が空地へ作つた野菜をば先生が胡麻化す、或は終戰以來多少配給のありました物をば教員が胡麻化したと云ふやうな、學童の前で斯樣なことをば見せ付けましたならば、是こそ教育の上にどれ程重大な恐るべき惡影響を來すか分らないと云ふやうなことが、もう到る處に頻々として行はれて居る、私は斯うした卑屈な生活をして、學童の前で泥棒に類したことをやつたり、實に乞食のやうな生活をするよりも、大事な國の仕事に從事して居る限りは、國が生活の保障をすべきは當然である、それをばして貰へなければ、堂々と要求をする、權利を主張する、どうせ私は爭議は面白くないと思ふが、今申上げたやうな卑屈な生活をして、之をば學童に見せるよりも、寧ろ堂々と團結をしてさうして爭議を行うて、正當な主張をば貫撤すべく男らしく鬪ふ方が、學童に對する影響は幾ら其の方がましであるか分らないと云ふやうに考へるのであります、若し待遇或は給與の點に付て當局が十分に──十分とは勿論敗戰の後ですから出來ませぬが、少くとも他と均衡の取れる最低生活の保障をして居られない場合には、斯うするより外に途がないのであります若し今後に於ても、斯う云ふ點に付て十分な當局に何か對策を立てられ、考慮が拂はれない限りは、此の好ましくない爭議が相變らず私は起ると思ひます、起るのが當然であり、是は已むを得ぬと思ひます、此の點に對して果して當局は此の御好みならぬ、不穩當であると御認めになりまする爭議を起させないやうに如何なる對策を御持ちになつて居るか、此の點に付て私は一應御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=13
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014・田中耕太郎
○田中國務大臣 教員の待遇を一般勤勞者よりも甚だ劣つた水準に置いておきました、さうして他面爭議はしてはならないと云ふ明文を設ける、或は明文でなくとも道徳的にさう云ふ大衆行動を否定するやうな態度に出ますことは、是は教職員諸君に取つて甚だ相濟まないことだと思つて居ります、所で從來の我が國に於きまする教職員の待遇は、一般官公吏よりも甚だ劣つた状態に置かれて居るのであります、一方教職員は仕事の性質上、其の仕事を停止しましても直ぐに社會國家の或る目に見えた機能を害すると云ふやうな譯ではありませぬので、さう云ふ意味に於て目に見えた意味の力を持つて居ない、他方又教職員としての品位を要求されて居りますから、さう云ふ意味に於ても露骨なる要求をなすと云ふやうなことは適しない、或る意味に於て勞働爭議的に考へますと不利な状況に置かれて居るのであります、隨て社會國家はさう云ふ職員の地位に付きまして十分な理解と同情を持つて、要求せられなくとも教員の待遇を少くとも官公使の「レベル」まで上げると云ふことに努力しなければならないと云ふことに付きまして、文部當局は非常な熱意を持つて努力致して居ります、幸ひに大藏省又其の他の關係各方面の理解ある支持に依りまして、此のたび國民學校と青年學校の教職員に付きましては、一般官公吏の水準まで追付くと云ふやうなことに付きまして成案を得まして、豫算の中で御諮りすることになる段階に至つて居りますことは、我々と致しましては感謝に堪へない次第であります、是は全く今後の文教と云ふものの使命が實に重大であると云ふことに付きましての社會國家の輿論が、そこまで發達して來たと云ふことの結果に外ならないと存じて居る次第であります、要するに此の問題に付きまして文部當局と致しましては、教員の待遇は今後の文化國家、平和國家の建設に對しまして、教育が特に重要なる意味を持つて居ります關係上、一般官公吏よりももつと優遇して貰ひたいと云ふ風に考へて居る次第であります、斯う云ふ意味に於て爭議の必要のないやうに政治の面に於きまして努力しなければならない、法律問題にならないやうにするのが詰り政治の要諦であります文教に付ては特にさう云ふ方向に向つて今努力致したいと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=14
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015・辻井民之助
○辻井委員 只今の大臣からの御答辯にもありましたし、又最近一應組合が納得をして當局の案を承知したと云ふことも聞いて居りますが、併し現在の經濟情勢を見ますと「インフレ」は決して止まるものではない、まだ相當昂進して行くのではないかと云ふのが專門家の意見でもありまして、此の情勢が續きますならば一應解決をしましても、今後又何回も待遇改善の問題が起つて來ると思ひます、其の都度數ケ月遡つて支給するとか何とか云ふことになりますと、幾ら貰ひましてもどれ程其の爲に苦痛を感ずるか分らぬのでありまして、唯當局が天降りに考慮して出來るだけ良くしてやると云ふのではなしに、一般の事業に於きましては經營協議會と云ふやうなものも出來て居るのであります、是は厚生大臣にも御聽きしたいと思ひますが、單に文部省關係だけではなしに、一般の官吏とそれから當局との間に絶えず、斯う云ふ點に付きまして協議して折衝して、さうして爭議を未然に防いで、出來るだけ經濟情勢に即した待遇を與へるやうにして行くと云ふやうな方法が私は是非必要であると思ひます、民主的な方法に依つて當局と一般の官吏とが絶えず折衝をし、適當なる條件を以て俸給給料をば決定して行くと云ふやうな機關がなければ、私は何回でも同じことを繰返さなければならぬと思ふのでありますが、斯う云ふ點に對して何か具體的に御考へがないかどうか、此の點をもう一應御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=15
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016・田中耕太郎
○田中國務大臣 只今御指摘の點は文部當局と致しても憂へて居る所でございます、今後の物價の昂騰の趨勢がどうなるか、一體どう云ふ風にして「インフレ」の惡循環から免れることが出來るかと云ふ問題に付きましては、是は單に教職員のみならず一般官公吏、或は私の團體役員なり、從業員なんかに皆關係のあることであります、文部省と致しましては其の點全國教職員の代表のやうな意味に於きまして、今後大藏省給與局と云ふものが出來ましたので、さう云ふ方面に對して大體教職員の日常生活に付て色々の直接にさう云ふ方面の意見を十分聽きまして、常に連絡を斷たないやうに致して善處致したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=16
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017・辻井民之助
○辻井委員 是は一般に關係のある問題でありますから、大藏大臣が御見えになりました場合に改めて御伺ひしたいと思ひます、是で私の質問終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=17
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018・逢澤寛
○逢澤委員長 山田善三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=18
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019・山田善三
○山田(善)委員 私は文部大臣竝に厚生大臣に數項の御質問を申上げたいと思ひます、先づ只今既に御質問がありましたが、先日本會議の席上で文部大臣は、教育の勞働爭議は教員たることの矜恃と自覺を基礎として、其の精神から來る強調偕和の精神に依つて絶對爭議を起させないやうに指導する自信ありと云ふことを御言明になつたやうに記憶致して居ります、併し斯くの如き信念が何處から生れたかと云ふことを想像致しまするならば、必ず之には或る程度の實體が伴ふことを豫想しなければ出來ないと思ひます、即ち教員と雖も食はなければ生きて行けない、故に教員の待遇を十分にすることに依つて此の爭議を未然に防ぎ得る自信が生れたことであらうと、私は想像致して居ります、然らば文部大臣は、只今も御述べになりましたやうに、極端に菲薄な待遇に甘んじて來た教員の生活權をどの程度まで文部大臣の自信を裏付けるに足る優遇の途を御講じになつて居るか、只今の御答辯に依りますると、官吏並にする計畫ありと云ふことを仰せられたやうでありますが、仄聞する所に依りますと、今回の官吏の増俸五割程度の引上げだと云ふやうなことも私伺つて居りますが、今頃官吏の月給を五割位上げても燒石に水である今までのやり方が總て後から後から追うて行く結果、殆ど其の效果を發揮して居らない、殊に教育者の場合は是が甚だしく低い、少々上げた程度では文相の斯くの如き強い信念を裏付けする基礎にはならぬぢやないか、斯樣に考へるのであります、若し御分りになるならば、どれ位御上げになる豫定であるか、又其の時期は何時御實行になるか、之を御伺ひ致したいと思ふのであります、尚ほ國民學校の教師は此の程度に上げると云ふ御話であつたやうでありますが、中等學校は其の中に入らないのか、私の見る所では、國民學校は相當廣い關心を買つて居つて、其の精神的待遇に於ても、又其の物質的待遇に於ても相當な關心を持たれて向上して來た跡がありまするが中等教育は全く放つてあつた状態であります、殊に奏任待遇の數に關するものの如きも、國民學校に比べて全く近年何等の施策が講ぜられて居らぬのであります、何が故に中等教員を格別に斯くの如く虐待されるか、之をもう少し優遇される意思はないか、斯う云ふことを御尋ね申上げたいと思ひます
それから第二に先づ此の勞働組合法竝に此の調整法などの如き勞働立法は、元々社會主義的な思想或は共産主義的な思想を母體として發展して來たものと私は考へます、さう致しますると斯くの如き運動が段々熾烈化し、段々向上して強く強調されるやうになりますると、結局其の母體たる思想の影響を受けまして、教員の思想が或る偏狹なる思想に固まり來り、或は又特定の殊に利己的な利用に供されるやうな政黨の思想を持つて來る、さうなることが必然の結果ではないかと私は考へる、是が物を造る生産事業でありますと、さう云ふ思想も大した影響を持たないのでありますが、苟も魂の製造をやる教育者が或る一種の偏つた思想を持ち、或る特定の政黨に屬し、政黨運動に熱中し、或は其の政黨の主張する主張を堅持すると云ふことになりますと、それを通して全國民の魂が大きな變動を生ずるに至りはせぬかと云ふ憂ひを持つて居るのであります、之に對して文部當局は如何にして之を是正しようとされるか、又此の思想の善し惡しは別として、さう云うた行き方が良いか惡いか、惡いとすれば如何樣にして之を防がんとするか、此の點を御伺ひ申上げたいと思ひます
第三には、最近の教員組合の動きを見て居りますと、私共の見る所では、只今まで教員組合がやつて來た道は、普通の勞働者の行ふ勞働運動と大した變りがないやうに思ひます、殊に最近教員組合の仲間で考へられて居りますことは教育會を解散して勞働組合に吸收する、さうして勞働組合が教育の研究をやり、思想の涵養をやる、恰も一種の思想團體であり、或は政黨化するやうな傾向に赴きつつあるやうな氣が致します、私は教員組合のやるべき仕事と教育會がやるべき仕事は自ら其の分野に相違があり、何れも異なつた目的で教員の地位向上を圖り、教育者の身分を高め、其の修養を圖る途があると思ふのであります、然るに最近の教員組合の動きは、何でも彼でも此の教員組合なる勞働組合一本で行かうと云ふ傾向が非常に大きいやうに感じて居る、之に對して教育會の存續問題は文部省に直接關係はないかも知れませぬが文部大臣としての御意見は、教育會は教育會として其の職分を護り立てて行つた方が宜いと御考へになるか、或は教員組合の勞働組合の中に吸收して、何も彼も一緒に是でやるのが宜い、斯樣に御考へになるか、大臣の御意見を承りたいと思ひます
次に厚生大臣に一、二項御尋ね申上げたいと思ひます、此の勞働關係調整法の全體の性格を見てみますと、どうも勞働者の請求權或は爭議──勞働者側から起つた此の抗議を抑へて解決する、さう云つたやうな色彩が非常に濃厚である、爭議が起りますのは申すまでもなく勞働者の請求權或は要求或は其の生活權の主張が必ずしも不當、行き過ぎとだけ斷ずる譯に行かぬと思ひます、やはり之には資本家たる企業家が非常な惡條件の下に勞働者を驅使する、言葉を換へて言へば搾取すると云つたやうな側の缺點も相當にあるのであります、そこらから爭議を勃發させる場合も可なりにあると思ひますさう致しますならば此の兩方の缺陷を補ひ、私を以て言はすならば勞働權を保護すると云ふ建前から爭議を解決すると云ふやうな色彩を帶ばして貰ひたい、一つは勞働爭議が發生した場合に之を取上げて調致する、一つは發生する虞がある場合に未然に防止すると云ふのでありますが、勞働爭議の發生する虞ある場合に之を未然に防ぐと云ふことは、少し行き過ぎると直ぐ爭議を彈壓すると云ふ形になるのであります、苟くも爭議が起らんとする芽が一寸出ると直ぐ抑へてもうやらせない、斯う云ふことが頻發致しますならば爭議が絶對出來ないと云ふ形に之を抑へ付けることになると思ふ、ここらが勞働者の反對を買つて居る一つの原因ではないかと私は考へる、此の豫防に名を籍つて彈壓する、詰り豫防と彈壓とは正に紙一重であります、殊にさう云ふことが激しくなりますと勞働者は又別なことを考へて、突如として爭議をやるさう云ふ形に出て來るだらうと思ふ、第六條に規定してあるやうに爭議が發生すれば屆出の義務があるが、發生する前には屆出るよすがもないから突如としてやる、やらなければ抑へられる、斯う云ふことに段々發展して行きはしないか、斯樣に考へるのであります、さう云ふやうになつて參りますと今度は豫防が出來なくなる、此の豫防を強くやらうと思へば彈壓になる虞あり、彈壓を止めようとすれば豫防が出來ぬ、斯う云ふ結果になると思ひますが、之に對する厚生大臣の御考へは如何であるか御尋ね申上げたいと思ひます
第二には銀行を公益事業と御考へにならぬか、近頃の銀行業は著しく公益性を持つて居ると思ひます、殊に五百圓生活或は封鎖預金と云ふことから考へますと、若し銀行に爭議が發生して、長いこと其の事務を停止致しますれば、其の日の生活資金を出すことが出來ないと云ふやうなことになる虞が多分にありはしないか、之に對して銀行業を公益事業と御指定になる意思があるかどうか、御尋ね申上げたいと思ひます
第三には爭議發生の虞ある場合に此の勞働調停法を御活かしになつて、發生した場合に之を抑へることも一つでありませうが、勞働條件の惡いと云ふやうな企業に對しまして、寧ろ此の法案を活かして積極的に勞働を保護すると云ふ建前から、事前に積極的に働き掛けて勞働條件の改善に乘出す、さう云ふことに依つて爭議を豫防する、さう云ふ御考へはないか、若し此の方面に御力を入れたら別に勞働保護法と云ふやうなものが出來なくても、是れ一本でも其の目的を達成出來るものと考へるのでありますが、之に對する厚生大臣の御考へを承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=19
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020・田中耕太郎
○田中國務大臣 山田さんの御質問の三つの點に付て御答へ申上げます
第一の教職員の待遇問題でございますが、私は教員の待遇を爭議の途に出る必要のないやうに改善しなければならないと云ふことに付て、決心と熱意を以て努力致して居る譯であります、唯併し絶對に教職員が爭議の手段に出ないと云ふことに付ての、其の點の自信と云つたものは持つて居る譯ではございませぬ、唯教職員が爭議行爲の途に出ることが教育の使命、特に被教育者に對する人格的に關係を重んずる所の其の教育の使命からして、不適當であると云ふことを明言することに付て自信を持つて居ると云ふ意味でございます
それから待遇をどの程度引上げるかと云ふことになりますと、先程御答へ申上げましたやうに官公吏並に引上げると云ふことでございます、唯併し問題は官公吏並に引上げまして滿足して居る譯ではありませぬ、今度は一般官公吏の増俸、それは或は不十分なものであるかも知れませぬが、其の増俸の際に教職員も勿論均霑することを豫想して居るものであります、それから御尋ねになりました中等學校以上の教職員の待遇、是も甚だ不滿足なものでありまして、特に此の點に付ても追加豫算に於きまして出すと云ふことを今具體案を作成致しまして、大藏省、其の他關係方面と折衝致して居る次第であります、詰り此の度本豫算に提出されますのは國民學校と青年學校、詰り非常に多數の教職員大衆でありますが、併しながら其の待遇改善のみを以て滿足しないので中等學校、高等專門學校及び大學まで及ぶ趣旨で努力致して居ります
第二に教員の思想問題でございますが、只今の御質問の御趣旨は我々と致しましても非常に御尤もに存じます、實は憂慮致して居りますが、之に付きましては、詰り教育者の使命と云ふことに本當に徹底します以上は、教職員が或る一黨一派の思想を持つて居りましても、少くとも學園内に於ては公正なる教育的の使命を果さなければならないのでありまして、此の教育と政治との關係を教職員に對して明朗に致しまして、公平な立場に於て其の職務を遂行するやうに、其の態度に付きまして決して官僚的の命令を下す譯ではありませぬけれども、併しさう云ふ方向に教職員の再教育を行ひたい、其の手段は色々ございますが根本的には教員養成制度から反省して掛らなければなりませぬが、併し社會教育の方面或は特に大學の擴張講座或は其の他高等專門學校の先生方を動員致しまして、健全なる政治思想、公民的の考へを普及するやうに致したいと存じて居ります
それから最後に御質問になりました教員組合の最近の動向の問題でありますが、是も御同感至極でありまして、文部省と致しましては、大日本教育會と云ふものが全國的の組織として存在して居ります、是はやはり戰時中に於て持つて居つた色々な傾向を拂拭しなければならないことは當然でございます、而して休戰後に於きまして必ずしも溌刺として活動して居ないと云ふことも事實であます、其の方面は大いに活を入れねばなりませぬ、併しながら或る意味に於てさう云ふ不滿足な點があるとは雖も、教員組合の目的と教育會の目的とは全く違ふのであります、隨て教員組合運動が如何に盛んになつても、だからして教育會を廢めてしまはなければならないと云ふことにはならないと思ひます、文部省と致しましては教育會の改組及び充實と云ふ方向に向いて居ると云ふことを申上げることが出來ると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=20
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021・逢澤寛
○逢澤委員長 此の際山田君に御諮り致します、文部大臣は憲法改正委員會の方に出席を要求されて居りますから、文部大臣に對する再質問がありましたら、此の際どうぞ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=21
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022・山田善三
○山田(善)委員 是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=22
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023・河合良成
○河合國務大臣 只今の山田君の御質問に御答へ致します、此の法案は勞働者側の爭議を抑へると言ふことの心配はないか、さう言ふ面から此の法案は出來て居るのではないかと言ふ意味の御質問でございましたが、大體斯う言ふ勞働法規は、言ふまでもなく、どうしても爭議に對する問題が中心でありまして、爭議行爲はどうしても大部分は勞働者側から起るものなのであります、それでやはり勞働者側の行爲を中心にして法律と言ふものは大體案を立てて行くやうな形になるものと私供は承知致して居ります、それで前々説明しました通りに、調整法と言ふものは端的に言へば、第一の點は勞働組合法に調停とか仲裁とか言ふことが書いてあるが、それがはつきりして居らぬ、調停、仲裁と云ふものはどう云ふ性質のものであつてどう云ふ場合にどうやるかと云ふことを此の法律で書くのが妥當であると云ふことで此の法律の一面が出來て居るのであります、もう一つの面は言ふまでもなく公益の面であります、爭議權と云ふものは絶對無限のものでなく、自らそこに公益との調和がある、其の調和をどこに求めるかと云ふことを明示するにあらずんば、國家生活も國民日常生活も危殆に瀕する虞れがあるのであります、そこで此の法律に於て其の點を書いたと云ふ二つの意圖以外に何等の意圖を持ちませぬ、決して片一方を贔屓するとか、片一方を抑壓するとか云ふやうな考へは微塵も持ちませぬ、それでは資本家側に對してどうするか、資本家側或は經營者側の勞働爭議が起きた原因に付てどう考へるかと云ふ御話になりますと、勞働關係調整法以外に更に勞働保護法と云ふものを此の次の議會に提案したいと思ひますが、それ以外に採り上げて、斯う云ふ點を斯うしなければならぬと云ふやうな面がありますれば、是は又法律事項となる必要もありませうが大體爭議に對する調停ですから其の必要は私共はないと思つて居ります、併しながら資本家「サボ」、生産「サボ」のやうな問題に付てはどうかと云ふ御議論もあると思ひますが、是等て問題は勞働爭議の問題と云ふよりも、主としてやはり國家の公益擁護、増産と云ふ面であります、生産増加と云ふ面であります、さう云ふ面に對する關係が非常に深いのでありましてそれは本議會に於て申し上げました如く、其の生産「サボ」を禁止したり、或は第三者に經營を委任したりすることの出來る法律を準備して居ります、それは所管は商工省でありますけれども、それから當然出て來ることと思ひまして其の面に對する備へは致す積りで居ります、さう云ふ風に御諒承願ひたいと思ひます
それから勞働爭議の起る虞があると云ふことに點して、それは彈壓と紙一重ぢやないかと云ふ御話であります、是は法律觀念としては御尤もでありまして、彈壓と言ふと少し言葉が過ぎるかも知れませぬが、之を制限すると申しますか、制限と豫防と云ふ言葉は言ふまでもなく法律觀念として非常に近い、紙一重と言つて宜からうと思ひます、之をどう扱つて行くかと云ふことは非常に難かしいことで虞ありと云ふことを書く代りに何か方法はないかと思ひまして、色々民間も我々も苦心をしたのでありますが、やはり言葉がないので已むを得ず之を書きまして、さうして是は最後は裁判所の判定に任せると云ふより途がないのであります、併しながら實質に立入りますと決して御心配の點はないと思ひます、と申しますのは、是は調停の問題、仲裁の問題であります調停と云ふのは決して其の結果を強制するものでありませぬ、それから仲裁と云ふものは是は納得の上で仲裁をするのだから是は強制されても仕樣がないと云ふ建前になつて居りますから、是で彈壓と云ふことは起きないと思ふ、併しながら公益事業に關する問題は別で、公益事業に對して尖鋭的な時に是はどう云ふ働きをするかと云ふことは運用の甚だ難かしい問題であると云ふことは、私も同感であります、併し世の中には難かしいこともあるのですから是はどうも仕方がない、是れ以上名案がありましたら又我々も考へますと云ふことであります、併しながら總て爭議が起きてからそれを始末すると云ふ事態ばかりではやはり公益擁護が出來ませぬ、起る前にやはり注意をしなくてはならぬことは社會常識から當然のことである斯う考へて居ります
それから第二の問題は銀行を公益事業と認めるかと云ふ御話でありましたが、只今の所では公益事業とは認めて居りませぬ、併しそれでは公益事業に又臨時に指定すると云ふことをやる積りかと云ふ御質問も出て來るかと思ひますが是は勞働委員會の議を經てやることになつて居りますが、只今の所では之を指定する考へを持ちませぬ、併しながら御話の通り國民生活に非常に重大な關係を持つて居る問題でありまするから、情勢如何に依つては更に追加指定と云ふことを考へて、それを勞働委員會に提案しなくてはならぬやうな事情にならぬと云ふことを斷言する譯ぢやありませぬ、それからもう一つ第十八條第五號に於て特別な性質を持つて居る事業は必要があれば強制調停が出來ると云ふ規定がありますので、是は特別の性質を持つて居る事業と認めることが出來ると云ふ風に考へて居ります
それから第三の問題は、勞働條件の改善に政府が乘出してやつたら宜いぢやないか、さうすれば勞働問題は解決するぢやないかと云ふ御趣旨、是はもう御尤もの御所説と思ひますが、中々勞働條件と云ひましても、世界が天國でない限りは、やはり勞働者と資本家側とがぴつたり氣持が一つになると云ふことを全般的に考へる譯にも行かぬ、是はもう浮世の常だと私共は思つて居りますので、出來るだけ勞働條件の改善に付て乘出すべきであり、又乘出したいと思ひますけれども、是だけで全部が解決出來ると云ふ風には考へませぬそれから又勞働條件に關する事項は勞働者の權利として法律にはつきり書いた方が宜いと思ひますから目下世間の輿論を聽いて居る最中であります、出來るだけ速い機會に於て議會に提案して、御協賛を得る積りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=23
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024・逢澤寛
○逢澤委員長 安平鹿一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=24
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025・安平鹿一
○安平委員 先程瀧澤君の質問に厚生大臣は御答へになりまして、松岡氏の本會議に於ける質問の如く、本案の内容は否認して居るのではないが、政府に對する不信と云ふことが問題なのだと云ふやうな御話でありましたが、此の點は少くとも、組織された勞働者は全面的に本案に反對して居ると云ふことを先づ最初に申上げて置きます、先達て十八日の本委員會に於きまして、川崎君に答へるのに、勞働組合と本案とは姉妹關係にあるのだ、隨て双方とも日本の經濟の興隆を企圖したものがある、本法は其の妹分に當るものだと云ふ風に御答へになりましたが、妹にも色々あります、小姑的な妹があつて嫂をいぢめ出すやうな場合も往々見受けられるのであります、最初は猫を被つて居るが、最後になると段々本性を現はして、兄其のものを指圖するやうに出しやばつて來る場合もあり得るのであります、本法の内容を見ます場合、公益事業の勞働者に對しては、事實上勞働爭議を禁遏致しまして、官僚及び資本家が專制的勞働支配を永續的に確保せんとする、詰り小姑的な出しやばりの意地の惡いことに最後になりはしないか、要するに官僚資本家の專制的勞働支配を永續的に確保するものであると云ふやうに私は考へるものでありますが、此の點に付ての御答辯を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=25
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026・河合良成
○河合國務大臣 只今の公益事業に對する色々の規定が官僚、資本家を擁護するのではないかと云ふ風に拜聽致しましたが、此の規定は其の相手、保護せんとする目標は大衆であります、國民全般であります、さうして公共の利益であります、決して一黨一派に偏すると云ふ觀念でないことを明瞭に御答へ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=26
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027・安平鹿一
○安平委員 只今の御答辯に依りますと、公益を護る爲で一黨一派に偏したものではないと云ふ御答へでありまするが、官公吏の場合に於きましても、一般的には政府の使用人に變りはないのであります、隨て公益事業に於きましても民主主義の立場から致しますれば勞働者と資本家の關係は飽くまでも對等な條件の下に置かれて居らなければ、公正なる關係を實現することとは出來ないのであります日本の公益、詰り日本の産業の興隆に寄與する爲には、寧ろ今日の過渡的な勞働團體、勞働組合と云ふものの最終的生活權、即ち勞働權、團結權若しくは罷業權を寧ろ擁護して、資本家の今日の封建的な強い勢力の中に組織上弱い勞働者を保護助長せしめると云ふことが肝要でなければならぬと考へるのであります、然るに本案を見まする場合、名を公益事業に籍りまして、思想的には尤もらしい言ひ分でありますが、事實上は是等に從事する百六十萬に垂んとする厖大な大衆の罷業權を彈壓し生活權を奪ふものであると云ふことに解釋されるが此の點如何に考へますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=27
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028・河合良成
○河合國務大臣 官公吏の爭議行爲禁止に付ての御質問でありましたが、是は言ふまでもなく國家の政治と云ふものは、國全體の神經系統のやうなものをなして居りまして、之に萬一のことがありますと、國と云ふものの存立を脅かされるのであります、それで今日國家が立つてやつて行くには、皆是は國民全般の利益の上に於て、是が最も宜いと云ふ信念の上に立つて、斯う云ふ議會政治を布いてやつて居ることは是は疑ひないことと思ひます、さうしますと、國家全體の存立を脅かされるやうな事態でも起きますことは是は最も警戒を要することでありまして、此の「ヨーロツパ」戰爭が濟みました後に、私はどの國と云ふ例は申しませぬけれども、政治が非常に緩んだ爲に非常な混亂に陷つた例などは皆さん能く御存じの所と思つて居ります、それで官吏にさう云ふ行爲を認めまして、是が全般的に「ストライキ」にでもなりますと、どう云ふことになるかと云ふことは想像するだに私は恐るべきことだと思ひます、是はどうしても國民全體、國家全體の見地から禁止して行かなくちやならぬと考へて居ります、勿論生活權の問題は憲法にも保障されて居る非常に重大な問題でありますから、生活權の問題に付ては勿論凡ゆる方法を以て保障して行かなければならぬ、生活保護法のやうなものを出したり、失業對策のことに付て色々やつて居りますのも、皆さう云ふ線に沿つたものであると思つて居ります、それで特に官吏に付きましては、今までの經過に於きまして待遇も惡いので先日上の方は餘り上らなかつたけれども、下のものは五六割上りました、是は實收入の五六割を上げたやうなことで、まだ十分とは行きませぬがまあ近頃の政府としては相當思ひ切つてやつたことと、御認め願ひます、此の後も勿論注意致しまして、爭議權がなくなるとすれば反面に於て是は出來るだけ生活權を保護して行かなくてはならぬ、此の線に沿つて出來るだけのことはやつて行かなくちやならぬ、是は又政府の責任であると云ふ風に私共は考へて居ります、左樣御承知願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=28
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029・安平鹿一
○安平委員 只今の厚生大臣の御答へに依りますと、先般も五割位の値上をして居るし、將來逐次改善すると云ふやうな御話でありまするが、私は、公益事業と云ふ名の下に是等の從業員に對して特に最終的且つ決定的な爭議權を取上げる、さうして他の一般勞働者と異つた立場に置かうとするならば是等の公益事業は當然別な基礎の上に置き換へられて、是等の從業員大衆の生活の保障がなされて初めて只今厚生大臣の言はれるやうなことが言はれる、是等の大衆に對して爭議權の抛棄が要求されると云ふやうに考へられますが、此の一般産業と違ふ立場に是等の公益産業を置き換へになる御意思があるかどうか、詰り公益事業と指定される是等の事業を國家管理に移して行く、即ち基礎の上に立つと云ふ意味でありまするが、さうした御考へがありまするかどうか御聽きしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=29
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030・河合良成
○河合國務大臣 私只今説明申上げましたのは官吏の爭議權に付ての問題でありましたが、只今の御質問は公益事業の點と拜承致します、公益事業に付きましては爭議權の抛棄を此の法律で請求して居る譯でありませぬ、唯拔打的爭議を禁止して、豫告を以て爭議權は認めて居るのであります、併しながら何れにしても制限のあることですから、制限と云ふ點から考へれば、今の御論旨の他の事業と別にすることが宜いか惡いかと云ふ御議論は立つこととは思ひますが、さう云ふ意味に於て御回答致します、それで、是は官吏の例に於て、官吏の俸給さへも遲れがちで困つて居る状況でありまするから、斯う云ふものを國營にすると云ふことは直ちに俸給が餘計になると云ふ風に考へますことは現實の問題とは一寸懸け離れて居ると考へなければならぬのでありまするから、之を國家管理にするからとか、國營にするからとか云ふて勞働問題が直ちに解決すると云ふ性質のものぢやないのじやないかと考へます、是は別の問題だと考へます、そこで、國家管理にする必要があるか、或は國營にする必要があるかと云ふ問題は、主として一般の經濟的見地から考ふべきことで、私は之に對して一々議論は持つて居りますが、此處で其の問題に立入るのもどうかと思ひますので、其の點は御遠慮致す次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=30
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031・安平鹿一
○安平委員 本法に於きまして公益事業として指定事業が擧げられて居りまするが、公益性と云ふものに考へを及ぼして見まする場合今日の社會的な事情から致しまして、如何なる事業と雖も公益性なしと云ふことは言はれないのではなからうかと私は思つて居ります併しながら此の法案の理由説明に依りますると、政府は公衆の福祉を擁護すると云ふ簡單な而も漠然とした理由しか説明して居りませぬ、此の點に付て詳しく其の限界を御答へ願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=31
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032・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致しますが、是は御話の通りにもう殆ど總ての問題、特に總ての經濟行爲は公益に關係を持つて居ると言うても宜からうと云ふことは私も至極同感であります、ですから廣く公益と云ふことで爭議禁止なり爭議制限の限界を決めると云ふ言葉は正確に申しますと當りませぬ、唯簡單な説明を申しまする時には、公益と云ふことで實は御話をして居る譯でありまするが、それを碎いて申しますれば官吏の場合にはやはり國家の存立とか政府の顛覆をされては困ると云ふやうな問題を頭に描くのであります、それから第二の公益事業の制限と云ふ問題に付きましてはやはり大衆の日常生活の維持と云ふ問題に於ける公益と云ふことを一番考へて居ります、さう云ふ限定された意味の公益と御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=32
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033・安平鹿一
○安平委員 只今の説明に依りますると、政府の顛覆等の言葉を用ひて居りますが、さう致しますると、本法の第八條に於きまして主務大臣が公益事業の指定をして居り、其の他の公益事業に付ては中央勞働委員會の決議を經ると云ふやうなことになつて居りますが、現在指定されて居る第八條にある指定事業も、主務大臣が其の大臣の意思に依つて決定したいと云ふ風なことが言はれて居りますが、若しも政府は、此の大臣閣僚を含んだ政府でありますから、自分の政府に都合の惡い場合は益々此の指定事業なるものの範圍を擴大すると云ふやうなことになり、最後には官僚獨善に陷る危險性が私は斷じてないとは言へないと思ふのであります、私は、斯うした點に付きましては、中央勞働委員會、地方を通じた勞働委員會等がございますので、斯うした指定は一大臣の認定、一大臣の意思に依つて決定するものではなくして、飽くまでも民主的に勞働委員會として指定すべきだと云ふ風に考へて居ります(「書いてあるぢやないか」と呼ぶ者あり)書いてありますが現在指定されて居る事業のことを申上げて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=33
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034・河合良成
○河合國務大臣 只今政府云々のことを申しましたのは官吏の「ストライキ」に關することでありまして、公益事業のことは、第八條に書いて居ります通りに、「公衆の日常生活に缺くことの出來ないものをいふ。」と云ふ風に定義して居りますので、公益事業は第八條の第一項で公益事業を定義する譯であります、それで、總て追加の指定は勞働委員會に掛けることになつて居ります、それで勞働委員會の決議を經てそれを機械的に指定すると云ふことになつて居りまして、政府の意思で指定すると云ふことにはなつて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=34
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035・安平鹿一
○安平委員 今の厚生大臣の御答辯に依りますと、現在此の第八條の「この法律において公益事業とは、左の事業であつて、公衆の日常生活に缺くことのできないものをいふ。一、運輸事業、二、郵便電信又は電話の事業、三、水道、電氣又は瓦斯供給の事業、四、醫療又は公衆衞生の事業、主務大臣は、前項の事業外」とあるが、此の「前項の事業」は主務大臣が指定するものと解釋して居るのでありますか、さうではないのでありますか是も含めて……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=35
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036・河合良成
○河合國務大臣 是はもう法律に規定して居るのでありますから、法律で、此の第八條で規定するのですから、主務大臣とは關係ありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=36
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037・安平鹿一
○安平委員 だが現在此處で決定されて居る事業以外に、益々擴大される危險があると云ふ風に私は見て居るし、只今の所は自分の讀み違ひでありましたが、是れ以上に益々擴大される虞があるが、此の點に付ての御答へが願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=37
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038・河合良成
○河合國務大臣 必要のある場合には、それは内外の情勢上追加しなくちやならぬことも起るかも知れませぬ、例へば食糧の配給の如きものですな、是は食糧の配給と云ふものは普段はやらぬのですから、當時は斯う云ふ第八條に掲げて置く必要もないことですけれども、食糧事情の非常に面倒になつた時の配給などに對しては、拔打的「ストライキ」は困ると云ふやうな事態が生ぜぬとも限りませぬ、それですからさう云ふ特別な必要が生じた時には民意を尊重して、勞働委員會の嚴格な規定の下に、決議を經てやることが適當だらうと云ふ風に書いて居りまするから是は勝手に政府がやると云ふことの御心配は要らぬと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=38
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039・安平鹿一
○安平委員 私は本案の内容に付きましても、現在一番最初申上げましたやうに、組織された勞働者大衆が、此の内容に對して非常な不安を持ち、反對をして居ります殊に今日のやうな封建的な殘存勢力が非常に強い場合、勞働者の團結權、それに基く自由なる爭議權が行使されてこそ、初めて勞働者と資本家の實質的な對等の地位が確保されると思ふのであります、現在の我が國の刻下の生産の危機を突破し、克服する爲には、又大臣の言はれるやうに生産の興隆を圖る爲には、どうしても勞働者の協力なしには到底生産の危機の突破も産業の興隆もあり得ない、斯う云ふ點に付きまして厚生大臣は此の組織された勞働者の反對意思を押切つてまでも、本法を制定なさるかどうかと云ふことを最後に御聽きして置きたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=39
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040・河合良成
○河合國務大臣 御答へ致しますが、度々申上げました通りに、是は決して勞働者を彈壓する意味は一つも持ちませぬ、それで能く此の點を御諒承下されば御分り下さることと思ひます、又どうか各位に於かせられても御諒承下さるやうに、一つ御盡力を願ひたいものだと思つて居ります、それで政府の見る所では、是は色々な勞働問題、其の他世の中の現象には單純に解決出來ぬことがありまして、勢ひと云ふこともあれば、色々物の進行と云ふこともありまして、其の唯一つの現象だけを認めまして、是で斯うだと云ふ風に輕々に解決出來ぬ問題もありますので、政府に於きましては是は確かに勞働者の爲にもなる、爭議の豫防にもなる、又公益擁護にもなる、どうしても斯う云ふものを作らなくてはならぬと云ふ信念の下に出して居ることでありますから、之を今組合に於て斯う云ふ意見があるからどうと云ふ考へを持ちませぬ、尚ほ今御話のやうに勞働組合の健全なる發達、又勞働者の自覺に依つて、本當に生産意欲を増進すると云ふことに付ては政治も勿論同感であります、其の線に沿うて一生懸命やつて居る次第であります其の點は御諒承願ひたいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=40
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041・安平鹿一
○安平委員 此の法案は決して彈壓ではないと云ふ御答辯でありますが、爭議を禁壓しようとする意圖は、正に彈壓法であると云ふやうに私は考へて居ります、此の點は遂條審議に入りましてからは更に十分御質問致すことに致しまして、私はもう一つ聽いて置きたいことは、十八日の委員會に於きまして、川崎氏の少數の場合は違法であるかと云ふ御質問に對しては河合厚生大臣は、勞働組合法では適當か否かは言へるが、合法、非合法は決定出來ない、斯樣に答辯なされて居ります、今度は後で政府委員筋では、さうした場合は非合法である、若し職場で罷業を強行すれば、家宅侵入、營業妨害の現行犯になるとの意向を齎して居ると云ふやうな點で、厚生大臣と政府委員との意見が相違して居りますが、此の何れが事實であるか御答へ願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=41
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042・河合良成
○河合國務大臣 それは讀賣の「ストライキ」と言ひますか、紛爭と言ひますか、それに關聯した御質問であつたと記憶致しますが、あの時には第三者から見て居ると組合の少數の人が「ストライキ」をやると云ふのは、どうも穩やかでないやうに見えるが、合法、非合法と云ふことに付ては、どうも我我としてはつきり言へぬと云ふやうなことを言つたかと思ひますが、能く分らぬのであります、事實はもう少し研究を致します、それから政府委員に於て答辯したことはどう云ふことか私其の席に居りませぬので、はつきり致しませぬけれども、別に私の考へと變つたことはないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=42
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043・安平鹿一
○安平委員 是は新聞に出て居ることで、此の席上ではありませぬ、でありますが、新聞に出て居る以上は、さう云ふ意見があつたものとして質問するのであります、只今の御答辯になりました少數意見、研究して見ると申しますが、現在の勞働組合の組織と云ふものは、全く自然發生的に組織されて居る勞働組合が非常に多いのであります、隨て中には非常に意識の低い勞働者でありますから、資本家の意圖に依る勞働組合の組織も往々あるのであります、斯う云ふ點から行きまして、今日の爭議團の内部に於ける少數必ずしも非なりと云ふことは私は出來ないと云ふ場合が多いと思ふのであります、斯う云ふ點を十分考慮の中に入れて善處されんことを望むのであります
更に生産管理に付て御尋ねしたいと思ふのであります、今日日本は何を一番要請して居るかと申しますと、申すに及ばず一切の産業の興隆、増産、是が國家的な要請となつて現はれて居るのであります、隨て今日の生産は全く一日の休止も澁滯も絶對に出來ない状態に置かれて居るのであります、斯うした緊急事態に對處しまして、勞働者は斯うした緊急事態を認識して居りまするが故に、同盟罷業と云ふやうな手段を避けまして、爭議中にも増産を圖りたいと云ふ今日の國家の要請を自覺しての上の平和的手段として生産管理が行はれて居るのであります、是れこそ私は社會的な、公共の利益を重んじまする救國的な方策であると信ずるのでありますが、厚生大臣は如何に御考へになりますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=43
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044・河合良成
○河合國務大臣 只今の生産管理に付ての御尋ねでありまするが、是は民主主義の國家と致しましては、自分の權利自由は飽くまで主張するが宜い、併し國家が存立して、御互ひ多數が同一に共同生活をやつて居る以上は、それと同時に、他人の自由權利は飽くまで尊重しなければならぬ、是が民主主義國家の基本であると私共は考へて居ります、そこで人間と云ふものは個人の基本權は憲法に依つて保障されまして、一方に於ては勤勞權を持ち、一方に於ては財産を所有する權利を持つて居ります、財産權も亦憲法草案に規定されて居る通りであります、そこに勞働權と罷業權が起る、是は皆人間個人を中心として二つの權利が起るのであつて、權利が二つある以上は御互ひに其の權利を主張すると同時に、尊重し合ふと云ふことに共同生活の本義があると考へて居りまするので、是は非常に重大なことであります、そこで此の重大なことはどうしても守らなくてはならぬから、或る場合に、生産管理をやりまして、増産に導くやうなことが假にありましても、是は根本問題から照して適當でないと云ふ風に私共は考へて居ります、併し現在までの私共の考へでは、生産管理は増産になると云ふ風には考へて居りませぬ
それからもう一つ先程の組合の小數意見のことに付て、御希望的の御質問もありましたが、是は「アメリカ」あたりの先進國では、組合は一人でも多い所の議決に從ふ、一人でも少なければ其の議は通らぬと云ふことが、組合の本義である、日本はまだ發達せぬと云ふことは甚だ殘念でありますけれども、少數意見を認めると云ふことは言へぬのぢやないか、私は斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=44
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045・安平鹿一
○安平委員 後の問題の方から先に申上げます、私が申上げますのは其の通りであります、けれども今日の日本の勞働運動の發展と云ふやうなものを考へて見まする場合、終戰後僅か數箇月の間に、此の厖大な三百萬に垂んとする組織が成されたのであります、隨て組織訓練のなされて居ない勞働者の中には、偶々資本家の意圖に依つて、多數が少數の正しい意見を壓迫すると云ふやうな點もあると云ふことを申上げて置いたのであります、要するに今日の過程に於ける状況を申上げて斯う云ふ實情を考へて戴きたいと云ふことを申上げて置いたのであります
更に生産管理の問題でありますが、權利義務とか或は今までの生産管理状態に於ては必ずしも増産がなされて居らないと云ふやうなことを申されたのでありまするが厚生省の發表の昭和二十一年度の一月から四月までの爭議件數は五百七十三件であります、此の中生産管理は八十四件に及んで居るのでありまするが、是等の八十四件に及ぶ生産管理は大體に於て増産に支障を來さなかつた、寧ろ増産の状態であつたと云ふことを聽かされて居るのであります、所が只今の厚生大臣の御答へに依りますと必ずしも増産になつて居らないと云ふやうなことを申されたのでありまするが、さうした非合法的な禁止しなければならなかつた、又禁止しなければならないかのやうな状態、それから増産でなかつた、却て大きな障碍が起り減産になつたと云ふやうな事例があつたならば御示し願つて、具體的な御説明を願ひたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=45
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046・河合良成
○河合國務大臣 減産になつたかならぬかと云ふ見解は、遺憾ながら御質問と反對に考へて居ります餘り増産にならなかつた、増産を阻害した實例も甚だ多いと思つて居ります、實例に付ては此處にありますれば政府委員から説明致しますし、なければ何れ又時を換へて政府委員から説明致させます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=46
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047・安平鹿一
○安平委員 此の點に付きまして私は末弘博士の「パンフレツト」でありますが、書いた物を讀んで見ましても、現在の生産管理と云ふものは必ずしも非合法ではない、即ち罷業權と簡單に言ふが、爭議の手段としてやる各種の行爲はぴんからきりまである、罷業即ち作業を停止することが認められる以上、工場管理も爭議方法として認められると云ふことが原則であると云ふやうに書いてありまするし先達て八日の朝日新聞の記事を見ますると、經濟同友會と云ふ資本家側の經濟團體ですら生産管理大いに宜しい、今日のやうな状態に於ける時には寧ろ之を禁止すべきでないと云ふやうな意見が載つて居りますが、斯うした意見に付て厚生大臣は如何樣に御考へになるか又此の記事或は文章を御讀みになつて參考とされたことがありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=47
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048・河合良成
○河合國務大臣 御答へ致します私は末弘君の論文は讀みましたが賛成致しませぬ、それから經濟同友會のことは私の聞いた範圍では多少事情が違つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=48
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049・安平鹿一
○安平委員 末弘博士の論文を讀んだが賛成しない、私は反對ですと云ふやうな單なる御答へでありまするが、是こそ即ち官僚獨善でなからうかと私は考へるのであります、末弘嚴太郎氏は御承知のやうに中央勞働委員會に於きましても、日本の勞働運動に於きましても非常な權威者であります、斯うした人の論文も唯單に反對でありますと云ふやうな一言に依りまして片付けられると云ふやうなことは是こそ官僚の獨善であり、非民主主義的であると云ふ風に私は考へますが、是れ以上其の點に付ては申上げませぬ
以上で私は生産管理問題に付ては打切ります、あとは遂條審議に入つてから申上げまするが、私は政府側の考へとは全く別に社會秩序の維持と、飽くまでも合法的に組織を持つた整然とした生産管理は大いに之を認めて我が國産業の興隆と再建に寄與しなければならないと思ふのであります、斯うした點に付て政府は曩に聲明された生産管理禁止を更に御考慮あつて御取消になられる意思はあるかないか、最後に御聽きして置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=49
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050・河合良成
○河合國務大臣 先程説明しましたやうな理由で、政府は生産管理の禁止を撤廢する考へを持ちませぬ、偶々一週間程前に聯合軍最高司令部からも政府と同樣な意見の御發表があつた次第でありまして聯合軍側の意向も其處にあることを聞知する以上は政府としては尚更之を撤廢する意向は持ちませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=50
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051・安平鹿一
○安平委員 私はもう一つ文部大臣に御聽きしたいことがあつたのでありますが、是は次會に保留して此の程度で今日の質問は打切つて遂條審議に入つて更に御質問を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=51
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052・逢澤寛
○逢澤委員長 今日は是にて散會致します、次會の日程は公報を以て御通知申上げますが、大體に於きまして來週の水曜日の定刻から繼續する豫定であります
午後零時二十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00319460720&spkNum=52
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