1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働關係調整法案(政府提出)
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昭和二十一年七月二十四日(水曜日)午前十時五十四分開議
出席委員
委員長 逢澤寛君
理事 江崎眞澄君 理事 瀧澤脩作君
理事 竹田儀一君 理事 古賀喜太郎君
理事 伊藤卯四郎君 理事 松岡駒吉君
飯國莊三都君 今井はつ君
杉田馨子君 村上勇君
山本勝市君 川崎秀二君
關谷勝利君 橘直治君
長尾達生君 山下春江君
赤松勇君 土井直作君
今村等君 安平鹿一君
山下榮二君 東隆君
木下榮君 原國君
藤井正男君 穗積七郎君
藤田榮君 疋田敏男君
七月二十三日委員野本品吉君及び磯田正則君辭任に付其の補闕として藤田榮君及び石田一松君を議長に於て選定した
出席國務大臣
文部大臣 田中耕太郎君
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
文部事務官 柴沼直君
厚生政務次官 服部岩吉君
厚生參與官 佐藤久雄君
厚生事務官 吉武恵市君
厚生事務官 富樫總一君
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本日の會議に付した議案
勞働關係調整法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=0
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001・逢澤寛
○逢澤委員長 開會致します、文部大臣に對する質疑を要求致されて居ります──安平鹿一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=1
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002・安平鹿一
○安平委員 文部大臣に御尋ね致しまするが、勞働組合法第一條に「勞働者の地位の向上を圖り經濟の興隆に寄與する」云々と規定されてありますが、從來の資本主義的な教育の下にありましては、ともすれば人間的な權利、さう云つたものを蹂躪して、資本家の利潤追求の道具としてだけ評價されて居りましたが、殊に戰爭中は軍國主義的な、侵略主義的な教育が徹底して居りました爲に、工場に於ける是等の而も大事な將來を擔ふ青年勞働者の中には、さうした軍國主義的教育を受け、終戰後突然其の教育方針が民主主義的な方向に向ふと云ふやうな點に於きまして、非常に「ブランク」になつて、迷ふやうな氣持になつて居りますので、此の問題に付きましては、生産の重要な擔當者でありまする青年教育に付て、相當愼重に考へなければならないと思ふのであります、私の考へる所に依りますれば、今後に於ける勞働者、特に青年勞働者に對しましては、所謂勤勞と教育が直結する所の、所謂實務教育でなければならないと思ひます、斯うした點で、さう云ふ教育方針を實現することこそが、工場を中心にする青年の科學的な、技術的な、又品性の向上、青年の陶冶等に於ける道場となることにならなければならないと云ふやうに考へて居ります、斯うした過去の軍國主義教育を排して、更に勤勞と教育と直結させた民主主義的な教育をする、斯う云ふ點に付きまして、從來各工場に於て行はれて居りました青年學校を、國家の負擔に於て中學校若しくは專門學校程度以上に昇格致しまして、青年教育の充實と云ふことに重點を置かなければならないと思ふのでありますが、此の點に付ての御考へを御聽きしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=2
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003・田中耕太郎
○田中國務大臣 只今の御質問の根本の御趣旨は至極同感でございます、終戰後從來の誤つて居る教育が一掃されなければならなくなりまして、新たにどう云ふ理念に依つて教育を再建して行くかと云ふことに付きましては、一般大衆青年のみならず、教育家ですら迷つて居るやうな向も隨分ございます、此の點に付きましては餘り極端なる個人主義的、資本主義的の思想が反省せられなければならないと同時に、又其の對蹠的の意味に於て、主張されて居りました所の軍國主義的、極端な國家主義的思想も、一層徹底的に拂拭されなければならない譯でございます、さう云ふ意味に於きまして我々今日努力致して居る次第であります、殊に御指摘になりました人間生活是は或は理論の方面であれ、或は勤勞と云ふ實踐の方面であれ、其の二つが有機的に結付いて居なければなりませぬので、單なる抽象的知識に走るべきではないと同時に、又理論のない所の技術又人間の本當の生活に結付いて居ない所の技術と云ふことも反省されなければならないと思ふのであります、或は都市に於ける、或は農村に於きまする青年教育の問題は、今後非常な重要性を加へるのでございまして、此の點に付きましては既に隨分御議論も承つたのでありまして、特に此の青年學校の教育に付きましは、農村は農村、都市は都市、それぞれの困難を伴つて居るのであります、一般青年學校の教育に付きましては、第一に公民教育、其の公民教育の方面に於きまして、只今御指摘になりましたやうな從來の誤つた教育の理念を是定し、民主主義的、平和主義的教育を再建して行きたいと云ふ風に存じて居ります
それから第二の青年學校の教育の目標と致しましては、職業教育と云ふことに力を入れたいと云ふ風に考へて居ります、此の職業教育と申しましても、單なる先程申しましたやうに技術の斷片を教へるのではなくして、本當の人間の生活の有機的な一部として精神的──神憑り的の意味でない精神的の生活の一部分として技術的の教育、技術を通して人間を鍛錬する先程御話のありましたやうなさう云ふ意味に於て人間を作り上げると云ふ方向に向いて行かなければならないと存じます、さう致しますと、詰り青年學校を制度上もどう云ふ風に立てて行くかと云ふことが直ちに問題になりますので、是は青年學校の男子の義務制を女子に活用すると云ふことも問題でありますし、又青年學校を上の學校に直結すると云ふやうなことも問題になつて參ります、で只今は中等學校となつて居ります譯であります、之を專門學校的の取扱ひをすると云ふやうなことはまだ考へて居りませぬ、併し青年學校制度一般に付きましては、隨分教育界或は世間の有識者一般の輿論にもなつて居る譯でございますし、此の點は具體的の制度の面に於きましては、最近に發足することを豫定されて居りまする内閣直屬の教育刷新委員會に於て十分檢討致し、又「アメリカ」の教育視察團が殘して行かれました報告書にも觸れて居りますし、さう云ふ點も十分研究致しまして、此の委員會の意見を徴し、更に又一般の輿論も十分參考に致しまして、文部省として善處したいと存じて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=3
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004・安平鹿一
○安平委員 只今の文部大臣の御答辯の中に專門學校に昇格すると云ふやうなことは考へて居らないまだ考慮の中に入れて居らないと云ふやうな御答辯がありましたが私は寧ろ此の點が大事な所ではなからうかと思ふのであります、今勞働しながら學校へ行くと云ふやうなことが、經濟的な色々な條件又は時間、さう云ふやうなものに制限されまして、上の學校へ行く實力はありながら、さう云ふ條件の爲に專門學校に上れずに遂に埋れ木になつてしまつて、あたら優秀な青年を其の當人の實力の百「パーセント」を發揮することが出來ずにしまふと云ふやうな點が多多あるのであります、斯う云ふ點を生かす意味に於きましても、工場内に於ける若しくは農村に於ける青年學校を特に專門學校程度に引上げる、而も斯う云ふ點は特に國庫補助或は國庫負擔と云ふやうな點で出して戴きたいと思ふのでありますが、此の點を特に文部大臣は實現するべく努力する御意思がありますかどうか御聽きしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=4
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005・田中耕太郎
○田中國務大臣 現在の青年學校の數は非常に多數に上つて居ります、其の内容は實は率直に申しますと、或は教職員の陣容に致しましても、又事務的施設に致しましても、專門學校の水準に之を昇格致しますことから考へて見ますると、甚だ遠いやうに存じて居るのであります、又日本現在の國力其の他を勘案致しますると、專門學校自身の數が餘程多過ぎるやうな状態であり、殊に工業專門に於きましては、終戰後戰時中に膨脹致しました所のものを整理するのに隨分苦心を致して居るやうな譯であります、唯學校を減すと云ふのが目的ではありませぬ、殘してそれを充實させるやうな方向に實は向いて居るやうな次第であります、少し話が傍に外れますけれども、醫學專門學校にしても、同じやうなことが言ひ得られるのであります、此の點、只今御話の青年學校をもつと充實する必要があるではないかと云ふ意味に於きましては御同感至極でありますけれども、只今の青年學校を近き將來に於て專門學校に昇格すると云ふことになりますると非常に多數の專門學校が全國に出來る譯であります、而も内容が充實して居ないと云ふことになりますので、此の點は餘程考慮しなければならないのではないかと云ふ風に存じます、併し青年學校の充實の必要と云ふ意味に於ては御同感至極でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=5
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006・安平鹿一
○安平委員 更に文部大臣は去る二十日の委員會に於きまして、現在の教員組合が強化されても教育會を打潰す意思はないと云ふやうな御答辯があつたやうに承りますが、私の經驗に依りますと、偶偶教育會が教員組合を壓迫すると云ふやうな事實を私は體驗して居るのであります、教育會の中に役員それから視學、斯う云ふやうなものと結託致しまして、折角教員組合が芽生え、健全なる勞働組合に發展しようとすると、それを單一物にしてしまひまして色々な干渉をして、其の教員組合にあべこべに打ち潰さうとする意圖が見られたのであります、幸に此のことは縣當局に私共の關係者が參りましてそれを食ひ止め、教員組合を組織することに成功をしましたが、將來恐らく斯うした教育會と云ふものと教員組合と云ふものが、片方の教育會はどうしても保守的に流れ易くなるし、教員組合が進歩的な線を辿らうとする場合、此の兩者が色々な點に於て摩擦相剋を起すやうな危險がないとは言はれないのでありまするが、私は此の際教育會をなくして教員組合一本にした方が適切ではないかと云ふやうに過去の經驗から考へるのでありますが、此の點に付ての文部大臣の御意向はどうでございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=6
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007・田中耕太郎
○田中國務大臣 文部省の立場と致しましては、大日本教育會に對して色々終戰後批判を耳に致しますので、目下此の改革に努力して居りまして、以前のやうな天降り的、官僚的な色彩を拂拭致しまして、大日本教育會自身が會長其の他の役員を選ぶと云ふやうにやつて居りますことは或は御承知かと存じます、併しそれのみでは足りませぬ、やはり戰時中重要な「ポスト」を占めて來たやうな人々は假令教職員適格審査に引掛からぬでも、遠慮すべきであると云ふ建前を我々は執つて居ります、さう云ふ意味に於きまして此の大日本教育會は本當の進歩的、又民主的な教育理念を理解するやうな人々から構成されるやうになる、それで以て今まで寧ろ活動が鈍つて居つた所の教育會に活を入れることになりはしないか、さう云ふ意圖で、寧ろそれを止めてしまふと云ふよりは正しい方面に向つて行くことをこちらで勸奬して居るやうな状態でございます、此の點に付きましては輿論の大日本教育會に對する批判と云ふものも隨分與つて力がありますので、我々と致しまして大いに感謝致して居る譯であります、所で此の新たに起つて參りました所の教員組合運動と大日本教育會とはどう云ふ關係にあるかと申しますと、是は各各其の目的に忠實であると云ふことでありますならば決して相剋摩擦を生ずべきものではなく、分業のやうな風になつて居るものだと云ふやうに考へて居ります、若しさうでありましたならば、只今の御指摘のやうな事例も起り得ないことかと思ひます、併し御話のやうな事實が確かにあつたと云ふことでありますならば、是は大いに大日本教育會の關係者に於て反省しなければならないことと存じて居る譯であります、教員組合の方は教育内容の改善と云ふやうな方面よりも、詰り教員の生活權の擁護と云ふ所に重點があるものであります、大日本教育會の方は生活擁護の問題が主になつて居るのではなくて一般教育の改善と云ふやうな、詰り教育「プロパー」の方が問題になつて居ると思ふのであります、各各其の本來の使命に忠實であるならば摩擦は起るべきではないと云ふ風に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=7
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008・安平鹿一
○安平委員 更に教員の生活問題でありますが、曾ての閣議に於て文部大臣が大いに努力致されて教員の罷業禁止の案が取止めになつたと云ふことは大いに多とするのであります、又過日の御答辯に依りますと、教職員が非常に生活程度が低かつたものを官吏程度に引上げると云ふやうな御言葉でありましたが、現在の教職員の給料と云ふのは、聞及ぶ所に依りますと餘りにも低過ぎはしないか、殊に御承知のやうに、教員は親よりも兒童に對して非常に強い影響力を持つて居るのであります、斯うした點から、現在の教員の給料を引上げ、生活自體をもつともつと向上させてこそ本當に兒童に對する立派な民主主義的な教育が行はれて行くのではなからうか、生活の不安があつてどうして兒童に對して誠心誠意、良心に誓つて恥づかしからぬ教育が出來ようか、斯う云ふ觀點に立つて考へます場合、過去の試驗地獄を現出し、而も兒童の實力を無視した情實的な採用、贈り物の多寡に依つて其の子供の成績が左右されると云ふやうなことが往々あつたのでありますが、さうしたことをしなくても、自らの生活を確保し、十分に教員としての義務を果せるやうにしなければならぬと思ふのでありますが、尚ほ一層の教員の給料の引上、待遇の改善を御考へになつて居るかどうか、此の點を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=8
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009・田中耕太郎
○田中國務大臣 國民學校竝に青年學校の教職員に付きましては、幸ひ大藏當局其の他の關係諸方面の非常な同情と理解とに依りまして此の度の豫算に計上することになりました、其の程度は一般官公吏並と云ふことでございます、實は從來教職員の待遇は官公吏並に達しないことが著しかつたのでございまして、或は平均給料にしろ或は昇給の「スピード」に致しましても、非常に遲れて居りましたが此の點は今度で取返し得たのではないかと存じて居ります、唯併し理想を申しますと、教員は一般官公吏よりもつと優遇したいのでございまして、教育の特別の使命に鑑みまして、只今御話のやうな色色な弊害が起らないやうにどうしてもしなければなりませぬ、唯今日國家窮乏の際、軍備に費して居つた金を皆教育の方に持つて行きたいと云ふ氣持は山々でございますけれども、目下の状態と致しましては、そこまで要求出來ないやうな状態にある譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=9
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010・安平鹿一
○安平委員 引上げられたと御しやる現在の教職員の平均給料が今御分りになりましたら御知らせ願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=10
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011・田中耕太郎
○田中國務大臣 只今記憶して居ります所では、一番上の所を申上げますと、校長竝に教頭級に付きまして二千四百圓と云ふことでございます、是は併し基本給でありまして、其の以前に色々諸手當が付いて參る譯であります、それから念の爲に申上げて置きますが、更に一般官公吏の待遇改善は其の上に又被つて來る譯でありますことを御承知置きを御願ひして置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=11
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012・安平鹿一
○安平委員 最高ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=12
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013・田中耕太郎
○田中國務大臣 最高です発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=13
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014・安平鹿一
○安平委員 最高と云ふのは平均と云ふ譯ぢやないのですね、一番高い所だけでは困るのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=14
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015・田中耕太郎
○田中國務大臣 唯併し其の點に付きましても一般官公吏並に……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=15
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016・安平鹿一
○安平委員 若し御分りにならなければ、後で詳細に知らせて戴きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=16
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017・田中耕太郎
○田中國務大臣 下の方は次の機會に申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=17
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018・安平鹿一
○安平委員 平均を聽きたい、上の方を聽いて見ても仕方がない、それでは其の點で打切つて置きます、それから私は是は委員諸君に御願ひして置くのでありますが、先日の質問の際にも、川崎君が横から何だか政府委員に代つて答辯なされるやうな態度を執られるし今日も簡單々々と云ふやうな言葉がありましたが、此の問題は非常に重大な問題でありまするから、我々も政府當局に向つて將來しつこいまでに繰返すかも知れませぬ、さう云ふことに付て委員諸君は十分愼重な紳士的な態度を執つて貰ひたいと思ひます、我々の背後には多くの勞働者、教職員が居ることを忘れないやうに願ひたいと思ひます
〔發言する者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=18
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019・逢澤寛
○逢澤委員長 私語を禁じます、もう濟みましたか──それでは通告順に依りまして──關谷勝利君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=19
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020・關谷勝利
○關谷委員 此の法案を通讀致して居りますると、明確を缺きまする點が四、五ありまするので、此の點御尋ね致したいと思ひます、現今爭議行爲の合法、違法の區別が非常に問題となつて居るのでありまするが、本法はなぜに其の點を明確に致して居らないのか、此の理由を承りたいと存じます、勞働者に其の點を明確に知悉せしめまして、此のやうな方法行爲は違法になるのであるから、是はしてはならない、此のやうな方法行爲は合法であるから差支へない、斯う云ふ風に今少しく親切に明快に示されてはどうかと考へらるるのであります
次に生産管理は政府が屡屡聲明せられて居りまする通り違法であると聞いて居るのでありまするが、之に對する罰則を設くべきではないかと考へられるのであります、然らざれば此の違法なる爭議行爲は如何にして取締るべきか、其の方法がないと考へらるるのでありますが、其の取締方法を教へて戴きたいと存じます、尚ほ違法なる爭議行爲をなしても何等罰則がなく、且又其のやうな勞働者でも馘首するならば、第四十條の違反となり、第四十一條の處分を受けることになるのでありまするが、此のやうなことは違法なる爭議行爲を益益助長せしめる結果にならないか、此の點を御尋ね致したいと存じます
尚ほ此の法案を讀んで居りますると、此の中には勞働關係當事者と云ふ言葉が非常に澤山使はれて居るのでありまするが、是は如何なる理由でありまするか、明快に御答へ願ひたいと思ひます、尚ほ爭議「ブローカー」の如き者を其の中に含むのであるかどうか、是も御伺ひ致したいと存じます、又勞働關係に關する主張と云ふ言葉があるのでありまるが、此の中には重役の退陣の要求とか、或は利益配當に關する要求とか、人事其の他の經營參加に關しまする要求等が往々にして出て居るのでありまするが、是は勞働關係に關する主張と言ひ得らるるのかどうか、此の點御尋ね致したい存じます
尚ほ業務の正常なる運營を阻害するものを爭議行爲と云ふと云ふのでありますが、生産管理に依りまして生産を増大して居ります場合等に於きましては、考へ方に依りますと、それは業務の正常なる運營を阻害するものではない、此のやうにも考へられるのでありますが、斯樣なことはどう云ふ風に御考へになつて居りますか、此の點を御尋ね致したいと存じます
尚ほ公益事業とは公衆の日常生活に缺くことの出來ないものを云ふとあるのでありまして、其の第一條に「運輸事業」と書いてあるのでありますが、生活必需品以外の輸送は之には含まれて居らないのかどうか、此の輸送事業の中に於ける公益事業の輸送と云ふものの限度はどの程度であるかと云ふことを御示し願ひたいと思ひます
次に「勞働爭議の當事者が、双方の合意又は勞働協約の定により別の調停方法によつて事件の解決を圖ることを防げるものではない。」と第二十八條に規定致されて居るのでありますが、此の規定は公益事業に關する事件に付きまして、強制調停を忌避する爲に惡用せられることはないかどうか、此の點を御答へ願ひたいと存じます
尚ほ第三十六條に於きまして「工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廢し、又はこれを妨げる行爲は、爭議行爲としてでもこれをなすことはできない。」此の章には罰則を設けて居らない理由は、私達が考へますと之に依つて生じたる人命に危害を及ぼしたる場合等は當然それに對する罰則があり、或は施設を破壞した場合には器物毀棄と云ふ風な罰則があるが故に設けて居られないのであらうと考へられますが、企業の維持經營に重大な支障を及ぼすが如き施設の運行を停廢し、又は妨げたる場合には是はどのやうになるのであるか、之に對する罰則と云ふか、そんなものがあるかどうか、此の點どのやうになりますか、御答へを願ひたいと存じます
尚ほ最後に、此の法案が勞働關係の重要法案でありまするが故に、立案に當りましては、勞働關係方面の意見も十分に聽取されたものであると考へますが、立案經過の極めて簡單な説明と、此の立案に參畫せられました、勞働關係方面の方々の氏名を參考の爲に承りたいと存じます、以上御尋ね致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=20
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021・河合良成
○河合國務大臣 只今七、八點に付て御尋ねがありました、實は私の説明も非常に早い方ですが、今のあなたの御質問も非常に早くて十分書取る暇と、それからそれに對する答辯を頭に準備する遑がなかつたのであります、それで順々に説明して參りますから、御質問の點を重ねて御伺ひしながら御答へしたいと思ひます、第一番に勞働爭議行爲の合法違法と云ふ觀點でありまして、それに付て明確な法律の規定を缺いて居るのではないかと云ふ御尋ねでありました、此の法律に於きましては、第七條で爭議行爲を定義して居りまして「爭議行爲とは同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他勞働關係の當事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行爲及びこれに對抗する行爲」と云ふ風に大體の輪郭を定めて居ります、さうしてそれは業務の正常な運營を阻害するものだと云ふ所に客觀的の事實を捉へて説明を補充して居るのであります、是で爭議行爲と云ふものは大體どの線に行くのだと云ふことを明確に致して居ると考へて居ります、唯それが違法であるか合法であるかと云ふことになりますと、是は此の法律で規定すべきことでなくして、日本の法則全體からの觀點で行きませぬと、それは合法、違法と云ふ差別が付かないのであります、それで例へば勞働爭議が斯う云ふ線に沿ふて行く中は別に違法性はありませぬけれども、それが刑事問題に觸れるやうなことが伴つて來ますれば、直ちにそれは違法になると云ふやうな風に解釋すべきものであります、合法、違法と云ふ言葉も亦是は非常に問題のある所でありまして、公法的の意味に於きます合法、違法と云ふことなら、犯罪であるか犯罪でないかと云ふ點で、分けられるのでありますが、民法上の問題の不法行爲と云ふやうな問題になりまして請求權を伴ふ債權的の問題になりますと、合法違法と云ふことは少し當らぬのではないかと思ひます、さうするとやはり正當とか、正當でないとか云ふ言葉になるのではないかと思ひます、是は法律の問題で、私の獨斷を申上げる限りでありませぬが、さう云ふやうな問題が伴つて來ます、そこで合法、違法の線で分けて行くと、合法違法の定義を先づ決めて、それから其の線で分けなければ、ならぬと云ふことになりまして、是は勞働法規以外の一般法律觀念になりますので、此處で明確に御答へすることはどうかと思ふのでありますが、何れにしても合法であるか、違法であるか、正當か、正當でないかと云ふことになりますと、是は法律の一般概念から歸納すべきことで、ここで規定するのはどうかと思ひます、併しながら法律の立法事項としては、特定の事項を擧げて、それは或は多分正當であらう、或は正當でないから、此の法律で以て不法とする、不正とすると云ふやうに立法上に書くことは少しも妨げぬことと思ひますが、一般的概念としての爭議行爲と云ふものには大體一つの世界的概念もあることでありますから、特に必要のない限りはそれを掲げる必要はないと云ふ趣旨を御諒承願ひます
それに次で生産管理の問題に付きましての御話がありましたが、生産管理のことは是は外の機會にも申上げました通りに、正當でないと云ふ一つの見解を取つて居ります、さうしてそれがなぜ正當でないかと言ひますと、度々申上げました通りに、是は人間の自由及び權利と云ふものの主張の線に於きまして勞働權もあれば財産權もある、財産權即ち經營權もあると云ふ風に解して、それを侵犯することは正しくないと云ふ意味に於きまして正當ならずと云ふ見解を取つて來て居ります、さうして其の正當ならずが、今申しました多分は違法になるだらうと云ふ「プロバビリテイー」の非常に多いことは申上げることが出來ます、と云ふのは多くの場合に於きまして、それは家宅侵入となり、或は何と申しますか、暴行脅迫を伴ふことが多かつたり、色々そこに事件が起きますので、多くの場合に於て犯罪行爲を成立せしめたるに至るであらうと云ふ「プロバビリテイー」の多いことは此處に申上げることが出來ますが、唯抽象概念として總て是は犯罪行爲を伴ふものなりと云ふことを私は此處に斷言することは出來ぬ、と申しますのは、どう云ふことがあるかと云ふことを一々調べて一々の場合に向つて、それを包括的に申上げることが出來ぬけれども恐らく殆ど全部に於てさう云ふことは犯罪行爲を伴ふと云ふことは言へるだらうと思ふのであります、此の生産管理と云ふものをさう云ふ風に解釋して居りますけれども、此處に又繰返して生産管理と云ふものは特別に違法である、之を禁止すると言はなくとも、全體の法律、日本の制度からさう云ふ風に正當ならず、恐らく大部分に於てそれは犯罪行爲を伴ふものだらうと云ふ解釋で十分である、それで解釋が出來ると云ふ見地の下に、生産管理に付て特別な法律を規定して居らぬと云ふ趣旨に御承知願ひたいと思ひます
其の次の問題は勞働關係の當事者なる文字を用ひて居るが、勞働關係の當事者と申しますると、やはり組合側と經營者側と云ふ風に解釋して宜いと思ひます、それで組合側と云ふものの中に所謂爭議「ブローカー」と御指摘になつたものか含まれるか含まれぬかと云ふ問題になりますが、是も事實問題でありまして、組合の中に包含される意味に於て、實質的に爭議「ブローカー」的の性質を持つて居るものは含む、併しながらそれ以外の爭議「ブローカー」は當事者の中に含まぬ、さう云ふ風に先づ解釋すべきものだらうと思つて居ります
それから、其の次の問題は勞働爭議の問題として人事、經理、經營參加等の問題が時々起きて來るが、それに對する考へはどうか、それは勞働關係に關する主張と言へるかと云ふ御質問と拜承致しますが、其の點は此の勞働爭議の目標は大部分勞働條件であることを政府も指導方針として希望し、殊に先日勞務法制審議會などで意見を尋ねて居りまする經營協議會の如きも、人事及び經理の如きは經營協議會で直接取上げない方が宜いだらう、併し經營者側に於て其の問題に付て成べく勞働側の意見を色々な意味に於て求め、其の空氣を感ずることは必要であらうが、併しながら經營協議會に於て其の問題を包含しない方が宜からうと云ふ私共は大體の見解で居りまするので、人事、經理等の面に付ては出來得べくんば勞働者關係の問題として取上げることを奬勵したくはない考へであります、是は主として勞働條件に行きたいと云ふ考へで居りまするが、勞働關係に關する主張と云ふ中に其の文字が入るかと云へば、それは私は入ると思ひます、と申すのは、勞働關係の主張と云ふものは、法律で限定せぬ、以上は、勞働關係に伴ふ關係のある事柄はそれを排除すると云ふ法律の趣旨でないと云ふ風に私は解釋して居ります
それから其の次の問題は、業務の正常なる運營を阻害すると云ふ言葉、是は阻害する行爲を謂ふと云ふことになつて居りまして、それで生産管理の場合増産と云ふものはどう云ふ風に是との關係を持つかと云ふ趣旨の御質問と思ひまするが、是は二つに御答へしなくてはならぬかと思ひます、一つの點は、生産管理と云ふものは増産を伴ふから、それでは生産管理を認めて宜いか、さう云ふ御質問でなかつたかも知れませぬが、其の裏に其の質問があると存じますから、一應の説明を致しますが、増産を伴ふ伴はないと云ふことは、生産管理が正當であるかないかと云ふこととは、全く別問題であります、端的に申しますれば、増産を伴うてもいかぬものはいかぬものだと云ふことと御承知願ひたいと思ひます、さう云ふ意味に於きますと、其の問題の半面ははつきり致しまするが、併しながら他の半面に於て、言葉としまして、生産管理の増産と云ふものは、業務の運營を阻害しないで進捗するではないか、それであるからさう云ふ場合があるとすれば、正常なる運營を阻害すると云ふことと衝突するではないかと云ふ意味の御質問とも考へられまするが、既に生産管理と云ふものを勞働爭議行爲の範圍外に出して解釋致しまする以上は、此の問題は起きないのであります、併しながら言葉としまして假に措きましても、正常なる運營と云ふことは増産と云ふ結果的なことばかりではありませぬ、總て正常なる運營に伴ふ一切の社會通念がありまして、増産が出來たからと云ふことだけで、それを阻害しないと云ふ意味にはならぬから、是は言葉としましても衝突するものではない、さう云ふ風に私は解釋致します
それから第五は、第八條の公益事業の運輸事業と云ふ問題でありましたが、運輸事業と云ふことは食糧其の他必要品の運輸ばかりを指すのか、一般の運輸を指すのかと云ふ御質問と拜承致します、それならば廣く一般の運輸を指すと云ふ風に解釋致して居ります
それから第二十八條の任意協定の問題でありまするが、是は或る場合には強制調停と云ふことは此の法律に於て勿論認めて居ります、併しながらそれは決して任意協定を妨げるものでない趣旨でありますから、任意協定で得られれば、それを追駈けて行つて、それは待つて呉れ、強制調停でやると云ふやうな趣旨は一つもありませぬ、任意協定を寧ろ優先すると申しますか、其の方を寧ろ希望して居る譯でありますが、任意協定が出來ぬが故に強制調停をやるのでありますから、是は矛盾するものではないと考へて居ります
それから三十六條に付きましては、此の罰則は工業警察取締規則などにも罰則がありまするし、是は特に其の安全裝置をどうとかする爲に本當の死傷者が出來ると云ふやうな──故意があつてさう云ふことが出來まする時には、それは刑法の方に依つて非常に重大な犯罪となる譯であります、其のことは勞働法規以外の法律に於て其の制裁が設けられて居りまするので、特にここに置く必要がないと云ふので敢て書かなかつた趣旨であります、尚ほ御尋ねの取殘した點がありましたならば、御尋ねを願ひたいと思ひます
それから此の法案を立案致しました經過はずつと其の當時から關係して居りまする政府委員の方から御説明した方が明瞭だと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=21
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022・吉武惠市
○吉武政府委員 それでは御尋ねの本法案の經過を簡單に申上げたいと思ひます、實は昨年の暮の議會に勞働組合法を提案致しました、其の時に勞務法制審議會と云ふものを作りまして、それに掛けて勞働組合法のあの草案が出來、それを基にして政府が提案をした譯であります、其の際に議會でも此の勞働組合法を提案するのは宜いが之に伴つて若し爭議が起つた時の所謂爭議の調停に關する方法と云ふものはどうするのか、其の方の法律は出さないのかと云ふ御質問があつて、前内閣の時厚生大臣がそれは引續き立案をして提出するからと云ふ御答辯がありました、そこで議會が終りますと、直ちに勞務法制審議會に同樣に勞働爭議調停に關する法律如何と云ふことで諮問になりました、そこで勞務法制審議會に掛けて、勞務法制審議會では末弘委員、それから鮎澤委員、桂委員──是は中央勞働委員會の中立委員をして居られますが、それから資本家側から膳桂之助氏、篠原氏、それから勞働者側からは松岡駒吉さん、海員勞働組合の方の小泉さん等の小委員に付託されまして、立案をして居つたのであります、其の間勿論司令部の方とも連絡を致しまして、大體三月の終りに一應の草案が出來たので、それを新聞でも御承知のやうに、公聽會と云ふ今まで例のない方法を執りまして、廣く各地の勞働組合の幹部の者及び使用者側の勞働關係を掌る人々に集まつて戴いて其の草案に付て廣く意見を徴したのであります、其の意見を參考と致しまして、更に草案を練り直しまして、さうして最後に勞務法制審議會に付議され決定して本議會に提案された、斯う、云ふ經過であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=22
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023・關谷勝利
○關谷委員 大體に於て了承致しましたが、此の第七條に「同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他勞働關係の當事者」とありますが、此の「その他」と云ふ點に付きまして御尋ねを致したいと思ひます
尚ほ公益事業の中で、今の輸送でありますが、海上輸送等に於て機帆船が運んで居ります物資の中には、直接日常生活に缺くべからざる物もありますが、左程緊急已むを得ざるものでもないと云ふ風な物もないではないのであります、其のやうな場合の海上輸送などもやはり是が公益事業の中へ含まれるかどうか、重ねて之を御尋ね致したいと思ひます
尚ほ先程御尋ね致しまして御答辯がなかつたのでありますが、違法なる爭議行爲を致しましても罰則がない、其のやうな勞働者でも馘首をすると云ふことになると、第四十條の規定の違反になつて、第四十一條に依つて處罰を受ける斯う云ふやうなことになりますのは使用者側のみに非常に苛酷に當つて居ると云ふ風に考へられるのでありますが、其の點御尋ねを致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=23
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024・河合良成
○河合國務大臣 只今の第一の御質問は其の他の爭議行爲と云ふのは、どう云ふやうな意味になつて居るかと云ふ御尋ねでありましたが「ボイコット」のやうな行爲、或は「ピケッチシグ」──見張、爭議破りが入つて來るのを見張をして居る、さう云ふやうなことなどを言ふのでありまして、一々茲に掲げなくても大體さう云ふ線に沿うたものを考へて居りまして、法律としましては體裁上「その他」と云ふことで包含したのであります
それから其の次の御質問の運輸事業に機帆船の日用品でないものを送るやうなものも包含するかと云ふ御尋ねでありますが、大體輸送は機帆船にしましても船舶にしましても、容れ物でございますから、時々やはり物が變るのであります、それで私も機帆船の仕事などに關係したことがありますが、石炭を積むやうなことになつて來ることもあれば、魚を積むやうなことになることもある、惡くすればそれが密輸入船に使はれたと云ふやうなこともありますので、大體輸送關係に於てはつきりして、是は生活に關係のないものだ、或は生産に關係のないものだと云ふ風に分けると云ふことがどうかと思ひますが、大體としましてはさう云ふものも一應包含した全體的觀念としての輸送と云ふものを押へて居る次第であります
それから第三番目の問題は、此の四十條の爭議行爲をなしたことを理由として勞働者を解雇してはならぬと云ふことになつて居りますが、是は勿論正當なる爭議行爲をやつた勞働者を言ふのでありまして、不當な爭議行爲をやつた者を保護して居るのではありませぬ、左樣御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=24
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025・逢澤寛
○逢澤委員長 關谷さんもうあとありませぬか──それでは通告順に依りまして木下榮君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=25
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026・木下榮
○木下委員 私が一番最初に御伺ひしたいのは、政府は此の次の議會に勞働基本法とも云ふべき勞働保護法案を出すと云ふことが新聞にも掲載され、又去る二十日の當委員會に於て厚生大臣は左樣な御考へを持つて居ると云ふ御答辯があつたやうに記憶致して居りますが、果して實際に此の次の議會に勞働保護法案を御出しになる御考へであるかどうか、伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=26
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027・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致します、是は間違ひなく出す積りであります、それで只今色々な準備を致して居りまして、此の間は勞働者及び經營者側にも色々御尋ねをしたり、又寄り寄り集つて戴いて種々懇談を致したりして居ります、八月一ぱい位までは大體の案を作りたい積りで、細かい「スケヂユール」を作り、それに依つて進めて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=27
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028・木下榮
○木下委員 只今の厚生大臣の御答辯を得まして、非常に結構なことと欣んで居ります、大體私共の考へとしては、勞働組合法制定の時、若しくは其の前に此の勞働調整法案の根源を成します勞働保護法案を御出しになるのが本當ではないかと思ひます、此の勞働保護法案を出さずに、單に組合法を制定して、さうして團體交渉權や爭議權を認めたが爲に、今日のやうな食糧事情、其の他の經濟事情から紛爭爭議が起るのは當然の歸結であります、それが爲に此の爭議を抑制しよう、調整しようと云ふのが此の調整法案だと思ひます、爭議の起る組合法を作り、之を抑制する調整法案を出して、其の後で保護法案を出す、是は非常に本末顛倒したものだと思ひます、茲に大きな矛盾があり、順序を誤つと居ると云ふことは、厚生大臣も御認めになることと思ひます、所で此の調整法案を見ますと、非常に通俗的に分り易く口語體で書いてはありますが、どうも我々の考へる法律とは縁が遠いやうに思ふのであります、例へば第二條に於ては勞働關係の當事者の心得を規定し、第三條に於ては政府自身の心得のやうなものを規定して居ります、是は特別の法律でありますからそれで宜いとしましても、其の實質を見ますると、斡旋とか調停とか仲裁とか非常に細かく分類規定して、勞働爭議を調停しようと云ふ意圖は能く分るのでありますが、ずつと通覽して見ますと、是は極端に言へば勞働者の爭議權を剥奪する、或は彈壓する法律であると云ふ聲も聞きますが、如何に善意に解しても、確かに是は勞働爭議を去勢する方法だと私は信じて居ります、それでありますから現在に於て勤勞大衆、全産業界の勞働者が非常に囂々の非難攻撃の聲を浴せ、此の法案を阻止する爲に非常に猛烈な運動が起つて居るのでありまして、是は厚生大臣も御承知だと思ひます、斯う云ふ際に斯う云ふ法律を制定すると云ふことは其の時期でないと思ひます、そこで私は只今厚生大臣の仰しやつたやうに、保護法案は此の次の議會には必ず出す、さう云ふ御意思があるならば其の時に之を審査して、新しく御出しになる所の保護法案と對照し、考究し、檢討し、さうして此の調整法よりもより良い、本當に調停の實效を擧げ得る適切有效なる法律を作られるのが宜いのではないか、さう云ふ風に固く信ずるのでありますが厚生大臣の御意見を伺ひたい
河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致します、勞働保護法の問題に付ても色々御尋ねがあつたやうですが、勞働保護法を出して勞働組合法を出すかと云ふ問題に付きましては、昨年の終戰後のあの時の情勢を御覽下されば、其の間の事情も分ると思ひます、一方勞働保護法と云ふものは大部のものでありまして、相當厚生省としても研究はして居りましたが、あの民主主義に轉換した時に、其の線に沿うて全體を急に改めると云ふのは、是は事實問題として中々出來なかつた、去年十一月の法律を民主主義に切替へたと云ふ意味に於ける勞働保護法は、中々單純に出來るものではなく、是は色々輿論も聞き、それから勞働者側の意見も聞いてやらなければならぬ問題でありまして、是はどうしても時を要するものなのであります、昨年の終戰後それを民主主義に振替へると云ふ意味に於て、急に作ると云ふことはどうしても出來なかつた事情である、是は事實だと思ひます、さうすれば勞働組合法をやはり勞働保護法と一緒に作つたら宜からうと云ふことになりますと、今度は勞働組合法を待たなければならぬと云ふことになりますので、是はあの時の情勢は民主主義國家に振替へて、勞働問題と云ふものに一轉機を來たすのだと云ふことが目標になつて居りまして多年勞働權と云ふものは壓迫せられて來たと云ふやうな事態になつて居りますから、組合法は兎も角も作らなければならぬと云ふのは是は輿論であつた、又實際の政治であつたと私は思ひますから、此の法律二つがちぐはぐになつたと云ふことに對しては、其の事情から推してどうぞ御諒承願ひたいと思ふのであります、さうして其の中間にそれではなぜ調整法を出したかと云ふ問題が、御質問の要點になつて居りまするが、是は今申しました通りに、勞働保護法と云ふのは最低の基準を大體決めたものでありまして、勞働保護法が出來るから「ストライキ」が起きないものではないのです、やはり其の最低基準以上の問題に付て色々起る總てのものを、保護法全體で「カバー」して、さうして天國のやうなものを出すと云ふことは、到底不可能であります、是は最低基準を大體何處の法律でも抑へて居ります、そこでさうすれば保護法が完全に出來ても、「ストライキ」と云ふものがなくなる譯でない、其の上に御承知の通りに今度は爭議と云ふものは、經濟界の動搖と申しまするか、私は能く國民經濟の斷層に打突かつたと申しまするが、さう云ふ一つの茲に變革があつた、さうして食糧危機が起り、「インフレーション」が起きさうして生活難と云ふ問題が起きて來て、俸給の上にも御承知の通り變革を來して居ると云ふやうな時代になつたのでありまするから是はやはりどうしても爭議の起るのは當然のことなのであります、それでは爭議が起きる儘にして宜いかと云ひますと、そうは參らぬのです、二つの面に付て考へなければならぬ、第一の面は、出來るだけ爭議は未然に防止して、お互ひの了解で巧く落着くものは落着けようぢやないかと云ふ一つの線もう一つの線はどうしても特別のものには爭議はやつて貰つては困る、又特別なものには拔打爭議は困ると云ふ公益の面、此の二つのことはどうしても起きる、それで第一の面は、勞働法に豫想して居りました所の調停、仲裁と云ふやうなことです、是は勞働法に書いてある、けれども其の手續なども勞働法に書くのは一つである、前に石田一松君の御質問の如く、二つの法律は要らぬぢやないか、それも一つの考へ方である、併し前に法律は生まれてしまつたことだから、過去に遡つても仕樣がない今度はやはりそこで追駈けて調停仲裁と云ふことを決めた、是はどちらの贔屓もして居るのでない、どちらがどうと云ふことはない、何も問題はどちらにも觸れて居ない、お互ひに仲善く妥協して、問題を爭ひに出さないで、爭議行爲まで行かないで行かうぢやないか是は世の中の爲に宜いことは決まつて居る、それが爲に斡旋、仲裁調停、御話の通り少し細かくなつて居りますけれども、是は何處の國でも大體さう云ふ線を辿つて居る、凡ゆる方法を盡して、而もそれで勞働委員會と云ふ中心機關を置く、是は勞資双方からと中立者を入れたもので、非常に「デモクラチック」に考へられて居る機關である、是でやつて、一つ落着けやうぢやないか、是は人情の自然であります、又政治としても國家としても、是は此の線でやつて行くことは、私はどなたにも異論がないと考へて居ります、もう一つの點は公益の點です、此の點を目して誤解して居る、私は端的に申したい、勞働者の壓迫などと云ふ御考へがあちらこちらにあるやうでございますが、私は斷じてさうは信じない、是は本當に公益の擁護である、此の點はどうしても人間の自由權利と云ふものは、無制限なものではありませぬ、憲法第十一條にも自由權利は公益の爲に利用されねばならぬと云ふ草案になつて居ります、又第十二條には自由の限度は公益である、「マージン」は公益であると云ふ要旨のことが出て居ります、其の外あの新憲法全體を通覽しまして、爭議權が無限絶對のものだとは決して認めて居りませぬ、それよりも一般公衆、大衆の公益が必要である勿論其の大衆と云ふ中には多くの勤勞者、多くの勞働者を含んで居り、それが非常に大きな部分だと云ふことは存じて居りますが、權利としてはお互ひの權利であるが權利と云ふものも全體國家組織の上から考へるべきで、茲に國家組織の規律と云ふものがなければならぬ、それはお互ひの爲である、其の中に勤勞者、勞働者の非常に大きいものがある、けれども勤勞者、勞働者と云ふ其の面ばかりの利益が、國家全體の利益だとは直ちに斷ずることは出來ませぬ、其の間に自ら差別があります、是は深く御考へを願ひたい點であります、さうしますと今度はそれに對してどうするかと云ふことになりまするから、それには官吏、消防、看護婦のやうな職員に對して爭議を禁止する、是は前々から言ひました通りに、之を禁止するにあらずんば、萬一「ゼネスト」の如きことが起れば、どう云ふ事態が生ずるかと云ふことに對して、日本の國家の官吏はそんなことをやるものかと云ふ御話がある、昨日も陳情で、そんなことはやりはせぬから、心配御無用だと御話になるが、それは無用でありませう、無用たらんことは私は切實に希望して居る、けれどもやはり國家の根本法規としましては、さう云ふことはあつてはならぬのだと云ふことは決めて置かなければ、現實の事實と將來にどう云ふことが起きるかも知れぬと云ふことは、一緒にする譯に行きませぬ、是はどうしても決めなければなりませぬ、もう一つの點は不意打爭議、是は申すまでもなく此の間山手の實例などを御覽になると分るが、是は現實の問題であります、さうすれば昨日も御話の通り、いやそれは輿論の壓迫が強いから、あれだつてやれぬことはないぢやないか、さう心配はない、恐らくさう云ふことの起きぬことを希望して居りますけれども、現實に起きて居る事實さへあるのだから、是はどうしても日常生活の安固の爲には、斯う云ふ拔打爭議と云ふものは停止しなければならぬと云ふことになりますると、爭議權の制限、是だけです、是だけを以て勞働の壓迫だと言はれれば、私は斷じて其の非難は受けませぬ、其の點をどうか御諒承願ひたい、私は決して勞働階級の壓迫とか何とか、さう云ふ思想を此の齡になつて持ちませぬ、國家の爲にやるには斯うだと云ふ信念の下にやつて居ると云ふことを、どうぞ御諒承願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=28
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029・山本勝市
○山本(勝)委員 議事進行に付て……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=29
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030・逢澤寛
○逢澤委員長 議事進行に付て發言を許します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=30
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031・山本勝市
○山本勝委員 此の法案は今回の議會に於ける恐らく最も重大な法案の一つであらうと思ひまするので、十分に愼重に審議を盡すべきことは當然でありますけれども、併し先般來の委員會の經過に鑑みますと、隨分同じ質問が繰返されて時間を取つて居るやうに思はれるのであります、どうも質問も若干の重複をすることは勿論避け難いことでありまして、其のことを彼此れ申すのではありませぬが併し出來るだけ要點を質問するし又要點を答へて、重點を明かにすると云ふ方式で議事を進めて戴きたい(ひやひや)議事の進行を妨害するやうな彌次などは勿論禁止して戴きたいのでありますけれども、餘り繰返し繰返し長たらしくやつた場合に「簡單々々」或は「さう云ふことは分つて居る」とか云つたやうな位のことは、是はどうも寧ろ已むを得ぬことで、なぜさう云ふことが起るかと言ひますと、どうも議事の運び方が旨く行つて居ないからぢやないか、此の前の安平君なども御本人としては勿論十分に質すべきことを質して居るんだと言はれる、誠心誠意やつて居られるに相違ありませぬ、其のことを疑ふのではありませぬけれども、遂に最後には委員に向つて話掛けられた(「其の通り」と呼ぶ者あり)此の委員に向つて委員諸君と云ふ言葉で話掛けられた時に、寧ろ委員長が默つて居られたことを私は不思議に思ふ
〔「其の通り」と呼び、其の他發言する者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=31
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032・逢澤寛
○逢澤委員長 靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=32
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033・山本勝市
○山本(勝)委員(續) 私は此の議事の運び方に付て、詰り要點を盡すやう、而も成べく重複しないやうに、又委員が委員に話掛けたりすることのないやうに御注意されることを望むのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=33
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034・逢澤寛
○逢澤委員長 委員長極めて議事の進行に不慣れでありますので、今後常識を大いに加へまして圓滑なる進行に努力致したいと思ひます、皆樣の御協力を願ひます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=34
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035・木下榮
○木下委員 厚生大臣から懇々と非常に御鄭重な答辯を得まして感謝します、私の御尋ねした要點は今非常に反對の輿論と鬪ひ、此の法案の阻止の運動が強く展開して居る場合に、此の法案を審議決定するよりも、先程の御説明の通り次の議會には勞働保護法案を出すそれならば其の時に此の法案も考究檢討して睨み合はしてより良いもつと有效な法律として出したらどうか、之を御尋ねしたのであります、それから決して彈壓でないと云ふ御説明でありますが、私も是が絶對に彈壓だと申上げたのではない、引延し策、詰り勞働爭議を去勢する一つの法案である、全く事實其の通りだと今でも固く信じて居ります、或る一方に於ては調整するかも知れないけれども、去勢をするかの方が私は多いと思ふ、今後此の法律が制定されて世の中に實施された場合に、其の實續を見れば必ず分る、去勢の力の方が調整よりも多いと私は信じて居る譯であります、唯來る議會まで一年とか二年とか云ふのでないから、僅かの間であるから此の次の議會まで何とか之を延ばして、審議未了とか其の邊の工作は私は存じませぬが、延ばしてもつと良い法案にして出した方が宜くはないか、之を御伺ひするのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=35
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036・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問に御答へ致しますが、爭議發生數は一時から見ますると少し衰へました、けれども又是から段々と失業者も増加しまするし、それから補償打切其の他の問題に關聯しまして色々生活難などの問題も出ませうし、一寸も前途を樂觀する譯には行きませぬ、成べく爭議は起きないで日本の經濟再建が一日も早く出來んことを切望して已まぬ次第であります、それには起きんとする爭議を一日も早く豫防し、旨く協議が付くやうに希望しますので、此の法律は一日も早く實施したい積りで居ります、さうして一箇月でも二箇月でも、三箇月でも早く、次の議會などと云ふことなく實施したい、それが調停仲裁等の規定の早く實施したい趣旨であります
それからもう一つの點は今の公益の點でありますが、是も同樣でありまして、茲に非常に不安なことでも起きますると、日常國民生活にも影響しまするし、さう云ふことのないやうにしたいと云ふことは、一刻も急を要する次第でありますから、勿論出來るだけ早く此の法案は決定したい、内容に付きましても政府としましては斯うあることが當然であると云ふ確信を持ちまして、此の議會に出しましても、是よりも非常に良い法案を出すと云ふ希望は持てませぬ、是が一番最善なりと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=36
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037・木下榮
○木下委員 御答辯を得ましたが私は少し考へが違つて居るのでございます、今此の勤勞大衆、又三百萬と言はれる官公吏、斯う云ふ組合の人達が擧つて此の法案を阻止しようと必死の運動を展開して居る、斯う云ふ時に此の法案を通過さしたならば、其の結果はどうなります、御説の通り補償の打切りや色々なことで失業者は殖えませう、だが此の澤山な人が不平や不滿を持つて勞務に服すると云ふことは産業の面に於ても、行政の面に於ても非常な影響を來たし、非常な不平不滿を持つて働く、元來非常な不愉快を持つて働くと云ふことは人間の不幸でありますが、何百萬と云ふ人間が非常な不愉快を持つて働く、不愉快を持つて働けばそれが産業生産の上に大きな影響を來たす、私は恐らく五つや十の爭議よりも其の影響の方が大きいだらう、爭議として現はれて來なくても實際「ストライキ」をやる、現在に於てもさう云ふ傾向があるやうに見られる、でありますから之を急ぐよりももつと善い法案を勞働保護法と睨み合はして作る方が宜いのではないか、其の方が政治として扱ふ上にも宜いのではないか、今一日も急ぐに相違ないでせうけれども、結果としては惡い結果が起ると斯樣に考へますので延ばしたらどうか、其の點を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=37
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038・河合良成
○河合國務大臣 色々組合方面に於ても此の法律に對する御不滿のあることも承知して居りますが、斯う云ふことの爲に「ストライキ」が起きると云ふことは絶無とは私は申上げませぬ、勿論私は本當の勞働爭議はやはり生活權の問題ぢやないかと思ひますので、經濟方面に於て根本的の施策をやつて、さうして生計が立つて行くと云ふことに最も重點を置かなくちやならぬことであると同時に、「ストライキ」の原因の一番の「ポイント」もやはりどうしても食つて行けぬと云ふ問題だと思ひまするので、物の考へ方に付て多少遺憾ながら御質問とは食ひ違つて居る點があるかと思ひます、是は各人の意見でありますから、それで又一面に於て此の法案に對して組合側其の他に於て誤解していらつしやる點もあるのではないか、中々法律と云ふものを大衆に理解して貰ふのは骨の折れるものでありまして、此の法案なども能く分つて戴けば決して私は壓迫でもない、去勢でもないと信じて居る次第であります、さう云ふ點に付ては政府としては萬全を盡す積りで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=38
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039・木下榮
○木下委員 私の御聽きしたのは、勞働爭議が起るとか起らないとか云ふ問題ではなくして、此の問題を此の際非常な反對を押切つて實施した場合に、此の爭議を調整することよりも、多數の人が不平不滿を持つて勞務に服することの方が影響が多い、産業の生産上にも非常な影響を來すと云ふことを申上げたのであります、時間でありますから私はもう少し質問したいのでありますけれども、此の次の委員會に讓りたいと思ひます、併し續行して宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=39
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040・逢澤寛
○逢澤委員長 成るたけ討論に渉らないやうに質問願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=40
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041・木下榮
○木下委員 さう云ふ意味であります、私は勞働調整法は、成程爭議の起つた場合に調整する宜い法案があつて調整することは、是は誰しも大賛成と思ひますが、もつと根本的に爭議の起らない方法を講じなければいかぬのぢやないか、それにはどうしても勞働者の要求する所謂企業に參加させなければいかぬ、此の法案で見ますと、さう云ふ風なことは勞働の關係事業者で自主的にやれ、斯う云ふ風になつて居るのぢやないかと思ひます、爭議のことばかりを取上げて之を調整しようと云ふ風な案と思ひますが、もう少し積極的に政府としては突込んで勞働者に經營に參加させる、さう云ふ手を打つ必要があると思ふ、企業に參加させると言ひますと經營に參加させる是は勞働者に經營に參加させると云ふことは即ち産業の民主化であります、又資本に參加させる、是も宜いことと思ひます、是は所謂資本の集結を避けて資本の民主化であります、聯合國司令部が財閥を解體したのも此の趣意に依つたものだと察せられます、さう云ふやうに積極的に何等かの手を打つて指導されたらどうか、其の方が餘程有效ではないかと思ひます、之に對する厚生大臣の御意向を御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=41
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042・河合良成
○河合國務大臣 只今の質問に御答へ致しますが、爭議の起らないやうにすると云ふことは、最も是は希望することであり、又政府も國民も、全體其の線に於て努力しなくちやならぬ點と思ひます、それで其の點の一番問題の中心は言ふまでもなく經濟問題であります、それで今日は御承知の通りの日本の状況で、食糧の不足と「インフレ」と云ふやうなことで、是は來るべき原因があつて起きた、原因と申せば終戰と云ふことを動機と致しまして斯う云ふ風になつて來て居るのでありまして、色々茲に原因がありまして、中々此の問題は何人が御考へになりましてもすぱつと經濟状態を滿足さして、何人も不平がないやうな事態に急轉回をすると云ふことは困難な問題だと思ひます、併しながら其の線に沿うて出來るだけ努力を致し殊に食糧の見透しなどに付て大分明るくなつて參りましたので、食糧問題が解決すれば問題の七、八割は解決するのではないかと思はれますので、非常に希望を持つて此の點に付て努力をして居る次第であります
それからもう一つの面は、御指摘の通りに産業機構全體の問題、其の問題の一部としての勞働と經營との關係の如き問題であります、此の線に沿うても段々と資本と經營との分離と云ふやうなことが現實になつて來る次第であります、又一面に於て經營と勞働との調和と云ふことも段々都合好くなつて參るだらうと私共は考へまして、經營協議會の如き其の點に於て一つの手段を與へるものであると云ふ風に考へて居ります、唯此の法律はやはり勞資と云ひますか、經營と勞働とが別のものであると云ふ前提の下に總ての法律が出來て居りまして、それに對する調整を目標としたものでありますから、此の法律に産業の組織機構の將來のことに對して色々の批評を與へると云ふことはどうかと思ひます、御指摘の如く色々問題がある、例へば今御話しのやうな勞働者が段々經營に參加すると云ふ形、或は又「プロフィット、シヤーリング」のやうな形、或は協同組合の如き形、或は中小工業などに對して特別の方法を執ると云ふやうな色々の問題がありまして、勞資の圓滿なる調和に依つて仕事をやつて行くと云ふことは勿論進めなければならぬことであるが、此の法律には性質上取上ぐべきものでない、それは又他の法律なり他の政策を以てそれをやるべきものであると云ふ風に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=42
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043・逢澤寛
○逢澤委員長 穗積七郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=43
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044・穗積七郎
○穗積委員 私は此の法案を手に致しまして、根本的に二つの缺陷を持つて居ると云ふことを感じたのであります、一つは今後の我が國の經濟復興の方向を考へまして勞働爭議が成べく少いことを、或は起きた爭議を抑壓することを必要として主張して居るのでありますが、一面勞働者の生産に對する發言權、或は生活に對する保障と云ふものが確立されずして、勞働爭議のみ一方的に抑壓される危險があると云ふ點に於て、此の法案の大きな一つの缺陷があると云ふ風に思ふのであります、もう一つは第五章に於きまする爭議の制限或は禁止の條項に於きまして、特に爭議行爲禁止制限の嚴に過ぎると云ふ二つの缺陷でございます、其の點に付きまして前の質問者が提案されました第一の問題に關聯致しますが、私は大體此の二つの點に限つて御質問致したいと存じます、尚ほ今後の我が國に於きまする勞働政策は今後の經濟安定政策と密接な關係がありますし、のみならず、之に就任されました前國務大臣は就任早々勞働運動に對して實に重大なる發言をして居られますので、私は特に政府の懷いて居りまする生産政策或は勞働政策に關しましては、前國務大臣の御出席をも併せて御願ひ致して置いたのでありますが、連絡が付かなかつたか御不都合の爲に出席して戴いて居りませぬので、是は次の機會に是非御願ひしたいと存じて居りますが、河合厚生大臣に關する限り御質問致したいと存じます、前の本會議に於きまする質問に於て、私は政府當局が御考へになつて居られまする我が國の生産政策に對しまして、其の基本的な考へは未だに舊い經濟思想の上に據つて居ると云ふ失望を感じたのであります、それが實は私をして今申しました此の法案が缺陷を持つて居ると益益危惧せしめました理由であると思ふのであります、今後我が國に於きまする經濟或は國民生活の確保に付きましては、言ふまでもなく一つの爭議もない生産復興と云ふことが、而も消極的に爭議がないだけでなしに、總ての勤勞者の持つて居る能力と意欲と云ふものが生産に具現するやうな方法が考へられることは當然でございますが、今日の状況を以て致しますならば、悲しいかな敗戰後の我が國のさう云ふ劣惡なる經濟條件の中に於きまして其の生産政策を遂行して行きます爲には先づ茲に經濟に於ける民主的な改革がなければならぬのでありますが、私が此の今度の生産政策なり勞働政策に對しまして最も危惧を抱きますことは、日本經濟の基礎條件と云ふものが打拂はれたに拘らず、未だに特に金融資本の力と官僚の力と云ふものが儼として殘つて居る、一方に勞働組合は再び團結の自由が與へられまして急速に結集され、今日四千の組合、三百萬の組織勞働者と云ふことが言はれて居りますが、其の組織の實體に於きましては或は思想に於きましては異るのでありますが、組織の實力其のものの實體を申しますと、是は曾ての産業報國會が全國的に組織されまして、一千萬を超える勞働者が組織されたと言つたと同じで、謂はば「ペーパー・オルガニゼーション」と私は思ひますが、さう云ふ勞働運動がまだ正常なる發達をして居らぬ、さうして一方に於て金融資本と官僚の力のみが強くある場合に於きまして、此の既存の勞働政策の基礎となります生産方式に於て何等改革する所なくして、其の儘社會秩序の維持と云ふことに藉口致しまして、此の勞働爭議取締の法律が通ることになりますと、成程河合厚生大臣或は其の他の政府委員の方方は、主觀としてはさう云ふ反動的なものにならぬやうに努力すると云ふことを誓ふと云ふことでありますが、凡そ法律と云ふものは此の法律を施行するものは河合厚生大臣だけでなしに、全國の資本家と全國の勞働者との力關係に於て是が運營されるのであります、隨て私は勞働爭議の抑壓或は爭議の絶無と云ふことを期して取締をやる以上は、一方に於て勞働者の生産に對しまする主體的なる發言權と云ふものと、それからもう一つは勞働者の不安に驅られて居りまする生活保障の確立と、此の二つが前提となつて初めて、勞働爭議に對する禁止なり或は取締と云ふことが妥當性を持つと思ふのであります、其の意味に於きまして私は去る十七日に中央勞働委員會は經營協議會の制度及び指針に對しまして發表になつて居るのでありますが、是は必ずしも現政府が執つて居ります最終的な内容ではないと思ひますが、そこで私は此の中で一番に御尋ね致したいのは此の經營協議會の案に對しまする政府の御所信或は態度に付てもう一つ御尋ね致したいことと、此の中に於ても私が本會議に於て星島商工大臣から御答辯戴きました經營協議會の制度よりは、此の案の方が稍稍進歩的であると思ひますが、其の進歩的であると思はれる此の協議會の案に於てすら、尚且經營權に對する一線を明確に劃さうとしたり、或は介業體内に於きまする人事權に對する一般勤勞者の發言權に對しましては之を警戒すると云ふやうな限界を設けて居るのでありますが、私は此の際思ひを一歩進められまして、今後の我國の生産復興政策と云ふものは勞働者の主體的なる起ち上りと組織と云ふもの以外にない、それは提案理由の中で、説明された如く氣分の上に於ける内括的な勞働者の資格でなしに、生産の構想の中に於て勞働者の主體的な發言權と云ふものを認めることなくして、私は此の法案が勞働者の彈壓法にならぬとは決して保證し難いと思ふのでありますので、其の二つの點に付て先づ御尋ね致したいと思ふのであります、第一は經營協議會の發表されました案に對する政府の態度、詰り其の内容に對する政府の御考へでありますが、第二は勞働者の生産即ち具體的に申しますならば、經營權、人事權に對する或る程度の發言權の確立である、其の技術的な問題は後に論ずると致しまして、其の方向に一歩前進することが出來ないかどうかと云ふことを先づ第一番に御尋ね致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=44
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045・河合良成
○河合國務大臣 只今の穗積君の御質問に御答へ致しますが經營協議會の建前に付きましては、大體の趣旨に於て勞務法制審議會の答申と同じ考へを持つて居ります、唯經營權と勞働權の關係と云ふことに付きましては、私はやはり一線を劃して行きます、それは今の憲法草案の命ずる所です、憲法草案をあの線に置く以上は是は已むを得ぬ、それ以上に對する個人的の考へはてんでに持ち得る、それから又將來是はどうして行けば宜いかと云ふことに對しては多分にそこに色々な理想も畫き得ると思ひます、併しながら兎も角も此の日本が聯合國の管理を受けまして斯う云ふ風に一つの「デモクラシー」の線に沿うて進むと云ふことの限度に於きましては、是は其の線に進むのだと云ふことに全部の思想が統一されて居ります、それで其の問題の下に萬事を決定して行く譯でありますから、隨て人事權の如きも、是は經營權の人事權は最も重大なる主體を爲して居るものであります、だからそれを經營協議會の議決の事項に入れると云ふことは妥當でないと云ふ解釋になつて居ります、經理權も私はさう思つて居ります、さう云ふ風に現在の状態に於て、どう云ふ政策の下に、憲法を中心にしましてどう云ふ根本思想の下にやつて行くかと云ふことの前提の下に於てのこととして左樣御承知願ひます、で一旦之を混ぜますとどうも今の基本觀念とは違つたものが出來て來ると云ふ風に私は考へて居ります、併しながらお互ひに是は協和し協調して行かなければならぬことであるから勿論此の人事とか經營のやうな問題に付ても出來るだけ勞働者側の意向を徴して、或は其の空氣を見てやつて行くと云ふことは、是は言ふまでもなく結構なことであると云ふ風に私は經營協議會も考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=45
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046・穗積七郎
○穗積委員 もう一言大臣に御質問致します、去る十七日に中央勞働委員會が發表致しました經營協議會の性格に對して、政府は大體此の内容なり方針に從つてやつて行かれるかどうかと云ふことを念の爲め御尋ねして置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=46
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047・河合良成
○河合國務大臣 大體に於て其の線に沿うてやつて行きます、唯あれはこちらの案でなく向ふの答申でありますから、政府に於てそれを決定します時にどう云ふ表現方法を執るかと云ふことは別でありまするが、大體の思想としてあの線に沿ひたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=47
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048・穗積七郎
○穗積委員 御尋ね致しますが、箇々の企業體の中に於きまして、經營協議會を通じ、或は團體協約を通じ乃至は其の他の申合せに依りまして、事實職場の勞働者乃至は中堅の技術者、經營者の所謂職員の層が企業の經營權と稱せられる部分、或は人事權にまで參加して居る事實がありますが、是は厚生大臣の御解釋に依りますと違法でございませうか、如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=48
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049・河合良成
○河合國務大臣 現實の問題に付きましては、經營者側と組合側とが任意の協議の上にやつて居ることに付きましては、勿論違法でも何でもないと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=49
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050・穗積七郎
○穗積委員 先程の厚生大臣の御答辯は、憲法に依る原則に依つてと云ふことで、憲法の解釋から經營權に參加することが違法である或は日本の民主主義建設の根本構造に反すると云ふ御答辯でありましたが、其の御答辯と今の御答辯とは聊か食違がありますが、どう云ふ意味でございますか、議論を進める上に誤解のない爲に事前に伺つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=50
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051・河合良成
○河合國務大臣 大體協約と云ふことは、多くの場合に法律に先行して宜いと思ひます、お互ひに協議の上でやりますことはちつとも構はぬことであります、だから少くも憲法の思想と、お互ひの協議の上でやつて行くこと、即ち協約の上でやつて行くこととは別に矛盾はせぬと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=51
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052・穗積七郎
○穗積委員 さう云ふ形で生産が續行され或は業務が續行されて居ります具體的事實、それの生産能率等に付きましてどう云ふ風に御考へになつて居られるか知りませぬが、私の少い例に於ける見聞から致しますと、大體小さい企業體では效を奏しつつある、而も今後の補償打切り竝に企業整備等に於ける經濟崩壞の事態を考へ合せ、最近に於ける英國の勞働運動或は生産政策の方向と云ふものを考へ合せて見るならば、此の方向こそが私は爭議をより少くし、生産性を高め、同時に民主化の基礎を作つて行く一石三鳥の急所であると思ふのでありますが、若しさう云ふことを政府が虚心坦懷に認識されるならば、企業に於ける經營權絶對主義と云ふやうな妄想に囚はるることなしに、現實其の方向へ指導される御用意があるかどうか其のことを御尋ね致したいのであります、言ひ換へますならば、經營或は人事權に勞働者が參加すると云ふ法律を作る、條文を何處かに入れると云ふことは考へないと云ふ御趣旨でありますか、事態が最も巧く進み、而も此の法案が第一章に謳つて居る大眼目に副ふものであるとするならば、今後の行政處分に於て其の方向を誘發し或は指導される御用意があるかどうか、それが起きた場合に於きましても政府當局は成べく、それを抑壓して、それとは違つた經營權絶對主義の方向に、經濟秩序維持に名を藉りて指導される御積りであるか、其の心中僞らざる肚を御聽き致したいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=52
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053・河合良成
○河合國務大臣 私の説明が足らなかつたので穗積君の御質問が出たことと思ひますが、經營權と勞働權との間に一線を劃すると云ふのは、是は經營者が厭やな場合に強制的に入つて貰ふことを拒否すると云ふ意味です、承知の上でやりますことはちつとも差支へありませぬ、それだから私が一線を劃すると云ふのは經營權の中に勞働者が入つてはならぬと云ふことでなく、經營者が經營權を持つて居る、それを侵犯してはならぬと云ふことです、其の點をはつきり御諒承願へれば私の申上げることが御諒承願へると思ひます、そこでそれでは經營權の中に勞働者が參加して居る事態はどうかと云ふ御質問でありますが、之には御承知の通りに只今までの急激なる日本の變化と云ふものをやはり前提として考へて行かなければならぬ、只今の經營權と勞働權とが相當混つて居る事態のあることは私も認めます、それは本當に經營者が拒否しないで入つたものであるか、或は拒否したかつたのだけれども、已むを得ず入つたものであるかと云ふやうな問題で、一概に言ふことは出來ぬと思ひます、さうして此の能率は擧つて居るものもあり、擧らぬものもあると思ひます、是も一概に論ずる譯に行かない、そこで政府として、それぢやどう云ふ方針を執るか、法律で勞働者は經營權に參加することが當然出來るのだと云ふやうな規定をする考へは持ちませぬ、事實問題として是が當事者の合議で圓滿に行くならばそれは結構です、併しそれは箇々の問題に即しなくちやならぬ問題で、概念的に申すと是は誤解を招く問題であります、自主的に出來るだけ解決して行きたい、さう云ふ方針で居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=53
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054・穗積七郎
○穗積委員 さう云ふ御趣旨ならば事態が最も巧く行くならば、而も事業主と從業員との合意の上であるならば、經營權と稱せらるるもの、或は人事權にまで亙つて參加することは違法でもなければ、又それを容認し或は指導するに吝かでないと云ふ御趣旨でありますか、さうであると致しますならば此の發表されまする經營協議會なるものは、詰り法の執行力を持つて居らぬものでありまして、ほんの一つの「サンプル」であり參考案であると私は思ひます、けれども併しながら今日此のことが中央勞働委員會の案として發表され、更にそれが政府に於て取上げらるることになりますと、法律上の嚴密な執行力はありませぬが、此の方針と云ふものが具體的な經營協議會今後の發展に大いなる影響を持つと思ふ、御聞及びと思ひますが、私共の仄聞致す所では經營協議會なるものが發展し、或は勞働爭議の一つの手段として生産管理、或は思想的には同じものでありますが、言換へるならば勞働者が唯賃金勞働者の位置に甘んじて、生産の一つの手段として、客體として甘んずるのでなしに、生産に對する發言者であり、擔當者であり、責任者であると云ふ資格に於て出て來たものが爭議手段としての生産管理であり、或は勞働協約に於ける經營協議會の自主的な内容を持つたものであると思ふのでありますが、さう云ふ雰圍氣の中に於きまして本當に政治や言葉や言論だけでなく、經濟生活の實體にまで民主主義改革が漸進すると云ふ氣風に對して、財界方面に於きましては實は經營協議會にまで此のものが發展することを恐怖し或は或る一部の者は諦めて居つたのでありますが、最近其の後に於ける一部の特に共産黨系と稱せられて居りまする勞働組合が、其の小兒病的な、觀念的な勞働爭議のやり方の失敗に依りまして、其の戰術の上に於ける失敗と云ふものを逆に理由として取つて、そこで社會秩序乃至は經濟秩序の維持──是は資本家の擁護ではなしに、國家全體の生産性を高める爲だと云ふことに建前、目標を立てまして、續いて斯う云ふやうな秩序維持の法案なり聲明が出て來るに至りまして、それ以來財界に於きます一般的な風潮と云ふものに付ては、此の經營協議會を目するに、曾ての戰時中の産業報國會の懇談會と同じ位置に押下げて、或は輕蔑致しまして、其の實效を甚だしく歪めつつある實情であると私は思ふのであります、斯う云ふ雰圍氣であり、のみならず次に企業整備なり、補償打切後に於きまする我が國の、資源を持たず、市場を持たざる日本經濟建設に於きましては眞先に安定本部長官が第一聲の聲明として取上げました如く、爭議の休戰──或は勞働組合運動に於きましても、固より爭議をやつて賃金を要求する、或は其の場合に於きましては、小さい中小企業などは經營權をすら抛棄してしまふと云ふことで、廻り廻つて、我々には何が來るかと云ふと、何も與へられないと云ふ一つの勞働運動の壁にぶつかつて來て居ると思ふのであります、そこで勞働運動の少くとも地に着いた指導者達であるならば、恐らく次には、或る意味に於きまする賃上げ鬪爭ではなしに、生活改善運動ではなしに、より強くそれをも主張しながら、より強き増産運動の方向に、勞働運動と云ふものが轉換するであらうと豫期されるのであります、其の空氣の中で、此の勞働者の權利を一つの法律の上で認めることが出來ないと云ふ御考へでありますが、私は希望と致しましては、勞働の基本法と云ふものを、勞働憲章と云ふものを生活保護法と共に重要に考へられて、今後之を是非取上げて戴きたい、そこで更に問題を整理して御尋ね致したいのは生産の中に於ける勞働の位置を明確に規定する、即ち厚生大臣が本法案を提案されました最初の説明に於て、内發的な勞働者の自覺的起上りと云ふものを、生産の具體的な「ポーズ」の中に、法律の制度の中に認めると云ふやうな意味に於て、それを盛つたやうな勞働の基本法、勞働憲章と云うものを立法される用意があるか、或は御意思があるか、其の意思と状況を第一番に御尋ね致したい
第二は、私が今申しましたやうな生産に對する與へられたる勞働條件の改善、御恵み的の勞働條件の改善ではなしに、勞働者の生産竝に生活に對する權利としても、發言權乃至は生活の保障と云ふものを茲で確立することを私は特に御願ひして、而も其の方向に持つて行く意思がないかどうかと云ふことを、第二に御尋ね致したい
第三には、先程私が申しましたやうに、現在それが法律の上に於て認められなくても、合意と契約の上に經營の參加、人事權の參加と云ふものがあるならば、それは認めても差支へないと云ふことでありますが、さう云ふ御方針であるならば、此の經營協議會の基準と云ふものは、さうして而も現在に於ける經營協議會の基準を財界或は勞働者に示すと云ふことは、其の方向を歪曲し、或は彈壓する一つの基準となると私は思ふのでありますが故に、是は改正するなり即ち今河合厚生大臣が御答へになつた通りの言葉を此の中に入れて戴きたい、即ち法律の中に於て勞働者の權利として、經營の參加、人事權への參加と云ふことは認められて居ないけれども、合議の上ならば、是は更に差支へないと云ふやうに、經營協議會の基準を改正するか、それを改正することが出來ないならば、此の經營協議會の指針を發表にならぬ方が、却て正しい勞働遊動の發展或は生産政策建設の爲に寧ろ私はなると思ふ、斯う云ふ宜い加減なものを御示しになることは、さうして之を突かれればそれは法律ではない一つの「サムプル」であると云ふ口實を常に用意しつつ、而して實際には是が一つの基準になると云ふものを、「サムプル」なりとして出すことは止めて戴きたい、私はそれを改正するか、取止めるかどうか、以上三點に付て御答へを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=54
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055・河合良成
○河合國務大臣 色々爭議に付ての御意見もありましたが、「アメリカ」あたりでは、爭議は殆んど賃金問題に限定されて居るやうな状況でありまして、日本の爭議は「アメリカ」側と少し違つた形で來て居る、やはり日本獨特の、何と言ひますか、人情味を持つと云ふか、或は國が小さい爲にせせこましいと言ひませうか、さう云ふものが爭議員の中に色々混つて來て居るやうな點もありますので、やはり大體に於て勞働權と經營權を截然と分けて行く以上は、其の先端的のことは勞働條件であり、殊に賃金である、それで「アメリカ」あたりの爭議は賃金爭議であつて、それで「デモクラシー」が立派に行はれて行くと云ふ點も、やはり御考へ置き願つて、問題を綜合的に考へなくちやならぬのではないか、私の言ふことは、言ふことは何だか非常に漠然として居る、漠然として居ることは私も承知の上で言つて居るのです、併しながら穗積さんの言ふことを反駁すると云ふのではないけれども、さう云ふ點も穗積君の御意見の中に御考へ置きを願ひたい、それで問題は今の御話に依りますと、經營權と云ふものの中に、法律の當然の權利として、どうしても勞働者の權利を介入させて行けと云ふことを、相手方が不承知でも、さう云ふやうに法律でした方が宜いではないかと云ふ御希望的の御話のやうにも拜せられるのでありまするが、さう云ふ意味に於ける勞働憲章的の考へは、只今は持ちませぬ、それよりも憲法草案の下に於ける勞働組合法を持ち、其の右翼、左翼に勞働調整法と、勞働保護法と申しますか、勞働基準法と申しますか、さう云ふものを持つて行くと云ふ建前で居りますから別に勞働憲章的のものは必要はないと考へます
其の次の御質問の、生産に對する色々の勞働條件──生産に對すると云ふ言葉はこんがらがりますかを、單に勞働條件と申しますが、勞働條件は勞働者の權利であると云ふ御主張でございまするけれども、勿論さう云ふ趣旨を以て勞働保護法を作るにしましても、恩恵的な、資本家が之を與へるのだと云ふ考へ方は一つも持つて居りませぬ、勞働權から「スタート」した正當の權利として、是は勞働者が持つべきものだと云ふ趣旨に於て考へて居ります
それから第三の點は經營協議會の問題に付て御尋ねでありましたが是は先程も申しました通りに、經營協議會と云ふものは、契約上のことを別にどう云ふ風に作らうと是はお互の契約の自由でありますから、其の點に付ては支障はない、どう云ふやうに作つても構はぬことでありますが、唯今問題になつて居りますのは、勞働爭議として經營、協議會が要求されて居る、さうして經營協議會を作つて此處まで經營者に讓つて貰はなくちやならぬ、此處まで斯うだと云ふけじめを作ることが、現下の要求された問題になつて居ります、さう云ふ意味に於ての經營協議會と云ふものは、斯う云ふやうにするのも一つの考へ方ぢやないかと云ふことを示す意味でありますから、目下の情勢に對する爭議行爲の一つの要求事項と云ふか、其の點が問題の中心になつて居りまするが故に、さう云ふ意味の經營協議會の「サムプル」を作つて置くと云ふやうに御覽下されば、問題は明かと思ひます、併しながら自由契約に依つて何をするかと云ふことは、是は勿論の自由なことでありまして、此の「サムプル」で拘束しようなんと云ふ考へは一つも持たない次第であります、そこで色々之に付て法律を以て細かく規定してはどうかと云ふやうな話もありましたけれども、却て今の自由無礙の發達と云ふこともありますから、其の時の情勢に應じた風になつて行くのが宜からうと云ふので、特に法律を避けたと云ふ點もあるのでります、左樣御承知を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=55
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056・穗積七郎
○穗積委員 一寸聽き漏らしましたが、勞働根本法は制定の意思がないと云ふ御答へでございましたでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=56
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057・河合良成
○河合國務大臣 勞働憲章と云ふものは別に作る考へはありませぬと云ふことです、併しながら勞働保護法と申しますか、勞働基準法と申しますか、さう云ふものは勿論此の次の議會に出して行く積りであります、是は勞働條件に關するものであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=57
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058・穗積七郎
○穗積委員 實は第一の問題に付て明かにして置きたいと思ひますが、河合厚生大臣は、憲法草案に總ての基準として御執りになつて居られるやうでありますが、實は現在出て居りまする憲法は飽くまで草案でありまして、まだ是は確定して居らぬのであります、而も第三章の國民の權利義務の中に於ては、私個人も其の一人として主張致しましたが、次の日本經濟の建設或は生活建設の場合に於きましては、勤勞が中心にならなければならない、資本ではなしに、勤勞竝に勤勞者が中心であると云ふ日本の建設行動を考へて、そこで勤勞の義務制を主張し、或は法律の定むる所に從ふ生産への勤勞者の參加と云ふことを主張致して居るのでありまして、其の意味に於きましては、現在ある法案を楯に取られて、そこで此の勞働根本法に對する問題も其の線から理由を引出されることは、聊か理論的に薄弱ではないかと云ふ風に思ふのであります、そこで私は名前は勞働根本法であらうと、或は勞働保護法であらうと結構でありますが──實は名前自身も餘り結構ではない、保護法なんと云ふ、與へられたる勞働生活と云ふことでなしに、勞働者自身が主體的に生産或は勞働生活を確立すると云ふことが必要で、保護法と云ふ言葉は不贊成でありますが、其の言葉は一歩讓りまして、其の法案の内容として、生産と勞働條件だけでなしに、生産の中に勞働の占むる位置に付て其の内容を御盛りになる用意があるのかないのか、それを御尋ね致します、是が第一の點であります
第二は經營協議會の問題でありますが、之に對しましては今仰せられた通り、經營權と勞働權とを一應細分して御考へになつて、そして經營協議會の一歩前進した形を勞働者が要求して、それが勞働爭議の一つの要求になつて居ると云ふことでありますが、是は勞働者と資本家、即ち經營權と勞働權と云ふものが對立致しまして、さうして勞働權の構成に依つて經營權の領分を侵略すると云ふ、さう云ふ對立感の中から考へて居られるならば、絶對に私は打開する途は發見し得ないと思ふのであります終戰直後の事實でございますが、勞働組合を結成しなければならぬと云ふので、常に言辭の上では左翼的な言辭を弄することを好まれる一部の勞働組合の指導者が、勞働組合結成の準備會に於ける最初の「スローガン」と致しまして、賃金値上要求と、竝に解雇絶對反對の「スローガン」を以て呼び掛けられたのでありまするが、皮肉にも同じ時期に、敗戰と共に解體致しました重工業の我々の關係致して居ります勞働組合に於きましては、それは他から指導されたのではなしに、其の職場の大衆の自發的な要求と致しまして、其の職場大會の決議は何であつたかと云ふならば、勞働賃金の値上或は解雇反對と云ふこと以前に、第一番に掲げました要求は、現物賠償として取られて居る此の軍需工場の生産設備と云ふものが、「アメリカ」の所有になり、支那の所有になることがあつても、願くば此の生産の運行と云ふものは、此の日本の國の中で、此の工場の中でやつて貰ひたいと云ふことを第一の要求と致しまして、即ち其の場合に於ける勞働者の自發的な内在的な要求と云ふものは、生産に對する事業主或は資本家よりは、階級的な立場でなしに、より一歩乘り越えた主體的な立場に立つて日本の生産を護らなければならないと云ふことで、現物賠償として取上げられると云ふことが豫想されて居ります其の生産設備に付て、此の國、此の工場に於て其の生産を續行して貰ふと云ふ要求を出してそれを直ちにG・H・Qに歎願書として出して居る事實があるのであります、此の觀點に立たれて御覽になるならば、唯勞働者が今日勞働爭議の要求の一つの條項として經營協議會の設置と云ふことは、今申しました對立的な意味に於て勞働權の經營權への侵害、或は勞働の單純なる資本への攻勢であると云ふやうな考へ方で、若し此の最近の勞働者の要求と云ふものを眺められて、それを一つの今までの經濟秩序を破壞する勞働攻勢であると考へ、それに一つの基準を與へる爲め、是正する爲に此の經營協議會の案なるものが提出されて居る理由であると云ふならば、私は先般來幾多の質問者に依つて提案された如く、勞働者の内在的な生産への意欲、乃至は我々が起ち上らなければ日本の生産は復興出來ないと云ふ自覺に依つてのみ日本の生産復興が成り上がると云つて謳つて居られます此の法律案提案の根本の動機と、結果に於て矛盾することになると私は思ひますので、經營協議會の問題に付きましては、先程申しましたやうに斯う云ふやうなものを御作りにならないで、經營協議會は法律に依つて執行力を持つて居るものではない、申合せである、隨て現在の法律制度に於ては、經營權と勞働權とは秩序を保つ爲に一線劃してはあるけれども、併しながらそれが合意の上であるならば、さう云ふ内容を盛つた經營協議會が出來ても、それは非合法ではないぞと云ふことをはつきり茲で謳つて戴きたい、若しそれが出來ないならば、私が先程指摘致しましたやうな、今までの現在維持的な、古い經濟體制の中に於ける秩序維持を動機と致されまして經營協議會の基準を茲に提案されると云ふことは、却て實體に即しないやうに思ひますが故に、此の點を重ねて御尋ね致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=58
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059・河合良成
○河合國務大臣 第一の御質問の憲法草案を引合に出すと云ふ御話でございますが、是は只今やはり日本の民主主義が何處の線に行くと云ふことを法律で明示してある譯でもありませぬ、大體やはり憲法の狙ひを抑へまして、其の線に於て我々が進みつつあるのだと云ふことが常識だらうと思ひます、それで私は憲法の一々の末端の條文を言ふのではありませぬ、憲法全體に流れて居る精神、それは經營權と勞働權と云ふものがお互ひ權利を侵犯してはいかぬと云ふ思想の根本を申上げて居るのであります、是が大體今の日本の進む「デモクラシー」の線なりと思つて居るから、偲偲それを憲法草案と云ふ言葉で表現して居るだけでありますから、此の點は深く字句に拘らず御考へを願ひたいと思ひます
それから其の次の勞働保護法と申しますか、基準法と申しまかすさう云ふものに對して勞働條件以外に、生産關係に對して勞働者が當然權利を持つて居るやうな意味のものを書くかと云ふやうな、極く端的に申して、結論を言へと云ふ御話でありましたが、それは書く意思は持ちませぬ、それから第三の經營協議會の點に付きまして是は勞資對立と云へば對立、調和と云へば調和で、決して言葉に依つて盡せる譯ではありませぬが、只今の「デモクラシー」の傾向に依つて斯う云ふ位の所が宜からうかと云ふ意味に於て、一つの「サンプル」を示さうかと云ふ意味であります、それを契約に依るものは當然宜いのであるから、其の點を明示せよと云ふ御話でありましたが、此の點に付ては考へて見ますけれども、大體是はお互ひづくで斯う行かうではないかと云ふことを互に妨げると云ふことはない譯であります、是はもう社會通念上最も明瞭な所でありますから、能く考へまして、さう云ふ風に誤解がありますればさう云ふことを致しませぬが、誤解がなければ此の案で行くかも分りませぬ、是は行政の問題として考へたいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=59
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060・穗積七郎
○穗積委員 其のことを是非希望致しまして此の質問を打切り前へ進みたいと思ひます、尚ほ先程私が御願ひ致しました如く、此の問題は今後の日本の經濟安定政策に非常に關聯致して居りますので、今日お願ひが出來ませぬでしたら是非此の次の機會に膳國務大臣と共に、改めて其の問題に付きまして河合厚生大臣とお二人に御尋ね致したいと思ます
それから次の私の御尋ねは最も地に付いた話でありますが、如何樣に勞働者の生活を念願されましても、次の我が國の經濟の實情、敗戰後の經濟の實情に依りましては曾て英國の資本主義經濟が上昇した時、或は戰勝後の一時の不景氣と云ふやうなものと事變りましまして、謂はば或る意味に於ける萬年不景氣のやうな形を取る、されば續いて、石橋藏相が在野に居られた時のやうな議論を取られましても、補償の打切り或は企業の根本的なる整備と云ふことが考へられます、さうなつて參りますと大量の失業者を茲に放出すると云ふことが考へられるのであります、同時に第二に設立されました新なる事業會社は總て生産の中に於きまして秩序を維持致しまして、そして是が一つでも多くの増産に邁進しなければならぬと云ふことが恐らくは其の時期に於ける輿論となると思ふのであります、そこで其の状況を頭の中に描きまして具體的に御尋ね致したいことは、此の次の時期に於て、間近に迫つて居りまする企業の整備と共に大量に更に放出されまする失業者に對する對策を一體具體的にどう御考へになつて居られるか、失業を、詰り馘首をやります時に、事業主側に或る程度の補償の責任と云ふものをどう云ふ風に御考へになつて居られるか、其の問題と、第三には其の時期に於きまする勞働爭議でありまするが、是は其の時に相當廣汎に而も訓練された運動方針で展開されることが豫想されるのでありますが、其の生産の一途に擔つて行かなければならぬと云ふ事態を前に致しまして、實は一方に於て最後の背水の陣を布いて勞働者が爭議をやらなければならぬと云ふやうな事態、即ち失業と勞働爭議の頻發と云ふことが考へられる譯でありますが、此の二つに對しまする御方針を明確にされることが、此の法律が制定されますより遙かに其の目的に向つては實際の效力を發する境目であると思ひますので、其の二つの點を御尋ね致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=60
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061・河合良成
○河合國務大臣 失業對策をどう云ふ風にやつて行くかと云ふ御質問が第一でありましたが、此の問題は非常に廣汎に亙る問題でありまして、今日差支へなければ此處で御説明を致しますけれども、時間も後れて居るので餘り長い説明もどうかと實は考へますので、別の機會に於て細かく申上げる積りでありますが、大體の線に於きましては、此の企業整備其の他に出て來る失業者に對しても何か考へなくちやならぬ、殊に都會中心に失業者が出て來るであらう、それに對する特別な對策を講じなければならぬと云ふことで段々具體的の計畫も持つて居る次第であります
それから爭議の頻發もそれに起るだらうと云ふ御質問でありましたが、是は爭議の頻發も起るが、工場の閉鎖も起ると思ひますので、此の爭議の性質は又今までと多少違つた爭議の性質が起きはせぬかと云ふ心配も持つて居ります、之に對する御説の方法もやはり考へなければならぬと云ふことで色々苦心をして居る譯であります、殊に爭議は賃金値上と云ふ形で起きまするが、今の解雇に對する補償請求と云ふやうな點なども出て來はせぬかと思ひまして、第二の御質問の補償をどうするかと云ふ問題に付ても實は肝膽を碎いて居る次第であります、是も一概に斯うと云ふ譯にも行きませず何か近い内に方針を決めたいと思つて居りますが、法律の規定を決めるにも中々無理がありますし、どう云ふ風にするか實は苦心をして居るのは僞らざる事實であります、勿論是は生活保障と云ふことを今度の根本問題にして居りますから、失業救濟の線と生活保護の線とは一つのやはり線でありまして、それの右の方は失業救濟であり、左の方は生活保護であり、其の間に兩方から混つて來ると云ふ問題があらうと思つて居りまして、是は御承知の通り約百億の金が中心になつて居ります、其の外豫算面に於て色々な事業もやりませうし、さう云ふ面も幾分の補助になると思ひます、それをどう云ふ風に運轉するか、出來れば之を一回限りでなくして──役所の金は一回限りですが、何か之を二回とか二回半に廻す方法はないかと思つて色々考へて居る事情でございまして、出來るならば幾分かはさう云ふ風に廻したいと云ふ考へも持つて居ります、さうして失業救濟と生活保護との全體を包含しまして、是はどうしても生産と云ふ面に──昭和六、七年の失業救濟と違ひまして、あの時分は通貨を膨脹して金をやれば宜い、金を只やると云ふ譯にはいかぬから、何處か山の奧へでも行つて働かせると云ふやうなことを主眼にして居りましたが、今度は生活力を與へると同時に生産に向けて行くと云ふことに苦心をして居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=61
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062・逢澤寛
○逢澤委員長 穗積君、まだ大分ありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=62
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063・穗積七郎
○穗積委員 あります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=63
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064・逢澤寛
○逢澤委員長 大體三十分位と云ふことでありましたから、餘り長くなつては──それでは本日は是で打切りまして散會致します
午後一時二十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00419460724&spkNum=64
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